法制審議会民法(債権関係)部会 第7回会議 議事録 第1 日 時  平成22年4月13日(火)  自 午後1時30分                        至 午後6時13分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 定刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第7回会議を開会いたします。    (幹事及び関係官の異動照会につき省略)   では,配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日は,事前送付いたしました資料番号9−1と9−2の資料を使って御審議いただこうと思っております。これらの資料については,後ほど関係官の松尾から説明いたします。   そして,委員等提供資料ですが,経済産業省の奈須野関係官の御紹介によりまして,一般社団法人流動化・証券化協議会民法改正ワーキング・グループから2通の書面を御提出いただいております。一つが「債権法改正に係る意見書(中間論点整理)」の概要版で,もう一つがその詳細版です。 ○鎌田部会長 配布資料のうち,委員等提供資料につきまして,関係する委員,幹事,関係官から何か御発言ありますでしょうか。 ○奈須野関係官 お手元に,一般社団法人流動化・証券化協議会からの意見書を配らせていただいております。流動化・証券化協議会は,我が国の金融機関,それから証券会社,生保あるいはノンバンクといった債権の流動化に携わっている人々の集まりでございまして,様々な問題の検討であるとか政策提言などを行っているということでございます。   今回,債権法改正の議論が行われているということで,本日の議題であります債権譲渡,それから契約上の地位の譲渡その他関係する部分が多いので,今回の会議に意見書をお配りさせていただきました。その内容については,また今日の審議の中で御紹介させていただきたいと思います。   以上です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。それでは,本日の審議に入りたいと存じます。   本日は,「民法(債権関係)の改正する検討事項(4)」について御審議いただく予定です。具体的な進行予定といたしましては,休憩前に,部会資料9−1の「第1 債権譲渡」のうち,「4 抗弁の切断」までを御審議いただくことを予定いたしております。その後,休憩を挟みまして,「5 将来債権譲渡」及び「第2 証券的債権に関する規定」以降を御審議いただきたいと思います。   それでは,審議に入りたいと存じます。   まず,「第1 債権譲渡」については,大きく四つの固まりに分けて御審議いただくことを予定いたしております。一つ目が「1 総論」から「2 譲渡禁止特約」まで,部会資料9−1のページ数で申しますと,1ページから4ページでございます。次に,二つ目が「3 債権譲渡の対抗要件」,資料の4ページから8ページまででございます。次に,三つ目が「4 抗弁の切断」,資料の8ページ及び9ページです。最後に四つ目が,休憩後に御審議いただくことを予定しています9ページの「5 将来債権譲渡」でございます。   それでは,まず「1 総論」及び「2 譲渡禁止特約」について御審議いただくため,事務当局に説明してもらいます。 ○松尾関係官   部会資料9−1と9−2の関係についてですが,9−1が主たる部会資料であり,9−2がこれに詳細な説明を付け加えた補助的資料であることは,これまでと同様です。この場でも,基本的には9−1に沿って御議論いただきたいと考えております。   「1 総論」を冒頭に設けました趣旨は,前回までと同様です。債権譲渡の見直しに当たって留意すべき点について幅広く御議論いただきたいと考えております。また,2以降に掲げました個別論点のほかにも検討すべき論点がございましたら,ここで御指摘いただきたいと思います。   「2 譲渡禁止特約」ですが,現行法上,譲渡禁止特約に違反した債権譲渡の効力が譲渡当事者間でも無効と考えられていることについては,そもそも立法時から譲渡禁止特約の効力を認めることに対して反対論が有力に主張されていたことが指摘されており,また,今日では特約が必ずしも合理的な必要性がないのに利用されている場合もあることや,譲渡禁止特約の存在が資金調達目的で行われる債権譲渡取引の障害となっているとの指摘もされているところです。このような指摘を踏まえて,譲渡禁止特約の効力について,例えば譲渡当事者間では譲渡を有効としつつ,譲渡禁止特約の存在について,譲受人が悪意である場合には,債務者は譲受人に対して譲渡禁止特約の効力を対抗することができるものとするという考え方が提示されているところであります。「(1)譲渡禁止特約の効力」では,そのような提案の是非について御議論をお願いしたいと思います。   なお,現在必ずしも一般的に用いられている用語ではありませんが,この部会では,便宜上,このような考え方を「相対的効力案」と呼び,現行法下の考え方のように,譲渡当事者間でも譲渡を無効とする考え方を「絶対的効力案」と呼ぶことで統一させていただきたいと思います。   関連論点の1から3までの論点は,譲渡禁止特約の効力について,相対的効力案と絶対的効力案のいずれを採るかという点とは別に,譲渡禁止特約の効力の在り方を御検討いただくものです。   「(2)譲渡禁止特約の効力を譲受人に対抗できない事由」では,判例法理の明文化,あるいは規律の明確化という観点と,譲渡禁止特約の効力を更に制限することの要否という観点の二つの観点から御議論をお願いしたいと考えております。   まず,「ア 譲受人に重過失がある場合」と「イ 債務者の承諾があった場合」は,判例法理の明文化,あるいは規律の明確化という観点から問題提起をいたしました。他方,「ウ 譲渡人について倒産手続の開始決定があった場合」は,仮に相対的効力案を採った場合において,譲渡人の倒産手続開始後は,倒産手続の中で複数の債権者が債権を奪い合う局面であるところ,このような局面においてまで,債務者が譲渡禁止特約の効力を譲受人に対抗するか否かを選択できるとすることは相当でないという問題意識から,譲渡禁止特約の効力を制限することが提案されているところでありますので,そのような必要性があるか御議論をお願いいたします。   最後に,「(3)譲渡禁止特約付き債権の差押え・転付命令による債権の移転」では,譲渡禁止特約付きの債権であっても,差押債権者の善意,悪意を問わず,差押え・転付命令による債権の移転を認めている判例法理については,現在では特に異論が見られないところでありますので,これを明文化するかどうかということを問題提起いたしました。   説明は以上です。 ○鎌田部会長 それでは,ただ今説明がありました部分のうち,まず「1 総論」について御意見をお伺いしたいと思います。 ○新谷委員 まず,「総論」の冒頭において,「企業の資金調達の手法として債権譲渡の重要性が高まっている」という記載がございます。それ自体を否定するつもりはございませんし,また,金融手段としての債権譲渡の意義については理解をしてございますが,ただし,それは譲渡の対象となる債権を担保物とする先取特権の保護とのバランスが重要ではないかと考えてございます。特に企業倒産時における労働債権保護については,債権譲渡の見直しについては重要な影響を与えると考えてございます。特に企業倒産時においては不動産は担保にとられていますので,債権を回収するときに,例えば売掛金の債権譲渡を受けるということがよくやられるわけでございます。   その一方で,優越的地位を持つ債権者が自己の債権の回収のために債権譲渡を受けて,結果として労働債権の確保が困難になるということも生じるわけでございます。特に日本の場合は退職金制度がございまして,退職金の金額が非常に大きいということがある反面,その保全の措置が十分でないということがございまして,企業倒産においては,この退職金の回収が非常に困難になるということが出てくるわけでございます。   今回の見直しに当たっては両面あるわけでございますけれども,優越的地位にある者だけが債権回収が容易になって,労働債権の確保が困難になるということにならないようにしていただきたいと思ってございます。   また,今回の部会資料をずっと拝見しますと,譲渡人に対する債権者相互の利害対立という部分の検討が一部不足しているのではないかなと考えてございます。もっとも,現行制度が最善とは思ってございませんけれども,今回の改正に当たっては,幅広い利害関係者のコンセンサスが重要だと思っておりますので,慎重な審議をお願いしたいと思ってございます。   冒頭で以上でございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。関連して何か御発言ございますか。   ほかの点についての御発言はいかがでしょうか。─それでは,また2以下の個別論点の議論の中で総論に関連した御意見も出てくるかと思いますので,2以下の個別論点の議論に進ませていただきます。   「2 譲渡禁止特約」について御意見をお伺いしたいと思います。御自由に御発言ください。 ○大島委員 まず,譲渡禁止特約の効力についてでございますが,現行法を維持する考え方を採った場合も,当事者間では譲渡は有効とする考え方を採った場合も,取引実務への影響は限定的だと思われますが,慎重に御検討いただいて制度設計いただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでございましょうか。 ○奈須野関係官 ただ今の御発言と似たような話ではございますけれども,譲渡禁止特約が付いた債権の譲渡を原則として当事者間では有効とするルールにつきましては,結論として,絶対的効力を採るのか,相対的効力を採るのかによって,果たしてどの程度の結論の違いがあるのかということでございまして,特に債権譲渡がばんばん行われているような単純な金銭債権は別としても,事業提携契約のように企業間で相互の信頼関係が前提になっているというような契約につきまして,そういうものについては基本的には譲渡禁止の特約が付いているわけですけれども,そういうものを正面から譲渡が可能であるというような立法をすることについては,理論的にはそうなんでしょうけれども,実務的にはちょっと抵抗感があるということで,この部分については慎重な議論をお願いしたいという声が省内からは多かったです。   以上です。 ○鎌田部会長 ほかに御意見いかがでしょうか。 ○中井委員 この譲渡禁止特約について弁護士会の意見を広く聞いてみると,正反対の方向からの意見が出ております。差し当たって,最初に現行法を維持する方向での意見を御紹介させていただきたいと思います。   基本的に金銭債権を想定して議論をするわけですけれども,譲渡禁止特約以前の問題として、債権者と債務者との何らかの原因関係によって発生した債権が,それほど言われるように自由な譲渡が認められてよいのか。債務者にとっては,だれに払うのかということについては,深い関心を持っている。単純な貸付債権であっても,貸付人が変わる,優良なA銀行だったものが,途端にある取立屋に回るということについては,債務者にとっては重大な関心事で、現に,現行法でもサービサーに関しては,しかるべき法規制がなされている。そういうことも考えますと,いったん成立した債権債務関係について,それがたとえ金銭債権だからといって,債務者の知らないところで全く自由に譲渡される,それが資金調達の必要性から正当化できるのか,疑問のあるところです。   債務者にとっては,部会資料にあるとおり,相殺期待,事務処理の問題,過誤払いの問題とか,債権譲渡禁止特約に一定の合理性が認められているわけです。その一定の合理性をもとに,債権者と債務者との間でいったん譲渡はしないという合意をしたにもかかわらず,その合意を債権者が意図的に破って,それを第三者に譲渡する,これを正面から有効とすることについて,違和感があるという意見です。   今専ら言われていることが資金調達の問題になるわけです。本日,机上配布された意見書では,資産の流動化,債権の流動化については必要性があって,それが阻害されるようなシステムはできるだけなくす方向での意見と伺いました。実務において,そのような流動化が行われて,それが資金調達に使われ,企業にとって必要な資金が補給されているという事実があるのだろうと思いますが,本件禁止特約によって,それが実態としてどれほど阻害をされているのか,必ずしも弁護士会の中でも認識を共通にすることができません。そうだとすれば,今回このような特約についての効力を変更するという判断をするのであれば,もう少しこの禁止特約がどのような役割を果たしているのか,この禁止特約があることによってどのような資金調達に阻害が生じているのか,これを相対的有効説にすることによってどのようなメリットが現実にあるのか。もう少し実態的な調査,ヒアリングというのでしょうか,本日提出された意見書は,そういう意味では貴重なものですが,そのあたりを尽くしていただきたいと思います。   更にあと1点ですが,相対的な効力を採ったときの弊害として,これは譲渡人に倒産手続が開始したときにどのような取扱いをするのかという議論のところで申し上げるべきことかもしれませんが,恐らく禁止特約があるにもかかわらず,資金化が要求される場面というのは,正に危機時期であるように思われます。危機時期,つまり譲渡人における資金調達が苦しくなっている時期に往々にして行われる。このとき相対的効力説を採り,かつ倒産手続においてその効力の主張ができない,という構成をとったときには,当然,譲受人側が譲渡人に倒産手続を開始しても回収できる,債権を正当に主張できることになるわけですけれども,それは倒産時における流動財産,売掛金等をほとんど無にするに等しい結果を生む可能性が高い。これは,先ほど新谷委員が説明されましたように,倒産時において売掛金債権等が倒産財団にほとんど残らないという結果を生み出す可能性についてどう考えるのか。それは企業が生き延びるために必要な資金調達だったから積極的に容認し,それによって企業が再生すればよいではないかという判断と,それを危機時期に進めることによって,いざ倒産したときには財産が何も残らずに,労働債権さえも保護されかねないという事態が果たしてよろしいのか。このあたりも慎重に検討していただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○三上委員 この論点には,銀行等金融機関におきましては,相殺との関連で保全の問題が別途ありますが,その点は次回に議論されるということで除きますと,一般的に譲渡禁止特約が使われている場面というのは,資料にもありますように,だれが債権者か変わると困る弱い債務者保護という場面で利用されているというよりは,強い立場の債務者が勝手に債権者が変わらないように支払の便宜のために使っている場合が多いという現状を前提にした話になるわけですが,そういう意味では,一般的にこの問題は,払うときにだれに払えばよいのか,間違って二重払いにならないかという点と表裏一体になっているケースが多いということ,つまりこの問題と債務者の保護の問題というのは切り離せないのではないかという点を最初に指摘しておきたいと思います。   それから,相対的効力の考え方というのは,その点では優れているんですが,これは一方では非常に中途半端であるとの指摘があります。相対的効力でいくのであれば,譲渡禁止特約に関して善意の譲受人に対してもそれを主張できるようにすべきであるという意見がありますし,流動化を進める方の立場からは,相対的効力であれ何であれ,譲渡禁止特約が付いているものは流動化の対象にはできないと言われます。それをそのまま流動化の対象にしますと,当事者間では譲渡禁止特約違反には違いないわけですし,最後の返済の場合で資金繰りに困る結果になれば,それはエージェントなりデューデリジェンスをやった者の善管注意義務違反の問題にもなるので,結局,相対的効力にしたからといって債権流動化が大きく進展するとは思えないという意見もございました。   一方で,保全・回収を図るセクションからは,相対的効力になることによって差押えや破産管財人に対抗できる場面が増えるわけですので,基本的には賛成であるという意見も出ております。   そういう意味で,中井委員もおっしゃいましたけれども,銀行内でも譲渡禁止特約に関しては意見が二分されているという状況にあるわけですが,その一つの原因として,資料の4ページにも言及があるんですが,売掛債権を流動化する場面と預金債権が譲渡される場面とでは同じ債権譲渡でも考えている要素が違っており,しかも預金債権というものがかなり大きな束として存在するものですから,これがこの問題を複雑にしているという点は確かにあると思います。預金債権につきましては,少なくとも流動性預金に関しては,債権の譲渡なのか契約上の地位の譲渡なのか不明な点,あるいは残高が常々変わるところ,どの部分が譲渡されたのかの特定など非常に複雑な問題が発生しますし,定期性預金も含めまして預金全般に関してはマネーロンダリング規制がありまして,本人確認を受けない譲受人に対して支払うわけにいかないといったような問題もありますので,預金債権異質論といいますか,別扱いになれば,銀行界の意見は収束するようにも思います。譲渡禁止特約の第三者効を一律にないことにして一定の範囲にだけ有効とする規制がよいのか,あるいは資料にもありますように,一定の範囲の債権についてのみは譲渡禁止特約の第三者効を否定する方がよいのかは別として,債権の属性により規制を分けるという考え方も有力な選択肢になると思います。   それから,対抗要件の登記手続という後で出てくる問題に関連するんですが,そういったことを総合していきますと,そもそも債権の流動化といいますか,債権譲渡が金融の手法として大きくクローズアップされたのは,印紙代節減という流れで手形の発行が減ってきたここ数年の状況に対応しているわけです。以前は,債権担保というのは添担で評価ゼロというのが普通でしたが,それが大きく変わってきたのは,手形割引・手形担保が減って債権を担保にとるという必要が出てきたという事情によると思われます。逆を考えますと,債権譲渡に関して登記等々で規制が強くなる,あるいはコストが高くなると,再度少額な取引に関しては手形の有用性というのが増してくる可能性もあるわけです。電子債権に置き換わる可能性もあるのですが,電子債権も手形もそうですが,将来債権には対応できないという問題があります。こういったところで銀行界の意見も分かれているという状況を報告させていただきます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○道垣内幹事 議論の仕方なんですが,絶対的効力なのか,相対的効力なのかというところから入るのがどうしてなのかがよく分かりません。仮に相対的効力だとしましても,例えば立証責任に関してB案を採り,差押債権者にも勝てないし,破産管財人にも勝てないということにしますと,現行法とどこか変わるわけではありません。したがって,そこらあたりの効果をどうするかが決まって,それをもたらす法律構成としては相対的効力にした方がうまく説明できるか否かという話なのではないかという気がします。   プラスして,現行法は絶対的効力であるという話なのですが,ほんとうにそうなのかが,やはり問題としてあるような気がいたします。御承知のように最近でも,譲渡人自らが譲渡禁止特約の効力を主張できないとする最高裁判決もあるわけですので,資料の作り方として,絶対的効力というのが現行法なのだということでまとめていいのかというには若干疑問を感じます。ただ,後半はどちらかといえばどうでもよくて,前半の議論の仕方としては,もう少し各論の方からやった方がいいのではないでしょうかということをとくに申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○松本委員 今の道垣内幹事の話もありますが,制度を変えようと,債権譲渡をやりやすい方向にしようというために,絶対的効力から相対的効力へということなんでしょうが,そうなると,つまり譲渡しませんという約束を債権者・債務者間でしておいた債権が,その約束に反して譲渡される,そしてそれが有効とされるケースが改正前よりはかなり増えるだろうと,増やしたいからこういう改正をしようというわけですね。   そうしますと,その譲渡禁止特約とは一体何ぞやということになります。これは,つまり契約違反ですよね。当事者間では譲渡しないという約束をしているにもかかわらず,債権者がそれに故意に違反をして譲渡をしたというわけだから契約違反であって,そうすると債務不履行の損害賠償というような問題が起こってきてもいいんですが,ここで一体「損害」とは何ぞやというと,そんなものないのではないですかと。事実上,取立ての厳しい債権者に当たるのは嫌だと,それは法律的に保護される利益ではないのではないですかというような議論が出てきそうなんですよね。そうなると,特約とは何ですかということで,いっそのことそこまでやるんなら,譲渡禁止特約は金銭債権についてはそもそもできないんだとかいうことにしないと,何か一貫しないのではないかなという印象がありまして,特約違反の場合の効力ではなくて,法的効果をどう考えるのかというあたりも込みにして議論する必要があるのではないかなと思います。 ○木村委員 我々事業会社の場合,資機材の調達も含めて,様々な契約を結んでおります。そのときの代金債権につきまして,我々の知らないうちに債権譲渡がされていく,別の人間が債権者になるということは,望ましいことではないので,契約に譲渡禁止特約というような譲渡禁止条項を設けている次第です。   ただし,資料に書いてありますように,企業の資金調達のために債権譲渡がどうしても必要という場面もないわけではないということから,当社の場合ですけれども,融資のために,どうしても債権を譲渡して融資を確保することが必要な場合は,我々の方にも申し出てもらって,きちんと協議をして,それで決めていきましょうというような,言わば契約上の対応をしています。   したがいまして,先ほどお話がありましたように,譲渡禁止の約束に違反した譲渡が相対的に有効なのか無効なのかというのは,余り本質的な議論ではないのではという感じがしています。また,今お話ししたような形で,譲渡禁止特約というのは必要性もあるわけですので,全面的に意味がないとして最終的に禁止するみたいなことは,世の中にとってダメージといいますか混乱を巻き起こす可能性もあり,基本的には当事者の間で決めた以上はそれは守る,ただし,債権譲渡に伴い資金調達を行う必要のある場面もあり得るんだということは認識しながら契約を結んでいく,ということでいいのではないかと感じています。 ○松本委員 ちょっと誤解を与えたかもしれないんですが,私の先ほどの発言は,すべて禁止すべきであるという趣旨の発言ではなくて,むしろ反語です。どちらかというと反対の趣旨を込めて,結果としてそういうことになるのでもいいんですかという趣旨でありまして,つまり間接的効果説と言われているのは,非常に中途半端な説ではないかということを言いたいわけです。したがって,従来どおりでやるか,あるいは徹底して方向を変えるかにしないと,中間的なというのはちょっとよくないのではないかなという印象です。 ○藤本関係官 資金調達という観点から債権譲渡をやりやすくするということは相対的効力と親和性があるということが前提になっている議論が幾つかございました。   私どもとして,中小企業を含む企業の資金調達の円滑というのは重要だと考えております。  この観点からは,売掛債権の流動化のためのいわゆる一括決済方式というものがございまして,そういうものでは逆に譲渡禁止特約というものが用いられていて,その絶対的な効力というものを前提としてスキームが組まれております。もし一定の場合に債務者による二重払いリスクが高まるとか生じるということであれば,こういった一括決済方式の維持が困難になるという側面もあるのではないかと思います。企業の資金調達の円滑に支障が出るおそれがないかどうか,やや逆の観点ですが,そういう観点からも御検討が必要なのではないかと思います。   それから,話はちょっとずれますが,保険会社など金融機関というものは債務者になることもあるわけでございますが,金融機関でさえ譲渡人の倒産手続開始の有無を逐次把握できないというような声もございます。また,譲受人の善意,悪意はうかがい知ることはできないというような声もございます。二重払いリスクという観点からも,よく検討が必要ではないかと考えております。 ○深山幹事 絶対的効力説か相対的効力説かという議論の立て方に関係して,絶対的効力と言われるかどうかも議論があるところかもしれませんが,現行の466条を見ても,無効だといいながら,その2項ただし書で,善意の第三者に対抗できないという規律であり,そのような意味では100%の絶対ではないし,およそ何の法律的な効果も生じないという意味で,絶対的効力ということを主張する人はほとんどいないのではないかなと思うんです。   