法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会 第2回会議 議事録 第1 日 時  平成22年4月23日(金)  自 午後1時30分                        至 午後5時11分 第2 場 所  東京高検第2会議室 第3 議 題  民法(親権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○野村部会長 それでは定刻がまいりましたので,法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会第2回を開催いたします。    (前回欠席された委員及び異動のあった幹事・関係官の自己紹介につき省略) ○野村部会長 まず配布資料の確認を事務当局からお願いいたします。 ○森田関係官 本日使用します資料は,部会資料3の「児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する検討事項(1)」と,参考資料5の「親権喪失宣告事案」と題する資料でございます。御確認ください。 ○野村部会長 それでは,早速審議に入りたいと思いますが,まず最初に,参考資料5につきまして,「親権喪失宣告事案」という表題がついておりますけれども,最高裁家庭局の古谷幹事から御説明をお願いいたします。 ○古谷幹事 それでは,私からお手元の資料に基づきまして簡単に御説明をさせていただきたいと思います。  ここに紹介いたします事案は,平成20年1月から平成21年12月までの2年間に全国の家裁で終局しました親権喪失宣告事件のうち,家庭局で把握したものを集計してございます。事件数としては217件ございますけれども,一つの家庭について1例と,つまり子供が2人いて親が1人の場合も1例という形でカウントしておりますので,実際には140例ということで,以下には集計してございます。  前回もこのうちの半分ほどは御紹介させていただきましたので,今日の御説明は少し前回と重なることもあろうかと思いますけれども,その点は御容赦願います。  まず,1の申立人別・終局別内訳というところを御覧ください。これを見ますと,全部の140例のうち,児童相談所長の申立てに係る件数というのは12例ということでございまして1割を切ってございます。それに対しまして親族の申立ては9割以上で128例ということになっております。  全体をざっと見回したところで申しますと,児童相談所長の申立てに係る事例の場合は,認容が約6割。取下げもございますが,後ほど御説明いたしますけれども,これは実質的には紛争が解決したような終局の形でございますので,ほぼ申立ての趣旨は実現されているということができると思います。それに対しまして親族の申立てのほうは,認容が約14.1%ということになっておりまして,かなり取下げも目立っているといった特徴を指摘できるかと思います。  続きまして,それぞれの事件類型につきまして,簡単に御説明をさせていただきたいと思います。  まず,児童相談所長の申立てに係る事件につきまして,これは,まず認容事例が12例中7例ございまして,このほとんどが虐待事例であります。そのうちの1例は,そこにも記載しましたとおり,少し特殊な事案ということになっております。この7例につきましては,いずれも親子の再統合というのは非常に難しい事案で,これは親権喪失もやむなしかなといった事案と総括することができようかと思います。  続きまして,取下げ事例は4例ございます。これは,4例いずれも医療ネグレクトに係る事案でございまして,そこにありますように,輸血拒否が2件,これはいずれも宗教上の理由で輸血拒否されたという事案でございます。そのほか2件というのは,がん等のかなり重い病気についての手術に関する事件でございます。この4件につきましては,いずれも保全が認容される,あるいは申立てがあってから親権者のほうが手術することに同意するといった事態がございまして,最終的には取下げという形にはなっていますけれども,申立ての目的自体は実現されるという結末を見ております。  最後に,そのほか不明事例1例ということで1件紹介させていただいておりますけれども,これはやや特殊な事案でございまして,一応保全が認容はされたのですけれども,その後,後見人に予定されていた親族−−お兄さんだったのですけれども,その人の生活状況がなかなか安定しないといったことがございまして,なかなか後見人選任にまで至らず,結局その未成年者が成年になったということで事件が終了したといった事案でございます。  続きまして,親族申立てに係る事案について,簡単に御紹介をいたしたいと思います。まず,認容例というのは18例あります。以下,未成年者がだれのもとで監護されていたかという観点で区分けして整理がされております。  まず一番初めに,監護者の態様というところで「・」が打ってございまして,6例は,未成年者が施設入所中又は一時保護中のものと書かれております。これは,入所しているにもかかわらず親族が申し立てるとはちょっとどういうことかという気もいたしますけれども,ケースといたしましては,申し立てた親族御自身が自ら引き取る前提で話を進めていて,そこで申立てをしたという事案でございます。  資料をめくっていただきまして2ページ目になりますけれども,そのうちの多くは虐待事案であるということでございます。  続きまして,親族申立てに係る事例のうち,却下事例が20例ございます。その内訳はそこにざっと記載したとおりでございまして,初めの4例は,未成年者が施設入所あるいは里親に委託中であるという事案でございます。  次の10例は,事件本人が未成年者の監護に関与しているということでございます。この事件類型としましては,実際は,形の上では親権喪失の申立てとなっていますけれども,背景には,親族間あるいは元夫婦間の争いというものがあって,むしろそちらが紛争の根っこにあるようなケースも多うございまして,その場合にはなかなか親権喪失といった実態が伴わないので,却下されてしまうという結末を見ております。  次の1例は,やや特殊なケースなので,説明は省かせていただきます。  次に○がしてありまして,4例は,申立人が監護中というくだりがございまして,そこに「・」が打ってあって,親権者母として離婚後,父の下で監護されていたが,父が死亡,未成年者を引き取った親族が母について親権喪失の申立てをしたというケースでございます。結果的には却下ということになっておりますけれども,申し立てられた母が積極的に監護を放棄したともちょっと事案から言いにくいような状況がございまして,かといって子供にとってはなかなか深刻な事態にもなっているということで,親権濫用とか著しい不行跡というところまでは判断が困難だというケースとして,このようなケースがあったということを御紹介させていただきます。  その次に,少し飛びまして,取下げのケースについて若干の補足をさせていただきます。取下げにつきましては,こちらといたしましても,申立書以外に余り文書が入手できていないというところもございまして,経緯を正確に把握しているケースはかなり少のうございますので,その点は御留意いただければと思っております。これも,未成年者がだれに監護されていたかという観点から,幾つかの分類をしております。  初めの17例は,未成年者が一時保護あるいは施設入所等をしていたというケースでございます。この場合は,未成年者が事件本人のところへ戻りたいという意向を示して取下げに至るとか,あるいは施設に入所することについて親権者のほうが同意した,あるいは28条の審判がとれたという経緯があって取下げに至るとかでございます。  次に,17例として,事件本人が未成年者の監護に関与していたというケースがございます。これも先ほど少し御説明させていただきましたけれども,実際上は元夫婦の争いというのが紛争としては中心だという形の申立ても多うございまして,その結果,最終的には取下げに至っているというケースがかなり散見されるところでございます。  次に,49例としまして,親族等が未成年者を監護しているケースについての紹介をさせていただいております。これは,@としまして,未成年後見が開始しているということで,未成年後見人を選任したというパターンが2例ございます。これは,親権者が所在不明になっているということで,未成年者に対して親権を行う者がないときという判断をした上で未成年後見の手続に入っているというものでございます。それから,Aの養子縁組は,典型的には,一方の祖父母,例えばお母さんのお父さん,お母さん,つまり祖父母がその未成年者と直接養子縁組をするという形で,結果的に親権者である父なり母が親権を行使できなくなるというパターンでございます。Bは,親権者が親権を辞任する。Cは,ちょっとイレギュラーなケースでございますので,これは説明を省略させていただきます。それで,D,Eということで監護権者指定等あるいは親族間紛争調整等という形で書いてございます。これらのケース全体を通じてかなり多いパターンが,離婚の際に親権者となった一方の父なり母が再婚して,結局養育は全部自分のお父さん,お母さん,つまり祖父母に任せているというケースで,こういった形で争われます。その結果,養子縁組がされたり,親権辞任がされたりという形で解決したというケースがかなり多うございます。  最後に書いたのは,少し変わった例として,申立ての発端としてこんな例がありますということを紹介させていただいております。  全体を通じまして,特に私のほうからということもないのですけれども,先ほど事件の関係で言及させていただきましたけれども,子供にとっては良くない状態にもかかわらず,なかなか積極的に監護を放棄しているとも言いにくいといった微妙な,なかなか判断がしづらいというケースがございます。今後この場で制度設計がされていくのだと思いますけれども,どういった制度趣旨なのか,帰責性を要件とするかどうかといった根本的な話から始まって,要件あるいは効果をできるだけ明確な形で制度設計をしていただけると,裁判所の側としてはかなり的確な判断ができるのではないかと思っております。  大変簡単ではございますけれども,私の説明は以上のとおりです。 ○野村部会長 どうもありがとうございました。  それでは,ただいまの御報告に関しまして御質問等ございましたら,御発言をお願いしたいと思います。 ○久保野幹事 一つ御質問させていただきたいのですけれども,2ページ目の取下げ83例中の49例の中のAという,今御紹介のあった養子縁組が成立したというケースにつきまして,当事者には紛争があってこそこの親権喪失申立てまでは至っていると思われますところ,その養子縁組の成立がうまくいったのかどうかといったことがもし分かりましたら,教えていただければと思います。 ○古谷幹事 こちらも余り細かいことは承知していないのですけれども,中には,実際にその手続をやっていく中で,親権者のほうが,どういった判断だったのかちょっと分かりませんけれども,養子縁組も致し方ないということで承諾したという事例もございます。ですから,それは多分手続の中で何らかの働きかけなり,判断があったのかと思います。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○吉田委員 この資料には書いていないのですが,親権喪失の事案で,審判までに要した時間はお分かりでしょうか。 ○進藤関係官 第1回で配布いただきました資料3−3の最後のページで御紹介させていただいております。平均審理期間という形ではございませんが,大体何か月以内に何%の事件が終局しているということが分かりますので,参考にしていただければと思います。 ○野村部会長 よろしいでしょうか。  ほかに御質問はいかがでしょうか。 ○水野委員 2ページ目の却下のところに,4例は,申立人が監護中とありますけれども,これはどのようなケースでしょうか。昔からある古典的なパターンとして,親権者である母親に子を渡さず,父親側が監護していて,そして父方から親権喪失が申し立てられるというケースがあります。つまり実質的には,子の奪い合い紛争と考えられる事例です。昔は母親に経済力がなくて育てたいのに育てられないというケースもありましたが,今は母親がその気になれば貧しくても育てることはできるでしょう。ですから母親が育てる気があるのに,父親側が子供を抱え込んでしまって,母親の面接交渉なども拒絶するといった子の奪い合いケースであるのか,それとも母親に育てる気がない,ネグレクトに近いケースであるのかをお伺いしたいのですが。 ○古谷幹事 把握した限りでは,後者の事案,つまり奪い合いといったものではなくて,母親のほうがネグレクトしている,あるいはそれに近いというケースでございます。 ○野村部会長 ほかにいかがですか。   取下げのところの真ん中ぐらいのその49例の中の@というのがありますね。「未成年後見開始しているものとして」というのは,これは親権者がいるわけですね。それを喪失させないで後見人を選んでしまうということでしょうか。 ○古谷幹事 所在不明になっているような場合などは,もう親権を行う者がいないという判断をした上で,そういう手続をすることはございます。 ○野村部会長 分かりました。  ほかに何かありますでしょうか。  では次に,部会資料3によりまして,「児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する検討事項(1)」ということで,これは事務当局から御説明いただいて,項目ごとに議論していくということにしたいと思います。  では,最初にお願いいたします。 ○森田関係官 まず,第1の1について御説明をさせていただきます。  第1では,親権の一時的制限制度と親権喪失制度を取り上げております。第1の1では,総論として,親権の一時的制限制度を新たに設けるとともに,親権喪失の原因について見直しを行うものとすることを提案しています。このような議論の方向性自体には大きな御異論はないのではないかと思っておりますが,部会資料にあえてこのような総論部分を設けましたのは,現行の親権喪失制度の見直しが必要とされる理由を明確にし,制度見直しの目的と併せて認識を共通にしていただきたいと考えたことによるものです。そのような趣旨ですので,皆様には言わずもがなということもあろうかとは思いますが,現行制度の具体的な問題点や,親権の一時的制限制度を新たに設けること,親権喪失原因の見直しを行う必要性について御議論いただければと存じます。  なお,補足説明では,親権の一時的制限の効果について,親権を行うことができないものとするということであること,3では,親権の一時的制限を設けた場合に,施設入所等の事案においても,そうではない,言わば施設外の事案においても利用されることが想定されるということをそれぞれ記載しております。  以上でございます。 ○野村部会長 それではまず,ただいま御説明いただきました第1の1,見直しの必要性のようなところですけれども,ここについて何か。 ○平湯委員 今,第1の1として,要約・要旨を述べられた部分は,言わば今回の改正のかなり中心的な部分といいますか,立法改正の必要性についての重要な部分だと思うわけでございます。ここに書いておられることにプラスして,一部制限について,これも併せてこの箇所で触れられてしかるべきではないかと思いますので,申し上げました。といいますのは,部会資料2の「対応に苦慮する場合として指摘されている主な事案」のAからIは,前回もちょっと申し上げましたけれども,これまでの現場,つまり児童相談所なり施設なり,あるいは弁護士の活動の中で痛感されてきた問題ばかりなわけでございます。このような事例・事案に適切にかかわれる,適切に対処できるような法改正が望まれているわけでありますけれども,その中には,一時がいいのか,一部がいいのかといったことも含めて,後のほうに出てくる議論も含めまして,いろいろ問題が含まれているはずなのでございますけれども,ここでは,例えば今の検討事項の2ページでございますけれども,下のほうで,この一時停止というのが「A,C,D及びGなどが想定される」と書いてあるのです。例えば,Aというのは,親権者以外の身内に養育させるのが相当な事案ということでございますけれども,これが一時制限で足りるのか,1年あるいは2年としたところで,これは相当長期間の養育を想定している,あるいはそれが必要なケースでございます。それが「A,C,D及びG」の中にAとして入っているわけでございます。この点がさらっと先ほどは読まれましたけれども,一時制限が想定される事例なのであろうかと読んでしまうわけです。それから,次のCというのは,これはむしろ個別のケースに出てくる問題ではありますけれども,喪失なり制限の原因のところで議論されるべきことだろうと思いますので,これはちょっと抜かしておきたいと思いますが,いずれにしても,長期間親権者の精神障害が継続するような場合で,かつ帰責事由がないと思われる事例について,これが一時制限にふさわしい事案であろうかという疑問がやはり出てくるわけです。Dについては,これは児童相談所の指導を受けないといった場合でありますけれども,これなどは確かに,親に対する指導の問題として,段階的処遇ということを考えますと,一時でもいいのかもしれません。ちなみに,この全体の資料の中での一時制限というのは,全部にわたっての一時制限ということでありますけれども,このDなどはそれにふさわしいと私は思いますが,更にGになりますと,これは年長の未成年者が様々な契約などを締結しなければならない場面の話であります。これは,永続的にか一時的にかと言えば,契約のときだけは一時でいいかもしれませんが,その後契約関係が続くということを考えますと,一時的なもので足りるのであろうかと。むしろ,一部ではあるけれども,永続する制限が必要なのではないか。  ざっと幾つかの疑問を申し上げましたけれども,こういうAからIの事案に即した検討をされる必要があるという観点からいきますと,この1ページから2ページにかけての部分のまとめ方といいますか,問題の提起の仕方としては,いささか異論がございまして,発言させていただきました。 ○野村部会長 今の点について,いかがでしょうか。 ○大村委員 今の御発言との関係で,2点明らかにしたほうがいいことがあるのではないかと思いましたので,発言をさせていただきたいと思います。  まず一つは,今回の検討事項という資料のつくり方についてです。