法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会           第16回会議 議事録 第1 日 時  平成22年3月12日(金)  自 午後1時33分                        至 午後5時39分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  非訟事件手続法・家事審判法の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○伊藤部会長 予定の時刻でございますので,法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会の第16回会議を開会いたします。  御多忙のところ,御出席いただきまして,ありがとうございます。  配布されている資料につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○川尻関係官 それでは,御説明いたします。  第16回会議のために配布いたしました資料は,本日席上にお配りいたしました資料目録記載のとおりでございます。部会資料15は,事務当局で作成したものでございますが,内容につきましては後ほど御説明いたします。 ○伊藤部会長 早速,本日の審議に入りたいと思います。前回は部会資料14まで終わりましたので,本日は部会資料15,「第11 本人出頭主義等」から審議を行いたいと存じます。  そこで,「第11 本人出頭主義等」から「第14 送達」まで説明をお願いいたします。 ○川尻関係官 第11の「本人出頭主義等」では,本文Dの補佐人の陳述について,これまでの議論を踏まえて民事訴訟法と同様の規律を設けるものとしたほかは,家事審判手続と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。  なお,Bただし書の規律は,現行家事審判規則第5条の規律どおりで,部会資料9にて家事審判手続について御検討いただいた際も特に御意見はなかったのですが,実はこの規律は民事訴訟法の規律とは異なっております。民事訴訟法では,補佐人の出頭は補佐人が弁護士であってもなくても裁判所の許可が必要とされており,家事審判・調停手続においても同様の規律とすることも考えられますので,この点も併せて御検討いただければと存じます。  第12の「中断・〔受継〕」のうち,「1 中断」及び「2 受継」「(1)法令により手続を続行する資格のある者がいる場合の取扱い」では,家事審判手続と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。  「(2)法令により手続を続行する資格のある者はいないが,別に申立権者がいる場合の取扱い」では,この点に関する規律を設けないものとすることについて御意見をいただければと存じます。  また,仮にこの規律を設けるものとする場合には,受継の申立てが可能な期間については,当該事由が生じた日から1か月以内とすることを提案しております。  (注)では,申立人が申立てを取り下げた場合にも,受継の規律により他の申立権者が当該取り下げられた手続を引き継げるものとすることについて,御検討いただければと存じます。  効果としましては,引き継ぐ者がいた場合には,取下げの効力の発生が阻止されることをねらったものです。さらに,財産分与請求のように双方が申立人になれる事件類型の場合に,申立人が取り下げたとき,相手方がこれを引き継ぐことができるものとすることも考えられます。  第13の「中止」では,民事訴訟法第130条等と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。なお,調停による任意の解決を優先する現行家事審判規則第20条及び第130条につきましても,これを維持するものとすることを予定しております。  第14の「送達」では,民事訴訟法と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。 ○伊藤部会長 それでは,まず「第11 本人出頭主義等」に関して御審議をお願いしたいと存じます。特に,ただいま事務当局から若干補足的な説明がございましたが,Bのただし書の関係で,弁護士でない者が補佐人となる場合に許可にかからしめるということが一応記載してございますが,考え方によっては民訴法と同様に,補佐人という立場であれば弁護士であってもそうでない者と区別をする必然性がないという考え方もあり得るということが今説明の中にございましたので,まずそのあたりから御意見をお伺いしたいと存じます。 ○三木委員 議論の前提として,実情というか実務を教えていただきたいのですけれども,弁護士を代理人ではなくて補佐人にしなければいけないというか,する必要があるという場面というのはどういう場面なのか,教えていただければと思います。 ○伊藤部会長 これはどうでしょうか。長委員あるいはどなたか実務に詳しい方で御説明がいただければ有り難いですが。 ○長委員 弁護士の方がつくときには,代理人としておいでになりまして,補佐人の例を経験したことはございません。ただ,あってもおかしくないとは思います。弁護士の方にお聞きいただければと思います。 ○伊藤部会長 では弁護士の委員・幹事の方,いかがでしょうか。そういう御経験なりあるいは仄聞された例などございますか。 ○杉井委員 私自身は全然経験したことありません。余り仄聞もしたことはないのですけれども。 ○伊藤部会長 栗林委員,何かございますか。 ○栗林委員 私も経験はございません。 ○伊藤部会長 どうも御経験あるいは見聞されたことがないようです。長委員,代理人ではなくて弁護士の方があえて補佐人として出頭されるという点に関して,意味がなくはないとおっしゃいましたが,そこをちょっと御説明いただけますか。 ○長委員 例えば発音が十分でないというような場合に,それをよく理解することのできる方が一緒においでになって,補佐をされるということはあり得ることだと思います。 ○三木委員 今のようなことで現状がそうであるとしますと,余り例もないようですし,また仮定的に考えられる今の長委員のようなケースについて考えますと,それは特に弁護士としての知見や能力に基づいての補佐人ということでもないようですので,つまり一般の補佐人と同じような立場で,たまたまその人が弁護士であったというようなケースに近いかと思いましたので,そうであれば規律としては,弁護士であれ何であれすべて裁判所の許可,裁判所というか家事審判官または裁判官の許可が要るという,つまり通常の規律と並びで結構ではないかと思います。また,それによって格段現在の実務に支障が生じるということはないように伺いました。 ○伊藤部会長 分かりました。ほかの委員・幹事の方いかがでしょう。 ○中東幹事 論理的には,三木委員がおっしゃったとおりであるとも思うのですが,現行の家事審判規則第5条第2項を見ても,規定振りによって,意味はないけれども残しておくということもあり得るのではないかと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。それでは,三木委員がおっしゃるような考え方は十分成り立ち得ると思いますが,ただ最終的にどうするかということについては,もう少しいろいろな方面から検討して,ただ,ここで弁護士の資格を持つ者についても,補佐人として出頭する場合には裁判所の許可にかからせるという考え方も十分合理性があるという御意見が述べられましたので,それを踏まえて検討させていただくことにいたします。  第12の1の中断の関係はいかがでしょうか。何か御質問,御意見がございますか。この点はよろしいでしょうか。  よろしければ次の2〔受継〕のところで,(1)法令により手続を続行する資格のある者がいる場合の受継の手続に関する考え方が,記載されているとおりでございますが,このあたりについては何か御意見ございますか。よろしいでしょうか。  そういたしましたら,(2)法令により手続を続行する資格のある者はいないが,別に申立権者がいる場合の取扱いについて検討いたします。これは先ほど,まず本文との関係では説明がございましたように,特段の規律を設けないということで,それは前に御審議いただいた家事審判の場合とは異なるということが一つと,それから(注)の関係がございますが,まず本文の関係及びそれに関する補足説明に関して何か御意見等ございますか。 ○小田幹事 特段の規律を設けないものとすることに賛成でございます。理由については,補足説明に書かれてあるとおりと思っております。こういう場合は非常に例外的だと記載されておりますし,私どもで検討したところですと,この親族が申し立てる親権者変更,これはあるようですけれども,それについて見ますと非常に例外的な類型であるということはそのとおりだろうと思いますし,またそれについて受継を認める必要があるかというと,やはり調停ということもありますし,そのような事案の性質を考えてみてもないと思いますので,先ほどの特段の規律を設けないものとすることでいいのではないかと思っております。 ○伊藤部会長 分かりました。小田幹事からは,特段の規律を設けないという考え方が妥当である旨の御発言がございましたが,ほかの委員・幹事の方いかがでしょう。 ○三木委員 念のための確認ですが,特段の規律を設けない場合には,他の申立権者が受継ないしそれに類することが当然できないという前提で考えていいのだろうと思いますが,そうであることを確認したいと思います。と申しますのは,全体のまだ法律,非訟事件手続法も含めて規定が定まっておりませんので,他の規定の解釈等によってそういう余地が生じることはないということを前提に,つまり規定を置かないということは当然に受継等のことはできないということが固まるのだという前提でよいのかどうかをちょっと確認したいと思います。 ○伊藤部会長 説明をお願いします。 ○川尻関係官 受継という概念を用いての引継ぎはもうできないということを考えております。ですから,別途申立てをしていただくということになろうかと思います。 ○三木委員 そうであれば,私も規定を置かないことに賛成です。調停という手続の性質に照らして,非常に個人性の強い手続だと思いますので,あえて資料の引継ぎを認めさせて続行させなければいけないということは考えにくいですし,むしろ逆にその弊害といいますか,望ましくない面もあろうかと思います。したがって,他の申立権者が必要があれば別途申し立てるということで対応すべきではないかと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。三木委員からもそういう趣旨の御発言がございましたが,いかがでしょうか。  それでは,特別の規律を設けない,規律を設けないというのは先ほど三木委員から確認的な御発言がございましたが,そういう趣旨で理解した上で,よろしゅうございますね。  そういたしましたら,(注)の部分はいかがですか。 ○栗林委員 その前の部分は,当事者の死亡資格の喪失等で中断したり受継が必要になるかどうかという問題なのですが,(注)は申立てを取り下げた場合ということですので,本来の受継とは場合が違うと思います。申立ての取下げのところは後でも出てくると思うのですけれども,それとの関係はどうなるのか,お聞きしたいと思います。 ○川尻関係官 この部会資料の建てつけとしましては,今御指摘がありましたとおり,本来の受継ではない場面にこの受継の規律をいわば転用といいますか,流用して考えることはできないかということで提案したものになります。ですから,死亡等の状態ではないのですけれども,取り下げた場合にも受継の概念を使ってほかの申立権者がこれを引き継ぐことができるという,そういう新たな制度をつくることについて,御意見をいただければと考えておりました。  ただ,ただ今の御議論によって,本文の方自体が要らないのではないかということになりましたので,恐らく(注)が適用される場面もなくなるのではないかと考えております。 ○栗林委員 今の点はよく分かりました。ただ,前にも議論があったと思うのですけれども,中断をしない場合に受継をするということの,受継というのは中断があったときに受継をするというふうに理解していたのですが,受継の制度として中断とは関係なしに受継をするということというのは,一般的にはあり得るのかなという疑問があったのですが。 ○川尻関係官 御指摘ありましたとおり,民訴法上にいう受継とは異なるということになりますので,用語の選択も含めて引き続き検討していきたいと思っております。 ○栗林委員 分かりました。 ○伊藤部会長 申立てを取り下げて,その取下げの効果自体は前提にして,しかし手続の続行の可能性を認めるために,今,川尻関係官がおっしゃったように受継という概念を借りてくるということになるのでしょうか。今,川尻関係官の説明にもありましたように,本文がそうなったときにあえてこういう(注)のような考え方を検討する余地はあるかどうかという問題はありますが,ほかの申立ての取下げ制限であるとかそういったこととの関係もございますので,もし何か御意見があれば承りたいと思います。 ○高田(裕)委員 まず申立人が取り下げた場合に,他の申立権者がその者に代わって引き継ぐうんぬんということにつきましては,本文とそろえるということでよろしいのかと思いますが,誤解かもしれませんが,先ほどの御説明によりますと財産分与の際に申立人の相手方当事者についても,この(注)の適用があり得るという御説明があったように思いますが,ということはその場合には申立人と相手方が入れ替わるという形で括弧付きの受継が起こるということが想定されているという理解でございましょうか。 ○川尻関係官 はい,そのとおりでございます。 ○高田(裕)委員 もしそうであると,本文とは違うシチュエーションだと思います。恐らくそれは取下げ制限と申しますか,いかなる場合に取下げができるかということと裏表だと思いますので,議論上はそこで併せて取下げ制限の別の選択肢としてそういうものがあり得るかどうかということを議論することになるのではないかと思います。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。確かにおっしゃるとおりだと思います。   ほかにいかがでしょうか。  そういたしましたら,この(注)の部分については,主として今高田裕成委員から発言がございましたような状況を想定して,本文とは違った意味でこの点を更に検討する必要があるかどうか,その際にどういう問題があるかなどについての検討をしたいと思います。 ○増田幹事 受継というのは,前の当事者の地位を引き継ぐということなので,相手方が申し立てた場合に,それを受継という概念でくくるのは無理があると思うのです。ですから,これが取下げ制限の代案の問題であるとするならば,取り下げたのに対して相手方が申し立てた場合には,従来の手続が続行されたものとして扱うといったような形になるのではないかと思います。 ○伊藤部会長 概念の整理はおっしゃるとおりで,もうちょっときちんと詰めないといけないかとは思いますが,実質は増田幹事の発言されたような内容かと思います。 ○栗林委員 取下げ制限のところで考えたのですけれども,資料を流用できるという点が恐らく手続を引き継げることのメリットだと思いますが,調停ですから主張というのはあるのかどうか分かりませんけれども,当事者が調停に証拠や主張として提出されたものを含め,全体の手続がそのまま引き継がれるというイメージになるのでしょうか。 ○川尻関係官 そのようなイメージで考えておりました。 ○栗林委員 取下げのところで相手が同意を要するとすると,相手方の同意を得て取下げがされたにもかかわらず,他の申立権者の申立てにより,従前出てきた資料をそのまま引き継げるとなると,そういう手続で形成されてきたものが全体が移行するということになり,相手方にとっては想定以上に大きな影響が出てしまうのではないかと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。そのような御指摘も踏まえまして,もう少しどういう手続として考えることができるかを検討してもらうことにいたします。そういうことでいいですね。  それから,第13の「中止」に関しては何か御意見ございますか。よろしいでしょうか。  第14の「送達」に関してはいかがでしょう。これも民訴と同様の規律を設けるということですけれども。特段の御発言はございませんか。  それでは,先に進みたいと思います。「第15 申立てその他の申述の方式及び申立書等の記載事項」及び「第16 家事調停事件の申立て」についての説明をお願いします。 ○川尻関係官 「第15 申立てその他の申述の方式及び申立書等の記載事項」では,民事訴訟規則等と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。  「第16 家事調停事件の申立て」の「1 申立ての方式」では,家事審判手続と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。申立書の記載事項については,家事審判法の規律と同様に,申立ての趣旨及び原因としておりますが,そこで要求される特定の程度にはおのずから違いがありまして,調停の方は審判よりは緩やかに解してよいというのが現行家事調停手続における理解と思われますので,ここでもそのような理解を前提としております。  「2 家事調停事件の申立ての併合」では,数個の家事調停事件を併せて申し立てることができるものとすることについて,(注)では,仮にこの規律を設けるものとした場合の要件について,検討することを提案しております。  