法制審議会民法(債権関係)部会           第17回会議 議事録 第1 日 時  平成22年10月26日(火) 自 午後1時00分                        至 午後6時16分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○鎌田部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第17回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   では,配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 今回は新たな事前配布資料はございません。これまでの積み残しを御審議いただく関係で,既に配布済みの部会資料17-1と17-2を使わせていただきます。これらの資料の内容は,後ほど関係官の笹井と松尾から順次,説明いたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議に入ります。   本日は,民法(債権関係)の改正に関する検討事項(12)のうち,「第2 請負」の「7 下請負」以降について御審議いただく予定です。具体的な進行予定といたしましては,休憩前に部会資料17-1の「第2 請負」の「7 下請負」から「第4 準委任に代わる役務提供型契約の受皿規定」の「3 役務受領者の義務に関する規律」までを御審議いただくことを予定いたしております。その後,休憩を挟みまして「4 報酬に関する規律」以降を御審議いただきたいと思います。   それでは,まず部会資料17-1の7ページ,「7 下請負」について御審議いただきます。事務当局に説明してもらいます。 ○笹井関係官 「7 下請負」について御説明いたします。   「7 下請負」では三つの論点を取り上げました。「(1)下請負に関する原則」では,請負人は原則として下請負人を使用することができることを明文で規定すべきであるとの考え方の当否について,「(2)下請負人の直接請求権」では,下請負人が注文者に直接,報酬の支払を請求することができることとすべきであるとの考え方の当否について,「(3)下請負人の請負の目的物に対する権利」では,注文者及び下請負人は相互に元請契約に基づく注文者及び元請負人の権利以上の権利を有しないことを明文で規定すべきであるとの考え方の当否について,それぞれ御意見をいただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○大島委員 「(2)下請負人の直接請求権」についてでございますが,下請負といっても実際には一次,二次と重層的な下請構造にある例も多くございます。いずれかの下請負人が平時の通常取引において注文者に直接,支払を請求できるということになれば,実務に大きな混乱が生じるのではないかとの声がかなりございました。また,混乱を避けるために下請負を利用することができない旨の特約を付す注文主が増えることも考えられ,そうすると,中小企業に仕事が回ってこないという実態を引き起こしかねないのではないかと懸念する声もございました。報酬債権の保護については,現在,特別法で手当てされているものと認識しております。このような規定を一般法に設けるかどうかについては,経済活動に与える影響も含めて慎重に御検討をいただきたいと思います。 ○奈須野関係官 ただいまの大島委員と同じ意見ですが,下請負人の直接請求権を認めることに反対します。理由の第一は,下請負人からの請求に対応するために注文者が下請負契約を管理しないと,見ず知らずの人から請求をされるおそれがあるということで取引の安全を害し,あるいは注文者の事務負担を増大させるというおそれがあるということです。第二に,注文者の元請負人に対する抗弁権や相殺に関する権利関係はどうなるのかという問題があり,これを解決することが必要になると考えられます。第三に,中小企業は金融機関の提供する一括支払システムを活用して,下請代金を前もって現金化しているという実態がありますので,直接請求権を認めると,この債権の取扱いはどうなるのかという問題が生じ,結果的に債権譲渡による資金調達ができなくなるというおそれがあると考えております。   以上のように,下請負人の直接請求権を認めますと,請負契約を結ぶと下請負人から直接請求がなされるおそれがあるということから,こういった取引自体を萎縮させることになり,中小企業にとっては厳しい環境になるのではないかということで,このような方向には反対です。もし必要であれば,現行の法制度では下請代金法ですとか,あるいは建設業法において,そういった問題への対処が可能な仕組みになっておりますので,これらの個別の法律において,そういった仕組みを設けることの要否を検討すればよいのではないかと考えております。 ○筒井幹事 下請負人の直接請求権に関して,新谷委員と中井委員から事前に発言メモが提出されていますので,それを読み上げる形で紹介いたします。   まず,新谷委員からですが,下請負人の直接請求権を肯定することについては賛成である,という意見をいただいております。   それから,中井委員の意見を読み上げます。   下請負が適法な場合に,下請負人の元請負人に対する報酬債権と元請負人の注文者に対する報酬債権の重なる限度で,下請負人は注文者に対して直接支払を請求することができるとの考え方について,確かに,下請負人の保護に資する面があり,評価できるところもありますが,以下の理由で,賛成できません。   第一に,下請負人と元請負人,元請負人と注文者と密接な牽連関係のある契約において,その利益が共通し,元請負人の仕事の価値が下請負人の仕事に依存しているような場合に,報酬債権の重なる限度で直接請求を認めることの経済的な合理性を認めることができますが,そもそも,契約関係にないものの間になぜ直接請求権が生じるのか,十分な説明がないように思われます。   しかも,利益ないし価値が共通して密接な牽連関係が認められるのは,元請負契約と下請負契約の関係に限りません。元請負契約の対象となる建築中の建物に,例えば,売買契約に基づいて材料を納入した場合の売買契約と請負契約の関係,又は屋根をふく,内装工事をするといったように建物自体に労務と材料等を提供する場合の雇用契約ないし役務提供契約と請負契約の関係,反対に,請負契約により建物を完成させた後に売買する建売りの場合における請負契約と売買契約の関係においても,経済的な意味で密接な牽連関係がありますが,本提案もそのような場合にまで直接請求権を拡張するものではないと理解できます。なぜ,請負契約と請負契約の場合にのみ,直接請求権が認められるのか,その違いの説明が十分ではありませんし,その説明は困難であるように思われます。   第二に,直接請求権を認めた場合,元請負人が破産しても,下請負人は元請負人の一般債権者に優先して元請負代金から回収できることになるようです。このこと自体,元請負人の一般債権者と下請負人の平等を害しています。しかも,理論的にも,元請負人の一般債権者が元請負人の注文者への請負代金債権を差し押さえたとき,注文者の弁済は禁止されますから,差押え後は下請負人も注文者に直接請求はできないはずです。それとの平仄から言えば,破産手続の開始は包括的差押えと理解することができますので,破産が開始しても下請負人が直接請求できるのはおかしいように思います。また,元請負人が破産したとき,下請負人の元請負人に対する報酬請求権は破産債権となり破産手続でしか行使できないはずですが,提案によると,下請負人は,破産債権であるはずの下請負代金の報酬請求権を,元請負人が破産した後も注文者に直接行使できることになります。元請負代金債権から見ても,下請負代金債権から見ても,平仄が合わないように思います。   第三に,これは事実上の問題かもしれませんが,元請,下請,孫請と,契約関係が数次にわたる場合に,だれがだれに対して,どこまで直接請求できるのか不分明です。また,元請負人に対する複数の下請負人が報酬請求権を有し,その債権合計額が,元請負人の報酬債権額より大きい場合には,報酬債権の重なる限度が明らかではありませんし,下請負人のいずれかの早い者勝ちなのか,下請負人らの按分になるのかも不分明です。いずれの場合を想定しても,実務が混乱するのではないかと懸念します。他方,そのような複数請求がある中で弁済を求められる注文者の地位も極めて不安定で弁済リスクが大きくなります。   また,仮に,請負の定義を仕事の完成プラス引渡しとする見解を採用するとしますと,多くの下請負契約は,労務提供型か役務提供型で引渡しを観念できない場合が多いですから,下請負債権は相当限定され,下請の保護としては不十分のものになります。他方,下請負契約の範疇に入るもののみが優先弁済を受けることになり,元請負代金債権の発生に等しく寄与した密接な牽連関係のある他の契約類型の関係者との間の平等も害されることになります。   これまでの実務では,元請負人が無資力であれば,下請負人は債権者代位権に基づき元請負人の請負代金債権を行使することになりますし,また,注文者は,元請負人に代わって,元請負人の下請負人に対する請負代金債務を第三者弁済した上,注文者はその求償権と元請負代金債務を相殺することが多いように思います。相殺禁止に該当するリスクはありますが,現行実務でも,それなりに下請負人の権利保護は可能です。一般論としてこのような保護では不十分であるとすれば,密接な牽連関係のある契約類型の一つとして,下請負人に元請負代金債権に対する先取特権を認めるとか,下請法等による保護を更に充実させるなどの対応を採るほうが実務に適合するように思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   (2)に議論が集中しておりますので,(2)に関連する御議論があれば,ここでお出しください。 ○佐成委員 ただいま出ておりました意見は反対の意見が非常に多かったと思いますが,実務家,経済界にもやはり相当懸念がありまして,反対する意見が多かったと思われます。その主要な点は皆さんいろいろ御議論されておりますが,特に数次にわたる下請関係,これが一般的であって,三次,四次,五次ぐらいは当たり前といいますか,その末端になりますと契約関係自体が非常に不分明になって,口頭でなされているとか,あるいは誰から誰に注文がいっているのかも分からないとか,そういった状態が結構多いということでございまして,これを入れますと非常に混乱するだろうというのが一つございます。   それと,先ほど大島委員もおっしゃっていましたけれども,平時といいますか,有事に近いような場面で起こる場合,代金債権というのは一番紛争が多いところですから,これを入れるとかなり紛争が多くなるのではないかという懸念もあります。特に有事に近いような場面ですと,信用の維持というのが非常に大きな要素になるんですけれども,下請が直接,上位といいますか,上の階層をたどってクレームを述べるということになりますと,これまで微妙に維持されてきた信用秩序が瓦解する可能性がありまして,特に有事の一歩手前でそういう信用秩序が崩壊しますと,本当に倒産になるとか,倒産の引き金を引くとか,そういうことが実際にあり得ると思われますので,ここは十分慎重にやっていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○村上委員 既に幾つか御指摘がありますけれども,やはり,「(2)下請負人の直接請求権」を認めるためには,その前に検討しておかなければならない問題があると思います。まず,孫請けや更にその下請けなどが繰り返されている場合に,複雑な問題が生じるのではないかという問題,それから,注文者は元請負人と下請負人との間の契約内容が十分には分からないことが多いと思いますので,債務不履行とか二重払といった危険を注文者に負わせる危険があるのではないか,また,元請負人と下請負人との間の紛争に注文者を巻き込んでしまう結果になるのではないかという問題があろうかと思います。元請負人が下請負人に対して何らかの抗弁を主張できるときに,そのことを知らない注文者が支払をしてしまったという場合に,どうなるかというような問題もあるだろうと思います。   それから,複数の下請負人がいる場合に,相互間の優劣関係がどうかという問題もあります。また,注文者が元請負人に対して債権を有する場合,債権といいましても,例えば瑕疵修補に代わる損害賠償請求権など請負に関係する債権であることもあれば,請負とは無関係の債権であることもあろうかと思いますが,注文者が元請負人に対して債権を有するということを下請負に対して主張できるのかどうかということも,問題として検討しておく必要はあるだろうと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○山本(和)幹事 この規律の理由とされている下請負人に優先権を与えるべきであるという価値判断については,私は特にコメントはありませんが,仮にこれを前提としたときでも,優先権を与える方法は当然,直接請求権だけではないということで,中井委員が御指摘になられたように,普通に考えれば担保権を付与するというのが素直な対応のようにも思われます。この規律は担保権を付与した場合と比較してみますと,平時あるいは破産や民事再生の場合には,実質的に同じ帰結になるかと思いますけれども,会社更生の場合を考えてみますと,担保権を単に付与した場合には下請負人の権利は更生担保権にとどまるわけで,更生手続外では行使できないのに対して,直接請求権という構成であれば,そのような場合にもなお注文者に対して請求できるということになるように思われます。そういう意味では,これは単に担保権,特別の先取特権を付与するよりも,更に下請人に強い権利を認めているということになるのだろうと思います。   その観点で,これも中井委員が御指摘されているところですけれども,もとが売買で,それで請負報酬債権に対してかかっていくという場合には,一定の範囲で物上代位が認められるということかと思いますけれども,その売買と下請との場合で,更生手続に元請人がゼネコンとかが入ると,天と地の違いが出るということになろうかと思いますけれども,そこまで強く保護する必要性があるかどうか,単に優先権を与えるべきだということでなくて,それほど強い優先権を与える必要があるのかどうかという観点から,検討する必要があるのではないかということです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかにはいかがでしょうか。 ○岡委員 二点,申し上げます。   最初に,優先権を認めるべきかどうかのところで弁護士会では,一律に優先権を認めるこの提案には反対が圧倒的でしたが,認めていい場合もあるだろうという意見も結構ありました。しかし,元請があって初めて下請の仕事があるようなケース,元請の存在意義が大きいケースでは,優先権自体,価値判断として認めるべきでないという意見もございました。   それから,優先権を認めるべき場合,一対一対応の下請のような場合が典型的だと思うんですが,なおかつ元請が単に冠のようにそれほど価値ある行動をしていなかった場合,その場合には優先権を認めていいと思うんですが,弁護士会としてはやはり担保権構成のほうが適しているという意見でございます。実務的にいうと,担保権構成にすると差押えが必要になって,裁判所の判断をかませることができます。やはり数次だとか複数だとか,注文者はよく事情を知らないだとか,そういうことがございますので,裁判所の判断がかんだ形で優先権を認める,そういう意味で法定担保権構成のほうがいいのではないかと,こういう意見が強うございました。 ○沖野幹事 詳細版の資料では下請けの場合のほか,613条でも問題になることだという言及がございます。この問題自体はほかにも委任ですとか,否定はされておりますけれども,寄託のところでも問題となります。更に広くは一般的に契約の連鎖があって密接関連性がある場合にどう考えるかという問題にもつながってまいります。今までの御指摘を伺うと,やはり一般的なルールを設けるのは非常に困難な問題であって,場面ですとか契約類型ですとか,関係者の状況などによって,個別の検討をする必要があるものと考えております。   その中でなのですけれども,下請の場合について種々の問題点の指摘がございましたが,では,賃貸借について転貸借の場合はどう考えたらいいのか,あるいは他の類型の場合はどうかということが残っていると思います。転貸借の場合にも触れられはしましたけれども,十分な御議論や御指摘はなかったように思われます。下請についての今の御指摘をふまえて考えますと,一方で権利者が複数になる,これには下請人が複数という単純な場合のほか,請負に限定しますと,役務提供をどうするかという問題も出てまいりますし,あるいは材料を提供した売主をどうするかという問題が出てまして性格の違う権利行使の可能性ということも視野に入れなければいけない,こういったことからすると,かなり複雑な権利行使が想定されるというのが一つあります。   それに伴って,相手方になる注文者側からすると,だれに,一体どのように支払をすれば免責されるのかということが不明確なままであると注文者は非常に不安定な地位に置かれますので,その明確化を図る必要があるけれどもそれが十分にできるかという問題があります。   更にまた反面でもありますけれども,直接請求を認める契機の正当化という点があります。   これらの御指摘の点は賃貸借の場合,つまり転貸借の場合は違うと考えてよいのかどうかです。倒産の場合に優先的に権利行使を認めるかどうかという点についても問題が指摘されましたけれども,転貸借であれば違うべきなのかもよくまだ分からないところがあります。転貸借の回のときに申し上げましたように,理論的にどうかということもあるけれども,それとともに実践的,実務的な価値判断ないし政策判断も含めて,どういう法律関係とすることが望ましいのかという点も重要であり,その判断次第によっては別の構成の可能性もあると考えておりまして,そのあたりの御意見を伺えればと思っておりました。   一点目の非常に複雑な権利行使の可能性が生じるというのは,転貸借であればそのような事情は基本的にはないとも思われますし,また賃貸借,転貸借の場合は,直接請求にとどまらない面を持っているという御指摘もございましたので,613条は全く別であるというふうに整理してよろしいのか,それとも,同じ問題をはらんでいると考えたほうがいいのかという点について,御懸念や御意見があれば,併せてお伺いできればと思うのですが。 ○鎌田部会長 もし,613条関係で御発言があれば。 ○深山幹事 今の沖野先生の整理は非常に明快だったと思うんですが,やはり下請の関係がいろいろな問題を考える上で一番分かりやすいという気がいたします。つまり,直接請求権を認めるべきでないという理由が最も強く現れると思います。賃貸借の議論のときにも簡単に発言したような記憶があるんですが,倒産時の不平等さの問題というのは請負に限らない,賃貸借にも共通する問題だと思います。複雑さという問題については,賃貸借,転貸借の関係には,それほど複雑になりにくいんだろうとは思うんですが,倒産時を想定したときの債権者間の平等という問題は,各契約類型に共通する問題だと思います。私はそういう観点から,賃貸借も含めて直接請求というものは認めるべきではないのではないかと考えております。現に賃貸借においても,それほど直接請求権が実務的に機能しているという感覚もないということを申し上げたと思いますが,これを否定しても不都合はないし,ほかの類型で直接請求を認めるべき合理性,妥当性はないのではないかと考えます。 ○松本委員 転貸借と下請負との対比をせよということですが,単純に考えれば,賃貸借の場合は転貸借が自由ではないが,他方,請負の場合の下請負は資料の7ページのところにも書いてありますが,原則自由であるというように,ポリシーがそもそも逆転しているということ。それから,転貸借の場合は,一個の不動産について,それをそのまま第三者に貸すということですが,下請負の場合は,パーツに分けて下請に出すとか,更に二次,三次,四次,五次の下請というような複雑な場合が出てくるけれども,賃貸借で転々貸借なんていうのは普通は考えられないだろうということで,これは相当違うと思います。ただし,丸投げ的,包括下請が注文者と請負人の合意の下に行われるようなケースは,転貸借にかなり近い形になるから,直接請求を認めるという議論が出てきてもいいかもしれないです。きちんと合意の上でそういうことをしている場合には,という印象です。 ○中田委員 直接請求権について否定的な御見解が非常にたくさんありまして,おっしゃっていることはよく理解できるように思います。ただ,その上で完全になくするのか,今,松本委員が最後におっしゃったような,ある部分について認める余地がないのかどうかということは,なお検討できるのではないかと思います。   というのは,価値判断の問題という言葉が何度か出てまいりましたけれども,下請契約というのはもともと元請契約を履行するために行われるものですから,その意味で,二つの契約の関連性は非常に密接だと思います。経済的に考えますと,元請人は注文者と合意することで自分の債権を確保する方法がありますけれども,下請人はしばしばそれができない。先ほど来,特別法があるとか,あるいは債権者代位権を使えばいいという御指摘もございましたけれども,しかし,それは実際にはなかなか使えない,あるいは特別法から漏れるところがあるというところで,直接請求権というのはなお意味があるのではないかと思います。破産法上の取扱い,あるいは会社更生法上の取扱いということがございましたけれども,これは恐らく実体法上の判断を経て,それが倒産法秩序の中で反映されるということになるのではないかと思います。   それから,ほかの手段でカバーできれば,それでいいではないかということ,例えば担保権を付与するということですが,これはこれで検討すべきことだと思いますけれども,今,それがない状態で下請人の直接請求権というのを認めることは検討対象になると思います。ただ,皆様,御懸念されていますように,これが広がっていくと収拾がつかなくなるのではないかということはあるかもしれませんから,権利行使の手続的な要件というのは考えていかないといけないと思います。それから,先ほど沖野幹事から御指摘のありました転貸借との比較ということを考えますと,少なくとも転貸借と同じような状況の場合には,最低限のことかもしれないけれども,下請負人についても直接請求権を認める余地があるのではないか,一切認められないということにはならないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   (2)以外,(1)(3)については特に御発言はございませんけれども,異論はないと思ってよろしいですか。 ○高須幹事 (3)の下請負人の請負の目的物に対する権利のところでございますが,下請はもともとの元請を前提とするものであり,その履行のためになされる。下請は,こういう性質を持っているという点はもちろん異存はないのですが,しかし,やはり下請人の保護ということもある程度は考えねばならないと思います。そうなりますと,元請人が元請契約に基づいて注文者に対して有する以上の権利を下請人は注文者に主張することができないという,一般理論としてはそれでいいと思うんですが,全く例外を認めないのかという点については,やはりさらなる検討の必要があるのではないかと思います。(2)のところでも出たように一括請負の場合だとか,注文者がそれを承諾した,しないの場合だとか,そういういろいろなバリエーションがあると思いますので,場合によっては元請負人と注文者の間の約定のほうが優先するという一般原則を修正すべき場合が出てくる余地があると思っております。規定を具体的に作るに当たっては,その辺を意識した検討が必要かと思います。   詳細版の26ページに載っております最判の平成5年10月19日という事案は,いわゆる一括請負がなされ,かつ,それについて注文者の承諾を得ていないケースのようです。判旨を読むと下請の事実すら注文者は知らなかったということのようでございますから,その場合に元請の規律を下請人が拘束を受けるというのは当然の事案だったと思うんですが,例えば一括請負が注文者の承諾の下になされているような場合であれば,異なる結論の可能性もあったのではないかと思いますので,その辺を御留意いただければと思っております。 ○鎌田部会長 ほかによろしいでしょうか。もしよろしければ,次に部会資料17-1の8ページから11ページまでの「第3 委任」……。 ○岡委員 請負で一言あるんですがよろしいでしょうか。詳細版でいきますと23ページの注文者が任意解除権を行使した場合のところでございます。二点,申し上げます。   一点は,新谷さんが前回,言われたような請負の中にも雇用といいますか,労働といいますか,そういう側面がある契約がどうもありそうです。そういう場合には任意解除権をそのまま全部認めていいのか疑問です。任意解除権というのは役務の受領を要らなくなった場合には解除して金で片を付ければいいと,そういう発想の規定だと思いますけれども,金で片を付ければいいという割切りを先ほどのような雇用の色彩のある請負に及ぼしていいのかという問題意識でございます。   後の受皿的な役務提供契約の任意解除権のところにも及ぶ問題でございますけれども,任意解除権について何らかの限定をすべきではないかという意見です。これは請負というのは,役務提供者が個人になる場合もありますし,役務を買うほう,役務受領者が消費者になる場合もあって,ちょっと弁護士会としては大変なところでございますが,今の観点は役務提供者が労働者類似になる場合の任意解除権の制約原理が必要ではないかという問題意識でございます。   二つ目に,任意解除権を行使した場合の損害賠償の範囲のところでございます。ここは二つありまして,まず役務の履行が受領者の義務違反によって履行不能になった場合には危険負担の法理により報酬請求権が立つ,しかし,それによって利益を得た場合は利益を控除すると,そういう規定が提案されております。これに対し,任意解除権を行使した場合は,報酬請求権が立つのではなく,損害賠償請求権として約定報酬相当額を認め,ただし,節約できた支出は控除を認めるとなっています。この二つの関係がよく分からないという問題意識でございます。   義務違反によって履行不能になった場合には報酬請求権が立つけれども,それによって得た利益は控除されるわけです。この得た利益の中に節約できた費用が入るのであれば,任意解除権の支出を控除することと変わらないような気がしますが,それでも利益が控除されます。しかし任意解除権の場合には,節約できた費用だけを控除できて,利益があった場合には控除しないでいいように読める規定でございます。   この点に関し消費者関係の弁護士から言われた例として,結婚式の予約があります。結婚式の提供サービスは請負だとすると,破談になって大分前に解約をすることがあります,これは任意解約でしょう。この場合に,約定報酬から節約できた費用を控除した額を払うことになると思いますが,早々と解約した場合には違うお客さんに結婚式を提供できるわけだから,そっちで得た利益は引いてもらっていいのではないかと,そういうような意見がございました。これは,任意解約の場合も,得た利益を控除してよいのではないかという意見です。   受領者の義務違反による履行不能の場合の規律と任意解除権の損害賠償の場合の規律が表現上,違っているんだけれども,違う理由があるのか,ひょっとしたら同じなのかという問題意識と,任意解除権の損害賠償のときに,先ほどのような得た利益も控除するという規律があっていいのではないか。この二つの問題提起でございます。 ○鎌田部会長 ほかに請負関連で御発言はございますでしょうか。   よろしければ,次に部会資料17-1の8ページから11ページまで,「第3 委任」のうち「1 総論」から「3 委任者の義務に関する規定」について御審議いただきます。事務当局に説明してもらいます。 ○笹井関係官 まず,「第3 委任」の「1 総論」においては,二つの関連論点を取り上げました。