今御指摘がございましたけれども,これは,第1に「親権の一時的制限制度及び親権喪失制度」というのが出てまいりまして,後ろのほうにいきますと,第2に「親権の一部制限制度」というのが出てまいります。ですから,一時制限にしても,一部制限にしても,これから議論するということであろうかと思います。平湯委員からまとめて前に上げておく必要があるものがあるのではないかという御指摘があったかと思いますけれども,全体として取りまとめをする際に,最終的にどうなるのかということと,これからの議論の持ち方というのが必ずしも一致していないのではないかと思いました。ですから,そこのところは,作業としてどうするのかということと,最後の取りまとめがどうなるのかということを整理していただく必要があると思います。例えば,前回議論した際に,親権について基本的にどう考えるかという総論的な問題というのがありましたが,これは実際の議論の順序としては先送りということにしましたけれども,最後のでき上がりの際には最初に出てくる事柄になると思います。そういう訳で,具体的な議論の仕方と,全体としてまとめるときの総論の在り方というのを少し整理していただくといいと思ったというのが第1点です。  それから第2点ですが,御指摘は2ページ目のA,C,D,Gなどの事案について,むしろ一部制限のほうで対応すべきではないかということだったかと思います。これは一部制限で対応するということも考えられるのだろうと思いますので,そちらでも議論するということはあり得るかと思いますけれども,同時に一時制限で対応するということもあり得るのだろうと思います。平湯委員から御指摘があって,一定期間止めていなければ問題が解決しない場合もあるではないかというのは,そうだろうと思いますが,ではずっと止め続けていていいのかというと,それは一定期間ごとに更に止める必要があるかということを審査するという形で止めておく必要がある。そういう整理のもとに資料のこの箇所に入っているのではないかと思います。繰り返しになりますが,事案A,C,D,Gがここでしか対応できない問題なのかというと,それはそうではない。けれども,ここでも対応があり得る問題,あるいは必要な問題なのだということであれば,それは両方で議論するということでいいのではないかと思いますので,その辺も少し整理していただければ思います。 ○磯谷幹事 今,平湯委員がおっしゃったところとも少し絡むかもしれませんが,私も,まずこの一時制限の制度というものは,私ども日弁連も以前から求めていたところでもありますし,今回非常に期待するところであります。期待するところであるだけに,本当にこれがどう機能するのかということにとても関心を持っているわけです。  この機能として,先ほど御説明がありましたように,いわゆる普通の,まだ子供と一緒に暮らしていたり,いわゆる施設に入所していない子供たちについても使われるけれども,一方で児童福祉法に基づいて施設に入所している子供の親についても使われることが想定されるということになっていると思います。つまり,後のほうを申し上げると,施設に入った場合には,少なくとも研究会報告書によりますと,身上監護の部分においては,施設長などの権限が親権者に対して優先するという整理をしているわけです。そうすると,この一時的制限をどう使うかというと,これは今の施設長の権限が必ずしも優先するとはならない財産管理のほうについては,この一時的制限を使うことになるのだろうと思います。  さて,その一時的な制限をそういう場合に使う。具体的にどのようなケースが考えられるかというと,例えば子供が施設にいて,そしてずっと大きくなりまして,だんだん自立を考えなければいけなくなる。そして,その自立のためにいろいろな準備をするという形になります。その中で一つ挙げると,例えば携帯電話という問題が出てくる。そうすると,子供自身が携帯電話の契約をするということになりますと,親の同意が求められる。そこで親が同意してくれない,どうしようかといった問題になってくるわけです。この場面においては,今のような形で,一つ携帯電話の話をしましたけれども,今度はその携帯電話も,一般の家庭というところを見ますと,例えば親の考え方によっては携帯電話を子供に与えないということは当然あり得るわけです。これについてはもちろん法的な問題だということではないわけで,恐らくある親が子供に携帯電話を与えないから親権の一時的制限をするということもないわけです。しかし,先ほど申し上げた施設にいるほうですと,もう親は実際には監護には全くかかわっていない。これから自立していくという場面において,携帯電話が必要になる。このためには,もし親権者がどうしても反対するのであれば,それを止めなければいけない。同じ携帯電話の問題であっても,施設にいるのとそうでないのとでは随分状況が違うのだろうと思うのです。したがって,その財産管理についても,一般のところで適用される規範と全く同じものを施設にいる子供の親権について適用するのが果たしてうまくいくのかどうかというところは,懸念を持っているところです。  このあたりをもう少し考えてみますと,通常は家にいる子供については,親は当然監護全般についていろいろ決定するし,子供に対しても指導するわけです。ところが,施設に入っているということは,何らかの事情,例えば児童虐待によって子供をきちんと監護できないということで施設に入っている。そういう親が財産管理について適切に判断ができるのかなと考えると,恐らく多くの場合は,それは難しいだろう,余り期待できないのではないかと思うのです。そういう考え方からすると,今回想定されているように,施設に入っている子供について,身上監護の部分は止めるけれども,財産管理は一般的な一時制限のものを使うというのが果たして適切な解決なのかなと,このあたりはちょっと疑問に思っている次第です。 ○野村部会長 ほかに御発言はいかがでしょうか。 ○松原委員 今の磯谷幹事の発言にも関連するのですが,もともとここの部会がつくられたのは,もちろん親権について議論する場なのですが,その前に児童虐待防止という文字がついています。そうしますと,この2ページの途中に「児童相談所が関与しない場合や」うんぬんと書かれていますが,そこまで想定せざるを得ないような枠組みで考えていくと,逆に児童相談所側がこの制度を活用しにくくなったり,あるいは逆に一般的な子供の養育について,今,磯谷幹事がおっしゃったように,本来問題にならないようなところで一時制限なり,そういうものができるということを議論しなければいけなくなるので,ここの部分はこういう想定がなるべく出てこないようなつくりにできないかなと。僕は法律の専門家ではないので,ただ虐待対応ということを中心にして考えれば,それが一般に及ぶことによって使いにくくなるのであれば,ちょっと難しいかなと思います。  先ほどの御報告で,児童相談所が申し立てたものが7事例あって,これも在宅での事例というのはないはずなので,そういう意味で児童相談所が関与し,かつ子供の身上については既に社会的養護の中にある子供について行われたものだと思うのです。そういうところの現行制度の非常な難しさを少し緩和するということで,もしこの部分で一時制限を考えるのであれば,最終的にはそういうつくりに,法上の工夫が必要になってくるのかなと思います。どのようにやれるのか,ちょっと今は具体案はありません。  それから,あえて補足すれば,一応統計上でいうと,施設入所している子供であっても,親からの虐待を経験している子供は7割ぐらいで,残り3割はそういう虐待の事実そのものはないということに統計的にはなっていて,社会的養護のもとにある子供−−これは乳児院も含めますと,多様な理由で社会的養護の下に子供が置かれておりますので,そこで施設にいるという限定をつけるよりも,虐待ということの社会的な認定そのものがあって,その先どうかということを考えられないかなと思うのですが,私なりの,全然法律の専門家ではない考え方なのですが,一応発言をしておきたいと思います。 ○野村部会長 ほかに御発言はいかがでしょうか。 ○小池幹事 最初の平湯委員の質問と関連するのですけれども,親権の一時的制限制度というのは独立のものとして立てるという前提でどうも書かれているように思うのです。それは,喪失原因というか,要件のところで,一時的な場合には要件を書き分けるという案が出ていまして,ただ,必ずしもこういう形でなくても,制限をするというところだけで,後の効果というか,具体的な内容については,期間の限定をつけてもいいし,つけなくてもいいという形の制限の在り方もあるとは思うのですけれども,そういう可能性はもう完全に捨象されているのでしょうか。 ○飛澤幹事 今,小池幹事から御指摘いただいた点については,事務当局としても悩んでいるところでございまして,正に原因を議論するときに,そもそも喪失と一時的制限のところで要件を書き分ける必要があるのか,それともそうではなくて,今御指摘があったとおり,効果のところだけで対応できるのかということを併せて議論していただきたいと考えていたところです。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。  この検討事項は第1と第2に本日のものでは分かれておりまして,第1のほうが一時的制限制度及び親権喪失制度ということで,第2のほうが一部制限ということについてまとめられていて,先ほど見直しの必要性といいますか,そういう話をしましたけれども,それが第1の中に入っているということで,恐らく一部制限については全然言及されていない。そういう形に今の議論の枠組みがなっているということではないかと思うのです。これは,先ほど大村委員からもありましたけれども,最終的に部会としてまとめるときにどのようにまとめるのかということで,例えば見直しの必要性みたいなものは一番先に出して書くということであれば,その先に一時制限とか一部制限という柱が立つのであれば,それは場合によっては両方言及するということになるのかなとも思いますので,今後の議論の進み具合で,全体の最終的なまとめの構成というものも考えながらちょっといろいろ御意見をいただければよろしいのではないかと思いますけれども,いかがでしょうか。 ○平湯委員 議論の順番のことであれば,もう少し割り切っても構いませんけれども,この検討事項全体を通じて,一時的制限というのは,全部の一時的制限なのだという前提で作られている。したがいまして,一部の一時的制限というのも入っていないのだと思うのです。違うのであれば誤解かもしれませんが。要するに,一部制限ということも併せて検討しなければ,AからIの各事例に対処する立法の検討というのができないのではないかと思っているわけです。ですので,最初に検討していただくべきは,親権の喪失以外の制限というのが必要なのだと,そういう経過を確認した上で,AからIの問題が生じているけれども,それについてどういう法制度をつくるのが望ましいのかという問題の立て方になるべきではないかと思いまして,先ほどのような発言をしたわけでございます。 ○野村部会長 つまり,時間的な親権の制限という時間の軸と,それから,内容的な親権の制限という内容の軸とを完全に同じウエートを置いて議論するのかという問題があります。これらは違う制限で,組合せとしてはいろいろ出てくるわけです。全部の項目について,一時的か,永久的に制限するのかという問題と,項目的に時間と関係なく制限するのか,制限しないのか,その二つをどうやって組み合わせるのかと,多分そういう問題で,今の御意見は,それは全く同じウエートで,あらゆる組合せを前提にして考えるべきではないかという御意見かなと伺いましたが。 ○平湯委員 はい。研究会の報告は一定の流れとしてつくられていると思いますけれども,この部会ではそこはもう一度改めて検討が必要ではないかと。ただ,今の議事の問題でありますから,言わば実際上私が今希望しているのは,これはこれから始まるのだと思うのですけれども,全部の一時制限の要件なり効果なりを検討するに当たって,AなりIなりの事例にそれがどう役に立つのかということをきちんと押さえながら議論していただきたいという要望と申し上げます。 ○野村部会長 それでは,ほかに御意見はございますでしょうか。 ○磯谷幹事 先ほどちょっと申し上げた点ですけれども,一時的な制限を子供が施設に入っているときなどについても使うのかどうかというところは,必ずしもそういったものを使うのが駄目だと言っているわけではないんですけれども,よく認識しておかなければいけないのは,相当状況が違うというところです。つまり,これも先ほど申し上げたように,例えば携帯電話一つとっても,施設にいて,もう親がかかわっていない子供で,例えば自立に向かっている子供に,親がどれほどかかわるべきなのか,その子の福祉のことをどれほど判断できるのか,それと,自分の手元にいる子供についてどれほど判断できるのかというのは,全然状況が違ってきているだろうと。ですから,そういう意味では,そこをよく注意しないと,実際にできるとかなり使い勝手が悪くなってしまうのではないかと思うのです。  一つは,例えば児童福祉法の47条を改正して,親権者の親権より優先するということに加えて財産管理についても持ってくるというのも一つの考え方でしょうし,もう一つは,この一時制限のときの,私はこれから先の議論だと思いますけれども,何か要件のところでいろいろ工夫をして,そのあたりを柔軟に対応できるようにするのか。ただ,そのあたりについては,法律が歩き出したときに,裁判所がどのようにお考えになるのかというところが若干よく分かりませんけれども,いずれにしても,その要件とか,そういったところにかかわってくることだと思いますので,是非そのあたりを意識していただきたいと思います。 ○長委員 先ほど小池幹事の御発言で,喪失の場合と一時制限の場合との検討の仕方についての問題提起があったわけですけれども,いずれにせよ,親権の制限の根拠とか要件というものを明確な形で御議論いただくということが必要ではないかと思っています。問題点をはっきりさせるという意味では,喪失の場合と一時的制限の場合,あるいは一部制限の場合,これらを一つずつ検討していただくことのほうが,後々いろいろ参考になるのではないかと考えます。 ○野村部会長 それでは,全体として議論の進め方も含めていろいろ御意見をいただきましたけれども,時間の関係もございますので,先へ進ませていただくということで,第1の2,親権の一時的制限の期間等というところに移りたいと思います。まず最初に,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○森田関係官 第1の2では,親権の一時的制限の期間等を取り上げており,(1)は一時的制限の期間の定め方について検討するものです。A案は,法律で定められた上限を超えない範囲で,家庭裁判所が適当と考える期間を事案に応じて個別に決めて親権を制限することができるものとする考え方であり,B案は,原則として,法律で定められた一定の期間,親権を制限するものとするが,例外的に,家庭裁判所が適当と考える期間を事案に応じて個別に決めることもできるものとする考え方です。  A案を採ったとしても,家庭裁判所において個別に親権制限の期間を決めるのが不可能な場合には,法定された上限まで親権を制限せざるを得ないと思われますし,他方B案を採ったとしても,家庭裁判所において判断することができる場合には個別に親権制限の期間を決めることが期待されるでしょうから,いずれの案を採るかによって実際の運用としては余り大きな差は生じないのではないかとも思えますが,個別に期間を定めて親権制限をするのを原則とするのか,法定の期間,親権を制限するのを原則とするのか,考え方の問題としては違いがあると思いますので,部会資料では,A案,B案として併記させていただいております。  なお,このようなA案とB案の違いを鮮明にするために,B案では,個別に決める場合の要件を特別の事情があるときと,あえてかなり限定した書き方をしていますが,B案を前提としつつ,個別に決める場合の要件を緩和するということもあり得るのではないかと考えております。  また,親権制限の期間に関しては,具体的にどの程度の長さにするかを検討する必要がありますが,部会資料では,いわゆる強制入所等の措置の期間が2年とされていることに照らして,1年又は2年程度とすることが考えられるとしています。  (2)は,一時的制限の期間満了後も引き続き親権を制限する必要があるときに,家庭裁判所は当該期間を更新することができるものとすることについて検討するものです。この点については,このような場合の規律を明確にするという観点からは,期間更新の制度を設けるのが相当ではないかと考えられます。なお,ここでは,更新する期間の長さについては,(1)の規律に従って,家庭裁判所が改めて親権を制限すべき期間を決定することを想定しております。  (3)は,親権の一時的制限についても,現行の親権及び管理権の喪失の宣告と同様,審判の取消しの制度を設けるものとすることを提案しています。  以上でございます。 ○野村部会長 それでは,ただいまの説明に基づきまして,2の親権の一時的制限の期間等につきましていろいろ御意見をいただければと思います。 ○磯谷幹事 これらの点につきまして,まず順に(1)の点につきましては,A案,B案の御紹介がございました。基本的に,どちらの案であっても,家庭裁判所が最終的には事案に応じた解決も可能な形になっていると理解しております。恐らく実際上はやはりこの上限のところで運用されることになることが多いのではないかと想像しています。つまり,この一時制限が使えるケースのうち,例えば医療ネグレクト,緊急の手術が必要だけれども,輸血に宗教上の理由から拒否をするといったケースについては,特にこの短い期間で足りるという想定が可能ですけれども,それ以外のケースについては,恐らく裁判をやってまで親権を止めなければいけない状況という背景にはかなり根深い問題があると思います。例えば,親の精神疾患があって,そしてうまく養育ができない,あるいはこれもよく出会いますけれども,人格障害があって,非常に考え方が修正しにくいとか,あるいは複雑な家族関係とか,そういったものが背景にあるということが多いわけです。こういったものはそう簡単に修正ができるものではない。もちろん,簡単に修正ができるのであれば,この前段階として児童相談所が様々な指導をして,そこで修正されていくわけですけれども,恐らくはそれがもう効果がないということでこの親権の一時的な制限をすることになるとしますと,相当根深い問題がある。そうである以上は,基本的には上限の制限期間になるだろうと考えます。