「3 裁判長の申立書審査権及び補正命令」では,本文Bにおいて即時抗告につき規律しましたほかは,家事審判手続と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。  「4 申立ての却下」では,この点に関する明文の規律を設けるものとすることを提案しております。  「5 事件係属の通知等」では,事件の係属を通知するものとするA案と,原則として申立書の写しを送付するものとするB案について検討することを提案しております。  (注)では,申立書に記載された住所が誤っているにもかからわず,申立人がその補正に応じない場合や送達費用等の予納に応じない場合には,手続を終了させることができるものとすることについて御意見をいただければと存じます。  「6 家事調停事件の申立ての変更」では,このような明文の規律を設けるものとするかどうかについて検討することを提案しております。調停手続におきましては,申立書に記載のない事項について話合いが及ぶこともあり,申立ての変更の手続を採らなくても申立書記載事項以外について調停を成立させることができると思われますが,そうであれば申立ての変更の規律を設ける意義に乏しいとも考えられます。他方で,審判事項に係る調停が不成立となって審判に移行することを考えると,審判の目的物を明確にするために申立ての変更の手続を設けて対応すべきであるとも考えられます。  「7 家事調停事件の申立ての取下げ」の「(1)取下げの要件」では,申立人は自由に申立ての全部又は一部を取り下げることができるものとすることを提案しております。  (注)では,審判事項にかかる調停につきましては,調停の不成立による審判手続への移行を期待する相手方の利益を考慮して,申立てを取り下げるには相手方の同意を要するものとするかどうかについて,御意見をいただければと存じます。  「(2)取下げの方式及び効果」では,家事審判手続と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。 ○伊藤部会長 まず第15ですね。「申立てその他の申述の方式及び申立書等の記載事項」に関しては,いかがでしょうか。ここは特段御意見ございませんか。  もしそうでしたら,一応ここに掲げられている考え方についての御了解をいただいたものとして,次に進ませていただきます。  第16の「1 申立ての方式」に関して,@,Aにあるようなことが掲げられておりまして,申立ての趣旨及び原因に関しては,先ほど川尻関係官からそれに関する考え方の説明も付け加えられたところでございますが,いかがでしょうか。このあたりもよろしいでしょうか。 ○長委員 調停の申立ての趣旨及び原因として,どの程度の記載をするかということが実務的には問題になります。申立てによっては訴訟や審判の主文に相当するようなものが出てくることもありますから,そういうものは前提となる実体法の要件などを基準にして考えやすいと思うのですが,例えば親族間の紛争を調整してほしいという場合,その中身にもいろいろなものが出てくる可能性があるのですけれども,そういう場合に趣旨とか原因とかということについて,どの程度のことをお考えになっているのか,念のためお聞きしておきたいのですが。 ○伊藤部会長 念のためということですから。 ○川尻関係官 ここは,一応書き振りを現行法の「その趣旨及び事件の実情を明らかにし」というところをヒントにした上で,家事審判手続の方とそろえるという程度でございまして,現状を何か変更して,より厳格にとか,より緩やかにということをねらったものではございません。 ○長委員 分かりました。 ○川尻関係官 若干補足しますと,「事件の実情」よりは狭いものとして考えております。これは後に申立書の却下制度が導入されることとの関係で,実情を全部書かなければ却下になるといったことではございませんで,ここで想定しているのは,申立ての内容がある程度特定されていれば,申立書却下の場面のところではもう足りているという理解になっております。 ○長委員 そこでの御説明を聞いた方が,基準としてはより分かるのであれば,そこでまた御説明いただきます。 ○金子幹事 これは言わばどのような紛争を解決してほしいのかということが特定されればいいという限度で考えています。申立書にはよりたくさんの情報があった方がいいということであれば,それは任意的記載事項として,紛争の実情等を書いてもらえるように,規則等で対応していただくことは十分あると思います。ここでは,却下制度を設けるかどうかとも関連しますが,少なくともどのような紛争について,どのような趣旨の調停を求めるのかという程度は最低限書かなければ,申立てという体裁をとっていても,実質申立てに値しないということになるのではないか。そういうものについては,補正を命じても是正されなければ却下をしてもいいのではないかということを考えております。 ○長委員 分かりました。 ○伊藤部会長 それでは,これも実際にどの程度ということになると解釈・運用にゆだねざるを得ない面が大きいかとは思いますが,基本的な考え方は川尻関係官や金子幹事から説明があったとおりです。では,よろしいでしょうか。  それでは,次に2の「家事調停事件の申立ての併合」ですが,申立ての併合という点についての規律を設けるかという考え方と,そういうものは設けるべき必要性はないのではないかという考え方の両方があり得るところかと思います。そして,(注)に掲げられておりますように,併合についての規律を設ける場合には,それでは何らかの基準を立てなければいけないという問題が更に出てくるわけですが,このあたりについての御意見を伺えればと存じます。現在の実務運用の中でいかがなのでしょうか。結果として併合した方がよいような事件があるかというのが一つと,それからもしそういうことが前提であって,当事者に申立ての併合を求める権能を認めるような合理性があるかどうかという問題の二つがあるかと思いますが。現状において,それを変更して申立ての併合についての新たな規律を設ける必然性がないということであれば,あえてこういう議論をする必要もないかと思いますが,そのあたりいかがなものでしょうか。 ○増田幹事 現状は併合申立てというのがないですが,複数の事件であっても1通の申立書でよく,添付資料も共通でよい。ただ,事件番号は別で,事件としては別という扱いで同時進行しているということです。例えば複数の子供の監護権が問題になるというようなときは,事件としては子供の人数分あるのです。それが併合になっているかどうかというとよく分からないのですけれども,同時進行して,調停調書も1通しか作られないし,後に審判に移行しても1つの審判書で審判がなされているというのが現状です。本当にそれでいいのか本来は併合をすべきなのかという点は,ちょっと私も定見がないということになるのですが。 ○伊藤部会長 これはどうでしょう。長委員,今増田幹事から発言ございましたような,複数の事件にはなっているのだけれども,事実上言わば併合状態で進んでいくというようなものが相当数あるという理解でよろしいのでしょうか。 ○長委員 そういう理解でよろしいのではないかと思います。ただ,お子さんの場合には,両親が同じで同じ状態で育っている場合には,同時並行的に進めていった方がいいということになりますし,それぞれのお子さんの個性とか状況に応じて考えていかなければいけないとすれば,同時並行といっても調査の中身が変わってくるとかいろいろな点があります。併合しないと不都合になるというのは,何か生じてくるところがあるのですかね。そこがちょっともうひとつ分からないところがあるのですけれども。併合しないと不都合なのだということであれば規定を置く意味はあろうと思いますが。 ○伊藤部会長 併合に関する規律を設ける,もちろん併合してもそれを分離するとかそういう可能性は残されてはいるわけですが,事実上併合状態で進んでいるというよりは,少し強い手続的な結合関係ができてくるのかと思いますが,そういうものを作る必要がそもそもあるのかどうかということについて,どうもまだ十分必要性等についての認識が,少なくとも私自身はできていないのですが,いかがでしょうか。もし現在の実務で行われているような事実上の処理で問題が,あるいは規律を設けるべき必然性があるということの理由が少し明らかになってくれば,議論がしやすいのかもしれませんが。 ○三木委員 結論において,私は別にこの調停において併合がどうとか,あるいは併合の要件がどうとかということは余り考える……考えたくないといいますか,余りそういうことを言いたいつもりは全くないのですが,せっかくこういう話題が出ているので念のために伺うのですが,現行の実務を変えたいという気ももちろんありませんで,その上での純然たる理論的な質問ですが,もし現在の実務が併合という観念をとっていない,つまり2件の事件なりが同時進行しているだけだというのが理論的な整理だとした場合に,資料が一方の手続と他方の手続で相互に恐らく流用的というか互換的に使われているのだと思いますが,それはどういう理屈が背景にあるのでしょうか。考え方によっては,黙示か明示か分かりませんが,一方のものを他方にも提出していて,それについて特段の異議がない以上,少なくとも黙示の何かそういう提出があるというような理論的な整理で行っておられるのか,あるいはそれ以外の何か理屈で行っておられるのか,そこだけちょっと伺いたいと思います。 ○伊藤部会長 そのあたりは,やはり長委員お願いできますか。 ○長委員 例えばそれが3件ある,そのうちの1件に対して提出されている。そうすると,では残りの2件に提出されているのかということになりますが,職権探知主義でございますので,例えば事実の調査をしているということもありますでしょうし,職務上知り得た顕著な事実の理論が使えるかもしれません。職権探知主義なので今の手続の中では自由に証拠調べ,資料収集ができるので,その一環で使っているという意識は持っています。 ○鈴木委員 家事調停とか審判は詳しくないのですけれども,民事訴訟ですと共同訴訟等があって,弁論の分離・併合とございますね。手続的に見ますと,いわゆる1事件1調書,1事件1判決という原則がある。それが何で決まるかといいますと,弁論の分離・併合とかによって決まってくるのですが,通常民事事件でも,決定手続になるとその辺がややあやふやになっているところがございます。いつ事件がくっついたのかとか,どうして一つの決定ででき上がっているのかが不明確なケースを見ないわけでもないのです。今のお話を聞いていますと,特に調停になりますと,例えば事実上一緒に進んでいて調停がまとまったときに調書はどうなるのかという,そういう疑問がございます。抽象的に併合申立てとか手続の分離・併合といっても,それが手続的に何を意味するのかをもう少しきっちり考えないといけないのではないか。進行している途中では,資料共通というのがどこまで働くかとか,それから成立したときには併合しなければ調停調書は別々につくるのかとか,そういう問題がありますので,その辺を整理した上で議論しないと分からなくなってしまうのではないかなと,そんな気がいたします。 ○伊藤部会長 分かりました。いかがでしょうか,三木委員,御意見はいかがですか。 ○三木委員 繰り返しになりますけれども,私は現在の実務を特段何か面倒くさいことにしたいという意図は全くございません。その上で申し上げるのですが,恐らく併合うんぬんというようなことをもちろん意識してやっておられないでしょうけれども,現在の実務の運用は実質的には,手続法的に言えば併合状態で行われているのだと思うのですね。つまり,別々事件がただ同時並行的に進行しているという状態をちょっと超えているというふうには思います。  ここで問われている明文の規定を置くかどうかという問題は,別途考えなければいけない。つまり今から私が申し上げることが,必ずしも明文の規定を置けということに直接つながるという趣旨ではないということを留保して申しますと,正面から調停でも併合というのはあるのだということは認識した上で進められた方が,先ほど長委員がおっしゃったような事実の調査が行われているとか職権探知が行われているというような説明とか,しなくても済むという面はあろうかと思います。  また,事実の調査とか言い始めると,事実の調査の告知をどうするのだとかそういう話が出てくるわけで,もちろんそういうことが必要だと私は思っておりませんので,現在の実務のやり方を理論的にバックアップするとすれば,それは併合状態なのだろうと私は思います。  ただ,まず私の意見としてクリアなのは,仮に何か規定を置くにしても併合の要件のようなものは置き難いというのは,事務当局の整理のとおりというか,私もそのような感触を持ちます。また置くべきかどうかについても疑わしいと思います。申し上げるまでもなく,調停の場合,調停の手続中に他の権利関係とか他の紛争関係を持ち込んで混合的な調停をすることももちろんあり得るわけですし,したがって申立て段階で要件を置くなどというのにはなじみにくいということがあろうかと思います。  最後に残された,これは飽くまでも研究者的な発想で,理論的なこの機会に現在の実務を肯定的に見るための整理ということにすぎないかもしれませんが,調停における手続の併合というものはあるし,またそれは現在はそういう形で行われているのだということを,何らかの形でクリアにしておくことには意味があるかと思います。 ○伊藤部会長 そうすると,裁判所の職権の行使による併合という概念自体について,これに関してはやはり今の現状のようなことを踏まえても,そのことを考える合理性はあるけれども,一定の要件を設けた上での申立ての併合ということについては,必ずしもそういうことを検討するべき必要性といいますか,合理性というのはないということになるのでしょうか。 ○三木委員 部会長のおっしゃったのは一つの解決だと思います。民事訴訟法の方でも,申立て,つまり当事者のイニシアチブによる申立ての併合の場合には要件が置かれておりますけれども,裁判所が事後に行う職権による併合の場合には各段の要件はないわけです。ですので,これも本当に技術的な整理というだけかもしれませんが,申立ての併合に関しては規定を置かずに,裁判所の職権併合の規定は,もちろん裁量という前提ですが置くということにして,形式的にそういう併合の形をとれば,疑問なく資料の流用等あるいは先ほど鈴木委員がおっしゃった調書や決定等の手続上の一本化も無理なく説明がつくというようなことはあろうかと思います。 ○増田幹事 裁判所の裁量による併合分離の規定だけを設けて,申立ての併合を認めないということになりますと,それは現行法より少し悪くなる可能性があると思います。というのは明文で併合が認められたことによって,申立書の記載がどうなるかということなのですけれども,後に併合されることを見越して申立書を現行のように1通ですますことができて,添付資料や証拠書類なども1通でいいということであればいいのですけれども,後の事後的な併合のみを規定されて,申立ての併合が規定されないということになりますと,申立ての段階では事件の数だけすべて複数用意しなければならないという解釈が生まれる余地があると思うのです。ですから,現在のようにどちらも規定しないか両方規定するかどちらかだろうと思います。  もう一つ,資料の流用の関係で問題が実際に生じるとすれば,それは不成立になって審判に移行した場合にその資料をどう使うかという問題でして,これは前に議論をいたしました調停と審判の関係にかかわることであって,そこのところをきちんと分けるという,援用という形でもいいから分けるという考え方に立てば,調停のところでそれほど厳格なことを言う必要も実益もないような気がします。 ○伊藤部会長 分かりました。それでは,ただいまいただいた意見を基にして,事務当局で更に検討をすることにいたします。  引き続きまして,3の「裁判長の申立書審査権及び補正命令」に関しましては,特に先ほど出てまいりました申立書の記載事項,申立ての趣旨及び原因との関係などがございますが,このあたりはいかがでしょうか。申立ての趣旨及び原因に関しては,なかなか場合によっては難しい問題があるかもしれませんが,審査権及び補正命令のこと自体に関しては,こういう考え方で特段の御意見はございませんか。 ○増田幹事 特に異を唱えるわけではないですが,先ほどの長委員の御発言ともかかわるのですけれども,調停事件というのは外延がそれほど明確に決まっているわけではない。民事訴訟だとか家事審判などとは違って,家庭に関する事件一般ですから,何か紛争があれば申し立てていいということになりますので,不備とまで言えるものがどれほどあるのか,あえてこういう規定を設ける必要性があるのかどうか,若干疑問です。別にあっても構わないとは思いますけれども。 ○伊藤部会長 そこはどうですか。 ○川尻関係官 今,増田幹事がおっしゃられたとおりでして,調停においてはこの部分は相当緩やかに解されることになろうと考えております。ただ,具体的に言いますと,必要的記載事項の記載が本当に抜けておりまして,空欄である場合ですとか,あるいは申立ての内容自体が荒唐無稽といいますか,意味不明であって善解のしようがないような場合には,この規律が働く余地もあるのではないかと考えております。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか。増田幹事も異議を唱えるわけではないという御発言でしたので,これが仮に立法化された段階で,当然その運用に関しては先ほど来御発言のあるような形になることになるとは思いますが,一応考え方としてこれを前提にして今後の検討を進めるということで御了解いただければと存じます。  