法制審議会民法(債権関係)部会 第2回会議 議事録 第1 日 時  平成21年12月22日(火)  自 午後1時32分                         至 午後5時12分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)               議 事 ○鎌田部会長 予定した時間を少し過ぎてしまいましたけれども,法制審議会民法(債権関係部会)の第2回会議を開会いたします。本日は,御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。    (前回欠席された幹事の自己紹介につき省略) ○鎌田部会長 本日の審議に入ります前に,配布資料のうち,第一東京弁護士会と東京弁護士会から提供された委員等提供資料につきまして,関係する委員・幹事から何か御発言ございますでしょうか。よろしいですか。 ○筒井幹事 それでは,私から一言コメントいたします。ただいまの委員等提供資料でございますが,まず1点目が,第一東京弁護士会司法制度調査委員会委員長澤野正明様名義のものでございます。これは公表時に既に事務当局には御提供いただいておりまして,参考にさせていただいているところでございますが,改めてこの部会での配布用ということで資料の御提供をいただきました。誠にありがとうございました。   それからもう1点,東京弁護士会の会長名での声明をいただいております。重く受け止めて,真摯に対応してまいりたいと思います。その中で何点か御要望をいただいております。声明文の後半になりますが,@からBといった具体的な要望をいただいております。このうち,Aで,この部会での議論の状況及び配布資料等の適時の開示という御要望をいただいております点などは,すぐに対応できることですので,できる限りのことをしていきたいと考えているところでございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   本日の一つ目の議題としては,第1回会議に引き続き,改正の必要性等について御議論いただこうと思います。この議題の関係では,部会資料3「民法(債権関係)の改正の必要性と留意点(第1回会議における意見の概要)」が事前に配布されておりますので,まずは事務当局からこの資料の説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 それでは,部会資料3について説明いたします。   債権関係の規定の改正の必要性という点につきましては,前回の第1回会議でも御紹介いたしましたように,この部会の審議が始まる前から,慎重な議論,徹底した議論を求める意見が数多く寄せられておりました。そこで,前回会議では2時間以上にわたりまして,このテーマについて大変熱心に御議論いただいたところです。部会資料3は,その際にいただいた御意見の概要を事務当局においてまとめたものであります。できる限り御発言の趣旨を取り違えないで要約するよう努めたつもりではありますが,不適切な箇所もあると思います。お気づきの点などは,恐れ入りますが,後ほど御指摘いただきますようお願いいたします。   この改正の必要性という点は,前回会議の最後の方で鎌田部会長から指摘がありましたように,この部会の内部で議論を深めるだけでなく,それを外部の人々に伝えていくこともまた重要なのだと思います。部会資料3の作成に当たりましては,より多くの人に改正の必要性について理解していただくための資料としたいという気持ちも込めて,作業をしたつもりです。本日は,この部会資料3に基づきまして,まずは前回の議論を振り返っていただいた上で,外部に向けて改正の必要性を説明するといった観点をも含めて,この資料を修正すべき点や,更に補足すべき点などを御議論いただきたいと考えております。   なお,この部会資料3自体も,もちろん法務省ホームページ上で公表いたしますが,さらに,本日の会議でいただいた御意見につきましても,事務当局の責任において資料に反映させ,それを法務省ホームページで公表したいと考えております。よろしくお願いいたします。   それでは,前回の御議論を振り返っていただきつつ,事務当局の要約が適切かどうかも確認していただきながら,少々お時間をいただいて,部会資料3の記載内容を順に説明してまいります。   この資料では,全体を1の「改正の必要性」,2の「改正の留意点」に分けた上で,更にその中で幾つかのグループ分けをして,小見出しをつけて整理してみました。   まず1ページ,「改正の必要性」については,「分かりやすい民法」という観点からの御発言が多かったと思います。   このグループを順に見てまいりますと,まず最初の○ですが,「分かりやすい民法にするというのは,非常に重要な視点である」という御指摘がありました。   次の○,「判例を十分に理解している人間でなければ民法が使えないというのは問題である」という御指摘がありました。多くの委員・幹事から御指摘をいただいた点であります。   三つ目の○からは,だれにとって分かりにくいかという観点からの御発言です。   三つ目の○では,消費者相談という実務的な観点からの御指摘をいただきました。   そして,四つ目の○では,法律専門家でも他分野の研究者にとっては分かりにくいという例を挙げていただきました。それほどまでに民法の分かりにくさは深刻であるという御趣旨だと思います。   五つ目と六つ目の○は,これから民法を学ぶ人や外国から見て分かりにくいという御指摘です。   その次,(分かりやすい民法)の最後の○では,判例法理の明文化のほかに,条文に書かれていない基本的な法理も明文化していく必要があるという御指摘をいただきました。   次に,「分かりやすい民法」の一つの要素であるとも思いますが,「条文の在り方」に関する御議論がありました。1ページの一番下のところでございます。   そのグループの最初の○ですが,条文の在り方には「俳句モデル」と「散文モデル」があり得るということを御紹介いただいた上で,「詳細な規定を設けることによって本当に分かりやすい民法になるのか,適切な運用に資するのか」という観点からの問題提起をいただきました。   この点は,恐らく今後,この部会において繰り返し議論になるような重要な問題提起であったと受け止めておりますが,この点について,前回の会議におきましては,まず,次の○(2ページの最初の○)ですが,ここで,「予測可能性を高めるという観点から,ある程度は規定を増やして,内容が分かるようにした方がよいのではないか」という御意見をいただきました。   また,その次の○では,条文化によって「今後の解釈の発展を阻害する面もある」ということを御指摘いただいた上で,そういった点にも留意しつつ,個別的に検討すべきであるという御意見をいただきました。   続きまして,「分かりやすい民法」とともに,諮問第88号に掲げられておりましたもう一つの観点である「社会・経済の変化への対応」という点につきましても,多くの御意見をいただきました。   まず,そのグループの最初の○,「企業にとって,取引の一層の円滑化や予見可能性の向上に資するような改正が必要なのではないか」という御意見をいただきました。   次の○では,「市場金利と乖離した法定利率によって現実の経済活動への弊害も生じている」という御指摘をいただきました。   3番目の○では,民法が想定すべき典型的な売買が,明治期における不動産等の特定物の売買から今日では工業製品などの種類物の売買に変化してきており,そういった社会状況の変化に適合させるための見直しが必要ではないかという御指摘をいただきました。   4番目の○は,もう少し広い観点からの御指摘ですが,早急な法改正に迫られていないとすれば,それは有利な条件にもなり得るという御指摘をいただきました。   このグループの最後の○では,商行為法の問題点を例として挙げながら,「個々の任意規定がデフォルトルールとしての合理性を有するかどうか」を丁寧に検討することの重要性を指摘する御意見をいただきました。   続きまして,「全体を見直す必要性」や「改正の理念」といった観点からの御議論がありました。2ページの下の方からです。   まず,そのグループの最初の○ですが,今回の改正では,緊急に解決すべき課題があるのかどうか,なぜ個別規定の見直しではなく全面的な改正を行おうとするのか,全体としての改正の理念は何かという,大変重要な問題提起をいただきました。   この点につきましては,まず,全体を見直す必要性という点に関して幾つかの御意見をいただいております。   まず,資料2ページの最後の○ですが,消費者契約法の不当勧誘に関するルールの一つを民法上の一般ルールとするという検討課題を例に挙げて,債権関係の見直しでは,一つの項目の改正が全体に影響する可能性があることを十分に意識して検討する必要があるという御指摘をいただきました。   また,次の○(3ページの一番上の○)ですが,ここでは危険負担の規定の見直しを例に挙げて,同様に,全体的な見直しが必要となるという御指摘をいただきました。   その次の○では,これまで立法課題の緊急性という名のもとで切り捨てられてきた現行法の周辺的な問題点についても,中長期的なスパンの中で,焦点を当てて検討していく必要があるのではないかという御指摘をいただきました。私どもにとって少々耳が痛い面もある御指摘でありますが,しかし大変重要な御指摘であると受け止めております。   3ページの上から三つ目の○からは,このグループの冒頭の問題提起に対する御意見のうちで,改正の理念に関して御発言いただいたものを取り上げております。その3ページ,上から三つ目の○では,改正の理念については個別論点の議論において問題となる場面で議論した方がよいという御指摘をいただきました。   その次の○も同様の観点からの御指摘ですが,その中では,前回の第1回会議で参考資料として配布したものの一つである「債権法改正の基本方針」について,あくまで参考資料にとどまるものであることに留意すべきであるという趣旨の御指摘をいただきました。   この項目の最後の○では,改正の理念を現時点で明らかにするというよりも,個別的な課題の検討の中で理念的な一貫性にも留意することが重要であるという趣旨の御指摘をいただいております。   また,前回の第1回会議におきましては,改正の必要性だけでなく,必要性があることを前提として,今後の検討における留意点につきましても多くの重要な御指摘をいただきました。   この中では,例えば,4ページの中ほど,(国際的な取引ルールとの関係)という項目で整理させていただいた中には,改正の必要性という文脈で御発言いただいたものもあったと思いますけれども,関連する御発言をまとめて記載した方が分かりやすいと思いましたので,このように整理させていただきました。   これらの「改正の留意点」につきましては,私の資料説明の時間が既に長くなっておりますので,本日のところは一つ一つ御紹介することは省略させていただこうと思います。   以上,部会資料3に基づき,前回の議論を振り返っていただきました。   冒頭にお話ししたことを繰り返しますけれども,本日は,外部に向けて改正の必要性を説明するといった観点も含めて,この資料を修正すべき点や,更に補足すべき点などを御議論いただきたいと考えております。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,債権法の改正の必要性等につきまして御意見をお伺いしたいと思います。部会資料3に関する御意見でも結構ですし,それ以外の御意見でも結構です。御自由に御発言ください。 ○高須幹事 前回の私どもの発言をまとめていただきまして,非常に見やすいものを作っていただいて感謝しておるのですが,私の表現力がつたなかったせいか,十分に意が伝わらなかったようでございますので,ここで補充をさせていただきたいと思います。   恐らく私の発言が4ページの三つ目の○のところに書いてあるのだろうと思いますが,市場のグローバル化の進展に伴う社会・経済の変化に基づく民法の改正の必要があるのではないか,この点について私は否定はいたしませんが,それを無条件に賛成だと申し上げているわけではありません。1980年代以降のミルトン・フリードマンに代表されるような,いわゆる新自由主義的な発想に基づく法改正をどこまで無条件に行うべきなのかということに対しては,やはり慎重な態度で臨むべきではないか,そのことが去年のリーマンショック以降,なおさら国民的な視点の中に入ってきているのではないか,そういう意味で,より慎重な立法の努力をすべきではないか,というのが本旨でございます。おまとめいただいたものが,何となくこの方針で進めていきましょうというようなニュアンスに読めたため,このままだと,私が普段,話していることとこの部会で言うことが違うというおしかりを後で受けそうなものですから,ちょっと発言をさせていただきたいと思っております。   そういうことで,今まで無条件にというのでしょうか,あるいは全幅の信頼と言ってもいいと思うのですけれども,全幅の信頼を寄せてきた新自由主義的な考え方に対して,ここで限界があるということをわきまえた,そういうことに気がついた,世界で最初の民法にしたい,これが私の率直な考え方でございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○岡(正)委員 部会資料3を読み返して,民法とは何か,民法は何のために何を規律する法律なのかという中身の議論が少ないという印象を持ちました。最近の法律ですと,大体第1条に目的というのを書きまして,何々を調整し,もって何々することを目的とする,こういう条項が入ることが多いと思うのです。債権法だけの改正ですので難しいかもしれませんけれども,そういう,今の法律にあるような目的規定を民法あるいは債権法のところにも作る御用意があるというか,作った方がいいのかどうかということと,もし作るとすれば,どういう内容になるのか。その内容によって,これから議論する改正案がいいか悪いかということを判断する基準みたいなものが何か合意できるのであれば,議論した方が分かりやすいのではないかと思いました。   その中で,取引及び財産の安全という,安全という言葉がキーワードになるのか,公正という言葉がキーワードになるのか,それとも,契約締結自由,自由とその限界というのがキーワードになるのか,そういう指導理念といいますか,民法の目的といいますか,改正案を検討するに当たって基盤とする指導理念のようなものについて議論があった方が,読む人が分かりやすいのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 岡委員自身は,その点に関連して何か御提案はございますか。 ○岡(正)委員 それは是非学者の先生にお伺いしたいと思います。特に諸外国の民法にそういう第1条のような規定があるのであれば是非参考になるでしょうし,どこの民法にもそのような目的規定はないというのであれば,それはそれでまた安心できます。 ○鎌田部会長 この点に関連して,何か御発言はございますか。   特に無いようですが,また折に触れてこの中で御発言をいただけると思いますので,ほかの御意見がございましたら,お出しいただければと思います。 ○中井委員 研究者の皆さんの御発言を実はしばらく待っていたのですが,ないようですので,私の方から補足させていただきます。前回でも基本的な方向性なり理念のお話を申し上げたところ,それは個別的な論点について議論する中でおのずと検討すべき事柄であろうというのが研究者の皆さんの大方の意見であったように思います。しかし,方向性,理念を全く議論しないまま,改正の内容について議論を開始すると,ある研究者からの指摘にもあるように,「海図なき航海」にならないか,心配しています。   民法が日常生活と取引関係の二つのことを規律するとすれば,たとえば,個人の財産をきちっと守りましょう,そういう静的な安全の問題を重視した考え方と,取引を迅速,かつ容易に決済ができて,不履行に対してはしかるべき対処しましょうという,動的な取引の安全を重視した考え方があるだろうと思います。その二つの利益を調整していくのが民法だから,それは個々の場面で検討すればよいことかもしれません。しかし,そういう二つの利益についてどのような調整原理を共有してこの民法改正を進めていくのか,について,ここにお集まりの研究者の皆さんから,是非国民に対して発信してもらいたい,こういうふうに思っています。   また,同じような理念のことですが,最近,当事者間の契約の合意の重視が強調されているのではないかと思います。つまり,契約締結過程,契約の内容若しくは契約締結後の行動などを通じて当事者間の合意の内容を明らかにして,その明らかにしたものについて,それをきちっと履行させる,それを実現するような民法の体系が想定されているのではないか。そのことについて,前回も危惧という形で表明したわけですけれども,従来の日本における契約観からすると少し違うような気がいたします。つまり,当事者間では,あるべき合意,こういう合意をすればしかるべき効果を期待して,法律に頼った,逆に言えば,裁判所の公正な判断に頼った契約締結意思といいますか,そういう観念が広くあるのではないか。そういう中で,当事者間の合意を尊重する基本方向で進めることに対する危惧があるとすれば―この危惧が間違っているのであれば,またその御指摘をいただきたいと思いますし,あるとすれば,それに対するしかるべき対応を十分に考える必要があるだろうと思います。たとえば,契約締結過程における問題があれば,それを取消し,無効という形で,合意した内容を実現させない方策を準備することになるかもしれません。また,合意の内容自体に不正,不当なことがあれば,その不正,不当な内容の効力を認めない,不当条項的な規制があるのかもしれません。そういうバランスのとり方がやはり必要なのだろうと思うのですが,そういう大きな意味での方向性についてのメッセージがあれば,今後の議論を進めていくのに分かりやすいのではないか,こう思った次第です。つまり,民法を分かりやすくしましょう,その点についてはほぼ皆さん意見が一致しています。それは単に判例法理を条文化するとか,ワーディングの問題にとどまらないのだろうと思います。そうであれば,こういう民法にしていくのだという方向性,民法改正に当たって考慮すべき点はこういう点なのだ,それをメッセージとして送る必要があるのではないか,こういう問題意識です。是非御意見をお聞かせいただければ有り難い。お教えをいただきたいという趣旨での質問です。 ○能見委員 今の御質問といいますか御意見に対して私が答えるということではなくて,先ほどから,民法の理念についてどう考えるべきかということについて,若干私の考えを述べたいと思います。   最初に,民法の理念として,民法はこうあるべきだというのはやはりなかなか議論しにくいだろうというのが率直な印象であります。それは,例えば,民法の契約の領域の中でのある部分においては,例の第94条第2項とか表見法理とか,取引の安全を図って,実際上真の権利者が権利を失うという制度が多々見られます。判例も時によっては少し揺り戻しがあったり,いろいろ揺れ動いているという印象はありますが,基本的には取引安全を強調する考え方を支持しており,ここに取引の安全を保護するという理念が見られます。しかし,これに対しては,本来の権利者の財産が保護されるということも重要なことであります。そうすると,真の権利者保護という対立している理念があるので,なかなかこれが民法の理念だというふうには言いにくい。私は,民法の理念については一般論を議論するのではなく,むしろ個別のところで議論した方がよいと思っております。   ただ,今の問題,すなわち表見法理について私の意見がないわけではないので,これについての意見といいますか感想を申し上げますと,私は現在の民法の規定というよりは,判例・学説の流れだと思いますが,少し取引の安全というものに傾斜し過ぎている。もう少し表見法理は制限された方がいいのではないかと個人的には思っております。第94条第2項の拡大的な類推適用というのも余り進めるべきではないだろう。ほかの表見法理についても同じように考えております。