法制審議会民法(債権関係)部会 第8回会議 議事録 第1 日 時  平成22年4月27日(火)  自 午後1時30分                        至 午後6時01分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第8回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。    (委員の異動紹介につき省略)   配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 お手元の資料について御確認いただきたいと思います。事前送付資料ですが,部会資料10−1と10−2を事前にお届けいたしました。この資料については,後ほど関係官の松尾から説明をいたします。   そのほか,委員等提供資料として,公益社団法人経済同友会の「民法(債権関係)改正に関する意見書−より良い経済社会の基盤となる債権法の実現に向けた国民的議論を−」と題する書面を御提供いただいております。債権法改正の意義や改正内容,それから審議の進め方について,広報活動に努め,国民的コンセンサスを醸成していく必要があるといった御指摘をいただいております。詳しい内容はお読みください。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議に入りたいと存じます。   本日は,民法(債権)関係の改正に関する検討事項(5)について御審議いただく予定です。具体的な進行予定といたしましては,休憩前に部会資料10−1の「第1 弁済」を御審議いただくことを予定いたしております。その後,休憩を挟みまして「第2 相殺」以降を御審議いただきたいと思います。   休憩前に御審議いただく「第1 弁済」につきましては,大きく三つの塊に分けて御審議いただくことを予定いたしております。一つ目が「1 総論」から「4 弁済として引き渡した物の取戻し」まで,資料の1ページと2ページでございます。次に,二つ目が「5 債権者以外の第三者に対する弁済」から「10 弁済の目的物の供託」まで,資料10−1の2ページから7ページまででございます。最後に三つ目が「11 弁済による代位」,8ページから11ページまででございます。時間が限られておりますけれども,よろしく御協力のほどをお願いいたします。   まず,「第1 弁済」のうち,「1 総論」から「4 弁済として引き渡した物の取戻し」までについて御審議いただきます。事務当局に説明してもらいます。 ○松尾関係官 部会資料10−1と10−2の関係についてですが,10−1が主たる部会資料であり,10−2がこれに詳細な説明を付け加えた補助的資料であることはこれまでと同様です。この場でも基本的には10−1に沿って御議論いただきたいと考えております。   「1 総論」を冒頭に設けました趣旨は前回までと同様です。弁済の見直しに当たって留意すべき点について,幅広く御議論いただきたいと考えております。また,2以降に掲げました個別論点のほかにも検討すべき論点がございましたら,ここで御指摘いただきたいと思います。   「2 弁済の効果」ですが,弁済によって債権が消滅することは,民法上の最も基本的なルールの一つですが,そのことを明示する規定は置かれていません。このような基本的なルールは条文上,できる限り,明確にすべきであるという考え方がありますので,そのような方向性で検討することの是非について,御意見をいただきたいと考えております。   「3 第三者による弁済」ですが,第三者による弁済が認められる者と法定代位が認められる者との関係については,文言を使い分ける必要はなく,弁済をするについて正当な利益を有する者という表現を,債務者の意思に反しても弁済できる第三者の範囲を画する場面でも,用いるべきとすべきという提案がされています。「(1)「利害関係」と「正当な利益」の関係」では,このように文言を整理することにより,両者の関係を明確化するという方向性について,御意見をお願いするものです。また,現行民法上,利害関係を有しない第三者による弁済が債務者の意思に反する場合には,当該弁済は無効とされるため,債権者は受領した給付物の返還をしなければならないという不利益を負うことになりますが,第三者による弁済が債務者の意思に反するか否かを知らずに,債権者が弁済を受領してしまった場合にも,当該債権者がこのような不利益を甘受しなければならないのは疑問であると指摘されています。このような指摘を踏まえ,利害関係を有しない第三者による債務者の意思に反する弁済を有効とした上で,現行法が第三者による弁済を制限している趣旨であるとされる債務者の保護という観点から,当該弁済をした第三者は,求償権を取得しないこととする提案がされています。「(2)利害関係を有しない第三者による弁済」では,このような提案の採否について御議論をお願いいたします。   最後に,「4 弁済として引き渡した物の取戻し」では,民法第476条の規定はその存在意義に乏しい等の指摘があることから,これを削除すべきか否かということを問題提起いたしました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明がありました部分のうち,まず,「1 総論」について御意見をお伺いいたします。 ○松岡委員 ここだけに関する問題ではないのですが,前回までは比較的考え方をどうするかという話が中心になっていたのに対して,今回は特に文言をどうするかも議論になっておりますので文言についてと,それに加えて条文の配列について,合わせて2つの点につき,発言させていただきたいと思います。   まず,文言の方ですが,文言が分かりにくいために趣旨が非常に分かりにくくなっている条文は,特に弁済あたりで少なくありません。こういう条文の文言をどこまでこの審議会で議論するのかが気になっています。前回までの議論はむしろ改正の方向性なり考え方を議論していましたが,その場合にも,最終的には文言をどうするかを議論せざるを得ません。会議の1回目に私が発言し,筒井幹事からお答えをいただいたところですが,できるだけ文言についてもこの部会では審議するという方針が提示されています。   ただ,一方で,今回まで会議でも既に積み残しが出ていますし,第2ラウンドにおいて,どこまで,どういう形で文言について議論することができるのかについては,時間との関係もあって,不安を感じます。しかし,今回の改正が特に国民に分かりやすいというのを1つの柱に挙げ,具体的な文言がどうかも検討する必要があるという改正であるだけに,すべて法務省や内閣法制局などの条文起案のプロにお任せという話にはやはりならないだろうと思います。   そうだとすると,第2ラウンドにおいて,どういう形でこれを議論するのかは,今から方針をお考えいただいておいて,かつ,それはパブリックコメントの際にも,こういうやり方で第2ラウンドでは検討する予定であるとお示しいただいておく必要があるのではないかと思います。これが文言に関する1つ目の発言です。   もう1つは条文配列についてです。弁済のところの規定が非常に象徴的なのですが,現行民法の規定は,必ずしも分かりやすい条文配列にはなっていません。むしろ,第三者の弁済という極めてアブノーマルな場合の規律が最初に来て,その後の規定の配列も一体,どういう順番で並べられているのか,方針がよく分かりません。今日,取り上げていただいている供託の規定も,同様です。   また,これも今回,取り上げてはいただいておりますが,弁済充当の規定は数箇条に分かれていて,その数箇条の関係がよく分からないという問題があり,改正によって規律の内容を詳しくするだけが能があるわけではなく,場合によっては一つの条文に簡潔な形でまとめることも必要です。逆に,例えば501条について申しますと,代位の効果という基本的な効果と,代位権者相互の関係という異質の内容が一つの条文に同居していて,やはり分かりにくい条文になっています。   さらに,これも今回,取り上げていただきますが,供託も2004年改正前はそもそも弁済の款の中に置かれていて,2004年の現代用語化の際に目に格上げされたのですが,通常,供託は,弁済,代物弁済,相殺,更改,免除,混同と並んで,債権消滅原因の1つとして挙げられていて,弁済とは別もので,弁済の下位項目とは普通は考えられていません。こうした問題点を条文配列を工夫することによって,体系化する,あるいは見通しをよくすることは,分かりやすくする改正にとっては極めて重要だと思います。ただ,これもまたどのレベルで,どう議論するのか,先ほどの文言の問題と同じく,お考えいただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○筒井幹事 重要な御指摘をいただいたと受け止めております。今,それに対する答えが用意できているわけではありませんが,十分に受け止めて,今後の審議の進め方をよく考えていきたいと思っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに何かございますでしょうか。   それでは,2から4まで一括して御意見をいただきたいと思います。 ○鹿野幹事 2ページの(2)のところの,「利害関係を有しない第三者による弁済」についてでございます。先ほど御説明がありましたように債権者に生じ得る不利益ということを考えますと,債務者の意思に反する弁済であってもそれを弁済として有効とするということについては,一応賛成したいと思います。しかし,その場合に求償権を否定するということは,私には分かりかねます。   第三者が実質的に贈与の意思を持って弁済をするという場合であれば,求償権は否定してよいということになろうかと思いますけれども,第三者が必ずしも贈与の意思を持っているとは限りません。また,法律上は正当な利害関係を有するとは言えなくても,事実上の利害関係を有するがために払いたいという第三者もいるのではないかと思うのです。そのときに,自分は求償しなくてもよいという意思で,つまり贈与のような意思で第三者弁済をするとは限らないと思います。   それから,他の規律との整合性という観点からもこの点は疑問です。法律上の利害関係を有しない第三者による弁済は,実質的には事務管理ないし不当利得の問題に当たると思うのですけれども,それらの規律では本人の意思に反する場合であっても,現存利益において償還ないし返還の請求ができる可能性があります。また,第三者は主たる債務者の意思に反しても保証人になることができ,そして,保証人になった場合には主たる債務者の意思に反して弁済をすることができ,その場合も現存利益の限度では求償ができることになっていると思います。このような制度を併せて見直すということであれば,その是非につき改めて検討しなければいけないと思いますけれども,もし,それらの規定はそのままでということであれば,それらの規定との均衡ないし整合性ということからしても,ここで求償権を一切否定してしまうということはいかがなものかと疑問を感じます。 ○鎌田部会長 ただいまの点につきまして何か御意見は。 ○深山幹事 御指摘の点について,事実上の利害関係を有する人のことをイメージをされて,そういう人が払った場合に確かに利得は発生するので,求償ということは合理性はあるんですけれども,そもそも法律上の利害関係はないけれども,事実上の利害関係はあるという場合というのが一体どういう場合なのかなとの疑問があります。そもそも利害関係という言葉の意味合いに,どのくらいの柔軟性を考えるかによっても違ってくると思うんですが,つまり,利害関係という概念を広目にとらえれば,あるいはそこで想定されているような人も,そこに入ってきてしまうような気もするのでお尋ねするんですが,贈与の意思はないけれども,そうではなくて何らかの,今のお言葉を使わせていただければ事実上の利害関係があるので,弁済を第三者がしたいという,その第三者というのはどういう立場の人たちを想定しているのか,それが見えないと,どうも御意見に対する評価がごもっともなのか,どうなのかということの判断がつきかねるので,ちょっと具体例を教えていただければと思うんですが。 ○鹿野幹事 例えば関連会社などがそれに当たるかもしれません。あるいは個人の場合でも,親類でごく近しい者,例えば父親が息子の債務を払ってあげるというような場合には,贈与の意思があることが多いのかもしれませんけれども,もう少し遠い親戚で,この一族の中から,債務を踏み倒してブラックリストに載るような不名誉な人物を出すわけにはいかないというような考慮が働く場合もあるかもしれません。いろいろなケースがあり得るとは思いますけれども,今,すぐに思いついたのは以上です。 ○深山幹事 そうであるとすると,求償権を権利として認めるかどうかということを考えるときに,必ずしも権利として求償権を認めなくても,例えば今の例の遠い親戚のようなことであれば,話合いの中で事実上,後で戻しますというようなことは想定できるような気がして,権利として求償権を第三者弁済した第三者に認めなければならない場合というのが,よく分かりません。突然お尋ねしたのでいい例でなかったのかもしれなかったんですが,今,お聞きした限りでは,どうもこういう人の場合には事実上の利害関係があり,なおかつ,権利としての求償権を認めなければならないという第三者に当たらないようにも思え,そのようにフィットする例がいま一つ思い浮かばないなという気がいたしましたが,とりあえずはお答えいただきましたので結構です。 ○鹿野幹事 先ほどの例が最も適切かどうかかは分かりませんが,例えば関連会社による弁済の場合にも,法律上求償権を否定した場合,うまく話合いがつくことになるのだろうかと思います。求償権が権利としてはあるけれども,場合によっては当事者間の話合いで自分は請求しないとなるのであれば,それはそれでよいと思うのですけれども,デフォルトが逆で,求償権を権利としては一切否定するところからスタートするのが,果たしてよい解決を導くことになるのか,私には疑問です。 ○松岡委員 私も先ほど鹿野幹事が最初におっしゃったように,利害関係のない第三者の弁済の場合にも,事務管理や不当利得を根拠に,現行の解釈では多分求償権が認められると理解されていて,それとの関係がどう整合するのか問題です。デフォルトとしては求償権があるという方が,やはり筋が通っているのだろうと思います。 ○鎌田部会長 今の点について御意見はどなたかございますでしょうか。 ○道垣内幹事 これの求償権を否定するという考え方というのは,結局,債権譲渡をどう考えるのかという問題と密接に結びついているわけであって,つまり,第三者弁済をすることによって,債務者に対して権利を持つ人が自動的に変わるわけですが,債権譲渡の場合にはそもそも譲渡禁止特約というのもありますし,さらには少なくとも債権者の意思が入った形で譲渡がなされるというのに対して,利害関係を有しない第三者による弁済で,とりわけ債務者の意思に反するという場合には,強制的な債権譲渡という効果を生ぜしめるのがいいのかという問題が多分あるのだろうと思います。だから,私は鹿野さんと逆の話で,というのは,贈与の意思があるから求償権が発生しないのかという話ではなくて,やはり求償権が発生するには何らかの別個の根拠が必要で,そうしないとやはり債権譲渡法制との関係での齟齬が生じるのではないかという気がします。これが第1点です。   第2点といたしまして,事務管理や不当利得との関係というのは重要な話なのですけれども,事務管理や不当利得の効果として発生するということが,ここでその求償権を否定することによって,当然に否定されるのかどうかというのは分からないと思います。しかしながら,事務管理には事務管理の要件があって,それで認められるわけであって,それというのはある種,強制的に自分の知らぬところで費用が支出されて,費用の償還ないしは有益費の償還というのを,義務というのを負わされることが強制的に生じてしまうというのを一定程度認めているわけですけれども,そこの価値判断が,そこの事務管理法制の検討によってなされるときに,その範囲においては,事務管理としての有益費償還請求権はあるとすることは,別に矛盾ではないような気がいたします。もちろん,個人的にはこっち側で否定したら,事務管理も否定した方が筋はいいような気がしますけれども,事務管理で認められるから,ここで求償権を規定しておかなければならないという論理にはならないのではないかという気がいたします。 ○岡田委員 大変レベルが低くなるかもしれませんが,私は利害関係がない第三者が債務者の意思に反して弁済をするというと,やはり貸金のことを考えてしまいます。突然,関係のない人間が途中から入ってきてお金を払っちゃったというと,その後の求償というのが過酷にならないという保証はないので,その意味では,求償できないとやって頂かないと,困ります。 ○鹿野幹事 先ほど道垣内幹事が御指摘になったように,私も,債権譲渡におけるルールを潜脱するような形で第三者弁済が機能することになるかもしれないという心配があって,求償権を否定するという御提案がされたのだろうとも思いました。しかし,債権譲渡については,債権譲渡一般ができないということではなく,むしろ債権は債権者の意思により自由に譲渡ができるのが原則で,例外的に譲渡禁止特約がついている場合になされた譲渡の効力がどうなるのかという話になるわけです。ですから,債権譲渡との整合性ということを考えるのであれば,譲渡禁止特約が付いているような債権について第三者弁済の取扱いをどうするのか,という形での問題を立てることは考えられるかもしれませんが,第三者弁済が行われ,それが債務者の意思に反していると主張された場合に,弁済自体は有効で債務者がそれにより利益を受けているにもかかわらず,およそ求償権が否定されるということには,直ちにつながらないのではないかと思います。   それから,もう一つ,求償権をここで否定して,場合によっては不当利得あるいは事務管理の一般規定で請求し得る可能性があるというような御示唆もありましたが,その点も疑問です。求償権についてここで規定を置かないということであれば,一般法理に委ねるということに結びつくと思うのですけれども,仮にここで明示的に求償権を否定するという条文を設けた場合には,その意味は,不当利得や事務管理による請求もできないとしてその適用を排除する趣旨と解されるでしょうし,もしその趣旨でないとすれば,わざわざここに求償権否定の規定を置く必要はないと思うのですが,いかがでしょうか。 ○松本委員 道垣内幹事の御指摘から少し考えたんですが,この議論をするときに,債権譲渡とか保証であれば,債務者の意思に反してでも事実上,同じことができるではないか。そうであれば,第三者弁済についてもそのようにした方がいいという流れがあるわけですが,他方で,債権譲渡であれば,債権者と第三者との間で譲渡の合意があるわけです。債権者として,それでいいと言っている。それから,債務者の意に反して保証人になって弁済をするというのも,保証契約だから,基本的には債権者と第三者との間でまず合意があって弁済が行われている。つまり,債権者の意思に反していないということが少なくとも大前提にあるわけですが,ここで第三者弁済については,弁済なんだから,債権者の意思に反していようが,反していまいが,債務を履行するのは当然であって,言わば第三者も債務を履行する権利があるというような感じになってきます。債権者の側から見れば,債権者の意思的関与も債務者の意思的関与もいずれもないにもかかわらず,第三者が弁済を提供しているのに受領しないと,受領遅滞だというような話にもなってくるのではないかという気がするんです。   従来……。 ○鎌田部会長 そうはならないとは考えられないですか。これは債務の本旨に従った弁済ではありませんから,債権者は別に受領する必要も何もない,それを受領するというのは一定の意思的な関与をしている。その限度の意思では足りないということなのではないですか。 ○松本委員 私は必ずしも理解できないですが,金銭債務ですから,だれが履行したって同じでしょう。 ○鎌田部会長 経済的にはね。私は受領を拒絶しても遅滞にならないと考えたいんですけれども,受領遅滞にならざるをえませんか。 ○松本委員 債務の本旨というのは,金銭債務でしょうから,だれが履行したって同じだと思うんです。求償できるかだとか,ほかの効果が変わってくる可能性はありますが,単に債権が満足されて消滅するという局面では同じではないですか。だれが履行したかによって違わないような債務であれば,当然,そうでしょうから。 ○鎌田部会長 分かりました。受領段階で債権者の意思を関与させるのは無理ということですね。それを前提にして続けてください。 ○松本委員 債権者が第三者からの弁済を債務の弁済として受領するならば,債権者の意思的関与を認めることができますが,受領を拒絶すると受領遅滞となるのだとすれば,債権者の意思的関与なしに,受領をしないと不利益を受ける状態に追い込まれることになります。つまり,債権譲渡や保証と同じかというと,第三者による弁済では,第三者の意思だけで債権が強制譲渡されることになるのではないかという道垣内幹事の意見にそこでつながるわけで,その点が重要ではないかということを言いたいわけです。 ○山本(敬)幹事 少し角度が違いますが,これはどうなるかという点について,もしお答えがあればお聞かせいただきたければと思います。これは,最初に鹿野幹事が少し示唆された点ともかかわります。  この利害関係を有しない第三者による弁済について,債務者の意思に反した場合にも有効とした上で,この場合における弁済は債務者に対する求償権を取得しないこととすべきであるという考え方は,詳細版の4ページを見ますと,先ほども少し出ていましたように,「過酷な求償権の行使からの債務者の保護については,利害関係を有しないのに弁済をした者は求償権を取得しないとすることにより図る」という考慮に基づくものだとされています。しかし,同じ詳細版の4ページでは,それに続けて,「この考え方を採った場合においても,利害関係を有しない第三者は,弁済に先立って債権者との間で保証契約を締結することにより,委託を受けない保証人の弁済として債務者に対する求償権を取得することが可能である」としています。   私が少し気になりますのは,もともと「利害関係を有しない第三者」が「債務者の意思に反」して直ちに弁済したときと,債務者の委託もなしに保証契約を締結してから弁済することとの間に,どうしてこのような違いがあるのかということです。どちらも債務者の意思に反して弁済に相当する行為が行われるのに,一方では,弁済者は債務者に対する求償権を取得できないが,他方では取得できるとする。この区別を説明する理由は,どう説明すればよろしいのでしょうか。  仮に区別する理由がないとしますと,ここで,利害関係を有しない第三者が債務者の意思に反して弁済した場合に,債務者に対して求償権を取得しないというルールを採用すれば,委託を受けない保証人に関するルールも見直す必要が出てくる可能性もありますが,もしそうする必要はないという理由があれば,それをお教えいただければ参考になるのですが,いかがでしょうか。 ○沖野幹事 そのお答えになるかどうか分からないのですが,むしろ,私は逆に考えております。保証や債権譲渡で債権者の積極的な関与があるならばできることが,同様になぜできないのかという観点で見るのか,それともむしろそれらがあるので,やるとしたらそちらでやるべきだと。したがって,第三者弁済で,債権債務関係の債権者・債務者いずれの当事者も積極的なイニシアチブを取らない中で,利害関係のない者によるこのような形の関与を認める必要はないという,そういう考え方もあると思っております。   では,なぜ,そちらの方がむしろよいのかということなのですけれども,事象としては,保証等債権者の同意を得て行うというのは,松本委員の提起された問題がありますけれども,債権者の弁済受領は債権者が消極的に関与し,あるいは同意していると見うるので,実質,同じではないかという指摘は確かにあると思います。しかし,債務者の意思に反する場合にも債権者の利益への配慮から第三者を通じた実現の確保の制度を用意するとして,その法律関係ということを考えますと,保証ですとか,債権譲渡については,実質的に債権者の交替をもたらすということを含め,その後,それぞれの関係がどうなるのかについて明確な規律があり,しかも,その入口のところで債権者との間の契約という形での債権者の関与があるというものです。