法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会           第8回会議 議事録 第1 日 時  平成22年10月22日(金)  自 午後1時30分                         至 午後5時02分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(親権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○野村部会長 それでは定刻がまいりまして,御出席予定の方でまだ若干お見えでない方がございますけれども,始めたいと思います。   最初に,配布資料確認ということで,事務当局からお願いいたします。 ○森田関係官 本日使用します資料として,部会資料9「児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する個別論点の検討(2)」をお送りさせていただきました。それから,本日は前回使用しました部会資料8「個別論点の検討(1)」も使用します。予備が事務のほうにありますので,お持ちでない方はそちらのほうでお願いいたします。 ○野村部会長 それでは,前回の後に法制審議会の総会がございまして,そのときに中間取りまとめについて報告しましたけれども,幾つか質問,意見等が出ましたので,これにつきましては事務当局から御報告をお願いいたします。 ○飛澤幹事 それでは,私のほうから御説明申し上げます。   去る10月5日に開催されました法制審議会第163回会議におきまして,野村部会長から本部会における審議経緯及びこの7月に取りまとめられた中間試案の概要についての中間報告をしていただきましたところ,総会の委員より幾つかの御要望,御指摘をちょうだいしましたので,その概要を御紹介させていただきます。   まず,全般的なものといたしましては,法律の改正だけではなく,関係省庁で協力して実施体制を担保してもらいたいという趣旨の御要望がございました。   次に,親権制限制度及び未成年後見制度における法人後見や複数後見の制度設計に当たっては,それらがうまく機能するように配慮してほしいという趣旨の御要望がございました。さらに,懲戒権の規定の見直しに関して,現在の規定は,児童虐待をした親の言い訳に使われたり,行政が介入する際のハードルになっているのではないかと思われるので,今後の部会の検討を通じて,納得できるような制度にしてほしいという趣旨の御要望がございました。   他方,もしおよそ懲戒権というものはおかしいということで民法の懲戒権の規定が削除されると,学校教育法11条の懲戒権も削除するという動きが出てくるおそれがあり,そうなると教育現場に大きな影響を及ぼすのではないかという趣旨の御指摘もございました。   総会でございました御要望,御指摘の概要は,以上のとおりでございます。 ○野村部会長 何かこの点について御質問等ございますか。よろしいでしょうか。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。本日は,前回積み残しの分がありますが,今回で一応個別論点については議論を終了させたいと思いますので,何とぞ御協力をお願いしたいと存じます。   本日は,これから御審議いただきますけれども,最初に前回の積み残し分の資料8から始めます。その後いったん資料9に移り,また8に戻り,更に9に進むということで,ちょっと資料が行ったり来たりしますけれども,よろしくお願いいたします。   まず,前回の部会資料8の「第1 親権制限に係る制度の見直しに関する個別論点」のうちの「3 同意に代わる許可」というところから再開したいと思います。   では,まず事務当局から御説明をお願いいたします。 ○森田関係官 第1の3では,同意に代わる許可の制度について取り上げております。この点につきましては,むしろ親権又は管理権の制限をして,未成年後見人を選任することで対応すべきとの指摘もされており,中間試案においては,制度を設けるかどうかについて,なお検討するものとされておりました。このように,中間試案では,制度を設けるかどうかについて意見募集をしましたが,要件等,具体的な制度設計についても問題点が指摘されていたところでございまして,適切な制度設計ができるのかという課題もございます。   そこで,ここでは同意に代わる許可の制度を設けることについてどのように考えるか,御議論いただければと存じますが,まず,注1に記載の問題点について,それぞれどのように考えるか,これらの問題を解消することができるかどうかについて御意見を頂ければと思います。   特に,②の点は,これまでも御指摘があったものの,必ずしも議論の対象となってこなかったように思いますので,最初にふえんして御説明させていただきます。この点は,同意に代わる許可の制度が,制限行為能力を理由に契約が取り消されないようにするということだけをその効果としている点に関する問題です。すなわち,同意に代わる許可がされても,未成年者はなお制限行為能力者のままであり,親権者のほかには契約関係に対応する適切な法定代理人が用意されないため,例えば未成年者に債務不履行等があって,契約の相手方が契約を解除したり損害賠償請求をしたりしようとする場合,解除の意思表示や損害賠償請求は,契約にかかわっていない親権者に対してしなければなりません。しかし,親権者が同意をしていない契約について,突然解除の通知を受けたり損害賠償の請求がされたりすれば,事実上トラブルが生ずることも考えられます。このように,裁判所の同意に代わる許可の審判があって契約をしても,親権者との間でトラブルになり得るということが十分に周知されないと,実際に契約上の問題が発生したときに混乱を招くということになりかねません。そのため,同意に代わる許可の制度を設けたとしても,このような事情を相手方によく理解してもらった上で契約をする必要があり,逆に言えば,このような実情を理解した上でなお契約を締結してくれるような相手方との契約にのみ利用することを想定した制度ということになります。このような制度を設けるということが適当なのかという問題があるのではないかという趣旨です。   ①,③,④につきましては,これまでも御議論いただいてきた点ですが,①は,先ほどとは逆に,契約の相手方のほうに債務不履行があった場合などに関する問題点です。同意に代わる許可をするだけでは,未成年者のために適切に法的対応をする者がいませんので,未成年者のための対応として不十分と言えますが,そのような制度をつくるのが適当かという問題です。   ③は,法律行為についての問題が生じるたびに同意に代わる許可を得なければならず,未成年者に過度の不都合を強いることになるという問題です。   ④は,ふだんから未成年者の状況を把握しているわけではない裁判所が,適切に判断することは困難なのではないかという問題です。   次に,注2では要件について記載しております。   ①ですが,同意に代わる許可を考えるに当たり,国家が介入すべきでないような家庭の事案に国家が介入することがないように要件を設定しなければならないということについては,御異論がないものと考えておりますが,具体的にどのような要件とするのが適当かを検討する必要がございます。仮に中間試案のような要件としますと,親権の一時的制限の原因と基本的な部分が同様となりますので,本来親権の一時的制限をすべき事案であっても,安易に同意に代わる許可の制度が利用されるようなことにならないか,同意に代わる許可と親権の一時的制限の両制度の関係についてどのように考えるのか,家庭裁判所は,一方の申立てがあったときに他方の審判をすることができるものとするのかなどを検討する必要があろうと思われます。   ②は,意思能力のある未成年者一般に適用されることを前提として同意に代わる許可の制度を設けることは適当でないという御指摘があった点についての検討課題です。   なお,同意に代わる許可の制度は,未成年者自身が一定の法律行為をしようとしている場合を想定した制度ですので,仮に制度を設ける場合,家庭裁判所への請求権者は未成年者本人のみとするのが自然だろうと思いますので,そのことを前提に御議論いただければと存じます。   以上でございます。 ○野村部会長 それでは,ただいまの事務当局の説明に関して,一方で制度を設ける場合にいろいろな問題が出てくる。その問題がうまく解消できるのかということと,もう一つは,制度そのものが適切な制度として設計可能なのかといった事務当局からの疑問が提示されましたけれども,これらの点についてどのように考えるかということです。 ○磯谷幹事 この制度について,以前から是非導入するべきだという立場から発言をしております。その理由は,これまでお話ししてきたところと重なりますけれども,現実に幼いころに親と分離された子供たちというのが少なからずいるわけですけれども,その中で残念ながら親と没交渉になっている子供たちがおります。こういう子供たちが自立するというところで必要な契約行為をしなければならないときに,なるべく迅速に,そして比較的簡便な形で対応できるということは,子供たちにとって大きなメリットだろうと考えています。加えて,後見制度が随分改められるとしても,その後見人の責任という問題が残るということもございますので,未成年後見人が本当に速やかに見付かるか,適切な後見人が見付かるかというところは,なお予断を許さないところだと思っております。そういう意味で,この同意に代わる許可というのが必要だとお話ししてきたわけです。今日は,しかし一方でいろいろと懸念とか御批判があるということも,これまでの中で理解しております。その制度について少し考えてみまして,このような形でつくってはどうかと思っております。   まず第1点は,申立人ですけれども,もともとこれが自立を目指す子供たちをサポートするという目的である以上,年長の子供について認めるのが理にかなっているだろうと思いますので,義務教育は終わったころということで,15歳以上の子供たちに申立ての権利を認めるのが望ましいのではないかと思っています。   そして,裁判所は自立のために必要があると認めるときは同意に代わる許可をすることができるといたしますと,いろいろ濫用的なものの御心配があるようですけれども,自立のために必要なというところで,裁判所がそのような認定をして行えば,そのあたりはまた一つ解消できるのかと思っています。   それから,この申立てをするときに,親権の一時制限の原因を,ここはどういう言葉を使うかというのは私も何とも言えませんが,少なくとも裁判所が,一応この一時制限の原因があるであろうと認識できる状態にはあるべきなのだろうと思います。それが疎明なのか何なのかというところはともかくとしまして,例えば子供の側からのいろいろな主張とか証拠とかを見た限りで,なるほど,これは一時的な制限の原因があるであろうと思えることもまた条件にしてよいのではないかと思います。   加えて,ここが大きいのですけれども,親権者に通知をしまして,一定期間内に反対の意思表示がない場合に許可ができるとしてはどうかと思います。先ほど申し上げたように,実際上は親権者はもうほとんど「おれは知らん」ということで放置するという中で子供が困っているということですので,親権者のほうが,それは反対だという明示的な意思を述べてきた場合には,これは少し慎重に検討する必要が出てきてもおかしくないのかなと。一方で,このような通知を受けても,一定期間,例えば2週間とかの間に親権者から何の返事もないということであれば,先ほどの一時制限の原因が一応あるであろうという裁判所の判断と併せて考えますと,これは裁判所が同意に代わる許可をしても,特に過度な介入ということにはならないのかなと思っています。   ということで,申立人を15歳以上の子供に限り,そして自立のために必要のある場合にこの許可ができるということにして,その前提として,一時制限の原因が少なくとも一応あるであろうという状況,それから親権者が通知を受けても何ら反対の意思表示をしないといった場合にこの許可をできるということにしてはどうかと考えております。   特に,先ほど事務局からお話がありましたうちの②の懸念についてですけれども,親権者が,自分が同意したわけでもないことについて後から契約解除の意思表示ということをされても,その親権者との間でトラブルになるのではないかということがありました。これは,完全にそういう事態を防ぐということは難しいかもしれません。しかし,今のような形で,親権者が通知を受けたにもかかわらず何ら返答しなかったという事情があれば,その点は親権者としてもやむを得なかったであろうと考えられます。また,率直に申し上げて,適切に対応しない親権者というのはこの文脈でなくてもいるわけですので,そのこと自体で制度そのものの存在を否定するというのはいかがなものかと思います。   それから,これもまた以前も申し上げましたが,もともと第三者としては,例えば就職にしても,あるいはアパートの契約にしても,子供を助けてあげたいと思うのだけれども,親権者の同意がないということで,非常に不安だという場合に使えると考えているわけですので,もともとそういう契約をするかどうかは全く自由なわけですから,飽くまでも慎重な態度を取るところにはしょせんそれは使えないだろうと思っております。同意に代わる許可の制度というのは,決して親権の一時的な制限に代わるということを想定しているわけではなくて,飽くまでもその制度を補完するという形で機能すれば,それはそれで非常に意味があるのではないかと思います。   少し長くなりましたけれども,以上でございます。 ○野村部会長 かなり具体的な御提案を頂きました。 ○大村委員 今の磯谷幹事の御提案はとても興味深く伺ったのですけれども,仮にそういう考え方に立って考えるとしたときにどうなるのかということについてお伺いいたします。まず,親権者が反対の意思表示をした場合には少し慎重に扱うとおっしゃいましたけれども,これは反対の意思表示があれば,その反対の意思表示を優先させるという御趣旨なのだろうと思って伺いましたが,そういう理解でよろしいでしょうか。 ○磯谷幹事 はい,そのとおりでございます。 ○大村委員 その上で御質問なのですけれども,結局のところは,反対の意思表示があれば,反対の意思表示が優先する。何の意思表示もないときに動かないので,何もないという状態を解消するためにこの制度を構想するということと理解しました。仮にそうだとすると,相手方の催告権の規定との関係はどうなるのでしょうか。現在の民法には,相手方の催告権の規定がありますけれども,これとの関係はどのようにお考えでしょうか。   規定を申し上げますと,20条2項で「制限行為能力者の相手方が,制限行為能力者が行為能力者とならない間に,その法定代理人,保佐人又は補助人に対し,その権限内の行為について前項に規定する催告をした場合において,これらの者が同項の期間内に確答を発しないときも,同項後段と同様とする」となっております。これは追認擬制が働くという規定ですけれども,そうだとすると,この規定と重複するような気がするのですけれども,そこはどうお考えでしょうか。 ○磯谷幹事 御指摘,ありがとうございます。この規定について,率直に申し上げて,念頭になかったので,今少し検討させていただきたいと思います。ありがとうございます。 ○長委員 磯谷幹事の発言の内容を理解するために質問したいのですが,一時制限の原因があると認められるということについて,一応という言葉が入ったときと入っていないときがあったかのように思ったのですが,これは一応というのが入るのですか。 ○磯谷幹事 民法の規定の仕方としてどのようにするのかというのは,率直なところ,もうちょっと詰めなければいけないかもしれませんが,今の点については,少なくとも実質的には,一応というところでも,こういった許可をしても不当とは言えないだろうと,つまり家庭に対する不当な介入といったことにはならないのであろうと考えて,そのように申し上げているわけです。 ○長委員 私の質問の趣旨は,裁判所がかかわるということになると,立証の程度が問題になるものですから,条文がどうなるかは別として,心証の程度が一応の場合と証明された場合とでは大分開きが出てくるものですから,どういう場合をお考えなのかというのをまず一つとして伺いたいという趣旨なのです。 ○磯谷幹事 逆に,一応といいますか,要するに,ここで一時制限の原因を認定しなければいけないとなりますと,恐らくかなり作業といいますか,審理も大変になるのだろう,時間を要するのだろうと考えたものですから,どのようにその制度の条文をつくるかというところは何とも言えませんけれども,私が先ほど申し上げたのは,そこのところがいわゆる確信というレベルまで認定ができなくても,証明ができなくても,その後の先ほどの親権者に対する通知と,それから返答がないということから,何とか正当性を補完できるのではないかという趣旨で申し上げたということです。 ○長委員 もう一つ御質問します。親権者が反対した場合には慎重に検討するという表現をされましたが,慎重に検討した結果,どんな要件について裁判所は判断をすることになるのですか。 ○磯谷幹事 今の点については,先ほど大村委員にもお話しいたしましたが,要するに反対の意思表示があれば,それについてはもう認められないといった理解で,恐らく裁判所としては,更に適切な手続について助言することになるのかなと思っています。 ○長委員 そうすると,結論としては,その申立ては却下するという趣旨でよろしいわけですか。 ○磯谷幹事 はい,そのようなつもりで先ほど発言いたしました。 ○長委員 内容は理解いたしました。 ○野村部会長 先ほどの一時的制限との関係なのですけれども,実体的な要件は同じで,証明程度で差をつけるという御趣旨なのでしょうか。あるいは,どちらも選べるということになるのか。申立人をだれにするかという問題がありますので,細かいことですが,お答えいただければと思います。 ○磯谷幹事 すみません,先ほどの答えの繰り返しになってしまいますが,要するに,民法の規定としてどのように規定するかというところについては,もう少し詰めなければいけないところがあるかなと正直思います。ただ,趣旨としては,恐らく御理解いただけているのではないかと思うのですけれども,いずれにしても,何ら親権制限の原因がうかがわれないような状況でこういった許可をするということは,家庭に対する過度の侵害行為になるおそれがあるということは理解できますので,一時制限の原因というものは何か必要になってくるであろうと。ただ,それを100%まで求めるという必要が果たしてあるのかという問題意識から,先ほどちょっと話を申し上げました。 ○垣内幹事 先ほどの磯谷幹事の御提案は,新しくお伺いしたものですので,にわかに賛成・反対という意見を申し上げることは難しいように今感じておりますが,先ほど来のやり取りについて一つ感想めいたことを申し上げますと,最初の大村委員の御質問との関係では,確かに催告権は規定があるわけですが,これは飽くまで相手方のイニシアチブで催告をする場合に機能する規定であるのに対しまして,御提案のものは恐らく未成年者のほうでこういった手続が開始することのイニシアチブを取れるということですから,相手方が催告をするという形での協力はしてくれない場合でも,事態を打開する方法をつくりましょうという御趣旨なのかなと理解いたしました。   それから,一時的制限の要件との関係ですけれども,私,正しく理解しているか分かりませんが,磯谷幹事の御説明を踏まえて,あり得る規律としては,例えば一時的制限の原因がないことが明らかである場合にはこの限りでないといった留保をするという御趣旨なのかなと思って伺っておりました。 ○古谷幹事 一時的制限が一応かどうかというところとかかわるのですけれども,仮に一応であったとしても,そういう事態があるのであれば,親が反対したとしても,それは本来許可すべきではないかという価値判断も十分あり得るところだと思います。それがなぜその場合は許可しない判断になるかというと,一定程度一時的制限がありそうな状況で反対した場合早めておくという意味で,保全に近い,暫定的なものだからそういう枠組みが許容され得るのではないかという印象を持っております。けれども,この制度自体は少なくとも当該許可をする行為については確定的な効果を発生させるものなので,保全に近いような枠組みを取り込むということについては異論がございます。   それから,違う観点になりますけれども,後見人の給源の問題は,切実な問題と思っているところであります。これは今後の議論にもかかわってきますけれども,仮に法人による未成年後見という方途が確立される,あるいは管理権の制限がかなり広い分野をカバーするようになれば,給源の問題と,あと後見人の責任の問題,それはある程度は克服されるかと思います。 ○小池幹事 余り磯谷幹事にばかり質問するのもなんですけれども,自立ということでお考えになっていることが,昔配られたAからIの事例の中でいうと,施設,つまり何らかの措置を受けていて,そこで恐らく自立支援のプログラムがあって,それにのっているのだけれども,親権者がいないので,契約しようとする段階で止まってしまう。それをカバーするのだというお話に限定されるのか。16歳で高校に入っていて,バイトもしていて,親元を離れたいといったものも,ある意味で自立は自立なのです。でも,恐らくそれは全く念頭に置いていないと思うのですが,この自立のために必要であるという漠然とした要件だと,取りあえず間口ではそれは全部入ってきてしまって,ちょっと大変なのかなという印象を持ったのが一つあります。これはほかの厚労省のほうで進んでいる審議会に出ている方にちょっとお伺いしたいのですけれども,自立支援のスキームが仮に児童福祉法のほうであるとすれば,その延長上で,同意に代わる許可かどうか分かりませんけれども,支援の措置として児相が何かやれるとかという話は出ていないのですか。 ○野村部会長 これはどなたからお答えいただくということですか。お願いいたします。 ○千正関係官 まず入所中についていいますと,現行も児童福祉法47条1項という規定がございまして,親権を行う者又は未成年後見人があるに至るまでの間,そういう人が見付かるまでの間,施設長が親権を行うという規定がございますので,そこでカバーできるということだと思います。現行は施設の長だけが対象ですけれども,里親が預かっている場合も何らかの同じような手当てをするべきではないかという方向で議論が進んでいるところです。   退所後につきましては,一つはこちらの審議会と非常に制度として連携する話だと思いますけれども,法人による未成年後見人というのが制度としてできた場合に,例えば児童養護施設などを経営しているような法人がその退所したお子さんを20歳まで面倒を見るという形で未成年後見人になるようなケースも考えられると思います。   それからもう一つは,これは現行法にありますけれども,児童福祉法33条の8の1項に,親権者がいない未成年について,その福祉のために必要な場合には,児童相談所長は家裁に後見人の選任の請求をしなければならないという規定があって,2項に,未成年後見人が見付からない場合は,見付かるまでの間,児童相談所長が親権を行うという規定がございます。そうした幾つかの枠組みがあるのですけれども,そうしたものが法的な受皿になると思います。 ○森田関係官 今,千正関係官から御説明していただいたとおりなのですが,今説明があったのは,すべて親権者がいない場合を前提とした議論ですので,そこにのせていくためには,親権を行う者がいない状態に民法の仕組みの中でしないといけないということが,一つ留保としてはかかってくるかと思います。親権者がいるときの例えば施設長等の権限についてどうするかというところの議論としては,直接は,社会保障審議会のほうの議論の対象にはなっていません。それは,現行法の規律どおりということで,財産管理とか法定代理についての権限を施設長等の権限に入れていこうといった議論にはなっていませんので,そこは飽くまで今,千正関係官がおっしゃったようなスキームにのせていく必要はあるだろうということになるのではないかと思います。 ○磯谷幹事 先ほど小池幹事から御質問があった中で,一つ,16歳で家から独立したいというお話がありまして,そういうのも取り込むのかというところがございましたけれども,そこのところは,先ほどの一時制限の原因があるかどうかの議論。先ほど垣内幹事のほうから,非常になるほどと思いましたが,例えば一時制限の原因がないことが明らかな場合といった形で排斥することになるのかなと思います。 ○長委員 まず,一時制限の原因がないことが明らかな場合は除くとした場合に,要するにこれは職権探知の下で証明できるかどうかという観点で進めることになりますから,あるか,ないかということを裁判所は職権で究明し証明していくことになると思うのです。ですから,立証が軽減されるということには恐らくなってこないのではないかと思うのです。今のような例外規定を設けることによって立証の程度を疎明まで下げられるかというと,それはそのようにはならないなと。証明の程度として,例外が認定できるかどうかということになるのではないか。一応の疎明でいいということになったとした場合に,そういう程度の疎明で許容されるのは,結局後で本当の内容が確定することによって覆される場合も許容していいような場合にそういう疎明の程度が用いられるわけですから,そういう点で古谷幹事が言われたように,この効果を確定的にするのであるとすると,いろいろなほかの制度との対比からすると,どうもうまく説明がし切れないのではないかという感じがいたします。 ○磯谷幹事 抽象的な議論をするとなかなか私もついていけないところがあるのですけれども,具体的には,例えば児童相談所や施設のほうから,この子については,親から全く,例えば3歳のころからずっと面会もないし手紙も来ないしといったことの何かペーパー,証明書みたいなものがあるということであれば,そうすると,まずこの状況で親が適切に親権行使ができるとは思えないだろうと一応言えるのではないかと思うのです。恐らく,本当は厳密には,当然親側の事情が一体どうなのかということをいろいろ確認したりということを裁判所はなさるのだと思うのですけれども,この想定している手続では,それはもう親のほうに直接,この特定の法律行為について通知をして,返事がなければ,そこをプラスする形で許可してしまっても問題がないのではないか。想定している,証明といいますか,そのあたりは今申し上げたようなことでどうかなとは思っています。 ○平湯委員 一応という言葉と,保全なのかどうかというのとがちょっと重なってといいますか,つながって議論されているようですけれども,提案の趣旨としては,一応というのは,言わば疎明若しくは証明程度の問題の表現ではなくて,一時的制限ができると判断できるようなレベルに近い実態のものが必要だと考える,しかしそのものと同じレベルではなくてもいいという意味で使っておられるのだろうと思います。 ○豊澤委員 国家による不当な介入を避けるために一時制限の要件が実質的に充足されている必要があるという前提ですので,長らく施設に入っていて,親とは没交渉でその協力も得られないといったケースを想定されていると思いますけれども,この場合に,親から反対の意思表示,協力しないという明示の意思表示があるときには,そちらが優先するわけですね。でも,一時制限の要件が具備していて,なおかつ子供の自立のために子供の福祉の観点からはこういうことをしてやる必要があるという実質があるにもかかわらず,そのような親からの反対の意思表示で許可はできないという仕組み自体,本来ねらっていたところとは矛盾するような結末を導いているような気がします。一時的制限の要件が実質的に具備されているのであれば,親の意思に反してでも,親権の一時制限あるいは管理権の喪失をかけた上で,親の代わりに後見人が判断して,必要なものについては子供をサポートしてやるという方向に進むのが本来なのではないかと思います。そういう意味で少し中途半端な制度なのではないかという印象を持ちました。   また,実際上こうした手当てを本当に必要とする件数としてどのぐらいのものをイメージされているのでしょうか。これは後見人の給源の確保の問題ともリンクするところであり,仮に件数が年間数千,数万のオーダーだということになると大変ですけれども,とてもそこまでの数にはならないのではないかという気がしています。また,想定されているのが,長らく施設に入っていて18歳に達して,今度自ら職を見付けて自立しようとしている年長の子供ということであるならば,通常の未成年後見でイメージされるような身上監護の部分はほとんど考える必要がなく,専ら財産管理と,あとはせいぜい就業の許可といったところだけだとすると,法人の後見人によってある程度賄うことができるとも考えられます。想定されているケースのボリュームがどのくらいかという点は,後見人の確保可能性や給源の問題とも関連するのだろうと思います。 ○磯谷幹事 件数のところについては,御指摘はある意味,それに客観的にといいますか,データとして何か意見を申し上げられるようなものはございません。ただ,私を含めて,児童相談所あるいは施設を出ようとする子供や出た子供たちとかかわっている弁護士たちからしますと,そういったニーズというのはあるということは,今回の中間試案に対するパブリックコメントの中でも出てきているし,出てきていない部分もかなりあるとは思っております。   それから,中途半端というところについては,先ほど申し上げたように,うまく親権を制限できて,未成年後見人が選任できれば,それはそれで結構だと思うのですけれども,それが果たして本当にできるのかということと,それからもう一つは,それにはそれなりの時間がかかるだろうと思うわけです。この同意に代わる許可の制度というのは,先ほどのようにいろいろな制限は付く反面,比較的迅速に結論を出すことができるということになると,例えば一方で親権の制限をするかどうかということをいろいろ審理しながら,一方で,しかし子供に差し迫っている自立のための契約というものを先にこの制度を使って片付けていくということもまた考えられるのではないか。そのような先ほど申し上げた補完という意味で,やはり意味はあるのではないかと考えております。 ○豊澤委員 どういう仕組みで組むにしても,同意に代わる許可という本案の審判をする以上は,当然親からの即時抗告の対象になるでしょうし,また,審判をする前提として,実際には,一時制限の要件充足の有無等を審査するために,親の陳述を聴取するなどの一定の手続保障が必要になってくるはずです。親権の一時的制限と異なるこういう制度を設けたとしても,先に述べた手続の部分を省略することはできないはずで,時間的な面では,親権の一時的制限と比べてそれほど大きな違いが出てくるのだろうかという疑問があります。また,本案の審判で行う以上は,確定しなければ効力を生じないので,緊急に必要があるのであれば,結局保全処分に頼らざるを得ないと思われます。さらに,もともとこの制度には,対応できる局面が限られていて,広範囲な局面には対応し切れないところもあります。そのようなことも考えますと,一時制限の審判の代替として,この許可の審判のほうが迅速に対応できるということには必ずしもつながってこないのではないかと思います。 ○磯谷幹事 ただ,この制度というのは,通知を親側にした場合に,親が返事を何もしてこなかったということが前提になっているとすると,仮にそれから何か裁判所の決定が出て,2週間という間にそれでまた親が今度何か即時抗告をしてくる可能性があるかというと,恐らくケースとしてはそれはほとんど少ないだろうと思われるのです。もともとそうであれば,多分最初のところで,「そんなのは反対だ」といった返事をしてくるのではないかと思うわけです。そうすると,恐らく最短で1か月強ぐらいで確定まで行けてしまうのではないか。送達などで多少の手間がかかるのかもしれませんけれども,そのぐらいのスパンで確定まで行ってしまえる可能性はあるのではないか。迅速性というのは,相対的な言い方ですけれども,あるのではないかと思います。 ○豊澤委員 繰り返しになりますが,一時的制限の実質的要件を具備しているかどうかをチェックする必要がある以上,手続的には必ず事件本人である親からの陳述聴取や事実の調査をする必要があるはずで,こうした手続をなしで済ませることができるとは思われません。 ○進藤関係官 未成年後見人の給源確保の点を御懸念なのだろうと思うのですが,具体的には,未成年後見人の監督責任が念頭にあるのか,それとも,事実上の事務負担を御懸念なのでしょうか。監督責任の点であれば,年長の少年が問題になる場合については,親権者であっても,監督責任を認めることには消極傾向ではないかという気もいたします。特に後見人が持つ権限の範囲を管理権だけに限った場合には,身上監護面で何か監督責任を負う場面が余り想定できないようにも思います。 ○磯谷幹事 今の進藤関係官の御質問ですけれども,厳密な意味で不法行為責任が認められるかどうかというところは,それはもちろん最終的にはケース・バイ・ケースだし,やってみなければ分からないという話になってくるかと思うのですけれども,そういった事情があることによって,後見人になってやろうという人がどのぐらい出てくるのか。一つは,まずそもそも法人がやるという場合に,これは報酬などはどのようになるのかという問題も仕事としてやる場合には出てきますし,またその保険の問題なども出てきますので,率直に言って,そのあたりが本当にすばらしく解決ができれば,多分どんどんやろうという声が出てくるかなと思うのですけれども,いろいろと予算の問題とかもあるようにも見えますので,そこのところは正直,不安があるということでございます。 ○野村部会長 よろしいでしょうか。それでは,この点についてはどのように今後進めていくかということですけれども,親権喪失あるいは一時的制限の手続中に緊急な必要性として,保全処分のような形でどういうことが行えるのかということとの関連もあるかなと思います。それからもう一方では,そういう手続と,もう少し簡便あるいは迅速な手続として,この制度が設計できるのかということです。すなわち緊急に行う仮の処分ということではなくて,終局的な処分ということになるのでしょうけれども。恐らく御提案の趣旨は,そもそも一時的制限みたいなものはやらなくてもよくて,この許可さえあれば一応当面の問題は解決されるということではないかと思っているところもあります。そうしますと,保全処分としてやるというのは,手続として少し重たいのかなという気もします。その辺のところを,今日新たに具体的な御提案も頂きましたので,事務当局のほうで再度中身についてちょっと検討していただいてということになりますが,よろしいですか。それでは,一応この同意に代わる許可についての議論は以上にします。   その次は,部会資料9のほうに移りまして,「個別論点の検討(2)」の中の第4の1で,親権の一時的制限の場合の再度の親権の制限という点について御審議をお願いしたいと思います。まず事務当局から御説明いただきます。 ○森田関係官 第4は「親権制限に係る制度の見直しに関する個別論点(その2)」ということで,1では,親権の一時的制限の場合の再度の親権の制限について取り上げております。   親権の一時的制限をした場合には,その期間満了後も引き続き親権の制限をする必要があるという事態が想定されます。具体的には,親権喪失に切り替える場合,すなわち一時的制限をしていたものの事態が改善しないので,今度は期限を定めないで親権制限をするのが相当だという場合と,親権の一時的制限を繰り返す,すなわちもう一度期限を定めて親権の制限をするのが相当だという場合との2通りの場合が考えられます。それらの場合に関する規律を設ける必要があるかどうかについて御議論いただければと存じます。   注の1では,再度の親権の制限の原因について整理しておりますが,親権喪失に切り替える場合,一時的制限を繰り返す場合のいずれにつきましても,再度の親権の制限だからといって,親権制限の原因を実質的に変更するのは相当ではないだろうと考えております。従前は,親権喪失について帰責性の要素を必須のものとするとしても,再度の親権制限の際には,帰責性を要件とせずに,喪失に切り替えられるようにしてはどうかという趣旨の御提案もあったかと存じますが,現時点では少なくとも帰責性の要素を親権喪失の必須の要素とはしないということですので,そのような必要性もなかろうと考えております。   なお,再度の親権制限の原因について何らかの規定を設けるかどうかという点もさることながら,どのような場合に,どのような事情を考慮して,再度の親権制限の審判をするのかという実質についての御意見もちょうだいできればと考えております。   注の2では,期間の点を整理しておりますが,この点も当初の一時制限と同様の規律とするのが相当であろうと考えております。この点に関連しまして,パブリックコメントでは,法律上,一時的制限の回数を制限するのはどうかとの御意見も寄せられていますが,そのあたりの判断は運用にゆだねるのが相当ではないかと考えております。   注の3では,手続上の問題について整理しております。再度の親権制限をする場合には,既にされた一時的制限の審判やその基礎となった資料を前提とする必要があります。パブリックコメントで寄せられた意見の中には,この点に着目して,再度の親権制限について何らかの規律を設けるのが相当だとするものも見受けられますが,この点は,家事審判手続の運用等によって図られるべき事柄で,民法に規律を設けるかどうかとは別個の検討課題かと考えております。 ○野村部会長 それでは,この点につきまして御意見をお願いしたいと思います。 ○千正関係官 少し質問なのですけれども,一時制限が行われて,再度また期間を定めて制限をする,あるいは喪失をするというときに,一回目の一時制限あるいは喪失の要件,ハードルと理論的には同じハードルなのだろうということは,考え方としては分かるところなのですけれども,実際に親権が一時的に制限されている状態というのは,児童相談所が絡んで施設などに入っているケースは,当然親と別居していますし,親族申立てでも別居している場合がほとんどではないかと思います。そうすると,要するに親子の交渉というのが,最初に親権制限されるときとは違って,ほとんど交渉がない,面会なども余りないような状態になるのではないかと思うのです。そのときに,法律上の要件としては同じであるけれども,では,例えば2年なら2年間,ほとんど子供と接していないとか,その状態を見て再度制限をするかということを多分審理するのだと思うのですけれども,具体的にどういう場合に再度の制限が認められるようなイメージを持てばよいのかというのを少し,イメージがもしありましたらお聞かせいただければと思います。 ○森田関係官 正にその点を今日御議論していただきたいという趣旨で資料もつくったのでございますが,施設入所中であれば,比較的,親権制限をしていても,その親とお子さんの関係について何らか児童相談所なり施設なりから働きかけがあるのではないかということを想像していまして,そのあたりの事情が入ってくるのかなとは思っています。完全に一般の家庭の中での話になった場合にどういうことが想定されるのかということについては,我々としてもイメージがつくようでつかないところもありますので,そのあたりも含めて,特に現場のほうから,こういうことが考えられるのではないかといった御感触をお話しいただければ有り難いと思っております。 ○野村部会長 いかがでしょうか。 ○豊岡委員 実際に虐待等で分離等があって28条の申立てをして,かなり更新せざるを得ないケースもありますが,一回28条の申立てが認められて,それでもなかなか親御さんの態度に変化が見られないとか,虐待に対する認識も変わっていないとか,そういうことがあると,この2年でお子さんを返すのは非常に厳しいかなと児相としては判断して,また家裁へお願いしたりするわけですので,そこの親御さんの変化の状況とか,振り返りとか,そういうものが大事なのかなとは思います。児童相談所がすべてかかわっているケースだけではないとは思いますので,その辺,緩くしていいとは思いませんけれども,ある程度の配慮なり考慮をしていかなければいけないのではないかなという印象は持ちます。 ○磯谷幹事 まず,最初の一時的な制限をするときに,恐らく裁判所としては,今後,例えば2年間なら2年間,その2年後にこういうところが改善しているかどうかを見るということは,何らかのメッセージで伝えることになるのではないか。もうちょっと具体的にいろいろな保護者指導的なもの,例えばアルコールの問題があるのであれば,それについて専門の病院に行って治療を受けるとか,夜の仕事ばかりして昼寝ていてということであれば,そこの生活を切り替えることが課題だとかという形で示していく。そして,それが2年後にうまく改善されているのかどうかということを見るのが,恐らく一番素直な考え方ではないか。そうすると,例えば児童相談所が絡んでいるときには,それは児童相談所が見てくれるけれども,絡んでいないときはどうするのかということになるわけですけれども,ここは実は児童相談所を絡めるということもあるのではないか。つまり,たとえおじいちゃん,おばあちゃんのところに子供がいるとか,親族のところにいるとかという場合であったとしても,なお未成年なわけですから,家庭裁判所としては,必要があれば,それは児童相談所に連絡をして,その親指導についてきちんとやってくれと。児相としては,それは在宅のケースではあるけれども,家庭裁判所からのいろいろな照会があれば,例えば児童福祉司指導とか,そういった形でやっていって,結論的には,家庭裁判所と児童相談所が協力する中で親の課題というものを見付けて,それを制限のときに打ち出していくというか,示していく。こういうことも十分できるのではないかなと思いますので,そのような形でイメージをしております。 ○野村部会長 ここでは,民法の中でどのように規律するかということですね,一番問題は。更新についても最初の時と要件が同じだから,そのまま何も規律しないということで,民法には更新の規定を置かず,あとは,先ほど出てきましたけれども,家事審判法なり手続のほうにゆだねるというのが一つの考え方かと思うのです。もう一つは,民法の中に,一時制限を更新するのか,あるいはそこで制限をやめるのか,その辺のことについて実質的な要件のようなものを書き込むということではないかと思うのです。事務当局の考えはどちらかというと規律は設けないという方向かなと先ほど伺いましたけれども,この点についていかがでしょうか。 ○千正関係官 例えば2年の一時制限だった場合に,その2年間の親の状態の改善をどう見るか。児童相談所の指導という話もありましたけれども,もともと児童相談所が関与しているケースで,児童相談所が親権の一時制限を申し立てているようなケース,これは当然児童相談所が継続的にかかわっていくということになろうかと思いますけれども,親族間で申立てをしているようなケースについては,いろいろなケースがあるとは思うのですが,例えば親族間の中で未成年後見人が選任されていて,法的にはその人が親権者と同じように子供の監護をしているというケースもあると思いますし,また一時制限をやっていく中でも,これは完全に再統合しないで喪失してしまおうとか,そういった判断をされるケースもあるかと思います。そういったいろいろなケースがある中で,児童相談所がそこへ,例えば喪失しよう,もう完全に分離しようといったケースに入っていって指導を続けることが適当かとか,あるいはそうでなくても,先ほど言ったように,未成年後見人が選任されているときに,そこで安定的に監護されている状態の中で,親との関係を後見人からすれば外部である児相が入ってきて指導していくということが,すべてのケースにおいて望ましいかどうかという問題が一つあろうかと思います。それともう一つは体制の問題があって,どこまでできるかというのもあるかと思いますので,そのすべてのケースにおいて児相が全部チェックできるという前提で設計を考えるのは少し難しいのかなと思います。 ○古谷幹事 要件に関する意見なのですけれども,一番初めの一時的制限の場合ですと,親権の行使が不適切なり何なり,過去のエピソードはつかめて,判断しているのは,この親に任せていたら子供の利益が害されるという将来の予測をしているのだと思います。2回目の場合は,過去のエピソードはすごくつかみにくくなっているわけですけれども,判断の構造としては,将来子供の利益が害されるおそれがあるかということで考えることになるので,要件は多分同じになるのかと思います。実際にどういうファクターで考えるかということになると,それは先ほど磯谷先生がおっしゃったことに尽きていて,結局第1回目の判断のときも,エピソードはつかみつつも,結局その親の生活状況とか親の生活環境とかを必ず見ているはずなので,第2段目のところでそれが改善されたかどうかを把握していく。それを把握するに当たって,それまでの経過で児童相談所が関与していれば,より情報は取りやすくなるし,それができていないのであれば,調査官が調査するとか,何らかの形でそれを把握するということになろうかと思います。基本的には要件を違えるということにはちょっとなってきにくいという印象を持ちました。 ○森田関係官 今お話を聞いていて,思い付きのような話なのですけれども,千正関係官からあったように,いろいろな事案が想定されて,例えば親権の一時的制限をして後見人を選んだという,その後見人を一つとっても,専門の方が就く場合もあれば,家族の方が就く場合もあるという中で,代わりに子育てをすることで精いっぱいの人もいれば,ある程度親御さんとの関係が持てるような方が後見人になっていただけるようなことも場合によってはあると思います。そうすると,事案ごとのいろいろな,古谷幹事がおっしゃったとおり,親権制限の期間の事情をとらえてということになるのだろうとは思いました。それで,後見人自体は,選任されれば家庭裁判所の目の届く範囲にはあるのだろうと思うので,そういうことも一つの形になり,その中で再度の親権制限をする審判の段階で,調査官の調査なり審判の手続の中で事情がいろいろ酌み取れるのではないかなとは思ったところでございます。 ○平湯委員 一時制限中に児童相談所が関与するという形が望ましいと思います。それで,そのための規定というのは私としては本来民法に入れてもおかしくないとは思いますが,それはちょっと置きまして,児童福祉法の27条で児童福祉司指導の条文があり,対象としては「児童又はその保護者」となっていて,その保護者の定義は「現に監護する者」と定義規定の中でなっていますので,そこを一部いじる必要はあるのかなと思いますが,要するに児童福祉司指導の対象として「保護者(一時制限中の親も含む)」とするか,そういう形で児童相談所が指導の形でこの停止中の親のフォローをするということが望ましいのではないかと思います。全部の親に対してやる必要があるかどうかというと,もちろんそうではないわけで,そこは後見人がどう動くかによって大分違うだろうと思います。 ○吉田委員 更新の際の要件ですけれども,先ほど森田関係官がおっしゃった内容とつながりますが,当初からこの一時制限に関しては,段階的運用であるとか,それから親の動機付けにつなげるのだというところで,相当ケースワークを念頭に置いた制度にしようというところからスタートしていると思うのです。その場合にこの要件を違えるとか緩やかにするということになってきますと,ソーシャルワークのところで,そこで枠付けられてしまいますので,実際に個々のケースに応じたソーシャルワーク,そして親の改善の状況を考慮するということであれば,余り要件をいじらないほうがよろしいのではないかと思います。   それからもう一つ,先ほどの児童相談所の関与でありますけれども,親権制限に関して児童相談所が関与するのは望ましいに決まっているわけで,かつ,前にもここで出ましたけれども,18歳以上の未成年者について児童相談所が関与し得なかった時代,親族の方にその親権喪失の申立てを期待するのがなかなか難しいと,虐待する親からの反撃などがありますので。ですので,そうした在宅のケースであっても,何らかの形で児童相談所がかかわれるようにしたほうが,私はよろしいのではないかと思います。 ○豊岡委員 委員の皆さんがおっしゃっている,児童相談所がかかわるほうがいいというのは,頭では分かるのですけれども,本当にそういう体制にあるのかどうか,そこを考えていただきませんと,多分現場は回らないのではないかなと思います。例えば,こういう場合ならかかわるとか,あるいは一時制限になったケースの求めに応じてとか,そういうことでないと,一律でというのはかなり無理があるのではないかという気はします。それは体制の問題ですので,あとは厚生労働省のほうもあると思います。 ○松原委員 私も,一律全部児童相談所は無理だろうと思って,厚生労働省の会議のほうで27条1項2号の委託の件について発言をしています。そこは,私も要件は余り変える必要はないと思っているので,その先のところは,児童福祉法もそういうつくりになっていますから,その先の運用の問題だと思いますけれども,そこで児童相談所ができない部分についてカバーできるように,全体的に,民間も含めて,あるいは場合によっては力のある親族であればその方たちも含めて,児童相談所はそういう委託をできるような形にして,日常的なケアについては多様な形でなされる必要があると思います。一方,進行管理的なことは児相がやらざるを得ないのかもしれないですけれども,そういう線が出てきたときに,児童福祉法の運用上の議論をすべきだと思っています。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○久保野幹事 先ほど古谷幹事がおっしゃった件で明らかにしておきたいという点がありまして,お尋ねさせていただきます。実質的な判断の仕方,つまり過去のエピソードを規定しつつも,主たる判断は,結局親権を行わせることが子の利益を害するかという将来志向といいますか,そういう判断であるので,文言は変えなくても適用できるということは恐らく共有されているように思うのですけれども,そのときに,過去のエピソードが文言に入っていることが本当に再度のときに妨げにならないのかという点の確認なのですけれども,先ほどのような判断をするときに過去のエピソードとして想定しているのは,一回目の一時制限中に何らかのアプローチがされているということを前提にしつつ,それが功を奏していないということをとらえて,親権の行使が困難又は不適切と評価して判断できるだろうということであるのか。それとも,一回目のときに既に認定されている過去のエピソードがあるので,いずれにしても,極端な言い方をすると,一回目の制限中の評価がどうであるかにかかわらず延長ができるという読み方ができるであろうということなのかというところをちょっと整理というか,確認させていただきたく,お願いします。 ○古谷幹事 難問だと思うのですけれども,過去のエピソードは本当はなくてもいいという考え方が一つあり得ると思います。仮に過去のエピソード的なものを残すとすると,第一回目の申立てのときにあったものを使うと言ったら変ですけれども,それを取り込むという考え方はあると思います。児童相談所なり何なりの働きかけがあって,それに対して親からの反応がないとか,態度が悪かったとか,そういう場合は比較的簡単に親の行為や態様をつかまえられるということになると思います。ただ,そういう事情が一切ない場合でも,再度になるか,更新になるかは別としまして,一時的制限すべきケースはあり得ると思います。その場合,この要件をどうするかというのは,検討しなければいけないと思います。 ○野村部会長 よろしいですか。そうしますと,この項目については,再度の一時的な制限の要件そのものについては,最初の一時的制限と特に変える必要はないということです。そして,特に更新についての規律を民法の中に設けるということも必要ないのではないかという事務当局のまとめの方向で最終的に考えていただくということでよろしいでしょうか。 ○久保野幹事 これも今のお答えとの関係での確認なのですけれども,一回目の制限中に特に働きかけとかエピソード的なものが拾えないケースもあるかもしれないということを念頭に置いたときに,今,一回目の制限のときの過去のエピソードを使うということはあり得るけれども,筋が悪いかもしれないという御指摘がありましたが,正にそこを懸念しての質問でございます。