法制審議会会社法制部会           第6回会議 議事録 第1 日 時  平成22年10月20日(水) 自 午後1時16分                        至 午後4時46分 第2 場 所  法曹会館(高砂の間) 第3 議 題  会社法制の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○岩原部会長 予定した時刻がまいりましたので,法制審議会会社法制部会第6回会議を開会いたします。本日も,お忙しい中,御出席いただきまして誠にありがとうございます。それでは,早速始めたいと思います。   本日の審議に入ります前に,参考人を御紹介させていただきます。本日は,参考人として,加藤貴仁東京大学准教授にお越しいただきました。本日は,お忙しいところ,御協力いただきありがとうございます。よろしくお願いいたします。   次に,事務当局から,配布資料の説明をしていただきます。 ○河合幹事 それでは,御説明いたします。配布資料目録,部会資料4を事前にお配りしておりますほか,お手元には,配布資料目録の追加分,参考資料16を配布させていただいております。参考資料16は,加藤参考人作成の「諸外国における企業結合法の現状」でございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,本日の審議に入りたいと思います。   まず,事務当局から,本日の進行について御説明を頂きたいと思います。 ○河合幹事 前回御説明いたしましたとおり,加藤参考人には,当省がお願いをしている企業結合法制に関する諸外国の状況の調査研究を御担当いただいております。  本日の具体的な進行でございますが,まず,加藤参考人から,約40分程度,企業結合法制に関する諸外国の状況について,調査の結果の概要を御報告いただくこととし,引き続き,20分程度,質疑応答をお願いしたいと存じます。その後,お配りしました部会資料4につきまして,御議論をお願いしたいと考えております。 ○岩原部会長 ありがとうございます。それでは,加藤参考人,お願いいたします。 ○加藤参考人 東京大学の加藤です。本日はよろしくお願いいたします。   本報告の目的は,親会社株主の保護と子会社少数株主・債権者の保護のために利用されている法制度について,アメリカ,イギリス,ドイツ,フランスの状況・現状を報告することです。親会社株主の保護については,多重代表訴訟と子会社の重要事項に関する親会社株主の権限を中心に,子会社少数株主・債権者の保護については,親子会社間の取引に要求される手続規制と親会社の責任を中心に,調査を行いました。   これらの法制度の具体的な内容は,これから報告いたしますように,多彩であります。しかし,具体的な法制度の背景にある基礎的な考え方としましては,参考資料16の1-2に掲げますように,二つの立場があるようです。第一の立場は,企業グループの頂点に位置しようが,傘下にあろうが,独立した会社と同じ法制度が適用されるべきものとするもので,アメリカ法に代表される考え方です。第二の立場は,企業グループを対象とした独自の法制度を用意すべきとするもので,ドイツ法に代表される考え方です。   それでは,制度の説明に入りたいと思います。   諸外国において,多重代表訴訟又は子会社の重要事項に関する親会社株主の権限が認められる場合,参考資料16の2-1-1に掲げますように,その背景には,我が国と同じく,いわゆる「株主権の縮減」という問題意識があるように思われます。株主権の縮減への対応策という点で,多重代表訴訟と子会社の重要事項に関する親会社株主の権限を認めることは,縮減した株主権を実質的に復元するという点で同じです。   特に,子会社の重要事項に関する親会社株主の権限については,このような問題意識が強いようです。2-1-2に掲げますように,アメリカ法とドイツ法の立場は,独立した会社を念頭に置いた事業譲渡法制と密接な関係があります。すなわち,復元される株主権の範囲は,企業グループ全体を単一の会社とみなした場合に親会社株主に与えられる権限によって定まっているように思われます。両国の事業譲渡法制では,共に,会社がすべて又は実質的にすべての資産を処分する場合に限り,株主総会の承認が要求されています。すなわち,会社が保有する資産の処分について,そもそも,非常に限定された範囲でしか株主の権限は認められておりません。そのため,子会社の重要事項について親会社株主の関与が認められているといっても,その範囲も非常に限定されていることになります。我が国においても,アメリカ法とドイツ法のように,復元される株主権の範囲を,企業グループ全体を単一の会社とみなした場合に親会社株主に与えられる権限を踏まえて決定すべきであるとするのであれば,事業譲渡法制自体の見直しが併せて検討されることが望ましいように思われます。   アメリカ法とドイツ法に加えて,イギリス法も-正確にはFSAの上場規則でありますが-,子会社の重要事項に関して,親会社株主の権限を認めております。イギリス法は,親会社自身が行う重要取引に株主への情報提供又は株主総会の承認を要求することを原則としつつ,規制対象となる取引-これは「重要取引」と定義されているのですが-,重要取引には,子会社が行う取引を含めるという形を採っております。このような規制方法は,アメリカ法とドイツ法の立場と同じく,親会社株主総会の権限を確定する際に,実質的には子会社の法人格を事実上無視するものと評価できます。ただし,イギリス法では,アメリカ法とドイツ法よりも,親会社株主の権限が広く認められております。その理由は,そもそも単体の会社について,株主総会の権限が広いことにあると思います。また,イギリス法は,上場規則という形で規制がなされているため,FSAによる柔軟な対応も期待できることが,株主総会の権限が広範に認められていることの背景にあるのかもしれません。   これに対して,多重代表訴訟については,2-1-3で掲げますように,復元される株主権の範囲を,企業グループ全体を単一の会社とみなした場合を基準として決定するという意識は強くないように思われます。二重代表訴訟を明示的に認めるフランス法においては,二重代表訴訟は,親会社株主を「グループ全体の株主」として扱い,グループ全体の利益のために子会社取締役の責任追及のための訴訟を提起することを認める制度であると説明される場合もあるようです。しかし,企業グループ全体を単一の会社とみなした場合に,子会社取締役の職責はどのようなものと評価できるか,すなわち,子会社取締役は株主代表訴訟の対象とするにふさわしいかどうかといった判断はなされていないようです。むしろ,イギリス法・ドイツ法と異なり,株主代表訴訟が既に認められているフランス法においては,子会社取締役への責任追及の懈怠という問題に対しては,株主代表訴訟を発展させた多重代表訴訟で対応することが,法理論・実務の双方において都合がよかったように思われます。このような評価は,株主代表訴訟の対象となる会社の権利が制限されていないアメリカ法においては,より一層妥当であると思います。なぜなら,多重代表訴訟も,親会社株主が子会社株主として親会社が持つ権限,すなわち株主代表訴訟提起権限を行使するという点で,通常の株主代表訴訟と同じであると評価できなくもないからです。そのため,アメリカ法においてもフランス法においても,多重代表訴訟の手続は,株主代表訴訟の手続が流用されております。仮に,我が国でも株主代表訴訟の手続を流用して多重代表訴訟の手続を整備するのであれば,我が国の法制は,株主代表訴訟が単独株主権であること,株主代表訴訟を続行するか否かについて取締役会の判断よりも原告株主の判断が尊重されているという点で,多重代表訴訟を明示的に認めるアメリカ法とフランス法と大きく異なる点に留意されるべきでしょう。   多重代表訴訟や子会社の重要事項に対する親会社株主の権限の問題は,企業グループを対象としたコーポレート・ガバナンス法制についての政策判断として決定されるべき問題だと思います。諸外国では,このような問題意識が存在するのでしょうか。参考資料16の2-2-2で掲げるように,子会社の重要事項に対する親会社株主の権限については,このような視点が見られなくはありません。子会社の重要事項に対する親会社株主の関与を認めるアメリカの州会社法は,実質的には親子会社の法人格を否認し,企業グループ全体を一つの会社であるかのように扱っています。同じことは,イギリスの上場規則にも当てはまります。アメリカ法とイギリス法は,企業グループの頂点に位置する親会社株主に,企業グループが単体の会社であった場合と同様の権利を与えるものと評価できなくもありません。また,配布資料に挙げましたとおり,アメリカ法とイギリス法には,企業グループ内で取引がなされることを踏まえた規定が用意されております。   ドイツ法も,結果としてアメリカ法とイギリス法と類似の立場を採るように思われます。ただし,ドイツ法についてですが,いわゆる不文の総会権限の範囲を限定したジェラティーネ判決の判示-これは参考資料16に引用させていただきましたが-,この判示は,親子会社法制・企業結合法制について,判例法理による対応の限界を示しているように思われます。ドイツ法においては,子会社の重要事項に対する親会社の権限は,判例法理によって対応されております。しかし,親会社を頂点とする企業グループ内の意思決定について,親会社株主をどの程度要求するべきかという問題は,高度に政策的であり,かつ,法的安定性が要請される問題でありまして,そもそも判例法理が決定すべき問題であるかという点が,まず議論されるべきかと思います。ドイツ法の立場は,判例法理が企業内の権限分配の問題について介入することについて慎重でありますが,株式法などによって認められた株主の具体的な利益の侵害については,別に救済の余地を残すものと評価されるべきです。このようなドイツ法の立場を踏まえると,アメリカ法とイギリス法の立場も,親会社について,単体の株式会社を対象とするルールを適用するに際して,親子会社間の法人格を無視しているにすぎないという評価が妥当であるのかもしれません。アメリカ法とイギリス法において,企業グループ内での権限分配という観点から,活発な議論がなされているわけではないようです。   多重代表訴訟については,2-2-3で掲げますように,子会社の重要事項に対する親会社株主の権限についての議論に輪をかけて,企業グループのコーポレート・ガバナンスという視点は強くはないように思われます。例えば,アメリカ法で多重代表訴訟が認められる範囲は,事案ごとに様々であり,統一的な基準が存在するようには思われません。それでも制度として多重代表訴訟が定着し機能しているのは,多重代表訴訟の対象範囲が,提訴請求の免除の可否などの司法判断を通じて,個別事案に応じてコントロールされているからではないかと思われます。一方,フランス法は,株主代表訴訟と同じく二重代表訴訟を提起できる株主の資格を厳格に制限しているのであり,そもそも,二重代表訴訟を通じた子会社取締役の責任追及が企業グループのコーポレート・ガバナンスに果たすことを期待されている役割は,大きくはないようにも思われます。   企業グループのコーポレート・ガバナンスを構成する一要素として,多重代表訴訟又は子会社の重要事項に対する親会社株主の権限による親会社株主の保護を検討する際には,親会社取締役の職務執行に対するチェックの実効性を併せて考える必要があります。株主権の実質的な復元の必要性は,親会社取締役の職務執行に対するチェックを通じて子会社の事業活動が実効的にコントロールされている場合には,小さくなるといわれております。我が国において,多重代表訴訟の必要性を主張する論者は,親会社の取締役の責任追及には,参考資料16の2-3-2に掲げたような問題があると指摘しております。類似の問題意識は,多重代表訴訟を明示的に認めるアメリカ法にも存在していたようです。しかし,このような問題を解決する手法は,多重代表訴訟に限られません。実際に,同様の問題を解決する手法として,我が国において,企業グループ全体を対象とした内部統制システム構築義務の強化と開示の充実が提案されたこともあります。親会社取締役の責任追及の実効性を阻害する最大の理由は,企業グループの管理・運営における親会社取締役の義務の内容と,親会社取締役と子会社取締役の関係,この双方が不明確な点にあるのではないでしょうか。ただし,企業グループの管理・運営における親会社取締役の義務の内容と,親会社取締役と子会社取締役の関係は,それ自体,企業結合法制の対象となる事項であることには留意されるべきです。例えば,ドイツ法のように-これは後述いたしますが-子会社が親会社の指揮命令に服することや,事後的に補償がなされることを条件に親会社が子会社に不利になるように影響力を行使することも認める法制においては,損害賠償責任の主体の中心は,子会社取締役ではなく,親会社自身やその役員となることが自然な立場・流れであるように思われます。この点は,ドイツ法において,多重代表訴訟に相当する制度が存在せず,かつ,学説でも必ずしも活発には議論されていない理由の一つであるように思われます。諸外国においては,一見すると,親会社取締役・子会社取締役の義務・責任の内容と多重代表訴訟の是非は,意識的に関連付けて議論されているわけではないようにも見えます。しかし,多重代表訴訟というものは,言わば責任追及の手段です。そのため,多重代表訴訟の議論も,それぞれの国の子会社取締役の義務・責任の内容を踏まえてなされているように思われます。   多重代表訴訟は,親会社取締役の子会社管理についての裁量権を一定の範囲で制限する制度といえます。そのような制限がどのような範囲で正当化されるかは,親会社取締役・子会社取締役の義務・責任についての政策判断の内容によって,大きく異なります。例えば,多重代表訴訟は,子会社として企業グループに所属する場合であっても,その取締役の義務・責任は独立した会社の場合と変わらないという立場と親和的です。このような立場からは,親子会社関係の存在によって,独立した会社である子会社の責任追及が懈怠されること自体が看過できないと評価されます。これはアメリカ法の立場といえるかもしれません。一方,親会社取締役・子会社取締役の義務・責任の内容を,独立した会社の取締役と異なるものと考える場合には,多重代表訴訟を認めることによる親会社取締役の裁量権の制限というものは,企業グループの効率的な運営・法令遵守に寄与する範囲に限り,認められるべきだと思われます。いずれにせよ,親会社取締役・子会社取締役の義務・責任の内容を意識しつつ,多重代表訴訟の是非は論じられるべきだと思います。ただし,多重代表訴訟の場合には,損害賠償が子会社自身に対してなされるという点で,親会社取締役の責任の追及の場合と比べて,子会社自身の利益にとって望ましい点があるということにも,留意されるべきだと思います。   子会社の重要事項に対する親会社株主の権限については,2-3-3で掲げましたように,本来は,企業グループのコーポレート・ガバナンスの観点から,株主に議決権を与える形での保護が適切か否かといった形で,その必要性が判断されるべきです。しかし,子会社の重要事項に対する親会社株主の権限を認めるアメリカ法・イギリス法・ドイツ法の立場は,必ずしもこのような点が意識されたものとはいえません。しかし,少なくとも企業グループが形成されることによって,独立した株式会社を想定する会社法や上場規則の規定が空文化することに対する配慮がなされているように思われます。我が国においても,企業グループのコーポレート・ガバナンスの問題とは別に,後者の点,すなわち,独立した会社を対象とした規定の空文化への配慮という点は,必要であるように思われます。   次に,子会社少数株主・債権者保護に関する法制度の説明に移ります。子会社少数株主・債権者保護のための法制度の内容は,親会社株主の保護のための法制度よりも,諸外国ごとに大きな差異があります。特に,子会社少数株主の保護に関する法制度については,各国ごとの具体的な法制度の内容の差異に加えて,その背景にある政策判断についても大きな差異があるようです。しかし,子会社少数株主・債権者保護のそれぞれについて,いずれの国においても,親会社の責任追及を可能とする何らかの法制度が存在することは明らかであります。その理由として,子会社少数株主・債権者保護の問題は,株式会社制度に必然的に存在する,多数派株主と少数株主,そして株主と債権者の利害対立の一類型であることが挙げられます。すなわち,子会社少数株主・債権者保護の問題は,株式会社制度の存在と密接不可分の問題といえます。   子会社少数株主の保護の方法については,大きく,親子会社間の取引について手続規制を設ける方法と,事後的に親会社の子会社又は子会社少数株主に対する損害賠償責任を認める方法に分けられるように思われます。   参考資料16の3-2-2で掲げますように,親子会社間の取引について,個々の取引について,事前,又は事後の手続規制を設ける例があります。規制の内容としましては,アメリカ法とドイツ法のように兼任取締役に関する規制にとどまる例もあれば,イギリス法とフランス法のように,明示的に親子会社間の取引について子会社の株主総会の承認を要求する例があります。イギリス法は,親子会社間の取引に加えて,いわゆる兄弟会社又は姉妹会社間の取引についても,明示的に,株主総会の事前の承認を要求する取引に含めている点が特徴的です。一方,ドイツ法では,親子会社間の個々の取引について,イギリス法・フランス法のような手続規制が存在するわけではありません。しかし,事実上のコンツェルンに関する規定で要求される従属報告書制度では,親子会社間でなされる個々の取引について,決算検査役-これは我が国の会計監査人に相当する機関でありますが-,この決算検査役と監査役会などによる事後的なチェックが予定されております。   手続規制については,承認の対象となる取引の範囲と承認の可否を決定する子会社の機関の設計が問題となるように思われます。承認の対象となる取引の範囲については,親子会社間・兄弟会社間の取引に潜む多様な利益相反関係を適切にくくり出すとともに,企業グループ内の取引が円滑に行われることにも配慮することが必要となります。親子会社間,兄弟会社間の取引について,明文規定によって株主総会の承認を要求するイギリス法とフランス法は,日常的な取引については,適用除外の対象とします。