独自の正当な利益のない第三者が債務者の意思に反して関与する場合には,そういう方法こそきちんと利用すべきで,そうでないものであるならば,むしろ求償権がないということにして,もちろん,当事者で合意をするならば別ですから,それは逆に積極的に債権者との合意ですとか,あるいは債務者の了承というのを取ってやるべきだという,そちらの方が望ましいという考え方が背後にあると理解しております。そして,私自身は,そちらの方がよろしいのではないかと考えているところです。 ○高須幹事 理論的な議論が尽くされている中で,実例を申し上げるようで申し訳ないのですが,現実にやらせていただいた事件の中で,離婚した御夫婦で奥さんが元御主人の方に多額の慰謝料債権を持っているというケースがありました。元御主人は生活能力がなくて慰謝料を払わないでいるけれども,親からの相続でマンションを持っていました。そのとき,そのマンションを買いたいという不動産業者が奥さんに慰謝料債権を支払いまして,それで元御主人に対し求償権を行使したというものです。   現行法ではもちろん債務者の意思に反しているのではないかと思うんですが,その辺は本人は法律に詳しくないものですから,私が立て替えましたから払ってください,払えないならマンションを売りませんかみたいな,そういう話に元御主人は見事に乗っかってしまって,不動産業者に売ってしまってから私のところに相談に来たというケースです。やはり,今,御指摘があったように,その奥さんも債権譲渡してくれとか,保証人になりますよというところだと,少しちゅうちょしたのかもしれないんですが,目の前にお金を持ってきて,奥さんがかわいそうだから払いますよと言われたので受け取ってしまった,そういうケースが確かにあるのではないかと思います。   ですから,今回,議論になっている,やはり単なる弁済の場合にどこかで債務者の意思,あるいは遠いところでは債権者の意思にも絡んでくるのかもしれないのですが,そこはやはり尊重して,求償権は一応遮断するというルールをつくるというのも,合理性があるのではないかと,そのように考えております。 ○鹿野幹事 保証の制度があるから,そちらの手続きを踏めばいいではないかというご指摘がありました。そして,実際,現在でも例えば銀行などが第三者弁済を受けるときには,その第三者との間で保証契約を締結し,その上で保証人として払ってもらうという方法が採られているとも聞きます。   そのような方法が採られた場合には,それはそれでよいのですが,問題は,求償権を確保するためにはそのような方法を採らなければならないのか,ということです。第三者が債権者との間で保証契約を締結することなく支払ったけれど,それが債務者の意思に反するものであることが判明したという場合もあるでしょう。そのとき,法的な知識がそれほどない弁済者に対して,保証という方法を採らなかったのだから債務者に対する求償はできないとし,一方で弁済としては有効だから弁済を受領した債権者に対してもその返還を請求できないとすることが,果たして普通の感覚にマッチしたものといえるでしょうか。そのような第三者弁済をおよそ保護する必要はないと言ってしまえば,それまでなのかもしれませんけれども,先ほどから申し上げていますように,事務管理や不当利得の規律との整合性という観点からも,その場合に一切,求償権を否定するというのはいかがなものかと疑問に思うのです。   私には,それほどに,保証という方法を採らせなければいけないという積極的な理由があるようには思えないのですが,もしあるとすれば,債権者に,より積極的に関与させることに意味があるということかもしれません。しかし,債権者がどれほど債務者の利益を考えて,保証契約を締結したり,締結しなかったりということを選択してくれるでしょうか。銀行が債権者になった場合はともかくとして,より広くいろいろな債権債務関係を考えてみたときに,債権者にそこまでの債務者の利益保護機能を期待することは難しいのではないかと思います。そのように考えると,なぜ保証ならよくて,第三者弁済という形をとれば,求償ができなくなるのかということが,なお私には納得できません。 ○山野目幹事 3点,申し上げさせていただきます。   1点目は,現行法と比べてどうなんだろうかということを一度,考えてみる必要があると考えます。現行法は利害関係のない第三者の弁済それそのものが効力がないと規律をしていることによって,結果的に過酷な求償権行使に債務者がさらされていることに対する防波堤になっている部分があると感じます。しかし,それはそれで確かに弁済の効力そのものを否定することに問題があるから,今般,このような提案になったものであり,その提案を容れると同時に求償権を肯定するということになってしまったのでは,現行法からの変化が余りにもドラスティックに大きいのであろうと思います。そうする勇気がおありでおっしゃっているのでしょうかということは,もう一回,すこし考え込んでみる必要があると感じているところでございます。   それから,2点目は,債権譲渡又は委託に基づかない保証との関係でございますけれども,やはりこれらの制度は債権者の意思が関与した法律行為によって,債権関係の変動が起きているわけでありまして,単なる弁済という事実行為によって,厳密に言えば準法律行為かもしれませんが,いずれにしても意思的な関与が明瞭でない行為によって,債権の主体の変動が起こされるという局面とは,明らかに違うものでありまして,私は沖野幹事がおっしゃったように,意思的関与が明瞭な筋道として用意されている制度の方を使ってくださいというのが,本来の議論であろうと考えます。   その上で,山本敬三幹事がおっしゃった委託に基づかない保証の求償の在り方が,今まで暗黙に考えられてきたとおりでよろしいのですかということについては,今日の御議論を伺っていて考え方が分かれたと思います。そのことは保証に関して,更に今日の議論の論点の帰すうを踏まえた上で,また,考えていくこととして,その際には両方,可能性があると感ずる次第でございます。   3点目ですが,不当利得法,事務管理法が一般的に適用される帰結としての求償権の問題と,ここで新たな規律を設けることとの関係が不明瞭であるという御指摘も,散発的に聞かれたのですけれども,ここで求償権を行使することができないという規律を置けば,それは何らかの意味で不当利得法ないし事務管理法に対する特則になるであろうと考えます。特則を設けていけないという理由はなくて,むしろ,特則が必要だから立法しているわけであります。   ただし,何からの意味で,と申し上げましたが,どのような意味で特則になるかというのは,今般,諮問事項に事務管理と不当利得が恐らく含まれていないと私は理解しておりますから,そちらの方についての明瞭な帰結ないし見直しを待った上で,その特則的意味の厳密なところの意味が定まってくるという論理的関係にあるものであろうと考えている次第でございます。 ○奈須野関係官 利害関係を有しない第三者による弁済が実際のビジネスの局面で,どのような場面で登場するかということを考えると,確かに第三者弁済が行われると債権者は弁済をしたから費用処理をすると。債務者は贈与があったということで税金が掛かるということになるわけですけれども,恐らく税務当局はそのような脱税的な,そういう弁済というのは許さないことになると思うので,恐らく利害関係を有しない第三者による弁済は否認するんだと思うんですね。そうすると,普通の企業はこういう利害関係を有しない第三者による弁済をするわけがないということです。   そうすると,このような利害関係を有しない第三者による弁済が働く局面というのはそうでないケースと。先ほど鹿野幹事が大企業,中小企業とおっしゃいましたけれども,多分,そうはならないんだろうなと思います。そうすると,求償権を作るか作らないかということを考える上では,この制度を利用する人はどういう人が,税務署が怖くない人が多分利用すると思うんですけれども,そういうことになるだろうということを予期して,制度設計をする必要があるのかなという感じがいたします。 ○深山幹事 今の御発言とも関係するんですけれども,冒頭に御質問させていただいた利害関係があるなしをどこで線引きするのかということに,やはり帰着するのかなと今までの議論を聞いていて思いました。私は沖野先生が言われたように二つの制度の違いに着目し,同じではないかというよりもむしろ,求償を求めるのであれば,債権者なりの意思が反映した保証の方を使ってくれという方と同じような考え方を持っているんですが,聞けば聞くほど,どういう人が一体債務者の意思に反して,しかも一方的に,あるいは債権者にも何のコンタクトなり,合意もなしに,正に一方的に払ってしまいたいという人がいるのかなというのが今もってよく分かりません。今の税金の話も加味すると,なおさらそんな人が,どんな人がいるのかなと。   そういう意味では,そういう一方的な弁済をして,なおかつ求償権を取得できるような仕組みをつくっておく必要があるのかなと思います。むしろ求償権はないけれども,それでも払いたければどうぞと,あるいは税務署も怖くなければどうぞという人がいれば,それはそれで第三者弁済自体をすべて否定しなくてもいいのかなとは思いますが,それ以上に広げる必要もないのではないかなという気がいたしております。   ついでに申し上げますと,保証のところもある意味では,意思に反している場合にどうかというのは,やはり私も見直した方がいいと思いますが,まだ,そこは債権者の関与がある分だけ,ここの議論とはまたちょっと違うと思うので,そことの違いが出ると結論においてでも,それはそれで説明がつかなくはないのだろうと思っております。 ○鎌田部会長 すごく単純素朴な例で,お米屋さんがお米の配達に来て,留守だったので隣のおばさんが5,000円を払ってあげました。そうしたら,あなたにだけには払ってもらいたくなかったと言われれば,その弁済者は5,000円は求償できないし,米屋からも取り戻せない。それでいいんだという,そういうお話ですか。 ○深山幹事 私はそれでいいのではないかなと。そのリスクを覚悟で隣の方が払うのだったら,それはしようがないと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○岡(正)委員 弁護士会で議論して両説がありましたけれども,有効とする必要はない,現行法の無効のままでいいという意見がかなり強くございました。不特定物の履行のための保管に倉庫費用が掛かっている場合に,第三者が弁済してそれが有効となり,自分ではもう弁済できなくなったとすると,その費用が無駄に掛かるではないかという意見です。それはすぐ解約すれば大した費用ではないのかもしれませんが,アブノーマルな弁済を何でこういう求償権もないような場合に認める必要が,見直す必要があるのかというのが理解できない。債務者の意思に反するのであれば,アブノーマルなものをわざわざ認めなくていいと思います。   税金の話のところも,金銭債務であれば意思に反しない場合が基本的には多いのかもしれませんが,100の債務がもし消滅して払わなくて済むとなれば,贈与税あるいは免除益課税が掛かってくると思います。100を払わないで済んだのを,贈与税の50で済むのだからいいではないかという意見もあるかもしれませんが,何かやはりちょっと違うのではないかと。わざわざ有効と認めるべき必要がどれだけあるのかという意見が強うございました。 ○鎌田部会長 おおむね御意見は出そろって,それが一本に集約されることはないと思いますので,ほかの点についての御意見があれば,それを伺うようにしたいと。 ○松岡委員 先ほど松本委員と鎌田部会長の御議論にありました,現行法だと利害関係を有する第三者であれば弁済が当然できて,それを受け取らないと債権者は受領遅滞になるかという点に関してですが,債権者の承諾をも不要としてしまうと,確かに松本委員がご指摘になったような疑いがあります。諸外国の法制を見ましても,利害関係を有しない第三者は,債務者ではなくて債権者の意思に反して弁済することはできないとしているところは少なくありません。   そういう意味で,債権者の意思的関与は,何らかの意味で当然に必要になってきます。確かにそれは保証という契約を結ぶ場合とは違って,法律行為ではない法律的行為なのかもしれませんが,意思的関与という点ではそれほど差はなく,場合によってはどちらかと判定しがたい場合もたくさんあるのではないかと思います。保証に一本化するとの御提案も理解はできますが,この場合になお求償権を認めたいとなると,結局,黙示の保証があったと認定されることにはならないでしょうか。……失礼しました,保証人は書面要件が要るのでそうはなりません。ただ,債務引受があってその後ただちに弁済されたという認定はあり得るでしょう。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。ほかの論点につきまして御意見があればお伺いをしたいと思いますが。 ○三上委員 この問題の一つとして譲渡禁止特約とか,あるいは第三者弁済禁止特約の潜脱になるという指摘がありましたけれども,その場合には,債権譲渡の場合には譲渡禁止特約に反する譲渡がもし前回の議論の相対的効力案を取るのであれば第三者も弁済は可能だけれども,その効果を主張できないとか,受益の意思表示をした場合には求償権が発生するとか,当初から全部否定する必要もないのではないかという気がしております。   先ほど松岡委員がおっしゃったことと関係するんですけれども,少なくともこの規定は債権者も債務者も希望しないのに,第三者がいきなり契約に関与してきて弁済を認め,債権者に受領させるということではないのだろうという前提で理解していますが,であれば,少なくとも債権者が了解して受け取るか,債務者が了解して払わせるか,どちらかですから,その際の解決策としては一切,求償権を認めないという方法だけではないのではないかなという気がしております。 ○鎌田部会長 2とか4につきまして特に御意見がなければ,次に移りたいと思いますが。 ○山本(和)幹事 1ページの関連論点2との関係で申し上げたいと思います。私自身は,配当等を弁済であるということを明記するということには必ずしも反対ではないのですが,これを検討する際にはそういう記述をすることの射程あるいは規定の仕方等については,是非御配慮をいただきたいと考えております。   私の理解では民事執行法学においては,必ずしも配当等は弁済とは性質が違うものであるという意見も有力であるように思います。例えば中野先生は,その体系書の中でかなり一般的な形で,執行による手続上の満足と債権の弁済は同義ではないと断定をされております。これは,直接には配当異議の申出をしなかった場合の,不当利得返還請求権の成否という問題に関するものでありますけれども,ほかにも例えば配当の際に源泉徴収が必要であるかどうかという議論の中では,配当と弁済は違うので源泉徴収は必要ではないというような議論も,有力にあるように承知しております。   そういう意味では,配当等と弁済が必ずしも同じものではないということを前提にした議論が繰り広げられている場面というのが幾つかあるように承知しております。もちろん,この補足説明の中では,任意の履行を前提とする規定とそうでない規定を分けて,それぞれ配当に適用があるかどうかということを考えるのだということが書かれておりまして,そういう形で問題を整理できるのかもしれないとは思いますけれども,幾つかそういうような問題があるということに御留意をいただいて,慎重な御検討をお願いしたいということです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,部会資料10−1の2ページ,「5 債権者以外の第三者に対する弁済」から7ページ,「10 弁済の目的物の供託」までについて御審議をいただきたいと思います。まず,事務当局に説明してもらいます。 ○松尾関係官 債権者以外の第三者に対する弁済に関して,民法第478条から第481条までには,第三者が受領権限を有しない場合の規定が置かれていますが,第三者が受領権限を有する場合については,明文の規定が置かれていません。しかし,債権者以外の第三者に受領権限を与えて弁済を受領させる代理受領は実務上,広く活用され,重要な機能を果たしているということが指摘されていますので,まず,「5(1) 受領権限を有する第三者に対する弁済の有効性」では,受領権限を有する第三者に対する弁済が有効であることを確認する旨の規定を置くことの要否について,御議論をお願いしたいと思います。   次に,「5(2) 債権の準占有者に対する弁済」は,民法第478条の見直しを取り上げるものです。民法第478条については金融取引の多様化・複雑化に伴い,これまで様々な判例法理が形成されてきたところですが,これらの判例法理を条文の文言から,必ずしも読み取れないのではないかという指摘があるところです。これらの判例法理を踏まえて,条文の文言を改めるべきであるとの提言がありますので,ここではそのような方向性についての御意見をいただきたいと思います。また,同条の特則として民法第480条がありますが,この規定に対してはその必要性を疑問視し,廃止すべきであるという考え方が主張されています。「5(3) 受取証書の持参人に対する弁済」ではこの問題を取り上げました。   「6 代物弁済」ですが,代物弁済が要物契約か諾成契約かという点については争いがあり,そのため,例えば代物弁済の合意に基づく代物給付義務が認められるかという点など,代物弁済の要件,効果が必ずしも明確ではないということが指摘されています。そして,代物弁済は実務上,担保目的の取引で利用されていることが多いということを踏まえ,代物弁済の合意に基づく代物給付義務を明確に認めることが望ましい等の理由から,代物弁済を諾成契約と構成して,要件・効果を整理すべきだという考え方が提示されていますので,その当否について御議論をいただきたいと思います。   「7 弁済の内容に関する規定」では,弁済の内容について規定した民法第483条から第487条までの見直しに関する論点を掲げております。   「8 弁済の充当」は,民法第488条から第491条までの弁済の充当についての規定に関する問題を取り上げるものです。この規定は,その内容や適用関係が不明確であるという指摘がされています。これらの規定の適用関係については,部会資料10−2の19ページにまとめましたが,このような規定の適用関係を分かりやすくするという方向性や,このような方向性で検討する場合に留意すべき点等について,御意見をいただきたいと考えております。   「9 弁済の提供」は,受領遅滞の見直しに関する論点の一つとして,既に御議論いただいた点と関連するものです。弁済の提供に基づく効果を明文化しようという方向性についての御意見をいただきたいと思いますが,明文化する具体的な効果の内容につきましても,併せて御意見をいただければと思います。   「10 弁済の目的物の供託(弁済供託)」の「(1)弁済供託の要件・効果の明確化」ですが,例えば債権者が供託物還付請求権を取得するという基本的な効果が条文上,明らかにはなっていないなど,弁済供託の要件,効果は必ずしも明確ではない点があるという指摘がされていますので,この指摘を踏まえて要件・効果を明確化する方向で,規定の見直しをすることについての御意見をいただきたいと思います。   「(2)自助売却の要件の拡張」は,現状では物品供託をすることができる供託所の数が限られており,物品供託をすることが難しいという問題が指摘されていることから,物品を目的物とする債務の履行について,迅速に自助売却を行うことができるように要件を拡充することが望ましいという考え方があるところですので,この考え方の採否について御議論をお願いするものです。   説明は以上です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○三上委員 それでは,478条に関してですが,最初に準占有者という言葉ですとか,善意無過失要件を時代に即したものにするということに関しては反対はございませんが,実質,範囲が拡大されるような用語にならないよう御配慮をお願いしたいと思います。   それから,478条に債権者の帰責事由が必要かどうかという点に関しては,現状どおり,不要な方向でいいのではないか。そうしないと実務は混乱するのではないかという点を申し上げたいと思います。帰責事由を要するということは,結局,債務者が善意無過失であっても,債権者側に帰責事由がなければ弁済は無効という格好になるわけですから,これまでの法制をある意味,コペルニクス的に転換するということになってしまうと思います。それは一種の表見法理・権利外観法理の延長になるわけで,実質,478条の否定ではないかと考えてしまうわけです。   これは銀行取引のみならず,例えば前回の債権譲渡におきまして第三債務者を救済する場面でも,478条というのは重要だったはずですけれども,こういった場面にも支障が出てくるのではないかということで,慎重な判断をお願いしたいというところです。実際に預金者保護法で明らかになりましたように,債権者の帰責事由などといいましても,政治的な決着によって事実上,無過失責任にすることは幾らでも可能でございますので,よく検討しないと思わぬ副作用が出るのではないかという危惧を持つものでございます。   そもそも本来,478条は任意法規だったと私は思っておりまして,今でも任意法規ではないかと思っているんですが,預金約款がよくこれの典型としてやり玉に上がるんですが,私の理解では,大量処理の必要上,478条よりも更に銀行の免責の範囲を拡大する目的で制定されたものが,判例理論に沿って善意無過失が要求されて,事実上,478条が強行法規になったかのような理解ことになってしまっているものです。しかし,別に478条で銀行が自分の過失を顧客に転嫁しているというわけではございません。例えば奥さんが主人名義の口座を下ろしに来るということは日常茶飯に行われておりまして,あるいは会社の事務員が会社名義の預金を下ろしに来るということもよくあるわけでございまして,こういう場合に一々明らかに他人が来たとか,本人確認や代理権確認がどうのといっていると実務も回りませんし,恐らく顧客から非難轟々であろうと思います。   判例も盗難通帳誤払いが明らかな場合においては,言葉は悪いですが,重箱の隅をつつくような過失認定をしますが,女性が男性名義の預金を下ろしに来た,イコール,それは明らかな他人に払ったのだから過失であるといったような認定はしていないというところも,やはりこういう点に配慮をしているのではないかと思うわけです。   そう考えてみますと,実際に帰責事由の要否というのは,預金を勝手に下ろしてドロンしたが弁償できない,本来一番悪い真犯人を間に挟んで債権者と債務者のどちらかに100対0で負担を寄せるというところに,やはり478条のすべての問題点が出てくると思うのです。そして,帰責事由の有無というのは,過失相殺の場面で使われてしかるべき概念ではないかと思うわけです。そう考えると,そもそもの原点に立ち返って478条は実質,現代語訳にするだけのための改正となった前回の民法改正で,ここだけ過失が入ったわけですが,別に善意であったとか,あるいは約款の効力を認めて免責は免責だとして弁済の効力は認め,ただ,過失があった場合の損害賠償を妨げずとして,実際,過失があった,なかった,帰責があった,なかったの損失分担の過失相殺という場面で使われるべきファクターになるのではないかと考えているわけです。実際の裁判でも,結局弁済の無効を主張する債権者側からアクション・訴訟を起こすことになるので,これが自然な流れに思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○中井委員 三上さんの意見に関連する478条の関係ですが,弁護士会でもこの問題については意見が分かれております。銀行取引はともかくとして一般的な取引債権等を考えたときに,やはり弁済というのは義務行為ですから,この弁済がスムーズに行われないと,取引関係が阻害されることは明らかだろうと思います。