結局,絶対的効力と言うか,相対的効力と言うかはともかくとして,譲渡禁止特約の効力をだれがだれに対して言えるか,どういう場面で言えるかという,各論の議論が重要であって,抽象論としてどちらかということは多分議論できなくて,先ほど道垣内先生が御指摘されたように,その各論の議論をする中で,それをどう説明するかという,理論的な説明の問題として出てくるような話なのではないかなと思います。そういう意味では議論の進め方としても,各論を議論していくと,絶対的効力的に考えるという中でも幅があるでしょうし,相対的効力ということに軸足を置いてもかなり幅がある,複数の考え方に分かれるのではないかなと思います。   そのことを1点指摘させていただいた上で,この時点で1点だけ申し上げたいことは,先ほど松本先生のご発言に出ましたように,そもそも譲渡禁止特約とは何ぞやということに関係するかと思うんですが,債権という資産,財産というのは,物権的な財産と違う点は,債権者と債務者の合意によってつくられるところと言えます。法定債権を除けば,契約上の債権というのはそういう性質を持っていて,その債権の中身というのは,両当事者の合意によって決まってくるということが当然の前提としてあろうかと思います。その一つの中身として,この債権は譲渡してはいけませんよ,しませんよという合意がそこには含まれている。となりますと,それは要するに契約上の債権という財産の一属性といいますか,性質を形成しているのではないかなという気がするんです。そういう意味では,当事者間ではそれは財産なんだから自由譲渡が原則だというのは,そう簡単に当てはまるものではなくて,そもそも譲渡が禁止された財産という形で発生した債権,財産なんだということを前提に考えると,もう少し,それを破って譲渡した場合の効力やいかにということは,ある意味慎重に考えるべきではないかなと考えております。そこから先は,先ほど申し上げたように各論の議論の中で議論をしていきたいなと思っております。 ○鎌田部会長 部会資料の2の(1)から(3)まで一括して議論の対象にしておりますので,各論的な部分についての御意見も遠慮なくお出しをいただきたいと思います。 ○潮見幹事 各論の方の議論に流れそうなので,個人的には私も何人かの委員の先生がおっしゃっておられるように,最終的には譲受人の側の利益とそれから債務者側の利益の調整等と要件面ではかり,それを立証責任のところでも更に裏打ちするかというところの議論に最終的にはかかると思うんですが,ただ,そこに行く前にもう一度,基本的な枠組み自体を少しだけ確認させていただきたいと思います。   先ほどの道垣内幹事のお話にも出ていたところにも関係するのですが,絶対的効力だとか相対的効力という枠組みで債権譲渡禁止特約の効力がどうなるかという議論をこれまでしてきたのかという点が,個人的には最大の疑問です。むしろ従来の債権譲渡禁止特約をめぐる議論というのは,債権譲渡禁止特約は債権者と債務者の間の契約で行われているのであるから,その契約によってつくられた拘束力というか規範というものは第三者に及ぶのであろうかという観点から,問題にされてきたと思います。   この議論の流れをくむのは,債権譲渡禁止特約のところの議論で普通に言う言い方をしますと,債権的効力説と言われている考え方であろうと思います。債権譲渡禁止特約を結ぼうが,それは当事者間を拘束するような意味しか持たないのであるからと,それを前提として,その拘束力が第三者に及ぶかどうかということを考えていこうと。債権譲渡禁止特約違反の債権譲渡契約がされたとしても,基本的にそれは有効として扱って,それに不都合なところがあれば,何らかのルールを立てることによってそれを修正しようという枠で議論をしてきたのではないかと思います。   ところが,従来の債権譲渡禁止特約をめぐる議論というものは,そのような債権的効力説に対しては極めて冷淡で,どちらかといえば物権的効力説と言われている考え方で説明をしてきました。それはどういうものかといったら,債権譲渡禁止特約がある場合には,債務者の利益保護が必要であるから,だから,たとえ譲渡禁止特約があって,それが契約の拘束力で相対的な意味しかないというのが原則であったとしても,債権譲渡禁止特約に違反した譲渡契約の効力は無効という形で処理をして債務者を保護すべきであるという枠組みで考えていたと私は理解しております。これが物権的効力説という考え方の基本的なスタンスであったと思います。裏返して言えば,そこには契約の相対効だとか例外だとかいう考え方はない。   ところで,物権的効力説と言われている考え方,つまり譲渡禁止特約違反の譲渡契約は無効であるという考え方を仮にとった場合には,今日ここでいろいろ問題になっているような譲受人の利益だとか,あるいは倒産状態の処理等において適切な考慮が図られるのかと,そういう問題等々が出てきて,実際に─ここから先なのですけれども─物権的効力説という考え方をとった場合でも,実際的な処理として,従来から主張立証責任のところで債務者に譲渡禁止特約の存在を主張させ,かつ主観的な対応まで債務者に証明させるという形で修正をし,実際のところは無効だと言いながら,かなり債務者の側に厳しい立証責任を分配することによって問題を処理しようとしてきました。さらには,先ほど道垣内幹事の発言にもあったと思いますけれども,昨年の最高裁の判決が出ることによって,物権的効力説に立ち譲渡契約無効だと言われていた中で,その無効の意味を,債権譲渡の債務者に対する対抗という枠組みで捉えて展開したという面があります。   ここで,絶対的効力か,相対的効力かなどという形で議論をした場合には,問題の本質が見落とされる可能性があるのではないかと思います。むしろ,従来物権的効力説の枠組みの中で今言ったようないろいろな従来の学説あるいは判例が操作をしてきたことを踏まえて,債務者の利益保護と債権の流動化促進のための譲受人の地位保護というものの利益調整というものを適切に反映させるような枠組みをつくっていくべきだろうと個人的には思います。そこに,両者の利益をどう反映させるかという展開がつながらないと,結局は債権譲渡のほかの部分にかかわる全体の構造が不透明となり,あるいは場当たり的なものになるのではないかという懸念を感じます。 ○内田委員 ただ今の潮見幹事の御議論,それからその前に道垣内幹事からも似たような御指摘がありましたけれども,大変有益な御指摘であると思います。   絶対的効力か,相対的効力かという議論からスタートして,そういう形で議論することは余り有益ではないという御指摘がありましたが,もともとの事務局の資料は,絶対的効力か,相対的効力かをまず決するべきであるなどと提案をしているわけではありませんし,それをまず議論すべきであるという枠をはめているわけでもありません。   従来,潮見幹事からも御指摘がありましたように,債権的効力説,物権的効力説という議論があって,その言葉を使ってもよかったのですが,最近提案されている提案は,従来の意味での債権的効力説と同じように見えるのですけれども,立証責任の点で必ずしも同一ではないと主張しておられるので,従来の学説の表現をそのまま使ったのでは,最近の新たな提案を完全にカバーし切れないかもしれないと。そこで,契約法の原則からすると当事者間の合意が相対効であるのは当然の大原則ですので,その相対効の原則にのっとる考え方を相対的効力案と呼び,特約の効力が第三者にも対抗できて,したがって特約違反の法律行為の効力が否定されてしまうという考え方を絶対的効力案と呼び,そういう呼び方で一応議論してはどうかということまでを事務局では提案をしています。   その上で,まずそれを決してから効果に行くか,あるいは個別の効果を議論するか,それはまさにこの部会で御議論いただくべきことで,私自身も今までの御議論を伺っていると,やはり個別の効果のところから議論するというのが有益ではないかという印象を持ちました。   以上です。 ○松本委員 潮見幹事のおっしゃった物権的効果説の説明がちょっと理解できなかったところがあったのでクラリファイしていただきたいんです。というのは,潮見幹事は,物権的効果説だと債権の譲渡契約が無効になるんだという説明をされたんですが,物権的ということから想定されるのは,譲渡契約は有効だけれども,譲渡の効果が発生しないという方が正確だと思うので,そういう趣旨でおっしゃられたのか,それとも契約そのものが無効になるというレベルでおっしゃっているのかということなんです。   論理的には,両方考えられると思います。契約は有効だ,しかし債権譲渡の効果は発生しないと,それは所有権の移転で考えれば,他人物の譲渡であれば,契約は有効だけれども所有権移転の効果は発生しないんだと。それと同じように考えて,債権譲渡禁止特約付きの債権はそもそも譲渡性を欠いたという点で,物権的な意味でのそもそも譲渡できないものなんだから,契約は有効だとしても,譲渡という効果を発生させることはできないんだと考える方が,普通の物権変動とパラレルで分かりやすいと思うんですが,潮見幹事はそうではない説明をされたようにお聞きしたんですが。 ○潮見幹事 私の方が誤解をしているのかもしれませんが,従来の債権総論のいわゆる教科書,体系書で一般的に書かれているところによれば,債権譲渡は準物権行為である,あるいは準物権契約であるとされています。ここの場合に問題になっている契約は,余りこういう表現は使いたくないのですが,物権契約であって,その意味では譲渡契約自体が無効になるという説明が基本的に多かったのではないかとは思っています。 ○鎌田部会長 学理的な議論は延々と続きそうな感じでありますし,事務局側の論点整理についても,御指摘のような点があるかとは思うんですが,逆に,その辺の学理的な部分での決着がつかない限り制度構築ができないのかというと,そういうわけでもない。むしろ現実的にその制度の中で,要素とされる部分を一つ一つ明確にしていくというアプローチの仕方もあるだろうと思いますし,何人かの御意見も,どちらかといえば個別の論点に一つ一つ結論をつけていって,それらが論理的に矛盾しているとおかしいし,理論的な基礎付けができないとおかしいわけですから,個別の論点についての議論をしていく中で論理的な一貫性の確保ということに配慮していけば,一応ここの部分についての制度設計のイメージは出てくるのではないかというふうなお考えが相対的に多く表明されたのではないかと理解しております。   この場で全部の結論を出す必要はありませんが,どこに対立軸があって,今後の作業を進めていく中でどの点をより重視すべきか,あるいはどちらの方向に向かっている御意見が多いかを配慮しながら,次のステップに向けての準備を事務局としては進めていくことになると思いますので,多様な御意見をお出しいただければと思います。先ほど来,各論的な部分については御意見を留保されている委員,幹事の方が複数いらっしゃいますが,その部分もどうぞ御意見をお出しいただければと思います。 ○岡(正)委員 三つに分けて申し上げたいと思います。   一つ目は,譲渡禁止特約付き債権が悪意の人に対しても移転の効果が生じるという方向の提案で,その立法理由としては,取引を保護する,資金調達をやりやすくするということだろうと思います。ただ,そういう一定の債権について,一定の場合にそういう要請があるのは理解できますけれども,民法で広くすべてについてそういう取引あるいは資金調達の自由を認めるほどの要請があるかというと,それほど広くはないのではないか。特定の債権について,取引あるいは調達を認めるべきものはあるかもしれませんけれども,民法一般の原則としてそれを認めるほどではないのではないかという意見を持っております。   二つ目ですが,譲渡禁止特約がある債権でも,先ほど木村委員から言われたように,同意を得て資金調達することは現に行われております。いったんは譲渡しないと約束をした債権者ですし,債務者との関係でも合理的な話合いがあれば,合理的な場合には資金調達ができております。債務者としても自分の承諾のもとにやられる資金調達には寛容であっても,サイレントでやられる資金調達について,幅広く原則として認めるような必要性はないのではないかと思います。   それから三番目に,これは松本先生の中途半端というのとよく似ているんですが,理論的にはすばらしい,第三債務者の利益を守りながら譲渡の有効性を認めるという,きれいな提案だと思います。しかし実際のところは,この債権を譲り受けたあなたは,差押えだとか破産があっても勝てますよ,でも債務者にあなた自身は請求できませんよ,破産になったり差押えが入ってきたときに,その人たちがもし回収しても,あなたは訴訟をやったら取り戻せますよ,でも債務者に直接は請求できませんよと,そういう中途半端な立場を認めることですので,それで果たして合理的な資金調達ができるのか,疑問を持ちます。むしろ,困り切った人がせっぱ詰まって苦しい資金調達に手を出し,なおかつ悪徳業者がそういうところに群がっていく弊害が多くなるのではないか。そうではない,いいケースもあると思うんですが,むしろ社会的にはそういう中途半端な資金調達,弊害の多い資金調達を招くのではないかという心配をしております。   以上総合すると,民法の原則として,悪意の人にも譲渡禁止特約債権の移転の効力が生ずるという一般論を持ち込むのは,今のところ消極でございます。むしろ特定の債権について何か個別保護をつくる,その方向の方がよろしいのではないかという意見を持っております。   以上です。 ○中井委員 相対的効力とした場合の弊害として理解しているところを一つ御紹介しておきますと,この考え方によれば,譲渡禁止特約があっても,悪意の譲受人との間での譲渡契約は基本的には有効である,ただし債務者の利益を考えると,債務者は譲渡禁止特約を悪意の譲受人に対しては主張できる。結果としてどうなるか,債務者は譲渡人に支払って,譲受人は譲渡人から回収する,これが想定されている。他方で,従来の判例になっている善意─無重過失かともかくとして,善意の譲受人に対して債務者は譲渡禁止特約を主張できない,したがって善意の譲受人は回収できる。   この二つの譲渡が順次,第1としては悪意の譲受人に,次に善意の譲受人に二重譲渡が起こった場合のことを考えると一体どうなるのか。今の例では,結局第2の譲受人は回収でき,第1の悪意の譲受人は回収できない。第2の譲受人は回収した後,第1の悪意の譲受人から返せと言われる。そういう事態のときに,第2の善意の譲受人は回収努力をするのか,回収しても結局また第1の譲受人に持っていかれる。結局,そこにはデッドロック状態が生じないのか。破産手続が開始したときの取扱いについてどうするかという問題がありますけれども,破産手続が開始したときに,仮に,悪意の譲受人であっても当然債務者に対して権利の主張ができるとなりますと,倒産手続を開始した途端に債権者が債務者にとって変わる。それまでは,先ほどの例ですけれども,善意の第2の譲受人が債権者として登場し,その人に弁済すればよかったのが,倒産手続が開始すれば途端に第1の悪意の譲受人が登場してくる。そうすると,譲渡人に対する抗弁事由も,どの時点で発生したかによって言える範囲が異なってくるのではないか。   申し上げたいことは,極めて錯綜した関係がそこで生じることは間違いがない。従来の考え方がいいのかはともかく,悪意の譲受人は権利を取得できないことではっきりしている。あとは,どの範囲の譲受人であれば,ここは一定の要件の立証責任の問題もありますが,それであれば債務者も致し方がないとして特約の主張はできない。権利の帰属としてはすっきりして,そこに混乱の生じる可能性は少ない。その違いからしても,仮に相対的な考え方を採るということは,その後の権利関係を極めて錯綜したものにしないかという危惧があります。 ○沖野幹事 絶対的効力案か相対的効力案かということについて,それから譲渡禁止特約におけるイメージについてお話をしたいと思います。絶対的効力か相対的効力かということについて,総論的な問題であるという位置付けがされ,現在のところそのような形で議論がされている面もあると思います。けれども,この問題は譲渡禁止特約に違反した債権譲渡の効力をどう考えるかという各論の問題でもあります。その切り出し方自体,およそここが決まればすべて決まるという問題として,資料でも提示されていません。そもそも譲渡禁止特約の効力自体をどのようなものとして考えるかというときに,債務者との関係ではない,譲渡の当事者間でどのような効力を持つものと譲渡禁止特約を構成すべきかという問題だと思いますので,ここで絶対的効力案・相対的効力案というその名称のもとに問われていること自体が一つの各論だろうと思います。   ただ,一方でそれが総論的であるのは,やはり譲渡禁止特約についてのスタンスを問うというものでもあるからだろうと思われます。譲渡禁止特約というのは基本的に債務者の保護のためにあって,そして合理的な理由があるということは認められているところだと思います。それがどの程度のものかとか,どういう場面でかというのが,いろいろな考えのある点であって,譲渡当事者間においても譲渡の効力を否定しないと債務者の保護が図れないのか。あるいは否定することを,正にそういう形でやるべきなのかということが問われているのだと思います。   もちろん,債権をその譲渡を通じて財産として活用したいということであれば,現行法においても債務者の個別承諾をとればよいということは,既に御指摘のあったところです。けれども,これは社会実態を改めて分かる範囲で調査していただければ大変有り難いと思いますけれども,これまでのところは,必ずしも承諾してくれる債務者ばかりとは限らないということが言われておりまして,とりわけ優良な金銭債権について必ずしも承諾は得られないと言われておりました。ですから,正に理解ある債務者は個別承諾をしてくれるということかもしれませんけれども,それが制度として担保はされていないということですので,その部分をどう見るかということが一つあろうと思います。合理的な取引であって,承諾を得て活用したいということに対して,しかしそもそも譲渡禁止特約をしているんだからという指摘がありますが,その譲渡禁止特約が本当に個別合意として,完全な合意として債権者側の利益にもあるものとして特約されているのかというと,必ずしもそうではないという事情がある中で,どう考えるのかということではないかと思います。   さらに,この局面は譲渡禁止特約の局面ではありますけれども,一方で対抗要件制度とつながる面もございます。例えば岡委員から,債務者の関与なしにサイレントで債権譲渡がされるということに対して極めて消極的な考えが出されておりました。また,個別承諾によって譲渡禁止を外せるんだから,それ以外では外すべきではないという考え方は,債務者以外の第三者との関係でその債権の帰属等をめぐる,あるいはその活用のあり方をめぐる問題においても,債務者がコントロールするというのが債権譲渡なり債権のあり方なのだという考え方ではないかと思います。   しかし,その考え方自体が適切なのかということは,やはり問うべきであると思いますし,さらに対抗要件の制度では,部分的ではありながら債権譲渡登記制度が導入されることによって,債務者にサイレントの形で債権譲渡をし,債務者自身に対しては権利主張ができないという状態であっても,それ以外の第三者との関係では地位を確保すると,そういうあり方が一定の意義を持っているということと思っております。そのことへの評価は対抗要件のところで改めて検討なり御意見なりがあると思いますけれども,そのような債権譲渡観といいますか,それと適合的な制度かという観点も考えるべきではないかと思います。両方の局面での基本的な姿勢がずれていると,不整合であり,適切ではないという気がいたします。そういうことを考えましたときには,ここで言われるような相対的効力案というのは確かに問題は複雑化する面はございますけれども,逆に言うと,様々な調整措置によって対立する利害というのを調整するということでもありますので,考えられる考え方ではないかと思っております。   それから,もう一点,債権譲渡禁止と倒産との関係で,譲渡人について倒産手続があったときにどうなるかということは,それ自体,幾つかの考え方はあるわけですので,絶対にこちらでないといけないということではないと思うんですけれども,債務者の保護というのが合理的な範囲で図れるのかと,それから多少債務者に利害の点から後退することがあっても,なお財産としての活用というのを重視すべきなのかという政策判断にもよってくると思います。   ただ,最初の方で言われました倒産手続において,譲渡禁止特約によって財産が残っていることそのものが,やはりそれなりの意味があるという点,あるいは競合する債権者との関係ということなのですが,それらの関係は果たして譲渡禁止特約ではかるべき事項であるのかという疑問は持っております。これは今度また将来債権譲渡などもかかわってまいりますけれども,債権譲渡をめぐる各種の債務者以外の第三者との関係での調整のあり方というのは,また別途考えるべき問題だと思われますし,それから倒産手続において財産が残っているということそのものについては,それもまた倒産手続で体現されるところの一般債権者の利害というものをどこまで考えるかという問題だと思われますので,譲渡禁止特約そのものでそれをはかるべき事項ではないのではないかと思います。 ○高須幹事 冒頭に中井先生が,弁護士会内でもいろいろな議論が出ていると言われたことの関係で一言,発言させていただきます。この問題は,最終的には個別具体的な場面で結論をそれぞれ導いていくべきで,一般的な性質論から当然に結論が出るわけではないということは私もそのとおりだと,今伺いまして勉強になったところでございます。   ただ,その上で,譲渡禁止特約の付いている債権について,譲渡人と譲受人との間で譲渡がなされたときのその当事者間の事柄をどう考えるかというのは,やはり一つ法理論としてはあっていいというか,考えていいのではないかと思っております。そのときに注意すべきは譲渡禁止特約を付ける場合というのが,今日の議論の中にも出てまいりましたが,基本的には債務者がイニシアチブを持てるときということになるのだろうと思います。債権者の方が力が強いときは,債権者は譲渡する余地をつくっておきたいわけですから,この種の特約が付くことはあまり想定されない。やはり債務者側が譲渡しないでくださいよと言ったときに,債権者がこれを断れない関係のときに譲渡禁止特約が付くことが多いと考えています。その意味では,もともと力の強い債務者の保護を図るという話ですから,その限りでの保護が与えられれば十分なのだろうと。つまり,債務者に対する迷惑が最低限かからないようにすればいいのではないかと考えられます。   一方で,譲り受ける側の問題ですが,先ほど来話題となっています悪意のような場合を考えたときに,譲渡人は当然悪意で譲渡するわけですが,譲受人の方も知っていた場合には,もちろんそれは駄目ですよということにはなるわけですが,私としては,譲渡禁止特約が付いている債権を知って譲り受けたからといってものすごく悪い人かというと,そうではないと思います。認識を持っていたというだけのことですので,もちろん法的保護が与えられないのはやむを得ないと思いますが,倫理的に悪いというところまではいかないような気がしておりまして,その意味では,ものすごくいい人とものすごく悪い人みたいな対比を債務者と譲受人でするのは,余りに極端ではないかという気持ちを持っております。その限りでは,当事者限りでは譲渡の効力を認めて,しかしこの種の禁止特約を認める以上,債務者には対抗できませんよと。その対抗できない場面は,個別具体的に,また類型的に分けていきますよと,こういうような考え方というのもそれなりの合理性があるのではないかと考えております。   今日のお話では,必ずしも適切な表現ではないのかもしれませんが,いわゆる相対的効力案というのもある程度の合理性を持っているのではないかと,このように思っております。そういう意見も弁護士会の中にもあるというようなこともございまして,意見が分かれていると冒頭に申し上げたのはそういう趣旨なんですが,そのように思っております。   以上です。 ○山野目幹事 3点申し上げさせていただきます。   部会長から何回か,細目の論点についても議論をしてほしいというお求めがありましたことの関係で,部会資料9−1の2ページの一番下のところ,申し上げる1点目でございますが,関連論点として,A案,B案というお尋ねをいただいている問題については,これは利益衡量上どちらも十分あり得る考え方であるとは感じますけれども,私は,どちらかというとA案の方を推したいという気持ちを抱いております。やや債権の流通を,全面的にではありませんが促すというか,それに対して親和性のある方向であるということになるかもしれません。   2点目を申し上げますが,隣のページの中ほどの譲受人の重過失の問題について部会資料で問題提起をいただいていることについて意見を申し上げさせていただきますと,重過失という要件の問題,判例上形成されてきたこの問題を法文上明確にしていただく改正の方向が適当であると考えております。また,そうすることによって,隣の2ページの問題について,A案を採ることについての利益衡量上のバランスが少し補強される部分もあるのではないかと考える次第でございます。   