それでは,次の4の「申立ての却下」です。これに関してはいかがでしょうか。 ○畑幹事 この補足説明の例ですが,離婚後2年経過後に財産分与を求める調停というのは,不適法なのでしょうか。 ○伊藤部会長 まず説明をしていただきましょうか。挙げられている例の意味ですけれども。 ○金子幹事 御趣旨は,却下か棄却かといえば棄却の方ではないかという御趣旨でしょうか。 ○畑幹事 いや,そうではなくて,相手方が分与に応じれば別にいいのではないかという趣旨です。実体法はそうなっているような気がいたしますが。 ○金子幹事 分かりました。その点は考えが及んでいませんでしたので検討させていただきます。 ○伊藤部会長 それでは,その点はただいま金子幹事がおっしゃったとおりの形で,もう一度検討させてもらいます。   ほかにいかがですか。  それでは,どういう場合がこれに当たるかということは,今の御発言との関係で他の例なども考えることにいたしますが,考え方自体に関してはよろしいでしょうか。  そういたしましたら,次の「5 事件係属の通知等」に関して,ここは先ほど来説明がありますように,あるいは補足説明にも詳しく書いてありますが,A案,B案という二つの考え方がございます。事件係属を通知するというA案と,それから原則は申立書の写しを相手方に送付するというB案,この二つの考え方が掲げられておりますので,ここはいずれが妥当かについての御意見をお願いできればと存じます。 ○山田幹事 考える前提としてお伺いしたいのですが,A案で事件が係属したことを通知する場合に,どのような内容の通知を考えておられるのかということと,B案において申立書の写しを送付するということですが,ここでは申立書全部を送るのか,場合によっては一部消す形で送ることをも想定されておられるのか,お教えいただければと思います。 ○川尻関係官 まずA案の事件係属の通知で想定しておりましたものは,だれそれさんからあなたに対してこれこれという調停の申立てがありましたという内容,恐らく現行でもそういったものが期日の呼出しの通知と一緒に送られているとは思うのですけれども,そういった内容のものを想定しておりました。B案で申立書の写しということになりますと,これは基本的には申立書全部の写しを送るということになります。ただ,恐らく山田幹事の御懸念の点は,住所ですとか,もう少しプライバシーにかかわるような記載部分があるときにはどうするのかということだと思いますけれども,その点につきましては,例えば住所については黒塗りにしておくなど,特段の配慮がやはり必要になってくるだろうと考えております。 ○伊藤部会長 よろしいですか。 ○山田幹事 はい,ありがとうございます。 ○伊藤部会長 それを踏まえて,山田幹事いかがでしょう。 ○山田幹事 私としては,B案に賛成をしたいと考えます。B案で最も懸念されますのは,今,川尻関係官も言われましたことにプラスして,補足説明でも書かれておりますように,紛争を不必要に激化させるような表現がそのまま送られることだろうと思いますが,そのような部分を規則で除外できるように書くか,運用にゆだねられるのかは定かではありませんけれども,何らかの方法で相手方にいかないということであれば,そのような弊害がない限りは,原則としては調停における相手方の手続保障ということを考えるべきと思いますのでB案でよろしいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。山田幹事からは,B案の写しを送付することを原則とすべきだというお考えがございましたが,ほかの委員・幹事の方はいかがでしょうか。 ○増田幹事 結論としてはB案修正案になるのですけれども,その前に議論の前提として裁判所の方にお伺いしたいのですが,一つは,事件係属の通知は以前は事件名と申立人の名前だけだったと思うのですが,現在それをもう少し詳しくしたものを試行的に送付するという運用をしておられる裁判所が幾つかあるのです。その評価はいかがなものでしょうか。  それからもう一点目は,本人が申し立てるときのために定型書式が裁判所に備えられているのですが,その定型書式と定型以外の書式で申し立てられるものの割合,大体どのくらいの割合であるのか,以上2点お伺いしたいと思います。 ○小田幹事 二つございまして,後者の定型とそれ以外のところについては,正確な数字はまず持ち合わせておりません。印象としては,むしろ長委員の方が直接御存知かとは思いますけれども,多くは定型ではないか。かなり多く,かなりというのがどれぐらいかが問題なのでしょうけれども,定型のものが非常に多いのではないかと思っております。  それから1点目の点でございます。今,増田幹事がおっしゃったのは,私どもで言っているのは,事前照会の充実といいますか,照会書の送付,単なる期日通知でなくて,照会書の送付といってしている実務上の工夫のことと思われます。どういうものかといいますと,確かにそういう庁が一定数ありますが,調停において,単に夫婦関係調整調停事件が申し立てられて,何月何日何時に来てくださいというだけではなくて,もう少し詳しめに書いた照会書を送るというものです。内容としては,夫婦関係調整調停事件ですと,どういう申立てが書いてあるか,離婚を求めるということ,それから子供がいる場合には親権者は自分なのか相手方なのかということ,それから金銭給付についても何か求めるということなのか,慰謝料,財産分与など求めるのか,このような事項を主に書記官が照会書に記載しまして,相手方に送るというものです。  もう少し詳しく説明いたしますと,照会書ということですから,当然相手方から回答が返ってくることを期待しております。これも大ざっぱなところですけれども,照会書に対して回答が返ってくる確率はかなり高いと聞いております。そうしますと,1回目の期日前に,申立人が申立書に書いてあることだけではなくて,相手方からの回答書をもとに,では双方の意向が大体こんな感じだと分かります。そうすると,第1回目期日でこんな進行になるだろうということで,1回目の期日が充実してきているという報告を受けております。1点目については,以上でございます。  あと先ほど住所の点がございました。この点に関してもちょっと申し上げておきますと,申立書を送付するとなった場合に,申立書には当事者,申立人・相手方が住所と氏名で特定されるわけですから,当然住所秘匿の希望がある場合にはどうなのかという問題が出てこようと思っております。この点については,むしろ訴訟などでは当然に送達しておるわけですけれども,その場合でも実務上の工夫として,今本当に住んでいるところを書くということではなくて,連絡のつく一定のところを書くなどの運用によって対応されていると聞いておりますので,仮に調停においても申立書の送付というのが問題になったときに,同様の対応が考えられると思っております。 ○伊藤部会長 長委員,何か補充していただくことがありますか。 ○長委員 定型書式を使う方が多いのか,それ以外の書式を使う方が多いのかということですけれども,定型書式を使う方の方がやはり多いと思います。ただ,そうではない場合が問題になるわけなのですが,仮に定型書式を持って帰っても,裁判所の窓口のところで記入をしないで,うちに持って帰って書く方もおられるのです。そうしますと,自分で余白にいろいろ書いたり,あるいは添付していろいろつけてこられる方がいるので,そういうあたりが今後どういうふうにしたらいいのかなと思うところです。ですから,定型書式について更にいろいろ工夫を加えるなどすると,原則的な大きなところでは,お考えのような方向に行くということもそれなりに工夫によって進んでいくことは考えられるとは思うのですが,要するにそういう枠に入らないものが出てきますので,そこのところの工夫の余地を与えること,すなわちある程度の例外を設けることで,いろいろ考えていけるのではないかと思っています。 ○伊藤部会長 増田幹事,いかがでしょう。 ○増田幹事 今言われたことは,申立書を送付することによって不都合だと従来考えられていたものについては,定型書式の工夫によってかなり排除できるのではないかと考えられるということが一つと,もう一つは,やはり情報が事前にたくさんあった方が,相手方も準備ができて,第1回の期日が充実する,ひいては迅速な解決の促進になるということだと思うのです。ということになりますと,やはり申立書原則送付という方向が望ましいだろうと思います。事件係属の通知をいろいろ工夫されているのは分かるのですけれども,その通知の中では申立ての原因に当たる部分は恐らくかなりの程度省略されていると考えられますから,具体的な事実関係についても双方の認識の違うところなどを準備できた方が望ましいのではないかと思います。  結論的に,意見としてはB案でただし書を削除したいのですが,どうしても例外を設けたいということであれば,例えば「調停手続を行うのに支障を生ずるおそれがある場合」を例外とする程度でよく,この原案の書き振りでは,少し広過ぎるのではないかと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。ただいまは,B案の考え方を支持する御意見,それから増田幹事のようにB案を支持しながら,ただし書の要件を更に厳格にするといいますか,そういう方向にすべきだという御意見がございましたが,ほかの委員・幹事の方はいかがでしょう。 ○鶴岡委員 私は,審判手続のときにはこの制度を利用しやすい制度にするという意味で基本的にA案に賛成する趣旨のお話をしましたけれども,今後あるべき姿,どうあるべきかということを考えますと,A案だから,当事者は自由に何でも書いていいということにはならないだろうと思っております。  私は養育費の確保の推進のための当事者支援という仕事に携わっていますが,例えば養育費の確保という問題は,福祉行政と司法のはざまに置かれている問題でありまして,現在行政が当事者に対して調停,審判等の司法手続を利用するように推進あるいは支援をしているところです。この当事者支援の目的というのは,当事者を司法手続の土俵に乗せるということでありまして,円滑な問題解決のための主体的なかかわりというか主体性を育てるということになろうかと思っております。つまり,私どもがやっておりますのは,自分の主張を上手に相手に伝えるということを支援しているわけです。ですから,すべての事件がA案のように原則通知でなくても,ここのただし書にありますように,また長委員がおっしゃいましたように,円滑な調停を明らかに阻害すると思われるような申立書については,裁判所が十分に配慮してこれを取り扱っていただけるのであれば,そういう方法でもいいのではないかと考えております。 ○伊藤部会長 ありがとうございます。 ○小田幹事 先ほどは質問へのお答えにとどめたわけでございますが,もう少しA案,B案について私も意見を申し上げます。  先ほど実情を申し上げたとおり,裁判所としても実務上の工夫というのはいろいろ考えておりまして,何でもかんでも知らせないのがいいと思っているわけではないわけでございます。調停について全部の事件類型というわけではありませんけれども,一定の庁で先ほど申し上げたような工夫をして,今鶴岡委員からも御指摘があったように,調停においても相手方がどういうことを言っているかと,きちんと伝えていくことの重要性というのは,最初の段階だけでなくて調停の中でもそうなのですけれども,非常に重要だと。これをきちんと充実させていく必要はあろうと思っております。他方で,調停といいますといろいろな角度からの御意見がありますけれども,何らか当事者の自主性といいますか,記録の閲覧謄写もどうなるか分かりませんけれども,ある程度何でもかんでも見せればいいというわけではなく,一定の制約があろうという共通の御理解があるところだろうと思っております。  そういった観点から,今こちらにあるB案というのを見てみますと,調停の申立書の写しを送付する。原則はそうだけれども,一定の場合には,申立書そのものの送付でなくて,事件の通知に代えられるという規定であれば,今の実務上の工夫にも沿ったものと思っておりますし,一定の申立書そのものを送付するということになると,長委員が先ほど指摘されたとおり,では申立人にどう説明するか。送りますよということはきちんと言わなければいけないし,またできるだけ無用の紛争が起きないようなことを書いてもらいたい。もちろん本人が書いたものは尊重しますけれども,一応の説明はきちんとしていく必要があろう。その他,もしかしたら書式なども考えていく必要があるかもしれない。以上のような幾つかの今後の工夫というのは必要だろうと思っておりますが,大まかな枠としてB案というのは十分評価できるものだろうと思っております。 ○杉井委員 小田幹事の発言をお聞きして,裁判所もいろいろ工夫されているということがよく分かりました。それで,私も基本的にB案に賛成です。確かにいろいろ感情的なことが書いてあるので,紛争を激化させやすいとかということをこれまで裁判所の方からお聞きしていたような気がいたしますけれども,鶴岡委員が先ほどおっしゃったように,一つは,相手方に送るとなればそれなりに整理して書かなければいけない。そしてそれを裁判所がそれなりに指導するというと大げさですけれども,そういうふうなものにしていくということが第1回の調停を充実させることになるし,その後の調停についても紛争解決につながっていくことなのだろうと思うのです。  確かに事前照会書というのも,私も現実に幾つかの裁判所で経験しましたけれども,これはとてもいいのです。本当に大変いいものだと思うのですが,非常に争点がはっきりしますし相手がどう考えているかというのがよく分かるので,何しろ第1回の期日は非常にそれで充実とすると,それで分かりますけれども,恐らくこれを全部の事件について裁判所がやるということは,これはまた逆に大変な負担になるし不可能なのだろうと思うのです。だとすれば,B案に基づいて原則送付する。申立書を送る,写しを送るという,こういう原則にしておく方がいいのではないかと思います。  ただし,私も増田幹事と同じで,このただし書が若干範囲が広過ぎると思います。「事件の性質,調停手続の円満な進行を妨げると認められるときは」とか,そういう形で少し限定的なただし書にしていただきたいと思います。 ○三木委員 もう既に多くの意見が同じ方向で出ているで,屋上屋を架すようで恐縮ですけれども,一言申し上げたいと思います。  審判手続でも,この事件係属の通知の点が議論されましたので,それの対比という形で申し上げたいと思います。先般,司法研修所の家事実務の研究会にお呼びいただきまして,そこで全国から集まっていらっしゃった現場の裁判官たちの御意見を伺ってお話をさせていただく機会がありました。そのときに出た御意見,あるいはやり取りで,その段階ではまだこの調停の話が法制審議会の方で扱われていない段階でしたので,審判の方の話が中心であったのですけれども,審判の方のときにもA案,B案があって両方の御意見があったわけですが,私個人は少なくとも審判に関してはB案的な,申立書の写しを原則送るというのが必要ではないかと意見を述べ,またそうではないですかということをその研究会でも申し上げたところ,そこに来られた方で御発言された方の御意見では,審判の方はおっしゃるとおり申立書の写しで原則結構だ。そこに我々は特段の危惧を持っていないと。ただ我々が強い関心を持っているのは,この調停の方だということで話が進んだわけであります。調停と審判はやはり違うところがあるのだろうと思います。刺激的な記載とかその他についても,審判ではさほど問題はないのに対して,調停ではままあるのだろうと思います。  そこで本来の今日のテーマでありますが,本日の皆さんの御意見を聞いていますと,前回の審判のときと大分空気が変わりまして,ほとんどの方が原則はB案でいい。問題はただし書にむしろ焦点が移っているかのように伺いました。私自身,結論として審判,調停とものB案原則でいくというところは他の多くの委員・幹事の方と同じ意見でありますが,何人かの方が気にしておられるただし書の点であります。恐らく審判の方でもただし書は入るのだろうと思いますが,これは書き振りを変えられるかどうかは,ちょっと私も定見はありませんけれども,少なくとも,もし同じにしない余地があるとすれば,ただし書の点で書き分けていただきたいという気はしております。つまり,審判の方はただし書を,抽象的に申せばより絞り込む,調停の方は,書き分けるのであればそれよりやや広い書き方になってもやむを得ないという気はいたしております。  ただ,その前提で今のB案のただし書を読みますと,私もこれは書き振りだけの問題なのかもしれませんで,実際の運用では適切に運用されるのだろうともちろん考えておりますが,書き振りとしてやや広範に過ぎるのではないかという気がします。揚げ足をとるようなことで申し訳ありませんけれども,例えば事件の性質というのを独立に挙げておられますが,そうすると調停手続の円滑な進行に支障がなくても事件の性質のみで送付をしないということもあり得るというふうに読めるわけですね。それはどういう場合なのかというのがちょっと私には思いつかない。つまり,調停手続の円滑な進行以外に,それ以外を加える必要がある場合というのがどういう場合なのか。特に事件の性質と言われますと,特定の事件類型はすべからく送るべきではないというような仕分けができるような性格なものなのかどうかということも気になります。繰り返しますけれども,それは書き振りの問題なのかもしれませんので余りこだわるべきかどうかはやや疑問もありますが,若干その書き振りには疑念を持っております。 ○伊藤部会長 分かりました。議論を伺っていますと,B案の考え方を基礎にして,ただし書の部分に関して,文言としての表現はともかく,実質をどのような方向から,特に審判の場合と比較しながら検討すべきかというあたりに議論の焦点が移っているように感じます。