決済期日がきて弁済しようとするときに債権者を調査したり,確認したりすることに手間暇をかけていると,スムーズな弁済もできず,経済取引の活性化に対して阻害要因となるので,ここは弁済者が善意無過失といいますか,正当な理由があれば,その弁済は有効として取り扱う。そうでないと,実務的にも困るのではないか。したがって,従来の考え方,B案がいいのではないかというのが多くの意見でした。   しかしながら,他方で,債権者に全く帰責事由がないにもかかわらず,自らの財産がゼロになってしまうことを正面から容認していいのか,という強力な反対意見が残りました。その場面は,銀行預金に関する預金者保護の意見として出てきています。確かに預金については,なお一層,弁済行為がスムーズでないと取引自体が困りますので,今,三上委員がおっしゃられたとおり,預金の返済がスムーズに行われるように債務者である銀行が保護されなければならないのかもしれませんが,預金自体についての一般市民社会における財産価値,貴重さを考えたときに,金融機関側が善意無過失であるからといって,その貴重な財産が全く帰責事由がないのに喪失させてしまうことを正面から容認していいのか。消費者保護委員会から強い異論が出ており,その立場からすれば,やはり債権者に一定の帰責事由がある場合に限って債務者を保護するという意見になります。 ○岡田委員 同じ意見になるんですけれども,何年か前にやっぱり通帳を盗まれて,何千万というお金を引き出された事例がありましたけれども,あれなんか本当に聞くと気の毒で,何でこの人はついていないんだろうというふうな感じだったんですけれども,そういうことがあるということを考えますと,私たちというのはどちらかというと,機械よりは人間を信用しているんですよね。だから,ATMで何か間違いはあるかもしれないけれども,窓口で人が対応して,間違いは機械よりは少ないのではないかと,ついつい思い込みがあるんですけれども,だから,大きなお金をもしあれするとすれば,窓口でと考えている消費者も多いかと思うんですね。   そう考えると,ここで通帳を持ってきた,ないしは受領書を持ってきたそれだけで,その人は当然,正しい受領者だと,債権者であるとみなすという条文がぽんと出てきて,後ろに過失がどうのこうのとなってきているということ自体,性善説というんですかね,絶対に債務者の方にミスはないんだととれてしまうんですよね。だから,その辺で機械でやるのもミスもあるかもしれない,人間ももちろんあるかもしれないという前提からすると,みなすというような強い条文というのは,今の時代,どうなのかなと思うんですけれども。 ○藤本関係官 銀行預金の話になりますけれども,預金者保護という観点からではないのですが,マネーロンダリングの防止という観点から,犯罪収益移転防止法というのがございます。現金の受払いを伴う預金の引き出しで200万円を超えるものについては,本人確認義務というものがかかってきまして,運転免許証などをその場で出さなければいけないというものがございます。ちょっと違った観点でございますが,他人が通帳を持っていって,印鑑があったからといって,すぐに1000万円とか2000万円を引き出してしまうということは,そういう観点からはないということにはなっているということを御紹介させていただきます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○三上委員 中井委員や岡田委員のご指摘に反論するわけではなくて,もう一遍,確認のために申し上げるんですけれども,帰責事由を要求するということは,債権者側に帰責事由がなければ,弁済者側が全く善意無過失であっても保護されないということで,単に結論を債務者の側に片寄せするということにしかなっていないんですね。今の現行法の規定も,確かに債務者が善意無過失であれば,債権者に帰責事由がなくても,債権がなくなってしまうという大きな効果をもたらすのは事実ですが,逆に言いますと,債権者側に大きな帰責事由があったとしても,債務者側に過失があれば弁済が保護されないという結論も導いているわけです。   結局,弁済を有効とする,無効とするという問題と,そこから発生した不始末の責任分担をどう認めるというものとを分けて考えないと,ゼロサムで議論している限り良い結論は得られないと思います。恐らく裁判官も和解が成立せずに判決を書くというたびに困られていたと思いますし,弁済の場面というのは債務者の義務ですから,迅速に行われないといけないわけですし,本人確認のために,ないしは警察からの依頼によって預金の支払いを止めても,銀行は訴えられるような,そういう立場なわけですから,そこはそういう前提で弁済を認めてから,過失があるとか,帰責があるとかいうときの実際に発生した損害の分担を別途,考えればよいのではないかという意味で,先ほどの意見を申し述べさせていただいたわけでして,ここでゼロサムの議論をする場合のゼロを債務者側に転換するということに反対しているだけだということを再度,述べさせていただきます。 ○松本委員 三上委員が最初の発言のところで,原点に戻ってということをおっしゃいましたが,478条の原点は今の判例法理とは全然違うということを起草過程を研究した皆さんは書いています。民法の起草者はこんなに広く使われることは想定していなくて,非常に限られた,本来の債権者から見える範囲内における無権利者への弁済の部分しか考えていなかったということです。そのような弁済を有効だと認めたとしても,本来の債権者がだれが代わりに受け取ったかが分かるようなサークルで考えていたということなので,そこまで戻るとなると判例を変えなければならないということになります。したがって,現在の判例が合理的かどうかというのは,もう一つ,別に議論する必要があるだろうと思います。   大部分は銀行の預金債務の弁済のところでこの法理が発展をしてきており,最近,少し保険だとかにも広がっていますけれども,基本的には預金債務の弁済という限られたところで,預金者の犠牲の下に銀行の利益を保護することが日本経済の発展にとってプラスになるという政策判断があったのだろうと思うんです。それが是か非かは別途議論する必要がありますし,銀行預金の法理をベースにして,民法の一般的な準占有者弁済の法理を考えるのが果たしていいのか,悪いのかということも,別に議論した方がいいと思います。したがって,銀行の預金債務の弁済という場面を切り離した一般的な場面において,478条はいかにあるべきかということをまず考える。そして,預金債務の払戻しという場面において,現在の判例法理の方がなお妥当なのだとすれば,それは別の立法で手当てをするというように,二つに分けた上で,必要があるのなら同じ条文で手当てをするのではなく,別の条文あるいは別の法律でやるというやり方もあるのではないかと思います。 ○野村委員 民法478条の歴史的な経緯は,今,松本委員からもありましたが,銀行の実務がフランスでは,日本とは違っています。フランスでは,本人確認が前提になっている世界ですから,銀行預金との関連で日本の民法478条に当たる規定(フランス民法1240条)が問題になるということは,多分,フランスで今まではなかったということではないかと思います。いずれにしろ,銀行預金の払戻しに民法478条を使うなという意味ではないのですが,もう少しもとに戻って考えるということであれば,そもそも債権の弁済というのは,やはり債権者に弁済するというのが基本的な原則だと思うのですね。議論は,そこから出発した方がいいのではないかと考えています。そういう観点からすると,A案のような考え方の方が,いいのではないかと個人的には思っています。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○岡(正)委員 先ほど三上さんが,債権者の帰責事由を要件にすると,コペルニクス的な転回があるとおっしゃったんですが,実務家の感想としては,今の準占有者弁済のところでも,真の権利者の帰責事由は加味して判断していただいている理解ですし,実務の中では考慮要素の一つとして入ってきていると思います。法律行為と義務行為で違いがあるのは分かりますが,権利外観法理の一環である以上,何らかの権利者の帰責事由を考慮要素にすべきだと理論的にも思いますので,正当事由という言葉を使うとしても,一考慮要素として真の権利者の帰責事由というものを載せるべきだと,そういう意見が弁護士会の中では強くございました。   まとめますと,真の権利者の帰責事由を一切考慮しないのが今の478条で,なおかつ,今の判例だという点について少し理解の違いがあるという点が1つです。それから,普通の表見代理よりはレベルは低くなっても,真の権利者の帰責事由をやはりここで考えるべきだと,一つの考慮要素としてここで考えるべきだという意見が強くございました。   それと,一般法理と銀行の預金者への債務弁済,これはやはり確かに違うのではないかと思います。偽造カードの法律がございますように,相手が消費者で,なおかつ大量処理を銀行の方がしなければいけない,そういう局面については,民法の一般法理とは別の法理をつくった方が分かりやすくなるのではないかと,そういう意見を申し上げます。 ○木村委員 我々の方はどちらかといえば,今,岡委員の言われた弁護士会の意見とは逆の方向でございまして,法律行為の場合は,新たに権利義務関係といいますか,法律関係をつくるわけですが,その場合と弁済とは違うことから,弁済の場合には債権者の帰責事由を求める必要性はないのではないかと考えています。また,偽造・盗難カードのような特殊な事例には個別の対応をすればよいのであって,そのために一般法である民法の改正を考える必要はないのではないかとも感じております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   債権の準占有者に対する弁済以外の項目も含めて,御意見を出していただければと思います。ぞ。 ○三上委員 (2)の関連論点の,準占有者に対する弁済の類推適用に関してですが,類推適用されている場面がいろいろあるというのは,ここに書いてあるとおりでございまして,それを拡大することに賛成ですけれども,今後いろいろな取引類型が発展することもあるので,限定列挙のようにならないようにお願いしたいというのが一つ。   それから,先ほどの山本幹事の意見で履行と弁済とを使い分けるとか,使い分けないという問題がありましたが,例えば総合口座貸越しとか保険の契約者貸付けのように,一定範囲の融資を,コミットしているかと言われれば,この場でそう言い切る自信はないのですが,基本的にいつでも取り消せるけれども,何もない限りは一定の範囲まではカードとか何らかで,自動的に貸し越せるという取引では,それは融資義務の履行であると同時に,一定範囲のお金を貸すという債務の弁済だと考えれば,類推ではなく弁済そのものともいえるわけです。   この類推適用の条文を整備するかという議論がそれを超えて,例えば他人の債権を担保に金を貸すときに,その債権が本人のものだと勘違いしたと。例えば物であれば質権を即時取得したみたいな場面に478条を使うということであれば,478条にその役を負わせるのがいいのか,こういうところでも94条2項の類推適用みたいな話をした方がいいのか,その辺は両論あると思います。   それから,もう1点,ついでに申し上げさせていただきますと,480条の廃止というところでございますが,これは前回の免責証券の要件がどうなるのかというところでも触れさせていただきましたけれども,銀行は預金通帳以外でも預かり証を渡して現物を預かって,それと交換にそれをお返しすると。例えば権利証ですとか担保株券ですとか,まず,間違うことはないんですが,こういう受取証と交換に渡しているというものがたくさんあるのは事実でございまして,これを単純に廃止してしまった場合に,結局,免責証券とはどういう要件で成立するのかというときの唯一の根拠がなくなってしまうかもしれないという危惧を持っておりまして,免責証券の要件も,併せて御検討いただければと考えております。 ○中井委員 今の意見に関連して3点申し上げます。まず,一つは先ほど松本委員の意見にもありましたが,一般的な取引と銀行取引の区別論というのがあり得る議論ではないかと思います。木村委員もおっしゃいましたけれども,一般企業間取引においての弁済に対する取扱いと,銀行預金に対する弁済の取扱い,これを全く同列に論じていいのかというのが基本的な疑問で,そこで異なった規律があり得るのではないか。これがまず1点です。   2点目は三上委員の関連論点で,弁済に伴うに拡大版ですが,これは弁済以外に何らかの新たな法律行為が伴う類型ではないか。それが貸し付けの場合,例えば生命保険だったら義務付けられた貸し付けなのかもしれませんけれども,それでも純粋の弁済行為ではなくて,そこに新たな法律行為が伴う。そのときは弁済と全く同じ法理でいいのか,新たな法律行為だとすれば,そこに外観法理を働かせると,債権者サイドの帰責事由について,なお一層,考慮できる場面が増えるのではないか。   3点目は,三上委員の弁済の問題が100:0の解決でいいのかということで,債権者に落ち度がある,しかし,銀行にも落ち度があれば,二重弁済を強いられる。そのときに100:0の解決が適当かということに対しては,仮に債権者に相当程度の落ち度があれば,銀行の損害に対して,何らかの損害賠償による調整は十分あり得るのではないか。弁済のレベルでは0か100かですが,その後で,調整が可能ではないかと考えます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでございましょうか。 ○山川幹事 民法493条についてもよろしいでしょうか。以前も発言したことがございますので簡単に申し上げますと,493条の詳細版でいいますと21ページのところですが,口頭の提供も不要な場合ということで,労働関係におきましては,解雇して労務の受領を予め拒絶したというような場合につきまして,特段,あらためて口頭の提供を労働者側がしなくても,労働義務の債務不履行責任を負わないですとか,最高裁判例があるわけではないですけれども,労働者側が民法536条2項の帰責事由を立証しなくても,使用者側が労務受領拒絶に合理的理由がないことを立証しない限り賃金請求が認められるというような取扱いが一般かと思われますので,ここでの御提案のように,一定の場合には口頭の提供が不要な場合もあるということが明記されると,労働関係については有り難いようにも思いますが,それだけで決めるわけにもいかないとすれば,少なくとも契約の性質いかんによっては,そういう場合もあり得るということも,御配慮いただければと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでございましょうか。 ○松本委員 代物弁済のところですが,この御提案だと代物弁済を諾成契約にするということで,一体何を考えておられるのかよく分からないのです。つまり,現行法では,弁済という側面でとらえているから,実際に渡さない限りは弁済の効力は発生しないという意味で要物契約ということだろうと思うんですが,では,代物弁済をするという合意は何の意味もないのかというと,恐らくそれはそれで契約としては有効なわけでしょうから,諾成契約にすると言われなくても,諾成契約的な合意は認められるはずなんです。そうすると,この御提案は一体何のためかということなんです。典型契約としてもう一つ新たに立てましょうかという話になるのか。念のために代物弁済をするという合意も,契約としての意味はあるということぐらいでしたら,特に規定しなくてもよいと思うんですが。 ○高須幹事 今の点なのですが,こういう言い方でいいかどうか分かりませんが,代物弁済の法的性質について,現在の段階では明確な理解が条文上ははっきりしない部分があって,今,話に出たように諾成の段階で権利の移転という点では意味があって,その上でただ,債務の消滅効果はあくまで給付がなされてからですよと説明される。つまり,諾成,要物,両方の側面を持っているということがあって,そこを結局,どう説明をするのかということになっている。代物弁済も諾成契約的要素があるのではないかと説明する議論と,飽くまで要物契約なんだから,そういう言い方はできないけれども,諾成段階での権利の移転効が発生する説明を基礎付けるために,代物弁済の予約と言ってみたりとか,すごく難しい解釈をしているところがあると思っています。ですから,そこは条文で代物弁済の法的性質を明らかにしていただいて,その効果についてきちんと規定していただく,そうすれば,少なくともロースクールの学生には司法試験の論点が一つ少なくなりますから有り難いのではないかと,このように思っています。今の最後の部分はちょっと冗談めいて言いましたけれども,要するに,これまではっきりしなかった代物弁済の法的性質が明文化され,法律の規定により明確になるというのはいいことだと思っております。 ○松本委員 似た話で,手付は要物契約だとかいうことがよく書いてあるのですが,では,契約書の中で手付を幾ら払いますという合意を書いておいても無効かというと,そんなことはないはずのです。手付としての効果が発生するためには,手付金が実際に交付されなければならないというだけの話だから,代物弁済はそれと同じレベルの話です。このたぐいのものがもう二,三あると思うんですけれども,論者が勝手に混乱しているだけではないかなと思います。 ○松岡委員 私も,代物弁済の法的性質を条文で定めるような必要があるのかについては,かなり疑問を持っております。むしろ,実質的な問題といたしましては,本来の代物弁済だと清算は要りませんが,担保目的の代物弁済だと仮登記担保法の規定のように,清算義務があります。清算義務との関係が本条ではわからないので,少なくとも注意的に特別法の規律の存在または清算義務をこの条文に書き込む必要があると思います。 ○中井委員 このテーマもA案,B案と提案されていますけれども,代物弁済という契約は,日常的に様々な類型でなされているわけで,一つの典型は担保目的の契約で,そのときは本来の債務の弁済もできる,できなかったときには,代わりに弁済しますという合意になっている。つまり,代物弁済契約の解釈の中身としてA案もある。他方,本来の債務は弁済しません,代物弁済をいたします,そういう合意をして,代物弁済したときに本来の債務が消滅する,そういうB案の合意もあるでしょう。松岡委員がおっしゃられたように,清算が入る,入らないというのもあると思います。つまり,どちらかと規定するのではなくて,これは合意の解釈の問題にすぎないのではないか,どちらと決めなければならない問題ではないのではないか。 ○中田委員 代物弁済について,債務消滅の面と合意の面と両方あるということは,多分,一般的に認められていると思いますし,恐らく研修所なんかでもそう教えていらっしゃるのではないかと思います。その上で,わざわざ書くこともないではないかという御意見が何人かの方から出たんですけれども,詳細版10−2の13ページに,幾つかの論点を整理して書いていただいています。   13ページの上の方に契約成立の時点ですとか,代物給付義務の有無ですとか,あるいは目的物に瑕疵があった場合にどうなるかとか,それから,その下の方ですけれども,所有権移転時期と債務消滅時期との関係とかというのが出ているわけです。このあたりについて何も規定しないでおいて,現在のように解釈にゆだねるというよりも,やはり詰めていって明確にした方がいいのではないかと思います。   それを詰めていくとなると,やはり代物弁済という債務の消滅をもたらす前提となる合意とは何かということは,当然,検討しなければいけないわけでありまして,全く要らないということにはならない。むしろ,先の問題を考えていった方がいいと思います。例えば13ページの下の方に出ています代物弁済の合意後における本来の債務の履行請求の可否についても,二つの考え方が出ているわけですけれども,この場合については,今,中井委員がおっしゃったことと関連いたしますが,恐らく合意の解釈の問題になると思います。その上で,しかし,デフォルトをどこに設けるのか,ということになります。このように考えを深めていくことができるという意味では,やはり合意段階での代物弁済の効力ということは,当然,考えるべきではないかと思います。 ○道垣内幹事 私も中田さんがおっしゃっていることに賛成なのですが,現行法で例えば目的物を別のものでよいということにすると,やはり更改との関係がどうしても出てくるわけであって,更改になりますと,元の債務は消滅しているという効果をもたらすことになります。もちろん,現行の513条がそのまま維持されるかどうか分かりませんけれども。これに対して,そうではなくて,中井先生がおっしゃったように,元の給付でも請求できるし,代わりのものも請求できる,債務者としては元の給付もできるし,代わりのものもできる,それは更改ではなくて,もともとのものの債務の消滅というのをもたらさない,という場合もあり得るということは,どこかに規定せざるを得ないのではないかなという気がしまして,契約にゆだねたらそれでよいということにはならないのではないかという気がいたします。ただ,それが弁済のところなのかというのが若干,私もよく分からなくなりまして,どういう構成になるか分かりませんけれども,あるいは契約の給付目的物の変更の話で,弁済そのものの規定のところではないのかもしれないという気はいたしますが。 ○松本委員 中田委員のおっしゃった詳細版13ページの上の方の1から3までの論点のうち,契約成立の時点はいつかというのは,どのような効果の発生を認めるべき契約が成立したかという話に還元されるから,弁済としての効果が発生するのは,代物弁済の履行のときでしょうとしか言いようがないわけです。ただし,代物弁済をする契約としての効果が発生するのは,合意のときでしょうということであって,一般論で説明できることだと思うんです。   それから,代物給付義務の有無という点では,あるものを代わりに給付しますという約束をしたわけですから,それを給付しなければ,やはり給付義務違反であることには違いないでしょうから,代物弁済契約上の,あるいはそれができなければ当初の契約上の義務を履行しろと言う権利は債権者に当然あるのではないかと思います。さらに,目的物に瑕疵があった場合に,瑕疵のないものの給付請求という点も,これもあって当たり前だろうと思うんです。そういう合意をしたのだから。売買契約においてあるものを引き渡しますと言って目的物に瑕疵があったという場合,瑕疵のないものの給付請求あるいは追完請求ができます。売買契約においてあるものを渡しますと言ったけれども,ちょっとそれがないから,代わりのもので御勘弁くださいと言って,それで合意が成立したのであれば,その代わりのものについての瑕疵は当初のものの瑕疵と同じように評価しても,おかしくはないと思うんですが。 ○道垣内幹事 1,000万円の債務を負っている人が動産なら動産,不動産なら不動産を給付することによって買いますと約束したときに1,000万円を支払ってもよいのかという問題はあるわけでしょう,その合意後に。 ○松本委員 ちょっと意味が分からないですが。 ○道垣内幹事 つまり,普通の担保目的による代物弁済額の話を仮に考えますと……。 ○松本委員 仮に考えてしまうの。 ○道垣内幹事 仮に考えます。それは同じ代物弁済ですから。そのときには代物弁済義務が発生していても,本来債務は支払うことができるわけですね。 ○松本委員 担保目的の話とそうではない本来的代物弁済は,分けて議論した方が混乱しないのではないかと思います。 ○道垣内幹事 混乱はないと思います。 ○松本委員 いや,混乱すると思います。 ○道垣内幹事 つまり,1,000万円の金銭債務があるときに,別に担保目的ではなくても何でもいいですが……。 ○松本委員 通常の売買でまず考えましょう。その上で応用問題として担保としての代物弁済,代物弁済予約あるいは停止条件付き代物弁済が使われるという場合について考えるという方がよろしいのではないかと思います。担保としての代物弁済は典型契約なのだという議論であれば,もっと違ったところ,おそらく担保物権法のところでしなければならない。 ○鎌田部会長 本来型を前提にして考えて……。 ○道垣内幹事 本来型を前提にするときも,代物弁済の対象となるものは,別に特定物の給付とか,不特定物の給付義務とかが別のものに代わるという場合だけではないですね。