ということからすると,どちらかというとB案のほうがその趣旨がはっきりしているのかなと拝見いたしました。  この期間が1年か2年かと書かれておりますけれども,これにつきましては結論的には2年というのが相当なのではないかと考えています。まず1年ということになりますと,恐らく一時的制限とはいえども,審理には相当の時間もかかるし,また即時抗告されると上にも行くということを考えると,それをやって1年の効果ということになりますと,言葉は悪いですけれども,年じゅう裁判をやっているような形になってしまう。一方,3年ということになりますと,多分児童相談所の現場などからすると,本音を言えば,児童福祉法28条の2年というのももうちょっと長くならないかという思いもあるかとは思います。しかし,ここでこれだけ3年というのはちょっと合理的な理由がとりにくいだろう。そうすると,児童福祉法28条の2年と合わせた2年というのが現実的なのではないかと思います。  それから,(2)の更新につきましては,賛成であります。この更新について,中に再度の申立てというのがございまして,制度設計によってどれほど違うのかというところもあるかと思いますけれども,先ほども申し上げたように,いったん親権の制限をするということは,その背景には相当根深い事情があるということを考えますと,基本的には,そういった事情はそう簡単にはなくならないという前提に立てば,今回お書きいただいたように,原因が消滅する見込みがないときは更新するという形のほうが望ましいのではないかと考えています。  最後の(3)の取消しにつきましては,私は異論はございません。 ○豊岡委員 児童相談所では,現在28条更新の事務で2年間あるのですが,実はその前段階で児童福祉審議会にかけたり,それから審理期間を見越して,早目,早目にやります。審判の結果が出て,実質大体1年半かなと。当然,その審判結果を持って親御さんと話し合うのですが,「そんなの知るか」とか「おまえたちが勝手にやったものだ」という,その入口のところでまた時間もとられたりしますから,実質,極端な言い方をすれば,1年ぐらいしかないんです。後はその手続に追われている,家族とのやり取りで追われるということになりますので,2年でもそういう感じがします。したがって,具体的に1年,2年という期間が出ていますけれども,私の実感としては,2年のほうが有り難い。今28条更新期間を延ばしてくれということをお願いしているのではなくて,仮にあるのであれば,同じ2年という考え方で統一できれば有り難いなと思います。  それからあと,期間更新についても,再度の申立てということになると,結局は事務の負担感というものが現場にはございますので,できるだけ簡素な手続をお願いできれば有り難いなとは思っているところです。 ○窪田委員 3ページのA案,B案ということで,恐らくどちらを採ってみても,最終的に落ち着く部分というのは実質的には変わらないだろうというのは,私もそういう気はいたします。また,磯谷幹事からお話しいただいたこともそうなのかなと思います。ただ,その上で,少し形式的な問題ということになるのかもしれませんが,A案,B案を見たときに若干気になりますのは,A案では1年ないし2年というのが上限の期間であることが明確に示されています。一時停止という仕組みを採用して,一時停止の原因が親権喪失と同じなのか違うのかというのはまた後ほど出てくる問題だろうとは思いますが,一時停止という言わば限定的な仕組みを作ったという枠組みの中で,それが永続的にならないような対応をしているというのが1年ないし2年なのだという位置付けが非常に明確に出てくるのだろうと思います。それに対してB案では,ただし書を通じて,これが上限だというニュアンスは示されるとしても,とりあえず1年にしましょう,とりあえず2年にしましょうというのは,一時制限という仕組みとの関係でうまく説明が付くのかなという点が気になります。もちろん,実際にこれについて判断をする裁判官の立場からすると,単に上限という形で示されるよりは明確な期間が示されたほうがいいということはあると思いますが,しかしながら実体法上のルールとして示す場合に,この1年ないし2年というのをどのように正当化するのかという点については,かなり難しい説明が求められるのではないのかなと感じます。特に,実際に一時制限という制度を考える場合に,そこで想定される事案というのにかなり違いがあるというのも否定できません。  一方で,磯谷幹事のほうから御指摘があったような,事実上そう簡単には解決できないような永続的な事態というのを前提とすると,その期間というのはできるだけ長く,そして更新もできるようにする必要があるだろうと思います。しかし,医療ネグレクトが最も単純な例だと思いますが,そうした永続的なものではないものを前提とすると,この事案について対応するということが適当なのではないかと考えられます。一方では,正しくそうしたものを前提として,従来は親権喪失という仕組みしかないけれども,親権喪失の申立てをして保全処分という形式を通じて対応してきたというものを,もう少し実体法上も正当なものとして組み入れる仕組みを考えようではないかという点から,一時制限という仕組みが提案されているのだとすると,上限を定めるということは考えられても,ひな形として1年ないし2年というのを定めるというのは,うまく実体法上根拠付ける,あるいは正当化することができるのかなという点が気になりましたので,その点だけは申し上げさせていただきたいと思います。 ○吉田委員 一時制限の期間ですけれども,もう一つ考えたいのは,親に対する働きかけの問題があると思います。報告書にもありましたけれども,親の権利制限というのは,親の行動の変容をどうもたらすかということとリンクして考えてよろしいのではないか。つまり,こういう状況になれば親の改善が図れるし,親自身はそうした目標を持って自分の態度の改善を図っていくだろう。そのように考えた場合に,制度の在り方として,一律,原則1年ないし2年とした場合に,果たして親が自分の態度を改めるモチベーションにつながっていくだろうかと考えると,むしろ個別的に,またケースに応じてそうした期間を設定できるようにしたほうがよろしいのではないかという意味で,私はむしろA案のほうがケースワークの観点からするとよろしいのではないかと思います。今,窪田委員がおっしゃったように,個別の制限,個々の制限で足りるケースというのもありますので,私と磯谷幹事とではケースの見立てが違うかもしれませんけれども,私はそうした個別に対応できるという配慮からA案というのが適切ではないかと思います。  それからもう一つ,1年,2年ということですけれども,そうした親のモチベーションを考えると,余り長い期間を設定するのはどうかなということがあります。児童相談所の指導として,次の段階はこうなるのだということを示しつつということになると,余り長い期間でそれを設定することが果たして適切なのかどうかという観点。そして,今28条審判の更新が2年となっておりますけれども,その2年と今回の一時制限の2年とを必ずしも合わせなくてもよろしいのではないか。といいますのは,28条審判の場合には,もう既に施設に入っているので,施設の中での安定的な生活ということを考えると,また子供自身と親との交流のことを考えると,2年が必要だろうということでできたわけですけれども,今回の場合,親からの攻撃ないし親の不当な親権行使等を見るのですから,必ずしも28条の2年更新と合わせる必要はないのではないかと考えております。先ほど豊岡委員がおっしゃったように,実務上大変しんどいということはあるかと思いますけれども,もう一方で考えれば,親に対する権利制限ということに対しては少し慎重であってもよろしいのではないかというのが私の考え方です。 ○松原委員 期間についてですけれども,現場的に更新があるということを考えたときに,個別の案件でばらばらに決まってくると,本当にしょっちゅう裁判をやっていなければいけない。これは大変だろうなと思います。そのときに更新のことを考えて,28条のときには,ここは児童相談所にその間一定の働きかけをしなさいということがこの法の中に織り込まれているのです。その効果がないから更新をしてくれという申立てをするわけです。そうすると,この親権制限を一定の期間−−私も2年ぐらいかなと思いますけれども−−したときに,それは自動的に,ではその制限をした親については,これは児童相談所が27条1項2号の措置を採るのだといった形の−−これは厚生労働省側の議論かもしれませんけれども,そういうものが担保されざるを得ないだろう。かつ,それは3番のところにかかわるのですが,ではその原因が消滅していないという,原因をどのように定めるかの議論にもかかわってくると思いますし,4番の申立人のところにもかかわってきていて,例えば子供や親族がその申立てをした場合,では子供やその親族がもともとのそういう加害者に対して働きかけはできないわけですから,そうすると,そういう子供や親族が申立てをした場合にもその制限が認められた場合には,更新のときには児童相談所がかかわるのだという仕組みを作っておかないと,先ほど私は冒頭に児童相談所側の使い勝手がよくなるようになってほしいという発言をしました。私はこの更新ももちろん賛成ですけれども,しかしこのことは申立人やその原因にかかわってきちんと議論しないと,後で非常に制度が使いにくくなるかなと思っております。 ○古谷幹事 一時的制限のA案,B案の関係でちょっと意見がございます。親権が制限される,その正当化根拠はいろいろ考えられると思いますけれども,要は子供の利益の侵害状況が消滅なり除去される,多分これに尽きるのだとは思います。ですので,そこが正確に計測なり予測できるのであれば,その期間を定めることが重要であること,これは理念的には全く私も同感なところでございます。ただ,何人かの委員の先生からも御指摘があったかと思いますけれども,何分話は非常に難しい将来予測になることはもう間違いないわけでございまして,原則的に,理念的にA案だということになりますと,判断する方は非常に難しい。それは単に負担感というよりは,原理的にそもそもできるのだろうかというところの疑念が一つはございます。仮にある程度のところはできるとしますと,それは多数の有益な情報を引っ張ってこないとできないという話になろうかと思いまして,それを実際に短期間で情報収集して,それを構成して,裁判所に提出する。それは児童相談所もかなり負担感はあるでしょうし,実際,多分それは審理の長期化につながってしまうのではないかという懸念が非常にございます。そういうことで,理念的には先生方の御指摘は全くもっともと思うのですけれども,実際問題,時間なりコストなりを考えていくと,私はB案のほうが適当ではないかと考えるものであります。 ○平湯委員 この今現在の議論というか,論点が,AないしIとの関連でどのように考えるべきかという観点から申し上げます。私はもちろんこの一時制限に賛成でございます。その賛成の理由は,この事案の中のDとE,特にDに役立つと思います。Dというのは,児童相談所のいわゆる福祉司指導の場合に親権を喪失までさせるのはちゅうちょされるという事案で,この一時制限で1年なり2年なりの期間親権が停止するということが効果を持つのはこういうDのような場面であろうと思います。  それに加えてもう一つ,Eの医療ネグレクトの事案についても,私はこの全部の一時制限でなくて,一部の一時制限という観点から,この医療ネグレクトの事案に適していると思うわけです。この場合の一時というのは,1年,2年ということでなくて,恐らく短ければ1週間,2週間,あるいは2か月,3か月という医療の面からの帰結ということがあると思いますが,ある意味でDのような一時制限とは違う一時制限になると思います。この医療ネグレクトの事案というのは,御存じのように,そもそもこの現在の喪失制度しかないことが一番不便であるということを感じさせた,社会的にも最初に認知されたパターンだと思うわけですけれども,その中で,裁判所では,本当は全部制限する必要はないと恐らく思いながら,それしかない中で,保全処分と組み合わせて,最終的には喪失の本案を取下げという形でしのいできていただいたのだと思いますけれども,私としては,むしろ端的に,Eは一部の一時制限でいいのではないかと思いますが,いずれにしてもこの一時制限が適していると思うわけです。今ここでお尋ねするよりも後のところがよろしいかと思うのですが,裁判所がEの医療ネグレクトの事案についてこの一時制限をどのように使おうとなさっているのか,その辺の御意見も承りたいと思います。 ○野村部会長 何かございますか。 ○長委員 今の一時的制限の関係全般について意見を申し上げてよろしいですか。 ○野村部会長 はい,どうぞ。 ○長委員 まず一時的制限についてA案かB案かという問題があるわけですけれども,A案を採った場合に,具体的な事案に対応するような期間をうまく評価することができるのかというのはなかなか難しい問題だと思います。先ほど,例えば親に対する働きかけをしていくという御意見が出たわけですけれども,仮にその働きかけをした結果,その親権者の親権の行使が適正に行われるような事態を迎えるのは一体どれくらいの期間がたったときなのかという判断はなかなか難しいのではないかと思います。それから,28条の更新の実態ということで先ほど御紹介がありましたけれども,数か月前から準備をしていくということなどを考えますと,裁判手続の準備ばかりやっているような事態が起こってしまっても,本末転倒になってくるのではないかという懸念もあります。A案というのは,理論的には考えられないことはないのかもしれませんけれども,現実の手続ということを考えると,なかなか難しいのではないか。B案のほうが実際の運用にはふさわしいのではないかと感じています。  それから,期間の更新の点につきましては,一時的でありますから,それが長くなるのであれば,そういう制度を考えるということももちろんあり得ることだと思うのですけれども,資料の5ページの表現を拝見したときに,「その原因が消滅する見込みがないと認めるときは」という記載のところが少しひっかかりました。このような記載になったのは,現在の民法834条が,親権者に一定の事情があるときは親権の喪失を宣告することができるという文言になっているので,「その原因が消滅する見込みがないと認めるときは」という表現になったと思うのですが,親権喪失の場合にも,子の福祉という観点から,子のダメージといいますか,そちらのほうの考慮があって親権喪失という審判をすることになろうかと思います。そうしますと,これからの議論になってくると思いますけれども,更新するのか,あるいは新たな申立てをするのか,どちらの場合であるにせよ,親権者側の事情のほかに,子供のほうの状況がどのように変わっていったのかという点も併せて考慮要素の中に入ってくるのではないだろうか。そういう点が,表現だけの問題で,余りとりたてて言うべきではないのかもしれませんが,気になったところです。  それから,医療ネグレクトの場合にどう考えるのかという御質問がありました。医療ネグレクトの実態についてはまだ勉強中なので,はっきりしたことは申し上げられないのですけれども,医療ネグレクトが発生したケースというのは,そこだけにしか問題がないのか。つまり,医療ネグレクトのところに象徴的に親子関係が表れていて,そこが生命・身体にとって非常に危機的な重要な場面なので,そこが突出しているのですけれども,併せてほかの部分についていろいろ問題があるのだとすると,そこだけをうまく分けるということが本当に可能なのかどうかという問題意識をもっています。この点について,今はまだ勉強の途中なので,その辺の実態についてよく御存じの方があれば,教えていただきたいと思っています。そのことも併せて考えないと,なかなか答えが出ないのではないかと思っています。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○磯谷幹事 期間の先ほどのA案,B案のところですけれども,1点は,親に対して指導する,そしてその意欲を失わせないためには,余り長くないといった吉田委員の御意見もございましたけれども,一方でこれについては取消し制度も認めて,そこでそういう機会もあるのだということは,親の動機付けという意味では決して不足するわけではないのかなと思います。  それから,医療ネグレクトについて,今,長委員がおっしゃいましたけれども,医療の問題だけが本当に問題なのか,ほかにも問題があるのではないかというところは,恐らくケースとしては両方あり得ると思うのですけれども,それとちょっとこの期間の問題を絡めると,医療ネグレクトのケースだとしても恐らく−−これは裁判所の方々にお伺いしたいのですが,多分これは一時的制限の制度を設けたとしても,なお保全処分を使うことにはなるのではないかと。というのは,これは効果が生じないといけませんので,どういう制度になるか分かりませんけれども,即時抗告されて高裁に行ってうんぬんという話では,多分遅れる。そうすると,結局のところは保全でやって,そしてもう手術をしてしまってということになると,それでもう用がなくなれば取り下げるというスタイルは多分根本的には余り変わらないのではないかなと思っていて,そうであれば,別に医療ネグレクトをとても意識して,短い時間をと言わなくても,2年なら2年という形で言ってしまっても,それほど問題がないのではないかと思います。 ○窪田委員 最後に保全を使うという形になれば同じではないかというのは,もうそのとおりなのかもしれません。ただ,一時制限の話が出てきた最も重要なといいますか,一つの有力な背景というのが医療ネグレクトにあったということは確かだろうと思います。その部分に関して一時ということで,先ほど申し上げたように,私は医療ネグレクトをうまく取り込めるような要件をつくるとすると,最初から1年とか2年といった期間制限を固定したような形での一時停止のような制度というのはうまくつくり上げることができるのか,あるいはどのように判断するのかなというのが気になったものですから,意見を申し上げました。そこの部分に対応できるようなものにするという必要性はあるのではないのかという気がします。医療ネグレクトが非常に様々なものを含み得るものだというのは,それはそのとおりだと思います。しかし,その種の話をずっとしていきますと,この問題にとりあえず対応することはできるようにするという,比較的,期間なり内容なりが限定された仕組みをつくって,親権の制限についての柔軟な制度をつくるという方向にうまく向かうのかなという気がします。