法制審議会民法(債権関係)部会 第4回会議 議事録 第1 日 時  平成22年2月23日(火)  自 午後1時34分                        至 午後6時02分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)               議 事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第4回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。   (関係官の自己紹介につき省略) ○鎌田部会長 配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 お手元の配布資料目録を御覧ください。まず,事前送付の資料としては,前回の会議でも使いました部会資料5−1及び5−2を引き続き今回の会議でも使わせていただきます。この資料の内容は,前回と同様に,後ほど関係官の大畑から説明させていただきます。   次に,本日は,委員等提供資料として,まず,中井委員が所属する大阪弁護士会から,別冊NBL131号の「実務家からみた民法改正―『債権法改正の基本方針』に対する意見書」を御提供いただきました。大阪弁護士会の意見書は既に第1回会議の際に御提供いただいておりましたが,その後,若干の加筆修正を経て別冊NBLとして公刊され,その際に,第1回会議でお配りしたものとはページ数が変わるなどしておりました。そこで,今後の議論の中で引用する際の便宜などを考慮いただきまして,今回,大阪弁護士会の御厚意により,改めて公刊物を配布していただけることになりました。大阪弁護士会の関係者の皆様の御尽力に対しまして,改めて厚く御礼申し上げます。誠にありがとうございました。   次に,もう一つの委員等提供資料として,当部会の山野目幹事から「填補賠償の賠償額算定基準時に関する考え方」と題する2月17日付けのペーパーを事務局に御提供いただきました。前回の会議における山野目幹事の御発言を詳細に補充していただいたものであり,大変有益なものであると思いましたので,山野目幹事の御了解を得て,本日配布させていただきました。本日の会議では,時間の関係で,このペーパーの御説明をいただいたり,意見交換をしていただく余裕はありませんけれども,今後の検討作業の中で有意義に活用させていただきたいと思います。具体的な活用の方法につきましては,事務当局において引き続き考えたいと思っております。大変有益な資料の御提供をいただき誠にありがとうございました。 ○鎌田部会長 配布資料のうち,委員等提供資料につきまして,関係する委員・幹事の方から何か御発言がございますでしょうか。―よろしいですか。   それでは,本日の審議に入りたいと存じます。   まず,前回の御審議に引き続き,本日も「民法(債権関係)の改正に関する検討事項(1)」について御審議いただく予定です。   本日の審議の進行予定でございますが,部会資料5−1「民法(債権関係)の改正に関する検討事項(1)」を御覧ください。本日は,この部会資料5−1の10ページ目,「第3 契約の解除」から始めまして,この部会資料5−1について最後まで御審議いただきたいと考えております。   さらに,具体的な進行予定としましては,前回と同様に,大まかに四つの固まりに分けて御審議いただくことを予定しております。まず一つ目が,「第3 契約の解除」のうちの「1 総論」から「3 「債務者の責めに帰することができない事由」の要否」まで,ページ数で言いますと10ページから13ページまででございます。次に,二つ目が,「4 債務不履行解除の効果」から「6 複数契約の解除」まで,ページ数で言いますと13ページから15ページまで,ここまでで「第3 契約の解除」が終わります。そこまでを第2の固まりといたします。三つ目が,「第4 危険負担」,ページ数で申しますと15ページから17ページでございます。四つ目が「第5 受領遅滞」及び「第6 その他の新規規定」まで,部会資料5−1の17ページから最後19ページまででございます。   そして,具体的な審議の進め方につきましては,前回の御審議と同様に,ただいま申し上げました固まりごとに,それぞれ,まず最初に事務当局から部会資料の該当部分の説明をしていただき,その後,説明がありました部分について,必要な場合には適宜その範囲を区切りながら御意見をお伺いしたいと考えております。   それでは,審議に入りたいと存じます。   まず一つ目は,「第3 契約の解除」のうちの「1 総論」から「3 「債務者の責めに帰することができない事由」の要否」まで,10ページから13ページまでにつきまして御審議いただきます。まず,事務当局に説明をしてもらいます。 ○大畑関係官 御説明いたします。   まず,第3の「1 総論」の位置づけは前回と同様です。2以降に記載しました個別論点以外の検討すべき論点や債務不履行解除に関する規定の見直しに当たり留意すべき点,見直しの方針等々,債務不履行解除,契約解除の見直し全般についてお気づきの点を幅広く御議論いただきたいと思っております。   次に,「2 債務不履行解除の不履行態様等に関する要件の整序」ですが,ここでは,債務不履行解除の帰責事由以外の要件の見直しについての大きな方向性を提案しています。すなわち,債務不履行解除に関する第541条から第543条について,単に現行規定を維持するのではなく,条文と判例法理のそごを是正し,規定の不備を補うなどの要件の整理を行う方向で検討してはどうかという提案です。この方向性について御意見をいただければと思います。   そして,次の(1)から次のページの(5)までに記載したものが要件の整序の具体例になります。このうち,(1)と(2)は,便宜上条文番号に応じて二つの項目を立ててはいますが,いずれも共通する問題を扱っております。すなわち,現行民法は,条文の文言上,解除が成立する債務不履行の範囲について特段の限定をしていないため,わずかな債務不履行であっても解除できるかのように読めてしまいますが,判例はいわゆる付随的義務違反による解除を否定していますし,学説は,一部不能について,履行可能な部分の履行だけでは契約の目的を達成できない場合に限り解除が認められるとしており,いずれについても解除が認められる範囲を限定しています。この条文と判例及び学説の間のそごを是正すべきではないかという問題です。まずは,このようなそごの是正を目指すという方向性につきまして御意見をいただければと思います。   なお,この論点は,判例法理等の明文化という意味で,これ単体でも問題となり得る論点ではありますが,近時の比較法的な潮流を受けまして,後ほど御説明いたしますが,債務不履行解除の帰責事由不要論とセットで論じられることがあります。すなわち,解除の要件として債務者の帰責事由を不要としつつ,債務不履行の客観的要件を限定することでバランスを図るという議論です。そこで,帰責事由の要否という論点との関連性も念頭に置いていただきまして御議論いただければと思います。   そして,債務不履行解除の成立範囲を限定するという判例,学説の方向性を仮に採用する場合,それらを条文に取り込む方法として具体的にどのような要件を設定すべきかという点が次に問題になります。これは詳細版の64ページ以降に具体的に記載がある問題です。   要件設定の方向性について,あえて大きく分けますと,二つの方向性があり得るように思います。一つは,債務不履行の程度や結果に着目する方向性であり,「重大な不履行」あるいは「契約の目的を達成することができない」などという要件を提案する立場はこのような観点に立っているように思われます。もう一つは,債務自体の種類,質に着目する方向性であり,要素たる債務の不履行などの要件を提案する立場はこのような観点に立っているように思われます。もちろん,詳細版に記載した要件はあくまで一例であって,これら以外の要件もあり得るものと思います。そこで,具体的な要件としてどのようなものが望ましいかについて御意見をいただければと思います。   次に,(1)の(関連論点)に記載した問題ですが,解除が認められる範囲を限定する要件は,比較法的に見ると主に無催告解除の要件とされていることが多いようです。そこで,仮にこのような要件を設定した場合,催告解除の規定を維持するか,維持するとしても成立範囲を限定する要件との関係をどう整理するかという点が大きな問題になると思われます。この点は,実務に与える影響という意味で重要な論点になろうかと思いますので,実務において催告解除が持つ意義などを踏まえまして御意見をいただきたいと思います。   そして,実務的には,このようにして設定された要件の立証責任の分配も重要な問題になると思われます。裁判実務におきましては,付随的義務の違反であることや契約の目的を達成できることなどはいずれも抗弁と位置づけられていると指摘されています。このような立証責任の分配を維持すべきか,あるいは取引内容の特徴等に照らして例外を設けるべきかといった点につきまして御意見をいただければと思います。   さらに,(1)の,民法第541条の要件を限定するという問題は,履行遅滞につきまして無催告解除を認めるかという問題を含むものとも言えます。すなわち,現行民法におきましては,履行遅滞において解除をする場合,民法第541条に基づき原則として催告が必要とされていますが,仮に第541条について解除の成立範囲を限定する要件を設けた場合,履行遅滞の場合にその要件が認められるのであれば,直ちに無催告解除を認めてもいいのではないかという問題意識が成り立つものと思います。履行遅滞について無催告解除の余地を認めるかという点について,実務上のメリット等も踏まえまして御意見をいただきたいと思います。   以上が(1)と(2)に共通する問題です。   次の(3)は,(1),(2)の論点が整理された後の発展的な論点という側面があろうかと思いますが,不完全履行による解除の規律と履行遅滞や履行不能のように何の履行もない場合の解除の規律を区別せず,一元化するという現行法の解釈を維持する方向性を提案するものです。つまり,解除の要件設定につきましては,(1),(2)の御議論を踏まえまして,様々な要件設定が考えられますが,どのような要件を設定しても,履行遅滞や履行不能,こういう事態を処理する規律は設けられることになろうかと思います。そこで,いかなる要件設定がされたとしても,追完遅滞は履行遅滞に,あるいは追完不能は履行不能に準じて処理できる規律を維持することを提案するものです。その上で,追完の遅滞や不能の規律を直接的に読み取れる条文を設けるかにつきましては,その次に別途問題になるものと思われます。これらの点について,現時点における御意見をいただければと思います。   (4)は,主に履行期前の履行拒絶による解除の問題です。履行期前の履行拒絶につきましては,これを損害賠償請求権の要件とするという論点について前回御議論いただきましたが,今回は,解除の要件とすることについて,実務への影響等を踏まえまして御意見をいただければと思います。   次に,(5)は,債務不履行解除の要件を整序する場合でも,債務不履行の態様を問わない包括的規定を設ける方があらゆる債務不履行態様を規律できて望ましいため,そのような方向性で条文を整序することを提案するものです。このような方向性で検討してよいかについて御意見をいただければと思います。   そして最後に,3は,債務不履行解除の帰責事由要件の要否という論点です。現行法下の伝統的学説は,過失責任主義の観点から帰責事由を必要としてきました。これは部会資料のA案の立場です。これに対し,学説上古くから,解除は不履行をした債務者に対する制裁ではなく,不履行に遭った債権者を契約の拘束力から解放する制度であるから,債務者の帰責事由を要件とする必要はないという指摘がされていました。また,近時,債務不履行解除の成立要件を重大不履行等に限定する立場から,そのような契約の拘束力からの解放を認めるべき客観的状況がある以上,主観的要素を考慮することなく解除を認めて差し支えないなどとも主張されています。B案がこれらの指摘,主張に沿った考え方で,比較法的なすう勢にも合致する立場と言えるかと思います。現行実務の傾向としましては,詳細版の78ページ以降に記載がありますが,一つの判例分析の結果として,無過失だけを理由に解除を否定した判例はないのではないかという研究成果が発表されるなどしています。これらの見解を踏まえまして,帰責事由の要否について御意見をいただければと思います。   なお,履行不能について帰責事由を不要とした場合,危険負担との適用範囲が重複するため,その調整を検討する必要が生じます。この点につきましては,関連する論点ではありますが,議論のボリューム等を考慮しまして,後ほど危険負担の部分で御議論をしていただければと考えております。   また,前回御議論いただきましたとおり,損害賠償の帰責事由につきましても過失責任主義を維持するかという論点がありましたが,その論点の結論と,この解除の帰責事由についての論点の結論については,それらを一致させることが理論的に明快な一つの立場と言えますが,必ずしも両者の結論を一致させる必要はないと言われることもあります。すなわち,解除は制裁ではないから過失責任主義を採用する必要はないが,損害賠償は制裁の要素があるから過失責任主義を維持するという考え方があり得るということです。このような点も踏まえながら御意見をいただければと思います。   説明は以上です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明がありました部分について御意見を伺いたいと思いますが,まず「1 総論」について御意見を伺った後に,2と3についての御意見を伺いたいと考えております。1の「総論」の部分につきまして御意見がありましたら,お伺いいたします。   特に御発言がないようでしたら,2以下の個別論点の議題に進ませていただきまして,その中で総論にかかわる御発言があれば御意見をいただくということにさせていただきますが,よろしいですね。   では,続きまして,2の「債務不履行解除の不履行態様等に関する要件の整序」及びこれと密接に関連します3の「「債務者の責めに帰することができない事由」の要否」について,あわせて御意見をお伺いしたいと思います。2のうちの冒頭の記載部分あるいは個別論点とされております2の中の(1)から(5)についての御意見でも結構ですし,3についての御意見でも結構ですので,御自由に御発言ください。 ○潮見幹事 私の意見というのではなくて,先ほどの御報告に対して1点だけ,ちょっと御説明が混線しているのではないかと思ったところがございますので,話をさせていただきます。   部会資料5−1の13ページの3の,債務者の責めに帰すべき事由あるいは帰すべからざる事由の要否にかかわることですが,契約解除に帰責事由が要るかどうかという問題と,債務不履行を理由とする解除の要件として過失が要件に挙がるかどうかという問題は異質な問題です。過失責任主義をとるかとらないかということがここで問題になっているよりも前に,債務不履行を理由とする解除で,帰責事由という枠組みで考えることがいいのかどうかということが問われているわけです。ここで,帰責事由が要るという考え方をとっている人たちは,債務不履行の結果を債務者に負わせるがために,そのための要件として帰責事由というものが必要だという考え方に立っている。この場合,その帰責事由って一体何なのか,過失なのかというのは,次の話です。それに対して,債務不履行解除で帰責事由など要らないという考え方をとる人たちは,今のような枠組みで解除をとらえること自体に批判的な目を持っておりまして,解除というものは契約からの解放あるいは契約の拘束力からの離脱,解放ということを目的とした制度であるから,そのような制度として解除を理解する以上は,帰責事由という枠組み自体をとることがナンセンスだと言っている。契約の拘束力からの解放が目的であるわけですから。ということで,帰責事由というものは要らないということと,過失というものが要る,要らないということは,問題としては異次元です。   なお,1点だけ,今の御説明について補足することになるのかもしれませんけれども,実際に,御説明にあったように,現在の我が国の裁判例の中で,解除を認めるかどうかという場面で過失が問われたというケースは,詳細版にもあります渡辺達徳教授の研究にも示されているように,基本的にないという状況であります。   いずれにせよ,この先の議論で,過失責任をとるべきだから帰責事由が要るのだとか,そういう間違った方向からの議論にならないようなことを希望しまして,冒頭で申し訳ありませんでしたが御発言させていただきました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。それでは,ほかの御意見。 ○岡(正)委員 解除の要件のところでございまして,そごを整序するという方向性には賛成でございます。弁護士会で議論しまして,3段階に分けて申し上げたいと思います。   まず第1段階で,無催告解除ができる場合と催告解除ができる場合と解除ができない場合,その三つがあるというのはいずれも分かるところで,それをどう条文化するのが一番分かりやすいかということで議論をしてまいりました。   第2段階でございますが,催告解除と無催告解除の要件を統一的に考える必要はないのではないか。現在の案では,重大な契約不履行だとか,契約目的不達成だとか,そういう一つの概念で無催告解除と催告解除の要件を統一して考えようという姿勢が見られますが,弁護士会で議論したところ,その二つは異質なものであって,統一要件をわざわざつくる必要はないのではないかという意見がかなり強うございました。そこまではかなり意見の一致を見たところでございます。   次の第3段階に移ると,まだ議論がいろいろあるところでございまして,今から私が申し上げるのは,第一東京弁護士会の委員会で出た考え方でございます。基本的には日本の現行民法及びドイツの新しい民法の考え方とよく似ていると思うのですが,まず,催告解除ができる,それが原則で,重大な契約不履行がある場合は無催告解除ができる。それから,軽微な不履行の場合には催告解除もできない。その三つの整理が最も頭にすとんとくるという人が大変多うございました。この考え方が,今のこの法務省のは,10幾つもあって考えるのが大変なのですが,最初のポイントは,無催告解除の要件として,重大な契約不履行とか,かなり重めの表現をとることはいいけれども,催告解除の場合に無催告解除と同じような重大な契約不履行要件まで要るというふうに考えるのは極めて違和感があるというところでございます。無催告解除の要件としての「契約の重大な不履行」という言葉にも抵抗を持つ人が多少いまして,今の民法のように例示でいいではないかという人もいました。まあ,それは小さな話です。一番言いたいことは,催告解除の要件と無催告解除の要件を統一的に理解するのはおかしいという考えが第1でございます。   それから,催告をしても解除できない場合があるというのは衆目の一致するところでございまして,その場合の外し方として,一弁では,軽微な契約不履行は除く,それでいいのではないかという説が多うございました。ただ,ほかの弁護士会では,重大な契約不履行でない場合は除く,そういう言い方でもいいのではないかという意見の方はいらっしゃいました。   まとめますと,無催告解除と催告解除は別立てで,統一の要件を設ける必要はないのではないかという点と,それから,催告解除の場合の例外要件として,軽微な契約不履行程度でいいのではないか,そういう考え方が一弁で強うございましたので,それを意見として申し上げます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○大島委員 まず,11ページの「(1) 民法第541条「債務を履行しない場合」の限定の要否」と(2)の「民法第543条「履行の全部又は一部が不能となったとき」の限定の要否」について意見を述べさせていただきます。   条文の文言と判例を合わせていくことについては異論はございません。そして,解除が認められる場面を規定する要件を設けることについても異論はございません。ただし,実務の現場では,債務者が納めた商品自体には問題がなかったのに,その商品に値札のバーコードシールがはられていなかったことを理由に,債権者が債務不履行を主張し,返品を求めたという話を聞いたことがございます。シールがはられていなかったことが,付随的義務違反なのか,重大な不履行,あるいは義務違反なのかは個別の判断になるのでしょうが,新しい規定の文言については,判例に基づいた考え方により,中小企業にも分かりやすく明文化されるように,慎重に御検討いただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○道垣内幹事 岡委員のおっしゃったことをもう少し確認をした方が今後の議論のためにもなると思うので,一言発言させていただくのですが,岡委員が御発言になったときの前提となっているのは,「重大な不履行」という概念と「軽微な不履行」という概念があって,真ん中に「普通の不履行」というのがあるという,そういう3段階で不履行を考えていらっしゃるということではないかと思うのです。だからこそ,重大であれば無催告でいいのではないかとなるのに対して,軽微だったら催告しても駄目ではないかとなるわけですね。そして,普通の不履行であれば催告をすればいいではないかとなる。しかるに,比較法的な動向うんぬんという話の中で出てくるような「重大な不履行」とか,マテリアル・ブリーチ・オブ・コントラクトとかといった概念は,岡委員がおっしゃっている「軽微な不履行」を除くもの,つまり「重大な不履行プラス普通の不履行」に対応する概念なのだろうと思うのです。そして,無催告解除というのは,現行民法上は,もちろん定期行為とかそういうのはあるわけですけれども,一般論としては存在しないわけでございますので,岡委員のおっしゃることが,現行民法にはない無催告解除という制度を極めて重大な不履行という場合には認めるという新たな立法をすべきであるという提案を含んでおっしゃっているのかということがまず気になるとともに,今後,「重大な不履行」という言葉を使うときに,コンセンサスがありませんと,「すげえ不履行」と考えている人と,「解除が認められるような不履行」ぐらいの軽い意味で使っている人といますと,多分議論が混乱すると思うのです。そこで,もうちょっと御説明をいただければという気がしたのです。 ○岡(正)委員 一つ目の,「重大」が「すげえやつ」なのかどうなのかということについては,弁護士会でも3分類,重大と普通と軽微があると考える人と,それから,重大と重大でない,二つしかないと考える人と真っ二つに分かれておりました。私は,語感的に言うと,ファンダメンタルはどうか知りませんが,日本語の「重大」というのは,やはり「すげえやつ」と普通は思うのではないかと思っております。   それから,二つ目の,今の日本民法にない無催告解除を認めるのかという点については,今の日本民法にある履行不能の解除,あれは無催告解除だと思いますので,そういう今の民法にある無催告解除を少し広げるというイメージで申し上げておりまして,全く新たなものを入れようという大それたことは考えておりません。 ○山本(敬)幹事 少し違う角度からですが,私も同様に岡委員に対して,趣旨の確認をさせていただければと思います。   先ほどのお話の中で,催告解除とそれ以外の重大な不履行を理由とする無催告解除は「異質である」と言われていました。