金銭債務が代わるという場合だってあるわけですね。金銭債務を物の給付によって弁済してもよいと,代物弁済をそれでもよいと契約をしたときに,なお,本来的な金銭債務というのを支払うことによって債務を消滅させ得るのか,それとも,その時点以降はそのものを給付するという義務に変容してしまったのかという問題は存在するわけですね。そうしますと,代物給付義務が存在するというのは,当たり前ではないかということにはならないのではないですか。 ○松本委員 これは恐らく当事者の意思が一体どういうものかという議論に還元されると思います。したがって,民法のルールとしてこうだというのは書けないのではないか。契約解釈の問題に還元されるだろうと。 ○道垣内幹事 もちろん。 ○能見委員 十分議論がなされて,皆さんも共通の理解ができたと思いますけれども,私なりに整理をさせていただきますと,弁済のところで規定するものとしては,やはり代物弁済という弁済が行われて債務が消滅する側面ということになると思います。それを前提として,ここの規定はそういうものを設けるべきだということで,私も松本さんと基本的に同じ考えです。今,それに加えて問題になっているのは代物弁済をする契約をどうするかということで,この点についても規定があると便利なので,規定を設けるとして,それをどこに規定するか。ここの,弁済としての代物弁済のところに規定するということもあり得るし,別なところに規定してもいいんですけれども,ここに規定した方が分かりやすいと思いますので,それを併せて規定し,先ほど中田さんも言われたように,それについて解釈の争いもあり得るので,どのようなデフォルトルールを設けるかを考えればよいのではないかと思います。そういう整理で恐らく皆さん,了解されるのではないかと思いますけれども。 ○中田委員 今,きれいにまとめていただきまして,つけ加えなくてもよいのかもしれませんけれども,ただ,消滅の方から見た場合であっても,一体,どの時点で消滅するのかということが,取り分け所有権移転との関係が必ずしも明確ではありませんし,それから,先ほど道垣内幹事と松本委員との間で御議論のありました合意後の本来債務の履行請求の可否,これは正に13ページの関連論点として書いていらっしゃるところでありまして,これもやはり債務消滅との関係で考える必要があります。したがって,合意だから,それは消滅のところとは全然別で考えるということにはならなくて,やはり消滅に関係していると。多分,能見委員の御指摘もそういうことではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかの点も含めて御意見がありましたら,お出しいただければと思います。 ○三上委員 別の論点にいってよろしいですか。弁済の充当のところでもよろしいですか。 ○鎌田部会長 はい。 ○三上委員 弁済の充当に関しましては,まず条文の一番最初に,「当事者に合意があるときにはそれに従う」ということを第一順位として是非明記していただきたいと思います。資料には民事執行の配当の際には法定充当を明定すればどうかという提案が記載されていますが,我々の考えは全く逆でございまして,第一順位で当事者間の合意を上げて,当事者間の合意を配当の際にも前提としていただきたい。実は債権者も債務者も元本から先に充当したいという場合が多くございまして,それは両方の利益にかなうわけですが,執行実務がそれを許さないので具体的に困った場合というのは,私よりも中井委員の方から例を挙げてもらった方がいいかもしれないんですが,実際に発生していないわけではないということで,充当に関しては当事者間の合意があればそれに従うというのを第一にしていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○中井委員 充当の関係ですが,詳細版の19ページで,整理していただいています。私が検討してほしいと思うのは,合意による充当を明記することは,三上委員がおっしゃったようによろしいかと思いますが,充当合意がない場合の二つ目の491条1項による法定充当のルール,つまり,複数の債権があるときに費用グループ,利息グループ,元本グループの順で充当していく点です。   複数の債権があるとき,債務者もそうですし,銀行もそうではないかと思いますが,特定の債権から順番に処理をしていくのが実務的には非常に多いですし,それが債権の数を減らしていく債権管理においても便利で,債務者の認識としても分かりやすい。これは合意による充当で解決できる問題かもしれませんけれども,債務者からすれば,複数債権のうちのどれかを選択して,その一つの債権に充当していく。その場合は,債務者からの充当であれば費用利息元本の順番とすべきかと思います。債権者からも一つの債権に指定充当でき,その場合は元本から充当して,利息費用は後でもいいのかもしれません。つまり,二番目のルールとして法定充当が費用利息元本というグループ順とするルールを置くことについて非常に不便といいますか,やりにくいところがございます。確かに他の債権で費用,利息が残りながら,一本の債権だけ元本を充当していくというのは債権者に不利であるという考え方だと思いますけれども,決して債権者サイドもそれを望んでいないのではないかと思います。   三上委員から御指摘があったことですが,執行における法定充当一本というのは,実務的にも困る場合があり,そのとおりに運用していません。裁判所における競売手続においても,配当表には配当される金額のみが明示されており,どの債権に充当されるかは記載がない。当事者間では,それを受けて基本的に,三上委員がおっしゃったように元本から充当していく。これが債権者も債務者も,ハッピーな結果になるというのが実務です。法定充当といいながら直ちに合意で変更しているわけで,そのようにしているのが実務ですので,それなら,それを明文化することが考えられるのではないか。   それから,もう一つ大変困った事例があるということを御紹介しておきます。更生担保権の調査も,理論的には執行制度に即して考えますので,法定充当で行わなければならない。具体例として,数百億円の債権があって遅滞に陥っている,手続開始後の1年間の遅延損害金だけで100億円というような事件があったわけです。更生担保権の目的物の価額が100億円にしかならなかったので,更生担保権の認否では,すべて100億円を開始後の遅延損害金に充当しなければならず,元本はゼロとなり,主要債権者である銀行は,元本がゼロですから議決権もゼロという極めてイレギュラーな状態が生じました。多くの実務では,債権者の意向を聞いて合意で充当方法を変更し法定充当はしていない。こういうことも考えますと,執行関係についても果たして現行法でいいのかは,検討していただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかの点も含めて,どうぞ。 ○藤本関係官 三上委員,あと,中井委員と大体ほとんど重なるんですけれども,執行の場合の法定充当についてどうかということです。昭和62年の最高裁判決で理由とされているのは,画一的に最も公平妥当な充当方法が法定充当だということになっています。ただ,多分,もしかすると,司法行政実務の観点というのがあるのではないかなと,そういう要請がある。私どもとすると金融実務の要請という観点もある。この点からすると,今,お話に出たんですが,債務者側とすると元本が減る方が有利だというのが一つあります。それから,債務者の返済意欲という観点からしても,元本から減っていった方が返済意欲がわくということで,債権者側からしても元本に充当した方がいいと考える場合もあるのではないか。そういうことを正面から認めることがあってもよいのではないかと思っています。いずれにしろ,何か大きな考え方の違いというよりは,司法行政実務の要請と金融実務の要請のバランスをどうとるかというようなものではないのかなと思います。 ○奈須野関係官 ちょっと別のところになりますけれども,7の「弁済の内容に関する規定」のところでございます。483条でございますけれども,特に中古品の売買や難あり品などの売買を考えますと,一々,契約書を作成しているわけではございませんので,現行の483条は,こういったものの売買における商行為上の規範となっているわけでございます。いただいた資料におきますと,内容が誤解されて弊害が生じているということで,削除すべきだという御意見でございますけれども,誤解するのは理論的な観点から勝手に誤解しているだけであって,ビジネス上,これで問題が生じているというわけでもございませんので,そうであれば,特段,これで世の中が困っているというわけでもございませんので,残しておいていただきたいという要望が流通業界からございましたので御紹介しました。 ○山本(敬)幹事 「弁済の提供」のところについて,一つだけ問題提起をさせていただければと思います。  「弁済の提供」のところでは,現行法について,弁済の提供とそれに基づく受領遅滞のそれぞれの具体的な効果が条文上不明確であるという問題があるので,弁済の提供の具体的な効果について,受領遅滞の規定の見直しと整合性を図りつつ,条文上明確にすべきであるという考え方が示されています。   その上で,詳細版の21ページでは,五つ効果を挙げて,それらが弁済の提供の効果なのか,受領遅滞の効果なのかというのを示しておられます。それによりますと,@債務者の債務不履行責任の不発生が弁済の提供の効果であるのに対して,残りの四つ,つまりA債権者の同時履行の抗弁権の消滅,B特定物の引渡しの場合における注意義務の軽減,C増加費用の債権者負担,D目的物滅失の場合における危険の移転は,受領遅滞の効果であるという考え方が有力だとされています。   これはもちろん,そういう考え方が有力であるというだけですので,あくまで一つの参考にすぎないわけですが,このうち,A同時履行の抗弁権の消滅については,少し留保が必要ではないかと思います。といいますのは,これが問題になるのは,債務者が債務を履行しないので,債権者の側が債務者に対して債務不履行を理由に損害賠償を請求する場合や,契約を解除して原状回復請求をする場合です。この場合,債権者は,債務者が債務を履行していないことを理由に,損害賠償や解除に基づく請求をしようとしましても,債務者の側に同時履行の抗弁権がありますと,債務者が債務を履行しないことに正当な理由があることになります。したがって,債権者が損害賠償や解除に基づく請求をするためには,債務者には同時履行の抗弁権がない,したがって履行しないことに正当な理由がないと言う必要があります。そこで,債権者は,自分の債務について履行の提供をした以上,もはや債務者の方が同時履行の抗弁権を理由として債務を履行しないのは正当ではないということになるわけです。   この場合に,債務者が同時履行の抗弁権を失うのは,債権者は弁済の提供をしたのに,債務者がそれを受領しなかったからだというのであれば,これは,受領遅滞の効果と言ってよいのかもしれません。しかし,同時履行の抗弁権というのは,もともと相手方が弁済の提供をするまで,自分の債務の履行を拒絶できるというものです。実際,現在の533条本文もそういう書き方になっています。ということは,これは,別に債務者が受領できるのに受領しなかったからというよりは,やはり債権者側が私が弁済の提供をしたから,もはや債務者は同時履行の抗弁権を主張できなくなるだけではないかと思います。   そうしますと,やはり弁済の提供の効果といえるのは,@の債務不履行責任の不発生とAの同時履行の抗弁権の消滅ということになりそうですが,このA同時履行の抗弁権の消滅は,先ほども言いましたように,現在では533条に既に書かれているわけです。したがって,ことさら492条に相当する規定の側で書くべき事柄ではないのではないかと思います。そうしますと,結果としては,492条に相当する規定では,@の債務不履行責任の不発生に相当する効果のみを定めれば足りる。それは,まさに現在の492条を基本的には維持してよいということになるのかもしれません。ただ,債務不履行による一切の責任を免れるという書き方で,不履行を理由とする損害賠償請求を退けるというのはよいのですが,解除までを退けるということまでカバーしていると言えるかどうか。むしろ,解除については,それに相応した規定を解除の側で置くべきではないかということが問題になるだけではないかと思います。   少し長くなりましたが,以上のような問題提起だけ,させていただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内幹事 私も気になる点だけを発言をさせていただきたいのですが,まず,弁済の充当について,三上さんが挙げられた例も中井先生が挙げられた例も非常によく分かるのですけれども,費用から充当されるという原則を本当になくしてしまっていいのかというのが何かいま一歩よく分かりません。つまり,一般に存在している債権を持っている人に対して,一部弁済が行われていたというふうなときに,別に何もしないで特に内部での充当指定をしなければ,元本がどんどんなくなっていってしまうと。知らないうちに元本がなくなっていて,利息だけになっているという話で,挙げられた例がまずいというのはよく分かるのですけれども,それを根拠にして,原則のところを外していいのかというのが分からりません。私の誤解がどこかにあるのかもしれないですけれども,気になる,というのが第1点です。   第2点目は,発言だけさせていただきたいんですが,483条について特に削除すべき必要はないのではないかという話について,流通業界からの要望ですということなのですが,別に誤解しているだけであって何の効果もないのだったら,特に削除する必要はないという具体的な理由を伺いますと,それでは,何のための残したいと業界はおっしゃっているのだろうか,業界は何を御希望になって残すべきだとおっしゃっているのだろうかというのがちょっとよく分かりません。取り分け後者の点についてお教えいただければ有り難いと思います。 ○中井委員 最初の点ですけれども,恐らく三上委員もそうだろうと思うのですが,配当段階で法定充当を原則にすること自体を否定しているわけではございません。しかし,当事者の合意充当はそれに先立って認めてほしい。しかし,今の執行制度ではそれが認められていない。そこを申し上げているわけです。 ○道垣内幹事 すみません,私は執行時を申し上げたつもりではなかったのですが,執行時以外のところでは,別段,充当関係が費用からということについては問題ないということなのでしょうか。 ○中井委員 原則として充当が費用からであることについて,反対しておりません。私が申し上げたのは,債務者が特定の債権を選択することを認めるのが便宜で,ほかの債権について費用利息があっても,選んだ債権の中から元本も含め先に充当されるというルールに修正してほしい,こういう趣旨です。 ○奈須野関係官 今,道垣内先生から御質問があった部分について,業界からの要望をそのまま申し上げますと,483条は任意規定であって,これと異なる合意をすることは自由である一方で,すべての契約について契約書が作成されるわけではなく,民法の条文は規定がない場合の解釈の基本となることに留意すべきである。契約により異なるので,本条を廃止すべきだとすれば,すべての任意規定を廃止すべきだという理屈なのではないか。本条は意思が不明の場合の根拠となる条文であり,廃止すべきではないと考える。   以上です。 ○鎌田部会長 よろしいですか。   先ほどの誤解うんぬんという御発言は,この資料に誤解と書いてあるけれども,それは理論面の問題だと。奈須野関係官の方は実務上の要請の話をしているんだと,そういうふうな文脈での御発言になったわけですよね。 ○大村幹事 今の点にもかかわりますし,それから,先ほど松本委員が代物弁済でおっしゃった点にもかかわるんですけれども,従来の理論上の議論との関係で,疑義が生ずるという問題をどのように処理するのかという問題が,一般論としてあるのではないかと思います。それは理論上の疑義なのだからほうっておけばいい,その考え方に必ずしもとらわれる必要はないというのが一つの態度ですけれども,それではあいまいな点は明らかにならないわけです。もし,ここで疑義についてただすことが可能ならば,それを新たに立法していくというスタンスで臨むというのがよろしいのではないかと,一般論としては思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでございましょうか。 ○能見委員 余り重要な問題ではないと自分でも思っているんですが,弁済の充当のところで若干条文の新設を考えたらどうかという問題があります。というのは,細かいことですが,今ある弁済の充当の規定というのは,債権者が一人でいろいろな債権を持っているという場合を想定しておりますけれども,実は信託なんかの場面ですと信託財産をたくさん抱えていたり,あるいは受託者自身が持っている債権があったりして,債務者が異なる債権者のどの債権を弁済するかを指定しないで弁済するということが生じる可能性があります。そのときに,弁済の充当をめぐって複雑な問題が後で生じることは困るので,最初から当事者が充当に関する条項を契約の中に設けておくようにすればいいんだろうと思いますが,しかし,そういうことをしていない場合にやっぱり充当の指定なく弁済されると,どの債務に弁済されるのかという問題が生じます。信託は特殊なので,ここで扱うのは難しい面もありますけれども,つまり,法定充当にしても一般の充当の場合と同じようにいくかどうかというのは分からないところもあります。たとえば,受託者が受益者の異なる2つの信託財産を受託しているときに,弁済した債務者がどちらを弁済したか,指定しなかったときに,法定充当の基準だけでもって適切な充当ができるのかどうか,ちょっと分からないところもあるし,あるいはこれでもいいのかもしれないし,これでいいということになれば,そういう複数の債権者の主体が違う債務についても,準用できるという規定を設けることが考えられるし,併せて御検討いただければと思います。 ○中井委員 最初に松岡委員がおっしゃったことと関連するのですが,今日,預金契約に関する議論が出ました。それから,代物弁済契約についてはその位置付けに関し,債務の消滅のところに入れるかどうかという問題が出ました。前回,保証に関しては,保証債務という形で議論されていますけれども,実質は保証契約の中身の議論で,立法にも保証債務の中に第二目として貸金等根保証契約という契約が出てきます。保証契約の取消しであるとか,保証契約の成立効果に関する議論も進んでいます。   体系的な問題として語る能力はないのですが,消滅のところに代物弁済契約があり,保証債務のところに保証契約があり,この辺は場合によっては契約類型の中に入れていくことはできないのか。そうすると,預金契約についても一つのジャンルとして議論ができ,保証契約についても成立から効果まで議論できるのではないか。体系的なところについても整理していただければ大変有り難いと思います。 ○新谷委員 9番の弁済の提供の効果と受領遅滞の効果の関係について,確認をさせていただきます。今回の詳細資料の中で,弁済の提供の効果については債務者の責任から解放を定めたものとして整理をすること,受領遅滞の効果については債権者の責任を定めたものとして整理をすることが提起されていますが,これは賃金請求権の発生要件ともかかわる基本的な問題です。賃金債権の場合,労務の提供を先にしないと,賃金債権が発生しないということで,弁済の提供と受領遅滞と峻別した場合に,賃金請求権の発生要件は,一体どうなるのかということを確認させていただきたいと思っております。   例えば,使用者が労務の受領を拒絶したときに,労働者の賃金請求権は労働者が行う弁済の提供,すなわち労務の提供の効果なのか,それとも,使用者が行う受領遅滞の効果として発生するのか,あるいは受領遅滞による履行不能の効果なのかという問題があります。これをどのように解釈すればいいでしょうか。   もう一点ございます。今回の詳細事例の中に受領拒絶の意思を明確にしている例として,契約そのものの存在を否定する場合が挙げられております。労働の場合ですと,「期間を定めて受領を拒否する」というケースがございます。これは休業命令の場合です。こういったケースについても受領拒絶の意思を明確にしている場合に当たるのかどうか,併せて御検討いただくようお願いします。   最後に,使用者が労務の受領拒絶の意思表示を明確にしたときの効果の問題ですが,債務不履行の責任が発生しないという効果が生じるだけではなく,使用者が労務を拒絶する意思を明確にした場合,それをもって賃金の請求権が発生することを肯定していいのでしょうか。これは二順目ぐらいで考える話かもしれませんが,今後の改正議論において,是非検討していただければと思っています。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。今の点は検討の課題として承らせていただくということでよろしいですね。   ほかにございますか。 ○深山幹事 細かいことかもしれないんですけれども,全然話題に出なかったので,最後,10の供託のところでございます。整理していただいたことに尽くされているのかもしれないんですが,実務的に非常に要件が明確でない,あるいは運用との兼ね合いもあるんですけれども,疑問を感じるところがあります。一般的に供託の要件は,受領拒絶とそれから債権者不確知と言われるわけですけれども,債権者不確知については先般の債権譲渡の二重譲渡のところとも関連するかと思いますが,債権者不確知については特に二重譲渡や差押えとの関係で,実務的には結構供託官が厳しく見て,なかなか受け付けてくれないことがあります。対抗要件制度がどうなるか分かりませんけれども,それによってはあるいはすっきりするのかもしれませんが,対抗要件具備の先後で支払うべき債権者は決まるのだから,駄目だといってなかなか受け付けてくれないことが間々あります。   そこではかなり厳しく要件を,運用上チェックされている感覚があるんですが,他方で受領拒絶の方は受領拒絶されましたと言えば,何でも受け付けてくれるというような感じがしております。しかし,理屈の上では受領拒絶の判例も引いていただいていますけれども,大正の判例以来,弁済の提供があって,それを拒んだときということが考え方としてはあるんですが,実務上はそんなものをチェックしているとは全然思えないんですね。これは実体法の問題ではなくて運用の問題なのかもしれませんが,やはりもう少し要件なりを明確化して,判例の趣旨も反映するということも含めてなんですが,整備をしていただく必要があるのではないかなと思います。さらに,効果の方も,既に資料で指摘されていますけれども,還付請求権や取戻請求権について,もう少し,その間の供託中の法律関係というものを明確にしていただく必要があるので,資料と重複しますが,指摘させていただきました。 ○西川関係官 ただいまの弁済供託の要件のところについて,同じ意見でございまして,やはり消費者契約などの場合で,消費者向けの債権の二重譲渡があったようなときに,消費者が正確に債権者はだれかということを判断するというのは必ずしも容易ではないと思います。そういうことを考えると,要件の明確化は大変結構なことでございますけれども,供託の要件を緩和するということはやはり必要なことだろうと思います。現在のいわゆる債権者不確知というのは,ちょっと厳しすぎるのではないのかなという感じがいたしております。   それから,もう一つの(2)の自助売却の要件の拡張の方についても,物品について広く自助売却を認めるというのは,物を買った債権者,消費者にとって,不利益に働く場合がやはりあるのではないかと思います。受領遅滞への対応というのは,当然,必要だということにはなるんですけれども,それにしても余り広く認め過ぎるのは問題ではないか。もちろん,滅失とか,毀損の恐れがあって市場価格が下落するとか,そんな場合はやむを得ないんだとは思いますけれども。 ○三上委員 法務局を責めるわけではないんですが,供託の問題事例の報告みたいなものでございますけれども,債権者不確知の供託においては,例えばよく税務署から,「○○それこと××」という差押債務者名で差押えがやってきて,銀行としてはどちらの預金なのか分からないという場合があるわけですが,こういう場合に債権者不確知で供託しようと思っても,銀行は預金者がだれか一番分かっている当事者ではないかということで受け付けられないということがあります。   