法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  平成22年3月25日(木)  自 午後1時32分                        至 午後4時20分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(親権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○飛澤幹事 予定した時間がまいりましたので,法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会の第1回会議を開催したいと思います。  本日は,御多用中この会に御出席賜りまして,誠にありがとうございます。私は,法務省民事局で参事官をしております飛澤と申します。部会長の選出があるまで,暫時私の方が議事を進行させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。  議事に入ります前に,法制審議会及びその部会について若干御説明申し上げます。  法制審議会は法務大臣の諮問機関でございますが,その根拠法令である法制審議会令によれば,法制審議会に部会を置くことができることとなっております。この児童虐待防止関連親権制度部会は,さきの2月5日に開催されました法制審議会第161回会議におきまして,法務大臣から児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する諮問第90号と諮問されたところでございます。  これを受けまして,その調査,審議のためにこの部会を設置することが決定したものでございます。お手元に配布しております縦書きの諮問第90号というところに,その諮問内容について書いてございますが,「児童虐待の防止等を図り,児童の権利利益を擁護する観点から民法の親権に関する規定について見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」というのが諮問の内容でございます。  法制審議会関係の説明は,以上でございます。  引き続きまして審議に先立ちまして,まず臨時委員の原民事局長より一言ごあいさつ申し上げます。 ○原委員 民事局長の原でございます。どうぞよろしくお願いいたします。事務当局を代表いたしまして,一言ごあいさつを申し上げたいと思います。  皆様方には,それぞれ御多用な中,児童虐待防止関連親権制度部会の委員・幹事に御就任いただきまして,誠にありがとうございました。  皆様御承知のとおり,近年,親などの保護者による虐待によりまして児童が死傷するという痛ましい事件が多発しておりまして,児童虐待は大変深刻な社会問題となっております。そこで児童虐待を行う親に対しまして,必要に応じて適切に親権を制限すべき場合があるとの指摘がされるようになってきております。このような場合に対処するための制度といたしまして,民法には親権喪失制度が用意されているわけでございますが,現行の親権喪失制度につきましては,期限を設けずに親権全部を喪失させる制度であることから利用しにくい面があるといった指摘がされているところでございます。  この点に関しましては,平成19年に成立いたしました児童虐待の防止等に関する法律及び児童福祉法の一部を改正する法律の附則に検討条項が設けられておりまして,政府はこの改正法が施行された平成20年4月1日から3年以内,すなわち来年の平成23年4月までに児童虐待の防止を図るなどの観点から,親権に係る制度の見直しについて検討を行い,必要な措置を講ずるものとされております。このようにして,政府に課されました立法課題について,法制審議会で御検討いただくべく今回の諮問をさせていただいた次第でございます。  これから委員・幹事の皆様方には,親権に関する民法の改正に向けまして御検討をお願いすることになりますが,よりよき制度の構築のために御協力を賜りますよう,何とぞよろしくお願いいたします。   (委員等の自己紹介につき省略)   (部会長に野村委員が互選され,法制審議会会長から部会長に指名された。) ○野村部会長 ただいま御指名を受けました野村でございます。民法を専攻しておりまして,家族法の授業をしたりしておりますけれども,今回のテーマは必ずしも法律の知識だけで解決できるというものではありませんで,いろいろな分野から委員・幹事をお願いしております。1年間というタイムリミットもございますが,よりよい結論を出したいと思いますので,どうぞ御協力のほどよろしくお願いいたします。  それでは,まず配布資料の確認を事務局からお願いしたいと思います。 ○森田関係官 御説明いたします。まず部会資料ですが,部会資料1が「児童虐待防止のための親権制度の見直しに関する主な論点」,部会資料2が「対応に苦慮する揚合として指摘されている主な事案」です。これらは,いずれも参考資料4の中の,児童虐待防止のための親権制度研究会報告書をもとに事務当局において作成した資料です。  次に参考資料ですが,参考資料1は,平成19年に成立した「児童虐待の防止等に関する法律及び児童福祉法の一部を改正する法律」の附則です。参考資料2は「児童虐待防止対策について」です。厚生労働省雇用均等・児童家庭局に作成していただいたもので,後ほど杉上幹事より御説明いただくことを予定しております。参考資料3−1が「児童福祉法28条事件の動向と事件処理の実情」,3−2が「児童福祉法28条1項事件の既済事件の推移」,3−3が「親権・管理権の喪失の宣告・取消し事件の時件数の動向」です。これらは,いずれも最高裁判所事務総局家庭局に作成していただいたもので,後ほど小田幹事より御説明いただくことを予定しております。参考資料4は法務省の委託による「児童虐待防止のための親権制度の見直しの必要性及びその内容に関する調査研究報告書」でございます。また本日御欠席の吉田委員から,本部会での審議等につきまして御意見をいただきましたので,席上配布させていただいております。以上でございます。 ○野村部会長 よろしいでしょうか。  それでは次に,審議に入ります前に,当部会における議事録の作成方法のうち,発言者の取扱いについてお諮りしたいと存じます。  まず,現在の法制審議会での議事録の作成方法について,事務当局から説明をしてもらいます。 ○森田関係官 法制審議会における議事録の作成方法のうち,発言者の取扱いについて御説明いたします。  法制審議会の部会での議事録における発言者名の取扱いにつきましては,平成20年3月26日に開催されました法制審議会の総会におきまして,次のような決定がされております。すなわち,「それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,部会長において,部会委員の意見を聴いた上で,審議事項の内容,発言者名を明らかにすることにより自由な議論が妨げられるおそれの程度,審議過程の透明化という公益的要請等を考慮し,発言者名を明らかにした議事録を作成することができるという範囲で議事録を顕名とする。」というものです。したがいまして,皆様には当部会の議事録につきましても,発言者名を明らかにしたものとすることでよいかどうかを,この決定に沿って御決定いただく必要があるものと存じます。以上でございます。 ○野村部会長 ありがとうございました。それでは,事務当局からの今の説明につきまして,まず御質問ございましたら御発言をお願いしたいと思います。特によろしいでしょうか。  それでは,当部会につきまして,部会長の私といたしましては,諮問事項等の内容等にかんがみて,発言者名を明らかにした議事録を作成することにしたいと存じますが,いかがでしょうか。  どうもありがとうございました。それでは,当部会につきましては,発言者名を明らかにした議事録を作成することといたします。  なお,この点に関連しまして,先ほど御紹介にありました吉田委員からの意見の中に,部会を公開して議論の経過を国民が容易に知り得るようにする必要があるという御意見をいただいております。ただ,この点に関しましては,法制審議会議事規則第3条において会議は公開しないと定められておりまして,同規則第7条第1項において,部会の議事については第1条から前条までの規定を準用すると定められているところでございます。したがって,部会の判断のみで議事を公開することはできないだろうと考えております。ただ,先ほど発言者名を明らかにした議事録を作成することで御了承いただきましたが,この議事録は配布資料などとともに法務省のホームページにて公表されるものでございます。したがいまして,そのようなことを通して国民への周知が十分に図られるのではないかと考えております。  それでは,早速本日の審議に入りたいと存じます。  まず,事務当局に,今回の諮問に至った経緯及び審議スケジュール等について御説明をお願いいたします。 ○飛澤幹事 それでは,私の方から諮問に至った経緯,それから今後の審議スケジュール等について御説明申し上げます。  まず,このたび諮問に至りました経緯について御説明申し上げます。  先ほど原委員より一部御説明がございましたが,近年児童虐待は深刻な社会問題となっております。最近でも,親などによる虐待によって児童が死傷するという痛ましい事件がたびたび報道されているところであります。この児童虐待の問題をめぐりましては,平成12年に児童虐待の防止等に関する施策を促進することを目的としまして,「児童虐待の防止等に関する法律」,いわゆる「児童虐待防止法」が成立いたしまして,その後,同法及び児童福祉法について,児童虐待防止等の観点から所要の改正が行われてきているところと承知しております。それに対して,民法の親権に係る制度につきましては,このような観点からの見直しというのは特に行われてきていない状況でございました。  この点につきましては,参考資料1としてお配りさせていただきましたとおり,平成19年に成立しました児童虐待防止等に関する法律及び児童福祉法の一部を改正する法律の附則第2条第1項におきまして,政府はこの法律の施行後3年以内に児童虐待の防止等を図り,児童の権利利益を擁護する観点から,親権に係る制度の見直しについて検討を行い,その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとすると定められたところでございます。  この改正法の施行は,先ほども申し上げましたとおり,平成20年4月1日ということですので,そこから3年以内ということですと,大体平成23年が目途になるのかと思われます。  法務省におきましては,この附則の趣旨を踏まえて検討を行ってきたところでございますが,その検討の一環として昨年6月から12月まで学者や実務家の先生方,それから関係省の担当官等で構成される「児童虐待防止のための親権制度研究会」を開催したところでございます。この研究会の報告書は本年1月に取りまとめられまして,皆様のお手元にも参考資料としてお届けしているところでございます。研究会での具体的な経緯,報告書の概要につきましては,この研究会の座長をお願いしておりました大村委員から後ほど改めて御説明をお願いする予定でございますけれども,この研究会におきましては,児童虐待防止等の観点から,親権に係る制度について民法,児童福祉法及び児童虐待防止法の全体を通じて検討課題の洗い出しや論点整理を行ってきたところであります。  この研究会報告書におきまして,民法に関して指摘されております現行制度の中心的な問題点は,親権を制限するための仕組みに関するものです。すなわち,現在民法には親権を制限するための制度として,親権喪失制度というものがございますけれども,この制度につきましては,期限を設けずに親権の全部を喪失させるものであるということなどから,利用しにくいのではないかという指摘がされているところでございます。そこで,児童虐待や親権の不適切な行使がある場合など,親権を制限する必要があるときに,その必要に応じて適切に親権を制限することができるようにするための制度の在り方について検討を行う必要があると考えられます。民法については,そのほか親権喪失宣告がされた場合など,親権を行う者がいない場合に,子を監護・教育することになる未成年後見人の制度の在り方や懲戒権に関する規定などについても検討の必要が指摘されているところでございます。  このような報告書の内容も踏まえまして,児童虐待の防止等を図り,児童の権利利益を擁護する観点から,民法の親権に関する規定について見直しを行う必要があると思われたことから,今回の諮問に至ったという次第でございます。  それでは,続きまして,今後の審議のスケジュールについて御説明いたします。  