法制審議会民法(債権関係)部会 第6回会議 議事録 第1 日 時  平成22年3月23日(火)  自 午後1時33分                        至 午後6時14分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第6回会議を開会いたします。本日は,御多忙の中御出席いただきましてありがとうございます。   では,配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 まず,前回会議に続いて御議論いただく詐害行為取消権の関係では,特に新しい資料を用意いたしませんでしたので,前回の部会資料7−1及び7−2を引き続き御利用ください。そして,今回の会議用の事前送付資料としては,部会資料8−1及び8−2をお届けしております。これらの資料の内容については,後ほど関係官の川嶋から説明いたします。   次に,本日は,委員等提供資料として3点を机上に置かせていただきました。まず,高須順一幹事の所属されている東京弁護士会から,「民法(債権法)改正に関する意見書」が提出されております。それから,中井康之委員の御紹介で,全国クレジット・サラ金問題対策協議会から,「保証制度改正に関する意見書」が提出されております。それから,中井委員,岡正晶委員ほかの所属されております日本弁護士連合会から,「統一消費者信用法要綱案」が提出されております。このうち日弁連からの資料は,2003年に公表されたもので,その一部は今回の事前配布資料8−2の中でも引用しておりますけれども,改めてその全文を御提出いただいたものです。また,全国クレジット・サラ金問題対策協議会からの資料は,昨年に3回にわたって行われました決議を今回まとめて御提出いただいたものです。そして,順番は逆になってしまいましたが,東京弁護士会からの意見書は,単位会として新たに取りまとめられたものを御提出いただいたものです。関係者の皆様にはこの場をお借りして御礼を申し上げます。誠にありがとうございました。 ○鎌田部会長 配布されました委員等提供資料につきまして,関係する委員・幹事から何か御発言ございますでしょうか。 ○高須幹事 東京弁護士会の意見書でございますが,これは弁護士会の意思決定機関であります常議員会の決議を経て,東京弁護士会で承認されて,提出したものでございます。東京弁護士会は6,140人会員がおりまして,その6,000人の弁護士のまとまった意見としてお出しさせていただいたということでございますので,御一読いただければ幸いでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   それでは,本日の審議に入りたいと存じます。   本日は,前回積残しとなりました「民法(債権関係)の改正に関する検討事項(2)」の残りの部分及び「民法(債権関係)の改正に関する検討事項(3)」について御審議いただく予定でございます。   具体的な進行予定といたしましては,休憩前に部会資料7−1の「第2 詐害行為取消権」の残りの部分及び部会資料8−1の「第1 多数当事者の債権及び債務(保証債務を除く。)」の部分を御審議いただくことを予定いたしております。その後,休憩を挟みまして,部会資料8−1の「第2 保証債務」を御審議いただきたいと思います。   それでは,審議に入りたいと存じます。   まず,「民法(債権関係)の改正に関する検討事項(2)」についての「第2 詐害行為取消権」の「4 効果に関する規定の見直し」及び「5 詐害行為取消権の行使期間」について御審議いただきます。   まず事務当局に説明してもらいます。 ○川嶋関係官 それでは,部会資料7−1の19ぺージを御覧ください。   「4 効果に関する規定の見直し」のうち,まず「(1)事実上の優先弁済の当否」,「(2)債権回収機能を否定又は制限する方法」は,債権者代位権においても論点となるものですが,詐害行為取消権の場合には,債権回収機能を全く否定してしまうと取消債権者にとって訴訟により詐害行為取消権を行使するインセンティブが失われ,その結果,詐害的な行為に対する歯止めが失われてしまうとの指摘もあるところです。詐害行為取消権特有の事情をも踏まえた御議論をお願いしたいと思います。   そして,「(3)取消しの範囲」は,被保全債権の債権額が詐害行為の目的である財産の価額に満たず,かつ,その財産が可分である場合には,取消債権者はその債権額の範囲でのみ取り消すことができるとする判例法理について,詐害行為取消権の債権回収機能を否定又は制限する方向で検討するとすれば,判例のような制限を設ける合理的な理由は現在よりも乏しくなると考えられるという問題意識に基づくものです。   「(4)逸出財産の回復方法」は,前回御議論いただいた「2 詐害行為取消権の法的性質」とも関係するものですが,ここでは,逸出財産を債務者に返還させることを原則とする判例法理の立場を前提としつつ,個別的に理論的又は実務的な問題点を克服していく方向で検討する場合の具体的な制度設計について,御意見をいただけたらと考えております。   また,現行法は,詐害行為取消権の効果について,民法第425条において,「取消しは,すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる」という規定を置くのみであり,判例法理,解釈理論がこれを補っている状況にあります。そこで,「(5)費用償還請求権」,「(6)受益者・転得者の地位」では,できる限り規定の明確化を図る方向での検討を進めてはどうかという観点から問題提起をいたしました。   最後に,「5 詐害行為取消権の行使期間(民法第426条)」は,消滅時効制度全般の見直しについて別途の検討が予定されていることから,詐害行為取消権の行使期間については消滅時効制度についての見直しとの関連で改めて検討することを提案するものです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いしたいと思います。 ○奈須野関係官 前回の審議でも若干触れましたけれども,私どもとしては,法的整理に移りますと会社財産の企業価値の棄損が著しいということで,できるだけ私的整理ないし,そうでない,法的整理でない枠組みで済むのであれば,そういう仕組みを活用していただくような制度設計をするというのを基本的に考えています。その観点からすると,やはり詐害行為取消権の役割というのはそれなりに重要でございまして,これを使いにくくするということについては消極的でございます。   その観点で,今回,効果の部分の検討がなされておりますけれども,私的整理を進めるという意味で言うと,当座は責任財産が回復すればいいということと考えられますので,そうだとすると逸出財産が債務者のところに戻ってくればよいと考えられることになります。一方で,そうしてしまいますと債権者にとってのインセンティブがないというような事情も考えられますので,例えばこのようにしたらどうかということでございます。要件と効果を効果に沿って二つに区分する。一つは,受益者と債務者との間に通謀がないような形で単に偏頗弁済をしてしまいましたというようなケースを考えます。このような場合においては責任財産を回収すればいいわけですから,債務者の側に財産を戻していくというような形で考えていく。そうでない類型としては,受益者と債務者との間に通謀があるような場合,そのようなときに責任財産を債務者の側に戻してしまいますと,別のことに使われてしまうというようなおそれがありますから,その部分については債権者の側に取り戻すことを認めていく。そのことによって同時に事実上の優先弁済も図れるようにしていくということで,要件に従って効果を二分して考えていったらどうかと考えるところでございます。 ○鹿野幹事 前回も申し上げたところなので,再度ということになりますけれども,資料19ページのところで,民法第425条を出発点とした形での記載があるものですから,あらためて425条及び事実上の優先弁済その他の効果に関して一言申し上げます。   まず民法第425条を原則とすることから出発してよいのかという点です。これは前回も申し上げたところなのですが,そもそも詐害行為取消権の制度というのは,債務者といえども財産処分の自由があるという原則に対して例外的に逸脱を排除するという例外則であり,その例外としての詐害行為取消制度においては,取消債権者が,第一次的には自己の権利を確保するために,それに必要な限度で取消権を行使し得るものとして位置付けることも可能なのではないかと思われるわけです。少なくとも従来の判例法理,特に取消しの範囲とか,あるいは取消しの効果に関する従来の判例法理には,そのような考え方に基づいていると評価できるような部分があったのではないか思いますし,そこには一定の合理性もあったのではないかと思われるわけであります。   配布資料19ページには,現在の制度運用との連続性を尊重しながらと書かれているのですけれども,従来の制度運用のどの部分を採ってどの部分を切り捨てるのかということが問題になるでしょうし,それは選択の問題なのだろうと思います。確かに425条を出発点として,その考え方を一貫させるということも一つの選択肢ではあると思いますが,逆に425条というよりも,事実上の優先弁済という機能を正面から認めるというような選択肢も十分考えられるのではないかと思われるわけです。資料の記載では,425条が原則だということが前提とされ,ただ,それを貫くとインセンティブがなくなるから例外的に一部債権回収機能を認めることも考えられるという立てつけにされているのですが,果たしてその出発点がそれだけでよいのかにつき考えてみる必要があると思います。私自身も,最終的にどちらの選択肢が絶対的によいとまで確信を持つには至っていないのですが,少なくともこの問題の立て方について少々疑問を持っているということでございます。 ○鎌田部会長 ほかに御意見いかがでしょうか。 ○三上委員 私も,前回述べたことの繰り返しになるわけでございますけれども,基本的には民法内で最終的な公平が図られる仕組みになっていないということを考えますと,債務者の手元に戻したところでそれをどう分けるかという問題は最後残ってしまうわけで,特に偏頗行為のような類型であれば,実質その優先弁済が認められることになってもそれは仕方ない話であって,そこでの公平を求めるのであれば法的整理手続に移行すべきではないかという考え方を改めて申し上げさせていただきます。   案の中には,相殺禁止期間を設けるとか幾つか提案がございますけれども,詐害行為取消は裁判を通じてしか実現できないものでございますので,逆に言えば,裁判というのは半年,1年やっているわけで,ほかの債権者で自分も分け前にあずかりたいと思えば,その間に参加するなり何なりの方法の期間は十分に取られているわけです。その間に横で高みの見物をしていて,成果が上がったときだけ回収にあずかろうというような債権者は余り保護に値しないのではないかと考えております。   それから,不動産の場合には,具体的な案があるわけではありませんが,詐害行為が一種の執行妨害だというような意識さえもあると考えると,抵当権に基づく妨害排除のときに議論になったような,直接明渡しや収益執行の議論が参考になるのではないかと思います。 ○野村委員 425条なのですけれども,もともとのモデルになっていたフランス民法にはない規定で,日本の民法制定当時のフランスのある学説の議論がここに取り入れられているわけです。どちらかというと現在のフランス民法の解釈論は日本と同じような相対効ではないかと思うのですけれども,425条を前提にして考えると,債務者との関係とか,あるいは他の債権者との関係でどのように考えるのかを明確にする必要があります。特に,取り消して財産が戻ってきたときに,例えばその取消行為が弁済であるというようなときに,受益者が債権者なのですけれども,その債権が復活するのかどうかとかも問題です。このように,425条を中心にして考えると,今のいろいろな学説の考え方から根本的に考え直さなくてはならない点がたくさんあって,取消しの範囲とか,取消しの訴訟でその訴訟の効果を―敗訴するときと勝訴するときとあるわけですけれども―どのように考えるのかといった点も考えないと,全体として整合的な理論はできないのではないかと思うのです。そうすると先ほど鹿野幹事の言ったような考え方ももう一方で視野に入れて検討が必要かなと思っておりまして,今の実務が必ずしも425条の文言どおり貫徹されていないのではないかというのが要するに意見なのですけれども,前回のところにも戻っていってしまうのかもしれないのですけれども,受益者がそもそも債権者である場合と債権者でない第三者の場合とか,そういったことも考えに入れなくてはいけないのではないかと思います。うまく手続的に仕組みがつくれるなら,425条を生かすという改正法も非常に魅力的だなと個人的には思っています。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○新谷委員 前回,労働の分野での活用の実例について,事例を含めて御紹介させていただいたわけでありますが,資料19ぺージに,効果に対しても債権の回収機能を制限するという提案がされています。そもそも企業倒産において,倒産会社に形成された資産は,関係者によって分捕り合戦みたいになるわけでございます。我々としては,労働債権は優先的に弁済を受ける債権である,そういう性格であるべきだと考えているわけでございます。よって,今回の資料に示されておりますような債権回収機能を制限することについては,「すべきでない」と思っております。   それと,前回,要件についても提案がなされておりますし,今回,効果についても提案がなされておりますが,我々としては,労働債権の保護のため,倒産法制を抜本的に改正・整備することを別途御検討いただければと思っております。でないと,今回,詐害行為取消権について新しい考え方によって改正された場合,現在運用している機能がかなり損なわれるという危惧を持ってございます。仮にそういう方向で検討が進むということであれば,労働債権保護について別途お考えいただければと思っております。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○中井委員 この詐害行為取消権の効果については弁護士会でも意見が分かれています。事実上の優先弁済を認める従来どおりの実務でいいのではないかという強い意見がやはりございます。インセンティブの問題からもそういう意見です。他方で,不動産であれば債務者のもとに戻って一定の範囲で強制執行等を使った分配になるにもかかわらず,金銭の場合は取消債権者に戻って優先弁済になることの違和感,とりわけ偏頗行為の場合,1番目に回収した人が負けて,2番目に回収しようとした人,確かに汗を流すわけですけれども,そちらが優先される結果についての違和感があります。そこで,戻した財産については,他の債権者も含めて強制執行等の制度に参加した人たちの間で分配する仕組みにしてはどうかという意見が相当程度出ております。   ただ,債権者のための責任財産保全の制度といっても,現実にすべての債権者のためになるものではなくて,例えば,取消債権者が取消判決とともに給付判決も取得することによっていち早く執行手続に入って,そこで最優先で回収できるような仕組みをつくることにすれば,なおインセンティブも保ちながら,かつ責任財産の保全という制度の建前も維持できるのではないか,というような提案もなされています。この提案については,大阪弁護士会で取りまとめて御提示したいと考えています。 ○沖野幹事 前回既にお話ししたところと重複しておりますけれども,改めて申し上げたいと思います。   詐害行為取消権をどう構築するかについては,鹿野幹事がおっしゃったような自己の権利確保のための制度であるという形での構築も,とりわけ立法論であればあり得ることだと思われます。ただ,幾つか疑問に思うところもあり,解決すべき懸念もあるように思われます。仮に自己の権利確保のための制度として考えるということになった場合に,競合する債権者の取扱いをどうするか。例えば,一つの詐害行為取消権の行使があった後に別途他の債権者が詐害行為取消訴訟を起こすことができるか。個別の権利行使ですから起こすことができると思われますけれども,そうすると取消判決等がどういう形になっていくのか。そして,相手方の応訴負担の問題もございますので,どこかで遮断しなければならないということになりますと,最初の詐害行為取消訴訟に入ってこられる債権者に限定するというような考え方も出てき,そうだとすると,その機会を与えなくてよいかというような問題も出てまいりますので,そういった制度構築がもちろん可能だとは思うのですけれども,かなり大がかりなものを用意せざるを得ないのではないかということは一つ懸念されるように思われます。それが,現在の制度の運用を一つの理由として言われる場合には,果たしてその延長上にあると言ってよいのかという問題もありそうです。   それから,425条なのですけれども,425条については立法論的な異論はかなり強いところでありますけれども,425条のとらえ方自体もかなりいろいろあるところですので,それ自体,425条をどうするかというときに425条をどういうものとしてとらえているのかということを明らかにする必要はあるのだろうと思います。   それから,現在の運用との関係ですけれども,これも既に御指摘がございましたように,確かに事実上の優先弁済が認められ,個別の権利確保のためという,そういう場面はございますけれども,それが本来的なものとして貫かれているわけではないということにも留意が必要だと思われますし,例えば不動産など既に挙がっておりますけれども,そういうものについてどのような形で詐害行為取消訴訟が動いていくのかということを考えたときに,もし自己の権利確保のためということを正面に据えるのであれば,一つの在り方は責任説のような考え方だと思われますけれども,これは前回お話を出したところですが,詐害行為取消権に期待する役割というのは様々ございまして,最初に奈須野関係官がおっしゃったように,例えば私的整理だとむしろ戻してくることに意義があるというようなこともございますので,そういった様々な詐害行為取消権に期待される機能のどの部分を生かしていくのかということを考えたときに,果たして責任説的な扱いが最も適合的なのか,またさらには,そうした場合に最初に申し上げましたような制度の組み方の問題もございますので,それとの関係でどうかということがあるように思われます。   さらに,既に出ているところでございますけれども,この効果の問題というのは,効果だけを独立して見るということが困難でございまして,とりわけ要件のところで偏頗行為型のものを取り込んでくるのかこないかによってかなり利益状況も異なりますし,その後の展開の仕方も異なってくるわけですので,効果だけを単独で語るというのは難しく,他の債権者に対する弁済型のものも想定して効果を考えていった方がいいのか,それはむしろおいて考えていった方がいいのか,そのあたりも区別して論じないといけないのではないかと思っております。 ○西川関係官 先ほど労働事件において詐害行為取消権が活躍する場面について御発言がございましたけれども,集団的な消費者被害の事件でも,すべての加害業者に対して破産処理のようなきっちりした処理がされるわけでもないので,詐害行為取消権で被害者個人,消費者が被害を回復していくという場面はやはりあるわけでございます。そういうことを考えますと,これまで判例で事実上の優先弁済効力が認められてきたというのは非常に意味があったことであったと考えておりまして,そういう効力をなくしていくというのは,消費者被害の救済という観点からは慎重に考えなければいけないことではないかと考えております。 ○高須幹事 前回も少し申し上げたことと重なってしまうのですが,民事訴訟の手続の中でこの取消訴訟を提起しているということになれば,前回も申し上げましたが,和解ということもあり得るということを視野に入れて考えねばならないだろうと思います。代位権のときは法定訴訟担当ということで,もう少し和解ができるかどうかについては制限的だったと思うのですが,取消権に関して言えば,これはもう法定訴訟担当ではないというのが民事訴訟法上の一般的理解だと思いますから,飽くまで原告と被告との間で真正面から和解することは幾らでも自由で,私ども,通常の詐害行為訴訟で和解しているということは日常的に経験していることでございます。そうしますと,和解をするときには基本的には個別債権回収のために和解をしているわけでございまして,原告の方は,自分の債権が返ってくるかどうか,回収できるかどうかがポイントであり,被告の方も,原告との間で処理さえできればもうそれでいいかどうかという観点から和解をしている。したがって,今,債権回収機能を否定するかどうかという議論が出ているのですが,和解という道が残っている以上はそれは否定し切れないと思っております。では和解禁止しますかという議論も想定されますが,これは訴訟法的に強引な解決を図ろうというものだと思いますので好ましくない。したがって,この制度は,民法で処理する限りは,そういう面は必ず残ることを前提にした上で,残りの部分といいますか,判決まで行った場合はどういう解決をするかと,そういったことを考えねばならない。そうすると,余り正面から個別債権回収だと割り切ってしまうと,100パーセントそうなってしまうような気もいたしますので,本来の責任財産の保全の制度の趣旨も生かしながら,いいあんばいで調整するのが大事であり,これまでの判例はそれなりにそれを意識してきたところがあるのではないかと思っておりますので,現実的な訴訟の在り方に着目した形での立法論というか法律をどうつくっていくかを考えていくべきだと思っております。 ○道垣内幹事 和解のことなのですけれども,まず現在の民事訴訟法の一般的な理解は,という言い方は現行法を前提にしておりますので,余りいい説明の仕方ではないかと思うのですけれども,現在のシステムのもとで和解をしましても,和解の相手方,つまり受益者は,もう一度別の人から詐害行為取消しを受け得る立場にいるわけですよね。つまり,それは両当事者で詐害行為取消しの話ではない形で解決しているというだけですから。そして,それは,民法上どのような制度をとろうが,あなたが主体となって行う詐害行為取消しについてはこのことで終わりにしましょうということは幾らでもできるはずであって,それは詐害行為取消訴訟が和解になって,詐害行為取消しが和解によって終了しているという話ではないのだろうと思うのです。これは私の誤解かもしれませんので,間違えていれば訂正していただければと思うのですけれども,前回,三上委員から善管注意の話が出たり,和解の話が出たりしているのですけれども,詐害行為の和解というのは,詐害行為を詐害行為ではなくす意味を持っているのかといったら,持っていないのではないかという気がするのですが。 ○三上委員 参考までに一つ挙げますと,詐害行為取消しの対象というのは基本的には不動産が多いのですが,どういう状況でなされるかというと,一番切実なのは,家族が住む家を失わないために配偶者に名義を変えるというパターンが結構あります。その際には一定の金額の支払いで和解をするということがあるわけですが,当然その和解によって詐害行為が消えるわけではなくて,詐害行為があって争っていると,大体行為が行われたときから2年ぐらいたつことが多くて,その2年たったのを見越して和解をする。ただ,「知ったときから2年」ですから必ずしもそれで実際に免責されるわけではないのですが,そういう和解の例が結構あるということだけ参考に述べさせていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○内田委員 初めの方で発言された奈須野関係官の問題提起について御質問させていただきたいと思います。私的整理の中での詐害行為取消権の機能を重視すべきであるということですが,確かに,多くの債権者が合意をしてこれでいこうとなっているのに,特定の入っていない債権者が抜け駆けを図る,それを防止して私的整理がきちんと進められるようにするという趣旨はよく分かるのですけれども,詐害行為取消権というのはもろ刃の剣で,私的整理でこうしようということを決めて弁済行為をしたところが,そこに入っていない債権者がそれを取り消してくるということもあるわけです。つまり私的整理を破壊する方向で使うことも可能なわけで,詐害行為取消権を強化すると,そういう方向の使われ方というのも十分配慮しておく必要があるのと思うのですが,その点についてはどのようにお考えでしょうか。 ○奈須野関係官 正にそのような詐害行為取消権を別の人が使ってくるというリスクがあるので,我が省としては,中小企業再生支援協議会であるとか,ある種事業再生ADRであるとか,そういう私的整理をやるための枠組みを法的に整備して,その場に様々な債権者に参加してもらって私的整理を進めていただくというような場を提供することによって,秩序立った形でこういったものが進むような政策を進めているということであります。御指摘のように,これは現時点では完全なものではないというのはそのとおりなのですけれども,我々の政策としては,できる限り,そういう事業再生ADRであるとか,中小企業再生支援協議会などの機能が発揮されて企業の再生が進むというような方向に持っていきたいと考えているところでございます。 ○中井委員 今の内田委員の質問を誤解しているのかもしれませんが,事業再生ADRも含めて,一般に私的整理を使うときというのは専ら金融債権者の方が譲歩をする場面で,金融債権者以外のいわゆる一般債権,取引債権や労働債権も含めてですけれども,これは原則弁済することを予定しておりますので,今おっしゃった,私的整理の中で譲歩をしようとする銀行団に対して,その後私的整理に基づく弁済行為が行われたときに詐害行為取消しが起こる,そのような場面はまずあり得ないのだろうと思います。逆に,金融機関のみが譲歩しているときに,他の一般取引債権者に対して全額弁済をすると,これについて詐害行為取消しをする,これは理論的にありますけれども,それは私的整理自体が成立していない場面で,成立すればそのようなことはない。奈須野関係官がおっしゃるのは,詐害行為取消権という制度が存在すること自体によって,関係者一般が抜け駆け的な行為をせずに,そこで譲歩が成立する,そういう環境づくりに役立つという位置付けではないかと理解しているのですが。 ○内田委員 きちんとしたスキームの中で整然と私的整理が行われる場合にはおっしゃるとおりだと思いますが,一般論としては,私的整理を壊そうという方向で詐害行為取消権を使うこともあり得る。そうすると,一般的にこの制度を強化すると,いろいろな使い方が可能ですので,整然としたスキームで私的整理が行われる場合以外のところで弊害が出てこないか懸念があるという趣旨です。しかし,おっしゃることはよく理解できます。 ○山本(和)幹事 優先回収を認めるかどうかというところについては特に定見はないのですが,1点コメントとして,最初の方で新谷委員から,労働債権の債権者を保護するために優先的な効力を認めた方がいいのではないかという御指摘がございました。労働債権者が詐害行為取消権を行使する場合は確かにそういう面があるいうことは分かるのですが,ほかの債権者が先に詐害行為取消権を行使してしまった場合には,その債権者が相殺によって自分の債権を回収してしまうということになると,実体法上労働債権に優先権が認められていても,結局その相殺には勝てないということになってしまうおそれもあるような感じがいたしまして,そういう意味ではこういう優先回収を認めるというのももろ刃の剣である面があるような気がいたします。それは感想です。   意見としましては,ちょっと細かいところで恐縮ですけれども,22ぺージの「(6)受益者・転得者の地位」のイですが,「受益者の反対給付の価額の償還」ということがございます。これにつきましては,資料にも書かれていますように,破産法の改正の際に随分議論いたしまして,従来は,破産財団に現存利益がない場合には反対給付は破産債権にしかならないとしていたのを,今回の改正で財団債権としたわけですが,その趣旨としては,受益者の予測可能性を担保することによって取引の安全を確保するとか,あるいは危機時期に遊休資産を売却することによって事業再生を容易にする,受益者の法的地位を安定させることによってそのような効果がねらわれたものだと理解しております。その過程では,ここに記載されていますように,受益者は悪意なのだから制裁として破産債権というふうに,その当時の現行法のような形にしてもよいのではないかという議論があったわけですが,そういう考え方はとらずに,予測可能性を確保するという政策判断が採用されたと理解しております。そういう意味では,前回要件のところで申し上げたのと同種の政策判断がここでもとられていると理解しておりまして,それを貫徹するためには詐害行為取消権においても同様の政策判断がとられる必要があるのではないかと考えています。そういう意味では,ここでは否認との整合性が必要なのではないかと考えています。その意味で,ここに記載されている考え方,見解に賛成です。補足説明で書かれているような先取特権を付与するというのは,テクニカルにはかなりハードルは高そうな印象を受けるのでありますけれども,全体的な方向性としては,何らかの形で優先権を反対給付について認めていくという方向性に賛成であります。   それから,ウの「転得者の反対給付」の問題については,前回も申し上げましたが,ここがネックになって,破産における転得者否認の,現在の二重の悪意と言われる余り評判がよろしくない制度が維持されたということがございます。したがって,ここは是非民法の方で何らかの御工夫をいただいて,ここを整理していただいて,それを要件の方にも反映させていただくという形にしていただければ,それと同様の規律を転得者否認についても設けていただきたいということです。   最後の5の行使期間の問題も,否認の改正のときには,20年というのは長過ぎるのではないか,とりわけ,ずっと申し上げている法的安定性ということを考えたときに,行為から20年たって否認されるということではやはり問題ではないかという指摘もあったところでありますが,これは民法第426条が20年としている以上破産法の方で勝手に変えるわけにはいかないということで結局維持されたと理解しております。その意味では,ここも,消滅時効等との関係はもちろんあろうかと思いますが,できれば民法の方でも短縮する方向で御検討いただいて,それを否認の行使期間についても反映していただければと考えております。 ○中田委員 今の山本幹事の御発言の中の受益者・転得者の反対給付の価額の償還について一言申します。   私も山本幹事と同様に,優先権を認める,それで破産との整合性を保つということについては賛成でございます。   ただ,その上で,同時履行の抗弁という方法で解決するということも一般的には考えられると思うのですが,同時履行の抗弁を認めるのではなくて優先権にとどめるのだとすると,それはなぜかということを整理しておく必要があるかと思います。多分,バランスとしては同時履行は強過ぎるのだろうと思います。ただ,破産の場合と詐害行為の場合とでやや利益状況が違っておりまして,もちろん破産でも財団不足で破産廃止になるということはあり得るわけですけれども,詐害行為の方がより回収しにくいという場面もあるかもしれない。そうすると,同時履行を認めることも選択肢としてはあり得るかもしれないけれども,それが過大だとすると,なぜなのかということを整理しておく必要があるということです。 ○深山幹事 議論がやや受益者・転得者の方に移ってしまったので少し戻ることになり,また,いろいろな方々の御発言で,いろいろな言い方で既に出ていることかもしれませんが,詐害行為取消権が使われる場面はいろいろな場面があって,それによって利益状況も大分違ってくる。そういう意味では,この制度に余り期待し過ぎて強い効果を与えると,ある場面では非常にフィットしていい制度になっても,使われ方が違うとそれが裏目に出るという側面がどうしてもあると思います。前回の偏頗行為のところに適用させるかという要件論もそうですし,あるいは効果のところでも,取消債権者のところに戻させるのか,更に相殺等によって優先弁済を認めるかということについても,いろいろな場面を想定すると,そういう強い権利,強い効果を認めてしまうと,どうしてもうまくいかない場面が出てきてしまう。そういう意味で,余りこの制度に大きな期待を寄せて強い権利にしてしまうことについては消極的に考えております。インセンティブというような言い方が出てくるのですけれども,私は,インセンティブを与えてまでどんどん使ってもらわなければならない制度にすべきなのかなというぐらいに思っているところです。 ○高須幹事 今,インセンティブの話が出ましたので,ちょっとそれと重なるかと思います。22ぺージの費用償還請求権の問題でございますが,個別回収機能を否定的に解して,総債権者のためにという方向であれば,共益費用的なものとして費用については先取特権なりで優先的に回収する,流れとしては十分分かり得る流れなのですが,この場合の費用というのをどうとらえるのかというのが実はあるのだろうと思います。狭義の訴訟費用のように,いわゆる弁護士費用が入らないという意味であれば,おのずと制限もされますが,その場合には,印紙代とか証人尋問の日当代ぐらいでたいしたインセンティブではないなという話になります。逆にここに弁護士費用が入るということになるとかなり大きな額になる。それはその意味では有効なのかもしれませんが,その場合に,先ほど申しましたように私自身は個別回収的な側面は絶対否定できないと思っておりますので,原告個人は自分の債権の回収ということを念頭に置いて弁護士に頼む。頼まれた弁護士は,例えば和解をせずに判決をもらって最後まで全うすると費用に入って先取特権としてある程度の弁護士費用が入る。こういう形になると,本来依頼者から頼まれ,依頼者のために行動するはずの弁護士のインセンティブがちょっと違う方向へ行ってしまう危険があるのではないか。この立て方は,我々弁護士から見ると,もしかすると危険かもしれないという,中途半端な言い方で申し訳ないのですが,どちらを向いて仕事をしたらいいのか迷うなというところがございまして,この費用という問題について何がしかの規定を設けるということに反対ではありませんが,その場合に弁護士費用がどうなるのかは明確に議論した上で,その成り行きもみんなで想定した上で決めていくべきであろう,一くくりで費用とだけ言うのは危険ではないか,このように考えております。 ○三上委員 今の点につきまして補足させていただきますけれども,詐害行為については不動産の取消しが多いと先ほども申しましたが,その場合にはたまにほかの債権者や税務当局がライドオンしてくるということがあって,その際には確かに弁護士費用ぐらい分担してほしいという気が起こるのは事実でございます。その際に,共益費用的な扱いになると,結局債権者の回収もその分減るし,債務者が債権者に弁済した額も,要するに残元本がその分多く残るということになりますので,共益費用的な扱いとするよりは,ライドオンしてきた債権者に弁護士費用も含めた費用の一部の分担請求ができるというような制度もあり得るのではないかということだけ述べさせていただきます。 ○鎌田部会長 ほかによろしいでしょうか。 ○中井委員 効果の問題で,個別論点に移ってしまっているのですが,事実上の優先弁済の問題に戻らせていただいて,1点だけ申し上げたいと思います。   先ほど大阪で検討しているということを申し上げましたけれども,少し御紹介いたしますと,先ほど違和感があると申し上げたのは,「事実上の」というところでして,責任財産保全制度だからといって債権者としての債権回収機能を詐害行為取消訴訟の中で実現させないのかといったら,恐らくそうではないのではないか,またそれがないと使えないのではないかと考えております。これは先ほど沖野幹事がおっしゃったように制度設計全体のことだろうと思うのです。債務者に対しては給付判決を求める,同時に詐害行為取消訴訟を行う,そして取消判決が出れば,それに基づく債務者の受益者に対する返還請求権なりを直ちに給付判決に基づいて差し押さえる,そうするとこれは事実上ではなくて,法的な執行制度の中で財産を取消債権者が掴取できる,こういう状況があらわれます。そのときにどこまでの範囲の債権者がそこに参加できるかですが,強制執行と同じように考えれば,その時点で債務名義を持っているか,仮差押えをするか,しかるべき配当加入の終期までに参加する人が,その取り戻した財産から配当を受けることができる,こういう構造にしますと,これは事実上の優先弁済ではなくて,法律上の執行制度を使って,強制執行に最初に着手した取消債権者が最優先で回収できる状況があらわれるのではないか。つまり,取消訴訟後の回収のシステムをきちんと構築することによって,事実上の優先弁済ではなくて法律上正当な債権回収行為ができる。かつ,責任財産の保全としては,他の債権者も汗をかけば,つまり債務名義を取るなり仮差押えをするなりすれば,参加していくことができる。そういう制度構築ができるのではないかと思っております。そういう意味で,詐害行為取消し全体の制度設計の中で,前回申し上げました,偏頗行為を入れるのかどうかということも含めて考えないといけないと感じた次第です。 ○岡(正)委員 金銭を詐害行為取消権者に直接給付することを認めて,相殺を認める,その部分が事実上の優先回収と言われているところだと思いますが,代位権でも申し上げましたように,それを全廃するのはいかがかなものかという意見が根強くあります。他方弁護士会には,責任財産として確保して執行制度で配分していく,そのルートがきれいだしフェアではないかという意見も強うございます。その観点からいきますと,もし偏頗弁済を詐害行為取消しして金銭を受益者は債務者に戻せという場合については,中井委員がおっしゃったように,金銭を詐害行為取消権者に渡せというのではなくて,受益者は債務者に返せと,そういう請求権が取消しの効果として生じて,その債権をできるだけ速やかに執行に結びつける手続的な措置を講ずればよいのではないかということになります。   もう一つ,物,不動産を受益者は債務者に返せという場合につきましても,債務名義がないときは債務者に対する給付訴訟をできるだけ一緒に起こせという制度にするのであれば,取消判決,要するに不動産を受益者は債務者に返せという債務名義と不動産の差押え,処分制限効をうまく組み合わせたような制度をつくれないだろうかと意見がありました。事実上の優先弁済はできるだけ狭くして,回収はできるだけ執行制度を使うのだけれども,使いやすいように詐害行為取消権と執行制度のつなぎをうまく立法したらいいのではないかという意見でございます。   最後に,物を返せというときの山本和彦幹事と中田委員でしたか,のお話のところで,受益者は物を返さなければいけないけれども,そのときに給付していた反対給付を取り戻す権利がある,その反対給付を取り戻す権利の優先性を先取特権なり同時履行でやるというお話だったと思います。これに関しては,破産法の場合,管財人が差額償還請求ができるという制度がございます。詐害行為取消しの場合も,不動産を取り戻しても最終的には売ってみんなで金銭で分けようということにつながるわけですから,差額償還請求を詐害行為取消権の場合も認めて,受益者の反対給付を受け取る権利をきちんと保障してやるとともに金銭で取り戻す,そういう将来の執行がやりやすいような制度を詐害行為に取り込むのも一つの案だという意見がございました。 ○道垣内幹事 中井委員と岡委員に伺いたいのですけれども,その方法が可能であるということはよく分かるのです。つまり,詐害行為取消しをした債権者が別途債務者に対して給付訴訟を起こして,それに基づいて,取消しによって発生する返還請求権を差し押さえるという道があるというのはよく分かるのですけれども,仮にそれが認められて,かつ,それがやりやすいように執行法上何かの制度をつくったとしても,取消債権者がそのような差押えをしなければいけないのかというと恐らくそうはなりません。あるいは,極端な例ですけれども,既に債務名義は取っている,公正証書があるということですと,必ず債務者に対する給付訴訟を併合して―併合かどうか分かりませんけれども,同時に提起しなければならないとはならないはずですよね。そうしますと,しないときについても考える必要があって,そのときはどうするのか。それは飽くまで,受益者に対して,債務者に対して支払えと言うしかできないという制度設計も可能ですけれども,差し押さえれば執行手続に乗った優先弁済が受けられるとしても,それをしないときにはどうなるのかという規定はなお必要であろうと思うのです。そう考えてくると,ここで言われている自己への引渡しを求めることができて,そのときには相殺ができないとか分配しなければいけないというのと,民法上の制度ないしは原則としての制度というのは同じになってしまうのではないだろうかという気が伺っていてしたのです。どのような法的な仕組みが必要であるという前提で中井委員,岡委員がおっしゃっているのかということについてお聞かせいただければと思うのですけれども。 ○中井委員 今のご質問を正しく理解できていないのかもしれません。そこまで詰めた議論をしたわけではありません。正直,現実にある事実上の優先回収という問題についての解決の在り方の一つとしてこういう方法があるなということにとどまるのかもしれません。   なお,今,申し上げたのは,債務者が受益者に対する何らかの権利を差し押さえる,若しくは戻ってきた不動産に対して差し押さえていく,強制執行の手続に乗せるという形で申し上げましたけれども,金銭に関して言うならば,債務者に戻せというのと,場合によっては取消債権者に戻せという選択を認めることも可能ではないか。取消債権者に戻せと言ったときに,戻ってきたものについて,さて,事実上の優先回収を認めるのか,そこでも強制執行制度で,つまり債務者の取消債権者に対する返還請求権を差し押さえて強制執行に乗せていくのか,この辺は更なる制度設計の問題だろうと思います。   ちょっとはずれますが,このような制度を本当に民法という基本法の中に,しかも責任財産保全という今数か条しかないところに,これだけ執行制度とまたがったような一つの大きな制度を乗せるのが適当なのか,場合によっては,今申し上げているようなことは執行制度を変えることによって実現可能な側面もあるのではないか,この辺の振り分けも更に検討しなければならないという認識を持っております。   最後の絵までかけているわけではないということで,御容赦いただければと思います。 ○鎌田部会長 取消しの結果,債務者から受益者に対する請求権が生まれて,取消債権者は債務者に債務名義を持っていれば執行法を変えなくても執行はできるのではないかと思うのですけれども。 ○中井委員 もともと持っていればできますね。 ○鎌田部会長 問題になるのは執行法なのですかね。債務名義を取得する前にさっさと弁済されては困るから,一定期間弁済するなという,そういう制度が必要だということでしょうか。 ○中井委員 現実に今の実務でも,例えば不動産について詐害行為取消訴訟を提起するときには,第三債務者の手元に不動産の登記名義があるわけですから,取消しを前提として処分禁止の仮処分を行っています。仮差押えをしている事例は余りないのかもしれませんが,少なくとも不動産等では保全をしています。取消しの効果として発生する金銭債権を,まだ発生していない段階で保全できるのかというのは一つの課題なのかとは思います。 ○道垣内幹事 おっしゃることはよく分かるのですけれども,それを可能にするためには,民法上は優先弁済は認められないということを規定しておかなければそちらへは流れないですよね。 ○中井委員 そうですね。 ○道垣内幹事 だから,民法に何を規定するかというときに,民法でも優先弁済を受けられるような規定にしたり,あるいは,数が多過ぎるのはあれだからと言って減らしてしまって,すべてを解釈に任せるというふうなことをしたりしていたのでは,そのような差押えをして,そこに他の債権者も入るチャンスを与えながら,しかし事実としてはなかなか時間的にも入れないだろうから,しばしばその人が独占できるというふうにするためには,民法の制度そのものではできないということを規定しなければいけないわけです。ですから,鎌田部会長がおっしゃったこととも関係するのですが,そのような制度をつくれば民法上の方はあいまいでいいということにも,民法上もあたかも優先弁済が認められるかのような制度にしておいていいということにはならないと思うのです。 ○中井委員 今,私が申し上げた制度設計は,事実上の優先弁済ができないということを前提にしたものです。 ○鎌田部会長 制度改正が必要なのは,取消債権者が直接受領することができないという,それだけですね。 ○岡(正)委員 私の方は,取消債権者が金銭を一切直接受領できないというところまでは考えておりません。直接給付を認める場合を極力狭くして,強制執行できちんと回収する道を王道として広く開く,便利にしておく,それとセットで民法における取消債権者への直接給付を極めて狭くする,そのようなイメージで申し上げております。 ○鹿野幹事 戻ってしまいますけれども,一言申し上げます。先ほど,425条から出発することを大前提とするのはいかがなものかという疑問を申しました。それは,一つは優先主義を認めるかどうかということに関わりますけれども,もう一つは,取消しの範囲あるいは取消しの効果にも関わります。つまり,すべての債権者のためにということを強調するなら,取消しの範囲につき被保全債権による制限をはずして,当該行為により移転した財産全てを債務者のもとに戻すという方向につながってくるのだろうと思うのですが,それは詐害行為取消しの効果としては行き過ぎなのではないかとも考えますし,そのこともあって先ほどのような発言をいたしました。   確かに,沖野幹事がその後におっしゃったように,実際には,他の債権者との関係をどうするのかということ,受益者あるいは転得者の応訴負担ということ,それらとも関わって手続的な手当てがどこまでどういう形でできるのかということも考えなければなりませんし,あるいは効果について,全部取り戻すということではなくて,言わば責任説的に構成するとした場合に,それが具体的にどういう形で実現可能なのかということについてもより具体的に考えなければいけない部分があると思います。さらに,先ほどから何人もの方が御指摘のように,種々の場面での取消権行使を考慮に入れて内容を考える必要があるとは思います。けれども,そのような検討課題は残っているとしても,およそ最初から425条を大前提とし,その上で一人の取消権者が取消訴訟を行使して財産そのものを完全に取り戻すという制度をとることが果たして当然と考えてよいのかを疑問に思い,問題提起をさせて頂いた次第です。 ○鎌田部会長 今,御指摘があったような形で,425条に象徴されるような一般財産保全の制度として純化していくという方向の意見が一つあるのに対して,自己の債権の保全のための制度として事実上の優先弁済を伴うような形で現在判例が認めている部分は否定し切れないのではないかという御意見と,両方があったということだと思います。   (3)の「取消しの範囲」については,今,鹿野幹事から少しお話がありましたけれども,自己の債権の保全のための制度だと取消しできるのが自己の債権額の範囲に限定されるという現在の判例と同じになりますけれども,そうでない場合には,取消しの範囲が自己の被保全債権の債権額の範囲にとどまらないというふうに当然になるのかどうか,これは前回も少し御意見のあったところですけれども,この点について何か御意見がありましたら,出していただければと思います。 ○沖野幹事 取消しの範囲自体も政策判断があるところだと思いますけれども,債務者の財産処分に対する介入である以上は謙抑的にと考えるのならば,その範囲を限定するということは十分あり得ますし,現在も基本的な説明はそういう理解でいくのだろうと思います。しかし,その場合に何が問題なのかということを考えますと,とりわけ影響の大きいのは受益者だと思われますけれども,受益者について,これもまた要件とかかわりますが,一部の債権者がいち早く弁済を受けたような受益者を想定するのか,そうではない財産減少行為の相手方である受益者を想定するのかということによって利益状況が変わってくるだろうと思われます。いち早い債権回収は基本的には,詐害行為の対象から除外するとすると財産減少型を考えるわけですが,その場合には,反対給付の部分について十分な手当てがあれば受益者に対する配慮がそれなりに尽くされたということになると思われます。そのように受益者への配慮の手当てをしたうえであれば,他の債権者の存在を想定するとすればですけれども,取消債権者の債権額の範囲に限定するというのは過少になる可能性が高いわけですので,取消しの範囲は取消債権者の債権額に限定されないということでよいのではないかと思っております。先ほど効果だけを単独で論じることはできないと申し上げましたけれども,効果の中も問題を個別にそれだけで単独で論じることはできず,取消しの範囲を拡大していくと考えるならば,受益者の地位について,ここで書かれたようなそれなりの手厚い配慮がセットで要るのではないか。そして,それができるのであれば,ここは現在の判例の考え方を変えてよいのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 これも,金銭の取戻しの場合には被保全債権の債権額の範囲での取消しというのは実現容易ですけれども,不動産なんかの場合には全部取戻しというふうなことになって,そこのアンバランスはこの場合にも存在しているということですね。   他方で,これはついでにお伺いしておきたいのですが,仮に総債権者のために全部取り消せるということを認めるとしたら,最初に確認した,詐害行為以前に債権を持っている人でなければ詐害行為取消しができないという原則が論理的に両立し難くなりはしないですか。そんなことはないですか。すみません,沖野幹事に責任を負わせるわけではありませんけれども。 ○沖野幹事 部会長御指摘のように,論理的には両方があり得るのだろうと思います。すなわち,だれかが取り消してくれれば入っていけるという人は,なぜ自分から取消しに行けないのか,いざ取消しにかかったら自分にとっても責任財産としてあてにできるのだからということを貫くならば,そこまで認めてよいという考え方もあり得ると思うのですけれども,しかし他方で,例えば倒産の場合のように既に総財産の清算というのが用意されていて,そこに流れ込むこということが確実であるような制度の場合と,そうではなくて,しかし戻ってきたら強制執行に乗せようという制度で考えたときに,債務者の財産処分権に対する介入というのをその後の総清算のような手続の保障がない中でどこまで認めるかというのは,政策判断として幅があるのではないか。