法制審議会民法(債権関係)部会           第18回会議 議事録 第1 日 時  平成22年11月9日(火) 自 午後1時00分                       至 午後5時59分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○鎌田部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第18回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   では,配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いします。 ○筒井幹事 事前送付資料として,部会資料18-1及び18-2をお届けいたしました。また,本日は,前回の積み残しを御審議いただく関係で,配布済みの部会資料17-1と17-2も使わせていただきます。これらの資料の内容は,後ほど関係官の松尾と亀井から順次説明いたします。   このほか,本日は机上に多くの配布物がございます。まず,事務当局で用意いたしました参考資料8-1,「質問予定事項」と題するものを置かせていただきました。これは実態調査に関するものですので,本日の会議の最後に御説明しようと思います。   次に,委員等提供資料ですが,御提供いただいた委員等の五十音順にて御紹介いたします。まず,岡正晶委員から,第一東京弁護士会会報452号の御提供をいただきました。次に,佐成実委員から,社団法人リース事業協会作成の「ファイナンス・リースの典型契約化について」と題する書面,これには7月21日付の詳しいものと,11月9日付のサマリーがありますが,これらの御提供をいただきました。また,同じく佐成実委員から,一般社団法人日本自動車リース協会連合会作成の「民法改正におけるファイナンス・リースの典型契約化について」と題する書面の御提供をいただきました。次に,中井康之委員の御紹介で,京都弁護士会からの二通の意見書,「消費者契約に関わる法規範を民法に取り込む際に留意すべき事項についての意見書」と「提携リース契約を規制する法律の制定を求める意見書」の御提供をいただきました。 ○鎌田部会長 資料を御提供いただきました委員から,特に補足の意見はないですか。よろしいですね。   それでは,本日の審議に入ります。   本日は,部会資料18-1のほかに部会資料17-1のうち,積み残しとなっている部分について御審議いただく予定です。具体的な進行予定といたしましては,休憩前にまず部会資料17-1の「第6 寄託」と,部会資料18-1の「第1 組合」を御審議いただくことを予定いたしております。その後,休憩を挟みまして,引き続き部会資料18-1の「第2 終身定期金」以降を御審議いただきたいと思います。   それでは,まず,部会資料17-1の23ページ以降の「第6 寄託」のうち,25ページの「5 寄託物の返還の相手方」までについて御審議いただきます。事務当局に説明してもらいます。 ○松尾関係官 それでは,「第6 寄託」について2以下の個別論点の御説明をいたします。   「2 寄託の成立-要物性の見直し」では,寄託が要物契約とされていることを改め,合意によって成立する諾成契約とすることが提案されております。また,諾成契約とする場合には,寄託物を引き渡すまでは契約を解除することができるとするなど,合意の拘束力を調整する仕組みについても提案されていますので,この点についても御議論いただきたいと思います。   「3 受寄者の自己執行義務(民法第658条)」のうち,(1)は再寄託が認められる要件を拡張すべきであるという考え方について,(2)は寄託者と再受寄者との間に直接請求権を認めないこととすべきであるという考え方について,その当否を御議論いただくものです。   「4 受寄者の保管義務(民法第659条)」は,規律を明確化する観点から,有償寄託の注意義務についても,寄託に固有の規定を設けるべきであるという考え方が示されていますので,御意見をいただきたいと思います。   「5 寄託物の返還の相手方」では,受寄者は寄託者に対して寄託物の返還義務を負っており,寄託物について所有権を主張する第三者から当該寄託物の返還請求を受けたとしても,強制執行等により強制的に占有を奪われる場合でない限り,この第三者に任意に引き渡してはならないという規律を条文上,明確にすべきという考え方の当否を御議論いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明がありました部分のうち,まず,「1 総論」について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○中田委員 商法との関係をどうするかという問題の一つですけれども,商法594条から596条までの場屋営業者の寄託責任について,現代化して規定するかどうかについても,検討項目に加えてはどうかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   特になければ,2以下の個別論点に議論を進めさせていただきます。これまでと同様に何かお気付きの点がありましたら,また,総論的な課題についても御発言いただければと思います。それでは,「2 寄託の成立-要物性の見直し」から「5 寄託物の返還の相手方」までについて,御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○岡本委員 (1)の要物性の見直しと,それから,寄託物の受取前の当事者間の法律関係,この二つについてまとめて申し上げたいと思います。   まず,要物性の見直しについてですけれども,諾成的寄託契約につきましては,既に認められていると言ってもいい状況にあるのではないかと考えますので,特に諾成的寄託契約を認めることに反対はいたしません。このうち,無償寄託について二つの案が示されておりますけれども,これについては特にどちらでなければという意見はございません,   それから,(2)の寄託物の受取前の当事者間の法律関係についてでございますけれども,諾成的寄託においては,寄託者が寄託物の引渡義務を負わないという点については,異論がないと記載されておりますけれども,本当にそれでいいのか,疑問がないわけではないのではないかと思います。部会資料の提案にありますように,書面によらない無償寄託を除いて,受寄者に引渡前解除権が認められないということだといたしますと,寄託者が寄託物の引渡しをしない場合に,受寄者のほうは解除することができなくて,いつまでも受取義務に拘束され続けるといったことになるように思われまして,その点で妥当ではないのではないかと考えるものです。むしろ,寄託者の寄託物の引渡義務を認めて,寄託者がこれを履行しないときには,受寄者の側で寄託契約を解除することができると,それでもって損害が発生すれば,その賠償の請求もできるとすべきなのではないかと考えます。   もっとも,寄託が寄託者の利益のためだけに存在するというような場合には,確かに寄託物の引渡義務を認めるといったところは行き過ぎかもしれないですけれども,その場合には引渡義務までは認めないにいたしましても,受寄者に引渡しについて催告権のようなものを与えて,催告にもかかわらず引渡しがなければ受寄者は解除することができると,そういうふうな形にするなど,何らかの形で受寄者が契約から解放される,そういった仕組みを設ける必要があるのではないかと考えます。 ○山本(敬)幹事 3の「寄託者の自己執行義務」のうちの(2)「適法に再寄託が行われた場合の法律関係」について,意見を述べさせていただきたいと思います。   この問題については,基本的に,委任の場合と同様の扱いをしてよいと思いますが,部会資料を見ますと,最後に,現在の658条2項が,107条2項を準用して,寄託者と再受寄者との間に相互の直接請求権を認めている点について,「再寄託については,寄託者と再受寄者との間に直接請求権を認めないこととすべきであるという考え方」が示されています。これは,「再委任の場合とは異なり,再受寄者の行為の効果が直接寄託者に帰属する関係にない」からという理由が挙げられています。   これによると,例えば,寄託者は,再受寄者に対して,直接寄託物の返還請求することはできないということになりそうです。これは,寄託者が寄託物の所有者であるときは,所有権に基づいて返還請求できるのですが,寄託者が寄託物の所有者でないときは,問題が残りそうです。例えば,寄託者と受寄者の間の寄託契約が期間の満了や債務不履行解除などによって終了したときでも,あくまで直接の受寄者に対してしか返還請求できない。再受寄者には直接返還請求できないということでしょうか。そうだとしますと,問題も出てきそうです。   逆に,この考え方によりますと,再受寄者のほうは,寄託者に対して,直接保管料を請求することができないということになりそうです。もちろん,再受寄者は,自分が寄託契約をした直接の相手である受寄者に対して,保管料を請求することができます。しかし,そこで受寄者が支払不能等に陥った場合は,現行制度を前提にしますと,受寄者が寄託者に対して持っている保管料債権を代位行使するしかないわけですけれども,これもあくまでも総債権者の利益のためのものですので,再受寄者は単独では満足を得ることはできないのが原則です。しかし,再受寄者は寄託者の寄託物を保管していたのであって,その保管料は寄託者から確保できてしかるべきではないか。それが,恐らく現在の658条2項の考え方だと思いますけれども,それが本当に否定されなければならないのか。もう少し検討する必要があるのではないかと思います。 ○村上委員 3の(1)再寄託の要件のうち,受寄者に受託物の保管を期待することが相当でないときという要件についてですが,この要件に当たるかどうかの判断をするための基準が欲しい,どういう場合にこれに当たるのかもう少し分かりやすくできないものだろうかと思います。それがないと,場合によっては無限定に再寄託を認めるということにもなりかねないように思います。 ○高須幹事 最初のところの要物性の見直しのところでございますが,消費貸借についても同様の議論をしたという記憶がございますので,それとの兼ね合いといいますか,つり合いがとれるような形で,仮に消費貸借のほうについて要物性を見直すということであれば,こちらも見直すという形がやはり適当だと思います。その意味では,要物性の見直しということに対しては前向きに考えたいと思っております。   その場合に,今,岡本委員から御指摘のございました寄託物が授受される前の法律関係について寄託者が引渡義務を負わないという点,それが言わば法の空白状態みたいなことになって,日々,時間だけが過ぎるというのは確かにいいことではないと思いますので,それに関しては先ほど御指摘があったような催告権のようなものを認めるのが妥当と考えます。例えば民法の114条の無権代理の場合の追認に関する催告権のようなものをここでも認めて,引き渡すか否かを催告し,これに応じないときは解除されたものとみなすとか,そういうような規定を設けるあたりが座りがいいのではないかと思います。引渡義務を認めて損害賠償まで認めるかどうかは,少し慎重に考えたほうがいいと思いますが,催告権のようなものを認めて,法律関係の早期安定を図るということはよろしいことかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   要物性の見直しに関しましては,大筋で御理解をいただけていると思います。(2)及び3の(1),(2)につきましては,御指摘のあった点を検討させていただくということでございますが,4と5につきましては特に御意見はありませんか。 ○中井委員 5の寄託物の返還の相手方についてですけれども,ここで提案されている考え方というのは,強制執行等により強制的に占有が奪われる場合でない限りと,限定をしているわけですけれども,これが妥当か。仮に確定判決を得ても,強制執行を待て,とまで読むのか,確定判決が出れば,その段階で任意の引渡しをしても十分理由はあるだろうと思われます。さらにそうだとすれば,確定判決前であっても,真の権利者からの引渡請求であることを受寄者が判断して返還しても,債務不履行にならない場面があるのではないか。   どういう場合に強制執行以外にできるかについては,受寄者側に,帰責事由という言葉を使うのが適当かどうかはともかくとして,帰責事由のない場面で真の所有者なりに引渡しができる場面が想定できるのではないか,検討が必要ではないかと思います。 ○岡委員 今の引渡しの相手のところでございますが,強制的に占有を奪われる場合についての問題点は中井さんの言ったとおりでございますが,その次の寄託物を引き渡してはならない拒絶義務を課した場合に,それでも最終的には第三者に対して引き渡さざるを得ない場合があると思います。そのときに第三者に対しては引き渡しが遅れたことにつき損害賠償義務が発生するのではないか。その場合に,寄託者のほうに転嫁できるのかどうか,そういう第三者に対する義務が最終的に認められた場合の損害賠償義務の寄託者に対する転嫁の問題について整理をするべきであると,そういう意見がございました。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   よろしければ,次に部会資料17-1の26ページから27ページまでの「6 寄託者の義務」から「8 寄託物の譲渡と間接占有の移転」までについて御審議いただきます。事務当局に説明してもらいます。 ○松尾関係官 「6 寄託者の義務」ですが,(1)では一定の場合に寄託者に無過失責任を負わせる方向で,民法第661条の規定を見直すべきであるという考え方について,(2)では寄託者の報酬支払義務に関する規律の在り方について,それぞれ御審議いただきたいと思います。   「7 寄託物の損傷又は一部滅失の場合における寄託者の通知義務」は,寄託者が寄託物の損傷や滅失を知った場合には,一定の合理的な期間内にその旨を受寄者に通知しなければ,損害賠償請求権を行使することができないという考え方を取り上げました。売買や請負の瑕疵担保責任の期間制限との整合性にも留意しつつ,御意見をいただければと思います。   「8 寄託物の譲渡と間接占有の移転」ですが,寄託物の譲渡に伴う間接占有の移転に関する判例の見解は,指図による占有移転との関係で条文からは必ずしも読み取ることができないことから,寄託物の譲渡に関する法律関係を明確化するとともに,寄託者の契約上の地位の移転と間接占有の移転の関係に関する規定を設けるべきであるという考え方が提示されていますので,規定の要否について御議論いただければと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について一括して御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○奈須野関係官 寄託者の損害賠償責任について,現行民法第661条の規定を維持してほしいという意見がございました。  