その「異質である」ということの意味及び趣旨を確認させていただければと思います。特に,なぜ催告解除は異質なものなのか。どのような趣旨からそう考えられるのか。更に言いますと,催告解除が「原則である」というような言い方もされたかと思います。本当にそう言われたかどうかの確認と同時に,もしそう言われたとすると,なぜそう考えられるのか。それを御説明をいただかないと,趣旨が分かりかねましたので,まず確認させていただければと思います。 ○岡(正)委員 まず,催告解除を原則と考えるのかということについては,そう考えております。理由としては,実務上,基本的に必ずやるという実務があることと,それから,理論的なことはよく分かりませんが,やはり催告をして,向こうがどういう反応を示して,その中の関係といいますか,そういう中で,最後,解除できるかどうかというのを決断するのが圧倒的に多い実務ですので,その実務感覚から言っても,催告解除というのが原則形ではないかと,実務家の感覚としてはそう考えておるということでございます。   それから,最初は何でしたっけ。 ○山本(敬)幹事 基本的には同じようなことですけれども,なぜ両者を異質なものと考えるのかということです。 ○岡(正)委員 やはり催告解除の場合には,どこかに書いていましたけれども,いろいろやり取りがあった末の,そこでどうかという判断をすることになると思います。それから,無催告解除のときには,実態上,たまにはあるかもしれませんが,基本的にはそういういろいろなやり取りがない,どんとやり取りがないところで解除できるもの,そこにかなり実務的には違う面があると感じました。 ○山本(敬)幹事 そうしますと,更にお伺いしたい点があるのですが,今のようなお話ですと,契約の重大な不履行を要件とした上で,それを判断する際の要素として,催告したが履行がされないということを組み込むことには必ずしも反対されないのではないかと思いました。催告解除を本当に「異質」なものだと考えるとしますと,その趣旨はいろいろあり得るかと思いますが,例えば,歴史的には,とりわけ商人間の取引で,迅速かつ画一的に契約から離脱する可能性を確保するという趣旨があったと見ることができます。このようなものですと,両者は「異質」である,したがって催告解除は別立てにする必要があると言われるのは分かるわけですけれども,今の御説明ですと,そのようなものはお考えになっていないということでしょうか。 ○岡(正)委員 全く異質ということではないと思います。催告して無反応というのがかなり重要な要素として判断材料になる類型とそういうものがない類型を無理して一つの要件にまとめることはないのではないか。特に反発というか,実務家に抵抗があったのは,催告解除の場合にも重大な契約不履行,これは「とてもすげえ」というイメージで使っている,その実体要件が加わるとすると,非常に解除が狭まるという危惧感を言う意見が多うございました。 ○中井委員 今回の資料の整理ですが,まず解除の実体要件として,それが重大な不履行なのか,契約の目的を達しないのか,それとも債務の質によるのか,解除できる場合の実体的要件をまず議論して,それを前提とした上で,関連論点として,そういう考え方をとった場合の催告要件をどう位置づけるべきか議論するという建て付けになっています。この議論の仕方自体に,実務に携わる者としては違和感があるというのが正直なところです。   それはなぜかですけれども,まず,実務では,解除するために必要な解除権の発生が明確でないと困る。いったん解除の意思表示をしたにもかかわらず,それは要件を充足していないから解除の効果が発生しないというのでは困ります。実務の手続としては,催告をして相当期間が経過して解除権が発生し,解除しています。つまり,確実に解除しようと思うならば,催告しているわけです。そこで解除の確実さを確保している。言葉をかえて言うならば,実体的な要件からのアプローチをしているというよりも,解除するときには手続的な要件からアプローチする方が結果がはっきりする。手続的要件というのは,つまり催告です。催告をしたけれども債務者が履行しない,それなら解除します,というわけです。軽微な不履行については,たとえ催告して不履行であっても解除できないという一群の判例が形成されていますが,それは例外であって,催告があって,不履行があって,解除権が発生するというのが,実務的にはすっと入ってきます。   無催告解除をどういう場合に認めるかは,手続的アプローチをとったとき,催告をしても意味がないような場合,そのような場合は債権者に催告をさせる必要はないわけですから,無催告解除でよい。手続的に考えて,催告を中心に考えると,そういう説明になるのではないか。全く同じ場面を実体的にアプローチしているのか手続的にアプローチしているのかという違いかもしれませんが,実務的には確実に解除したいというところからの発想として,そういう手続的アプローチ,催告を中心に考えているということを申し上げたいと思います。 ○鹿野幹事 今の御発言と少しずれ,またもとに戻るかもしれませんが,一言申し上げたいと思います。先ほどから,重大な不履行と催告解除とがどういう関係に立つのかについての議論がありました。それは,仮に重大な不履行を要件とするならという前提のもとで行われているわけですが,そこで使われている重大な不履行という概念の内容についての認識が違うために,議論がかみ合っていないのではないかという気がするのです。あるいは,重大な不履行という概念が,結果がとても大きいという場合だけを意味するものとして捉えられているのかもしれませんし,あるいは,解除制度はあくまでも契約の拘束力からの解放という制度であるという認識に基づき,その契約への拘束を債権者にもはや期待できない場合を広く含む内容のものとして,重大な不履行という概念が使われることがあるのかもしれません。このいずれかで全然意味合いが違ってくるのではないかという気がするのです。ですから,その点を整理して議論をした方がよいのではないかと感じましたので,発言いたしました。 ○木村委員 今,契約解除の話をしているのですが,我々,経済活動をやっていく中で,契約解除というのは,最後の最後の手段みたいな話であり,契約というのはやはりしっかりと履行しなければいけないし,また,してもらわなければならない。契約を結ぶときというのは,利害が一致して,しっかりとお互いの義務を果たしましょうということで,納得して契約を締結しているわけです。したがいまして,契約解除というのは,あくまでも最終手段といいますか,最後の最後の,もうどうしようもない場面で出てくる制度というふうにまず我々は位置づけたいと思っています。また,現にそうだと思っています。   そうすると,ある不履行が生じたときに,相手がどういう状況で不履行になったかどうかはともかくとして,履行できるのかできないのか,極力やってもらいたいという意味において,催告というのが非常に重要な意味を持ってくるのではないかと思います。先ほど中井委員がおっしゃいましたが,正に催告しても仕方がない場面,つまりどうやっても履行できないと,あるいは,これは催告しても,履行はできるのだけれども,あの人との関係においては信頼関係がないから,無理だと,こういうような場合は催告しても無駄ですので,催告はしない,こういう仕組みになるのではないかと思います。やはり契約というのは守るというのが大前提ですので,そういうような前提のもとでの制度づくりが必要であり,催告解除の制度は維持されるべきであると感じています。   また,判例の示すとおり,付随的な義務のように軽微な不履行は,契約解除の対象としていないということを条文上明らかにしていくことについては,我々実務の世界においても賛成です。その書き方として,「重大な不履行」という言葉が良いのか,あるいは「契約の目的達成が難しい」という言葉が良いのか,この辺は大いに議論をしていく必要があると思います。ただ,「重大」という言葉は,先ほどから議論されているように,非常に不明確な言葉といいますか,法律上なじむ言葉なのかという感じが少ししていまして,これはもっと分かりやすい言葉にする必要があるのではないでしょうか。そのためにいろいろと具体的な要件を書くというのも一つの手かとは思いますけれども,そうであれば,「契約の目的を達成できない」というような,既に民法の担保責任のところで使用されている言葉の方が,客観性がある程度あり,分かりやすいのではないでしょうか。そんな感じがしています。   今の段階でのお話は以上でございます。 ○潮見幹事 先ほど鹿野幹事の御説明にもありましたけれども,どうもお話を伺っていますと,特に実務家の先生方がお考えになっている重大な不履行という場合には,直前の木村委員の御発言にもありましたように,債務不履行があったということだけで既に契約目的の達成ができず,解除,すなわち契約からの解放を認めてよいという状況が認められる場面を想定されているような感じがいたします。最初の岡委員の御発言もたしかそれに近いものを言われたのではないかと,私自身は受け取ったところです。   そういう意味であれば,今の部分については,それは,直前の木村委員の御発言ではありませんが,重大不履行という単語を使うかどうかということは次の問題として,問題は,ここから鹿野幹事がおっしゃったところにつながっていくのだと思いますけれども,そうではない場面,つまり債務不履行が生じたのだけれども,それだけでは契約からの解放を認めるということには直結しないような場面で,解除は認められないのであろうかが問われたとき,そういう場面で問題になってきているのが催告解除の問題ではないでしょうか。問題はそこから先にあって,そうしたら,どういう場面で催告をして相当期間が経過したら解除が認められるというルールが適切なものと評価されるのかが問われるべきでしょう。山本敬三幹事が言われかけたところの核心は恐らくここではないでしょうか。もちろん実務でやっているというところの感覚の背後にある考え方というのをお聞かせいただければ非常に有り難いところですが,しかし,催告をし,相当期間が経過したならば解除が認められるのがどうしてかという理論を押さえておく必要もあります。一つの考え方としては,催告をして,相当期間経過して,それで履行しないというのは,その不履行の態様自体が重大であるから,それゆえに解除を認めるのだというのもあると思います。ただ,ここで,これは重大不履行だからという言い方をすれば,契約目的達成不能の意味での重大不履行とは違ったものが考えられていることになります。しかし,そのように説明しようと思えば,できないわけではない。要するに,催告に不応答ということが不履行の態様として重大だ,全体としても重大だという見かたです。それとも,山本幹事が言われたように,即時解放の利益というものを想定して,この観点から催告解除というものを考えていくこともありかと思います。仮にそうであれば,これを民法の一般ルールとして,履行が不可能な場合を除くおよそすべての場合を対象として,催告をすれば解除することが認められるという形でルール化することが果たして適切なのか,何か要件を加重する必要がないのかが問題となりましょう。あるいは,岡委員が言われかけたところになるのだと思いますけれども,催告をし,相当期間が経過して,しかしなおそれに応答しない場合に,一般的には解除は認められるのだけれども,これこれの場合には例外的に解除は認められないという枠組みもあるでしょう。ただし,その場合には,なぜその例外が認められるのか,例えば軽微な不履行であれば,いくら催告して応答しなかったからといって解除ができないということになるのはなぜなのかという点の説明が求められるのではないでしょうか。もとより,実際に条文をつくるに当たっては,最初の不履行自体が契約目的達成をできなくするから,それ自体で重大だから解除を認めるというパターンと,それ以外のパターンとして,催告という観点から解除へと進んでいくパターンを分けて観念して,後者について理論的にも正当化でき,かつ,実務的にも納得のいくような条文ができればいいのではないかと思ったところです。 ○松本委員 何人か既におっしゃっていることですが,本来の給付義務の不履行の問題と付随的な義務の不履行の問題はかなり質が違うから,これは議論しやすいと思うのです。マテリアル・ブリーチの「マテリアル」を「重大な」と訳すのは別の意味と思われる可能性があるから,「実質的」だとか,あるいは民法第570条,第566条にある「契約目的達成不能」の方の意味だと私は考えています。したがって,付随的な義務が契約目的にとって不可欠であれば,それはもはや付随的とは言わないのかもしれないけれども,契約解除につながるだろうし,そうでないようなものであれば損害賠償等で処理をすべき問題になるのだろう。その上で,それでは,契約目的を達成できないような不履行とは何かというところで,先ほどから出ている催告解除というのは基本的には履行遅滞の問題ですから,代金を払わない,品物を引き渡さないということ,これ自体は主たる給付義務を履行しないわけだから,とんでもないことなのですね。極めて重大なといえば重大なのだけれども,そうすれば,履行遅滞即解除かという話になってきて,有無を言わさず,1日でも支払いが遅れたら即解除,あるいは引渡しが遅れたら即解除ということになるのかというと,これは従来の実務との乖離が甚だし過ぎると思うのです。そうなると,従来,催告解除で処理されていた多くの事柄を一体どうするのだという,その答えが出てこないのですね,今までの議論を聞いていても。潮見幹事がおっしゃったように,催告をして,更に履行しなければ,そこで重大なというふうになるというロジック,説明の仕方があるのだろうけれども,必ずしも一貫していないわけですよね。給付との関係で,最初から給付がされていないという状態は変わらないわけですから。となると,実務家の方のおっしゃっているような二本立て論というのも現実的な解決かなと思います。「重大な」ということで一元化することによって,無理やり二つのタイプをともに「重大な」ということでくくってしまって,一貫しない重大性という要件でやるという形の処理でいくのか,中身に合わせて二本立てでいくのかということに結局はなってしまうのではないかという印象です。 ○西川関係官 消費者取引の現場の観点からのお願いなのですけれども,えてして消費者取引の場面だと,例えば銀行口座にお金が残っていないとかいうような事情に気づかず,うっかり履行を忘れてしまうみたいな場面というのは往々にしてあるわけでございます。そういう場合に,本当に催告なしで即解除みたいなことになると,非常に消費者に不利益が及ぶことがございます。そういううっかりミスを重大な不履行みたいに考えるのか考えないのか,そういう問題はあるかと思いますけれども,いずれにしても,現行の要件から催告を単に外すというようなことについては慎重な検討が必要なのかなと思っております。 ○高須幹事 今までいろいろ議論が出てきておりまして,私も少しずつ理解をしてきたところなのですが,やはり催告解除と催告を要しない場合の解除は別立てでいいのではないか。その場合の要件を,先ほど松本委員がおっしゃったように,「重大な」という言葉で一本化しなくても必ずしもいいのではないかというのが,やはり弁護士的な感覚といいましょうか,実務的な感覚からはなじむところでございます。結局,「重大な」という言葉ですべてを表現しようとすると,「重大な」という中にいろいろなケースがあります,無催告のときの「重大」と催告解除のときの「重大」は変わるのです,そういう形で,言葉を統一しておいて,中身をいわば相対化するというのも一つの手法だとは思うのですが,これはなかなか,こういうことを日ごろやっている人でないと分かりにくいところだと思うのです。そういう意味では,むしろそういう場合,つまり,催告を要する場合と要しない場合については別な言葉を使って表現した方がはるかに分かりやすいのではないか。先ほど来の言い方をすれば,「すげえ場合」とそうでない普通の場合とを,「重大な」で無理に一本化しなくてもいいのではないかということをやはり実感として持っております。それは結局,立法するときには言葉を大事にしなければならない,法律をつくるというのも文化的な作業なのだろうというところから,日本語を大切にして,やはりいろいろな言葉を考えていくべきなのだろう,ほかの国でもそうなのではないか,ということを考えております。今教えていただいた中でも,マテリアルという言葉とファンダメンタルという言葉が使われている。さらに,「ささいな」というのでしょうか,マイナーという言葉も使われているというようなことも聞いております。ですから,英語の表記の中ですら,条文に当てはめる言葉も何種類かある。だとすれば,日本語でここの問題を考えるときでも,やはり幾つか言葉を慎重に選んで考えていくという作業をしてもよいのではないか。できればそういうところも大切にして検討を加えていきたいと思っております。 ○山野目幹事 木村委員から御注意をいただきましたように,この「重大不履行」という言葉は気をつけて使わなければいけないと考えますし,差し当たり用いるということでお許しをいただきたいと思いますけれども,冒頭に岡委員がおっしゃったことの私なりの理解を感想のような形で受け止めさせていただきながら,2点ほどコメントを申し上げたいと思います。ほかの弁護士の委員・幹事の先生方がおっしゃったことも本質的にはかなり共通している部分があるのだろうと受け止めました。   1点目ですけれども,岡委員の最初の御発言で,重大不履行解除と催告解除を二つ置きましょうというふうに,かなり二つの異質なものを置くというお考えが色濃く出ていたように最初耳に響いたのですけれども,しかしながら,お話を伺っておりますと,この二つはどちらも不履行の重大性のあるなし,あるいはその程度又はその有無をだれが主張・立証するのかというようなことに着眼しながら,局面を分けて,それぞれにふさわしいものを位置づけようとなさっておられるわけでありまして,そういう意味では,確かに二つのものがあるのかもしれませんけれども,二つは,違うかもしれないけれども連続した,ハーモニーを持ったものとしてお考えであるように聞こえました。そのことは山本敬三幹事が一部お確かめになったことと関連するものであると考えます。決して催告解除を即時解放の趣旨の制度なのだというふうに,全く異質のものとして位置づけようとなさっているのではないと受け止めることが許されるのでありますれば,今後この重大な不履行解除ということについての議論をかみ合った仕方で進めていくことができるであろうというふうな,希望のようなものを感じた部分がございます。   それから,もう1点でございますけれども,しかし,更に実際的な御心配として,催告解除をする場面で,催告をして解除をする側が重大性そのもの,ないし重大性に関連する事柄を主張・立証しなければならない立場に置かれるというのは困るという御指摘もありました。中井委員が御指摘になったこともそれと関連している部分があるだろうと考えます。しかしながら,この点についても,催告解除の場面での重大不履行性をどちらが主張・立証する役割を担うことにするかということについては,これから幾らでも議論していく余地のあることでありまして,催告した側がそれを言うのではなくて,その事項が抗弁に回るというたてつけの仕方というのは十分に考えられるところであろうと思われますから,実務家の先生方にその感覚でも御納得いただけるような解除の議論をこれからかみ合わせて更に進めていくことができるのではないかというふうな感触も抱いた次第でございます。 ○深山幹事 正に「重大な」という言葉の持つファジーさから,冒頭道垣内幹事が懸念されたように,やや錯そうしている感も感じるところですが,なおかつ弁護士も4人それぞれ微妙にニュアンスが違う認識を多分持っていると思います。   私の頭の整理を申し上げますと,今,催告の位置づけというのが一つ大きな議論になっていますが,本来,解除というものが契約の拘束力を外す制度として,なぜそれがそういう効果が認められるのかという本質的な部分というのは,やはり債務を履行しないからというところが核心なのだろうと思うのです。そういう意味で言えば,催告をするまでもなく,もともと弁済期が決まっているにもかかわらず債務を履行しない,約束違反があるということがきっかけになって,では相手方を契約から解放しよう,拘束力から解放しようという解除という効果が出るというのが核心部分ではないのかなと思うのです。   ただ,常にそれでいいのかというと,しかし例外はあるのではないかというふうにも思います。それは極めて軽微な場面,軽微な違反の場合には,そのことで即あるいは常に,ささいといえども違反があるから解除というのは,これは制限すべきだということが一つ考えられます。では,催告というのは要らないのか。これは今,誤解を恐れず,本質は違反があるところだと申し上げましたが,結論としては,実は,私は催告が必要だろうと考えているのです。原則として必要だろうというふうに正確に言うとなりますが,それは,本質的には,催告をして,重ねて履行してくださいということを求めなくても,実質においては,解除という効果を認め得る実質はあるのだと思うのですが,やはり契約を解き放って白紙に戻すという,極めてドラスチックな効果を生ぜしめるその効果を考えると,それが軽微でない場合であっても,いきなり解除というドラスチックな効果を生じさせるのは,いわば法政策的によろしくない。先ほど,消費者がうっかりというお話もありましたが,そういう場面も含めて,本当に履行しないのですかという念押しのような意味合いも含めて,そういう手続要件をもう一要件加えるというのが,やはり解除という制度の在り方としてはよろしいのではないか。   さらに,その例外として,先ほども出ていましたように,催告をすることが意味がないような場合,例えば定期行為であるとか,そもそも履行が不能な場合,これは催告をすること自体に意味がないですから,その場合には無催告解除を認める。ある意味では催告解除の例外として無催告解除を位置づけて,そういう類型も用意する。したがって,私は,そういう意味では,催告解除と無催告解除は異質なものではなくて,催告に意味がないという状況の場合の例外的な適用場面ということではないかという理解です。   ついでにもう一言言うと,「重大な」という言葉は,使い勝手はいい面もあるのですが,議論が錯そうするような副作用もありますので,私は,先ほどの言い方をすれば,軽微な違反とそれ以外という2分類で頭を整理して申し上げているつもりでございます。 ○中田委員 今の深山幹事の御発言を伺っていて,私も共感するところがございます。それは,なぜ解除が認められるかという本質論との関係を問うておられることです。これまで出てきました催告の実際上の重要性というのはおっしゃるとおりだと思います。明確性であるとか,それによって交渉が持たれるとかということで,催告解除の持つ意義は当然あると思います。ただ,では,なぜ催告をすれば解除ができるのか,あるいは催告なしで解除できる場合があるのかという,解除の本質ということになりますと,これは今,深山幹事がおっしゃったことと一部重なるのですけれども,債権者を契約の拘束から解放してやるということと,それから,これは人によって重みづけの違いがあると思いますが,債務者に対する制裁という面をどの程度含めるかということが入ってくる,そのバランスのとり方だろうと思うのです。そのバランスをとる際に,催告解除と無催告解除とで全然違うということがあっていいのだろうか。むしろ,なぜ解除が認められるかという本質を考えることによって全体としての統一的な制度ができるのではないか。