法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会           第4回会議 議事録 第1 日 時  平成22年6月15日(火)  自 午後1時30分                        至 午後5時10分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(親権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○大村部会長代理 それでは定刻になりましたので,法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会第4回会議を開会いたします。   本日は野村部会長が欠席でございますので,私,大村が部会長に代わりまして司会・進行を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。   まず,事務当局から配布資料の確認をお願いいたします。 ○森田関係官 本日利用します資料は,前回の開議で配布させていただきました各参考人ごとのヒアリング事項のほか,各参考人から御提供いただき,本日席上に配布させていただきました資料です。   資料番号7−2が,柏女参考人に作成していただきましたレジュメでございます。8−2及び8−3が,宮本参考人に作成していただきましたレジュメでございます。次に,参考資料9−2が,武藤参考人に作成していただきましたレジュメで,9−3は,全国児童養護施設協議会がアンケートを実施されて,その結果をまとめられた資料です。参考資料10−2が,○○参考人に作成いただきましたレジュメでございます。 ○大村部会長代理 どうもありがとうございました。   それでは,審議に入らせていただきます。本日は,今の資料の紹介にもございましたが,4人の先生方に参考人としてお越しいただきまして,御意見を伺い,質疑応答をするということを予定しております。進行についてでございますけれども,まず4人の参考人の方々,柏女参考人,宮本参考人,武藤参考人,○○参考人の順でそれぞれにお話を頂きまして,お話が終わったところで個別に質疑応答を行うということで,お一方につきまして40分ぐらいで進めてまいりたいと思っております。お二人終わったところで休憩を入れて,あとお二人ということでいきたいと思います。4人の方々について御報告と質疑応答が終わった段階で,全体を通じましての質疑応答に移るということを予定しております。どうぞよろしくお願いいたします。   では,まず最初に柏女参考人にお願いいたします。 ○柏女参考人 皆さん,こんにちは。この度はお声を掛けていただきまして,とても光栄に思っています。以前,厚生省に勤務していたときに,この法制審のほうには,20年前ですけれども,特別養子縁組のときに関係官の席に座って勉強させていただきました。また,婚姻と離婚に関する検討のときもかかわりを持たせていただきました。そんな場に参加をさせていただくことはとても光栄に思っております。   20分という限られた時間ではありますけれども,用意させていただきましたレジュメに沿いまして話題提供をさせていただければと思います。参考資料7−2をお手元に御用意いただければと思います。この中から,いろいろな今まで話したことを切り貼りで付けておりますので,ちょっと脈絡がないところがあって恐縮ですけれども,これを用いながらお話をさせていただきたいと思います。   まず「1.子ども虐待防止の背景とその対応」というところは,言わば根幹にかかわるところで,どういう視点が必要なのかということを四つにまとめてみました。虐待の問題というのは,(1)に書きましたけれども,親の権利と子供の生命・権利という谷の間の狭い尾根を歩く登山家に私は例えています。この両側の谷に揺れ動く。政策もそうですし,それから援助者もそうであろうかと思っています。この尾根をどう整備していくのか,これがマクロの問題で,正にこの法制審はここにかかわっているのだろうと思います。それから,どこまで登山家を増やしその連携を図るかという,これがメゾの問題ということになるかと思います。それから,登山者も登山技術を開発し磨いていくということが必要になりますけれども,これがミクロの問題ということになると思います。そのためには世論が納得することが必要なのだろう。それが財源の確保や法改正ということになるのではないかと思っています。   これらの根幹のところ,山のふもとのところでは何が必要かということですけれども,(3)にございます。一番大きな虐待問題の背景として,やはり考えなければいけないのは,つながり,いわゆるソーシャル・キャピタルの弱体化を制度として補うという視点であろうかと思います。それも,ただ補うというだけではなく,補完するというのではなく,仕組みを導入することによって新たなつながりを意図する,つながりの再生を意図していくという視点が必要になってくるだろうと思っています。   それから(4),法改正を何のために行うのかということですが,一つは,先ほど申し上げました尾根をどう整備するか,歩きやすい尾根をどう造っていくかということが中心ではありますけれども,その法改正のメッセージ性というものを意識していくといったことが必要ではないかと思います。現状でも工夫すればやれるから法改正はしないという視点に立つのか,あるいは現状よりもよりよくやれるようにするために,あるいはこのような法改正をすることによってこういうメッセージを社会に発信していくのだというメッセージ性を持たせていくのか,この視点がとても大事であり,私は後者に立つべきだろうと思っています。つまり,ここにあります法改正のメッセージ性,それから現状でも困難な工夫をすればできないことはないだろうけれども,現状よりもよりよくやれるようにしていくという視点が必要なのではないかと思っております。その理由は,現場が今ぎりぎりの状況の中でやっているということがあり,工夫を求め過ぎるということは,とても厳しい現状に現場を追いやるということにつながると考えています。   2では,「子ども虐待防止:子ども虐待死亡事例検証結果から学ぶこと」ということで書かせていただいておりますが,表−1は,第1次報告から第4次報告までの子供虐待による死亡事例等の検証結果総括報告の概要の中で,虐待による死亡が生じ得るリスク要因をまとめています。ここの保護者の側面のところの一番上の○ですが,保護者等に精神疾患がある,あるいは強い抑うつ状態がある。この問題がかなり親権の制限の問題などにはかかわってくるかと思います。また,宮本先生のほうからももしかしたらお話があるのかもしれません。   それからもう一つは,下から三つ目です。虐待が疑われるにもかかわらず保護者等が虐待を否定している。この辺がこの親権問題に深くかかわってくるところではないかと思います。   それ以外のところは,直接親権にかかわるところではありませんが,様々児童虐待の防止策を講じていく上で大きく参考になるものと思います。特に保護者の側面の上から二つ目の○から八つ目ぐらいの○まで,これは妊娠期をめぐる周産期までの様々な問題が子供の死亡事例に強く結びついているということを表しているかと思っています。   こうしたリスク要因の解決を考えますと,そこにありますように,(1)から(7)までの施策が必要になってくるかと思っています。一つは,妊娠期からの子育て支援が大事だということです。   私は石川県の職員をしておりますけれども,石川県では,妊娠すると,自分のかかりつけの保育園を決めていただく形をとっています。そして,赤ちゃんが生まれますと,赤ちゃんのいない暮らしから,赤ちゃんと共に暮らす暮らしをつくっていくためのケアプランを子育て支援コーディネーターと共に作成していくという試みを進めて,効果を上げています。これの虐待版も作成することが可能ではないかと思います。後ほど申し上げますが,例えば28条の承認のことですけれども,28条の承認に当たって,家庭裁判所が中間に立ち,児童相談所の申立てによって28条の承認を行う場合に,保護者のほうにも児童相談所の指導を受けるように勧告を出していただきますと,そこで児童相談所と親権者が向き合うことができるようになります。そして,ここで引取りに向けてのケアプランをともに話し合って作成していくという可能性が出てくるのではないかと思います。幾つか実践例もあるように伺っています。こうした可能性を見ていくことが大事ではないかと思います。   それから(2)は,子育て支援サービスが足りな過ぎるということもあって,これを拡充していくことが大事だろうと思います。現在,内閣府を中心として子ども・子育て新システムの構築に向けての議論が行われておりますので,これとの連動が必要になるかと思います。   それから,児童相談所の運営・体制強化,また市町村の体制・運営,要対協の強化などが必要です。また(5)で言えば,市町村と児童相談所との連携強化,ここでは共通アセスメントの活用などが大事になるかと思います。次に,社会的養護サービスの整備,そして最後に法的介入の強化,これらが大事になってくるかと思います。   3は,私への問いかけにありました,現代の親子関係をどう考えたらいいのかという視点でございますけれども,基本的な私の認識は,現在の仕組み,つまり戦後にできた児童福祉法というのは,親族や地域社会のお互いの助け合いでまずやるということを前提にして,それでも駄目な場合に行政が介入を行い,そして子供を保護するという仕組みとしてつくられてきました。しかしながら,社会が変わってくるにつれてその前提条件が崩れて,もうなくなってしまっているということです。つまり,第一次的な子育て支援は親族や地域社会の互助を前提にするというその前提条件が崩れてしまっていますので,その下で今の児童福祉法の虐待防止体制を進めていくことには無理があると考えています。それは国もそのように考えているということで,つまり崩れてしまった前提条件を元に戻すといいましょうか,そこに新たな仕組みを入れていくという視点をどうしても持たなければならないということになるかと思います。   そうしますと,そこに三つの視点を挙げさせていただきました。@は,親族,地域の互助を前提とした仕組みを改め,在宅サービスやアウトリーチサービスの制度化など社会による支援と介入策を進めるという視点。つまり,これによって,欠けてしまった親族や地域社会の互助を補うということが大事になるかと思います。   その補い方は,Aにありますように,仕組みを入れることによって,新たな時代のつながりを創造するという視点を持たなければならないだろうと思います。例えば,今厚労省の施策でファミリー・サポート・センターという施策がございます。例えば保育所が子供を預かる時間と家に帰る時間の間を埋めるために,ファミリー・サポート・センターの言わば預かる会員が子供を一時お預かりして,そしてその預けた会員の方が家に帰ってくるまでの例えば2時間などを見ている仕組みです。そこに1回1時間500〜600円を介在させながらやっていく。その仲介をファミリー・サポート・センターが行うわけですけれども,預かる会員と預ける会員が相互に別々に登録して,そして預かる人は預かるばかり,預ける人は預けるばかりというシステムをつくるのではなく,ここにつながりを創造するという視点を入れていく場合には,預かることもあるけれども,預けることもある,つまり両方に登録する会員の割合を増やしていく。そういう視点を持ってサービスを運営していくことが大事だろうと思います。今この預ける会員と預かる会員の両方会員の割合は,市町村によって数%から二十数%まで格差があります。この割合を高めていくということが,地域における預け合う関係を増やしていくことにつながっていくだろうと考えています。そうした視点を持って仕組みの導入を考えていく必要があるだろうということです。   次にBですが,子供虐待防止施策や社会的養護システムの社会化,地域化を進めていかなければならないと考えています。   (4)です。子育ち・子育て支援政策の転換が行われておりますけれども,その転換の基本的な方向としては,ここにございますように,これまでの子育てに対して応援しないかわりに口出しはしないという政策から,子育てに対して応援する代わりに口出しをするという政策へ転換が図られています。つまり,子育て支援というのは支援と介入の二つの側面があり,そのそれぞれを強化していくという方向に今は動いており,その分岐点が西暦2000年ごろということになるかと思います。新エンゼルプランといわゆる児童虐待防止法が制定されたのがこの時期であり,この時期に政策転換が行われたと見るのが妥当ではないかと思っています。   次に3ページのところを御覧いただきたいのですけれども,今申し上げましたように,今動いている子育てを応援する主たる国家計画が子ども・子育てビジョンということになります。また,子育て・家庭内の出来事に社会が介入する法律として,そこにあるような法律が逐次改正されて,介入制の強化が図られており,この親権法制の検討もその一環ととらえることができるのではないかと思います。   子供家庭福祉の施策は,ちょうど今,明治維新の前夜にあります。子ども・子育て新システム検討会議においてこれらの検討が進められておりますけれども,基本的な方向としては,そこに三つ書かせていただきました,子育て財源の統合を図り,実施主体を市町村を中心として再構築し,そして子育て財源の大幅増加を図る。こうした方向性が求められているように思います。   続いて4です。これについても,親子関係調整,つまり家族再統合というお話がございましたが,「再統合」という言い方が適切かどうかは議論のあるところだと思いますので,ここでは「親子関係調整支援」という言葉を使わせていただきたいと思います。家族再統合とは,子供と親が一緒に暮らすことではないと思っています。同居もあり得るでしょうし,近居もあり得るでしょうし,離れていても,その親を「あのときは仕方がなかったのだ」と,子供が自分自身の心の中で整理できていくこと,こうしたことがいろいろなレベルで考えられなければならないでしょうし,いたずらに家族再統合を引きずる余りに,(2)にあります新たな家族を創るということがないがしろにされてしまうということがあってはならないと思っています。   28条の審判あるいは期間更新の審判に東京都で長年かかわってまいりまして,約300事例ほど検討がなされてきましたけれども,その中で私が感じたメリットと課題についてそこに書かせていただいております。   先ほどちょっと申し上げましたけれども,審判によって児童相談所と保護者が向き合い,引取りに向けての協議のテーブルに着くことができるということ。児童相談所が追跡調査やフォローアップを行う根拠となること。家庭裁判所の審判時の助言や勧告が保護者を動かす場合がある。これは,制度的に審判時に保護者のほうに勧告が行われればより有効という意見はあるかと思いますけれども,現状でも保護者を動かす場合があるということは確実だと思います。それから,児童福祉審議会における審議の中で,虐待の病理やメカニズムの解明に役立つということがあります。また,事例の積み重ねによってノウハウの集積ができるという点も大事な点ではないかと思います。   課題ですけれども,2年ごとの更新がいたずらに継続して,子供にとってのパーマネンシー保障が困難になるということは言えるかと思います。いたずらに家族再統合を目的とし,それが2年ごとに続いていってしまうということがあるかと思います。それから,措置期限18歳後の成年後見とのリンクがうまくいかないため,解除後の心配がある。特に性的虐待の障害を持った子供の場合,施設入所を20歳まで継続することは可能ですけれども,その後またその親のところに戻ってしまう危険性があるということを感じました。それから,引き取りの強要や連れ去りの危険性があるということです。それから,保護者の精神障害にいつまでも引きずられてしまって,保護者を治療のルートに乗せることができないという課題があろうかと思います。   ただ,そうはいっても,そこにありますように,家庭裁判所による枠組みが設定されることによって,初めて保護者が現実に向き合うこととなり,児童相談所との協議のテーブルに着くことができるようになる。それを考えますと,裁判所による保護者に対する勧告システムがあるといいのではないかと思っています。   社会的養護の課題については,武藤参考人がいらっしゃいますので,お譲りさせていただくことにしたいと思いますが,(7)人材の確保と資質の向上のところで一つだけ申し上げておきたいと思います。