法制審議会会社法制部会           第5回会議 議事録 第1 日 時  平成22年9月29日(水)  自 午後1時30分                        至 午後5時13分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  会社法制の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○岩原部会長 それでは,予定した時刻がまいりましたので,法制審議会会社法制部会第5回会議を開会いたします。本日もお忙しい中,御出席いただきまして誠にありがとうございます。   それでは,本日の審議に入ります前に,配布資料の説明をさせていただきたいと思います。事務当局からお願いします。 ○河合幹事 御説明いたします。配布資料目録,部会資料3を事前にお配りいたしました。部会資料3の内容につきましては,後ほど御説明させていただきたいと思います。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,本日の審議に入りたいと思います。   まず,第3の「3 取締役会の監督機能の充実に向けた機関設計」につきまして,事務当局から御説明を頂きたいと思います。 ○内田関係官 それでは御説明いたします。まず,部会資料3の全体像についてですが,部会資料3は,前回の会議で御議論いただきました部会資料2に続き,企業統治の在り方に関する検討事項を整理したものでございます。本日の会議では,前回の会議での御議論を踏まえて,引き続き,取締役会の機能に関する検討事項について御議論いただくほか,4ページから始まります第3では,資金調達の場面における企業統治の在り方に関する検討事項について御議論をお願いできればと考えております。   それでは,「第2 取締役会の監督機能に関する検討事項」の「3 取締役会の監督機能の充実に向けた機関設計」についての御説明に入らせていただきます。3は,前回の会議での御議論を踏まえ,社外取締役の機能の活用という観点から,取締役会の監督機能の充実に向けた機関設計について問うものでございます。取締役会の監督機能を充実させるためには,社外取締役を選任することにより,取締役会の独立性を高めていく必要性があるとの指摘がされています。また,社外取締役の機能に関する前回の会議での御議論を踏まえますと,社外取締役を選任し,その機能を活用することは,取締役会の監督機能の充実という観点から,一定の意義を有すると考えられます。しかし,監査役会設置会社は,社外監査役に加えて社外取締役も選任する際の負担感等を考慮すると,社外取締役の機能の活用という観点からは,必ずしも利用しやすい機関設計となっていないというのが現状かと存じます。また,委員会設置会社制度も,指名委員会や報酬委員会の設置に対する抵抗感等から,社外取締役の機能を活用するための機関設計として広く利用されるには至っていないというのが現状かと存じます。このような状況を踏まえますと,社外取締役の機能の活用という観点から,より利用しやすい新たな機関設計を検討することが,取締役会の監督機能の充実に資するのではないかと存じます。   具体的には,監査役,指名委員会及び報酬委員会を置かず,社外取締役が構成員となる委員会が監査等を担う機関設計を新たに認めるべきであるとの指摘がされていますので,(注1)では,そのような機関設計を認める制度を取り上げております。この部会資料では,飽くまで御議論の際の便宜のための仮称としてでございますが,そのような制度を「監査・監督委員会設置会社制度」と呼んでおります。委員会設置会社について,監査委員会のほか指名委員会及び報酬委員会を置くことが強制されている理由から考えますと,2ページの中段に記載してございます二つの点,すなわち,まず(a)として,業務執行の決定の委任についての限定,また,(b)として,監査・監督委員会の経営者からの独立性の確保という二点について,それぞれ適切な措置が講じられることを前提とすれば,監査・監督委員会設置会社制度を新たに導入する余地もあると思われます。そこで,そのような制度を導入することの可否及び当否について検討を要するものと存じます。   なお,仮に監査・監督委員会設置会社制度を導入する場合の具体的な制度の在り方としては,まず(a)として,業務執行の決定の委任について適切な限定を付す必要がありますが,取締役会が誰に対して業務執行の決定を委任し得ることとするか,という観点からは,委員会設置会社制度とは異なり,取締役でない執行役に対する委任を認めることはせず,委任を受ける者を取締役に限定することが考えられます。委任が認められる事項の範囲も,委員会設置会社に比べて限定する必要があると考えられます。具体的には,監査役設置会社における規律や特別取締役の制度が参考になるものと存じますが,複数の社外取締役の選任や監査・監督委員会の設置により,取締役会の監督機能の充実が図られることも考慮すると,委任が認められる事項の範囲をそれらよりも若干広げる余地もあるように思われますので,この点も含めて検討する必要があろうかと存じます。   また,監査・監督委員会設置会社制度を導入する場合には,(b)として,監査・監督委員会の経営者からの独立性を適切に確保し得る仕組みも必要となると思われます。(注2)の@は,そのような独立性確保の仕組みの在り方について問うものでございます。具体的には,まず,委員会設置会社の監査委員会と同様,取締役会の内部組織として監査・監督委員会を位置付けるという整理をして,監査・監督委員の選定及び解職を取締役会決議によるものとすることを前提とする方法があり得るかと存じます。そのような方法による場合には,3ページ前半の(a)から(c)までに掲げているような仕組みの全部又は一部を組み合わせることが考えられます。(a)では,監査・監督委員会の選定及び解職に関する決定の場面において,社外取締役や監査・監督委員の関与を認めるような仕組みを幾つか挙げております。また,(b)のように,監査・監督委員の報酬等に関する決定の場面において,監査・監督委員の関与を認めるような仕組みも考えられるかと存じます。更に,(c)のように,監査・監督委員の構成面における独立性確保の仕組みを設けることについても,検討の余地があろうかと存じます。まずは,以上のような仕組みの全部又は一部を組み合わせる方法により,監査・監督委員会の経営者からの独立性を適切に確保し得ると考えられるか,御議論いただければと存じます。   なお,以上とは別のアプローチとして,監査・監督委員となる取締役と他の取締役とを別枠で選任するものとすることにより,監査・監督委員の選定及び解職を実質的に株主総会の決議事項とする方法も考えられるかと存じます。この場合には,監査・監督委員は,選解任の手続という面では監査役に近づくようなイメージとなりますので,更に監査役の規律を参考にした独立性確保の仕組みを設けることについても,検討の余地があると思われます。   次に,(注2)のAは,監査・監督委員会の権限等の在り方について問うものでございます。この点については,まず,監査・監督委員会は,委員会設置会社における監査委員会と同様の権限を有するものとすることが考えられます。また,(注1)の@で御議論いただく監査・監督委員会の経営者からの独立性を確保するための仕組みにも関連し得るものとして,委員会設置会社における指名委員会及び報酬委員会の機能の一部を代替し得るような権限,具体的には,取締役の選解任及び報酬等に関する株主総会での意見陳述権や,さらには,取締役のうち社外取締役の選任議案に関しては同意権等を付与することなどについても,検討の余地があると思われます。それらに加えて,監査・監督委員会の構成員となる社外取締役の機能にかんがみ,監査・監督委員会に関して一定の権限又は法的効果を付与することも考えられます。社外取締役の機能をどのように整理すべきかはさておき,会社と経営者との間の利益相反の監督という点で,社外取締役が一定の機能を有し得ること自体については,前回の会議での御議論においても,特に御異論はなかったところかと存じます。そのような社外取締役の機能にかんがみ,例えば,いわゆる利益相反取引の場面において,監査・監督委員会の承認がある場合に取締役の責任に関する立証責任について特別の規律を設けることや,より広く会社と経営者との間の利益相反が問題となり得る場面において,監査・監督委員会に意見表明の権限を付与することなども考えられます。加えて,経営者以外の特定の利害関係者との利益相反も対象とする場合には,監査・監督委員会を構成する社外取締役が満たすべき要件も異なり得るところかと存じますが,この点も含めて検討を要すものと思われます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,この第3の3につきまして,御議論をお願いしたいと思います。まず,(注1)のところはいかがでございましょうか。 ○奈須野幹事 最初に(注1)についてコメントさせていただきます。この監査・監督委員会を設けるということの基本的な発想は,2ページ目の二つ目のパラグラフにある通り,社外取締役の機能を活用していくという観点から,より利用しやすい新たな機関設計を認めるという問題意識に基づいて構成されていると理解しております。しかしながら,日本の企業の半分に満たない会社しか社外取締役は設置していないわけであり,果たして,現在多くの企業で存在していない社外取締役の活用について議論することが,視点としてどれほど重要性があるのかという疑問を持っております。   それでは,こういった監査・監督委員会のような仕組みを設ける議論をする必要がないかと言えば,そうではなくて,むしろ現行の監査役会設置会社が利用しやすい実態に即した仕組みを考えていく必要があると思っております。社外取締役を活用していくことを中心に考えていくと,どうしても現行の委員会設置会社を見直していく,緩和していく,あるいは,監査役会あるいは監査役制度を,突き詰めて言えばフェーズアウトしていくという議論に流れかねないわけですが,そのようなことを望んでいる企業はどれほどいるのかというと,私は疑問に思っています。上場企業の98%は,監査役会設置会社です。その監査役会設置会社においては,監査役会とは別に監査委員会を3割の企業が設置しています。それから,報酬委員会を1割の企業が設置しています。指名委員会についても,6%の企業が設置しているということです。合計で,監査役会設置会社であるのに委員会を設置しているのが,我々の調査ですと37%あるということで,これは委員会設置会社よりよほど多いわけです。今の現行法では,委員会を設置することができないため,実際には,この委員会のメンバーは,取締役でない人が,例えば指名委員会に加入している,報酬委員会に入っているという実態になっていまして,これは,株主に対する責任という意味ではいささか問題があると考えております。   この監査・監督委員会の議論について言えば,やはり,繰り返しになりますが,実態に立脚した制度設計を考えることが重要で,もう法律を越えて実態がどんどん先に進んでいるわけですから,そういったニーズを踏まえた検討が必要であろうと思っております。それでは具体的にどのようにしたらよいのかということについては,先般の6月の会議のときにるる申し上げたので,ここでは詳しく申し上げることは省略させていただきますけれども,第一に,監査役会設置会社であったとしても,報酬委員会,指名委員会あるいは定款変更に関わる定款委員会その他の委員会を任意に設けることができるようにするアラカルト方式を採用するべきだと考えています。もう一つ,監査役会設置会社については,別途監査委員会を設けている会社も三割ほどございますので,監査委員会と監査役会を合同で開催するという形での機関設計も可能にすべきだと考えております。このためには,前回もお話ししたとおり,監査役が非業務執行の取締役を兼ねることができるようにするような制度設計の変更が必要になりますけれども,このようなことによって,実態に即した形で監督機能を強化していく,充実していくことを考えるべきだと思います。 ○静委員 この点に関しましては,三点ほど申し上げたいことがございます。一つ目は,冒頭の事務当局からの御説明で,社外取締役の意義についてということで,この案が社外取締役の活用を考えた制度だということはよく分かりましたが,前回,お話を申し上げましたように,私どもが知る限りでは,内外の投資家は,この場で前回議論したような,監査役を例えば取締役会での議決の一部に関与させることについては,基本的に賛同しているものの,やはり最終的には,独立性の高い社外取締役を確保してほしいと望んでいるわけでございます。御存じの方も多いと思いますけれども,ACGAというグローバルな投資家で組織された協会が,私どもが今ここで議論しているこの部会に対する意見を取りまとめ,昨日ホームページに掲載しました。今申し上げましたような意見も含めまして,投資家の代表的な意見がコンパクトにまとまっていると思いますので,まだ御覧になっていない方がいらっしゃいましたら是非御覧いただきたいと思います。これが一点目でございます。   二点目でございますけれども,この事務当局でお考えいただいた案を検討するスタンスについて申し上げたいと思います。委員会設置会社の制度も,社外取締役の普及に役立つと期待されていたと思いますが,実際には,先ほど奈須野幹事から御紹介があったように,ほとんど採用している会社がないという現実がございます。この現実を踏まえますと,この案につきましても,更にまた選択肢が一つ増えるだけだということに終わるのでは,余り意味がないのではないかと思います。したがいまして,先ほども御紹介がありましたように,上場会社の大部分が監査役会設置会社でございますので,そういう会社が余り無理なく,その意味では円滑に移行できるようなスキームにするという視点も大事ではないかと思います。そうしてこそ,初めて大いに議論する意義も出てくる,つまり,社外取締役の活用という意味から意義が出てくるのではないかと私は思っています。それが二点目でございます。   最後に三点目でございますけれども,この案の内容について申し上げたいと思います。現在の監査役会がこのままこの監査・監督委員会に移行したと仮定しますと,その場合には,取締役会に少なくとも2名の社外取締役が存在するという形になるわけでございますし,それから,前回の議論に沿うような形で,社外取締役の独立性を高めていくとしますと,独立性の高い社外取締役が二人はいると,こういう形になることが考えられるわけでございます。これであれば,余り会社にとっても無理がありませんし,投資家の要望にもかなりの部分で応えることができるのではないかと思います。現行制度でも,監査役会につきましては,半数が社外ということでございますので,更に少しだけ進めて過半数になるような制度設計というものを考えれば,投資家からはより高く評価されると想像しております。そうした案が可能かどうかにつきまして,是非議論の対象にしていただきたいと思います。 ○八丁地委員 これまでのスタンスを繰り返して恐縮なのですが,現時点でコーポレート・ガバナンスの在り方を基本的に見直すべき立法事実があるかについては,我々としては,ないのではないかと思っております。現在でも各企業独自の設計によるコーポレート・ガバナンスが十分可能なオプションがあると思います。それを前提として,委員会設置会社と監査役設置会社が企業統治の機関設計として等価値であるという前提を踏まえまして,それと同等のコーポレート・ガバナンスの実体を確保できるという機関設計の選択肢が増えるということ自体は,企業による柔軟なコーポレート・ガバナンス体制の構築をより可能にするであろうという期待から,前向きに考えているところであります。しかしながら,同時にこの提案がそういう選択肢になり得るかについては,静委員の議論もございましたけれども,更に実務的に検討を深めていく時間と必要性があるのではないかと思っています。例えば,御提示いただいた部会資料は読み方がなかなか難しいのですが,社外監査役と社外取締役のそれぞれの役割がどうでであるのかとか,社外監査役に加えて社外取締役が義務付けされると読んでしまうケースもあること,また,社外監査役と社外取締役の権能,員数の具体的な点,さらに,自己監査の矛盾が生じるのではないか,などいろいろな点で実務的な課題が出てくるのではないかと思います。また,投資家から見た分かりやすさですとか,企業から見た導入のしやすさということも,これから時間をかけて,実務的によく検討しなければいけないと思っております。   以上のように,この提案自体がコーポレート・ガバナンスの組合せの一つになるということに関しては前向きに考えつつ,実務上の課題,選択肢となり得るための条件ということについては,更なる検討を,私どもだけではなく,ここにいらっしゃる皆様方と共同で時間を掛けて進めていきたいと思っております。よろしくお願いします。 ○築舘委員 今まで御発言された方とも共通する部分のある意見になると思いますが,この案を議論することについては,私は結構かと思うのです。一方で,この提案の理由として,今までの委員会設置会社ですと三つの委員会が義務的になる。それが一つの制約になって,なかなか各企業の選択にまで至らないで,今のような状況になっているのではないか。だからもう少し選択しやすいように,という提案と受け止めています。けれども,一方でやはり,こういう選択制を,オプションを一つ増やしていくというからには,ある程度の選択をしてくれるであろうという期待感も伴いながらの話になると思いますので,理論的な選択肢の組立てに加えて,実際に各企業がどのくらい今回の提案に魅力を感じるのか,乗ってくる可能性があるのかという辺りを,当たりを付けるというのでしょうか,可能性を現実問題として少し探りながら行くことが望ましいのではないかなと感じます。今,八丁地委員もそのようなことをおっしゃられたのだろうと思います。選択肢を増やしても選択する会社が非常に少ないということになると,事実上,選択肢を設定した意味合いが大きく減じられることになりかねません。今回の案がそうなると申し上げているわけではありませんが,実体経済とか現実の企業に関わる話なので,そういう当たりを付けながら,ということも必要なのかなと感じました。 ○前田委員 監査役設置会社が任意に委員会を設けることは,全く差し支えないことだと思いますし,むしろ望ましいことであると思います。しかし,委員会を置くことで何か特別な効果に結びつける,具体的には,業務執行の決定権限を代表取締役等に委任できる範囲を広げるなどの効果に結び付けるのであれば,相当慎重に検討すべきであろうと思います。そして,ここで取り上げられております案について,最も考えなければならないのは,監査・監督委員会の独立性は,補足説明3のような様々な工夫をして確保することはできると思うのですが,やはり指名委員会,報酬委員会がございませんので,取締役会全体の独立性を確保する仕組みは,どうしても弱くなるということです。したがいまして,最終的には代表取締役を解職することを背景にした監督は,期待し難いことになるのではないか。そうなってきますと,補足説明4のところにございますような,監査・監督委員会に指名委員会,報酬委員会の機能を一部代替させるという,取締役会全体の独立性を高める何らかの工夫が重要になってくるのではないかと思います。取締役会全体の独立性を高めることが難しいとなりますと,結局は,代表取締役等の権限は監査役設置会社並みにとどめざるを得ないであろう。そういたしますと,先ほどから御指摘がございますように,こういう新たな機関設計を選択肢に加えて,果たしてどれだけ利用されるのだろうか。余り利用が期待されないのであれば,会社法の下ではただでさえ機関設計は随分ややこしくなっておりますので,これ以上複雑にするのは賢明ではないと思います。社外取締役の活用は,必ずしもこういう新しい機関設計を導入しなくても,単に1名入れるだけでも,前回の御議論にもございましたように,意思決定の透明性を高めるという意味で相当の意義があるのではないかと思います。 ○安達委員 皆様方の御意見と大分重複する部分がありますけれども,あえて申し上げますと,まずこの監査・監督委員会というアイデアが,社外取締役の選任というのが規定路線として決定していることを前提とすれば,この議論は継続審議ということでまだ決まっておりませんので,もう少し慎重に考える必要があるというのが第一点でございます。