「1 有償委任と無償委任の区別」では,有償委任に関する規定と無償委任に関する規定の配置の在り方について,「2 無償性の原則の見直し」では,この原則が今日の社会に適合しないのではないかという点について,それぞれ問題提起するものですが,いずれも委任全般にかかわる問題ですので,ここで御審議いただきたいと思います。   それでは,2以下の個別論点について御説明いたします。   「2 受任者の義務に関する規定」では,六つの論点を取り上げました。「(1)受任者の善管注意義務(民法第644条)」では,受任者は指図遵守義務を負うという原則とその例外となる場合を条文上,明示すべきであるとの考え方について,御審議いただきたいと思います。「(2)受任者の忠実義務」では,受任者が負う義務として,善管注意義務とは別に忠実義務に関する規定を設けるべきであるとの考え方について,「(3)受任者の自己執行義務」では,受任者は自ら委任事務を処理しなければならないという原則と,その例外として復委任が許容される場合を条文上明示すべきであるとの考え方,復委任が許容される場合の委任者と復受任者との法律関係について,「(4)受任者の報告義務(民法第645条)」では,受任者が報告義務を負う場合を現行の規定よりも拡大すべきであるとの考え方について,「(5)委任者の財産についての受任者の保管義務」では,受任者が委任事務を処理するために委任者の財産を保管する場合について,有償寄託の規定を準用すべきであるとの考え方について,「(6)受任者の金銭の消費についての責任(民法第647条)」では,受任者が金銭を消費した場合の責任について規定する民法第647条を削除するべきであるとの考え方について,それぞれ御審議いただきたいと思います。   「3 委任者の義務に関する規定」では二つの論点を取り上げました。「(1)受任者が債務を負担したときの解放義務(民法第650条第2項)」では,受任者が委任事務処理に必要と認められる債務を負担した場合の代弁済請求権を弁済資金支払請求権に改めるべきであるとの考え方について,「(2)受任者が受けた損害の賠償義務(民法第650条第3項)」では,有償委任の受任者が受けた損害の賠償請求の可否及び内容について,御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明がありました部分のうち,まず「1 総論」及び「2 受任者の義務に関する規定」について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○岡本委員 受任者の義務に関する規定のまず善管注意義務のところですけれども,受任者は原則として委任者の指図に従うべきと,これはこれで当然だと思いますし,それで結構だと思います。指図が不適切だと思われる場合に,委任者に指図の変更を求めるべきこと,これについてはおおむねよろしいかとは思いますけれども,ただ,常に変更を求める義務があるというのはやや強過ぎるのではないかと,場合によっては指図がそのままでよいのか,確認を求めれば足りる,そういった場合もあるのではないかと考えます。   それから,急を要するときは指図に反してでも臨機に必要な措置をとること,これについては権利としては認められて結構ではないかと思いますけれども,常にその義務があるかというとちょっと疑問ではないかと考えます。そういった義務が認められる場合もあるでしょうけれども,委任の趣旨とか,そのときの事情によっては義務までは認められないこともあるのではないかと。指図に従えばいい場合,それから,従わなくてもいい場合,従ってはならない場合,こういったものは委任の趣旨とか,その場の状況によってかなりいろいろあるところであって,その程度も連続的な白から黒にグラデーションがかかっている,そういったようなものではないかと思っておりまして,そのあたりがうまく書き分けられるのであれば,それでもいいんですけれども,困難だとしましたらば,余り書き込まないで善管注意義務の解釈に委ねたほうが柔軟でよいのではないかと思いますので,この点については慎重な検討が必要だと思います。 ○奈須野関係官 ただいまの受任者の善管注意義務のところの最後の部分で,例外として委任者の指図に従うことを要しない場合についても規定を設けるべきであるか否かという論点がありました。この点については,委任者の指示に従うことが委任者の利益に反すると認められる場合に,受任者は委任者の指示に従わなくてもよいということにすると,委任者が受任者をコントロールできない場合が生じ得るため,実務上の不都合が生じるのではないかという意見がありました。例えば紛争の早期解決をねらって,代理人弁護士に,あえて自社に不利な内容で和解するよう指示するということは当然あり得ます。そのようなときに,それは委任者の利益に反するということになりますと,代理人弁護士が和解の指示に従わないということもあり得るので,このような制度は実務の慣行と一致しないのではないかということです。   それから,忠実義務及び自己執行義務について,656条ではこれを準委任に準用するとなっておりますが,委任について忠実義務,自己執行義務を設けるか否かという論点とは別に,これを準委任に準用するかどうかという論点があります。特に準委任については定型的,画一的な業務を大量に処理するものですので,忠実義務,自己執行義務を適用することは困難な場面が多いのではないかと考えられます。したがって,仮に委任に忠実義務,自己執行義務の規定を設けるとしても,準委任には適用しないでほしいという要望がありました。 ○高須幹事 今の指図に従う場合の例外というのが奈須野関係官からもお話がありましたように,何が利益かというのが,あるいは利益に反するかというのがとても難しい問題なんだろうと思います。早期解決を願って不利な和解をするというようなケースで弁護士に頼むという場合であれば,恐らく弁護士は早期解決するのが最も利益なんだというところを見て,指図に従うべきだとは思うんですが,もっといろいろなバリエーションが出てくると難しくなってくる。さらには裁判の場合には勝つか負けるかが分からないという状況の中で,どのようなことが一番利益になるのか,あるいは利益に反するのかを判断するというのは,なかなか難しいという側面があると思います。   もともと委任が持っている高度な事務をするというようなところからすると,非常にこの判断は難しくなるのではないか。したがって,一方で指図に従えと書いて,他方で例外を明確に書くというのは,分かりやすさという意味ではとてもいいと思うんですが,本当にふさわしい例外をつくれるのかどうか,決め切れるのかどうか,非常にそこが危惧されるところでございます。委任にもいろいろな形態があるものですから,一律の基準をつくれるのかどうかがとても心配されるところでありまして,場合によっては正に善管注意義務の内容という形で,最終的には裁判所の御判断に委ねるというようなところも,一つあり得る選択肢かなとも思っております。 ○村上委員 2の(1)(3)(6)について,それぞれ申し上げたいと思います。   まず,(1)ですけれども,委任者の指図に反することが委任者の利益に適合するときは臨機の必要な措置をとる権限と義務があるという,この考え方については相当に慎重な検討を要するだろうと思います。特に,権限があるというだけではなくて,義務があるというところまでいきますと,場合によっては委任者の指図に従ってはならず,指図に従うと義務違反となり損害賠償義務を負うことになるわけでして,一般的にはなかなか受け入れにくい結論になるのではないだろうかと思います。特に,専門家であれば別かもしれませんが,受任者がそれほどの専門性を有していない場合に,委任者の利益について判断する義務を負わせるというところまでいくのはいかがなものかと感じます。   次,(3)ですけれども,復委任の要件を緩和するニーズがあるのかどうかということがよく分からない感じがいたします。仮にそういうニーズがあるとしますと,それは委任者の許諾が得られないにもかかわらず,復委任をする必要があるというケースなのだろうと思いますけれども,本当にそういうケースがあるのだろうか,どれぐらいあるのだろうかという実情を調べる必要があるのかもしれないと思います。また,復委任の要件を緩和するということになりますと,自ら引き受ける能力がないにもかかわらず,受任をして丸投げをするという人が出てくる可能性があるのではないかということも心配です。   それから,(6)ですが,消費した日以後の支払義務を善管注意義務違反による損害賠償として認めることができるという考え方が示されているわけですけれども,現行の647条であれば消費した日以後の遅延損害金の請求ができるところ,単なる債務不履行だということになりますと,これは請求をして初めて履行遅滞になる。したがって,請求をして初めてそれ以後の遅延損害金の請求ができるようになるということになるのではないだろうかと思います。この規定を削除した上で,なお,消費した日以後請求できるということにするためには,これは不法行為責任だとするしかないのだろうと思いますけれども,それはやや不自然なことではないだろうかという感じがいたします。 ○油布関係官 委任者の指示に反する義務があるかというところにちょっと戻ってしまって恐縮なんですが,実例めいた話ですけれども,投資一任業務というのがございまして,顧客が例えば「米国株式と米国債とでおおむね半分ずつぐらいのポジションを維持して運用してください」というのがあるとします。実際によくこのタイプのやつはあるわけです。ですけれども,例えばある日,突然,アメリカの株式市場が暴落をしてしまったというような場合,日本時間の深夜早朝ですから,なかなか委任者に連絡も取りにくいというときに,受任者たる投資一任業者はどうしたらいいんだろうかということです。暴落の最中,その日のうちに株を売れば,相当な実減損は出ますけれども,これ以上の値下がりリスクからは解放されるということで,大損を覚悟で持ち株を全部売り払うというのも一つの定石であります。   ですから,こういう意味で,「指示に従わなくても良い場合がある」ということを明記するというのは,受任者にしてみれば選択肢が広がって一番良いと思う解決をとれるので,それはいいことだと思うんですが,これを更に進めて「指示に反する義務がある」みたいな印象を与えてしまうのはいかがかと。やはりどんなにひどい暴落のときでも売らない投資家も常におります。今日は暴落しているけれども,あす以降,必ずリバウンドする局面があるだろうと思って,「慌てて今日売る必要はない」と,正にそういう相場の読みになるんですね。   こういうときに,指示に反する義務があるんだということになると,後で「やはりあの日のうちに売っておけばよかったんだ」と,「暴落の初日に売っておけばこんな大損をしなくて済んだんだ」と,損害賠償請求を請求されるおそれがあると考えて,「全部を売り払ってしまえ」みたいな機械的な対応になりかねないと。内心では「あす以降の局面を待ったほうが良い,我慢したほうが良い」と思っていても,売り払ってしまうみたいなことになってしまって,受任者のプロとしての決断にバイアスをかけるような結果になって,結果的に委任者の利益を害することも相当多いのではないかなという気がいたします。   ポイントは,もちろんだれの目から見ても指示に固執することは不合理だという場合は,従うべきではないのは当然でしょうけれども,世の中には,そこまではっきりしていない,やや曖昧さが残るようなケースがたくさんあるので,そういう曖昧さが残るようなケースでの受任者の行動にバイアスをかけてしまうことにならないだろうかということであります。直感的には,何しろこれはもともと想定されていなかったような非常事態なわけですから,そういうときには,受任者に対する一定の形式的な義務のようなものはいったん解除して,そのときその場に現にいる受任者がニュートラルに,「最も委任者のためになるだろう」と思われる行動を取りやすいようにしてやるというのが,一番合理的なやり方ではないかなという気がいたします。   ですから,結論的には,「委任の本旨に従って,善良なる管理者の注意をもって,指示に従わなくても良い場合がある」というところまでを規定するのは良いと思うんですが,そこまでにとどめておくべきで,それ以上,それを踏み越えて「義務もある」みたいなニュアンスがちょっと出過ぎると,受任者の判断,行動にバイアスをかけてしまうのではないかなという気がいたします。 ○岡田委員 消費者の契約の場合,結構,委任とか準委任という新しい商法みたいな場合は,そういうのが多いのですが,もともと消費者というのは自分に利益になるかどうかというのも,よく分からない形で委任するという場合が多いものですから,その意味では,消費者の意思に従ったことを受任者にはやってもらいたいのですが一方で,もし消費者が指示したことが消費者にとって明らかに利益にならないのであれば,そこのところは受任者のほうが十分に消費者に説明をした上でやるという形が一番理想的だと思います。   弁護士さんがいらして申し訳ないんですが,よく消費者から消費者センターへ言ってくることは,弁護士さんにお願いしたんだけれども,一体全体,弁護士さんは今,何をやってくださっているのか分からないとか,それから,弁護士さんがやってくださっているのが本当に自分にとって利益になるんだろうかとか,そういう相談が入ってくるんですね。センターでは,疑問に思うことがあれば弁護士さんにきちんと聞きなさいと言うことにしていますが,それは委任者と受任者の間のコミュニケーションというものが不足しているのではないかと思います。受任者が消費者契約の場合はプロである場合が多いのでプロの判断に従うことになります。ただし,勝手にやられては困るという思いもありますから,結果について納得できる形で進めていただきたいと思います。   また受任者の忠実義務についてですが,善管注意義務というのは余りにも漠然としていて,一体全体,どこまでが善管義務なのか,その辺が分からないという感じがします。消費者からすれば普通の善管注意義務からはちょっと外れるのかもしれませんが忠実義務というのが入れば,消費者にとってより納得できるような気がします。 ○道垣内幹事 先ほどから出ております,指示に従わなくてもよいという規律なのですけれども,指示に従わないようにすべきであるという義務として規定すべきであるという見解に対する懸念として今まで表明されたことは,多くは理解できるものであり,私も結論としては義務と書かなくてもいいのかなという気はするのですが,ただ,先ほど例として出ましたところにつき,一言申し上げます。つまり,暴落をしているときに売るか売らないかとか,ある株式とある株式を1対1で持てと合意されているときとかの話なのですけれども,それが現行法というかにおいてどうなるかということを考えてみますと,指示がどこまで及んでいるのかという解釈がまず前提にくるのだと思います。   つまり,1対1で持てと言っている指示というのが,非常な大暴落が急に起こった場合も想定しているのか,それとも,そのような場合は想定されておらず,そのような場合には,そもそも当該指示がないと考えるべきなのかといいますと,恐らく後者だと思うのです。そして,後者であるならば一般的な善管注意義務の問題となって,自らの判断で売却をしなければならず,売却をしなければ義務違反として債務不履行責任を負うことは現在でもあるのだと思います。したがって,義務として書くべきではないということには,賛成してもいいのかもしれないのですけれども,書かないことによって,おっしゃっているような結論が導かれるのかというと,私はならないと思います。指示ということの解釈の問題が前提にくるはずだということを指摘しておきたいと思います。 ○油布関係官 恐らく現行契約の理解で,やや違うところがあるかなという気がいたしました。そういう「1対1で持て」という場合は,恐らく大暴落したときには1対1を壊してもよいというところまで合意があるのであって,「1対1を壊さなければいけない,株をどんどん売り払わなければいけない」とまでは,恐らく合意はないだろうと思います。それはなぜかというと,その日のうちに売り払ってしまうということは,結果的に見て,後日振り返って見たら,「慌てて大損をしてしまった」と,「もうちょっと辛抱して持っていれば良かった」ということは往々にしてあるので,そこまで「売り払え」とまでの合意は,多分,ないような気がいたします。「売ってもよい」というところまでではないかなという気がいたします。 ○道垣内幹事 売ってもよいというときには,売るか売らないかの判断を善管注意に基づいてする,ということになり,売ってもよいというのは売らなくてよいということを意味しているわけではないと思います。 ○岡本委員 (2)の受任者の忠実義務のところですけれども,忠実義務としてどういった義務を指すのかということについては,こちらでも議論していて,人によってかなり理解の違いがあったように思います。仮にこれを明文化するといたしまして,単に忠実に事務を処理しなければいけないと規定するだけだとすると,かえって解釈をめぐって紛議が生じるのではないかという懸念がございます。   それから,忠実義務の理解の仕方にもよるのかもしれないんですけれども,委任の趣旨とか内容によっては,忠実義務の現れ方に違いがあるといいますか,義務の度合いが濃いものから薄いものまで,あるいはほとんどないものまで,いろいろな場合があるように思われますので,善管注意義務だけを規定しておいて忠実義務についてはあえて規定しないで,あとは委任の趣旨の解釈に委ねるといった考え方がむしろ柔軟でよいのではないかと思います。それから,忠実義務について善管注意義務も同様ですけれども,これらが仮に規定される場合でも,任意規定であることを確認しておきたいといった意見がございましたので,付け加えておきます。   それから,続けて(4)の受任者の報告義務でございますけれども,単に委任の期間が長期であるというだけで,相当期間ごとの報告義務を課されるといったことになりますと,経済的に余りよろしくない事態が生じるのではないかと懸念しております。例えば銀行の流動性預金取引があるわけですけれども,これには委任の要素も含まれると言われておりますけれども,通常,預金者には通帳が渡されておりまして,預金者として預金の移動の内容を知りたいということでしたらば,容易に通帳に記帳することによって知ることができるという状況になっております。   そうした場合についてまで,相当期間ごとに報告しなければならないということだといたしますと,コストの無駄でございますし,預金者にとってみてもそこまでは望んではいないのではないかと思います。まして,そういった報告義務を履行するに当たってはコストを要するわけで,これが預金の利息などにはね返るといったことを考えますと,預金者としてもむしろそんなことは望まないということなのではないかと思います。   確かに,長期間にわたる委任で相当期間ごとの報告をしてしかるべきような,そういった委任というのもあるのではないかとは思いますけれども,それはそれで委任の趣旨の解釈をして,個別にそういった義務を認めていけば足りるのではないかと思いますので,一律に長期にわたる委任であるというだけで,相当期間ごとの報告義務を課される,これについては反対したいと考えます。 ○新谷委員 (2)の受任者の忠実義務について意見を申し上げます。役務提供契約においては個人自らが有償で役務を提供する契約,要するに弱い立場にある役務提供者という概念があり,これは準委任に該当するケースが少なくありません。こうした個人自らが有償で役務を提供する契約の場合に,現在の力関係では,役務の提供先のほうが優越的地位を有するというケースが非常に多いため,今回,更に忠実義務について明文の規定を設けるということについては,役務供給先の優越性を更に強めることとなり,不当な結果を招来するのではないかという懸念がありますので,慎重な検討をお願いしたいと思います。 ○山本(敬)幹事 2の(3)の受任者の自己執行義務について,二点ほど意見を述べたいと思います。   まず第一に,自己執行義務そのものについては,部会資料にありますように,受任者に自己執行義務があるという原則を明文で定めるべきだと思います。これは,代理に関する104条に定められているところですけれども,これは代理の場合でも内部関係に関する規律ですので,委任の側できちんと定めるほうがよいと思います。   その上で,この原則の例外をどう定めるべきかという点については,現在の104条に定められている例外のうち,「本人の許諾」があるときは,そのままでよいと思いますが,「やむを得ない事由があるとき」という例外のほうは,要件を緩和してはどうかと思います。   先ほど,ニーズがあるのかという御指摘がありましたけれども,特に専門的な事業者に委任するような場合を中心として,そのようなニーズがあるのではないかと思います。この辺りは,必要であればまたお調べいただければと思いますが,いずれにしましても,もともとの委任契約の趣旨からすると,受任者に自ら委任事務を処理することが期待するのが相当でないときは,むしろ復委任を認めませんと,委任の目的を実現できないわけですから,復委任を認めてもよいのではないかと考えられます。この方向で104条の文言を修正した上で,委任のところに明文で定めるのが適当ではないかと思います。   もう一つの点は,そのように復委任が許される場合の受任者の責任についてです。   現在の105条1項によりますと,先ほどの「本人の許諾」があるときと「やむを得ない事由」があるときは,「選任及び監督について」責任を負うとされていますが,これはもともとどのような考え方に従ってできたかといいますと,先ほども言いましたように,復代理人を使うことを原則として許さない。「本人の許諾」又は「やむを得ない事由」があるときという特別な要件を満たす場合に限って復代理を認める。そういう立場を採る以上,そのような厳重な要件を満たして代理人が復代理人を使うことができるときは,代理人の責任もそれだけ軽減する必要がある。現行法の起草者はそのように考えたようです。   しかし,このような考え方には,やはり問題があると思います。といいますのは,本人が復代理人を使うことを許諾しただけで,どうして代理人の責任が直ちに制限されないといけないのか。あるいは,復代理人を使うことにやむを得ない事由が代理人にあったというだけで,どうして本人との関係で代理人の責任を一律に制限することが許されるのか。こうした代理人の責任の制限を積極的に基礎付ける理由は,現在の民法105条に関する起草過程を見返してみましても,十分に検討されたとは言いがたいように思います。   この点については,詳細版の34ページにもありますように,債務不履行の一般原則,特に履行補助者責任に関する一般原則との整合性をよく考える必要があると思います。委任に即して言いますと,受任者は,委任契約によって一定の委任事務を処理する債務を負担したわけですから,その債務を履行するために復委任を使ってよいときでも,自分がその債務の履行のために使った復受任者,つまり履行補助者の行為によって債務が履行されないときには,債務不履行責任を免れる理由はないはずです。もともと委任事務を処理する債務を負っていたはずなのに,復受任者を使った途端に,選任・監督する義務だけを負えばよいことになるはずはありません。要するに,決め手は,委任契約によって受任者は何をする債務を負ったかということです。そこで,受任者は,一定の事務を処理する債務を負ったのであれば,復受任者を使うかどうかにかかわりなく,その事務処理債務の履行を怠った以上,責任を負わなければならない。それが原則だと思います。   もちろん,委任契約によっては,受任者の責任が復受任者の選任・監督上の責任に限られる場合もあると考えられます。しかし,それは厳密に言いますと,もともと委任契約によって,受任者が復受任者を選任し,監督する義務しか負っていない場合です。その場合は,債務者は,もともと契約上,復受任者を適切に選任し,監督する義務しか負っていないのですから,その義務を履行していれば,責任を負ういわれはないだけです。   そうしますと,問題は,どのような場合に,受任者の債務が選任・監督を行う義務に限られるかですが,これは契約の解釈の問題となります。おそらく決め手になるのは,当該契約の対価から見て,受任者にどこまでの行為を要求できるか,受任者がどのような能力を持つ者であって,その対価でどこまでの行為をすることが期待できるかといったことが基準になると思いますが,これを一般的に定めるのはなかなか難しいだろうと思います。   少し長くなって恐縮ですが,結論として言いますと,この場合の受任者の責任については,履行補助者に関する一般原則と理論上異なるところはないと考えられますので,それならば,履行補助者責任に関する一般原則に委ねることとして,ここには特に規定しないという方向もあるのではないかと思います。 ○山野目幹事 1の総論のほうについて,まだ,御議論が出ておりませんから,関連論点2について意見を申し述べさせていただきます。と申しますのは,この後のほうで委任の報酬に関する審議も予定されておりますから,前提となる事柄について考えを整えておく必要があるのではないかと感じます。   申し上げますと,現民法648条が定めております委任の無償性原則に対しましては,その1項の「特約がなければ」という非常に強い口調があだをなしている部分が極めて大きいと感じます。この規定の文言を機械的・忠実に受け止めますならば,特約の存在を主要事実として主張・立証しなければならないこととなりますが,現実の法律運用におきましては,必ずしも商人でなくても事業者が受任者である場合は,多くの事例においてまず報酬の合意が存在することが事実上推認され,そしてまた,報酬の数額は弁護士の場合の昭和37年判例に典型的にあらわれておりますように,これも事例の諸事情を勘案して,標準的な報酬の額が見定められるという,言わば二段の推認がなされております。   これは一般から見て非常に分かりにくい在りようでありまして,報酬合意の存在につきまして,よりニュートラルな規定に改めるということを考えていただきたいとまず考えますし,それから,事業者が受任者である場合の報酬請求の可能性の問題は,本日ではなくて,また,別にあるいは調査・審議の機会があるのかもしれませんけれども,その論点につきましても引き続き御検討いただきたいと感ずるものでございます。 ○中田委員 私は,総論とそれから受任者の義務のうち,(1)(2)(3)(6)について発言いたします。   まず,総論で有償委任と無償委任を分けて規律するという提案が出されておりますけれども,その考え方は理解できますが,最初から二種類に区分するというのは適当ではないのではないかと思います。その理由は,一つは委任は当事者の信頼を基礎としておりまして,それゆえに受任者に裁量権限を与えるわけですので,無償だから直ちに別の性質になるとは言い切れないのではないかということです。それから,もう一つは役務提供型の契約では,提供される役務の内容が物の給付と違って不確定性が多くありますので,それに対する対価の有償,無償の区別というのが非常にデリケートだと思います。もちろん,有償と無償とで違った部分が出てくると思いますが,それは個別のところで決めていけばいいのではないか,最初から類型化する必要はないのではないかと思います。   それから,受任者の義務のうち,まず,指図遵守義務との関係ですが,先ほど来の御議論を伺っていますと,義務性について懸念を示される見解が多くありました。ただ,ここで書かれていることは,指図遵守義務があるということを前提として,一定の場合にそれがなくなる,解放されるということでありまして,その先がどうなるかというのは一般的な善管注意義務の問題になるだけのことではないかと思います。もちろん,指図遵守義務に拘束されるかどうかは,まず,指図の解釈があって,その上で,どういう場合にそれに拘束されないのかという要件を詰めていく必要はあると思いますが,何か非常に強い義務を特に課されているものではないのではないかと思いました。   それから,次の忠実義務ですけれども,これは本当は重い効果,つまり,利益の吐き出しというところまでセットにしたほうがインパクトが大きいと思うんですけれども,必ずしもそこまでしなくても善管注意義務とともに規定しておくということは,他の法制を考えましても意味があるのではないかと思います。   それから,(3)の自己執行義務につきましては,山本敬三幹事がおっしゃいましたことにほぼ同意見でございます。