その点で,今御指摘いただいたように,多分最後は保全で解決されるというのは,私もそうだろうとは思いますが,制度設計の議論としては,やはり医療ネグレクトも含んで適切な方向を考えるべきではないかと思います。医療ネグレクトも含んで考えたときに,本当に裁判官は1年とか2年と判断するのだろうか,そのときには必要最低限というものを考えるのではないかという気がします。それについてはB案のただし書でいいということになるのかもしれませんが,私が一方で気になるのは,A案を採るにしても,B案を採るにしても,一時停止についての原因を規定することになります。そのときに原因として規定されるものの中に医療ネグレクトがうまく取り込めるようなものをつくったときに,それについて本文ではとりあえず1年,2年としておく,しかし,ただし書で対応できるのだからいいだろうという形でうまくいくのかなという点が,かなり形式論理ということになるのかもしれませんが,若干気になるなという感じはいたしました。  長くなって申し訳ございません。 ○磯谷幹事 あと,それからちょっと話が変わりますが,先ほどの更新のところの書き方について,長委員のほうから「その原因が消滅する見込みがないと認めるときは」という書き方について違和感をお話しになっておりましたけれども,確かにこれは検討する必要があると思います。多分,先ほど長委員のおっしゃりたかったのは,子供の状況とか,いろいろなことを考えて判断するということだと思いますし,実際上のケースも,特にこういう親子の関係というのは,あるところで問題が噴出して,それが収まっても結局ほかのところで噴出したりとか,結構動いていくものですので,何か固定的な原因というのを一つポンと出して,それがあるかないかというところにすごく帰着してしまうと,実際上はとてもやりにくいのかなとは思います。そうすると,更新ではなくて,それは再度の申立てをしろということもあるのかもしれませんけれども,そのあたりの要件については少し検討を要するのではないかということだけ,発言させていただきました。 ○久保野幹事 A案にした場合に,期間を定めるのが困難ではないかという点に関して,1点だけコメントさせていただきますけれども,現実的には,医療ネグレクトではないケースの場合は,児童相談所等が既にかかわっているケースが主に念頭に置かれると考えますと,正に児童相談所は,専門性を生かしてプランなどを立てて,どう指導していくかということをなさっているのだと思いますので,それを相当活用して判断するという余地もあり得るのではないかということで,外国などを見ますと,そのような傾向が見られるのではないかということでございます。 ○小池幹事 ちょっと質問なのですけれども,親権を止めたときに,親に対するケアというのは児童相談所ではやっておられるのでしょうか。先ほどそれはされているような発言がちょっとあったものですから,それで,その質問の趣旨は,仮にそういうことがあるのであれば,期間の制限を設けなくて,親権はとりあえず奪ってしまう。親の側で子の受入れ可能性が出てきたときには,その取消しを求める形にすると,そういう制度設計もあり得るのではないかとちょっと思ったものですから,親に対するケアをしているのかという点についてちょっとお聞かせ願えればと思います。 ○野村部会長 これはどなたにお答えいただければよろしいですか。 ○松原委員 私の先ほどの発言は28条に関しての話なので,親権喪失の話ではないんです。 ○豊岡委員 児童相談所でこれまでの係属歴がなく親権喪失をした親に対してかかわっているという事例は,ちょっと記憶にはないんですけれども。 ○磯谷幹事 もちろん,それは今,親権喪失というのは,もう事実上終局といいますか,ある意味,それで最後ですから,それ以上かかわるということは今のところはないわけですけれども,多分,制度が変われば,それはあり得るのかなと思います。 ○千正関係官 児童福祉法との関係がございまして,1点,豊岡委員あるいは現場に詳しい方に教えていただきたいのですけれども,児童福祉法の28条で2年間強制的に施設に入っている。その期間が終わったときに,家庭に子供を返すとなったときに,それは本来の親御さんが子供を養育しなければならないということになると思うのですけれども,そのときには親権が戻っていないと,いろいろなことに不都合があったりとか,あるいは義務という側面もあると思うのですけれども,その辺の不都合はないでしょうか,その期間を合わせる必要がないかという話なのですけれども。 ○豊岡委員 28条,期間はケースによってばらばらですので……。 ○千正関係官 子供を戻すときは,少なくとも親権を親に戻しておかないと,実際困るのではないですか。 ○豊岡委員 と思います。親権がないところへお子さんを返すということは原則ないですね。 ○野村部会長 よろしいでしょうか。  それでは先へ進めさせていただきたいと思いますが,次に3の親権喪失及び親権の一時的制限の原因ということで,まず事務当局からの御説明をお願いいたします。 ○森田関係官 第1の3は,親権喪失及び親権の一時的制限の原因の定め方について検討するものです。  ここでは,7ページの一番下から点線で囲んである,民法,児童福祉法,児童虐待防止法に今ある規定の表現振りを参考にしつつ,親権喪失及び親権の一時的制限の原因の定め方のたたき台として,A案からC案までの3案を提案させていただいております。  現在ある規定を参考に条文のような形で書き下しているため,一時的制限の原因についても各案で表現振りが異なりますが,本文の冒頭に記載しましたとおり,表そうとしている実質は,一時的制限の原因については,各案で基本的に同じであると御理解いただければと存じます。各案で異なるのは,主に親権喪失の原因の定め方に関する考え方にあります。すなわち,親権者に対する非難可能性や帰責性に関する要素−−部会資料ではCの要素と言っていますが,A案は,この要素を親権喪失の原因とし,かつこれを必須の要素とする考え方です。次にB案は,Cの要素を親権喪失原因の要素としつつも,Cの要素がない場合でも,他の要素を考慮して親権を喪失させることができるものとする考え方です。最後にC案は,Cの要素を親権喪失原因の要素としない考え方です。どの案を採るとしても,具体的にどのような定め方をするかということについては更に詳細に御議論いただく必要があるかと存じますが,まずは親権の一時的制限制度と親権喪失制度との関係をどのように位置付けるかといった観点から御議論いただくのが相当かと考えております。  なお,Bの要素,すなわち時期的な要素につきましては,親権喪失及び親権の一時的制限との違いが期間の定めの有無にあることからして,あえて明示しなくとも,当然に考慮されるということができるのではないかと考えておりますが,御意見があればお伺いしたいと考えております。  以上でございます。 ○野村部会長 それでは,3につきまして御議論をお願いしたいと思います。 ○磯谷幹事 細かい規定の仕方についてはまた追って意見はございますけれども,大きなA案からC案というお示しいただいたものの中で,C案が適当であると考えます。私の意識は,親に対する非難可能性とか帰責性といった問題を要素−−これは必須の要件とするか,しないかにかかわらず,そういったものを考慮要素とすると,結局のところ,申立てをするときにはその点についても主張せざるを得ない。そして,恐らくは裁判所も,そういう主張が出れば,それについていろいろ審理をしなければいけないということになって,結局その親に対する非難あるいは帰責性といったところがクローズアップされる。そうすると,結果的に親はそれに対して非常に反感を持って,かえってこじれたり,余計な紛争になってしまうといったところを懸念するわけです。もともと最も重要なのは親権者の親権行使に関して子供の利益が害されているということですから,ストレートにそこを問うというのが望ましいと思います。  念のために付言すれば,B案のほうは必須な要件にはしていないとしても,申立代理人をよくする弁護士としては,これは必須の要素としていなくても,考慮要素となっていれば,これはいろいろ言葉を尽くして書かざるを得ないという習性を持っておりますので,そういうところに照らしても,B案でもよろしくはないだろうと思います。 ○野村部会長 ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○大村委員 今の磯谷幹事の御意見は十分にあり得る考え方だと思って伺っていたのですけれども,検討する上での前提として,親権喪失と一時的制限という二つの制度をつくったときに,これをどのように使い分けると考えるかという問題があるかと思います。親権の一時的制限が設けられて,多くの問題についてこれで対応ができるということであれば,わざわざ親権喪失までいく必要はなくて,親権喪失のほうは要件を絞っても構わないということになるのではないかと思います。ですから,これは実務に携わっている方々に御感触を伺いたいのですけれども,一時的な制限ということでは足りない,喪失というのを申し立てたい,そのときに要件がきついと困るだろうといった場合を少し挙げていただけると,議論に資するように思います。 ○磯谷幹事 正に今の点は強く申し上げたいところです。先ほども申し上げたように,多くのケースは,なかなか解決が難しい,そう簡単に解決が見込めない親子関係というものを前提にしています。そういうことからしますと,本来であれば,これは私の意見としては喪失までやっていただきたいと思う事案というのが多いです。ここのところで,いや,それは一時でやったほうがいいと言われても,解決の見込みがほとんど立たないものを,2年に一度なり申立てを繰り返す。これは,例えば児童相談所であれば,乱暴ですけれども,公費ですので何とかなるのかもしれませんが,これを一般の方に,これはまた弁護士強制ではないので,弁護士などは雇わなければいいかもしれませんけれども,弁護士も入れてやると,これは大変な労力になるわけです。ですから,もちろん回復の見込みがかなりあるものであれば,これは一時的な制限でやっておくということは当然結構ですけれども,その点にめどが立たないものというのは親権喪失までいく必要がある。親権喪失についても,これは制度設計によるでしょうけれども,失権宣告の取消しの制度を残すとすると,最終的にはもとに戻る道もあるわけですから,そういったところを踏まえても,親権喪失のハードルが高いというのは非常に困るなと思います。 ○吉田委員 親権喪失と一時制限の原因ですけれども,これもケースワークなりパーマネンシーの考え方から制度を考えてはどうだろうか。つまり,今子供を長期的に安定的な環境の中で育てようという場合に,その親権というものをなかなか喪失し得ないというので何らかの障害が出てくる。そういう意味でこの制度の見直しが求められているのですけれども,C案をとるということで,相当そのハードルを低くすることができるだろうという点は,大変望ましいことかと思います。ただ,その場合に,従来に比べて親権喪失の件数なり,また一時制限がしやすくなることで,そうした事案が増えるというのは,今度は当然それをカバーする受け皿が必要になりますから,そうしたところで当然今度は後見制度の見直しなり,保護人というのでしょうか,そうしたものとセットで考えていく必要があるだろうと思っております。  もう一つ,ケースワークからすれば,こうした段階的なもの,そして要件を2段階設けるということは,先ほど私が申し上げましたような親に対する働きかけのときに,次のステップが見えているのだというのが大きな意味を持つだろうということで,こうした作り方というのは望ましいのではないかと思います。 ○小田幹事 磯谷幹事の御意見に関連して親権喪失をどうとらえたらいいのか考えを簡単に述べます。今現在は親権喪失しかない。それについていくつか障害が指摘されていますけれども,その問題を解決するために一時的制限を入れたときに親権喪失制度がどういう位置付けになるのかというのが私自身もまだ分かっていないのですが,それを背景とする問題としてお話ししたいと思います。  今の議論の,その前の議論の中で,今現在児童相談所が申し立てた場合の運用としては,親権喪失の後,親に対して何か指導をしているかというと,それはしていないということだったと思います。他方で,まだ今後の話ということですが,一時的制限の場合には親に対する指導を児童相談所は今後考えていくのではないかという御発言もあったところです。そうすると,一時的制限ができたときに,親権喪失というものをどれだけある意味で使いやすいものとして,更に児童相談所から何からの指導を考えるべき対象として位置付けるのかということだと思っております。現段階では,一時的制限の制度をつくることによってそのように使いやすいものがあるのであれば,親権喪失というのは,親による虐待など相当重たい事案もあるわけですから,ある意味で当然に親に対する非難というのが入ってきて,むしろそれを避けることができないような事案を想定し,それを要件として要求することで問題が出てくるのかどうか。今の時点ではそれが余りないように思うものですから,そうすると,C案では二つの区別として,子の利益が害されている程度によって親権喪失と一時的制限を区別するということですけれども,そこが明確にどういう形で区別できるのかという問題もあることを併せて考えると,親権喪失については,何らか非難というのに近い要素が入って,一時的制限より明確に要件も重たいというのがあることも,一つの理由として考えられるのではないかと思っております。 ○磯谷幹事 今の小田幹事の御意見に対して思うのは,現状の親権の喪失宣告の制度というものが果たして本当に機能しているのかというところです。現状は,親権の濫用といった形で帰責性があると言われていて,そして今も児童相談所が相談処理をする児童虐待のケースだけでも4万件を優に超えるような状況の中で,実際に認容されるのが確か年間数十件ということからすると,この親権喪失制度というのは到底機能しているとは言えないのではないか。そうすると,たとえ一時的な制限制度を設けるとしても,親権喪失の制度そのものも見直していく必要があるのではないか。そして,その最大の問題というのはやはりこの要件の問題ではないかと思うので,私としては,要件のところもきちんと見直して,余計なものは捨てる,端的に子供の福祉という点から判断をするということが望ましいのではないかと考えています。 ○野村部会長 ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○長委員 ただ今,要件をきちんと見直したほうがよろしいという御指摘がありましたが,A案,B案,C案というのがここで一応示されていて,文言については更にいろいろ御検討になると思うのですけれども,その案の違いをよく理解するために教えていただきたいところがあるのですが,10ページにA案の説明というのがあります。下から3分の1ぐらいのところに,「子の利益のため特に必要があると認めるとき」という要件の趣旨として,Cの要素が入っているということが一つの理由になっているのかとも思うのですが,この「特に」というのを入れて一時制限と区別なさった,その「特に」の持っている意味なのですけれども,Cのほかに,例えば@との関係で,@というのは「子の利益が害されている程度」という,この「程度」ということの意味は,いろいろな領域にまたがってという意味と,それからその領域の範囲とは別にかなり深くという意味とがあろうかと思うのですけれども,喪失の場合と,一時的制限の場合をA案で見たときに,その違いを明確にして端的に御説明いただくとすると,ここがこう違うのだというのはどのように理解したらよろしいんでしょうか,その@の「程度」との関係で。そこが喪失の根拠,喪失と制限の考えの違いになってくるのかなとも思われます。 ○森田関係官 正にそれに対する答えがないというのが正直なところでございます。@の要素で,子の利益について,一応条文の文言上なり考え方として差を設けてはどうかというのがA案の一つの中身ではあるのですけれども,それを実務なり具体的な事案を前提にした場合に,どのような判断がされ得るのかというのは,なかなか難しい,一言でこうということは難しいのかなと思っています。例えば,医療ネグレクトのようなことが先ほどから事案として出ていますけれども,医療ネグレクトで,この手術をしなければもうすぐに命にかかわってくるといったときには,少なくとも子の利益は相当害されているということにはなろうと思うのですけれども,そのときに,では喪失かというと,必ずしも喪失ではない判断はA案でもあり得るのだろうとは思っておりますので,それぞれの要素を総合考慮して判断するという部分は,条文をどのように組んでも,そういうところは残るかなといったことを感じとしては持っております。 ○長委員 ありがとうございました。 ○小池幹事 質問なのですけれども,喪失と一時的制限の区別は,子の福祉を確保できる状況が回復可能であるかどうかということではないんですか。 ○森田関係官 そういう考え方もあり得ると思われます。一応今回挙げている案では,そのような考え方に純化した考え方を提案はしていないわけですけれども,そういう考え方をもし設けるのであれば,多分Bの時期的な要素だけが違うということで,親権喪失制度と一時的制限制度を条文上も書き分けないというところまでいくかどうかは別として,そういう考え方というのもあり得るのではないかとは思っております。  関連して,先ほど平湯委員が,「対応に苦慮する場合として指摘されている主な事案」のAについて,一時的制限ではないのではないかという御指摘もされたと思うのですけれども,Aのような場合に,むしろ一時的制限を活用すべきではないかといった意見があるのではないかと考えておりました。仮に,先ほどから出ているように,いつ回復するか分からないにしても,基本的には一定の時期でもう一度司法判断がされるべきだと考えるとすると,Aの事案のようなときにも一時的制限が考えられるのではないかと。  いずれにせよ,今,小池幹事がおっしゃったように,いつ子の利益が確保されるようになるかということが一つの大きなメルクマールにもなり得るのかなと考えております。 ○久保野幹事 今のお話と関係しまして,一つの方向として,先ほど親権喪失の事案の御説明をいただきましたときにも,再統合は無理だと考えられる事案だったといった御説明がございましたし,議論の中でも回復可能かどうかということが出ておりまして,今出ていた回復の可能性の有無というのが一つあり得る制度設計だと思うのです。