それから,本件の議論が深まることによって社外取締役の選任ということに決定するような,リードするような方向性も間違っているのではないか。それぞれきちんと独立して判断して,最後に総合的に判断するという観点が必要かと,私は思います。   委員会設置会社が過去余り導入されていない,比率も非常に少ないということに関しては,部会資料3の2ページの上のほうに抵抗感等が指摘されている理由付けが書いてあり,確かにこれが最大の理由かと私も思いますけれども,もう少し深く,なぜ利用されていないのか,導入されていないのかということを分析し,理由をただして,それを今後どのように法的に担保していくのかという観点から議論することによって,監督機能を持つ機関設計も非常に実効性が高まると思います。多分,今の選択肢が一つ増えるだけで実効性がないのではないかという議論には,私も確かにそうだと思いますけれども,この理由,背景をもう少し深く追求することによって,新たな機関設計をする場合に実効性のあるものができるのではないかと思います。オプションを一つ増やすだけでは,同じような理由で余り利用されないということは十分想定されますので,これも一つの重要なポイントではないかと思っております。 ○伊藤幹事 部会資料3で言いますと,2ページの3の直前のところで,この監査・監督委員会というものは,委員会設置会社ほどではないけれど取締役会の監督機能の充実が図られるだろうから,それだけ取締役会から取締役に委任できる業務執行の範囲は,少しは広げられるのではないかといった議論がされております。あるいは,先ほど前田委員の御発言では,そうは言っても取締役会全体の独立性は所詮余り向上しないのであるから,やはり取締役会から取締役に委任できる業務執行の決定の範囲はそれほど軽々には広げられないといった議論もされていました。しかし,その二つの問題は,分けて考えることもできるように私には思えます。と申しますのは,現行の会社法362条4項,取締役会の専決決議事項についての規定は,比較法的に見ましても,ちょっと取締役会が決定しなければならない事柄が細か過ぎるし広過ぎるのではないかといったことも従来言われてきたこともございます。ですから,監督機能の強化ということとは切り離して,取締役会の専決決議事項の範囲というものは,一つ議論できるかもしれないと考えます。 ○岩原部会長 ほかに御意見はございませんか。 ○藤田幹事 部会資料3・第2・3(注1)について,若干コメントさせていただきます。実態を踏まえて利用できるような形態が必要だというのは,もちろんそうなのですが,ただ,説明がつくような機関設計でなければいけないのも当然で,説明のつかない形態がたくさん使われるようになったりしたら,最悪ですので,やはり制度設計の理屈は考えなければいけないと思います。今,前田委員及び伊藤幹事から,理念のレベルでの検討が若干なされたのですが,私のほうからも,(注1)に述べられている機関設計について,どういう性格のものか,理屈として考えたらどうなるかということについて,実態として受け入れられるかということとは切り離してお話ししたいと思います。   部会資料の補足説明での説明の仕方を見ていますと,ちょっとスタンスがはっきりしないところもあるのですが,基本的には,現在ある制度を前提としつつ,その枠内で足したり引いたりして,説明しようという方向で構想されているように見えます。最終的な賛否は,後で申し上げる理由からちょっと留保したいのですが,ここで提案されているのは,少なくとも現在の制度を出発点として,こういう足したり引いたりで説明できるような制度とは相当違うような印象を受けています。釈迦に説法のようなことになるかもしれませんが,現在の制度がどのようなものかと言いますと,委員会設置会社―もともとは委員会等設置会社という名前で導入されたもの―の基本的な考え方は,次のような発想だったと思います。つまり,従来の監査役設置会社ですと,完全に業務執行及び決定から離れた人によりモニタリングを行うという仕組みなのですが,これに対して委員会設置会社では,取締役によるモニタリングを認めます。その代わり執行と監督を分離し,その上で独立性の高いボードによる監督をするという仕組みであれば,完全に業務から離れた従来型の監査役設置会社と対等のような仕組みとみなしてあげましょう,こういう発想だったと思います。ただ,独立性の高いボードというと,一番簡単なのは社外取締役過半数の取締役会ということになるのですが,それは日本の実態を踏まえると現実的ではないから,三委員会を置いて,そこに排他的に権限を付与することで,言わば擬似的に独立性の高いボードらしきものを作るというのが,委員会設置会社の基本思想だったのだと思います。つまり,現行法は,執行と監督は分離しなくてもよいけれども,完全に業務の決定に関与しない独立性の高い機関によってモニタリングするか,それが嫌なら執行と監督は分離して,独立性の高い,―といっても擬似的なものとして三委員会を置けばいいのですけれども―,それによる監督とするか,いずれかを選んでくださいというのが基本の整理だと思います。以上のような話だとすると,二つの委員会を省略する代わりに権限委譲を制約するといったバランス論は非常に違和感があります。そもそも出発点は,三つ委員会を置けば権限委譲できますというようなところにあるわけではないからです。したがって,現行法の整理を前提にすれば,執行と監督を分離した状態で,より独立性の高いボード―社外者を過半数とする取締役会―を置くのであれば,委員会の作り方は自由にしてくださいという整理ならきちんと説明できるのですが,それ以上には行かないような気がします。これは,恐らく前田委員の言われたものと似たような感触なのだと思います。   ただ以上は,御提案の制度は,現在の委員会設置会社と監査役会の基本的な考え方をそのままにして説明しようとすれば,それは難しいということです。その前提を変えてよいとなるとどのような議論でもできるようになってきます。そして部会資料3・第2・3(注1)の提案は,そこまで言わなければ正当化できないものであることは,認識すべきだと思います。問題は,何を言えば正当化されるかということです。社外取締役を増やすことそれ自体を目的として,社外取締役を入れやすくなるからというだけだと,恐らく十分な正当化にはならないでしょうし,社外取締役を無理に増やすと社外監査役と併せて社外者が多くなり過ぎて無駄ですねというだけでも,これはやはり説明にはならないと思います。そうではなくて,何かもう少し積極的なことを言わないといけないと思います。仮に正当化するような理屈を言うとすれば,たとえ執行と監督を完全に分離しない会社であっても,業務の決定に関与するもののモニタリングであって構わない。むしろ正式に意思決定に関与し投票権を持つような人がモニターしたほうが,かえって実効性があるのだといったことを正面から言う必要があるのだと思います。それは一部で言われている,社外取締役と監査役の兼任を認めるべきだという論とあまり変わらない実質論になってきます。実は,現在の提案は,そこまで正面から言っていないだけに,かえって意味しているところがよく伝わりにくくなっていますが,突き詰めると,取締役と監査役の兼任を認める案と同じような政策論を言わないと正当化しにくいものではないかと思っています。ただ,ここからが歯切れが悪いのですが,執行と監督を完全に分離しない会社で業務の決定に関与する者のモニタリングのほうが優れているというのは,―感覚論としては分からないわけでもないのですが―本当にそうなのかは何も検証されていませんし,そこの命題が自信を持って言えないのであれば,こういうものを積極的に推進する方向に行くべきかどうかもはっきりしません。   最後に,非常に長期的に見たときには,こういうタイプの会社をつくりますと,執行と監督を分離し,過半数の独立性の高いボードによってモニタリングするという,世界的によく見られるモデルに移行することが非常に難しい状態での均衡が生まれてしまう可能性はあることは認識すべきかと思います。こういう会社が仮に増えていくと,もうそこで止まってしまって,そこから先に動かなくなる。長期的に見た場合,それが最終的に望ましい状態かどうか,どこかで考えておかなければいけないという印象を持っております。 ○田中幹事 これまでの部会の議論を私なりにまとめると,はじめに,特に濱口委員から強調されたこととして,根本的に日本企業のパフォーマンスが悪い。それは短期的な現象ではなくて,この20年間ずっと悪い。GDPとか,経済成長率で見ても,株式市場でのパフォーマンスで見ても悪いという事実があって,それが内外ともに嫌というほど認識されているということがありました。これは,もう20年続いているわけですから,当然会社法的にも対策が打たれてしかるべきで,打たれていたと思うのですが,それはここずっと規制を緩和するということでやってきたわけです。それは確かに日本の会社法制を見たときに,少なくともアメリカと比べた場合,向こうだと当然やれるべきところがやれないという規制がいっぱいありましたから,それはここ十数年のうちに非常に急速に緩和されて,現状だと,アメリカでできることはほぼ日本でもできるようになりました。しかし,これは少し議論の余地があるかもしれませんが,私の認識では,この規制緩和路線は,新会社法制定によってほぼカード切れになってしまった。ほぼ,選択肢は切れてしまいました。それによってパフォーマンスが良くなったかと言えば,依然としてパッとしていないということがあるわけです。この20年の経験の中で,現在の企業パフォーマンスの悪さは,もしかすると,例えば会社法が足かせをはめていたということよりは,根本的に日本企業のガバナンス構造に問題があるのではないかということが言われるようになり,それがこの20年間のパフォーマンスの悪い中で,徐々に,外国人投資家だけでなく,国内の機関投資家を中心にして強まってきた。そしてこのガバナンス構造は,これは前回もお話ししましたが,完全に会社の自治によってうまく行くわけではない。なぜなら,ガバナンスは根本的には経営者の監督機構なので,経営者は自分を監督する機構を強める動機は余りない。そして,現在の日本の,特に持合い構造の中では,株主が個々にそのガバナンス構造の強化を要求しても,必ずしもそれは実現しない。ということで,現状,ガバナンスは悪いのだけれども,個々の企業の努力で改善することもできないというようになっているのではないかと考える人が,国内外の機関投資家を中心に増えているということがあるのではないかと思っています。そのような考え方からすれば,ガバナンス構造はある程度法で強制する部分もあり得るということであります。もちろんそれは,特にガバナンスから利益を得る人たち,受益者である投資家の意見を十分聴いた上ですが,強制的なことをすることもあり得ると思います。実際に投資家が何を言っているかといいますと,やはり,ボードの独立性なのですね。独立社外取締役を入れるということであります。確かに,独立社外取締役については,それを入れたほうがよいというはっきりした実証的な支持があるわけでは必ずしもありません。全くないわけではありません。その辺りはもう少し調査されるほうがよいと思います。決め手になるほどのものではないかもしれませんが,しかし,一方で,独立社外取締役を入れないで,それに代わる実効的なガバナンス構造があるかというと,必ずしも多くの投資家に納得させられるものがないということは事実ではないかと思っております。   ちょっと前置きが長くなってしまいましたが,この提案についても,やはり独立社外取締役は現在のガバナンス構造の改革に役立つ契機にはなるのだけれども,全く自由に任せておくと必ずしも入れられないことがあるというという中で,法制度がその背中を押すということをやる意義があるのかという,そのことをまず十分話し合うべきだと思います。そして,私見を言えば,この提案は非常に高い意義を持っているのではないか。この監査・監督委員会をどういう構造として設置するかは問題ですけれども。最も単純な,株主総会が監査・監督委員を選ぶということにしますと,これは,基本的には,現在の監査役が取締役会で一票を持つという形の制度になるわけでありまして,恐らく,多くの国外の投資家は,その一点だけでガバナンス機能の強化になっているという評価になるのではないかと思います。確かに,現行の会社法制だと,監査役はボードに一票を持っていないので独立した監査ができるという,そういう思想を持っていますから,その観点からしますと,ボードで一票を持つと何か監査機能が低下するというようになるのですけれども,これは,ちょっと違う意見をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが,少なくとも外国の投資家は余りそういう考え方は理解できないのではないかと思います。やはり,ボードで一票を持っていないということは,監査機能には疑問があると,そういうことになるのではないかと思っていまして,私個人は,この案の中では,監査・監督委員会を株主総会で選んで,監査・監督委員会は現在の監査役がやるようなことをやりつつ,しかし,ボードでも一票を持っている,そういう制度にすることによって,独立社外取締役の義務付けについてはまた別途議論しなければいけないわけですが,独立社外取締役を入れるという方向に一歩を踏み出す改革として,意義があるのではないかと考えております。 ○三原幹事 三点お伝えしたいと思います。簡単に申し上げます。新しい制度を導入するということで,この選択肢は監督機能の向上が期待できるのかどうか,あるいは現在の監査役会設置会社制度という,約98%の上場会社が選択している制度よりも,少なくとも同等又はそれ以上の監督機能がこれによって期待できるのかどうかという,ここの検証が,導入に当たり必要と考えております。すなわち,既に20前後の機関設計が会社法にあるわけですが,更に選択肢を一つ増やした場合に誰かが選択するかもしれないということではなくて,これが選択された場合でも監督機能は十分期待できる,あるいは今よりも向上されるのだということが検証できることが必要だと思っております。その具体的な内容としましては,まず,委員会設置会社であれば,これは上場会社の約2%に止まりますが,執行と監督の分離ということで執行役に業務の執行を委任します。ところが今回の例えばこの監査・監督委員会設置会社になりますと,部会資料での提案内容がまだ明確でなく具体的な検証は容易ではありませんが,執行役への委任はないように思われますので,やはり自己監査という問題が恐らく付きまとうのではないかと思います。そうすると,第2回会議のときに,自分でやっているものを自分で監査する,自分でやったものを自分で成績をつけるのはどうかという,参考人の方からの御意見もあったわけですけれども,自己監査の問題があって,委員会設置会社であれば,基本的には執行役に執行を委任してそれを取締役が監督するということになっていますから,自己監査の問題が生じる場合は極めて限定的であると解釈されています。これに対して,この提案の場合には,いわゆるマネジメントボードとスーパーバイザリーボードが恐らくかなりオーバーラップするので,その結果自己監査の問題が残ります。執行と監督の分離も恐らくしない,それによるメリットもあると思うのですが,この制度では監査役がいなくなってしまうわけでございますから,本当に問題はないのか検討が必要です。その問題はどういうことかと言いますと,社外監査役の人たちの話をお聞きしますと,常勤の監査役がいるという制度は,非常に重いという方がおられます。月に数回行くかどうかくらいの非常勤の社外監査役にとり,常勤の監査役の方たちが社内のことをよく分かっておられて,その方達と連携することによって監督機能を発揮することができるというのです。この監査・監督委員会制度が,社外取締役のみで構成されるとしたら,あるいは恐らく非常勤というか,非業務執行者のような方と社外取締役で構成される形になっているとしたら,社内のことがよく分からずに取締役会の前後だけ会社に行くとなると,常勤者がいない,そうすると,今の監査役会制度よりも監査機能の点で劣ることが起こるのではないか。月に1回,2時間か3時間だけ行ってその場で資料をもらったり,前日に資料をもらったりということだけでやっていると,非常に不安があるということを,我々弁護士の中でも監査役をやっている人たちが言っておられますし,社外取締役の人たちも言っておられます。ですから,本当に監督機能の向上が期待できるのかどうかという検証をしていただきたい。これが一点目でございます。   それから二つ目は,制度間競争ということになるわけでございますが,選択肢が増えれば誰かが採用するのではないかということではなくて,立法事実として,これがあれば相当程度導入が期待できるということがあればよいのですけれども,使うかどうか分からない制度を入れてみて,一つ新しく機関設計が増えるだけということであると,これを法改正して導入した意味が余りないというか,むしろ問題があるということがあり得ます。検証なく導入すればよいということではないのではないかという点です。先ほど話がありましたように,委員会制度なりを任意で取り込むなど,事実のほうが相当先行しており,いろいろなことを各企業は必死になってこの市場の中で戦っているわけでございますけれども,その中で,これをつくってみればきっと皆が使うのではないか,導入するということが本当に良いことなのかどうか,ということを検証していただきたいと思います。   それから三点目は,前回から議論されている社外取締役の導入との関係です。前回の意見の繰り返しとなりますが,社外取締役を一定程度の限定した形で入れてしまうとの義務化の提案については,前回多少否定的な意味で言ったわけではないのですけれども,社外監査役を2名と社外取締役を1名とその補欠を入れると社外者が合計で4名になりますという話をいたしました。けれども,大会社を更に限定して,大大会社のような上場会社の相当大きなところで,かつ海外の投資家がどんどん投資してくるターゲットとして考えているような大きな会社に限定して社外取締役を導入するということであれば,御負担にこたえられるような会社であって,社会的に影響力がある会社についてならどうか,ということをお伝えしたものです。逆に言うと社外取締役1名の義務化ということが限定的にでも行われれば,この問題は相当改善できるのではないかという考え方もあり得ますので,今の監査・監督委員会設置会社の形で社外取締役を入れたほうが良いのか否かという考えはないか御検討いただきたいと思います。以上三点でございます。 ○神作幹事 部会資料3の冒頭にございますように,社外取締役の機能を活用する方向で取締役会の監督機能の充実を図ることに,私も賛成でございます。しかし,前回まで議論してまいった社外取締役の機能と,本日一つの案として御提案されております,監査・監督委員会設置会社における社外取締役の機能とは,ややずれている部分があるのではないかという気がいたします。前回の議論ですと,社外取締役には非常に多様な機能が認められ,例えば助言機能ですとか,透明性すなわちアカウンタビリティを高める機能,利益相反のチェック機能,更には取締役の業績等についての評価,選解任も含めた人事面での監督など,様々な面において多様な機能を期待し得るという議論がなされていたように思います。そのような観点からいたしますと,本日御提案の監査・監督委員会において社外の取締役を設けるないしは独立取締役を設けるというのは,上述した社外取締役の機能の一部に着目した議論なのではないかという印象を受けました。前田委員が御指摘されたことと共通するかと思いますけれども,社外取締役に期待し得る多様な機能のうち,どのような機能でもよいから,まず一人社外取締役を使ってみてくださいという単純な発想もあり得るように思います。もっとも,そのような発想と本日の御提案とは矛盾するものではなく,並立するものだと思いますので,監査・監督委員会設置会社の構想と並んで単純に社外取締役の設置を一定の範囲の株式会社に義務付けるという線も残していただければと思いました。   