ほぼと申しましたのは,最後のところで義務の軽減については,結局は契約の解釈の問題だということのようですが,ここでは無償委任の場合については軽減するということは十分考え得るのではないかと思います。それから,村上委員から自己執行義務について,緩和するだけの立法事実はないのではないかという御指摘がございましたけれども,現代社会における専門化,分業化を考えた場合には,受任者自らがしなければいけないという考え方は,100年前と今とでは必ずしも同じではないのではないかと思います。   それから,最後に金銭消費責任についてでございます。私は,結論的には647条がなくていいんだろうなと思って今日参りました。その理由は,一つは647条の立法過程を見ますと,背後には忠実義務の思想があるのではないかと私自身は考えておりますので,そうだとすると,忠実義務の規定を独立して規定するのであれば,これはなくてもよいということです。それから,もう一つは419条をなくするとすれば,やはり一般的な損害賠償のルールで考えていけばよいということで,なくてよいと思っておりました。ただ,先ほど村上委員から起算点についての御指摘がありまして,それについては多分,大丈夫だとは思うんですけれども,なお私自身も検討してみたいなと思っております。 ○松本委員 受任者の義務に関して全般的な話ですが,特に忠実義務等については少し反対の意見もございましたし,指図どおりに従うべき義務については,もっと議論があったわけですが,法律行為の委任に限定して委任における受任者の義務を考える場合と,準委任についても同様に準用されるルールとして考える場合とで,ちょっと違ってくるのではないかという印象を受けております。というのは,例えば指図に従ってやる義務という点で準委任まで広げてしまいますと,例えば医療契約において,患者の自己決定権に反してでも,医師の信念でもって,こちらのほうが延命措置としていいんだということでやっていいのか,あるいは手術方法等について本人の承諾なしに,本人が嫌だと言っていることをあえてやってもいいのかという話につながっていく可能性がある。しかし,法律行為の委任に限定すれば,もう少し分かりやすい議論になるのではないかと。   忠実義務も正にそうで,新谷委員あるいは岡本委員がこういう場合は反対だとおっしゃいましたが,それは準委任のタイプだろうと思います。準委任のところであえて忠実義務というのを立てる必要があるのかどうか,私は大分疑問を持っておりまして,他の法令で忠実義務がはっきりと明文化されている信託法あるいは会社法の取締役についても,法律行為,あるいはそれに非常に近いところだろうと思われます。医療契約で医師に忠実義務といっても,それは善管注意義務のことであって,自分の利益のために患者の利益を犠牲にする,名誉心で危険な手術をやるというのはけしからんという議論は,忠実義務という言葉でするのかもしれないけれども,そこは善管注意義務で伝統的に十分にカバーできていた話だろうと思います。   以上,準委任の問題は後でやるということになっておりますし,それと役務提供契約を併合してという議論もありますから,ここの段階ではやりにくいのかもしれないですけれども,法律行為の委任という委任の本体において,どういう規定が望ましいかの議論をしたほうが,違った対象でもって議論をしてすれ違っているよりは生産的かという印象です。 ○中田委員 ただいまの松本委員の御指摘に私も共感しております。つまり,準委任の内容自体が現行法を前提とするのか,今後,あるべき準委任を想定するのかで随分違ってくると思いますから,今の御議論は,とりあえずは現行法を前提にしたものだという理解でよろしいのではないかと思います。それから,一つ松本委員とちょっとだけ小さな違いは,医師の関係というのは信認関係であり,正にそこに忠実義務が出てくる典型的な例であるという見方もあるのではないかなと思っております。 ○佐成委員 忠実義務につきまして,消極的な意見を述べさせていただきたいと思います。ここにも記載がありますけれども,45年の大法廷判決で善管注意義務と忠実義務は,取締役に関してでございますけれども,同じものであると,そういうことが大法廷判決で判示されています。にもかかわらず,それらを別々の規定として置くということになりますと,国民に分かりやすい立法という見地からすると,どうなのかなという疑問が起きます。確かに,利益が受任者と委任者との間で衝突するような場面において,受任者に対してどのような規律をなすかというのは,忠実義務と言ってもいいのかもしれないんですけれども,それを個別規定ではなく,一般規定にしてしまうということについては,45年の大法廷判決との整合性を,どう理解するのか一見して明らかとは言えず,国民にとっての分かりやすさからするとちょっと問題があるのではないかというのが一つ。   それから,会社法の忠実義務に関してでございますけれども,私が言うのもあれなんですけれども,17年の会社法制定を目指して,14年の暮れから15年の頭にかけて商事法務で立法準備のための研究会が行われまして,三つの分科会に分かれて,そのうちの,岩原紳作先生が座長を務めた法制審議会会社法(現代化関係)部会第二分科会(ガバナンス関係)の第五回,平成15年1月31日において,取締役には民法の委任に関する規定が包括的に準用されて,善管注意義務を負うこととなるが,それと忠実義務との関係をどうするかということが議論になりまして,事務局の法務省案としては,45年の大法廷判決を前提として,これらを一本化して,例えば「取締役は,善良な管理者の注意をもってその職務を行わなければならない。」とだけにして,そういう規定に一本化しようという,そういう提案が事務局からなされて,そのとき,私もその研究会に入っていまして,神作先生とも御一緒させていただいたんですけれども,そのときの私の印象では,当初は忠実義務の規定は削ってもいいというような雰囲気で流れていましたけれども,少数の学者が,少数説かどうかはちょっと分かりませんけれども,それを解釈的なよりどころにして,デューティ・オブ・ケアとデューティ・オブ・ロイヤルティの違いを出すとか,いろいろそういうことになるので,そのような可能性のために残しておいてほしいというような議論がなされて,現行,既にあるのだし,大法廷判決も出ているから,残しておいても無害ではないかと,そういうことで,結局,そこではそういうこととして落ち着いたように記憶しています。だから,その後の公表された改正議論の中からはこの論点は一切なくなってしまったんですけれども,積極的にこれを入れようなどという発想は,少なくとも全くなかったのではないかというのが私の認識でございます。   しかも,監査役もやはり委任の規定に従うんですけれども,忠実義務というのは規定されておりませんので,なぜ監査役は忠実義務を負わないのかと,そういう解釈上の問題も多分ありますでしょうし,現行法が今どういうふうに理解されているかというと,例えば江頭憲治郎先生の最新の株式会社法の教科書を見ると,忠実義務の規定の存在意義は「委任関係に伴う善管注意義務を取締役につき強行規定とする点にあるに過ぎない。」と,そういうふうな記載がされておりまして,にもかかわらず一般民法にあえてこれを入れるのかというところに,非常に疑問を感じるということでございます。ですから,個別の規定で利益相反的なところに手当てをするとか,そういうのは考えられるんですけれども,一般規定としてこれを民法に取り込むことについては,会社法上もいろいろ混乱が生じるのではないかなという感じを抱いております。 ○神作幹事 私は,忠実義務という言葉を残して,善管注意義務とは別に規定を置くことには一定の意義があると考えております。先ほど中田委員から御指摘がありましたけれども,救済方法について善管注意義務と忠実義務とでは違ってくる場合があるのではないかということに加え,例えば職務とは関係ない,あるいは委任されている事務とは関係ない全く私的な領域,例えば典型的には受任者が委託者に対し競争を行ったり,委任事務を遂行する過程で得た情報を使って私的な利益を追求するというようなことは,善管注意義務でカバーするのは解釈論としてはなかなか難しい場合もあるのではないかと思います。それから,救済に戻りますけれども,商法,会社法において忠実義務が善管注意義務と分けられていることの救済法上の一つの意味として,差止めの可否と要件が善管注意義務の場合と異なるということが指摘されておりまして,忠実義務というのは事前的・予防的な規制ですので,それに対する差止めの可能性が大幅に開かれる点も重要であると思います。   それから,善管注意義務自体の解釈にとっても,忠実義務を観念することは会社法上は意義がございます。取締役の義務・責任に関し経営判断の原則というのがございまして,取締役が十分な情報を集めた上で検討し,同様の状況にある合理的な経営者であれば下したであろう判断を行えば,結果が悪くても責任を問われないと解されています。ところがこの経営判断の原則は,忠実義務に触れる場合には適用されないと解されており,善管注意義務自体の内容を画するにあたっても忠実義務を観念することが重要であります。確かに最高裁の判例は,忠実義務は善管注意義務を敷衍したものだということを述べておりますけれども,会社法の判例,理論,それから,実務においても,善管注意義務と忠実義務は区別して考えられているのが現状なのではないか。そして,そのことは委任契約においても,本質的には異なるところはないという感想を持っております。 ○道垣内幹事 私は,善管注意義務の中に忠実義務を読み込んで構わないだろうという点では,佐成さんと一緒なんですけれども,会社法と信託法に忠実義務が規定されている以上,委任においても規定をせざるを得ないのではないかという気がするということを述べさせていただきたいと思います。と申しますのは,最初に民法ができたときには,もちろん,善管注意義務だけでよかったわけですけれども,新規の立法において忠実義務が書かれて,それに対して,委任については書かれないということになりますと,通常の民法の委任における受任者の義務と信託における受託者の義務,会社法における取締役の義務というのがやはり違うという形での説明というのをせざるを得ないのではないかという気がしますが,私はそこに本質的な違いがあるとは考えておりません。   民法は偉いのだという,民法が中心で決めればいいのだという見方もあるかもしれませんけれども,私は必ずしもそうは思っておりませんで,日本の法制度としては他の法制度との平仄という必要性があり,会社法,信託法にある限りにおいては,新規立法においては入れるべきなのではないかと考えています。 ○佐成委員 専門家の先生方におっしゃられると,そうなのかなという感じもするんですが,ちょっとよく分からないのは,要するに監査役には委任の規定が準用されているんですけれども,あえて忠実義務は規定されていないんですね。そこは準用もされず,取締役だけなんです。だから,会社法上の解釈論と民法上の解釈論で若干そごがあるのではないのかなという懸念がありまして,それだったら,デューティ・オブ・ロイヤルティを導き出すものだとかいろいろ少数説もございます忠実義務に関しては,そういう議論もあるし,民法で敢えて一般規定を設けない,あるいは今,おっしゃったような守秘義務とか情報提供義務ですか,そういったものを持ち出すのであれば,それらを個別に規定してもいいわけで,余り一般法化すると,かえってその辺が混乱するのではないかという懸念で申し上げております。 ○神作幹事 監査役に忠実義務が課されていない点については,立法論的にはむしろ課すべきではないかという批判も強いところだと理解しておりますけれども,現行法の考え方を説明するとすれば,監査役には業務執行権がございませんで,その任務は監督機能に限られています。監督権限を中心にいたしますと,取締役ほど忠実義務が具体化する場面は少ないのではないか。ただ,正に御指摘のように業務の過程で知った情報を自分の利益のために使うというようなことはあり得ますので,学会では一定の忠実義務は負うと考えるべきではないかという理解が有力であると思います。しかし,会社法の立場を説明するとすれば,取締役と対比すると業務執行権がない点,及び代表取締役と対比すると代表権がない点において,忠実義務の範囲・内容とが異なってくる,すなわち監査役の場合は業務執行権・代表権という観点から見れば,余り忠実義務が問題となる局面は多くないのではないかという判断があったのではないかと考えられます。 ○岡委員 簡単に弁護士会の意見を紹介申し上げますが,順番から今の忠実義務のところから入りますと,弁護士会のある人が調べたところ,善管注意義務と忠実義務を両方規定しているのは信託法,会社法,金融商品取引法,資産の流動化に関する法律等々,この分野に限られているようです。これが正しいかどうか,事務局で調べていただきたいんですが,その上で,民法に忠実義務を入れてしまうと,全ての善管注意義務者に忠実義務が全部及んでしまう。そうなると,今の会社法の忠実義務の規定は言葉を変えるか,何か別のものにしないと意義がなくなってしまうことになると思うんです。   忠実義務の定義の問題ですから微妙ですが,弁護士から見ると,会社法の取締役,信託法の受託者,金融商品取引法の一定の人という専門的なプロフェッショナルに忠実義務という言葉を当てはめて,特別な義務を課しているように今の状態では見えますので,その「特別の義務」である忠実義務を民法に持ち込むと,忠実義務が「一般的・普遍的な義務」になってしまい,今果たしている特別な機能を果たせなくなってしまうと思います。そういう意味で,民法にもし忠実義務を入れたら,会社法の取締役の忠実義務の表現を変えないといけないと思います。倒産管財人の善管注意義務のところに今,忠実義務はありませんが,これは会社法との比較で何か意味があると理解しています。ですから,道垣内先生と全く反対で,信託法と会社法で特別に決めているので,それを民法に取り込んだら意味がなくなっていけないのではないかと,そういう意見でございます。   それから,指図に従わない場合があるという詳細版の30ページのところですが,こういう規律があるということは弁護士はみんな同感ですが,ここに書かれてある検討委員会の案及び研究会試案の案,これはどうもしっくりこない。違法な指図もあるし,複雑な指図もあるし,拒否するときもあるし,辞任するときもあるし,こういう規律を立法するのはいいんだけれども,いい要件定義はできないのではないか,少なくとも今ある提案では実務的に対応できないという意見が強うございました。   それから,自己執行義務のところについて復委任のできる場合を増やすという趣旨には賛成なんですが,詳細版の34ページの,先ほど山本敬三先生がおっしゃった「自ら受任者本人が委任事務を処理することを期待するのが相当でないとき」というこの表現は,弁護士から見ると二つの点で疑問があります。まず,期待するのが相当でないというのは,委任者が期待するのが相当でないのか,裁判所が期待しないのか,期待という言葉には誰が主語なのかというところで疑問を感じます。それから,本人に期待できないのだったら,その本人は辞任すべきであると連想しますので,もうちょっと本人の責任で復委任が認められるのが相当な場合というのが分かるような表現にしないと,この表現では実務家として対応しづらいという意見が多うございました。   それから,詳細版の35ページの復受任者の委任者に対する権利の直接請求権的なところの記載でございますが,下請のところでもありましたように復受任者の委任者に対する直接請求を一律に認めるというのは基本的に反対である,イメージがわかないという意見が強うございました。それから,36ページの受任者の報告義務,長期にわたる場合には相当な期間ごとに報告義務を負うと。これは全くそのとおりで何の異存もないんですが,これを法律で書くのか,法律で書くとまたいろいろな問題が起きて,対応しにくくなるのではないか,そういう意見が強うございました。 ○道垣内幹事 一点だけ。信託法は別に受託者として専門家を予定しているわけではありません。 ○深山幹事 忠実義務のところについて,岡さんと佐成さんから発言がありましたが,弁護士会の中でもいろいろな意見があるという意味でちょっとバランス上,申し上げておきたいと思います。私は先ほどの神作先生の整理や道垣内先生の御指摘のとおり,やはり民法の委任の規定の中に忠実義務の規定を置く意義があるだろうと考えます。いろいろ議論があるところではありますけれども,利害相反という場面に着目した忠実義務というのは,善管注意義務とは別に規定する意味があるだろうし,それはやはり民法に置いておくべきだろうと考えております。弁護士会の意見も分かれているということを御理解いただきたいと思います。   それから,もう一点,自己執行義務のところについて,先ほど山本敬三先生から御指摘のあった履行補助者の議論の延長だという御指摘は全くそのとおりだと思いますし,それから,復受任者の選任をしたことによって,選任・監督の点のみに責任を軽減するのは違うのではないかという御指摘も全く同感であります。   ただ,最後におっしゃった点,したがって委任のところに規定を置かないで,履行補助者の一般論の規定に委ねるのでよろしいのではないかとおっしゃったところについては反対でございます。確かに履行補助者の議論がベースになるというか,その延長線上の問題ではあるんですが,委任という契約類型はやはり委任者と受任者に対する信認,信頼関係というものが非常に強く特徴として認められる取引関係ですので,受任者自身にやってもらうというのが標準的,基本的な委任者の意図だろうと思います。そういう意味では,同じ土俵の問題であったとしても,原則として自己執行義務があって,もちろん個別的に復委任を許す場合が当然あっていいわけですけれども,原則としては自己執行義務があるんだということを明文化しておくことには,なお意義があるだろうと思います。 ○奈須野関係官 先ほど申し上げればよかったのですが,受任者の自己執行義務につきまして,そもそも委任制度は当事者間の信頼関係に基づく属人的なものですので,これを緩めるということについて反対の意見がありました。例えば,今,頂いている資料ですと,34ページに第三者に復委任したほうが委任者の利益の観点から見て合理的であると認められるような場合には,復委任を許容すべきではないか,あるいは無償委任においては委任の本旨が復委任を許さない場合を除いて,復委任をすることができるとすべきではないとの提案がありますが,これに対しては消極的です。   これに対して専門化,分業化の時代ですので,そういう復委任を一定の範囲で許容していくことにニーズがあるのではないかという御指摘もありましたが,むしろ,そうであるからこそ,かえって自己執行義務の要件を緩めると,いたずらに法律関係を混乱させるおそれがあるのではないかということです。物の性質上,こういった復委任が必要であるとすれば,必要に応じて許諾を求めればよいと考えられますので,法律でこれを緩めることには賛成できないということです。特に最後のところで,報酬等の直接請求権を認めるかどうかという提案がありますが,仮にこれが認められますと,委任者は見ず知らずの復委任者,復々委任者から請求を受ける可能性があるということになりますので,二重払のリスクがあり,常に注意していなければ怖くて委任できないということになるため,先ほどの下請負の直接請求権の話と同じような問題が生じるのではないかということです。 ○山本(敬)幹事 先ほどの深山幹事の御意見について,正確を期してもう一度だけ申し上げますけれども,私が先ほどお話しましたのは,まず,受任者に自己執行義務が原則としてあり,その例外を現在よりも少し緩和した形で定めるべきであるということです。この規定は明文化すべきであるという意見を申し上げたつもりでして,規定する必要はないかもしれないと申し上げたのは,そのようにして復委任が許容される場合の受任者の責任についてです。つまり,この責任は履行補助者責任に関する一般原則と理論上異なることはないとするならば,特に規定しなくてもよいかもしれないということを申し上げた次第です。   さらに先ほど,自己執行義務の原則に対する例外を緩和すべきであるとする場合の基準について,岡委員から不明確であるというような御指摘を受けましたけれども,基準は先ほど申し上げたとおり,委任契約の趣旨から見て,受任者に自ら委任事務を処理することを期待するのは相当でないときというものでして,あくまでも委任契約の趣旨から見て,どこまでのことが期待されるかということが決め手になるということです。 ○松本委員 岡委員が忠実義務に対して消極的な理由の一つとして,善管注意義務があるのに忠実義務をここで規定すると,ほかに善管注意義務を負わされるタイプの契約のすべてに,忠実義務を規定しなければならなくなるではないかという趣旨のことをおっしゃったわけですが,この辺りに忠実義務という言葉の感じから与える影響と中身とのずれ,あるいは定義が会社法でははっきりしているのかもしれないけれども,民法に引っ越してくると途端に漢字どおりの意義に拡張されることになるかもしれない危惧,それから,忠実義務が想定しているところの契約類型を,先ほど私が言いました法律行為の委任と限定すれば割と分かりやすいんだけれども,そうでない事実行為的な準委任も含める,サービス契約も含める,更にそれ以外のものも含めるというふうに展開していくと,途端に中身が曖昧になってくるということがあらわれているのかなと思います。   例えば特定物の売買契約で契約が成立したけれども,まだ,引渡しの時期まで期間があるという場合に400条で善管注意義務を負うという説明をしておりますが,ここで別途,忠実義務という言葉を立ててどんな意味があるのか。先ほど忠実義務の中身を利益相反という言葉で置き換えられた方もいらっしゃいましたが,利益相反という言葉も法律行為の局面でいくと分かりやすい,競業避止だとかということで分かりやすいわけですけれども,単なる二人の契約当事者の間の利益相反というと,例えば特定物の引渡しまでの保管をする際に,コストが掛かるから手を抜こうかというと,それは利益相反といえば利益相反かもしれないわけですね。買い手にとっては不利益なことだし,保管して引き渡すまでのコストが軽減できれば,売り手にとっては利益だからと。   でも,ここをわざわざ利益相反と言っても意味がなく,従来の善管注意義務,きちんと注意深く保管すべき義務というだけでいいわけで,そこで注意義務のレベルがどれぐらいかという議論はまた別途あるにしても,あえて利益相反を言う必要はない,忠実義務を言う必要はないタイプだろうと思います。一つの概念でいいという説もあるわけですけれども,別途,忠実義務という概念を善管注意義務と別に立てたほうが議論がクリアになる,議論の混乱が少なくなるのだとすれば,それはどういうタイプの契約なのかを限定して考えるべきかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   1,2についてはおおむねよろしいでしょうか。少し議論のありました受任者の善管注意義務の例外,指図遵守義務に対する例外があることについては,ほぼ異論はないと思うんですけれども,例外をどのような形で規定するのか,特にそこで義務という言葉が使われていますけれども,それが通常の善管注意義務に戻るということ以上の義務を意味しているとすれば,そこには多くの異論があったということですが,善管注意義務が排除されるべきだとは皆さんお考えではないのでしょうから,中身的にはおおむね一致ができているのではないかと思いますので,どのような表現の仕方をすれば,大方の意見に合致するのかということを検討していただければと思っています。「無償性の原則の見直し」については異論はなかったと理解をさせていただきます。忠実義務,自己執行義務等につきましては御指摘いただいた点を踏まえて,更に検討を続けさせていただきたいと思います。   3の「委任者の義務に関する規定」について御意見をお伺いいたします。 ○山本(敬)幹事 3の「委任者の義務に関する規定」のうちの(1)「受任者が債務を負担したときの解放義務」について,問題点を指摘させていただければと思います。   現行法の650条2項によりますと,代弁済請求権が定められていますが,部会資料の10頁以下で,これについては弁済資金の支払請求ができる旨を定めるべきであるという考え方が示されています。恐らくこれは,弁済資金の支払請求だけを認めて,現在の代弁済請求はもう認めないという提案ではないかと思いますが,もし弁済資金の支払請求をすることができるだけになりますと,これは金銭債権だと思いますので,受任者の他の債権者がこの金銭債権を差し押さえて,そこから満足を得ることができることになりそうです。しかし,受任者が委任事務の処理に必要と認められる債務を負担した場合について,その債務の弁済資金の支払請求権であるにもかかわらず,それを差し押さえて他の債権者が満足を得られるとするのは,本当にそれでよいのか疑問です。部会資料では,委任者が受任者に対して別の債権を有している場合に,相殺ができるようにすべきであるという理由があげられていますけれども,今申し上げたような問題にまで視野を広げて検討する必要があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○深山幹事 今のところについて,意見というよりちょっと教えていただきたいんですけれども,代弁済請求権を弁済資金の支払請求権に改めるという考え方というのは,現行法の649条の費用前払請求や650条1項の費用償還請求権とどういう関係になるのか,同じようなことになるような気がするものですから,ちょっと教えていただければと思います。 ○中田委員 直接のお答えになるかどうかわかりませんが,代弁済請求権なのか,弁済資金請求権なのかというのは,結局は受任者が最終的に自分の費用で立て替えるべきかどうかということになるのだと思います。例えば相殺が可能であるかとか,差押えが可能であるかというときには,受任者自身の費用で払うということが適当かどうか,それは広い意味でいえば,事務処理費用ということに含まれると思うのですけれども,その事務処理費用を自己資金で払うということをどう評価するかということが考え方の分かれるところだと思います。 ○松本委員 ちょっと分からなくなってきたんですけれども,例えば保証委託を受けて保証人になる場合は,保証委託契約は委任契約だと言われています。それで,保証人として保証債務を履行すれば求償権が当然に発生するわけで,それは費用償還請求権,委任契約に引きつければ委任の事務処理費用の請求権だと説明されると思うのです。そうしますと,ここでそうではないところの弁済資金支払請求権ということの意味がよく分からなくなってくるんですけれども,結局,深山幹事がおっしゃったように同じではないかと。弁済前と弁済後で言葉を変えるというのもあるかもしれないですけれども,どっちにしろ,前払も後払も費用請求という言葉で一緒に使っていると思いますので,それと別途の弁済資金支払請求権というのは,従来の委任の議論からいくと,どこから出てくるのかなという感じがいたします。 ○鎌田部会長 その辺を含めて,この問題については,更に事務当局で精査をさせていただきたいと思います。   ほかにいかがでしょうか。特に御意見がないようでしたら……。 ○高須幹事 申し訳ありません,(2)のほうの受任者が受けた損害の賠償義務のところの見直しという問題なわけですが,有償委任についてはそれも織り込み済みで,いろいろ決まっていくのではないかというような御指摘がなされておると思います。そういう可能性も確かにあるとは思うのですが,有償委任の場合なら常に損害を被る危険の有無とか程度を予測できるのかとなると,それは必ずしも簡単ではないのではないかと考えています。リスクを正当に評価できるのかというと,ここにやはり多少の問題があると思います。私ども弁護士がやっている仕事は非常に古典的なというか,あまりビジネス的ではないような依頼の受け方をしておりますので,そういう委任形態のような場合に,なかなかリスクをきちんと評価して報酬なり費用なりを請求するということもできていないという実感を持っておるものですから,ここももう少し考えて,有償契約であればすべてそれでいいとせずに,より慎重に考える余地があるのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 よろしければ部会資料17-1の11ページから13ページまでの「4 報酬に関する規定」及び「5 委任の終了に関する規定」について御審議いただきたいと思います。