そういう意味では,私は,個人的には,もっと公正さにウエートを置きたいと思っておりますけれども,今ここで議論して,何か民法の方針で「こういうふうにいこう」というものが決まるのかというと,やはりそれは決めにくいので,先ほど申し上げましたが,個別のところで議論するしかないのかなと思っています。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○大村幹事 私も能見委員が手続についておっしゃった部分に賛成です。   もちろん理念について語ることは重要なことだろうと思いますけれども,公正といい,安全といい,あるいは合意というときに,具体的に何をイメージしているのかというのは,個別の問題についての議論を重ねた上でないとなかなか共通のイメージというのを形成することは難しいのではないかと思います。ただ,理念について語る必要はないということではありませんので,どこかの段階でやはり具体的な議論を経た上で,そうしたものについて我々の考え方をすり寄せるというプロセスはあってよいのではないかと思います。   それと,前の方で御指摘がございましたけれども,民法典の冒頭に目的規定を置くかどうかということは,民法典について立法する際に,現在行われている他の立法と同様のスタイルをとるかどうかという,形式面での基本方針にもかかわる問題ですので,それとあわせてこれもどこかで御検討いただくのがよろしいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに御意見はございますでしょうか。 ○中井委員 先ほどの合意の重視と関係しますが,契約観というものについて,例えばグローバルスタンダードがあるからそれを民法改正に際して考えてみようと言われたときの危惧感についても補足しておきたいと思います。生まれも育ちも違う,人種も違う,宗教的・社会的背景も違う,そういう人たちが契約をしている社会というのが世界の中にはあるのだろうと思います。それに対して日本の社会はどうだったか,あうんの呼吸で,相手の立場を見ながら,恥の文化もある中で合意をする,この合意を守らなければならないという社会では,そこにおける契約観にはおのずと差があり,そこで合意される契約の内容,その量,更に言えばその拘束力の違いなどもあるのではないか。グローバルスタンダードを日本における民法改正の一つの参考資料となるのはいいとしても,そのまま仮に持ち込むような議論があるとすれば非常に危惧感があるわけです。現実に実務をやっていまして,とりわけ地方で弁護士業務をやっている中で,個々の当事者間の契約観を考えたときに,仮に,欧米的な発想で,当事者間の合意を重視していくという方向性があるとすれば,そこに危惧感を覚えるわけです。 ○鎌田部会長 関連して,何か御発言はございますでしょうか。 ○大村幹事 先ほど,前の方で,4ページに出ております「市場のグローバル化の進展に伴う社会・経済の変化に適切に対応するための民法の現代化」についての御意見がございましたし,今直前の中井委員の御発言もこれにかかわるところがあると思います。グローバル化の進展に伴う社会・経済の変化に対応する,そのときに,その対応の仕方を民法の現代化と呼んでいるわけですけれども,その中身が,必ずしも新自由主義的な方策をとるということではないのだろうと思います。そういう部分もあるのかもしれませんけれども,民法の現代化というのが新自由主義的な改革を考えるということとイコールであるわけはないというのがここでの出発点ではないかと思っております。どのような現代化を図るかということをまさにこの場で議論するということであって,中井委員のおっしゃるような危惧も含めて,どのような現代化を図るかということを検討していけばよろしいのではないかと思います。 ○沖野幹事 合意の尊重という点に関しまして,そこで合意というものをどういうものとしてとらえているのかということもあると思います。先ほど,例えば,当事者の期待するあるべき合意,あるべき効果と言われました。また,当事者がそのバックグラウンドを共通にすることによって,共通して持っているものの酌み取りということを言われました。いずれもそれは,それを尊重することが合意を尊重することだという意味にもなるわけです。しかし,合意としてとらえるものが,何らかの文言が書面などで作成されるときに,その字義どおりの意味を合意としてとらえているならば,当事者が想定しているものですとか期待などと食い違うということはあるかと思いますけれども,合意の尊重と言われるときに,そういうことを必ずしも言っているわけではないと思われます。一般的に「合意とは」ということをここで論じることは適切ではないと思いますけれども,合意の尊重に対して,それをどういうふうに評価するか,あるいは,それに対する危惧というときに,一体何を合意として考えているのかということを明確にする必要があるだろうと思われますし,それは更にそれぞれの問題のところで認識しつつ,留意しつつ論じていかないと食い違いが非常に生ずるように思いますので,合意の点についてだけ申し上げるものですが,そこを留意する方がいいのではないかと思います。 ○鹿野幹事 私も今の沖野幹事のご発言に賛成です。合意の尊重とは,契約に関係する紛争の解決において,まず当事者の合意の趣旨を出発点としようということだと思いますが,それは,形式的に契約書に書かれているものをすべて押し通さなければならないということを意味するのではないと思います。むしろ,法的に尊重されるべき「合意」とは何かを検討していくことこそが重要だと思います。   先ほど中井委員から,合意を尊重するということであれば,例えば合意の形成過程に問題があっても取消しが制限されることになるのではないか,あるいは内容コントロールが行われなくなるのではないかというような危惧が表明されましたが,そういうことではないのだと思うのです。むしろ,合意を尊重するということは,法的に真に合意として評価できるような条件が備わっていない場合にはその効力を否定するという方向にもつながるのではないかと思います。また,合意の尊重といっても,それは合意が無制限に許容されるということを意味するものではないと思います。むしろ合意として法的に許容できる限度はどこまでなのかということを,ここで検討していくべきだと考えます。 ○高須幹事 今,ここでの検討は,民法の現代化に関しては何も新自由主義を前提とするものではないというふうに大村幹事から御指摘いただきまして大変安心いたしました。私もこの審議会の中で,どういう民法が現代化の観点からふさわしいのかということを一生懸命考えていきたい,このように思っておりまして,大変勇気づけられた思いでございます。   それから,合意の点が今,沖野幹事あるいは鹿野幹事からお話が出て,そのとおりだと私どもも勉強してまいっておるのですが,ただ,私ども弁護士は,形式的な合意的なものでも無理やり何とかしようというような当事者を実際に相手にしておりますので,契約書に書いてあるから文句ないだろうみたいな人は必ず世の中にはいると思っています。そういう中で,そうじゃないですよということを分かりやすく伝える民法というのは,どういう書き方がいいのだろうか,そこがやはり大切になるのかなと思います。これからの議論だとは思いますが,合意というのはこういうものですよというのが万民に分かるような,そういう形にしていただければ有り難い,このように思っております。 ○中田委員 ちょっと合意の話から戻るのですけれども,先ほど中井委員から,日本社会の均質性あるいは特色についての御指摘がございました。そういった御議論というのは根強くあるということは承知しておりますけれども,現在の日本社会あるいは将来の日本社会をどう考えるのかについてはまた違う見方もあり得ると思います。もう少し普遍的な観点から考えるということがあっていいのではないかと思います。 ○松本委員 今までの議論は恐らく契約観をめぐる議論かなと思うのですが,日本人の契約意識はこうだとかいう議論が一時期はやりましたけれども,今,一色では多分言えない状況になっている。すなわち,一昔,二昔,三昔ぐらい前であれば,民法が適用される人々というのは非常に限定されていて,大部分の庶民は民法の外側で生きていたわけですよね。そういう中で培われてきた契約観,それが,まさにすべての人が民法的な生活を送って,契約の中に入って,紛争に巻き込まれてという時代において,均一的な契約観,両当事者が共通の価値観を持って何かやっているかということはおよそ言えなくなってきているのではないか。恥を知っている人もいれば,恥を知らない悪質業者も山ほどいるわけなので,そういう様々な,多様な価値観あるいは契約意識を持った人々がいて法的な社会になっている中で妥当すべきルールは何かということを考えていかなければならない。一色で決めた上でルールを作るのは簡単ですが,それだと日本社会のごく一部にしか妥当しないようなルールになってしまうのではないかなと。そういう点で,極端なことを言えば,パターナリスティックな民法なのか,それともオートノマスな民法なのかという基本的な理念の対立があるのでしょうが,恐らくどちらでもなくて,どこかの中間点になるのではないか。前から言われています契約自由という話と必ずペアに出てくるのは契約正義という概念なので,両方を考えていって,その双方のルールをいかにうまくベストミックスして民法の中に配分していくかということが求められているのだと思います。 ○内田委員 先ほどからの高須幹事の新自由主義についての御発言とか,あるいは中井委員の日本的な契約観についての御発言に関して,私個人としては非常にシンパシーを感じるのですけれども,しかし,それがそれぞれの個人の理念の表現ということであれば何ら問題はありませんが,この部会の審議の指導理念を決めるのだという話になってくると,ちょっと危険なものを感じます。実際の審議で個別の問題を議論する際に,それは新自由主義的な発言である,ということでもし排除されるとすると,多様な意見を出して,知恵を集めて,いい案を作るという本来の趣旨に反してしまうのではないかと思います。余り思想的な方針をあらかじめ指導理念として決めるということはしないで,多様な議論を出して議論をしていくという方が健全なのではないかと思います。実際に個別のテーマについて,ある特定の条文に関しては,新自由主義的な人たちも,そうでない人たちも,その条文に関する限りは合意できるという場合はありますので,その場合に,その根拠となる思想まで統一する必要は必ずしもないのではないかという印象を持ちました。 ○山本(敬)幹事 ただいまの御発言の後でやや発言しにくくなったところもありますけれども,やはり一言付け加えさせていただいておきます。先ほど,形式的な合意を尊重して,そのまま拘束力を認めるのかどうかという問題について,必ずしもそうではないのという御発言が何度かありました。その結論はそれでよいとしましても,なぜそう考えるかという理由がまた分かれてくるのだろうと思います。ある思想,あるいはある理念,あるいはある政策から見て,このような契約は「間違っている」,だからこのような契約の効力は認めるべきではないというタイプの考え方もありますし,そうではなくて,これは合意と銘打っているけれども,実は合意ではない,合意というのはこういう前提があって初めて合意と言えるわけであって,それが欠けているものにそのまま拘束力を認めるわけにはいかないというかたちで契約に介入していくという考え方もあります。このあたりになってきますと,かなり根本的な考え方の対立に行き当たります。それについてこの部会で決着をつけるわけにはなかなかいかないだろう。そしてまた,決着をつけて,それと異なる考え方をおよそすべての問題について排除していくのは適当でないだろうというのが,今の内田委員の御指摘なのだろうと思います。私自身は,ここではやはり,そうした様々な考え方をまずはぶつけていく必要があるだろうと思います。ただ,それは具体的な問題に即して,ある場面についてどういう考え方がよりよく当てはまるのか,この場面ではどうなのかというかたちで検証しながら議論を深めていくことが必要ではないかと思う次第です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでございましょうか。 ○岡(正)委員 先ほど中田委員が,普遍的とおっしゃいました。それから,松本委員が,パターナリスティックと,もう一つ,よく分からない英語をおっしゃった,その中間点だと。そこのところなのですが,そういうことを言っているので全体像が見えにくくなるように思います。やはりこれから一つのこの案が日本の民法としていいのではないかといったときに,日本の今の事実に基づいて,何でいいのだと。私どもからすると,契約のところでいくと,この契約に定めのない事項が判明し,問題が出てきた場合には,誠実に協議し,円満に解決する,そういう条項が最も多くを占める,そのような契約がかなり存在します。弁護士とクライアントとの契約についても,報酬なんかは一切事前に合意せずに,これをうまくやってね,うまくやりますよと,終わってから報酬の定め方をしていく,そういう契約も山のようにあると思います。それと,国際的な取引の中で,こういうリスクの場合にはこうするというリスクの分配を行い,契約書が30ページ,40ページとなるものもあると思います。その二つの契約に妥当する民法,それは多分普遍的な,松本委員のおっしゃる中立的な民法になると思うのですが,そういうのはあるのでしょうか。そこがよく分からないのです。信頼と誠意に基づくほんわかした,細かいことは何も定めないような契約にも妥当するし,リスク分配を徹底的にやって,30ページ,40ページ作っている契約にも普遍的に妥当するルールというのがどんなふうに考えたらいいのかというのがよく分からないのです。中田委員がおっしゃった普遍的というのはどういうことなのか,もう少し御説明いただければ有り難いと思います。 ○中田委員 まず全体的な話なのですけれども,日本人の契約観ですとか,日本社会の特殊性について,それに一定のシンパシーを感じる方々も多くいらっしゃるとは思うのですけれども,しかしそれは,無意識のうちにあるスタンスに立っているのではないかと思います。それをいかにして相対化するかというところから始まるのかなと私は思っております。その上で,実際に普遍的あるいは中立的な規定ができるのかというと,これは条文の形として一箇条ですべてをあらわすことは恐らくできないと思います。しかし,複数の理念があることを前提とした上で,いかにそれをバランスよく,しかも余り詳密にならないような形であらわすことはできないだろうか,それを目指してはどうだろうかというのが,私の個人的な考えです。 ○鎌田部会長 松本委員,何かございますか。 ○松本委員 今のようなケースでいけば,当事者が決めていないことで紛争が起こればどうするんですか。それは当事者が話し合って納得できればいいではないですかと。そうであれば,紛争にならないわけですからね。だけど,そこで決着がつかないケースで初めて紛争化するわけで,そこでどうするかという話なのです。あらかじめ決めておかなくても,争いがあれば,合意で解決できるのであれば法律は要らないわけですが,法律が必要になった時点でどうなるのかということが問題なのです。今までの伝統的な考え方からいけば,決めていなかったというけれども,本当は決めていたのでしょうということで当事者の合意を探してみるだとか,あるいは,いわゆるデフォルトルールというのが社会的な相場だから,それでやろうという暗黙の前提があったんでしょうとかいうことでいくだろうし,もう少しパターナリスティックになれば,裁判所が適切だ,あるいは仲裁人が適切だと思えるところで決めるということでしょう。合意をまず探してみて,本当になかったのであれば,第三者が介入するということで従来からやってきたわけだし,これからもそのようにしかやりようがないのではないかなと思うのですが。話し合って解決できればする,できなければ合意を探る,合意が見つからなければ第三者が決める,これ以外に解決の方法はありますか。 ○道垣内幹事 岡委員にもう少し伺いたいのですが,それは現在の民法は対応できているという前提でしょうか。契約といっても二つの性格のものがあって,それはしょせん1個の民法で対応することはできないのではないのということになると,現在も対応できていないという前提でお話しになっているのでしょうか。それとも,変えなければ対応できているのに,変えると対応できなくなるというお話なのか。お教えいただければと思います。 ○岡(正)委員 現在の民法でも何とか対応していますし,もう少しよいものを作ろうとした場合に,どういうところを念頭に置いて,いい悪いを判断したらいいのかという問題意識でございます。 ○道垣内幹事 いや私が伺っているのは全然違う話でして,岡委員は,一つの理念では語れない,普遍性を持てないではないかとおっしゃるのだけれども,現在の民法は持てているのですか,ということです。 ○岡(正)委員 現在は,条文という形ではないから,運用とか解釈とか和解などで何とか対応しているという個人的な認識です。 ○鎌田部会長 余り条文がない方がいいということですか。 ○岡(正)委員 そういうことを申し上げたのではありません。いい条文ができるのであれば,是非いい条文を作りたい。ただ,その条文を作るときに,どういう当事者を念頭に置いて作ればいいのか。その当事者が,松本委員がおっしゃるように随分違うので,どこを念頭に置いて考えたらいい条文になるのかという問題意識でございます。   先ほど中田委員が,シンパシーを感じるのは分かるとおっしゃいましたけれども,それはシンパシーではなくて,目の前のクライアントがそういう意識を持っている。そういう意識の事実に基づいて,こういう問題意識を持っているところでございます。 ○道垣内幹事 それは松本委員がおっしゃったことに尽きているのだと思うのですけれども,例えば,ある種の契約条項が契約書にないときに,非常にソフィスティケートされた契約当事者間において,ある義務を書いていないということはどういうふうな意味を持つのかというと,それはしばしば,その義務は負わないということを意味している。それに対して,ソフィスティケートされていない契約当事者間の契約書において,誠実協議条項も含めて非常にあいまいにしか書かれていないときに,ある義務について明定していないということになりますと,それは全体の合意の解釈として,そういう義務というものが認められる,ないしは信義則上認められるということになり得るわけです。そうしますと,ある条文を作ったからといって,そしてそれがどちらを念頭に置くかによってどっちかだけになってしまって,片方にしかうまく対応できなくなるという話ではなくて,義務内容の解釈というもの自体が両当事者間の関係とか両当事者の属性とかによって変わってくるわけです。そして,それは,現在の民法もそうであるからこそ企業間取引にも市民間の取引にも対応できているわけであって,それが新たに条文を作ったからといって突然対応できなくなるということになるというのは,私はとてもそうは思えないのですが。 ○深山幹事 合意の話を中心に今話がされていて,私自身も,法律行為として当事者が何を合意したかということが基本的に重視されるべきであるし,そこで言う合意も,字面であったり明示されたものに限らず,趣旨なり,そういう実質的な意味での合意を重視するのが基本だろうと考えております。   ただ,一つ危惧するのは,実務上,弁護士に相談に来た依頼者の話を聞いていると,あなたはこのときどういう約束をするつもりだったのかということを聞いても,そのようなこと考えていませんでした,まさかこんなことになると思いませんでしたという答えであることがあって,少なくとも一方当事者が認識していた合意そのものがないという状況も決して珍しくはないのです。そういうときに,では何が解決の指針になるかというと,そこに一つの民法の役割があるのかなと私自身は考えております。そのときに,そういうものも含めて合意だというふうに合意の意味合いを広くとらえればそこに入ってくるのかもしれませんが,少なくとも,当事者が認識していないところで何かトラブルが起きたときに,それを解決する規律,ルールとして民法のスタンダードの考え方であったり,そこには先ほど来出ている公平だとか安全だとか,そういう理念的なものが当然反映するのだと思いますが,そういったところに再度立ち返る基盤のようなものがあって,それが解決の指針になるのではないかなと思うのです。   