法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会           第15回会議 議事録 第1 日 時  平成22年2月26日(金)  自 午後1時31分                        至 午後5時14分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  非訟事件手続法・家事審判法の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○伊藤部会長 予定の時刻になりましたので,法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会の15回会議を開催いたします。御多忙のところ御出席いただきまして,ありがとうございます。   配布されている資料につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○脇村関係官 それでは,御説明いたします。   本日配布しております資料は,事前に送らせていただきました非訟事件手続法・家事審判法部会資料14「家事調停手続に関する検討事項(1)」でございます。内容につきましては後ほど御説明させていただきます。 ○伊藤部会長 それでは,本日の審議に入りたいと存じます。   前回は,部会資料12及び12−2の「第27 監護者の指定その他子の監護に関する処分」まで終わりましたので,本日は,「第28 婚姻取消し又は離婚の場合の財産分与」から審議を行いたいと存じます。   そこで,まず「第28 婚姻取消し又は離婚の場合の財産分与」から「第30 扶養義務を設定する審判の取消し」までの説明をお願いします。 ○波多野関係官 それでは,御説明いたします。   「第28 婚姻取消し又は離婚の場合の財産分与」の「5 その他」について,破産管財人の当事者適格を明文で認めるべきであるとの御意見及び分与対象財産についての開示義務を定め,開示命令制度の創設を検討すべきであるとの御意見をいただいております。   破産管財人の当事者適格につきましては,財産分与を請求する当事者が破産した場合には,財産分与請求権が破産財団に属するか否かの解釈によることになると考えております。また,財産分与の請求を受ける当事者が破産した場合には,財産の管理処分権が破産管財人に専属していることと,財産分与請求権の性質,家事審判手続の性質などから,破産者本人を手続から排除することが適切かどうかが問題となると考えております。したがいまして,破産法等の解釈が問題となると考えておりますので,家事審判法に財産分与について破産管財人のみが当事者となるという明文規定を置くことは,現時点では考えていないところでございます。   開示義務及び開示命令制度につきましては,事務当局といたしましては前回御審議いただきました第26の6で御説明いたしましたとおりでございますが,更にそことは観点が違う御意見があれば承りたいと存じます。   「第29 扶養義務の設定」の「1 調停の可否」について御説明いたします。   調停の対象事件が何であるのかについては別途検討することとしておりますが,現時点では,扶養義務の設定については調停することができない事項についての審判とすることを考えております。これは,扶養義務の設定が申立人と扶養義務者との間の合意によって処理することが相当ではないと考えられることによります。ただし,扶養義務の設定の審判によりまして扶養義務者は義務を負うことになりますので,扶養義務者から陳述を聴取することによって扶養義務者の手続保障を図ることを提案しております。   「第30 扶養義務を設定する審判の取消し」の「2 陳述聴取」では,扶養義務を設定する審判を取り消す場合には,扶養権利者においては扶養の権利が消滅することになりますので,扶養権利者の手続保障の観点から陳述を聴かなければならないものとすることについて検討することを提案しております。   以上でございます。 ○伊藤部会長 それでは,順次審議をお願いしたいと存じます。   まず,「第28 婚姻取消し又は離婚の場合の財産分与」の「その他」の関係でございますが,破産管財人の当事者適格を認めるべきであるという御意見がございますが,分与者あるいは分与を受ける者のいずれの破産の場合にもいろいろ難しい問題があって,ここで明文の規定を設ける形での検討をするのは難しいのではないかというような説明がございました。   まずこの点に関して御意見を承りましょうか。 ○増田幹事 今,波多野関係官からお話があったとおり,破産財団に属する財産上の請求権であるということはほぼ間違いはないのだろうとは思います。しかし,手続的にそれが明確になっておらず,解釈にゆだねられていることから,言われているような難しい問題が起こるのではないかとも考えられるわけです。分与を受ける側が破産した場合には,分与請求権自体が破産財団に属する,そして分与を受けた財産は当然債権者に対して配分されなければならない,そういうものだろうと思いますし,もっと難しいのは,分与する側が破産した場合に,分与請求権が破産債権になるところ,この場合にどういう手続でやればいいのか,という点です。つまり,破産法の査定手続が優先するのか,あるいは家事審判手続が優先するのかといった問題が生じるのではないかと思っております。そのあたりを明確にする上で,手続法である家事審判法の方に明文を置くことはそれなりの意義があるのではないかと考えております。 ○伊藤部会長 ただいまの増田幹事からの問題提起及び意見の内容について,ほかの委員・幹事の方はいかがでしょう,あるいは事務当局でなお説明するところがあれば。 ○波多野関係官 増田幹事から御指摘いただきましたように,多分場面は二つ考えられるかと思います。財産分与を請求している当事者が破産した場合は,その財産分与請求権自体が破産財団に属するか否かというところで,財産分与請求権の性質について,慰謝料部分があるとか扶養的な部分があるとかの考え方によって,そのすべてが破産財団に属すると考えてしまっていいのか,若しくはその一部についてはなお破産者本人に管理処分権が残っているのか,手続をするに当たっても破産管財人のみが財産分与の請求権を行使する手続を行っていいのか,若しくは破産者である財産分与を請求する者もその手続に関与させるべきであるのか,一概にここで決めてしまえるのかどうかというところについて難しい問題があると考えているところでございます。   さらに,財産分与を請求される方が破産した場合については,今おっしゃったように手続をどの手続でやるのかというところは,議論もなかなか進んでいないところかと思われまして,少し難しい,ここで家事審判手続でやってしまうと言ってしまっていいのか,それとも破産手続の方で優先的に何かをした上で,どこかの段階で家事審判手続を使うということになるのか,そこは少し難しい問題があるのではないかと考えているところでございます。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか。 ○山本幹事 事務当局が言われるとおり,これはかなり難しい問題で,遺産分割はまた別だと思うのですが,とりわけ財産分与のところは非常に難しい問題だと思っています。この御意見の中で,財産分与は詐害行為取消権の対象になり得る財産行為であると記載されていますが,これも判例の読み方で,判例が言っているのは財産分与に仮託した財産処分になる場合には詐害行為取消しの対象になると言っているのだと思いまして,財産分与それ自体は,むしろ原則は身分行為であると言っているようにも見える判例で,それは理解の仕方はいろいろあるところだろうと思っています。そういう意味で,この財産分与請求権は直ちに破産管財人の管理処分権が及ぶ財産上の請求権と言えるかどうかということは一つ問題があり得る。   実際に財産分与がお金とかで入ってきた場合に,それが破産財団に属するかどうかというのはそれとはまた別の問題であり得る。例えば慰謝料については最高裁はそのような理解をしているのではないかと思います。ですから,財産分与を求める訴訟なり審判の手続の当事者適格をどう考えるかということと,財産分与,実際にお金が入ってきたときに財団に属するかどうかということが同じである必然性も必ずしもないという印象を持っております。   それから,この問題が更に難しいのは,離婚訴訟の付帯請求で財産分与がされるような場合に破産した場合,そうすると財産分与のところに当事者適格が移転をするとなると,離婚訴訟が中断するのかということも問題になります。恐らく中断するというのは適当な処置ではないとは思うのですが,管財人に当事者適格を認めた場合にどうなるのかということは必ずしもよく分からない部分があるような気がします。そういう意味で,恐らく破産法の議論でもここは少なくとも両説あり得るところのような気がして,この場で立法としてどちらかに決めを打つということは時期尚早というか,必ずしも適当ではないような印象を私自身は持っております。 ○伊藤部会長 ほかにいかがでしょうか。どうでしょう。   問題の所在とか,山本幹事がおっしゃったような財産分与に仮託した病理現象,詐害行為的な行為があるというのは恐らく共通の認識で,何らかの形でその解決が求められていることも争いがないかと思いますが,ただ,この部会でこれらの事項との関係でそこまで行くのは難しいように感じておりますが,いかがでしょう。問題の所在や,将来において何らかの場面で検討しなければいけない事項を御指摘いただいたということで,できれば先に進ませていただきたいと思います。―それではそうさせていだたきます。   それから,関連することですが,開示命令制度に関しては何か更に付け加えて御発言いただくことはございますか。 ○増田幹事 以前に婚姻費用等のところで申し上げたのと基本的には同じですので,更にこちらとしても要件,範囲,効力などを検討した上でもう一度お話しさせていただきます。 ○伊藤部会長 分かりました。ではそのようにお願いいたします。   引き続きまして,「第29 扶養義務の設定」で,調停の可否に関して,考え方は先ほど波多野関係官から説明があったとおりでございますが,これに関しての御意見があるようです。そこで,この場でも審議をお願いしたいと存じます。いかがでしょうか。補足説明の考え方は記載のとおりですし,また波多野関係官から説明があったとおりでございますけれども,これに関して更に御意見ございますか。 ○増田幹事 これも以前にほかのところで申し上げたかと思いますが,合意により調停を成立することができるかできないかということと,調停手続,つまり話合いの手続を設けるかどうかということはひとまず別の問題だと考えておりまして,そこの区分,そこの仕切りをどこで切るかという問題だと思います。ただ,先の話ですが「家事調停手続に関する検討事項」というのをこの間いただきまして,(その1)のところで同じような問題が出てきています。私がこう言うのは恐縮なのですけれども,そこのところでまとめて議論するということではいかがでしょう。これはほかの,例えば23条審判の問題とも絡むと思うのです。もともとは,審判手続をどのように構築するかという問題について,相手方のいる事件と相手方のいない事件とで分けるのか,調停することができるかできないかで分けるのかという仕切りから来たと理解しているのですけれども,合意により調停を成立させることができない事件を,もう調停手続そのものができない,付調停をする余地もないということになってくると,また少し別の論点が出てくるように思うのです。ですから,まとめてそのあたりで議論することでどうかと思いますが,いかがでしょうか。 ○伊藤部会長 ―よろしいですか。   それでは,この点に関してはひとまず御意見を承ったことにして,関連事項との関係で議論を続けることにいたしましょう。   それから,「第30 扶養義務を設定する審判の取消し」に関する陳述聴取で,扶養権利者の陳述を聴かなければならないものとするという点に関して何か御意見ございますでしょうか。 ○波多野関係官 この点も,現行法は,扶養に関してはすべて乙類審判事項で調停することができる事件と区分けされておりますが,扶養義務の設定を調停することができない事項にしまして,その取消しも調停できない事項の審判事件として事務当局としては整理しました関係で,必要な手続保障として陳述聴取の提案をしているところでございます。先ほどのお話で,調停することができるかどうかについて後ほどまとめて御審議いただくことになると思いますが,ただ,手続保障として一定の必要があるということで事務当局から提案させていただいているところでございます。その点について,御意見がいただけるようであればいただきたく存じます。 ○伊藤部会長 前提がどちらの考え方に落ち着くかということがやや不確定なところがございますが,その点は,波多野関係官から説明があったようなことで更に議論するとして,調停することができない事件として考えるという前提で,そういう前提をとった場合に手続保障を図るということ自体についてはいかがでしょうか。何か御意見ございますか。   では,この点はそういう留保付きの考え方が示されているということで,そうであれば特段の御異論はないというふうに承りましょう。   そういたしましたら,次に,「第31 扶養に関する処分」から「第33 推定相続人の廃除」までの説明をお願いいたします。 ○波多野関係官 御説明いたします。   「第31 扶養に関する処分」の「5 即時抗告」の(注)では,扶養に関する処分の即時抗告について検討することを提案しております。この点につきまして,現行家事審判規則第97条は利害関係人に即時抗告権を認めております。しかし,扶養に関する処分の審判事件は調停することができる事項についての審判事件でございまして,当事者の合意のみで調停することができますことを考えますと,当事者が即時抗告をしていない場合に当該審判を確定させ早期に事件を解決することが妥当であるとも考えられまして,当事者以外の者による即時抗告によって事件が抗告審に移審してしまうのは相当ではないとも考えられますことから,この点について検討することを提案している次第でございます。   同じような議論が,前回こちらに回していただきました「第24 夫婦の同居その他の夫婦間の協力扶助」の「5 即時抗告」の(注)でも当てはまるかと思いますので,あわせて御検討いただきたいと存じます。   「第32 扶養に関する処分の変更又は取消し」の「5 即時抗告」の(注)におきましても今の議論が一定当てはまるかと思いますので,あわせて御議論いただければと存じます。   「第33 推定相続人の廃除」の「1 調停の可否」について御説明いたします。   調停の対象事件が何であるかについては,先ほどのとおり後ほど検討していただきたく存じますが,現時点で事務当局としては,推定相続人の廃除の審判事件を調停することができない事項についての審判事件であると考えております。これは,廃除について当事者間の合意によって処理することをするのは相当ではないと考えていることによります。ただ,廃除の請求を受ける者につきましては,必要な手続保障を図ることが必要であろうと考えておりますので,廃除の請求を受ける者の陳述聴取を必要的とすることを提案しております。そのほかに手続保障として必要な規律がございましたら,御意見をいただければと存じます。   以上でございます。 ○伊藤部会長 それでは,まず「第31 扶養に関する処分」の5の即時抗告権者に関して,利害関係人を現行のように含ませるかどうか,事件の性質との関係でそれが合理的かどうかという点,あわせて,第24,第32について類似のことがございますので,一括して御議論いただければと存じます。