その意味で,詐害行為取消しを起こせる債権者はなお限定されるけれども,いったん戻ってきた財産については,あとは強制執行の範囲で行けばいいという考え方も論理的に破綻しているとは思われません。確かに唯一の考え方ではないと思いますけれども,両者が一致する必然性はないと考えております。 ○中井委員 だれが詐害行為取消権を行使できるかですけれども,詐害行為前の債権者に限るという考え方でいいのではないかと理解しております。これは観念的なことになるのかもしれませんが,その後に債権を取得した者は,いったんそういう行為が行われた状態を前提として取引関係に入っているわけですから,そのような者にまで認める必要はないのではないかというのが大阪の意見でした。 ○鎌田部会長 逸出財産の回復方法については特にまとまった御意見がなかったのですけれども。 ○岡(正)委員 民法でやるべきかどうかの問題はあるのですが,今,実務で会社分割の詐害行為取消しという問題が浮上しております。債務超過会社でグッドカンパニーだけを100%子会社にして,特定の債務だけその分割会社に承継させ,金融債務などカットしたい債務だけをもとの会社に残して,その株式を譲渡してしまえば,グッドカンパニーと特定の債務だけが外に出て,財産のない会社にその他の債権者が大勢残る,これを詐害行為取消しで行くべきではないかという議論が随分なされております。そもそも会社分割行為を詐害行為取消しの対象にできるのかどうかという問題,それから,それは会社分割無効の訴えという会社法の方で対処すべきではないかという問題,ただ,今のところ会社法が動いておりませんので,詐害行為取消しで努力しているわけですが,そういう弁済あるいは不動産の移転だけではなくて,もっと複雑なものの取消しも今後出てくると思われまして,とりあえず会社分割の詐害行為取消しというのが目の前に実務問題としてございますので,それにも対応できるような改正に是非していただきたいと思います。 ○山下委員 今の点は,私も一段落したら申し上げようかと思っていたところなのですが,立法の結果かどうかは分かりませんが,会社分割で債権者詐害的なことがいろいろ起きるという現象が起きて,私もそれを立法した部会のメンバーだったので責任がないとはいえないかもしれませんが,現実の事態がそういうことになっている以上,何らかの検討は必要だろうと思うのです。会社分割以前から,詐害的な会社設立をして,そこで現物出資をすることは詐害行為の対象になるかという問題があって,民法の規定を普通に適用するのではなかなか十分な解決ができないのではないかなという感じがしております。岡委員のおっしゃったように,この問題ももちろん検討していただきたいたいのですけれども,ちょうど会社法の部会も走り出すようなので,そこら辺と連携をとりながら御検討いただければと思っております。 ○鎌田部会長 逸出財産の回復方法について特に御意見がないようでしたら,費用償還請求等については御意見をちょうだいしたところでございますが,詐害行為取消権の行使期間について何か御意見ございますでしょうか。民法上は先ほどのように自分が債権を取得した後の詐害行為しか取り消せないという限定がありますから,20年の期間が問題になることは余りないと思うのですけれども,倒産法上の否認権の行使についてはそういう縛りがありませんから,むしろ倒産法の方で民法の規定を前提とした期間設定が難しい問題を起こしているということだと思います。民法の側で本当に長期の行使期間として20年を認めざるを得ないのかどうかというところについては,この部会資料では消滅時効制度についての見直しとの関連で改めて検討するという方針が出されておりますけれども,そちらでの議論にお任せするということでよろしいでしょうか。 ○山本(敬)幹事 少し言いそびれてしまったのですけれども,逸出財産の回復方法について,「(4)エ 現物返還の原則」のところで,価額償還についてどのような場合に価額賠償を認めるかという点について条文上も明らかにする方向で検討してはどうかとされています。このように検討するのはけっこうなことだと思いますけれども,他の類似した問題とのかかわりもありますし,どのような場合に価額償還が認められるかということだけではなくて,例えば,その場合の価額償還の算定基準時など,理論的にも技術的にも非常に難しい問題がたくさん出てくると思います。そういった問題についてもしかるべく議論をした上でないと,条文上明らかにすることは難しいかもしれないということだけ指摘させていただきます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   詐害行為取消権を以上で一区切りにさせていただこうと思いますけれども,よろしいでしょうか。―ありがとうございました。   今回は前回ほど遅れないように進めたいと思っておりますので,休憩の時間が近づいてはまいりましたけれども,部会資料8−1の「第1 多数当事者の債権及び債務(保証債務を除く。)」に移らせていただきます。   ここは大きく二つの固まりに分けて御審議いただくことを予定いたしております。一つ目が,「1 総論」と「2 債務者が複数の場合」,ぺージ数で言いますと1ぺージから8ぺージまででございます。その後に「3 債務者が複数の場合」,8ぺージ及び9ぺージを御審議いただきたいと思います。   まず,「1 総論」及び「2 債務者が複数の場合」について事務当局に説明してもらいます。 ○川嶋関係官 まず部会資料8−1と8−2の関係についてですが,8−1が主たる部会資料であり,8−2がこれに詳細な説明を付け加えた補助的資料であることは,これまでと同様です。この場でも基本的には8−1に沿って御議論いただきたいと考えております。   それから,現行民法第3編第1章第3節「多数当事者の債権及び債務」には,第4款として保証債務に関する規定が置かれております。しかし,保証債務は形式的には他人の債務を履行することを内容とするものであるという点で,同一内容の債務を複数の債務者が負担するものである分割債務,連帯債務,不可分債務とは異なっており,また,実質的にも担保としての機能に特化しているという点で独自の意義を有していると考えられます。そこで,保証債務については独立して「第2 保証債務」において検討することとして,第1では,保証債務を除いたその余の多数当事者の債権及び債務を検討の対象にしたいと思います。   「1 総論」を冒頭に設けました趣旨は前回までと同様です。保証債務を除いた多数当事者の債権及び債務の見直しに当たって留意すべき点について幅広く御議論いただきたいと考えております。また,2以降に掲げました個別論点のほかにも検討すべき論点がございましたら,ここで御指摘いただきたいと思います。   多数当事者の債権及び債務については,債務者が複数である場合と債権者が複数である場合とでは,検討に当たって考慮すべき事情も異なってくると考えられますので,2において債務者が複数である場合を,3において債権者が複数である場合を,それぞれ別に御議論していただきたいと考えております。   「2 債務者が複数の場合」では,分割債務,連帯債務,不可分債務についてそれぞれ御議論いただきたいと思いますが,とりわけ重要なのは「(2)連帯債務」であろうと考えております。現行民法は,連帯債務者の一人について生じた事由の効力が他の連帯債務者にも及ぶかという点について,相対的効力を原則としつつも,多くの絶対的効力事由を定めております。連帯債務は,一人の債務者の無資力の危険を分散するという人的担保の機能を有しているわけですが,絶対的効力事由が多いことは連帯債務の担保的効力を弱める方向に作用し,通常の債権者の意思に反するのではないかという問題が指摘されております。また,法律の規定により連帯債務とされるもののうち,共同不法行為者が負担する損書賠償債務について,判例・学説は,いわゆる不真正連帯債務として絶対的効力事由に関する一部の規定の適用がないとしております。こうした事情を踏まえ,現行法が定める絶対的効力事由の見直しの要否について御議論いただくのが,「イ 連帯債務者の一人について生じた事由の効力等」です。   ここでは(ア)から(カ)までの六つの各論的な論点を設けましたが,特に慎重に御議論いただきたいのは,「(ア)履行の請求(民法第434条)」についてです。民法第434条は連帯債務者の一人に対する履行の請求について絶対的効力を認めておりますが,これはむしろ連帯債務の担保的機能を強化する方向に作用し,債権者に有利なものといえます。他方で,履行の請求に絶対的効力を認めることは,請求を受けていない連帯債務者に不測の損害を与えるおそれがあるとの問題も指摘されています。こうした指摘を受けて,履行の請求を絶対的効力事由とはしないという考え方や,絶対的効力事由となる場面を限定すべきであるという考え方も提示されています。債権者,連帯債務者のそれぞれ立場から実務上の問題点を御指摘いただきながら,充実した御議論をしていただきたいと思います。   「ウ 求償関係」では,(ア)から(エ)までの四つの論点を設けました。このうち,「(イ)通知を怠った連帯債務者の求償の制限等(民法第443条)」は,求償権を行使しようとする連帯債務者に他の連帯債務者への事前の通知が義務付けられている現状について,その見直しの要否や方法を御議論いただくものです。現行民法のもとでは,連帯債務には多くの絶対的効力事由が設けられているのに対し,不可分債務にそれが設けられていないところ,仮に連帯債務における絶対的効力事由を絞り込むこととする場合には,不可分債務と連帯債務との間に効力の差異がなくなる可能性が考えられます。   「(3)不可分債務」では,その場合の概念の整理について御意見をいただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明がありました部分のうち,まず「1 総論」について御意見をお伺いしたいと思います。 ○松岡委員 2点発言させていただきたいと思います。   1点目は,債権債務関係が合有とか総有とかの関係で発生する場合,それをどうするかです。この場合,単純に分割されるとはだれも考えませんから,分割債権債務ではない。しかし連帯債務になるわけでもない。多数当事者の債権・債務関係には明確な規定がないままというのは,問題だろうと思います。確かに今回の改正作業では物権法には触れないということですから,共有にを触れずにこういう議論ができるかどうか若干疑問がないわけではありませんが,他方で組合の共有と書いてあるのを共有のままにするのか,あるいは,多分通説的理解でしょうが,合有とするのか,組合のところだけに特別の規律を置けばいいのか,それともこの多数当事者関係のところにも何か規定を置くべきかということは,少なくとも検討はしておかなければいけないだろうと思います。これが1点目です。   もう一点は,これはあるいは保証のところで申し上げた方がいいのかもしれないのですが,保証債務のように主たる債務に対する付従性がない保証類似のものとして,今回の資料の詳細版にもフランス民法やドイツ民法の規定として紹介されておりますが,独立担保,支援状,請求即払保証などというのもあるようです。こういうものは多数当事者の債権関係であるには違いないが,保証そのものでもない。こういう債務関係はそもそも民法に規定すべきかどうか自体に議論があり得ると思います。おそらく一定のニーズはあるのでしょうが,民事の一般的なルールとして必要かどうかまでは私はよく分からない。どこまで規定するのかが問題になります。かといって,全く規定がないときには,そういう制度を利用しようと思うと個別の約款若しくは契約で詳しく定めなければいけないので不便です。実際のニーズがどの程度あるのかによってこの決断は左右されると思うのです。実務家の委員・幹事の皆様方から是非この点は御意見を頂戴できればと思います。 ○能見委員 少し総論的な問題について意見を述べたいと思います。一つは,ここで出てくる,あるいはこれから出てくるいろいろなタイプの多数当事者,債務者が多数である場合,債権者が多数である場合,その中でいろいろなタイプのものが出てくるわけですが,これらに関する規定が果たして純粋に任意規定的なものなのか,それとも,これはいろいろな債権者と債務者の間の利害を考慮してバランスを考えてつくったものなので,そう簡単に変えられないものと考えるべきなのかという問題があるだろうと思います。この点に関して従来余り議論はないと思いますけれども,私は,なかなか任意規定でないとも言いにくいので,任意規定なのかもしれませんが,しかし,そうであるとしても,デフォルトのルールとして,連帯債務とか不可分債務とか,それぞれについて考えるときに,債権者と債務者の利益の適切なバランスというのがその中になくてはいけないのではないかと思うわけです。例えば,これから議論されるでしょうけれども,また今の全体の説明の中にありましたけれども,連帯債務,あるいは不可分債務もそうかもしれませんが,これらは人的担保であるということで,債権者にとって有利なものをどんどん入れていくということはもちろん考えられますけれども,そうなると今度は債務者の方の利益が害されます。そこで,一つ一つの絶対的効力事由,これをどうするかと議論する視点も必要ですけれども,やはり最終的には,こういう絶対的効力事由,債権者にとって有利なものを入れた場合には,債務者の方から見てこういう絶対的効力事由も必要なのだという利害のバランスを考慮する。例えば,履行の請求について絶対的効力事由を認めるのであれば,時効の完成などについては債務者にとって有利な絶対的効力を残すべきであると,そういうバランスを考えた方がいいのではないかということが一つであります。   もう一つは,最初の任意規定かどうかということに関係するのですけれども,この資料を見ますと,日本にはないようなタイプの多数当事者の債権債務関係が諸外国にはあるようでございますけれども,そういうものについてどうするかという問題です。これは例の,銀行が相続預金なんかに対して特約があるから全員が出てこないと弁済に応じないという扱いをしていたというか,判例がある現在でも銀行としてはまだそういう主張をしているのかもしれませんが,ああいうタイプのものついてもこの際何らかの形ではっきりと対応した方がいいのではないかという気がいたします。   以上,総論的な問題についての意見です。 ○大村幹事 今のお二人の方の話と若干関係するのですけれども,また最初の事務局の説明にもあったところなのですけれども,多数当事者の債権債務の中に置かれた規定のうち,保証債務とその他のものは性質が違うではないかというような御議論があったかと思います。今回は規定の性格付けですとか配置の問題はとりあえず捨象して,規定の内容を議論するということで議論しているわけですけれども,保証債務類似のものがほかにも取り入れられるですとか,あるいは能見委員がおっしゃったように人的担保としての側面に着目して強行規定的なものを考えていくというようなことになった場合に,現在の規定の配置がこれでよいのかということについて後で検討する必要があるのでないかと思いますので,そのことについて今の段階で申し上げておきたいと思います。 ○三上委員 総論の部分で私が申し上げるのはおこがましい限りなのですが,一つは,松岡委員がおっしゃった独立保証といいますか,損失補てん契約等に関して規定を設ける必要があるのではないかという点は,我々もお願いしたいところです。最近,地公体の損失補てん契約が保証なのかどうかで地裁判決をめぐって実務が混乱したことがあります。この例を挙げると,住民の監査請求との関係で脱法行為のような印象を持たれるかもしれないのですが,そもそもこういう契約が最初にできてきましたのは,80年代の累積債務国問題の解決の際に,現地では日本の子会社に貸している貸金が現地の法律によって強制的にリスケジュールされるというときには,現地で債務不履行がないので,親会社に保証履行請求ができない,これをできるようにするために開発されてきた制度でして,それなりの必要価値,存在意義がある制度でございます。したがいまして,今回の地公体の問題でも,最終的な法律論議になったのは保証とどこに差を見つけるかというところですので,私も具体的な案を今ここで述べることはできないのですけれども,損失補てん契約と保証契約との違いみたいなものを民法でメルクマールとして明らかにしてもらえればと考えております。 ○野村委員 427条なのですけれども,通常は,債務者あるいは債権者が複数の場合には分割債権債務関係が原則であるということを示した規定だと理解されています。ここでも,論点としては,分割債権債務関係を原則と考えるのかという論点が必要なのではないかと思います。先ほど松岡委員からありましたような債務の合有的帰属とか総有的帰属みたいなものも議論するのであるとすると,共有との関係も明らかにする必要があります。物権的な世界での共有というのは個人対個人の関係になるべく還元するという思想でできていると思うのですが,分割債権債務関係を原則とするというのもそれと整合していると思うのです。そこで,物権法との関連も視野に入れた上で,427条を原則と考えるのかどうかというのも論点として付け加えた方がいいのではないかということでございます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   各論的な議論をしていっても,必然的にまた総論にかかわるところへ議論は立ち戻るかと思いますので,「総論」の部分についての議論は以上にしたいと思います。   それでは,ここで休憩をとって,その後に2の部分の御意見を賜ることとさせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開させていただきます。   休憩前に御説明いただきました「2 債務者が複数の場合」について御意見をお伺いしたいと思います。分割債務,連帯債務,不可分債務が中に含まれておりますけれども,どこからでも御自由に御発言をいただければと思います。 ○大島委員 (2)の「連帯債務」のところで,3ぺージ,イの「連帯債務者の一人について生じた事由の効力等」というところなのですが,まず実態として,連帯債務は親子や夫婦で住宅ローンを組む場面以外で実例を聞くことはほとんどございませんが,判例や学説の整理を行うことは意義のあることではないかと思います。   ただ,現行法で定めている絶対的効力事由の見直しに当たっては,債権の担保的効力を強めるという趣旨については理解できますが,場面の設定が分かりづらい部分もございますので,個々の事由についてどんな局面が想定されているのか,前提を明らかにしながら分かりやすい御議論をいただければ有り難いと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○三上委員 まず請求の絶対効に関してでございますが,御存じのようにこれは連帯債務というよりは連帯保証でよく問題になる点でございますけれども,自己の知らない間に時効が中断していたということがどれほど債務者にとって不測の損害なのかというところも疑問があるわけでございますが,いずれにしましても,保証人が保証履行をすれば保証の求償権の時効はそこから始まるわけですので,時効期間が延びることに関してはそれほど問題ではないのではないかと思っております。   それから,共同不法行為関係者間に中断効を認めないと,かえって被害者の救済にならないという記載がありますが,一方で,共同不法行為者間に密接な共同利用関係があるということはまれでございますので,むしろこの部分の記述は矛盾しているような気もいたします。いずれにしましても,時効法はまだ先の話ですが,今回の見直しで時効期間が短くなるということであれば,短くなったことに対応して中断を図る方策を別途充実していただかないと,ここで相対効によって時効中断が図れなくなるということは実務に影響があるという点をまず述べさせていただきたいと思います。   それから,今日配られました全国クレジット・サラ金問題対策協議会の資料の中でも言及がございますし,詳細版の46ぺージにも記載がありますけれども,保証人が弁済する場合に,主債務に分割払の契約があるときにはその分割払に従って払いたいといったような場合も,主債務の時効の中断を別途図る必要があるということであれば,それがなかなか難しい場合もあるかもしれません。大体こういうことが起こる場合というのは主債務者が行方不明という場合が多いわけですが,その場合に保証人が分割払いを続けられるというその趣旨にも,保証人相手に時効中断が簡易に図れるというのはかなうのではないかと考えております。   いずれにしましても,これは絶対効を認める,認めないという議論というよりも,それによる時効中断メニューの充実という,ある意味副次的な問題ですので,時効の中断効のところで充実が図られるとで解決する問題かもしれません。   あわせて,免除,更改あるいは混同の論点でございます。これはそれぞれの債権の消滅のところで別途述べさせていただきますが,結局何をもって免除があった,更改があった,混同があったと言うかの問題だと思っておりまして,住宅ローン等で連帯債務になる場合というのは,銀行の場合はほとんどが,住宅ローン債務者に相続が発生したときに相続人の中に行方不明者がいるとか,どうしても免責的債務引受けにサインしない相続人がいるという場合にやむを得ず形として残ってしまうケースです。そういうときには,そういう行方不明とかサインしない人には請求するつもりはありませんので,例えばサインを求める際に「ローン債務が免除になるのだからいいではないですか」と説明したときに,それが免除だととられて絶対的効力を持つと言われると,趣旨が全く違うわけです。あるいは,この資料の例で挙げますと,連帯債務者の一人に,「あなたが返す場合には自転車でもよい」と言ったときに,ほかの債務者が更改があったのだから私はもう免責だとか言われても,そういうつもりで「自転車でよい」と言ったつもりはないというケースは結構多いと思うのです。特に,免除というのは,マイナスをゼロにすると,ゼロをプラスにするという違いがあるだけで,効果としては贈与に似るわけで,贈与のように書面がない免除はいつでも取消せるという判断もあってもいいのではないかと思うぐらいのところもございまして,いずれにしても,この辺は一体何を意図してそういう更改とか免除とか混同のような言動があったかの認定という論点ではないかと考えております。   ついでにもう1点,併せてお願いを述べさせていただきますが,今回の資料では取り上げられておりませんけれども,連帯保証人間で自己の負担部分の返済とか一部返済があった場合の求償権でございますが,少なくとも連帯債務者というのは主債務者に対しては債権全額について責任を負っているものでございますから,主債権者への弁済が終わるまでの間は主債権者に劣後するということを明文化するということも是非御検討いただきたいと考えております。 ○西川関係官 連帯債務についてでございますが,ここに書いていない論点といたしまして,日常家事債務が連帯債務となるということがあります。実際の消費者相談の場面では,保証人となっていない配偶者に,パートナーがつくったクレジットの債務やサラ金の借入れなど,そういうものの請求が行くことの根拠になるという例が結構ございまして,この日常家事債務の連帯という部分について,あるいは解釈論でどうにかなる世界なのかもしれませんが,何らかの見直しなり限定なり,そういうものが要らないのか,検討テーマに加えていただけると幸いでございます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○山下委員 2ぺージから3ぺージの関連論点というところで,商法第511条第1項の一般ルール化というのがあって,数人が一個の行為によって債務を負担した場合に,広く一般的に連帯債務となるという原則を導入することはどうかということが問題提起されておりまして,古くからの大先生の書かれた商法の体系書を見ますと,第511条第1項は民法の商化として一般法化していいのだということが書いてあるわけです。債権法改正検討委員会と並行して走っておりました商行為のワーキンググループの研究では,現在の私ども商法学者は必ずしもそうは考えていないというところで報告書にはまとめているところでございます。やはり何か事業性のある行為を共同で行う,そういうあたりが一番連帯債務とするにふさわしいのであって,商法学者が体系書などで一般法化すべきだと簡単にみんな書いているのですが,そういう議論の念頭に置いているのは,ゼネコンがジョイントベンチャーを組んで相手方と結んでいる契約のように事業性の強いもので,必ずしも教科書,体系書に書いてあることが商法学者一般の発想ではないというあたりで受け止めていただければと思っております。ですから,実態として事業性のあるもの以外にどういうものがあるか,そこら辺の実務も十分踏まえて決められればいいことではないかと思います。 ○山野目幹事 連帯債務など,多数当事者の債務の法律関係につきましては,規律の内容の問題もさることながら,言葉のバリアという観点から意見を述べさせていただきたいことがございます。   