その理由としては,寄託者は通常,商社等売買をしている者や譲渡担保の担保権者ですが,そのような者は寄託物を直接見て検査するということがない場合があるとのことです。一方,受寄者は通常,倉庫業者のように許可を受けて営業を行っている者です。原油の場合は消防法上の許可を取っており,タンカーは船舶安全法,放射性物質であれば原子炉等規制法等,それぞれの法律の中で保管を行う者に義務を課しています。実際には,商社や譲渡担保権者よりも,このような倉庫業者等のほうが専門知識が高い場合も多く,こうした実態を踏まえると,現行の規律で良いのではないかという意見がありました。   また,寄託物の損傷又は一部滅失の場合における寄託者の通知義務について,寄託物は原則として自分の物が返ってくるので,返還を受けた時から損傷,滅失の通知を起算するのが合理的と思われます。   さらに,「一定の合理的な期間内」という用語について,産業界からは,例えば1年というような一律で明確な期間を定めてほしいという要望がございました。 ○村上委員 6の(2)の②の寄託物未引渡のときの寄託者の報酬支払義務に関する規定についてですが,寄託者の義務違反により寄託物が引き渡されなかったときとあるわけですけれども,寄託者には引渡義務があるのかどうかという議論が先ほどからされております。引渡義務がないという規律をするのだとすると,この部分はどういうことになるのだろうかということが疑問です。それから,約定の報酬から自己の債務を免れることによって得た利益を控除した額を請求できるとの規定を設けるとのことですが,期間の定めのない寄託契約の場合には約定の報酬というのはどういうことになるのだろうかということも疑問に感じます。 ○岡田委員 質問ですが,寄託者の義務のところで先ほど奈須野さんがおっしゃったんですが,消費者と事業者,受託者が事業者の場合に関して書かれているのですが,661条では瑕疵となっており,上の説明では状態となっています。それで,その使い分けに何らか意味があるのでしょうか。状態のほうが広いような気がするのですが。その辺を教えていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 この点について,どなたか,御発言はございますか。 ○中田委員 私の感想ですけれども,瑕疵というと瑕疵担保の瑕疵という概念がありますが,それとこことはちょっと違うのではないかと。そうすると,ここでは状態として,一応,瑕疵担保のほうと区別をしておくということではないかと思います。最終的にどのような言葉を選ぶのかというのは,法制的な観点も考慮して決めることではないかと思います。 ○岡田委員 消費者にとってどうなのか今はっきりしないのですがなるべく661条よりも消費者に有利になるように考えていただきたいと思います。 ○中井委員 寄託者の報酬支払義務に関するところですけれども,①の保管義務を履行しなければ報酬請求権は具体的に発生しないという原則については,理解できるところです。   次の寄託者の義務違反によって寄託物が引き渡されなかったときの扱いについては,期間の定めのある場合とない場合とで違うのだろう。期間の定めのない場合は原則,いつでも解除して返還を求めることができるわけですから,報酬請求権なり,損害賠償請求権は考えられない。保管の期間,始期と終期の定めがあるにもかかわらず引渡しをしないときは,現実に預かっている期間について報酬請求権が発生するけれども,始期から預かるまで,もしくは解除するまでの間,もしくは返還を受けてから終期までの間,この間についてどう考えるのか。   資料ではそれを報酬相当額と書いているのですが,この中身が報酬請求権なのか,それともそれに代わる損害賠償請求権なのか,その性質決定の必要がないのか。その違いとして報酬請求権なら約定の報酬が原則として請求できるはずで,そこから控除するものは何かという問題,また,なぜ控除できるのか。逆に損害賠償請求権だとすれば,その間,得られたであろう報酬額から掛かったコスト,ないしはほかの人から預かることによって利益を得れば,その利益も控除できるのかもしれません。性質が報酬請求権か,損害賠償請求権かによって,その額についても影響を受けるのではないか。報酬相当額と記載されているものの性質決定について,検討する必要があるのではないかと思います。 ○深山幹事 今の話と重なるんですけれども,報酬支払義務というところについて,①のほうは報酬請求権が発生しないという部分は報酬請求権に対応する報酬支払義務の問題なんでしょうが,②のところは報酬相当額の損害賠償の問題なんだろうと,私は理解して読んでおります。   それを前提に,期間の定めがない場合の約定の報酬とは何ぞやということにも関連するんですが,あるいは先ほどの論点の引渡義務があるかどうか,あるいは引渡前に任意の解除権があるかということとも関連するかと思うんですが,引き渡されない場合にそれを義務違反というかどうかというのが一つの問題ですが,義務違反という場合はもとより,仮に義務違反でないとしても,解除されたものとみなすというような構成で,いずれにしても契約関係からの解消を認めるという規律は相当だと思います。しかし,その場合の利益調整として解除なり,解除とみなした後の損害賠償の問題として,有償の寄託を前提にしている議論としては,何がしかの賠償義務というものが観念されるだろうと思います。そのときには履行されていれば得られたであろう報酬額というものが一つの基準になるし,それが明確でなければ,標準的ないし平均的な報酬額になるのかもしれませんが,いずれにしても,ここは実際に保管をしていない以上,報酬ではなくて報酬相当額の,あるいはそれを勘案した損害賠償の問題として規律をされるべきところだろうと考えております。 ○潮見幹事 前回,欠席したので,どういう議論がそこで出たのか分かりませんけれども,今の(2)の②の性質論に関しての意見です。これと同じような考え方に対する意見照会が,委任や請負,また役務提供のところでもされていたように記憶をしています。前回どのような議論になっていたのかというのは詳らかには承知しておりませんが,仮にここの②は報酬請求権ではなく,損害賠償請求権あるいはそれに類するものであると考えるのであれば,委任とか役務提供のところについても,同種の性質決定をしなければいけないということになります。   どちらの考え方も私はあり得ると思いますが,個人的には,損害賠償というよりは,報酬請求権と考えたほうがいいと思っています。いずれにしても,それぞれの場面で矛盾のないようにしていただければと思います。この問題は,現行民法の536条2項の場合の反対給付請求権が本来の給付請求権なのか,それとは違う賠償請求権的なものかという議論にもかかわってまいりますので,慎重に議論していただければと思います。 ○松本委員 前々回あたり,もうちょっと前でしたか,消費貸借を諾成契約とするかどうかという議論のときに同じような議論をした記憶があるんですが,寄託の場合のほうがより賃貸借とのパラレルな議論がしやすいタイプかと思うんです。賃貸借は完全に諾成契約であって,いついつから入居しますという約束をしたのに入居しなれば,賃料支払義務が発生しないのかというと,そういう議論は一切しないですよね。損害賠償だという議論はしないと思うんですね。   そうすると,寄託契約を完全な諾成契約にした場合に,寄託ということでどういうタイプのものをイメージするかによって違いが出てくるかもしれないですが,商業的な意味での寄託,ビジネスとしての寄託であれば,預かるためのスペースをあらかじめ用意をしておいて,約束の日には受け入れられるようにするわけです。言わば賃貸借と似たような,スペースをきちんと確保しておきますという義務を負わされるわけであって,そうすると,そこに賃貸借であれば入居するということだけれども,寄託であれば物を預けるということをやらないのだから,対価としての相手方の報酬請求権は一切発生しないというのは,何かちょっと理解しにくいわけでありまして,そういう場合は報酬請求ということで問題はないのではないかと思います。 ○深山幹事 今の松本先生の御指摘について,私も同じようなことを考えてみたのですが,賃貸借と寄託というのは,取引によってはかなり紙一重みたいに近い場合があるというのは御指摘のとおりなんですが,しかし,それでも単に部屋なら部屋を貸して使用収益を許容する賃貸借とは異なり,積極的に目的物を預かって保管しておくという寄託というのは,もう少し果たすべき役務があるんだと思うんです。ですから,そこで違いがあってしかるべきなのかなと思いましたが,その点を踏まえて,なお,同じ規律にするかどうかということは慎重に検討していただければと思います。 ○岡委員 三つ申し上げます。   最初に,詳細版の94ページのところでございますが,寄託も委任と同様,対人的信頼関係を基礎とする点で共通すると,こういう考え方で委任とのバランスをかなり考えておるようでございます。しかし委任の場合には法律行為の委託を目的として,高度な信頼関係というのはすんなりくるんですが,物を預ける場合に,それほど対人的信頼関係というのはキーワードになるのであろうかと思います。普通のサービス提供契約程度であって,それほど委任との親近性がないのではないかという印象を持っております。倉庫業者というビジネスライクな寄託が多いせいかもしれませんけれども,対人的信頼関係で委任と類似させるという考え方については疑問を持ちました。   二つ目に,詳細版の96ページの寄託者の義務違反の場合の規律ですが,「債権者の責めに帰すべき事由」というのをすべて「義務違反」に置き換える案の一環だと思います。しかし義務違反という言葉を使うと,先ほど来出ているように債務不履行解除ができる場合をすぐ連想してしまいます。前回,潮見先生の話を受けて,こういう場合には債務不履行による解除,損害賠償の規律で十分ではないかという意見を申し上げつつ,危険負担法理を残すのであれば,そのときにはやはり「義務違反」という言葉は避けるべきであるという意見をここでもコメントさせていただきます。   最後に,詳細版の96ページのところでございますが,寄託物の損傷又は一部滅失の場合の通知義務ですが,ちょっと誤解していたら直していただきたいんですが,受寄者から物を受け取って寄託契約の履行が完了して物を受け取って,受け取ったものについて損傷だとか一部滅失を知った場合には,寄託の保管義務違反に基づく債務不履行損害賠償請求権を制限するために通知義務を課すと,そういうことでよろしいのでしょうか。   寄託者が知った場合という表現だけでは,返還を受けた後に知った場合ということを読みづらいというのが一つのコメントです。それを前提として申し上げますと,弁護士会としては債務不履行の損害賠償請求権の一般則で足りるのではないかと考えています。保管が終わって物を受け取ってもらったとすると,これで保管契約の履行が完了したと信じる正当な理由が,受寄者にあるので,それを保護しようというところで通知義務が出てきていると思いますけれども,それほどのものかという問題意識がございます。これは債務不履行の損害賠償の消滅時効の一般論で対処するのでよかろうという意見でございます。 ○潮見幹事 今,先ほど岡委員がおっしゃられた最後の点は,結論においては私も岡委員と同意見です。売買とか請負における瑕疵を知った場合の通知をしなかった場合の失権という枠組みについて,何度かこれには賛同しがたいということをここで申し上げましたけれども,同じ観点から理由を付けるのであれば,ここも賛成はできません。ただ,一点,ちょっと別枠で考えることができるのではないかと思っていることがありまして,先ほどの奈須野さんのお話にもありましたけれども,自己所有物の寄託をした場合に自己の所有物が返ってきたという場合は,通知しなければ失権という枠組みは,場合によれば残ってもいいのかなとは思いますが,ただ,その部分は別に残してもいいというだけであって,基本的にはこういう枠組みは採用せずにおけばよく,信頼保護を理由とする失権ということであるのであれば,債権の時効という部分で処理をすれば足りると思います。 ○奈須野関係官 部会資料17-2の99ページから100ページにある,「寄託者の契約上の地位の移転と間接占有の移転の関係に関する規定の要否」について,寄託者の契約上の地位の移転がない限り,間接占有の移転の効力が生じないことを明記すべきであるという案に対しては,消極的に考えております。この提案の書き振りからは,強行規定であるかのような印象を受けますが,このような規制を行うことの理由としては,「法律関係が複雑になるおそれがある」という程度のものしか挙がっておらず,そうであれば当事者が良いと認めるものを,効力を持たないとするほどのものではないと思います。   実際に,債務者が第三者へ寄託しているものを目的物とする集合譲渡担保の実行方法として,実務においては債務者が寄託者の地位を有したまま,債務者の指図による占有移転によって,受寄物の間接占有を譲渡担保権者に移転することが多いということですので,そのような実務を尊重していただければと思います。   したがいまして,100ページ①の「寄託者の契約上の地位の移転を伴わずに,寄託者の指図によって間接占有が移転することを否定すること」には,なお検討の余地があるのではないかと考えております。 ○山野目幹事 奈須野関係官が最後におっしゃった意見に私も賛成です。部会資料17-1,8の末尾のところにある寄託者の契約上の地位の移転と間接占有の移転を連動させるという最後のところで提案されているものは,民法184条の実質的な意義を大きく変えることになりかねない部分を含んでおりますから,ここまでする必要はないといいますか,相当ではないと考えます。その余の8で示唆いただいているところについては,賛成であるということも申し添えます。 ○山本(敬)幹事 恐らく多くの方が抱かれたのではないかという質問を潮見幹事にするだけなのですけれども,先ほど自己所有物の寄託については,違うように考える可能性があるかもしれないということをおっしゃいましたが,なぜそうなのかという点を少し御説明いただけるでしょうか。 ○潮見幹事 寄託の場合に,当初より自分の所有物として有しているものを受寄者に対して契約に基づいて引き渡した者がその所有物の返還を受けたとい場合についてだけ特別な扱いをすることはできないのか,つまり,自分の所有物がもとに戻ってきたときに,その物についてどうなっているのかということを調査し,あるいは検査するということを義務付けるということは,あり得ないことではないとは思っているんです。例えば売買の場合に,売買契約で所有権が契約時に移転すると考えたような場合にも,同じような枠組みが出てくるのではないかということもあろうかとは思いますが,その場合は,それほど所有ということについて重きが置かれていないと考えて言ったまでです。ただ,先ほどもちょっと最後に申し上げたように,必ずしもそういう考え方をとることに積極的に私が賛成しているわけではありません。 ○山本(敬)幹事 今の御説明を伺っていますと,自己の所有物だったかどうかというよりは,自己が支配していたものだったかどうかということが決め手にされているのかなと思いました。その意味では,所有権にこだわる理由は必ずしもないのではないかと思います。ただ,ご自身,留保をずっと付けられていますように,それで本当に一般原則とは違った考え方に基づく規定を置くべきかどうかは別問題でして,やはりそれでは特別な規定を置くまでには足りないのではないかということだけを申し上げておきます。 ○高須幹事 議論が一つ前に戻ってしまって恐縮ですが,契約上の地位の移転のところと間接占有の移転のところについては,今,奈須野関係官や山野目幹事がおっしゃったことに私は賛成でございます。指図による占有移転があるかどうかという問題と,契約上の地位の移転があるかどうかは,必ずしもすべてイコールで結べるわけではないと思います。詳細版の99ページに指摘されています最判の昭和57年9月7日という判例も,民法192条の即時取得の適用があるかどうかという点で,最高裁まで争った事案だと理解していますので,契約上の地位の移転の問題とはまた別な議論がなされたんだろうと思います。二つの関係が連動性があるとここで何か決めてしまうのは,もう少し慎重な考慮が必要かと思います。 ○中田委員 幾つかの項目について手短に申し上げたいと思います。   最初は,寄託者の損害賠償責任について奈須野関係官から,現在の661条のままでいいではないかという御意見があるということを伺いました点ですが,お示しいただいたような例については,特約を結ぶことのできる任意規定として考えればよろしいので,そうだとすると,デフォルトとしては,例えば事業者に消費者が預ける場合とそうでない場合とを区別するということは,十分あり得るのではないかと思います。   次に,報酬については先ほど潮見幹事がおっしゃったことでありまして,ここは役務提供についての一般的な考え方,つまり,保管義務を履行して初めて請求権が具体的に発生するんだけれども,例外的に義務違反の場合には保管していなくても発生するということです。では,発生するお金の性質は何かというと,これも536条2項についての一般的な意見の対立を表しているのだと思います。   それから,7番の寄託物の損傷,一部滅失の場合について,先ほど山本敬三幹事と潮見幹事との間で同じお立場でありながら,若干違いがあらわれていて非常に関心を持ったのですけれども,潮見幹事のような論法でいくと,例えば賃貸借についても同じようなことが出てくるのではないかと思います。そうしますと,自己物でないとしても例えば請負の場合であっても,注文者のほうがより慎重に検査できるのではないかということにも広がってくるのかなと思います。私自身は,知った場合については,通知をするということはそれほど過大な要求ではないのではないかと思っています。奈須野関係官からは,知った時ではなくて引渡しというか返還の時を起算点とすべきであるというご意見を伺いましたが,寄託者が事業者である場合については,知った時というよりも知ることができた時を起算点にするというのはあり得ると思いますが,そうでないときにはちょっと重いかなという感じを受けました。   最後に,寄託物の譲渡と間接占有の移転につきましては,何人かの方から連動させる必要はないではないかということをお伺いしました。もちろん,そういう御意見が多いのだろうと思いますが,ただ,具体的に考えて,地位の移転を伴わない間接占有というのはどういう場合があって,どのような需要があるのかが気になります。法律関係が複雑化するというのはすると思うんですけれども,それでもなお乖離を認めるという必要性が一体,どの程度あるのかということが私は十分理解できておりませんので,そのあたり,今でなくても結構なんですけれども,はっきりすればいいかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかにはいかがでしょうか。   それでは,次に部会資料17-1の27ページから30ページまでの「9 消費寄託(民法第666条)」から,「11 特殊の寄託-流動性預金口座」までについて御審議いただきます。事務当局に説明してもらいます。 ○松尾関係官 「9 消費寄託(民法第666条)」は,消費貸借の規定を消費寄託に準用する範囲を目的物の処分権の移転に関するものに限定し,その他については寄託の規定を適用すべきであるという考え方の当否を御議論いただくものです。   10と11では,民法に明文の規定が置かれていない混合寄託と流動性預金口座という特殊の寄託に関する新たな規定の要否という問題を取り上げました。混合寄託については,その要件として寄託物の全ての寄託者の承諾が必要であるということや,各寄託者が寄託した物の数量の割合に応じて混合して保管する寄託物の共有持分権を取得するということ等について,規定を設けるべきであるという考え方が示されています。また,流動性預金口座については基本的な法律関係を明らかにするために,流動性預金口座において金銭を受け入れる消費寄託の合意の効果や,流動性預金口座への振込による金銭債務の履行が弁済に該当するということについて,明文の規定を設けるべきであるという考え方が示されています。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま御説明がありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○岡本委員 まず,「9 消費寄託」のところの①でございますけれども,先ほども申し上げましたように,諾成的寄託を認めるのでしたらば,寄託者の目的物引渡義務を併せて認めるべきではないかといったことを繰り返して述べさせていただきます。特に消費貸借におきましては,一般の寄託以上に受寄者側の寄託を受ける利益,これが明らかだと思いますので,なおさら寄託者の目的物引渡義務,これは認められてしかるべきではないかという意見でございます。   それから,②の消費寄託の寄託物の返還請求について寄託の規定を適用すること,これについてですけれども,これが返還時期を定めた場合であっても,寄託者はいつでも寄託物の返還を請求することができるとするということでしたらば反対したいと考えます。特に金銭の消費寄託におきましては,返還時期は受寄者側の利益のためにも定められているということでございまして,その時までは消費していて構わないということでございまして,こういった受寄者側の利益を害することになると考えるからです。   実務におきましても,典型的には定期預金ですけれども,定期預金について預金者に期限前解約権,これを認めるということになりますと,そもそも定期預金に普通預金と異なる高い利率を付しているといった根拠がなくなってしまいますし,預金実務に混乱を来すと。それから,預金だけでなくて預金を見合いに貸出しをするなんていうこともあろうかと思いますけれども,こういった実務にも混乱が生じるということだと思います。仮に寄託者がいつでも寄託物の返還を請求することができるとするといたしましても,返還時期が寄託者の利益のためだけに定められている場合,この場合に限るべきだと考えます。 ○神作幹事 11の特殊の寄託について,三点,申し上げさせていただきたいと思います。   まず,第一点は17-2の資料でございますけれども,104ページに図がございますが,例えば仕向銀行と被仕向銀行の間で処理が終わって,被仕向銀行が極端な場合には破綻した,あるいは単なる事務ミス等によって受取人の預金口座に入金記帳がなされなかったという場合を想定いたしますと,106ページ①にございますような,入金記帳によって預金が成立するという規律が,常に妥当すべきだと考えられない場合もあるのではないかと思われます。   国際的な傾向を見ましても,ドイツやアメリカにおいて,こういった流動性預金口座の振込について,法律で規定が置かれているということは確かかと思いますけれども,私の理解では,専ら岩原先生の「電子決済と法」という書物によっているわけですが,ドイツにおいてもアメリカにおいても,入金記帳によって預金が成立するというわけではない。つまり,入金記帳という極めて内部的な事柄によってのみ預金債権の成立が決まるというわけではないようでございまして,比較法的な観点からも,入金記帳によって流動性預金が成立することを認めるべきかどうかについては,更に慎重に検討する必要があるように思われます。   第二点でございますけれども,資料17-2の107ページ②に関連する点でございますけれども,ここで流動性預金口座において金銭を受け入れる消費寄託の合意の効果に続いて,流動性預金口座への振込によって金銭債務の履行が弁済に該当するという提案がございます。このことについて明文の規定を設けるべきであるという点につきましても,先ほど申しましたように金融機関が破綻することもあり得るというようなことも考えますと,法貨・通貨と流動性預金債権とを同様に扱うということには,慎重に検討すべき点があるように思われます。   第三に,流動性預金の成立の話とそれから振込ですとか為替取引の場合とでは,法律関係の複雑さ等において非常に大きな違いがございます。振込や振替の場合には104ページの図にもありますように,様々な契約関係が積み重なって一つのシステムが構築されておりますので,振込や振替等の資金移動について規律するときには,特殊の寄託という領域ではなく,振込,振替そのものを端的に規律していく,そういう方向が考えられるのではないかと考えます。 ○油布関係官 詳細資料の107ページの流動性預金口座への振込による弁済について,二点,申し上げたいと思います。二点目は神作先生がおっしゃったことと大分重なることです。   まず,振込による弁済をどこまで認めるかという点ですけれども,資料の記述によりますと,「改正提言は,金銭債務の弁済方法として流動性預金口座への振込が含まれることが契約から導かれる場合の規律を提案するもの」に過ぎないということなんですが,こういう場合というのは,少なくとも立法政策上,相当,限定的に考える必要があるかなと思っております。   口座振込の場合は,差押えや銀行による相殺のリスク以外にも,やはり現金とは完全には同視できない場合が幾つかあると思っております。例えば休眠預金的な口座の場合ですけれども,債務者がたまたま知っていた債権者の口座に振り込んだという場合ですが,債権者にしてみれば,実はその口座はもう使っていないと。解約手続こそしていないけれども,従って口座自体は残っているけれども,債権者としては使うつもりがないので,通帳もキャッシュカードもどこかにやってしまったという場合は,往々にしてあると思います。休眠預金の場合は,銀行は時効を援用しないということですので,引き出そうと思えば引き出せるんでしょうが,ただ,通帳もカードもないというような場合は,しかも,その間に転居していたりすると,これは本人確認とかいろいろありまして,相当,引き出すにはトラブルというか,面倒が予想されると思います。   また,別の例で申し上げますと,預金者によっては,銀行破綻のペイオフということを考えて,ある特定の銀行については普通預金などの残高を1,000万円までにコントロールされている場合もあると思います。金融庁として,そういうことを特段,推奨したりしているということではないんですけれども,ただ,そういう用心をなさっている債権者がはっきりと許容したわけでもないのに,その口座にどんと振り込んで構わないよという事態は,やはり避けるべきではないかと思います。ましてや入金記帳の後に,本当にその銀行がすぐ破綻してしまった場合はどうかということは,更に申し上げるまでもないと思います。   ペイオフのことはちょっとおくといたしましても,現実には,実社会では預金者は複数の口座を目的別に使い分けておられることが多いのではないかと思っております。例えばいつも買掛金を振り込んでいる口座だからということで,別の借金の元利の返済までその口座に勝手に振り込んでしまうというのは,債権者の側から見れば不本意な場合というのが十分あるのではないかと思います。ですから,少なくとも立法政策上は,債権者,預金者が自分の口座をある程度,コントロールしたいというこうした思いは尊重に値するのではないかと思いますので,あくまで例としてあえてイメージを申し上げるなら,例えば「債権者の指定した口座に振り込んだときは」弁済の効力が生ずるというような限定があってしかるべきかなという気もいたします。   それで,二点目は同じく債務の弁済の話ですが,「入金記帳があったときに」弁済の効力が生ずるという点です。通常の場合はそれでよいかもしれない,あるいはそれでもやはりちょっと問題点があるかもしれないんですが今はそこはおきまして,もしも御提案の趣旨が「銀行側の落ち度により入金記帳がなされないような場合にも,第一義的には履行がなされていないと考えるんだ」というところまで視野に入れているということであれば,これは相当悩ましい問題があるだろうと思います。   典型的に申し上げると,債権者から「私のA銀行の口座に入金して返済してくれ」と言われて,債務者が預金の口座振込を使わずにわざわざA銀行の,それもその口座の支店に出向いて現金を持参してきちんと振込を行ったのに,A銀行の何がしかの落ち度のために入金記帳がされないという場合,最終的にはもちろんA銀行の責任の問題が出てくると思いますけれども,当面の第一義的な履行リスクは債権者,債務者,どちらが負うのがいいのかなと。これを債務者に負わせるということでいいのかなということであります。強いて言えば,こういう場合ですとA銀行というのは債務者の取引銀行ではなくて,債権者の取引銀行でありますので,債務者側としては,もし債権者から履行の督促を受けても,振込の控えを見せて抗弁できると考えるのが妥当なような気もいたします。   このパターンというのは口座振込の場合にも当てはまるんでしょうけれども,では,ただ単純にどちらの銀行の落ち度であるかで判断するというのも相当難しい問題があると思われます。例えばB銀行からA銀行へ口座振込をした場合,どちらの銀行の落ち度のせいで入金記帳がなされないのか,債権者とか債務者にはすぐ分からないことも多いと思われますし,それから,A銀行でもなくB銀行でもなく,中継に入ったC銀行の落ち度の場合はどうするんだというようなことがあって,なかなか,どちらの銀行の落ち度かということだけで決するのも難しいのではないかと。   それから,ちょっと別の話になりますが,やはり仕向銀行や被仕向銀行が入金記帳の前に破綻してしまったらどうするかという点ですが,基本的には全銀ネットの仕組みですとか,預金保険法の規定がございまして,一定の手だては講じられているということなんですけれども,ただ,「それで本当に大丈夫なのかというのは,もっと真剣な検討が必要ではないか」という御指摘もいただいております。   