もう一つ,裁判の場を考えると,裁判官の方々もここにはたくさんいらっしゃいますが,事実認定として,どういう合意だったのかというときに,当事者がどう合理的に考えたのかということを多分推認されるのだと思うのですが,実務的な感覚からすると,人間はそうみんな合理的に行動したりするわけでもないのですね。自分でも後から説明ができないような言動をとるとか判断をするということもそう珍しくない。だからこそトラブルになるのかもしれませんが,そういうことも踏まえると,言葉どおりの意味での合意がどこにあったかということだけでは解決にならない場面を,間々目にするものですから,合意重視を否定する気はさらさらないのですが,それだけでは解決がつかない場面があるということも意識した議論がなされればいいなと思っております。 ○野村委員 余り個別的な問題に立ち入るのはどうかなと思ってずっと黙っていたのですけれども,契約を利用する人がどういうことを考えて契約をしているかというようなことを議論し出すと,これはなかなか一致しないと思うのです。それを前提にして民法を作ろうというのはなかなか難しいのではないかと思います。ただ,民法は技術的に,どういう要件を満たしたら契約の成立が認められるかとか,あるいは契約の効果はどういうものが発生するのかというようなことを決めておいて,解釈論としては,それを前提にして,当事者がどういうふうに考えていたのかということを説明していくということではないかと思うのです。   既にいろいろ意見が出ている中で,民法の理念とか指導理念という言葉が出てきましたけれども,取引の安全とか公正性とか契約の自由というのは恐らくだれも異論がないところです。しかし,それが具体的にどういう意味を持っているのかというと,人によって多分持っているイメージは違って,契約の自由についても恐らく,どのような合意もすべて自由にできると考えている人はいないでしょう。したがって,おのずと限界があるのですけれども,その限界をどこに考えているかというのは人によって違うと思うのです。ですから,言葉だけでこの部会で合意を作り出すなんていうことはなかなかできなくて,やはり個々の条文の検討の中で議論していくことにならざるを得ないのではないかと個人的には思っています。 ○岡(健)委員 当事者の合意重視に関する危惧ということで,私ももう一つよく分からないところがあるのですが,これまでの御意見を聞くと,二つの場面があるのではないか,ということです。そもそも当事者の合意の内容をどう認定するかという問題と,合意自体はこういう内容だろう,ただ,借地借家法とか消費者法にあるように,不公正な内容あるいは不利な内容だから,合意としては存在しても,その効力は認めないようにしよう,そういう両方の場面での危惧というのがあるだろうと思うのです。後者の方は正に立法政策の問題だから,それはそれで議論したらいいということになるかと思いますが,前者の方は,結局,企業間の取引で細かい取決めまであれば,正にそのとおりの内容の合意だろうということになりますし,他方で,それほど細かく取り決めない,一般市民の間の契約―我々も日々,こう書いてあるけれども,実はこうではなかったとか,これしか書いていないけれども,こういう約束もあったのだと,そういうような主張の中で苦労しているわけですが,そちらの方は,先ほど深山幹事もおっしゃいましたように,契約の表現のみならず,契約の締結の経過等の諸般の事情を踏まえて合理的な意思解釈,合理的な合意の認定をしているわけなのです。その作業に関しては,今の民法も別に規律を設けているわけでもないし,法レベルで合理的な意思解釈の指針みたいなのを書くというのもうまくいかないのではないかと思いますので,そこの部分自体は結局,今後もその個別事案における合理的な認定をしていくしかないのではないかと思っております。 ○松本委員 なぜこの議論をやっているのかというのがちょっと理解に困っているのです。つまり,民法の条文として,合意が大原則だとかいうような条文を入れようという提案をだれかされていて,それに対する反対なのでしょうか。従来から我々は,解釈の順番として,まず合意を探って,それが見つからなければほかの方法をとるとかいうことは普通にやってきたわけで,それは何も否定される必要はないのであって,あたかも民法のどこかの条文に特定の文言を入れることを議論されているのなら,その案を出していただかないと議論ができません。一般的に合意を無視する契約法を作りましょうという提案であればまた別ですけれども,そういう提案はだれもされていないのだと思うのですが,いかがなのでしょうか。 ○山野目幹事 松本委員が御疑問としてお出しになったことは,ごもっともであると感じます。思い起こしてみますと,30分か40分ぐらい前には合意の話をしていたのではなくて,これから始める民法の改正の調査審議において全体を貫く指導理念がどういうものであると考えるべきかという問題提起をお出しいただいて,中井委員からは,例えば取引か生活か,あるいは動的安全か静的安全か,あるいは,そこで合意という概念が出てきたかもしれませんが,合意というものをどう考えるかということについての全体的な,しかも適切な観点の提示をいただいたものであると思います。   合意のことについて申し上げる前に,その立法理念の問題について私が感ずることを申し上げさせていただきますと,立法理念というものを論ずることの大切さと危うさという問題があるのではないかと感じます。危うさの方に関して言えば,内田委員の意見に同調いたします。規定の議論をしていくときに,理念を決めつけなくても合意ができるときに,理念を決めつけることによって,かえって錯綜した,あるいは制約の大きい議論になってしまうという問題点があるわけでございまして,その点に十分留意をしなければいけないのではないかと感じます。反面において,理念を論ずることがやはり大切であって,その点について,これも30分か40分前に大村幹事がおっしゃったことに私は同調したいと考えます。繰り返し今後の個別の審議がなされていく中で理念のところに戻ってきて議論をしていただくということが重要なのではないかと感ずる次第です。   その上で,先ほど来から御議論が続いている合意の問題は,なぜ議論しているのかというのは,私も松本委員と同じでよく分からなくなっているというか,むなしい議論になっているような気がします。恐らく,むなしい議論になっている理由を推測しますと,それは,後ですればよい話を今している面があると感じますとともに,幾つかの特定のイシューについての特定の案を既にイメージしておられて,それについて議論しているような部分があるのではないでしょうか。そうなってしまっているのだとすると,それは非常に効率の悪い議論をしているというふうにここ30分ほどは感じて,伺っておりました。 ○松本委員 多分,「債権法改正の基本方針」の特定の条文を皆さん念頭に置いて,これはけしからんという趣旨で議論されているのだと思うのですが,これは前提にしないという合意が確かできているはずです。どうもこの基本方針にとらわれ過ぎた議論が多いように―仮想敵としてやるというのは非常に非生産的になると思うので,個別のところではっきりと,これはけしからんという議論を私もしたいと思いますが,その方が合理的だと思うのです。別に私は,「債権法改正の基本方針」に賛成しているものではありません。よくない条文はたくさんあると思いますが,それは個別のところで議論したいと思います。 ○鹿野幹事 合意の話を比較的早い時期に出した者の責任として一言だけ付け加えさせていただきたいと思います。先ほどの中井委員の御発言の中に,合意を重視するという考え方が一つの理念というか,全体を貫く考え方としてとられるとすると,それは疑問だという御趣旨の御意見があったように私は理解しました。そして,それに対して私が申し上げたのは,合意を重視するということが必ずしも合意形成過程の瑕疵に基づく取消し等につき否定的な考え方を導くとか,あるいは合意の内容コントロールを制限するということにはならないのではないかということでした。つまり,合意重視と抽象的にいっても,そこからある特定の帰結が導かれるというわけではないし,一方,先ほど来ご指摘があったように,契約自由の原則をとること自体についてはほぼ異論がないように思われるのです。そうであれば,この問題については,どういう形でどこまでの合意を尊重するのかを,個々の場面で議論すべきであって,およそ全体の理念として,合意を重視する態度がけしからんというような議論はできないのではないか。そういう趣旨で申し上げたつもりです。 ○山本(敬)幹事 同じことになるわけですが,私個人は,御承知の方は少なくないかもしれませんけれども,個人の権利・自由を基調に据えて民法をとらえるべきだという考えを持っていまして,それ自体は変わらないわけですが,仮にそういう立場をとるとしましても,取引安全や一定の正義に関する理念にあたるものをおよそ排除するかというと,必ずしもそうではありません。それらの基本原理にあたるものをどう理解して,位置づけるかということ自体議論の余地があるところですし,問題や領域に応じて,それぞれの基本原理に相当するものが妥当するウェイトも変わってくるのだろうと思います。そうした理解やウェイトのつけ方は,ここにおられる方々の間ではなかなか一致しなくて,恐らく個々の問題については今後激しい議論が展開されるのではないかと思いますが,何かそれをあらかじめ一つに絞って,それを民法の冒頭の規定なり,あるいは債権法の最初の部分なりに高らかに掲げるということはむずかしいと思います。逆に,そうすることによって,個々の問題についての適切な規定の在り方に無用のしばりがかかってくるとするならば,そちらの方がむしろ問題が大きいのではないか。私のような立場の人間でも,それは危惧するところです。 ○大村幹事 私は,山本敬三幹事の今の御意見に賛成です。理念について論ずるということになりますと,多分,山本幹事と私の間でやれば延々と,今まで20年やってきたことが更に延長されて続くということになろうかと思います。しかし,個別の規定について議論するということであれば,山本幹事と私の間で,それでも激しい議論はありますけれども,合意できるところが見つかるだろうと思ってやってまいりました。   それから,基本理念については,ここで議論した上で,私たちが改正にあたって考慮すべき事柄として何を考えたのかということをここでのメンバー以外の法律家の方々に示す,あるいは民法典の受け手である市民の方々に示すために,最後に基本理念の取りまとめをするというようなことはあってもよいと思います。ですが,それは最初にすべき事柄では必ずしもないと思っております。 ○岡(正)委員 二つありますが,一つは,松本委員の,先ほど聞きそびれた,分かりやすい議事録にするために,パターナリスティックというのは,司法,国家の介入要素が強いという意味だと思うのですが,もう一つの,聞き取れなかった英語の方の意味を議事録に残した方がよいのではないでしょうか。 ○松本委員 英語を正しく理解しているかどうかは別にして,オートノミーの形容詞のオートノマスで,「自律的な」という意味で使っています。契約というのは自律的に動いていけば,それはそれでいいわけですが,そうでない部分についてはパターナリスティックに介入することが必要だろうし,幾ら当事者が合意しているといっても,許されない部分もあるでしょうから。しかし,オートノミーの部分を全く無視して契約法は成り立つはずがないので,その両方の理念をきちんとバランスよく配分したようなルールにしていく必要があるだろうし,日本の民法は今までそういうふうにやってきたと思っていますし,これからもそうでなければならない。それをどういうような条文として配列するかというのはまた別の問題で,ここに書いてあるような条文を契約法の冒頭に入れるかどうかというのは,先ほど山本幹事の議論にもありましたけれども,反対論があっても全くおかしくないと思いますし,そんなのなくたって困らないではないかと。正確に書けば条文は多分もっと長くなると思います。そういうのは余り適切ではないのではないかということです。 ○岡(正)委員 もう一つが,今,大村幹事と山本幹事の20年来の論争というのは,僕らにとってみれば何か難しい議論をいっぱいしているなというのは承知しているのですが,議事録に残す意味でも,きっといい話なのでしょうから,ここで合意するというのではなくて,民法の理念についてこういう意見とこういう意見が長く議論されているというのは,議事録に残すと,そういう考え方の中で普遍的なもの,あるいは,今日の議論だけでも随分読む人は,特に弁護士にとって分かりやすい話が出たと思っております。そういう意味では,もし部会長の時間が許せば,その20年来の御議論を1分ずつにまとめていただければ,聞く方は非常に勉強になると思いますが。 ○道垣内幹事 学会のすべての人がいずれか一方に賛成しているわけでもありませんので,二人の論争だけ紹介しても余り意味がないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか。   ほかに御意見はありますでしょうか。 ○中田委員 別のことでもよろしいですか。 ○鎌田部会長 はい。 ○中田委員 では,関連することを1点と別のことを1点申し上げます。   関連することは,日本人の契約観とか日本社会の特殊性を余り強調すべきでないと言った部分なのですけれども,これは,日本人の契約観というふうに考えておられることが,実は他の国でも見られることがある,それをも踏まえて上で,より普遍的なルールを考えることができるのではないかという意味もあります。それが1点です。   もう1点は全然違うことなのですけれども,部会資料3の1ページの1の五つ目の○に民法典の形成過程と申しますか,現行民法の規定についての認識が書かれております。明治期に急いで作ったという事情もあって日本民法は簡素で条文数も少ないということなのでして,これは確かにそういう面もあるとは思います。ただ,他方で,旧民法で定義規定や分類規定が多かったのに対する批判を受けて意図的にそうしたという面もあると思います。それから,各種の具体的な制度が十分に整備されていないという段階で民法は作られたために抽象的な規定になっているというところもあると思います。ですから,そういう面も踏まえて考える必要があるだろうと思います。現在の民法典は,今言ったような事情から,一定の抽象度を持った,コンパクトでまとまったものになっている。そのために逆に部分的な修正がされにくくなっていて,現代化が遅れたという面もあるのではないかと思います。   以上,補足です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかの論点についても御意見を是非お出しいただければと思います。いかがでしょうか。―よろしいでしょうか。   これまでいろいろと御議論をいただいて,様々なお考えがあるということも十分にお出しいただけたと認識いたしておりますが,諮問事項に書かれております「社会・経済の変化への対応」あるいは「分かりやすい民法」といった観点から債権関係の規定の全般的な見直しを行う必要があるという点では大方のコンセンサスはあったように理解いたしております。 ○松本委員 今の点なのですけれども,全体的な見直しをやるということの意味は,各条文について,これでいいのかどうか検討しましょうというぐらいのレベルですよね。全部を変えましょうという意味ではないですよね。そこはかなり重要なので。確かに時代遅れになった条文あるいは起草時点からおかしいではないかと言われていた条文はありますから,そういう条文は積極的に直すべきである。そういう条文を直していけば,民法はシステムですから,ほかの部分にも影響が出てくるから,結果としてかなりの部分に手が入ることはあり得るけれども,逆であってはならない。つまり,全部をがらっと変えて,世界に冠たる日本民法にするために全面改正するのだというのは,これは逆立ちした理念だと思います。そこをちょっと確認したいのですが。点検の対象として見ましょうということであって,変えるということが前提にあるわけではないということですね。 ○鎌田部会長 それこそ今の御議論だと違う次元の話になると思いますけれども,今の松本委員のお話で言えば,根本理念を抜本的に変えて,違った理念でゼロから作りましょうというコンセンサスがあったとはいえないと思います。ただし,今,松本委員もお話しされましたし,前回も御発言がありましたように,個々の制度を見直していけば,それだけで済まないので,債権法全体についての総点検をしなければ個々の制度も現代的に変えることは難しい,その点についてはコンセンサスがあるのだろうと理解いたしております。ということでよろしいですか。 ○松本委員 結果として全面改正になるかもしれないし,ならないかもしれない,そういう理解でよろしいですね。 ○鎌田部会長 はい。 ○大村幹事 松本委員の御意見に賛成なのですけれども,ただ,全面改正という言葉の使い方に少し幅があるように思うのです。すべての規定を改めるわけではないという意味では,それは全面改正にはならないのだろうと思います。現状のまま残すという規定は当然残ると思いますけれども,そのときに,形式の問題として新たに番号を振り直すか否かといった問題は別の問題なのだろうと思います。おっしゃっていることは,すべてを必ず改正するという前提ではないということではそのとおりかと思いますが,ただし,検討はすべてに及ぶものと理解しております。 ○鎌田部会長 「見直す」という言葉の理解の仕方にもかかわると思いますけれども,全体を必ず作り直すというわけではないけれども,点検をするという意味での見直しは必要だということだと思います。 ○野村委員 先ほど鎌田部会長が,社会・経済の変化に対応するというようにまとめられたのですが,それはそれでもちろんいいのですけれども,社会・経済の変化というときに,100年前の民法典が作られたころに比べて,現在,社会が変わっています。その社会の変化にどう合わせた条文を作るのかという意味と,それから,将来これから先どういう社会になっていくのかということも重要で,見通しは難しいですけれども,そういう先のことを見通して考えるという両方の意味を含ませたということでよろしいのですよね。 ○鎌田部会長 先ほど申し上げました「社会・経済の変化への対応」というのは,諮問第88号の表現を援用させていただいたところでございますが,前回の御意見の中でも,単に明治から今日までの変化ではなくて,今後の50年とか100年も見通した民法を構想すべきであるという御意見も出てきたところでございますので,この諮問の中で使われている「社会・経済の変化への対応」という表現については,今,野村委員が御指摘になりました,今後の社会の変化も見通してということについては,内容的にはそういった趣旨で理解できると考えているところです。よろしいですか。   また,今日の御意見,前回の御意見にも出てまいりましたけれども,改正の必要性あるいはその理念というのも,一面では,個別の具体的な提案との関係で議論しないと,どういう意味でそれが議論されているのかということが必ずしも明確にはなりませんし,また,個別の論点を具体的に議論する際には,常にどういった必要性,理念に基づいて個別の論点についての提案をするのかということが不可避の論点になってくるだろうと考えられます。したがって,各論に入った後も,折に触れて改正の必要性や理念といったものは,前回,今回よりもより具体的な形で議論の対象になるだろうと考えますし,また,そのような方向で議論を進めていきたいと考えておりますので,改正の必要性をめぐる本日の議論はこの程度にさせていただいて,次の議題に進ませていただければと思いますけれども,いかがでございましょうか。   それでは,ここで休憩をとらせていただきまして,その後に次の議題へ進むことにさせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 本日の二つ目の議題として,今後の審議の進め方について御議論いただこうと思います。   この議題との関係では,部会資料4のうち,まず,1の「検討対象とすべき規定の範囲」と2の「中間的な論点整理に向けた検討の順序」の部分を事務当局に説明してもらいます。 ○筒井幹事 それでは,部会資料4の説明をいたします。   この資料では余り統一感のない幾つかの話題を取り上げておりますけれども,全体として,今後の審議を円滑に進めるために,この機会に議論をしていただきたい事項を取り上げたものであります。   まず,この資料の2ページまでと,関連する別紙1,別紙2について説明し,ここでいったん切って御意見を伺いたいと考えております。よろしくお願いいたします。   まず,「1 検討対象とすべき規定の範囲」について説明いたします。   この項目の本文,ゴシック体で記載しております文章の部分を本文と呼ぶことにいたしますけれども,ここでは,諮問第88号に基づき,この部会において検討すべき民法の規定の範囲について,記載しております。前回の第1回会議で私が口頭で申し上げたことを,(a)(b)として書き出してみたものでございます。この点は,今後の審議スケジュールを考える際に前提となる事項ですので,この(a)(b)のような理解でよいのかどうか,まずは御確認いただきたいと思います。   そして,このことを前提といたしますと,民法典のうちの一部分のみを切り出して見直しの対象することになりますので,それに伴って何か留意すべき点があるのかどうか,お気付きの点がありましたら御指摘いただきたいと考えております。   以上がこの部分の本文についての説明です。   次に,資料1ページの中ほどに(関連論点)として記載したところを説明いたします。   まず,その1ですが,民法典の編の構成について触れております。今回の債権関係の規定の見直しにおきましては,物権編や親族・相続編は基本的に検討の対象外となりますから,ごく普通に考えますと,現在の全5編という編の構成は変更せずに,その枠組みの中で検討を進めることになりそうです。それでよいということになるのかもしれませんが,異なる御意見もあるかもしれません。そこで,編の構成は変更しないという前提で検討を進めてよいのかどうか,何か留意すべき点があるかどうかといった点について,この機会に御意見を伺いたいと思います。   次に,(関連論点)のその2ですが,ここでは時効の規定の取扱いについてお尋ねしております。取得時効と消滅時効という二つの時効制度のうち,債権関係の規定の一つとして検討対象となるのは消滅時効のみであり,民法典の章,節で申しますと,第1編第7章のうち第1節及び第3節が検討対象ということになると思います。もちろん,この第7章のうち第1節(総則)の規定を改正し,その改正後の規定もそのまま第1節(総則)に置くといたしますと,その改正が第2節(取得時効)にも影響を及ぼすことになりますので,そういった影響があり得ることを視野に入れて検討を進める必要はあるのだろうと思います。しかしながら,取得時効に固有の問題まで検討の対象とするのかどうかという意味では,取得時効は検討対象ではないということになるのではないかと考えております。このような理解でよいのかどうか,また,そうだとしても何か留意すべき点があるかどうか,御意見を伺いたいと思います。   次に,2ページの「2 中間的な論点整理に向けた検討の順序」について説明いたします。   今後の審議スケジュールにつきまして,前回の第1回会議で,私は,今後1年半程度の時間をかけて中間的な論点整理を行うことを目標に当面の審議を進めることとしてはどうかという提案をいたしました。この提案に対しましては,必ずしも異論があるということではなかったと受け止めておりますが,しかし,もう少し具体的な日程が示されないと賛否を明らかにできないという御指摘があったところであります。   こういった御指摘を踏まえまして,今回は具体的なスケジュール案を用意してみましたので,これを御覧いただきながら更に議論をしていただきたいと考えております。   まず初めに,私が前回申し上げました「中間的な論点整理」というものの中身について,補足して説明させていただこうと思います。   中間的な論点整理としてどのようなレベルのものを目指すのかという点につきましては,まだこれから各論的な議論を始めようとする段階ですので,私自身,明確なイメージを持つことができておりません。ただ,試案とか素案ではなくて,あえて論点整理という言葉を使いましたのは,要綱案づくりに向けて一定の結論を得ることを,この段階では必ずしも目指さなくてよいという趣旨を表そうとしたからであります。もちろん,もしもだれにも異論がないような改正点がありましたら,その点については結論まで示せばよいのですから,最初から固定的に考えない方がよいとも思っておりますけれども,いずれにしても,この部会で検討対象とする領域は大変に広いので,まずは全体を一望できるように論点整理を行い,これを広く部会の内外で共有した上で,次のステージに進んではどうかと考えております。   そして,この論点整理を終えた段階で,パブリック・コメントの手続を行うことも,今回,併せて御提案したいと思います。前回の会議でも,弁護士会の深山幹事がパブリック・コメントに言及されましたし,また,商工会議所の大島委員からも,広く意見聴取を行っていくことが重要であるという御指摘をいただきました。そういった御指摘を踏まえまして,中間的な論点整理を終えた段階でパブリック・コメントの手続を実施することを御提案したいと思います。   さらに,前回の会議で1年半程度の時間をかけてと申し上げた点につきましても,もう少し丁寧に説明いたしますと,その起算点は第1回会議が開かれた平成21年11月であり,そこから1年半といいますと,再来年,平成23年の4月ごろを目途にという意味であります。   整理いたしますと,私の提案は,平成23年4月を目途に中間的な論点整理を行った上で,パブリック・コメントの手続をとることとしてはどうかというものであります。この点について,御意見を承りたいと思います。   続きまして,具体的なスケジュール案について説明いたします。これには,会議の日程と各課題の検討順序という二つの問題があると思いますけれども,まず検討順序の方について説明いたします。部会資料4の2ページの本文と別紙1にかかわるものです。   この検討の順序につきましては,様々な考え方があろうと思いますが,ここでは,まず基本的なスタンスとして,民法第3編の前の方から現行規定の配列に従って検討を進めることを提案しております。前回の会議で,私は,この部会では一から議論を始めるという趣旨のことを申し上げました。ゼロからと申し上げたかもしれません(笑)。一からでもゼロからでも同じ意味だと思いますが,そういった観点からは,これまでなれ親しんでいる現行規定の配列に従って,現行法の問題点を明らかにしつつ議論を進めていくのが,最も分かりやすくて適当ではないかと思います。   もっとも,以上のことを基本としつつも,若干の例外があったよいと思いました。それが部会資料4の2の本文,「もっとも」以下に書いたことであります。   まず,前回の会議で松本委員から御指摘をいただいたことですけれども,内容的に関連性の強い項目はまとめて議論した方が効率的であろうと思います。このような観点から,債務不履行による損害賠償と解除,危険負担などは,ひとまとめにしてはどうかと思います。また,第1編(総則)の意思表示などの規定につきましては,形式的に全体の一番前とか一番後ろで検討するのではなく,内容的なつながりも一応考えながら検討順序を考えてはどうかと思いました。こういった考慮を経て,全体を並べてみたのが別紙1であります。   別紙1の冒頭の(1)でございますが,ここにはまず規定の配列順で債務不履行による損害賠償等が来るのですけれども,そこに第3編第2章に置かれている契約の解除や危険負担の規定を繰り上げて,一つにまとめてみました。もっとも,この部分の検討課題は,損害賠償一つをとっても大変なボリュームがあり,1回の会議で全部を議論していただくことはできないと思いますので,前半と後半の2回に分けて議論してはどうかと考えております。   次に,(2)以下では,先ほど申し上げた第1編(総則)の規定を(7)から(9)に挿入しておりますけれども,それ以外は,基本的に現行規定の配列に従って,前から順番に並べております。各回ごとの検討課題の分量には,かなりデコボコがあると思いますけれども,基本的には一つの固まりを1回の会議で議論するということで,合計16回の会議で第一読会を終えるという想定になっております。   別紙1についての説明は以上です。   ここで,いったん部会資料4の2ページの方に戻りますけれども,2ページの下の方に(関連論点)として,不法行為その他の法定債権に関する規律のことを取り上げております。これは,契約に関する規定を中心として見直しをすることに伴う留意点ということですけれども,このような観点から,検討が一巡する最後に,確認的な検討の機会を持つことを提案しております。これは,先ほどの別紙1の表で申し上げますと,最後の方,(14)又は(15)に含まれることになるのではないかと思います。   続きまして,会議日程についての案である別紙2について説明いたします。   この部会の検討対象は大変な分量がありますので,結論は急がないにいたしましても,相当の会議時間を確保しておかなければ,充実した審議をすることができなくなってしまいます。そういう観点から,私としては,次第に会議のペースを上げていって,少なくとも月に2回は会議を開くことが必要ではないかという感触を持っておりました。しかしながら,他方で,充実した審議をするためには充実した準備も必要であり,特に推薦団体等との関係で事前準備に相当な時間を要することも考慮してほしいという御指摘も,前回の会議でいただいたところです。そこで,そういった御指摘も踏まえて,別紙2という案を用意いたしました。   まず,来年1月から3月までですけれども,前回会議でお示しした当面の会議日程案では,毎月1回の会議に加えて,2月と3月には予備日を設定しておりました。本日の案では,このうち2月の予備日は開催しないこととし,3月のみ予備日も開催することを提案しております。そして,4月以降につきましては,2か月に3回のペースで会議を開くことを提案しております。先ほどの別紙1でお示しした検討順序に沿って審議を進めてまいりますと,ちょうど来年1年間をかけて第一読会を終えることになり,再来年の1月からは中間的な論点整理に向けて取りまとめの議論に入っていただくことになるという想定であります。   もっとも,議事の進行はしばしば遅れがちになりますので,その遅れを取り戻すための予備日を設定しておくのが,スケジュール管理上は有益であると思います。そこで,別紙2では,7月下旬と12月下旬に予備日を設けることを提案しております。   もちろん,これはあくまでも予定ですので,今後の審議状況に応じて手直しをすることは当然にあり得ると思っております。例えば,次の3月の時点で,それまでの数回の会議の実情を踏まえてスケジュールの見直しをする機会を持つこととしてはいかがでしょうか。そのような見直しの機会があることを確認した上で,当面このような予定で審議を始めてみるということでもよいのではないかと思っております。   以上,少し長くなってしまいましたが,審議スケジュールについて説明してまいりました。この点は,次回以降の資料の準備という点で,私どもの事務作業の進め方に直結する事柄ですので,是非,本日の会議で御承認をいただきたいと考えております。よろしく御議論をお願いいたします。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明がありました部分のうち,まず,「1 検討対象とすべき規定の範囲」について御意見をお伺いしたいと思います。 ○松本委員 質問なのですが,1ページ目の1の(a)のところであえて行為能力を落としているのは,ここは比較的最近改正をしたから今回は手をつけないという意味なのでしょうか。それにしては,後ろの方の検討事項の抜粋のところで意思無能力の場合だけが特出ししてあることと少しバランスがとれない感じがするのですが,行為能力の部分は検討対象から外すのか加えるのかという点。それからもう一つは,(関連論点)の1のところにかかわるのですが,編別構成は変えない。編の構成を変更するような見直しは想定されていないと。しかし,例えば総則の中から消滅時効を債権の方に引っ越すかもしれないだとか,あるいは法律行為を解体して契約の方に引っ越すかもしれないとかいう議論は排除しないという趣旨なのか,編を越えての引っ越しも,この編の構成を変更するような見直しはしないというルールに引っ掛かるという趣旨なのか。この2点についてお願いします。 ○筒井幹事 今お尋ねがありましたうち,まず行為能力の点ですけれども,御指摘がありましたように,成年後見に関する民法改正の際に一通りの見直しを終えているということが大きな理由でございますが,そういったこともあり,私としては,見直しの対象とは考えてはおりませんでした。しかしながら,それは,諮問事項との関係では「債権関係の規定」というのをどう読むか,どう理解するかということにかかわることですので,もし何か御意見があればお出しいただいて差し支えないですし,御議論いただければと思います。   もう1点の,編を変えないということですけれども,この点は先ほど説明の中で触れたつもりではありますが,ごく普通に考えると編は変えないということになるのではないかと思います。しかし,変えた方がいいという御意見がもしあるのであれば,この機会に御発言いただければいいと思いますし,その上で御議論いただければいいのではないかと考えております。   また,この資料に書きましたのは,編立ては,普通に考えると変えないことになるのではないかという限度のことでありまして,その編の中に含まれる個々の規定を動かすのかどうかということについては,この部会で自由に御議論いただければよいのではないかと私は考えております。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○松本委員 はい。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   特に御意見がないようでしたら,この「検討対象とすべき規定の範囲」につきましては,先ほどの質疑応答の内容も含めて御承認をいただいたものとさせていただきたいと思いますが,よろしいですか。   それでは,次に,2の「中間的な論点整理に向けた検討の順序」につきまして,これは中身がかなり豊富でもございますので,まずは御質問がございましたら御質問をお受けしたいと思います。 ○大村幹事 スケジュール管理に関する単純な質問がございます。会議の間隔についての御説明がございましたけれども,1回の会議の開始時間及び終了時間について,おおよその標準があればお示しいただければと思います。 ○筒井幹事 現時点で想定しておりますのは,本日と同じように午後1時半から午後5時半まででございます。しかし,やり始めてみないと分からない部分もあると思います。前回の会議でも少し触れたかもしれませんが,30分程度の開始時間の繰上げというのはいずれあるのではないかという気がいたします。また,終了時間の延長ということもある程度見込んでいただいた方がいいのではないかと思っております。 ○中井委員 中間的な論点整理ということの位置づけについての確認と質問ですが,先ほどの筒井幹事の御説明では,今の段階では特段のイメージを持っているわけではないが,試案というわけではなくて中間論点整理だという御発言がありました。また,一定の結論を得るものでもないという御指摘もあったと思います。つまり,基本的には,これは,先般からの必要性も含めて各論点について拾い出しをする。そこについていろいろ,改正すべきでない,改正する必要性がある,若しくはA案,B案といろいろ意見も出てくるかもしれない。正にそういう論点の拾い出しであるという認識でいいのかという点の確認です。また,1年でざっと議論をしようということですから,ある意味で,1回の論点も,今のお話では4時間程度の間で議論をするとなれば,その4時間の間に仮に発言をし忘れるか,そのときは思いつかなかった論点が当該項目の中で残る場合もありうると思います。そこで議論がでなかったから,もはや次の機会には取り上げない,その論点は排除される,そういうものではないという理解でいいのか。その2点は確認させていただきたいと思います。   また,第一読会で1年というスパンで論点整理をした後,パブリック・コメントの手続をとって,広く国民各層から改正すべき論点についての意見を聴取することは理解しましたが,その後のスケジュールについては何か現段階でイメージがあればお示しいただきたい。もしこれから先の話であるなら,その旨を教えていただきたいと思います。 ○筒井幹事 論点整理のイメージについて,改めて中井委員からお尋ねがありました。この点については,先ほどの私の説明の中でも,もしだれにも異論がないような改正点がありましたら,結論めいたことを書き込んでいっても一向に差し支えないのではないかということを申し上げました。そういう意味で,必ず論点の抽出にとどめるという確認をする必要はないのではないかと思っております。そこは余り固定的に考えないで,議論を深めながら,しかし限られた時間の中でできる範囲で,必ずしも結論を出そうとしないで論点整理を中心に議論を進めていけばよいのではないかと思っております。   それから,中井委員からお尋ねいただいた3点目は,いま私が申し上げたことと関連してくると思うのですが,この中間的な論点整理を終えた後の審議イメージについては,中間的な論点整理としてどの程度の精度のものができ上がってくるのかということに大きく左右されるのではないかと思います。もしも非常に順調に議論が進んで,かなり精度の高い論点整理ができるのだとすると,その次のステージは,ゴールまで見通したスケジュールの立て方になるのだろうと思います。しかし逆に,中間的な論点整理が抽象的な論点の抽出にとどまるということになるとすれば,次のステージでは,もう少しゆっくりした議論の進め方になるのだろうと思います。いずれにしても,今の段階で最後まで見通したスケジュールを議論するのは非常に難しい,だからこそ中間的な論点整理という段階を挟んで,ここにお集まりの皆さまが共通の目で最後まで見通すことができる状態になった上で,次のステージの計画を立てていこうというのが,私の提案したことの骨子であります。   それから,順番を変えてしまいましたが,2つ目のご質問,何か発言をし忘れたときに,もうそれは言ってはいけないというルールがあるのかどうかということですけれども,そのようなことを申し上げるつもりは,毛頭ございません。中間的な論点整理という段階を経て広く国民一般からの意見を求める機会を持つことを提案しているのですから,その機会に外部から意見が出てきてよいのと同様に,内部からも新たな意見が出てきて一向に構わないと思っております。ただ,そういう節目,節目をつくりながら,審議を進めていってはどうかということを提案しているということであります。 ○鎌田部会長 ほかに御質問いかがでしょうか。 ○高須幹事 今御説明のありましたパブリック・コメントの件でございますが,1年半後を目途にパブリック・コメントを行おうかという御提案をいただきました。私はそれに賛成なのですが,その後の問題といいますか,おおむねのイメージをちょっと伺いたいのです。パブリック・コメントを集めて,それをもとに我々がまた検討させていただくことはできるのだとは思うのですが,更にそれをもとに2回目のパブリック・コメントみたいなこともあり得るのかどうか。一切ないということか,決まっていないということでもよろしいのですが現在,わかる範囲で教えていただきたいと思います。実は今日資料として配布していただきました東京弁護士会の会長声明でも言及されていますが,パブリック・コメントは1回に限ることなく複数回行うべきという意見が弁護士会の中には結構強いものですから,その辺の今お持ちになっているイメージみたいなものがあれば教えていただきたいのですが。 ○筒井幹事 結論としては,現時点では一定の考えを持っておりません。高須幹事から御指摘がありましたように,複数回のパブリック・コメントをすべきだという御指摘,御要望を既にいただいていることは,十分に承知しております。