一回目の過去のエピソードを念頭に置いての適用というものがちょっと考えにくいのであれば,先ほど,これも古谷幹事の御発言の中にありましたけれども,再度の制限の場合には,将来志向的な,親権を行わせると子供の利益を害するという要件だけにするという選択肢というか可能性は少なくともあると思いますので,そこはそうではなくてよいのかということを,あえて言えば,そうしてもよろしいのではないかとも思えますけれども,発言させていただきます。 ○磯谷幹事 ちょっと正しく理解できていないかもしれませんけれども,要するに二度目の一時制限のときに,前にあった大きな虐待は当然考慮要素に入ってくると私などは思っています。基本的には,それで改善がないということ自体が,本当は返せないということになってくると思うのです。ですから,多分それは余り問題ないのではないかなと私自身は思います。 ○久保野幹事 正にその点が,つまり,それが改善がないこと自体を親権の行使が困難又は不適切と解するという,そのような解釈ができるということが確認できれば,特に異論はございません。 ○野村部会長 それでは,これについては,事務当局のほうでまた一応今日の結果を踏まえてということで,検討をお願いしたいと思います。   次は,この次の項目で,親権の一時的制限の期間といわゆる強制入所等の措置の期間との関係ということで,これは資料9のほうで,今の続きですけれども,お願いいたします。 ○森田関係官 第4の2では,親権の一時的制限の期間といわゆる強制入所等の措置の期間との関係について取り上げております。   この点につきましては,従前,強制入所等の措置の終期と親権の一時的制限の終期とを合わせることを想定して議論を進めてまいりましたが,前回の会議での御議論も踏まえまして,改めて整理いたしました。   部会資料9の別図を御覧いただくと,上段の運用の在り方①というのがこれまで想定していたものですが,下段の②のような在り方もあるいはあり得るのではないかという御意見を頂いたものと理解しております。この点は,飽くまでも運用の在り方の問題でして,この場でどちらがどうと決めていただくべき問題ではないとは思っておりますが,親権の一時的制限制度を新たに設ける趣旨等とも関連する点ではありますので,改めて御意見をちょうだいできればと考えております。 ○野村部会長 これはいかがでしょうか。これはむしろ実態を御存じの方からみて,こういう事務当局の理解でよろしいのかということだと思うのですけれども。 ○石井委員 前回も議論に上がった点だと理解いたしておりますけれども,よくよく実態を踏まえてみますと,実際のところ,親権の一時制限がなされたときには当然にして未成年後見人が選任されているという状況とイコールだと考えていいと思うわけでございまして,実際,一時制限がなされた場合,入所措置当初と大分状況も変わってきている。強制入所した半分ぐらいはもう次のときには同意入所に切り替わっているという状況もございますし,様々に状況変化がある。加えて,一時制限のときには未成年後見人が就いているわけでございまして,そうしますと,更に同意入所ということに切り替わる可能性は高まってきていると考えられます。そういうことを考えますと,通常どおり2年間の一時制限とすることが相当なのではないかなと思っているところでございます。もし施設側での実態の詳しい御説明があれば,また補足していただければと存じます。 ○磯谷幹事 基本的には,私も同意見です。今,一時制限をしたら未成年後見人が選任されていることが前提というお話で,民法上はそういうことだと思うのですけれども,実際上,児童福祉法のほうでどう対応されるのか,つまり施設長の親権代行といった形でクリアするのかというところはあるかと思います。いずれにしても,親権者の反対がなくなったということになるわけですので,実質的にはもう28条は不要になるのだろうと思いますので,私も特に従前からある28条のほうに合わせる必要はないのかなと思っております。 ○豊岡委員 1点確認なのですが,今,磯谷幹事のお話にもありましたけれども,そうすると,この一時制限と28条というのは同時に存在するということはあり得ないという理解でよろしいですね。 ○磯谷幹事 あり得ないといいますか,多分28条を先にとって,そしてそれに基づいて措置をしているわけですから,その間は続いているのだと思うのです,途中で措置の切替えをしなければ。ただ,更新ということになると,多分,裁判所としてはというか,更新の必要はなくなるのかなと思います。 ○野村部会長 そこまでには後見人が選ばれているということですね。 ○磯谷幹事 後見人が選ばれていて,あるいは後見人が選ばれていなくても,親権が止まっている状況ですから,親権者の意に反するという児童福祉法27条4項のひっかかりがなくなるのかなと。そうすると,ただ普通に27条1項3号の措置を採ることができるということになるのかなと思います。ですから,未成年後見人がいようと,いまいと,いわゆる同意入所に切り替えることは十分可能なのかなと思います。 ○森田関係官 法律の解釈の問題と,行政側でどのように行政処分をされるかということが関係するのだと思います。磯谷幹事がおっしゃったとおり,最初の豊岡委員の御発言のように,今お話があったような考え方を徹底すると,一時的制限なりがされて親権者がいなくなれば,同意入所という形で行政処分を打ち直していただいたほうが手続としては明確になるのだろうとは思っています。そのあたりは児童福祉法の解釈を前提に現場でどのような運用をされるかということだと思うのですが,そのような感想を持って聞いたところでございます。 ○平湯委員 実際上はそのとおりになっていくのだろうと思うのですけれども,新しく選任された未成年後見人が不見識な方で,施設入所は不相当であるといった意見を持つこともないわけでもないと思うのです。ですから,そういうときにどうするかという問題は残る。つまり,そのクレームがある状態で再度の28条申立てをやるとかということはあると思います。 ○大村委員 私もどちらかというと今の平湯委員の御意見に賛成です。磯谷先生がおっしゃったことの中で一つ確認なのですけれども,親権者の親権が制限されていれば,親権者の意に反するということはなくなるわけですが,後見人がいれば,後見人の意に反して入所させることはできないわけです。本来ならば,未成年者の親権が制限されていれば,後見人が立っているのがあるべき状態で,それによって子供の利益が保護されるという仕組みになる。そのときに平湯委員がおっしゃったような問題も場合によっては生ずるという整理なのかと思って伺いましたけれども,それはそういう前提ですね。 ○磯谷幹事 基本的にはおっしゃるとおりだと思っています。ただ,いわゆる措置中の子供について親権の一時制限をしたときの受皿を,民法の原則どおり未成年後見人という者を選任するのか,若しくは児童相談所長が親権代行のような形でやるのかというところは,これはちょっと社会保障審議会の議論ともかかわってきますけれども,そこは幾つかあり得ることだと思って,私は個人的には,措置中であれば,児童相談所長が基本的には親権を代行することが望ましいのではないかという意見は持っていますけれども,いずれにしても,そのあたりは議論としてはちょっとあり得るかなと思っております。 ○野村部会長 それは,一時制限のときには後見人を置かないというのが原則だというお考えですか。 ○磯谷幹事 ちょっと語弊があればお許しいただきたいのですけれども,私は,飽くまでも児童相談所が子供を施設等に措置をしている間には,必ずしも未成年後見人を選任しなくてもよろしいのではないかという意見を持っているということです。ですから,もちろん適切な未成年後見人が選べるということであれば,それはそれでも構わないのかもしれませんが,無理して未成年後見人を選ばなくても,児童相談所長が親権を代行するということでも差し支えはないのではないかというのが私の意見です。ただ,それは飽くまでも,今それができるという趣旨ではなくて,社会保障審議会の議論がどうなるかというところに絡んでくる問題だと思っております。 ○野村部会長 どなたか御発言はありますか。 ○千正関係官 一時制限がされて未成年後見人が選任されていても28条措置があり得るというのは,平湯先生や大村先生がおっしゃるように,現実にそういうよくない未成年後見人がいるかどうかは別として,理論上ある話だと思います。それで,措置中に未成年後見人がいるか,いないかということについていうと,これもいろいろなケースがあると思いまして,親族なり周りの大人などが「私が面倒を見ます」と言って未成年後見人になるけれども,自分の家で育てるのは何がしかの事情があって難しいという場合に,施設に入るということはケースとしてはあり得ると思いますので,措置中で未成年後見人がいるという,ここでヒアリングをしたときもそのようなケースがあったように記憶していますけれども,そういったパターンもあると思います。ただ,磯谷先生が言われたように,基本的には,措置中は児童相談所が責任を持って施設への措置をし,また施設が日常の監護をしているという世界に入ってきますので,そもそもがだれも面倒を見る大人がいない子供を保護するようなスキームでございますので,未成年後見人がいなくても,施設長が親権を代行するとか,そういったスキームはございますので,そういった仕組みでも対応が可能かと思います。両方のパターンがあると思います。 ○野村部会長 分かりました。ただ,ここで議論しているときには,一時的制限をしたら,その制限の結果,だれかが親権を代行するということでいくのか,後見でいくのか,そこは民法上決めておかないといけないのではないかなと個人的には思います。どちらも可能なら,どちらも可能でもいいのですけれども,いずれにしろ,そこの手当てを全く民法上書かないというわけにはいかないと思います。 ○森田関係官 現時点の整理としましては,民法上は,親権の一時的制限でも親権喪失でも,親権を行う者がいなくなれば未成年後見が開始するということは動かない前提で,そのような子供について未成年後見人選任の請求がだれかからあれば,それを選ぶということでございます。ただ,その請求がなくて未成年後見人を選任していない状態で,かつその子が都道府県の措置によって施設入所や里親委託がされているときに,当然にだれかがその親権の受皿になってもいいのではないかということが,社会保障審議会での議論です。したがって,基本的には,民法ではそう整理しておいた上で,児童福祉法で,措置中の児童についてだれが受けるかという,例外と言ったら変ですけれども,そこを手当てしていただく。現在の法律でも,そのような考え方で,施設入所中についての手当てが現にされているといった整理ということでございます。 ○大村委員 今の森田さんの説明のようなことになるのだろうと思いますけれども,そのことを踏まえた上での感想を申し上げます。施設入所中に後見人の選任が行われないので,施設長が親権を代行するということと,措置を行うについて親権者の同意が得られないので,親権を代行している施設長が代わって同意するというのは,次元の違う問題のような気がするのです。本来ならば,そこは親権者の同意が必要で,同意がなければ裁判所の判断を仰ぐ。親権者の親権を止めてしまえば,その代わりに同意をするのは後見人なので,後見人が立つというのが本来的な制度なのではないかと思います。ただ,そこは28条の解釈論ですので,これ以上は立ち入りません。 ○千正関係官 施設長の親権代行の権限の範囲ですけれども,現行児童福祉法27条に施設入所の措置の規定がございまして,その4項に,その入所の措置は,親権を行う者又は未成年後見人があるときは,その意に反して,これを採ることができないとありますけれども,その親権を行う者の中に括弧がありまして,施設長が代行している場合を除くということになっていますので,恐らくそうしないと,施設長より児相の措置権が前提にあるのに,施設長がその措置に同意しないということで,ぶつかるようになってしまうので,ここは除かれている。基本的にはこういう整理になるかと思います。 ○野村部会長 よろしいでしょうか。 ○豊岡委員 一つお聞きするのを忘れていたことがあります。実は更新等の手続上の問題なのですけれども,具体的に児童相談所として運用のイメージで考えたときに,例えば,この更新の審理の時間がどれぐらいかかって,仮に2年という期間をオーバーするような場合にはどういう手だてが必要なのかとか,どういう手続をやっていくのか。保全処分という言葉もありましたけれども,どれぐらいのスパンで児童相談所は考えたらいいのかなというのがあったものですから。 ○森田関係官 基本的には,今あったとおり,保全処分での対応を部会資料9の3ページの注3のなお書のところで書かせていただいております。別途,家事審判法の改正もやっておりますので,その議論がどうなるかということは留保させていただきつつ,現行法との並びで考えますと,基本的には親権の一時的制限なり親権の喪失の本案の申立てをしていただいて,併せて保全処分の申立てをしていただくということで,一時的制限の期間が満了した時点でまだ再度の親権制限の本案の審判が確定していない場合の手当てをしてはどうかと考えております。この点は,例えば,現在,児童福祉法28条2項の更新制度につきましては,4項で,申立てがあれば,ただし書の例外に当たらないような場合を除いては,裁判所の承認審判がなくても,自動的に更新ができて,その後に本案の28条審判が出てもいいという仕組みになっているかとは思うのですが,今回,一時的制限制度を設ける趣旨は,基本的には一時制限の期間が満了すれば親権が戻るということが原則の理念としてつくるものと理解していますので,基本的には戻る。ただ,必要があれば,保全処分によってその間を埋めるといった仕組みがいいのではないかということが,このなお書を書かせていただいた趣旨です。 ○豊岡委員 そうしますと,同時に出すという,保全処分を含めて一緒に申請しておくという考えですね。 ○森田関係官 通常はそうなるかと思いますけれども,例えば早めに本案の申立てだけをしていたところ,審理に時間がかかって,途中で本案が確定しそうにないという見込みになったときに,後から保全処分の申立てをするということも想定されます。ただ,基本的には,特に児童相談所長の申立てのような事案では,そういう保全処分でつながないといけないような事態がないような運用が好ましいのだろうとは思いますけれども,民法の仕組みとしては,親族が申し立てることも想定したときに,例えば前日に申し立てられるということも考えられなくはないので,そういうことでそのような規律を考えていると御理解いただければと思います。 ○豊岡委員 28条ですと,大体3か月くらい前にというのが今,児童相談所の中では事務手続を進める目安になっているのですけれども,期間というのは,イメージは難しいでしょうか。 ○野村部会長 裁判所でやってみないと分からないですね。よろしいでしょうか。   それでは,休憩ということにします。           (休     憩) ○野村部会長 それでは,再開したいと思います。   今度は,部会資料8に移りまして,「第2 未成年後見制度の見直しに関する個別論点」の「1 法人による未成年後見」,それから「2 未成年後見人の人数」ですけれども,まず,法人による未成年後見について,事務当局から御説明をお願いします。 ○森田関係官 第2では,未成年後見制度の見直しに関する個別論点を取り上げており,1では,法人による未成年後見を取り上げております。   法人による未成年後見を認めることとする場合,適格性の判断に当たって考慮すべき事情を民法に規定する必要があると考えられます。この点について,成年後見人の選任についての民法第843条第4項の規定を参考にすることが考えられますが,未成年後見人についても成年後見と同様でよいのか,あるいは未成年後見人であるがゆえに成年後見とは別に考慮すべき事情があるかということについて御意見を頂ければ存じます。 ○野村部会長 それでは,この点について御意見をお願いしたいと思います。法人が未成年後見人になり得るということについては,パブリックコメントでは特に反対はないということですけれども,その法人の資格といいますか,それについてどのような規定を置くかということで,事務当局としては,843条4項のような成年後見の場合の規定と同じような規定を置くか,それと未成年後見とは何らかの違いがあって,それを反映したような表現を採るべきか,その辺について御意見を伺えればということでございます。いかがでしょうか。特に御意見はございませんでしょうか。 ○平湯委員 法人の未成年後見というのは,基本的にと申しますか,賛成の立場で,ただ,その法人の適格性についてはきちんとした審査が必要であるということも前提にした上で,実際上,一つの懸念としてありますのは,施設の中で施設内虐待あるいはそこまでいかない不適切な養育・養護が行われている,あるいはそこを出た子供を含めてですけれども,そういう社会福祉法人が後見人になるということを防がなければならないということです。それは法律の条文だけでなくて,いろいろなことがかかわってくると思うのですけれども,この文言だけでいきますと,10ページの括弧のところです。これと同じ表現になると,「その法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無」となっているわけで,仮に養護施設で職員から暴力を受けているという場合のことを考えると,その職員の暴力というのは,職員が施設長の補助者としてやっているということになると思うのです。