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法制度整備支援の現場から

日本では,調停や和解といった話し合いによる方法が,民事紛争を解決する手段として重要な役割を担っています。いったん民事裁判となった後も,時間や費用等の様々な事情から,和解等で柔軟に事件を解決させるという事例は少なくありません。

他方,私たちが法・司法制度整備支援活動を実施しているミャンマーでは,これまで,調停人や裁判官を介して話し合いで事件を解決するという手続が存在せず,いったん裁判手続が開始されると,基本的には,判決を目指して多数の証人を尋問していくという取扱いでした。そのため,市民の間では,裁判手続は時間と費用が非常にかかるという印象が強いようです。最近も,お世話になっている車のドライバーが,基本的には自分に過失がない接触事故について,裁判に巻き込まれることを恐れ,給料の数か月分の解決金を支払ってしまうという出来事がありました。また,裁判官にとっては,小規模な事件であっても判決に至るため,複雑な事件に対して労力を割くことが困難な状況にあったようです。

こうした現状を改善するため,私たちは,ミャンマー連邦最高裁判所と共に,調停手続を導入するための活動を実施しています。ミャンマーの法制度を踏まえ,どのような枠組みで調停制度を導入するのが相応しいかを議論し,2019年3月,4つの裁判所で試験的に調停手続を開始しました。調停制度は,ミャンマーの国民性に調和しているようで,幸い,市民及び裁判官の双方から好意的に受け止められています。2020年3月には試験運用の範囲をさらに拡大し,数年後には,ミャンマー全土で調停手続が実施されることを目指しています。

法が存在し,法の解釈が安定していることが重要であることはもちろんですが,市民が,法的な紛争を解決する方法に合理的なコストの範囲内でアクセスできる環境の整備も重要です。引き続きミャンマー連邦最高裁判所と協力してミャンマーの調停制度の改善を目指したいと思います。

(ミャンマー長期専門家 髙木 晶大)

調停人研修の様子の写真

調停人研修の様子

模擬調停の様子の写真

模擬調停の様子