規制の運用についても,イギリス法は上場規則による規律であるため,FSAによる柔軟な判断に期待することができます。フランス法でも,判例法において,多様な企業グループ内の取引の実態に即した対応をするよう意識されているように思われます。また,イギリス法とフランス法に共通して,取引を承認する子会社の株主総会において,親会社は議決権を行使することができないなど,親会社が子会社株主総会に影響力を行使することが制限されております。イギリス法とフランス法に対して,ドイツ法は,企業グループ内の取引を阻害しないように,個々の取引については手続規制を設けないという判断を行ったものと考えられます。一方,アメリカ法では,すべての会社に共通した手続規制が要求されているわけではありません。しかし,事後的に親会社の責任が認められる可能性を梃子にして,事実上,個々の取引について,訴訟リスクを回避するという程度ではありますが,子会社の利益を守るための手続を要求しているといえるのかもしれません。   親子会社間・兄弟会社間の取引から生じる利益相反関係が定型的で多くの会社に共通するものであれば,一律の手続規制を設けることにも意義があると思います。一方,親子会社間・兄弟会社間の取引から生じる利益相反関係が多様であれば,すべての会社のすべての親子会社間・兄弟会社間の取引に共通する手続規制を要求することは著しく困難となります。仮に手続規制を設けるとしても,先に述べたイギリス法やフランス法のように,柔軟な運用の余地を残した制度設計が望ましいのではないかと思われます。   親会社会社の責任について,3-2-3で掲げますように,フランス法では,先に述べた手続規制と連動した損害賠償責任の定めがあります。一方,フランス法と類似の手続規制を持つイギリス法の規制は,FSAの上場規則によって定められているため,手続規制の違反と親会社の責任が直接的に結び付けられているわけではありません。そして,手続規制の存否又はその対象となるか否かとは関係なく,各国に共通して,親会社が子会社と取引したり,子会社に兄弟会社との取引を指図したりすることによって,子会社が損害を被った場合には,親会社の子会社及び子会社少数株主に対する責任が認められる可能性があります。この点について,各国の対応は,個々の取引又は行為について親会社の責任を問題にするか否かで,大きく三つに分かれるように思われます。   第1に,アメリカ法,イギリス法,フランス法では,親子会社間・兄弟会社間の取引など親会社の個別的な行為について,親会社の責任を問うことが可能とされています。その根拠は,アメリカ法では親会社の信認義務,イギリス法では裁判所による不公正な侵害行為からの救済命令,フランス法では不文の多数決濫用の法理となります。フランス法における不文の多数決濫用の法理は,子会社株主総会における親会社の議決権行使の対応を問題にするものですから,その適用範囲は株主総会の意思決定に限定されております。これに対して,アメリカ法とイギリス法では,子会社の株主総会における親会社の議決権行使にとどまらず,親会社による子会社に対する影響力を包括的に網羅的に対象にすることができます。また,ドイツ法において,子会社が有限会社である場合には,親会社は子会社又は子会社少数株主に誠実義務を負うことが認められる結果,やはり親会社の個別的な影響力行使に対する規制が中心となります。   第2に,ドイツ法において,子会社が株式会社である場合に適用される,事実上のコンツェルンに関する規制では,ある事業年度に親子会社間の取引又は親会社による影響力行使によって子会社が被った不利益の総額に対して,同一営業年度内に親会社によって補償がなされたか否かが問題となります。したがって,個々の取引又は親会社の個々の行為から子会社が損害を被ったか否かは,直接的には問題にされていません。   第3に,ドイツ法において,子会社が株式会社である場合に適用される,契約コンツェルンに関する規制では,親会社は,子会社少数株主に対する配当保証と相当な対価での子会社少数株主の持株の買取りを義務付けられております。契約コンツェルンに関する規制については,やや特徴的でありまして,親会社と子会社の間で支配契約と呼ばれる契約を締結した場合に適用があるものです。一方,先に述べました第2の立場であります事実上のコンツェルンに関する規定は,このような支配契約が締結されない場合の規制であります。契約コンツェルンに関する規制では,個々の取引又は親会社の個々の行為から子会社が損害を被ったか否かは,問題にされてはいません。   参考資料16の3-2-4で掲げますように,第1の立場では,制度が機能する前提として,親子会社間の取引又は親会社による個別的な影響力の行使によって親会社の責任が発生するか否かを決定する適切な基準を構築できるか否かが,まず課題となります。また,親会社の責任を認めることにした場合には,加えて親会社が責任を負うべき損害賠償額を定めることも必要です。これに対して,第2の立場では,個々の取引又は親会社の個々の行為から子会社が損害を被ったか否かは直接的には問題にされてはいないように思われます。しかし,参考資料16の3-2-4で掲げますように,第2の立場が第1の立場が抱える問題を完全に解決できているとはいえないと思います。これに対して,第3の立場は,第1の立場と第2の立場が抱える問題を回避することができます。しかし,この立場は,第1の立場,第2の立場とは,その背景にある政策判断において大きな差異があります。すなわち,第3の立場では,子会社は,独立した経済主体とは考えられておりません。このような立場はかなり異質ですので,以下では,主に第1の立場と第2の立場を念頭に置いて,親会社の責任の有無の判断基準に焦点を絞って報告を進めることにいたします。   第1の立場と第2の立場に共通する問題である,親会社の責任の有無についての判断基準について,3-2-5に掲げますように,各国の状況は大きく異なります。例えば,イギリス法とフランス法では,親会社の責任の根拠となる法理は,親会社の責任を念頭に置いて発展してきたものではありません。そのため,具体的な判断基準が構築されているわけではないようです。イギリス法では,判断基準があいまいであること自体が,事案の柔軟な処理を可能にするという点で積極的に評価されることもあるようです。ただし,イギリス法とフランス法では,親子会社間又は兄弟会社間の取引について,事前又は事後に株主総会の承認を得ることが要求されております。したがって,事後的に親会社の責任によって対処すべき領域は,そもそも狭いと評価することもできるように思われます。これに対して,ドイツ法とアメリカ法では,親子会社間又は兄弟会社間の取引について,明示的に株主総会の承認が要求されているわけではありません。そのため,事後的な親会社の責任が対処すべき領域は,イギリス法とフランス法よりも広くなります。ただし,ドイツ法の事実上のコンツェルンに関する規制においては,親会社の責任を定める事後的な不利益補償の制度ではなく,実際は,従属報告書を手掛かりにした決算検査役による検査が,子会社や子会社少数株主が損害を被ることを未然に防止しているという点で重要であるとの指摘もあります。このようにイギリス法,ドイツ法,フランス法では,親会社の責任の役割は実際には大きくはないため,親子会社間の取引がどのような場合に子会社にとって不利益となるか否かについての判断基準が成熟しているとはいえない状況にあるようです。これらの国々では,親会社の責任によって,明らかに不当な取引が是正されれば足りると考えられているのかもしれません。   これに対して,アメリカ法では,親会社の責任の判断基準について,実務及び学説の双方において活発な議論が行われています。その理由は,アメリカ法では,子会社少数株主の保護について,事後的な親会社の責任が対処するべき領域がその他の国よりも多かったからではないかと推測されます。親会社の責任の有無の判断基準について,アメリカ法の概要は,参考資料16の9ページから10ページのように整理されます。第1に,親子会社間の取引について,親会社の責任の有無は,完全公正基準と呼ばれるものによって判断されます。親子会社間の取引がこの基準を満たすこと,つまり親子会社間の取引が公正であるということについて,立証責任を負うのは親会社です。そして,完全公正基準の代表的な基準は,独立当事者間基準であるといわれております。独立当事者間基準が重視されていることは,アメリカ法では,企業グループの傘下にある子会社についても,独立した会社と同じように経営されるべきであることが原則とされていることを意味します。ただし,問題とされる親子会社間の取引と比較可能な取引が他に存在しない場合には,独立当事者間基準の適用は困難です。このような場合には,親子会社間取引から発生する余剰の合理的な配分を行う利益分配法など,他の基準が適用されることになります。なお,完全公正基準の適用に際しては,子会社の独立社外取締役や当該取引と利害関係のない子会社少数株主の過半数の承認を得た取引については,取引の公正さの立証責任が,親会社の信認義務を追及する主体に移るとされています。すなわち,親子会社間の取引であっても,独立当事者間の取引が擬似的に構築されている場合には,子会社少数株主が親会社の責任を追及することが困難になるわけです。このように,事後的な親会社の責任の判断に際して事前の手続に触れることで,子会社少数株主の保護につながるような手続を親会社が構築するインセンティブを付与することは,利益相反問題に関するアメリカの判例法理の典型的な手法であります。第2に,親子会社間の取引が存在しない場合について,会社機会の侵害の法理と呼ばれる判例法理が重大な役割を果たすと考えられています。会社機会の侵害の法理は,原則として親会社の経営判断にゆだねられている親子会社間の事業分野の調整の問題について,例外的に法規制が介入するものと評価されています。ただし,実際に会社機会の侵害の法理によって親会社が責任を負うとされた事例はまれのようです。また,デラウェア州判例法のように,親会社と子会社の双方に取引の機会が帰属していると評価される場合には,取引の機会の分配について,親会社の責任は経営判断原則によって判断されるという立場に立ちますと,会社機会の侵害の法理によって親会社が責任を負う範囲は,理論的に非常に限定されたものになります。そして,デラウェア州一般会社法は,定款によって会社機会の侵害の法理の適用を排除することも認めております。   なお,各国の法制度の中には,参考資料16の3-2-6に掲げますように,親会社が子会社の取締役と同等の義務を負うとする例も見られます。しかし,その根拠はともあれ,親会社が子会社の取締役として他の取締役と同等の義務を負う場合は,著しく限定されているようです。例えば,イギリス法では,親会社は子会社の影の取締役として責任を負う可能性があり,この場合,取締役として同等の責任を負う可能性があるのですが,子会社の取締役が親会社の指示又は指図に従って行為することを常とするという理由だけでは,親会社は子会社の影の取締役にはならないと,2006年会社法が明文によって定めています。すなわち,親会社が子会社の取締役として他の取締役と同等の義務を負うという規制方法は,一般的ではなく,親子会社関係が非常に緊密な場合に限定されているように思われます。   次に,参考資料16の3-3にありますとおり,子会社の債権者保護について説明いたします。子会社の債権者の保護については,イギリス法の不当取引に基づく責任とドイツ法の契約コンツェルンに関する規制を除き,親会社が子会社債権者に責任を負うのは,親会社が子会社の財産を搾取するなど不適切な形で影響力を行使した場合に限られているように思われます。イギリス法の不当取引に基づく責任では,子会社の財務状況が悪化している場合に,それを放置することを理由に,親会社が責任を負わされる可能性があります。その結果,イギリス法では,倒産間際の状況において,事実上,親会社が子会社債権者の利益を守る義務を負うとの評価もなされています。なお,この不当取引に基づく責任というものは,支払不能法-我が国の倒産法に相当するものですが-,この支払不能法において,「親会社は,影の取締役として責任を負う」という形で規定されております。この場合の影の取締役の定義には,先ほど挙げました2006年会社法251条3項のような限定はなされておりません。すなわち,親会社の責任の範囲は,子会社少数株主に対するよりも,子会社債権者に対してのほうが広いように思われます。ただし,子会社債権者に対する親会社の責任は倒産手続における責任であることには,留意されるべきだと思います。更に,ドイツ法の契約コンツェルンに関する規制では,親会社の子会社に対する個別的な影響力の行使の有無とは関係なく,親会社は子会社に対して責任を負うことが認められています。   子会社債権者の保護に関する規定は,主に倒産法で規律されております。そして,先に述べたように,多くの場合,親会社が子会社債権者に対して責任を負うのは,親会社が不適切な形で影響力を行使した場合に限定されています。しかし,この場合,親会社の責任の要件として,親会社による個別的な影響力の行使によって,子会社又は子会社債権者が被った具体的な損害額の証明が厳密に要求されているわけではないようです。倒産法以外に,言わば会社法における子会社債権者保護の規律としては,ドイツ法の契約コンツェルン・事実上のコンツェルンに関する規定を除き,各国に共通して,法人格の否認の法理等が存在するにすぎないようであります。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。   それでは,ここで質疑応答に入りたいと思います。加藤参考人におかれましては,差し支えない範囲で質問にお答えくださいますようお願いします。また,先ほどお話を頂きました御報告に補足することがございましたら,この機会にお話を頂きたいと思います。それでは,どなたからでも結構でございますので,ただいまの加藤参考人からの御報告について,御質問・御意見等を頂ければと思います。いかがでしょうか。 ○奈須野幹事 前段の親会社株主保護について,二点ほどお伺いします。   一点目は,多重代表訴訟の対象となる子会社の範囲についてです。アメリカでは,税務上の理由によって株式会社ではなくLLCの形態を使うことがよくあると聞いておりますが,子会社がLLCの形態を採った場合における多重代表訴訟の被告はだれになるのでしょうか。親会社すなわち有限責任社員の誰かが被告になるのか,あるいは業務執行者みたいな人が存在する場合,その人が責任を負うことになるのか。あるいはそもそもLLCは親会社の一部と言えるので,多重代表訴訟の対象にならないと考えるのか。これが一点目であります。   二点目は,多重代表訴訟の制度的な意義についてです。ここでは「親会社株主」保護という整理をされていて,確かに一般的に我が国において多重代表訴訟は「親会社株主」保護のために存在するという理解がなされていることには疑いはありません。しかし,仮に子会社役員の責任が認められて,賠償として子会社に対して金銭が支払われた場合,それは外から見ると,それで直接に得をするのは子会社債権者であって,親会社株主の保護の効果というのは「反射的」なものでしかないと思えるわけです。そこで,アメリカにおいても子会社役員に対する多重代表訴訟というものが「親会社株主」保護として理解されているのでしょうか。   以上,二点お伺いします。 ○加藤参考人 一点目の御質問ですが,想定されているのは株式会社がLLCに出資しているという状況でしょうか。LLCについて,正直に申し上げますと,株主代表訴訟という制度があるかどうか自体,私には自信はありません。しかし,アメリカ法の株主代表訴訟におきましては,原則として,被告となるのは業務執行者になると思います。そして,権利を代位的に行使される会社に判決の効力を及ぼすために,会社が原告又は被告になることが求められます。したがって,LLCに株式会社と同じ内容の株主代表訴訟制度が存在するのであれば,親会社の株主が原告,LLCが原告又は被告,LLCの業務執行者が被告ということになるのではないかと思います。LLCについては,大変申し訳ないのですが,株主代表訴訟の存否と制度の内容について,本調査では詳細な検討をしておりませんので,これ以上お答えすることができません。申し訳ございません。   第二点の,多重代表訴訟が認められた場合に実質的に賠償金が入るのは子会社であるから多重代表訴訟は子会社債権者保護の制度ではないか,そして,アメリカ法では多重代表訴訟は親会社株主の保護として位置付けられているのかという質問ですけれども,実は,アメリカ法では,報告でも挙げましたが,親会社株主保護という視点は,さほど強くないように思います。むしろ子会社の取締役の責任追及が懈怠されているという状態を放置すること自体が望ましくないという意識が強いのではないかと思います。ただし,奈須野幹事が御指摘のとおり,100パーセント子会社の場合は,子会社のほうに損害賠償責任が支払われて,反射的に親会社の株主が利益を被るわけですけれども,100パーセント子会社の場合には,反射的とはいっても,かなり因果関係が強いと思います。 ○八丁地委員 御説明どうもありがとうございました。ドイツでは,今の加藤参考人の御説明のように,コンツェルン法制が存在していますが,実際には,利用度というのは想定されているほどではなく,コンツェルン法制の適用を逃れるために,子会社を有限会社として設立しているケースが往々にして見られるという説を拝聴したことがありますが,いかがでしょうか。教えていただければと思います。 ○加藤参考人 八丁地委員が御指摘のとおり,ドイツの株式法のコンツェルン法制とは,子会社が株式会社である場合に限り適用されるものです。したがって,御指摘のとおり,子会社を有限会社にすれば,適用されなくなります。ただ,株式法の適用はないのですが,子会社を有限会社にする場合には,有限会社を支配している親会社の誠実義務など別の法理が適用されます。そして,株式法のコンツェルン法制と判例法による親会社の誠実義務を比較した場合に,後者のほうが前者よりも規制が緩くなっているとはいえないのではないかとの印象を持っています。 ○古澤幹事 一点お伺いしたいと思います。参考資料16の9ページでございますが,3-2-5のところで,「親会社の責任の有無の判断基準に関する各国の現状」とあり,アメリカ法につきましては,完全公正基準ということで,基本は独立当事者間原則というものがある。