そういう意味で,その施設長との利害関係があると解釈してもいいかもしれませんが,あるいはもう一つ,その施設長と法人代表者が違う場合もあるということで,その辺の児童福祉施設の実態に即したような条文若しくはその運用基準というのが必要になってくるかなと思います。 ○野村部会長 今,裁判所では成年後見についてはこの条文はどのように運用されているのでしょうか。事実上,法人はほとんど選ばれていないということでもないでしょうが。 ○豊澤委員 成年後見での法人後見人の割合は必ずしも高いものではありませんが,地域差もありまして,法人の選任割合が1割を超えるという多いところもあります。受皿となる法人がきちんとあるのかという問題と,法人として受任する場合と,担当者が個人で受任し,法人はそのバックアップに回る場合があり,対応も様々ですので,一概には申し上げることはできませんが,ほとんど選ばれていないというほど活用されていないわけではありません。 ○野村部会長 この条文自身は「その他一切の事情」ということになっていますので,平湯委員のおっしゃるようなことも一応考慮の対象には入ってくるということではあると思いますけれども,あえてそこを何らかの表現で書くかということですね。 ○平湯委員 条文には別にこだわらなくていいと思います。 ○野村部会長 それでは,この法人については,事務当局の整理でよろしいでしょうか。   そうしますと,次は未成年後見人の人数ということで,今のところの続きで,2というところです。それでは,これについて,また事務当局から御説明をお願いいたします。 ○森田関係官 第2の2では,未成年後見人の人数,複数の未成年後見人の具体的な選任方法について取り上げております。   未成年後見人の人数については,親族等に未成年者を監護する者がいるものの,未成年者に多額の保険金が入るなどの事情があり,その管理まで親族にゆだねるのは適当でないといった事案があるため,親族を身上監護の未成年後見人に,弁護士などの専門家を財産管理の未成年後見人にそれぞれ選任するのが適当な場合があるという現実のニーズが指摘されておりますので,身上監護と財産管理に別の未成年後見人を選任することができるようにすることが考えられます。もっとも,未成年後見人を一人に限定せずに複数の未成年後見人を認めるとしても,身上監護に関する権利義務を有する未成年後見人が複数いると,複数の未成年後見人の意見が一致しない場合,未成年者に不利益が生ずることになってしまいますので,未成年者の利益の観点から,一人の未成年後見人を選任するものとするのが適当ではないかと思われます。   また,財産管理に関する権限を有する複数の未成年後見人を認めるのか。認めるとした場合,権限行使の在り方について,どのように考えるかを検討する必要がございます。   以上のような点について御議論いただければと存じます。 ○野村部会長 それでは,この点について,御意見をお願いしたいと思います。 ○大村委員 未成年後見人を複数人にすることについて,強くは反対いたしませんけれども,先ほどの御説明との関係で1点だけ申し上げます。未成年者本人に多額の財産があるような場合に,特別な考慮が必要であるという御指摘だったと思いますが,未成年後見の制度はそもそもその場合を想定している制度だと思うのです。財産の管理をどうするのかということを考えていて,そのために後見人に対する監督の仕組みができているというのが本来の姿ではないかと思います。それを踏まえた上で,現在の監督の仕組みというのが必ずしも十分でないとか,あるいは括弧付きの身上監護と財産管理を一人の人にゆだねることが難しいといった事情があるということを考慮して,複数にするという方向で考えるのだろうと思っております。 ○野村部会長 ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○磯谷幹事 短く申し上げます。もともとこの未成年後見人を複数人選任させてほしいという希望の背景には,一人だけでこの非常に重い未成年後見という仕事を担っていくことに対する負担感,そのきつさ,つらさというものが,これは現実にそういった経験をされている方から挙がってきているということがございます。そういう意味で,複数いれば,それが例えば身上監護について一人,財産管理について一人ということであっても,いずれにしても事実上いろいろ相談しながら進めていくことができるということから,負担感は随分違ってくるだろうと期待しておりますので,ここに今書いてあることについて,身上監護について一人でなければならないとするかどうかというところについては積極的な意見があるわけではありませんけれども,いずれにしても,複数になればその点は大きく改善するだろうという期待を持っているという発言でございます。 ○窪田委員 例えば,親族等が身上監護の部分を行い,そして場合によっては法人あるいは弁護士さん等専門の方が財産管理を行うというのは,イメージとしては大変分かりやすいものだと思いますし,あり得る制度設計なのだと思います。ただ,その上で更に規定が本当に必要ではないのかということについて,ちょっとはっきりしない部分もあるので,御検討いただけたらと思います。この点は,前回平湯委員から御指摘があった点,現行法でも財産管理権と身上監護権についての分属があるのではないかという論点にも関係するだろうと思うのですが,今のような形で後見人を二人,財産管理権を持つ者と身上監護権を担当する者とに分けた場合には,分属というのは比較的明確になるのですが,その場合に身上監護権だけを持つ者は純粋に事実上の身上監護しかできないのか,あるいは身上監護に関連してなお一定の法定代理権を持つのかという部分は実は余りはっきりしていないのではないのかという気がするのです。現行法でもはっきりしていないのだから解釈にゆだねるという手もあるだろうとは思うのですが,そうした分属を本当に正面から認めた場合に,その部分について何の手当てもしなくてもいいのだろうか,子供が風邪を引いたときに病院に連れていくとか,あるいは学校に通わせる,塾に通わせるということについて,一々,これは全部財産管理権を持った後見人の管轄になって,身上監護権を有する者は,事実上,御飯を食べさせたりということしかできないのかというと,その点はちょっとはっきりしないところがあると思うのです。ですから,仮に分属を正面から認めるということになると,その点の手当てが必要になるのではないかという気がいたしますので,少し御検討いただけたら有り難いと思います。 ○古谷幹事 複数の後見人の件につきましては,各庁に求意見したところ,基本的には賛成という意見が多くございました。その場合,念頭に置かれているのは,財産の管理を親族にゆだねると,危険な場合があるのではないか,そういう場合には専門的な第三者をといった意見が多くございました。もともと未成年後見人は一人にすべきだと,現行はそのようになっているわけですから,その趣旨からしますと,身上監護一人,財産管理一人という形があるべき形と考えております。ただ,先ほど窪田委員から御指摘があったように,身上監護がおよそ財産管理的な,財産に関することはできないということになると,それは少し問題かと思うので,その点の検討は必要かと考えております。 ○野村部会長 ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○森田関係官 今の身上監護と財産管理の関係なのですが,ちょっと正面からのお答えになっていないことを自覚しつつ,一つの運用の在り方としては,全体の権限を持っている未成年後見人を選んだ上で,財産管理のところについて,財産管理のところだけを持っている人を二人目として選ぶということが一つあり得る筋かなとは思っています。この資料で書いている「身上監護に関する権利義務を有する未成年後見人は,一人でなければならない」ということで表したかった趣旨は,身上監護を持っている人は一人でないと駄目ですということで,その人が財産管理も含めて持っているということは,むしろそのほうがよいのかなという気もし,財産管理の部分について二人を選んだ上で,現実の管理行為について一部は専門家等が持っているということが,運用としては一つ想定されるのかなとは思っているのです。ただ,全く分属させてしまうということができないのか,それは前提に何らかの規律が要るのかという検討は必要だろうと,御指摘のとおりと思いつつ,難しいなとも思っているところではあります。 ○窪田委員 今のお答えで少し分かった部分があるのですが,多分,分属ということを前提としている場合の議論の中でも,それぞれ少し異なったイメージが前提とされているのではないかという気がするのです。正しく身上監護権を持った者が全部の権能を有する後見人として存在していて,その上で財産管理という非常に技術的な要素が高くて,専門的知識も要求される部分についてはだれかにゆだねるというタイプのものもあるだろうと思うのですが,先ほどから出ていた議論の中では,財産を非常にたくさん持っているときに,そうした専門的知識がない親族にゆだねるということは危険ではないかという意見もありました。そこでは,オールマイティーの権能を有する後見人というイメージと違って,財産管理権について一部制限するというイメージがあるのだろうと思うのです。同じ問題は現在も監護者を指定するときにはあるのですが,その意味では,特に先ほどちょっと出たような形での,大きな資産を持っているときに財産管理を制限しようといったイメージを前提とした場合に,全部なくなってしまうのか,それとも一部残っているのかというあたりは問題なのかなという気はいたします。 ○平湯委員 現行制度の下で分属の例として監護者指定のことがあるわけでございますけれども,その場合でも監護に伴って一定の管理行為というのは避けられない。後見人を分属したとしても避けられないというのは,全くそのとおりだと思います。そこをどういう形で解釈するかということなのですが,この後見人の場合にだけ何か法律で,ただし書のような形で,日常監護に伴う法律管理行為を含むとか,そのようなことを設けるかどうかという趣旨でもあると思うのですが,それですっきりいけばそれでもよしと私は思いますけれども,では監護者指定のほうはどうするのかとか,同じように考える必要が出てくるとなると,これは今法律で民法の後見人のところにどう書くかということから離れて,民法のあちこちというほどではないですが,あちこちにあるそういう規定の解釈や体制を民法の先生方はどのように持っていこうとされているのか。その辺にしばらく何年かはゆだねてもよろしいのではないかという気もします。 ○久保野幹事 一方で,多額の財産を持っているケースで別の専門の方をという観点で切り分けるときに,830条が余り使われていないのではないかとは思いますけれども,無償で財産を与えられた場合に,父母の管理から外れて,別の管理者を立てるという仕組みは一応あるので,そのような考え方を使えないかなとちょっと思いましたというのが一つでございます。ただ,これは今,思い付きで申し上げているだけでございます。   他方で,日常的な行為については,いわゆる身上監護を担う者に行為させてもいいのではないかというのは,確かにあり得る観点だと思います。成年後見における日用品の購入等の概念を使っていくとかというのもあり得るのかなと思いつつも,他方で現にそういう制度を導入している国において,ほとんど常識でうまくいっているとは伺いますけれども,明らかにしたほうがいいのではないかという議論があり,しかし明らかにしようとすると難しくてうまくいっていないという議論も聞いておりますので,ちょっと慎重にいくべきだという意見には賛成いたします。 ○窪田委員 先ほどの平湯委員の御発言に関連してということになりますが,私自身もここで「ただし」というのを設けたら解決するとは余り考えておりません。特に監護者の指定との関係での平仄が合うような形で問題を考えていく必要があるのだろうと思っております。そういう意味で御検討いただけたらと思ったのです。ただ,恐らく監護者の指定に関して今でも規定があるとはいっても,それに比べて,後見人に関して2種類のタイプのものを想定して分属を認めるといった場合には,その問題がより明確になるのかなという気がします。解釈論としては,身上監護権がある以上は,身上監護に伴う法定代理権は当然くっついてくるのだという説明はあり得るだろうと思うのですけれども,それで本当にうまくいくのかどうかというのがちょっと気になったという意味で発言させていただきました。そういう意味で,今一つの方向で当然にいくと考えているわけではありません。ただ,本当に明示しなくていいのかという問題に関して言うと,身上監護という概念自体がかなり広いものですから,身上監護に伴う法定代理権といった場合には実はかなり広いものが含まれるのかなということで,その点について少し考えておく必要があるのかなという感じがしたということでございます。 ○大村委員 窪田さんがおっしゃったことと重なり合うことなのですけれども,現行法の下では,監護権の分属の問題と,それからもう一つ,今我々がここでやっている管理権の喪失の問題がございますね。管理権のほうを喪失させると,管理権については後見人が立つというのが民法の仕組みですので,管理権を失った親権者と管理権を持つ後見人が立つという仕組みになるだろうと思うのです。それを,管理権を失った後見人と管理権を持つ後見人が立つというのに置き換えるのが一番近いところだと思うのです。そこでおっしゃるような権限の問題があるのですけれども,それは現在もある問題ですので,平湯先生がおっしゃるように,あるところまでは解釈論で対応しなければいけないと思います。ただ,制度をつくるときには,766条の問題と835条の問題との両にらみでどこに落とし込むのがいいのかということを御検討いただくということかと思います。 ○水野委員 いつでも同じことを申し上げるようで恐縮なのですけれども,また司法インフラの限界です。本来ならば,後見人であろうと,親権者であろうと,重要な財産処分を任せるのは危険だという問題は共通しておりまして,比較法的に見ますと,子供の財産の処分行為のような危ない行為は一々全部裁判所の許可にかけるのが制度的にはグローバルスタンダードであるわけですけれども,日本はそのようになっていないし,またそのようにやってしまうと,とても回りません。成年後見改正立法のときには859条の3という居住用財産の処分だけ辛うじて裁判所の許可を要するとしましたが,ほかはもうとてもそういうことについて一々裁判所の許可にかけることはできないというのが,結論で,司法インフラの不備によるところの我々の国のあきらめであるわけです。   そして,先ほどから伺っていますと,後見人に財産の管理を任せると危ないという危惧は,正にこの点が本当は担保できないので,そこはあきらめて後見人に任せざるを得ないのだけれども,幾らかでもしっかりしていそうな人に任せようという発想であるように思います。でも,本当でしたら,そういう筋論といいますか,重要な行為について一々裁判所の許可を要するという形で,その権限を特別に制度設計して,裁判所が未成年後見人を選ぶという道を開いていただくことを,ひょっとするとあきらめなくてもよいかもしれず,そうなればそれが妥当な結論を見いだす道になるかもしれません。そういう可能性を考えていただけると有り難いと思います。 ○吉田委員 複数後見についてですけれども,身上監護と財産管理とを分けるという話が出ていますが,現在の857条,未成年後見人は820条から823条までの権限を有するという規定をいじらざるを得ないということになるのでしょうか。といいますのは,同じ未成年後見人というくくりですると,身上監護を持つ人が二人出てくる。それでよろしいということで考えていけば,このままいじりませんけれども,分属ありだということになると,これを持たない未成年後見人が出てきますね。このあたりはどのように考えられますか。 ○森田関係官 現行法は,今御指摘の857条と868条を併せて読んでということになろうかと思います。それで,一応事務当局として考えていた身上監護に関する権利義務を有している未成年後見人は一人でなければならないということは,857条自体は直接に何か変える必要はないというイメージではいたのですが,選任する段階でその権限を明確にすれば,857条の権限と868条の両方を持っている後見人と,868条の権限のみの後見人ないしは857条だけの権限の後見人ということを選任の段階で適切に振り分けるのかなというイメージではいたのですけれども,条文がどうなるかというところまで直ちに想定はできていませんが,そういうイメージで考えておりました。 ○吉田委員 いずれにしろ,概念が変わってきますね。振り分けるということは,振り分けていいのだという根拠をつくらなければいけないわけですね。 ○森田関係官 はい,それはそのとおりです。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 少し違う論点になるのですけれども,一つ前の法人による未成年後見とも若干関連するかと思うのですが,未成年後見人について複数にする場合に,身上監護に関する権利義務を有する者は一人でなければならないということで,これについては特に強い反対というのはないのですけれども,もし民法上,身上監護をする者は一人の自然人であるということが非常に強い要請だと考えるといたしますと,法人が未成年後見人になる場合については,身上監護を担当する自然人の担当者を1名設けなければならないとか,その種の規律を,これは民法上必要ということになるのか,もう少し下のレベルでということになるのか分かりませんけれども,考える必要があるのかなということを少し思いましたので,発言させていただきました。 ○飛澤幹事 ちょっと前提を確認させていただきたいのですけれども,ここで身上監護に関する権利義務を有する未成年後見人は一人とは書いてありますが,これは事務当局としては,自然人に限るつもりはなく,法人でもいいけれども,要は一つあるいは一人だということですが,そこは前提とされた上での御発言ということでよろしいでしょうか。 ○垣内幹事 いや,そこは必ずしも前提としていない部分がありましたけれども,そういうことであれば,確かに先ほど言ったような規律を法人について設けることが不可欠であることにはならないのだろうと思います。「方針に齟齬が生ずることが」ということからすると,それでいいということですかね,法人の場合には,法人として意思統一はできるということですから。分かりました。であれば,先ほどの発言は撤回させていただきます。 ○大村委員 今の垣内さんの御発言なのですが,ここでの議論と必然的に結びつかないではないかということで撤回されたのだろうと思います。ただ,従前,未成年後見人については,親権者に代わる者だという前提であるところまで考えていて,そうだとすると,ばらばらとたくさんいることは必ずしも望ましくないと考えていたのだろうと思います。なぜ一人なのかということを考えたときに,従前のそうした要請をなお考慮する必要があるのではないかという御発言だと受け止めました。組織が後見人になったときに,子供を実際に監護する人が頻繁に代わるということは望ましくないので,それは社会保障のほうで考慮いただく必要はないか,そういう御指摘として受け止めました。一般論としてはそういうお話もあるのではないかと思いました。 ○野村部会長 ほかに御発言はいかがでしょうか。   身上監護と財産管理とを分けられるのかどうかという問題を置いておいて考えた場合に,身上監護は一人でなければならないという点についてはどうなのでしょうか。 ○磯谷幹事 一般論として考えますと,確かに身上監護権が複数になると混乱が生じるというおそれはあるのかもしれませんけれども,それは結局のところ,複数の後見人がいた場合に,その後見人同士の関係といったところにもよってくるのではないかと思うのです。そうすると,実際上は複数の後見人を選任する段階で裁判所のほうで必要性があれば,そこを切り分ければいいし,あるいは特になければ,つまりしっかり連携してできるということであれば,恐らく特段問題は生じないのではないか。あらかじめ,初めから制度として身上監護権を一人でないといけないと言い切ってしまう必要性はどこまであるのかというのは,正直なところ,少し疑問を感じております。 ○千正関係官 その権限の切り分けをどこまでできるかといったことを解釈論である程度,もちろん現行の規律でも分属が想定されていると思うのですが,身上監護権と財産管理権の分属は現行もあると思いますが,ただ,未成年後見人が一人でなくなったときに,いろいろな行政法規の中に親権者又は未成年後見人の権限とされている事項が幾つもあると思うのです。例えば,精神科病院に医療保護入院といった類型があって,それは本人が入院を希望していなくても,未成年の場合は保護者が親権者又は後見人ということになるわけですが,その保護者の同意によって入院させるという仕組みがあるわけです。その場合の後見人はどちらの後見人になるのかとか,両方の後見人である必要があるのかとか,そこは何か少し整理ができるのなら,できたほうが望ましいと思いますし,解釈で問題がないと言えるのか,そこは少し検討が必要なのかなという印象を持ちました。 ○窪田委員 取りあえず,例えば,振り分けの問題ではなくて,身上監護のイメージを前提としつつ,複数があり得るのかということについては,現行法自体は一人と規定していますし,それを前提として考えていくということもあり得るのかなとは思いつつも,先ほど御指摘があったように,論理必然的に一人にしなければいけないという理由がどこから出てくるのだろうかというと,少し分からないところもあるような気がいたします。特に,例えば祖父母が後見人として面倒を見るという場合だったら,祖父母のうちのどっちか一方だけが後見人にならなければいけないのかというと,両方とも後見人であって,仮に一方が亡くなったとしても後見人が残るという仕組みはあっても悪くないのかなという気がいたしました。ただ,その上で複数の後見人がいるという場合には,実は親権者が複数いるという,正しく婚姻が続いている場合の共同親権と同じ状況が生じます。共同親権の調整の問題は何か今も現行法で余りはっきりしない部分が残っていますから,それを持ち込むのではないかという懸念はあるのだろうと思います。例えば,学校に通わせるときに後見人や親権者の意見が一致しない場合どうなるのかといった問題については,私自身も書いた覚えがありますけれども,そうした問題を持ち込む可能性はあるのかなという気はします。ただ,それでも,現行法でも現にある制度なのだとすると,例えば祖父母といったイメージで考えられるようなケースのときに,それをどうしても一人にしなければいけないという必然性はどうも余りはっきりしないというのは,私も同感です。もっとも,自然人と法人の組合せとか,多いにこしたことはないということで3人,4人と出てくるのは,それは本来の筋とは随分違うのだろうという気はいたします。 ○磯谷幹事 厳密な法律論でなくて,ちょっと感情めいた話で大変恐縮ですけれども,実際に後見人として何か決断するという場面,何か判こを押すといった場面で,人によっては,自分一人の肩にかかって判こを押すということについて,非常にちゅうちょや抵抗や心配やいろいろな感情的な問題が出てくると思うのです。先ほど申し上げたように,複数後見人を選任するメリットの一つとしては,そういった心理的なものを軽減するということからすると,重要な決断というか,基本的には共同で後見の権限と言っていいのでしょうか,行使するという枠組みで,要するに二人で判こを押すということが,本来複数にしてほしいという現場の後見人サイドのニーズにももちろん合っているし,一方で,先ほどから裁判所などからもちょっと出てきているようですけれども,一人に任せるとちょっと心配だという場合に,それはまたそれで共同で行使させるという意味があるだろう。ということからすると,基本的に,複数を選任した場合に,いずれも共同で権限を行使していただくというのを原則にすればよろしいのではないか。そして,そこで深刻な齟齬が出てくる場合には,逆に言えば,それは複数の後見というのはなかなか維持が難しくなってくるということで,人を代えるとか,あるいは一人やめていただくとか,何らかそこで対応することになるのかなと思っております。 ○平湯委員 後見人が二人いる場合のメリットというのは,恐らく今お話にも出ました共同親権のメリットと同じように考えていいのではないか。そうであれば,後見人の人数のところで,ただし,婚姻中の夫婦である場合には二人でもいいとか,そのようにしておいたらどうなのだろうか。   それから,もう一つ別の場面でいいますと,児童福祉法28条で施設入所にクレームを唱える資格ですが,一人か二人かということもあって,二人だと,今のところは二人とも異議がない状態でないと駄目だという解釈になっていますけれども,後見人の場合には余り複雑な事態にさせないでおいたほうがいいのではないかとも思います。 ○野村部会長 ほかに御意見はいかがでしょうか。   それでは,この点については一応,どちらかというと複数でもいいのではないかという意見のほうが多いということでしょうか。それとも,そうでもないですか。 ○古谷幹事 結局,複数にした場合に,意見が食い違うという場合のデメリットというのはあるわけで,他方,一人ではちょっと心細いというのは,事実上相談していただくとか,いろいろあり得るわけで,そのデメリットとメリットを考えますと,一人のほうがいいのではないかというのが,私の意見です。 ○野村部会長 今,成年後見のほうはどうなのですか。あちらは複数も結構選ばれていますよね。 ○長委員 成年後見について,実情を聞いてみたのですが,複数選ばれているときに,以前は身上監護と財産管理とを主文で担当を分けたのです。最近は,実は分けていないほうが多いようなのです。それは,協力し合って成年後見人の仕事をしてもらったほうがいいのではないかという考慮からです。また,身上監護と財産管理が本当に明確に分けられるのか,そのようなことも成年後見人の方から言われまして,現在は,成年後見の実務では分けていないほうが多いのです。それと未成年が同じに論じられるかというと,未成年の身上監護というのはなかなか難しいところがあるものですから,未成年後見に共同監護がいいのかどうかというのは悩ましい問題です。複数選任では困難が生じるので,単独とすべきかなという印象は持っているのですが,困難な問題です。 ○磯谷幹事 基本的には,一人で対応できれば,一人でしていただくというのが望ましいだろうと思いますので,そういう意味では多分古谷幹事とも共通の認識だと思うのです。ただ,とにかくこういう家族の問題というのは本当にバラエティーがあって,親族も含めて,それを使える資源というのは千差万別でありますので,ケースによって,先ほど長委員がおっしゃった成年後見での運用のように,協力し合ってという余地も残しておいていいだろう。ですから,逆に言えば,余り複数のときの問題をすごく心配するというよりは,むしろもうそういう心配はないというケースが結果的には複数を選任されるのかなと思います。想定しているケースに少しずれがあるかもしれませんけれども,私が特に弁護士会の中で議論してきたのは,一人に負担がかかり過ぎるという視点での話ですので,そうすると,協力してやれるケースを複数選任してあげればいいのではないかと思います。 ○大村委員 私も,最初に今は強くは反対しませんと申し上げましたわけで,賛成というわけではございません。しかし,必要があるのならば,その限度で認めるというのはあってもいいのかと思っています。平湯委員がおっしゃったように,問題が生ずることはあるでしょう。共同親権なども様々な問題が生じますけれども,それでも共同親権は理念上仕方がないというところがあると思うのです。後見人については,そういう理念上の要請はないのに,わざわざトラブルを抱え込むというのはいかがかという問題はあると思います。メリットとデメリットの比較考量ということになると思いますが,デメリットのほうも十分考える必要があると思います。 ○久保野幹事 今,選任の場合は裁判所が判断できるので複数でもいいのかと思いつつ,気になった点がございまして,確認させていただきたいのですけれども,最後に親権を行う者が遺言でその後見人を指定するときにも,複数というのがかかってくるのかということの整理が必要なのではないかと思います。そのような場合も複数を想定したりしますと,今むしろ懸念のほうで出ております点を重視しまして,一人のほうがいいのではないかというほうに傾いております。 ○松原委員 虐待場面のほうにかかわっていると,子供にたくさん資産があってというのになかなかなじまないで,しばらく議論についていけなかったのですが,虐待対応のことを考えると,非常に親族がぜい弱であるケースが多いのです。そうすると,一人では担い切れない,ちょっと自信がないといったケースがかなりあるのと,ある意味,社会的に複数にしておいたほうがいい場合もあるので,それは現実的に一人にしてしまったほうが面倒くさくないと思いますけれども,絶対に一人でなければいけないとすると,かえって,では自分にはちょっとできないという形で,ずっと代行,代行でいくようなパターンが想定される。それは今度は児童相談所がつらくなると思うので,そういう意味でも複数を積極的には推しはしませんけれども,ケースによっては複数があり得るのだというつくりにしておいていただいたほうが,今回の虐待対応ということで言えば,いいのかなと考えております。 ○小池幹事 仮に複数がありだということにしたときに,争いは余りないのではないかというお話もありましたけれども,争いがあったときの規定を用意するのか,先ほど磯谷幹事がおっしゃったように,もう解任してしまえばいいという,要は決断が遅れることによって子の福祉を害するのだから,未成年後見の職務をきちんとやっていないという判断をして,そっちで対応するから,そこは別にあえて手当てする必要がないということにするのかは,ここで決める必要はないのかもしれませんけれども,手当てをどうするかということは考えたほうがいいのかなとちょっと思いました。 ○窪田委員 私自身が,身上監護について,複数でもいいという立場に割り当てられているのかどうか,よく分からないのですが,先ほど発言した関係では,それもあってもいいのではないかということを発言しておりますので,少し補足させてください。基本的には,先ほども少し触れたとおりなのですが,現行法で共同親権という仕組みがある以上は,特に夫婦のような場合について,共同後見人という仕組みがあってもおかしくはないのではないかというのが,先ほど述べた趣旨です。ただ,そのような立場に対する反対要素としては二つあるのだろうと思うのです。一つは,既に述べたように,共同親権に関する問題を結局抱え込んでしまうことになるという点です。共同親権者の矛盾を調整する仕組みが用意されていないということをまた丸ごと抱え込んでしまうというのが,恐らく反対の側から一つの問題点として考えられます。もう一つは,身上監護の部分に関しても,法人が後見人になれるという仕組みを導入すると,どこまで本来の意味での自然的な意味での親の類推に依拠するのかという点です。法人が後見人になることができるという選択をした時点で,既に自然的な意味での親とは違うものを考えているのではないかというのが,多分反対要素として出てくるということなのだろうと思います。だから,その意味で私自身は,祖父母と申し上げましたけれども,おじ・おばなどの夫婦というのが共同後見人になるというイメージはあってもおかしくないとは思いつつ,ある程度限定されたものというイメージで考えております。   もう一つ,先ほどから出ている議論の中に,矛盾した場合にどうするのかという問題を避ける必要があるということなのですが,その問題というのは,身上監護に関するものを複数認める場合だけではなくて,実は身上監護の部分と財産管理の部分の分属を認めた場合であったとしても考えられます。先ほども議論になったように,身上監護にまつわって一定の財産管理行為が必要となり,それが身上監護権の中に含まれるということになりますと,そこでの抵触の問題は生じるのだろうと思います。その場合に一体どのように解決するのか。両方の意思が一致しないと先へ進めないという仕組みを採るのか,片一方の同意だけでも先へ進めるという仕組みを採るのかという問題は出てくるのだろうと思います。その点では,身上監護に関して複数認めるのかという場面だけではなく,抵触問題は生ずることになります。その部分については,規定を置くかどうかはともかく,一定の方向を示しておかないと,大変困ったことになるのではないかという気はいたします。 ○豊澤委員 平成11年の改正の際に,当時の議論を踏まえて,現行の民法842条のとおり,未成年後見人は一人でなければならないという形でまとめられていて,それから10年ほどたっているわけですけれども,身上監護という部分に関して言うと,その当時の議論の妥当性が現在大きく変わっているのかという点については,疑問があるようにも思います。二人の後見人による共同行使となると,ほかの委員の方からも御指摘があったように,いろいろな問題を抱え込むことになるという懸念があります。後見人へのサポートが必要だというときに必ず共同の後見人でなくてはいけないのかというのは,また別の問題であろうと思いますし,様々な形での支援の仕組みは別途考えられると思います。ここは,身上監護のところは一人としておいて,あとは財産管理の面で複数にするかどうかを考えるということにしておいた方が仕組みとしてはすっきりして,これまでの立法の経緯等とも整合的なのではないかと考えます。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。   それでは,議論はなかなかまとめにくいのですけれども,身上監護については,むしろ先ほど申し上げたのとは違って,原則一人のほうがいいのではないかという意見も強いということでしょうか。複数の後見人の間の意思決定の問題は,もちろん親権の場合でもあるわけですけれども,親権と同じ扱いでいいのかどうかということも問題になろうかと思います。その辺も踏まえて,ちょっと事務当局のほうで整理してみるということにしたいと思います。   今度は,恐縮ですけれども,また資料9に移りまして,「第3 子の利益の観点の明確化等に関する個別論点」ということで,その1が子の利益の観点の明確化,それから2が懲戒に関する規定の扱いということです。それでは,まず事務当局から御説明を頂きます。 ○森田関係官 第3では,1で子の利益の観点の明確化の点を,2で懲戒の点を取り上げております。   1では,現行の第820条に「子の利益のために」という文言を挿入することを提案しております。親子関係や親の子に対する親権行使の在り方について様々な意見がある中で,広くコンセンサスの得られる規定にしようとすると,ある程度抽象的な文言とならざるを得ないように思われますが,そのような事情等を前提にしますと,児童虐待の防止という今回の見直しの趣旨からして,身上監護に関する総則的規定と言われている第820条に「子の利益のために」という文言を挿入するのが直截であると考えまして,このような提案をさせていただきました。   