いかがでしょうか。事務当局の考え方は今説明があったとおりで,調停ができる事件という事件の性質を考えて,第三者である利害関係人にまで不服申立ての機会を保障することがかえって紛争の解決にとって障害になるのではないか,そういう趣旨の説明がございましたが,どうでしょう。実務家の委員・幹事の方,学者の委員・幹事の方,それぞれのお立場からの御意見があろうかと存じますが。 ○長委員 私は,ただいま御説明された理由で原案に賛成したいと思います。 ○伊藤部会長 長委員からそのような御発言がございましたが,いかがでしょう。   三木委員,いかがですか。 ○三木委員 もしあれば伺いたいのですけれども,実務で現行規則のもとでは利害関係人からの即時抗告が可能ですけれども,そういう例,あるいは例がなくても,そういうニーズというのを教えていただければと思います。 ○長委員 利害関係人からの即時抗告があった例というのは特別聞いておりません。例えばほかの扶養義務者のことが問題になったとすれば,あらかじめそういう人を当事者として申立てをしているとか,途中で参加するとか,別に申立てをして併合するとか,そういうことで処理しているのが実際のようです。 ○伊藤部会長 ということですが,三木委員,いかがですか。 ○三木委員 現在はいろいろな手段を使って当事者として扱うことによって処理されていることですが,多くの場合それで問題なく行われているのでしょうが,それだけで十分かどうか,なおよく分からないところがございまして,現実の問題としてさほどニーズがないということはよく分かりましたが,抽象的にはなお当事者化されていない者にとって重大な利害が及ぶことがあり得るように思いますので,そこのところがいま一つ判断のつかないところであります。 ○伊藤部会長 一方で早期の解決という要請があること,これは争いがないところでしょうが,即時抗告権者の範囲を現行法より限定してしまうということについて,そこはやや慎重でなければならないという御意見も分かりますが,ほかの方はいかがですか。   田昌宏委員,いかがでしょう。ここは結局はどちらかに決めないといけない問題ですけれども。 ○田(昌)委員 現在の家事審判規則第97条で「当事者又は利害関係人」という形で,扶養に関する審判について利害関係人が挙がっておりますが,それは,なぜ挙がっているのか。該当するものがあり得るのではないか。審判によって直接自己の法的地位に影響を受ける者が仮にいるとするならば,安易に外すべきではないのではないかという気がいたします。 ○波多野関係官 現在の家事審判規則の利害関係人に一体どういう人が当てはまるのかというところですが,調査をしたところ,なかなかよく分からないのというのが正直なところでございます。考えられるのは,先ほど話が出ました他の扶養義務者とか他の扶養権利者とかいうあたりは考えられるのではないかと想定したところではございます。ただ,扶養してもらいたい人がいて,扶養義務者となるべき人が数人いるという場面で,一部の扶養義務者を除いて一部の者だけでも扶養の審判をすることができるというのが一般的な理解かと思われますので,その場合に,一部の除かれた者との関係ではその審判は,その人の権利義務関係を左右するものではなくて,物の本とかによると,除かれた人は一応後順位の義務者になると考えられるという考え方もあるところでございますので,そう考えると,ここで言う即時抗告をするべき利害関係人に当てはまってはこないのではないかと事務当局では考えていたところです。 ○伊藤部会長 ほかの方,いかがですか。 ○三木委員 他の扶養義務者の話が出たので,ついでに伺うのですが,他の扶養権利者が除かれている場合はどういう検討をされたのでしょうか。 ○波多野関係官 扶養義務者となるべき者が一人いて,扶養権利者が二人いるという場合は,他の扶養権利者が別事件として,扶養義務者に対して扶養の申立てをする際には,当然ほかに扶養権利者がいることも想定した上で,再度あるべき扶養の審判がされることになろうかと思います。ですので,即時抗告権者として利害関係があるということにはならないのではないかと考えていた次第でございます。 ○伊藤部会長 どうでしょう。先ほど長委員からの御発言もございましたし,この即時抗告の基礎となる利害関係を認めるべきものとしてどういうものがあるのかということについても完全な整理ができているわけではないように思いますが,現在の段階ではそこまでの利害関係を認めるべきものが直ちに想定できないということで,ここに掲げる原案の考え方で御了解いただいたものとして,ただ,これは是非不服申立てを認めなければおかしいということがあれば,またその段階で考え直すということでいかがでしょうか。一応こういう形での原案で御了解いただいたものとして,他の第24とか第32に関しても同様の取扱いでよろしゅうございますか。 ○道垣内委員 即時抗告権者については異論はないのですけれども,第31,第32という形の整理になっていますが,民法第878条のときの当事者と第879条のときの当事者は違いますよね。第879条の方は,扶養義務者と扶養を受ける権利のある者との間の協議にかわる審判,第878条というのは,扶養義務者間又は扶養権利者間の審判であるわけで,当事者は第878条と第879条でかなり違うのではないかという気がするのです。そして,第880条も第878条の変更・取消しのときと第879条の変更・取消しのときと分かれます。一つの条文になるというのだったら構わないのですけれども,仮に複数の条文にするのであるとすると,第878条と第879条で分けて,それぞれについて審判と取消し・変更という整理にしないと,当事者概念が分からなくなってしまうような気がするのです。これは全く整理の仕方の問題ですから,もし御検討いただければということで申しました。 ○波多野関係官 こちらの方でも整理して検討させていただきたいと思います。 ○伊藤部会長 御指摘ありがとうございました。   それでは,「第33 推定相続人の廃除」の「調停の可否」でございますが,これは先ほども発言がございましたが,一連の問題として更に別の箇所で検討を続けるということでよろしいでしょうか。 ○山本幹事 調停のことについてはそれで異論はないのですが,その手続保障との関係で,この問題についてはかねてから,竹下関係官を前にしてあれですけれども,むしろ人事訴訟にすべきではないのかという御意見が,兼子先生以来になるのでしょうか,そういう御意見が有力にあると承知しているのですが,そのような御意見はかなり説得力がある御意見のように思うのですけれども,そのような問題についてはまたどこかで議論がされるという理解でよろしいのでしょうか。それともここで議論がなされるべきなのでしょうか。 ○金子幹事 もしここで御意見をいただけるならいただきたいと思います。 ○山本幹事 今申したことに尽きるのですが,私自身は,人事訴訟にすべきであるという御意見は非常に説得力あるものだと思っています。非公開での審理が必要で公開審理は適当でないので非訟事件として残すべきであるという考え方をとったとしても,少なくとも手続保障は訴訟と同じレベルで,ここで議論されているところによれば,相手方のある事件の形で十分な手続保障が図られるようなものに実質的にはすべきではなかろうか。そういう意味では,意見としては資料に書かれてあることに賛成,必要的審問とか立会権とかいうことは必要ではなかろうかという印象は持っております。 ○伊藤部会長 竹下関係官,誠に恐縮ですが,もし何か御発言ございましたら。 ○竹下関係官 推定相続人の廃除事件を,この機会に人事訴訟とするか,審判事件にとどめるかの結論は,皆さんの御意見でお決めになって結構だと思いますが,私は,事件の実質から見て人事訴訟事件に改めるのが適当ではないかと考えています。  それは,まず,この事件の効果を考えてみると,推定相続人の廃除は,推定相続人の財産権を奪うという実体法上の重大な効果をもつからです。推定相続人が,相続開始前に有する権利は期待権にすぎないと言われますが,被相続人の死亡という事実は,何時生ずるかは不確定ですが,必ず生ずるものですから,被相続人が生前に全財産を処分してしまうという事態を別にすれば,相続人の期待権は,不確定期限付き財産権というべき,相当に基礎の確実な権利です。しかも,推定相続人の廃除が問題になるのは,被相続人が相当の財産を遺産として残すことが予定されている場合です。したがって,廃除が問題となる場合の推定相続人の権利は,もし廃除の時点で評価するとすれば,相当の財産的価値のある権利だというべきように思われます。民法も,それだからこそ,推定相続人を廃除できる場合を,法定の事由が存在する場合に限定しているわけです。他方,被相続人の方から見れば,推定相続人の廃除は,自分の財産を特定の推定相続人に相続させないことが許されるのは,法定の事由がある場合に限られるという,自己の財産の,一種の生前処分の制限の問題と見られます。このように,推定相続人の廃除事由は,一方では,推定相続人の財産権を剥奪することが許される事由であり,他方では,被相続人の財産の生前処分の自由を制限する事由ですから,その存否は,対審構造の下で,証拠に基づく事実認定を基礎として判断されるべきであると思われます。それには,推定相続人の廃除事件を人事訴訟事件として,人事訴訟手続で審判するのが適当であると思います。しかし,只今も申しましたように,皆さんの多数が審判事件にとどめるのが適当だというのであれば,それはそれで結構ですが,この原案ですと,推定相続人の陳述を聴かなければならないというだけで,対審性の保障はないのですね。しかし,審判事件にとどめるとしても,実質論として,対審性の保障まで必要なのではないかと私は考えます。ほかの委員,幹事の皆さんはいかがでしょうか。 ○伊藤部会長 今,竹下関係官から,紛争の実質に着目して,人事訴訟とすべきであり,仮に審判事件という形で考えるにしてもより手厚い手続保障を検討すべきではないかという御発言がございましたが,ほかの委員・幹事の方はいかがでしょう。 ○小田幹事 まず,仮に人事訴訟と考えたときに,人事訴訟であれば正に身分関係そのもの,離婚,認知又は親子関係不存在等で人事訴訟が構成されていると思います。そのときに,廃除されるということがそれと並びの権利関係としてどこまで同じレベルのものと言えるのか,ちょっと私自身も十分検討できていませんので分からないところはありますけれども,少々疑問を持っているところがございます。   それと関連することではございますが,この廃除については,廃除という一方通行だけではなくて,第894条にありますとおり,今の実体法では被相続人がいつでも廃除の取消しを請求することができる。廃除の場合には廃除原因があるのだと思いますが,この第894条を見る限りでは,客観的にその後こういう事情が出てきてからということではなくて,被相続人の意思一つで可能と読めるところであります。こういう観点からも,最終的には相続人となるべき地位も廃除を受けるということが身分法上どういう位置づけになるのかというのを慎重に検討する必要はあるだろうと思っております。 ○中東幹事 質問なのですが,この(補足説明)にあります「廃除原因の存在について合意があったとしても,調停を成立させるべきではない」ということは,これは今の話との関係でどうしてだと考えられているのでしょうか。 ○波多野関係官 廃除は相続人としての身分を失うという重大なものでございまして,生前の相続放棄が認められていないとかいうこととも関係して,当事者間だけで廃除権があるという合意によって生前の相続放棄と同様の効果を生じるようなことを認めるのは相当ではないという考え方があるのかというふうに理解しております。 ○中東幹事 ただ,遺言を書いている分をあらかじめ放棄しておけば同じことになりますよね。 ○道垣内委員 遺留分の放棄も家庭裁判所の許可が必要ですから。第1043条で。 ○伊藤部会長 ほかにいかがですか。 ○長委員 廃除される推定相続人に対して意見陳述の機会を与えるとか,あるいは廃除事由の存否を認定するための審問などを行ったときに廃除される推定相続人が立ち会うとかということは検討してよいことだと思うのですが,遺言執行者が申立人になる場合などと対比して考えたときに,常に対審構造になるのかどうかというところは,立会いをなるべく認めるような形で進めていければ,対審ということを明確に出さなくても足りるのではないかという感じは持っております。 ○杉井委員 この問題を人事訴訟で扱うか審判事項にするかということについてはいろいろな意見があるかと思うのですが,いずれにしても,審判事項としても,先ほど竹下関係官がおっしゃったように実質的に対審構造的な手続保障をする必要はあるだろうと思います。そういう意味で,陳述聴取あるいは即時抗告だけではちょっと不十分ではないかと思いますので,やはり立会権,審問権,そういうものも含めた手続保障規定を置くべきではないかと思います。 ○伊藤部会長 そういたしますと,これもそもそものところにさかのぼりますとなかなか難しい,解決が困難な問題かと思います。対審あるいは訴訟の手続によるべきものなのか,非訟・審判の手続によるものかということが問題の根本にはあるわけですが,この部会の解決の在り方としては,皆様の御意見を伺っておりますと,必ずしも対審ということではないけれども,しかし実質的な意味での手続保障,立会いや審問を受けるという地位あるいは手続上の権利を保障する方向で検討すべきだということまでは認識の一致があるかと思いますので,どういう形でどこまでそれができるかを更に事務当局において検討してもらうことにいたしましょう。   それでは,「第35 寄与分を定める処分」及び「第36 遺産の分割」に関して説明をお願いします。 ○波多野関係官 御説明いたします。   「第35 寄与分を定める処分」の「5 即時抗告」の(注)では,寄与分を定める処分に対する即時抗告権者について検討することを提案しております。   現行家事審判規則第103条の5は,相続人又は利害関係人は即時抗告をすることができると規定しております。なお,寄与分は遺産分割の前提問題でございますので,基本的には遺産分割の審判に対する即時抗告権者の範囲の議論が当てはまると考えております。したがいまして,遺産分割の審判の即時抗告権者について御議論いただく際にあわせて御議論いただければと存じます。   なお,寄与分については遺産分割の審判とは異なる要素があるという御意見がございましたら,あわせて御意見いただきたく存じます。   「第36 遺産の分割」の「7 即時抗告」の(注)では,遺産分割審判に対する即時抗告権者について検討することを提案しております。   現行家事審判規則第111条は,相続人又は利害関係人は即時抗告をすることができると規定しており,この利害関係人は,分割を実施するについて法律上の利害関係を有する者を指すと一般的に言われております。この点につきましては,調停をすることができる審判事項でございますので,当事者のみで調停することができることを考えますと,当事者が即時抗告をしていない場合には早期に事件を確定させてしまう方が妥当ではないか,当事者以外の者が即時抗告することによって抗告審に移審するのは相当でないと考えることもできるかと思われます。他方で,相続人や債権者など重大な法律上の利害関係を有する者もございますので,利害関係人を即時抗告権者とするという現行の規律を維持すべきであるとの御意見をいただいているところでございます。   「第36 遺産の分割」の「8 遺産分割禁止の審判の取消し・変更」の「(3)即時抗告」の(注)では,同じように即時抗告権者の範囲について検討することを提案しております。   