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法制度整備支援の現場から

日本は1996年からカンボジアに対する法整備支援を始め,1999年からは同国の民法と民事訴訟法の起草支援のための法制度整備プロジェクトが開始されました。そして2006年には民事訴訟法が,2007年には民法がそれぞれ成立しました。その後も,両法の普及や適切な運用を支援するためのプロジェクトが継続して実施されています。私は,裁判官としての経験をいかしながら,現地において,典型的な民事事件で用いられる訴状や判決書等の書式例の作成を通じて,カンボジアの裁判官が民法・民事訴訟法を正しく適用できるようにするための活動に従事しています。
 カンボジアの民法・民事訴訟法は,同国の法社会制度事情を踏まえながら,日本側の作業部会とカンボジア側のワーキンググループが共同して法案を完成させる手法が採られたため,日本法とは異なる規定も多く存在します。私にとってなじみのない規定に遭遇したときは,日本側の作業部会の議事録を確認するなどして,カンボジアの裁判官に説明するための下準備をしています。
 ところが,カンボジア側では,起草当時,法案の内容について十分理解できる人材が限られていたため,その議論が詳細に記録化されることはありませんでした。現地において活動する中で,カンボジアの裁判官に対して,外国人の私が日本語の議事録を読んで下準備したことを説明するよりも,起草当時の議論内容を直接にクメール語(カンボジア語)で把握できるようにすることがそもそも必要であると感じました。
 そこで,プロジェクト活動と並行して,日本の法務省は,カンボジアの民法・民事訴訟法の起草当時の議論やそれ以前の実務との相違点などを調査研究し,それらに関するクメール語の資料を作成することにしました。具体的には,カンボジア側のワーキンググループのメンバーにインタビューを実施し,起草作業に当たったカンボジア人の叙述に基づく資料を作成することを予定しています。今後も,「現場」にいる者として,日本が起草を支援した民法・民事訴訟法がカンボジアに根付くために真に必要な活動は何かについてのアンテナを張りながら,それらを実行していきたいと思います。

カンボジア側のワーキンググループのメンバーであったヒー・ソピア元司法省次官

カンボジア側のワーキンググループのメンバーであったヒー・ソピア元司法省次官
(写真右上)とのインタビュー 写真

カンボジア長期派遣専門家
裁判官 佐々木 淑江