民法の規定に掲げられている連帯債務の規定ないし概念は,法律の読み手となる市民の視点で考える際に,身辺に起こる事故や事件の損害賠償の相手方が複数いる場合にあって,その損害賠償債務が「不真正連帯債務」という仰々しい漢字7文字で説明されるときに,どうして不真正なのかという学理的な問題の説明に心を砕かなければいけないということは全く無意味であると考えるものでございます。しかも,そのような損害賠償債務について,実務上しばしば和解とか示談が問題になりますが,その際に一々民法第437条の適用関係について複雑な説明や論理操作をし,あるいは判例形成に注意しなければならないということは,ひとえに連帯債務を本則とする民法の概念構成に起因しているものであると感じます。このような考慮を踏まえて,是非ここでの御議論に際しても,個別の事項の規律内容に関する御議論もさることながら,ニックネームを与えるといたしますと「新連帯債務」とでもいうのでしょうか,そういう標準となる連帯債務,あるいは市民生活にとって基本的なイメージの真ん中に置かれるべき連帯債務の像が何なのかということを見据えた議論をしていただいた上で,もとよりそれ以外の現在まで実務で行われてきた様々な全部義務的な関係も一概に否定しようとしているものではないわけでありますから,それも併せ,典型とそうでないものの概念の配置というような観点から,日常的な通用性を備えた連帯債務概念を確立していく場にできればよいと感じている次第でございます。 ○中田委員 今の山野目幹事の御提言は非常に重要だと思うのですが,ちょっと申し訳ないのですが,その前の山下委員の御発言との関係で一言申し上げます。   山下委員から,連帯債務について,単なる共同行為だけだとすると,一人だけ商行為のときどうだろうかという御指摘があり,したがって共同事業が必要だということだと思います。その場合に,今度は組合との関係が出てくるかと思います。組合債務を分割債務とするときに組合で事業を営むということとの関係が問題になってくる。そうしますと,行為の共同性の要件の問題と,行為の商行為性と申しますか営利行為性と申しますか,そういうものとの要件の組合せを考える際に,組合の規定も併せて考える必要があると思いますので,またそこでも御検討をいただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでございましょうか。 ○奈須野関係官 連帯債務の効力の部分なのですけれども,私どもが想定している連帯債務は,通常生じるのは,ソフトウェアの請負のように,複数の事業者が一つのソフトウェアをつくり込むというような債務を負うことが想定されるわけであります。そのような場合に,例えば履行請求の効力を絶対効とすべきか相対効とすべきかという論点がありますけれども,こちらについては,通常の債権者の意思としてそれを連帯債務としている以上は絶対効を認めるのが相当であろうと思います。相対効とする利益があるのであれば,それは特約でそのようなことをしたらよいと考えます。共同関係がある場合に絶対効,そうでないと相対効というようなケース・バイ・ケースの判断は,事務管理コストを高めるというか,当事者の予見可能性を損なうという側面もありますので,こちらについては消極的に考えます。   それから,免除と更改の効力ですけれども,これも先ほどのソフトウェアの請負などのケースを考えると,免除というのは,通常主観的というか,その人にはおまえはやらなくていいよというようなことだと想定されますので,デフォルトとしては相対効と考えるのが適切ではないかと考えます。一方で,更改については主として契約を延長するために行われることが多いと聞いておりますので,そうだとすると,絶対効を認めることが当事者の通常の意思に合致するということかと思います。   最後に求償権のところですけれども,こちらはこういう提案があったということでお聞きいただきたいのですけれども,複数の受注者が請負をして連帯債務を負うわけですけれども,請け負った人のだれかが何らかのトラブルで受注を履行できないということがあるわけです。このような場合に他の受注者がカバーするということになるわけですけれども,そうすると求償関係が発生するわけです。この場合,複数の受注者との間であらかじめ負担割合が決まっていないということでもめることがあるそうでございます。その点,連帯債務においても負担割合の推定規定などがあれば,こういうトラブルも防げるのではないかという意見もありました。部会資料8−2の22ぺージのヨーロッパ契約法原則の中でも,105条の中でそのような平等推定規定を置いているということですので,御検討いただければと思います。 ○岡(正)委員 まず債務の免除の方ですが,弁護士会でも議論したところ,今も奈須野関係官がおっしゃいましたけれども,「通常の意思」は何かというその考え方が人によってばらばらでございます。やはり事実関係によるというのがたどり着く結論でございまして,債務の免除をする場合にどっちなのかはっきりせよと。現行法のような負担部分について絶対効のある免除をするのか,それとも,単に,私はおまえに請求しない,ただ後からほかの人から求償が来る場合はあるぞというような免除なのか,それをはっきりするような意思表示をしなさいと,そういう民法にできないか。それが一番事実認定に従った適切な処理ができるのではないかという意見が強うございました。   最初に能見委員がおっしゃったように,任意法規だけれども何となく強行法規ではないかと思われているところに問題があるわけでございますので,別段の意思表示がない限りはこのスタンダードと認定する,でも別の債務免除の意思表示のやり方はあるのだから,そこはきちんと勉強して,分かりやすい,自分の真意に沿った免除の意思表示をしなさい,そういう立法がいいのではないかという意見を申し上げます。   それから,履行の請求の方について今の考えを持っていけるかというかと,請求を受けていない人についての効力の問題ですから,それはなかなか持っていきにくいところです。絶対効を原則として例外を相対効にするのか,その逆なのか,いろいろ説はございました。そんな中,一つの案として,「債権者としてはこれは連帯債務と考えている。連帯債務者はA,B,Cである。Aに請求するけれども,これは絶対効のある請求ですよ。」と,そういう請求をした場合にのみ絶対効を認めることが考えられます。そういう請求であれば,受け取った方は,B,Cが連帯債務であって,これは絶対効があるから伝えてあげないと大変だなと思って,伝えるかもしれません。これで絶対効の弱点を補えるのではないかという意見がございました。 ○道垣内幹事 部会資料8−1の3ぺージのイの3段落目に,「他方で」と書いてありまして,「絶対的効力事由が多いことは連帯債務の担保的効力を弱める方向に作用し,通常の債権者の意思に反するのではないか」という問題も指摘されている。たしかに指摘されているかどうかと言えば指摘されているので,これは文章は全く間違いはないのですけれども,議論の仕方として,担保的効力を弱めることはいけないのだという議論をする必然性は全くないと思います。つまり,それぞれの事柄ごとに債権者と債務者の利害をどのように調整するのがデフォルトルールとして適切かという観点から議論すべきであって,担保的効力を強めるからこっちの方がいいのだという議論はおよそ成り立ち得ないのではないかと思います。   例えば請求の絶対効の問題にしても,問題は連帯債務者と言われているA,B,Cの債務者の利益をどのように図るかという問題であって,債権者としてはだれか一人に言えばみんなについて請求の効力が発生するのは便利であるのは明らかなわけですから,債権者の中でだけ議論すれば明らかに絶対的効力にすべきなのです。しかし,債務者A,B,Cの間がどうなのかという議論も併せてすべきであって,例えばそのA,B,Cの間が共同事業をともに営むというタイプのものであるときには,そのうちの一人に対して請求をしたら全員に対して伝わると考えるのが,債権者もそうであろうし,債務者側でも同一の行為を行っているのだから,ある一人が受け付けたらほかの人にも効力が発生するといっても,Aに言ってもB,Cに効力が及ぶというのは,B,Cにとっても酷ではないだろうという判断がなされてそうなるのだろうと思うわけです。それはすべての問題がそうなのですが。   免除とか更改についても一言だけ申し上げますと,意思表示の解釈の問題であるというのは,それはそのとおりだと思うのですが,ここで問題になっているのはデフォルトルールをどのようにするのかという問題ですから,はっきりさせるべきであるというのは当たり前の話であって,はっきりしないときにどうなるかというルールが必要であろうと思います。   もう一点だけ言いますと,先ほど三上委員から,例えば時効の中断に関して,保証の話ですから先の話ですけれども,ある一人に対して請求をして時効を中断すると言っても構わない。なぜならば,その人が履行して求償権を発生させると,求償権の消滅時効というのは弁済時から進行するわけだから,そのときには,例えば保証関係で言いますと,主たる債務者というのは,自分が無関係なところで,もうすぐ主債務が時効にかかりそうだったのに,保証人が弁済して求償権に変わることによって時効期間が再び進行し始めることになる。そのようなことからすると,請求の絶対効を認めることもさほどおかしいことではないのではないかという御意見があって,それは現在の判例法理を前提とするとそのとおりだと私も思います。しかし,例えば委託を受けない保証人で,保証人と主たる債務者との間に一定の関係がない場合に,果たしてその判例法理を維持すべきなのかということ自体が問題だと思います。したがって,その判例法理は判例法理として存在して動かないものであるということを前提に議論することには必ずしも賛成できないということを述べておきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○木村委員 網羅的にお話しさせていただきますけれども,まず,分かりやすい民法という意味において,今まで判例や通説で一般的に確立されているような,いわゆる分割債務にかかわる条文解釈とか,あるいは連帯債務が,法律の規定だけではなくて意思表示によっても成立するのだというようなことをしっかりと明記していくということが,必要なのではないかと思います。特に先ほどの岡委員のお話にもつながってくると思うのですけれども,連帯債務は当事者の意思表示でも成立するのだという点が重要で,これを前提にしまして,連帯債務者の一人に生じた事由の効力についても明確にルールとしておく必要はあるのだろうと思います。   履行の請求につきましては,債権者と債務者の利害の調整が非常に重要なポイントになってくるのではないかということで,絶対的効力を限定する一つの方法として,連帯債務者側に利益共同関係があるような場合にはじめて絶対的効力が生ずるのだという提案がされていますけれども,実際利益共同関係があるかどうかというメルクマールがいいのかどうかはまた別にしまして,何らかの方法で絶対的効力を限定していくということは考えられるのでないかと思います。   それから,相殺や混同や更改はむしろ一種の弁済といいますか,更改も一種の代物弁済のようなものなので,広い意味での債務の履行ということで,これらが性格的に絶対的効力を持つということは極めて分かりやすい部分があるのではないかと思います。   問題は,免除とか時効の完成なのですけれども,これらは絶対的効力を認めないと,制度設計として,この詳細版にも大分載っていますけれども,求償の循環という問題が必ず起きてくるので,これは実務としてはいつまでたっても物事が解決しない,債務者が債権債務関係から離脱できないという状態に陥るのではないかと思います。したがいまして,絶対的効力とする現行の制度を認めていく必要性はあるのではないかと思います。ただし,先ほど一番最初に申しましたように,意思表示によっても連帯債務は成立するわけですから,当事者の意思表示によって,これらの原則とは異なる合意をすることはできますよということで,制度をつくっていけば良いのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○鹿野幹事 絶対的効力等についてですけれども,先ほど能見委員がおっしゃった債権者と債務者の利益バランスという視点と,道垣内幹事が最初におっしゃったことに基本的に賛成です。この資料では,およそ連帯債務というものは担保的機能を持つべきものであるのに絶対的効力により担保的機能が弱まることは問題だという考え方が記載されているようです。確かに,債権者の利益,そして担保的機能ということも考えなければならないでしょうが,他方,債務者の利益についても,それぞれの場面について十分に考えるべきではないかと思います。その際,連帯債務といいましても,その「連帯」というのが具体的にどういう内部的な関係を持ったものなのかということも考えるべきでしょう。また,場面によっては,例えば相対的な効力を押しつけられて不利益を受けるような立場に立つ者の利益をいかにして保護するかということも,関連して検討の対象になり得るのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○畑幹事 5ぺージの(カ)の「破産手続の開始(民法第441条)」でありますが,詳細は省略いたしますが,ここも倒産法と民法の規定の関係がよく分からないところの一つでありまして,倒産実体法を実質的に改正するということでないのであれば,民法の規定は削除ということでもよいのではないかと考えます。 ○三上委員 今,これは(3)の「不可分債務」も範囲に入っているということですね。 ○鎌田部会長 入っています。 ○三上委員 今回の資料に書いてあるとおりに立法化が進むと,不可分債務と連帯債務の差異がなくなるので不可分債務は性質によるものだけでいいのではないかという議論があるわけでございますけれども,例えば住宅ローンが相続によって分割されてしまうと,債権者にとっては非常に手間がかかるといいますか,効力が非常に弱くなり,本当は契約書も一つですから一本化したいわけですけれども,先ほど申しましたように一本化するのには時間がかかります。かつ,金融債務が法定相続分により当然に分割されるのであれば,遺言や遺産分割等の内容がどうであれ,相続のプラスの財産の方も同じように分割されなければつり合いがとれないところを,必ずしもそのような法制度にはなっていません。といったこのような場面で,住宅ローンが契約上不可分債務ということにできて,相続時には連帯債務になるということであれば,それなりのメリットがあるのかなと思っているわけです。恐らく今の議論は,当初から債務者が複数いる場合に契約によって不可分にすることを前提にしていると思われるわけですが,もともと債権者・債務者が一対一の場合であっても,これは不可分債権としますというような契約を認める余地があるのかどうか,もしあるのであれば今回の方向に従った改正,相対効を原則とする改正がされたとしても,意思表示による不可分債権というものの存在価値は残るのではないかと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○岡(正)委員 不可分債務までですね。そうしたら弁護士会の意見の御紹介ですが,詳細版の24ページの(イ)の「通知を怠った連帯債務者の求償の制限等」のところで,事前通知義務を廃止する意見の方向性が出ております。多数意見はこの方向でいいのではないかという意見でございましたけれども,有力な少数説として,事前通知廃止には反対,今のままでいいのではないかという意見も根強くありましたので,御報告申し上げます。   もう一つ,詳細版の27ページの連帯の免除のところです。先ほどの山野目幹事の話につながっていくのですが,とても分かりにくい。弁護士で議論していても,実務でもほとんど遭遇しておりませんし,言葉自体,言葉の中身もよく分からないので,分からないものは廃止した方がいいのではないかということで,一部免除の先ほどのような,法律にどう書くかは別として,免除にはこういうA,B,C,Dのタイプがあるからよく選んでやりなさいと,そういう指導をするだけでよくて,分かりにくいこの言葉は削除してほしいという意見が強うございました。 ○鎌田部会長 ほかによろしいでしょうか。   よろしければ,ちょうだいしました御意見を斟酌して論点整理に向けて事務局の方で更に検討を深めさせていただきたいと思います。   次が部会資料8−1の8ページ最終行からでございますが,「3 債権者が複数の場合」について御審議をいただきます。   それでは,まず事務当局に説明してもらいます。 ○川嶋関係官 現行民法は,債権者が複数である債権債務関係について,分割債権及び不可分債権の規定を置くのみですが,このほかに,復代理人に対する本人と代理人の権利や,転借人に対する賃貸人と転貸人の権利について,連帯債権という概念を認める見解もあり,この連帯債権に関する規定を新設するという考え方もございます。この点については,3の論点のうち「(3)連帯債権」において御議論いただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分及び説明を省略された部分も含めて御意見をいただければと思います。 ○三上委員 冒頭,能見委員から御指摘があった点に関係するのですけれども,銀行預金が相続などの際に当然に分割債権になることに関して,銀行関係者は総有ないし合有とすべきとの意見を持っている人が多いという,それはそのとおりであろうかと思うのですが,金融機関の内部でも,当然分割の方が行方不明の相続人などがいる場合に法定相続分を払って解決できるという意味でよほど楽であるという主張もありまして,どちらがいいという考え方で統一されているわけではありません。ただ,一点,ここというよりは種類債権の定義の問題になるかもしれないのですけれども,預金債権が当然の分割というのは,昔から確定判例でして,例えば大口定期が分割されると,適用金利が変わるという場合であっても当然分割だとされている反面,定額郵便貯金は分割請求できないという判例が別途ございますし,債権・債券は従来は1枚ずつ共有関係とされていましたが,MMF,MRFが当然分割だという判例が最近出たかと思うと,電子化されている公社債だの株券のように固別性を失っているものであっても,例えば1,000単元の株式を子供二人で相続という場合であっても,未だ当然分割にはならないとされています。更に極端な例では,現金は当然分割にはならないし,現金を預金したその預り金債権も分割の対象にならないといった判例もありまして,結局当然の分割というのは預金債権だけのためにあるのかといったような観を呈しているところでございます。これでは,何をもって「当然の分割」というのか,実務では非常に混乱するところもございますので,何がしかの検討を賜れればと考えております。   それから,分割債権のところですが,これも冒頭に意見がありましたけれども,債権の準共有との関係,どういう場合にどちらの規定を優先的に適用するのかというのもこの際明らかにしてはどうかと思います。例えば,預金債権は分割債権になると思うのですけれども,では預金に付随する取引経過の開示請求権は準共有で,共有の法理に従った行使になるのか,不分割債権のように各自がそれぞれ請求できるという形になるのかという,その適用関係が明確ではない点もございます。物権の問題なのか債権の問題なのかというのは先ほど御指摘があったとおりでございますが,御検討願えればと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   特に問題の提起がありました,連帯債権についての規定を設ける方向でいかがであろうかという点について何か御意見はございますでしょうか。―引き続きこの方向で検討してみてくださいという,そういう御意向と承りました。   それでは,続きまして「第2 保証債務」に移ります。ここは大きく三つの固まりに分けて御審議いただくことを予定いたしております。一つ目が「1 総論」及び「2 保証債務の成立」まで,10ページと11ページでございます。次に二つ目が「3 保証債務の付従性」から「6 共同保証―分別の利益」まで,11ページから14ページまでです。最後に三つ目が「7 連帯保証」及び「8 根保証」,14ページ及び15ページでございます。   それでは,まず「1 総論」及び「2 保証債務の成立」について事務当局に説明してもらいます。 ○川嶋関係官 まず「1 総論」について御説明いたします。   保証は,不動産等の物的担保の対象となる財産を持たない債務者が,自己の信用を補う手段として,実務上重要な意義を有しておりますが,他方で,個人の保証人が必ずしも想定していなかった多額の保証債務の履行を求められ,生活の破綻に追い込まれるような事例が後を絶たないこともあって,例えば,自殺の大きな要因ともなっている連帯保証制度を廃止すべきであるなどの指摘もあるところです。   保証については,保証契約の内容を適正化し保証人の保護を図る観点から,平成16年の民法改正により一定の見直しが行われたところですが,なお一層の保証人保護の拡充を求める意見もございます。   委員・幹事の皆様には,保証に関する規定の見直しに当たり,どのような点に留意して検討を進めるべきかについて,それぞれのお立場からの率直な御意見をいただけたらと思います。   なお,平成16年改正の際の参議院法務委員会及び衆議院法務委員会における附帯決議については詳細版の41ページ以下に,また諸外国における保証制度の実情については詳細版の69ページ以下にそれぞれ記載いたしましたので,御参照ください。   次に,「2 保証債務の成立」では,まず「(1)債務者と保証人との間の契約による保証債務の成立」において,債務者と保証人との間の契約―保証引受契約と呼ばせていただきますが―によっても保証債務が成立することを認めるべきであるとする考え方について御議論いただきたいと思います。この考え方は,保証と同様の人的担保としての性質を有する併存的債務引受けが,債務者と引受人との間の第三者のためにする契約によって成立するとされていることとの均衡を保とうとするものです。   「(2)保証契約締結の際における保証人保護の方策」は,「1 総論」における問題意識とも共通する論点で,保証契約締結の際における保証人保護の方策について,これをより一層拡充する観点からの議論がされているところです。特に保証人に対する説明義務については,平成16年改正の際に,参議院法務委員会において,「契約の書面化,根保証期間の制限,極度額の定め等の今回の改正の趣旨が保証人の保護にあることにかんがみ,保証契約の締結に際し,銀行を始めとする融資機関の保証人への説明責任が十分果たされるよう必要な措置を講ずること。」との附帯決議がされており,また詳細版45ページ以下に記載した立法提案も存在します。   委員・幹事の皆様には,こうした立法提案等を踏まえながら,保証契約締結の際における保証人保護の方策について,それぞれのお立場からの率直な御意見をいただけたらと考えております。   また,関連論点では,保証契約締結後の保証人保護の在り方についての御議論をお願いしたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明がありました部分について,まず「1 総論」について御意見をお伺いしたいと思います。 ○中井委員 保証に関しましては,本日机上配布させていただきました「統一消費者信用法要綱案」というのが日弁連としての意見です。これは消費者信用に関する意見書ではありますが,保証一般に通じる問題を指摘させていただいているものと理解しております。したがいまして,消費者契約法ないし消費者契約,消費者信用に関するものを民法にどこまで取り入れるかはともかくとして,まず民法一般,保証一般の議論として,広く消費者信用も含めて御議論いただきたいと思っております。   統計を正確に調べているわけではありませんが,自己破産に至った事例のうち約25%が保証に起因している,個人再生では約16%程度あると聞いています。これら自己破産,個人再生案件の相当割合が保証に起因して起こっているということが第1に指摘すべきことです。   先ほど御指摘がありましたけれども,昨今自殺が3万人を超えると言われておりますけれども,ある統計によれば,そのうち経済苦を理由とするものが約7,000件程度はあるようです。そのうちどの程度が保証に関するものか分かりませんけれども,やはり保証というのがそれなりに一因になっていることは間違いございません。本人が保証債務で苦しんでいるのみならず,親族を保証人にしていることによって,主債務者の方が命でもって弁済をするという悲劇的なことも多く指摘されているところです。   確かにこれまでの日本においては,企業活動を行うに当たって金融という面で個人保証を取るというのが通例ですが,このような事実を考えると,少なくとも自然人保証,個人保証に関してはこれをなくしていく方向性を確認といいますか,認識する必要があるのではないかと思います。   もとより,一挙にそのような議論ができるとは到底思っておりません。現在日弁連は,少なくとも消費者信用は借受人である当該個人の収入ないし資産が弁済の引当てになることが大原則であるはずで,この場面で個人保証を取ることについては基本的に禁止する方向を提案していますが,そういう方向性をとるべきではないか。現に,消費者保護委員会の皆さんに意見を聞きますと,現在も,おおむね消費者信用においては,与信業者は本人の収入を引当てとした貸付けが原則で,個人保証を取らない方向になりつつあると聞いています。