その立場に立ったときにもう一つ考えたほうがいいように思いますのは,その場合には,完全に喪失といいますか,親権者が何もする権限がなくなるという制度設計が回復の有無を基準とするということと整合的なのかということがちょっと気になるところでございます。  それとの関係で,先ほどDの事案について,一時の制限にふさわしい事案だという御説明が平湯委員からございましたし,あと今法務省のほうからAの事案もその一時で考えることもあり得るのではないかという御指摘がございましたけれども,そのAやDにおいて,正常なといいますか,適切な親子関係を回復しようという観点に立ちましたときに,親権者は何もできない,する権限が完全に失われているという形でうまく動くのかどうかというあたりのニーズといいますか,現場の様子などをもう少し伺えたらと思います。 ○野村部会長 これは,どなたか御発言はございますか。 ○平湯委員 ちょっと先ほどの発言の補充みたいになりますが,AあるいはDは,具体的な言動なりが問題になるというよりも,その言動の背後にある親の養育態度全体が問題になるといいますか,それが改善されることが期待されている。Dについて言うと,指導という考え方が入ってくるわけですけれども,指導するという立場からいきますと,親権者の言動全体に対してチェックできないと有効ではないということが言えると思うのです。したがって,Dというのは,先ほど申し上げたのは,一部か全部かということについて言えば,これは全部がふさわしいだろう,かつ一時がふさわしいだろうと,つまり全部の一時的制限ということにふさわしいだろうと申し上げたわけです。  Aについても,これは言わば親族がかかわっているわけですが,そこが,児童相談所がかかわるのとは違いますけれども,親族の安定したかかわり方を保障する上では,個別な分割された一部の制限というのがふさわしいわけではないであろうと。ただし,ここで結論をちょっと先走るようですけれども,100%全部喪失でなくても,身上監護権だけの喪失という,つまり,全部ではないけれども,身上監護権の全部というのがふさわしいのではないかと思っています。つまり,親に対して,親の言動の全体にかかわる必要があるかどうかということで考えると,そうなるのではないかという趣旨です。 ○磯谷幹事 一時的制限と,それから全部の喪失の要件について今議論されていますけれども,この一時制限と喪失の使い方で考えられるのは,まず一時的な制限をする,そして2年なら2年状況を見るけれども,結局この親は,例えば人格障害がなかなか改善ができなくて,どうしてもこういう行動パターンから逃れられない。2年たっても変わらない。そのような場合に,次にまた2年やるのか,それとももうそこまでいったら喪失するのかといった判断があり得る。そして,先ほど吉田委員がおっしゃったように,ここでパーマネンシーということを考えなければいけないと思うのです。つまり,ずっと2年,2年ということを繰り返すということが果たして子供の安定に資するのかどうかです。そういうことを考えると,今申し上げた,まず確かに一時制限でやってみようと,一時制限をやった。しかし,それがうまくいかない。次は全部制限だといった使い方を考えると,そこで両者の要件が全く異なるということであると,とても使いにくいということになると思います。先ほどの人格障害のケースでも,2年間たったから親を非難できるわけではない。親に責任があるというわけでもない。もっと分かりやすく言えば,例えば精神障害などだとも言えると思いますけれども,要するに中身は変わらないけれども,もうこれは一時ではとても対応ができないということになったときにその喪失がきちんとできるようにしていただきたい。そうすると,やはり要件として,根本的には変わらないことが望ましいのではないかと思います。 ○古谷幹事 A案あるいはC案について,2点ほど意見を述べたいと思います。  一つは,実際に実務で審判する側の立場に立った場合に,C案のような要件設定は,要するに子の利益が害される,それが著しいかどうか。多分,突き詰めていくと,それはそのとおりなのだと思うのですけれども,いささか抽象的でありまして,その点は少し何らかの工夫をしていただけると,審判は比較的適正な時期にできるのではないかという点が1点ございます。これは少しテクニカルな話になります。  もう一つは,先ほどから議論に出ております帰責性あるいはその辺の責任といいますか,そのあたりを組み込むかどうかという議論があり得るのだと思います。その点,私自身は定見は全くありませんが,帰責性は一切捨象して,子の利益に純化して考える,これも当然あり得るとは思います。ただ,例えば先ほど出ていましたけれども,精神疾患で,およそ落ち度がないといった場合に,果たして喪失というところまで持っていっていいのかというのは,正直,かなり感情的な意見になるかもわかりませんけれども,若干のためらいというのは感じることはございます。そのあたり,要するに親権喪失というのを今度設計する際に,親側の落ち度なり非難可能性というのをおよそ取り込まないといった制度設計がいいのか,それは全部子の利益に純化させるのがいいのかというのは,原理的な問題として議論しておく必要があるように思います。  これまでは親権喪失一本だったので,実際,主観的な落ち度がなかったので,全然フォローできなかったというケースがあったというのは多分事実だったと思います。ただ,それが今回仮にこの一時制限という制度が設けられて,そこで仮にそちらは非難可能性というのを要求しないということにしますと,少なくとも多くの場合はそちらで拾えるということになるので,その場合にその喪失をどのように組むか,喪失と一時制限というやや異質な制度が両立することになるのか,そのあたりのところを少し検討いただければと思いました。 ○窪田委員 今の古谷幹事のおっしゃったこととほとんど重なってしまうのかもしれませんが,恐らくこの問題というのは,親権喪失に関して言いますと,親権制限をめぐる問題であると同時に親権そのものの問題だという側面を有しているのだろうと思います。もちろん,親権に関しては,私が申し上げるまでもなく,その理解の仕方には大変様々な議論があり得るわけですし,親権というのは本来権利ではなくて義務の面からのみ見るのだという考え方も極端な考え方としてはあり得ます。そうした場合に,子供の側の利益からのみ見て一貫して制度設計をしていくというのはもちろんあり得る立場だろうとは思います。ただ,恐らく現在の親権をめぐる議論の中には,それ以外の,親が本質的に持っている,子供を含めていろいろな家族を構成していくといった権利としての側面というのが,やはりどこかにあるのだという気がします。そして,それを前提とすると,どうも,子供の利益のためにこのような制度設計をしていけばいいのだという形での親権の一時制限,そして喪失というのを並べた形で制度設計していくという磯谷幹事の御意見は,非常に分かりやすくて,なるほどと思うのですが,同時に,それで親権喪失というのを全部基礎付けてしまって,親権そのものは一体何であるのかという話についてはここでは直接は立ち入らないわけですが,それと場合によってはバッティングするのではないのかなという気がいたしました。ただ,その上で帰責性までを必要とするということが当然に要求されるのかというと,必ずしもそうではない可能性もありますので,その点については,私自身,A案だ,B案だ,C案だという特定の立場を今決められるような状況にはありませんが,親権そのものの位置付けというのを少し頭の片隅に置いてからこの議論をしていく必要があるのではないのかなという気がいたしました。恐らく古谷幹事からおっしゃっていただいたことと表裏の関係で,実質的に同じことなのではないかと思います。 ○吉田委員 親権喪失と一時制限の違いの議論で今進んでいますけれども,要件のところで一つ考えているのは,親の適格性の問題で,要件のAになると思うのですけれども,これを具体的にどう判断するかというときの一つの基準として,福祉との接合ということを考えてもよろしいのではないか。つまり,当然こういう事態に至るまでには児童相談所などが関与しているわけですけれども,それに対して,全く何の改善も見られないといった場面,そしてそのような親に子供を託すことが極めて危険であるとすれば,それまでに親が受けた児童相談所の指導の状況なり効果なりというものを何らかの形で反映できるような要件というものを設定できないだろうかと。  例えば,これは児童福祉法の規定になりますけれども,28条2項で,児童福祉指導の効果等に照らしという文言とか,特別養子の場合の監護状況とか,そうしたものを配慮できるような要件というものを設定してはどうかと思っております。これが喪失の場合なのか,一時制限の場合なのか,どちらにふさわしいのか,又は両方に入れるべきなのかというのはあるかと思いますけれども,そうした虐待の問題に対して親にレッテル張りをするだけで終わりというのではなくて,それまでのプロセスの中でその一環としてこの問題が出てくるのだと考えれば,そうした要件というのが必要ではないかと思っております。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 今までの議論を拝聴しておりまして一つ感じる点といたしまして,用語の問題というのがあろうかと思います。この問題についてはもう事務当局では十分御認識されて立案されているところと思いますけれども,「喪失」という言葉ですが,「喪失」といいますと,これは非常に終局的であって,喪失した以上はその者はもはや親権者ではないという含意を伴うという点で,非常に重大かつ深刻な印象を与える用語であるわけです。ですので,「喪失」ということになりますと,何らかの帰責性あるいは非難可能性というものが必要でないのだろうかという問題意識が当然生じ得るところなのだろうと思います。他方で,しかし子供の利益,子の福祉のために親権を制限すべき場合があるということについては異論はないところでありまして,その制限の仕方について,一つ一時的制限というのが提案されているわけです。ただ,それに対して磯谷幹事などが御指摘の問題というのは,2年といった限られた期間で十分に対応し得る事案は必ずしも大多数というわけではないのではないかというお話かと思いますが,そこでおっしゃっておられるニーズというのは,「喪失」というよりも,むしろ「期間の定めのない制限」と呼んだ方が良いような措置についてのニーズということなのだろうと思います。そうしますと,短期の期間の限定のある制限というものが原案で提案されているわけですけれども,それとは別に,期間の定めのない,その限りでは実質上は喪失ということと余り変わりはないのかもしれませんけれども,しかし「喪失」ではなくて,親権者なのだけれども,当分の間は親権の行使が制限されているという状態が必要なのではないかというのが一つの論点としてあって,仮にそういうものが必要だとするときに,喪失という制度でそのニーズを処理するのか,それとも喪失という制度については,それとはまた別個のものとして,帰責性等のある場合に限って利用される,その限りでは現行民法の親権の喪失というものと連続性を持ったものとして維持するのかというあたりを少し整理しておく必要があるのかなという印象を持った次第です。  ○野村部会長 どうもありがとうございました。  ほかにいかがでしょうか。 ○大村委員 少し前に窪田さんがおっしゃったこととかかわるのですけれども,そして今の垣内さんのお話ともかかわるかもしれませんけれども,親権を喪失するということになりますと,それなりの原理的な理由付けが必要であって,それにふさわしい要件が必要だという話になるということが一方である。他方で,しかし一時的な制限を積み重ねるということでは都合が悪いというケースもあるという御指摘があったかと思います。そのときに,中間で考えられることは何かないだろうかと考えたときに,先ほど議論しました一時制限の期間の更新というのをどうするのかという問題が,かかわりを持ってくるかもしれないといった印象も抱きます。先ほど期間の更新のときに,スタートの期間の定め方をどうするかということについてA案,B案というのがありましたけれども,更新するときにどうするかという点については,更新ができるということ以上の立ち入った話は特にはなかったかと思います。仮に原則の期間は2年間なのだと定めておいて,更新していくときにも基本は2年とする。磯谷先生が挙げられているように,当面のところ少なくとも1回,2回更新しても駄目だといったものについては,これは仮に2年だとしても更新をほぼ自動的に認めていくということで,裁判所のコントロールは入るけれども,手続的な負担はそれほど重くないといった制度を考えるという選択肢ももしかしたらあるかもしれません。それがいいという趣旨ではないのですけれども,議論する際の選択肢として少し御検討いただくこともあっていいと思います。 ○野村部会長 それでは,時間の関係もございますので,3については大体以上でよろしいでしょうか。  それでは,4に移りたいと思うのですが,その前に少し休憩ということで,よろしくお願いいたします。           (休     憩) ○野村部会長 時間がまいりましたので,再開したいと思います。  先ほどに続きまして,第1の4,親権喪失等の申立人について,まず事務当局から御説明をお願いいたします。 ○森田関係官 第1の4では,親権喪失等の申立人について取り上げております。  @は,親権喪失及び親権の一時的制限の申立人に関するもので,現行の子の親族,検察官,児童相談所長のほかに,子自身にも申立権を認めることについて検討するものです。この点については,子の意見表明権を保障するという観点から,積極的な意見がある一方で,子の利益の観点からは,むしろ慎重に検討すべきではないかとの意見もあり得るところと承知しています。  なお,民法において,未成年者に家庭裁判所への申立権を認めている場合,通常は年齢制限はせずに,意思能力がある場合に認めるという取扱いがされているところです。  Aは,期間更新の申立人に関するもので,基本的には,一時的制限の申立人と同様にすることになろうかと思いますが,未成年後見人にこの申立権を認めることについて御議論いただければと考えております。  Bは,親権の一時的制限の審判の取消しの申立人に関するもので,現在の親権及び管理権の喪失宣告の取消しの申立人と同様とすることを提案しております。  以上でございます。 ○野村部会長 それでは,御議論をお願いしたいと思います。 ○松原委員 確認というか,教えていただきたいのですが,昔厚生省時代に児童相談事例集というのが出ておりまして,そこを読みますと,様々な経緯の中で児童相談所がかかわっていて,しかし,児童相談所長が申立てをするのではなくて,親族にその親権喪失の申立てをしてもらっている事例が幾つか当時読み取れることができたのですが,先ほど御紹介いただいた中で,結構,もちろん児童相談所長がされた申立ての数に比べて圧倒的に親族が申し立てている事例が多いのですが,こういう場合,最近の状況として,そういう児童相談所がかかわりながらなお児童相談所ではなくて親族に申立人になってもらった事例はどのくらいあるのか。それはここの中では多分,親族が申し立てている時点で既に子供が児童福祉施設に入っているようなケースが何件か挙げられていますが,これイコール児童相談所がかかわっていると読んでいいのかどうか,その辺を豊岡委員に,感覚でも結構ですので,教えていただきたいなと思います。 ○豊岡委員 親族にやってもらっているという事例がないとは言えませんけれども,私は直接の経験として児童相談所で親権喪失申立ての経験もありませんでしたので,実際の事例は持っておりません。ただ,そういう親族に申立てをしてもらったという話を聞いたことはありますので,ゼロではないと思います。 ○松原委員 そうすると,この親権喪失の事例で言えば,児童相談所がかかわっていないケースが相当数含まれていて,この親権の一時停止のところで,まずちょっと子供のことは置きます。親族を申立人にした場合,その更新のときに,先ほど発言しましたけれども,ではだれがそういった要件が続いているのかということを証拠立てるのか。ここで,それでは当初児童相談所がかかわっていなくて親族が申し立てた全ケースについて,児童相談所がかかわるということを想定するのかどうか。実態的には,先ほど他の委員からもありましたが,子供の取り合い的なものとか,離婚にかかわってのこととかがありますので,そこまでかかわるのか。あるいは,親族がかなりしっかりしていて,そこに移っていけば,さほど児童相談所はかかわらなくて済むような事例,そういったものもどう想定するのか。敷衍して言えば,私は子供の意見表明は非常に大切だと思いますけれども,なお逆に言えば,そのことで子供にそういう証拠立てるようなことを求めることは非常に難しいと思うので,もしそうだとすれば,どういう社会的なサポートをそこにつけるのかということも念頭に置きながら議論していただきたいと思います。 ○吉田委員 先ほどの松原委員の御質問ですけれども,私の個人的な体験なのですが,虐待の問題がかなり大きな社会問題になったときに,まだ初期の段階では,児童相談所が余り法的な手続に慣れていなかったということもありまして,弁護士さんが相当奔走されて,そして親族の方に申立てをしていただく,そして親権喪失が認められたところで,又は代行者に同意入所という形で施設入所につなげるということが,当初行われておりました。したがって,その場合には,親族申立てではありますけれども,結果的に施設に入所しているということで,児童相談所が全くかかわらないわけではないというのが,私の体験しているところです。 ○豊岡委員 補足ですけれども,ですから入口と申しますか,申立てのところで児童相談所がかかわらなくても,その後いろいろな御相談ということで親族なりがお見えになれば,その後児童相談所は当然かかわっていくことになりますので,親御さんの様子とか,そういうものはある程度は把握できるようにはなっていくのかなという気はします。 ○森田関係官 資料を作成したときには,必ずしも詰めては考えていなかったところなのですが,期間更新の申立人に列挙している人と,もとの一時的制限のときの申立人の関係なのですけれども,例えば親族が申し立てて最初に一時的制限がされた後,例えば期間の更新を児童相談所長がするということもあり得るものと想定しておりました。  