事務当局に説明してもらいます。 ○笹井関係官 「4 報酬に関する規定」では三つの問題を取り上げました。「(1)報酬の支払方式」では,委任の報酬の支払方式には成果が完成して初めて報酬を請求できる成果完成型と,委任事務処理の履行の割合に応じて報酬を請求できる履行割合型とがあることを明文で規定すべきであるとの考え方について,「(2)報酬の支払時期」では,委任の報酬の支払時期は成果完成型では成果完成後,履行割合型では委任事務処理の履行後とすべきであるとの考え方について,それぞれ御審議いただくものです。「(3)委任事務の処理が不可能になった場合の報酬請求権」では,請負においても同様の問題を取り上げましたが,受任者が委任事務を処理することが不可能になった場合に,報酬を請求し得る場合としてどのような場合があるか,その場合にどのような範囲で報酬を請求することができるかという問題を御審議いただくものです。   「5 委任の終了に関する規定」では,「(1)委任契約の任意解除権(民法第651条)」では,委任についての当事者の任意解除権の行使がどのような場合に制限されるかについて,「(2)委任の終了事由(民法第653条)」では,死後の事務の委任を一定の範囲に限定して認めるべきかどうかについて御審議いただくものです。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分のうち,まず「4 報酬に関する規定」について御意見をお伺いいたします。 ○新谷委員 4の(1)(2)について意見を申し上げます。検討事項では,委任の事務処理の報酬の支払方法として,成果完成型と履行割合型を規定するということが提起されています。   この点,個人が有償で自ら役務を提供する契約であって準委任に該当する契約の場合,仕事を完成させる内容のものであることが多く,仕事の完成の基準が明確でないために,「仕事が完成していない」という理由で,報酬の支払を拒絶されるという紛争が生じております。   こうした紛争の場合,現状では,それぞれの契約の趣旨や意味内容,取り分け報酬請求権の発生時期や完成要件については,個別事案ごとに解釈を行って解決を図るというのが通例になっています。  検討事項で提起されているように,成果が完成しないと報酬請求権が発生しないということを条文で明記されると,契約の形式や外形によって成果完成型の報酬支払方式の契約であるとされた場合に,「仕事が完成していない」ということを理由に,報酬の支払が拒絶される紛争を更に誘発する可能性が懸念されますので,こういった紛争の実態についても十分斟酌の上,ご検討いただければと思います。 ○佐成委員 報酬の(1)の報酬の支払方式に関してでございます。ここでは成果完成型と履行割合型ということで,従来,こういう形で整理されており,そうすると非常に分かりやすいとは思うんですけれども,ただ,両者の関係は割と相対的なものではないのかな,境界がこんなにきちっと分けられるかどうかというところにちょっと疑問を感じておりまして,ですから,成果完成型であればこうで,履行割合型であればこうだというふうに,法律効果をかなり違えるということで,本当にいいのかなという疑問を感じています。   具体的に申しますと,一番委任によく出てくる弁護士報酬についてですが,我々クライアントから弁護士報酬を払う場合,まず,顧問弁護士の場合は顧問料を払って,それから,事件を頼むときには着手金を払って,うまくいけば成功報酬を払う,それから,タイムチャージで頼むこともございます。   まず,顧問料ですが,これは多分,リテインフィーと考えるのかもしれませんが,あるいは日常的な法律相談の対価として払うか,これはどちらなのかな,前者だと履行割合型に近く,後者だと成果完成型に近いと考えられるのかなと。   着手金というのは着手することを目指して,労務というか,ある仕事をやっていただく,事件に着手していただくために払うということですから,履行割合型になるのかなと。成功報酬は明らかに成果完成型だろうと。タイムチャージなんていうと,どちらかというとやはり履行割合型と考えられるかなという気がするんですけれども,ただ,実際,タイムチャージと言ってやっているのは数ヶ月掛かるドラフトチェックとかをやってもらうような場合に,毎月毎月払うとか,そういうのでやっていただくということになりますが,そうしますと,支払の区切りごとで一応成果を判断するということにもなるわけで,区切りを当該ドラフト全部のチェックというふうに数ヶ月をまとめて一本にしてしまえば成果完成型と読めないことはないし,区切りを小さくして月単位にしていくと履行割合型に見える。ですから,そのフェーズの分け方ひとつで,履行割合型とも考えられるし,あるいは成果完成型にもなり得るのかなと。要するに支払の切り分けの仕方によって,かなり微妙な線が出てくるのではないのかなという気がしております。   ですから,もう一度申しますと,例えば3期で払うというような場合に,フェーズ1,フェーズ2,フェーズ3で払うみたいな形で,ある件名を依頼したときに,フェーズ1までを払って,そこで検証するとなると履行割合型と考えるのか,そこまでの成果を対象として支払うから成果完成型と考えるのかと。ちょっと考え方にもよるのかなというのが一つと,請負と対比して考えると,請負の場合,やはり着手金を出すことがありますけれども,それは最終的な仕事の完成をしなければ着手金を払っても,これは成功報酬の前払いみたいな感じで戻してもらうような契約上は立て付けになっているんでしょうけれども,弁護士報酬に関しては着手金を返してもらうということは,着手している限りは必ず払いっ放しになると,そういう感じでございまして,ごちゃごちゃ申し上げていますけれども,言いたいことは,成果完成型と履行割合型というのは,どうも完成というのを非常に小さくとらえ,期間なりの区切りを小さく捉えると,何か履行割合型に近くなるのではないかと。   要するに,長い完成期間も区切りを細かく切っていくと,どちらかというと履行割合型に近いようなイメージなるのかなとも思われて,確かに観念的には仕事の成果に対して払うんだとか,労務そのもの,仕事に対して払うんだと見えなくもないんですけれども,ちょっと実態を整理しようとすると,よく分からないところが出てくるなという気がしておりまして,結論的には余りこれを二つに分けて,全く効果を変えてしまうことが本当に妥当なのかなということをちょっと疑問に感じているということでございます。 ○岡田委員 消費者契約の場合は,委任,準委任,いずれも前払契約が多いように思われます。役務提供の場合は結果が分からない状態でお金を払ってしまうと,受任者の中には関係ないわという事業者も多いものですから,結果をある程度確認できる状態でお金を払うという形が可能であれば随分,消費者トラブルは減少するなり,救済されるのではないかと思います。先ほど弁護士費用が出ましたけれども,弁護士費用の場合は着手金,それから,成功報酬とはっきり分かれているので私どもは弁護士費用に関してはそれなりに受け止めておりますが,そうではない契約が多いものですから是非,役務と物では違うということで役務の場合は内容を確認できる状態になって初めて支払う。結果がよくなければ支払わないよという交渉ができるとように後払の形にしていただきたいと思います。 ○道垣内幹事 佐成さんがおっしゃったことは,ごもっともな点はあろうかと思うのですけれども,恐らく現行法の648条2項との関係で考えなければいけないのではないかという気がしております。つまり,現行法648条2項というのは受任者が報酬を受けるべき場合には,委任事務を履行した後でなければ,これを請求することはできないと書いてあって,ただし書については期間によって報酬を定めた場合が書かれているわけです。   そうなりますと,ここにおける「委任事務を履行した後」というのは何を指すのかということが問題となって,それは合意された委任事務のすべてを履行した後にやっともらえるという場合もあるだろうし,先ほどフェーズとおっしゃいましたけれども,ある一定の段階に達したところで,そこまでの委任事務については支払うと考えられるべき場合もあるだろうということなのではないか。すなわち,改正提案は,648条2項にいう「委任事務を履行した後」というものの解釈をよりやりやすくしようということではないかと思います。   それをこういうふうな「型」とかという名前を付けることによって,すべてのものを二つに分けてという感じが,二つに分けるんですけれども,何となく違和感があるのかもしれませんけれども,現行法の解釈でなされていることを素直に書いたときにこうなるというのが,ここで書かれているような立法提案の趣旨ではないかと理解をしております。 ○内田委員 佐成委員の御発言に対してちょっと感想なのですが,民法で典型契約にこういう規定を置くというのは任意規定ですので,契約で明確に定めていないときに,その契約を解釈するための指針としての意味があるのだと思います。佐成委員が例として挙げられた弁護士報酬についての顧問料とか着手金とか成功報酬とか,あるいはタイムチャージというのは,明確に報酬について当事者が合意をしているわけですので,あとはその合意の解釈の問題になるのであって,わざわざこの任意規定のカテゴリーに当てはめて,無理な解釈をする必要はないのではないかと思います。 ○中田委員 今の内田委員のおっしゃっていることに賛成いたします。また,その前に道垣内幹事のおっしゃったことにも賛成です。ここで二つの型を何で出しているのかというと,多分,報酬請求権がいつ発生するかですとか,途中で履行できなくなったらどうするのかですとか,このような問題については現在,各種の典型契約の中で個別に規定があるわけなんですけれども,もし新たに受皿規定なり,総則規定なりを置くとすると,一般的に考えるどうなるのだろうかという全体を見通す視点というのも必要ではないかと思います。その意味で,このような類型というのは意味があるのではないかと思っております。   それから,ちょっと細かいことですが資料の記載について,17-2の44ページに,受任者の責めに帰すべき事由によって委任が中途終了した場合についての記述がございます。その中で,履行割合型の場合についても請求ができなくなるということを前提にした記述になっているかのように読めますが,これは恐らく履行割合型についても,既履行の部分については履行割合型の一般原則によって,役務提供者の帰責事由の有無にかかわらず,報酬請求できると解すべきではないかと私は思います。確かにこのような提案をしている立法提案の解説書で,若干紛らわしい書き方をしているところがありますが,趣旨としては請求できるということで考えてよく,したがって,雇用契約との均衡という問題以前のところで解決できるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○佐成委員 内田委員のほうで誤解があったのかなと思ったのは,要するに私は別に現在世の中に存在するすべての契約を典型契約で解釈しようとか,そういう趣旨で申し上げたのではなくて,私の言いたいことを具体的に理解していただく意味で例として申し上げたということでございます。ただ,それだけでございます。 ○岡委員 報酬の支払時期の表現の仕方について,一言申し上げます。雇用と委任は履行した後でなければ「請求できない」と書いてあって,特に雇用のところについて任意規定と読みづらいです。普通の人が見ると労働者は働いた後でなければ請求できないという強行法規みたいに見えるところに危惧を持っております。現実にサラリーマンの給料についても20日ごろに30日までの基本給を払うと,信頼関係あるいは労働力再生産のためのものかもしれませんけれども,一定の前払の慣行も増えつつありますし,先ほど岡田さんから褒められた弁護士の着手金も信頼関係に基づく一定の前払でございまして,何かできないという形で強行法規みたいに見える書き方は,是非,避けていただきたい,任意法規であることを明確にしていただきたいと思います。中二階の規定のところにもつながる問題だと思います。   それから,もう一点,先ほど請負のところで申し上げた点と重なるわけですが,詳細版42ページの委任事務の処理が不可能になった場合の報酬請求権で,委任者に生じた事由は履行割合,委任者の義務違反のときは全部から利益を控除すると。これが中二階の規定のほうにも移動しているわけですが,やはり弁護士会から見ると,雇用のところを念頭に置いて義務違反というのは,やはり536条2項の責めに帰すべき事由という表現のほうが適切であるという意見が強うございますので,ここについても義務違反という表現について反対意見を述べます。また先ほどと同様に,利益を控除した額と書かれていますが,委任者の任意解約の場合の損害賠償の範囲とうまく整合させるべきではないかとのコメントをさせていただきます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○松本委員 委任の報酬の議論をするときに,費用との関係というのが問題になることがあるかと思います。これは事務管理の場合でも,報酬は請求できないけれども,事務管理者に掛かった費用というか,その経費は請求できるわけですけれども,何を費用と言い,何を報酬と言うのかが余りクリアでない部分があるのではないか。特に法律行為的な委任に限定して,資産運用型の契約書なんかを見ますと,必ずしも報酬と書いていないんですね。   しかし,元本の何%は毎年きちんといただきますということで,何とか費,何とか費とか書いてあるんだけれども,どこまでが民法で言うところの報酬の特約がなくても当然に取れる費用であって,どこからが報酬なのかがどうもはっきりしない。弁護士業界ははっきりしているのかもしれないですけれども,金融業界は必ずしもはっきりしていないのではないかと思いますので,そのあたりをクリアにできるようなルールがあれば,設けていただきたいと思います。 ○新谷委員 (3)の委任事務の処理が不可能になった場合の報酬請求権について申し上げます。先ほど岡委員がおっしゃった内容とほぼ同じですが,現在,個人が自ら有償で役務を提供する契約については,委任者の帰責事由があって事務処理が不可能になった場合には,民法536条2項の危険負担の規定によって,役務を提供した側については,反対給付たる報酬請求権は失わないと解されています。   検討事項では,報酬の支払いについて「委任者に生じた事由」,「委任者の義務違反」という二つの類型の規定が提起されていますが,危険負担の現在の規定と新しい二つの類型の規定の関係はよく分からないところがあります。今回の提起の内容では,委任者の義務違反がなければ役務供給先の仕事の完成前に委任者側が仕事を打ち切っても,既に履行した役務の提供部分に応じた報酬の支払をすればよいということになりますので,現在の民法536条2項の規定からすると,かなり権利が後退するという懸念があります。そのため,雇用型の類型,これは準委任に該当する場合が多いと思いますが,この場合については現在の民法536条2項の規定が後退することのないように,御検討をいただきたいと思います。 ○中田委員 先ほど来,雇用に類似するような場合についての配慮ということを各類型についておっしゃっておられまして,これはまた,雇用のところで御議論していただくことかと思います。ただ,義務違反という言葉について複数の方から帰責事由,責めに帰すべき事由という言葉のほうがいいのではないかという御指摘がありますので一言申し上げます。これは,責めに帰すべき事由という言葉をどのように取り扱うかという全体の方針とも関わりますけれども,少なくともそれは多義的であって理解しづらい言葉であると思われますので,義務違反とすることによって,それよりももう少しクリアになるのではないかと思います。ただ,その義務の内容が何かということについては,更に詰める必要がありますが,私のイメージですと,例えば協力義務に違反するというような割と広い義務を考えております。 ○鎌田部会長 よろしければ,5の委任の終了に関する規定について御意見をお伺いします。 ○深山幹事 委任の終了について,任意解除権のことが提案されておりまして,提案されていること自体は余り異論はございません。ただ,ここで取り上げられているのは,委任者側からの任意解除権について,一定の場合に制限をする規律が中心に取り上げられているように読めるんですけれども,それはそれとして検討すべきだし,異論はないんですが,むしろ,受任者からの任意解除権について,現行法は規定上いつでもできるということになっていて,2項のほうで不利益な場合には損害賠償義務を負わせているという意味で,事実上の制約は課せられているものの,解除そのものは受任者側からでもいつでもできるという規律になっております。   これについては,委任に限らず役務提供型の契約にやや共通する問題だと思うんですが,役務を提供する側からの任意解除権というのは,基本的には私は制限的に解するべきなのではないかと考えます。もちろん,いろいろなケースがあるので,常にと申し上げる趣旨ではないんですが,原則としては,委任でいえば受任した側から解除するというのは,それ相応の理由,これを,「正当な理由」とか,どういう表現で規定するかは別なんですが,一定のそれを正当化し得る事由がある場合には,もちろん,離脱の自由を認めるべきなんですが,原則フリーというのは規律として妥当ではないのではないかという気がしますので,この点についても御検討いただきたいと思います。 ○奈須野関係官 委任契約の任意解除権のところで,後段の任意解除権の行使が制限されるケースとして,いただいた資料ですと,専ら受任者か,第三者の利益を目的とする場合には,この解除権が制限される,あるいは当事者が任意解除権を放棄したと認められる事情がある場合には,その当事者は任意解除権を行使することができないと,このような例が挙げられています。確かにこのような場合には,解除権の行使が制限されることもあるかとは思います。しかし,常にそうかといえば,これは判例上の,特殊な事例に対する判断であって,一般的に規定するようなものかどうかということについては,慎重な検討が必要ではないかという意見がありました。   ここは任意規定なのか,強行規定なのか,よく分かりませんが,例えば任意解除権を放棄したと認められる挙動をとってしまいますと,解除権が制限されるということになるので,お互いに気を付けないとちょっとここにはまってしまうおそれもあります。あるいは専ら受任者か第三者の利益を目的とする場合には解除できないとなりますと,これはこれで,契約の自由が損なわれるということになりますので,どの程度議論の実益があるのか,慎重な検討が必要ではないかと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○岡委員 詳細版の47ページの委任者のほうの任意解除権の制約のところの問題でございます。弁護士会では両方の意見がございます。まず,消費者系の立場に立ちますと,提案に書いてありますとおり,役務あるいは任務がもう要らないと判断した場合には,そこで解除できて,合理的な損害賠償金で片を付けることに賛成です。金で片を付けることをやりやすくして,その賠償金を平均的なところ合理的なところにおさめたいという意見です。   他方,新谷さんがおっしゃっている委任事務提供者が個人で労務系の場合,この場合には生活がかかっておりますというか,働くことで生計を立てている,そういうことを委任者も分かっているわけですから,任意解除権そのものを制約するべきであるという意見が強く出されています。制約する原理が民法だから,こういう表現しかとれないのかもしれませんけれども,専ら受任者の利益を図るものであるときという要件で,本当に表現できているのかという疑問があります。これで無理だったら労働契約法でやるしかないのではないかという意見もあるんですが,やはり民法の中でも任意解除権を制約すべき原理の一つとして,労働者の保護というのが考えられるのであれば,それを念頭に置いた任意解除権の制約表現をすべきではないかという意見がございました。 ○村上委員 (2)についてですけれども,死後の事務の委任について,委任事務の内容が特定されていることを要件として認めるべきであるという考え方がここで提示されておりますけれども,具体的にどの程度,特定されていればよいのかということを明確するのは,それほど容易ではないと思います。ここでは契約当事者が死亡した後に,その契約の効力が争われるということになるわけですので,特定されていると言えるかどうかは,事前に明確に判断できるものである必要があると思われます。そうでないと,当事者が想定していたことと異なる結果になるということになりますので,特定されていると言えるのかどうかが事前に,明確に,容易に判断できるようなものである必要があると思いますが,それはそれほど容易ではないのではないかと思います。 ○高須幹事 今の(2)の委任の終了事由のところでございます。村上委員から御指摘がありましたとおりで,ここは余りルーズに認めますと,何でもできるみたいなことになり,やはり遺言との兼ね合いといいますか,様式行為とされています遺言との兼ね合いでの脱法行為になる危険もあるのではないかと思います。ただ,では,全く否定するかというと,その点に関してはやはり有用性というのもあると思います。現に公正証書などでこういうケースを見たこともございますので,やはり内容の特定とかに留意し,また,遺言の脱法行為にもならないというような限度では,死後の一定の委任についても認めてもいいのではないかと,このように思っております。   それから,一つ前に戻って恐縮ですが,解約ですね,委任の終了の任意解除権の問題でございますが,私も事務処理が受任者の利益をも目的とするときは,解除できないという詳細版46ページに書かれている大審院の大正9年4月24日の枠組みで全てを処理するのは,やはりちょっと限度があるのではないかと思っています。現実に今の時代に受任者の利益をも目的としない委任というのがどの程度あるのかも疑問でございますし,受任者の利益を目的とするという判断も非常に揺れているのではないかと思います。現に最高裁の昭和58年9月20日などという判例は,報酬を支払うという特約があるだけでは,受任者の利益をも目的とするものとは言えないというような形で,実質的には大正時代の判例を否認するかのような判断をしているということもございますので,新たな枠組みによって解決するということを立法としても考えてもよいのではないかと思っています。 ○鎌田部会長 ほかによろしいでしょうか。 ○中田委員 委任者の任意解除権につきましては,判例の理解が様々なようですけれども,基本的にはこれまでの判例の流れがあって,現在の判例に至っているわけですので,そのリステートでいいのではないかなと思っております。どうして委任者の任意解除権を認めるべきかということについては,委任における信頼関係のほか,受任者が裁量を持って事務を行うわけですけれども,それを委任者がコントロールするということはなかなか困難である,そうすると,最終的な手段としてはやはり解除権を認める必要があるということがあると思います。受任者が余り熱心ではないということは,何となく観察はできても,それを証明することは非常に難しい場合がありますので,そうだとするとやはり解除権を認める必要がある,その上で一定の制約を課するということになると思います。   そうすると,今度は労務を供給する,特に雇用に類似したものとの関係が問題になるのではないかということですが,これはおっしゃるとおりなんですけれども,しかし,それは委任の本質的なところというよりも,むしろ,雇用との接点と申しますか,その周辺の問題でありますので,まずは本来的な委任について考えていって,その上で雇用との関係をどうするのかという順序になるのではないかと思います。   それから,次に委任者の死亡後の事務の委任につきまして,これは生前委任で死亡によっても終了しないというタイプと,それから,委任事務が死後にのみなされるというタイプの死後委任と,二種類があるんですけれども,実際には両方を含んでいて余り区別できないということがしばしばあります。そうすると,その中で特に死後委任ですけれども,先ほどの御指摘にもありましたように,遺言制度があるわけですから,それと違う方法を広く認めるというのは適当ではないだろうということで,限定するということになると思います。   その際の村上委員の御発言の方向がどちらの方向だったのか,ちょっと私にはよく理解できなかったんですけれども,広く認めるというのでは恐らくなくて,特定の範囲でのみ認める,ただ,特定というものの規律の仕方が難しいのではないかという御趣旨だとすれば,ほかにもし何か適当な縛りのかけ方があれば御提案いただけたらいいと思いますし,なければ特定の事項の委任というようなことで,あてはめの問題で処理できるのではないかと思います。それから,最後に商法506条の規律も,ここに取り込むかどうかというのも検討課題になるかと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか,村上委員。 ○村上委員 結構です。 ○岡委員 短く切り上げます。委任の終了事由で資料に書かれていない論点でございますが,破産によって委任が当然に終了するという点については,株式会社が破産しても組織的な事項については,取締役との委任関係は終了しないというような最高裁判決も出ましたし,取締役個人が破産しても取締役の欠格事由にはならないというような規定もできてきております。破産で当然終了するというのは見直して,管財人の選択に任せていいのかなとも思いますが,破産で当然終了することを前提にいろいろほかで規律ができていますので,一挙になくしてしまっていいかどうか,直ちには決断できません。ともあれ今のような判例及び条文を踏まえると,653条2号は見直しの検討はしなければいけないと思います。 ○山本(和)幹事 私の記憶では,この点は法制委員会倒産法部会で若干,当初,議論して,必ずしも変える必要はないのではないかという,そのときはそういう結論になったかと思います。ただ,岡委員が言われているように最近の最高裁の判例の状況とか,あるいは委任の対応のようなことを考えると,確かに改正を議論する可能性はあるのかなと,そういう取り分け準委任にかわる役務提供型契約の中で検討のあれになっていますように,役務受領者について破産手続が開始した場合に,このような受皿規定を設けるとすれば,それとの関係でも現在の受任者,委任者双方が破産した場合に,当然に失効してしまうという,かなりドラスティックな規定でありますけれども,それが果たして相当かどうかということは議論の余地はあると思います。ただ,議論のフォーラムとしてこの場が適当かどうかということは,なお検討の余地はあるかなと思っています。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかによろしいですか。   特にないようでしたらここで休憩をとらせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開させていただきます。   部会資料17-1の13ページ及び14ページの「6 準委任」及び「7 特殊の委任」について御審議いただきます。事務当局に説明してもらいます。 ○笹井関係官 「6 準委任(民法第652条)」では,準委任の概念を第三者との間で法律行為でない事務を行うことを目的とするものに限定するという考え方について,御審議いただきたいと思います。   「7 特殊の委任」では二つの論点を取り上げました。「(1)媒介契約に関する規定」では,他人の間に立って法律行為の成立に尽力する媒介について,その定義や媒介者の情報提供義務,報酬支払方式に関する規定を設けるべきであるとの考え方について,「(2)取次契約に関する規定」では,取次者の名で他人の計算で法律行為をする取次について,その定義や取次契約の効力,取次者の履行担保責任に関する規定を設けるべきであるとの考え方について,御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明がありました部分について,一括して御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○奈須野関係官 先ほども少し触れましたが,準委任につきましては委任の規律のどの部分を及ぼすのかということについて,論点があると考えております。