それから3点目でございますが,そもそも466条2項の意義,存置の問題に関して感じましたところを申し上げさせていただきたいと思います。「相対的効力」,「債権的効力」という言葉が乱舞して入り乱れておりますから,なかなか上手に表現することが難しいのでございますが,お話を伺っておりまして,現行の466条2項を削ってしまえという御議論はなかったように聞こえました。すなわち債権譲渡禁止特約なるものを,当事者間のこととして専ら終えんする問題として考え,それについて何らの外部的,対外的な効果も承認しないという見解は,伺っていた範囲ではなかったように聞こえましたし,私も,債権譲渡禁止特約というものにそれとしての意義を認めてよいのではないかと考えますから,それでよろしいのではないかと考えます。研究者として,削ってしまうというのも一つの意見であるということを申し述べたことがございますが,その後の議論の発展の経緯を伺っていて,これはこれとして存置した上で,その効力の内容をどのように充てんするかは,先ほど来から御指摘がありましたように,今後の議論の中で更に詰められていくことが適当であると考えます。 ○三上委員 一つ目は,中井委員の御発言等に関しまして補足させていただきます。分かり切った話ですけれども,債権者と債務者で債権は発生するわけですけれども,両者の共同の産物だから,両者の合意がないと譲渡はできないと考えれば別ですけれども,そうでないという前提で考えますと,基本的に債権者が強ければ,自己の換価の手法を自ら封ずるはずがないので,結局債務者が強いときだけ譲渡禁止特約が使われるという状況になります。その譲渡禁止特約が付く場合も,実務で見る限りほとんどは,だれに払えばいいかということに関して面倒に巻き込まれたくない,二重払いの危険を避けたい,という理由で付いていると思われます。よって,木村委員からもお話がありましたように,基本的に銀行が譲渡担保にとる等の場合には,債務者の承諾をとって外してもらうわけですが,ここでよくある問題は,債務者に直接接しないでほしい,債務者に承諾をとりに行くことによって自分の信用が害されるので,それはやめてほしいという場面で,むしろ債権譲渡登記というのは,そういう場面を想定して制度がつくられたという面もかなりあると思います。   したがいまして,この場面は金融機関としては物権的効力とか絶対的効力説の下では最終的に譲渡が無効になるリスク,つまりそれ以前に差押債権者があらわれるとか,倒産になった場合のリスクを抱えながら走るわけですが,もし譲渡禁止特約が二重払いリスクの回避のためのものがほとんどだという前提で考えますと,債権的効力説にするということに関しては,債権担保でのファイナンスを付けやすくするという意味で非常に肯定的な考え方ができるのではないかと思います。債権的効力にした場合の,中井委員が御指摘された二重譲渡,二重譲受人間での清算の在り方に関しては,別の解決方法も考えられると思いますので,債権的効力的な考え方をした方がファイナンスが広がるというのは,私は疑いのない点ではないかと思います。 ○内田委員 これまで様々な御意見が出ましたけれども,その中で,初めの方に三上委員の御発言の中でも少し示唆されて,また岡委員がおっしゃった案として,特定の債権に限って,つまり類型的なアプローチでもって処理をする方法もあるのではないかという御発言がありました。これは,事務局の資料の中には盛り込まれていない考え方だと思いますので,どのような形で要件化が可能なのか,民法レベルでどういう形で債権の切り分けが可能なのかについて,アイデアなどありましたら,岡委員からでも御示唆をいただければと思いますが。 ○岡(正)委員 普通,譲渡禁止特約のないリース債権だとか貸付債権だとかで流動化が組まれていますので,直ちに必要性のある類型は思いつかないです。今禁止特約が付いていて資金調達の取引ができないものとして,ゼネコンの持っている自治体に対する請負工事代金債権がよく話に出ますけれども,それなんかも同意を得て自治体も認める方向になってきていますので,そちらでいけばいいんでしょう。三上委員が悪意の人にも移転の効力が生ずるとなれば,ファイナンスに肯定的な影響があるのは間違いないとおっしゃったんですが,弁護士会で話しているときには,一体どんな債権でそれが可能なんだろうね,自分で請求できないのに,本当にファイナンスする人がいるのかなという議論を中心にしておりました。むしろ三上委員の方から,こういう場合に実際いいことがあるんだというのを教えていただければ幸いでございますが。 ○三上委員 どういう場合にいいのかというのは難しい点ですが,基本的に譲渡禁止特約のある債権の譲渡担保で,債務者に接しないでほしいというケースで,その後借入人の業況が更に悪化して,どうしても保全のために対抗要件を備えざるを得ないという際に,債務者の側で譲渡禁止特約の効力,譲渡の無効を主張して銀行への支払を拒む例は基本的にはほとんどございません。ただ,直接銀行に払うとリスクがあるので供託したいという例は多々ございますが,もう譲渡禁止特約があって譲渡は無効だから,もともとの債権者に払うということをおっしゃる債権者はおられないという意味で,相対的効力になれば今よりも譲渡禁止特約付債権を担保とすることの安心感は高まるので,ファイナンスの範囲は広がるのではないかという意見を申したわけでございます。   内田委員の御質問に関しては,手前味噌ですけれども,銀行預金債権に関しては,銀行の業法レベルで別扱いしてもらうと非常に助かるわけですが,それ以外の部分を民法というレベルで切り分けるのは非常に難しいのではないかという気はしております。   ただ,下請法にありましたように,下請債権は資金化のニーズが高いので手形を発行しなければならないとか,そういう切り口で譲渡禁止特約の禁止・無効の範囲を画するという考え方はあるのではないかと思いますが,これは恐らく産業界からは別の意見が出るかもしれません。申し訳ございません,今はこれ以上の具体的なアイデアを持っているわけではございません。 ○中田委員 区分の仕方として,資料9−2の7ページに条約の例なども御紹介いただいておりますが,これを民法で書くというのはなかなか難しいだろうと思います。この区分を設けるかどうかということと,それから譲受人の重過失を要件とするかということが,かなり密接に関係しているのではないかと思います。重過失を要件とするということになりますと,一定程度社会で広く認知されているものについては,当然にその規律が及ぶということになりますので,それとの関係で考えたらいいのかなと思いました。 ○松本委員 どういう債権がという話ではなくて,その前の三上委員がおっしゃった債権者側のニーズとして,債権譲渡禁止特約の付いている債権をファイナンスのために譲渡する場合に,禁止の解除を債務者に求めにくいと。それからさらに,譲渡したとしても譲渡したこと自体を知られたくないと。この二つのことをおっしゃったですよね。   それで,禁止特約自体の方は今議論していますが,もう一つの方の6ページから7ページにかけての債務者対抗要件を廃止したいということがこの提案に書いてあって,そのニーズはどこにあるかというと,債務者に知られたくない債権譲渡をしている場合に,債務者がたまたま知って,債務者のサイドから承諾をすることによって譲渡人の方に弁済をするということは不都合だから,それは阻止したいということのようなんですよね。それで,何かこの二つは非常につながっているような感じがいたしまして,すなわち債権譲渡禁止特約の付いている債権が譲渡された場合に,相対的効力案をとれば,当事者間では有効だということは,債権は移転しているわけなんですよね。にもかかわらず,債務者からそれを承諾して譲受人を真の債権者だとして弁済することを阻止したいということのようで,そのあたり一貫性を欠いているのではないかなという感じもするんですが,ちょっと頭が私も整理し切れていないのでごちゃごちゃとしております。対抗要件の部分は,債権譲渡禁止特約の付いている付いていないにかかわらず一般論としてされているわけですが,その二つ,債権譲渡禁止特約付きで,かつ債務者からの承諾を阻止したいというのがファイナンスのニーズだとすると,実は同じことを論じているのではないかなと。 ○鎌田部会長 何か事務局からありますか。対抗要件問題をどうするか確定したわけではないので,今そちらの方が決まったことを前提にして,それと関連付けた議論をするのは,ちょっと議論を混乱させるような気もしますので,対抗要件のところでまた…… ○松本委員 絶対的効力案であれば,債務者から承諾するなんていうこともあり得ないわけで,まず譲渡禁止を解除した上でということになるんでしょうが。 ○鎌田部会長 対抗要件の方は,譲渡禁止特約の付いていない債権を念頭に置いて議論しているので,直接に関連付けられても混乱しそうな予感がしますので,申し訳ありませんけれども,債権譲渡の対抗要件のところでまた御議論いただければと思います。 ○松本委員 私も混乱すると思うんですが,実務のニーズとしてはどうも一体のものとして出てきているかのような御説明だったので。 ○鎌田部会長 銀行に対して債務者は債権譲渡禁止特約を持ち出さないで素直に弁済するというふうなところがあるので,必ずしも銀行としては承諾に頼らなくても,先ほどの話でいけば債権譲渡登記はしているわけですから,対抗要件を債権譲渡登記一本にしても同じ結論になるので,別に承諾と一体として議論しなくても,それはそれでやっていけるという話だったのではないかなと思いましたので,とりあえず債権譲渡の対抗要件と必ずしもくっつけないで議論していただいて,債権譲渡の対抗要件のところでまた,なお問題が残るようでしたら出していただくということで御容赦をいただければと思います。  もう一つは,差押えが入った場合とか倒産手続が開始された場合に,先ほどのような現行の対応がどういう影響を受けるかというのも一つの御指摘の点であったと思うんですが,今日のところの御意見では,倒産に関しては少し御意見いただきましたけれども,差押え・転付命令にかかわる問題,この資料で言えば(3)の問題についてはほとんど御意見が出ていないというのは,現行制度とここは同じでいいというのが皆さんのお考えと受け止めさせていただいてよろしいでしょうか。 ○奈須野関係官 差押えではないんですけれども,先ほどの倒産の話と同じなんですが,4ページのところで譲渡人について倒産手続の開始決定があった場合に,譲渡禁止特約の効力を譲受人に対抗することができないと,このような規定を明らかにするということには賛成の声がございました。このような仕組みが明確になることによって,譲渡禁止特約がある債権についても,これを当てにして事業再生期間中の資金調達などに充てるということは可能になるということでございます。   それから,特にこのようなことは建設業の請負契約のように契約が約款になっていて,自動的に譲渡禁止特約が入っているという場合において,再生局面においてこのような倒産手続の開始決定があった場合に譲渡できるというような仕組みになりますれば,資金調達の多様性が高まるということで賛成の声がございました。   ただ,この4ページのウの表現でございますけれども,「譲渡禁止特約の効力について,相対的効力案を採る立場から」という,あたかも相対的効力案の党派的な立場からこのような主張があるかのような表現でございますけれども,ここは必ずしもそうでもないのではないかなと考えております。   以上です。 ○道垣内幹事 債権譲渡がなされた後に譲渡人について倒産手続開始決定があった場合の話と,倒産開始決定手続があった,その倒産手続中で倒産者が債権を譲渡できるかという話は全然違う話ですので,このウに書いてあるのは,倒産開始前に譲渡がなされ,その後に譲渡人について倒産手続開始決定があった場合であると理解しているのですが,それでよろしいわけですよね。 ○中井委員 全く同じことを申し上げようと思っていたのですが,4ページの一番上のウというのは,倒産手続開始決定前に譲渡があった場合の規律についての定めではないかと思いますので,倒産手続開始決定後に同じように譲渡禁止特約が当然になくなるがごとき御提案ではないと理解しています。ただ,今の奈須野関係官からの御発言があったとすれば,それが一つの論点になるなら,論点設定するについて異議があるわけではございません。   最初に,弁護士会の中で意見が分かれていると申し上げました。相対的効力に立つ考え方で,譲渡禁止特約の効力を譲受人に対抗できない事由として三つ挙げられており,譲受人が善意の場合と債務者の承諾があった場合に対抗できないというのは良いのですが,相対的効力案に立ったとしても,倒産手続開始決定のあった場合に,なぜ債務者の利益が当然に失われるのか。このときもそのまま維持して問題はないのではないか。債務者としては,従前どおりの債権者である譲渡人,倒産手続が開始しているとすれば倒産管財人に対して支払うことになる。相対的効力案では当事者間では有効だということを前提としますから,債務者が支払った後,譲受人は倒産管財人に対して,財団債権若しくは共益債権としてその返還を求めることができるという構造でよろしいのではないか。つまり,相対的効力案の立場で譲渡禁止特約はあくまでも債務者の利益を保護するためにあるのだとすれば,倒産手続が開始したからといって,その利益が失われるわけではないと考えるわけです。   ただ,この場合でも問題は,倒産管財人として債務者から回収しても,それがすべて財団債権若しくは共益債権として,悪意であっても譲受人に交付しなければならないとしたら,そこで倒産管財人がそのような行動をとるインセンティブが働くのか。働かないとすれば,何らかの手当てが必要ではないかという意見が出ております。 ○山本(和)幹事 今の中井委員と私,全く同じ感想を持っていまして,恐らく中井委員が最後に言われたような問題点があることも一つの考慮として,このウのような提案がされているのだろうと私は理解しています。ただそれに対しては,中井委員が言われたように,財団債権ということにしておいて,取立てがデッドロックになるということについては,別の対応を考えるということもありそうな感じがいたしておりまして,そういう意味で,私はこのウについては特段の定見は持ってやおりません。   ただ,仮にウのような考え方を採用する場合には,やはり論点として,一つは先ほども御議論になりました倒産手続開始後の譲渡は,それではどう考えるのかというのは,私はやはり一つの論点になり得ると思います。補足説明で書かれているような理由,債権の奪い合いになるというような理由は,手続開始後の譲渡の場合には当てはまらないことは明らかだと思いますが,ただ,手続開始前の譲渡だった場合には,開始決定で事実上禁止特約の効力は対抗できないということになるのに,開始決定後に譲渡したら対抗できるというのは,私はやや,直感的には違和感を感じるところであります。それは,あるいは(3)の論点とも関係するのかもしれませんが,ここはいずれにしても論点としてお考えをいただく必要があるのではないかと思います。   それからもう一つ,ウは倒産手続の開始ということになっておりますが,悪意の譲受人に対して譲渡がされた後,譲渡人の債権者が差押えをした場合にどうかということも一つの問題になり得るだろうと思っておりまして,この補足説明の,債権の奪い合いの局面においてまで債務者の意思を重視する必要がないというお考えをとるのであれば,私は差押えの場合も同じようなことが言えるような気がしておりまして,そういう意味では,ウをとった場合に,その射程は広がり得るのかもしれませんけれども,そのあたりも論点としてお考えをいただければと思います。 ○中井委員 倒産手続開始した場合,債務者は従来の譲渡人,つまり倒産管財人に支払わなければならないとしたときの後の規律として,インセンティブが働かないと申し上げました。何らかの仕組みが必要ではないか。当然,譲受人は財団債権若しくは共益債権として取戻しをすることができるという道筋が一つですが,一つの提案として,大阪弁護士会で議論になっているところを御紹介いたしますと,債務者の利益の保護のための譲渡禁止特約だと考えたときに,債務者が弁済期を徒過したにもかかわらず譲渡人に対して履行しない,そういう場面でも,なお債務者にこの利益を認めなければならないのかと。そうすると,譲渡人若しくは譲受人の方から債務者に対して,きちんと譲渡人に払いなさいよと催告したにもかかわらず払わないときには,もはや債務者にこの利益を与える必要はないわけですから,譲受人は悪意であっても債務者に対して金銭の取立てができる。逆に言えば,債務者サイドからすれば,自らの弁済を怠っている場合については譲渡禁止特約の効力を譲受人に主張できない,このような構成が考えられないか。そういう意見が出ておりますので,もし意見がまとまったときには提案させていただければと思います。 ○木村委員 我々いろいろ議論はしたのですが,そういう中で,先ほど話しましたように,譲渡禁止特約はやはりそれなりに重要だと考えました。それを前提としまして,各論点について概括的にお話をさせていただきます。資料9−1の2ページにある「譲受人の主観的要件に関する主張・立証責任の分配」の件ですが,これにつきましては,基本的に最後は利益衡量の問題になるのではないかという意見がございました。ただし,先ほどから言及されているように相対的,絶対的と言うかどうかは別にしましても,いわゆる相対的な立場からいけばA案を採りやすいし,絶対的な考え方からいけばB案というのが素直であろうと受け止めており,今後議論をすることについては全くやぶさかではないということでございます。   それから同じ関連論点の二番目にある「一定の取引類型の債権について譲渡禁止特約の効力を常に認めない考え方」についてですが,この辺はそもそも「流動性の確保が特に要請される」ような一定の取引類型をどう定めるのかという問題があります。それと同時に,そういうようなものを一般法である民法の中で定めるべきなのかどうか,むしろそれは,そういうような取引を対象とする業法なり何なりで対応すべきなのではないかというような意見もありました。   それからあと,(2)の「譲渡禁止特約の効力を譲受人に対抗できない事由」についてですが,「譲受人に重過失がある場合」,それから「債務者の承諾があった場合」,これはこのとおりで基本的にはいいのではないでしょうか。ただし,「譲渡人について倒産手続の開始決定があった場合」につきましては,譲渡人に倒産手続があったかどうかということを債務者が知り得ないということもあり得るため,もしこのときに譲渡禁止特約の効力が譲受人に対抗できないということになった場合は,倒産手続の開始決定があったということを債務者自身が分かるような状態にないと,二重払いのリスクを債務者側が負ってしまう可能性があるので,何らかの手当てが必要なのではないかと思います。   あと,(3)の「差押え・転付命令による債権の移転」につきましては,判例法理を条文上明確にすることについてはいいのではないかと,こういうような意見でございました。 ○三上委員 最後の部分で1点だけ,破産の場合ですけれども,破産の開始があったことは債務者には分からないという点はそのとおりですが,もう1点,譲渡禁止特約の効力を一応認める場合には,譲渡通知が来ていたこと自体を失念しているというか,たくさん債権があったり,譲渡通知が来てからかなり期間が経過していたケースもありえますので,その場合の第三債務者の保護も必要だという点を加えさせてください。 ○深山幹事 やはり倒産手続が開始した場合の規律なんですけれども,既に弁護士会の意見として紹介されているところですけれども,私も,倒産手続が開始したことによって,もともとの譲渡禁止特約で実現しようとしていた債務者の利益がなくなるということについては違和感を持っております。むしろ債務者の立場を考えると,管財人から仮に請求が来れば,そっちに払った方がいいのかなと思ったりするでしょうし,そこは倒産開始前と比較しても,債務者の立場から見るとそう変わらないのではないかなと。   むしろ,最終的にどこに落ち着くか,つまり譲受人が債権を取得できるかどうかはともかくとして,言わば交通整理といいますか,債権債務の整理を倒産管財人というやや公的な立場の者が仕切るということは,それは制度設計としては考えてもいいのではないかなと思います。破産管財人と再生債務者を同じに論じられるかという問題はあろうかと思うんですが,再生債務者も含めて,倒産手続における機関が,そこはいったん受け取って財団債権なり共益債権として支払うということも含めて仕切るというようなルールづくりというのもあってよろしいのではないかなと。インセンティブという問題は先ほど出ましたけれども,仮に財団に何も通過するだけで残らないとしても,それはそれで一つの役割として意味があるでしょうし,財団が不十分な場合には,当然に譲受人の方に全額行くかどうかもわかりませんし,それはいろいろなケースがあるので,中心になって仕切る役割を倒産管財人にゆだねるということもあっていいのではないかなと思っております。 ○高須幹事 先ほど,当事者間の効力については,用語が正しいかどうかは別としても相対的効力的説がいいのではないかと申し上げたのですが,その上でも,このウのところに関しましては,やはり債務者の保護という形で,今深山幹事からも出たことの延長でございますが,やはりそこを考えれば,倒産手続の開始決定があったからということで特約の効力が失われるというのは,むしろ本来的ではないと思っております。   管財人がある程度差配できるということも,それなりのメリットがあると思いますから,管財人が回収をした上で譲受人との間での調整を図るというのも,制度としてはメリットがあるというか,うま味のある制度のようにも思われますので,ここはやはり深山幹事や中井委員と同様に,ウの問題についてむしろ従来どおりに譲渡禁止特約の抗力は失われないと,このように考えるべきだと思っております。   以上です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。様々な観点から大変貴重で有益な御意見をちょうだいしました。 ○中井委員 すみません,1点だけ。 ○鎌田部会長 中井先生,どうぞ。 ○中井委員 1点だけ申し上げます。   「(3)譲渡禁止特約付き債権の差押え・転付命令による債権の移転」については,ほぼ異論がない御意見になっていますけれども,この点に関する疑問を申し上げておきますと,従来の考え方であれば特段問題はない。ところが,相対的効力を採ったときに,これに先行する債権譲渡があって対抗要件も備えられているとき,その場合にどのようになるのか。先行する債権譲渡は恐らく有効とここでも言わざるを得ないとすると,第1の悪意の譲受人は,この差押えによって取り立てた金銭について更に返せと言えるのか。若しくは転付命令であれば,転付命令を行使して回収したときに,一体その転付命令の効果はどうなるのか。このあたり,相対的な効力を採ったときの帰結としてどのようなことが想定されるのか,混乱が生じるのではないか。債権者,いわゆる執行した債権者にとって予想外の結果が待ち受けているのではないかと思うのですが,誤解なのか,そのような事態もあり得るのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 債権譲渡について第三者対抗要件は備わっているということが前提ですね。 ○中井委員 はい。 ○鎌田部会長 わかりました。その点も含めまして,御意見いただいた点につきまして,更に事務当局の方で議論を深めさせていただくということにいたします。 ○新谷委員 すみません,部会長。 ○鎌田部会長 新谷委員,どうぞ。 ○新谷委員 今日はこれから中座をしなければいけませんので,後半部分について意見を述べさせていただいてよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 はい,どうぞ。 ○新谷委員 それでは,対抗要件のうちの債権譲渡登記における情報開示について申し上げます。   ご承知のとおり,労働債権は一般財産に対して先取特権を有しているわけですが,債権譲渡によって一般財産が減少することで,労働者・労働組合は重大な影響を受けることになります。しかし,現行の債権譲渡登記の制度のもとでは,労働組合あるいは労働者に開示される情報は,譲渡人と譲受人,それと債権の総額のみと限定されております。つまり現行で開示されている内容では,債務者がだれであって,どの債権を差し押さえたのか,確保したのかというのが分からないという状況です。そのため,労働組合が労働債権の確保を行えたと思っていたら,実はその債権がもう既に先に譲渡されていたということが起こるわけで,私どもとしては労働者と労働組合に対しても,情報開示の拡大をしていただきたいと思っております。   本日の資料の詳細版には比較法でドイツの民法の紹介がございましたが,ご承知のとおり,ドイツにおいては労働組合が経営参加をするという制度が法律的に担保されておりますので,どの債権が譲渡されたか把握も可能ですが,そうした制度がない日本においては,是非債権譲渡登記制度における労働者・労働組合への情報開示についてご検討いただきたいと思っています。   