それから,児童相談所長が全く関係していない場合の更新をどうするかという問題があると思いまして,そういう場合には一つは未成年後見人がその申立権を行使する受け皿として考えられるのではないかということで,Aでそれについて御検討いただければということでこれを入れたものでございます。 ○野村部会長 ほかに御発言はいかがでしょうか。 ○大村委員 今の事務当局の御発言ともかかわるのですけれども,これは,親権が一時的に制限されて止まったときに,その後の受け皿はどうなっているのかという問題とかかわっていて,その受け皿になった人ないし機関がその更新等について申立人になるということが差し当たり想定されると思うのですけれども,そのあたりを少し御説明いただいたほうがいいのか,あるいはそこのところで議論するのがいいのかという気がいたします。 ○森田関係官 御指摘いただきましたので,一応のところを御説明させていただきますと,部会資料では実は前のほうに一応書いていたところですが,一時的制限をした結果,親権を行う者がいなくなった場合,例えば婚姻中で父母共同親権で二人とも親権を制限されたとか,離婚後単独親権でその人が親権制限されたといった場合については,未成年後見が開始して,申立てによって後見人が選任されるであろうということを想定しております。それで,共同親権の下で片一方の親の親権だけが制限されるという場合が現実にどの程度想定されるか分かりませんが,仮にそういうことがあったとすると,他方の親が親権を行使している状態かと思いますが,その人は親族ということで,更新の申立ては可能と考えられます。また,父母両方が親権を行っていないということで未成年後見が開始されて後見人がついているような場合には,その未成年後見人が更新をするということでどうかといったことを考えておりました。 ○松原委員 その場合,未成年後見人が親族ということで,その人たちに更新の証拠立てを求めるのは厳しいだろうなというのが先ほどの発言なのです。たまたまそのことで,今度は児童相談所が絡んでいる場合,例えばそれを子供が生活している児童養護施設の施設長にするかどうかについては,前回私が発言させていただいたように,今の施設そのものに実力の差がかなりありますので,ここは厚生労働省側の制度設計の中で少し考えなければいけないところかなと考えております。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○千正関係官 親族の申立てで一時的制限が行われたときに,恐らく未成年後見人に親戚の方かだれかがなっていて,そこで養育されているという状態になるケースが多いのではないかと思いますが,そのときに児童相談所がどうかかわっていくか。今,松原先生が言われたように,何がしかのフォローができればいいなと思うのですが,今定見があるわけではないんですけれども,少し留意する必要があるかなと思うことが2点あります。  一つは,それまでに児童相談所がかかわっていなかったケースの場合に,そのケースがどうやって児童相談所につながってくるのかという話があると思います。例えば,裁判所からオートマチックに児童相談所に,この家庭を指導してくれとか,そういう仕組みが今あるわけではないと思いますし,先ほど豊岡委員が言われたように,御家族の方が自ら相談に来られればかかわっていくということはあるかもしれませんが,すべてについてかかわっていくにはどう初動としてつながっていくのかということがまず一つ論点としてあるかなと。  それからもう一つは,そのお子さんというのは,虐待を受けていたかもしれませんけれども,親権が制限された後については,どなたかきちんとした人が未成年後見人でいて,そのもとで一応安定した養育をされている状態ということなのだと思うのです。そういう家庭について,要するに今親のもとにいて,実際に虐待されている,あるいは虐待の疑いがあるというところに対して児童相談所が対応している件数がたくさんあるというのと,こういう一応は未成年後見人のもとで安定して暮らしている子供という両方に対応しなければいけないとなったときに,少し体制の問題とか,そういうことも考慮しなければいけないのかなと,今定見があるわけではないのですが,少し留意点として気付いた2点です。 ○平湯委員 児童相談所が入所措置をしていない子供について,これは年齢が18歳を過ぎた場合も含めてですけれども,その場合の親権喪失宣告の請求権が児童相談所長にあるわけですね。33条の7ですか。実際にも,私の経験ですけれども,いわゆる児童相談所への一時保護とか施設入所ではなくて,シェルター利用をしていた子供について,子供といってももう18〜19歳,もうちょっと若い子供もいたかもしれませんが,そういう子供について,親の家にはいないのだけれども,親からのいろいろなつきまといなどがあって自立が妨げている。そういうケースで,言わば支援側の弁護士などが児童相談所に,この33条の7の親権喪失宣告の申立てをしてもらいたいということで持ち込んだことがあります。児童相談所のスタッフのほうでは,今までかかわっていない子供だったわけですので,初めてという子供ではありましたけれども,非常に丁寧に対応してくれて,申立てまでしなくても,結局親との関係が解決して良かったのですけれども,そういう場面はこれから大いにあり得るだろうと思います。要は社会的な支援体制の中で子供のこういう親権絡みの問題も解決せざるを得ないという場面が出てきますので,ついでに言えば,この33条の7というのも,一時停止,一部も含めてですが,そういう制限が法制化されたときには,18歳を過ぎていた場合でも,その申立て・請求も児童相談所長ということになると思うのです。したがいまして,申し上げたいのは,現実にどういう形で一時停止,更に喪失ということにつながっていくかということについては,基本的にはといいますか,大部分はその子の社会的支援がどれだけつくられているかということに影響されてくるかと思います。したがって,今の状態のままで全部の子供に,例えば更新の申立ての援助ができるかとか,そういうことになると,そこはなかなかまだ課題が大きいところで,もう一つの審議会のほうの議論かなと思います。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。  それでは最後に,第2,親権の一部制限制度ということで,まず事務当局から御説明をお願いします。 ○森田関係官 第2では,親権の一部制限制度を取り上げております。施設入所等が行われている事案において,民法上の親権制限が必要な場合というのは,基本的に親権の一部ではなく全部を制限する必要があるような場合であると考えられます。したがって,親権の一部制限制度の必要性については,施設入所等が行われていない場合を想定して検討するのが相当であると考えております。具体的にどのような事案に対応するために一部制限が必要と言われているのか,必ずしも明らかでないと考えております。本日はこのような親権の一部制限制度の必要性について総論的に御議論いただき,それを踏まえて次回会議で各論的に御議論いただければと考えております。もっとも,親権の一部制限制度を設けることについて検討するに当たっては,親権の一部をどのように切り分けるのかという理論的な問題のほかに,現実の問題として,一部を制限することでかえって子の安定的な監護を害することにならないか,濫用的に制度が使われるおそれがないかなど,部会資料の15ページに列挙したような問題点が指摘されており,これらの点にも十分に留意する必要があると考えております。  以上でございます。 ○野村部会長 それでは,一部制限についてということで,御意見をお願いしたいと思います。 ○平湯委員 先ほどの部会資料2のAからIに即して申し上げたいと思います。  Aについては,先ほどちょっと御議論もいただきました。B,それからFについては,施設入所中の子供のことでありますので,後ほどまとめてまた申し上げたいと思います。Cについては,これも先ほど来の制限の原因,精神障害など,帰責事由のない親についてのことでございますので,この点は一部制限の必要なケースではないと,ここからは一応省かせていただきます。それから,Dも,先ほど申し上げたように,全部ということが望ましいと思いますので,この一部の議論からはちょっと外させていただきます。それから,Eは,基本的には一部制限の問題であると思います。ただし,すべての医療ネグレクトが一部だということではなくて,ケースによっては全部の制限が必要なケースでもあるということは言えると思います。それから,GとHは,施設にいない子供,施設外の子供,児童福祉法の47条の範囲外の子供でありますので,かかわってくる。Iは,未成年後見人がいなくて困るという場面ですので,これは除きます。  GとHを中心に申し上げると,ここに書いてあるとおりでございますけれども,Gで言えば,ここは主に監護の問題と財産管理に分けて言えば,主として財産管理ないしは法定代理権の行使の問題であろうかと思います。アパート,就職,それから携帯電話などがここに入ると思います。Hにつきましては,つきまとったり,徘徊したりという,例えば親が嫌がらせに会社に給料をよこせと言ってつきまとってきたり,いろいろなパターンがあるわけですが,それに関連してもう一つあるのは,住民票の秘匿ができないために,子供の住民登録地が親に知られてしまう。いわゆるDVの被害者についてはここが総務省の関係の法令でカバーされておりますけれども,児童虐待についてはそれがないために苦労しているといったことがございます。  このような必要性ということについてここで申し上げたわけですけれども,それについて,先ほどの検討資料の最後の15ページにあるような問題点に一部だけ触れて,あとは磯谷幹事のほうから述べてもらいたいと思います。  まず,この特定の問題が難しいということが,この報告書を拝見しても,研究会で随分繰り返し議論になったところのように拝見しています。この特定というのが本当にそれが障害になるのかどうか,私としては非常に疑問に思っております。外国の立法がそのまま持ち込めるわけではありませんけれども,ドイツにしても,フランスにしても,その全部又は一部の制限ができるという法律上の文言になっていて,それを受けて家庭裁判所が具体的な制限をかけている。そういうことが日本でできないはずはないだろうということが私の個人的な感想といいますか,むしろ不可能である,あるいは困難だということが理解し難いということでございます。 ○磯谷幹事 どのようにつなげばいいのかということがありますけれども,まず,一体どのようなケースでこういった一部制限が必要になるのかというところだと思います。先ほど平湯委員がおっしゃったように,Gのケースというのは,要するに子供が児童養護施設などから出て,そして自立して働き始める,いろいろ生活を始めるという中で,例えばアパートにしても,就職にしても,携帯電話にしてもという形でいろいろな契約をしていくことになるわけです。このときの子供は,恐らく親権者とはもうかなり疎遠になっていたり,没交渉になっている。このような場面でスムーズに自立していけるかどうかというのが一番大切なところだと思っていますけれども,そのときに,例えばここで親権の全部制限だという話になってくると,また大掛かりなことをいろいろとやらなければいけないのではないかという懸念があるわけです。そうではなくて,今問題になっているのは,例えば,就職は何とかなった,ただアパートについてネックになっている。あるいは,アパートもいろいろな人の助けで何とかなったが,携帯電話について今問題になっている。このような非常に個別的な問題が出てくるわけです。この個別的な問題に対応するのに,全部の制限をするというのは果たして合理的なのかどうかというところが一番大きいところです。その全部を持ち上げることによって審理の範囲も恐らく広がるでしょうし,また親のほうも全部親権が止まるという話になると,もう実際には行使していないにもかかわらず,いろいろと反対してくるということがあり得る。ですから,焦点をある程度絞った形で審理ができないかというのが問題意識でございます。  その前提として,ではどのような方法があるのかというところで,研究会のときに幾つかの案が出ておりました。その中の一つには,問題状況に合わせて個別に特定して,親権を制限するという案もございました。それから,例えばある特定の契約について裁判所が親の代わりに同意するとか,そういった形でピンポイントで対応するという方法もまた一つ提案されていたと思います。いろいろなケースがありますので,いろいろな方法が考えられるかと思いますけれども,こういった形でとにかく全部を止めるということではなく,最小限のものを止めて,対応できる道も残しておく必要があるのかなと思っております。  それから,親権の一部を特定して制限するということに対しては,懸念があることは承知しておりますし,確かに難しい問題だという認識はございます。しかし,それについても,何も今の我々の知恵だけで,それは難しいから,そういう選択肢を封じておこうということではなくて,現場の知恵を発揮できるようにしておく。したがって,先ほど平湯委員がおっしゃったように,全部又は一部という形にしておいて,もしこれから現場で裁判所あるいは児童相談所あるいは親族が,このようなことでこの部分だけ制限したい,なるほど,それだったらうまくいくかもしれないということであれば,そういった方法も採れるようにしておけばいいのではないかと考えています。 ○吉田委員 部分制限のところで,施設入所等の措置が採られている場合には,現行法の仕組み等で対応できるということでありますけれども,実際に,例えば施設入所で同意入所か28条入所かを問わずに,全部制限だと,しかも報告書にあったように施設長等の権限が優先するという案を仮に採った場合に,果たして親権者が施設入所等に同意するだろうかという問題が出てくるのではないかと思うのです。当然,子供を預けるのですから,児童相談所は親に相当丁寧な説明をする。どういう支援をするかとか,反対にどういう制限があるかというのをやらなければいけないはずなのですけれども,そこで「原則として制限されるんですよ」と言うと,「それなら私は同意しません」という親が出てこないだろうかということを懸念しております。もし仮にそれでも施設入所の必要があるということであると,今度は28条の申立てをしなければいけない。そうなった場合に,家庭裁判所に対して28条審判の申立てが増えてくるのではないかということが懸念されます。ですので,これも,どこで部分を区切るかという技術的な問題はありますけれども,子供が施設にスムーズに入所して,そして入所した後,親との関係を良好に持ちながら子供を支援し,できれば再統合まで持っていくということを考えると,全部制限というのは親に対する対応としてはかえって波風を立てることになりはしないだろうかということを懸念します。その点をどう配慮したらよろしいのかということを疑問として思っております。 ○古谷幹事 一部制限につきまして,若干危惧するところがございますので,その点の意見を述べさせていただきたいと思います。  1点目は,制限する範囲の特定の問題です。先ほど平湯委員のほうから御指摘があったかと思います。確かに,医療ネグレクトのような場合だったら,うまく切り分けられる場合があるかもしれない。それは多分そのとおりかと思うのですけれども,では全部そのようにいくかといいますと,例えば教育の問題とか就労の問題とかになってきますと,かなり外延がはっきりしないというところがございまして,それが民法上かなりはっきり分かるようなものであればいいのですけれども,必ずしもそうもいかないのではないかという懸念を持っているところでございます。  それからもう1点は,例えば携帯電話の契約について反対している親がいるという場合に,長いことその施設に入所していて,出て独り立ちしようとしているときに,親が横からいちゃもんをつけてくる。このような場合は確かにその子に契約させてやるべきだと思うわけです。それは,自立させていく,親子をある程度切り分けて離していったほうがいいというケースの場合は,それほどミスしないで判断もできると思います。それは飽くまでも,そういうケースにおいてはそれは自立させて離していくのがいいのだという判断が初めにあってできるわけで,例えば普通の親子関係で,携帯電話はどうか,あるいはここでちょっと働いてみたいというときに,親が反対した場合に,果たしてそれが本当にその子にとってプラスなのか,マイナスなのかというのは,ものすごく難しい判断だと思うのです。ですから,今問題となっているケースはかなりはっきりと判断できると思うのですけれども,例えば特定の事項については制限できますとなったときに,ごく普通の家族のだれかが気に入らなくてそういう申立てをされた場合に判断できるかというと,それは非常に難しい話ですし,そういうところまで国家権力が入っていくというのは,それはどうかという感じも持ちます。一部制限というのは,機能する場面があるというのは多分御指摘のとおりだと思うのですけれども,それを制度としてつくったときに本当にうまくいくかというところについては疑問を持っているということでございます。 ○平湯委員 正に今おっしゃったような点が裁判所の検討判断事項になると思います。一部制限の場合の要件まではまだ整理して考えておりませんけれども,親が親権を行使して,例えば携帯電話は駄目だ,子供が自分で働いてやろうとしているのに,それも駄目だというケースがあったとしたら,それは親権者の行為が子供の利益を害しているという判断になるわけです。つまり,害しているかどうかの判断がそこでなされるのだろうと思います。ですから,御心配は要らないのではないでしょうか。 ○大村委員 今までの議論との関係で,2点申し上げます。  一つは,今の携帯電話にかかわる話です。これとの関連で,磯谷先生は,18歳になって,施設にはもういられないということで,独立した子供に親がつきまとうというケースをどうするのかという問題を提起されておりまして,そういうケースはあるのだろうと思います。ですから,対応は必要なのではないかなと思いますけれども,一つは,成年年齢を18歳に引き下げるという話がありますので,そのことも勘案して考えなければいけない。今,成年年齢が20歳なのに,児童のほうは18歳であるという落差があり,そこのところでも問題が生じているということがあろうかと思います。ただ,現状でどうするかということを考えたときに,磯谷先生がおっしゃっているのは,実質的には18歳で親権から解放してやれということだろうと思うのです。