法制審議会民法(債権関係)部会 第5回会議 議事録 第1 日 時  平成22年3月9日(火)  自 午後1時32分                       至 午後5時55分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)               議 事 ○鎌田部会長 定刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係部会)第5回会議を開会いたします。本日は,御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。   では,配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 まず,事前送付の資料として部会資料7−1及び7−2をお届けいたしました。この資料の内容は,後ほど関係官の川嶋から説明いたします。次に,本日は,委員等提供資料として,連合の新谷委員から詐害行為取消権に関する事件の事実関係を記載したペーパーが提出されております。その内容は後ほど審議の中で新谷委員から御紹介いただけるものと思います。   以上でございます。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   本日は,「民法(債権関係)の改正に関する検討事項(2)」について御審議いただく予定です。   本日の審議の進行予定でございますが,部会資料7−1「民法(債権関係)の改正に関する検討事項(2)」を御覧ください。本日は債権者代位権と詐害行為取消権について御審議いただくことを予定しております。   具体的な進行予定といたしましては,休憩までに,まず債権者代位権について大まかに三つの塊に分けて御審議いただくことを予定しております。まず一つ目が,「第1 債権者代位権」のうち「1 総論」から「3 本来型の債権者代位権の制度設計」まで,資料7−1の1ページから4ページまでです。二つ目が「4 転用型の債権者代位権の在り方」,資料の4ページから5ページにかけてでございます。三つ目が「5 要件・効果等に関する規定の明確化等」から「8 裁判上の代位(民法第423条第2項本文)」まで,資料の5ページから9ページまで,「第1 債権者代位権」の終わりまでになりますけれども,そこまでを三つ目の塊とさせていただきます。その後,休憩を挟んで,詐害行為取消権につきまして三つの塊に分けて御審議いただくことを予定いたしております。一つ目が「第2 詐害行為取消権」のうちの「1 総論」及び「2 詐害行為取消権の法的性質」まで,資料で言いますと10ページから12ページまででございます。二つ目が「3 要件に関する規定の見直し」,資料の12ページから18ページまでです。最後に三つ目が「4 効果に関する規定の見直し」及び「5 詐害行為取消権の行使期間(民法第426条)」まで,資料のページ数で言いますと19ページから24ページまででございます。具体的な審議の進め方につきましては,前回の御審議と同様に,ただいま申し上げました塊ごとに,それぞれまず最初に事務当局から部会資料の説明をしてもらい,その後,説明がありました部分について御意見をお伺いしたいと思います。   それでは,審議に入りたいと思います。   まず一つ目は,「第1 債権者代位権」のうちの「1 総論」から「3 本来型の債権者代位権の制度設計」までについて御審議いただきます。   それでは,まず事務当局に説明してもらいます。 ○川嶋関係官 まず部会資料7−1と7−2の関係についてですが,7−1が主たる部会資料であり,7−2がこれに詳細な説明を付け加えた補助的資料であるということは前回までと同じです。この場でも,基本的には7−1に沿って御議論いただきたいと考えております。   まず「1 総論」についてですが,冒頭に総論を設けました趣旨は前回までと同様です。債権者代位権に関する規定の見直しに当たり留意すべき点について幅広く御議論いただきたいと考えております。また,2以降に掲げました個別論点のほかにも検討すべき論点がございましたら,ここで御指摘いただきたいと思います。   ところで,債権者代位権については,一般に,債務者の責任財産の保全のために用いられる本来型と,責任財産の保全とは無関係に,非金銭債権―特定債権とも申しますが―の内容を実現するための手段として用いられる転用型の二つの類型があると言われております。この二つの類型は想定される適用場面が異なりますので,それぞれの制度の在り方については個別に検討していくことにいたしたいと思っております。このことを提案するのが関連論点です。   二つの類型のうち,まず本来型の債権者代位権の在り方について御議論いただくのが,次の「2 本来型の債権者代位権の在り方」です。   「(1)本来型の債権者代位権制度の必要性」では,他の制度との比較等を通じて,本来型の債権者代位権が真に必要とされる場面を解き明かすような御議論をお願いできればと考えております。本来型の債権者代位権については,債務者の責任財産を保全するにとどまらず,簡便な債権回収の機能をも果たしていることが指摘されておりますが,他方で,我が国には,債務者の責任財産を保全するための制度としては民事保全制度が存在し,債権回収のための制度としては民事執行制度が存在しております。完備された民事執行・保全制度を有している中で本来型の債権者代位権制度が真に必要となる場面はどこにあるのかというのがここでの問題意識です。   なお,部会資料詳細版の6ページ以下にはフランス法に関する比較資料を掲げましたが,これは,債権者代位権がフランス法に由来する制度であることから一つの参考として記載したものにすぎません。フランスと我が国とでは民事執行法制が異なっておりますので,債権者代位権の条文のみを単純に比較することに意義があるわけではないことに御留意ください。   「(2)事実上の優先弁済の当否」では,本来型の債権者代位権が簡便な債権回収の機能をも果たしていることの当否について御議論いただきたいと思います。   学説上は,本来型の債権者代位権によって代位債権者による債権回収が図られ,事実上の優先弁済を得られる結果となることに対しては批判的な見方もありますが,その批判の根拠については,必ずしも妥当しないとの指摘もございます。倒産手続に入る前の段階における事実上の優先弁済が許されるのか許されないのかについて御議論いただけたらと思います。   次の「3 本来型の債権者代位権の制度設計」は,仮に本来型の債権者代位権の存在意義を債務者の責任財産の保全に求め,債権回収の機能を否定することとした場合に,具体的にどのような制度を設計することになるのかを見通しておくことを目的として御議論いただくものです。   「(1)債権回収機能を否定する方法」では,債権回収機能を否定する方法について御議論いただきたいと思います。現行法下の判例法理によれば,代位債権者は第三債務者に対して被代位権利の目的物である金銭を直接自己に引き渡すよう請求することが可能であり,受領した金銭の債務者への返還債務と被保全債権とを相殺することにより簡便に債権回収を図ることができるとされているところ,本来型の債権者代位権から債権回収の機能を奪おうとするのであれば,代位債権者が第三債務者に対して金銭の直接給付を請求することを否定又は制限するという方向性と,代位債権者への金銭の直接給付を肯定しつつその金銭の債務者への返還債務と被保全債権とを相殺することを禁止するという方向性とが考えられるかと思います。   なお,代位債権者への直接給付の可否及び直接給付を認める場合の要件については,被代位権利が金銭以外の物の引渡しを求める権利である場合についても問題になりますので,関連論点ではこの点について御議論いただきたいと思います。   「(2)被代位権利を行使できる範囲」は,本来型の債権者代位権の存在意義を債務者の責任財産を保全することに求め,債権回収機能を否定するのであれば,被代位権利を行使し得るのは被保全債権の債権額の範囲に限られるとする現在の判例法理を見直すことも考えられるのではないかという問題意識に基づくものです。   「(3)本来型の債権者代位権における保全の必要性―無資力要件」は,判例が本来型の債権者代位権の行使要件として債務者の無資力を必要としていることから,これを条文上も具体的に明示する方向で検討することを提案するものです。しかし,債務者の無資力を本来型の債権者代位権の行使要件とすることには異論もあるところかと思われます。債務名義なくして債務者の財産関係に介入することが許される根拠という観点も踏まえつつ,幅広く御議論いただけたらと思います。   「(4)登記申請権の代位行使の場面における無資力要件」は,登記申請権の代位行使の場面において債務者の無資力を要求することの当否を御議論いただくものです。問題の所在等につきましては,詳細版の12ページ以下に記載したとおりですが,端的に申し上げますと,不動産に対する強制執行の手続は,債務者の無資力を要件としない一方,差押登記を行うことを不可欠の前提として構築されているため,登記申請権の代位行使について債務者の無資力を要求すると,債務者が無資力でなくても開始できるはずの強制執行の手続が,債務者が無資力でないために開始できないという事態が生じかねないこととなるという点です。そこに問題意識を持っているわけです。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分のうち,まず「1 総論」について御意見をお伺いしたいと思います。 ○鹿野幹事 まず,債権者代位権だけにかかわる問題ではありませんけれども,責任財産の保全という概念について一言申し上げさせていただきたいと思います。   この二つの制度を責任財産保全のための制度としてとらえるとしても,そこに言うところの責任財産あるいは責任財産の保全という概念をいかなるものとしてとらえるのかということが大前提として問題になると思います。これを共同担保の保全ととらえるとすると,債権者間の平等を図らなければいけないという平等主義の方につながり,事実上の優先弁済は認めるべきでないということになろうかと思います。けれども,一方では,これを言わば一般担保の保全ととらえる,つまり個々の債権者の一般債権の引当てとなる財産を保全することを意味するものとして責任財産の保全という概念をとらえる可能性もあると思いまして,これを前提とすると,事実上の優先弁済が直ちに制度趣旨と矛盾するということにはならないと思いますし,優先弁済を認めてよろしいという方向にもつながりうるのではないかと思うわけです。この二つの主義は,どちらが絶対的に正しいということではなくて,そのいずれを採るかは恐らくは立法政策の問題だと思うのですけれども,いずれにしても大きく二つの選択肢があるのだということを自覚した上で,ここで責任財産の保全としてどういうものを目指すのかを意識しながら議論する必要があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 関連する御発言はございますでしょうか。 ○沖野幹事 今,鹿野幹事がおっしゃったことはもっともだと考えております。責任財産の意義をどうとらえるか,あるいはそもそもの制度趣旨をどこに求めるかが重要だと思っております。その点では付け加えることはなく,また資料との関係では,詐害行為取消権の方についてその観点を補充した方がよいのではないかという印象をもっております。   ただ,債権者代位権につきましては,この制度自体が何を手当てするのかということとともに,この部分は非常に資料に詳しく記されておりました,他の制度との関係でどこに制度の意義を求めるかということがあり,仮に債権者代位権について一般の共同担保の保全ではない制度であるとして構築するとしても,被保全債権と被代位権利とがともに金銭債権であってその実現を図るというときには,強制執行ですとか保全とかの制度があって,かつそこで十分様々な利害考慮がされている中で,それとは別にこちらの制度で手当てをすべきなのかという観点が一層重要だと思われます。したがいまして,そもそもどういう制度としてとらえるかということは両者共通しての問題であるとは思いますけれども,代位権と取消権とではそれでも様相は違ってくると思います。 ○鹿野幹事 今,沖野幹事がおっしゃったとおり,私も先の最初の発言はむしろ詐害行為の取消権に関して特に発言したいところなのですけれども,ただ,責任財産の保全ということで共通してかかわってきますので,最初に発言させていただきました。もちろん,具体的な制度設計については,今,沖野幹事がおっしゃったように,ほかの制度との関係で当該制度をどのように位置付けるのかというところも非常に重要だと思いますので,代位権と取消権では差が出てこようかと思います。 ○鎌田部会長 ほかに総論に関連して何か御発言ございますでしょうか。   よろしければ,「2 本来型の債権者代位権の在り方」及び「3 本来型の債権者代位権の制度設計」について御意見をお伺いしたいと思います。 ○大島委員 中小企業の実態を調べてみましたところ,事実上,本来型も転用型も債権者代位権を使う場面はほとんどないと聞いております。商工会議所の法律相談事例でも,現実に中小企業が債権を取り立てる局面では仮差押えや強制執行を使っているとの報告がございました。 ○三上委員 金融機関の立場で申しますと,通常型の債権者代位権につきましては,金融機関でも実際にこれを使って回収する例はほとんどないということでございます。逆に使われる側の立場になることは年に一度ぐらいはございまして,その場合の無資力要件の立証などの反論は,当たり前ですが,非常に困難でございまして,そういう面では,はっきり言えば迷惑な制度という認識を持っております。   その延長でいきますと,この制度が使いやすい制度になるということに関しては,肯定的見解は余り見られないところでございます。   しかし,ではこれを廃止してしまってよいかということに関しては,慎重論がかなり強うございます。なぜかといいますと,大きくは三つの理由があると思います。   一つは,先ほど言いましたように実際には回収には使わないのですが,交渉や理屈の上で使うということは時々あります。例えば,関連会社や身内への貸付けに非常に甘い企業の回収の交渉の際に,その身内の企業から回収しないことに関して,債権者代位で直接請求だってできるんだという言い方をするとか,あるいは,転借人がある場合の賃借人に対する転賃料を返済に回させる交渉をする際にもそういうことを使うことがある点。もう少し現実味のあった話としましては,抵当権に基づく妨害排除請求が認められるまでは所有者ないしは賃借人の妨害廃除請求を代位行使できるという主張,これは判例が両方一遍に認めてしまいましたからかすんでしまいましたけれども,少なくともあの訴訟の提起時点では非常に有力な理論構築の一つだったのではないかと思います。   二つ目は,振り込め詐欺の救済の際に一度判例で使われて非常に有名になったということもあるのですが,振り込め詐欺の場合には特別立法ができてしまいましたけれども,逆にそれから漏れる単純な誤振込みという場合に,例えばよく受取人名を確認せずに店舗名を間違ったまま手続を終わらせてしまったとか,あるいは当座と普通を間違えて入れてしまったといったようなケースで,受取人と連絡がつかない,不活性口座になっているようなケースの回収の場面というのは,その特別法では手当てされていません。これは銀行の例ですけれども,それ以外に普通の一般企業でも,小口の債権といいますか支払債務を負っているのだけれども,債権者の側が倒産等して支払請求がなされないまま残っているというのは会計処理としても気持ちが悪いというような意見もございます。先に言っておきますけれども,誤振込みのケースというのは内国為替制度をいじればどうこうするという問題ではなくて,どちらかといいますと,平成8年の最高裁判例の帰結からの問題ですので,その点だけ強調させていただきたいのですけれども,いずれにしても,こういったケースで,例えば10万,20万のそういう小口債権を,通常の勝訴判決,債務名義,差押え,取立てという民事執行手順を踏んでいたのでは結局ペイしないということが非常に多い。かつ,誤振込みのケースのように,ほとんど帰責のない受取人としましては,自分のあずかり知らぬところで欠席・敗訴判決が出て,差し押さえられて,回収される。自己の財産に対する差押えというのは金融取引においては当然喪失事由ですから,こういったことは非常に問題が多い。そういう意味で,民事執行手続に乗せていてはペイしないような簡易の救済手段という面は何らかの形で手当てしないと,いきなりこの制度をなくしてしまっていいのだろうかという漠然とした不安があるという点です。   三つ目はもっと漠然とした議論ですけれども,登記請求権の代位行使のように,転用型においては非常に重要で,今回も残すべきという制度があるわけですが,転用型が生まれたということは,そのもとになる制度があったから生まれたわけでありまして,それが民法という基本法典から外れてしまうと類推適用等が難しくなるのではないかといったような不安があるということではないかと思います。   それからもう1点,先ほど鹿野幹事,沖野幹事から言及のありました点でつけ加えておきたいことは,債権者取消権と違ってというよりも,債権者取消権もそうなのですけれども,それよりも一層,債権者代位権の方は債権者全体のために責任財産を保全しているというよりは,使っている方は専ら自己の債権の回収のために行使しているという面が大きいのではないかと感じるところです。条文上も「自己の債権を保全するため」となっていまして,「すべての債権者の利益のために」という部分は出てきませんので,恐らくこの辺に学説と実務のボタンの掛け違いみたいなところがあるのではないかといったようなことも感じております。 ○藤本関係官 三上委員の関連でございまして,私どもとしても,預金者保護ですとか投資者保護というのが非常に重要だと考えております。その観点から債権者代位権が使われる場面がないかどうかということを考えてみますと,先ほど例に挙げられましたように,振り込め詐欺については立法で手当てされたわけでございますが,そのほか,誤振込みですとかそういうものについて何か使われることがないのか,今想定できないようなものでも何か預金者保護とかの関係から使われるものがないのかという点があろうかと思います。もちろん,これについては,そういう制度を転用して当てはめるということに伴うゆがみみたいなものもあって,一般法理を構築していくべきではないかという考え方もあろうかと思いますが,ただ,いろいろ被害が生じた場合にいち早く救う手段というのは,あるものであれば,それをなくしていくというのは慎重に考えるべきかなと思います。   もう一つですが,銀行の実務では余りないかと思いますが,債権回収の現場というのがございまして,確かにそれほどものすごく使われているかといったらそういうわけではありませんが,中には,債務者が第三債務者に金銭の貸付けという名目で資金を移動して,第三債務者が不動産なんかを取得している,詐害行為取消権の要件も何らかの理由で満たさないといったときに,債権者代位権プラス仮差押えといったようなことで対応している例があるようでございます。債務者というのが自分の権利を行使するのにやや消極的だというイメージもあろうかと思うのですが,中には,やや積極的に,資産の隠匿を図る者という場合もないわけではありませんので,そういう観点も重要な点かと思います。 ○新谷委員 先ほど大島委員から中小企業では余り事例がないというお話をいただいたのですが,実は労働の現場ではこの債権者代位権はかなり重要な使われ方をしてございますので,事例を含めて御紹介したいと思っております。お手元にお配りした事例は詐害行為取消権ですので,これは後ほどお話しさせていただきます。   この債権者代位権が活用されるのは,企業倒産の際です。労働組合の各産業別組織の倒産時等対応マニュアルの中には,債権者代位を使うことについて記載されている例も非常に多いということでございます。御承知のとおり,日本の倒産制度では,破産法とか会社更生法が適用され管財人が管理するというケースは非常に少数でございまして,圧倒的に任意整理が多いということでございます。倒産法制が使われるケースでも民事再生法の適用を受けるケースが非常に多いという中で,実は民事再生法ですと労働債権も枠外ということでございますし,担保権を持っている金融関係の債権も手続の枠外ということでございます。この賃金債権と担保権を持っている金融債権との激突が倒産した現場では起こるわけでございます。内田先生のテキストの中には魑魅魍魎の跋扈する世界というのがございますけれども,正しくそういう世界が出てくるわけでございます。   そういった現場でこの債権者代位権というのはかなり使われてございますが,例えば,企業が倒産して管財人がつかないケースで,倒産手続が開始されたときに,その企業に労働組合がある場合は,労働組合が債権者でございます労働者の代理としていろいろな手続を行います。特に,労働債権保護のために,倒産しそうな企業経営者と話をする中で,まず,未収金であるとか売掛債権について債権譲渡を求めます。ところが,倒産しそうな企業の側ではなかなか債権譲渡には応じませんのでなかなか進展しないということになります。その場合,労働組合は,労働者の代理人として,未収金,売掛金などの支払義務を負っています第三債務者に対して債権者代位権を行使するという通知を送ります。もちろん,こうした通知を受け取った第三債務者が労働者に支払をするということは非常にまれなケースでございますが,第三債務者がとりあえずその通知を受け取ったときに,支払を凍結する,怖くて払えないということになりまして,誰にも支払をしないということが少なくないわけでございます。つまり,裁判所が倒産手続で発令します保全命令に近いものがここに出現するわけでございまして,現状を固定して第三債務者が偏頗弁済するのを防ぐという機能がここにあるわけでございます。この現状固定の効果が生じるというのは,正しく実体法上の権利があるということです。手続法上の権利があったとしても,なかなか第三債務者に対して,労働組合が支払の停止を求めても,「倒産手続とか裁判所の保全命令が出れば従います」とか,「裁判所から差押命令が来れば従います」とか,「あなた方に従う必要はありません」とか,こういった現場での混乱が生ずるわけでございます。   そのため,仮にこの本来型の債権者代位権というものが廃止されることになりますと,賃金債権の保全が一層困難になると考えているわけでございます。管財人がつかない,保全命令も出されない事件に関して偏頗弁済を防ぐという意味では,この債権者代位権はかなり機能しているということを申し上げておきたいと思います。もしこれがなくなってしまうとすれば,別途,賃金債権の保護を図る立法についても改めて御検討いただきたいと思っているわけでございます。 ○中井委員 先ほどの藤本関係官の発言を補足する意味で申し上げたいと思います。   債務者の責任財産を保全する制度として,詐害行為取消権と同じような形で債権者代位権を使う場合がある。債務者が第三債務者に例えば金銭を贈与すれば,これは取消しの問題になる。しかし,債務者が第三債務者に金銭を貸し付けるけれども回収しない,これは多くは,第三債務者は債務者の関係者であったり親族であったりする場合が多いですが,隠匿目的で法律上は貸付けという形をとるけれども,実は回収行為をしない。