以上でございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただ今の御意見については,それぞれの項目のところでまた参酌させていただくということにして,休憩とさせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開させていただきます。   部会資料9−1の4ページから8ページまでの「3 債権譲渡の対抗要件」につきまして御審議いただきます。   それでは,まず事務当局に説明してもらいます。 ○松尾関係官 現行民法の債権譲渡の対抗要件制度は,債務者にインフォメーション・センターとしての役割を果たさせることを前提とするものですが,その前提自体に問題があるのではないかという指摘や,民法と特例法による対抗要件制度が並存しているため,譲渡の有無の確認が煩雑である等の問題点も指摘されています。このような問題点が指摘されていることを踏まえて,債権譲渡に係る対抗要件制度について全面的に見直すことが必要ではないかという考え方が提示されているところです。   対抗要件制度を見直す場合の具体的な考え方として,配布資料9−1,4ページの「(1)総論及び第三者対抗要件の見直し」にA案からC案までの考え方を挙げさせていただきました。   A案は,現行の特例法に基づく登記制度を検討の出発点として,登記制度を利用することができる範囲では登記制度への一元化を図ることを前提に,登記制度を利用することができる範囲を拡張する方向で検討しようとするものであります。A案は,民法と特例法による対抗要件制度が並存している状態を解消し,対抗要件制度を登記に一元化するものであり,これによって,現行法下の対抗要件制度に比して債権譲渡が競合した場合の優劣の判断が明確になることや,先行する債権譲渡の有無の確認が簡易かつ明確になるという利点があると指摘されています。   他方で,特例法による登記制度の現状を前提とすると,民法上の対抗要件制度の方が簡単に対抗要件を具備することができるという利点があるとして,登記に一元化することには慎重であるべきという意見もありますが,A案は登記制度が現在よりも一層利用しやすくなることを前提とするものであるとされています。   なお,登記制度を利用しやすいものとするための検討課題は,関連論点1の(4)に記載しております。A案の当否について議論する際には,登記制度を見直すことができるのであれば,登記制度に一元化することが望ましいのか,それとも登記制度の見直しができるか否かにかかわらず登記制度に一元化すべきでないのかという点を明確にしつつ,御意見をいただければと思います。   また,A案を採る場合には,そのほかの検討課題として,関連論点1に記載した各論点があると考えられます。このうち,個人の債権譲渡についても登記を第三者対抗要件とするという改正提言がありますので,個人の債権譲渡について登記を第三者対抗要件とする場合に考えられ得る登記制度の案として事務当局において検討したものを,部会資料9−2の15ページに記載させていただきました。   なお,A案全体について言えることですが,登記制度の大がかりな見直しは予算を伴いますので,在るべき制度の御検討をいただいた後に,費用対効果等の観点から実現可能性を検証する必要があります。この点は現段階では留保させていただきますが,しかし,在るべき制度としてA案を採るかどうか,また,どのような点に留意して登記制度の検討をすべきかについて御意見をいただけましたら幸いです。   B案は,債務者をインフォメーション・センターとするという現行制度の前提を見直すとともに,民法と特例法の対抗要件制度が並存している二元的な状態の解消を図る考え方ですが,この考え方に対しては,債務者の回答に依存することに伴う制度の不安定さは解消されるものの,公示機能が現行の制度よりも不十分になるという問題があるのではないかと指摘されています。このような指摘を踏まえ,金銭債権の譲渡についてA案を採用しつつ,非金銭債権の譲渡についてB案を採用するという考え方が提示されていますので,御意見をいただければと思います。   C案は,債務者をインフォメーション・センターとするという現行制度の前提と民法と特例法の対抗要件制度が並存している二元的な状態について,いずれもこれを維持するという考え方ですが,確定日付が限定的な機能しか果たしていないという問題についての見直しの要否が検討課題となるのではないかと思います。関連論点3では,この点を取り上げました。   次に,「(2)債務者対抗要件(権利行使要件)の見直し」ですが,債権譲渡の当事者である譲渡人及び譲受人が,債務者との関係では引き続き譲渡人を債権者とすることを意図し,あえて債務者に対して債権譲渡の通知をしない場合にも,債務者が債権譲渡の承諾をすることにより,譲渡当事者の意図に反して譲受人に対して弁済するという事態が生じ得るという問題があることが指摘されています。債務者の側からのこのような選択を認める必要があるかという観点も踏まえて御議論をいただければと思います。   また,関連論点1では「対抗要件概念の整理」という問題を取り上げました。債務者との関係では「対抗要件」と言うよりも「権利行使要件」と言う方が適切であるという指摘がされており,債務者との関係を「権利行使要件」とし,債務者以外の第三者との関係を「対抗要件」とするという文言の整理をすべきであるとの提案がされているところですので,このような考え方の採否について御議論をいただければと思います。   最後に,「(3)債務者保護のための規定の明確化等」についてですが,債権譲渡が行われた場合の債務者の不利益が少なくなるように配慮するという観点から,債権譲渡が競合した場合に債務者がだれに弁済すべきかという行為準則を整備すべきであるという考え方が提示されています。関連論点の1と3も,同様に債務者の行為準則の明確化という観点からの問題提起です。   関連論点の2では,債権譲渡が競合した場合における譲受人間の関係についての問題を取り上げております。判例によると,対抗要件の具備が同時である場合や先後不明の場合には,債務者はいずれかの譲受人に全額弁済すれば免責されるということになりますが,その場合における弁済を受けなかった譲受人が弁済を受けた譲受人に対して求償できるか,またその場合の理論的根拠について争いがあるため,立法により解決すべきであるとの提言がありますので,この点に関する御意見をいただければと思います。   長くなりましたが,説明は以上になります。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。それでは,ただ今説明がありました部分について御意見をお伺いいたします。(1)から(3)まで一括して議論の対象にいたしますので,御自由に御発言ください。 ○大島委員 「(1)総論及び第三者対抗要件の見直し」についてですが,商工会議所には債権者から債権を譲り受けたとする全く知らない第三者から突然請求を受けた債務者の相談事例で,二重払いの不安を訴えるものが多数寄せられております。実務的には供託によって解決を図ることが多いようです。第三者対抗要件の見直しに当たっては,A案からC案まで三つの方向性が示されておりますが,こうした実態も把握した上で,供託制度との関連も踏まえて慎重に御検討いただきたいと思います。   なお,下請取引の多い中小企業の立場から言えば,取引関係においては,非常に弱い立場にあるのが実態です。仮に,A案のように登記制度に一元化されると,実務的な負担やコスト面の負担が大きくなるのではないかという懸念の声がございました。もしA案を採用する場合は,関連論点で提起されているとおり,現行の登記制度について見直す必要があると思いますし,当面はC案のように登記制度と現行の債務者の承諾を併存させるべきではないかと思っております。   以上でございます。 ○岡田委員 消費者の立場から言いますと,ほとんどが債務者の立場なんですが,条文上の債務者の承諾だとか異議をとどめない承諾ですか,その辺のこともよく分からないし,またそれをどういう形で使うかも分からないというような状況なんですが,その意味では分かりやすく,債務者が自分がどういう立場でだれに払えばいいかというのがもっと明確に,自分の権利もきちっと主張できるような,そういう条文に仕立てていただきたいというのが一つと,登記に関してですが,今は債権者の方から債権を譲渡しましたよという通知や譲渡人と譲受人の連名の通知が来るのが一般的なんですが,それすらよく理解できないということもあったり,何通も通知が届いて誰に払えばいいかわからないという相談も少なくありません。そうした場合に,登記事項証明書を持参して自分で登記所に行って調べるということはかなりハードルが高いのではないかと思います。確かに登記を調べれば安心して払えるという部分はありますがもっと消費者にも簡単に確認できるような制度を考えていただきたいと思います。 ○鹿野幹事 今ご指摘がありましたところの,簡単に確認できるという点も重要だと思いますが,それとは別に,対抗要件制度の利用しやすさも重要だと思います。そして,特に金銭債権の場合に対抗要件を登記に一元化するということは,企業間の債権譲渡であればよいのかもしれませんが,その他の場合については,例えば親族間の債権譲渡とか,単発で金額的にも比較的少額の債権譲渡などのことを考えますと,登記を一般的に要求し,それをしなければ第三者に対抗できないとする制度が,コストの面あるいは手間の面から考えて果たして現実的かということについて,若干疑問を持っているところです。 ○三上委員 A案は,もしうまく完成して動けば美しいし,一元化が最も徹底された制度だという評価はできると思うのですが,ただ,私がいろいろなところで意見を聞いた限りでは,基本的にはみなA案には反対で,現行どおりに近いC案でいいのではないかとという意見でした。それも,A案には,むしろ拒絶反応に近いような感触だったという認識を持っております。   なぜかを推察しますと,結局この制度が本当に利用しやすい制度になるのかどうかに対する疑心暗鬼がかなりあるからだ思っておりまして,したがって「安く,簡易・明快な制度」になるかどうかというのがA案は前向きに検討されるためのポイントだと考えております。  「安く」というのは,確かに債権者一人に債務者多数という場合には,登記制度が非常に有効だというのは現行でも利用されているとおりなんですが,一括支払システムのように債務者一人に債権者が多数という場合には,これまで1件700円で済んでいた内容証明が,1件ごとに7,500円になればコストは10倍になりますし,更に登記する際に司法書士さんにお願いすると,その司法書士さんの費用はネットで調べる限り1件5万円とか7万円というさらにその10倍の数字が出ておりますから,それがすべて,ある意味顧客に転嫁されると考えると,これまで簡易迅速だった担保手法が非常に高価なものになってしまいかねません。では,これを金融機関などでは内製化するかということになりますと,営業店の職員一人ひとりが登記のノウハウを習得するというのは基本的に考えられないので,本部に集中すると考えますと,結局担保徴求してから登記するまでのタイムラグが発生して,その間のリスクを負うことになり,迅速性が失われてしまいます。   「簡易」という点では,例えば全国津々浦々,すぐそばにあってユニバーサルサービスを提供できるところ,それこそ郵便局の窓口のようなところで,あたかもゆうパックを送るがごとく簡単に登記ができるとか,それぐらいのイメージを呈示しないと,なかなか使いやすい,これならいけるというイメージはわかないのではないかと思います。   それから「明快」という意味でも,今の登記はそれなりに定型化されてはいますが,実際個別の債権がだれに売られているのかというのは専門家が見ても,そんなに簡単には分からないですし,今はまだ登記が少ないからそういう調査もできるけれども,広範に利用されるようになると検索システムなどが充実しないと,先行する譲渡があるのかないか分からないのではないかというような懸念も出てくるのではないかと思います。   これらの点の具体像が明らかになって,ある程度ワークするという現実味がわかないと,最初に申しましたような拒絶反応はなかなか収まらないのではないかと思います。特に現行の通知・承諾というのは非常に簡易でやりやすいという認識を皆さん共有していると思いますので,この点の意見が出てから具体的内容とおっしゃいましたけれども,ある程度具体的な着地点を示しながら行かないと,入口の段階で実務的には反発が大き過ぎるのではないかという印象を持っております。   B案の方は,今よりも公示性が減るということで評価する意見はほとんどありませんでした。   現状C案の支持が多くて,特に債務者の承諾に関しましては,抗弁権の切断を確認する上でも重要な手続で,1回で済むという意味で非常に簡易迅速ですし,取引形態によっては,例えば車の売買契約で,割賦販売債権を関連会社のファイナンス会社に譲渡して取引が1度に終わるところを,登記が必要になることによって二度手間,三度手間になるのでは,取引自体が成り立たないというような批判も聞きましたので,債務者の承諾を債務者対抗要件ないし第三者対抗要件から外すというのは非常に抵抗が強いのではないかと考えております。   また,債務者の保護という意味でも,資料に書いてあることで判例法理を明確にするというのは,それはそれで一つの解決なんですが,実際に金融機関でも迷うこともありますし,これが一般の消費者であれば法律に書いてあるとおりだなと思っても,支払に踏み切るには非常に勇気が要るのではないかと思います。にもかかわらず,だれかに払わないと履行遅滞というのは非常に厳しいのではないかと考えておりまして,そうしますと前の話に戻りますが,供託をもう少し簡便にするとか,民法470条のような調査する権利はあるけれども義務は負わないとか,免責的な規定も別途必要になってくるのではないかと考えております。   最後にもう1点だけ,これは特殊な例ではあるんですが,債務者対抗要件から承諾が外れると,債権者が非居住者で海外にいるというケースでは日本の法律に従って対抗要件を備えることができなくなるのではないか。つまり登記制度がないところに債権者がいる場合には,日本法準拠となる場合で債務者対抗要件が具備できなくなるのではないかという実務上の問題点も指摘されておりますので,併せて述べさせていただきます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○高須幹事 2点の理由から,私もC案が現時点では妥当と思っています。   1点は,既に出てきているように,本当に使いやすい制度に債権譲渡登記制度を一元化できるのだろうかという点でございます。改正論をするわけですから,余り懐疑的なというか,疑いを持って臨むのは本来ではない。現在はそうだというだけで,これから変えるんだと言っておられるのに,余りうまくいかないかもしれませんよみたいな議論は本来してはならないとは思うのですが,そうはいってもここはいかにも大変かなという危惧を有しております。使いやすい制度にするには法務局を山ほど増やしていただかなければならないし,司法書士さんに頼まなくてもできるような制度にしなければならない,しかし,果たしてそんなことができるのだろうかという,やはり心配がございます。危惧だけで物を申してはいけないと思いながらで恐縮ですが,そのように考えております。   もう1点は,一元化することのメリットなわけですが,確かに指名債権のレベルで債権譲渡登記に一元化するということができれば,煩雑な今の対抗要件確認手続を回避できるだろうと,これはそのとおりだと思うのですが,実際の取引は指名債権のレベルだけではない場合があって,今までも手形,小切手債権などがあったわけですが,今後は電子記録債権というのが実務においても使われるようになる。これがどこまで一般化するかの問題はあるかもしれませんが,ともかくも使われるようになる。電子記録債権の場合には,電子記録債権固有の対抗要件を備える必要があるわけでございますから,やはりその場合との競合ということが,問題になる余地がある。そうなると,やはり一元化といっても,指名債権の世界での一元化でしかないという認識を持っておりまして,本当の意味での一元化にはならない。その限りではA案を採ればものすごく出来が良くなるというわけでもない,反対に従前のC案をとっても,それはそれでものすごく出来が悪いということでもないのではないか,このように思っております。   以上です。 ○奈須野関係官 省内でいろいろ意見を聞いた結果でございますけれども,A案,B案,C案並べておりますが,A案を支持する意見はありませんでした。理由の幾つかを挙げさせていただきます。   まず第1にコストの問題として,現行1件7,500円掛かるということで,これは債権の額によっては見合わないということであります。   第2に利便性の問題として,物理的なアクセスが中野の1か所,これはオンラインなんですかね,よく分からないですけれども,例えば外国からアクセスする場合どうするんだと,そのような問題もございます。   第3に,金銭債権と非金銭政権が合わさって束になっているというような債権も当然あるわけですけれども,例えばゴルフ場会員権であるとかライセンス契約のように,金銭債権と非金銭債権が絡んでいるときにどっちでやるんだと,こういう問題も生じるということであります。   それから第4に,債務者が譲渡事実を知り得ないという問題で,そこはサイレントでやりたいというニーズもあるんでしょうけれども,一方で債務者の立場としては不安だということでございます。   第5に,現行の登記制度でも二重譲渡を現実にはチェックできていないという問題がございますので,この面については,登記制度については解消困難ではないかということであります。   それから第6に,先ほどの第4の話と若干矛盾するようでございますけれども,例えば売掛債権のような信用営業情報について譲渡したいというニーズはあるわけですけれども,ただ,これを公示するということになりますと多大な影響があるということで,このような世の中に対して秘密に譲渡したいニーズというのもこれまたあるわけで,そのような様々な債権の多様なニーズを登記制度に一元化するということについては,現実的ではないというような意見が多数でございました。   仮に登記制度の利便性が向上して,二重譲渡の優劣関係を判別できるという場合であったとしても,それは債権者間あるいは第三者対抗要件というようにすべきであると考えております。   債務者に対する権利行使要件としては,従来どおり通知承諾の先後で決するというのがよろしいかと考えております。その理由としては,債務者にとってはだれが債権者か通知を受けるという利益があるからでございます。   それから,B案の確定日付ある譲渡契約書の通知など新しい仕組みについては,先ほどの秘密にしたいニーズということとの関係では,一定のニーズがあると考えております。ただ,これに一元化するというようなB案であるとすると,やはりこれもまた実際には合わないということでございます。   このように考えますと,債権に様々な種類がございまして,その様々な種類に応じた対抗要件の仕組みをそれぞれ考えていくということでございまして,複数の対抗要件が並立した場合には,その優先順位を法律で定めておくというようなやり方が望ましいのではないかと考えております。   以上です。 ○山野目幹事 論議の進め方について望んでいることがございますから,申し上げさせていただきます。   第三者対抗要件の問題につきまして,とりわけA案に対して様々な観点から批判が述べられましたし,類似の批判がB案に対しても述べられているところでございますけれども,恐らく第三者対抗要件の問題について,今般立法が国民的要請に耐え得る審議をしたと言えるためには,C案の問題点についても十分検討した上で論議が進められる必要があるのではないでしょうか。高須幹事が,そこに本意があったのではなかったのかもしれませんが,漏らされたとおりでありまして,債権譲渡登記制度をこれからいろいろ見直していこうということを当然前提として始まる議論でありますから,現在の債権譲渡登記の制度を前提として,登録免許税が幾ら掛かるとか,司法書士に幾らお金をとか,登記所がどこそこ1か所しかないとかいうことについては,並行して見直しの論議がなされていくことは当然のことであり,そのことも御勘案いただいた上で,現在の第三者対抗要件の制度の運用について問題がないのかということをお考えいただきたいと感じるものであります。   債権譲渡は,申し上げるまでもなく,3人の当事者,譲渡人,譲受人,債務者が登場する法律関係でありますけれども,それを考える際に最も重要であるのは,債務者の立場への配慮ということであると考えます。譲渡人と譲受人は進んで債権譲渡の法律関係を望んだ人たちでありますが,債務者はそうではありません。そして,いわゆる現在の到達時説で運用される現行法は,債務者に優しい制度であると見ることは到底できません。到達の先後に心を砕かなければいけないということは押し付けられた不利益でありますし,いわゆるインフォメーション・センターの論議につきましては,なぜそのような役割を担わなければならないのか,その理由がはっきりいたしません。これらのことも併せて御勘案いただいて,御議論をいただくことがよろしいのではないかと感ずるものでございます。 ○鎌田部会長 この点について,実務界からの御意見はいかがでしょうか。 ○藤本関係官 確かに,現行制度というのが債務者に一定の負担を課すものでありまして,そのような制度が不安定性を有しているということは認識しているわけでございます。   ただ,債務者の承諾の議論で,弱い立場の債務者,強い立場の債権者ということが暗黙の前提になっているかと思います。ところが,いろいろなケースがございまして,例えば預金保険の概算払い─ちょっと細かい制度になってしまいますが─というものがございます。預金者保護は重要なわけでございますが,金融機関が破綻した場合にペイオフということをやったときに,元本1,000万円を超える預金の部分については,預金保険機構が預金を買い取る形で概算額をまずその預金者に交付する制度がございます。この預金等債権の買取りに当たって破綻金融機関の事前の承認,債務者というのは金融機関側でありまして,その事前の承諾をとることを予定して今の制度が構築されているわけでございます。一々,債権者たる預金者を巻き込んで登記するというのが実務上困難だという面,破綻という局面であり困難,預金者にも負担ということで,こういった場面についても十分留意する必要があるのではないかと思います。 ○中井委員 三上委員が最初におっしゃられたことは,弁護士会の多数の意見でもありました。ただ,方向性として二つの議論があります。これは先ほど山野目幹事がおっしゃられたことに関連するのですが,基本的な方向性,手間暇はともかく,制度設計はともかくとして,やはり現状では第三者対抗要件を厳密に判断しようと思ったら,幾つかの問題がある。この問題認識を前提にして,より明確な制度設計をしようではないか。そのために登記という制度が提案されている。だから,今は難しくても,これから制度をきちっとすることによって,第三者対抗要件を明確にする登記制度へ向けて歩んでいく,これは基本的に賛成だ。ただ,今は幾つかの,あれこれの理由でまだそこに至っていないという方向で述べる意見が一方にあります。   それに対して,そのこと自体に疑問を呈する意見です。そこは,専ら消費者保護関係の委員から出てくる意見ですが,債権というのは,債権者と債務者が関係してできたものだから,少なくとも債務者の知らないところで債権譲渡が起こるのはいかがなものか。確かに,第三者対抗要件ですからこれは別の問題かもしれません。しかし,第三者対抗要件だからといって,債務者の知らないところで既に譲渡が実行されている,債務者が全く蚊帳の外に置かれている。これを基本設計制度にすることに対する疑問が出ております。そちらからは,現行の,やはり債務者に原則は知らせて,第三者対抗要件も含めて,債務者が知る中で行われる制度を残す,それを全くなくす方向には反対だという意見です。   そのときに出てくる課題というのは,これも山野目幹事がおっしゃられたとおり,現在の問題点,債権譲渡通知若しくは承諾の日時の先後について難しい判断を債務者の負担に帰することは,やはり適当ではないだろう。そのためには,債務者の何らかの利益保護を図る必要がある。とすれば,安心して払えるようにすればどうしたらいいのか。現在,供託についても相当制限された形になっていますが,もう少し供託制度を拡充するなり,単に二重の債権譲渡があればもう当然にできる,債務者の判断リスクを回避するような制度設計をすることもあり得るのではないかという意見です。 ○道垣内幹事 債権譲渡に関する対抗要件の特例法ができたときには,議論として,民法の確定日付ある証書による通知又は承諾というのは大変よくない制度だということが実務界から非常によく聞こえてきたんですが,今回,登記に一元化するという案がどこかから出てきますと,いかに確定日付ある証書による通知及び承諾という制度が良いかということが議論され始めて,私は非常にびっくりしている次第です。