ただ,議論が始まったばかりの今の段階でそれを要望されているというのは,今回の債権法の見直しの全体を通じて,より多くの人の意見を聴きながら慎重に議論を進めていくべきだという御意見だと思いますので,そういう観点を十分に踏まえた上で,中間的な論点整理の後の次のステージでどうするのかということを,そのときに議論したらよいのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 ほかの御質問いかがでしょうか。 ○沖野幹事 2の「中間的な論点整理に向けた検討の順序」という部分に関して確認をさせていただきたいのですけれども,現在ある制度を前提に,ある程度ブロックごとにということを考慮してこの順番でという場合に,現在無い制度をどうするかという問題がございます。例えば,契約の解釈―契約の解釈について規定があるかどうか自体は議論があるところだと思いますけれども,契約の解釈ですとか,約款ですとか,債務引受ですとか,契約上の地位の移転ですとか,そういったものがすべて残された個別的課題に入りますと,これも余り効率的でないように思われますので,適宜関連するところで民法典に制度としてないものについても検討の対象とするという含みであると理解したのですけれども,その点だけを確認させていただければと思います。 ○筒井幹事 御指摘ありがとうございます。私もそのように思っております。   ただ今,幾つかの御指摘をいただき,約款あるいは債務引受といった例を挙げていただきましたが,それらは前回の会議でお配りした部会資料2「民法(債権関係)の改正検討事項の一例(メモ)」の中で,私どもの方からも検討の必要性があるテーマとして取り上げているところでございますので,第一読会のいずれかの機会に是非議論していただきたいと考えております。そのときに,例えば,約款については,契約の成立のところで取り扱うのが適当なものもあるでしょうし,ほかのところで取り扱うのが適当なものもあるだろうと思いますので,そういうことを考えながら,細目的な審議スケジュールを考えていきたいと思います。また,債務引受についても,債権譲渡のところで扱うのがよいのか,あるいは別の機会があるのかもしれませんけれども,そういったように,議論の関連性を考えながら進めていきたいと思っております。 ○鎌田部会長 よろしいですか。ほかに御質問ございますでしょうか。 ○木村委員 中間的な論点整理の審議をやるわけですけれども,論点整理をやっていくときに,こういうのが論点だろうということのたたき台みたいなものというのは事務局の方で作っていただいて,それをみんなで議論をするという感じでよろしいのでしょうか。 ○筒井幹事 そうですね。各回ごとに,この日に御議論いただきたい問題について事務当局で資料を用意し,それに基づいて議論していただくというのが,私が考えている次回以降の部会の審議のイメージですので,そのように進めていきたいと思います。その上で,中間的な論点整理として取りまとめをするためには,そのたたき台なり原案なりをどこかの段階でお示ししないことには,なかなか議論が進まないと思いますので,恐らく,第一読会を終えた次の段階で,何らかの案をお示ししながら御議論いただくことになるのではないかと思います。 ○鹿野幹事 現在の民法にある条文に従って項目立てられているという点とも関連するのですが,項目表に挙げられていないものがあります。例えば私は,消費者とか事業者というような概念,あるいは商人という概念もそうかもしれませんけれども,そのような概念を民法に入れるのかどうかについてどこかで検討した方がよいと思うのですが,この項目表には見あたりません。これは,例えば,法律行為とか意思表示のところ,あるいは無効・取消しのところで議論することが予定されているのでしょうか。それとも,そうではないのでしょうか。もし違うのであれば,また別に考えさせていただきたいと思いますので,その点を1点確認させて頂きたいと思います。   それから,契約関係の清算の問題についてもお聞きしたいと思います。例えば契約の解除,解除といっても遡及効のある解除と将来効のある解除,それから取消し・無効等,様々な場合における契約関係の清算の問題については,もちろん個々のところで検討することも必要でしょうが,相互のバランスを考えた横断的な検討も必要であると私は思うのです。この文書には,不当利得の規定については関連するところで必要となる範囲に限って見直しをすると書かれており,この記載の趣旨とも関連するのかもしれませんけれども,このような清算の問題は,まずは個々の関連するところで検討する趣旨なのでしょうか。   以上2点を質問させてください。 ○筒井幹事 まず前半で御質問いただきました,消費者と事業者,あるいは商人といった概念についてどうするかということは,後ほど,この部会資料4の4ページから5ページになりますが,まずは「3 特別法との関係」の(2)とか(3)といったところで御議論いただくことを想定しておりました。その御議論の際に,もしも事業者とか消費者とかいう概念を民法に入れることはとんでもないという議論になるのであれば,今後その点については議論しないということもあり得るのかもしれませんが,そうでなければ,今後いずれかの機会に御議論いただく必要があるのだろうと思っております。その際に,現行民法のどの項目との関連で議論するかということについては,今,鹿野幹事から御指摘いただいたことも踏まえて私どもでも考えてみたいと思いますし,それで今後の議論の中で私どもからうまく問題提起ができていなければ,そのときにまた御指摘いただければ有り難いと思います。   それから,契約関係の清算の問題については,不当利得法に属するものであるとしても,契約との関係で十分議論していく必要があるという御指摘だと思いますので,その点も,そういう御意見があったことを十分に踏まえて考えていきたいと思っております。 ○中井委員 スケジュールについては,一方で十分な審議をしようということと,一定の目標を定めて論点整理をしようということがあります。今回,1年6か月を目標に,平成23年4月に,中間的な論点整理をするという考え方に異論があるわけではありません。そして,一通り論点を拾っていくために,来年1年間の計画を立てる,この考え方も十分理解できるところです。ただ,これだけボリュームの多いものを1年間で議論するとなれば,やはり取りこぼし等もあろうかと思います。予備日が二つ設けられていますから,恐らくその予備日はそれに充てることも想定され,その必要もあろうかと思いますが,4月に中間論点の公表をするとすれば,1年間で一通り論点を議論する中で更に補充して議論すべき点が出てくれば,それを平成23年の1月から3月にかけても議論を続けて,それが中間論点の公表につながる,こういう理解をしておいてよろしいのでしょうか。 ○筒井幹事 全くそのとおりだと思っております。 ○大村幹事 今の点について私も質問があります。2回の予備日で検討できないことが更に後ろで検討されるというのは,そのような扱いになると思うのですけれども,現在予定されているスケジュールの目標である中間整理について,それに向けての中間整理案を検討するというのももちろんどこかに入るわけですよね。それと別にこの検討が続くことがあるべしということだと理解しましたが,このような理解でよろしいでしょうか。 ○筒井幹事 全くそのとおりだと思います。今ここに掲げておりますように,来年1年間をかけての第一読会を終えた後で,やはり中間的な論点整理につながるような次の資料を私どもの方から提示していく必要があると思います。それは,恐らく一度に全部というのは準備もなかなか大変ですし,御議論いただくのも難しいと思いますので,何分割かにして,それを平成23年1月以降に順次,御議論いただくことになると思います。その際に,中井委員から御指摘がありましたように,一読のときには出なかった議論をそこでもう一度やっていただくということも十分あるのではないかという趣旨で,先ほどのように申し上げたつもりです。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。御意見もありましたら,併せてお伺いしたいと思います。―よろしいですか。   それでは,検討の順序,それから審議のスケジュールについて,基本的に御承認いただいたものとさせていただきます。   中間的な論点整理,パブリック・コメントに向けてのスケジュールも御承認いただいたということでよろしいですね。   それでは,次に,部会資料4の「3 特別法との関係」につきまして事務当局から御説明いただきます。 ○筒井幹事 それでは,部会資料4のうち,3ページの,「3 特別法との関係」の部分について説明いたします。   この部会で審議の対象となりますのは,部会資料4の1ページで御確認いただきましたように,あくまで民法の債権関係の規定であり,特別法そのものが審議の対象となるということは,ありません。ただいまから特別法との関係を話題にするに当たりまして,事務当局として繰り返して強調いたしますけれども,あくまでもこの部会の審議の対象は民法であります。そのことを確認した上で,ここからの議論をしていただきたいと考えております。   そうは申しましても,民事基本法である民法の改正を考える上では,民法の周囲にある特別法について繰り返し話題になることは避けられないし,避けるべきでもないと思っております。そこで,今後の審議を円滑に進めるために,様々な特別法との関係について,この部会の委員・幹事の間で少しでも共通認識を持つことができればと考えまして,このテーマを今回取り上げることといたしました。   まず,「(1) 総論」の部分ですが,この第1パラグラフは,特別法との関係での一般的な留意事項についてお尋ねするものです。民法の特別法といっても様々なものがありますが,ここでは,お気づきの点などを自由に御発言いただきたいと考えております。   第2パラグラフでは,民法改正が特別法に及ぼす影響という面と,民法改正を考える上での特別法からの影響という面について,補足的に記載いたしました。   その前半,特別法に対して及ぼす影響につきましては,例えば,民法を引用している他の法令の規定について形式的な整理を行うといったことは,いわば改正の後始末として最後の最後に考えればよいのですけれども,民事基本法である民法の改正では,そのような形式的な整理にとどまらない様々な影響がありそうな気がしてなりません。そういった他の法令への影響に関して,お気づきの点,今後の検討を進める際に留意すべき点などを,御教示いただきたいと思います。   後半の特別法からの影響,これは,特別法から得られる示唆と言った方が適切だったかもしれませんが,ここでは,3ページの中ほどの(補足説明)において,前回の会議で配布いたしました部会資料2の「民法(債権関係)の改正検討事項の一例(メモ)」のうちの2項目を,再掲いたしました。これらは,商法,特に商行為法ですけれども,その商法や消費者契約法のように,民法の周辺にある重要な特別法が,民法改正を考える上で大変有益な示唆を与えてくれているという例を挙げたものでございます。この部会資料2は,本日,これ以降も引用することがありますけれども,その際には「検討事項の一例」と略称させていただこうと思います。   私ども事務当局においても,このような例をお示しした限度では,商法や消費者契約法が今回の見直しとの関係で重要であることを認識しているのですけれども,このほか,どのような法令から有益な示唆を得たらよいのか,その他どのような点に留意すべきなのか等について,御意見を伺いたいと思います。   続きまして,4ページの「(2) 商法との関係」,それから5ページの「(3) 消費者契約法との関係」につきまして説明いたします。   この部会における今後の検討の中で最も頻繁に話題になると思われる特別法は,恐らく商法と消費者契約法ではないかと思います。そこで,この二つの特別法との関係について特に取り上げて,皆さまの御意見を伺いたいと考えました。   もちろん,商法と消費者契約法以外にも,例えば借地借家法,労働契約法,利息制限法など,債権関係の民法の特別法には重要なものが幾つもあると思いますけれども,しかし,借地借家法は賃貸借との関係で,労働契約法は雇用との関係で,利息制限法は利息債権や消費貸借との関係で,それぞれ個別に検討すれば特段不都合はないようにも思います。そこで,今回の資料では,今後の検討の過程で繰り返し議論になる可能性があると思われる商法と消費者契約法の二つを特に取り上げることといたしました。もちろん,それ以外の特別法についても今回御議論いただくことは差し支えありませんので,適宜,御発言くださいますようお願いいたします。   前置きはその程度にいたしまして,「(2) 商法との関係」のところの本文ですけれども,ここでは,民法改正を考える上で,商法との関係で留意すべき点についてお尋ねをしております。   本文の「例えば」で始まる第2パラグラフに書いたことですけれども,商法第2編商行為の中には,特にその第1章(総則),第2章(売買),第9章第1節(寄託の総則)におきまして,民法と密接な関連を有する断片的な,しかし重要な規定が,並んでおります。民法の見直しを検討する際に,これら商行為法の規定を参照することは,大変有益であると思います。   ところで,このように有益な特別法の規定を見てまいりますと,それは一般規定とすべきものなのではないかという議論があり得るように思います。その一例として,対話者間における契約の申込みの効力に関する商法第507条について,これに相当する一般規定を民法にも置くべきかどうかという議論があり得ると思います。   資料4ページの一番上に点線で囲んだ部分があります。前のページからの続きの部分ですけれども,ここが,ちょうど今申し上げました商法第507条を参照しながら検討する必要性について述べたところであります。これは,民法に一般規定を置くべきかどうかという,正に民法改正に関する検討課題なのですけれども,そのような民法改正をいたしますと,資料4ページの「(2) 商法との関係」の本文第2パラグラフに書いたことですが,論理的には商法の規定が不要になる可能性があり,商法に影響を及ぼすことになるわけであります。このような影響との関係で,どのような点に留意して検討する必要があるか,御意見をいただきたいと思います。   なお,この資料の本文では,「商法の規定の趣旨内容を包含するような一般規定が民法に設けられる」と書きまして,包含関係にある規定を民法に設ける場合のことのみを取り上げているようですけれども,包含関係のほかにも,一定の民法改正をすることによって論理的に商法の規定が不要になる関係はあり得ると思いますので,それに限定する趣旨ではございません。この点の記述が不正確でしたので,その旨を補足させていただきます。   次に,4ページ後半の(関連論点)のところをいったん飛ばしまして,5ページの「(3) 消費者契約法との関係」のところへ行きますけれども,ここの本文も,ただいま商法について説明したことと全く同様のことを書いたものであります。例えば,不当勧誘に関する消費者契約法第4条の規定の一部について,あくまで例えばですけれども,消費者契約という限定のない一般規定を民法に設けるのが相当であるという結論になるといたしますと,消費者契約法の当該規定が論理的には不要となる可能性があるわけです。消費者契約法に対してこのような影響があり得ることとの関係で,どのような点に留意して検討する必要があるのか,御意見をいただきたいと思います。   次に,先ほど飛ばしました4ページ後半の(関連論点)について説明いたします。   ここまで説明してまいりましたのは,民法に一般規定を設けた場合の特別法への影響という問題でしたが,この(関連論点)では,例えば「事業者」といった概念を用いて適用範囲を限定した規定を民法に置く可能性について今後この部会において取り上げていくのかどうかという問題を記載しております。その前提となる問題意識は,(関連論点)の冒頭の3行に書いたことですけれども,商法の商行為総則や商事売買に関する規定の中に,適用範囲が狭過ぎるのではないかという議論がされているものがあるという点にあります。一例として商法第522条と第524条という規定を参照条文として掲げておりますけれども,例えば,商法第522条については,株式会社である銀行には適用されるけれども,類似の事業を行っている信用金庫には適用されないという現状が,本当に適当なのかどうかという問題が議論されております。これは商法の問題でもありますけれども,商法の適用されないところには民法が適用されるわけですから,民法の問題でもあり,いわば境界線上にある問題であると思います。   こういった問題につきまして,もしも事業者概念などを用いて民法に規定を置く可能性があるのであれば,今後,この部会で,民法の側から検討してみる余地があると思いますが,しかし,およそ事業者概念などを用いた規定を民法に置くべきではないという考え方に立つとすれば,この部会の検討対象とはなり得ないということになるのだと思います。そこで,この問題についてどのように考えたらよいかをお尋ねしたいと思います。   この点についての事務局からの提案は,4ページの(関連論点)の末尾に記載したところですけれども,当面の対応として,議論すること自体は許容される旨を確認しておき,本格的な検討は,個別的な課題の検討が一巡した後に,全体を振り返りながら行うこととしてはどうかというものであります。別紙1の表で申し上げますと,(15)のところで検討してはどうかということになります。しかし,そもそも事業者といった概念を使った規定を民法に置くべきではないという強い御異論もあり得ると思いますので,まずはこの機会に御意見を伺いたいと思います。   更に続けますが,資料5ページの下の方,((2)及び(3)の関連論点)として記載したところを説明いたします。   4ページの(関連論点)は,現在,商法に置かれている規定との関係での問題を取り上げたものですけれども,この5ページの関連論点は,そういった特別法にある規定との関係ではなくて,それとは無関係に,専ら民法の規定の見直しを議論していく結果として,規定の適用範囲を限定する必要性の有無という議論が出てくる可能性があることを取り上げたものであります。しかし,ここでも,具体的には,先ほどと同様に,事業者あるいは消費者といった概念を用いた規定を設けるかどうかが問題になると思います。この点についてどのように考えるべきか,御意見をいただきたいと思います。事務局からは,ここでも,当面の対応として,先ほどと同様の取扱いをすることを提案しております。   最後に,6ページの「(4)その他」について説明いたします。   ここでは,それ以前の(1)から(3)までとはやや異なる問題を取り上げております。つまり,(1)から(3)まででは,法律の規定の実質的な改正を伴う問題を取り上げているのに対しまして,ここで取り上げておりますのは,規定の実質的な内容を改めるのではなく,専らある規定をどの法典に配置するのが適当であるかという問題であります。こういった法典の編成の在り方に関する問題は,従来は専ら法制的な問題であるとして,法制審議会では余り正面から議論の対象とはしてこなかったところではないかと思います。   前回の第1回会議で配布いたしました幾つかの学者グループによる試案の中にも,例えば消費者契約法第4条のうちの一部の規定を民法典に統合するというものがあります。この学者グループの提案では,消費者契約法の当該規定を民法典に移すだけではなく,その規定内容の見直しをするということも併せて提案されているのですけれども,しかし,その要件を見直すということと民法典に規定を移すということとの間には必ずしも論理的な関係はないと思いますので,やはり専ら規定の置き場所を変更するという提案が含まれているのだろうと私は理解いたしました。   この例の場合には,先ほど申し上げた法典編成の在り方という問題のほかに,省庁間における法律の所管の問題もありますので,ここで取り上げるべき典型例ではなかったかもしれませんが,仮に所管の問題はひとまず置くとした場合に,法典編成の在り方といった問題について,この部会ではどのように取り扱うべきであるか。これが,この「(4) その他」で御意見を伺いたいことであります。