ただし書の部分も考慮要素ですので,いろいろな書き方の工夫はされなければいけないとは思いますが,大体のこの場での議論の方向は収れんしつつあるように思いますのでも,それを踏まえて検討をしてもらいたいと思いますが,なおどなたか御発言ございますか。よろしいでしょうか。  それでは,(注)に関してはいかがでしょう。13ぺージの(注)のところで,申立人が不正確な相手方の住所の補正に応じない場合,それから費用の予納に応じない場合には,申立てを却下し又は調停をしない場合として扱うというような考え方について,どのように考えるかということですが,これに関してはどなたか,どちらかの方向でというような御意見ございますか。 ○増田幹事 この「申立人が不正確な相手方の住所の補正に応じない場合」というのにどういう場合が含まれるのかということなのですけれども,現在実務上非常に困った問題として,審判のときにも申し上げたかと思いますけれども,いわゆるDV被害者の保護規定によって相手方が住所不明である場合,つまりDVの加害者とされる側から紛争の解決を求めて,被害者とされる側に対して調停を申し立てたいという場合に,住所が分からないまま申し立てざるを得ないということがありますので,そのような場合を含むとすればそれは却下だとか調停をしない場合として扱われることは不相当であると考えます。その場合については,別途何らかの立法措置を講じるべきかと思っております。 ○金子幹事 増田幹事がおっしゃった点は一応念頭に置いたのですが,そもそもそういう事件が調停に親しむのかという議論が根本的にあるように思います。最初から審判で申し立てても同じ問題が生じるとは思うので,問題点がないわけではないことは間違いないのですが,そういうケースも調停から,どうしても話合いから始める方がいいとすれば,調停においてもそれなりの配慮をしなければいけないと思うのですが,その点はいかがなのでしょうか。 ○増田幹事 調停事件は必ずしも乙類事件だけではなくて,いわゆる一般調停事件,離婚などの場合は調停前置主義で調停から始めるということになろうかと思いますし,こういう事件につきましても当事者が話し合って合意を目指すということは,特に子供がいる場合,その子供の将来を考えますと,子供に対する養育方法を合意によって定めていくという意義は小さくないだろうと思います。過去にDVなどがあった事案につきましても,将来に向かってそういう紛争を収めていく,当事者の感情を融和しながら収めていくという方向について調停の場を使うということは,相当の意義があるものと考えております。 ○伊藤部会長 ほかの方,いかがでしょうか。 ○長委員 送達費用,呼出費用の予納に応じないような場合などについては,そのまま置いておくというのも適当ではありませんので,何らかの形で事件を終える手続というものをお考えいただくというのは,実務上資するところが大であると思います。 ○伊藤部会長 ほかにはいかがですか。 ○脇村関係官 1点確認させていただきたいのですけれども,今の増田幹事がおっしゃっていた問題というのは,申立人の方でどうしようもないケースというのですか,住所を補正できないようなケースを念頭に御発言があったと思うのですけれども,長委員のおっしゃっていたのは,申立人が補正というか,自分でできるときに何もしなかったケースについてどうするかという点で御発言だったので,想定している場面が違うような気がしたのですけれども。後者は置いておくとして,前者の点について仮に人事訴訟で離婚,DVに遭っていた人,加害者というのは余りないですけれども,訴訟になったケースについて,被告が行方不明だったり住所が分からないときの対応として,最終的には恐らく公示送達になるのかなという気がするのですけれども,増田幹事のおっしゃっている御意見というのは,そういった手当ても調停でという,そういう御趣旨なのでしょうか。 ○増田幹事 現実の問題意識としては,もちろん加害者の方は自分はそんなことやっていないというケースもあるのですが,そういう例ばかりではなくて,自分は過去にはDVを,配偶者に対して暴力を振るったことがあったけれども,もう離婚もするし慰謝料もきちんと払うし,きちんと問題を解決したい,子どものこともきちんと決めたいというようなケースが現実にあるのですね。そういうケースを想定した場合,公示送達という問題の解決の方法よりも,何らかの形で住所を,もちろん裁判所の力でも住所を突きとめられないケースもあるかもしれませんが,できる限り裁判所の方で相手方の住所を調査していただいて,その上で調停の場に乗せるという手続を設けてはどうか,こういうことなのです。 ○伊藤部会長 問題の所在はよく分かりました。 ○豊澤委員 訴訟でも,相手方の住所が分からない場合,基本的には原告の側で調査をしてくださいということをお願いしているのが実際だろうと思いますし,裁判所の方に何かツールや能力があるのかというと,別に何があるわけでもなくて,実際にはいろいろな事情は原告あるいは申立人側の方がよく御存知のはずだというところだろうと思うのです。したがって,この場合にそういったレアケースを念頭に一般的な形で規律を組み立てるというのは,実効性のあるものを想定することが難しいのではないかという疑問があるような気がします。  そして,片やどうやっても分からない,相手方に連絡がつかないということだと,その間ずっと事件は処理のしようもなくたまっていくのかという危惧があるような気がします。 ○増田幹事 レアというのは,事件全体の数から言えばレアなのかもしれませんが,私が日弁連で聞いているところだと,決してレアではない。複数,かなり全国から寄せられておりますというのが一つ。  それから,具体的に裁判所がどうやって探るかということなのですけれども,例えば調査嘱託を保護施設だとか郵便局だとか役所だとかいったところへやっていただければ,それで判明する場合も一定程度あるだろうと思います。判明しない場合は,それは別の方法をとって,何らかの形で終わらせるという形でしかやむを得ないと思います。 ○伊藤部会長 それぞれの側からの御意見で,問題の所在は分かりました。費用の方は余り御異論がないかと思いますが,住所の補正に応じない場合で,しかも補正に応じられると思われるのに応じないという場合ではないような点について,こういう形での解決の道,可能性を開いておくのはいいのか,悪いのかというあたりで判断が分かれるところかと思いますが,更に検討してもらうことにいたします。  では,ここで休憩をとることにいたします。          (休     憩) ○伊藤部会長 それでは再開いたします。  14ページの6の「家事調停事件の申立ての変更」からですけれども,こういう規律を設けるべきなのか,それとも調停という手続の性質を考えると,こういった規律を設けることがかえって円滑な進行を妨げるのではないかというような考え方もあろうかと思います。それに関連する審判移行の問題についても補足説明に書いてあるとおりですが,この点はいかがでしょうか。 ○中東幹事 質問ですが,この変更をした場合に利害関係者とか,あるいは申立権者が変わる可能性もあると理解してよろしいのでしょうか。 ○川尻関係官 当事者が変わってくるという御趣旨でしょうか。 ○中東幹事 事件の中身が変わってくるので,それに伴って利害関係人等がもし変わるのであれば,それらの者の手続保障についても変わる可能性があると思いましたので,その意味で審判の対象を明確にすることは,審判移行の面からだけでなく支持されるものかなと思ったものですから。 ○川尻関係官 内容が変化していくということが前提になっておりますので,恐らくその変化した内容いかんによっては利害関係人の存在も変わってくる可能性があるというのは,御指摘のとおりと考えております。 ○中東幹事 ありがとうございます。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。そういう可能性があることは間違いないと思います。申立ての変更という方式は採られないにしても,現在の実務でも実態的には同様の問題というのは恐らくあろうかと思いますが,そういった点に関しての現在の実務処理に関して,何か長委員,もし御発言いただければ有り難いと思いますが。 ○長委員 調停の申立てというのは,ある程度緩やかな申立てでよろしいわけでありますので,当初の申立内容と合意内容がずれているということはあるのだろうと思います。現在は,申立ての変更という手続上の手当てをしないで,最終的に決まったところで調停を成立させているということになります。今回の御提案について考えますと,申立ての基礎に変更がないという形で書かれていますので,当事者が変わるような場合には申立ての基礎に変更があるということになってくると思います。また,民訴と同じ言葉は使われているのですけれども,調停の場合にどんなふうになるかというのは少し考えてみないと分からないのですが,一般調停を乙類調停に変更できるということがあり得るとすると,それはどういうことを意味しているのか,そういうことは起こらないということなのかなとも思うのですが。私自身受け止め切れていないのです。感覚的には,申立ての変更という手続をしなくてはいけないのか,疑問があります。  調停成立で終了するときには問題が起こらないと思いますが,不成立になるような場合に,例えばそれが訴訟事項に移行するようなものですと,調停を経ていますという効果が残らないといけないわけです。交換的変更の場合ですと,当初の申立ては取下げになっているわけですから,調停を経たということになるのかならないのか。取下げなのですから,ならないのかなとも思います。しかし,一般調停が不調になったという効果を残すべきであるというなら,変更の経緯を手続上残しておけということなのかなとも思ったりします。一般調停から乙類調停への変更ということを考えたときに,あり得るとすると,恐らく今の実務では,当初の申立ては1回取り下げて乙類調停を申し立てていただくことになります。その方が明確です。もし一般調停の方を不調にしたいのであれば,それを不調にすれば先ほどのような調停前置の効力が生じます。一つずつ手続を明確にしていった方が,当事者のためにもなりますし,対象もはっきりしているのではないかという印象を持ちます。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。ただいまの長委員の御発言も踏まえて,いかがでしょうか。 ○三木委員 抽象的なことしか言えませんが,これも先ほど議論した申立ての併合等と本質的には同じ議論だと思うのです。つまり長委員がおっしゃるように,取り下げてまた別途申立てということは可能なわけですから,訴訟の場合も同じですけれども,変更に伴う最大の意義は従前の資料等の流用にあるわけですね。流用というか,それがそのまま生きているということになるわけです。そういうことがこの変更がないとできなくなって,別途申し立てた場合に,もちろん一括で援用的な資料の申立てをしたり,あるいは裁判所の職権による探知等という形を採るのかもしれませんが,それの場合には従前から議論があるように,新しい規律では事実の調査や職権探知も若干の手続規律がかかるようになりますので,いろいろと面倒なことになりかねないということでは,抽象的に言えば申立ての変更の手続はあった方が便利で,あったからといって害が特にあるとは思いにくいということではないかと思います。  もう一点付け加えますと,このような申立ての変更を置くのであれば,理論的には,ほかでも申しましたけれども,それは申立ての併合なり,あるいは先ほど話題に出ていた職権による併合なりも置かないと,整合しないのではないかと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。ほかにいかがでしょうか。不成立の場合が主として議論されておりますが,成立の場合にもこういう手続規律を整備すると,やや窮屈といいますか,場合によっては円滑な進行にとって問題が生じますかね。 ○三木委員 規律の方は問題は生じないと思います。つまり調停ですから,考え方によっては何か一種の黙示の申立ての追加があったようなことを言わなければいけないというような議論もあるのかもしれませんが,普通に考えれば成立させる場合には合意で自由に成立させられるわけですので,こういう制度があったからといってこの手続を踏まないから駄目だということにはならないのではないかと私は思います。 ○伊藤部会長 ほかに御意見等ございますか。 ○金子幹事 理屈に走りすぎているのかもしれませんが,実務上は婚姻費用分担の調停をしていたところ,離婚が成立した。今までの資料を財産分与の方の資料に使いたいという場合があるのではないか。その場合は,改めて一から申立てをするというのもいいのでしょうが,共通する部分もあるとすれば,それは流用を認める方向でいいのではないか。その場合に,この手続を踏まないで何らかの便宜的にやるということも考えられるのですが,そういうこともできていいのかなとは思ったのですが,いかがでしょう。 ○伊藤部会長 この点はどうでしょうか。 ○小田幹事 まず,2点ございます。一つは,資料がどの程度共通かということです。婚費は基本的には夫婦で共同して築いた財産ではなくて,収入に焦点を当てられるわけですが,財産分与は婚姻中に築いた財産ということで,かなり質的に差があろうというのが1点です。  もう一つは,仮に資料が共通だったとしても,@にありますが,それは申立ての基礎に変更がないと言えるのかどうかということです。当事者は確かに全く変わりないのですが,婚姻を前提とした婚姻費用と離婚を前提とした財産分与というのは,法的に断絶とは言いませんけれども大きな差があるのではないかと思います。 ○金子幹事 小田幹事がおっしゃっているのは,恐らく典型的な清算型の財産分与を想定されていると思うのですが,それまで請求していた婚姻費用が離婚成立により過去の婚費に変わることによって,財産分与の中で考慮すべきものとなる。そして,他に清算すべき資産が大してないという場合を考えれば,恐らくかなりの資料が共通するところがあるような気がします。実務上離婚後は,財産分与請求に申立ての趣旨を変更してもらっている方もいるとは聞いているのですけれども。もっともこの場合は,申立ての内容に実質的な変更がないので,一般化できる問題かというと,そうではないかもしれませんが。 ○三木委員 先ほど申しましたように,この規定は先ほどの併合もそうですが,置いたからといってプラスはあってもマイナスの弊害はないだろうと考えておりますので,それほど強い意見ではないですけれども,これは支持できるということです。ただ,今小田幹事がおっしゃった,この規定が訴訟の規定を基本的には参照してつくられているように思うのですが,例えば先ほど小田幹事がおっしゃった「申立ての基礎の変更」というような言葉は,私もやや違和感がありまして,訴訟法とは違う意味で解釈・運用されるのだという前提でもちろんお作りになっているのでしょうが,同じ言葉を使われますと,申立てではないですけれども,基礎の変更というところは同じ言葉を使っておりますので,例えばこの場で適切な代案を持っているわけではありませんけれども,「申立て相互の関連性」とか,何かもっと緩い言葉を使って,いずれにしてもこのような規定を置くにしても,見た瞬間に何か訴訟と同じようなことが要求されているのかと思われるようなかたい規定振りではないようにした方がいいという印象は持っております。 ○伊藤部会長 分かりました。そういたしますと,このようなものについて検討することは絶対問題があるという趣旨の御発言はなかったように思います。それから三木委員がおっしゃるように,こういう規律を設けることが有益な場合もあるし,またそれ自体が害があるということも考えられないという発言もございました。ただ,どれだけの意味があるのか,特に資料の利用等に関しては,なかなか今すぐ,こういう規律を設けることの合理性が認められるという考え方の一致がここで見られるというほどのものではないと思いますので,本日の御意見を踏まえて更に検討をするということで,いずれかの方向で今の段階で決めてしまうということにはならないかと,そういう了解でよろしいでしょうか。  そういたしましたら,次の7の「家事調停事件の申立ての取下げ」で,取下げに関してはそれは可能ということと,それから(注)にございますように乙類審判事項に係る調停の申立ての取下げに関しては,相手方の審判移行を求める利益との関係で同意を要するということについてどう考えるかという問題の提起がございますが,この取下げに関してはいかがでしょうか。まず本文の方の全部又は一部を取り下げることができるものとすると,この点は特段の御異論はございませんか。 ○増田幹事 特にこだわるものではありませんが,子どもの利害関係にかかわるものについて,本当に取下げを認めていいのかという疑問はあります。ただ,これは当事者適格の問題とかかわることでもあり,現行の民法の枠組みの中ではある程度やむを得ない感もあります。 ○伊藤部会長 分かりました。そういたしましたら,本文に関しては増田幹事からの御指摘がありましたが,一応基本的な考え方としてこういうことでの理解が得られたということにいたしましょう。  (注)の関係はいかがですか。ここは理論的な問題のようにも思えますが,いかがでしょうか。高田裕成委員にまずお願いいたしましょうか。 ○高田(裕)委員 基本的には審判と同じということだろうとは思いますが,調停特有の問題としてあり得るとすれば,移行との関係ではないでしょうか。