法制審議会民法(債権関係)部会           第1回会議 議事録 第1 日 時  平成21年11月24日(火)  自 午後1時31分                         至 午後4時40分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)               議 事 ○筒井幹事 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第1回会議を開会いたします。本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   私は,民事局参事官の筒井と申します。本日は第1回会議ですので,この後,部会長を選出していただきますが,それまでの間,私が議事の進行役を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。   まず,会議を始めるに当たり,この部会で審議される諮問事項と,この部会の設置決定につきまして簡単に御報告いたします。   本年10月28日に開催されました法制審議会第160回会議におきまして,法務大臣から民法(債権関係)の改正に関する諮問がされました。お手元の資料のうち,右肩に「諮問第八十八号」と記載された縦書きのものを御覧ください。諮問事項は,ここに記載されておりますように,「民事基本法典である民法のうち債権関係の規定について,同法制定以来の社会・経済の変化への対応を図り,国民一般に分かりやすいものとする等の観点から,国民の日常生活や経済活動にかかわりの深い契約に関する規定を中心に見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」というものであります。この諮問を受けまして,法制審議会総会では,その日の会議におきまして,専門の部会を設置して調査審議を行うのが適当であるとして,この民法(債権関係)部会を設置することを決定したものであります。   まず,以上のことを御報告いたします。   続きまして,審議に先立ちまして,民事局長である原委員よりあいさつがあります。 ○原委員 民事局長の原でございます。事務当局を代表いたしまして,一言ごあいさつを申し上げます。   皆様方には,それぞれ,御多忙の中,法制審議会民法(債権関係)部会の委員・幹事に御就任いただきまして誠にありがとうございました。   民法のうち,第3編債権を中心とします債権関係の諸規定につきましては,平成16年に第1編及び第2編とともに条文表現を現代語化した際に,保証制度に関する部分的な見直しが行われましたほかは,これまで全般的な見直しが行われたことがなく,おおむね明治29年の制定当時のまま現在に至っております。   しかしながら,この間に我が国の社会・経済は,通信手段や輸送手段の発達,市場のグローバル化等に伴いまして,様々な面において著しく変化しております。また,この間における裁判実務は,民法の解釈,適用を通じまして膨大な数の判例法理を形成してまいりました。こうした事情を考慮いたしますと,民法の債権関係の諸規定につきましては,その内容を社会・経済の変化に対応させるとともに,判例法理等を踏まえて規定を明確化することにより,国民一般に分かりやすいものとするなどの観点から,国民の日常生活や経済活動にかかわりの深い契約に関する規定を中心としまして早急に見直しを行う必要があるものと思われます。そこで,法制審議会で御検討をいただくために今回の諮問をさせていただいた次第でございます。   民法の債権関係の諸規定の見直しは,国民生活の様々な場面に大きな影響を与える可能性がありますことから,この部会では,必要な審議時間を十分とっていただきまして,充実した審議をしていただきたいと考えております。事務当局といたしましても,十分な調査審議をしていただけますように最大限の努力をする所存でありますので,どうかよろしくお願い申し上げます。   以上でございます。    (委員等の自己紹介につき省略) ○筒井幹事 この機会に,関係官につきまして補足して説明いたします。この部会への関係省庁等の参加に関することです。この部会におきましても,従前どおり,関係省庁に対して審議への参加を求めていこうと思っておりますし,また,既に多くの省庁から参加の希望をいただいているところです。しかしながら,この部会では関係省庁の数が大変に多いという特質がありますので,すべての関係省庁に継続して出席していただくことが,会場の都合等により物理的に困難であります。そこで,各回の会議ごとに,その日の審議予定を考慮して,特に密接な関係がある省庁に限って関係官として会議テーブルに着いていただくなど,臨機応変に進めていきたいと考えております。このために,会議ごとに関係官が入れ替わることがあると思いますけれども,ただいま申し上げたような事情によるものですので,御了承くださいますようお願いいたします。   ただいまの点につきまして,何か御質問などございますでしょうか。―よろしいでしょうか。   それでは,続きまして,部会長の選任を行っていただきます。   法制審議会令によりますと,部会長は,当該部会に属する委員及び臨時委員の互選に基づき,会長が指名することとされております。この部会は,本日が第1回会議ですので,まず,初めの手続といたしまして,部会長の互選をしていただく必要がございます。   それでは,ただいまから部会長の互選をしていただきますが,自薦又は他薦の御意見などはございますでしょうか。 ○野村委員 これまで幾つかの部会で部会長の経験をお持ちの鎌田委員を推薦したいと思います。 ○筒井幹事 ただいま,鎌田委員を推薦するという御発言がございましたけれども,ほかにいかがでございましょうか。 ○木村委員 今,鎌田委員を推薦ということで御意見がありましたけれども,私ごとで恐縮なのですが,私は,この7月末まで民法の成年年齢部会に参加させていただき,そのときに,鎌田委員が民法成年年齢部会の部会長をされておられました。マスコミ等で報道されましたのでご存知かと思いますが,成年年齢を引き下げるか否かという話で,相当議論が白熱するといいますか,紛糾するといいますか,時には意見が真っ二つに割れるというふうな場面もございました。そういう中で,鎌田部会長は,私が言うのも僭越なのでございますけれども,非常に冷静に,ニュートラルに皆さんの意見をくみ上げ,そしてまた,皆さんが納得いくところまで議論をされたということで,非常にすばらしい議事運営といいますか,部会運営だったなと感じております。そういう意味で,私自身,今鎌田委員を部会長にということで御意見が出されましたが,その意見に賛成したいと思っております。 ○中井委員 弁護士会として確認しておきたいのですけれども,法務大臣からの諮問を受け,これから諮問の内容に沿って議論が始まるのだと思います。これは,ただいまから,この場から,一から議論が始まる,また,国民の意見を聞いて十分な審議がなされるものと理解をしています。それとの関係で,今日の机上配布でございますが,「債権法改正の基本方針」が参考資料1として配布されています。これを取りまとめているのが民法(債権法)改正検討委員会ですが,鎌田委員はその委員長もなされておられます。そこで,今日白紙でここから議論が開始するのだという理解が間違っていないのかという確認と,この委員長の職と部会長の地位にもちろん特段の関係はないということについて確認をさせていただきたいと思っております。これは,推薦をしていただきました野村委員から御説明いただくか,若しくは鎌田委員から御自分のお言葉で御説明いただくか,いずれかでお願いしたいと思います。 ○筒井幹事 まずは事務当局から一言申し上げたいと思います。今,中井委員から御指摘がありましたように,民法(債権法)改正検討委員会から「債権法改正の基本方針」というものが既に公表されておりますけれども,これは,後ほど参考資料の説明の際にも申し上げようと思いますが,あくまで学界有志のグループから公表された一つの案であって,他の研究者グループから発表されたものなどと同じような意味で,この部会の参考資料の一つとなるにすぎないものであると考えております。したがって,今,中井委員から御指摘がありましたように,この部会としてはもちろん一から議論を始め,そして,ここにお集まりの方々,そして国民各層の意見に幅広く耳を傾けて,議論を重ねていきたいと考えております。 ○中井委員 ありがとうございます。 ○野村委員 今,事務局からお話がありましたとおりで,私自身もこの「債権法改正の基本方針」に何らかのプライオリティーを置いてこれから議論が進むというふうには全く考えておりません。ほかにいろいろな改正に関する意見も学者の間でもいろいろ出ておりますし,そういったことを抜きにして,鎌田委員なら非常に的確に議事を進めていただけるのではないかと考えております。 ○鎌田委員 今ここで発言することがいいのか悪いのかちょっと迷っているところではございますけれども,私,御指摘のように,民法(債権法)改正検討委員会の委員長も務めさせていただきましたけれども,この「基本方針」を公表する場でありました4月のシンポジウムでも申し上げましたし,この「基本方針」をめぐって,いろいろな機会にいろいろな委員が発言していると思いますが,この「基本方針」は,学者が学者の立場から一つの案を提示するものでありまして,それを踏まえて各界の意見とのすり合わせをする,そのたたき台としてつくったというのがもともとの趣旨でございますので,正にこの場で様々な立場からの様々な御意見をちょうだいしながらいい方向性を出していくというのがこの部会の任務だろうと個人的には考えているところでございます。 ○筒井幹事 ほかに御発言ありますでしょうか。いかがでしょうか。   先ほど,野村委員,そして木村委員から,部会長として鎌田委員を推薦する,あるいはそれに賛成するという御発言がございました。そして,中井委員からも御発言がございましたけれども,確認を求めるということであって,特段異論ということではなかったように受け止めております。そういう理解でよろしいでしょうか。 ○中井委員 はい。そういう理解で結構です。 ○筒井幹事 そういたしますと,ほかに御意見がないようでしたら,部会長には鎌田委員が互選されたということになろうかと思いますが,いかがでしょうか。よろしゅうございますか。           (「異議なし」と呼ぶ者あり) ○筒井幹事 ありがとうございます。   それでは,互選の結果,鎌田委員が部会長に選ばれたものと認めます。その上で,本日は法制審議会の青山会長に御出席いただいておりますけれども,青山会長におかれましては,いかがでございましょうか。 ○青山会長 部会の委員の皆様の意思が今明確に示されました上に,私個人といたしましても,民法学者としての鎌田薫委員の学識,経験をもって,この民法(債権関係)部会の部会長をお務めいただくのが,最も適当と考えますので,指名させていただきます。 ○筒井幹事 ありがとうございます。   以上をもちまして,鎌田委員が部会長に選任されました。   それでは,鎌田委員には部会長席に移動していただき,以後の進行役をお願いしたいと思います。よろしくお願い申し上げます。 ○鎌田部会長 ただいま部会長に指名されました鎌田でございます。大変過分なお言葉もちょうだいしましたけれども,非力でございまして,国民の権利に重要な影響を及ぼすこの部会をうまく進行していけるかどうか,若干不安がないわけでもございませんが,中井委員からの御指摘も踏まえまして,議事の円滑な進行,適正な進行に,誠心誠意努力してまいる所存でございますので,委員・幹事の皆様方におかれましては,何とぞよろしく御協力のほどをお願いいたします。   最初に,この民法(債権関係)部会は,取り扱うべき事柄が大変多岐にわたっております。その分量も膨大でありますから,審議のスケジュールがタイトになる可能性もあるところで,部会長であります私が会議に出席することがかなわないという事態が生じることも予想されます。法制審議会令によりますと,部会長に事故があるときにその職務を代行する者をあらかじめ部会長が指名しておくこととされておりますので,万一の事態に備えまして,ここでその指名を行っておきたいと思います。   先ほど,私自身,野村委員から部会長経験等を踏まえて御推薦をいただいたわけでございますけれども,野村委員もまた,民法の分野における優れた御業績,御経歴をお持ちでありますし,保証制度部会の部会長もお務めになっておりますので,まず野村委員を部会長代行に指名したいと思います。また,部会長をお務めになっている委員ということでありますと,能見委員もまた,信託法部会の部会長として御活躍されているところでありますので,能見委員にも部会長代行をお願いしたいと思います。野村委員,能見委員,よろしゅうございましょうか。   それでは,よろしくお願いいたします。   審議に入ります前に,当部会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いについてお諮りしたいと思います。   まず,現在の法制審議会での議事録の作成方法につきまして,事務当局から御説明いただきたいと思います。 ○筒井幹事 それでは,法制審議会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いについて御説明いたします。   法制審議会の部会の議事録における発言者名の取扱いにつきましては,昨年3月26日に開催されました法制審議会の総会におきまして,次のような決定がされております。すなわち,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,部会長において,部会委員の意見を聴いた上で,審議事項の内容,発言者名を明らかにすることにより自由な議論が妨げられるおそれの程度,審議過程の透明化という公益的要請等を考慮し,発言者名を明らかにした議事録を作成することができるというものであります。   この総会決定があるまでの法制審議会の議事録は,総会も部会も,いずれも発言者名を明らかにしない形で逐語的な議事録を作成しておりましたが,この総会決定の後は,部会の議事録について,部会長が,部会委員の意見を聴いた上で,発言者名を明らかにしたものを作成することができることとされたわけであります。   なお,参考までに付け加えますと,先ほど申し上げた総会の決定があった後,この部会よりも前に新たに設置された部会が三つございましたが,これらの部会では,いずれも発言者名を明らかにする議事録を作成することとされております。したがいまして,この部会の議事録につきましても,発言者名を明らかにしたものとするかどうかを御検討いただく必要があるのではないかと思います。   以上でございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,筒井幹事からの説明につきまして,まず,質問等がございましたら御発言をお願いいたします。御意見もありましたら,どうぞ出してください。 ○能見委員 民法の審議というのは,恐らく国民が非常に関心を持っている重要なテーマだと思いますので,私は,原則として公開するのが望ましいと個人的には思っております。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでございましょうか。―よろしいですか。   それでは,ただいまの能見委員の御発言を受けまして,部会長の私といたしましても,諮問事項の内容等にかんがみて,発言者名を明らかにした議事録を作成することにしたいと思いますが,いかがでございましょうか。           (「異議なし」と呼ぶ者あり) ○鎌田部会長 ありがとうございました。   では,当部会につきましては,発言者名を明らかにした議事録を作成することといたします。