平成16年2月19日
法務省人権擁護局
平成15年中の「人権侵犯事件」の状況について(概要)

 法務省の人権擁護機関が平成15年1月から12月までの間に取り扱った「人権侵犯事件」の状況は,下記のとおりです。

第1  人権侵犯事件の受理及び処理の状況
 受理状況
 (1 ) 事件数
 平成15年中の受理件数は18,786件で,前年比463件の増加。(うち,申告によるもの8,673件,人権擁護委員からの通報によるもの9,726件で,この両者で受理件数の97.9%。)
 (2 ) 事件の傾向
 受理事件のうち,公務員・教育職員等による人権侵犯にかかるものは1,760件(9.4%)で,前年比361件の増加。私人間の人権侵犯にかかるものは17,026件(90.6%)で,前年比102件の増加。
 事件の内容は,公務員等の職務執行に伴う人権侵犯事件では,「いじめ」に対する学校側の不適切な対応等が542件,教育職員による体罰が275件,刑務職員によるものが222件,警察官によるものが155件。
 私人間の人権侵犯事件では,暴行虐待(夫の妻に対する暴行,児童虐待等)が5,093件,強制強要(離婚の強要,職場での嫌がらせ等)が4,632件,住居の安全に関する侵犯(騒音をめぐる近隣間の争い等)が3,330件,プライバシーに関する侵犯が1,267件,労働権に対する侵犯が918件,差別待遇が739件。

 処理状況
 平成15年中の処理件数は,18,643件(公務員等による人権侵犯事件1,605件,私人間による人権侵犯事件17,038件)で,前年比377件の増加。
 処理区分別では,「援助」(法律扶助に関するあっせんを含む法的助言を行うこと等)が17,667件(94.8%)で最も多く,以下,「説示」(人権侵害について反省を促し,善処を求めること)が281件(1.5%),「非該当」が235件(1.3%),「侵犯事実不明確」が179件(1.0%),「排除措置」(各種措置により人権侵害状態の事実上の排除を図ること)が158件(0.8%),「処置猶予」が67件(0.4%)の順。このほか,特に重大・悪質な事案に関し,文書をもって是正等を求める「勧告」が7件,刑事訴訟法の規定に基づく「告発」が2件


第2  具体的な取組例
 概況
 ○ 公務員・教育職員等による侵犯
  ・ 刑務所事案
 名古屋法務局
    「 名古屋刑務所における受刑者に対する暴行」(勧告,意見具申)
  ・ いじめ事案
 広島法務局
    「 いじめに対する学校側の不対応」(排除措置)
 ○ 暴行虐待事案
  ・ 配偶者暴力事案
 長崎地方法務局
    「 内縁の夫による暴行虐待」(排除措置)
  ・ 児童虐待事案
 仙台法務局
    「 実父による児童虐待」(排除措置)
  ・ 高齢者虐待事案
 仙台法務局
    「 実子による高齢者虐待」(排除措置)
  ・ 障害者虐待事案
 鹿児島地方法務局
    「 知的障害者更生施設における入所者に対する虐待」(告発)
 ○ 差別待遇事案
  ・ 障害者差別事案
 徳島地方法務局
    「 視覚障害者の宿泊に際しての盲導犬の同伴拒否」(説示)
  ・ 外国人差別事案
 静岡地方法務局
    「 外国人に対するマンション入居拒否」(説示)
  ・ HIV感染者差別事案
 京都地方法務局
    「 京都拘置所におけるHIV感染被収容者に対する差別待遇」(説示)
    甲府地方法務局
    「 親がHIV感染者であることを理由とした保育園への入園拒否」(説示)
  ・ ハンセン病元患者差別事案
 熊本地方法務局,東京法務局
    「 ハンセン病元患者であることを理由とした宿泊拒否」(告発,勧告)
 ○ プライバシー侵害事案
  ・ インターネットによるもの
 長崎地方法務局,東京法務局,福岡法務局
    「 インターネット上の長崎市幼児殺害事件の加害少年のプライバシー侵害」(排除措置)
    東京法務局
    「 インターネット上の日本大使館殉職職員の遺体映像の流布」(排除措置)

 個別例の紹介
 ( 公務員・教育職員等による侵犯)
 ○  名古屋刑務所における受刑者に対する暴行 − 名古屋法務局
 いわゆる名古屋刑務所事件に関し,人権擁護局は,その事案の重大性にかんがみ,担当者を派遣して,名古屋法務局との共同調査を行った。
 調査の結果,本件は,複数の刑務官により受刑者に対し,使用要件を無視した革手錠の施用と強度の暴行が行われ,重大な結果を生じたものであることが認められたため,名古屋法務局長から名古屋刑務所長に対して,職員に対する人権教育の徹底や戒具使用に関する監督体制の確立を「勧告」するともに,受刑者の人権に対する配慮など人権擁護の観点から,矯正行政に関し必要と考えられる措置について,人権擁護局長から法務大臣に対して異例の「意見具申」を行った。(勧告,意見具申)