そういう意味で,深山幹事のおっしゃることに共感をいたしました。   最後に,言葉の問題につきましては,これはもちろん慎重に考える必要があると思いますけれども,現行法になれている我々の感覚とともに,新しい制度ができたときには,その言葉に対するなれというのも生じるでしょうから,それも考える必要があると思います。もちろん議論の整理は必要ですけれども,最初から「重大な」というのを外してしまうということもないのではないかと思います。 ○大村幹事 私も今の中田委員の御発言に基本的には賛成でございます。深山幹事がおっしゃったように,軽微でないものを解除に値するものとして切り出す。そのときの対象を指し示す言葉が何か必要で,それが「重大」でいいかどうかは分からないけれども,要るだろう。それが解除の正当化原理にもなる。そして,その原理に従って解除が認められる場合には,催告が要るものと要らないものがある。要らないものについて,先ほどの道垣内幹事の言葉で言うと「すごい」ということになるのかもしれませんが,その「すごい」というのを書く必要があるかどうかはまた別の問題かと思います。ともかく軽微なものでないという意味での重大な事由がある場合に,その解除が認められる。無催告については,その要件の中で判断すればいいのか,それとも更に何か書く必要があるのかという形で仕切ればいいのではないかと感じております。 ○道垣内幹事 大村幹事がおっしゃったところの最後の3分の1がよく分からなかった―分からなかったというか,必ずしも妥当ではないのではないかと思ったのですが,私は,深山幹事がおっしゃったことに基本的に賛成で,逆に言うと高須幹事のおっしゃったことに反対です。つまり,不履行が重大か否かという軸と催告をさせるかどうかという軸は恐らく違うのであって,中井委員がおっしゃったところと多分同じなのだと思いますけれども,催告をしても無意味な場合,つまり定期行為であって,催告して今更実現されても全く意味がないとか,不能なので催告をしても仕方がない場合であっても,例えば一部不能になったが,その不能になった箇所が軽微であるということになりますと,これは,催告させても意味はないのだけれども,しかしながら,なお解除は認められないということになるのだと思うのです。私が最初に議論をはっきりさせるために「すげえ」という言葉を使って,それが逆に議論を混乱させた面がありまして,誠に反省しているのですけれども,その意味では,「すげえ不履行」であっても,だから催告が不要になるということにはならないですよね。それは松本委員がおっしゃったように,お金を一銭も払わないということは,それは非常に不履行の程度としては大きいかもしれないけれども,しかしながら,そのときには催告に意義があるわけですから,催告をさせるというふうにつながるわけであって,催告不要という効果を導くための要件というのは不履行の程度ではないということなのだろうと思います。 ○大村幹事 道垣内幹事の「すごい」に乗ってしまったのがよくなかったのだろうと思いますが,私は,包括的に解除を基礎づけた上で,無催告解除が必要な場合について,包括的な要件の中で処理すればいいと考えるのか,それとも更に要件を個別化して書く必要があると考えるのかは選択の問題ですねと申し上げたつもりでした。 ○岡田委員 該当するかどうか分からないのですが,割賦販売法の中で,消費者保護ということで催告後20日間経過が解除要件となっています。消費者を特別に保護しているのだと私は認識していましたが,逆に最近は消費者の方が解除したいという案件がとても多いのです。その場合に催告しなければならないとすれば相手がいなくなってしまったとか倒産してしまったということになりかねません。そういった場合は無催告の方が効果があるなと思うのですが。果たして今の議論になじむかどうかちょっと分からないのですけれども。 ○松本委員 「重大な」という言葉,「すげえ」という言葉とかいろいろ出ており,「すげえ」というのは何がすげえのかもよく分からないのだけれども,やはり債務のどの部分かということで判断をする。マテリアルというのは主たる給付の部分だろうと思うのです。日本民法で言えば「契約の目的を達成できない」ということとニアリーイコールに考えればいい。そうすると,付随義務は通常は入らない。主たる給付義務はどうか。履行遅滞の場合,その日でないと目的達成できないというものは無催告解除というのが民法にも書いてありますから,これでロジックはつながるわけですね。しかし,代金の支払なんかは,普通は3日遅れても意味があるのですよね。遅延利息さえ払ってもらえばいいわけだから。そうすると,それは,そこだけを見れば,契約目的を達成できないような不履行とはいえないということになると思うのです。履行していないというところだけ見れば,コアの部分をやっていないのはけしからんという議論になるかもしれないけれども,目的達成という方から見れば,1日,2日,3日,場合によっては1週間遅れてもいいじゃないかということになるので,そのあたりの目的達成というスクリーニングをかけるのに,今言ったようなタイプの履行遅滞型の場合に,催告期間というのが意味を持ってくるのではないかなと思います。コアの部分の不履行という前提条件のもとに,更に目的達成という縛りをかければ,即時解除権が行使できる場合もあれば,一定の手続を踏んで,信頼関係がもう駄目だというような理屈を持ってくる場合もあるだろうし,幾つかあるかもしれないですけれども。そういう意味では,入り口のところはマテリアルというのをもう少し相関的に見て,まず債務のどの部分かというところで絞った上,更に目的達成ということでもう一段階の絞りをかけるのに催告というのが絡んでくる可能性があるという感じの見解になりました。 ○山本(敬)幹事 今の松本委員の御意見に対して少し違和感を感じますので,一言付け加えさせていただければと思います。   まず,債務のうち,主たるものかどうかで絞りをかけるということをおっしゃいましたが,ここまでの御意見の中でそれは全く出ていなかったのではないかと思います。ここで問題になるのは,債務がどのような重要性を持つものかということだけではなくて,不履行の態様がどの程度のものかということも問題になっていると思います。その意味で,まず債務の主たるものかどうかという段階分けをするのは違うのではないかと思いました。   その上で,先ほどから,不履行がある場合に,すべて催告解除を認めるのではなくて,軽微なものは外すというような御意見が何度か出ていました。その結論は理解できるのですが,問題は,そこで言う「軽微」というのはどのように決めるのかということです。ここが正にポイントでして,やはりこれは,契約の目的と言うかどうかはともかくとして,その契約の趣旨からして軽微か軽微でないかということを判断せざるを得ないのだろうと思います。その意味では,重大な契約の不履行というものも,正にその契約の趣旨からして重大であり,解除を認めるに値するものかどうかということを判断するわけでして,その点でやはり両者は異質なものではなくて,むしろ同質性があるのではないかと私は思います。それが本当は最初に申し上げたかったことでして,その同質性をどのような形で規定の中に落としていくか。その際に,催告という手続をどう組み込んでいくかということを議論すべきであって,何か両者が違うもの,異質なものととらえて,二つの独立した解除要件システムを作るというような方向に進むのは問題ではないかと思った次第です。 ○松本委員 今の山本幹事の最初におっしゃったこと,重大かどうかは債務不履行の程度とおっしゃいましたか。 ○山本(敬)幹事 不履行の態様です。 ○松本委員 債務不履行の態様というのが私ちょっと理解できないので,もう少し展開していただきたい。つまり,質的あるいは量的,一部質的不履行あるいは一部量的不履行でどれくらいの不履行があればという趣旨でおっしゃっているのかどうかということです。態様の意味。 ○山本(敬)幹事 それに限りはしませんけれども,不完全履行をここに含めることについて全く異論はないようですので,そうした不完全履行の態様がそれに当たるのではないでしょうか。 ○松本委員 それでしたら全く違和感がございません。何が不完全履行かというと,本来の給付すべきことが質的に不完全である。量的不完全をどちらに入れるかはいろいろあるかもしれないですが。すなわち,本来の給付債務の重要な部分について,完全に履行がない場合もあれば,一部しか履行がない場合もあるということであって,瑕疵担保についての民法の規定から見れば,契約目的を達成できないような質的な不履行の場合に解除できるということですから,そのロジックを解除一般に持ってくるということで特段問題がないのではないかと思うのですが。 ○鎌田部会長 そういう議論なのかな,本当に。 ○野村委員 遅れて来たので十分議論を把握しているかどうか分からないのですけれども,無催告解除と催告解除の両方を認めるということでいいのではないかと思うのです。ただ,どちらを原則と考えて,他方についてどういう要件を立てるかということが議論の中心かなと思うのです。仮に催告解除を原則として無催告解除について考えるというときに,催告が意味を持たないということがよく言われるわけですけれども,無意味ということの意味なのですけれども,履行不能のように,催告をしても意味がないということは非常にはっきりしているわけですけれども,もう一つ,多分,両当事者間の公平という観点から,催告までさせてもう一回債務者に履行をするチャンスを与えなくてもいい場合があるのではないかと思うのです。それが「重大な義務違反」という表現でうまく表現されているのかどうかというところは今後検討しなくてはいけないと思いますけれども,催告が意味を持たないということが,二つの意味があるのかなと思いました。 ○奈須野関係官 多くの方が指摘されていることではあるのですけれども,債務不履行の場合の解除について,一定の場合を除外していくということには賛成であります。ただ,それを「重大な」うんぬんということになりますと,世の中いろいろな人がいて,これが重大であるというふうに主観的に思って主張するということを招きかねないので,実務的にはなかなか難しいところがあるのかなと。そうすると,何らかの意味で別のボキャブラリーを考えていくのかなというふうになると思います。   その話と無催告解除の話は,これまた多くの方が御指摘されているとおり,別の話でありまして,定期行為であるとか,あるいは相手方が契約の存在を否定している場合など,催告しても意味がないような場合には無催告解除が認められるべきだと考えます。   それともう一つ,山野目幹事が少しおっしゃっておられましたけれども,挙証責任の分配の部分も,今の議論は,あたかも解除する側が何らかの要件に当たることを立証するかのような雰囲気もありますけれども,やはり債務は履行すべきであるということを前提と考えますと,解除される側において抗弁として,それに当たらないということを立証させるというのがよろしいのかと思います。   この際に,この場では議論されておりませんけれども,事業者の場合はどうであって,事業者でない場合はどうであるというような,当事者の主体によって区別するというようなことになりますと,民法の一般性あるいは事業者の間でも様々な能力格差があるということから,実務的にはなかなか取り入れ難いところがありますので,民法としてはそのような区分はしないようにお願いしたいと思います。 ○潮見幹事 奈須野関係官がおっしゃった立証責任の点については,もう少し慎重に考えてから結論を出した方がいいのではないでしょうか。今おっしゃられたようなことに直ちになるとは私自身は思えないところがあります。   それ以外に,いろいろ先生方の御意見を伺っている限りですと,少なくとも出てくるアウトプットのルールとしては,先生方がおっしゃっているところは,それほど距離はないのではないでしょうか。解除が認められる場面には大きく分けると二つあって,一つは,債務不履行があり,契約目的が達成できない場合には催告なしで解除を認めるべきであるという場面。債務不履行があり,その債務不履行という事態が契約目的を達成することができないような場面では催告なしで解除を認めてよいというルールを採用することについては,ワーディングは別として,それほど異論はなさそうだと感じました。それからもう一つは,債務不履行があった場合に,催告をして相当期間を経過した場合には,それでなお催告に応じない場合には解除を認めてもよいであろうという場面。ただし,その場合に,先ほど軽微という言葉がちらほらとありましたけれども,軽微な不履行というものであれば―その場合の軽微な不履行というのは,不履行後の対応も含めてかと思いますが,軽微な不履行であれば,そうした催告相当期間経過,不応答による解除は認められない。こういう二つのルール,しかも後者のルールについても,今伺っている限りですと,それほど異論はないのかなという感じで拝聴していたわけです。ただ,問題は,軽微だとか,あるいは目的達成不能というのをどういう観点でとらえていったらいいのかという点にあるのではないでしょうか。この後も,この問題が出てくるかもしれませんが,さきほど契約の趣旨に照らせばという話もありましたが,契約の維持が期待できない,契約の拘束力に債権者を縛りつけることがもはや正当化できないような場面という観点からどちらのルールもとらえていけば,ここにいらっしゃる先生方の中で違った考え方をお持ちの方はいらっしゃらないのかなと思いました。二つのルールのうちのどちらが原則で,どちらが例外かとか,あるいはその二つのルールというものが一つにまとまるものなのか,それとも分離されるべきものなのかというところについては,それは基本的なそれぞれの立場によって違いはあるのかもしれませんが,何かそんな印象を受けたということを。 ○道垣内幹事 必ずしもまとめに納得できないのです。第1点の,これは潮見幹事の言葉が足りなかったと言っては失礼ですが,そういうことなのではないかと思うのですが,契約目的を達成できないような場合には催告が不要であるというのは,今更履行されても契約目的を達成することができないという意味ですよね。そのような意味で異論がなかったわけであって,その不履行がそのまま継続したときに契約目的を達成することができない場合に,一般的に無催告解除を認めるということではないだろうと思います。   2番目の,催告をした場合に,その催告に応じなかったという対応を含めて重大性を―重大性と言ったらまた問題になりますが,重大性なら重大性を判断するかということに関しては,それほど一致がまだないのではないかという気がします。ただ単に催告を,考え直す機会を与えるというだけのものであって,それに応じなかったことによって,契約目的との関係における不履行の評価が変わってくるか変わってこないかいうことについては必ずしもコンセンサスはないのではないかという気がします。私自身は,催告があり,催告に応じなかったことを加味して,それを更に重大性の中に埋め込んで考えるというのは必ずしもすっきりしないというか,賛成はできないところであります。 ○深山幹事 今の道垣内幹事の2点は,正に私が言いたかったことを言っていただいたようなところもあるので繰り返しはしませんが,今の特に2点目のところは私も異論があるところで,催告という不履行後の対応を解除に結びつける意味を持たせる,効果を持たせるということについては違和感というか,反対の感覚を持っております。本来解除ができないものが,催告をしたにもかかわらず更にやらないことによって解除ができることになる,こういう場面を想定しているのだと思うのですが,そうなのかなと。今日の議論は余りそこをはっきりと皆さんおっしゃらなかったのですけれども,ちまたの改正の議論の中では,いわば催告をしたにもかかわらず履行しないことによって重大な不履行に昇格するみたいな言い方をする物の本もあって,そういういわば悪質さが加わって,解除が,もともとはできなかったものができるように,不履行が悪い方に昇格するというのは,これは違うのではないかなと。もちろん,催告したにもかかわらずというのは感覚としては分かるのですけれども,法律の議論としては,そういうことではなくて,先ほど申し上げたように,本質はやはり,もともと決まっている弁済期を履行しないわけですから,そこに解除という効果を結びつけてもいい,その大もとのところはあるけれども,しかし,白紙にするというドラスチックな効果にかんがみて,催告が無意味な場合を除いて催告すべきだというふうには考える。しかしそれは,それでもなお履行しないことによって悪質さが増すということとは違うのではないかというのが私の感覚でございます。 ○潮見幹事 そういう部分でもし御意見があれば,おっしゃらないと言うから,おっしゃっていただいたらいいのではないでしょうか。それから,私は,不履行後の対応を考慮するといった場合に,「契約の趣旨に照らして」という言葉で申し上げたと思います。当初の契約の趣旨に照らせば,不履行後の対応も含めて,契約からの解放を認めることが正当化できるかどうかという観点から評価をするというのもまたあり得ると思います。もちろん,これについてはいろいろ考え方があると思いますので,そのあたりのところはむしろ積極的にお出しになられた方がよいと思います。 ○山本(敬)幹事 先ほど潮見幹事がおまとめになった点が2点ありましたが,恐らく,どちらの側からも,どちらのようにもとれるようなまとめ方をされたのだろうと思います。それをまた解き明かすのもいかがなものかと思いつつ,やはり確認させていただければと思います。潮見幹事が先ほど挙げられた二つのルールのうち,第一は,債務不履行があり,契約目的を達成できない場合は,催告なしに解除を認めるべきであるということでした。しかし,潮見幹事のお考えとしては,むしろ,契約目的を達成できない場合は解除を認めるということが基本原則であって,その上で,第二のルールとして挙げられた,「催告して相当期間経過しても履行がない場合は解除を認めてもよい。ただし,軽微な場合はそうではない。」というルールは,技術的な意味でそうかどうかは別として,一種の推定ルールに近いものであって,要するに,「催告しても応じない場合には,契約目的を達成できないものと推定する。ただし,それでも契約目的を達成できるということが示されるときは,解除は認められない。」という位置づけになると受け止めました。そうしますと,やはり,催告解除はそのような位置づけではなく,これが原則なのであるという御意見も出てきそうです。したがって,先ほどのまとめのような形で一致が見られるかどうかは,なお議論を要するところではないかと思った次第です。 ○鹿野幹事 私も,解除を契約の拘束力から解放する制度であり,過失責任主義とは異なるものとして位置づけるということ自体には賛成です。ただ,先ほど中田委員がおっしゃったように,一方において債権者を契約の拘束から解放するという面と,もう一方における債務者側への配慮とのバランスが必要なのではないかと思います。これを中田委員がおっしゃったように制裁というと,過失責任主義的な色彩が強くなり誤解を招くかもしれません。しかし,債務者側の対応ないし事情を全く考えなくていいのか,あるいはまた,重大な不履行という概念を中心に据えた場合において,この概念の中か外かはともかく,債務者側の事情等を考慮に入れ得る余地はあるのかという点は気になるところです。解除自体が債務者にとって不利益をもたらし得るということも考えますと,その不利益を甘受させるような事情が債務者にあったのかは考慮する必要があり,その意味で,不履行に至った事情ないし対応を考慮に入れる余地を残すような制度が必要なのではないかと思うのです。契約への拘束をもはや期待できないという表現を用いるとすれば,この点はそこに含まれ得るのかもしれないのですけれども,今までの議論を伺うと,債権者側にだけ注目が払われて,債務者側の事情についてはもしかしたら十分な考慮が払われないのかもしれないという気もしました。やはり債務者側の事情にも一定の配慮の必要はあるのではないかと思いまして,発言をさせていただきました。 ○松岡委員 今の鹿野幹事の御意見は分からないではないですが,契約目的の不達成若しくは重大な不履行の有無を判断する際,そもそもその契約で一体何を決めたのか,どういうふうにリスク配分したのかという問題の中で,債務者側の事情は既にかなりの程度考慮されているので,不履行に遭った被害者である債権者側の観点だけで解除の可否を決めているのではないと思います。潮見幹事や山本敬三幹事が繰り返しおっしゃったように,当初契約の趣旨に照らしというところで縛りがかかるではないでしょうか。 ○鹿野幹事 確かに,契約の趣旨で拾えるところはあると思います。契約の趣旨の解釈の中に,どういう事態においてどこまでを債務者がなすべきなのかというところも入ってくるでしょうし,そういう意味では,そこで拾える部分もかなりあるのだと思うのです。しかし,それで十分と言い切れるかという点に若干心配がありまして,先ほどのような発言をさせていただきました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○岡(正)委員 仲間割れになるかもしれませんが,催告後のいろいろな対応を解除原因のときに考慮に入れるかどうかで,詳細版の71ページの4行目あたりに書いていることでございますが,金銭債務だったら別かもしれませんが,商品の瑕疵については,文句を言われたときに,この程度まで修補しますからどうですかとか,いやいや,それは無理ですから何もしませんとか,不履行があった後の当事者間のいろいろな対応が当然解除する,しないの判断に影響するというふうに私は思っております。実務家の,表面しかかじっていないところから誤解かもしれませんが,内田委員の関係的契約論だとか,そういう不履行に遭った後の当事者のいろいろなやり取りで,最後,解除が決まる,決まらないにいくのだと私は思っております。 ○鎌田部会長 不履行後の対応も多分二つの内容があって,今おっしゃったのは,この後で問題にされています,追完に係る遅滞等をどうするかというたぐいのもので,もう一つは,催告されたのに何もしないというときにどうなのかという,少し質が違う議論のような気がしています。先ほど問題提起されたのは,むしろ催告されたのに何もしないということが債務不履行の程度といいますか,軽微かどうかとか重大かどうかに直接影響するのかどうか,あるいはそれが解除権の発生原因になるのかどうか,そういう意味での問題の提起だったように思うのですけれども。 ○岡(正)委員 実務感覚として,催告して何もしないということはない。催告すると,無視するやつもいるし,いろいろな対応をするやつもいるし。先ほど松本委員が,催告というのは履行遅滞の場合だと思うとおっしゃいましたけれども,履行不能の場合であっても催告はして,本当にやらないのかということを必ず確認します。だから,不履行後及び催告後の当事者の行動というのは必ずあるという感覚でおります。 ○鎌田部会長 事務当局からの問題提起として,第541条の「債務を履行しない場合」について限定をする必要があるかどうかというのが第1の論点として提起されて,その点については,限定の必要はあるというところで御異論がなかったのだと思うのです。しかし,それを限定するとして,その要件等をどういう表現にするかについては大いに議論が分かれるところです。