ここでは,専門職の再検討ということで,保育士資格の再編成などを提言もしておりますけれども,一つ,施設長が子供の福祉のために親権に優先して必要な措置をとることができるような仕組みを考える場合には,セットで施設長の資格というものをしっかりと定めておくことが大事ではないかと私は考えています。   それから,6は,先ほどちょっと申し上げました児童虐待防止や社会的養護の構造的な問題を解決していくことが必要だろうということです。子供家庭福祉サービス供給体制を私は専門にしておりますけれども,現在の子供家庭福祉サービス供給体制は,様々なところで分断が起こっております。この分断が,間に落ちてしまう子供たちや家族をたくさんつくり出していっているということが言えるかと思います。民法による親権の考え方と,公法たる児童福祉法における親権問題への対応という点にも,一つ,理念の切れ目があるのではないかと考えています。そうした点を改善していくことが大事ではないかと思います。   7ですが,慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」の検証にかかわってきまして,この検証報告を昨年11月に出しておりますが,この検証会議報告では,様々な特別養子縁組の在り方を含め,様々な提言をさせていただいておりますので,是非この審議会においても積極的な御議論をお願いできればと思います。   8です。今日は委員の方々の中に「児童虐待をめぐる親権制度見直しについての意見書」を取りまとめられました各先生方がいらっしゃいますので,私がこれについてあれこれ述べるところではありませんけれども,かかわりを持った者として,(1)から(8)まで,とても大事なことだということで提示させていただいています。   最後のところです。親権の一部一時停止制度導入の必要性についてどう考えるかということですが,私は4点の理由において必要だと感じています。一つは,親権者に精神障害などがある場合,親権者を治療のルートに乗せていくということを考えますと,やはり必要ではないかと思います。それから二つ目は,子供の自立支援をしていくために,つまり施設あるいは里親から巣立っていくときの支援のために,こうしたシステムが大事だろうと思います。それから,子供の安心と安全のために,子供が施設に入った後,安心して暮らせるためにも必要だと,強制引き取りにおびえなくても済むようにするために必要だろうと思います。それから四つ目は,宮本先生がお話しされると思います,医療ネグレクトへの対応のために。こうした四つの視点から,親権の一部一時停止制度の導入は必要だろうと思っています。   最後です。すみません。より根本的には,先ほどちょっと申し上げましたけれども,理念の統一を図っていく,つまり親権制度と子供虐待防止の間の理念の統一を図っていくということが大事だろうと思います。子供の最善の利益を保障するということを基本に置いて,そして場合によっては,これはこの審議会で議論になるテーマではないのかもしれませんが,より根本的には,親権関係のことあるいは未成年後見や特別養子縁組などは,公法たる児童福祉法の中に位置付けていく必要があるのではないかと考えています。そして,子供の権利条約に基づいて,第一義的な子供の最善の利益を社会が図る必要があるけれども,その第一義的な責任は親に託すという考え方を採って,親権ではなく,親責任という考え方を採り,そしてその親責任が果たせない度合いに応じて,支援する,それから介入する,さらには一部一時停止する,そして後見人を選任する,最後には親権の喪失をすると,段階的に子供の最善の利益を図るために,親の責任の果たし方に応じた親権制限や介入の在り方をシステム的に整理していくという視点が必要なのではないかと思っています。   以上,20分になりましたので,私の話題提供をこれで終わらせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。 ○大村部会長代理 どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの柏女参考人の御報告につきまして,質問等ございましたらお願いいたします。 ○平湯委員 今の柏女参考人のお話は,大変まとまった形でポイントを突いておられたと思います。この中で法改正のメッセージ性ということに私も非常に同感しております。特に家族と子供についての法改正の場合には,どちらを向いた改正なのか,何を目標にしているのかが非常に大事だと思います。それで,二つほど御意見をお聞きしたいのですが,一つは,私はこの度の改正は,子供に対して虐待や暴力による養育というのはいけないことだ,やめましょうということが大事ではないか。それからもう一つが,これに伴って,国・社会は親に対して命令ばかりしているわけではないのだと。子供を養育するというのは大変なことなので,その支援を国はする。親はそういう支援を期待していいのだと。期待しながら,暴力や虐待によらない養育をしましょうと。こういう二つの点について,特にメッセージとして,改正の言葉の中に,あるいはその周辺にはっきり打ち出していくことが大事ではないかと思っておりますが,御意見はいかがでございましょうか。 ○柏女参考人 今の平湯先生の御意見には全面的に賛成しています。私は4年前に石川県でいしかわ子ども総合条例の原案づくりにかかわりを持たせていただいたのですが,その中で私たちが行ったのは,親に対して,親はもちろん第一次的な責任を果たしていただくことは大事なことですし,それからそれに対して,それができない場合には,メッセージを発してほしい,助けを求めてほしいということを言わば責務の一つとして規定し,そしてそれを受けて県や市町はそれに対して支援を行うのだという形の書き振りをさせていただきました。言わばそうした子育てをされる方に第一義的にそれを託すのだということを考えると,だったら託す側は一体何をするのかという,ここの契約関係をしっかりと書いておかないとならないのではないかと思っています。そしてまたそれをしっかりと御理解いただく。それがメッセージ性にもつながっていくのだろうと思っていますので,そういう書き振りをしていくことが大事かなと思っています。よろしいでしょうか。 ○大村部会長代理 ほかにいかがでございましょうか。 ○松原委員 どうもありがとうございました。非常に参考になりました。それで,今の平湯委員の御発言にもかかわる後半の部分で,支援ということが出てまいりました。いろいろ実際に制度立案,政策立案にかかわっていらっしゃってきていて,一般的な子育て支援と,いわゆる虐待を引き起こしている家族への在宅支援というものは,連続性があるのかどうか,その辺はどのようにお考えになっているのかという点が1点。それから,もしその支援というのを法の中に書き込むとしたら,広く在宅支援一般で書き込むことで足りるのか,例えば再統合等に関連して在宅支援を幾つか書き込むべきなのか,その点について御意見があればお聞かせいただきたいのですが。 ○柏女参考人 ありがとうございます。今の二つですけれども,ちょっと今は全体を体系的に頭の中に思い浮かべることができないので,感覚で申し上げたいと思いますけれども,1階の部分は,私は同じだろうと。しかし,2階部分は違ってくるであろうと思っています。つまり,1階部分と2階部分で一番違うのは,先ほどもちょっと申し上げましたけれども,裁判所とか,そうした公的機関が間に入って仲立ちをして,親と援助機関を向き合わせるという,つまり言わばお白洲の前に引き連れてくるというか,それが大事になってくるのだろう,その仕組みが必要なのだろうと思います。そこは1階建ての部分ではなく,2階のところではそういう仕組みが,つまりそれが裁判所である場合もあるでしょうし,児童相談所である場合もあるでしょうし,それから例えば施設へ入所する,あるいは少年院に入るとか,そういうことによって初めて自分に向き合ったり,あるいは子供に向き合ったり,親に向き合ったりすることができるのだろうと思います。その条件設定を2階部分で用意しなければならないので,若干仕組みは1階部分と2階部分では違ってくるかなと思っています。よろしいでしょうか。 ○松原委員 ありがとうございました。よく現場で,虐待を引き起こしている方は子育て支援とかファミリー・サポートなどをなかなか利用しないという話が出てきますので,そこには一定の設計が必要かなと思って質問させていただきました。 ○柏女参考人 正にその向き合うための制度設計が必要なのだろうと思って,それがそこでできれば,28条ケースであったとしても,例えばファミリー・サポートを使うとか,それらは可能になるだろう。それがケアプランだろうと私は思っています。 ○大村部会長代理 そのほかにいかがでございますか。 ○磯谷幹事 ありがとうございました。特にストレートな形でお話には出ていなかったかと思いますが,外国ではこの虐待問題に,例えば今プランとおっしゃいましたが,そういったものを立てるときに,保護者,親を参加させるようなこと,親と一緒にやるといった形があります。日本ではかなりそのあたりは弱いと思うのですけれども,そういう親も参加した形での手続なり取組といったことについては何か柏女参考人のほうで御意見などはございますでしょうか。 ○柏女参考人 正にケアプランで考えているのは,親が参加した形で,両者が言わば署名するという,その方式の可能性が高く,やれるのではないかと思っています。今石川県で行っているのは1階建て部分のところです。つまり,子育てに不安を感じていらっしゃる方に,子育て支援のコーディネーター,言わば介護支援専門員の子供版の子育て支援専門員と保護者が向き合って月間プランを作成し,そしてそれに対して親も署名し,それから支援専門員も署名し,そして1か月ごとにそのプランの書換えを行っていく。そのプランを作成するごとに助成金を出してやっているわけですけれども,それは1階部分だろうと思うのですが,先ほど言った2階部分で言えば,裁判所等が間に立つことで,保護者と児童相談所がそのプランを一緒につくっていくということは可能だろうと思いますし,磯谷幹事と一緒にやっていた東京都の審議会の中でもそうした事例が幾つか報告されていたように記憶しています。ありがとうございます。 ○大村部会長代理 よろしいでしょうか。   ほかにいかがでしょうか。 ○吉田委員 今日はどうもありがとうございました。とても参考になりました。時間の関係で省略されたと思うのですけれども,7の慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」のところで「国の積極的関与を期待」とありますけれども,このところをもう少し詳しくお話しいただけますでしょうか。 ○柏女参考人 ありがとうございます。この検証会議の報告書では,全部で「こうのとりのゆりかご」が提起した様々な課題56課題について検討してほしいという旨の提言を行っています。その中には,先ほどちょっと申し上げましたように,ゆりかご事例の場合にはここでも深くかかわる特別養子縁組に持っていきにくいということもございました。保護者の方,親権者の同意がなかなか得られないし,それからいつ親権者が出てくるか分かりませんので,そういう意味ではなかなか特別養子縁組に持っていくにはためらわれる。しかし,相談してくれれば,特別養子縁組にすぐに持っていけるということなどがございまして,我々の提言としては,一定期間「こうのとりのゆりかご」に預け入れた親権者が出てこない場合には特別養子縁組に持っていけるような制度改正なども必要なのではないかといった提言などもさせていただいています。そうしたこと以外にも様々提起させていただいております。ゆりかご関連の根本的なところでは,周産期の精神的・情緒的な混乱に対応するために,あるいは望まない妊娠で出産を表に出したくないといった方々のために,周囲に知られないで妊娠・出産については相談ができて,場合によっては匿名のまま保護し,そして短期の入所も可能な,そうしたシェルターのようなものが必要なのではないか,それを医療機関に設置することが必要なのではないかといった提言もさせていただいています。その他,ちょっと今すべてをここで思い出せるわけではないのですけれども,法制度上必要な検討なども入れてございますので,是非御議論いただければ有り難いと思っています。 ○大村部会長代理 ありがとうございます。その他,御発言はございますでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。   それでは,まだ質問がある方もいらっしゃるかと思いますけれども,全体が終わりましたらまた改めて補足的な質問の時間を設けたいと思いますので,そのときにお願いいたします。   それでは続きまして,宮本参考人に御報告をお願いいたします。 ○宮本参考人 筑波大学の宮本と申します。小児科医ですが,そのこともあってか,私は主に医療ネグレクトについて意見を述べさせていただきます。事前に頂きました事項が6項目ございますが,それを順番に,資料等を参考にしながら,実態の御紹介ないしは意見を述べさせていただきます。   最初に,医療ネグレクトに関する経験あるいは研究内容を紹介ということですが,参考資料8−2を御覧ください。現時点で我が国において行われました医療拒否あるいは医療ネグレクトに関する調査結果のサマリーです。部分的に御紹介してまいります。   最初は,2003年に日本子ども虐待防止学会の医師の会員のみを対象としたもので,医師100人から回答を得ておりますが,その中の4の3)の(1)のところを御覧ください。基本的には,積極的な医療拒否の経験が57人に「ある」となっております。これは母数が100ですので,パーセントはわざわざ書いておりませんが,そのままパーセントになるとお考えください。約6割ぐらいの医師が経験している。そして,そのまま下に下がっていただきまして,4)の(3)を御覧ください。どのような疾病・疾患が積極的な医療拒否を受けているかと申しますと,そこにありますように,先天性奇形,染色体異常,神経・筋疾患等,あるいは発達障害等,神経系の障害,しかも先天性で治療が難しい,ないしは治療ができない,そのような疾患群が積極的な医療拒否の対象となっていることが分かります。   次のページを御覧ください。次のページの真ん中辺に(10)がございます。患児の最終転帰ということですが,この57人の子供たちのうち,医療拒否の結果,約4割近い22名が死亡となっております。   その次が,同じ2003年,この学会の調査を受けまして,全国の小児科の医療機関を対象として行った調査ですが,こちらは病院が対象ですので,単位は医師の人数ではなくて施設数になります。全国の566病院を対象に行いましたが,4の2)を御覧ください。2003年,平成で申しますと15年になりますが,この1年間で積極的な医療拒否を経験したことが「ある」というのが60病院。約20%弱ございました。そして,その下の4),どのような疾患がと申しますと,先天性疾患が42病院,つまり約70%ですが,積極的医療拒否をされた子供たちの約7割は,やはり先ほどの調査結果と同じような先天性で難治ないしは不治の疾患ということになります。   次の右のページを御覧ください。右のページのずっと下のほうに(8)がございます。最終的にその子供たちにどのような対応ができたかと申しますと,その中のB,Cを御覧ください。提案した治療を最初は拒否されたわけですが,完全ではないにしても,部分的なものも含めますと27名ということで,5割まではいきませんけれども,かなりの子供で治療がある程度可能になっております。これは,医療サイドのかなりの努力によります。   しかしながら,その下の(9)患児の最終転帰のCを御覧ください。結果として17名,約30%の子供が死亡に至っております。ちなみに,ここには書いておりませんが,医療拒否を受けた時点で医師の推定で死が避けられないと推測された子供たちは,約10%前後です。その3倍の子供たちが,結果として死亡に至っていたという数字です。   その次のページを御覧ください。上の方の(11)を御覧ください。先ほどから私は「医療ネグレクト」ではなくて「積極的な医療拒否」という言葉を使っておりますが,医療行為に対する不同意というよりは,はっきりとした拒否ですが,しかしながら,その中で医療サイドから見て,これはどう考えてもひどい,医療ネグレクトである,虐待の範疇で考えざるを得ないと判断されたものは,6人,10%にすぎないという結果でございます。これは後で定義のところでも述べますが,その背景にあるのは,そのほとんどが難治性あるいは治らない,不治の疾患であるということが,こういった判断の背景にあることが推測されます。   その次に,2008年,柳川先生が私どもの研究班で行った同じような調査ですが,全国の小児医療機関を対象といたしまして,4の3)医療ネグレクトの経験というところを御覧ください。