 ○  「いじめ」に対する学校側の不対応 − 広島法務局
 「いじめ」を受けて不登校の状態になった生徒の母親から,「いじめ」についての学校側の対応に不満があるとの相談が広島法務局の「子どもの人権110番」に寄せられた。
 この相談に基づき,調査を開始したところ,教職員間の連携の不足や保護者との信頼関係の欠如が見られたため,「子どもの人権専門委員」(人権擁護委員)及び同局担当者は,学校長に対して事態改善のための要請を行い,その後も定期的に学校訪問をして関与を継続した結果,不登校の状態は解消され,かつ,学校と保護者との信頼関係も修復されるに至った。(排除措置)

 ( 暴行虐待事案)
 ○  内縁の夫による暴行虐待 − 長崎地方法務局
 内縁の夫から「家を出て行け。」などの暴言を浴びせられ,暴行も受けていた女性から,「内縁の夫から逃れたい。」と助けを求める電話が長崎地方法務局の「女性の人権ホットライン」に寄せられた。
 この電話を受けた同局担当者は,被害者に来庁を促す一方,被害者を緊急に保護する必要があると考え,直ちに婦人相談所に連絡した。同局担当者は,しばらくして来庁した被害者を伴って婦人相談所を訪れ,同所において被害者から改めて詳しい事情を聴き,今後の対応について,同所担当官と協議した。その結果,被害者は同所に「一時保護」され,次第に明るさを取り戻し,同所を退所してからは,新しい職を探すなど,前向きな生活を送ることができるに至った。(排除措置)

 ○  実父による児童虐待 − 仙台法務局
 実父による児童虐待に関して,その母親から「夫が私だけでなく,子どもにも暴力を振るうようになった。親子で保護してくれるシェルターを教えてほしい。」との相談が仙台法務局の「女性の人権ホットライン」に入った。
 相談を受けた人権擁護委員は,電話を架けてきた母親の怯えきった声に緊急性を感じ,直ちに婦人相談所に連絡し,被害児童及びその母親の保護に向けて連携を開始した。その結果,被害児童及びその母親とも,婦人相談所において「一時保護」されることとなり,同所退所後は,賃貸アパートを借り,また,教育委員会の配慮により,被害児童の市内中学校への通学も可能となるに至った。(排除措置)

 ○  実子による高齢者虐待 − 仙台法務局
 仙台法務局管内の特設人権相談所において,「実子に頭を叩かれたり,部屋の灯りを点けることなどを制限されたりしており,今後の生活が不安である。」との相談が人権擁護委員に寄せられた。
 この相談に基づき調査した結果,相手方の実子は,注意をしても相談者が日常の生活態度を改めないことから感情的になり,暴力を振るうなどしていたことが認められ,他方,相談者においても家族間における互助の精神に欠ける部分が見られたため,相談に当たった人権擁護委員及び同局担当者が,相手方,相談者双方に対して,家族間の在り方及び互いの人権を尊重すること等について粘り強く説得したところ,両者ともそれぞれの非を悟り,円満解決に至った。(排除措置)

 ○  知的障害者更生施設における入所者に対する虐待 − 鹿児島地方法務局
 鹿児島県内の知的障害者更生施設において,園長らによる入所者に対する暴行等が日常的に行われているとの情報が鹿児島地方法務局に寄せられた。
 調査の結果,情報の信ぴょう性が裏付けられ,知的障害者に対する重大な人権侵犯に当たると判断されたため,同園長を捜査機関に「告発」するとともに,鹿児島県知事に対し,県内の社会福祉施設における入所者の人権擁護について適切な指導監督をとるよう「要望」を行った。(告発)

 ( 差別待遇事案)
 ○  視覚障害者の宿泊に際しての盲導犬の同伴拒否 − 徳島地方法務局
 徳島県の視覚障害者団体が,県内の財団法人が設置運営する施設に宿泊の予約をし,後日,宿泊予定者のうち2人が盲導犬を同伴する旨伝えたところ,施設の老朽化が進んでいること等を理由に盲導犬の同伴を拒否され,結果的に,会員ら全員が別の施設で宿泊せざるを得なかった,との報道がなされた。
 この報道に接した徳島地方法務局は,直ちに調査を開始し,その結果,施設側の行為は,真にやむを得ない理由に基づかないで盲導犬等の同伴を拒否してはならないことを定めた身体障害者補助犬法に違反し,視覚障害者の自立や社会参加を制限するとともに,その人権を侵害したものであることが認められたため,同施設の長に対し,施設の運営を通じて,障害者を含めたすべての人の人権が守られる社会の実現に向けて努力し,再び本件のような行為を行わないことを求めて書面により説示した。(説示)