問題は言葉より中身なのですけれども,中身の点では,先ほど潮見幹事にまとめていただいた内容,解除の可否に関する類型を二つと見るのか三つと見るのかは見方は分かれ得ると思うのですけれども,文言的には大体それでまとまったような気がしなくはないのですけれども,「契約目的を達することができない」というのはどういう場合のことを想定するのかが,先ほど来のお話を聞いていると大分人によって違うのではないかという気もしますので,その辺の実質的な要件立て,それから,催告型が原則なのか,そうでないのかというところもちょっと温度差があるような気がしますが,それらのところは,今日これ以上議論をして詰めようとしてもなかなか難しいと思うので,先ほど申し上げたようなところが中間的な論点取りまとめに向けて今日の段階での議論の一応の到達点であると理解してよろしいですか。   それと,証明責任の分配については,現状のようなものが基本でいいという御発言もありましたけれども,潮見幹事からは,なお慎重に検討すべきであるという御発言もあったということで,必ずしも一致した方向性があるわけではないというのが今日の御議論だったと思います。   それ以外に,先ほど説明された中で,催告に関しては先ほどのようなことでございますけれども,不完全履行解除とか履行拒絶とかいうふうなものについては余り御意見がなかったのですが,基本的にこの資料5−1の整理のような線で著しく不都合であるとか論点が脱落しているものがあるというわけではないというふうに受け止めていただいたものと理解してよろしいでしょうか。 ○松本委員 1点だけ潮見幹事に明らかにしていただきたいのは,目的を達成できないような場合,即時に解除できる,それから,軽微な場合は催告をしても解除できない,そこで言うところの目的を達成できる程度の不履行と軽微な不履行というのが同じなのか違うのか。潮見幹事は二つの類型に分けたのだけれども,それが両者一緒であれば,結局一つではないかという気もするのです。つまり,目的達成というところで即時に解除できるかどうかは縛るけれども,催告解除の場合には目的達成という概念は使わないで,すべての部分について債務不履行が解除の原因になるのだけれども,特別マイナーな部分だけは外れるのだというような整理なのか。私は,どちらかというと,やはり目的との関係で,どちらも縛って共通ではないかという気がするので,そこは考え方が分かれるのであれば,はっきりと二つ考え方があるとした方がいいかと思います。 ○山本(敬)幹事 今の松本委員が御指摘された点については私も同感です。むしろ,そのような共通性があるのではないかと思って,先ほど発言させていただいたわけです。   それ以外に,履行拒絶については,今日は全く御議論がなかったわけですけれども,やはり同じような問題がこれについてもあると思います。履行拒絶についても,催告というわけではないのかもしれませんが,通知を要すると考えるのかどうか。これは,諸外国の例を見ましても立場が分かれているところです。そしてまた,履行拒絶というときに考えているのは,やはりそれが重大な不履行や契約目的を達成できなくなるような不履行をもたらすものであることが暗黙の前提になっているかと思いますが,これも何も定めませんと,はっきりしないことになりますので,やはり同様の縛りはこれについてもかける必要があるのではないかということだけは指摘させていただきます。 ○中井委員 資料のまとめ方についてです。今日の議論も踏まえてですが,今回のまとめ方は,実質的な要件から入って,催告を関連論点として付随的な位置づけでどう考えるかという整理の仕方になっていますが,これまでの歴史的な経過,現行法との連続性,実務の運用等を考えたときの催告の位置づけというのは,このような整理の仕方とは少し異なるのではないか,一つの考え方に立った上での催告の位置づけのように思えますので,御留意いただければ幸いです。 ○新谷委員 履行拒絶については,受領遅滞とも関連しますので,そちらの方で申し上げますが,この論点整理の中に盛り込まれていない労働に関する問題点について発言させていただきます。   第540条第2項で「解除の意思表示は撤回できない」ということになっていますが,労働の現場で発生する例として,上司とけんかして,「こんな会社はやめてやる」と辞表をたたきつけて職場を去ったものの少し時間をおいて冷静に考えてみると,やっぱり辞職しない方が良かったのではと思えてきたという「本心ではやめたくなかった」といったケースです。こうしたケースの場合に,割賦販売法や特定商品取引法のように,例えば一定期間クーリングオフの期間を設ける。労働契約のような継続的な契約に関しては,クーリングオフのような期間を設定することについてこの場で御論議をいただければ有り難いと思っております。ただ,それは労働分野という特別法の領域ですべきということであればそうなるかと思いますが,基本法の中にそういうものを盛り込むことができるのかどうかにつきまして御論議をいただければ有り難いと思っています。 ○鎌田部会長 ほかには関連した御発言はよろしいですか。   債務不履行解除の包括的規定の要否という点につきましては,今日の御議論では,包括的規定を前提にして御議論をいただいてきたように理解しておりますけれども,そのような理解で基本的にはよろしいですね。   それから,責めに帰することのできない事由については,責めに帰することができない事由といいますか,責めに帰すべき事由がなければ解除ができないという方向で考えるべきであるという御発言は特になかったと理解しているのですが,それは議論の機会がなかっただけでしょうか。 ○木村委員 その点については議論の機会がなかったので発言していなかったのですが,契約の解除の目的といいますか趣旨というのが,不履行をした債務者への制裁ではなく,債権者を契約の拘束力から解放するというようなことが主な目的だということについては,実務的にもそういう感じがしています。制裁の目的で契約解除するということは,実際の実務では,まず考えられないことです。ラーメン店などに行って,なかなか注文したものが出てこない,何度督促してもまだ出てこないため,怒ってもういいよというようなぐらいの話で,余りないのではないかという気がいたします。   ただ,そうだからといって,契約解除の主たる目的が制裁ではないのだから帰責事由を解除の要件とすべきではないとすることには,論理の飛躍があるという感じがします。要するに,制裁だから帰責性が必要であるというのは分かるのですけれども,制裁ではないから帰責性は要らないのではないかというのは,これは理屈として飛躍があると思います。契約の解除において,そもそも帰責事由がなぜ要件とされてきたのかというところがいま一つはっきりしないという感じが私自身しているのです。ただ,実態として我々,契約解除をされる側の立場になったときに,これは大変なことであると感じています。例えば,私の会社の場合には,土地の使用に係る契約に基づいて,多くの土地に,送電鉄塔や電柱などの設備を立てさせていただいているのですけれども,契約解除だということになったとき,原状回復をしなければならないのですが,これはそう簡単にできるものではないのです。鉄塔や電柱をどこかに移さなければならない,そして送電線を取り替えなければならないというように,原状回復には大変な労力とコストが必要となります。また,そういうような例だけではなく,例えば,ある物が引き渡され,自分のものとして保管してきたところ,一方的な契約解除という意思表示によってたちまち他人のものを保管する注意義務,すなわち善管注意義務に格上げされてしまうという意味におきまして,債務者の方は,非常に不利益な立場に陥るわけです。その際,債務者の責めに帰すべき事由ということではない場面でそういうことがあれば,いわばトラブルの大きな原因になるのではないかという感じがします。つまり,契約解除をめぐるトラブルといいますか紛争が,かなり出てくる場面というのが想定できるのではないかと思います。帰責事由があるからこそ,そのような不利益を甘受するということであり,帰責事由というものが,社会における紛争を予防するような機能を持っているのではないかという気がします。理屈として帰責事由が必要なのか,ないのかということだけではなくて,契約解除の制度設計として,帰責事由の存在する意味合いといいますか,持っている機能みたいなものもしっかりと議論をしていく必要があるのではないでしょうか。先ほど言いましたように,理屈の世界で,制裁ではないのだから要らないというのは論理の飛躍だと思いますし,また,契約解除の制度における帰責事由という要件は,今申し上げたような社会的な機能を持っているのではないかと感じていますので,それをなくすということは,契約解除をめぐる紛争の予防機能をなくすということにもつながっていく可能性があり,慎重に考える必要があると思います。   あと,この辺につきましては国際的潮流という大きな流れがあるということが言われていますが,国際的潮流と国内法への反映ということがどういう意味を持つのかということも重要な論点になると思うのです。例えば,ドイツにおいてそういう考え方を採らなくなったということであるならば,それによってどういうような社会的な影響が起きているのかというようなことも,不勉強でよく分からないので,もしそういうような調査をされておられるのだったら,その辺も明らかにして,慎重に検討する必要があるのではないかという感じがいたしております。 ○中井委員 契約の拘束力からの離脱という考え方を教えられて,なるほど帰責性は要らないのだなということを理屈の上では理解しますが,例えば,帰責性のある不履行と帰責性のない不履行があって,不履行の程度が同じ場合,このときに解除の評価において全く同じ評価を受けるのだろうかという点については気になるところです。同じ内容の不履行の程度ないし質であれば解除できるのだというのは,契約の拘束力からの離脱という説明から理解できるのですけれども,重大な不履行でない場合は解除できないという例外を設けたときに,できるのにしなかったことと,できないことができなかったこととの間で同じ評価を受けるのだろうか。やはりそこで重大性の評価は異なって,解除できる場合とできない場合とに分かれることがあり得るのではないかという感覚を持つわけです。それがどういう理論的位置づけになるのか分かりませんが,そういう感覚をどう評価するのかという問題かと思います。 ○中田委員 先ほど私,制裁という言葉を使って,この資料にも出ているのですけれども,それが少し誤解を招いているのかもしれません。二つの意味があって,一つは,債務者が履行しなかったのが悪いことだから,比喩的に言えば処罰するという面です。もう一つは,そうではなくて,解除されると,債務者が契約から得られたであろう利益が奪われてしまうという,結果として債務者に不利益が及んでしまうという面で,このような面について債務者の立場も考慮することを要件の中に組み入れることができないかということだと思うのです。ところが,制裁という言葉について,処罰するという方を重視してしまうと,過失が必要なのではないかとか,帰責事由が必要になるのではないかということで結びついてしまうのかもしれませんが,それはやはりちょっと大き過ぎるのだろうと思います。債務者が不履行をしたとはいえ,結果として,契約から得られる利益をはく奪されてしまう,それにふさわしい要件は何かということを考えていく,そういう整理になるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 特に関連の御発言はございますでしょうか。 ○岡(正)委員 詳細版の77ページの3のA案,B案についてですが,B案が多くはございましたけれども,A案の支持者も弁護士会にはおりました。ただ,それは危険負担を一定限度で維持するべきだという意見に伴ってA案を支持する人が相応に存在しましたので,御報告しておきます。 ○木村委員 経済界といいますか,我々が議論したときは,現在の法律上の継続性ということから,大きく制度それ自体を変えることについていかがなものかという意見の方がむしろ多いということがございました。 ○大島委員 帰責事由に関しては,中小企業の実態ですけれども,契約解除の実務について,契約書を作成していない場合は,双方の合意解除によることが大半ですし,契約書を作成している場合でも,解除条項について,帰責事由がない場合は契約を解除できないなどという定めがない契約書が多く,解除するときも,債務者の帰責事由の有無は気にかけずに,契約書の要件を満たしたときに手続がとられるのが典型的ではございます,実務的には。 ○鎌田部会長 先ほど御説明があったような判例の評価もございますので,それらの点と本日ちょうだいした御意見を踏まえて中間的な論点整理に反映させていただくよう事務当局にお願いをするということにさせていただきます。   ここでいったん休憩とさせていただきます。よろしくお願いします。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開させていただきます。   最初に,先ほど新谷委員から御発言のありました点に関しまして,事務当局から御発言をいただきます。 ○筒井幹事 休憩前に新谷委員から,雇用契約における労働者側からの解除について,一定の期間内における無条件での撤回を認めるかどうか,そういう論点についても検討してはどうかという御提案があった点ですが,その点については,御提案がありましたので,今後の議論の中で考えていきたいと思います。新谷委員から御説明があった問題意識は,意思表示や契約の一般ルールの中で受け止めることのできる部分もあろうかと思いますけれども,そこでは受け止め切れないような部分について,例えば雇用契約の特則として何かを考えるのかといった問題になろうかと思います。その際には,民法上の雇用契約と労働契約法との関係といったような問題も視野に入れて考えざるを得ないと思います。その点について,先ほど新谷委員からも,どこの場で検討するのが適当かという問題もあるかもしれないという御示唆がありました。そういった点も考えながら議論をしていきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,続きまして部会資料5−1の13ぺージ,「4 債務不履行解除の効果」から15ぺージの「6 複数契約の解除」までの部分について御審議いただきます。まず,事務当局に説明してもらいます。 ○大畑関係官 御説明いたします。   まず,4の「(1) 解除による履行請求権の帰すう」です。解除の結果として両当事者がいずれも履行の請求ができなくなることは当然のこととされていますが,現行法上明文の規定はありません。民法を分かりやすくするという観点から,これを明文化することが望ましいという考え方がありますので,その考え方について御意見をいただければと思います。   この(1)の関連論点は,仮にそのことを明文化する場合,解除の効果に関する法的性質を条文に反映させるかという問題です。例えば,判例が採用すると言われている直接効果説を書き込むという考え方や,あるいは法的性質,法的構成の議論にはコミットする必要がないという考え方などがあり得ると思いますので,これらを参考に御意見をいただければと思います。   次の(2)は,民法第545条第2項の取扱いの問題です。判例は,解除による原状回復の範囲は,第545条第2項に規定された金銭の受領時からの利息に限らず,物の使用利益等も含むとしています。そこで,まずは,この判例に沿った見直しをするべきかという点が問題になるものと思います。そして,仮にそのような見直しをする場合,具体的な規定方法が問題となりますが,その一例として,民法第545条第2項を削除して,個別具体的な原状回復義務の解釈にゆだねるという考え方が提案されています。この方向性や具体的な規定方法について御意見をいただきたいと思います。   次の(3)は,原状回復の目的物が滅失・損傷した場合の処理についての問題です。現行法上この点についての規定はありませんので,まずは何らかの規定を整備する方向で検討するという方向性の当否が問題になろうかと思います。ただ,この点は,無効や取消しにおいても問題となりますし,不当利得との関係も問題になりますので,引き続き御議論いただく必要があろうかと思いますが,現時点での御意見をいただければと思います。具体的な規定の内容につきましては,部会資料に幾つかの案をお示ししましたので,それらについても御意見をいただければと思います。   この関連論点としまして,仮に規定を設けるとした場合,その適用範囲を所有権移転を目的とする契約に限るべきかという問題などを取り上げましたが,いずれも応用的な問題ですので,何か御意見があればいただきたいと思います。   次に5は,民法第548条が,解除権者が解除権の存在を知らずに目的物を加工,改造した場合,解除権が消滅するとしている点を改めるべきという考え方について御意見をいただきたいというものです。   次の6では,同一当事者間の複数の契約について,そのうちの一つの契約の不履行に基づき複数の契約全体の解除を認めた判例を踏まえて,これを明文化するという考え方を紹介しました。判例法理の明文化の当否が問題となるものですが,取引実務における複数契約の実態等も踏まえた御意見をいただければと思います。   説明は以上です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明がありました部分のうち,まず「4 債務不履行解除の効果」に関する御意見をお伺いしたいと思います。個別論点が(1)から(3)までございますが,どこからでも御自由に御発言ください。 ○岡(正)委員 そう大きな話ではないのですが,弁護士会の方から三角印のついた論点を二つ指示を受けていますので,その二つを申し上げます。   一つは,詳細版の86ぺージの「解除による原状回復義務の範囲」のところで,将来効しかない解除の場合について,何か規定があった方が分かりやすいと思うという意見がございました。将来効だけある解除が第545条に入るのか入らないのかもよく分からないところではありますが,素朴な疑問として,将来に向かってのみ効力が消える解除もあるので,何らかの形で条文化できるのだったらしてほしいという意見がございました。   それからもう一つ,(3)のA案,B案,B−1案のところでございますが,88ぺージに書いてあります,10万円の売買契約をして,製品に瑕疵があって1万円の価値しかなかったため,買主が契約解除をした,売主が債務不履行をして買主が契約を解除した場合について,その物が100万円の価値がもしあった場合に,100万円が滅失したので100万円を返せというのはかわいそうだから,B−1案がいいのではないかと書かれておりまして,それはそうだなと。しかし,逆に買主が代金を払わないので売主が解除した場合,物を持っている方が債務不履行をした場合,その債務不履行をした人が,余りないでしょうけれども,たまたま物が20万円とか30万円の価値がある,そのことを知りながら滅失した場合,その場合にはB−1案のような限定を付さなくていいのではないかと。だから,B−1案はいいのだけれども,不履行者の原状回復義務か解除した人の原状回復義務かで何か違うのではないか,そういう意見がございました。   その2点でございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。第1の方につきましては,この解除の効果の中で全部処理するのか,あるいは将来効しかない解除が具体的に問題になる契約各論の中にそういう場面が出てくるかと思うのですが,そこで対応するという可能性もあり,その点はどちらでもいいということになるのでしょうね,多分。 ○岡(正)委員 はい,そうだと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見いかがでしょうか。 ○高須幹事 特殊なことかもしれないのですが,(2)の「解除による原状回復義務の範囲」という問題と,3番目の目的物の滅失・損傷の場合に重なる問題なのですが,返還すべきものが金銭ではなくて物,特に動産だった場合に,動産の場合には,ある程度の時間が経過することによって価値が下がっている,つまり時的減価という問題が生じる場合がございます。そのときの調整というのでしょうか,時的減価した部分の清算はどうなるのかということも検討すべきだと思います。一つの考え方は,今の解除による原状回復義務の範囲内の問題として何か解釈論なりを構築する,あるいはこの際ここで何らかの立法的な解決ができるかもしれないという手法です。もう一つは,今の目的物滅失・損傷と類似するという形で処理する手法です。私的には,(3)の目的物の滅失・損傷というのは,アクシデントがあって無くなった,あるいは壊れたという場合を想定されているのかなと思いますので,(2)の原状回復義務の範囲の解釈の問題なのかなとは思ってはおるのですが,なかなかこのあたり,従前は,議論が少なかったかのように思われておるのです。使用利益の返還ということは盛んに議論するのだけれども,時的減価分の原状回復みたいなものがあるのか否かについては,余り意識的には議論されることが少なかったかのように思いますので,その点も,もし何かこういう方向がいいのではないかということがあれば検討していきたいと思っております。 ○西川関係官 同じく14ぺージの(2),解除による原状回復義務ということでございますけれども,こちらの方にある案は,民法第545条第2項を削除し,契約の解釈にゆだねるべきという考え方が示されておりますけれども,単に契約の解釈にゆだねるということになりますと,現実の取引の場では,またちょっと消費者のことを申しますけれども,消費者に一方的に不利益な結論が押しつけられてしまうという心配がないのか,そこがちょっと気になります。そういう意味では,どういう方法あるいはどういう内容かはちょっと今の時点ではっきりしたものがございませんが,例えば使用利益の額を推定するとか,一定の規律,ルールを明文化する必要がないのかどうなのか,その辺も慎重な御検討をお願いしたいと思います。 ○木村委員 我々の方も,(2)の「解除による原状回復義務の範囲」につきまして,金銭以外の返還義務についても,判例上認められている果実とか使用利益,こういったものをいわば条文化していくということは意義があるのではないかとの意見がございました。   ただ,3番目の「原状回復の目的物が滅失・損傷した場合の処理」は,確かにこういう場面というのは想定されなくもないのですが,現実に極めてまれなケースではないかということで,一般法である民法に規定する必要があるのかということがまず一つあります。   それともう一つは,A案,B案どちらだと,こうなっているのですけれども,これは契約の中身によってA案のような解決をするのがいい場合もありますし,また,B案のような場面もあり得るのではないでしょうか。A案以外ルールとして法律上あり得ないとか,B案以外あり得ない,こういうことはないのではないかという感じがしていまして,むしろ契約の中身に応じて信義則だとか公平といった観点から考えるべき話ではないかという意見が強うございました。 ○深山幹事 私も,原状回復義務の範囲なのか,あるいは次の(3)に類似する問題なのかと思うのですが,(3)の目的物の滅失・毀損の場合に,案として価額返還義務,価額償還と言ったり価額賠償と言ったりいろいろですが,そういった金銭で戻すという考え方があろうかと思いますが,その延長上の問題として,目的物が更に転売等により第三者のところに行っており,もともとの引渡しを受けた者の手元にないときの問題もあろうかと思うので,その場合の価額償還的なルールというものもあわせてどこかに規定があったらいいなという気がいたしております。