先ほど御説明申し上げましたとおり,平成19年の児童虐待の防止等に関する法律及び児童福祉法の一部を改正する法律の附則の規定によりまして,政府はこの改正法が施行された平成20年4月から3年以内,すなわち平成23年4月ごろまでに児童虐待の防止を図るなどの観点から,親権に係る制度の見直しについて検討を行い,必要な措置を講ずる必要がございます。この附則の規定を踏まえまして,事務当局といたしましては,次のようなスケジュールで御審議いただくのが適当ではないかと考えております。すなわち,全体で10回程度の会議を予定しておりますところ,大体夏前までに二回りぐらい,二読程度の検討を行わせていただいて,7月の後半に中間試案を決定していただき,それをパブリックコメントに付したいと考えているところでございます。  その上で,パブリックコメントで寄せられた御意見を踏まえまして,秋以降更に検討をさせていただきまして,できれば本年12月の会議で改正要綱の案を取りまとめていただき,その上で来年2月に開催される予定でございます法制審議会総会に報告するといったスケジュールを考えているところでございます。もっとも,審議の状況等によりましては,来年の1月に予備日を設けておりますので,この日に更に御審議いただくこともあり得ると考えておる次第でございます。  また,本年6月の会議では,審議会外の有識者の方からヒアリングという形でお話を伺いたいと考えております。また,9月には児童福祉施設の施設見学会のようなものを行うことも考えております。  詳細につきましては,また改めて御案内いたしますので,是非御参加いただければと考えております。  なお,親権に係る制度の見直しに関する検討課題のうち児童福祉法及び児童虐待防止法に関するものについては,別途厚生労働省において検討が進められることになっておりますが,詳細につきましては後ほど杉上幹事から御説明いただく予定でおります。  審議スケジュール等についての御説明は,以上でございます。 ○野村部会長 どうもありがとうございました。  それでは,ただいまの御説明につきまして御質問ございましたらお願いいたします。ただいまのようなスケジュールで進めていくということで,よろしいでしょうか。  それでは,本日の具体的な審議に入りたいと存じます。本日は,今後の議論の前提として,まず児童虐待防止に関する施策や児童虐待に関する家事事件の概況について御説明をいただきます。その後,先ほど言及のありました児童虐待防止のための親権制度研究会報告書の概要について御説明をいただいた上で,児童虐待防止のための親権制度の見直しについてフリーディスカッションをすることにしたいと存じます。  それでは,まず杉上幹事から,児童虐待防止に関する施策等について御説明をいただきます。 ○杉上幹事 厚生労働省の虐待防止対策室長杉上です。改めてよろしくお願い申し上げます。  私の方からは,「虐待防止に関する施策等について」ということでございます。  まず,資料の説明に入ります前に現状を申し上げます。児童虐待は全国の児童相談所で受け付けておるわけでございますけれども,直近の数字,20年度で言うと4万2,664件ということで,これは一貫して右肩上がりで,一度も下がることなく伸び続けております。それからまた,年間50件程度,これは心中以外の事例ということで,私ども審議会の中に専門委員会を設けて,死亡事例の検証をやっているわけでございますけれども,そこで把握した数字としましても,年間50件程度というような死亡事例が発生しております。正に数の問題,それから内容の深刻度,両面にわたって大変な状況になっていると考えておるところであります。  また昨今,死亡事例が多発しているような状況を踏まえまして,私どもも実は4月に入りまして臨時の全国の児童相談所長を集めた会議等も予定しておりまして,対策について自治体等の協力を得ながら全力を尽くしてまいりたいと考えております。  資料の方の御説明を申し上げます。参考資料2の1枚目から,時間の関係もあると思いますので,飛ばし飛ばしの説明になるかもしれませんが,御容赦いただきたいと思います。1ページでございますが,「児童虐待防止対策の経緯」ということであります。先ほど来お話に出てきました児童虐待防止法,これは平成12年に成立しました。議員立法で成立をいただいたものでございます。その前は,実は児童福祉法による要保護児童対策として対応しておりました。要保護児童,これは例えば御両親のいない方,あるいはひとり親家庭のような形で,なかなか監護ができないというような要保護児童ということで,その枠組みの中で保護者に監護させることが適当でないというようなお子さんの対策としてやってきたわけでありますけれども,虐待対策の必要性等にかんがみまして,12年に法律が成立した,こういうことになっております。  大きなポイントは,虐待の定義をはっきりと法律の中に位置付けた。それから,住民の,虐待を受けた児童を発見したときの通告義務を,その法律の中に入れた。こういうことになっております。また,この虐待防止法は二度改正になっております。平成16年改正,児童虐待の定義の見直しということで,定義の拡大,これは同居人による虐待を放置することも対象にしました,あるいは通告義務の範囲の拡大。先ほど虐待を受けた児童と申し上げましたが,このときに虐待を受けたと思われる場合も対象にした。あるいは市町村の役割の強化であるとか,また市町村,なかなか実力がついてこないというようなこともありまして,要保護児童対策地域協議会,後ほど御説明申し上げますけれども,そういった協議会を設けて,一担当だけではなくて市町村全般にわたって関係機関と連携をとりながらやっていく,こういうような改正もされたところであります。  また,直近で申し上げますと,19年に虐待防止法がまた改正になりまして,20年4月から施行されております。児童の安全確認等のための立入調査等の強化,これは臨検・捜索制度と申しておりますけれども,解錠等の実力行使を伴った立入調査というのが制度化されたところであります。また保護者に対する面会・通信制限の強化であるとか,保護者に対する指導に従わない場合の措置の明確化等,こういったものも改正法の中に織り込まれたところであります。  2ぺージは,先ほども冒頭申し上げたとおり,虐待相談対応の件数が増えている,あるいはその虐待によって死亡した件数というのは,おおむね年間50件程度ということになっておるということでございます。  次の3ぺージでございますけれども,虐待の種別別に見たものであります。身体的虐待が4割弱,次いでネグレクト,いわゆる養育放棄と呼ばれているものでございますけれども,37.3%ということになっております。  また次のぺージでございますけれども,主たる虐待者ということで,実母が60.5%,次いで実父が24.9%ということで,この二つの数字を合わせると85%程度というような実態でございます。  更に次のぺージでございますけれども,虐待を受けた子どもの年齢構成ということであります。箱の2行目でございますけれども,小学校入学前の子どもの合計は42%というようなことで,低年齢児に集中している。また先ほど虐待の死亡事例について検証していると申し上げました。虐待死されたお子さんのおおむね半分程度は乳児ということで,ゼロ歳児の赤ちゃんというような実態になっております。  6ぺージでございますが,中心となって虐待対応していただいております児童相談所の概要ということでございます。設置の目的にありますとおり,子どもの総合的な相談機関というようなことで,ここは虐待だけではなくて,非行であるとか障害の問題であるとか,いろいろな困難なお子さんの問題について対応する行政機関となっております。2番にありますとおり,全国に201か所。業務については,そこに掲げているとおりであります。職員等についても,そこに書いてあるとおりでございます。  次の7ぺージでございますが,一時保護所というのがあります。通常は,児童相談所に付設されております。虐待があったときだけではないわけなのですけれども,お子さんの安全を確保するために保護者から分離するというようなことで,一時的に保護するための施設でございます。全国に124か所ありますというようなこと,あるいは一時保護の具体例としまして,ここに書いてありますとおり緊急の保護,この中にはイにありますとおり,虐待,放任等の理由によりその子どもを家庭から一時的に引き離す必要がある場合ということになっております。また行動観察をするため,あるいは短期に様子を見るためといったような形でも使われているところであります。  下の方にありますとおり,対応件数(一時保護所内保護件数),こういう表現をとっております。実は一時保護,自ら児童相談所がやって一時保護する場合と,例えば小さいお子さんなんかで言うと,乳児院という施設があるのですけれども,そこに一時保護委託する場合,あるいは病院に一時保護委託する場合,そういったケースもありまして,ここの数字はあくまでも一時保護所で保護している年度の件数でございまして,総数で1万9,220件というような中で,虐待は,括弧書にありますとおり,7,674件というようなことで,一番虐待のケースが多いということであります。ちなみに先ほど申し上げました一時保護委託の件数,7,674に該当する数字が3,195件というようなことで,年間1万件程度の一時保護を行っているということになっております。  8ぺージでございます。児童相談所における虐待ケースへの対応の手順というもので示させていただいております。左から,通告,あるいは場合によっては虐待をしている保護者の方から直接相談されるケースがあります。通告・相談を受けて,受理して,調査して,判定をして,援助の実行に移る。この際,この手順にそぐわないケースであれば,下の方にありますとおり児童の一時保護というようなことで,速やかに一時保護を行うという取扱いをしているところであります。  また,児童相談所201か所と申し上げました。なかなかそれだけでは対応できないので,市町村の協力を得てやっているというようなことで,市町村との連携,役割分担による対応という形でやらさせていただいているということであります。  9ぺージでございますけれども,児童相談所の体制,児童福祉士の数というものを載せさせていただいておる。御参考でございます。  10ぺージ,児童相談所における虐待相談の経路別件数の推移ということで,率的に多いのは,大体同じ率14%程度でございますけれども,左端の家族,それから一つ飛んで近隣知人,それから一つ飛んで福祉事務所,それから右から四つ目の警察等ということで,それぞれの率としましては同じ率でございますけれども,14%というようなことで,ここからの虐待相談の経路別ということになっております。  次の11ぺージでございます。虐待防止法等に基づきまして,児童相談所は,行政権限として家庭への立入調査ということができることになっています。20年度に立入調査した件数は148件ということで,数字的には減っております。この辺の考え方,後ほど申し上げますが,行政権限に基づく立入調査をやった件数はこういうことだと。これ以外に,いわゆる家庭訪問,通常のルーティンでやっている家庭訪問というのが別にありまして,そういった形でやられるというようなことであります。  12ぺージでございますけれども,先ほど言った一時保護の件数とか,その理由とか,虐待が一番多いというようなことを表しております。  また,次のぺージの13ぺージでございますけれども,虐待相談への対応ということで,左側がどういった形になったかというようなことになっております。例えば20年度でいうと,総数が4万3,291件ということで,一番多いのは面接指導ということで,いわゆる児童福祉士,児童相談所におる職員の指導ということになるわけでありますけれども,ここで御注目いただきたいのは,施設入所等3,880件ということで,相談を受けた9.0%が施設入所につながっている,こういうことになっているわけであります。また,右側につきましては,施設種別ごとに見たそれの内訳,こういう状況になっております。  次の14ぺージでございますけれども,これは強制措置ということで,親子分離して児童福祉施設に入所させる必要がある場合に,保護者の同意をとってやるわけでございますけれども,なかなか同意を得られないというようなケースについては,家裁の承認を得て強制的な入所措置ができる,こういう規定が1点あります。表にありますとおり,28条による施設入所措置の承認申立という統計数字でございますけれども,直近の数字で言うと230件請求があって,承認が173件,75%,こういう数字があるわけでありますけれども,必ずしもこの230と173の差が却下されたということではございません。児童相談所は,親子分離をするわけでございますけれども,親子の再統合に向けた取組みというのも必要でございまして,可能であれば同意入所に持っていくというような形で,28条の申立てをしながらも,やはり親御さんの説得ということをやっております。