いずれにしましても,「入金記帳が問題なく行われた場合にはそこで弁済の効力が生ずるんだ」というところまでは,ひょっとしたら問題ないのかもしれません,いや実はここも良く分からないところもあるんですが,けれども,少なくともそこを超えて,記帳がうまくいかない場合のことまで視野に入れて立法化するということであれば,やはり相当時間をかけた検討が要るのではないかなという気がいたします。 ○岡本委員 流動性預金口座につきましては,提案されている内容自体は細かい点は別といたしまして,さほど違和感がある内容というわけではないんですけれども,そもそものお話といたしまして,流動性預金をことさらに取り出して,一般法である民法に規定するということ自体に違和感があるということがございます。それから,併せて委任の規定が適用される旨の明文の規定を設けるというふうな御提案もあるようですけれども,流動性預金口座に委任の適用が規定される場面というのはいろいろな場面がございまして,正確に規定しようとすると,民法に規定するには余りにも煩雑な規定になってしまうのではないか。逆に概括的な規定をするのであれば,あえて置く意味があるのだろうかというところを疑問に思っていまして,現状どおり,解釈に委ねておけば足りるのではないかと思いますので,委任の規定が適用される旨の明文の規定を設けると,ここの点については反対したいと考えます。 ○松本委員 二点です。   一つは今,議論がされている流動性預金口座の問題で,振込取引に伴う紛争というのが大変たくさん生じています。そういう意味で,資金移動取引についてのルール,民法的にどう考えるんだということをはっきりさせるニーズは大変大きいと思います。しかし,なぜ,それが消費寄託の延長上に出てくるのかということが私にはあまりよく理解できません。神作幹事が最後におっしゃったことに全く賛成でありまして,資金移動の部分は,民法に置くのであれば,別の典型契約としてきちんと規律すべきであろうし,あるいは金融庁サイドが心配されているような様々な難しい事柄もあるということであれば,別途の特別法できちんと整備すべきだろう。消費寄託の問題とすれば,振込を依頼した人と仕向銀行との間の問題ぐらいにとどめておくべきであって,そこから先まで全て消費寄託の議論の延長上でというのはちょっと無理があると思いますから,重要性があるということには賛成ですけれども,ここに唐突に入れるのには慎重であるべきだろうと思います。それが第一点。   第二点は,消費寄託そのものについてでありまして,寄託の延長上で考えるように変えるべきであるという提案が部会資料17-1の27ページのところに出ているわけですが,先ほど寄託のところで要物性をなくしましょうという議論が出て,少なくとも有償の寄託の場合にはこうこうだというような議論になっていて,無償の場合は,特別の考え方もあり得るかもしれないということだったと思いますが,消費寄託の場合に有償,無償という議論をすると,私は分からなくなってくるんです。   というのは,アメリカの決済性口座のように,預かっておいてもらうだけで保管料が取られてしまって,一切,引き出していないのに,いつの間にかなくなっているというようなことが起こるようなタイプの消費寄託であれば,正に分かりやすいわけです。それは有償であると,預かってもらうのに経費が掛かっているわけだから。だけれども,日本の場合は,今,普通預金の金利は限りなくゼロに近いですけれども,マイナスにまではならないということになっていますから,そうするとそれが無償寄託かと。ゼロに近いけれども,若干利息は付くのだから逆に見れば有償かという話で,定期預金になれば確実に利息が付くわけでありまして,そこは明らかにむしろ消費貸借のほうに近いのだろうと思うんですね。   その辺を考えていくと,最初のほうで岡本委員がおっしゃったような預ける義務,寄託する義務まできちんと規定すべきだという考え方がどこまで妥当するのかというところなどもありまして,その辺を含めてちょっと消費寄託の特殊性といいますか,寄託になっているけれども,実は消費貸借の後ろにひっつけたほうがひょっとしたら適切かもしれないというような要素のほうが私は大きいのではないかと思っております。 ○深山幹事 混合寄託のことについて,この混合寄託の規律がよく私自身すっきりと理解できないので,御質問方々,意見を述べたいのですが,とりわけ分からないのはここで示されている②の規律です。混合寄託がなされた場合に,寄託物に対して共有持分権を取得するということが,詳細版の説明では,通説的な理解のように示されています。消費寄託と違って寄託の処分権は受寄者には移転しないけれども,混合するということから,寄託者の所有権が失われて,受寄者のほうが共有持分権を持つんだというふうに,一般的な理解として示されているのですが,他方で,もともとの受寄物が寄託者が所有権を持っているものには限られないということを考えると,突如としてここで共有持分権を受寄者が取得するというのは,どうも飛躍があるような気がします。③のところでは,必ずしも所有権に基づくわけではないので,取り戻すときには共有持分権に基づいてではなくて,寄託契約の趣旨からなんだというような説明がありますが,これと果たして整合しているのかなというのが疑問であります。   所有権の帰属がどうなるのかということがまず一つの問題で,これは物権の話になってしまうのですが,混合寄託を認めた場合の受寄者のその後の地位というのは,物権的な地位というよりは,寄託契約上の返還請求権を言わば準共有しているという状態だと説明されると,それはそうかなという気がするんですが,それを共有持分権という権利で説明するというのは,少々無理があるのではないかなという疑問とコメントでございます。 ○松岡委員 消費寄託自体についての素朴な疑問ですが,銀行に預ける銀行預金以外のもので,消費寄託というものがどれほど一般性があるのかについて,私はかなり疑問を持っています。多分,出資法その他との関係から,不特定多数の人からお金を預かるのはそう簡単にできるわけではありませんし,現実に預金取引については,詳細な銀行取引約款による規律がなされていて,もし,そういうところまで民法に細かく規定することになると,消費寄託が相当膨らんでしまいます。   あるいは,逆にそこから骨格に当たる部分だけを抜き出して民法に定めるとしても,しょせん任意規定となると思いますから,約款で違うことを決められると,消費寄託について民法に規律をかなり詳しく設けた意味がないのではないかと,私は根本的に疑問を持っております。これは今日後に取り上げられるリース契約にも似たような面があります。約款でほとんどすべて決まる取引について,それとは別に民法で規定を設けるのは,強行規定であったり,あるいは消費者問題を考える際に,半強行法規的性質として,あるいは消費者契約法10条との関係で任意規定を定めておくのは,いろいろな業者がいる契約類型では必要かもしれません。しかし,先ほど述べたように,消費寄託については一般的に銀行以外で使われることが余り想像できませんので,詳しく規定すること自体がかなり疑問なのです。 ○山本(敬)幹事 少し戻るのですけれども,先ほど流動性預金口座に関する規律を一般法である民法に定めることについて,いかがなものかというような御意見が出た点について,問題提起をさせていただきたいと思います。私自身は,場所はともかくとして,ここに書かれているような事柄について内容をよく考えた上で,規定を整備することには賛成したいと思うのですが,その前提として,より一般的な,必ずしもこれまで検討されてこなかった問題があるのではないかと思います。   それは,そもそも「指図」とはどのようなものかという問題です。この指図については,部会資料29ページの図でいいますと,仕向銀行と被仕向銀行に分かれている必要はないのですが,振込依頼人に当たるのが指図をする者,つまり「指図者」,銀行に当たるのが指図を受ける者,つまり「被指図者」,受取人に当たるのが指図によって給付を受ける者,つまり「指図受益者」です。この場合に,指図者が銀行に対して指図をして,銀行が受益者に対してその指図に従って給付をする。これによって,銀行が指図者に対して負っている債務,例えば預金債務,それから,指図者が指図受益者に対して負っている債務,たとえば代金の支払債務がこの指図に従った給付によって同時に弁済されたことになる。これが指図の法的構造なのですが,ここでの話もそのような基本制度を当然の前提にして行われている議論だと思います。ところが,その前提部分がここには提案されていませんし,そして恐らくここまでの審議の中でも検討されてこなかったのではないかと思います。   このような指図も,一つの法律行為だと思うのですが,こうしたものについて規定を整備することは,一般法といいますか,基本法である民法のなすべきことだと思います。そして,そのようなものが整備されるのであれば,ここで書かれているような提案が持つ意味も,よりよく分かってくるだろうと思います。その意味で,もう少し視野を広げて民法に規定を整備すべき制度等がまだないかどうかをしっかり考えて,その上で検討を進めるべきではないかという問題提起だけはさせていただきたいと思います。 ○高須幹事 今の流動性預金口座のところで,今度は少し細かな話で恐縮なのですが,一点,注意をして検討していきたいということでございますが,29ページの関連論点1の差押えに関する規律の要否のところです。頂戴した資料ですと,預金口座自体の流動性は失われないけれども,差し押さえた時点で,その残高については差押えの効力との関係で流動性は失われると,そういうことはきちんと理解しておきましょうと,そういう条文を設けておきましょうという御趣旨だと思うのですが,そのこと自体は私も反対するものではないのですが,執行法の論点との関係において留意すべき問題があると思います。いわゆる直近の3日とか5日とか,その程度のものについての将来,受け入れる入金部分についてまで差押えができないかどうかという論点です。実際に,3営業日以内に入ってくるお金まで含めて差押えができるか否かが争点となった判例もございまして,債権の特定性との関係で,結構,結論が分かれ得るところだと思います。   そうしますと,今回,例えば明文を設けるときに,あくまで差押えのときですという限定をしたかのような条文が置かれますと,執行法のほうの論点の解釈に影響を与えると思います。その点は十分御配慮していただいて,執行法との兼ね合いでも適切な関係を保てるような規定振りが必要かと思います。 ○山本(和)幹事 今の点は,私も全く高須幹事と同じ意見を持っております。高須幹事の御指摘のとおり,幾つかの最近の下級審の裁判例では差押命令が送達された後,数日以内の入金分についての差押えを申し立てたものについて,高裁レベルでは特定性を欠くとして差押えを否定したものがありますが,そこでの特定性を欠く理由というのは,やはり第三債務者に対して,現在のシステムにおいては過度な負担をかけるというところが特定性を欠くことの理由とされています。そういう意味では,やはりかなり手続法上の理由で否定されていると私は理解しておりまして,そういう点を考えると,果たして実体法で今のようなことを規律するのが適当なのかどうかと。規定を置くとしても,あるいは民事執行法の問題なのかなという気もしないではありませんので,やはり慎重に御検討いただければと思います。 ○岡本委員 高須幹事の将来,入金される将来預金の差押えの話をいただきましたけれども,この点については確かに実体法の問題よりも手続の問題かもしれないですけれども,実務の観点からいたしますと,将来の分についても差押えがされるとなると,特定の問題で非常に大変な労力がかかるといったことが予想されまして,この点はちょっと慎重に御検討いただきたいと考えます。 ○中田委員 消費寄託と混合寄託と流動性預金について,それぞれごく簡単に申します。   消費寄託について,まず,岡本委員から寄託物引渡義務を認めた上でという御議論があったと思いますけれども,これまで消費寄託に限りませんが,諾成的寄託を認める場合でも,寄託物引渡義務まで認めるという議論は余りなかったのではないかと思うんです。ただ,受寄者が特別の利益を持っているという場合には,そういうことがあるかもしれないけれども,ということだったと思います。それを逆にしてしまうというのは,今までの議論からいっても少し行き過ぎではないかなと思います。ただ,返還時期の定めがあって,それが受寄者の利益のためにも定められているというときに,期限前の返還請求ができるかどうかという,これは議論があるというのはよく分かりますので,そこは検討課題になり得ることだろうと思います。   それから,そもそも消費寄託について余り規定は要らないのではないかという松岡委員の御指摘もあったんですけれども,確かに現在,預金が主なものですけれども,観念的には代替物についての消費寄託というのはあり得るわけでして,なくすということにもならないのではないかと思います。それから,消費貸借に近いのではないかという御指摘もありましたが,やはり信頼して預けるという契約の性質上,やや違う面があるのではないかと思います。 ○松本委員 消費貸借だって信頼して貸すんですよ。 ○中田委員 ただ,その信頼の内容が違うのではないかということですね。   それから,混合寄託については深山幹事の御意見は重要な御指摘だと思うんですけれども,やはり共有との関係も考える必要があり,今回の資料では,物権法制との関係で改めて検討するということになっているのだろうと思います。ただ,そういったことはほかにもいろいろあると思うんですが,それを忘れないようにどこかで整理してまとめておく必要があるのではないかと思います。そうしないと,ここでは議論しないということだけになってしまうと,後にどこかで議論するというのが消えてしまうともったいないと思います。   それから,流動性預金についてなんですけれども,これも規定が不要だ等々の御意見もありましたが,預金債権という観点から考えると,預金債権が一体,どういう契約に基づく債権なのかということを明らかにしておくことには意味があるのではないかと思います。それから,民法にこのようなものを置くのかということなんですけれども,預金は日常生活においても非常に重要なものでありますので,やはり基本的なことは定めておくということは意味があると思います。   それから,弁済か代物弁済かという議論が若干混乱していたかと思うんですけれども,弁済か代物弁済かというのは何が契約の履行と言えるかという問題であって,そのことと仮に振込による弁済が認められるとして,その場合に,いつ,効力が発生するのかということとは区別したほうがいいのではないかと思います。後者は預金特有の問題として考えていくことがあり得ると思います。そのときに,それでは,入金記帳というのが適当かどうかについてなんですが,入金記帳がされなかった場合という異常事態について考察すべきことは必要だと思いますけれども,仮に入金記帳という時点を置かないとすると,他にどういう時点を置くべきなのか,それとも,一切,置かないことにするのか,そのどちらなのかということをはっきりさせたほうがいいと思います。   