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○山本(敬)幹事 2点ありまして,1点は今まで出ていないことですけれども,最初の「(1) 解除による履行請求権の帰すう」で,契約解除の基本的効果として,履行の請求ができなくなることが,現行法には規定されていないけれども,明文で定めるべきであるとされていることにかかわります。恐らく御意見がないのは,明文化すること自体は構わないということだと思います。私も,この点は賛成なのですが,その前提として,解除の意味をもう少し考えておいた方がよいのではないかと思います。先ほどの前半の方の議論でも少し出ていましたけれども,解除というものは,何か「契約をなくす」ことであるとか,「契約を破棄する」ことであるとか,あるいは「債務を消滅させる」ことであるというようなイメージでとらえられていたのではないかと思いますが,直接効果説をめぐる議論がまさにそうだったのですが,法技術的にはそのようなものではない。そのように考えると,むしろ説明がかえって難しいことになってしまう。そうではなくて,まず,履行義務がなくなる。あるいは,それに対応した履行請求権が認められなくなる。あるいは,受領義務を認めるならば,受領義務に当たるものがなくなる。そして,既履行の場合は,原状回復義務を認める。ということは,受け取った給付を保持する権利がなくなる。このような効果が,解除の効果として認められる。それ以上の効果は直ちに出てこない。諸外国の立法例等では,例えば損害賠償請求権は消滅しないなどと明記するようなものもあったりします。ともあれ,解除の効果としては,今申し上げたようなものが中心であるということを確認する必要がある。そのような観点から,履行義務ないしは履行請求権が認められなくなるという効果を明記すべきであると思います。   それから,もう1点は質問なのですが,(2)で,解除による原状回復義務の範囲について検討すべきであるとされていますが,その中で,「現にされた履行の内容や目的物の性質」によって違ってくるというのは分かるのですが,「解除原因となった不履行の態様」によって原状回復義務の範囲が左右されるという認識もここに示されています。これは,どのようなことを考えておられるのか,分かりかねるところがあります。解除原因となった不履行の態様によってどう原状回復義務の範囲が変わってくるのか。それをお教えいただければ,有り難く思います。 ○大畑関係官 お答えになっているかどうか分からないのですが,このようないろいろな要素を含めて御検討いただきたいというニュアンスでまずは書いたものです。 ○松本委員 質問なのですが,14ぺージの(3)と15ぺージの5との関係です。すなわち目的物の滅失・損傷の時期が解除の意思表示より前の場合と後の場合があり得るわけですが,(3)で想定されているのは,解除の意思表示によって双方の原状回復義務が発生した後の滅失・毀損という,双務契約における牽連関係の裏返しの局面における危険負担的な部分だけなのか。それとも,その前の段階,解除の意思表示をする前の滅失・毀損も入れた上で問題提起されているのかがちょっとよく分からないのですが,いずれなのでしょうか。 ○大畑関係官 典型的な場面として解除権を行使して原状回復義務が発生した後に目的物が滅失・損傷した場合と,あとは,ケースとしてはまれかもしれませんけれども,目的物を引き渡した後に目的物が滅失・損傷して,それでも解除権が消滅せずにその解除権が行使されたような場合も含むということで問題提起させていただいております。 ○松本委員 ということは,解除権の意思表示の行使の時期を問わないで滅失・毀損した場合という大きなジャンルがあって,その中の一部が5に入ってきて解除権そのものが行使できないと。しかし,そうでない部分については解除権が行使できるという中で,その効果がどうなるかということですか。そうすると,原状回復義務が発生した後の特定物の保管義務がどうのこうのという問題ではないということですね。   つまり,(3)で双務契約の裏返しの危険負担というふうに考える立場からいけば,特定物の引渡義務を負った時点以降の話なので,帰責事由がないということが前提となった上でどちらが危険負担を負担するかという議論になっていくわけですが,もっと早い段階の滅失・毀損後の解除も考えられているわけだから,第400条のスクリーニングは入ってこないという感じですね。   つまり,第400条の違反だということになれば,危険負担の問題ではなくて,それこそ原状回復義務という法定債務の債務不履行の話になるわけなのですよね。ここでは,今言ったようなどういう原因かということを特に問わないで書いておられるわけで,私は最初は,これは危険負担の局面,すなわち双方の返還義務が発生した後,責めに帰すべき事由がない状況下で滅失・損傷した場合の損失分担というふうに理解していたわけですけれども,そうではないということですね。 ○内田委員 これはあくまで問題提起ですが,典型的には解除をした後の原状回復の場面を想定して問題を提起しているのだと思います。そうして,最も典型的な場面についてルールがつくられると,それでは解除の意思表示をする前に滅失や損傷が生じた場合で,しかも解除権が消滅しなかった場合をどうするのかとか,さらに,その場合でも,解除原因が既に発生して解除はいつもできる状態になってからそうなった場合とそうでない場合とで区別が必要かどうかといった議論が出てくると思います。しかし,それは典型的な場面についてのルールが果たしてそのまま拡張して適用できるかどうかという次の段階の問題であると思いますので,とりあえずはまず典型的な場面について問題提起をしたというふうに御理解いただければと思います。   それから,その前の山本敬三幹事からの不履行の態様の問題ですけれども,これは別にそういう態様を考慮することが望ましいということではないのですが,不履行にも,いわゆる過失のない不履行もあれば,過失による不履行もあり,また,あえて故意に不履行するという場合もあるわけで,それによって原状回復の範囲に差が出るのか出ないのかということも問題の一つの要素として提起をしたということです。必ずこれを考慮しなければいけないということではありません。 ○山野目幹事 今,内田委員から御説明をいただいたことの繰り返しかもしれませんが,山本敬三幹事から御質問のあった「解除原因となった不履行の態様」というフレーズについて,これを拝見したときに,私も山本敬三幹事と同じように,あれれと感じましたが,今日の御議論を伺っていて,解除の要件として債務者の責めに帰することができない事由を要するかどうかという一つ前のぺージの議論のときに木村委員から,解除の効果を一律に考える嫌いが強いけれども,債務不履行が生じた経緯というものを考慮した上で原状回復義務の厚み,薄さというものを考慮するような余地があるのではないかという問題提起をいただき,難しい問題だけれどもなるほどというふうに感じながら,こちらの「解除原因となった不履行の態様」というフレーズを読むと,それはそれで納得がゆきますから,議論の一つの焦点としては検討が続けられていっていいものであろうと感じました。 ○山本(敬)幹事 御補足いただいてありがとうございました。正にそのようなことを考えていました。そして,更に言いますと,「不履行の態様」というよりは,正確に言うと,双方の当事者のそれぞれにそれなりの原因がありながら,結果として契約目的を実現できない事態に至ったという場合に,どのような原状回復が認められるべきかという問題も考えられます。そこまでお考えなのかなという気もしましたが,もし今後議論されるのであれば,このような問題まで視野に入れて議論していけばどうかと思います。割合的解決の問題は,前の会議でも少し出ていたかもしれませんが,ここで答えを出せるかどうかは別として,検討はする必要があると思います。 ○松岡委員 1点は意見で,1点は質問です。   意見は(1)に関連するところで,解除の法的性質ないし法的構成は,私は立法で決めるような問題ではないと思います。ただし,例えば部会資料の詳細版84ぺージのヨーロッパ契約法原則の9:305条の(2)にあるように,紛争処理に関する契約上の定めは,解除の効果を一般的にどう構成するかに関係なく,解除の効力に影響を受けずに存続する,ということははっきり定めておく方がいいのではないかと感じます。   それから質問の方は,(3)の「原状回復の目的物が滅失・損傷した場合の処理」についてです。これは私自身も悩んでいる給付不当利得の場面でも同じ問題があり,両方があり得る案だと思います。特に今回の改正の全体の流れから少し気になるのは,解除についての先ほど御議論との関係です。まだどうなるかは分かりませんが,仮に解除に帰責事由を要しないことになりますと,次に議論される予定ですが,それによって危険負担の規定そのものが場合によっては消える可能性があります。危険負担制度そのものが消える場合に,このA案のように危険負担の債務者主義を定める第536条を類推適用するという選択肢がなお成り立つのでしょうか。これは危険負担の議論の帰すうが連動するものか,それとも,危険負担一般の規定は仮になくなるとしても,第536条に相当するルールを原状回復の双方の義務について具体的に規定するという趣旨なのか,このどちらになるのだろうかが疑問として浮かびました。 ○筒井幹事 今,松岡委員から御発言いただいたうちの後半ですけれども,改めて部会資料5−1を見てみますと,御指摘があった(3)のA案,B案というところで「民法第536条を類推適用し」とあるのは,新たに規定を置くことに関する提案の書き方として余り適当でなかったかもしれません。これは,現行法とのつながりで説明したものであって,実際に条文化する際には実質的な内容を書き込むことになると思います。 ○鎌田部会長 いずれにしろ,この問題を検討し始めますと,解除以外の原因による原状回復の場面についてはどうするのかということとも連動してきますので,御指摘いただいたような点を踏まえて更に検討を詰めていかざるを得ないのだろうと思います。   ほかに何かございますか。 ○深山幹事 まだ話が出ていなかった6の「複数契約の解除」について,これは弁護士会の議論を御紹介するようなことなのですけれども,この判例の事案は同一当事者間での複数契約の事案で,それを想定して,それを明文化しようという御提案かと思います。それについては,弁護士会はほぼ異論がないところでしたが,更にもう一歩進めて,異なる当事者間の複数契約であっても,それが一定の密接な関連性がある場合には解除を認めるという規律もあってしかるべきではないかと。ローン提携的なものなど,特に消費者契約的な観点からそういう意見が出ております。もちろん,そうなりますと,ではどこまでの関連性があればいいのかという,要件の立て方が非常に難しいだろうという議論もしておりまして,ここは多分いずれ弁護士会から一定の要件を含めた御提案を差し上げることになるのではないかと思いますので,今日は頭出し的というか御紹介にとどめますが,そういうことも視野に入れていただければと思います。 ○松本委員 いつも悩んでいて分からないことをちょっと教えていただきたいのです。原状回復は一般的には不当利得の特則だという言われ方をするのですが,そこでよく分からないのは,いわゆるなす債務の原状回復という問題です。特定商取引法の中のクーリングオフの効果のところに非常に特殊な規定がありまして,クーリングオフは申込みの撤回と解除と両方入っています。クーリングオフすれば消費者は代金を返してもらえるとか受け取ったものを返すということは当然なのですが,例えば住宅リフォームの契約をして即工事をされてしまった場合に,代金は払う必要がない,払っていれば返してもらえるというだけではなくて,元の状態に戻すように積極的な作為を無償で請求できる(特定商取引に関する法第9条第7項)。穴をあけたら穴を埋めろ,設備を設置したら撤去して元の状態に復元せよと言える。設置をした事業者側が持っていける,取り返せるという意味の原状回復は当然だとしても,解除する消費者の方からもとの状態に戻してくれということまでが原状回復ということで言えるのか言えないのか。特商法の立法趣旨の解説を見ると,民法の理論からは必ずしも含まれないから,元の状態にきちんと戻してくれということを消費者側から無償で請求できることを明文化したのだという書き方がしてあるのです。もしそれが民法の考え方だとすれば,原状回復という言葉を使っているのだけれども,工事をされた側から元の状態に戻してくれというのは,原状回復ではなくてむしろ所有権に基づく物権的請求権的なものとして整理しないと駄目なのか,それとも債権的な意味でそこまで言えるのか。不当利得だと恐らく金銭的な清算ということになるのでしょうが,契約解除に伴う原状回復というと,単に物の返還や金銭的なものだけではなくて,作為義務というか,行為を要求できるというところまで考えていいのか。それとも,やはり解除の効果としての原状回復は不当利得の特則なのだから,単に金銭的な返還の範囲についての特則にすぎないのだと考えるべきなのかというところについて,どなたかクリアな説明をしていただければ有り難いです。 ○鎌田部会長 撤去義務を考えるのは難しいですか。撤去義務を認めることに大きな障害がありますか。逆に原状回復義務の内容として撤去義務を含むと考えないでも,物権的請求権でいけますが,付合とか言われたら撤去も,除去も請求できないというふうになりかねない。土木工事,建築請負工事では,中途で解除された場合も,既履行部分に利益があれば原状回復が請求できないけれども,そうでない場合は原状回復,既履行部分の撤去を請求できるということを積極的に御主張なさっていた学説もあったように記憶します。 ○松本委員 もしそうだとすると,特商法の規定は不要な規定だったということになりますか。 ○鎌田部会長 不明確なところを明確にする規定は幾らあってもいいと思います。 ○道垣内幹事 その問題は結構重要な気がいたします。原状回復という言葉を今回解除の効果のところで使うかどうかという問題にも結びついていると思うのですけれども,例えば信託法第40条第1項第2号では,受託者が信託の義務に違反して何らかの行為をして,信託財産に変更が生じた場合には,原状の回復の請求ができるということになっているわけです。しかしながら,原状回復というのはべらぼうなお金がかかる可能性があって,そこで,信託法においては,ただし,原状の回復が著しく困難であるとき,原状の回復をするのに過分の費用を要するとき,その他受託者に原状の回復をさせることを不適当とする特別の事情があるときはこの限りでない,という条文を置くことによってその問題に対処しようとしているのです。特商法などが適用される場面においては,過分な費用になっても,ある種のサンクションとしてそういうところまでやらせることも十分考え得るのですが,一般原則として原状回復というものにそういうものを含むというふうにするのであるならば,それなりのまた手当てが必要になるのではないかという気がいたします。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   先ほど6の「複数契約の解除」についても御発言をいただきましたので,5,6もあわせて御意見があればいただきたいと思います。 ○奈須野関係官 では,6のことをお話をします。6の部分で「同一当事者間の複数の契約について」ということになっているのですけれども,91ぺージの判決概要を見ると,判示事項として同一当事者間であるということが規範として要件になっているのではなくて,これはたまたまこの事案が同一当事者間であったというふうに読めるわけです。ほかの事例を考えると,例えばリゾートマンションの提供者とスポーツクラブの提供者が異なる場合においても解除を認めることが相当な場合も考えられ得るということを考えると,これは必ずしも同一当事者間であることはその要件にはならないようにも思えるわけです。   一方で,では,同一当事者であるという縛りがなくなったときに,解除が無限に波及するのではないか,こういう懸念もあるわけで,そう考えると,この平成8年の判示事項を,立法化するに当たってどのような要素を抽出しておくのかということについては,慎重な検討が必要だろうと思います。同一当事者間であったとしても,例えば企業間で部品Aと部品Bを提供するというような契約があって,部品Aが不良品でしたから部品Bも解除しますということになりますと,例えば中小企業だったりすると甚大な影響があるわけでして,やはりこの部分について,同一当事者間であったとしてもやはり問題は生じ得るということですので,御検討をよろしくお願いしたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   4の(1)については,大きな異論はない。むしろ積極的な御発言がありましたので,そちらの方向で整理したい。しかし細部については,理論的なものとの絡みがあるので慎重に検討を続けさせていただくということにします。   (2),(3)につきましては,いろいろと有益な御意見をいただきましたので,それらを踏まえて更に内容を充実したものにさせていただきたいと思います。   5につきましては,特に御意見がありませんが,基本的にはこうした方向でよろしいというふうに受け止めていただいたという理解をさせていただきます。   6につきましても,配慮すべき事項につきまして貴重な御意見をいただきましたので,それらを踏まえて論点整理に反映させていただくようにさせていただきます。 ○道垣内幹事 4の(1)について,異論はないであろうということでして,私自身には異論はないのですけれども,先ほどの説明が若干気になります。すなわち,解除の効果というものをきちんと書かなければならない,そのときに,判例の採用している直接効果説というものを書くということもあり得る選択ですと,おっしゃったわけですよね。しかるに,その直接効果説というのは何なのかということが結局問題となって,仮に契約が遡及的に消滅するというものだと考えると,山本敬三幹事がちょっとおっしゃったことに関係しているのですけれども,履行請求権がそこでストップするという形で書くというのは,直接効果説をとるということとはちょっと結びつかないところがあるのではないかと思うのです。これに対して,直接効果説の帰結たる内容を書くということは,そのような効果が生じると規定するだけですから,別に矛盾しないのです。そういうふうな効果が生じるというだけの話ですので。したがって,もし仮に(1)ということに関して異論がないということで,解除について分かりにくいのできちんと書きましょうよということになりますれば,直接効果説を書くという形の言葉遣いは今後しない方がいいのではないかという気がするのですが。 ○内田委員 松岡委員の御発言の冒頭でも,どの学説をとるかを立法で明らかにする必要はないという御意見がありました。正にそのとおりだと思います。ですから,効果を明らかにするということであって,どういう法律構成でそれを説明するかは後の学説にゆだねるというのがいいのではないかと思います。 ○松本委員 5の問題と4の(3)の問題に再度戻りたいのですが,今,5について特に異論がないからこういう方向でというまとめ方をされました。もしそれで異論がないのだとすると,解除権者が解除権の存在を知らないで目的物を滅失させた,加工させた,変形させた場合,解除ができるということになるわけです。そうしますと,4の(3)で,内田委員は,そういう解除権行使前の滅失・毀損というのは異常な場合だから,典型的なものとしての解除権行使後の滅失・損傷を考えましょうということをおっしゃったけれども,5が,こういう方向で行けば,むしろ解除権行使前の滅失・損傷というのが非常に大きな割合を占めてくる可能性があるのではないか。つまり,解除権者がもう食べてしまったとか,使ってしまった,消耗してしまったというようなケースがもっと出てくるわけですよね。従来だと解除できなかったから(3)の問題にはならなかったところの解除権行使前の滅失・損傷というケースで,それでもなお解除できる場合がいっぱい出てくるわけだから,(3)はかなり多様なタイプを引き受けなければならないということになると思います。 ○鎌田部会長 その辺は十分配慮させていただくということで。 ○山本(敬)幹事 少し戻ってしまいますけれども,4の(1)に関して,先ほど申し上げたとおりなのですが,契約自体がなくなるとか,債務自体が消滅するというものではなくて,履行義務や受領義務が認められなくなる,あるいは原状回復義務が認められ,したがって給付を保持する権利は認められなくなるということが,解除の技術的な意味であるということを確認しましたのは,例えばですけれども,部分的な解除を認める可能性ともつながってくるのではないかと思います。つまり,履行義務を一定の範囲では認められないものとする,あるいは給付を保持する権利を一定の範囲では認められないものとするために,解除が認められると考えますと,必要な範囲で部分的な解除を認めることも,説明がしやすくなるように思います。例えば,「契約を一部なくしてしまう」というのは,何か言葉として違和感があるかもしれませんが,履行義務や給付を保持する権利を一部消滅させるということであれば,理解しやすくなりますし,解除の使い道が広がるのではないかということもあって,先ほどのように申し上げた次第です。 ○鎌田部会長 あと,先ほど松岡委員から御指摘があったように,特約がそのまま効力を維持し続けるとかいうこともあって,そういう意味では,全体としては直接効果説をとらない立法をしているという実質を持つのだと思うのですけれども,その点も含めて今後の議論の内容にさせていただきたい。 ○潮見幹事 先ほどの解除の原状回復ですが,14ぺージのところで原状回復義務という形で立てているのですが,これは相手方から見たら原状回復請求権ですよね。これに前回やりました履行請求権の規律というものは適用される,あるいは準用でもいいのですけれども,そういうものとしてお考えになっておられるのでしょうか。 ○内田委員 お考えになっているのかと言われても,事務局は別に案を出しているわけではなくて。 ○潮見幹事 これをつくられたときに,どういう観点からお出しになられたのであろうかと。仮に履行請求権の規律が妥当するということになれば,そちらでは履行請求権の限界に関するルールというものが存在しておりまして,それについての御審議というのが前回ありました。その履行請求権のルールが仮にこの場面でも妥当するとすれば,原状回復請求の限界という問題もまた同時に出てきて,履行請求権の限界の場面でのルールと14ぺージの(3)の原状回復の目的物が滅失・毀損したという観点からの切り分けルールというものが果たして整合性があるのだろうかというようなところを少し感じたものゆえに,発言をしたところです。もちろん,理屈の上では先ほどの直接効果,間接効果の問題はあるかと思いますけれども,それとは別に,御検討をいただければというか,矛盾のない形で処理をしていただければ有り難いというのが個人的な意見です。 ○内田委員 非常に重要な御指摘だと思いますが,潮見幹事はどうお考えになりますか。 ○潮見幹事 私自身は,履行請求権のあのルールというものがこちらの方にも基本的にスライドすべきではないかと考えます。そのように考えた場合に,ここで果たして滅失・損傷という枠組みでルールを立てていくということが適切なのであろうか。これは従来の危険負担の問題についての枠組みをベースにしたルールの立て方ではないかという印象を持ったという次第です。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   よろしければ,次に移りたいと思います。部会資料5−1の15ぺージから始まります「第4 危険負担」について御審議をいただきたいと思います。