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   まず,事務当局から,今回の諮問の内容及びその発出の経緯,今回の検討の対象範囲,審議スケジュール等について御説明いただきたいと思います。 ○筒井幹事 それでは,私から,諮問に至る経緯,内容等につきまして御説明いたします。配布資料についての説明も含めまして,全体で所要時間20分程度を見込んでおります。よろしくお願いいたします。   まず初めに,債権関係の見直しに関する諮問第88号について,諮問に至りました経緯及び諮問の内容を説明いたします。   民法のうち,第1編から第3編までの財産法部分は,明治29年に制定された後,ほとんどの規定が制定当時のまま改正されないという状態が続いておりましたが,比較的最近になって,制定当時の規定内容を実質的に変更する重要な改正が行われるようになりました。すなわち,第1編総則につきましては,平成11年に成年後見制度の見直しによる改正が,また,平成18年に法人制度改革に伴う改正が行われております。そして,第2編物権につきましても,平成15年に担保・執行法制の見直しによる改正が行われました。   これらに対しまして,第3編債権については,平成16年に,第1編及び第2編とともに条文表現の現代語化を行った際に,保証に関する部分的な見直しが行われたほかは,これまで全般的な見直しが行われることなく,おおむね明治29年の制定当時の規定内容のまま現在に至っております。   しかしながら,この間に我が国の社会・経済は,通信手段や輸送手段が高度に発達し,市場のグローバル化が進展したことなど,様々な面において著しく変化しており,現在の国民生活の様相は民法制定当時とは大きく異なっております。民法は国民生活の最も重要な基本法典ですから,債権関係の規定につきましても,この変化に対応させる必要がございます。そして,その中でも特に契約に関する規定につきましては,国民の日常生活にも経済活動にもかかわりの深いものですから,早急な対応が求められていると思います。   また,裁判実務は,民法制定以来110年余りの間に,解釈・適用を通じて膨大な数の判例法理を形成してまいりましたが,その中には,条文からは必ずしも容易に読み取ることのできないものも少なくありません。そこで,民法を国民一般に分かりやすいものとするという観点から,現在の規定では必ずしも明確でないところを判例法理等を踏まえて明確化する必要があると思います。   このような事情を考慮いたしますと,民法の債権関係の諸規定について,その内容を現代社会に適合させるとともに,国民一般に分かりやすいものとするなどの観点から,国民の日常生活や経済活動にかかわりの深い契約に関する規定を中心に見直しを行う必要があると思われます。   今回の諮問第88号は,以上のような観点から発出されるに至ったものであります。   次に,諮問第88号が含意しております見直しの対象範囲について,敷衍して説明いたします。   今回の諮問では,見直しの対象範囲が,民法のうち「債権関係の規定」とされており,必ずしも第3編債権に配置されている規定に限定されておりません。これは,第1編総則に配置されている規定であっても,例えば,法律行為は,契約の成立・有効要件の中核を占めるものであり,また,時効のうち特に消滅時効は,弁済,相殺などと並ぶ債権の主要な消滅原因の一つであるなど,第3編債権の規定と関連が深いものがありますので,これらも今回の見直しの対象となり得るということを表そうとしたものであります。   他方で,今回の諮問では,「契約に関する規定」を中心に見直しを行うこととされております。これは,契約に基づく債権と,それ以外の原因に基づく債権,いわゆる法定債権とでは,基本的な考え方において異なる部分がありますし,また,これらを同時に見直すことが必ずしも不可欠とはいえないと考えられますことから,審議の効率性を考慮して,契約を中心に検討するというスタンスを採用したものであります。したがって,第3編債権に規定されているもののうち,事務管理,不当利得及び不法行為につきましては,今回の見直しの対象範囲には含まれておりますが,しかし,主たる検討対象ではなく,契約関係の規定の見直しに伴って必要となる範囲に限って見直しをすることが想定されていると思います。   諮問第88号についての説明は以上でございます。   続きまして,配布資料の説明をいたします。   まず,部会資料1の「当面の部会開催日程(案)」ですが,これは,文字どおり当面の,本年度中の会議日程のみを記載したものであります。(案)として御提示いたしましたが,特に御異論がなければ,このようにさせていただきたいと考えております。また,来年4月以降につきましても,部会の開催曜日は基本的に火曜日に固定したいと考えております。会議の時間帯につきましては,本日のように午後1時半から午後5時半までを基本にしたいと考えておりますが,しかし,十分な審議時間を確保するために,開始時間を午後1時に早めたり,終了時間が午後5時半以降に及ぶことがあり得ると思います。スケジュール調整に御協力くださいますよう,よろしくお願い申し上げます。   その上で,来年度も含めまして今後の具体的な審議スケジュールをどのようにするかという点につきましては,後ほど,私の説明の最後の部分で御提案申し上げたいと思います。   次に,部会資料2の「民法(債権関係)の改正検討事項の一例(メモ)」について御説明いたします。   この資料は,今回の改正の一般的な必要性について議論する際の参考にしていただこうと考えて作成したものであります。   債権関係の規定の改正の必要性については,近時,複数の学者グループからの具体的な改正提言が相次いで発表され,実務界の関心が高まってきたこともあって,この部会における審議がスタートする前から様々な意見が交錯していた感がありました。その中では,特に法律実務家から,改正の必要性についての徹底した議論,慎重な議論を求めるものが多かったように感じております。   お手元に,大阪弁護士会から提出されました意見書が配布されております。この意見書の趣旨等につきましては,後ほど大阪弁護士会の中井委員から御紹介いただいた方がよいと思いますけれども,目次の後の本文の1ページ目の中ほどにある2の第2パラグラフには,「民法(債権法)の改正を法制審議会で審議するに当たっては,まず第1に,現行民法を改正する必要性があるのか,改正すべき具体的な背景事情はどこにあるのかについて,慎重で十分な調査・検討が不可欠である」という指摘がございます。このほか,大阪弁護士会以外の弁護士会あるいは有志のグループからも,公式又は非公式に同様の指摘をいただいているところでございます。   この点については,私も全く同感であります。民事基本法である民法の大がかりな見直しを行うに当たっては,まずは改正の必要性について部会メンバー相互で十分な意見交換を行い,それを議事録を通じて外部に公表していくことにより,部会の内外において,できる限り問題意識を共有しておくことが大変有益であると思います。そこで,本日の会議では,この後のフリーディスカッションの際に,特に改正の一般的な必要性について意見交換をしていただきたいと考えております。このような総論的な事項の議論は,本日の第1回会議で終わりにするのではなく,本日の御議論の結果を踏まえて,更に次回の会議においても継続して議論してはどうかと考えております。   そして,この意見交換を行う際に,何も資料がないのでは議論がしにくいかもしれないと思いまして,事務当局において用意したものが,部会資料2であります。   この資料を作成した趣旨は,冒頭の(前注)に書きましたように,改正の一般的な必要性について議論する際の参考に供するということに尽きるわけでありまして,本日の会議において,ここに掲げた個々の検討事項について本格的な議論をしていただくことは意図しておりません。一般的な改正の必要性について議論する際に,必要に応じて御参照いただければ幸いであると考えております。したがって,私からの説明も,この資料に掲げた個々の検討事項についての説明は省略させていただきます。   なお,この「改正検討事項の一例」の作成に当たっては,今回の見直しの対象となる範囲の全体からできる限り満遍なく,また,バラエティーが豊かになるように,様々なタイプの検討事項を選択するよう心掛けたつもりでありますが,その点を除いては,検討事項の選択に当たり,何ら特別な意図を込めてはおりません。ここに取り上げた検討事項が特に重要であるとか,必ず改正すべき点であると考えているとか,そういった特別な意図は全く持っておりません。資料の冒頭に(前注)として書きましたように,ここで取り上げていない事項の検討の必要性について何らかの含意を持つものではありませんので,そのことを,念のため口頭でも確認させていただきたいと思います。   続きまして,参考資料として机上配布いたしました3点の資料について説明いたします。これらはいずれも学者有志のグループが取りまとめた具体的な民法改正の提言です。   債権法の分野を含む民法改正については,民法の施行から100周年に当たる1998年の前後から,学界を中心に活発な議論が行われてきたところですが,とりわけ昨年10月の私法学会からは,条文案やそれに近い形での具体的な改正提言の発表が相次いで行われてまいりました。これらは当部会における今後の議論においても大いに参考になると思いますので,それぞれ関係者の御理解と御協力を得て,参考資料として机上に配布させていただきました。   参考資料1と2は,いずれも今回の見直しの対象範囲の全体をカバーする改正案の提言であり,参考資料1は本年4月に公表され,参考資料2は先月公表されたものであります。そして,参考資料3は,今回の見直しの対象範囲のうち,消滅時効を対象とする改正提言であり,昨年9月に公表されたものであります。   以上3点の資料は,それぞれ関係者の御理解と御協力を得て事務局において配布させていただいたものですが,このほか,大阪弁護士会からは,参考資料1の「債権法改正の基本方針」に対する実務的な観点からの意見を取りまとめた「意見書―民法(債権法)改正について―」を御提供いただきましたので,これも机上に配布させていただいております。大変に充実した内容の意見書であり,当部会における今後の審議に大いに役立つものと考えております。会議の冒頭からこのような充実した資料の御提供をいただいたことに改めて感謝を申し上げたいと思います。   最後に,今後の審議スケジュールについて御提案をいたします。   まず,この部会は,民法の改正要綱の案を取りまとめて,法制審議会総会に報告することを使命としているわけですけれども,最終的に改正要綱案の取りまとめをする具体的な期限については,現段階では設定しないこととしてはどうかと考えております。   今回の見直しの対象範囲は,契約を中心にという限定がつけられているとはいえ,膨大な広がりのある領域であって,検討事項が極めて多岐にわたることが予想されますし,また,民事基本法の改正に伴う様々な影響をも十分に考慮しつつ議論を進めていく必要があると思います。そこで,現時点におきましては,必要な審議時間を十分に確保して審議を進めることを確認するにとどめ,具体的な期限を設定しないこととしてはどうかと考えた次第です。   とはいいましても,全く時期的な目標を持たないで審議を進めるのは非効率に陥りがちですので,中期的な目標を設定してはどうかと考えます。具体的には,今後1年半程度の期間をかけて中間的な論点整理を行うことを目標に,当面の審議を進めることとしてはいかがでしょうか。この点につきましては,本日のフリーディスカッションにおいて,改正の必要性等について議論していただいた後に,その議論の結果をも踏まえてお決めいただくのがよいのではないかと考えております。   私からの説明は以上です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま御説明がありましたように,この後,フリーディスカッションをする予定ではございますけれども,それに先立ちまして,ただいまの筒井幹事の説明につきまして御質問がありましたらお伺いしたいと思います。―よろしいですか。   それでは,お気づきの点がありましたら,後でまたお出しいただくということで,フリーディスカッションに進みたいと思います。   今後の調査審議の進め方についてのフリーディスカッションでございますが,調査審議の進め方に関する一般的な御意見,御要望でも結構ですし,また,先ほど筒井幹事の説明の中では,債権法の改正の必要性についても議論していただきたいという提案がありましたので,その点についての御発言でも結構です。委員・幹事,どなたからでも結構ですので,自由に御発言ください。 ○中井委員 具体的な審議に入る前に,この法制審のメンバーについて確認をさせていただきたいのですが,拝見するに,実務界の方々から出ているのが,消費者,労働組合も含めて5名の委員となっています。それに対して学者関係が,委員が7名,幹事が11名,トータル18名となっています。学者の構成メンバーが非常に多いのに対して,今回の民法の正にユーザーである企業,消費者,労働組合の方々の委員が5名で,幹事もいない。いささかそのバランスを欠いているのではないかと思います。なお委員ないし幹事の選任枠に余裕があるのであれば,ユーザー代表を更に追加選任するというようなお考えはないのか,また,そういうことが可能なのかどうか,お尋ねしたい。といいますのも,先ほど筒井幹事からお話がありましたように,民法というのは国民に最も身近な基本法であると理解しております。ユーザーの声を広く聞くということを基本的姿勢として貫かなければならないのではないかと弁護士会としては考えています。ついては,そのような可能性も含めてお教えいただければと思っております。 ○筒井幹事 ただいまのお尋ねについてお答えいたします。委員・幹事を追加して選任することにつきましては,これから時間をかけてこのテーマについて審議をしていくことになるわけですので,そういった過程で,今後新たに選任するという可能性が全くないと今の段階で申し上げることはできないと思います。しかし,この会場の状況を御覧いただけばお分かりいただけると思いますが,会場のキャパシティーとの関係で,少なくとも当面はこのメンバーで議論を重ねていただければと考えております。   委員の選任につきましては,任命権者である法務大臣の御判断ですけれども,私ども事務方としても,関係各界のバランスに気を配って案をつくったつもりです。民法,債権法の分野は非常に理論的な体系ですので,学者の皆様にとっては,学者の数がこれほど少なくていいのかという逆の意見を,あるいはお持ちかもしれません。他方で,実務家サイドには,実務家がもっと多い方がいいのではないかという御意見があるだろうと思います。また,経済界,労働界,いろいろな立場からそれぞれの意見がおありだろうと思います。そういったものを私どもなりに酌み取って,法務大臣の御判断でこのような形になったということで,御理解を賜りたいと思っております。 ○中井委員 今の説明は理解いたしますが,今後,審議を進めるに当たって,実務,正に民法のユーザーである方々の意見を聴く必要性をここで共有できるならば,今の御発言のとおり,臨機応変な対応を,また時宜に応じて御検討いただければと思っています。これは意見として申し上げておきます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。債権法改正の必要性等については様々な御意見をお持ちの方がいらっしゃると思いますけれども,どうぞ遠慮なく御発言いただければと思います。 ○岡(正)委員 一般的に必要性の有無を抽象的に論ずるのは余り意味がないと思っておりますけれども,発表された案について,今,弁護士会で必要性があるかないか議論を進めておりますけれども,余りに多様な広い案が提示されておりまして,印象としましては,単なるワーディングの改正の問題から,あるいは政策の問題,譲渡禁止特約のところで言いますと,債権の譲渡性を広げるのがこの日本の社会にとっていいのか悪いのか,そういう大きな問題もあるかと思えば,解除の要件における「重大な契約不履行」という,解説書を読みますと,実務に影響を与えるわけではないけれども,こういう言葉の方が理論的で,グローバルな潮流に合っているのだという問題もあります。