先ほど関係官からの御説明では,移行を求める権利という言葉を使われたようにも思いますが,その趣旨は,調停不成立にして移行という形でこの調停手続の成果を利用するという相手方の期待という理解でよろしいのでしょうか。 ○川尻関係官 はい。 ○高田(裕)委員 まず取下げの同意要件を課すということは,一つには今までいろいろな形で出てまいりましたように従前の調停事件の資料を利用する,場合によっては調査官の調査もあるのかもしれませんが,それらを利用するということですが,調停ですから不成立に終わる可能性があるということを前提にすれば,従前の調停手続を不成立にした上で審判という手続ないしは訴訟という手続も含むのかもしれませんが,そこで利用するということは十分考えられると思うのですけれども,そのことをどの程度保護に値するものと考えるかということについて,必ずしも現在の段階で定見がないところでしてなお考えてみたいと思います。 ○伊藤部会長 田昌宏委員はいかがでしょうか。 ○田(昌)委員 私の方はまだはっきりしてないのですけれども,こういう調停の手続が開始されて,それに応じて合意でもって解決しようという相手方の期待というのが仮にあるとするならば,それを簡単に否定していいのかどうか,もしもそういうことが言えるとすれば同意を要求するというような考え方もあり得るかなと考えています。 ○伊藤部会長 乙類審判事項特有の問題ではなくて,むしろ本文のことについての考え方を背景にしてということになりますか。特にこの(注)に書いてあるような場合には顕在化するということですかね。 ○田(昌)委員 相手方ということで,はい。 ○豊澤委員 ここでは,当初から調停の申立てをしているケースを前提にしての議論かと思います。その場合に,申立人の方が途中で取り下げたいというのは,当事者の自主的な紛争解決手続である調停の手続をもうこれ以上遂行する意思がないということの端的な表れだろうと思うのです。そういった場合に,一方がもうやる気を失っている調停の手続を続行するのはなかなか難しいのではなかろうか。一方,今,審判移行の問題が出ていますが,申立人の方で最終的に審判での解決まで求めるというのであれば,話合いがうまくいかないときにそれを不成立にしてもらって審判移行ということも申立人が選択できる。他方,そこまでは求めるつもりはなくて,取りあえず自主的な話合いでの解決を求めたのだけれども,それがもう見込みが乏しいというので,それはもういいやということであれば取り下げる。そういう意味で,申立人側に手続の実質的な選択の余地があるのだろうと思うのです。申立人が取り下げたいと言っている場合に,相手方が同意しないときは当然に審判に移行させなくてはいけないというのは,バランスとしてどうなのか。その辺が問題かという気がします。 ○伊藤部会長 そうすると,先ほどの高田裕成委員等の発言もありますが,いわば相手方がもっている不成立にさせる利益,あるいはその場合の資料を使うための利益というのは,それほど本質的なものではないのではないかという御趣旨と理解してよろしいでしょうか。 ○豊澤委員 ある意味,申立人側の手続の選択を尊重すべきところがあるのではなかろうかと,そういうことです。 ○畑幹事 私も結論的には今の豊澤委員と同様でありまして,相手方が審判の申立てをしなくていいという利益それ自体を問題にしているのだとすれば,わざわざ法律で保護するほどのことではないという感じがいたします。それから従来の資料を利用する利益というのは,これは恐らく調停と審判の連続性の問題にかかわるのだろうと思いますが,一応別物だとすれば,やはり相手方のそこの期待を保護する必要というのはそれほど高くはないような印象があります。 ○三木委員 私も豊澤委員,畑幹事と結論は同じでありまして,不要ではないかと思います。私は地方裁判所ですが,民事調停をやっていると時々取下げとかいう話があるのですが,取下げと不調はほとんど同じ状況で,よく当事者との間で取下げにしますか不調にしますかみたいなことで話したりするわけですけれども,実質は取下げ,一度も期日開かずに取り下げるという,第1回期日で取り下げるというケースがありまして,不調にしてくれというケースがありまして,それは何もやってないのだから取下げでいいのでしょうと言ったら,むしろいろいろな事情が背景に事実上あるみたいで,いや,事実は取下げなのだけれども不調で処理してくださいとかいう,それで処理したこともあります。結局,取下げというのは調停としては不調になる事件が取下げの事件ですので,最後に残されているのは,先ほどから話に出ています審判移行を相手方が自動的に利益を享受できるような問題に尽きるのだとすれば,この種の規定を置くのはやや筋違いかなという気がいたします。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○金子幹事 申立人の方は取り下げたがっているのですから,調停の不成立が当然予想されるので,皆さん御指摘のとおり相手方がこの手続を審判に移行させる期待をどうするのかというところに議論が収斂するのではないかと思います。乙類事件に関しては,たまたま申立人から申し立てられているので,相手方はその手続に乗っているだけで自らはイニシアチブをとって自分からは手続を開始していないという場面をどう見るかという問題があるような気がします。典型的には財産分与の申立てで,これは申立人から申し立てられていて,相手方が自分から財産分与を申し立てなくても,理屈の上では申立人から相手方への分与という審判はあり得るという前提で考えられています。そういうことを考えますと,話合いの中では,自分の方に分与がされそうだと相手方が思っている。申立人の方は,自分から申し立てたけれども,いろいろ計算してみると相手方に渡さなければいけないということを感じて取り下げてしまったというときに,では相手方からもう一回申立てをしようと思ったら,もう離婚後2年たってしまっていた。こういうような場合もあるのではないか。これは財産分与のところだけで何かケアするということもあるのではないかなと思ったのですが,一応問題提起としてそういうこともあるのではないかと考えたものですから,相手方にとっても審判の方に移行させる期待という,保護される期待というのが考えられる場合があるのではないかと思っていたのです。むしろそういう場合はきちんと申立人から申し立てられていた場合でも,相手方の方にもきちんと申立てをしておかなければいけないとしますと,いたずらにそういう申立てを誘発しかねないのではないかということも懸念されるものですから,この手続を相手方の方が利用するという期待を保護することも考えられていいのではないかというのが(注)の趣旨でございます。 ○伊藤部会長 ただいま金子幹事から,問題の内容,考えるべき点について若干の補足がございましたが,先ほど来の御意見を伺っていますと,(注)に関しては余り積極の御意見はなかったように思いますけれども,今の補足説明を聞いて,どうぞ。 ○増田幹事 理屈の上では確かに審判を申し立てればいいのではないかと思われるのですけれども,本当に直ちに不成立と見込むべきかどうかというところに,少し疑問が残ります。最終段階における不満の程度が客観的に見てそう大きくないだろう,少し修正すれば調停ができるのではないかという場面で取下げがなされるということを経験したわけではないですが,ないことはないのではないかと思うのです。相手方の同意を要するとするか,先ほどちょっと話題に出たような,一定期間内に申し立てれば手続を続行できるようにするかということはともかくとして,そういう救済の余地は残しておいてもよいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 増田幹事の今の御発言は,先ほどの受継の余地についてなおもう少し検討すべきだという御指摘かと思いますので,それはそれでおっしゃるとおりかと思います。  それでは,この点は必ずしも大方の意見が一致したというわけではありませんが,御意見の分布としては比較的こういうことについての消極意見が多かったようです。ただ金子幹事が補足して説明されたような点もございますので,御意見を踏まえてなお検討することにさせていただきたいと思います。  それから,取下げの方式と効果に関してはいかがでしょうか。この点は特段の御意見はございませんか。  もしよろしければ先に進みたいと思います。第17の「調停手続」についての説明をお願いします。 ○川尻関係官 「第17 調停手続」「1 裁判所及び当事者の責務」では,民事訴訟法と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。家事審判手続でも取り上げましたが,文言について御意見をいただければと存じます。  「2 期日及び期間」では,家事審判手続と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。  「3 手続の非公開」では,現行家事審判規則の規律を維持するものとすることを提案しております。  「4 調停期日」「(1)審問」は,調停期日について提案するものです。なお当事者の立会権につきましては,部会資料に記載しました理由により特に規律を設けるものとはせず,また調停の場所につきましては,現行の規律を維持するものとすることを予定しております。  「(2)電話会議システム及びテレビ会議システム」では,このような規律を設けるか否かについて検討することを提案しております。またここでは,原則として調停を成立させる場合にも電話会議システム又はテレビ会議システムを利用することが可能という前提で考えていますので,仮にこのようにするものとした場合には,このシステムを用いた期日においては調停を成立させることができないものとする事件類型をどのように規律するかという点につきましても,御意見をいただければと存じます。  「5 手続の分離・併合」では,家事審判手続と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。  (注)では,当事者を異にする事件について手続の併合を命じた場合に,尋問の機会がなかった当事者の併合前に尋問をした証人に対する尋問の申出の規律については,調停手続には裁断作用がないことにかんがみて,調停段階においては当事者は必要に応じて再度証人尋問の申出をすればよく,調停委員会がその必要性の有無を適宜判断すれば足りると考えられますことから,明文の規律は設けないものとすることを提案しております。 ○伊藤部会長 それでは順次まいりたいと思いますが,まず「1 裁判所及び当事者の責務」に関しては,ただいま事務当局からも要望がございましたが,こういう形での表現が適切なのかどうか,あるいはより良い表現があるのかどうか,そういったことを中心に御意見をいただければと思います。 ○田(昌)委員 表現上の確認なのですけれども,例えば最初の第17の1のところで,「裁判所は」となっていますけれども,例えば期日の指定では家事審判官又は裁判官,調停期日では調停委員会というような,こういう主体の使い分けというのはどういう基準でなされているのかということをお伺いしたいと思います。 ○川尻関係官 基本的には,現行家事審判規則の趣旨を踏まえてそれぞれ書き分けているものになります。いわゆる手続法上の受訴裁判所と観念されるものにつきましては,準備的な調停行為ですとか事後的な調停行為を行うものとして予定されているものと考えております。これに対して,個々の実際に調停を行っていく調停機関としての調停委員会,単独でやる場合には家事審判官になりますけれども,この調停機関が本質的な調停行為を行っていくものと考えております。 ○伊藤部会長 裁判所の責務とされていることの意味ですよね。責務の主体が裁判所になっていること,それが御質問の趣旨かと思いますが。 ○川尻関係官 ここは民訴並びで考えてしまったのですが,「調停委員会は」とした方が適切な場面なのかもしれないですね。 ○伊藤部会長 田昌宏委員,一応言葉の使い方の整理としては,今,川尻関係官が説明されたとおりですが,場合によっては調停手続を主催する機関ということを端的に表すという形での表現もあり得るかというところです。 ○田(昌)委員 例えば第17の1は,受訴裁判所に相当するものであると考えれば確かにそのとおりで,そのあたりはそれでいいのかなと今承ったのですけれども。 ○伊藤部会長 分かりました。いずれにしても,表現は検討させていただきます。 ○増田幹事 この規定は効力規定として想定されているのでしょうか。例えば離婚調停の事件で,ずっと長い間離婚の条件について話し合ってきたのに,最後の段階になって突然離婚しないとかいうことを認めるのか認めないのか。そういうことなのですが。もちろん合意しなければ離婚はできないだろうから,その場合に損害賠償請求などができるのかどうか。そういう効果まで考えておられるのかどうか,お伺いしたいのです。 ○川尻関係官 そのような効果までは想定していないところです。離婚をやめたというのであれば,それは本人の意思ですので,それを信義誠実に反するから離婚だというようなことはもちろん言えないでしょうし,この規定を直接根拠として損害賠償請求をするというのも,なかなかないのではないかと考えております。 ○増田幹事 その程度の規定でしたら,調停手続でこれを言う意味があるのかどうかです。もう少し前の例えば総則ぐらいに置いておいた方がいいのかなと思うのですけれども。審判と調停と両方にこれを置くことの意味がよく分からないところです。 ○杉井委員 私も同様な意見です。調停手続にこういう規定がなじむのかなという感じがしているのです。それははたから見れば,信義誠実に反するとかいろいろ言うかもしれませんけれども,結局調停というのは本人,当事者が納得しなければ成立しないわけで,また不成立になったときに調停の遂行について信義誠実に反しているとかいうことを言っても始まらないというか,そんな気がするのですけれども。 ○脇村関係官 恐らく当局としても,合意の内容をこうしろとかああしろというのは想定しているわけではなくて,話合いをするのだったらスマートにやりましょうと。ですから,例えば証拠調べの申立てを乱発して手続を止めるとか,そういったことはよくないですよねということだと思いますので,離婚をすると言ったじゃないかとか,そんなことは想定してないと思うのですけれども。 ○長委員 調停手続の実際というのは,調停室でいろいろな事態が起こり得ます。平穏に行われるものもあれば,そうでない場合も実はありまして,このような規律に強い効果を求めるかどうかという点では必ずしもこだわるものではありませんけれども,精神としてここに書かれているような信義誠実の原則に従った遂行をするということが表れていると,円滑な調停運営に役立つと考えます。 ○金子幹事 審判と重複して置くかどうかというのは極めて技術的な問題かと思うのですが,国が制度として調停というのを用意し,物によっては調停前置というのを定めるとすれば,少なくとも調停のテーブルに着くことは一種の義務としてとらえることができるのではないかと思います。調停であっても当事者は呼出しを受けて理由なく出頭しない場合は,過料の制裁というのも現行法にあるわけで,話合いの手続だからといって,およそ手続に応じないというような対応はこの体系の予定するものではないと思っています。それから手続を妨害するような行為というのも,許されないだろうと思いますので,その程度の趣旨でお考えいただければと思います。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか,調停の本旨ということにもかかわっているのかと思いますが,合意形成に向けた手続ではあっても,そういう手続の特質を踏まえた信義誠実あるいは裁判所の責務というのは,それはそれであるだろうという御意見と,しかしそれを調停手続に特有の責務という形で明らかにすることがどれだけ意味があるかという御意見,二通りがあるように承りましたが,更に何か御発言がございますか。 ○畑幹事 今,金子幹事がおっしゃったように,現行法上は確かに民事調停でも家事調停でも,勝手に出てこないと過料というものがあるわけですが,ADRの一般論としてそういうことが望ましいかどうかというのは恐らく議論があり得るところだと思います。こういう規定を置いても,今のお話だと何か気分の問題というか,具体的な効果ということではないようですので,いずれにしても大したことはないということであろうかとは思いますが,私は先ほどの伊藤部会長の整理でいえば後者と申しますか,調停について特に書くということには確かに若干違和感があることはあります。 ○道垣内委員 調停について特に書くというのには違和感があるという言葉の意味を伺いたいのですが,家事審判法の総則のようなところに置くべきだという趣旨なのか,審判についてだけ置くべきだという趣旨なのか,ということです。私は,後者だとおかしいのではないかという気がするのです。別に私は民法帝国主義者ではないのですけれども,民法第1条第2項というのはすべての場合に適用されることが前提となっている条項だと思います。したがって,民事訴訟法には書くし,家事審判法の審判のところには書くけれども,調停のところだけにはあえて書かないということにし,それが調停についてだけは信義誠実の原則が働かないということを意味するのだとすると,それはおかしいのではないかという気がします。 ○伊藤部会長 増田幹事の御発言は,私の理解によると,審判,調停全体を通ずる責務というか,というものとして書けばいいのではないか,そういう理解でよろしかったでしょうか。調停特有ものとしてこれを置くというのは何か違和感があると承りましたが。 ○増田幹事 置くというのであれば総則にという意見です。 ○伊藤部会長 分かりました。  それではこの程度にして,先に進みたいと思います。  