法制審議会民法(債権関係)部会           第14回会議 議事録 第1 日 時  平成22年9月7日(火) 自 午後1時00分                      至 午後5時57分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第14回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。    (関係官の異動紹介につき省略)   配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料としては,部会資料15−1と15−2をお届けいたしました。この資料の内容は,後ほど関係官の大畑から説明いたします。このほか,当日配布資料として,参考資料6−1と7−1を机上に配布させていただきました。これらは,本日の会議の最後に説明させていただこうと思います。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議に入ります。   本日は,「民法(債権関係)の改正に関する検討事項(10)」について御審議いただく予定です。具体的な進行といたしましては,休憩前に部会資料15−1の「第2 売買−売買の効力(担保責任)」の「2 物の瑕疵に関する担保責任(民法第570条)」までを少なくとも御審議いただきたいと予定いたしております。その後,休憩を挟みまして「3 権利の瑕疵に関する担保責任:共通論点」以降を御審議いただきたいと思います。審議対象が大変広範にわたっておりますので,円滑な議事の進行に御協力をお願いいたします。   それでは,まず部会資料15−1の1ページから2ページまでの「第1 売買−総則」について御審議いただきます。事務当局に説明してもらいます。 ○大畑関係官 まず,部会資料15−1と15−2の関係や各項目の冒頭に記載された「1 総論」の位置付けはこれまでと同様です。総論におきましては,留意すべき点について幅広く御議論いただくとともに,この資料で取り上げられていない論点についても御指摘いただきたいと思っております。   それでは,第1の2以降の個別論点について若干説明いたします。まず,2は売買の一方の予約を定める民法第556条の規定内容が簡素であることから,例えば予約の定義等の基本的な事項を明文化すべきという考え方について御議論いただくものです。次に,3は手付について条文の文言とそごがある判例法理を明文化すべきという考え方を取り上げたものです。もっとも,ここで取り上げた判例には有力な反対説もありますので,その点も含めて御意見をいただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明がありました部分のうち,まず「1 総論」について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○岡本委員 本日から各種の契約に入るということですので,売買に限らない一般的なことですけれども,一言,申し上げたいと思います。以前の会議で岡田委員から民法の各規定について,強行規定か任意規定かが条文上,分かるようにしてほしいという御提案がございました。この御提案につきましては,債権法全体について,それを行うということは仮に困難であるといたしましても,少なくとも契約各則の部分くらいは,仕分する必要があるのではないかという御指摘もございました。そこで,是非,今日から始まる各種の契約の検討に当たりましては,この観点を取り入れて議論ができるといいのではないかと思っております。   さらに,仮に強行規定か任意規定かに仕分して書き分けていくとした場合につきまして,強行規定であるということを明示することは結構だと思うんですけれども,逆に任意規定であることを個別に明示する場合には,すべての規定について仕分ができるのであれば結構ですけれども,そうでないとすれば,任意規定であると明示されていない規定について反対解釈されるおそれもなきにしもあらずかなと思うものですから,規定ぶりにも配慮していく必要があると思っております。   それから,強行規定か任意規定かの切り分けにつきましては,実際問題としてどっちであるか,明確にし難いものもあるということもありましたし,それから,そもそもそういう画一的な二分割が可能なのか,代替措置のとられ方によっては強行規定に抵触することを免れる,そういった場合もあるのではないかということもございました。それから,典型契約において,ある規定を強行規定とした場合に,それと異なる合意がされたときに,単にその契約がその典型契約に当たらないというだけということになりかねないという問題をどう考えるか,こういった問題意識もあったところですけれども,そういった一筋縄ではいかないような問題も含めまして,検討していくのがいいのではないかと考えております。   特に,今,申し上げた最後の問題につきましては,ある契約があるときに,それがどの典型契約に当たるのか,あるいはどれにも当たらないで,非典型契約ということになるのか,そういう性質決定の問題にも関連する問題だと思われるところでございまして,そうした性質決定をどう行うのかという準則,これは条文上,明確にしていく必要はないのだろうかといった議論もあり得るのではないかと考えております。例えば性質決定の準則を独立して置くという考え方もあり得るかもしれませんし,あるいはそれぞれの典型契約の冒頭規定を定義規定の形にしまして,その定義規定に当てはまる契約であれば,それをその典型契約であるという形で,がっちりつかまえるといったやり方もやろうかと思いますけれども,いずれにしましても,そのあたりの検討が必要なのではないかと思っております。最後の点につきましては,部会資料15−1の14ページの関連論点の2に関連する問題であると思いますけれども,ここでまとめて申し上げさせていただきました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   特になければ,「2 売買の一方の予約(民法第556条)」及び「3 手付(民法第557条」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○深山幹事 売買の一方予約に関連することでございます。売買の一方予約という既存の制度を,より分かりやすくすること自体はもちろん結構だと思うんですが,実務上,一方予約がそう使われているかというと,私の感覚としては必ずしも使われておらず,むしろ,それとは違った意味の予約契約というものが,いろいろな形で実務で行われていると認識しております。一方予約という概念は,予約完結権を一方が行使することによって売買契約が成立するという類型を想定しておりますが,詳細版にもありますけれども,当事者双方が予約完結権を持つ双方の予約ということももちろんあり得ると思います。   しかし,実務上は単に予約完結権行使によって契約が成立するという類型ではなくて,本来の契約のもう少し前段階で一定の契約成立を目指して,一定の合意をして相手を拘束するという,そういった類いのいわゆる予約契約というものが,売買にもちろん限りませんけれども,間々,見られます。その中身というのを見ますと,かなりバリエーションがあって,本当にこれから契約交渉しましょうねという程度のものもあれば,限りなく内容が詰まっていて契約に近いものまでいろいろです。   この予約の定義をしたらどうかという提案がありますけれども,定義をすれば予約とは何ぞやという中に,いろいろな類型を意識した書きぶりになっていくのだろうし,今,申し上げたような既存の制度とは違う予約も当然,規律されてくるのかなと思います。今後検討する中で,実務上行われているものをすべて網羅することになるかどうかは別にして,例えば建物をこれから建築するという,まだ建築に着工もしていない段階で,でき上がったら,それを賃貸しましょうという賃貸借契約の予約のようなものも,実務上,間々,見られるところですので,例えばそんなものなども意識した予約というものの規律を一定程度,民法に盛り込むということを検討したらいいのではないかと考えております。 ○能見委員 先のお二方の発言とも関係するのですが,やはり債権法の中にどういうものを規定するかというある種の基本的スタンスの問題があると思います。その基本的な方針として,考えられるものは全て規定しようというのは無理でもあるし,余り適当ではないのではないかという気がいたします。今の予約の問題についても,どのような種類の予約のどの部分を規定したらいいかを考えるべきで,具体的な結論は私にはまだありませんけれども,いろいろな意味で一番基準になるような予約というものを規定すればいいのであって,それ以外の考えられるものを全て規定する必要はないと思います。そして民法であるタイプの予約を規定しても,それ以外にもいろいろなタイプの予約があり得るのであり,それは当事者が合意すれば使えると考えれば十分だと思います。いろいろなものをすべて規定していこうとすると民法典が非常に複雑になり,どうも適当ではない。先ほどの岡本委員の御意見とも関係するわけですけれども,基本的に,民法の契約に関する規定は任意規定なのであって,そういう意味では,民法に規定されていること以外のことでも,強行規定に反しない限りは幾らでも規定できるし,また,任意規定であっても全てを規定しようという態度ではなくて,今述べたことの繰り返しになりますけれども,基準になるものだけを規定しておくということでよい。こういう立法のスタンスが契約各論をこれから議論する際には,改めて重要になるのではないかという気がいたします。 ○岡田委員 消費者契約の中で予約という,法律条文で言う予約みたいな形態は,私は過去に経験がないんです。にもかかわらず,ココ山岡事件というのがありましたけれども,あれは消費者に対して予約とか買戻しということで信用させて高額な宝石を買わせたものです。大変大きな被害になりましたが,どうも消費者は,予約というのは契約に至っていないという解釈で,安心してしまうというか,軽く考えてしまう傾向があるようです。その後も,やはり事業者が予約という言葉を使うことによって消費者を安心させて,実は契約だったという事例が結構出てきていますので,消費者自体が予約というものに対して,法律上の内容を正しく理解しなければいけないということで,今よりももっと分かりやすく条文の中に書いていただければ,消費者に対して啓発できるように思います。 ○松岡委員 能見委員がおっしゃったように,何でもかんでも規律すべきではなく,基準となるものに絞ってきちんと規律すればよいということには大変賛成なのですが,その御意見からすると具体的に提案されている予約について,いったい何を基準として考えればいいのか,お聞かせいただければ幸いです。 ○能見委員 その点は先ほど予防線を張っておいたように,具体的には何を規定したらいいかということは,これから検討しなくてはいけないと思いますけれども,定見があるわけではありません。先ほどの深山幹事のご発言にあったように,売買の一方の予約というのは一種の担保みたいなときに使われていて,それほど普通の売買契約のときには使われていないので,だから,これを外すという考え方もあり得ます。ただ,こういうタイプの予約もありますよということを示すという意味で,予約についての基準となるタイプかとは思いますので,そういう理由でこれを置いておいてもいいのだろうと思います。   それから,ちょっと先の話に関連しますけれども,売買契約は有償契約ということで,いろいろなところで使われるということも考えると,売買のところではそれほど使われないかもしれないけれども,他の有償契約で使われる可能性があれば,余り特殊なものではなく典型的なものと言えるようなものであれば,それも売買のところに規定しておく,そんな考え方はどうかと思っています。 ○松本委員 今の能見委員がおっしゃった最後の部分との関係で,つまり,売買の総則のところには有償契約総則的なものが入っているということですが,一方の予約では贈与の予約なども担保的に使われているわけですから,無償のものもあるということで,私自身は,授業でやるときは,契約の成立のところでやることが多いです。そこで,予約については,むしろ,契約総則のほうに移すか,あるいは検討委員会の提案だと契約総則と契約各則との間の中2階型の幾つかのタイプ,継続的契約だとか役務提供契約だとか,第三者のためにする契約だとかいうのを立てて検討されているので,その流れからいけば,ここで言うところの有償契約総論的な部分は,売買という各則に置くのではなくて,中2階型あるいは契約の成立のほうに移したほうが分かりやすいのではないかなという,中身の話ではなくて条文の配列上での意見です。 ○鎌田部会長 手付のほうについても御意見がありましたら。 ○潮見幹事 一点だけ,御意見を申し上げます。部会資料詳細版のほうにも関わるのかもしれませんが,履行に着手した当事者による解除を肯定するという判例を採用する方向での意見はどうかという形で,検討の資料がつくられていると思いますが,私は,最高裁の昭和40年の判決で出ている反対意見のほうに利があると思っています。ただ,そのように思っておりますが,昭和40年の判決が出て判例が固まり,また,学説の中でも恐らくこれを支持しているようなものが多数ではないかというのも,また,私の感覚です。   その意味では,最高裁の判例に沿った形で条文化するということは,これで致し方ないとは思いますが,それでも,最高裁の判決での反対意見等々が問題にしておりますところの,履行の着手を信じたことで相手方が行動を起こしたことによって相手方が損害を被るような場合も出てくると思います。よく教室例とかで出ておりますのは,土地の売買の場合に売主によって履行の着手がされたのを見て,買主が地上建物の建築を発注したとか,あるいは買主による履行の着手がされたのを見て,売主が売買代金を得られると考え,新規の不動産の物件を調達しようと走ったといったような例があります。   そのような場合に,相手方の履行の着手を信頼して起こした行動によって生じた損害を賠償させるようなルールを,何らかの形で併存させておいていただければよいと思うところです。もちろん,この場合には,売買契約上の債務不履行を利用とする損害賠償のルールで処理をすればいいと言えば,それまでかもしれませんが,手付が絡んでいる場面で,しかも手付解除というものが基本的にできるという原則で立てられているものですから,注意規定のようなことに仮になるとしても,何らかの形での対応をしていただければと思います。 ○岡田委員 消費者側から言いますと,やはり手付を打つ場合のほうが多いのですが,相手が履行に着手したかどうかというのが,こちらからは分からない場合がほとんどです。事業者は,もっともらしくこうこう,こういうことで着手したと言いますが,それに対して,そうではないでしょうという根拠が分からないということを常々感じるんです。そこで判例の客観的に明確という条文になれば,もっと私たちも強く出ることができると思います。常に手付については履行の着手の有無で悩んでおります。 ○中田委員 手付のもう一つのテーマであります売主が倍額を償還するという点でございます。これについては,ここで引用されています平成6年の最高裁判決で大体論点が出ておりますし,学説でも議論がほぼされていると思います。償還という文言がどうかとか,買主が解除する場合との均衡ですとか,あるいは債務不履行を免れる要件としての提供と,積極的に解除権を行使する要件としての提供は違うのではないか,そういう議論がされております。ここでは立法論をするわけですので,手付による解除をめぐる紛争が生じたときに,契約解消のプロセスにおいて当事者の行動を規律するには,どのようなルールがいいのかという観点が必要かと思います。   特に現実の提供が必要か,口頭の提供でいいかということなのですが,口頭の提供でいいとしますと,柔軟でよさそうなのですけれども,不安定さもあって弱い立場の買主が不利益になるというおそれもある。他方で,現実の提供が常に必要だとすると,硬直的になる可能性もあります。そこで,恐らく口頭の提供で足りるのは,ごく例外的な場合であるというのが一般的な感覚ではないかと思います。あるいは現実の提供を要件とした上で,信義則で緩和するか,どちらにしてもその中間的なところにあると思います。それを規定するのに提供とだけ規定して解釈に委ねるというのも,それでもいいのかなとも思うのですが,債務不履行を免れる要件としての提供と,手付解除の償還に代わる要件としての提供とが中身が違っているのだとすると,同じ言葉を使うと,かえって混乱が生じるのではないかという問題もあるかと思います。したがって,提供という言葉にするにしても,何らか要件の面で債務不履行を免れる提供とは違うんだという手掛かりが残ったほうがいいのかなと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,次に部会資料15−1の2ページから5ページまでの「第2 売買−売買の効力(担保責任)」のうちの「1 総論」及び「2 物の瑕疵に関する担保責任(民法第570条)」について御審議いただきます。事務当局に説明してもらいます。 ○大畑関係官 それでは,第2の2について説明いたします。   まず,(1)では債務不履行の一般原則との関係,いわゆる瑕疵担保責任の法的性質論という問題を取り上げました。瑕疵担保責任については,法的性質について数多くの学説が主張され,判例も一義的な理解を示していないため,その適用範囲等の極めて基本的な法律関係さえ不明確なままであるという問題があります。そこで,その法的性質を踏まえつつ,要件・効果を明確に規定すべきという提案がされていますので,この点について御議論いただきたいと思います。   この瑕疵担保責任の法的性質に関しては様々な論点,問題意識がありますので,まずは様々な観点から御議論いただきたいと思っておりますが,部会資料では議論の一つの切り口として,立法に向けた理論的な整理という観点から,法定責任説が前提とする特定物ドグマや原始的不能論の採否について,御議論いただくことを提案しております。また,立法論として瑕疵担保責任を可能な限り,債務不履行の一般原則に一元化すべきという提案もあります。現行規定を前提とした解釈論の限界を克服し,債務不履行体系を分かりやすくしようとする提案と言えるかと思いますが,この考え方についても御意見を頂きたいと思います。   次に,(2)では瑕疵という用語の意味について,多くの学説,裁判例が客観的瑕疵概念だけでなく,主観的瑕疵概念をも含めて理解しているとして,これを条文上,明確にすべきという提案を取り上げました。また,関連論点としていわゆる法律上の瑕疵の取扱いや,瑕疵の存否の基準時の問題も取り上げています。   次に,(3)では「隠れた」という要件を削除する考え方を取り上げました。「隠れた」という要件は,一般に買主の善意無過失に結び付けて理解されていますが,そのような買主の主観は瑕疵の認定において考慮されており,重ねて「隠れた」という要件を課す必要はないとするもので,債務不履行一元論と親和的な考え方であるとも言えます。   次に,(4)では一部他人物売買と同様,物の瑕疵についても瑕疵相当分の代金算定は可能であるとして,代金減額請求権を認めるべきという考え方を取り上げました。この考え方は,仮に債務不履行一元論を採用した場合でも,売主の帰責性を問わずに代金減額請求権を認めようとする点に特色があります。   次に,(5)では買主に認められる権利の相互関係を条文上,明確にすべきという提案について御議論いただく論点です。@からEまでの個別論点を踏まえて,見直しの方向性について御意見を頂ければと思います。また,第3回,第4回会議において売主の追完権が機能する場面や,追完方法の選択権の所在といった論点について御指摘を頂きました。この点については部会資料15−2,詳細版の補足説明のうち,22ページ以降の@からEまでの個別論点の記載において若干ではありますが,触れたつもりですので,この点についても御意見を頂ければと思います。関連論点では,第3回会議でも取り上げました追完請求権の限界事由という論点について,具体的な要件設定に関する提案を紹介しています。   最後に,(6)では1年間という画一的な短期期間制限を合理的な期間等の柔軟な期間制限に改めるべきという考え方を取り上げました。この考え方は,この期間内に買主が行うべき通知の内容を判例の基準より緩和することを併せて提案していますので,この点も含めて御意見を頂きたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   まず,第2の「1 総論」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○能見委員 余り大したことではないのですけれども,瑕疵担保責任に関連はするんですが,どういう当事者のどういう売買を念頭に置くかという視点が一つあるのではないかと思います。実際に裁判等で問題になるのは恐らく,売買の目的物が動産であると,売主が商人である事例が多いでしょうし,土地になると個人が売主となる事例も出てきます。商人が売主なのか,個人なのかによって瑕疵担保責任としてどういう規定が適当なのかが少し違ってくるように思います。たとえば,瑕疵担保責任を無過失責任とするのがいいかどうかとか,そういう点を考える際に,今のような点を考えたほうがいいのではないかと思います。このような視点から,規定を商人が売主である場合と個人が売主である場合とで分けるというような規定の仕方も,今議論しているのは立法論ですから,この際,可能であればそういうことも検討したらどうかと思います。   もう一つの視点としては,今も,途中で触れましたが,売買目的物が何かという観点から,不動産の売買か動産の売買か,あるいは債権の売買やそれ以外のものの売買なのか,といった売買目的物の違いによってもどういう責任が適当なのかは,もしかしたら微妙に違うかもしれないので,そういった視点も絡めながら,この点についても私の具体的な結論はまだ申し上げられませんけれども,少なくてもこうした新しい視点を絡めながら,これからの議論をしていただけるといいのではないかと思います。 ○岡田委員 最近,消費者が売主になるというのが大変増えています。オークションなんかもそうですけれども,そういう意味では,今の能見委員のお考えに賛成ですが,是非,消費者と商人と分けて瑕疵担保というものを考えていただくと大変助かると思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。各論的な課題について議論する中で,また,総論に立ち返ることがあり得ると思いますので,便宜,「2 物の瑕疵に関する担保責任(民法570条」に移らせていただきます。   まず,「(1)債務不履行の一般原則との関係」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○山本(敬)幹事 債務不履行の一般原則との関係について,意見を述べさせていただきたいと思います。結論としては,いわゆる契約責任説に当たるものに基づいて,瑕疵担保責任を債務不履行の一般原則に一元化する方向で改正を行うべきであるという立場を支持したいと思います。   この点について,詳細版のほうで非常に詳細な検討をしていただいていますが,その16ページに,「瑕疵担保責任の見直しに向けた検討事項」が二つ挙げられています。そのうち,@「法定責任説の理論的根拠である特定物ドグマ及び原始的不能論の採否」については,要するに,こういったものは採用すべきではないということになります。  もちろん,問題は,そのように考える理由は何なのかです。この点については,同じく詳細版の10ページ以下に,幾つかの理由に当たるものが挙げられていますが,少し違った角度から,私なりに考えている理由に当たるものを付け加えさせていただきたいと思います。   ここでの核心的な問題は,特定物が持つべき性質について,契約で合意することができるとすべきかどうかです。この問いに対して,特定物が持つべき性質についても,契約で合意できるとすべきであると考える理由はどこにあるかといいますと,まず,特定物が持つべき性質について契約の当事者が実際に合意をしているときには,その合意をそのまま尊重することが私的自治や契約自由の要請ではないかという理由が考えられます。  しかし,これは,必ずしも決定的な理由ではないかもしれません。問題はむしろ,なぜ,そのような事柄について,私的自治や契約自由を認めるべきかというところにあります。   ここでポイントになるのは,先ほどの能見委員の御指摘とも少し関わる点かもしれませんが,現代の取引社会では,買主が自らの経済活動や生活を合理的に設計できるようにするためには,購入した目的物が意図したとおりの性質を備えていることが不可欠ではないのかということにあります。購入する目的物の性質について合意することができなければ,自らの経済活動や生活を合理的に設計することはできないと思います。そのような取引社会ないしは社会の要請に応えるためには,特定物のドグマを維持することはやはり難しい。ここに,特定物のドグマや原始的不能論を採用すべきではないと考える理由があるのではないかと思います。そして,国際的に契約責任説が前提にされるようになっているのは,正にこのような現代の取引社会の要請に応えるためではないのか。だからこそ,今回の改正に当たっても,契約責任説に当たる考え方を前提とした改正を行うべきだという意見が強く出てきているのだということを,最初に強調しておきたいと思います。 ○中井委員 この問題については,弁護士会として意見を申し上げるのが非常に難しい法律論の分野と思っているわけですけれども,総論的なことを申し上げます。まず,実務の感覚として,この議論の進め方についてですけれども,詳細版では,従来の考え方を整理し問題点を指摘いただいて,その16ページで特定物ドグマと原始的不能論の採否,ここから議論を始めて方向性を決めるという問題設定の仕方をされていることに対して,弁護士会の一部の中には,違和感のある意見が出ております。それは内容の当否の違和感ではなくて,抽象的議論から初めて,従来言われていた法定責任説から,これこれの権利若しくは要件を考え,効果を考えるなり,契約責任説に立てば,これこれの要件を考えて効果を考えるという発想で,この立法論を考えていくのがいいのかということに対する疑問と言ったほうがいいのかもしれません。   現実的に不動産,土地建物が売主から買主に売買された,動産が売買された,そのときに対象物に瑕疵があったときに,買主にどのような権利救済を与えるべきなのか,それが現在の法律の条文の中では足りないものがあるとすればどういう権利か,例えば代金減額請求権が規定されていないとすれば,代金減額請求権を与えるべきか。そのときにはどういう要件とどういう効果を認めるべきなのか,若しくは瑕疵あるものを購入したために,何らかのコストなり損害を被ったことについて,買主がどういう要件の下で救済されて,売主がその要件の下でどこまでの負担に応じるべきか。売主と買主の具体的な状況なり利害,主観も交えて要件効果を定立していく。同じように解除も考える。つまり,具体的な事情において,どういう権利救済を与えるべきなのかということをまず考えていくべきではないか。その結果として,それが契約責任説的に説明できる部分もあるだろうけれども,恐らく契約責任説的には説明できないとすれば,その特則という形で表現されるのか,はたまたそうではなくて,法定責任説的な説明のほうがなじむのか。   この説明の仕方については,研究者において適切なる説明をしていただければ,それでいいのではないか。つまり,具体的に何が今問題になっているのか,その具体的な問題のところから権利救済の在り方,買主に対する保護としてどういう権利を認めていくのかを要件効果を含めて考えていくべきではないか。このような意見が出ております。したがって,最初の問題設定が特定物ドグマ若しくは原始的不能論を認めるのか,認めないのかと,こういう議論を立てられてしまいますと,実務家はついていけないところがあるということを申し上げておきたいと思います。 ○岡田委員 瑕疵担保責任と債務不履行といいますと,製造物責任法の制定のときに勉強したことを思い出すのですが,結局,私たちが現場で感じるのは瑕疵担保責任というのは無過失で,1年間,請求できるという,そこの部分が債務不履行よりも消費者にとっては利益があるよと,その程度の認識なんですが,特定物と不特定物をどう切り分けるかということを考えますと,不動産とか,自動車の場合は特定物というのは分かるのですが,それ以外の不特定物がいつの時点で特定物になるかとか,その辺になるといろいろな考え方があるみたいで,とても私たちには理解できないという現状です。ですから,不特定物であっても瑕疵担保責任は認めていいのではないかとも思います。特定物と不特定物がもっとはっきりとしない限りは,今の条文ではとても一般には理解できないのではないかと思います。 ○能見委員 私が先ほど述べたことは,中井委員の今のような発想にも本当はつながるところがあったんですが,私も個人的には山本敬三幹事と同じように,瑕疵担保責任は契約責任であると考えるべきだと思っております。この立場の一番徹底した形は,瑕疵担保という特別な規定はもう要らないと,契約責任だけでいけばいいということになるのだろうと思います。皆さんの御意見がみんな,そうなるかどうか分かりませんけれども,これが一つの究極の形だろうと思います。しかし,議論の進め方としては,そういう瑕疵担保責任の性質論から議論していくのではなくて,ここでは今,立法論をやっているのですから,立法で現在の社会において問題となっているものを解決するという考え方からすると,まず,現在の瑕疵担保責任の規定の中のどういうところを直したらいいのかというところから議論を始めるのがいいのではないかと思います。   たとえば,現在の規定はこうなっているが,契約責任説の立場などを考慮すると,その規定をこう変えた方がいいという議論がされるでしょうし,それに対して現実や実態を考えると必ずしもそう理論どおりではうまくなくて,こういうところには特則が必要なんだとか,こうした議論がされるのがよいのではないと思います。先ほど中井委員が言われたとおりですが,そういう観点からすると,契約責任説に基づいていてもやはりこの種の売買,こういうタイプの売買についての売買目的物の瑕疵についての責任には特則を設けるとか,無過失責任にするとか,そういう議論の仕方をしていくのが生産的でいいのではないだろうかという気がいたします。私も今この段階で,理論的にどっちがいいかという議論をしろと言われると,必ずしも十分な用意がなく適切な議論ができないと思いますので,今述べたような議論の仕方がよいように思いました。 ○潮見幹事 山本敬三幹事が言われたことと,中井委員が言われたことは,矛盾することではないと思います。私自身は契約責任説に共感を感じていますし,他方,売買契約などの場合に履行障害が生じたときに,どのような権利が当事者に与えられるべきなのかという救済の観点から法律構成をしていくのも,また,是としています。   中井委員がおっしゃったような,こういう売買契約において履行障害が生じたような場合に,買主にどのような権利救済を与えるべきかということから仮にアプローチをしていった場合でも,次にその権利が契約に基づいて基礎付けられるのか,契約の内容から説明が付くのかという観点から,説明を進めていく必要があり,さらに,契約に基礎付けられないということになったときには,そうしたら,それは契約以外の何らかの形で処理をすべきではなかろうかという観点からの議論に進んでいくと思います。   また,売買契約に基礎付けられるという場合でも,その場合の救済手段というものが債務不履行の一般的な救済法理に基づいて処理されるのか,それとも,それでは不十分であるから,売買契約,あるいは消費者売買とかいうくくりもあるかと思いますけれども,そのような観点から特別のルールを立てていくのが望ましいのかという観点から話を進めていくのも,また,意味があると思います。   ただ,救済手段面からのアプローチをするとき,個別・具体的な場面で,こういうトラブルが生じた場合に,それをどのように解決すべきかということだけではなくて,そのトラブルの生じた場合に与えられるべき権利が何に基礎付けられるのかという視点を必ずもって事に当たるのが,立法に当たっては非常に重要ではないかと思います。その意味では,法務省の側で用意された資料の最初の部分での法定責任説や契約責任説という観点からの整理自体は,私は極めて積極的な意味を持っていると思います。 ○大村幹事 潮見さんとほぼ同じで,付け加えることは特にないんですけれども,しかし,念のために繰り返して申し上げます。一点は既に御指摘があったところでありまして,仮に契約責任説が立つとしても瑕疵担保責任の規定が要るか要らないか,どの程度まで詳しい規定を設けるかどうかということは議論の対象になりますので,個別の問題との関係で考えていくことになるだろうということでございます。   それから,もう一点も御指摘のあったところでありますけれども,議論の出発に当たって基本的な考え方について,それとの関係で考えていくのだということを確認することには,非常に大きな意味があるだろうと思います。契約責任説と法定責任説の決着をつける必要はないのかもしれませんけれども,少なくとも学説のかなりの部分は契約責任説に立っているということの認識は,確認しておいていただいたほうがよろしいのではないかと思います。 ○高須幹事 今までの議論を伺いまして,大分,私なりに整理がついてきたのですが,我々実務家のレベルでも,いわゆる特定物ドグマとか原始的一部不能論というのは,どうも余り合理的ではないかもしれないというところまでは,ある程度の理解ができてきているのだろうと思います。先ほどの中井先生のお話などもそこに根差しておるのだろうと思うんですね。ただ,一面において,瑕疵担保の問題というのは,法定責任説か契約責任説かで決定的に対立しているかのような前提を感じるものですから,なるほど特定物ドグマというのは,余り決定的なものではありませんねと踏み切ったときには,今度は180度,考え方を変えなければならなくなるのではないか。   例えば損害賠償は全部,履行利益にならなければならないのではないかというような錯覚なのかもしれないのですが,そういう危惧といいますか,心配というか,決断し切れない,何か優柔不断な面が出るものですから,ここでの議論を通じて,本来はやはり契約責任説的なものですよねと。ただ,その上でも,だから,こうだと理論的に全てが決まるわけではなくて,やはり現実的な法の在り方を考えていくべきだということが確認できれば,私どもも安心して学生時代に勉強した説に固執することはないと踏み切れると思っております。率直な感想ですが,以上でございます。 ○岡委員 二点だけ申し上げます。   最初は,瑕疵概念をなくしてよい,債務不履行という概念だけで十分ではないかという意見が弁護士会の一部にございました。それの御報告が一つでございます。   二つ目は,(2)以下の問題点で期間制限でありますとか,代金減額請求権でありますとか,具体的な効果がある程度,議論されておるんですけれども,実務家から見ますと,先ほど高須さんが少し申し上げましたが,昔の瑕疵担保責任は信頼利益賠償で足りるという,その効果のところで,それなりにうまい利害調整をしてきた実務がございます。売主は無過失でも責任があるんだと。そのかわり,信頼利益で足りるんだと,そういう実務の知恵として解決したジャンルが確かにありますので,今回の法務省の提案では損害賠償の範囲に触れておられませんので,何か信頼利益の賠償で足りる,こういう局面があるんだと,そういう場合があるのかないのか,その損害賠償の範囲についても検討の対象に是非していただきたいと思います。 ○鎌田部会長 これは(2)以下の個別的な論点を議論し,また,取り分け(5)のところでは,買主に認められる権利相互の関係ということで,既に第3回,第4回で議論した追完権などとも絡んできて,具体的にどんな効果を認めていくべきかという話は,必然的にこの枠内でも出てくるんだと思います。それを議論する中で,もう一度,(1)の性質論について立ち返って議論をしなければいけないということになっていくんだろうと思います。また,(1)の性質論,それから(2)以下の具体的な効果あるいは要件の問題等,一応,決めなければ(2)以下に一歩も進まないという形で議論を操作しようというわけでは必ずしもございませんので,(2)以下について御意見を伺いながら,(1)についても必要に応じて立ち返って議論していただければと思います。 ○内田委員 先ほど中井委員から法務省の資料の議論の進め方について,これは中井委員の御意見というよりは,そういう意見があったという御紹介なのかもしれませんが,やや学理的なスタイルで書かれているとして,特定物ドグマを採用するか否かというところから書かれていることについて,違和感があるという御指摘がありました。この点については中井委員を初め,弁護士の委員,幹事の先生方は十分,御存じのことかと思いますので,改めて申し上げるまでもないことではありますが,一応,私の経験したことを申し上げますと,各地の弁護士会で意見交換をさせていただく中で,債務不履行責任の過失責任主義と瑕疵担保の法定責任説は,日本民法典の根幹をなす車の両輪であると,これを変えるなんてとんでもないことだという御批判が聞かれました。これは実際に活字になっている弁護士会の意見の中でも書かれています。   しかし,本当にそう考えておられるのか。法定責任説というのは,特定物については瑕疵があっても契約責任は生じないという考え方であるわけですが,本当にそれで実務が動くのだろうかというところに疑問がありました。そして,仮に法定責任説を採用して明文化するとなれば,特定物については法定責任としてどういう責任を置くか,不特定物については契約責任の特則をどういう形で置くかという規定の仕方になり,全く議論のスタイルが変わってしまいますので,その点について初めにきちんと議論しておいたほうがいいのではないかということで,こういう資料の作り方になっております。 ○中井委員 若干補足いたしますと,昨日も日弁連で各単位会からの意見を集約した検討会を開いております。その中では,この瑕疵担保については契約責任的な構成のほうがより好ましいのではないか,より適切ではないかというのが圧倒的意見でした。一部に必ずしもそうでもない意見もありましたけれども,基本的には契約責任的構成のほうがよろしかろうと。それで大きな問題が生じるわけではない。ただ,先ほど申し上げましたように,だから,契約責任的構成を採るから,論理的にこういう要件と効果だという形で進むということについての危惧がまずあるということを申し上げました。   それと,弁護士会からの意見の発信の仕方でもあるわけですけれども,現実に生起している問題,現実に被害を受けている仮に買主がいるとすれば,買主にどういう権利救済を与えるべきかと実務的に考えていくのが我々の提案というか,議論の出発点であるべきではないかという基本的スタンス,こういう意見が強く出たものですから,先ほどの紹介をしたわけです。   もちろん,個別的な権利救済の要件,効果を考えるに当たって,常に基本的な考え方,それが契約責任とすれば,こういう考え方で説明できる,何らかの修正が必要な場面もあるという先ほどの皆さんの御意見,その観点についてはもちろん理解しているわけです。そういう修正がどことどこで必要なのかということについて,基本が契約構成なら契約構成との関係に常に留意しながら,相関関係的にというのでしょうか,そういう形で議論が進むべきであるだろうと,そのような認識を持っております。 ○鎌田部会長 それでは,先ほどの御説明に従って,「(2)「瑕疵」の意義」及び「(3)「隠れた」という要件の要否」という部分に議論を進めさせていただきたいと思います。この点についての御意見を頂ければと思います。 ○潮見幹事 一点だけ,意見というよりは資料の書き方にかかわることで発言をさせてください。(2)の瑕疵の定義の部分です。資料の中で,主観的瑕疵と客観的瑕疵という言葉を使って,このような形で整理がされておりますが,主観的瑕疵とは何ぞやということについては,学説では必ずしも一致しているわけではありません。主観的瑕疵の意味について,日本の中でニュアンスのある考え方があり,かつ,この定義のもとになったドイツにおける主観的瑕疵,客観的瑕疵のとらえ方の間にも,ある立場をとれば,ニュアンスがあるようなことにもなりかねない。そういうことを指摘した上で,しかし,ここで書かれていることについては,基本的に私は賛成だということを申し上げておきたいと思います。   むしろ,ここで重要なのは何かというと,売買契約の対象に対して,先ほどの山本敬三幹事の発言に少し重なりますけれども,売買契約の対象に両当事者がいかなる意味を与えたのかという観点から,瑕疵というものを判断していくべきだ。そして,契約で与えられた意味での対象を売主が買主に対して引き渡すということを約束したのであるから,それに適合しないものを引き渡せば,それは債務不履行であるという理解をすることです。あとは,以前に議論があったと思いますけれども,契約の解釈のルールに従って,対象に与えた意味というものを確定していけば足ります。ついでながら,今年の6月に出された足立区の土壌汚染に関する最高裁判決のスタンスも,このようなアプローチと整合性があるものですから,是非,法務省が問題提起された方向で考えていただければと思います。   それからもう一つ,先ほど大畑関係官の説明にも少し関係するので,申し上げておきますと,ここで今,私が申し上げた意味での瑕疵の捉え方をすると,債務不履行責任説に必ず走るんだということにはならないといいますか,法定責任説を採っておる立場,例えば柚木博士からも,瑕疵の概念については,ここで問題提起されているような考え方に立って展開をしているものがあります。 ○奈須野関係官 瑕疵の定義規定のところですけれども,現代の工業製品であるとかソフトウエア,サービスから不具合を完全に排除することは,もはや不可能になってきているわけであります。そういう中で客観的な不具合なるものが存在するとしても,商慣行上,それが直ちに瑕疵であるということでメーカーの責任になるわけではありません。それから,中古品の売買では瑕疵が客観的な要件のみによって定まるわけではなくて,取引当事者がどのような理解をしていたかという取引の際の主観的要件によっても決まるところが大きいわけであります。  したがいまして,こういった事情を明確にするために,瑕疵の意義の中には客観的な瑕疵のみならず,例えば商慣行を含む主観な瑕疵,こういったものも含むことができるということで,瑕疵の範囲を合理的に画することが現代社会の要請に適しているのではないかと考えております。 ○山本(敬)幹事 瑕疵の意義について,少し意見を述べさせていただければと思います。部会資料を拝見しますと,瑕疵の定義については,「主観的瑕疵と客観的瑕疵の双方を含むという見解」が有力だとされています。これは,確かにそのような読み方ができなくはないものもあるのですが,先ほどの契約責任説を前提にしますと,契約を離れて,客観的にその種類のものとして通常有すべき性質を欠くことを「瑕疵」というのは,説明が付かないのではないかと思います。やはり契約責任説で言う「瑕疵」とは,あくまでも,その契約において予定された性質を欠いていることになるはずだと思います。   ただ,問題は,その契約において予定された性質とは,一体何なのかです。それが明示的に示されていない場合は,先ほども少し出ていましたように,その契約の解釈によって,契約で予定された性質を確定する必要があります。もちろん,契約に全く手掛かりに当たるものがない場合もあります。そのような場合には,その種の契約において目的物がどのような性質を有するものと見るかという解釈準則ないしは任意法規に当たるものによって,契約の内容を確定ないし補充することになります。しかし,そのようにして確定された性質は,あくまでも「その契約において予定された性質」であって,それを欠いていることが「瑕疵」に当たると説明されることになると思います。つまり,客観的瑕疵という考え方を採っているわけではなくて,「瑕疵」の定義としては,主観的瑕疵と呼ぶかどうかは別として,「その契約において予定された性質を欠いていること」が「瑕疵」であると定義するのが誤解を招かないのではないかと思います。 ○山野目幹事 意見ないし今後の論議の整理のことを考えての質問ということになるのかもしれませんけれども,しばらく前に1の総論のところの議論でしたでしょうか,能見委員と岡田委員のほうから,商人ないし事業者が売主である場合の瑕疵担保責任の在り方とそうでない場合とについて区別をした上で,意識しながら議論をしてほしいという御提言があり,それは一般論,抽象論としては大変ごもっともなことであると感じましたけれども,当面の瑕疵担保責任に関する規律を考案する過程において,具体的にどういう違いが生じてくるのだろうかということが少し私には分かりにくいところがございます。   例えば,当面,今,議論になっている(2),(3)あるいは(4)もそうだと思いますが,そのあたりのところについて,事業者ないし商人が売主である場合を格段,何か区別をして考えなければならないという契機というものがあるのだろうかということです。今,山本敬三幹事からも御指摘がありましたとおり,瑕疵の概念を考えるときに,当該個別の具体の契約の解釈ということが非常に重要になってくるわけでありまして,商人や事業者が売主であったという事情は,そのような個別の契約の解釈の中で,もちろん,反映されるでありましょうし,それから,反面,一般論としては約款や消費者契約に関する契約条項の効力を扱う一般的な規律も用意されるところでございます。   現行法でも瑕疵担保責任に関して,例えば宅地建物取引業法には,自ら売主の場合に関する特則が設けられておりますけれども,民法上の規律の在り方として通則的な規定が置かれていることを念頭に,そういうふうな工夫が施されているものであろうと感じます。そうだといたしますと,(2),(3)に限らないかもしれませんが,具体的にどこでそういうことを反映させて検討していったらよいのかということについて,何か御示唆があれば承っておきたいと考えます。 ○能見委員 私は,必ずしも消費者の場合の特則を考えるべきだという意見を持っているわけではありませんけれども,商人とそれ以外というのは,もしかしたら瑕疵担保責任のどこかでは影響するのではないかと思っているということです。具体的には私自身,別にそういう議論を今まで展開したことがあるわけではないので,今何か言えと言われても十分に答えられません。それは,これから立法論の中で,どういう規定がいいのかということを考える際に,検討すればいいということに尽きるんですけれども,敢えて例を挙げるならば,例えば瑕疵担保責任を,これは瑕疵の定義と関係しますけれども,無過失責任というのを維持するのかしないのかという問題で,これは債務不履行の一般原則とも関係いたしますけれども,こういう問題については例えば個人が売主になる際には,無過失責任というのは厳しすぎないか,などという議論がありうるのではないかと思うのです。   こうした売主が誰であるかということが瑕疵担保責任のどこに影響するかというのは,今,最初に決めてそこから全てを議論すべきものとは思いません。むしろ,先に,今までの瑕疵担保責任の規定,瑕疵の概念の検討から始まって,これを見直していって,その検討の過程で先ほどの無過失責任的な瑕疵担保責任がよいのかどうかということが議論の俎上にのぼったときに,無過失責任は個人の場合には重過ぎないのかどうかとか,あるいは先ほど損害賠償の範囲の問題が出てきましたけれども,履行利益というものをもし仮に瑕疵担保責任の場合にも認めるということになったときには,やはり責任が重過ぎないのかどうかとか,修補請求とか,そういうような問題のところで,売主の性質が少し影響するのではないかと思っています。 ○岡田委員 私は消費者自体が瑕疵とか,隠れたる瑕疵ということ自体,十分に理解していないということで,今回の議論の中で主観的とか客観的とか,そうきちっと条文の中に入ってくれば,もっと今よりは瑕疵というものに対して認識できるかなと思いますので,もし仕分していただけるのであればという感じです。もっと条文が分かりやすくなれば分けて書いていただくことは必要ではないかも知れません。 ○大村幹事 今の前の山野目幹事の御質問の点は,非常にごもっともだと思って伺いました。山野目幹事の御発言の中にもあった点ですけれども,免責特約の問題が一つあろうかと思います。これは御指摘があったように,約款ですとか不当条項のほうで勘案されることがあり得る問題ですが,ただ,現行法との関係でいうと,572条に規定があるわけです。572条の規定は今回の資料の中ではどういう扱いにされているのかを,事務局のほうで御確認いただければと思います。 ○大畑関係官 確かに部会資料の中では,個別論点として572条について取り上げているわけではありませんが,何か具体的な提案や御意見等があれば,「総論」の中で,是非,御意見を頂きたいという位置付けにしております。 ○大村幹事 従来,瑕疵担保のところについては免責特約について,572条の規定が言わば特則的な形で置かれていたわけですけれども,こういうものを維持するのかどうか。維持したときに,その中で売主が事業者の場合とそうでない場合というのを区別するのかという実質の問題と,売買のところに書く必要はないのであって,一般的な免責特約の問題として処理すればいいのではないかという体系の問題があるように思います。実質に関しては,どこで議論してもいいのですけれども,どこかで議論していただく必要はあろうかと思います。 ○鎌田部会長 そこは事務局のほうで引き取らせていただいて,処理させていただきたいと思います。 ○中井委員 先ほど山野目幹事から,事業者と個人とで分けるという考え方について,例えばどういう場合があるのかということに関して,弁護士会での議論を御紹介しておきます。消費者個人が瑕疵のある中古車をディーラーに売却したときの問題を例に,その売主が善意であった場合でも,仮に契約責任説をとって損害賠償を認め,また履行利益まで可能とすれば,ディーラーの転売利益まで場合によっては賠償せよということになるかもしれない。仮に売手が事業者であれば,事業者が事業者に売ったときに瑕疵があるとすれば,そこまでの賠償責任を負わせるのはよいとしても,消費者個人の場合にまで負わせるのはいかがなものか。だとすれば,そういう場合に消費者個人については損害賠償の範囲を制限すべきではないか。こういう意見が現実的に出ておりました。参考のために。 ○岡委員 三つ申し上げます。   一つ目は今の中井さんの話に追加なんですが,個人が売主の場合と事業者が売主の場合では,瑕疵の判断に差が出るのではないかと。個人が業者に中古車あるいは中古住宅を売る場合の契約の趣旨からいくと,業者のほうがきちんと調べて買ってくれるはずだということから,瑕疵あるいは債務不履行の概念のバーが事業者が個人に売る場合と違ってくるのではないかと思います。