第二点でございますけれども,社外取締役に機能してもらうためには,取締役会を軽くすると言いますか,取締役会の負担を減らして業務執行に関する文字どおり重大な決定に集中しないと,社外取締役の監督機能を存分に発揮してもらうことは余り期待できないのではないか,社外取締役への就任に尻込みしてしまう場合が増えるのではないかと思っております。ガバナンスの文脈で社外取締役,独立取締役の機能と言ってきたとき,念頭に置かれているのは,究極的には,先ほど申した人事や報酬等を監督の主たる手段とした監督を行う,あるいはそこまで行かなくても,助言機能ですとかアカウンタビリティを高める機能が期待されているのであって,監査役会や委員会設置会社の監査委員会と類似の機能を社外・独立取締役が果たすことを中心に考える点については,やや疑問がございます。その点に関連して,もしかしたら非常に根深い問題なのではないかと思っておりますのは,委員会設置会社の形態を採用された会社においても,日本では執行役への委任というのがどうも形式上は余り進んでいないという調査結果が出ている点です。取締役会の重心を監督機能に移行させてゆくためには,経営事項については経営者に委託していくことが必要であり,そのことが社外取締役,独立取締役が活躍するための言わば前提条件のようにも思うのですけれども,日本の会社あるいは経営者は取締役会の権限を縮小することについて問題を感じておられるのか,その点についてどのようにお考えなのか,現状を踏まえた検討が必要なのではないかと思っております。 ○上村委員 この議論は,一見すると非常にオプションが増えてという話に聞こえますけれども,恐らく,機関が一本化していくプロセスだと思います。そうだとしたら,こういう機会はそうはないので,やはり先ほど藤田幹事がおっしゃったように,現行制度を前提にして足したり引いたりではなくて,その基本的な概念そのものをきちっと見直して,望ましい機関を構築すべきだと思います。特に,例えば委員会設置会社と監査役設置会社が二つあるけど等価値だとよく言われますけれども,その割に委員会設置会社を採用する会社が非常に少ないとも言われる。恐らく委員会設置会社が嫌なのは,指名委員会とかその辺が強制されているということが嫌だということであって,取締役会と代表取締役あるいは取締役会と執行役の関係を見れば,そこに焦点を当てればどちらも変わらないのですね。先ほど藤田幹事は,分離しないで監督するというのと分離して三委員会とおっしゃったのですけれども,ある意味ではそれはそのとおりなのですけれども,しかし,分離しないでという監査役設置会社であっても,業務執行する取締役と業務執行しない取締役というように概念は分かれているわけです。あるいは平取締役というのと従業員兼務取締役といった概念もあります。これは部長とか支店長の部分と平取締役が概念的には分かれているわけですね。ですから,前にも申し上げたことなのですけれども,取締役の報酬だとか取締役の責任だとか言っても,実は狭い意味での平取締役と言いましょうか,その取締役の監視・監督を担う部分の責任や報酬を論じているのではなくて,実は業務担当としてやっていることを取締役だといってきただけなのですね。例えば,例の日本航空電子工業の事件などは,ずっと従業員だったのが,6箇月前に取締役になったらその前にやったことまで含めて,要は現に取締役である者がやったことには違いがないといって執行分の責任も追及されたりしております。要するに,そこは分離していないと言っても実は分離していたのではないか。他方で,委員会設置会社は分離していると言っても,実はすべての業務執行の決定権限は取締役会にある。取締役会はモニターだモニターだと言いますけれども,しかし業務執行の決定権のすべてがあって,それを委任するという構成になっているわけですね。ですから,これはその部分を見ますと監査役会設置会社よりも委員会設置会社の取締役会のほうが業務執行の権限は大きいのではないでしょうか。つまり,監査役設置会社の場合ですと,代表取締役は日常的な業務執行は自分で決めて自分で執行できる人なのですね。重要なことは取締役会だとなっていますので。しかし,委員会設置会社の場合には,日常的な業務執行の決定すらも,取締役会から委任を受けなければならないという構成になっていますから,分離していないとも言える。結局,そういう意味では分離していないシステムであっても実は分離してやってきたのにすぎないし,分離すると言っても,実は,従来の固定観念といいましょうか,取締役会は業務執行機関である,そして,決定機関であるという,そういう観念は変えてない,というより強化されているかもしれないのですね。ですから,その部分はどっちも変わらないのだとすると,取締役会はモニタリング機関である,監視・監督機関である。そして,業務執行機関は業務執行のすべての権限を持っている機関である,と割り切れば機関構成は思い切って簡素化できるのではないでしょうか。代表取締役,代表執行役は裁判上裁判外の一切の代表権を持っているのですから,そう考えることはむしろ自然です。そこでは,重要な事項について取締役会が関与するのは,それが元々そういう権限を持っていたからなのではなくて,監督権限の行使としてそういう重要事項に関与しているのだと構成すればよいはずです。そうしていくと,今,神作幹事もおっしゃったように,そもそも全部取締役会にあるのをどれだけ委任するのかという話ではなくて,業務執行機関にはすべての権限が元々ある,しかし重要なことについて,監視・監督・モニターという立場から関与しているのだという構成に根本を変えていけば,引き算をしても取締役会に残るものが多過ぎるということも解消します。その上で従来監査役と呼ばれていた人たちも事実上取締役ですという形になっていくと,取締役会と代表執行者の関係という根本的な部分には,そもそも二つの選択制などはない。だから両者に優劣はなかったのは当然ということになります。優劣というのは委員会設置会社の場合に指名委員会が強制され,たった二人の社外取締役の権限があり過ぎる,そういうところが嫌われていただけであって,監査役設置会社と委員会設置会社の基本構造そのものを選択していたかというと,別にそこについて選択していたわけではないと思います。そうだとすると,これはやはり,基本的には,機関の構造の基本的な部分は収れんしていくのではないか。だとすれば,ここで委員会設置会社と監査役設置会社と新しい新委員会設置会社と三つ置いても,その基本を見れば皆同じなのではないでしょうか。三種の選択を認めても,どうせまたすぐ改正しなければ変だということになりはしないか。ですから,この際もうちょっと,先ほど藤田幹事もおっしゃったように,本質的な部分をきちんと議論して組み立てていく必要があるだろうと思います。   あと一点だけ,先ほど田中幹事がおっしゃいましたように,監査役の機能は,先ほどおっしゃったようないろいろな広範な機能を持った場合には,これも繰り返し申し上げておりますけれども,そのままではなくて,やはり監査意見,公認会計士の監査意見についてまた意見を述べるという,そこはやめたほうがよい。その上でいろいろな重要な機能を持たせるということは,私は十分あり得る話ではないかと思います。 ○齋藤幹事 まず,362条4項の改正が必要であるという,今まで出てきた意見につきましては,私も賛成です。この規定を見直すことによって,日本の機関設計のオプションの作り方も随分変わってくるだろうと思っております。しかしながら,以前,同条のように項目を列挙して取締役会の法定事項を決めるというやり方はよくなくて,416条1項のような,もっと包括的な規定にすべきであるという意見を公表したことがあります。しかしながら,このような見解の問題点の一つといたしましては,取締役会の監督機能を強化しないまま取締役会の法定決議事項につきまして一般条項の形で規定いたしますと,現在の多くの会社におきましては,結局,昭和56年改正前の,社長をはじめとする一部の代表取締役がすべて決定権限を事実上独占するという状態に戻ってしまうことが挙げられます。例えば法務部や,あるいは他の取締役が,これについては取締役会決議事項であるということを代表取締役等に説得する根拠を失ってしまう。やはりソフトローや学者のコメントなどよりも,それが法に規定されているということのほうが実際の現場においては大きな説得力を持つという御意見をお伺いいたしまして,現在のところ,362条4項にはある程度の意義が認められるのかなと思っております。したがって,同条項に手を入れていくに当たっては,取締役会の監督機能の強化や独立性の強化とある程度関連付けて考えていかなければいけないかなと思っております。   社外取締役の活用の仕方につきましていろいろな意見がございますけれども,私も,今まで出てきた幾つかの意見のうちで,とりあえず使ってみようというメッセージを発信するような改正によって,一歩を踏み出すというのが望ましいのではないかと思います。日本の上場会社の経営者の選任の在り方というのは,特に外国の方から見ますと,ごく一部の人の手に握られている。具体的には,現在,これらの会社の経営者の地位にある人たちが自分の後任を選ぶと見えるようであります。しかも,日本では会社あるいはグループを超えて人材が移動するということは余りありませんので,実際には,自分が働いている会社の上司に認められた人が次の経営者になるという形になっているわけでございます。しかしながら,社外取締役の登用を,ある程度,法で後押しいたしますと,人材の流動化が促進される可能性があるのではないか。現在は,社外監査役の人材のプールはあるとは思っておりますけれども,監査役に与えられている権限が取締役とは随分違いますので,その人たちが経営者の市場に入っていく,あるいは社外取締役の市場に入っていくということは,今の状態では余りないのではないかと思っております。社外取締役が直接会社のパフォーマンスに寄与するということは,実証されておりませんが,そのような人材を育てていくことを後押しすることは,望ましいのではないかと思っております。 ○野村幹事 前回,独立・社外取締役を設置強制することに対して批判的な意見を申し上げました。あの意見は,監査役会設置会社という現行の制度で社外監査役を強制しているにもかかわらず,それにプラスして,必ず1名以上の独立・社外取締役を置かなければいけないという制度にすることが本当に必要なのかという趣旨で発言させていただきました。つまり,選択肢としては,独立・社外取締役は置かずに社外監査役だけにするというタイプを残しながら,会社自身がより良いパフォーマンスを発揮するような工夫を施す可能性を残しておくという意味で,すべての会社に対して設置強制する必要はないのではないかという発言をしたわけで,私自身,独立・社外取締役の有用性を否定しているわけではありません。社外監査役では果たし得ない機能としましては,例えば違法行為をやっているわけではないですが,会社のパフォーマンスを上げる努力が十分ではないと思われるような経営者が居座るという状況に対してけん制機能を働かせる,そういう役割を果たすものがあったほうがむしろ会社にとって望ましいという判断があれば,独立・社外取締役という制度を選択するよう推奨していくことに反対しているわけではございません。そういう意味では,今日御提案を頂いているこの新たなガバナンス形態は,恐らくそういう発想の中から生まれてきたものではないかと思われますので,その方向性については賛成です。   ただ,皆さんからもお話がありますように,今出ている案が果たして本当に使われるのか,あるいは合理的なのか,理論的に正しいかを詰めなければいけないと考えます。前提として,現在の委員会設置会社がなぜ嫌われているのかについての認識が,人によって随分違っている。どこに問題点があって使われていないのかが必ずしも解明されていないように思われます。指名委員会や報酬委員会が厄介だと思っているという話なのか,それとも委員会が三つあるので,制度上は可能でも事実上社外者の採用を2名に抑えることができないところに重たさを感じているのか。その辺りがよく分析されないまま提案がなされているような感じがします。指名委員会や報酬委員会に問題があるのであれば,指名委員会や報酬委員会の権限を見直すことはできないかをもうちょっと考えてみる必要があるような気がします。仮に社外者の員数に問題があるのであれば,委員会の数を減らすにしても,三委員会の機能をそこに集約するという議論もあり得るような気がしますので,それらの点を詰めた上で御提案を頂いたほうがいいのではないかと思います。藤田幹事がおっしゃっておられたように,あるいは神作幹事もおっしゃっていましたが,本来ならば執行と監督を分離するというコンセプトでありながら,現行法はそうなっていませんので,正に執行と監督を分離するという制度を前提としたような形の理想的な形態をいったん議論した上で,それを追求していく中で,ガバナンスの在り方を,どのような委員会を置けば世界に通用するような形のガバナンスシステムを構築できるのかを,もう一度考えてみる必要があるのかなと思います。そうしますと,場合によっては,委員会設置会社の機能を低下させることなく,形を変える可能性も見出されるのではないかという気がしております。 ○八丁地委員 前の議論に戻るかもしれませんが,皆さんの御意見を伺って思ったことを述べたいと思います。コーポレート・ガバナンスの善し悪しと企業のパフォーマンスの相関は見られません。見られれば,コーポレート・ガバナンスに関する発行体企業側のスタンスも変わるのではないかと思います。これまで何十年かの日本の低成長は,企業の責任もあろうかと思いますが,それだけではないという点も繰り返したいと思います。それから,社外取締役を用いるか,用いないかということですが,先ほど静委員の議論に出ましたACGAの方々が,先日,経団連に30名来られまして,経団連側の出席者15名と2時間の議論をいたしました。やはり社外取締役の議論が出まして,二つのお話を伺いました。一点目は,投資対象についてです。コーポレート・ガバナンスの良い会社,利益の良い会社。コーポレート・ガバナンスが良いけれども逆のタイプ。両方良い会社。どこに投資するか。当たり前で両方良い会社だ。そういう会社はあるのか。ない。ではコーポレート・ガバナンスが良いけれども利益が悪い会社に投資するのか。そういう人はいない。逆もない。これでは,どこに投資するのか分からないと我々は思いました。実際に投資する人の感覚としてコーポレート・ガバナンスの業績との関連性があるのだろうか。アナリストレポートに出てくるような狭い議論に見られるような,右か左かという議論ではないのではないかと私は思いました。二点目は,社外取締役は何なのか,ということです。社外取締役は,パフォーマンスの悪い会社に行って外科手術をしてくれるのか,若しくは内科で重病を探して治してくれるのかと聞きましたら,そういうことはあり得ない,専門知識がない限りできないとのことでした。それでは何であるのか,と伺うと「ビタミン剤である」とおっしゃられました。それならば,ビタミン剤はできる限り取らないで,新陳代謝のパフォーマンスに任せるのが企業の健全な姿ではないか,と我々は深く信じて経営をしています。それから,ビタミン剤も,負担が非常に高いわけです。先ほどどなたかが,「大手の会社に社外を義務付ければいい」というのは,いささか乱暴な議論ではないかと思います。そのときに負担という話がありましたが,ガバナンスをきちんとやる,きちんと考えるということには,コストも掛かり,負担もある話です。それで得られるのがビタミン剤になってしまっては,余り効果はないと思います。日本の企業のパフォーマンスが,社外取締役の義務付けで急速に上がるということは,余り想定できないと思っています。それからもう一点,コーポレート・ガバナンスの役割が不祥事の発見であるとするならば,日本企業が,不祥事の発見について他の国と比べた場合に高いという感じは,私どもは持っておりません。統計上も高いということはないのではないかと思っています。ですから,ディテールの設計に工夫はあると思いますが,日本企業の競争力の向上を真剣に考えていただいて,その中でのバランスを考慮し,一つの要素としてコーポレート・ガバナンスが競争力を高めるようなな形態になることを望んでいます。   さらに,機関設計の話ですが,監査・監督委員会の独立性という点です。これは社外取締役のみで構成するという議論があるかと思いますが,これは実現するとしても,社外取締役のみで構成する必要はないと思います。これは委員会設置会社の場合もそうですが,社内の事情に通じていない方々だけで監査・監督をした場合に有効性なり実質性が担保できるのかという点については,企業を経営している者からしますと,強い自信を持つことができませんので,ここは現在の委員会設置会社の構成で行うのがいいと思います。それから,今議論されていることは,企業経営のパフォーマンスを上げるという意味で実務から見てどうであるべきかということは,冒頭申し上げましたように,是非具体的に議論をさせていただければと思います。 ○田中幹事 短い質問だけさせていただきます。(注1)の「社外取締役が構成員となる」というのは,社外取締役のみが構成員となるという趣旨だったのでしょうか。私はそうは考えていなかったものですから。委員会設置会社でもそうではありませんし,そうする理由は特にないのではないかと思いました。 ○河合幹事 監査・監督委員会の構成員につきましては,社外取締役のみから構成されるということを当然の前提としているわけではございません。その趣旨で,部会資料3の3ページの(c)監査・監督委員会の構成面における独立性確保の仕組みというところも,「監査・監督委員会の構成員に占めるべき社外取締役の割合を高める」という書き方をしております。その高め方として,あるいは全員というオプションもあるかもしれませんが,現在の委員会設置会社の監査委員会のように過半数とすることも含めて,構成面については,今後更に議論が必要と考えております。 ○濱口委員 皆さんいろいろ御意見を言われたことと共通する点もあるので,結論だけ申し上げたい。その前にガバナンスとパフォーマンスの関連性について御意見があって,投資家がどう考えているのかというお話がありましたので,一言申し上げます。私が見る限り,日本の企業のパフォーマンスというのは,トータルで見たらひょっとしたら悪くはないかもしれない。私が冒頭で悪いと申し上げたのは,一ステークホルダーとしての株主への分配が悪いということ。それがROEという数字になって現れているということです。従業員への分配は相当されている。例えば,日本では失業率が低いわけで,欧米よりはその分,会社がコストを負担している。例えば危機のとき,米国の企業はすぐレイオフします。その分をセーフティネットで,社会保障で支えるというのに対して,日本は会社で抱えている。これは経営者の方が社員の生活を重んじるというのが一つの大きな社会的目標になっているので,当然の行為だと思いますが,それと株主への分配とのバランスの問題です。恐らくそのバランスが悪いということで,トータルのパフォーマンスが本当に悪いかというと,そうでもないかも分からない。社外取締役の一つの役目としては,一ステークホルダーである株主への目配りをしていただくということが,一つの重要な目的かなと思います。これは,例えばACGAとかヨーロッパの投資家などは,アメリカとは少し違って,株主主権というよりも,株主も一ステークホルダーでそのバランスをどうとっていくかというのが,重要な独立社外取締役の役目であろうという言い方をしていますが,そういう位置付けでいいと思います。   今日の議題については,いろいろ御意見があった中で考えた結論としては,一つのオプションを広げるという意味で,取締役会の監査というよりも監督機能を強化していく一つのステップとして,本制度の導入に前向きな方向で議論されてはどうかと思います。監査・監督と二つ付いていますので少しややこしいのですが,監査のほうは御意見があったように常勤がいなくなるとか弱体化するようであれば問題かと思いますが,ただ監査というのは一体何をしているのかということを考えますと,会計監査人もいるわけですから,そこは何らかの手当てができる。むしろ監督機能を強化して,最終的には例えば社外独立取締役が過半数のようなボードに近づけていくというような将来の進化をもくろみながら,現状の社外監査役がたくさんいるということの変形として,オプションを一つ広げるというのは,齋藤幹事もおっしゃった人材の育成の一助としても,あり得るのかなと思います。 ○神田委員 私は,この頂いた部会資料と心は同じなのですけれども,もうちょっと簡素な提案をして議論を深める参考にしていただけないかと思うわけです。それは,投資家の声というのは,パフォーマンスに不満があるにせよ,株主への分配に不満があるにせよ,その解決策の一つとして社外独立取締役というものを求めている。それがうまくいくかいかないかは,クエスチョンマークがつくのだとは思うのですが,そこで求められている社外独立取締役というのは,今会社の中にいる人でなくて外から新たに加わってほしいとまで意味しているとは限らないと私は認識しています。もっと直裁的に言いますと,例えば現在,会社で社外監査役として務めておられる方が社外独立取締役になるということも含まれているのではないかと私は認識します。そこで,厳密にいえば前回のテーマになってしまうのですが,会社は定款で監査役が取締役会に出席をし,かつ取締役と同等の議決権を行使することができると定めることができるという選択肢を認めてはどうかと思います。理屈のレベル,実際のレベルで細部の議論が必要だとは思いますが,そういう選択肢が認められれば,ここにいう監査・監督委員会のようなものは必要ならばもちろん任意に置かれるでしょうが,制度として用意する必要はなくなるということになるように思います。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。正直申し上げまして,本日の議論をまとめるのは私の能力を超えている感じもします。根本的なところを含めて,本当にいろいろな御意見を頂きました。しかしよく考えていくと,今の神田委員の御指摘なども一つの参考になるかと思いますが,それほど違わないことをお考えの御意見もかなりあったのかなとも感じておりまして,この後事務当局に今日頂いた御意見をまとめていただいて,今後の方向性を考えていくということにさせていただきたいと思います。   かなりの委員の方から,委員会設置会社がなぜ利用されないかをもっと考えるべきだという御意見をかなり頂きました。八丁地委員は日立の副社長で,日立は委員会設置会社だと思いますが,先ほどのお話などを伺って,日立はなぜ委員会設置会社にされたのかなという,素朴な疑問を持ちました。日立が委員会設置会社とされた理由を教えていただければ,ここの委員・幹事全員の参考になるのではないかと思います。いかがですか。 ○八丁地委員 日立製作所は2003年に,委員会等設置会社に移行いたしまた。当時は12名の取締役で社外が4名,法曹界,実業界,官僚出身の方という構成で,男性3名,女性1名という構成でした。現在は13名の取締役のうち社外取締役5名という構成にしております。三委員会は現在,社外3名,社内1名ないし2名ということであります。委員会設置会社移行まではいわゆる常務会が実質の意思決定機関として構成されておりましたが,全体で30名位が参加しておりまして,そこでの議論が,会社全体の議論及び対外的な議論と各事業単位の議論というのが非常に錯そうしておりまして,30名の中で,全体を考えて発言する人は比較的少数というのが現実でした。そうであれば,社会との関係を持ちながら議論ができることを取締役の責務とし,ほかの方は大きな経営のポリシーの下で毎日執行に励むという形をとるのが望ましいということで委員会設置会社に移行しました。目的としては,意思決定のスピードを上げ,業務のスピードを上げ,業績を上げたいということだったと思います。それがどうであったかについては,数字が出ていますので評価はお任せいたします。今日までをよく見ていただきたいということであります。社外の方4名なり5名なりを導入して,報酬とか指名を委ねることの抵抗感というのは,私どもにはそれほどなかったように考えております。それは一つには,社外取締役の方々の力量といいますか,制度に対する理解,見識が非常に高かったということが8割ぐらいを占めるのではないかと思います。あと2割は,こういう制度の運営を執行側も加わりきちんとサポートすることに全力を傾けたことです。それから,監督側と執行側がよくコミュニケーションをとったということではなかったかと思います。初めの1,2年は確かに慣れ,定着に必要な期間があったと思いますが,今は十分な運用がなされていると理解しております。 ○岩原部会長 貴重な経験をお話しいただきましてありがとうございます。今後ともそういう御経験を話していただいて,ここでの議論の質をより上げるように御協力いただければと思います。大分時間をオーバーしてしまいましたので,次の項目に移らせていただいてよろしいでしょうか。   それでは,第3の「1 第三者割当てによる募集株式の発行等」に移りたいと思います。まず事務当局から御説明をお願いします。 ○黒田関係官 それでは,第3の「資金調達の場面における企業統治の在り方に関する検討事項」のうち,「1 第三者割当てによる募集株式の発行等」に関する部分について,御説明します。部会資料3の4ページを御覧ください。近時,主として上場企業を念頭に,大規模な第三者割当てが行われることによって株主の権利を侵害する事例があるとの指摘がされております。この点に関しては,上場規則による対応も一部されているところではございますが,会社法における手当ても検討すべきであるとの指摘もございますことから,本文は,会社法の観点から,第三者割当てに関する規律について,見直しを検討すべき事項があるかを問うものでございます。   部会資料3の4ページの中ほどでございますが,第三者割当てに関する近時の指摘は,@既存の株主の議決権が希釈化されることを問題とするもの,A会社の経営者が支配株主を選択することができることを問題とするもの,B新たに支配権を獲得した株主が会社を搾取するおそれがあることを問題とするもの,この三つに整理することができると思われます。@の指摘については,現行法においては,会社法上の公開会社の募集株式の発行等に関しては,定款で定める発行可能株式総数の範囲内であれば,有利発行に該当しない限り,取締役会に募集株式の発行等に関する決定権が与えられており,@で指摘されている問題については容認されていると考えられるところでございます。そこで,@との指摘との関係では,そのような取締役会の決定権限についての考え方を見直す必要があるか,また,希釈化が生ずる割合によって,その必要性は異なると考えるべきか,問題となると思われます。Aの指摘については,現行法においても,例えば,募集株式の発行等が差止請求の対象となるか否かに関して,裁判例上,いわゆる主要目的ルールと呼ばれる考え方もあるところであり,会社の経営者による支配株主の選択が必ずしも無制限に容認されているわけではございません。ここでは,主要目的ルールが適用されるか否かにかかわらず,支配株主の持株比率を低下させて支配権を喪失させるような第三者割当てを許容すべきでないと考えるか,また,支配株主が現に存在しない場面で積極的に支配株主を創出するような第三者割当てについてはどうか,といった点について,Aの指摘との関係で,取締役会の決定権限についての考え方を見直す必要があるかも含めて,問題となると思われます。Bの指摘については,第三者割当てによって支配株主が現れた後の状態における支配株主からの少数株主の保護の在り方の問題と見ることができると思われます。本文に関する検討に際しては,これらの指摘について分析的に整理した上で御審議いただきたく存じます。   部会資料3の5ページの補足説明の3でございますが,以上の整理を踏まえて,大規模な第三者割当てがあった場合に関し,第三者割当てに関する規律について,どのような見直しが考えられるかを問うものでございます。ここでは,例えば,一定割合以上の株式の発行等がされる第三者割当てについて株主総会の決議を要するものとすべきであるとの指摘がございますことから,それによって,@からBまでの指摘に示された問題意識に有効にこたえるものといえるかどうか,また,緊急性の高い資金調達等が必要となる場合の対応についてはどうするのか,といった点について,まずは御議論いただければと存じます。それ以外に考えられるものとして,ここでは,社外取締役,監査役等による意見表明手続などを設けることの当否を例示してございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは御議論をお願いしたいと思います。部会資料3では,問題意識の分析がされておりますので,それを踏まえて御意見を頂きたいと思います。 ○古澤幹事 三点ほど申し上げたいと存じます。足元の第三者割当ての実施件数のほうですが,我々のほうで把握してございます実施件数,足元,まだこの3月でも30件に近い第三者割当てが行われておりますし,3月と9月が多いわけでございますけれども,この9月もそれなりにあるのではないかと見ております。ただ,御案内のとおり東証の上場規則の改正がございましたので,300%を超えるような希釈化率のものというのはなくなっていますが,問題は引き続き残っていると考えております。それが一点目でございます。   二点目ですが,特に問題と思っておりますのは,後で静委員からもお話があるかもしれませんが,上場規則を仮に強行突破されたときにどうするかであります。具体的に申し上げますと,基本的には,上場会社以外のところに対してもこの高希釈率の第三者割当ての問題についての規制を当てはめるべきかどうかという問題が一つあります。仮に,そこについてそれほど必要がないという御意見もあるかもしれませんが,最後,上場廃止自体がペナルティとして十分機能しないような強行突破が図られたらどうするかというところが,実務の面での問題意識です。これが二点目でございます。   三点目は少し方向が違う話ですが,部会資料3の中で,5ページの3の二つ目の段落の最後にございますが,実際にこれを制度設計する上で緊急性の高い資金調達が必要となる場合の対応をどうするか,これは金融監督当局としての立場としての問題意識です。期日が非常に短い中で,金融機関の自己資本比率に対して短期間に何らかの対応をしなければいけないケースもあり,そういう場合についても柔軟に対応できるような制度設計を考えていかなければいけないというのが,更に我々のほうでも考えなければいけない問題かと思っております。   最後でございますけれども,これも部会資料3の5ページの最後の3の段落の(b)のところになりますが,支配株主に対する株式買取請求手続(セル・アウト制度)を設けることの当否ということでございますと,発行の場面についてなので,会社法の枠組みということかと思いますが,この(b)の話になってまいりますと,TOB規制との関係の平仄をどう考えるか。エンフォースメントも含めてどう考えるかについて,今後設計を具体化する中で検討を要する問題と考えております。 ○中東幹事 一定割合以上の株式の発行とか第三者割当てについて,先ほどお話しされまたように東証がルールを作っているわけですので,これがどれだけ実効性を持つことができるかということの限界をまずは探るべきで,もしそれが実効性を持っているのであれば,会社法で規制するよりもフレキシブルに運用されるでしょうし,そちらのほうが望ましいと思っています。実際,アメリカ等でも証券取引所等が同様の規制をしているわけですので,東証が着実に規制していくのではないかと思います。ただ,会社法と違っているのは,先ほど古澤幹事もおっしゃいましたように,これを強行突破した場合にどういう効力が生じるのかということで,法律上無効になるのか,あるいは事前に差止め等が可能なのか。そこら辺の私法上の効力の問題が余り議論されていないかもしれません。差止めにしても,できないと通常は考えられていると思いますが,そこら辺をできるようにという,そちらの方向で考えたほうがいいという考えでおります。それさえできるのであれば,基本的には,会社法としてはこれ以上手当てしないというのが,現時点では賢明なやり方だと思っております。   なお,差止めについては,この間ずっとこれを充実していこうという話が出ているわけですが,どういう人が差止めをしてくれるのかを考えた場合に,支配争奪になっていれば,それは相手のほうが一生懸命やってくれますが,支配争奪の状況にない,あるいは大きな株主がほかにいない場合には,なかなか使ってもらえないという危惧があると思います。代表訴訟でも同じ問題があるわけですが,誰のためにやっているのか。自分は小さな割合の株式しか持っていなくて,被告取締役から会社にお金が少し返ってきたとしても,そうは自分の利益にはならないかもしれない,こういう議論がかねてからあります。一応説明しようと思えば,代表訴訟の場合にはよく頑張って原告勝訴ということであれば弁護士費用が会社から支払われますので,弁護士はインセンティブがあるかもしれません。ただ,差止めの場合には,勝っても,お疲れさま,それで終わってしまいます。それでいいのかということも含め,私法上,東証のルールに違反した場合に何が実効的にできるのか,これが先決問題であると思っております。 ○奈須野幹事 第三者割当ての話については,既存株主の持分を著しく毀損するような事例が幾つか生じているということですので,会社法においても,一定割合以上の株式の発行を伴う第三者割当て増資に対して規制をするということに賛成です。具体的には,頂いた部会資料では株主総会決議が提案されておりますが,実際には,資金調達が必要な局面で株主総会は機動性を欠くということもあり,株主総会にかければ何でもいいのかという風潮も昨今ありますので,むしろ,独立取締役が過半数を構成する特別委員会の決議を要するという仕組みを導入すべきであろうかと思います。実際には,現在,独立取締役はさほどいないわけですので,経過期間,経過措置も必要になるかと思いますが,考え方としては,そのような独立取締役の決議を要するという仕組みとすべきと考えております。   また,東京証券取引所のルールで3倍以上の希釈化を伴う大幅な第三者割当て増資については上場廃止とされているという現状にかんがみまして,更に,支配株主の登場又は異動のときの既存株主の退出権を保護するという観点から,300%以上の希釈化を伴う第三者割当て増資や支配株主の変動を伴う第三者割当て増資,これは実質的には会社の身売りと同等ですので,既存株主から支配株主に対するセル・アウト権を付与するということも検討されるべきと考えます。東京証券取引所のルールにつきましては,これはこういった制度ができてからの話になりますが,300%以上の希釈化を伴う割当てがあった場合に上場廃止となりますと,これは逆に一般株主の利益を害する程度が甚だしいと思われますので,セル・アウト権の制度ができた暁には廃止するということでよいかと思います。   それから,同時にお願いしたいのは,有利発行規制の見直しです。現行,有利発行規制は,第三者に割り当てられる有利発行であることを前提として,既存株主に経済的な損失を与え得るということで,総会の特別決議を要していると理解しております。今般,仮に第三者割当てに対する規制が強化されるということになれば,この規制との重複的な適用関係が生じるということです。そもそも幾らで新株を発行するかということについては,優れてビジネスジャッジメントに属する事項と言えるので,そのほかの経営判断と同様に,経営陣による善管注意義務違反を問う事後的な代表訴訟などの責任追及の仕組みによることが,監視の効率性からも,資金調達の円滑的な実施の観点からも,適当であると考えます。また,実務的にも,特に有利な金額ということの判断につきましては,特段法律上の定めがなく,日本証券業協会の9割という運用指針があるのみであり,株価は日々変動するのに,果たしてこういったルールに基づいて株主総会を開かなければいけないという現状はいかがなものかということもありますので,これについては第三者割当て規制の強化とセットで廃止すべきだと考えております。 ○八丁地委員 先ほどの古澤幹事の御意見に同感でございます。昨年8月の証券取引所の規則の改正及び強化によりまして,濫用的な第三者割当て増資は規制されまして,少数株主の保護が図られていると理解しております。規則改正後に,新株予約権の第三者割当てについて希釈化率の高いケースはほぼ見られなくなったと伺っているところであります。東証さんによる第三者割当てへの対応策は,まだ導入後間もないわけでございまして,今後の見直しは,制度導入による効果をもう少し見極めた上で行うのが妥当と思っています。その際は,いわゆる証券取引所規則と会社法との役割分担を踏まえて,特に証券取引所規則を超える対応が必要かどうかについては検討が求められると思います。経団連会員企業の機関投資家からも,現行の上場ルールで妥当ではないかという意見が多く寄せられているところでございますので,直ちに会社法の改正をする必要はないのではないかと思料しております。 ○前田委員 取引所の自主ルールに任せる部分があっていいということについて異論はないのですが,ただ,Aの問題との関連で,大量の第三者割当てで会社が割当先会社の子会社になるような場合については,会社法上の手当てが要るのではないでしょうか。この場合は組織再編に近い会社の基礎的変更という側面がございますので,これを取締役会だけでできるのは問題で,株主総会決議を要求するべきではないか。子会社になるところまでいかない場合に,どこまでの第三者割当てについて株主に重大な影響を与えると見て株主総会決議を要求すべきかは,考え方が分かれるでしょう。相当部分は取引所の自主規制に任せていいとは思いますが,やはり会社法で決めておくべき部分はあるのではないか。緊急性よりは株主の利益を重視すべき場面があるのではないかということです。この問題の基礎には,発行済株式総数の4倍という発行可能株式総数の枠が幾らなんでも大き過ぎないかという問題があるかと思いますが,少なくとも子会社化するケースで株主総会決議を要求することは,その枠を実質2倍にすることを意味します。 ○築舘委員 第三者割当てによる募集株式の発行につきましては,第3回の部会で私からも問題提起をさせていただいた経緯がございます。監査役という切り口から見ますと,業務執行の妥当性に関する事項については,監査役が対外的に意見を述べる権限,義務はないと解されている一方で,株主と経営執行者の間に利益相反が生じ得る業務等については,監査役には監査役監査活動とか,あるいは監査意見の開示等,株主等に対する説明責任を一層明確な形で果たしてしていくことが要請されているという議論もあるということも認識しているところでございます。東証さんのルールは,有利発行該当性に関わる適法性に関する監査役意見の開示を義務付けているわけですが,監査役は,考えてみればこれまでも適法性監査を全般的に行ってきておりますので,このルールは期末だけでなくて期中でも必要な意見を述べるようにという,そういう趣旨なのかなと認識しております。こういう流れを会社法にどう位置付けていくのかについての御議論をこの場でしていただければと,私ども日監協としては希望しているところでございます。これに加えまして,利益相反的色彩が懸念される第三者割当てに関しましても,株主保護の観点から監査役として意見を述べるといった役割を付与するということについて,その必要性あるいは妥当性の御議論をいただければと思っているところでございます。考えてみますと,この第三者割当てというのは毎年定期的に発生するという性格のものではありません。時期的に特定できるものではなくて,ある意味突発的に起きてくる確率も高いわけです。したがいまして,状況によりましては,極めて短期間に検討あるいは決定が行われていく場合もあります。そうしますと,既存株主が状況を十分に認識する間もなく第三者割当ての手続が進んでいく,そういうようなこともあり得るわけでございます。株主に注意喚起をするという観点から,株主から負託を受けている監査役という立場で適法性あるいはプロセスに関する意見を表明していくことが,株主保護の上でも必要あるいは適切ではないかとも考えたりします。   それから,既に東証さんの規定,いわゆるソフトローになるわけですが,この規定で第三者割当てに関わる一定のルールが定められているわけですが,企業の機動的な資金調達,それから既存株主の保護という,この両者のバランスをとるという趣旨にかんがみまして,今後,会社法においても第三者割当てに係るルールが明定化される必要があるのではないかとも思いますので,よろしく御議論をお願いしたいと思います。 ○上村委員 第三者割当てについては金融庁のスタディグループで申し上げましたが,そもそもその前提にある割当自由の原則がどの程度妥当するのか。例えば小規模閉鎖会社,譲渡制限があるような会社ですと,これは以前ですと新株引受権,あるいは有限会社ですと出資引受権が法定されていたわけです。今は原則と例外が逆になっておりますけれども。   それから,この問題は後で出てくるライツ・イシューと表裏の関係になると思いますが,まず基本的には,例えば英国で株主割当増資が原則であると言われております。それが駄目な場合には公募でいく。最後は第三者割当てということで順番が決まっています。いきなり第三者割当てという発想はそもそもないのではないでしょうか。アメリカでもヨーロッパでも。正確でないかもしれませんけれども。私が聞いたところではそうではないかと思います。戦後,京都大学の商法の先生方が英米会社法の論文集を出されたとき,新株引受権についての論文がございました。そのとき,なぜ公開会社で株主割当てなのだろうかと非常に疑問に思った記憶があります。閉鎖会社だったら分かりますが。それは,私の理解では,個人株主が中心の社会では,そこで法人向けの第三者割当増資などを認めますと,彼らが営々として守り抜いてきた個人が主役の社会の価値観といいましょうか,そういうものが簡単に破壊されてしまう。そこではやはり個人から成り立っている社会,あるいは個人と同視してよい機関投資家から成り立っている社会では基本的に割当自由は原則として認めない。現に個人中心の株主構造ができているわけですから,まずはライツ・イシューからスタートして,それが駄目なら公募で最後が第三者割当て,これは救済とかいろいろな場合がありますので例外としての第三者割当てはあり得るという順序だと思います。日本では,いきなりライツ・イシューという話が出てきておりますが,これだけ個人株主が少ない社会でライツ・イシューということになると,現在の株主構造を固定化することになるわけです。ですから,やはり公募原則を打ち出して,個人株主を増やす,あるいは個人株主と同視できる機関投資家を対象にした公募を基本的に据えて,ある程度の段階でライツ・イシューにしていき,そして最後の手段として第三者割当てを位置付けるというのが,今後考えていくべき構想なのではないかと思っております。その意味では,公開会社の場合には,基本的には個人向けの公募を原則にすべきだと思います。例えば強制公開買付けですと,大抵の場合個人は減っていきます。減っていくほうだけ強制しておいて,増えるほうは割当自由だというのでは,私は証券市場の株主構成といいましょうか,市場構造が非常に非競争的な構造にどんどんなっていってしまう。それから,個人を増やすことは企業社会の担い手をちゃんと育てていくという面でも非常に重要な意義があると思います。こういう話は,急に明日どうという話ではないのですが,まず割当自由の原則が基本にあって,その上で何かテクニカルにこの問題に対応するということ以前に,第三者割当増資は私がアメリカ人に聞いてもまずそんなものは法で禁止されていないけどやらないと言うし,ヨーロッパでも基本的にはないと言っています。イギリスは特にはっきりしていますね。例えば,TOBで全部買付義務がありますが,他方に公募原則があるから,それで調整がとれているのだと思います。その辺のことを本当は真剣に考えるべきだと思います。したがって4ページに書いてありますように,「現行法においては会社は募集株式の発行等に際して原則として株主の議決権割合の維持に配慮する必要はなく,取締役会において資金需要と資金調達の環境等を勘案して柔軟かつ機動的な資金調達をすることが許容されていることから,@で指摘されている問題については容認されている」というようなことを簡単に言ってしまってよいか疑問です。これは,現行法の解釈でもそういう認識でいいのか疑問のある点でもあります。ここで前提にしていることは必ずしも当たり前ではないのではないか,ということを申し上げておきたいと思います。 ○荒谷委員 二つほど意見を述べさせていただきたいと思います。第三者割当ての問題は,突き詰めれば,資金調達の必要性と株主保護のバランスをどうとるのかという問題だと思います。最近,本来の目的である資金調達目的とは違う形で,いわゆる株主の意思に関係なく,経営者が自分の支配権を取得し,あるいは維持する目的で使われる。本来想定していなかった形で利用されているところに問題があるわけです。ただ,そうした使われ方が一般化しているということは検証されているわけではありませんので,先ほど来出ておりますように,今東証さんがルールを作っておりますので,それがどのように運用されているのか,しばらく検証して,それから法規制に進むのがよいのではという気がいたします。もっとも,強行突破されたときについて規制がないというのは非常に問題ですので,現段階では強行突破されたときに備えて,何らかの会社法上考え得る手当てを考える必要はあると思います。   もう一つは,緊急性の高い資金調達が必要な場合の対応についても考慮してほしいというお話もありましたように,第三者割当ては本来資金調達のためになされるものですから,機動的な資金調達という点から見て,一定割合以上の株式発行がなされる第三者割当てについて,一律直ちに株主総会決議を要するとすることには,私は個人的には反対です。その場合には,監査役,あるいは先ほど来ずっと問題になっておりますように,ここでこそ社外取締役の存在意義があるのではないかと思います。つまり,利益が相反するものに対して,会社の内情が分かっていなくても,これは常識的に判断して妥当な第三者割当てなのか,本当に資金調達が必要なのかどうかということについて,ある程度社会的な常識があれば判断できるのかなと思いますので,社外取締役あるいは従来の監査役の制度を使いまして,その方々に差止請求権を認めるとか意見表明の機会を与えるという形で,権限を一定程度付与するという形で当面規制する方向が,ソフトランディングとしてはいいのかなと現時点では考えております。 ○田中幹事 御議論を伺っていますと,方法論はともかく,何らかの規律は必要という御意見が多かったと思います。私も基本的に賛成であります。これは,人によってどの部分を問題に感じているかは違うと思いますが,私自身は,やはり支配権争奪戦のときに第三者割当増資をするというものに対して,日本法は必ずしも規律に成功していないのではないかと思っています。比較的,判例形成の初期に現れた,いわゆるいかがわしい人が買い集めるのに対抗するためにできたルールが今でも生き残っていて,例えば,まっとうな全株式を対象にしたTOBを掛けても,その間に第三者割当増資をするとか,あるいは,取締役を交代するために大株主が委任状合戦をしているときに第三者割当てをすることができてしまっています。御意見の違う方もいらっしゃるかもしれませんが,私は,それは株主が会社経営に対するコントロールを効かせるという会社法の基本構造に対する大変な脅威になっていると思っています。例えば,支配権争いがないときまで含めて,全部株主総会決議を要求するとか,そういうやり方をするべきか,それは大なたを振るい過ぎではないかという,いろいろ意見があると思います。その場合は,主要目的ルールについて,もっと具体的なルールを会社法に書き込むとか,別のやり方もあると思います。そういったものも検討すべきでありますが,何らかの規律は必要ではないかと思います。   それから,これは立法論というより現行法の解釈ですが,現行法でも,もし取引所規則に違反して第三者割当増資が行われようとするとき,株主は打つ手がないかというと,あるのではないかと思っています。アメリカなどでは実際事件があります。アメリカは敵対的買収の多い国ですから,会社がそれに対抗して第三者割当増資をするというケースは,比較的数は少ないですがあります。その場合に,取引所規則に違反するような大規模なものだと,そういった事情も併せて判断して,新株発行を信認義務違反として差し止めているのもあります。ですから,日本でも,第三者割当増資が取引所規則に反する場合に,そういう事情も併せて著しく不公正な新株発行かどうかを裁判所が判断することは十分あり得ることではないかなと思っています。ただ,その点について仮に疑義があるのであれば,何らかの立法でそういうことを明確にするということも考えられると思います。 ○油布関係官 基本的には,第三者割当ての問題についての,部会資料3にあるようなこういう方向性については賛成ですということを申し上げた上で補足したいと思います。先ほど古澤幹事からも申し上げましたが,部会資料5ページの「緊急性の高い資金調達が必要となる場合の対応についても,配慮を要する」という点です。これはよく考えてみると,部会資料のこの場所で,かつ緊急性という「時間」の話をしているということは,「株主総会なんか開いていられない場合もあるのではないですか」という趣旨でここに書いてあるのだと思います。しかし翻ってみると,そもそもそういう時間軸の問題だけに限らず,通常では決して勧められないような第三者割当てであっても,やらないと株主がかえって損失を被るという場合もあるのではないかと思われます。それはなぜかと言いますと,制度的な制約があるからです。例えば銀行でありますが,銀行は,国際基準行であれば,自己資本比率が2%を切ると,1年以内に2%までに資本の充実をしなければいけません。通常そういう場合,銀行経営者は一生懸命第三者割当ての引受先を探すわけです。見つからないことも多いのですが,資本充実ができないと1年以内に廃業しなければいけないこととなっております。こういうのは,多分銀行だけではなくて,財産基準の規制があるいろいろな業種に当てはまることがあるのではないかと思います。自己資本比率2%以下と言いましてもマイナスではありませんので,清算すればいいではないかという考え方があるかもしれませんが,そういう場合,清算価値で評価しますので,実際には株券は紙くずになるおそれがあります。  従って,「通常なら勧められないような第三者割当てであっても,実施することがなお株主の利益になる場合もあり得る」という特殊な事態もあることを考えますと,時間軸の問題以外にも,例えばセル・アウト制度をすべて義務付けるような形にしてしまいますと,第三者割当てに応じてくれる投資家はいっそう現れにくくなってしまう,結果的に既存の株券が紙くずになってしまうというリスクが高まる場合もあるように思いましたので,この辺りは若干の考慮が必要なのかもしれないなと思います。 ○静委員 御提案を申し上げた当事者なので,一言だけ申し上げさせていただきたいと思います。細かい問題はさておきということでございますが,このルールを設けてから1年近くたつわけですが,大変よく守られていることは事実でございます。ただ,もともとの発想は,先ほどから何度も出ていますように,第三者割当ては,ほかの増資方法と比べて,株主の立場から見た場合に非常に優しくない増資の形態であり,これがさらに濫用されてしまったことに原因があるのだろうと思っています。何人かの方から御意見を頂きましたが,我々も取引所の自主規制でこれをカバーしていく部分は当然あっていいと思っていますが,幾つかの基本的な部分についてはそれでは困ると思っており,その基本的な部分だけでも会社法で手当てしていただけないだろうかということを御提案申し上げたという趣旨でございます。どこが一番困りそうかと申し上げますと,先ほど古澤幹事からもお話がありましたが,東証は,300%を超えるような,いわゆる4倍規制を逃れるような第三者割当てが行われた場合には上場廃止の対象にするというルールを設けています。このルールが守られなかった場合に,本当に上場廃止にすることでいいのだろうかという,そこが一番懸念しているところです。その裏側には,元をただせば,株式併合とか自己株式の取得・消却はどこまで対象とすべきか分かりませんが,そういうものを悪用している,あるいは脱法的に使っているという部分があるので,これは本来であれば法律にお任せしなければいけないことではないかという意味合いでございます。それが一つ目です。   二つ目は,25%以上の希薄化あるいは支配権の異動を伴う第三者割当てにつきましては,先ほど田中幹事から御指摘があったとおりでございますが,もともとは,支配権の移動があるときに株主が全くノータッチで経営陣の思いのままに支配権が変わっていいのか,そういう声が海外の投資家から強かったということもありまして,そこに対応したいということです。東証のルールで25パーセント以上の希薄化を伴う第三者割当てと支配権の異動を伴う第三者割当てを同様に取り扱っているのは,買収防衛策の基準に合わせたためです。日本の会社の買収防衛策は,誰かが20%買ったときに,それを引き金にして発動するということになっています。これと同等の基準を第三者割当てによる募集株式等の発行で設けると,25%以上の希薄化を伴う第三者割当てをするとちょうど発行済株式の20パーセントについて新たな株主が現れることになる。つまり,買収防衛策の発動基準を新株発行側から見ると,25パーセントの希薄化を伴う第三者割当てに該当し,これは支配権に何らかの影響があると会社は考える領域だと,こういう発想でできているわけであります。これに違反した場合にも直ちに上場廃止であるとはしておらず,1,000万円の上場契約違約金をもってこのルールの実効化を図っていますが,これでいいのかどうかという部分があります。したがいまして,この二点を除くほかの部分は,例えば先ほど築館委員から御指摘がありましたような監査役の意見表明とか,そういう部分については,基本的に開示の問題でございますし,金融庁で御対応いただいて済んでいるものもあれば,あるいは実務的に動いていて,会社も開示するしないで揉めたくないと思っているようなものもあります。他にもいろいろありますが,そういうものについては,私どもにお任せいただいても問題を感じないわけでございますが,300%を超えた場合,今回は第三者割当ての問題というよりは会社法上株式併合の問題としてとらえるという御提案だと思いますので,それでほぼ解決されると思っておりますが,その部分と,25%以上の発行あるいは支配権に異動がある発行については,何らかの株主の納得性を高める手続,現行の東証ルールによればそれは総会でもいいし,それ以外に先ほど御指摘のありましたような社外取締役その他の独立した方からの御意見を頂く,それをもって取締役会が客観性を保った形で判断するという形でもどちらでもいいとなっておりますが,そういった手続を会社法の中にお入れをいただけないかという御提案でございます。もう一度その辺りを御検討いただければと思います。 ○藤田幹事 今,静委員から,私が申し上げようとしたことは,かなり言われてしまいましたので,それほど付け加えることはないのですが,若干補足的なことを述べさせていただきます。部会資料3・第3・1の補足説明の中,第三者割当てについて問題点を整理されていますが,そこで掲げられた三つのうちの中核がAであるという趣旨で書かれていると思います。私もこの問題を考えるとすればAをどう考えるかだと思います。Bはその後の問題ですし,@はそれ自体を問題とするべきではないと思いますので,Aがポイントであるというのがそのとおりだと思います。私も,他の委員と同様,東証の従来の自主規制は高く評価していますが,Aの観点から見たときに,この規制が問題を必要十分なだけカバーしているかという観点から検討する必要があると思います。東証の自主規制があるから取りあえず様子を見るといった御意見がありましたが,それに対しては,私は疑問に思い,様子を見るということ以上の検討をしたほうがいいのではないかと考えます。理由は静委員が明確に言われましたのですべてを繰り返しはしませんが,強行突破されたことだけが問題なのではなくて,支配権の移転をうまくとらえられるような仕組みになっているかどうかということと,そういう部分は果たして自主規制でカバーという形で規律することで十分なのかどうかです。部会資料にも書いてありますが,不公正発行の差止めが現行法上の支配権の移転に関する規制ですが,日本の不公正発行の規制は支配権移転の極めてわずかなところだけを切り取ったような規律になっています。例えば支配権の移転が合意で行われるようとする場合―合意というのは,決して株主総会を経て合意しているのではなくて,経営者同士の合意で行われるような場合―には,非常に小さい持分しか持っていない投資家である株主は,手が出せないようになっています。第三者割当てで支配権をなくすような人は,第三者割当ての場合,差止権はありますが,0.1%の人が0.08%になるといった場合,これが止められるかどうかよく分からない制度なのです。しかし支配者の入れ替わりは株主にとっても一般投資家にとっても重要な関心事のはずで,そこがカバーできていないのは大きな問題だと思います。そして,こういったことは,発行済株式の何倍にも及ぶ膨大な割当てがない場合であっても起きる話です。むしろ,将来的な規制の在り方としては,支配権の交代を引き起こすようなことについて,どんな手続でどんな救済を与えるかということにフォーカスを当てた提案を考えるべきだと思います。そういうものについては,単なる第三者委員会等の意見表明の担保だと弱いと思います。もちろん要件は限定しないといけませんが,何らかの形での株主の意見の反映,あるいは事後的であれば,(b)で書かれたセル・アウトにつながる救済が必要です。差止めのほうも別途必要かもしれませんが,そういった形の法制度が必要になると思います。   最後に,セル・アウト制度について,古澤幹事から金商法との接合についてコメントがありましたが,私は比較的きれいに作れるのではないかと思っています。つまり,一定の会社法上の行為が行われる場合には,公開買付けで,残った株主に売却の機会を与えなさいという根拠条文が会社法に置かれる。その上で,具体的な公開買付けの手続は金商法が規定するという形で,きれいに役割分担できます。既に自己株式に似たような根拠,強制の根拠は会社法で,受皿は金商法というすみ分けもありますので,そこはそれほど心配しなくてきれいに作れると思います。ただ,セル・アウト制度を作らなければいけないか,どういう要件でつくるか,別途検討する必要はあると思います。 ○岩原部会長 藤田幹事のおっしゃったAの問題は,上場会社に限らないと思います。実際に判例に出てくる例を見ますと,不公正発行,すなわち支配権を維持あるいは自分が取得するために第三者割当て等を使って新株発行するということが問題になった裁判の事例は,むしろ上場会社以外に多いわけであります。それを考えると上場規則だけの問題ではないのではないかと思います。私の個人の意見ですが。 ○上村委員 今の岩原部会長がおっしゃったことには,全く同感であります。自主ルールというと何となくプラスイメージでとらえている雰囲気がありますが,前にも申し上げましたように,アメリカは連邦会社法がないので代わりにやらざるを得ないという独特の事情があるわけですから,会社法できちっと書けるのにわざわざ東証の上場規則にしたほうがいいというメリットは,余りないのではないか。それから,東証の規則は金融庁のルールです。つまり,金融庁が,極端に言えば,実際はどこまでやっているか分かりませんが,文言を一つ一つ変えさせることもできる。どうも,一字一句言われているようですが,ともかくそういうルールなのです。ですから,これは自主規制ルールと言いましても,これは準法令のような性格のものです。言うことを聞かなければ金融庁は東証役員を解任することすらできるのです。昔,損失補てんのときに,証券業協会の公正慣習規則で事後の補てんも厳に慎むべしと書いてあるにもかかわらずやったときに,所詮は取締役が遵守すべき法令には入らないとされましたが,入りますと言えば,そこは法令としての意味を持つわけです。それを理由に差し止めることだってできるかもしれません。ですから,自主規制と言っても法的意義を持たせることは容易です。しかし,いずれにしてもこういうガバナンスの中枢に関わる,支配権の移転に関わるような問題が,これは金融庁のルールになっているのだという認識の上で議論されているのかどうか。私は法務省と金融庁との調整ということを言っていますが,金融庁が大好きだから言っているわけではないのですが,しかし当然両者が相談し合ってやるべきことだと思います。