したがって,消費者信用に関して個人保証を取らないという制度を明確にしても,金融実務に対する影響は小さいのではないかと理解をしています。   次に,事業者信用にかかわる個人保証については,第三者保証と経営者保証に分けて考えるべきだろうと思います。飽くまで個人保証に限った議論ですが,第三者保証につきましても,保証の情義性,無償性,引き受けるときの軽率性等を考えると,これを維持する方向が本当に正しいのかどうか真摯に御検討いただきたい。この点,昨今の金融庁等の指導について,後ほど是非お聞かせいただきたいと思いますが,銀行実務においても,中小企業に対する信用を供与するに当たって,経営者保証は取るにしても,実質的に関与している者以外の第三者保証を取ることについては極めて抑制的であるやに聞いておりますし,またそういう指導がなされているのではないか。そうであれば,それを民法のレベルで明確にすることが必要ではないかと考えております。   少なくとも今の点については,根保証については妥当するのではないかと思います。次の議論として,経営者保証についても根保証をどの範囲で容認していくのか,容認するとしてもしかるべき手続的な保証ないし実体的な規制が必要ではないかと考えております。   とりあえず最初に以上の点を申し上げておきたいと思います。 ○藤本関係官 中井委員の補足でございますが,個人保証,また不動産担保というのも並べて論じられることが多いのですが,個人保証,不動産担保に過度に依存しない融資に向けた取組が行われてきております。動産・債権譲渡担保融資あるいはコベナンツといいますか,財務制限条項を活用した融資の適用が行われてきていると承知しております。監督におきましても,担保保証に過度に依存しない融資の促進という観点に留意することにしておりまして,いずれにしろ,この問題は,一方で金融の円滑,いかに円滑に資金を流していくかということと,顧客,利用者の保護という両面のバランスというものが非常に重要でございますので,そういう両面をにらみながら検討していく必要があると思っております。 ○岡田委員 消費者にとって,先ほど大阪弁護士会の方から貸金の保証のことないしはクレジットの保証の件があったのですが,やはり消費者自体が保証人になることで自分にどういう責任が来るかというのがほとんど分かってないという,その状況で連帯保証契約をしてしまうというところに一番大きな原因があるだろうと思います。消費生活センターでは,啓発の中で,保証というのがどういうものだ,加えて連帯保証というのはこういうものですよということを一生懸命いまだに啓発するのですが,一向に理解してもらってないというか浸透していないというのが現状で,人的保証に関しては,この16年の民法改正のときですか,私なんかは安易に考えて,なくなるのかなと思ったのですが,結局書面にするということで終わってしまっているのですけれども,やはり個人の保証というのは,特に連帯保証は,私たちの立場からすれば廃止してほしいなと思っています。 ○野村委員 平成16年改正のときは,中小企業の経営者の個人根保証を規制するというのがその目的で,個人保証全体については議論の対象になっていなかったということもあって,個人保証の全体を見直すことはしておりません。ただ,審議会では,個人保証の保護についても考えるべきではないかという意見はいろいろありまして,例えばフランスでは,保証人自身が手書きで金額と署名をすることが義務付けられているわけですけれども,恐らく今回はそういったことの議論が必要なのではないかと思います。個人保証を禁止するところまで行けるのかどうか分かりませんけれども,保証する人間がそれによってどういう債務を負っているのかということが十分理解できるような仕組みを考えるということが必要ではないかと思っています。 ○三上委員 個人的な話になりますが,筒井参事官に初めてお会いしたのは平成16年改正のときだったと思いますが,そのときにはここに出られるような御身分ではなかったので,まさかこういうリターンマッチの機会が与えられるとは思っておりませんでした。そもそも保証にもいろいろな種類の保証が当然あるわけでございまして,民法の中であらゆる契約にある程度の説明義務が必要とされるところ,保証取引だけが特に明文で書面を要求するとか,書面はいいとしましても説明義務をあえて規定するとか,それほど危険な取引類型なのかというのは冷静に議論する必要があるのではないかと思います。   それから,今も個人保証を主に念頭に置いた議論でしたけれども,我々銀行が保証人になる保証,支払承諾という取引もあるわけで,そういう保証取引と個人の保証とが全然問題関係が違うということは異論のないところと思いますので,どちらか一方を基軸に考えると,もう一方にとってはトゥ・マッチとかトゥ・レスになるということは私が言うまでもないことだろうと思っております。そういう意味で,個人保証と法人保証で現行民法は分けているわけですが,そのボーダーラインが個人の中でも経営者や企業オーナーをどう考えるかという点になってきて,これは16年改正のときにも,消費者契約法のときにも議論になった点でございます。こういった保証人の属性によって分かれるということであれば,この法制審の冒頭でも申しましたように,我々も消費者保護に関してその姿勢を貫くということは重要であることは十分によく理解しておりますので,そのような保証人保護のために詳細な規定を別途設けることは十分に検討に値しますが,保証全体がそれに引きずられて重い制度になって円滑な企業金融に支障が出ても困りますので,現行民法の個人保証関連規定ごと消費者法制の方に移すという選択肢もあるのではないかという点を一つ提案しておきたいと思います。   それから,企業金融の保証の際にも,基本的には経営者とかオーナーというような内部関係者以外の第三者の保証を取ることは我々としても原則抑制して対応しているというのは先ほど御紹介があったとおりなのでございますけれども,では経営者の個人保証をなくしてしまってよいのかという点につきましては,昔から企業経営者を保証人にとるのは経営責任を自覚してもらうためという説明がなされておりまして,この説明自体はちょっと前時代的な説明に聞こえるわけですけれども,では中小企業の財務諸表の信頼性はどこまで改善したのか,あるいは社外流失等に係るコーポレートガバナンスはどの程度機能しているのかといったような点について,会社債権者が現行の会社法ルートを通して経営者の個人責任ないしは法人格否認等の請求をするということに対する判例法のハードルの高さを考えると,あながち前時代的な発想であると決めつけてしまうこともできないのではないかと考えている次第でございます。   ならば会社経営者等に関してだけ多少違う配慮をするのかという点に関しましては,正に16年改正の際に,当時の証券取引法21条にありました「役員とは取締役,監査役又はこれに準ずるものをいう」との定義や連結財務諸表でいう「実質支配基準」を引っ張ってきて,これを分けようという提案を当時の全銀協の代表を通して法制審でしたのですが,裁判所関係の委員からそんなものでは裁判規範にならないと反論されて,非常に短期間の議論で終了したという記憶が強く残っておりますので,この際,今言った点も含めて改めて議論ができればと期待しております。 ○中井委員 若干補足でございます。個人保証をとりわけ問題にするのは,いわゆる情義性と説明されている点についてです。この後,説明義務等の議論に進むのだろうと思いますが,説明を尽くし,自筆署名をさせ,書面を交付させれば冷静に判断できるのか,というと決してそうではないというのが我々の認識なのです。個人保証に限って言うならば。結局は頼まれたら保証せざるを得ないという実態がある。だから,少なくとも消費者信用に関する保証については禁止,事業者与信に関しても第三者保証にそういうことを期待するのは適当でないのではないか。第三者保証にかわるものとして,第三者に仮に財産・資産があるのであれば,それを物の担保として取ればいいわけです。保証であれば一般財産すべてにかかっていけるわけで,それが悲劇的な結果を生むのではないか。   残るところは経営者保証という認識を持っております。経営者保証について,もちろん金   融の実務からすれば金融の円滑化のためには必要だ,それにモラルハザードを防ぐためにも必要だという議論は十分理解した上で,他方で,例えば事業再生ですが,経済活性化のために事業再生を円滑に進める場面において,日本ではその手続が大変おくれている,法的倒産手続の早期申立てができない,その主たる原因が経営者の個人保証にあり,経営者個人保証があるがために事業再生のための積極的な手続がとれないとの指摘があります。ベンチャー企業など,新たな企業を興すについても個人保証があることによって,リスクをとった産業の発展が日本では阻害されているのではないか。大きな視野から言えばそういう問題も含んでいるのではないかと思いますので,併せて御検討いただければと思います。 ○高須幹事 今,中井委員から大分出てしまったことと重なっているのですが,三上委員がおっしゃったこととも重なると思うのですが,保証に関して一般的にこうだというのではなくて,やはり消費者信用にかかわる保証の場合と,事業者に対する保証の場合と,その事業者の場合も,経営者そのものが保証するときと第三者保証の場合と,かなりきめ細かなケースで検討していくことが大切ではないか,どのような保証形態ですかということの中で場合分けをしていくということが一つあり得るかなと。   もう一つの軸としては,根保証という非常に大きな問題を引き起こすものがあり,前回の改正の中でそこに一部制限法理が取り入れられたわけですから,根保証に対する問題というのも,今の消費者信用に関する保証か,事業者に対する保証か,その中の第三者保証かという中にもう一つ織り込んで,場合によっては禁止が望ましいところは禁止していく,禁止まで行かないところでも保証人の保護を考えて一定の保護規定を置いていく,こういうことをしていくという発想が大事ではないか。今伺っている範囲でも,そのこと自体に余り異議があるわけではないのではないか。だから,一つずつ検討していって,ある部分ではもしかしたら保証という行為を禁止できるかもしれないし,ある部分では禁止はしないけれども制限するということもできる。ある意味では金融の円滑化のために比較的保証というものの意義を認めるということができるかもしれない。この方向で検討していくことが大切だろうと思っております。 ○鹿野幹事 私も,少なくとも保証をどこまで認めるのか,あるいは保証する際にどこまでの説明義務等を課すのかということについては,保証一般ということではなくて,先ほどから出されましたように,例えば消費者信用という場面あるいは個人保証という場面,それから経営者というような場面等で若干違いがある部分もあると思いますので,いくつかの類型に分けて検討すべきではないかと思います。   一方,関連論点として11ページのところに挙がっていますが,保証契約締結後の保証人の保護についても考える必要があると思います。ここに書かれているような通知義務という形が妥当かどうかは更に検討の余地があると思いますが,少なくとも,保証人が保証債務の履行を請求されるに至る前に,そのリスクをできるだけ少なくしうるような方策として,一定の手段をとりうる機会を保証人に与えるということは,検討されるべきだと思います。そしてこれについては,保証一般について何らかの手当てをすることが考えられるのではないかと思います。 ○道垣内幹事 ちょっと分からないのは,消費者信用という言葉がずっと使われているのですが,定義がよく分からなくて,どこまでをおっしゃっているのか,どこかで確認できればと思うのです。例えば住宅ローンを考えてみます。これは多分消費者信用には入ってないのだと思うのですけれども,私はある人の住宅ローンの保証人になったことがあります。その人は私に保証料を払いませんでしたので,ただだったのです。それで私が買うときにそいつに保証人をやらせようと思っておりましたら,改善されたらしくて,必ず保証会社がつくことになりまして,個人保証はつけませんということで,私は保証料を払わされた。私は別に破綻するつもりは基本的になくて,その確率もかなり低かったと思うのですけれども,なぜ私は保証料を払わなければいけないのか,ここに情義的な保証人がいてただで済ませることができるのになぜなのだろうというのが私は非常に気になったのです。ではそのときには保証をそもそもつけないでいいではないかという話が出ると思うのですが,そうなると逆に,今度は預金者の立場としては,住宅ローンの管理についてそもそも保証をつけていないということはかなり問題であろうと思いますし,私は細かく覚えているわけではございませんけれども,いろいろな与信管理基準の問題との関係でもそれは問題があるのだろうと思います。   それに対して,もう一つ,その住宅ローンの問題を除いて考えたときに,話は二つに分けて考えなければいけないわけであって,例えばある消費者金融の会社が保証人をとるということはやめました,しかしながら保証会社というものをつけて,必ず保証会社がつくようになりましたと。その保証料も払わされるわけでしょうけれども,それによって与信額がさほどは減少しなかったとしたときに,それはいいことなのかというと,多分,今まで御発言された方の多くは,与信そのものを制限すべきであるというお考えなのではないかという気がするのです。個人保証をやめさせることによって,その結果として主債務者に対する与信額を減少させようと考える場合と,主債務者は自分で借りて自分で使っているのだから仕方がない,しかし保証人は保護しようというのとは,かなり論理が違う問題で,主債務者に対する与信を合理的な範囲に制限しようというためには,ただ単に個人保証を廃止するとか,あるいはかなり制約するということが,必ずしもそういう結論,経済的な効果に直結するのかというのはちょっと疑問な感じがします。私も過剰融資がいけないということ自体はそのとおりだと思うのですが,最初の与信の管理の問題と,保証人の保護の問題と,どちらを目指して当該規律を考えるのかということは,一つ一つのところにおいてはっきりさせる必要があるのではないかと思っております。 ○西川関係官 この保証の問題は,先ほどからも幾つか指摘が出ておりますが,消費者問題という観点からは今回の民法改正の中でも一,二を争うぐらい重要な問題だと思っております。連帯保証でありますとか個人保証制度を全廃すべきとかいう非常にドラスティックな見直しをやるべきかどうかということについては,正直まだ決め切れていないところはございますけれども,ただ,その上でできる限りのことはやらなければいけないという感じがしております。例えば,2の(1)のところで,保証引受契約によって保証債務が生じるという立場をとるのであれば,引受契約の方で意思表示の瑕疵があったら,それは債権者が受益の意思表示をした後でも取消しできる制度をつくるといったことも検討しなければならないでしょうし,あるいは,保証人保護の方策ということで,いろいろ債権者から説明をする義務を課すという考え方が当然あるわけですが,これについても,単なる説明義務だけでいいのか,説明していないのであれば取消しを認めるというようなことも制度としてつくらなければいけないのではないかなど,あるいは,フランスにある制度のように,保証人の収入など財産に比べて非常に過大な保証がされているときには債権者が保証契約を主張できない,そういった規定は要らないのかとか,いろいろなことを検討しなければいけないと思っております。そういう意味でこの問題は非常に重要なテーマだと思っておりますので,検討の際には,消費者問題をやっておられるような方々に現状をヒアリングするとか,そういった慎重な検討を踏んでいただきたいと思っております。 ○山野目幹事 2点申し上げさせていただきます。   1点目は,議論の進め方との関係で自分なりに思っていることを申し上げさせていただきます。幾つかの御発言の中に,消費者保護法制のところに移せばよいとか,消費者が問題になる類型に特異なところはそこを切り分けてというふうなお話があったこととの関係で申し上げたいと考えるのですけれども,ここではまず民法の改正の議論を始めて,更に周辺部において必要な規律の在り方を検討しているわけでございますから,初めから消費者保護法制に移して,というふうな御議論で進んでいくということについては少し危惧を感じます。   少し御紹介しておきたいと思いますけれども,平成16年法のことが何回か話題になりました。平成16年の11月19日でございましたけれども,衆議院の法務委員会でこの法律が提案されたときに,私は参考人として法律の趣旨の説明をさせていただく機会に浴しました。その際に,この時と今とでは政府を構成する政党が変わっていますが,与野党を通じて,どの政党からも共通に,提案されている法律以上の,こんなこともできるし,あんなこともできるのではないですか,なぜ今回の法律案にはこういうことは入っていないのですかというふうな御指摘をいただきました。どれもそれなりに背景のある指摘でしたが,私なりにそのとき自分でも一所懸命説明したりしながら考えていたこととして,恐らく,あの平成16年法自体が民法の私法的な規律として完成した内容であったかというと,そうではなくて,あのときの社会経済情勢の中でミニマムの必要なものを提案して通していただいたということでしょうから,あれに更に補わなければいけない,民法の規定自体として補わなければいけないところがあるものと思います。正に今回はそれを検討すべき場面ではないでしょうか。三上委員には恐縮ですが,リターンマッチは来るべくして来る,そういう法律であったと感じます。それと同時に,あのときの議論の中で,提案それ自体に意味があっても,民法の中に含める事柄であろうか,時間をかけて議論してもそうはならないのではないかと感じられたこともございました。したがいまして,提案されている幾つかの事柄を区分けし,一概に消費者が問題だからそちらにというのではなくて,民法に置く規律としてまず何が必要で,加えて消費者保護法制に何かを置くとすればそれは何なのかという順序で御議論いただきたいと感ずるものでございます。   それからもう一点,こちらは具体的なことですが,そのような観点から見たときに,11ページに出ている,保証契約の成立に際して保証人に情報を提供し,保証意思を適切に確認する機会が設けられるべきであるという,このことは,恐らく民法的,私法的な普遍性を持っていることではないでしょうか。他人の債務について責任を負わされるという極めて特異な関係に入っていくときに,そのことについてつぶさに知らされるべきだという規定は,保証人になる人が消費者であろうが事業者であろうがそうあってしかるべきことであろうと考えるものであります。ですから,11ページの提案の方向はお進めいただきたいのですが,恐らくここでの検討が進んでいく先には,情報提供義務とか説明義務をもう少し一般的な規定として設けようという御議論も出てくるだろうと思います。そこでの要件,それから効果も見た上で議論をしなければならないでしょう。この11ページの御提案も,保証成立の際の説明や情報提供の義務に違反したら保証契約の効果がどうなるのかというところまで含めて最後は議論しなければいけないと思うのですが,それは一般的な情報提供義務や説明義務についての規律のありようがある程度見えてきたときに,更にそれでも保証についてはこういう規律が民法に,場合によっては追加的にそれ以外の法制に必要になるというふうな順序で御議論いただくことができると大変有り難いと感ずるものでございます。 ○岡田委員 先ほど,過剰与信に関して,それがきちっとなされないようになれば保証で問題ないではないかというお話があったのですが,この貸金ないしは消費者信用の世界というのはなかなかそうきれい事ではないものですから,いろいろ総量規制とか何かができたとしても,もう既にアウトローの事業者が動いているというような世界です。その意味でやはり保証特に個人の場合は何ら利益を受けることなく重い責任を課せられるということで契約成立にあたって厳しく対応できないかなと思いました。   あと,この2番目に入ってよろしいですか。 ○鎌田部会長 どうぞ。 ○岡田委員 主に消費者なのですが,保証人になるというのは,主債務者から,絶対迷惑をかけない,あなたには損をかけないということで受けてしまうというのがほとんどなのです。ですから先ほど申し上げましたように啓発の中では,主債務者,つまりあなたに頼んできた人とあなたの契約ではないんだよ,債権者とあなたの契約だよということを説明しているのですが,効果は少ないのです。そういうことを考えますと,普通の債務委託契約,それから第三者のためにする契約,これは債権者と保証人になる人との契約ということで,今私たちが説明しているので話が通じるのです。ところが,保証引受契約になると今まで言っていたことが通用しなくなるので,また消費者に啓発をしなければいけないということになります。果たしてこれはどう理解させたらいいかなと思うのが一つと,一体全体こういう契約が必要なのかというのが,消費者契約の中ではちょっと思いつかないのです。その意味では,新たにこういう契約というものを入れなければいけない必要性を教えていただければと思います。明確ではないのですが,住宅の賃貸借の契約の中で保証契約を業とする保証会社が消費者を保証するというのがありましたが,あれの中にもしかしたらこの形態があるのかなとちょっと思ったのですけれども,正確には分かりません。あれも貸手と消費者の賃貸借契約に関して保証会社が賃借人を保証するというのは普通のように思います。もしあの契約に保証引受契約があるのであれば,あれはすごく問題が起きていまして,国土交通省の方で法律改正を検討して閣議決定はしたと聞いているのですが,それとも違うような気がするので,この保証引受契約というものに対して,今の段階では消費者にとっては不利益ではないかと思います。 ○藤本関係官 岡田委員の関連でございますけれども,私どもも資金需要者等の保護が重要だと考えております。業法におきまして保証契約締結前の書面交付などの義務を課しているものがございます。保証引受契約ということで保証契約とは別ルートで保証関係が生じるというルートをつくるということが,資金需要者等の保護の観点から問題がないか,何か悪用されることがないのか,例えば反社会的勢力が保証人として入ってきて債務者に求償権を行使するといったようなことが起きやすくならないかなどという点を含めて慎重に検討されるべきだと考えています。   では保証引受契約を導入する意義は何かというのはまたちょっと違う話としてあるのですが,詳細版の43ページを御覧いただきますと,銀行保証付社債ですとか電子記録債権ということについて,実務的な必要性もその理由としているとされております。実務的というのも理論的な実務というのと実務的な実務というのがあると思うのですが,実務的な実務ということからすると,保証引受契約を導入することで何か問題が起こるわけでもないのですが,実務上これを導入しないと物すごく困ることが現実に生じているかといったら,そういうわけでもないという認識でおります。   なお,電子記録債権の電子記録保証というのは非常に別世界を構築しているもので,民法の適用除外とか特則なども電子記録債権法で定められておりまして,その部分は法務省主管の部分なので私が言及するのが適切かということがあるのですけれども,電子記録保証の発生についても,必ず民法から整理しなければいけないかといったら,そういうわけでもないかもしれないと思っております。 ○道垣内幹事 私が理解しているところの保証引受契約についてお話をしておきたいと思うのですが,現在保証引受契約というものが存在しないのを新たにつくったのかというと,そうではないのですね。併存的債務引受契約というのは以前からあるわけであって,併存的債務引受契約というのをして,そこにおいて債権者が同意をすると,保証と同じような効果が発生してしまうわけです。そして,この新たな類型を設けることによって脱法を許すというのではなくて,この併存的債務引受契約のことを保証引受契約と呼ぶことによって保証人保護の脱法を許さないという性質を持っているものであると考えている次第でありまして,実際,ドイツなどにおきまして保証契約における保証人の保護が強化されたときに,それをすり抜けるために併存的債務引受契約を結ぶことが行われようとしたわけです。したがって,保証人の保護が強化されることを前提としながら,脱法を許さないために置く必要性があるというのが趣旨ではないかと私は理解するところでありますので,私はお二人の発言が意外な感じがしたのですが。 ○三上委員 金融界でもこういう形態を今盛んに使っているわけではないのですが,確かに,債務者が発行する手形や株券のような有価証券の券面上で保証ができるような制度がない,転々流通することが予定されている金融商品というのが今後あらわれてくる可能性がありまして,その際に銀行が保証する,債権者はだれがなるか分からないといったような類型が認められることは,少なくとも金融のイノベーションの上では非常に有効な手段ではないかと考えております。別の観点から,例えば個人分野でもっと規制をするとか,あるいは禁止するというような発想は別としましても,少なくともこういう類型を民法で禁止してしまうということにはならないよう,その点は御配慮いただきたいと考えております。 ○岡(正)委員 4点申し上げます。   