同じように,不動産を廉価売買する,これは詐害行為で取消しの対象になりますが,不動産を売買しておきながら売買代金を回収しない,結局財産は第三債務者の手元に残るという場合に,債権者サイドとしては,債務者が第三債務者に持っている権利を代位行使する,それを被保全権利として,第三債務者にある財産,今の例で言うなら不動産若しくは金銭,預金になっている場合もありますけれども,それを仮差押えする。つまり,債権者代位権の被代位債権を被保全債権として保全手続として用いる。こういう実務は相当程度行われております。仮に債権者代位権の行使ができないとなれば,このような保全ができない。詐害行為取消権と同じような債務者の財産保全の機能を果たしている側面であろうかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○深山幹事 制度そのものの存否については,今ほかの方々がおっしゃったとおり,いろいろな場面で必要な点があろうかと思います。   「総論」のところで,責任財産の保全というのが当該代位行使をする債権者のための責任財産保全なのか共同的保全なのかということによって制度の作り方が変わってくるというお話がございましたが,それもそのとおりで,なおかつ実務的には,既に御発言がありましたけれども,正に権利行使をする債権者が自分の債権保全のためにやっているということはほぼ異論のないところだと思います。皆さんのためにやりましょうという奇特な人はほとんどいらっしゃらない。そういう意味でいうと,現行法の条文上も「すべて」とは書いていないという御指摘もあったとおり,法文の素直な解釈としても,あるいは実務としてもそういう制度になっております。もともとの沿革までさかのぼるとどのような制度であったのか,そこは不勉強で分かりませんが,現状そういう制度になっているということを前提に,なおかつそのような制度の必要性があるという議論だろうと理解しております。   1点だけ申し上げたいのは,そのような当該代位債権者の責任財産保全のための制度だとしても,だからといって優先弁済まで認めていいかどうか,これは全く別の問題だろうと思います。先ほどの鹿野幹事も必ずしもという趣旨でおっしゃったのだろうと思うのですけれども,理屈の上では必ずしもという意味ではそのとおりなのですが,考え方としては,優先弁済を認めるかどうかというのは,これは保全制度であるとか執行制度との兼ね合いもありますが,単にほかに制度があるからという理由以上に,そもそもなぜ債務名義もなしに他人の権利を行使できるのかという最も本質的な部分に照らして,それを保全するところまでならともかく,回収までしてしまうということを一気に債務名義なしでやるということが許されるのかという観点から,やはりそこは否定すべきではないか。優先回収のメリットがあるからこそ使う例があるという実態はもちろん承知しているのですが,しかしそれが果たして正しい法制度の在り方なのかというと,そこはかなり疑問を感じています。もちろん,弁護士ですから,制度がある以上使いますけれども,つまり使わないのかと言われれば使うのですが,立法論として,制度として優先回収機能まで残すかというと,それはまた別という意味で,そこは否定的に考えているところでございます。 ○鎌田部会長 ただいまの御発言は,2の(2),それから3にも関連する御発言ですので,そちらの方も含めて御意見がございましたらお出しください。 ○山本(和)幹事 私は今の深山幹事の御発言に全面的に賛成です。民事執行法,民事保全法,最初の御説明にありましたように,基本的には債務名義がある場合には債権の回収のために任意執行手続,強制執行手続を用意し,債務名義がない場合の財産保全のために民事保全,仮差押えの手続を用意しているのだろうと理解しております。したがって,本来的にはこれらの制度で債権の保全・回収を図るというのが現行法の立場ではないかと思っております。もちろんこれらの制度は,最初に完備されたという御発言がありましたが,私自身は必ずしも完備されたとまでは思っておりませんが,しかし完備されるべきものであると理解しておりまして,不備があればそちらの手続をできるだけ使いやすいものにすると。先ほどの新谷委員の御発言で労働債権に基づいての権利回収で一般先取特権に基づく担保権実行が使いにくいところがあるのだとすれば,そこをなるだけ改善していくという方向で制度としては考えていくべきものではなかろうかと一般論としては思っています。ただ,そうはいっても一朝一夕には完備するところまではいかない,あるいは例外的な事態,先ほど来振り込め詐欺等の話が出ておりますけれども,そのような場合にいわゆる簡便な回収といいますか簡便な制度としてそういう例外的な制度を残す場面が全くないかと言われれば,私もそれはそういうものが現状残っているだろうと認識しております。そういう意味では,このような制度,本来型の債権者代位権という制度を残すことそれ自体については反対するつもりはないわけです。   ただ,この事実上の優先弁済効を認めるという点については,今,深山幹事から御発言がありましたとおり,執行・保全との関係から言えば,余りにも過大な機能をこの制度にゆだねているのではないかという印象を持っております。詳細版の方では,民事執行法においても債権執行については必ずしも平等主義が完全な形で貫かれていないという御指摘があります。これはそのとおりだろうと思いますが,これを前提にしてもなお一種の逆転現象というべきものが発生しているのではないか,つまり債務名義に基づいて行われる民事執行よりも債務名義がない債権者代位の方がより優先弁済的な効力を持っているという面は否定できないのではないかという印象を持っております。転付命令につきましては,この制度は第三債務者の無資力のリスクを差押債権者が負担して優先回収を図る制度,そういう意味ではハイリスク・ハイリターンの制度ですけれども,この債権者代位は第三債務者の信用リスクを取らないで回収することができるものですので,これは同列には論じ難いのではないかという印象を持っておりますし,また配当加入の遮断効のこと,これはそのとおりであると思いました。そういう意味では,差押えに基づく取立てにおいて一種の優先弁済権が認められているというのはそのとおりだと思うのですけれども,ただ,この債権者代位も,少なくとも第三債務者が任意に支払う場合には,差押えの場合と同じ程度の優先弁済が認められる結果になっているということは否定できないように思われます。一方は債務名義に基づいて裁判所で行われる手続であるということを考えると,やはりそれは逆転しているのではないか,バランスを欠いているのではないかというのが私の印象であります。したがって,私自身は,この事実上の優先弁済というところを認める形で制度のコストを言うのは相当ではないだろうと思っております。 ○道垣内幹事 どういう場面で使われているかという話をいろいろ伺ったのですけれども,債務者が有している財産が第三債務者に対する債権であるときのみそのような簡便な方法を認めるということの正当化根拠がまだ伺えていないような気がするのです。現行法は,第三債務者がいるときにできるという制度ですから,現在の利用例として,そういった事例しか出てこないのは当たり前なのですけれども,なぜ債務者が第三債務者に対する債権を有しているときには,簡便な方法がある程度あった方がいいのだとか,仮差押えの制度等がまだ不十分であることは否めないといった理由で債権者代位が正当化できて,普通の―普通の財産というのは変ですが,第三債務者が存在しない,債権以外の財産を持っているときにはそれが正当化できないのか。仮に山本和彦幹事のようにおっしゃるのならば,すべての財産についてそうなるのではないかという気がいたしますし,今まで実務等で使われている場面を伺いましても,なぜその場合にだけそのようなことが必要なのかというのが私には今のところよくわからないままなのですけれども。 ○鎌田部会長 どなたか,今までの点についてお答えいただけますでしょうか。 ○高須幹事 今の点ではなく,別なことについての発言です。 ○鎌田部会長 では,今の点は宿題ということで,次の御発言に移らせていただきます。 ○高須幹事 債権者代位権を残すべきかという議論から始まって,その上で事実上の優先弁済機能をどう取り扱うかという形で議論が進んできたと思うのですが,私も,基本的には債権者代位権の果たしている役割は今もあり,残す価値があるだろうと思っております。その上で優先弁済権が事実上,認められていることについては,今のように比較的無条件というか相殺という形で簡単に認められているということに対してはもう少し抑制的であるべきだろうと思っております。   簡易簡便な制度としての意義があるとなりますと,これを全部一律に否定して全て強制執行制度によるということになると,その意味が失われてしまうと思っております。もう一つは,具体的な問題なのですが,当事者において,訴訟等,あるいは訴訟外もございますが,交渉とか訴訟とかで第三債務者に対する代位権行使を当事者限りの制度として利用する限りは,個別具体的債権を回収したい当事者の意思がやはり優先して,幾ら制度をつくっても結果的には個別債権回収に利用されるという余地は否定し切れないのではないかと思っております。具体例を言いますと,債権者代位訴訟になって,例えば最終的に判決をもらって引渡しを受けるのではなくて,途中で事実上お互いの間で話をつけて,お金をもらって訴えを取り下げてしまうとか,そのようなことは幾らでもできるのだろうと。この場合,取下げを禁止するというのもなかなかできないと思います。したがって,存在意義がそういうところにあるとなれば,そういう機能を持ってしまうことは否定できないのではないかと思います。そうなると,行き過ぎた事実上の優先弁済機能みたいなものを抑制する,ある程度のところに抑えるということぐらいが一番いいところではないかと思っておりまして,この点が問題であるという,これまで複数の先生方から出た発言に私は基本的には同調するのですが,全く認めないというのではなくて,どこかで折り合いをつける,このあたりが法制度としてはよろしいのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 折り合いのつけ方について,何かアイデアがございますか。 ○高須幹事 それを言われると大変つらいのですが,ただ,一応教えていただいた内容ですと,一律相殺の禁止ではなくて,取消権のところで話題に出ているように,一定期間の相殺禁止とか,幾つかの知恵は出せるのではないかと思っております。 ○奈須野関係官 これまで多くの方がおっしゃっているとおりの意見なのですが,債権者代位権の制度の趣旨を債務者の責任財産の保全ということを中心に考えていくということについては賛成であります。事実上,経済界においても債権者代位権を行使して債権回収を行った,優先弁済をしたという事例はほとんどないということで,実務上のニーズがないのかなと思います。そのことは,詐害行為取消権とは若干,次元が違う話であって,こちらについてはまた別途議論させていただきたいと思いますけれども,債権者代位権については以上のとおりでございます。   何で債権だけなのかという御質問もあったかと思いますけれども,私はそういう難しいことはなかなか答えにくいのですが,あえて言えば,そこで行使しなければ保全できない債権があるからという,そこに山があるからみたいな話なのですが,そういうことで債権については特にこのような仕組みを設けていくことが必要なのかなと思います。   また一方で,優先弁済効の部分について詐害行為取消権の条件に該当しない場合にこれを行使する,債権者代位権を行使する事例もあるやにお伺いしましたけれども,そちらの部分については詐害行為取消権の部分をきちんとした制度にしていくということで対応していくことを前提とすべきで,債権者代位権については基本的には優先弁済効よりも責任財産の保全ということで制度を設計していくと。その際には,第三債務者が突然ある日かかってこられるわけですから,第三債務者を保護するという仕組みを同時に考えていく必要があるのではないかと思います。 ○沖野幹事 私も深山幹事や山本和彦幹事のおっしゃり,それに続く御発言のあった点に基本的に賛成なのですが,補足のつもりでお話ししたいと思います。   一つは,債権者代位権というのが個別の権利行使のためなのか,いわゆる責任財産の保全のためなのかということで,条文上はいずれとも書かれていないというお話ですけれども,私の理解するところでは債権者代位権自体は債務者が権利を行使しないということによって債権者の権利が危殆化しているときに,債務者の権利を代わって行使するということですから,あくまでも債務者の権利を行使する形で債務者の財産等を維持充実していくと,そういう制度であって,それがしかし具体的にどういうようなねらいのもとにされるかというのは,また別であると思われます。かつ,そういう構造だととらえますと,基本的には債務者の権利を行使しているわけですので,それ以上でも,それ以下でもないわけですから,債務者のところにまず来るというところまでが債権者代位権のもともとの機能であるし制度ではないかと思います。それに対しまして,更にその交付先を自らにすることによって,それを超えた機能を発動できるような仕組みになっているところをどうとらえるかという問題があります。特に利用例の中には,誤振込みの例ですとか,振り込め詐欺などはそうだと思うのですけれども,債務者の権利を代わって行使するという形態にのりながら,債務者のところに確保するというのを越えて,端的に自分のところに確保し,更に言えば,債務者を経由しないことがむしろ望ましいというような場面で使われるという例がありますが,それは,その意味で本来的ではなくて,個別の当該被保全債権自体の実現が特に必要とされる個別場面の問題なのだと思います。   もう一つ,様々な利用例を教えていただきまして,状況がよく分かりました。ただ,それらの利用例がなぜ債権者代位権を使わないといけないのかについては必ずしも明らかでない面もあるように思います。恐らく問題があって使われないのだろうと思いますけれども,例えば労働の場面ですと,そういう利用の仕方があるということがよく分かったのですけれども,これも山本和彦幹事がおっしゃったように,もともと一般先取特権も付与されて優先的な立場が与えられているところを,その権利行使でなぜできないのだろうかという疑問を持ちます。   それから,中井委員がおっしゃった例につきましても,これは私自身の理解力不足のせいだと思いますけれども,債務者が貸付けを回収しない場合にしましても,不動産を売却するという形をとって代金を回収しないという場面でも,端的に貸付債権や代金債権がある中で,なぜそれを端的に,仮差押えなり差押えなりをかけていくことで対応できないのだろうか。債権代位を絡ませないといけないのはなぜなのか。現在の保全や執行では対応できない事由があるとすると,それは一方で民事執行法や民事保全法の見直しの契機にもつながると思いますので,なぜできないのかということを明らかにしていただけると,より一層,この債権者代位権が何を担うべきなのかということが明確になるように思われます。三上委員からは,額が少な過ぎてペイしないということと,期限の利益喪失条項を発動させないために強制執行等をあえて回避するということが言われまして,後者が正当なのかということは分かりませんけれども,しかしそういうような事情があるということはよく分かりましたので,ほかに挙げられた例につきましても,もし可能ならば,なぜ債権者代位権がないといけないのかということの具体的な事情を教えていただければと思います。 ○中井委員 先ほどの説明が言葉足らずで申し訳ございませんでした。債務者から第三債務者に実際上資産が移転しています。例えば金銭なら金銭が,贈与ではなくて貸付けされて,第三債務者のもとで例えば銀行に預金されている例を想定していただきたい。若しくは不動産の例でいえば,売買はして第三債務者名義に移っているのだけれども,売買代金自体は回収しない形です。第三債務者のもとに不動産や現金という資産が移転している。そのときに,どのようにしてその不動産を回収するか,若しくは預金を債務者の手元に戻すか,こういう観点で,債務者の第三債務者に対して持っている例えば貸付金債権若しくは債務者の第三債務者に持っている売買代金債権を被保全債権とするために,そこで債権者代位権を使うわけです。第三債務者の手元にある不動産なり,預金を仮差押えする,そういうときに使うと申し上げました。もちろん,直接,債務者の第三債務者に対する売買代金債権や貸付金債権を仮差押えするなり債務名義をとって差押えするなり,これを行うことは言うまでもありませんが,第三債務者による財産を債務者のところに戻すための事前の保全策として使っています。 ○新谷委員 企業倒産の場面でなぜ債権者代位を使わなければいけないかですが,担保権を持っている金融機関がまずここに存在しているためです。金融機関は,企業経営者にとって,今後の再建に向けていろいろな融資を受けることを想定し,「仲良くしたい」と考え,そちらの方の弁済を先にするというケースがございます。   もう一つは,企業倒産においては経営者,中小企業の場合は個人経営者が多いわけですが,一部の個人経営者は,その個人経営者本人であるとか親族に先に分捕ってしまうことがあります。この場合,我々として考えられるのは,第三債務者である売掛債権である未収金をまずそこで押さえてしまうということでこれを使っているということです。 ○鎌田部会長 仮差押えなどの方法はとるのが難しいということですか。 ○新谷委員 そうです。時間もかかりますし,いろいろな手続の面でいくと,我々としては債権者代位権を使ってとりあえず保全を先にするということをしているわけです。 ○中井委員 もう一点よろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 はい。 ○中井委員 沖野幹事から具体例をということでしたので申し上げておきますと,執行・保全制度で賄うことができない例としてですが,間もなく債務者から第三債務者に対する債権が時効にかかるようなときに,被代位債権を差押え若しくは仮差押えしても時効はとまらない。そのときに,一方で仮差押えをしながら代位訴訟を提起し,それによって時効の中断をさせるというような行使事例はあろうかと思います。そのほかにも,議論にはなっていませんけれども,執行・保全制度では賄えないものとして形成権の行使があります。現在は例えば生命保険だったら差押えしてから差押えに基づく解約をしていますが,平場で無資力要件なり,しかるべき要件を課して,債権者代位権で形成権を行使する事例もあり得るだろうと思います。また,保存行為についても議論はされていませんが,それも否定される趣旨ではないと理解しています。   ただ,優先弁済効を認めるかという議論とは全く切り離して申し上げております。大阪弁護士会でもいろいろ議論して,事実上の優先回収を認めることについては,確かに制度の趣旨からいって超えているなという意見が相当程度出ていることは事実ですので,まず保全した上でどのようにその保全した財産を分配するかというのは次に考えていくべき課題だと認識しております。 ○新谷委員 先ほどの私の発言に追加させていただきたいのですが,執行手続を踏むのに時間がかかるということもありますけれども,さらに,労働債権は,優先債権ではありますが,公租公課負担に劣後しています。倒産する企業は税金を払っていないケースが多く,回収できないケースが非常に多いということから,この代位権を使っているということでございます。 ○山下委員 商事の関係分野を研究しておりますと,民法の債権者代位権の判例,通説を前提に物事を考えますから,事実上の優先弁済というのも判例として定着していれば,それを前提にまた商事独自の問題を考えるということになります。本当はこれは代位権の問題ではなくて,代位権を行使しようとする債権者が第三債務者に当たる人に対して直接権利を持ってしかるべきであるという問題で,それを制度改正したり解釈論を工夫して認めるのが本来は望ましいのだけれども,債権者代位権で事実上優先弁済があればいいではないかというので思考停止をしている例がないとは限らないと思います。そこらあたり,先ほどから議論されている手続との関係でこの制度をどう位置付けるかということもありますが,加えて,ほかの実体法的な分野のルールとの関係でも,この制度を変えることによって何か漏れていくものがないかというようなことも考えておく必要があるかと思います。   それでは,具体例が何かあるかと言われて考えてみたのですが,それほどはなさそうなのですが,例えば取締役の第三者に対する責任という問題がありましたが,あれも一昔前の学説だと,会社債権者が,例えば取締役が放漫経営をして債権回収が不能になって損害を被ったときに,どのように救済するかというと,これは会社債権者ですから債権者代位権を行使すればいいので,第三者責任を会社債権者に認める必要はないのではないのという議論も一部にはあったのですが,そういうのが典型だろうと思うのですね。この問題については判例では,会社債権者も第三者になり得るということだったので,実際には問題はすべて解決されましたが,それと似たようなことがほかにも場合によってはありうるのではないか,そこの検証が必要かなと思っている次第でございます。 ○木村委員 経団連の傘下企業の中で債権者代位権を使うことは,特に産業界ではほとんどないということなので,事実上の優先弁済機能についてお話しできることは少ないかと思うのですが,ただ,その中でも話が出てきたのは,債権者は,第三債務者に対する債権についていろいろ調査を行うなど,それなりに努力をしているわけなので,その努力が報われないような制度が事実上機能するのか,意味があるのかということです。そういう意味では,優先弁済機能を抑制する何らかの方法というのはあるのかもしれませんが,事実上の優先弁済機能を当然のごとく要らないというものでもないのではないかという意見が強うございました。 ○山野目幹事 2点申し上げさせていただきます。   しばらく前に中井委員からお話があったことですが,保存行為についての代位というものは恐らく肯定する前提で議論が進んでいくのでしょうね,というお話があったことについては,私もそう考えますし,恐らく形成権の行使とか保存行為の代位というものが強制執行の制度や保全の制度によっては賄うことができない債権者代位権という制度の特色なのでしょうし,あるいはやや特殊な面がありますが,登記申請権の代位行使についても似たようなことが言えるのではないかと考えます。しかし,しばらく前に道垣内幹事がおっしゃったことは,そういうふうな特殊な局面を超えて,ことさら第三債務者がいるときに限って,なぜ強制執行や保全の制度よりも緩やかな仕方で働く制度が認められるのかということについては,なおここでの議論において答えをもらっていないというお話であったろうと思いますし,それは部会長が整理なさったように,引き続き宿題にならざるを得ないとも感じます。   もう1点は,しばらく前に高須幹事がおっしゃったことですが,事実上の債権回収機能を否定ないし,高須幹事は抑制の方でしょうか,抑制されるという観点から,代位債権者への直接の給付を認めた上で代位債権者のする相殺を規制しようというときに,一定期間に限って規制しようということをおっしゃったと思います。一つの考え方であろうと,伺っていて勉強になったのと同時に,一定期間禁止するというやり方が果たしてエレガントな手法であるかどうかというのは,もう少し検討してみる必要があるかもしれません。