「第36 遺産の分割」の「2 遺産分割の申立ての公告・参加」及びその関連箇所としまして第36の「9 その他」の(注)では,現行家事審判規則第104条及び第105条の規律を維持することについて検討することを提案しております。   この点につきましては,遺産分割の審判において利害関係人が即時抗告をすることができるか否かと関連して,このような者に対する参加の機会を与えるための公告の規律を設けるのかどうかということを検討することになるかと存じますので,あわせて御検討いただきたいと存じます。   この点につきましては,「第25 夫婦の財産管理者の変更及び共有財産の分割」の「2 共有財産の分割の処分」,前回こちらに回していただきましたところの議論でございますが,あわせて御検討いただけばと存じます。   「第36 遺産の分割」の「9 その他」につきましては,破産管財人の当事者適格を明文で認めるべきであるとの御意見及び相続財産についての開示義務を認めて,開示命令制度の創設を検討すべきであるとの御意見をいただいております。   破産管財人につきましては,相続分が破産財団に属するか否かの解釈によることとなると考えておりまして,破産法等の解釈によることになりますので,家事審判法に遺産分割について破産管財人のみが当事者となるとの明文規定を置くことは現時点では考えていないところでございます。   開示義務及び開示命令制度につきましては,事務当局といたしまして,第26の「6 その他」で御説明したとおりでございますが,この点につきまして別途御意見がございましたら,いただきたいと存じます。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,順番についてですが,まず最初に「第36 遺産の分割」の「7 即時抗告」に関する(注)のところでございまして,ここで利害関係人についての即時抗告権をどのように考えるかというところから審議をお願いしたいと存じます。この点はいかがでしょうか。先ほどの問題と似た面もあり,しかしやや違う側面もあろうかと存じますが。意見としては,利害関係人の即時抗告権は維持すべきであるという御意見もあるようですので,これも審議をお願いしたいと存じます。 ○豊澤委員 相続人の単なる債権者が直ちにここで言うところの利害関係に当たるのかというところは,事務当局の御説明にあったとおり,それ自体にも少し問題があろうと思いますし,仮に何らかの事情があってそういう立場にある者が手続に関与してくるとしても,せいぜい許可参加の対象となり得るかどうか,その限度の範囲であろうと思われます。そういった場合に,本来の当事者が不服申立てをしない審判に対して,許可参加で参加を認められた者が仮にあるとして,その者が即時抗告をすることによって審判が抗告審に移審して最終的な確定が遅れるという事態はやはり望ましくないのではないかと考えます。 ○増田幹事 遺産分割に関しては純然たる財産行為である,これは異論ないのではないかと思います。民法の遺産共有に関する最高裁判所の判例からも,特殊な合有というものではなく,物権法上の共有と性質は変わらないと考えられています。ということになると,共有物分割と遺産分割の差はどこでやるか,つまり,手続法上の区別にすぎないわけです。すると,単純な債権者についてはおっしゃるとおりかもしれませんけれども,差押債権者等その他,それ以上の利害関係を持ってくる者につきましては当然抗告権は認められるべきではないかと考えております。また,破産管財人の当事者適格のところも同じような議論になってくるのだろうと思うのですけれども,もし破産管財人の当事者適格が認められないのであれば,その者の即時抗告人が利害関係人として認められないというのは非常に問題であると思います。 ○長委員 差押債権者を挙げられたのですが,差押えをしてその旨の登記がされているなどのことを考えると,その効力は対抗できることになると思うのです。したがって,差押債権者の権利は保護されることになるのではないでしょうか。そうであれば,即時抗告の利益はないということにはならないでしょうか。 ○伊藤部会長 既に差押えを行っている者が権利を害される可能性があるという意味での利害関係人になるかどうかということですが,確かにそうですよね。いかがでしょうか。もしそうだとすると,先ほど例が出たような一般債権者といいますか,そういうものぐらいが考えられるところかなということになりますかね。   このあたりは,高田裕成委員はいかがですか。 ○高田(裕)委員 お二方で想定されている債権者のイメージが違うのかなという印象を持っておりまして,何を差し押さえた債権者を想定して議論するのかということではないかと思います。増田幹事が想定されているのは,相続人の債権者で,当該相続人に遺産分割の結果ある財産が帰属した場合にはその財産から債権を回収しようとしている債権者という理解でよろしいのでしょうか。 ○伊藤部会長 それは一般債権者ですよね。 ○高田(裕)委員 はい。差押えをした一般債権者ですね。 ○伊藤部会長 差押えをしようとしている一般債権者ではないのですか,相続人の債権者であれば。 ○高田(裕)委員 そうすると,差押えをまだしていない段階でという御趣旨でしょうか。 ○増田幹事 もともとこれから差押えをしようとしている一般債権者も利害関係人には入るのではないかと思うのです。その人が即時抗告ができるかどうかはまた別だと思うのですけれども,利害関係人には入るだろうと思うのです。差押債権者と言ったのは,利害関係の程度が濃くなるという意味で言っただけで,確かに特定財産の共有持分を差し押さえた差押債権者ということになると,長委員のおっしゃるとおりになってくるのです。というふうに理解してください。ちょっとまだ検討している部分もありますので。 ○伊藤部会長 やや議論は収束していないところがありますけれども,どうでしょうか。相続人の一般債権者というのは事実上であっても利害関係があるだろうと,それは恐らく否定できないところだと思いますが,しかし,そういったものが不服申立権までの基礎になるかということは,やはり……。それより強い法律上の利害関係を持ってここで言う申立ての基礎となるような人がいるかどうかということですよね。   山本幹事,いかがでしょうか。 ○山本幹事 よく分からないところなのですが,一般債権者は,この即時抗告というのは,考えられるとすれば債務者無資力の場合だろうとは思うのですけれども,その場合,詐害行為取消権は遺産分割の場合には最高裁は正面から認めていると思うので,あり得ない話ではないと思うのですが,ただ,即時抗告の抗告権を抗告審が審査するのに,無資力かどうかということを調べないと抗告権があるかどうかが分からないという制度は実際にはどうかなという感じがしますので,それはちょっとないのかなと。   管財人については,先ほどの財産分与のところとは違って,遺産分割は管財人に適格があると考えていいのではないかという感じがしていて,その場合には,しかし,これは相続人で読めるではないか,つまり相続人の承継人ということになると考えられないかなと。明確にするというのはあり得るのかもしれませんが,それで読めるような気もするのです。利害関係人というよりは。 ○増田幹事 誤解があったらいけないのですけれども,破産管財人に当事者適格がある場合には確かにそうなのです。破産管財人の当事者適格が認められない場合には利害関係人になりますから,当然即時抗告権は認めるべきであると,先ほどの意見はそういう意見です。 ○豊澤委員 先ほどの一般債権者の関係ですけれども,遺産に属する不動産があって,それについて債権者は債権者代位によって債務者の法定相続分割合による相続登記を入れることができて,それについて仮差押えを当然その段階でできる。それをしておけば当然保護されていくわけですので,後で債務名義をとって本執行をすることができる。その関係では,民法にもありますとおり,遺産の分割は第三者の権利を害することができないというのがありますし,そうやって仮差押えを入れておけば,それで自分の権利を守ることができるのではないかというふうにも考えております。 ○伊藤部会長 ほかにございますか。 ○小田幹事 問題点がたくさんあった中でごく一部なのですが,一般債権者が即時抗告できる利害関係人かという論点に関して,確か山本幹事のお話の中で,遺産分割が詐害行為取消しの対象になるからということがあったように思いますが,詐害行為取消しの対象になるのは遺産分割協議であって,即時抗告の場合のような審判とは性質が違うものと思いますので,一般債権者が即時抗告できるかどうかという点に当たってはそれは考慮すべき事情でないように思っております。 ○道垣内委員 小田幹事がおっしゃったことを私も考えていたのですが,そのときに気になったのは,実務的にどうやるのかということでして,その点をお聞きしたいのです。例えば5人の相続人がいまして,一応は争っている。そこで遺産分割で審判とかをすることになった。しかし,そのうちの一人は,「僕はこの形見の時計だけでいい」と言っており,それはそれほど高いものではないという場合,審判をするときに,その形見の時計だけでいいと言っているAさんについて,「Aは時計だけ」という審判を一応はするのでしょうか。つまり,小田幹事がおっしゃったとおりというか,協議と審判というのが非常に截然と分かれるのか,それとも,複数の共同相続人がいるときに,一部の人については本当は協議レベルで決まる話なのだけれども,一応全部を審判にするという形があり得るのかというのをお教えいただければと思うのですが。 ○伊藤部会長 これは,長委員,お願いできますか。 ○長委員 御質問の関係では,全体を審判にすることになると答えることになります。そのときの考え方としては,時計だけでいいですと言った人は5分の1の相続分があります。ところが,時計1個ですと100分の1相当の価額かもしれません。そうすると,5分の1引く100分の1の100分の19については,相続分を放棄したとか,あるいはほかの人に相続分を譲渡したとか,そういう構成をとる場合があります。当事者の意思として,要するに相続分を一部譲渡して,自分は一部残ったこれだけの分だけもらえればいいですよ,そういうふうに構成することになります。そして,全体として,その人は時計だけ取得しなさい,ほかの人は別なものを取得しなさい,こういう審判になる可能性があります。 ○道垣内委員 つまり,それは,審判としては5分の1ずつの相続分であるということはあくまで前提とするのであって,審判として堂々と「この人は100分の1の時計だけ」とは言いにくい。したがって,相続分を変えるという手続をすることによって,審判は一応相続分に従ってなされているという形をとるということなのでしょうか。 ○長委員 私はそうすると思います。当事者間の相続分譲渡契約とか相続分の放棄とかということになって,具体的相続分の割合が当事者の希望する物に対応するものになったと構成します。問題を指摘するとすれば,相続分の譲渡契約に問題があったということになると思います。そこをとらえて後で修正するということはあり得るかもしれません。 ○三木委員 これも枝葉末節かもしれませんが,豊澤委員に伺いたいのですが,先ほど債権者代位等を使って仮差押え等で権利を保全することができるという御説明だったのですが,相続財産が複数あって,不動産も動産もあるというときに,どの財産にどういう形で仮差押えの登記をするのか教えていただきたいのですけれども。 ○豊澤委員 それは債権者の方が,特定の,この不動産ならこの不動産というのを選択して,その手続をとるということになります。 ○伊藤部会長 それでは,遺産分割の性質が財産権にかかわるものであるということはどうしても前提になると思いますので,ここで利害関係を有する者がどういう範囲の者で,不服申立権を認めなくても,それら利害関係を有する者の権利保護の手段としてどういうものがあるか,もし仮にそれが十分でないとすれば,やはり不服申立権を認めなければいけないのか,そのあたりは本日の御意見を踏まえてもう一度検討した上で先に進むということにいたしましょう。それでよろしいでしょうか。 ○田(昌)委員 勘違いしているかもしれないのですが,遺産分割の場合に,前提問題も遺産分割審判で審理できると思うのですけれども,そうなりますと,そもそも分割対象の遺産に属していない財産も含めて遺産分割してしまった場合,その財産の所有権者はこの利害関係人に当たるのではないかと考えたのですが。現実にはそういうことは起こらないのでしょうが。 ○豊澤委員 そもそも遺産でないものに対して,それを遺産と誤認して結果的に間違えて審判をした場合,形式的には形成効が及んで,これに基づいて登記が移ったとしても,遺産性を確定するものではないから,後の訴訟で所有権に基づく妨害排除により元に戻してもらうだけの話で,審判で遺産性を確定するとかいう話にはならない。その意味で形成効が及ばないのと同じことになるのではないかと考えます。 ○伊藤部会長 では,先ほど申しましたような形で,どういう内容の権利者があり得るのか等についての検討をしてもらうことにいたしましょう。   次は,「8 遺産分割禁止の審判の取消し・変更」の「(3)即時抗告」の問題にしている(注)の関係ですが,これに関してもどなたか何か御発言がございますか。   類似の問題かと思いますので,全体として検討して続けることにいたしましょう。   それから,「第35 寄与分を定める処分」の「5 即時抗告」の(注)の即時抗告権者に関しても,検討をもう少し進めるということでよろしいでしょうか。   よろしければ,「第36 遺産の分割」の「2 遺産の分割の申立ての公告・参加」及び「9 その他」の(注),このあたりに関しては何か御意見はございますか。利害関係人の即時抗告権との関係がございますけれども。ここも,利害関係人の即時抗告権についてもう少し検討が進んだ段階で改めてこういう内容の事項について検討するということでよろしいでしょうか。   では,今の関係で,「第25 夫婦の財産管理者の変更及び共有財産の分割」の「2 共有財産の分割の処分」に関する利害関係人の不服申立権についても一連の問題として更に検討することにいたしましょう。   それから,第36の「9 その他」,これも先ほどと類似の問題でありますが,破産管財人の当事者適格及び財産開示命令制度に関する意見がございますが,このあたりはいかがでしょうか。 ○増田幹事 破産管財人の当事者適格は財産分与のとき以上に強く求めたいと考えております。財産分与につきましては,先ほど山本幹事の御発言もありましたように最高裁判例の読み方自体についていろいろな見解があるということは私も承知しているところです。しかしながら,遺産分割につきましては明らかに財産権であるということになっておりますし,破産法の現在の規定,例えば第238条以下の相続に関する規定につきましても,相続財産に破産管財人の管理処分権が及ぶということを前提としている,仮に遺産分割前であっても及ぶことを前提としたものであると解されております。したがって,破産管財人の当事者適格は,管理処分権を有するのが破産管財人であるから明らかであろうと思います。しかしながら,現在それが明文で認められていないということによって,登記実務の方ではこれと異なる考え方などがありまして,登記が認められないから,裁判所はやむを得ず,破産者である相続人を当事者として,破産管財人を利害関係人として参加させているというのが実情であるかのように思います。これにより,何ら権限がない破産者が調停や審判に当事者として出頭した上で,一緒にやってくる利害関係人である破産管財人が専ら発言し主張立証を行うという状況がありますので,そこは是正していただきたい。これを是正するのは,その結果が法務局で認められて,登記ができるようにするというのが主たる目的であります。 ○波多野関係官 破産管財人が遺産分割審判ないしは調停で当事者として認められているかどうかについては,特に実務のところでいろいろな考え方があるのかもしれませんが,こちらの方で聞き及んでいるところによると,実際に破産管財人が当事者として遺産分割の調停をした上で,その調停調書に基づいて登記が受け付けられていることがあると聞いておりますので,ここについては,そういう実例もあるということで整理しているところでございます。その上で更に明文の規定を置く必要があるのかどうかというところでは,事務当局としては,家事審判法に破産管財人についての当事者適格があるというような明文を置くまでは必要ないのではないかと一応考えてはいるところでございます。 ○伊藤部会長 ただいまの点は現状認識においてやや違いがあるように思いますが,そのあたりはいかがでしょうか。実務家の委員・幹事の方で何かその点を補足していただけますか。 ○長委員 私が経験した案件で,調停に破産管財人が参加したという例はあります。それは相続人が途中で破産になったものです。先ほど関係官がお調べになったというのは,法務省の当局が調査されたというわけですから,正しいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 ただ,増田幹事の御経験ではそうではないということなのですね。 ○増田幹事 大阪家庭裁判所では当事者適格がないという見解なのです。登記ができないということです。実は,「登記インターネット」の3巻7号161頁に登記供託実務質疑応答というのがありまして,法務省側だと思うのですけれども,破産管財人が遺産分割協議に参加することはできないというようなアンサーになっているのです。今の波多野関係官のお話はこの文献とは違うのですけれども,それは法務省の公式見解としてそうなるのですか。 ○伊藤部会長 公式見解というよりも,いろいろ調査した結果だと思うのですが,波多野関係官,何か補充していただくことはありますか。 ○波多野関係官 実情としてそういうのがあるのかどうかとについて,破産管財人が当事者となったもので登記を受け付けた実例はあるというのは聞いているところでございます。先ほどの「登記インターネット」の記載が法務省の回答ということではないと承知しております。 ○増田幹事 私も,この文献の見解も一つの解釈であって,一つの考え方にすぎないとは思っているのですけれども,では登記を離れた本質論としても議論していただければ。これは財産権ですからということで議論していただければ結構です。 ○伊藤部会長 山本幹事,先ほど遺産分割に関しては別な考え方とおっしゃいましたが,いかがですか。 ○山本幹事 私は遺産分割については増田幹事と同じ考え方で,基本的には破産管財人に適格が認められるのだろうと思っています。それを書くかどうかというのはまた別の問題かもしれませんけれども,そうなるのではないかと思っています。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか。   そうしますと,基本的な考え方としては管財人に適格が帰属すべきものとして考えるということで,しかし,それを前提として,現在の特に登記関係の実務運用で何か支障が起きているのかという事実認識の話が一つあり,他方,家事審判法の改正の審議の中で今問題になっているようなことをうまく立法として表現できるかという,これはどちらかというと立法技術的な問題かと思いますけれども,そのあたりについては必ずしも本日この段階で結論が出るという趣旨のものではないように思いますので,もうちょっと検討するということでよろしいですか。 ○脇村関係官 1点だけ増田幹事に確認させていただきたいのですけれども,管財人が当事者になるというお話があったと思うのですが,そういたしますと,例えば先ほどから債権者の話が出ていたと思うのですが,相続人が無資力であって勝手な合意をされると困るというような状況が生じたときには,破産の申立てをした上でその中へ破産管財人が入っていくというような実務的な取扱いを念頭に置いて考えていらっしゃるということなのでしょうか。 ○増田幹事 ちょっとシチュエーションが分かりかねるのですが,相続人が無資力であると。破産手続開始決定を受けたわけですよね。受けたら管理処分権が移転するというシチュエーションなのですけれども,そこが……。 ○脇村関係官 想定していたのは,相続の手続がずっと進んでいる,それで相続人の債権者がそういう手続が進んでいることに気づいたときにとる手段として参加するということもあるのでしょうけれども,無資力なのでこのまま勝手に手続を進められると,結果,自分が不利益をこうむるかもしれないということを気づいた段階で,まず破産手続の申立てをし,申立ての上で開始決定がなされれば,始まっていた相続手続についても破産管財人が入っていくということになって解決が図られていくということを考えていらっしゃるのかなと思ったのですけれども。 ○増田幹事 債権者が破産を申し立てるということまでは想定しておりませんでした。 ○伊藤部会長 あり得る話ではありますよね。   それでは,この関係の審議は一応終えたことにいたしまして,次に部会資料13の「家事審判手続(審判前の保全処分(各論))に関する検討事項」で取り扱っております規律につきまして,皆様から事前に御意見をいただいている事項を中心にして検討を行いたいと思います。   そこで,事務当局から部会資料13−2に関して説明をお願いいたします。 ○波多野関係官 御説明いたします。   部会資料13の「第2 保佐開始の審判前の保全処分」及び「第3 補助開始の審判前の保全処分」については,保全処分のうち保佐命令及び補助命令の審判の効力発生時期について,財産の管理者に対する告知によって効力が生じる旨の規律を設けるべきとの御意見をいただいております。   この点につきましては,まず前提といたしまして,審判前の保全処分の審判一般の効力発生時期について,部会資料10の第26におきまして部会で御審議いただきまして,現行家事審判法第15条の3第3項が規定する,審判を受ける者に告知することによって効力を生ずるとの規律では不都合な場面があるのではないかと考えられますことから,現行とは異なる規律,例えば申立人又は審判を受ける者に告知することによって審判の効力が生じるものとすることについて,引き続き検討することになったと承知しております。   それを前提にいたしまして,現行の後見命令の審判につきまして,現行の規律のもとにおきましては,被後見人となるべき者が審判を受ける者であると考えられますが,被後見人には通知をすることとされておりますし,受告知能力の点からも審判前の保全処分の効力の発生時期について必ずしも明らかではないと考えられます。   そこで,部会資料13の「第1 後見開始の審判前の保全処分」の「5 審判の効力の発生時期」におきましては,現行の規律のもとで後見命令の審判が財産の管理者に告知することによって効力を生じるという解釈がされていますことを踏まえまして,後見命令の審判の効力発生時期を明確にするために,財産の管理者に告知することによって後見命令の審判の効力が生じるとすることを提案しております。御意見の点は審判前の保全処分の効力発生時期に関する総論での御議論と関連いたしますが,事務当局といたしましては,先ほど御説明いたしましたとおり,現行の規律を前提に,その不明確な点を明確にするために例外的に後見命令の方で特則を置くということを考えておりましたので,現行の規律において効力の発生時期が明確である保佐命令及び補助命令について同様の例外的な規定を置くことを現時点では考えておりません。   続きまして,「第15 扶養の審判前の保全処分」の「1 保全処分の態様及び要件」について御説明いたします。   この点につきましては,現行家事審判規則第95条が準用しております第52条の2と同様の規律とすることを原案では提案しております。ここでは,扶養義務の設定及びその取消しの審判を調停することができない事項についての審判事件とすることを前提にすると,これらを本案とする仮差押え,仮処分その他の保全処分を許容できかどうかについて十分な検討が必要であるとの御意見をいただいております。   この点につきましては,現行の規律が,扶養義務の設定と扶養の順位,扶養の程度,方法についての処分等を区別することなく,扶養に関する処分の申立てがあった場合には審判前の保全処分をすることができるとしていますことから,現行の規律を維持することを提案しております。   御意見の点につきましては,扶養に関する事件についての保全処分の内容が,仮差押え,仮処分その他の必要な保全処分として,例えば扶養料の仮払いの仮処分などが考えられますが,扶養義務の設定のみの申立てがあるときにそのような保全処分をする必要性が定型的に存在するのかどうかについて検討することが必要であるかと存じますので,なお検討させていただきたいと存じます。この点については御意見をいただければと存じます。   以上でございます。 ○伊藤部会長 それでは,まず1ぺージ目の「保佐開始の審判前の保全処分」,「補助開始の審判前の保全処分」に関する,それぞれその中の事項に関する御意見で,後見命令の審判に関してはこのような規律の提案がなされているのに対して,それと関連してこれらの保全処分に関してはどうかという御意見がありましたが,それに関しての原案の考え方はただいま波多野関係官からの説明にあったとおりでございます。これに関して,更にここで御意見を承った上で審議をしたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○長委員 第2,第3につけられました意見の点でありますけれども,やはり保全の効力がなるべく早く発生した方が安定いたしますので,この意見に賛成したいと思います。 ○伊藤部会長 という御意見でございますが,それに対して先ほどのような事務当局からの説明があり,それを踏まえて,どなたか更に御意見がございますでしょうか。保全処分という裁判の性質上,なるべく早くその効力を発生させるべきであるという問題の背景そのものは異論がないところかと思いますが,他方,そもそも裁判の効力発生を何を基準にして考えるのかというところで,後見命令の審判の場合とここで問題になっているような保全処分の場合とでやはり違いがあるのではないかということがここでの考え方かと思いますが,どうでしょうか。   高田裕成委員,いかがですか。 ○高田(裕)委員 これも現在の段階で確たる定見はございませんが,確かに保全の効力の発生時期を早めるということは一つの考慮だと思いますが,保佐というものの性質をどう考えるかということによるとは存じますけれども,審判を受ける者である被保佐人となるべき者に対する告知をもって始めるというのも一つの考え方であり,もし現行法がそうであれば,あえてそれを変える必要もないというのも一つの考え方ではないかとは思います。 ○伊藤部会長 こういう御意見があり,それはそれで合理的な理由がある以上,なかなか今の段階で決めてしまうのは難しいですかね。   ほかの方はいかがでしょうか。   長谷部委員,いかがですか。 ○長谷部委員 財産の管理者への告知があれば,被保佐人,被補助人となるべき者に告知する前であっても審判前の保全処分の効力が発生するということにした場合,不都合は生じないのかなということが気になりました。これらの者は,成年被後見人となるべき者と異なり,受告知能力の点で特段問題はないように思われますので,後見命令と同じにする必要はないようにも考えられます。 ○伊藤部会長 それでは,この点も両様の御意見があるようですので,もう少し検討を続けることにいたしましょう。   それから,「第15 扶養の審判前の保全処分」で,保全処分の態様との関係で,先ほど波多野関係官から説明がございましたように,こういう御意見が寄せられております。扶養の義務の設定をするような処分だけを前提にしたときに,更に具体的に金銭の仮払いを命ずるような保全処分というようなことについて,それが正当かどうか,そのあたりの検討が必要だというような趣旨の御意見かと思いますが,この点も,こういう御意見が出てくる背景,あるいはこの意見の内容に関して,どなたか敷衍していただければ有り難いと思いますが,いかがでしょうか。先ほど波多野関係官からの説明はあったのですが,この意見を読むだけだと,なかなか問題の所在と考えるべき点が理解しにくいようなところがあるかという気もしますので,もう少し敷衍していただければ有り難いと思います。 ○小田幹事 御趣旨に沿うか分かりませんが,ここでの意見の内容は,扶養の審判前の保全処分について,扶養の一部の類型のものを調停することができない事項として分類することになると,今までそういうすべて調停ができるという前提ですと,申立人と相手方が必ず考えることができた。そこで,ここで問題になっている保全処分が,仮差押え,仮処分その他の必要な保全処分とありますが,これも平仄がそろって,申立人,相手方というのでしょうか,それがきちんと考えられる類型の保全処分であったという前提として,審判事項について一部をこうやって調停することができない事項とすることによって,では保全処分にも同じような影響が出てくると考えるべきではないか,こういう趣旨だと考えております。 ○伊藤部会長 これは理論的になかなか難しい話ですね。更に検討はしてもらいますが,どなたか,この段階で今の点に関する検討材料になるような御意見等を承れれば有り難いと思いますが。   山本幹事,いかがですか。 ○山本幹事 検討材料になるような意見は全然持ち合わせておりません。ただ,この扶養のところは,特に法律上の扶養義務者になっていない者については,第1段階で扶養義務を設定して,その後扶養の具体的な処分を決めるという2段階的な感じになっているので,その第1段階だけの申立てをして,それに対する保全として仮差押え,仮処分等の保全が必要になる場面というのは確かに定型的には余り想定できないような感じもして,そういう意味ではこの御意見の趣旨というのは理解できるような気はしております。 ○伊藤部会長 それでは,この点は更に検討してもらうことにいたしましょう。 ○高田(裕)委員 質問ですが,今の山本幹事のお言葉で言えば第1段階と第2段階の二つの審判及び保全処分は同時に申立てができるという前提と理解してよろしいのでしょうか。 ○波多野関係官 事務当局としては,第1段階と第2段階あわせて申立てをするということは可能で,第2段階の申立てをした場合には,その第2段階を前提として,今までどおりの扶養の審判前の保全処分と同様の保全処分の申立てができるのではないかと考えているところでございます。 ○伊藤部会長 ということでよろしいでしょうか。   ほかにこの資料13−2ないし資料13に関して御発言はございますか。 ○道垣内委員 今の第1段階,第2段階論というのは,直系血族及び兄弟姉妹ではない場合の話ですよね。その人たちは,義務設定の審判がある前に義務は発生しているのですか。義務設定の審判とともにすぐに保全をするという意味でしょうか。 ○波多野関係官 義務設定の審判と,その設定された義務を前提とする扶養の具体的内容の本案の審判の申立て,これを同時にすることができるのではないか。第2段階の申立てがあったときに,それを前提としてここで検討していただいている保全処分ができるというのは,それは現行と同じと考えれば,それを否定する理由はないのではないかと考えているところです。 ○伊藤部会長 よろしいですか。余りよろしくない。 ○道垣内委員 いや,結構です。 ○伊藤部会長 いずれにしても,今ここでそれを決める云々の話ではありませんので。本案の扶養に関する処分とその保全処分をどのように組み合わせれば問題のない形で組合せができるかということについての検討をするという取りまとめです。   