2の「期日及び期間」,これは家事審判法の規定と実質的に同一のものを設けるという考え方に沿っているかと思いますが,この点は何か御発言ございますか。  よろしければ,19ページの「3 手続の非公開」はいかがでしょう。これも現在の規則の規律を維持するということですが。よろしいでしょうか。  そうしましたら,次の「4 調停期日」の「(1)審問」でありますが,本文と,それから先ほど補足説明にございましたように,いわゆる立会権というのは認めることはしないという考え方が補足的に説明してありますが,この点はどうでしょう。 ○増田幹事 「審問」という言葉に大変違和感があるのですが,調停期日における審問というのは,どういう手続を想定されているのでしょうか。 ○川尻関係官 ここであえて「審問」という限定的な言葉を用いたところに違和感があるというお考えだと思いますが,確かに御指摘のとおりでして,ここは調停期日と申しますか,要するに期日一般を指している言葉として考えていただければと存じます。 ○伊藤部会長 審問という見出しはともかく,「期日を開いて,当事者の陳述を聴くことができるものとする」という中身については,特段のことはありませんか。 ○増田幹事 中身についての意見ではございませんが,「審問」という言葉を使われますと,審判のときと同じ意味にとられるおそれがありますので,できれば違う言葉にしていただきたいと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○三木委員 これも内容には恐らく関係なくて表現振りだと思いますが,調停委員会は当事者の陳述を聴くというのは,調停の本質からするとやや違和感があって,話合いの手続ですので,何か裁判の規定のような感じで,もう少し当事者の主体性とか話合いの手続であるということが分かるような表現振りにしないといけないのではないかという気がいたします。 ○伊藤部会長 そうですね。では,そういう表現ないし文言で,調停手続の本旨に合ったような概念や表現をできるだけ探せるような努力を事務当局にしてもらうことにいたします。  補足説明のところの立会権の件はよろしいでしょうか。  もし御異論がなければ,「(2)電話会議システム及びテレビ会議システム」で,特に審議をお願いしたい点は,先ほど川尻関係官から説明がございましたように,こういうシステムを使った調停の成立も可能である,ただし,それには適さないものとしてどういうものを考えるかという点でして,一応この原案といいますか,ここの内容ではAのところに身分関係を形成又は変更する調停を成立させることはできないという考え方が掲げてございますが,こういったあたりを中心にお願いしたいと思います。 ○道垣内委員 早々に御指示から離れて申し訳ないのですが,ちょっと前提を伺いたいのです。電話会議システムにしろ何にしろ,最高裁判所規則に定めるところによるというわけなのですが,その具体的な内容なのです。民事訴訟に関しては民事訴訟規則第88条か何かに規定があって,裁判所又は受命裁判官は通話者及び通話先の電話場所を確認しなければならないとなっているわけですけれども,これは確認だけしているのですか。つまり,例えば私が調停の当事者であるときに,私の自宅から電話をするということを認めているのかということなのです。なぜそのことが気になるかというと,本日最初にやりました補佐人という制度において,補佐人については許可が必要であるという方向なのですが,では私が電話をかけている横に専門家がいて,マルとかバツとか出していていいのかというのがすごく気になるものですから。このように当事者以外の者の立会いというか臨席を制限している手続において,通常の判決手続と同じような電話会議システムでいいのかというのが若干気になったものですから,伺えればと思うのですが。 ○金子幹事 恐らく民事訴訟手続でも同じ問題は現に起こり得るわけですよね。そこまで細かいところまで詰めた上での提案ではなかったのでもう少し研究したいと思います。今の御議論と調停手続にこのようなシステムを導入することとはリンクする話かと思うのですが,調停期日をこのような形でやっていいかどうかということをもう少し御意見いただいた上で,導入を検討する際にもう少し詰めたいと思います。 ○伊藤部会長 今の点,どなたか実情あるいはあり得る姿などに関して御発言がございましたらお願いいたします。 ○増田幹事 民事訴訟におきましては,実務上本人訴訟には使用されていないと認識しております。ですから,本件におきましても専ら用いられるのは当事者本人が出ている場合ではなくて,弁護士による代理人がいる場合であろうと考えられます。そういうことは法文の内容には書けないのですが,家事調停でも恐らく裁判所は運用上そうされるのではないかと思います。それは本人確認の問題をクリアしなければならないからです。 ○平山関係官 御参考までに付け加えさせていただきますと,私が実務を担当しておりましたときの民事訴訟での経験では,弁護士の代理人がついている事件で弁護士事務所と電話会議システムを用いて期日を開きますときに,当事者も弁護士事務所に来ておられますかというのを確認しまして調書に出席当事者として記載することはしておりました。 ○伊藤部会長 そうしましたら,この点は先ほど金子幹事が言われましたように,基本的な考え方を今の段階である程度固めておいて,それを踏まえて,あるいはそれと並行してこのシステム,本人確認や補佐人の関与の在り方などについて更に調査ないし,しかるべき手続の姿を提示するということにしたいと思います。  ところで,このシステムが利用できる調停の場面についての限定の点は,いかがでしょうか。 ○三木委員 今の部会長の御質問と若干ずれるかもしれませんけれども,電話会議システムとテレビ会議システムを並列的に書いておられるのですが,大分違うような気がするのです。電話会議システムは,先ほど言いましたように私も存じている限り,訴訟の話ですが,法律事務所なりに限定している。逆に言うと,法律事務所でも認めている。つまり地方の裁判所等に出頭しない場合でも認められているということですが,テレビ会議システムというのは,どういう場所でどういうふうに運用するというイメージで,これはお書きになっておられるのでしょうか。 ○金子幹事 これは結局,今のテレビ会議システムの設置状況を考えれば,裁判所には少なくとも来ていただく必要があるように思います。もちろん大きな法律事務所にはこのようなシステムが入っているやにも聞きますが,少なくとも裁判所に来ていただくようなことにはなるのではないでしょうか。 ○三木委員 これを読んだときのイメージもそうでありまして,私の知らない実務があるかもしれませんけれども,知る限りではテレビ会議システムを法律事務所でやっているという例は私は知りませんというか,ないように思います。なので,どちらのシステムのことを想定して,部会長がおっしゃっておられるような限定なりを考えていくかということも多少は関係してくるのかなと思います。 ○伊藤部会長 なるほど,そうですね。 ○脇村関係官 人訴法第137条では,民事訴訟法第170条第3項の期日においてできないと,一部について和解についてできないというふうにされておりまして,170条3項というのは電話会議あるいはテレビ会議双方について定めているものだと思うのですけれども,その際には区別して議論をしていなかったのですが,家事では区別できるのではないかということになるのでしょうか。 ○三木委員 人訴のときには,まず記憶しているのは,電話とテレビを区別した議論というのは私の記憶の限りではだれもしておりません,私も含めてしておりません。できない方向でやるときには区別する必要はないと思うのですけれども,できるという方向でやる場合には,その区別があっていいのではないかという趣旨です。 ○藤井委員 余計な議論を巻き起こすだけかもしれませんが,ここでおっしゃっているテレビ会議システムというのは,企業とか大手法律事務所で備えているテレビ会議システムを想定しているのでしょうか。今の技術では,パソコンにスカイプのようなソフトが入っていると,簡単に通信ができて相手の顔が見えてしまうので,そのようなパソコンを持ち込みさえすれば顔を見ながらの会議というのは簡単にできてしまうのですが,そういうものはここでは対象に入ってくるのでしょうか。 ○川尻関係官 ここで考えておりましたのは,現行各裁判所に設備としてありますテレビ会議システムを想定しておりましたので,スカイプを使ってもできるというところまでは提案しておりませんでした。それは今後の,実務の運用の話となりましょうか。 ○藤井委員 人事訴訟法の規定も含めて,相手の顔が見える状態で話をするということを言うのであれば,例えばスカイプを使っても,その画像をプロジェクターで大きく出すことぐらいは簡単にできてしまうものなのですが,そういうものは想定しないとすれば,特別に規定を設ける意味について少し教えていただければと思うのですが。 ○金子幹事 今,藤井委員がおっしゃった点については,テレビ会議システムでも手続をできるとしたときに,それが裁判所のシステムだから何か特別よくて,それ以外は駄目だという規律はなかなか確かに難しいのではないかと思います。例えば一方は裁判所に出頭しなければできないというような規律にすると,かなり限定がかかってくると思いますが,その場合は出頭した裁判所でのテレビ会議システムを使う。他方受ける側は,パソコンを利用するということはあるかもしれません。いずれにしても,技術的な問題はあるかと思うのですが,今は本人を面前として本人の意思確認が,あるいは意思あるいは主張を確認しながら調停を進めるというのを一応前提としているところを,テレビ会議ないしは更に電話会議のような形で調停をして進めることについてどうか。それから最後の成立の場面においても,それがいいか。いいとして,限定する必要があるかというあたりを御議論いただいて,導入の方向でお話がいただければ,また少し技術的なところは詰めて考えていきたいと思います。 ○伊藤部会長 なかなか技術的問題とが交錯して難しいところなのですが,私なりに認識すれば,電話よりはテレビの方が意思の確認ですとかあるいはコミュニケーションの程度というのは密になると思います。しかもそれが裁判所に出頭してやるのであれば,本人確認という点でもそれほど問題がない。そういう意味では,裁判所での施設を利用したテレビ会議システムというのが,遠隔的な手続の進行では一番最高度のものであると仮に想定しても,しかし,にもかかわらず,そういう場合であっても一定のものはやはり除外すべきで,例えばこのAに書いてあるようなものについては除外すべきだという議論でいいのか,それだけではいけないので,もっと除外するものを増やさなければいけないのか,あるいは逆にAに書いてあるものだってやらせてもいいじゃないかという議論もあり得るのか,そのあたりを議論していただくのがよろしいかと思います。 ○増田幹事 Aの点ですけれども,結局は当事者の真意をどの程度確認できるかという問題に尽きるのかと思います。民事訴訟法でも8年改正では和解については駄目だということだったのですが,後に15年改正で,和解をしてもいいということに変更になっています。人事訴訟法も,最初は慎重にということでスタートしたのだと思いますが,特に運用上問題がないのであれば,これを今回は積極的に解してもいいのではないか。ついでに人訴の方も変えてもいいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 そうすると,身分関係を形成又は変更するような調停についても,利用可能であると。 ○増田幹事 飽くまで利用可能だということですので,この当事者については慎重にしたいということであれば,裁判所の方でそういう利用はされないだろうと思いますし,そのあたりは運用を信頼していいと思います。 ○伊藤部会長 という御意見がございましたが,それについてはいかがでしょうか。 ○高田(裕)委員 実情に必ずしも詳しくないまま発言させていただいているわけですけれども,今,増田幹事がおっしゃったように真意確認がきちんとできるかどうかということにかかっているのだろうと思います。増田幹事のお考えは,十分確認できており,現状で問題ないということであり,人訴も変更されるべきだ,改正されるべきだというお立場で,そういう認識があり得るのは分かるわけですけれども,少なくとも人訴を制定した時点では,なお身分関係訴訟については懸念があるということであったわけでありまして,私自身は,繰り返しになりますけれども,実情に必ずしもつまびらかでないための不安かもしれませんけれども,なお慎重な真意確認ということがあり得るのではないかと思います。もっとも,先ほど議論がございましたけれども,少なくともテレビ会議システムあたりまではという選択肢もなお検討するに値するのではないかという印象を現在のところは持っております。 ○伊藤部会長 高田裕成委員の御意見としては,この資料に書いてありますような身分関係を形成又は変更する調停以外のものについては,テレビないし電話でも,つまりこのAの例外を広げることは必要ないというお考えですね。 ○高田(裕)委員 先ほど申しましたように現在の段階で定見はないわけですが,差し当たりには人訴法並びということでありますので,人訴の対象になる事件は,これは成立させることはできないという規律を守るべきだろう。ただ,先ほどの真意確認という観点からすると,民訴が想定している事件と異なり,非常に注意深い確認を要求される家事事件におきましては,もう少し慎重であるという選択肢もあるのではないかという趣旨で申し上げました。ただ,繰り返しになりますけれども,それほどの慎重さが,取り分け実務で運用されているように弁護士のついている事件で必要かどうかということについては,なお自信は持てないままの発言でございます。 ○伊藤部会長 分かりました。ほかに御意見はございますか。 ○三木委員 UNCITRALで調停モデル法を作るときに,電話という話は余り出なかったと思いますけれども,テレビ会議のようなテクノロジーを使っての調停に関する規律を設けるべきかという話が議論の中でありました。また仲裁の方でも,UNCITRALが取り上げるテーマとしてそうしたオンライン仲裁のようなものを取り上げるのがどうかという話も出ました。それはいずれも近年の話ですけれども,いずれも消極的な形で推移しております。UNCITRALで扱うのは,慎重さが相対的には低い商事仲裁,商事調停でありますが,その分野でも積極的にそういった規律に邁進しようという空気は,私が存じている限りでは今のところありません。テクノロジー的には,もう昔と違いましてあたかもその場にいるかのごとき形でテレビ会議的なことができるという状況は,もうかなり前からあるわけです。先ほど藤井委員がおっしゃったように,企業社会等ではもうかなり前から世界的にそういう会議は人が移動せずにオンラインで行われているわけです。   そういった現場にいる人たちの集まりでも,なかなかそうしたものについてADRの世界では余り推進しようという動きが強くない。その理由ですが,一つは,これは当事者サイドの問題ですけれども,利用できるし,そんなに会っているのと遜色ないぐらいクリアに画像とかが送れるにもかかわらず,当事者がまず余り利用したがらない。商事の世界,コマーシャルの世界でもそうだ。余り現場のニーズが高くないということがあるようであります。それから他方で,調停や仲裁を実施する側,これは裁判所ではなくて基本的にはADRですから民間機関だったり民間人だったりするわけですが,彼らもふだんの企業社会での会議では使っているにもかかわらず,ADRで使うのには非常に慎重な人が多いわけです。そこには,やはり何か,幾ら顔がそのまま見えて行えるとしても,その場に来る,来ないというのとの間に大きな差が感じている人が多いのだろうと思います。  それは一つは,真意確認の問題だけではなくて,自宅なりあるいは自分の事務所なりで画面を通じてやるのと出向いていってやるのでは,真剣さとか覚悟とか,あるいは先ほどの信義誠実の話がありましたけれども,誠実に望むかどうかというのが,人間の現実の行動として違ってくるのだという経験則が背景にあるのだということをおっしゃる人もおられます。これらはいずれも理論的な話かと言われたら,そうではないのですけれども,そういったコマーシャルの世界ですら,しかも日本よりもずっと早くからテレビ会議システムに親しんできた欧米社会でも,慎重なところを私はずっと見てきておりますと,意外なほど慎重な意見が多いわけですので,私個人が実感的に何か体験なりを持っているわけではありませんけれども,やはり慎重に制度を作るべきだというやや保守的な意見を持っております。  その意味では,先ほど部会長が整理されたように,仮に何か置くとしても,まず電話というのは,これは先ほど言いました商事の世界でも電話だけで顔も見えない形で調停や仲裁をやる例というのは私は余り知らない。非常に簡単なというか,そんな大きなステークがかかってないようなものについてはあるのかもしれませんけれども,かなり大きな利害が絡むものについては聞いたことがないので,やるとしても裁判所に出向いていって裁判所の施設を使ってのテレビ会議にとどめるべきだろう。これは本人確認の実効性という点からもそうだと思います。  さらに,Aの対象の限定においては,家事調停で議論していますから基本的にはもともとほとんどが身分関係の形成や変更になるのでしょうけれども,この身分関係の形成,変更という中に財産分与とかそういうのを含んでおられる趣旨かどうかちょっとよく分かりませんけれども,私自身はこの身分関係の形成又は変更も外して,要するに調停の成立はできないというような規律であれば,検討の余地があるかなというぐらいに思っております。