でもこの話はガバナンスの中枢の問題を金融庁ルールに完全にしてしまうことを意味しているのですから,それで良いのでしょうか。私は前にも申し上げましたが,独立役員にしても,上場会社だと独立役員が必要だけれども有報提出会社だと要らないとか,それよりちょっと下のレベルだと要らないとか,その辺に合理的理由は全くないと思います。第三者割当てについても私募と同視して上場会社の場合には臨時報告書の記載事項になるとか,そういう金融庁ルールでやるべき固有の問題はあります。しかしここでの問題は性格が違うと思います。私はどこもやらなければ東証がやらなければならないことが増えることを否定しませんが,東証は金商法第1条の目的を達成するために免許を受けた法人でありますから,そのために何が必要か,ちゃんと突き詰めることが基本であって,何となくガバナンスを東証がということにはならない。今非常に努力されていることはもちろん評価していますが。しかし本来の制度論という立場からすれば,ただいま岩原部会長もおっしゃいましたように,会社法できちっと書けることはきちっと書くことが基本だと思います。 ○荒谷委員 先ほど言葉が足りなかったので補足させていただきたいのですが,株主総会の決議は不要と言ってしまったのはちょっと早まったかもしれないです。真意は後の併合のところにも関係すると思いますが,最近の傾向としまして,株主総会の決議があれば−特別決議もそうですが−それでもう株主の意思は反映されたので,あとの人の部分については無視してもいいという風潮が非常にあります。株主総会が免罪符のように使われているということが非常に気になります。ですから,それだけをもって,株主の意思を聞けば第三者割当増資も許されるともし短絡的にいくとすれば賛成し難いので,少し様子を見て,ほかの方法を模索する必要があるのかな。例えば第三者が意見を表明して,それを聞いた上で何かをするとかしないと,ただ株主総会,要するにTOBとかいろいろな形で株を買い集めてしまって,その後で抜き打ち的にやってしまうのは,株主にとって一番不利益だと思います。最近非常に怖いのは,株主総会の特別決議があったから,これは株主の意思の反映だ,だからいいんだ,というのはちょっとどうかなというのが背景にあったものですからそういう言い方をしたのだということを,補足意見として述べさせていただきたいと思います。 ○中東幹事 私も言葉足らずだったと思いますので補足させてください。先ほどの藤田幹事のお話にもありましたが,前田委員がかなり前に,子会社になってしまうような場合について言及されました。支配権の移転を伴う場合については一定の法律の規制が必要であると私も思っております。ただ,この補足説明でもありますけれども,第三者割当てだけにこういうことが生じるかというとそういうわけでもなくて,上村委員が御示唆されたようにファイナンスとリファイナンスの両面からとらえていけば,自己株を取得しても特定の支配株主を出現させることもできるわけですので,その辺は横断的に規制がかかるようにということが必要であろうと思っています。その意味では,第三者割当て固有の問題ではないと思っています。 ○岩原部会長 大分時間もオーバーしておりますので,この辺で休憩を取らせていただきたいと思います。           (休     憩) ○岩原部会長 それでは再開させていただきたいと思います。第3の「2 株式の併合」に移りたいと思います。まず,事務当局からの説明をお願いします。 ○黒田関係官 それでは,部会資料3の5ページの「2 株式の併合」について御説明します。本文は,株主の権利を侵害するおそれのある株式の併合が行われているとの指摘があることから,株式の併合に関する記述について,見直しを検討すべき事項があるかを問うものでございます。その際には,部会資料3の5ページ下から6ページ冒頭に書いてあります(注)の@からBまでの指摘について,その内容を分析する必要があると存じます。   注@の指摘は,現行法の一に満たない端数の株式の処理の手続において端数株主に支払われる対価の問題でございます。まず,現行法の端数株式の処理手続において市場価格のある株式を売却する場合には,交付される対価が当該株式の売却時又は売却日の価格を基準として決定されることから,対象となる株式の売却に時間を要する場合には,端数株主は,株式の併合の効力発生日から株式が売却されるまでの間の市場価格の変動によるリスクを負担することとなります。市場価格の下落は,株式の併合によって端数となる株式が大量に生ずる場合には,それによって生じ得るという構造的な問題もございます。また,対象となる株式に市場価格がない場合の端数株主に交付される対価についても検討する必要がございます。例えば,対象となる株式が上場廃止になった場合には,上場廃止にならなければ存在したはずの売却時点の市場価格を基準として,当然に端数株主に交付する対価が決まるわけではないため,端数株主の保護について不十分なところはないか,問題となるとも思われます。以上を踏まえて,(注)の@の指摘を受けて見直しの当否を御議論いただきたいと存じます。補足説明の2では,見直しを検討する場合の具体的な方策として,株式の併合によって生ずる一株に満たない端数について,会社に対する買取請求権を端数株主に付与することを例示しておりますが,それも含めまして,幅広く御議論いただきたく存じます。   (注)のAの指摘についてですが,この指摘を受けて見直しを検討するのであれば,例えば,株式の併合する場合に,株式の併合後において発行可能株式総数は発行済株式の総数の4倍を超えてはならないとの規律を定めることの当否を検討することが考えられるところでございます。   (注)のBの指摘については,株式の併合が,その性質上当然に株主の地位の喪失を伴うものであることから,株主の地位を喪失させること自体を問題としてとらえるべきかどうかを御議論いただきたいと存じます。この点について,平成13年6月の商法改正によって,特に目的を問うことなく株式の併合を行うことが認められるようになったという経緯がございます。また,現金を対価とする合併等の組織再編や全部取得条項付種類株式の取得を用いたキャッシュ・アウトが広く行われている現状にかんがみると,これらの方法による場合と株式の併合による場合を比較しつつ,株式の併合によって株主の地位を喪失させることを問題としてとらえるべきとする指摘は,真に何を問題としているのかについて,御議論いただきたく存じます。以上を踏まえて,Bの指摘を受けて見直しを検討する場合には,その具体的な方策として,7ページの補足説明の4では,「例えば」として,事前の救済制度として株式の併合について差止請求制度を設けることを取り上げております。  以上でございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,ただいまの御説明を受けまして,皆様に御議論をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。 ○奈須野幹事 株式の併合については,端数の株主を生じさせ得るため,持分権を希釈化する可能性が高いと考えております。したがって,株主保護手続を設けることに賛成です。具体的な救済の方法としては,端数株主に買取請求権を付与するということでよいかと思います。買取請求権を付与することとした場合,基準日がいつになるかという論点も付随的に生じるのですが,これは,公表日以降に取得した株式については買取請求権が発生しないということでよいかと思います。その理由ですが,組織再編の反対株主の買取請求については,組織再編の公正のチェックという側面があり得るということですが,端数株主については,議決権が欲しければ買い増しすることもできますので,純粋に投下資本の回収であって,公表日とすることで差し支えないかと思います。   それから発行可能株式総数との関係で株式併合の範囲の限度を画することについては,定款変更の決議要件と株式併合の決議要件が同じであることから,このような限度を設けても,両者の決議を組み合わせることで容易にこれを逃れることができると考えられます。したがって,このような規制を設けても,結局は空振りになると思われます。先ほど申し上げた第三者割当ての規制強化で対応すべき話かと思われます。   それから,差止請求を設けた場合,いかなる場合に株式併合を差止めの対象とするかにより,弊害のない株式併合まで差止めの可能性が生じ,株式併合の機動性を損なう,あるいはニーズに対応しない,ということも考えられるわけです。いかに差止めの対象を限定したとしても,結局は潜脱的な併合が発生するおそれもありますので,こちらについては賛成できないということです。 ○八丁地委員 株式併合が仮に多用されて,端数株主に及ぼす影響が少なくないとすれば,端数株主に株式買取請求権を付与することは,検討に値するのではないかと思っています。ただし,濫用的な買取請求は防ぐ必要があると考えております。例えば,株式併合の公表の後に株主となった者に対して,その内容を知っていた,又は知り得たにもかかわらずあえて株主になったという経緯がございますので,そのような者に対して株式買取請求権を付与する必要はないのではないかと思っています。   また,株式併合についての差止請求制度については,その拡大の必要性及び企業経営に与える影響を踏まえる必要があると思料しております。しかしながら,まず,株式併合が一般的に用いられているとの認識は余り持っておりませんで,どの程度の弊害がどのような頻度で生じているのかという具体的な立法事実の検証を是非進めていただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○岩原部会長 モックの事件などを受けての議論だと思いますが。ほかに御意見はございますか。 ○田中幹事 現在,株式併合は,恐らく実務の自主的な自己規律ということで,少数派株主の締出しを行うときは,やはり株式買取請求権のある組織再編か,全部取得条項付種類株式の取得という形で行っているのではないかと思います。その一方,株式併合するニーズがないかと言えばそれはあって,私は従来の実務がどうしていたかよく分からないのですが,例えば,私的整理に際して新たに出資を仰ぐ場合は,既存の株主の持分をそのまま維持すると,既存株主は出資による株主価値の増加にフリーライドするような状況になってしまうので,恐らく従来から,そのようなケースでは,普通に株式併合をやっていたのではないかと思うのです。それが,なぜある特定の事件が起きるまでそれほど大きな問題にならなかったのか,よく分からないのですが。あるいは,そうした会社では,比較的市場での株式売却がうまくいっていたので,併合された株主もそれほど不利益に感じなかったのかもしれません。従来行われてきた株式併合の実態を,できれば調査したほうがいいのではないかと思います。   私も,規制の内容をそろえることを考えれば,株式併合においては株式買取請求権を付与する,つまり,ほかの方法による締出しとパラレルな規律を課すというのがいいのではないかと思うのですが,今申しましたように,私的整理の過程で株式併合が行われる場合は,その株式の買取りが分配可能額規制にかかる可能性がある。そのときにどういう解決をするかが問題ですが,一つは,そうした株式買取請求は制度上少数派株主しか起こさないものですから,ここは分配可能額規制を外して,少数株主の利益保護を優先させるという方法があります。もう一つは,現行法のように業務執行者に過失責任を課すという方法です。もっとも,現行法の業務執行者の責任がどういうときに生じるのか,余りはっきりしないと思っております。業務執行者に責任を課すというルールであっても,どのような場合に責任が課されるのかということを少し議論したほうがいいのではないかと思います。   まとめると,株式併合をすることのニーズはおそらくあって,しかもそのときに,反対株主に株式買取請求権を与えるというルールにすると,分配可能額の観点から問題が起こるおそれがあるということを認識の上で,十分調査の上で必要なルール改正をしていくのがいいかと思います。 ○三原幹事 株式併合につきましては,射程範囲ということで一点だけ発言させていただきたいと思います。平成13年改正までは,部会資料3の7ページの説明にありますように,株式併合は,減資の場合,再編における合併等の比率調整の場合又は1株当たり純資産額を5万円以上にするといった場合に限られていたのですが,1株当たり純資産額規制がなくなったことで株式との関係が切断されて,それで株式併合はほかのものにも使えるという範囲に改正されたのですが,本来,本質的にはキャッシュ・アウトのために使うという制度ではなかったはずだと思います。キャッシュ・アウトの制度は会社法では対価の柔軟化で対応したはずですが,射程範囲の制限がないということで,株式併合もキャッシュ・アウトに使えるのではないかという議論が会社法施行辺りから出て来始めました。そうすると,射程距離を広く認めるのであれば,例えば買取請求なり差止めなり,あるいは様々な少数株主保護の対策を考えないといけないのですが,射程距離を狭くする,つまり株式併合はそのようなものに使うのではありませんということで整理できれば,むしろ買取請求を認めると,今の全部取得条項付種類株式に定款変更するよりは株式併合するほうが一回で終わるので楽ではないかという議論もあるぐらいですので,実務的にはキャッシュ・アウトに使いたいという要請があったとしても,株式併合については少数株主保護の制度がないので,それは回避したほうがいいというのが通例です。そういう意味では,株式併合の射程範囲をどうするのか,つまり,何でも使うという制度にして会社法上,今後存続させるのか,それとも,それは一定の場合に,例えば今残っているとすると合併比率の調整とか減資の場合,あるいは株数が多過ぎて若干調整するなどといった範囲に限るのかどうかという議論を,まず本質論のところで行い,何のために要るのだということを決めていただきたいと思います。本質論を議論しないまま買取請求を導入しますと,株式併合はキャッシュ・アウトに使えますねということで逆に広く使われるようになる可能性があるのではないかという気もします。   ちなみに,全部取得条項付種類株式の場合には,いったん株が全部なくなりますので,有報提出義務がすぐにそこで切れますという考え方がありますが,株式併合では恐らくそうはならないので有報提出義務免除までさらに1年待たなければならないと言われています。そういった細かい派生的な議論もあるわけですが,根本は,株式併合は何のために会社法にあるのかというところを詰めていただくということです。これに関連して,再編におけるキャッシュ・アウトのためにはどの制度をどういうふうに使うのか,あるいはキャッシュ・アウトの可決に何パーセントの要件がいいのかという議論なども,別途なされるものと思いますが,それとの関連で,キャッシュ・アウトの制度が決まってくれば,それに株式併合を使うのか使わないのか,これも決まってくるのではないかと思いますので,射程範囲の問題をまずお決めいただくほうがよろしいのかなと思っております。 ○前田委員 田中幹事がおっしゃいました,反対株主すべてに株式買取請求権を与えるところまでいくのがいいかはともかくとして,補足説明で指摘されておりますように,少なくとも端数株主には公正な対価を与えるのが正当だと思いますので,端数株主に公正な価格での買取請求権を与えるという提案に賛成です。ただ,それで債権者が害されると困りますので,株式併合,株式分割については何らかの財源規制は必要だと思います。譲渡制限を定める定款変更等の場合の財源規制,すなわち分配可能額を超えれば取締役が超過額を払えという程度の財源規制は必要なのではないか。組織再編の場合であれば,一般の株式買取請求権で対処すれば足りるのだと思います。   あと補足説明3の御提案につきましては大賛成です。発行可能株式総数の制度の趣旨は,持株比率の低下の限度を画するということにあるわけですので,株式併合があれば,同じ比率で発行可能株式総数を減少させなければ,制度の目的は達せられないと思います。同じ比率で縮むというよう規定することもできるのでしょうけれども,種類株式が出ているときに,ある種類だけを併合すると,どうやって当然に縮むのかというややこしい問題が出てきますので,株式併合の決議の中で併合後の発行可能株式総数を定めるべきことにして,そして,その数は,御提案にございますように発行済株式総数の4倍を超えることができないことにすればよいのではないかと思います。   あと,補足説明の4の問題が非常に難しい問題だと思います。管理コスト節減というのは,締め出すことによって実現されますので,良い株式併合と悪い株式併合とを個別に判断するのは非常に難しい。そうは言いましても,株式併合は株主への影響が非常に大きいものですので,やはり何らかの歯止めは必要ではないか。13年改正前のような一株当たり純資産額を基準にすることはできませんけれども,例えば,単元株制度の一単元のくくり方について制限を復活させたのに合わせて,株式併合後の発行済株式総数が200株未満となるような株式併合は法律で禁止してしまうことは,考えてよいのではないでしょうか。200株未満になってはいけないと定めるのは,硬直的で画一的に過ぎるという御批判もあるかもしれませんけれども,管理コスト節減は,結局は株主の犠牲の上になされるものですので,形式的に限度を定める。いくら管理コスト節減といったって限度はあるだろう。それを法律に定めてしまうというのは,一つの取り得る対応策ではないかと考えます。 ○静委員 私どもで先ほど部会長から御指摘があったような事件があったということが,御提案申し上げたことに関係があると思いますが,私ども流通市場のサイドから見ますと,もっとシンプルに考えると,端数株主と単元未満株主は余り差がないので,同じように保護してもらわないと困るというのが基本的な考え方としてありますので,買取請求権の問題についてはいろいろな策を講じながらも,できれば端数株主にも単位未満株主と同じような買取請求権を認めていただきたいと思っております。   それから,非常に特殊な例ではありましたが,また同じことが起こらないとも限らないので,第三者割当てとの組合せというAの問題につきましても,是非御検討いただきたいと思うわけでございます。やり方にはおそらく二つの発想があります。いつでも発行済株式総数の4倍までしか授権できないという方法,つまり結果として4倍を超えないなら問題にしないという方法と,もう一つ,株式分割のときには割合的に授権枠を増やすことができることの逆で,株式併合の場合には割合的に授権枠を削るという方法があって,これらの二つの方法は場合によっては差が出てくるのではないかと思います。株式分割のことを参考にすると,むしろ株式併合をやった場合にいつでも4倍を上限として授権枠が増えるというスタイルではなくて,例えば2株を1株に併合するような株式併合だったら,発行できる株式数そのものが半分に減るというやり方のほうが合理的ではないかと思われますので,そういうことも含めて御検討いただけないかなと思います。 ○野村幹事 いろいろな問題が背景にあると思いますが,最初に確認しておかなければいけないのは,今いわゆるキャッシュ・アウトの制度として全部取得条項付種類株式が使われている背景には,一つには税制上のひずみがある。全部取得スキームの方が税制上有利であることが,かなりのインセンティブになっていると思います。他方で,先ほど三原幹事からお話がありましたように,買取請求がないということは,かなりドラスティックなやり方をしますと,株主からの不満が噴出して,この併合そのもの自体に対する効力が争われる危険性があるということから,ある意味では訴訟リスク等も考えて,なるべく弊害のないほうを誘導しているという実務があることは,田中幹事がおっしゃったとおりだと思います。そういう意味では併合に対して,なぜ買取請求がないのだろうかというような議論は,かねてからあるわけでありまして,そういう意味では全部取得条項付種類株式の制度と平仄を合わせていただくことは必要なのかなと思います。ただ,先ほどこれも三原幹事の話と重複するのですが,このような制度にしてしまいますと,結局キャッシュ・アウトを正面から認めることになるわけであります。出口ができたんだからどうぞ出ていってもらいましょうという話に,極端な言い方をすればなります。