それは契約の趣旨から考えるということにも適合するのではないかと思います。   二つ目に,契約不適合という用語について弁護士会はかなり反発といいますか,反対といいますか,賛成できないという声が圧倒的に多くございました。   三番目に,先ほどもちょっと申し上げましたけれども,債務不履行という概念にもう吸収されてしまってよいのではないかと思います。契約不適合という言葉は瑕疵から離れて,契約で定めた債務を履行しているかどうかということに限りなく近くになっているとすれば,債務を履行しているか,債務不履行かどうか,そういう概念でいいのではないかという声が一部にございまして,私個人もそのような思いを今,強く持っています。   一つ御質問なんですが,瑕疵というと有体物の瑕疵ということになりますが,有体物の瑕疵について債務不履行の典型的な事例だから,その効果を分かりやすく書くというのが条文の趣旨なんでしょうか。先ほど能見先生がおっしゃったような有体物の瑕疵については非常によくある事例なので,債務不履行の在り方を事例的に説明するというのが条文なのか,それとも有体物の瑕疵というのは普通の債務不履行と違って特殊なので,その特殊な場合の効果を一般則ではない形として規定するのか,そこがどちらなのか,是非,教えていただきたいと思いました。   その中身として,先ほど奈須野さんがおっしゃいましたけれども,ソフトウエアの売買で不具合,バグがあれば債務不履行ですけれども,それは多分,有体物,瑕疵,ここで言う物の瑕疵に当たるのか当たらないのか,その場合に当たる,当たらないという議論をする実益は何なのかというところも分かりにくくなっておりまして,最後,瑕疵というのは有体物の瑕疵なのか,有体物の瑕疵という概念をくくり出す意味,目的はどこにあるのかということを教えていただければと思います。 ○鎌田部会長 これはだれが教えるべきなのか。事務局原案ということで新たな立法提案をしているわけではありませんので,事務当局からも答えにくいところです。むしろ,岡委員の側からいろいろ御提案いただいたほうがよろしいようにも思うんですけれども,何か今の御発言との関係で,個人的な見解ということで御発言いただける方がいらっしゃれば。 ○中田委員 お答えするとか,そういうことでは全くなく,単に個人的な意見なのですけれども,基本的には私もこれを債務不履行の一種と見る理解でおります。その上で,物の瑕疵について特別のルールを置くというのは,多分,今回の立法提案としては,特則というよりも具体的な基準を明らかにするということにウエートがあるのかなと私は理解しています。   どのような場合のことなのか,結局は瑕疵についても契約の解釈に委ねられるのだからというのも,そうかなとも思うのですが,ただ,やはりそこで物の瑕疵というものを切り出しているわけですから,純粋に一般的な契約の解釈というよりも,もう少し客観的なものも入るのではないかと思います。その点はちょっと山本敬三幹事とはニュアンスが違うかもしれません。する作業は同じようなことかもしれませんけれども,例えば契約の趣旨とか性質というものをもう少し一般的に見る。もう少し言うと,瑕疵という概念を売買だけ,有償契約だけで用いるのか,それとも無償契約にも及ぼすのか,もし無償契約でも共通の瑕疵という概念を使うのであれば,やはり有償と無償とは違うのではないかといったことです。ということで,一般的には債務不履行の中で物の瑕疵について分かりやすくするための規定なのだけれども,やはり,そこにはそれなりの客観的な基準も入ってくるということかなと思います。 ○潮見幹事 私なりの理解ということですが,ここで瑕疵,それから瑕疵担保責任というものを規律するという意味の一つは,先ほどの中田委員の発言にあったこと,つまり,売買の目的物の品質をどうするかということについての品質をめぐる解釈基準のような,広い意味ですけれども,そのようなものをここで明確に示しておくことにあります。   それから,もう一つは,これは契約責任説に立った場合にも言えるし,もちろん,法定責任説だと余計に言えるのでしょうが,物の瑕疵に結び付けられた救済ルールで,債務不履行の一般法理とは違う特別の処理をすべきようなものがあった場合には,物の瑕疵にかかわる特別の救済ルールを売買の箇所に置いておくということにあります。仮に先ほどからずっと展開されているような契約責任説的な枠組みで瑕疵担保を考えていった場合には,今,申し上げた二つの点に集中した形で,売買の箇所に規定を置くべきだと思います。   ついでですが,先ほどの能見委員の話にも出た部分で,瑕疵の概念を考えていく際に,先ほどの岡委員の発言によれば,要するに例えば消費者の売買だとか,あるいは事業者間売買だとかいうようなものは,瑕疵概念の中で対処が可能であるというようなニュアンスだと受け取りましたが,私もその部分は同意見でして,問題になっている瑕疵の意味を消費者だの,事業者だのということで,特別に扱いを変える必要は特にないように思います。   中井委員が発言されたような部分についても,これで処理は可能であるし,むしろ,そのような処理をするほうが売主が消費者で,対象は何で,買主は誰で,それから,買主のところでどのようなことが意図されていたのかということを個別,具体的に定型化していくよりは,よろしいのではないかという感じがいたしました。 ○内田委員 岡委員に対して一つ御質問があるのですが,その前に,いろいろ出されている提案とか,あるいは諸外国の立法例を見たときに,岡委員の御疑問に対して私が感じていることをお話し申し上げたいと思います。契約責任であるといいながら,なぜ特別な規定が必要なのかということですけれども,一つには,有体物の瑕疵であって,売主も買主も気が付かないような瑕疵であるという場合には,売主は履行が終わったと思っているわけですね。ですから,諸外国の立法例とか,いろいろな立法提案あるいは現行法もそうですけれども,比較的紛争を短期間で処理しようという特則が置かれるケースがあります。これは期間制限を具体的に置く場合もあれば,別の方法で,通知義務を課したりするということもありますけれども,両当事者ともに履行が終わったと思っている場面で,後からひっくり返すわけですので,比較的短期で紛争を処理しようという特則を置く傾向があるということです。   もう一つは代金の減額請求を認めるという場合ですけれども,これは売買の場合には物と価格とはつり合っているので,欠陥があって品質が悪ければ,その分,安くしろということが比較的言いやすいタイプの契約です。そこで,過失があろうとなかろうと,とにかく代金を減額して,均衡を取るという救済を与えやすい紛争類型であると理解されているのではないかと思います。そういう意味で,契約責任であるとした場合でも,売買における特則というのはあり得ると思うのです。その上で,瑕疵というのは,結局は債務不履行であるという御理解を岡委員は持たれているように思うのですけれども,弁護士会の中には契約不適合という概念に対しては非常に反発が強いとの御紹介がありました。契約不適合というのは契約から生ずる債務にうまく適合していない,適合した品質ではないということですから,債務不履行と全く同じことを言っているように私には思えるのですが,どうして契約不適合という言い方に反発が強いのか,教えていただければと思います。 ○岡委員 一言で言うと耳慣れない新しい言葉ということで,どういう解釈になるのか不安であることが第一と思います。また契約の意思解釈で全部決まってしまうのではないかとの不安もあると思います。ただ,弁護士会の各地の司法制度調査委員会レベルでは,予想外に契約責任構成に反発するものは少なかったという印象でございます。   それと,もう一つ,先生がおっしゃった代金減額と期間制限の点は,別に請負でも委任でも労働でも,それでも同じことですよね。役務提供者が瑕疵があることに気付かないで履行を終えたけれども,その中身に問題があった場合に,代金減額だとか期間制限を取り込むべきだというのは非常によく分かるんですが,それはすべての有償契約にある話で,物の瑕疵に特化した議論ではないかなと,思うのですが。 ○新谷委員 岡委員が発言された点について,労働分野での懸念する点を申し上げます。売買の目的物は物なのか,有体物なのかという論議がありますが,559条の規定によれば,売買に関する民法の規定は,他の有償契約に準用するということになっています。従来,この点で労働契約に売買の規定が準用された事例は余りなかったと思います。ただ,今回の見直しに当たって570条の規定の内容,瑕疵の定義や,「隠れた」という要件の削除であるとか,(4)で出てまいります代金の減額請求権といったものが今後,検討の俎上にのってきたとき,労働契約にとっても重大な影響があるのではないかなと考えております。   例えば採用の段階で本人も健康診断でも気が付かないような疾病の要因を抱えており,労働契約が成立した後にその要因がもとで発症し,それに伴って労働能力のパフォーマンスに影響が出た場合に,労働契約において当初予定されていた性質を欠いているとか,通常有すべき品質,性能を欠いているということで,使用者から賃金の減額請求が肯定されかねないことを危惧しています。今回の検討の中では,売買契約における物の取引を念頭に検討されていますけれども,今後,この検討が進む中で要件と効果の定め方次第によっては559条を媒介にして,労働力に対しても準用されないよう十分,かつ,慎重な検討をお願いいたします。 ○高須幹事 議論が一つ戻って恐縮でございますが,契約の不適合という言葉に関して,弁護士会でやや違和感が強いという点について発言させていただきます。耳慣れない,聞き慣れないという,その意味なんですが,要は私どもが実感として持っている買った品物に傷がついていたらどうしましょうかと,傷ものだったらどうしましょうかという議論をするときに,それがこの規定の問題だとしたときは,瑕疵という言葉のほうが物の傷という意味では,分かりやすいというような素朴な実感を持っておるというようなことなんだろうと思っています。だから,私は瑕疵でいきましょうと積極的に主張するわけではないのですが,それは私も分からんではないというか,非常にすんなりイメージできるという意味で,瑕疵という言葉に親しみを持っているということだと思っております。岡先生の意見にちょっと付け足しで申し訳ありませんが,そのようなことだと思っております。 ○木村委員 経済界でも,契約不適合という言葉について議論した中で,意見がありましたので,御紹介します。すなわち,契約不適合という言葉が,主観的瑕疵概念と客観的瑕疵概念を包含することを表すという趣旨は良いものの,言葉遣いには賛同できないという意見が二点ありました。   一つは,この文言は,契約書に記載されていなければ瑕疵に該当しないという誤解を招くのではないかという意見です。契約文言上の不適合と言っているわけではないということは理解できるのですが,言葉遣いとして,一般の方たちが誤解する面もあるのではないかというものです。   そして,もう一つは,実務の中では,契約上必ずしも想定されていないようなリスクが顕在化したとき,買主を救済する趣旨で,瑕疵担保責任の考え方を機能させ,解決するというケースがあります。瑕疵という文言を契約不適合と定義付けてしまうと,このような解決は許されないということになってしまう懸念がないわけではない,要するに運用上の懸念がないわけではないので,言葉遣いは慎重に検討していただきたいというものでした。 ○松本委員 少し話が戻るんですが,売主が個人か事業者であるかによってルールを変えるべきだという議論があって,それをする必要はないという議論もあったわけです。私は個人か事業者かで分けるというのは,論理的には破綻すると思うんです。つまり,典型的な例として出された個人ユーザーが中古自動車業者に売却するという場合は確かに分かりますが,個人が売主で別の個人に売る場合について,瑕疵担保責任が非常に軽くなっていいのかと。対価的なバランスが取れないんだけれども,個人同士だからいいでしょうという,それは本来の瑕疵担保の趣旨からいけば通らない世界だろうと思うんですね。   事業者といってもその商品を扱い慣れた事業者,あるいはその商品を取引するのが事業の内容である事業者とそうでない事業者では,恐らく全然扱いが変わってくるだろうと。むしろ,今の中古業者に売却するという例から見れば,売主が誰かによってというよりは,買主が誰かによる違いのほうがむしろ大きいのではないかと思います。事業者間の場合でも買手の事業者が当該商品の流通業者であれば,検査義務等が入ってくるのは当たり前であるということになるわけです。   そういう点から考えますと,部会資料15−1の4ページの(3)の隠れた瑕疵の「隠れた」という要件は,要らないのではないかという議論は,ちょっと考え直したほうがいいのではないかと思います。つまり,ここに正しく書いてあるとおり,ここで言う「隠れた」ということの意味は,買主の善意無過失を意味するものと解釈されていると。ということであれば,前提として言わば検査義務的なものがある場合は,それをきちんと果たしていることというニュアンスが入っているんだろうと思うんですね。中古流通業者が買い取る場合は当然,一定の検査等をした上で評価をして買い取るということになるわけで,それに売手である個人がうそをつくとかいうことになれば,また,別の評価が入ってくると思いますが,そうではない場合であれば,ここで言うところの買主の善意無過失かどうかによる瑕疵担保責任のありなしにかかってくるんだと。   そうすると,ここで「隠れた」というのを消してしまって,客観的瑕疵概念と主観的瑕疵概念を含む瑕疵という一般的な議論で,果たして今のような検査義務的な分までカバーできるのかどうか,若干,私は疑問があります。そうであれば「隠れた」は,正に今のような問題について適切な解を与える手掛かりとして,残したほうがいいのではないかという感じを持っております。 ○能見委員 瑕疵の概念に関連してですが,ちょっと私がイメージをしている最終的な売買規定の姿が少し影響しているからかもしれませんが,私は債務不履行の一般的な規定のほかに,売買みたいなところでその特則がいろいろな意味で置かれるのはいいことではないか,すなわち,債務不履行責任の規定のほかに,売買のところに瑕疵担保責任に相当する特則みたいなのが置かれるのはいいことではないかという考えを実は持っておりまして,それに影響されていますけれども,瑕疵という概念についても,これを完全に債務不履行概念に統一するのではなくて,中間的な概念というんですか,具体化した概念とでもいうのか,そういうものを売買のところに規定するのがよいのではないかと思います。もっとも,現在の瑕疵概念は少し狭過ぎると思いますので,契約不適合というような概念が設けられることには意味があるであろうと思います。   現在の瑕疵概念が狭いといいますのは,先ほど売買目的物の傷みたいなものをイメージするということを高須幹事ですか,言われましたが,もちろん,それが典型的な不適合であり,瑕疵なんですけれども,主観的な瑕疵という言葉が適当かどうかは分かりませんが,契約によって当事者が合意した,あるいは予定した用途などにとってふさわしく品質を持っていないというようなときに,それも瑕疵であると言えなくはありませんが,そして現在はこれを瑕疵に含めようとしていますけれども,そういうのは傷というのとはちょっと違って,やはり契約で当事者が合意したのにふさわしい品質を備えていないという意味での契約不適合という言葉を中間的な概念として設けるという考え方があるのではないかと思います。   そういう意味で,瑕疵の定義のところで瑕疵という言葉を維持するかどうかということが問題提起として出ておりますけれども,私は不適合という言葉は新しくて耳慣れないかもしれませんけれども,債務不履行と同じではない,それから瑕疵ともやはり違う。両者の中間に位置する概念を設けることがよいのではないかと思います。 ○山野目幹事 一つ前の松本委員の御教授について少しお尋ねをさせていただきますが,部会資料15−1の4ページの(3)の論点をお取り上げになって,(3)の見出しの後の段落の善意無過失の意味のところについて御指摘をいただきました。これについては,そのすぐ後の部会資料に書いてあります表現でいいますと,客観的瑕疵概念と主観的瑕疵概念を含む瑕疵の認定において,そのことは既に考慮されているから「隠れた」を独自の要件とする必要はないという,このロジックの立て方についてどうお考えになるのかということが一点と,それから,御議論の中での善意無過失の判断の基準時をいつだとお考えになっているんだろうかということがもう一点と,少し教えていただきたいというふうな気持ちを抱きます。よく分からないのですが,ここの「隠れた」という要件の問題と検査義務の問題は,一応,論点は区別して議論したほうがよいのではないかと感じておりますので,申し添えさせていただきます。 ○松本委員 客観的瑕疵というのはそのものとして備えているべき品質・性能が欠けているということで,中古の場合はなかなかそこの評価が難しいですが,中古自動車であっても,安全性については最低限ここまでというようなことを述べた判例があります。他方で主観的な瑕疵というのはいわば当事者の合意の問題ですから,合意ではっきりとこういう品質・性能だということがあればいいわけですけれども,中古品の売買で品質レベルでの合意というのが果たしてどう行われるのかよく分かりません。したがって,検査義務的なものを一定の前提とした上で,売手の瑕疵担保責任についての判断の違いを入れることが可能な言葉として,「隠れた」というのが従来,機能しているのであれば,それを残したほうがいいのではないかと。裸の主観的瑕疵で今の問題がカバーできるのかということです。 ○鎌田部会長 検査義務ということで先ほど山野目さんがおっしゃったのは,受領時の検査義務を前提にしておっしゃっているんでしょう。松本先生は契約締結時における検査義務・注意義務ですね。それで時期の問題はいいと思うんですが,主観的瑕疵が契約で定められていなければいけないかという点については,先ほどの山本敬三さんの御説明からいえば,そうではなくて,例えば売主が素人で買主が職業的業者であるというようなその関係を踏まえて,当該契約ではどの程度のことまでが客体についての有すべき性質として期待されていたのかということを個別に決めていけるから,瑕疵の認定の中で全部処理されていて,重ねて「隠れた」という要件はなくてもいいという,そういう趣旨がここの(3)に書かれているんだろうということで,考えていることはそれほどは違わないと思います。 ○松本委員 何か主観的という言葉をかなり超えた,社会的な妥当性の判断のような意味が入ってきているようで,それはそれでいいと思うんですけれども,従来,言われている主観的瑕疵よりはもう少し客観的なといいますか,当該シチュエーションにおいて第三者から見ればこう在るべきだというようなニュアンスに感じます。 ○潮見幹事 ですから,先ほど主観的瑕疵,客観的瑕疵がここで問題になっているというよりは,むしろ,法務省の作成されたところによれば,主観的瑕疵の中の(2)のところの括弧の中に入っている「当該契約において予定された性質を欠いていること」をもって瑕疵を判断していこうという立場が望ましいのではないかが問題となっているのです。そして,仮に「当該契約において予定された性質を欠いていること」をもって瑕疵と考えるのであれば,それが一体どのようなものかを考えるときに,契約締結時点における当事者の調査能力だとか情報収集能力だとか,従来,「隠れた」というところで問題とされていたような諸要素が考慮されているのでして,したがって,瑕疵の有無を判断すれば,それで全てが尽きるのであって,わざわざ「隠れた」という要件を瑕疵という要件と分けて扱う必要はない。さもなければ,瑕疵という要件と「隠れた」という要件の関係が分からなくなります。 ○松本委員 学者の議論だから,結論は一緒ということもあって,どういう説明でもよく分かるんですけれども,普通の人から見て,何の限定もない瑕疵という概念はこれだけ複雑な内容を持ったものなんですよという説明のほうがいいのか,それとももう少し瑕疵を分節化して,判断ポイントが分かるようにしたほうがいいのかという話だと思うんです。あるシチュエーションにおいては買手側に一定の検査義務というか,評価義務というかがあるんだということが分かるような特則が商法にはあるわけですよね。そういうようなのがあったほうが分かりやすいのではないかと。そういう検査義務的なものを,当該商品を扱う事業者あるいは商人については入れれば,かなりすっきりすると思います。 ○鎌田部会長 具体的な内容として共通の理解をしているかどうかということと,それを書き表すのにどういう表現,あるいはどういう要件立てをするのがより適切かというのは,少し議論の対象は分かれるのかもしれません。内容的な部分ではおおむね共通の理解は得られている。ただし,それを瑕疵なら瑕疵という言葉の中に,全部,そんなものを盛り込んだら,かえって分かりにくくなるかもしれないという御指摘がありました。その辺のところに配慮しながら,今後の議論を詰めていく必要があるだろうと,こう考えます。 ○山野目幹事 くどいようですから,これでやめますけれども,今,部会長が整理なさったように,具体的な法文の作り込みの作業をしていく中で,この問題に対する一定の共通の理解とそれに基づく解決が得られるものであろうと思います。けれども,心配しておりますことは,瑕疵の概念を契約の趣旨を反映させたものとして定義を書いて,同時に「隠れた」というのを入れると,潮見幹事も御示唆になったように,同じことについて二つ法文で書き込むことになり,ロジックとして困ったことになりますから,それは避けなければならない,ということをただいまの議論で感じました。 ○木村委員 今ご指摘の点ですが,我々も,確かにロジックはよく分かるのです。しかし,「隠れた」という言葉であれば,少なくとも外形上,明白な瑕疵というのはこの対象ではないということが明快となるため,我々が自主的に紛争解決するための判断基準に活用する際,非常に分かりやすい言葉遣いである,実務上は意味のある要件であるという意見が強くありました。 ○鎌田部会長 ありがとうございます。   まだまだ御意見があるかもと思いますけれども,便宜,次の「(4)代金減額請求権の要否」及び「(5)買主に認められる権利の相互関係の明確化」についても御意見をお伺いいたします。 ○岡田委員 消費者トラブルの中でペットのトラブルが本当に最近増えていまして,ペット自体を物という認識が消費者にはなく,生き物でかつファミリーだと思っていますから,先ず法律的には「物」であることを理解して欲しいのですがこれが至難の業です。実際のトラブルはペット屋さんで買った犬や猫が病気とか身体に異常があったといった場合に,瑕疵担保と捉えるのだろうと思いますが,そうした場合に解除か損害賠償という形で解決することになるかと思いますが,買主は何日間でも自分のところにいましたから情が移っていまして,販売店が引き取るといっても拒否する場合が少なくありません。では,何を要求するかというと,一生分の治療費用を持てというようなことをいいます。それが損害賠償になるのかならないのか悩むところですが,販売店はこのような要求には応じません。その意味で今の条文では適合しないと思います。その場合に減額という選択肢があれば解決策になるかも知れません。我々相談員の内輪話ですがペットを物ということから解放できないのだろうか,つまり物と人の間なんてできるといいねと話すことがあります。 ○鎌田部会長 効果論に入ってきたんですけれども,岡委員,効果論の関係での御意見をお願いします。 ○岡委員 代金減額請求について,等価的均衡を維持するための最低限の救済手段であって,損害賠償とは別だという理屈のところがよく分からないという意見がございました。債務不履行による損害賠償で十分ではないかということです。算定が難しいというのは事実としてあるかもしれませんけれども,損害賠償と別に何でこれを認める必要があるのかという意見が多くございました。私もそう思います。もし,そうではなくてやはり免責が認められない,損害賠償が認められないような場合でも,これを認めるんだというときに,有体物の瑕疵についてだけ何で認めるんだと,無体物だって不具合については等価的均衡を回復してやればいいではないかという意見がございました。そういう意味で,一般論でいいのではないかという意見の御紹介でございます。   それから,買主に認められる権利の相互関係の明確化というところにつきましては,大阪弁護士会等は詳しくていいのではないかという意見でございましたが,全体的にはヨーロッパ契約法原則のような矛盾する権利行使は認められないというのでよろしいのではないかという意見が多数でした。いろいろ救済手段が認められて結構なんですが,原則として買主に選択の自由を認め,その上で信義則だとか損害軽減義務だとか,そういうもので調整をすれば足りるので,何があるか分からないときに法律で順番を決めるというのは,避けたほうがいいというのが大勢の意見でございました。 ○山本(敬)幹事 「買主に認められる権利の相互関係の明確化」について,先ほど既に議論が出ていましたので,それをもう一度確認するだけになるかもしれませんけれども,結論として言いますと,必要な限りで相互関係を明確化すべきだということになりますが,そこで言う「明確化」には,先ほど出ていましたように,二つの種類のものがあることに注意する必要があると思います。   一つは,債務不履行ないしは契約不履行の一般原則として認められるルールを売買に即して具体化し,確認するというものです。   