法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会           第17回会議 議事録 第1 日 時  平成22年3月26日(金)  自 午後1時34分                        至 午後5時41分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  非訟事件手続法・家事審判法の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○伊藤部会長 予定の時刻でございますので,法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会の第17回会議を開会いたします。御多忙のところ御出席いただきまして,ありがとうございます。   それでは,まず配布資料について事務当局から説明をお願いします。 ○波多野関係官 御説明いたします。   今回の会議につきまして配布いたしました資料は,事前に送付いたしました資料目録記載のとおりでございます。部会資料16及び17は事務当局で作成したものでございます。中身については後ほど御説明いたします。   以上でございます。 ○伊藤部会長 本日の審議に入りたいと思います。   前回は部会資料15の「第20 調停の成立」まで審議をしていただきましたので,本日は「第21 調停の不成立」から審議を始めたいと存じます。   そこで,「第21 調停の不成立」及び「第22 調停をしない場合」についての説明をお願いします。 ○川尻関係官 第21では,調停の不成立について,現行家事審判規則の規律を維持するものとすることを提案しております。   第22の1では,調停をしない場合について現行家事審判規則の規律を維持するものとしつつ,これにより当該調停手続が終了することにつきましても,民事調停法と同様に明文化することを提案しております。   「2 調停をしない場合の訴えの提起」では,訴訟事項に係る家事調停事件について調停をしない場合においても,訴え提起の擬制を認める規律を設けるものとするか否かについて検討することを提案しております。   なお,審判事項に係る家事調停事件につきましては,明文の規律を設けないものとすることを予定しております。   「3 調停をしない場合における不服申立て」では,部会資料に記載しました理由により,不服申立てについては特段の規律を設けないものとすることを提案しております。   「4 その他」では,基本的には家事審判規則の規律を維持するものとしつつ,期日において手続が終了した場合には,当該期日に出頭していた当事者に重ねて通知をする必要はないことから,労働審判規則第33条第2項ただし書と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,順次審議をお願いしたいと思います。   まず「第21 調停の不成立」の場合の取扱いに関してですが,基本的には,説明あるいは補足説明にもございますように,現行の規律を維持するというものでございますが,何か御質問,御意見等ございますでしょうか。 ○山田幹事 ここで,合意が成立する見込みがない場合と,成立した合意が相当でない場合という二つの要件が挙げられているわけですが,後者の成立した合意が相当でないという場合については,従来,無効・違法な場合及び広く正義と公平に基づかないと考えられる場合と説明されており,また,補足説明でも,「調停委員会の広い裁量」という表現ではそういうことを指しているかと思いますが,まず確認ですが,それはそういう趣旨だと考えてよろしいでしょうか。 ○川尻関係官 はい,そのように考えております。 ○山田幹事 そうだといたしますと,調停が基本的には当事者間の合意に基づくもの,そこに正当性を置くものだと考えるならば,確かに無効であるような場合は話は別だと思いますが,正義と公平といった非常に抽象的かつ調停委員会によって判断に差があり得るような理由でもってそれを不成立とするという判断に対しては,調停を申し立て,そこで誠実な議論をした当事者に対して何らかの不服を申し立てる手段を設けてもよろしいのではないかというのが私の意見でございます。もちろん,これは調停委員会の処分にすぎないので不服申立てはできないというのが従来の議論だと承知しておりますけれども,しかし全く再考の余地がないというのも,当事者の合意へ向けた努力や意思を無にしないかという危惧を持っているところです。 ○伊藤部会長 そうすると,具体的には,この第21のAの内容について,一定の事由によって不成立とされた場合については不服申立ての余地を認めるべきではないか,そういう御趣旨ですね。 ○山田幹事 そのとおりです。 ○伊藤部会長 具体的には,今,山田幹事御自身がおっしゃられたとおりのような場合を想定されているようですが,いかがでしょうか。どなたか,ただいまの御発言に関して何か御意見ございますか。 ○小田幹事 現行法で不成立に対する不服申立てというものがないものですから,意見というよりは質問になるのですが,山田幹事がおっしゃったような,合意は成立したけれどもそれが相当と認められなかったことによって不成立となった場合に,不服申立てが仮に認められて,その不服申立てに理由があるということになった場合には,これは調停をもう一度しろということなのでしょうか。合意が成立する見込みがない場合に不服申立てが認められたら,それは自分たちが成立する見込みがあるからだということで,調停を続行するというのは非常に分かりやすいのですが,今の設例ですと,不服申立てに理由があった場合にどうなるかというところを教えていただければと思います。 ○伊藤部会長 合意内容,合意の中身の話ですよね。 ○山田幹事 私も具体的に詳細な制度を提示できるわけではございませんが,いったん成立しているということですので,それを認めて調停調書を作成することができるということになるのではないかと思っております。 ○伊藤部会長 合意自体は成立している,内容が相当でないという理由で不成立にしているのだけれども,それが不服申立てによって取り消される,その場合は今おっしゃったような結果になることを想定されているというわけですね。 ○中東幹事 お教えいただきたいのですが,問題意識は小田幹事と同じでございます。どうして不服申立てをしないといけないのかについてです。もし相当でないと認められた場合にも審判に移行するわけですので,その審判の中で合意があるのであればそれを尊重する形で,かつそれが裁判所によるエンフォースメントに適するものであれば,そういう審判をすぐ出すということではいけないのでしょうか。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか。そもそもの不成立についての要件をどのように設けるかということもあるかと思います。合意が相当でないという要件の場合には,なかなか不服申立てというのは難しいかなという気はいたしますが,どなたか,ほかに発言される方がおいでになれば。   三木委員,いかがですか。 ○三木委員 まず,中東幹事がおっしゃった,審判があるからいいではないかというのは,審判移行しない調停もありますので,そこはちょっと違うかと存じます。   あまりお伺いしてもお答えがなされにくいかもしれませんが,実務の方で,合意が相当でないと認めて調停を成立させないという例が具体的にあるのか,あったらどういう場合がそれなのかというのを教えていただけばと思います。 ○長委員 私の経験に基づいたところによれば,合意が相当でないと認めて不成立にした例というのは知りません。ただ,よく議論するものとしては,調停を成立させたいがゆえにとても収入では追いつかないような金額を払うという合意をしようとする事例に出会うときがあるのです。そうすると,それはちょっと払えないのではないですか,やはり現実的なところになさったらどうですかということで,そういうものについての通常の裁判例であるとか,審判になったらこのようになりますよというところを説明して,合理的なところに話を少し修正していくということがあります。合意が相当でないと認めて不調にしたということは,私は知りません。   ではこのような規律がなくてよいのかということになるのですが,実際にこれを直ちに適用してはいないのですけれども,家事調停というのは,当事者間に合意ができれば直ちに成立させるという性質のものではない。やはり後見的な配慮を働かせて,合理的なところで合意ができるようにいろいろアドバイスをする,そういう性質のものであるということを象徴的に示しているのがこの文言ではないかと私は理解しておりまして,そういう働きを裁判所が果たす上では有用な文言であるいう認識を従来もっておりました。 ○伊藤部会長 三木委員,いかがですか。 ○三木委員 山田幹事の問題意識は,理論的,一般的には理解できるところです。要するに,調停委員会の法的な判断とか認識が間違っていると思った場合に,そして実際に間違っている場合に不服申立てができないのはおかしいのではないかということは,理論的にはそうではないかと思います。ただ,私が実務の質問をしたのは,どの程度現実の問題としてそういう事例があり,あるいはニーズがあるのかということを知りたかったということです。   現実にこれまで例がほとんどないから要らないかと言われたら,またそれはそうではないという議論は当然あり得るとは思いますが,私は家事の方はよく知りませんし,民事の方もさほど知っているわけではありませんが,狭い経験では,民事の方ではそういう調停委員会で合意は成立したけれども調停としては成立させられないという例を余り知らないものですから,現実のニーズというか必要性というものがもしかしたら余りないのかなと。仮にそうであれば,そういう規定を置くことによって,これも常套句的な言い方ではありますが,濫用のおそれとかにつながることはないのかと,そういうことを考えた次第です。 ○伊藤部会長 山田幹事,いかがでしょう。先ほどの長委員の話にもありましたが,合意が相当でないと認める場合というのはかなり極端な場合であって,実際にはそういうことが通常の調停の過程で出てくることはまず考えられないので,そういうものを想定してもなおかつ不服申立てを認めるというところまでの必要があるかどうかということになると,やや消極のように感じますが,それは強引ですか。 ○山田幹事 私も,現実にそのような例が多くあるとは考えておりません。ただ,いみじくも長委員が言われたように,一種の象徴的な文言だろうという感じはいたします。私も,裁判所の調停ですから,調停委員会がこれは妥当でないですよというアドバイスをするというシステムになっているのは正に裁判所の調停の特徴だろうと存じております。したがって,その制度自体がおかしいと言っているのではなく,ただ,そうであれば,当事者を尊重するということもまた設けてしかるべきではないかということでございます。 ○伊藤部会長 おっしゃる御趣旨はよく分かっております。 ○山田幹事 ただ,現実味があまりないということもまたよく了解いたしました。 ○伊藤部会長 一応御発言がありましたので,私は先ほどやや強引なことを申しましたけれども,事務当局で御発言の趣旨に沿ってもう一度その点を検討してもらうことにいたします。   ほかにございませんか。 ○山本幹事 第21のCに関係することですが,このような規定は民事調停法にもあって,それ自体は合理的なものだと思っているのですが,私自身かねて疑問に思っているのは,これと民法の151条との関係で,民法151条は,時効との関係では,1か月以内に訴えを提起しないと時効中断の効力がないということを規定しているわけです。時効との関係では恐らく民法の方が優先して,このCが働くのは提訴期間の遵守等の問題についてと一般に理解されていると承知しているのですが,民法の方は1か月以内に訴えを提起すれば時効中断効があるのに対して,こちらは2週間以内に訴え提起しないといけないということになっている,その間の合理性というか,そこは私には従来理解できていないところがございまして,民法の方は1か月でいいというなら,その提訴期間の遵守等の方も1か月でもよさそうな感じが何となく,素人的な感想で恐縮ですけれども,そのように前から思っていたものですから,この際,もし何か事務当局の方で御教授いただければと思いますが。 ○川尻関係官 今御指摘ありました点は,おっしゃられたとおり,時効の点については民法の規定が適用されて,それ以外の訴え提起の擬制,出訴期間のようなものについてはこちらの家事審判法の規定が適用されるという形で整理されてきております。どうしてこのような形になったのかという点につきましては,若干長い経緯がございます。いずれにしましても,家事審判法の方が民法の規定より後からできたものなのですけれども,なぜ家事審判法は2週間と定めたかという点については,これを明言した文献がございませんで,両者の差がどうして生じたのかという点に限ってお答えしますと,それは分からないということになってしまいます。 ○山本幹事 その区別に合理性があるのであれば別にこのままで結構だと思うのですけれども,もし合理性が見出せないのであれば,そろえるということも考えられるのかなと思っていました。 ○伊藤部会長 恐らく民法の規定を直してくれということは言えないでしょうから,もし検討するのであれば,ここで家事審判法の規定をこのまま維持するか,それとも1か月に揃えるか,そういうことになりましょうか。   民法の委員・幹事の方,何か今の点についての御発言はございますか。 ○道垣内委員 特に何も言うことはないのですが,時効以外の点に関しては家事審判法の方が適用されるというときに,時効以外の点で2週間以内に限ってさかのぼるという効果によって生じる最も大きな点は何なのですか。 ○川尻関係官 出訴期間になります。例えば嫡出否認の訴えですと,1年内という出訴期間の制限がございますので,この点を救済するために家事審判法の規定が設けられたと説明されております。 ○金子幹事 民事調停と共通する問題かと思います。今2週間あるところを1か月とすることはどうかということは,ここでの検討の対象になるかと思います。2週間の理由がないのと同じように確たる理論的な説明はできないのですが,現在の2週間で特に問題がないということであると,それを1か月にする理由もなかなか見出し難いようには思うのですが,もし御意見をいただけるのであれば,いただいた上で検討させていただきたいと思います。 ○伊藤部会長 どなたか,更に御意見ございますか。 ○脇村関係官 今,道垣内委員から民法のお話があったので,今度は民訴の先生にお伺いしたいのですけれども,訴訟法ですと控訴とか抗告は大体2週間ですので,同じように考えると2週間かなという気がするのですけれども,その並びで考えるというのはしっくりこないものなのでしょうか。 ○伊藤部会長 山本幹事の御指摘も,それはそれで一つ合理性があるのですけれども,しかし,時効と出訴期間,もちろん法律上の意味も違うし,構成も違うのですけれども,やや似た側面もないとは言えないので,そういうことで不統一を正当化できるほどの根拠があるかという点ですよね。 ○山本幹事 もし1か月が長過ぎるとすれば,時効の方も1か月は長過ぎるという話になりそうな感じがして。それはもう一つ部会があって,そちらで消滅時効は御検討になるようですのであれかという感じもしますけれども,両方が違った価値判断で維持されてしまうとすると何かちょっとあれかなという,そういう問題提起として理解いただければ。 ○伊藤部会長 分かりました。   先ほど金子幹事がおっしゃったように検討はさせていただきますが,ただ,この手の話は非常にいろいろなところへ波及する面があるものですから,この部会でどうするかの結論が出せるかどうかは難しいところがあるとは思いますが,貴重な御指摘だと受け止めさせていただきます。 ○道垣内委員 出訴期間のところが一番大きな違いだという話ですが,出訴期間と時効とが両方ある例というのはどういう例なのですか。 ○金子幹事 ちょっと思い当たらないですね。 ○道垣内委員 ということは,両方が適用される事例はないということですか。そこは大した話ではないかもしれませんが,整理のときに,時効に関しては民法151条で,出訴期間については家事審判法であるという話なのか,それとも,ある訴権についてはどちらか一方だけが問題になるという法制度になっているのか,それによって説明の仕方も若干違うかなという気がしますので。 ○伊藤部会長 分かりました。その点は検討させていただきます。   ほかによろしいでしょうか。   それでは,「第22 調停をしない場合」に関して,まず1で掲げられている内容については,こういうことでどうかという問いかけになっておりまして,現在の規律を維持しているという内容のものですけれども,これはよろしいでしょうか。   そうしましたら,次の2ですね。