また,イギリス法,ドイツ法,フランス法については,判断基準は不明確という御報告だったかと思います。他方,9ページの上のところで,第2の立場とございまして,事実上のコンツェルンに関する規制については「親会社の責任で同一事業年度内に子会社が被った不利益の補償」とございます。この「不利益」を考える際の判断基準というのはどうなっているかについて,御教示いただければと思います。 ○加藤参考人 ドイツ法の事実上のコンツェルンに関する規制において,どういった場合に子会社が不利益を被ったと評価されるかですが,この不利益というのは,結果として子会社が損害を被ったという意味ではありません。むしろ,親会社が子会社に影響力を行使する段階で,それが子会社の不利益になることを分かっていながら影響力を行使したか否かが問題となります。したがって,非常に難しいのですが,子会社に対する影響力を行使した段階で,それは子会社に不利益を与えるものかどうか判断されることになります。その基準としましては,一般的には,親会社が子会社に対して指図をした場合に,その指図の内容が普通の業務執行者であっても行うようなものであったか否かが問題になるといわれているようですが,より具体的な内容については,私の調査不足かもしれませんが,少し分かりにくい印象を持っています。 ○中東幹事 ザクッとした質問で申し訳ないのですが,参考資料16の1ページ目の1-2のところで,具体的な法制の背景にある考え方として,独立した会社を出発点にして関係会社をどう捕そくするかを考えていく,他方,最初からグループで考えていく,これらの立場を示していただいているわけですが,お話全体を伺うと,結局,実質的にだれが意思決定を行っているかとか,あるいは実質的にだれが行為を行っているか,そういうことに着目して,対極にある出発点からアプローチしているものの,個々の法制度においては,最終的にそのような者をどのように射程に入れるかという発想で,どの国も会社法制を構築しているとお聴きしたのですが,そういう理解でよろしゅうございますか。 ○加藤参考人 今,中東幹事がおっしゃったことに異存はありません。ただし,親子会社間で何か問題が発生した場合に,それをどういった形で是正するかという段階では,この第一の立場と第二の立場のような区別があるのではないかという印象を持っています。 ○上村委員 詳細な御報告ありがとうございました。各国が何らかの形で企業結合法制を持っているわけですけれども,その前提として,ヨーロッパの場合,特に関連当事者取引の開示・監査が非常に厳格で,そもそもどういう取引が行われたかの情報開示がかなり徹底的に行われていて,支配の不当行使のような取引に対する重要な抑止力としての意味を持っているのではないかという感じがするんですけれども,その点が一つです。   それから,もう一つは,この種の問題は,株式会社制度の本質に係る問題だとおっしゃられまして,私もそう思っております。ただ,その本質的の意味ですけれども,支配株主というのは,かなり固定的で長期的な支配でありながら,しかもそれが有限責任という利益を享受し続けるということの理由について,私の独自の意見を申しますと,有限責任というのは,昔はヒトに付いていた。合資会社の有限責任社員がそうですね。それが19世紀半ば以降に,株式というモノに付く有限責任に転化したと思います。つまり,株式という均一同質のモノが責任限定の,つまり金銭出資の金融商品であるために,一つ一つの価値の評価が容易になる。だから証券市場での価格形成が可能になる。有限責任が責任限定商品という形でヒトに付くものからモノに付くものに転化したのは,証券市場を可能にするためであったと思います。一つ一つの粒であるshareが流動的であり,価格形成可能であるためには,やはり有限責任でないと,つまり金銭出資でないと不可能なわけです。ところがこうした世界がひとたび成立しますと,今度はそれらをまたもう一回,固まりとしてずっと持ち続けると,つまりいったん有限責任に還元された無数の粒を,大量にじっと持ち続けると知らないうちに有限責任の支配というものが可能になり,再び支配株主というヒトが見えてくる。何が言いたいかと申しますと,そもそも支配株主の支配というのは当たり前で,それを取り巻く弱者とか,不公正な取引による被害者を救済するというそういう考え方が一般に採られると思いますけれども,私はやはり株式会社制度を特徴付ける有限責任の根拠というのは,一つ一つの粒の流動性にあったと思いますので,支配株主とはそうした流動性を奪うことで,有限責任の支配を可能にしているのですから,そもそもそうした支配株主の有限責任の根拠自体が薄まっているのではないか。有限責任の支配という観念は当たり前ではなく,そうした支配自体の根拠を疑うことがもっとも本質的な問題なのではないかと思います。支配株主による支配権行使に関する様々な問題とは,こういう意味において株式会社制度の本質から来ているのではないか。つまり,支配株主による有限責任の支配は当たり前で,従属者や弱者保護を考えるという観点なのか,それともやはり,支配株主の有限責任の支配そのものに理論的にやはり過剰な権威を認め過ぎているということがこの種の問題の本質なのではないか,そこに問題の本質があるように思います。ちょっとわけの分からない話かもしれませんけれども,二つ目は急ですので無理してお答えいただかなくても結構ですけれども,最初の関連当事者のほうについてだけでも結構です。 ○加藤参考人 第一点目ですが,特にヨーロッパにおきましては,関連当事者取引についての開示規制が非常に厳格であって,それが支配株主による濫用的な権利行使を抑止する働きをしているのではないかという点について,異存はありません。今回の報告では説明いたしませんでしたが,イギリス法とフランス法,若しくはドイツ法において,事前に何らかの手続規制があるがゆえに,事後的な親会社の責任に関する法理が発展しなかった背景には,開示規制の存在もあったように思います。   第二点目の問題は,支配株主も有限責任を享受することをどのように評価するかという,非常に難しい問題で,上村委員から答える必要はないと言われたわけですが,支配株主をひとくくりにして議論することはなかなか難しいように思います。例えば,創業者が株式を公開した場合,多くの場合,支配株主として残るわけですが,彼らが残ることによって,やはり会社の経営がうまくいくという面もあるわけです。しかし,場合によっては,そういう創業家が何代か世襲されることによって本業との関係が薄くなれば,当然支配株主が会社から搾取をすることだけを目的にする,そういった場合もあり得るのだと思います。ですから,上村委員の御指摘に対するお答えとしましては,支配株主といっても-少し不適切かもしれませんけれども-良い支配株主もいれば悪い支配株主もいるわけで,その区別が非常に難しい。だからこそ,支配株主の責任なり手続規制という形で現行法は対処しているのではないかというのが,現在の私の立場であります。 ○上村委員 創業者が支配株主として残るというのは,それはそうだと思いますけれども,まず創業者の段階は資本市場を想定していません。公開後は更に,その会社はマイカンパニーからユアカンパニーになっていて,支配株主の地位は先ほど申しましたような意味で非常に謙虚な存在になっているはずです。ですから,同じ創業者としての立場と株式会社の多数株主になったときの立場では,理論的には相当違うのではないかと思うんですけれども,これは余りここでやっていてもしようがないですから,この程度にいたします。 ○安達委員 御説明どうもありがとうございました。一つ質問ですが,多重代表訴訟を適用されている国で,場合によっては訴訟の濫用も想定されますが,仮に訴訟の濫用が余り起こっていない場合それを防ぐ手立てをされているかどうか,もし事例等を御存じであれば教えて下さい。 ○加藤参考人 まず,フランス法では,発行済株式総数の20分の1以上の株式を持っている株主しか株主代表訴訟を提起できませんので,そもそも提起できる株主が非常に限定されています。この点は,多重代表訴訟の場合も同じです。アメリカ法は少し説明しにくいのですが,アメリカ法では,日本法と同じく,株主代表訴訟は単独株主権であり,株主代表訴訟の提起は容易です。そうすると,濫訴のおそれが懸念されるわけですけれども,それについては,アメリカ法は,何重にもわたった手続規制を通じて裁判所が濫訴を防止するという形で,対処しているように思われます。例えば,アメリカ法では,株主代表訴訟を提起するためには,株主は,原則として,我が国と同じく会社に対して提訴請求をしなければなりません。提訴請求を受けた取締役会は,提訴請求に理由がないと判断すれば,拒否します。拒否した場合に,株主が株主代表訴訟を提起できるのは,提訴請求を拒否するという判断が不適切であると裁判所が認めた場合に限られます。更に,提起された後でも,会社が設置した訴訟委員会によって代表訴訟を提起することは会社の利益にならないと判断された場合,裁判所がその判断を尊重して株主代表訴訟を却下することも可能とされています。私の感覚からすればかなり重武装ですけれども,一応このような重武装があるということが,多重代表訴訟を認める一つの理由になっているのかもしれません。ただし,重武装過ぎるという指摘も,学説ではあるようです。 ○奈須野幹事 今度は,後段の子会社株主・債権者保護について,二点お尋ねします。   一点目は,一定の場合に親会社が子会社債権者に対して責任を負うものとした場合における親会社が有する債務の内容が,債権法的に言って,どのような性質のものかという点です。   つまり,親会社から見れば,見ず知らずの債権者から「私は債権者です」と言われても,本当にその人に弁済してよいものかどうか,非常に困ると思います。また,債権者の請求に対して子会社が有する抗弁権を親会社が主張できるのか,とか,親会社が有する債権者に対する債権で債権者の請求を相殺できるのか,という問題も発生します。ただ,イギリスにおいては「不当行為に対する責任」として子会社債権者保護が位置付けられているとのことですから,この「不当行為」の制度趣旨を日本の「不法行為」的に理解すると,これは通常は債務者の側から相殺できない債務ようにも見える。さらに,債権者の有する債権が他人に譲渡された場合に,当該譲受人に対して譲渡人と同様の全額の給付を受ける権利が認められるのかどうか。このように,ちょっと考えただけでも,ややこしい論点がたくさん生じるような感じもするのですけれども,これはどのように解消しているのでしょうか。これが一点目であります。   二点目は,各国それぞれ非常によく考えられて制度が構築されている感じを受けるわけですけれども,債権者保護を必要とする立法事実についてお尋ねします。   つまり,日本においては,通常,子会社がグループ外企業と取引する場合には,親会社が保証を差し入れ,又は信用のある親会社が直接借り入れることになっています。オーナー社長のいる中小企業ですと,その社長が個人保証することも多くあります。このような連帯保証の当否は別論としても,子会社と取引する人は親会社の保証を取り付ければ,そもそもこういった債権者保護の必要はないように思えるわけです。そこで,こういった複雑な仕組みをつくらなければならなかった背景というものを知りたいと思っています。日本のように親会社やオーナー社長が保証するような習慣がないということなのでしょうか。   以上,二点お願いします。 ○加藤参考人 第一点につきましては,私の報告が少し不正確であったことをおわびしなければいけません。私の報告では,子会社の債権者に対する直接的な責任が認められるかのような表現をしておりましたが,これは,ほぼすべて,子会社に対する責任,より正確に言えば破産財団に対する支払義務という形になっています。つまり,子会社に対して支払義務を負うというわけです。ですから,子会社債権者との相殺等といった問題は発生しません。   第二の点ですけれども,日本の実務で子会社が第三者,つまり子会社の債権者と取引をする場合に,親会社が保証を差し入れるという実務があるということでありますが,確かにそういう実務があれば,子会社債権者についてわざわざ制度を設ける必要はないといえるかもしれません。しかし,まず,親会社の保証をするという実務が果たして日本以外にどれほど一般的なのかということについては,今回の報告では詳細な調査はしておりません。ただ,私の感触ですけれども,子会社債権者といっても,親会社が保証を差し入れることによって守られるのは取引債権者に限られるので,不法行為債権者などの非任意債権者などを含めて制度設計をする必要があるのではないかというのが一点であります。また,親会社が保証するということは,その特定の債権者との関係で,親会社の有限責任を契約によって解除するわけですけれども,そうすると,子会社にしている意味がどこにあるのかというのが素朴な疑問であります。そういう対応をしていると,結局,特定の債権者にだけ個別保証をするということが現実的なのかというと,あそこに個別保証したのだから,こちらにも個別保証しろというようなことが起こり得ますので,子会社の有限責任の意味が事実上なくなることになってしまうわけです。逆に,交渉力が弱い子会社債権者に対して親会社は保証を差し入れないということもありますが,このような債権者の立場は不法行為債権者など非任意債権者に近いような気もします。このような実務慣習が存在するので,子会社の債権者保護の制度を設ける必要がないといえるか否かは,少し留保したいというのが,今の私の感触でございます。 ○岩原部会長 まだいろいろ御質問等があるかもしれませんが,特にということがなければ,この後の議事の予定もございますので,次の議事に移らせていただきたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。   それでは,加藤参考人におかれましては,御協力いただき,本当にありがとうございました。お忙しいところ恐縮でございますが,加藤参考人にはこの後もお残りいただきまして,皆様の議論をお聴きいただく中で,もし先ほどの御報告に補足していただくことがございましたら,御発言いただきますようお願いしたいと思います。   それでは,本日の審議,実質的なディスカッションに移りたいと思います。まず,部会資料4の第1の「1 多重代表訴訟の在り方等」につきまして,事務当局から説明を頂きたいと思います。 ○大野関係官 部会資料4は,親子会社に関する規律に関する検討事項(1)として,親会社株主の保護に関する規律を採り上げております。まず,「第1 多重代表訴訟に関する検討事項」の「1 多重代表訴訟の在り方等」について御説明いたします。ここでは,企業集団における親会社株主の保護をより充実させる必要があるのではないかという観点から,親会社株主が子会社取締役に対して多重代表訴訟を提起することを認める制度を創設することについて問うものでございます。   子会社取締役が子会社に対する責任を負っているにもかかわらず,子会社や親会社が当該子会社取締役に対する責任の追及をしない場合,現行法の下では,親会社株主は,親会社取締役が当該子会社取締役に対する責任の追及をしないことが善管注意義務に違反する等として,親会社取締役の責任を追及することとなります。この場合,親会社取締役の責任を追及することにより,親会社の損害のてん補を図るとともに,親会社取締役が株主代表訴訟の危険にさらされることで,親会社取締役の任務懈怠を抑止することができるので,親会社取締役を通じて,子会社取締役の任務懈怠を間接的に抑止することもできるとも考えられます。仮に,これにより親会社株主の保護が十分に図られていると考えるのであれば,多重代表訴訟の制度を創設する必要性は乏しいということになろうかと考えられます。他方,親会社取締役の親会社に対する義務内容は,子会社取締役の子会社に対する義務内容とは異なることから,親会社取締役が当該子会社に対する責任を追及しないことが親会社取締役の任務懈怠には当たらない場合には,親会社に損じた損害のてん補を図ることができません。また,親会社取締役の任務懈怠に当たる場合であっても,実際上,親会社株主が子会社の管理に関する親会社取締役の責任の内容を明らかにし,損害及び因果関係と併せて立証することは,単一の会社における責任追及の場合と比較して困難であるとも思われます。その結果,親会社取締役を通じた子会社取締役の任務懈怠の間接的な抑止が子会社取締役のすべての行為について及ぶものとは必ずしもいえないとも考えられます。仮に,このような観点から,親会社株主の保護が十分に図られていないと考えるのであれば,多重代表訴訟の制度を創設することも考えられるかと存じます。なお,このほか,多重代表訴訟の制度を創設すると,会社がある事業を単一の会社の内部部門として行うのか,企業集団を形成して子会社の形態により行うのかという企業の組織形態の選択に影響を及ぼすおそれがあるとの指摘がございます。この点については,多重代表訴訟の在り方に関する補足説明の4でも採り上げております。   また,部会資料では,多重代表訴訟について,現行法の株主代表訴訟の制度と整合性を保つものとして位置付けることができるか,ということの問題提起もしております。会社の代表者と役員等との人的関係のため,会社の役員等に対する責任の追及を期待することができないことから,株主が会社の役員等に対する請求権を行使することを認めるという,株主代表訴訟制度の趣旨を踏まえますと,株主代表訴訟の制度の構造は,部会資料の2ページ中ほどに(a),(b)と記載いたしました二点,「役員等の間の人的関係による構造的・類型的な責任追及の懈怠の可能性があること」と「責任追及の原因となる法律関係に対する利害関係を有する者がおり,その者について会社の利益を適切に代表して監督権を行使する主体としての適格性が存在すること」の二点に整理することができると考えられます。親子会社をめぐる関係においても,この二点を満たす場合があり得るのではないかと考えられるところです。   多重代表訴訟につきましては,その基本的な在り方を踏まえつつ,御議論いただければと考えております。そこで,(注)では,多重代表訴訟の制度を創設することとした場合のその在り方について採り上げております。ここでは,三点ほど挙げております。   まず一点目として,多重代表訴訟が認められる親子会社間の資本関係を挙げております。