ですから,ここでは,議論を株式併合の合理化に矮小化することなく,むしろキャッシュ・アウト制度の合理的な在り方を本格的に議論することが必要なのではないかと思います。   他方で,モックの事件が出てきた背景には,併合してもなぜか授権資本枠が減らないという話になってしまったという問題があります。そこは再検討するのはやや難しいということを前提として,今こういう議論がなされているのではないかと推論されます。そういう意味では,授権資本枠のところを調整するという議論には戻りにくいのかなという感想は持っているところです。   あともう一つ,平成13年に株式併合が一般化されたときの歯止めというのは,現行法でいきますと,180条3項にあります株主総会において理由を開示するという,これ一点に尽きていると思います。この制度が実効性がないということなのかもしれませんけれども,実際,もし本当にギリギリこのことを考えていこうとすると,キャッシュ・アウトするために併合をやるんですというのは理由にならないような感じもするので,ここでどのぐらいの歯止めが効くかということも検証してみる必要があるのかなと思います。 ○岩原部会長 今出てきている幾つかの議論の中で,先ほど静委員御指摘の単元株式の場合との比較は,一つ参考になるポイントかと思います。単元株式の買取請求権の場合は,財源規制は確かないですよね。それとのバランスをどう考えるのかという問題もありますし,一方で単元株の場合には,前田委員御指摘のように,単元株を設けるにしても単元数が200未満になることはできないとなっているわけです。それとのバランスを含めて,制度を考えていく必要があるのかなと思います。そしてまた,今,野村幹事が御指摘になり,あるいは先ほど三原幹事も御指摘になりましたが,キャッシュ・アウトとしてどこまで株式併合を使っていいかという問題は,部会資料3の最後の,差止めの請求の制度を設けるとしたらどういう場合に差止めが認められるかという,正にその問題になってくるのではないかという感じがします。その他の事実上キャッシュ・アウトを認める制度の場合の差止めの可能性あるいは特別決議なりの手続と併せて,全体を整合的に検討する必要が出てくる感じがいたします。  ほかに御意見等はございますか。   よろしいですか。それでは,株式併合についてもかなり重要な御指摘を頂いたと思いますので,これはこれぐらいにさせていただきまして,次の仮装払込みによる募集株式の発行等の問題に移らせていただきたいと思います。第3の「3 仮装払込みによる募集株式の発行等」につきまして,事務当局から御説明をお願いします。 ○黒田関係官 それでは,部会資料3の7ページの「3 仮装払込みによる募集株式の発行等」について御説明いたします。   近時,新興市場に上場する新興企業を中心として,株価のつり上げをねらって実体のない引受人が行う仮装の払込みによる募集株式の発行を契機として,相場操縦やインサイダー取引等が行われ,既存の株主の権利や市場の公正に悪影響を与える事例が散見されるところ,こうした行為は,株式の発行と株主の流通の過程が組み合わされたものであることから,会社法における募集株式の発行等に関する規律の見直しを検討すべきとの指摘がされております。そこで,ここでは,仮装払込みによる募集株式の発行等が行われた場合に関する規律について,見直しを検討すべき事項があるかどうかについて,御議論いただきたいと存じます。   現行法においては,仮装払込みにより発行等がされた株式が実体法上有効であるか否かについて明文の規定はございませんが,仮装払込みにより発行等がされた株式が実体法上無効であるとすると,当該株主を買った者について善意取得による保護が及び得ないため,仮装払込みをした者がそのような株式を市場で売却した場合には,当該株式を買った者の利益が害されることとなります。のみならず,当該株式を買った者の特定が困難であるため,会社と株主をめぐる法律関係が極めて不安定なものになるともいえます。逆に,そのような株式が実体法上有効であるとすると,株式の価値に見合うだけの財産が実際には拠出されていないことから,仮装払込みがされた状態のままでは,既存の株主から仮装払込みをした者に対する価値の移転が生ずるという問題がございます。価値の移転が生ずるという問題は,当該株式が実体法上無効であったとしても,実際に当該株式を特定することができなければ,事実上,同様に生じ得る問題でございます。そこで,以上のような問題意識を踏まえて,現行法の規律は株主の救済として十分かどうかについて,御議論を頂きたく存じます。  (注)は,現行法の規律の具体的な見直しの方策として,例えば,仮装払込みに関与した取締役や仮装払込みをした引受人に特別の法定責任を課すことについて,どのように考えるかを問うものでございます。取締役の引受担保責任については,会社法の制定に際して廃止されたという経緯も考慮しつつ,取締役と引受人のどちらに責任を負わせるのがより適切であるかという点も含めて,御審議いただければと存じます。  以上でございます。 ○岩原部会長 それでは,この問題について御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。ある意味では,資本充実の原則にも関わる非常に根本的な問題です。 ○本渡委員 この仮装払込みによる募集株式の発行は,現行制度はもちろん刑事責任を追及できますし,損害を受けた人は取締役の第三者責任などを追及できるわけです。したがって,法制上は問題がないのではなかろうか。理論的に現行制度で間違いがあるとは思いませんが,ただ刑事責任というのは悪いことをやったら全員が起訴されて罰を受けるというわけではなくて,立件できないこともある。取締役の第三者責任を追及するのは,損害立証も非常に難しいですし,現実的にはできません。したがって,こういう悪いことをやった人が自分の私有財産をそのまま保持していていいのかという観点から,法定責任を規定したほうがいいのではなかろうかということで考えております。 ○田中幹事 引受担保責任が廃止されたことは,私など外から見ている者にとっては経緯がよく分からなかったなというのが正直なところです。幾つか廃止の理由を考えると,一つは,この責任は無過失責任だと解されていて,社外取締役などの人にとって過酷だということがあったのではないか。ですから,もしこの責任を復活するとしても,過失責任とすべきではないかということはどうしても考えなければいけないと思います。もう一つは,引受担保責任の規定があった時代の非公開会社の事件を見ると,これはトリッキーな制度のように思えます。非公開会社は,ままいい加減な―法を守らない―経営をしていますから,昔,新株発行したことになっているが実際には何も払込みをしていないという状況になっているときに,引受担保責任があるからということで取締役が払込みをして株を取ってしまうわけです。ですから,この制度は本当に良い制度なのかという点も考えたほうがいいのではないかと思います。   では具体的にどうするべきかですが,まず,現行法の下でも見せ金が払込みとして無効かどうかという問題があるわけですが,会社法は,商法時代の判例を変更する趣旨で改正をしたような事実はうかがわれないと思うので,これは無効と解するとしますと,見せ金をした株式については払込みがされていないという状態になっているわけです。そうすると,発行したことになっている株式は無効なのかという問題があるわけですが,これは一般にはどう解されているか分かりませんが,発行された株式が無効だとする解釈は,払込みをしない引受人は当然に失権するとされている以上,失権した者に対して株式を発行していても,それは発行とはいえないということが考えられます。しかし,更に考えると,要するに失権した者に発行するというのは違法であるということであって,現行法上,違法な発行も必ずしも全部無効になるわけではないので,取締役会の決議がない株式の発行も違法なのに無効にはなりませんから,それと同様に,払込みがないのに発行した株式が無効になると考える必要も,必ずしもないのではないか。ただ,問題があるとすれば,見せ金をすると実態は払込みをしていない状態になっているわけですから,それによって自称株主になった人に株主権を行使させていいのかという問題があります。そこで,一つの考え方としては,株式の発行は有効なんだけれども,引受人は払込義務を負い続ける,そして,払込みをしない限り株主権は停止する,そういうふうにする。また,もし取締役にも責任を課そうと思うのなら,むしろ払込担保責任だけでいいのかなという感じを持っています。そして,払込担保責任は過失責任にするというのも一つの考え方ではないかと思っております。私はこの辺の解釈論を勉強していませんので,思わぬ勘違いがあるかもしれないのですが,御検討いただければ幸いです。 ○野村幹事 今の点は,募集株式の発行の際に,当然失権を前提とすると,すべての事例が引受担保責任に帰着すると整理されてきたと思います。これは伝統的な考え方で,設立の時には引受担保責任と払込担保責任という二つの担保責任として構成されていたのは,当然失権にならない場合があることが前提だったのではないかと思います。ですから,田中幹事が御提案された,当然失権を前提としながら払込義務が残るという構成は,伝統的な考え方をかなり修正するような形になるのかなという気がします。   今,問題となっているのは,株式の流通性はある程度確保しなければいけない,取引の安全を考えなければいけない,そうなると払込みがない株式を流通させることになって,誰が最後勘定を合わせるのですかという問題になるのだろうなと思います。これについて現行の制度がやや問題ありということは,ここに事務当局も指摘しているとおりではないかと思いますから,結局あとは,田中幹事がおっしゃったように,正に仮装払込みをした人と,それからそれを放置したのか,あるいはそれを画策したのか分かりませんが,取締役等にどういう理論によっても何らかの責任を負わせて資本の充実を図るということに尽きているような気がします。方向性は間違っていないと思いますので,あとは理論的な整理の問題ではないかと思います。 ○前田委員 解釈でどこまで対応できるかということが問題になるかと思います。払込みがなくても新株発行の手続が踏まれているわけですから,不存在ではなかろう。そして,払込みを欠いていても,通説によれば無効事由でもない。そうすると,仮装払込みで発行された株式も有効なのではないか。仮装払込みなら失権するはずですが,失権というのは,引受人の側から払い込んで株主になる資格を失うということであって,会社の側から有効に株式を発行してしまった,株主としてしまった以上は,対価として払込みの義務は残るという解釈ができるようには思うのですが,こういう解釈が難しいようであれば,やはり明文で責任の規定を設けるのがよかろうという感想を持っております。そして,取締役のほうについては,仮装払込みに関与した取締役であれば任務懈怠がありますから,423条の責任でいけるのではないかと思います。つまり,払込みが欠けた分は会社の損害と見ていいのではないか。ただ,払込みが欠けていても,会社に損害がなくて株主に損害があるだけだという考え方もあり得るでしょうから,明確化の観点から特に責任の規定を設けるということであれば,特に反対はいたしません。 ○岩原部会長 最後の点に関しては,払込みがなくて失権した場合に会社に損害があると現行制度は考えているのかというのは,非常に難しい問題ではないかと思います。田中幹事や前田委員が指摘された見せ金により発行されてしまった新株の効力をどう解するかという問題に関わってくるのですが,会社法は打切り発行を認めているのだから,会社には募集株式の払込請求権はなく損害はないという考えもあり得るので,引受人だけでなくそもそも取締役についてすら,会社に損害がないのなら責任はないのではないかという考え方にもなりかねません。現行制度はそこのところが非常にあいまいです。   今の失権との関係で前田委員が御指摘になった点は,普通は,失権する以上は会社からも募集株式の払込請求ができないと考えていたのではないかという解釈問題です。見せ金によって発行された募集株式の効力につき,一部の学説は不存在だと言っています。しかし不存在という考えを採らなくて,少なくとも新株発行無効の訴えを起こさないと無効にできないと考えがあり得ます。あるいは更にもっと強い考えを採ると,田中幹事や前田委員が指摘されたように,そもそも無効事由にもならないという考えになると思います。そうなると,新株は有効に流通しているけれども,その権利者はいないという状態が起きてくるわけで,これをどう考えたらいいか。いずれも解釈論としても答えは出されていないところで,非常に難しい判断になっていると思います。   最初に申し上げた,会社に損害がないという考えは,平成17年会社法の立案担当官は,多分そんなお考えだったのではないでしょうか。第三者に具体的な損害が起きたときに第三者が民事責任さえ問えるようにしておけばそれでいいのであって,会社には損害はないというお考えだったのではないかと思います。本当にそういうことでいいのか。最近のトランスデジタルの事件あるいは日本中油の事件においては,見せ金による増資によって一般投資家が損害を受ける事件が起きています。そういうときに現在の法制で足りるのか。今議論されているようなことで,十分に投資家の保護等になっていくのか。引受担保責任の規定というのは,論理的には平成9年の最高裁の判決が前提としていたものが平成17年会社法によって失われたことの穴を埋めることになりますが,それだけでいいのかということを含めて,仮装払込みに関わる現在の制度の見直しというのは,もっと幅広く考えないといけないのかなという感じもしております。私の個人的な感想でありますが。 ○上村委員 まず,仮装払込みの中味のことですが,恐らく預合いや見せ金を想定して議論をしているのかなと思います。例えば昔あった忠実屋,いなげやの時のように,同時相互,同額発行,あれも仮装払込みの最たるものだと思います。会社による貸付けによる払込みなど,射程がどこまで及ぶのかというのは一つの問題です。私は,仮装払込みという概念は,形式基準で認定する場合と実質基準で認定する場合があって,形式基準で認定する場合が預合いで,実質基準でやる場合は仮装払込みというのを実質的に認定していくしかないと思っています。それが一つです。   それから今,これは岩原部会長がおっしゃいましたように,難しい話だと思います。確かに,設立の場合には担保責任があるから有効だとしたとしても,それはわずかだという前提だったと思います。大きければ設立無効になります。わずかなのに,そのために改めて設立からやり直すのはしんどいので,ですから担保責任があるから有効だということにして,設立無効を救済する,というような説明があったと思います。その観念が新株発行の場合にも同じように妥当するかのように思い込んで,しかもその引受担保責任は増資の登記をしたかしないかによって区別していました。そこにも合理性が乏しい。それから,設立の場合には,わずかだということがあったのですが,新株発行の場合には30億でも100億でもあり得るわけで,それが全部払い込めなくて有効かというと,そうは言えないだろうというようなことがあったと思います。ですから,私もここに書いてあるようことが一つの対策だと思いますが,もう一つの視点は,流通市場がある場合ですと,これは明らかに証券市場の価格形成を根本的にゆがめているわけですから,資本市場の観点からこれを是正させるという対応もあるのかなという感じもしております。 ○齋藤幹事 取締役に責任を課す根拠につきまして,いろいろな議論があると思いますが,最終的に何らかの責任を課す必要があると思います。というのも,このような仮装払込みのときに株式を引き受けた人を後から探し出して,その人に責任を追及するというのは非常に難しいので,取締役にその監視をさせる,最終的には責任を持たせて,仮装払込みに該当するようないろいろなことを行わせないようにするということが,ややプラグマティックな観点から必要なのではないかと思います。 ○藤田幹事 私もこの提案の方向性には必ずしも反対ではなくて,こういう責任は考えられるものと思っております。また,解釈論で対処できるかどうかということをギリギリまで詰めるような話ではないと思います。本当に可能かどうかがはっきりしない裁判所の解釈に依存して解決をしようという方向は,健全ではないと思います。手を打つべきだというのであれば,解釈論ではなくて,立法で明確に打ったほうがいいと思います。   この話が平成17年改正の基本的な考え方と反するかどうかについて,岩原部会長はそれにも関わる問題だと言われましたが,仮に平成17年改正の立案担当者のような考え方を採ったとしても,それと矛盾するものではないというのが私の印象です。というのも,少なくとも,部会資料3・第3・3の補足説明の書き方は,この問題をすべて株主間の利益移転の問題ととらえた上で,それをどう是正するかという観点からなされており,伝統的な資本充実の原則の説明である債権者保護,資本金の金額についての債権者の信頼という角度から必ずしも基礎付けていません。それが正しいかどうかは別として。そういう形で見ますと,既に現行法は一部の場合,現物出資財産が価値を欠いている場合などには似たような利害調整の規定を入れていますので,その並びで入れたとして必ずしもおかしくない。またその性格としても,法定責任であれば,会社の損害を当然前提にしない限り絶対に入れられないというものでもないと思います。ですから,平成17年改正の基本的発想との整合性といった形で,ことさら理論的な問題点を含むかのような問題提起にしないで,私の直前に齋藤幹事がおっしゃられたように,プラグマティックに株主間の利益移転に対する対処として何が適切で,どういう要件が適切かという角度から検討するということで足りるのではないかと思います。 ○岩原部会長 貴重な御指摘をありがとうございます。おっしゃるとおり,株主間の利益の移転の問題として説明しているという点では,部会資料3の説明は,平成17年改正の立案担当官と変わらないと思います。ただ,私が先ほど申し上げたのは,平成17年改正につき立案担当官は,打切り発行の制度を採用した以上は,引受担保責任のような制度は合理性がなくなると説明されておりますので,その改正の考えを突き詰めていけば,打切り発行制度や会社の損害に関する考え方等も含めて,いろいろな問題をどう整理するかという課題はあるということで申し上げさせていただきました。   次のテーマに移らせていただきたいと思います。第3の「4 新株予約権無償割当てを用いて行う資金調達」という点であります。それでは事務当局から説明をお願いします。 ○黒田関係官 それでは,部会資料3の9ページの「4 新株予約権無償割当てを用いて行う資金調達」について御説明いたします。ここでは,新株予約権無償割当てを用いて行われる資金調達方法,いわゆるライツ・イシューについて,資金調達をより円滑に行うことができるようにするという観点から,新株予約権無償割当てに関する規律について,見直しを検討すべき事項はあるかを問うものでございます。   (注)についてでございますが,ライツ・イシューによる資金調達の完了までに要する期間を短縮することにより,より円滑に資金調達ができるように見直しを検討すべきとの指摘があることから,具体的には,「例えば」として,新株予約権無償割当てにおける株主及び登録株式質権者に対する割当通知に要する期間を短縮することを取り上げております。これについては,部会資料3の9ページに@とAとして書いてございます割当通知の趣旨を踏まえつつ,どのような方策が考えられるか,御審議いただければと存じます。割当通知の発送期限を新株予約権の行使期間の末日から2週間前とするよう見直すべきとの指摘がございますが,そのようにした場合には,割当通知の株主への到達時期によっては,新株予約権を行使して取得した株式を売却して利益を得る機会について,株主間で差異が生じる可能性がございますので,そのような差異についてどのように考えるべきかについても御議論いただきたいと存じます。以上でございます。 ○古澤幹事 新株予約権による資金調達について申し上げたいと存じます。