それから,受領拒絶の場合の事例ですが,相続預金の相続分の分割請求で,当然,相続分の確認は必要ですから,戸籍謄本等を見せてほしいということに関して,そんなものは見せる必要はないとおっしゃる弁護士先生がいらっしゃって,そのまま払戻請求訴訟になることがあります。訴訟で請求する際には自分の相続分を立証しなければなりませんから,そこで相続分が明らかになる。そうすると銀行は支払に応じられるので弁済をするといっても,遅延損害金等とも併せて請求して訴えを取り下げない。こういうケースで相続分を供託して6%の遅延損害金を免れようとした際に,普通預金と定期預金がありまして,定期預金は満期まで期限の利益があるわけですので供託する必要はなく,だから,普通預金だけ相続分を供託しようとしましたら,どういう理由か分かりませんが,定期も法定相続分を分割して供託をしないと供託は受け付けないと言われたことがございます。もう少し柔軟な供託を期待したいと考えておりますので,参考例の報告でございます。 ○鎌田部会長 現在の法制度の下での運用の改良は,主たる課題ではございませんけれども,参考にしていただければと思います。   ほかにいかがですか。債権者代位権等との関係で供託請求というふうなことを拡張していくと,この自助売却に関連した問題がもっと大きくなってきたりするんですが,何か,そういう点で御意見があったりすれば伺っておきたいと思いますけれども。 ○木村委員 債権者代位権のときにも申したのですが,我々は第三債務者の立場になったときに誰が真の債権者か不明な場合があります。すなわち,債務名義を持っておらず,はっきりしないという場面を考えると,供託ができる要件を拡張して頂くよう,是非お願いしたいという意見が,非常に強くございました。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   ここでいったん,休憩をさせていただいて,休憩が終わった後に弁済による代位の御意見を伺うようにしたいと思います。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,そろそろ再開をさせていただきます。   休憩前のところまでで何か補足の御発言はございますでしょうか。   特にないようでしたら,「11 弁済による代位」について御審議をいただきます。まず,事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 第三者による弁済がされたときには,その求償権の確保を確実なものとするために,弁済による代位が認められており,この弁済による代位としては,任意代位と法定代位という二つの制度が認められています。このうち,任意代位制度は法定代位が認められない場合,すなわち弁済をするについて正当な利益を有する者以外の者が弁済をした場合に問題になるものですが,この任意代位制度については,従前から様々な問題点が指摘されてきたことから,制度の廃止を含めて,その在り方を見直すべきであるという具体的な改正提言がされています。そこで,「(1)任意代位の見直し」では,任意代位制度を全面的に見直す場合の方向性について,御意見をいただきたいと思います。   次に,「(2)弁済による代位の効果の明確化」です。判例によると第三者による弁済がされたときには,弁済による代位によって原債権が弁済者に移転し,弁済者に原債権と求償権の二つの債権が帰属することになるとされていますが,これに伴い,例えば部会資料10−2の29ページに記載したような派生的な問題が生じているとされています。このような指摘を踏まえて,「ア 弁済者が代位する場合の原債権の帰すう」では,この判例の考え方を見直すことの要否について,御意見をいただきたいと考えています。また,民法第501条は法定代位者相互間の関係に関する規定ですが,条文に明記されていない関係については,これまで判例・学説により補ってきたところですので,「イ 法定代位者相互間の関係に関する規定の明確化」では,これらの点について条文上,明確化するという方向性の是非を御議論いただきたいと思います。   「(3)一部弁済による代位の要件の見直し」と「(4)一部弁済による代位の効果の見直し」では,一部弁済による代位に関する問題を取り上げました。一部弁済による代位では,原債権の債権者と一部弁済をした弁済者との利益の調整が問題となるところ,その要件について判例は代位者が単独で担保権を実行することができるとしていますが,この結論に対しては代位者の単独での担保権の実行を認めると,債権者が換価時期を選択する利益を奪われることになり,求償権の保護という代位制度の目的を逸脱するなどの強い批判があるところです。(3)では,この判例の考え方を見直すことの是非について,御議論をいただきたいと思います。また,担保権が実行された場合における債権者と代位者との優先関係については,判例は債権が優先するとしており,学説上もこれを支持する見解が有力ですが,必ずしもこの考え方を条文から読み取ることはできないという問題があることから,(4)では,このような判例法理を明文化することを問題提起いたしました。   最後に,「(5)債権者の義務」では,弁済による代位に関連する債権者の義務として,判例・学説上,認められているものを明確化することを問題提起いたしました。   説明は以上です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。どこからでも御自由に御発言をいただければと思います。 ○三上委員 半分質問でございますが,任意代位を否定するか,承諾を不要とするか,これは両極論の結論になるわけでございますが,その前提としまして前回の保証の回に,後でまた聞かせていただきますといった問題点でもあるんですけれども,債務者と保証人間の契約で発生する保証を有効とするという場合の,債権者の受益の意思表示を条件にするという,その受益の意思表示というのは,債権者がそんなものは要らないと言えば受領遅滞にならない,断れるものなのか,断れない,保証人の弁済として,断ると受領遅滞になるような弁済になるのか,つまり,それは保証のところで言う「委託を受けた保証人」になってしまうのか,それとも,「委託を受けない保証」のような関係になるのか,それによっても任意代位制度をどうするという問題に影響してくると思いますので,まず,債権者の知らないところで保証人と債務者の合意によって発生した保証人の請求に関しては,この場合は任意代位になるのか,法定代位になるのか,その点はどちらなのでしょうか。 ○鎌田部会長 だれが答えるべきなのかがなかなか難しいとは思うんですけれども,債務者と保証人との合意でしたら,委託を受けた保証の類型に入るのではないでしょうか。 ○沖野幹事 三上委員の御質問は,保証引受契約を構想したときに,債権者の受益の意思表示を要求するという前提で,受益の意思表示をしなかった場合,むしろ拒絶したという場合にどうなるかというお話でしょうか。 ○三上委員 拒絶の場合ですね。 ○沖野幹事 そうすると,そもそも保証債務自体が,債権者はそれに相応する債権を取得しないということになりますので,したがって,その人から弁済ということを言われたとしても,保証人からの弁済という場面にはならないということになりますし,仮に債権者が保証自体については受益するということであるならば,保証債務自体が成立して保証人からの弁済ということになりますし,そのときにはもともと債務者との間で契約を結んでいるというものですから,債務者からの委託を受けた保証人という扱いになるんだろうと思います。 ○三上委員 ということは,受益の意思表示をするまでは第三者が弁済にやってきても,債権者としては第三者弁済として断ることができる,そういう前提でよろしいわけですね。 ○松本委員 それは第三者弁済が自由に,何の制約もなしにできるかどうかという先ほどの第三者弁済の要件の議論に還元されると考えます。 ○鎌田部会長 保証債務ではなくて主債務の第三者弁済になる。 ○三上委員 その場合に,ここの論点に関連づけると,それに同意,受益の意思表示をしてしまうと,任意代位ではなくて法定代位になってしまうということになるわけですね。そういう理解でよろしいでしょうか。 ○沖野幹事 そうではないでしょうか。保証人による弁済ということになりますので。 ○鎌田部会長 ほかに特に御意見は……。 ○鹿野幹事 意見と言っていいのかどうか分かりませんけれども,一言申し上げます。ここで任意代位制度を廃止するかどうかということは,基本的に第三者弁済というものを積極的に位置付けるのかどうかということにかかわっていると思われます。ここに示された御提案のA案,B案というのは,対極の御提案でありますけれども,その方向性は,根本的な点に関する先ほどの議論との関連で,決まってくる部分があるのだろうと思います。 ○鎌田部会長 ほかには特に御意見はございませんでしょうか。 ○藤本関係官 弁済者が代位する場合の原債権の帰すうの関係の話であります。詳細版ですと29ページでして,真ん中のCからEまでというのは原債権と求償権が両方ともあるので,こんな問題が生じているのだというようなことで,Cのところを見てみると別個に消滅時効にかかるとなっています。これの見直しの方向ということで30ページにいったときに,何か原債権を観念するのだとかということが書いてあります。そういう立場に立ったときに,原債権の消滅時効中断効とかといったものは,どうなるという御提案なのかなというのを御確認しようということです。 ○内田委員 正しく理解しているかどうかわかりませんが,この提案では原債権というのは求償権を行使する場合の制約として,ファントムというような言い方をしたこともありますが,ある種,仮想のものとして想定しているだけですので,それ自体についての時効というようなことは,観念しないということではないかと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか。   ほかに。 ○中井委員 この任意代位の見直しに関することで,弁護士会としてもそれほど意見がまとまったわけでは決してありません。先ほど第三者弁済との関係で岡委員から報告がありましたように,債務者の意思に反して行う弁済について,研究者の皆さんは有効説に立っておられるようですけれども,弁護士会では,従来どおりの無効説でいいのではないかという意見が多くありました。   債務者の意思に反しない弁済については,債権者が受領した以上,その後の代位について承諾うんぬんを入れるのは常識的にいかがなものか,承諾なしで代位できていいのではないか。当然,その前提として債務者の意思に反しない弁済については,弁済した以上は求償権も取得する,その求償権を担保する,確保する意味で債権者の承諾なく代位できる。こういう意見が多かったように思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見はございますでしょうか。 ○岡(正)委員 原債権の消滅のところが本当によく分かりません。承継執行文については何か観念するということで,何らかの形で担保権の執行はできると。原債権は消滅するけれども,原債権は観念して,ファントムとかおっしゃいましたけれども,やはりよく分かりません。もう少し,変えると,こう分かりやすくなるというのを出していただかないと,弁護士会では手に負えません。簡単にするのだったら,こんなふうに分かりやすく簡単になりますというのを提示してほしいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。一部弁済による代位もなかなか難しい問題でございますけれども。 ○道垣内幹事 一部弁済による代位の10ページの(3)と(4)の関係ですけれども,仮に(4)を前提としたときには,債権者が優先するということになるわけですよね,(4)の判例法理を条文上明らかにするわけですね。しかるに,そのときに(3)に戻った場合を考えますと,代位者が担保権を実行できるというときには,債権者が弁済を受けて,なお余剰があるという場合なのではないかという気がします。そして,それであるならば,換価時期選択権とかを認めるために,わざわざ担保権実行が債権者との共同でなければできないとする必要はないのではないかという気が私はします。(3)と(4)は一応ばらばらの話ですけれども,(4)でそこに記載されているような立場をとるのであれば,(3)は,単独実行で構わないのではないかなという気がするということでございます。 ○鎌田部会長 通常の後順位担保権者と同じ扱いにすればいいということですね。 ○道垣内幹事 ええ。 ○鎌田部会長 もし,ほかに御意見がないようでしたら……。 ○中田委員 担保保存義務について,詳細版の37ページに504条の規定を改めるという一つの御提案が紹介されています。504条自体を見直すということはよろしいと思いますが,ただ,ここで出ておりますのは,債権者の行為の合理性に着目した方向の御提案になっておりますけれども,他方で法定代位権者の代位の期待の正当性,取り分け保証人の保護の要請が歴史的にもありますので,両者を合わせて考える必要があると思います。それから,もう一つは改正した後,それを強行規定にするのか,それとも任意規定のままにしておくのかというのがもう一つの論点かと思います。 ○畑幹事 申し上げるまでもないような気もいたしますが,弁済による代位の場合の原債権の帰すうというのは,倒産実体法の方にも関係する規定がありまして,少なくともその関係の整理が必要になるであろうということだけ申し上げておきます。 ○鎌田部会長 ありがとうございます。 ○松本委員 少し前の論点に戻るんですが,三上委員が提起された債務者と第三者との間での保証引受契約について,債権者が拒絶した場合にどうなるのかという話です。委託を受けた保証人が弁済の提供をするということが法的に無意味なのかという点が,前半の議論の中で私が問題提起したところで,いまだにひっかかっているわけなんです。つまり,ここで言うところの第三者による弁済というのは,弁済の提供が行われて債権者が実際に受領した場合にどういう効果が発生するかという話と,第三者が弁済の提供をした場合にどういう効果が発生するのという話と,2段階に分けて議論しなければならないのではないかと。   474条2項を見ますと,「利害関係を有しない第三者は,債務者の意思に反して弁済をすることができない」と,こう書いてあるわけですが,ひっくり返せば,利害関係を有しない第三者でも,債務者の意思に反しなければ弁済をすることができるということで,弁済の提供をして実際に受領された場合に,債務消滅の効果があることは疑問の余地はないんですが,弁済の提供に対して債権者が拒絶した場合にいったいどうなるのかということは,必ずしもはっきりしていないんです。   利害関係のある第三者が弁済の提供をした場合に,一定の法的効果が発生するのは当たり前であって,債務不履行にならず,債権者として担保権の実行をできないはずなのです。その流れからいくと,利害関係のない第三者も弁済ができるというルールを民法に書いた場合に,弁済の提供自体も利害関係のある者がした場合と同じように,法的意味があるんだということであれば,先ほど前半で言ったように,全体の仕組みが相当に変わってくる。特に債務者の意にも反しており,債権者としてもそんなのは嫌だと言っているにもかかわらず,第三者のイニシアチブだけで他人間の法的関係に介入して,それをがらっと変えてしまうことができることになりかねないという点で,「弁済できる」ということの意味をきちんと分けて議論する必要があるのではないかということです。 ○三上委員 先ほどからこの問題についてこだわっていますのは,受益の意思表示によって保証関係が発生するとすると求償関係も発生する。そうすると,第三者と主債権者の間で相殺適状になる可能性もあるわけで,その場合には,先に相殺の意思表示をした方が勝つという今の判例の意思表示説に基づくと,後の第三者相殺のところでも言いますけれども,別の議論が出てきます。そういう意味で,債権者が代位弁済を断れるのか,受領遅滞に陥らないのか,その辺を明確にしていただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 受益の意思表示というときには,断る自由が明らかにあると思いますけれども。 ○松本委員 意思表示するかしないかは自由。 ○鎌田部会長 ええ。   ほかにはよろしいでしょうか。 ○中井委員 弁済による代位をした場合の求償権と原債権の関係について,詳細版の資料では29ページから30ページに書かれていますが,先ほどの岡委員の意見にもありましたように,実務でも大変混乱しておりますので,是非,整理をしていただきたいと思います。そのときの方向性ですけれども,ここに記載されていることと方向性は似ているのかもしれませんが,基本的な理解としては代位弁済することによって求償権を取得する。この求償権を確保するために原債権が行使できる。一種,原債権が法定担保的に求償権者が取得する。担保物を処分し,回収したら,求償権の回収になる。こういう理論的な関係ではないかと思うのですが,そういう担保的構成というのがあり得ないのか,あるとすれば,どういう説明が可能なのか,是非,御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見はございますでしょうか。 ○松岡委員 単なる理論問題かもしれませんが,先ほどの道垣内幹事の御発言で,一部弁済による代位の場合,10ページの(4)の論点につき,換価時期の選択だけを理由に代位者の担保権実行を否定する必要はないというのは分かるのですが,他方,担保権は準共有になって,それがなぜ一方の当事者の行為だけで消滅させられるのかが,私はよく分かりません。 ○道垣内幹事 単純な準共有だと見るとするとき,代位権者の同意がなければ,元の抵当権者も実行できなくなるのでしょうか。それはおかしいですから,準共有だからということですべてを解決することはできないのではないかと思いますが。 ○鎌田部会長 単純な準共有とは,やはりちょっと違う性質のものとして運用しているということになりますね,現在の判例を前提にすれば。   よろしいですか。もしお許しいただけるようでしたが,次の相殺へ移らせていただきたいと思いますが,それでは,「第2 相殺」について御審議をいただくようにしたいと思います。相殺につきましては,大きく二つの塊に分けて御審議いただくことを予定いたしております。一つ目が12ページの「1 総論」から15ページの「4 不法行為債権を受働債権とする相殺」まででございます。二つ目が15ページの「5 支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止」と,最後が18ページまでいきますけれども,「相殺権の濫用」ということでございます。   それでは,まず,「1 総論」から「4 不法行為債権を受働債権とする相殺」までについて,事務局に説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 「1 総論」では,相殺に関する規定の見直しに当たり,留意すべき点について幅広く御議論いただきたいと考えております。また,2以降に掲げました個別論点のほかにも検討すべき論点がございましたら,ここで御指摘いただきたいと思います。   「2 相殺の要件」のうち,まず「(1)相殺の要件の明確化」は,判例によって認められている相殺の要件を条文上,明確にすることの要否について御議論いただくものです。   次に,「(2)第三者による相殺の可否」は,現行法よりも相殺の要件を拡張することの是非について御議論いただくものです。民法第505条第1項は,二当事者間に対立する債権が存在することを相殺の要件としていますが,三者間による相殺の可否が問題となる場面があることが指摘されており,特に部会資料10−1の13ページの図にあるBによる相殺の可否については見解が対立しているところです。この点については,法定代位が認められる弁済をするについて正当な利益を有する者が,自己の有する債権を受働債権として相殺することができる旨の明文の規定を置くべきであるという考え方が提示されていますが,他方で,これを認めるとAが無資力の場合に,Bが自己の債権をAに対するほかの一般債権者に優先して回収することができることになり,債権者間の公平を害することになるという指摘もあります。このような指摘も踏まえつつ,Bによる相殺が認められることについて,明文の規定を置くべきかについて御意見をいただきたいと考えております。   最後に,「(3)相殺禁止の意思表示」は,相殺禁止の意思表示は善意の第三者に対抗することができないとしていますが,善意であっても,重大な過失によって相殺禁止の意思表示があることを知らなかった場合は,悪意と同視すべきではないかという点が現在明らかではないので,この点を立法により明らかにすることの要否を問題提起するものです。   「3 相殺の方法及び効力」では,相殺の遡及効を見直すことの是非を問題提起いたしました。現行民法が相殺に遡及効を認めたのは,相殺適状にある債権債務については,当事者が相殺適状の生じた時点で既に清算されたものと期待するのが通常であるところ,遡及効を認めた方がこのような当事者の期待に合致しているということを根拠とするとされています。しかし,実務上,相殺の意思表示がされた時点で,差引計算をするという処理がされていることが指摘されており,遡及効に対する当事者の期待を保護する必要性は必ずしも高くなく,むしろ相殺の意思表示がされた時点で,相殺の効力が生じるという考え方の方が簡便な決済を実現できることから,当事者の意思に合致するとも言われています。このような指摘がされていることを踏まえて,相殺の遡及効を見直すべきであるという提案がされていますが,この点については当事者間の合意がない場合のデフォルトルールとして,どのような規定を置くことが適切かという観点から,御検討いただければと思います。   「4 不法行為債権を受働債権とする相殺」ですが,民法第509条の規定は,被害者の損害を現実にてん補することによる被害者の保護と不法行為の誘発の防止が立法理由とされており,そうだとすると,相殺禁止の範囲が広過ぎるという批判が従来からされていたところです。そこで,相殺禁止の範囲を同条の趣旨に照らして,必要な範囲に制限すべくA案とB案のような具体的な提案がされていますので,これらの考え方について御議論いただきたいと考えております。   説明は以上です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明がありました部分のうち,まず,「1 総論」について御意見をお伺いしたいと思います。   特に御発言がないようでしたら,2以下の個別論点の議論に進ませていただきまして,それらの審議の過程でまた総論的な課題がございましたら,御発言をいただくというような取扱いにさせていただきます。   「2 相殺の要件」から「4 不法行為債権を受働債権とする相殺」までにつきましては,一括して御意見をお伺いしたいと思いますので御自由に御発言ください。 ○能見委員 後の方の問題からで申し訳ございませんが,相殺の遡及効について,この点はある意味で一番大きな改正の提案なんだろうと思いますけれども,この点について意見を述べたいと思います。ここに書いてある既払いの遅延損害金の処理が複雑になるのを防止するために,後で差引計算をするという実務の処理については,私は知りませんけれども,これを見たときに感じたこととしては,普通の預金者が銀行に預金を担保にしてといいますか,銀行の方からすれば相殺ができるということで,貸付けをする場合が考えられますけれども,こういう場合においては,銀行の方の貸付利息の方が当然高くて預金債権の利息の方が低くて,こういう場合であっても現行制度であれば,相殺の遡及効によって貸付けの利息の方が高い差額分を,預金者の方は取られることがないわけですが,しかし,相殺の遡及校を認めない新しい制度になりますと,相殺の意思表示というのは預金者の側から早くやらないと,どんどん差額分がかさんでしまうということになります。