「調停をしない場合の訴えの提起」で,ここは,訴えを提起したときは調停の申立てのときに訴えの提起があったものとみなすことについてどのように考えるかということで,オープンになっておりますが,その趣旨は37ぺージの補足説明のところに書いてあるとおりでございます。この点についての御意見はいかがでしょうか。考え方としては,二つの考え方があり得るというのが補足説明の内容ですが。第3段落の「また,明文の規律を設けずに」というところも入れると,考え方は三つになるのですかね。   高田委員,いかがでしょう。 ○高田(裕)委員 ここに記載してあること以上に申し述べるところはないように思います。先ほど来ご意見が出ておりますように,出訴期間との関係では,不成立の場合とそろえるというのは非常に魅力的だと思いますが,同一性判断に困難を来すという問題点の御指摘もそれはそのとおりかなと思うところもございまして,規定を設けるという方向に意見が集約することができればそれはそれであり得る解決法だと思いますが,そうでなければ解釈にゆだねるというのも穏当な道ではないかという印象をもちます。 ○小田幹事 私も,この補足説明にうまく議論が整理されていると思います。あとはどこを重視するかということだと思いますが,規定を設けるということになりますと,感覚的ではありますが,該当する事案が一定数あって,規律を設けておくことでそのような効果が発生することを期待するという姿勢が見られるように思います。ただ,実務上,調停をしないというのは,大体の場合,正に補足説明にあるとおり,同一性の判断が困難である場合が多いと思いますので,設けることによってそうとられることとのそごが際立つような気がいたしますので,敢えて設けない方がいいのではないかと考えております。 ○伊藤部会長 高田委員も含めて,特に設けるべきであるという積極的な御意見はまだないようですが,どなたか,その点御発言があれば。明文の規律を設けて,調停の申立時点での訴え提起の擬制の可能性を明らかにするということに関しては消極の御意見が大勢であると理解してよろしいですか。もちろん,その後のことは解釈論ということは別にあり得る話ですけれども。もしよろしければ,ここはそういうことでまいりましょう。   それから,「3 調停をしない場合における不服申立て」について,特段の規律を設けないという考え方が示されております。その理由は補足説明にありますとおりで,現行法の下でもそういう考え方がとられているという説明がございますが,この点はいかがでしょうか。 ○長委員 調停不成立の場合と対比して考えたときに,やはり不服申立てがない方が落ち着きがいいのではないかと思います。実務的にも,本当に限られた事案ですので,謙抑的にやっておりますので,その方が運用し易いと思います。 ○伊藤部会長 今の長委員の御発言に関して,他の委員・幹事の方,いかがですか。皆さん,長委員の発言の趣旨に特段御異論がないと承ってよろしいでしょうか。―それではそのように扱わせていただきます。   最後に,「4 その他」の(注)がございます。ただいまのようなことで家事調停事件が終了したときに,書記官が遅滞なく当事者にその旨を通知しなければならないものとするということを原則にするようなことですが,これについては何か御意見ございますか。 ○中東幹事 前回,テレビ会議システム等を使った期日について議論がありましたが,この場合,ただし書の出頭で,一定の場合を除けば調停を成立させことができるわけですが,ここのただし書の出頭という文言は,前の議論に合わせて修正していただくことを前提とした御提案ということでよろしいでしょうか。 ○川尻関係官 テレビ会議システムを用いた場合には,その期日に出頭したものとして扱うということを前提に考えておりましたので,御指摘のとおり,テレビ会議システムの場合でも終了させて,その場合には通知はしないという規律が当てはまると考えております。 ○伊藤部会長 よろしいでしょうか。ほかには御発言ございませんか。   もしよろしければ,これで部会資料15についての審議を一通り終えていただいたことにさせていただきます。   引き続きまして,部会資料16「家事調停手続に関する検討事項(3)」に基づいて審議をお願いしたいと思います。   まず,部会資料16の「第24 合意に相当する審判」についての説明をお願いします。 ○波多野関係官 御説明いたします。   第24の「1 合意に相当する審判の対象事件及び要件」では,合意に相当する審判の対象事件及び要件について提案しております。   この点につきまして,当事者の任意処分が許されないと考えられます事件につきましても,当事者間に合意が成立してその原因事実について争いがない場合にまで人事訴訟で争わなければならないとすることは望ましくないと考えられます。   そこで,現行家事審判法第23条を参考にしまして,原則として人事訴訟法第2条各号に掲げる事件のうち,離婚及び離縁の事件を除いた事件を対象として,申立ての趣旨どおりの審判を受けることについて合意が成立すること,身分関係の発生若しくは消滅又は存否の原因について争いがないことを要件としました上で,職権によって必要な事実の調査をして,家事調停委員の意見を聴く手続を経て,正当と認める場合には合意に相当する審判をするということを提案しております。   なお,いかなる者の間で申立ての趣旨どおりの審判を受けることについての合意が必要か,あと身分関係の発生若しくは消滅,存否について争いがないことを必要とするかにつきましては,(注)で検討することとしております。   (注)の1では,原因について争いがないことを,実体的真実に合致する蓋然性が高いことに着目しまして合意に相当する審判の要件としたと考えますと,必ずしも原因事実について知っているとは限らない身分関係の当事者でない者との間に争いがないことを求める必要はないのではないかと考えられます。そこで,定型的に原因事実について知っていると思われます身分関係の当事者間に原因事実についての争いがないことを必要とすれば足りると考えられますので,その旨を提案しております。   (注)の2では,身分関係の当事者の一方が死亡した場合には合意に相当する審判をすることができないものとすることを提案しております。これは,合意に相当する審判をするためには,死亡した身分関係の当事者にかわって合意をする者の存在が必要であると考えられますが,この役割に適した者を定型的に判断することは困難であると考えられることによります。   (注)の3では,申立ての趣旨どおりの審判を受けることについての合意がいかなる者との間で必要かについて検討することを提案しております。   まず,人事訴訟手続によることを放棄して,その簡易代用手続で事件を解決することにつきましては,手続の当事者,権利参加した場合の参加人の合意が必要であると考えられます。   次に,審判の効果を直接的に受ける身分関係の当事者を手続の当事者として関与させて,申立ての趣旨どおりの審判を受けることについての合意の主体に含めるべきであるとも考えられますが,この点につきまして,人事訴訟において父を定める訴えを母の配偶者が提起する場合,被告は母の前配偶者とされておりまして,子は被告になるとはされておりません。これは,父を定める訴えが基本的には当該子が前夫と後夫のいずれの子であるか,その一方を父と定めるという手続でありますことから,手続に関与させていないとも考えられます。   そこで,この場合の子は,身分関係の当事者でないと考えてしまえば合意の主体に含める必要はないと考えることができるとも思われますが,他方で,人事訴訟法の規定によりますと,第12条で被告適格についての一般的な規定があり,父を定める訴えの当事者等について定める同法第43条につきましては第12条の特別の定めであると説明されております。そうしますと,子どもを身分関係の当事者であると考える方が人事訴訟法との関係では整合的であるとも考えられます。さらに,子どもを身分関係の当事者であると考えた上でも,先ほど御説明しましたとおり,父を定める申立ての性質から,現配偶者と前配偶者の間で合意があればよいとも考えられますので,この点について検討することを提案しております。   「2 付随処分」では,実体法上,子どもがある場合には,婚姻の取消しに当たって親権者を指定しなければならず,婚姻取消しと親権者指定は不可分の関係にあると解されますので,成年に達しない子があるときには,同時にこの親権者の指定について裁判をしなければならないものとすることを提案しております。   なお,子供の陳述聴取につきましては,第25の1の(注)におきまして,調停に代わる審判と併せて別途検討することとしております。   (注)では,本文で親権者の指定について定めるものとした場合につきまして,親権者指定の具体的な方法について検討することを提案しております。   A案は,父母の合意により親権者を指定するものとし,父母の合意がない限り親権者を指定することはできないとの考え方です。この考え方によりますと,親権者についての合意がない場合には,婚姻取消しについても合意に相当する審判ができず,人事訴訟手続によることになると考えられます。   B案は,父母の合意がなくても裁判所は自己の判断で親権者を指定することができるものとする考え方です。この考え方によりますと,父母の合意があっても,裁判所はその合意に拘束されずに親権者を指定することができると考えることになると思われます。   「3 家事調停委員の意見を聴かないでする合意に相当する審判」では,合意に相当する審判をすることが正当であるかの判断は法律判断事項であり,必ず調停委員の意見を聴くべきとするだけの理由も考え難いことから,家事審判官だけで調停を行い,家事調停委員の意見を聴かないでする合意に相当する審判をすることができるものとすることを提案しております。   「4 調停行為能力及び法定代理の特則等」の「(1)調停行為能力の特則等」では,合意に相当する審判は人事訴訟の簡易代用手続であり,人事訴訟においては意思能力を有する限り訴訟能力が認められているのと同様に,当事者が意思能力を有する限りは有効に調停行為をすることができるものとすることを提案しております。   「(2)法定代理の特則」では,家事審判手続及び家事調停手続一般の規律と同様に,後見人又は親権を行う者が調停行為について代理することができるものとすることを提案しております。この点に関しまして,人事訴訟は原告又は被告となるべき者が成年被後見人であるときは,その成年後見人が成年被後見人のために訴え,又は訴えられることができるとしておりますので,ここではこれと同様の規律とすることを考えております。   「5 審判」の「(1)審判の方式」では,合意に相当する審判は,主文及び理由の要旨を記載した審判書を作成して行わなければならないものとすることを提案しております。   「(2)審判の告知」では,合意に相当する審判は,当事者及び参加人に相当な方法によって告知しなければならないものとすることを提案しております。   「(3)更正審判等」の本文では,合意に相当する審判につきまして,更正審判をすることができるものとすること及び更正審判に対しては即時抗告をすることができるものとすることを提案しております。   (注)では,一部審判及び審判の脱漏につきまして,家事審判についての手続の一部審判又は審判の脱漏と同様の規律とするものを提案しております。この点につきましては,例えば複数の子供からの認知の請求を併合した場合において,一部の子供についてのみ合意に相当する審判をする場合などが考えられます。   「6 申立ての取下げ」では,合意に相当する審判がされますと,審判が確定することによって事件が解決することに対する相手方の期待があると考えられますが,これを保護する必要があると思われます。申立人は原則として異議申立てができないこと等を考えますと,その潜脱として取下げが利用されかねないことから,合意に相当する審判があった後は,申立ての取下げは相手方の同意を得なければその効力を生じないものとすることを提案しております。   「7 不服申立て」の「(1)異議申立権者」では,合意に相当する審判の対象となる事件は元来訴訟事件でありますので,審判によって訴権を終局的に奪うことは不当でございますから,不服申立てにより審判の効力を失わせることなどとしております。この点につきまして,当事者間には審判の内容についての合意が成立していますことから異議申立てをすることができないのが原則で,その点は現行法を維持することとしております。もっとも,申立ての趣旨どおりの審判を受けることについての合意が成立すること及び身分関係の発生若しくは消滅又は存否について争いがないことは,合意に相当する審判をする要件でありますから,これらの要件を欠く場合には,要件を欠くことを理由として異議の申立てができるものとすることが考えられます。そこで,本文1ではこの点を明らかにすることを提案しております。   なお,当該事件の申立適格を有する権利参加人も合意をする主体とすることにした場合には,当事者と同様に扱うものとすることが考えられます。   また,付随処分につきまして,父母の合意がなくとも子の親権者の指定の裁判をするものとした場合には,当事者は,付随処分として子の親権者の指定の裁判がされた合意に相当する審判に対して,理由なく異議の申立てをすることができるものとすることになると考えられます。   (注)の1では,異議申立ては手続の明確性から書面によって行わなければならないものとすることを提案しております。   (注)の2では,異議申立権の放棄をすることができるものとすることを提案しております。   「(2)異議申立期間」では,異議の申立期間について,現行家事審判法第25条第1項の規律を維持し,2週間とすることを提案しております。   異議申立期間の始期につきましては,審判の告知を受ける者は審判の告知を受けた日から期間が進行するものとすることを提案しております。審判の告知を受けない者につきましては,現行の規律を維持しまして,当事者が審判の告知を受けた日から進行するものとすること,又は審判の一般原則についての現行の規律にならいまして,申立人が審判の告知を受けた日から進行するものとすることが考えられますので,この点について検討することを提案しております。   「(3)異議申立てに対する裁判」では,当事者の異議申立ての却下及び却下した裁判に対する即時抗告について提案しております。また,当事者から適法な異議の申立てがあったときには,合意に相当する審判を取り消して,更に当該調停手続を続けて,欠いていた要件について満たすようになった場合には,再度合意に相当する審判をするという余地を認めてもよいと考えられますことから,当事者の異議申立てに理由があるものと認めるときには,合意に相当する審判を取り消さなければならないものとすることを提案しております。   「8 確定した合意に相当する審判の効力」では,異議の申立てがないとき又は異議の申立てを却下する審判が確定したときは,現行の規律を維持して,合意に相当する審判は確定判決と同一の効力を有するものとすることを提案しております。   「9 再審」では,合意に相当する審判に対して再審をすることができるものとすることを明らかにすることを提案しております。   「10 〔受継〕」では,申立人とは別の申立権者がいる場合の取扱いについて,人事訴訟法上,訴訟係属中に原告が死亡した場合は原則として訴訟が終了し,例外的に嫡出否認の訴え及び認知の訴えにおいて原告が死亡した場合の受継等の規定がありますことから,身分関係の当事者の一方が死亡した場合について合意に相当する審判をすることができないものとすることを提案しておりますことを併せて考えますと,特段の規律を設けないものとすることではどうかということで検討することを提案しております。   「11 その他」では,調停手続一般につきまして,電話会議システム等によって調停期日における手続を行うことができるものとした場合につきましては,電話会議システム等によって申立ての趣旨どおりの審判を受けることについての合意をすることができるものとすることを提案しております。   以上でございます。 ○伊藤部会長 多くの項目がございますが,順次まいりたいと思います。   まず,1ぺージの「合意に相当する審判」の「1 合意に相当する審判の対象事件及び要件」です。先ほど説明がございましたように,基本的には現在の考え方を維持するということでございますが,(注)の部分は後からまた議論していただきますので,本文に関しまして何か御発言がございますか。本文に関してはよろしいでしょうか。   それでは,それを前提にして,個別の(注)に掲げられている問題に関しての審議をお願いしたいと思いますが,まず2ぺージの(注)の1の,原因事実について身分関係の当事者間に争いがないということを要することでどうかという,その考え方が掲げられております。理由は先ほど説明があったとおりですが,この点はいかがでしょうか。 ○山本幹事 基本的にはこういうことなのかなと思ったのですが,先ほど御説明があった3の点とも関係するのですが,子の父を定める訴えのような場合に,その子が身分関係の当事者だと仮に考えるとすると,この1との関係では,子は当事者とはなっていないわけですけれども,考え方は幾つかあるのかもしれませんが,そもそもこの要件はもう満たさないと考えて,そのような場合には合意に相当する審判はできないと考えるのか,あるいは裁判外の子との何か同意すればできるというように,ちょっと手続上難しいような感じもするのですが,そういうようなことが考えられるのか,あるいは,そういうような場合には,もう子との間での争いがないという要件は必要がないと考えてしまうのか,そのあたり何かお考えがあれば伺いたいと思います。 ○伊藤部会長 父を定める訴えのような場合に,子が身分関係の当事者であるという前提に立った場合ですよね。 ○山本幹事 はい,そのとおりです。 ○波多野関係官 今,山本幹事が御指摘されましたところは,1との関係では,整理していただいたとおり幾つか考え方があるところかと思いますが,1の方で,手続の当事者の中で身分関係の当事者について争いがないことがあれば足りるのではないかとも考えておりまして,それを突き詰めていくと,結局は要件がそもそも要らないと考えることになるのかと今は考えているところであります。もともとは,手続当事者でないところに子供がいて,子供が身分関係の当事者であるけれども手続に入ってこなくてもいいのだと整理してしまえば,その人との関係で争いがないこととか合意があることは要件でなくなってくると考えていいのではないかというところを一つ考えておりました。 ○山本幹事 この要件をどこまで大きなものと見るのかということによると思うのですが,ここに書かれているように,身分関係の当事者が最もその原因事実についてよく知っているので,そこに争いがなければ基本的にはそれは真実と考えていいだろうというような一種の事実の推定則みたいなものがその背景にあるのだとすると,当事者になっていないからそこはなくていいのだということは少し言いにくいような感じがして,それがそんな大したものではないのだったら,そもそもこの要件はなく,審判内容についてだけ合意があれば,もうこの合意に相当する審判を,原因関係事実の争いとかということは言わずに,それだけで認めるということもあり得るというような感じがしております。ちょっとそこは自分でもまだ整理はできていないのですけれども。 ○増田幹事 私はこの要件の必要性について若干疑問があります。恐らく先ほど言われたように身分関係当事者の一部が手続当事者でない場合を念頭に置いておられるのだと思いますが,そういう場合に,これだけが要件になっているのではなくて,裁判所が必要な事実を調査するという手続的要件がございますので,手続当事者となっていない身分関係の当事者については必ず調査が入るだろうということが当然考えられますし,調査をしないで審判すれば違法だと思います。それを前提に考えた場合に,今言われたように子に異論があるのであれば,調査が入った段階で異論を言えば裁判所はかかる審判を下さないであろうし,仮に下されたとしても,その子が利害関係人として異議を申し立てれば,その審判の効力は当然に失われることになります。調査の結果子にも異論がないということになれば,審判をしても問題ないということになろうかと思いますので,この要件を明文で規定することにどれほど意義があるのか疑問でございます。当事者間に争いがない場合というのは,手続当事者として構わないと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。手続当事者間についてそれを考えればいいので,(注)に掲げられているような身分関係の当事者について争いがないことを要するということに関しては必要がないのではないかということですね。 ○高田(裕)委員 議論の確認ですが,山本幹事の御議論では,想定している事例は手続当事者でない者が身分関係の当事者である事例でありまして,それは子の父を定める訴え,あるいはもしかすると認知も入るのかもしれませんが,人訴の基本原則からすれば例外的な訴えとなる身分関係を想定した議論だと思います。それについてどうするかという議論はあり得ようかと思いますが,それとは別に,(注)1自体は,身分関係の当事者は当然手続上当事者になっていることを前提に,手続当事者となっている場合であっても,身分関係の当事者でない者については身分関係の原因事実についての争いがないという要件を確認する必要がないという趣旨だと理解しましたが,それでよろしいのでしょうか。 ○波多野関係官 1点目の,身分関係の当事者がすべて手続の当事者になっているかというところにつきましては,先ほどのように子供が身分関係の当事者だと整理すると,ならない場合もあるのではないかと考えているところでございます。   2点目の,手続の当事者のうち身分関係の当事者でない者が中に入っているときに,身分関係の当事者以外の者についてもこの原因事実の争いがないことは必要かという点については,それは不要ではないかと。例えば,第三者が身分関係の当事者に対して申立てをするという場面については,その第三者と原因事実について争いがないということは要件とならないのではないかと考えているところでございます。 ○高田(裕)委員 その場合についての増田幹事の御意見はどうかということは残るような気がしますが,私自身も両方の考え方があり得そう―両方の考え方というのは,身分関係の当事者のみでよいという考え方もありますし,手続上の当事者全員について原因事実について争いがないことを確認する必要があるという二つの考え方は双方成り立ち得そうな気がします。私自身,現在の段階で定見がないものでして,確たる意見は申し上げられませんが,増田幹事もおっしゃられましたように,この要件がなぜ存在するのかということにかかわってくるのではないかと思います。もちろん,合意に相当する審判というものがあることによって実質的に当事者に処分に近いものを認めようという考慮を持ち込めば,素直に身分関係の当事者だけでよいという議論も出てきそうな気がしますが,私の理解しますところ,合意に相当する審判はそういうものではないという理解をしております。そうしますと,単に審判によって身分関係を確定する,あるいは身分関係の存否について異論がないということのみならず,原因関係の事実についても当事者間で一致していることが要件となるという考え方もあり得そうに思います。それをもって初めて,人事訴訟を省略してと申しますか回避して,調停ないしは審判という手続で身分関係の形成ないし存否を確定できるという考え方は成り立つということです。それにもかかわらず,原案の考え方もなお成り立ち得そうな気がしまして,この要件自体が決定的なものではない,最終的には事実の調査を経て正当と認めるときという裁判所の判断を経てこの合意に相当する審判ができるわけでありますから,この原因事実について争いがないということは言わば審判をするために本質的なものではないということを考えますと,少なくとも身分関係の当事者について争いがなければそうした審判をしてもいいだろうという考え方もなお成り立ち得ないわけではないような気がしますので,取りあえず問題提起をして,なお私自身も考えさせていただければと思います。 ○増田幹事 私は,今,高田委員のおっしゃられた二つの場面のうち,後者の方,つまり,身分関係の当事者の一部が手続当事者でない場合について先ほど申し上げましたけれども,逆に手続当事者の中に身分関係の当事者でない者が含まれている場合につきましては,その手続当事者全員について争いがないことが必要であろうと考えます。もしここで争いがある場合も審判ができるということになるならば,手続当事者についても通常の異議申立ての機会を与えなければおかしいのではないかということになります。しかし,そうしますと,簡易迅速に身分関係を確定しようという23条審判の趣旨が失われることになりますので,それは適当ではないという考えです。 ○伊藤部会長 そうすると,結局は手続当事者を基準にして争いがあるかないかということをということですね。 ○増田幹事 この要件においては,手続当事者を基準にすべきだという考え方です。 ○伊藤部会長 ほかにいかがでしょう。 ○平山関係官 質問なのですけれども,ここで争いがないということが要求されているのは,身分関係の無効・取消存否の原因事実についての争いがないということなのだろうと思うのですが,そうすると,身分関係があること自体に争いがないということとは違っていまして,その場合,身分関係の当事者以外の第三者が原因事実があるかないか知らないというような状態もままあると思うのですけれども,そのような場合にも使えなくなってしまうということになりますと不便が生じないかなという疑問があるのです。その点についてどういうお考えか,お聞きできればと思います。 ○増田幹事 争っている紛争当事者は,今ある身分関係が存在しないとか存在するとかいうことで争っているわけですから,知らないと主張することは恐らくないのではないかと考えていたのですが。ちょっと想定しにくい例のように思えます。検察官の場合はまた別ですので,この場合の想定の範囲外と考えています。 ○金子幹事 検討すると,どうしても(注)の3の方の合意と内容が重なってきてしまうのですが,第三者がある二者間の身分関係について例えば無効の確認とか取消しをするという場合を想定したときに,その第三者にとって,人事訴訟ではなくて簡易手続ですることについて,こちらでは合意がなければいけないだろうと考えていて,身分関係の原因事実の存否については,先ほどの山本幹事の言葉を借りれば事実推定則的な,事実の調査をするにしても人訴に比べて簡易なもので足りる,そのためには当該身分当事者間において原因事実に争いがないということを前提とした事実の調査で足りるというような全体の構成を考えることができるのではないかと。そうしますと,そこでいう争いのない当事者というのは当該身分関係の当事者でよくて,手続的に全体が人訴ではなくて審判の形でいいということについては全員の合意が要る,このように考えることによって,原因事実についての争いという要件と,合意という要件,両方が要求されていることの合理的説明と両要件のすみ分けができると考えていたところでございます。事務当局の考えを補足するとそういうことになります。3の方にわたってしまって申し訳なかったのですけれども。 ○伊藤部会長 最終的には裁判所による事実の調査や正当と認めるという要件の中に収れんされるのかもしれませんが,金子幹事が言われたような意味での,やはりこれを要件としておく意味がある,だとすれば身分関係の当事者を基準にして考えることが一応の合理性があるのではないかというここでの考え方の趣旨の説明がございましたが,いかがでしょうか。 ○三木委員 私が誤解しているのかもしれませんけれども,御説明になった具体的な場面がなかなかイメージしにくいのですが,手続当事者であって身分当事者でない者が,原因事実については争っているけれども合意はしているという例を考えるわけですね。それはどういう場合なのでしょうか,典型的に考えられる場合というのは。 ○脇村関係官 私の誤解かもしれませんけれども,人によって争っていないということの意味がやや違うのではないかという気がします。身分関係の当事者に限るべきとの意見の方は,積極的に認めるという意味で争わないと使っていて,そうでない意見の方は,当事者が言うのだから否定しないかなぐらいの意味の争わないということで使っているのではないかという気がします。事務当局として考えていましたのは,親子関係の不存在なりを確認しようとしているときに,第三者が親子の原因があることについて積極的に認めるということは言えないのではないかということからすると,その身分関係の当事者だけがいいのではないかと考えています。 ○三木委員 当局の御説明は分かりましたが,条文に起こすと,そういうことを想定しているとはちょっと読みにくい感じもしますし,原因事実と,調停自体の合意が食い違うケース,原因事実についての争いがある,ないという状態と,調停そのものについての合意の有無が食い違うということは実際にはほとんどないはずですので,そういうことであれば,分かりやすさという点から言って,増田幹事が言うように,手続当事者であれば原因関係の争いの点についても組み込むべきだという考え方は,一つの立法上の技術としてはあり得るのかなと思います。 ○伊藤部会長 なかなか難しい問題ですが,(注)1に掲げられている考え方の趣旨は御理解いただいたと思います。しかし,それを前提にしてもなお,こういう身分関係の当事者間に争いがないという考え方を独立に設ける意味がどれだけあるかという点について,いろいろ御意見もあったように思いますので,ただいま出された御意見を踏まえて,もう一度整理の上で事務当局で検討してもらうことにいたしましょう。   それでは,次の(注)の2,身分関係の当事者の一方が死亡した場合には合意に相当する審判をすることができないとすることについて,その理由は先ほどの説明にあったとおりですが,この(注)2に掲げられている考え方についてはいかがでしょう。 ○三木委員 原案に賛成です。 ○伊藤部会長 ありがとうございます。   ほかに御意見ありますでしょうか。 ○増田幹事 私は,先ほど申し上げたのと同じで,一応手続当事者間に合意が成立し,かつ身分関係の存否の原因の有無について争いがない場合には,審判をしてもいいのではないかと考えております。   ここに書かれている例の中で,検察官が手続当事者の場合は現行法でもできないという解釈が一般的であるかと思いますので,それは除外いたしまして,手続当事者が身分関係当事者の一方だけというようなケースを想定した場合で,争いがない場合にどう考えるか。合意と争いがないという要件を満たした場合に,事実調査をすることになりますが,一方当事者から情報を得られないことは結局裁判所の心証の程度に影響を及ぼすにすぎないのではないかと考えております。つまり,当事者の一方が死亡した場合には,その調査を慎重にすべきという点にかかわるのみであって,死亡しているからといって必ずしも一律に否定する必要はないのではないかと考えます。 ○伊藤部会長 増田幹事からは,当事者間の合意及び当事者間で原因事実についての争いがないという要件があれば,一般的にこういう状況において合意に相当する審判の可能性を排除するまでの理由はないのではないかという問題の提起がございましたが,これに関してはいかがでしょう。 ○三木委員 裁判所が慎重にやればいいではないかという言い方をしていくと,結局あらゆることを簡易な手続でできることになるということにつながりかねなくて,飽くまでも人事訴訟の代替としての簡易な手段でありますので,そこには一定の歯止めを制度的に設けるべきだと私は考えます。 ○伊藤部会長 本則である訴訟手続によるということですね。 ○増田幹事 私は,この審判は利害関係人が異議を言えば直ちに効力を失うという程度のものであるから,そこまで求めなくてもいいのではないかと考えているわけです。 ○長委員 大変難しい問題で,どちらということは言えないのですが,身分関係の当事者の一方が死亡した場合に,裁判所がいろいろ事実の調査をして事実関係を認定するということはできないことではないのですが,結構重い手続になる可能性がないかなと思います。生きておられる当事者がそのとおりですと言って合意しているときに比べると重くなるかなという感じがいたしております。ではどちらの方がいいかというのは,直ちに結論が出せません。 ○畑幹事 一つ前の増田幹事の御発言で,利害関係人が異議を言えば効力が飛ぶという話がありましたが,その利害関係人が異議を言う機会が実質的に保障されるかという問題も恐らくあるかと思います。これは身分関係の当事者が死亡した後の人訴で同じように問題になり,現在,人事訴訟規則第16条で一定範囲の利害関係人に通知をするということが規定されているのですが,それと同じようなことをしなくていいかという問題も生じるかと思います。そういう仕組みを作ることもできるとは思うのですが,やや感覚的な話になりますが,そこまでしなくても,この合意に相当する審判自体をあきらめるということもあり得るのではないかという気がいたします。 ○増田幹事 先ほど長委員が言われたことにも関連するのですけれども,一方が死亡していることによって勢い調査は慎重にやらざるを得ないのではないかと思います。それで,事案によって,本当に重い調査をしなければならないというようなものであれば,この審判をすること自体が不相当であるという事案に該当するのではないかと思います。ですから,そこのところはある程度裁判所を信頼していいのではないかと思っているのです。 ○伊藤部会長 そうしますと,この点も両様の意見があるということでよろしいですか。それぞれ理由を付して意見を述べていただきましたので,それを踏まえて事務当局で更に検討してもらうことにいたしましょう。   引き続きまして,(注)の3,こちらは審判を受けることについての合意の主体に関してですが,(注)の3の一番終わりのところに,先ほどの父を定める訴えの場合の例に関して,子どもの地位をどう考えるかという問題が一つの具体例として掲げられております。