例えば,仮に債務不履行ないし契約不履行一般について,追完請求権を認めるとしますと,追完請求権と損害賠償請求権の関係や,追完請求権と解除権の関係は,一般原則として必要になるはずです。そのような一般原則が明確に定められているのであれば,売買に関してそれを具体化し,確認する規定を置くことは,不可欠ではないですけれども,「分かりやすい」民法にすることを重視するならば,規定を置くことが望ましいということになります。いずれにしても,この場合は,一般原則とそごを来さないように定めることが必要です。   もう一つは,債務不履行ないし契約不履行の一般原則から直ちに出てこないルールを定めるものです。これは,必ず定めなければならないものです。   例えば,今出ています代金減額請求権を一般原則のほうで認めるならば,先ほどの問題になりますが,もし認めないのであれば,代金減額請求権と追完請求権あるいは損害賠償請求権,解除権との関係は,必ず定めておく必要があると思います。   そのほか,追完請求権の具体的な内容として,売買に関して,代物請求権と修補請求権を認めるのであれば,その代物請求権と修補請求権の相互の関係もやはり規定しておく必要があると思います。   これを解釈に委ねてしまいますと,例えば,買主のほうが代物請求をするときに,売主が修補をするということによって,代物請求を退けることができるのか,あるいは,買主が修補を請求しているときに,売主のほうが代物を給付することによって,修補請求を退けることができるのか。こういう実践的にもよく問題になりそうな事柄について,民法のルールが明らかではないことになってしまって,問題が大きいと言わざるを得ないと思います。   もちろん,今言われましたように,余り細か過ぎる規定を置きますと,かえって分かりにくくなるので,たとえば,「矛盾する権利行使は認められない」といった概括的な規定を置くのは,考え方としてはよく分かります。しかし,それでも,そのほかは全て買主の選択に委ねるとしてよいかどうかは,やはり別問題だと思います。少なくとも,先ほどの買主の修補請求に対して,売主が代物を給付することによって修補請求を免れることは,基本的には認めてよいのではないかと思いますし,さらに,買主の代物請求に対して,売主が修補することによって代物請求を退ける可能性も,一定の要件の下で,例えば,修補が容易で相当の期間内にできるときには,認めてもよいのではないかと思います。いずれにしても,このようなことを具体的に検討した上で,結論を出すべきではないかと思います。 ○鎌田部会長 岡委員のもう一つの御質問で,契約責任説に立ったときに,なぜ代金減額請求権なんていうものが出てき得るんだという御質問もあったと思います。これも誰が答えるべきか,なかなか難しいところでありますけれども……。 ○松岡委員 誰も手を挙げなさそうだったので,専門家でもないのにしゃしゃり出ているのですが,売買契約の等価性を確保することと,約束したことを超えて損害が発生した場合にそれを負担させることは,やはり質的に差があるのではないかと思っております。   瑕疵担保責任の性質が無過失責任かどうかという議論がありますが,少なくとも一致しているところでは,対価的な均衡を回復する限度では,帰責事由は要らないし,むしろ,免責ということもおよそ問題になりません。つまり,本当は瑕疵があってそんな値段でないものをそうした瑕疵がないものとして売ったのは,売主が,本来自分の持っている以上の権利があるとして売って不等価交換をした,いわばババ抜きでババを買主に転嫁したわけです。担保責任のうちの解除や代金減額は,それが許されないとして対価バランスを元に戻すだけなので帰責事由の問題ではない,と思います。   これに対して,代金減額を超える損害賠償は,信頼利益にとどまるのか履行利益にまで及ぶのかという議論は別にして,いずれにしても,場合によっては売主は当初約束したこと以上に負担を被るわけですから,その負担を正当化する事由を要し,時には免責が必要になります。代金減額と損害賠償の二つは買主の法的救済という意味ではそれほど変わらないものかもしれませんが,売主の負担という点では大いに違いがあるのではないだろうかと考えています。 ○中井委員 弁護士会でも意見の分かれたところですが,大阪の意見としては代金減額請求については,松岡委員も山本敬三幹事もおっしゃられたように,やはり対価的均衡を欠くものとして,売主が無過失若しくは免責事由があったとしても,対価的均衡を回復するために,代金減額請求というのを債務不履行責任とは別の特則として認める方向がいいのではないかという意見です。   ただ,松岡委員の発言にも関連しますが,買主側に掛かったコスト,費用部分は,代金減額請求を純粋に考えれば物の価値の差額ですから,恐らくその中には含まれないだろうと思います。損害賠償請求でも売主に免責事由があるとすれば請求できないわけですから,そうすると,コスト部分について買主が最終的に負担しなければならない。それは現在の法定責任説と比べると買主に酷な結果にはならないのかと,こういう疑問なり指摘があります。買主の保護として本当に代金の差額,物の価値の差額,対価的均衡部分だけでいいのか,さらんに,掛かったコスト部分も少なくとも善意の買主である限りにおいては,何からの形で売主に負担を求めるのが好ましいのではないか。   その方法として,代金減額請求の差額として,物の対価的な差額にプラス,コスト部分も含めて代金減額請求の中で売主に求め得るという考え方と,そのコスト部分については少なくとも損害賠償の特則,非常に分類化されることになるのかもしれませんけれども,仮に売主が無過失であっても,そのコスト部分については,損害賠償名目で負担すべきだというような救済を考えるということを検討すべきではないかという意見がございました。   それから,次の買主に与えられた権利の相互関係の明文化,明確化については,先ほど岡委員からもありましたけれども,弁護士会は総体的には簡潔な規定でよいと,私も俳句説ですから簡潔な規定でというところなんですが,大阪弁護士会は,先ほどの山本敬三幹事の御意見のように,明確化できるものは明確化していくべきではないかというのが大勢の意見でした。   その中で,代金減額請求権との関係で,それを行使すれば他の権利の行使ができないというような仕組みはよろしくないのではないか。代金減額請求したけれども,思いどおりの減額ではなかったとすれば,他の救済方法を選択するということもあり得るでしょうから,矛盾する結果を許容するようなことは許されないとは思いますが,権利の行使の段階で一方が行使したら他方が行使できないという規律については,いかがなものかと考えています。 ○能見委員 ちょっと別な観点ですけれども,いろいろな権利行使の相互の関係の問題に少し関係いたします。修補請求とか代物請求という救済手段を売買の場合にどう位置付けるかという問題です。債務不履行の一般原則のほうからもアプローチがあるでしょうし,債務不履行の救済手段だということになると,履行を完全にするという意味での代物請求とか修補請求というのは,当然かどうかは分かりませんけれども,何か自然に出てきそうなんですが,売買の瑕疵担保責任との関連で,これらの救済手段が当然に認められるという考え方が貫徹できるのかどうかという問題があるように思います。例えば特定物の売買の場合に,修補請求は債務不履行責任だからあるとしても。どの程度,強い権利としてこれを認めるかというのはいろいろな政策というか,いろいろな立場があり得るのではないかという気がいたします。   代物請求についても同じでありまして,先ほど売主が商人か個人かで分けるという視点が必要ではないかと主張しましたが,必ずしもそれを最後まで貫徹しなければならないという意図はありませんけれども,こういった修補請求などの問題については,特定物売買の個人の売主に対して修補請求が追及できる,強い権利として追及できるというのは,適当ではないのではないかと思っております。ちょっと話がいろいろごちゃごちゃしたかもしれませんが,言いたいことは,売買の場合,特に特定物の売買の場合の代物請求権や修補請求権は抽象的にはあり得るにしても,どの程度,強い権利として認めるべきなのか,むしろ認めるにしてもあまり強い権利としてではなく認めるということが考えられるのではないか。強い権利としてではなくというのは,売主にとって修補が難しいとなったら,修補請求権などはすぐに失われる,それ以上は追求できなくなり,修補に代わる損害賠償が請求できるにすぎなくなるというあたりが問題なのだと思います。これは履行利益の賠償の問題とも関係しますので,こんな点を考えておく必要があるのではないかということです。 ○高須幹事 今の相互関係のところですが,売買の場合,いわゆる建売住宅なども売買という形で処理されることが多いと思います。もちろん,請負の場合もありますけれども,売買という形で契約される場合もあると。そうすると建売住宅の売買を念頭に置いたときに,瑕疵のあるものを買った買主が余りもめていないうちは,すごく気楽な気持ちで直してくださいと売主に話すし,売主のほうも,売主といっても業者なわけですから,基本的には自分のところに大工さんも何でもいるというような形なので,すぐ直してきたりすると。   ところが法的なレベルになってもめてくると,実際にはもう信頼していない,信用していないということがあって,むしろ,直すと言われても困りますと,金で弁償してくださいという要請が強くなってくる。また,業者によっては直す,直すと言って直すんだけれども,全然,直らないというか,その繰り返しみたいなレアケースというか,本来,想定しているケースではないのかもしれませんけれども,そういうこともあり得ると。   そこで,やはり相互関係をある程度,決めていくというのが合理的だとは思うのですが,実態に即して考えていくときに,なかなか何を想定して優劣をつけていくか,特に権利行使の段階で,先ほど中井先生から出たように,権利行使の段階で優劣を付けたりするときには非常に慎重にやらないと,使い勝手の悪いものになってしまう危険があるのではないかと危惧しております。トータルとしては決めていったほうが分かりやすいと思っているのですが,そこの決定過程ではなかなかうまくいかない場合があるのかもしれないという危惧を持っておって,よく現状というか,そういうのを調べながらやっていったほうがいいのではないかと思っています。   それから,代金減額請求のほうはちょっと余談かもしれませんが,やはり基本的には私も瑕疵のあるものを,あるいは不適合なものを買った買主としては損害賠償してくれという場合もあるけれども,ともかく代金を返してくれとか,まけてくれとかという素朴な法感覚というのを持っている場合が多いわけですから,それを実現するためには代金減額請求権というのは本来,ストレートなんだと思いますので,そういう意味で現実性のある制度ではないかと思っております。 ○奈須野関係官 今,(5)の買主に認められる権利の相互関係の明確化ということで,詳細版の資料で21ページから26ページまで,非常に精緻な議論を展開していただいていますが,大変,申し訳ないんですけれども,一般の人から見て,これがどう映るのかなと。非常に法律として分かりにくくて,試験問題がいっぱいできるということになってしまわないかという危惧があります。   これは商社から寄せられている意見なのですけれども,買主に認められる救済手段の優先順位は,いつどこで誰が誰に何を売るかというような取引の状況によって変わるわけでして,これがじゃんけんみたいに一律に優先順位が決まるというような実態ではないというような意見がありました。特に代物請求,修補請求あるいは追完というものと損害賠償請求や代金減額請求の相互の関係においては,例えば売主が地理的に離れている場合とか,追完のためのコストが掛かるような場合には,損害賠償請求や代金減額請求で対処したいということも観念されるので,一律の定めというのは困難ではないかという意見がありました。 ○加納関係官 (5)の権利関係,その明確化のところですが,今回,契約責任説という発想も考慮しながら,どういう権利があるかということを明確化しようということだと思いますので,それは分かりやすい民法にするという観点からは,必要なことではないかと思うわけですけれども,まず,その前提として瑕疵担保責任からどういう請求権があるのかというのをきちんと議論して,それでどこまで書くかということをしっかりと明らかにしていただきたいなと思っておりまして,といいますのは,消費者契約法の8条1項5号というところに,瑕疵担保責任の免責特約に関する規定がございまして,全部免責特約は無効とするという旨の規定が設けられております。   が,その2項で,一定の特約のようなものがある場合には,1項5号の規定は適用しないという規定も同時に設けられておりまして,その場合,当時の立法の資料を探ってみますと,どうも法定責任説的発想に立ちつつ,一定の特約がある場合には,免責特約があったとしてもなお有効とするというふうな立て付けにして条文を書いたと思われるところなんですが,瑕疵担保責任の位置付けとか,請求権にどういうものがあるかということが変わりますと,免責特約をどういう場合に無効にするかということについてもかなり変わってきますので,場合によっては消費者契約法8条の現行の規定も,大幅に修正しなければならないのではないかと思われます。その点はしっかりと議論して,明らかにしていただく必要があるのではないかと思っております。 ○潮見幹事 救済手段といいましょうか,権利の相互関係のところに議論が集中しておるようなので,ここで一言だけ私の意見といいますか,感触を申し上げさせていただきたいと思います。この問題を考えるときには,今回の資料にはたくさん引用されておりましたが,5という資料番号がついている債務不履行の一般法理のところでの権利相互の関係というものをどうとらえていくのかということをまずイメージした上で,さらに,それを売買のところでどのように展開していくのかということを考えるのが筋道ではなかろうかと思います。   おさらいを兼ねて申し上げますと,一部,私が発言した部分もございますが,債務不履行の一般法理のところでは,基本的に履行請求権というものがあって,履行請求権の優位性は認める。それから,追完請求権というのも規定しましょうということでした。そして,追完請求権の限界事由と履行請求権の限界事由というのは,基本的に同質といいましょうか,同じような観点から捉えていくべきであろうということでした。ちょっと異論は申し上げたかと思いますけれども,そのような意見がここでの多くの意見ではなかったかと思います。さらに,債務不履行の一般議論のところでは履行請求権と,それから,履行に代わる損害賠償請求権についてのその関係の議論も出て,一つの提案のようなものが出ていたように記憶しております。   その中で,少し申し上げた部分にも関わるのですが,幾つか申し上げますと,一つは追完請求権について,先ほど山本敬三幹事が言われた部分なのですけれども,債務不履行の一般法理の部分でも発言したのですが,誰が追完内容を選択することができるのか,それから,それに対して仮に債権者が選択できるとした場合に,債務者の側がそれを変更することができるのかといったようなあたりのルール整備が恐らく必要でありましょう。   以下,それを前提に申し上げていきますけれども,さて,そのような債務不履行の一般法理の枠組みがあったとして,次に,売買のところで救済手段,権利相互の関係をどのように捉えるかという際に,まず,一般法理でそのまま処理すればよいということならば,特に売買の箇所でいろいろな規定を設けるなんていう仰々しいことをやる必要はそれほどないかもしれない,せいぜい分かりやすさに留意するぐらいだと思います。   ところが,幾つかの議論が先ほどからあったところにも表れておりましたように,例えば債務不履行の一般法理で考えられている枠組みを変えようと,順序を変えるとかいうようなことを売買のところでやるというのであれば,債務不履行の一般則とは違いますから,ここで規定を幾ら細かくなるからといっても,置く必要は出てくるというようなことになりましょうし,仮に順序というものを変えないにしても,能見委員の発言にございましたように,例えば瑕疵修補請求権では,一般の追完請求権とは違うような限界事由というようなものを設けるべきだということであれば,要件の内容を変えるという意味で,ここに規定を置いておく必要が出てこようと思います。   それから,代金減額請求についても,比較法的には債務全て,契約全てについて代金減額請求,あるいは対価減額請求と言ったほうがいいのでしょうが,そのようなものを設けるべきであるとしているものもありますが,そういう立場に立たないのであれば,債務不履行一般については対価減額請求の規律がないわけですから,少なくとも売買のところに代金減額請求に関する規定というものは置いておく必要があるでしょう。そうなると,債務不履行の一般法理とは違う権利,救済手段がここに一つ出てくることになりますから,どうしてもその場合には売買のところで幾ら細かくなろうが,何らの示唆を与えるようなルール整備をしておく必要がありますし,それをしないで幾つかの救済手段あるいは権利相互の関係は解釈等に委ねるというのでは,かえって見通しのきかないことになるのではないかと思うところです。   現行法のもとでも,担保責任のところで広く権利の瑕疵のあたりも含めて代金減額だの,損害賠償だの,いろいろな規定が設けられていて,その間の権利の関係というのはどうするのかということ自体が解釈に委ねられている部分があって,さらに,そこの部分で諸説が出てきているようなところもありますので,個人的にはこの部分は少し細かくなったとしても,今言った意味で必要性がある部分については規定を置いておくべきであると思います。   ついでに,もう一つだけ,代金減額請求について中井委員の発言があったものですから簡単に申し上げますと,代金減額請求権については,どの時点で,どの観点から代金減額をするかという点をめぐって,いろいろな意見が実際にありますので,代金減額という観点からの規律をする場合には,どの時点を基準にして,どのような観点から,物の差額ではなくて代金の差額を確定していくのかということは,ルールとして置いておいたほうがいいのではないかと思います。 ○深山幹事 同じく権利の相互の関係なんですが,この議論は複数の権利救済手段を認めるにあたり,順番を付けて,必ずこういう順番でいくんだということを基本に考えるのかどうかという問題だと思います。ルールとして明確化するということで,もちろん,一般原則で書くか,売買のところで更に書くかという問題はあるんですが,優劣関係を書いておくとルールとしては非常に明確なるんですけれども,そもそも必ずこの順番でやらなければならないという規律にするのかどうか。権利行使をする者(売買でいえば買主になるんでしょうが)に選択の余地を認めるということを基本に考えるのであれば,一方的にこっちの順番でやりなさいということを決め付けるというのは,救済手段としては非常に狭まってしまう。そこの選択がまず一つ大きな価値判断というか,制度の選択の判断としてあるのではないかなと思います。   もう一つは,例えば買主がこういう形で救済してくれと言ったときに,売主のほうが,いやいや,そうではない別の形で履行なり填補なりをさせてくれと,こういうことを認めるのかどうかという問題が,これはまた別の問題としてあると思うんです。それは正に追完権の話にもつながってくるんですが,ケース・バイ・ケースで,買主の求めている救済方法が余り合理的ではなくて,売主が提案しているほうが合理的な場合もあれば,その逆もあるわけで,一律にどっちに優先的な決定権を認めるのがいいかということは,なかなか個々の事例では言えないんだと思うんですね。   常に買主が先に決められるというようなルールにすれば,それはそれで一つのルールですけれども,もしそういうことができないんだとすると,どういう規律でどっちに決定権といいますか,優先権を与えるかというのはなかなか難しくて,一般則の議論のときも多少申し上げたかと思うんですけれども,追完とかいうことを考えると,一概にどれが一番合理的だということを決め難いのではないかなというのをずっと思っております。売買のところでも同じように思っていて,私自身は基本的にはやはり権利者,売買でいえば買主側に自由な選択権を与えるのを基本とし,よほど不合理な要求,権利としては認められるけれども,あえてその権利の行使を選択するのが不合理な場合には,信義則なり,権利濫用なりの特別な法理で制約をするということはあり得ると思うんですが,原則としては買主側の選択に委ねるという規律が一番ルールとしては妥当なのではないかなと,こんなふうに考えております。 ○潮見幹事 深山幹事に質問なんですが,前半部で述べられたのは,債務不履行を理由とするいろいろな権利がある場合に,一般論としても,債権者がどの権利を使うか,どの武器を使うかということについては,債権者の自由な選択を認めるべきであるというスタンスでの御発言でしょうか。それとも,債務不履行一般の場合には,履行請求権の優位性だの,何だのかんだのというような,それぞれの権利相互の間の適用順といいましょうか,使い方の順番というものがあって,しかし,売買の場合はこれと違うのだということでしょうか。もし,仮に後者であるとしたら,どうして違うような扱いをするようなことになるのかというのをちょっとお教えいただけますでしょうか。 ○深山幹事 基本的には売買だけ特別にする必要はないんだろうと思っています。ただ,解除権の行使というのと損害賠償その他とは,ちょっと同じ救済の制度といっても,違うのではないかなという気もしていて,そういう意味でいうと,私が言ったことは,解除も含めて全ての選択肢を自由にというところまで,あえて申し上げているわけでもないんです。合理的にそこは優劣を作るということがあってもいいという議論の余地を残して,ただ,基本的には選択の順番を全て決めてしまうのではなくて,残せる選択肢は残すべきではないかということです。   とりわけ,解除というのは要するに全く元に戻す方向ですし,履行というのは完結させる方向で,方向性が180度違うわけですけれども,その中間的な減額請求とか,そういうものもあるわけです。任意規定だといえばそれまでかもしれませんけれども,任意規定といえども,法律で順番を決めてしまうというのは,権利救済の在り方として保護を弱めるといいますか,救済手段を弱める面があるのではないかなと。そういう意味では売買に限らず,一般的に債務不履行があったときのルールとして,なるべく選択権を与える方向で議論すべきではないかなと,こんな趣旨です。 ○岡委員 二点で,一点目は今の深山さんの話に関連しますが,メーカーの代理人として,瑕疵担保の事例を扱ったときの報告をさせていただきたいと思います。   メッキ不足の商品をかなり販売しておりまして,メッキ不足が判明した事例です。判明後いっせいに謝りに行きます。そのときに,まだ施工していない物は無条件に代品交換します。もう工事している物でも取替えが可能かつ容易な物は,メーカーで工事費を負担して取り替えます。取替えが無理な場合についてはぎりぎりした交渉をして,できるだけ工事やり直しではない方向をお願いしますけれども,JIS規格等の関係で工事やり直しまで必要だという場合には,建て替え,取替えまでいきます。そうではない場合は,本当にケースによって,相手によって,従来の信頼関係によって,一定のお金で損害賠償だと思いますが,それで合意をするときもありますし,メッキ不足ですから耐用年数が35年のところ,28年しかもたないという程度であれば,28年後から35年後までの将来,何かあった場合には保証しますと,そんな保証で勘弁してくれるところは多くはないんですが,信頼関係があれば,そういうことで前に進む場合もございます。   言いたいことは,やはり当事者間の信頼関係あるいはその物の性状あるいはその物が買主の手元でどこまで組み込まれているか,そういうことによって,いい解決というのは事案事案によって違うと。裁判でもそうだろうと思うんです。そういう具体的正義を見付けるためには,全ての総合判断でなされるべきところに,何か法律で順番ががちがちに決まっていると,極めてやりにくいというのが実務家としての感想でございます。   二番目に,代金減額請求の法理は賛成なんですが,先ほど新谷さんも言われましたけれども,有償契約に全部準用されるわけで,いい考え方ですから免責事由がなくても,等価関係を維持するために代金の一部を減額しろと,そういうルールが売買に,有体物の瑕疵ではなくて売買の一般論として入ると,それこそ労務だとか委任だとか,請負にもじわっと広がっていって,それでいいのかという危惧感があります。それでいいんだったらいいんですけれども,それよりは何か免責事由のある損害賠償で処理していったほうがいいのかなと思います。先ほど松岡先生がおっしゃいましたけれども,損害賠償ではない等価関係の維持をやるためのいい制度だとすると,それはすべての有償契約に伴うものとして規定するのか,労働だとか,特定のものにはいかない,売買のこの部分に限定するんだという趣旨の条文を置いておかないとちょっと効果が強過ぎるのではないかという危惧を持っております。 ○岡田委員 順番に関してはちょっと私のほうは判断がつかないんですが,先ほど高須幹事のほうから出ましたが,やはりリフォームのところで物すごく問題になりますので,悪質な事業者に関してやはりやり直せ,やり直すということについて,債権者のほうがある程度のところで見切りをつけることができるような,何かそういう制度を作っていただきたいなと思います。そうでないと悪質な事業者ほど,やる,やると言いながらやらないという部分で消費者は本当に困りますので,それをちょっとお願いできたらなと思いました。 ○鎌田部会長 それでは,(6)についても,御意見があれば,お出しいただければと思います。 ○大島委員 (6)の短期期間制限の見直しのところですけれども,実務の観点から申しますと,消費者との関係においては,不動産取引を除けば,そもそも契約書を作成しない取引が多く,そのような取引については,買主が事実を知ったときから1年という短期期間制限が適用されることになりますけれども,そのことが大きな問題になっているという実態は把握しておりません。しかし,仮に売主の瑕疵担保責任の短期期間制限が廃止され,一般の債権の消滅時効に委ねられることになりますと,経済活動を行う企業にとっては瑕疵担保責任を追及される期間が長期化して,経営上の不安を抱えることになるのではないかと思います。買主に通知義務を課し,通知すべき期間について,買主が瑕疵を知ったときから合理的な期間内という期間制限を設ける提案もございますが,予見可能性を高めるためには,合理的な期間の基準は明確化する方向で御検討いただきたいと思います。   また,買主側からの通知についてですが,取引の現場では顧客からの問い合わせや要望,クレームなどが日々,数多く寄せられるのが実態です。企業サイドもこれらの声を真摯に受け止め,十分な対応を行っているところですが,こうした様々な連絡ないしクレーム,要望と,通知との違いは明確にしなければ,業務が混乱するおそれがあるのではないかと思います。   いずれにいたしましても,短期期間制限の見直しにつきましては,売主と買主双方のバランスに配慮しながら,各界の意見を踏まえて慎重に御検討いただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○奈須野関係官 今の御意見と大体同じような話なのですが,私は個人的には最初,「合理的な期間内に通知してください」というのは良い改正ではないかと思って,色々な方に聞いて回ったんですけれども,結果的には,なかなか事業者にとっては受け入れにくいだろうということであります。現行の1年とか,その他に例えば商法526条の6か月を参考にする方法もございますので,こういうような方法によって,「合理的な期間内」という曖昧な文言を残すというのではなくて,一律のルールを決めていただいたほうが,事業者としてはやりやすいという意見がありました。 ○中井委員 この点については弁護士会の意見が分かれております。   一つは大阪弁護士会や消費者委員会の意見から申し上げますと,1年間という現行法であっても今の最高裁の権利行使の内容を前提とするならば,権利救済に欠ける場面が少なからず発生している。今回,契約責任的構成を貫くところから,この点は原則どおり契約一般の消滅時効期間に服していいのではないか,通知等の義務を課すべきでないという見解です。   他方,現行法の1年で行使するという実務は相当浸透しておりますので,やはりこれまでの実務との連続性を尊重して,基本的には1年での行使を維持し,行使の内容についての最高裁基準では保護に欠ける場合があるので,瑕疵の通知で足りるようにしてはどうかという意見もありました。また,ほとんどの弁護士会は,この通知について合理的期間という設定の仕方については,今の奈須野関係官からの発言と同様,賛成しかねるという意見で,合理的期間という期間の曖昧さに対する危惧が主たる理由です。どれぐらいが合理的なのか,それなりに判例形成等がされ,実務で浸透し,何年かたてば一定の基準というのが見えてくるのかもしれませんが,やはりこの合理的期間についての危惧が示されています。また,消費者保護委員会等からは,商品を買った消費者は,たとえ若干の瑕疵がある,不具合があると思っても我慢して使っている,使っているうちに1年が経過しているというような事例は非常に多いという指摘もあります。 ○内田委員 奈須野関係官に御質問をさせていただきたいのですが,事業者から批判が多かったという理由がよく理解できませんでした。事業者ですと商法が適用されていると思います。商法526条が適用されますと,受け取って遅滞なく検査をして,瑕疵を発見すると直ちに通知をするという義務が課されているわけで,合理的な期間ということになると,それが緩やかになるということで,買主にとっては多分,有利になるのだろうと思います。それがどうして不都合なのかということと,あと,商法の6か月というのは6か月以内に通知しろという話ではなくて,6か月以内に発見できなければ,もう何の責任も追及できないという規定ですので,6か月のほうがいいというのは趣旨がよく理解できませんでした。 ○奈須野関係官 私もはじめは内田先生と同じように思っていたところなのですけれども,やはり事業者としては,これまでに慣れ親しんだ「1年」という期間の定めがございまして,そのことによって全ての産業が一律に行動しているということで,それを「合理的な期間内」に改めることに対する違和感と申しましょうか。また,ここでリンゴやバナナは1週間かと,建物は1年か,あるいは2年かと,そういうことを争うゲームが新たに始まるということに対する危惧感もあったということでございます。 ○岡委員 二点,申し上げます。   一点目は,損害賠償請求権の起算点の話ですが,売買の瑕疵担保に基づく損害賠償請求権の起算点は,一応,最高裁で引渡し時となっていますのでしようがないかもしれませんが,土地だとか建物のように長い耐久消費財で,瑕疵の発見自体がかなり遅れる場合もありますので,契約あるいは引渡し当時に瑕疵があったと証明できるものについては,引渡し時から10年というルールは不都合な場合があり得ます。一部の耐久消費財の瑕疵で,その発見が類型的に遅れるものについて,消滅時効の起算点を立法的に手当てすべきではないでしょうか。人身の場合,労災だとか,そういうものについては起算点を随分,柔軟に解釈しているものがありますので,一部の売買の瑕疵担保の請求権の起算点にやはり少し問題があるのではないか。立法的な検討ができるのであれば,是非したいという意見が一つ目でございます。   それから,二つ目の知ったときから一定期間内に通知しなければ,権利行使できなくなるという点について,目的物が受領された場合に,売主は履行を終えたという期待を持つのが普通であることが根拠とお聞きしました。これが先ほどの有体物の引渡しという売買の特則の根拠なんだろうと思うんですが,有体物の引渡しのときだけ売主を保護すべきなのでしょうか。それ以外にやはり請負だって委任だって,一応,終わったという場合があるはずで,その場合のほうはどうなるのか,知ったときからある程度の期間の通知義務で権利が消えるというルールは,有体物の引渡しというのが契約に組み込まれたものの特則なのか,もっと先ほどの準用規定でがんと広がるものなのか,その辺をはっきりしておかないと,また,効果が広がり過ぎるのではないかと思います。 ○木村委員 経済界で議論した中では,現行の短期期間制限とされる1年の見直しの要否につきまして,取引の安定を早期に確保するという観点から,見直すことについて反対という意見が強かったです。また,瑕疵を知ったときから合理的な期間内に売主に通知する義務を課すという点について,趣旨は理解できなくはないのですが,二点ばかり,異議といいますか,懸念が出されました。   一つは,特に事業者・消費者間の取引で通知義務を課すのは負担感があるのではないかという意見です。もう一つは,合理的期間内というのが,曖昧であり,その曖昧さのために紛争の多発を招く面があるのではないかと危惧するものです。もう少し明確にする必要があるのではないかという意見でした。 ○潮見幹事 今のところですけれども,私は瑕疵を知った上での通知をしなければ失権するというルールには反対です。このようなものを作った場合には,実際には瑕疵を知れば,そこで通知義務を課したも同然になってしまいます。そういうものを一般民法といいましょうか,一般市民を基礎とする民法典の中に設けるというのは,ルールとしていかがかと思います。それからまた,期間の問題も含めてなのですが,こういう場合の権利の失権というものについては,債務不履行のほかの場合と同じように債権の時効の一般則に委ねて,なお,売買の場合には特別に,しかも瑕疵の場合には特別に短くする必要性があるというようなことならば,そこで少し短めの特別法的なものを作るという,そういう観点で捉えていくべきではなかろうかと思います。 ○村上委員 合理的期間をどの程度の期間として判断されるかということですけれども,場合によっては,1年よりも相当短い期間であると判断をされることになる可能性があるだろうと思います。部会資料15−2の28ページを見ますと,この提案はより一層の買主保護の実質化・柔軟化を図ることを提案するものであるという説明になっていますけれども,見直しの対象となっている現行の1年よりも短い期間であると判断される可能性を考えますと,果たして買主が実質的に保護されることになるのかという疑問があります。更に言いますと,合理的期間内であったかどうかが争点になると,ひいてはそれが訴訟の審理の複雑化,長期化をもたらすことにもなるでしょうから,この点においても買主保護の実質化を図るという提案になっているのかどうか,疑問があるだろうと思います。 ○山本(敬)幹事 既に潮見幹事がおっしゃられたことなのですが,問題提起をもう少しだけしておきたいと思います。   これは,短期期間制限の見直しだけのことではありませんが,もし瑕疵担保責任について債務不履行責任一般と異なる特則を定めるのであれば,やはりなぜそのような特則を定める必要があるのかということをきちんと詰めた上で定めないと,他の規律との関係をうまく説明できなくなっていくことになると思います。例えば,岡委員がおっしゃっておられたことですが,売主はいったん履行すると,それで履行は終わったという期待を持つのが通常だという説明は,もちろん考えられはするかもしれないけれども,それは債務者一般に当てはまることではないのか。いったん給付し,それが受領されたときには,それで履行は終わったという期待を抱くのは,別に売主に限らないのではないか。そうすると,売買に限らず,およそ一般的に不完全な履行が行われたときには,給付を受け取った債権者に通知義務を課して,そして期間内に通知をしなければ,失権するというルールを一般的に認めることになりかねないけれども,本当にそれでよいのかということをよく考えてみる必要があるだろうと思います。   そして,正にそれについてお答えになったのが潮見幹事でして,そのような通知義務を認めることが,債務不履行一般ないしは民法一般の考え方と果たして相入れるのか,よく考える必要があるという御指摘だったと思います。つまり,債権がある場合には,債権者は自分の持っている権利を自由に行使できる。ただ,消滅時効の期間が経過すると,もはや行使できなくなる。これが一般原則である中で,そうではなく,一定の期間に通知をしなければならない。通知を怠れば失権するという制度は,このような一般的な枠組みと異なる特則を定めようとしていることを意味する。これが果たしてどのような理由から正当化できるのか。それについて十分な理由が出せるのであれば,定めればよいけれども,その理由は必ずしもまだクリアにはなっていないのではないかという御指摘だったと思います。そして,私も,このような問題に答えられなければ,やはりこうした特則は定められないと考えています。 ○鎌田部会長 ただ,現行法に短期の期間制限があるので,どっちに立証責任があるかというのは,少し微妙な要素もあるような気もします。 ○山本(敬)幹事 現行法が法定責任説という前提に立っているのであれば,一般原則とは異なる責任なのだからという説明は,まだ成り立たなくはないと思うのですが,ここではその前提を転換しているわけですから,契約責任説を前提とする以上,やはり説明責任は転換されるのではないかと思います。 ○中田委員 今,部会長がおっしゃってくださったことなのですが,現行法の566条3項に比べて,今回,出ている規律は,起算点と,それから何を通知すべきかという,その内容の面で実質的に考えて不合理ではないのではないかと思います。   それから,もう一点,商法526条との関係なのですけれども,これにあるような検査義務を新たに課するものではないということが詳細版のほうで書かれています。それはそうだと思うのですが,これは商人間の売買でない場合についての説明であって,商人あるいは事業者の取引については今後の検討課題といいますか,オープンだと理解してよろしいのでしょうか。つまり,この問題は民法で消費者取引や商取引についてどうするのかという非常に大きな問題の一環ですので,それが決まらない限りは,ここはオープンであると理解していて,商法526条を廃止するという趣旨ではないと理解しておりますけれども,それでよろしいでしょうか。 ○筒井幹事 私も,今,中田委員がおっしゃったとおりの理解をしております。 ○岡田委員 消費者契約において,瑕疵担保責任でそれほど問題になるということはないものですから,あえて消費者が通知しなければ失権するという,その必要性があるのかどうかが疑問です。逆に事業者のほうでそういう必要性があるのかもしれませんが,それを消費者に求めるのは過酷だと思います。 ○松本委員 質問というか,論点をクリアにしていただきたいんですが,(6)で出ている提案というのは,例えば現行法をそのまま維持するというのはもちろんあり得るとして,上のほうは現行法の1年のいわゆる除斥期間と言われているものをなくしてしまうというのが一つの独立した案としてある。その場合は債務不履行一般のルールが適用されるから,客観的起算点から例えば10年,主観的起算点から3年とか5年とかということになるという提案が一つあると。   それと別に,「また」以下の失権してしまうという危惧が出ているのは,もう一つ,独立した案というわけですね。1年をなくしてしまって,債務不履行の一般論を適用した上で,更に1年の短期の除斥期間に代えて,合理的期間内の通知がなければ失権するというのをもう一段かぶせるという,言わば案としては三つ,現状維持と,1年の除斥期間撤廃論と,それから除斥期間撤廃にかえて相当期間の失権を入れると,この三つと考えていいわけですね,この整理の仕方は。 ○鎌田部会長 それでいいですね。 ○筒井幹事 はい。 ○岡委員 商法526条が議論になったんですが,でも,民法に密接に関連する規律なので,この法制審で議論するべきだと思うんですけれども,12月の最後のほうのその他で526条をどうするかを議論するという予定なんでしょうか。 ○鎌田部会長 直接的に商法526条をどうするかというのは,この部会の役割を超えているのですが,こういう問題について商法526条との関連を議論してはいけないというわけではない。ですから,商法526条との関係について,この機会にこう考えるべきだという御提案をしていただくのは,一向に妨げるところではありませんけれども,最後の出来上がりの姿として,この部会で積極的に商法526条の廃止とか改正とかという提案ができるかというと,そこはちょっと難しいところがあるとお考えいただいてもいい。 ○中田委員 おっしゃるとおりだと思うのですが,中間論点整理においては,事業者が買主である場合についての検査義務あるいは通知義務について,民法の中で何らかの特則を置く必要があるかないかというのは,一つの論点になり得るという理解でよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 はい。 ○岡委員 いや,最初のほうの説明で何か商法も,民法的なルールは民法に取り込むとか,一般法化するとか,この法制審で当然,議論するのだろうなと思っておったものですから。 ○筒井幹事 御指摘のように,商法そのものの改正がこの部会での検討テーマではないということは第2回会議でしたか,そのときに繰り返し申し上げたとおりです。しかし,商法にある規定を参考にしながら,例えば事業者を対象とする規律を設けることとして,それを民法に置くという議論については,排除すべきではないだろうと思います。そのこともまた,第2回会議で確認されたことだと思います。   したがって,商法526条に相当するような規律,これについて商人とか商行為といった限定のかけ方ではなくて,別の適用範囲の定め方によって,それを民法の中に規定するという考え方は,この部会での議論の対象にしていただいて差し支えないと思うのですが,差し当たり,今回の会議用資料における事務局の整理では,そういった問題を今回は取り上げなかったということです。ですから,この機会に一緒に議論するほうがよいということで御提案いただくことは全く差し支えありませんし,そのほうが合理的なのかもしれませんので,今,御提案をいただいて議論することは結構だろうと思います。 ○神作幹事 商法526条の趣旨及び評価について,私が理解しているところをお話しさせていただきます。商法526条により,買主が通知義務に違反した場合,救済が受けられなくなるという規律は,商人である売主の保護を図る趣旨であります。商法526条は商人間の売買に適用され,債権法改正の文脈で言えば売買契約の両当事者が事業者的な立場にいる場合に適用される規律でありますけれども,通知義務が買主に課されているのは,売主が瑕疵等について買主から通知を受けて事後策を採る,例えば仕入先に対して早急にクレームをつけるとか,マーケットで再調達をするとか,あるいは証拠を保全するとか,そのように売主が速やかに適切な手当てを講ずることを可能にするために課されたものであります。ところが,そのような目的を有する通知義務違反の効果として,救済の権利を失うこととされているわけですけけれども,この点については,通知義務の意義・目的に照らして効果が重大すぎる場合があるのではないかという批判が学界では強いのではないかと理解しております。   なお,526条2項の定める失権は,通知義務違反の効果でありまして,検査を尽くしたか,尽くしていないかということとは,526条2項の適用には関係ございませんので,通知義務と検査義務とは区別して議論されております。民法のほうでもし商法526条に相当する規定を一般化し,または統合するということになれば,先ほど述べましたような同条の問題点を十分に検討しその要件を絞る方向で検討する必要があろうかと存じます。その後で,商法526条の規定自体についての取扱いが商法の問題として議論されることになるものと理解しております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   対立点とか,あるいは今後,この資料の中には項目として挙げられていなかったけれども,なお,検討すべきであるというふうな点についても,御指摘を頂いたところでございますので,いったん,ここで休憩をさせていただいて,休憩後に「3 権利の瑕疵に関する担保責任」についての審議をお願いしたいと思います。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開させていただきます。   休憩前の審議に引き続きまして,部会資料15−1の6ページから9ページまでの,「第2 売買−売買の効力(担保責任)」のうちの「3 権利の瑕疵に関する担保責任:共通論点」から「7 数量超過の場合の売主の権利」までについて御審議いただきます。事務当局に説明をしてもらいます。 ○大畑関係官 まず,3では権利の瑕疵に関する担保責任に共通する論点として,(1)から(4)までの四つの論点を取り上げました。このうち(1)から(3)までの論点は,既に御議論いただきました物の瑕疵に関する担保責任の論点との共通点が多いと思われますので,物の瑕疵に関する担保責任の議論と同様の御意見であるものと受け止めてよいか,あるいは物の瑕疵とは異なる検討が必要かという点について,御意見を頂きたいと思っております。また,(4)の短期期間制限の見直しにつきましては,物の瑕疵よりも客観的に明白と言える権利の瑕疵については,単に1年の短期期間制限を削除し,消滅時効の一般原則に委ねることで足りるという提案が示されていますので,この点について御意見を頂きたいと思います。   次に,4の(1)では民法第562条について,全部他人物売買の善意の売主だけに解除権を認める合理的理由がないとして,これを削除すべきという考え方を,(2)では民法第565条のいわゆる数量指示売買の数量不足や原始的一部不能も民法第570条の瑕疵に含めれば足りるという考え方を,(3)では民法第566条の地上権等がある場合等における担保責任について,買主の主観的要件を不要とすることを前提に,その適用範囲を明確化する考え方と,この場合にも代金減額請求権を認めるべきという考え方を,(4)では民法第567条の抵当権等がある場合における売主の担保責任の適用範囲等を判例・学説に従って明確化すべきという考え方を,それぞれ取り上げました。   次に,5では強制競売の買主を保護する観点から,強制競売における物の瑕疵についても担保責任を認めるべきという考え方を,また,6では売主の担保責任と同時履行について規定する民法第571条は確認規定にすぎないので,削除すべきという考え方を取り上げました。そして,7では,判例上しばしば問題となる数量超過の場合の売主の救済手段について,新たに規定を設けるべきという考え方を取り上げました。この点につきましては,このような規定の実際上の必要性等も踏まえまして,御意見を頂ければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明がありました部分のうち,まず「3 権利の瑕疵に関する担保責任:共通論点」及び「4 権利の瑕疵に関する担保責任:個別論点」,この二つの項目について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○松岡委員 3については大体,先ほどの瑕疵担保責任と共通と考えればいいのではないかと思いますので,特に申し上げることはありません。4の権利の瑕疵に関する担保責任の個別論点のうち,二点につき発言したいと思います。   一つは数量不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任をいわゆる瑕疵担保責任に吸収して削除してもいいのではないかという案についてです。数量不足の担保責任は,確かに瑕疵担保責任と同質と解されますし,後に触れます強制競売における担保責任の適用の仕方次第では,権利の担保責任か瑕疵担保責任かを厳密に分ける必要もないのかもしれません。しかし,数量指示により価格が数量と単位で決まる売買の場合には,特に代金減額処理が極めて使いやすいものでもありますし,後の7の論点とも関係しそこで詳しく申し上げますが,数量超過の場合に手掛かりになる規定を置いたほうがいいと考えています。数量不足の場合に手掛かりがなくなってしまうは好ましくないと思います。   それから,もう一点は(4)の抵当権等がある場合における売主の担保責任についてです。従来からそもそもこの規定が担保責任と性格付けること自体がよく分かりませんでした。というのは,契約で抵当権の負担を除去して,買主に負担のないきれいな権利を移転するという約束の債務不履行以外の何物でもないと思うからです。もっとも,今回の案では基本的には担保責任も契約責任の一種として整理するのですが,一体,どういう場合にどういう責任があるのかを明確化するためには,規定を残しておいたほうがいいですし,御提案のように抵当権の負担を引き受ける買主が救済を主張するのはおかしいですから,その点をはっきりさせるためにも,567条に相当する規定は置いたほうがいいと思います。ただ,審議資料で御指摘がありますように,所有権を失ったことを要件にするのか,もう少し細かく分けて規定するのかは別途,検討する必要があり,そこまではまだ十分に考えを詰めておりません。 ○岡委員 御質問ですが,3の権利の瑕疵に関する担保責任のところに代金減額請求権を入れていない理由について,もう一度,御説明いただけませんでしょうか。 ○松岡委員 私が発言すべきかどうか分かりませんが,現行規定でも権利の担保責任では,代金減額請求権が基本的には認められていて,全部追奪や質的な意味での利用権の負担がある566条のみに規定がありません。この案は,担保責任と言われるものについて一般的に代金減額請求を認める方向で提案されていて,それゆえすでに規定のあるところには言及していないと理解していますが,そういう趣旨ではございませんか。 ○大畑関係官 そのような趣旨で作っております。一応,566条については,3の(3)Aのところで代金減額請求権に触れています。 ○岡委員 権利の瑕疵については,現行法でも代金減額請求権があるので取り上げていないだけで,物の瑕疵と権利の瑕疵で代金減額請求権の有無を差別していないという理解でよろしいんですね。今の法務省のこの提案は,ほとんどパラレルに2と3を書いているのに,代金減額請求権の項がないので,権利の瑕疵には代金減額請求権を認めないということかと思ったんですが。 ○鎌田部会長 当然,同じように考えることを前提にしていると思います。(3)では,代金減額請求権も含む権利の相互関係の明確化を物の瑕疵と同様に考えるものとしておりますので,わざわざ独立の項目にはしていませんけれども,当然,同じように考えることを前提にしているということでよろしいですね。 ○岡本委員 この権利の瑕疵のところにつきましては,全銀協で議論したところでは,特に意見はなかったんですけれども,私個人の意見ということになりますが,抵当権等がある場合の売主の担保責任についてでございます。