ただ,多くの議論を聞いていますと,私は,実務界のニーズを一番実現するために適した方策は,登記制度の廃止ではないかという気がするのですね。簡易に対抗要件が具備できる制度を残しつつ,並行して存在している二つの対抗要件制度の複雑化を解消するということになりますと,二元制度を維持するという結論が,私は現在の実務家からの様々な見解から出てくるとはとても思えなくて,登記制度を廃止しろということではないかと考えているんですが,そういうD案というのはあり得ないんでしょうか。 ○西川関係官 この対抗要件の問題,やはり債務者の利益を基本に考えて制度設計すべきであるということは,ほかの委員からも御指摘があるとおりだと思います。   そういう意味では,登記制度を採るか否かということ以外にも,これも多くの委員から御指摘ございましたけれども,もっと使いやすい供託制度というのをつくり出していくとか,そういう面から制度設計を仕組んでいくということも必要でございます。それからあと,債務者,消費者の立場で言うと,これは例えば先ほど奈須野関係官からございましたけれども,秘密裏に債権譲渡が行われてほしいというニーズは,例えば,私はサラ金を活用していますとか,美容整形に債務がありますとか,消費者のサイドにもあるわけでございます。登記一本化については,このようなことも配慮して,制度設計を慎重に考えていかないと困ったことになるのではないかなと思っている次第でございます。 ○三上委員 道垣内幹事の御意見に対して,私個人の見解を述べさせていただきますと,現状では登記制度と通知・承諾とを,場面によってうまくすみ分けて使い分けているということだと思います。それぞれのいいところがありまして,逆に言いますと,二重譲渡についての明確性というものを犠牲にしてでも,それぞれのいいところを使い分けていられるというところで,うまく成り立っているのだと思います。特に,債務者に知られたくない債権譲渡,あるいは将来債権を含めたまとまった譲渡というものに関しては債権譲渡登記制度は非常に有効でございますので,これを廃止してしまうということに関しては,恐らく共通の意見として反対だということになると思います。 ○中井委員 三上委員の意見に全く同じです。 ○道垣内幹事 賛成してもらえるとはさらさら思っていないのですが,使い分けをするというニーズというのはだれのためにあるのかということなのです。それは現在,譲り渡しをしようとしている人のニーズ,譲り渡しないしは譲り受けをしようとしているニーズの話なんでしょうか。つまり,例えば本当に先鋭な場面になると,自分が譲り受ける債権というのが既に現在譲渡されているかということが大きな問題になったりするわけですけれども,一般論としては,譲渡がなされているか否かということを第三者が簡易に確認できるというメリットもあるはずですし,優劣関係を明快に決定するという課題もあります。使い分けをしています,だから両方が必要です,というお話が,私には,譲渡人と譲受人の利益のためにだけ発言されているように聞こえまして,大変違和感があるということは申し上げておきたい。 ○三上委員 ちょっと言い合いになってしまって恐縮なのですけれども,我々は譲受人になる場合もありますし,譲り渡された債権を調査する場面に立つ場合もありまして,そのどちらの場合も含めて,現状の制度はそれぞれ善し悪しありますが,それを使い分けて今のファイナンス等々の業務が成り立っておりますので,それはそれで存在価値もありますし,債務者の保護につきましても,債務者が戸惑う場合には,例えば損失が発生した場合には銀行が補償しますという念書を債務者に差し入れて払ってもらう場合もありますし,実務上では今のところ,さして大きな混乱がなく両制度が並存しています。 最初に申しましたように,登記一元化という案は非常にアイデアとしては魅力的だと申しましたし,それを否定するわけではございません。ただ,それに広範な賛同が得られるためには,私が申しましたような非常に使いやすい具体的なイメージをアピールしていただかないと,なかなか関連団体を含めて賛同が得られないのではないかという趣旨で申し上げた次第でございますので,御了承賜りたいと思います。 ○内田委員 先ほど山野目幹事の方から,債務者の立場というものも十分考慮すべきではないかということを指摘されたのですが,最初の方で岡田委員から,消費者というのは,承諾と言われてもその意味もよく分からない,もっと分かるように制度をつくるべきであるという御発言がありました。承諾についてももちろんですが,ましてや供託などということになるともっと分からないだろうと思います。   中井委員から,消費者系の弁護士の先生の御意見として,債務者が知らないところで債権が勝手に譲渡されると,債務者に情報がきちんと行かないということに対する不安があるという御指摘がありましたけれども,債務者に情報が集中することが本当に債務者の保護になるのかが心配です。過去の裁判例の中には,債務者は消費者ではありませんでしたが,債権が譲渡されて通知が来た,更にその譲渡は解除されて,それについても通知が来た,今度は解除を撤回したとの通知も来た。更にその債権が差し押さえられて,差押えの送達もなされた。いろいろな通知がたくさん来て,債務者はだれに払っていいか分からないという場面で,差押えをした債権者の弁護士がやってきて,裁判所からきちんと命令が出ています,だからこちらに払うのが正しいのですと言った。債務者は,弁護士の先生が言っているんだから間違いないだろうと思って払ったところが,実はそれは過誤払で,二重払いを強いられたという訴訟があります。債権者が分からなければ供託ができるではないかとの相手方からの主張に対し,供託は法学部卒業程度の高度な知識で一般人の知識ではないと主張しましたが認められませんでした。これは債務者にとって非常に酷なことではないかと思います。どういう場合に供託ができるか,供託の要件をどれだけ明確化したとしても,今の事件の場合には債務者は会社ですけれども,ましてや消費者個人である場合には,供託ができる場合であるか否か,それを判断するというのはなかなか難しいし,ましてや供託という制度すら知らない人も少なくないだろうと思います。   ですから,債務者のところに来た通知の先後を判断するとか,あるいは場合によっては供託をするというような判断を強いるのではなくて,だれに払えばいいかは紙を見ればはっきりするという明確な制度にして,債務者が過誤払いのリスクを負わないようにするということが必要ではないかと思います。そのためには,C案は必ずしも十分ではないものですから,もしC案を採るのであれば,今のような点についての改善策というのは,やはり最低限必要ではないかと思います。 ○三上委員 内田委員に反論するという趣旨ではなくて,半分質問になるわけですが,A案になったとしても,登記を見れば素人にも,一義的にこの人が債権者と分かる制度になるのでしょうか。現行の譲渡登記だと,我々プロが見ても,売られているのか売られていないのかよく分からない場合があります。先ほど3点必要だというやつの三つ目の明確性という点で,一義的に分かるような制度になるということでしたら,ほかの要件を備えればA案は非常にいい制度になると思います。 ○中井委員 全くの思いつきですが,内田委員の今の供託をさせるのが消費者にとって酷だというのであれば,債権譲渡に関する通知については,常に供託のフォーマットを提供する,二重に通知があったときはこのフォーマットを使ってくださいね,こういう情報開示方法を組み合わせるなどという具体的運用は十分あり得ると思います。登記だから分かりやすいという意見は,弁護士会の中でも少ないというのが実感です。 ○沖野幹事 お答えの前に中断させてしまうかもしれないのですけれども,今までの御議論の中で,債務者にとって分かりやすいかという点もそうなのですけれども,現行の登記をベースにしたときに,果たしてそれよりも良くなるのかという問題が一方であると思いますけれども,そこで語られる現行の制度に対する問題点が,現在の通知承諾と比べたときにどうなのかという点がありまして,今の例えば登記事項証明書が来たときに,債権が譲渡されているのかどうか分かるのかという,そこの工夫の余地はないかという点はもちろんあると思うんですけれども,そのことと,では現在の譲渡通知が来たときに,その通知と比べて登記事項証明書の方が分かりにくいのかというと,やはり普通に来る債権譲渡通知についても,譲渡されたと言っているけれども,本当に譲渡されているのかということの判断の困難さは,やはりあるように思います。   それから,その他の点でもA案,B案,C案とある中で,とりわけ登記について向けられた批判の中には,現行法の通知承諾であればそれが解消されるのかというと,それはむしろ解消されていないのではないか。例えば海外からのアクセスというような問題がありましたけれども,登記制度で海外からのアクセスというのは技術的には可能ではないかという気もいたしますけれども,現在の通知承諾であれば,その海外からのアクセスがより良いのかというと,それは必ずしもそうではないと思われます。   ですから,冒頭のところで問題の議論の仕方についてお話があったところではありますけれども,登記制度をより重視した,あるいは役割をより広げたような制度というのを考えていくことに対する問題点自体も,相対的に現行法の制度を維持することと比べてどうなのかという判断が必要です。また登記制度の問題点として指摘された事項には,それはC案についても同じように妥当するのではないかというものがあるように思われます。それが登記制度の改正で,なおより良いものにしていけるならば,むしろそこで投げかけられた問題点というのは,登記制度自体の役割を大きくする方が,むしろより良い債権譲渡法制になっていくという面もあるのではないかと考えます。   それからもう一つ,A案,B案,C案というときのC案なのですけれども,C案自体の問題点については,現行法自体の在り方が,果たして根幹である債務者の地位等,更には利害関係の地位にとって良いのかという問題がそもそもあるのだと思います。そのうえで,C案の中身なんですけれども,現行法の二元的な対抗要件制度を基本的に維持するというC案のもとでの必要な修正として,ここに書かれておりますのは,専ら通知承諾,それからそれについての確定日付のとり方についての修正なんですけれども,仮に現行法を維持したときに登記制度の見直しが要らないのかというと,それはそれでやはり別途問題になると思われます。また二元的な制度を維持するときも,例えば対象となる譲渡について,法人がする金銭債権の譲渡ということですけれども,例えば個人事業者と法人でなぜそういう違いがあるのかと,それが例えば商業登記との連動ですとか電子化との関係での技術的な問題であるならば,むしろ個人にも広げていくべきではないかということも出てまいりますし,コストですとか,あるいはアクセスの点などは,これもC案でも出てくることですので,道垣内幹事がおっしゃったような登記制度廃止という考え方をとるのでない限りは,登記制度をいかに良いものにしていくかというのは,少なくともA案とC案のもとでは,ともに検討すべき課題であり,かつその中で実務的にも耐えるような登記制度が現実として可能性があるとなれば――,それはすぐにはできないかもしれません。かなりの過渡期間を置かなければならないかもしれませんけれども――,構築が可能であるならば,むしろその役割を広げ,場合によっては一元化ということも十分あり得べしということになるのではないかと思います。 ○藤本関係官 今の制度というのが債務者に一定の負担を課して,制度が不安定という側面はあるのですが,債務者への通知等というのが今デフォルトモードになっています。特例法も結局そういうものとみなすということにしています。実は,金融機関というのは多数の債権を有しているものなので,銀行法などで,金融機関が事業譲渡したときに,金融機関はその旨を公告するという義務をかけていまして,その公告をしたときは,債務者に対して確定日付のある証書による通知があったものとみなすという規定があります。この制度は破綻金融機関の処理などでも使われます。この制度がどうこうということだけではないのですが,登記への一本化をしたときに,こういう柔軟な制度というものを仕組むこととの両立というのが難しくならないかどうかという観点からも検討をする必要があるのではないかと思っております。 ○岡(正)委員 細かい話になりますが,三つ申し上げます。   まず,制度として一元化する,すべての人にすべての債権の対抗要件を一元化するという案には相当反発が強かったんですが,登記が便利であることについては,三上委員も中井委員もおっしゃっていたように,現在一定の理解は得ているところでございます。それで,技術的に難しいのかもしれませんけれども,法人登記簿に当社の債権譲渡は登記だけでやるというような登記をした上で,その会社については登記だけの対抗要件を認めるという選択制みたいなものがあってもいいのではないかと思います。そういう個別化を認めていいのかどうかという議論はあるかと思いますが,一元化した方が便利な局面があるのは事実ですので,一つの考え方として,選択的に一元化するという案もあっていいのではないかという意見を持っております。   それから二つ目に,その登記に関することですが,サイレントな債権譲渡の要請があるというのは分かりますけれども,債務者として自分の債権がどうなっているのか知りたいという要求もあります。第三債務者が自分の債権がどうなっているか知りたいという申請を,登記所に出すと相当苦労するらしいと聞いております。簡単に見付かるものではなくて,利害関係であるとか,いろいろなものを証明して,やっとたどり着けるという制度のようですが,債務者が知りたいといったときには開示を受けることができる制度がよろしいと思います。先ほど,退室される前に新谷さんがおっしゃっていましたけれども,法定担保権を持っている人まで広げるかどうかは別として,当該第三債務者が知りたいときには,サイレントな譲渡を認めていても,登記の開示を認めていいのではないかという意見がございました。   三番目に,C案の「必要な修正」のところでございますが,現在,配達日時の証明というのは,郵便局でも宅急便屋さんでもかなり容易になってきておりますので,確定日付ある通知というのも,配達日時が証明される制度に切り替えてもいいのでないかと,今の判例をその部分については変えていいのではないかという意見がございました。   以上です。 ○鎌田部会長 江原関係官,幾つか,改正の方向性の問題と同時に,現行制度はどうなっているんだというふうなところと関連するような御発言がありましたので,何かあれば。 ○江原関係官 それでは,若干細かい点ですが,今の最後の岡委員がおっしゃられた債務者ですけれども,これは登記事項証明書を当然請求することはできます。ただ,登記事項証明書はだれでも見られるものではないという仕切りがされている関係で,当該請求人が債務者である場合はもちろん,先ほど利害関係という話がございましたけれども,その他の法令で定められた利害関係者である場合も含め,これは書面をもって明らかにしてもらわなければいけないという制度になっておりまして,恐らくおっしゃっているのは,実際上の書面としてどういうものがそれに当たるのかとか,そういう話だろうと思いますので,そこはもうちょっとPRをする必要があるのかなと思います。今の話も含めてですが,若干,前提となる現行の制度に対する理解といいますか,それがいまいちの部分があるのかもしれないので,それについてはまた次にこの問題を御審議される際にでも,御説明させていただく機会を持たせていただければと思います。 ○藤本関係官 利便性とかコストの話で,今のコストを前提として考えていいのかどうかというのはあるのですが,今のコストを前提とするとどういうものがあり得るのかということの参考です。中小企業を含め企業の資金調達の円滑化というのは重要だと思っているのですが,下請企業などの売掛債権の流動化というのはいろいろな仕組みがございます。その中に一括信託方式というものもございます。ある信託銀行では,大企業などである債務者約450社,下請債権者は約12万社で,毎月対抗要件をとっている。どうやってとっているかというと債務者の承諾で,450掛ける700円掛ける12か月。登記だと12万社,毎月債権が生じるわけではないので,その3分の1で4万社だとすると,4万掛ける7,500円掛ける12か月。そうすると400万円対36億円といった感じになっていて,現在の信託報酬よりもずっと大きな額になって,こんなビジネスは成り立たないだろうとの声がございます。これは現行の基準に当てはめたら,そういうことになるということです。そういうコストだけではなくて,システム対応を含めて大きな事務フローを顧客の間でまた築いて,契約書をまた12万社分変更するのも大変だということはあろうかと思います。   それから,利便性のところで,多分いろいろなコンピュータシステムに頼るということになると思うのですが,金融の世界ではいろいろなシステム化が進んできております。今まで私どもがいろいろなシステムにお付き合いした感じからすると,システムといったもの,あるいはシステムリスクといったものについては,非常に謙虚に接しなければいけないというのが実感でございます。登記対象となる債権譲渡の数の増加とか事項の複雑化,多様化といったものについて,やるということであれば非常に真剣に,十分な資源投入とかシステムリスクの管理というのをしないと,動いているかなと思ったら止まっていたりするといけない。債権譲渡という取引の基盤でありますので,そういう覚悟を持ってできるかなということが重要なことだろうとは思います。果たして本当にできるのかなという,反語でもあるのですが,そういうことでございます。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○深山幹事 債権譲渡の登記については既にたくさん御意見が出ているので,結論だけ申しますと,私も,C案といいますか,現行法のような使い分けをすると明確性をやや欠く面があるにしても,ニーズによって使い分けるということでよいのかなと考えています。それにしても,多くの先生が言われたように,C案であれ,もっと登記制度を使いやすくする工夫,努力はされるべきだろうと思っております。   申し上げたいのは,余り議論に出なかった承諾という現行法の制度についてなんですが,これも結論的に言えば使い分けの一環として,承諾をとるということによって対抗要件を備えるということが非常に便利な場合もあるので,そういう選択肢も残した方がいいのではないかと思っております。   資料の中で,債務者の権利行使要件のところの記述で,廃止をしたらどうかという提案があり,その理由として,サイレントのような場合を想定しているのかと思いますが,債務者の方が積極的に債権譲渡を承諾することによって,譲渡人及び譲受人の意図に反して譲受人に弁済してしまうという事態が生じるという問題が指摘されているという理由付けが示されているんですけれども,私は,これは何が問題なのかなと思います。サイレントでしたいというニーズは,それはそれで分かりますが,しかしここで言っているのは,仮にそういう場合であったにしても,もう知れてしまった場合の後のことですから,そのときに譲渡があるんだったら譲受人の方に払いますと言って払ってしまって,何が問題なのかなと。   それが,例えば譲渡担保のようなケースで必ずしも直ちに確定的な譲渡の効力を譲渡当事者間で想定していなくて,デフォルトになるまでは譲渡人の方がなお回収するというようなことを仮に考えているのであったとしても,そのときには譲受人が譲渡人に対して弁済金を戻してやるというようなことを一手間すればいい程度の話であって,意図に反して弁済してしまって困るというようなことになぜなるのかなというのが素朴な疑問です。少なくともこういう理由で,承諾というそれなりに使い勝手のある制度を落とす理由としては,いかにも根拠薄弱ではないかなという気がいたしております。 ○山野目幹事 承諾については,余り議論はなかったというよりも,今の深山幹事の問題提起を受けて,更に御議論いただくべきなのだろうと思いますが,その前に,第三者対抗要件の問題について,今後の議論に向けてということで一つ要望を述べさせていただきたいと考えます。登記に一元化する考え方というのは,直ちにはそれに同調なさらない方も含めて,今議論を伺っておりましたところでは,明快な,あるいはよく考え抜かれた一つの対処であるという評価をいただいたところでございます。   もとより,直ちに実現することについて困難がいろいろあるということも認めるものでございますけれども,そうであるからといって,立法の方向として,これを完全に今この段階で断念してしまうことが果たしてよいのかということを考えますと,私にはそのようには感じられません。立法の工夫の仕方というのは,いろいろあるものだろうと思います。例えば民法には登記を対抗要件にするということを明快に書いておいた上で,制度環境を整えるための準備を鋭意進めながら,民法の施行に関する運用細目を定める法律,現在でいいますと民法施行法がございますけれども,そこで完全な実現まで当分の間,対抗要件について次善の方策として考えられるものを定めて運用していくというふうな,全体としてタイムスパンについて一つの指針を示すという立法の仕方もあり得るだろうと考えますから,幅広に今後の論議を積み上げていただきたいと望むものでございます。 ○中田委員 今の山野目幹事と似たような意見なのですが,C案に賛同される皆様も,登記制度の拡充自体には反対ではなくて,むしろ積極的な御意見をお持ちではないかと思います。そうしますと,C案プラス登記制度の拡充という方向で行くのか,一応A案を考えてみて,A案でどうしても都合の悪いところがあれば,それを具体的に検討するという,両方の考え方があり得るのではないかと思います。   A案で言うと,今日出た御意見の中ですと,例えば家族間の場合はどうかと,これは恐らく相続の場面などをお考えのことと思うのですが,そのほか契約上の地位の移転に伴って債権が譲渡されるときどうするかなど,幾つか具体的な検討課題があると思います。考え方としては,A案を出発点とした上で具体的な問題点を何とか解決できないのかという方法もありうるのだとすると,結局AとCというのはそれほど対立するのではなくて,適切な解決点というのが見付かるのではないかなとも思います。 ○鎌田部会長 登記制度の改良と拡充というのは少し違うような気がするんですけれども,今までの御意見の中では,現在の法人に限られているものを個人事業者にもというふうな御意見がちょっとあったかと思うんですが,金銭債権に限られているという部分をそれ以外の債権にも拡張するというふうな御発言は今のところはないんですけれども,その点について御意見がおありでしたら,お出しいただければと思います。 ○奈須野関係官 金銭債権以外の債権についても,それは物の中身によっては登記登録がなじむものも考えられますので,それは金銭債権以外にも拡張するニーズはあると思います。   ただ,例えばライセンス契約の契約上の地位のように,制度があったら使ってもいいよという人もいる場合もあるんでしょうけれども,そのライセンス契約というのは企業秘密そのものでございますので,それが公示制度を前提とする登記制度になじむかという問題もございますので,そこはやはり債権の性質によって,登記登録制度が使えるものと使えないものがあるということですので,この面でも一元化というのは現実性がないと思います。 ○鎌田部会長 提示されました論点につきましては,様々に有益な御意見をいただいて,今後どの点にポイントを置いて検討を進めればいいかということは相当程度明らかになったと思いますので,「債権譲渡の対抗要件」につきましての議論は,この程度にさせていただきます。   次に,「4 抗弁の切断」という項目に移らせていただきます。部会資料9−1では8ページでございます。   まず,事務当局に説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 現行法上,債務者が異議をとどめない承諾をした場合には,民法第468条第1項により,債務者が譲渡人に対して有していた抗弁の切断が認められていますが,単に譲渡されたことを認識した旨の通知をすることにより,抗弁の切断という重大な効果が認められることについては,必ずしもその根拠が明確ではなく,債務者にとって予期しない効果が生じるおそれがあるという指摘があります。このような指摘を踏まえ,異議をとどめない承諾の制度を廃止し,抗弁の切断は,抗弁を放棄するという意思表示によるという規律を新たに設けるべきであるという考え方が提案されていますので,「4 抗弁の切断」では,このような考え方の採否についての御意見をいただきたいと考えております。   また,抗弁の切断という重大な効果が発生する行為については慎重に行わせる必要があることから,一定の方式を必要とすべきであるとして,例えば書面により行うことを必要とすべきであるという考え方が提示されています。