最後に,預金契約に委任が含まれるのかどうかということについて,わざわざ書くこともないではないかという御指摘もありましたが,それを仮に書かないとすると,その部分は役務提供契約についての受皿ないし総則が適用されるということになるのではないかと思うのですけれども,それも排除するという御趣旨なのかどうかも詰めたほうがいいと思います。 ○松本委員 山本敬三幹事の御指摘,流動性預金口座を考える際に,指図という一般的な法律枠組みの一つとして考えるべきだという点は,大変,示唆的で考えさせられました。ただ,山本幹事の御趣旨だと,最後のところは債務の弁済に当たるということのようでした。そうすると,例の資金移動取引における有因,無因という議論がありますが,債務の弁済に当たるか当たらないかというのは,この図でいけば受取人に対する振込依頼人の債務の弁済に当たるかどうかという局面の話であって,他方で,もう一つ,別の話として,有因,無因の話があって,債務の弁済に当たろうが当たるまいが,資金が被仕向銀行の受取人名義の口座に入れば,それで銀行としてはやるべきことをやったんだから,受取人が資金を引き出した場合については,最終的に不当利得の問題になるかもしれないけれども,というような議論をしていたかと思います。   そうしますと,資金移動の結果,受取人名義の口座に入ったことが弁済に当たるのか当たらないのかという話と,それから,受取人名義の預金として入金された扱いになるのかというのは,ちょっと別の話かなと思います。それで先ほども言いましたが,資金移動取引についてのそれぞれの契約の法律的な位置付けがはっきりしていないから,いろいろな紛争が起こっているわけで,まずはそちらのほうのルール整備をきちんとやるほうがニーズが高いのではないかと思います。最終的に受取人に対する弁済になるかならないかという議論よりは,被仕向銀行の受取人名義の預金口座に入金記帳されたことが何ぞやという,そちらのほうを早く明確化すべきかと思いますので,そういう意味で,資金移動取引,振込取引について,典型契約として,ルールを整備する必要は大変高いと思います。 ○岡本委員 先ほどの中田委員が整理してお話しいただいたことについて,若干,私が述べたことに関連する部分がありましたので,若干,補足したいと思うんですけれども,目的物について寄託者の引渡義務を認めるのかどうかという点なんですが,確かに寄託が寄託者の利益のためだけということであれば,引渡義務を認める必要はないのかなと思うんですけれども,そうでないような場合,特に消費寄託の場合はそうなのかと思うんですけれども,そういった場合については引渡義務を認めるべきではないか。そういう意見でございます。仮に,寄託者の利益のためだけの寄託の場合,この場合には引渡義務を認めるのは行き過ぎだろうとは思いますけれども,その場合でも受寄者側の契約の拘束,これを解く方策を何か考えておくべきというのが先ほど申し上げた趣旨でございました。   それから,二点目ですけれども,振込の場合の被仕向銀行における預金の成立時期について,入金記帳の時がよいのかどうかといったところなんですけれども,この点については中田委員のおっしゃったことと非常に賛成の部分がございまして,預金成立時期については,明確のこの時点に預金が成立したといったはっきりしたものがないと,いろいろ困ったことになると思うんですけれども,そう考えた場合に,入金記帳時点以外の時点でどこかうまい定まり方ができるのだろうか。これはなかなか難しいところではないかと思います。   そもそも論としては,先ほど申し上げたように民法に預金の規定を置くこと自体には,ちょっといかがなものかといったところがありますけれども,それを抜きにしますと,入金記帳時点以外に預金成立時期を画する時点を設けるというのは,なかなか困難ではないかと思います。仮に,入金記帳時点だということで考えた場合に,それだけでいいのかというのは確かに問題なのかもしれないですけれども,場合によっては入金記帳請求権みたいなものを考えていく必要が出てくる。そういった場面もあるかもしれないと思います。   それから,最後,委任の部分,預金契約に委任も含まれるといったところなんですけれども,先ほど中田委員から受皿から排除することまで要求するのかということがございましたけれども,申し上げたかったのは,預金契約の中に委任の要素が含まれるといっても,いろいろな形で含まれてくることになるので,一律に預金契約であれば,こういう委任の規定に従うんだというふうな明文を設けるのは,妥当でないという意見に過ぎないわけでございまして,特に預金について,受皿からも外すという明文の規定まで設けるということを申し上げたつもりではございません。 ○鎌田部会長 ほかによろしいでしょうか。   特にないようでしたら,次に部会資料18-1の1ページから4ページまでの「第1 組合」について御審議いただきます。事務当局に説明してもらいます。 ○亀井関係官 それでは,部会資料18-1,「第1 組合」について御説明させていただきます。   「1 総論」では,組合の規定を見直すに当たり,実社会には様々な団体があることから,どのような団体を念頭に置いて組合に関する議論をすべきかなどの問題提起を取り上げております。   「2 組合契約の成立」においては,組合契約に対する契約総則の規定や意思表示に関する民法総則の規定の適用関係について,これまでの解釈を踏まえ,組合契約の性格に即した規定を整備すべきであるとの提案を取り上げました。   「3 組合の財産関係」においては,組合では組合財産は総組合員の共有に属すると規定されているものの,物権編の「共有」とは異なり,組合員個人の財産から独立した性質を有すると解されております。このような組合財産の特殊な規律を明確化すべきではないかとの提案を取り上げました。   「4 組合の業務執行及び組合代理」においては,組合の意思を決定し,実行することと,対外的に法律行為を行うこととを区別し,それぞれについて分かりやすい規定を置くべきではないかとの提案を取り上げました。   「5 組合員の変動」においては,判例・学説で認められてきた組合員の加入について必要な規定を置くことや,組合員の脱退について判例や学説において示されてきた解釈を明文化するという提案がありますので取り上げております。   「6 組合の解散及び清算」においては,民法で規定される解散事由のほかに,これまでの解釈で認められてきた事由を追加すべきとの提案などを取り上げております。清算に関しても清算事由を整理したり,清算人に組合員を代理する権限があることを明確化したりする提案がありますので,御審議いただきたいと思います。   「7 内的組合」においては,判例や学説でその存在が認められている内的組合について,民法上,規定を置くことで法律関係を明らかにすべきであるとの提案を取り上げております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明がありました部分のうち,まず,「1 総論」について御意見をお伺いいたします。 ○大島委員 組合については様々な例が想定されるものと思います。私としては建設業界でジョントベンチャーを組む際に使われるという例を聞く程度でございます。現実の組合形態を念頭に置いて,規定の妥当性を検討していただければ分かりやすいのではないかと思います。また,組合制度について整理した上で,内部関係と対外的な効力に分けて規定を整備していく方向性についてはよろしいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   よろしければ各論的な課題に進ませていただきます。「2 組合契約の成立」から「4 組合の業務執行及び組合代理」までについて御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○奈須野関係官 組合財産の債務と組合員個人に対する債務の関係は,組合としてどのようなものを想定するのかということにも関係しますが,民法組合を利用することの主なニーズは,特定の組合員の信用を当てにして共同事業を行うこと,及び法人格がないことです。そして,税務上のパススルー性がメリットになっています。以上を踏まえると,組合財産によって満足を得られなかった場合にのみ,初めて組合員個人の財産に対して権利を行使することができるとしてしまいますと,特定の組合員の財産を当てにした取引の相手方にとって,債権回収が迂遠になってしまうので,実際の組合の運営に差支えが出てくると考えております。   また,組合と組合員の債務が併存的であることが税務上のパススルー性の大きなよりどころとなっていることから,仮にこれが補充的なものになると,税務上の扱いが変更されるおそれがあります。税務上の扱いを維持するためには,わざわざ新しい類型の組合員と併存的な組合というものを観念しなければ,ニーズに対応できなくなるので,こちらについては現状どおりとしていただきたいと考えております。   また,組合代理における業務執行者の代理権について,組合には法人格がなく,登記登録がないことが前提であることから,実際には業務執行者の権限を確認するということが非常に難しいとのことです。部会資料の御提案には善意無過失であることが業務執行者と取引する第三者の保護要件と書かれていますが,無過失まで要求することについては登記登録がないという組合の性質上,難しいのではないかと考えております。 ○岡本委員 今の奈須野関係官のほうから,3の組合財産関係の関連論点のところについて御意見がありまして,要するに組合の債権者はまず組合財産に対して先に権利行使しないと,組合個人の財産に対して権利行使できないかという部分ですけれども,この点については奈須野関係官の御意見に賛成でございまして,組合の債権者側から見れば,組合財産と組合員個人の財産の区別が必ずしもはっきりしないことが多いのではないかということもございまして,組合財産の公示が不十分であるといったことを考えますと,組合財産に対して権利をまず行使しなければいけないというのは疑問だと考えます。   それから,もう一点ですけれども,今の民法の677条のところで,組合の債務者はその債務と組合員に対する債権とを相殺することはできないと規定しておりますけれども,信託の関係では信託法の22条で外観法理を取り入れたような格好になっていまして,一定の場合に信託財産に属する債務権の債務者がその債務と受託者個人に対する債権とを相殺するということを認めていたかと思いますけれども,同様の取扱いが組合の債務者の場合にも認められることにならないか。こういった観点での意見がございましたので申し上げておきたいと思います。 ○佐成委員 私も,今,奈須野関係官,岡本委員が指摘されたとおり,組合債務の弁済につき,組合財産と個人財産の,かかっていく優先順位については規定を設けない,現行どおりというのが実務的には非常にすんなりいくと考えております。 ○深山幹事 組合の実際の利用のされ方というのは,ジョイントベンチャーなどがすぐに思い付くんですが,それ以外にどういうものがあるか,同窓会みたいなものまでイメージするのか,どういうものを想定するのかによって,大分,議論の様相が違ってくると思います。恐らく現行法の組合契約,契約としての組合というものは,その事業性にしろ団体性の強弱等にしろ幅広く捉えて,あまり限定せずにいろいろなものを契約自由の原則に従って組成できることを前提にしているんだと思います。そうなりますと,内部的な関係はもちろん契約で決まってくるわけですけれども,対外的な関係,第三者と取引をするような場合を想定すると,組合契約ということが,例えばジョントベンチャーのように外から見て分かりやすいもの,組合という実態が第三者から見て分かりやすいものもあれば,ほとんど個人と見まがうような,団体性が見えにくいものまで,いろいろあるんだと思います。   信託の話も出ましたけれども,信託も信託次第でしょうけれども,一応,登記登録できる財産は公示するということにもなっておりますし,基本的には,信託だということが対外的にも分かる仕組みを想定しているんだと思うんですが,組合については先ほど言いましたようにいろいろな形態が考えられて,対外的に組合という実態が見えにくいものも取り込む制度だとすると,余り団体性というのを強調すると,いろいろなところで第三者が不測の不利益を被ったり,不都合な場面が出てくるのではないかと懸念されます。そういう意味では,資料に示されている提案の趣旨が,かなり団体性が明確なものを想定しているような印象を受けましたので,そこは十分に慎重に,いろいろな組合があることや,団体性が明らかでないものも意識した規律になるように配慮すべきではないかと思います。 ○岡委員 弁護士会の意見を御紹介申し上げます。   詳細版12ページの「4組合員全員が事業者である場合の特則」のところでございます。組合の債務について,組合員個人が債務を負う場合は原則としては損失分担割合と。ただ,一定の場合には,連帯債務として全額の債務を負わせる場合があるのは承知しておりますけれども,弁護士会の中で,全員が事業者であって,それらの共同事業として組合の事業が行われる場合という限定が本当に正しいのかどうか,何か広がり過ぎているのか,狭め過ぎているのか,両論あるんですけれども,組合員全員に組合債務全額の連帯責任を負わせる場合の限定の仕方として,直ちにこの表現でいいということには賛成できない,もう少し全員が連帯責任を負う場合の根拠を見定めた上で,要件を慎重に考えるべきであると,こういう意見がございました。   それから,二番目には先ほど来出ております組合財産に対して権利を行使しなければ,その後でなければ組合員個人にかかっていけないという序列を付けることについても,反対意見のほうが多うございました。一部には,こういう執行までしなければ駄目だというのは行き過ぎなので,検索の抗弁とか催告の抗弁みたいなものだったら,妥当性があるのではないかという横浜弁護士会等の意見がございましたけれども,ほかの圧倒的多数の意見としては,こういう序列はなくてよいという意見でございました。   最後に三番目のところでございますが,先ほど奈須野さんがおっしゃった組合における代理の表見代理の相手方保護の要件でございます。善意無過失を要求すべきであるか,善意でよいか。この論点でございますが,両説がございました。組合であって法人登記もなく,代表者がだれであるかという公示もされていないので,善意でいいではないかというのも分かるが,ないからこそ,相手方は注意をして取引しなさいと言って無過失でよいのではないかと,両論がございました。最終的には一般的な表見代理,109,110,112条の,表見代理の規定と同じ処理でよろしいのではないか。あそこで正当な事由という言葉がどうなったか,結論は出ていないと思いますが,そこと平仄を合わせる形で処理すべきであるという意見が多うございました。 ○佐成委員 詳細版12ページの4の組合員全員が事業者である場合の特則というところで,今,岡委員がおっしゃったところに基本的に賛成でございまして,現行の商法第511条というのは確かに適用範囲が広いのではないかと思います。一人又は全員のために商行為になれば連帯責任を負うということは,団体の規律としては,非常にいろいろな団体があって,主観的な共同関係が希薄なものもあれば,緊密なものもあるということを考えますと,ちょっと広いだろうと思います。   それで,民法の中に持ち込むか,あるいは商法を変えるのかは別としまして,ただ今,岡委員も御指摘されたとおり,このような限定をする必要はあると思います。ただ,「事業」の部分もさらに限定しないとまずいだろうと思います。検討委員会の案にも「経済事業を目的とするもの」に限定するように書かれていると思いますけれども,やはり事業というものには,現行法の組合の解釈ではいろいろなものが入り得ますので,慈善事業なども入り得ますので,そこはある程度限定しないと,現行法の商法第511条の適用範囲を必ずしも限定したことにならないと感じております。その辺の検討もよろしくお願いしたいということでございます。 ○中井委員 組合契約の成立の関係で,特段,意見が出ていませんでしたので,弁護士会の意見を申し上げておきます。一つ目の組合員の一人の出資義務が履行されない場合に関する立法提案につきましては,弁護士会としてはそれほど異論が出ませんでした。二つ目の組合契約の無効又は取消しに関しては,このような規律,つまり,組合が事業を開始し,第三者との取引関係が生ずる前か後かで場合を分けるという規律の提案がありますけれども,なるほど,それは合理的だという意見もありましたが,他方で,そのような区別を設けるまでの必要性があるのかということについての疑義の意見がございました。   具体的には,確かに一人に無効,取消し事由があっても,二人以上の組合員が存在するとき,団体性を尊重するということ,当事者の意思からすれば存続する,こういう基本的な考え方について理解を示したときに,第三者との取引開始前に,それをあえて否定するまでの必要があるのかという点です。少なくとも残りの組合員については団体設立,組合設立の方向での意思の合致があるのだろうし,仮に一人について錯誤もしくは取消し理由があるとしても,その人が離脱をすれば表意者の保護に欠けるところはないし,また,仮にその一人が離脱することによって組合を成立させる意思がないとすれば,残りの組合員が合意すれば解散する等の処理で組合を成立させなくて終わることができます。   このような区別論をとったときに,第三者との取引があるの,ないのということで紛争にもなりかねないし,そもそも,そのような時期を理由に区分することの相当性がどこまであるのか。このような二分論的発想が実務に耐え得るのかいう意見がございました。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   それでは,続きまして「5 組合員の変動」及び「6 組合の解散及び清算」について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○奈須野関係官 組合員の脱退について,現行法の民法第679条の死亡等による脱退が任意規定なのか,強行規定なのか解釈が明確ではないので,これを明確にしていただきたいという要望がございました。仮に強行規定と解釈いたしますと,組合員の一人が死亡すると,事業の継続に支障が生ずることが多いという問題意識からの意見です。部会資料には死亡した組合員が脱退した後に,清算,払戻しとなると理解されていますが,事業を継続している組合について,財産を処分して払い戻すことは,事業の継続上,差支えがございます。例えば持ち分の買取のような概念を設けて,死亡した組合員が脱退することになった場合であっても,他の組合員が持ち分を買い取れば,事業の継続に支障がないという仕組みができないかという提案がございました。 ○岡本委員 今の奈須野関係官から,組合員の死亡等の場合の脱退につきまして,他の組合員が持分を買い取ることによって,持分の払戻しによって組合財産が減少することを防止できないかという御意見がありましたけれども,それと全く同じ意見がこちらでも出されております。現状では,例えば流動化案件などで組合の形態が利用されることはまずないと聞いておりますけれども,利用されていない理由としては,組合員が破産して組合財産の払戻しが生じてしまって,そうすると,流動化スキームを維持できなくなるといったことが大きいのではないかと思われまして,こういった持ち分の買取が認められれば,流動化案件に組合の形態が利用できることになるではないかといった意見がございました。   それからあと,別の点ですけれども,現行法では組合員の債権者が組合員の持分を差し押さえた場合の取扱いについて,特に規律する規定がございませんけれども,会社法第609条の規定,これと同様の規律を設けることはできないのだろうかといった意見がございましたので,併せて申し上げます。 ○岡委員 意見の紹介だけでございます。組合員が欠けた場合か,一人になった場合,どっちかを解散事由にするという点でございます。これも両論がありました。組合は契約である以上,一人ぼっちになった場合はやはりそこで切るべきだと。新しい一人が入ってくることが予定されていたとしても,それはもう違う契約になるのであって,リセットさせるのが筋であるという意見もかなりございました。他方,ここに書いてありますとおり,当初から構成員がかわることを予定している契約であれば,別にいったんリセットさせて,同じような契約をもう一回結ばせることはないのではないかと,実務的な関係からいえば,存続させてもいいという意見と両方がございました。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○中井委員 内的組合に関してもよろしかったのでしょうか。 ○鎌田部会長 それでは,内的組合についての御意見もお伺いいたします。どうぞ。 ○中井委員 内的組合について,弁護士会としてはこのような形のものをあえて民法に明文化する必要があるのか,現実に使われているという説明になっておりますけれども,どういう具体的な使われ方をしているのか,よく分からない,金融関係で集団的投資スキームの器として使われているのかもしれませんけれども,このような内的組合という類型を認めることによる濫用を懸念する意見が多くありました。   具体的には,例えばAという人であれば,ある一定の許可事業ができないけれども,Bという人であれば,その許可が得られる場合に,実質はAが出資等もして差配をしているんだけれども,Bが許可を得てその事業を行う,裏に隠れたAが利益を得る。それが例えば風営法など,何らかの規制を必要とする事業について,こういう内的組合形式を使うことが可能となれば,濫用のリスクがあるのではないか。法律に定めなくても契約としてできるのだから,法律に定めてもいいではないかという記載もありますが,そうだとすれば定めた上でいかなる規制をするのか,これは民法の中ですることにはならなくて,特別法等になるのかもしれませんけれども,その連動なくして,民法に正面から認めていくことが適当なのか,疑念が出ておりました。 ○神作幹事 今,内的組合について言及がありましたので,商法の匿名組合と内的組合の関係について私の理解を申し上げます。匿名組合において,匿名組合員と営業者との間に内的組合が認められるとする理解は商法では有力であると思います。さらに,場合によっては,たとえば同一の匿名組合契約が複数の匿名組合員と営業者との間に締結され,匿名組合員が当該契約の形成や交渉において合同的に行動しているようなときには,匿名組合員相互間においても,内的組合があると解するのが,商法では通説的な見解ではないかと思います。確かに濫用の危険というのもあるのかもしれませんけれども,むしろ,内的組合ということによって,組合員の情報請求権ですとか,組合員相互間の一種の誠実義務というのか,忠実義務のようなものに基づいて,適切な規律を行うということのために,内的組合の議論は有効に働き得ると思います。特に出資のスキームとして匿名組合が利用されたようなときに,匿名組合員の保護という観点から,現行の商法上,必ずしも十分な手当てが置かれていないというようなこともございまして,匿名組合関係において内的組合を観念するということは,有効かつ実効的な意義をもつのではないかと考えております。 ○道垣内幹事 神作さんのおっしゃることは,極めてもっともだとも思うのですけれども,若干疑問があります。   現在の組合の規律は,財産関係とか,脱退とか持分とか,そういう話としてでき上がっているわけであって,情報請求権その他の組合員が業務執行組合員に対して,どのような権利を有するのかという形を中心にしては規律されていないわけです。そのようなときに内的組合というものを組合に続けて書くというのは,内的組合における組合財産というものを観念して,組合財産に特殊な地位を与えようということにつながってくるような気がするのです。しかし,私はそれには全く反対で,共有という形にもなっていない財産に,内部的な何かの約束があるからといって,特別なステータスを与えるというのは,ちょっと理解できないところであります。   それに対して,神作さんのおっしゃるところはもっともなところがあります。しかしながら,それは実は組合のところ自体できちんと書き切れていないところであって,そのことはどこで書いているのかというと,恐らくは代理権が相互にあるということで,委任とか,そういうふうなところの規定の問題として処理をされているのだろう,そして,それは別段,内的組合という概念を入れなくても恐らく同じことになるのではないかという気がいたします。したがって,もちろん,組合のほうの規律において,今,神作さんがおっしゃったような内部関係の規律を非常に詳細に定め,かつ,それを内的組合というものについても準用するという形にすることは,特には反対するものではありませんが,財産関係について特別扱いするというのは反対です。 ○中田委員 匿名組合と内的組合の関係について,若干,議論のずれがあるような印象を持っております。A,B,Cの三人の匿名組合あるいは内的組合を考えるときに,民法学説ですと匿名組合というのはA・BとA・Cという二つの契約があるのだけれども,内的組合というのは,A・B・Cの一つの契約だというように分けるという考え方があると思うんです。それに対して商法学説ですと,匿名組合を共同事業と見て,その編成の仕方としていろいろなのがある,A・B,A・Cの内的組合というタイプもあるし,A・B,A・C,B・Cの内的組合というのもあるし,あるいはA・B・Cの内的組合もあるということで,理解の仕方が契約形態のほうで区別するのか,それとも共同事業という観点からとらえるのかというずれがあるように思います。両方の視点からの調整をしていくことが必要だと思います。 ○松本委員 私も内的組合の必要性というのがちょっとよく分からないのです。具体的な例を出していただければイメージしやすいんですが,匿名組合員相互の関係以外に問題が出てこないんだとすると,そして,それが経済界のニーズなんだとすれば,商法を改正して匿名組合の規定のところでもっときちんと内的組合を規律するということにして,必要であれば民法の組合の規定から準用すればいいと思うんです。それ以上に,もっとこういうことで切実なニーズがあるということであれば,是非お出しいただきたい。   むしろ,そういうニーズもないのに,こういうよく分からないのができると,必ず悪質商法に使われて,投資詐欺グループはこの手のものが大好きですから,すぐ内的組合何とかかんとかファイナンスとかを使ってやりかねないというところがあります。この辺は金融庁にしっかり規制をしていただきたいところでございますけれども,ニーズがないのであれば立法の必要はないだろうと。学問的におもしろいからとかいうだけでつくるほどのものではないので,教科書レベルで書くのはいいと思うんですけれども,その上で強行法的に規制する必要があるのであれば,金融庁のほうがきちんと規制すべきだと思います。 ○中井委員 日弁連の消費者保護関係の委員も今の松本先生と同じ意見でしたので,参考のために。 ○岡本委員 内的組合については,明文の規定を置くとすると定義を考えるという必要が出てくるんだろうと思うんですけれども,定義を考えるに当たっては,匿名組合と区別するメルクマールをどこに置くんだといったところも含めまして,匿名組合についても併せて検討するのでなければ,十分な検討ができないのではないかといった意見がございました。その一方で,実用性という意味で対外的には匿名組合と同じなんだけれども,内部的には組合員が業務執行者を監督するだけではなくて指図もするといったような形態,業務執行の意思決定に組合員が介入するといった形態について,これは匿名組合から外れてくると考える場合には,現状でも内的組合という概念を使う利便性があるといった意見もございました。 ○畑幹事 組合の清算の開始事由のところなのですが,組合契約全体が無効,取消しであるということに係る判決が確定した場合を加えるという提案があるのですが,こういうことが不可能であるとは思わないのですが,何かこの場合だけ判決が確定した場合ということが加わるのはちょっと違和感があります。ほかの解散事由でも,例えばやむを得ない事由があるときは組合の解散を請求することができるというような場合も,かなり不明確であるという問題は生じそうですが,これはそのままで,判決とか,そういうことには係っていないわけですから,ちょっと若干,違和感があるということだけ申し上げておきます。 ○道垣内幹事 ばらばらみたいなことを言って申し訳ないのですが,2点申し上げます。まず,少し前に,脱退した組合員についての持分権の買取請求について話が出ていましたが,それは別に恐らく規定を置かなくても,現在でも可能な話なのだろうと思います。つまり,計算をして持分の払戻請求権が例えば1,000万円であるとなったときに,ある組合員が1,000万円の追加出資をすることによって,当該原資となった1,000万円で払戻しをするというのは恐らく可能で,特に持分を買うというふうな規定を置かなくても,私は可能なのではないかと思います。   もう一点は,一人になったときの話なのですが,一人になったときも存続させたほうが便利で,もう一回,同じことをさせる必要はないではないかというわけですが,そのどこが違うのかが私はよく分かりません。例えば私は組合員一人になって続いていたとしても,もう一人の組合員が来るというときには,どういう組合で,どういうふうなことをするのかというのを説明しなければいけないわけでありまして,それで,そこで契約がなされるわけであって,それまでの間を組合と言おうが言うまいが変わりはなくて,なぜ存続しているというと便利になるのかというのがちょっと分からなかったのですが。 ○鎌田部会長 その点について何か関連の御発言はございますか。 ○中田委員 もし解散するということになりますと,既存の組合については清算ということになると思うんですね。