これでは,今度は医師なのですが,回答した医師の約4割が「医療ネグレクトを経験した」と回答しております。ただし,2003年の調査と比べると倍近いわけですが,これは背景がございまして,一つは2003年に比べて調査期間が長いということ,それから対象としている状態が2003年の調査に比べて広いということです。健康ケアが必要なものということで,例えば予防接種を受けないといったものまで含まれているということで,数字が大きくなっております。   右のページを御覧ください。このような状態に対して,8)ですが,最終的には10%強の子供たちが死亡し,15%前後の子供たちが重篤な後遺症を残したという結果になっております。   そして,その下に児童相談所での調査がございます。才村先生の調査は,見た範囲では正確な母数がよく分からないので,2008年の山本先生の調査では,2008年4月から10月までの7か月間で回答児相の約3分の1が「医療ネグレクトの相談を経験した」となっております。これが現在の我が国の実態ということで,大きく述べますと,積極的な医療拒否ないしは医療ネグレクトに相当すると思われる事例の経験は,日本全国の小児医療機関のどこでも,そして児童相談所のどこでも,決してまれな状態ではないという実態がお分かりいただけたかと思います。   その次ですが,医療現場において治療に関して保護者の同意というものはどのように位置付けられているのかということです。これは比較的簡単でしてと言うと変ですが,余り明文化したものはもちろん私どものほうにはなくて,医療の常識として一般的にどのように考えているかと申しますと,検査にしても,処置にしても,治療行為にしても,それが子供に対して非常に侵襲が大きい。侵襲が大きいというのは,一般的には身体的に子供に大きな苦痛を与える,ないしは精神的に大きな苦痛を与えるという意味だとお考えください。あるいは副作用が大きい。あるいは有効性が定まっていない。しかし,今はその治療法しかない。そしてもう一つは,治療方法がないので,試験的なトライアルの治療方法である。治験も含まれます。このような場合には,同意は必須であり,親が拒否していないと言っても,同意が確認されない限りその医療は行わないというのが大体です。   一方,そうではないもの,例えば定期的な処置,慢性疾患が一つですし,それから入院している患者さんがそうです。例えば肺炎で入院した,あるいは白血病のほうがいいかもしれませんが,白血病で入院した患者さんは,初期の治療のほかは,例えば定期的に毎週1回血液検査をするとか,1か月に1回骨髄検査をするとかいうことはあるわけです。このようなものは治療の最初にはすべて説明いたしますが,その後,毎週採血するごとに同意を得るということはしません。その段階で,つまり逆の言い方をするならば,そういった定期的な処置をするということに対して拒否の表明がない限り,同意が確認されなくても,その処置は行う。   同じように,緊急時の処置に関しても,緊急時というのは文字どおり今すぐ処置しないと死亡するような目の前の状況ですが,これは同意を得ないで行うということになります。もちろんこれも,入院している場合には,入院のときに説明はしております。それから,一般的な外来診療です。こういったものも通常は,説明はしますが,同意の確認という形では普通は取らないです。拒否がなければ行う。どういう意味かと言いますと,例えば,熱とせきが出て病院に来た。親御さんは風邪だと思っていたわけですが,診察したら肺に雑音が聞こえる。どうも肺炎かもしれない。そうすると,「肺炎のおそれもあるから,レントゲン写真を撮ります」と言って,親が「はい」と言ってくれれば,それも同意だと言えばそうかもしれませんが,「撮らないでくれ」と言わない限り,それでその処置は進んでしまうという意味です。そのように御理解いただければと思います。   その次は,医療ネグレクトの一般的な定義とはどのようなものかということで,参考資料8−3を御覧ください。日本において,ある程度医療ネグレクトの定義という形で明確に示されているものは,余りございません。平成20年度に厚労省が出した医療ネグレクトへの対応についてという通知があるわけですが,その中では,そこに書いてあるように,「保護者が児童に必要な医療を受けさせることを怠る医療ネグレクト」という書き方がされております。その結果,生命・身体に重大な被害が生じ得る。1999年に子ども虐待防止学会が,そこに書いてあるような形で医療ネグレクトを操作的に定義して調査を行っております。これは比べていただければ分かると思いますが,かなり違うところがございます。   そこで,恐縮ですが,先ほどの参考資料8−2を御覧ください。ページが振っていなくて恐縮ですが,後ろから2枚目の下を御覧ください。2008年に医療ネグレクトの概念に関する意識調査も実態調査と併せて行っておりますが,小児科医に対してこの1999年の子ども虐待防止学会の定義を示して,これに対する意見を聞いたところ,約9割近い小児科医が「これでいい」と答えております。この定義というのは,子供の健康に関することで,医療的ケア,健康ケアが必要であるにもかかわらず,適切なケアが施されない結果,心身の障害を来すものだけではなくて,それを来す可能性のあるものと。医療的ケアだけではなくて健康ケアというのは要するに何かといいますと,例えば先ほど言いました予防接種あるいは場合によると乳幼児健診などを受けないというものまでも実はここには含まれております。   その次のページを御覧ください。一方,児童相談所の職員はどのようにとらえているかと申しますと,風邪や軽い一般的な疾患の放置も医療ネグレクトとして相談を受け付けております。いずれにしましても,現時点では小児科医も児童相談所の職員も,医療ネグレクトというものを,子供の健康が脅かされる状態の放置ということで,かなり広い概念でとらえているということが分かります。   しかしながら,先ほどの資料8−3に戻っていただきたいのですが,その三番目の研究班と申しますのは,2008年,2009年に私どもが行った厚生科研の研究班ですが,ここでの議論では,必要とされるのは,平成20年の厚労省の通知が適切に対応されるような方向性を示すということが第一だと考えました。つまり,目の前で今すぐ何かしなければ死ぬのにそれをするなというのと,予防接種を受けないというものを同列に扱うことはできないだろうと。ましてや,親権喪失宣告までも含めた,そのような積極的な介入を緊急に行う必要がある状態としては,以下のような状態がいいのではないかということで,操作的定義を提唱しております。   それは,以下の@〜Dのすべて満たす状況があるにもかかわらず,子供に対する医療行為を行うことに対して同意しない状態としました。それは,見ていただければ分かりますが,子供が医療行為を必要とする状態があるということ。そしてその医療行為をしない場合,子供の生命・身体・精神に重大な被害が生じる。重大な被害とは,死亡,身体的後遺症,自傷,他害。それから,医療側が提案している医療行為の有効性と成功率の高さがその時点の医療水準で保障されているということ。そして,医療ネグレクトにおいて最も多いのは,単に「医療行為をしてくれるな」ではなくて,その代わりに親がこのようにするとか,このようにしたいという代替の対案を持ってくることが非常に多いわけですが,その保護者が要望する対応方法の有効性がその時点では保障されていない。そして,そういったことを保護者に理解できる方法と内容で説明している。こういったすべてを満たすにもかかわらず同意しないという場合,これは子供が著しく不利益な状況にあると考えます。このように定義しますと,これはある意味,どの立場であっても,何らかの介入があってもおかしくはないのではないかと判断していただけるのではないかと考えております。   その次ですが,現在も,親権喪失宣告の申立て及び保全処分としての職務代行者の選任という形で,子供の治療は親の不同意にかかわらず行うことができる。だけれども,この方法では足りない,不都合があるのかということです。今の制度の問題点につきましては,一般的には,非常に時間が掛かるとか,手続が煩雑であるとか,職務代行者としての適任者が簡単に見つからない場合があるとか,あるわけです。しかし,その足りないという,この方法では駄目な状況は何かと言われますと,極端に言えば,ないということもできるのです。しかしながら,これは逆説的でありまして,足りないのではなくて,今の制度はやり過ぎている。つまり,例えばある種の宗教では輸血に対して非常に抵抗感が強いわけですが,その輸血に関する同意以外の日常の育児は普通にされていますし,子供さんに対しても非常に愛情を持っておられる。にもかかわらず,輸血が必要な状況において親の意思に反して輸血をしようとすれば,日常の愛情あふれる育児行為すら止めなくてはいけない。このことは,逆に言うならば,子供に対してむしろ不利益をつくってしまう。したがって,今のこの制度が逆に子供に対して不利益を生じさせるような大き過ぎるものになっていて,そのことが,逆に時間が掛かるし,手続も煩雑だという状況を生んでいるのだろうと思います。ですから,足りないのではなくて,足り過ぎていると言うと変ですけれども,そのような視点で考える必要があるのではないかと思います。   そして最後ですけれども,医療に対する親権者の不同意があった場合,親権を制限する場合と,不同意がある程度尊重されるべき場合との境は何なのかということです。これに関しましては,基本的には,不同意に対して親権を制限する必要がある状況というのは,先ほど医療ネグレクトの定義で申しました狭い意味での,参考資料8−3の三番目のところですが,この@〜Dの状況で不同意をしている場合には,親権の制限をするということは妥当だろうと思っております。もう一つは,この定義すべてを満たさなくても,保護者が提案する,あるいは保護者がやろうとしている代替方法が,むしろ子供の状態を悪化させるような場合,それはこちらが提案する医療に不同意だけではなくて,悪化させることをやろうとしている場合には,親権を停止するという処置は考えざるを得ないのではないかと思います。   一方,逆に不同意をある程度尊重せざるを得ない,あるいは尊重すべきであるというもののまず第一は,実態調査からも明らかになっておりますように,子供の重篤な状態−−確かに何らかの処置をしなければ死が避けられないという状態がある,あるいは重篤な状態があるにもかかわらずそれを治療できる医療方法が存在しない場合には,不同意を一概に責めることはできないだろうと思いますし,これは現実的には昔から医療の場での判断で行われてきたことです。つまり,医療ネグレクトの問題は,広げていきますと,生命倫理の問題と非常に密接にかかわってくることでして,生命倫理の視点から検討されるべきであるような内容の場合には,親の不同意がある程度検討されなくてはいけないという視点が出てくるかと思います。ただし,そのような場合であっても,親が,だからほかにこういうことをしたいということで,子供の状態を悪化させるような行為がある場合には,それは認められないということになるだろうと思います。   そして,もう一つ大事なことは,生命倫理の問題が重要なわけですが,生命倫理の問題は医療の進歩によって変わるという事実を常に押さえておく必要があります。例えば,今から30年,40年前であれば,ダウン症候群という先天性の染色体異常の子供の先天性の心疾患の手術を積極的に行う病院はあまりありませんでした。そして,そのまま自然経過で,大体3歳ぐらいまでに死亡するお子さんが多かったわけですが,今は積極的に手術をします。そして,ダウン症の人の平均寿命は,かつては20歳台と言われていたものが,今は50歳台に延びています。これは,医療の進歩が,心疾患の手術の手技の進歩のほかに,考え方の進歩ということももちろんあるわけです。   あるいは,これも変な言い方ですが,50年前,白血病の子供がいた場合,親が苦しませたくないと,もう何も治療がないのであれば,家でじっと見守りたいということに対して,積極的にそれを説得するだけのロジックを医療側は持っておりませんでした。今は,そういった親に対しては,医療は絶対に受け入れられない。なぜならば,子供の白血病は85%が治る時代になったからです。   このように,医療ネグレクトあるいは医療への拒否というのは,常にその時点での医療の水準を考慮しながら判断しなくてはいけないという意味で,ある意味では極めて高度な医療的な判断を必要とするものです。極めて高度な医療的な判断を必要とするということには実はもう一つ理由がありまして,それは何かと申しますと,親御さんが代替の対応方法を提案してきた場合,その方法がその子の状態に対して無効であるということを証明できなくてはいけない。もしかしたらそれは効くかもしれないのであれば,それをあえて拒否するということは逆に問題になります。ということで,いろいろな代替療法があるわけですが,そういったものに関してのエビデンスを医療側が持っていないといけない。そういった中での最終的な判断ということになります。もちろん,そこまで高度な判断が必要とされる医療ネグレクトはそれほど多くはないだろうとは思われます。   それともう一つですが,不同意がある程度尊重されるというのは,子供の状態がある程度,今医療側が行おうと思う医療行為をしなくても,子供の心身に重大な影響を及ぼす可能性が現時点では当面ない。そのような場合には,こちらが提案する医療行為に対する親御さんの不同意はある程度尊重される,あるいは,尊重というよりは,少なくとも積極的に親の意思に反して医療行為を行うということはないということになります。   例えば,引きつけを何回か起こした子供さんがいて,脳波検査をしたら多少脳波の異常が見つかった。普通の医者ですと,これはてんかんということで,「薬を出しましょう」と言います。ところが,親御さんの中には,そういった中枢神経系に作用する薬物を使うことに対して心理的に抵抗感を持っている親御さんがいます。毎日引きつけていれば別ですけれども,1年に1〜2回しか起こしていない場合には,「薬を飲まないで様子を見たい」と言われる親御さんは現在でも珍しくありません。このようなときに医師はあえてそれに抵抗することはしません。「それでは様子を見ていきましょう」と。ただし,医療から離れないようにだけはもちろん注意するということになります。   ということで,あとはこの不同意が尊重されるのとそうでない場合の区別,線引きは何かということですが,それはもう一度参考資料8−3を御覧ください。8−3の一番下の研究班の操作的定義で,@からDまでの条件の中のBとC,この両方の項目を満たすか,満たさないか,これが保護者の不同意を受け入れるか,受け入れないかの究極のラインかと考えております。 ○大村部会長代理 どうもありがとうございました。   それでは,今の御報告につきまして,御質問等ございましたらどうぞ。 ○平湯委員 ありがとうございました。途中の項目,現在の対応が広過ぎるといいますか,その辺のくだりですけれども,具体的におっしゃっているのは,今,親権全部の停止といいますか,喪失の申立てをさせて,その中での保全,したがって全部についての保全・停止ということについて,その部分が広過ぎることが子供にも不利益と言えるのではないかというお話だったと思いますけれども,区分けをして停止するという方法を採る場合に,どういう形で区分けをしたらいいか,必要なものはこれなのだという区分けを,その辺についていいお知恵がおありでしたら,お尋ねしたいと思います。 ○宮本参考人 ありがとうございます。ちょっと逃げのような回答になりますが,私は本日は飽くまでも医療行為に限定して意見を述べさせていただきましたので,したがって,現在の保全処分の制度も,医療行為への不同意ということに限定した場合には広過ぎると考えていただければよろしいと思います。平湯先生が御質問された趣旨は,恐らくもっとほかのいろいろな親御さんの子供に対する行為のそれぞれに関してどうなのかということかもしれませんが,そこまで私は今日お答えできる用意がありませんので,医療に限定したものということで御理解いただければと思います。 ○平湯委員 すみませんでした。 ○窪田委員 どうもありがとうございました。特に資料8−3に沿っての御説明は大変勉強になりました。その上で一つだけ,むしろ非常に小さい質問ということになろうかと思いますが,資料8−2のほうの4ページに当たりますでしょうか,全国小児医療機関対象の調査という中で,4の4)と6)のあたりです。医療ネグレクトへの対応と,医療拒否の経験ということで,それぞれ,医療ネグレクトへの対応に関しては「院内での対応」が47%,あるいは59%でございますでしょうか。この「院内での対応」というのは具体的にどういうものなのかというのを少しお話しいただけますでしょうか。 ○宮本参考人 ありがとうございます。院内での対応と申しますのは,多くは同僚というよりは上司の医師ないしはその病院における倫理委員会ないしは虐待対策委員会等で検討して対応を行うというものです。具体的には,その中で主治医ないしは上司や上の医師が取っかえ引っかえ出てきては親御さんを説得するというのが,実際にはよく行われていることです。 ○大村部会長代理 よろしいですか。   ほかにいかがでしょうか。 ○磯谷幹事 ありがとうございました。2点御質問があります。一つは予防接種のお話で,今日はメーンのところとしては触れられていませんでしたが,予防接種は,基本的には義務ということで位置付けられているわけではない,努力義務という形で位置付けられているわけですけれども,医療の立場からこの予防接種を打たないことの問題性というものをどのようにお考えかという点を一つお尋ねしたいと思います。   それからもう一つは,これは余りに大きいテーマで,お答えできる範囲ということで結構だと思いますが,こういった特に医療ネグレクトが絡むケースで,子供自身の意思に対する考え方について,何か先生なりの御意見などがあれば伺いたいと思います。 ○宮本参考人 予防接種に関しましては,これは恐らく,医師によって多少の温度差はあるかもしれませんが,受けないという保護者の意向を無視はできない,これがほとんどの医師の考え方だろうと思います。それは,予防接種は確かに子供の健康のためということであるわけですが,100%それで病気にならないわけではない。有効性はもちろんある程度確認されているわけですが,しかしながら,それでも,皆さん御承知のように,例えばインフルエンザのワクチンは,今は新型のおかげで皆さん打ってくださっていますが,数年前までは,もうあんなものは効かないとか,医者ですら公然と言っている人がいるわけです。そのような状況がありますので,しかもある一定の割合で副作用が出ます。これは残念ながら避けられないのです。もちろんどのような医療行為も副作用がゼロということはあり得ないわけですが,そうしますと,医療としてはその親の意向は無視できないということになります。もちろん,あとは,したがって,それは医療拒否,医療ネグレクトへの対応というよりは,根気よい説明と説得で親の理解を求めるという対応でいくものだろうと考えております。   それから,子供の意思ですけれども,小児科医というのは,子供が泣こうが叫ぼうが注射したりとか,子供の意思を無視した対応ばかり普段はしているものですから,なかなかお答えしにくいのですが,そこのところで,輸血学会が子供の年齢で区分しておりますけれども,基本的に子供が自らに対して不利益な判断をするということは,ものすごく極端な言い方をしますと,あり得ないことだと考えています。もしそのような判断をその子がするのだとすれば,もちろんこの場合の子供の年齢というのは微妙かもしれませんが,少なくとも15歳までは。その一番の理由は,15歳というのは一つの区切りですが,14歳でも16歳でも大した違いはないのですが,その前後で子供のメタ認知能力というのが飛躍的に高まります。昔はよく17歳と言われていました。メタ認知能力とは,物事を客観的に見つめる,考えられるようになるという能力です。少なくとも12歳以前には,そのようなメタ認知能力はそれほど発達していないのです。であるならば,そういう年代の子が,自分の状況やあらゆる条件を見て,自分にとって不利益な判断を合理的に下せるということは考えにくい。もしその子がそうしたのだとすれば,そこにそういう方向のバイアスがあるはずだと考えますので,子供にとって周りの大人が常識的に利益になると考えることを勧めるということでいいように思っております。そうしませんと,5歳の子供に点滴などはとてもできません。「やってくれ」と言う子供は絶対にいませんので。すみません,変な言い方になりまして。 ○大村部会長代理 ほかにいかがでございましょうか。 ○飛澤幹事 今日はどうもありがとうございました。参考資料8−3の,研究班が出している医療ネグレクトの要件の中で,Bの「その医療行為の有効性と成功率の高さがその時点の医療水準で認められている」という点について,相対的な判断で,断定的なことは難しいかと思いますが,この有効性とか成功率の高さというのは,大体どのような基準を念頭に置いていらっしゃるのでしょうか。 ○宮本参考人 お聞きになられたことがあるかと思いますが,今の医療はEBM−−Evidence Based Medicineということで,根拠のある医療と言われます。つまり,経験則ではなくて,ある程度統計学的に,その対応をする場合をしない場合に比べると結果に有意に違いがあるという,そのようなものを第一選択として行うということになっております。そのようなエビデンスがない治療に関しては,これはエキスパート・コンセンサスといいまして,その領域の専門家たちが,今の時点ではこれが妥当だろうという形で治療方法が選択されるということになります。したがいまして,ここで申し述べておりますのは,基本的にはエビデンスレベルで明らかに認められるというものが第一ということになります。実際問題として医療ネグレクトで,特にここに挙げてあるような状況で問題にするような医療行為というのは,ほとんどがエビデンスレベルで言うと,これは何かで御覧いただればいいのですが,エビデンスレベルは1から4までランク付けされていまして,1か2。1は最高ランクで,それはもうだれが考えてもその治療法しかないというもので,しかもそれを選ぶということに間違いないというものです。4というのは,エキスパート・コンセンサスで,まだ評価はないけれども,今の段階では大体経験則でそれをしたほうがいいだろうと言われるものです。例えば,先ほど申しましたように,白血病の治療であれば,今はこういうあるプロトコールがあるわけです。それをやればいい。肺炎で来れば,どの抗生物質を選ぶかは別ですが,抗生物質の治療と,状況によって理学療法とか,ある種のパッケージはあるわけです。そして,有効率というのは,そういうエビデンスレベルになります。それから,成功率というのは,これも実際にはエビデンスとの兼ね合いになるのですが,どんなに有効率が高くてもと言うと変ですが,副作用が大きい,ないしは,うまくいけば100%治るけれども,駄目だったらほぼ100%死ぬという,そんな治療方法はだれも採らないわけでして,この辺はバランスとの関係になりますが,エビデンスがあって,有効率が高いと判断されているものは,自動的に,副作用といいますか,成功率がある程度高い。だからこそ治療の選択肢として挙がっていると考えていただいていいように思います。よろしいでしょうか。 ○長委員 一つお伺いしたいのですが,参考資料8−3の3Bの医療行為の有効性と成功率の高さと医療水準の関係なのですが,医療水準をどのように把握するかというのは,その医療行為の内容によって大変難しいときもあるように聞いております。例えば,先ほどの輸血の問題についても,考え方がいろいろあるようにも聞いています。医療水準を把握しやすい場合と把握しにくい場合といろいろあろうかと思うのですが,このあたりの判断をするためには,どういう方がどういう手続で判断するのが適当であるとお考えでしょうか。 ○宮本参考人 医学的な判断は,やはり医学の専門的な立場の人間でないと難しいだろうと思います。そして,今おっしゃられたことは非常によく理解しております。この場合,重要なポイントは,ある治療法は有効性が高い,それはそれほど副作用もないという,その判断は,例えば日本のような国であれば,よほどのところでない限り,医療情報は医療関係者には大体行き渡っておりますので,その判断で悩むことは余りないと思うのです。むしろ問題は逆でして,保護者がこうしてくれという代替方法には本当に意味がないのか,有効性がないのか,それよりも医療側が提唱した方法がいいという判断,これが難しいのです。特に輸血がそうです。無輸血治療は,医師は輸血でしか治療していないと言うと言い過ぎですけれども,出血が多ければ輸血するという発想は,もうある程度そういう教育を受けていますので,その中で「いや,輸血しないでもできるのではないか」と言われると,「えっ」と思うわけです。でも,実際には無輸血でやれるという部分はかなり出てきていることは確かです。だけれども,その情報はすべての医師が持っていません。したがって,もしそこまでを望むのであれば,例えば欧米,特に米国などでは,オルタナティブメディスンといって,代替療法のエビデンスをそろえていこうという方向になってきています。したがって,そういったものにアクセスすれば,この段階であればこの治療でもある程度いけるとか。ですから,医療ネグレクトの問題は,だれが考えてもこれはもう論外だというものと,医療側が提唱する医療行為と保護者が望む対応方法とのバランス,その両方で判断しなくてはいけないと思っています。 ○小池幹事 どうもありがとうございました。参考資料8−2の最初のページのアンケートですけれども,これは質問項目をクロスさせたデータというのはないのでしょうか。その趣旨は,患児の年齢がゼロ歳がかなり多くて,これは主な疾病のところでいうと,先天性奇形とか染色体異常がここに多く入っているのか。ちょっと言葉は不適切かもしれませんけれども,昔よく使われていたいわゆる胎児適応といったことで人工妊娠中絶が認められるようなケースで,しかし生まれてきて,治療停止が生まれてから問題となったようなケースが相当数含まれているのかどうかがもしお分かりになればということが一つ。   それと,16〜18歳がここでは4人になっていますけれども,これと同じページの(6)患児自身の治療への思いというところでは,患者自身がはっきりと意思を表明していて,「治療を受けたい」と16〜18歳のお子さんが言っていたケースで,親権者が不同意であっても強行するようなケースはあるのでしょうかというのがちょっとお聞きしたかったのです。 ○宮本参考人 ありがとうございます。年齢と疾患は,これではクロスしていませんけれども,2003年,もう一つのものではやっていますが,はっきり相関しています。大体,乳幼児,特に乳児から幼児期前般が,ほとんど先天性疾患かそういった染色体異常です。そして,今おっしゃる,いわゆる人工妊娠中絶が妥当とされるような疾患が結構あったのかどうかということに関しては,これはイエスともノーともお答えしにくい問題です。なぜならば,むしろ胎児期の処置そのものを考える,その問題性がありますので,通常,現在は,もちろん保護者の方が望めば,胎児診断ということはする,ないしは超音波検査で胎児期にある種の奇形が見付かるということは決して少なくありませんが,多くの場合は既に通常の中絶ができる範囲を超えているか,少なくとも医療側がそれで勧めることは絶対ありませんので,そして今は多くの親御さんは産みます。これは全く別の次元の話になります。そのときに医療側は何をしているかというと,子供がお母さんのおなかの中にいるときから子供との愛着形成をつける働きかけをずっとしていきます。そして,結果として生まれた後,無処置であっても,親御さんがその子を抱っこしながら,お母さんの胸の中で息を引き取るような,無駄な処置はしないけれども,放置ではないという,そういったかかわりをするようにしています。   それから,二番目の御質問に関しては,確認しておりませんので,ちょっとお答えができません。申し訳ありません。 ○原委員 参考資料8−2の最後のほうに,参考として,積極的医療拒否の解決についての意見,小児科医の皆さんが自由に記述していただいたことがずっと書いてありまして,私はずっと眺めていて気になった意見があるので,ちょっとお伺いしたいのです。最後のページの真ん中あたりですが,「法的な第三者による裁定があればよいが,実際拒否をしている親に無理をして手術を行っても,その後の患児の養育がうまくいくかどうかは難しいと思われる」と,これが実際にそうなのかどうか。と言いますのは,もしそういう実態があるとしますと,医療ネグレクトの場合の法的介入の在り方とか,その際の親権制限の在り方にも影響を与える記述だと思いましたので,こういうことを実際に先生自身が御経験になっているのか,あるいは同僚の医師から聞かれたことがあるのか,お考えを聞かせていただければと思います。 ○宮本参考人 これは,ある意味最も危惧されるところであります。しかもそれで手術をして,手術が成功して,その子の命が助かった。だけれども,やはり何らかの障害は残る。特に染色体異常等がある場合はそうですが,そのような場合に親がきちんとその子を療育してくれるだろうかと。これは100%とゼロ%の答えはないわけですが,非常に理想的な言い方になりますが,小児科医もみんな,先ほどの胎児期からと一緒で,親御さんにいろいろ働きかけて,単に治療だけではなくて,親との愛着形成をつけるような働きかけを非常に細かくやるのが普通です。私の経験では,大体の親は変わってくれますが,変わらない親もいます。ただ,この問題はもう一つ別の問題を抱えています。それは,これは生命倫理的な問題ですが,通常はこの状態だったらもう治療しないだろうという状態に救急措置をしてしまうことがあるのです。その結果として,これは例えば,新生児医療で一番問題になっていることですが,人工呼吸器を着けてしまう。でも,多分これは医療ネグレクトの問題とはちょっと違う。それを医療ネグレクトに絡めるとおかしくなるだろうと。もっともっと生命倫理的な問題としてとらえるべきだろうと思います。 ○大村部会長代理 ほかにいかがでしょうか。   先ほど具体的なイメージを明らかにするためにということで飛澤幹事のほうから御質問がありましたけれども,それと絡むのですけれども,お話を全体として伺っていると,明らかに医療の観点から見ると,ある治療を行うのが有効である,しかしそれにもかかわらずそれに積極的に反対されるというのが,この研究班が定義されている厳格な意味での医療ネグレクトの典型例だと伺ったのですけれども,そういう理解でよろしゅうございましょうか。 ○宮本参考人 そのとおりで,今幾つか御質問がありましたように,生命倫理的なこととかいろいろなことを考えますと,医療現場は動けなくなりますので,余り迷うことのないところをまずきちんと押さえて,それからグレーに広げていくという考え方です。 ○大村部会長代理 予防接種などについは,これは考え方が親御さんによって分かれ得るといったお話があったと思います。それから,輸血はちょっとどうなのか分かりませんけれども,それも代替の治療法というのがかなりの程度まで行われるようになっているので,代替治療も可能な場合も相当あるというので,この狭い意味での医療ネグレクトと断ずることはできないといった御感覚なのでしょうか。 ○宮本参考人 基本的にはそうですが,ただ,輸血以外に救出の方法がないという状況もあり得ます。そこになると,医療側と宗教側の見解の相違が出てくるのです。いや,それでもできるはずだと。でも,こちらは,そこまで試験的な治療はできないという。その場合は,今の指針では,それではほかの病院に行ってもらうということになっています。 ○大村部会長代理 どうもありがとうございます。 ○磯谷幹事 先ほどの予防接種なのですが,先ほど現状の医療での対応について御説明をいただいたと思うのです。つまり,親の意思を尊重しなければいけない,副作用の問題がありました。ただ,ある意味,先生から御覧になって,それでいいのか,あるいは一部の予防接種は受けるべきと考えられるのかとか,そのあたりは現状を超えてどう在るべきかというところについては何か御意見はございますでしょうか。 ○宮本参考人 個人的には,幾つかの予防接種,例えば麻疹(はしか)がそうですが,これはもう絶対受けたほうがいいと思っていますし,受けてほしいと思っています。それは,麻疹はかかるとものすごく重篤な病気だからです。ただ,そうは言っても,それでも受けないという親御さんに対して,「いや」とは言えないです。 ○大村部会長代理 ありがとうございました。ほかはいかがでございましょうか。   それでは,宮本参考人に対する質問は一応この程度にさせていただきまして,お二人終わりましたので,ここで少し休憩させていただきたいと思います。           (休     憩) ○大村部会長代理 それでは,少し早いかもしれませんけれども,ほぼおそろいのようですので,再開させていただきます。   それでは,お二方のお話を伺いましたので,次は武藤参考人にお願いしたいと存じます。よろしくお願いいたします。 ○武藤参考人 児童養護施設二葉学園の施設長をしております武藤といいます。今日は,参考資料9−2と9−3を使って,私の意見を述べさせていただきたいと思います。   二葉学園は,東京の調布市というところにあります。子供が2歳から19歳まで今いますけれども,52名の施設であります。