この担保責任について,地上権等がある場合等における売主の担保責任と同様に,抵当権がない状態で権利移転をなすべき場合に適用されるということにして,さらに,所有権を失ったときであるとか,所有権の移転を求めることができなくなった場合に限らないで,単純に目的物に抹消されていてしかるべき抵当権が存在するときには,適用があるということにしてよろしいのではないかと思います。当事者の意思のほうでデフォルトとしましては,抹消されているべき抵当権が付着したままでしたらば,それが実行されるか否かに関わらなくて,当然に債務不履行,それも重大な不履行ではないかと思うからでございます。   目的物に抵当権等が付着しているにすぎないときには,地上権等が付着する場合と違って,買主の用益は妨げられないからよいではないかとか,あるいは買主は抵当権消滅請求の手続をすればよくて,それが終わるまでは代金の支払を拒むことができるからいいではないかというのは,ちょっと乱暴な議論ではないかと考えます。こう考えてまいりますと,地上権がある場合等における売主の担保責任の規定とある程度,統合してしまっていい部分も出てくるのではないかということも,あり得るのではないかと思います。 ○岡委員 3の(4)の短期期間制限見直しのところなんですが,潮見先生は先ほど物の瑕疵,有体物の瑕疵のところでは反対だということでお伺いしましたけれども,当然,この権利の瑕疵のところでも反対なんでしょうか。議事録に残るように。 ○潮見幹事 はい。 ○道垣内幹事 先ほどの岡本さんの御発言なのですが,地上権の場合には存在しているということだけで用益が妨げられていることになりますので,事実を知ったときから1年間という制限が考えられるわけですが,抵当権が付着している場合については,抵当権の実行によって所有権が現実に失われるまでの間は,抵当権の存在を知ってから1年間という期間制限をかけるという必然性がないのだと思うのです。   そうなりますと,一方では,同じような性質の話ではないかということもよく分かるのですけれども,期間制限を仮に考えると,同じにするということはできないのではないかと思います。これが第一点です。   次に,第二点で,そのことが根本にあるわけですけれども,そもそも規定がいるのかというのが疑問です。岡本さんもそういうふうなことをおっしゃいましたけれども,仮に抵当権抹消義務を売主が負っているという場合を考えますと,別段,ここに規定するような話ではないような気もするわけで,期間制限をかけないということになりますと,特に不要な規定なのではないかという気がいたします。まだ完全には詰めて考え切れていませんけれども。 ○松岡委員 道垣内さんに質問です。抵当権消滅請求の手続が終わるまで代金の支払を拒める577条との関係はどうなりますか。同条の規律の前提として,やはりこの条文がないと困るような気がします。 ○道垣内幹事 抵当権消滅請求の手続が終わるまでは代金を払わなくてよいというわけですね。 ○松岡委員 はい。 ○鎌田部会長 独立して考えるのは難しいですか。 ○道垣内幹事 別個に考えても構わないような気がするんですが。 ○松岡委員 規定があって困るものではないですよね。 ○深山幹事 今の議論を聞いていて,577条というのもある意味,実務的には当然のことであって,つまり,通常,登記と引換えに代金を払うわけで,そういう意味でいうと,577条もなければいかんのかなという気がいたしております。仮に残すとしたときに,消滅請求の手続が終わるまではというのがいいかどうかということもあるんですが,そもそも同じような意味で要らない条文なのかなと。そうなってくると,今の御議論で両方とも要らないという意味で,平仄が合うのかもしれないんですけれども。 ○鎌田部会長 577条はやはり必要なのではないですか。所有権移転と代金支払は性質上当然に同時履行だけれども,抵当権登記の抹消とは,必ずしも当然には同時履行にならないのではないでしょうか。 ○松岡委員 今の関連でいいますと,確かに理屈では債務不履行一般に解消してしまえるような規律であっても,明確化のためにあえて規定を残すことは,やはり選択肢として残るのではないかという気がします。あえて削除するには,よほどきちんと説明をしないと,逆に誤解を招く危険もあるので,注意が必要だと思います。 ○道垣内幹事 一般論自体には反対いたしませんけれども,松岡さんが最初に,これは担保責任の話なのですかとおっしゃったことと関係するのですが,抵当権付きの不動産が売却される場合というのは恐らく三つに分かれるのだと思うのです。一番目は,買主が抵当権を引き受けます,そして,いざ実行されるということになるようなときには第三者弁済します。だから,代金額自体が減額されていますという場合ですね。第二の場合というのは,抵当権消滅請求という形で買主自体が処理をしますという場合があって,そのときには代金支払とひょっとして同時履行になるかもしれないという話があります。三番目に,売主自体がそれを抹消して引き渡さなければならないという義務があったのに,いまだに抹消できていませんという場合です。このように考えていくと,これは売買契約においてどのような合意がなされたのかというだけでして,合意の内容によって,売主の義務,買主の権利というのは異なってくるというだけになってしまうんですね。   抵当権についてだけ,そういうふうに例えば三つ,まあ,566条のように登記があるのに知らなかったというときが念頭に置かれているものもありますから,これで本当に尽きているかどうか分かりませんで,更に分けられるのかもしれませんが,そのような場合をずらっと書きますと,抵当不動産売却についての当事者意思の解釈規定がずらっと並ぶことになりまして,なぜ抵当権付不動産売買だけそれほど丁寧なのかなというのが疑問に思われます。松岡さんのおっしゃった,丁寧に書いたほうが分かりやすい,わざわざあったものを消したら分かりにくくなるということの一般論については,反対いたしません。 ○鎌田部会長 分かりました。御指摘いただいたような点も踏まえて,論点整理をより明確なものになるようにしていきたいと思います。 ○中田委員 期間制限について,先ほど岡委員から潮見幹事に対して確認がなされたわけですが,物の瑕疵の場合と権利の瑕疵の場合とで同じか違うかについて,潮見幹事は両方とも一般則に服せしめるべきだというお考えだったわけです。物の瑕疵と権利の瑕疵と違いがあるかどうかなんですけれども,物の瑕疵については,あったかなかったかということを事後的に判定するのが非常に難しい。それは権利の瑕疵とかなり違うのではないかということが一つの論点かなと思います。あるいは物の瑕疵があるかないかということ自体の判定も微妙であると,そのあたりの違いがあると思います。ですから,一応,区別ができなくはないということも指摘しておこうと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,続きまして「5 強制競売における担保責任」から「7 数量超過の場合の売主の権利」までについて,御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○松岡委員 強制競売についての規定ですが,物の瑕疵担保責任のみ競売の場合に適用除外することには,やはり余り合理性はないように思います。従来,瑕疵担保責任について,競売の場合に適用がないという570条ただし書を採用したことについては,諸外国の立法例でもそういう規律が多かったことに加えて,競売が債務者の意思に基づかず,競売を申し立てた債権者は債務者所有の物の性質を通常知る機会が乏しい。むしろ,買受人が自己の危険で物の性質を判断すべきであると,こういう理由を挙げているようです。しかし,意思の問題について言えば,瑕疵担保だけではなく権利の担保責任もみな強制競売の場合には売主の意思に基づきません。とりわけ契約責任説では,競売の場合に担保責任をどう根拠付けるのかという原理的な問題にも,難しい点が残るように思います。   少なくとも瑕疵担保責任だけを除外することには,必ずしも合理性があるわけではなく,むしろ競売制度の信頼性を高めるためには,担保法・執行法の改正のときにも議論がありましたように,瑕疵担保責任を競売の場合にも認める方向が望ましいと思います。   ただ,先ほど申しましたように,いずれにしても売主の現実の意思に基づくものではないので,損害賠償責任の根拠付けが特に問題です。代金減額は客観的に物の価値と実際の瑕疵ある物の価値の差額の返還を内容とし,先ほどの「ババ抜き理論」でいうと,ババを転嫁しては駄目だというので,帰責事由に関係なく等価性を回復させることが正当化できます。しかし,それを超える損害賠償については,権利を移転する約束を自ら行ったという意思的要素がありませんので,強いて言うと現行法の568条のように,競売申立債権者が悪意で黙秘したような場合にのみ,制裁的に損害賠償責任を課すというような特別ルールを設けるのが望ましいのではないかと思います。   違うことは一遍に言わないほうがいいでしょうか。 ○鎌田部会長 よろしいです。どうぞ。 ○松岡委員 最後の7の数量超過の場合の売主の権利についてです。私自身も少し迷うところですが,物の数量とそれに対応する代金を合意で決めているにもかかわらず,実際に引き渡された物が約定した数量より多かったのに,約定した代金しか取れないのは,やはり対価的均衡の点からは非常に問題があるような気がします。立法者は,自分の物を売るのだから,数量超過に気付かない売主が悪く,およそ救済を与える必要はない,と説明しています。しかし,実際に問題になることの多い山林売買などの場合には,とりわけ反復的に営利目的の売買を行っているのではない売主は,必ずしも十分に面積等を確認できるわけではありません。もちろん,判例のように,特別な約束で処理すればいいという考え方もあります。また,確かに従来は,565条の規定はあくまで売主の担保責任であって,買主の信頼保護のための規定という性格付けがされていましたから,売主保護を根拠として565条を類推適用するのは難しかったと思います。   しかしながら,担保責任全体の位置付けが,売買目的物の権利や物が契約不適合であるという事情が生じた場合の問題をどう解決するか,というもう少し広い幅を持った規定であると考えますと,数量超過のような場合についても,一定の基準を置いておいたほうがいいのではないでしょうか。もし規定を置きませんと,数量指示売買であることがはっきりしていて,およそ対価的均衡が崩れていても,売主には錯誤無効以外の救済方法がなく,紛争解決の選択の幅が狭過ぎます。もちろん,任意規定ですから,当事者が違う約定をすれば違う処理をして構わないわけですが,一々合意するまでもなく合理的な規定として標準はこうだという手掛かりになる規定は置いたほうがいいと考えております。 ○山野目幹事 今,松岡委員が御指摘になったことは,それぞれ違うことを二点,一点ずつおっしゃったかと思いますが,いずれも自分の見解が形成されているわけではありませんから,おっしゃったことに反対であるとかというのではなくて,むしろ,少しお教えを頂きたいんですが,5の論点のほうから申し上げますと,松岡委員からも担保執行法制のときの議論を想起して,という御注意がありました。そのときに民事執行法を改正して,内覧の制度を入れたと記憶しておりますけれども,あの制度との関係がここのところの規律を変えたとき,どう整理されるのかということがやや気になります。内覧の制度,それ自体についていろいろな評価がありますし,要件も一定の絞りがされているものでありますから,余り関連させて議論しないほうが良いであろうという気もいたしますが,念のため,確認です。   それから,7の論点との関係ですが,数量指示売買のいわば代金増額が至当とされる側面についての規律を置こうというお話は,伺っていてなるほどと感じた部分もありますが,数量の場合について,それが置かれるとしたときに,物の質のほうについてはどうなるのでしょうか。契約の趣旨である中等なら中等の質が当事者において合意されていたときに,実は上等のものであったというときに,代金増額的な処理がやはり相当であって,そのための規律を設けることになるのだろうかというあたりの問題です。もちろん,これも質と数とでは全然というか,かなり様相が違うではないかという感じ方というものも十分あり得るところですから,ここも少しお教えいただきたいという趣旨での御質問でございます。 ○松岡委員 内覧制度との関係は,私自身,よく分かりませんので,お答えを持ち合わせておりません。もう一つ,問題が数量超過だけにとどまるかというのは確かに非常に厳しい御意見です。しかし,山野目幹事御自身がお答えを用意して逃げ道を与えておいていただいたように,物の数量と質の違い,すなわち,数量と対応する形で代金額が明確に決められた場合とそうでない場合には,やはり相当違いがあると感じております。 ○鎌田部会長 いずれの問題も実務とかなり密接に関連する問題ですので,実務界の方からの御意見をまずお伺いしたい。 ○中井委員 最初に競売の関係で申し上げますと,確かに内覧の制度がある,現況調査報告書があって物件明細が出ていますけれども,それであっても,そこにあらわれない隠れた瑕疵があって,そのまま競売がなされている。入札する側は瑕疵があるかもしれないというリスクを感じながら入札しているところで,それが7割か,何割かはともかくとして,競売減価が起こっている。ひとつはそのことに対してどう評価するかです。他方で,それでも実際に予期せぬ瑕疵があった場合に,多くの弁護士会からは,それは対価的均衡を害して,一方の債務者若しくは担保権者,債権者サイドが余分な利益を得ているのでないか。そうだとすると,その限りにおいて是正する手段として,物の瑕疵も瑕疵に入れて代金減額請求若しくは解除という権利を買主というべき競落人に与えることが相当ではないかという意見がありました。   物の瑕疵を入れることによって,競売手続における入札価格が,瑕疵があれば瑕疵担保責任が追求できるということで,価格目線が上がるのではないか,競売減価の程度が低くなる,こういう効果も期待できるのではないかという意見もありました。そういう意味で,基本的に570条ただし書を削除するという考え方に賛成する意見が多かったように思います。   その上で,これは民法の売買のところに規定されているわけですけれども,福岡の会員からは,執行法制の中で様々な救済規定が競売途中の段階で設けられていますが,最終的には配当弁済までいったのちに瑕疵が分かって損害が現実化した場合に,これを民法の中に規定するのがいいのか,適切なのか,むしろ,執行法の中で対処することも可能なのではないか,そういうことを検討してもいいのではないかという意見がありました。   併せて数量超過についての意見ですが,こちらについては数量指示売買の定義の問題なのかもしれませんし,数量指示売買の事実認定の問題なのかもしれませんけれども,価格が数量を基準として計算されて決まるものであるならば,こういう規定がなくても,合意の効力,契約の効力として増額請求できて当たり前でしょう。逆に,こういう規定を設けるということは,数量に比例して代金額が決まるという合意が認めらないような数量指示売買ということを念頭に置いて,それについて当事者間では合意していないが,民法の一般規定に基づいて,増額請求できるものとすれば,違和感があります。要は合意の認定の問題,契約解釈の問題で解決できるのであって,これをこういう形で別途規定することが適切なのか疑問があるという意見です。 ○鎌田部会長 強制競売の関係……。 ○深山幹事 今の強制競売の関係なんですけれども,やはりそもそも強制執行として行われる強制競売を,契約責任説で説明することが難しいという原理的な問題ももちろんあるんですが,単に原理的な問題ではなくて,実務的にもやはり売買契約とは大分異なる側面があって,例えば売主に当たる債務者が物の瑕疵なり,権利の瑕疵について実際に現況調査のときに執行官から質問を受けて,それに答えるということはあるとはいうものの,どこまで告げる義務があるのか,あるいはそもそも質問がない場合,それでも積極的にあれこれ説明しなければいけないのかというようなことを考えると,やはり通常の売買とはかなり違った側面があろうかと思います。   あるいは解除であったり,減額請求といっても,代金は,債務者は手にしないで債権者のほうにいくわけで,配当手続中のどの段階で解除なり,減額請求を認めるかという作り方にもよるんだと思うんですが,現実的に今のこの規定で,それほどうまくいっているのかなと思います。どちらかというと泣き寝入りというか,どうせ競売物件だから,そんなものだということで諦めていて,担保責任としてあまり機能していないのではないかなという印象を持っております。   ただ,本来はやはり対価的均衡を含め,何らかの瑕疵があれば,それに見合った代金なり,損害賠償なりということがないとおかしいのだろうと思うんですが,先ほど言いましたように,通常の売買とはいろいろと側面で違ってくるし,それから執行手続との関係があるので,今もお話が出ましたけれども,民法の中に規定するのがいいのか,むしろ,やはり法定責任的に別のものとして民法の担保責任を参考にしつつも,執行制度の中での瑕疵があったときの手当てというように,少し分けて考えておくべきなのではないかなという気がします。   内覧についても,内覧という制度は,ないよりはあったほうが私もいいと思っているんですけれども,実務的にどれほど機能しているかというと,内覧をしたからよかったとか,あるいはその分,価格が上がったとか,それほどいい評判を聞いているわけでもないので,そういうことを含めて,やはり執行制度の中で規律するというほうが実務的にはフィットしているような感覚を持っております。 ○鎌田部会長 執行法の専門の方あるいは裁判所から何か御意見はございますか。 ○山本(和)幹事 御提案というか,書かれている570条ただし書の削除ということには,私も賛成です。今まで委員,幹事の皆さんが言われたとおりだと思いまして,やはり当初の立法事実のようなものが仮にあったとしても,現状ではなくなっているのではないという気がいたします。私もよく分かりませんが,当初は主としてやはり動産の執行のことを考えていたのではないかという感じがして,差し押さえた扇風機を売って,それで買った,扇風機は当時はなかったかもしれませんが,使ってみたらよく回らなかったとかいう,そういう場合,それは諦めなさいと,競売というのはそういうマーケットなんだと,傷ものを時につかまされることもあるけれども,しかし,安く買えますよと,そういう前提でできているのかなという気がいたしておりました。   しかし,恐らく現在,570条ただし書が問題になるとすれば,主たる場面はやはり不動産競売の場面であって,そこでは今のような買受人のオウンリスクですというような考え方は,現在の民事執行法あるいはそれに基づく実務は採っておらないように思われます。民事執行法によって現況調査,評価,物件明細書というようなシステムを作って,できるだけ正確な情報を開示して,買受人を募るという考え方を採り,また,先ほど来出ている内覧の制度とか,あるいは実質的には住宅ローンに基づく買受けを認めるような制度を作って,最終消費者がマーケットに参入するということも前提にするような制度を作っている中で,買受人のオウンリスクですということは,やはりなかなか通用しなくなっていると思いますし,競売においてできるだけ買受価格を高めるという観点からも,やはり570条ただし書の存在は,一つの障害になっているのではないかと認識しております。そういう意味では,私は570条ただし書は削除していただくのが望ましいかなと思います。深山幹事が言われた民法で規律するかどうかというのは,ちょっと今の時点では定見はありません。   それから,もう一つ論点として568条3項の規定が問題にされておりますけれども,私もこの資料の問題意識はよく分かります。取り分け,債権者の競売請求の場合に現状の物とか権利の不存在だけに対象を限っている場合には,物とか権利がないということを分かっていながら競売を請求した人は,当然,賠償義務を負うというのは,それ自体は理解できるところなんですが,これを権利,物の瑕疵一般に拡張した場合には,必ずしもそれを知って競売請求をすること自体がいけないというわけではないように思います。   土壌汚染があるような土地を担保にとって,それで競売をしてはいけないかというと,それはそうではなくて,やはり土壌汚染があるということを知っているにもかかわらず,それがないことが前提で売却されようとしているような場合には,それはやはりそうではないよということを言わなければいけないということなんだろうと思いまして,そういう意味では,補足説明でしたかに書かれていましたけれども,どこかの時点で差押債権者がそれを開示する,物件明細書の作成の時点か,売却決定の時点か,あるいは代金納付までか分かりませんが,どこかの時点でそれを知らせないと損害賠償義務を負うと,規律としてはそういうことになるのかなと思いました。 ○松本委員 債権法改正の今回の部会審議の最初のところで議論がありましたが,合意に還元するという発想が大変強いと。これは弁護士会が批判したことですけれども,今日の議論の中でも瑕疵とは何か,それは契約適合性の問題だというような議論があって,合意のほうで瑕疵は決まってくるのではないかというようなニュアンスの色彩が大変強い議論が進んでいるわけです。そうしますと,強制競売はどこに合意があるんですかと。契約適合性をどうやって判断するんですかということが問題になってきます。   現在の競売において,どれぐらい新品が競売対象になっているのか,新品であれば,例えばテレビの在庫品を競売にかけるということであれば,テレビということである程度,客観的な瑕疵の判断はできるわけだし,さらに,メーカーの保証等があるはずですよね。しかし,不動産でも新築住宅であれば住宅品質確保法なんかもあるわけで,一定の客観的な基準はあるのでしょうが,そうでないところの中古住宅,あるいは通常の動産執行であれば一種の嫌がらせでやるケースが多いわけでしょうから,そういうものについて瑕疵の判断というのは,確かにかなり難しいのではないかと思います。   合意に還元できるのであれば,そういうものについて当事者はどういうつもりだったんですかということで,最終的には瑕疵の判断ができるのかもしれないけれども,そうでないタイプのものの場合には,従来の民法の発想であればそのままでいいのかもしれないですが,今回,かなり強調されている合意還元主義からいくと,強制競売というのはやはり民法の枠を外れるのではないかなという印象がかなり強くて,そういう意味では,深山幹事のおっしゃった執行法のほうで手当てをするというのが筋ではないかなと思います。それによって,より高い価格で競売が実現するようにする。これはある意味で執行法のほうでやるべきことかなと思います。 ○畑幹事 ちょっと別の点なのですが,恐らく認識としては共有されていると思うのですが,強制競売という言葉自体がかなり限定的というか,ここでは民事執行法に言う強制競売だけではないことが意味されているはずですので,表現の点かもしれませんが,留意する必要があるかと思います。   それから,もう一点はおぼろげな記憶ですが,強制競売のところの担保責任について,厳密には現行法上の条文に当てはまらないような事案について,類推適用を認めたというような判例があったかと思います。あるはずの借地権がなかったということだったかと思いますが,そういうあたりも踏まえて考えていく必要があるかと思います。あるいは,今の二点目は強制競売の局面に限らない問題であるかもしれませんが,若干補足という意味で申し上げておきます。 ○山本(和)幹事 今の畑さんが言われた判例も言っているように,松本委員の問題意識からすれば,多分,現況調査とか評価とか物件明細書とかを作成する過程で,瑕疵とされていることが考慮に入れられたかどうか,取り分け,売却基準価格を定める場合に,その点が考慮されたかどうかということが基準になってくるのだろうと思いますが,それは確かに私も明確にしたほうがいいのではないかと思います。ただ,それを明確にする場所が民法なのか,民事執行法なのかというのは,確かに問題はありそうな気がします。 ○鎌田部会長 ほかに強制競売関連で。 ○奈須野関係官 松本先生,深山先生のおっしゃられた話と同種なのですが,商社からの意見で,強制競売というのは制度趣旨上,売主と買主との間で瑕疵についての共通の理解がないということですから,物の瑕疵について担保責任を認めるということについては,消極的な意見がありました。もともと強制競売にかかるような物品,これは商社ですので物を対象にしているわけですけれども,買主が多少の損傷を織り込んだ上で,安価に購入するという前提でありまして,それなのに契約の解除あるいは代金の減額が認められると,債権回収に重大な支障が生じ,ひいては与信取引に多大な萎縮効果が生じるというような意見がありました。   それから,数量超過の方も同じ商社から意見がございまして,不動産売買においては買主の側で解除権を行使しづらいという場合もあると。例えば土地を引き渡した後でその上に家を建ててしまったということもあるわけでして,そういう場合に売主に代金増額請求権を認めると,押し込み販売というか,土地を売りつけて建物を取り壊しできない状況に追い込んでから,事後に数量超過に気づいたことを理由に代金増額を請求するのも可能ということで,これはちょっと売主の権利を保護し過ぎではないかという反対の意見がありました。 ○中井委員 競売の関係で,今の奈須野関係官の話を受けてですけれども,恐らく想定している場面が違うのかなと思います。商社の方からの御意見ということでしたので,恐らく動産売買,動産の強制競売を想定されていると思うのですが,先ほど私とかが発言したのは物件明細書等と述べていますように不動産を念頭に置いて話をさせていただいたかと思います。