それに対して存続するということですと,加入ということになるでしょうから,いずれであるかによって法律関係が変わってくるということではないでしょうか。 ○道垣内幹事 精算をしなくてよいということですね。 ○鎌田部会長 それでは,ここでいったん休憩をとらせていただきます。よろしくお願いいたします。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開いたします。   部会資料18-1の4ページから8ページまでの「第2 終身定期金」について御審議いただきます。事務当局に説明してもらいます。 ○松尾関係官 終身定期金契約は,民法の起草当時は将来的にこのような契約の利用が増えると予想されていましたが,実際にはほとんど利用されていないと言われています。そこで,終身定期金契約については,その要否を含めて見直すことが検討課題となり得ます。基本的な見直しの方針としては,①有償の終身定期金契約を中心に規定を再編成するという考え方,②典型契約としてではなく特殊な弁済方法の一つとして,終身定期金としての不確定量の弁済の規定を設ける考え方,③終身定期金契約にかわる新たな典型契約として射倖契約の規定を設ける考え方及び④終身定期金契約の規定を単純に削除する考え方が,それぞれ具体的な改正提言を伴って示されていますので,「1 総論(終身定期金契約に関する規定の在り方)」では,どのような方針で見直すべきかという点について,御意見をいただければと思います。   なお,この問題の今後の検討の参考に供するため,仮に終身定期金契約の規定を見直した上で,民法に新たな規定を置くという考え方をとることとした場合に,具体的にどのような内容を盛り込むことになるのかを見通しておくことを目的として,2から4までにおいて,個別の改正提言を取り上げました。今回は1の総論を中心に御議論をお願いしたいと考えておりますが,2から4までについてもほかに検討すべき事項があるか,また,これらの改正提言について,具体的にどのように考えるべきかという点を含めて,御意見をいただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明がありました部分について一括して御意見を伺います。御自由に御発言ください。 ○野村委員 終身定期金に関する規定は残して使いやすいような工夫ができればよいと思うのですね。高齢者が自分の持っている不動産を金銭化しながら居住を確保するということと,その裏側で若い人が不動産を取得しやすくするということで,フランスなどではかなり利用されていて,日本でもリバースモーゲージとか,いろいろ似たような制度が将来的には,利用されていくように思います。実際に,これに近いことも自治体などではかつて行われていた例もあるようなのですけれども,そういう意味で,規定を残す意義があるのではないかと思います。ただ,定期金の給付というものは長期にわたりますので,一定の金額でずっといくと,定期金の額が極端に低い金額になってしまうということもあるので,それの改定ルールが本当は必要なのだと思います。しかし,これはなかなか難しくて,民法の中に定めるということがちょっと難しいのかなと思います。むしろ,改定ルールは合意に任せるということで,改定ルールを当事者間の合意で定めることをむしろ否定しないような考え方が必要なのではないかと思います。   それと,射倖契約の規定を一般的に設けるかということなのですけれども,詳細版のほうにもフランスの例が挙がっています。フランスでも確かに規定はありますけれども,余り意味がないと考えられているように思います。保険については保険法典として,民法の外に出ていますし,賭博については基本的に効力を否定するということなので,実質,残っているのは終身定期金だけですので,わざわざ射倖契約についての一般的規定みたいなものは必要ないのではないかと思います。以上です。 ○山野目幹事 ただいまの野村委員の御意見と基本的に同趣旨のことを申し上げさせていただきます。終身定期金契約に関し,余り用いられていないものであるから廃止せよという意見を初めとして,幾つかの立法提言が聞かれるところでありますが,現在の規定のありようの骨格を維持することを基本として,見直しを進めていただきたいという意見を申し上げます。   その理由として二つのことを強調申し上げますが,まず,一つはある人の生涯にわたり,何かが続き,生涯を終えるとそれが閉じられるという法律技術は一言で言うと終身性ということでありますけれども,それは市民社会のおける私法的規律のツールとして,十分にあり得るということを民法典において確認しておく必要があります。このようなことを申し上げます趣旨は,1981年に今の借地借家法をつくった際に,借地権者の終身の間,存続する定期借地権というものを構想したのに対しまして,幾人かの方から,人が死ぬのを待っているような非人道的な制度であるからけしからんという,全く見当違いのおしかりをいただきました。そのような論議を招かないためにも,終身性を表現する典型契約を存置しておくことは有益であると考えます。   もう一つは,このようなものとしての終身性に射倖契約としての性格を組み合わせたものが終身定期金契約であるとしますと,それについて民法に規定を置いておきますならば,それを一つの参考としながら,実際上,様々の無名契約の契約慣行を生成させる手助けになるのではないかと想像します。それは,あるものは終身性のみを備え,また,あるものは終身性にごく弱い射倖性を組み合わせて,様々の工夫をすることが考えられますし,それらは,それぞれ有益なものであるに違いありません。   例えば野村委員からもお話がありましたが,リバースモーゲージはそれ自体について,直ちに何か契約法上の規律を用意しないといけない事項は必ずしも見当たらず,むしろ,根抵当権の元本確定事由や,更に相続税や譲渡所得課税の在り方について手当てをする部分を孕みますが,そのような終身定期金契約と隣り合ったようなものについても,終身定期金契約の規定を存置することによって,思想的な支援を部分的に差し上げることになり,その発展を促すという効果が期待できるのではないかと考えますものですから,もちろん,所要の見直しをする必要はあると考えますが,現在の典型契約規定としての骨格を維持しながら,見直しを考えていただきたいと望むものでございます。 ○鹿野幹事 終身定期金契約の規定については,私も,これをなくすということではなく,今,野村委員及び山野目幹事もおっしゃったように,基本的に現在の骨格を維持したままで,それを手直しすることができる部分については直して,利用しやすくするという方向にいくべきだと思います。   その上で次に,有償の終身定期金契約を中心に規定するという考え方とその内容について一言申し上げたいと思います。確かに終身定期金契約に,有償的な要素があるという場合も多いのだろうとは思うのですが,ここで有償というのが,例えば売買契約と同じようなレベルでの有償といえるのかということには,少々注意を要するのではないかと思います。   つまり,これは次に記載されている射倖性や不確定性とも関連するところですが,たとえ有償的といっても,もともと終身定期金契約の当事者は,100対100で給付のやりとりをする契約を考えているわけではなく,したがって,バランスを欠く結果となった場合でも,あたかも売買目的物に瑕疵があった場合と同じようなレベルでの給付の不均衡を問題として契約関係を解消し得ると考えているわけではないと思います。むしろ,終身定期金契約自体が,不確定性を予定した契約なのですから,当事者は契約で一定のリスクを引き受けているのではないかと思いますし,そのリスクを承知の上で契約をしているのであれば,それはそれで,まず原則的には契約の有効性が認められ,ただ,それが社会的相当性を欠く場合に公序良俗に反するものとしてその効力が否定されるとすることで足りるのではないかと思います。   しかも,公序良俗違反として効力が否定されるべきか否かを判断する際には,当該契約に関する多様な要素が総合的に考慮されるべきであって,一律に期間だけの基準でははかれないのではないかと思います。これは後で議論すべき問題になるのかもしれませんけれど,たとえば終身定期金債権者が困難な手術を間近に控えて早期に死亡する可能性が高いことを,両当事者とも十分に認識した上で,その危険を織り込み済みであえて終身定期金契約を締結したという場合には,たとえその終身定期金基準者が1週間後に死亡したとしても,当該契約の拘束力を否定するべきではないのではないか,つまり,個々の事情を考慮せずに十把ひとからげに,一定の期間内の早期死亡の場合には契約解除を認めるという形で処理することには無理があるのではないかと思います。なお,これを弁済として位置付けることについても,今申しましたのと同じ観点から,疑問を感じるところです。 ○岡本委員 部会資料18-1の5ページのところに,①から④まで考え方が示されておりますけれども,このうち,①と②と④については特に意見はありませんけれども,③の射倖契約の規定を設ける案につきまして,定義の仕方にもよると思いますけれども,相当程度,包括的な定義にならざるを得ないのではないかと思われまして,その関係でいろいろなものが射倖契約に該当するということになるとしましたらば,それを共通に規律する規定として,果たして適当な規定を置けるのだろうかといったところを疑問に思っております。いろいろなものが入ってくるとすると,一律に規定されると弊害が出るのではないかといった心配もございますし,弊害が出ないために総論的な規定を置くにとどめるということだとしますと,果たして置く意味があるのだろうかといった点が疑問に思います。   それからあと,賭博行為に関する規律というところなんですけれども,賭博行為は射倖契約の一種であるけれども,賭博行為は特別法によって認められるもののほかは無効であるということについて,明文の規定を設けるべきという考え方が示されておりますけれども,ここでは賭博行為の定義をどう考えるのか,特にそれ以外の射倖契約との区別をどう考えるのか,これが問題になるのではないかと思います。賭博行為をどう定義するかにもよると思いますけれども,特別法によって認められるもの以外でも,例えば刑法総則の正当行為に該当する行為,こういったものについては民法上も公序良俗に違反しないと,無効とならないといったものがあり得るのではないかと思うわけでございまして,民法90条あるいは刑法総則の規定にゆだねるということでよろしいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 これまで頂戴した御意見は,部会資料18-1の5ページに整理されている①から④までのいずれかというよりも,むしろ,現行法の枠組みを基本的に維持して,より使いやすい形にというふうな御発言でしたけれども,それ以外の立場からの御発言はございますでしょうか。 ○大村幹事 私も終身定期金は残してもいいのではないかと思っておりますけれども,鹿野幹事がおっしゃったのとは少し違う考え方を持っておりまして,終身定期金として民法の中で規定するものといたしましては,一定程度,双務性があるものを考えたほうがよいのではないかと思っております。それをどう仕組むかということについては,例えばこの資料の中では,6ページの(5)で終身定期金基準者の早期死亡等による解除という手当てをしているわけでございます。これが唯一の解決かどうかは分かりませんけれども,射倖性の大きくない一定程度で双務性があるものを典型的なものとして想定することには賛成です。そのほかに射倖性の高いものが可能かどうかということについては,別途,この類型の外で考えればよい。そこは鹿野幹事と同じですけれども,公序良俗違反の制限の範囲内で,そういうものもあり得るかもしれないという仕切りがよいと思っております。 ○松本委員 私自身はこの制度を少し手直しして残したとして,活用されるようになるかどうかについては,必ずしも楽観的ではないんですが,公的な老後保障がますます破綻するのは確実である。他方で,年金保険といったいわゆるビジネスベースの老後保障制度がどうかというと,これもちょっとどうなのかなという状況もあって,そうなると,そういうビジネスに頼らない,もう少しプライベート性の強い類いの老後扶養,老後保障のほうに向いていかざるを得なくなるかもしれないし,国として国の予算をどんどん減らすために,そっちのほうに向けていくという政策をとる可能性もあるわけです。そうなると,この制度が民法上,きちんと残っていることは,今後のニーズの受皿にはなり得るかなという感じで,言わば消極的な形で,将来の可能性を摘まないという点で残すのでもいいかなと思います。ただ,例えば一種の生前相続と老後扶養を組み合わせたような形で使われることが想定されるとなると,遺留分の関係がどうなるんですかといった,相続法上の様々な制度との調整なんかも,もっとやらなくてはならないかなと思います。 ○岡委員 弁護士会の多数意見は削除説でございました。最大の理由は,こんなものは見たことがないという,利用されていないということです。それで,そこから発展しまして,民法の典型契約に何をどういう基準で載せるんだという議論をいたしました。国民に分かりやすい民法という観点からいくと,国民にとって身近な誰もが経験するような契約で重要な契約について,典型契約に置くのが分かりやすい議論ではないかと。その観点からいくと,医療契約だとか教育契約だとか年金契約だとか,そういう身近で重要な契約についてなぜ置かないで,民法の典型契約にしないで,終身定期金のような見たこともないような契約を時間をかけて議論して法律に載せるんだと。そこの説明が要るのではないかという議論をしました。   その中で,教育契約とか医療契約とか年金契約とか,そういう大事なものを何で民法に載せないんだというところで,先ほど大村先生が双務性とおっしゃったのがそれにかかわるかどうか,よく分からないんですけれども,互換性のある契約,国民がどっちにも立ち得るような契約を民法に載せるので,互換性のない大学と学生,医者と国民,そういう一方的な契約は民法の典型契約としてはそぐわないんだという議論があるのだったら,それはそれで分かるんですが,そうではなく,医療契約とか教育契約とか年金契約を民法に載せない理由は何なんだと。そこを知りたいねという議論をしました。   前回,内田先生がおっしゃって,今回,資料として配られた各国の比較法を見ると,医療契約が載っているのもありますし,民法に何を載せるかというのは日本が決めればいい話ですので,終身定期金契約を改良するという意味も分かりますけれども,そんなつまらない議論よりも我が国のこれからつくる新しい民法の典型契約には,こういう基準で,こういう大事な契約を載せたんだと。何かそういう議論が必要なのではないかというふうに話をしておりました。   それから,最後にその観点から見て射倖契約です。