児童相談所から主訴というのですか,主な入所理由ということで,今日現在61%の子供が,虐待を受けて入所している施設であります。   二葉学園を少し紹介しますと,地域にグループホームという形で六つグループホームを出して,本園はもう15〜16人ぐらいの子供しかいなくて,地域の六つのグループホームに6人ずつ,36人の子供が生活している施設であります。東京は,比較的そういうグループホームとか,小さな集団で生活する小舎制と言いますけれども,そういう施設が多いですけれども,全国的に言いますと,今児童養護施設が575施設あるのですけれども,その中でも7割の施設が大舎制ということで,従来どおり集団で生活するという生活様式をとっている施設が多いです。東京のほうはどちらかというと,土地柄ということもあるのでしょうけれども,より集団生活ということではなくて,地域でなるべく暮らすようにということで行っております。ただし,最近虐待を受けた子供たちが非常に多くなってきていますし,その虐待の問題の根底にあるのは,子供自身にもやや育てにくい要素をたくさん持っている子供たちが入所しているということで,虐待というのは,ここで言うことではないかもしれないのですけれども,親の育て方にも非常に問題はあると思うのですけれども,多くは子供自身にも育てにくい要素を持って,それに対して子育てが十分できないというところでこの虐待の問題が起こってくるといった要素が非常にあるようです。最近,児童養護施設にもそういう発達障害を持っている子供たちが最近すごく増えていまして,そういうもともと障害のある子供たちに適切なケアの在り方という部分を,今児童養護施設では大きな課題として掲げています。だから,従来どおり大舎制で大きな施設で集団でというと,なかなか一人一人の個別的なケアニーズに対応できるということにはならないわけですから,なるべく一人一人のケアニーズに対応できるというシステムが全国的にも求められているのではないかということで,厚生労働省にも,先ほど柏女先生のほうからお話があったとおり,社会的養護の在り方という形では,そういう虐待を受けた子供たちへ適切なケア,それから発達障害等々を持っている子供たちに,一人一人ニーズが違うわけですから,それに対応できる生活様式というものが必要なのではないかということで,いろいろ要望も申し上げながら,国のほうも是非そういうこともやっていきたいといった意思を表明して,今一緒に進めているところであります。   今日は私のほうは,参考資料9−2のところに,一応私自身が今全国児童養護施設協議会の制度政策部長という立場ですので,全養協としてこういう親権に対して今どういう検討をしているのかということも含めて説明させていただければと思います。   全国児童養護施設協議会は,ちょうど私が入ったころ,もう30年ぐらい前に,親権についての提言をしたことがあります。当時はまだ児童虐待の問題は社会的な問題にはなっていなかったのです。でも,実際は非常に子供の人権が脅かされて,施設入所するといった子供たちが非常に多かったわけです。やはり,子供の人権という点で考えると,今の親権でいいのかどうかということで,こういう提案をこの時期にさせていただいた。近年この児童虐待が社会問題化して,これだけの児童相談所の虐待の相談件数がうなぎ登りになっている。それから,少子化と言われる中で子供の人口はどんどん下がっているにもかかわらず,施設に入所してくる子供たちはどんどん増えているということで,国がこの虐待の問題に対して,虐待防止法とか法律を改正しながら適切な対応をしてきているにもかかわらず,抜本的な改善ができていないということに関しては,是非現場のほうからの意見としては,法体制の在り方も含めて,抜本的見直しをしながらやらないと,あと10年後,20年後の,また今の子供たちが大人になっていった時代に,もっともっとひどい状況になってしまうのではないかといった危惧がありますものですから,是非そんな実態も,この際ですので,訴えさせていただければいいかなと思って来たところです。   次の2ページには,私は今児童養護施設で勤めて36年目に入っていますけれども,児童養護施設で保護者との関係,それから親権者との関係でいろいろトラブルが生じている事例がたくさんあります。2ページ目の上には,昨年,私の懇意にしているというか,施設長さん40名ぐらいにアンケートをとった結果,約30名の方からこんな問題があるということで事例として挙げられてきたことの項目しかここには書いていないのですけれども,●で書かれたことが,保護者との関係で施設に入所後トラブルになってきているケースだということであります。   今回この会に呼ばれるに当たってもう少し幅広く聞いてみようということで事例を聞いてみたのが,参考資料の9−3に今日現在でまとめてみた全国児童養護施設協議会としてのアンケートの結果であります。これは,一番下のほうに※で書いていますけれども,全養協協議員とは,各都道府県の代表が集まっていろいろな物事を決める協議員会というものがあるのですけれども,そこの各都道府県の代表者の意見ということで,今回65名の方にアンケートを取って,まだ回収率が50〜60%ぐらいで,取ったばかりで完全に集まってはいないのですけれども,この際ですので,施設に入所した後に親権者といろいろなトラブルとか問題になっていることについて表にしてみました。これを一つ一つ説明していると時間がないので,是非見ていただきたいと思っています。   2ページ・3ページをちょっと開けていただくと,特に,刑務所に入っているとか収監されているといった親御さんとのトラブル,それから精神的に不安を抱えている,精神疾患を抱えている親御さんとのトラブルとか,虐待もひどい虐待で,性的虐待とか,そういう虐待を受けている父親との面会が禁止になっているのに勝手に会ったということとか,そのようなケースがこの中では指摘されております。   次の4ページ・5ページには,親との面会によって子供の生活に具体的にどのような支障が生じているかということで書いているところです。それから,5ページの真ん中には,親などとの関係で職員が非常に困難を抱えているケースとか,そういうことも皆さんに書いていただいたところであります。   それから,次の6ページに,日常的にどんなことで親権者との関係の中で困難を来しているかということで,細かいことだと思うのですけれども,子供の身だしなみとか,髪型とか,そういうことにも一つ一つ,「髪の毛を切っては駄目だ」とか,そういうことを言ってきて,子供の健康面などからすると,それから学校のいろいろなルールなどからすると,切らなければいけないにもかかわらずなかなか切れないということなども挙げられております。   先ほど宮本先生から話があったように,7ページには,医療関係のことについても書かせていただいています。特に,手術をすることについてもなかなか親権者が同意をしないということとか,予防接種,それから精神科への通院とか入院とか,そういうことに対しても,「うちの子はそういう必要はない」ということで,もともとこれについては,一度虐待を受けている子の親御さんの場合には,施設に子供を入所させることに対して同意をしっかりしているという親御さんはまだいいのですけれども,そうではなくて入所しているケースが非常に多いわけですから,そもそも施設入所に不同意で,渋々同意したということで来る子供さんもいるわけです。そうすると,施設のやっていることに対してなかなか協力的でなくて,一つ一つ注文をつけてきたり,逆に反対してきたりということがこういう形で日常的にあるということが,今回の資料でも分かるのではないかと思います。   次の8ページ・9ページにも,子供の障害とか,特別支援学級等々に行くことについても,なかなか同意を得ないということ。それから,この子は長期になるだろうから,里親さんに委託したほうがいいのではないかとか,週末だけ里親さんにお願いしたらどうかということで話をするのだけれども,その子の一生のことを考えると,そのような家庭的な対応ということが必要だろうと思われるにもかかわらず,「無理です」ということで,それに関して同意しないというケースも非常に多々ある。「受けていいです」という里親さんが割といるにもかかわらず,親御さんが反対して里親に行けないといった状況も見受けられると思います。   それから,一番困るのが,9ページの下のところで,入所途中で勝手に子供を連れ去ってしまって,どこにいるか分からないという状態が続いたり,この子のためにはちょっと親子関係を離したほうがいいだろうと思われるにもかかわらず引き取ってしまうということで,児童福祉法の28条でかけて親権を一時停止しながら再入所させるというケースも中にはあるのですけれども,そこのボーダーラインというケースも非常に多くて,入所後の本人たちの安全や安心をきちんと担保できるということにならないケースも最近増えているということであります。   そんな事例をずっと書いておりますので,これを一つ一つ説明しているとそれだけで時間がなくなりますので,今回は,60施設,各都道府県の代表者のところでこんな事例がありますということで,これを一つの参考にしていただけるといいかと思ってまとめさせていただいています。これについては,最終的にはもうちょっと数が多くなるし,客観的ないろいろなデータも出てくると思います。それは後でまた差し替えも含めてやりたいと思っているところです。   また本次第に戻っていただいて,参考資料9−2の2ページの下のところから,私がいろいろな施設長の意見も聞きながらですけれども,児童養護施設現場から,この親権問題に対しての基本的考え方や進め方について,(1)から(7)までにまとめさせていただいています。これも後の,私が今日呼ばれているヒアリングの事項にちょっとダブるところもあると思いますので,そちらを先に説明しながらやりたいと思っています。   今回私が是非意見をということで,6点いただいています。4ページからですけれども,親の虐待があって子供が児童養護施設に入所している場合,入所中における子と親とのかかわり合いは,一般的にどのようなものかということで,ここに書いております。   私が児童養護施設に入ったころは,35年ぐらい前ですけれども,サラ金問題とか,いろいろな貧困の問題,それから離婚の問題,それから家庭崩壊等々があって,親御さんがもう育てられないという状態で,「もううちの子の面倒を見られないから先生のところでお願いします」という形で入所して来るケースが非常に多かったような気がします。そういう意味からすると,「自分たちが育てられないから施設でお願いします」というケースが割と多くて,施設入所に納得するというケースが多かったような気がします。   でも,昨今この虐待の問題が多くなってきてから,中にはきちんと納得して入所させるというケースもありますけれども,「これは虐待なのか」ということで,虐待そのものの認識が薄いというケースも多くて,この認識が薄い場合,先ほど言ったように,施設に対して非常に非協力的だったり,逆に非常に施設を攻撃してくるということもあります。親自身が,良好な人間関係をつくっていくということが非常に苦手であったり,社会や親戚や職場の中で非常に孤立しているといった方々も非常に多くて,しかも中には精神疾患を抱えている親も最近非常に多くなってきています。そういう意味からすると,今施設の中で家庭関係調整をきちんとしていくということがとても大変な状況であります。もう4,5年ぐらい前から,児童養護施設等にはファミリーソーシャルワーカーという役割を配置しながら,そういう大変な親ときちんと向き合いながら家庭関係調整をすごく今進めているところなのですけれども,それでもなかなか大変という状況になっております。   ここにも書いていますけれども,虐待をしたという事実をもう少しきちんと宣告するということが必要でありますし,先ほども話題の中に出ていましたけれども,虐待をしなくて済む方法をしっかり学ぶシステムをつくっていかないと,ただ単に司法の関与というだけでも駄目なのかと思います。司法の関与と,虐待をしなくて済むプログラムに積極的に参加するということをセットにしながら,その後の家庭関係調整をしていく必要があるのではないかと思っております。   親の立場ではなくて,逆に虐待を受けた子供の立場からすると,虐待をした親に対しての思いは大変複雑なところです。どうして自分が虐待されたのかということをまだ十分理解できていない子供,それから親に対して拒否的な感情と裏腹に,自分が虐待されるようなことをしてしまったという罪悪感のようなものを子供自身も持っているわけです。そういう意味からすると,虐待を受けた子供たちというのは,ただ単に親を憎むという気持ちだけではなくて,逆に親を慕うという気持ちもあるようです。24時間365日虐待されているわけではなくて,虐待するという親御さんは逆に溺愛してしまうという部分の両方を持って子供を養育しているという場合も多いわけですから,虐待を受けた子供たちの虐待した親に対する思いというものには非常に複雑なものがあります。   そういう意味からすると,危険を回避するために一時親権をストップしながら離して,それに対して代行するというシステムを用いながらも,また短期間で−−短期間というのは今の状況からすると2年とか3年ぐらいということに多分なるのかもしれませんけれども,是非親子を再統合するというシステムを併せて,場合によっては親権の一部停止・一時停止ということを進めなければいけないのではないかということを現場としては非常に思っているところであります。   虐待の問題にもう少し触れさせていただきますと,幼少で入った子供たちは,今現実的には2歳,3歳,4歳ぐらいで虐待というケースで入ってくる子供たちが多いのですけれども,この子供たちは永久的に親子分離をするかというと,できれば3年とか,小学校に上がる時点とか,そういう機会を通じて家庭調整をしながら家庭復帰をする。家庭再統合という言葉もあるのですけれども,再統合するといった支援計画を立てるということになります。ここにも書いているように,数年かけて親子間の調整とか,親自身の生活環境を整えるということをしながら面会をする。それから,当施設などでは,逆に施設に親に泊まっていただいて親子が一緒に生活する中で,虐待をしなくて済むような方法を一緒にトレーニングするということなども今始めています。そんないろいろなプログラムをやりながら是非再統合するといったことも積極的にやっていく必要があるのではないかと思ってはいます。   それから,小学校高学年ぐらいになると,なかなか難しくなってきたり,先ほど子供自身の意向をどこまで尊重するのかという話題もありましたけれども,高学年ぐらいになると,子供自身の意思もきちんと尊重もしながら計画を立てるということになります。   それから,中学・高校ぐらいになってきますと,親子再統合といってもなかなか難しかったり,中学・高校で逆に家庭でいろいろな問題があって入所した子供たちというのは,それからまた再統合するというのは難しくて,その年になりますと,一人一人の自立をきちんと高めていくということで,場合によっては,もう親は当てにするなという言葉はいけないかもしれないのですけれども,親を当てにせずに自分ひとりで自立するということを目指そうといったことも含めて,子供たちの自立を促すという取組もやっているところであります。   でも,中には,虐待を受けた子供たちの自立というのはなかなか困難で,私のところにもいますけれども,このまま生きていてもどうしようもないのでということで,リストカットなどもして,自殺願望を持っている子供たちもたくさんいます。そういうことでは自立はなかなか困難ということで,自立援助ホームとか,場合によっては入院してもらったりということで,今日現在うちの二葉学園でも二人ほど,精神科のほうに入院している子供たちもいるわけです。それだけ非常に深刻な虐待の場合は,一生ずっと引きずってしまうということでありますので,ここにも書いたように,早目にきちんと対応するシステムを採らないと,もう心も体もぼろぼろになって高学年で来てしまうと,心的外傷とか,そういうところはなかなか治らないということになります。そういう意味からすると,ここの話題からは少しずれるかもしれないのですけれども,予防という部分に相当力を入れていかないとということを現場の中では非常に感じているところであります。   二番目のところは,別紙を参照していただきたいと思います。   三番目のところは,子供が18歳に達するなどして施設を出た後,施設との関係はどうしていますかというテーマをいただきました。これについては,18歳,19歳で退園するということになるのですけれども,なかなか難しい子供たちが多いものですから,19歳で退園する子供たちも多いです。