部会資料では,例えば,単純な親子会社関係にあるものとすることや,完全親子会社関係にあることを必要とすること等,具体的に考えられるものを挙げておりますが,親会社が多層構造により子会社を支配している場合にどのように考えるか,株主代表訴訟の係属中に株式交換等がされた場合に原告適格の継続が認められるとされていることをどのように考えるか,といったことも併せて御検討いただければと存じます。   また,二点目として,多重代表訴訟を認める場合を限定する必要があるかということを挙げております。部会資料にございますとおり,企業集団に占める質的,量的割合が小さい子会社について多重代表訴訟を認めると,子会社取締役の地位にはあるが実質的には親会社の従業員である者に対する責任の追及を認めることとなるおそれがあります。この場合,企業の組織形態の選択に影響を及ぼし,企業集団による経営のメリットを損なうこととなるとも考えられますので,このような観点から,例えば,企業集団における子会社の重要性等を考慮し,多重代表訴訟を認める場合を限定する必要があるかどうか,御議論いただければと存じます。   また,三点目として,親会社に損害が生じた場合に多重代表訴訟を限定することの当否を挙げておりますので,この点についても御議論いただければと存じます。 ○岩原部会長 それでは,この問題についての御議論をお願いしたいと思います。どなたからでも御意見を頂ければと思います。 ○伊藤幹事 今日,加藤参考人から報告を頂いた参考資料16の中では,6ページの2-3-3で論じられていますとおり,単独の株式会社を想定した場合のルールの空文化という観点が,こういった問題を考える上では,やはり重要かと私は考えます。仮に,親会社の株主の保護という視点から考えていくことに無理があるということになりましても,単独の株主会社を想定したルールが空文化することを防ぐという視点は,やはり重要で,そのような視点から必要となれば,法改正も行われるべきだと思うわけです。多重代表訴訟について,これを少し言い換えますと,親子会社関係が形成されることで,代表訴訟制度というものが単独の株式会社において機能しているレベルよりも低いレベルでしか機能しなくなることは,やはり防がなければならないと思います。こういう視点からしますと,例えば,部会資料4の2ページで書かれていましたように,多重代表訴訟が企業の組織形態の選択に影響を及ぼしてしまうという議論があるわけですけれども,これはむしろ,現在の法の状況というものが,企業の組織形態の選択にゆがんだ影響を及ぼしている。つまり,親子会社形態を採ることへの誘導,強い意味での誘導という趣旨ではないのですけれども,そのような誘導を行ってしまっているのではないか。そして,多重代表訴訟を導入すれば,そのようなゆがんだ影響が是正できるのではとも言えそうなわけです。   他方で,こういった視点からもう少し考えていく上では,部会資料4の2ページの真ん中下では(a),(b)というように代表訴訟制度を機能的に考えるということがされていますけれども,(a)について更に考えるべき事柄があるように思われます。(a)といいますのは,そもそも代表訴訟制度が認められる理由は,提訴懈怠の可能性にあるという,必ずされるような説明ですけれども,そもそもなぜ役員等の責任についてだけ提訴懈怠可能性を考えるのかということを,検討する必要があるかと思います。つまり,部会資料にもありますような構造的あるいは類型的な提訴懈怠可能性というものが,役員等の責任についてだけ考えられるものなのかということです。役員等の中には,会社法の下では会計参与,会計監査人というものも含まれておりまして,それらの会社機関についての責任追及の場合の提訴懈怠可能性というものと,取締役の責任の場合の提訴懈怠可能性というものが,同じ意味なのか。これは,会社法の下で,会計監査人が代表訴訟に対象になったときから,気になっていたところです。これはどういうことに関係するかといいますと,仮に多重代表訴訟制度というものを設けるとして,そのような多重代表訴訟の対象にすべき子会社の役員等をどういう範囲のものにするのかということと関係があります。あるいは,部会資料4のその後のほうでも書かれていますように,子会社の役員というものは,これは実質的には親会社の従業員と同じではないかという議論があります。この辺の議論にも,あるいは関連するのではないかと思います。ちょっとその辺り,更に考える必要があるのかなと思いました。 ○八丁地委員 今日は親子会社法制ということでありますが,私どもの意見を申しますと,大前提として,会社法の改正におきましては,我が国企業の国際競争力の向上に向けた配慮を是非お願いしたいと思います。そのために,立法事実があるかどうかを改めて確認することをお願いしたいと思います。私どもは,立法事実があるとは考えておりませんが,国際競争力の向上ということでは,例えばある機能を切り出すとか,地域別に積極的な展開をするとか,若しくはいろいろな形で経営上の戦略を反映させたグループ経営を,新規事業の展開を含めて,すべての日本企業は実施しております。また,M&Aの推進でありますとか,産業構造の転換に伴い,いろいろな形でのグループ経営が進展していくと考えております。これからの日本企業はグローバルな国際競争力向上に向けて,積極果敢なグループ経営を行うことが大きな方向であり,この方向性に資する御審議をお願いしたいということであります。新しいレギュレーションがもしこれから課せられるとしますと,このようなグループ経営への足かせともなり得る制度を設けることとなり,我が国の産業の発展や国益を加速するものなのか,それを制御するものなのかということは,是非御留意いただきたい大前提であります。そもそも,現在の会社法制は,私どもの理解では,親会社,子会社の関係は,それぞれ別個の法人格であるということで,法的には独立した存在であることを大前提として運営されています。多重代表訴訟は,この前提を覆すものではないかと思慮しておりまして,今申し上げたような機動性のある子会社運営・グループ経営には支障を来すものですので,慎重な検討をお願いしたいと思います。   また,多重代表訴訟の制度がなくても,現在のいろいろな仕組みにおいても,親会社は,様々な形で子会社の適切な管理に十全に努めてきていると,私どもは理解しています。内部統制システムの義務付け,会社法施行規則100条1項5号の企業集団における業務適正の確保義務は,企業グループの規律として活用されています。またほとんどすべての会社が,子会社管理規程ですとか,親会社による子会社の重要事項決定への関与,具体的には親会社の取締役会の決定事項等を決めていますが,このような形で適正化は図られていると思います。子会社に少数株主が存在する場合でも,親会社との間で当該子会社の運営に関する何らかの合意は形成されているという前提の下に,企業経営がなされています。   多重代表訴訟制度の創設についての立法事実に関して,二つの点を理解しております。まず一つは,役員の兼務の状況でありまして,主要な子会社の役員が,多くの場合に親会社の役員も兼務しており,そのために,多重代表訴訟制度がない場合でも,親会社の株主は,親会社の役員としての子会社の役員に対して,子会社管理に限らず任務懈怠責任を問うことができると思います。一方,先ほどの御説明にもございましたけれども,子会社の役員が親会社の役員を兼ねていない場合,当該子会社の役員が,親会社では事業部の部長クラス等に相当するケースが多いのではないかと思いますが,多重代表訴訟を認めた場合に,実質的に使用人と同じレベルの者を株主代表訴訟の対象とすることになるわけでございまして,その者が負っている義務若しくは責任に比べまして過大な追及の方法を与えることになることは,大いに懸念するところであります。   そもそも,この問題に関しましては,現行法制の下で十分に親会社株主の権利保護が図られていると思っておりまして,子会社の経営は,一義的には子会社の役員の責任であり,親会社は,株主としての責任に基づいて,重要事項についての株主総会における議決権行使等を通じて,子会社を間接的に監督しているわけであります。親子関係がある場合には,会社間では,親会社の取締役会が,その職責を通じまして,子会社の管理・監督を行うというのが実態という機関投資家の認識もございます。ゆえに,子会社役員による善管注意義務違反行為等があって,親会社に対して損害が生じているにもかかわらず,その親会社がその任務を懈怠して子会社役員に対する会社法上の訴えを提起しない場合には,それ自体が善管注意義務を構成するということでありまして,親会社の株主は,そうした面で,現状でも,株主代表訴訟によって責任を追及することができると思います。   また,経団連の会員には機関投資家が随分ございますけれども,こうした多重代表訴訟の制度の創設が,投資の判断という点からも,実質的な意義には乏しいというような指摘も出ております。いずれにしても,内部統制とかコンプライアンス等を含め,株主の権利保護ということは配慮をしておりますので,現実の企業競争力という面から,慎重に御判断をしていただければと思います。 ○田中幹事 今ほどの八丁地委員の御発言は,非常に重要だと思っていまして,当然のことながら規制にはコストが掛かるわけですから,我が国の企業の活力や国際競争力を損なわないように注意した規制をしなければならないと思います。ただ,その一方で,加藤参考人の御報告を聞いていると,諸外国も何か規制しているといいますか,多重代表訴訟がなければ子会社の重要な業務決定に対する親会社株主の関与を入れたりして,何か規制している部分もあります。規制というのは,どうしても今ある規制水準を前提に考えがちで,今ある規制はしようがないけれども,何か追加的な規制を入れられるのは困ると,これは日本だけの問題ではないでしょうが,どうしてもそう考えがちなところを,考え方を相対化するために,こういう国際比較等が重要ではないかと思っています。これはちょっと感想です。   私自身は,多重代表訴訟を入れるべきかどうかというのは,確たる見解はないんですけれども,今ほどの八丁地委員の御発言について言うと,きちんと経営されている会社であれば,非常に重要な子会社の役員は親会社役員が兼任している。もしそういう状況があるとしますと,多重代表訴訟を入れることによって,それほど今いる役員の負担にはならずに,合理的な解決をすることができる可能性があります。つまり,ここはちょっともしかすると争いがあるかもしれませんが,基本的には,親会社の取締役は,子会社の取締役として行為をしたことについても,それによって親会社に損害を与えれば,親会社の取締役の責任として,やはり親会社株主の代表訴訟の対象になると思います。そのときに,親会社の取締役と子会社の取締役を兼任している人が子会社に損害を与えたときに,親会社の株主が親会社に対する損害の回復しか求められないとすると,それは請求権としては,親会社が持っている子会社株式の価値の減損ということになります。これは請求権として立てられないことはない。少なくとも100パーセント子会社に関しては,100パーセント子会社の損害は親会社の損害と同一視して,親会社に対する賠償を認めた判例もあります。ただ,こういう解決ですと,例えば,子会社に少数株主がいたときに,本当にこれが良い解決なのかということもあります。また,子会社がもし倒産するリスクがあるとすると,子会社債権者のことも考えなければいけない。そうすると,もしこの規制の対象を,普通の会社であれば親会社役員が子会社役員を兼任しているのが当然であるような子会社に限って,多重代表訴訟を入れることができれば,通常は兼任しているわけですから,いずれにせよ責任追及されるところを,親会社は,子会社に対する損害の回復を求めることができるようになり,合理的な解決を図ることができるわけです。その一方で,まともに経営されてない会社というか,つまり,普通だったら当然兼任しているところを兼任してない会社があるとすれば,それは先ほど伊藤幹事が言われたように,やはりガバナンスの決定が必ずしも最適になってなくて,責任を免れるために,本来なら事業部門でやっているところを子会社がやっている。そして,本来は兼任するほど重要なものを兼任させてないということになるから,その場合にはむしろ法規制が介入して,子会社の取締役に対する責任追及を認めるべきかもしれません。   いずれにせよ,ここでの重要な点は,多重代表訴訟を認めるとしても,何かそういう絞りをかけなくてはいけないということです。常に子会社であれば訴えられるというのは,正に八丁地委員が言われるように,部長クラスの人をみんな対象にするというのと同じになってしまいますから,これは私は考えられないと思います。現実的には,例えば資産要件とか持株要件で絞っていくことになるんでしょうけれども,通常であれば親会社役員がその会社の役員を兼任してもおかしくないぐらいの重要な子会社に限って多重代表訴訟を導入するという選択肢は,ロジックとしては考えられるのではないかと思っております。 ○逢見委員 今回のテーマの親子会社に関する規律ということでございまして,これについては私ども労働組合の眼から見る親子会社の問題について,ちょっと発言させていただきたいと思います。   法的には,独立した法人ということになっているわけですけれども,しかし実際,親子会社に明らかに上下関係,力の優位の関係がありまして,その中でもちろん健全にやっている親子会社もございますけれども,中には,特に規模が余り大きくないところとか,あるいは株式を上場していない会社における親会社の子会社からの富の収奪という行為が行われているのではないかと思っております。例えば,子会社が上げた利益はすべて配当として親会社が吸収するとか,あるいは,親会社との取引の中で非常に厳しい取引条件が押し付けられて,子会社には自由な営業活動が許されていないとか。それから,従業員の人件費においても,親会社から予算が与えられて,その予算の範囲内でしか行使できない。親会社の中に子会社を管理する部門があって,意思決定はすべて親会社の管理部門からの判断を待たなければ何も動けないというところがあります。ある研究によれば,上場子会社の収益性は,上場子会社でない場合に比べて相対的に低い,あるいは親会社,兄弟会社を含むグループ会社との取引関係が強い上場子会社ほど収益性が低いという研究結果も出ております。そこでは,結論として,親会社や兄弟会社との取引関係が強い上場子会社では,取引活動を通じた富の収奪が行われ,そのために収益性が低下していることを示唆しているということがございます。自分が飼っているニワトリが産んだ卵は,全部取っていいんだというような行動です。   こうした問題を会社法の中だけで解決するのは困難かもしれませんし,今回提起されている多重代表訴訟で解決できるかというのはありますけれども,しかし,親子会社の中で,こうした問題について,どういう規律が良いのかということをやはり考えないと,そこに働いている人たちにも十分な賃金の配当が得られないという,親子会社であるがゆえの問題が存在しているということを申し上げておきたいと思います。 ○八丁地委員 会社は数多くありますので,私の見方は逢見委員とは違うと思いますが,上場子会社のパフォーマンスについては,幾つも研究がある中,私はむしろ上場子会社のほうのパフォーマンスが高いという研究のほうが多いのではないかと思っています。これは親会社の力が不足しているなど,いろいろな見方があると思いますが,経営の力がどちらが強いかについて,収奪という言葉を私はほとんど使ったことがないので,今初めて使いますが,そういうことはほとんどありません。内部統制システムや役員の善管注意義務もあり,また上場会社は,関連会社との取引については,開示の規則に従い,開示しております。また例えば,親子会社間で市価以下の取引をした場合には,税法上では別の取扱いがなされ得るなど,様々な規制があると思います。   企業の規模に関しては,中小企業に対するスタンスというのは,国家としてもお決めになられたこともございますし,大企業に対する規律も十全に与えられていると思いますので,一面的な観察だけでこうした議論はしてほしくないと思います。これからは様々な規模の会社,様々な形態の会社,様々な機能の会社がある中で,日本も変わっていき,また産業界も,国も変わっていきます。そこでのグループ経営には,このような様々な会社が入ってくると思いますが,そうしたものに十全に耐えられるような形で,既にいろいろな経験が積み重なっていると思います。   それから,親会社の役員,子会社の役員ということに関しても,各法人が個別の法人格を持っておりますので,その法人のステークホルダーに対する善管注意義務というのは,既にすべての会社で徹底されているものと,私どもは確信しているところであります。 ○前田委員 八丁地委員の御発言にございましたように,確かにこのような制度を創設しなくても,親会社株主は,親会社取締役が子会社取締役の責任追及をしないということをもって,親会社取締役の責任追及をすればよいという考え方もあり得るところだと思います。しかし,しばしば言われますように,子会社をどう管理するかというのは,親会社取締役の経営判断事項であり,補足説明にもありますように,現実には責任追及は困難です。何より,もともと代表訴訟制度というのは,役員の責任追及という判断についてだけは,管理運営の適正を確保するための最後の砦になるということからだと思うのですけれども,取締役・監査役の判断には任せておけない,取締役・監査役は信頼できないという考え方の上に成り立っている制度だと思います。それにもかかわらず,この場面で,親会社というレベルとはいっても,親会社取締役の経営判断に任せておけばいいというのは,代表訴訟制度の基本的な考え方と必ずしも合致しないのではないかというように思います。   それと,八丁地委員あるいは田中幹事の御指摘にもございましたように,子会社取締役というのは事業部門の部長と実質同じようなものだという御意見もありますけれども,会社は,ある事業を会社の事業部門として行わずに,子会社形態を利用することで,有限責任を初めいろいろなメリットを享受することができる。そのメリットの反面として,やはり子会社取締役になる者はしかるべき義務と責任を負うと考えるのが,むしろ合理的ではないかと思います。つまり,事業部門の部長から子会社の取締役になれば,その義務と責任は変質する。