つまり,この部会においても,従前と同様に,法典編成の在り方のような問題は,専ら法制的な問題であると整理しておけばよいのか,それとも,今回この部会で取り扱う改正テーマは何か従前のものとは違うということなのか,そのあたりの御意見,御感触を伺いたいと考えております。   特別法との関係についての説明は以上でございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,この点について御質問,御意見を伺いたいと思います。中身的には質問と意見を切り離すのは難しいと思いますので,質問と意見を,併せてお出しいただければと思いますが,全体の順序としては,まず総論についての御意見をいただき,次に商法,消費者契約法との関係の御意見をいただき,最後に編別の御意見をいただくというふうに進めたいと思います。   総論についての御意見,御質問等ございましたら,お出しください。 ○山本(和)幹事 特別法への影響というところでお伺いしたいのですけれども,例えば詐害行為取消権の議論をする場合には,倒産法上の否認権の議論と密接な関係があるだろうと思うのですが,詐害行為取消権について一定の改正をするという方向で議論がされる場合に,それが倒産法上の否認権にどういう影響を与えるのか。先ほど,後始末というふうに言われましたけれども,単なる整備的な改正で済むような問題と,必ずしもそれでは済まないで,倒産法上の実質的な議論が必要になる問題があり得るような気がするのですが,一般的に言えば,そういう特別法上に民法の改正の議論が影響を及ぼす可能性がある場合に,その特別法の規定を改正すべきかどうか,あるいは改正すべきとしてどのような内容のものにするかというのは本部会の審議の範囲外ではあると思うのです。事務当局のお考えとしては,そういう場合に,今もお話がありましたけれども,広い意味で民法に属するような特別法,あるいは民法には属さないけれども,法務省の管轄下にある特別法,あるいは法務省以外の官庁が管轄するような法律,それぞれによっていろいろ違うと思うのですけれども,そのような問題について何らかのお考えをお持ちであれば,お伺いしたいのですが。 ○筒井幹事 ありがとうございます。ただ今お尋ねがありました点について,何か確定的な考えを現時点で持っているわけではありませんが,その点について,ある程度の確たる方針を持って臨まないと,例えば詐害行為取消権のところでは議論がしにくいといった問題があるという御指摘でもあると受け止めました。本日のところは宿題とさせていただいて,十分に考えた上で,関係する議論の際には何らかの所見を提示できるようにさせていただくということで,ご理解をたまわりたいと思います。   前回の議論だったでしょうか,破産法改正のときには民法に手をつけないという方針で臨んだといったことが紹介されました。そういう進め方がよいのかどうかというのは議論があり得るだろうと思いますし,そういう面で,御意見を承りながら議論を進めていくということがよいのかなとも思います。しかし,この機会に特別法も含めて何でもやろうということで,拡大路線でいくというのでは,なかなか難しい面もございますので,どこかで折り合いをつけなければいけない問題なのであろうと現時点では考えております。 ○山本(敬)幹事 今話題になっていた問題は,民法が一般法で,ほかに特別法があり,一般法が変わると特別法にどのような影響を及ぼすかという問題でしたが,それ以外に,民法と同じレベルないしは民法よりも少し上のレベルにある法律との関係が問題になる場面もあると思います。例えば,現行民法第92条の法律行為と慣習との関係に関する規定を見直そうとしますと,ご承知のとおり,この規定は,法の適用に関する通則法第3条との関係が従来からずっと問題にされてきたところです。そうしますと,法適用通則法第3条はそのままで民法第92条だけ変えても,問題解決にならない場合が出てきます。この場合は,やはりそこまで含めて一定の提案をしていく必要が出てくる可能性があります。   同時に,これは特別法と言えば特別法ですが,商法第1条との関係もやはり問題になってきます。これは,あとは商法の方で改正をお願いするというのももちろん筋ではありますけれども,一定の立場をとると,どうしても抵触が残る場合については,何らかの形で提案なり意見表明なりをしておく必要が出てくるのではないかと思います。   以上のような側面もあるということを指摘させていただいた上で,その点について何かお考え,あるいは方針等があれば,お聞かせいただければと思います。 ○筒井幹事 御指摘ありがとうございます。現時点で何か定見があるわけではありませんので,御意見として承った上で,前向きに考えていきたいと思います。 ○鎌田部会長 少なくとも今の時点でそういう問題をここでの議論の対象から当然に外す必要はないと考えてよろしいですね。 ○筒井幹事 はい,その通りであると考えております。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○中井委員 同じようなことかもしれませんけれども,例えば,法定利率を検討するときに,例えば利息制限法の問題であるとか,保証について議論するときに,例えば身元保証に関する法律における保証の存続期間・保証の限度・使用者の通知・保証人からの解除の問題が出てくれば,そういう関連的な法案,それらは幸いなことに法務省所管ですけれども,その議論を否定しないという理解でよろしいでしょうか。 ○筒井幹事 御指摘がありましたような議論を否定しようという考えは全く持っておりませんので,そういう周辺にも目配りをしながら充実した議論をしていただくことは,大変結構なことではないかと思っております。その上で,最終的に要綱として何を盛り込むかということになりますと,なんらかの仕分けが必要になるかもしれませんけれども,繰り返しになりますが,是非とも議論はしていただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 それでは,まだ総論にも御意見はあるかもしれませんけれども,あわせて商法との関係についての御質問,御意見もお受けしたいと思います。 ○山下委員 結論的には,商法との関係につきましては,4ページの(関連論点)の下にまとめられておりますように,現段階では商法の内容にもかかわるようなことも検討するということでよろしいかと思いますが,この検討の仕方次第では,例えば事業者とか消費者という概念が民法に出てくるということでありますと,今の民法と商法が前提としている関係とはかなり違ったものになります。この辺りで具体的な規定をどうするかというのは,立案作業の問題というよりは,やはり基本法の基本的な内容,性質ということにかかわってくると思いますので,商法の内容にも影響が及ぶということになっていくようなことでありますと,その段階でまた商法の在り方というのを法務省としても御検討いただく場を用意していただきたいということでございます。   商法として今何か今後の商法がどうあるべきかというのは,商法の方ではおよそそういうことがまだ進んでいない状況でございますので,またこちらの部会の審議の状況を見ながら商法の研究者の方でも研究していくことにはしておりますけれども,そういう状況の変化に対応して柔軟にいろいろ御対応いただければと思っております。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでございましょうか。 ○神作幹事 今,山下委員がおっしゃったことと私の考えは全く同様でございますけれども,私からは1点,やや細かな,技術的な点かもしれませんけれども,商法と,それから債権法の改正にかかわる論点といたしまして,商法の規定の中には様々なパターンで絞り込みをしています。例えば商人が「平常取引をする者から営業の部類に属する契約の申込みを受けた」場合ですとか,あるいは単に「営業の部類に属する契約の申込みを受けた」場合でありますとか,単に「営業の範囲内」というように,商法の規定の中でも商人間の取引あるいは営業の範囲内の取引,営業の部類に属する取引等の様々な概念でその適用範囲を画している場合がございます。もしそういった規定を債権法に一般法化する場合には,全く制約をつけないで取り込む場合には,これはほとんど問題がないのではないかと思いますけれども,商法典において先ほど申し上げたような絞り込みをしているときに,例えば事業者の概念を民法に入れた場合において,更に事業者の一定の行為について適用範囲を絞る必要があるときに,どのような概念を使うのか,という問題があります。事業者という概念だけですべてが恐らく片がつくわけではなくて,更にそれに加えていろいろな概念の絞り込みを行うための新たな概念を創設する可能性がある,という点だけ一言付け加えさせていただきたいと思います。 ○岡(正)委員 前半の議論とちょっと重なるのですが,やはり事業者同士のルールと市民同士のルールは違うのではないか,そこに普遍的なルールを見つけ出すのは難しいのではないかという頭がありまして,今の商法もそういう観点から一定の事業者同士の,プロ同士の取引について特則を置いているとすると,やはり今後もそういう,全部民法に取り込むのではなくて,事業者同士のプロのルールというのを分離する必要があるのではないか。それは議論していけばよろしいので,結論はこれで結構なのですが,質問としては,ほかの国の民法の中に,事業者同士のルールも全部取り込んでいる民法が多いのか,事業者同士のプロのルールというものをやはり外に出しているのが多いのか,その辺の他の国の状況などをもし御調査済みであれば教えていただきたいと思いました。 ○鎌田部会長 数だけで何かが決まるわけでもないとは思いますけれども,幾つかの立法例がありますので,また,その問題が議論の対象になったときに,きちんとした形で資料を出していただくということでよろしいでしょうか。 ○岡(正)委員 はい,結構です。 ○鎌田部会長 ほかによろしいでしょうか。   よろしければ,消費者契約法との関係についても御質問,御意見の対象にしたいと思います。ここも当面の対応の案は5ページの下3行以下に記されているところでございますけれども,御質問,御意見等ございましたら,お出しください。 ○松本委員 商法はできて100年もたっているので,かなり成熟しているから,今更発展途上ですなんて恥ずかしいことは言えないと思うので,民法に一般法化するとか,あるいは引っ越しするというのは論理としてはあり得るかなと思うのですが,消費者契約法に関しては,まだできて10年もたっておらず,発展途上のものなので,商法と同じような次元で議論するのはちょっと不適切かなという気がいたします。   消費者概念を民法に入れるとすれば,一体それは何のために入れるのですかという話になってきます。もし入れるとすれば,理念規定,法律行為あるいは契約の解釈の指針を示す規定として,消費者契約法第1条にあるような,消費者契約を解釈する際には,情報の質及び量並びに交渉力の格差に留意をして解釈すべきだという規定を総則の冒頭の方に置くというのは大変意味があると思うのですが,それ以上に,消費者契約法の特定の事業者対消費者についてのルールを切り取ってきて入れるために,消費者とは何ぞや,事業者とは何ぞやというのを定義として規定するとすれば,それは相当時期尚早だろうと考えております。   他方で,一般法化して規定できるような,例えば不実表示のようなものについては,特に消費者,事業者という定義は不要なわけですから,それは一般ルールとして民法の方できちんと規定すれば,そこに完全に包括される消費者契約法の規定はあるいは要らなくなるかもしれないです。しかし,消費者契約法は差止請求権の問題と連動しておりますから,その要件でもあるという点を考えると,一般法化してしまうと,今度は差止めに使いにくくなるというような弊害が出てきて,差止めとの関係をどう考えるのか。一般法化すればもう差し止めることができないというような議論もあり得なくはないと思うので,その辺との整合性を考える必要があるということ。それから,一般法化にあたって文言も一般化すると,消費者契約法の方がより具体的な表現を使っているような部分について,ケースによっては非常に適用しやすい場合が,一般的な文言になるとそれが入るのか入らないのか争いが生じるといったことによって,解釈的には逆行するようなリスクがもしあるのだとすると,それは不適切かなという感じがします。そのあたりは,もともとこれは消費者契約法にあって,こういう文言なのだから,ここは当然カバーした上で広げた解釈がされるべきだというコンセンサスができれば余り問題はないかなと思いますが,差止めとの関係は相当考慮が必要かと思います。 ○岡田委員 松本委員を前にして恐縮なのですが,相談現場にいる者としては,消費者関連の,特に特定商取引に関する法律と消費者契約法には,不実告知など,全く同じ趣旨であるものの,要件等が違うという規定もあるのです。相談員は,まず特商法を使い,その次に,消費者契約法を使い,そして民法を使う,この3段で考えていくのです。一方で,いわゆる消費者保護という部分で民事ルールがほかの業法に全部入っているかというと,それも入っていないという部分で,もし民法の中へ,消費者契約法のうちの民事ルールの基本的な部分が入るとすれば,それは我々は歓迎したいと思うのです。   それともう一つは,消費者問題というのが最近ものすごく複雑になっているのですけれども,まだまだ法曹界のすべて方々が消費者関連の法律に詳しいとは限らないという問題があります。法科大学院でも先端展開科目の中に消費者法が入っているのですけれども,おまけ的な感じで,消費者法を勉強しなければ法曹界に行けないというものではないものですから,消費者契約法の規定が民法に入ることによって,法曹を目指す皆さんが勉強していただける,皆さんに知ってもらえるとなると,将来法曹界をしょって立つ方々にも消費者の契約というものに対して認識してもらえるということになり,これは大変大きいのではないかと思っています。いろいろな問題があると思うのですが,民法に入ることによって,今申し上げたようないい面と,逆に民法自体が複雑になって,我々の手に負えないようなものになると,これも困るなという問題もあり,いい面と悪い面の両面があるのかなと思っています。 ○大村幹事 岡田委員の御意見は非常に貴重な現場の御意見として伺いました。今後の審議の中で生かしていくことになるのだろうと思います。   その前の松本委員の御発言についてですけれども,差止請求権との関係とか,あるいは従前の解釈との関係とかについて十分留意する必要があるとの御指摘も本当にそのとおりだろうと思って伺いました。   もう一つ,議論の仕方についてなのですが,これは前の(2)の「商法との関係」にもかかわることなのかもしれないですけれども,松本委員がおっしゃったのは,民法の中に一般化される規定があってもよかろう,そういうものについてはよろしかろう,しかし,それ以外の規定について当然に民法に取り込むのだということではなかろうということだったと思います。ただ,それ以外の規定の内容についても,一部を一般化するのならば,残りについても,どこに置くかにかかわらず,このような内容が望ましいという議論はあるように思うのです。これは先ほど山本敬三幹事もおっしゃったことですが,関連して議論する以上は,民法典の中に取り込まないとしても,密接な関連があるものについては議論をすることはあってよろしいのではないか。一般法化されない規定を民法典の中に置くか置かないかというのはその先の問題なのではないかと思って伺いました。   先ほど,商法とも関係するかもしれないと申し上げましたけれども,4ページの(2)の(関連論点)の中で,事業者という概念を使う規定を設けるべきだという結論になれば,その規定を置くべき場所は民法である可能性もあると書かれておりますけれども,これも事業者概念を使った規定を置いたとして,その規定の置きどころが民法典になるのかならないのかというのは次の問題なのだろうと思います。ですから,規定を議論するに当たっては,事業者概念を使う規定というのを議論することも妨げない,それから,消費者概念というのを使う規定も妨げないこととする。その後で,民法典の範囲がどこまでかということを考えるというふうに2段に分けて考える方がよろしいのではないかと思って伺いました。 ○鎌田部会長 今整理していただきましたように,この資料でも(2),(3)と(4)を分けております。民法の改正を検討していく中で,関連する商法上の諸制度,消費者契約法上の諸制度について議論の対象に含めていくという問題と,最終的にそれを商法,消費者契約法の中にとどめておくのか,民法に取り込むのかというのは少し分けて議論した方がいいということでこのペーパーも出ておりまして,松本委員の御提案も,議論の対象にすること自体がけしからんというお話ではなかったと受け止めております。 ○松本委員 5ページの(3)の書き振りだけですと,一般規定化できるものについてはどうしましょうかという議論ですから,それは民法の方に入れた方がいいと思いますが,ただ,その場合,差止めとの関係をどうするのかという部分を考えないと駄目なので,場合によっては並列するというのもあり得ると思います。   他方で,(4)の方の趣旨がどこまでを射程に置いているのかちょっと分からなかったのですが,今言ったような引っ越しの議論が,ぱっと見た限り入っていないので,ちょっと余分なことを言ってしまったかもしれないのです。ただ,余分なことを言ったことの意味は,5ページのところで,消費者という概念を入れたらどうかという議論の実益はどこにあるのかという点で,消費者契約法の個々の条文を引っ越しするのでなければ,何のために消費者という概念を置くのですかということになって,あえて必要だとすれば,解釈指針として必要だと思います,ということです。(4)の趣旨が,他の特別法にある一般規定ではないところのルールを引っ越してくるべきかどうか,そして,そうなれば,消費者,事業者という定義が民法に必要になりますねというふうに論点を立ててもらえればもう少し議論しやすいわけですが,(4)は必ずしもそうではないですよね。一般規定化することによって特別法から抜けた部分をどうしますかという問題提起のように読めるのですが。 ○筒井幹事 ただ今の松本委員の御発言との関係で(4)をもう一度説明いたしますと,その冒頭から「現在は特別法に置かれている規定について,それと同内容の規定を民法に設ける」と書きましたのは,平たく言うと,規定をそのままの内容で動かす,規定の置き場所だけを変えるという意味であります。規定を動かすという平易な言葉で御議論いただければ,それで結構なのですが,私どもの立場としては,消費者契約法の改正をこの部会で議論しているのかという誤解を招きかねないので,それを慎重に避けていることが明らな表現を選んだということであります。つまり,ここでは民法典の在り方を議論していただきたいので,今は消費者契約法に置かれているものと同じ内容の規定を民法典に置くのが民法典の在り方としてふさわしいということになるとすると,その結果として論理的に消費者契約法の規定が不要になる可能性があると表現させていただいたわけであります。 ○松本委員 分かりました。 ○山野目幹事 5ページ,6ページでそれぞれ(3),(4)として御議論いただいている内容について意見と要望及び若干の確認のお願いがございます。   意見でございますけれども,5ページの一番下のところで,事業者,消費者等を要件とする議論も許容されてよいのではないかというこの資料の提案に賛成申し上げますとともに,それと平仄を合わせる形で,6ページの本文(4)の最初のところにある,先ほど「移す」という一言で筒井幹事がおまとめになったことですが,特別法に置かれている規定について,それと同内容の規定を民法に設けるべきであるという議論もまた許容するということを方針としては御確認いただきたいという意見を申し上げます。その趣旨は,これは内容的に議論し始めると,既にここでの議論がそういうものになりつつあると思いますが,現在,消費者契約法の中にある規律の中で,消費者契約であるという制約要件を課しているものを,その要件を外して民法に移そうとするのが5ページの(3)でありますし,その要件を存置したまま,規定の場所のイメージとして,場合によっては民法の方に置こうかという議論の可能性が問題になるのが6ページの(4)であると考えますが,このどちらもあり得るものとして議論は許容していただきたいというふうにお願いいたします。   