銀行の方も相殺適状になれば恐らくそれほど待たないで相殺の意思表示をすると思いますけれども,理論的な問題としては,相殺の意思表示が遅れると,遅延利息の異なる2つの債権間においてその差額分が増えていく,それを許容するという制度は,適当なのか,という問題になると思います。先ほどの例で言えば,預金者の方で早く相殺をしなくてはいけないという,そういうルールということになります。後の説明にも,そういう場合には不利益を受ける方が早く相殺すればいいんだということが書いてあったと思います。   ただ,新しいルールが決まればそのような対応ができるのかもしれませんけれども,普通の預金者が銀行から借りたときに,いつ,相殺すればいいのかというのは,なかなか,そう簡単には分からないこともあるでしょうし,心理的ないろいろな問題もあって,相殺をして自分の預金と貸付債務を帳消しにすることで債務を支払うとこと,すなわち預金で借りた債務を弁済するということになかなか思い至らないこともあるでしょう。そういう場面で預金者が不利益を受けるのではないかということを危惧いたしまます。今のような例をもとに,他の経済取引その他いろいろな場面で使われる相殺について,すべておかしいというわけではありませんけれども,遡及効を認めることが適当でない場合があることは考えておかなくてはいけないのではないかと思いました。そういう意味では,相殺の遡及効をなくすということについては,少し慎重に検討した方がいいと思います。 ○西川関係官 今の能見先生の御意見に賛同するものでございまして,やはり一般的には利息なり,損害金の利率というのは事業者の債務については低いし,消費者の債務については一般的に高いという状況があるんだと思います。そういう意味で,やはり消費者の利益という観点からは遡及効を認めないというのは,慎重な判断が必要だろうと思います。   その点,例えば今の実務で遡及効が制限されていることが多いというような反論があるのかもしれませんが,これについても民法の原則が遡及効を認めるということであれば,遡及効を認めないというようなものが,場合によっては消費者契約法上の問題となり得るかもしれないわけですけれども,民法の原則が遡及効がありませんということだと,このような消費者契約法上のアプローチがそもそもできなくなります。そういうことを考えると,実務で実際に遡及効を制限されているという合意が多いからといって,遡及効を廃止してもいいとはなかなかならないのではないかと,そう考えております。   あと,遡及効の問題に関連する論点の一として,もう一つ申し上げたいのは,時効消滅をした債権を受働債権とする相殺,これについてもやはり消費者と事業者を比べると,当然,事業者の方が法律関係には一般的に明るく,司法アクセスというのも事業者の方が得意ですから,事業者が自分の債権はきちんと時効を中断したけれども,消費者の債権はいつの間にやら時効でなくなっていたという場合がやはり考えられるわけでございます。そう考えると,民法508条の方についても,なくすということについては,慎重な判断をしなければならないのではないかと考えている次第でございまして,取りあえず,その2点を申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○奈須野関係官 今の西川さんの意見と大体同じなんですけれども,商取引上は継続的な契約関係において相互に債権が発生する場合には,定期的に相互の債権債務を集計して,合意に基づく相殺で多くの債務を負う側が支払うという運用を一般に行っております。その際に,いただいた資料でいくと,既払いの遅延損害金等の処理を行わなければいけないと,これが煩雑であるという御指摘がありますけれども,実務上は余りこのような遅延損害金等の処理は行っていないというのが実態でございます。   むしろ,この遡及効が認められなくなることによって,もちろん,これは任意規定なので,当事者間で別の定めをすることが可能だとは思いますけれども,一般的に考えますと,民法の基本ルールが変わったということになれば,立場の強い側が有利に任意規定の方を直しにかかってくるということが想定されますので,そうすると,先ほどの消費者保護あるいは中小企業の保護の観点から,現状の実務については大きな影響があると考えられます。したがいまして,遡及効の見直しには反対いたします。 ○新谷委員 相殺の拡張の是非について,第三者による相殺が提起されております。13ページに絵があり,A,B,Cという三角関係が出ていますが,この絵において,例えばAを倒産に瀕した会社と見立てたときに,問題が起きてきます。現在の提案ですと,弁済について正当な利益を有する者である場合は,第三者による相殺を認めることになっております。仮に,Aが無資力であった場合,Aに対して持っている先取特権である労働債権を確保する場面で,ここで第三者による相殺がなされてしまうと,債権回収の原資がなくなってしまうことになります。そのため,この第三者による相殺については,是非慎重な論議をお願いいたします。 ○三上委員 まず,相殺の要件のところで受働債権の弁済期到来を条件にしない方向で見直すと書いてありますが,別にそれに異論があるわけではないんですけれども,受働債権の場合であっても,一応,期限の利益は債務者のためにあると推定することになっていますが,必ずしも100%債務者のためだけにあるわけではなくて債権者の側にある場合もあって,それの損害賠償義務を免れるわけではないということをまず1点,確認しておきたいと思います。貸金等の期限前弁済のときには,例えば違約金や清算金が発生する場合もありますので。   それから,第三者による相殺につきましては,先ほど13ページの図のAが支払不能の状態の場合の問題点が挙げられておりますが,Bが支払不能状態の場合に,Aという甲債権の債権者に損害を与える場面というのも考えられます。例えばAが銀行でBの甲債権というのが預金で,それ以外にAから丙債権という貸金があったという場合に,Aは基本的に甲債権と丙債権の相殺を期待しているところを,先に甲債権と乙債権を相殺してしまうことによって,実質,A銀行には丙債権という不良債権だけが残り,BはCから何がしかの施しを受けることによって,事実上,相殺で使えなかったはずの資金が使え,Aにはまるまる不良債権が残るといったようなことにもなりかねないというケースです。少なくともこういう場合にはAの承諾を条件とするか,これは第三者弁済をどの範囲で,債権者の承諾がないといいますか,債権者が積極的に認めない段階で,どこまで弁済金の受領義務を認めるかという,先ほどからあげさせていただいた議論にも関係するわけですが,少なくとも相殺に関しては代物弁済のように債権者の承諾を得るべしという形にするか,あるいはこういった場合もAの方からの相殺の抗弁を認めるとすべきか,どちらかが必要と思います。   後者の場合は,昭和54年判決の相殺の意思表示説,すなわち,先に相殺の意思表示をした者が勝つという判例を見直すことになるわけでございますが,関連論点に含めていただきたいと考えておりまして,以上の点から少なくとも単純に第三者弁済と同じ形で第三者相殺を認めるということには,金融機関として反対したいと考えております。   それから,まとめて申し上げますけれども,時効にかかった債権との相殺についてで,これは,例えば時効の完成を知らずに債務を承認して,つまり援用権を放棄した形になるようなケースとも似てまいりますし,時効完成直前に,もうすぐ時効であることを知らずに,つい中断に応じてしまったといったようなケースとの比較考量も考えられるわけで,それは何のために時効の制度があるんだという問題と切り離せない問題だということで,ここで議論するよりも時効のところですべきではないかと考えておるわけでございますが,ここで問題にしたいと思いますのは,金融機関で時効債権との相殺を主張することはほとんどないんですけれども,唯一ありますのが過去に払った預金だけれども,証書や通帳はそのまま残っていて,支払い済みであることが立証できないという場面です。   これが発生する場面としては,過去に貸金との相殺によって強制的に回収したけれども,通帳や証書は回収できなかったところ,それが記録の保管期限が経過した10年,20年後になって,突然,通帳と証書を持ってきて払えと言われるというのが典型事例です。判例では,自動継続定期預金は時効にかからないとされてしまいましたので,こういうときに唯一の抗弁が相殺の抗弁だということになります。自動継続定期が時効にかからないということを否定してしまうのであれば,解決する問題でもあるので,これも含めて議論は時効のところで併せてでも結構ですが,慎重な御議論を期待したいと考えております。 ○山本(和)幹事 第三者の相殺の問題ですが,これは実際上も倒産手続の中では,しばしば議論になるところだと理解しております。その意味で,民法の中で明文規定を置いていただいて,場合によっては倒産法の中でそれに関連する規定を設けるということが,規律の明確化ということでは望ましいのではないかと思います。民法の中でも先ほど新谷委員が言われたことは,私もそのとおりだと思います。実質,この13ページの図でいえば,甲債権によって乙債権を代物弁済するものと同視できるとすれば,Aが無資力の場合には甲債権の経済的価値というのは券面額を下回っているわけでしょうから,それで代物弁済を強制するということは不当であることは明らかであるように思います。   ですから,規定を置く場合にはそのあたりを明確化するということが必要なんだろうと思いますが,更に無資力に陥る前に,A,B,Cの三者間で相殺についての合意があったような場合に,それがどうなるのか。倒産手続では,しばしばそういう合意があったのではないかというようなことが論点になるように思います。もし,民法の方でそのあたりを明確化していただければ,倒産法で何らかの規律をする場合にも,非常に参考になるのではないかと思います。御検討をお願いしたいと思います。 ○鎌田部会長 三者の相殺合意というのは相殺契約ですか,合意による相殺権付与でしょうか。相殺契約で,三者間の契約で相殺してしまうということが危機時期に行われるという,そういうことですか。 ○山本(和)幹事 危機時期前に,そのような相殺ができるというような合意がされているというような場合ですが。 ○鎌田部会長 約定による相殺権の付与ですね。 ○岡(正)委員 遡及効と消滅時効した債権の相殺の2点につき意見を申し上げます。まず相殺の遡及効です。最初の方でした民法をオートノミーにするのか,パターナリスティックにするのかという議論にさかのぼっていくのかなという印象を持っておりますが,遡及効についてはやはり公平観念から遡及効があった方がいいのではないかと思います。意思表示があったところで債務消滅の効果を生じさせればよい,不利になる人が出るというがその人が早く意思表示をすれば不利はないではないかという議論がありますが,そういう自立した合理的な人間をイメージすれば,それほど不都合はないのかもしれませんが,弁護士が通常接している消費者とか,普通の人を念頭に置くと,それほどてきぱきと早々と合理的に相殺の意思表示をする人ばかりではありません。それを考えると,今回の意思表示時期に効果が生じるというのを原則にするというのは,何か民法の商事法化ということを言う人もおりますけれども,余りに合理的な通常人を念頭に置いたようなルールにしてしまうのではないかと思います。   日本人がもっとみんなが合理的な人であれば,そのルールでもいいのかもしれませんが,今の世の中でそういうことに切りかえていいのかと思います。民法がどういう人を念頭に置くのかということに絡むのではないかという議論をしております。最終的には今まで100年間,遡及効できているし,相殺の意思表示をなかなか早々にできない人もかなりいるという事実を踏まえると,遡及効を維持すべきであると思います。ただもちろん当事者間の特約で意思表示時にするというのは認めて結構だと思います。なおその場合でも先ほどの金利の差があるような場合で意思表示時期が不当に遅いときは,権利濫用で,調整するということは考えるべきだと思います。結論として,今の日本,消費者が非常に多いことを前提にすると,遡及効を支持するという意見の方が多くございました。   次に,消滅時効の完成した債権による相殺についてです。消滅時効が完成したんだからその前に相殺適状になったからといって,時効中断を怠った債権者の方が悪いんだという考え方,あるいは時効というのは領収書などの書類保管義務などのくびきから解放してあげる合理的な制度だと,時効完成というのは不道徳な制度ではなくて一種のスピーディな取引社会を確保するための合理的な,経済的な制度だ,権利だという考え方から,相殺できなくするという提案が出ているのではないかと思います。そういう大きな観点から提案というのは理論的には一つの合理的な制度だと思いますが,今の日本の民法としてこれを入れるのは,プラスマイナスを考えると不公平,かわいそうな事態の方が多いのではないかと,思います。 ○山野目幹事 4点に分けて意見を述べさせていただきたいと考えます。   一番目は相殺の要件の明確化のところでございますが,これに関して三上委員が問題提起をされたこと,つまり,債権者のために期限の利益がある場合もあるではないか,その場合についての従来理解を変更してもらうのは困る,というお話については御指摘のとおりでありまして,そこは変わらないんだと私も考えております。   2点目でございますけれども,第三者による相殺の可否の問題に関しては,議論の進め方として留意が必要でありますのは,本日,休憩の前に御議論があった,第三者による弁済の問題と一定のにらみ合いをしながら議論をしなければいけない部分と,しかし,弁済と相殺では問題状況が異なるという事項と,両方に注意をしながら引き続き御議論を続けていただきたいというように考えます。第三者の相殺について,無制限にそういうものを認めようという提案はされていないわけでありますので,どう絞るかということを山本和彦幹事から御指摘があった倒産の局面なども視野に含めながら,更に御議論いただければ有り難いと考えます。   3点目でございますが,遡及効の問題について,それぞれのフィールドから関係官が御指摘になった危惧は,それぞれ理解をすることができます。反面,部会資料において指摘されているような観点というのも,議論としてあり得るというように考えますから,これも何をデフォルトルールにするのが適当かという事務局の御説明のとおりでありまして,遡及効の採否,それぞれにおける得失を引き続き御議論いただければ有り難いと考えます。   4点目でございますが,民法508条の関係で,これは三上委員の御指摘に同調するものでありますが,時効についての議論の帰すうが見えてきてから,また御議論していただきたいとお願いするものであって,取り分け508条の改正に慎重で,今のままでもよいではないかという御意見が,そういうニュアンスの御意見があると聞こえましたが,今の508条の法文自体が細部を見ると,法律的解決がはっきりしていないところがあると感じます。判例が消滅時効の法的構成について不確定効果説を完成する前に練られた文言で現行法は作られているものでありましょうが,そこに問題があるともみえますから,508条全般の見直しの中で,ここで提案されているようなことも一つの可能性として視野に置きながら,御議論いただきたいというように考えるものでございます。 ○深山幹事 今,山野目先生の二番目の御指摘に重なるかもしれませんが,私は,第三者相殺については慎重に考えるべきだと思っております。ポイントは御指摘いただいたように,一つは第三者弁済とパラレルの問題で,それは,そのときにもちょっと申し上げましたけれども,利害関係を有するものというところと,それから,代位のところで出てきます弁済をするについて正当な利益を有する者,それぞれがもちろん似て非なるものなんでしょうが,ここでもまた一つの絞りをかけるにあたり,第三者相殺の絞り方の一つとして資料では,弁済をするについて正当な利益を有する者というのを念頭に置いた提案が示されていますが,この中身をどうするのか,つまり,物上保証人であるとか,第三取得者というのは比較的分かりやすいんですが,それ以外にどこまで広がりを持つ概念なのかということが非常に気になるところです。   もう一つの絞りの問題として,債務者が無資力の場合には制限をするという点があります。これも極めて合理的な指摘で,つまり,第三者相殺によって不公平が生ずるという事態は,それは避けるべきだといえます。ここは第三者による弁済と第三者による相殺の正に決定的に違うところで,弁済の場合は第三者であれ,何であれ,実際に弁済をするわけですから,給付が債権者に対してなされるわけです。それをまた,このA,B,CでいえばAになるんですかね。Aの債権者がまた分け合えばいいわけですけれども,相殺の場合には給付されるものが現実にAのところに行くわけではないので,そこでAの債権者を害するという問題が出てくる。そういう意味で言うと,二つの観点,それぞれからやはり絞りをかけて,少なくとも不公平が生じないようにというのは,弁済のときとはまた別の意味で,相殺の場合には重視すべきファクターなのではないかなと考えています。慎重に御議論いただきたいと思います。 ○三上委員 何度もすみませんが,第三者相殺の場合には,第三者弁済とパラレルの問題とは違うものがあるという点に関してでありまして,念のためにもう1点付け加えさせていただきますが,例えば典型的にはCが乙債権の担保となっている不動産をBに譲渡するという形で,Bが物上保証とか第三取得者になったというケースでは,Bは弁済するについて正当の利益を有する第三者になると思うんですが,そういう形によって,別に第三者弁済をどういう範囲で今後,認めるというのにかかわらず,弁済するについて正当の利益を有する立場になることは可能ですが,そういった場合であっても,先に挙げた弊害は発生しうるという点も含めて第三者相殺それ自体に関する弊害をどう防ぐのかという議論をお願いしたいと思います。 ○木村委員 不法行為の話ですが,不法行為債権を受働債権とする相殺について,決済が過剰に制限されていると指摘のある部分は,そのとおりだと感じています。ただ,これが禁止されている趣旨も十分意味がある話ですので,一定の制限をつけながら認めていくという方向で,議論していくのがいいのではないかと考えております。中身につきましては,A案,B案の二つがありまして,こういう場合に許されるとするのか,こういう場合に許されないというような形で規定するのか,これは,これから議論していくということでいいのではないかと感じております。 ○道垣内幹事 不法行為に移ったところで,元に戻して申し訳ないのですけれども,先ほどから出ております相殺の遡及効の問題と,あと,2の(1)にあります相殺の要件の明確化というものの関係なんでございます。能見委員が最初におっしゃった例がすごく私は気になっておりまして,つまり,消費者が銀行からお金を借りていて,遅延損害金が発生しているところ,他方,消費者が銀行に対して定期預金を持っているというふうな場合を考えるわけですが,このときは,定期預金について期限の利益を銀行が放棄することができるとしても,放棄するまではやはり相殺適状ではないのではないかという気がするのです。そうすると,遅延損害金はやはりずっと発生していて,相殺の意思表示をするようなときになって,やっと相殺適状が発生して,かつ遅延損害金の発生も止まるということになり,消費者保護にはならないのではないかという気がするのですが,その辺は私の理解がおかしいんでしょうか。   それで,そのことが仮に私が申し上げているように,双方の債務が弁済期にあるというのが飽くまで相殺適状の要件であって,しかし,受働債権の弁済期は到来していない場合でも,例えば期限の利益を放棄することによって,その相殺が認められるのだと考えますと,それは実は相殺の要件を変えているわけではなくて,ただ,単にそういう方法もありますよということをきちんと書いておくという話なのではないかという気がします。そうではなくて,相殺する側が,受働債権の弁済期が到来していないけれども,それは放棄できるのだから,放棄可能時から相殺適状にあって,遅延損害金が発生しないというのは,私には疑問です。現在の判例法理自体の理解が私に不十分なのかもしれませんけれども,お教え願うか,あるいは要件との関係で効力のところをどうするかということを,例えば遡及効を維持するということならば,それが要件のところとどう結びつくのかということについて,併せて御検討いただければという気がいたします。 ○鎌田部会長 ほかにいかが……。 ○鹿野幹事 3点ほど意見を述べさせていただきます。   第1点は,今,道垣内幹事も言及された相殺の要件のところです。先ほど三上委員からも御指摘があったとおり,通常は債務者は期限の利益を放棄できるとしても,例外的には,できない場合,あるいは少なくとも無条件ではできない場合があるということも考えなければなりません。また,もう一方で,資料に掲げられたご提案の理由は,債務者は通常は期限の利益を放棄して双方の債権を相殺適状に至らしめることができるのであるから,ということにあるのだと思いますし,現在の規定でもそれは可能です。そうだとすると,結局,現在の規定をこの要件に関しては変える必要はないのではないかと思うのです。自働債権の弁済期が到来した場合,受働債権については原則的に期限の利益を放棄して相殺適状を生じさせて相殺をすることができるという旨をより明確化するということは考えられるかもしれませんが,それで十分なのではないかと考えます。   それから,第2点は,遡及効に関してです。双方の弁済期が到来し,正に相殺適状にあるという互いに対立する債権があるけれども,遅延損害金の定めが約定により異なるということはあるのだろうと思います。この場合,資料にも指摘されているところの,相殺適状にある債権債務が清算されているという当事者の期待という点もさることながら,当事者間の公平ということも考えますと,やはりデフォルトとしては遡及効を認めた方がよいのではないかと思います。その上で,意思表示の時点を基準にして清算をする旨の特約など,現在取引上しばしば用いられていると聞く別段の特約があった場合については,その特約の効力の問題として処理すれば足りるのではないかと思います。   それから,第3点としては,関連論点としての相殺と時効というところです。これも,既に御指摘があったように,そもそも時効をどのように制度設計するのかということにかかわると思いますので,そこで改めて議論すればよいとも思うのですが,一言だけ申し上げます。御提案には,およそ508条を廃止して,むしろ,時効を優先するということで,現行法からの大きな価値転換が含まれているように思います。しかし,このように時効を優先するということが果たして妥当なのか,むしろ,相殺という制度自体に含まれていた当事者の期待ないし当事者間の公平という観点を,それほど考慮しなくてもよいということになるのかということが,気にかかっているところです。これについては,また,時効のところで発言させていただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○中井委員 弁護士会として申し上げようと思っていたところはほとんど出ましたので,時効消滅した債権を自働債権とする相殺の部分についてのみ,現実に問題になっている例を紹介させていただきます。過払金請求権を有する消費者はたくさんいます。最高裁の判決で,二つの一連の借入があれば,最初の方については過払金請求権の時効が進行する。その後も借入れが継続している場合,過払金債権の発生は知りませんので,時効が完成している。その後に貸付債権の請求が来たときに,この過払金返還請求権,時効の完成した請求権で相殺できるか。   このような例は現実に極めて多数あります。過払金請求権は不当利得返還請求権ですから,消費者がその債権を持っているか,持っていないか分からないうちに時効が成立している。そういう事態には現在の現行法であれば対応できるけれども,これが変われば対応できない。こういう指摘が消費者保護委員会から出ております。 ○松本委員 遡及効のところなんですが,タイプを二つぐらいに分けた方がいいのではないかという印象を持っています。