定時制高校には4年行かなければいけないという状況から,19歳で退園する子供たちもいます。この年までいる子供たちというのは,比較的施設生活が長くなる子供たちが多いです。下手をすると3歳〜4歳ぐらいから施設にずっといるという子供たちも中にはいるわけですから,施設に対してふるさと的な意識というか,我が家的な意識という部分があって,卒退園後もしょっちゅう連絡してきたり,月末になると,「もう食べる物がなくなったから何か食べる物ないか。近くにやってきたから」という子供たちも中にはいます。昔は,施設が割と厳しい時代は,「こんな施設,一日でも早く出たい」という子供たちが割と多かったような気がしますけれども,最近は施設が割と一人一人の人権を尊重しながらやれるシステムに変わってきている中で,「一日でも長くこの施設にいたい」という子供たちも割といて,「早く出たほうがいいよ」と言うのだけれども,なかなか社会的に自立できないような,これは一般的な家庭と同じような感じになってきているのかもしれないですけれども,そんな子供たちも非常に多くなってきています。   二葉学園では,以前は卒退園後2年間はアフターケア担当をきちんと決めて,最後に担当していた職員がアフターケアに当たるということになるのですけれども,東京都の児童養護施設では,「サービス推進費」という形で,東京都の単独補助ですけれども,1人当たり,途中退園児には年間約6万5,000円,それから18歳で出た子供たちには約10万円のアフターケア加算がされます。それは3年間補助しますということであって,卒退園後3年間はきちんと個別支援計画を立てて卒退園後の支援に当たろうということで今進めております。   内容としては,一番多いのが,今虐待を受けた子供たちが非常に多いものですから,人間関係がうまくいかないというケースが非常にたくさんあります。ですので,会社に入っても,それから職場に入っても,対人関係がなかなかうまくいかないということで,その対人関係の在り方のことで割と最近は相談があります。以前は,「お金がないから,園長,お金を貸してよ」というケースが非常に多かったのですけれども,最近はどちらかというと,対人関係能力が十分育たずに18歳になって卒園してしまって,それでつまずくということが非常に多い状況です。その他,家族相談,病気相談,住宅相談,それから冠婚葬祭等々も非常にあります。本当は,施設をふるさと的に思っている子供たちですので,ずっといつまでも見たいということはあるのですけれども,職員は目の前の子供たちに追われて,アフターケアまで手が回らずに,実際は勤務外とか公休日というところでアフターケアに奔走しているというのが現状であります。そんな状況を少し御報告できればと思います。   次に,6ページに書いているとおり,虐待を過度に受けたケース,それから人間関係がうまくいかずに生活につまずいて,18歳から20歳,22歳ぐらいで,以前に施設にいたときからもそういう要素を持っている子供たちがいるのですけれども,精神疾患を抱えてしまうという卒業生も最近は非常に多いです。ですから,下手をすると,卒退園後20年後,30年後まで面倒を見るということで,二葉学園でも,学園の周りにそういう卒園生を住まわせて,私も今何人か面倒を見ていますけれども,生活保護を受給させて,ずっとかかわりを持っているというケースもあるところであります。そんなことを少し分かっていただけるといいかなと思って書きました。   四番目にいきたいと思います。子供が施設を出た後に,子を支援するために施設として更にやりたいことがあるかということ,それができないとしたら,その支障となっているものは何ですかということであります。これは上にも書いたように,必要なものは,家庭再統合後の見守り,それからいろいろな機関がまたかかわることになるのですけれども,児童相談所ではアフターケアという部分はちょっと難しいという現実がある中で,そこで育った子供たちのいる施設が中心になってアフターケアを行っていくということになるわけですから,それをやるシステムをつくらないといけないのではないかということが,私たちとしては切実な願いとして持っているところであります。   それから,児童福祉法が18歳までということになっているのですけれども,先ほども言ったように,虐待を受けている子供が18歳で自立することはなかなか難しいということになります。ですので,出ていってからのアフターケアという部分に相当力を注がなければいけないだろうと思っております。   それから,割と孤立するという子供もいて,孤立しないという部分のシステムづくりとか,フラットホームと書きましたけれども,これは卒園生たちがまた戻ってこられるようなホームというものを今全国的に五つぐらいやっておりますけれども,卒園生が困ったときに卒園生自身が相談に乗ったりということ,これも非常に有効だと思います。こんなシステムを今非常にやっているというところであります。   それから,親から虐待を受けている子供や,親がいても今後支援の希望が非常に薄いという子供たちがいますから,先ほどから何回か言っていますけれども,職員が定着せずに辞めてしまうと,卒園生が施設に帰って来たときに職員はだれも知らないという施設では,ふるさと的にはならないわけです。職員が長くかかわってあげられるような状況づくりをしていく必要があるのではないかということを考えています。東京でも,施設間で非常に差が出ています。平均勤続年数が20年という施設と4年という施設があります。その4年と20年では,サービスの違いが大きくなって出てくると思うのです。5年後に行ったらもう知っている職員はほとんどいないということであればどうしようもないわけですから,そういうずっとかかわれるようなシステムづくり,特に親のいない子供たちとか虐待を過度に受けた子供たちを長期的に支援するシステムづくりということを私たち自身もしていかなければいけないと思いますけれども,そんなことを保障するための制度づくりが求められているのではないかと思います。   それから,未成年後見人制度のことを施設のほうではどう考えるかということでいただきました。基本的には,今は未成年後見人制度というのは,多額な財産管理が必要な場合には,施設長が未成年後見人になって,亡くなった親の多額な保険金をその子が成人するまで管理しようというケースはあるのですけれども,身上監護のところまで未成年後見を付けるということは,実態的にはやっていないです。でも,ここで御指摘のように,今後,親権を一部停止したり一時停止したところで,施設長が後見人になるとか,施設長が親権の代行をするとか,それから施設長だけでは個人の責任という部分が非常に重くなるのではないかということで,先ほど参考資料9−3の一番後ろのところにアンケートを付けましたけれども,施設長一人だと大変なので,法人として未成年後見人になると,そこの責任という部分が少し緩和されるのではないかということ,それから法人というのは逆に責任所在が明確にならないのではないかということとか,賛否両論は出ていますけれども,大半の意見ということであれば,この時点では,その法人が未成年後見人になるということについては,賛成の意見が多いような気がしております。   そういうことで,私どもも先般,里親の人たちと意見交換をした際にも,全国里親会の人たちの意見としても,施設よりも里親さんというのは親とバッティングしてしまうという部分が大きいわけですから,里親さん一人にかかる責任は非常に大きくなるわけですから,「武藤さんが法制審議会のヒアリングに行くのであれば,是非この際,里親のほうはこの未成年後見人制度というものをもっと利用しやすくして,法人などが未成年後見人を受けて,そこで今里親に委託している子供たちの後見人にもなってもらうという制度をつくるように発言してください」と言われて来ています。そういうことで,未成年後見人制度は現実的には使いづらいという部分もあるようなので,未成年後見人制度をもう少し使いやすくするということが必要のような気がしております。   最後に7ページの下のところです。一番困るケースとしては,虐待による同意入所ケースにおいて,資料に出したように,日常的に非常にいろいろと親が介入してきて困るという部分があって,親権を一部停止・一時停止する部分を明確にして,施設入所中は最善の子供の利益を担保できるような制度を今回つくっていただきたいと思っているところです。虐待を受けた子供は親権の一部停止・一時停止の制度を採るということに関しては,ここに書いているとおり,場合によっては,児童相談所長とか施設長,それから第三者の後見人なども併せて,非常に重篤なケースというか,大変なケースについては,共同親権のような形で持つという位置付けということができないのかどうかということを是非この部会でも協議していただければと思っているところであります。   そういうことで,是非今回,親権についても,虐待についても,非常に複雑な要素を持っていますので,スパッとこうですとはなかなか言えなくて,賛否両論の意見が現場でもあるところであります。しかし,児童養護施設の現場で言いますと,家族,それから親,子供,子育てを見てみますと,社会が着実に変化しているという実感を私自身は非常に感じているところです。ですので,今回の法改正の一定の論議の際にこういう私たちの現場の実態も是非参考にしていただいて,本当に子供一人一人の人権が尊重されるような社会づくりをしていきたいと私自身も思っていますし,是非そういう法体制,それから制度づくりに着手していただければと思っています。少し長くなってしまいましたけれども,以上です。 ○大村部会長代理 どうもありがとうございました。それでは,御質問等をどうぞ。 ○小池幹事 どうもありがとうございました。ヒアリング事項が6個ほどありまして,そのうちの三番目から五番目までは基本的に自立支援,18歳を超えて社会の中で自立していくというときに,親権者が積極的に余計なことをするというか,妨害的なことをするというケースはお聞きしている限りではどうも余りなくて,何もしないのだけれども,一応親権の下に置かれている子供が社会の中で自立していこうとすると,それこそ親権者の積極的な支援がないと駄目なんだと。しかし,それをやってくれない。そのときに養護施設のほうで何らかの形でその代替的な活動ができないのかという問題点がここまでの議論では出てきたのですが,自立支援のところでは,基本的に親権者が邪魔するというよりは,積極的にきちんと関与してくれないというほうが問題になってくるのでしょうか。 ○武藤参考人 本来,子供は年齢によって成長していきます。親御さんそのものは,今日出ているような様々な課題をいっぱい抱えて,その生活が著しく改善できるかとなると,なかなかそうはいかないという実態があります。ですので,子供は自立していくのですけれども,親が逆にいってしまうと,ここにも書いているのですけれども,成人するころになると,今度は子供を当てにするということになるのです。そういう意味において,私たちの考え方からすると,これは自立する力を持っている子供ということで今私は話をしているのですけれども,そういう子供たちは,子供自身が自立していき,親の関与をなるべく避けるような取組をある程度していくということになるのです。逆の意味で,子供がなかなか自立できないという場合には,先ほども言ったように,施設とか,様々な社会資源を使って自立を援助するというシステムをつくるということになります。親御さんとの関係というのは付けてはいきますけれども,子供たちが成長していくわけですから,私たちの取組としては,子供も一人の成人者,親も成人者という形で,それぞれが寄り添ってともに自立できないということではなくて,それぞれが別々に自立できるような形で支援するというのが原則なのではないかと思っているのです。質問の意図に適切に答えているのかどうか,ちょっと心配なのですけれども。 ○大村部会長代理 よろしいですか,小池さん。   そのほか,いかがでしょうか。 ○水野委員 8ページの共同親権と書かれたところについてお伺いいたします。「児童相談所長と施設長や理事長が共同親権を持つことも位置付けたほうがよい」と書いておられます。それから,「未成年後見人が個人としての賠償責任を保障するシステムも同時につくるべきであろう」という御指摘があるのですが,そのイメージとして持っていらっしゃるものをもう少し言葉を足して説明していただければと思います。私の想像ですが,御心配になっておられるのは,一つは,賠償責任のことでしょうか,つまり子供が何か事故を起こしてしまったようなときの責任を問うことは,施設であれ,個人であれ,このような大変なお仕事をしていらっしゃるのに,いかがなものだろうかという観点がおありになるのではないでしょうか。そういう意味での共同親権という提案であれば,つまり賠償責任を公的な負担にしたいという理由の提案であれば,例えば何らかの公的な後見人,県であれ,公共団体であれ,国であれ,結構だと思うのですが,そのような主体が法的な責任主体として公的な後見を負って,そして具体的な実施主体としては施設長にそれをゆだねるという形で設計して,解決することができます。それともそうではないような形の共同親権というものを何かお考えであるのか。この点について御教示いただければと思います。 ○武藤参考人 賠償責任を負うことは結構あるのです。子供が在園しているときと,卒園,卒業した後の問題とか,そういうことは少しケース・バイ・ケースでいろいろあるのですけれども,特に在園している間というのは,措置制度という形で,公共の都道府県が責任を持つんだという制度にのっとってやるわけですから,何かあった場合には,施設の賠償責任保険等々に原則的には入っていますので,それで対応します。ただし,それについても,今回うちなどでもあるのですけれども,小さい子供たちとか,そういう能力がないという子供たちについては,それはすべて賠償責任保険等々で対応できるけれども,中学生や高校生になると,本人の責任のようなものが出てきて,そこに対しての補償というのは親というわけにはいかないので,そこのところは施設が持ち出しで出さなければいけなかったりということも非常に出てくるわけです。ですので,今の責任制度といったところについても少し改善の余地があるかなと思うところであります。   それからもう一点は,卒業後の保証人とか,そういうものは親権代行ということになるのかどうかは分からないですけれども,保証人になるというケースも実態的にはあるわけです。そういうところで賠償責任といったものを問われて,今日も実例として書いていますけれども,事故を起こして,2,000万円を要求されたという施設長さんの悲痛な願いのようなことが私のところに飛び込んできたということも実態的にはあります。ですので,保証人と親権というのはちょっと意味合いが違うのかもしれないですけれども,先ほど言ったように,親も非常にリスクを抱えているし,子供も抱えているというケースについては,一人だけで親権代行ということをできるかとなると,施設長さんたちからいろいろなアンケートで意見が上がってきているように,それはちょっと重過ぎるという部分があって,そういう意味からすると,都道府県や児童相談所長などが共同で持ちながら,1年に1回でもその親権の代行がきちんとできているのかどうかということをチェックする機関のことなども併せて検討するということも考え方によってはできないのかということで提案させていただいていて,是非,逆にこちらのほうが少しお知恵を借りたいと思っているところなのです。 ○大村部会長代理 ありがとうございました。よろしいでしょうか。   そのほか,いかがでしょうか。 ○千正関係官 ありがとうございました。一点お聞きしたいのは,施設長個人が未成年後見人となる場合は,その方が,例えば転勤したり,あるいは定年退職のような形で施設を退職されても,子供との関係ができている施設長さんが未成年後見人であり続けるということになると思うのですけれども,法人が未成年後見人の主体となった場合でも,実際に未成年後見人の実務というのは,子供とのかかわりを含めて,信頼関係のある施設長さんのような方がやられるのではないかと想像しているのです。そうなった場合に,施設長さんが例えば転勤あるいは退職されたりすると,その法人の職員ではなくなるんだと思うのですが,その場合にまた別の職員の方が対応するということが現実的に可能なのかどうかというところをちょっとお聞きしたいと。 ○武藤参考人 施設長というのは,個人でやるのではなくて,その役割として受けているわけですから,当然,施設長さんが代わるということであれば,そこの施設の責任というものを新しい施設長さんが持たなければいけないわけですから,そこに在園する子供,それから卒園した子供に対しては,辞めた施設長が責任を持つということには多分ならないと思います。