非常に焦点が絞りにくいといいますか,広過ぎるといいますか,弁護士の方から見ますと,実態を変えないということであれば,110年続いたワーディングをあえてここで何で変えるのか,そういう不満といいますか,危惧も出ておるところでございます。今後の審議を進めるに当たりましても,そういう大きな政策課題の改正あるいは文言の整理にかかわる改正,判例法理を条文化する改正,そういうふうにジャンルごとに分けて議論していただければ分かりやすくなるのではないか。順番どおり行くやり方も分かりやすいかとは思いますけれども,この膨大なものを一つ一つ,弁護士としては,一つ一つ違いますので,一つ一つの項目について実務がどう変わるのか,その変わる実務が日本の社会にとっていいのか悪いのか,今はいいけれども,中期的に見てどうなのかというあたりをしっかり議論していきたいと思っておりますので,審議する順番とか,ここでのポイントは,政策なのか,ワーディングなのか,グローバルなハーモナイゼーションなのか,そういうことを明らかにしていただきたいと思います。読んでいましても,一流の学者の先生方の議論は,そうすんなり3万人の弁護士に浸透できませんので,分かりやすく,順番立てて,時間をかけて議論させていただければと思っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございます。 ○松本委員 今の御意見とも若干絡むのですが,カバレッジがものすごく広いのですね。債権関係ということで大変広い。一緒にやる必要があるのかと思うぐらい広いテーマが入っているので,余り生産的な議論にならないのではないかという危惧を感じています。そういう意味では,今,岡委員がおっしゃいましたけれども,もう少し順番を決めてとか,あるまとまりをつけて,それについてきちんと議論をして,それについてどうなのだということで一定の中間的なコンセンサスがとれればとる,とれなければとらないということにしないと,例えば,履行障害の問題と詐害行為取消の問題というのは全然質が違うわけで,一緒にやる必要は全くないのですね。だけど,債権法改正だということになると,全部が入ってきて,最悪の場合,一括して賛成か反対かなんていう結論をとられると,とんでもない議論になりかねないという危惧があります。今の岡委員の御意見だと,中身の変わるものと,中身は変わらないけれども言葉の変わるものという分け方の御提案ですが,私はむしろ,テーマ別に,詐害行為なんていうのはそれ自身独立したものなので,独自の部会をつくって従来だったらやってきた問題だろう,債権譲渡についても同じで,独自の部会になじむようなものだろうと思うので,そういう,どんどん切り離せるものは切り離すなり,あるいは後回しにするなり,あるいは先回しでもどっちでもいいですが,一緒にやらないで議論を進めるのがよいのではないかと思います。恐らく一緒にやらないと意味のないもの,特に履行障害関係が債権法改正の中でかなり大きな焦点になっていて,賛成,反対を含めて大きな争点になっているので,それをまず先行してやるとかいうのは積極的意味があるのではないかなと思います。あるいは,消費者契約法を入れる,入れないというのも,これも履行障害と直接関係がないので切り離して,別のところでやるなり,後回しにするなりして,意味のある部分をまず取り上げてやっていくという議論の進め方がいいのではないかなと考えております。 ○鎌田部会長 進め方についていろいろと御意見をちょうだいしているところでございますが―新谷委員,どうぞ。 ○新谷委員 先ほど中井委員から労働組合という言葉も出していただきましたので,連合の方から御意見を申し上げたいと思っております。   まず,改正の必要性でございますけれども,国民にとって分かりやすい民法にしていただくというのは非常に重要な視点だと思っておりますし,この部会での論議というのは非常に重要だと認識しております。ただ,社会の中でこの民法典がかなり定着しているという現実の中で,特段見直しが必要がない,判例法理を条文化するだけでいいという部分については,根本的なルールを変えるということではなくて対応していただければ有り難いと思っております。学者の先生がたくさんおられるので申し上げにくいのですけれども,仮に学説として筋が通っていても,実務の現場において,立場の弱い当事者が過大なリスクをかぶってしまうというような改正については,国民的なコンセンサスがとられるように,十分な論議を経た上で,改正の手続を踏んでいただきたいと思っております。   また,検討のスケジュールについて,先ほど,期限は一応設けないということでございましたけれども,明治以来,定着した民法典でございますし,非常に複雑な権利関係のある現代の中で,やはりかなり時間をとって論議をしていただく必要があるかと思いますので,中間地点は一応設けるといたしましても,いつまでにという期限は設けないという方針については賛成したいと思ってございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに御意見ございますでしょうか。 ○高須幹事 今,新谷委員の御発言の中にも,「国民的なコンセンサス」という言葉が出てまいったのですが,民法という基本的な法典でございますから,やはり国民の理解というのはとても大事なことなのだろうと思います。そのことに関して,筒井幹事からの冒頭の御説明の中で,民法の改正の必要性について,分かりやすさとともに,「現代化」という言葉が出てきたというふうに伺いました。市場のグローバル化の進展に伴う社会・経済状況の変化に対しての適切な民法をつくっていこう,こういう趣旨だと思いますが,市場のグローバル化,新しい世の中になったんですよということについては,昨年のリーマンショック等もあって,今その新しい社会そのものが果たしてどういう社会なのかという社会像自体が,国民の中でも大分意見が分かれているのではないかと考えております。こういう時期に,国民的コンセンサスを得るために我々がどのような議論をしたらいいのかというのがとても難しい問題なのだろうと思っております。改正の必要性そのものを否定するわけではないのですが,今のような御趣旨の中でその必要性を見いだしていくためには,よほどの慎重な検討が必要になるのではないかと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○野村委員 必要性ということで今よく我々の仲間と話をしますと,「今何か困っているの,困っているところ何もないんじゃないの」と,言われるのです。これまで法制審でも民法の中で私も幾つか関与してきましたが,どうしても変えなくてはならないという必要性に迫られて,その結果,ある程度枠をはめられて,その中で議論をするということで,その問題については,ほかにもいろいろ問題があるのですけれども,当面そこはちょっとわきに置いておいてというような形でやってきたと思うのです。しかし,そういう制約がなくて,諮問の中では,分かりやすさとか,社会の変化に対応するというようなことなので,ある程度時間をかけて議論をすることも必要ではないかと思うのです。   ただ,問題は,具体的に重要な課題があって,それを解決するというのだと比較的目標が見えやすいというところがあるわけですけれども,将来の方向をある意味では決めていくということなので,どういう中身にするかというのが,非常に重要だと思うのです。その結果,社会がある一方の方向に方向づけられるということになりますので。平成8年の婚姻法の改正について,当時,民法部会に私はいたのですけれども,そのときに,夫婦別姓については,アンケートとか何かでは,それほど強力な支持はなかったと思うのです。将来のあり得べき日本として目指すのだというようなことを事務当局から伺ったのですけれども,そういう,将来に向かってこういうふうに変えていくのだというところを十分議論しないといけないのではないかと思っております。 ○能見委員 今までの意見の中にも出てきましたけれども,必要性の中身とか,あるいは必要性の程度ということでは,これは恐らくいろいろなものが入っているのだろうと思うのです。どれが本当に一番必要かということについても,恐らく意見はそう簡単には一致はしないのかもしれませんが,次のような点は比較的一致しやすいのではないか。例えば,消費者契約法などに入っている規定の中で,もう少し一般化して,消費者でなくても,事業者であっても,契約の際に不実告知等,民法の規定では十分に対応できないような被害を受けているときに,そこまで一般的に保護したらどうかということを,我々が仮にその必要性を共有したとしても,これらの規定を民法の一般の規定に置き換えるということだけでも,恐らく相当理論的に難しい問題があり,かつ,影響も大きいものがある。こうした点を正に民法の改正の際に変えるのがいいのではないかと思います。もっとも消費者契約法から必要な条文をただ個別に持ってくればいいのかというと,恐らく一ついじると,錯誤との関係だとか意思表示に関連するいろいろな規定との関係とか一緒に見直して,全体として民法の中で使いやすいものにしなくてはいけない。あるところをちょっと変えるときに,今,野村委員が言われたように,もう少し全体を見て,整合的な改正というものをその際考えなくてはいけない。そうすると,中核の部分は本当に必要性が大きいとしても,その周辺の必要性が薄いものは当然入ってくる可能性があるわけですね。しかし,この際,民法の改正をするのであれば,最小限必要のところだけにとらわれないで,広く改正の検討をするというのが恐らくこの審議会でやるべきことなのだろうと思います。こういうテーマはたくさんあって,ただ順番にやるというのではなくて,先ほど幾つか意見が出ましたが,幾つかのブロックに分けてやっていくのがいいと思います。   それからもう一つ,これは私の個人的な意見ですけれども,確かに必要性があって改正するというのが最初のきっかけだと思いますが,改正するときには,これから50年先の民法あるいはこれから50年先の日本の社会,そういうところにおいてどのような民法典が必要なのかということもやはり視野に入れながら改正の議論をすることが必要ではないかと思います。   そういうことで,ここではいろいろな検討事項を少し広めにとっておりますけれども,その広めにとるということについては,先ほど申し上げたような理由で,私としては,すべてを賛成しているわけではありませんけれども,必要なことではないだろうかと思います。 ○岡田委員 消費者契約法ができてから,消費者相談の中でも民事ルールがかなり重要な部分を占めています。ただ,相談員は法学専門ではないものですから,弁護士とか学者の方の講演を聞いたときに,条文にない解釈というものが,お話をなさっている方にとっては当たり前のことで,判例であったり,多数説であったりということでお話になるのですが,相談員は,条文をめくったときに,どうしてこの条文がこういうふうに解釈されるのとか,これの条文はどこにあるのというので常に疑問に思うようで,私のところへも来るのです。しかし,とても私の手には負えない部分があります。今回の資料2のメモに書かれた部分は,すべて現場の消費生活センターで一番相談員が頭を悩ませている部分なのです。そういう意味では,是非,相談員はもちろんのこと,国民にとっても分かりやすい民法になってほしいなと思います。 ○大島委員 民法の改正の必要性についてなのですけれども,やはり民法というのは,基本法として社会との一体性を保つ必要があると考えています。現行民法は制定から100年が過ぎて,社会との乖離が出てきているという指摘がある一方で,その透き間を蓄積された判例が担っています。こうした意見について実態面からよく調査して,今の民法のどこが問題なのかとか,それが実際に現実に国民や企業に悪い影響を与えているかなどを,慎重に検討を進めていっていただきたいと思います。   一般の国民とか企業,中小企業は特にそうですけれども,どこに問題の所在があるのかがまず分からないわけで,特に,具体的な例示を出すことによって効果を示していかないと,改正に対する理解が得られないので,その具体的な事例を随所に織りまぜて議論していただきたいなと思っております。 ○中田委員 私は,かつて民法の現代語化の作業のお手伝いをしたことがございます。そのとき二つの感想を持ちました。   一つは,現代語化が公表されました際に,部分的な批判はあったのですけれども,全体として非常に広く歓迎されたという記憶があります。今回の改正もそのようなものになればいいなと願っております。   もう一つなのですけれども,その現代語化の作業をする際に,明治の起草者は実によく勉強して,言葉についても非常に吟味しているということを痛感いたしました。実際にやってみまして,現代語化すること自体大変なことだなということが分かったのですけれども,その結果,民法の条文の字句というのは安易に手出しできないといいますか,さわれないというような印象を持ちました。多分そういった印象は一般的にもあって,それが民法の普遍性とか安定性に資することになっているのだろうとも思います。ただ,その結果,これまで再三御指摘のありましたように,民法にはさわらないけれども,民法の外で判例とか特別法で一般的な法理が発達していくということになったのではないかと思います。そしてどうなったかというと,民法の規定だけ見ると,現在の日本の民事法の基本が理解しづらくなっている。今,岡田委員がおっしゃったとおりだと思います。これをやはり是正することが必要だと思います。我々を含めて法律家にとっては分かるではないかということかもしれないのですけれども,法律家以外の人にとって分かりにくいというのは,何とかしないといけないと思っております。   その作業の進め方なのですが,先ほど筒井幹事からお出しいただきました中間的な論点整理というのは,これは一つの目標として非常にいいのではないかと思います。それまでの間,最初から方法をかっちり決めてやるというのはなかなか難しいでしょうから,中間的な論点整理までは割と広めにとって,行きつ戻りつになるかもしれませんけれども,やってみて,そこから詰めていけばいいのかなと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○木村委員 私も,民法それ自体というのは,本当に110何年間,一般市民の生活の中にしっかりと入り込んできていますので,色々な意味で変えていくのは難しいとは思うのですが,この諮問の中で大きな観点というのが二つありまして,国民一般に分かりやすいものにするという観点,これは極めて誰もがそう思う必要性かと思います。それは,先ほど岡委員からお話がありましたけれども,ワーディングの部分もあれば,いわゆる,条文上明らかにされていない判例で確立されている考え方のようなものもあり,そういうものを見えるようにしていくことは,極めて重要ではないかと思います。  しかし,そこから先の,政策という観点からの改正となりますと,そういう政策が本当に必要なのかどうかを吟味すると同時に,そういう政策をとることが,今までの安定した法社会といいますか,そういったものにどれだけの影響を与えるのかというようなこともよく検討しないと,社会を混乱させるだけという話にもなりかねません。  したがって,明確に分けて議論していく,要するに,必要性という意味において,皆さんがコンセンサスを得やすいようなところから,まず議論をしていくようなやり方もあるのではないかと感じております。 ○中井委員 弁護士会から幾つか意見書等が出ているわけですけれども,その中では,通常,法改正というと,具体的な検討課題,解決すべき課題があって,それに向けて適切な法律をつくっていく,こういうことで弁護士会もいろいろな分野で関与させていただいているわけですけれども,今回の民法改正について,そのような特定の課題なり,緊急の解決の必要性があるのか,どういう事情があって改正をするのか,全面的な改正に及ぼうとしているのか,その必要性について,多くの質問が出ているという現状にあります。