まず,事務当局に説明をしてもらいます。 ○大畑関係官 御説明いたします。  まず,危険負担につきましても,部会資料に記載された論点以外で取り上げるべき論点の御指摘や,検討に当たっての留意点や検討の方向性等々,幅広く御議論をいただければと思います。   次に2では,民法第534条の債権者主義の適用範囲の制限という論点を取り上げました。現在,民法第534条による危険の移転時期が早過ぎるという問題意識は広く共有されているように思われますので,まずはそのような方向性で検討を進めることでよいかという点について御意見をいただきたいと思います。その上で,それを具体的にどのような形で条文に反映するかという点についても御意見をいただければと思います。   次の3は,仮に履行不能による解除の要件として帰責事由を不要とした場合,危険負担と適用範囲が重複する部分をどう処理するかという論点です。この論点は,履行不能解除について帰責事由を不要としたときに初めて解決する必要性が生じる論点ではありますが,帰責事由の要否という論点を整理するに当たってあわせて検討することは有用であると思われますので,現時点においてこの論点についても御議論いただければと思います。   考え方としては,大きく二つの方向性があり得ます。一つは,危険負担制度を廃止し,解除に一元化するという考え方であり,もう一つは,重複する範囲で解除を認めず危険負担に一元化するという考え方です。両者の違いは,端的に言いますと,契約関係を終了させるために常に解除の意思表示を必要とするか否かという点にあるものと思われます。解除の意思表示を必要とすることのメリット,デメリットにつきましては,詳細版の101ぺージ以下に記載があります。また,折衷的な考え方としましては,解除と危険負担を併存させて選択的な主張を認めるというものもあり得るものと思います。これらの考え方を参考にしていただきまして,実際の取引実務等を踏まえた御意見をいただければと思います。   次に,(関連論点)の1では,民法第536条第2項の規律の合理性を認めて,解除と危険負担との関係をどのように整理しようとも,その実質的な規律内容は維持すべきではないかという考え方について御意見をいただきたいと思います。   (関連論点)の2では,規定内容の合理性に疑問が呈されている民法第535条について,その不合理性を解消する方向で検討するという考え方を紹介しています。また,(関連論点)の3では,仮に解除一元化モデルを採用した場合,民法第547条の適用について考慮が必要であるとの考え方を紹介しています。いずれも応用的な問題ですので,特に御意見がございましたらいただきたいと思います。   なお,「2 債権者主義(民法第534条)の適用範囲の限定」という論点と「3 債務不履行解除と危険負担との関係」という論点の関係について念のため御説明いたしますと,2の論点は,3の論点でどのような結論を採用しても問題となり得る論点です。つまり,仮に3の論点で解除に一元化する考え方を採用した場合でも,2の論点は,債権者はいつから解除できなくなるかという形で生きてくるということです。2の論点につきましては,そのような前提で御議論いただければと思います。   説明は以上です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,まず1の総論について,つまり危険負担全体について,どういうスタンスで臨むべきかとか,あるいは,どういう論点立てをするのが妥当かという点について,この部会資料以外の考え方があるというふうな,そういった形での御意見があれば,まずそれをお伺いしておきたいと思いますが。   特になければ,2,3の具体的なテーマについての御議論をいただきます。 ○松本委員 3番の議論の前提に,2番が決着しないと3番の実益がないのではないかという気がするのですが。 ○鎌田部会長 2番から議論をまずしていただいて,そしてその次に3番に議論を移りたいと思いますので,2についての意見をお願いいたします。 ○松本委員 つまり,2の方で債権者主義を従来どおり残した場合に,3の債務不履行解除と危険負担の関係の意味が違ってくるわけです。危険負担だと債権者は非常に不利な状況になるけれども,解除をとれば不利でなくなるわけだから,二つの制度を残すのは当たり前だという話になるわけですよね。債務不履行解除で帰責事由は要らないという立場をとるわけですから。危険負担で債権者主義を残せば,買主としては,目的物は受け取れないけれども代金は支払わなければならないという非常に不合理な結果になる。しかし,債務不履行解除が認められれば,代金を支払わなくていいわけだから,危険負担による不利益を解除でカバーできるということになるので,2の問題で債権者主義を採用しないということを決め,かつ債務不履行解除に帰責事由は要らないということを決めた場合に初めて3で両者が完全に重なるという問題が起こるのだと思います。 ○内田委員 解除に一元化した場合でも,特定物の物権の設定・移転を目的とする契約については,契約と同時に危険は移転する,したがって,目的物が滅失・損傷してももはや解除はできないというふうにすれば同じことですので,結局どちらが先ということはないのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 第534条を維持すべきであるというふうにお考えの方がいないから発言がないというふうに受け止めてよろしいですか。ここではC案には「現行法を維持する」という提案も入ってはいるのですけれども,どれにするかが決まらないから意見がないのか。どちらなのかがちょっと理解が難しいところですけれども。 ○木村委員 我々も議論したのですが,債権者主義の適用範囲というのは広過ぎて,むしろ支配可能性の移転によって危険が移転するというように,公平の観点から,いわば債務者主義が原則ではないかと思うのです。ある程度縛りをかけるというのは,当然であろうということで,基本的に,論点として,この方向性で議論していくというのはいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。具体的にどういう要件立てで絞りをかけるかについては検討の余地はあるだろうけれども,そうした方向で,というのが全体としては支配的な御見解だったと受け止めさせていただきます。   では,3の「債務不履行解除と危険負担との関係」についての御意見をお伺いします。これは理論的な問題もありますけれども,実務に対する影響ということも非常に,懸念という言葉を使っていいかどうか分かりませんけれども,懸念のあるところですので,御意見をいただければと思います。 ○中井委員 弁護士会の意見ですが,この点は,A案からD案まで皆さんの見解は分かれているのが現状です。ただ,従来の実務になじんでいるということもあるでしょうけれども,危険負担の制度は残すべきだという強い意見がございます。その前提となる理解は,帰責事由なくして不能になったとき,一つの債務が消滅したとき,他方の債務が消滅するのは当然ではないか,そこにあえて解除という行為を持ち込むのかという点です。ここでは議論されていませんけれども,原始的不能についてもどう考えるのかということが理屈の上であるのだろうと思います。もともと契約したのに対象物がないときに,給付義務が成立しなければ当然支払義務もない。後発的な不能についても,同じような規律が残っていていいのではないか。これはある意味で常識的な解決ではないかという意見かと思います。他方,解除について帰責事由は問わないとしたとき,危険負担と重複して残す意味はどこにあるのか,例えば交換契約のときが典型だろうと思いますが,交換契約で一方の債務がなくなったときに,他方の債務の帰すうについて債権者に選択を与えるというのはそれなりに合理性があり,そうすると解除一本の方がすっきりするという意見もありまして,弁護士会の中でも見解が分かれています。   ただ,ここで述べているのは,物の給付に関する契約に関する事柄が中心になっています。では,賃貸借契約の場合,役務提供契約の場合を考えると,一つの役務の提供若しくは賃貸物の使用収益が客観的に帰責事由なくしてできなくなったときに,他方の債務はどうするのか。そのときに,解除理論だけでは説明できない場面があります。   労働関係の弁護士からも,雇用契約において,例えば一時帰休であるとか,労働組合のストライキによって非労働組合員が労務の提供をできないときの解決の仕方について,実務は,その責めに帰すべからざる不能を,債権者つまり使用者サイドにおける帰責事由で解決しており,およそ雇用契約については解除で解決できる問題ではありません。そこでは帰責事由が出てきます。これは後ほど第536条第2項の問題にもかかわるのかもしれません。要するに,物の給付に関係して整理したときにはなるほどとなっても,継続的な契約である賃貸借契約とか役務提供契約など,個別のところではことごとく特則が出てくるのではないか,それで全体として統一的な説明ができるのであろうかという意見がありますので,御紹介させていただきます。 ○木村委員 先ほど申しましたように,我々の意見は,契約解除に帰責事由が必要だという意見ですので,当然,履行不能の場合における危険負担の制度は必要ということになります。ただ,仮に,契約解除に帰責事由が必要ないとなったときに,危険負担の考え方というのは,いわば長い間なじんできたということと同時に,契約解除という意思表示をしなくても,ある場面においては自動的に契約関係が消滅していくというような面があります。現実社会で契約に対してすべての人たちが意識的に行動しているかといえば,必ずしもそうではない場面もありますので,そういう意味においては,契約解除における帰責事由が必要ないとなっても,危険負担制度を併存させるということが必要なのではないかという意見が,議論した際,多かったと思います。   特に,これをなくしてしまうと,先ほど中井委員からお話がありましたが,履行不能に責任のある債権者の契約解除によって契約が消滅してしまい,いわば債務者が一方的に不利に扱われるというような場面もないわけではないので,そういう場合を常に特則で手当てしなければならないということになりますと,制度それ自体が極めて複雑化して分かりにくい制度になるのではということもあり,危険負担制度はやはり併存させる必要があるのではないでしょうか。ただ,単純併存がいいのか解除優先の併存モデルがいいのかは議論があると思いますけれども,併存が必要なのではないかという意見が強かったということです。 ○山野目幹事 16ぺージと17ぺージにお書きいただいていることに関連して3点申し上げさせていただきたいと考えます。   第1点は,通則としての危険負担の制度の存廃の問題でございますけれども,契約解除の扱いがどういうふうな帰すうになるかということにもよるので一概に言うことはできませんけれども,それについて一定の整理がなされることを前提として,一般論としての通則の制度としての危険負担の制度を廃止して,契約解除に一元化することが相当ではないかと考えます。その理由としては,基本は,資料でも御指摘いただいていて,御発言の中にも出てきた,機能の重複ということが一番大きいと考えますが,1点付け加えますと,現行法の運用の中でも,訴訟における攻撃・防御の構図を考えたときに,危険負担の制度が活躍して,それで決まる場面というのは余りないのだろうと思います。裁判例でも余り危険負担が問題になったものを見ませんし,私ども,法科大学院で試験問題をつくろうとしても,危険負担で事例問題をつくるというのは非常に難しいです。特に要件事実論的な発想を入れたときにつくりにくく,それは多分危険負担の制度が現行法でも極めてシンボリックなものになっていて,機能を失いつつあることを窺わせるものではないでしょうか。解除について更なる一定の新しい考え方が導入されれば,余計その度合いが強くなるのだろうと感ずるところでございます。   それから2点目ですが,2点目と3点目は中井委員が御指摘になったことと関連いたしますけれども,さはさりながら,通則としての危険負担の制度は,廃止の方向が望ましいと思われるとしても,各領域の場面でこれと類似の発想による特則を存置しなければならない場面というのはあるであろうし,それは丁寧に検討されていってしかるべきであろうと考えます。私の頭の中に今あるのは,賃貸借の場合には必ずしも解除的な構成のみで処理する方が適切であるとは考えられないのではないかと考えています。   それから3点目は,第536条第2項の扱い,ないしそれに関連して,雇用契約の場面で問題となっている事柄であります。これも中井委員御指摘のとおりでありまして,第536条第2項が現在,物の給付の場面とは別に労働事件の現場で果たしている役割というのは非常に大きいものがあるのではないかと想像いたします。民法の教科書でも議論されていますが,労働法の方を見ると,労働法の方も第536条がたくさん出てくるような論議の状況になっておりますし,その役割は現実に重要であろうと感じます。そのときに,労働契約法ないし雇用のところに特則を置くことにするか,第536条第2項のような発想を依然として通則として置いてみるべきであるという議論が残るかということは,なお慎重に論議されてよいのではないかと感ずる次第でございます。 ○新谷委員 今,労働の話を出していただきましたが,危険負担の原則については是非残置をしていただきたいと思っております。   「判例タイムズ」を民法第536条第2項ということで検索をかけますと26件ヒットしますが,そのうち19件が労働事件です。労働事件といいますと,解雇,休業,休職といった賃金請求権にかかわる内容ですが,反対給付としての賃金請求権において危険負担の果たす役割は非常に大きいのです。例えば損害賠償請求権との対比において考えたときに,賃金請求権では例えば社会保険,労働保険の地位を維持できるという点がございます。損害賠償ですとこれは当然回復できません。   もう一つは,労働基準法の賃金の未払,賃金請求ですと,労働基準法の適用があるかないかという点も非常に大きな問題です。労働基準法第24条の違反となりますと,行政救済の道から更に進めば司法救済という道に進みますし,また,労基法に定めます付加金の課金という問題もございます。このように,労働事件においてはこの危険負担制度というのは非常に重要な役割を果たしていると考えています。   また,単に解除制度に一元化されて損害賠償のみとなりますと,労働契約法案の審議においても大論議になりましたが,「解雇の金銭解決」にもつながりかねませんので,労働側としてはそれを非常に懸念しています。そのため,第536条第2項は是非残置していただければ有り難いと考えております。 ○松岡委員 先ほどの山野目幹事の御意見と基本的には同じですが,今新谷委員から御指摘のあったようなケースは,危険負担を基本ルールとして全廃したとしても残ります。一般的に申しますと,想定されるのは継続型の契約で,一時的に債務の一部が履行不能に陥ったが,後には履行可能状態が回復したというようなケースです。こういう場合に,当事者は契約そのものを解消してしまうことを希望してはいませんので,解除は適切ではなく,正に一時的に履行が不能になった部分の給付の均衡をどうやって調整するかが課題です。しかし,契約一般の通則として危険負担のルールを存置するべきかと問われますと,先ほど山野目幹事がおっしゃったとおり,解除制度のつくり方次第では正に危険負担と機能が重複してしまうことになります。先ほど催告のところで,どの委員が御発言になったか書きとめていないのでわかりませんが,履行不能の場合と思われる場合においても催告をするのが実務である,こういうふうにおっしゃったのを記憶しております。そうだとすると,先ほどの大畑関係官の御説明が非常に適切だと感じたのですが,危険負担制度と解除が重なる部分は正に契約の解消という機能で,どの時点で解消の効果が生じるかを明確にするためには,基本的には意思表示が必要だという形で整理して,解除に一元化する方が,よりきれいに問題を整理できるのではないでしょうか。もちろん例外はありますが,一定の場面においては,解除の意思表示がなかったことを理由に契約解消の効果を否定する主張自体が例えば信義則違反だとか権利濫用になる,というように一般条項による微調整はできると思うので,むしろ基本的にどういう形で制度をつくり上げるかという観点の方が大事ではないかと思います。 ○青山関係官 第536条第2項の関係で補足なのですけれども,確かに債務不履行解除と危険負担の一元化については,債務不履行解除の要件から債務者の帰責事由を排除する場合に一元化という議論が出てくると思うのですが,第536条第2項は債権者の帰責事由がある場合ですので,ちょっとそこは留意が必要かなと思っております。先ほども意見が出ました労働実務において非常にこの規定が機能しているということとの関係で,どこの場所に規定を置くかというのは確かに議論のあるところだと思います。私の思いつきに近いのですけれども,継続的な内容とする契約にこの規定の機能が顕著だという御意見はごもっともだと思いますし,特に労働契約なり請負などの役務提供型は,一定の労働などが終わった後に反対給付ができるという,つまり報酬の支払時期が後であるとされているので,履行不能になったときにはまだ反対給付をもらえていないということだとすると,より救済の可能性が高いのかなと思いまして,それも含めて御議論かなと思いました。 ○山本(敬)幹事 今の御意見ともかかわるところなのですが,解除制度に一元化すべきか,危険負担制度を存置すべきかという問題と,第536条第2項を存置すべきかどうかというのは,私はひとまず別問題だと思っています。といいますのは,解除制度に一元化したとしても,第536条第2項の趣旨は当然存置すべきだと思うからです。つまり,債権者側の「責めに帰すべき事由」と言うかどうかは別として,そういったものによって契約が履行できない場合は,「解除できない」というような規定を置くべきです。そして,今もご指摘がありましたように,契約類型によっては,一方の債務が先履行の関係に立つ場合がある。つまり,一方の債務を履行して初めて反対給付を請求できるというようなタイプの契約については,債権者側の事由によって先履行義務が履行できないという事態が生じた場合は,当然,反対給付の請求ができるという規定を置くべきだろうと思います。解除制度に一元化するとしても,そのような規定を残さないと,第536条の趣旨が実現できないと思います。しかし,まさにそのような形で手当てをすればよいことであって,第536条第2項を残すために,危険負担制度をどうしても残さざるを得ないということにはならないという点は,確認を要すると思います。   そして,次の問題として,危険負担制度と解除制度の併存案もあるのではないかということが出ていますけれども,実践的なお話としては分からないではないですが,民法のルールとしてはやはりおかしいだろうと思います。といいますのは,債務者主義は,一方の債務が消滅すれば他方の債務は消滅するというルールを立てることを意味します。しかし,解除に関して,帰責事由を問うことなく,契約の重大な不履行に当たるものがあれば解除できるとするのは,解除できるだけであって,解除しないと反対債務は消滅しないということを意味するわけです。この二つのルールは,やはり相いれないルールだと思います。したがって,どちらかであって,両者を併存させるのは,問題が大きいと思います。結論としては,やはり解除制度に一元化した上で,第536条第2項の趣旨に合うような形で解除の例外ルールを定め,さらに,先ほどお話ししたように,解除とは別に手当てを置くことで対応すればよいのではないかと思います。 ○山川幹事 役務提供契約につきまして第536条第2項が規定している内容を存置する,その辺はおおむね異論がないように思われますし,私も賛成です。議論の中身として,例えば第536条第2項の規定を一般的な形で残すとすると,役務提供契約のところだけではなくて,この場で第536条第2項が規律する内容をどうするのかということ自体を議論しないといけないのですが,ちょっと話をする場面というか,あるいは幅がちょっと変わってくるのかなと思いますので,その点の整理が必要かなと思います。   例えば役務提供契約ですと,先ほど山本幹事や青山関係官がおっしゃったように,後履行,あるいは労務の提供というか,労働義務の履行があって初めて具体的な請求権は発生する。現在の第536条第2項は,反対給付を受ける権利が発生しないというよりは失わないという文言になっていまして,ちょっとそこが整合性がないということもありますし,それから立証責任の関係でも,現在の第536条第2項の読み方ですと,帰責事由が債権者にあることを具体的に根拠づける事由を債務者である労働者が主張・立証しないといけないのですが,労働事件での現実の実務は,後で受領遅滞のところで申しますけれども,そういう形では必ずしもない―解雇が無効とされる場合に関しては少なくともそういう形ではないものですから,そのあたりの議論を,役務提供契約のところでするのか,あるいは第536条第2項で一般的にするのか。個人的には,第536条第2項の一般論として検討すると話が拡散するのかなという感じもしております。 ○中田委員 今の山川幹事と基本的に同じです。付言いたしますと,役務提供契約について申しますと,履行の先後というよりも,むしろ報酬請求権が何によって発生するのかという問題が前提としてあるのだと思います。もう一つ,賃貸借の場合についても,利用できない部分や期間においてそもそも賃料が発生するのかしないのか,そこの問題があります。これらについてはそれぞれの契約に則して議論すべきことではないかということで賛成です。   その上で,先ほど山本敬三幹事のおっしゃった,理論的に両方の併存ということはあり得ないということですが,それはそうかなという気もするのですけれども,必ずしもそれだと実務に携わっている方々から十分に御納得いただけるかどうかということがあるかなと思います。つまり,今あるものをなくすということについては何か不安があるのではないか。やはり残しておいた方が役に立つのではないかというお気持ちがあると思います。ですから,ここはもう少し詰める必要があるわけです。例えば先ほど交換のケースが出ましたけれども,交換の場合に常に解除を認めるとなると,いつまでも解除権を残すということになり,それはそれでまた行き過ぎではないだろうか。そうすると,例えば債務者の催告権を認めることによって限定することが考えられます。あるいは逆に,解除権を行使しなかったがためにいつの間にか使えなくなるとすると,今度は債権者に厳し過ぎるのではないかということになり,これについても,個別に解除権消滅について考えていくということになります。このように,余り一般論でいくよりも,具体的な問題について詰めていくことによって,結局はなくて済むということになるのではないでしょうか。それによって,先ほど山本敬三幹事のおっしゃったことと結びつくのではないかと思っております。 ○大島委員 実態を調べてみましたところ,中小企業同士の契約においては,いつから危険が移転するかということを正確に定めているものはほとんどないと聞いています。また,解除と危険負担の在り方については,整理がなされ,危険負担制度が廃止されても実務的には大きな支障は来さないとの意見がございました。解除の意思表示をしなければならないことになったとしても,実務的には負担感は少ないということだと思います。