先ほど保証の情義性という言葉が出ましたけれども,やはり頼まれると断れないという,40代以上だけかもしれませんけれども,そういう人間性,日本人性が,田舎だけかもしれませんが,そういうのが根強くあると思うのです。銀行が経営者に保証を求めるのも,金を回収するためではなくて,責任を持っておまえやるのだろうなという決意を確認するために取る保証が多くて,それはやはり断れない。武士道なのか大和魂なのかよく分かりませんが,そういう非常に断りにくいというところがあるというのを基本にして申し上げますと,まず1番目ですが,禁止というのは極めて劇薬です。しかし,特定の極めて狭められたところ,消費者に限るのだと思いますが,やはり禁止すべき類型も小さくてもあるのではないかという思いが非常にしております。だから,禁止というのもあり得る,しかし非常に狭いものだろうというのが第1でございます。   2番目に,手続保証で説明義務をいっぱい書いても,やはり過大な保証というのがどうしても起きてしまう。先ほど関係官がおっしゃっていましたけれども,詳細版の75ページのフランスでありますとか,79ページのドイツでありますとか,過大な保証の禁止という実例もあるようですし,比例原則というのもあるわけですので,条文化は非常に難しいと思いますけれども,過大な部分は保証の効果を及ぼせない,そういう実体的な規制を立法化できたら,これは禁止よりももう少し広い範囲で実現可能ではないかと思います。   3番目に,手続的な規律で説明義務のところが提案されておりまして,書面交付義務までいくのかどうかとか,ここは是非合意できるところまで実現すべきだと思っておりますが,そこで幾ら説明して,幾ら書面を見せても,先ほどのような断れないという人間性をどう克服したらいいかというのを考えておりまして,公正証書,公証人役場に行って公証人の説明を受ける,人の言葉で納得する,元裁判官という立場から,おまえ本当に大丈夫という確認をしてもらうような手続があれば,単なる書面だけではなくて本人の真意に迫ることが可能かもしれないと思います。ただ,それは,詳細版の69ページにフランスが800ユーロ以上と書いていましたけれども,金額規制で一定程度以上のものについては公証人かつ本人出頭という規制もあっていいのではないかと思いました。   4番目に,今回の詳細版には比較法が随分いっぱい書いてございまして,各国いろいろな工夫をしているというのがよく分かって,大変有益な資料だったと思います。この81ページに,アメリカの規律のようですが,主たる債務者が倒産手続に入った場合,保証人に対する期限の猶予を認めるような工夫があると書いてございました。日本の場合も,主たる債務者が会社更生あるいは民事再生の再建型手続に入っているときには何らかの規律を立法してもよろしいのではないかと思いました。   以上4点です。 ○鎌田部会長 「2 保証債務の成立」の方に議論が入っていますので,2に関する意見もどうぞお出しください。 ○奈須野関係官 2の方ではないのですけれども,保証の問題,連帯保証の問題について経済産業省としてどのように考えるかということについて,現時点では定まったアイデアはないのですけれども,ただ,今御指摘のあった,保証人に過大な保証債務を負わせないとか,過大な責任を負わせないということについては,あらかじめ省内から反対であるというような意見の表示があったということでございます。このようなことを定めますと無効事由が増えて取引の安全を損なうということですので,事業者間の契約においてはなかなかとりづらいものがあるのではないか,仮にやるとすれば,何らかの手続をとってそれを防ぐというような訓示規定のようなものとならざるを得ないのではないかという意見がございましたので,紹介いたします。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○山本(敬)幹事 保証契約を締結する際の保証人保護の方策のうち,先ほどから何度か問題になっていました説明義務について意見を述べさせていただければと思います。   説明義務を仮に認めるとして,認めた場合の効果をどうするかという点については,詳細版の45ページ以下に幾つかの可能性が挙げられています。努力規定にとどめるのか,違反がある場合については取消しないしは無効を認めるというような案があり得るということが示されています。その際に少し気になりますのは,仮に説明義務を課したとして,説明義務違反がある,つまり説明していないというだけで本当に取消しないし無効が認められるかということです。民法のこれまでの一般原則からしますと,やはり意思に瑕疵がある,ここですと保証債務を引き受けるという意思ないしは責任を引き受けるという意思に瑕疵がある場合に,その瑕疵を理由として無効ないし取消しを認めることになると思います。それをまったく問題にせずに,説明していないというだけで本当に取消しや無効を認めることができるのかといいますと,少し飛躍があると思います。その意味では,仮に説明義務を課すとして,そしてその効果として無効ないし取消しを認めるとしても,やはり保証人の側の保証意思,保証債務の負担意思ないしは責任を負担するという意思に瑕疵があるという要件は外しにくいのではないかと思います。   そして,もしそのような意思の瑕疵を要件に置くとするならば,説明義務と言われているものの内容をもう少し整理する必要があるのではないかということも問題になりそうです。幾つかのパターンがあるのですが,まず,保証契約をするということの意味自体を説明する,つまり,保証契約というのは,主債務について履行がされないという事態が生じた場合に保証人が責任を負うものであるという意味自体を説明をしなければならないというタイプの説明義務が考えられます。しかし,それだけではなく,どのようなリスクが当該保証契約にあるのか,つまり,どのような主たる債務についての保証責任を負うのか,主たる債務者はどういう状態であるのかというような,いわゆるリスクについての説明も問題になるだろうと思います。先ほどの保証の意味自体についての説明は,恐らく事業者については,する必要がある場合もあるのかもしれませんけれども,そのような知識は取引の前提とされるべき事柄ではないかと思いますが,だからといってリスクについての説明まで不要になるかといいますと,それは必ずしもそうではないだろうと考えられます。したがって,リスクに関する説明義務は,その内容や程度について当事者や前提となる取引によって差異はあるとしても,保証契約一般に当てはまるような説明義務ではないかと思います。その意味で,山野目幹事が先ほど整理されたところからしますと,保証契約一般について定めてよい義務,つまりは民法に定めてよい義務ではないかと言えそうに思います。   ただ,先ほどの無効ないし取消しという効果を仮に認めるとするならば,意思の瑕疵というのは要件とすべきであるということは,一般論として言えると思いますが,これも山野目幹事が言われましたように,そもそも説明義務ないし情報提供義務違反一般についてどのような態度をとるのかということと整合させる必要があります。したがって,これはここだけでは決め切れない問題で,もう少し幅広く議論をしてから詰めるべき事柄ではないかと思う次第です。 ○藤本関係官 今の山本幹事の関連で,監督上どういうことを求めているかということを御紹介したいと思うのですが,私どもも保証人の保護というのが重要だと考えていまして,また金融機関の健全かつ適切な業務の運営というのも重要である。保証契約締結時に顧客に対してこういう説明を行う体制となっているかというのを監督上確認しているということでございます。どういうことかといいますと,保証債務が実行されることによって自らがどういう責任を負担するか,そういう責任を受容する意思が形成されているか,それに足りる説明を行う体制となっているかというのを確認しているところです。また,業法上,保証契約締結前の書面の交付を求めているものもあります。   一方,相手が事業者だったらどうかとか何とかというのがあるのですが,一つは保証を業として行う人というのもいます。信用保証協会というものもあります。そういう者に対して保証人保護の方策をどれぐらい及ぼす必要があるのでしょうかという点もあります。   あと,この保証だけの話ではないのですが,一般的に説明義務というものに関して,私どもは,相手がプロかアマかということでいろいろ規制を変えてきているところがございまして,相手がアマチュアということであれば詳細な説明義務とか書面交付義務を課す,他方,プロですとそういうものを免除していく。こんな保護と円滑というもののバランスをとっているところもございまして,今後いろいろな局面で出てくると思うのですが,一般法に何か一般的に規定されたときに,そういうプロ,アマの区別でバランスをとってきているということとの関係をどう考えるかという点,重要な問題意識としてございますので,またいろいろ検討させていただきたいと思います。 ○高須幹事 今,関係官から信用保証協会のことが出たのですが,信用保証協会が債務者に対して保証した上で,信用保証協会が更に保証人をつけて信用保証協会の求償権を確保する,そういう扱いがむしろ原則になっていると思います。その信用保証協会が求めている保証人というのは結局会社の関係者であり,素人,アマだったりするので,その部分に関しては,先ほどで言えばアマの理論で考えておられるということでしょうか。 ○藤本関係官 先ほどのアマの議論というのが出てくることになろうかと思います。 ○高須幹事 ありがとうございました。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○中井委員 先ほど奈須野関係官から,保証人の収入ないし資力を超えた過大な保証に対する規制について,ある意味で消極的な御意見をいただきました。そのときに事業者間ではと留保をつけられたようにも思うのですが,少なくともその点,個人保証についてなお考慮する余地があるのではないか。説明義務違反等であれば,契約の成立段階の問題として,先ほども山本幹事の説明にありましたように取消しの可能性が考えられる。場合によっては無効なのかもしれません。有効に保証契約が成立したとしても,履行の段階で個人の生活の基盤を覆すような保証履行を請求すること自体を制約するといいますか,内在的な制約なのかもしれませんが,その効力を認めない,こういう構成が不可能ではないのではないか。つまり,契約成立段階ではその契約を否定したり,取消し,無効を言うことが難しくても,当該個人の生活基盤を覆すような保証履行を求めることはやはり行き過ぎではないか,その限りで効力制限をする,こういう立論も可能でしょう。ここを破産法の自由財産というところで処理するというのも一つの考え方かもしれませんが,それ以前の問題として,保証固有の問題として権利制限があってもいいのではないか。そういうことも御検討いただけないかと思います。 ○鎌田部会長 「2 保証債務の成立」の(1)については大分御意見をいただきましたし,2の(2)の本文についても御意見をいただきましたけれども,(関連論点)として保証契約締結後の保証人保護の在り方という問題が提起されているところでございますので,これについて何か御意見がありましたら,この機会にお出しいただければと思います。 ○中井委員 弁護士会としては,このような保護の在り方については積極的に御検討いただけないか。例えば分割払の約定がある場合ですが,主債務者が期限の利益を喪失した後に保証人に対して一括請求が来る,そこでびっくり仰天してしまうという例が相当数あります。それであれば,期限の利益を喪失する前に保証人に通知なり履行請求があれば,保証人が,その支払能力のある限りにおいて,期限の利益を喪失させることなく代位弁済ができるわけですので,こういう仕組み自体無意味なものではないと思いますので,御検討いただけないかという意見です。 ○三上委員 こういった観点の必要性というのは私も否定するわけではないのですけれども,何度も申し上げますけれども,例えば銀行が保証人になっている,典型的なケースは,例えば高速道路の通行料の運送業者等の一括払いに関して銀行が保証する場合の道路管理会社とか,あるいは旅行会社の航空券の発行に関してIATAに差し入れる保証の場合などに,高速道路管理会社やIATAがそれぞれの運送会社や旅行会社の財務の状況について,継続的に銀行に報告するなどということがそもそも想定されているのかといったようなことを考えると,民法の一般論として書いてしまうことに関しては,トゥ・マッチといいますか,意味がない場合もあり得るわけです。そこで,これは任意規定であって保証人の側が要らないと言えばいいのだということになれば,規制はしり抜けになってしまうことになります。そういう意味で,どういう取引を想定に置くかによって,その規定の持つ意味が変わってきてしまいますので,この点も強行法規として一般論で言い切る分には難しいところがあるのではないかという点だけ指摘させていただきます。 ○岡田委員 (2)の附帯決議,これは絶対通してほしいというのが一つと,関連論点の保証契約後の保証人保護の在り方にある保証人にも期限の利益を維持する機会を与えることに私は大いに意義を感じています。 ○大村幹事 関連論点ではなくて,2の(1)についてなのですけれども,先ほど,保証引受契約というのを新たに定めることの意義について様々な御意見があったかと思います。それについて道垣内幹事から,これは保証人を保護する規律を及ぼすものなのだというお話がされていたかと思います。従来でも併存的な債務引受けとして行われていたものを保証の中に取り込むことによって保証の規律が及ぶようになる。その保証の規律の中身は今議論しているところであるわけですけれども,そういうお話だったかと思います。   その前提で考えたときに,この点はどうなるのかという点が二つございます。   一つは,併存的な債務引受けの中には保証としての規律が及んでは困るというようなものはないのだろうか。すべてが保証だと扱われて,従来であれば併存的債務引受けということで行われていたものに保証の規律が及ぶということで大丈夫なのだろうかというのが一つです。   もう一つは,もし併存的な債務引受けに保証の規律を及ぼすのであれば,併存的債務引受けに保証の規律を及ぼすという規定を置くということも考えられるわけですけれども,これを保証とすることのメリットがどこにあるのだろうか。保証とすることに伴うメリットがあるという御趣旨の御意見もあったように思うのですけれども,そのあたりを少し明らかにする必要があるのではないかと思いましたので,申し述べた次第です。 ○道垣内幹事 別に私に結論があるわけではないのですが,2の(2)の「主債務者の資力に関する情報を保証人に提供することを義務付け」るということに関しては,結論に反対するとかという話ではないのですが,守秘義務との関係はあるということは確認しておいた方がいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 「1 総論」及び「2 保証債務の成立」の部分につきましても,有益ですけれども多様な御意見をちょうだいしましたので,それらを事務当局には宿題として引き取っていただいて,検討を続けていただくことにしたいと思います。   申し訳ありませんけれども,先へ進めさせていただきまして,部会資料8−1の11ページ,「3 保証債務の付従性(民法第448条)」から「6 共同保証―分別の利益」,14ページまででございますが,これらについて御審議いただきたいと思います。   まず事務当局に説明してもらいます。 ○川嶋関係官 まず,「3 保証債務の付従性(民法第448条)」は,いわゆる保証債務の内容に関する付従性について,現行法下の解釈を明文化すべきとする考え方について御議論いただくものです。   次に,「4 保証人の抗弁等」では,「(1)保証人固有の抗弁―催告・検索の抗弁」の「ア 催告の抗弁の制度の要否(民法第452条)」において,催告の抗弁の制度の要否について御議論いただきたいと思います。催告の抗弁の制度については,保証人保護の制度として実効性が乏しいことなどから,これを廃止すべきとする見解もありますが,他方で,保証人保護を後退される方向で現状を変更すべきでないとする見解もあるところです。   「イ 催告・検索の抗弁の効果(民法第455条)」では,催告の抗弁又は検索の抗弁を行使された債権者が催告又は執行することを怠ったために主債務者から全部の弁済を得られなかった場合には,保証人は,債権者が直ちに催告又は執行すれば弁済を得ることができた限度において,その義務を免れることを規定する民法第455条について,その趣旨を拡大して,債権者が主債務者の財産に対して適時に執行することを怠ったために主債務者からの弁済額が減少した場合一般に適用される規定に改めるべきとする見解があることから,この見解の当否について御議論いただくものです。   「5 保証人の求償権」は,(1)から(4)までの四つの論点について御議論いただくものですが,このうち「(2)委託を受けた保証人の事前求償権(民法第460条,第461条等)」は,先に御説明いたしました4の(1)の「イ 催告・検索の抗弁の効果(民法第455条)」とも関係する論点です。すなわち,民法第455条を債権者が主債務者の財産に対して適時に執行することを怠ったために主債務者からの弁済額が減少した場合一般に適用される規定に改める場合には,委託を受けた保証人に事前求償権を認める必要性は失われるとの指摘があることから,この指摘の当否について御議論いただきたいと思います。   「6 共同保証―分別の利益」は,複数の保証人が保証債務を負担する場合に,各共同保証人は分別の利益を有し,原則として頭数で分割された保証債務を負担するにすぎないことを規定する民法第456条について,債権者は保証の担保的効力を強めることを期待して保証人の数を増やすはずであるのに,この規定が適用される結果として一人の保証人に対して全部の履行を請求することができなくなるばかりか,共同保証人の中に無資力の者がいると,その部分の担保を失うことにもなり,かえって保証の担保的効力が弱くなるという問題点が指摘されていることから,その見直しの要否について御意見をお伺いするものです。  保証の担保的効力を強化する観点からは,数人の保証人があるときには分別の利益を認めずに,各共同保証人は全額について債務を保証することとするという考え方もあるところですが,他方で,保証人保護を後退させる方向で現状を変更すべきでないとする見解もございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いしたいと思います。3から6まで一括して議論の対象にします。 ○新谷委員 11ページの3の「保証債務の付従性」について,労働分野から1点申し上げたいと思います。   今回の資料の中では,保証契約が締結された後に主債務が加重されても保証債務に影響が及ばない,これを明文化するべきであるという提起でございますが,この「加重」という言葉の定義が必ずしも明確ではないと思っております。多分,保証契約締結後に主債務の利息が引き上げられたといったケースを想定されているのだとは思います。労働の現場では,例えば,経営危機に直面している会社で,資産を有している代表取締役社長であるとか別の会社が保証人となり,将来発生する労働債権を含めて労働債権を確保するという方法がよく行われます。保証債務については,保証契約が締結された時点で確定している債務と理解するところでございますが,継続的性質のある労働債権では,保証契約が締結された後に労使交渉によって例えば賃金が引き上げされる,あるいは新たな手当が創設されるといったこともしばしばございまして,こうした保証契約を締結した後に主債務に変動が生じてきます。こうした労働債権の性格を踏まえた上で,資料が提起されている加重というものの定義を勘案していただきたいと思っております。労働組合としては,条文の成文化を検討されるに際しては,既発生の労働債権だけではなくて,将来発生する,変動する労働債権も含めて保証の対象としていただきたいということでございます。 ○鎌田部会長 恐らく,将来の労働債権についての保証ということでもともと契約をしておけば,それはそれでこの問題とは別に有効に成立するのだと考えられますけれども,少し検討させていただきます。   ほかにいかがでしょうか。 ○三上委員 検索・催告の抗弁を廃止する,ないしは分別の利益を廃止するということに関しては賛成を表しておきたいと思います。余り意味がない制度であるという評価もありますし,現状使われている保証契約は,これを意図的に排除するために連帯保証としているものがほとんどである,つまり,ほとんど使われていないものが原則になっているということ自体がおかしいのではないかと思います。これを残すことは,契約関係に疎い者が不利益をこうむる制度になってしまうという見方もできるということもありまして,むしろ原則廃止という方向でいいのではないかという意見を述べさせていただきたいと思います。   それから,適時執行義務という観念が出てくるわけですが,連帯保証になるとなくなってしまうということで意味があるのかという問題も一つあるのですが,その点はさておきまして,これは私が昔から銀行の担当者として悩んでいた点なのですけれども,貸金をリスケする,つまり期限を延長する際には,普通は確認の意味で保証人にもその変更契約にサインを求めているのです。しかし,時々,もう腹が立ったということでサインを拒否する保証人がいます。また,保証人が成年後見状態とか連絡がつかない場合もあります。その場合でも,期限の利益の延長イコール保証人にとっても利益だから,その同意がなくてもオーケーですという判例に従って,サインがなくてもリスケをするわけですけれども,実際にはそうやってリスケに応じている間に,一層信用が悪化するとか担保価値が値下がりするということがあるわけです。だから,期限を延長したから,あるいは期限を延長しないまま交渉したから,その間に価値が下がった,上がったで,適時執行義務に反した,反しないという判断をするのはおかしいのではないかという認識を強くもっております。そういう意味で,貸金の回収という意味では,我々も債務者を早期に破綻に追い込むためにやっているわけではございません。当面の危機を脱すればよくなると信じて協力するわけですから,それを結果論でつかまえて,適時執行しなかったから損害が発生したといったようなことを言われるのは非常に心外でございますので,この点に関しては是非慎重に御議論をいただきたいと考えております。 ○岡(正)委員 催告・検索の抗弁ですが,弁護士会の中では,廃止に賛成だという説もございましたけれども,あえて廃止する必要はないという意見の方が数としては多うございました。それほど機能していないとしても,やはり保証,負担部分のない人についてこういう権利がある方が筋ではないか,あえて100年続いたこれを廃止するほどではないだろうという意見の方が強うございました。   それから,適時執行義務のところにつきましては,賛成する意見も一部ございましたけれども,一般的な信義則上の義務として,損害軽減義務にもつながるのかもしれませんけれども,一定の場合にやらなければいけないことがあるのは分かるけれども,明文で広く適時執行義務と書いてしまうと,今,三上委員がおっしゃったように,少し広くなり過ぎるのではないかと。これは事情変更原則のような,一般的にはいいけれども明文化すると少し暴れ過ぎるのではないかという問題にもつながってくるところだろうと思いますが,少なくとも検討委員会が出されているような適時執行義務というのを明文化するのには,秘められた精神はいいけれども,このような形で条文化するのは行き過ぎである,そういう意見の方が強うございました。 ○深山幹事 今の適時執行義務の関係で正に議論が分かれたところですが,実質的にイメージしていることはそれほど違わないと思うのです。適時執行義務というネーミングがよろしくないと言う人もいましたが,債権者がしかるべき行動をとるべきだということ自体には余り異論がなくて,ただ,規定の仕方が難しいし,どういうときに何をしなければいけないかという点が,ここを保証のことだけを考えても難しいし,更に契約一般論で考えると,ますます規律のつくり方は難しいとは思うのですが,しかし考え方としては間違っていない。債権者がただ債務が膨らむのを,あるいは主債務者の資力なり担保価値が減少するのをただ放っておいていいということにはならないのだろうと私自身は思っています。先ほどの三上委員の御指摘の,ではリスケしたとき,あるいはリスケがしにくくなるのではないかとの点も,これも議論いたしましたが,確かにリスケ時に保証人なりが判こを押してくれれば三者の合意ということで問題ないのでしょうが,では押さないときはと言われると確かに悩ましいなと思いつつも,それはそれで別の形で,少なくともリスケについて,あるいはそこで執行しないことといいますか,執行というきつい言い方はどうかと思うのですけれども,あえて言えば執行しないことについての承諾を推定するとかというような意思解釈等でそこはクリアできるのではないかと思います。したがって,適時執行義務的なものをある程度規律として設けること自体はいいのではないかと。   弁護士会で議論したときに,この問題と,後で出てくるのかもしれませんが,事前求償権を否定するかどうかということが結構パラレルに議論されて,つまり,適時執行義務を認め,そこでバランスをとるので事前求償権のような形で保証人を保護する必要はないというふうに,そういう組合せをとるという考え方と,適時執行義務は認めないで事前求償権は認めるという組合せでバランスをとるという考え方と,それぞれ意見が出ました。