一定期間という量的な,露骨に政策的なファクターに依存して,この抑制のコントロールをしようということをするよりは,ほかにも恐らく幾つか方法があって,代位債権者の側からは相殺ができないけれども,債務者の側からは相殺ができるというふうなところに注目を置きながら,代位債権者と債務者が話合いをして協調的な処理について見通しが得られるときには,結果として事実上の優先弁済になるかもしれないけれども,一般的には相殺が抑制されるというふうな規律の置き方というのも,なお引き続き御検討いただきたいと感じるものでございます。 ○高須幹事 先ほどは全く苦し紛れに申しましたので,エレガントでないことは認めます。いろいろな方法を検討してゆきたいと思います。要は私が申し上げたかったのは,一律禁止というのはなかなか現実性がないのではないか,「抑制」という言葉を使わせていただいたわけですが,いい案配というか,度合いを見計らったらどうだろうかと,ここに主眼がございます。 ○岡(正)委員 代位権の存続は前提としまして,代位権の効果として代位債権者に直接給付を求めることを認めるかどうか,その後,相殺を認めるかどうか,その点にだけ絞って意見を申し上げます。   弁護士会で議論しましたところ,山本和彦幹事がおっしゃったように,保全,執行で整備すればいいではないか,その方が債務名義もあるし保証金もあるし,ずっといいという議論が確かに多くはあるのですが,弁護士の議論でも三上委員が真ん中でおっしゃった,既に倒産した会社があって,そこが未収金一つだけぽつんと残っている,自分は債権を持っていると,そういうときに少額であるような場合に仮差押えして本差押えして回収しないといけないのか。そういう場合に極めて例外的であって結構だと思うのですが,直接回収して倒産法の規律の制限は受けるけれども,一定の場合には相殺を認める。そういうルートを今回の議論で抹殺していいのかという意見が根強くありました。今から新たにつくろうというと,それほど賛成は得られないと思うのですが,100年間,そういうことができてきたと。そういう観点からいくと,執行・保全がすぐには変わらないということもありますので,今ここで理屈から完全に抹殺していいのかと言われると,やはり反対というか,ちゅうちょする弁護士が多うございます。額を制限するとか,直接給付を求められる場合を限定するとか,相殺できない期間を設ける手法がエレガントではないという御意見もありますけれども,何か制限は加えるけれども,この機会に抹殺することはしないでいただきたいという声を意見として申し上げます。   それから,道垣内幹事の先ほどのお言葉ですが,債務者が持っている財産については債務者に払え払えと請求をします。それと同じ意味で第三債務者に対する債権の場合には第三者に対して直接言えないので,その場合に債権者代位権を使って,おまえ払え,こちらに持って来いと請求します。こういう任意履行を求める意味では同種の行為であり,債権だけに認められた特別な回収ではないと感じています ○松本委員 本日の議論は学者は非常に発言しにくいのですね。なぜかと考えたら,結局,政策論なんですよ。理論がどうのこうのという話ではなくて,どういう必要があるのかという話なので,結局,正当なニーズがある制度は残すべきであると。そうではなくて,ほかの制度で十分賄えるということであれば要らないではないですかという話になってしまいますので,学者としては何も言えないに近いようなところがあります。   それで,先ほどちょっと議論に出ましたが,道垣内幹事の根本的疑問,根本的とも思わないのですが,疑問に対しては,正に先ほどの岡(正)委員の発言と全く同じ感覚です。なぜ第三債務者がいる場合だけ執行以外の方法で介入できるのかというと,それは債務者に対して強制執行する前の前段階として,それ以外に方法がない場合を主として念頭に置いているからであると。ただ,事実上の回収ができてしまうということ,被保全債権として金銭債権を持っている債権者が債務者の有する金銭債権を代位行使すれば,これは事実上の回収になってしまうので,もしそちらがメインであるというのが債権者代位権の本来の制度だということであれば,確かに債務者が金銭債権ではない,例えば不動産を持っているという場合に,いきなりその不動産を債権者のものにしてしまえる制度がないのはアンバランスではないかという疑問は出てくるのでしょうが,被保全債権と被代位債権がともに金銭債権の場合に事実上の優先弁済ができるということは,結果として副作用的なものとして実現しているのだということであれば,別に,根本的におかしな制度ということには多分ならないのだろうと思います。 ○道垣内幹事 松本委員がおっしゃったことがよく分からなかったのですが,つまり,差押えができない場合には認めようということですか。 ○松本委員 そんなことは言っていない,何も言ってないですよ。 ○道垣内幹事 なぜ債権についてだけ別個なのですかという私の質問に対しては,それ以外の財産とかに対してはかかっていけばいいわけだけれども,第三者に対する権利の場合にはどうだとおっしゃったのでしょうか。 ○松本委員 つまり債権者代位権というのが債務名義なしに債権を回収できる制度になっているという前提のもとに道垣内幹事は,第三債務者が存在するというタイプの場合のみ,なぜそういうことができるのかという疑問をもっておられると私は理解したのです。では第三債務者がいないで,債務者が自ら不動産を持っている場合にそういうことができないのはなぜかと。それはアンバランスではないかという問題提起だと私は理解したのです。それに対して,債務者に財産があるのであれば本来の強制執行ができるではないかというだけの話なので,では,第三債務者がいる場合はどうなのかということで,それは先ほどの御議論にあったように,第三債務者のところに金銭ではないところの財産がある場合に,債権者としては直接そこにはかかっていけないから債務者名義の財産にする必要がある。そのための手続を債権者代位権が用意しているのだと考えれば,それでおかしくはないわけです。ただ,そうなると金銭債務が被保全債権でありかつ被代位債権の場合にのみ優先弁済という形で,言わば道垣内幹事の根本疑問であるところの債務者が不動産を持っている場合に債務名義なしにいきなり,その不動産から回収できないのと比べるとアンバランスではないかという疑問に対しては,それは副作用の問題なので,結果としてそうなってしまうのだろうけれども,それは望ましくないという意見がどちらかというと多数だったわけです。そうすると,債務者が不動産を持っている場合とほぼ同じ状況になるから,それでいいのではないですかということです。 ○道垣内幹事 そうすると,今の話は,一つの見解としては分かるのですが,私が申し上げたのは,債務者が不動産を持っているのと第三者に対して債権を持っているのと,それは両方とも債務者の財産ですが,そのうちの第三者に対して債権を持っているというときにだけ,なぜ簡易な方法ができるのかと申し上げたのです。それに対して,松本委員がおっしゃったのは,中井委員がおっしゃったのとよく似ていて,債権者代位権を行使し,そのことによって第三債務者が保有している他の財産に対してかかっていけるということが債権者代位権のポイントであるとお考えになる,そういう話ですか。 ○松本委員 ちょっと舌足らずなのですが,すなわち,債務者が第三債務者に対して特定物の引渡債権あるいは登記移転請求権を持っている場合に,そういう債権,財産であるところのそういう特定物引渡債権に対して強制執行ができるのでしたか。つまり,いきなり強制執行できないタイプの財産であるところの債権,あるいは債権者代位権は債権ではなくても代位行使できるということですから,そういった強制執行という形になじまないタイプの権利を債務者が持っているのに行使しない場合,それを行使することによって債務者の財産を保全し,次のステップとしてのそこからの回収をしやすくするものなのだと整理すれば,金銭債権‐金銭債権のときだけが少し行き過ぎた効果を持っているということになるので,そこを押さえれば債務者が不動産という財産を持っていた場合と同じ次元に戻れるのではないかと思うのですが。 ○鎌田部会長 被代位債権の種類が何であるかの議論とか,任意の弁済があったときにどうなるかとか,いろいろな議論が絡んで出てきているので,なかなかすっきりしないところが残りますけれども。   これまでお話しいただいてきたところは,本来型の債権者代位権の在り方について,それを存続させる必要性があるのかどうかということと,それから事実上の優先弁済を受けてしまっていることの当否ということを主として御議論いただいてきたところですけれども,その前提として,部会資料7−1の総論におきましては,本来型の債権者代位権と転用型の債権者代位権とを分けて,それぞれ別に議論しようということで出発してきたわけですが,その点については恐らく大方の同意が得られていると思います。   ただ,本来型の債権者代位権につきまして,これまでの御議論の中でも出てきましたが,本来型とは何なのかというと,金銭債権保全のためという限りでは共通しているのですが,代位行使される債権も金銭債権である金銭‐金銭の場合が一番典型的な例として議論の対象になっていますけれども,それ以外に代位行使される権利が形成権であったり,あるいは保存行為という範疇の中にも入るような例えば物権的請求権であったり,登記請求権,登記申請権のようなものが代位行使される場面もあって,それらは少し議論の性質が違うのかなと思いますけれども,それぞれの類型別に少し整理をした方がいいだろうということも大方,了解はされているのだと思います。   その上で,本来型の債権者代位権の存続の必要性については,どちらかというと研究者は必要性に疑問を呈する傾向があるのかなと思いますが,実務上の必要性は高いという御意見が複数出されたということで,それらの御意見を踏まえた上で次の段階に進んでいただくということでいいですか。もう少しこの場での議論をしますか。   その上で,本来型の債権者代位権に事実上の優先弁済が現在,判例上認められている点の当否については否定説なり,あるいはもう少し抑制的であった方がいいという御意見が相対的に多数である。ただし,何らかのインセンティブを与える必要があるのではないかとか,これは多分無資力要件のところにも絡むのかと思うのですが,従来の判例でいえば,第三類型なのかどうかということが言われるように,金銭‐金銭だけれども,共同の担保の保全を通じて債権を保全するのではなくて,特定の金銭債権を直接保全する類型や,誤振込みの取戻しのケースなどもそうだろうと思いますが,どちらかというと直接請求型に近いものについては少し別に考えた方がいいかもしれないということがあるのかもしれません。事実上の優先弁済を受けることについて,第三類型型のものについてはむしろそれは必ずしも徹底して否定しなくてもいいということになりそうな気もするのですが,そういうふうな理解でいいですか。場合によっては事実上の優先弁済を認めてもいい場合があるのかもしれませんけれども,原則として否定の方がいいというのが意見の大勢であったように受け止めました。   優先弁済を否定しながら本来型の債権者代位権を認めるとしたら,それではどうすればいいかという点について,部会資料7−1で幾つかの方法は提案されていますけれども,この点はまだもう少し詰めていろいろと検討する必要があるということだろうと思います。   その後に,この部会資料7−1でも,代位債権を行使できる範囲とか,無資力要件についての考え方も,優先弁済的効力を否定するようになると,違う観点から要件立てを考えていく必要があるのではないかという問題の提起がされておりますけれども,その点についての御意見があればお伺いしておきたいと思います。 ○中井委員 今の整理について,実務でも金銭‐金銭の債権者代位というのは余り使われていないことは事実で,それは日本では執行・保全制度が整っておりますので,我々弁護士の立場からしても,保全を使い,執行を使って本来型でやっています。先ほどから申し上げているように,保全・執行制度で使えない場合,それでは足りない場合,先ほどの時効中断もそうですし,第三債務者のところにある資産を保全する場合もそうですけれども,そういう場合に専ら使われています。そこは逆にいえば,本来的利用は,あるべき保全・執行制度を補完する限りにおいて使われているのだというところを申し上げておきたい。逆に,今日の議論の中でも,これがあることによる積極的弊害の御指摘はないと思うのです。先ほどの労働債権の場合でも,本来,法的手続があるのだから法的手続を使えばいいではないかと言うけれども,結局,優先権のあるものが優先権のあるどおりに事実上回収した結果になっている。このことを超えて何か具体的弊害が生じているのかというと,そうではないのでしょう。ですから,先ほど岡正晶委員が言いましたけれども,これまで使われてきたものであり,今のような使い方ができる,かつ弊害はない,保全・執行制度が充実していけばそれで賄うところは賄っていくというスタンスで構わない。おのずと自然消滅していく制度かもしれませんけれども,現在ここで廃止という方向には恐らくならないだろうと,もう一度申し上げておきたいと思います。   それから,最後の要件に関して,これも大阪で議論したところですが,仮に事実上の優先回収的な機能を認めるとすれば,無資力要件なりしかるべき要件というものが維持されるべきかもしれませんが,仮に責任財産保全ですべての債権者のための制度となり,事実上の優先は認めないとなったときは,要件について緩和の方向性が十分あり得るのではないか。そのときは保全の必要性で足りるのではないかという議論が出ておりますので御紹介しておきたいと思います。 ○能見委員 今,部会長それから中井委員がまとめられたこととほとんど同じなのですが,「本来型の債権者代位権」の用法という言葉にはちょっと語弊があるといいますか,あるいは議論がだんだん進展してくると,本来型の利用というのは言葉として十分でないということが明らかになってきたのだろうと思います。債権者代位権という制度は,私の専門ではないのでよく調べておりませんけれども,もともとは被保全債権,被代位債権がともに金銭債権である場合を典型として,その場合に強制執行の準備のためにこの制度を使うということから出発していたように思います。そのとき起草者に梅は,取消権などを代位行使することも考えられるけれども,そういうものについては別途考えなくてはいけない問題があるので,とりあえずこれを除外して典型的な,金銭債権‐金銭債権という場合で考えるということなどを述べておりまして,そういう意味では金銭債権を被保全債権として形成権あるいは時効の中断をねらったような債権者代位権の使い方というのは,本来型な用法と転用型の中間の,もう一つのタイプとして考えた方がいいのではないかという気がいたします。   私も中井委員と同じように,この中間型の場合には無資力要件が必要かどうかということについては,不要だという考え方もあり得るのではないかとは思っております。特に時効の中断などについてはそのように考えるのが適当だろうなと思います。ただ,無資力要件は不要だとしても,形成権などの行使になりますと,これはまた違った要素を考慮しなければなりません。取消権などの形成権になると,意思表示を取り消すか否かといったことは債務者が本来判断すべき問題で,そこに債権者,代位債権者が介入してきて,本来の権利者にかわって取消権を代位行使することに対しては,また違って意味で抑制しなくてはいけない要素があるかもしれない。それを無資力の要件で考えるのか,別な要件なのか,それはなお検討する必要があると思います。とりあえず皆さんのいろいろな御意見を伺って,私の抱いた感想です。 ○野村委員 鎌田部会長の整理でよろしいと思うのですが,要件については本来型の代位権行使が余り中心でないということになると,むしろ無資力要件という表現を例えば条文の中に示すというのは,かえってマイナスなのではないかと思います。従来も,「保全の必要性」という言葉が金銭債権のときに無資力という表現であらわされてきたということで,必ずしも置きかえられてきたということではないと思うのです。ですから,形成権とか保存行為についてなお代位権の必要性を認めて,代位権を残すという方法で議論が進んでいくのならむしろ,「保全の必要性」という表現でよいのであって,あえて無資力要件というものを明文化しない方がいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 時効の中断というのですが,債務者が第三債務者に対して有する債権の時効の中断をしようと思うと,金銭債権を保全するために金銭債権を行使するということでしかないんですよね。だから,どうも,保存行為という類型は,代位行使される権利が形成権とか金銭債権とか登記請求権というのと本当に並ぶ類型なのかどうかというと,ちょっと違うのではないかという感じがいたします。   それから,そういう場合であれば本当に無資力要件は要らないかというと,何の必要もないのに,あなたに対するAさんの債権が時効で消滅しそうですけれども,私はAさんに債権を持っていますから代位請求しますというのをむやみに認める必要があるのかという疑問もあって,この点についてはさらにもう少しいろいろなタイプごとに,典型的な金銭債権‐金銭債権のケース以外だったら直ちに無資力要件が要らなくなるかということを,もう少し慎重に検討した方がいいように思います。 ○野村委員 それは保全の必要性の中身だと思うのですよね。 ○鎌田部会長 無資力要件という形に具体化してしまうのか,保全の必要性という,もう少し幅広い概念にして,この場合には保全の必要性が無資力と同義になるというようにするか,いわゆる第三類型では無資力要件と書かれているのではなくて保全の必要性と書いてあるから,債務者の資力と関係なしに債権者代位権が行使できるという結論を導けたというふうなところもありますから,それらの点も含めて更に検討を続けさせていただくということでよろしいですか。一般的に無資力要件不要論をとる人はいらっしゃいますか。 ○松本委員 その話ではなくて,金銭債権‐金銭債権という言い方は二つの問題をごっちゃに議論することになるから,二つの問題に分けた方がいいのではないかということです。つまり,事実上の優先弁済を認めるか認めないかという部分は,恐らく金銭債権‐金銭債権というところで問題になるわけですが,無資力要件か保全の必要性かというレベルの話は,金銭債権‐金銭債権だけではなくて金銭債権でもって債務者が持っている特定物の引渡請求権を代位行使する場合でも同じように問題になることです。だから,この二つのレベルの話を分けた方がいいから,金銭債権‐金銭債権というと,どちらが主たる論点になっているのか少し分かりにくいかなというだけです。 ○深山幹事 保全の必要性ないしは無資力要件の点なのですが,無資力要件が必ずしも要らないというニュアンスは,発言者によって違うのかもしれないのですが,私が理解している要件は,無資力要件よりもう少し広げた要件にするといいますか,無資力要件のみならず,もう少し広い概念として保全の必要性というものをとらえていいのではないかと考えています。そもそも,いかに債権者といえども,他人の債権を行使することを認めるためには,なぜそんなことが認められるのか,しかも債務名義も取らずに。こういうことになると,それは自分の債権の保全が図られないということがないと正当化されないのだろうと思います。債務者が無資力であるというのも,それは一つの事情でありまして,無資力であれば常にいいかというと,これまたそうでないのかもしれないので,一つのファクターとあえて申し上げたいと思うのですが,無資力であること,その他,保全の必要性がある場合に初めて代位行使なるものが正当化されるという意味では,一定の要件は当然必要なのだろうと思うのです。単なる債権者だというだけでは到底正当化できない。そういう意味での要件緩和は必要だけれども,もう少し,その要件については柔軟なものにする必要があるのではないか。そのときには,何を行使するかによって,あるいは保存行為なのかとかいう,行使する権利によっても要件を区別するということも当然あっていいのかなと思います。 ○鎌田部会長 私の先ほどの発言は,かえって議論を混乱させた嫌いがあると思います。松本委員のおっしゃるところもそうなのかもしれないのですが,第三類型の話を持ち出してしまいましたけれども,これはどちらかというと,ここでの議論で言えば転用型に限りなく近い金銭債権保全型だと考えます。典型的な本来型でいえば,優先弁済を受けることを否定するとなると,共同の担保を保全することだけがほとんど唯一の目的になってくるのだから共同の担保を保全する必要性があるときが債権保全の必要性のあるときなので,それは,無資力に重なってきます。それ以外の付随的な,保存行為的な目的を持ったときなどはもう少し周辺の問題だとすると,一番中心的な部分は債務者の無資力が保全の必要性と等価になるということは,ほぼ当然の前提なのだろうと思います。そうだとすると,最も典型的なものを一つのモデルとして条文化を考えるとしたら,そのときには一番実態に合致している無資力と書いた方がいいかもしれない。そうでないものを含むのだとしたら,そうでないものを含む場合の要件立てをもう一つ考える。いずれにしろ,その辺は,要件についても透明感を持たせるような方向を検討していきたいというようなまとめでよろしいでしょうか。 ○内田委員 一言だけ申し上げたいと思います。中井委員から債権者代位権について弊害というような話は余り聞かないという御指摘もあったのですが,今までの議論はどちらかというと債権者のスタンスで議論していることが多くて,介入される側の債務者の視点というのが余り窺えないような気がいたしました。債務者というのは消費者であったり労働者でもあり得るわけですが,多重債務を負っていて金策に走り回っているときに,たまたまローンを持っている債権者が,労働者や消費者の債権を勝手に行使するということを認めることになるわけです。たまたま気がついてないから弊害として意識されていないにすぎないのかどうか分かりませんけれども,要件を緩和すればするほどそういうことに道を開きますので,本当に債務者はそれでいいのかという視点も必要ではないかという気がいたしました。 ○畑幹事 あり得べき弊害としては,第三債務者の地位ということも考える必要があります。後ほど議論した方がいいのかもしれませんが,執行・保全制度が整備されているということの一つの意味は,第三債務者の地位にそれなりの配慮をしているということがありますので,その点も考える必要があるかと思います。 ○高須幹事 ほとんど議論がまとまりかけているところで申し訳ないのですが,被代位権利を行使できる範囲のことについて議論がなかったと思いますので,ちょっとだけお願いしたいのですが,7−1の資料の3ページ目のところの論理構成ですと,債権回収機能を否定するのであれば判例の採る被保全債権の債権額に限定する考え方に合理的理由はなくなる,あるいは乏しくなる,そこで,被保全債権の債権額の範囲にとどまらずに代位行使ができるようにするという考え方にも合理性がでてくる,論理としてはそのとおりだと思うのですが,今日私が一貫して申し上げていますのは,事実上の債権回収機能を否定し切れないのではないか。債権回収機能は制限すべきだしいろいろな工夫をすることによって妥当なところに押しとどめていくべきではあるけれども,やはり否定し切れないのではないかということになれば,否定し切れない以上,被代位権利の行使について被保全債権の債権額の範囲にとどめるという議論もそれなりの合理性というか妥当性があると思います。この点はもう解決済みということではなくて,引き続き議論の対象にしていただければと思っております。 ○岡(健)委員 余り議論の出ていなかった被代位権利を行使できる範囲のことですが,優先的な回収機能の制限については相殺の制限等の方策があるかなとは思うのです。