では,一応,部会資料13−2の関係は終わったことにして,ここで休憩をとらせていただきましょう。           (休     憩) ○伊藤部会長 それでは再開いたします。   引き続きまして,部会資料14「家事調停手続に関する検討事項(1)」に基づいての審議をお願いいたします。   まず,事務当局から「第1 家事調停事件の範囲」についての説明をお願いします。 ○脇村関係官 それでは,御説明いたします。   「第1 家事調停事件の範囲」ですが,ここでは原則として現行家事審判法第17条の原則を維持しつつ,乙類審判事件のうち扶養義務の設定及びその取消しと推定相続人の廃除を調停をすることができないものとすることを提案しております。   家事審判事件のうち,調停をすることができるかどうかについては,補足説明にありますとおり,実体法上,当事者の協議により定めることができるか,又は定めることができる事項について変更等するものかを基準としておりますが,扶養義務の設定及びその取消しと推定相続人の廃除はそれに当たりませんので,除外することといたしております。   なお,人事訴訟事件については,別途合意に相当する審判を検討する際に検討する予定でありますが,現在でも通常の家事調停としてすることができる離婚・離縁については今後も同様に家事調停ですることができることを前提としております。   以上です。 ○伊藤部会長 この点,先ほど審判に関しても若干別の形での議論がございましたけれども,ただいまの家事調停事件の範囲についてのここに掲げられている考え方についてはいかがでしょうか。 ○増田幹事 まず質問なのですけれども,先ほどもちょっと触れましたが,23条審判についてはどのようにお考えなのか。つまり,人事に関する訴訟事件その他が括弧に入っていますが,現在人事訴訟に係るものの中で23条審判ができるとされているものについて,調停をすることができる事件の範囲から除外される趣旨も含むのかどうか,あるいは23条審判をなくしてしまうというようなお考えもあるのかどうかということをお伺いしたいと思います。 ○脇村関係官 人事訴訟事件については事務当局として検討しているところでございますが,差し当たりの理解をお示しいたしますと,23条審判は現行法では確かに当事者の合意を前提にするものでございますが,基本的には,実体法上の要件を欠く場合については合意があったとしても合意に相当する審判はできないものだと理解されていると考えております。それを前提にいたしますと,例えば離婚とか離縁については,離婚原因,離縁原因がなかったとしても当事者が合意でできるということから一般の家事調停事件だと解されているのに対して,例えば認知については,実際上血縁関係がないケースについては合意があったとしても家事調停できないということから,23条審判に分類されていると理解しているところでございます。人事訴訟事件についてそういった今の仕切りでいいのかどうかについては,別途合意に相当する審判を検討する際に検討させていただく予定でございますが,差し当たりここでは,それ以外について家事調停事件についてどう考えるか,原則として当事者の合意だけでできるものについてはこれだけではないかということで提案させていただいているところでございます。 ○増田幹事 現在の仕切りを変えて,調停により最終的な結論が出せる,合意のみで結論が出せる事件かどうかということで調停ができるかできないかということを区別するのであれば,今言われたような23条事件,例えば認知だとか親子関係不存在といったものについて調停を認めるのは一貫しないのではないかと考えるわけです。私はその方向には反対なのですが,そこが一貫しないことによって,当事者の手続保障と事件の重さが段階的につながらない,連続性がなくなって中間の範囲でいったん保障が落ちる類型が出てくると考えられます。基本的な大きな問題ではないかと思っているので,まず一貫しないのではないかという点から御説明いただければと思います。 ○伊藤部会長 一貫していないとおっしゃるのは,合意に相当する審判の部分は合意のみによって処分ができないという考え方によっているわけですよね。 ○増田幹事 離婚・離縁以外の人訴事件については調停ができる,つまり調停事件の範囲内に含めるというのは,この結論からするとおかしいのではないかということです。 ○伊藤部会長 脇村関係官,いかがですか。 ○脇村関係官 ちょっとついていけていないのですけれども,今おっしゃっているのは,人事訴訟事件のうち離婚等以外について合意に相当する審判でできるということがおかしいということですか。 ○増田幹事 離婚・離縁以外の事件について調停ができるというのは,ここに書かれている考え方とは整合しない。つまり,調停によって当事者の協議により定めることが許される事件についてのみ家事調停を行うことが許されるという見解が示されているわけです。離婚・離縁以外の人事訴訟事件は当事者の協議により定めることは許されないものですから,それについて調停を行うことができるというのであれば,とりあえず一貫しないと思いますが。 ○脇村関係官 私たちの方で,離婚以外のものについて家事調停ができるかどうかという点につきましては今検討しているところでございまして,いわゆる合意に相当する審判は一般的な家事調停とは違うものでございますから,一般的な家事調停はできないけれども合意に相当する審判ができるということで整理すれば,整合性という点ではとれているのではないかと思いますが,それも含めて検討しているところだということです。 ○金子幹事 恐らく23条審判のとらえ方の問題であろうと思います。23条審判,本来人事訴訟でするところを,いわば手続を簡易化し,かつ非公開の調停の手続を利用しているものだと考えて,本質的調停事項とは見ないというふうに考えれば,説明としては一貫するのだろうと思います。23条審判の性質論その他はまとめて23条審判のところでやっていただこうと思っていたのですが,差し当たりのところは,23条審判での調停というものは,ここで我々が考えている最終的な合意で決着することができるものとは明らかに違いますので,23条審判が調停手続を利用していることをもって,合意で結論を出せないものも,まずは調停をすべきものがあるという例にはならないのではないかと思っています。 ○畑幹事 増田幹事の御趣旨は,ここで調停ができない事件となることによって手続保障が薄くなるということを憂慮しておられるということでしょうか。 ○増田幹事 基本的にそういうところに行き着くわけなのですけれども,今まで審判のところで手続保障の議論をしていたときに,本当は紛争性,対決性,そういうものがあるものについては手続保障を厚くすべきだと。紛争性が少ないものについては,手続保障はすべきではあるけれども,それほど厚くしなくてもいいという議論で来ていたわけです。その争訟性が高いか低いかという基準について調停をすることができる事件かできない事件かということとすると,調停をすることができる事件から除かれる事件については,紛争性が低い方,つまり現在の甲類に近い事件に分類されてしまう。しかし,例えば推定相続人の廃除だとか,親権の喪失事件とかいうようなものについて,現行の甲類に準じていくならば,紛争性が高いにもかかわらず手続保障が薄くなる類型になってくるということです。その仕分けとして先ほどの当事者の協議により最終的に定められるかどうかという基準を採用するのであるならば,今度は23条審判との関係が問題になってくる。23条審判になる人事訴訟事件を家事調停事件ができない事件に分類しなければ,まず一貫しないし,するのであれば,現在の乙類以上に紛争性の高い事件がそちらの方に分類されてしまうということで,理論的にはそごが生じるのではないかと思っているのです。 ○脇村関係官 事務当局の考えをもう一度整理させていただきますと,もともと非訟でもそうでしたけれども,一定の類型については手続保障を厚くする,一定のものについては薄くするということで,非訟では相手方ある事件ということを念頭に議論をさせていただいておりました。家事においては相手方ある事件ということではなくて,調停することができる事項かどうかということをメルクマールにして総論で議論させていただいていたところでございます。その趣旨は,少なくとも協議ができるものについては紛争性があるだろう,協議が決裂し,調停ができないで審判にいっているのだから紛争性があるだろうということで,差し当たり基準として提示させていただきました。ですので,調停できることと手続保障を厚くすることというのは,調停できるから手続保障を厚くするというよりも,調停できるのにできなかったので,それは普通紛争性があるので,一般的紛争性のあるものについては手続保障すべきではないかということから議論していたということになります。今後の議論として,例えば調停できる事件については手続保障を厚くし,調停することができないものであってもその重要性にかんがみて手続保障を厚くし,それ以外については今の甲類審判と同程度とすると,3類型できるかもしれませんけれども,そういったものもあり得るのではないかと思っています。 ○増田幹事 私の考えているイメージは,たとえば甲・乙・丙,3通りに分類して中間的なものとして廃除だとか親権喪失などが出てくるというものなので,この点は恐らく共通しているのではないかと思うのです。その中間的なものについては調停をした上で23条審判的なものができないかと考えていたわけです。そこが今の脇村関係官の御意見とはちょっと違うところなのかなと思っています。それだけの違いであれば,またそこで議論すればいいことかもしれませんが,ただ,根本的に調停ができないということになると,話合いによってある程度意見を相互に交換して歩み寄るというようなことができなくなるのではないか。最終的に裁判所が下す結論に向けた主張立証という形でしか展開できないことになるのではないか。そこのところが,家庭裁判所の役割との関係で,基本的には円満な解決を志向し当事者の合意内容に近い形の審判を生み出していくということとの関係でどうかということです。 ○平山関係官 調停をすることができる事項とできない事項の区別ということを事務当局で御判断されたときに,申立人側の権利に影響のある,なしというところも考慮されたのかなという感じもしていたのですが,そこは特段考慮されていないのでしょうか。というのは,今甲類として規定されている事件は,親権喪失のように申立人というよりはむしろ事件本人の権利義務にかかわるような事件類型が多くて,申立人は後見的な立場でかかわるというようなところもあるかと思うのですけれども,そういったことも考慮されて分類されていたのかなと思ったので,そこを確認させていただきたいということです。 ○脇村関係官 事務当局としては,補足にも書いてあるとおり,当該事項を合意でできるかどうかという点に着目しておりますので,それ以上特に何かというところはございません。   先ほど増田幹事のおっしゃっていたとおり,今ですと,人事訴訟については調停はできないけれども簡易な手続である23条審判があって,甲類審判についてはそういった意味では簡易な手続というのはない。その簡易な手続というのは申立人と事件本人の間の話合いを想定しているのかもしれませんけれども,そういったものはないと理解しています。今回検討するに当たり,おっしゃるように,家事審判についても訴訟並びで,本当の意味の家事調停ではないとしても23条審判のような手続も何か考えられないのかという点は検討させていただいたのですけれども,実際にそれを仕組むことにどれほどの実益があるのかという点が一つあります。訴訟と調停であれば公開・非公開,あるいは手続の期日が厳格,そうじゃないというのがあるのですが,甲類ですとそれほどの違いがないのではないかということと,最終的に合意があったとしても,結局,例えば親権の喪失あるいは辞任ということであれば,辞任が相当かどうか,解任事由があるかどうかを裁判所が最終的に判断するというスキームは変わらないのではないかと考えれば,それを別途つくるというところまでは必要ないのではないかと考えていたところでございます。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか。審判との関係では,調停ができる事件かどうかというのは,手続保障の在り方を決定する重大ではあるけれども一つの要素であって,先ほど来幾つかの類型の事件について出てきましたように,調停ができるかどうかというのは合意による解決可能性を基準にしているものですから,調停ができないような場合であっても,手続保障を厚くしなければいけないような性質があるものがあることは,争いのないところで,できない方に入ったから手続保障がなくていいとか,それは重視しなくてもいいという話ではない。これは皆さん共通の前提だと思うのです。   その上で,特に今話が出ています23条の合意に相当する審判の内容,当該審判の対象となる事項に関する合意をどういう形で尊重するかどうか等についてはそちらの方で別途検討ということになっていますので,それでいかがでしょうか。この家事調停の範囲をこういう形で決めて前提として考えることがそちらの方に何か決定的な影響を及ぼすとか,そういう関係ではないように思うのですけれども。 ○増田幹事 今言われたような中間類型のものについて,初めから調停ができない事件とする,つまり話合いである程度の方向性も出せないような形にするというのが本当にいいのかどうかです。今23条審判でやっている類型の事件というのは,本来は要件事実の存否で判断すべきものであるところ,例えば23条審判の類型では一番多い親子関係不存在の場合でいえば,相手方が自分の子ではないと言った場合に,通常は23条審判をやって親子関係不存在を早期に確定させるという手続をとっているわけです。それと同様に,調停を経て,調停から審判へ移行する手続をとることによって先ほどのような中間的な事案も解決するのが合理的ではないかと思っているのですが,審判における手続保障をどう組むかという問題は別にして,本質的に調停できない,付調停もできない,そういう事件にすることがいいのかどうかというところを議論していただきたいと思います。 ○脇村関係官 ちょっと確認したいのですけれども,どういう呼び方をするかは別にして,差し当たり部会資料で提示しておりますのは,基本的に,当事者の合意だけで成立する事件としてはこういうのがあるのではないかということを提案させていただいておりますが,今,増田幹事がおっしゃっていたのは,当事者の合意―もちろん合意は大事なのでしょうけれども,合意だけで成立するのではなくて,合意プラス23条的に一定の要件の存否について裁判所が判断するスキームが別途つくれないかということではないのでしょうか。議論としては二つあって,そもそも合意だけでできる事件としてこれだけでいいのかという議論をまずした上で,それ以外についてそういったスキームについて考えられないかという2段構えであると思います。そういった意味で,後者については,後に出てくる23条審判も,ある意味,合意だけでできないけれども,何か話合いで解決し,家庭裁判所内部で適切に処理するというスキームで考えられたものだと思いますので,流れとしては,呼び方は別にして,合意だけで成立することができる事件を確認した上で,別途23条審判のところでそういった流れとともに議論した方がスムーズにいくのではないかという気はしているのですけれども,どうでしょうか。 ○三木委員 私が増田幹事にかわって言うのも何ですが,増田幹事のおっしゃっているのはそういう趣旨ではないように私は受け取りました。本人がいるので後で違っていれば違っているでいいですけれども,増田幹事が何度もおっしゃっておられたのは,合意ができない事件であっても,調停適格を認めてやることが望ましいことが多々あるのではないかと。