関連論点1は,この点に関する御議論をお願いするものです。   なお,債権譲渡における抗弁の切断との関係では,債務者が相殺の抗弁を主張することができる範囲について,学説上見解が対立しているところですが,この点については,次回以降の会議で法定相殺と差押えに関する議論の際に併せて御議論いただくことを想定しております。   説明は以上です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。それでは,ただ今説明がありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○三上委員 抗弁権の切断に関して,具体的な意思表示によるものとするということはどういう趣旨なのかということに関しての確認をさせていただきたいんですが,現状,金融機関が異議なき承諾をとるときは,定型的な書面でとっておりまして,それには「異議なく承諾します」という文言が入っております。それを,例えば「抗弁権が存在しない・主張しないことを確認します」という表現に変えれば同じということであれば,ほとんど現状と変わらないと思います。   むしろ,今の法制ですと抗弁権の切断は一種の外観法理といいますか,信頼法理ですので,譲受人が悪意の場合には,その抗弁権は切断されないという認識でおりまして,一番典型的には敷金を担保にとるときには,例の最高裁判例前から,異議なく承諾をしていても,敷金で当然差し引かれるものに関しては抗弁権が対抗されるという前提できましたけれども,今回の改正によって,むしろ「意図的に抗弁権を放棄する」とやってしまうと,かえって債務者の保護にならない場合もあり得るかもしれないわけですので,書面を要求するとか,具体的な意思表示を要求するという場合,どの程度のことを求めておられるのかという点を確認といいますか,よく検討しておかないとかえって逆効果になる可能性があるという点を指摘させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 敷金の場合は,差し引いた後に残る額にしか返還請求権は成立しないということですから,抗弁の問題ではないのではないかなと,直感的にはそう思いますけれども,御指摘のように,「抗弁の放棄」と言えば譲受人の善意・悪意にかかわりなしに全部放棄されたことになるのではないかと,こういう問題があるというのは重要な御指摘だと思います。 ○鹿野幹事 私は,基本的には,抗弁の放棄があった場合に初めて抗弁が切断するということについては賛成であります。債務者が単に債権譲渡がなされたということを認識した旨の通知をしただけで,抗弁が切断されるということは当事者の意思に合致せず,債務者の予期に反するような結果になり得るという問題があり,そのような問題を解消するという意味で,抗弁放棄の意思表示の効果として抗弁が切断されるとすることには賛成です。   もっとも,抗弁放棄の意思表示がどのような形で認められるのか,どこまで認められるのかということについては,やはり注意を要すると思いますし,今,三上委員も指摘されたとおり,債務者の利益にとって逆効果になる危険にも注意する必要があると思います。場合によっては,債務者は抗弁放棄書というようなものにサインをさせられることによって,事実上,抗弁の放棄を強制されるということになりはしないかという危惧も覚えます。   ちなみに,例えば最高裁の昭和42年の判決は,請負報酬債権が第三者に譲渡されて,債務者である注文主が異議をとどない承諾をしたけれども,その後に請負人の仕事完成債務の不履行が生じて,請負契約が解除されたというような事案において,たとえ異議をとどめない承諾がなされていたとしても,譲受人において当該債権が未完成仕事部分に関する報酬請求権であるということを知っていた場合には,債務者は譲受人に契約解除をもって対抗することができるという判断を示していたと思います。   ところが,抗弁放棄という制度にして,抗弁放棄があった場合には債権譲受人の善意,悪意は無関係ということになるとしますと,先ほどの請負のケースのような場合におきまして,債務者が仮に一切の抗弁を放棄しますという旨の放棄書に署名させられていたという場合については,果たしてどうなるのだろうか,譲受人の認識に関わりなく抗弁が失われてしまうのではないかという危惧を覚えます。その場合に,債務者自身が,抗弁放棄書を書くことによって将来の債務不履行のリスクまで引き受けたのではないかと言われるかもしれませんが,弱い立場にあるために事実上,抗弁の放棄を強制されるような立場にある者にとって,非常に不利益が生じやすいことになるという危険もあるのではないかと思うわけです。   これは抗弁放棄の意思表示の解釈によってある程度は解消される問題なのかもしれませんけれども,そのような不利益が生じないように十分配慮をする必要があると思います。 ○鎌田部会長 多分,今の問題は,現行法でもある問題ですね。むしろ現在では,債権の譲渡をしましたよ,はいと言ったら,これは異議をとどめない承諾だとされているところをもうちょっと明確にしようということで,そのときに,放棄の範囲が明確でないときには,一般的には譲受人において知らない抗弁は主張しませんという範囲で放棄の意思を持っていたと解釈すべきだということだろうと思います。 ○鹿野幹事 今でも当然同じ問題はあると思います。ただ,今は異議を留めない承諾が問題とされ,その場合には一応譲受人の信頼が要件とされているので,そこで一定,債務者の不利益が緩和される部分があると思うのです。それが抗弁の切断はもっぱら抗弁放棄の意思表示によるということにすれば,取引においては,抗弁放棄書を予め取り付けるということが広く行われるようになり,しかも譲受人の善意,悪意は無関係だということになるとすると,そのことが実際上却って債務者の不利益につながるという危険もあるのではないかと思い,その趣旨で申し上げました。 ○道垣内幹事 今,鎌田部会長がおっしゃったことに尽きているのですけれども,私のこの4のところの理解というのは,異議をとどめない承諾という制度をなくして,抗弁の放棄の一般の問題としようというものであろうと理解しております。つまり債権譲渡の対抗要件その他に関しては,その話は扱わない。しかし,例えば私が債務者であるときに,一定の抗弁を持っているわけですけれども,債権譲渡があろうがなかろうが,その抗弁を放棄するという意思表示を現在の債権者に対して行うということは,これは認めざるを得ないわけであって,その一般論に落とそうという話だろうと思います。   しかし,そこで更に問題になってくるのは,債務者が債権者に対して「一切の抗弁を放棄します」というふうなジェネラルな形での抗弁放棄が,抗弁の放棄のあり方として認められ得るのかという問題とか,更にはそれが認められ得るとしても,その意思ないし意思表示の解釈をどのように考えるのかというふうな話だろうと思います。鎌田部会長はどのような御趣旨でおっしゃったのか分かりませんけれども,例えば現在において対抗要件を備えた後に個別交渉をして抗弁を放棄するということになりますと,これは債権者の悪意も善意も関係ないのです。悪意であって,一定の抗弁があることが分かっていた上で,その抗弁を放棄してもらうという交渉をするということはあり得るわけですので,およそ債権者が悪意の場合には抗弁放棄が成立しないというのは,債権法の一般原則としては無理であろうと思います。そして,そういう趣旨だろうと,私は4のことを理解しているんですが,それでよろしいのでしょうか。 ○鹿野幹事 先ほど冒頭に申しましたように,抗弁放棄という構成をとること自体には基本的に私は賛成をしております。ただし,抗弁の放棄書というようなものを取りつけさえすれば,およそ抗弁は主張できないというようなことにならないような配慮が必要だという意見でございます。   以上です。 ○道垣内幹事 よく分かりました。それは債権譲渡の問題ではないですよね。債権譲渡が起きないときの抗弁の放棄も,同じ規律になるはずだという理解であろうと思います。鹿野幹事のおっしゃることはごもっともだと思います。 ○西川関係官 異議をとどめない承諾の制度の廃止については,やはり消費者の利益という観点からは積極的に賛成したいと思います。その際に,新たに抗弁を放棄する制度というのをつくる際には,鹿野幹事もおっしゃっていたように,消費者が何も知らないことをいいことに不利益な制度を押し付けられるようなものにならないようにすること,例えば抗弁を放棄したとしても,利息制限法に違反する貸付金のようなものについては後からでも主張できるとか,そういうふうな制度設計というのが必要だと思います。それからあと,法律用語を知らない消費者の方は,抗弁の放棄といっても恐らく分からないと思いますので,何か新しく制度をつくる際には,すごく重大な権利を放棄をしようとしているんだよということが消費者にも分かりやすいような用語にするといいのではないかと思いました。 ○松本委員 最後の論点は,恐らく消費者契約法10条を適用すれば無効になってしまうのではないかと。法律のルールが,切断を認めないというのが民法の任意規範ということになれば,それに反する特約は10条違反ということに恐らくなると思うので,余り心配しなくていいのではないか。   むしろ論理的な話ですが,この4の抗弁の切断における異議をとどめない承諾制度の廃止という話と,3の(3)の承諾を債務者対抗要件から外してしまうという話との関係でありまして,債務者対抗要件としての承諾を外してしまえば,異議なき承諾という制度自体が消えてしまうというお話なのか,そうではなくて異議なき承諾の「異議なき」という部分だけを消してしまうのであって,あとは先ほどから議論に出ているような抗弁の放棄というごくごく一般的な制度の問題にしてしまうと,契約自由の話にしてしまうということなのかというのが一つのお聞きしたい点です。   もう一つは,先ほどのときに話をすべきだったのをちょっと言い落としていたんですが,債務者対抗要件としての承諾を廃止することの理由として,債権は譲渡されているにもかかわらず,譲渡人・譲受人間の意思に反して債務者の方から譲受人を権利者だと認定して弁済することを阻止したいという,それが目的だと書かれているわけですが,対抗要件というのは,権利者の側から自分が権利者であるということを主張するための要件であって,そうでない者の側から,あなたを権利者だと認めて弁済をすること,あるいは権利の行使を認めることは恐らく否定されないんだと。物権変動は,正にそう説明されているわけなので,そうしますと対抗要件と言おうが権利行使要件と言おうが,譲受人の側から債務者に対して,私が債権者だと主張するための要件であるに過ぎないわけなので,債務者から自発的に権利の移転を認めて弁済することを阻止するという制度とイコールではないので,もし債務者の弁済を阻止して,そういう弁済は有効な弁済ではないんだから二重弁済しなければならないんだぞと,譲受人にもう一度弁済しなければならないんだぞということまで言いたいのであれば,この書き振りでは不十分であって,新たに別途条文を起こさなければならないのではないかなと思います。 ○高須幹事 今の松本先生の御指摘の点なんですが,二重譲渡がなされたようなケースで,それで第1譲受人には債務者対抗要件を備えない,つまり通知をしない,あるいは譲渡登記をしないと。その後,第2譲受人が優先する債務者対抗要件を具備してくるというときに,承諾というのを債務者対抗要件として残しますと,積極的に承諾することによって,第1譲受人が優先するようにしておく。後から第2譲受人が出てくるかもしれないんだけれども,先に承諾をしてしまえば,それで債務者対抗要件を満たすということになって,安心して払えるのではないかと。もしそれを承諾という要件を除いて,ただ払うのは自由だからで払うのは全く大丈夫だと思うんですが,そのときに第2譲受人が出てきて,そちらが先に債務者対抗要件を備えた場合には,その第2譲受人に払わねばならないというリスクを負うのではないか,そういう問題があるかと思うのですが,いかがでしょうか。今,咄嗟に考えたことですので間違っているかもしれませんがいかがでしょうか。 ○松本委員 第2譲受人が出てきて,第2譲受人の方が先に通知をしてしまえば,そっちの方に弁済しなければならないですよね。第2譲受人が出ているか出ていないか分からないけれども通知もないという段階で,サイレントな第1譲受人に対して譲渡の承諾をした上で弁済をするということ自体は問題がないと思うんですよね。恐らく承諾だけはして,弁済をしないという状況下で第2譲受人から通知が来た場合にどうなるんですかという話でしょうが,承諾と通知を債務者との関係では同列のものとして見れば,先の方を優先するというような扱いが十分あり得ると思うんですね。通知をしないことによるリスクをいろいろな形で負うんだということでしょうから。 ○鎌田部会長 現行法の解釈論をやっておられるんだとしたら,第三者対抗要件を先に備えた方が優先権を持つというだけの話で,それ以前に弁済すれば,弁済は常に優先だということです。 ○高須幹事 債務者対抗要件を備えていない場合に弁済してしまって有効なのかどうかということはいかがでしょうか。 ○松本委員 それは当然有効ですよ。対抗要件というのは,債務者に対して権利を行使するための要件であるに過ぎないんだから,債務者の側から,あなたを権利者だと認めて弁済することを封じる制度ではないはずなので,拒めるというだけの制度だと思います。 ○鎌田部会長 松本委員の提起された問題につきましては,先ほど深山幹事からも御指摘のあったところですし,また多分,恐らく前提とする設例もサイレントであったというだけで,そこまでの拘束力は生まれないだろうと思います。取立権が譲渡人に留保されていると,債権自体が譲渡されるときは取立権は譲渡人に留保されているときというふうなのが一番典型的な例になるのかもしれませんが,そうだとすると,やはりそれは抗弁内容に入ってきてしまうのかもしれないですね。いずれにしろ,もう少し議論を詰める必要があるという御指摘のあったところですので,検討を更に深めさせていただきたいと思います。 ○大村幹事 松本委員が御発言の中で前置きとしておっしゃった消費者保護の件なんですけれども,消費者契約法10条があったとしても,任意規定自体がないので,それとの関係で不当条項になるということはないということになりはしませんか。 ○松本委員 デフォルト的には切断されないわけですよね。当然そのままの形で移転するんだということになりますよね,異議なき承諾という今の制度をなくしてしまえば。 ○大村幹事 そうなんですけれども,しかし,抗弁を放棄をすることが何との関係で不当ということになるかという問題はありませんか。 ○松本委員 債権譲渡の際に黙っていれば,当然従来どおりの不利益をこうむらないままになるのに,そこで非常に不利な同意を強いられるとすれば,……。放棄自体が契約の主たる内容だとなれば,消費者契約法は適用されないということになるのかもしれないですね。 ○大村幹事 二段あるのですけれども,まず,先ほど道垣内幹事が,これは抗弁の放棄についての一般論を確認するだけですねとおっしゃったのは法理上はそうなのでしょうが,そのことを確認する規定を置くか置かないかという問題がまず前提としてあって,規定を置いたときにはそう確認されますので,それに従ってやっているということで,消費者契約法にのせるのは難しくなるように思います。   もちろん特に規定を置かないというのも選択肢としてあり得ると思いますけれども,そうなると今ちょっと松本委員と私との間で議論をしたような疑義が生じかねないのではないかと思いますので,そこのところはもう少し検討した方がいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。468条に関連しては,今御指摘のような点についても配慮して検討します。 ○鹿野幹事 今,消費者契約法について議論がありました。消費者契約法の10条の適用が果たして可能なのかという点も一つ問題ですけれども,仮に消費者契約法10条等で消費者の保護が図られるとしても,それだけでいいのかということは,もう一つ問題になると思います。もちろん,私自身は消費者の保護ということは重要だと思いますが,少なくとも現在の消費者契約法の「消費者」の定義には当てはまらないようなものについても,力関係が存する結果,先ほど言及した抗弁放棄書というようなものを事実上強制されるという事態が生じうるのではないかと思います。そしてそのような場合にも,その放棄にどこまで効力を認めるのかということについては意識しておく必要があると思います。 ○松岡委員 先ほど松本委員が問題提起された2点目の件で,対抗要件制度の設計と異議をとどめない承諾がどういう関係にあるか,私もよく分からなくて質問いたします。   先ほど松本委員も少し示唆されたように,両者は片面的な関係にあって,対抗要件制度を登記に一元化するか,あるいは承諾を対抗要件から外せば,承諾には当然に異議をとどめないという抗弁切断効はなくなります。しかし,そちらで現行の通知または承諾という制度を維持することになったとしても,同時に,現在のように単に債権譲渡があったことの認識を表明する承諾だけで,当然に抗弁切断の効力があるのかどうかは,別途議論する必要がある。まずは両者はこういう関係にあると思います。   ただ,そこから先に,私自身が対抗要件制度をどう設計するかについて確たる意見がまだ形成できていないので余計そうなのですけれども,対抗要件制度の設計を議論するときに,抗弁の切断のあり方の問題をどこまで意識しておく必要があるのか,やはり微妙なところがあってよく分かりません。もしお考えがあれば,お聞かせいただければと思います。 ○鎌田部会長 現行制度上,承諾は二つの機能を持っているので,対抗要件がどうなろうと,この問題はこの問題,現在ある制度がどうなるかは,やはり解決しなければいけないということで,この資料でも二つ,対抗要件の部分と抗弁の切断の部分は分けて問題提起しているということだと私は理解しておりますけれども,そういう理解でよろしいですね。 ○山本(敬)幹事 鹿野幹事の先ほどの御発言について質問させていただきたいのですが,その前に,消費者契約法10条との関係について,一言ふれさせていただければと思います。先ほどのお話では,消費者契約法10条が適用されるという前提でしたが,最初に消費者契約をするときに,その中の契約条項として,このような債権譲渡があった場合については抗弁を放棄するという条項が入っているときは,確かに消費者契約法がそのまま適用される可能性があります。しかし,放棄の意思表示がそれだけで独立して行われるときは,これが「契約」かという問題もありますので,そうすんなりと消費者契約法10条がそのまま適用されるわけではなくて,何らかの説明なり手当てが必要になるのではないかということだけ指摘させていただきます。   その上で,鹿野幹事に対する御質問ですが,消費者の場合はともかくとして,それ以外の場合でも,放棄の意思表示が強いられる場合というのがあり得るとおっしゃっているのは,それ自体としては分かるのですけれども,それに対処する方法として,例えば強迫や公序良俗その他の一般法理では導けないものがあるとお考えなのか,それともそのような一般法理から導けるのだけれども,それを明確化ないし具体化する規定を置くべきだと考えておられるのか。もし後者だとすると,どのような場合にどこまで具体化のための規定を置くかという次の問題に出て来るわけですけれども,その前提として,ここで特に規定を置くべきだとお考えになる特別な理由をお教えいただければと思うのですが,いかがでしょうか。 ○鹿野幹事 まず,強迫とか詐欺とまで言えないけれども,これにサインをしてくださいと言われたら事実上サインをせざるを得ないという事態はあるのではないかと思います。そのとき,消費者契約法の10条,あるいは民法90条によって適切に処理できれば,それはその限りでよいかもしれませんが,特に民法の90条に関して言いますと,少なくとも従来の比較的狭い同条の解釈ではなかなか民法90条の適用までは難しいというという場合があり得るのではないかと思いますし,ですから,90条があるからよいということにはならないのではないかと思います。   次に,なぜこの場合だけ特に制限を設ける必要があるのかという点ですが,それは,これが典型的に債務者に不利益が生じやすい事態だと考えられますので,あらかじめ予想されるそのような事態については,一定の配慮をする必要が特に感じられるということでございます。 ○鎌田部会長 抗弁の切断についてもいろいろと,予想以上にたくさん問題を提起していただきましたが,これらを踏まえて,また次のステップに進ませていただきたいと思います。 ○山本(敬)幹事 その前に,ちょっとよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 はい。 ○山本(敬)幹事 多分私だけではなく,気になっておられる方もほかにもおられるだろうと思いますので,問題提起だけさせていただきたいのですが,先ほど対抗要件のところで,A案かC案かという点はかなり激しく議論していただいて,認識が深まったと思いますが,C案を採用する場合,そしてA案を採用する場合でも,一定の債権に限って登記によるけれども,それ以外についてはC案と同様のものによるとする場合には,やはりC案,つまり現行法の規定を基礎にするにしても,そこにみられる問題点をどう修正するか。あるいは,現行法で書かれていない問題について判例法理があり,それについても争いがあるということを踏まえて,どう規定を整備していくか。例えば債権の二重譲渡があった場合に,劣後する方に支払ったときに,優先する側から不当利得返還請求はできるか等,理論的にも実践的にも極めて難しい問題についてどう考えるか。このような点について,配付資料では問題提起までしていただいているわけですが,これらの問題については議論が深まったとは必ずしも言えなかったのではないかと私は感じました。   これらの問題について,時間の制約がある中でどう議事を進めるかですが,次に回されるときにはどうなるのだろうかという危惧を持たないではありません。もちろん,だからここでこれから議論しましょうということになるかどうかは,部会長の御判断にお任せいたしますけれども,積み残し問題がかなり大きく残ったのではないかということだけは指摘させていただければと思います。 ○鎌田部会長 二重,三重譲受人相互間の法律関係について,ここについて問題がある,これを検討しようとまで言っているけれども,中身をどうするかがこの場で決まっていないという御指摘なんですが,実はそういうたぐいのものは,いっぱい今までも出てきているわけで,第2クールではそれらを一つ一つ決めていかなければいけない。決定的に考え方が分かれているものについては,この場で時間をかけて審議していかなければいけないと考えています。しかし,現時点では論点を提示するということに性質上とどめざるを得ないので,その点は御容赦いただいて,次の段階では基本的にこういう考え方と,こういう考え方があるけれども,どうしますかという結論を,この場で,あるいは場合によってはもうちょっと機動的に動ける場を設定して議論を詰めるというふうな作業をしていくという手順に多分なるだろうと考えておりますので,御容赦をいただきたい。   ほかによろしければ,今日は,少なくとも証券的債権については,商法系の委員,幹事が全員御出席ですので,何とかそこまでは済ませたいと思っておりますので,次に進ませていただきます。   次も大変議論の予想される課題ではございますけれども,部会資料9−1の9ページの「5 将来債権譲渡」について御審議いただきます。   まず,事務当局に説明してもらいます。 ○松尾関係官 将来債権譲渡については,近時,重要な最高裁判決が相次いで出され,学説上も様々な議論が展開されているところです。そこで,これまでの判例法理や学説の発展を踏まえて,将来債権譲渡に関する明文の規定を置くべきであるという提案がされています。   「(1)将来債権の譲渡が認められる旨の規定の要否」では,近時の判例により,将来債権譲渡が原則として有効であり,債権譲渡の対抗要件の方法により,第三者対抗要件を具備することができることが明らかにされていますので,この点について明文の規定を置くことの要否について御議論をいただきたいと考えております。   そして今,将来債権譲渡が原則として有効であると申し上げましたが,判例により,将来債権譲渡は公序良俗の観点からその効力が否定されることがあるということも明らかにされています。この点については,実務的な予測可能性を高めるため,どのような場合に将来債権譲渡の効力が否定されるか,より具体的な基準を設けることが望ましいという考え方が提示されています。関連論点は,この問題を取り上げるものです。   次に,「(2)譲渡人の地位の変動に伴う将来債権譲渡の対抗力の限界」は,将来債権の譲渡の後に譲渡人の地位に変動があった場合には,その将来債権譲渡の効力を第三者に対抗することができる範囲について,一定の限界があるのではないかという問題を取り上げるものです。