また,2では,懲戒に関する規定について取り上げております。懲戒場につきましては,現在そのような施設がなく,将来これを設ける必要が生じるとも考え難いことから,懲戒場に関する規定は削除することを前提としております。その上で懲戒に関する規定をどうするかということですが,この点も親子関係やしつけの在り方について様々な意見がある中で,広くコンセンサスが得られるような規定の在り方を検討すべきであろうと考えておりますが,そのような点も踏まえまして,改めて御意見をちょうだいできればと存じます。 ○野村部会長 それでは,4について御意見をお願いします。 ○磯谷幹事 民法の820条に「子の利益のために」という文言を入れていただくということについては,賛成いたしますし,これは大変重要なことだと思っております。   それから,一つ,これは身上監護の点だけなので,財産管理について「子の利益のために」というのを入れる必要がないのかという指摘が確か前にどこかであったような気がしますが,それについてはどういうことになっているのでしょうか。 ○飛澤幹事 財産管理については,民法827条で注意義務の軽減がされています。それとの関係をどう考えるかということがございます。何でこのような話をするかというのは,順を追って話したほうがいいかと思いますけれども,仮に身上監護,財産管理を通じて何らかの規定を置くとすると,例えば民法858条のような成年後見の場合ですけれども,「その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」といった配慮規定を設けることが一つ考え得るかと思います。ただ,民法というのは,基本的には余り精神的規定は置かず,何らかの効果を想定している。では858条の「配慮しなければならない」というのは精神的規定かといいますと,どうも当時の立法経緯を見てみますと,これは善管注意義務の内容をふえんしたものであると説明されております。そうしますと,翻って,仮にこういった配慮規定のような形で置くとした場合,身上監護,財産管理を通じての注意義務について具体化する内容として規定を置くという説明が一つ考え得るわけなのですけれども,実は身上監護については,そもそも注意義務についての規定がありません。それから,先ほど申し上げたとおり,財産管理については,827条で,むしろ善管注意義務よりも低い義務が設定されている。そういった場合に,身上監護,財産管理を通じて,子供の利益に配慮しなければならないという文言を入れたときに,特に827条の関係で善管注意義務より低いというのと,子供の利益に配慮する義務というのがどういう関係に立つのかというところが今一つ整理しにくいというところがあって,今回,特に身上監護のほうで明示すれば,その辺の827条とのバッティングも問題となりにくいのではないかということで,提案させていただいたというところがございます。 ○窪田委員 全然とんちんかんな発言でしたら,大村委員に,是非,訂正をお願いしたいと思います。現行法は,確かに注意義務の部分については,親権者と後見人の場合で区別はしているのですが,だれのためのものなのかということに関していうと,その前に例えば利益相反行為に関しての規定もありますので,その意味では,子のためのものであって,子のために権利を行使しなければいけないということは,基本的にそうした条文を通じて既に示されているのではないのかなという気がします。ですから,その意味では,その後ろのところに「子のために」と入れてもいいのかもしれませんけれども,入れなくても,当然に現行法でもその点は既に示されているということなのではないのかなと思います。それに対して,身上監護の部分を主として想定するということになるのでしょうが,本来は親権についての一般的な規定ということになるのかもしれませんが,820条のほうでは「子の監護及び教育をする権利を有し」というところから出発していて,親の権利性というのがやや強調されているような形になっております。この点については,従来からもむしろ権利と義務の順番を逆にしてはどうかという議論もありましたし,そうした枠組みの中で「子のために」ということをより明示的にするということは意味があるということなのだろうと思います。その点では,820条のほうでそのことを入れたら,当然に財産管理権のほうについても規定を変更しなければいけないということにはならないのではないのかなという気はいたしております。 ○大村委員 窪田委員と同趣旨です。 ○磯谷幹事 なるほど,財産管理については既に子供の利益のために行使ということはあらわれているというお話ですけれども,例えばダイレクトに818条の親権の最初の規定の中で,父母は子の利益のために親権を行使しなければならないという規定を置くほうが,全体的な指針として望ましいのではないかと思います。あと,多分窪田委員のお話と重なるのだと思いますが,私も,注意義務の問題と目的の問題というのはちょっと違うのかなとも思っていますので,そういう意味では827条うんぬんというところは余り気にしなくても,818条のほうで,子の利益のために親権を行使すると言ったほうが一層はっきりするかなと思うのですが,いかがでしょうか。 ○大村委員 私は今の磯谷幹事の御発言の考え方は十分にあり得ると思いますけれども,現在の法制の下で,児童虐待防止法4条6項で,「親権を行うに当たっては,できる限り児童の利益を尊重するよう努めなければならない」という一般規定が置かれております。多分これとの関係で内容が重なる規定を置きにくいという事情もあって,括弧付きの身上監護権に特化した規定を置くというやり方が,一つ立法技術的にはあり得るかと思っております。前にそういうことをここでお話ししたこともありますので,こういう御提案になったのかとも思います。この点が法制的にクリアされるのならば,820条に規定を置き,更に818条にも置くということもあり得ないではないだろうと思います。 ○石井委員 先ほどの磯谷幹事の御発言なのですが,「子の利益のために」というのを820条に置いた上で,加えて818条にもその趣旨を入れるべきではないかという御意見なのか,それとも全般的にカバーする818条にのみ総則的に置けばいいというお考えなのか,そのいずれかなのか,ちょっと確認させていただきたいのですが。 ○磯谷幹事 私の発言の趣旨は,818条の親権の最初の規定に,親権全体が子供の利益のために行使されるべきだということを明確にしておけば,あえて820条に置かなくても,もうその趣旨は明確になるのかなと思っております。ただ,確かに大村委員のおっしゃった児童虐待防止法は,率直に申し上げて,児童虐待防止法のほうのあの規定を削除してこっちに持ってきてもいいかなとも正直思うのですけれども,それはなかなかどうもそういう簡単な話ではないということも承知しておりますので,特には強いこだわりはございませんけれども,一応意見として述べさせていただきました。 ○大村委員 磯谷さんがおっしゃったことと同じ認識ですけれども,結論としては事務当局の提案でよろしいと思っています。仮に親権の冒頭のところに規定を置くとした場合に,私は818条とは別建ての規定なのではないかと思います。818条は,親権の帰属ないし行使の主体の問題ですので,その行使の仕方についての規定を置くのならば,別に条文を立てたほうがいいと思います。ただ,それは仮の議論です。 ○森田関係官 仮の議論に乗っかるようで恐縮ですが,現行法のたてつけ自体が,最初にだれがという主体を書いた上で,820条以下で親権の行使の在り方について書いているので,親権の行使の在り方について何か規定をということであれば,順番としては頭がいいのではないかというのはよく分かるのですが,現在の規律を前提に入れる場所を考えると,ここになるのかなということで,今この提案になっているところですので,御理解いただければと思います。 ○平湯委員 820条にこれを入れること自体がかなりの前進だとは思います。ただ,より親に対するメッセージとして言うのであれば,本来は818条というのが一番ふさわしいのだろう。820条がふさわしくないとは申しませんが,よりふさわしいのではないかと。そのときに,児童虐待防止法の規定ができているからこちらに要らなくなるという,あるいは,立法技術上かどうか分かりませんが,同じ文言を使うのは余り好ましくないというのは,これはちょっと歴史的な沿革からいいますと,多少の意見もございまして,要するにまだ民法改正の機運が生じていなかった時期に児童虐待防止法のほうにやっと入れたという経緯もございます。それを更に一歩進めていただきたいというのが,今回の法改正に対する各方面からの期待でもあります。私としても,第一番目には818条に入れる。これは,親権の行使のことを入れるのはおかしいというほどでもなくて,だからといって,例えば818条の2という形でもそれはそれで結構ですけれども,少なくとも親権全体の理念として,子の利益というものを設けるということが一番望ましいのではないかと思います。 ○窪田委員 私自身はどちらもあり得るのだろうなと思って伺っておりましたし,かなり技術的な話になっておりますので,最終的に条文の文言を詰めていくという段階でいろいろ考えなければいけないだろうと思うのですが,その上で,少し気になる点があります。親権は子のために行使しなければいけないとか,親権は子のためのものであるというのは,理念としては大変によく分かるのですが,その場合に,親権という概念や用語自体が維持できるのかなという問題が,多分最後の段階では出てくるだろうと思うのです。現行法は,親権そのものというより,「子の監護及び教育をする権利」について規定していて,そこで「子のために」とかといった文言を置くと,その内容との関係で明確であるということですし,それはよく理解できるのですが,家族法に関する議論の中では,親権という形で,親の権利という形で構成するということ自体に対して否定的な立場も有力に存在しています。そうしたときに,最終的には立法技術的なことになるのですが,言わば何にも定義のない親権というのを最初に持ってきて,親権は子のためのものであるとうまく置けるのかどうか,そのあたりが実はきちんと条文をつくろうとすると結構大変なのではないかという気もしますし,親権そのものが一体どういう性格のものなのかというかなり難しい議論にかかわってきてしまうのかなという気がいたします。どちらの立場ということではなくて,その点だけ検討していただけたらという趣旨で申し上げました。 ○石井委員 基本的には,いろいろなバランスもあると思いますし,各規律というのがあると思いますので,事務当局にお任せしたらいいのではないかと,特に今回の改正の中で「子の利益のために」というのがしっかり入ること自体に,しっかりここで書かれるということに大変意義があるのではないかと思うわけでございます。私としては,820条の中で書いていただいても十分いいかなと。と申しますのも,現場で起こっている児童虐待の状況で,親の権利の濫用といった事態もあるわけでございまして,権利に引きつけたところで条文がつくられるというのもこれまた一つの意義ある表現形態かなとも思っております。 ○野村部会長 この間の法制審の総会でも,外国では別に「権利」という言葉は使っていないという話をしたのですけれども,竹下先生から,部会では「親権」という言葉を変えるということは考えていないのかと言われました。ただ,そこまでいくとすごく大問題になるのでということで,「権」という言葉が使われていますけれども,実質,通常の「権利」とはかなり違うので,その辺がうまく表現できればよいのではないかと考えています。個人的にはむしろ818条の前に置くというほうが筋なのかなとは思っているのですけれども,今の段階で現実的に考えると,事務当局の提案も十分あり得るかなと思っています。 ○窪田委員 水野先生がひょっとしたら発言されるべき点なのかもしれませんが,この事務当局の提案を前提としつつ,権利と義務の順番を入れ替えるということはあり得るのかなという気がいたしておりましたので,その点もあるいは議論していただいたらよろしいのかなと思いました。 ○水野委員 私が「ジュリスト」の論文に改正案を書きましたときには,この条文を818条の前に持っていって,そして,御提案いただいたように,「子の利益のために,子の監護及び教育をする義務を負い,権利を有する」という文言の書き振りにしてございます。   それから,その次の懲戒権の問題につきましては,懲戒権,822条をすべて削除するということにして,代わりに「子は暴力によらず教育される権利を有する」という一文を入れていただきたいといった論文を書いております。つまり,体罰禁止を明確にしていただきたいということでございますが,これは学者として書いたときも,本当に理想を書いたのではなくて,現実にアベイラブルな線であると思って書いたのですが,ここの場では更に現実との調整が難しくなるということは理解しておりますけれども,できれば懲戒権を削除することについてはチャレンジしていただけないだろうかと考えております。虐待する親は,虐待していると思わずに,しつけをしていると思って虐待をしておりますので,懲戒権という言葉がそれを正当化するのはやはりおかしいように思いますから,せめて削除の線を考えていただけないかというのがお願いでございます。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○大村委員 子の利益の観点の明確化というのは,ほぼ意見が出尽くしたように思いますので,取りまとめをお願いしたいと思います。私も基本的には,冒頭に子の利益のためだという規定を置いてもいいのではないかと思っていますけれども,窪田さんがおっしゃるような根本的な問題はあるだろうと思います。それから,次善の策と考えたときには,これも最初のほうで窪田さんがおっしゃったように,現在提案されている規定はそれなりにバランスの取れた規定なのではないかと思います。   2点目の懲戒のほうなのですけれども,今,水野委員から御発言がありましたので,私の感触も申し上げますが,第一義的には,懲戒権の規定は削除してもよいだろうと思っております。懲戒権の規定が置かれている理由あるいは居所指定権の規定が置かれている理由というのは,もともとは居所指定権も懲戒権も親権の中に含まれているけれども,それを強行するための制度が必要であるので,特に条文を起こしているということだったのだろうと思います。親が指定するところに住まないのを引っ張ってきて住まわせることができるという制度とか,懲戒場という特別の制度などを,旧民法,明治民法では考えていたわけです。そういうものがないのならば,懲戒権は親権の中に含まれているということで,特に条文を設ける必要はないというのがあり得る選択肢だろうと思います。今回,懲戒場の規定を削除することになりますと,その前提として懲戒権の存在を明示する必要はなくなると思いますので,削除は一つの方向だろうと思います。   ただ,その上で,様々な反応が生ずるのに対してどのような配慮をするのかという問題はあるのだろうと思います。規定がないということになったら,あとは解釈の問題であって,親権の行使として適切なしつけはできるということになるわけですけれども,そのことをどのくらい書くのかということで,水野先生は,懲戒権の規定を削除した上で,暴力はいけないと書くのがベストである,といったお話だったと思いますけれども,私は,「懲戒」あるいは「しつけ」という言葉は残しつつ,水野さんがおっしゃったように,「暴力」という言葉がいいかどうかは分かりませんけれども,懲戒の在り方について限界付けをするような調整の仕方もあるかもしれないと思います。これは,原則論とは別に,どのような規定を置くことが社会的に受け入れられやすいかということとの兼ね合いで文言等の調整をすべき問題かなと思います。 ○吉田委員 懲戒権についてですけれども,一つは,これを廃止するという意見を私は支持したいと思うのですが,多くの反対は,しつけもできなくなるのかということです。ですので,果たして「懲戒」という言葉をそのまま使っていくのか,それとも「しつけをすることができる」といった言葉に変えるのか,余り民法らしくないですけれども,懲らしめ,戒めというのが果たして今の状況に適するのかどうかということは考えてもよろしいだろう。   それからもう一つは,体罰に関しては,ここで出ましたように,児童の権利委員会からもしっかり勧告が出ているわけです。それに対して,この部会ではこういう議論をしたのだと,そこまで踏み込めなかっただけの正当な理由があるということでないと,次の政府報告のときにどうそれを書くのかと,再度権利委員会からの勧告が出るということになると,ちょっとまずいのではないかなということで,私は「懲戒」という言葉の見直しと,それから体罰の禁止というのは盛り込むべきだろうと思います。 ○平湯委員 懲戒権規定について,なお議論があり得るかと思いますが,その前に,「権利を有し,義務を負う」,これを逆にするということについてはいかがなものでしょうか。これは私は是非そうするべきだと思うのですけれども,その点も関連にしてもう少し議論していく。あるいは,この点についてはほとんど議論するまでもなく,順序の入替えがふさわしいということになるのかもしれませんが。 ○野村部会長 この点について,御意見はいかがなのでしょうか。 ○窪田委員 先ほど,順番を入れ替えるというのが検討対象にならないかと申し上げましたが,私自身も入れ替えたほうがよろしいと思っております。