ここから先は,内容にわたる部分もありますが,私の意見としては,消費者という一定の状況に置かれた市民の一つの典型的な形態について民法典が論及するという姿はあってよろしいのではないか,むしろ望まれることであると考えますから,そのこと自体について議論はこの後長く続くのだと思いますが,この時点では排除しないでいただきたいと思います。   関連して,要望でございますけれども,今のように申し上げましたが,しかし,今日は4ページ,5ページ,6ページとまたがって,許容される,許容されるという大変寛大な御提案なのですけれども,いつまでも許容していると,多分個別のところでばかり議論されることになりかねないと予想します。しかし,消費者ないし事業者という概念を民法が用いることになるかどうかというのは,そのような個別の規律の当否の問題も一方でさることながら,民法典の在り方という,より本質的な問題に関係している部分がございますから,今日入り口で具体的な規律の案を見ない段階でそれを議論するのは重いかとも思いますが,常にそのことに留意して,どこかでまたまとまって議論させていただく機会があるというようになるというふうな,審議日程の御考案に当たっての要望を述べさせていただきます。   その上で,最後に1点確認なのですが,何回か「論理的には不要になる」という言葉が出てきます。その含意は様々なものがあると思いますが,すべてではないにしても,一つのこととして,先ほどから松本委員が御心配になっておられるように,例えば消費者契約法に現在ある規律が,単に民事上の法律行為の効力を左右するだけではなくて,差止請求の要件として機能していること,その他のこととの関係でどうなるのかといったような問題意識もあって,民法に置くことになれば,論理的には不要になるけれども,消費者契約法の規定がどうなるのかは,更に,この場所なのか,あるいは別の場所なのかは分かりませんけれども,別途検討されることが大いにあり得るというふうな意味も含んでおられるのだろうと理解いたしました。最後の点については,もし事務局の方で何かお考えがあったら御教示いただきたいと思います。 ○筒井幹事 ただ今,確認ということでお尋ねをいただきました,「論理的には」と繰り返し書いてあることの意味は,山野目幹事から御指摘をいただいたとおりであります。論理的には不要になるけれども,しかし別の考慮があり得るのではないかという御意見が恐らくあるだろうということを想定した記述であります。 ○鎌田部会長 あと,先ほどの筒井幹事の御説明の中にも出てまいりましたし,御議論の中でもそういうものに言及されていると思いますが,このゴシックの部分では,完全に包摂するようなものを典型例として挙げていますけれども,それに限って,そのことだけを許容しているわけではないということでございますので,特別法との関連の仕方も,それに応じて多様なものがなお許容されているのだというふうに確認しておきたいと思います。 ○高須幹事 今,山野目幹事の御発言とそれに対する御回答で大分分かってきたのですが,要は,移す,引っ越しをするという議論の中では,引っ越しのどさくさのなかで,なくしてしまうものがあるのではないか,そのようなことがあってはいけないと思っております。つまり,消費者法に入れていたものを民法に移してくるときに,移しそびれるというか,どこかでなくしてしまうものがあってはいけないなと考えております。要するに,消費者法の赤字という言葉を私はよく使わせていただくのですが,消費者法で扱っていたものが民法に来たら,その趣旨とか目的とか,あるいは効力みたいなものが弱まってしまってはいけない,こういうようなことが留意点の中にはあってしかるべきかなと思います。そういう意味で,この議論をすること,あるいは場合によっては,議論をした上で,それを消費者法に置くのか,民法に置くのかということも次の問題として考えていくということも決して反対するものではなくて,むしろ賛成なのですが,二者択一ではなくて,先ほど,松本委員からも並列という言葉が出たと思うのですが,場合によっては消費者法にも民法にも置いておく,取りこぼしをしない,そういう観点も決して捨て去るものではないということで今後の議論をさせていただければ幸いかと思っております。 ○鹿野幹事 基本的には,私も,5ページの一番下の方に書かれておりますとおり,事業者,消費者等の文言を用いて議論することも許容されるということに結論的に賛成でございます。   消費者契約法の規定を民法に取り込むかどうかについてはいろいろと御議論もあると思うのですが,先ほど私が発言したこととの関連も含めてさらに発言させて頂きますと,この問題は,民法と消費者契約法との関係だけにとどまる問題でもないように思うのです。要するに,民法の在り方が問われているともいえると思います。より具体的に言うと,現在の消費者契約法の中には意思表示の取消し,契約条項の無効,および差止めに関する規定があるにすぎません。しかし,民法の中に消費者とか事業者という概念を取り込むとすれば,例えば,継続的な契約において,契約期間の途中で解除をするということにつき,もしかしたら消費者側からの解除と事業者側からの解除の要件が違ってしかるべきだという議論も出てくるかもしれません。今挙げた具体的な例自体については,私も未だ詰めて考えたわけではありませんし,御賛同いただけるかどうか分かりませんけれども,そのような可能性を含め,事業者,消費者との間における取引まで念頭に置きながらいろいろなルールを検討するということは必要なのではないかと私は思っております。そのような思いから,先ほど,事業者概念や消費者概念の取り込みを検討すべきだという趣旨の発言を,先行してさせていただいた次第です。 ○中井委員 消費者契約法の中にある私法実体規定,とりわけ取消しに関するところと無効規定に関する事柄ですが,弁護士会の方でも議論をしておりますので,御紹介だけさせていただきたいと思います。   まず,この部会では積極的に議論していただきたいと考えています。これは,現在の消費者契約法の中の私法実体規定が十分であるとは思っていない,更に充実させる必要があるという認識に基づく意見です。ただ,仮にその充実した方向性がここで承認されたとして,それをどういう形で法典化するのか,立法化するのかについては,実は弁護士会の中でも非常に意見が分かれています。   その中で,危惧をする意見を御紹介しておきたいと思います。1点目は,引っ越しや一般法化することによって,今,消費者契約法にある目的規定がなくなるなり,それについて解釈指針が見失われるのではないかという危惧です。2点目は,先ほど松本委員からもありましたように,現在,消費者契約法というのは発展段階にあるのですが,発展段階にあるものを民法の方に引っ越しすることによって,固定化なり,発展性が阻害される,そのリスクを非常に強く感じるという意見です。3点目は,借地借家法とか労働契約法といった他の立法を今回は検討対象とせず,民法に取り込まない方向にあるわけですが,それとの整合性を欠くのではないかという意見です。4点目は,民法に一部を引っ越しすることによって,消費者契約法の中にある私法実体規定が分断化される,消費者法の中では更に特商法等の中でも私法実体規定がありますが,分断化が進むのではないか,これにより弱体化が進むのではないかという意見もあります。また,5点目に,一般化については,民法という一般私人間の規定の中に入ることによって,いわゆる情報力格差や交渉力格差ということを基準にした解釈より平準化されることによる保護の弱体化,こういうリスクを感じるという意見もあります。   そういうところから,積極的に,より充実する方向で検討を進めてほしいという意見ですが,同時に強い危惧の表明もありますので,今後の審議に当たっては,御配慮いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 大変様々な観点から有益な御意見をちょうだいしましたが,そういったことに十分配慮しながらも,事務当局が当面の対応として提案しているような形で,議論の対象にすること自体は御承認いただけたものと理解してよろしいでしょうか。配置の問題等については,当然,その事柄の性質に応じて,その段階で慎重に審議をするという進め方にする。そういうことで事務当局としても本日の段階はよろしいですか。 ○筒井幹事 はい。 ○岡(正)委員 その方向に異存は全くございませんが,労働契約法と独禁法の観点で一つ発言させていただきたいと思います。   実務家というのは,先ほど申し上げましたように,事業者同士の,プロ同士の取引,それから事業者と消費者の取引,それから事業者と労働者の労働契約,それから,独禁法の観点で言うと,中小業者と大企業,企業間で優劣の差のある取引,そういう前提で見ていますので,そういうところにかなりルールの違いがあるのだろうと思うのです。消費者契約だけがかなりクローズアップされていますけれども,やはり労働契約というのはかなり大きなものですし,中小企業を保護する,優越的地位の濫用に関する規定であるとか下請保護法とか,そういうのも民法に少し関連するところで厳然としてございますので,最近はやりの言葉では,B to BとかB to Cとか,そういうのを踏まえた普遍的なルールをつくる必要があるのでしょうけれども,独禁法だとか労働契約法も消費者契約法と劣らず念頭に置きながら議論をさせていただきたいと思います。 ○松本委員 議論自体は私もいいことだと思うのですが,(4)の書き振りが余りにも引っ越しを想定したような,つまり,現在は特別法に置かれている規定について,それと同内容の規定を民法に設けるべきであるというのは,正にそのまま切り取ってきて引っ越すというイメージなので,これはやはり非常に限定的なのではないか。例えば今の消費者契約法は非常に不十分な規定なので,もっと豊富化する必要がまずあると思うので,そういうインプットをこの場でどんどんするというのは意味があると思うのです。すなわち,今の特別法に置かれている規定が不十分であることを前提にして,もっとたくさん民事ルール化すべきではないかという議論をまずする。その上で,それを特別法の充実という方向で行くのか,それとも,既存の特別法にはない必要なルールのみを民法に入れるのか,あるいは既存の特別法に書いてあるルールについても,新しく入れるルールとともに民法に入れるのかという選択肢がその次のステップで多分出てくるのだろうと思いますので,今ある消費者契約法にのみ限定をした議論というのは余りにも狭過ぎると思います。まさに固定化の議論につながってしまうので,そうではなくて,もっと広い観点から,消費者契約について必要な,あるべき民事ルールは何かということを議論していただく必要がある。何回かやる必要があると思います。 ○鎌田部会長 ただ,消費者契約法の改正提案をこの部会からすることはなかなか難しいわけで……。 ○松本委員 この部会の前提は,あるべき民法論ですよね。あるべき民法像として消費者契約に関するルールというのは必要なパーツであると考える方がいらっしゃるわけだから,そうであればこういうルールが必要だという議論が出てくるわけなので,最終的な受け皿としては,消費者契約法の充実強化の方に行くという方向性も十分あるし,そうでないのもあるということです。今の消費者契約法が十分だという前提に立った議論は大変誤った議論になると思いますから,ゼロから消費者契約についてあるべき議論をこの場で考えた上で,特別法と民法にどう配分するのがいいかということをお考えいただければ大変有り難い。 ○鎌田部会長 御趣旨は十分理解いたしました。それと,おっしゃるように,(4)に書かれていることが,少しターゲットがピンポイントになっているのですが,その点に重点があるのではなくて,筒井幹事の御説明にありましたように,むしろ従来はこういうどの法律のどの部分に置くかという意味での編別問題,配置問題は法制審議会では余り正面から審議の対象にしなかったけれども,今回の部会においては,こういう課題についても踏み込んで議論することの御理解をいただきたいという,そちらの方を中心に御提案があったと理解をしていただければと思います。 ○松本委員 ですから,あるべき消費者契約に適用されるべき民事ルールは何かという視点で御議論をいただきたい。既存の消費者契約法の条文をこういじりましょうという議論では大変狭いということです。 ○鎌田部会長 御趣旨は十分理解いたしました。 ○新谷委員 1点確認させていただきたいのですけれども,先ほどもちょっと出ましたが,労働契約法との関係でございます。今,松本委員からも,あるべき論という論が出てきましたけれども,先ほどの筒井幹事の御説明ですと,この場は特別法についての審議をしない,対象外とするとお聞きいたしました。そのときに,松本委員も今言われたように,特別法の今の条文について個別に見ていったときに,この審議会として何らかの御意見をつけられるといった場合に,労働契約法については,前回申し上げましたように,労働政策審議会という公,労,使の委員会の中で合意形成を図るというルールがございますので,その関係をどういうふうにとらえておけばいいのかを確認させていただきたいと思います。 ○筒井幹事 ただいま御質問がありました点ですけれども,まず,労働契約法そのものの内容をどうこうするということをこの部会で議論するのは不適切であろうと思います。それとともに,ただいまの新谷委員の御発言は,労働契約法に何か波及するような問題についても,審議すべき場は,この部会ではなくて,厚生労働省の審議会などの,しかるべき場所ではないかという御趣旨もあるのだろうと思います。労働契約法は,政府の所管で言いましても厚生労働省の単管に属するものであり,かつ,厚生労働省の審議会における審議を経て,制定された法律ですから,そのことには十分配慮しなければいけない。そのことは全くおっしゃるとおりであるし,当然のことであろうと思っております。 ○三上委員 今のところは,特別法と民法との配合で,どちらかというと,どこに置くかといいながら,特別法の規定を民法にどこまで反映させるか,持ってくるかという議論を中心にしておられたと思うのですけれども,逆に,現行民法にある規定を特別法に持っていった方がいいのではないかという議論も別に封印するわけではないということを―例えば貸金等根保証契約に関する規定なんていうのは,どういう規定になるかにもよりけりですが,少なくとも今の民法の「人」概念の中では異質な規定だと思いますから,例えば,例えば,個人の包括根保証だけに関連する規定を現行民法に置いておくのが妥当かという議論も別に排除するわけではないということを,確認させていただきたいと思います。 ○筒井幹事 議論は排除しないというのは,全くそのとおりです。   1点だけ付け加えておきたいのは,先ほども「(4) その他」のところで説明したことですが,最終的に規定の置き場所がどこかというのは,従来,法制的な問題だというふうに整理されてきて,例外はあったと思いますが,必ずしも法制審議会の要綱の中にそのことを盛り込まないことの方が多かったのではないかと思います。そういった従前からの経緯もありますので,最終的にどうするかということはまた改めて御相談させていただきたいと思います。先ほど申し上げましたのは,あくまで議論はしていただいて結構ではないかということであるということを申し添えたいと思います。 ○道垣内幹事 労働契約法に関しての御質問に対する筒井幹事の返答に若干気になるところがあるのです。労働契約法自体がここでの検討対象ではないということは明らかであろうと思います。しかしながら,民法の規定を変更することによって労働契約に影響を及ぼすというときに,それはどこの所管なのかという話なのですが,労働契約自体が民法の契約法,債権法に乗っている概念ですから,それは民法改正のすべてのものが労働契約に関係してくるのですね。したがって,労働契約法の解釈,運用ないしは労働契約の規律に影響を及ぼすからここが何もできないということになると,ここは何もしないということになるわけで,それは必ずしも返答として妥当ではないのではないかという気がいたします。 ○筒井幹事 私の言葉遣いが不正確であったかもしれませんが,労働契約に影響を与えることは当然あり得るだろうと,私は思っております。一般の契約法をいじれば労働契約にも影響があると思います。私が申し上げたかったのは,労働契約法の条文,その文言を改めなければならないような改正については,この審議会では基本的に謙抑的であるべきだろうということを申し上げたつもりでございました。 ○松本委員 質問ですけれども,労働契約法は厚生労働省の単管だから手をつけないとおっしゃいましたが,消費者契約法は法務省と消費者庁の共管だから手をつけるということですか。余りいい説明だとは思えないのですが。 ○筒井幹事 単管という点だけを強調したように聞こえたので御質問をいただいたのだと思いますけれども,単管であれ共管であれ,政府内部での所管の問題はありますし,また,これまで政府のどの審議会で改正の議論をしてきたかということもありますので,そういった点にも配慮していかなければならないと考えております。しかしながら,そのことが在るべき民法改正を考える上で必要な議論を封ずることには直ちにつながらないだろうと思いますので,その点は改めて確認しておきたいと思います。その上で,最終的な要綱何を書き込むのかといった点については,また別の考慮も必要になるということを申し上げたかったわけであります。 ○中井委員 消費者契約法をここで審議することについての弁護士会の意見を先ほど申し上げました。弁護士会としても,松本委員がおっしゃったように,ここで取り上げるその意味は,正に消費者契約における民事実体法の規定をいかに充実させるかという点にあると考えております。現在の規定では不十分だという認識があり,充実する方向での議論が必要と考えています。それは,民法の適用対象の中でいかに消費者契約が多いか,その規定が民法の中にないというのは,やはり不十分だろうと思うからです。ただ,でき上がりについては,本当に民法がいいのか,消費者契約法典がいいのか,若しくはレファレンス法というのがあるようにも聞きますし,場合によっては併存型があるのかもしれませんが,それについては次の課題ではなかろうか,と思います。 ○鎌田部会長 それでは,恐縮ですが,残りの時間の関係もございますので,部会資料4の4について事務当局から説明をしていただきます。 ○筒井幹事 それでは,部会資料4の6ページの後半からになりますが,「4 判例法理等を踏まえた規定の明確化について」の部分を説明いたします。   この部分は,本日の前半で議論していただきました「改正の必要性」という総論的な課題と,「個別規定の見直し」という各論的な課題とを架橋するような話題として,本日の会議で御議論いただきたいと考えたものであります。   また,この4の部分で取り上げました事項も,3の「特別法との関係」と同様に,今後の審議で繰り返し話題になるであろうと予想しているところですので,事務当局における今後の資料づくりの参考という意味でも,この機会に皆様の御意見,御感触を伝えていただきたいと思いました。よろしく御協力をいただきたくお願いいたします。   まず,「(1) 総論」の部分ですが,その第1パラグラフは,本日前半で御議論いただきました「改正の必要性」の一部を取り出しまして,それを今後の作業指針として掲げたものであります。総論的にはそれほど御異論のないところだと思いますが,念のため御確認いただきたいという趣旨でお尋ねするものであります。   第2パラグラフでは,そのような作業指針に基づいて各論的な検討を進めていく上での留意点をお尋ねしております。そして,その一例ですが,条文数が著しく増加するような改正は避けるべきであるという指摘があることを,ここでは取り上げております。判例法理等を踏まえて,現在の裁判実務で実際に機能している規範をできる限り条文に書き込んでいくという作業方針をとるといたしますと,必然的に条文に盛り込む情報量が増えることになりますが,このことと「分かりやすい民法」という目標との間には緊張関係があるのかどうか,この点をどのように考えたらよいのかということが,ここでお尋ねしたいことであります。   