しかし,その前に,直接給付を認めてしまうと,ちょっと誤解かもしれませんが,例えば100万円の債権しか持っていない人が1,000万円の直接給付を求められるということになると,後でそれの処理について方策はあるかもしれないけれども,債権者が費消してしまう危険性というのもあるわけですよね。そのあたりについて,直接給付の問題というのも併せて検討しないと過大な効果を与えることになるかなと思います。 ○鎌田部会長 この点につきましても,現に権利行使したい債権者の債権総額を超えてまで給付をさせる必要はないだろうという,券面額としての総債務額は多くても,実際に権利行使しようとしている債権者が少なければ,最大限その額まで保全すれば十分だろうということも考えられますので,代位債権者による直接の回収を認めるかどうかということとセットにして検討させていただきます。   本来,休憩時間の予定に来ていますけれども,登記申請権につきましては特殊な考慮をしなければいけない部分もありますので,(4)に登記申請権の代位行使が項目として挙がっておりますけれども,この点について御意見があればお伺いしたいと思います。 ○岡(正)委員 代位権ではなくて登記法上に何か特別な制度を設ければいいのではないかと。今実務で運用されているようなものを登記法の一つの制度として立法化すれば一番分かりやすいのではないかという意見がございました。 ○鎌田部会長 現在の実務の運用といいますけれども,現在の不動産登記法は民法第423条を援用しているので……。 ○岡(正)委員 それを踏まえて,民法だけではなくて登記法とか倒産法も変えることに恐らくなり得ると思いますので。 ○鎌田部会長 その場合には無資力要件を外していいという御趣旨ですか。 ○岡(正)委員 はい,そういう意見でした。 ○鎌田部会長 現在の実務を御説明いただくために小野瀬関係官に御出席いただいているので,よろしくお願いします。 ○小野瀬関係官 現在の実務は,この詳細版の方にもかなり詳しく出ております。どういう場面で債権者代位に基づく登記がされているのかというのはきちんとした統計があるわけではありませんので,私どもも,どのようなパターンが本当にあり得るのかというのは多少不明なところはありますけれども,大半が民事執行の前提として債務者名義になっていない,例えば被相続人の名義になっている不動産の名義を直すと,こういった場面で使われていると思います。その場合,詳細版にも出ていますとおり,単に債権があるということだけで債権者代位の申請を認めているわけではございませんで,ある程度の強制執行なり担保権実行の段階に入っているというところを見ているというのが現在の取扱いでございます。   不動産登記はそういうことで,もちろん,民法の債権者代位権という実体法上の権利に基づいてできているわけでありますので,不動産登記という言わば手続法の世界の中で不動産登記の理念から何らかの代位行使の制度ができるかどうかというのは,恐らくまたいろいろと検討すべき点もあるのかなとは思っております。 ○鎌田部会長 ほかに何か御意見はございますでしょうか。事務当局としてはこれまでの御意見でよろしいですか。 ○高須幹事 今,詳細版の方にその説明をいただいおりますということで読ませていただいて,それは多分,詳細版の方の14ページの2という項目の上の5行目ぐらい,あるいはもう少し上からだと思うのですが,要は,登記官は形式上の要件を審査する形式的審査権しか持っていないけれども,債務者を当事者とする強制執行の申立てが受理されたことを確認する限度で無資力要件の審査をしておりますというくだりがございまして,それが今の御発言だと思うのですが,強制執行の申立てが受理されるということと無資力要件ということがどのように関係しているのか,ちょっと御説明をいただければ勉強になると思っています。 ○小野瀬関係官 先例はあくまでもこういったものが要求されるとしているだけでございまして,それが果たして本当に無資力要件を審査していることになるのかどうかというのは必ずしも定かではありません。ただ,もし債権の存在だけではなくて,そのほかに保全の必要性が必要だということであれば,とにかく債権の存在以外の要件,保全の必要性というものは審査しているということでございます。それが果たして,こういったように強制執行までされる段階なのだから無資力であることが伺われるというように考えることができるのか,それとも,無資力要件とは別な意味での保全の必要性というものを見ているのかというのは,解釈が分かれるところかなと思っています。 ○畑幹事 この実務上の扱いというのを寡聞にして知らなかったものですから,余りいい考えがあるわけではないのですが,これはどうも,強制執行の開始の要件と申しますか,その種の問題でありまして,不動産登記手続を変えるというよりはむしろ,民事執行手続の方で何か手当てをするということも十分考えられるような気がいたします。 ○鎌田部会長 登記名義が債務者名義でないままでも強制執行が差押命令が発令できるということですか。 ○畑幹事 もちろん,無限定にそういうことができるということはあり得ないと思いますが,何か場合を限定してということが考えられるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ただ,強制執行の前提としての登記申請の代位の場合はいいのですが,例えばA,B,Cと所有権が転々譲渡されてA名義になっているときには,CはBに代位して登記請求の勝訴判決をもらってBに代位して登記申請するという場面が出てくるのだと思うのです。これは転用型だから,また要件の審査の仕方が違うのかもしれませんが,それを申請するときの登記所の受け付け方と,AからBに移転登記をせよという判決をもらって代位による登記申請をした上で強制執行をしていくときの登記所の受け付け方で要件が変わってもいいのかという問題がありそうな気がするのです。登記所としては,どちらの場合でもAからBの移転を命ずる勝訴判決と,Bに代わってCが出てきたということだけで登記申請を受け付けられるという方が,登記所としては歓迎なのかなという気がしなくもないですね。これはまた追って,不動産登記担当部局とも調整しながら事務当局で少し御検討をいただくということだし,今の畑幹事の御発言でいえば,裁判所とも少し御相談をいただきながら,どちらの側でこれに対する対応を引き受けるのが妥当なのかということの検討を詰めさせていただくことにさせていただきます。   そこまでで,休憩前に終わらせたいと思ったところの3分の2が終わったところでございますけれども,ここで休憩をとらせていただいて,休憩の後に転用型についての御議論を引き続き行っていただきたいと思います。 (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開させていただきます。  先ほど休憩前までの予定の3分の2が終わったと申しましたけれども,3分の1しか終わってないようでございます。  次に,「転用型の債権者代位権の在り方」,部会資料7−1の4ぺージについて御審議いただきます。それでは,まず事務当局に説明してもらいます。 ○川嶋関係官 「4 転用型の債権者代位権の在り方」では,債権者代位権のうち,責任財産の保全とは無関係に,非金銭債権(特定債権)の内容を実現するための手段として用いられる転用型について御議論いただきます。  まず,「(1)基本的な方向性」において,転用型の債権者代位権に明文の根拠を与えるか否かについて御議論いただきたいと考えております。検討の方向性につきましては,詳細版の15ぺージ以下に記載しておりますとおり,確立した債権者代位権の転用例について,それぞれの固有領域で個別に規定を設けることと,転用型の債権者代位権の一般的な根拠規定を設けることとが考えられるかと思われます。  次に,「(2)転用の一般的な要件」では,仮に転用型の債権者代位権の一般的な根拠規定を設けることとする場合に,様々な転用事例に通ずる一般的な転用の要件として,どのようなものが考えられるかを御議論いただきたいと思います。  なお,転用型の債権者代位権を存続させる場合にも,被代位権利の目的物が金銭その他の物の引渡しを求める権利である場合の代位債権者への直接給付の可否と,直接給付を認める場合の要件とが問題となりますので,これを関連論点として取り上げました。 ○鎌田部会長 それでは,御意見をお伺いいたします。 ○中井委員 弁護士会としてはこれまでの権利の生成機能等を考えますと,これを明文化して規定を置くことに賛成です。なるほど個別の法律でそれぞれ定めていくという考え方も十分あり得るところですが,これまでの歴史的な扱われ方,経緯を見ましても,こういう形で明文で残しておくのが好ましいのではないかと思っています。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。併せて要件についても御意見をいただければと思います。 ○中井委員 では,続けてよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 はい。 ○中井委員 要件については,資料詳細版で一つの判例が紹介されているかと思いますけれども,その権利の行使による債務者が利益を享受し,その利益によって債権者の権利が保全されるという関係,これでどこまで基準としてはっきりしているかは,いささか心もとないところではありますが,他方で例えば検討委員会試案で示されている債権者が債務者に対して求めることができるという要件を加味しているような考え方,若しくは研究会試案の,関連性があればよいという考え方,それは一方はちょっと厳し過ぎる,他方は少し緩過ぎるという意見が多うございました。したがって,昭和38年最高裁判例をある程度明文化する方向でいかがかと考えています。 ○鎌田部会長 ほかに御提案ございますか。 ○松岡委員 私は,転用型については被保全債権と被代位権利の間に一定の関係があるだけではなく,ほかに適切な手段がないという意味での「補充性」の観点が必要ではないかと思います。債権者代位権によって,本来は主張できない第三者に対する権利の主張ができ,かつ債務者の財産管理権に対する干渉を許すことになるのですから,余りそれを広く認めるのは適切ではありません。たしかに,無資力要件なり保全の必要性で絞ることも考えられますが,転用型については保全の必要の中身が変わってきますので,必ずしも補充性がその中に含まれるとは限りません。明文化するのであればやはり補充性も考慮していただければと思います。 ○中田委員 私も今の松岡委員の御発言にほぼ賛成です。一つ,二つつけ加えますと,他の制度でできるのであれば,その制度でいくというのが本来であって,それに対して広く債権者代位権の転用ということになりますと,本来の制度の趣旨を損ねる可能性があります。その意味では,補充性,必要性,言葉は何にせよあっていいのではないかと思います。  それからもう一つ,これは手続の問題になるのかもしれませんけれども,債務者あるいはもうちょっと一般的に言うと義務者と言うのでしょうか―の利益を確保する機会を保護する必要があると思います。これは後で債権者代位権を行使するための要件で,債務者の通知というところで出てくる議論だと思うのですけれども,それについてはいろいろな問題がある。隠匿だとか緊急性のある場合の問題があるというのですけれども,転用型の場合にはそういった問題は当てはまらないのではなかろうかと思います。 ○山野目幹事 転用型を立法するときに,補充性が明確になるような仕方での要件提示がなされるべきであるという松岡委員と中田委員の御意見に同調します。一般論としてそのことを申し上げた上で,別なことですが,債権者代位権と不動産登記制度との関係について一言申し上げておきたいと考えます。転用型のみではなくて,本来型も含めて問題になることでありまして,ここで発言させていただくのがよろしいかと考えておりましたが,不動産登記制度の側に幾つか固有の要請があるだろうと思います。登記官の側が円滑な定型的審査をすることが可能になるような手続のもと,債権者代位権の機能が確保されるということが必要でありまして,主に本来型をイメージする登記申請権の代位行使との関係では,無資力要件の議論が休憩前のように錯綜しておりますが,あの議論の結果としてそこのところで何か従来の取扱いが大きく損なわれるようなことになると,取引関係者にも迷惑をかけることになりますから,困るであろうと感じております。  それから,それとは別個の不動産登記制度の側の要請ですが,物的編成主義で編まれている日本の不動産登記簿の機能を確保するという点からいいますと,今度は登記請求権の方の代位行使でありますけれども,物権変動が起こった順序に従い登記がされるべきであるという,より客観的,制度的な背景がございます。その関係から,転用型については先ほどのようなことを述べましたけれども,そこでの要件・効果の一般論がそのまま当てはまるかということについては,慎重に検討しなければいけないだろうと思います。この議論が中間省略登記の請求権を容認するかのごとき議論に結びついていくことを強く警戒するものでございます。  総じて債権者代位権との関係では,提案でございますが,実体法の議論がこれだけ流動化した形で始まっておりますから,この帰趨を見定めないことには,登記についてどういうことを別個に決めるのがよろしいのか,あるいはその準則に従って決めるのがよろしいのかということが分からない部分がございます。そこがある程度固まってきた上で,現行の不動産登記法でいいますと,民法第423条その他の法令の規定により規定されてございますし,それを受けて不動産登記令が代位原因証明情報について定めているところについて,見直しの要否及び適切な見直しの在り方について検討していかれることが望ましいのではないかと考えます。 ○松本委員 その補充性要件について,事実としては恐らくそうなるのでしょうが,それを法律に書けるかというところで若干引っかかりを感じます。というのは,この分野は言わば判例による法形成がいろいろ行われてきた分野で,今後もどういう形で使われるか分からない。そういう意味では比較的オープンな形で開いた要件にしておいた方がいいという分野でもあるわけです。例えば先ほど三上委員から出たような,最高裁判決の抵当権者が抵当目的物を保全する際の債務者の妨害排除請求権の代位行使というのは一種の転用事例ですが,補充性というところから見れば,抵当権自体で妨害排除ができるのであればそんな代位権の行使は認められないという議論になってくるわけです。私の解釈論からいけば,この条文をこう使えばこういけるのだから,補充性は認められないというような議論が出てくるのも余り生産的ではないという感じがします。例えば民法703条の不当利得は最後の補充的なものであって,ほかの例えば解除による原状回復であればそちらの方でやるのだとか,あるいは第196条であればそちらに行くのだというのが一般的な考え方として定着しているわけなので,明文に書くのではなくて,解釈の際にそういう運用がされることを期待するというか,恐らくそういう形で裁判所は運用すると思うので,あえて書かないという選択肢も十分あるのかなと思います。 ○鎌田部会長 今の御意見の裏返しになるのかもしれないのですけれども,古くは例えば不動産賃借権を保全するために,賃貸人の有する所有権に基づく妨害排除請求権の代位行使なんていうのは,賃借権に基づく妨害排除請求権を本来認めるべきであるところを,議論をいたずらに錯綜させるだけだから,こんなものは認めるべきでない。この機会にそういう方向を目指しましょうという御意見はないものと思っていいですね。あるいは既に認められた転用例を一つ一つ明示的に列挙するという,こういう方向もない。一般的な,先ほど御提起になられたような,少し開かれた要件で転用の可能性が開かれているということを明示することが好ましいというのが,これまでお出しいただいた意見だと思いますけれども,そういうことでよろしいでしょうか。  関連論点として,代位債権者への直接給付の可否,これは動産の引渡請求権に基づいて債務者の引渡請求権を代位行使するというような場合が想定されていると思うのですけれども,この点についてもし御意見がありましたらお出しいただければと思います。  特にないようでしたら,次に進ませていただきます。  では,次に,部会資料7−1の5ぺージにあります「5 要件・効果等に関する規定の明確化等」から,9ぺージにあります「8 裁判上の代位(民法第423条第2項本文)」についてまで御審議をいただきたいと思います。それでは,まず事務当局に説明してもらいます。 ○川嶋関係官 現行民法における債権者代位権についての規定は,わずかに同法第423条の1か条のみであり,要件・効果等の細部や第三債務者の地位,債権者代位訴訟に関する規律については,判例法理,解釈理論がこれを補っております。こうした規律を条文上も明確なものにするかどうかというのが,5から7に共通する問題意識です。  5の「要件・効果等に関する規定の明確化等」では,(1)から(4)まで四つの論点を掲げましたが,特に「(2)債権者代位権を行使するための要件―債務者への通知」につきましては,現行法下の判例法理,解釈理論を明文化するにとどまらない面がございますので,十分に御議論いただきたいと考えております。現行法のもとでは,代位債権者は債権者代位権を行使する前に,あらかじめ債務者に対してその権利を行使すべき旨を催告する必要はないとされておりますが,これに対しては最大の利害関係者人である債務者の知らないまま債権者代位権が行使され,債務者の財産管理権への介入がされることは相当でないとの批判もあるところです。そこで,債務者に対し被保全債権の存否等について争う機会を与えるとともに,債務者自身による被代位権利の行使の機会を確保するために債権者代位権を行使するための要件として,債務者への通知を要求することが考えられるわけですが,この場合には通知の時期や通知義務の違反があった場合の効果についても問題となってきます。  「6 第三債務者の地位」では,(1)から(3)までの三つの論点を掲げました。  第三債務者は,代位債権者との間に直接の法律関係がないため,被保全債権の有無等の判断をするための情報を全く持っていないところ,現行の債権者代位制度はこのような第三債務者に対して,裁判所の関与もないままに代位債務者が直接請求する権利を付与している点で,第三債務者の地位に対する配慮が欠けているとの指摘がございます。こうした指摘にどのようにこたえていくかというのが,ここでの問題意識です。  「7 債権者代位訴訟」は,債権者代位訴訟がなお重要な意義を有する場合には,これについて必要な範囲で特別な規定を設ける方向で検討するかどうかという問題提起をするものです。(1)から(4)まで四つの論点を掲げましが,このうち「(1)債権者代位訴訟における債務者の関与」は,債権者代位訴訟において代位債権者による債務者への訴訟告知を要するものとする考え方について,その当否を御議論いただくものです。  そして債権者代位訴訟が提起された段階に至ってもなお債務者が被代位権利を自由に処分することができるとするのでは,債権者代位訴訟の提起が徒労になる可能性があることから,債務者がこの訴訟告知を受けた場合などに,その後の債務者による被代位権利の処分を制限することも考えられるわけですが,この当否について御議論いただくのが「(2)債務者による処分の制限」です。  いずれの論点も,手続法の観点からの検討を必要とするものになっております。現実に機能する訴訟手続の在り方を御議論いただけたらと思います。  最後に「8 裁判所上の代位(民法第423条第2項本文)」は,裁判上の代位の制度について存在意義に疑問が示されている上,現実的にも利用例は乏しいとの指摘もあり,これを廃止することを提案する意見もあることから,制度の存否について御議論いただくものです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。それでは,ただいま説明がありました部分について,一括して御意見を伺いたいと思います。御自由に御発言をお願いいたします。 ○三上委員 主戦場は債権者取消権だと思いますので簡潔に述べたいと思います。最初に申しましたように,債権者代位権は余り使いませんが,基本的には各債権者が自己の財産を回収するための手続だという理解で実は回っているという前提で申し上げるわけですが,まず債務者への通知ということに関しては,通知すること自体は別にいいことだと思うのですが,内容証明ぐらいの送付で足りるのか,これを使う場面では債務者が行方不明であることが多いのですが,その場合に,公示催告まで必要だとするのであれば,簡易な手続というのはかなり減殺されてしまうのではないかという点が1点です。  それから,善良な管理者に注意義務を課すという点に関しましても,「すべての債権者のために」こういう義務を負うことはないのではないか,自らの債権の回収の場合には,例えば途中で和解するとか,そういう訴訟なり回収を自ら処分するということが他の債権者のための善管注意義務から制限されるということには違和感が出てくると思います。  費用回収についても,自らの債権を回収する場合に,当事者間の契約で回収費用は債務者持ちという話であれば別ですが,例えば誤振込みの場合に,自ら間違って振り込んでおいて,その回収費用まで債務者の負担にするというのは多少行き過ぎだろうと思います。  こういった点は,自己の被保全債権を超えて債権全額の請求ができるという論点も含めまして,「債権者全体の利益ために行う」という前提で議論するから出てくるのであって,実務的に自らの個別の債権の回収のためにこういう制度を使っているという理解からすると,多少本末が転倒しているような印象を受けるという点を述べておきたいと思います。  それから,ここでまとめて述べさせていただきますと,今いろいろと指摘させていただいたことは債権者代位権を擁護しているように聞こえたかもしれないのですが,基本的には銀行は第三債務者の立場に立つとことの方が多いので,債権者取消権への前提ということで御理解賜りたいのですが,第三債務者の立場に立つことが多いという債権者代位プロパーの前提からしますと,供託原因の拡張ということは是非御検討いただきたい点でございます。供託原因の拡張のみならず供託制度をもう少し,供託書の書き方を統一するとかネット上からオンライン供託ができるとか,法務局は平日の営業時間帯しか開いていない上に,必ずしも交通の便のよい近隣にあるわけもないので,我々組織体ですら負担を感じることがあるのですから,一般個人・消費者には供託というのはかなりの負担になるのではないかと思います。その点も含めて供託制度の充実ということも併せて御検討いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見,いかがでしょうか。 ○中井委員 通知に関してですが,裁判外での行使について通知を必要とする,そのことについては今三上委員もおっしゃったとおりで理解できるのですが,裁判上の行使のときに常に通知を必要とするかについては,慎重に検討していただきたい。詳細資料にもありますが,緊急性のある場合であるとか,密行性のある場合であるとか,我々が裁判上行使する場合は,恐らく通知ができない,通知を義務付けられると困る。先ほど申し上げましたように,債権者代位が債務者の財産隠匿行為を阻止して回収するという場面で使われることが多いので,そのときにはこの例外に当たるのもしれませんけれども,通知を事前に義務付けられるとそれが行使できなくなるという弊害があります。 ○西川関係官 今の御意見に正に賛成でございまして,特にやはり消費者被害の場面では,いわゆる被害者が自分の被害の回復を図るためにこういう債権者代位権を活用するという場面は実際に実例としてもあるところでございまして,そういう意味ではやはり本来型の債権者代位権に債権回収の機能というのは,そう簡単にはなくすべきではないと思っておりますし,ここの通知の部分についても一律常に義務付けるという形は,いわゆる悪徳業者に,財産隠匿するタイミングを教えるようなことになるいう懸念があると思っております。 ○山本(和)幹事 債権者代位訴訟のところですけれども,(1)の債務者に対する訴訟告知の規定は是非とも入れていただきたいということです。この点については,民事訴訟法では積年の議論が,論争があるところでありますけれども,この際立法的な解決を図っていただきたいと思います。その際に,会社法第849条の株主による責任追及訴訟と基本的にパラレルな規律としていくという点についても,基本的には賛成です。若干違うところもあり得るかなという気もしないでは,例えば先ほどもちょっと出てきましたが,債務者が行方不明になっているような場合,会社は行方不明になるということは余り考えにくいわけですけれども,債務者が行方不明になっているような場合の訴訟告知で,本当に公示送達まで要るのかどうかとか,そのあたりは若干考えてみる問題はありそうな感じがしますが,基本的にはこれで賛成です。  あと,それ以下のところも若干のコメントはありますが,多分時間の関係があると思いますので。 ○鎌田部会長 どうぞお続けください。 ○山本(和)幹事 よろしいですか。それでは,(3)のところです。これも基本的には賛成で,やはり先ほど来出ているように,これを強制執行のための前駆的な手続ととらえるのであれば,強制執行が現実に開始すればそれが優先するということになるというのは自然だろうと思います。代位債権者については,その開始した強制執行について配当参加していく,債務名義を持っていなければ自分で仮差押えをしていくという形で入っていくというのが自然なのではないかと思います。  それから関連論点で,その差押えがされた場合の債権者代位訴訟の帰趨という問題点が出ています。これは難しい問題だと思いますけれども,考える必要があると思うのは,債務者自身が,債権者代位は別になくて,自分で給付訴訟を起こしている場合に,その債権が差し押さえられた場合に当該訴訟がどうなるのかというのは,民事訴訟で随分議論があります。判例は,無条件で給付判決ができる,中止も中断もしないというのが一般的な理解だろうと思いますが,それとこの代位訴訟,債権者がかわって訴訟をやっていた場合,訴訟物は同じわけですので,その場合の帰趨との整合性というのを考えていく必要があるのだろうと思っています。一括してやるのならば,あるいは民法に書くのではなくて民事執行法の債権差押えの効力のところで何らかの規定を置くというのは一つ考えられそうな感じがしますけれども,そのことも含めて御検討をいただければということです。  最後の訴訟参加についても,基本的にはこれでよろしいのではないか。債権者が訴訟参加する場合には,いろいろテクニカルな問題がありそうな気がします。本当に共同訴訟参加なのか,株主代表訴訟の場合にはいずれにしても会社に対して支払えという同じ請求になりますので,これは共同訴訟参加できれいに整理できるのだと思いますが,この訴訟が供託判決を求めるのであれば,共同訴訟参加というのはあれかなと思いますけれども,それぞれが自分に支払えというようなもし請求になるのだとすれば,そういう形態で参加するのであれば,それは果たして共同訴訟参加なのか,むしろ独立訴訟参加なのではないかとか,そのあたりはテクニカルに整理していく必要がある部分はなお残っているような気がしますけれども,基本的には参加について,参加できるという規定を設けるということについては賛成です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに御意見いかがでしょうか。 ○道垣内幹事 債務者への通知なのですが,密行性が要求されるという場合があるだろうというのですけれども,密行性が要求されるような場合に債権者代位権を認めるべきなのかということの方が議論されるべきような気がするのですが。つまり,結局債権者代位権というのをどこまでの効力を持つ制度としてつくるのかということではあるのですけれども,もちろん行方不明であるような場合に通知ができない場合がある。それはよく分かりまして,それに対して何らかのことをしなければならないというのはよく分かるのですけれども,およそ債務者に分からないようにして債権者代位権を行使するということを認めるべきであるという判断を当然にできるのかというのは,私にはちょっと疑問の点があります。  また,もう一点だけ申しますと,これは言うまでもないことだとは思うのですけれども,三上委員の方から善管注意義務を負うのはおかしいのではないかという話なのですが,和解ができるようにして,100万円の債権を80万円で和解したときには,その債権のうち幾らが消滅すると三上委員はそのときにお考えなのかが私はさっぱり分からなくて,代位債権者が和解をしたと言ったときに,例えば利息はなくすとかいろいろなことで和解をしたというときに,それで全額が消滅してしまうという効果が生じるということが全く理解できないのです。善管注意義務を負うのはしごく当然であって,他人の財産の処分が許されるわけはないと私は思います。 ○三上委員 主戦場の債権者取消権を念頭に申しましたので多少混同があるかもしれないのですけれども,例えば債権者取消の場合には,特定物は現物返還の原則というのが出てきますけれども,実際訴訟では,一定の金額を払うことによって,債権者として満足するのであればその現物の返還までは求めないという形の和解になることも多くあります。しかしそういう和解をしてしまうと,現物はほかの債権者にとっては取り返せなくなるかもしれない。こういった場面を想定して申し上げたまででございます。 ○道垣内幹事 債権者代位権の場合ではないということですか。債権者代位権ではない話だったということでしょうか。 ○三上委員 債権者代位権で,例えば特定物の引渡しを要求するときに,一部その金額を払って和解することができるかどうかですね。 ○道垣内幹事 もちろんできないのではないでしょうか。債務者がそういう権利を持っているわけですから。 ○高須幹事 今の点に関連してなのですが,結局法定訴訟担当で和解ということは本来できないというところがまず前提にある。ところが,実際の裁判では和解の要求というか,欲求というのですかね,何とか和解で終わりにしようということが実は代位訴訟でもままある。そこで,何とかできないかということで,例えば債務者本人を利害関係人として参加してもらっての和解ということを現に経験したことがあるのですが,そういう可能性もある。それから先ほどお話し申し上げましたように,取下げ自体はできると理解されていると思いますので,訴訟外で和解をして取り下げるというようなことをするとか,何となく変則的なことをしている。会社法上の株主代表訴訟では,法律を改正して和解のルールをつくって,同じような法定訴訟担当でも一定の手続を踏むことによって和解ができるようになったと理解しておるのですが,それと同じようなことが債権者代位権でも必要があるのかないのか,私自身は今結論持っているわけではないのですが,そのことについてはやはり検討をした方がいいのかなと思っております。  ただ1点,先ほど山本幹事から御指摘があった会社と債務者では違う状況があって,債務者がいなくなってしまったときに,債務者が一定の手続をすることによって和解するといっても現実性がないという問題が多分出てくるのでしょうから,ただ株主代表訴訟と同じだというわけにもいかないとは思いますが,1回ここでその可能性について議論してみる,あるいはこれから今後検討してみるということは,意味があると思っております。 ○沖野幹事 既に御発言があったのですけれども,今の善管注意義務に関しまして,債務者の権利を代位行使しているわけで,もちろんその権限が与えられているということなのですけれども,代位行使によってどこまでのことができるのかという問題をより詰めていかなければいけないという御指摘と理解しましたけれども,その際も善管注意義務が働かないのかというのは,それはやはりまた別の問題だろうと思います。代位権の場合は他人の権利を代位行使しており,取消権と代位権では構造も違いますので状況は違ってくるだろうと思います。  それから,通知と相手方の地位につきまして申し上げたいと思います。通知なのですが,通知がどのような場面で,またどの程度のものとして要求されるかということについては,通知が何のために必要とされ,それがどのような効果を持つかということとも関連していると思われます。現行法下では通知にかなり重い効力を持たせていると解されておりますが,一片の裁判外の通知で債務者の処分権等を制約するというのは非常に問題だと思われます。この点は,むしろ訴訟提起及び訴訟の告知と連動させるとすると,それとは別途の通知が持つ意味というのはもう少し軽いものとなってくるように思われます。その場合,債権者代位権の行使のための手続的な要件として通知を要求し,それがないと債権者代位として効力を持たせないというような効果は,とても重過ぎると思われまして,むしろ債務者に対する配慮義務のような意味で通知を課すということが適切ではないかと考えているところです。そうだとしますと,行方不明の場合にも徹底して通知を行うということまででなくてもいいのではないかと思います。  それから,相手方の地位なのですが,これは畑幹事も先ほど特に相手方の地位への配慮が重要だということを指摘されまして,全くもってそのとおりだと思っております。前半部分におきまして,労働の関係の例を出していただきまして,実感としての必要性など分かったのですが,逆に前半で出されたその例は,第三債務者が偏頗弁済をすることを防ぐために,一種の保全命令が出るのと同じような形での凍結をさせることをねらいとし,またそう機能させているということでした。労働債権の保護という政策的な判断を除きますと,それはむしろ逆に非常に問題ではないかと思われます。本当に債権があるのかどうかも分からない中で通知をされて,どこに払ったらいいかも分からず遅延損害金だけがついていくというような,そういう状況をつくり出すというのは問題ですので,それが債権者代位権の一つの訂正すべき課題ではないかと思われますから,相手方の地位については特に重要な関心を寄せるべきだと思っております。したがいまして,ここで書かれたような地位の明確化ですとか,それから供託原因の拡大というのも考えるべきだと思います。 ○鎌田部会長 道垣内幹事からの密行性の点については,私はもっと素朴に,執行手続の準備段階なのだからむしろ密行性が原則でもいいのではないか。これから差押えをするために相続登記の代位申請をしますよと債務者にわざわざお伝えするのでしょうかというふうな感じで,密行性と債権者代位の両立に違和感は余り感じなかったのですけれども。 ○道垣内幹事 すみません,私も特にこだわるつもりもありませんし,沖野幹事がおっしゃったような通知の欠如の効果をどう考えるのかという問題と密接に結びついていますので,独立しては論じられないのだと思います。ただ,鎌田部会長がおっしゃっているところはいま一歩よく分からなくて,強制執行の準備段階であるというのは,債務者のところに財産が来てから執行をするという話ですか。 ○鎌田部会長 私が先ほど申し上げたのは非常に単純なのですけれども,債務者が相続した財産について,相続登記未了であるので強制執行する前提として相続登記をします。そこは代位による登記申請をしないと相続登記は多分できないのだと思うのですけれども,そういう強制執行の準備段階というのは,むしろ強制執行の密行性とワンセットであっても良いのではないかと思います。だから密行性が要請されるようなものについては債権者代位権の行使を認めるべきでないということの方が,私にはちょっと理解がしにくい。 ○道垣内幹事 いや,そうかもしれませんが,その相続者財産についてというときに,なぜ債務者自身が登記を移転するのではいけないのでしょうか。 ○鎌田部会長 いや,してくれれば全然問題はない。 ○道垣内幹事 それは,通知というのは何のためだと考えるかによるのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 そうですけれども,それでは自分で登記をしますから差し押さえてくださいという債務者も余りいないと思います。 ○中井委員 密行性に関してですが,先ほどの債務者が第三債務者に財産隠匿的な売買をしたとか貸付けをしたとかいう事例で,そういう場合は事前に債務者に通知しますと,債務者と第三債務者は通常は密接な関係がありますので,様々な妨害行為が行われる。場合によっては自分の債権を処分することだってあるでしょうし,第三債務者の持っている資産を隠匿することだってあり得るでしょうから,実務的に代位権を被保全債権とする場合には密行性が是非とも必要だと認識しております。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○中田委員 二つあります。一つは,今の通知の点につきまして,先ほど申し上げたとおりなのですけれども,転用型の場合にはまた別の考慮があり得るのではないかということです。  もう一つは,善管注意義務と費用償還請求権についてです。善管注意義務と和解などの可否との関係については,先ほど沖野幹事がおっしゃったとおりだと思います。その上で,この義務の根拠付けなのですけれども,詳細版の方では24ぺージ以下で,法定委任関係というところから導いていて,事務管理ではないのだという御説明です。それは考え方として多数説かもしれませんけれども,契約のないところに委任を認めるというのはかえって混乱を導くのではないかという気がします。詐害行為取消権についても,取消債権者の費用償還請求権が問題になるわけですが,そこで法定委任関係というのをどうやって考えるのかということは,必ずしもはっきりいたしません。事務管理説に対する批判としましては,事務管理では善管注意義務の規定が準用されていないので,事務管理においては管理者の善管注意義務がないのだというような言い方をしているようですけれども,民法典の起草者,梅博士のものを見ますと,第697条が善管注意義務の具体化の規定であるという説明をしておりますし,最近の学説を見ますと,第698条の反対解釈によって管理者の善管注意義務を認めるというものがありますので,そのあたりをもう少し御検討いただければと思います。いずれにしても,ここでは法律構成を決めてしまうという必要は余りないのではないかと思います。 ○木村委員 第三債務者の地位についてなのですが,代位権については,我々も第三債務者になる場面というのがないわけではないので,その中で債務名義なく代位権が行使されてきますと,正直な話それを履行するのは非常に高いリスクがあるわけです。一方,履行を拒めばずっとそのトラブルに巻き込まれていくという状況にありますので,先ほど三上委員からもありましたように,供託手続の充実化を是非図っていただきたい。また,そうすることによって事実上の優先弁済機能の不合理性を防ぐこともできるのではないかという感じもします。やはり供託の充実化といいますか,拡充といいますか,これは是非お願いしたいということでございます。 ○岡(正)委員 三つ申し上げます。一つは31ぺージの,訴訟を起こした場合に債務者の処分制限の点ですが,債権者代位権を回収制度ではなくて,回収制度を大幅に制限して保全の制度にこの際重点を置くという立場に立てば,訴訟を起こした場合でも処分制限効はなくていいのではないか。できるだけ身軽な制度にして,債権者代位制度の効果を弱くするかわりに要件を少し広くする。こういう債務者による処分の制限は,仮差及び本差で賄ってもらえればいいのではないかという意見が強力に主張されております。それは一つの考え方だと思いますし,一部の弁護士には訴訟までやっているのだから処分制限効はやはり残してほしいという意見もございましたけれども,仮差と本差がメインである。仮差と本差でできない形成権でありますとか,そういうものこそが代位権のあるべき姿だという理念に立って,訴訟を起こした場合でも処分の制限はなくていいという説が有力だったことを御報告申し上げます。  それから二番目に善管注意義務のところでございますが,何となく善管注意義務といいますと弁護士は破産管財人の善管注意義務を連想しまして,総債権者のために善管注意義務を負うというイメージをどうも持ってしまいます。なおかつ,債権者代位権が責任財産の保全で,総債権者のためにという条文はありませんけれども,何となく責任財産の保全というと,総債権者のためにという,債権者取消権のイメージも出てきまして,全債権者に対する善管注意義務となると,それはおかしいのではないか。債務者の権利を代位行使するので,そういう他人の財産について債務者との関係で何か,善管注意義務と呼ぶのがいいかどうかは別として,注意義務があるのは分かりますけれども,総債権者のために善管注意義務があるというのは違和感があるという意見がございました。  最後に,債権者取消権とも同じになってくるのですが,債権者代位権を行使して第三債務者の財産が債務者に戻ったとき,不動産なり動産なり,金銭もあるかもしれませんが,そのときに,せっかく訴訟を起こしていた場合にはその債務者に戻った地点で処分禁止効が簡便な形で認められるような手当てができるのであればすべきではないか。代位債権者が直接おれのところに寄こせ,で相殺するという,そちらは制限してもいいのですが,債務者のもとに戻してみんなで強制執行で分け合いましょうというときに,代位訴訟の最後の効果として,債務者のところに戻ったときには何らかの処分禁止効を付与する手続的な手当てがあった方がいいのではないか,そういう意見がございました。 ○筒井幹事 第三債務者の保護のために供託原因を拡張すべきであるという御提案について,一定の考えがあるわけではありませんが,議論を深めるために発言したいと思います。  今ちょうど御指摘がありましたように,第三債務者の側は代位債権者の権利行使が正当なものかどうかがよく分からない,だから供託を認めるべきであるという御指摘は,大変よく分かります。ですから,正当な権利行使を受けたことを供託の要件としますと,それは結局第三債務者の保護にならないということになるわけです。そうすると,供託の要件としては特別な要件を付加せず,単純に代位債権者からの請求があったことをもって供託を認めるという方向に行きやすいわけです。しかし,それでは,法律上は誰でもいいからとにかく代位請求があれば供託ができるかのような規定になってしまわないだろうか,それは被代位権利の権利者にとって不当ではないか,そういう問題意識を持っております。そういった点についても更に議論を深めていただければ有り難いと思っております。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。裁判上の代位についてはまだ御意見がないのですけれども。特に御意見のないところについては,この部会資料に整理されている内容を基本的にはその方向でより深めて検討をするということで引き取らせていただいてよろしいでしょうか。 ○畑幹事 今,岡正晶委員から御発言がありましたが,債務者による処分の制限については私も若干疑問を抱いております。私的な通知で処分制限になるというのはおかしいという話がありましたが,訴訟の提起が処分制限につながるというのも余りほかでは聞かない話であるかと思います。  それから,現在判例が言っている債権者代位による処分制限というのは非常に強いものでありまして,ある意味では債権執行より強くなっている。先ほど山本和彦幹事から御紹介がありましたが,正確には判例があるのは仮差押えですけれども,債権が仮に差し押さえられても,債務者は第三債務者に対して訴訟を提起して無条件の給付判決を求めることができるということになっているのに比べまして,債権者代位では債務者は訴訟の提起さえできなくなり,こちらの方がむしろ強いことになってしまっているので,現状はバランスが悪いのではないかという気がいたします。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。債権者代位権関連で事務当局から何かこの点についての更に意見を確かめておきたいという点はございますか。よろしいですか。  それでは,大分時間を使ってしまいましたけれども,引き続き部会資料7−1の10ぺージから始まります「第2 詐害行為取消権」のうちの「1 総論」から「2 詐害行為取消権の法的性質」,12ぺージまでになりますけれども,この部分について御審議をいただきます。まず事務当局から説明してもらいます。 ○川嶋関係官 「1 総論」では,詐害行為取消権に関する規定の見直しに当たり,留意すべき点について幅広く御議論いただきたいと考えております。また,2以降に掲げました個別論点のほかにも検討すべき論点がございましたら,ここで御指摘いただきたいと思います。  「2 詐害行為取消権の法的性質」では,まず「(1)債務者の責任財産の回復の方法―法的性質論」において,債務者の詐害行為によって逸出した財産を,その責任財産へと回復する具体的な方法について,詐害行為取消権の法的性質をどのようにとらえるかとも関連させながら御議論いただきたいと思います。判例は詐害行為取消権を債務者の詐害行為を取り消し,かつ,これを根拠として逸出した財産の取戻しを請求する制度として把握しているとされており,こうした判例法理は折衷説と呼ばれています。判例法理によれば,取消しの効果は取消債務者と受益者・転得者との間で相対的に生じ債務者には及ばないとされる一方,逸出財産については債務者に返還させることが原則とされ,逸出財産が不動産である場合には登記名義は受益者・転得者から債務者に戻り,その後その不動産に対して取消債権者その他の債権者が強制執行をすることになるものの,逸出財産が金銭又は動産である場合には,取消債権者は直接自己にこれを引き渡すよう請求することができるとされております。こうした判例法理に対しては,取消しの効果が債務者に及ばないとする一方で,逸出財産が不動産の場合に登記名義は債務者に戻ることや,返還された不動産に対して債務者の責任財産として強制執行が可能となることを説明できないといった理論点な問題が指摘されています。そこで,学説上は,責任財産を保全するためには,逸出財産を受益者・転得者から現実に取り戻す必要はなく,受益者・転得者の手元に置いたまま,債務者の責任財産として取り扱うべきとする責任説と呼ばれる見解も有力に主張されております。しかし責任説も,他人を債務者とする総債権者の債権を被担保債権とする物上保証類似の地位という現行法になじまない発想を前提としていることや,詐害行為取消訴訟の係属中や終結後に債務者について倒産手続が開始した場合などに,否認権との接合に困難が生じるなどの問題を抱えているという指摘もされているところです。この点については,基本的には現在の制度運用との連続性を尊重して,逸出財産を債務者に返還させることを原則とする判例法理の立場を前提としつつ,個別的に理論的又は実務的な間題点を克服していく方向性で検討することが考えられるところですけれども,これと異なる考え方も含めて,幅広く御意見をいただけたらと思っております。  次に「(2)債務者に対する取消しの効果―詐害効果取消訴訟における債務者の地位」では,債務者に取消しの効力が及ばないにもかかわらず,債務者のもとに逸出財産が回復され,債務者のもとで強制執行が行われることを理論的に説明することができないという判例法理の理論点問題点を克服する観点から,取消しの効果を債務者にも及ぼす方策について御議論いただこうとするものであります。