一方で,危険負担は,不可抗力で債務が消滅した場合に反対債務を消滅させるものであり,解除は,片方が重大な契約違反をした場合に契約を維持できないとして反対債務を消滅させるものであるという意見もございました。両制度は趣旨が異なり,適用範囲がそれぞれ異なることから,併存させる意義もあるのではないかということだと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   解除権の発生要件をどう理解するかによって,当然危険負担の存続の要否というのは変わってくるのですけれども,帰責事由不要論をとったときになお併存させるべきだという御意向も一部には存在していると承りました。この点は更に検討を続けさせていただきます。ただし,第536条第2項が規律する内容については,これは存置するということが全体の意見だろうと思います。それを一般的な通則的な規定だけで済ませるのか,それともそれぞれの契約類型に応じたより具体的内容を持った規律にするのかというのも今後継続して検討させていただきたいと思います。   第535条関連については,特には御意見がなくてもよろしいかと思います。 ○岡(正)委員 簡単に2点だけ。   解除一元化でいいという意見が強いのですが,やはり公平観念から反対債務が消えているだろうという意識を持つ人は多いので,消費者とか,解除をしない,忘れている,そういう場合が結構あるのではないかという危惧をしております。山野目幹事が判例に出てこないとおっしゃったのも,当然消滅だから紛争になっていないのかなと思ったりしますので,特定の場合,解除を忘れるのも類型的にあるような案件については,D説,解除優先だけれども併存すべき一定の場合があるべきではないかと思っております。   それからもう一つは,第536条第2項のことですが,検討委員会の案として,債権者の義務違反により履行不能の場合には残すという表現については,弁護士会は相当不安感を持っております。例えばですが,詳細版の67ページのドイツ民法第323条第6項で,単独であるいは主として責任を負う場合又は債務者の責めに帰すべきからざる事情が,受領遅滞うんぬんかんぬんと。やはり「責めに帰すべからざる事由」というのは,論理的にははっきりしませんが,極めて有意義に第536条第2項で使われておりますので,簡単に「義務違反」という言葉に変えるのは非常に反対であるという意見が弁護士会では多うございました。その2点です。 ○中井委員 部会資料5−2の96ページにドイツ民法の紹介がございますが,この第326条は,1項では,請求権は消滅する,ところが5項では,債権者は解除することができると併存説に読めます。先ほど山本敬三幹事のお話を聞いていると,論理的に説明されれば解除一本化で問題はないはずで,併存説は,同じことについて二つできるのは論理矛盾であるという指摘はもっともだと思うのですが,ドイツのように非常にかっちりとした法体系をおつくりになる国で,このような1項,5項がある経緯を教えていただければ大変参考になると思います。 ○潮見幹事 時間の関係がありますので,私の『債権総論T(第2版)』に概略や経緯は書いておりますのでご参照を願うとして,簡単に説明いたしますと,ドイツの債務法の改正の際には,当初は解除一元化で,危険負担制度は排除するという提案がされました。もちろん労働契約とか,各論での個別処理は別です。一般論としては,併存は論理的にあり得ないという理由で,解除一元論で走っていたのです。ところが,やはりそれは問題があるとされて,中間的な段階では,履行不能の場合には危険負担で一元化的に処理し,解除は逆に認めず,他方,履行不能以外の不履行の場面では解除に一元化するという方向も出ました。その意味では,履行不能とそれ以外の債務不履行でのすみ分け論というのが出てきたのです。ところが,やはりそれもおかしいということで,最後には解除一元化論に戻り,給付障害を議論し整理した際には解除一元化論で片をつけたのですが,最終的に議会審議の段階で,危険負担というものの規定を残すという処理がされております。その詳細は不明です。その理由については,いろいろな方がいろいろな意見を言っておりますけれども,どれに説得力があるのかというのは,私もこれだというふうに確信を持って申し上げることはできません。   ただ,この5項ですか,併存の余地を残したことによって何が生じているのかといったら,結局,日本流に言いましたら,解除,危険負担の要件面での整合性が一体とれているのか,同じ目的を持ち,結論を導くものでありながら,要件が違うということになるとは,どういうことなのか。要件事実的に両方で立ててみた場合に,どうも整合性がない。こうしたこともあって,理論的には問題になっているようです。 ○中井委員 どうもありがとうございます。先ほどの岡委員の説明にもありましたけれども,一方債務が消滅したら他方債務が消滅するというのは常識的に分かりやすい。そのときに,事業者間であれ一般消費者との契約であっても解除という行動をとるのか。その一般的常識的感覚というのはやはり重視されるべきではないか。解除一本で理論的整合性がとれるからといって,また,当然消滅と解除が併存して,ないものを解除するのはおかしいということも分かりますけれども,ないから履行はしないのだというのと,解除して履行はしないのだという二つの武器があっても,別に困りはしないのではないか。唯一そのときに,一方が消滅しているのに他を残したい場合,先ほどの交換契約のような場合ですけれども,中田委員はいろいろ手当てをするという方策が考えられるとおっしゃっていますし,そういう一定の場合について当事者の合意で処理することだってできるわけで,理論的整合性が美しいから一本化するというだけで本当に国民にとって分かりやすいのか,使いやすいのかというのは,ちょっと違うのではないかという印象を持っています。それが,ドイツの歴史が示しているところではないかという感想です。 ○岡(正)委員 1点だけよろしいでしょうか。解除が必要だと,相手が逃げてしまっていないときに解除の意思表示が到達しない場合も不便だね,そういう話もございました。 ○大村幹事 私は,先ほど中田委員がおっしゃったような個別の問題で考えていくという方策が,この問題についてはいいのではないかと思います。中井委員御指摘の点もごもっともですし,先ほど消費者等の場合にはどうするのかというような御意見もありましたけれども,これは松岡委員から,それについては一定の対応策も考えられるのではないかという御指摘もありました。結局,どちらを原則にして,どちらを例外で対応するかということになっていると思いますので,その辺を,実体の方を定めた上であとで構成していくということなのだろうと思います。 ○鹿野幹事 解除と重なる部分については,基本的には解除一元化論に賛成なのですが,従来の危険負担制度の領域には,解除では解決が導けないような場合もあるように思います。その一つの例としては,先ほど,労働契約など継続的な役務提供契約において一定期間不能になったけれども,解除という解決は適切ではないというような場合が挙げられました。それから,売買などにおいても,解除を基礎づけるほどではない契約不適合が生じたような場合の処理は問題となります。例えば,契約締結後に不可抗力による目的物の一部損傷等があって,それが解除を基礎づける重大な不履行には当たらない場合に,この損傷のリスクをだれが負担すべきなのかは問題となります。仮に危険負担制度を原則的に廃止して解除に一元化するとしても,このような場合のリスク負担については別途にルールを設けることが必要だと思います。その際,これに危険負担という名前をかざすかどうかは検討の余地があるでしょうが,そのような場合のリスク負担を意識した規律自体は必要だと考えます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   この点は更に継続して検討を続けざるを得ない部分だと思いますので,そのような形で論点整理に向かわせていただきます。   議事次第では5時半に終了と書いてありますけれども,残されたものがまだ相当部分ございますので,5時半を少し過ぎるかもしれないという点について御了解をいただきつつ,残った部分について,第5の「受領遅滞」,それから「第6 その他の新規規定」の部分について,まず事務当局から説明をしてもらうことにします。 ○大畑関係官 それでは,まず「第5 受領遅滞」につきましても,部会資料に記載されていない検討すべき論点や見直しに当たっての留意点,見直しの方向性等々について幅広く御意見をいただきたいと思います。   次の2の「効果の具体化・明確化」は,現行民法上,「遅滞の責めを負う」とだけ規定されている受領遅滞の効果について,民法を分かりやすくするという観点から,判例・学説上一般的に受領遅滞の効果とされているものを明文化すべきではないかという問題です。まずは,効果を具体化・明確化するという方向性について御意見をいただきたいと思いますが,明確化する具体的な効果の内容につきましても御意見をいただければと思います。部会資料におきましては,例えばとして,債権者の同時履行の抗弁権の消滅,特定物の引渡しの場合の注意義務の軽減,増加費用の債権者負担,危険の移転等を列挙しましたが,これらを明文化する際の問題点や留意点,これら以外に明文化すべき効果の有無等につきましても御意見をいただければと思います。   次の3は,受領遅滞による損害賠償請求や解除を認めるかという問題であり,債権者の受領義務に関する問題です。学説上,債権者に一般的な受領義務を認めるという考え方がありますが,判例は,合意や信義則によって受領義務が認められる場合があるという考え方を採用しているとされており,この判例法理を明文化すべきではないかという考え方も提案されています。部会資料のB案がその考え方です。なお,部会資料のA案のように,現行法と同様,特に明文の規定を設けず,解釈にゆだねるという考え方もあり得るところです。法律上損害賠償や解除の根拠となる受領義務を認めるか否かという点は,取引実務に対する影響も問題になろうかと思いますので,その点も踏まえて御意見をいただきたいと思います。   なお,債権者の受領義務に関しましては,より一般的な債権者の義務として,債権者は債権行使に当たって信義則に従って行動する義務を負うという趣旨の規定を置くことが望ましいという立法提案もなされています。その点は後日別途御議論いただきたいと考えておりますが,仮にそのような規定を設ける場合は,債権者の受領義務の規定は債権者の信義則上の義務の具体化という位置づけになろうかと思います。検討の順序が前後するかもしれませんが,今回は損害賠償や解除の根拠となる受領義務について御意見をいただきたいと思います。   次に,第6の1は,現行民法には規定のない追完権の問題です。現行法上,債務が履行されなかった債権者には,追完請求権や損害賠償請求権,解除権等の権利が認められています。債権者は,これらの権利により契約当初の経済目的を達成することができますが,債務者にはこのような観点からの固有の権利が認められていないため,例えば債権者が求める追完の内容が過大だと感じた場合や,損害賠償請求に対して追完で対応したい場合などにおいても,事実上の交渉を持ちかけることしかできず,利益調整に不均衡を来す場面があり得ます。そのため,債務者に一定の要件のもとで追完権を認めることが望ましいという考え方があります。追完権を認めるということは,複数の追完方法がある場合において,一定の要件のもとで債務者に追完方法の選択権を認めることにつながり得ます。また,追完権が具体的に機能する場面としましては,債権者の求める追完の内容と債務者が希望する追完の内容が異なる場合や,追完にかわる損害賠償請求に対抗する場合,さらには追完に債権者の協力が必要な場合において,債務者が追完しようとしても債権者が協力してくれない場合などが挙げられることがあります。このような追完権の規定を設けるか否かについて,取引実務の実態等を踏まえまして御意見をいただきたいと思います。   次に,(関連論点)の1は,追完権の適用範囲の問題です。A案は,債務不履行態様による適用範囲の限定を不要とする考え方ですが,B案は,追完権による債務者保護が特に必要となるのは,不完全な履行をしたことにより当初の債務内容とは異なる内容の追完を求められる場面であるとして,適用範囲をその場面に限定する考え方です。また,(関連論点)の2は,追完権の具体的な要件をどのように設定するかという問題,そして(関連論点)の3は,解除権との優劣関係という問題です。いずれも追完権の規定を置く場合に検討すべきやや応用的な論点とも言えますので,まずは規定の要否の御議論に必要な範囲で御意見をいただければと思います。   次の第6の2は,講学上,履行補助者の過失などとも言われる論点です。債務の履行に用いた第三者の行為によって債務不履行が生じた場合,債務者が債務不履行責任を負う場合があるということについては,判例・学説上争いがなく,この点を条文上明らかにすることが望ましいという問題意識です。もっとも,具体的にどのような条文を置くかについては,この点の判例法理が確立していないこともあり,いろいろな考え方があり得るところです。部会資料には,これまでの学説の推移を踏まえまして,あえて検討の方向性の案をお示ししております。A案は,第三者を類型化して規定を置くという方向性ですが,第三者の立場や履行へのかかわり方は正に千差万別であり,それを適切に類型化することができるのかなどといった問題が指摘されています。これを踏まえ,近時有力化する見解がB案です。B案は,債務者が第三者の行為により責任を負うか否は,個別具体的な債務の内容によるという考え方です。つまり,個別具体的な債務の内容が,例えば信頼できる第三者に履行の依頼をすることにとどまるのか,あるいは第三者が債務の趣旨,内容に従った履行をすることにまで及んでいるのかなどといったことを,契約等の解釈を通じて明らかにすることにより,債務者が第三者の行為により責任を負うか否かを判断すべきという立場です。これらの見解を参考に,規定の要否と規定する場合の具体的な規定の在り方について御意見をいただければと思います。   最後の「3 代償請求権」は,判例が認める代償請求権を明文化すべきかという問題です。判例が明確に認める権利ですが,その適用範囲につきましては,(関連論点)に記載があるとおり,複数の考え方がありますので,その点も踏まえまして,明文化の要否について御意見をいただければと思います。   説明は以上です。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいま説明がありました部分のうち,まず「第5 受領遅滞」について御審議をいただきたいと思います。   最初の総論的な課題,問題提起につきまして何か御意見ございますでしょうか。   特にないようでしたら,2の「効果の具体化・明確化」及び3の「損害賠償請求及び解除の可否」について,あわせて御意見を伺いたいと思います。 ○大島委員 受領遅滞について,判例を明文化するという趣旨については賛同をいたします。受領遅滞のトラブルは,下請いじめなども含め,実務上よくある話だと聞いております。例えば商工会議所にも,オーダーメードのソフトウエアを納入しようとしたところ,債権者からソフトのレベルが低いからと受領を拒絶された相談事例が寄せられております。債務者としては,請求した情報を債権者側が追加提供してくれれば要求レベルのソフトを制作できるのに,債権者側から一向に情報の提供がないため,要求レベルのソフトを完成させることができなかったと主張して,本件は受領遅滞に当たると争ったようです。ただ,受領遅滞の効果として,民法に規定する要件や文言については,判例に基づいた考え方により,中小企業にも分かりやすく明文化されるように慎重に御検討いただければと思います。よろしくお願いします。 ○新谷委員 受領遅滞は,履行拒絶とも関連するのですが,労働関係では,解雇事件における「就労闘争」に影響があります。前回も申し上げたように,「労働力」という商品は貯蔵ができませんし,時間とともに滅失していきます。しかも先履行を義務付けられております。受領遅滞の効果について損害賠償と解除が検討されていますが,労働契約の先履行の義務付けを避けるような形の論議が今回はあるいは契約類型の議論の中でできないか御検討をお願いしたいと思っております。 ○鎌田部会長 ほかに御意見いかがでしょうか。 ○三上委員 第5の3について,基本的に私どもはB案の方に賛成したいと思っております。輸入貨物ですとか,あるいは船舶ですとか,引き取ってもらえないと保管費用が非常にたくさんかかる,ないしは腐る,廃るもののように,別途契約を解除して処分してしまわないとその価値がなくなってしまうといったようなものもございますので,受領遅滞の効果として,損害賠償や解除が必要となる場面があると考えております。 ○鎌田部会長 全体としては効果を具体化・明確化すべきであり,解除,損害賠償,場合によってはそれ以上の効果を明示的に規定する方向で検討を進めろというのが大方の意見だというふうに理解させていただいてよろしいですか。 ○岡(正)委員 弁護士会では部会資料5−2の107ページにあるA案の支持で,規定すべきではない,条文化までの必要性はないという意見も多うございました。ただ,信義則上の義務があることははっきりしているし,総論の方に,債権者も信義則の義務を負わせる,そのことには賛成論が多いのですが,それを明文化までして混乱を生じさせるのはいかがなものかと。中身として信義則上の義務があって,損害賠償,解除だけではなくて,新谷委員がおっしゃったような,履行とみなすとか,何らかの効果が発生するのはそうだけれども,条文化までするといろいろなことが起きてしまうのではないか,そういう意見はかなりございました。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○山川幹事 今の点と直接関係するわけではないのですが,ここで第5として書かれているところで,「受領遅滞の要件」という項目がないようで,学生みたいな質問になるのですけれども,いわゆる法定責任説とかいう議論があるのはおぼろげながら記憶はしているのですけれども,それと関連するかどうかはともかくとして,要件論のようなことを議論するかどうか。これも,効果が決まらないと要件が決まらないということもあって,このような整理になっているのかなと思うのですが,その点が第1です。   第2は,先ほど新谷委員の言われたことと関係するのですが,労働関係の実務ですと,例えば解雇がなされて,解雇は無効であるという場合,通常は賃金請求も認容されるのですが,その場合に,先ほどちょっと申しましたけれども,債権者,つまり使用者の帰責事由というのは,解雇が無効であれば余り特別に検討することなく認められて,実際上その帰責事由がないことを基礎づける事実の立証責任を債権者,使用者側が負うという扱いになっているのが実態ではないかと思います。これは,前回もちょっと申しましたけれども,受領遅滞とかかわってきて,受領拒絶があるから危険がある意味で移転して,使用者側,債権者側が履行不能に関する帰責事由がないとの評価を根拠づける事実を立証する責任を負う,そういう構造になっているのではないかと推測します。その点との関連では,口頭の提供にせよ必要であると解する場合,解雇された労働者がもう一回働かせてくださいというふうにその場で言うということは余り考えにくくて,後で内容証明を出すとか訴えを起こすとかいうことが多いのですが,そこまで提供がもし認められないとすると,労働者側が使用者側の帰責事由を積極的に主張立証しないかぎり,賃金請求権の始期が遅れてしまいますので,例えば判例で口頭の提供も不要であるというようなものもあるのですが,必ずしもそのような判例を排除しないような形が望ましいのかなと思っております。つまり,口頭の提供も不要であるという判例を変更するような形ですと,ちょっとそのあたりの実務に影響が出そうな感じもいたします。   あとは,実際上考えにくいのですけれども,解雇されて何も言わないで労働者が家にいる場合に,おまえは口頭の提供もしないから欠勤している,つまり債務不履行であるからといって改めて解雇するとか,もし提供が常に必要であるということになると,そういう事態も起き得ないではないということもあります。これは雇用契約,労働契約に特殊の問題かもしれませんが,提供の要否ということ,あるいは受領拒絶の効果と絡んで,どこか留意する必要があるのではないかという感じがしております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいまちょうだいしましたような意見を踏まえて,検討を更に続けていただくということでよろしいでしょうか。 ○内田委員 今の山川幹事の御指摘に関して,労働法の先生がおられるので教えていただきたいということなのですけれども,労働契約で,不当解雇の場合などに反対債権の存続を導く際に,ドイツの場合は雇用のところに受領遅滞の規定があって,受領遅滞を契機として反対債権の発生というか存続を導いているので,受領遅滞との関連で議論されますけれども,日本は第536条第2項があって,そちらの解釈論で処理できるので,あえて受領遅滞に絡めなくても対応できるのではないかと思っていたのですけれども,そういう理解でよろしいのでしょうか。 ○山川幹事 おっしゃるとおりだと思います。学説の少数と,あと昔の裁判例では,受領遅滞の効果として賃金債権の発生を認めたものがあったかと思いますが,今は専ら第536条第2項が依拠されていまして,先ほど私が申し上げましたのも,危険の移転とか,そういう形で間接的に受領遅滞が議論の対象になるということで,特に受領遅滞の効果として賃金債権が直接発生するということではございません。 ○鎌田部会長 よろしいですか。   それでは,次の,まず追完権について御意見をいただければと思います。 ○中井委員 追完権に関しては消極意見が強いので紹介させていただきます。この効果として何があるのか,例えば損害賠償を阻止する機能,解除をしようとするときに追完権を与えることによってその解除ができないとする機能,若しくは追完請求権を行使したときに別の追完方法があるから,その追完請求権が棄却される,そういうことが想定できます。しかし,例えばAという方法の追完を請求したのに対して別のBという方法での追完権を認めたときに,追完権自体で何らかの実現を,法的な意味での実現,訴訟上の請求なりができるのか。ここで想定される追完権というのは,どこまでの権能を持った権利なのかがよく分からないという批判があります。それが実務を混乱させるのではないか。様々な紛争類型があり,追完請求権の内容も,追完の方法も様々なパターンがあり得るわけですから,そこで優先順位を決めてその権利行使を認めるとすれば,様々な紛争が起こり得るのではないか。こういうところからの消極意見です。 ○木村委員 こういったことから,追完権というのは,契約を守るべきだという意味において,確かに意義のある話だと思うのですが,ただ,一つは,帰責事由があるような債務不履行者に追完権を権利として与えるというのはいかなる意味を持つのかということです。要するに,そういう債務者にイニシアチブをとらせる必要があるのかという,いわば不自然さというものを感じる点があります。   それからもう一つは,催告制度との関係になるのですが,催告制度によって,追完の利益の保護を図っているのではないか,すなわち催告解除という制度が維持されるのであれば,それで追完の利益の保護という意味においては必要かつ十分なのではないかという感じがします。   あとは,追完それ自体の概念といいますか,追完権が必要となるような場面が,いま一つはっきりしないということです。