そういった意味で,取下げというのもこの中にあると考えております。ただ,私どもが持っている統計では,そこまで数字が出ていない,こう御理解いただけたらと思っております。  また,右端でございますけれども,児童相談所長は児童福祉法に基づいて親権喪失の申立てができるとなっております。ただ数字的には,例えば20年度で3件請求しました。承認されたのが2件という形になっておりまして,ここが使い勝手が悪いのではないかという議論の一つの根拠になっているのかと思っておるところであります。  また,先ほど立入調査の件数が落ちましたということを申し上げたわけでありますけれども,例えばここの28条の施設の申立ての件数というのは,言い方は悪いのですけれども,増えているということは,いろいろなケースが増えてきていると考えているところあります。  15ぺージでございますけれども,施設入所の話を申し上げました。そういった社会的養護の現状について1表でまとめたものでございます。上にありますとおり,施設ではなくて御家庭でお預かりする里親制度というのもあります。それから,施設としましては乳児院,児童養護施設等,ここに掲げているような施設がございます。児童の現員,これをすべて足すと大体4万件ということで,4万人のお子さんが社会的養護という形の中で生活を送られているということでございます。  16ぺージでございますけれども,地域の虐待防止のシステムということであります。冒頭,先ほど市町村で協議会を設けて関係機関と連携しながらやっていますということを図式したものであります。  17ぺージ,今申し上げた協議会の設置状況の推移等を掲げさせていただいている。  18ぺージにつきましては,その果たすべき機能という考え方を図式したもの。  19ぺージとしまして,冒頭乳児の死亡数が多いと申し上げました。発生予防と早期発見・早期対応のための連携ということで,左側は乳児家庭全戸訪問業務(こんにちは赤ちゃん事業)ということで,生後4か月までのお子さんの家庭に市町村として訪問していただく。そういった中で,養育環境等を見ていただいて支援につなげていく。必ずしも虐待であるわけではありませんけれども,御家庭で困っておられるようなものを拾ってきて,協議会で協議をした上で,右側の養育支援訪問事業というようなことで,専門職の方が育児とか家事とか養育能力を向上させるための支援を行うという事業についても取り組み始めているところであります。  20ぺージは,虐待防止対策関係予算ということで,簡単に書いておりますが,いずれにしましても発生予防,早期発見・早期対応,それから親子分離が必要な場合はするわけでございますけれども,自立に向けた保護あるいは支援体対策の充実ということで,これらを切れ目なく対策を充実していくということが必要かと思っておるところでございます。  21ぺージ以降は,前回の虐待防止法の改正の概要でございます。一番上にありますとおり,16年の改正法で,実力行使を伴うような立入調査等について検討しなさいとなっていたかと思います。こういった改正法の附則等々に基づきまして,超党派で改正案がまとめられまして,19年に成立,20年4月から施行されておるところであります。  主なものについては,1番の児童の安全確認等のための立入調査等の強化ということで,二つ目でございますけれども,解錠等を伴う立入調査を可能とする新制度,こういうものを設けたということであります。  内容については,22ぺージ,これは20年度に1年間について把握できた事例でございます。児童相談所,これはまた解錠等を伴う強制的な措置ということで,お子さんの安全確認がずっとできない,保護者の方を何度訪ねても扉もあけてくれないというようなケースを想定しているわけでございます。児童相談所ということは,家庭訪問をしますというようなことで,何回もチャンジしてもなかなか会えないというケースについて,知事名で出頭要求をかける,それからまた調査権限を持った立入調査を行う。これについても拒否されるということで,そういう場合には再出頭要求を経て,裁判官への許可状の請求をして,臨検・捜索ということで,解錠等を伴う実力的な立入調査ができるという仕組みができたということでございます。  右側にありますとおり,対象事例それぞれ出頭要求は28ケース,再出頭まで至ったケースについては3ケース,最後の立入調査まで行ったケースについては2ケース,こうなっております。2ケースについて,この数字の評価というのは当然あると思います。またその前段階の出頭要求のケース,28ケースあるわけでありますけれども,こういったものの新しい制度の適用も念頭に置いて,我々は児童相談所に対して子どもの安全確認,安全確保を前提とした対応をしていただきたいということを,常日ごろ申し上げておるところであります。  23ぺージ以降は,今申し上げた一連の制度の事例でございますので省略させていただきままして,27ぺージでございますけれども,同じく19年改正によりまして,面会・通信制限の強化ということも織り込まれたところであります。一時保護,同意入所等,強制入所等,いわゆる28条でございますけれども,この三つについて,一時保護と同意入所等につきましては,従前は面会・通信制限ということはなかったわけでありますけれども,改正後についてはこれができることになっております。また,強制入所等の場合につきましては,改正前から面会・通信制限があったわけでありますけれども,改正後はその面会・通信制限がかけられているケースにつきまして,つきまとい,はいかいを禁止する命令が出せる仕組みが取り入れられたということになっております。  また,右側の面会・通信制限の下に※が書いてあります。接近禁止命令が必要な場合は強制入所へ移行ということで,28ぺージ,次のぺージでございますけれども,流れの中でそういったことが必要になってくれば,一番上のところでありますけれども,28条の申立てをしつつ,裁判所の保全処分というような形で,現に28条の入所措置になっていなくても,保全処分としてつきまとい,はいかいの禁止命令も出せる仕組みが取り入れられたということになっております。  29ぺージ以降は,冒頭御説明申し上げませんでしたが,20年に「児童福祉法等の一部を改正する法律」が成立しております。21年4月から施行されておるわけであります。この中で,趣旨に書いてありますとおり,「子どもと家族を応援する日本」重点戦略等を踏まえて,子育て支援について一生懸命やっていこう,あるいは地域や職場における次世代育成支援対策を推進していこうという形で,いろいろな柱が立っております。その中で,例えば29ぺージの1「児童福祉法の一部改正」ということで,子育て支援事業等を幾つか法律上位置付けさせていただいております。  その中で,(1)の@,Aの全戸訪問事業というのが,先ほど申し上げたような事業でありますということで,法律上位置付けまして,市町村について努力規定を設けて推進しておるところであります  30ぺージでございますけれども,同じく児童福祉法の改正の中でございますが,困難な状況にある子どもや家庭に対する支援の強化ということで,里親制度をもっと増やしていこう,あるいは小規模住居型児童養育事業ということで,これはファミリーホームと称されているものでありまして,ちょっと大型の里親というようなイメージでよろしいかと思うのですけれども,そういったものも法定化する,あるいは要保護児童地域対策協議会も機能を強化するといったようなことで,この中で虐待対策についてもこの法律の中に織り込んで成立をいただきまして21年4月から施行されているというようなことであります。  以上,駆け足で大変申し訳ないのですが,全般的な虐待防止対策ということで御説明申し上げました。いずれにしましても,我々関係機関等と御協力をいただきながら,全力を挙げて虐待防止対策を推進していきたいと考えておりますので,何とぞ御理解のほどをよろしくお願い申し上げます。 ○野村部会長 どうもありがとうございました。  それでは,ただいまの杉上幹事の御説明につきまして御質問がありましたらお願いします。いかがでしょうか。特によろしいでしょうか。  それでは,後ほどフリーディスカッションのところでまた必要があれば御発言いただくことにしたいと思います。  次に,小田幹事から児童虐待に関する家事事件の概況について御説明をいただきます。よろしくお願いします。 ○小田幹事 それでは,参考資料の3−1ないし3−3に基づいて御説明いたします。  児童虐待関連事件としては二つございます。児童福祉法28条関連事件と,親権喪失関連事件でございます。その動向と実情についてかいつまんで御説明いたしますが,主に親権喪失関連事件についてお話しいたします。  資料の3−1は,児童福祉法28条事件の動向などに関するものでございます。主な部分について数字を指摘していくにとどめたいと思っております。  まず3ぺージでございますが,28条1項事件の事件数でございます。今杉上幹事から御説明がありました厚生労働省の資料の14ぺージ記載の件数とは少し異なるようでございます。申立件数が10年間増加を続けているということ,それから21年が11年の2倍となっていることが読み取れます。  その後は28条1項事件の分析でございます。例えば6ぺージは,虐待の態様別件数でございます。ほかに虐待者別件数,8ぺージにいきますと審理期間別件数というものでございます。  9ぺージでございます。都道府県への保護者指導勧告についての件数でございます。平成21年については,もともとの認容された事件,施設入所者措置承認審判申立が認容された事件で,家庭局で把握できた事件でございますが,それが152件ございます。そのうちの20件,率にすると約13%の事件について保護者指導勧告がなされております。これは,平成16年の児童福祉法改正に伴って導入された制度でございますが,それ以降毎年十数%にわたる事件で利用されております。  10ぺージ以下でございますが,児童福祉法28条2項事件に関するものでございます。これも平成16年の児童福祉法改正により,施設入所措置期間に2年という期限が定められたことに伴って導入されたものでございます。  10ページで事件数ですが,21年の新受件数は92件となってございます。  11ページ以下,28条2項事件関連でございます。例えば,これも児童の性別と年齢別件数や,次のページですと終局区分別件数,ほとんどが認容で終わっているというようなところでございます。  先ほどと並びを見ますと,13ページですが,都道府県への勧告件数でございます。これも,先ほどと母数は同様でございます。家庭局で把握できた認容事件が77件ありましたが,そのうちの22件で,率にすると28.6%になりますが,保護者指導勧告がなされております。  最後,15ページでございます。特別家事審判規則18条の2による審判前の保全処分事件の事件数動向でございます。先ほど杉上幹事からの御説明の中にもありましたが,当初は面会・通信の制限,その改正後の現在はつきまとい,はいかいの禁止という形の保全処分になってございます。新受件数は20年,21年といずれもゼロとなっております。  それでは,参考資料3−3に基づいて親権喪失関連事件について御説明いたします。こちらも,まず司法統計,先ほど参考資料3−1では省略しましたが,数字に関しては司法統計によるものと家庭局による実情調査によるものがございます。参考資料3−3の1ページ,親権喪失に関する,こちらは司法統計でございます。この司法統計ですが,親権喪失事件だけではなくて,管理権のみの喪失事件,それから親権,管理権いずれもの取消事件すべてを含むものとなっております。ただ,取消申立事件は相当少ない実情でございます。この資料記載の数値も,ほぼ親権喪失又は管理権喪失のものと考えております。こちらの資料のとおり,新受件数は年間100件を超えたところでございますが,終局,既済件数のところでございます,取下げにより終局する事件が多く,認容される事件はいずれの年も年間20件前後にとどまっております。  次に,実情調査に基づく数値の御説明をいたします。2ページ以下にまいります。実情調査としては,平成21年1月1日から12月31日までの既済事件について,家庭局で把握できた事案を分析したものでございます。2ページ上段の表のとおりですが,平成21年については,先ほど申し上げた司法統計上の既済事件総数111件すべてが親権喪失宣告申立事件となっておりまして,取消し事件はありませんでした。このうち74件が取下げにより終局しており,認容されたものは21件にとどまっております。  3ページ上段の表ですが,今度は申立人別の数値でございます。既済事件111件について,申立人と終局事由の別を取りまとめたものです。申立人別に見ますと,親族による申立てが大半を占めております。親族申立事件,合計105件ございますが,うち73件は取下げ,11件は却下で終局しており,認容は16件にとどまっております。