具体的には,詐害行為取消訴訟においては,受益者・転得者のみならず,債務者をも被告とすることの当否について御意見をいただけたらと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま御説明いただきました総論の,できるだけ規定の明確化を図る方向で検討をしたいという御提案と,それから詐害行為取消権の法的性質に関する御説明について,併せて御意見をいただければと思います。 ○大島委員 まず総論のところで,中小企業が取引先の詐害行為を調べることは難しいと思います。また裁判に掛かる費用と手間を考えますと,中小企業の詐害行為取消権の行使事例は少ないと思います。ただ,制度の存在自体が一定の抑止力として働いているという意見もございます。本制度については,規定を明確化する方向で慎重に検討を進めていただきたいと思っております。よろしくお願いします。 ○鹿野幹事 冒頭で発言させていただいたところですけれども,責任財産の保全と言った場合に何を意味するのかということで,その概念ないし制度趣旨のとらえ方によっては,事実上の優先弁済ということが制度趣旨と矛盾しないこともあり得るのだということを,再度申し上げたいと思います。もっとも,実際にこれを認めるかは,他の制度との関係も考慮に入れる必要があります。そして債権者代位権については,執行制度との関係が問題となり,山本和彦幹事が先ほどおっしゃったように,執行制度がありながら代位権で言わば執行手続の要件を欠くのに事実上の優先弁済を受けうるということは,一種の逆転現象で,これは基本的に認めるべきではないと私も思っているのですが,詐害行為取消権については,少しまた違った可能性が出てくるのではないかと思います。  まず,ここには問題提起としては書かれていないのですけれども,そもそも現行の民法第425条の規定を維持すべきなのか,つまり,すべての債権者の利益のための制度としてこの制度を立てるのかということが,検討されてよいのではないかと思うわけです。倒産法制において,破産管財人の立場に立つ者が,総債権者の利益のためにその権限を行使するということは言わば当然なのでしょうけれども,その段階に至らない民法の場面において,果たして一債権者がすべての債権者の利益のために詐害行為取消権を行使すべきだとするのが適切か,そうしてその効果についても絶対的取消しに近い非常に重いものを用意するという制度が果たして妥当なのかということが,基本的な問題として検討されるべきではないかと思います。民法の取消権制度と倒産法制との関係を考慮するということは当然だと思いますけれども,その際,両制度を等質的なものとして合わせるという形の整合性のとり方だけではなく,それぞれの役割を適宜分担するという整合性のとり方もあるのではないかと思います。  そう考えていきますと,民法の詐害行為取消権については,個々の債権者が,自己の利益のために,つまり自己の債権を保全するために,それに必要な限りでの権利行使を行い,そしてそれに必要な範囲での効果を与えるというような形での組立ても可能なのではないかと思っております。  最後に,これに関連してついでに責任説についても一言申し上げたいと思います。資料に,責任説がどうかということが書かれておりますが,今私が申し上げましたような考え方を前提としますと,基本的には,財産を完全に債務者の手元に戻すということではなくて,言わば責任説的な発想で制度を組み立てるということが可能であればそれがよいのではないかと考えている次第です。 ○藤本関係官 このセッションがいいのか,あるいは要件のところがいいのかなのですが,鹿野幹事に関連してということでございます。破産法の世界というのは,一つの考え方とすると,危機的状況に瀕した債務者との取引をする相手方がちょっと委縮してしまうということで,債務者の資金調達が阻害されて再建可能性のある債務者が破綻に追い込まれてしまうというおそれをどう考えるかというのは非常に重要な論点で,詐害行為取消権も破産法の体系と法制上の整合性というのは非常に重要な論点だと思われます。  しかし,先ほど鹿野幹事から言われたように破産法の世界では破産管財人の管理下に置かれている,支払禁止などの規律もかかっている。他方,詐害行為取消権は,法的整理に至らない可能性があるというところで,私的整理の規律と私的交渉を促進する,例えば大口債権者の間で協議して按分弁済を求めるとか,そういう私的手続,一定のルールに従って弁済させるということもあるので,責任財産が流出しなうように防止するとかという機能がある。  法的整理と私的,再建可能性のある債務者が破綻に追い込まれないというのは一方の重要な法益だと思うのですが,他方で私的整理の規律と私的交渉のバランスが重要ということで,同じ線の引き方でいいのかどうか。ちょっと要件の方に入ってしまいますが,そういうことを考えると現行の判例の要件というのは一応の合理性がある部分もあるのかな,あるいは立証責任の在り方とかというのも一応の合理的な部分があるのかなと考えております。 ○奈須野関係官 先ほど破産法制との関係が言及されましたけれども,どうしても法的整理に行くと企業価値の棄損が著しいということで,政策としてなるべく私的整理で済む部分については私的整理で行えるような制度整備を図ってきたということで,近年事業再生ADRなど,そういった合理的な私的な事業再生の仕組みというものが整備されてきたということがございます。  そういった観点から考えますと,後ろのところなどでよく触れられているところなのですけれども,要件,効果を限定的に考えていくというような方向性も示されていますけれども,そのようにいたしますと,これまでやってきた私的整理を振興してきたということとの整合性上,どうしても私的整理というものがやりにくくなってくるという局面になることも考えられますので,そういう意味でいうと,詐害行為取消権の在り方については,もう少し積極的に考えていくというのは変ですけれども,必ずしも悪いものと考えずに御検討いただきたいなと思っております。  例えば責任財産の保全ということを重視するのであれば,債務者のもとに例えば詐害財産,詐害行為の対象となった財産が戻ってくるという場合においては,例えば容易に取戻しができるような仕組みとしていく。  ただ一方で,債務者が受益者との間でつるんでいるというような場合においては,債務者の側にその財産を戻してしまうと責任財産を棄損してしまうということが考えられますので,そのような場合には取消債権者に戻すというような,その効果との関係で要件を区別していくというような発想も必要なのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに。 ○高須幹事 要は破産あるいは倒産法制との関係で詐害行為取消権をどう考えるか,こういう議論だと思うのですが,実際に今のような議論をするためには,あるところまでは民法のレベルで処理をしていて,どこからは破産法なりほかの倒産法制で処理をするという,このシステムがうまく動いているというのが前提だと思います。しかし,今の関係官の御発言もあったように,実際は必ずしもそうではないですよと申し上げたいと思います。私どもがふだん弁護士としてやらせていただいております,本当に町の倒産事例みたいなものですと,要するに破産申立てなんかしませんというものが数多くあります。何らかの考えがあってではなくて,事実上,破産申立てはできませんみたいな,もう目の前でともかくばたばたと会社が倒れているだけみたいな,破産に乗らない倒産状態みたいなことがたくさんあります。そのときに,債権者の公平とか共同担保の維持みたいなことは,基本的には破産法制でやりましょう,倒産法制でやりましょうという議論がどこまで説得力があるのかというのは,日々,私は問題意識を持っているつもりでございます。ですから,やはり民法自体の債権者取消権の中でも,そういう要請は働くべきではないか。倒産法でも大事だけれども,民法でも大事だというのが,現実の状況では合理性があるのではないかと思っておりまして,もう少し民法の詐害行為取消権の中でも,債権者の公平のようなものを考えていくべきではないかと思います。要するに接続性というのですか,倒産法制との接続性を強く意識するというのは,少し私の感覚としては違和感があって,民法は民法で議論していったらいいのではないかと考えております。 ○沖野幹事 責任説的な考え方をとるかどうかに関連しまして,1点,実際のニーズ等も伺う必要があるのですけれども,鹿野幹事から,そもそも詐害行為取消権の制度が責任財産あるいは共同担保の保全のためなのか,個別権利行使のためなのかという御議論が出されまして,その観点は非常に重要だと思っておりまして,正に検討していくべきところなのですけれども,その観点があるということは別途置きつつ,強制執行との関係です。前者にしてもあるいは後者にしても,すなわち総債権者にとっても効果が及ぶような形とした上での強制執行にしろ,個別権利行使としての強制執行にしろ,強制執行が常にセットになって強制執行で終わる形でこの詐害行為取消権が発動すべきものと考えるのかどうかということです。例えば私的整理の局面で使うというときには,それで個別権利行使をするというよりは,それを確保してあとは配分しましょうという形で使う,強制執行にはよらないということも想定されまして,そうした場面に責任説の考え方でどう対処・発動できるのかというのが気になっております。受益者のもとで強制執行がかけられるという,その限りだと詐害行為取消権に期待される機能を相当に縮減することにならないのだろうかという点が気になっております。その点も併せて検討項目として挙げてはどうかと思います。  私自身はその観点から,むしろ現行の形を基礎とし,債務者のもとに責任財産を回復するということにしつつ,しかしそのもとで現行法下の様々な問題を解決していくというのを本制度を考える基本にした方がいいのではないかとは思っております。 ○山本(和)幹事 倒産法制と詐害行為取消権の関連について幾つか御発言がありました。基本的にはそれは要件の問題だと思っておりますので,後で要件のところで私自身の考えを述べたいと思いますが,この今対象になっている部分についてのコメントですが,1点目は,今の沖野幹事の御発言とも関連するのですが,この責任説をとられるかどうかというのは,これは民法の方の御判断の問題で,民法の方でそれが適当だということになれば,執行法は汗をかいて何か考えないといけないという関係に立つのだろうと思います。かなり大変だろうなという想像はつきますけれども,それはやらなければいけないと思うのですが,少なくとも否認については,この責任説のような考え方はとるべきでは私はないと思っております。  その理由は,今の沖野幹事が言われた正にそのことで,否認の場合にはやはり,その否認権によって取り戻して,それを任意売却するとか,あるいは債権型手続であればその取り戻した財産を事業の再生に使うというような局面が容易に想像がつくわけで,この責任説的な形でそれに対して強制執行しかできないというような形になってしまうと,これは倒産手続の運営において非常に困ることは明らかだろうと思います。したがって,詐害行為取消しで仮に責任説的な制度を組み立てるとしても,否認にはやはりそれは及ぼしていただかないようにしていただきたい。そうすると,更に問題が複雑になって,ここに書かれているように詐害行為取消権を行使中に債務者が倒産した場合に,否認権との接合性をどう図るかというハードルはより高くなるだろうと想像しますけれども,そこは倒産法の立場からはそのように考えるということであります。  それからもう一点,(2)の債務者を被告にするかどうかという点ですが,私自身は債務者を被告にするという立場も十分あり得ることでありますし,これを詐害行為取消訴訟を現在のように形成訴訟ととらえる場合には,債務者を被告とするというのが,論理的にそうなるだろうと,相対効ではなくてそうなるだろうと思います。  ただ,実際上この公示送達でいけるということはそのとおりなのかなと思う一方で,若干の不都合というのはないのかなと,これは実務をよく知らないので見当外れかもしれませんが,例えばその所在不明になっている債務者が訴訟をやった後,実は死んでいたということが分かったような場合には,結局それは本来の被告はその相続人かもしれませんけれども,固有必要的共同訴訟の被告が足りなかったということになるわけですので,その再審か何か分かりませんけれども,その判決が覆るおそれが将来出てくる可能性はないのだろうか。そういう意味で,やや被告にするということが不安定を招かないかなというのは,ちょっとよく分からないところです。  論理的に,債務者に効力を及ぼす場合に被告にしなければならないかどうかというところも考えてみる余地はあるような感じはしております。御承知のように否認権について,否認訴訟は従来から形成訴訟説と給付確認訴訟説の争いがあったわけですが,現在は給付確認訴訟説が一般的だと考えられていて,当然債務者は被告にする必要はないと理解されているところでありますけれども,もちろん否認権の場合とはやや局面は違うわけですけれども,その効力を及ぼす場合に必ず被告にしなければならないということもなさそうな感じもして,その債権者代位と同じように訴訟告知ぐらいで足りるというようなことも制度としてはあり得ないことはないような気がいたしまして,ここはもう少し考えていただく余地はあるかなと思っております。 ○林委員 今の点に関連して,もう一つ関連論点として,債務者に対する給付訴訟の併合という論点があります。現在実務的には,どうも確認してみると詐害行為取消し自体を債務者を被告として起こすというケースはなくて,この給付訴訟を起こす場合がある。それはそのとおりだと思うのです。ただ,今山本幹事が言われたような被告の所在の把握という点もありますし,実際上債務者を被告人として給付訴訟を併合提起する場面というのは,いろいろな思惑があるはずです。そこはむしろ弁護士の方に述べていただいた方がいいと思うのですけれども,やはりそこで債務名義を取得するかどうかというのは,債権者側のいろいろな戦略があると思いますので,関連論点の解説の中で併合訴訟を提起するところまではいいのですが,それを義務付けるまでする必要性というのはちょっといかがかなという感じはしていますので,そのあたりも含めて議論していただければと思います。 ○中井委員 基本的な枠組みについて,責任説という話が出ていますが,実務の観点からしましたら,従来の実務との連続性をまず大事にしていただきたい。そうすると責任説は避けていただきたい。強制執行で処理していく,というのはやはり実務的感覚には合わないし,運用は恐らく不可能になるだろうと思っています。先ほどの山本幹事の話からも,倒産手続の否認の場合にこの考え方をとらないのだとすれば,平場においてもとらない方が連続性があってよい。以上のように思います。  債務者を被告にするかどうかは,効果をどうするのかというところと併せて考えるべきと思います。つまり最終的には債務名義をとって強制執行で債権者らに分配していくという基本発想にするか,それとも直接給付を受けて,相殺等の処理も含めてですけれども,事実上の優先回収を認めるのか。つまり効果との関係を考えて,実務的に債務名義が必要となるのだったら,詐害行為取消訴訟と併せて債務者を被告にして給付訴訟,給付判決をとるのが便宜になっていくのではないかと思います。効果との兼ね合いで議論をさせていただければと思います。 ○高須幹事 今中井委員からの話があって,それを否定するわけではないのですが,今まではずっと現在のやり方でやってまいりましたので,責任説の問題に関しては,今まで全くそういうのは定着してないという中で考えてきたことだと思っております。責任説はある意味では破産法との整合性は図りにくいとは思いますが,民法のレベルでは詐害行為取消権の制度趣旨には合うというような議論も民法の教科書などには書かれている面もございます。全く未知の領域なのかもしれませんが,やはり責任説のよしあしというのも考えていった方がいいのではないか。私は基本的には,倒産法との整合性は図れなくてもやむを得ないというか,そういうことがあり得るという立場なものですから,このまま責任説が検討されないままなのもいかがなものかと思っております。責任説は立法しないと無理だと私は学生時代に勉強したつもりなのですが,正に今立法しているわけですから,ここでもう一度その是非を問うてみる価値はあるのではないかと思っております。 ○松岡委員 ちょっと違う視点から発言します。今何人かの委員や幹事の御意見の中に,従来の実務との連続性を重視すべきであるというものがありました。それは確かに尊重すべき御意見であるとは思うのですが,他方でこの問題が法律的に非常に混乱を来しているのは,資料にも指摘がありますとおり,相対的取消しとしたところに根源があるように感じられます。そうすると,やはり単純に従来の実務との連続性の尊重ないしは判例の定式化にとどまるわけにはいかないのではないだろうかと思います。この点は,責任説をとるかどうかとは別に,きちんと検討される必要があるのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 具体的には,要件効果をどう考えるかというところで現実的な議論になってくるのかと思いますけれども,現時点では,従来の確立したと言われている判例法理と連続的な考え方をベースにした方がいいという御見解が有力でございますけれども,責任説についてもなお引き続き検討すべきであるという御意見もいただいている。いずれにしろ,具体的には要件効果の中でどうそれを具体化することができるのかということだろうと思いますので,恐縮ですけれども少し先を急がせて……。 ○松本委員 すみません,実務家の方の意見を聞いていますと,必ずしも一致していない。代位権の方は比較的一致したような雰囲気だったのですが,こちらの方は一致してない。どこが一致してないかというと,民法の世界における,平場の世界における詐害行為取消権が一体どういう場合に使われるか,ニーズはどこにあるのかというところが,ちょっと何かよく分からない。強制執行をするための前段階としてのニーズと,それからもう一つ,言わば私的整理的な形での再建手続的に使われる局面も,何人かの方がおっしゃっていたので,それは両方ともニーズがあって,両方を満たすような制度が望ましいという話なのか,どちらかは実は余り大したニーズがないという話なのか。その上で破産法との接合の問題がもう一つ別個に出てくるのではないかなと。理論的には,私も責任説の方が分かりやすい気がするのですが,それだと強制執行のための制度の方に純化されてしまうので,それでは望ましくないということであれば,やはり責任説はとれないということになると思います。  この検討事項のペーパーの中で,責任説に対する批判として,物上保証類似の地位という現行法になじまない発想というコメントが書いてありますが,これは立法論をやっているのだから余りこんなことを言っても仕方がないし,物上保証類似の地位という,正に現行法になじむ発想だと言えなくもないので,むしろ次に書いてある否認権との接合に困難であるという部分が一番大きな問題,倒産手続との整合性がきちんととれないという部分だと思います。実務的にここが極めて重要だということなのか,強制執行のための制度としてもかなり使えるのだということなのか,いずれなのでしょうか。 ○中井委員 今の御質問に対する答えになっているかどうか分かりませんが,実務的に使われているのは単純に財産が逸失したものを一生懸命取り戻そうと使われている例が一番多いですね。そのときは,財産を取り戻して換価するわけですから,仕組みとしては責任説的でない,実務の現在がそうですから当たり前なことかもしれませんが,そのように使われている。  もう一つは,事業が終わり,財産が少し残った場合に,親類や親密関係先だけに偏頗的に弁済されると,それはけしからんとして取戻しをする。加えて,先ほど奈須野関係官がおっしゃいましたけれども,私的整理レベルで,詐害行為取消権があるということで財産流出行為を事実上阻止しているという,事実上のこれは効果なのでしょうか,これがあることは間違いありません。この後で議論されると思いますけれども,仮に偏頗行為を詐害行為の対象から外すとなれば,私的整理に対する機能が弱まると思っています。本旨弁済も詐害行為になる場合があるという判例が存在することによって偏頗的な行為は阻止され,そこで私的整理が成立する,こういう関係にあるように思います。つまり両方機能しているだろうという理解です。 ○高須幹事 今の中井委員のことに対しての補充というか,プラスアルファでございますが,否認権の接合という問題を言うときに,実は破産等の手続が始まる前に詐害行為取消訴訟が提起されていて,その後破産に移行して否認という形で移行していくというようなケースというのは,実はそれほど多くないと思っております。弁護士会の中にも倒産問題を主に扱う委員会等もあるのですが,そこでの議論などを伺っても,詐害行為訴訟から否認訴訟に具体的に発展しているケースというのはそれほどたくさんはないというか,余り経験がない。最高裁の平成17年11月8日判決,ゴルフ場の倒産に関する日東興業事件というのがあります。あれは詐害行為から始まって否認に移行したケースですが,ああいうケースはむしろまれなのだと思っております。したがって,接合性というときに,具体的にどこかまでを取消訴訟でやってどこかから否認訴訟になりますというほど現実的な,あるいは切実な問題ではなくて,もう少し理論的な問題なのかなと思っております。だからこそ私はそれほど手続的な接合ということに重視しなくてもいいのではないか,ほかの価値があればそちらを優先してもいいのではないかと思っております。 ○林委員 私どもも総合的なデータを持っているわけではありませんし,中間論点整理がされて意見照会がされたら,裁判所の中のいろいろな経験を聞きたいと思いますが,詐害行為取消しについては代位訴訟以上に経験したことはあるというのが実感です。私自身も,乏しい実務経験ですけれども,基本的な訴訟の場面で問題になるものは,先ほどの中井委員が言われたように,財産が出ていったものを取り戻して,それに執行をかけるかどうかという,取戻型の詐害等行為取消しというのが基本になっているかと思います。  そこまでは共通なのですが,高須幹事のお話で違和感を覚えるのは,今,現場で詐害行為取消しを運用する際には,倒産における否認のルールはかっちりと書かれているので,それを解釈上の指針というか参考として取り込もうという傾向がかなり浸透してきている感じがするのです。そういう意味から言うと,現象としての詐害行為取消しをどう持っていくかはここで御議論いただければと思いますが,詐害行為取消訴訟の途中で債務者が破産して否認にまでつながるというケースは多くないのかもしれませんが,連続線上の現象としてとらえて解釈,運用しようとする雰囲気というのは間違いなくあるのではないかと思っています。 ○三上委員 要件のところで言うべき話かもしれませんけれども,とにかく詐害行為取消しを使うときというのは,受益者の方に財産が残っていることまで考えた上で回収訴訟をやってペイするかどうかですから,実質的には不動産のように姿の見えるものがある場合に限られてくるわけですけれども,そういう意味では実際に取り戻してそれを強制執行する,正にそのために取り戻す訴訟をするということがほとんどですが,一方で破産法ができまして,債務消滅行為とか担保提供行為自体が一定の場合以外は否認されなくなった。