 ○  外国人に対するマンション入居拒否 − 静岡地方法務局
 不動産会社から賃貸マンションを紹介され,入居の申込みをしたところ,家主から「外国人には貸せない。」と入居を断られたとして,外国人夫婦が静岡地方法務局に救済を求めてきた。
 調査の結果,同家主は,外国人は他の入居者や近隣住民とトラブルを起こしやすいなどとして,外国人の入居を一律に断っていたことが認められたため,同家主に対してその不当性を指摘し,言語,宗教,生活習慣等の違いを乗り越え,外国人の持つ文化や多様性を受け入れ,互いの人権を尊重すること等を粘り強く説得したところ,同家主もその非を認めて反省し,「今後,入居申し込みに当たっては,外国人の方も日本人と同じ条件で審査したい。」と述べるに至った。(説示)

 ○  京都拘置所におけるHIV感染被収容者に対する差別待遇 − 京都地方法務局
 京都拘置所に勾留中のHIV感染者である被収容者に対して,同人が理髪時に使用する洗面器の側面に「HIV用」と大書したり,同人の食器の洗浄及び保管を自室で行わせるなどしていた,との報道がなされた。
 この報道に接した京都地方法務局は,直ちに調査を開始し,その結果,報道のとおりの事実が認められたため,同拘置所長にこのような行為はHIV感染者に対する偏見を助長する不当な行為である旨を指摘するとともに,同種事案の再発防止のため,所属職員に対する被収容者の人権に関する指導・教育の徹底,HIVその他の感染症に関する正しい知識の習得等に関して善処を求めて書面により説示した。(説示)

 ○  親がHIV感染者であることを理由とした保育園への入園拒否 − 甲府地方法務局
 甲府市内の私立保育園において,同市在住の幼児の入園申請を受け付けたところ,後日になって,同幼児の親がHIV感染者であることを知り,これを理由として,同幼児の入園を拒否したとの情報が甲府地方法務局に寄せられた。
 この情報を得た同局は,直ちに調査を開始し,その結果,本件は,児童福祉法の理念に反し,幼児の人権を侵害するものであるだけでなく,HIV感染者に対する偏見と差別に基づくものと認められたため,同保育園の園長に対し,その不当性を指摘するとともに,人権について正しい認識と理解を深めることを求めて書面により説示した。(説示)

 ○  ハンセン病元患者であることを理由とした宿泊拒否 − 熊本地方法務局,東京法務局
 熊本県から,熊本地方法務局に対し,同県内のホテルにおいて,ハンセン病元患者であることを理由とする宿泊拒否事案が発生したとの通報がなされた。
 この通報を受けた同局は,人権擁護局及び東京法務局と共同調査を開始し,その調査の結果,熊本県から通報されたとおりの事実が認められ,同ホテル総支配人の行為は旅館業法第5条に違反する不当な宿泊拒否に該当する疑いが認められたため,同ホテル総支配人及び同ホテルを経営する東京都内の本社を熊本地方検察庁に「告発」するとともに,このような行為は重大な人権侵害であることから,同ホテル総支配人に対して,再びこのような行為を行わないことなどを強く求める「勧告」を行った。また,共同で調査を行った東京法務局においても,同ホテルを経営する本社に対して同様の「勧告」を行った。(告発,勧告)

 ( プライバシー侵害事案)
 ○  インターネット上の長崎市幼児誘拐殺害事件の加害少年のプライバシー侵害 − 長崎地方法務局,東京法務局,福岡法務局
 インターネット掲示板に,長崎市の幼児誘拐殺害事件の加害少年に関して,その氏名等個人のプライバシーに関する情報が多数掲示されているとの情報が人権擁護局に寄せられた。
 人権擁護局では,掲示された氏名等が実際に当該事件の加害少年のものであるか否かにかかわらず,重大な人権侵害に当たるものと判断し,長崎地方法務局等を通じて,同掲示板の開設者に対する該当部分の削除依頼を行った。その結果,該当部分の削除が行われた。(排除措置)
 なお,その後も新たな書込みが続き,また,加害者とされた少年の顔写真が携帯電話のメールで多数の者に転送されるなどの事態が生じたことから,法務大臣は,インターネットや携帯電話の利用者に対し,このような行為をやめ,良識ある行動を取ることを求める「談話」を発表した。

 ○  インターネット上の日本大使館殉職職員の遺体映像の流布 − 東京法務局
 東京法務局に対し,イラクで殉職した日本大使館職員2名の遺体の映像がインターネット掲示板にリンクされているので,人権擁護機関として対応してもらいたいとの依頼が外務省から寄せられた。
 この依頼を受けた同局は,このような映像がインターネット上に流布することは,御遺族の方々の追慕の念を著しく傷つけるものである上,2次利用されるおそれがあることから,人権擁護の観点上,問題があると判断し,直ちに掲示板の開設者に対する該当部分の削除依頼を行った。その結果,該当部分の削除が行われた。(排除措置)
 なお,法務大臣は,記者会見で,御遺体の写真の取扱いについては,御遺族の心情にも深く思いをいたされ,今一度慎重な配慮をしていただきたいとのコメントを発表した。

 参考資料
  ・ 「人権侵犯事件」統計資料(別紙1)
  ・ 「女性の人権ホットライン」統計資料(別紙2)
  ・ 「子どもの人権110番」統計資料(別紙3)

 
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