今回,例えばということで30項目ぐらい挙げていただいているものについて,個々の論点を見ていくと,例えば典型的には,判例法理がほぼ確定しているにもかかわらず,それが条文と乖離している,確かにこういうものについては何らかの手当てが必要であろう,若しくは,単に条文を読んだだけでは本当に分からないという,先ほど,一般消費者にとっても一般市民にとっても分からない条文について,それを改めていく必要はあるだろう。これは,個々の問題について,表現は適切かどうか分かりませんが,部分的に改正していく必要性は理解できる。しかし,トータルとしてどのような理念で,どういう方向に改正をしていくのか,若しくは,そういう理念については余り議論する必要はなく,個別論点について考えていって,妥当な制度設計をすればいいではないかと考えるのか。つまり,トータルで考えるのか,個別問題を解決するために改正するのかという,大もとの考え方について,もう少し皆さんの意見を聞かせていただきたいなと思うのです。弁護士会としては,そのトータルに改正していくことについて,その必要性はあるのかについて,疑問を持っている,必要性がないのではないか,今なぜなんだ,こういう意見が強いのだということを紹介させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ただいま御指摘があったような点についても,御発言を是非お願いしたいのですけれども。 ○大村幹事 今の点に直接かかわるのかどうか分かりませんけれども,先ほど中田委員から,これまでの改正の歴史などにかかわるお話もありましたので,私も少し歴史的なお話をさせていただきたいと思います。   法律家の先生方は御案内のところかと思いますけれども,日本民法典の規定は,明治の法典編さん期につくられたときに,急いでつくられたという事情もございまして,他の国の法典に比べますと非常に簡素なつくりになっております。条文数が少ないというのが一つの特色だろうと思います。それは,短期のうちに立法するに際して,将来どうなるのか分からないので,将来の法発展にゆだねようということで,基本原則だけを定めるという考え方がとられた結果だろうと思います。そのことを踏まえまして,判例あるいは取引実務が様々なルールを付け加えてきて,そのおかげで,今日まで私たちは大きく法改正をせずに済んでいるということがあろうかと思います。   ただ,これも先ほど来御指摘のあるところでありますけれども,こうして付け加えられた書かれざるルールがあまりにもたくさん重なってきているというのは事実なのではないかと思います。狭義の法律家に限らず,民法に関係のある仕事に就いている方々ならば,ルールはそういうものだと認識して行動しておりますので,これでさしたる不自由を感じることなく今日までやってこられているかと思います。ですが,これからの新しい世代,新たに法律家になる人々,あるいは法律家にならないにしても,民法に基づいてこの世の中で生活していく若い人々にとって,現在の民法典が分かりやすいものなのか,学びやすいものなのかという点については,改めて考えてみる必要があるのではないかと思います。最近では様々な法改正がございまして,私どもも,民法以外の法律が変わりますと,条文番号も変わってしまって,うろたえるということも少なくないのですけれども,そうした不便を甘受しても,これから我々の社会の一員になる人たちにとって分かりやすい民法にすること,その際にわかりやすいというのがどういうことかということを考える必要があるのではないかと思います。   これは国内だけの話ではございません。今,日本の民法改正は東アジアの諸国をはじめとして様々な国から関心を持って見つめられています。日本法のルールは,これまでは少ない条文の民法と様々な判例によって成り立っていた。これが,見通しがよく,コンパクトな新たな法典ができるということになりますと,外国から見たときにも日本の民法がより分かりやすくなるという利点もあるのではないかと思っております。これが一つでございます。   それからもう一つですが,これまで,今日の参考資料で出していただいている案がいずれも学者グループの案であるということで,学者が様々な理論によって,無用の修正を加えようとしているのではないかという危惧をお持ちの方々もいらっしゃるかと思います。これら様々な案には,私の関与しているものもございますし,そうでないものもございますけれども,全体として,これまでの法発展の延長線上に,すなわち,従来の民法典の上に立って,判例実務とともに法をさらに発展させるという観点から提案されているものだと思っております。判例実務あるいは個別の法改正による法形成というのは,個々の問題に遭遇したときに,よりよいルールを求めるという形で進められてきたかと思いますけれども,今回もし大幅な見直しを行うということであるとすると,民法典を中心に置いて,私たちのこれまでの法実践とは一体いかなることだったのかということを改めてトータルに検討し,より深める,そういう機会になるのではないかと思っております。決して,これまでの法発展と切り離された改正をしようということではありません。先ほど中田委員から,現代語化のときに,民法典は本当によく考えられているということを実感されたという御発言がございましたけれども,これまでに行われてきた学者委員の様々な研究会の中で,私どもが痛感することは,立法論ということで考えてみると,民法には様々な分からない点があるということでございまして,この分からない点をこの機会に洗い出して,将来に向けてより使いやすい,分かりやすい民法典をつくるというスタンスに立つことが必要なのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○深山幹事 今までの委員・幹事の方々の御意見を,ごもっともだと思って聞いておるのですが,そういった,十分議論を尽くすということ,あるいは国民に分かりやすく,理解を得やすい民法をつくる議論の進め方として,先ほど筒井幹事からも,1年半で中間的取りまとめというお話がありましたが,この1年半というタイミングが適当かどうかはさておき,例えば1年半なら1年半のところで,文字どおり中間的な全体像といいますか,理念的なことも含め,あるいはワーディング等の法技術的なことも含め,今回この法制審で議論をしている全体像を,まずは見えやすい形で国民に広く示す必要があるのだろうと思います。もちろん議事録を公開してという意味での透明性も大事だとは思うのですが,やはり,弁護士会に限らず各界で議論するときに,ある程度文字になった,まとまった形で検討対象がないと,それに対する賛成,反対の意見も議論しにくいということもありますので,例えば,中間的な中間試案のような形で,第1回目のパブリック・コメントに付して,また必要があれば第2回目のパブリック・コメント,更に必要があればということで,要するに何を申し上げたいかというと,パブリック・コメントという形で国民各界の意見を問う段階をなるべく増やす必要があるのだろうと,一回こっきりで,さあどうですかと言われても,なかなか議論ができませんので,できれば複数回,折り目折り目,節目節目でパブリック・コメントに付するような議論といいますか,審議の進め方をしていただければいいなと思っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。   このあたりでいったん休憩をとらせていただいて,その後にまたフリーディスカッションを続けたいと思います。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開をさせていただきます。   休憩前に引き続きましてフリーディスカッションを行いたいと思いますので,御自由に御意見をお出しいただければと思います。 ○中井委員 先ほどと重複しますが,松本委員から,幾つかのブロックに分けて改正する方が効率的ではないか,こういう御発言がありました。個別的論点はたくさんあるだろうと思います。それを1個ずつ議論する,その必要性はあるのだろうと思いますが,では,そのときにトータルの方向性なり理念なり,そういうものの議論が全くなくてよいのか。せっかく研究者の皆さんがたくさんいらっしゃいますので,この改正の方向についての理念とかの位置づけについて,もし御教示いただけるなら,この機会に是非承りたいと思うのです。我々弁護士会の方は,そこに対する分かりにくさを感じているのです。この民法を100年使ってきて,我々の認識としては,判例の集積,学説,学者の意見が実務に反映されることによって,実務として安定的運営がなされている。もちろん個々の論点については山ほど議論すべき点はあるのかもしれませんが,トータルとして不自由を感じていないというのが,実務家の率直な意見ではないかと思うのです。そこで,今回指摘された論点を一つずつ見れば,それは問題があり,直さなければいけない。それは先ほどのワーディングの修正から始まって,条文の追加補正になるのかもしれません。しかし,全体を通じた方向性なり理念が,もし存在しない場合に,ばらばらの改正でいいのか,ばらばらに個別検討することでいいのか,若しくは,こういう点で一つの方向性,理念を持って改正していくべきなのか,このあたりを是非御教示いただければ有り難いと思います。 ○鎌田部会長 是非,研究者の側から積極的に御発言をいただければと思います。 ○能見委員 全体の方向性というのは,必ずしも一つではないのだろうと思うのです。先ほどからかなり共通の理解と賛同が見られそうな目標として,これはやはりユーザーのためのといいますか,そのときのユーザーも一体だれをユーザーとして考えるかというのは重要で,私としては,もちろんこれも余りだれというふうに限定はできないと思いますけれども,まずは,市民が一般にそれを見て分かるというものです。これは先ほどからいろいろな御議論がありましたように,確かに法律家は判例を知っているし,それとあわせて見れば現行の民法典というのは分かるけれども,一般の市民というのはやはり分からない。先ほど御意見があったとおりでございます。先ほど大村幹事から歴史の話がありましたように,フランス民法典なんかも,そもそもはやはり市民のための法典をつくるということで,ナポレオンも参加して,ナポレオンも分かるような法典を目指したということですけれども,いずれにせよ,やはり市民として分かるというのが目標だろうと思います。そのために判例などを必要に応じて取り入れるというのが一つの中身になるだろうと思います。   2番目は,今の話とも関係はいたしますけれども,判例としても必ずしも安定していないし,学説でも必ずしも一致していない問題についても,この審議会で議論して皆さんの一致ができれば,ある程度方向性を出してもいいのではないかというものです。例えば,瑕疵ある目的物売買における追完請求権の問題などは,特定物についての追完ということになると,恐らく余り安定的な考え方というのがあるわけでなくて,議論が錯綜していると思います。しかし,売買に携わる者としてはやはりこういうものが権利としてあるのかないのかが明確になっているということはいいことであり,こういう権利義務関係というものをより積極的に明確にすることも必要だと思います。これは単に市民にとっての分かりやすさというのとはまた違ったレベルの問題だろうと思います。   3番目には,これは先ほどから政策という形でもって議論されていることだと思いますが,一定の保護というものを強化するのかしないか。先ほどちょっと私が例を挙げたような消費者契約法の中のいろいろな規定というものを,もう少し一般的に広げることによって,現在の契約社会における弱者といいますか,事業者であっても弱者はいるし,そういうものの保護も取り込むような,そういう保護を拡大するという意味での方向性です。  いずれにせよ幾つかのレベルの目標というのがあり,その中のどれかだけをやらなくてはいけないという問題ではないので,共通の了解ができるものから始めるということは一つのやり方だと思いますが,先ほどの2番目,3番目も是非今回の改正の視点に含めるというのがいいのではないかと思っています。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○潮見幹事 先ほど,休憩の前のところでどなたかの委員の方から,民法というものは100年たって,一般市民の中に入り込んできているというお話がございました。それからまた,休憩の後,中井委員の発言の中で,民法のもとで,今現在,安定的に運用されている状況があるという認識が示されました。しかし,そう言えるのは,あくまでも今の民法を前提として,今の民法の解釈として安定しているというコンテクストにおいてではないか。しかし,今般,改正に関する様々な提案がされ,また,それを受けた議論の中で,実務家の方々,もちろんその中には企業法務の方々も含まれますし,実務法曹の方々も含まれますが,そうした方々から,現在の民法をもし変えるとしたらこういう部分をこのように変えるべきである,それはこういう理由であるというような意見が多々出ています。それに対してまた,それはこういう理由で変えるべきではないという議論も出ています。それらは,恐らく,よりよい民法を目指して,それぞれがそれぞれの場面で,いろいろな局面を想定して,これについては変えるべきだ,変えるべきではないという議論を重ねてきていることによるものと思われます。当然その議論は,特定の喫緊の課題に限られない形で出されているところでもあります。   そうした中で,本部会が設置されたことをきっかけとして,特定の喫緊の課題ではないところも含めて,一つ一つの場面について,もちろん先ほど松本委員がおっしゃったように,領域ごとに区切って議論する必要はあろうかと思いますが,各界の委員の先生方がいらっしゃるわけですから,そこで議論をしてみて,その中でどのような理念がその背後にあるのかが問題になるようなことがあれば―というか,多分あると思いますけれども,その中で理念論を闘わせて,具体的な民法の個別の制度やルールの改正の要否を検討していけばよいのではないかと思います。その積み重ねの中で,この部会の中での将来のあるべき民法に向けてのトータルな理念や方向性も,出てくるかもしれません。あるいは,場合によれば,出てこないから,民法改正全体としては少し退こうという議論が出てくるかもしれない。そのあたりは,個々の領域の議論を踏まえながら展開していけばいいのではないかと思っているところです。 ○松本委員 必要性という点なのですが,先ほどから若干意見が出ていますが,民法は,100年以上前にできたテキストとしての民法と,それから大正期に大幅に入ってきたドイツからの学説継受のもとにできた旧通説的民法と,それから戦後の膨大な判例理論によってつくられた判例民法と,3層ぐらいに分かれているという実感がありまして,これは本当にやりにくいと思います。この3層を1層にするというのが,一つは分かりやすい。現在妥当しているルールで1層化するというニーズはあると思うのです。これは,現在妥当しているルールは何ですかという点についてコンセンサスがとれれば,ではそれをどういうふうに文章で表現しましょうかということで比較的やりやすいことだと思います。   必要なのは,その上で,不都合な部分ですね。現在の条文は不都合である,それを回避するためにいろいろ苦労している部分があるわけですが,そこについては,政策的な観点で変えていく必要があると思うのです。例えば一つの例としては,特定物売買における危険負担の民法第534条というのは,不合理であるという点ではもうほとんどの人が一致していて,それを回避するためにいろいろな手法をとるわけです。はっきり言ってデフォルトルールを変えればいいのではないかと思うのですが,そうなると恐らくほかの制度と絡んでまいります。