恐らく,それは先ほどの例で言うならば,品質の中身の問題で決まるのではないか。   不動産については物件明細書その他,現況調査の結果,表れたものが一応基準となって,そこに隠れた瑕疵がある。例えば不動産でいえばシロアリがいたというのなら,明らかに価値の減額が認められる。でも,逆に動産であれば,そういう手当ては一切ないわけで,あるがままのものとして買い受けたにすぎませんから,その後,使ってみたけれども動かないからといって,何らかの対価的不均衡があって請求できるというものではないと思いますので,それは瑕疵のところで解決できる問題ではないかと思います。   それから,先ほど山本和彦幹事が損害賠償のところで発言されたことですが,債権者サイドが競売申立をしたときに知って告げなかったというときは,確かに損害賠償義務を負うのかもしれませんけれども,競売を開始した後にたまたま債権者が競売の途中経過で知った瑕疵までも告げなければならないとすれば,それは債権者にとって酷ではないか,そのように考えます。 ○岡委員 競売のところですが,それは競売の仕組みというか,競売の作り方,制度の問題ではないかと思います。破産管財人として売却する場合はやはり担保責任は一切負わないと,断ち切って,多少,安くなっても,その前提で売り払って配当して,配当が取り戻されることはないようにしておきます。それが破産債権者の意思でもあり,制度としても安定しているということで運用されているのだろうと思います。強制競売のときも制度の仕組み方ですので,代金が上がるので瑕疵担保責任も生かしておいて,配当した後でも取り戻せるという仕組みにしたほうがいいのか,やはり断ち切って責任は負わない制度にして配当したほうがいいのか,それは執行の制度をどう作るかという問題ですので,民法で定める問題ではないのではないか。今,民法にあるから,そんなことを言ってもしようがないのかもしれませんが,執行制度の組み立て方の問題で,ここは民法だけで決める問題ではないと思いました。 ○潮見幹事 競売とは別にもう一つ,数量超過の話が出ていたので,そちらについて私の意見を申し上げたいと思います。松岡委員のお話も重々,私はよく分かりますし,私個人の考えとしては数量超過売買の場合に,何らかのルールというものを作ることができるのであれば,それはそれでいいとは思うのですが,先ほどからの御意見を伺っていますと,数量指示売買で,かつ数量が超過した場合の議論が,代金増額のほうに視線がいっているような気がしてなりません。しかし,数量超過の場合というのは,補足説明のところにもありますように,これは売主の債務不履行ですので,事はそう単純に代金の増額請求というものを認めるというような処理には,向かわないのではないかというのが私の実感です。   先ほどの御議論の中でありましたが,数量指示売買の場合に数量が超過している場合には,代金改定の合意やあるいは代金増額の合意のようなものがされているのであれば,合意の解釈で処理をすればよいのでして,その合意の解釈に委ねればいいわけであって,特段,ここに規定を設ける必要はありません。それから,数量指示売買で数量超過の場合に代金増額の合意があるというのが一般的なのかと言われると,私自身はそうは思わない。そんなことを考えますと,数量超過売買に関する特に代金増額絡みでのルール設定というものは,まだ,日本で学説の議論もそれほど熟しているとは言えないので,慎重にあるべきだと思います。   そして,仮にそうであれば,先ほども数量指示売買のところの話にまた戻るのですが,数量不足の場合の担保責任について,独立の規定を設ける意味が一体,どこまであるのだろうというのが,これも個人的な実感です。   休憩前に申し上げたところにも絡みますが,担保責任のところで独立の規定を置く意味というのは,大きく分けると二つあると言いました。一つは広い意味の解釈基準といいましょうか,解釈指針のようなものを作るということと,それから,もう一つは仮にこの担保責任を契約責任と考えた場合に,一般の債務不履行とは異なるルールを救済面で設けるという,この二つにあるというわけです。仮に数量不足の担保責任と言われているようなもので,救済手段をどのように仕組むかという点において,物の質的な瑕疵の担保責任と異なるところがないのであれば,物の質的瑕疵と同じルールでそこは仕組めばいいわけであって,数量不足の担保責任に関する特別ルールは要らない。むしろ,物の瑕疵担保責任のルールに統合すれば,それで足ります。   残るは,そうなると数量不足あるいは数量指示についての定義規定といいましょうか,解釈指針的なものを何か規定として置く必要があるかというところでして,これについては,先ほどの瑕疵の定義の中に数量というものを入れることで対処をするというのを選ぶか,それともやはり最高裁の昭和43年判決のような数量を指示した売買についての定義規定を設けるというところに意味を見いだして,そのような特別の定義規定を置くかという選択肢になるのかなという感じがいたします。個人的には昭和43年判決のような定義規定を置いたら分かりやすいんですけれども,もし置いた場合に,物の質的瑕疵の定義と,それがどう関わってくるのかという説明が要るという印象を持ちました。最後のあたりについては,定見はありません。 ○山本(敬)幹事 数量超過の場合について,少し確認をさせていただきたいと思いますが,増額請求が認められるかどうかという点については,今潮見幹事がおっしゃったとおりだと私も思いますので,それに付け加えることはありません。ただ,特別の規定が要るか要らないかという点については,確認を要するところがあると思います。   ここで問題になるのは,例えば土地甲という特定の土地がある場合に,それを例えば100平米あるものとして,1,000万で売る・買うという契約をしたけれども,土地甲を実際に測ってみると120平米あったというケースですが,この場合は,売主も買主も100平米の土地甲を1,000万で売る・買うという意思を持って,それと同じ内容の契約をしているわけですので,表示錯誤はないというケースだと思います。しかし,この契約をする際に,当事者は,「土地甲の面積は100平米である」と認識していたけれども,現実には120平米だったという意味で,思い違いがあった。これは,動機の錯誤に当たるものだと思いますが,土地甲の面積は100平米だと思ったという動機は,正に100平米の土地甲を1,000万で売る・買うという契約をしているわけですから,動機が法律行為の内容になったと評価できる場合に当たるのではないかと思います。   そうだとしますと,これを放っておきますと,実は現行法の下でも錯誤で無効とされる可能性がありますし,錯誤の判例法の規律を基本的に維持して改正するのであれば,数量超過の場合について何も規定しなければ,実は錯誤無効ないしは錯誤取消しが認められることになるのではないか。それがもし問題だと考えるのであれば,何らかの特則を定める必要があるのではないか。そこを踏まえて規定を置くかどうかを考える必要があるのではないかと思います。   その上で,私自身は,この場合は,今の錯誤の原則を変える必要は必ずしもなくて,錯誤無効ないし取消しは基本的に認められてよいのではないかなと思います。ただ,それで売主のほうが錯誤無効ないし取消しを主張する場合に,買主のほうがそれで自分の買ったはずの土地甲を常に取り戻されても仕方がないかというと,そこは考え方が分かれるところです。買主のほうが超過分の20平米分の代金相当額200万円という金銭を払ってもよいから,その土地甲を自分は保持したいと考える。その利益はやはり認められてもよいのではないかと思います。この場合,売主は,土地甲を売ってもよいと考えていたわけでして,その代金として20平米余計分のお金をもらえるのであれば,不利益は必ずしも生じないと言ってよいのではないかと思います。したがって,方向としては,このような超過分の代金支払を買主が提供することによって,錯誤無効ないし取消しに基づく主張は退けられるというルールを認めてもよいのではないかと思います。 ○中田委員 数量超過について,既に何人もから御意見が出ておりますが,私は結論的には数量超過について特別のルールは置かなくてよいと思います。その理由については,例えば売主はあらかじめ調査できるとか,特に合意したければしておけばよいとか,合意の認定の問題ではないか等々,既に出ております。   今,山本敬三幹事から錯誤に対する特則という御意見が出まして,それはなるほどなとも思いますが,ただ,それも含めまして錯誤についての特則ですとか,あるいは合意認定基準についての特則とかを置いて,他の救済手段との関係まで規律するとなると,非常に重い,詳しい規定になってしまうのではないか。それの説明が非常に難しいのではないかという気がいたします。   それから,付け足し的なことですけれども,もともと旧民法では増額についての規定があって,それを現行民法になる際に検討して議論した結果,外したといういきさつもあるわけです。その根拠は余り大したことはないというのが,先ほど松岡委員から御指摘があったのですけれども,立法事実としてはそれほど変わっていないのではないかという気がします。それから,もう一つ,その際の議論もそうなのですが,ここで問題となっているのは土地についての議論が中心だと思います。これを一般的に広げてしまいますと,なおさら影響が大きいのではないかと思います。他方,土地について何か特別のルールを設けるとなりますと,不動産売買実務に対する影響がかなり出てくるのではないかと思いますので,もしも設けるのだとすると,実務への影響を慎重に検討する必要があると思います。   最後に一つだけ付け加えなのですが,先ほど松本委員から今回は合意還元主義を採るのだから,そうでないルールは民法の外に置くべきであるというような御趣旨の御発言があったかと思いますが,今回,必ずしも合意還元主義を採っているということではなくて,ほかの様々な観点との調和を考えているのだと私は理解しております。 ○松本委員 私は合意還元主義を採れということを言っているわけではなくて,基調としてかなりそういう立場が強調されていて,第1回目の議論で実務界からかなり批判が出たという状況があるということが一つ。それから,本日の議論でも契約適合性という言葉に置きかえたらいいのではないかという議論がかなり出ておりました。ということで,合意と契約とどこが違うのかということもありますが,瑕疵の概念について,そういう契約の中から,合意の中から瑕疵の有無を判断しようという主張が大変,本日も強かったわけですよね。そういう点から考えると,強制競売は少し異質ではないかと。確かに物件明細書等のデータを基にして,買主は判断するんだけれども,相手方として現在の所有者の意思ないし意向がそこに反映しているとは思えないわけです。その辺の事情から,民法に置くとすれば準用かなという感じがしまして,むしろ執行法のほうが座り心地がいいのではないかなということです。 ○高須幹事 数量超過の場合にちょっと戻りますが,今の議論を伺っていてすごくクリアになったというか,問題意識がはっきりいたしました。そして,この議論が例えば多くの法律関係者がこの議事録を読んで通説化するのであれば,無理に特別に規定を置かずに,あとは錯誤の問題として処理するというようなことも可能なんだろうと思うのですが,現状としてはやはり錯誤で無効というのは,実際の裁判ではかなりハードルが高いというか,錯誤の問題になるのみだというような形だと,ちょっと使い勝手でやはり心配な気がしております。裁判になったら,数量が多かったのなら,多かった分をどう精算するかの問題だけではないんですかというような雰囲気といいますか,問題意識というのが出てきて,そこをどうするかだけの問題になってしまう可能性もあるのではないかと思います。   現に最高裁判例,御指摘いただいている平成13年11月27日の判例も,結論としては精算を認めなかったわけですが,当事者の意思は認められない,意思が認められないときに現行法では数量不足の場合があるだけだから,それを類推適用するわけにもいかないと,こういう趣旨で結果的に否定しているということですから,今回の立法に当たっては要するに規定があれば違う判決が出たかもしれないということも考えて,むしろ,その可能性も少し検討していくべきではないかと,少数意見かもしれませんが,そのように思いました。 ○鎌田部会長 おっしゃるように不動産売買における面積違いというのは,面積にどんな意味を与えるかによって錯誤になったり,ならなかったりしますが,錯誤にはなかなかなりにくいのが一般的のように思われます。今後,検討すべき点について非常に多角的に御指示を頂きましたので,それらを踏まえて論点整理をさせていただきます。   よろしければ次に進ませていただきます。部会資料15−1の9ページから12ページまでの「第3 売買−売買の効力(担保責任以外)」について御審議を頂きます。事務当局に説明をしてもらいます。 ○大畑関係官 まず,第3の2以降に掲げました個別論点について説明いたします。   2の(1)では,現行法上,一般に売主に認められるとされる義務を明文化すべきという考え方を取り上げました。また,(2)では,買主の受領義務を規定すべきという提案を取り上げました。買主に一般的な受領義務を認めることについては議論がありますので,御意見を頂ければと思います。   次に,3では代金の支払及び支払の拒絶に関する四つの論点を取り上げました。(1)では不動産売買における登記移転の重要性にかんがみ,不動産売買における登記移転時期の定めと代金支払期限を同一と推定する規定を置くべきという考え方を,(2)では代金の支払場所に関する民法第574条の文言を判例法理に合わせて明確化する考え方を,(3)及び(4)では代金の支払拒絶に関する民法第576条,第577条の適用範囲を学説の一般的な考え方に従って明確化するという考え方をそれぞれ取り上げています。   次に,4では売買目的物の引渡しまでに生じた果実と代金の利息を法的に等価値とみなし,簡易な決裁を図ろうとする民法第575条について,果実と利息の現実の価値の差が大きい場合には不合理な結論を導くなどとして,法的な等価値性を否定すべきという考え方を取り上げました。   次に,5の(1)は相続により同一人が他人の権利の売主としての法的地位と権利者としての法的地位を併せ持った場合の法律関係について,判例法理を踏まえて明文規定を置くことの当否について御議論いただくものです。既に第13回会議で御議論いただきました無権代理と相続の問題と同様の問題意識に基づくものです。   最後に,5の(2)は解除の帰責事由を不要とした場合には,危険負担の適用範囲等の問題は解除権行使の限界の問題に置き換わるため,その旨の条文を置くべきという考え方を取り上げたものです。関連論点では,このような当事者間における危険の分配という問題は,解除の場合に限らず,買主が他の債務不履行責任や瑕疵担保責任を追及する場面でも問題となり得るため,その一例として代物請求の際に返還すべき瑕疵ある目的物が滅失・損傷した場合という問題を取り上げました。発展的な論点ですが,御意見がございましたら頂きたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,残りの時間も大分限られてまいりましたので,第3の1から5まで一括して御意見をお伺いしたいと思います。 ○松岡委員 先ほどの担保責任のところで発言すべきだったのかもしれませんが,数量保証とか品質保証というものがあります。これらは非常に多義的で,瑕疵担保責任自体も英米流に黙示の品質保証 implied warrantyとする説明すらあるぐらいです。他方で,保証に反する契約適合的でない状態になった場合には金銭で補填する,という損失填補の意味での担保約束だという場合もあります。さらには転々売買されるものについて,メーカーの品質保証をどう規定するかという問題もあります。規律の仕方もとても難しいのですけれども,恐らくは売主の責任一般の箇所だろうと思うんですが,規定を置く必要がないか,置くとしてどういう規定を考えればよいかについては,少なくとも検討してみる必要があるように思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。特に実務への影響についての御発言を頂ければ。 ○奈須野関係官 まず,買主の受領義務なのですけれども,積極・消極の両方の考え方があります。   まず,積極的な考え方として,通信販売などで料金が前払されている場合に,商品の所有権は買主側に移転することになりますけれども,この場合,買主が配送業者から商品を受け取らないと,売主はその商品を処分することもできないし,契約も解除することができない。結局,いつまでも保管しなければならないという不都合がある。そこで,事業者側に解除権を認めるために,消費者側に受領義務を課すべきではないかという意見があります。   それから,こちらは代金が後払のケースなのですけれども,中小企業が大企業に物を納入する際に,大企業側から発注が突然キャンセルされると,受領を拒否されるわけですが,その場合に中小企業を保護する観点から,買主に受領義務を認めるべきではないかと,このような意見もあります。   これに対して,こちらは私の個人的な意見なのですけれども,法律論というよりも政策論なのですが,現代の無駄をできるだけ発生しないようにしていこうというリーンな生産システムの中では,省資源であるとか省エネルギーであるとか,あるいは省スペースみたいなこともあるかもしれませんけれども,買主の側で必要なだけ,必要な場合に,必要な時に受領するという前提で物の流れ,生産システムが出来上がっているわけで,これは考えてみると,日本の強みになっているわけであります。これは見方によっては売主側に一度に大量に作るなという慎重な行動を促していると。つまり,ムリ・ムラ・ムダを作らないようにしているわけですけれども,これはこれで一種,合理的な仕組みとして存在しているわけであります。   これに対して買主の側に受領義務を認めて,無駄が生じたら,買主側で買い取ってこれを廃棄しろというのは,これはこれで立法論としてはそうなのだろうなと思いますけれども,この時代において,こういうような処理方法が地球環境に対する負荷という関係でどうなのだろうかと。これは個人的な疑問としてございます。   それから,解除の帰責事由を不要とした場合における解除権行使の限界というところがございまして,特に不動産売買で問題になるわけですけれども,登記は移転したけれども,引渡しが完了していない場合,売主が支配している,あるいは別の誰かが支配しているということが類型的に想定されるので,そのような場合に登記が移転しているからといって,買主が危険を負担するというのは,このような不動産売買でありがちな展開からすると,不合理なことになるのではないのかという意見がございました。そこで,危険の移転時期を登記の移転と合わせるということについては,反対という意見がありました。 ○岡田委員 買主の受領義務のところですが,消費者契約の場合,中古車の販売で買主が名義の変更に応じてくれないという事例があります。その場合は売主が税金も納めなければいけないし,事故を起こした場合に責任がくるということで,大きな被害を受けてしまうというものです。このような事例は結構ありますので買主の受領義務が条文になれば理不尽な買主から売主を救済することができます。 ○鎌田部会長 それは,引渡しは済んでいるけれども,登録は移っていないという,そういうケースですか。 ○岡田委員 はい。最初から計算しているとしか思えないだけに売主は気の毒です。 ○中井委員 受領義務の関係で,岡田委員に追加して申し上げておきます。不動産についても引渡しはしたけれども,登記を買主側が受領しないことについて,少なからず問題が発生しているのは事実です。このとき,解除が役に立つというよりは,登記引取義務に対応する登記の移転請求権を行使して相手側の意思表示にかわる裁判を求める,そういう形で処理すべき,また,処理したい事案があります。 ○岡委員 受領義務がある場合があるというのは全くおっしゃるとおりなんですが,一律に受領義務があると書くということについては危惧感がございます。やはり契約の趣旨,目的等からある場合もあるし,ない場合もあるという立法のほうがいいのではないかという意見が弁護士会の中にもありましたし,私個人としてもそのように思っております。 ○木村委員 まず,売主の引渡義務と対抗要件具備義務についてですが,条文上,明確化していくことには賛成です。しかし,特に対抗要件具備義務については,具備というところまで必要なのか疑問であり,対抗要件具備に対する協力のような義務でいいのではないかという意見がございました。   そして,買主の受領義務についてですが,あくまで一般の債権債務関係ではなく,売買の話ということなので,買主の基本的義務として目的物の受領義務というのを条文上,明確化するという趣旨には賛成したいという意見が強かったです。   次に,代金の支払期限の話ですが,あえて不動産売買についての推定規定まで置く意味があるのかという意見がありました。すなわち,不動産売買において登記の移転時期と異なる引渡時期を定めるのは,当事者間に特段の事情があるような場合で,例えば売買対象物の瑕疵が治癒されるまで代金の一部を留保するといった特約のあるケースが考えられますが,こういった合意の効力は保護されるべきで,推定規定を置くことは,こういった合意に反する趣旨が定められることになるので,実務への影響という点では望ましくないという意見です。   また,果実の帰属と代金の利息の支払についてですが,果実と利息の価格差が大きい場合,あるいは先履行義務を負う売主が履行期を徒過した場合など,民法第575条による取扱いが不合理な結論を導く場合があることから,目的物の引渡しを基準とすることを改めて,引渡期日とか代金支払期日を基準とするという考え方については理解できるが,この提案を採用することで決済の簡便性が一定程度,制限されるおそれがあること,民法の他の規定との体系的な整合性を失するおそれがあること,あるいは変更しなければならないような立法事実というのが現実にあるのかというようなことを考えると,現状のままとするか,あるいは慎重に検討していく必要があるのではないかという意見が出されました。 ○村上委員 まず,現行法576条に関する新しい考え方についてですが,賛成とか反対とかいうのではなくて,現行法の考え方と部会資料15−1,2の第3の3の(3)に記載されている考え方とが異なるのかどうかがよく分からないと思います。部会資料15−2の51ページの補足説明を見ますと,現行法を拡張するという考え方であるという説明がありますけれども,本当にそうなるのでしょうか。   次に,現行法575条に関する新しい考え方についてですけれども,現行法で何か不都合が生じているのかどうかが私たちとしてはよく分からないところがあります。現行法と異なる新しい考え方に改正されなければならないような不都合があるのであれば,教えていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 今の御指摘の点について,御意見があれば出していただきます。なければ宿題にさせていただくということで。 ○道垣内幹事 575条,余りそれほど判決が最近ないのかもしれませんが,大判大正13年9月24日といったケースでは,引き渡さないことが有利で,果実のほうが圧倒的に多いという場合でも,売主の果実収取が認められたのであり,これは批判されているのだと思います。そういう意味では,立法事実があるのかということについては,立法事実はあるのではないかという気がしますが。 ○鎌田部会長 村上委員から御指摘があったのは576条……,575条ですか。 ○村上委員 二つ目に言いましたのは575条です。 ○鎌田部会長 575条ですか,すみません,失礼しました。 ○道垣内幹事 適用されていないということはそうなのかもしれないのですが,適用されるとまずい結果になっているという事実はあるのではないかと思います。それと,もう一つ,つまらないことを申しますと,4の果実の帰属及び代金の利息の支払というところのまとめ方なのですが,「そこで」と書いてあって二行目が「買主は代金支払期日まで代金の利息を支払う必要はない旨を規定すべきであるという考え方がある」となっていますよね。その上の部分も「支払う必要はない」と書いてあって,次も「支払う必要はない」と書いてあるので,どこが変わったのか,一瞬,分からなかったのです。後者は,代金支払期日以後は代金の利息を支払う必要があるとしたほうが対照がはっきりして分かりやすいのではないかと思います。 ○深山幹事 今の576条の規定についてなんですけれども,補足説明にもあるように不安の抗弁権と問題状況が類似しているというので,そこで不安の抗弁権を今後,議論するときに併せて議論するということでもよろしいのかとは思うんですが,不安の抗弁権一般もそうですし,現行の576条についてもその権利を失うおそれがある,あるいは権利取得を疑うべき相当の理由がある場合とそれを置き換える場合にしても,非常に要件が曖昧です。そういう意味で,これを盾にとって余り紛争が多発しているという認識はないんですが,その懸念があります。よほど例外的な場合に,代金支払拒絶を認めるべき場合というのがあり得るとは思うんですが,安易に濫用されるというおそれもあるので,不安の抗弁なり,それに類する,こういう条文ももし置くのであればかなり要件を明確にして,限定的に適用される規定とすべきであり,むしろ,そういう意味で要件を明確化して,どちらかといえば絞る方向での検討があってもいいのではないかと思っております。 ○松本委員 ちょっと戻りますが,受領義務のところです。ここで一般的受領義務と書かれていることの中身は,どこまでのことを考えているのかということなんです。つまり,例えば契約不適合を理由にして受領を拒否するということも認めないという,例えばCISGは確かそういう構造だったと記憶しているんです。取りあえず受け取らせて,あとは救済のほうで処理をしろというのが国連条約の発想だったと思うんですが,間違っていたらお教えください。そういう方向までいってしまって,いわば拒絶の抗弁を認めない,後は救済で処理をしろという趣旨なのか,それとも契約不適合であれば,やはりそれを理由にして拒絶することは正当なんだというところは認めて,理由もないのに受け取らないというのは許さないぞという程度なのか,いずれを事務局としてはお考えなんでしょうか。一般的と書いてある以上は,一般的の範囲を決めてもらわないと,議論がしにくい。抗弁の一切ない受領義務というのは,ちょっと民法ではむちゃかなという気がするんですが。 ○鎌田部会長 もともと民法学では,契約に適合したものであっても受領義務はないという,その限度で議論をしていたのではないのでしょうか。だから,信義則上,特殊な場合には受領義務はあるけれども,売買一般にそういう受領義務があるわけではないという意味で,一般的な受領義務と言っているだけであって……。 ○松本委員 だから,正当な受領拒絶権は当然あるという大前提の下にですね。ただ,実際の紛争を見ていると,契約不適合を理由にして,本当はそうではないかもしれないけれども,拒むという例が大変多いですね。 ○中井委員 575条の関係ですけれども,弁護士会の多くは,基本的に現行法を維持するのでいいのではないかという意見でした。先ほど道垣内幹事からお話があり,また,ここの説明にもありますけれども,売主が先履行義務を負う場合に,履行期を徒過した場合,売主が果実を収受して,それが不当な利得になってよろしくない,不合理であるという御指摘があります。いったん収受することは確かですけれども,その後については明らかに売主側に債務不履行があるので,損害賠償というツールを使わなければいけませんが,それでその不利益はカバーされるのではないか,そういう理解であれば,それほどまでも不合理ではないのではないかと考えています。 ○岡委員 買主の受領義務のところですが,先ほど木村さんがおっしゃった目的物の受領義務というのはある程度分かるんですが,詳細版を見ると,類型的に物の受渡しが主要な内容となることが多い売買においては,原則として受領義務を認めてよいと書かれています。今の提案は物の受領義務ではなく,物に限らなく売買において買主に……売買全般についての受領義務の提案なんでしょうか。もしそうだとすると,有償契約への準用規定に従って労働契約とか請負だとか,かなり広がり過ぎる心配があるんですが,今の提案は物に限るのか,限らないのかを明らかにしていただければと思います。 ○鎌田部会長 提案者は誰かが問題ですが,従来の民法学における議論では,物を念頭には置いていたんでしょうけれども,受領義務ないし引取義務があるのは売買と請負とに限られるというようなことを言っているので,売買にこれを認めれば役務提供契約を含む有償契約全部に受領義務が出てくるとか,そういう発想で議論はしていなかったんだろうと理解しています。 ○中井委員 今の岡委員の発言に関してですが,弁護士会の中では,これが有償一般にいって雇用契約に適用されるとすれば,就労請求権にも関連しそれは行き過ぎだと。ですから,少なくとも売買契約,次に請負のところで議論するのかもしれませんが請負契約,それについての受領義務の範囲の議論でないとおかしいのではないか。こういう意見が出ました。 ○潮見幹事 一点だけ,私の個人的な理解ですけれども,債務不履行の一般法理についての議論をここでした際に,受領義務について,債務不履行一般のルールとしてどのようなものを置くのが望ましいのかということが話し合われたかと思います。そのときに事務局側から,こういう案はどうですかということで出ていた案は二つあって,債権一般において受領義務なんて認めないという立場と,そうではなくて,合意とかあるいは信義則に基づいて,債権者に受領義務を認めてもいいという立場があって,仮にA案,B案としますと,記憶違いでなければB案のほうに比較的共感を得るような御意見があったと思います。   仮にB案のような考えを採った場合には,そうしたら,ここの売買の規定というものは,まさにB案の下での合意あるいは信義則等に基づき,受領義務を負うという局面に照らして,売買の場面というのは定型的に見て,そこで受領義務というものが生じる場面であり,したがって,売買のところに受領義務の規定を置けばよいということになります。   そうしたら,次に売買の受領義務の規定が雇用だとか,サービス提供契約あるいは請負契約に現行民法559条で言うような形で準用されていくのかといえば,むしろ,ここで仮に先ほど言った一般ルールとしてB案のようなものがあるとしたら,B案に基づく債務不履行一般における受領義務のルールを出発点として,その上で雇用あるいは請負等において,特別の受領義務の規定を置くべきかという観点から,議論がされるべきものであると考えます。裏返して言えば,B案のもとでは,一般法に対する特別法としての売買の受領義務を規定するということになったときに,この売買の受領義務の規定を準用して,更にほかの有償契約に展開していくという枠組みというものは,もちろん,論理的にあり得ますけれども,少し適切ではないのではないかと思ったので,発言をさせていただきました。 ○中田委員 今の潮見幹事に賛成です。現在も有償契約に準用というのはその契約の性質に応じてということですから,当然,役務提供型であれば,また,そのルールがあると思います。受領義務だけではなくて協力義務も含めて,役務提供においてはどのように考えるのかという問題があって,それはまた,役務提供のところで検討する,少なくともこのルールは当然に適用されることにはならないということではないでしょうか。 ○大村幹事 今の点とも絡みますし,今日の最初のほうで松本委員が御指摘になった559条をどうするかという問題が浮いた形になっていると思います。それも合わせてどこかで検討する必要がある。あるいは後ろの贈与のところの準用規定について議論するということなのかもしれませんが,いずれにしても,再度,整理が必要かと思います。 ○道垣内幹事 話が変わって申し訳ないのですが,575条について一言だけ。中井先生がおっしゃったように,仮に別途,債務不履行による損害賠償というのが認められるということになれば,575条はさほど不合理ではないということになりますが,しかし,そうしますと,575条は何を規定しているのか,さっぱり分からないという話になってしまうわけです。575条の解釈については学説上の対立はあるようですが,債務不履行による損害賠償は取れないというのが通説だと説明するものもあります。したがって,仮に不合理性をなくすということでしたら,現行法を単純に維持するというのではなくて,こういった場合もあるかもしれないが,別個,損害が立証できれば取れるというふうなものを付け加えるという必要があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 よろしければ,残りの時間で第4と第5に進ませていただきたいと思います。 ○中井委員 その前に5のところで意見だけ申し上げておきます。他人の権利の売買と相続に関しては,無権代理の場合についてどうするのかという平仄の問題かと思います。無権代理の場合にも申し上げましたけれども,やはりこういうところまで規定するのかという点については,更に御検討をお願いしたい。内容的には異論のないことでしょうけれども。 ○鎌田部会長 それでは,部会資料15−1の12ページから13ページまでの「第4 売買−買戻し,特殊の売買」及び「第5 交換」について御審議いただきます。まず,事務当局に説明してもらいます。 ○大畑関係官 第4の2以降に掲げました個別論点について説明いたします。   まず,2では買戻しについて,売主の返還義務の範囲を任意規定とする必要性を検討すべきなどの問題提起を取り上げました。もっとも,買戻しは担保物権法制との関連性が深いため,担保物権について本格的な検討をする機会に見直しをすべきであるという考え方もあり得ますので,この点も踏まえて御意見を頂ければと思います。   次に,3では契約締結に先立って目的物を試用することができる売買,講学上,試味売買などと言われることがある売買形式ですが,その法律関係を明確化するため,新たに条文を設けるべきという考え方を取り上げました。このほか,現行法上,明文規定のない特殊の売買に関する新たな規定の要否という点も含めて,御意見を頂きたいと思います。   最後に,第5の交換につきましては,特に具体的な改正提言が見当たらないところです。何か御意見がございましたら頂きたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,残り時間も限られておりますので,売買と交換を一緒にして恐縮ですけれども,ただいま説明のありました部分について,一括して御意見をお伺いいたします。 ○松本委員 買戻しのところです。民法の授業でも担保の観点から行われることが多いですが,実際にはそうではなくて,特に不動産の開発型の契約で買戻特約が付けられているというケースがかなり多いと思うんですね。そうしますと,言わば本来型の買戻特約とそれから担保型では相当状況が違うのだろう。それを同じルールで規律するのが果たしていいのかどうか。担保型の買戻しについてはむしろ割り切って担保のほうの規定,担保法の整備のところできちんと取り込むということにして,ここではむしろ非担保型,本来型の買戻しについてのニーズがどこまであるのかを見極めて,しかるべき法整備をするというのがいいのではないかと思います。 ○沖野幹事 松本委員と同じ考え方でおりますけれども,資料の記述と関係で気になる点がありますので,追加させていただきたいと思います。詳細版の63ページに,担保目的の有無で区別し,ここでの買戻しについては担保目的でない本来型というのか,呼び名はいろいろあり得るかと思いますけれども,そのような規定として考えていった上で,担保目的の場合はむしろ譲渡担保の規定等が整備されるならば,そちらでやるべきだという考え方が示されております。そして,その評価として「今般の見直しの検討対象外である担保物権法制の見直しと併せて検討する必要性が高い考え方である」と記述されておりまして,これが今般の見直しの対象外のところを含むので,したがって,買戻しの規定には手を付けられないという趣旨であるとすると,そうではないのではないかと思われます。   例えば,すでに俎上にのぼった項目の中に将来債権譲渡の場合の範囲,限界付けについては,譲渡担保との関係を考える必要があり,過剰担保規制などを含めて考えないと規律が難しい,したがって,それを債権譲渡の一般規定の中で置くのは難しいという問題がありましたけれども,典型契約規定としての買戻しのほうは,事情が違うように思います。担保目的の買戻特約付売買は譲渡担保契約であって適用外の問題として,それに特有の規律は別途担保法制において考えるとして,ここは本来型の規律として純化し,適用範囲も明確にしていくということで,なお,検討や規定化は可能だと思われます。対象を本来型に限定した上で検討するということは,それ自体として可能だと思われますので,それを補足して松本委員のお考えに賛成です。 ○筒井幹事 部会資料で,担保物権法制の見直しと併せて検討すべき必要性が高いという指摘があることを紹介した趣旨としては,今,沖野幹事から御提案がありましたのとややニュアンスが違っております。つまり,今回の改正では,買戻しのところに担保目的のものは除くという規定だけを置くとすれば,それは担保目的の買戻しについて全く規定のない状態にするだけの改正になってしまいますので,それが適当かどうかという問題があるのではないか,そういう意味で,買戻しの規定について担保物権法制の見直しの際に併せて検討すべきではないかというのが,公表されている立法提案の趣旨ではないかと受け止めて,このように書きました。しかし,そうではなくて別の御提案があるという趣旨であれば,そういう御議論は当然あり得るだろうと思っております。 ○沖野幹事 方向性の提案ではなく既存の提案の趣旨の解説と理解しました。そうであれば,前言は私自身の考え方としてはこうだということを申し上げたというものとして理解していただければと思います。 ○中井委員 その次の3のところですが,このような契約締結に先立って目的物を試用することができる売買というのが,現実に行われている例がないわけでないようで,送り付け商法というのでしょうか,消費者被害を惹起しかねない。そこから一定の方向で規定することに意義はあるのかもしれませんけれども,その規定の仕方自体,現実のこういう試用することを許す売買についての実態をもう少し確認する必要があるように思います。   また,詳細版63ページでは,目的物の試用によって所有者に生じた損害の賠償責任について,故意・重過失なら賠償責任を負う,それ以外は負わないとなっています。しかし,送られた商品を費消する,費消してなくなってしまう。これは正に故意で費消するわけですけれども,その使った部分について対価相当額,価値相当額を賠償するという意味も含んでいるとすれば,それは問題ではないか。送り付けて契約も成立していない,その前に費消した,結局は契約に合意しなかったとき,それは費消した残りのものだけを返せばいいのであって,そこに賠償義務が伴うのはどうか。この趣旨を取り違えているとすれば,御説明いただければとは思いますが。 ○鎌田部会長 これについても,ちょっと今,直ちにお答えできる立場にいる人がいないと思いますので,御指摘の点を踏まえて,なお,事務当局において精査をさせていただくと当時に,実務上の問題についても,可能な範囲内で少しお調べいただくということにさせていただければと思います。同時に岡田委員から御指摘があれば。 ○岡田委員 今,送り付けとおっしゃったので,だとすると,特定商取引法の中にネガティブオプションというのがありまして,私どもは一般に事業者が一方的に商品を置いていってしまったといった場合も当然,契約は成立していないとして,2週間たてば,事業者は返還請求ができないと消費者に説明しています。このような被害に遭う消費者が自宅にいる高齢者であることから必ずしもセンターに辿り着いていないかもしれませんが。それ以外であるとすれば,健康機器なんかを試しに使えというような形で持ってきてということは考えられますが,実際に消費者トラブルの中目立っている感じはありませんので地域によるのかも知れません。 ○鎌田部会長 また,実務上の対処の必要性等につきまして,何か情報等がございましたら事務当局のほうへお寄せいただければと思います。 ○道垣内幹事 すみません,分からない者が口を出すのはどうかと思いつつなのですが,立法技術の問題を伺いたいのです。買戻しに関して,例えば,「担保目的でない買戻しに以下の規定が適用される」といった条文を作ることが,担保目的の買戻しを規律している法制度がないままに可能なのかというのが気になります。確かに,担保目的の買戻しは判例法上,譲渡担保法理に委ねられ,適用されるのは担保目的でない買戻しなのだというコンセンサスのもとで,買戻しの条文をしかるべく整備の必要があれば整備をするというのは分かるのですけれども,背後に担保目的の買戻しを扱う条文がないと,そうは書けないのではないかなという気がします。そうなりますと,恐らくコンセンサスとして,それを前提に議論するのだというだけであり,条文化するという問題ではないのだろうと思います。ご検討をお願いします。 ○鎌田部会長 買戻しの規定が強行規定性を持っているかどうかにもよりますが,担保目的だと担保目的である制約が上乗せになるだけであって,全面排除にはならないということなのでは……。 ○道垣内幹事 ここが難しい問題で,買戻しの形を採っている譲渡担保のときには,10年を超えることができないということになるのかというのは,ちょっとよく分からないと思いますが。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○高須幹事 別な話で,すみません,今の点はとてもなるほどと思って,どう考えたらいいかと思っているんですが,その前にちょっと考えたことでございますが,担保目的以外の本来的な買戻しというものについても,どう規定するかは別としても,それなりのやはり有用性というか,実効性があるのだろうと思っております。売買契約をせざるを得ないような場合で,でも,何か注文を付けたいと,条件付きでこういうことはしないでくださいよで売ると。ただ,買った人が転売してしまったら,それっきりみたいな,幾ら債権的な約束を付けてもなかなかそれが実行できない,守らせることができない。こういうときにやはり買戻しという制度が現実的な制度として出てくる。そういう意味では,買戻しの制度の意義といいますか,従来,余り積極的には使われていなかったのかもしれませんけれども,大事な制度ではないかと思っております。   そうなると,現行法の規定を検討した場合に,例えば581条などで売買契約と同時に買戻しの登記をするという制限を置くことが果たしてどこまで合理的なのかと。もう少しそういうところも考えて,使いやすくするような規定のあり方もあるので,そういったことも含めて,もう少し詰めて考えてみたいと思っております。 ○筒井幹事 買戻しに関して幾つか御意見を頂きまして,ありがとうございます。道垣内幹事がおっしゃられたような法制的な問題といいますか,担保目的でないものだけに限定するという規定を置いて,担保目的のものについては何も規定を置かないという改正の仕方が可能なのかどうかという問題については,定見がありませんので,なお必要に応じて考えたいと思いますが,それとは別に,買戻しに関して現に公表されている立法提案というのは,当然ながら再売買の予約との関係を強く意識した議論であって,それはやはり担保目的のものを主な対象とする議論ではないかと思うわけです。   今回の改正でそれを議論するのが,適当かどうかというのが,やはり一つの問題であろうと思います。また,先ほども述べたことですが,公表されている立法提案では,買戻しに関しては担保物権法制の見直しの際に手当てをすべきだという考え方が示されていると受け止めて,部会資料ではそのような紹介をしたわけです。   しかし,そうではあっても,担保目的でない買戻しについての立法提案が何か提示されるのであれば,それについての議論を排除しようという気はないわけですけれども,そういう提案は,今のところ手元にはないというのが私の認識ですので,必要であるとお考えになる委員,幹事から積極的に御発言いただく必要があるのではないかと思います。 ○岡田委員 最近,資格の教材なんかで効果が上がらなかったとか,その資格が取れなかった場合に返金するというような,代金返還特約契約というのが出てきているのですけれども,そういうのは買戻しとはいえないのでしょうか。 ○鎌田部会長 広く抽象的な意味で言う買戻しにはあたるかもしれないんですけれども,ここの民法で言う買戻しというのは,かなり厳格な要件と効果が決められていて,しかも,同時に登記をすれば第三者に対抗できるというタイプのものですから,似たような契約をしても,先ほど御指摘があったように,それは再売買の予約ですとか,ほかの性質決定をすることのほうが多いのではないでしょうか。だから,岡田委員がご指摘になったような契約は,合意解約権の留保とか,何かそんな説明になって,あえて買戻しの規定の適用にはならないと考えたほうがいいのではないかと思います。 ○岡田委員 分かりました。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。特に御意見がなければ,交換についての審議も終えたものとさせていただきます。「第6 贈与」にはもう入れないと思います。契約各論の第1回から積み残しをつくるのは,将来に大きな不安を残してしまうんですけれども,やはり,売買は最も重要な契約類型でもありますので,少し時間を使っていただくのはやむを得ないと思います。残された部分についての取扱い等については,また,追って事務当局のほうで調整をさせていただくということにさせていただきます。一応,ここまでで,予定の最後までいきませんでしたけれども,本日分の議事を終えたいと思いますが,ほかに御意見等はございますでしょうか。   ないようでしたら,最後に参考資料6−1及び7−1と,次回の議事日程等について事務当局に説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 お疲れのところ申し訳ありませんが,資料の説明などをさせていただきます。   まず,本日,机上に配布させていただきました参考資料6−1と7−1について御説明いたします。いずれも債権の譲渡禁止特約に関する実態調査の追加分です。前回の会議で,参考資料5−1について御報告し,流動化証券化協議会とABL協会に対して,それぞれ御協力をお願いしているところですが,その前回会議の際に,債務者の立場からの調査でありますとか,また,譲渡禁止特約を付することのできるような強い債務者に対する弱い債権者の立場からの調査なども必要ではないかという御指摘を頂いたところです。こういった御指摘を踏まえ,今回,追加の調査を用意してみました。   参考資料6−1は,全銀協に御協力を頂きまして,様々な金融取引に関わっている金融機関から御回答を頂こうとするものです。また,参考資料7−1は,経団連及び商工会議所に御協力を頂きまして,様々な事業会社から,債権者,債務者のそれぞれの立場からの御回答を得ようとするものです。この質問予定事項につきましては,前回までと同様に,お気づきの点がありましたら,この場であるいは後日でもお伝えいただきたいと思っております。その上で,最終的には事務当局に御一任いただきたいと考えております。   次に,法務省ホームページに掲載済みの部会資料の更新について御報告をいたします。本年1月26日開催の第3回会議の際にお配りいたしました部会資料5−2のうちの比較法の部分につきまして,その会議の前後に事務当局に対して様々な御意見,御助言を頂きましたので,その寄せられた御意見などを踏まえまして,外国法の翻訳などをより適切なものに改めるなどの修正を施すことといたしました。   この修正を反映したものについては,部会資料5−2の差し替えという形で,法務省ホームページに掲載したいと考えております。近日中にアップする予定です。その際,ホームページ上には更新した日付を明示して,差し替えがあったことが分かるようにいたしますので,その旨,御理解を頂きたいと思います。   続けて,次回の議事日程について御連絡いたします。次回会議は,本年9月28日,午後1時から午後6時まで,場所は今回と同じ法務省20階,第1会議室です。   次回の議題は,当初の予定では消費貸借,使用貸借,賃貸借であり,この分の資料を通常どおりに事前配布したいと思います。ただ,次回の進行について,今回,贈与というまとまった形で残ったので,それをそのまま予備日に回すのか,あるいは順に後ろにずらすのか,両方の考え方があり得るので,更に事務当局で検討の上,早めに御連絡を差し上げるようにしようと思います。   さらに,日程に関してもう一点,報告事項があります。年内の会議の日程で,会場の確保ができていないために本来の会議予定日のほかに代替日を用意していただいていた件ですけれども,そのうちの一部の会議日について会場が確保できましたので,御報告いたします。三回分の会場が確保できていなかったのですけれども,このうちの10月19日と11月9日,この二回分については会場が確保できました。,ですので,この二回については開催をすることが確定ということになります。   この関係で,この二回分の代替日としておりました10月26日と12月3日,10月19日の代替日が10月26日で,11月9日の代替日が12月3日でしたが,この二回分の代替日は,形式的にはもう確保しておく必要がなくなるのですけれども,ただ,本日の会議でも大きな積み残しが出てしまいました。事務当局のスケジュールの見通しが甘かったと言われればそれまでなんですが,現実に大きな積み残しが出ております。   せっかく確保していただいた代替日を,そのまま流してしまうかどうか,あるいは会議の予備日などの形で活用できないかを,考えさせていただけないでしょうか。そういった理由から,先ほど申し上げた二回分の代替日につきまして,いましばらく,あけておいていただくことを,事務当局からお願いしたいと思います。予備日の追加ということになりますと,バックアップの団体などとの関係もあると思いますので,今,ここで決定ということではなくて,別途,御相談させていただこうと思っております。よろしく御協力いただきたいと思います。 ○中田委員 予備日の件なのですが,火曜日以外に設けるということになりますと,授業などの関係が私どもはかなりの支障がございまして,今度,新学期が始まる際にどうするかということで苦労しております。それで,確定できましたら,早めにお願いできればと思います。 ○筒井幹事 分かりました。 ○鎌田部会長 以上でよろしいですか。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   本日は御熱心な御審議を賜りまして,誠にありがとうございました。 −了−