この(注)の3に関してはいかがでしょう。   度々で恐れ入りますが,三木委員,いかがですか。 ○三木委員 ここはなかなか,考え方をどうとるかが難しいところではあります。やや形式論かもしれませんが,手続上の当事者でない者が合意主体になるというのがどうもぴんとこないところがありまして,その意味では手続上の当事者による合意ということでよいのではないかと,一種の形式論かもしれませんが,そう考えております。 ○伊藤部会長 手続上の利益を支配している者が合意の主体となるべきであるということですね。確かにそういう考え方が一つあるのかと思いますが,いかがでしょうか。 ○小田幹事 今の手続当事者というのは,権利参加人との関係で言えば,権利参加人を含まない意味での手続当事者という御趣旨だったと思います。確かに合意を要求するものとしては手続当事者の方が明確である点は間違いないと思うのですが,他方で,23条審判というのは,人事訴訟という正式な手続によらないで,簡易な手続によって行うということであり,ある意味で正式な手続によることを放棄するということも合意の中に含まれると思われますが,そうすると,申立権者で現に参加している権利参加人まで合意が必要だとすることは一定の合理性を持つように思っております。 ○三木委員 私が当事者と申し上げたのは,権利参加の資格を有する者であって,参加していない者は外れますが,既に参加している者は手続当事者だという趣旨で申し上げました。 ○高田(裕)委員 ちょっと発言を控えておりますのは,子の父を定める訴えにつきまして人訴で原則に対する例外を許容した理由を十分に記憶していないところでありまして,そこに戸惑っているところでありますけれども,基本は身分関係の当事者は手続上の当事者とするという人訴の原則を貫くべきだろうと思います。そうしますと,もし父を定める訴えで子が身分関係の主体であるとすれば,子も本来手続上の当事者となるべきであるという印象を持ちます。   そのことを前提に現行法をどう考えるかということになるのだろうと思いますけれども,人事訴訟法が子の父を定める訴えについては特別の例外を認めるということに合理性があるかどうかということでしょうが,この例をもって手続の当事者とは別個に身分関係の当事者について合意が必要だという議論を展開するのはいかがかという印象をもちました。 ○脇村関係官 高田委員に御質問というかあれなのですけれども,増田幹事がおっしゃるような合意に相当する審判の考え方からいけば,恐らく人訴と合意に相当する審判で当事者適格が異なるという考えは出てこないと思うのですけれども,高田委員の御指摘は,合意に相当する審判の独自性といいますか,合意の必要な範囲とかを考えれば,場合によっては人訴の当事者適格者と合意に相当する審判の適格者がずれてもいいのではないかと。人訴で身分関係の当事者を外しているケースについて,理由をもう少し当局で検討すべきだという御指摘ということなのでしょうか。 ○高田(裕)委員 私自身もなお考えてみたいと思いますが,人訴第43条を,第12条の例外として位置付けることが一般的な理解なのかどうか。単に子の父を定める訴えの発現形態としてはこうなるのだという理解も,要するに身分関係の主体ではないという趣旨ですが,あり得そうな気がいたしまして,なお考えてみたいと思います。   脇村関係官のご発言について申しますと,おっしゃるとおり,人訴と調停及び合意に相当する審判は別の扱いをするという議論も成り立ち得そうな気がしますけれども,議論の出発点は,人事訴訟法の手続について,簡易な手続と申しますか,口頭弁論の原則と厳格な証明の原則を外して一定の結論を出す手続を準備するというのが合意に相当する審判という制度の目的であるとすれば,当事者適格を異にするというのは結論としてはなかなか難しそうな印象を持ちます。 ○伊藤部会長 最初に三木委員から発言がございましたように,基本的な考え方とすれば,この合意というものの趣旨からして手続当事者ということになるのですけれども,しかし,今いろいろ議論が交わされた子の父を定める訴えにおける子の地位などを考えますと,人訴との関係など更に踏み込んで検討すべき問題があるように思いますので,今までの議論を参考にして事務当局で検討してもらうことにいたしましょう。   では,付随処分に関して,3ぺージの2ですね,この本文に関してはいかがでしょう。(注)は後からA案,B案ということで御意見を伺いますので,本文自体に関してはよろしいですか。   それでは,4ぺージの(注)に参りまして,A案,B案という二つの考え方,内容は先ほど説明があったとおりで,親権者の指定についての合意がない限りは本体についての合意に相当する審判もできないという考え方と,そうではない考え方の二つが掲げられておりますが,この点についての御意見を伺いたいと思います。―いかがでしょうか。ここは御発言がないと前に進めませんが。 ○小田幹事 まず結論については,A案に賛成でございます。   理由ですけれども,幾つかございますが,確かに23条審判で求めている合意とは別のものという整理ではありますけれども,もともと23条が調停という形で始まるということがございます。この際,当然親権者についても話合いがされるものと思われますが,そこで,仮にB案を採った場合に,極端な場合には,裁判所が親権者に関して,父母の合意と反対の結論であっても,その合意に拘束されずに親権者を指定することができるというのは,実務上はまずしないと思われますし,違和感もございます。それから,24条とは違った場合ではありますけれども,やはりこういう中で当事者の意向と反して親権者をというのはどうも考えにくいということがございます。   十分まとまらなかったかも知れませんが,このような理由で,A案がいいのではないかと思っております。 ○伊藤部会長 今,小田幹事がおっしゃったのは,確かにB案でいくと合意があってもそれに拘束されないで親権者の指定をすることができるということになるのですが,そういう状況だけでもないですよね。合意ができないという場合も状況としてはあり得るわけです。 ○山本幹事 私も十分定見があるわけではないのですが,合意があって,その合意とは別の親権者を指定するというのは通常は考えにくいことかなと思いまして,むしろ,親権者については合意が成立しないけれども,婚姻の取消しについては取り消されてもそれは仕方がないと当事者は思っている,あとは裁判所が親権者を指定すればその取消しが成立し得ると裁判所が見た場合には,あえて,もう一切できなくて,訴訟によらなければいけないとまでする必要はないのかなという感じがしています。ただ,もちろんそれは裁判所が指定しても,この後の部分で,当事者は理由なく異議を申し立ててその判断を覆すことはできるということであるとすれば,それでそれほど不利益が生じるようなことはないような感じがして,ですから,この部分は,今,小田幹事が言われた24条審判,調停に代わる審判ですか,を組み合わせたような形になっていると思うのですが,それなりにあり得る制度設計のような感じがして,ただ実務のあれがよく分からないものですから,どの程度こういうことが必要で合理的かというのはちょっとあれですけれども,制度としてはあり得る制度のような印象は持ったのですが。 ○伊藤部会長 山本幹事が言及されたのは,8ページの補足説明の真ん中あたりにある事項ですよね。それと結局組み合わさることになるというのが先ほどの事務当局からの説明でもございましたが,どうでしょうか。 ○小田幹事 先ほどの発言に,今,山本幹事からも御指摘のあった点について補足いたしますと,24条審判で親権者を指定することになるわけですが,24条審判とするかどうかというときには,親権者については大きな争いがないということです。実務では親権者に大きな争いがあるときに,それにもかかわらず24条審判をやることが余り考えられないということを前提に,先ほどの意見を申し上げた次第です。 ○伊藤部会長 山本幹事は,どちらかというとB案的な考え方にも合理性があるのではないかという御意見で,A案支持の考え方とは違う意見を述べられたわけですが,他の委員・幹事の方はいかがですか。 ○高田(裕)委員 これも,どういう場合に使われるかということについていろいろなイメージがありそうです。合意があってもそれと異なる親権者を指定する場合を想定することもできますし,今おっしゃられたように親権者については真に争っている場合も想定することができるのかもしれません。それらいろいろな状況がありますので,規定を設けるとすれば,恐らく一定の場合には許容できるという規律以上のものは規定できないのだろうと思います。そのうえで,許容してよい場合があるかどうかということを考えますと,これも机上の空論かとも思いますけれども,理屈の上では,当事者が,親権者を裁判所が指定するということを前提に取消しについてのみ合意するということもあり得そうな気がするわけです。そういうことがあるのかどうかということは実務の方にお聞きできればと思いますけれども,仮にあるとすれば,B案というのも十分あり得る選択肢のような気がします。A案は,両方について当事者間に争いがないということを前提に,両者の同時解決を確実に保障しようという点では非常に魅力的でありますけれども,B案の立場から見ますと,同時解決を図るという観点からのみ見ればA案は若干過剰な規律である,必要以上に限定してしまっているような規律に感じられますので,同時解決を図りつつ23条審判,合意に相当する審判の可能性を広げるという観点からはB案もあり得る選択肢ではないかという印象を持っております。 ○長委員 もしB案のような形を認めた場合には,親権者について不服がある場合に異議を申し立てられまして,全体として何も決まらないということになるのです。もちろん,異議があって何も決まらなくなるというのはA案をとっても同じなのですが,簡易迅速な手続にしようということでこういう制度を設けたときに,なるべく無駄にならないような形で運用できた方がいいのではないかということを考えました。そうすると,A案の場合ですと,使える場面は狭くなるのですけれども,無駄にならない可能性が大きいと思います。   次に,高田委員からお話の点ですが,裁判所に子の親権者の指定をゆだねるという解決の方法もあるのではないかということなのですけれども,子の親権者の指定を裁判所にゆだねるという合意をして仮に裁判所が決めたとしても,やはりその点について不服申立ての道は残しておかなくてはいけないのだろうと思うのです。そうすると,全体について異議を言えるということになると,結局効力が全体として失われてしまう。それを避けるためには,婚姻の取消しの部分についてだけ効力を生じさせて,親権者の指定のところだけ別な手続にするということも実は考えられなくはなくて,実は,以前,離婚調停において,そういう手続が現行法の下でも行われたことがあるのですけれども,そうすると離婚と親権者の指定とが,別々の解決になってしまうということなどがあって,必ずしも広く行き渡らなかったということがありました。   そういうことなどを思い合わせて考えたときに,簡易迅速に解決しようということでこの手続を作った際に,B案という形で落ち着かせるとその趣旨に合致するのかどうかということを実務家なりに考えたときには,A案ですと運用しやすいのかなと思うのですが,あとはいろいろな選択肢があるので,よく御議論を伺ってからまた考えたいと思います。 ○伊藤部会長 これもこの合意に相当する審判の制度の理解にも係るかと思いますが,今,長委員がおっしゃられたように,なるべく堅実な運用を確保できるという視点からはA案の考え方になりましょうし,より広い利用可能性を開いておく,それは異議によって覆る可能性はあるにしても,そういうものとして考えればよいのではないかということになるとB案的な考え方になるのかと思います。もしほかに御意見があれば,承りますが。 ○増田幹事 結論的にはA案なのですけれども,理論的な可能性として高田委員がおっしゃったようなことを実現するとすれば,B案を採った上で異議申立理由を限る,つまり,審判を行うことの合意について瑕疵があった場合に限るというのは理屈の上では成り立つのかなと思います。ただし,結論的には長委員のおっしゃることに共感を覚えるところでございます。 ○道垣内委員 私,前提がよく分からないのですけれども,裁判上の離婚をするときに,親権者について合意はあれば,それに従った判決を出すのでしょうが,それは事実上の問題なのか法的な問題なのかというと,事実上の問題なのではないかなという気がします。つまり,民法第819条第1項で協議によって親権者を定めるとなっているのは協議上の離婚の話であり,かつ婚姻の取消しのところで準用されているのは同条第2項以下ですよね。そうすると,合意自体を手続法上正面から位置付けることが実体法と整合的ではないような気がしながら伺っていたのです。ただ,この合意に相当する審判というものは,大手を振ってというのは変ですが,本来,認められる話ではないのだけれども,一定の要件が満たされている場合には,もめごとがないので認めようという特別な制度であると考えますと,そのときには親権者についての合意まで存在しているという要件が満たされているときのみ,訴訟の必要性がないわけだから,合意に相当する審判を認めましょうというものであるというのであれば分かります。これに対して,小田幹事のおっしゃった,合意があるときにあえてそれと違うことをすることはないというお話しは,伺っていて,ないのはどうも事実の問題ではないかという気がしてならなかったのです。以上からすると,B案ということになります。 ○杉井委員 弁護士として離婚事件にかかわっているときに,先ほど長委員が前は違う扱いもあったと言っていますが,現状では,離婚について合意ができていても,親権者について合意ができていないときには調停は成立せず,結局訴訟になるとなっていますよね。そういうことについて非常に疑問を持っていまして,本来親権者というのは,基本的には合意とかでなく,裁判所の視点から子供にとってどちらが本当に親権者として適切なのかということを判断すべきものではないかなという気がしております。   それと,今言ったように,親権者について合意ができないだけで訴訟になるということが果たして当事者にとってどうなのかと考えたときに,私は,この場合,婚姻について取消しが合意ができているというときに,親権者についてはっきり合意形成できないとしても,いろいろな段階があるかと思うのですが,例えば,自分自らが親権者は相手でいいですよと譲ることはなかなかできないけれども,裁判所が判断してくれるのであればそれには従うという当事者は結構いるのではないかと思うのです。そういう当事者の意識からするならば,B案のように,むしろ裁判所に決めてもらう,そしてそこで23条審判という形で簡易迅速に結論を得られるという方が当事者にとってはいいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 この点もどうも意見の分布が正に伯仲しているようでございますので,本当はどちらかの方向がある程度見えてくると事務当局としては作業がしやすいのかもしれませんが,こういう状況ですから,それを踏まえて更にどういう検討すべき問題があるかなどを詰めてもらうということでよろしいですか。   では,ここで休憩いたしましょう。           (休     憩) ○伊藤部会長 それでは再開いたします。   先ほど4ページの2まで審議をいただきましたので,次に4ページの「3 家事調停委員の意見を聴かないでする合意に相当する審判」,審判官だけで調停を行った場合の取扱いですけれども,この点は何か御意見ございますか。 ○長委員 他の裁判官に,人訴の係属した後,付調停にして23条を活用することがありますかということをお聞きしたのですが,あるそうです。ただ,現在は調停委員を入れて行うそうなのですが,もし単独の審判官ができるような方法が取り入れられた場合に実務上使い勝手はよさそうですかということを尋ねたのですけれども,実質的なことは訴訟の段階で出ているものですから,そこに新たにまた調停委員を入れるよりは迅速に処理できると,そういう印象を述べておられました。したがって,可能であればこのような制度を入れたらよいと思います。 ○伊藤部会長 長委員から積極の御意見が出されましたが,いかがでしょうか。特段御異論はございませんか。   もしそういうことでしたら,この方向に沿って今後の検討をさせていただくことにいたします。   引き続きまして,5ページの「4 調停行為能力及び法定代理の特則等」でございます。内容については先ほど説明があったとおりですが,何か御意見ございますか。―特段ございませんか。 ○長谷部委員 ここに書かれていることについて特に異論があるわけではないのですけれども,成年被後見人について人事訴訟において訴訟能力を認めることについては,人事訴訟法の制定の際にもいろいろな議論があって,ここのA以下にありますように,必要があると認めるときには弁護士を代理人に選任することになるのではないか,それで実際上の処理をすることになるのではないかという方向であったと思うのですが,調停と人事訴訟とを比較しますと,一般に,訴訟に比べると,調停のような合意に基づく紛争解決の場合は当事者間の交渉能力の差がいっそう結果に反映しやすいと言われることもありまして,一方が実際は行為能力がない当事者である場合,そうした人が合意形成の場面できちんと自分の利益を意見表明し,自分にとって有利な主張ができるのかどうかというのは疑問であるように思います。先ほど調停の不成立のところで出てきましたけれども,合意が相当でないと認める場合においては調停を不成立とさせることができる,これは長委員の御意見では,調停委員会の後見的機能をシンボリックに表したものだということだったのですけれども,そのシンボリックな機能が十分に発揮されれば,行為能力がない当事者に調停行為能力を認めたとしてもそれほど心配しなくてもいいのかなとも思うのですが,実際上は余り不成立になった例もないということを伺いますと,人事訴訟の場合に訴訟能力が認められるからといって,こちらでも調停行為能力を同じように認めていいのかなというところがあります。そのような理由から,調停行為能力を認めるのであれば,A以下の弁護士の選任ということが運用上はかなり重要になってくるのかなと思います。 ○伊藤部会長 長谷部委員もこの(1)の@ないしCの考え方自体については御異論がないということで承ってよろしいですね。 ○長谷部委員 はい。 ○伊藤部会長 そして運用の際にはいろいろ留意しなければいけないことがあるということですね。   ほかに御意見ございますか。   もしよろしければ,次にまいりましょうか。   「5 審判」の「審判の方式」,「審判の告知」,「更正審判等」,でございますが,(注)の部分は後にして,まず本文部分に関してはいかがでしょうか。ここに掲げられているような考え方で今後の作業を進めていってよろしいでしょうか。   それでは,7ページの(注)のところで,一部審判及び審判の脱漏については家事審判についての手続と同様の規律とするということですが,この点はいかがでしょう。何か御意見ございますか。どのように考えるかということで,ここでもオープンになっていますけれども。家事審判手続における取扱いと同様の規律ということで,特段御意見ございませんか。 ○三木委員 意見とか質問ではなくて,念のための確認ですが,本来の調停の場合は申立事項よりも縮小したり拡大したり他のものをつけ加えたりして成立させることはもちろんできるのですけれども,ここの(注)で書いている,合意に代わる審判の場合に一部審判及び脱漏については通常の審判と同じ規律にするということの意味は,訴訟と同じではもちろんないですけれども,申立事項との一種の対応関係がある,つまり調停の場合に比べると対応関係があるという認識を前提にしているという理解でよろしいでしょうか。 ○伊藤部会長 そのように考えられるかどうかという点で,必ずしもここで一定の結論が示されていないわけですが,おっしゃられるような問題が当然あるかと思います。 ○三木委員 私自身は,幾ら合意に代わるとはいっても本来の合意ではありませんから,そこは申立事項から余り逸脱した形でのものは考えにくいと考えております。そういう理解です。 ○波多野関係官 三木委員がおっしゃったところはおっしゃる趣旨のとおりかと思いまして,合意に相当する審判の対象事件については,申立てがあって,申立ての趣旨どおりの審判をするということに合意も必要ということになりますと,その申立てについて対応する審判がされるということが前提になるのではないかと基本的には考えているところでございます。 ○伊藤部会長 そのように考えるとすれば,同様の規律とするという考え方になるのかと思いますけれども,ほかに特段の御意見ございませんか。   それでしたら,次の6にまいりましょうか。「申立ての取下げ」ということで,この審判があった後は同意が必要だということの理由は説明にあったとおりですが,この点はいかがでしょう。よろしいでしょうか。   そうしましたら,「7 不服申立て」で,まず「(1)異議申立権者等」でございますが,先ほどの説明にありましたように,Aは現行の考え方に沿ったものであるのに対して,@,当事者がこれらのことを理由として異議の申立てをできるものとするというところが新たな考え方として提示されておりますが,このあたりはいかがでしょうか。 ○増田幹事 @について明文の規定を置くことについては消極に考えております。現行法の解釈におきましても既に最高裁の判例がございまして,現行法の解釈で@のような場合には異議申立てができるということが明確になっておりますので,現行法どおりでよろしいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 現行法の下での解釈でも同様の結果になっているということは分かりましたが,あえてこういう規定を置くことによって,何か問題を生じますでしょうか。 ○増田幹事 このような異議申立ての数が増えますと手続が重くなる。その中で異議審という審理手続をまた新しく作らなければなりませんし,更に即時抗告についても新たな手続を重ねなければならないことになります。それによって手続が重くなる,簡易迅速性が失われるということです。 ○伊藤部会長 明文の規定を設けることが,こういった異議を誘発することになるということですか。 ○増田幹事 そうです。付け加えますと,これはもともといったん合意していて,原因事実に争いがないということも出ているわけです。その後にすぐこういうエストッペル的なことを明文で認めること自体に非常に不自然なものを感じます。例えば和解無効を例にとっても,民訴法の明文でそういうのはないわけです。ないけれども解釈上は当然認められる。同じように,これも無効だとか不存在である場合は争うことが解釈上認められて当然であると考えています。 ○伊藤部会長 増田幹事からは,現行法の規律内容のままでも一定の場合には当事者の異議が認められる余地があるので,あえてこういった形での明文の規定を設けることの合理性に乏しいのではないかという御意見がございましたが,いかがでしょうか。 ○小田幹事 もう議論の前提となっておりますが,最高裁の判例どおりの規定と思われます。私の意見としては,それがそういうことで確立しているのであれば,規定で明確にしていただくことの意義は十分あると思っております。 ○三木委員 私も小田幹事と同様,現行の解釈・運用を変更するものではなく,かつ内容的にも相当な内容であると思いますので,むしろ明文化しておくべきだと思います。 ○伊藤部会長 いかがですか。増田幹事は,表現として言わば禁反言的なことを考えても,こういう明文で正面から当事者に異議の申立権を認めることに果たして合理性があるのかという疑問も提起されていますが,そのあたりはいかがでしょう。 ○畑幹事 いずれにしてもレアケースの話だろうと思いますが,これは合意をそもそもしてないというような主張をする場合で,エストッペルのような場合ではないという異議申立てであろうかと思いますので,規定としては置いた方がよいのではないかと私も思っております。先ほど増田幹事が御指摘のとおり,これは利害関係人の理由なしで異議が言えるというのと違って,理由がありますので,異議審のようなものを観念しなければならなくなるのはそのとおりなのですが,それは規定を置かなくても同じことでありますので,多少明確にしておいた方がよいのではないかと考えます。 ○伊藤部会長 そうしますと,増田幹事からの御意見はございましたが,この場の多くの意見は@のような規律を置くことに積極の御意見のように承りました。それを踏まえて事務当局で更に検討してもらうことにいたしましょう。   次に,8ページの(注)の1,異議の申立ては書面によって行わなければならないものとするという点ですが,ここはよろしいですか。 ○道垣内委員 (注)に入る前に一言申し上げたいのですが,(注)の直前の「また,付随処分について」という文章なのですが,これはこうなることには争いはないのですか。つまり,B案をとったときに,ここで異議の申立てをするのは全部がひっくり返る異議の申立てになるというのは,明文なくして当然にそうなるということなのですか。 ○波多野関係官 明文なくしてという趣旨ではありませんで,付随処分について異議が出た場合に,分割して本体と付随処分だけ分けて,異議審というかその方向が分かれていくというのは適当ではないのではないか,効力を飛ばすのであればまとめて飛ばすべきではないかと考えておりまして,ここではまとめてということにしております。理由なく異議ができるというのは,その一部について理由なく異議を認めるべきである場合にはやはり全体について結果的に効力を飛ばすしかないのではないかということで提案しているところでございます。 ○道垣内委員 先の話になるのかもしれませんが,異議申立てに対する裁判に関して,付随処分としての子の親権者の指定の裁判の不当性を理由にそれが認められたときには,合意に相当する審判全部が取り消されることになるのでしょうか。それとも,合意の成立とか,あるいは無効又は取消しの原因の有無についての争いが問題になっていないということであるならば,子の親権者の指定の裁判の部分だけが新たになされることになるのでしょうか。 ○波多野関係官 この原案としては,道垣内委員がおっしゃった,付随処分のところだけ異議が出ても,全体について効力をなくしてしまって,訴訟に行くしかないということになります。 ○道垣内委員 しかしながら,B案をとるということは,合意に相当する審判を行うに当たっては親権者についての父母の合意が不要であるというのをとった場合なのに,なぜ付随処分の部分が崩れることによって,全体が訴訟に移行することになるのかというのが私にはよく分からないのですが。 ○脇村関係官 道垣内委員の御趣旨は,今まで,23条合意に相当する審判をしたときに,親権者指定についていわゆる24条審判的なものを引っつけるというような話が進んでいたような気がするのですけれども,そもそも発想がそうではなくて,23条審判として合意の取消しをした上で,併せて普通の家事審判のような形で親権者の指定をして,それだけ不満があるときについては,極端なことを言えば即時抗告を認めて,その間は合意の取消しについては効力を発生しないとすればいいのではないかということなのでしょうか。 ○道垣内委員 4ページのB案に立つときは,婚姻の無効・取消しに関しては合意が成立し,かつ正当なものであると認めてその次の処分がなされているのに,なぜその次の処分の部分がひっくり返ると前までひっくり返るのかがよく分からなくて,前は残っているのではないかという気がするものですから。 ○脇村関係官 もともと事務当局の案は,親権者の指定について決まらない以上は婚姻取消し自体も決まらないというか効力を発生させないということを前提に考えていたのですけれども,道垣内委員の御指摘からすると,それは切り分けた上で,効力の問題はまた別に考えた方がいいというか,そもそもB案について合意を前提にしていない,だから全体が飛ぶという構成自体が論理一貫しないということなのでは。 ○伊藤部会長 先ほど長委員から以前の実務についての御紹介がありましたが,道垣内委員がおっしゃられるようなことももちろん考えられる一つの考え方ではあるのですよね。ただ,このB案ないし8ページの補足説明に出てくる考え方はそうではないという前提で言っているものですから。 ○長委員 今回提案されているものは,現在の23条審判,合意に相当する審判の,今は付随処分のところが問題になっているわけですけれども,全体が一体となっている手続なものですから,そのうちの一部について不満があったときに異議が申し立てられると全部が壊れる,こういう構造になっていて,最初のものが確定して次の手続が順次進んでいるというわけではないと思われます。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか。いずれにしましも,先ほどのA案,B案についての結論がまだ固まっておりませんので,それを後に検討する際に,今のような問題についても併せて考え方を整理したいと思います。   (注)の部分で,(注)の1はよろしいですか。   もし御異論がなければ,(注)の2,異議申立権の放棄ですが,ここはいかがでしょう。放棄することができるものとするという考え方が示されておりますが,何か御意見がございますか。 ○道垣内委員 これはいつするのですか。 ○波多野関係官 基本的には審判が出た後のことを考えておりました。 ○高田(裕)委員 確認ですが,利害関係人の放棄と当事者の放棄,双方あり得るという前提で,いずれの場合も審判が出た後ということでございますか。 ○波多野関係官 はい。当事者と利害関係人の双方とも異議申立ての放棄ができるということで,それは双方とも審判が出た後のことを基本的に考えておりました。 ○豊澤委員 今の説明だと,婚姻取消しに伴う付随処分としての親権者指定のところで,当事者に争いがあったが,裁判所にゆだねますと言う意見となった場合に,その段階で双方が異議権を放棄して23条審判をするという仕組みは想定できないということになるのですか。 ○金子幹事 仕組みとして考えられなくはないと思いますが,事前に放棄をするということの合理性がうまく説明できるかという気はしています。 ○増田幹事 異議申立権を事前に放棄することができてもよいのではないでしょうか。 ○金子幹事 恐らく豊澤委員がおっしゃったのは,親権者の指定について裁判所にゆだねるという場面でそういうことが組めないかという御趣旨だと思うのですが,ここは親権者指定の部分が本体と違って付随的なものですから,そういう場面での利用にうまく制度が合致するかどうかというところはもう少し考えてみないといけないなと思った次第です。それであれば,本体そのものについての異議を事前に認めるということをまず考えるのかなと。今のような特化した場面での異議ということをあえて観念するよりは,まずそちらを考えてみてということになろうかなと思ったということです。 ○伊藤部会長 増田幹事の発言の趣旨は,事前の放棄についても検討する余地があるのではないかということですか。 ○増田幹事 そういうことです。 ○波多野関係官 事前を基本的に省いていたのは,ここで事前に異議申立権を放棄すると,この異議申立権が,いわゆる訴訟で人事訴訟によることの利益を担保しているというところがあるかと思いまして,ここで異議申立てを放棄してしまうと,もうほかの手続によることは基本的にない。どんなものが出ても異議はできないと仕切るのは少し難しいのかなと考えてはいたところでございます。 ○豊澤委員 本体の身分関係の形成,変更あるいは確認といったところについて事前放棄を認めるかというのはまた別の話です。付随処分のところだけそれを考えるという仕組みの方であれば考え易いのではないかという感じがしたものですから,そういう趣旨で申し上げたつもりです。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○脇村関係官 今,豊澤委員がおっしゃっていたのは,要するに,離婚の際には親権者指定は調停でもできるので,そこだけなぜなのだということだと思いますので,先ほどの付随処分の法的構成をどう考えるかについて道垣内委員からもいろいろ御意見がございましたので,議論を踏まえつつ,どう整理したらよく議論ができるのか,もうちょっと検討させていただきたいと思います。 ○伊藤部会長 豊澤委員の御発言の趣旨は,むしろ付随処分の部分に関してとのことでしたので,特にそこを中心にして,審判後に限るべきなのか,それとも事前に放棄することも可能とすべきなのか,そのあたりの検討をしてもらうことにしましょう。   ほかにいかがでしょう。―よろしいですか。   そうしましたら,次に9ページの「(2)異議申立期間」で,@では2週間の不変期間が,Aでは告知を受けたときのことと,告知を受けないときのことが二つございまして,特に告知を受けないときに起算点をどうするかということに関して両様の考え方が記載されておりますので,そのあたりのことを中心に御意見をいただければと思います。ここは実務上の視点あるいは理論的な立場,いずれからでも考え方が二つあり得るところかと思いますが,いかがでしょうか。 ○三木委員 卒然と考えますと,恐らく前者の方が利害関係人等に手厚いわけですね。なので,前者かなという感じがしました。 ○山本幹事 私も三木委員の見解に賛成です。通常の審判と同じだとすれば,後者に劣るということもあると思うのですが,これは利害関係人にとって正式の人事訴訟でないものについてなお効力を受けるという効果を発生させるものですので,そういう意味では,できるだけ異議の機会を慎重に確保するという政策判断は十分あり得ることだと思います。 ○伊藤部会長 審判の特質といいますか性質を重視すれば,なるべく手続保障の手厚い方にというのが三木委員,山本幹事からの御発言で,前者の方が適切ではないかということですが,ほかに御意見はございますか。あるいは後者の考え方がよいのでないかという御発言があれば,お願いいたします。