確かにそういうほかの制度といいますか,ほかの規律との兼ね合いもあろうかとは思いますが,私自身は,適時執行義務というような考え方の規律を持ち込むことは原則としてよろしいのではないかなと考えております。 ○道垣内幹事 「適時執行義務」という言葉がよくないのではないかという話もあって,私もこれが100パーセントいいとは思わないのですけれども,現行法上の事前求償権の制度というのは,結局,主たる債務者の資力の悪化が生じそうなときに,手段を講ずべき者は保証人であるという形ででき上がっている制度だと思うのです。しかしながら,やはりそれは債権者なのではないかというのが,事前求償権ではなくて適時執行義務というもので対応すべきなのではないかというところにあるわけであって,結論として適時執行義務というものを置くのはきつくなり過ぎるし,三上委員がおっしゃったように,リスケをして,それで主債務者の資力の改善というものが合理的に見込まれるという場合の判断の過失のリスクを債権者側に負わせるのは妥当ではないと言われるのは誠にごもっともであると思うのですけれども,しかしながら,場合によっては,結局,主たる債務者の資力が悪化していても,債権者の方が,主たる債務者プラス保証人の資力全体を見て,安易に貸付けを継続していくということも十分にあり得るわけであって,何らかの制約を置いていく必要があるのではないかと思います。この適時に執行しなければならないという義務を置くということが唯一の方法ではないと思いますけれども,主債務者の資力の悪化に対して,保証人に後から言えばいいのだから放っておくということを債権者に認めないための何らかの方策は必要なのではないかと思っております。 ○三上委員 決して道垣内幹事の揚げ足をとるわけではないのですが,主債務者の資力の悪化ないしは改善が見込めるかどうかという問題も一つありますが,主債務者の経営状態の改善が見込まれる場合であっても,それとは全く別に担保不動産の地価が下がってしまうということはあるわけで,それは当事者間ではいかんともし難い事由もあり得る。そういうこともありますので,やはり適時執行義務だけ一人歩きするのは怖いのではないかという点を述べさせていただきたいと思います。 ○岡田委員 消費者の契約の中で,先ほど言いましたように保証の場合は連帯保証が圧倒的に多いものですから,普通の保証の催告とか検索の抗弁権というのがどの程度効果があるか分からないのですが,払ってくださいと請求されたときに,まず主債務者の方へ言ってくださいよという,その段階はあっていいのではないかと思うので,これがなくなってしまうと,検索の抗弁をするしかなく,保証人の立場が不利になります。現状は催告の抗弁の効果はあまり見えないですが,少なくとも現状ある制度をなくすことはないのではないかと思えます。   それと,先ほどから適時執行と言うのですが,保証人の立場からすれば,みすみす債権者が動いてくれなかったことによって保証人にそれが引っかかってくる,責任が重くなるということになると,やはり納得できないと思いますので,保証人の方が動いてくれと言った場合に関して,動かなかったことによって回収率が低下した,その部分に関しては保証人が救われていいのではないかなと思います。 ○鹿野幹事 私も今の岡田委員の御意見に賛成です。現実としては保証のほとんどが連帯保証であり,催告・検索の抗弁は機能していないと言われればそのとおりなのですけれども,それでよいのかがまさに問題であり,岡田委員のご発言のとおり,本来,少なくとも消費者的な立場にある保証人については,催告・検索の抗弁は与えられてしかるべきではないかと思うのです。強行規定と任意規定の切り分けという議論が最初に全体の総論において出ましたが,催告・検索の抗弁権については,一定の範囲で強行規定的にこれを認めるというようなこともあってよいのではないかと思います。 ○奈須野関係官 これまでの議論ですと,適時執行義務と保証人の事前求償権を裏腹というかパラレルにとらえている議論が多いわけですけれども,省内の議論では,我々の理解が間違っていたのかもしれませんけれども,必ずしもそのような理解はなくて,例えば,事前求償権を利用する局面として,主債務者が破綻したときに事前求償権の存在を連帯保証人が主張して主債務者の破産手続なり私的整理手続に参加するというような使い方がなされています。あるいは,金融機関の支払承諾において,主債務者が債務を履行しない場合に金融機関が保証人になって事前求償権を行使して,主債務者の預金と相殺した上で債権者に弁済するというような使われ方もしているわけでございまして,債権を保全するのは債権者がしっかりやれというようなお考えもあろうかと思いますけれども,一方で,先ほどの御指摘にもあったとおり,連帯保証には検索の抗弁権,適時執行義務も適用されないということですので,連帯保証人が債権者に対して適切な弁済を促すという仕組みは今のところないわけであります。そこのところで事前求償権が認められることによって,連帯保証人が自力で債務者の資産を保全するということで自分を助けているというような仕組みになっており,これは連帯保証人を保護するための一定の合理的な役割を果たしていると思いますので,必ずしも不合理なものではないと考えております。したがいまして,連帯保証,事前求償権については維持していただきたいと考えております。 ○三上委員 事前求償権がなくなるというのは任意法規の話で,当事者間で契約すればできると解説本には書いてありますので,それほどクルーシャルな問題なのかどうかという点は一つあると思います。   それから,保証人が回収に動いて欲しいと言う場合というのは,その保証人は自らのことだけを考えていると思うのですが,中小企業金融をやっている立場からしますと,保証人の意見だけを尊重して企業の息の根をとめるという判断は難しいと思います。その間でどちらを選択するか,二つに一つを選べと言われるのも,債権者としては,当初納得して保証契約してもらった関係である以上は非常に心外であるといった点はあるわけでございまして,一律に何がしかの義務を決めてしまうというのはやはり危険ではないかと考えております。 ○道垣内幹事 ちょっと議論の仕方について申し上げたいのですが,適時執行義務が連帯保証では適用されないということは今回の資料には存在していましたっけ。していましたか。そうですか。しかしながら,それは必然的ではないと思うのです。さらには,事前求償権に関しましても,特約が,それが許されないということはあり得ないと思うのですけれども,先ほど検索の抗弁,催告の抗弁について話が出ましたように,現在は単純保証についてだけ存在しているわけですけれども,単純保証に存在しているものとして残す,あるいは廃止するというのと,連帯保証にも適用するという三つの選択肢があるわけであって,何か議論が拘束されるべきところと拘束されなくてよいようなところとあるような気がいたしまして,一言申し上げました。 ○鎌田部会長 ついでに茶々を入れるようで申し訳ないのですけれども,物上保証人は見放してもいいのですか。保証人に関する制度選択の可能性をそれだけ広げていくということになる……と。 ○松岡委員 その点は発言しようかどうしようか気にはなっていたのです。物上保証人の場合,御承知のとおり最高裁の判決(最判平成2年12月18日民集44巻9号1686頁)では事前求償権がないとされていますが,倒産手続に入ると破産法104条5項,会更135条2項,民再86条2項によって事前求償権が認められているという理解もあり,倒産手続に入らない場面だけ欠けていることになって,それでいいのかという批判はもちろんあるところです。他方,事前求償権をめぐる今回の議論でまだ十分検討されてないと思うのは,そもそも保証人の保護のあり方として,事前求償権という形がベストなのかというです。本来の債権者が主たる債務者に請求していないのに,保証人としては求償権が確保できればいいわけですから,保証人が債務者に今直ちに払えという権利を与えるまでの必要が本当にあるのか。求償権を確保できるような,何らかの担保を出せとか,保証人を免責させるとか,他にもいろいろな効果は考えられるので,効果を少し和らげれば,逆にその適用範囲はもう少し広げてもいい,という判断はあり得ると思います。 ○中田委員 私も,今,松岡委員がおっしゃったように,もう少しいろいろな組合せを考えてみたらいいかなと思います。   方向としてどうするかというのは実際のニーズに従って考えていくことになると思いますが,この資料について2点だけ申し上げたいと思います。   詳細版の50ページで大審院の昭和8年の判例を引いておられて,455条に触れているのですが,これは504条についての判例であるということを前提として,それが455条にも及ぶという解釈に基づいているということだと思います。   それから,その次のパラグラフで,504条は沿革的には保証人保護の規定であったと割とはっきり書いていらっしゃいますが,ここも沿革的にはいろいろなものがあるわけでして,余り決めつけてしまいますと,この審議会で一定の解釈を前提としてみんなが議論しているというように後で見られてもどうかと思いますので,ここはもう少し保留した方がいいかと思います。   もう一つ申し上げたいことは,事前求償権との関係では,適時執行義務というときの適時という言葉の意味が不明確なのかもしれないということです。だれにとっての適時かということです。事前求償権の廃止に反対する学説も既に公表されているところでありまして,その学説からすれば,現在の制度は,保証人は当初の弁済期まで拘束はされるけれども,そこでもう降りられるのだということを考えているということもありますので,方向としてはこういうところでいいと思いますが,もう少し詰め,あるいはいろいろな組合せを考えるべきだと思います。 ○西川関係官 適時執行義務についてでございますけれども,確かに両方の考え方があって非常に難しい問題かと思いますが,詳細版の資料の73ページを見ていて思ったのですが,フランス消費者法のL.341−1条というのは,支払事故に関する通知を怠ったときは,違約金又は遅延利息に関する権利を失うということが定められているようですが,こういった制度も何か一つ参考になるのかなと。これに例えば事前求償権などを組み合わせると,バランスのとれた制度になるのかもしれないなと,ちょっと感想までに思ったところでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでございましょうか。 ○高須幹事 既に出ている議論に重ねてかもしれませんが,催告・検索の抗弁権,適時執行義務,事前求償権の問題,それぞれ関連性があり,それを連帯保証の場合にも含めるかどうかという議論,これは前向きに考えるべきではないかと思います。といいますのは,連帯保証ではない単純保証というのは,これはずっと議論されていることなのですが,実際の実務でどれだけあるのかということになって,やはり基本的には連帯保証ということで今広く行われているという実情がある。それを変えていくというのも一つの考え方ではあるのでしょうけれども,法律を変えれば簡単に変わるというわけでもないような気もしますので,むしろ連帯保証がたくさんある中でふさわしいものにしていくという意味では,連帯保証のときは適用されないと,実は我々もそうやって勉強してきたのですが,そうではないという余地もあるということを今日教えていただいて,その方向は是非とも議論すべきだと思っております。 ○鎌田部会長 大体のところは御意見をいただいておりますけれども,通知義務の関係,分別の利益の関係について,もし御意見がありましたらお出しいただければと思います。 ○岡(正)委員 分別の利益のところですが,弁護士会の意見は分かれております。保証連帯でいいのではないかという説もありましたけれども,従来の分別でいいのではないかという意見も数多くありました。先ほど道垣内幹事がおっしゃった,担保的効力を強める,弱めるということで判断しているような記載になっておりますけれども,これも,当事者の意思をはっきりさせろ,保証人を複数とるときには契約の中ではっきりさせなさいという方が明確になるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○道垣内幹事 今私の名前が挙がったので一言申しますと,連帯債務のところは債権者,債務者との間の関係であって,債権者が一方的に内容を決められるわけではないのですけれども,分別の利益の問題は契約当事者の意思の問題ですので,債権者が保証の担保的効力を強めることを意図して契約しているというのは,連帯債務のところの効力の話に比べるとさほど違和感はありません。もちろんそのときに債務者がどう考えているかというのはあって,それでこそ内容が決まってくるわけですけれども。すみません,せっかく言ってくださったのですけれども。 ○鎌田部会長 それでは,申し訳ございません,残りの時間もわずかになってまいりましたけれども,「7 連帯保証」及び「8 根保証」,部会資料8−1で言いますと14ページ,15ページについて御審議をいただきたいと思います。   まず事務当局に説明をしてもらいます。 ○川嶋関係官 まず「7 連帯保証」について御説明いたします。   実際の取引において保証が用いられる場面のほとんどは連帯保証であると言われておりますが,連帯保証人は催告・検索の抗弁が認められず,また分別の利益も認められないと解されている点で,連帯保証ではない通常の保証人よりも不利な立場にあるということができます。このような連帯保証制度が存在することについては保証人保護の観点から問題があるという指摘もあり,また,「1 総論」についての御説明の際にも触れましたとおり,自殺の大きな要因ともなっている連帯保証制度を廃止すべきであるとの指摘もあるところです。こうした指摘を踏まえ,連帯保証制度の在り方や見直すべき点について御議論いただくのが,「(1)連帯保証制度の在り方」です。   「(2)連帯保証人に生じた事由の効力―履行の請求」では,現行法のもとでは連帯保証人に対する履行の請求の効果が主債務者にも及ぶものとされているところ,これに対しては,主債務者の関与しない連帯保証契約によって主債務者が不利益を受けるのは不当であるとの批判があることから,この点について御意見をいただきたいと思います。   最後に,「8 根保証」についてですが,根保証に関しては,平成16年の民法改正により,主たる債務の範囲に,貸金等債務,つまり,金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務が含まれるものに対象を限定しつつ,保証人が予想を超える過大な責任を負わないようにするための規定が新設されたところです。しかし,平成16年改正で新設された規定の適用対象がその債務の範囲に貸金と債務が含まれる根保証に限定されたことに対しては,参議院法務委員会及び衆議院法務委員会において政府に対して更なる検討を求める附帯決議がされています。   また,いわゆる特別解約権の明文化については平成16年改正の際にも検討の対象とはされたものの,考慮要素を的確に表現することが容易ではなく,裁判規範として不明確なものとなるおそれがあるという問題が指摘されていたことなどを踏まえ,改正を見送ることとされましたが,この点についても参議院法務委員会において政府に対して更なる検討を求める附帯決議がされています。   根保証に関しては,こうした事情を踏まえ,更に保証人保護を拡充する観点から,例えば平成16年改正で新設された規定を,主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれない根保証―主債務が継続的な売買取引に係る代金債務であるものや,不動産賃貸借に係る賃借人の債務であるもの―にまで及ぼすという考え方や,判例によって認められているいわゆる特別解約権を明文化するという考え方もあるところです。   こうした考え方について御意見をいただけたらと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明のありました部分について御意見を伺います。7と8,残りの時間も少ないので一括して御意見をいただければと思います。 ○大島委員 連帯保証制度の在り方について御意見を述べさせていただきたいのですけれども,先ほどの個人保証の部分で随分と御意見が多く出たので,ちょっと重なってしまうこともあるのですが,大企業に比べますと弱い立場の中小企業でございますので,あえて御意見を述べさせていただきたいと思います。   中小企業においては,金融機関から融資を受けるほとんどの場合,経営者の個人保証が求められます。その中で,商工会議所には,企業の倒産とともに多額の負債を背負うことになった経営者からの相談が寄せられることも事実としてございます。この問題をめぐっては,個人保証を引き継ぐことへの抵抗感から事業承継がなかなか進まないといった話も頻繁にございます。町工場とか小規模な商店での事業承継は,親から子への事業承継というのが多いのですが,小さいころから技術とかノウハウをたたき込まれて,年ごろになって子が親の個人保証を引き継ぐ際,その負担感から,ただでさえきつい仕事に加え個人保証の負担によりやはり継ぎたくないといったようなことも御相談いただいております。連帯保証の在り方については,その是非も含めて議論がなされているところでありますが,重要な論点だと思いますので,各方面の意見を広く聴取しながら慎重に御議論いただければと思います。いずれにしましても,民法改正の議論の中で保証人保護の拡充の方向で規定の見直しが進んでいることに期待をいたしております。 ○新谷委員 先ほど総論で論議をされていましたが,連合としても,個人保証人の保護については是非強化を図るべきだと考えてございます。破産者統計などをみても,毎年多数の自己破産者がおり,さらに連帯保証人として債務を負担している方々も相当おられると思いますので,自然人の個人保証については保護を図るべきだと思っております。   しかし,その一方で,労働の現場でこの連帯保証制度がどういう使われ方をしているかという事例を御紹介申し上げますと,一つは事業再生にこれを使うというケースがございます。休憩前の論議の中で,岡委員から会社分割に際して詐害行為の例が出てまいりましたが,事業再建を図るために会社分割をするときに,分割法の中では分割時点での債務の見込みというのが求められるわけでありますけれども,事業継続可能な資産の確保というのは実は求められておりません。ですから,場合によっては,不採算部門のみを分割し,そこの労働者とともに清算するという,いわゆる泥舟分割も懸念されます。そのために,不採算部門に残った労働者の労働債権を確保するために,優良な資産が残っている方あるいは分割元の会社に対して連帯保証をつける,これによって労働債権を保護し,長期の連帯保証によって会社の再建を図っていく,こういう使われ方もしていることがございます。会社分割法を利用する会社にとっても,労働者の無用な危惧を解消する,それによって労使が円滑に協力して事業再建を図っていくという面でも連帯保証制度が有効に使われているという事例もあるわけでございます。   また,労働債権の保護ということで,先ほどの大島委員の発言とは逆になりますが,実は経営が悪化している企業において,使用者の賃金支払能力に不安がある場合に,資産を有している代表取締役社長個人あるいは取締役などが連帯して保証人となるということがございます。それによって労働者の協力を取りつけて会社再建の基盤としつつ,万が一倒産に至った場合に労働債権を確保するという方法が行われています。こうした場合は,先ほどの金融債権の保護とは別に,労働組合としては,会社再建に伴う労使協定,連帯保証を明記した協定を締結しまして,労働債権の保護に努めるということでございます。そうした代表取締役社長個人,これも自然人と言えば自然人なのですが,一般個人と経営者との,いわゆる経営者保証との区分を何らかの形でつけていただければと思います。一般個人については,冒頭申し上げたように是非保護していただきたいのですが,経営者の保証の在り方について,現在の制度の存続ということをお考えいただきたいということでございます。   それと,もう一点,この論点に書かれてないところで指摘を申し上げておきたいと思います。連帯保証に関連しての特別法でございます「身元保証に関する法律」についての内容です。この法律は昭和8年4月1日に施行された非常に古い法律でございますけれども,実はこの法律は就職をする際に広く一般に利用されておりまして,この古い法律の内容と今回のこの論議との整合性をどのようにとっていくのかという問題でございます。直接この部会の中で身元保証契約について論議をするかどうか分かりませんが,今後の論議の進展の中で今回の保証債務の内容が変わってくるということであれば,こちらの身元保証に関する法律についても,その内容についてどこかの場で御論議をいただきたいと思っております。今日的に見ますと,身元保証の範囲であるとか,被用者の定義であるとか,解除権の行使事由である等々,見直しをする点が多々あろうかと思いますので,この点についても今後の論議の中で配慮をいただければと思っております。 ○筒井幹事 ただ今の身元保証法に関する御指摘について,一言だけ申し上げたいと思います。   身元保証法は,保証以外の形態についても対象としていますので,その点に留意する必要がありますけれども,しかし保証についても対象としております。そして,今回の見直しでは,先ほどの川嶋関係官の説明にもありましたが,貸金等債務という限定を外すかどうかが議論の対象となっており,もし限定を外すといたしますと,身元保証法と民法の根保証の規定の対象領域が明らかに重なり合うことになると思います。そうしますと,民法改正に伴って整備的な改正をする必要が出てくる可能性があるのではないかと思っております。そういう観点から,御指摘の点について十分留意していきたいと考えております。 ○山野目幹事 根保証に関して1点意見を述べさせていただきたいと考えます。   根保証の規律に関しまして,是非今般の改正におきまして,現行の極度額と元本確定期日に関する規律を,貸金等根保証に限ることなく,根保証の全般に及ぼすという仕方での見直しをしていただきたいと考えるものでございます。   若干理由を申し述べさせていただきますと,根保証に関する現在の規律を導入した平成16年法が国会に付議された折のことでございますが,実は国会の審議は,動産譲渡登記の制度を導入する「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の一部を改正する法律案」と抱き合わせで審議が行われました。法制審議会における審議の経過は,動産譲渡登記と根保証の問題は別々に検討が進められたのですが,国会のテーブルに載ったときに議場を覆った雰囲気として,中小企業にお金を貸しやすくするために動産譲渡登記制度を入れるのです,ところで貸しやすくするに当たっていろいろネガティブな問題もあるでしょうから,それは根保証に関する規律を整備して除去するのです,表裏の関係でどうですか,いいでしょうというふうな雰囲気で議論がされまして,当時の社会経済情勢を考えますとそれが一定の説得力を持ちましたし,やむを得ないことであったとも考えるものでありますけれども,しかし,そのことは,裏返して申しますと,貸金等根保証という制約を設けている現行の規律が極めて政策的な色彩の濃厚なものになっていて,必ずしも私法的な普遍性を備えたものになっていないということを示唆しているのではないかと考えるものでございます。   そのような観点から,是非これを根保証一般に拡げていただきたいと考えますし,もちろんその際には,押し拡げても構わないであろうという立法事実の確認は必要であると思いますけれども,それは余り厳密に本当に弊害がないのだということを調べるというよりは,現行の運用されてきた貸金等根保証についての規律は一定の合理性を持つものとして支持されて運用されてきたわけでございますので,特段これを妨げるような立法事実の認知がない限りは拡げるという方向で御検討いただきたいと考えるものでございます。 ○山本(敬)幹事 同じく根保証について,2点意見を述べさせていただければと思います。   第1点は,詳細版で言いますと65ページ以下に書いてあるとおりなのですが,いわゆる特別解約権を明文化することを考えてよいのではないかという点にかかわります。根保証の場合は,最初の契約締結段階で契約内容そのものを規制することにはどうしても限界があります。これは,実際に保証人が責任を負う事態に至るまでの間に時間的間隔がある契約ですので,契約当初に予測できないような事態が生ずる可能性というのが言わば構造的に内在していると言えます。したがって,事前の契約締結段階の規制よりも,事後的な解放を認めるという手法によらざるを得ないところがあると思います。したがって,この特別解約権を明文化することは,理論的にも実践的にも非常に重要な意味があると思います。   ただ,平成16年改正で明文化が見送られた恐らく最大の理由は,ルールの形で規定するのが難しいというところにあったかと思います。しかし,この種のものは,要件・効果を厳密に規定したルールの形にすることにそもそもなじまないところがあります。