この問題は,様々な局面を念頭に置いて議論されていますが,現在もなお見解が対立しており,その結論が明らかではありませんので,立法により明確にし,実務的な予測可能性を高めることが望ましいという改正提言がされているところです。   この問題を議論する際に念頭に置くべき局面の例として,部会資料9−2の33ページ以下に三つの局面を挙げさせていただきましたので,これらの局面に統一して適用することができ,かつ妥当な結論を導くことができる規律としてどのような規定を置くことが考えられるか,御議論をいただければと思います。   説明は以上です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。それでは,ただ今御説明のありました部分につきまして御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○松岡委員 まず,将来債権譲渡の規定を設けるかどうかとその限界の話について,将来債権譲渡が基本的には可能であるという意味の規定を置くこと自体には,特に反対しません。あった方がはっきりしていいのではないかと思うのですが,問題はその限界の方です。この部会でどこまで議論できるかという発言をすでに何度もしていますが,その一環としてのものです。将来債権のように価値が確定していないものを譲渡する場合,確定した対価でそれを譲り受けることは,例としてないわけではありませんが比較的少なく,とりわけ複数の将来債権の譲渡は,基本的には債権譲渡担保であろうと認識をしております。   そもそも公序良俗で制約している点で個別の事案ごとの判断であり,その基準自体が今までの裁判例や判例を見てみてもはっきりしません。そのうえ,将来債権譲渡担保の場合には,譲渡人に取立権を留保する,若しくは取立権を付与するという形で,譲渡担保設定者=債権譲渡人の営業の自由等を過度に制約しないものとなっており,そもそも公序良俗違反になりにくい仕組みがとられています。それゆえ,更に何かの基準を設けるのは非常に難しいと思います。   それから,次に,他の債権者との関係は,むしろ債権譲渡に固有の問題ではなく,過剰担保を抱え込む形で,他の一般債権者等に迷惑をこうむらせるような行為をどう規律するかという問題ではないかと思います。そうだとすると,担保一般に関連する問題であって,この債権譲渡のところだけで対応することができるか,それが適切かについて,疑問に感じております。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○高須幹事 今,松岡先生から御指摘いただいて,正にそのとおりの部分と,それでも何とかしたいという部分と二つございまして,1点は,やはり将来債権の場合に,将来債権譲渡担保ということがとても大きな問題になるんだろうというのは,私も全く同意見でございます。そのときに,やはり過剰担保という問題を避けて通れないというか,将来の債権なものですから債務者の心理的要素としても担保に出しやすいといいますか,こうなったら3年も5年も一緒ではないですかみたいな担保の立て方をしてしまうというようなことがあると思います。本来は有限であるべきものが,無限であるかのような誤解をして担保を設定するという危険が常につきまとっているという意味では,やはり将来債権譲渡担保固有の問題ということも可能で,この場合の過剰担保に対する規制というものを何とか設けていくべきではないかと思っております。   それは担保法一般の問題だと言われてしまえば,確かにそのとおりとも思うのですが,今回の場合に債権法改正ということで,やはり担保物権に関しての改正論議ができないという制約がありますので,そのときに全く議論を放棄してしまうというのもいかにも残念だなと思っています。何とか手掛かり的なものだけでも今回議論ができないかと考えています。具体的な基準までは明確にはできないかもしれないけれども,平成11年判例が打ち出した,あるいはその前から,私が勉強した限りでは,高木多喜夫先生の昭和の時代のNBLの論文の中に公序良俗論というのが出てきたと理解しておるのですが,そういうようなものを明文の中に何か取り込むことができないかと。すべて一般条項にゆだねるというのは少し消極的過ぎないかという気がしておりまして,ここでできるだけ議論をして,制限についても何か議論の成果みたいなものを出していければと思っております。   以上です。 ○奈須野関係官 将来債権の譲渡は,ファクタリングであるとか証券化であるとかの有力なツールになっておりますので,この根拠を明文化するということにはニーズがあると考えております。一方で,事業再生の局面になりますと,先ほどのとおり過剰担保の問題が生じるということでございますので,その点との調整が必要になってくるということでございます。   そこで,いただいている資料の9ページの(2)の譲渡人の地位の変動に伴う将来債権譲渡の問題については,立法により第三者に対抗することができる範囲を明確にするという,そのニーズ自身は理解できるんですけれども,果たしてこれは民法の問題なのかということについては,ちょっと議論の余地があるのではないのかなと。要は,破産法なりその他の法制の問題ではないのかなという感じはいたします。   民法の局面で議論するとすれば,その上の部分の公序良俗の観点からの将来債権譲渡の有効性をいかに限界を画していくかということになるわけですけれども,公序良俗の観点というと,若干実務的に申し上げますとおどろおどろしいというか,実務的な予測可能性がいささか低いという問題がございます。そこで,何らかの形で具体的な基準を設けていくということには賛成でございます。例えば,どのような基準でその範囲を画していくかということについては,将来債権について期限の定めがない場合は,例えば5年あるいは10年といったようなデフォルトルールを設けると。期間が約定された場合は,債権の性質にかんがみて,余りに長期の場合は,それを超える部分については無効というような定めを置くことによって,その期間の公序良俗性という若干規範的な部分について,債権の性質との関係でその期限が相当なものであるかという観点で判断できるようにするというのが,一案として考えられるのではないかと考えております。   以上です。 ○道垣内幹事 奈須野関係官の意見については,誠に申し訳ないのですが,2点とも反対です。   第1に関して言いますと,公序良俗規範というものは,それはここにどう規定しようが適用されるものであって,ここに5年というのを書けば,3年のときには絶対に公序良俗違反にならないのかと,それはあり得ない法制度だと私は思います。   したがって,ここに何らかの基準を置くということは私は全然反対しませんけれども,それは一般的な公序良俗則が適用されるということを前提の上,なお将来債権譲渡については一定の制限を加えるという意味で置かれるべきです。一部の実務家の中には,どのような将来債権譲渡が無効とされるのかが分からないので,絶対これは大丈夫だというふうな基準を法律上明らかにしろという意見もあるようですけれども,それはあり得ない考え方だろうと私は思います。   二番目のことで,破産法の問題ではないかとおっしゃったのですが,それは恐らく設定されている問題がここの(2)のところとは違うのではないかという気がいたします。つまり,例えば将来債権譲渡担保において民事再生等が開始した後に売掛代金債権が譲渡されたままになるのか,それとも会社更生なんか分かりやすいかもしれませんけれども,そういうふうな更生管財人その他が主体となって事業を続けたというときには,それは別個の主体による債権が発生していると見て,そもそも債権譲渡の効力が及んでいないと考えるのかという問題は,それは破産法というか,倒産法の問題ではないかと私も考えます。   しかしながら,例えばここに書いてありますような不動産賃料の債権の譲渡があった後に当該不動産が譲渡された場合というのを考えますと,これは全く平時の世界でも問題となる話でありまして,倒産法の規律にゆだねるべき問題ではないと考えます。   以上です。 ○三上委員 私ども債権者の立場からは,将来債権譲渡ができるということを明文化するという点に関しては賛成でございます。   それから,その範囲を絞るということに関しましては,金融のイノベーションという意味でもプロジェクトファイナンス等々であれば全資産担保ということで20年,30年のプロジェクトのキャッシュ・フローを全部担保にとることがあるわけで,そこに年数の制限が設けられるということは取引を阻害する懸念があります。むしろ例に挙げられているAからDのように,何かが起こったときにそこで切れるという法制にすれば,例えば倒産隔離等の手段を使って倒産なり譲渡が起こらないようにするという方法は考えられるわけですから,まだそちらの方がましであって,民法で何年を超えるのは駄目という絶対的な規定を設けるというのは問題が多いのではないかと考えております。   それから,詳細版の方でAからIまでの例が挙がっているわけですが,AからFまでの問題は民法の問題だとは思うわけですが,G,H,Iは倒産法制の問題であると考えます。つまりA,DとくればHがくると,B,Eと採ればHがくると,C,Fと採ればIがくると,昔のZ会の英数国の分け方のような,そういう単純な関係にはならないとと思います。例えば,A,Dを採るときに,あとは破産管財人を第三者と見るか,債務者の延長と見るか。さらに,そう見た上でもなお民法と同じような扱い方で再生とかそういう案件に関しての配慮を別途倒産法制で採るかという問題ではないかという意見が多数でございます。   また,CやFの考え方を採るという場合には,結局賃料債権の譲渡と賃貸物件自体を売るということを対抗関係とは考えないということになると思いますので,その場合には,少なくとも債権者・譲渡人の方には当該債権を生むものなり事業なりを保存する善管注意義務を負わせる必要があるのではないか,その違反の効果も考慮すべきではないかと思います。場合によっては,例えば破産の場面であれば破産管財人がこういう義務を負うのであれば,破産管財人に対する損害賠償請求権として財団債権になるという考え方もあるのではないかと思います。また譲渡済みの将来債権に付された譲渡禁止特約は,これに反して効果を生じないというような考え方も出てくるのではないかと考えております。 ○深山幹事 将来債権譲渡についての何らかの規定は設けるべきだと思うんですが,まず,そこでいう将来債権というのは何を指しているのかということが,非常に分かりやすいものもあるんですが,必ずしも議論の前提として一致できない部分があるのではないかなと思います。資料の中でも,発生原因が存在しているというもの,これはもう問題ないんですが,発生原因すら存在していない債権についても,それは債権に該当するかどうかはともかく譲渡の対象になると,これが判例通説だという書き振りになっているんですが,その中でも,例えば債権者がだれになるかすらはっきりしないとか,ましてや債務者も分からない,あるいは債権者も必ずしも特定しないというようなところまで緩めてしまうと,そもそもそれは債権なのかというような気もします。これは「(2)譲渡人の地位の変動に伴う将来債権譲渡の対抗力の限界」のところが議論の実益としては一番問題になるわけですけれども,例えば譲渡人の地位が変わる,しかも譲渡人が新たに契約をしたような場合,例えば賃貸借で言えばB説のような見解においては,それはそもそも処分権が及ばないということで説明されていますが,そうであるならば,それは譲渡の対抗力の限界というよりは,譲渡自体の限界なのではないかなと思います。つまり譲渡できないから,当然対抗問題も生じないというぐらいのことを意味しているのであって,そういう意味で言うと,もちろん譲渡の対抗力の問題は一つ論点になるんですけれども,その一つ手前の問題として,譲渡がどこまでできるのかと,何まで譲渡できるのかという将来債権が予測される範囲なり,そこでいう将来債権の定義なりというものをまずは議論しないといけないのではないかなという気がいたしております。 ○松本委員 将来債権譲渡の限界の部分なんですが,倒産の部分は置いておくとして,不動産譲渡とそれから事業譲渡に伴う問題はどちらも,言ってみれば将来債権の譲渡対契約上の地位の移転のどちらが優先するかという感じのような気がするんですね。将来債権の譲渡が2本立ったのであれば,これは割と単純な対抗要件の問題で解消されるんだろうけれども,ここで出ているのはいずれも契約上の当事者が別の人になってしまうというタイプですよね。契約上の地位が移転することによって,生来の債権者・債務者関係が当初のものとは違った状態になると。そういうものについてまで,当初の債権譲渡の効力が及ぶのかということですが,事業譲渡とか不動産譲渡という,物や資産が移転することによってそれに伴う契約関係が移転する,したがってその傍らである将来の当該契約関係から発生するであろう債権も移転するんだと考えれば,契約上の当事者が変わらない状況における将来債権の譲渡と一種の二重譲渡的な関係になるという整理はあり得るのかもしれないけれども,もう一度原点に戻ってしまえば,そもそも債権者が変わってしまうような別の契約関係についてまで,将来債権の譲渡として押さえるということはできないのが本来である。物の移転に伴うというところからこういうことになって,将来債権の譲渡の方が結構追いかけていけるという考えが成り立っているんでしょうが,そもそも将来債権譲渡というのは不安定なものであるんだというのが大前提だったので,契約上の地位の移転の場合については非常に限定的にしか事前の将来債権の譲渡の追及力を認めないということでいいのではないかという気がいたします。全く認めないという必要はないと思うんですけどね。 ○山本(敬)幹事 少し違う角度から,同じ問題についてお尋ねしたいところなのですが,賃料債権の譲渡に関しては,その前提として,そもそも賃料債権は,少なくとも現在の民法の考え方によりますと,賃貸人が賃借物を賃借人に使用収益させたことに対する対価として発生する債権であると理解されていると思います。あくまでも賃貸人が当該賃貸契約に基づいて賃借人に使用収益させたことが,賃料債権を基礎付けるのだと思います。将来債権の譲渡に関しましても,この点に変わりはないはずですので,将来,賃貸人だった者が賃貸人ではなくなり,賃借物を当該賃貸借契約に基づいて賃借人に使用収益させることができなければ,賃料債権は発生しないことになるのではないかと思います。   A説のような考え方は,賃貸人が賃借物について所有権を持っているという前提で,所有権が持つ収益価値を譲渡するというような発想に立ちますと,将来についても所有者なのだから譲渡できるのではないかというように説明される可能性が出てくるのかもしれませんが,先ほどの賃料債権の考え方からしますと,A説の結論がただちに出てこないように思うのですが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 多分,A所有不動産がBに賃貸されていて,AのBに対する賃料が譲渡された後に,Aが不動産をCに譲渡したときに,Cの下では,AB間で成立した契約がそのままCのもとで続いているんだから,当初の契約から生じた債権は譲渡されているので,譲受人のもとでもその債権譲渡の効力が譲受人に対して主張される,そういう考え方がA説なのだと思います。 ○山本(敬)幹事 その場合でも,やはりAの地位を承継したCが使用収益させているという前提は残るので,そのようにして発生する賃料債権の譲渡の効力がなおCをも拘束するということでしょうか。 ○鎌田部会長 そういう言い方になるのかもしれません。 ○山本(敬)幹事 そうしますと,次の問題は,賃料債権を譲渡するという合意が賃貸借契約という賃貸人たる地位に内在するものとして組み込まれるかどうかということになりそうです。賃料債権の譲渡の効力が賃貸人たる地位を承継しただけの者をも拘束する,つまり賃貸人たる地位と結び付いた合意として効力を持たせることができるのであれば,A説のいうような効力は生じる。しかし,もしそうでないとすると,A説の結論をどう説明するかという先ほどの問題が残るということでしょうか。 ○鎌田部会長 それは,債権譲渡の契約がどういう内容かにもよると思うんですけれども,一般的には基本契約から定期的に生ずる債権,これが賃料債権だと先ほど収益価値と結び付けて言われましたけれども,例えば配当的なものでも,この契約から生ずる債権を譲渡しましたというときに,契約当事者の地位がどこかに譲渡された瞬間にその譲渡契約が飛んでしまううかというと,契約関係が維持されている限りはずっと維持されていくんだというのが一つの考え方としてあり得るということです。 ○山本(敬)幹事 これは別の問題ですけれども,例えば,賃貸人たる地位を譲渡したときに,過去分に発生した賃料債権がそれに伴って当然に承継されるのかどうかという問題とも少しかかわる問題かもしれませんね。 ○潮見幹事 今の点ですが,現行法の解釈を前提にすれば,鎌田部会長がおっしゃったような形になるのではないかと思います。ただ,だからこそかもしれませんが,ここに規定を置くのがいいのかどうかは別として,賃貸借の箇所に,今の話に関するルールを明確に定めておくという選択肢はあってもよいように思います。しかし,このことは,将来債権譲渡の規定をどうするかという問題とは,やはり切り離して考えた方がいいのではないでしょうか。   それからもう一つ,時間ないので簡単に申し上げますと,先ほどの深山幹事のお話に多分つながるし,私自身は共感を覚えるところがあるんですが,将来債権譲渡の効力とその限界ということを考えた場合に,よく公序良俗の方が問題になって,個々の基準化とか,あるいは具体的なルール化という話が出てくるのですが,既に何人の委員の先生方がおっしゃったように,そのこと自体については,私はそういう方向では考えるべきではなく,むしろ公序良俗の一般規定にゆだねるべきであると考えます。過剰担保についても,高須幹事がおっしゃったような議論をするのはいいのかもしれませんけれども,実際に今度条文を置くというようなことになった場合に,債権譲渡のところにだけこの問題を規定として置くというのは,一体どういう意味を持ってくるのかという,そのメッセージが若干怖いところがあります。そもそも,過剰担保についてこの部会で議論するというのが難しいところもありますし,更に広く約定担保の設定契約という形で考えた場合には,債権譲渡だけに規定を置くということになったら,そうしたら法律行為のところの公序良俗の規定は一体どうなるんだなどという話も,派生的に出てくるかもしれませんので,ちょっと危ないなという感じがいたします。   むしろ問題なのは,先ほどのお話にも出ていましたが,将来債権の譲渡対象の特定可能性として何が想定されるのか,あるいはそこに限界を付すのかというところを少し考える必要があるのではないかという点です。詳細版にも「債権の特定のために必要な要素として,第三債務者,発生原因,発生時期,譲渡額等が挙げられている」とありますが,こういう観点から将来譲渡の対象となる債権の限界付けをするのかが,まず問題とされるべきです。先ほど5年だとか10年だとかいった期間制限の話が出ていましたが,私はこのような期間を切るルール設定には大反対なのですが,仮にこのような期限限定をするというのならば,公序良俗規範というよりも,むしろ譲渡対象の確定というレベルで考える余地があるのかもしれません。   なお,私は最高裁平成11年判決の考え方がいいと思っているところでして,譲渡債権の対象の特定可能性という面での限定はやらない方がいいし,平成11年判決の枠組みをそのまま支持したいところです。 ○岡(正)委員 2点申し上げます。   最初に,公序良俗の方で,ここだけ設けるのはいかがかという話でございますが,与信を受けて初めて発生する債権,労働者の労働を受けて初めて発生する債権,あるいは動産売買先取特権で与信を受けて初めて発生する債権,これも将来債権譲渡で今のところがんがん譲渡できることになっております。人のふんどしで生ずる債権が,法律上自分の所有権なので譲渡して資金調達を受けられるということです。現在債権でもそうかもしれませんけれども,将来債権にわたって長くそういうものを許すという意味では,かなり危険な取引の部類ですので,やはり何か,相殺権の濫用のところでは一つ出ていますので,抽象的なものであっても,ここだけ特別に規定を置くというのは考えられるし,置いた方がいいのではないかという意見を持っております。   それから二番目に,将来債権譲渡の限界の一つの場として,債権が発生する前提となる不動産あるいは事業が譲渡された場合にどうかという論点でございます。人は自分が処分権を持っている権利を譲渡できるだけであり,譲渡人のもとで発生した権利の処分権はあるでしょうから,それが移転することは分かります。しかし大もとである不動産あるいは事業が途中で譲渡されて,譲渡人のもとで発生しないこととなった権利について,なぜ譲渡の効力が及ぶのか。対抗力の問題ではなく,何でそんな,他人のもとで生じた他人の権利の移転の効力が生じるのか。この点が疑問です。弁護士会で議論している中で,賃料債権を継続的に差し押さえた場合,その後,不動産を譲渡した譲受人は,継続的差押えに負けるという最高裁の判例がございまして,それは賃料債権の継続的な差押えが賃料債権の処分制限効プラス,不動産の処分制限効も基本的にはあるはずなので,不動産の譲渡は有効だけれども,それを差押債権者には対抗できない。そういう意味で債権者が,賃料債権の差押権者が勝つという判例がございました。   それと同じ考え方をすると,将来債権の譲渡人は,事業あるいは不動産を維持して将来債権を発生させる基本義務があるはずだと。三上委員がおっしゃったような基本的な将来債権を発生させる義務があると。その義務に違反した不動産の譲渡あるいは事業の譲渡なので,その義務の違反の効果として,新しい人のもとで発生した債権も賃料債権譲受人に対抗できないと考えたらよろしいのか。でも,それはやはり賃料債権しか譲渡していなくて,不動産の処分の禁止,あるいは事業の譲渡の禁止は明確には約定されていないし,約定されたとしても,対抗要件が具備されていないのであれば,差押えの処分制限効とは違うわけですので,途中で不動産あるいは事業が譲渡された後は,譲受人のもとで生じた債権については移転の効力は生じないとする,C説とF説がやはり原則ではないかと思います。もしそうではないとするのであれば,移転の効力が生ずるもう少し明確な理由が,先ほどの鎌田先生のような理屈になるのかもしれませんけれども,もう少しはっきりした理屈を明示していただきたいというのが弁護士会でそれなりの多数を占めました。 ○松岡委員 今の点に関連して,既に少し言及されているかしれませんが,この問題は,例えば賃料債権の長期にわたる差押え後に目的不動産が譲渡された場合であるとか,物上代位による差押えが行われた後に抵当権に基づく競売が実行された場合,若しくは抵当権の実行とは関係なく目的不動産が譲渡された場合などの諸事例とも共通する問題です。そちらでは,もちろん反対説もありますけれども,Aの考え方が採られていて,それと整合する形でこちらをどう理解するのかは,相当難問ではないかと思います。 ○鎌田部会長 この部分でも,またたくさん宿題をいただいたような形でございますけれども,大方の御意見をちょうだいしましたので,これを踏まえて更に検討を深めさせていただくことにして,よろしいですね。 ○岡(正)委員 破産のところで発言してもよろしいでしょうか,時間が気になりますけれども。 ○鎌田部会長 いいえ,どうぞ。 ○岡(正)委員 破産のG,H,I説のところにつきましては,弁護士会でも意見が分かれております。先ほどのようにC,F説(将来債権譲渡の方が負ける)が原則ではないかという論者においても,倒産の場合には管財人は管理処分権だけなので,少し違うだろうという意見がございます。   しかし,倒産手続が開始された後,財産拘束された財団の財産を使って,あるいはコストを使って生まれた債権,それが従前の譲渡契約に基づいて債権譲受人の方にいってしまう,それは明らかにおかしい,不公平であるという見解は弁護士会では大変強うございます。   その解決方法としては諸説あるんですが,私個人的には,アメリカ連邦倒産法のように,開始決定後に倒産裁判所がコストと譲渡契約等を見て,コスト分だけは倒産財団に取り戻すという裁判所の決定による解決がよろしいと思っております。そうではなくて,ここにあるI説,将来債権を発生させる基本が財産拘束されたんだから,それの価値変形物の将来債権については及ばないという説も結構強いです。まあ理由付けはともかく,開始決定後に財産拘束された財産で生まれた債権に,将来債権譲渡の効力を及ばせるのはおかしいという意見は圧倒的多数説でございました。 ○鎌田部会長 倒産法の専門家から,何かございますか。 ○山本(和)幹事 今の中身については,特にコメントはありません。   議論の仕方についてですが,私は,最初の方に道垣内幹事とかどなたかが言われたように,基本的に(3)の問題はやはり倒産法の問題であって,以前に特別法と民法との関係についても御質問したこともありましたけれども,最終的には何らかの決めを打つとすれば,恐らくこのフォーラムではないところで決めを打たれる問題なのかなと思っています。   