これによって危機時期の債権者支援ですとか事業再生支援・部門や資産を売却するリストラ支援などが安心してできるようになった,もちろん銀行ですから回収の安全が重要ですけれども,回収だって任意売却によって高値で売れて債務が減るということは,債務者にとってもマイナスではないわけで,こういうことが安心してできるようになったという効果は非常に大きいと実感しています。したがって,この点に関しては,詐害行為取消しの場面でも,やはり破産法に寄り添った形での制度設計が望まれるということを述べておきたいと思います。 ○鎌田部会長 先ほどの松本委員の御質問は,逸出した財産を取り戻したにしろ,最後はそれを売却して弁済するのだったら責任説でいいのではないかと,そういう御趣旨ですか。 ○松本委員 つまり私的整理的なニーズがそれほどないのであれば,責任説の方が大変分かりやすいのだという印象なのですが,そうではないニーズがかなりあるということであれば,双方を両立させるような法的構成をとらざるを得ない。あるいはその二つのタイプを分けて詐害行為取消権A,詐害行為取消権Bというのもあり得るかもしれないですけれども,先ほどの偏頗行為型を別途にするというような,その辺どういうニーズに使われるのかによって,法的構成が違ってきてもおかしくはないだろうということです。 ○鎌田部会長 いずれにしろ,この段階で責任説は検討の対象から外しますということはできないことは確かですので,責任説と折衷説との双方で検討を続けていただくということにせざるを得ない。ただ要件・効果について具体的に議論していく中で,どちらかにより傾いていくことがあるかもしれないと考えますが,そういうことで,要件・効果論へ議論を進めさせていただいてよろしいですか。  それでは,続きまして,部会資料7−1の12ページからになりますけれども,「3 要件に関する規定の見直し」について御審議をいただきます。まず,事務当局から御説明をいただきます。 ○川嶋関係官 「3 要件に関する規定の見直し」についてですが,まず「(1)要件に関する規定の明確化等」は,現行法は,詐害行為取消権の要件について,民法第424条第1項本文に,「債権者を害することを知ってした法律行為」という概括的な規定を置くのみであり,判例法理,解釈理論がこれを補っている状況にあることを踏まえ,要件に関する規定を明確化する方向での御議論をお願いするものです。  次の「(2)の倒産法上の否認権の要件等との整合性」ですが,平成16年の破産法等の改正により,詐害行為取消権と共通の機能を有する倒産法上の否認権の要件が見直されたことを受けて,詐害行為取消権についてもその要件を見直すべきであるとの指摘がされておりますことから,これについて御議論をお願いするものです。特に否認権の規定が改正された結果,債権者平等が強調されるべき局面で機能する否認権よりも,平時における詐害行為取消権の方が取消しの対象行為の範囲が広い場面があるといったいわゆる逆転現象が生じていることにどのように対応するかについては議論のあるところです。検討の方向性としては,例えばまず詐害行為否認類型と偏頗行為否認類型のいずれについても詐害行為取消権の対象とした上で,否認権の対象となる行為よりも詐害行為取消権の対象となる行為の方が広くなるという逆転現象が生じないようにするという考え方。二つ目としては,債権者間の公平を問題とする偏頗行為否認類型については,専ら否認権の対象として扱うこととし,詐害行為取消権については詐害行為否認類型のみを対象とするという考え方。あるいは三つ目としては,詐害行為取消権には,破産に至らない状態での取引秩序の維持や,私的整理の規律及び私的交渉の促進という特有の意義があることから,必ずしも否認権と要件を整合させることはないとする考え方などがあるところです。  そして,アからキまでは,これに関する各論的な論点です。個々の論点の内容につきましては,詳細版の55ページ以下に記載したとおりです。  それから,「ク 詐害行為取消訴訟の受継」は,詐害行為取消権の要件を見直してもなお逆転現象が残った場合に,破産法第45条が規定する破産債権者又は財団債権者が提起した詐害行為取消訴訟が破産手続開始当時に継続する場合における,破産管財人による訴訟手続の受継の在り方について御議論いただくものです。 ○鎌田部会長 ただいまの御説明いただきました部分について御意見をお伺いいたします。 ○新谷委員 破産法上の否認権との関係で資料も準備してございますので,それに基づいて,事例に基づいて御説明を申し上げたいと思っております。お手元に「倒産時における詐害行為取消権の具体的役割に関する実例」ということで,私どもの構成組織に関連しております具体的な事件に基づいて御説明をしたいと思います。  この訴訟は,第1次訴訟,第2次訴訟がございまして,第1次訴訟が地位確認の訴訟で,2000年9月にある会社が民事再生手続の申立てをいたしました。これは後ほど判明するのですが,その会長が目的を秘匿したまま工場の閉鎖を申し立て,そのときに再生債権者に対して100%の配当と工場の操業を表明していたのですが,実はこれは目的を秘匿しており,工場をつぶしてその後に大型スーパーを建てて,不動産の賃貸事業に特化をするという目的を秘匿しての行為だと後ほど分かるわけであります。10月に地裁が再生の手続の開始を決定しましたが,実はこれと同時に,それを理由に前言を翻して工場の閉鎖を宣言し,11月に全員解雇の通知をするという動きになったわけでございます。2001年の1月から争議状態になりまして,我々も全面的にこれを支援することになったのですが,工場ですので機械等の資産がございますので,これの保全なども問題になりました。  その後4月に原告107人で地位確認の訴訟の提起を行いました。この間,一般債権については100%の配当実施をしました。この地位確認訴訟は,2005年の2月に全面勝訴となり,不当解雇ということで地位が確認されました。その後2007年の7月に高裁控訴審,上告になりましたが,結果的に地裁の判決が確定しました。確定した結果,原告100人に対して賃金債権の元本9億9,000万円というものが確定したわけでございます。  ところが会社側がこの支払をしないということでございまして,ここに至って2次訴訟を起こしたわけでございます。これが正しく詐害行為取消しの訴訟です。地裁の判決による仮執行の宣言に対して,金融機関と系列会社が対抗措置をとりまして,配当要求・強制管理を求めたため,仮執行宣言の実効性が上がらないということでございました。  この2次訴訟で提起した詐害行為の内容は,後ほど要件幾つか出てまいりますが,正しく典型的な詐害行為のオンパレードです。債務の消滅行為としては金融機関のみに偏頗繰上げを行いつつ,既存債務に対する担保供与行為として,金融機関と系列会社に担保の提供し,少額の借増しに対して高額の共同担保を追加していました。それと低価格の処分行為として,この会社の持っておりました資産を系列会社に相続税評価額で低額譲渡,会長個人に対する相続税評価額での低額譲渡といった内容でございます。こうした行為に対しまして取消訴訟を行ったわけでございますが,実は調査できた資産の3分の1以上がその対象で,正しく詐害行為だらけという状況でございました。これに対して2008年8月に和解が成立しました。これは金融機関の方からの譲歩がございまして,賃料のうち一定部分を5年間にわたって弁済をするということでございます。こういった事案の中で,この事件は実は非常に大規模な整理解雇の事件でございまして,多分日本の整理解雇事件の歴史の中でも救済をされた100人という規模は全例のない規模の事件であったと思います。  この事件の特徴は,実は民事再生手続で行われたということでございますが,実はその枠外にありました先取特権であるべき労働債権については,担保権を持つ金融機関と労働債権が激突をしたわけでございまして,倒産法制が一切ここにはかかわっていないというのがまず第1点でございます。  第2点は,実は倒産したこの会社側は,訴訟の途中で並行的に詐害行為,しかも大規模な典型的な詐害行為を行ってきたということが特徴の2点目でございます。  それと第3点目,正しくその詐害行為があった中で,地位確認訴訟については全面勝利であったにもかかわらず,実は争いを続けたという点でございます。これが第2次訴訟に発展せざるを得なかったということ。それと,第2次訴訟は和解で終わったということで,判例集等には一切掲載をされてないということでございます。どうしても労働側は長期の裁判に耐え切れませんので,やはり早期の和解を求めることから,こういった詐害行為取消権を巡る訴訟については,裁判例はなかなか上がってこないということがあろうかと思ってございます。  こうした事案の中で,実は今回資料の中で提起をされております詐害行為取消権について,否認権の要件に合わせて見直しをされるということですが,この要件を合わせていくということでありますと,今回の事案の詐害行為が,詐害行為として認定されなくなる可能性があると考えています。そうなりますと,労働債権の回収が非常に困難になるということでございます。この部会の当初の方針の中で,現状の民法が活用されている現場の運営ルールは大きく見直しをしないとお聞きをしておりましたので安心をしておりました。しかし,今回の資料を見ますと,当該制度の活用について,かなり変化が生じる懸念がございまして,もしこの方向で検討が進むということであれば,私どもとしてはなかなか賛成し難い,反対をしたいということで,まず冒頭に申し上げておきたいと思います。 ○鎌田部会長 関連して御意見ございますでしょうか。今回の部会資料では,例えば債務消滅行為につきましてはA案,B案の併記になっていますが,このAをとってもBをとっても狭過ぎるという,そういう御趣旨でしょうか。 ○新谷委員 内容に行ってよろしいですか。どうしますか,個別のア,イ,ウからございますけれども。 ○鎌田部会長 全体として,従来詐害行為取消しの対象になっていたものを,詐害行為として認定されなくする方向でこの部会資料は提案をしているというふうな御趣旨の御発言でしたけれども。 ○新谷委員 では具体的な要件の方を申し上げます。  まず被保全権利に関してでございます。これについては詐害行為よりも前に発生していることを判例がもともと認めており,それを要件として明確化すべきということでございますけれども,この要件については単発の行為であればともかく,労働契約のように継続する契約の場合は,問題ではないかと思います。例えば詐害行為が発生する前の部分しか認めないということであれば,詐害行為が起こった後の部分について,正しく「やり得」ということになります。ここについては継続する債権を保護の対象としてもう少し検討されてはいかがかなと思ってございます。  また,無資力要件がございますけれども,これの厳格化ということになりますと,詐害行為の行使をかなり困難にするのではないかと考えてございます。フランスの倒産法制の中には,確かここの無資力要件について分かりやすい規定がなされているということで,1回でも賃金の不払であるとか社会保険の滞納があれば,即倒産手続に入るということも聞いておりますので,その辺の考え方はどう盛り込んでいくのかも含めて,今後見守っていきたいと思ってございます。とりあえずは以上でございます。 ○鎌田部会長 アの点は,現行の判例の考え方自体も狭過ぎるという御見解になりますね。 ○新谷委員 そうです。 ○山本(和)幹事 先ほど来出ています(2)の倒産法上の否認権等との整合性について,ちょっと長くなるかもしれませんが若干意見を述べさせていただきたいと思います。  私自身は,基本的な考え方としては,ここに書かれていますように否認権の要件との整合性を十分留意をいただければ有り難いと思っています。先般の破産法における否認権改正の趣旨として非常に強く言われたことは,取引の安全を確保するとか,あるいは取引相手方の予測可能性を確保する,萎縮的効果を防止する,あるいは否認リスクを明確化するといったような視点であったかと思います。このような趣旨は,その詐害行為取消権との関係でも採用されないと,必ずしも徹底しない面があると思います。つまり実際に取引がされる時点では,その相手方が倒産に陥って否認権の問題になるのか,倒産手続外で詐害行為取消権の問題になるのかというのは,相手方は分かりませんので,ここにずれができると,相手方としては当然最悪の事態を考慮して取引をしなければいけないということになるのだろうと思うわけで,否認権の要件を明確化した趣旨がかなりの程度減殺されるおそれがあるのではないかと思われるからであります。そういう意味では,今回の否認権改正の趣旨を一貫させるには,詐害行為の要件,詐害行為取消権の要件についてもその整合性に配慮していただく必要があるように思うところであります。  それから,とりわけここで書かれてあるいわゆる逆転現象の発生というのは,やはり可及的に防止すべきであろうと思います。倒産手続というのは,その債権者平等の要請,そして債権者に対する可及的に多くの配当を確保するために用意された国家の制度であります。その手続が利用される場合よりも,それが利用されない平場の方が,その当該債務者が行った行為に対する債権者の介入の権限が広くなるというのは,やはりどう見ても私には合理的な制度のようには思われません。少なくとも,イコールであればそれはまだそれでいいと思いますけれども,詐害行為取消権の範囲の方が広くなるという事態は可能な限り防止すべきであると考えるところであります。  以上が一般論に対する私の理解で,あと個別の行為についてもよろしいでしょうか。それぞれ若干コメントさせていただきますが,まずアとイですが,いわゆる偏頗行為についてでありますけれども,それぞれA案,B案とございます。A案の考え方は,基本的には過大な代物弁済は破産法でも倒産法でも詐害行為として整理されておりますので,基本的には偏頗行為については詐害行為取消権は認めないという御提案だと思います。債権者平等というのは,倒産手続,法的手続に入ったその世界の中で初めて重視されることであるという基本的な発想によるものということで,これは一つの考え方として理解できると思います。  B案は,それに更に非義務行為を加えるわけですが,非義務行為は倒産法改正では詐害行為ではなくて偏頗行為として整理したものであります。そして倒産法の中では,偏頗行為については故意否認は,従来の故意否認という考え方はなくしたわけでありまして,支払不能で一義的に規律したものであります。その考え方は,非義務行為であったとしても,その否認する目的は債権者平等のためであると。債権者平等を目的とする以上,その要件は債務超過あるいは無資力というよりは,支払不能であるべきである。ただいろいろな理由からそれを30日前倒ししているわけですが,そういう考え方が背景にあると理解しております。そうであるとすれば,私自身はこのもしB案的な考え方を入れるのであれば,基準時は支払不能を基礎として考えていただくべきではなかろうかと考えるところであります。  先ほど来出ていますように,私的整理を規律するとかあるいは私的交渉を促進するという趣旨が強調されるということは分からないではないわけですけれども,ただ,法的な手続とは違って詐害行為取消しの場合には取り消した後その戻ってきた財産が債権者間で平等に分けられるという保障は基本的にはどこにもないわけです。先ほど奈須野関係官が言われました事業再生ADRなどにおいては,ある程度その私的整理でも手続が整えられている部分があることは確かでありますけれども,しかし事業再生ADRにおいてすら一人の債権者が拒否をすれば,それはもう雲散霧消してしまう手続であります。その後法的手続のように破産手続が用意される,債権者平等が確保されるということは保障はされてないわけでありまして,そういう場面で債権者平等を目的とした形での詐害行為取消権を設けるということがどこまで正当化されるのだろうか。少なくともそれで逆転現象を正当化するということは,私にはなかなか難しいのではないかという印象を持っております。  それから,ウの相当価格処分行為とエの同時交換的行為でありますけれども,これは破産法・倒産法の改正の際にも,相手方の予測可能性を確保する観点から改正がなされたところであります。この規定を入れることによって危機時期の債務者について遊休資産を売却したり救済融資を容易にしたりして事業の再生を図っていこうという趣旨の規定であったわけであります。そういう観点からすれば,先ほどの趣旨からすれば詐害行為取消しについても,是非同様の形で規定を設けていただければ,倒産法の改正の趣旨がより徹底するのではないかと理解しているところであります。  それから,オの無償行為とカの対抗要件具備行為につきましては,倒産法でもちろんこのような規定がなされているわけですが,私の理解では前回の倒産法改正ではこの二つのものについて,その要件を必ずしも十分精査して議論したということではなかったのではなかろうかという印象を持っております。もちろんその議論の当初においては,これらのものも改正の対象として議論されたわけですが,最終的にはそのままの形で残ったということになっております。その意味で,ここでの支払停止という基準が,双方とも支払停止が一応基準になっているわけですが,これが相当なものかどうかということにもし民法の先生方が疑問を持たれるとすれば,それはあり得ることなのかなと思うところでありまして,もし民法の方でこの問題がうまく整理されれば,それに応じて倒産法の方においてもあるいは対応する改正をするということはあり得ないことではなかろうという印象を持っております。  それから,キの転得者の要件でありますけれども,これについてはむしろ倒産法改正の際にもここに記載されているいわゆる二重の悪意の要件については非常な批判があったところでありまして,破産法の中間試案の段階ではこれを外すということで意見照会がされ,かつ意見照会でも大方の賛同を得たという経緯があったわけですが,最終的にはこの民法の詐害行為取消権とのバランス,とりわけ後の方で出てくる効果の関係で出てくる転得者の反対給付の取扱いの問題との関係で,この部分の改定は断念されたというのが私の認識であります。したがって,今回の民法の改正において,先ほどのような反対給付の問題も含めてここで要件をより整理していただく,ここに記載されているような形で整理をしていただくとすれば,それは一つの望ましい解決策だろうと思いますし,その場合には是非倒産法もそれに応じて改正をしていただければと思います。  最後のクの受継の点ですけれども,これは先ほどの私が考えている基本的な認識からすれば,このような事態はできるだけ発生しないような,逆転現象というのは発生しないような形で規律をしていただくのが望ましいと思いますが,どうしても発生した場合には,@とAの考え方が示されていますが,その場合にはAしかないのではなかろうかなというのが,私の印象であります。かつて民事再生法に否認権の規定を設ける場合に,誰が否認権の行使権者になるかということについて議論したことがあります。その際の一つの提案として,各再生債権者に否認権を行使させるという提案も一時はされました。それは検討した結果,これは非常に難しい,様々な意味で難しいということになって,最終的には現在の監督員が否認権を行使するという形で規律されたという経緯がありまして,それからすると各債権者,これは今やっている債権者がそのまま維持できるということになれば,ほかの債権者も行使できるということになるのでしょうから,それはやはりなかなか規律していくのは難しいのかなということで,倒産手続に責任を持っている管財人の側で行使をするということにならざるを得ないのかなと思っております。長くなりましたが,以上でございます。 ○鎌田部会長 関連ですか。どうぞ。 ○中井委員 ただいまの山本和彦幹事の一般論については同意いたします。倒産法制との整合性を図る方向で検討を進めていただければと思っています。しかしながら,アの債務消滅行為とイの既存債務に対する担保供与行為について,趣旨を誤解しているかもしれませんが,A案も容認するような御発言であったように思います。A案となりますと基本的に偏頗行為は詐害行為の対象にしないという案になるかと思います。しかし,私は反対です。現実に企業が破綻した場合,法的倒産手続に入るのは極めてまれです。ほとんどは事実上雲散霧消して消滅しているというのが実際の社会です。その中で,常に財産が平等に弁済されているかといったら,決してそんなことはありません。最後に残った財産はどこかに処分されている。それが隠匿されている場合,詐害行為で取り戻すこともある。また,特定の債権者に弁済されていることだってあります。その特定の債権者は極めて近親なものであったり関係会社であったりする。そういう事態を認識した債権者として何ができるかですが,山本幹事のようにA案を仮にとるとすれば,法的倒産手続の中で平等を確保する,それを本筋とすべきである,こういうことになると思います。しかし,そのとき法的倒産手続を債権者が申し立てるとなれば,これは実務的に見て極めてハードルが高い。経済的にお金が掛かるということもありますし,心理的にも負担ですし,効果がどこまであるかということも不透明なわけですから,債権者が倒産手続の開始を申し立てるということは極めて困難です。  現に,統計資料を見ていただければと思いますが,最近の倒産手続は99%が債務者の自己申立てであって,債権者申立てはほとんどない。したがって,特定の債権者に対する偏頗行為がなされたときに,平等の世界は法的倒産手続で確保すべきだとする考え方は,実務では理解をし難い。そういう場合に,特定の債権者が特定の債権者に対して弁済された行為を詐害行為で取り消すという武器を与えることによって,その武器を行使する場合もあるし,武器を行使しないで,事実上平等確保のために債務者が動かざるを得ないこともある。結果として全債権者が平等に参加することが制度的に確保されていないことは承知の上ですが,一定の債権者間で一定の財産が分配される,そういう機能もあり得ると思います。したがって,A案,少なくとも偏頗行為を対象にしないという案については同意できないと思っています。  では倒産手続との関係で整合性をとると考えたときに,倒産手続における偏頗行為と同じ要件を持ち込むのかというのが次の議論になろうかと思います。それも一つの考え方ですが,そのときは支払不能概念を民法の中にどこまで整合的に持ち込むことができるのか,是非研究者の方も含めて御意見をいただきたい。仮にそれが持ち込めないとしたときには,支払不能前の行為についても偏頗行為が対象になるとすれば,先ほどの逆転現象問題が生じます。しかしこれは,判例の通謀等を要件に加えることによって事実上解消するのではないか。この通謀の中身にもよるのかもしれませんが,支払不能前に詐害行為の対象となるような通謀を伴う偏頗行為というのは,それほどあるとは思えないと思っています。一般的には,破綻状態,支払不能状態,もはや立ち直れない状態になっての偏頗行為こそ債権者の平等を害しているわけで,それを対象にできるシステムとして成り立ち得るのではないかと思っています。 ○三上委員 ここは債権者の立場で言わざるを得ない部分ですので,申し上げさせていただきます。民法というのは私的自治の原則の前提に立っているわけですので,勤勉な債権者が多くを回収するというのが原則として良しとするべきという点は認識されていいはずだというところから出発したいわけですけれども,偏頗行為とか担保提供行為につきましても,先ほど山本和彦幹事からお話が出ましたように,取り消す側と取り消された側だけをとらえると,取り消された側は悪で取り消した側は善という構図に見えますが,そこに関与できなかった債権者からすると両方悪であるわけでございまして,そこをたどっていくと,結局公告して届出期間を設けて,その債権を査定して,届出期間に出さなかった人間は失権させるという手続を踏まないと,最終的な公平感は達成できないし,それは民事手続法の問題ではないかと思うわけです。