危険負担の規定を改正するということは,解除にも影響するし,その他の債務不履行の様々な制度にも絡んでくるところがあるので,そうなると,いや応なしに,もう少し広いスパンで,いくつかの制度をひとまとまりとして見直さなければならないということにも恐らくなってくるのだろう。その場合,たまたま,海外,例えばドイツにおいて,債権法改正でかなり変わったということがありますから,そういうのと結果として似てくるかもしれないのですが,順序が逆だと批判をこうむるのではないか。海外でこうなのだから,日本もその国際的トレンドに乗らなければ駄目だという理論からいくと,今困ってもいないのになぜだという批判が出てくるので,そうではなくて,個別の問題のあるところをよりよいものにしていこうと思うと,場合によっては全体としての構造を少し見直さないと駄目だということになってくる。そうしないで1か所だけ変えると,ますますつじつまの合わないことになり,整合性をとるためにまた無理な説明をしなければならないようなことにもなりかねないということです。言いたいのは何かというと,やはりニーズのあるところから議論を始めていって,結果として全体のより大きな意味での見直しにつながっていくこともやむを得ないことになるのではないか。逆ではあってはならないということです。 ○山本(敬)幹事 改正の理念というほどのことではないのかもしれませんが,改正の必要性について指摘しておきたいことがあります。   先ほどから,現在すでに民法典があって,それを解釈・運用によってうまく機能させているではないかというご指摘がありましたが,民法がつくられたときには,やはりその当時の社会を想定して,それに適したルールを形成しようとされたのだろうと思います。例えば,売買の領域でも,典型として,不動産等を始めとした特定物の売買を想定して,それに見合った瑕疵担保等のルールが形成されています。ところが,そうした特定物の売買が重要であることは今も変わりはないとしましても,それ以外の種類物あるいは大量生産される製品の売買が世の中で大きなウエートを占めてくるようになってきますと,むしろそういったものを典型としてどのようなルールを形成していけばよいかということを,考え直す必要が出てくるのではないかと思います。   同じようなことは,例えば,請負や委任,あるいは役務提供契約と呼ばれるものにも当てはまります。そこでは,かつて想定されていたのとは違うタイプの様々なサービスの取引が現在大きなウエートを占めるようになってきています。そのほか,先ほど債権譲渡の話も出ましたけれども,これもやはり同様でして,将来債権譲渡等も含めて,もともと想定されていたのとは相当違った形で利用されるようになっています。  そのように,現代社会において財産や契約などをめぐる状況がどのように変化したのか。それに見合った形でルールを見直そうとするならば,どうなるか。こういったことが,やはり民法の制定から110年もたちますと,当然問題にせざるを得ません。これが民法の「現代化」と我々が呼んでいるものです。もちろん,そこでは,一つ一つの現象がばらばらに生じているわけではなくて,相互に連関しあいながら生じてきているわけですから,それらをトータルに見据えて債権法を全体としてどう改正するか,どのようにルールを見直していくべきかということを議論する必要があります。それが,まさに今行われるべきことなのではないかと思います。   もちろん,その過程では,先ほどから何度も出ていますように,何とか解釈によって不備を補っているわけです。ただ,その解釈は,法文を見ればわかるわけではないので,それを目に見える形に明文化していく。これも当然行うべきことです。先ほどから挙がってくるのは,判例法といいますか,例えば,意思無能力だとか,代理権濫用だとか,事情変更だとか,そういったある種の「大きな」不文の規範にあたるものが想定されているようですけれども,もっと「小さな」不文の規範も,実はたくさんあります。例えば,弁済によって債務が消滅するというルールも,債権編の「債務の消滅」という名前の節の中に弁済の規定がありますので,それで分かる仕組みになっていますが,明文の形では書かれていません。あるいは,意思表示の撤回でも,撤回するとどうなるかということは全く書かれていないわけです。もちろん,法律家は,撤回するとどうなるかということはすぐに分かるわけですけれども,知らない人にとっては,これだけではわかりません。このような法律家にとっては当たり前に属するものも,やはり明確化していこう。国民に分かるような民法にするというのは,そういうことではないかと思います。  そうしますと,民法の書き方というのでしょうか,ルールとしてどのようなものをどのように書くかというコンセプトが大きく変わってくる可能性があります。「分かりやすくする」というのは,そういうことを含意しているのだと思います。そのような目から,もう一度民法を全体として見直してみようということではないのでしょうか。  そうしますと,本来,債権法に限定するのも問題なのかもしれませんが,そこまで広げますと逆に焦点がぼやけてしまうかもしれませんので,少なくともまとまりのある債権法,それも契約を中心とした債権法について考えてみよう。今回の改正の方針は,このように理解できますし,それはまさに今なすべきことではないかと思う次第です。 ○大島委員 今のと関連しているのですけれども,改正の方向性とか内容についてちょっとお話ししたいのですけれども,改正は法令を遵守している企業にとって是非プラスになるように,取引の一層の円滑化とか予見可能性の向上に資するものになるような改正の方向性にしてほしいと思います。   さらに,現在,経済のグローバル化が一層進む中で,日本経済全体を俯瞰して,内外の経済取引に障害になるようなことがないような視点が必要だと思っております。企業活動において,実務上活用しづらい規定,あるいは現行民法に定められていない事項があるならば検討の対象とすべきであると思っています。時がたっても活用が見込まれるものについては,蓄積された判例や解釈を条文に盛り込んで分かりやすく明示して,それ以外の部分については,いろいろな企業その他多方面からユーザーの意見を聴き,慎重に議論していただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○山川幹事 先ほどから議論に出ております諮問の中の二つの要請,社会・経済の変化への対応を図るという点と,国民に分かりやすくする,この二つが議論の対象になるという点は全くそのとおりであろうかと思います。その場合の変化への対応という点は,一種の新しい理念とか政策を考えることになるわけですが,その場合に,政策を決定したり考えたりするフォーラムといいますか,場はどこであるかということも考慮に入れる必要があるのではないかと思っております。私の専攻の労働法の分野ですと,「法律時報」の増刊にも書きましたけれども,労働契約法がつい最近できまして,そこで一つの資料であるという位置づけだったのですが,「基本方針」の中では,労働契約法との関係を考慮していただくという形で,私としては賛成する形の方向になっているのですけれども,そのような形で政策をすべてこの部会で決定できるようなものであるかどうかということが,一つの考慮要素になると思います。ただ,例えば危険負担のお話ですと,もちろん労働契約にもかかわるのですが,他にも非常にかかわるところがありますので,そう簡単に割り切れるわけではないということも重々承知はしておりますけれども,政策決定の場面というものを考える。より広く議論する場合には,あとはどういうユーザーが現実にいて,どういう声があるのか,そのあたりも議論の対象にしていただければと思っております。いずれにしても,中間的な論点整理を図っていくという,先ほど筒井幹事の言われたような方向は,私は結構ではないかと思っております。 ○山下委員 商法の分野を研究しておりますが,今回の資料2のメモを見ましても,民法そのものではないけれども,周辺領域で問題となるのが,一つが消費者法で,もう一つが商法ということになるかと思います。消費者法の方は近年著しく発展しておりまして,現代化というのは実質的には行われている。それをさらに進めるか,また体系的にどうするかという話だろうと思いますが,商法の方はやはり民法と同じで,約100年前にできたままでございまして,消費者法よりは民法により近い問題が多く含まれていると思いますので,この際,委員・幹事の皆様方にも御関心を持っていただいて,商法も含めた視野の中で御検討いただければと思っております。   そういう中で,ふだん商法の商行為以下のあたりの研究をしておりまして感じておりますのは,先ほどからの改正の必要がどこにあるかという点でございますけれども,やはりこれは任意規定で,どうも内容が実務的には問題があるのではなかろうかという規定は結構あるわけでございます。ただ,そういうものがあるとどうなるかというと,企業間取引でも契約書でそういう不適当な規定を逐一外す契約書を全部作っているかというと,そういうことはないわけで,そうすると,当事者が思ってもいないような紛争になって,突然商法のデフォルトルールが適用されることになり,実務的にはかなり評判が悪い判例というようなものもあるのではないかと思います。これは商法で我々が研究している分野のことなのですが,恐らく民法にもそういうことは多々あるのでないか。そういう面では,理念的にどうするかとか,それから制度が非常に根本的に変わるような問題をどうするか,それはそれでまた御議論いただく必要は当然あろうかと思いますが,それとともに,規定を全体的にさらっていくということも,これは企業間取引をされているような方々にとっても,非常に実務的に重要なことではないかと思っています。我々もまた立法論を検討するときに,先ほどからの外国法がどうなっているか,そういうところは得意で研究するのですが,実務的にどういう動きなのか,これはまた企業間取引は特に分かりにくい分野でございますので,これも幅広く御意見を出していただくことで解決をしていく,こんなことではないかなと思っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに御意見いかがでしょうか。 ○山野目幹事 御議論いただいております改正の必要性に関連して中身の問題と進め方の問題と,それぞれ1点ずつ意見を述べさせていただきたいと考えます。  中井委員から2度にわたって,改正の理念,何を目指しての議論であるというふうに委員・幹事は考えているのですかという,大変重要な,出発点をなす問題提起をいただきました。これは考え込まなければいけないことであると感じますし,また,それに対して完璧な答えを見出すということにはなかなかならないのかもしれません。中井委員がお尋ねのことが,どの程度の抽象性のことをお尋ねになっているのかということにもよるのかもしれませんけれども,その関係で私が感じますのは,本日御議論を伺っていても感じたことですが,諮問の文章にも,国民にとって分かりやすい民法にするというふうに,「国民一般」という言葉が使われており,それは第一義的には市民,とりわけ法律関係の当事者になったような市民にとって分かりやすいということがあるかもしれませんけれども,市民にとって現在の民法が分かりにくいのではないかという問題とともに,それでは専門家にとっては分かりやすい民法になっていますかということを考えたときに,専門家という言葉は多少広い言葉で申し上げていますけれども,いわば当事者になっていなくて,当事者をサポートしてあげるような立場の,やや広い意味の専門家が民法を使おうとしたときに果たして使い勝手のようものになっているであろうか。消費生活専門相談員の方が当事者をサポートしてあげるときにお困りであるという御指摘がありましたし,あとは別な観点ですが,隣接の法分野の研究者から見て,果たして民法の運用というものは,適切に奥行きの見通しのよいものになっているだろうか。そういったことも考えますと,分かりやすいものにしていくというのは,幾つかのレベルにおいて,しかし相当程度求められている段階に来ているのであろうと考えます。  それから,進め方の関係で,今後の進め方について,幾つか御示唆に富む御議論があったように感じますけれども,改正を論議する可能性のある事項の中に,相互に関連し合っていて,ブロックをなしているような幾つかの問題領域があるのではないかと感じます。そういう問題領域につきましては,細切れにして取り上げるということになりますと,既に幾つか実例を挙げて御指摘があったことでありますけれども,非常に不整合な内容の改正になってしまうおそれがございます。したがいまして,そのように問題領域ごとに当面の議論を進めていくということは,審議を効率的,実質的にするうえでよいのではないかと考えますし,その検討の中で,政策的な選択が要求される事項とワーディングが問題になっている事項とその他の事項を区別するということについて,注意を払っていくということがよろしいのではないかと考えます。  問題領域を幾つか区切って議論を始めることとしますと,中井委員がお尋ねになった,何を目指しての改正かという問題についても,今日の御議論の範囲で一定程度抽象的な御議論が交わされることもよいと思いますが,また更に細目にわたる,もう少し可視的な次元での理念というものを,委員・幹事の間で語り合うということが可能になってくるのではないかという予感も抱きます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに御意見いかがでしょうか。 ○鹿野幹事 既に多々御指摘がありましたので付け加えることは多くはございませんけれども,私の意見を述べさせていただきたいと思います。   まず,改正の必要性という点です。既に御指摘がありましたように,分かりやすい民法典という観点から言うと,条文からはルールがなかなか分からない,そして判例を十分に知っている人でないとうまく使えないという現在の状況は適切ではないと思います。それゆえ判例法理等を明文化するべきだということについては,伺っておりましてほとんど異論はないのではないかと思いますし,私も基本的にそれに賛成いたします。   ただ,では判例を取り込めばそれでいいのかというと,それを超えた改正の必要性もあるのではないかと思うのです。現在の規定には現在の取引社会に適合していないと感じられるものがあります。それゆえ,判例も,現在の条文を基礎にしながら,随分解釈論を駆使して頑張っているのですが,中には,相当な無理をし,あるいは解釈の限界を露天している部分もかなりあるのではないかと思うのです。具体的な例につきましては,既に幾つか紹介されたところであります。例えば,履行障害の分野においてもそうでしょうし,危険負担についてもそうでしょうし,あるいは時効等についてもそのように感じられる場面がございます。つまり判例法理を取り込むということももちろんですけれども,ただそのまま取り込めば十分なのかというところは,きちんと検討していかなければいけないと思います。   一方で,現在何とか実務でうまくやっていけているではないかという御意見も聞かれるのですが,それは,どうにかやってきたということであって,特に今後50年先を見据えて,このままで果たしてよいのかというと,そうではない部分も多いのではないかと感じる次第でございます。50年先を見据えて,あるべき方向はどこにあるのか,あるいは現在どこが問題なのかということを,具体的かつ徹底的に議論して進めていくべきではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○中井委員 山野目幹事からも,また松本委員からも,ある程度個別的な論点を検討していく中でおのずと理念的な方向性が見えてくるのではないか,との御指摘がありました。私も恐らく現実的にはそうなるのかなと思いながらも,あえて申し上げているようなところがあります。もう少し具体的に申し上げさせていただきたいと思います。   