つまり,合意はできない事件でも,調停そのもの,後に審判になったときの手続保障の問題はまた別途あるとして,調停そのものをやらせる適格を認めるべきものが多々あるのではないかという御趣旨のように伺いました。   そうかどうか分かりませんけれども,その関係で私が増田幹事に伺いたいのは,現在,事務当局案で人事に関する訴訟事件というのはかぎ括弧に入っているわけです。人事に関する訴訟事件の中には合意で成立できないものもあるわけです。例えば増田幹事が先ほど挙げられた親子関係の存否確認なども人訴の対象になる事件ですね。しかし合意では決着できない。そうすると,このかぎ括弧を外して,人事に関する訴訟事件は合意では成立させられないけれども,しかし調停事件として認めるという規律さえ入れれば,それ以外の例えば甲類に属するような事件とか,その他人事訴訟事件以外の合意で成立させられない事件まで調停の適格を認める必要はない,そういう御趣旨と承っていいのかということを確認したい。 ○増田幹事 最後のところだけちょっと違うのです。人事に関する訴訟事件以外の,今言われた中間的なもの,要するに純粋な甲類としては争いのないものもありますが,それらのものについて調停ができる事件に入れるということは全く考えていないわけです。しかし,先ほどの親権喪失と推定相続人廃除といった中間的な,甲・乙・丙と言われたときの乙ですね,この類型について,調停を経た上で,要するに当事者の意思を考慮した形の審判をする制度をつくれないかということです。つまり,ここから外されてしまうと,調停を申し立てることもできないし,付調停にすることもできない。それで本当にいいのかということなのです。 ○伊藤部会長 最終的な当該事項に関する合意の可能性だけで判断すると,いわば司法作用としての調停というのも可能性がなくなってしまうではないか,そういう理解ですよね。付調停にできないとか。 ○増田幹事 そうです。 ○杉井委員 この「家事調停事件の範囲」というところで,結局,現行の家事審判法第17条では明確に人事に関する訴訟事件その他も入っているわけですね。この現行の規律ではなくてわざわざそこのところを括弧書きにしているものですから増田幹事のような疑問が出てくると思うのです。私もこれを見たときに,今お話が出ている親子関係とかそういうものについて,本来は人事に関する訴訟事件なので,これについてはもう調停を行うという範囲から外れているのかなと読みました。そうだとするとやはり問題ではないか。むしろ調停としてはそういうのも含めて,厳密に言えば最終的に合意で調停が成立しない事件も含めて,調停として申し立てることもできるし,また付調停もできる,そういうのを残しておくべきではないか,その方が訴訟経済的にもいいのではないかと思います。 ○三木委員 増田幹事が最後におっしゃったことは,私はそれはそういう御意見だろうと思って聞いていたのですが,私がお伺いしたかったのは,人事訴訟事件以外に合意ができない事件であえて調停の余地を残さなければいけない事件として具体的に何を考えておられるのですかということです。 ○増田幹事 それは親権喪失と推定相続人の廃除ですね。この間から各論的に審判の構造を議論していた部分です。 ○三木委員 それは,甲とか乙と今後呼ぶかどうかは知りませんけれども,現在の呼び方で何を甲類,乙類に仕分けするかという問題いかんにもよりますよね。もう一つは,今の23条の規定にあるように例外的に処理をするという規定をどう置くかという問題にもよるので,その二つだけだとすればそれほど大した話ではないような気もするのですが。 ○増田幹事 おっしゃるように,仕分けの問題として現行の甲類,乙類を変えるという前提であれば,それはそれで結構です。ですから,新たな甲類については調停を行わない,それはそれでいいのではないでしょうか。 ○伊藤部会長 増田幹事の御意見を前提にすると,端的に言うと,例えば調停事件の範囲から除かれるものの中の推定相続人の廃除など,これは問題になるわけですね。 ○増田幹事 結局は甲類,乙類の仕分けなんですよ。甲類の中に入れるということは,すなわち調停事件の範囲から除かれる。だから,その仕分けのところをもう一度検討する余地があるのであれば,それはそれで結構です。 ○平山関係官 調停という言葉が少しマジックワードみたいになっているのかなという感じがいたします。訴訟事項の場合には軽い手続でできるという規定を何か入れないと審判という形ではできないということになると思うのですけれども,今お伺いしている限り,合意だけで終了させられることはあり得ないということを前提にしますと,審判の中で裁判官なりが判断する前提として,事件本人がどのように言っているか,自認しているという事実は尊重した上で審判するというのが通常だと思いますので,その場合にあえて調停という形をとる必要があるというところの御趣旨をもう少しお伺いできればと思います。 ○増田幹事 家庭裁判所の手続というのは,家族内の事件を扱う,それは当事者の意思などを円満に解決するのが第一義であるということだと思うのです。それを変えてしまうというのだったらまた別ですけれども,そうではないと。そうすると,今までであれば,恐らくこの種の事件であっても調停でスタートすることが多いだろうと思うのですが,いきなり審判の申立てからスタートして,審判手続として手続保障をきちんとした形で行うということになれば,訴訟事件とほとんど変わらない審理がなされていくことになると思われる。それが家庭裁判所の役割として本当にふさわしいのかどうか。むしろ23条審判でやっているような手続の方がふさわしいのではないか。つまり,両当事者の意見をまず調停という形で聞いて,今だったらもう親子じゃないよということの合意をとった上で審判をする,それが実情なので,そこのところの考え方の問題ということです。 ○伊藤部会長 それでは,議論がやや錯綜と言うと失礼かもしれませんが,私が理解できていない部分も多いと思うので,とりあえずどういう方向で検討するかを金子幹事から発言してもらって,それを踏まえて今後の検討ということにしたいと思いますが,よろしいですか。 ○金子幹事 私が理解したところでは,調停ができる事件かどうかという問題と手続保障の問題は別だというところは皆さん意見が一致していると思います。調停をできない事件とされた場合でも重要なものについて必要な手続保障をするということは,コンセンサスが得られていると思います。今,最後の部分で意見が交わされていた際に例に挙げられていた推定相続人の廃除とか親権喪失については,審判という形で決着するもので,最終的に当事者が調停で解決するというものではないということも御異論はなかったように思います。ただ,このような事件は,最後は審判という形をとるにしても,現行の調停委員会調停等による手続の中で一定の話合いをさせた上で,それも踏まえた審判をするという手続が考えられないか,そういう選択の余地を認めてもよいのではないか,今の段階でその余地を一切排除してしまうのはどうかという御意見があったと承りました。いったん調停を入れて最終的には審判にするというような,ある意味23条審判類似のような手続を推定相続人の廃除や親権者変更の事件について設けることがどうかについては,事務当局で検討させていただきたいと思うのですが,それでよろしいでしょうか。 ○伊藤部会長 そういう受け止め方でよろしいですね。それを踏まえて検討させていただいて,また御意見を伺うことにいたします。 ○増田幹事 結構です。 ○伊藤部会長 それでは,次のところに参りましょうか。「調停機関等」ですね。 ○脇村関係官 「第2 調停機関等」について御説明いたします。   「1 調停機関」の本文では,まず現行家事審判法第3条第2項及び第3項の規律を維持することを提案しております。後ほど御説明するとおり,本資料では高等裁判所でも家事調停を行えるようにすることを提案していますので,それに合わせて表現を調整しております。   (注)の1では,家事調停委員会を利用せず家事審判官だけで手続を行う際に,合議体により家事調停手続を行うこともできるとすること,(注)の2では,それに伴い手続指揮等について所要の手当てを,(注)の3では,合議体により家事調停手続を行う際に受命裁判官を用いることができるとすることをそれぞれ提案しております。   平成12年の少年法の改正に合わせて家庭裁判所に裁量合議制度が導入され,家事審判については合議体により行うことができるとされましたが,家事調停については合議体により行うことはできないとされました。これは,家事調停は民間から選ばれた家事調停委員の人格や様々な分野における豊かな知識,経験を生かし紛争の自主的な解決を図る制度であり,複数の裁判官により事件を適正に解決するとの裁量合議制度とは趣旨を異にするものであるということを理由とするようであります。しかしながら,渉外事件等で法律解釈が問題となるような事案においては,裁判官同士が合議により適切に法律を解釈した上で調停のあっせん案等を提示してこれを行うことが相当であるケースもあるように思われますので,合議体により手続を行うことを否定するだけの理由はないのではないかと思います。   そこで,ここでは,合議体により家事調停手続を行うことができるようにするとともに,それに合わせて所要の手当てをするということを提案しているところでございます。   「2 調停委員会」では,現行家事審判法第22条,規則第134条,第135条,第136条の規律をそれぞれ維持するものとすることを提案しております。   「3 家事調停委員」では,現行家事審判法第22条の2,第22条の3の規律をそれぞれ維持することを提案しているところでございます。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,「第2 調停機関等」につきまして,まず「1 調停機関」,基本的には現行法の考え方に沿っているわけですが,若干それを改めることを提案する部分があります。(注)の1の合議体,(注)の3の合議体の一人,合議体の中から選んだ裁判官に行わせるというあたりのところを含めて,そのあたりはいかがでしょうか。 ○増田幹事 これにつきましては積極的に賛成する意見でございますが,高等裁判所が調停を行う場合に調停委員はどうされるのか,その点を質問したいのですが。 ○脇村関係官 ここでは,原則として調停委員会を構成してやるという点については家裁と高裁とで区別しないということを前提にしておりますので,調停委員についても,これは最終的には最高裁判所の方で手当てされるということだと思いますが,家事調停委員を何らかの形で高裁で用いることができるようにするということを当然予定しております。 ○伊藤部会長 よろしいでしょうか。 ○増田幹事 もう一つ,これは付調停のところで言うべきなのかもしれませんが,更に欲張った話なのですが,地裁に訴訟事件がかかっている場合に,家事調停手続に付して家事調停手続をするというようなことはできませんでしょうか。 ○脇村関係官 我々としては,訴訟でかかっている事件であれば,家事調停を利用しなくても民事調停ができるということが前提となると思いますので,そういった意味で必要性があるのかどうかというような点,ないのではないかと思っていることと,今の仕組みを前提にすると,調査官等も地裁にはいませんので,あえて地裁でやるようにするまでの必要はないのではないかと思っていたところなのですけれども,何かニーズとかがあるのでしょうか。 ○増田幹事 遺産確認請求訴訟の係属中に遺産分割についてもまとまりそうだというようなことになった場合には,地裁でも付調停にして家事調停ができれば便利だろうなという発想でございます。 ○伊藤部会長 では,その点は検討させていただきます。   ほかにいかがでしょうか。その他の点,合議体や受命裁判官のあたりは特別の御意見はございませんか。   よろしければ,「2 調停委員会」,「3 家事調停委員」のあたりについても,もし御意見がございましたらおっしゃってください。このあたりはよろしいですか。   それでは,「第3 調停前置主義及び付調停」の説明をお願いします。 ○脇村関係官 御説明いたします。   まず,「第3 調停前置主義及び付調停」の「1 調停前置主義」では,現行家事審判法第18条第1項の規律を維持することを提案しております。   「2 付調停」では,まず本文@及びAについては,現行家事審判法第18条第2項,第11条,第19条第1項の規律を原則として維持することを提案しております。   なお,訴訟事件を家事調停に付する時期については,補足説明にある理由から特段の規律を設けないということを提案しております。   次に本文Bにおいては,家事調停に付した場合において,どの裁判所で調停事件を処理するのについて提案しております。これまでも,家事調停に付した場合においては,管轄裁判所のほか他の家庭裁判所に処理させることができると解されてきておりましたが,管轄権を有しない他の家庭裁判所に処理させる以上は自庁処理と同様の要件が必要ではないかと考え,その点を明確にしております。   本文Cでは,民事調停法第20条に倣い,訴訟事件又は家事審判事件が係属している家庭裁判所又は高等裁判所は,当該家事調停を自ら処理することができるということにし,訴訟事件又は家事審判事件は高等裁判所で家事調停により処理することができるということを提案しています。民事調停では,訴訟事件が高等裁判所に係属している場合には,高等裁判所が調停に付した上で自ら処理することができましたが,家事調停では,家事調停の特質性を理由にこのような処理は認められておりませんでした。しかし,補足説明にも書いたとおり,このような処理を認めることが事案の迅速かつ適切な処理に資するということもあると思いますし,これを否定するだけの理由もないと思われますので,本文Cのとおり提案しております。   本文Dでは,現行家事審判法第19条第2項の規律を維持するものとし,本文Eでは,現行法における解釈を維持し,明確化することを提案しております。   (注)では,訴訟事件等を家事調停に付した場合において,事案が家事調停により処理された場合の通知等について提案しているところでございます。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,まず「1 調停前置主義」に関しては何か御意見ございますか。ここは特別御意見はありませんか。   それでは,「2 付調停」に関してはいかがでしょう。 ○増田幹事 先ほど申し上げた点について,ここのところで御検討いただきたいと思います。具体的なニーズでいくと,遺産確認事件等,現在のシステムによると最終的な解決について家裁と地裁とに手続が分かれるケースがありますが,地裁での係属中に最終解決へ向けての和解―民事訴訟で言うと和解になりますが―を進めていくことができるようになった方が紛争解決を促進できるし,当事者にとっても便利であろうと考えます。それにつきましては,現在のこの案のように付調停で家庭裁判所に送ってしまうと,今度はその方向での解決しかできないという問題があって,もう少しフレキシブルに解決の方法を探るには,同じ裁判所の中で手続を進めていける方が望ましいということを申し上げておきます。 ○伊藤部会長 これは先ほどの話で,検討の対象とするということにさせていただきたいと思います。   ほかにいかがでしょう。 ○山本幹事 私の意見は,本文Aで裁判所が職権で家事調停に付する場合に,当事者の意見を聴く必要がないのかという点の問題提起です。これまでの御審議からも,調停事件というのは訴訟事件,審判事件と違う一つの独立した手続であるということがかなり言われていると思うのですが,当事者がある一定の事件で紛争の解決を求めたときに,それを裁判所が職権で他の事件に付する場合は,やはり基本的にはその当事者の意思を尊重する,考える必要があるのではないかと思われます。