それを覚悟で取締役になると考えるべきではないかと思います。このようなことも考慮に入れつつ,この制度を入れるとして,どのような範囲でこれを導入するのがいいのかについては,この後慎重に検討していくべき事柄だと思います。 ○野村幹事 この議論をするに当たって,想定している親会社のイメージが人によって違うのではないかなと感じております。恐らく,子会社の取締役が親会社の従業員に相当することが懸念材料になっている会社というのは,本体の親会社のほうがもともとの事業を全般的にやっている中から分社化によって子会社が設けられたり,あるいは,M&Aを通じて傘下に事業部門をぶら下げるようになったり,更には,新規事業を試す意味から子会社方式で始めたりといった,そういうイメージの会社だと思います。しかし,他方におきまして,金融機関などによく見られますように,持株会社自体は,様々な規制との関係で一体化できない事業をつなげるかすがいのような役割を果たしているだけで,どちらかというと傘下にある金融機関が事業の本体であるという,そういうグループも存在しているわけであります。あるいは,例えば,地方銀行等におきましても,広域的な統合をするときに,それぞれの地域における金融機関のブランドを残しながら,それを持株会社によってつなげていくという,そういったことも最近では見受けられるわけでございます。こういったような場合には,むしろ子会社のほうがグループ全体の中の事業の中核でありまして,そこでの取締役に対する責任追及が,もし,単体で存在している場合に比べて緩やかなものになってしまっているということであるとすれば,むしろ改正を行う立法事実があると考えるべきではないかなと思います。   そういう意味では,想定している企業グループのイメージをある程度明確にした上で,その必要な範囲を明確にし,そこで範囲を画する意味での要件の設定というものを工夫していくということが必要なのではないかと思います。確かに,前者のようなタイプの企業グループにおいて,従業員に匹敵するような人に対する代表訴訟はやはり望ましくないという判断があるということは重要な視点だと思いますが,それは要件の立て方,あるいは制度の設計の仕方によって十分排除することが可能なので,その点のみをもって二重代表訴訟を完全に否定することにはならないのではないかと思います。 ○神作幹事 第1の多重代表訴訟に関する検討事項には,二つの大きな異なる問題が含まれているのではないかという気がいたします。一つは,株式移転,株式交換によって代表訴訟ができなくなるというケースで,現行法では851条で手当てがございますけれども,これは既に株主代表訴訟を提訴していることを前提として規定されております。株式交換,株式移転の場合については,明らかに株主権の縮減として整理されるべき問題であると思われます。すなわち,株式交換,株式移転が行われなければできたことが,株式交換,株式移転によってできなくなるということですので,この問題は,株主権の縮減の問題の一環として結合企業法一般の問題から分けて考えていく必要があるのではないかと思います。確かにドイツでは,上から下への多重代表訴訟は認められておりません。下から上へは認められていると理解しておりますが,上から下への多重代表訴訟は認められていないと理解しています。しかし,ドイツには,そもそも株式交換,株式移転制度がございませんので,そういう意味では株式交換,株式移転の場合に多重代表訴訟が認められるかどうかについて,ドイツはどうかと聞かれたら,ブランクであるとしか言わざるを得ないわけでありまして,仮にドイツでこの問題が起こったらどうなるかと推測すると,ホルツミュラー判決の考え方からすると,もしかすると,立法を待たずに判例によって,多重代表訴訟に類したことが認められる可能性がある,と理解しております。そうすると,一般的な結合企業における多重代表訴訟の問題は,それはそれとしてもちろんございますし,もしかしたら,株式交換,株式移転の問題も,結合企業におけるより一般的な問題の中に吸収して解決されるということも,十分にあり得るかと思います。けれども,私は,株式交換,株式移転の問題というのは,日本でも現実に起こっている問題であって,たとえ結合企業の問題の手当ての中で一般的に吸収して解決されなかった場合であっても,別途考える必要があるのではないかと思っております。   第二に,結合企業の中で一般的に多重代表訴訟,ここでは親会社の株主が子会社の役員等を訴えるという場合でございますが,この問題については,少なくとも私の感じですと,100パーセント子会社については,これは実態としては,法人格の有無は,実務において余り重視されていないのではないかと理解しておりますので,少なくとも100パーセント子会社は含める方向で,まず議論をスタートしてはいかがかと考えております。100パーセントを超えて更に多重代表訴訟の範囲をどこまで広げるかということについては,これは部会資料4の中にもございますように,親会社の株主の利害関係が次第に薄まっていく,濫訴の危険が増える等々の問題が生ずると思いますので,フランスのように株主代表訴訟のための要件につき厳しい要件を設定するとか,適切代表についての考え方を導入していくとか,そこのところは弊害の防止・是正とよくにらみながら制度を考えていく必要があるかと思います。正に結合企業法の一環として,多重代表訴訟の問題を一般的に考えていく必要があるのではないかと思います。繰り返しになりますが,100パーセントの親子会社関係については,多重代表訴訟を認める方向で考えていくことが適切ではないかと思っております。 ○中東幹事 多重代表訴訟の導入については,余り積極的ではなかったのですが,これまでの委員・幹事のお話を伺っていますと,きちんとやっている会社には追加的なコストを掛けずに,また,きちんとやってない会社にはきちんとやってもらうという形のものがもし実現できるのであれば,これは入れたほうがよいのではないかと思いつつあります。そこができるかどうかは,野村幹事がおっしゃいましたように,どういう基準をつくるかだと思うのですが,部会資料4でまとめていただいておりますように,代表訴訟には二つの機能があるとございますが,損害てん補と経営陣に対する規律付けということでございます。会社に50億の損害が生じたとなりますと,これはもう取締役個人が払えるわけがありませんので,最近は規律付けにウェイトを置いた議論がされていると認識しております。そうなるとなおさら,加藤参考人のお話にもありましたように,実質的にだれが意思決定をして,その会社を動かしているのかというところにターゲットを合わせるということが重要になろうかと思います。八丁地委員のお話で,親子を兼任していて,その人が中心になっているという場合は,それは当然ターゲットになる。単に上の言うことを聞いているだけの,会社の部長ぐらいの者であるというのであれば,これは実質的な決定権もないでしょうから,対象にはならないだろうと思います。その意味で,実質的に対象となるべき者をうまく規律できるのであれば,多重代表訴訟制度を入れることを十分に検討してもよいと思っております。   先ほど神作幹事がおっしゃいました,株式交換等が生じた話との連続性についてですが,もともと,株式交換等が生じた場合には,当事者適格,スタンディングの問題だと考えられていたと思います。昭和25年改正で代表訴訟が日本に取り入れられたときにも,同じ考え方を基礎に,いわゆる法定訴訟担当として入ったという経緯がありますので,もし先ほど申しましたように,代表訴訟が一定の規律付けを与える制度であるという整理をするのであれば,会社を代表して責任追及をするのにふさわしい株主にスタンディングを与えるということになるのだと思います。   諸国の説明もございましたが,英米法では,基本的に,被告は代表訴訟ではだれでもよいということになっておりますが,実質的には米国でも先ほど御説明がありましたように,ハードルは低くないのが現状です。また,カナダは,英連邦諸国で最初に代表訴訟制度を制定法で入れたのですが,同じく被告は当該会社の取締役に限定されていません。ただ,そこでも裁判所が申し立てた株主に代表訴訟の提起を認めてよいか,ということについて許可を与える仕組みになっております。この判断の中で,実質的に誰を代表訴訟の対象にすることが望ましいかという判断も含まれているということであれば,それはそれで分かりやすい制度設計だと思います。ですので,最終的には,野村幹事がおっしゃいましたように,どう決めるかということでありますが,それさえ決められるのであれば,導入するのがよいと思います。 ○田中幹事 この場では取りあえずまだ委員・幹事の間で議論すべきではないのかもしれませんが,かなり具体的な提案もなされておりますので,ちょっと先ほど来の御発言に対する感想を申し上げたいと思います。   先ほど前田委員が,子会社で有限責任を享受できるからには,子会社取締役も代表訴訟を覚悟するべきではないかとおっしゃったように思うんですが,もしそういう御趣旨だとすると,普通,事業部門でその事業をすればその会社は全体的に無限責任を負うけれども,子会社で事業をすれば有限責任を享受するというのは,その利益は,親会社ひいては親会社株主が享受するものですから,ちょっとそれと引換えに子会社取締役が代表訴訟を覚悟すべきだという議論にはならないのではないかと思います。どうロジックがつながるのかなという印象を持っています。それと,神作幹事の言われた,100パーセント子会社でやる分にはもう会社でやっているのと同じだという議論は,100パーセント子会社は事業部と同じという議論ですから,つまりこれは,100パーセント子会社の取締役の代表訴訟を認めるのは事業部の部長も代表訴訟の対象にするのと同じだというロジックで,これは従来代表訴訟を否定する論拠とされていたと思います。   先ほど来の議論では,広く100パーセント子会社なら認めるという考え方と何らかの要件を絞るべきではないかという方向性があったように思います。もちろん,何も規制を入れないというのももう一つ選択肢としてあるんですが。個人的な意見としては,100パーセント子会社の取締役に広く責任追及するというのはそれは事業部の部長を訴えるのと同じではないかというロジックがあって,違いがあるとすれば,むしろ事業部の損失は全部親会社が負担するのに,子会社の場合,有限責任で,親会社のリスクが切れていますから,かえって子会社役員に対しては代表訴訟で責任追及する必要はないと,そういうロジックになると思います。だから,やはり発想としては,基本的にはこういう訴訟は認められないんだけれども,子会社の取締役であれば常に代表訴訟の責任追及から遮断されるとなった場合に生じ得る不都合に対処するために,何らかの要件付きで認めていくというのが,やはり基本的な方向性としては妥当ではないかと。その際に,私の申し上げたような,普通の会社だったら親子会社間で役員を兼任しているだろう,そのぐらい重要な子会社に絞るか,それとも先ほど野村幹事が言われたように,子会社の役員の責任追及を認めないとどんどん重要な部門を子会社に出してしまって,責任を遮断してしまう,したがって,重要な子会社に関しては代表訴訟による責任追及を認めるべきだという,そういう二つのロジックがあり得るかと思っています。そのようなロジックから多重代表訴訟を仮に認めるとしても,認める要件を絞っていくということになるのではないかと考えております。ちょっと御発言を誤解したかもしれませんが,もし間違っていたら御指摘いただきたいと思います。 ○神作幹事 ただ今,田中幹事から御批判がありましたので,これはもう完全に立法論になってしまいますけれども,そもそもなぜ株主代表訴訟の被告を取締役等に限らなければならないのかという根本のところも,本来はやはり議論されるべきで,なぜ親会社の部長だと代表訴訟を提起できないのかという点自体が,本当はそもそも問題となり得ると思います。ただ,本日の段階ではそこまで議論を拡散しないことといたしまして,子会社の取締役には親会社では部長クラス,あるいは従業員クラスの人が来ているではないか,そのような御指摘については,二点から少し疑義がありまして,一つは非常に形式論ですけれども,やはり法人格における機関の役員,構成員としての行為規範,振る舞いというのは,従業員とは異なるのではないかという議論があると思います。実質論としては,八丁地委員の御指摘の点には非常によく共感を覚えますが,私の理解では,部長にしても子会社の役員になった人にしても,結局上から指図を受けている。それで仕方なく行動しているのであるということが,御指摘の前提にあるのではないかと思います。そうすると,それは本日のテーマではありませんけれども,次回の支配企業,親会社の義務及び責任という話とつながるのではないかと思います。その話を抜きにして気の毒だというのは,一体どういう点から来ているのかということを,逆にお教えいただきたいと思います。 ○前田委員 先ほど,事業部制を採らずに子会社形態を利用するメリットの一つとして,有限責任のことを申しましたけれども,田中幹事がおっしゃいましたように,有限責任はこの場面では直接には親会社株主に原告適格を認めることに結び付かないというのは,御指摘のとおりだと思います。   もしこの制度を導入するとした場合に,どのような範囲でこれを認めるのがいいのかということにつきまして,感想だけ申し上げさせていただきますと,親子会社関係につきましては,私も,神作幹事がおっしゃいましたように,差し当たり完全親子会社関係がある場合についての規律を考えることでよいのではないかと思います。少数株主がいないということで,定型的に提訴懈怠の可能性が認められる。その点に着目をして,完全親子会社関係があるときに限っていいのではないか。その場合であれば,現行の851条の制度の言わば延長として,現行法との整合性も無理なく図られるのではないかというように思います。小さな子会社であればどうかというのが,非常に難しいところだと思われ,重要でない子会社は外すという考え方もあるのかもしれません。しかし,代表訴訟の制度は,単一の会社の場合でも,原告株主自身が受ける影響の大きさ,つまり賠償額の大きさ等とは無関係に認められている制度です。そして,小さな会社の場合,濫用的な訴訟であることも少なくないとは思うのですけれども,濫用的な訴えに対しましては,我が国でも権利濫用とか担保提供等いろいろもう既に手当てがされているわけですから,特に小さな子会社だからといって外す必要はないのではないか。例えば,重要な子会社という制限を設けますと,重要かどうかということをめぐりまして,訴訟の入口のところでまた紛争の種をつくることになりはしないかという気がいたします。 ○安達委員 意見を申し上げさせていただきますと,やはり日本の置かれている状況から考えても,多重代表訴訟を適用する時期かなというのが率直な印象でございます。他の委員の方もおっしゃっていましたが,まず立法事実が現実的にあるかなというと,私の知っている範囲では,まだそういう状況ではないのかなと思っております。現行法制度その他内部統制もございますし,今後また議論になると思いますが,更に徹底した情報開示等々,現行の制度で十分に対応できるのではないかと私は思っております。あえて先ほど日本の産業と言いますか,日本の今の置かれた立場についてちょっと仰々しい言葉を使いましたが,私はベンチャー投資家の立場でもありますので,やはり日本で新陳代謝を促す新しい産業が全然起こってないということが,一番懸念している問題です。これは必ずしもベンチャーだけに限りません。例えばカーブアウト,これは大企業からカーブアウトするという,新しい事業体を外に出して機動的に専門特化して推進するという方式です。一般的には,大企業が引き続き一定の株式を保有してカーブアウトする例が多いと思いますが,そういう場合も,仮に多重代表訴訟という制度があるとなった場合に,そこの社長のなり手はいないと私は思います。こういう制度になった場合です。   現実的な言い方をしましたけれども,もちろん先ほど野村幹事のおっしゃったとおり,企業グループの性格等々を考慮して,要件の設定ということで一つのルール設定ができるかと思います。ただもう一つ,先ほどから何度も出ていますとおり,量的,質的に小さい事業の場合,重要性の観点から,それを除外するという方法もあるかと思います。とはいえ,やはり新産業,新しいものを起こす場合には,専門性が要求されることが一つ,それからグローバルに競合が起こっていますので,他の競合に対して勝つためにスピード感が非常に要求されるわけです。機動性を発揮しなければいけないということで,事業会社が子会社化することは非常に多いと思います。その場合に,こういう制度を導入すれば,多分スピード感が落ちることは間違いないと思います。それに対応できるためには,アクセルの機能がないままブレーキの性能だけを上げるということは避けてもらったほうが私はいいのではないかと思っています。現状,親会社の役員が新しい会社の役員を兼任するかどうかはケースバイケースであり,企業によって違いますので,一概には言えませんけれども,やはり専門性,スピード感,機動性を持った新しい産業を起こすという観点が重要です。いずれにせよ親会社は連結するわけですから,100パーセントか持分比率かの違いはありますが,当然しかるべき事業部署の責任者,役員は,やはり連結対象ということでものすごく責任を負っていますので,当然善管注意義務が働きますし,決して現行制度において,何か問題が起こるというのは,私は考えにくいということで,こういう意見を述べさせていただきます。 ○奈須野幹事 私どもの立場は,6月にお話ししたとおりでございます。すなわち,子会社役員の任務懈怠に対して,親会社株主が株主代表訴訟を提起できるという多重代表訴訟の制度を設けることについては,慎重な検討が必要と考えております。   その後,今日の議論に向けてアンケート調査を行い,約1,000社から回答を得ております。それから,同時に個別に約50社に対してもインタビューをしております。その結果,インタビューをした企業の85パーセントが「多重代表訴訟制度の創設に反対」という回答でございました。   反対の理由としては,大まかに申しますと三点ございます。   一点目は,これは八丁地委員が御指摘されたこととほぼ同じですけれども,事業持株会社を中心とした多くの子会社の役員は,役員といいつつも,実際には従業員,平凡なサラリーマンです。