それから,追完請求権との関係が競合した場合に,一体どちらが勝利するといいますか,追完請求権では代替物を請求しようという人もいれば,一方で追完権を主張して瑕疵の修補だというように,衝突するような場面が生ずることもあり,この辺のルールは当然必要となり,制度自体が複雑化していくのではないでしょうか。  こういったことから,追完権について,その必要性は余りないのではないかという意見の方が多かったということでございます。 ○鎌田部会長 ほかに。あるいは逆に,やはり追完権にはこういう機能が期待される,あるいは,これを認めることが必要だという御意見は特にございませんか。 ○岡(正)委員 債務者が債務不履行した場合に,不利な立場に立ってやられっ放しになるというのではなくて,瑕疵修補についての一定の提案だとか,こんなふうにするので許してくださいとか,いろいろな活動をしている事実はあると思いますし,その活動を保護しなければいけないというのはそのとおりだと思います。ただ,それを権利と言われると極めて抵抗がございまして,むしろ債権者の方の損害軽減義務であるとか,受領義務でありますとか信義則上の義務でありますとか,債権者がやり過ぎたらいかんと。一定の信義則上の義務を負って,債務者の提案のいいやつは受け入れる義務がある。債権者の信義則上の義務で調整することが妥当な結論に行きやすいのではないか。実態として債務者の適切な言い分を認めるべきだというのは,弁護士みんなそのとおりだと思っているのですが,その表現の仕方として,債務不履行者の権利というよりは,債権者の方の信義則上の義務で調整する方が妥当であるという考えを私は持っております。 ○山野目幹事 追完権という言葉は,私の個人的な印象かもしれませんけれども,学者言葉ではないでしょうか。恐らくこの審議でテーブルに載ってくるものに,そういうものに似たようなものがあと幾つかあって,損害軽減義務というのも多分学者言葉で,前の議論のときに林委員から,こういう概念で議論していくことについて慎重にという御注意があったこともごもっともであると感じます。とはいえ,今,中井委員,木村委員あるいは岡委員のお話を伺っておりますと,ここで議論されている事柄が解決を要する問題ではないというふうにはおっしゃっていないのであり,思想,概念が明確でなかったり,ほかの制度との調整がはっきりしなかったりすることについてきちんとしてほしいという御注意であるし,安易に追完権という言葉でくくることについての御注意でもあったのだろうと感じますから,中身については引き続き議論の必要はあるだろうという御理解まではいただいて,御議論を続けたいという感想を抱きます。 ○潮見幹事 時間がないところで申し訳ありません。詳細版の資料の整理の仕方も含めて,あるいは山野目幹事がおっしゃったことと一部分重複いたしますが,お願いがあると同時に,また,この委員・幹事の先生方にもその部分を踏まえて御判断をいただければと思います。   追完権ということが問題になる局面というのは,大きく分けて三つあります。普通に言えば二つなのでしょうけれども,あえて三つと申し上げさせていただきます。   それはどういう場合かといったら,一つは,詳細版のところに整理されておりましたけれども,解除が問題になる局面です。債権者の側が債務不履行を理由として解除を主張し,それに基づく様々な主張を更に展開してくるような場合に,その解除権を封じるという意味で,債務者の方の追完権というものを認めるという場面があります。ただ,これにつきましては,先ほどの御議論にもございましたように,そうであれば,例えば催告解除の場合には,催告をし,それで相当期間を付与する際に,そこで遅れた履行についてのいわば猶予期間を与えているわけであるから,債務者側の追完ができる地位というものはそれで十分に保障されているではないか。そうであれば,この場面で追完権などという権利としての追完権を声高に叫んだり,あるいは実体法上のルールとして設けることにいかなる意義があるのだろうかという問題が出てこようかと思います。   また,同じ解除でも,重大不履行解除,あるいは契約目的達成不能を理由とする解除が問題となる局面では,これは詳細版のところには若干整理はされておりましたけれども,契約目的が達成できるかどうか,あるいは重大不履行かどうかということを判断する際の一つのファクターとして,債務者側の追完の可能性あるいは追完に対する期待などというものを考慮に入れて判断するのかどうかによって,この部分についての追完権,権利としての追完権を独自に立てる意味があるかどうかということが,判断が分かれてこようかと思います。債務者が追完できるという期待とか,そういう利益というものは解除制度の枠の外で処理をすべきであるというようなことであるのならば,そしてその必要があれば,解除とは別に外付けで追完権というものを用意しておくことに意味があろうかと思います。この部分については恐らくいろいろな判断が出てこようかと思いますので,議論の際のいろいろまた御参考にしていただければと思います。   二つ目の局面は,これは詳細版のところには全く書かれていなかったことなのですけれども,実は重要なのは,むしろ債権者が履行請求以外の方法で,端的に申し上げますと填補賠償請求をしてきたときに,それに対して債務者の方が,自分は修理しますとか,あるいはほかのものを持ってまいりますという形で追完の主張をした場合に,それを許すかどうかという局面です。ただ,ここでは,填補賠償請求権を債権者に与えたということによって追完権という手段の選択を債務者から排除しているのかどうかというのが一つの検討課題として出てこようかと思いますし,さらに,このことが特に問題になるのは,履行請求権と填補賠償請求権が併存するというようなことが起こるような場面でして,両者の併存を仮に今回のいろいろな審議の中で考える必要がないということであれば,これまた追完権などということは要らないのではないかという方向での議論が出てこようかと思います。特に今の点は詳細版になかったもので,御検討いただければと思います。むしろ学説が,少なくとも余り多くの方はおっしゃっておりませんけれども,このあたりを意欲的に検討されていらっしゃる方々が問題にしているのは,この填補賠償請求と追完権の関係の部分なのです。   三つ目は,先ほど御議論がありましたが,追完請求を債権者がしてきたときに,その債権者が求める追完の内容と違う内容を債務者がこういうことをやりたいという形で主張するような場合です。ただ,これは,追完権プロパーの問題というよりは,むしろ追完が問題となる局面で,債権者のした選択に対する変更というようなものを認めるのか,どのような形で認めるのかという制度設計次第でして,もとより,これ自体は追完権プロパーの問題ではなく,広く追完請求権とのペアで考えていただきたいところです。ただ,この意味でもし追完権という言葉を使うのであれば,それは使っていただいたらいいかと思いますが,しかし,そうしたら,今回の詳細版の整理のところで追完請求権と追完権を分けて整理されたというのはいかがなものかなと思います。   個人的には,私の理論をとれば別なのですが,一般に言われている理論を前提にすれば追完権を言うことに余り意味がないのかなという感じがしないわけではありません。 ○松本委員 恐らく(関連論点)の1「適用範囲」のA案かB案かで大分変わってくるのではないかという感じがいたします。B案をとれば割と議論はやりやすくなるのだけれども,A案をとると単純な債務不履行も入ってしまうわけですよね。単に代金を支払わないというのも。では3日遅れて持ってきましたというのは,これは追完権と言うのですかという話で,単に履行期に遅れた弁済をしているだけではないか。では,その弁済の受領を拒否したらどうなるのかという問題。先ほどの受領義務があるのかないのか,履行期を途過した場合には受領義務はなくなるのかというような話,あるいは弁済の提供としての効果はどうなるのかという話に解消される問題のような気がいたします。他方で,履行の不完全という,不完全履行に限定をすると,潮見幹事がおっしゃったような履行請求と填補賠償請求が両方出てくる可能性が考えられる。そうでない場合は,普通,填補賠償というのは,契約を解除するか,あるいは履行不能で初めて請求できることだと思うので,一部質的履行不能というか不完全な場合に初めて完全履行請求と填補賠償としての損害賠償が併存してくる。そこで今のような追完権―抗弁としてでしょうけれども,追完権というのが独自の意味を持っているのではないかと思いますが。 ○深山幹事 私も追完権については否定的に考えている一人なのですが,潮見幹事の整理で三つの場面ということ自体は非常によく分かりました。ただ,それを想定した上で追完権を認めるのかということについては,追完権という以上は,やはりその権利として相手に強制できるから権利なのだと思うのです。そうなると,一方で解除権が発生する,あるいは填補賠償請求権が発生するというときに,それをいわば追完権により覆すことができるかのようなイメージがするわけです。何か敗者復活的な,いったん負けた人が逆転するようなイメージがあって,何でそんなことができるのかなと。もちろん,解除権がそもそも発生するか,あるいは形式的に発生しても,それが信義則上制限されるのかとかという意味で微調整をすべき場面というのはあると思うのです。要件を満たしているように見えても,解除権の行使や損害賠償請求権の行使が不適当である場合,それは別に追完権などというものを持ち出さなくても,別の理屈で調整できると思います。積極的に追完権という権利を認める場面というのが,どうしても敗者復活的なような権利を認めるように思え,解除の議論を一生懸命積み重ねていって精ちな要件を出しても,後から出てきた追完権でそれをひっくり返してしまうのだったら,何だったんだという気持ちがするところです。   もう一つ,一番悩ましいのは,追完請求権と追完権のバトルが想定されるとしたら,これはこれでちょっと損害賠償や解除とは状況が違うとは思うのですが,しかしそのバトルもしょせん債務不履行をした者とされた者との争いの中で,どういう基準で優先権を認めるのか。確かに一定程度債務者側がこういう形で追完したいというのを認めてやるべき場面というのはあるのでしょうけれども,なかなかこれは,追完請求権のところでも私が少し発言しましたけれども,実定法上の権利としてどういう権利,追完をする権利を認めることができるのか,あるいは逆に請求する方でも追完請求が,これが一番いい追完の仕方なのだということを決めるというのはなかなか難しいのだろうと思うのです。実務的にはそれは話し合いで解決することはあっても,権利という以上,それは裁判でもって,判決でもって強制できるような権利として位置づけるのでしょうが,その場面でもやはり,追完請求権も難しいけれども,なお追完権というものを権利として観念するのは難しいのではないか。結局,少なくとも発言を聞いている限り,積極的に是非追完権を認めるべきだという御発言がないなと。にもかかわらずこういう整理がされていて,もちろん議論すること自体は全然やぶさかではないのですが,むしろ今日はそういう積極論者の意見をお聞きしたいなと思って来た割には,ちょっと肩透かしだなというのが印象です。 ○内田委員 別に積極論者ではないのですが,このまま葬り去られていいのかなという気もしますので,ちょっとコメントをいたします。   先ほど山野目幹事から,追完権というのは学者言葉の印象があって,それでちょっと反発もあるのではないかという御発言がありましたけれども,用語はともかくとして追完権の内容は,学者がローマ法のテキストを解釈して導いたようなものではなくて,取引の実務の中から生まれてきた法理です。典型的には国際取引ですけれども,ウィーン売買条約の場合には48条に明文化されていて,国際取引の実務の中で形成されてきた法理を条文として取り入れたものだと思います。ですから,実務的には必要性があると,少なくとも商取引の世界では考えられてきたということです。日本の消費者取引を含む一般の取引を考えましても,例えば自動車の売買などでこんな事例があると聞いたことがありますけれども,売った自動車に若干の欠陥があった,それに対して買主が,こんな車には乗れない,新品をよこせ,代品をよこせと言っている。これに対して販売店の方は,簡単に修理できる欠陥だから修理させてくださいと言うけれども,いや,絶対に代品をよこせと言っている。こういう場合に,この種のトラブルが全部訴訟になるわけではなくて,通常,調停とか仲裁とか,裁判外で解決されることが多いと思いますが,その場合にもやはり民法は一定の判断基準になるわけで,明文の形で追完権が置かれていれば,こういう場合には債務者の方で修理をさせてくれという主張にそれなりに理由があるのだという形での対応ができるであろう。規定がなくても実際にはそういうふうに処理されることが多いと思うのですが,それに実定法上の根拠を与えるものとして,権利として規定することには実務的に意味があるということも言えるのではないかと思います。今,訴訟ではない場面を挙げましたけれども,実際に民法が機能するのは訴訟の場面だけではありませんので,裁判上履行請求できるかどうかという観点だけではなく,やはりこういう裁判外の紛争解決の場面で使えるような規範というものも考慮していく必要があるのではないかと思います。   あと,追完権が衝突する権利として,今,追完請求権の例として代品請求を挙げましたけれども,潮見幹事の方からは解除の例が挙げられました。しかし,解除については,ウィーン売買条約の場合も,追完権は解除を阻止することはできない,つまり解除の方が優先するという前提をとっていまして,そういう立法は十分あり得るだろうと思います。解除の要件まで満たしている場合に,追完権でもってそれを阻止するというのは認められない。しかし,填補賠償をよこせとか,代品をよこせということに対して,簡単に修補ができ,かつそれが債権者にとってほとんど負担にならないという場合に,やはり権利として追完ができることを認める必要はあるのではないか,というのが追完権の発想だと思います。これは理論的というより専ら実務的な感覚の問題ではないかと思います。 ○鎌田部会長 いずれにしましても,追完権の内容,具体的にどういう場面でどういうふうに働くことを念頭に置いた議論なのかということについて必ずしも全体的に統一的理解があったわけではないと思いますので,その辺をもっと明確に分かるような形で,言葉の問題ではなくて中身で,そういうものが必要なのか,必要だとしたらどういう法律構成で取り込むのが妥当なのかというふうな点を,もう少し詰めて検討をさせていただくということでよろしいでしょうか。―ありがとうございました。   次に,「2 第三者の行為によって債務不履行が生じた場合における債務者の責任」,「3 代償請求権」について,御意見があればお伺いしておきます。長くかかるようでしたら持ち越しということにせざるを得ないと思っておりますが,御意見があればお出しいただければと思います。 ○西川関係官 2のA案,B案ありますけれども,このうちのB案についてです。これは類型化による要件設定をしないということになりますと,結局のところはどういう契約だったかという,その解釈によって決まってくるということになるのかなと。そうなると,またやはり消費者契約の場面では,消費者の側に一方的に不利益な解決というのが押しつけられるという危険がやはりあるわけでございまして,そういう意味では,消費者契約の場面では,例えば事業者側に第三者の選任・監督が過失があったといったような場合には,免責なんていうのは認めないで,きっちり責任をとらせる。そういった形の手当てというのが,民法なのか消費者契約法なのかはあれですけれども,やはり必要なのだろうなと考えている次第でございます。 ○三上委員 同じところで,詳細版を見ますと,不法行為の使用者責任との比較で考えておられるところがあったのですけれども,例えば銀行員が取引先に集金に行って,そこの車にぶつけてしまったような場合と,お金を貸す日にちを間違えて入金し忘れたという場合とをパラレルに考える方が実務としてはおかしいと思っております。法人は必ず職務代行者でもって取引をするわけですが,それは契約内容を履行する者の責任として選任しているわけで,また,取引先に関しても同じことを考えているわけで,たまたま出てきた人間が銀行が認めた代理人だったか使者だったかによって,その者がお金を持ち逃げしても,選任・監督に過失はなかったから責任がないとかあるとか言われることを前提に,代表取締役以外の人間が行動していることを一々認めているのではありません。そういう意味で,ここで細かく場合分けした条項が入ってくると,取引のたびに相手方の権限を確認したり,責任の分担を契約に落とし込むという新たな作業が発生しますので,私としては,このような規定を置くことはかえって実務を混乱させるのではないかと考えております。 ○奈須野関係官 今の御意見と似たような話なのですけれども,A案のように第三者を類型化して分類するということにしますと,その要件に当たるの当たらないのということが問題になるということです。例えば事業者と事業者でない者というような分け方をしたとしても,事業者の間でも様々な能力格差はございますので,一律に事業者であるか事業者でないかというような区切りをすることは適切でないと考えます。そのように考えると,B案のように,リスク配分としてどのように契約の設定時に考えていたのかということを考慮していくことになろうかと思いますけれども,果たしてそのようなことが立法できるのかという,ちょっとよく分からないところもありますので,引き続き御検討いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   第三者の類型化については,多様な視点があって,多様な受け止め方をされている部分もあるかと思いますけれども,これまでの裁判例の中などで出てくるようなタイプ別という意味ですね,ここで言われているのは。この点も御意見を踏まえて更に詰めた議論をするということで,必ずしもA案かB案かの方向性をこの場で決めないまま論点整理に引き継いでいくということでよろしいですね。   代償請求権についてはどうでしょうか。 ○三上委員 これは質問でございますけれども,ここで挙げられている昭和41年判例というのは,たしか火災保険の判例だったような気がするのですが,私が学生時代に勉強した記憶では,保険料の対価として払われるものだからということで有力な反対説が書いてあったような気もするのですけれども,ここで代償請求権の例としてこの判例が挙げられているということは,火災保険のようなものは対象になるという前提で考えておられるのでしょうか。保険金に関しては,例えば当該保険金請求権が担保に入っている場合もありますし,ほかの債権者が回収の引当てとして考えている可能性もあるわけで,必ずしもそれらの場合に,代償請求権との優劣とか,配分の関係が明らかにならない可能性もありますので,いきなり代償請求権というあいまいな概念だけを民法の条文に持ってくると混乱するのではないかと思います。むしろ信義公平の不当利得の一般原則に任せるという考え方もあり得るのではないかと考えております。 ○松本委員 私も41年判決,はっきり覚えていないのですけれども,火災保険のケースだとすれば,特定物売買における問題ですよね。しかも,先ほどの特定物売買における債権者主義をとるかとらないかという問題と密接に関係してくるわけで,債権者主義をとって代金を払わなければならないけれども現物はもらえないというようなことになった場合にどうするかというのが一番切実な問題なので,債権者主義を採用しないということを決めれば,余りシビアな問題は起こってこない。ただ,それ以外の局面,先ほどの役務提供型の場合にはいろいろなことがあると思いますから,思わぬ必要性が出てくるかもしれないので,そちらは慎重に各契約類型ごとに調べなければならないと思いますが,判例から導かれる典型的な特定物売買における不合理性については,債権者主義を撤廃すればなくなってしまうと思います。 ○鎌田部会長 なくなりはしない。数は減るけれども。 ○松本委員 特約等によってずれる部分が出てくる場合はありますが,所有者危険負担主義ということで一貫すれば,余り不合理はなくなってくると思います。 ○中田委員 私もよく覚えていないのですけれども,41年判決というのは,賃借建物の返還債務が原因不明の出火による焼失で不能になった,で,保険金を受け取ったという,そんなケースだったと思います。それから,三上委員がおっしゃった,保険料の対価がうんぬんというのは,むしろ物上代位のところで出てくる議論かなという気もしております。   代償請求権について,もし規定を置く場合にどうするかというのはいろいろ議論があるところです。今日はもう時間もありませんので,詳細版の116ページの説明の仕方についてだけ一言感想を申し上げたいのですが,A案,B案,C案,割と本質的あるいは原理的な説明をしておられまして,それはそれで意味があると思うのですけれども,立法例が様々であることからも分かりますとおり,債権法全体の中で代償請求権をどう位置づけるのか,填補賠償請求権との関係をどう考えるのかという,全体の制度設計の問題もあるのだということを申し添えたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   代償請求権も,立法例も様々ですし,学説も人によって随分理解が違っているようで,これもそう短期間の議論で結論を出せるようなものではありませんので,引き続き検討を続けていただくということにさせていただきます。それ以外にありますか。 ○山野目幹事 議事進行上のことで少しコメントをさせていただきたいのですけれども,次回以降ますます内容に立ち入って,分かりやすく,かつ細密な論議をするという非常に難しいテーマにこのテーブル全体が取り組んでいかなければいけないのだと思うのですが,その際の部会資料の審議の際における扱いのことについては,部会資料に記されている内容の文意とか趣旨が不明瞭であると感ずるときに,それを事務局に,作成者にお尋ねするのは当然のことであると思いますとともに,そうではないときには,多くの場合には意見をおっしゃっていただくべきものであると感じましたので,一言申し上げさせていただきます。 ○鎌田部会長 どういう意味かについて質問するのではなくて,自分の意見を言えという御趣旨ですか。 ○山野目幹事 はい。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○山野目幹事 ありがとうございます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   それでは,本日予定をしていた議事は以上のとおりでございますので,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回の議事日程について御連絡いたします。次回の第5回会議は3月9日火曜日です。2週間後の火曜日です。時間は本日と同じ午後1時半から午後5時半まで,場所も同じ法務省20階の第1会議室です。   次回は,債権者代位権及び詐害行為取消権について御議論いただくことを予定しております。その資料については,前半部分を既にお届けしたところですけれども,引き続き後半部分もできる限り速やかにお届けすることができるようにしたいと考えております。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。御熱心な御審議を賜りまして誠にありがとうございました。 −了−