ただ,その前提として,これは希望ですけれども,私自身は,やはり将来債権譲渡の問題に基本的な民法プロパーの観点からの規律は,できる限りで明確なものを置いていただきたいということを希望しております。そのようなものに基づいて倒産法で考えればどうなるのか。場合によっては,それを倒産実体法という形で修正する必要があるかもしれませんが,何といっても,やはりもとの民法の規定がある程度明確なものでないと,督促自体もつくれないですし,それを明確化するような規律もつくれないということになってしまいます。この問題自体は,倒産法においては現在非常に大きな問題で,現実の実務としても非常に大きな問題であることは間違いありませんので,そういう観点からすれば,時間はないとは思いますが,できるだけ民法で御議論をいただいて明確な立法をしていただきたいという希望を申し上げたいと思います。 ○畑幹事 私もほぼ同じことでありまして,前提として,やはり平時の実体法とよく表現しますが,そこを明らかにしていただければ,その先は倒産法の方で考えるということになるのではないかと思っております。 ○中井委員 倒産法の問題については,山本幹事のおっしゃったような規律を考えていくべきだろうと思います。そこで,平時における最初に示される二つの問題を議論していくに当たって,山本幹事のおっしゃるように,是非明確な基準をと希望しております。   ただ,その前提として,これも基本的にはファイナンスのためという言葉が出てくるわけですけれども,このようなファイナンスをするに当たって,当該譲渡人自身から発生する債権を当然引当てにしてしかるべきファイナンスをするはずです。事業継続を前提とする売掛金の譲渡の場合は,正にそうだろうと思います。つまり,当該譲渡人自身が事業を継続することを前提に,将来発生するであろう売掛金を真正譲渡するか,それを担保にして一定の融資をする,こういうことは想定できるかと思います。そのときに,途中の段階で第三者に事業譲渡されたことまでも想定した保護といいますか,一定の規律といいますか,そこに及ぶようなことを前提とした規律を想定する,これはA,B説であったり,D,E説だったりするのですが,これについて実務的にそういうようなことを想定した運用,ファイナンスが行われているのか。また,そんなリスクのあるファイナンスが現実に行われたとすれば,大変なディスカウントになるのではないかという懸念を持っております。基礎となる対象資産ないし対象事業の譲渡によるリスクを小さくしようとする仕組みを正面から認めることによって,かえってそのようなリスクのあるファイナンスであるとの評価にならないのか,それがファイナンスを受ける側にとっても良いことなのか,と思うのです。   また,不動産のことを考えれば,本当に賃料債権だけでファイナンスをするのか,抵当権で賃料を把握することができる。仮に賃料債権を使ってファイナンスをするときには,セットで抵当権もついているのではないか。そうすると,これは第三者へ既にその不動産が譲渡されることは原則予定されていなくて,抵当権でカバーする,若しくは移転するのであればそのときに精算がされる,そのような形になっているのではないか。   申し上げたいことは,実務において第三者に不動産なりが譲渡される,若しくは事業自体が譲渡されることを想定したことがどの程度行われ,第三者へ譲渡された場合の規律を整備することによって,どれだけのファイナンスがプラスになるのか,この辺は是非実務といいますか,ファイナンスをやっている方々の御意見も聞きながら慎重に御検討いただきたいと思います。   さらに,不動産の場合は,将来の賃料債権が既に確定的に譲渡されているかも知れないことになれば,そのことによる,不動産の譲渡自体についての阻害,不動産に対する担保,融資に対する阻害,こちらのマイナス要因の方がはるかに大きいように懸念しています。賃料債権を活性化して使おうというがために,円滑な不動産売買や本来的な融資がむしろ阻害されるのではないかという懸念です。 ○中田委員 2点あります。   倒産法との関係について,山本和彦幹事のおっしゃったように,最終的には別のフォーラムで決するというのはそうかもしれません。ただ,倒産法改正のときに,この問題はある意味では民法にも送られたといういきさつがありますので,やはり倒産法の議論もにらみながらここで検討するということが必要ではないかと思います。   それから2点目は,中井委員のおっしゃった不動産譲渡との関係ですが,恐らくこれは債権譲渡の対抗要件とも関係するのではないかと思います。債権が既に譲渡されたかどうかということを,不動産を譲り受けようとする人がどれだけ簡便にアクセスすることができるかということとも関係しているのではないかと思います。 ○沖野幹事 賃料債権の譲渡に関しまして,先ほど松岡委員から,差押えですかとか物上代位との関係,それとの整合性に留意すべきだという御指摘がありまして,全くそのとおりだと思っております。また,賃料債権については,不動産賃貸借や賃料固有の問題というのがございますので,将来債権の譲渡の一般論で尽きるのかという問題も,やはり別途検討すべきであろうと思われます。その観点から,中田委員がおっしゃいました不動産譲受人にとっての情報提供ですとかその取引との関係というのは,この問題には更に出てくるものだと考えます。   それから,松岡委員がおっしゃった点についてなんですけれども,差押えや物上代位についての判例や現在の考え方がA説なのかということについては,私自身はやや疑問を持っておりまして,B説ではないかと思っているものですから,その点も少し留保させていただいて,ただ,それとの整合性というのは非常に重要な問題であって,考えるべきだということは,繰り返しですけれども,そのとおりだと思っております。   それから,倒産につきましては,山本幹事,畑幹事がおっしゃるとおりであるけれども,やはり中田委員がおっしゃったように,前提としての将来債権の譲渡というものがどういうものであって,それが倒産に関する問題の入口としてどうなるかということは,やはりこちらの方で検討すべき項目でもあり,しかしその上で,更に倒産における目的ですとか,あるいはそこでの管財人の新たな契約締結等をどう考えるか,更には政策的な配慮から,それこそ労働債権を含めてどのような形で調整を図っていくのかというのは,倒産法の問題だと思っております。   それで,資料の記載なのですけれども,大変細かくて恐縮なんですけれども,資料の詳細版の35ページでG説,H説,I説の関連で平成19年判決が引かれているんですが,果たしてこれは倒産だけの問題で考えるべき判決という位置づけでよいのか,倒産のところだけで取り上げるのが適切なのかというのは気になりました。それから,倒産については,破産法改正の際の破産法63条の削除は再建型にも及んでおりますので,それとの関連でも考える必要があることは,言及はすべきであろうと思います。 ○鎌田部会長 先ほどの松岡さんの御意見も,新契約が締結された場合を念頭に置いていませんから,A説もB説も同じだということだろうと理解させていただきました。   以上でよろしいでしょうか。まだ議論したい課題はたくさんあるんですけれども,「第2 証券的債権に関する規定」,部会資料9−1では10ページ以下についての御審議に移らせていただきたいと思います。   まず,事務局に説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 現行民法第469条から第473条までの規定は,講学上,証券的債権に関する規定であると言われています。この証券的債権の意義,特に有価証券との関係については見解が分かれているところですが,証券的債権の意義に関する見解についてどのような立場をとるかにかかわらず,有価証券と区別される意味での証券的債権に関して独自の規定を積極的に設けるべきであるという考え方は特に主張されていません。   そこで,有価証券と区別される意味での証券的債権に関する独自の規定については,これを置かない方向で規定の整理をすべきであるという考え方が提示されていますので,「1 証券的債権に関する規定の要否」においては,このような考え方の採否について御議論をいただければと思います。   そして,ここでの関連論点は,仮に証券的債権に関する規定を民法に置かないという方向で見直す場合には,これに伴って,同法第86条第3項も削除すべきかについて御議論をいただくものです。   次に,有価証券とは区別される意味での証券的債権に関する独自の規定を置かない方向で規定の整理をする場合には,民法第469条から第473条までの規定を削除するか,又は必要に応じて有価証券に関する規定として改めるかが問題となります。この点については,民法第470条から第473条までの規定が有価証券に適用されているという見解があり,その見解に立つ場合,これらの民法の規定を単純に削除すると問題が生ずると指摘されています。このような指摘がされていることを踏まえて,「2 有価証券に関する規定の要否」では,まず民法第469条から第473条までの規定を,必要に応じて有価証券に関する規定として改めるという考え方の採否について御検討いただければと思います。   また,この考え方をとった場合には,有価証券に関する通則的な規定群を民法か商法に一本化することが次の検討課題となりますが,この点については,有価証券に関する行為は必ずしも商行為という概念と結び付くものではないということを理由として,これを民法に置くことが望ましいという考え方が提示されているところです。有価証券取引の実体をも踏まえつつ,御意見をいただければと思います。   なお,この問題の今後の検討の参考に供するため,具体的にどのような内容を盛り込むことになるのかを見通しておくことを目的として,「3 有価証券に関する通則的な規定の内容」において,(1)から(6)までの問題を挙げました。今回は,時間の関係もございますので,1と2の問題を中心に御議論をお願いしたいと考えておりますが,この3についても,ほかに検討すべき事項があるか,また,これらの問題について具体的にどのように考えるべきかという点を含めて御意見をいただければと思います。   最後に,「4 免責証券に関する規定の要否」ですが,ここでは免責証券が現実にも広く利用されているという実情を踏まえ,免責証券の所持人に対する弁済が保護されること等について明文の規定を置くべきであるという考え方の採否について御議論をいただくものです。   説明は以上です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ただ今事務当局からの御説明にもありましたように,1と2の部分が基本的な前提となるポイントでございますので,この点を中心に御意見をいただきたいと思います。   どなたからでも,どこからでもと思いますが,この機会に山下委員,神作幹事から何か御意見がありましたらお伺いしておいた方がよろしいかと思いますので,お願いいたします。 ○山下委員 それでは,私から一言申し上げて,あとは神作幹事から何か補足があれば御指摘いただきたいと思います。   債権法改正の基本方針で,有価証券に関する規定として,商法のワーキンググループで考え方を整理したとおりでございまして,民法と商法それぞれ規定が従来分かれていたわけですけれども,有価証券に関する規定については,商法のものをベースにしながら民法に置かれていて,商法には現在欠けている規定を取り込んで,指図証券と従来,無記名証券と呼んでいたのですが,これを持参人払証券と呼んで,そういう2種類の有価証券に関する基本的な規定を一通り置くということにしたうえで,これを民法に置くか商法に置くかについては,一応我々のワーキンググループでは民法の規定として置くということで,このあたりは民法の先生方からも,そう異論はないのではないかと思っています。問題は第2の1の有価証券でない証券的債権に関する規定を別途置くかどうかということでございまして,これは意見が分かれたところでございます。   商法の方の研究者の基本的な立場は,流通を保護する必要がある,典型的には切符でありますとかコンサートチケットのようなものを考えての議論だったかと思いますけれども,そういうものについて流通性を保護する必要があるのであれば,これは有価証券のうちの持参人払証券という位置付けをすべきだろうということです。ただ,有価証券だとすると,2,3に出てくるような高度の流通保護というルールが適切かどうかで,現行民法86条3項で動産とみなして,即時取得あるいは盗難に関する特則を適用するルールが合理的なのではないかという意見は,特に民法の先生方からあったところでございます。そういうスタンスで立法されるのは,別に商法の研究者のグループとしては排除はできないなと思っているのですが,そういう場合の有価証券でない証券的債権とはどういうものであると定義するか,それから有価証券についての善意取得ではなくて,少し流通の保護が弱い即時取得でいいのではないかというようなルールも一つありかなという気がするんですが,その他のいろいろな問題について具体的にどういう規定を置くのかと,このあたりを詰めていくと,なかなか難しいのかなということでございます。この辺りは委員,幹事の皆様方の御意見を伺えればと思っています。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○神作幹事 ただ今,山下委員が述べられたことに尽きておりますけれども,私から何点かコメントさせていただきたいと思います。   現在,商法典の中に有価証券に関する規定が非常に不十分ながら置かれておりまして,昭和7年11月の法制審議会におきまして,小町谷先生が,有価証券についての体系的な規律を置くべきであるとの立法提案をなさいました。そのときは,民法典の債権法においてではなく,商法典の商行為編の中にそういった有価証券についての充実した体系的規定を置くべきであるという御主張をされたわけです。具体的に申し上げますと,現行商法典の有価証券に関する規定は断片的で抗弁の切断についての規律ですとか,支払免責についての規律が置かれていないといった問題点があり,それを解決されようとしたわけです。   有価証券については,御承知のように手形,小切手等の特別法がございまして,とくに手形法・小切手法の領域では,既に非常に充実した判例,学説によって,そのルールが明確化されている部分も多いのですが,他方で,一般的な証券化の流れの中で,学校法人債ですとか医療法人債あるいは信託受益権を表章する受益証券といった様々な有価証券が発行され,または発行可能とされるに至っておりまして,それらがすべて商事証券として整理できるのかというと,必ずしもすべてを商事証券の枠内で規律することはできないという問題があろうかと思います。もしそうだといたしますと,規律の位置としても,商法典の中に置くよりも民法典の中に債権を表章する有価証券についての一般的な規定を置くとともに,現在の民法の指図債権,無記名債権等に関する規律を有価証券に関する規律として整理するという方向が望ましいのではないかと考えているところでございます。   なお,民法の86条3項については,これは正に有価証券とは異なる証券的債権というものを観念するべきかどうかという民法上の問題になると思いますけれども,理論的な観点から一言だけ申し上げさせていただきますと,かつて有価証券というのは,物,物権,動産に権利を表章したものであるとか化体したものであるという理論が19世紀末から20世紀初頭にかけて,サヴィニーやギールケ等によって唱えられたわけですけれども,その後,有価証券法が非常に発展してきまして,もう動産のアナロジーで考えることはやめるということになりました。換言いたしますと,有価証券についての固有の法理が確立し発展してきたわけであります。そういう観点からしますと,無記名債権を物とみなすというのは,規律の実質は即時取得の規定を適用するにしても,少し規律のスタイルといいますか,物とみなすのではなく,規定振りを変えて無記名債権に固有の規律を書き下していった方が理論的な観点からは美しいのではないかと考えている次第でございます。   私からは,簡単ですが以上でございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   実務界からの御意見はいかがでしょうか。特にはございませんか。 ○藤本関係官 神作先生と同じような話なのですが,プリペイドカードというものがございます。切符とか商品券,図書カードといったものでございます。また,ICチップが最近は組み込まれていて,金銭価値を記録してコンビニなどいろいろなお店で使えるものがあります。こういったものは何だろうということですが,裁判例の中に無記名債権だとして動産とみなされて善意取得が認められたというものもございます。   ただ,そこからまた世の中は進んでいて,ICチップに金銭価値が記録されず,遠く離れたサーバーに記録されるようなものが出てまいりました。そうすると,こういうものが同様の扱いになるのかなという気もいたしまして,いろいろな考え方があるのではないかと思っています。実は資金決済法という法律で,この4月より監督の対象にしたのですが,いずれにしろ日進月歩の各種取引の司法上の位置付けの重要性というものは認識しているところでありますが,取引の円滑と利用者保護の観点から,業法上のいろいろ制度は整備してきているところでございます。   以上,紹介までです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○神作幹事 今の御発言を受けまして,申し忘れたことを1点追加したいと思います。正に今,藤本関係官が言われましたように,有価証券というのは本来,慣行,経済活動,社会活動の中で生成し変化していくものでございますので,有価証券等について定義規定を置くことは望ましくないのではないかと考えます。もし規律を置くとしても,定義規定は置かずに,そこは判例解釈に委ねるという形で発展させていくのが望ましいと思います。多くの国もそのような考え方をとっていると思いますし,我が国もこれまで有価証券について,私法上の一般的な定義規定はございませんので,その点からも,従前の考え方を維持していくことが適切ではないかと考えます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○中田委員 私も,これまでの御意見と同じです。もともと旧民法から現行民法に至る過程を見ましても,証券的債権は商事の証券に限らないのだから民法に通則的な規定を置くことにしたという経緯がありましたので,それとも連続的だと思います。   ただ,問題は,もし有価証券について特別の法律の規定又は慣習法がある場合に限って認めるという立場をとりますと,現在よりも狭くなるかもしれないことです。ただ,それについては今,神作幹事おっしゃいましたように定義規定を置かない,これは解釈にゆだねるということにすれば,その問題もなくなるのではないかと思います。   それから,86条3項につきましてですが,無記名債権という概念を中間概念として残して,それをクッションにしてどこかにつなげるというよりも,むしろ端的に類推適用の可否を考えればいいのではないかと思いますので,86条3項は残さなくてもいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   はい,どうぞ。 ○岡(正)委員 分かりやすい議事録にするためだけの質問ですが,定義規定を置かないで法律をつくるというのはどういうイメージなんですか。 ○鎌田部会長 どうぞ。 ○神作幹事 定義規定を置かずに,例えば本日事務局が御用意してくださった資料もそのようになっているかと思いますけれども,むしろ証券の譲渡の方法に応じた分類をいたしまして,例えば意思表示プラス交付で譲渡の効力要件になる,そういうものは持参人払証券と名づけて,それにふさわしいルールを置いていく。証券の譲渡に裏書を要する場合には指図式証券という類型として,譲渡の方式に応じて証券を分類し,それぞれにふさわしいルールを構築していくという考え方が,一つ有力な立法の方針として考えられるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○山下委員 「有価証券」という言葉の定義を置かないでいいのかという御質問だったんでしょうか。 ○岡(正)委員 いや,単に分からなかっただけなんですが。 ○山下委員 今日のペーパーにも出ておりますけれども,現行法でも「有価証券」という用語は何の定義もなく,民事執行法とかその他あちこちに使われているので,そこは民法だから定義が要るということにはならないのではないか。実質的には神作幹事が言われたような形で,個別具体的な有価証券の類型を定義していくということになるのかなと思っています。 ○鎌田部会長 よろしいですか。3とか4の部分について,3は個別の議論に入り込むと大変でございますけれども,(1)から(6)まであるけれども,これ以外にももっと検討すべき点があるというふうな御意見があればお出しいただきたいし,免責証券に関しても,特にこれだけは言っておきたいというふうなことがございましたら,次のステップに向けての事務当局の準備との関係で,御意見があれば伺っておきたいと思いますが,よろしいでしょうか。 ○三上委員 免責証券に関しまして1点だけ,免責証券になるための要件というものは明定されるのかを伺いたいと思います。今さら預金証書は免責証券だと言うつもりはありませんが,銀行取引でも,例えば現金払いの番号札はどうなんだろうというのがありまして,かつ免責証券と交換に弁済した場合に,善意,無過失しか保護されないということになれば,準占有者に対する弁済,民法480条と何ら変わらないわけで,その違い等の問題もありますので,免責証券の規定を設けるのであれば,免責証券たるための条件のようなものを明示する必要があるのではないかという点を指摘させていただきます。   それから,これは一般論ですが,もし有価証券概念あるいは証券的な債権概念をいろいろ考えられるということであれば,是非それが印紙税の増税にならないような形での配慮をお願いしたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。それでは,ただ今までにいただいた御意見,御示唆を参考にして,更に事務当局において準備を進めさせていただくようにいたします。 ○沖野幹事 有価証券そのものではないのですけれども,有価証券との対比でという面がありますので,一言させてください。「指名債権」という用語につきまして,これを維持すべきかという問題があります。その問題についても適切なところで一言触れて問題提起をしていただければと思います。 ○鎌田部会長 はい。ありがとうございました。   それでは,「第3 債務引受」及び「第4 契約上の地位の移転」につきましては,大変残念ではございますけれども,先送りということにさせていただきます。この二つについてもかなりの議論が必要だろうと思われることと,次回予定されている項目も時間内におさまるのかどうかが心配なぐらいたくさん議論がありますので,この二つは次回送りにしないで,予備日に送らせていただきたいと思います。   本日の審議はこの程度にさせていただきまして,事務当局から次回の議事日程等につきまして説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 次回の議事日程等について御連絡いたします。   次回の日程は,4月27日(火曜日)午後1時半から午後5時半まで,場所は今回と同じ20階第1会議室です。   次回の議題等につきましては,弁済,相殺など債務の消滅原因に関する項目の議論をお願いすることを予定しております。先ほど部会長からお話がありましたように,本日の積み残し分については,予備日に御議論いただくことにしたいと思います。 ○岡(正)委員 1点よろしいですか。 ○鎌田部会長 はい。 ○岡(正)委員 予備日確定ではなくて,余り期待はできませんが,相殺とかそういうのが早めに終わった場合には,やる体制だけは整えておいていただければと。やはり無理ですかね。 ○鎌田部会長 事務当局はもう十分準備ができておりますので,やろうと思えばできるということでございますが,そこまで時間が余るのかなというのと,そうであるならば,委員,幹事の先生方にまたこの資料を持ってきていただくのは申し訳ないなという感じもします。予想としては,多分,次回は,弁済,相殺を議論したらそれほど時間は余らないのではないかなと思いますので,申し訳ありませんが,大分間があいてしまいますけれども,予備日での処理をお許しいただければと思います。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。大分時間を超過してしまいましたことをおわび申し上げるとともに,御熱心な御審議を賜りましたことに御礼を申し上げます。ありがとうございました。 −了−