そういう平凡なサラリーマンが親会社役員を差し置いて代表訴訟のターゲットになるということは,さほど権限も与えられていないのに余りに酷であるし,実際に損害に対して賠償金を支払うだけの資力もないということでございます。そこで,そういう訴えられて弁済できないリスクを考慮して会社の組織構造を決定するというでは,本末転倒感があります。   二点目は,制度の効率性からの反対意見でございます。先ほどの加藤参考人からの御報告のとおり,多重代表訴訟制度というのは,必ずしも親会社株主保護のためにあるのではなくて,子会社にかかわるいろいろな人のために,だれにエージェントとなって規律してもらうのが最も効率的かという観点から,恐らくは親会社の株主が良いだろうと,こういう判断の下で判例上認められているものかと思います。一方で,日本の場合は終身雇用制度になっておりまして,子会社の役員も,基本的には,親会社の人事運用の一環の中で子会社に派遣されています。そういう人にとってみれば,親会社の人事部の規律が最も怖いのであり,親会社の株主というのは,必ずしも抑止力として強くないのではないかと考えられるわけでございます。実際にこのような仕組みができたとしても,株主がわざわざ子会社まで調査して訴訟を提起するというのは,そう多くないと思われます。このため,もしかしたら子会社の役員は「どうせ自分は代表訴訟のターゲットにならないだろう」ということを見越して,任務を懈怠するかもしれません。親会社の人事部にとっても「これで我々は免責だ」と考えて,子会社役員の監視をさぼるかもしれない。このように考えると,親会社株主のためにグループ全体を規律する制度としてどういう仕組みが効率的なのかについて,若干の疑問があるということであります。   三点目の批判は,少数株主保護の見地からの反対意見です。特に日本の場合は親子上場の慣行がございますので,子会社に少数株主が存在することがままあります。こういう場合に多重代表訴訟制度が認められてしまうと,親会社株主からの訴訟提起のおそれを口実に子会社の少数株主の権利が害されるのではないかという見地からの反対もございました。   いずれにせよ,会社の目的の達成のために,使用人,従業員をいかに育成し,管理していくかは,経営の機動性・専門性の確保の観点から,親会社の取締役の経営判断に属することと考えております。これに対して,多重代表訴訟によって,親会社株主が親会社取締役の経営判断を超えて子会社役員の責任追及を制度化するということは,この制度趣旨を没却することになりかねないと懸念します。   これに対して,前田委員からは,代表訴訟制度というのはそもそもそういうものであるという趣旨の御指摘もございました。しかし,現行の会社法の制度は,多重代表訴訟がないという前提で,子会社で別法人であったとしても,親会社はそのガバナンス体制に組み込んでいくことを要求しています。それなのに,もはやこれを信頼しないことに考え方を転じるのであれば,むしろこういった親子関係の規律は多重代表訴訟にゆだねるという前提で,もっと制度を簡素化していくということも考える必要があると思います。   その具体的な内容についても,6月に御報告したとおりでございます。 ○上村委員 まず,八丁地委員がおっしゃいましたように,国際競争力を高め,元気な日本の経済社会をつくることが目的であるというのは,恐らく皆さん一致していると思います。ただ,それが,規制が欠落しているから,楽だから国際競争力の強化に結び付くということはあり得ません。先ほど安達委員がおっしゃいましたけれども,ブレーキの性能を上げる話ばかりしているということですけれども,高性能なブレーキがあるから全力でアクセルを踏めるのではないでしょうか。不出来なブレーキが横にあったのでは,全力でアクセルを踏めません。そういう意味で,やはりきちんとした制度があって,責任を負うべきときは負うという可能性があるということで,リスク管理をきちんとすることが可能となり,訴訟リスクを事前に予測して,そして立派な経営判断をしていけるのですね。それは恐らく多くの方の共通の理解ではないでしょうか。   それと,前から気になっていたんですけれども,立法事実かあるかないかということを盛んにおっしゃるんですけれども,立法事実がなければ改正ができないのであれば,制度について歴史や他国の制度に学ばないということになります。今日,加藤参考人から非常に詳細な御報告がありましたけれども,ここで国際標準と言われるような諸制度には,各国が経験してきた立法事実が積み重ねられてできた制度なのです。そういう様々な制度が諸外国にあるというときに,そうした経験から学ぼうとしないようでは,私はそういう発想で,日本の国際競争力が強まるということはあり得ないと思います。日本はこの分野で経験が不足している分を論理や知恵で先取りするぐらいでないと,本当の意味で,全力でアクセルを踏める環境にはなり得ないと思います。常に大きな訴訟リスクを抱えながら運転し続けることになるような気がします。   それから,全社的内部統制をやっているではないかということをおっしゃるんですけれども,これは今の話ではないかもしれませんが,なぜ全社的内部統制を親会社が子会社に要求する資格があるのか,私にはちょっと分からないのですね。経済界は独立当事者のはずの親子関係で,内部統制について親会社に責任があることをなぜ認めたのでしょうか。この辺はよく分からないのですが,ともかく現にそれをやっているわけです。つまり,子会社の取引先・債権者が子会社の内部統制不備を理由に訴訟を提起した場合には,これはもう親会社に責任が行くのはもう眼の前まで来ている。判例もそうなるでしょう。その世界にもう入っているのです。だからそうなるのを待っているのではなくて,この場合は親会社の責任の話ですけれども,今の多重代表訴訟の話とは違いますけれども,そういうものを先取りしていく必要があるのではないかと思います。やはり本命は親会社の責任問題だと思いますので,先ほど奈須野幹事が子会社経営者も平凡なサラリーマンだとおっしゃいましたけれども,それは要件論できちんと詰めることができるはずです。監査役や社外取締役だって責任主体になりますけれども,余り被告にはならないですね。彼らを被告にしただけで不まじめな訴えだという裁判官もいたぐらいですので,ですから平凡なサラリーマンを被告にして,喜んで訴える人なんていないと思います。いろいろなことを申しましたけれども,ここはやはり諸外国の制度,彼らが歴史的に経験したことを先手を打って学ぶという姿勢が大事だろうと思います。   ただ,経済界の方に同情する点があるのは,損害賠償額の問題だと思います。やはり800億,400億,300億といった数字が出ていて,これは責任軽減できることになっていますけれども,重過失だったら800億だけれども軽過失だったら数千万とかになっている。責任の額とか責任論がそういう構造になってしまっていることに対する不信感が,代表訴訟に対する不信感に跳ね返っているのではないかという感じがなくもないので,本当は損害賠償の額の問題についても改めてきちんと考えたほうがいいと思っております。それが適当な水準になってくると,過剰に警戒しなくてよくなってくるのではないかと思います。 ○荒谷委員 ちょっと話が戻りますが,現在は,多重代表訴訟制度を導入すべきかどうかについては,まだ定型的な意見を持っておりませんので,今日皆様のお話を伺っていろいろ勉強させていただいております。ただ,少なくとも先ほど神作幹事がおっしゃっておられましたように,株式交換,株式移転前から当該完全子会社となる会社の株主であった者については,株式交換,株式移転前に,当該完全子会社となる会社の取締役の行為によって,当該完全子会社となる会社に生じた損害については,責任の追及を認めるべきではないかと考えております。   それと併せて考えますと,ちょっと疑問に思っているので教えていただきたいのですけれども,自分の意思にかかわらず株主交換,株主移転によって完全親会社の株主になったという場合は保護すべきですが,当初からもう自分は完全親会社の株主である,完全親会社の株主が完全子会社のやることについて口出しができないんだということを承知の上で株主になった親会社の株主を一体どこまで保護するべきなのか。多重代表訴訟を導入する場合,事情を知って株主になった者と自分の意思にかかわらず株主になった者を,どのように住み分けしたらよいのかということを,素朴に疑問に感じておりますので,教えていただければと思います。   それから,二点目は,子会社の役員は,取締役であるとはいいながら,その実情は,事業部長等の従業員であるから代表訴訟のターゲットになることは酷であるとの御意見が出ておりましたが,確かに酷であるということは私も分かりますけれども,事業部制を採らずに完全親子会社,法人格は別であるという組織形態を採った以上,子会社の役員としての責任は免れないのではないかと思います。ただ,これは今回の話ではありませんが,親会社の責任をきちんとすれば,この問題は解決するのかなという気もいたしますので,併せて論議をする必要があるのではないかという気がいたしております。   それから,もう一つ教えていただきたいことは,もしグループ経営あるいは親子会社の場合につきまして,例えば子会社に損害が生じているけれども親会社あるいは企業グループから見ると全然損害が生じていないという場合に,親会社の株主は果たして多重代表訴訟を提起することができるのかどうか。これは多重代表訴訟というものをどのように解釈するのかという考え方によっても変わってくると思いますので,その点についても,多重代表訴訟について造けいの深い先生方もいらっしゃいますので,教えていただければと思います。 ○岩原部会長 ただいまの荒谷委員からの御質問について,何かコメントはありますか。 ○田中幹事 私がお答えする資格はないと思うんですけれども,自分の考えだけを申し上げます。全部にはお答えできないので,最初の二点,完全親会社と分かって株主になった人とそうでない人の違いをどう考えるかなんですが,これはそもそも何で多重代表訴訟を認めるか,もっと言うとなぜ代表訴訟を認めるかということでもあるんですけれども,例えば分かって投資しているんだから何も問題ないのではないか話をすると,仮に,代表訴訟をそもそも起こせないというタイプの会社をつくって,それで上場すれば,それは株主はもうみんな分かって投資しているわけですから,代表訴訟を認めなくてもいいということになり得る。それは結局,こういう制度もみんな任意法規してしまえばいいという考え方にもなり得るわけです。それでは,そうであってはいけないというロジックが何かあるかというと,一つは,株式会社,特に上場会社の場合,多数決に完全な信頼が置けないという,発想としてはそういうところがあると思います。これはもともと少額多数の投資家がみんな投資しているから,必ずしも個々の株主は会社の経営のことに通じてないというところから始まっていると思います。それから,特に日本の場合は,株式の持合い構造というものがあり,持合い株主は経営者の立場で意思決定をするということもあります。そういうことがあるから,代表訴訟も定款で決めれば排除できるという制度にはなっていないのだ,ということがあると思います。そういう考え方からすると,会社の決定である事業を子会社でするという構造になっている場合でも,それがベストな選択肢ではないこともあり得るわけで,そうするとそういう会社の株を買った人だから別に保護しなくてもいいではないかということになると,その会社の株式の価値自体が下がっていくので,今いる株主も害されるかもしれない,そういうことが問題なのではないかと思います。あるいは,全般的に株式会社制度の信用が下がってだれも投資しなくなるということもあるかと思います。まあ,多重代表訴訟を入れるか入れないかで,それほどすごい違いが生まれるかどうかは疑問ですけれども,ロジックとしてはそういうことかなと思います。   これは,直接荒谷委員に対するお答えではないんですが,私は,事業部門の部長を代表訴訟の対象にするのは酷だから反対だと言ったわけではないんです。多分,消極論の人はだれも言ってないのではないかと思うんです。やはり基本的には,従業員が会社に損害を与えたからといって,株主は常に責任追及できるわけではない,そういうことを認めるのは非効率だという考え方があると思います。それは,従業員の法的責任を会社がめいっぱい追及することがいいとは限らないわけです。むしろ,恐らくそうではない。めいっぱい追及しないほうがいいことが,ままあるわけですから,たった1株しか持ってない株主に,そんな判断まで任せるべきではないということから始まっていると思います。ですから,基本はやはり,必要があるときしか代表訴訟を認めないというところから出発しているはずだと思います。その必要というのは結局何かというと,提訴懈怠可能性という伝統的にいわれていた部分なわけですが,日本は,その提訴懈怠可能性を,役職というかなり形式的な基準で切っているわけです。それがいいかどうかということが,本来は議論すべきことではあると思うんですけれども,日本の場合は,取締役が内部者中心だったということもあって,現実にそこで中心的に働いているトップ経営者が取締役でもあるということですから,取締役という形式的基準で切っても大丈夫だったと。監査役とかほかの役員は,そもそも余り責任追及されてなかったので余り問題にはならなかったのだと思います。ですから,根本的には,提訴懈怠可能性を理由にするのであれば,形式的な役職基準ではなくて,会社に訴訟を任せたときに訴訟が起きないかもしれない人を被告にするという制度で,提訴懈怠可能性は裁判所が判断するという制度になるべきなのかもしれない。ただ,それはそれでまた判断を不明確にするといった問題もあるわけですから,現在の制度を一応の前提にして,ある程度重要な子会社の役員に対しては,代表訴訟を認めるという制度もあり得るかと思います。根本的には,代表訴訟制度の被告を誰にすべきか,提訴懈怠可能性ということで網をかけるにふさわしいのは誰かというところが,重要な論点になるのではないかと思います。 ○野村幹事 一言だけです。荒谷委員のように複雑に考えておりませんで,非常に単純に考えているんですけれども,例えば,金融持株会社で,銀行持株会社とか保険持株会社のようなものがあったときに,そういう会社の場合には,事業の本体は下のほうでやっているわけですが,そこの株は買えないわけです。正にホールディングスの株しか買えないから買っているだけであって,それをあえて親会社の株を買ったんだからと言われても,それは下で事業をやっているほうを買えるのであれば,そこで買わせてもらいたかったという人はたくさんいるわけです。だから要するに,事業の本体が子会社ですから,子会社に対して自分は関心を持っているという株主がいるようなケースの場合には,その方々は,ホールディングカンパニーの株主にあなたはあえてなったんだから,子会社の経営については一切口出しができないんですよという論理は,どうも成り立たないのではないかというのが,単純に考えていることです。類型的には,親会社の損害と子会社の損害を分けて,子会社にだけ損害があると整理することは,組合せとしてあるのかもしれませんけれども,100パーセント子会社の場合には,やはり,観念的には,子に何らかの損害が出れば,親に損害が出ると想定できるのではないかと単純に考えています。 ○八丁地委員 ブレーキはたくさんあると思います。十分過ぎるほどブレーキがあって,むしろ使ってないくらいのブレーキがあるのではないかと思います。内部で自主的にやっているもの,国際的に義務付けられているものを踏まえて,ブレーキは何重にもあり,使い方をもっと工夫すれば,F1でも使えるようなブレーキはあると思います。それを信頼していただきたいと思います。   それから,二つ目は,子会社の役員になるのは気の毒だとか,酷だという話がございましたが,多くの会社はそのような経営はしていないと思います。子会社のほうがチャンスがあるということで運営していると思います。子会社であっても,そのガバナンスなり,法的な教育については,ほとんどの会社は十分やっていると思います。それに対する知識がなく,実行の気概がない人がほとんどだということはないと思います。だから,親会社の株主が代表訴訟を提起していくのではなくて,子会社を担当している本社の取締役が,管掌するという役割は十分あると思いますので,そこが中心となって子会社経営を監督していくというのは,日本企業に特有な形態かもしれませんが,あり得る形態だと思いますし,その運営がしっかりなされればいいと思います。   三点目は,海外で使っている制度だから導入すべきというのは,必ずと言っていいほど何度も出る議論ですが,海外で使っているから入れるとか入れないという議論をしているつもりは全くありません。今の日本の会社法で使える部分を徹底的に使うべきですし,また会社法を変えるというのは企業にとってコストでございますし,こういうのも大変恐縮ですが,日本企業は利益率が低いと言われていますので,そういうコストもお考えいただきたいと,真剣に思います。今あるブレーキを使って,それらの組合せなりで,できるところは工夫をしていくという実務の運用で,お考えいただきたいと思います。   それから,最後に,代表訴訟で被告になるというのは,酷とは言いませんが大変重いことであることを申し添えたいと思います。 ○岩原部会長 十分ブレーキがある,あるいは開示もきちんとやってきたし,きちんとグループとしてのコントロールも効かせてきたんだと,多分そういう企業も多いと思うんですけれども,従来でも雪印フーズが問題を起こして,それが親会社である雪印に大打撃を与えたり,東芝機械がやはり親会社に対して大変な打撃を与えたり,あるいは三菱ふそうが親会社である三菱自動車に対して大きな問題を起こすとか,そういう形で,子会社レベルで大きい問題を起こして,それが親会社を含めたグループ全体に大打撃を与えるというケースも,現に起きているわけです。子会社をきちんと管理して,なるべくそのような問題が起きないようにしていくということは,やはり必要で,それがきちんとしていないと,経済的なパフォーマンス,競争力も向上しないのではないかと,私は個人的にはそう思っております。   