かつてADR法がつくられたときも,その審議の過程では付ADRというようなことが議論されたのですが,それにつきましては,一度訴訟で裁判を求めてきた当事者の意思に反して裁判所が勝手にADRに付するというようなことは裁判を受ける権利を侵害するという批判が非常に強くございました。もちろん,民間のADRに付する場合と,同じ裁判所がやっている調停に付する場合とでは話が違うということは重々承知しているところではありますけれども,しかし,基本的には当事者の意思を尊重する必要があるというのはここでも言えるのではないかと思っております。また,恐らく実務的には当事者の意見を聴いてやられているのだろうと思うところです。そういう意味では,規定を置くというのは象徴的な意味しかないのかもしれませんけれども,しかし,そうであっても,私は,これは,手続の主体である当事者の手続選択権というものを尊重するというシンボリックな意味においても,当事者の意見を聴いて事件を調停に付するということにすべきなのではないか,そういう意見を持っております。 ○伊藤部会長 山本幹事からは,実務上もそういうやり方が行われているのではないかという御指摘もございましたが,実務家の委員・幹事の方から関連する御発言はございますか。 ○長委員 係属中の訴訟事件を途中で調停に付すとすれば,当事者に意見を聴くということはあり得ることだと思います。 ○伊藤部会長 あるいは弁護士の委員の方で,杉井委員,いかがでしょう。 ○杉井委員 私の体験では余り意見を聴かれたことはないです。もう調停にしますという感じです。そういう意味では,せっかくきちっとあれするのであれば,山本幹事がおっしゃったように,意見を聴くものとするというのを入れていただいた方がよろしいのではないかと思います。 ○長委員 意見を聴くのですけれども,片一方が賛成して,他方が必ずしも賛成しないという場合もあります。そういうときに裁判所の方で,これは調停に付すことにするということはあるので,意見を聴くというのと同意を得ることとは違うと思います。 ○杉井委員 そうですね。私もそこまでは要求しません。 ○伊藤部会長 山本幹事の御提案もそういう意味だと思います。   今の点に関して何かほかにも御発言がありますか。   でしたら,その点は検討してもらうことにいたしましょう。   ほかに「付調停」に関していかがでしょう。―よろしいでしょうか。   (注)に関しては特段御意見はございますか。   もしよろしければ先に進むことにいたしましょう。   それでは,「管轄」ですね。説明をお願いします。 ○脇村関係官 御説明いたします。   第4の「1 土地管轄」の「(1)原則」では,調停を行うためには相手方の出頭を確保する必要があることから,相手方の住所地等を管轄裁判所としている現行家事審判規則第129条第1項の規律を維持することを提案しております。   (2)では,寄与分を定める調停事件の特則について,現行家事審判規則第129条第2項等の規律を維持することを提案しております。   (3)では,相手方の住所地がない場合等について,家事審判手続と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。   (4)では,管轄裁判所の移送等について,原則として家事審判手続と同様の規律を設けることを提案するとともに,家裁,地裁,簡裁間の移送について定める現行家事審判規則第129条の2の規律を維持することを提案しております。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,まず「1 土地管轄」の「原則」のところで,審判とは異なった内容の管轄の定め方がされていますが,理由は脇村関係官から説明があったとおりです。そのほか,現行の規律とほぼ同様のものが多いわけですが,管轄の全体に関して何か御発言があればお願いいたします。   よろしければ次に行きたいと思います。   それでは,「第5 除斥及び忌避」に関しての説明をお願いいたします。 ○脇村関係官 第5では,除斥・忌避につきまして,家事審判手続と同様の規律を提案しております。   なお,家事審判手続の議論では,家事審判官等が審判を受ける者である場合や事実の調査を受けたこと等を除斥事由とすべきかどうかについて御議論がありましたが,この点については今後更に検討を行っていくことを考えております。   「2 その他」の(注)の1では,家事調停委員について除斥及び忌避の規律を設けないことを提案しております。2では,家庭裁判所調査官について取り上げておりますが,恐らくこの点に関しては家事審判と家事調停とで規律を異にすることはないと思いますので,家事審判手続における議論を踏まえて今後更に検討を行っていきたいと考えております。   以上です。 ○伊藤部会長 そういたしますと,家事審判官等に関しては,補足説明にございますようになお検討するということ,それから,家事調停委員については特別の規律を設けないとすること,家庭裁判所調査官に関してはなお検討するというあたり三つぐらいが中心かと思いますが,いかがでしょうか。 ○杉井委員 家事調停委員についての除斥・忌避について特段の規律を設けないというのは,もう少し具体的な理由をお聞きしたいのですが。 ○脇村関係官 ここは御議論いただければと思っているところでございますが,現行法では,調停は裁断作用ではなく,話合いなので,その調停委員に不満等ある場合について強制されるわけではないということから設けられていないのだと思いますけれども,差し当たりは現行法の考えを維持することでどうかなと提案させていただいているところでございますが,是非御意見をと思います。 ○杉井委員 確かに裁断作用ではないかもしれませんけれども,調停委員会の構成員として,調停委員会の決議は過半数の意見によるということで,調停委員も1票持っているわけですから,その調停委員の意見によって,調停委員会の進行といいますか,あるいは調停成立,不成立というのが決まってくるわけですから,私は基本的には除斥・忌避の規定を置くべきだと思います。   それと,少なくとも除斥は,特に地方ですと結構調停委員というのは地元の名士なので,いろいろ当事者とのつながりとかありますよね。そういうことを考えたときに,全く除斥の規定もないというのはいかがなものかなと思います。 ○伊藤部会長 杉井委員から,家事調停委員に関して,少なくとも除斥,場合によっては除斥・忌避の両方についての検討をすべきではないかという意見がございましたが,この点はいかがでしょうか。 ○増田幹事 若干補足しますけれども,確かに裁断作用でないので,最後の調停をまとめるときに,調停委員が気に入らなかったら合意しなければいいではないかというような御意見はあるかと思いますが,家事審判規則第137条を見ますと,調停委員会の権限として,例えば弁護士以外の者の代理人の許可とか,傍聴の許可とか,そういった手続上の決定ができる権限がありますので,除斥・忌避の対象とはなり得るのではないかと思います。 ○伊藤部会長 いかがですか。 ○長委員 調停委員の場合,忌避の制度が取り入れられますと,いろいろなことにつけて忌避を活用しようとする動きも出てくるのではないか,手続の引き延ばしに利用されてしまうのではないかという心配があります。除斥も忌避も両方とも導入すべきでないとまで言っていいかどうかは分かりませんが,少なくとも忌避を入れるのは適当でないと思います。 ○伊藤部会長 そうすると,入れるかどうかは別にして,仮に導入した場合の効果として,除斥と忌避に関してはその間に相当の差があるということですね。 ○長委員 そう思います。 ○菅野委員 建築・調停部で仕事をしていた関係で話させていただきますが,忌避とか除斥という問題については,前にも触れた記憶がございますけれども,裁判官の受け止め方,書記官の受け止め方,それ以外の方の受け止め方,非常に差があります。裁判官ですと,手続の適正を守るためにこういう制度があるのは当然であるという発想ですし,同時に割り切れる,また非常にタフですね。書記官ですと少し弱くなる。少し弱くなるけれども,やはりそれは必要性の問題とかそういうことで納得していく。ところが,調停委員の場合,弁護士の調停委員の場合には違うかもしれないのですけれども,それ以外の調停委員の方がたくさんおられるわけで,そういう方たちにとって,除斥・忌避という規定があり,それによって外されることがあるということの重みというのでしょうか,心理的な委縮とでもいうのでしょうか,それが非常に気になるところがあるのです。現実には,調停部の裁判官は,当事者からクレームがあったりした場合に,いろいろとこれを受け止めたり,クッションになったり,あるいは調停委員にいろいろ指示したりとかということは行っているわけでして,かつ,そういう議論が出てきたときには,調べてみたり,あるいは実際に手続の最初から最後まで裁判官が立ち会うとか,いろいろなケアというのを行うのです。ケアを行いながら,同時に調停委員についてはガードすると言ったら変かもしれませんけれども,手続的には調停委員を指定するのはあくまで裁判所の方で行うのですよということを言う。   話は少し違うかもしれませんけれども,今はネット社会になって,実際上非常にいろいろなことを書かれたり何なりすることもあり,そのため,それでなくても一般の調停委員はかなりナイーブになっておられるところもあるのです。   あと,今お話を聞いていて少し思ったのですけれども,理屈の面で言えば,裁判官とかとは違って,調停の場合は調停主任である裁判官が手続を指揮する。最終的な指揮権が裁判官にある以上,そこは厳しくチェックしなければいけない。今,事実上というような話で言ったことも結局それにつながっていると思うのです。調停の場合は,そのバックに家事審判官あるいは裁判官がいて,実際の日々の調停も指揮できるし,そもそもの指定から含めて考えることができるというところが一つの手続的な保障になっているように考えます。 ○伊藤部会長 ここも相対立するといいますか,異なる内容の意見が述べられておりますけれども,いかがでしょう。 ○三木委員 建築・調停部で現在も調停委員をやっている者として余り言いたくないのですが,その立場は忘れまして,研究者としての立場から申しますと,やはり理屈としては忌避・除斥は入れるべきだろうと思います。調停理論もいろいろあるので違う考え方もあるかもしれませんが,原理主義的に言いますと,調停は合意で結果を出すという合意型の手続なので,少なくとも欧米の常識では,欧米には日本の家事調停とか民事調停のようなものは多くの場合ないですから比較はできませんが,一般の調停に関して言うと,合意型の手続である以上,その手続を指揮する調停人,調停委員も自由に選べるべきだというのが多くの考え方だろうと思います。私は,日本の民事調停法,家事審判法で調停委員を選べる制度がないということを外国で説明すると,何で選べないのだといってよく怒られるわけです。私が怒られる立場にはないと思いますが。私も,選べる制度を今の段階で入れろという過激なことを申すつもりはありませんが,せめてネガティブな形での選択権といいますか―選択権ではないですね。明らかに不当だと本人は思っている場合ですから,忌避・除斥の制度は入れるべきだろうと思います。以前,審判のときに申し上げたように,少なくとも除斥は入れるべきではないかと思います。 ○中東幹事 この前,東京家裁で調停を見せていただいて,そのときに強く感じたのは,少なくとも除斥については入れていただくのがいいのかなと思います。自分が性格悪いだけかもしれませんが,そういう事由がある人が調停委員になっていたら絶対に同意しないと言って最後まで調停案を拒み続けるのではないかと思います。菅野委員がおっしゃっていた調停委員の御負担というのもあるとは思うのですが,除斥であればかなり客観的な要件として決まるので,あなたはこのカテゴリーに入ったから外れますということで,これは納得できるのではないかと思うのです。 ○山本幹事 私も三木委員,中東幹事の御意見に基本的に賛成です。三木委員が言われたように当事者が手続実施者を選任するような体系もあると思いますが,もしそういうのをとらなければ,やはりADRの命は手続実施者の中立・公平性ということになるのだろうと思います。日本においても,ADR法の中では認証要件として手続実施者の公平性を確保するということが要件になっていますので,それを考えれば,一般的なADRの手続実施者の中立・公平性に対する相場観というものはそこにあらわれているような感じがします。私自身は忌避も入れるべきではないかと思っていますが,先ほど来御議論があるように,忌避については濫用のおそれという実務上の懸念が実際上強いとすれば,少なくとも除斥については入れないと,なぜ裁判所でやる調停だけ違うのですかという感じになりそうな感じがしております。 ○伊藤部会長 除斥に関しては比較的積極意見が多いようですが,それを踏まえて検討してもらうことにいたしましょう。   ほかに何かございますか。   それでは,先へ参りまして,「第6 当事者能力等」に関しての説明をお願いします。 ○脇村関係官 御説明いたします。   第6の「1 当事者能力」では,当事者能力について家事審判手続と同様の規律を設けることを提案しております。   「2 調停行為能力及び法定代理」の(1)では,調停行為能力及び法定代理について,原則として家事審判手続と同様の規律を設けることを提案しております。   ただし,調停を成立させる合意の取扱いについては,規律を変えております。例えば,被保佐人Aが保佐人甲の同意を得て家事調停事件の申立てを被保佐人Bに対して行ったような場合を前提に考えますと,申立人である被保佐人Aは既に調停事件の申立てについて保佐人甲の同意を得ていますので,更に同意を得なくとも調停を成立される合意をすることができると考えられますが,他方で,相手方である被保佐人Bは,その保佐人の同意を得ない限り調停を成立させる合意をすることはできず,ただ,同意を得なくても,調停を成立させる合意以外の行為はすることができるというふうに規律を組み立ててはどうかと考えております。   そういったことを表現するために,本文Bでは,相手方である被保佐人等は,保佐人等の同意を得なくても調停を成立させる合意以外の行為をすることができるものとして,同意を得ずに調停を成立させる合意はできないということを明確にするとともに,本文Cに書いてある特別授権行為からは調停を成立させる合意を除外し,調停の申立てについて同意を得た被保佐人等は,更に同意を得ずに調停を成立させる合意をすることができるということを明確にしております。   なお,部会資料8において,調停を成立させる合意を特別授権行為としていたのは,家事審判事件が調停に付された場合において,家事審判事件の申立人及び相手方が被保佐人であるときには,保佐人の同意を得なければ調停を成立させる合意をすることができないようにするということを表現するためであります。これは,家事審判事件の申立てについてしか同意を得ていない場合には,調停を成立させる合意をすることについて別途同意を得ることが必要であると考えたからでございます。   次に,(2)では,調停行為能力及び法定代理の特則等について提案しています。   まずアでは,家事審判手続と同様,一定の事件については,成年被後見人等の制限行為能力者であっても調停行為を行うことはできるようにすることとしております。   なお,家事審判手続における整理と違う点は,一つ目は,離婚・離縁は家事審判事件ではなかったので取り上げておりませんでしたが,家事調停はすることができますので,ここで取り上げております。