―よろしいでしょうか。   それでは,一応この場の大勢としては前者の考え方に沿ってということのようですので,以後の検討をそれに沿ってさせていただきます。   次に,「(3)異議申立てに対する裁判」のあたりはいかがですか。当事者の異議申立ての裁判と利害関係人の異議申立てに対する裁判の二つで,それぞれ内容はここに記載されているとおりでありますけれども,よろしいでしょうか。   それでは,11ページの「8 確定した合意に相当する審判の効力」,確定判決と同一の効力,この点は何か御意見はございますか。   もしよろしければ,次の「再審」について,再審の申立ての可能性,それから再審の手続については民訴の手続に準じるという内容ですが,これはいかがでしょう。 ○山本幹事 質問なのですが,民事訴訟法の規定に準ずるということなのですが,この合意に相当する審判があった後最も起こりやすい紛争と考えられるのは,合意に瑕疵があったということで不服の申立てをしたいということかなと思うのですが,そういう場合がこの再審事由に当たると考えるべきなのかどうかというのは私もちょっと分からないのですが,原案の御趣旨としてはどうお考えかということをお伺いできればと思うのですが。 ○伊藤部会長 合意するについて錯誤があったとか,そういったようなことですね。 ○山本幹事 ええ。 ○波多野関係官 合意に錯誤とか,それが無効であるときは,そもそも合意が無効であれば異議申立てができるということを考えていましたので,それとの比較ですると再審というのは少し難しいのかなと考えていたところでございますが,ここはなお御意見をいただければと思っております。 ○伊藤部会長 山本幹事御自身はいかがでしょう。 ○山本幹事 確たる定見はないのですが,異議申立ては期間の制限があって,通常はその期間内には錯誤に陥っていることは気づかなくて,後から気が付くということは多そうな感じがするものですから。ですから,この合意に相当する審判をどう見るかということに関係してくるのかなと思うのですが,やはり合意が非常に重要な制度で,基本的には調停にプラスアルファでそれを何か正当化するような審判がなされているのだと見れば,調停については調停に意思の瑕疵があれば調停無効が認められて後から覆すということは認められていますので,それとパラレルに。ただ,審判でやっていますので,審判の無効というのはなかなか認めにくいとすれば,再審等で救済するということは考えられるのかなと思いますし,他方で,合意というのは一つの要件にすぎないものであって,ここでなされているのは本当の意味での審判であるということであるとすれば,裁判において一要件を欠いたからといって再審になるわけでは通常はないので,そうだとすればこの場合も特段の特則を認める必要はないということになりそうで。ちょっと私も合意に相当する審判の性質が必ずしも十分あれできていないので,どちらがいいのかということは確信は持てていないのですけれども。 ○伊藤部会長 先ほど波多野関係官が言われたのは,今の山本幹事の発言からすると後半の方の考え方を基礎にしているわけですよね。今の点に関して,どなたか御意見はありませんか。 ○山本幹事 あるいは,この場で決めるということではなくて,解釈にゆだねるということも話としてはあり得るのだろうと思うのですが,ただ,そうした場合,再審について明確に規定すると,解釈にゆだねるということがなかなか難しくなりそうな感じはしているということです。 ○伊藤部会長 そうですね。ただ,解釈といっても,調停無効だとか和解無効だとかということではなくて,結局は山本幹事がおっしゃるように審判が無効だということですよね。 ○山本幹事 そうなりますね。 ○伊藤部会長 他の委員・幹事の方たちはいかがでしょう。 ○三木委員 山本委員の問題意識はもっともだと思います。その上で,仮に錯誤等が起こりそうな事案について再審を認めた場合に,次に問題になるのは民事訴訟法338条の何号の再審事由として可能かということになって,例えば刑事上罰すべき行為を前提に錯誤したような場合には,恐らく5号の適用か,類推適用か分かりませんけれども,それでできるのだろうと思いますが,そういうケースは比較的少なくて,単純錯誤であると3号が一つ考えられるのですけれども,単純錯誤を3号に引っかけるというのは通常の民事訴訟法の考え方からいくと難しくて,つまり,再審を認めるというときに,民事訴訟法を準用するという規律で再審を認めると,どの号で救えるのかというところが,当然これは山本委員も分かった上での御発言だと思いますけれども,なお問題になるというところがやや悩ましいかなと思います。だからおまえはどう思うのだと言われたら困るのですけれども,悩ましい。その技術的な問題はありますが,方向性に関する,これは意見というよりも感触の程度ですが,私自身は,この合意に代わる審判というのは飽くまでも合意に代わる審判であって,やはり合意というのが大きいのだと。これはこの制度の見方が人によってかなり違うところだろうと思いますから,そういう見方が唯一の見方とは思っておりませんが,そう思うわけです。そうすると,合意自体に瑕疵があるものを,こういう便法的な手段,比較法的に見てもかなり異例の手段で全く争えなくするということには抵抗感があります。ただ,そのような場合を救うときに再審規定の純然たる準用がその効果を果たすのかという点がなお疑問でして,どうせそういう趣旨で置くのであれば,もうちょっと使える形にしないとまずいのではないかという気はいたします。 ○伊藤部会長 そうですね。ただ,本日の冒頭の議論に戻ってしまうわけですが,当事者間に合意が成立し,原因事実について争いがなく,それに加えて裁判所が一定の判断をしてこういう審判をしているわけで,確かに合意が基礎にあることは間違いないと思うのですが,再審の事由に限定するということは,こういう前提要件を考えても行き過ぎですかね。ここで決めずにもちろん検討は続けますが,どなたか,なお御意見があればおっしゃってください。   よろしければ,ただいまの御意見を踏まえて検討をすることにいたしましょう。   13ページ「〔受継〕」のところは,特段の規律を設けないという考え方が示されておりますが,ここはいかがでしょう。これでよろしいでしょうか。   もしよろしければ,「11 その他」で,電話会議システム等による合意の可能性を開くということですが,ここはいかがですか。特段の御意見,御異論はありませんか。   では,この場で特に御異論がなかったということで今後の検討を進めさせていただきます。   それでは,「第25 調停に代わる審判」についての説明をお願いします。 ○波多野関係官 御説明いたします。   「第25 調停に代わる審判」の「1 調停に代わる審判の対象及び要件」では,当事者間に合意が成立する見込みがない場合は調停は不成立として処理することが原則でございますが,当事者間にわずかな意見の相違によって合意が成立しないときに不成立とすることは,それまでの手続が徒労に帰し,また調停によって円満に解決しようとする家事調停制度の実効をおさめることができないこととなることから,調停が成立しないこと及び審判をすることが相当であると認めることを要件として,原則として家事調停委員の意見を聴く手続を経た上で,当事者双方のために衡平に考慮し,一切の事情を見て,事件の解決のために離婚,離縁その他の必要な審判をすることができるものとすることを提案しております。   なお,審判の内容につきましては,当事者の一方の申立ての趣旨に反しない以上,他方の申立ての趣旨に反する審判をすることができるとも解されておりますので,かかる実質を維持することを前提としております。   本文のBでは,実体法上,離婚と親権者の指定は不可分でありますことから,離婚の調停に代わる審判をする際には親権者の指定の裁判をしなければならないものとすることを提案しております。   本文Cでは,合意に相当する審判の対象事件であっても調停に代わる審判をすることができるものとの解釈もございますが,事前に合意がある場合に事実の調査や内容の正当性の判断をしつつ簡易な手続で事件を処理するという合意に相当する審判の制度趣旨から,調停に代わる審判をすることはできないものとすることを提案しております。   (注)の1では,調停をすることができる事項についての審判事件の調停について,調停に代わる審判をすることができるものとすることについて検討することを提案しております。この点につきまして,現行法は,部会資料に記載した理由等により,調停をすることができる事項についての審判事件は調停に代わる審判をすることができないものとされております。他方で,調停をすることができる事項についての審判事件であっても,わずかな意見の相違によって調停が成立しない場合等に,実質的に調停的に解決することを否定するまでもないとも考えられます。そこで,この点について検討することを提案しております。   (注)の2では,裁判所は,本文Bの親権者の指定についての裁判をするに当たって,子どもが15歳以上である場合にはその子の陳述を聴かなければならないものとすることについて検討することを提案しております。   (注)の3では,子の監護者の指定その他子の監護に関する処分,財産分与に関する処分などについての裁判は,離婚の申立てに関する調停に代わる審判と一括して処理することが望ましいことなどから,離婚の申立てに関する調停に代わる審判においては,上記事項についての裁判をすることができるものとするべきと考えられます。   なお,調停することができる事項については,事件の解決のために必要な審判をすることができ,また給付を命ずることができることを理由に上記裁判をすることができるものと考える場合には,特段の規定を設ける必要はないとも考えられます。   「2 家事調停委員の意見を聴かないでする調停に代わる審判」では,家事審判官だけで調停を行う場合には,家事調停委員の意見を聴かないで調停に代わる審判をすることができるものとすることについて検討することを提案しております。この点につきまして,家事審判官だけで行う調停におきましても,調停に代わる審判をすることができるものとすべきであり,家事審判官だけで手続を進めていたにもかかわらず,調停に代わる審判をする際には必ず調停委員会を開いて意見を聴かなければならないとすることは迂遠であると考えられます。他方で,調停に代わる審判による判断は,調停委員から意見を聴取して行うにふさわしいものでありますので,裁判官のみで行うことは訴訟手続との違いがあいまいになることから,裁判官のみで調停に代わる審判をすることはできないとすることも考えらます。   「3 審判」の「(1)審判の方式」では,調停に代わる審判は,主文及び理由の要旨を記載した審判書を作成して行わなければならないものとすることを提案しております。   「(2)審判の告知」では,当事者及び参加人に相当な方法により告知しなければならないものとすることを提案しております。   「(3)更正審判等」では,調停に代わる審判について,更正審判をすることができるものとすること及び更正審判に対して即時抗告をすることができるものとすることを提案しております。   (注)では,一部審判及び審判の脱漏について,家事審判手続におけるのと同様の規律とすることについて検討することを提案しております。   「4 不服申立て」の「(1)異議申立権者等」では,調停に代わる審判については,当事者又は参加人が調停に代わる審判に対し異議申立てをすることができるものとすることを検討することを提案しております。現行家事審判法第25条第1項におきましては,調停に代わる審判に対しまして利害関係人が異議の申立てをすることができるものとされております。しかし,例えば離婚や離縁について当事者の合意に基づいて調停が成立することからしますと,当事者及び参加人が異議の申立てをしていないにもかかわらず利害関係人の異議により効力を失わせるのは妥当でないとも考えられます。また,調停に代わる審判が異議の申立てがないことを理由に実質的に調停が成立したものと扱うことでありますので,権利・義務の変動が生じる主体は少なくとも参加人として手続に関与させるべきでありまして,参加人としても関与していない者の権利・義務の変動を生じさせるような調停に代わる審判は係る者に対して効力を生じないものとすることが考えられます。そのことを前提としますと,利害関係人に異議の申立てを認める必要はないようにも考えられます。   (注)の1では,異議申立ては手続の明確性から書面によって行わなければならないものとすること,(注)の2では,異議申立権は放棄することができるものとすることを,それぞれ提案しております。   「(2)異議申立期間」では,まず異議申立期間を2週間とすることを提案しております。また,異議申立期間の始期につきましては,異議申立権者を当事者及び参加人とすること並びにこれらの者に対しては審判の告知をしなければならないものとすることを提案しておりますことから,異議申立期間はそれぞれが告知を受けた日から進行するものとすることを提案しております。   「(3)異議申立てに対する裁判」では,異議申立てが不適法であるときは却下しなければならず,その異議申立てを却下する審判に対しては現行家事審判規則第140条の規律を維持しまして,即時抗告をすることができるものとすることを提案しております。   「(4)異議申立ての効果」では,現行家事審判法第25条第2項の規律を維持することを提案しております。   「5 確定した調停に代わる審判の効力」では,異議の申立てがないとき又は異議の申立てを却下する審判を確定したときは,調停に代わる審判を確定した判決と同一の効力を有するものとすることを提案しております。   「6 再審」では,調停に代わる審判に対する再審の申立てをすることができるものとすることを提案しております。   以上でございます。 ○伊藤部会長 これも多くの項目が含まれておりますけれども,順次審議をお願いしたいと思います。   まず14ページ,「第25 調停に代わる審判」の「1 調停に代わる審判の対象及び要件」でありますが,@ないしCの本文の部分に関して御意見等があれば,お願いいたします。―特別御意見ございませんか。Cの合意に相当する審判の対象事件についてはこちらの審判の対象にはならないというところも含めて,よろしいでしょうか。   そういたしましたら,(注)にまいりたいと思いますが,まず(注)の1,調停をすることができる事項についての審判事件の調停において調停に代わる審判をすることができるかどうか,これもどのように考えるかということで,どちらかの考え方が示されておりませんで,二つのそれぞれの考え方の根拠となるべきものが提示されているところですが,ここはいかがでしょう。「この点について」から始まる説明部分には,いずれの考え方も相当の根拠があるように思うのですが,どちらを採るべきかということになると,いかがでしょうか。 ○長委員 私は,こういう規定が設けられますと解決の方式がいろいろ選択できることになるものですから,実務上使いやすいのではないかと思います。遺産分割事件などで,当初にどういう問題があるのか照会書を出して回答をいただくのですけれども,裁判所に任せますというようなことしか書いてこないものがあるのです。任せてくれるのは大変有り難いのですけれども,合意ができませんから調停が成立させられないのです。そうすると審判手続に移行して審判をすることになるのですが,そういうときに任せるということが書いてありますと,この調停に代わる審判ができれば,出席している方たちとの間で分割方法についての意見を調整して,出席しない方にも相続分に応じたものを分けるという解決の方が当事者の方々の利益にかなう場合があります。遺産分割審判ということになりますと,分割方法が決まってしまっていて柔軟な解決がしにくいのです。ところが話合いですと柔軟な解決ができますので,そういう手続にこの調停に代わる審判の活用の余地があるのではないかと思います。審判手続が,今までの審議の過程ではいろいろな手続が入っていまして重くなっているものですから,実務的には大変活用の余地があると思います。 ○伊藤部会長 長委員から非常に説得力のある御意見がございましたが,いかがでしょう。あるいは,理論的に見るとなお問題があるという御意見もございますか。もしそういう御意見がないのであれば,多様な手段を用意し,かつ本来の審判にはない利点も存在するということで,部会資料でいうと後半の方の考え方に沿って検討してみるということでよろしいでしょうか。―それでは,そのようにさせていただきます。   それから,(注)の2,親権者の指定についての裁判に関して,一定の場合に子の陳述を聴かなければならないものとするということについて,これもどのように考えるかということで,どちらかの考え方が示されておりませんが,この点はいかがですか。 ○豊澤委員 24条審判というのは,調停成立にほとんど近づいてきているという場面で活用されるというのが一般です。