そのようなグループとしての全体,子会社等を含めたきちんとした管理体制をつくっていく方法として,先ほど加藤参考人がおっしゃいましたように,ドイツのように全体としてのコンツェルン規制を整備していくという方向と,もう一つ,子会社に対する代表訴訟の制度を整備するというやり方もあるということで,後者については,少なくとも現行法の代表訴訟の制度を言わば空洞化させないような意味での制度整備は考えられていいのではないかという御意見が,比較的多かったのではないかと思います。前者の全体としてのコンツェルン規制,企業結合全体の監督と言いますか,その体制をどうつくるかについては,この後の今日の後半の御議論もしていただきながら,開示等を含め,結合企業全体が良いパフォーマンスを上げられるようにするにはどういう制度を整備したらいいかということを御検討いただければ幸いではないかと思っております。   それでは,ちょっと時間をオーバーしましたけれども,休憩に入らせていただきたいと思います。           (休     憩) ○岩原部会長 討議を再開させていただきたいと思います。   それでは,次の論点といたしまして,第1の2といたしまして,親会社株主の情報収集の在り方について議論したいと思います。まず,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○大野関係官 御説明いたします。ここでは,親会社株主が企業集団に関する情報を適切に収集する必要があるのではないかという観点から,親会社株主の情報収集に関する規律について,見直しを検討すべき事項があるかという点を御提示しております。   部会資料の補足説明の1では,子会社に関する各種書面の閲覧等の請求権等,現行法の下における各種制度を挙げておりますが,これらに加え,親会社株主の情報収集に関する規律について,更に見直しをする必要があるかを御検討いただければと思います。   また,補足説明2では,親会社株主による子会社の会計帳簿の閲覧等の請求権の要件の在り方を採り上げております。この点については,平成17年改正前の商法において,親会社の「総株主ノ議決権ノ百分ノ三以上ヲ有スルモノ」であることが要件とされておりましたが,現行法の下においては,このような持株要件は,明示されておりません。現行の会社法第433条第3項においても,同条第1項と同様の持株要件が求められているという解釈もあるようですが,平成17年改正前の商法を参考に持株要件を明示することを検討すべきであるとの指摘もあるところです。しかし,親会社が株式会社に限定されるものではなく,持分会社やその他の法人である場合等,様々な類型が考えられることから,親会社が株式会社である場合のみを想定した規律を置くことは,親会社が他の類型の法人である場合と比較して均衡を失するおそれがあり,かつ,親会社として考えられ得るすべての類型の法人を想定した規律を置くことは困難であるとも考えられます。この点に関しましては,裁判所が許可の判断をするに当たり,請求者の持株数その他の請求者と親会社との関係も併せて考慮するものとの解釈などにより,親会社の法人の類型に応じて対応することも可能であるとも考えられます。このような解釈の当否を含め,見直しを必要とするかどうか,見直しをする場合にはどのような規律とすべきか,御議論をお願いいたしたいと存じます。 ○岩原部会長 それでは,この点について皆様の御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。 ○齊藤幹事 先ほどの多重代表訴訟のところと関連する内容ですけれども,ここでは帳簿閲覧請求権の話が採り上げられておりますが,検査役の調査も,情報収集等の点とガバナンスの強化の点において,重要な制度ではないかと思っております。実務においてこれがどのくらい使われているのかというところを必ずしも把握しておりませんが,代表訴訟ほどは存在感のない制度なのではないかと思います。その一つの要因としては,少数株主権になっておりまして,ハードルが高い点が挙げられるのではないかと思います。   しかしながら,多重代表訴訟の問題は,子会社管理に関するガバナンスの是正というところにあるかと思いますけれども,先ほどのお話でも,その反対論の背景には,実際に起こされている株主代表訴訟の中には,その代表訴訟がシンボリックな意味を持って起こされているような場合,損害のてん補というものが真の目的でない場合があり,これらの経験より,濫用されるおそれへの懸念等が抱かれている,ということがあるのではないかと思います。また,得ている報酬と請求される損害との不釣合いということも,制度の善し悪しに対する評価は別にして,あるのではないかと思います。その点,親会社の株主が検査役の選任を申し立てて,子会社の管理の状況を調べさせる,必要に応じて,親会社の取締役にアクションを要求するという制度は,もしうまく機能するのであれば,多重代表訴訟の代わりに,なれ合いのおそれという問題の一部を解消するのではないかと。検査役の調査は,また,検査役に対して,関係者が報告したりするので,検査役が中立性の高い立場から状況の把握をしてくれることに対する信頼感から,調査の対象となる人にとっても,株主代表訴訟よりは,もしかしたら抵抗感の小さいものではないかと。   検査役の調査の制度が我が国においてそれほど機能していないのだとすると,立法を多少変えたところで実際に使われるようになるかは分かりませんので,その点についての見通しを立てることは大変難しいと思いますけれども,多重代表訴訟とともに検討するに値するのではないかと思いましたので,ここで指摘させていただきます。 ○中東幹事 検査役調査の拡充という点で,齊藤幹事の御意見に賛成です。 ○本渡委員 この会計帳簿の閲覧権の提案をさせていただいたものとして,採り上げていただいたことは非常にありがとうございます。ただ,ここに書かれておりますように,裁判所の許可を要件とされておりますので,裁判所が適切に判断していただけると思いますので,また,持株要件を絶対付けるような法改正をしなければ絶対にいけないと考えているわけではありませんので,ここに書かれているとおりでいいと思います。こうやって書いていただいたことによって,裁判所の御判断も,こういうことが斟酌されるようになるかなと思っております。 ○石井関係官 裁判所の判断という御指摘がございましたが,実務上,親会社株主による子会社の会計帳簿の閲覧等請求事件の件数は多くなく,私が承知している限りでは,持株要件に関する問題が顕在化した例はないようでございます。裁判所としましては,解釈が明確でない点については立法で手当てしていただいたほうが判断をしやすいというところがございますので,その点については指摘をさせていただきます。 ○岩原部会長 ほかに何か御意見ございますか。問題点は,大体皆さん御理解いただいていて,あとは立法上の問題として一体どこまでうまく書けるかというお話だろうと思いますので,あとは事務当局のほうに御検討いただくということにして,次の論点に移ってよろしいですか。   それでは,次の論点に移らせていただきたいと思います。次の論点は,第2の「子会社に関する意思決定への親会社株主の関与に関する検討事項」という問題でございます。これにつきましても,事務当局からの御説明をお願いしたいと思います。 ○大野関係官 御説明いたします。部会資料の4ページ以降になります。   本文ですが,企業集団における親会社株主の保護をより充実させる必要があるのではないかという観点から,子会社に関する意思決定につき親会社株主の関与を認めることについて,どのように考えるかを問うものでございます。   (注)は,いずれも具体的に問題となる点を挙げるものですが,まず,(注1)は,子会社が一定の意思決定をする場合に,親会社株主総会の承認を受けなければならないものとすることについて,どのように考えるかを問うものです。取締役設置会社における株主総会が決議することができるものとされている事項については,会社に基礎的変更を生じる事項,機関の選任・解任に関する事項等に分類,整理することができると考えられます。そこで,子会社の一定の意思決定がこれらと同視し得る場合であれば,親会社株主総会の承認を受けなければならないものとすることも許容される余地はあるものとも思われます。もっとも,その場合,迅速な意思決定という企業集団による経営のメリットが損なわれるおそれがあるとの指摘がありますので,この指摘も併せて考慮する必要があるものと考えられます。   (注2)は,親会社が第三者に対して子会社株式を譲渡しようとする場合に,親会社株主総会の承認を受けなければならないものとすることについて,どのように考えるかを問うものです。現行法上,事業譲渡における「事業」の用語に,概念上,子会社株式は含まれないとすると,親会社が第三者に対して子会社株式を譲渡しようとする場合には,親会社株主総会の承認を要することなく行うことができることとなります。しかし,親会社の第三者に対する子会社株式の譲渡は,親会社が事業譲渡をすることと比較し,親会社株主に与える影響という点では,実質的に異ならない場合があるように思われます。そこで,この場合についても,親会社株主総会の承認を受けなければならないものとする余地があるとも考えられます。この場合,親会社自身の意思決定についての親会社株主の関与の在り方の問題ですので,これを親会社株主総会の決議事項とすることは,(注1)の場合と比べ,現行制度の枠組みにより整合的であるとも考えられます。もっとも,この場合であっても,迅速な意思決定という企業集団による経営のメリットを損なうおそれがあることは,(注1)の場合と同様ですので,その点について配慮が必要であるとも考えられます。仮に,親会社が第三者に対して子会社株式を譲渡する場合に親会社株主総会の承認を受けなければならないものとするときは,その要件の在り方について,どのような場合であれば,親会社が第三者に対して事業譲渡することと実質的に異ならないと考えられるか,御議論いただければと存じます。 ○岩原部会長 それでは,子会社に対する意思決定への親会社株主の関与に関する検討事項について,御議論いただきたいと思います。いかがでしょうか。 ○伊藤幹事 この問題につきましても,先ほど加藤参考人から報告がありましたとおり,単独の株式会社を想定したルールが空文化したり潜脱されたりすることを防止するという視点が,やはり重要かと思います。そのような視点から必要な改正であれば,やはり行うほうがよろしいかと存じます。こういった考え方からしますと,まずは,部会資料4の4ページにあります(注2)のような子会社株式の譲渡というルールを,まず重要なものとして考えればよいのかなと思います。他方で,このルールについては,一つ考えるべきかと思うことがあります。それは,単独の株式会社を想定したルールの空文化を防ぐということを考えるときにも,そのために親会社の株主に権限を与えることで対処すべき程度に大事なルールなのかということを,検討すべきではないかということです。この子会社株式の譲渡ということについて,問題になるルールというのは,会社法467条1項1号と2号,事業の全部又は重要な一部の譲渡についてのルールですけれども,事業の全部の譲渡と,それから重要ではあっても一部の譲渡との間では,それが例えば株主の利益にとって持つ重要性,株主に与える影響の大きさには違いがあります。取り分け日本は,アメリカ,ドイツに比べて,事業の重要な一部の譲渡について総会決議が要求される範囲がかなり広くなっています。ですから,選択肢としましては,子会社の株式の譲渡については,467条1項の中では1号,事業の全部の譲渡の空文化のみを考えるということも,ないではないと思います。そうしますと,親会社自身の実質的に全部の事業の譲渡と同視できるだけの子会社株式の譲渡について対処するということになりそうです。 ○奈須野幹事 本件につきましては,本来は,現行の会社法の467条1項2号における「事業の重要な一部の譲渡」に照らして株主総会決議の要否を判断すべきであり,それが法律の文言どおり運用されていないのであれば,その原因と実態を踏まえて制度を改善すべきだろうと考えます。この点で,6月の提案を改めます。   まず,部会資料の(注1)に記載しているような,子会社が一定の意思決定をする場合に親会社株主総会の承認を受けなければならないものとするという制度については,現状で「事業の重要な一部の譲渡」ですら補捉していない場合についてまで新たに規制する必要がないと考えます。   具体的には,UFJ銀行事件で発生した重要な子会社における拒否権付種類株の発行のような,事業の譲渡に形式的に文言上該当しないような脱法的な行為については,個別具体的な事案に応じて,会社法の467条1項2号における「事業の重要な一部の譲渡」に実質的に該当するかどうかを株主は裁判で争うべきであって,将来の脱法的な例をあらかじめ予想してこれをすべて法律で封じることは,理想的にはそうであっても,実際的には困難であろうと考えるからです。また,現状でも,このような新たな脱法行為は法律よりも柔軟な上場ルールで規制されています。   次に,部会資料の(注2)にあるような,重要な子会社の譲渡については,現行法の文言であっても,467条1項2号における「事業の重要な一部の譲渡」として補捉することで,一定の基準を超過する場合において,現行法でも親会社の株主総会の決議が必要であるという解釈も成り立ち得ると思います。   その理由ですが,会社の「事業」は,「一定の目的のため組織化され,有機的一体として機能する財産」ということでございますので,子会社を通じて会社の事業を行う場合におけるその子会社も,客観的に見て,当然これに含まれると解するのが合理的だろうということです。主観的に見ましても,その譲渡は,親会社の本体のみならず,関連する子会社を含めて一括譲渡するということとしなければ,譲渡人側における譲受人に対する競業避止義務も履行できないということになります。したがって,会社の事業の譲渡は子会社も含めて考えるのが合理的だろうと思います。このことは,事業持株会社のケースはもちろん,純粋持株会社のケースであっても,基本的には変わらないと思います。   これに対して,重要な子会社の譲渡については,467条1項2号を文言どおりには適用できないという見解もあろうかと思います。それはなぜかというと,「事業の重要な一部の譲渡」の5分の1という基準があまりに厳しいため,同号を適用することが実際には現実的でないという判断から,そのような一義的な文言を離れた解釈が通説化しているのではないかと思います。確かに,純粋持株会社における組織再編,あるいは投資ファンドで株式会社形態を採っているような場合における保有株式の処分というものを考えると,5分の1を基準に総会を必要とするのは不都合が多いです。   そう考えますと,この重要な子会社の譲渡については,467条1項2号の文言が厳し過ぎるがゆえに空振りになっている実態を踏まえ,諸外国の制度を参考に,もっと緩和した上で明確化していくということが,法律に即した運用を促していくという上で必要だろうと思います。この点,ただいまの加藤参考人の御紹介ですと,諸外国を見ますと「all or substantially all」ということになっておりますので,そういうことも参考になるのではないかと思います。 ○逢見委員 (注2)にあります親会社の子会社株式の第三者譲渡について,意見を申し上げたいと思います。   現行会社法の467条1項1号,2号での事業の譲渡については,株主総会の特別決議が要る,しかし,それが子会社であれば要らないということになると,子会社も重要な事業を担っているケースがあるわけで,そこに働いている従業員にとっても,今,選択と集中という形でいろいろな企業がやっている事業の中で,譲渡するという重要な経営判断が行われる場合に,それが子会社であるケースも相当あるわけです。そうすると,従業員にとって,それはただ単に株主の移転ではなくて,従来自分が所属していた企業グループからの離脱を意味するし,働く環境そのものにも大きく影響してくる。それから,自分たちが子会社でやってきたものが一体親会社に対してどれだけの価値を与えていたのかということについても知りたいというのがあって,それはただ単に経営者の一存で決めるということではなくて,やはり株主総会での決議を経ることによって,譲渡される側に,自分たちが子会社として別のところに譲渡されるというときに,今までやってきた価値が親会社にとってはどの程度の評価を受けていたのか,株主にとってどのぐらいのものとして考えられてきたのか,それを譲渡することの対価と,それからそのことによって残る親会社の経営上の価値がどうなるのかということは,やはり従業員にとっても非常に知りたいわけですし,もちろん労使関係上の労使協議の場で議論することであるかもしれないけれども,一方で,株主がどう考えているかということも非常に重要な意思決定の材料になると思いますので,ここはやはり株主総会の承認ということが必要だと思っております。 ○田中幹事 二点ほどありまして,一点目は,奈須野幹事の最初の御発言についてですが,子会社で,重要な子会社に新株発行をさせることで,事業上,同じような効果を実現できてしまうというのは,現行法の規制だと対処ができないんです。つまり,やはり子会社の行為は子会社の行為ですから,それが仮に脱法的な行為と評価されても,日本の現行法には,親会社の株主が子会社取締役の違法行為を理由に差止めを求められる規定がないですから,できないという結論になるのではないかと。確かに広く網をかけるような規制を課すべきではないのは確かなのですが,ちょっと日本の制定法の解釈,つまり文言を重視する伝統的な解釈論ですと,そもそも脱法的なものに網をかけるためのインフラストラクチャーがないというところもあるかと思います。先ほど挙げられた,特定の事案が本当に脱法かどうかは分かりませんが,あれを脱法的だと考えて,何らかの対処が必要だと考えるときは,やはりインフラストラクチャー整備のための規制は必要だと思います。これは具体的に言うと,多重代表訴訟の話が先ほど出ましたけれども,多重差止めということです。もともとデリバティブスーツはアメリカ法の制度ですが,アメリカの場合は,責任追及も差止めもデリバティブスーツなので,責任追及が多重になるとすれば,差止めも当然多重になるわけです。もちろん,諸外国の規制にそろえる必要はありませんが,子会社の行為の中でも,特に重要な子会社に新株発行をさせるという行為は,アセットロックアップといって,一番重要な資産を買収者に渡すことで,対抗的な買付けを不可能にするということで,支配権争いを困難にすることもあり得るわけですが,少なくともそういったものに対処するため差止制度の拡張ということも検討していただきたい。