だから,変更というか,そういうことも含めて手続を採るということになるのではないか。そういう意味からすると,職責で受けるわけで,個人的に受けることにはなりません。実質的にはずっと長くその子の後見人のような形になっていくと,成年後見人ということで,未成年後見人だけではなくて,ずっと見ていくという部分も実際には出てくるかもしれないですけれども,親権代行権といいますか,未成年後見人を受けるということになるのではないかと思います。そうしないと,多分受け切れないのではないかと思います。 ○大村部会長代理 どうもありがとうございました。   それでは,最後になりますけれども,○○参考人に御報告をお願いしたいと存じます。よろしくお願いいたします。 ○○○参考人 ○○でございます。私は今,○○○○(以下Aと表記する。)というところに属して仕事をしております。私は,現在,未成年後見人をやっておりますので,今日は,そのケースの話などをしながら,どんな仕事をしているのかということを御報告しようと思います。ケースの話をしますので,かなり生の話をしますので,それはこの部屋限りと御理解ください。   (個別の事例の紹介のため,省略)   私がやっていることといいますと,二つ目の問にもなりますけれども,この子が入所している施設の先生と児童相談所のソーシャルワーカー,時には心理判定員,それから私と,おじいちゃん,おばあちゃんも入れて,小さな会議を持っています。これは,おじいちゃん,おばあちゃんが「家へ連れていかせろ」ということを求めてくるのです。それから,「泊まりに来させろ」とか,「子供を連れて旅行に行かせろ」とかと,いろいろなリクエストが実はあるのですけれども,ちょっと危ないので,私としては駄目だと言っているところです。本人が大きくなって,いきさつ,事情が分かるようになれば,おじいちゃん,おばあちゃんの家に行くということもあろうかと思います。当初は,おじいちゃん,おばあちゃんは割と元気でして,「私の家に連れていかせろ」とか,時には「養子にさせろ」ということも言っていたのですが,最近はそれを言わなくなりました。   質問の中に,負担がどれぐらいありますかということがありますけれども,具体的な額を言いますと,私は平均月に1回面会に行っていますが,行くたびに絵本を買っていきます。それを子供と二人で読んでおりまして,交通費が2,000円弱,絵本が1冊2,000円ぐらいでしょうか,合わせて4,000円ぐらい掛かっています。それが今私の負担ではありますけれども,報酬はいただいておりますので,その中から負担しているところであります。あと,誕生日あるいはクリスマスには必ずカードを送るようにしています。それを彼は楽しみにしています。年賀状はよこすのですが,ちょっと読めない字ではありますが,「ありがとう」とお礼は言うことにしています。   財産管理は,事実上通帳が主でありまして,既に現金で約○○万円あります。ただ,普通預金で入れておくだけでは芸がありませんので,最近定期預金に一部を移して,少しでも余計に利息が取れるようにしたところであります。   一方,実母がおります。実母は,家庭状況が複雑でありまして,この子をすぐに引き取れるという状況にはとてもないということです。当初,最初の1年,2年ぐらいは月1回面会に来ていたのですが,最近は来なくなってしまいました。私が時々電話をかけて,「土産なんて何も要らないのだから,あなたが顔を出して彼を抱きしめてやるだけで意味があるのだから,行きなさい」と言っているのですが,言を左右にして,いろいろ理由を述べ立てて,サボっている感じがいたします。   三番目の問に移ります。「具体的に,どのような場合に未成年後見人が必要であるとお考えですか」というところですが,実親はいるのだけれども,親権を持っていない状況で,しかも当分の間,親権を回復するのが難しそうだという場合には,未成年後見人がいたほうがとても都合がいいのかなとは思われます。もう一つは,相当の財産を持っているか,あるいは将来相当の財産を持つ可能性のあるような場合にも,未成年後見人がいたほうがよかろうかと思います。それからもう一つは,これは私の大変エモーショナルな意見ですが,季節の節目に帰住するところが全然ないような子供には未成年後見人がいたほうがいいのかなと思っています。児童養護施設に入っている子供のかなりは,夏休みとかお正月は実の親のところへ帰るとか,おじいちゃん,おばあちゃんのところへ帰るとか,言わばそういう年中行事,楽しみな行事があるわけですけれども,この子にはそれがありません。帰る家がありません。おじいちゃん,おばあちゃんのところにはとても帰せない。実母もとても子供を迎えられない。そうすると,この子だけ一年じゅう365日,いつも施設にいるわけです。この子だけぽつんと大事な夏休みとか年末年始にいるわけで,そういうときに私が行ったり,声を掛けたり,年賀状を出したりといったことをすることに意味はあるのかなとは思っているところであります。   その次の「現在,未成年後見人については,未成年後見人となる者を確保するのは困難である」というところがありますけれども,この意見については私は,確かにそういう難しさはあろうかと思います。未成年後見人には,それなりの経験といいましょうか,技量,見識あるいは社会的な信頼度のある者を選任しないことには,子供の順調な成長も確保できないかなと思っております。それから,子供が成長するに従って何らかの困難事態が発生することはあり得るわけで,それに対応する覚悟も必要だろうと思います。   私は,これが未成年後見の2件目なのですが,1件目は○歳で親のいない子の未成年後見人になりました。この子はもう20歳になりましたので,未成年後見人はやっておりませんけれども,窃盗をしたことがありました。当然,家庭裁判所に呼ばれて,調査官調査を受けまして,その後審判がありました。私は保護者でありますので,少年に付き添って裁判所に行って,調査官調査を受け,審判を受け,保護観察になりましたけれども,保護観察になってからもしばらく,そういう保護観察所とのやり取りとか保護司との面会などもしっかりやれよと言っておりました。それから,その子は交通事故を起こしています。人身事故の被害者側の立場ではあったのですが,相手側のドライバーに付いた弁護士が,車の修理代を払えという手紙を子供によこしたのです。私は警察で事故証明書を取ってみたのですが,その子は第二当事者ということになっていました。第二当事者というのは,一般論的に言うと被害者側という感じがいたします。私はその弁護士あてに,「私は未成年後見人である。修理代を払えというのはいかなる理由なのか。それを言うのならば,この少年の正当なる治療費,それから働いているのであるから損害賠償,慰謝料,得べかりし利益をきちんと払え。必要があれば,私はあなたの事務所に行きますから,期日を指定しなさい」といったことをかなり厳しい感じで書いた手紙を出しましたら,それ以後ぱたっと一切連絡が来なくなりました。つまり,子供が成長するに従って様々な出来事,事件などが起こる可能性はあるだろうと思うのですが,そういうときに未成年後見人が慌てず騒がず一つ一つ対応していくだけの腹をくくるといいましょうか,覚悟,それは多分必要なのだろうと思っております。   それから,その子には,親族がいまして,「この子はろくに働かない。稼ぎも悪い。金遣いが荒い。とんでもない」ということで,家庭裁判所に対して親族間紛争の調停を申し立てたことがありました。私は要は親がわりですから,調停に出席いたしました。家庭裁判所の調査官も裁判官もみんな困っておられたようですけれども,1回だけで何とか調停を成立させておしまいにしていただきました。   その次の問になりますが,「現在,自然人だけではなく法人も未成年後見人に選任できるようにしてはどうかという議論がありますが」というところであります。私の経験から申し上げて,この法人を後見人に選任できるようにしてはという議論に対しては,賛成できますし,むしろそれには合理性があるだろうと思います。ただ,それ相応の経験,技量あるいは見識あるいは社会的な信頼度のある団体であったほうがもちろんよいであろうと思います。今考えているのは,私がAに属しておりまして,そこから声が掛かったということがありますし,あと考えられる団体としては,里親さんの団体などがあり得るかと思います。それは,里親さんが家庭に引き取って後見人になるのではなくて,子供は例えば施設にいてもいいから,里親さんが外部からの未成年後見人になるという選択肢もあろうかと考えております。ただ,いずれにしても,団体というのは,あの団体,この団体とぱっと思い付くものは実は少ないのです。ですから,そういう優れた未成年後見人のできる人を抱えた団体を探すということもありましょうし,あるいは信頼を置ける団体をつくるということもあろうかと思いますけれども,それはかなり難しいかと思っています。成年後見の場合には,今かなりいろいろな団体が手を挙げておりますけれども,未成年後見の場合にはそれはなかなか難しいなと,はたと考えが止まってしまうところであります。   それから,最後の問でありますけれども,「現在,複数の未成年後見人を選任できるようにしてはどうかという議論がありますが」というところです。これは私は賛成できます。複数でもよいのではなかろうかと考えます。複数にした場合は,身上監護や財産管理の役割分担を決めておくことが考えられると思います。役割を分担すれば,そう大きな齟齬が生じる可能性は少ないだろうと見ています。複数にした場合,財産管理,身上監護とはまた別に,男女の組合せにして,父親ロール,母親ロールといったものを担うことも考えられるのかなと実は一現場屋としては考えているところです。前の問いとも関連しますけれども,法人から派遣されている場合に複数ということになれば,そのケースの困難にぶち当たったとき,あるいは何か齟齬が生じたときには,その二人のみならず,その団体が責任を持って,ケースカンファレンスなどをしっかりやって,いい対応を生み出すということもできようかなとは思っているところであります。   私の申し上げることは,大変雑駁ではありましたけれども,大体以上のようなところであります。 ○大村部会長代理 それでは御質問等を伺います。 ○吉田委員 詳しいお話をどうもありがとうございました。一つは,聞き落としたかもしれないのですけれども,今回未成年後見人に選任されたという場合の申立人はどなたでしたか,もう一度お教えいただければと思います。   それから,報酬があるということですけれども,その報酬の出所,どこから出ているのかという,この2点をまずお願いします。 ○○○参考人 一つ目の未成年後見人事件の選任申立人は,職務代行者を命ぜられた弁護士さんです。その方が,「僕はもう未成年後見人にはこのままなれないから」ということで,未成年後見人の選任の申立てをなさいました。   それから,報酬の出所は,この少年の収入というか,この少年の財産から頂いております。 ○吉田委員 代行者であった弁護士の方とAとは,もともとつながりというか,そういう形でお願いできるような関係があったということでしょうか。 ○○○参考人 ありません。 ○吉田委員 それでは,どこかで弁護士さんが知られたのでしょうか。 ○○○参考人 そのいきさつは,私も実は詳細はよく分からないのですが,多分,適当な候補者がいないというので,家庭裁判所がAに声を掛けたのだろうと思います。Aから私に電話が一本あって,「未成年後見人をお願いするかもしれないから」と言われました。その後,数日もたたずに,家庭裁判所から未成年後見人を引き受けてくれないかという話がありました。そんないきさつでございます。 ○吉田委員 ありがとうございます。 ○大村部会長代理 よろしいですか。ほかにいかがでございましょうか。 ○平湯委員 いろいろなお骨折りに大変感銘しております。お話の中で,未成年後見人を引き受ける人はそれなりの覚悟が必要だと,全くそのとおりだと思うのですが,現実になり手がなかなかいなくて,その原因の中に,御指摘もあったと思いますが,報酬問題というのが少なからずあって,実費も出ないという,出どころがない子供がたくさんいるわけですが,そういう子供にも先ほどのお話のように,四季に一回も施設のほかに暮らすところがない子供,恐らくそれはほとんど資産は何もない子供であるとするならば,そういう子供のためにも後見人を付けてやるだけの国としての覚悟も必要かと思うわけです。その辺の制度設計として,特に報酬ですが,報酬が問題のすべてでないことは承知しておりますけれども,そこも含めた制度設計について,お考えをお聞かせいただきたいと思います。 ○○○参考人 制度設計と言われると大変な問題で,実は私はそこまで考えてはいないのですが,資産・財産の全くない子供はたくさんいます。そういう子供の未成年後見人になったら,今では報酬ゼロでありますので,みんなしり込みしてしまって,断るなどという人が多分ぽろぽろ出てきているのではなかろうかと思います。したがって,そういう問題をリカバリーするためには,何らかの公的な支援がなければ,多分制度は動かないだろうと思っています。それは国が出すのか,地方公共団体が出すのか,あるいは基金のような形で何かをつくってそこから出すのか,それは分かりませんけれども,何らかの形の公的あるいは半公的な助成というのは必要だろうと思います。少なくとも交通費の実費とか,最小限の日当とか,そういうものは是非確保したいと思います。 ○平湯委員 関連して一つ。昨今の子ども手当ですけれども,○○参考人の場合には,それはどなたが受け取っておられますか。 ○○○参考人 施設が受け取っています。私個人は受け取っておりません。 ○平湯委員 これは参考意見としてお聞きしたいのですけれども,施設のほうでは子ども手当を残すわけにはいかない指導になっている。ただ,恐らくこれは,押し付けではないのですけれども,後見人の立場からいっても,将来の自立のために蓄えておきたいというお気持ちでないかと勝手に推測するのですけれども,例えばそういう意味での財産管理とかということも,後見人が付いた場合にはきちんとスムーズにできるのではないか。そうすると,これは子ども手当の趣旨が問題になるかもしれませんけれども,そういうものも含めた,つまり子どもの自立のために現在管理・保管しておいたほうがいい資産と評価できるのであれば,その子ども手当の管理のためにも,後見人というのはもっと広く,すべからく子供たちに必要であるということになるかと思いますが,御意見はいかがでしょうか。 ○○○参考人 子ども手当は使い切れというのが厚生労働省の御指示でございまして,貯金などをしてはならないということです。だから,さてどうしようかと実は困っています。これから施設と相談して,施設全体で何か買い物をするのか,子供たちのためになるものをどうするのか,多分施設の考えもあるだろうと思いますが,話をしたことはまだ全くありません。明日行きますので,そのときにちょっと相談しようかなと実は考えております。   武藤先生のところも,多分子ども手当をどうしようかということでお悩みかと存じます。 ○武藤参考人 子ども手当とは言わないです。特別支援事業という形で,施設にいる子供たちで親のいない子供たちとか,28条ケースで入っている子供たちについては,今年だけですけれども,子ども手当と同じような金額で出しましょうと。来年以降についてはまだ決まっていないようですけれども,とにかく特別支援金という形で出しますよと。これについても,施設としても同じで,親のいない子供たちで虐待を受けた子供たちというのは,今お金が必要というよりも,どちらかというと,これから社会に出るときに,大学へ行きたいとか,運転免許を取りたいとか,そういうときに普通の親だったら出すのではないかというまとまったお金がないわけです。そういう意味からすると,きちんと貯金もできて,その子が最も必要とするときに使えるということで,そのお金をきちんと後見人なら後見人が管理するという形で進めたほうがいいのではないかと思います。余談になりますけれども,この前も民主党の議員の方にも,そういうことでお願いしたいということで話をしたところです。 ○大村部会長代理 平湯委員,よろしいですか。   それでは,今既に,武藤参考人のほうにマイクが回りましたが,これで4人の方々からお話を頂きました。更に皆さんのほうから質問したい点もあろうかと思いますので,どなたにということでお名前を特定された上で4人の方々に御質問いただければと思いますが,いかがでしょうか。 ○垣内幹事 私は,今の最後の○○参考人のほうに質問させていただきたいのですけれども,大変詳しい御紹介をいただきまして誠にありがとうございました。○○さんは,Aというところに属して仕事をしていらっしゃるという御紹介でありましたけれども,Aというところでは,○○さんのほかにもこういった形で未成年後見人を引き受けておられる方がいらっしゃるのでしょうか。 ○○○参考人 おります。Aの東京事務所の場合には,成年後見と未成年後見を合わせて今40ケースを動かしていると思います。未成年後見は少ないのですが,それでも今3件ぐらいは動かしていると思います。ただ,未成年後見は,今の法律では飽くまで個人が受けるもので,団体ではありませんので,Aが会員に紹介したという形であって,飽くまですべて個人が引き受けてやっているというところです。   メンバーの中には未成年後見人をできる能力を持った有能な人がたくさんおりますので,人材の給源としては特に不安は持っていないところであります。 ○垣内幹事 どうもありがとうございます。 ○大村部会長代理 ほかにいかがでございましょうか。 ○吉田委員 武藤参考人にお伺いしたいのですが,先ほどの未成年後見と関連するのですが,施設に入所している子供で,アルバイトのお金がかなりたまっているとか,今の○○参考人のケースのように,親御さんの事故又は自分の事故でお金があるという場合に,未成年後見人が選ばれていない場合の財産管理はどのように行われているのか,お話しいただければと思います。 ○武藤参考人 アルバイトで,例えば私が担当した中で一番ためた子は,200万円ぐらいためています。この子は定時制高校へ行っていまして,4年間びっしり働いて,趣味などに使ったりしながらやっていますけれども,常に通帳をつくりまして,その管理は職員がやるということで本人にきちんと了解を得て管理を行いました。二葉学園ではそういうアルバイトをしたときにはルールがありまして,半額は将来のためにきちんと貯金する,半額は自分たちの趣味のために使っていいというルールをある程度つくりまして,了解の下に財産管理をする。必要になったら,小遣いではこういうことには使えるけれども,アルバイト代はこういうことに使おうというアルバイト規定のようなものを施設の中でつくりながら,それでお互いに了承を得てやるという状況です。東京都による年に1回監査がありまして,適切にお金が管理されているか査察指導検査のときに,それもアルバイトでこういう形で本人が使っています,この通帳にこれだけ管理していますということを報告するという形で進めているところです。   それから,親の事故等で保険金等々,これが多額になりますと,先ほど私が話をしたように,後見人設定をきちんとして,それは家裁などにも報告しながら進めるということになります。ただ,100万円とか200万円とかはどうするかということに対しては,今は全く親がいないという子供たちに関しては,先ほど言ったようなアルバイト代と同じような形で,本人にもきちんと話をしながら通帳等により財産管理をするということになります。親がいる場合には,親のところに,これはきちんとここで管理しますということで,場合によっては,私が担当したケースもあったのですけれども,このお金は施設長がこの子のためにこういう場合に使いますということを親ときちんと文書で取り交わしながら,それはこう使っていますということを親に報告するということにします。そんな形でやっています。それでうまくいかなくてトラブルになったケースはうちではないのですけれども,この間アンケートをとると,そうやってちょっとトラブルになっているケースで,親が子供の金をよこせということもあるようです。 ○大村部会長代理 ほかにいかがでございましょうか。 ○水野委員 どうもありがとうございました。○○参考人にお伺いするのがいいのか,あるいは武藤参考人にお伺いするのがいいのか,分かりませんが,私の疑問は,どうすれば必要な子供に確実に援助を与えられるかということです。今,○○参考人のお話を伺っておりまして,実に奇跡的に○○参考人にたどり着いたケースだと思います。すり抜け,すり抜け,後見人にたどり着いたというケースなわけです。条件が一つでも違えば,○○参考人にはたどり着けず,虐待ないし搾取されていたケースでした。   面接交渉が非常に難しいケースはDVなどが絡んでいるケースで,DVから妻子が逃げ出すと,離婚前はもちろんのこと,たとえ離婚が成立しても元夫が復縁を迫るために,子供の面接交渉を道具にして交渉する事が少なくありません。FPICという団体が,そういう面接交渉の立ち会い援助をしていらっしゃるので,伺ったことがあるのですけれども,細々と精いっぱいやっているけれども,こういうボランティア的な団体で深刻なケースにどこまで対応し続けることができるのか,非常に危惧していると言っていらっしゃいました。   つまり,この審議会のテーマなわけですが,実際には暴力的で,子供にとっても,それから配偶者にとっても同じように問題のある親が子にかかわっているパターンであったときに,いかにその親から子供を守るかという観点から考えていきますと,まず本当は満遍なく,そういう問題があるようなケースについて,社会が介入して援助することが必要です。そして親が虐待親であるときは,その親権を停止して,一番適切な後見人を選択するような枠組みができる必要があると思うのです。親が死んで,親族が後見人に就任すると申し出てくるときも,後見人に採用される段階で,本当は児童福祉の公的なネットワークが子の状況を察知して裁判所に情報を提供していて,この親族が後見人になっては危ないと,きちんと子供を守れるプロフェッショナルな人を後見人に付けなくてはいけないといった情報が裁判所に行くようなシステムになっていないといけなかったろうと思います。そういう仕組みに持っていくためには,現在の状況ですと,これは武藤参考人に伺ったほうがいいのかもしれないのですが,例えば児相がこれをうまく把握していて,家庭裁判所にきちんと連絡するといった制度設計は可能だと思われますでしょうか。 ○○○参考人 ものすごく難しい問題で,一現場屋の私は理路整然と答えられなくて申し訳ないのですが,後見人選任事件については,家庭裁判所では恐らく調査官調査も入っているだろうと推測しています。しかし,子供の親権者がいないという状態で,後見人を選任する段階で,その後見人が将来暴力を振るうおそれがあるか,そこまでは今の仕組みの中では分からないだろうと思うのです。この後見人が将来暴力を振るわず,虐待せず,よき後見人になるや否やということを把握するのは,多分至難の業だろうと思います。   ですから,こういうケースが発生したときによい後見人を派遣できるような仕組みは多分必要だとは思いますが,私はそこまでしか意見を申し上げられなくて申し訳ないのですが,武藤先生,いかがでございますか。 ○武藤参考人 非常に多問題で重篤なケースというものは,下手をすると,世代間で2代,3代ぐらいつながっているような多問題を抱えた家族問題も中にはあるわけです。虐待の発見のところもそうなのですけれども,そういう重篤なケースについては,今まで何らかの形で児童相談所がかかわっていると思うのです。非常に重篤なケースというのは,子供の視点からとらえると,何らかの形で児童相談所等がかかわっているケースが多い。児童相談所が一定のアセスメントではないですけれども,この問題についてはどういう度合いの問題なのかという一定の診断をするわけです。そのときに,法的関与も含めてですけれども,親の親権が本当に適切なのかどうかということについて,これは難しいということであれば,先ほどから何回も言っているように,子供の最善の利益という観点からすると,将来的なことも含めてですけれども,この子供にはこういう支援が必要だろうということが想定されるのであれば,場合によっては親権をストップしながら,それに代わるシステムをきちんと担保するということが必要なのではないか。そのためには,親の権利という部分が優先化してしまうと,どうしても−−これはすべてということではなくて,多問題のところだけ言っているわけですが,そういう部分からすると,司法の関与も含めてですけれども,子供の最善の状態を担保するためのシステムをつくっていくということが必要だと思うのです。そこのところで児童相談所はあるのだけれども,積極的に介入する権限が余りにもないところで,いろいろな問題が先送り,先送りされているといったことを私自身は感じているところです。   ここは豊岡委員のほうから児童相談所の観点で少し話をしていただけると,もう少しいいのかなと思います。 ○豊岡委員 児童相談所のほうから申し上げますと,○○参考人のケースで,どの時点で児童相談所のかかわりがあり得たのかという問題があると思うのですが,では,何も問題がないところで児童相談所がかかわれるかどうかというと,これは難しい部分はある。本人の相談意思,意欲ということで,児童相談所に来ていただけるなり,相談としてケースが上がってくれば,把握は可能ですけれども,そうでない方,例えば親御さんが亡くなられたケースをすべて児童相談所が把握しているかというと,そういうことではありませんので,かなり難しいと思う。制度を組むにしても,しっかりとこの点を見ていかないといけないといった印象です。 ○大村部会長代理 どうもありがとうございました。 ○森田関係官 柏女先生と武藤先生にお伺いしたいのですけれども,親権の制限の関係の議論の中でも,親子の再統合というか,家庭の再調整と柏女先生はおっしゃったかと思うのですけれども,その視点をどのように入れ込むかという話が一つあるかと思っております。それの関係で,お二方とも,裁判所の役割ということを一つのテーマにお話しいただいたと思います。その一つの現行法における場面として28条審判の制度があるということかと思います。そういう中で,武藤参考人のほうからは,むしろ虐待であることを明らかにした上で,その後の再調整の方向につなげたほうがいいのではないかといった御指摘もありました。他方で武藤参考人のほうからは,必ずしも親が明確な同意はせずに入所している子がいるということだと思いますけれども,ただそれは多分,御趣旨からすると,28条審判はせずに,意に反していないということで,明確な同意はないけれども,施設に入っているという形ではないかと思います。現状,例えば前回の会議で豊岡委員から御提供いただいたアンケート等によると,28条審判の事例は数%にも満たないような数かと思いますけれども,それを多いと評価するのか,少ないと評価するのかとか,そのこと自体がどうなのか,またその制度の中で今家庭裁判所がどのような役割を果たしており,どういうところが足りないのかというあたりについて,御感想をそれぞれ聞かせていただければと思います。 ○柏女参考人 考え方は二つあると思うのです。一つは,児童相談所の現場の中に,親と対立関係になってしまうということが,子供にとって,その後の家族再統合その他を考えたときに,よくないのではないかという考え方があって,なるべく親の同意を取りながら進めていきたいということが一つあるんだろうと思うのです。子供に親に対する悪いイメージを持たせたくないと考えたときに,それが結果的に28条を避けさせるという要因にはなっていると思うのです。ただ,そういう気持ちが逆に言えば,今お話があったように,親が虐待ということを完全に認識しないまま子供を施設へ入所させてしまうという問題をもたらしているということになるのだろうと思いますので,私自身は,東京都で28条の事例をたくさんやってきた経験から言えば,虐待であるということを親にもしっかりと分かっていただくために,それこそ裁判所のお白洲に入ってきていただいて,そしてしっかりとそれを伝えていただき,そうでないと思っているかもしれないけれども,裁判所としてはそう思っているので,もう一回子供と一緒に暮らせるように,児童相談所やそれ以外のところも応援するから,一緒に考えていけないかというやり方を採っていくほうが効果的なものが多いのではないかと思っています。そこにケアプランの可能性というものも見いだしたいと思っていますので,もう少し活用されてもいいのかなという思いはあります。 ○武藤参考人 私は,柏女先生と全く同じ意見です。ただ,入所する時点と入所後で結構,親のほうも,子供のほうも,親に対する思いとか,子供に対する思いとか,そういうところは意外と変化したりします。だから,子供の安定度でも親に対しての思いは変わってきたり,それから親のほうも,入れるときと入れた後とで状況がいろいろ変わってくると,子供への思いも変化するのです。だから,私たち専門職がその変化にどう向き合っていくのかということも非常に大事だと思います。総体的には,柏女先生がおっしゃるとおりです。 ○大村部会長代理 どうもありがとうございました。予定していた時刻になっておりますけれども,これだけは更に聞いておきたいという御質問がございましたら,どうぞ。 ○千正関係官 ○○参考人にお聞きしたいことが2点ございます。一点目は,差し支えない範囲で結構なのですけれども,未成年後見人の報酬というのは,だれがどういう手続で決めるのかということと,相場観のようなものがあれば,それも併せて教えていただきたい。   二つ目は,お聞きしたケースだと,そうなる段階では全く知らない子供の未成年後見人になるということだと思うのですけれども,そこについて何か特に支障とか,子供との関係性を築かなければいけないという部分で何か困難なことはあるのでしょうか。その2点をちょっとお願いします。 ○○○参考人 報酬については,報酬付与審判申立てを家庭裁判所にいたします。家庭裁判所が額を決めてくださいます。家庭裁判所がどういう筋立てというか,どういう根拠でどのようなプロセスでお決めになるのか,これは私は全く知りません。相場観というのは,よく分かりません。余りたくさん報酬を取るということは,子供の収入を減らすことになります。余り少ないと,今度は未成年後見人のモチベーションが下がってしまうということもあります。だから,私としては,最低限度,これ以上子供の財産を減らさないようなということで,あえてここで申しますけれども,私は月○○円下さいと家庭裁判所に申立てをしました。家庭裁判所はどういう考え方で決められたのかは分かりませんが,では○○円与えるという決定通知を下さいました。それで5年分頂いています。だから,相場観というのは多分ないのだろうと思うのです。   それからもう一つの質問については,私は特にそれはありません。最初にやった○歳の男の子とも付き合いを普通にやっていましたし,あえて言えば試験観察のような○年間でありました。確かに金遣いは荒いし,結構いいかげんなことをやっているし,自動二輪は買う,借金は払わないと,いろいろなことがありました。でも,私が未成年後見人として一人のプロとしておまえと付き合っているのだという認識は強く持っていましたから,合う,合わないではなくて,私の専門の仕事という理解はしていました。二人目の○歳の子とは,大げさに言えば,その子との出会いというのは私に課せられた使命なのかなという感じで付き合っています。子供にとっては,全然知らない,どこの馬の骨か分からないようなおじさんが来るわけです。テレビドラマを見ているように,最初は部屋の隅でずっと引いているわけです。それがだんだん近づいてくる,心も近づいてくるという,あれはなかなかいいものですね。   それから,お時間を頂いて少し追加しておきます。過去5年間,毎年,家庭裁判所から後見監督を受けています。毎年,かなりの量の私の活動報告,子供の成長の具合,それから財産の移動などについて詳細なレポートを求められます。それを5年間続けて出してまいりました。ようやく私を信用していただけるようになったのかどうかは分からないのですが,今後は3年に一回でよいと,昨年指示をいただきました。 ○大村部会長代理 どうもありがとうございました。では,このあたりでよろしゅうございますでしょうか。   それでは,これで4人の参考人に対するヒアリングを終了させていただきます。4人の参考人の先生方におかれましては,御多用のところ御出席いただきまして,大変貴重な御意見をお寄せいただきましたことに感謝いたしております。頂きました御意見につきましては,今後の審議の中で参考,参照させていただきたいと存じます。本日はどうもありがとうございました。   では,最後に次回の日程等について,事務当局から説明していただきます。 ○飛澤幹事 それでは,次回ですけれども,7月2日金曜日1時半からということですが,場所は本日とは変わりまして,東京高等検察庁第二会議室,向こう側の建物の17階ですので,お間違えのないようにお願いいたします。   それから,前回の会議で申し上げましたが,本日の○○参考人の御発言につきましては,○○参考人のお名前も含めまして,今実際に監護されているお子様の個人情報保護の観点から,お子様の特定につながるような情報に関しては議事録に載せないという取扱いをさせていただきたいと思いますので,あらかじめ御了承をお願いいたします。 ○大村部会長代理 それでは,本日はこれで閉会させていただきます。どうもありがとうございました。 −了−