また,偏頗行為が広く対象になるということに関しては,特に先ほど言いましたけれども金融機関であっても詐害行為を使うのは,不動産のように動かない,確実に押さえられる資産が残っている場合だけです。それ以外の金銭の偏頗行為に関しては,結局詐害行為で勝ったところで回収できないのではないかという懸念があるわけですが,偏頗行為にひろく網をかぶせて銀行を相手にすれば必ず勝てば回収はできるわけで,そういう方向にのみ拡大してしまうということに関してはなかなか是認し難いところがあるのではないかと考えております。  先ほど通謀という話がございましたけれども,例えば「特定の債権者と通謀している」というときに,特定の銀行と債務者が話し合って担保を提供することはほとんどすべて通謀ではないのと言われると,みんなアウトになってしまう。そういう意味では,このB案の表現というのはどう見ても広過ぎると思います。確かにA案のように偏頗行為を一切対象から外しますと,破産法第161条に規定されているインサイダーのように,通常は劣後的に扱われるような債権者も入ってきてしまう。そういった意味では,隠匿等の処分をする意思という表現がいいかどうかは別として,通謀の中でも悪意性の高いものを取消しの対象にするということは考えられてしかるべきと思います。そういう意味では,AとBの間という形になるのかもしれませんが,私としてはどっちかというと限りなくAに近い形の中間時点が妥当ではないかと考えておるわけです。この部分は,平等ということでいきますと,支払不能という概念を民法に持ち込んだところで,最終的な平等は実現されないわけですから,支払不能時期で画す,画さないの問題というよりは,内心の意思の悪質さで画さざるを得ないのではないかと考えているところでございます。  私から特に申し述べておきたかったことは以上ですが,ついでに被保全債務に関する細かい点を幾つか申し上げたいのですけれども,一つは債権が詐害行為よりも前に発生していることが要件というときには,債権の発生が前であれば例えばその債権を譲渡等で取得した時点は詐害行為の後であっても構わないのか。株主代表訴訟のように,行為のときから株主でないと駄目だといったようなことはないということを確認したいということが1点と,それから取消しの対象を「法律行為」から「行為」に変えるという関連論点のところで,これは今詐害行為取消の対象になるとかならないで議論のある一番のところは会社分割です。詐害的な会社分割は結構ございまして,これが対象になることを明確にするという意味で,その「行為」まで広げる,本当は相続放棄も含めてほしいのですけれども,それは難しいとしましても,少なくとも会社分割等の組織行為が対象になることを明確にするということは是非やっていただきたいと考えております。  それから最後に1点だけ,対抗要件具備行為というのは破産法でもかなり特殊な否認類型でございまして,これを民法に持ってくるのは,先ほど山本和彦幹事からも御指摘がありましたように要件的にも難しいですし,これだけ詐害行為取消しをして何か意味があるのかというところもありますので,この点に関しては慎重意見を述べたいと思います。 ○高須幹事 一つ前に戻ってしまいますが,中井委員から御指摘があった点に私も全面的に賛成でございます。債務消滅行為に関しての議論において,A案のように,あとは破産でやってくださいというのは,ちょっと狭過ぎるだろう,このように思っております。  ただ,任意整理的なというか,民法の平場の議論では,その後債権者平等とかいっても図られませんよという部分は確かにあるとは思います。ここもよく分からないので,全くの想像も入っておりますけれども,責任説という,先ほど来出ているその責任説的理解をした場合には少し違ってくるのではないかという気もしておりまして,それも含めてみんなで知恵を出し合っていけばいいかなと思います。  それから,山本幹事から先ほどお知恵をいただいた中でとても参考になったのは,実は破産法の改正のときも民法の詐害行為取消権でこういう議論をしていると,転得者のところの議論でしているということが,言わば一つの手掛かりというか足がかりというか,あるいは制限になって,破産法上はこういう形でしか一応整理できませんでしたというような御指摘もあったように思いますので,ここは詐害行為と否認権,破産法上の否認権等の議論をするときに,他方が他方の足を引っ張るのではなくて,それを乗り越えていくというか,もっといいものをつくり合っていくという形での発想でやっていく。そうすると,今の破産法もベストでは多分ないのだろうと思いますから,現在の破産法上の否認権がこうだからというだけで,例えば今回のような詐害行為もここまでしかやりませんみたいな議論は避けて,両方ともいいものにつくり変えていくというような作業をしていくとよろしいのではないかと思いました。 ○筒井幹事 今の高須幹事の発言と関連しますが,第2回会議で特別法との関係について御議論いただきました際に,山本和彦幹事から詐害行為取消権の議論が倒産法上の否認権に影響を与える可能性があることを例に挙げて御質問をいただきまして,私の宿題となっていたものがありました。その際に御質問いただきましたのは,民法の議論の結果として,破産法やその他の特別法に実質的な影響が出てくることがあった場合に,その特別法の改正の要否や改正内容についてどのように検討を進めるのかという点であったと受け止めております。  この点について,いろいろ考えてみましたけれども,様々な議論が想定されますので一概には申し上げにくいと思います。一般論として言えば,今高須幹事からお話がありましたように,この部会では,他の法律に影響を与えるからといって議論を制約すべきではないと思っております。是非自由に御議論をいただきたいと考えております。そしてその結果として他の法律への影響が出てくる場合に,いわゆる整備法で対応すべきものについては,基本的に答申の趣旨を十分に踏まえながら事務当局において対応することになると思います。これに対して,整備の範囲を超えるような実質改正が想定されるものについては,個別に,どのような対応が必要かを検討しなければならないだろうと思っております。これは,正にケース・バイ・ケースで考えなければいけない問題だろうと思います。  この関係では,同じ第2回会議で,山下友信委員から,この部会での議論の進み具合によっては商法について別の検討の場を用意すべき必要が生ずるかもしれないという御指摘がありました。そのような可能性にも留意する必要があると思いますし,また,答申後に別途,検討に着手するかどうかを考えればよいものもあると思っております。いずれにしても,まだ各論の議論が始まったばかりですので,もう少し議論が進んだ段階で,必要に応じてまた御相談させていただきたいと考えております。 ○岡(正)委員 二つ申し上げます。一つは偏頗弁済のところですが,相応の弁護士会の意見の支持を得た意見として申し上げます。C案として破産・倒産法と同じ偏頗弁済の詐害行為取消しを設けるべきであるという意見を持っております。それは,まず三上委員がおっしゃったように,勤勉で誠実な私的自治は保障されるべきだと私も思っておりますが,倒産法が今明文化しております支払不能後の支払不能であることを知って受領する本旨弁済,それは守られるべき私的自治で本当にあるのか。いろいろな意見はあるかもしれませんが,やはり支払不能後の本旨弁済は実質的にも違法,我が国においてそれはやるべきでないというルールを明文化していいのではないか。そこの根本のところの政策判断だろうと思います。支払不能後の本旨弁済は,やはりその後倒産手続が開始されようが開始されまいが,今の日本の法秩序としてそれは「取り消されるべき行為・否認されるべき行為」であるとルール化していいのではないかと思っております。私的整理あるいは普通の場合において行為規範となりますし,それはよくないのだなという交渉にも使えます。  それから,もしそういう支払不能後の支払不能であることを知って受領する本旨弁済は違法であるという立場に立った場合でも,先ほど山本和彦幹事がおっしゃったように,倒産手続のようにそれを覆滅して平等を確保する主体あるいは手続整備ができてないので,それを詐害行為取消しということで設けるのは,目的はいいけれども手段がないではないかという説はよく分かります。ただ,完璧ではないからやめてしまおう,もう野放しにしようというのでは能がない。完璧ではないけれども,二番目の人が得をするというようなことはやめて,できるだけ平等に近いような結果がもたらされるような手続を考えたらそれでいいのではないかと思います。  それから,資料7−2の54頁には支払不能の証明責任を債権者に課することになって,過重な負担ではないかと書いておりますが,過重な負担だからではやめてしまおうと,過重な負担で詐害行為取消権者がきっと取り消すことができないので,そんな制度だったらやめてしまおうと,その議論も少しおかしいのではないか。支払不能の立証ができないときは,確かにそれはもう証明できないのであきらめるけれども,その立証ができるときには取消しを認めるという方がいいのではないかと考えます。  山本和彦幹事がおっしゃったように,既に倒産法では支払不能後の本旨弁済は駄目だというルールができているわけですから,危機時期における行為者としては倒産になったらそれはアウトだと当然考えているわけですから,倒産に行ったらアウトだけれども,倒産に行かなかったらセーフなので,グレーだからやってしまおうと,そういうことを認めていいのか。それはもう同じルールにしておいた方が,危機時期における当事者の行為規範としても明確でいいと思います。  更に国民に分かりやすい民法をという大命題があったと思いますけれども,それも支払不能後の本旨弁済も我が国では違法であるという1本のルールの方が分かりやすいはずで,支払不能後の支払不能であることを知って受領する本旨返済は,倒産に行ったらアウトだけれども倒産に行かなかったらセーフですよと,そういうグレーなゾーンを設ける意味があるのか。それは私的自治あるいは自由競争を守ることとは違うのではないかと思います。  いろいろ申し上げましたけれども,結論としては倒産の偏頗弁済否認と同様の偏頗行為取消しの制度設けることを提案させていただきたいと思います。 ○新谷委員 「平時」における詐害行為取消権との逆転現象ということから何回かこの文章を書かれているのですけれども,先ほど申し上げましたように,詐害行為取消権を活用して労働債権の確保をはかる,倒産という場面は,正しく「平時」ということでなくて,これは「戦時」の中でやっている話でございます。否認権の対象行為を参考にして,取消権を見直すことも想定されていますが,倒産の現場においては,管財人のいないケースがたくさんございますので,その倒産企業との関係で,親族企業などの優越的地位のある受益者がその地位を濫用して勝手に倒産企業から資産を持ち出されると,労働債権の確保が困難になります。そういった抜け駆け行為により不当な利得を取るという者がおるわけで,今回のこの見直しの中で,現在の取消権の範囲をより狭くするということに対しては反対をさせていただきたいと思っています。もともと破産法における否認権というのは,先ほども論議になりますように,多数債権者を対象にして,すべての債権者の公平を図るという定型的な判断がされる内容だと思いますが,この詐害行為については債権者,債務者,受益者,転得者という個別の関係の中で判断がなされると思ってございます。そういった意味から,倒産法制における否認権と,この詐害行為の対象者を必ずしも一致させる必要はないのではないかと考えるところでございます。また,優先債権であります労働債権については,詐害性の判断についてもそれなりの考慮をしていただければと思ってございます。 ○三上委員 金融機関の中でも銀行は債務者の財産を勝手に持ち出したりしませんので,親族企業とは同一視しないでいただきたいと思っているのですが,今のは冗談ですけれども,岡正晶委員のおっしゃったこともごもっともかもしれないのですが,一定時期以降の回収が違法であるということになって,回収しないでおくと,では遵法精神ある債権者が手をつけない現預金や動産・流動資産などの財産は結局誰が持っていくのかを考えてみる必要があると思います。金融機関が回収した場合,金融機関は逃げも隠れもしませんから,そういう意味で結局誠実な債権者だけが割を食うような制度になる可能性が高いと思うのですね。実際に預金や形ある資産を回収しても違法だからと置いておいたところ,わけの分からない有象無象や反社会的勢力が入り込んで持っていかれてしまったとなると,そういうところは捜査してもどこに行ったか分からないし,一定以上先は調べることすら難しくなってしまい,結局実質何もできないか,やっても費用対効果でしり込みすることになるのに,たまたま逃げも隠れもしない正当な金融機関が,それなりのリスクとコストをかけていたケースも含めて,回収していたというようなときだけ破産法の外側でその回収から分け前を取っていけるという制度が本当に平等なのかどうかというところも検討する余地があると思います。 ○中井委員 先ほどの支払不能後の偏頗行為が違法だという言い方を岡正晶委員はされました。私も倒産法制と同じような要件のもとに詐害行為取消しを認めるということには前向きであるということを先ほど申し上げましたが,倒産手続が開始するまでに債権者がどういう行動をとるべきかという点において,支払不能後の弁済を受けてはならないとか,担保提供を受けてはならないということでは私はないと思っています。そこは岡正晶委員と違うのかもしれません。つまり金融機関なら金融機関として汗をかいて回収行為をする,債権者は債権者として皆さん汗をかいて回収行為をする。しかし法的倒産手続に入らなくても,その企業が破綻したときに,それは不平等弁済ですねと思った債権者が詐害行為取消権を行使して,若干でも平等性を確保する,こういう仕組みとして位置付けることは意義のあることだと理解しています。 ○中田委員 一般的な言葉遣いだけなのですけれども,先ほど来,債権者平等とか逆転現象とかという言葉が出ているのですけれども,何かその前提として完全な債権者平等というのがあって,それに至る前には不完全な債権者平等がある,この一直線上に並んでいるというイメージがあって,だから逆転というお話が出てくるような気がするのです。しかし,そうではないのではないでしょうか。そもそも前提が違っているわけですので,むしろ平等はどちらも平等を考えるのだけれども,質の違う平等なのではないか。当然に逆転という言葉が含意していることにはならないのではないかと思います。  それからもう一つの言葉は,支払不能という概念ですけれども,これは先ほどの岡正晶委員のように,民法の方に持ってくることについては,その内容について慎重に検討する必要があるのではないかと思います。そうしませんと,民法で支払不能の概念を緩くといいますか,比較的に緩やかに認めた場合に,今度は破産法の方にも影響してしまうことがあります。ただ,先ほど申しましたようにその前提が違っておりまして,例えば平場の場合ですと,いったん支払不能になってもまた回復するかもしれない,あるいは破産の場合ですと回顧的に判断するわけですけれども,詐害行為取消権の場合には正に今生きている債務者との関係で考えていく,このようにいろいろな違いがあります。ですから単純に同じ言葉を持ってくるということは,分かりやすそうなのですけれども,逆に内容があいまいになる可能性もあると思いますので,慎重に検討する必要があると思います。 ○深山幹事 ずっとこの問題を何か月も悩んでいまだにすっきりしてないのですが,一つはっきり考えているのは,逆転現象という言葉がいいかどうかはとにかく,否認権行使の場面よりも詐害行為の行使の場面の方が広がるということについては,やはり私も正当化できないのではないかと考えております。その場合に,いわゆるA案という,偏頗行為については詐害行為の取消しから外すことにすれば,もちろん否認よりも適用範囲が狭くなるので,いわゆる逆転現象は生じない。それからC案と言われている,否認と同じ要件にすればイコールですから,これはこれで逆転にはならない。  それぞれ今までの議論を聞いていても一長一短あるのですが,私が一番引っかかるのは,支払不能をどう認定するかという難しさの問題もさることながら,事業が生きている間には支払不能状態になってもそれが解消するということもあり得るわけなのです。倒産になれば,もう回顧的に,結局倒れたという時点で否認を考えるわけですけれども,そうでない場合には流動的である。例えば債務者たる経営者の立場で考えると,もうかなり支払不能状態に陥っていても,何とか倒れずに頑張りたいと考えて,例えば取引債権者に対しては支払をし仕入れを続けながら,金融機関に対しては不義理をしながら何とかしのいで,それで収益力が上がってくれば立ち直るということもあり得るわけです。そういう意味では,勤勉な債権者を保護するということもそうなのですけれども,むしろ金融機関からは怒られるかもしれませんけれども,実務的な感覚からすると,取引債権者を優遇して金融債権者を少し犠牲にして,立ち直る機会というのも,平場ではそういう努力を認めてもいいのではないか。そういう意味で,C案といいますか,否認の場合と同じにしてしまうことにどうしても躊躇があって,確かに悪質な,あるいは極めて不平等な分け方を最後の財産についてしてしまうような場面を想定すると,A案でいいのかと言われるとそこも悩ましいのですが,今申し上げたような経営者の最後の努力のチャンスを残すという観点から,否認と同じにしてしまうことについては,やや消極的に考えているところでございます。 ○中田委員 一つだけ,先ほどの私の発言に補足させてください。先ほど平場と倒産の場合とで平等と言っても連続的ではないのではないかと申し上げたのですが,ただそのことと制度上否認権と詐害行為取消権の整合性を図るということは両立することでありまして,異質だとしても法制としてはできる限り整合性を保たせるべきだという,そういう意見でございます。 ○山本(和)幹事 1点補足です。先ほど来議論されて,支払不能も回復する可能性があるのではないかという御指摘は誠にごもっともなのですが,しかしそれは債務超過についても全く同じことが言えるわけですので,そこはそこで一つの手当てをしなければいけない,いずれにしてもしなければいけない事柄だろうと思っているということと,それから先ほどの私の発言があるいは破産法でこう決めたからもうそれは一歩も出られなくて,詐害行為取消権はそこに閉じ込められなければいけないのだという御趣旨で聞こえたところがあったのかもしれませんが,それは私の舌足らずであります。もちろんそれは別の規律をするということ,破産法で変えられたものとは違うような形で規律するということは十分あり得ることだろうと思いますが,ただ2点だけ申し上げたいのは,1点目は,この破産法でなされた政策判断というのは,何十年も前にされたわけではなくて,ほんの数年前に国会の多数決を得て一つの政策判断として採用されたものであるということを考えると,やはりそれはそれなりの重みがあってしかるべきだろう。そこからずれる政策判断がもしなされるとすれば,そこに十分合理的な説明が必要になるだろうと考えているということです。  それを踏まえた上で,もしそういう合理的な説明がされるのであれば,私は破産法・倒産法の方も変えていただきたいと思います。仮に先ほどのB案のような考え方,あるいはB案プラスアルファ的な考え方で,債務超過を基礎としてこのような非義務行為とかの詐害行為取消しというのを何らかの形でつくるというのであれば,同じような規律で通謀等を要件としても結構ですが,それは破産法の方でもそういう債務超過を基礎とした,一種の故意否認の復活のようなものになると思いますけれども,それは規定していただきたいと思います。 ○岡(正)委員 二つ申し上げます。一つは,平場と倒産時と言いますけれども,危機時期がまずあって,その後倒産するか倒産しないかが後に来るわけで,行為しているときには倒産になるのか倒産にならないのか分かってないときの行為規範として何がいいのかという議論だろうと思います。それで,支払不能があったりなくなったりするのは,その倒産に至る場合も倒産に至らない場合も当然あるわけで,倒産状態がもし消えたときには,恐らく詐害行為の取消しもきっとできなくなるだろうと思います。中井委員が先ほど言いましたように,無効にすべきだと言っているわけではございません。詐害行為取消権者なり管財人という行為主体が出てきた場合には後から取り消されるということだけであって,本旨弁済を受けるなということでは全くございません。  それからもう一つは,山本和彦幹事の最後の御意見と全く一緒でございまして,同じルールの方が分かりやすい。国民もそうでしょうし,弁護士にとっても二つルールがあるというのは大変です。ここで議論して偏頗弁済については通謀基準こそが取消対象行為だという価値判断に立ち至ったのであれば,それで倒産法と民法を統一するのがいいだろうと思います。先ほど支払不能後の本旨弁済というのをかなり言いましたけれども,今それはそれなりに妥当だと思っているので例として言ったまでで,それを何が何でもという固執をしているわけではありません。民法と倒産法の偏頗弁済に関する対象は同じことが分かりやすいしいいのではないかという意見でございます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。  もうそろそろ6時が近づいてきまして,効果の部分が丸々残っているのですけれども,議事進行の不手際でこういう事態に陥りましたが,効果については,予備日まで送るのではなくて次回冒頭に,説明と議論をさせていただくということでお許しいただけますでしょうか。要件についてもまだ言い足りない部分もあるのかもしれませんけれども,その点も含めて次回の冒頭に送らせていただければと思いますが,お許しいただけますでしょうか。  大分不手際で積残しをつくってしまいましたけれども,本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思います。  次回の議事日程につきまして,事務当局から説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 次回の第6回会議は,3月23日(火)。時間は本日と同様,午後1時半から午後5時半まで。場所は20階第1会議室です。次回は,今鎌田部会長からありましたように,詐害行為取消権の効果の見直しについての議論から始めていただきまして,その後に本来予定しておりました多数当事者の債権債務について,連帯債務や保証債務を中心に御議論いただくことを予定しております。その資料の発送については,会議日程が混み合ってきたこともありまして,これまでよりもやや遅れ気味になっておりますけれども,しかし最低限のお約束である1週間前よりも前倒しで,できれば今週中にはお届けできるように作業を進めようと思っております。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,よろしくお願いいたします。  本日の審議はこれで終了といたします。不手際で進行がおくれた上に積み残しをつくってしまいまして,本当に申し訳ございませんでした。また,熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。 −了−