先ほど申し上げたとおり,忠実義務あるいは自己執行義務を準委任に及ぼすのは不都合が大きいのではないかということです。   それから,媒介契約ですが,これも頂いた資料ですと準委任的なものととらえて,特に媒介者について善管注意義務の具体的な中身として,情報提供義務を課しております。こちらにつきましては商社から,一般的には取引当事者間には情報格差があることが前提になっており,それが商社のビジネスの基本的な基盤になっている。そのような状況において,商社を含め一般的に情報提供義務を認めるというのは,実際のビジネスにとって不都合が大きいのではないかという反対の意見がありました。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○油布関係官 媒介,これは今回定義的に有償にするということで,ここには記載されているようです。確かに典型契約の中で雇用とか請負のグループは有償になっているわけですが,媒介とかのグループについて見る限りでは,今のところ,役務提供契約,それから,委任も「今回,無償性を見直す」ということであれば,有償,無償を問わず,ニュートラルな規定になるんだろうと思います。更に,特殊の委任の中の兄弟に当たります取次も,定義的に無償か有償かは特に書かないようにここには記載されており,あと,やや遠いですけれども,典型契約の寄託も別に有償とは限定されていない中で,特殊の委任として媒介だけを典型契約として有償だと定義する必要性がどれぐらいあるのだろうかと。   もちろんその必要性はあるかもしれないんですけれども,ただ,最近,不動産の仲介では不動産仲介料,手数料は無料ですというのがものすごく増えていて,これは「相手方から取るから要らないんだ」ということだと思うんですけれども,要は無償の媒介が,インターネットで見ていただければすぐ分かりますけれども,ものすごい数になっています。金融の世界でも若干ETFなんかでは売買手数料,つまり媒介手数料ですけれども,無料というものが最近出てきたりしていますので,最初から「民法の典型契約の媒介は有償だけです」と定義をしなくても良いのではないかと。有償の場合の詳細について規定する必要がある場合は,媒介契約のほかの条文で,「有償の媒介契約はこうこうです」というふうな書き方をするということもあり得るかなと思いましたので,ちょっと指摘させていただきました。 ○新谷委員 6の準委任の資料の内容について,申し上げます。ここでは,「準委任契約は,役務提供型契約の受皿としての役割を担っており,役務提供型契約であって,他の典型契約に該当しないものは,準委任に該当するとされている。」とされています。確かに役務提供型契約は準委任に該当するケースが多いと思われますが,雇用にも委任にも請負にも,いずれにも該当しない,属さない契約については,すべてが準委任に該当するということではなく,従来,無名契約若しくは混合契約として扱われるケースもあったかと思います。そういったケースの場合は信義則や,当事者の意思の合理的解釈を通じて解決を図ってきたという慣例があり,かつ,判例も存在するように思いますので,この部分の表現が,準委任にすべて該当するということについては,違和感があるということをご指摘申し上げます。 ○大村幹事 私も準委任について一言だけ申し上げます。今の直前のご発言については,適宜に対応していただくことにして,資料の6のところは二つのパラグラフに分かれておりますけれども,前段の「これらをすべて準委任に包摂するのは適当ではないと指摘されている」というのはそうだろうと思いますので,この認識に基づいて受皿規定を考えるというのには賛成です。   ただ,二番目のパラグラフで「そこで,準委任の適用範囲を……限定する一方で」というのが出てくるのですけれども,準委任の適用対象を限定するかどうかということは,受皿をどうするかということを決めないと決まらないので,受皿のほうを考えてから,また,戻ってくるということになるのではないかと思います。仮に準委任というのを残すのだと考えたときに,ここに書いてある「第三者との間で法律行為でない事務を行うことを目的とするものに限定する」という絞り方がいいかどうかは,ちょっと検討を要するところかと思っております。   そもそも第三者との間で法律行為でない事務を行うということの意味がちょっと分かりにくいのですけれども,委任というのは法律行為を頼むものだろう。したがって,法律行為を頼まれた人は,だれか第三者との間で法律行為を締結する。そのようにして行われる委任に比すべきものというのは,第三者との間で法律行為でない事務を行うということになる。そういう仕切りだと思います。   具体的に挙がっているのは,詳しいほうの資料ですと,人のところに行ってあいさつをしてくるとか,見舞いをするとか,そういうようなものが挙がっているわけです。そういうものに対応する必要があるかどうかということは別にいたしまして,それはそれで何となく分かる気がするのですけれども,言葉として「第三者との間で法律行為でない事務を行うことを目的とする」と言いますと,かなり広いものがこの中に入ってきてしまうのではないかと思います。役務提供契約の受皿というのでどういうことを考えるのかによりますけれども,自分に何かをしてくださいというサービス提供契約は,準委任にはならずに外に出てしまう。しかし,第三者に対して何かしてくださいというサービス提供契約は,第三者との間で法律行為でない事務を行うことで準委任になる。これはいかにもおかしいので,準委任を残すのであれば,何かもう少し適切な絞りが必要だということだけは申し上げておきます。 ○岡本委員 取次契約の一般法化した場合の効力についてなんですけれども,現行の問屋の委託者による取戻権,これを認めた昭和43年の最高裁の判決がありますけれども,この射程をどう考えるのかについて懸念する意見がございました。公示が十分でない中で,委託者の取戻権を広く認めることには問題もあるのではないかという意見でございます。もっとも,これは民法の問題というよりも,倒産法の問題かもしれませんので,ここの場で議論するかどうかというのはちょっと別論でございます。 ○岡田委員 先ほど大村先生がおっしゃいましたけれども,是非とも準委任並びに役務提供の受皿に関しては分かりやすく,使えるようにしていただきたいと思います。   それから,特殊の委任の媒介契約,それと取次,これはクレジット関係で販売店があって,その下にまた幾つも俗に私たちは枝番というのですが,そういうのがあるというので悩まされました。媒介契約とは何なのか,それから,取次とは何なのかその点も明確ではありません,条文の中にはっきりと入れていただけたりと媒介業者とか取次業者の責任等も明確になるのではないかと思います。行政指導でクレジットの場合は加盟店が責任をとるとか,いろいろやっていますが法律的にはかなり厳しい部分があるので,できたら条文で明確にしていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○神作幹事 媒介と取次について発言させていただきたいと思います。媒介につきましては詳細版の51ページに御指摘されておりますように,商事仲立,すなわち,現行法では商法543条で他人間の商行為の媒介をなす場合に商事仲立になりまして,それ以外の場合の講学上の民事仲立とは区別され,異なる規律が適用されるわけですけれども,商行為の媒介かどうかで線を引くことについては合理性が必ずしもないのではないかということは,商法の学界でも強く指摘されているところかと思います。   そのような意味において,媒介を民法に一般化していただくことは,望ましいことだとは思うのですが,他方で非常に難しいと思いますのは,正に,今,岡田委員が御指摘されたように媒介の定義が大変難しいと思っておりまして,商事の場合は業をするというところで,行為の形態に着目して商事仲立かどうかを絞りますけれども,単なる一つの事実行為をとって媒介かどうかを判断するときに,もちろん一定の法的効果との関係で決まることになりますでしょうが,一体どのように定義するのかという問題が残ると思います。ちなみに,金商法等の業法では媒介という言葉は相当に広義に解釈されているものと理解しておりますけれども,同様ので良いのかどうかは問題になり得ると思います。しかし,媒介契約について民法典の中で一般的に規定することについては,望ましいように思われます。   これに対しまして取次につきましては,先ほど昭和43年の最高裁判決との関係等の御指摘がありましたけれども,この最高裁判例は証券会社の破綻に係る事案で,証券会社にはその営業の態様からして他人・顧客の証券が少なからず存在しているということは公知の事実であるという点も重視されていると考えられます。そういう意味では,単なる個々の契約に着目して,取戻権を肯定するという判決が下されたわけではなく,あくまでも証券会社,証券業を営む者が破綻したという点が,判決の結論に大きな影響を与えていると思われます。取次についても,定義の問題があろうかと思います。   さらに,民法の体系に係わる問題ですので,教えていただきたいのですけれども,取次者の名前をもって他人の計算で法律行為をするというのは,いわゆる間接代理と言われてきたものではないかとも思います。民法の代理が間接代理を包含しない中で,民法の中に取次に関する規定を一般化するということが体系上できるのかどうか,商法では取次については伝統的にどう理解されてきたかと申しますと,誤解があるかもしれませんけれども,取次というのは商慣習として古くから,近代的な代理制度が確立する前から認められてきたことであるという整理の下で,民法典に規定がないのにもかかわらず商法典に取次についての規律が置かれたのではないかと理解しておりますけれども,その点につきまして教えていただければと思います。 ○山本(敬)幹事 今の点に関してですけれども,確かに御指摘がありましたように,代理のところで,間接代理に相当するものは,今回の審議の資料の中でも登場してこなかったと思います。これはおそらく,これまで公表されている立法提案の中で,間接代理という形で明文の規定を民法の代理のところに規定すべきであるという提案が全くなかっただけだからだろうと思います。そして,そのような提案がなかった理由は,もちろん,いろいろあるかもしれませんけれども,神作幹事が御指摘されたことと対応させて言いますと,間接代理というような形で抽象化して一般規定を置く必要性がどこまであるのか,むしろそうではなくて,取次等の具体的な契約の趣旨に即して,必要があれば規定を置くほうが望ましいのではないか,そこから離れて抽象化した規定を定めるだけの理由は,少なくとも日本ではないのではないかといったところにあるのだろうと,私自身は考えています。   併せて,ほかの点もよろしいですか。一番最後の関連論点「他人の名で契約をした者の履行保証責任」についてですけれども,部会資料によりますと,「他人から代理権を授与されることなく,相手方との間で他人の名で法律行為をした者が,相手方に対して他人との間で法律行為の効力が生ずることを保証したときは,この者は当該行為について他人から追認を取得する義務を負うことを明文で規定すべきである」という考え方が示されています。   しかし,このような規定を本当に定めるべきかどうかという点については,なお検討の余地があるのではないかと思います。といいますのは,このような履行保証は,ここにありますように,117条の無権代理人の責任とは違って,代理権がないことを相手方が知っていた場合に問題になるというのは,そのとおりだと思いますが,無権代理人が代理行為をした場合に,無権代理人に代理権がないことを相手方が知らなかったときでも,後で無権代理だったことが分かれば,無権代理人は,その代理行為について,本人から追認を取得する義務を負うのではないかと思います。つまり,自ら代理行為をした以上,もしそれが無権代理であれば,本人から追認を取得する義務を負うのは,履行保証があろうとなかろうと,当然ではないかと思います。としますと,ここで履行保証について規定して,しかもわざわざその場合に代理人が本人から追認を取得する義務を負うと定めるのは,それ以外の場合はそのような義務を負わないのかという疑義も生じさせることになる点で,むしろ問題があるのではないかと思う次第です。 ○能見委員 ちょっと少し前に戻って,大村さんが提起された点についてですけれども,よろしいでしょうか。私も準委任でもって一体,どういうものがそこに入ってくるかという問題は,恐らく後で問題となる準委任に代わる役務提供型契約の受皿との関係が大きな問題だろうと思うんですけれども,そもそも準委任あるいはもとになる委任というものは,その性質をどう考えるかという問題があります。私の考えでは,委任ないし準委任は,やはり当事者間にある種の信認的な関係のある場合の契約で,そういうものが準委任のところに入ってくるべきなのだろうと思います。単なるサービスを提供するというのとはやはりそこは違う。そうなると,第三者との間の法律行為でない事務を行うというものだけに限定するのは狭すぎるのであって,その法律行為でない行為,すなわち事実行為が第三者に対して行われるものではなくて,単に準委任をした本人のためのものであっても,本人と準受任者との間に信認的な関係があるようなものであれば,準委任として捉えるべきではないだろうかという気がいたします。   私は本日の会議の前半には出席しておりませんので,委任のところでどういう議論がされたのかよく分かりませんけれども,恐らく従来の考え方からすれば,委任というは,やはりそういう信認的なものが基礎になっており,準委任のほうにも恐らく今,言ったとおりですけれども,信認的なものが基礎になっているといたしますと,先ほどどなたか,忠実義務は排除すべきであるという御意見がありましたけれども,それは適当ではなく,忠実義務というのは準委任においても重要な要素になるのだろうと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○岡本委員 関連論点の他人の名で契約をした者の履行保証責任のところなんですけれども,このようなケースというのはないことはないんでしょうけれども,かなりまれではないかと思いまして,明文化するほどの立法事実があるのか疑問だというのが一点と,それから,もう一つは履行保証しておれば追認を得る義務を負うというのは,特に一文を設けなくても何か当然のような気がいたしまして,そういう点からしても,特に規定する必要まではないのではないかと考えます。 ○中田委員 特殊の委任として媒介,取次を置くことの意味なんですけれども,先ほど岡田委員がおっしゃったこととも関係するんですが,法律行為の成立に関連する委任とか準委任のリストが今まで余りはっきりしていなかった,それを代理と媒介と取次という三つの形態があるんだということを民法で示すということは,分かりやすいという意味で,意味があるのではないかと思います。ただ,その規律の仕方が難しくて,業としての規律ではなくて,契約としての規律を民法の中でするという難しさがあるように思います。ですから,定義については十分検討すべきだということは,何人かの方の御指摘のとおりです。   それから,履行保証責任についてなんですが,相手方が悪意の場合であっても成立するという意味で,無権代理人の責任との違いがあるのだと思いますので,あとはそれを規律する必要がどのぐらいあるかという,そういう論点かと思います。ただ,概念的には区別できる。更に,こういう場合があるんだいうことを今,お示しいただいたんですが,ほかの様々な分野でも問題がないかということは,聞いてみる意味があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○佐成委員 瑣末なところでちょっと恐縮でございますけれども,準委任のところですが,契約書の実務というところでは印紙税というのがやはり影響しまして,現在の印紙税法上は,委任・準委任を証する契約書は不課税文書になっているので,準委任の範囲を絞ると,そこに影響するという指摘です。だから反対するとか,そういう趣旨ではございません。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,次に部会資料17-1の15ページ,16ページの「第4 準委任に代わる役務提供型契約の受皿規定」のうち「1 総論(新たな受皿規定の要否等)」から「3 役務受領者の義務に関する規律」について御審議いただきます。事務当局に説明してもらいます。 ○笹井関係官 それでは,「第4 準委任に代わる役務提供型契約の受皿規定」について御説明いたします。   「1 総論」では,今日の社会においては,既存の典型契約に該当しない役務提供型契約が多く現れていることを踏まえ,その受皿としての機能を担ってきた準委任に代えて,これらの役務提供型契約に適用されるべき規定として妥当な内容を有する規範群を設ける必要の有無について,御審議いただきたいと思います。   「2 役務提供者の義務に関する規律」では,役務提供型契約において役務提供者がどのような義務を負うかについて,「3 役務受領者の義務に関する規律」では,役務受領者は協力義務を負うことを規定すべきであるとの考え方について,それぞれ御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について,一括して御意見をお伺いしたいと思います。御自由にどうぞ。 ○大島委員 1の総論のところですけれども,企業においてアウトソーシングや外注といったサービスの給付を目的とする契約は,比較的扱うことが多い契約だと思います。こうした契約を行う中小企業においては,前回の会議で中井先生も指摘されたように,当事者同士が契約類型を明確に意識しないまま,契約関係に入っていくのが実態です。また,契約を締結する際にも委任や請負などの典型契約を意識せずに,何でも「○○業務委託契約」のようなあいまいなタイトルで契約書が作成されることが多いようです。委託契約のひな形契約の多くが契約目的に,「本契約は甲が○○に係る業務を乙に委託し,乙はこれを受託することに関する契約条項を定めることを目的とする」という表現を用いていると聞いております。この委託するとはいかなる契約上の意味を持つのか,解釈をめぐってトラブルとなるケースが多いとも伺っております。   以上のようなあいまいな契約により,当該契約がいずれかの契約類型であるか,明示しておかなかったことから,実際に仕事の完成義務の有無をめぐってトラブルが発生し,請負なのか,準委任なのかを争った事案もあると聞いております。契約書を作成しない場合など,中小企業においては民法のデフォルトルールが適用される局面も少なくないのではないかと思います。各省庁から公表されているトラブル事例なども参考に各界からの意見を聞きながら,実務を踏まえた規律あるいは類型を検討していくことが必要ではないかと思います。 ○山野目幹事 1の総論のところにつきまして,役務提供契約という契約の類型は是非設けていただきたいということを申し上げますとともに,今はそのことをるる申し上げようとする趣旨ではなくて,仮にそれに関する規律を設ける際にも,それらの規定の中の幾つかのものは,労働者が役務提供者である場合に適用することは,極めて不適切であると感じておりますところから,任意解除権に関する規律などが典型であるのかもしれませんけれども,全体に関わることでございますので,ここで述べさせていただきたいと考えます。   そのこととの関係で,いたずらに紛議を生ずることのないよう,明確に確認する規定を置いておくことを望むものでありますが,差し当たり考えられますものは,雇用への適用を排除する明文の規定を置いておくことでありましょうけれども,それのみで大丈夫であるかの若干の危惧を抱いております。必ずしも民法の雇用に該当せず,例えば請負などが当事者により法形式として選ばれている場合であっても,役務提供者が事実として使用従属関係に服せしめられているという事例はあり得るところでありまして,そのような場合を実際上,円滑に処することができるかどうか危惧が残るものがございます。また,労働契約には適用しないという規律を用意し,そこに言う労働契約や労働者の概念を意思的要素とともに事実的要素も考慮して判断・運用する際は,この危惧は相当程度減じますが,しかしながら,これらの概念は罪刑法定主義の要請も考慮して,限定して解釈・運用しなければならない側面もございます。   一つの提案といたしまして,役務提供者が使用従属関係に置かれている場合は,任意解除権の規律を初めとする役務提供に係る規律の一定の部分は,適用しないことを明示するような規律を置くことも考えられるところでございまして,そのような可能性も含め,この点について慎重に検討していただきたいと望むものでございます。 ○新谷委員 今山野目幹事にもおっしゃっていただきましたが,新たな受皿契約については,役務の受領者が消費者のように弱い立場にある方々である場合については非常に適合する内容かと思いますが,役務の提供者が自ら有償で役務を提供する個人のように弱い立場にある場合については,様々な不合理な結果を招くのではないかと考えています。具体的には,任意解除権の問題や,報酬の請求権の問題等,労働に関してかなり不都合な部分がありますので,この辺の点についても考慮して,慎重な検討をお願いしたいと思います。 ○青山関係官 当方も認識は共通でございますが,準委任に代わる新たな役務提供契約の範囲については,今のような提供者の方の立場が弱い場合も考慮した,定義等の慎重,十分なしっかりした議論が必要かと思っております。特にそう危惧するのは,今回,2も3も対象ということで2との関係で特に申し上げますが,この範囲をどうするかは,どういう規律をするかとの相関関係で決まるので,セットで議論しないと意味のある議論にならないというのは,皆さん,おっしゃるとおりなのですが,例えば2の役務提供者の義務というところでも,結果実現義務か善管注意義務でしょうか,二つのいずれかであると提案されているかと思います。これは,恐らく現行の請負を参考にした義務と委任を参考にした義務が考えられているのかなと想像します。   ただ,委任と,こういう提供者の立場が弱い雇用との違いを考えても,雇用は労働すること自体が契約の内容で,要は使用者の使用従属に服するということが特徴でございます。そういうことで,提供者のほうの義務は労働する義務,労働力を提供する義務に尽きるわけですけれども,一方,委任というのは,委任者の指図に従うのかもしれませんけれども,それに比べればある程度自主性,独立性,裁量性,責任を持って受任者が事務処理をする性格の内容かと思います。   そういうことの結果として,恐らく裁量権等を持った受任者であるからこそ,善管注意義務が課されていると思うのですけれども,それが今回,そういう雇用に近いタイプの場合が入るとすると,善管注意義務を課されると,もともと労働義務があるのにどう整理するのかと,課されてしかるべきものかというところも,考えると疑問があります。その他の報酬請求権や任意解除権の問題でも論点が生ずることは,これまで先生方がおっしゃったとおりなので省略します。 ○道垣内幹事 受皿規定という受皿という言葉の意味なのですけれども,辞書を引いてみますと,受皿というのは二つの意味があって,一つは垂れてくる滴やこぼれて下に落ちるものを受ける皿ですね。もう一つは,転じて,ある人や物事を受け入れる組織,ポスト,場所,体制など。この二つで議論の方向はかなり違うのではないかという気がするんですね。   第一の意味で考えますと,例えば役務提供というものがあったときに,請負とか雇用とか,委任とか寄託というものがあって,それはコップがあって,そのコップからこぼれ落ちたものというものを受けるものとして,何か新たなものを考えるということになりますし,もう一つの転じてある人や物事を受け入れる組織,ポストという話になりますと,役務提供契約,仮にそういう名前だとしますと,それに対して何らかの積極的な定義が必要であるということにどうもなりそうな気がするわけで,山野目幹事がおっしゃったこととも関係するんですけれども,前者のこぼれ落ちたものというときには,例えば雇用に該当するということになれば,当該受皿にはいかないわけですね。コップに入ってしまいますから。ちょっと受皿という言葉が若干不明確な感じがして,ちょっと気になったものですから,今後の議論のために何かお考えがあればお聞かせいただければと思うんですが。 ○山野目幹事 道垣内幹事のお話を楽しく伺いました。一点のみ補足をさせていただきます。こぼれ落ちたという表現を今,使っていただいたので,それで理解するかどうかはともかく論議はあるとしても,委員,幹事の皆様方は大変イメージが鮮明な仕方で,この提案の趣旨を理解しつつあるのではないかと思います。私が先ほどの発言で申し上げたかったのは,こぼれ落ちた,という言葉を用いていいますと,雇用に該当するということになると,もうこぼれ落ちないで済むということが,完全に保障できるのかというところが心配であるという観点から申し上げました。その関係では,やはり労働の現場や労働法学等の成果を参照して,議論を続けていただきたいなと感ずるものでございます。 ○中田委員 議論の仕方として総則的なものにするのか,それとも受皿にするのかという問題があって,総則的なものにするかどうかについては,一番最後に議論するということだと理解しております。とすると,受皿というのについて道垣内幹事のおっしゃった二つの意味があるというのはなるほどなと思ったんですが,ただ,第一の意味,こぼれ落ちるものを受け止めるという場合であっても,やはり定義は必要になるのではないでしょうか。そうだとすると定義に何を規定するのか,それから,他の典型契約との関係をどうするのかという問題で,結局は共通することになるのかなと思います。   雇用について,配慮すべきだということの御指摘はもっともだと思うんですが,配慮の仕方はいろいろありまして,先ほどの山野目幹事のおっしゃったような,いわゆる受皿の部分で使用従属性のあるものについては外すとするのも一つだと思います。ただ,その場合に使用従属という言葉をここに取り入れて大丈夫なのだろうかと,労働法学の側で,民法の中でいきなり使用従属を除くと言っていいのだろうかということは詰める必要があると思います。そのほか,雇用やあるいは労働契約の概念を広く捉えるかどうかということもあると思います。それから,もう一つは雇用なり労働契約の規定を類推適用するという方法もあろうかと思います。幾つかの方法があるかと思いますけれども,雇用との関係について慎重に検討するというのは私も同意見です。 ○山川幹事 役務提供契約について,役務提供者のほうの交渉力が弱い類型について配慮をすべきであるというのは,先ほど来,新谷・岡委員あるいは山野目幹事がおっしゃられてきたとおりで,私も同感であります。   その場合の対処の仕方ですが,今,中田委員からもおっしゃられたことも含めて申しますと,大体,五つぐらいあり得るのかなと思います。一つは雇用を広くとらえることで,起草者は非常に雇用というのを広くとらえて,高級労務も入ると考えておられたと,生かじりですが理解しておりますけれども,ただ,それはいわば土俵をずらしてしまうというやり方ですが,先ほど大村幹事のお話にもありましたように,準委任でも,今,議論しているのは既存の典型契約に該当しないタイプのものですけれども,雇用に該当しないけれども,役務提供者の交渉力が弱いというものがむしろ争点となっています。例えば家電の修理の代行業者,これは外に行って顧客との間で修理をするということで,多分,準委任になってしまうのではないかと思うんですけれども,そのような役務提供者が今,交渉力が弱いということでいろいろ議論になっていますので,土俵をずらしてもうまくいくかどうかは疑問です。   第二は,雇用に準ずるタイプの役務提供契約について,言わば別途,規律を設けるということです。検討事項として挙げられておりますのは,総体的に役務受領者の交渉力のほうが弱い場合を想定した規定ですので,逆に役務提供者のほうの交渉力が弱い規定群をつくるということで,これは積極的に攻め込んでいくアプローチということが言えます。   