上村委員からお話がございましたように,公募発行との優先順位の問題は当然にございますが,現行の第三者割当てが多く見られる中で,何とかしなければいけない問題だと考えております。特に,大規模増資の手段を整備するという観点から,金融庁としても大事な問題だと考えておりまして,こちらは会社法だけではなくて,当然金商法の目論見書の交付などの問題もございますので,こちらの会社法制部会の議論と歩調を合わせて我々のほうの手当ても進めてまいりたいと考えてございます。その上で,部会資料3の中での御指摘についてですが,確かに通知の時期につきましては株主間で差異が生じる可能性があるということはありますが,これにつきましては,もともと新株予約権を割り当てた時点で売却の可能性は発生しております。確かに差異が生じることはございますけれども,どの程度この問題を大きく考えるかなというのは,実務に則して考える必要があるかと思います。ただし,その上でこの差異はやはり問題だということでございますれば,例えば,行使期間の始期のほうを発送された後に設定するという制度設計は,あるのかと思っております。   更に,この通知ですけれども,もともと株主になっておられる継続的な株主に対する通知でございますので,更にこれを緩和する手続を簡素化することはできないか。例えば公示で済むとか,ウェブによる公示にしてこの通知に変えるということはできないかということについても,御検討いただければと思います。 ○奈須野幹事 6月の会議で,三井元幹事がこの点について二つのことをおっしゃっています。私が言うのも何ですが,一つはこの2週間問題です。もう一つはForm F−4の問題です。外国人株主,特にアメリカ人株主が10%以上いる場合には,アメリカのSECルールが適用されて,同ルールに基づいて継続開示義務を負うことになっています。ライツ・イシューをしようとすると,ここに引っ掛かって外国人株主がいるかどうか,特に判明調査をしてアメリカ人があるかどうかをおっかなびっくり調べないといけないということが負担になって時間が掛かり,実際に10%以上いた場合には,ライツ・イシューができないということになっている,と三井元幹事がおっしゃっていたと思います。そのときの三井元幹事の要望は,ヨーロッパではこういう場合には非居住者株主に対してはオファリングがないとしても株主平等原則に反しないということで通常処理されているということにかんがみ,我が国でも,例えば居住者株主にだけこのような通知をすれば足りる,発行の瑕疵を問われないで済むというように,セーフハーバーを設けていただけないかという要望をされていたかと思います。そういう経緯がありますので,事務当局におかれましても,この論点についても御検討いただけると有り難いなと思います。産活法で手当てすればいいではないかという御議論もあろうかと思いますが,産活法のほうは,組織再編プラス生産性の向上という要件を課しておりますので,ここには残念ながらなじみにくいということで,すみませんが会社法での御検討をお願いしたいと思っております。 ○三原幹事 ただいまの古澤幹事と奈須野幹事の御説明に続きまして,三点お伝えしたいと思います。まず一つは,公募原則という位置付けとライツ・イシューの関係において,何があるべき資金調達なのかという点です。この本質論は一つお考えいただきたいと思います。ライツ・イシューについて海外からの要望があるというのは,聞くところによるとヨーロッパの投資家が多いと伺います。なぜかというと,イギリスやEUの規制は,基本的にはライツ・イシューという株主割当てが原則になっているためであり,これに対してアメリカの規制はどうかというと,アメリカの規制は日本に似ておりまして,アメリカの,特にデラウェア州法での会社の場合には,基本的には株主の引受権のような制度が前提とされませんので,自由に発行ができます。ただし,ニューヨーク証券取引所にて20%以上の第三者割当増資が規制されており,確か5%以上のアフィリエイテッド・カンパニーへの第三者割当ても規制されているということで,東証の25%以上の第三者割当規制と類似した制度になっているようです。このような背景があって,ではアメリカではライツ・イシューをやっているかというと,ライツ・イシューはほとんどやっていないともお聞きします。あるいはライツ・イシューをやる会社は公募が難しい会社,危ない会社という雰囲気もあり得るそうです。もちろん間違っているかもしれませんで,それは御確認いただきたいと思います。日本ではどうかというと,法制度上はアメリカの制度に似ている形になっていますので,公募原則がまずあって,ライツ・イシューも一つの選択肢としてできるという形にするのか,あるいは,EUのように株主割当てが大原則だという話になってしまうのかというと,恐らく前者の公募原則があって,もう一つの選択肢として少なくとも第三者増資よりはインパクトがソフトであるライツ・イシューも導入する,そういう位置付けなのかどうかという本質論をまず確定していただきたい。これは一点目でございます。   二点目が2週間のお話で,会社法279条2項でございますが,この通知は発信主義が会社法126条で採られていますので特に問題ないのですが,実務で何が問題かというと,これは金融庁に対するお話ではないのですが,目論見書の配布を会社法の通知と同時に行うということが,ライツ・イシューの実務で検討されています。そうなると,目論見書は交付義務という金商法15条の規定がありますので,こちらは到達主義です。到達主義で,目論見書交付義務に違反すると,これは売付けができないということですし,罰則があります。したがって,2週間よりも4,5日ぐらい多めに取らないと,例えば遠隔地や離島まで必ず届くのかという問題があります。そうなると,この2週間という会社法の規定と実務的には目論見書交付義務という金商法や開示ガイドライン15−6などの要請を併せると,2週間半ぐらい,あるいは3週間近くの時間が実際には掛かってしまう。これは会社法の問題ではないのかもしれませんが,実務上,この問題をどうするのかという点です。2週間の問題は,目論見書交付義務との関係でも併せて金融庁でも御検討いただきたいと思っております。これが二点目です。   三点目は,株主平等原則の関係で,米国の証券規制の過度の適用を回避するために外国居住株主による新株予約権の権利行使を制限することが株式平等に抵触しないことを明確化するとのセーフハーバールールの制定等の要望ないし御指摘がありました。アメリカはどうなっているかというと,アメリカは,私の調べた限りでは,間違っているかもしれませんが,ヨーロッパのライツ・イシューの場合にもインベストメントレターというものを提出するとの実務があるようです。Rule 801に基づく10%までの場合にはForm CBが要りますが,米国株主が10%を超えると米国法でのオファーとなり,公募になってしまうそうです。ただし,新株予約権の権利行使制限があればそれは当たらないという整理もなされているようです。権利行使制限という形になっていますので,権利行使制限は割当日のときではなくて,転売は自由になされるとして,それを行使する段階で,会社に対して,権利行使者である自分はアメリカ人ではないという書面提出義務を全株主に課す,したがって,これは株主平等原則の観点から見ても,日本でも全員がそのレターを出すという形になれば,全員に適用される行使の条件ということになり,条件は合理的なものであれば定められるわけですから,そういった形で対応すればできるのではないかとも思います。それから,奈須野幹事がおっしゃったような形のエグゼンプションなりということであってもよいのかもしれませんが,何らかの形で行えることを検討していただきたいと思います。実際にアジアの発行会社からもライツ・イシューの実例が出ているわけでございますので,導入するということを前提にするのであれば,株主平等の原則は,何らかの形ですべての者に行使の条件を課す,あるいはエグゼンプションを付ける,いずれかでできるのではないかと思われます。ただ,原則論の最初に申し上げた本質論のところは前提にしたいと思っております。 ○野村幹事 私が発言しようと思ったのは,三原幹事の最初のやつと大分重なりますので,簡略化してお話をします。この議論は確認だったのですが,ライツ・イシューを原則にするというわけではないですよね,ということだけは確認したかったということであります。基本的には多様な資金調達の方法がある中で,それを実務が選択していくという現行のやり方は,それほど不合理な結果を招いているわけではないので,必ずこれを原則にするというヨーロッパ型にするわけではないということを一応確認したかったというのが一点です。   それとの関係で,先ほど,支配権が異動するような形の第三者割当増資については,組織再編行為と類似ということで株主総会の決議が必要なのではないかというのが比較的多くの賛同を得ていたかと思います。もちろん私もそれに異を唱えるものではありませんが,組織再編との違いは,資金調達が大規模に行われる必要性は,ごく少数であったとしても否定できませんので,大規模資金調達の必要性が急激に発生している状況下で,必ず株主総会の決議をとらなければいけないというやり方で大丈夫なのかという問題は,まだ残っていたかと思います。その解決の仕方は二つあって,奈須野幹事からお話があったのですが,独立性の高い委員会によってそれを別途確認するという,東証型のルールを導入するという考え方もあります。もう一つは,こちらのライツ・イシューのやり方を,非常に短期間のうちにできるというような制度にきちっと構築することによって,大規模資金調達を可能とするというやり方もあろうかと思います。したがって,先ほど論点となりました第三者割当増資の制度設計を考える際には,どこまでこのライツ・イシューが短期間のうちにできるようになるのかを見極めた上で,支配権が移転するような第三者割当増資について株主総会決議を要求するかどうかを検討していただければ有り難いなと思います。 ○中東幹事 水を差すようで申し訳ないのですが,ライツ・イシューという方法がいいのかどうかも検証した上で,より使いやすくするかを考えるべきだという意見です。先ほど三原幹事が教えてくださいましたが,米国ではライツ・イシューするような会社は危ない会社であるのに,こういった会社が非常に大規模な資金調達ができてしまいます。これはなぜかというと,昔の株主割当てであったように,時価よりも相当低い価格で引き受けさせる場合,あるいは新株予約権で言えば,行使価格が非常に安いというような場合には,投資家としてはこの資金調達には賛成ではない,だけれども今お金を払い込んで株式を取得しないと,自分は損をしてしまう,こういうことになって,投資家としては本来資金調達させるべきではないと個人的には判断しているにもかかわらず,それを発行会社に実現させてしまう仕組みでもあろうかと思います。いわゆる徴収権の亡霊がここでも復活しつつあると思っています。そういう意味で,仮にこれを進めるにしても,この行使価格について規制をすることなどは最低必要で,冒頭申し上げましたように,そもそもこういう資金調達の方法は本当にいいのかということも考えるべきではないかと思っています。 ○静委員 今おっしゃった話については,新株予約権を売ることでこれを引き受ける気がない人でも一定程度はこれに伴う損害に相当する部分を回収することができる。持分はもちろん減ってしまいますが,そういうところで解決されているように感じていたのですが,そこは違うのかお伺いしたいのが一つ。もう一つだけ申し上げますと,最近はイギリスの投資家ばかりでなくてアメリカの投資家もライツ・イシューをやれとかいろいろ言ってきているので,世界中に言われているなと思っています。理由はいろいろあって,国によって少しずつ違ったりもするのですが,しかしながら,この世界中からの要望を実現するためには今,2.5箇月掛かっているものを1箇月ちょっとぐらいに縮めなくてはいけないので,割当通知の問題だけを解決してもまだ足りないという部分がございます。ほかの部分,前の準備段階とかどこかのところで法制度的に縮められるところはないのかということも,併せて御検討を頂かないと,これはなかなか進まないということを申し上げたいと思います。 ○中東幹事 一点目についてだけお答えさせてください。確かに,個々の投資者はライツを売ることによって一定程度自身の利益を守ることができる。それはおっしゃるとおりです。ただ,私が申し上げているのは,発行会社から見た場合に,本来調達できなかったような資金調達ができてしまうのではないかということです。ライツを売るということは,買った人か転売を受けた人が行使をしてくれるということですので,そういうことを発行会社の側から強制するような形の資金調達方法は望ましくないのではないか,そういう趣旨でございます。 ○藤田幹事 この問題は非常にプラクティカルなものですので,私は発言しないようにしようと思っていたのですが,最後に出てきた議論についてだけ一言申し上げます。従来の株主割当増資について,安い値段で割当てがあるから強制力が働いて市場メカニズムによらない資金調達になり,良くない資金調達を可能にするという非効率性があるという批判が,一部の学説によってなされてきたのですが,私はこれは単純な間違いだと思います。したがって,そういう方向からライツ・イシューを批判するのも正しくないと思います。幾つかある増資の選択肢について,プライオリティを法が作るべきではない,その上で企業の選択に委ねるというのはいいと思いますが,ライツ・イシューには,先ほど申し上げたような問題があるという発想は非常におかしいと思います。単純なことですが,ライツ・イシュー―株主割当てでも同じですが―をやめて公募にすれば,モニタリングが働いて悪いファイナンスが止められるかというと,止められないということです。悪い計画を発表すれば株価は落ちる。しかし,落ちた安い値段でならやはり公募できるわけです。ですから,公募を原則にしても,悪いプロジェクトのためのファイナンスが止められないのは同じことだと思います。また株価が落ちること自身がモニタリングになるのだという議論をされるのであれば,これはライツ・イシューだろうが,株主割当てであろうが,悪い計画を立ててファイナンスしようとすれば,それが市場メカニズムでそこは評価され,株価は下がる。だから株価が下がるということでサンクションになると考えのであれば,ライツ・イシューであっても公募であっても,どちらでもサンクションは掛かりますし,それがサンクションにならないというのであれば,公募を優先させたところで止められるわけではない。ですから,ライツ・イシューは,投資家の払込みを強制する性格があり,非効率的なファイナンスを可能にしてしまうといったロジックで反対するのはよくないと思います。もちろん,ライツ・イシューと公募で資金調達方法としての善し悪しはあると思いますが,それは今の点とはちょっと違ったところが理由だと思います。 ○齋藤幹事 今,ライツ・イシューのための新株予約権無償割当てのお話ということになっていますが,部会資料3では特に前提が付されているわけではないので,緩和を認めたときにどこまでそれが認められるのかということについて,明確にしておく必要があるのではないかと思います。といいますのも,新株予約権は設計が柔軟ですので,違法な内容の新株予約権が発行されるようなことになった場合に差し止める機会を設ける必要があると思います。特別な制度として設けるのか一般化するのかにも関連して,整理をする必要があるのではないかと思います。 ○田中幹事 藤田幹事と齋藤幹事の御意見両方に関係があることですが,一つはライツ・イシューと公募の違いですが,私も藤田幹事と同じだと思いますが,株主割当発行が問題だと言っていたのは,資金的制約から払込みができない人がいた場合,それは単に資金調達計画が不合理であることで不利益を受けるだけでなくて,希釈化によっても不利益を受ける。二重に不利益を受けますから,その部分で問題だとされていると思います。そのことは,静委員が言われるように,ライツの流通性があれば,その問題に関しては解決する。ただ,問題は流通性を確保できるのかなというところでは,一抹の不安を抱いています。上場会社と言っても,株式でさえ,売りたいときにすぐに売れない会社だってあると思います。そういうところで素朴な疑問を持っているということはあります。   それから二番目の,これは齋藤幹事も言われたことですが,差止めの問題は,ライツ・イシューとは恐らくは関係がないのでついでに言わせていただくことですが,一般に新株予約権無償割当てについては,この割当てのときにそれを争う手続的保証がほとんどないんです。いきなり割り当てられてしまう。この無償割当てはみんなに平等に割り当てるから株主は不利益を受けないのだという建前でできていると思いますが,実際は差別的な新株予約権無償割当てをすると本当に問題が起きてしまいます。いわゆるピコイの事件は,割当ては否も応もなくされてしまうので仕方がないから,割り当てた後の新株予約権の行使あるいは新株予約権を取得するときの新株発行を差し止める,そういうことで対処したということなので,必ずしもこの279条2項と連動する問題ではないのですが,差別的な新株予約権の無償割当てを判例も認めることになったので,現実に割り当てることになりますから,その観点で,そういう内容の新株予約権については,不合理なものは差し止められる制度が手続上用意されていないと非常に困るのではないかと思います。これはもちろんライツ・イシューと連動する問題ではないのですが,これを機会に是非真剣に検討していただきたいと思います。 ○野村幹事 先ほどからの議論ですが,改正前は,新株引受権が原則譲渡性のない形で与えられていて,例外的に譲渡性が与えられる。そのときには新株引受権証書を発行して流通させるという制度だったわけです。それを現行法は整理し直したわけで,一方で株式の割当てを受ける権利を譲渡性のないものとした上で,他方で,新株予約権を発行することによる株主割当ての方式とに分けたわけです。後者の新株予約権を使う方法は,先ほどから議論されていますように,それを流通させることによって希釈化の部分を補てんするという制度設計だったと思います。つまり,ライツ・イシューの問題は,何も新しい制度ではなく,もとより会社法が予定していた後者のタイプの株主割当てが機能不全を起こしているというだけの問題ですから,そこをワークさせるのは現行法の立法趣旨にかなっていると思います。 ○八丁地委員 企業の財務戦略上で非常に円滑な資金調達をやるということで,いろいろな手段を確保することは非常に大事なことだと思いますが,ライツ・イシューによる資金調達の完了までの期間を短縮するということはどのぐらいのニーズがあるか,経団連会員企業に聞いたりしました。まだ,ニーズははっきりしてこないので,もう一度検証を改めてしてみたいと思います。財務戦略,資金調達,広く財務構造の変革などの視点でとらえ,問題を今一度把握をさせていただきたいと思います。 ○岩原部会長 ほかにございますか。よろしいでしょうか。   それではちょうど時間になりましたので,本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思います。本日の部会の終了前に,次回の部会の予定について事務当局から御説明いただきたいと思います。 ○河合幹事 次回は,10月20日水曜日の午後1時15分から午後4時45分まで,場所は法曹会館の「高砂の間」となります。次回は時間と場所がいつもと異なりますので,御留意ください。   また,次回は,親子会社に関する規律の検討をお願いする予定でございますが,進行に関しまして,若干御提案をさせていただきたいことがございます。現在,当省において,企業結合法制につきまして諸外国の法制の調査研究をお願いしているところでございます。そこで,次回は,この調査を御担当いただいている東京大学の加藤貴仁准教授を参考人としてお招きした上で,まず,加藤准教授から調査の結果の概要について御報告を頂くこととし,その後に御議論をお願いしたいと考えております。いかがでしょうか。 ○岩原部会長 ありがとうございます。ただいまの事務当局の御提案について,よろしゅうございましょうか。   それでは,そのように取り扱わせていただきます。   それでは,法制審議会会社法制部会第5回会議を閉会させていただきます。本日も大変御熱心な御審議を賜りまして,誠にありがとうございました。 −了−