それを前提に,調停成立のときに必要的に子の意見を聴くという規律にはしないというこれまでのお話を考えますと,24条審判をするときにだけ必ず子の意見を聴くということにする必要はないと考えます。争いが調停の段階であるのであれば,そこは調停手続の段階で何らかの形でカバーされているはずですし,夫婦間では実質に争いがなくて,別のところに争いが残って24条審判をするというようなケースであるならば,そのときにあえて子どもの陳述を聴くとなれば,あえて24条審判をするから要るのだということになってくるのではないか。そういう意味では,ここは裁判所の裁量にゆだねておいていただければいいのではないかと考えます。 ○伊藤部会長 固い規律を設けるよりは実務運用にゆだねる方が合理的だという趣旨の御発言ですが,いかがでしょうか。 ○杉井委員 私は,子どもの意見表明権ということから言うならば,一般的に調停手続においても親権者については子どもの意見を聴くべきだと思っております。そういう意味で,この調停に代わる審判だから聴かなければいけないというのではなくて,むしろ調停も含めて,とりわけ15歳以上についてはしっかりと意見聴取すべきであると思います。 ○伊藤部会長 ほかの方はいかがですか。 ○高田(裕)委員 お二方とも調停並びという点では共通していると理解しましたが,なお,24条審判の位置付け次第によっては,調停と違い審判に近づけて考えるという考え方はあり得そうなので,一言申し上げておきます。   実質は豊澤委員がおっしゃられたように調停であり,最後の一押しを裁判所がするのだということは実感としては分かるわけでございますけれども,一切の事情考慮した上で裁判所の審判,裁判で決着をつけるという点におきましては調停とは違う性質が残っているようにも思われます。その点にかんがみますと,裁判所が一定のお墨つきを与える判断をする以上は,仮に調停で子の意見を聴かないという選択肢をしても,24条審判については子の意見を聴くという選択肢をとる余地はあるのではないかと考えます。 ○伊藤部会長 これもそういう意味では三様の考え方があるということですよね。   ほかによろしいですか。   そうしましたら,今おっしゃられたそれぞれの意見を踏まえて検討することにいたしましょう。   (注)の3はいかがでしょう。ここは一応こういった処分についての裁判をすることができるものとすることでどうかということですが,そういう特段の規定を設ける必要はないという考え方もあり得ないではないということが説明として書かれております。 ○小田幹事 まず端的に申し上げますと,この規定を置く必要はないのではないかと考えております。確かに24条審判の中で,(注)3に挙がっているような,単独で見ると乙類事件の内容も盛り込んだ24条審判がなされるということが背景にあろうと思います。もちろん,24条審判に至るまでにこの点について当事者から要望があってやりとりをしているということは非常に多いものでございます。結局その分かれ目がどういうことになるかという点ですが,一般調停事件というのは基本的には離婚調停が多いと思いますけれども,離婚調停というのは一般調停事件の中の一つとしてこういう事項を取り上げていると理解すべきだと考えておりまして,そうしますと,これらについて審判の中に含めることができる根拠規定というのは,既に@の中の「その他必要な審判」という中に入っていると考えるべきですので,この@に加えて(注)3にあるような規定を設けるというのはむしろ重複であって,必要ないと考えております。 ○伊藤部会長 やや立法の在り方的なことではありますが,ほかに御意見はございますか。   それでは,ただいまの小田幹事からの意見を踏まえて検討するということにさせていただきます。   次に,16ページの「2 家事調停委員の意見を聴かないでする調停に代わる審判」に関してはいかがでしょうか。これに関しても,どのように考えるかということで,御意見を伺ってからという形になっておりますが。内容は補足説明に書いてあるとおりです。 ○長委員 単独調停をやっていて,当事者双方の考え方が大分近いのですけれどもまとまらないことがあります。これは不調になれば人事訴訟に行かざるを得ないけれども,そうなると両者の負担が重くなりますので,一度調停に代わる審判を出してみて,不満であれば異議を出していただければいいということもあるのではないかと思いまして,私はあってもいい手続ではないかと思っています。 ○杉井委員 私もあっていいと思います。 ○伊藤部会長 特に消極の御意見がなければ,こういうことで検討をすることにいたしましょう。   次は17ページですね。「審判」について,「審判の方式」,「審判の告知」,「更正審判等」,このあたりは,先ほども同様の問題が合意に相当する審判の方で出てまいりましたけれども,何か御発言ございますか。 ○長委員 以前調停に脱漏があるかという議論がありました。調停に代わる審判も同じだと思っているのですけれども,要するに,調停案を出すときには,これで今回の事件については全部解決済みですよという提案なのです。ですから,仮に漏れているものがあったとしても,全部終わりですという趣旨であると思います。ということは,脱漏は存在しないということになるのではないかと私は思っているのです。あるいは誤解があるのかもしれないのですけれども。したがって,調停でも,清算条項がなくてもこれでもう終了なのですという意思がそこには表れているというのが実務家の認識でして,したがって全部終わっている,全部終わっているということは残っていないということになるのではないかと思います。23条とは違うのではないかと思います。 ○伊藤部会長 今のは18ページの(注)の関係ですね。合意に相当する審判は先ほど審議をいただいたのですが,こちらの調停に代わる審判については,調停というのが本質的な基礎としてある以上,脱漏ということはあり得ないのではないかという御意見ですが,いかがですか。 ○金子幹事 現行でもそうなのですが,乙類審判にも24条審判を拡張したときに特に顕在化してくるのではないかと思うのですが,現行乙類審判で,対象となる事項が複数のものが同時に調停に係るという場面があると思います。それがいずれも24条審判でできるという場面が今度出てくるということになりますと,一部分について24条審判をして,残りについてはなお話合いを継続するという意味での一部審判というのは観念できるのではないかと。この一部についてはこのまま継続していても無理だけれども,ささいな違いなので一度24条審判をしてみよう,残りの部分についてはなお引き続き当事者から意見を聴きつつ調停をやってみるということはあり得て,そういう意味での一部審判があるということになりますと,脱漏ということも理論的には出てくるのではないかという気もするのですが,いかがでしょうか。 ○長委員 確かに今日は調停に代わる審判が乙類調停にまで広がってしまったので,もう一回考えてみたいと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○平山関係官 極めて実務的なことになるとは思うのですけれども,乙類が複数あって,非訟物としてそもそも複数あってという場合には,非訟物ごとに手数料も納めていただいて,事件番号も,申立書一通でくる場合がありますけれども,非訟物ごとにつけるというやり方でやっているという実務がございます。そうしますと,どの番号の事件について24条審判するのかということで明確になっているのかなという感じもいたしまして,事件番号が全部書いてある限りは全部についてやっているものであるし,一部の事件番号についてしか24条審判してないのであれば,その部分についてだけやっているということで外形的には明確なのかなという感じがいたしまして,その場合には,それぞれの事件の非訟物に対応する事件についての脱漏のない全部審判という形に整理されるのかなと考えています。 ○脇村関係官 ちょっと分からなかったのですけれども,今の御指摘は,事件番号が仮に二つ振ってあって,併合していったときに,審判で片一方の事件の番号についてだけ審判をして,それが無意識というか知らぬ間にあったら,それは脱漏ではないのですか。それは一部審判。よく分からなかったのですけれども,そこはどうなのですか。 ○平山関係官 24条審判を書くときに,当然事件番号を書いた上で審判を書くということになると思いますので,そうすると正にその事件について審判をするということなのではないかという趣旨です。 ○脇村関係官 私たちの理解だと,脱漏と一部の違いというのを,意識してやれば一部だし,無意識で間違えてやったら脱漏だしという感じで考えていたのですけれども,いずれにしても,一部だけやって一部残るということがあるのだとすると脱漏ではないかと思っているだけなのですけれども,違うのでしょうか。 ○伊藤部会長 今の御意見を踏まえて,調停に代わる審判の特質,あるいは実務上の取扱いを前提にして,こういうことを検討する必要があるかどうか,更に詰めてもらいましょう。   ほかにはいかがですか。この審判の関係では何か御意見ございますか。―よろしいでしょうか。   では,「不服申立て」,「(1)異議申立権者等」ですが,現在の家事審判規則の利害関係人ということから,ここでは先ほど説明があったような理由で当事者又は参加人という手続主体に限定をするという考え方を一応示して,どのように考えるかということで皆さんの御意見を伺う形になっておりますが,いかがでしょうか。 ○増田幹事 詰めた考えではないのですけれども,基本的には当事者又は参加人でいいかと思うのですが,子供だけが微妙で,異議申立権を認めた方がいいのかもしれないと思っております。 ○伊藤部会長 それでは,ここでできるのは当事者又は参加人に限るということを基本にして,今おっしゃられた点について検討する必要がないかどうかを詰めてもらうことにしましょう。   ほかにはいかがでしょう。   よろしければ,「(2)異議申立期間」の2週間の不変期間内と起算日ですが,このあたりは御意見ございますか。   もしございませんようでしたら,その次の「(3)異議申立てに対する裁判」,それから「(4)異議申立ての効果」,このあたりはどうでしょう。―よろしいでしょうか。   そうしましたら,「5 確定した調停に代わる審判の効力」,確定判決と同一の効力,これはいかがですか。 ○田(昌)委員 これは概念の話ですけれども,先ほどの乙類審判もこれに含めるということでしたら,当然,確定「判決」と同一の効力というのもまた変更の必要が出てくるだろうと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。その点は検討することにいたしましょう。   ほかにはいかがですか。   そうしましたら,「再審」に関してはいかがでしょうか。 ○三木委員 こちらは合意に関する錯誤等の問題は生じませんので,通常の再審事由があれば再審ができるということで,これで結構かと思います。   ちょっと関連して,さかのぼってで恐縮ですが,先ほどの合意に代わる審判の点は,その後少し考えてみましたが,どのぐらい錯誤のケースに再審規定の適用があるか分かりませんが,取りあえず他の有効な規律も私自身は思いつかないものですから,あちらについても再審の規定については恐らく問題ないと思うので,あとは錯誤のようなものをそれでどう広げるかどうかは解釈にゆだねるということでやればどうかと,さかのぼった議論で恐縮ですけれども,併せて思っております。 ○伊藤部会長 そうしましたら,三木委員の後半の部分の発言はまたそちらで考慮することとして,前半の部分,つまりここでの再審に関してはここに掲げられているような考え方で差し支えないと理解してよろしいですね。   そうしましたら,これで第25の審議を終えていただいたことにしまして,次に,「第26 家事調停官」から「第28 記録の閲覧等」までについての説明をお願いします。 ○波多野関係官 御説明いたします。   「第26 家事調停官」の「1 家事調停官の任命等」及び「2 家事調停官の権限等」では,現行家事審判法及び現行家事審判規則の規律又はその規律の趣旨を維持するものとすることを提案しております。   なお,家事調停官の権限につきましては,家事調停の手続の検討におきまして,いかなる主体がいかなる調停に関する権限を行うものとするかを今後整理することを前提に,現行の規律において家事調停官が行うことができる権限を踏まえて整理することとしております。   「第27 費用」につきまして,「1 調停が成立した場合」ですが,まず調停が成立した場合の調停手続の費用につきましては,現行家事審判規則第138条の3の規律を維持し,各自の負担とすることを提案しております。さらに,審判事件が調停に付され調停が成立した場合,調停の成立により審判事件も当然に終了するものとしておりますが,かかる場合の審判手続の費用につきましても,調停条項中に特別の定めをしなかった場合には各自の負担とし,当事者等は審判手続についての費用の負担の裁判を求めることができないものとすることを提案しております。   (注)では,民事又は人事訴訟事件が家事調停に付され,同調停が成立した場合の費用の負担及び裁判について検討することを提案しております。この点につきまして,調停に付され同調停が成立しますと,訴訟事件は取下げがあったものとみなされるものとされており,当事者が訴訟費用の負担の裁判を求めることができるとも考えられます。この点について,訴訟事件の手続内で和解が成立し訴訟事件が終了したときには,訴訟費用について特別の定めをしなかった場合には訴訟費用についても各自負担とされ,別途費用負担の裁判を求めることはできないとされていることが参考になると考えております。そして,訴訟事件の手続内で和解が成立した場合と調停に付して調停が成立した場合とで規律を異にする実質的な理由は見出し難いとも考えられます。そこで,この点について検討することを提案しております。   「2 調停の成立によらないで調停手続が終了した場合」は,合意に相当する審判又は調停に代わる審判により調停手続が終了した場合,それらの審判が異議申立てにより失効するなどした場合,取下げがあった場合など,調停の成立によらないで調停手続が終了した場合の費用負担の原則及び費用負担の裁判について提案しております。この点につきましては,家事審判手続の費用の負担の裁判についての議論が当てはまるかと考えております。この点,更に特有の議論がございましたら御意見等いただきたく存じます。   (注)では,調停が不成立となり審判に移行した場合において,審判においてそれまでの調停手続の費用についても併せて費用の負担の裁判をすることができるものとすることを提案しております。   「3 費用額の確定手続」では,費用額の確定手続について家事審判手続と同様の規律とすることを提案しております。   「4 不服申立て」では,合意に相当する審判及び調停に代わる審判に対してなされた費用の負担の裁判に対して,独立して不服申立てをすることができないものとすることを提案しております。   「5 費用の立替え及び予納」及び「6 家事調停手続上の救助」では,費用の立替え及び予納又は家事調停手続上の救助につきまして,家事審判手続と同様の規律とすることを提案しております。   「第28 記録の閲覧等」では,家事調停事件の記録には子の福祉に悪影響を与えたり関係者の高度なプライバシーを侵害したりするおそれのあるものなどが含まれますこと,調停手続が当事者の協議を通じた合意に向けた手続であり,裁断手続でないことを考えますと,当事者に対する記録の開示の適否であっても裁判所の裁量にゆだねることとすることによって,当事者が記録を閲覧する必要性と記録を開示することの不都合性を考慮して適切な記録の閲覧等が行われるものと考えられます。そこで,当事者の記録の閲覧等の請求につきましても裁判所の裁量にゆだねることを提案しております。   (注)では,合意に相当する審判の対象となる事件の記録の閲覧について検討することを提案しております。この点につきましては,人事訴訟の簡易代用手続であり,事実の調査に基づいた審判がされること,確定した合意に相当する審判の効力が確定した人訴上判決と同一であることを考えますと,少なくとも家事審判と同様の規律として記録を十分に検討する機会を確保することが考えられます。他方で,合意に相当する審判をするには当事者の合意が必要であり,手続保障の要請は訴訟や審判と比較して低いとも考えられますことから,家事調停手続一般の規律と同様とすることも考えられます。そこで,この点について検討することを提案しております。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,順次まいりたいと思います。まず「第26 家事調停官」に関して,「1 家事調停官の任命等」,「2 家事調停官の権限等」,基本は現在の法や規則の規律と同様のものになっておりますが,何か御意見ございますでしょうか。 ○増田幹事 特にここに出ている部分について異論があるわけではないのですが,せっかく経験豊富な弁護士を送り込んでいるわけですから,乙類審判ぐらいまで権限を拡張するということは考えられないでしょうか。 ○金子幹事 この場で御意見をある程度伺えるものは伺っておきたいと思います。ここだけで決められる問題ではなさそうで,制度全体の調停官の役割の問題ですが,それにしても,ここで伺えるものは伺って,参考にさせていただきたいと思います。 ○杉井委員 実際に家事調停官になった人の御意見を聞きますと,自分が審判するのであれば,もちろん当事者の納得のいくようにですけれども,かなり強力に調停案を提示して,調停成立に持っていけるのだけれども,最終的に審判ができないということで,どうしても中途半端になってしまうというようなことも聞いております。そういう意味で,もちろん審判全体について審判の権限を与えるかというのはまた別の問題ですが,差し支えない範囲で,調停官だけでなくて審判官としての権限も与えていいのではないかと思います。現実に23条審判とか24条審判については家事調停官もやっているということも聞いておりますので,そういう意味で,なるだけ権限を拡大するという方向で検討できないかと思います。 ○伊藤部会長 ただいまの家事調停官の権限に関して,何かほかの方で御発言ございますか。 ○豊澤委員 家事調停官の権限に関しては,家事調停官,民事調停官の制度が導入されたときに十分議論がされて現在の制度設計に至っていると思いますので,その後数年という期間はたっておりますけれども,果たしてこの時点でここを改正するという話になるのかどうかについては慎重に検討が必要なのではないかと思います。 ○伊藤部会長 ほかにいかがでしょう。   それでは,この点も両様の御意見がございましたので,それを踏まえて検討することにいたしましょう。   ほかに,任命等,それから権限等の関係で御発言はございますか。―よろしいでしょうか。   そうしましたら,「第27 費用」,まず「調停が成立した場合」ですが,本文の関係では,調停手続の費用と審判手続の費用について,特別の定めをしなかったときには各自負担という本文部分に関してはいかがでしょう。特に審判手続の費用の負担については,先ほども説明がございましたし,補足説明に書いてあるような考え方に基づいてここでの考え方が示されていますが。―こういうことでよろしいですか。   そうしましたら,(注)のところはいかがでしょう。ここは,取下げがあったものとみなされるという法律効果の側面から,申立てによって費用の負担の裁判をするという考え方と,先ほど説明があったようなことで,もう各自負担として割り切ってしまうという二つの考え方が挙げられておりますけれども,このあたりはどうでしょうか。 ○山本幹事 私は,この各自負担にするというのが確かに合理的なのではないかという気がします。みなし取下げにするのは,恐らくは,訴訟について何らかの決着をつけないといけないので,決着をつけるとすれば取下げとみなすぐらいのことしかないという,かなりテクニカルなことでそうなっているのかなという気がいたします。実質から見れば,この状況は民事訴訟法第73条が想定しているような状況というよりは,第68条のように当事者が合意で終了している,ただ訴訟上の和解ではなくて調停であるということだと思いますので,実質は第68条と同じ規律をするのが相当だろうということからすれば,特別の定めをしない限りは各自負担というのが合理的なのかなと思います。 ○伊藤部会長 確かに和解と違って調停にはそれ自体に訴訟終了効があるわけではないので,こういう取下げ擬制という規定が置かれているけれども,しかし実質を見ればむしろ和解と同様に扱って各自負担の原則によった方がいいのではないか,こういうことで山本幹事の発言がございましたが,いかがでしょうか。異なった考え方がございますか。   もし山本幹事がおっしゃられたようなことがここでの大方の御意見であるということであれば,それに沿って検討を進めさせていただくことにいたします。   次に,「調停の成立によらないで調停手続が終了した場合」の「(1) 費用の負担者」については,ここに掲げられている考え方でよろしいですか。   もし御異論がなければ,「(2) 費用の負担の裁判」については,A案,B案,二つの考え方が示されていて,類似の話は以前にも出てきたことがございますけれども,いかがでしょうか。 ○三木委員 審判一般については,様々な議論があった結果,これで言えばA案的な考え方が多数を占めるようになったかと思いますので,合意に相当する審判や調停に代わる審判も審判ではありますので,A案でよろしいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 以前からの経緯がございまして,三木委員からの御発言はA案の考え方ということでしたが,ほかにいかがでしょう。そういう方向で検討を進めていってよろしいでしょうか。特に御異論がなければ,そのようにさせていただきます。この場でもA案の考え方が大方の御意見であったと受け止めさせていただきましょう。   それでは,29ページの(注)です。調停不成立で審判移行にして,その場合に,審判において調停の手続費用をも含めて負担の裁判をするということでどうかという考え方ですが,この点に関してはいかがでしょう。理由はその下に書いてあるとおりですけれども。これもよろしいでしょうか。   そうしましたら,この(注)に掲げられている考え方に沿って今後の検討を進めることにいたします。   29ページの「費用額の確定手続」,このあたりはどうでしょう。よろしいですか。   30ページの「不服申立て」,費用の負担の裁判に対する不服申立てに関してもよろしいでしょうか。   31ページ,「5 費用の立替え及び予納」,ここもよろしいですか。   それから,32ページ,「救助」ですね。家事審判手続と同様の規律にするという考え方が示されていますが,よろしければこのような形で今後の検討を進めることにいたしましょう。   「第28 記録の閲覧等」ですが,まず本体の方で申しますと,調停という手続の特質に照らして,裁判所の裁量的判断にゆだねる部分を設けているということです。まず本文の関係ではいかがでしょうか。相当と認めるときに限り閲覧・複製を認めるという形で実質的には少し限定する余地を認めているということですが,特にここに掲げられているような考え方に御異論はないものと理解してよろしいですか。 ○杉井委員 全く審判と同様の開示が必要とは思わないのですが,ただ,相当と認めるときは許可することができるという,こういう規定の仕方は,何か原則開示ではない気がします。だから,人訴のあの規定などにもあるように,あるいは,それよりはもう少し厳しい制約があってもいいとは思っていますが,原則開示でないということに非常に抵抗を感じます。これであると現行とほぼ変わらないのではないのかなと。東京家裁の場合,これは私が体験した例では,まず一つは,申立書の閲覧謄写も認めてもらえなかったという体験があります。それから,別の家裁で,私はその調停に全然関与してなくて,その後面接交渉について改めて調停を申し立てようという準備のために記録謄写を申請しましたら,調査官報告書についても全然開示してもらえなかったという経験があります。取り分け申立書なんかについては,申立書は基本的に送付するということになればまたちょっと若干違うふうになりますけれども,基本的に裁判所が相当と認める場合だけしか開示されないということだと,当事者としては,相手方の主張や,相手方がどういう書類を出しているかということがさっぱり分からないで進むしかない。取り分け,自分が初めから代理人でついている場合はいいのですが,途中からつくということもありますよね。前の本人だけがやっていたときにどういう書類を出して,どうだったのか,あるいは別の代理人がやっていたときにどうだったのかということが皆目分からないという状態だと,代理人としては非常に進めにくいということがありますので,そういった趣旨で,やはり原則開示という方法での規定の仕方をしてほしいなと思います。 ○長委員 新法には,いろいろ新しい制度が入ります。従来のものといろいろ変わる点が出てくるわけですけれども,何とか実務を円滑に移行させていくようにしたいと思っています。そうしたときに,調停に関しては透明性をより増すような手続運営をしていこうとは思うのですけれども,直ちに理想的な形になっていくとは予測できません。その一つには,事案にはいろいろなものがあるからでありまして,それに対応できるようなものが調停の場合にはより多く求められると思っています。申立書の件につきましては,現行の家事審判法においては原則非開示です。今後,実務の中で開示の方向でいろいろな工夫をしていくためには,ある程度広い裁量が例外として認められていないと円滑な運用はできないと思います。特に記録の開示については,どういう書面が出てくるかも分かりませんから,相当と認めるときという表現であった方が実務的には円滑な運用ができるのではないかと考えています。 ○伊藤部会長 杉井委員と長委員からはそれぞれやや違った内容の意見が出されて,杉井委員からは,この原案の考え方では基本的な発想という点で問題があるのではないかという御指摘がありましたが,他の委員・幹事の方,いかがでしょう。 ○山田幹事 私も,結論としては杉井委員に近い感触を持っております。補足説明のところでは,当事者の合意による手続なので手続保障の必要性は低いというロジックで議論していらっしゃるのだろうと思いますが,しかし,合意によって手続保障を弱めるということの前提としての合意が適切なものであるかどうかということは,十分な情報に基づくインフォームド・デシジョンができるかどうかということにかかるわけで,そうだといたしますと,やはりできるだけ情報は開示するということが合意の真正性あるいは意思に沿ったものかということとの関係でも重要なのではないかという感じがしております。ただ,長委員がおっしゃるような御懸念というのはもちろんありますし,ここに書かれていますような子の福祉等の問題がございますので,そういったところは例外を設けるということで御対応いただくという形で持っていっていただけないかというのが,現在の私の意見です。 ○小田幹事 杉井委員,山田幹事の御提案は,原則開示でその例外がというのを当然の前提に置いていると思いますけれども,そこは規定次第だろうと思っております。今の長委員の御意見にもありましたように,現行と同じということであれば,裁判所に裁量が相当あるということになりますが,そのときの留意点といいますか,一つ私としても述べておきたいのが,必ずしも裁判所の意向だけで非開示としているわけではないということです。今,山田幹事からありましたとおり,当事者の意向としては,合意を形成するに当たっては,相手が何を言っているか,また事実関係を知った上で合意をしたいという御指摘でした。私ども,実務でいろいろ聞きますと,そういう当事者が増えてきているということは確かなようでございます。他方で,当事者が見せてくれと,それからこちらの当事者も見せても構わないと言っている中で裁判所だけが頑張って見せないということではなくて,調停の場合には,見たいという当事者がいる一方で,その反対当事者は見せたくない,これは裁判所限りにしてほしいけれども出しますということもございます。これを今後どういう形で記録につづっていくかというのが一つの問題だろうと思っておりますけれども,裁判所としては,そのような事情を考慮した上で申立てがあっても見せないという判断をしていることも多かろうと思っております。このあたりの兼ね合いで,私どもも,全体の運用を見たときに,当事者がどういうことを希望しているか,また裁判所の裁量が広い規定になるのであれば,正に運用の中身が問われることになると思いますので,規定がどうなるかということとも少し関連はしますけれども,どういうものになった場合であっても,実情などをきちんと踏まえた上での運用を考えていくべきだろうと思っております。 ○伊藤部会長 これも実務運用の在り方にかかわるところで,なかなかどちらかにというのは難しいところかと思いますが,どうぞ,ほかにもし御意見があればおっしゃってください。 ○三木委員 抽象的ですけれども,若干気になるのは,先ほど24条決定を拡大するというような方向性が一つ示されたこととの関係で,24条決定はやはり裁判ですので,そういう制度を,今後規定が変わったらどのぐらい積極的に使っていくのかということにもよるとは思いますが,もしかなり積極的に使っていくということが前提であるとすれば,それは記録閲覧にも多少の反映はさせないといけないのではないかという気がしております。 ○山本幹事 私も,先ほど杉井委員とか山田幹事が言われたことに共感を覚えます。補足説明にあるように,確かに審判と全く同じでないといけないとは思いませんし。審判よりは裁判所の裁量範囲が広くてもいいのだろうと思うのですが,ただ,原案のように当事者と利害関係を存している第三者が全く同じで,両方とも裁判所が相当と認めるときという要件で切るというのもちょっといかがなものかなという感じがしまして,調停において当事者は合意の主体であるということを考えれば,先ほどの山田幹事の言葉を借りればインフォームド・デシジョンということがありますので,そこはもう少し要件を考えていってもいいのではなかろうかという印象を持っております。 ○伊藤部会長 そういたしますと,原案の考え方を支持する意見ももちろん有力ですが,他方,審判と全く同じにするべきかどうかはともかくとして,ここで提示されているような裁判所の裁量では,調停手続の当事者,特に三木委員が先ほど発言されたような点を考慮しても,少し限定し過ぎではないかという有力な御意見もございましたので,それを踏まえて更に検討することにいたしましょう。   次に,これも今の点と少し関係があるのですが,34ページの(注)のところで,合意に相当する審判の対象となる事件の記録の閲覧等は家事審判手続と同様の規律とするということについてどのように考えるかということですが,これはいかがでしょうか。先ほどの合意に相当する審判の本質論のようなところとも関係いたしますけれども,ここでは記録の閲覧等については審判手続と同じ扱いにするという考え方を一応示して,しかし必ずしもそうではない考え方もあるということで,どちらかを決めていないわけですが。 ○三木委員 合意に相当する審判は,当事者の合意をかませるとはいえ,実質的には簡易な人事訴訟手続ですので,この家事審判と同様の規律がベストかどうかは詳細に考えておりませんけれども,何かしらその種の方向性が望ましいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 そうすると,具体的なことについてはなお検討しなければいけないかもしれませんが,基本的な考え方としてはここに掲げられている同様の規律とするという方向に沿ってという御意見ですね。ほかにいかがでしょう。 ○高田(裕)委員 先ほど,聞き間違いかもしれませんが,口頭での御説明では,「少なくとも家事審判手続と同様の規律」という表現を使われたかと思います。合意に相当する審判は,簡易な手続を利用することによって人事訴訟で確定する機会を奪うことになるわけですので,その「少なくとも」という言葉がもし聞き間違いでなければ,そんたくするに,人事訴訟並みということもあり得るという御趣旨かと思います。取り分け当事者以外の利害関係人については,審判も含めて人事訴訟に比べればかなり制限的な規律を予定しておりますので,人訴並みとはまでは申しませんけれども,やはり利害関係人の閲覧権というものも慎重に考える必要があるのではないかと思います。ただ,その場合には,合意に相当する審判の対象となる事件という事件単位での規律が妥当なのか,例えば23条,合意に相当する審判がなされた後という限定をするなり,幾つかの規律方法はあり得ようかと思いますが,生じ得る問題点を可及的に避けることのできる制限をした上で何らかの拡大の方向を考える余地はあるのではないかという印象を持ちます。 ○伊藤部会長 そうしますと,高田委員も人訴並みとはあえて言わないけれどもとおっしゃいましたが,家事審判手続と同様の規律とするという基本的な考え方については異論がないものと理解してよろしいですか。   もし御異論がなければ,そういう方向で検討することにいたしましょう。   それでは,部会資料17は次回に回すことにいたしまして,本日の審議は部会資料16を終えていただいたということで,次回の日程についての連絡をお願いいたします。 ○金子幹事 御連絡いたします。   次回の日時は,平成22年4月16日(金曜日)午後1時30分から,場所はこちらの法務省第1会議室です。次回の予定ですが,部会資料17から入りまして,この後発送する予定の部会資料18では,非訟事件手続法全般をまとめたものを二読用の資料として,あるいは中間試案のたたき台用の資料としてお送りする予定になっておりまして,それの検討に入っていただくということにさせていただければと思います。よろしくお願いします。 ○伊藤部会長 それでは,本日はこれで終了させていただきます。どうもありがとうございました。 −了−