三番目のアプローチは,言わば雇用に準ずる契約については,ここで挙げられているような役務提供契約に関する規定を除外するという,言わば消極的なアプローチですが,消極的という言葉は特に価値判断を伴うわけではありません。ただ,適用除外だけしたとしても,既存の典型契約に該当しないという定義をここで役務提供契約につき設けるということになりますと,結局,除外された結果どこで規律されるのかが分からなくなりますので,例えば雇用に準ずるような契約については,性質に応じて雇用に関する規定を,労働契約法もそうかもしれませんが,準用するという,消極的な適用除外プラスその結果としての行き先を定めるというのが三番目のアプローチであります。   四番目はちょっとドラスティックで,そもそも役務提供契約という類型自体をつくらないということで,最後の5番目は,中田委員の言われました労働契約法16条の類推を認めるということです。ただ,立法論を議論する場合,類推適用を可能とするという規定を置くというのは余りないような気もしますから,それはつまり解釈に委ねるという対応なのかなと思いますけれども,その場合はおよそ一定の類型について,特別の規律が必要とされる場合の対応としてはいかがなものかということもあります。五つぐらいのアプローチが一応あり得るということですが,いずれにしても,先ほど申し上げましたような役務提供者側の交渉力が弱いというタイプについては,何らかの対応が必要かなと考えております。 ○松本委員 この新しい受皿規定に何を盛り込むか,あるいは何を落とし込むかという議論についてです。前回の請負の入口のところで議論したことの繰り返しになるんですが,ここの新たな契約類型の中に結果債務を負う場合,手段債務を負う場合という二つのタイプがあるんだということをはっきり踏まえた上で制度設計するのであれば,請負における製作物供給とか建築請負ではないところのタイプの契約について,前から修理契約をよく挙げていますけれども,自宅に修理の人に来てもらって修理する場合と,持ち帰って修理して,また,持ってきてもらう場合と,修理業者のところにこちらが持って行って,その場で修理してもらう場合と,1週間ほど掛かりますからまた取りに来てくださいと言われて取りに行く場合で,引渡しの一点のみをもって,一方は請負のほうの規律に委ね,引渡しというのがないように見えるものについては,こちらの新設規定のほうに入れるというのは,結果債務を負う場合についての役務提供契約を余りにも分断し過ぎではないかという印象を受けます。もしもこういう形で結果債務を負う場合と手段債務という場合との二種類をここに入れるのであれば,請負はもっと純化をして,権利の移転を伴うようなタイプのものに限定すれば,議論は非常にすっきりするのではないかというのが第一点。   第二点は,契約のタイプとして結果債務,手段債務というのが2のところに挙がっておりますが,4の(1)のところでは今度は報酬の支払方式として結果完成型,履行割合型というのが挙がっています。これは果たして二つは同じことを言い換えているのかどうかということを少し事務局の整理としてクリアにしていただきたいと。つまり,私の理解では請負契約の場合は,結果が完成しなければ原則として債務不履行になるわけで,報酬がもらえないだけではなくて,場合によっては損害賠償等にもつながりかねないものではないか。報酬のほうはそれとはちょっと別の問題なのではないかと。   すなわち,先ほどの委任の報酬のところで,成果完成型の報酬と履行割合型の報酬があるという議論がありましたが,成果が出ない委任は報酬がもらえないというのはあり得るでしょうけれども,成果が出ないというだけで債務不履行とはならないという議論の上での成果報酬なんだろうと。資金運用のサービス契約では,委任者が損をしても得をしても運用してもらっているのだから幾ら払います。それに加えて,一定以上の利益が出れば,これだけの報酬ですということであって,一定以上の利益が出なくても債務不履行の問題にはならなくて,そこは善管注意義務違反という別の基準で考えるのだろうとすると,15ページと16ページの関係はどちらなのかということです。16ページは結果債務,手段債務の議論とは一応切り離された報酬だけについての議論と理解してよろしいでしょうか。 ○笹井関係官 その点についての私の理解を申し上げますと,結果債務・手段債務の区別と,成果完成型・履行割合型の区別とは別個のものであると理解しております。すなわち,結果債務か手段債務かというのは,債務者がどのような債務を負っているのか,逆に言えばどのようなことがあれば債務不履行責任を負うのかを判断するに当たっての分析の視角であるのに対し,成果完成型か履行割合かというのはどのような要件が満たされた場合に役務提供者が報酬を請求できるかという問題に関わるものであると理解しています。前半の議論で弁護士さんの報酬請求権という事例がありましたが,弁護士さんの債務としては手段債務だけれども,成功報酬分に関しては成果完成型であるというような組合せも考えられるのであろうというように理解しております。   部会資料17-1の16ページの報酬に関する規律の部分では,後者の成果完成型か履行割合型かという問題を取り扱っておりまして,結果債務か手段債務かという問題とはまた別の議論をしているということでございます。 ○鎌田部会長 よろしいですね,それで。 ○山本(敬)幹事 質問をさせていただいてよろしいでしょうか。事務局ではなく,山川幹事にです。先ほどの対応策として五つの方法があるというご指摘は,非常に示唆的だったと思うのですが,その際に,二番目と三番目,そしておそらく五番目もそうかと思いますが,雇用に準ずるタイプの契約について別途,対応を図るべきだということを指摘されました。これが可能かどうかは,おそらく,今後,非常に重要な問題になるだろうと思うのですが,その雇用に準ずるタイプというのは,イメージは湧くのですけれども,それを法律の明文で書き表そうとするときに,どのような可能性があるのかという点について,もし御示唆いただけますと,検討しやすくなるのではないかと思います。 ○山川幹事 詰めて考えているわけではないんですけれども,言わば消極的に,雇用に準ずる役務提供契約については雇用に関する規定を準用するというようなことでしたら,それほど定義の必要性は大きくないかもしれませんが,逆に積極的に規律を置く場合には,御指摘の点は非常に重要な問題になると思います。実は労働契約法の立法の過程での研究会においては,例えばということですが,主体が個人であって役務提供契約を締結して,その役務提供が一身専属性というか,本人以外の役務提供を予定しないものであり,その役務の提供への対価の支払を受けて,かつ,事実上の専属性がある,つまり,事実上,特定の役務受領者と専属的な取引関係を結んでいて,そこから収入の大部分を得て生活している場合が,労働契約法制の対象となるということを提言してはいました。しかし,なお詰める必要があるということで先送りになってしまいましたので,それ以上の見解は今のところ持ち合わせておりません。 ○鎌田部会長 ほかによろしいでしょうか。 ○岡委員 受皿の部分についての発言でよろしいんでしょうか。二つあります。一つは受皿というか,総則というか,新しい役務提供契約のイメージがもう一つ湧かないのです。仕事の完成を目的とする請負があると,それから,従属的な労務の雇用があると,さらに信頼関係に基づく委任があると。しかし旅行契約とか在学契約とか,信頼関係を軸としない人の行為を目的とする役務契約が確かにあります。この契約が,請負にも委任にも雇用にも当たらないので,何か規律を設ける必要があるということなんでしょうか。請負・雇用・委任でカバーできない契約を,委任の本質である信頼関係に基づかない人の行為のサービスの契約として,それについて何か規定を置こうということなんでしょうか。新しい役務提供契約の目的としている概念みたいなものを少しはっきりさせていただきたい,するべきではないかというのが一つでございます。   それから,もう一つはそれを念頭に置きながら何かいい規定が置ければ何の問題もないんですが,今,書かれている提供者の義務,金を払う受領者の義務,履行不能の場合の報酬請求権,報酬の支払時期,任意解除権,任意解除権はかなり問題だと思いますが,余り大したことない任意規定かなと思います。余り大したことない任意規定を特に総則型となると,四つの契約の最大公約数を上に持っていくだけですから,何か余り意味がないのではないかと思います。何かここに書いてある規定を設けて,どんないいことがあるのと,そこが非常に見えにくい。   ターゲットとする契約類型が見えにくく,提案されている最大公約数的な任意規定も「たいしたもの」でなく,実務家からすれば,そういう規定を置いてどんないいことがあるのかが見えにくいというのが意見でございます。 ○鎌田部会長 今の点について,関連した御発言はありますか。 ○大村幹事 総則型の規定を置くかどうかということと結びついた形で議論がされたと思いますけれども,そういう議論をするかどうかということが,多分,前提の問題としてあるのではないかと思います。岡委員がおっしゃったことや,あるいは道垣内さんが先ほどおっしゃったこととも関わるような気もしますが,受皿と言っているけれども,積極的なイメージを持って,こういうものについて規定を設けようということならば,ある新しい類型を四つある類型のほかにもう一つ作ろうということになる。それは今の類型ではカバーできないものを念頭に置いて新しい類型をつくることになるわけですが,その類型の外に落ちてしまうものもあることを覚悟しなければならない。   そういう五番目の類型,今日的な射程の広い類型を置くのか,それとも,そういうものは無理なので,幾つかぽつぽつと,どれにも当たらないようなものにも広く適用されるような規定を置くことを想定するのか。議論の仕方は両方あり得るのだろうと思いますけれども,この段階でもし従来,サービス契約と言われているものだとか,あるいは事務処理契約と言われているものだとか,あるいは先ほど業務委託という言葉も出ましたけれども,そういうようなものを作るということではなくて,およそ広くどれにも当たらないものに何となく当たるというものを作るのか。どちらの線なのかという点についてもう少し意見を出してもらったほうがいいのかとも思うのですけれども,もう時間もないことですし,そういう問題があるとだけ申し上げておきます。 ○鎌田部会長 分かりました。   これは正に事務局がどうするかというよりも,最近,新しく出てくるような契約というのは,大部分がここで言う役務提供型の契約であって法性決定の難しいものが多いと。それを全部,準委任という中に押し込むのでは妥当でないという認識までは,かなり広く共有されているのと思うので,だとしたら,それらを一つ一つ拾い上げて,在学契約,旅行契約その他を作っていくというのも一つの方法ですし,それらを包摂し得るような最低限の規定だけでも設けようというのも一つの方法なのだろうと思うんですが,それも事務局がリードしていくのではなくて,委員の先生方の間で,こういうものは,今,作ったほうがいいとか,作るべきであるという御意見があれば,そちらで議論をまとめていきたいというのが,事務当局も多分,大体,似たような考え方だろうと思っております。 ○佐成委員 前回,部会資料17-2,別紙ということでお配りいただいた21ページに,今回の論点の準委任に代わる役務提供型契約の受皿規定ということで,オランダの法律が書かれておりまして,どうも実務家には横並び意識がありまして,やはりほかの国ではどうなっているのかなというのがちょっと気になるところで,オランダではこれが受皿規定として機能としているという,そういう理解でよろしいのでしょうか。 ○内田委員 本来は編成問題のところで申し上げようかと思っていたのですが,役務提供について配置も含めた議論になっておりますので,少し比較法的なことを情報として御提供を申し上げたいと思います。日本を含めて19世紀型の民法を持っているところでは,今日のサービス契約に対する対応ができておりませんので,現代的なサービス契約に何らかの対応をする必要があるというのは,19世紀型の民法を持っている国の共通の課題です。   そこで,それらの国が新たに民法を改正したりした場合に,どのような対応をしたかという例を御紹介したいと思います。いずれも20世紀の最後,1990年代になってから施行された民法ですけれども,オランダの場合ですと,サービス契約についての規定を持っておりますが,これは委任の上位概念です。訳はなかなか難しいのですけれども,日本語で言うところのサービス契約という章がありまして,その中に伝統的な意味の委任,つまり,法律行為の委任の規定のほかにエージェンシーについての契約,これは日本語で言うと,仲介契約的なもの,それから代理商,そして医療行為,こういった日本法で言うところの準委任的なものが委任と並んだ,その上位概念としてサービス契約というのがあり,そこにサービス契約総則が置かれています。しかし,委任の上位概念ですので,雇用,請負,寄託はこの外に置かれています。   それから,同じく1990年代に施行されたもので,フランス法をベースとして,それを現代化したケベック民法があるのですが,そこでは請負契約の部分のタイトルを「請負契約ないし役務契約」というタイトルにして,請負と役務を並列的に請負関連の節の中で扱っています。その中には請負に固有の規定も置かれておりますが,しかし,請負固有ではない共通規定も置かれている。その場合,役務提供というのは上位概念ではなくて請負ないし役務ですので,役務契約と請負契約というのは並んで請負の中に入っているのです。このケベック民法では,委任とか雇用,寄託は,いずれも外にあり,役務契約はこれらとは区別されたものです。   それから,もう一つ1990年代になって制定されたものとしてロシア民法があります。ロシア民法はドイツとかオランダとか,様々な民法の最先端の成果を参照しながらつくられたものですけれども,典型契約に関してはかなり徹底したものでして,契約各則の規定が事務管理,不当利得,不法行為も含めざっと31章並び,そこに典型契約の規定が並んでいます。その中にサービス契約が入っています。典型契約としては,章に入るか,節に入るか,様々ですが,フランチャイズとかファイナンスリースとかいうものも含め,日本で言うところの典型契約は大体全部入っていまして,それに並べて並列的に有償のサービス契約が入っています。ですから,伝統的な請負,委任,雇用,寄託とは別の,それらに入らない独立のものとして置かれているというものです。   もう一つ,ヨーロッパの共通参照枠草案,これは将来のヨーロッパの統一民法の草案となるべくつくられた一つの草案ですけれども,そこでは,請負と寄託類似の契約の上位概念としてサービスという概念が使われています。上位概念といいますのは,請負・寄託類似の契約類型がずっと並んでいまして,すなわち,建設,加工,寄託,設計,それから情報や助言の契約,そして医療契約,こういったものがずっと並んだ上位概念としてサービス契約があって,そこにサービス契約の一般規定が置かれています。この場合は,雇用,委任は外にあります。   あと,伝統的なところで,日本が参照したドイツ民法は,もともと委任が非常に狭くて無償に限定されていましたので,雇用が日本で言う準委任を引き受けていたわけでして,雇用の中に広い雇用と労働契約を区別していたわけです。しかし,その後,ドイツで銀行取引関連の細かな規定を民法に入れたものですから,それを入れる際に,委任の節を「委任と事務処理契約」というタイトルに変えまして,その節の中に伝統的な委任と事務処理契約を並べて入れ,事務処理契約の簡単な総則的な規定を置いた上で,銀行取引の細かな規定が置かれています。   こうしてざっと見渡して感じますことは,検討委員会の試案では,雇用契約を含めた雇用,委任,請負,寄託,それら全部の総則規定として役務提供という概念を提案しており,これはこれで一つのいき方ですけれども,比較法的にはこのような例はなくて,いずれも雇用は外に置いているというのが共通の傾向だろうと思います。しかし,それ以上に共通の傾向というものを見出すのは,少なくとも私には現時点では困難でして,世界的な趨勢はこれであるということは,なかなか言えないように思えます。その意味では,日本の実情に即し,日本で使いやすいように配置するということを柔軟に考える余地は十分にあるように感じます。 ○能見委員 この部分の規定をどういう位置付けで考えるかということについての議論が,今,なされていると思いますし,内田委員の御説明もそういうことだったと思いますが,今の御説明を伺って,やはりサービス提供,役務提供型の契約の総則的な規定で設けるというのは難しいのだろうという感を強くしました。   労働ないし雇用契約は外すことはともかくとしても,今の内田委員の御説明ですと,立法例では委任を入れるか入れないかでも違っていたりしますが,すべての役務提供型契約を包括するのではなく,狭い限定された範囲の役務提供型の上位概念を設けることはあり得るように思います。ただ,その場合にも,日本の民法で考えるとすれば委任と請負の両方を含めての上位概念を考えることができるかですが,これはなかなか難しい。先ほど岡委員が言われたように,仮にそういうものを考えても余り大した規定はそこに置けない。やはり,それよりは,委任,請負と並ぶもう一つの受皿的な典型契約というのを考えるという方向で議論していったほうが,私は生産的であるように思います。   ただ,具体的にどういう指導理念で,どういうものをそこに取り入れるかということについては,これからまた議論しなくてはいけないと思いますけれども,先ほど申し上げましたように委任や準委任との関係でいえば,信認的な関係がない単なるサービス提供型の契約群があり,請負との関係はもうちょっと整理しなくてはいけないと思いますが,これをまとめることは意味があるのではないかと思います。とりあえず,そんなことを感じました。 ○中田委員 編成については後で議論するということだったと思うんですが,既に出ておりますので若干だけ申します。受皿的規定のイメージは多分,三種類ぐらいあるのではないかと思います。一つ目は比較的コンパクトな有償の事務処理契約です。二つ目はもうちょっと汎用性があるものを考える。ただ,汎用性はあるけれども,やはり一類型に過ぎないから,そこからわずかかもしれないけれども,こぼれ落ちるところがあるというものです。それから,三つ目の総則というのは論理的にはこぼれ落ちる分がないということになると思います。ただ,これらのどれがいいかということを抽象的に議論しても余り生産的ではないので,いずれにしても,置くべき受皿規定の中身を検討する必要はあるのではないかと思います。今回の資料もそういう観点から,編成はともかくとして,どのような規律を置くのかという検討をしようということですし,むしろ,そっちからいって,編成を後で考えるということでいいのではないかと思います。 ○松本委員 私自身は詳細版の57ページにも引用されていますが,既存の四つのタイプの役務提供契約とは別に,五つ目として比較的輪郭がきちんとしたものを準委任をベースに作るのがいいのではないか。その上で,そこから更に漏れる部分についても準用するというような形で,救えるものは救うというぐらいが形としてはきれいかなと思っています。   もう一点,役務提供とかサービスとかいう言い方をする場合に,人の実際の労働というか,労力が必ず入らないと駄目なものに限定するのか,それとも,過去の労力によってシステムができておって,機械的にサービスが受けられるというたぐいのタイプのサービスが今,大変多いと思うんですね,IT化が進んだ結果として。クラウドコンピューティングなんかになってくると,一体,あれは何なのかという,性質決定はかなり難しいかと思いますが,広い意味でいえば,何らかのサービスを有償で使っているということになると思うんです。そういう設備利用型あるいは設備もソフトウエアも含めたライセンス契約なんかも含めて,システムを利用するというようなものも,ここでサービス契約あるいは役務提供ということで入れてしまうのか。そういうようなタイプを入れるとかなり議論が錯綜してくる,賃貸借に近いようなファクターも入ってきたり,タイムシェアの議論なんかも入ってきたりするかもしれないので,それは外して,人力がかなり介在するものに限って行うべきなのかというあたりも,議論する必要があるかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございます。   先ほど御指摘がありましたように,具体的に何を規定する必要があって,何が規定可能かということと関連させなければ,具体的な契約類型あるいは総則規定としてのイメージが湧き難いということで,この資料は具体的な内容からまず議論しようというふうな整理の仕方になっています。その場合に,具体的な規定の内容の中で,これまでの提案に着目する限り,重要なポイントになっているのが報酬に関する規律であったり,任意解除権に関する規律であるとのことでもありますので,差し支えなければ,部会資料17-1の16ページから19ページまでの「4 報酬に関する規律」から「7 その他の規定の要否」までの説明をさせていただいて,そこも含めて御議論いただければと思います。よろしければ事務当局に説明をさせますが,よろしいでしょうか。ありがとうございます。 ○笹井関係官 「4 報酬に関する規律」では,「(1)報酬の支払方式」「(2)報酬の支払時期」「(3)役務提供の履行が不可能な場合の報酬請求権」の三つの論点を取り上げました。その趣旨は,「第3 委任」の「4 報酬に関する規定」と同様です。   「5 任意解除権に関する規律」では,役務提供型契約の当事者に任意解除権を認めることの可否,任意解除権が行使された場合の損害賠償請求の可否について,御審議いただきたいと思います。   「6 役務受領者について破産手続が開始した場合の規律」では,役務受領者について破産手続開始決定がされた場合は,役務提供者に契約解除権を認めるべきであるとの考え方の当否について,また,役務提供型契約が解除された場合に,役務提供者が破産債権者としてどのような権利を行使できるかについて,御審議いただきたいと思います。   「7 その他の規定の要否」では,現在,準委任契約に準用されているその他の規定を新たな受皿規定にも設けることの要否について,御審議いただくものです。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明がありました部分について,一括して御意見をお伺いいたします。 ○奈須野関係官 ちょっと話を戻すようですが,準委任に代わる役務提供型契約をどのようなものとしていくかということを検討するに当たっては,請負,委任,雇用又は寄託といった典型契約で拾うことができない規律とは何かということを明確にする必要があると思います。その点,幾つか課題というか,ニーズを挙げるとすれば,まず,第一に役務提供契約というものが,委任に当てはまらず準委任になっていたものについて,準委任から追い出されて,引っ越ししていくというものが多いということを考えると,これは単なるサービスを提供するような関係というよりも,むしろ信認的関係というものが残存するような役務提供類型ではないかと思います。したがいまして,委任の規律のうち,どのようなものを役務提供者の義務として規定することが必要かということをまず検討する必要があります。   例えばM&Aでファイナンシャルアドバイザーを起用して,情報分析をしてもらう,あるいは弁護士,公認会計士から助言を受けるということについて,これまでは委任という理解であったところ,第三者との間の行為を目的とするのではないということで役務提供契約だとすると,例えば自己執行義務のようなものが必要ではないかということです。   また,役務受領者の義務については,物の引渡しは観念されないということで請負から追い出されて,こちらにきたものについては,特に物の引渡しがないということから,役務受領者の協力というものが特に重要になってくるのではないかと思います。そうすると,請負の場合よりも更に役務提供者が協力を求めている場合には,受領者側の協力義務を規定するということのニーズがあると思います。   三つ目に,報酬ですが,請負,雇用,寄託では同時履行あるいは労働法制によって債権の保全が可能であるということですが,こういった新たな役務提供型契約については,役務提供者側の債権の保全手段に欠けるところがあると思います。そう考えると,報酬に関する規律については,新たな規律として事前の前払請求権のようなものを規定するということを考えるのも,一つのアイデアではないかと考えております。 ○新谷委員 役務提供型契約の受皿規定の枠組みをどうするかという点について,仮に今の形のままの提案を前提にすれば,懸念する点がありますので,その点を申し上げます。それは任意解除権に関する規律の部分です。役務提供者が弱い立場にある場合,これは個人自らが有償で役務提供するケースですが,優越的な地位を利用して役務の受領者側が任意解除権を行使するということになると,一方的に契約の解除がされるため,役務提供者の契約上の権利が非常に後退するという懸念があります。雇用に準ずるものを受皿規定から除外するかしないかは,今後の論議になろうかと思いますが,仮に除外しないのであれば,この部分については慎重な論議をお願いしたいと思います。   また,その逆のケース,役務提供者側からの任意解除権については,役務の提供者が生身の人間であるため,役務提供者を不当に長期間,労務に拘束するという事態についてどう考えるかということも,併せて検討しなければいけないと思っています。受皿規定について非常に弱い立場にある個人が自ら役務を提供するケースについては,こういった視点からも検討をお願いしたいと思います。 ○岡本委員 任意解除権の規律のところでございまして,役務提供者側からの契約の解除のところなんですけれども,期間の定めがない継続的な役務提供契約について,やむを得ない事由がある場合,これに加えまして,相当の告知期間を置くことによっても,役務提供者側からの契約の解約をすることができるとすべきだと考えます。期間の定めのない契約であっても,当事者を永続的に拘束の中に置くというのは,妥当ではないという理由からでございます。部会資料の詳細版の68ページのところに,松本委員のお考えが記載されておりますけれども,これに賛成したいと考えます。 ○岡田委員 役務受領者の義務に関する規定,当たり前といえば当たり前だと思いますが,消費者契約でいいますと例えば教育なんかの場合に,余りやらなくても希望校に入れますよということで勧誘して契約するとか,ダイエット契約では,無理しないでやせられますよということで契約させるというのが少なくありませんが,条文の中に勉強しなければいけない義務とかやせるように努力しなければいけない義務というのが入ってくるというのは,事業者にとってはいい逃げ道になってしまうような気がして仕方がありません。この義務のところに関しては十分に配慮していただきたいと思います。 ○鎌田部会長 今のような場合には……。 ○岡田委員 でも,そういうのが余りに多いものですから。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○青山関係官 報酬に関する規律についてでございます。4の(1)に委任のときの提案に準じて成果完成型と履行割合型が提案されていますが,受皿規定で何をどこまで対象にするかによるのだと思うのですが,後者の履行割合型ということで言い切れるものなのかと,先ほども議論があったところとも共通しているのですが,思います。確かに今の委任であれば割合に応じたという規定があるのですが,例えば雇用とか雇用に近い場合においては,労働力を提供すれば履行であり,初めに一定の分量の履行とか仕事の量が約束されているのではないので,どれが履行の全部,どれがその一部という観念すら本来ないという場合もあると思うのです。   もっとも,受皿規定や総則規定に含めるべきものとして雇用はなじまないと実は考えておりますが,雇用を除外したとしても,履行の割合という観念で整理し切れない場合もあるのではないかと,言葉だけの問題なのかもしれませんし,先ほどの何をもって履行とするのかという非常に難しい御議論と同様の認識なので,半分,繰り返しになりますが,留意点として申し上げておきます。 ○油布関係官 「役務提供者側の任意解除権を認めないこととすべきである」との考え方もあるというふうな表現が68ページあたりにありまして,これに対してはいろいろな御意見が既に出ていて,いろいろな御提案もあったように思いますけれども,どなたもやはり,最近,ユーザー側といいますか,消費者側といいますか,そういう方たちの保護というのが非常に大事であるというのは異論のないところで,これからもそうだと思うんですけれども,他方,この10年ぐらいは,やはり反社会的勢力との関係を遮断しなければいけないという新しい別のベクトルの要請も社会的に出てきているわけです。ただ,これはもちろん法律によって一律に,そういう反社会勢力とかと関係を持ってはいけないとまで強制することは,どこの法律にも書くことが難しいので,それで,例えば関係閣僚会議の申合せで指針などを提示して,民民の企業側の努力に委ねているというふうな実情があります。   例えばその指針,ここに平成19年の指針があるんですけれども,それには「相手方が反社会的勢力であると判明した時点や反社会的勢力であるとの疑いが生じた時点で,速やかに関係を解消する」と。これは企業側への政府のお願い,要請ということなんでしょうけれども,こういうことになっています。もちろん反社会的勢力にもある程度の濃淡はあるので,関係解消,契約解除の仕方は当然,ケース・バイ・ケースでいろいろあるんだと思いますが,政府として一方でそういう要請をしておきながら,今回,民法を改正するに当たって,役務提供者側の任意解除権を一般的に認めないということだと,ちょっといかがなものかなと。先ほど委任のところで御意見が出ていましたが,例えば正当な理由がある場合とか,そういう工夫もいるような気もいたします。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○岡委員 今の提案は,準委任に代わる役務提供型契約の受皿規定という立て方ですので,法律行為を目的とはしない人の行為,人の人力で自らに何か役務及びサービスを提供してもらう契約,それを念頭に置いて,それは法律行為を目的とはしないので委任には入らない,仕事の完成を目的としていないので請負に入らない,寄託でもない,雇用でもない,そういうのが確かにあるので,今まで準委任と言っていたけれども,そういう法律行為を目的としない人の行為によるサービスの契約をイメージして,考えればいいんでしょうか。   人の行為をファクターとするのか,人の行為を目的としない何か単なるサービスだけを目的とするのか,まず,そこを定義しないと何か次にいけないような気がします。それがまず最初の一点でございます。   それから,規定の立て方として,役務提供者の義務に関する規律といっても何か二種類ありますよというだけです。それは当たり前の契約解釈の基準を作るぐらいの話と感じます。役務受領者の義務も契約の趣旨から必要な場合には必要な義務が生ずるという,これも契約解釈の何か基準を立てるぐらいの話でありまして,報酬の支払時期も何か契約の解釈で何とでもなるところで,履行不能がだれかのせいによって生じた場合の報酬請求権というのは,今は536条2項等の一般原則がありますので,それの適用をどうするかということで,そう大した話でもない。任意解除権のところは,重要でしょう。委任というのは信頼関係を前提にしていますので,原則,解除できますが,しかしここで想定している新しい契約類型は,信頼関係を前提としていませんので,そこは何か違う規定があったほうがいいだろうと思います。でも,そうなると,何か委任の親戚について任意解除権がちょっと違いますよと,何かその程度の結果になるのではないかと思います。それでも,ないよりはあったほうがいいかなという気はいたしますけれども,そんなイメージでいいんですかという質問が第2点です。いやいや,おまえの解釈は間違っていて,もっとこんな立派ないい条文案だぞということであれば,そのようなイメージを教えていただければと思います。 ○鎌田部会長 要はそんなものは要らないというのが岡委員の御意見ということですか。ただ,今は準委任に多くが投げ込まれていますから,先ほどの説明でもそういうふうな言い方をしましたけれども,全部が準委任でやっているわけではなくて,これは請負に近いから請負の規定に従って処理しましょうとか,準委任に近いから委任の規定に従って解釈しましょうというようなことをやっているわけですね。そういう意味で代金の支払であれ,何であれ,委任的なものと請負的なものと二つありますよというかたちで運用されている。   それは当たり前で,委任と請負の規定があれば,それを適当に使えばいいのだから,それ以外のものはつくらなくていいというのは一つの考え方だと思います。他方,何だか分からないものがたくさん,次々と新種のものが生まれていることも確かですから,何かそういうものについて一番基本的なところで,それはどっちか一方には決められませんから,こういうタイプのものとこういうタイプのものがありますよというようなものだけでも,あったほうがいいというのも一つの考え方だし,もっと細かく一個一個のものについて,きちんとした章なり,節なりで一つ一つ拾い上げていけというのも一つの考え方ですが,どこに持っていきたいかということを事務当局は今のところ何も決めてはいないということです。 ○岡委員 一言だけ。反対しているわけではなくて,いい規定ができればすばらしいなと思っているし,御協力したい,参加したいと思っておるんです。ただ,ここに書かれている提案が,実務家から見ると,任意解除権のところにしか意義・機能が見えないんですけれども,そんな理解でよろしいんでしょうかという質問でございます。 ○鎌田部会長 部会資料では今まで提案とされているものを整理する以上のことはやっていませんので,こんなものでは駄目で,もっといいものにするには,こういう規定をつくれという御意見を出してもらったほうが助かります。 ○奈須野関係官 幾つかありますが,まず,役務提供の履行が不可能な場合の報酬請求権について,成果完成型の契約において,役務提供の全部又は一部の履行が不可能になった場合であっても,報酬を請求し得る場合があるかという論点についてです。   一般的にこのような成果完成型の報酬によるものとしては,例えばコンサルタントやエージェントを使って受注をとってくるという業務,事務があります。このような場合においては,役務提供者の機会主義的な行動を防ぐための規律として,完成しなければ報酬が発生せず,これまで投じた努力は無駄になるという成果主義的な仕組みをとっております。したがって,一部を請求することができるという仕組みは,任意規定であればいいのですが,そうでない場合,実態に合わない場合もあるのではないかという意見がありました。   それから,二つ目に役務受領者の任意解除権に関する規律についてです。こちらについてはクレジットカード決済の事務がこれに該当するかどうかという問題はありますが,仮に該当する場合,クレジットカード会社が履行に着手した後で,カード利用者から任意解除されると取引関係というか,決済関係にデフォルトが生じるので,問題があるとの意見がありました。   それから,三つ目に逆に役務提供者側の任意解除権については,先ほど御指摘のあったとおり,反社会的勢力を取引から排除するという必要がありますので,やむを得ない事由がある場合には役務提供者に解除権を認めるべきという意見がありました。   四つ目ですが,役務受領者について破産手続が開始した場合の規律として,役務提供者に契約解除権を認めるべきであるという提案には賛成です。一方で,先ほども申し上げたとおり,役務提供型契約については役務提供者の債権を保全する必要上,前払による方式が多くなるということが予想されます。そうすると,今度は役務提供者側に破産があった場合の規律をどうするのかということが論点になりますし,実際に問題となった事例も多くあります。したがって,役務受領者側だけではなくて役務提供者側で破産があった場合の規律についても,検討の必要があるかどうかということも含めて,議論する必要があると考えております。 ○能見委員 任意解約権に関連してですけれども,どういう任意解約権をここで考えるかということに関連してなんですが,受皿としてのというか,準委任の受皿ということなのかな,限定されている。役務提供型のこの契約が先ほどから議論になっていますようにある種,請負に近いタイプとそれから委任に近いタイプというのが,ほかにもあるかもしれませんけれども,主として考えられていると思いますけれども,その二つのタイプがまじるために,解約権の根拠が今一つ明確ではない。   仮に信認関係が前提となっている準委任的なものがこっちにくるんだということになると,信認関係を基礎とする委任の解約権とほぼ同じような考え方で,信認関係が基礎となっている契約で信認関係がなくなったから,あるいは一方当事者がそういう関係を続けたくないと考えたときに,解約できるという意味での委任の解約権というのが一方で考えられるでしょう。また,請負でも一応,注文者のほうから一方的に解約できるという規定がありますが,こちらはいま一つその根拠がはっきりしていないところがありますけれども,委任の場合とは解約権が認められる根拠が違うと思います。さらに,請負型の契約の解約の場合には,仕事がどこら辺までいっているかによって全部解除できるのか否か,あるいは解除との関係で仕事の完成度を考えて,完成している部分は解除できないとするのかとか,そういう問題にも関連してきます。このようにこの任意解約権一つをとっても,二つのタイプがあるためにどう考えるべきか,その効果も含めてですけれども,そういう点をもうちょっと整理する必要があるのではないかと思いました。 ○高須幹事 能見先生がおっしゃられたことの関連ということにもなるかもしれないんですが,やはり役務提供者からの任意解除権の問題でございまして,いろいろなサービス契約みたいなものすべてを想定して,任意解除権を定めるのは難しいのだろうと思います。ですから,どういう契約類型を想定して,それにふさわしい規定としてどのような内容の規定を設けるのかということを考えていくべきことになる。先ほどの受皿という意味では,受皿を作ってもこぼれる契約が出てくるというのはある程度,やむを得ないのかなというイメージを持っております。   その関係で,詳細版の資料ですと67ページから68ページにかけてのところで在学契約を指摘して,在学契約の場合には提供者側からは解除ができないということで,今回の立法においても役務提供者からの任意解除権を否定するという考え方はどうかというような御指摘があると思うのですが,在学契約はかなり特殊な契約だと思います。教育を受ける権利との関係から一定の制限を受けるとか,いろいろなことが判例でも言われてきているわけですので,これを引き合いに出して何かを定めようとすると,かえってほかのもっと定めるべき契約類型の関係では問題が起きるのではないかと考えています。   その意味で,在学契約に関する判例を指摘して一律に解除権を否定するのは,私としてはちょっと行き過ぎではないかと思います。さらにいえば,具体的に在学契約でも実は退学というのがありますから,正当な理由があればやはり解除はしておるわけでございますし,御指摘いただいた18年11月27日の判例でも,一応,正当な理由がなければ一方的な解除は許されませんよという内容だったと思いますので,その意味では,やはり無条件とはもちろん言いませんけれども,やむを得ない事由がある場合とか,その他の要件とかをもって,解除の余地を認めるというほうが合理的ではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○佐成委員 任意解除権に関してでございますが,特に今,御指摘があった役務提供者側からの任意解除権についてです。これにつきましては受皿規定がどのような形になるかによって,かなり影響するということは間違いないだろうと認識しております。委任に近いようなものであれば,これを認める可能性は十分にあるのだろうと思うんですけれども,そういった信認関係とかがないものについてこれを認めますと,かなり割り切った言い方をすれば,損害賠償さえすれば任意解除できるというような形になってしまうのではないかと思います。つまり,役務提供者側がエフィシェント・ブリーチできるとか,そんなような解釈論を導き出す可能性がありますので,本当にそれでいいのかなと思いますので,もちろん,ここに書かれていること自体は正当だろうと思って,特に問題はないんですけれども,余り受皿規定が広がって,それに役務提供者側からの任意解除権というのを広く認めるという規律をしてしまうと,それがほかのものにも影響しかねないというところをちょっと懸念するということです。ここに書かれている立法提案自体を否定的に考えているわけではございませんが,一応,その辺の懸念があるということだけです。 ○鎌田部会長 これを一本に絞る必要はなくて,二つのタイプがあるのだったら,こういう場合はこう,こういう場合はこうと,二つのタイプを出すことを禁止抑制しているわけでも全くございませんので,そういう形での御提案をいただければ,また,それが今後の議論の素材になると思います。 ○岡委員 先ほどの高須さんの在学契約の大学側からの解除というのは,債務不履行解除ではないのかなと思いました。債務不履行解除は原則できるはずです。それ以外に特別な任意解除権を認めるかどうかが問題になっているわけですよね。学生のほうとしては勉強する義務とか,ほかの教育環境を壊さない義務だとか,それは契約の解釈から出てくるわけで,債務不履行があって重大な契約不履行に該当すれば債務不履行解除ができるだけで,それ以外は契約の拘束力があるというのが大原則です。債務不履行がなくても解除できるというのは,先ほど能見先生がおっしゃられたような信認関係があるとか,何か根拠がないといけないと思うんですね。その債務不履行がない場合の任意解除権の根拠をもう少し深めないと,何か前に進めない気がいたしました。 ○高須幹事 ここで議論することではないのかもしれませんが,例えば授業料の未払,未納で除籍というような場合はもちろん債務不履行解除だと思うのですが,ほかの事由で,要するに学習態度や素行がよろしくないというような場合の退学のようなものを考えたときには,先ほど述べたような理解をする余地があるのかなというイメージでちょっと申し上げました。それだけです。 ○加納関係官 役務受領者のほうが任意解約をした場合の損害賠償の範囲についてどう考えるかという論点が提示されておりまして,詳細版の67ページのところにはいろいろと成果完成型と履行割合型に分けて議論するというふうな形で述べられております。これも分かりやすい考え方だと,整理だとは思うのですが,先ほど来,話題になっています例えば在学契約のような形を考えた場合には,どちらかというと履行割合型に近いのかなと,一定の何年間とか大学に属するとかいうふうな形で,前期授業料とか後期授業料という形で払うと思いますので,そう思いますけれども,他方で詳細版で引用されている最高裁の判例で,これは消費者契約法が問題になった判例ではありますが,解約時期に応じてですけれども,授業料については損害賠償の範囲として認めているということだと思いますので,そうすると,授業料分については認めるんだと,解約の時期が大学に入る前であっても認めるということになってきておりますので,履行の提供を受けていないにもかかわらず,損害賠償が認められているという意味からすると,ちょっと発想が異なってきているのかなと。   他方で,消費者庁が関係している法律の関係でいいますと特商法という法律がありまして,その中でいわゆる特定継続的役務提供契約というのがありまして,予備校とかエステティックサロンとか,そういうふうなものですが,これの損害賠償の範囲については履行割合型のような考え方で規律を設けているというのがございます。予備校の場合と大学の場合で何が違うかとして言われておりますところで承知しておりますのは,やはり大学の場合は入学辞退が起こったときに,学生を補てんして入れるのが非常に難しいという特殊事情があるので,そういった授業料についても損害賠償として認められやすいといったことがあると。   これに対して予備校というか,学習塾とかの場合ですと学生さんを補充することが比較的,後の時期になっても容易であるというところで,その点の違いが配慮されたと聞いておりまして,そうしますと,履行割合型と成果完成型となかなか分け切れないところがありまして,むしろ,そういった特殊事情といいますか,学生さんを補てんすることができるのかできないのかとか,そういったところによって損害賠償として認められる範囲というのは,ちょっと変わってくるというふうなことではないかと思われますので,損害賠償の範囲の考え方としては,そういう今までの考え方でいうと,特別事情みたいなことを考えるとかといった視点を盛り込むというのがよいのではないかと思います。 ○松本委員 解除に関しては民法の役務提供型の契約の幾つかには,やむを得ない事由があれば解除できるんだと,雇用契約ですら,そういうのがあったかと思うんです。したがって,準委任を中心とした役務提供型でも,事業者サイド,役務提供者サイドからの解除については,少なくともやむを得ない事由があれば解除できるというところで,多分,入ってくるのではないかと思います。   在学契約はここで論じるのはちょっと避けたほうがいいと思います。相当にいろいろな要素の入った複合契約なので。むしろ,家庭教師の契約なんかを考えれば,個人対個人のベースでやっているような場合に,依頼者の子どもとの関係がうまくいかないとかいうような場合は,やむを得ない事由ということになるでしょうが,事業者ベースで教師を派遣しているというような場合であれば,別の教師を派遣すべきだ,したがって,それはやむを得ない事由にならないというような形で,調整ができるのではないかと思うんですが。 ○山本(和)幹事 6の役務受領者について破産手続が開始した場合の規律ですが,私はここに書かれていることに基本に賛成です。従来,こういうものが準委任に当たるとされていたとすれば,それは委任の規律によって,一方の破産によって当然終了するということになると。しかし,それは恐らく必ずしも相当ではない。今,松本委員が挙げられた家庭教師の契約で,家庭教師が破産したからといって,当然,その契約は終了しなければならないかというと,やはりそうではないのだろうと思います。委任の規定が委任契約の当事者間の信頼関係に基づくものであるとすれば,このような役務提供契約されるようなものは,必ずしもそれを前提にしていないわけで,ここに書かれているような請負型の規律にするのが恐らく多くの場合,実情に即しているのだろうと思います。   なお,奈須野関係官が言われた役務提供者側の破産の問題は,請負契約について議論がされているところで,つまり,請負人が破産した場合に注文者が支払っていた前払金はどのようになるかいう議論については,破産法53条及び54条によって,基本的には財団債権になるという方向での解決が図られており,恐らくは役務提供契約についても同様の解決になるのだろうと思われますので,特段,それは民法において規定する必要はないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   この役務提供契約については,受皿規定という呼び方がまた一ついろいろなイメージを生んでしまっていると思うんですけれども,岡委員などから御指摘がありましたように,中身はまだそれほど具体的になっていないし,もうちょっといろいろな観点もあり得るし,もうちょっと充実のさせ方もあるということですので,継続して検討していきたいとは思いますけれども,事務当局でいろいろつくり出すのは不可能ですので,委員,幹事から必要性の有無,それから,内容の詳細について御提案があれば,できるだけ早い機会にお出しいただければと期待いたしております。   残り時間が大変わずかになってきてはいるんですけれども,雇用に進ませていただきたいと思います。部会資料17-1の20ページから22ページまでの「第5 雇用」について,事務当局から説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 雇用に関する規定の在り方については民法と労働契約法との関係につき,現状を維持することを前提として,民法の規定について必要な見直しをすることが提案されています。「1 総論(雇用に関する規定の在り方)」では,そのような方向で検討することの当否やその場合に留意すべき点について,幅広い御意見をいただきたいと考えております。   「2 報酬に関する規律」では二つの論点を取り上げました。(1)ではノーワーク・ノーペイの原則を明文化することの要否という問題について,(2)では使用者の責めに帰すべき事由により,労務が履行されなかった場合における報酬請求権の発生根拠となる規定の要否と,その規定の在り方という問題について,それぞれ御意見をいただきたいと思います。   「3 民法第626条の規定の要否」では,民法第626条の規定は実質的にその存在意義を失っているとして,同条を削除すべきであるという考え方の当否について御審議いただきたいと思います。   「4 有期雇用契約における黙示の更新」は,民法第629条第1項の「同一の条件」に期間の定めが含まれるかという点について争いがあることから,同一の条件に期間の定めが含まれないとする方向で,立法的に解決すべきであるという考え方がありますので,この考え方の当否を御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について,一括して御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○新谷委員 総論の関連論点の中で,安全配慮義務や解雇権濫用法理に相当する規定を民法に設けるべきではないかという考え方が提案されています。この点について,民法のどの部分に設けるかということは明確に書かれてはいませんが,雇用のところで提案されていますので,雇用契約の中に設けるという趣旨と判断させていただきました。その場合,雇用契約と労働契約の範囲をどう見るかということとも,非常に密接に関連いたします。   労働契約については,契約形式が請負であろうが委任であろうが,就労の実態において,「使用されて労働し,賃金が支払われる」関係と認められれば,労働契約にあたるといえます。しかし,関連論点で提案されているような安全配慮義務や解雇権濫用法理が,雇用の部分にのみ規定されるということになると,その反対解釈として請負や委任という契約形式をとられたときに,そうした保護規定が適用対象とならないとの反対解釈がされる可能性があるということを懸念しています。もちろん,そういう反対解釈が生じないような規定の仕方をするのであれば,非常に検討に値する提案だと思いますが,この点についての懸念をまず申し上げておきたいと思います。   また,報酬に関する規律の(1)で,ノーワーク・ノーペイの原則について,明文規定を設けるという提案がされていますが,これについてはあえて明文で規定することは要らないのではないかと思っています。現行の報酬の支払方式については,当事者間の契約の自由に委ねられており,現実には労務の履行とは関係ないところで,賃金の支払が行われている部分もあります。   例えば扶養家族の有無によって支払う家族手当や,通勤の手段によって支払う通勤手当は欠勤(ノーワーク)の場合でも控除されない。また,労働基準法で定める育児時間の取扱いについても,賃金を支払うか,支払わないかは労使で自由に決めるということで,現実的に多くの企業では,労使自治の中で,労務の提供がないにもかかわらず,賃金を支払っているという実態もあります。そのため,あえて明文の規定でノーワーク・ノーペイというものを定められると,かなり現実の運用に影響が出てくると考えますので,この点についても当事者の合理的な解釈,信義則,公序等の規制に委ねるというほうが望ましいのではないかということを申し上げておきたいと思います。 ○山川幹事 第5の1の総論については,ここで紹介されておりますような考え方に賛成です。将来的には,私は労働契約法に統合すべきであると,参照規定とか定義規定とかを残すにしても,そのような方向が妥当だと考えておりますので,とりあえず,現状を前提として整序にとどめるという方向は賛成です。   関連論点につきましては新谷委員からもございましたけれども,もし労働契約と雇用契約が同一であるとすると,なぜこれら二規定のみを置いておくのかという問題がありますし,逆に雇用規定のほうが広いと考えますと,労働契約法を実質上,この場で改正するということ,つまり,労働契約法の射程範囲を法制審議会において拡張するということに結果的になりそうですので,いかがなものかと思います。   それから,報酬に関する規律,いわゆるノーワーク・ノーペイの原則について,私は624条からも読み取れるかと思っておりましたけれども,各役務提供契約を通観すると,請負契約については具体的報酬債権の発生時期ないし発生要件についての規定は検討事項として書かれておりませんで,委任については書いてあります。それ以外の契約も含めると,賃貸借契約の賃料債権の発生要件については書いてなくて,売買契約についての代金債権についても書いてないということで,統一性をどう考えるのかという点があります。もし,書くとしても,先ほど岡委員の言われたことですけれども,労務を履行しなければ報酬債権が発生しないという書き方では,読み方によっては抗弁的に読まれる可能性があるので,むしろ,権利の発生要件として端的に書くとすれば,労務を履行した場合に発生するという文言のほうが素直かなと思います。   それからあと,報酬請求権の現状の536条2項に代わる規定ですが,賃金債権の発生根拠規定になるような表現に改めることは賛成です。ただ,義務違反という用語につきましては既に御意見もありましたように,労務の受領義務,労働者側の就労請求権は原則ないという見解からすると,現在の実務を変更してしまうおそれがあるので,より適切な文言が必要だと思います。   他方,詳細版の77ページに書かれている,使用者側に起因する事由という表現は広くなるんですが,逆に労基法26条では,使用者は,その責めに帰すべき休業につき,休業手当として平均賃金の6割を支払うべきことが定められています。労基法26条の休業手当の発生要件については,条文上は民法536条2項と同じ,使用者の責めに帰すべき事由によるということですが,解釈上,使用者側に起因する事由とされております。これを民法の要件として持ってきますと,現在6割で済んでいる場合でも100%の賃金債権が発生するという解釈になりかねないおそれがあります。なかなか難しいんですけれども,例えば使用者側に生じた合理的とは言えない事由によりなどとすれば,使用者がなした労務の受領拒絶が合理的な理由によらない場合には,現在の536条2項が適用されるのと同じ結果となるという感じかなと思っているんですが,なお検討を要するかと思います。   626条,629条についてもよろしいでしょうか。   626条につきましては,検討事項にありますように,同条が労基法14条によって実質上,代替されているかというと,労基法14条の期間制限も一定の事業の完了に必要な期間という場合は除いていますし,そのほか,家事使用人等について労基法そのものが適用除外になっています。それから,労基法は事業に適用されるということですので,事業でない場合,例えば個人で家庭教師を雇うとか,あと,執事を雇う,今,執事というのがどのくらい存在するか分かりませんが,そういう場合には,626条がないと終身拘束が可能になってしまうおそれがあるという感じがいたしますので,維持したほうがよいと思います。   それから,629条については,黙示の更新の効果について期間の定めが含まれるかどうか,現在でも有力学説が対立しておりますので,かつ有期労働契約は,これから恐らく労働政策審議会で議論がなされるかと思いますので,ちょっとそちらのフォーラムで検討していただいたほうがいいのかなという感じを今のところ抱いております。 ○青山関係官 今の新谷委員,山川幹事と重複する部分は避けますので,重複しない限りで述べさせていただきます。1の初めの総論につきましては,端的にこの提案の考えでよろしいかと思いますが,民法の雇用の規定は労働契約の補充規範としての機能が引き続きあると思っており,一方で,労働政策立法は「法形成のプロセス」と資料にありますように,法律の特殊な性格に基づきまして,労働政策審議会という労働者代表,使用者代表が集まる審議会で検討しているという特徴もありますので,それらを踏まえて慎重に考えるべきと思っております。   