例えば,これは「基本方針」を見た議論の中から出てきたことですが,民法というのは一般的,抽象的な人を基準にして規律を定めている。それに対して,具体的な人を想定した民法にしようではないかと,例えばそういう意見が出てきたときに,さあどう考えるかというのが,山野目幹事の質問に対する理念,方向性に関するひとつの論点です。   2点目は,日本における通常の売買契約を考えても,極めて簡潔で,ごく一般の市民社会における―企業法務の方々がいらっしゃいますので,企業法務の中ではもう異なってきているのかもしれませんが,抽象的です。A4,1枚の契約書で十分足りる。つまり,何を申し上げたいかといいますと,一定定型的に合意すれば,あとは民法が補充してくれて適切に解決してくれるという感覚があるのに対して,例えば「基本方針」を見た場合,当事者の合意を尊重することとされています。そうしますと,当事者間に力関係や情報力に格差があった場合にも合意が尊重されるという方向性を強く打ち出したときの危惧感があります。   三つ目は,これは大阪弁護士会で出た意見ですが,民法は俳句であるべきか,若しくは散文といいますか,説明文であるべきか。つまり,俳句というのは精神が短く凝縮されているのですね,それを柔軟に解釈することによって,いかなる事態に対しても臨機応変に対応できて,結果的に穏当なところに落ち着かせることができる。こういう法律像に対して,様々な問題があるのだから,様々な論点について細かく説明をし,規定をする,これの方が分かりやすい民法だという方向性もあると思います。極端な例ですが,詐害行為取消権があれだけの条文で今機能している。それがほとんど判例法理で補充されている。それをやめて,「基本方針」のように,極めて詳細な規定を設けることが,果たして分かりやすい民法になって,適切な運用に資するのか,こういう疑問があるわけです。   今3点を例として挙げさせていただいたのですけれども,そういうことを想定して申し上げました。   その背景に,最近の改正として,会社法があります。しかし,会社法に対する弁護士実務の評判はよろしくない。分かりにくい会社法になっているという理解です。民法は同じ轍を踏まないようにというのが,弁護士会の強い希望です。そういう意味で理念ということを申し上げました。議論の参考にしていただければと思います。 ○松本委員 今の御意見についてなのですが,余りにも「債権法改正の基本方針」にとらわれ過ぎているのではないか。そんなの気にしなければいいのであって,ゼロから議論をしようと確認されたわけですから,遠慮する必要はないと思うのです。そして,そういう大きなところから議論をすれば,恐らくどこかでぶつかってデッドロックに乗り上げてしまうと思います。もう少し具体的なところからやっていくべきだろう。   例えば,民法における人は,具体的な人か抽象的な人かなんていう議論から始めたら,それはもう進まないわけであって,現実の問題として例えば消費者がどういうところで現行の民法で困っているのかというあたりの議論をして,それは今の現行民法が抽象的な人という名のもとに,実は消費者ではないところの事業者モデルといいましょうか,昔の財産と教養のある市民というのをモデルにしてつくられているところから来る不都合だというところまでいけば,それではもとに戻って人についてどう考えるがいいのでしょうかという議論になればいいのだと思うのです。合意の問題も多分一緒で,合意,合意と言ってしまうと約款で全部縛られてしまってという,やはりまた消費者問題に戻ってきてしまうのですが,それであれば,約款の拘束力についてのルールをどうするのかというところからやっていけばいいわけです。   それから,俳句か散文かというのも,恐らく真ん中ぐらいかなという気もするのです。確かに非常に抽象的な文言が多くて何とでも解釈ができるから,100年たっても昔のままでやっていけるところがある。それはそれで意味があるのですが,そうであればもう信義則一本でもいいぐらいかもしれないということになってしまうので,それは余りにも予測可能性という点で不十分だと思います。詐害行為取消のところなんかももう少しルールを増やして,ある程度は分かるようにした方が予測可能性を立てるという点ではいいのではないかなと。というところで,余りとらわれた議論をしないで,現実からやるべきだろうと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○中田委員 詐害行為取消権についてだけ1点感想を申します。詐害行為取消権はわずかな条文で回っているではないかということなのですが,ただ,それはやはり法律家にとってはよく分かることかもしれないけれども,一般の人にとっては極めて分かりにくいのではないか,というのが一つでございます。   それからもう一つ,破産法改正に伴って否認権制度が大きく変わりました。その前提で,今後,詐害行為取消権がどうなるのかということは,これは実は法律家にとっても分かりにくいところがあるのではないかと思います。そうしますと,新しい法制度のもとでより整合的なルールを考えて,それを明らかにするということは,これは一般の人にとっても法律家にとってもプラスになるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○沖野幹事 中井委員から非常に具体的に指摘をいただいてよく問題意識が分かったのですけれども,最後に挙げられました3点,具体的な人間像を想定するのか,あるいは当事者の合意をどのくらい尊重していくということにするのか,あるいは民法の在り方としてどのくらいの抽象レベル,具体レベルのルールを考えるのかということは,正にそのこと自体がこれから検討していくべき事項であって,消費者契約法をどうするかですとか,あるいは履行障害や意思表示においてどのような基本姿勢をとるのか,それらを考えるにあたりそういう理念的なところの一貫性に注意を払いながら検討することが必要だという裏側からの指摘にもなるのだと思います。   それから詐害行為取消権を例に,民法が俳句か散文かという点ですが,その組合せということもあろうと思います。現在のルールを固定化するというのは今後の発展を阻害しますので,やはりこれからの判例ですとか議論の展開ということを考えつつ,今どこまで詰められるのか,また詰めるべきなのか,そのどのレベルが当該問題にとって適切であるのかということは,恐らく意見がかなり分かれると思われますので,これらについて一律の考え方を詰めた上で検討するというのは恐らく不可能だと思います。むしろ個別の問題ごとに,しかしながら,このような基本になるような理念のところ,あるいは基本的な考え方での一貫性というのにはやはり常に配慮する必要があるという御指摘だと思います。その意味で,相互に関連した事項については,ある程度まとまって,あるいは少なくとも目配りをしつつ,この問題のときにはこれとこれの関係を考える必要があるということを留意しながら進めていくというやり方になってくるのではないかと思います。   それからもう一つ,休憩前に御指摘のあった,個々の問題についてそれぞれの様々な学界における指摘等はそれなりに理解できるけれども,トータルな改正をする必要があるのかという点でございます。これも既に御指摘のあったところなのですけれども,非常に中核的な,あるいは実際にもかなり困っているに近い,そこを何とかやっているというところに手をつけて,それに限るかということになりますと,ほかに派生するという点は既に御指摘があったのですけれども,そこまで緊急性があると考えられていない問題をどこで検討するのかという点がございます。これは商法の観点からの御指摘もあったかと思うのですけれども,ここ数年あるいはもう10年単位かもしれませんけれども,立法の時代と言われて,民法本体の改正というのはそれほど数がないのかもしれませんけれども,特別法などを入れますと,もう様々な立法の展開がされているところで,フォローするのが大変なぐらいなわけですが,そのときはやはり一番中核の,少なくともここだけは手を打ちましょうという形で課題が提示されることが少なからずあったと思います。そのために,例えば先ほど出た破産法の改正などでも,民法には手をつけられないということで,問題は意識されているのだけれども,ここではとにかくここだけをやりましょう,あるいは債権譲渡などにつきましても,特例法の改正の際にも,債権譲渡の在り方を考えると譲渡禁止特約なども考えなければいけないのだけれども,とりあえずは公示のところをきちんとやりましょうというようなことで,とりあえずは,少なくともこういうところだけはという点で,むしろ限定してきた。そのためにいろいろ落ちてきたものがあると思います。100年余りを経て,民法はこれからの50年とかこれからの100年のためにオーバーホールなりメンテナンスということを考える必要があって,そういうトータルな検討をどこかでやらなければいけない。民法全体を対象とすべきなのですが,現実性の問題から,せめて債権関係,契約を中心にということであり,トータルな改正が必要かというのは個別にそれぞれの問題ごとの検討の結果によるのだと思いますけれども,トータルな検討はやはり必要なのだろうと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○三上委員 理念的なことを言い始めるとなかなか議論が始まらないといいますか,私は金融機関の人間ですので,自由主義経済・資本主義経済の発展を阻害しないような,イノベーションを阻害しないような民法であれば,という程度しか考えていないのでございます。しかし,先ほど中井委員からは,一般的に今の民法でみんなうまくやっているという御発言があったのですけれども,私の専売特許の卑近な論点で恐縮なのですけれども,例えば,民事法定利息は,既に低金利の時世に合わないと長いこと言われておりまして,実際に今,相続などで預金の帰属についてもめているときに,銀行に事前に相談も何もなくいきなり訴状が送られてくることが増えています。なぜそうなるかといいますと,訴状を送ってからもめればもめるほど,通常の定期預金では考えられない5%という高金利で運用できる。実際そのようにおっしゃる弁護士の先生もいらっしゃって,これは,明らかに国民の経済合理的活動を今の民法の規定が歪めているという場面とも言えるわけです。   今回配布されました改正提案は,いずれもこの点の改正について反対していないといいますか,同じ改正が必要だと認めているのですが,では,なぜこれが今まで法改正に乗らなかったかというと,結局,この論点だけを取り上げて,民法という大法典を改正する契機がなかったということだという趣旨の話を法務省の関係者の方から聞いたこともございます。ということで,余りイデオロギー的な対立軸で民法改正に一切手をつけないか,全面改正するかといったような論点というよりは,たとえそこで議論が分かれてかなりの部分が現行民法のまま残る結果になっても,少なくとも明らかにおかしいところ,こういう機会がなければなかなか手をつけられないところは全般にわたって見直しましたというような改正を,是非実現させていただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○林委員 実体法の改正ということになりますので,法制度の趣旨が合理的なもので要件及び効果が明確なものであれば,裁判所としては,どのようなものでもきちんと運用するということを,国民に公約しなければならない立場にあります。もちろん,この改正の議論の中で,訴訟手続や執行手続,影響が一番大きいと思われる倒産手続に直結するような問題について意見を述べるということはあり得るかと思いますが,基本的には実体法ですので,立法政策にお任せしていく。この部会の中で委員・幹事を出させていただいていますので,勉強しながら,裁判所はどのような形で考えるかということを研究していくことになるのだろうと思います。   ただ,そのように言ってしまうと,本当に委員としての責任を果たしているのかと言われるかもしれません。ここからは組織を離れた個人としての意見を申し上げたいと思いますが,やはり110年間,確かに,ここにいらっしゃる委員・幹事の方々を中心に,あるいは裁判所の先輩方の努力によって,解釈・運用でかなりいい形での民法の運営がされています。恐らくそれは否定できないところだろうと思います。しかし,そうはいっても,やはり条文と解釈・運用,あるいはもっと言えば理論と実務が乖離している側面はたくさんあるわけで,先ほど大村幹事が言われましたが,そのようなところは,これから世界的な動きの中で,母国法自体が今,様々な改正が進んでいるが,そこはひとまずおくとしても,例えば,法整備支援という形で日本の民法がアジアを中心に出ていくときに,条文はこのようになっているけれども考え方はこのような形で運用していますという説明で果たしていいのだろうかという疑問もあります。   また,ここからは本当に個人的な見解になりますが,かつて短いながらも法曹養成に関与させていただいた経験から,ここにいらっしゃる多くの研究者の方々が日夜御努力いただいているかと思いますけれども,今,実務と理論の架橋と言われており,なかなかそれが難しい部分があります。特に,例えば条文はこのようになっている,しかし実務はこのようになっている,解釈・運用はこのようになっていると,そのように乖離を説明するだけではなくて,なぜそのような違いが生じていて,それをどのように理論的に考えるべきなのかというところを本来教えていき,未来の法律家を育てなければならないわけですが,なかなかやりづらい部分があるのではないかと私は考えています。そのような意味では,先ほど,今の民法の状況は,一般の人達にとって分かりづらいという話もありましたが,法律家の卵にとっても,非常に理解しづらいものになっている部分があるのかなと思っています。そうだとすれば,先ほど沖野幹事からオーバーホールという話がありましたが,110年もたっているわけですから,もう一回根本から見直してみて議論するということはやはり必要なのではないでしょうか。なぜ今かということにつきましては,なかなか説明しづらいかもしれませんが,手続法の改正が一巡したということもございます。  議論の進め方はいろいろとあると思いますし,項目によってはメリハリをきかせなければいけない部分があるのかもしれません。また,先ほど言われたように,1年半ぐらいで一つのまとめをして国民に問いかけるというプロセスを経ることは必要なことだと思います。 ○大島委員 先ほど三上委員から,実務とかけ離れている部分もあるという中で,やはり民法というのは国民による国民のための民法改正でなければならないわけですよね。基本法である民法典というのは社会の基本構造そのものであるということを考えると,やはり国民とか企業に広く意見を求めるなど,開かれたこれからの手続をしていく必要があると思います。先ほど,この中で5名の委員がユーザーの代表だというお話がありましたが,それでは足りないのではないかなと思います。意見の聴取方法もいろいろあると思いますが,これから工夫を凝らして是非その辺の議論もよろしくお願いしたいと思います。 ○道垣内幹事 時々「理論」という言葉が出てきまして,学者は理論をやっているというのですが,理論なんかやっていないですよね。つまり,およそ債権というものの性質を論じて何かのことを演繹的に決めるというのが学者ではなくて,このような民法改正の場になりますと,例えばこういった当事者の紛争があって,そのときにどういうふうにして利害を調整すれば一番妥当なところに落ち着くだろうかということを,学者が学者の一つの立場として述べているだけであって,そのような意見が,ローマ法以来の,債権とは何か,意思表示とは何か,意思とは何かというふうな理論にすべてが裏付けられ,そこから演繹されて出て来ているというふうな誤解を持っていただいては,私が勉強していないだけかもしれませんけれども,困る。その意味でも,私たちがユーザー側ではないようにいつもクラシファイされるというのが非常に心外であると思います。   