そのときに,解放するということで,では携帯電話の契約だけできればいいのかというと,それは必ずしもそうではないだろうと思うのです。差し当たり携帯電話の契約ができないと困るから,携帯電話について親権者の権限を取り上げるということなのですけれども,つきまとい的な親の場合には,携帯電話について介入してみたけれども,そこは裁判所で封じられてしまった。しかし,次はアルバイトなどに口出しをするとか,いろいろなことが出てくるのではないかと思います。そうだとすると,もし現行法の枠の下で,18歳以上に達しているのに親がいろいろつきまとうということについて対処するのならば,それは親権そのものを止めてしまったほうがいいのではないかということが選択肢としてはあり得ると思います。もちろん,ほかにも一部制限の必要というのはあるでしょうから,どういう必要があるのかということを考えて個別に検討する必要はありますけれども,18歳以上ということについて言うと,むしろそれは高い年齢の未成年者に親権の制限がかかっているほうが問題ではないかといった意識を持ちます。それが1点です。  それからもう1点は,吉田委員のほうから,施設入所中の子供について,親権が止まるということについて,それだと問題が生じないだろうかという御指摘がありました。これは厚生労働省のほうの審議会で御検討いただく問題かと思います。ですから,ここで触れるべき事柄ではないのかもしれませんけれども,一応,制度の前提としては,親の親権は止まっていない。しかし,施設長のほうに権限がある。重複して権限がある状態で,それが矛盾するときには施設長の行った行為が優先する。そういう仕切りで報告書は書きました。それは,吉田委員の御指摘のように,止まってしまうのだということになると抵抗があるだろうから,施設長が行うことと矛盾しない範囲ではそれを行うことができると考えたほうがよろしいのではないかということで考えました。そのようなことで,なお問題は残るのかもしれませんけれども,そういうことが一つあり得るだろうと思っております。 ○平湯委員 先ほどの20歳前の18歳解放という趣旨で私は申し上げたわけではないのであります。個別に救済すべきだろうと。その個別というのが,ただ高年齢の子供になればなるほど,生活を丸ごと親から守らなくても,成人といいますか,社会人としての行動をしていく中でぶつかる課題を解決すれば足りると。つきまといというところになったら,私もこれは全部必要かなと思いますけれども,そうでなくて,その手前の住居の秘匿,これが解決したら,あらかたその子は大丈夫なわけですので,そういう部分があるということを申し上げたいわけです。  それからもう一つ,47条の関係については,ここでも議論していいという前提にしていただきたいと思うのですが,47条に1か条を付け加えるだけで足りるかということはやはりあって,付け加えることによって少なくとも身上監護の全部は施設長が取得するとしても,親の親権との関係はどうなるのかというのは,まだ理論的に私もよく納得し切れないところがあります。施設長の行使する権限というのは民法の親権の一部なのかどうかということもはっきり書く必要があると思うのです。そうしませんと,いろいろな関連の行政法規の中で「親権を行使する者」とか「後見人」とかということが入っているものがいろいろあると思いますけれども,そこのところに該当するのかどうかもきちんと決まらないといけないのではないかと。そういう意味では,別の審議会の主テーマであるとは思いますけれども,民法側が児童福祉法側と両方から適切な条文を持つことによってドッキングするといいますか,そういうイメージの改正が必要なのではないかと思っております。 ○水野委員 一部を制限するという御提案はどういう御趣旨なのか,考えながら伺っていたのですが,一つには,親権といった非常に大切な権利を親権者にできるだけ残したい,制限はできるだけ少しにしたいという御配慮と,それからもう一つは,制限するのは必要な一部だけで足りるし,その必要な部分だけにするほうが将来の統合などにも有効なのだという,この両点を合わせておっしゃられていたように伺いました。そして,それぞれ説得力はありますし,もちろん一定の論拠にはなっているのですけれども,それらの御議論の前提として必要な体制があると思うのです。つまり親子に寄り添って観察していて,制限する一部について的確に判断でき,かつその制限された一部が不都合になった場合には臨機応変に親権制限の限界線を変更すべきだというシグナルを司法に送れるという実務のサポート体制です。  日本の状況は,残念ながらそれとはほど遠い現状にあります。例えば,さきほど吉田先生が,親が文句を言ってきてしまって28条審判が増えるだろうとおっしゃいましたけれども,現在では28条審判を申し立てることの負担,そういう裁判手続をすること自体の負担におびえて,親に言わば迎合しなくては現場が回らない状況です。できるだけ説得して親の同意を得なければ実際にはできない,親が説得されない場合はあきらめてしまうという実務の現状があります。その現状を前提にせざるを得ないのですけれども,そのような前提を徐々にでも変えていかなくてはならないというのが,我々の目指すべき方向なのだろうと思います。  そして,最初に1年間の件数を御指摘いただいたわけですけれども,1年間で全国で25件の親権喪失しかないというのが現状でございまして,先ほど平湯委員からヨーロッパでは全部又は一部という形で出てきているではないかという御意見があったわけですが,例えばフランスですと,人口が日本の半分でいながら年間10万件の親権制限の判決が下りていて,ですから日本で言うと,20万件の判決が下りているという中での一部の制限であるわけです。その一部の制限がどのように担保されているかといいますと,背景の実務がまるで違います。日本の児童相談所のように,申出や通報を待っているというのではなくて,社会福祉のレベルで非常に積極的に家庭の中へ入っていきまして,スクリーニングをかけております。例えば,虫歯の多い子がいたら,これはひょっとすると虐待ではないかということで,虐待の発見のために社会福祉行政が家庭の中へ入っていって,そして虐待が発見されると,裁判所と児童相談所の連携で守られていくということです。親権制限がかかると,絶えず児童相談所はその親を見張っていて,この一部の制限だけでは足りないということになると,電話一本で裁判所に連絡が行って,裁判所から引き離し命令が出ます。今までは見張りつつも親元に置いておいたけれども,これは危ないということになると,直ちに即日引き離し命令が出るのです。様々な機動的なサンクションが裁判所と児童相談所の連携によって担保されている前提のもとでの一部制限ということになります。このように日本とは根源的にシステムが違っているところでの一部制限という問題と処理と違い,日本の現状を前提にしたときに,裁判所で一部にしてしまったら,それはずっと固定化してしまうであろうと思われます。今の25件という数字がフランス並の20万件にそう簡単に増えるはずがないと思いますし,また増えたときに日本の家庭裁判所がそれに対応できるかという問題もあるわけですけれども,できれば社会全体で積極的にかかわっていく方向に舵を切るときに,親権に遠慮して一部制限という決定をすることが,我々の目指す方向により近いのか,より遠いのかということを考えますと,おっしゃることの理念はよく分かるのですけれども,あえて一部ではなくて全部にして,非常に悲惨な状況をもう少し端的に強く止められるということを打ち出していったほうが現実的なのではないかと思います。 ○窪田委員 少し前の話題に戻ってしまうのかもしれませんが,平湯委員のお話,それから磯谷幹事からお話が出た部分で,現在具体的に一部ということの切り分けができないとしても,その可能性を一切封じてしまうわけではなくて,将来的にその可能性を残した制度設計をするべきであるというのは,非常になるほどと思いますし,説得力のある御説明だと思います。その上で,周回遅れといいますか,2周か3周ぐらい遅れているような質問で大変に申し訳ありませんが,そこで特に一部制限を認めるという積極的なイメージを立てる場合の一部のイメージなのですけれども,先ほどからお話を伺っていますと,ある法律行為,特定の法律行為,この法律行為といったレベルでの一部の話と,現在でも管理権が制限される場合があるというイメージで,親権の中で持っている一部の権能が制限されるというものがあるように思います。両者では,随分性格が違うし,判断のプロセスも違うような気がします。違うのではないかというのは,ある一定の権能の有無の議論,制限の議論をするのであれば,その親にその資質があるのかどうかといった形の一般的な問いかけになるでしょうし,ある法律行為が妥当なのかどうなのかというと,当該法律行為が子供にとって有利なのか不利なのかという非常に具体的で内容に立ち入った判断を求められるという点で,その判断の仕方がかなり異なるのではないかという趣旨です。  先ほど古谷幹事から出た問題として,今自立しようとしているのに,携帯電話を認めない,賃貸借をするのを認めない,これはもう自立するという前提があるからということではあったのですけれども,例えば一応一時制限が解かれて元の親のところに帰ったという場合でも,一部制限の規定というのが仮に設けられたとすると,一般的には適用はあり得るわけですね。そうしたときに,その親の親権は否定しないけれども,ある法律行為についての同意や不同意というのは,これはけしからんといった形で言う場合,そこでは,ある種ものすごく内容に立ち入った判断が求められるということになるのだろうと思います。それができるのかどうなのかという問題が一つですし,また,それをさせていいのかどうかという問題があると考えています。つまり,その属性からいって親に一定の権能をゆだねることはできないという判断は仮になし得るとしても,能力としてはあるかもしれないけれども,個別具体的な行為についてこの判断は駄目だというのは,ある意味で非常に具体的な内容について国家が介入していくということになるのだろうと思います。その点で,そもそも前提となっている一部というのが,私が今お話ししたような前提で理解していいのかどうなのかということと,仮にそれが正しいのだとすると,今お話しさせていただいたようなこととの関係でどのように考えたらいいのだろうかということについて,少し御意見を伺えればなと思いました。 ○磯谷幹事 率直に申し上げて,一部の制限を主張する人々といいますか,私も入るのですけれども,その中でもイメージというのは確かに差があるのではないかなと思います。ですから,そのあたりのずれというのは,率直に申し上げて,聞いていらっしゃると感じるかもしれません。しかし,それはそういうものだと御理解いただくほかない。一方で,先ほどおっしゃった,確かに一部というところを具体的な事案に応じて切り分けて制限するのと,特定の法律行為について判断するのとでは,随分違うという話がございまして,それもそのとおりだと思う反面,私はどうしても,自立していく子供たちもかなり年長の子供たちを私はイメージしておりますけれども,そういった子供たちの状況を考えると,要するに問題解決をしたいわけで,その問題解決の方法として,確かにどのようなやり方があるかというのはあるでしょうけれども,思いは,何とか余り争点を広げずに解決したい。そして,ある問題については,この特定のものは,契約について裁判所が同意してくれれば解決しそうであるのならば,それができるのではないか,あるいはこの問題はそういうわけにはいかない,ある程度のカテゴリーの中のものを制限することが望ましいのではないか,これは問題の発生状況によっても違ってくるのだろうと思うので,二者択一のような形ではなくて,いずれも議論の対象にはなるのだろうと思っています。  法律的な位置付けについては,正直申し上げて,学者の先生方にお知恵をいただくほかないんですけれども。 ○小池幹事 磯谷幹事にちょっと質問なのですけれども,先ほど一部というのは,要は審理対象を絞って手続を軽くするほうがいいだろうということをおっしゃったのですけれども,例えばGのケースで,自立した生活ができると,でもこれは大村先生もおっしゃっていましたけれども,いろいろな契約をしなければいけないことだけではなくて,例えば居所指定権を認めないと,意味はないですね。裁判所のほうがその人の自立を支えるために必要な範囲の権限を止める,その範囲の設定は別に申立てに拘束されるわけではなくて,裁判所が最適なものを設定しないと駄目ということになるんですね,これは多分手続的には。そうすると,裁判所の負担がむしろ重くなるようなイメージもあるのですけれども。 ○磯谷幹事 ちょっと正しくお答えできるかわかりませんが,これは現実的には何とかなることも結構あるのです。いろいろな部分でいろいろな工夫において何とかなる部分があるわけです。しかし,どうしても何とかならない部分というのもあるわけです。その場合に問題が生じてくるということになるのです。ですから,今おっしゃった,自立のために必要なという形で最適なということ,そういう制度設計もあるかもしれませんけれども,もうかなり年齢も高くなっていると,そのポイントはかなり絞られてくるということはある。例えば,先ほどつきまといのお話もありましたけれども,実は多いのは,児童養護施設に入って長く時間がたって,もう親とはほとんど没交渉で,親も何も言ってこない。このときに,ある特定の行為について子供がやろうとしたときに,相手方から親権者の同意が必要だと言われる。そこで初めて,しようがないので親に連絡して,これについて同意してほしいと言う。ところが,それについてはなしのつぶてという状況だと,要するにそこさえ何とかしてもらえれば解決するということはあり得ると思います。 ○古谷幹事 何とかなる場合があるという話で,何とかなる場合はあるのかもしれませんけれども,何とかならない場合もあるのだとしたら,仮に今回は携帯電話だけ許可をしたのだけれども,その後また周辺的なことがいろいろ出てきましたというと,それは審理に携わる側あるいは関係者の側としてはかなりロスが大きい話になると思います。行為の性質それ自体から,これはどう見ても許可していいとか許可してはいけないとか判断できるなら,それは簡単にできると思いますけれども,行為そのものはニュートラルで,それを支える人が周りにいるか,あるいは本人がしっかりやっていけるかという判断を迫られるケースは多いと思います。そうすると,仮に最終的には単体の特定の事項を判断するにしても,必ずそれをするためには,平たく言えば,この親に任せておくべきなのかという判断をしなければいけない。そういう判断の構造になるのではないかと思います。そういうときに,たまたまうまくいくのもあるからいいではないかというのも一つのやり方だと思うのですけれども,制度のつくり方として,構造的にそういう判断をくぐらなければいけないのだとしたら,それはある程度包括的なところで判断するやり方も一つの合理的なつくり方ではないかなと私は考えております。 ○平湯委員 今の反論でもないんですけれども,ある程度包括的なくくりをしておかないと,裁判所も関係者も大変だと,物理的に言えばそのとおりです。ただ,そういうものは実は全部の制限を念頭に置いていらっしゃるのか,全部の制限でなくても,比較的広く含んだ部分,一部のほうがふさわしいのではないかという御趣旨でしたら,それもまた分かることなのですが,つまりこういうものがふさわしいというのを今社会が求めているわけで,別にその社会の代弁をしているわけではありませんけれども,社会というか,社会に期待している若者たちの期待ということも含めて,いろいろ,例えばGなりHなりで申し上げている事態に対して,こういう法制度ならいいのではないかというものをこの法制審が示していただきたいというのが,法制審の役目としては決しておかしくはないことではないかと期待しております。  また技術的な特定の問題に戻りますけれども,これはケースによって範囲が違い得るだろうと。例えば,具体的にアパートを決めたときの,このアパートの契約だけということではこれはほとんど使い勝手が悪くて,要するに,例えば養護施設を出て自立しようとしている今現在の話ですから,アパートの居住の契約について承諾なり,そこを認めるということになるでしょうし。それからもう一つ申し上げると,医療ネグレクトのことを申し上げると,あれは一部でなくて全部だとまたおっしゃられるかもしれませんが,医療ネグレクトのときなどには,裁判所は,その決定に書くかどうかは別として,正に審理の対象にしているのは,具体的に,患者についてのこういう手術が必要だと,それについて親が同意していないというところが問題だという認識でやっていらっしゃるのだろうと思うのです。違ったら済みません。そうでないものもあるかもしれませんが,つまり,全部又は一部という法文になっていても,どの程度具体性があり,どの程度抽象的でもいいかというのはケースによって違ってくるだろう。それは仕方がないことで,裁判官によって判断が違うということもありましょうから,そういうものとして受け止めた上で,なおもっとこういう制度がいいのではないかという御意見はいただきたいところだと思っております。 ○進藤関係官 先ほど磯谷幹事がおっしゃったことについての質問になります。今ある状況を解決するために,努力で補っていくものと,どうしても法的手続が必要なものとがあるのだということをおっしゃっていましたけれども,例えば施設を出る段階で親権を一時的にすべて止めることができれば,今まで努力で解決していたところについても努力が不要になり,それが未成年者の監護のためには必要なのではないかという印象を持っています。そうすると,施設を出る段階で何か親権制限をするためには,長期にわたって親権者が監護にかかわろうとしないこと,それを制限の根拠として考えるのかどうかが悩みどころになるのではないかという印象を持っています。実際のニーズとして,施設を出る段階でそういうことが親権制限の根拠になり親権制限ができるようになればもっとよい状況になるのか,全くその必要がないのか,そのあたりのニーズについてお教えいただければと思います。 ○磯谷幹事 大変興味深く聞かせていただきました。子供の立場からしますと,非常に心強いお話だったと思います。ここで本当に,これは研究会のときにもかなり意識したのですけれども,実は親の代理人になっている人がほとんどいない。