他方,児童相談所長申立事件,一番下ですが,6件にとどまっております。そのうち5件は認容されており,1件のみが取下げで終局しております。  この111件について少し注釈をつけますと,例えば事件本人,親権喪失の対象である事件本人である親が,父と母の二人いれば2件,子どもが二人いれば2件と,そういう計算になっております。そうしますと,実質的な事件数ですが,70例になります。これを前提に,児童相談所長申立事案と親族申立事案について,それぞれの特徴を御説明いたします。  まず児童相談所長申立事件の特徴でございます。先ほど70例にまとめましたが,うち児童相談所長申立ては5例,全体にすると7.2%でございます。このうち申立人に代理人が選任されていた事例は,うち40%ですが,2例ございます。終局した5例のうち4例が認容されております。うち3例は性的虐待を理由とするもので,もう1例については未成年者が28条審判により施設入所した後,実母が施設職員に対する傷害脅迫事件よって服役し,出所した後も未成年者の福祉を害する言動があったことを理由としたものでございます。取下げにより終局した1件でございます。これはいわゆる輸血拒否事案でございます。審判前の保全処分の発令後手術が無事終了して,申立ての役割を果たしたということで本案が取り下げられたものと思われます。  次に親族申立事件でございます。70例のうち,親族申立事件は65例ございます。このうち申立人に代理人が選任されていた事例は25例,38.5%ございます。なお,今申し上げた親族が申し立てた事例のうち,未成年者が一時保護中又は施設入所中の事例が15例ございます。そうしますと,一定の場合においては児童相談所長が自ら申し立てずに親族に申立てを促している事案があるものと思われます。親族が申し立てた事例のうち,先ほどから繰り返し出てまいりますが,取下げにより終局した事例が45例と最も多くなっております。その理由としては,親権喪失事由がないものが多くございます。背景としては,この事件類型が夫婦間の紛争,親族間の紛争の一環として行われていることがあると考えております。そのため,親権者変更や親族関係調整調停事件など,より適切な手続をとってもらうということ,また親族間での話合いがつくことで取下げに至る事例があるものと思っております。他方,認容された事例は10例ございます。その理由は,身体的虐待,性的虐待のほか,親権者の所在は判明しているものの,長年にわたる養育放棄があることを理由としているものなどもございます。  以上御説明しましたとおり,親権喪失宣告が認容された事案は多いとは言えないと思われます。ただ,身体的虐待,性的虐待のほか,長期の養育放棄を親権の消極的濫用として認定したものなど,実務においては子の福祉の観点から親権喪失事由の有無の判断が定着しているものと思われます。児童相談所長からの申立件数は実質件数として5件にとどまっておりますが,性的虐待,それから先ほど申したとおり28条審判後も保護者の態度が改善されなかったもの,また医療ネグレクト事案など,真に親権を喪失させることが必要な事案について申し立てられているものと見受けられ,保全も含めるとそのすべてが認容されている状態でございます。他方で,申立ての大半を占めている親族申立て事件については,より適切な手続があるにもかかわらず,親権喪失宣告が申し立てられ,結果として取下げによって終わるものが多い状況でございます。また,冒頭に申し上げたとおり,親権喪失宣告等の取消申立て事態は非常に少ない状況となっております。  以上のような状況をみますと,法を適用する立場にある裁判所としましては,今後の見直し作業において見直しの対象となる制度の目的や,その必要性はもちろんのことですが,どういう形でかはともかく,親権を制限すべき事案を適切に選別できるだけの明確な要件,それからその制度が前提とする効果の在り方,このような点を明らかにしていただくことを期待しております。 ○野村部会長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの小田幹事の説明につきまして,御質問がありましたらお願いします。特によろしいでしょうか。  それでは,引き続きまして,次に大村委員から児童虐待防止のための親権制度研究会報告書の概要について御説明をいただきます。よろしくお願いします。 ○大村委員 東京大学の大村でございます。御指名ですので,少々お時間をちょうだいいたしまして,報告書の取りまとめに当たった者の一人として,その内容につき御説明をさせていただきたいと存じます。  研究会では,昨年6月から12月までの間に全部で9回の会議を開催いたしまして,児童虐待の防止等を図り,児童の権利利益を擁護するという観点から,親権に係る制度の見直しについて議論,検討を行い,本年1月に研究会としての報告書を取りまとめたところでございます。なお研究会では,この研究会等にあてられました各意見書なども,議論,検討の参考といたしました。  部会資料1の1にも記載されているところでございますけれども,報告書におきましては,冒頭で親権制度について検討にするに当たっての一般的な視点として,親権が子の利益のために行わなければならないものであり,児童虐待が親権によって正当化されないこと,またそのことが親権制度について検討したり制度を運営したりするに当たっての当然の前提とされなければならないということを確認的に記述しております。この点に関しましては,平成19年改正により,児童虐待防止法に親権者の責任についての規定が設けられておりますけれども,民法では820条で親権の義務的側面が定められているものの,それ以上に親権行使がどう在るべきであるといったことについての規定はございません。そのため,研究会では民法においても親権の義務的側面や親権行使に当たっての視点というのをより明確に規定すべきだとの意見がございまして,報告書でもそのような意見を紹介しているところでございます。  次に,研究会におきましては,初期の段階で,この部会にも加わっておられる豊岡委員ですとか磯谷幹事をはじめ実務家の方々から,児童福祉の現場でどのようなことが問題となっているのかということをお聞きしてまいりました。児童虐待等に関して,現在の制度では対応に苦慮するという事案を具体的に御指摘いただきましたけれども,報告書ではそれらの事案を幾つかの類型に整理してございます。  部会資料の2というのを御覧いただきますと,対応に苦慮する場合として指摘されている主な事案というのが出てまいります。ここには,報告書で整理した事案がそのまま抜き書きされております。  ちょっと御覧いただきたいと思いますが,事案Aは虐待等があり親権者に子を養育させるのは適当でないものの,親権喪失まで行うのはちゅうちょされる,そのような事案を挙げております。  事案Bは,施設入所中の児童等の監護教育に関する事項について,親権者が不当な主張をするため,施設長等による児童の監護に支障が生じているという事案を挙げております。具体的には,医療に関し日常的な投薬ですとか予防接種等を拒否するといった事案,あるいは教育に関し,無断で学校に退学届を提出するといった事案などが紹介されております。  事案Cは,親権者に精神上の障害等があり,子を適切に養育することが著しく困難であるけれども,現行の親権喪失の原因に該当するとは必ずしもいえないというような事案がこれでございます。成年被後見人等は,そもそも親権を行う者に該当しないと解されておりますけれども,そこまでいかないようなものでも親権を制限するのが適当な場合があるのではないかということでございます。  事案Dは,親権者が養育態度を改善しようとする,そういう姿勢を見せていないという事案でございます。  事案E,これはいわゆる医療ネグレクトの事案でございます。子について特定の手術をする必要があるのに,親権者が正当な理由なくこれを拒否して放置しているというような事案のことでございます。  事案F及びGは,施設入所中の児童や施設に入所していない未成年者が,自らの名義で契約を締結しようとしているのに対して,親権者がこれに同意しないために契約の締結ができないというような事案を想定しております。  事案Hは,年長の未成年者が,事実上親権者から自立しているような,そういう場合にも親権者が子につきまとったり,あるいはその周囲をはいかいしたりするといったものでございます。  最後の事案Iというのは,未成年後見人を引き受けてくれる者を確保することができないために,親権喪失宣告の申立て自体がちゅうちょされている,こういう事案でございます。  研究会におきましては,これらの事案に適切に対応することができるように手当てをすることが求められているという考え方に立ちまして,そのような観点から問題点の整理等を行ってまいりました。  研究会で取り上げた主な論点につきましては,部会資料の1を御覧いただきたいと存じます。「児童虐待防止のための親権制度の見直しに関する主な論点」という表題がついたものでございます。資料には○の印と●の印がついておりますけれども,○の印は主に民法に関係する論点,●の印は主に児童福祉法又は児童虐待防止法に関係する論点という整理でございます。本日は○の方の論点を中心に,適宜●の論点にも言及しつつ説明をさせていただきます。  この資料1の2に挙がっている論点は,いずれも親権を制限する制度に関する論点でございます。先ほど列挙いたしました事案,その多くについて言えることでございますけれども,現行制度では子の利益の侵害を防ぐという現実の必要性に応じた適切な親権制限が困難であるといえようかと思います。そこで研究会においては,現実の必要に応じて適切に親権を制限することができるようにするとの観点から,現行の親権喪失制度の見直し,親権の一時的制限制度の創設,施設入所等が行われている場合に親権を部分的に制限する制度の創設,そして親権の一部制限制度の創設といった論点を取り上げてまいりました。  まず,そのうちの現行の親権喪失制度の見直しについてでございますけれども,親権の濫用又は著しい不行跡という現行の親権喪失原因について,子の利益の観点を中心とした規定とすべきであるということでおおむね意見の一致を見ました。その上で,どのような規定にするかということにつきましては,次の親権の一時的制限の原因の定め方とも関連し,若干意見が分かれたところでございます。  また,申立人に子を加えるかどうかということにつきましては,子の意見表明権を保障するなどの観点から,これに積極的な意見があった一方で,子の申立てによって親権が制限された場合には,その後の親子の再統合が困難になるのではないかという指摘がされるなど,子の福祉の観点から慎重な検討を要するとの意見もあったところであります。  次に,親権の一時的制限制度についてでございます。この点につきましては,適切に親権制限をするためにこのような制度を創設することが考えられるということにつきましては,研究会としておおむね意見の一致を見ました。一時的制限制度の制度設計に関して意見が分かれましたのは,親権制限の原因の定め方についてでございます。報告書では,先ほどの親権喪失原因の定め方と併せてこれを分析して整理をしております。現行の親権喪失の原因については,申立てや審判の在り方が親権者を非難するような形になるので,その後の親子の再統合や親に対する指導の支障になることがあるといった指摘がされており,先ほど述べましたように子の利益の観点を中心とした規定とすべきだと考えられます。もっとも,親権の一時的制限制度を設ける場合に,制限するかどうかを判断するに当たって,親に対する非難可能性ですとか,帰責性の要素を考慮するかどうか,考慮するとしてどのように考慮するかという点については,様々な考え方があり得るところでございます。この点につきましては,親権の一時的制限制度と親権喪失制度との関係も踏まえて,よく検討すべき点だと考えられます。  なお,●の点になりますけれども,施設長等の児童の監護等に関する権限を親権者の親権に優先するものとするということによりまして,親権を部分的に制限するということが考えられる,こうした考え方につきましては,研究会としておおむね意見の一致を見たところでございます。具体的な制度設計に当たってはなお検討すべき論点があるところですけれども,この点は児童福祉法の問題と思われますので,本日はこの程度にとどめさせていただきます。  親権の一部制限制度を設けるということにつきましては,研究会内で意見が分かれたところでございます。この点については,仮に施設入所中の児童等について,ただいま説明いたしましたように施設長等の権限が親権に優先する,このようにした場合には,その制度によって適切に必要な親権制限をすることができるようになると考えられますので,更に家庭裁判所の審判により親権の一部を制限する必要が生じるということはあまり想定されないところでございます。  