例えば,もし公序良俗の具体化として暴利行為などを規定することを考えるとしますと,それと同じような形で,今の90条ほどではないとしても,一定の考慮できる要素を組み込んだ,「中規模」とでもいうべき一般条項の形で規定をすることが考えられてよいのではないかと思います。   第2点は,以上の点ともかかわるのですが,特別解約権があるだけでは,保証人の側が事情を知らない間にどんどん事態が進展していくときに対処できないという問題です。少なくとも根保証の場面では,どうしても通知義務に当たるものをあわせないと,実際的には意味を持たないのではないかと思います。その意味では,少なくともこのような場面については通知義務を課し,そして通知義務違反についての一定のサンクションを考える方向も検討してよいのではないかと思います。例えば,通知すべきときに通知しないために特別解約権を行使できなかったときには,通知すべき義務の違反があったときに元本が確定するなど,そのようなことを併せて規定する必要があるのではないかと思います。特に今申し上げたような点は,特別解約権の明文化を見送って,一般法理,恐らくは事情変更法理だと思いますが,それにゆだねるだけではどうしても導くことができません。つまり,この通知義務と連動させることは一般法理だけではうまく導き出せないものですので,特別解約権について,何とかコンセンサスが得られるような形で明文化を検討していくべきではないかと思います。 ○三上委員 この論点については,一人だけ悪役のような感じがして非常に心苦しいところをご斟酌賜りたいのですけれども,今の話も,私が先ほど例に挙げましたIATAだとか道路会社の,あれは銀行の限度根保証ですけれども,それに関して一々個別の運送業者だとか旅行代理店が,何かあったということを債権者を探して通知するという義務を課せられたら,とてもワークしないというところはあるのではないかと思います。実際に既に現行民法の適用を受けている経験から言いましても,5年の期日管理というのは結構大変なのです。しかも非常に厳しい立法でしたから,貸金のスタートに合わせて先日付というのは認められなくて,サインしたその日から5年というような非常に杓子定規な規定になっておりますから,そういった意味で管理も面倒で,なによりこの規定によって救われるはずの債務者の方がこんなものに何で何回もサインしなければならないのだといって結構抵抗される場合もあります。こういったものを一般規定化すると,債権者には個人・消費者も入ってくる可能性があるわけで,包括根保証の債権者が必ずしも保証人よりも債務者のことをよく知っているとも言い切れない場会も出てくると思います。ですから,そういった個人・消費者が入ってくる場合もありますし,事業者間の保証では必ずしも強行法規として通知義務等を置くのが適切でない場面もあり得るという点をここでも考慮する必要があるのではないかと考えております。   それから,これは半分質問でお伺いしたいのですけれども,連帯保証は問題が多いので,連帯保証を廃止しましょうというときの議論の裏側というのは,例えば催告・検索の抗弁ですとか分別の利益の規定は強行法規にする,契約によっても排除できないものとするという前提があるのかどうかという点を確認させていただきたいと思います。もしそれがないのであれば,連帯保証を廃止したところで,特に絶対的効力がすべて相対的効力になれば,ほとんど普通の保証と変わらないですし,そんなことを考えているのかと誤解・非難を受けると困りますので個別具体の手口は申しませんが,連帯保証と同じような効果を持つ別の手段など,幾らでも考えられると思いますので,例外をつかまえて,それを処罰するために民法に規定を置くとしますと,465条の5のように民法の規定が非常に難しくなる。そういう意味で,個別の規制法ならともかく,一般法である民法に強行規定を置くというのはかなり難しいのではないかという点を指摘させていただきます。   また包括根保証契約に戻りますが,貸金等根保証に関しては対応済みですので,銀行の立場からの指摘ではないのですが,普通の商品取引とか消費者取引とかの関係でこういう簡便な根保証制度がないと,例えば零細な業者だと取引が切られてしまうとか,そういった副作用は別途ないのかなど,ぱっと考えて保証人の保護をするというのは非常に通りのよい議論ですが,本当にそういうことを気にしなければならないほどの立法事実がそれぞれの根保証契約類型ごとにあるのかどうかという点は,個別に慎重に検討された方がよいのではないかと考えております。 ○野村委員 平成16年改正のときに部会長をしていたので,こういうことを言うのはまずいのかもしれないのですけれども,当時は必ずしも全面的な根保証についての議論をするということではなくて,その当時に必要とされていたところで議論したということで,いろいろ残っているところがあると思います。したがって今回の民法改正に当たってはもう一度見直すことが必要ではないかと思っておりまして,今まで既に出てきていますけれども,例えば継続的売買契約から生ずる売買代金債務なんかについては広げてもいいのではないかなと個人的には思っております。それから,特別解約権についても,先ほど御説明がありましたけれども,根保証の期間についての規定が整備されたので,従来の判例理論がそのまま当てはまるということではなくて,むしろ特別解約権は認められにくくなっているのではないかと個人的には考えておりまして,特別解約権の是非についてもやはり議論の対象にすべきだと考えております。そのほかにも,債権譲渡が行われた場合の随伴性の問題とか,いろいろ問題は残っていると思いますので,是非もう少し幅広く検討した方がいいのではないかと思います。 ○山野目幹事 三上委員から御指摘があったことの中に,重要な点として,催告・検索の抗弁権に関する規律についての今後のありようとのかかわりで,仮に連帯保証との関係で現行の規律を改めるときに,その改めた規定は任意規定なのかどうかというふうな問題の御指摘がありました。恐らく性質的には,今日の前半の連帯債務の場合の絶対的効力に関する新たな規定の見直しの成果も,冒頭,能見委員から御指摘があったように,任意規定かどうかという議論が常について回ると想像しますが,それらの問題群について仮に任意規定という性格付けが与えられたとしても,一般論としてはそうであるとして,それに対して更に,約款として用いられたり消費者が当事者であったりする場合には,約款規制が働いたり,現行の消費者契約法第10条に当たる規律が働いたりするということは十分あり得ると私は理解しております。そうすると,三上委員がいろいろ手の内を明かすことになるから申しませんとおっしゃったのですけれども,手の内は明かしていただかなくてよいとして,しかし,お手のうちにあるもののうちのどれかは今の議論が必要になってくるであろうという感触を抱いております。 ○中井委員 先ほどから弁護士会としての意見を申し上げようと思っていたのですけれども,まず負担する債務の対象については,山野目幹事がおっしゃった意見が大宗です。また,特別解約権につきましても,山本幹事の意見に賛成で,たとえ3年ないし5年の期間制限が設けられたとしても,主たる債務者に急激な重要な変化が起こったり経営から外れたりすることがありますので,その他どのような形で要件化するかは山本幹事がおっしゃったように難しいところがあるのかもしれませんが,是非前向きにこの特別解約権―元本確定請求権と言った方がいいのかもしれませんけれども―を取り入れる方向で議論を進めていただきたいと思います。   三上委員からそれに対して御批判がありましたけれども,専ら法人の機関保証をとらえておっしゃっている面があるのではないかと思います。現行法でも貸金に関するこの根保証については法人を除いた規制になっていますので,この流れで法人を除くという形で維持するというのもあり得るでしょうし,更に広げるか狭めるかという議論もあると思いますが,三上委員の法人機関保証を想定した御批判に対しては,そのような懸念は解消されるのではないかと思います。積極的な御検討をお願いしたい。   それから,連帯保証に関する事柄ですけれども,これも弁護士会の中の一部の意見としては,もはや連帯保証というのは廃止,なくていいのではないか。この意味するところは,保証と連帯保証が限りなく近づいてきているというのは先ほど御指摘のあったとおりですが,先ほど岡田委員からもありましたけれども,保証する側にとっては,まず債権者は主たる債務者の方へ行動を起こしてください,そちらから回収できるときには回収してくださいという気持ちがあり,それを補充するのが保証ではないか,とすれば,単純保証がまず基本にある。そこからは,仮にこれが任意規定だとしても,個別に,あなたには検索の抗弁はありませんよ,分別の利益もありませんよと,それを確認して初めて現在の連帯保証と同じ効果が生じる,つまり原則と例外を逆転するのが一つの在り方ではないか,そういう意見が弁護士会の中で出ていたことを御紹介いたします。 ○高須幹事 根保証に関して,今,中井委員から出ましたように,いろいろ問題があると理解しています。それをいろいろ規律していくべきだろうということで,16年の改正はその取っかかりではなかったかと私も思っておりますし,弁護士の中でもそう思っている人が比較的多いのではないかと思います。いわゆる根抵当というのが民法にはあって,詳細な条文が,これも改正によってではございますが,規定されている。そこで,根保証もいろいろなことを想定して更に細かな条項を置くということは有益ではないかと思います。先ほども確定前の債権譲渡の場合という御指摘がありましたけれども,そういう場合についてどうするか,債権譲渡された場合に根保証は随伴するのかしないのかというようなことも議論すべきだと思いますし,それから,確定前に五月雨的に請求を受けたらどうするのか,幾ら極度額を決めても,その前に少しずつ払っていって,極度額は変わってないのだけれども少しずつ絞り取られているみたいなケース,表現をちょっと変えますが,回収が行われているみたいなことは余りいいことではないのだろうと思いますから,そういうことについても何らかの規定を置くことは必要なのかなと思います。いろいろな観点から根保証の問題を検討して,親切丁寧な条文を置いていくということが大切だろうと思っております。 ○深山幹事 根保証に関しては,今まで積極的に広げる方向の意見が強いのではないかと伺っていて,私もそう考えている者の一人です。   その関係で特別解約権がまたいろいろ議論されて,特別解約権を認める要件といいますか,どういう場合に認めるかというときに,主債務者の方の経済情勢の変動が一つあろうかと思います。その点については通知義務との兼ね合いがあるというような議論はそのとおりかなと思うのですが,それはちょっと置いておいて,資料にも出てきますけれども,保証人と主債務者の関係の変化,一番典型的には代表取締役が代表取締役であるがゆえに保証し,その後,代表取締役を退任して,もう会社と関係なくなったというような場合,あるいは夫婦で離婚したというような場合も同様かもしれませんが,これは通知をしなくても,自分の問題ですから保証人が一番分かっていて,そういう場合には先ほどの通知の問題の議論よりも単純に認めていいのではないかと考えております。   さらに,その延長の問題として,根保証ではない通常の保証であってもそういうことがあり得るのではないかなと。つまり,代表者が代表者であるがゆえに経営者保証をしていて,しかし,その後,定年になって退任するといったときに,まだ会社に債権や債務が残っていた場合にどうなのかということも,それを単純に認められるかどうかということはあるのですけれども,一応議論の対象にはしていいのではないかとは思っております。 ○道垣内幹事 特別解約権について一言だけ申し上げたいのですが,特別解約権が判例では認められている。詳細版の68ページに載っているのは昭和9年の判決で,私も現在手元に細かな資料を持っているわけではありませんけれども,以前はそもそも極度額というのはなかったわけですね。あるいは,野村委員がおっしゃったように,期間の限定がなかった。その場合に特別解約権を認めた判決があるということが,現在の貸金等根保証契約の条文を前提としたときに何らかの根拠になるのかというのは,私はかなり疑問であります。更に言えば,特別解約権の話というのは,例えば詳細版の67ページ,68ページに書いてあるところ,とりわけ主債務者の資力が著しく悪化したというような場合を考えてみますと,結局そういう変動のリスクを債権者側がとっているのか,それとも保証人側がとっているのかという問題に尽きるわけであって,およそ保証人側はとれないという立法は可能なのかというのは私にはよく分からないところです。批判されることを覚悟で申しますと,極度額が定められているのならばそれでいいではないかという気がするわけです。もちろん,契約の大前提として,十分に説明が行われて,十分な納得が得られているのか,例えば消費者契約法のときに問題になりましたけれども,窮状につけ込んで契約を締結する,そういった場合がそもそも契約の問題として締結に瑕疵があるということは分かりますけれども,仮にそこの問題がクリアされているときに,特別解約権というのがなぜ現行法のもとで更に認められなければならないのかというのは,私にはよく分かりません。更に言えば,離婚すればというのだったら,請求されそうになると離婚すればいいという形になってしまうような気もして,もちろんそれは一定の関係があることを前提で保証人になっていると契約が解釈される場合にはそうなるというのはもちろんそうなのかもしれませんけれども,当然に特別解約権が認められて書かれるべきだということにはならないのではないかという気がしております。 ○山本(敬)幹事 今道垣内幹事がおっしゃったことに対しては,当然御本人もすべてお分かりになった上でおっしゃっていることですので,言わずもがなのところはあるのですが,やはり少しだけ補足させていただきます。   まず,極度額の定めがあるといいましても,極度額を幾らにするかという点についての規制は行わないというのが平成16年改正でした。このような入り口段階での内容規制はかけようがないからこそ,こういう特別解約権による事後的な解放を認める必要があると先ほど申し上げたつもりでした。   また,期間の制限が3年ないし5年という形であるといいましても,3年ないし5年の間に契約時には予測できなかったような変動が生じることはもちろん考えられます。これは,一般法理である事情変更の原則の適用によっても解除ないしは契約改訂に当たるものが認められる可能性があるわけですので,3年ないし5年があるからといって特別解約権の必要性がおよそなくなったとはいえないと思います。さらに,特別解約権が認められるべき場合として,先ほど深山幹事が指摘されたような場合のほか,例えば,債務者の方が頻繁に債務不履行を繰り返しているような場合について,このような債務者との関係で保証契約を維持する前提となる信頼が失われたという理由で特別解約権を認めた裁判例もあります。そのようなことを考えますと,制度自体の必要性は,平成16年の改正を経た後でも,やはり今なおあると私自身は考えています。 ○木村委員 この根保証の話もそうなのですけれども,平成16年の改正の中で十分な議論ができなくて,まだ積み残しているところがたくさんあるのだということもよく分かってまいりました。また,先ほど高須幹事から,いろいろなもっと細かい制度設計が必要なのではないかというご指摘がありました。私自身も,もしそうであるならば,しっかりと今回の民法の改正の中でこの辺りの議論をしていく必要があるのではないかと思います。そうしますと,どのようなところが現実に問題となっていて,どういう制度でそれに対処すべきなのかということをしっかりと我々自身が認識して議論していく必要があるのではないかと思います。これは今後の審議のやり方に関係してくるのですけれども,例えば現実に問題を抱えている方々からお話を伺うとか,実態を明確にするようなヒアリングをするといったことをしないといけないのではないかという気がしているのですけれども,是非,事務局の方に御検討いただきたいと思います。 ○筒井幹事 貴重な御指摘,ありがとうございます。より多くの方の御意見,特に実務に根差した御意見を広く聴取するということは大変重要だと思います。全く御指摘のとおりだと思います。   その上で,その方法としてどんなことが考えられるのかという点は,いろいろな工夫をしていきたいと思っております。この部会の会議の場でヒアリングを行うことが会議日程との関係で難しいとすれば,もちろん会議の回数を増やすことで対処できればそれも一つの方策だと思いますが,もしそうでないとすれば,別の形で聴取するとか,いろいろな形を考えていきたいと思います。 ○奈須野関係官 二つ申し上げます。   一つ目に連帯保証人に対する履行請求の効力の部分なのですけれども,こちらについては絶対効としていただきたいと考えております。これは,請求の絶対効を否定した場合には,行方不明になっている人を含めてすべての人に対して訴えを提起しなければ時効の中断効が図れないという不合理なことになってしまいまして,とんずらこいた人が得をするということになりかねなくて,これはいかがなものかということでございます。   もう一つが根保証の部分なのですが,結論としては,根保証の対象範囲を拡大することについては,基本的には拡大を支持したいと思っております。ただ,一部の部局からは反対の声がありましたので,その内容をお伝えいたしますと,貸金以外で根保証をするような局面として,中小企業の人がオフィスに入居するときにオーナーに対して根保証を取るというようなことがあります。いろいろな損害賠償もありますので。それから,同じようにクレジット契約で,小売店との関係で加盟店契約を結ぶ場合,個人情報の漏えいなどの被害が生じるおそれがありますので,そういったものも含めて根保証を取りつけて,そのことによって零細な小売店においてもクレジットカードを使えるというような利益が図られているわけでございます。仮にこういったものについても規制がかかっていくということにいたしますと,零細な中小企業が容易にオフィスを借りられなかったり,あるいは加盟店契約が進まないということで,最終的には本当に消費者のためになっているのかなというようなことにもなりかねないということで,そこのところについては反対という声もございました。ただ,経済産業省全体としては,最初に申し上げたとおり,基本的には拡大を支持したいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○岡(正)委員 簡単に2点だけ。   1点は履行請求の絶対的効力のところですが,相対的効力にしてもいいという説も相当有力ではございましたけれども,連帯債務と同じように,密接な関係がある場合には絶対効でいいではないかとか,請求の中に絶対効があることを明記させるような手当てをしたらそれでいいではないかとか,連帯債務のところと同じような議論がございました。相対効ですっといくという感じではございませんでした。   もう一つは,身元保証契約について,民法に取り込むなり何らかの整理をすべきではないかという意見が弁護士会の中にもございました。ただ,これは保証ではなくて損害担保契約だと思いますので,損害担保契約まで含めて民法に入れるのかどうするのか,身元保証契約と損害担保契約についても検討していただきたいという意見でございました。 ○三上委員 最後に,3点,テクニカルですが重要な点をお願いしたいのですが,一つは,先ほども高須幹事から出ましたが,根保証の随伴性に関しては16年改正の際に,金融界も,法務省も,当然に随伴する,だから立法する必要はない,という理解だったような記憶なのですけれども,その後これだけ議論が行われたということは,この際明文化を検討されてはどうかということが1点目です。   2点目は,保証におきましても,求償権,なかんずく一部保証履行しかしていない場合の求償権の主債権に対する劣後の判例理論の明文化を御検討いただきたい。   3点目は,委託を受けない保証人のところで出てまいります「債務者の意思に反して」という部分ですが,こういう主観的な要件よりは,債務者が債務を履行しないという一つのマイナスがあるわけですから,「債務者の合理的な利益に反する」とか,客観的要件に改めるべきではないか。事務管理制度自体が事務管理者に冷た過ぎるかどうかは別としまして,必ずしも事務管理と同様の規定にする必要はないのではないか。   この3点の検討をお願いしたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○内田委員 時間がなくなってからで申し訳ないのですが,1点確認させてください。先ほど中井委員から,弁護士会としては連帯保証は別になくてもいいという考え方が強いという御紹介がありまして。 ○中井委員 そういう説もあると。 ○内田委員 その連帯保証はなくてもいいという考え方というのは,私は,当然,催告・検索の抗弁権は強行規定として合意でも外せない,そして,連帯保証ではなくて連帯債務の形をとっても,実質が保証である限りすべて強行規定が及ぶというのが連帯保証をなくすという意味だと思っていたのですが,先ほど,「原則と例外を逆転させて」という言い方をされました。しかし,現在も原則は普通保証であって,特別な合意があるときにだけ連帯保証になるわけですけれども,現在と違うことをおっしゃっているのかどうか。 ○中井委員 言葉足らずでした。今は単に連帯債務と書くことによって連帯が発生してしまうのですね。そこを意識的にさせる必要があるという趣旨で申し上げました。 ○内田委員 そういう趣旨であれば,今,連帯保証として認められている効果が幾つかあるわけですが,こう書いた場合にはそれはセットで合意されたものとするという実務ができてしまうと,結局同じにはなりませんか。 ○中井委員 なるのかもしれませんけれども,個々個別具体的に明記して,明記したものを少なくとも説明を受けて,理解した上でなら,その効力を認めてもいいのではないか。今の契約書では,単に連帯と書いてあるだけで連帯保証になってしまいますので,その点についての警告機能といいますか,そういう趣旨で申し上げました。 ○内田委員 分かりました。 ○鎌田部会長 そういう意味では,完全な廃止論ではないのですね。 ○中井委員 そういう意味では,ないです。 ○鎌田部会長 6時を過ぎてしまいまして御迷惑をおかけいたしましたが,本日予定していた部分の最後まで何とかこぎ着けることができました。   ほかに特に御意見あるいは御発言等ございますでしょうか。   特にないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきまして,最後に次回の議事日程等について事務当局から説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 次回の第7回会議は,本年4月13日(火曜日),時間は本日と同じ午後1時半から午後5時半まで,場所も本日と同じ20階の第1会議室を予定しております。   次回会議では,債権譲渡を中心に御議論いただくことを予定しております。また,その際に,証券的債権に関する規定や,債務引受,契約上の地位の譲渡についても併せて御審議をお願いする方向で,準備を進めております。その資料は,来週中には何らかの形でお届けしたいと考えております。最低限のお約束である会議の1週間前よりも前倒しできるように作業を進めようと思っております。よろしくお願いいたします。   それから,本日の議論の中で,事務当局に対して様々な宿題をいただきました。前向きにしっかり取り組んでいきたいと思っております。と同時に,本日の議論を踏まえ,次に同じテーマについて議論をする機会は,来年1月以降,中間的な論点整理のたたき台を事務当局からお示しするという段階になります。そういう意味では,様々な宿題をいただいたわけですが,ベストを尽くすにしても,事務当局だけの力ではいかんともし難いものが多く含まれていたように感じております。例として申しますれば,多数当事者について新たな類型について更に検討をすべきというのは,最初から間口を狭めないで十分視野を広げて検討せよという御指摘で,大変よく分かりますけれども,新たな類型について何らかのまとまった提案を,次の機会に事務当局からお出しすることには,大変困難を感じております。それから,最後の保証債務に関しましても,例えば元本確定前の主債務の債権譲渡に随伴するのか,あるいは,元本確定前の請求に対して保証人が支払った場合に極度額との関係がどうなるのか,こういった論点については,既に研究者の方の御論考が出ていることは私もよく知っておりますけれども,その議論がすでに安定していると言えるのかどうかといったあたりになお不安を感じながら,我々としても検討せざるを得ないのかなと思っております。ですから,次の機会に事務当局からしっかりした提案が出せるのかというと,必ずしも自信がない。そこは,部会メンバーの皆様の英知を結集してやっていくしかないのではないかと思っております。そういった観点から,更に部会メンバーの皆さまからの御提言をお届けいただいたり発表していただいたり,そういったことも是非御検討いただきたいと考えております。   以上でございます。 ○鎌田部会長 是非よろしくお願いいたします。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。御熱心な御審議を賜りまして誠にありがとうございました。 −了−