次に,資料6ページの下の方の「(2) 各論」について説明いたします。   ただいま御説明いたしました,条文に書くべき情報量が増えることと「分かりやすい民法」との関係という問題は,総論的にも議論が可能なテーマであると思いまして,問題提起をさせていただいたところですが,しかし,もう少し各論的な課題を取り上げた方がイメージ豊かに議論ができるという面があるとも思います。そこで,前回会議でお配りいたしました部会資料2の「検討事項の一例」を再度引用いたしまして,これらの各論的なテーマを題材とした御意見も,是非お聞きしたいと考えました。   この「検討事項の一例」の記載内容について,少しだけ説明をさせていただきます。   まず,「01 意思無能力の意義と効果」という項目ですが,意思能力を欠く状態で行われた法律行為の効力が否定されることは,確立された判例法理であるとともに,私的自治の原則とか意思自治の原則といった基本原則から導かれる民法上の重要な法理であると思います。しかし,そのことは民法上に明記されてはおりません。こういった点について,積極的に明文規定を設けるべきかどうかという点は,今回の民法の見直しの基本的なスタンスにかかわる問題であろうと思いますが,委員・幹事の皆様はどのような感触をお持ちでしょうか。   次に,「03 錯誤の効果」と「05 代理権の濫用」ですけれども,これらは,判例法理を明文化するかどうかという点では同類の検討項目と言ってよいのだろうと思いますけれども,しかし,条文の情報量が増えることと「分かりやすい民法」との緊張関係というテーマで考えてみますと,やや異なる面があるように思います。つまり,錯誤の効果の方は,現行法では「無効」とされているところを「取り消すことができる」等と改めるかどうかが問題となるだけですので,情報量が増えるという意味では,それほど影響はないのだろうと思います。これに対して,代理権の濫用のところは,確立された判例法理であるとしても,現行法には存在しない規律ですので,新しい条文を一つ書きおろすことになるのだろうと思います。このような差異を踏まえて具体的に考えていったときに,代理権の濫用について明文規定を新設することが支持されるのかどうか,このあたりの感触をお尋ねしたいと思います。   ほかにも「検討事項の一例」の中から幾つかの項目を引用しておりますが,私からの説明はこの程度にとどめたいと思います。しかし,他の項目も含めまして御意見をいただきたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,ただいまの説明を踏まえて御意見をちょうだいしたいと思います。各論の方の個別の問題に深入りしていきますと本当の各論になりますので,これはあくまで一つの例示であるということで,こういったことを踏まえて,主として総論的な部分での御議論をいただければ本日の段階ではよろしいのではないかと思います。御自由に御発言をいただければと思います。 ○野村委員 確立された判例法理という,その概念なのですけれども,非常にあいまいなところはありまして,こういう考え方自身は大きく反対ということではありません。しかし,こういう形で条文を変えていきますと,従来の反対説,あるいは少数説を切り捨てることになって,判例として確立されているのだからいいでしょうということなのだろうと思いますけれども,判例の方は,場合によっては変更されるという可能性もあるわけですよね。今後の解釈の変更を封ずるのがいいのかどうかということで,条文として議論するときに慎重に議論していただきたいと思います。先ほど鎌田部会長から,個別の各論に入らないようにということだったのですけれども,民法第95条の議論は確立されたとまで言い切っていいのかなという気はしないでもないと思います。 ○鎌田部会長 確立の程度にもいろいろあるということかもしれません。 ○松岡委員 今の野村委員の御意見と似ている部分もありますが,仮に議論が確立されていると評価できる場合であっても,なお反対意見がありえます。また,判例はやはり現行法の枠に縛られた議論をしているので,立法による合理化を考えると,考えられる選択肢の幅はもう少し幅は広がる可能性があると思います。その点で,慎重な議論と申しましても,そこにはいろいろあって,保守的な意味での慎重さを重視するだけではなく,立法による合理化・刷新も考えた検討も念頭に置いて議論すべきだろうと思います。   全体として申し上げれば,最初に総論のところで方向を決めつけるのではなく,それぞれの問題状況ごとに適切な対応方法は異なってくる可能性がありますので,議論の段階では,先ほどお示しいただいたように,あまり縛られずに広く議論をする姿勢をとっていただいた方がいいのではないかと思います。 ○大村幹事 判例法理の明文化の点が議論になっておりますけれども,それと並んで,現行民法の規定で必ずしも明確でない基本的な考え方の部分は,判例法理はないけれども,不文の原則になっていて,法律家はみんなそれを前提にしているということだろうと思います。これらを書きこみますと規定は増えることになりますけれども,こういうものを書くかどうかということもここで検討の対象になっていると考えてよいかどうかということを確認させていただきたいと思います。「判例法理等」と書いてある「等」はそういうことなのかなとも思いましたけれども,その点も含めてお願いいたします。 ○筒井幹事 ただ今御指摘いただいたとおりです。そういうことも含めて御議論いただきたいと思っております。ここでは判例法理等の「等」に含めて読んでいただいたというので,それで結構かと思います。たまたま今回は,判例法理をサンプルに御議論いただくことを提案したという趣旨ですので,それ以外のことももちろんこれから御議論いただければと思います。 ○道垣内幹事 松岡委員のおっしゃった,判例法理自体が現行法の文言を前提にしているというのはおっしゃるとおりなのですが,筒井幹事が最初に御説明されたときには,今後事務局として最初の資料を作っていくときにどういう方針で臨むべきか,それもあるので是非議論をというふうにおっしゃったわけでして,そうなると,確立した判例法理,対義的ですけれども,それを基準にして明文化をするという形のたたき台が出てくるのは全然おかしくないことだろうと思います。少数説は切り捨てられるのか,ということですが,それはすべてそうでして,すべての条文について全員が一致するというのはあり得ないので,この場でも少数説は切り捨てられていくわけですね。それで,学説で少数説があるからといって,これは切り捨ててはいけないというのは妙な話でありますので,私は,一般論として,出発点として確立された判例法理があると,それを分かりやすい形で提示をするようなたたき台が出てくるというのは,それでいいのではないかという気がしております。 ○三上委員 ちょっと私が口を挟むにはおこがましい話ですが,今の道垣内幹事のお話にもありましたけれども,民法を文語体から口語体に直すときに,基本的には条文の中身は変えないとしながらも,例えば民法第478条には無過失が入っています。あれも別に反対論が全くなかったわけではないと思うのです。実際,総則を勉強するときに,例えば,第93条は善意無過失,第94条は善意,第96条は善意無過失とか,司法試験の択一問題がためのような条文の文言と学説の分化があって,それは,私としては学説に反対があるとか,判例がどうであるという以前に,条文に要件としては明記すべきだと考えておりますので,一足先に,善意無過失と判例理論を明定されたことで影響を受けた者としては,こういう解釈になっていたその部分を明確にするのが今回の改正の目的ではないかと考えております。 ○松本委員 今の議論とも関連するのですが,口語化のときにかなり言葉を置き換えられたり,取消しについて,学説の一部の考えにのっとって「撤回」という表現が使われたりというのがありましたよね。あれもいろいろな議論があったはずなので。だから,そういう口語化と称して実質的な改正を,オープンな議論を抜きにやるよりは,ここで判例について,この判例は民法に定着化させるのに適切かどうかということをオープンに議論するというのは,前回の改正よりは大変公平な議論だから,やればいいと思います。 ○山本(敬)幹事 ただいま議論されている判例法理との関係については,意見は出尽くしているところかと思います。判例法理があり,それで実務が動いているという現実があるとするならば,やはりそれを踏まえる必要がある。そして,その上で,そのとおりで本当によいのかどうかということを改めてここで議論すべきである。いずれにしても,そのかぎりで,判例法理を無視することはできない。それを確認しておけばよいのではないかと思います。   それと同時に,4で述べられていることのもう一つの問題かもしれませんが,どの程度条文化していくかという問題もあると思います。これについては,判例法理に限らないと思いますけれども,分かりやすくしていけばするほど条文数はどうしても増えてくる。それをどうするかという問題だと思います。これについては,一般論としてはなかなか言いにくいことですけれども,二つ問題があります。  一つは,一般的な規定が具体的な場面でどう適用されるのかが必ずしも明らかではない場合に,疑義を晴らすために,できるだけ,こういう場合にはこうなる,こういう場合にはこうなるということを書いていくことが考えられます。これについては,一般論として言えば,やはり実際的な必要に応じて,書くべきものは書き,プリンシプルさえ示されていば分かるものは書かないということになるだろうと思います。いずれにしても,この点については,そのような一般論以上のことは,なかなか言いにくいところです。   もう一つ,私が重要だと思っていますのは,一般的なプリンシプルだけでよい,それ以上書き込むとかえって分かりにくくなるという意見に対して,そもそも基準が示されないと使えないという問題もあるということです。今日具体例をお出しになっているものですと,例えば意思無能力について,「意思能力がなければ,その意思表示ないし法律行為は無効とする」という規定だけが置かれましても,何が意思無能力なのかということについて何の指針も示されていませんと,すべて解釈の問題にゆだねられることになります。そのほか,ここには挙げられていませんが,例えば,「意思表示は,到達したときから効力を生ずる」という規定を置くことについても,同じような問題があります。どのような場合に「到達」が認められるのか。これは現行法でもある問題ですけれども,広く受け入れられる指針が確定できるのであれば,それは書く方が望ましいと思います。そういう基準や指針に当たるものは,実際に言葉にして書くのはなかなか難しいという面はありますけれども,やはり分かりやすさを目指すならば,そのようなものは可能な限り言葉にし,定式化できるよう努力してみる必要があるということを,強調しておきたいと思います。   2点にわたりましたが,以上のとおりです。 ○中田委員 今の山本幹事の御意見と似たようなことを少し違う角度から申し上げたいのですけれども,恐らくここで検討していけばいくほど明確化が強調されて,詳しい規定になっていくと思います。それ自体はもちろんいいことではあるのですけれども,やはりそれに伴う代償もあるわけでして,全体のボリュームが大きくなることによる分かりにくさ,あるいは,詳しくなるがために,頻繁な改正を伴うことによる時間的な面での分かりにくさというのもあると思います。ですから,山本幹事のおっしゃることはもっともなのですけれども,常に明確化への力学が働きがちですので,今日,筒井幹事から御指摘いただいた緊張関係というものを常に意識しておく必要があると思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○岡(正)委員 弁護士会でも,条文数が多くなることについての抵抗を持つ方は多くいらっしゃいます。条文数を2倍以上になるような結果にしたら,おまえはもう弁護士会に帰ってこられないぞという人もいるぐらいでございます。それに加えて,弁護士には会社法のトラウマというのがございまして,会社法の条文の読みにくさ,分かりにくさに対して,あんなふうになるのではないだろうなというような声も強うございます。しかしながら,今,中田委員のおっしゃったようなことも踏まえて,是非条文の言葉が分かりやすく美しいといいますか,ナポレオン民法典のように,日本語を勉強するのだったら新しい民法を読めと言えるような,分かりやすい,きれいな日本語で最後まとめていただければと思います。 ○松本委員 民法の条文が少ないか多いかは議論があると思いますけれども,実際は模範六法や判例六法といった判例付き六法があれだけ売れているということは,民法の条文だけではやはり授業に出ても先生も使えないし学生も使えないし,弁護士は使えるのかもしれないですけれども,というようなところがあるのであって,現実の判例付き六法というのは,次の条文が数ページ先まで出てこない場合もあるとか,ある意味では大変見にくいですよね。そういう状況が果たして望ましいのかということを考えますと,せめて模範六法の判例が半分ぐらいになるような改正をしていただきたいといいましょうか,なければ一番いいのかもしれないですけれども。ああいう判例付き六法がないと多くの部分で使えないというのはやはり不幸な状況ではないか。かといって,判例の必要がゼロになるはずはないのですけれども,もう少し現状よりは少なくてもいいような状況にできた方がいいかなと思います。 ○鎌田部会長 この部分では,判例法理等を踏まえて明確化する方向というのはあり得る方向である。事務当局としては,確立した判例法理というものがあるとすれば,それを一つの手掛かりにして,こういうものが考えられるという素案を作る。しかし,それに我々が従う必要は別にないというようなことは御確認いただけたのだろうと思いますが,特にその点は御異論ございませんね。   ただ,それを審議していった上で,そのことが分かりやすい文章になっているのか,あるいは全体として透明感をなくすような煩瑣なものになっていないか,これはこれでまた御審議いただくというふうなことで進めていかざるを得ないのだろうと思っておりますが,この項目に関連して,事務当局として,議論の前提として本日御確認いただきたい内容としてはそのようなことでよろしいですか。 ○筒井幹事 はい,それで結構です。ありがとうございました。 ○鎌田部会長 ほかに特に御意見ございますでしょうか。   本日予定をしていた議事は以上のとおりでございますけれども,なお若干の時間の余裕もございますので,こちらで用意した議題とは直接関係しないけれども,この機会に発言しておきたいというふうなことも含めて御発言がありましたら,御発言ください。 ○岡(正)委員 1月,2月と,債務不履行,契約解除,危険負担を検討するということになっておりますけれども,弁護士会の中で,ここが最も抽象的といいますか,理屈っぽいといいますか,勉強しづらい,理解しづらいという声の高いところでございます。実はこういう抽象的な規定は後の方にすべきだという声もあったぐらいでございます。先ほど言いそびれてしまったのですが,是非この部会資料については,分かりやすい資料を早めにいただければ助かります。よろしくお願いします。 ○鎌田部会長 事務当局は,この点について,よろしくお願いいたします。 ○筒井幹事 はい,承知いたしました。 ○中井委員 今の点についての若干の補充ですが,具体的な日程で先ほどの別紙の1と2を併せて見れば,1月26日と2月23日に債務不履行の責任等,契約の解除,危険負担について,検討をすることになり,恐らくあわせた資料がその前に一括していただけるという理解をしております。その後,3月9日に,検討課題(2)として,債権者代位権と詐害行為取消権を検討するとしますと,この間は若干日が短いように思うのです。そこで,例えば債権者代位権と詐害行為取消権,ないしその次々回の多数当事者の債権・債務について,詳細資料版の前に,項目を想定された資料づくりが始まっているのではないかと思うので,そういう項目立てだけのものでも例えば第4回以前に送付していただけないか。項目を見ることによって議論の対象を一定想定して,我々としても,準備といいますか,心の準備も含めてさせていただきたいと思っています。できる限り資料を早くいただきたいという趣旨です。そういう意味では,来年いっぱいの審議項目を明らかにしていただけたことは大変有り難い,有意義なことだと思っています。この点については感謝申し上げます。更に細項目というのでしょうか,中項目というのでしょうか,こういうものを少しずつでも前倒しで御開示いただけると有り難いということを申し添えたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○筒井幹事 具体的にいろいろな工夫を込めた御提案をいただきまして,ありがとうございます。どのようなことなら対応可能であるのか,これから試行錯誤を繰り返すことにならざるを得ないと思いますが,精一杯のことをしていきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。   ないようでしたら,予定よりも少し早いですけれども,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   それでは,最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 本日は長時間にわたってありがとうございました。次回は,既に話題になっておりましたが,来年1月26日火曜日,時間は1時半から5時半まで,会場は本日と同じく,この第1会議室です。   それから,次回日程とはまた別のことで御連絡を差し上げます。資料の公開に関係することです。この部会の会議が終わりますとすぐに,配布資料などを公開するための事務手続を行うことになりますけれども,若干の時間が掛かっております。11月の第1回会議のときにはおよそ2週間ぐらい掛かりましたでしょうか。もっと早くなるように事務手続を進めていきたいと思っております。一方,議事録につきましては,既に第1回会議の議事録の速記原案を各委員・幹事にお示しして,手を入れていただきましたが,締切りまでに必ずしも出そろっておりませんでした。第1回会議の分は初めてということもありましたので,個別に御連絡を差し上げて,出していただくようにお願いをいたしましたが,今回の第2回会議の分からは,会議が続きますので,締切りを過ぎましたら自動的にそのまま議事録として完成したものとして公開させていただくことにいたしますので,その点につきまして,大変恐縮ではございますけれども,ご理解いただきますようよろしくお願いいたします。そういう対応も含めて資料の早期公開に努めていきたいと思います。年末年始を挟みます関係で,この部会の配布資料の法務省ホームページへのアップは年明けになりそうですけれども,できる限り早めに掲載するように努めてまいりたいと思っております。   以上でございます。 ○中井委員 今の筒井幹事からの御説明は,法務省としての公開,ホームページのアップのことをおっしゃったかと思いますが,例えば部会資料,今日であれば資料3,4ですが,この席で議論されたわけですから,この資料は今日をもって開示しても構わないという理解でよろしいのでしょうね。 ○筒井幹事 そのとおりです。この会議が終わりましたら,コピーを配っていただくことも一向に差し支えありません。 ○岡(正)委員 この長い議事録を皿のように読む人は4回目以降ぐらいからはないと思うのですが,1回目だけはかなり注目している人がおりまして,1回目の議事録はいつごろアップされそうでしょうか。 ○筒井幹事 年明けになってしまいます。申し訳ございません。年明けのできるだけ早い時期にと思っております。 ○岡(正)委員 では,次回以降もやはり1か月以上かかるようなイメージでしょうか。 ○筒井幹事 何とか1か月でアップできるよう努めていきたいと思いますが,いろいろな兼ね合いがございますので,若干時間が掛かる場合もあるかもしれません。 ○鎌田部会長 では,よろしくお願いいたします。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日は御熱心な御審議を賜りまして誠にありがとうございました。 −了−