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。この点についてもかなり意見が極端にといいますか,対立する御意見が述べられまして,制度の設計の最後の点は,もう少し事務当局で整理をして,また問題提起をしてもらいたいと思いますけれども,特にAの関係でこういう限定をそもそも置く必要があるのかという一方の御意見と,もっとこれを広く,三木委員が今おっしゃったように,広い範囲で限定をすべきだという御意見もいただいたので,もう一度検討をしてもらうことにいたしたいと思います。  では,この程度でよろしいでしょうか。5の「手続の分離・併合」に関しては何か御意見ございますか。(注)の部分がありますね。(注)の部分も併せて御意見がいただければと思います。 ○高田(裕)委員 余りこだわることはないのかもしれませんが,(注)の最後の行の「同様の規律」という,審判移行後の「同様の規律」というのは,これは再尋問を許すという御趣旨でよろしいのでしょうか。 ○川尻関係官 はい,そのように考えております。 ○高田(裕)委員 再尋問と申しますか,尋問の機会を保障するということ自体は結構かと思いますが,ここでも調停と審判の資料の関係が問題となり得ると思いますので,その点だけ一言申し上げさせていただきます。 ○伊藤部会長 ありがとうございます。ほかに御発言はございますか。  それでは先に進みたいと思います。「第18 事実の調査及び証拠調べ等」及び「第19調書の作成等」についての説明をお願いします。 ○川尻関係官 「第18 事実の調査及び証拠調べ等」の「1 職権探知主義」では,家事審判手続と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。  「2 家庭裁判所調査官による事実の調査」及び「3 調査の嘱託等」では,現行家事審判規則の規律を維持するものとすることを提案しております。  「4 証拠調べ」では,基本的には家事審判手続と同様の規律を設けるものとしつつ,これまでの議論を踏まえまして,本文A及びBにおいて,真実擬制の規律に代えて過料の制裁等を課するものとすることを提案しております。  (注)では,尋問の順序に関する規律につきまして御意見をいただければと存じます。  「5 事案解明に向けた当事者の役割」では,皆様の御意見を踏まえまして表現に修文を加えております。  「6 自由心証主義」及び「7 疎明」では,民事訴訟法と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。  「8 他の裁判所への嘱託等」では,現行家事審判規則の規律を維持するものとしつつ,嘱託を受けた裁判所が他の裁判所に更に嘱託する旨の規律も設けるものとすることを提案しております。  「9 その他」及び「第19 調書の作成等」では,調停委員会を組織していない家事調停委員の意見聴取及び調書の作成等について,現行家事審判規則の規律を維持するものとすることを提案しております。 ○伊藤部会長 現行規則と同様ないしその規律を維持するという趣旨のものが多いのですが,順次参りたいと思います。  まず第18の「1 職権探知主義」に関しましてはいかがでしょうか。何か御発言がございますか。特段ございませんか。 ○長谷部委員 今まで家事調停も家事審判と大体横並びという規定が多くて,そういう規律で問題ない場面もあるかと思うのですが,この職権探知主義のところは,職権で,かつ「必要があると認める証拠調べをしなければならない」という規定になっていまして,民事調停のように「することができる」という規律ではない。もうちょっと踏み込んで行うという方向だと思うのですが,審判は裁断作用でありかつ裁判でありますから,客観的な証拠に基づく事実認定とそれに基づく裁判ということが当てはまると思うのですけれども,裁断作用ではない調停の場合に,取り分けこの主体は調停委員会ですので,その調停委員会で,かつ後の方を見ますと,証拠調べも証人尋問や文書提出命令のような強制力を伴うものもできるということになっています。調停で,しかもそれをしなければならないという規律が果たして合っているのかどうかというのは,私はよく分からないなと思っておりますが,そのあたりどのようにお考えかと。 ○川尻関係官 この点につきましては,恐らく最終的には総則部分に一本化されるということを念頭に置いて,家事審判手続と表現をそろえてつくったということになるのですけれども,「しなければならない」という表現が不適切で,「することができるものとする」という表現の方がよいのではないかという御意見になりますでしょうか。 ○長谷部委員 それは一つの選択だと思います。 ○伊藤部会長 そうですね。 ○金子幹事 長谷部委員に質問ですが,御趣旨は,証拠調べという形で調停の手続の中でもやってほしいという申出があった場合でも,するかしないかは裁判所の裁量という御趣旨も含むということでよろしいでしょうか。 ○長谷部委員 裁量とは申しません。「必要があると認める証拠調べ」ということですので,裁量はかなりここで縛られるのだろうなと。そういうやり方で結構だと思うのです。そうなっていきますと「しなければならない」というのと「することができる」というのは限りなく接近してくるのかもしれませんが,「しなければならない」という規定の仕方と「することができる」という仕方と,つまり民事調停の場合とどこが違うのかなというのがよく分からないなと。もちろん家事の場合には後見的にいろいろな配慮が必要な事柄もあるかと思うのですが,でも家事であっても調停は調停でありますので,やはり当事者の合意に基づく紛争解決ということだとしますと,しなければならないという形で証拠調べを必要的とすることは,そこまでするという考え方もあるかもしれませんが,しなくてもいいのかなと思います。 ○増田幹事 長谷部委員と趣旨が同じなのかもしれませんが,この第18のところは,基本的に事実を認定して裁断作用を行うための手続ではないかと思うのです。それで,第18に書かれていることが調停と審判とで変わり得るのかどうか,また調停でこういうことは余り行われないし,あえて調停のところで置く必要があるのかという疑問がございます。このあたりは,先ほど川尻関係官が総則のところということを言われましたが,現行規則でも総則のところにありますし,総則のところに置いて,審判と調停とではその性質により運用において使い分けるというのが妥当ではないかと思います。 ○金子幹事 今のような御議論を一度はしなくてはいけないという趣旨でお示ししておりますので,今のような御意見も含めて,調停にはちょっとそぐわないというような御意見をいただければ,あとは調停手続から外すのか,それから総則において運用にゆだねるのかというのは技術的な問題ですので検討させていただきます。 ○伊藤部会長 それでは,今,金子幹事がまとめられたような形で,ただいまの御意見を踏まえて検討したいと思います。  それでは,次の2の「家庭裁判所調査官による事実の調査」に関しては,いかがでしょうか。これも現行の規律を維持するという内容のものですけれども,何か御意見ございますか。よろしいでしょうか。  同様に,3の「調査の嘱託等」はいかがですか。 ○道垣内委員 「雇主」という言葉が現行法上どこにあるかと検索していたのですが,人事訴訟規則第21条,家事審判規則第8条,生活保護法第29条,老人福祉法第36条というのが「模範六法」の中に載っていまして,この六法が掲載している法令ではこの4か所のようなのです。よりきちんと調べればほかにもあるかもしれませんが,恐らく多くのもので「使用者」に直してしまったのではないかという気がします。 ○伊藤部会長 分かりました。どうもありがとうございました。では,今の道垣内委員の御指摘は検討させていただくことにして,ほかにはよろしいでしょうか。  そうしましたら,次の4の「証拠調べ」で,先ほど説明がございましたように,真実擬制にかえて過料の制裁を課するというあたりのことが審判との関係で入ってきておりますが,これはいかがでしょう。よろしいでしょうか。 ○畑幹事 理屈の上でどうかというのはよく分からないのですが,当事者について,民訴法第192条から第194条と言うと,過料だけではなくて罰金,勾引ということで,証人と同様だと言われればそれまでなのですが,調停という場面でそこまでするのかなということで,若干違和感はございます。 ○金子幹事 調停においてなお証拠調べという形を採ってくださいというような申出を認めるか,それからそれを認めたとして,民事訴訟法と違う規律のものと考えるかというところにかかわる問題なのではないかとは思っております。基本的には証拠調べという形を採る以上は,そのよすがは民事訴訟法の規律というふうに考えましたので,およそ真実擬制のようなもの以外は基本的には該当するという前提で,例外を探すという方向で見ておりました。今の罰金,勾引のあたりは,そのままでいいのではないかという方へ収めておりましたが,なお違和感があるという御指摘かと思うので,検討させていただきます。 ○田(昌)委員 私の理解では,ここで言う証拠調べというのは,正に強制力を持って証拠調べを実施する場合を念頭に置いており,実際は,そこまでは実施しないだろうということだと思うのです。したがって,通常は,当事者から事情聴取するといったような場合が一般的であると考えますが,他方で,強制力を保持するという意味での証拠調べとしてその規定を残すということであれば,こういった制裁や効果を存置しておくというのは,それなりに合理性があると思います。 ○伊藤部会長 分かりました。両様の意見があるようです。 ○川尻関係官 この規定は,民事訴訟法のほか人事訴訟法第21条を参考に規律したものでして,人事訴訟法上は,民訴法第192条から第194条までの規定が準用されております。 ○三木委員 今の点は,私も結論的には田昌宏委員と同じ意見です。局面が違う民事の話を何度もして申し訳ありませんけれども,東京地方裁判所での民事調停で証人尋問,調停ですけれども,もちろんふだんは調停手続の中で当事者から話を聞くのですけれども,いろいろな事情があって尋問手続を尋問法廷を使って実施した例というのがあると聞いております。私も,余計な話かもしれませんけれども,やろうと検討したことがあるので,そのときに例はあるのかと言ったら,あるということでした。調停で尋問の手続をわざわざとるというのは,それなりに背景にいろいろな事情があって,そうすべきだとか,ある意味ではしなければならないというような特殊なケースです。ですので,そういった場合には田昌宏委員がおっしゃったように,実施の仕方についてはそれはもう強制力を背景としてやるという判断を決めた上での実施ですので,民訴並びでなければおかしいのではないかと私は思います。 ○伊藤部会長 分かりました。ではその点は検討させていただくことにいたしましょう。  (注)の関係はいかがでしょう。 ○増田幹事 その前にすみません。当事者照会の排除というのが非常に気になりまして,補足説明のところです。証拠調べの規定を置くこと自体に疑問を持っておりますが,あえて置くとすればそれも民訴並びで入れていただければと思います。 ○伊藤部会長 ただいまの増田幹事の発言に関して,ほかの委員・幹事の方で何か御発言がございますか。  それでは,今の当事者照会の関係についての増田幹事の御意見に関しては,検討させていただくことにいたしましょう。 ○金子幹事 増田幹事からの当事者照会のこと,たしか審判のところでも御意見があったように受け止めましたけれども,当事者照会について証拠法の中に位置づけられるべきだということを背景にした御意見ではないかと思うのですが,なかなか民訴の方への位置づけを変えてまですることはないと思っておりましたので,取り上げませんでした。引き続き検討させていただきます。 ○伊藤部会長 それでは,尋問の順序に関する規定の準用に関して何か御発言ございますか。 ○増田幹事 尋問の順序をその都度変更するという規定では不十分なのかというのが,もうひとつ分からないのです。交互尋問が原則だけれども,それを変更することも可能ですので,調停だったら交互尋問までやる必要ないかなとも思いますが,あえて準用を外すというまでの必要性があるかというと疑問です。 ○伊藤部会長 ただいまの増田幹事の御発言に関しては,いかがでしょうか。交互尋問,別に常にそれをしなければいけないという趣旨の制度ではないので,運用で幾らでも適切な形での運営ができるにもかかわらず,そもそもそういうものを排除するということについての合理性はどうかということですが,ほかの委員・幹事の方はいかがでしょう。 ○畑幹事 これも前々からいろいろなところで議論になっているように,また今増田幹事がおっしゃったように,どちらにしても運用上同じようなことが実現できると思いますので,ある意味ではイメージの問題かなという感じがいたしますが,当事者間で処分できる事柄について調停をやっているということからすれば,交互尋問が一応の前提になってもおかしくはないかなという気は確かにいたします。 ○伊藤部会長 分かりました。それでは畑幹事からの御発言もありましたので,更に検討することにいたしましょう。ほかによろしいでしょうか。  そうしましたら,今度は27ページの「5 事案解明に向けた当事者の役割」で,こういう表現になっておりますけれども,この点に関しては何か御意見はございますか。 ○増田幹事 調停手続は合意のための手続であって,事実認定のための手続ではございませんので,審判のとき以上にこういう規定を設ける必要はないと考えています。 ○伊藤部会長 という趣旨での御意見がございましたが,いかがでしょうか。 ○小田幹事 もちろん事実認定をして,それに対する裁断ということではないのですが,幾つか例を挙げますと,養育費ですか,そういうときの収入の資料など,一定の事実に基づいて話合いをすべきものもございます。そのようなところから,単なる努力義務ということでなくて,むしろ協力しなければならないという方が適当ではないかと思っております。 ○伊藤部会長 表現を強めるということですね。 ○三木委員 確かに調停は合意に基づく,合意を前提とした手続ですけれども,他方で職権探知がとられているように,身分関係ですので,真実を背景とした形で裁判所が公権的な作用を営まなければいけないというのも事実ですから,その意味ではやはりこの種の規定があった方がいいかと思います。かといって,合意の手続ですから努力義務程度でいいという気もしますので,原案に賛成です。 ○増田幹事 小田幹事が今出されたような事案に対応するために,情報開示義務のようなものを各論のところで逆に提案した次第でして,一般的にこういうものを認める代わりに特に必要な場面で認めるという方向を提案している次第です。その点を考慮して少し御検討をお願いします。 ○伊藤部会長 分かりました。ほかに御発言はございませんか。  それでは,引き続き検討をすることにいたしまして,「6 自由心証主義」はいかがですか。 ○三木委員 別に内容がどうということではないのですが,一つよく分からないか,分かるような気もするのですがよく分からないのは,裁判をするに当たりというのは,これは分かるのです。手続の中の最後に例えば判決書を書く段階とか,決定書を書く段階とか。「調停をするに当たり」というのが,どの時点のどういう段階のことを指しているのか。併置して書いているのですけれども,併置できる言葉を並べているのかどうかちょっとよく分からなかったので,教えていただければと思います。 ○川尻関係官 ここは,調停案の提示のようなものも,一応は一定の事実を認定した上で調停委員の方々が行っていると考えておりました。 ○三木委員 それはいいのですけれども,そうであれば「調停をするに当たり」だと,ちょっと広過ぎるのではないですかという趣旨。つまり,調停をするというのは,もう調停が始まった段階から調停をしているわけですよね。だから,裁判に相当する最後の,いろいろ調べてきて最終的にその事実を思うという段階だけを押さえていることにはなってないのではないかという趣旨の質問です。 ○長委員 調停手続は話合いを中心とする手続なので,調停案を提示する際に,事実を認定する場合もあるのですが,しない場合もあります。それで,ここは増田幹事が冒頭におっしゃったところと私も印象としては一緒だったのですが,もし仮にこのような規律が新しい家事審判法の調停の部分に条文として設けられるとすると,かなり裁断的な手続のような印象を持たれてしまう可能性があると思います。先ほどのお話ですと総則に入る可能性もあるというようなお話ですので,そうであればただいま申し上げたような印象ではなくなると思いますので,あとは,三木委員の御指摘の表現をどうするかということはあろうかと思いますが,そういうことであれば納得できる次第であります。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○三木委員 私の言い方がやや中途半端だったかもしれませんが,私は表現だけを問題にしているのではなくて,結論的には今,長委員のおっしゃったようなことまで考えての発言でありました。つまり,証拠調べの規定とかそういうのは裁判並びで置くという案に賛成ですが,それは第三者である調停委員会のためだけにやっているわけではなくて,むしろ理念的には主としては両当事者が合意を形成するために証拠調べ等をするので,調停委員会の自由心証主義うんぬんというのは,やや裁断的な手続をかなりイメージさせることになるので,総則に置くにしても積極的に除外すべきだと私は思います。 ○伊藤部会長 やや調停本質論の話につながるようなことですけれども。 ○脇村関係官 先ほどあっせん案という話もあったのですけれども,少なくとも現行法を前提にしますと,調停の成立は合意しただけではなくて,調停委員会でそれを正当だと認めた上で成立するということになっていることからすると,審判みたいな裁断ではないと思うのですけれども,調停委員会が事実を認定するということは一応予定されているのではないのかなという気はしているのですけれども,どうでしょうか。 ○三木委員 くどくて申し訳ありませんが,自由心証ということになると,当事者の合意をそれはオーバーライドするわけですね。事実はあいまいなままで調停をまとめる。別にそれは虚偽の事実に基づいてという意味ではなくて,そこは余り突き詰めないということは,少なくとも民事調停ではしばしばあることでして,恐らく家事調停でもその種のことは,言い方がどういう言い方が適切かは分かりませんがあるのだろうと思います。したがって,その点で裁判所が当事者の合意とかに関係なく自由な心証でできるという規定は,これはおかしいという気がします。 ○伊藤部会長 やや根源論的な議論になりましたが,今ここで決着をつけるというわけにもまいりませんので,こういう規定を置く必要があるのか,あるいはどういう場所に置くのが最も合理的なのかというあたりを含めて,もう一度検討することにいたしましょう。  7の「疎明」はよろしいでしょうね。 ○道垣内委員 疎明ではなくて,6のところで1点だけ脇村関係官がおっしゃったことがよく分からなかったのです。調停で合意をしたものが正当かどうかということを判断するというのは,それはそうなのかもしれませんが,それが事実認定をするということとどう結びついているのかがよく分からないのです。直接に事実認定を書くわけではないのですよね。事実はこうだなというのを自分の頭の中で考えて,その事実関係に照らして合意の正当性を判断するという話ですので,何かちょっと話が違うのではないかなという気がします。 ○伊藤部会長 概念も含めて基本的な考え方にかかわるところですので,適切な整理をしてまた議論いただくことにいたしましょう。  疎明はそれではよろしいでしょうか。 ○三木委員 疎明ですが,調停における疎明というのは,具体的にどの場面のことか教えていただければと思います。 ○川尻関係官 証拠調べの中に疎明が出てくる規律があったかと思うのですけれども。どこかにあったことは確かなのですが。 ○脇村関係官 特別代理人の規律は一応疎明でやることになっています。 ○三木委員 私が聞きたかったのは,手続上のこととしてはありと思うのです。調停本体,本案について何かあるのかという趣旨で聞いただけです。 ○脇村関係官 基本的には手続的なことを想定していますので,本体についてそもそもそういうのはないのではないかとは思いますけれども。 ○三木委員 そうすると,これはこの資料から受ける印象だけの問題かもしれません,最終的にまとまるときに問題ないのかもしれませんけれども,自由心証主義の次に疎明と来られると,これはどうしても本体のことかと思ってしまったということですね。 ○脇村関係官 表現振りは検討させていただきます。 ○伊藤部会長 分かりました。これも少し整理しましょう。  それでは,8の「他の裁判所への嘱託等」に関してはいかがでしょう。よろしいでしょうか。  それから30ページ,9の「その他」はどうでしょう。現行の規律を維持するということですので,よろしいでしょうか。 ○田(昌)委員 「他の裁判所への嘱託等」のところで,民事訴訟法第185条の場合ですと,@に相当するところに「相当と認めるとき」というのが入っていますけれども,これが家事審判規則では外されているというのは,どういった理由から外されているのでしょうか。 ○脇村関係官 すみません,今直ちに答えが用意できないので,引き取らせていただいてよろしいでしょうか。 ○伊藤部会長 それでは,そのようにさせていただきます。「その他」のところはよろしいですか。  「第19 調書の作成等」に関しては何かありますか。  もしございませんようでしたら,それでは「第20 調停の成立」から「第22 調停をしない場合」まで説明をお願いします。 ○川尻関係官 「第20 調停の成立」の「1 調停の成立と効力」では,現行家事審判規則の規律を維持するものとすることを提案しております。  「2 調停の一部成立」では,家事審判手続と同様の規律を,また「3 調停調書の更正」では,民事訴訟法と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。  「4 調停の脱漏」では,このような規律を設けるものとするかどうかにつきまして,御検討いただければと存じます。  「5 調停条項案の書面による受諾」では,現行家事審判規則を維持するものとすることを提案しております。  (注)では,現行の規定にあります遺産分割に関する事件以外の事件につきましても,調停条項案の書面による受諾の制度を導入することについて,御意見をいただければと存じます。  「第21 調停の不成立」では,現行家事審判規則の規律を維持するものとすることを提案しております。  第22の1では調停をしない場合について,現行家事審判規則の規律を維持するものとしつつ,これにより当該調停手続が終了することにつきましても,民事調停法と同様に明文化することを提案しております。  「2 調停をしない場合の訴えの提起」では,訴訟事項に係る家事調停事件について調停をしない場合においても,訴え提起の擬制を認める規律を設けるものとするか否かについて,検討することを提案しております。なお,審判事項に係る家事調停事件につきましては,明文の規律は設けないものとすることを予定しております。  「3 調停をしない場合における不服申立て」では,部会資料に記載しました理由により,不服申立てについては特段の規律を設けないものとすることを提案しております。  「4 その他」では,基本的には現行家事審判規則の規律を維持するものとしつつ,期日において手続が終了した場合には,当該期日に出頭していた当事者に重ねて通知をする必要はないことから,労働審判規則第33条第2項ただし書と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。 ○伊藤部会長 家事審判手続と同様の規律を設ける,あるいは現行の各種規律を維持するという事項が比較的多いように思いますが,順次参りたいと思います。  まず,「第20 調停の成立」の「1 調停の成立と効力」に関してはいかがでしょうか。特段ございませんか。  そういたしましたら,「2 調停の一部成立」はいかがですか。  よろしければ,「3 調停調書の更正」もよろしいでしょうか。  引き続きまして,「4 調停の脱漏」に関しては,補足説明のところにありますが,どのように考えるかということで御議論をいただければと思います。そもそも脱漏という考え方を想定することがあり得るのかどうかというあたりのことが問題になるのかと思いますが,いかがでしょうか。 ○小田幹事 まず方向としては,脱漏という観念を設けるのは難しいのではないかと思っております。補足説明にもありますけれども,そもそも脱漏という観念を想定することは困難です。判決の脱漏というのは極めて明確だろうと思います。申立て当事者が提示した前提があって,それに対して判決が答えてない部分があれば,脱漏ということでしょう。それに対して調停ですと,そもそも申立ての対象が明確でない場合がございます。そこで観念し得るかということもありますし,それと少し細かいことになりますが,調停の脱漏と言ったときに,今,本文では調停委員会が脱漏したと。裁判所の行為になっております。むしろ調停というのが当事者の合意というものであるのに,脱漏の主体がといいますか,それが調停委員会というのが,その関係をどう説明するのか難しかろうと思います。仮に何か脱漏という概念を考えて,当事者が主張することがあるのであれば,それはあのときは合意したのだけれども,後で不服になったという背景が多いのではないかと思われ,慎重に検討するべきではないかと思っております。 ○伊藤部会長 分かりました。そもそも訴訟のような申立てと判決という二項対立の関係がないこと,あるいは最終的には合意に終焉されることなどを踏まえると,脱漏という観念を想定するのは不適当なのではないかという御発言がございましたが,いかがでしょうか。 ○三木委員 結論的には,今,小田幹事がおっしゃったことに,途中の理屈で調停の脱漏という概念が一体どういうものかよく分からないので,理屈のところはいろいろな考え方があるのかもしれませんけれども,結論においては脱漏というものを入れるのは望ましくないのではないかという点について賛成です。  併せてですけれども,戻って恐縮なのですが,そのことも考えておりますと,調停の一部成立というのもちょっと分かるような分からないような概念かなという気がします。調停委員会は一部について成立させることができるということで,確かに調停も合意があっただけでは駄目で,調停委員会が認めないと成立しないのですけれども,しかしこの一部成立というときに,その当事者がどう考えているのかというのがどう入っているのかがよく分からなくて,当事者が一部でいいと言っているケースを想定しているのか,当事者は全部だと言っているのに,もっと大きくやれと言っているのに,調停委員会が一部だけをあえて成立させるという場合なのか。その当事者の合意の内容との関係を御説明いただけますでしょうか。 ○川尻関係官 当事者の主張ないし認識と,調停委員会の認識との間のずれを想定しているものではございません。複数の調停事項がかかっている場合に,例えばもう離婚については決着して,離婚自体はやむなしということで,その部分はいいけれども,あとは親権者をどちらにするかということについては引き続き争っていきたいというような場合には,まずは離婚については一部成立という形で調停を成立させた上で,引き続き親権者について話し合っていきましょうというようなものを想定しておりました。 ○三木委員 分かりましたが,その場合に「調停委員会は」という主語だけでいいのかどうか,私はやや疑問があります。繰り返しますけれども,当事者の合意があれば調停委員会が認めなくても成立するというものでないのは確かですけれども,この一部成立の主語が調停委員会はできるという,ほとんど裁判に近い表現振りになっている点については,違和感もありますし,理論的に果たしてどうか,検討はしておりませんが,この段階ではよく分かりません。これは要するに,意識的に残部を残すということを当事者が合意し,かつ調停委員会もそれを認めたというケースですので,少なくともそれが何かしらもう少し分かるような書き振りという方が望ましいような気はしました。 ○杉井委員 先ほど川尻関係官の方からの説明がありました,調停の一部成立の例えとして,離婚について合意ができて親権者について合意ができない場合に,離婚について一部調停成立させることができるのですか。 ○金子幹事 実体法上の問題があろうかと思いますけれども,一般的には親権者の定めなしに離婚は成立させないというのが実務とは承知しています。例えとしては,例えば離婚と財産分与等を求めていて,離婚は成立させて財産分与だけは引き続き話合いを続けましょうという場合はあるのではないかと思います。 ○杉井委員 そうですね。 ○三木委員 調停の一部成立に関して,少し付け加えますと,調停ですから訴訟とは違って申立事項より狭い範囲で調停を成立させて,かつ残部を残さないという合意ももちろんできるわけですよね。他方で,これはまだ残部が残っているという合意もできるわけですね。ですので,この書き方だけだと,その両方をどう含んでいるのかも分からないので,脱漏の規定は先ほど申したように置かない方がいいのではないかと思いますけれども,この一部成立の方に残部が残る場合と残らない場合のことを明文で書かないと,この一部成立の意味が分からないような気がしました。 ○伊藤部会長 分かりました。書き方のことはいろいろ工夫する余地もありましょうし,検討させていただきます。  元に戻って,脱漏に関しては小田幹事,それから三木委員,いずれもそういう脱漏ということを考える必要,余地はないのではないかという御意見のようですが,ほかの方はいかがでしょうか。 ○金子幹事 ちょっと病理的な現象かもしれませんが,明らかに当事者が話し合っていたその対象となる事項のうち,明らかに一部が調停条項から欠落しているという場合が起こり得なくはないと思うのですが,その場合も,その部分は除いて調停をしたとみなすということになろうかと思いますが,それでいいのかという,調停の効力の問題とも絡むと思うのですが,調停の効力について既判力の考え方は和解と同様いろいろな説がありますが,改めてその部分は調停はもうできないという余地も出てくると思うのですが,そのあたりはいかが,どう考えたらいいのでしょうか。 ○長委員 調停の成立の仕方については幾つかあるのですけれども,例えば中身としてA,B,C,Dと四つ申立てがあった。三つについて調停条項がつくられ,残りの一つについて,例えば清算条項があり,それはもう処理されているという場合と,清算条項を入れないで三つだけ解決してこの調停は終了させます,こういう合意もあるわけですね。それは別に三つ書かれた内容については決まったけれども,それ以外について決めたわけではないけれども,調停は全部終わっているという趣旨になります。今おっしゃったものは,例えば四つあったのだけれども,三つだけ意識的にやって,その残りの一つについて忘れてしまった。それで清算条項があると。その清算条項からすると処分済みのように見えるけれども,そのことは念頭に置かないで清算条項を置いた。それが一番近いかなと思うのです。そうだとすると,双方錯誤ですから,一つは錯誤の問題になるのではないかと思うのです。実務的にも,請求異議訴訟とかはそういうことで,錯誤の問題として調停条項の効力が争われます。ただ合意としては,全部もう調停は終わらせるという意思で終わらせていますから,一切合財とにかく調停事件としては終わっている。そういう意識で終わらせていると思うのですね。ですから調停は残っているわけではないということにならないでしょうか。 ○伊藤部会長 先ほど金子幹事が言われたのは,今抜けてしまっているものについても当事者間の合意ができているわけですね。できているのだけれども,たまたまミスでそれが調停条項としてあらわれないで。 ○長委員 書かなかったということですか。 ○伊藤部会長 そういうことだと思うのです。 ○長委員 合意ができているけれども書かなかったのならば,調書を更正すればよいのではないかと思います。 ○脇村関係官 多分調停条項の解釈の問題と脱漏という理論的な問題がまざって議論がされているのではないでしょうか。脱漏がまず問題になるのは,例えば財産分与と年金分割の調停が2本かかっていたというときに,条項上は財産分与だけしか書いていない。その条項を見たときに,調停条項の解釈としてそれは二つの事件を両方とも終わらせているのだと解釈されれば,脱漏の問題は起きないのだと思います。逆に財産分与しか書いていない,それは調停条項の解釈としても,財産分与についてしか調停してないとしか読めないというケースについては,一応観念としては年金分割が残っていて,脱漏しているということはあるのではないでしょうか。理論上ないのか,あるいは理論上はあるのだけれどもそういう調停をすることはあり得ないのだというかは一応分けて議論した方がいいのではないかと思います。恐らく小田幹事のおっしゃっていたような話だとすると,書いてなかったとしても,それは全部について合意したと見るのが当たり前なのだということから,脱漏というのは通常あり得ないという御趣旨ではないかと思うのですけれども,金子幹事が申しているのは,実務上はそうかもしれないけれども,理論としては脱漏はあるのではないのか,それは無視していいのでしょうかという議論ではないかと思うので,すみません,そんな感じではないかと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。今のことはもう少し状況等考え方を整理して議論した方がいいように思います。  そこで,今までの御意見を踏まえて再整理をすることにして,もう一つだけやらせていただきますが,5の「調停条項案の書面による受諾」に関しては,特に(注)の関係で,遺産分割に関する事件以外の事件についてこういう制度を導入することにつきどのように考えるかというあたりについては,何か御意見をお願いできますでしょうか。 ○増田幹事 遺産分割関係以外でもできることにしてよろしいかと思います。ただし身分関係の変更,形成はできない。これは実体法上,効力発生時に意思が必要だろうと思いますので,できないということでよろしいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 増田幹事の御意見ございましたが,いかがですか。 ○小田幹事 増田幹事の意見と同様でございます。人訴,身分事項を除いてまだ広げる余地はあるだろうと思っております。 ○伊藤部会長 どうぞ,長委員。 ○長委員 付け加えることはありません。 ○伊藤部会長 そうしますと,この点に関しては増田幹事の御意見に賛同される意見が多いようでございますが,ほかにございますか。  それでは,この件に関してはそういう方向で検討することにいたしましょう。  本日は一応,説明は先までやってもらったのですが,今の第20のところまで終えたということにさせていただきます。  次回の日程についての連絡をお願いします。 ○金子幹事 御連絡いたします。次回は平成22年3月26日(金)午後1時30分から,場所は法務省第1会議室です。 ○伊藤部会長 それでは,本日の部会はこれで終了させていただきます。長時間ありがとうございました。 −了−