恐らく親権の問題に関して言うと,非常に古典的な戸主権--戸主が持っていたような権利というイメージの支配権というものから最も反対の立場というのは,「子の利益のために,子の監護及び教育をする義務を負う」と規定して終わりというタイプのものもあるだろうと思います。つまり,親権などと呼ばれているものは義務にしかすぎないのだという形もあるだろうと思います。その上で,共通理解が得られる部分というのは恐らくその中間的な段階にあるだろうとは思いますが,現在の比較的多くの理解というのは,親が持っている支配権というよりは,子のためのものであるということが先に出てくるのだろうと思いますし,正しく「子の利益のために」ということが置かれる以上は,その大前提として義務を負っているということを書き,その上で,ただ親の国家や社会に対する関係での一定の排他的な性格を持ったものとして,権利としての性質を持っているのだというのを書くという意味で,順番を入れ替えたらいいのではないかなという気がいたします。その点では,水野委員が以前に公表された案も適切なものだと思いましたし,ここでも,せっかく変える機会があるのであれば,是非変えていただけたらなと思います。 ○野村部会長 ほかにこの点について御意見はいかがでしょうか。 ○松原委員 民法がつくられたときの経緯はともかくとして,現代的に考えて,「監護」という言葉の中に何が含まれるかと考えてくると,子供を養育する,その中にしつけをするということも含まれてくる意味合いを持つと考えてもいいのではないかなと思うのです。そうすると,懲戒権もそうですけれども,その手前の居所指定権も要らないのではないかと。ちょっと過激かもしれないのですけれども,職業の許可とか,財産管理というのは,子供が成長してくる中で必要なのかもしれないけれども,「監護」という中身は広く養育ということまでとらえられるのだということを考えれば,政治的ないろいろな工夫はあるかもしれないですけれども,「懲戒」という言葉を言い換えてみるよりも,そういうしつけの部分も含めて「監護」の中に入るのだという説明の仕方で,居所指定権は議論してこなかったので置くとして,懲戒権は取ってもいいかなと思っています。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。特によろしいでしょうか。懲戒については,削除するという御意見が多いかと思うのですけれども。 ○飛澤幹事 2点ほど述べさせてください。まず1点目ですけれども,子供の利益の観点の明確化ということで,先ほど窪田先生のほうから,子供の利益のためにということを言うのであれば,義務を先に,また,国家の介入に対しての防波堤という意味もあるということで,権利を後にというのもいいのではないかという御指摘がございまして,そうかなと思う一方で,ただ,現在,既に「権利を有し,義務を負う」という文言がある中で,この順序を逆にすることでどの程度の効果があるのかということになると,なかなか法制的に説明するのは難しい面もあるのかなと思って聞いておりました。   それから2点目,懲戒のところですけれども,パブコメでは大阪司法書士会が削除については慎重に検討するようにという意見を出してきたぐらいなのですけれども,いろいろな意見があり得るところであると思っております。そうした場合,先ほど大村先生から御提案があったように,懲戒の在り方について限界付けるというやり方,つまり,今の民法822条の書き方というのは,必要な範囲内ということについて,どういう観点から必要な範囲ということが全く明示されていないので,例えばこの必要な範囲を何らかの方法で明示する形で限定付けるというのは,ある意味,懲戒の在り方,しつけの在り方について明確にするという意味合いもあるのではないかと思っております。そこで,特に2点目として述べたことについて,どのような御意見があるか,お伺いできればと思っております。 ○野村部会長 いかがでしょうか。 ○平湯委員 ただいまの1点目,順序を変えることによってどういう効果があるかということについて言えば,これは啓発的効果があると,親権の内容についてです。「親権」という言葉をなぜ残すかという御意見も法制審の総会で出たというお話でしたけれども,これは,私の意見としては,そのように持っていくべきであるけれども,まだちょっと時期尚早ではないかということで,例えば日弁連の意見書でも,そこまでの案はしておりません。それは今更申し上げることはございませんが,「親権」という言葉を残しつつも,818条をどうするかは別としても,「子の利益のために」を820条に入れる,それから権利と義務を逆にする,ここまでは最低限必要といいますか,大事なことだと思います。   それから,懲戒について言えば,なぜ懲戒権,822条の1項までが要らなくなるかというと,先ほどもちょっと御説明があったと思いますけれども,2項の懲戒場に入れるための権利として1項をうたっている。これはヨーロッパの法制でもそういう沿革になっているようですけれども,そういうことで,2項が削除される以上は,1項は当然に意味はなくなるのであるという説明で十分なのではないかと思います。残すことのマイナスはもちろんありますけれども,削る理由としては,2項の懲戒場を廃止する以上は,1項の懲戒権の規定は当然に必要なくなるという説明でよろしいのではないかという意見です。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○窪田委員 恐らく義務と権利の順番はどちらでも基本的には多分法律効果は変わらないだろうと思います。ただ,せっかく変えるのだったら,この点も随分長いこと議論されていますので,反映していただいたらという程度の意味です。   懲戒の部分に関しては,先ほどからたくさん出ている御意見というのは,基本的にはなくすという立場と,規定を置くという立場がありますが,規定を置くという立場でも,現行法的な意味での積極的な懲戒についての基礎付けの規定を置くという意見は多分ないと思います。その上で,この規定をなくしてしまって,その場合には当然820条でカバーすることができるとするのか,むしろ822条を全然別の方向で,懲戒として何ができないのだということを示す規定として残すという二つの方向が出ているのだろうと思います。実質的には,恐らくそれぞれの意見は対立しているという性格のものではなくて,どちらが,改正としてより受け入れられやすいのだろうかといった観点で議論がなされているのかなという気がいたします。   それを前提とした上で少し考えてみたときに,水野委員から具体的に,暴力によらないで,これは懲戒というよりは教育を受ける権利ということだったと思うのですが,「懲戒」という言葉を残すとすると,暴力によらない懲戒をするといったことになるのかもしれませんが,それは比較的明りょうに一つの方向は示せるのかもしれませんが,他方で,かなり難しい議論を呼ぶことになるような気がします。820条の中に懲戒も含まれ,いわゆるしつけというものも含まれるのだとしても,それは暴力を含むものではないということは実体法上は当然に前提とされているのではないかという気がいたします。その点では,822条に当たるものを残して,その中で明示的に限界付けをするということは,それが多くの方の共通認識として得られるのであれば,もちろんそれが一つの方向なのだろうと思うのですが,ちょっと難しいのかなという気がいたします。 ○磯谷幹事 822条は,私は全面的に削除すべきだと考えています。法律家はさておき,実際の親御さんたちというのは,こんな条文の存在などはほとんど知らないわけです。こんなことを全く知らないで普通に子育てをやっているわけですから,この懲戒権の条文というのは本当に役に立っていないと思っています。加えて,児童虐待の現場でこれまで取り組んできた弁護士も,それから児童福祉司さん,あるいは様々なケースワーカーの方を含めてですけれども,この懲戒権というものは是非削除してほしいという声が非常に根強かったと思います。ちょっと私は数字を覚えていないのですけれども,確か豊岡委員から御紹介いただいた児童相談所のアンケートの結果の中でも,懲戒権の規定の廃止という意見は結構多かったように思っています。そのような流れの中で今回残すという選択をしますと,これは特に児童虐待に取り組んできた人たちに逆のメッセージが伝わってしまうのではないかということを恐れます。それから,我々は児童虐待防止という名前の下で今回の議論をしているわけです。これはある意味で一つの制限ではありますけれども,一方で一つの立場として私たちの考えというものを,例えば今後国会のほうに示していくということは十分おかしくないだろうと思うわけです。したがって,児童虐待防止のためには懲戒権はすっきり排除すべきだということで,そして先ほどからほかの何人もの委員さんがおっしゃっているように,実質は820条できちんとカバーできるのだという説明さえしていただければ,それほど波風が立つことはないだろうと私は思っております。ということで,結論的に,削除を是非お願いしたいと思っております。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○飛澤幹事 今議論されていた点ですけれども,メッセージ性の問題については,懲戒の規定を裸で残すとなると,確かに裏のメッセージが伝わってしまうおそれがあるのかなと思うのですけれども,今の懲戒の在り方について何らかの限界なり指針を設けるというアプローチであれば,それは懲戒権の規定を削除する場合と同様のメッセージは残し得るのではないかなとは思っております。この辺については本当にいろいろな意見があり得るところなので,先ほどちょっと御意見を聞いてみたという次第でございます。 ○野村部会長 問題は二つあって,一つは,822条があることによる誤解というか,あるいはマイナスの面と,それから今度は逆にこれを削ったときに,ここでは枠組みは別に変わるわけではない,しつけをしなくてよくなるわけでもないということをうまく理解してもらわなくてはいけないということだと思うのです。だから,どちらかというと,削るなら削るとしたときに,そこをどうやってうまく説明するかということを考えなくてはいけないということではないかなと思います。 ○水野委員 私の判断としては,磯谷幹事と同じ立場ではあるのですが,それなのにこれから裏切るような発言をして申し訳ありません。「懲戒」を削除するかどうかについては,国民の中にいろいろな御意見の方があるでしょうから,そのことにも配慮すると,今投げられた御提案で,とっさに考えただけですが,「懲戒」という言葉を残すのであれば,「子を懲戒するに当たっては,あらゆる暴力を用いてはならない」とか「子を懲戒するに当たっては,子の心身にあらゆる害を及ぼしてはならない」といった書き振りだと,「懲戒」という言葉を残して暴力禁止ということを入れ込むことができるかもしれません。 ○大村委員 どういう表現がいいのかは分からないのですけれども,水野委員がおっしゃったのは一つの選択肢なのではないかと思っております。冒頭に理屈から言うと削除だと申し上げ,実際にも削除でもいいと思っているのですが,ただ,削除のときに,現在と同じだという説明をすると,何が現在と同じなのかという疑義を生じさせるような気もするのです。現在は懲戒権の規定があるわけで,「懲戒」という言葉が使われています。民法典の起草者は明治の人間ですから,たたいてもいいと言っています。起草者は一定の有形力の行使を認めていたわけです。それから,学校教育法は体罰を禁止していますので,その反対解釈からは,親ならば体罰もよろしいという解釈が出てくるわけです。それは現在の状況に合わない。だから,そういう解釈は採らないというのは,解釈論としてはあり得る話です。しかし,親は有形力を行使できるという解釈論も一定の根拠を持ってあり得るわけです。現在と同じだというのは,この状態をそのまま温存することになるような気もするのですけれども,果たしてそれがいいのか,それとも水野委員がおっしゃったような,書き振りはちょっと工夫が必要なのですけれども,暴力はいけないのだということを書いて,しかし,しつけというか懲戒というか,そこは吉田委員から御指摘があったように検討を要しますが,そういうことは可能なのだとしておくのがいいのか。これは受け止め方の問題かと思いますけれども,私が申し上げたような状況が生じるかもしれないということは考慮する必要があるのかもしれません。 ○窪田委員 最終的な方向をどちらにということで,何か確信的な考えを持っているということではないのですが,恐らく懲戒に関しての規定を残すというときに,どこまで書き込めるのかということによって性格が随分変わってくるということなのだろうと思うのです。現行法を前提として,懲戒場の部分だけをなくして,「親権を行う者は,必要な範囲内で自らその子を懲戒することができる」というと,正しく誤ったメッセージ性ということになるのかもしれません。一方で,水野委員から御提案があったような形で,暴力によらないでとか,有形力の行使によらないでという形のことをうまく書ければ,それはそれで非常に強い反対方向での本来あるべき理想の状態に向けたメッセージということになるのかもしれませんが,恐らくその場合には大変に議論にはなるのだろうなという気がするのです。体罰を禁止するというところまでは簡単に合意が得られるのかもしれませんが,暴力といった場合,あるいは有形力の行使といった場合に,これは別の研究会でも水野先生とお話をしたことがあったような記憶がありますが,押し入れに子供を入れて「2時間,反省しなさい」というと,これも多分有形力の行使ということになるだろうと思うのです。非常に小さい子供に全部言葉で説明するというのが不可能だとすると,その部分は認められるのではないかという人もいれば,それも駄目だという方もおられるだろうと思います。そうなってくると,実はその部分をどういう書き振りで示すのかということは大変難しくなってくる。だんだん妥協して,「適切な方法により懲戒することができる」といった書き振りをするのだったら,実は現行法で「必要な範囲内で」というのとほとんど変わらなくて,それこそ反対方向の誤ったメッセージになってしまうのではないかという気がするのです。ですから,最終的に私は,822条を完全に削るのか,正しいメッセージを伝えられるような方向で再構成するのかというのは,両方とも選択肢はあるとは思うのですが,後者に関して言うと,それを具体的にどう書きあらわすのかというのは実は大変難しいのではないかなという気がいたしております。 ○松原委員 法にどう書くかは別として,しつけと懲戒とはイコールではないはずなのです。しつけるということは別に懲戒をしていくことだけではないので,そういうことで考えたときに,そもそも懲戒の限定をつけるときも,そのことと子供をしつけていくことは違うということをどこかできちんと整理できていないと,子供を育てるにはしつけが必要で,しつけというのはイコール懲戒だから,懲戒は許されるのだという論理にならないようにちょっと注意していただきたいと思います。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。大体議論は頂いたということでしょうか。そうしますと,これは事務当局にはかなり難しい宿題ということになりました。特に822条については,法制的な問題もありますので,そこまでいろいろ御配慮いただいている御発言もありましたけれども,今日の意見を踏まえて,改めて検討してみるということにしたいと思います。   そうしますと,今日一応予定した議題は以上ですけれども,何かほかに御発言はございますか。 ○久保野幹事 すみません,今のタイミングでいいのかどうか自体もお伺いしたいのですけれども,これで個別論点についての検討の一巡目が終わって,二巡目に入るということでまずよろしいですか。それを前提に,二巡目に向けて検討の対象に含めていただきたいという趣旨の発言なのですけれども,それは後ほどのほうがよろしいでしょうか。 ○飛澤幹事 最初に申し上げたとおり,個別論点の検討の後は,要綱案のたたき台をお示しするということを考えておりますので,今,御発言いただいたほうがよろしいかと思います。 ○久保野幹事 すみません。そうしますと,その要綱のたたき台の中で,例えば宿題になっております用語をどうするかといったことが示されるということだと思うのですけれども,それと併せまして,効果の面について御検討をお願いしたい点が1点ございます。それは,一時制限が再統合を図るべきだという考慮の下で導入されることとも関係しまして,取り分け養子縁組の代諾権といったものを一時制限がされているときにだれがどう行使するのか。私自身は,これは制限されている親権者に残るという設計がよろしいのではないかとは考えておりますけれども,そのような点について御検討をお願いしたいということでございます。 ○野村部会長 分かりました。事務当局で検討してもらいましょう。   それでは,ほかに御発言はよろしいでしょうか。   それでは,本日の審議は以上ですけれども,次回の日程等につきまして,事務当局からお願いいたします。 ○飛澤幹事 次回でございますけれども,第9回会議は11月19日金曜日午後1時半からで,場所は法務省の20階なのですけれども,この第1会議室ではなく,最高検大会議室になりますので,御注意ください。 ○野村部会長 それともう一つ,次回なのですけれども,ちょっと私の都合で次回は大村部会長代理に司会をお願いしておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。   それでは,本日は以上で審議を終わりたいと思います。どうも長時間ありがとうございました。 -了-