実際,明治期の民法の制定の議論を見ましても,別段そこで,例えば権利質というのがありますが,ドイツ的な考え方というか,根本的な考え方で言うと,物は有体物であって,物権の対象は有体物であって,何でそれで債権に質権という物権が成立するのかというふうな理論的な問題はあるのですが,そういった問題は抜きにして,債権に質権を設定するという実需があるのかという話を当時の学者とか裁判官とかがやってきて,また,解除に関して,およそ民法第541条で催告をしなければ解除というものが理論的に認められないということはあり得ないわけですが,両当事者の利害を調整するに当たって,催告という制度というのを少なくともデフォルトルールとしては定めようとしただけで。したがって,今後議論をするときに,あなた方は理論だからというふうな決めつけはしないでいただきたい。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに御意見はいかがですか。 ○松岡委員 既に何人かがおっしゃいましたことと重なりますので,やや屋上屋の形になるかもしれません。私も時々気になる議論は,外国でこういうふうな方向が目指されているということを参考にすることに対して,それは外国の話で日本とは関係ないでしょうというような言い方がされることがあることです。先ほど,何人かの方からも御発言がありましたように,世界の中での日本ということも意識するべきです。対外取引はますます盛んになり,そこで日本だけが他と違うルールになっていることは障害であり,それを文化の違いで片付けるのは,場合によっておかしいだろうと思います。また,林委員もおっしゃいましたとおり,日本の民法の在り方は,今後,世界の中,東アジアの中で,議論をリードすると言うとおこがましいのですけれども,一つのサンプルとなろうかと思います。韓国や中国では民法の現代化の立法の話が随分進んでいるのに,日本は議論のスタートが少し遅れていることについて,じくじたる思いを抱いてきたところがございます。もちろん日本における実際の必要性をも踏まえながら議論することが必要ではありますが,ひとり余所を向いているわけにはいかないだろうと思います。そういう意味で,世界の動きについてもやはり十分配慮をしていく必要があるだろうと考えています。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○岡(正)委員 今の国際取引ルールとのハーモナイゼーションのところですが,一般的にはその面もあるなと弁護士会でも議論しています。特にウィーン売買条約の議論が随分されておりまして,国際間の物品の売買のルール,日本の大企業同士あるいは日本の企業が外国企業と売買取引をするときのルールとしては実証済みであるし,そう問題ないのだろうなと。ただ,民法に入ってくると,私の田舎の方の普通の売買あるいは役務提供契約のところにまで及ぶルールとして本当に採用していいのか。これは実験できない話ですので,なおかつ弁護士で議論していても,想像になる。でもやはり,一生懸命想像して,本当にそのルールを民法全般のルールとしていいのか。日本の中でも利害対立といいますか,階層化が進んで,本当の一般の消費者が契約の中にどんどん巻き込まれていますので,そういう人たちにまで通用する一般的なルールとして何がいいのか,そこの問題意識を持って議論に参加させていただきたいと思っております。 ○山本(敬)幹事 国際的なハーモナイゼーションに関して,今のような方向の議論はあり得るところだとは思うのですが,やはり少し気をつける必要があります。こういう議論をしますと,「外国でこうなっている」,あるいは「国際的にこういう方向に今進んでいるので,日本はどうすべきか」というタイプの議論をしがちなのですけれども,それだけでは問題です。といいますのは,日本が,何年後か分かりませんけれども,民法改正を行うとしますと,やはりそれは外から注目されるだろうと思います。先ほど,アジアにおける法整備支援というお話がありましたけれども,それだけに尽きません。日本から新しい民法の案が出てきますと,それをどう評価するか。国際的にも反響があるだろうと思います。そのときに,国際的な動向と別に違ってもいいと思うのです。ただ,違ってもいいけれども,それはなぜ違うのか,どういう考え方に基づいてそうした違いが生じているのかということを言葉にして,それを外に分かるように伝えることが,一番重要ではないかと思います。そういう意味で,日本の国内的な事情を踏まえて立法することは当然必要ですけれども,それを外からも分かるようにどう言葉にするか,そのためにどのような理論的裏付けを与えるか。そこを意識しながら議論できればと思っている次第です。 ○松本委員 先ほど言ったことの繰り返しになるかもしれないのですが,入り口のところで国際的ハーモナイゼーションのためにやりましょうという議論はしない方がいいと思いますし,また,日本が国際的にいい民法をつくってリードしなければならないのだからという議論も,入り口ではしない方がいいのではないか。結果としてそうなってくれれば大変喜ばしいことだと思うのですが,必要なのは,現実にこれでいいのかというところの議論から始めないと絶対駄目だと思います。現行の条文でこのままで本当にいいんですかと。よくないのだったらやはり変えなければならないわけで,1か所変えるとほかも変えざるを得なくなるところも出てくるわけで,そういうふうにして全体的な整合性をとっていると,ひょっとすると国際的なトレンドと一致するかもしれないし,場合によっては違う結論になるかもしれない。それはそれなりのきちんとした議論を踏まえて,こうなればこうなってこうなったから日本はこういう立場をとっているんですよということをきちんと説明できればいいのではないかと思います。したがいまして,入り口のところで余り大上段の議論から始めない方がいいという意見です。 ○潮見幹事 国際的な取引ルールと民法の関係で,岡委員ほかから幾つかの議論が出ていますので,繰り返さない形で私の意見を申し上げさせていただきます。この議論をするときに,国際取引に関するルールは国際取引に妥当するものだから,ローカルな国内のルールとして妥当するのかという形で,国際取引に関するルールを参考にすることへの疑義が示されることが,しばしばあります。それに対しては,先ほどから出ているような,国際的な発信を目指して民法改正を行うべきであり,そのためには国際取引に関するルールを参照することが不可欠であるという反論もありうるものでして,それにも意味があろうかと思います。しかし,もう一つ忘れてはいけないのは,国際的な取引ルールでこのごろ問題になっているものにはもう一つの面がありまして,そこでは,現代社会の中でどのような民事実体ルールが望ましいのかという観点から,現代のあるべき民事実体ルールが,国際的な取引ルールという形をとりながら議論されているところも,多いのです。そのようなルールの中には,我々が国内の取引あるいは国内の契約を考える上でも,あるべき制度,あるべきルールを考える上で,参考にするべきものが潜んでいることが多かろうと思います。そのようなものに対して,国際的な取引ルールとして書かれているからとの理由で目を閉ざしてしまうと,日本の民法の今後のあるべき枠組みを考える上で大事な視点というものが落ちてしまうおそれがあろうかと思います。そういう意味では,国際的な取引ルールの中で採用されている民事実体ルールの中で望ましいものがあるならば,それを採用し,あるいは議論し,また,その背後にある基本理念を考えていくという作業は必要ではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○岡(正)委員 あるべきルールというのは分かるのですが,田舎の両親の契約観を見ると,やはり契約というか合意というのは信頼だ,余り細かいことを言わないと。書面を交わすなんて相手を信頼していない証拠だと。権利を請求するなんてとんでもないことだと。相手が弁済してくるのを待つ。何かそういう非常に昔ながらの理念がやはり現にあるのだと。それは,裏付けはされていませんけれども実感としてあるわけで,それが悪いとも思わない。そういうところに合意主義というか,契約でリスクの分配をやって,万が一の場合もそこできちんと決めておく。そのルールはすばらしいと思うのですけれども,それを基準ルールとして日本民法に取り込んだ場合に,田舎のおじさん,おばさんもそういう契約をしなければいけなく,任意規定ですから強制はないのでしょうけれども,何か3段階上の高いルールを民法としてやって,日本が先進国にそれでなるのだからいいんだということもあるかもしれませんが,何かそういう底辺の,その実態との乖離をどう考えたらいいのかなというのは問題意識として持っております。 ○岡田委員 消費者問題,消費者トラブルに関して言いますと,地方で本当に善人の方ばかりいるところに悪質業者が入っていかないかといったら,逆でして,そういうところに入っていくのです。では,そのトラブルをどうするかというと,消費生活センターで解決するので,相談員たちは,東京の相談員であれ,沖縄の相談員であれ,同じルールで解決しようとするのです。ですから,今の時代は,本当に楽しく,そして人を疑わないで生きていける,これは最高なのですが,そこが逆に被害に遭うということをちょっと知っていただきたいなと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○新谷委員 私どもの一番関心事項は,基本法である民法の特別法である労働契約法,労働法関係が一番の関心事項でございます。そのとき,先ほど山川幹事からも言っていただいたのですけれども,基本法が変わったときに特別法も影響をかなり受けるといったときに,特別法としての労働法の政策決定については,実は労働政策審議会という,まさしく法のユーザーである労側と使側と公益という三者構成で政策決定をして法案をつくっていく,こういうルールがございます。今後我々として,この部会に参画をさせていただく中で,その基本法の影響が特別法にどう影響を与えて,それが政策決定の中でどう影響を与えていくのか。それは特別法なのだからその中でやればいいではないかという話になるかもしれませんけれども,労働者保護という面で今後もこの部会の中で意見を申し上げていきたいと思っています。よろしくお願いします。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでございましょうか。 ○松岡委員 改正の必要性の議論ではない点について一つ質問があります。先ほどいくつかの御指摘があったところにも関係するのですが,条文の文言の書き方は案外軽視できない問題です。私は加藤雅信教授が代表する民法改正研究会で条文案を検討してきたのですが,条文の言葉の使い方が少し変わるだけでいろいろな影響が出ます。文言の議論は細かい問題ですし,言葉を一つ一つ検討するのはとんでもなく時間がかかる作業ではありますが,それが非常に影響を及ぼす可能性もあるのです。この部会では,最終的にいつまでに何を答申するのかはまだ未定ということですが,どこまでどういう形で検討する見込みをお持ちでしょうか。もし何かお考えのことがあれば,お聞かせいただければと思います。 ○鎌田部会長 事務当局からお願いします。 ○筒井幹事 ただいま御質問いただいた点ですけれども,もちろんこの部会は,今日始まったばかりですので,最終的な見通しを持っているわけでは全くありません。ただ,法制審議会の民事系の部会のこれまでの例で申しますと,比較的条文に近いところまで御議論いただいた上で答申をいただくことが多かったのではないかと思います。ただいまの松岡委員の御指摘は,一つ一つの言葉遣いが非常に重要なので,そういうところにも留意して議論すべきだというものだと思いますので,その御意見を十分に踏まえて,先々のことではありますけれども,私どもとしても考えていきたいと思っております。 ○中井委員 必要性に関する議論を聞かせていただいて,大変参考になりました。ありがとうございます。各地の現場の意見を聴く限りにおいては,今回の改正は実務に極めて大きな影響を与える可能性があるのではないか,と感じています。したがって,改正すればどういう影響を与えるのか,現状のままの場合の問題点,改正したときの影響の度合いについては,個々の論点について,十分御審議いただきたいと思うのです。そのときに国民の意見を聴くことを重ね重ねお願いをしたい。それから,つまらない質問を幾つもするなというふうにお感じになっていらっしゃる方もあるかもしれませんけれども,弁護士会の会員・実務家は,ここでの議論,ここでの皆さんの御発言,意見を大変聞きたがっています。議事録は公開されますが,公開されるのを一日も早くという会員が非常に多い。ここで,ある意味で素朴な,場合によってはつまらない質問をするかもしれませんけれども,それは国民一人が聞いているのだとお思いいただいて,是非御丁寧な説明,意見を期待したいと思っております。今後ともそういうことで,よろしくお願いします。   もう一つ,その必要性との関係で,弁護士会として,改正するときの留意として,これは言うまでもないことかもしれませんけれども,先ほどの影響力を考えたときに,やはり現行民法との連続性やそういう法的安定性,統一性については常に配慮しながら御検討いただきたいという希望を持っています。   三つ目ですけれども,これは今までの二つのこととは全く違いまして,今後の審議の在り方についてですが,ここで申し上げてよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 おっしゃっていただいた方が次回以降の審議スケジュールの編成に役に立つと思います。 ○中井委員 法制審議会の委員というのは初めてでございまして,法制審議会の運営の仕方についてよく承知しておりませんが,聞くところによりますと,1週間ほど前に部会資料が配布される。今回でも,ちょうど1週間前の17日に日弁連から資料をいただきました。また,法務省からは,確か20日ごろに郵便で部会資料をいただきました。今後も同じような手順なのか。そうだとすれば,私としては是非お願いをしたいことがございます。私というより弁護士会としてと,申し上げた方がいいかもしれません。今日の私の発言についても,日弁連のバックアップ委員会の意見を聴いています。また,私は大阪弁護士会に所属しておりますので,大阪弁護士会にもこの民法改正に関するバックアップ委員会が組織されており,そこの意見を聞くことになっています。委員としてのそれがまた責務であると認識しています。この部会が火曜日に開催されるのに対して,その1週間前の火曜日か水曜日あたりに資料が送付されるとすれば,極めて検討時間が少ないという実情にあります。この後で恐らく3月までの部会日程が承認されるのかと思いますが,3月までの部会日程が決まるのであれば,議論予定の個々の論点については,事務当局の方では相当程度,整理が進んでいるのではないか。そうだとすれば,せめてこの法制審議会の日の3週間前には部会資料を事前配布していただけないか。弁護士委員は,ここにいらっしゃる研究者の皆さんと比べて,検討時間を要するかと思いますので,意見を取りまとめる時間を是非いただきたい。この事前配布資料の配布時期について是非御検討いただけないかと思っています。1週間前という慣習よりもここでの合意が恐らく優先するのだろうと思いますので,是非そのような合意をしていただけないかと思っております。これが審議についてのお願いでございます。 ○鎌田部会長 今の点,事務当局から何かございますか。 ○筒井幹事 貴重な御指摘を,ありがとうございました。今後も事前配布に努めてまいりますということを,まずお約束したいと思います。つまり,当日配布になってしまわないよう,必ず事前配布をするよう努力したいということを,まずお約束したいと思います。その上で,更に早くという御要望の趣旨は,大変よく分かりました。委員・幹事として御発言していただく上で,バックアップをされている団体との関係で意見形成に時間を要するという御指摘は,大変よく分かります。