これは,ことによると,多重代表訴訟の責任追及以上に重要になってくる場面もあるのではないかと思います。   それから,二番目の話は,子会社の株式を譲渡することが事業譲渡になり得るかどうかということなのですが,私は,現行法の解釈でも,そのような解釈は十分あり得るのではないか。親会社は,子会社を通じて事業をしていると一般的に考えることができると思いますので,子会社株式を譲渡することで,その子会社を通じて行っている事業が移転するということになるわけですから,それについて事業の譲渡であると考えることはあり得るのかなと思います。ただ,この点は,先ほど伊藤幹事が言われたように,現実的に事業の譲渡の規制がちょっと広く網をかぶせ過ぎているのではないかという考え方もあり得るかと思いますので,もしそのような評価をするのであれば,むしろ伊藤幹事が言われたように,あえて狭める形での立法ということも考えられるかも分かりません。ここはちょっと私もはっきりした考えがあるわけではありません。素朴に考えますと,5分の1というのは,かなり重要ではないかと思います。例えば純粋持株会社を考えると,5分の1基準によって,その持株会社の持っている子会社株式がこの要件に該当するのは,多分三つぐらいしかないと思いますので。ですから,十分に考えがあるわけではありませんが,これは事業の譲渡の要件との関係で考えていく必要があるのではないかと思います。 ○三原幹事 二つ質問と言いますか,議論の前提を少し教えていただきたいと思います。まず,第一点は,この子会社株式の譲渡等が事業譲渡に当たるかどうかという点に関し,その議論の前提として,これが事業譲渡に当たる場合には,469条の反対株主の買取請求権もあるという,そういう議論を今していると考えてよろしいのでしょうか。それとも単に,これは事業譲渡をする場合の機関決定の問題として親会社の株主総会での特別決議が必要です,なければできませんという話なのでしょうか。ここがよく分かりませんでした。なぜ分からなかったかと申しますと,平成10年に,親子会社法制等に関する問題点という質問が法務省から出されまして,そのときの質問の中にあった,子会社株式の譲渡等のところについては,特別決議を要するものとし,反対の株主には買取請求権を認めるべきであるとの意見があるがどうか,というように,買取請求権と一緒になって質問が出されていたと思います。今回は,単に総会の決議だけということでお伺いされているのか,その辺の前提がよく分からなかったので教えていただきたいということです。   それから,二つ目は,子会社の株式譲渡でも,親子会社,グループ内での譲渡という事例もあるわけでございまして,例えば,子会社に別の子会社株式を譲渡して,言ってみればグループ内で譲渡しているような場合,結局グループ外には出ないという場合でも,この規制がかかるということで議論しているのか,それとも,グループ外の第三者に譲渡する場合だけを念頭に置いて議論しているのかという点もちょっと分かりませんでしたので,この二点について,今回の御質問の中に,これらの論点が入っているのかどうかをお伺いしたいということでございます。 ○岩原部会長 これは恐らく部会資料4の問題提起の意義に関するお問い合わせだと思いますので,事務当局のほうから,問題意識を言っていただければと思います。 ○河合幹事 子会社株式の譲渡等について親会社株主総会の決議を要するとする場合の株式買取請求権の有無やグループ内における譲渡の取扱いにつきましても,どのように考えるべきか,この部会の中で御議論いただければと存じます。部会資料4は,それらの点について直接言及しておらず,ニュートラルでございます。今回の御議論を踏まえてこのテーマについて更に議論を進めていく場合には,例えば,株式買取請求権について,現行法における事業譲渡の場合と同様にこれを認めるという結論を採らないほうがよいという御意見があるようであれば,その点をどう考えるかについても検討していきたいと思っております。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。三原幹事が御指摘のように,この部会資料4に書いてあるような問題提起を詰めていけば,当然そういうことも問題として出てくるということになりますので,そういう問題を含めて御議論いただければと思う次第であります。いかがでしょうか。 ○八丁地委員 子会社が一定の意思決定をする場合に,親会社の株主総会決議を要するという点については,反対です。別会社としての意図,意思決定の迅速性,機動性の確保とは逆行するものだと考えざるを得ないと思います。株主総会の開催に伴う時間,金銭その他の負担を払ってもなお親会社株主総会の承認を必要とするという事項はないと考えております。 ○中東幹事 467条1項1号ないし2号で,子会社株式を事業譲渡に解釈ないし立法で含めるというのは,それで賛成なのですが,中間持株会社があるような場合について,一番上の持株会社が中間持株会社の100パーセントを持っている,その中間持株会社がたくさん事業会社を持っているという場合,その中間持株会社が事業子会社の株式を売却した場合にはどうなるのかということをお教えいただけませんでしょうか。その場合に,これは親会社自身の決定というわけでもないかもしれませんし,そうであるのなら,(注2)の問題は,(注1)の問題につながってくるのではないかと思っております。その点をお教えいただければと思います。 ○岩原部会長 これは部会資料4の問題意識としてはどういうふうなことを考えていたかという御質問だとすれば,事務当局のほうからまずお願いします。 ○河合幹事 今御質問いただいた点につきましては,事務当局として,特に確定的な見解を持ち合わせてはおりません。御指摘のような場合についてどのように考えるべきかも含めて,御議論を頂ければと考えております。 ○野村幹事 (注2)の子会社株式の譲渡については,やはりある一定の規模のものを前提にした上で,立法化すべきではないかと考えております。その理由といいますのは,例えば分社化の手段としては,会社分割がございますが,事業をまず内部に持っているうちに,その事業自体を外部に事業譲渡するという場合について,現行法上は当然株主総会の決議が必要なわけですけれども,いったんそれを会社分割という形で外に出した後,その子会社株式を売ってしまうというときには株主が関与できないということは,やや不自然な感じもするからです。もちろん,会社分割をするときには株主総会の決議があるではないかということなんですけれども,そのときには100パーセント子会社としてぶら下がるということを前提にして承認しているだけでありまして,他にそれを譲渡するということは当然想定されていないわけですが,それを将来的には譲渡することを秘した上で会社分割だけを行ってしまえば,あとはだれにも文句を言わせずに勝手に売却できるということでは,やや現行法の制度が脱法的に利用される可能性があると思いますので,やはりそこにはきちんと手当てを施すべきではないかと思います。あと理論的には,田中幹事がおっしゃったんですけれども,株式という形では持っていますけれども,その先につながっているのは事業ですので,これは事業を譲渡すると考えるべきものであって,現行法の解釈においても,それは可能なのではないかと思っております。 ○岩原部会長 野村幹事がおっしゃいましたように,あるいは先ほど伊藤幹事,田中幹事からも御指摘がありましたように,実質的に株式の処分であっても事業譲渡と変わらない経済効果を持つ場合については,事業譲渡と同じような手続が必要ではないかという考えが強いと思います。先ほどの加藤参考人の御紹介にもありましたように,大体諸外国でも,基本的にはそういう制度が採られているようであります。それについて,先ほど奈須野幹事からは,それは脱法として解釈でいくべきではないかという御意見だったと思いますが,先ほど石井関係官が会計帳簿閲覧請求権についておっしゃいましたように,裁判所としてはなるべく要件を明確化することを求めておられる。裁判所がリスクを取って解釈でそういうことを認めていただけるということは,なかなか大変なことであり,ある面,判例等も固まっているところもありますので,その現状を変えるために,やはり何らかの立法的な手当てが必要ではないかというのが,この部会資料4の問題意識だろうと思います。ただ,それをどういう要件で書くのかというのは大変難しい問題で,今まで議論が出ておりますように,現在のような適用要件に関する判例の基準を前提にするのかということから,先ほど中東幹事がおっしゃいましたような,中間持株会社のような場合,あるいはグループ内での譲渡のような場合については,多分例外を認めたほうがいいのではないかということが出て来ると思いますので,書く以上は,そういうところを詰めて検討する必要が出てくるということになるかと思います。   いかがでしょうか。御意見等はございませんでしょうか。 ○中東幹事 立法が必要かどうかを判断するための前提として,実務家の方々がいらっしゃいますので,実務的にはどうやっていらっしゃるのか,お教えいただけませんでしょうか。 ○三原幹事 実務的にどうやっているのかという話でありましたけれども,これは弁護士の間でもちょっと議論したのですが,実際に事業になるかどうかという,先ほど中東幹事のおっしゃったような議論もありまして,事業譲渡に当たる可能性を考えると,保守的にはこれを総会に実質的にかけるようなことが必要ではないかということを助言して,そういうことをやっている,つまり,どちらに転ぶかによって法令違反になるということがあるのであれば,その事業を譲渡すること自体を総会にかけることで,そのリスクを完全に排除して事業を進めるほうが適正である,そういうことをしている例というのは実際にあるということを,我々実務家の間でも議論しました。   ただ,逆に言うと,そこが明確でないために,これは当たらないですよね,というような場合には,これは会社の判断ではないかということになるような事例もありますので,そこは先ほど中東幹事がおっしゃったとおり,株という場合,例えばよくあります純投資なのか,政策保有なのかなど,いろいろな状況があるわけでございますので,その状況に応じて,これはやはりやったほうがいいという場合とそうでない場合というのは,区別されてもいいのではないかと思います。単に子会社といっても,いろいろな形があり,たまたま持っているということかもしれませんし,子会社の中には,会計上の子会社のところも概念としては実務的に入ってきますので,40%を持っていても,人的関係があれば実質的には連結子会社になっている,そういう場合もあるわけです。このように様々な状況があるので,ここはどうするのがいいのかということは,明確化したほうがいいのではないかという気もしますけれども,実務に対する御質問ということであれば,とにかく法令違反になると大変大きな問題になりますから,それにかかわる微妙なところはなるべく総会にかけたほうがいいのではないかという助言をしている例は,恐らく複数あるという御回答かと思います。 ○奈須野幹事 私どもが企業からヒアリングしたときは,二つ実務上の観点からの見解のコメントがありました。   一つは,事業持株会社のケースです。こちらについては467条1項2号がありますので,親会社の部分と子会社の部分と合わせて5分の1以上を超えるということであれば,総会にかけないと同号との関係で危険だろうという理解があります。それは先ほどの三原幹事のアドバイスと同じだろうかと思います。ただ,実際には,事業持株会社で,単体で5分の1の規模を超えるほどの子会社というものは普通ございませんので,該当することはそれほどないと思います。   もう一つは,純粋持株会社のケースです。こちらは5分の1といった企業規模で考えるという習慣は余りなくて,もともとの経営統合の前の形態との関係で,「巻き戻し」が生じるようなときには,総会にかけないと株主は怒るだろうという認識があります。企業の側は「重要な事業の一部」の「重要」性というものを,会社法で想定しているような総資産ベースでは考えていなくて,例えば,グループの事業戦略上の重要性や収益上の重要性で考えることが多くあります。そのような様々な重要性の一つとして,かつて上場していたというような経緯もこれに含まれているということです。   このように,事業持株会社のケースと純粋持株会社のケースとは,理解が少し違うのかなという感じを持っております。 ○中東幹事 解釈が確定していないために,保守的になっていることは,これは株主総会との関係では望ましいことだと思うのですが,現行法では株式買取請求権が付いてきますので,その場合に自己株式取得について財源規制がないということになります。そこのところでは,法的リスクを冒している,保守的ではないということになると思います。解釈が確定していないのであれば,やはり一定の立法は何らかの形で必要かと思っています。 ○前田委員 (注2)の子会社株式の譲渡につきましては,先ほどからの御議論に私も賛成です。子会社株式譲渡の問題は,親会社自身の意思決定の問題であり,既に御指摘がございますように,現行法の解釈でも対応できる余地はあるでしょうし,岩原部会長がおっしゃいましたように,この際,明文で手当てするのが望ましいのではないかと私も思います。   より難しいのは,(注1)のほうの問題で,これは子会社の意思決定ですので,どこまで親会社株主を関与させるかというのは,非常に難しい問題だと思います。これをすべきかどうか,あるいはどの範囲ですべきか,ということを慎重に考えなければならないと思います。親会社株主に与える影響の大きさということから考えますと,やはり子会社の組織再編ということになるのか。そして,この場面では,重要な子会社という絞りはかけざるを得ないと思います。このように,(注1)の問題は,相当に詰めるべき問題が残っているなという感じはいたしますけれども,基本的な考え方の方向につきましては,御提案に賛成でございます。 ○八丁地委員 会社法の467条で,総会決議を要するのは総資産額5分の1の要件ということがございますが,経済界の中には,これを緩和すべきではないか,例えば半分であるとか,機動的な企業運営の立場からこの要件自体も緩和したらどうかという意見がありましたので,申し添えておきます。 ○上村委員 仮に株主総会の決議が要るとした場合ですが,これは違反した場合にどうなるかというのが大きな問題で,事業譲渡一般の話ですと,単に有機的,組織的一体財産だけではなくて,事実関係,活動の移転も含むという場合ですと,これは事実上の合併と見て合併規定を類推するといったことが解釈論としてあり得るかもしれないんですけれども,そうなると提訴期間は6箇月とか,いろいろな規定の適用があり得ます。子会社株式を譲渡して無効になったときに,そういう手続がないものですから,抗弁権が永久だというのでいつまでも無効主張が可能になって,それで将来戻そうと思っても株主構成が変わっているかもしれないし,それからグループの中での役割が非常に変わっているというときに,戻しようがないということもあるので,先ほどから考えていたんですけれども,どうしたらいいかまだちょっと分からないんですが,取りあえず大変重要なことだと思いますので,一応申し上げておきます。 ○岩原部会長 実際,立法しますと,法的効果を含めて十分考えて,必要であれば手当てするという問題が出てくるかと思います。   (注1)のほうについてはいかがでしょうか。前田委員からの御発言があっただけですけれども,(注2)で扱っている事業譲渡以外であっても,非常に重要な子会社による意思決定というのがあるわけで,正に先ほど御指摘があったUFJの事件,あれは子会社の取締役会で拒否権付種類株式の発行をやってしまっていますけれども,実質的な意味としては事業譲渡と変わらない支配権の移動があったわけです。そういう子会社における決定的な意思決定,特に野村幹事から御指摘がありましたように,金融持株会社ですと,持株会社よりもむしろ子会社である金融機関のほうが非常に重要であるということが普通でありまして,そこの意思決定について何も親会社の株主が問題提起できないということでいいのかというのは,かなり深刻な問題としてあると思いますが,いかがでしょうか。 ○荒谷委員 私も同様に細かい要件は分かりませんけれども,ある一定の歯止めをかけるために,組織再編ですとか,重要な財産を譲渡するような場合につきましては,株主総会の決議が必要ではないかと考えます。ただ,今,上村委員がおっしゃいましたように,株主総会決議を経ていなかった場合の効果,その及ぼす影響等の大きいこと等を考えますと,差止めを認める余地があるのではないかと思われます。差止めには事前規制としての効果がかなり期待できると思いますので,株主総会決議とは別に,事前に差し止めるという手段を何らかの形で導入してはどうかと考えております。 ○岩原部会長 差止めの問題の重要性については,前に田中幹事も確か御指摘になっていたところかと思います。ほかに何か御指摘はございますか。   御発言がなければ,よろしいでしょうか。本当は,企業グループの問題は,これだけではないはずでありまして,先ほど安達委員から御指摘のあった開示の問題とか,その他,親会社がきちんとグループ全体として内部統制をする必要あるいは義務がどこまであるのかとか,いろいろな非常に大きい問題があるはずでありまして,そういうところも今後,御意見があればお寄せいただければと思います。   本日は,特に御発言がなければ,予定した議事を終えることになりますので,本日の部会を終了したいと思います。その前に,次回の部会の予定について,事務当局からお話を頂きたいと思います。 ○河合幹事 次回は,11月24日水曜日,時間は午後1時30分から午後5時30分までの予定で,場所は東京高等検察庁第2会議室となります。次回の内容としましては,本日に引き続きまして,親子会社に関する規律の検討をお願いする予定でございます。よろしくお願いいたします。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。   それでは,法制審議会会社法制部会第6回会議を閉会させていただきます。皆様,大変熱心な御討議をありがとうございました。 -了-