そこで,親権の一部制限制度を設けるべき必要性については,施設入所等がされていない子どもを主に念頭に置いて検討を行ってまいりました。研究会では,親権制限はできる限り小さいものにとどめるべきだとの観点等から,一部制限の制度を設けるべきだとの意見がある一方で,親権の一部を制限し,その一部の権限を第三者にゆだねるものとすると,権限の範囲等をめぐって親権者と第三者との間に紛争が生じ,かえって子の安定的な監護を害するおそれがあるといった懸念に立つ消極的な意見というのもありました。このように親権の一部制限制度を設けるかどうかにつきましては,積極,消極の両論が分かれたのでありますけれども,更に検討を進めるために,仮に制度を設ける場合の具体的な制度設計というのを想定しながら,その得失等と併せて検討するということにいたしました。  具体的な制度設計といたしましては,まず親権のうち身上監護権を全体として制限することができるものとするという考え方がありました。この考え方については,身上監護権全体を制限するため,子の安定的な監護を害しない範囲で親権の一部を制限することができるなどのメリットが指摘される一方で,このような制度では最小限度の制限とはいえないのではないかという問題点も指摘されたところでございます。  次に,個別具体的な事案において,実際に必要な部分を特定して制限をすることができるものとするという考え方もございました。この考え方につきましては,医療ネグレクトの場合ですとか,親が無断で退学届を提出するといったような場合に,親権の一部を必要最小限の範囲で制限するだけで事案に対応することができるといったメリットが指摘される一方で,制限されていない部分に関し不当な親権行使が繰り返され,結果として子の安定的な監護の実現を妨げるおそれがあるといった問題点も指摘されました。これらの考え方のほかに,家庭裁判所が同意にかわる審判をすることができるものとするという考え方ですとかと,親権監督人を選任することができるものとするといった考え方も提案され,報告書ではこれらの考え方の得失についても整理をしているところでございます。  以上が部会資料1の2に関する論点についての説明でございますけれども,3の論点は,親権を行う者がない子を適切に監護等するための制度に関する論点でございます。現行民法のもとでは,未成年後見人は自然人でかつ一人であるということが想定されておりますけれども,その引受手の確保が難しいとの指摘がされているところでございます。  3の最初の○の論点ですけれども,法人を未成年後見人に選任することができるものとするということについて検討をいたしました。成年後見制度では,既に法人による後見が認められているところでございますけれども,身上監護を中心とする未成年後見人の職務を法人にゆだねるのが適当であるかどうか,また未成年後見人としての適格性を有する法人が実際にどの程度あるのかといった点が主な論点でございます。この点につきましては,事実上自立した年長の未成年者の場合であれば,財産に関する権限の行使が主な職務となるということを考えますと,法人が未成年後見人の職務を行うというのが常に不適当というわけではないといった意見,例えば社会福祉法人が運営する児童福祉施設から自立した未成年者に親権を行う者がいないような場合には,当該法人を未成年後見人に選任するといったことが考えられるといった指摘もございました。  その次の●の論点でございますけれども,親権者や未成年後見人のいない児童等について,一定の場合に児童相談所長等において親権を行うことができるものとする,そういう制度の創設等に関する論点でございます。この点については,一定の範囲でこれを認めてはどうかという方向でおおむね意見の一致が見られましたけれども,具体的な制度設計に当たってはなお検討すべき論点が多々あるところでございます。この点は児童福祉法の問題と思われますので,これにつきましてもこの程度でとどめさせていただきます。  資料の頁をめくっていただきまして,4という数字がついた論点ですけれども,これはその他の論点ということで取り上げたものでございます。一つ目の●の論点は,平成19年に児童虐待防止法に設けられた接近禁止命令制度の在り方に関する論点でございます。この制度は,強制入所の場合のみを対象とし,都道府県知事が保護者に対して児童への接近を禁ずる制度でございますけれども,その対象を拡大することなどについて論点の整理を行いました。  二つ目の●は,児童相談所による保護者に対する指導の実効性を高めるための方策に関する論点でございます。報告書では,家庭裁判所が現行制度以上に保護者指導に関与することについての積極,消極の意見を紹介するなどしております。  最後の○でございますけれども,最後の○は懲戒権・懲戒場について定める民法822条を削除すべきかどうかということに関する論点でございます。822条につきましては,民法に懲戒権の規定があるということを理由に児童虐待を正当化しようとする親権者がいること,現在同条にいう懲戒場というのが存在しないことなどから,同条の規定を削除すべきとの意見があったところであります。当然このような意見も親によるしつけというのを認めないという趣旨ではなく,懲戒権の規定を削除したとしても子に対する必要なしつけは,民法820条の監護教育権に基づいて行うことができると解されるということを前提としております。  他方で,現在民法822条が規定する懲戒権も,子の監護教育に必要な範囲で認められているのにすぎませんので,この点について研究会の内部で,実質において何か大きな意見が分かれたということはありませんでした。ただ,子に対する親の教育やしつけの在り方につきましては,これは多様な意見があるところでもありますので,報告書では現在ある規定を削除することによって,どのような解釈がされることになるのかといった点,あるいは現在ある規定を削除することが社会的にどのように受け止められるのかといった点にも配慮しつつ,更に検討が深められることが期待されるとしております。  なお,懲戒権の規定の在り方につきましては,これを削除するという選択肢のほかに,規定は残しつつ必要な範囲を逸脱した懲戒が許されない旨を明記すべきだという意見もあり得るところでございますので,(注)でそのような考え方にも言及しております。  以上が報告書の概略でございます。なお議論すべき点が多々残されているほか,報告書では落ちているという論点もあろうかと思いますけれども,それらにつきましては当審議会において検討がなされることになると考えております。報告書はそのための資料として御利用いただければ幸いに存じます。 ○野村部会長 どうもありがとうございました。   ただいまの大村委員の御説明について御質問ございましたらお願いいたします。特によろしいでしょうか。  そうしますと,ただいまの大村委員の御説明からしますと,この部会で児童虐待防止のための親権制度の見直しについて検討すべき論点としては,部会資料1の1に関連しまして,民法にも親権の義務的側面や親権行使における視点についての明文の規定を設けるかどうかという点と,それから2,3,4に列挙されております○の論点,これらの点について部会として議論を進めていくということになろうかと思いますが,いかがでしょうか。 ○飛澤幹事 事務当局といたしましては,今部会長から御指摘のあったような論点ではないかと考えております。民法の親権に関する規定につきましては,児童虐待防止等の観点から,なお更に検討すべき論点がございましたら御提案いただければと思っておりますが,他方先ほども申し上げましたとおり,附則の関係で期限が平成23年4月と切られている点もございますので,差し当たりは今部会長から御指摘いただいた範囲で御検討いただくのが適当ではないかと考えておる次第でございます。 ○平湯委員 ただいまの論点の表の中で,●は当部会では取り上げないと,それは社会保障審議会の方の検討にゆだねるという御趣旨になりましょうか。そうするとすれば,そういう意味になりましょうか。 ○飛澤幹事 では,ただ今のご質問について,まず,事務当局の方から御説明申し上げます。平湯委員から御指摘がございましたとおり,基本的には●のところは社会保障審議会で議論されるべきと思っております。ただ,当然こちらの○の関係,つまり民法の関係の議論をするに当たって,やはり全く無関係というわけではございませんから,こちらの検討をするに当たって必要な限度で当然審議の俎上に上るものと理解しておるところでございます。 ○杉上幹事 先ほど説明し忘れた点でございます。児童福祉法等の改正について,私どもの考え方,進め方でございますけれども,社会保障審議会の中の児童部会の中に専門委員会を設けることが2月の部会で決定しております。今月中には1回目の専門委員会を開催したいと考えております。また,論点の○と●との関係でございますけれども,今飛澤幹事から御発言あったとおりでございまして,全く無関係ということはございませんが,中心に私どもとしては●をやりつつ,関連あるものについてはこちらの部会と連携をとりながらやっていきたいと考えております。 ○平湯委員 おおむねそれで了解いたしましたが,もともとが民法とそれから児童福祉行政関係法規の関連というのができがよくなかったことは否定できないと思われますので,重なる部分は両方で一応は検討の対象にして,主たる議論はどちらでやるかということで振り分けていただきたい,それが相当ではないかと思うものであります。 ○野村部会長 今の点についていかがでしょうか。 ○大村委員 平湯委員の御意見もごもっともだと思って伺っておりました。これは研究会で議論をしたときには,児童虐待防止のための親権制度の見直しということで,民法にも関わる点がございますし,児童福祉法あるいは児童虐待防止法にも関わるということで,当初はこれは民法だとかこれは児童福祉法だとかということを仕分けずに問題全般を検討したところでございます。ただ,これを制度に落としていくときには,民法の規定を改正すべきものと児童福祉法や児童虐待防止法等の規定を改正すべきものがあるということで,検討は全体として整合性がとれるようにということでやったつもりでございますけれども,具体的な立法に当たってはそれぞれの審議会で他方の状況を見ながら整合性をとってやっていただけたらよいのではないかと考えているところでございます。 ○野村部会長 最終的に民法の条文をどう改正していくかということで,こういう論点が整理されておりまして,もちろん完全に二つに分けられるというような性質のものではありませんので,両方の関係をにらみながら民法の規定の中身を考えるというのがここの部会の審議の方向だと思いますので,事務当局からの御説明あるいは大村委員からあったようなことで,一応中心はこの○ということで,当然それに関連してくる問題については●のことも議論に乗せていただいて結構ですし,その間の矛盾がないような形で調整していくというのは当然必要だと思いますので,そう御理解いただければと思いますが,よろしいでしょうか。  ほかの点で,いかがでしょうか。  それでは,これからの審議の方向といいますか論点については,先ほど飛澤幹事からも御説明がありましたように,ただいまの議論のような形で当面進めていく。これは議論の進展によって多少修正の余地は出てくるかもしれませんけれども,とりあえずは先ほど申し上げたような論点の整理に従って議論を進めていくということで,よろしいでしょうか。  どうもありがとうございました。それでは,いったんここで休憩しまして,その後フリーディスカッションに移りたいと思います。          (休     憩) ○野村部会長 それでは定刻がまいりましたので議論を再開したいと存じます。  フリーディスカッションということで行いたいと思いますけれども,ただ,その前に,この部会の設置が決定された先日の法制審議会の総会では,このたびの諮問に関する審議・調査について幾つかの意見,要望が出されておりますので,それをまず事務当局から紹介していただくことにしたいと思います。 ○飛澤幹事 フリーディスカッションの最初に,話題提供の意味も含めまして,去る2月5日の法制審議会の総会におきまして,本件の諮問に関しまして大きく五つほど御意見,御要望をいただいておりますので,それを御紹介させていただきます。  1点目は,今後のこの部会での検討の在り方に関するものでございます。すなわち,今回児童虐待防止等の観点から親権制度を検討していただきたいということですけれども,その検討に当たりましては,親権制度の基礎にある家族というものの在り方についても議論してもらいたいという御要望がございました。なかなか難しいテーマであるのは承知しているけれどもと御発言された委員御自身がおっしゃっておられましたが,この点も念頭に置きつつ御議論いただければと思っております。  2点目は,親権喪失等の申立人に子どもを加えるかという論点についてのものでございます。