二つ目は,親権者の指定等については,補足説明にある理由から,家事審判では意思能力があってもできないとしていたのをできることに修正しています。   イでは法定代理人について取り上げております。家事審判手続については,アで取り上げたような事件でも,申立てを除き法定代理人は審判行為を代理することができるとしておりましたが,ここでもその点は同様にしております。ただし,最終的な合意については,アで取り上げたような事件では本人しかしてはいけないと思いますので,除外しております。   3の「調停行為能力等を欠く場合の措置等」から6の「法人の代表者への準用」については,家事審判手続と同様の規律を設けることを提案しているところでございます。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,現行の規律と実質的内容を同じにするような事項がかなりございますが,脇村関係官から説明がありましたとおり,若干検討していただくべきものとして,2の「調停行為能力及び法定代理」の(1)のB,Cあたりのことであるとか,あるいは(2)のア,これは検討というよりも確認いただくようなことでしょうか,離婚だとか離縁の関係ですとか,そういったあたりですか。ということで,何か御意見とか,あるいはこういった点はもうちょっと注意しなければいけないとか,そういうことがございましたらお願いします。 ○道垣内委員 現行と全く同じというか,民事訴訟法の解釈についてきちんと勉強してくればよかったのですが,気がついておりませんで申し訳ございません。民訴法第31条ただし書のことでして,今回の案で言いますと16ページの(1)のAのただし書なのですが,「未成年者が独立して法律行為をすることができる場合」というのはどのような場合のことを指しているのでしょうか。卒然と考えると三つありますよね。第1は,婚姻によって成年擬制がされた場合と,第2は,民法で言うと民法第6条第1項で,「一種又は数種の営業を許された未成年者は,その営業に関しては,成年者と同一の行為能力を有する」という条文があります。さらに,第3は,民法第5条第3項には「目的を定めて処分を許した財産」という概念もあるわけです。どれを含んでいる概念なのでしょうか。 ○脇村関係官 もし間違っていたら訂正していただきたいのですけれども,今,先生がおっしゃったものを指していると理解しております。 ○道垣内委員 三つ全部を指していると。 ○三木委員 三つ目は何でしたっけ。 ○脇村関係官 民法第5条第3項。 ○三木委員 これは入っていないのではなかったでしたっけ。 ○脇村関係官 失礼いたしました。では,3項については再度確認します。 ○道垣内委員 私も恐らく民法第5条第3項は入ってないと思うのです。これを買いなさいねと言ってお小遣いを渡したというのが典型例なのですが,お店にお金を渡したのだけれども引き渡されないというときに,引渡しの請求訴訟まで未成年者が単独で起こせるとは多分考えていないと思うのです。そうなりますと,民訴法の批判になって申し訳ないのですが,ただし書は結構あいまいな書き方になっていて,もうちょっとはっきりさせた方がいいのではないかという気がします。これは今回は無理かもしれませんが。 ○伊藤部会長 是非民訴法の学者の方は肝に銘じて。ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   何か御注意いただくことがあれば,本日以外でも十分可能だと思いますので,よろしくお願いいたします。   それでは先に参りましょうか。   「第7 任意代理人」に関して説明をお願いいたします。 ○脇村関係官 「第7 任意代理人」については,全体として家事審判手続と同様の規律を設けることを提案しております。   なお,1の「任意代理人の資格」の本文Aの許可の主体については,補足説明にあるような理由から裁判所としております。   また,3の「任意代理権の範囲」では,本文@にあるとおり,代理人は強制執行に関する行為もすることができることとしております。この点は,部会資料8において,家事審判手続の関係では代理人が強制執行に関する行為をすることができないような提案をしておりましたが,部会において,家事審判が強制執行により審判内容を実現することもある以上,執行に関する行為をすることができるようにすべきではないのかというような御趣旨の御意見もございましたので,それを考慮いたしましてあわせて変更しているところでございます。   以上です。 ○伊藤部会長 家事審判手続とほぼ同様ということでありますけれども,今ありましたように,任意代理人の資格の許可に関して,家庭裁判所が判断するという点,それから任意代理権の範囲の中に強制執行に関する行為が含まれることを明らかにしているという点,このあたりですが,その点も含めて何か御指摘,御注意がございますか。―よろしいでしょうか。   またこれもお気づきの点は御指摘賜れればと存じます。   それでは,次に「第8 参加等」です。よろしくどうぞ。 ○脇村関係官 「第8 参加等」では,参加及び脱退について家事審判手続と同様の規律を提案しております。   なお,任意参加に関しまして,家事審判の議論では,当事者ではないけれども審判を受ける者については権利参加を認めるべきではないかという御意見をいただいており,検討することになっていたと思っておりますが,家事調停に限定して言いますと,当事者と審判を受ける者は一致しますので,ここではその点について特段の記載はしておりません。   以上です。 ○伊藤部会長 家事審判手続と同様ということで,ただ脇村関係官が最後におっしゃった点に関してだけ指摘がありましたが,それを含めていかがでしょうか。 ○増田幹事 特に反対するわけではないのですが,調停で強制参加というのはどういう場合を想定されておられるのでしょうか。 ○長委員 当事者適格を有する者が一部当事者に入っていない場合に任意に参加していただければ強制参加しなくていいのですけれども,例えば遺産分割の場合当事者の一部が抜けているために,抜けている適格者を当事者に加えたいということになれば,強制参加ということも可能だと思います。 ○伊藤部会長 ということで,増田幹事,よろしいですか。 ○増田幹事 はい。私も別に反対するわけではないのですが,長委員の挙げられた二つ目の例はそもそも申立て自体を却下すべき事例かなと思ったのですけれども,違うのですか。 ○脇村関係官 遺産分割で相続人が一人欠けていたケースだと思うのですけれども,却下までできると考えてはいないのではないかと思いますので,そうすると,実務上は裁判官が申立人に追加しなさいと言うのか,強制参加しないと却下できない以上は進まないことになって問題が生じると思いますので,長委員のおっしゃっていたとおりではないかと思います。 ○増田幹事 了解いたしました。 ○伊藤部会長 ほかにいかがでしょうか。―よろしいですか。   それでは,次に「第9 調停前の仮の措置」についての説明をお願いします。 ○脇村関係官 第9では,現行家事審判規則第133条及び第142条の規律を維持するとともに,現行の解釈を明確化することとして,現行法における規律を維持するということを提案しております。   ただし,本文Bについては新たな提案をしているところでございまして,調停委員会において家事調停手続を行っている場合に,急迫の事情があるようなときについては,迅速に対処するために家事調停委員会を組織する家事審判官がこれを行うということを提案しております。この点は,合議体によって調停手続を行っている際も同様の問題があると存じますので,同様に裁判長ができるということを提案しております。   以上です。 ○伊藤部会長 実質は現状と同じですが,最後に説明のあった本文Bのところに関して新しい考え方を提示しているということです。このあたりを中心にしていかがでしょうか。 ○高田(裕)委員 内容的には結構ですし,かつ代替案のない発言で心苦しいのですけれども,「仮の措置」という言葉遣いについて,なお検討する余地があるのではないかなという印象を持っております。私自身も考えますけれども,なおアイデアがあればということになるかと思います。 ○脇村関係官 分かりやすい言葉に是非させていただきたいと思いますので,今後検討していきたいと思います。 ○伊藤部会長 それでは,その点はそのように進めさせていただきます。   ほかにいかがでしょうか。 ○三木委員 ちょっと戻って恐縮ですけれども,一つ前の「〔脱退〕」のところなのですが,脱退自体がかぎ括弧に入っているというのは,脱退の規定自体入れないこともあり得るという趣旨ですか。 ○脇村関係官 確か部会の議論でも,民訴の脱退と違うのだったら表現振りを直すべきではないかという御指摘もあったと思っておりましたので,括弧にしています。 ○三木委員 表現振りだけの問題で,規定は入れるということですね。 ○脇村関係官 はい。ただ,中身的には,審判と同様,また検討していきたいと思います。 ○三木委員 では,規定を入れることを前提に伺うのですが,29ページの上から3行目で,これもブラケットに入っているので,問題にする必要がどのぐらいあるのか分かりませんけれども,ただし書を置く場合に,私は結論としては置かない方がいいと思いますが,置く場合にこのただし書がどういう意味を持つのかがよく分からない。というのは,同意しなくても,要するに本人は脱退すると言っているわけですから,手続に出てこないだろうと思いますし,裁判であれば出てこなくても裁判の効力を及ぼすということで残す意味はあるかもしれませんけれども,調停ですので,そういうことも普通はない。このただし書はそもそも,かぎ括弧に入っている趣旨かもしれませんが,なぜあるのかよく分からない。 ○脇村関係官 基本的に審判並びで考えておりましたので,このようなかぎ括弧しておりますが,三木委員がおっしゃったように,一つの考え方として,調停なので同意がなくてもというお話はあろうかと思います。ただ,一つ気になっているところは,調停から審判に移行するケースがございますので,その移行の関係で当事者にすべきだった人が抜けるという点もあるのかなという気はしておりますので,あわせて検討していきたいとは思っております。 ○伊藤部会長 ということでよろしいですか。御指摘に関しては検討いたします。   もとに戻りまして,今の仮の措置に関してはよろしいでしょうか。   それでは,「第10 子どもからの意見聴取及び子どもの保護機関」に関しての説明をお願いします。 ○脇村関係官 「第10 子どもからの意見聴取及び子どもの保護機関」の「1 子どもからの意見聴取」についてですが,陳述聴取については特段の規律を設けないものとし,子どもから陳述聴取をするかどうかは調停委員会等の裁量にゆだねるということを提案しております。これは,補足説明にありますとおり,子どもから直接陳述聴取するということも必要な場合があるとは存じますが,現行民法においては親権者の指定等は父母の協議により行うこととされていることや,陳述調書はかえって子の福祉に反するような結果を招くことも考えると,規律を設け常に子どもに陳述聴取すべきであるということは難しいのかなと考えているところでございます。   「2 子どもの保護機関」では,家事審判手続において種々の議論がありましたが,同様に家事調停でも問題となると思われますので,取り上げているところであります。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,まず子どもからの意見聴取に関して,調停委員会の裁量にゆだねるというのがここで掲げられている考え方でございますが,それに関しての御意見をお願いいたします。 ○増田幹事 提案内容について特に異論があるわけではないですけれども,ちょっと理由づけに問題ありでして,確かに協議による場合には実体法上子の同意は要求されていないわけですけれども,家庭裁判所が後見的役割を果たす調停の場において,そのことが直ちに子どもの意見を確認することは必要ではないとかいう問題ではないと思います。今の脇村関係官の御説明もそういう趣旨ではないだろうと思うのですけれども,ここの表現は,このまま将来残すということにはないように改めていただきたいなと思います。 ○伊藤部会長 そこは検討していただけばいいですね。 ○脇村関係官 表現振りによって誤ったメッセージが与えられるということは避けないといけないと思いますので,鋭意努力してまいりたいと思います。 ○伊藤部会長 こういう基本的な考え方でよろしいでしょうか。   2の「子どもの保護機関」はオープンな形になっていますが,家事審判のところでいろいろ御議論いただいたことに,更にこの場で,調停という手続の特質を踏まえて補足していただくことがありますか。 ○増田幹事 子どもの代理人制度は,審判手続における主張立証をするということもさることながら,子どもの意見を聴き,子どもの最善の利益を図るということは,調停の場で両親に対して説明するとかいうことについてよりよく機能するものであると考えます。また後日まとめて具体的な提案はいたします。 ○小田幹事 ここでの1番と2番というのは,正に論理的にといいますか,順番として連続しているのだろうと思っております。審判のところでの子どもの代理人に関しては,少なくとも審判では,調停の1番と違って,一定の場合には裁判所が陳述を聴くという前提でその必要性を議論するということだったと思っております。そうしますと,1番は規定を設けないということで,その理由が,表現はともかくとして,協議離婚云々ということではなくて,そもそも調停であっても当事者双方での合意によって決めるべきものということで,調停委員会の側で少なくとも判断するものではないという点が変わらない以上は,2番での子どもの保護機関の必要性については,審判のところとは少し違った事情があるのではないかと思っております。 ○伊藤部会長 増田幹事の御意見だと,むしろ審判の場合よりもより機能が期待できるというか発揮されるということでしたが,小田幹事の御意見はむしろ逆だということになりますね。 ○増田幹事 今日は余り深い議論をするつもりはなかったのですけれども,子どもの保護機関を採用している諸外国,例えばドイツにおいては,裁判官は,子どもの代理人を置いたことによる最大のメリットは和解が促進されるようになったということを言っておられます。オーストラリアは訴訟手続なので根本となる手続が違うのですけれども,やはり子ども代理人を入れた和解勧試をすることで和解による解決機能が促進される効果が高いと言われておりますので,そこのところは日本でも,仮に置くとすれば,むしろ審判よりも調停の方がよく機能するだろうと思います。 ○伊藤部会長 ただいまの点,ほかの委員・幹事の方で何か御発言はございますか。 ○長委員 この問題については,日本の仕組みとか今まで積み上げてきた解決方式なども十分考慮する必要があります。もちろん外国の制度の利点を考慮してもよろしいかとは思いますけれども,日本には家裁調査官制度がありますので,そういうことも十分検討した上で御議論いただければと思います。 ○伊藤部会長 では,この点も今後更に検討を続けたいと存じます。   他に御意見等はありますでしょうか。   そういたしますと,本日は予定の時間よりも若干早く終了するようなことになりますが,資料14についての審議を一通り終えていただいたことにいたしまして,次回の日程についての連絡をお願いいたします。 ○金子幹事 御連絡いたします。次回は平成22年3月12日,2週間後の金曜日,午後1時30分から,場所はこの法務省第1会議室です。 ○伊藤部会長 それでは,本日の部会はこれで終了させていただきます。長時間にわたり御審議いただきまして,ありがとうございました。 −了−