一つは言わば預金債権を担保にして銀行が貸付けをしているとか,あるいは両建て預金をやっているとかいった,最初から見合いになっているような場合に,遡及効が最初から発生しているという議論は,多分,余りなじまないのではないかなと思うんです。   しかし,見合いではなかったのが,何らかの拍子に結果として相殺が可能なような債権を取得していたというような場合であれば,遡及効を認める方が公平な場合も,かなりあるのではないかという感じがしますから,一律のルールにはなじまないのではないかという印象です。担保として取っているような場合には,ここで書いてあるように,相殺の意思表示がされた時点で清算をするというのが,多分,普通だろうと思うんですね。定期預金をさかのぼって解約して,何とかというようなことはしないんだろうと思います。実務の話ですが。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○岡(正)委員 不法行為債権を受働債権とする相殺のところですが,弁護士会の多くの意見は見直しに反対でございました。合意相殺は認められるはずで,過失の場合に合意相殺で処理されている場合があることはそのとおりですし,それで十分ではないかと。過失による損害賠償も原則としてはお互いに払い合う。その方が保険実務にとっても有利だし,あえて,ここを絞り込む必要性はないのではないかという意見の方が多くございました。 ○藤本関係官 中井委員が指摘された過払い金のお話でございますが,その基となっているのは貸金業法のみなし弁済規定ということだと思います。御紹介までですが,これを削る旨の貸金業法改正規定が本年6月18日に施行されるということですので,今はいっぱいあるということではあるかもしれませんが,だんだん少なくなっているということかもしれません。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。   それでは,恐縮ですけれども,次の5番,6番,部会資料10−1の15ページから18ページについて御審議をいただきます。まず,事務当局から説明をさせていただきます。 ○松尾関係官 民法第511条の条文の文言からは,自働債権が差し押さえられた場合に,第三債務者が相殺することができるためには,差押え時に自働債権と受働債権の弁済期がいずれも到来していなければならないか,また,到来している必要がないとしても,自働債権と受働債権の弁済期の先後が問題となるかという点が必ずしも明らかではないとして,これまで相殺の担保的機能をどの程度重視すべきかという点と関連して,様々な議論がされてきたところです。この点について判例は,部会資料10−2で引用した昭和45年判決が,自働債権と受働債権の弁済期の先後は問わないという無制限説をとることを明らかにして以降,無制限説を維持しており,このことから現在の実務は無制限説を前提としているとされています。   しかし,学説上は現在でもなお,自働債権の弁済期が受働債権の弁済期よりも後に到来する場合には,相殺を認めるべきではないという制限説を支持する見解も有力であるとされています。法定相殺と差押えの関係は,特に銀行取引等の金融実務において重要な問題であることから,条文上,明確にすべきであるという考え方が提示されていますが,その場合にはこれまでの判例と有力説の対立を踏まえると,単に昭和45年判決の結論を明文化するか否かということを検討するだけではなく,法定相殺と差押えの関係について,その在り方を改めて検討することが必要であると考えられるため,「(1)法定相殺と差押え」において,この点を問題提起いたしました。   条文上明記する場合の具体的な考え方として,A案とB案を掲げましたが,A案が無制限説,B案が制限説に対応する考え方です。この問題を検討する際の視点としては,自働債権の弁済期が受働債権の弁済期よりも後に到来する場合に,相殺権者の相殺の期待は保護に値するかという点と,相殺の担保的機能を重視することにより,相殺権者がほかの一般債権者よりも,優先的に債権を回収することを認めることが妥当かという視点が重要であると言われています。これらの視点から法定相殺と差押えの優劣関係についてどのように考えるべきか,また,これらの視点以外に法定相殺と差押えの優劣関係の検討に当たって,ほかに留意すべき点があるかという点について,御意見をいただきたいと考えております。また,法定相殺と差押えの関係と関連して,法定相殺と債権譲渡の関係が問題とされていますので,関連論点1ではこの問題を取り上げました。   次に,「(2)相殺予約の効力」ですが,相殺による債権回収をより確実なものとするために,実務上,いわゆる相殺予約の合意をすることがあり,特に金融取引における債権回収のための手法として,重要な役割を果たしているとされていますが,この相殺予約の効力を差押債権者等に対抗することができるかという点についても,法定相殺と差押えの関係と関連して争いがあります。この点について判例は昭和45年判決が,相殺予約の効力を特に限定することなく認めたことにより,いわゆる無制限説を採ったとされており,現在の実務も判例の立場を前提としているとされています。これに対して,学説上は判例の立場を支持する見解も有力ですが,これを批判する見解も有力に主張されています。相殺予約の実務上の重要性を考慮し,その効力の差押債権者等に対する対抗の可否について,条文上,明確にすべきであるという考え方が主張されていますが,その場合には従来,様々な議論がされてきたことを踏まえると,法定相殺と差押えの関係と同様に,単に昭和45年判決の結論を明文化するか否かということを検討するだけでなく,相殺予約の効力の在り方について,改めて検討することが必要であると考えられるため,「(2)相殺予約の効力」においてこの点を問題提起いたしました。相殺予約の効力の差押債権者等に対する対抗の可否について,条文上,明記する場合には,A案からC案までのような考え方があり得るところです。その具体的な内容については,部会資料10−2の59ページ及び60ページに記載いたしましたので,御参照ください。   次に,個別的な相殺禁止の規定に抵触するわけではありませんが,公平の理念に反する場合には,権利の濫用として相殺が認められない場合があるとされており,この点について明文の規定を置くべきという考え方が提示されていますので,このような方向で検討することの是非と明文の規定を置く場合の要件について,「6 相殺権の濫用」において御議論いただきたいと思います。   説明は以上です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○大島委員 まず,(1)の相殺と差押えの関係については,判例によって実務が形成されている16ページのA案,無制限説を維持することでよいのではないかと思います。中小企業は債権回収の手段をそれほど多く持っているわけではございませんので,相殺の担保的効力に期待をしています。   次に,17ページの(2)の相殺予約の効力について,明文化される場合には取引の実態に御配慮いただいた上で,御検討いただければと思います。実態として例えば製造業の現場では下請業者に材料を支給し,製品として納入してもらう場合に,材料代と加工賃を相殺して支払が行われる形態がございます。この場合,単発的に行われるものもございますが,基本契約を交わさず,発注書と請書だけで単発の取引が常時繰り返されているものもございます。また,建設業の請負の現場では,元請業者が常に元請となっているわけではございません。案件により,元請業者と下請業者が入れ替わることも日常的で,施工時期が重なれば,互いに請負代金を持ち合うという関係も当然ございます。このような実態からしても,17ページの下の方に書いてございますB案においては,どのような場合に相殺でき,どのような場合に相殺できないかという,中小企業にも分かりやすい文言を慎重に御検討いただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。  ほかに。 ○高須幹事 昭和45年以来の判例でございますから,弁護士会においても法定相殺と差押えの関係においては無制限説が有力である,それをまずお断りさせていただいた上で,若干の質問を兼ねた意見になるのですが,今回,(2)の相殺予約の効力に対しては,AとBとCという形で3説,提示されていると。従前の無制限説に当たるようなA案と制限説に当たるC案との間に,B案という形で,一定のものについては比較的,広範に,無制限説的に相殺予約の効力を認めていきましょう,しかし,全部ではありませんよという形での,言わば無制限説で貫徹するわけではないという考え方が示されています。そうだとすれば,(1)の法定相殺と差押えに関しても,同じような発想があるいはあるのではないか。一定の取引類型においては無制限説をとり,そうでない場合については,そこまでの相殺に保護は与えませんよという解決もあるのではないかと思うのですが,それについては今回,いただいておる資料では特に御指摘はないようなのですが,そういう発想で考えるということは,あり得ないものなのかどうかということをお教えいただければ有り難いと思っております。 ○鎌田部会長 これは,現に立法的な提案として出されているものをまとめたというのが基本的な内容となっている資料であって,事務局でいろいろ案を作っているわけではございませんので,むしろ,高須幹事の方でそういうお考えがありましたら,具体的な御提案を出していただければ,次のクールでの検討の対象になるということだろうと思いますので,よろしくお願いします。 ○高須幹事 そうであれば,飽くまでも弁護士会の意見ではないということをここではお断りしておかないと誤解を受けてしまうので,その点は明確にさせていただくのですが,私としては(2)の相殺予約の効力について,B案というものに親しみを持っておりまして,そうであれば,(1)の法定相殺と差押えとの関係についても,従前の無制限説一本やりみたいなところはある程度,考えを変える余地があるのではないかと,このように思っております。飽くまで個人的意見でございます。 ○能見委員 今の御意見とも少し関連するんですけれども,この問題は恐らく法定相殺と相殺予約の組合せというんでしょうか,両者の役割分担というんでしょうか,そういう観点から見るのが一つの視点ではないかと思います。既にいろいろこの法定相殺については議論されていることなので,改めて新しい視点が私にはあるわけではありませんけれども,一般に言われるように無制限説の場合ですと,第三債務者が自分の自働債権の方の弁済期が来ていない段階で,受働債権の弁済期,差し押さえられた方の債権ですけれども,その弁済期が来ているときに,その弁済期を拒みつつ,自働債権の弁済期が来るのを待って相殺するということが認められるという点が不合理だということがあります,一般に言われていると思いますが,私も銀行などが第三債務者になって相殺を主張する場面において,今のようなことが行われるとすると,やはりそういう相殺を許容することは適当でないだろうという気がしております。そういう意味では,法定相殺についてはB案というのが妥当なのかなと個人的には思います。   それとの組合せということになると,相殺予約については,A案か,B案かということになるんでしょうが,ただ,私もよく分かりませんけれども,ほとんどの相殺が問題となる場面というのは,B案に書いてあるように何らかの社会的定型性を有する関係がある場合なのかもしれないので,そういう意味では,A案とB案との差はそれほど大きくないかもしれない。又,B案のように,条文としてもし法定相殺を更に超えて,相殺ができる場合条文の中に書くとすると,それはなかなか書きにくいので,A案か,B案かという点については,A案でいいのかなという感じがしております。 ○中井委員 法定相殺と差押えに関する弁護士会の意見としては,無制限説が圧倒的と言っていいかと思います。その背景としては,実務界においては無制限説での運用が長年続いてきたという事実がありますし,それ以上に相対立債権債務があるときのお互いの認識として,自ら負っている債務が担保的機能を果たし,それで取引を継続している。しかも,大島委員の意見にもありましたが,多くの取引で相互関係に継続的に幾つもある。そのときに個々の弁済期の前後を意識しているかというとそうではなくて,債権債務のあることを認識して経済活動が行われている。まず,この事実が重要だろうと思います。   加えて,仮にB説になったときは,そういうたくさん債権債務のある中で差押えがきたときのたまたまの弁済期の前後で相殺ができるか,できないかが決まる。偶然でなぜそれほど決定的な違いがあるのか。その違いというのは1週間かもしれないし,2週間,1か月かもしれない。1か月後だからなぜいけないのかという点で,やはり理解はできないところです。のみならず,根本的に思いますのは,相殺ができるというのは相殺適状になったときで,お互いの債権債務の弁済期は通常,違うわけです。どちらかが遅滞に陥っている。どちらかが遅滞に陥って,初めて相殺適状が生じている。そこで相殺を認めるというのが本来の相殺ですから,そもそも遅滞のない相殺適状は基本的にはない。ですから,実務の感覚からすれば,無制限説で意見は一致するのではないかと思っております。   併せて,相殺予約は,相殺予約という言葉を使っていますが,現実にあるのは期限の利益喪失条項です。期限の利益喪失条項は債務者に一定の不安が生じたときに弁済期を到来させて,そこで一定の回収行為に入ることを想定しているわけですけれども,正に差押えという事態は,相手方債務者に何らかの信用不安状況というか,債務名義を取られながらもなお弁済できない事態で,その事態に至っているのに期限の利益の喪失条項としての効力を認めないのかというと,これは恐らく肯定するのだろうと思います。   これを肯定したときに,第三債務者の利益とそこでたまたま差押えをしてきたいわゆる差押債権者の利益を比較した場合に,たまたま差押えをしてきた差押債権者がなぜ優先されるのか。それまで継続的な取引で債権債務のあることを信頼して,なおかつ弁済期の前後はそれほど気にすることもなく継続してきた第三債務者が突然に事実上の担保を失う,そういう事態はやはり想定しがたいのではないかと思われます。したがって,相殺予約についても,期限の利益喪失条項ですけれども,差押えがあったら期限の利益は喪失する,その時点で回収行為には入れる,回収行為の中には当然,相殺行為も含まれると考えてよいのではないか。   あえて,ここで問題があるとすれば,仮差押えについても期限の利益が喪失する,とするものがあるわけですが,これはむしろ仮差押えが本当に期限の利益喪失条項として適正なのかが議論されてしかるべきではないか。仮差押えというのは,だれが,いつ,何を理由にやってくるか分からない,被担保債権があるのか,ないのかも分からないわけですから,債務者に信用不安が生じていない状態でも仮差押えがないわけではないとすると,それを期限の利益喪失条項にして相殺に結びつける。このこと自体は場合によってはいき過ぎなのかもしれません。少なくとも差押えを原因とする期限の利益喪失,相殺予約の効力については,無制限説に立つべきではないかと考えている次第です。 ○三上委員 無制限説擁護の大演説を打とうと思っておりましたら,先に皆さんに言っていただきましたので,簡単にさせていただきたいと思いますが,弁済の先後が全く偶然に決まるというのは中井委員もおっしゃったとおりでございまして,更に45年判決が出てから40年近い月日がたっているわけで,それを前提とした実務の積み重ねがありまして,それを今から昭和39年判決が出た後の決して健全とは言えない,弁済期を操作する実務に戻す,そういう理由は何もないだろうと,あるいは現在の法的なテクニックを駆使すれば,ありとあらゆるものを担保化することは可能ですけれども,そういった弊害を伴うような時代に戻す必要も何もないだろうというのがまず第一の理由でございます。   それから,差押債権者を保護をしなければならないというところは否定するわけではないんですが,別に差押債権者が抗弁が付着しているか否かを調べて差押えをしているかというと,決してそういうことではない。例えば銀行が預金者である場合を考えますと,銀行に差押債権の有無,抗弁の付着の有無などについて調査をしようとすると,むしろ,債務者に漏れて,先に預金を下ろされる可能性があるわけです。銀行からすれば差押債権者は守秘義務を負っていない単なる第三者ですが,預金者はお客さんでございますから守秘義務を負っていて,預金の有無とか,抗弁の有無を聞かれたら,預金者の承諾がないと回答できない反面,預金者に聞いてよいかというとそんなことは困るはずなので,結局調査に来ることはまずないわけです。さらに,第三債務者情報センターが機能していないということが問題点として挙がっている中で,公示がないというのもナンセンスでございますし,そういった点からも別に無制限説で問題はないと思います。   先ほど能見委員がおっしゃった,いわゆる不誠実な債務者論というのは確かにその状況はございますが,現状,ほとんどのケースで期限の利益喪失約款がついているわけでございまして,実際に長々と自働債権の債務不履行を続けて,自働債権の弁済期を待ってする相殺などというのはほとんどないのではないかと思います。もしあるとすれば,それ自体を相殺権濫用と言ってしまってもよいのではないかと考えている次第でございます。   もう少し前向きな話をさせていただきますと,一括支払システム,それから,手形レスサービスその他,無制限説を前提にした金融イノベーションというのもたくさんございます。これは金融界のみならず,各業態においても関連会社間の簡易な決済その他,あるいはお客様のサービスの中で,無制限説を前提としたサービスというのはたくさんあると思います。そういったものを混乱に陥れる必要も,また何もないのではないかと思うわけです。   それから,相殺予約,これも先ほど中井委員がおっしゃったとおり,むしろ期限の利益喪失約款の対第三者効力と置きかえるべきではないかと思うんですけれども,これについてももし無制限説が法律上,明記されるのであれば,実は当然喪失事由というのは不要になるのではないかと私は思っております。そうすると,仮差押えを当然喪失事由にする必要も何もないし,預金が差し押さえられる前に相殺適状を作り出さなければならないという必要性,しかも,こういう工夫が発明されたのは昭和39年判決が出る以前の修正相殺適状説が前提の時代の産物ですから,無制限説が明文化されればこういう必要性もなくなると思います。   差押えによって拘束されるのは飽くまで受働債権ですから,自働債権について契約でどう扱おうと,それを止める力は差押えにはないはずでございますし,最後に強調しておきたいのは,普通の一般の個人というか,消費者みたいな感覚からしましても,第三者に対して債権を持ち,債務を負っているというときに,自分に対する債権が差し押さえられたときに,それはとりもなおさず相手方の信用状態が悪化したことを示すわけですが,その場合に自分の債務は取り立てられてしまう。しかし,自分の債権は返ってくるかどうか分からないというときには,相殺を主張したいと考えるのがむしろ普通ではないかと思います。金融機関等の事業者の場合には,そういったときに備えていろいろな約款をつくり,もし制限説のような考え方をしたとしても,無制限説に近い効果をもつ約款の工夫,すべてがすべて脱法行為と否定しきれないような工夫は,幾らでも可能なような気がするんですが,そうしますと,結局,社会的にそういう工夫のできない弱者だけが割を食うような制度になってしまう懸念もあるわけです。そういう意味で,弱者にも平等で,かつ民法の今回の改正の大題目であります単純明快で国民に分かりやすい制度という意味も含めまして,無制限説の採用を強く支持したいと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでございましょうか。 ○藤本関係官 若干ちょっと視点が違うのですが,金融機関というのは貸付先の状況に応じて返済期限の延長などを行うことがございます。一定の場合,法律上,中小企業等の借り手の負担軽減のために,条件の変更等に努めるということともされております。返済期限の延長等を行った後に金融機関側から見てみると,債務を差し押さえられるというケースがございます。そうすると,返済期限の延長を行わなければ相殺できたのに,返済期限の延長を行った場合に,それができないということになると,返済期限の延長等に慎重になるというインセンティブを与えるというケースもあるかもしれません。そういうふうになると,中小企業を含めた金融の円滑化が阻害されるということにもなりますので,そういう観点からの検討も重要ではないかと思います。   ついでに,資料の17ページのB案の相互に信用供与し合うという社会的な定型性を有すると認められる関係というものであります。話を預金とか貸付けから広げて信託なんかに話を広げると,例えば貸付債権を自働債権,受益債権を受働債権という相殺枠はどうかとか,証券代行手数料請求権を自働債権,預金債権を受働債権としてはどうかとか,保険会社だと貸付債権と不動産賃貸に伴う敷金返還請求権はどうかとか,何かいろいろどこで線を引くのかとかいう問題が生じてきます。こういう規定を設けるときには,いろいろ慎重な検討が必要だということだと思います。 ○道垣内幹事 個人的には別に無制限説に反対するつもりはないのですが,三上さんがおっしゃった中で,ちょっと1点だけ分からないことがありましたので,お教えいただければと思います。つまり,無制限説が採用されて条文化されたときには,差押えを期限の利益の喪失事由にする必要は実はないのですという話なんですが,それはどうしてなのでしょうか。私が理解している無制限説の条文化とは,先ほど議論が出ました相殺の要件というのが一般的にかかってくることは大前提であって,自働債権が弁済権を到来しているということは必要だと理解していたのですが,その点がひょっとして私と三上さんの理解が違うのではないかと思いまして,質問させていただく次第です。 ○三上委員 今の期限利益喪失約款は,差押えの命令が到達した時点で,既に相殺適状があるというために「差押命令が発せられたとき」という技巧的な条文になっておりますが,無制限説によって差押えの時点で両債権が対立していれば,事後的に両債権の期限が来れば相殺ができるということであれば,別に差押命令を受けた後で,債権保全の必要性のある場合にのみ期限の利益を喪失させればいいわけですので,必ずしも命令が発せられたときに当然に喪失しているという擬制を使う必要はなくなるという趣旨でございます。 ○鎌田部会長 期限の喪失は必要なのだけれども,当然喪失条項にするとか,喪失する時期については今のような形ではなくていいということですね。請求喪失でもいいという。 ○三上委員 差押え自体が中井委員がおっしゃったように,債務者の信用状態悪化を示す一つの指標に過ぎないので,極論を言えば,別にコベナンツをたくさん作れば,差押え自体を権利利益喪失条項から外しても,別の事由で喪失させることは可能だということも,言えないこともないと思います。 ○松本委員 大したことではないのですが,話を聞いていますと金融界も産業界も無制限説を支持されているようで,そうなると制限説,特に法定相殺についてB案を支持しているのは,学者と国税庁だけだという感じもするんですが,本当に産業界としては自分が債権者の側に立って債務者の債権を差し押さえたところ,相殺されてしまうという不利益を被っても仕方がないということで,債権差押え,特に銀行預金債権などは最初からあてにしていないというスタンスなんですか。 ○木村委員 我々のところでも議論したのですが,昭和45年以来今まで,最高裁判所の判決に基づき実務の対応を行ってきたという実態があり,それを大きく転換してしまうと混乱が生ずるという意見が強く出されました。 ○鎌田部会長 そのほかに何か関連した御発言はございますか。 ○能見委員 単なる確認ですが,先ほどの無制限説を採ったときの相殺予約といいますか,差押え等を理由とする期限の利益の喪失約款ですけれども,これは無制限説を採っても道垣内さんが言われるように,弁済期が異なっている場合で,特に受働債権の方の弁済期が先に来ていて,自働債権の弁済期がまだ到来していないときには,期限の利益喪失約款がないとまだ相殺はできなくて,その間は,受働債権の取り立てを受けると,その債務者としては本来は払わなくてはいけないという状態が生じているわけですが,これは,しかし,差押えを理由とする期限の利益喪失約款があれば,受動債権の差押えによって期限の利益が失われて,自動債権の弁済期が到来しますから,そういう意味で相殺ができるようになる。そこに,だから,無制限説をとっても相殺予約で期限の利益喪失約款の役割というのはあることはあるわけですよね。 ○鎌田部会長 ただ,それが差押えの申し立てとか,発令の時期に当然に弁済期が到来するとしなくても構わなくなるという。 ○能見委員 そうそう。それなんですけれどもね。 ○山野目幹事 2点,申し上げさせていただきます。   1点目は,法定相殺と差押えの関係でございますけれども,松本委員が制限説を支持するのは学者と何とかとおっしゃったんですが,研究者の中にも念のため申し上げますと,無制限説を支持する者がございます。私は部会資料10−1の法定相殺に関するA案とB案の中では,A案の方が相当であると考えます。理由については既にるる御指摘がありましたから繰り返しません。藤本関係官がおっしゃった貸出期限の猶予のような事例を挙げてのお話というのは,説得力があるものと聞こえました。   2点目でございますが,同じ資料の17ページの相殺予約の関係でございますけれども,そこにA案,B案,C案と部会資料で提示されているうちのB案が,利益衡量の感覚としてバランス感があるというふうな評価があり得て,現実にそのことをこの場でおっしゃった方もおられます。反面において,これもまた皆様方はお認めになることだと思いますが,仮にB案で立法しようとしたときに,どういう概念を用いて,そのことを指示するのかということについては,汗をかかなければいけない部分があるだろうということも,そのとおりであると考えます。   これは,今後,御議論をお続けいただきたいと思いますが,1点,申し上げたいのは,仮にA案のような書き振りで法文を書いたとしても,B案が解釈論として主張され続ける余地というのは残るのであろうと考えます。だからこそ,本日の部会資料詳細版10−2の方には,昭和45年大法廷判決の多数意見そのものの引用を詳しく掲げておられますし,大隅裁判官の個別の意見も掲げておられるわけでありまして,それらに依拠して,B案も解釈論として主張され続けることになるとすれば,法文において何らかの明確な,あるいは可及的に明確な概念を提示して,B案を採用するという余地も引き続き御検討いただきたいと感ずるものでございます。 ○岡(正)委員 4点,発言させていただきます。   一つは法定相殺と差押えの点で,倒産法との関係でございます。破産については自働債権が全部手続と同時に現在化されますので,制限説であっても,全部相殺できますので少し置いておきまして,民事再生法,会社更生法でも,相殺禁止規定を見ますと,無制限説を前提にしていると思います。個別執行で制限説を採るけれども,包括執行・倒産手続になると無制限説に戻るという組み合わせは,論理的にはあり得るかもしれませんけれども,やはり無制限説で統一した方が一国の制度としては分かりやすいのではないかという意見を持っております。   二つ目ですが,弁護士会も私も法定相殺と差押えの場合は,無制限説が相当であると考えておりますが,その理由として皆さんが話されたことに加えまして,中井さんが言いましたけれども,第三債務者が対立する債権債務を持っていて,将来,相殺できる地位,将来,相殺できるかもしれない利益,そういう利益を持っていると。相殺適状ではないけれども,将来,相殺できる期待を持っていると。それと受働債権に対する単なる差押債権者と,どちらがより具体的な利益を持っているかと比べますと,債権債務の対立を持っていて,将来,相殺できる,そういう利益を持っている人を保護する方が妥当ではないか。そういう意味から,無制限説の方が妥当ではないか。将来,相殺できるかもしれない期待利益ということで,あいまいな点はありますが,それを制限説で絞るほどではないのではないかと。特に対差押債権者との関係ではそうであると考えます。   それから,三番目ですが,差押債権者との関係では,将来,相殺できる地位を保護すべきだろうと思いますが,関連論点として掲げられておりました債権譲渡がなされた場合,それは権利の帰属が変更されますし,譲渡取引という債権の具体的な取引まで発生し,売買代金も払われているかもしれませんので,そういう債権の譲渡人との関係では,将来,相殺できるかもしれない地位,利益を一律に優先させていいのかという意見がありました。私個人としてはA−3案,相殺適状説がいいのではないかという意見を申し上げましたけれども,弁護士会の中ではいろいろ意見がございまして,具体的な取引関係に立つからこそ,判例にあるような会社が取締役に譲渡するような変な譲渡もあり得るので,そうA−3説に一律にいくのもまた危険であるというような意見もございまして,法定相殺と差押えについては無制限説が多数説ですが,債権譲渡のところについては,弁護士会としてはいろいろなことがあり得るので,B案の方がいいだろうというのが多数説でございました。   最後に4点目ですが,現時点ではまだ余り弁護士会で支持を得ていない意見でございますが,今の法務省の案は,差押え制度との関係だけを論じておりまして,差押えとの関係で悪質な相殺だけを取り上げられています。しかし支払不能になった後,他人の債権とか債務を入手してきて,それで相殺する,そのような相殺を民法でも禁止あるいは制限すべきではないかと思います。差押えとの関係で不当な相殺だけではなく,支払不能・危機時期に立ち至った場合の債権または債務の取得による不当な相殺,それを民法でも規制することを是非御検討いただきたいと思います。 ○高須幹事 弁護士会の状況については中井先生,岡先生がおっしゃっていただいたとおりで,相殺と差押えのこの点については無制限説的理解が主流であります。私もこれを否定するものでは全くありませんので,それを前提で,少数意見として申し上げるのですが,要は相殺すらできない人のことを考えなくていいのかと。差押えでしか債権を回収できないということで,希望,期待をかけている人との調整ということでは,もう少し無制限説についてどこかで歯止めをかけるということがあってもいいのではないかと考えています。そして,この点について,先ほど山野目先生がおっしゃられたように,無制限説という解釈をとっても,そこで幅があるではないですかと言われて,私もはっと気がついたんですが,そういう余地も含めて検討をもう少ししていきたいなと思っております。一応,私個人の意見としては,そういうことでございます。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○三上委員 それでは,債権譲渡に関しての議論が出ましたので,債権譲渡と相殺につきましては,特に無制限説をここでも採用していただけると有り難いですという以上のことはないんですが,ここはむしろ金融界は譲渡禁止特約に依拠しているところでございまして,譲渡禁止特約の効力が大胆に否定されない限りは,どのような形になっても検討の余地はあるのかなと思います。ただ,私が申し述べたいのは,ここでは触れられておりませんが,転付命令の場合にはどうなるかということで,転付命令は差押えの延長で出てくる議論ではありますが,債権者の地位が移転するという意味では譲渡に似てまいります。転付命令が出ても相殺で対抗できるということであれば,債権譲渡に関しては,特に債権譲渡はだからといって期限の利益喪失約款が働くわけではございませんので,そういった場合に,正に長々と債権がきちんと返ってくるまで払わないというのは,それこそ相殺権の濫用のような気がいたします。   しかし,転付命令の場合に債権譲渡と同じとして,転付を受けた差押債権者が保護されるとしますと,特に先ほどの議論で遡及効が廃止された場合,現状,転付が相殺で無効になると,原債権が復活する理由として相殺の遡及効が挙げられていたと思うんですが,それがなくなるからと転付債権者をより保護しなければならないみたいな話も出てきて,譲渡と同じに扱うということになりますと,結局,転付命令が確定するまでの1週間が勝負ということになってしまいます。その1週間で債務者の期限利益を喪失させて回収に走るか,つまり,その債権だけを相殺すると,後で出てきますねらい撃ち相殺になりますから,全部の債権について回収に走るかどうかの判断を迫られることになってしまいます。これは余り金融機関としては望ましい状況ではないわけです。債権譲渡についても,譲渡通知到来時点で,譲渡されてしまうならば期限利益を喪失させて相殺したい,それだけの事実関係がその時点で存在するというケースは十分に考えられます。したがいまして,転付命令について民法で書くのは非常に難しいとは思うのですが,このような重大な論点があるという点を指摘させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○岡(正)委員 質問でございますが,詳細版の57ページにヨーロッパ契約法原則で,債権譲渡と相殺の条文が掲げられておりまして,307条の(2)の(b)というものがございます。これは「譲渡対象債権と密接に関係する債権」と書いてあるんですが,これは譲渡後に発生した債権であっても,密接に関係する債権であれば相殺できると。そこまでの無制限説も飛び越えたような説というか,条文なんでしょうか。 ○松尾関係官 ご質問の点について,今,正確にお答えできませんので,宿題とした上で,別途,回答させていただきたいと思います。 ○岡(正)委員 よろしくお願いします。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○三上委員 余り私ばかり発言して恐縮ですが,相殺権の濫用も議論の対象に入っているということでよろしいですか。一定範囲で相殺権の濫用ということで,相殺を否定しなければならない場面があるということは私も認めるのですが,資料に挙がっている4つの例の中で同行相殺と担保付債権の相殺が,駆け込み相殺とねらい撃ち相殺と同列に挙げられているということに関して意見を述べさせていただきたいと思います。   同行相殺と担保付債権との相殺は,判例は濫用ではないと言っているわけで,買戻し請求ができる場合を例にとると,銀行から見れば与信先である割引依頼人に買戻し請求をさせるということは,その取引先の信用を悪化させる可能性もあるわけで,そういうときにほかの債権者のことを考えて,買戻し請求権を行使できるならそうすべきで,それを行使しないのは濫用だ,などと言われる筋合いはないのではないかと考えている次第であります。   そういう相殺による回収,自己の不渡手形の発生回避をねらって,取引先から駆け込みで割引を依頼される,これが濫用に当たるというのは書いてあるとおりといいますか,正にそういう状況に至って初めて濫用の話が出てくるのであって,担保付債権の場合も,他に担保がじゃぶじゃぶあるのに相殺するならば,確かに狙い打ち相殺といわれても仕方ないかもしれませんが,例えば価値がそれなりに見込める不動産があっても,売り方によっては蹴込む可能性もあるわけですし,不動産を競売しての回収には時間が掛かりますから,預金との相殺の方がはるかに簡単で,確実に回収ができるということを考えますと,よほどのことがない限り,担保付債権だからといって,相殺が権利濫用になることはないと思います。   そういう意味で,資料の濫用の事例で,1と3と,2と4はレベルが違い,明確に分かれるはずですが,1,2,3,4の順番に並んでいるということは非常に誤解を招くというか,1と3は原則,濫用になる類型,2と4はむしろ原則適法,例外的に1,3に該当して濫用になる類型ではないかという点を指摘させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 これも,これらが濫用になるということで掲げているのではなくて,従来,問題とされたものにこういうのがあるという趣旨のもので,今の2と4は,それぞれ判決が最終的に相殺を認めた事例でございますので,その点,誤解の生じないように配慮はさせていただきたいと思います。 ○中田委員 同行相殺の議論がもともと最初に出てきたのは,むしろ,ここで挙げられているような駆け込み的なぎりぎりになって債権を取得したことが問題となるケースでして,それを端緒にして議論が展開したといういきさつがあると思います。それに対して,同行相殺自体は別に悪いことではないのではないかというのが,今の三上委員の御指摘だと思います。そうしますと,問題は先ほど岡委員から御指摘のありました,いつの段階で取得した債権について相殺が封じられるかということにありそうです。これは実は詳細版資料の55ページの2で書かれていることと関連すると思うんですけれども,恐らくこの問題と相殺権の濫用とを併せて検討することになるのかなと思います。 ○鎌田部会長 ということで,相殺についてもしほかに御意見がないようでしたら,「第3 更改」に進みたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,お許しをいただいたものとさせていただきまして,部会資料10−1の18ページ,19ページになりますけれども,「第3 更改」について御審議いただきます。まず,事務当局に説明してもらいます。 ○松尾関係官 「1 総論」では,更改に関する規定の見直しに当たり,留意すべき点について幅広く御議論いただきたいと考えております。また,2以降に掲げました個別論点のほかにも,検討すべき論点がございましたら,ここで御指摘いただきたいと思います。   「2 更改の要件の明確化」では,現行の条文上,明らかではありませんが,判例,学説上,認められている更改の要件を条文上,明確にすべきであるという考え方が提示されていますので,このような方向性で検討することの是非や検討する際の留意点について,御意見をいただきたいと考えております。   「3 更改による当事者の交替の要否」ですが,民法第514条から第516条までで認められている債務者の交替による更改及び債権者の交替による更改は,債務引受や債権譲渡が認められていなかった時代には重要な意義を有していたものの,今日では当事者の交替を更改によって行う意義は乏しくなっていると指摘されています。また,更改は債権譲渡や免責的債務引受と効果が異なると言えますが,債権譲渡や免責的債務引受によっても,当事者間の合意等により同様の効果を実現することが可能ですので,更改により当事者を交替させる独自の意義も認められないと言われています。これらのことから,当事者を交替する旨の合意は更改に含まれないこととし,民法第514条から第516条までの規定を削除すべきであるという考え方が提案されていますので,このような考え方の採否について御議論をいただきたいと考えております。   なお,この考え方を採る場合には,債務者の交替による更改,又は債権者の交替による更改に相当する合意がされたときに,その有効性をめぐって疑義が生じますので,合理的な規律を持った債務引受や債権譲渡とみなして,処理すべきであるという提案がされています。この点についても併せて御意見をいただきたいと考えております。   最後に,「4 旧債務が消滅しない場合の規定の明確化」ですが,旧債務が消滅しない場合に関する民法第517条については文言に不明確なところがあり,条文からはその要件を直ちに読みにくいと指摘されており,条文から明らかではない要件の中には,学説上,解釈に争いがある点も含まれています。そこで,そのような争いについて立法により解決した上で,要件を明確にする方向で民法第517条の規定を見直すべきであるという考え方が提示されていますので,そのような方向性について御意見をいただければと思います。   説明は以上です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いしたいと思いますが,ここでは1の「総論」と2以下の個別論点を分けずに,一括して議論の対象にしたいと思います。この資料に書かれていないことについては,大体,「総論」のところで御意見をいただいておりますが,それらも含めて,更改に関しまして幅広く御意見をお出しいただけければと思います。 ○三上委員 基本的には改正の方向に賛成でございまして,金融取引で更改の発生が主張される場合というのは,例えば単名手形を書換えによって延長しているとか,あるいは枠貸金先の信用状況が悪化して一括返済事由が発生したけれども,一遍に返せないので形を組みかえて約弁を付したというときに,これは顧客勘定には現れないのですが,銀行の内部では枠貸金が手形貸付勘定なら,手形貸付勘定をいったん取組んで回収して,新規に証書貸付勘定から貸し出すような形で別の貸金勘定に振り替えるのですが,それをとらえて更改があったから保証が無効になったとか,担保権がなくなったと,保証人,物上保証人,あるいは後順位担保権者から主張される場合がほとんどでございます。したがいまして,更改に関しては当事者間に更改の意思があるときに限り,第三者に関しては保証の付従性のように,変更によって保証人とか担保権者は不利益を受けないようにする,そういう規制で十分なのではないかと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○野村委員 当事者の交替による更改について,実務の現状が分からないので,判断できないのですが,実例が全くないのかあるのか,その辺を見極めないと,現在の規定を削ってしまうというのはかなり大胆かなという気がしています。もし,これについて消極的な規定を置くなら,当事者の交替による更改は債権譲渡あるいは債務引受と推定するぐらいの柔軟な規定で十分ではないかなと思います。ですから,ここについては,更改という制度が実際に全く必要性がないのかどうか,実務のところの御意見を伺えればと思います。 ○鎌田部会長 実務の側で何か御存じのこと等がありましたら,この場でお出しいただければと思います。 ○松本委員 ついでに,実務的な感覚に対する質問をしたいんですが,準消費貸借というのがございます。これと更改の関係が私はよく分からないのです。古い学説を見ると更改だと書いているものもあれば,そうでないと書いているものもある。準消費貸借の必要性については実務的には認められているわけ,更改という制度をなくしてしまうと準消費貸借というのが裸で残るというような感じで,それでいいではないかという話になるのか,やはり一般的な受け皿としての更改というのはあって,実際に使われているのは準消費貸借のようなものなんだというような整理の方がいいのか,そのあたりは実務的にはいかがなんでしょうか。 ○鎌田部会長 更改をなくすということではない。当事者の交替だけは債権譲渡,債務引受に吸収させますけれども,それ以外の……。 ○松本委員 内容面の更改は残すということですか。そうすると,準消費貸借と更改の関係は何ぞやという問題は相変わらず残るということになりますね。 ○鎌田部会長 現在と同じです。 ○山野目幹事 部会長が整理なさったように,若干,今,議論の混乱があったように感じます。野村委員がお尋ねになったのは,更改による当事者の交替という類型を本当になくしていいのかということのお尋ねでしたから,ここで御議論がないとしてもパブリックコメントにおいて,そういうことの問題意識を維持していただきたいと思いますが,同時に私が指摘を申し上げたいのは,仮にそういう文言で使われている実例が実務にあったとしても,国民から見て分かりやすい民法なのかといったときに,たまたま更改というのが使われているけれども,債務引受や債権譲渡とどう異なるのですかということについて,困惑させるような法律の運用がよろしいのかということであります。そこのところあたりも見極めていただいた上で,機能が完全に重複しているのであれば,やはり将来に向けて概念の整理をしていただきたいと痛感するものであります。   それから,松本委員がおっしゃった準消費貸借と更改の関係については,民法の先生方のお書きになった本を見ると,本ごとにニュアンスの違う説明がされていて難しい問題ですけれども,大づかみに言って共通の性質のものであるし,最も図式的に整理すると,更改の特殊な一類型が準消費貸借であると考えられます。ただし,現行法ですと,消費貸借契約は要物契約でございますから,要物性との関係で疑義が生じないようにするために,とくに規定が置かれているというふうな説明などがなされていて,一つの説得力のある説明ではないでしょうか。   そうであるとしますと,これは後の方の御議論になりますけれども,消費貸借契約が要物契約であるという現行の規律を変更するかもしれないという提案が,あるいは議論の俎上にのるかもしれません。そうなったときに,更改の概念との関係を改めてどう整理するかということを検討しなければいけませんから,先ほど松本委員がこのまま今後も同じかとおっしゃったのですが,同じかどうかはまだすこし見てみないと分からないと感じております。   以上です。 ○鎌田部会長 ほかには御意見はいかがでしょうか。 ○中井委員 実務はと問われましたが,実務について詳細を知るわけではありませんので,パブリックコメントで御確認いただきたいとは思います。ただ,当事者の交替を前提として,更改を意識して契約をした経験は少なくともございません。それだけ申し上げます。 ○林委員 裁判所の感触としても,パブリックコメントで聞いてみないと何とも言えないんですが,更改が問題になるケースというのは余りないのではないかと思っています。したがって今日はこの場で更改が問題になるケースを教えていただこうかなと思っておりました。裁判例も資料にありますとおり古いものしか存在していない状況ですので,整理の方向をどうされるかはお任せしますけれども,整理をしてもいいのかなという感じはしています。 ○藤本関係官 本当は多数当事者間の決済のところで,ちょっと言及しようかと思ったんですけれども,決済のところで更改という方式というのを例えば外国の清算機関のようなところに聞いてみると使っている,何かノベーションというのを使っていますというような説明を受けることがございます。金融商品取引法等で対応等も行っているところなんですけれども,聞いてみると,債務引受とは違うというようなことも聞いておりまして,そういうものの受け皿が日本法で必要なのかどうかというのはあると思いますが,そういうことを最近,聞いたところでございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま御指摘があったような点で,名前の問題だけではなくて,実際の機能も含めて,実務界でどういう使われ方をしているのかということについては,可能な範囲内で調査をさせていただくということで引き取らせていただきます。   それで,本日,予定していた項目のうち,第4の「免除及び混同」及び第5の「決済手法の高度化・複雑化への民法上の対応の要否」という部分については,進行の不手際ですっかり予備日に持ち越さざるを得ない状況となってしまいましたが,お許しをいただければと思っております。ただし,こういう調子で着々と予備日の議題を積み上げていきますと大変なことになりますので,次回以降はまた議事進行に努めますけれども,また,委員,幹事の皆様方の御協力も是非お願いできればと考えているところでございます。   では,最後に次回の議事日程等について,事務当局から説明してもらいたいと思います。 ○筒井幹事 次回の議事日程等について御連絡いたします。次回の日程は平成22年5月18日火曜日,午後1時半から午後5時半まで,場所は本日と同じく法務省20階の第1会議室でございます。次回の議題等ですが,ただいま部会長から御発言がありましたように,本日,積み残された部分については予備日に回すこととして,次回会議では当初の計画どおりに,契約の成立について御議論いただくことを予定しております。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   本日は長時間にわたり,御熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。 −了−