仮に申立人に子どもを加える場合には,例えば子どもに意思能力があればいいのかどうか,それとも一定年齢以上の子どもに限るべきかどうか,そういった幾つかの選択肢が考えられるところですが,その点をよく検討してもらいたいという御要望がございました。  3点目は,法人による未成年後見に関するものでございます。特に民間の法人が後見人となった場合に子どもの利益が侵害されるおそれがないのかどうなのか。そのようなおそれがあるとした場合には,その防止策についてもよく検討してもらいたいという御要望がございました。先ほど大村委員からも御紹介がありましたとおり,研究会でも議論された論点ですが,具体的にどのような法人に未成年後見人としての適格性があるのかという観点からの御指摘ではないかと考えておりますので,この点の審議をする際にまた御議論いただければと思っております。  4点目は,懲戒権の規定の削除に関するものでございます。懲戒権に関する民法第822条の規定は,正当行為による違法性阻却を規定する刑法第35条の適用場面において大きな意味を持っていることから,民法第822条の削除について検討する際には,同条の削除が刑法第35条による違法性阻却の範囲に影響を及ぼさないのかどうなのかという点にも配慮してもらいたいという御要望がございました。  5点目は,検討の在り方に関するものであるかと思いますけれども,外国の制度を見ていくというのも当然だけれども,それにとどまらず,日本の状況をきちんと見据えて検討してもらいたいという御要望がございました。  総会委員からいただきました御意見,御要望は以上のとおりでございます。 ○野村部会長 どうもありがとうございました。   ただいまのような意見,要望があったということも踏まえて今後の審議をしてまいりたいと思います。  それでは,委員・幹事どなたからでも結構ですので,御自由に御発言をお願いしたいと思います。 ○磯谷幹事 磯谷でございます。研究会にも参加をさせていただいて,いろいろ議論に加わらせていただきました。その結果の報告書が,先ほど大村委員から御紹介がありましたけれども,私たちにとって,特に私は児童虐待について現場で長く関わってきましたけれども,そういった視点からしますと本当に有り難い画期的なことだと考えています。この親権制度の見直しというのは,私ども現場で関わってきた弁護士にとって,少し大げさに聞こえるかもしれませんが悲願のようなところがありまして,それが正にこの法制審議会で議論されるということは本当にうれしいことだし,有り難いことだと思っています。  今日はフリーのディスカッションということでございますので,この審議会で議論すべき内容ということでは必ずしもありませんけれども,若干最近考えるところをお話しさせていただきたいと思います。それは,「児童虐待」という言葉のことであります。「虐待」という言葉が,実は親を非常に傷つけて,かえって児童相談所の指導に素直に従えないような心境にしていたり,無用のトラブルを生んだりしていると思うことがこのところ多くあります。  例えば一例を挙げますと,児童虐待でいわゆる児童福祉法28条の申立てをするケースがございました。そのケースで,親は争っているのですが,何を争っているか。それは決して保護の理由がないと主張しているわけではなく,自分たちの養育の限界というのも理解している。しかし「虐待」と言われたことが許せない。「虐待」と言われたことで,自分たちは争わざるを得ないということで争うことがございます。  それからまた,場面は変わりますけれども,例えば今面会・通信の制限などをすることが児童虐待防止法上できることになっておりますけれども,その要件もやはり「児童虐待」と書いてある。そうすると,例えば児童相談所も面会・通信を制限する場合に,なぜだと問われると,それは児童虐待だからだよ,あなたが虐待をやっているからだよということを言わざるを得ないという構造になっている。そうすると,これまたそこで無用のトラブルを招くということになります。  そういったようなことを考えると,法律上「児童虐待」ということを言葉を使う,あるいはそれを要件にするということが,本当は少し考え直す必要があるのではないかと思ったりしています。確かに「児童虐待」という要件あるいは言葉を使いますと,公権力が介入する正当化としてはとても分かりやすいのだろうと思っています。しかし一方で,その言葉によって今申し上げたような難しさ,困難さということを引き起こしてしまうということを考えますと,もうそろそろ「児童虐待」という言葉を超えた制度,子どもの福祉というものを中心にした制度というのを少し検討していく必要があるのではないか。と申しましても,私に何か知恵が今あるわけではございませんが,そういったことを最近少し考えております。 ○野村部会長 どうもありがとうございました。ほかに。 ○大村委員 今,磯谷幹事から用語の問題が出ましたので,そのことについて私の感想を一言だけ申し述べたいと思います。実は「児童虐待防止法」という名前の法律は最初,1933年にできておりますけれども,このときに「児童虐待防止法」という名称にするかどうかということは議論の対象になっております。当時は児童虐待というのは余り露骨なので児童愛護法というような名前にした方がいいのではないかという意見もありましたけれども,これに対しては,児童虐待というのは社会問題だということを社会一般にはっきりと認識してもらうためには,やはり虐待というのを前面に出してネーミングするのがよろしいというのが立法に関与された穂積重遠先生の強い主張でございました。それに基づいて「児童虐待」という言葉が採用されたとされています。その法律自体は戦後児童福祉法に吸収される形でなくなってしまったわけですけれども,そういう経緯がございます。当時はサーカスに売られるだとか物乞いをさせるとか,そういうふうなものが虐待として想定されておりました。今日では虐待の外延というのは非常に広がってきておりますので,「虐待」という言葉を使い続けるのがいいのかどうかというのは,正に磯谷幹事の御指摘のとおりだろうと思います。「もうそろそろ」と磯谷幹事はおっしゃったのですけれども,確かにもうそろそろということはあるかもしれませんけれども,スタートのときには今申し上げたような問題意識であったということだけ申し上げておきます。 ○平湯委員 言葉の問題からちょっと外れますけれども,私は12年前の児童虐待防止法,現行法の制定されたときから参考人などの形で国会で発言させていただいたことも何回かありまして,その当時は行政法を改正する,つまり児童福祉法を改正する,あるいはそれの特別法である虐待防止法をつくるというところまでしか社会の関心もといいますか,国会の関心も向かわなかったためにといいますか,そういうことで今の枠組みができたわけでございますけれども,今回民法を点検するという状況になって非常に有り難い,磯谷幹事も言われましたけれども,実務の現場についても非常に有り難いことだと私も思っております。  その上で,最近の様々な悲惨な虐待の報道事例などに接するたびに思いますけれども,社会では虐待というものについての意識といいますか,親権というものに対する,あるいは親の権限と立場というものに対する意識といいますか,そういうことについての社会啓発というのが非常に大事なのだ。まだまだ大事なのだということを最近の報道は物語っているのではないか。そういうことから,民法の総則規定の手直しは是非必要なのではなかろうかと思います。今度の報告書で一般的な見解として最初にそれを指摘していただいたのは非常に有り難いことだと思いますけれども,虐待ではないと思っている親に虐待だということを説明しつつ親権を説くのではなくて,社会の一般の関心の及ぶところ,民法の条文として懲戒というのは,あるいは親権というのはこうなのだということを民法の条文に書き込むことが,啓発としても非常に大事なのだと思っております。  二つ目に申し上げたいのは,その上で具体的な民法の親権制限規定を改正する,制限の仕方を更に増やすということの中で,このたびの報告書の中でAからIまでの事例を指摘して,これを議論の前提にして報告書ができた。中身についてはいろいろ注文がございますけれども,そういうスタンスというのは非常に有り難いことだと思います。この部会の審議でもAからIまでの事例について,本当にどういう制限の仕方が実効的であるのか,また法的な安定を得られるのか。そのスタートとして,素材としてこの事例を踏まえていただくということが非常に大事なことではないかと思います。  三つ目に申し上げたいのは,これは民法の条文の改正とは違うかもしれませんけれども,支援ということの重要さを申し上げたいわけであります。虐待についてはいろいろな立場の方が,親に支援をしつつ,家族に支援をしつつ防止に努める。そういう大きな社会的な関心の中での民法改正でありますけれども,民法改正というのは,形の上では親権の制限ではないか,親を縛るものではないか,そういうことしかやってないのかと誤解も含めて受け止められてしまっては,民法改正の実が生きないのではないか。申し上げたいのは,家族に対する支援をしてこそ制限の根拠が,正当化の根拠が出てくるのではないか。そういう関係にあるということを,この部会の審議そのものの中で社会によく分かっていただくような審議をしていただきたい……いただきたいというのはおかしいですけれども,それが大事ではないかと思っている次第でございます。 ○野村部会長 ありがとうございました。ほかに御発言。 ○松原委員 松原でございます。法律関係は全く素人ですから,法律的には非常識なことを言うかもしれませんが,御存じのように虐待というのは厚生労働省の統計ですと養護相談の内数になっております。大体養護相談件数の半分ぐらいが虐待ということで区分をされておりますが,では残り半分というのは一体何なのか。ここを精査してみますと,区分けの仕方によっては今の概念でも虐待に分類されてもおかしくないようなものがかなり入っているのかなと考えております。例えば養護相談の分類の中に家庭環境というのが入っているのですけれども,ではその家庭環境というのを追っていったら,そこに,ネグレクトや,特にネグレクトに近い部分というのがある。そういう実は虐待って我々すっと言葉で切りやすいのですけれども,そこの区分がなかなか今確定できない中で,「虐待」という言葉をキーワードにしながら親権のことを検討するのだということを前提にしなければいけないなと考えております。  もう一点は,先ほどから「もうそろそろ」という言葉が出ておりますので,私も「もうそろそろ」という言葉を使わせていただきたいのですが,虐待と十把一からげで規定していいのかどうか。つまりネグレクトと性的虐待というのを一緒の枠組みの中で考えていくことが適当なのかどうか。そのかぎ括弧つきの虐待の中身をきちっと,そういった周辺部分,養護相談も含めてきちっと客観的に吟味できるような正に制度設計がないと,子の親権の制限という議論がなかなかできないだろうと思いますし,平湯委員の発言にも関わりますが,そういった中ではいわゆる公的な介入制限が必要な部分と,支援という形で対応していくのが適切なケースも多々あるかと思いますので,やはり十把一からげに虐待ということでアプリオリに何か議論をしていくということについては,少し注意が必要かなと思います。  あと細かい,では親権を制限するときにはどんな課題があるかということについては,もう少し先の議論になりますので,今日は入口のところだと思いますので,このことを発言させていただきます。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。今いろいろかなり一般的なお話,御発言が多かったのですけれども,「虐待」という言葉の問題あるいは民法の中での親権の定義規定を置くかというような問題は,これから議論をするに当たって,言ってみれば総論的なお話ということで意識的にそういう御発言されたかと思いますけれども,そういう観点から余り御意見がないということでしたら,もう各論的な意見についても,御意見をお出しいただいて結構です。もちろん今後も御発言の機会はあると思いますけれども,先ほどの大村委員からの説明に使われました部会資料1で○のついている論点についても,御意見がありましたら自由に御発言いただければと思います。 ○大村委員 各論に入る前に,意見ということではないのですけれども,先ほど厚生労働省と最高裁の方から,現在の実情ですとか対応についての御説明をいただいたところでございますけれども,1,2質問させていただきたいと思います。ここにいらっしゃる方は専門の方が多いので,先ほど御質問が出なかったのだろうと思いますけれども,議事録が公開されて国民の皆さんにどういう状況で何が議論されているのかというのが伝わっていくということがありますので,あらかじめ確認しておいた方がよいこともあるのではないかと思ってお尋ねする次第です。  