どの程度のことが可能であるかは何ともお約束しかねますけれども,できる限り早めに配布すること,その他とり得る手段について検討させていただきたいと思います。一つの方法として,郵送には若干の時間がかかるので,電子データの提供を希望される方にはそのような形でリアルタイムでお渡しできるようにするということは,現実的に対応可能なことですので,そういったことから一つずつ,できることをやっていくということも,一つの方法としてあり得ると思います。 ○中井委員 この資料が開示されるのは本日の会議以降と思います。事前配布をすると当日までに修正が入るかもしれないので,その取扱いは十分に注意ということなのだろうと思います。その趣旨については十分理解できるのですが,暫定版であれ,たたき台であれ,やはり1週間ではなくて,3週間という希望を出したいと思っています。修正含みもありということを前提にもっと早くすることはできないのでしょうか。3月までの日程を入れるとすれば,とりあえずは一通りを流すということになるのだろうと思いますので,次回・次々回に議論するものはもう事務当局で整理済みだろうと思います。それを事前開示していただけないものか。もう少し前向きといいますか,具体的な方向性をお示しいただけないかと希望するのですが。 ○筒井幹事 ただいま御提案といいますか,御意見をちょうだいしたところですので,即答いたしかねますけれども,繰り返しになりますが,御趣旨は大変よく分かりました。そして,一般的に,常に3週間前ということでお約束するのは,これは事務当局として大変難しいと思います。しかし,可能な場合には少し早めにというようなところから,少しずつでもできる限りのことをさせていただきたいと思います。いずれにしても,持ち帰ってよく考えたいと思います。 ○中井委員 是非よろしくお願いいたします。 ○山野目幹事 法制審議会の部会資料が3週間前に配布されるというのは,私の乏しい経験では見たことがございません。しかし,御提案の趣は大変よく理解できる部分もあります。一方で危惧されますのは,3週間という早い時期に出された資料というのは,扱っている事項が動きのあるものであって,かつ大部のものですから,本番の当日を迎えるまでにいろいろな修正とか追加が入ってくる可能性がございます。それを委員・幹事が追いかけながら検討するというのも,また別な面で審議の効率な進行を考える上では問題が出てくるのではないかと考えます。そのようなことから,3週間というのは,かなり先であるという印象があります。しかし,弁護士会の方で意見形成をなさりたいという需要というのはごもっともなことですから,従来の詳細度の部会資料が配布されるタイミングよりもやや前に,こういうふうなことが審議されるのだというような,それは暫定版というのとはイメージがまた必ずしも一致しないかもしれませんけれども,そういうことをお伝えして弁護士会の議論に資するというようなことも候補としては含めて,事務局の方で御検討いただければよろしいと思います。資料の配布の仕方について,早ければよいというものではなくて,いろいろな得失があると考えますから,引き続き事務局の方で御勘案いただければ有り難いと思います。 ○木村委員 私も今の山野目幹事の意見と同様でございまして,資料それ自体をというのは,なかなか難しいのではないかと思います。しかし,我々自身もそうなのですが,次回あるいはその先,どういうものがいわば議論の対象になってくるのかということを予測でき,かつそれに対して,どういう問題があるのか,あるいはどういう意見があるのかということを把握し,そしてそれを反映していきたいと思うのです。そうなりますと,やはり先ほど言われたことの趣旨は賛同するものでありまして,この3月までに,例えばある程度日程が決まるのであれば,こういう段階ではこういうものをというようなものを,ある程度事前にお示しいただいた方がいいのではないでしょうか。要するに,先ほどの予測可能性ではないですが,そういうことも重要なのではないかと思います。   それともう一つ,今日,フリーディスカッションをしましたが,これによって一体何についてコンセンサスが得られてきているのか。つまり,次回は12月に議論する予定ですが,そのときに何を決めるのか決めないのか,どういうことをやるのかということも,まさにそこから始まると思うのです。次回の会議で,民法改正の必要性について,再びフリーディスカッションをするということは時間の無駄になる面もあるかと感じますので,どうか運営の仕方といいますか,その辺をご検討いただければと思います。 ○松本委員 次回は中身のある議論を始めないと駄目だと思います。必要性という抽象的な議論ではなくて,中身の点から本当に必要なのかどうかをあぶり出していく方がいいと思います。そういう意味で,少なくともテーマを早く決めて,12月はどのテーマをやる,1月はどういうテーマをやるというのは出しておいていただく方が,その部分について少し勉強できると思うのです。さらに,従来の法制審だと討議資料というのは,論点ペーパー的なものが出るのですか,何々については何々だけれどもどう思うかとか,そういうレベルのものも,なるべく事前に寄せられれば考えていけるのでしょうけれども,最悪の場合は当日でもいいかなとは思うのです。ただ,バックアップチームのいる場合にはそのバックアップの方の意見も聴く必要があるから早い方がいいとは思いますが,少なくともテーマが決まっていれば,このテーマについて絶対この点は主張したいということがおありの方は,事前に勉強ができると思いますから。 ○鎌田部会長 配布資料の問題は,実際の審議スケジュールがどういうふうになり,そのためにどういった内容の資料を事前配布するのかという,その議論の進み具合によっても変わってきます。何を議論するかというテーマぐらいは早めに決めておくとして,法制審議会の特色は,事務局が原案をつくって皆さん御承認いただくという方式ではないところにありますし,ましてや特に債権関係部会はゼロからの出発ということでありますから,皆さんに提示できるような原案はないというのが建前でもあり本当のところでもあると思うので,次回以降の審議の日程につきましては,先ほど御説明いただきましたけれども,それを確定すると同時に,審議スケジュールとしてどういうふうな順で何を審議していくか,これも事務当局としてはこの場で意見をちょうだいしながら決めていきたいということだと思うのです。先ほど来の議論の中でも,進め方自体についても幾つかの御意見が出てきたところでありますので,今後,今日ちょうだいした意見を事務当局で詰めて,次回以降の審議日程,審議項目,どの日にどういうことをやるかということを決めていただいて,それはできるだけ早めに委員・幹事の皆さんにお伝えするというのが,本日時点では精一杯だろうと思いますが,事務当局から審議日程関連で少し補足の説明がありましたらお願いいたします。 ○筒井幹事 ありがとうございます。早く各論的な検討に入るべきではないかというような御意見もいただきまして,それはそれで一つの有り難い御意見だと受け止めておりますけれども,一方で,総論的な議論をきちっとやるべきだという強い御指摘を繰り返しいただいていたものですから,もう少し掘り下げてみたいという気持ちも持っております。本日の御議論を踏まえて更に次回どういった議論をいただくのかという点は,もう少し事務当局で考えさせていただきたいと思います。それとともに,次回,その次以降に各論的な議論に入っていくとすると,そのスケジュールの立て方なり,それからその議論の中でのいろいろな約束事といいましょうか,そういったものがもし合意可能なものがあれば,そういったことについても議論していただいてはいかがかという考えも持っております。いずれにいたしましても,本日が第1回の会議でしたので,本日の議論を踏まえて,更に次回以降をどうするかということについて,これから順次,御提案申し上げていくようにしたいと思います。 ○鎌田部会長 本日の議論の冒頭で筒井幹事から提案がありました今後のスケジュール,日程の案,これは第1回,第2回,第3回,第4回のほかに予備日というのが入っておりますけれども,これはこの形で一応御承認いただいたということでよろしいでしょうか。予備日の取扱いは,必要があれば開催するということだと思うのですけれども,全体のスケジュールについて,筒井幹事の御提案のうち,今後1年半程度の時間をかけて,この時間は必ずしも拘束的ではないと思いますが,中間的な論点整理を行うということを目標にして当面の審議を行う,この点については大方の御賛成をいただいたと思っております。そのスケジュールでいきますと,予備日はやはり開催するという結論になる可能性がかなり大きいのではないかとも思いますので,日程の確保をお願いしたいと思います。そういった全体のスケジュールの中で具体的にどう審議をしていくか,あるいはその審議の仕方について,今日いただいた御意見等も踏まえながら,事前に確定しておかなければいけないことは何か,そういうことを次回には議論したいと思っております。   それから,債権法改正の必要性につきましては,なおしっかりした議論が必要だという御要望もあると思いますが,今日の議論を聞いていても,具体的に詰めていこうと思うと,ある程度,具体的論点に踏み込まないと議論が深まらないという要素もありますし,そのことは多分,個別論点に入っていったら債権法改正の必要性の議論が必要なくなるかというと,そのようなことはないわけで,終始一貫議論していくということであろうと思います。同時に,特に研究者の方を中心にずっとこの議論をしていた人にとっては,今更当たり前で,わざわざ言うのも照れくさいということがあるのかもしれませんが,外部にいる国民一般にどういう考え方で審議をしているのかということを伝えていくことも必要だと思います。先ほどの筒井幹事のお話では,次回にも少しこの議論をする可能性があるということのようでございますので,またその際にはできるだけ,この場にいる方だけでなくて,外にいる国民の皆様にも分かりやすい形で考え方を伝えるという趣旨で,積極的に御発言をいただければと思っているところでございます。   そういったようなことで,とりあえずは次回におきましては具体的な審議スケジュール等を御検討いただく,それを踏まえて,できるだけ早めに,少し先までの審議スケジュール,審議項目を明らかにできるようにするということを目指したいと思います。そういう方向性で,事務当局と相談を進めさせていただくということでよろしゅうございましょうか。 ○野村委員 今日の議論を,まだ筒井幹事は若干続けるという御意向のようなのですけれども,事務局としての,今日のメモみたいなものをちょっとまとめていただいた方がいいのではないかと,個人的には思うのですけれども。 ○筒井幹事 ありがとうございます。改正の必要性について,今回のような形でそのまま議論を続けるかどうかというのは,事務当局においてよく考えたいと思いますけれども,もしそういった議論を次回会議でも続けるのであれば,今日の御発言について整理,分析したものを資料として御提示して,それに積み上げるような議論をしていただく必要があるだろうと思います。いずれにしても,どのような進め方にするかについて,よく考えて,次回までに御提示するようにしたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいまのような補足の説明も含めて,次回において具体的な審議スケジュール,審議の在り方についての議論をいただく,それに向けて事務局で,その先の審議日程に関することも含めて御準備いただくということにさせていただきたいと思います。   次回の議事日程は,最後に御報告いただくこととして,本日の審議自体はこの程度で終了させていただくことといたします。 ○岡(正)委員 一言よろしいですか。2月,3月の予備日に会議を行うということになると,4月以降も月2回のペースが進みそうな雰囲気なのですが,月2回がずっと続くのはかなり負担であると思います。2か月に3回とか,今ここで「うん」と言うと月2回が決まりそうなので,ちょっと不安を持って,発言させていただきました。 ○鎌田部会長 これもあくまで予備日であって,必ず開催するというわけではない日程になっているのをご了解いただくということで,1回目や2回目から予備日は全部開催しますというふうに決めるつもりではないと思います。ただ,4月以降は,具体的に審議スケジュールを組んでみないと分かりませんけれども,月2回やらないと,とてもではないけれども中間取りまとめまでに検討すべき課題を処理できないというふうになる可能性は強いといいますか,弱くないと思っております。 ○中井委員 この民法改正については国民の意見をよく聴くという基本スタンスからすれば,最初,筒井幹事から御説明がありましたように,この答申についての期限は定めない,これがまず基本にあると思うのです。でも,それだったら恐らく審議会として機能しませんので,一定の目標を定めて事を進める。これについて異論があるわけではございません。その一つの目安として1年6か月と御提案されるなら,1年6か月というのは一つのスパンだなと思います。ただ,これにつきましても,今日この段階では議論項目が全部出ているわけではございません。検討項目を並べるだけでも今30個あって,あと30個にとどまるわけでもないと思います。もっとたくさん出てきたら,もちろん審議に時間はかかるかもしれません。そのときに,2週間,3週間ごとでは意見として表明できないかもしれません。やはり審議の中身,議題の量等を十分斟酌していただいて,充実した審議をしていただく。1年6か月ありきだとするならば,私としては承認しかねると申し上げざるを得ないと思います。その点十分お含みおきいただきたいと思います。次回に議論していただければ結構かと思いますが,念のために。 ○鎌田部会長 回数の問題は,一つの項目についてどのぐらい時間をかけて議論するかということと,トータルとして何年ぐらいこの審議に費やすことがお許しいただけるのかということとの絡みだと思いますので,次回以降で審議スケジュールを少しずつ詰めながら,予備日を本当にどれぐらい使わざるを得ないのかということ,それから中間の取りまとめまでにどれぐらいの時間を必要とするかということは徐々に決まっていくことだろうと思っております。 ○松本委員 これも最初に言ったことですけれども,全部が終わるまでやらないというスタンスはとらない方がいいと思うのです。そのようなことをしたら10年,20年かかるかもしれないわけで,そうではなくて,大方がコンセンサスをとれそうな部分についてはどんどん改正していくということでいいのではないかと思うのですが。債権法全部でない限り,つまり一括改正か一切しないかというのは非常に不毛な対応になると思います。1年単位ぐらいで区切って,今年1年分の改正ということで順番にやっていくという,韓国はそういうやり方でやるらしいですから,それでもいいのだと思うのです。ニーズの高い項目からどんどんやっていけばいいと思います。ニーズがないのならやる必要はない。 ○鎌田部会長 1年ごとに法案を出すというのが実際問題としてできるかどうかというふうなことは,国会対策の関係もあるでしょうから,それらも含めて次回に全体の審議の進め方の議論をしていただきたいと思います。   次回の会議日程等につきまして事務当局から説明をしていただきたいと思います。 ○筒井幹事 ありがとうございました。次回の会議日程等について御連絡いたします。次回の会議は,既に御案内しておりますとおり,12月22日(火曜日),時間は午後1時半から午後5時半まででお願いいたします。場所は,今回と同じく法務省20階,第1会議室でございます。次回の議題等につきましては,先ほどお話しいたしましたように,本日の会議の結果を踏まえて,事務当局において更に検討した上で,事前に御提示することにさせていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日は御熱心な御審議を賜りまして誠にありがとうございました。 −了−