要するに,親側の立場を代弁する人が,研究会にもいなかったし,多分法制審議会にもいないのかなというところがあるものですから,そういう意味で私自身はかなり子供の立場あるいは児童相談所の立場でずっと活動しているのですけれども,一方で親のことというのもある程度考えなければいけないのではないかとも思うわけで,そういう立場からすると,恐らく親の立場からすると,そのように全部制限されることが一体どうなのかというところはあるかと思います。ただ,子供の立場あるいは児童相談所等の立場からすると,基本的にはそのほうが問題は解決しやすい,つまり全体的に止めていただいたほうが解決しやすいとは思います。いろいろな問題がイタチごっこのように出てくることもございませんし。ただ,そのあたりは確かに今,進藤さんがおっしゃったように,では親権の喪失ないし制限の要件にどのように反映させるのかというところ,あるいはできるのかというところ,そのあたりにも少しかかわってくるのかなと思いました。ありがとうございます。 ○野村部会長 ほかに御発言はいかがでしょうか。 ○森田関係官 先ほど平湯委員からどういう制度ができるのかということを考えるべきではないかというお話があったことに関連してなのですけれども,Gの事案は基本的に先ほど財産管理なり法定代理の問題だといった御指摘もあったかと思いますけれども,現行の835条の要件で拾えるかどうかということは差し当たり別として,こういう事案について,多分管理権を喪失すれば実質的には法定代理権も当然になくなってしまうと思いますので,現行でいう管理権喪失のような形での対応ということは考えられないのでしょうか。それは逆に言うと,いろいろな問題が出てくるではないかということとの関係では,ある程度広く制限しつつ,身上監護のところは親に残るということになると思いますので,その一つの考え方ではないかという気もするのですけれども,いかがでしょうか。 ○平湯委員 私がそう思いますと言っても余り意味がないことだとは思うのですが,管理権全部の制限が必要かどうか,これは親との相当性の関係で,あるいは親との関係で,残せるものはできるだけ残したほうがいいという感覚的な意見にちょっと近いわけです。今の管理権喪失が使えるのなら,もっと部分的なものでも同じではないかとも思いますが,ちょっとその辺は今御発言としてお聞きするだけにしておきます。 ○大村委員 今の点は,事務当局がおっしゃったように,管理権の喪失で対応できる場合というのはあるのだろうと思います。ただ,先ほどから磯谷先生が挙げられているようなケースについて申しますと,これは小池さんが触れられた点ですけれども,居所指定権の問題と職業許可権の問題がありますので,財産管理だけ止めても問題は解決しないという場合も残るのではないかと思います。これはケース・バイ・ケースだと思いますけれども。 ○長委員 問題設定をかなり具体的にされて,それだけ突破できれば子の自立が図られるという形で問題提起をされておられるのですが,子がそういう選択をするという経過を含めてのことの対応をするような役割を担う人が必要ではないかと私は思います。詰めていって,ここだけが残ったのだということだけ解決すればいいという問題設定に私は疑問を持つものですから,部分的制限ということに対する検討について,先ほど来出ているような問題設定だけではないのではないか,そのように私は今の段階では考えています。もう少し考えてみなくてはいけないと思うのですれども。 ○野村部会長 ほかに御発言はいかがでしょうか。 ○窪田委員 先ほどの発言と重なるかもしれませんが,磯谷幹事から先ほど出た,親の立場を代弁する見解も必要ではないかということでしたが,多分実際に制度設計していく上ではそれを考えていく必要があるのだろうと思います。ただ,私は先ほど申し上げましたように,一定の適性を欠くので親権が行使できない,あるいは一定の対応の権限を持つことができないという判断をするのは,親に対する一つの判断なのだろうと思いますが,「親権はある。しかしその上で,あなたのこの判断は適当でない」ということで個別に介入するというのは,ある意味で親の立場からそのように緩やかな制度を残したという言い方もできるのかもしれないけれども,逆に言うと,公的な判断が大変に強く介入していくものだという評価もできるのではないかと思いました。これはもちろん見方の問題ということですので,どちらから見るかによってがらっと見え方が違うということなのかもしれません。ただ,そのことを踏まえた上で,もう1点,先ほど平湯委員から出たお話ですが,医療ネグレクトはむしろここに該当するのではないかということで,そうなのかなという気はします。国によっては,一時制限という形ではなくて,裁判所の言わば代諾といった形で一定の場合に解決するというものがありますから,正しく親は同意しないけれども,裁判所が同意することによって問題が解決するというのをこのタイプに入れるというのは,多分制度設計としてあり得るのだろうと思います。ただ,一方で,それを支えているのは何なのかというと,そこでは子供の生命・身体にかかわるという形で非常に強い法益保護の要請があって,それを踏まえた上で個別の親の判断に対する介入というのが正当化されているのではないかという気がします。それと,携帯電話を契約するかどうか,賃貸借をするかどうか,あるいはこの会社に勤めるかどうかというのは,同じレベルで法秩序が介入することが正当化できるのかなというと,やはり少し違うのかなという気もいたしました。医療ネグレクトを仮にここに位置付けることが可能だとしても,そういった区別はあり得るのではないかなと思いましたので,意見として申し上げさせていただきたいと思います。 ○吉田委員 私のほうで教えていただきたいところがあるのですけれども,個別で介入できる場面を特定するのが難しい,判断が難しいということですけれども,例えば保佐の場合や補助の場合も個別にございますね。これは財産権の問題であるから,判断は容易である。ところが,この場合には身上監護にかかわり,非常に価値観も多様であるから,判断が難しいということなのかどうか。これがまず一つ。  それからもう一つ,報告書のほうには接近禁止のところで出ていますけれども,これは相模原支審ですか,766条の類推適用をもって接近禁止ができるだろうということが報告書の49ページに挙がっていますけれども,その場合の判断は,子供に会わせることが不適切であるという判断ですね。そうすると,例えば親がつきまとうとか,高校の退学届の問題とか,子供の生き方にかかわる問題に踏み込んでいるのではないだろうか。とすると,どこが違うのか,どこが難しいのかというのがどうもよく見えないんですけれども,このあたりはいかがでしょうか。 ○大村委員 766条の話は,前提について少し議論する必要があると思いますので,今はお答えできません。その前におっしゃった点,保佐や補助の話ですけれども,これは実は,先ほどから挙がっている特定の法律行為について,同意に代わる許可みたいなものを出すということは考えられるのではないかと思います。今は一部制限と言っているものを保佐・補助並びでやっていくということは一般論としては考えられるでしょう。ただ,保佐や補助でそれが正当化されているのは,保佐や補助に付されている人たちの行為能力というのはかなりの程度高いという前提に立っているからだと思います。それにもかかわらず保佐人や補助人が同意しないという状況が問題ではないかということなので,未成年者についても,それと同じような人たちを切り出すということならば,そしてそれは制度としては考えられない制度ではないと思いますけれども,同様に考えることは可能かもしれません。それは先ほどちょっと申し上げましたけれども,18歳以上の人について特別な扱いをするといった制度と通じてくるような制度になるのではないかと思います。 ○松原委員 ここでの議論が虐待対応中心にどうしてもなるので,そっちかなと……。ただ,この法改正を考えたときに,それが親権全体に及ぶとなると,先ほど来出ている携帯電話の契約うんぬんについても,磯谷幹事と平湯委員とでは一般家庭については随分考え方が違うのです。先ほど磯谷幹事は,施設に入っている子はともかく,一般家庭についてはこれは養育の問題だから余り立ち入るべきではないというお立場だったし,平湯委員は,そこにも入ってもいいのではないかという御発言だったと思うので,随分考え方が違うなという感想を持っていて,だとすると,虐待案件について親権の一部制限というのを特定できるような制度設計ができないならば,ここは相当裁判所でも悩まれてしまうのではないかなと思います。それで,仮に虐待案件に絞るような形にした場合,それを法制度上設計できるかどうかという一つの問題が出てくると思います。それから,もちろんこれは皆さん御存じだと思いますが,虐待ケースの場合はいろいろなものが重複して出てくる。五月雨的にという御発言もありましたけれども,本当に一つの案件が片づいても,今度はこれが気に入らないとか,こっちはいいけれども,こっちは気に入らない,同意しないとかという問題が出てきてしまうので,それを個別案件ごとにやっていくことで本当に子の福祉になるかどうかなというのは,現場を少し端で見ている私としてはどうかなと思うので,その辺を踏まえないとこの一部停止の議論はできないかなと思いました。 ○平湯委員 私は一般家庭のことは言っていません。 ○松原委員 では先ほどちょっと私が聞き間違ったのかもしれませんが,平湯委員は,親が例えば携帯電話を認めないで,子供が携帯電話を持たせて欲しいという事案についても,扱ってもよいのではないかという御発言をされたように聞きました。随分そこは違うなと思いましたけれども。 ○森田関係官 今の松原委員の御指摘は,平湯委員がどういう御意見かということは別として,重要な御指摘だと思っているのですけれども,窪田委員がおっしゃったような個別の行為について具体的な内容を判断するという制度を仮につくったとしても,自立しようとしている子に限ってそのような対応をすべきだという御意見だとすると,自立しようとしていることが正当化されるというか,裁判所としてなり国家としてそれでいいという判断をその前提問題としてしなければならないということは避けられないのではないかなと思います。もしそうであるとすると,まずそこを判断する段階でピンポイントの問題とはなり得なくなって,その行為が親権者とどのようなかかわりを持ってきて,正に自立することがいいのかどうかという判断をした上で,何を止めますかという次の問題になると思いますので,そういう意味では,一部に限ることによって審理が速くなるとか,問題点が小さくなるとか,そういうことにはならないのではないかと。逆にそれを求めると,今,松原委員がおっしゃったとおり,一般家庭で,高校を卒業するときに,遠くの大学に行くのかどうかという問題にも規定としてかかってきてしまうことになってしまうのではないか。そのようなことを考えておりまして,そのあたりをちょっとまた議論いただければと思っていたところでございます。 ○平湯委員 子供の利益,子供の福祉を害するかどうかの判断の中に今おっしゃったものは入ってくると,これはちょっと繰り返しみたいになりまして,済みませんけれども,それは裁判所の役割としては避けられないと思います。 ○松原委員 それは一般家庭も含めての御発言ですか。 ○平湯委員 一般家庭は除くといった制度設計はできないと思いますから,親権者の親権の行使が子供の利益を害するかどうかということです。 ○松原委員 そうすると,先ほどの携帯電話のお話もそういうことになりますが,そこまで国が関与していいかどうかというのは僕は疑問ですけれども。 ○平湯委員 いや,結論が却下ということだってあり得るわけですよ。という意味ですけれども。 ○古谷幹事 平湯委員の趣旨を外しているかも分からないんですけれども,自立が一つの大事な価値であるというのは,私もそのとおりだと思います。子供の福祉なり幸福なりを考えるとき,その子の自立というのが大事だというのは,全くそのとおりなのですけれども,基本的に言うと,虐待とかそういったことが問題にはなっていない局面で,自立がどれぐらい大事で,何がいいかというのは,一次的には家庭の判断にゆだねるべきなのではないかという意見を持っていまして,そこまで家裁が入っていくというのは,大変とか手間とかというより,もっと原理的にそこまで国が入っていくというのはどうかという疑問を抱きました。 ○平湯委員 このように申し上げたら御理解いただけるでしょうか。実際上,自立を妨げていると本人も思え,社会の支援する側も思えるようなケースというのは,例えば養護施設を出た子供,それまで親子のかかわりがなかったような子供,あるいは形だけあってももう家出をしてきたような子供,そういう子供が現実に抱えているニーズを申し上げているということです。 ○野村部会長 それでは,本日はこれでよろしいでしょうか。  実は,次回なのですけれども,大村委員が御欠席になるということで,是非この場で発言をしたいということですので,お願いします。 ○大村委員 お時間をとって申し訳ございません。次回欠席させていただきますので,次回の話題にかかわることについて1点だけあらかじめ申し述べたいと思います。  次回は,本日議論しました一部制限や一時制限という具体的な制度とは別に,親権の行使についての基本的な考え方をどうするのか−−基本的な考え方をどうするかというのはそれ自体は決まっていて,「子の利益に従って」ということになるわけですけれども,このことを民法の中に書き込むかどうかということが話題にすることが予定されているかと思います。  私は,具体的な法制度を改正するということは非常に重要なことだと思いますけれども,同時に,基本的な考え方を基本法典である民法典の中に書き込んでいくということも併せて考える必要があるのではないかと思っております。ですから,親権の行使について基本的な考え方を示す規定を置くということが検討されてよろしいのではないかと思っております。ただ,この点については,既に児童虐待防止法の中にかなりの程度まで書き込まれているという事情がございます。これは御案内の方々が多いかと思いますけれども,児童虐待防止法4条6項には,「児童の親権を行う者は,児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を有するものであって,親権を行うに当たっては,できる限り児童の利益を尊重するよう努めなければならない」という規定が置かれているところでございます。あるいは14条には,児童のしつけについて親権を適切に行使すべしという規定とか,15条には,親権喪失の制度について,児童保護の観点から運用すべしといったことが書き込まれておりまして,これらはすべて親権にかかわる規定かと思います。しつけあるいは懲戒権について何か規定を置くか,あるいは削除するかといった問題はまた別途あるかと思いますけれども,それは後日検討することとして,基本原則に限って申しますと,児童虐待防止法4条6項に書かれていることは,むしろ民法典に書かれるべき事柄なのではないかと思っております。立法の経過の中で,児童虐待防止法4条6項に書き込むという選択がとられて今日に至っているわけですけれども,これが実定法になったことによって,親権の行使についてはこのような理念があるのだということは既に示されている。この既に示されているものを民法典に書くということが望まれるのではないかと思います。  ただ,そうなりますと,児童虐待防止法に書いてあることを民法にもう一度書くのかという法制上の問題が出てまいります。ここのところについてどう考えるのかというところが問題になります。幾つかの選択肢があるのではないかと思ってはおります。その選択肢ですけれども,一つには,児童虐待防止法と重複しても構わないという考え方を採るというのもあり得る考え方だろうと思います。民法で言っていることを児童虐待防止法は受けて,これを確認し,児童虐待防止法につなげていくといった立法は,あり得ない立法ではないだろうと思います。憲法24条2項に個人の尊厳と両性の本質的平等という価値が書き込まれた。それを受けて同じ文言が民法2条や家事審判法1条に原理として書き込まれているといったことがあります。若干工夫は必要ではありますけれども,そうしたことはやってやれないことではないと思います。そのときに,完全に重複してもよいということではなくて,重点に差があるのだといった仕分けをするということも可能だろうと思います。  あるいは,全く同じ規定だということになると,民法に規定があれば,児童虐待防止法の規定は要らないという考え方も出てくると思いますけれども,これは児童虐待防止法の問題ですので,そこについて今は立ち入りません。  今申し上げたように,一定程度は重複しても構わないという形で立法するということも考えられるでしょうけれども,他方,法制上重複は避けたいということであるとすると,重複を避けるような規定を工夫するということも考えられるのではないかと思います。先ほど読み上げました児童虐待防止法4条6項は,「児童の親権を行う者は,児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を有するものであって,親権を行うに当たっては,できる限り児童の利益を尊重するよう努めなければならない」ということで,これは括弧付きの言い方でいいますと,主として「身上監護」にかかわるような状況を想定して,児童虐待との関係で親権の行使の仕方についての原則を定めている。そう考えるとすると,民法典のほうは,およそ親権一般についてその親権を行使する際の原理を書き込むということで,その一部を児童虐待防止法で更に特定して書いていると整理することも考えられるかと思います。  このあたりは様々な法制上の手当てが考えられるかと思いますけれども,また最終的にそれは無理だという御判断もあろうかと思いますけれども,少なくとも最初の段階では原則規定を書き込むという方向で工夫してみたらいかがかというのが,私の意見でございます。 ○野村部会長 どうもありがとうございました。  それでは,今の御意見についていろいろ御意見はあろうかと思いますけれども,これは次回にここで取り上げるということですので,次回に御発言いただければと思います。  それでは,次回の日程について事務当局からお願いいたします。 ○飛澤幹事 次回の関係ですけれども,第3回会議は6月4日1時30分から,部屋は法務省第1会議室,第1回をやった場所に戻ります。よろしくお願いいたします。 ○野村部会長 どうもありがとうございました。  それでは,これで本日は閉会としたいと思います。どうも熱心な御討議をありがとうございました。 −了−