まず,厚生労働省の資料の5ページなのですけれども,「虐待を受けた子どもの年齢構成の推移」という資料をいただいております。この中で,小学校入学前の子どもが42%で高い割合を占めているという御説明がありました。それはそうなのだろうなと伺いましたけれども,他方で高校生その他,かなり年齢の高いところにも一定程度の虐待というのがあるということで,これはどういうものなのかということについて少し補足説明をいただけたらと思います。これが1点です。  もう一つは,最高裁から出していただいた参考資料3−3について小田幹事から御説明があった点なのですけれども,70件というのを母数にしてその内訳について御説明があったところでございます。親族申立ての例というのがそのうちの65件で,取下げが45件で認容は10件だったという説明だったと伺いました。違っていたら直していただきたいのですけれども,そうすると残り10件が却下ということになるのかと思うのですけれども,却下されたものの内訳というのでしょうか,どういうことで却下になったのかということについて,少し補足の御説明をいただければなと思います。以上が2点目です。 ○野村部会長 それでは,まず先に杉上幹事から。 ○杉上幹事 ただいま大村委員から,5ページの高校生というのは一体どんな虐待だということでお話がありました。これ以上の統計数値があるかどうかちょっと確認しますけれども,大きくなったからということで親の支配から逃れられるかというと,必ずしもそんなことは多分ないと思います。率的には6.2%というふうな非常に小さい数字にはなっていますけれども,あるということが統計の数字にあらわれておると思います。また,例えば,これは豊岡委員の方からもし何か補足があれば,現状としてこんなのがあるということで御紹介いただけたらと思いますけれども,例えば性的虐待みたいな話というのは大きいお子さんの見付かる率というのはあるのではないか,そのようにも思っているところであります。 ○野村部会長 豊岡委員,御発言ございますか。 ○豊岡委員 補足説明のようになりますけれども,年齢の大きいお子さんは,性的虐待というのは確かに割合が高くなってきます。性的虐待の特徴といいますと,これは大きい子に限るわけではなくて,実は性的虐待というのは小学生のころから始まっている事例が多いです。それが表に出てくるのが,自分が世間ではあり得ないことをされていたのだという意識ができるようになってくる。それが小学校高学年,中学生,高校生で出てきます。高校生くらいになってくると親の虐待や支配からどうやって逃れたらいいのかというような悩みも持ってきます。その後,児童相談所の対応として,子供の精神的なケアというのが非常に難しくなってくるということもございます。 ○松原委員 私いつもこの数値を見て指摘するのは,これは児童相談所が把握したときの子どもの年齢ですので,例えば小学生の低学年のときに把握をされた子どもも,実はそこで探っていくと就学前から虐待をされた。今の豊岡委員の御発言にありましたように,性的虐待でも,随分前からされていたのに本人が言い出せるまで時間がかかって,把握された年齢がここですので,この数値というのはそういう意味合いで理解をすべきだと思いますし,ここでの議論というよりは厚生労働省の議論かもしれませんが,我々が早期発見,対応に努めていけば,この子どもの年齢区分は下に下がってくると私は考えております。 ○野村部会長 ほかによろしいでしょうか。それでは小田幹事の方から。 ○小田幹事 10件すべてというわけではありませんが,幾つか親族申立てで却下になった事案の概要を御説明いたします。  一つは,先ほど総論として申し上げた中にもございますが,そもそも親権喪失という申立て自体が客観的に適しているのか疑問がある事件,あるいは,親族紛争の延長といった事件があるようでございます。要するに,今の親権喪失の要件である,親権の濫用であり著しい不行跡にそもそも当たらないというのも親族申立ての中にはあるようでございます。  それからもう少し踏み込んだものとしては,例えば事件本人,これは女性のようですが,男性と交際している。申し立てている親族によれば,そのような交際をしているから養育放棄をしているという主張のようですが,裁判所の判断としては最終的に養育放棄ではない。要するに親権喪失原因ではないという判断をしたものもあるようでございます。  今二つほど例を挙げましたけれども,正確な数では把握しておりませんけれども,そもそも濫用的申立てとも言えるものと,ある程度中身に踏み込んで最終的に喪失原因はないとしたものの二つはあるようでございます。 ○野村部会長 よろしいですか。 ○大村委員 どうもありがとうございました。最初の方は,高校生その他という内訳がどういうものかというのは明らかになった方がいいだろうと思って御質問しました。後の方については,現在の制度が必ずしも機能してないといわれるわけなのですけれども,その機能しない部分がどこなのかということを考えていく必要があるのではないかと思います。要件が厳格に過ぎるがゆえに,その要件を満たすかどうかという判断の点で却下されたという事案があるのだとすると,要件を緩和すればそれらが認められるということになるのだろうと思いますけれども,今日の御説明を伺っていると,必ずしもそうではないような気もするのです。そうだとすると,要件が厳格に過ぎるということがどう作用しているのか。裁判所に行くと却下されてしまうというのではなくて,申立てそのものをちゅうちょさせる原因になっているのかもしれない。そうだとするならば,そういう実態を明らかにした上で,その点を是正するような形で立法していくことを考えるべきではないかと思って質問させていただきました。 ○野村部会長 ほかに御発言いかがでしょうか。ございませんでしょうか。  先ほど平湯委員から総則に規定をというようなお話をちょっと伺ったのですけれども,それは親権についての内容というか定義規定みたいなものを置くという御趣旨ですか。民法の総則という意味ではないのですね。 ○平湯委員 違います。親権の総則的規定。822条であるとか,その辺をきちんと改正するべきではないか。報告書では,最初のところで理念としてといいますか,考え方としてまずそれはそのとおりだと。ただ条文化するかどうかはいろいろ議論の余地もあるという書き方になっていて,その後の方を申し上げたわけであります。条文としても,やはりきちんと書くのが社会啓発上必要ではないかという意味でございます。 ○野村部会長 分かりました。ほかに,本日自由に御発言いただきたいと思うのですけれども,いかがでしょうか。 ○松原委員 個別のところに入ってよろしいということで,研究会での議論での詳細を少し教えていただきたいのですが,12ページあたりに一時的に制限をするとしたらということで幾つかこういうことと書かれてあります。このことに関わって,一律的に期間を定める方法と,案件によっては家庭裁判所が個別に定められる方法をとってもいいのではないかというのが研究会の御意見だったと思うのですが,一律的にというときにはどのぐらいの期間というのが議論になっていたのでしょうか。例えば児童福祉法の28条は2年という期間を定めておりますが,それとの整合性とか関連性も含めて,恐らく御議論はあったのかと思いますので,そのあたりの研究会の詳細を教えていただければ有り難いのですが。 ○森田関係官 私も研究会の方で議論させていただきまして,当時正に私の方でちょっと発言をさせていただいたことでもあるのですけれども,一つは先ほど大村委員からも御紹介いただいたとおり,親権制限をするときにどういう事案を前提に議論をするかということで,大きく分けて,施設入所等をしている場合とそうでない,施設外の子どもの場合というのが考えられると思われます。そのうち施設入所で親権を停止しなければならないというような事案というのは強制入所になっていることが多いのかなと。そうしますと,今松原委員から御指摘いただいたとおり,強制入所の期間との関係が問題となってくるだろうということで,2年というのは一つ目安になるのでは……目安というのは上限の目安になるのかなという感じをしていました。そういう御議論だったと思っています。ただ,その運用を考えますと,強制入所をまずした上でうまくいかないのでということで,強制入所中に親権の一時的制限の申立てがされるとすると,2年より短いことが想定されるのかなという気もしまして,それは1年,2年あたりが一つの目安かなとは思っていますが,一律で1年,2年というのはちょっと長いかなというような御意見もあったふうには記憶をしているところでございます。 ○松原委員 28条の場合に更新手続というのが設計されておりますが,それとの関連では何か御議論があったのですか。 ○森田関係官 更新の関係では,必ずしも制度的にリンクさせるかどうかというところはあると思うのですが,研究会報告書でも,民法でも再度の申立てで一元化するのか,期間の更新というような制度を設けるのかというのは両論あるかというあたりで,それ以上詰めた議論はなかったのですけれども,一時的に親権を制限する場合の期間の満了日を施設入所の満了日と合わせることで,二つの手続で両方を更新するかどうかとか,そういう判断が,制度上一元化されるかどうかは別として,そういうことで時間を統一するという考え方はあり得るのかなという議論だったかと思います。 ○松原委員 ありがとうございました。 ○野村部会長 御意見いかがでしょうか。 ○水野委員 これも,もうここにおいでの先生方には十分お分かりのことだと思いますが,研究会に私も参加しておりましたので,そこで今御発言のありました期間制限の件につきまして,一番悩んでいた前提について一言お話をしたいと思います。  先ほど法制審の総会の方でも,ここで検討する検討の在り方として,諸外国はそうであったとしても日本の状況を見て判断をしてほしいという御指摘がありました。どのような御趣旨かについてはいろいろな意味があるのだろうと思うのですけれども,我々が研究会で議論をしたときに一番苦悩しておりましたのは,正にその日本の状況ということでございます。つまりこれについて諸外国,西欧諸国は親権行使に介入するときには,行政権が親権という個人の重要な権利を制限するわけですから,その際に司法の関与をかませるという制度設計をしております。一時保護の場合には,日本の場合は2か月間上限で親子を切り離せるわけですが,その間2か月,司法の許可を得ずに公権力が親子を切り離すというような例は,恐らく先進諸国の立法にはないのではないでしょうか。しかし,一時保護を全部司法を潜らないとできないということにしてしまいますと,現在も裁判官の数の圧倒的な少なさであるとか,あるいは正に現場で苦しんで子どもを救うことを担当されている方々の数も,これもまた圧倒的に少ないわけで,その司法の許可を得るために費やされるエネルギーと時間というものが,結局は子どもたちを助けなくてはならないという,正にもっとも必要な現場の働きに対するボトルネックになってしまわないかということを危惧いたしました。  そういう意味では,子どもを救済するために必要な人力が圧倒的に足りていない。先ほどから御意見がありましたように,子どもを救うためには親子ぐるみで救わなくてはならないわけですが,でもそのときの支援の手というものが圧倒的に足りない。児童臨床心理士という専門家が諸外国ですと多量に現場にいて助けているわけですが,そういう態勢にもなっていない。専門家の数も圧倒的に足りないというような,そういうすべてにおいてインフラが不備である状況のもとで法律を見直すことの苦悩を抱えておりました。そういう意味では,どれだけの期間制限を考えるかということにつきましても,そういう苦しみを抱えながら議論をしていて,恐らくこの法制審での議論もそういう苦悩を抱えながらすることになるのだろうと思います。法律を議論しつつ我々の社会に本当に欠けているものは何なのかということは,ここにいらっしゃる,特に現場で苦労していらっしゃる方々は十二分に承知でいらっしゃることなのだと思いますけれども,この場でも,確認のために何度かは発言していただく必要があるかと思います。 ○野村部会長 どうもありがとうございました。   ほかの委員・幹事の方,御発言いかがでしょうか。 ○小池幹事 九州大学の小池です。細かい質問になるのですけれども,部会資料の1番の研究会報告書でまとめられた主な論点の1ページの一番最後の●の「親権を部分的に制限する制度の創設等」についてです。これは前提として施設入所等の措置又は一時保護が行われている場合という限定がかかっていて,この場合は民法の親権制限には乗せないという前提で書かれているのですね。