民法と労働契約法を統合するかどうかについてはそういうこともありまして,雇用と労働契約の関係とか,あと,仮に両者が同じだとしても先ほど山川幹事がおっしゃいましたとおり,労働法制で適用を除外している人たちの扱いとか,あと,労働法制でなお書いていない民法の規律などの扱いもありますので,にわかにこの段階で結論を出すというのは,こちらの労働契約法制の在り方との兼ね合いもありまして難しいと思っております。今回,最小限の規定の整序は可能かと思いますけれども,抜本的な両法制の統合というのは,ちょっと慎重にと思っております。   最初からいきますと,報酬請求権のところでノーワーク・ノーペイについては,規律する必要はないのではないかという考えは新谷委員とほぼ同様でございます。労働契約の概念上,労務の提供の対価として報酬が支払われるというのは契約上,当然,予定されており,仕事をすれば報酬が支払われるというのは当たり前でございますので,基本的には当然のことである一方で,それを修正する特約も世の中にいっぱい行われているので,そういうことも考えると,なおかつ,今,新たにここで書く意味はないかと思っております。   それとの関係でも,(2)で労務が履行されなかった場合における既履行部分の報酬請求権について書くべきかという点について。ここでも働いた場合には働いたことに対する報酬を払うという考えはむしろ当然ですので,これも規律する必要は余り感じていないところでございます。先ほどもちょっと役務提供のところで申し上げたのですが,この雇用のところでも,「履行の割合に応じて報酬が支払われる類型」という表現が概要版20ページの2の(1)にもあるのですが,雇用については役務提供の分量などが初めに決まっているわけではないので,履行の中途とか割合ということを観念して,途中まで払う,払わないということを観念すること自体が何か違和感がありまして,そう考えますと規律は要らないのかなと思っております。   626条については山川幹事のおっしゃるとおりだと思っており,一部,労働基準法とのずれがある部分があり,民法の意義があるかと思っております。629条につきましては,正に雇用期間の定めのある労働契約をどう規律するか,雇い止めの部分をするかという点は,今まさに,政策的に非常に課題となっておりまして,これから審議会が始まるところでございます。民法のこの規定も認識しながら議論していきますけれども,今,民法のこの規定の解釈自体,学説が分かれている中で,それを民法の中で決着を付けるというよりは,そういう労働立法の中で議論させていただければなと思っているところでございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○佐成委員 経営者側といいますか,経団連会員企業の感触ということだけを御報告させていただきますと,基本的には皆さんが御発言されたとおり,労働政策審議会が最も適切なフォーラムであると,そこで議論してほしいということが一つと,それから,本当に存在意義のないものであれば削除しても構わないけれども,存在意義を否定しきれない規定もありそうな感じですので,結局のところはここでは触らないでいただきたいというのが大方の感触でございます。 ○内田委員 626条について,できれば山川先生の御意見をお伺いしたいのですが,例えば家事使用人に適用される余地が残っているので,民法はまだ生きているから削除すべきではないというご意見なのですが,これを残しますと家事使用人については生涯働けという契約も有効になり,5年間は拘束されるということになるのですね。私自身は,民法としてそんなものを果たして認めていいのかという気がするのですが,それは,しかし,改正しようがないということになるのでしょうか。 ○山川幹事 ありがとうございます。確かに労働基準法の適用がないために,民法で定めざるを得ないということですと,もしかしたら立法論として,労働基準法と同様の期間制限を家事使用人等についても置くということはあり得るかと思いますけれども,それは言ってみれば労働基準法自体の問題でありまして,それができる前に民法626条をなくしてしまうと,むしろ,5年経過すれば解約できるということ自体ができなくなってしまうのかなと私は理解していたんですが,もし間違いでしたらお教えいただければと思います。5年というものも長過ぎるとするかどうかは,労働基準法をどれだけ拡張するかの問題かなと思っておりました。 ○内田委員 一言だけですが,私の感触では生涯働けという契約があれば,公序良俗違反で無効であって,5年間は拘束力があるという規定自体がおかしいのではないか,そういう感じです。 ○山川幹事 労働基準法14条の例外として,一定の専門職と高齢者については5年間の契約期間による拘束まで認めていて,それからすると,労基法上も5年という契約は場合によってはあり得る契約かなと思っておりますが,それはただ,そういう専門職等の場合ですので,公序良俗に反するという方向も別途あり得るかなと思います。 ○岡委員 弁護士会の意見を報告させていただきます。   総論のところにつきましては,労働関係法規のプロセスを主眼に置くということに弁護士会の多数意見は賛成でございます。一部には雇用の規定を,全部労働契約法のほうに持っていってもいいのではないかというような意見もございましたが,それは一部の意見でございました。   関連論点のところにつきましては,全て趣旨はいいんだけれども,やはり民法にこれを規定すると,新谷さんがおっしゃったようなほかの問題が出てくるので,単純に持ってくるのはいかがなものか。特に解約申入れの日から30日の問題につきましては,今,労働法のほうでもかなり効果がどうのこうのと相当もめていますので,そう簡単に民法に持ってくるのは問題であるという意見がございました。   ノーワーク・ノーペイの原則についても,今の624条でそれで表現されているではないかという意見が多うございました。624条2項につきましては,先ほどのように1か月間の給料,基本給部分については20日に月末分までの分を払うというような慣行も出てきておりますので,何かもう少し任意規定であることがはっきりするような,これが強行法規ではないことがはっきり分かる表現にしていただきたいという意見がございました。   労務が履行されなかった場合の報酬請求権については,先ほど中田先生が責めに帰すべき事由というのは多義的でよく分からないと,義務違反のほうが分かりやすいという意見をおっしゃいましたけれども,弁護士だからというわけかもしれませんけれども,義務違反のほうが分かりにくいと,責めに帰すべき事由というほうがよほど判例の蓄積があって,国民にも分かりやすいというような意見を言う弁護士が多うございました。その意味で,責めに帰すべき事由によるという536条2項の表現で,なおかつノーワークだけれども,発生するという根拠が分かりやすい規定を加えるのには,賛成であるという意見が多うございました。   詳細版の77ページに報酬を全部払う場合の要件として,義務違反と起因する事由が出てきています。今までの役務提供契約では全部払う場合の要件が「義務違反」で,半分ぐらいで履行割合で解決するのが「起因する事由」でずっときていました。それなのに雇用だけ,「起因する事由」の場合に100%払うとなっていて,何でこうなるのかという疑問がありました。弁護士会の議論としては,相手方に起因する場合でも起因しない場合でも,雇用の場合は履行割合部分は必ず払われるんだと,ゼロの場合はないということになりました,そういう考えで書かれているのであればそれをはっきり書いていただきたい,書くべきであるという意見がございました。   626条については,ここに書かれてあるような両方の意見がございました。どちらか一方が多数意見を占めるということにはなりませんでした。   最後に,有期雇用契約の黙示の更新のところにつきましては,ここも両論がございました。むしろ,有期が原則であると。期間の定めもそのまま承継されて,あとは雇い止めの法理で規律したほうが,期間の定めが長い場合は労働者の保護になっていいのではないかと,そういう説もありまして,両論がございました。当面解釈に委ねて立法は厚生労働省のほうに頑張ってもらうとしたら,今の629条1項のただし書はどう見ても,期間の定めはなくなるという規定なので,629条1項の「この場合において」以下を削除して,それで解釈及び将来の立法に委ねると,そういう道もあるのではないかという意見もございました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○新谷委員 報酬に関する規律の(2)の労務が履行されなかった場合の報酬請求権について,現行民法536条2項の危険負担の規定は,使用者の責めに帰すべき事由の内容が分かりにくいという指摘もありますが,この点については判例の蓄積もかなりありますし,また,この内容は労基法26条の休業規定との関係について整合的に解釈する必要もありますので,従来の条文を変えることなく,具体的内容については判例・学説の展開に委ねるという方向で検討いただければ有り難いと思っています。   また,現行民法629条の黙示の更新における無期への転化の問題については,労働者の保護という見地から見れば非常に良いと思われますが,やはり法形成のプロセスということを考えると,この場ではなくてILO三者構成主義に基づき,公労使の三者構成の中での論議にお任せをいただければ有り難いと思っています。   なお,今回の資料の中には記載されていない雇用の条文の中で,重要な規定も幾つかあります。特に625条の規定は,最近M&Aが多く行われる中で,労働者の同意がないと転籍ができないという意味で,非常に重要な規定として生きているため,今回提起をされていない条文については現状のまま,存続をさせるということで理解をしていいのかどうかを確認させていただきたいと思います。 ○筒井幹事 ただ今,御指摘がありました民法625条については,特段の改正提言が見当たらないということで,この部会資料では取り上げていないということに尽きます。この点について,今,新谷委員から,民法625条は現状を維持すべきだという意見をいただいたものと受け止めております。 ○高須幹事 中井先生がいないので,弁護士委員,幹事は3人でチームワークよく弁護士会の意見をお伝えしましょうというのが今日の趣旨でございます。先ほどの岡先生からの御指摘にプラスアルファでございますが,総論のところの関連論点の627条1項後段を労基法20条を反映させた規定にすべきではないかの点です。大きな枠組みとしては,確かにそういうことだとは思うのですが,労基法20条の解約予告手当てとの関係等も恐らく問題になるのではないかという意見がございます。この点を触れずに,ただ,30日を経過しないと解雇にならないということだけを定めるというのは,かえって予告手当てとの関係で難しい問題を生むのではないかという疑問が弁護士会の中でもありましたので,そこも御指摘させていただきます。 ○中田委員 報酬についてと,それから,626条,629条について申し上げます。   ノーワーク・ノーペイの原則については,先ほどの山川幹事の御意見に賛成です。   それから,労務が履行されなかった場合の具体的な報酬請求権につきまして,義務違反という言葉が適当ではないのではないかという御意見を何人かから出されました。一つは,それを使うことによって,労働者の就労請求権を認めることになるのではないかという問題があるのかと思いますが,ここで言っている義務違反というのは,恐らく受領義務だけではなくて協力義務など,割合,広いものではないかと思います。それから,受領義務と受領強制は別のことであって,受領強制ができるのは,債権者が履行を受領するということを契約で合意していた場合になるのではないかと思います。就労請求権は受領強制の問題だと位置付けると,ここで義務があると言ったからといって,当然に就労請求権を認めるということにはならないのではないかと私は思います。   もう一つは,責めに帰すべき事由という言葉が判例上も明確であり,使いなれた概念だからいいではないかということなんですが,それほど明確なのだろうかという気もいたします。これは,ここでだけ出てくる問題ではなくて,民法全体として責めに帰すべき事由という概念を使うのか,どのように使うのかという問題とも関係いたしますので,表現は最後の問題といたしまして,ここではより実質を検討するべきではないかなと思います。私は義務違反でよいのではないかと思っております。   それから,626条,629条につきましては,従来,私は今回の資料で紹介されているような考え方,つまり626条は削除,629条については無期化説でいいのではないかと思っておりましたが,いろいろ御意見を伺ってみますと,やはり労働法の専門の皆様方の御意見を尊重すべきなのだろうと思います。ただ,ここで一切,議論を排除するということにはならず,ここでも議論していいのではないかと思っております。   それから,最後にもう一つ,言い忘れたことですが,ノーワーク・ノーペイの原則について,山川委員の御意見に賛成だと申し上げたのですけれども,最終的にそれをどこで規定するのかというのは,規定の編成方針との関係にもなると思います。 ○青山関係官 すみません,言い忘れたことがあったので手短に。   1の関連論点のところでいろいろ御議論がありましたけれども,労基法20条との関係は,こちらも認識はしておるのですが,確かにそのまま入れ込んでいいのか,あるいは,もともと,労基法と民法の規律する範囲が同じなのか,ずれるのかという問題もあり,実際,労基法を適用除外している人達の問題もあるので,民法に労基法の内容を入れ込むというのは,結局,実質的な労働法制の議論に入り込むということにもなりこちらも慎重になっているところでございます。   536条2項の問題は,いい対案はないのですが,少なくとも今のこの規定で判例も確立して,解雇無効の場合の報酬請求権が認められていることを踏まえて,実質的な影響が実務にないようないい形で整理されれば有り難いと思っております。 ○神作幹事 資料には記載されていない論点ではないかと思うのですけれども,雇用契約に基づいて労働者に一般的な善管注意義務や忠実義務が生ずることに関する規定がないことは,委任等との対比においてバランスを非常に欠いているようにも思うのです。雇用契約や委任契約は,いわゆるエージェンシー問題の典型でありまして,労働者が使用者を害する危険が委任の場合と同様に非常に大きいところでございますけれども,一般的にそのような規定を置く必要はないのかどうか。商法には商業使用人の規定の中に,支配人の競業禁止の規定などがございますけれども,これは通常,どのように説明されているかと申しますと,雇用契約に基づく一般的な忠実義務の具体的発現であると説明されることが多いのではないかと思います。労働者の一般的な注意義務,さらには,委任等との規律と平仄を合わせながら忠実義務について規定することの是非は,一つ議論になり得るのでないかと思ったところでございます。 ○道垣内幹事 神作幹事は今,善管注意義務の話から始まって忠実義務の話に移られたんですけれども,これはかなり違う問題で,雇用においては,うかつな人が雇用されたときに,一般的にその立場にいる人に要求される注意水準を尽くしていないと義務違反になるというのは,やはり妥当ではないのだろうと思います。したがって,雇用について,善管注意義務が規定されていないというのには,それなりの理由があると思います。しかし,その話と,競業してはいけないとかという話は別問題です。今まで善管注意義務の中に忠実義務が含まれる,あるいは善管注意義務よりもより高次な義務として忠実義務を規定する,といった議論が委任のほうではなされていたわけですけれども,逆の場合もあり得るような気がします。 ○山川幹事 まず,善管注意義務ですけれども,確かに特に言われることは少ないんですが,その代わりといっては何ですが,債務の本旨に従った労働義務の履行という形で議論されていますし,もう一つには職務専念義務ということでも議論されていますので,実質はそれほど変わらないかなと思います。それから,忠実義務につきましては,誠実義務というものがあると言われており,労使間には誠実配慮という関係があるということが言われていますが,ただ,その内容は競業避止も含めて,個別具体的に検討すべきであるというのが一般的な見解です。忠実義務という言葉を使う裁判例も一部,ないではないんですが,実は歴史的に忠実義務が非常に強調されたのはドイツのナチス時代であると言われており,労働者と使用者の対立関係を言わばイデオロギー的に止揚するために使われたとか,ちょっとこれもうろ覚えなんですが,そういう歴史があるので,忠実義務というよりは誠実義務ということで個別的に検討するというのが労働法の流れかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   6時になってしまったんですけれども,一番最後の後注・関連論点というところに,先ほど少し議論が入り込んだままになっておりますので,ここについての御意見だけは伺っておいたほうがよろしいかと思うので,申し訳ございませんが,6時を少し過ぎることをお許しいただければと思います。まず,後注・関連論点についての説明を事務当局からしてもらいます。 ○笹井関係官 後注・関連論点は,役務提供型契約に関する規定の編成方式について御審議いただくものです。役務提供型の各典型契約についての規定を検討した結果,そこで扱われている事項や規定内容に共通点が認められるのであれば,これを役務提供型契約の一般原則となる総則的規定として括り出すという編成方式も考えられるため,このような方式の是非について御意見をいただきたいと思います。 ○鎌田部会長 既に先ほどの御議論の中で,幾つかのアプローチの仕方がこの問題についてはあるんだという御意見が出ていたところでございますけれども,更に後注のところへ来て発言されようとして,発言を控えていらした委員,幹事がいらっしゃいましたら,どうぞ発言をいただければと。 ○中田委員 先ほど申し上げたこととも重なるんですけれども,役務提供型の契約についてかなり明確なコンパクトな概念にするか,それとも汎用性のあるものにするか,総則にするかという恐らく三種類ぐらいがあって,それぞれ長短があると思います。コンパクトなものにすればするほど,そこからこぼれ落ちるものが大きくなって,その規律をどうするかという問題がある。他方で,総則的にすると他の典型契約との間の重複部分といいますか,その周辺で重なりそうなところをどう調整するかという問題が出てくるだろうと思います。それぞれ長短がありますので,具体的な内容を検討した上で,決定するということになると思います。ただ,少なくとも申し上げたいことは,無償の役務提供契約についても含むようなものであったほうがいいだろうと思います。更に個人的には,総則タイプというのが,長短を考えた上でいいのではないかと思っておりますが,これはいろいろな御意見があるだろうと思います。 ○青山関係官 今,おっしゃったように役務提供契約を総則的なものにするのか,第五の類型にするのかというのは悩ましいと思います。第五の類型にするにしても,各類型の境目になる分の扱いは非常に悩ましいと思っています。少なくとも申し上げたいことは,役務提供契約について,全体をカバーするものにすることになった場合には,それでもなお,ほかの役務提供類型のように仕事を観念して,その提供を目的とする契約類型と,労務の提供そのものを目的とする雇用の類型とは,先ほどの善管注意義務の議論ではありませんが,性格が違うことから,雇用は別立てにすべきなのではないかなという意見だけを申し上げておきます。 ○山川幹事 先ほど申し上げたことへの追加ですが,検討の対象となっているのは,包括的な役務提供契約概念を作るというのと,それから,典型契約に該当しないもの,準委任等は一部入るかと思いますが,典型契約に該当しない役務提供契約という類型を作るという,二つが主なものかと思いますが,先ほどの中田委員のお話からは,例えば主としてイメージされている役務提供契約について,消極的なキャッチオール型の定義ではなくて積極的な定義を設けるという方向も考えられるように思います。これまで懸念が出されておりましたのは,典型契約以外のものを全部含む役務提供契約ということになりますと,雇用契約に準ずるような役務提供者側の交渉力が弱いタイプもそこに入ってしまうということですので,もし,今回挙げられているような規律を置くことが考えられる役務提供契約について積極的な定義を置くとすれば,そういう懸念は解消される可能性があるかなと思いますので,先ほどの中田委員のご発言に示唆を受けて,もう一つ,言わば6つ目のアプローチが考えられるのではないかと思います。 ○松本委員 現在の13の典型契約を考えますと,一方当事者が自然人でなければならない契約というのは雇用契約だけなんですね。委任でも法人対法人でやれるわけで,実際の作業は誰か個人がやるにしても,契約自体は自然人である必要はない。だけれども,雇用における被用者は法人でもよいという議論をする人はいないと思うので,自然人でないと雇用契約という類型自体が成立しないという特殊なものである。雇用者は個人であっても法人であっても構わないけれども,被用者は自然人であるというところからくる非常に独自の性格を持っているんだと思います。消費者契約も,そういう意味では消費者というのは自然人なんだけれども,今度は相手方が事業者でなければならない。事業者対消費者という特殊性がある。雇用は自然人対自然人でもいいし,法人対自然人でもいいんだけれども,被用者というのは自然人でなければならないという意味で特殊性がある。そう考えますと,ほかの類型とはそこで絶対的に区別されるもので,したがって,侵せない領域があるのだろうと思います。 ○岡委員 この総則という意味がよく分からないんですけれども,ここに書かれている案だと新しい準委任の受皿及び四つの典型契約全部に適用される総則ということになると,最大公約数的な条項を拾い上げると,そういうイメージになると思うんです。全部の最大公約数と考えると,本当に中身のないものになってしまって意味があるんですかと思います。具体案でいいのが出てくれば問題ないと思いますが,先ほどのような提供者の義務,受領者の義務,報酬の支払時期だけですと,それほど役に立つものが出るのかなという意見がございました。ただ,先ほど内田先生のお話にあった,委任とその親戚とか,請負とその親戚とか,少し特定されて,イメージの沸く範囲の契約類型について,最大公約数というか,総則というか,それをつくるというのであればかなりイメージが湧き,かつ役に立つものができるのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○道垣内幹事 総則ということで意味なのですけれども,例えば役務提供契約という名前の契約類型を置いて,しかし,寄託なら寄託の要件に該当するときには,その一部が変容されるという意味で,役務提供契約という典型契約の名前自体はあるというのを総則と呼んでいるのか,役務提供契約という契約の名前はないというのを総則と呼ぶのかというのが問題のような気がします。名前のない単なる上位概念として共通規定を置くということになりますと,私は民法全体の作りの中で,ほかの契約のところとはかなり違った形になりますので,余り妥当ではないのではないかと思います。ただ,同じことを最初でも最後でもいいのですが,AならAという名前の契約を置いて,基本的にそれが準用されて,個別的な規定だけがあとの名前の契約については置かれるということならば別に問題ないので,実質的なことについて何か強い意見があるわけではないのですけれども,総則という言葉の意味をちょっとはっきりさせたいと思います。 ○中田委員 私は総則兼受皿という意味で理解しておりました。 ○道垣内幹事 今の中田委員の言葉の意味が分からない。つまり,総則という言葉の定義も受皿という定義も不分明なので。 ○中田委員 他の典型契約に一般的に適用されるルールであると同時に,他の典型契約に入らないものについての受皿としての規定であると,そういう理解です。 ○松本委員 今の御説明は,売買契約が他の有償契約にも準用されると書いてありますが,そういうニュアンスで,売買契約が有償契約の受皿規定としても機能するというのと同じような意味でおっしゃっているわけですか。 ○中田委員 私がどう考えているかというのは余り意味がないかもしれませんけれども,売買契約の場合には準用されるのではないかと思いますけれども,役務提供契約の場合には適用されることになるのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 余りぴったりの例ではないのかもしれないんですけれども,契約総則は売買契約に重ねて適用になります。無名契約にも契約総則は適用になります。役務提供契約のグループの中に入っていれば,例えば委任であれば,その役務提供契約総則プラス委任になるけれども,役務提供グループの中で他の四類型に入らないと,役務提供契約の総則的な規定のみが適用になると,そういうイメージですね。 ○道垣内幹事 全く整理技術の問題なので,今,余り議論しても始まらないかもしれませんけれども,そのような形で,その部分だけ総則があるということは,私には美的には許せない。 ○鎌田部会長 そういう指摘として理解しました。 ○松本委員 私も先ほど言ったことの繰り返しですけれども,ここで一番ニーズとして求められているのは,広い意味での役務提供契約,非常にスパンの広い役務提供契約の総論を作らないと,民法がどうしようもないという状況だからではなくて,余りにも準委任のところに様々なタイプの新種契約が突っ込まれてしまっている。しかるに,本来の委任の規定は法律行為の委任を典型モデルとしたものであって,どういう規範が準委任に適用されるのかよく分からない。必ずしも委任の規定をストレートに適用するのが適切とは思えないような取引類型,経済活動が非常に増えているという前提なわけですから,そこについてきちんと必要な規定を整備し,更に漏れるものが万一あったとして,受皿的に準用するという形になるというくらいで十分なのではないかと思います。あえて非常に難しい役務提供契約総論を構想するよりは,もう少し小さな典型契約で考えるほうがいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。ここの点については幾つかの考え方があるということが鮮明になりましたので,それを踏まえて第2クールに向けた整理をさせていただくようにいたします。   大分,時間が過ぎましたけれども,ほかに御発言がないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。本日,予定をしていた議事のうち,寄託が丸々残ってしまいましたけれども,この部分についての取扱いは事務当局において検討をさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回は11月9日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省20階第1会議室です。次回会議において,当初の予定では,組合,終身定期金,和解,それから現在の13種の典型契約のほかに新種の契約に対応するため新たな典型契約を設けるのか設けないのか,こういった辺りを御議論いただくこととしておりましたので,その部会資料を通常どおり発送させていただこうと思います。その上で,基本的には,本日積み残しとなった寄託から審議を始めていただくことを想定しておりますけれども,進行についてはまた別途,御連絡を差し上げるようにしたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,今,御指摘のあったように若干の留保はついておりますけれども,次回,寄託プラス今後,配布される組合以降の典型契約等というのを,審議の対象として想定しておいていただければと思います。   本日は,長時間にわたりまして熱心な御審議を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-