それはなぜなのかということを,今水野委員もおっしゃいましたけれども,家裁の負担とかそういうことを考えてこちらに持ってきているのか,あるいは先ほどもちょっと議論がありましたけれども,児童福祉というスキームで考えていて,親権制限ということを前面に押し出したくないということでやっているのかとか,そういう背景事情を御説明いただければと思います。 ○飛澤幹事 では,まず,私の方から回答させていただきますが,なお補足いただくかもしれません。今小池幹事から御指摘のあった部会資料1の1ページ目の一番下の●ですけれども,施設入所等の措置がとられている場合には,児童福祉法47条2項がありますが,これによる施設長の権限と親権との優劣が必ずしも明確ではないといった問題意識のもとに,それでは少なくとも施設長の権限が親権に優先することを明確化するような枠組みをつくりましょうかといったことを議論したものでありまして,施設入所等の措置がとられたという一事をもって一切民法上の親権喪失制度の利用を排斥するという趣旨ではございません。ですので,こういった施設長の権限が優先するということでは,なお対応が難しいというケースはあるものと考えられまして,研究会報告書の11ページの注18あるいは注19あたりで若干言及されておりますけれども,こういったような事案については,施設入所中であってもなお民法上の親権制限の制度が利用できるべきであるし,そのように制度を仕組むべきではないかと考えている次第です。  なお,注19にも書かれていますとおり,仮に児童福祉法の方で施設長の権限が親権に優先することを明確化する制度を設けた場合,優先するのが一方で明らかになっているのに,民法上親権喪失なり親権の一時的制限,一部制限を求める利益があるのかという,審判の利益みたいなものが問題となり得る可能性がありますけれども,そういった利益がないということにはならない方向で研究会では議論されていたところでございます。この点は,この法制審議会でも御議論いただきたいと思っている論点の一つでございます。 ○窪田委員 今の部分なのでございますけれども,私も研究会に参加させていただいていて,認識がすべて共有されているかどうか分からないのですが,この部分については,見出しが親権を部分的制限する制度の創設となっていますので,今の小池幹事の御質問も出てきたと思うのですが,これに関して主として議論していたのは,本来持っている親の親権そのものは特に制限せずに,したがって親権はある状態のまま,それに対して施設長の権限が優先するという形で,事実上親権の方は劣後するという枠組みであったかと思います。その意味では,親権そのものをいじるわけではなく,施設長の権限の位置づけということになりますので,その意味で●ということになったのだろうとは思います。  ただ,そうは言いつつも,親権は全く影響を受けずに施設長の権限が優越するだけなのだと理解するのか,そうではなく,劣後するということ自体が親権に対する事実上の制限なのだと考えるのであれば,やはり民法の問題としての性質も持っているということになると思います。これは職掌の管轄で,議論するようなことではないのかもしれませんが,特に本日の審議会でも最初に御指摘のあった点とも関連しますが,厚生労働省の方でしていく作業と,こちらの方の作業で特に整合性をきちんと確保しなければいけないという点の一つなのだろうなと認識しております。 ○大村委員 お二人の方がおっしゃったことに余り付け加えることはないのですけれども,小池幹事の御指摘の中には幾つかの問題が含まれていたかと思います。まず一つは,窪田委員がおっしゃったように,これ自体も結果として親権を制限するということになるということは確かなのだろうと思います。その意味で児童虐待防止のための親権制度の見直しという研究会の枠内で扱ったわけです。ただ,制度としてこれをどこに置くのかということになった場合に,それは民法の規定としてではなくて,児童福祉法なら児童福祉法の規定の効果を明らかにするという形で規定を置くということになるだろうということで,●という形で整理をしているということだと考えます。  小池幹事の御指摘の中のもう一つの問題としては,そもそもこのようなやり方でよいのかということがあると思うのです。民法の方で制限をするということならば,それは裁判所が関与する形で制限することになるけれども,それがなくてよいのかということになるのだろうと思います。この点につきましては,施設入所等の方で既に一定のコントロールが加わっており,それを前提に法が施設長等に権限を与えている。ここまでは明らかであるわけですが,それを前提にした上で,その与えられた権限が実効的に行使されるためには,法の趣旨からしてその限度で親権は劣後することになるだろう。ただ,この解釈論は必ずしも自明でないので明文化することが必要なのではないか。そういう考え方に立っております。 ○野村部会長 よろしいですか。ほかに御発言はいかがでしょうか。まだ時間は十分ございまして,大体4時半ぐらいを予定しておりますので。 ○窪田委員 ではすみません。大変に抽象的で漠然としたことということでございますけれども,自由に今日は話してよろしいということと伺いましたので,少し問題を確認しながらお話をさせていただきたいと思います。  先ほど「虐待」という言葉を使うかどうかという問題が御指摘がありましたけれども,恐らくそれは単に言葉の問題だけではなくて,一体「虐待」という概念をどのように理解するのかとか,その外延をめぐる問題があるのだろうと思います。先ほど,法制審議会の部会設置に際しての要望についてのご説明があった中で,特に懲戒権の規定の削除というのが仮に考えられるとすると,それが刑法の違法性阻却事由との関係でどう位置付けられるのかについても,よく検討するようにという御指摘があったかと思います。それとの関係で言いますと,児童虐待防止法の14条2項でしたか,親権を行使する者であるということだけによって責任が免れるわけではない,親権者だというだけでは免責事由にはならないという規定が置かれていたかと思います。ただ,これは大変にデリケートな問題になるのだろうと思いますが,親権者であるということだけでは違法性や責任は阻却されないけれども,親権を適切に行使しなければいけないという同条1項の規定もあって,その1項の規定に該当すればなお違法性阻却の対象になるし,該当しないということになれば違法性阻却にならないという枠組みを残してしるものと理解しています。ただ,何を長々と申し上げているかといいますと,児童虐待防止のための親権制度の見直しといった場合には,「児童虐待」という概念がもう先行してあたかも決まっているかのような印象もあるのですが,しかし,「児童虐待」という概念が先に決まっていて親権制度を見直すかどうかということだけではなくて,恐らく親権の行使がどのように在るべきなのかという問題があり,そしてそれから外れるものが今度虐待として認識されていくというように,相互に流動的な絡み合ったような問題状況があるのだろうと思います。  本日の課題ということで,部会資料の1の3ページに挙げられていることで,懲戒権・懲戒場に関する民法822条を削除することの要否・可否ということについては,親権の在り方自体が非常に多様な問題を抱えているので,研究会の段階でも具体的にはその点については個別的な結論を出さないという方向であったと思うのですが,実際にこの言葉を,あるいはこういった規定を削除するかどうかということだけではなくて,その問題を意識しながら議論をせざるを得ないのではないのかという感じを持っておりますので,そうした点を踏まえて検討していただけたら,あるいは検討していきたいなと思ったということでございます。 ○野村部会長 ほかに御発言はありますか。いかがでしょうか。今日の段階ではもうよろしいということでしょうか。 ○平湯委員 手順のことなのですけれども,今日なかなか御意見が出にくいのは,やはり1日目ということがおありではないかと。次回以降の議論の順番とか,それはこれから御説明いただくのだと思うのですけれども,それで発言の心づもりといいますか,それがあると思いますので,その辺をよろしく。 ○飛澤幹事 ただいま御指摘がありましたので,今後の,特に中間試案までの進め方について,もう少し御説明をさせていただきたいと思います。  当初申し上げましたとおり,次回と次々回の会議でまず,特に○の論点の関係について一読をしたいと思っております。そして,6月の第4回会議でヒアリングを行いたいと考えております。ヒアリングの関係は,今後なお詰めていこうと思っているのですが,現在考えておるところを申し上げますと,医療ネグレクトの問題が重要なテーマの一つだと思いますので,その医療ネグレクト関係に御造詣の深い先生からお話を聞こうと思っております。また,家庭福祉の関係,児童虐待と家族の在り方を含めた児童虐待一般についても専門家からヒアリングをしようと考えております。そのほかにも,施設関係の人あるいは施設外の関係の人で適任者からヒアリングができればということで検討を進めているところです。  その後,7月初めの第5回会議で,一応一読を踏まえた中間試案のたたき台みたいなものを御提示して御議論いただき,7月下旬の第6回会議で中間試案の御決定をいただきたいと考えております。中間試案ですので,当然,意見がいろいろ出された部分については,それを併記するような形で表記し,それをパブリックコメントに付して一般からの御意見を聞いてみたいと考えているところであります。  次回及び次々回の会議で予定している一読ですが,まず次回の会議では,主として親権喪失制度の見直しとか一時制限,あるいは一部制限のあたりの論点を,次に,次々回の会議では,法人による未成年後見とか懲戒権の関係,それからそもそも論として親権行使についての在り方について民法に総則規定を入れるかどうかといった点も含めて御議論いただければと考えております。何か御意見があれば頂戴できれば幸いです。 ○森田関係官 飛澤幹事の方から説明があったとおりでございますが,平湯委員からも御指摘があったように,正に御議論いただくためのたたき台を資料として事務当局の方でつくらせていただいて御議論ということになるかと思うのですが,差し当たって次回につきましては,部会資料1の2の親権制限のあたりを今順次事務当局の方で作成している状況でございます。  先ほど,大村委員から,要件の方が問題なのか効果の方がというようなお話もあったのですが,他方,小田幹事からは,裁判所で判断する場合に,要件をある程度明確にしてもらわなければいけないというような御要望もあったところです。多分今の民法の規定は,要件自体は親権喪失に限らずかなり抽象的にあり,懲戒権の方につきましても多分必要な範囲でということで,かなり広い要件を書いて,そこでその時々の社会通念に応じた対応を裁判所でできるようにということになっているのだろうと思っております。資料を作成するに当たってどういう考え方で原案をつくるのが御議論のために資するのかなというところでちょっと迷っているところですが,そのあたりについて,また御意見をいただければ有り難いと思っているところでございます。 ○野村部会長 いずれにしろ事前に資料としてお送りするということで,今森田関係官の言われた論点の整理といいますか,たたき台みたいなのが送られるということで,それをもとに審議会では御議論いただくことになると思いますので,今日は1回目ということでフリーディスカッションということで,そういう形では用意しておりませんけれども,次回からはそのような形で進めていきたいと思っております。 ○平湯委員 そのいただく資料と別に,こちらの方でメンバーの方で皆様にお諮りしたい資料といいますか,そういうのがあった場合に,余り数が多いと御迷惑でしょうけれども,そういうのも配っていただくということは可能でしょうね。議論の時間の節約になるかと思いまして。 ○飛澤幹事 そういった御意見については個別に判断させていただきますが,少なくとも事前に御相談,御送付いただければ,なるべくは皆様にお示しさせていただく方向で考えたいと思っております。 ○野村部会長 ほかに御発言,よろしいでしょうか。  それでは,予定していた時間はまだ前なのですけれども,特に御意見がないということでしたら,本日の議論は以上にしたいと思います。  今後の議事日程について,先ほども御説明がありましたけれども,特に次回について事務局の方から。 ○飛澤幹事 それでは,次回の議事日程等について御連絡申し上げます。日時は,4月23日(金)午後1時30分から開催したいと思いますので,よろしくお願いします。また,次回の会議場は,東京高等検察庁第2会議室になりますので,お間違えのないように願いたいと思います。  そして,先ほども申し上げましたとおり,次回の会議から具体的な論点の検討に入りたいと思います。会議の1週間前には資料を御送付いたしますので,よろしくお願い申し上げます。 ○野村部会長 それでは,法制審議会の児童虐待防止関連親権制度部会を閉会にさせていただきます。本日は御熱心な御審議を賜りまして,誠にありがとうございました。 −了−