これも理論的に詰めるべき話はあるんでしょうけれども,なおかつ射倖契約を定義して,一定の場合には無効にするということを目的とした,いい提言ではあると思うんですけれども,いろいろな世の中を見ている弁護士の目から見ると,民法に載った射倖契約だからやはり有効ですよと,松本先生がおっしゃったように,こういうのが大好きな悪い人がいっぱいいますので,射倖契約を民法に載せると弊害のほうが明らかに多くなるのではないかと。そういう意味で,射倖契約については反対の意見が多うございました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   新しいタイプの契約につきましては,本日の審議の第4で予定しているところでございますので,そこでまた御意見をいただければと思いますが,終身定期金のようなものを残す必要があるのかという部分について,典型契約論的観点から御発言があれば。 ○大村幹事 岡委員がおっしゃったことは,一般論としてはごもっともなものを含んでいると思って拝聴いたしました。社会的な需要というのが下支えになって,新しい契約類型が出てくる。これは松本委員もおっしゃったことかと思いますけれども,そうだとは思います。ただ,終身定期金について考えたときに,例えば御発言の中であった年金契約のようなもの,それがどんなものになるかは人によってイメージは違うと思いますけれども,その中にここであらわれている法理が取り込まれるということであれば,わざわざ終身定期金を残す必要はないということになると思いますが,そうした新たな契約類型が設けられないということならば,これを置いておくということに意味があるのではないかと思います。   実用の観点から考えたときには,余り実用性がないかもしれないということが指摘されております。確かに終身定期金そのものについて考えた場合はそうなのかもしれません。ただ,山野目さんが御指摘になったように,この中に含まれている法理が,様々な契約を考えていくときに手掛かりになるということはあり得るのではないかと思いますので,現にそれ自体が使われていないから,直ちに削除してしまうということがよいかどうかというのは,少し慎重に考える必要があると思います。   ただ,この類型が他の類型と並ぶような類型なのかということは,検討してみる必要があると思います。これは新種の規定としてどんなものを設けるのかということとかかわるかと思いますけれども,資料の5ページで挙げられているものの中には,終身定期金としての不確定量の弁済の規定を設ける考え方ということで,様々な契約の中につき一方の給付が終身定期金という形をとるようなものに広く適用されると考えると,他の契約類型と同列に並ぶものではないという整理もあり得るのかもしれません。それは典型契約規定をどう整理するのかということにかかわっていると思います。等質なものを並べて典型契約をセットしなければいけないと考えるのか,異質なものが類型として含まれていてもいいと考えるのかというところは,全体の整理の際に一つ考慮すべき事柄なのではないかと思います。 ○佐成委員 典型契約論については現時点では特段の提案はございません。経済界,実務界の終身定期金に対する受け止めですけれども,やはり実用性という面からすると必要ないのではないかという意見が多いです。かといって,先ほど岡委員がおっしゃっていたように,絶対に廃止しなければいけないという,そこまでの強いイメージはなくて,残しておいても別に害はないだろうと思います。特別法とかで手当てされておりますし,射倖契約の典型であります保険契約についても近時,保険法が改正されたというようなこともありますので絶対に廃止しろと,そこまで強い意見ではございません。ただ,余り実用性はないという感触でございます。 ○野村委員 典型契約として何を選ぶかという基本的な考え方を明確にしておく必要があるのではないでしょうか。一方で,世の中でたくさん行われている契約を選ぶというのはそのとおりだと思うのですけれども,他方で,いろいろなタイプのものを典型契約として選ぶということも必要なのではないかと思うのです。   それから,終身定期金については,これが純粋の形で出てくるというものでは必ずしもないと思います。フランスで非常に広く行われているといっても,結局,売買代金の支払方法として使われているということだと思うのです。ですから,ある意味でいえば,保険にもそういうところが少しありますけれども,保険料一時払いの年金保険みたいなものであれば,構造はかなり似てくるところもあると思います。そういう意味で,多様な契約の類型を典型契約として入れるという中に,終身定期金も入れてもいいのではないかと個人的には思います。確かになかなか利用されないだろうということは,そのとおりだと思いますが。 ○鎌田部会長 フランスでは個人事業者の農業,商業,工業等の家族内の経営承継の手段としても,相当,広く使われているようです。 ○岡委員 私の発言は,何が何でも削除せよというものではありません。言いたかったことは国民から見て,もっと身近な重要な契約が山のようにあるのに,何で終身定期金がまだ残っているんですかと。だから,今回,これだけオーバーホールで見直して,最終的にこれを典型契約として定めましたというときに,なぜ,終身定期金を残したか,ほかの大事なものをどういう理由で採用しなかったか。そこの説明をきちんと議論しましょうということでございます。 ○鎌田部会長 十分理解いたしました。 ○松本委員 終身定期金契約が使われていないから,使いやすいように整備しようというのであれば,一体,どういうニーズのために使ってほしいのかということを考えた上で整備をしないと,駄目なのではないかなと思います。そういう点では,鎌田部会長がおっしゃったような,そういう相続とセットにし,かつ日本の場合であれば,老後扶養を家族間できちんと契約ベースでやるための制度として仕組むという,それぐらいの強い意思でもって必要なルールを持ってくるのがいいのではないかと。何にでも使えますよというようなものだと,結局,全く使われない形になると思いますので,もし,これを残すのであれば,民法という形なんだけれどもかなり政策的な意図を持って,日本の将来に,こういうのをもっと使ってくださいという形できちんとすべきだろうと。それが第一点。   もう一つは,もしも残す場合の幾つかの考え方として挙がっているところの大きな2以下のところで,終身定期金基準者という概念が出てきておりまして,これは従来の民法には何も書いていなかった概念なんですね。ここがちょっと私はよく分からない。現行の民法でも第三者の死亡までとかいう形で第三者は出てくるんですが,裸の終身定期金基準者としての第三者というのは,現行民法は考えていないんじゃないかと思うんです。   すなわち,終身定期金を第三者が死亡するまで払いますという場合,その第三者は一体だれですか。恐らく現行の民法は,受益者が第三者の場合の第三者を考えていると思うんですが,部会資料で書かれている第三者というのは,そこまでの限定をきちんと考えているのかどうか,すなわち,契約当事者と全く無関係な第三者が存命の限りは払いますという契約でも終身定期金としていいという趣旨なのかどうか,私はそれはちょっと制度の趣旨としてはやり過ぎだろうと思います。正に射倖性が強くなり過ぎるわけで,やはり目的が老後扶養だとか,相続をきちんとやるためということであれば,それにふさわしい形に限定して規定するべきだろうと思いますから,そういう意味で,2以下の様々な部分については,どういう用途にお使いいただくという想定でつくるのかによって,きちんと規定すべきだろうと思います。 ○道垣内幹事 終身定期金という考え方を残すということには賛成ですが,私は松本委員と全く違って,使われるようにするために模様替えをする必要はないと思います。野村委員がおっしゃったように,また,大村幹事がこの会議の1回目か2回目かにもおっしゃいましたけれども,様々な契約というのは当事者の合意ででき上がっているわけでして,合意に従って種々の契約があり得るわけですが,その私的自治を支援するパーツとして,いろいろな契約類型というのがある。このように仮に考えますと,弁済の方法として終身定期金という形の方法があるということは弁済のところに置くのか,それとも,どこに置くのかというのはともかくといたしまして,書いておくということが必要なのであり,しかし,そうだからといって終身定期金契約というものを今後,みんなに使ってくださいというメッセージを民法として発する必要はないのではないかと思います。   松本委員がおっしゃった二番目のお話,つまり第三者の問題は,誠にごもっともだと思いますが,それは結局,終身定期金契約というものの定義というものがあって,それに合致したら,絶対に,公序良俗違反として無効となるような射倖契約にならないのかというと,それはそうではないのだろうと思います。こういうふうな弁済の方法の定め方というのがあり得るというだけであって,全く関係ない人の死亡まで払うとなりますと,そもそも,それを不確定期限にしているということに合理性がないということになるわけでありまして,90条違反になるということは十分にあり得るのだろうと思います。 ○中田委員 私も野村委員,山野目幹事,大村幹事のおっしゃった方向に賛成です。典型契約については,今,道垣内幹事がおっしゃいましたとおり,私的自治をいかにお手伝いするかという,道具を準備するという意味があり,そのようなものとして,終身定期金契約を典型契約として残す意味があるのだろうと思います。それから,第三者あるいは終身定期金基準者という概念ですが,終身定期金基準者という言葉を使うかどうかは別にしまして,第三者がそれに当たるというときには,その第三者の同意がないと効力が生じないとすべきではないかと思います。そういう前提で第三者も対象になり得るわけで,そうすると,より包括的な概念として終身定期金基準者という概念を設けることはあり得るだろうということだと思います。 ○鎌田部会長 これまで頂戴した御意見を踏まえて,終身定期金は,当面,なくならないという形で検討を続けていきたいと思います。 ○岡田委員 私も消費者の立場からすると,松本委員の意見と同じで,これを見たときに,今,保険等ではそういう商品があります。それ以外で家族間とか老後の自分の生活費等について私的な契約の場面で使えるのではないかなと思いました。だとすれば,これは残す必要があるなと思います。それから私たちの感情としては,射倖契約という言葉自体がちょっとなじめない印象で悪用されないかと不安ですので検討願いたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   よろしければ,次に進ませていただきます。部会資料18-1の8ページから9ページまでの「第3 和解」について御審議いただきます。事務当局に説明してもらいます。 ○松尾関係官 それでは,「第3 和解」について2以下の個別論点の御説明をいたします。   「2 和解の意義(民法第695条)」は,当事者の互譲の要件については緩やかに判断すべきであると解されており,この見解を更に進めて当事者の互譲の要件は不要であるとする解釈論も主張されているということを踏まえて,和解の要件として当事者の互譲を削除すべきであるという考え方が提示されていますので,このような考え方の当否について御審議いただきたいと考えております。   「3 和解の効力(民法第696条)」は,和解の確定効の範囲について,これまでどの範囲で錯誤による和解の無効の主張(民法第95条)をすることができるかという問題として議論されてきましたが,この問題に関する判例・学説を踏まえて,明文の規定を設けるべきであるとの考え方が示されていますので,その当否と規定を置く場合の内容について御意見をいただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明のありました部分のうち,まず,「1 総論」について御意見をお伺いいたします。   特にないようでしたら,各論の議論の中でまた総論的な御発言をいただくことが可能であるという前提で,「2 和解の意義」及び「3 和解の効力」について,併せて御意見をお伺いいたします。御自由に御発言をください。 ○高須幹事 互譲の点でございますが,緩やかに解しているというのはそのとおりだと思いますし,正にそうすべきだとは思いますが,この要件を全く外してしまうということになると疑問が残ります。やはりどこかに和解というのは互譲だという意識で支えられている契約だろうということがあると思います。やや中途半端な扱いなのかもしれませんけれども,そこが契約の妙というやつではないかと思いますので,最終的には互譲というところで支えられていると,こういう考え方で,この契約は考えたほうがいいと思っています。 ○道垣内幹事 強い意見はないのですけれども,高須さんに伺いたいのですが,互譲という要件を課した場合に,互譲がなければその契約は無効なのですしょうか。 ○高須幹事 私のイメージだけで申し訳ないんですが,その場合に無効になるかと言われると,多分,無効ではなくて,要するに先ほど来,御指摘があるようにあくまで典型契約という意味でございますから,互譲の要件がないとか,あるいは薄いからということで無効にはならなくて,それはそれで本来の和解契約ではない契約として有効に成立しているのではないかと,論理的ではないかもしれませんが,そのような認識ではおります。 ○松岡委員 私はどちらかというと不要説でして,実際,互譲がなければどうなるかという,今の道垣内幹事のお尋ねに対する答えとしては,それは和解ではない無名契約である,俗に示談と言われるものから和解を引いたものが互譲のない部分であると,説明することになります。しかし,そういう契約で当事者が真摯に合意をしてこれで争いをやめますと言ったのに確定効はないのかというとそんなことはなく,結局のところ,和解契約の規律と違う点が私はほとんど見当たらないと思います。そうだとすると,互譲には,成立を限定する意味はなく,要件として置いておく意味が乏しいと感じます。 ○岡本委員 私も互譲の要件を不要とすることに賛成したいと考えます。現状でも互譲の要件は相当広く解されているということだと思いますけれども,無理して広く解するということよりも,やはりこの要件は不要だと明確にしたほうがよいのではないかという意見です。 ○村上委員 互譲の要件については,訴訟上の和解にも目配りをした上で議論をお願いしたいと思っています。訴訟上の和解の際には,互譲が必要であるということを前提に運営するという,実務上のプラクティスが形成されております。この点に変更を加えるということになりますと,これまで確立されてきた訴訟実務に思わぬ悪影響が生じるのではないかと危惧いたします。互譲の要件があるために和解の実務において困っているとか支障があるとかいうような話は,寡聞にして私は聞いたことがございませんので,特段,支障がないのであれば,互譲の要件はそのまま残すことにしていただくほうがよいのではないだろうかと考えています。   もう一つ,3の次の関連論点のところのことですけれども,よろしいですか。関連論点について申し上げますけれども,これについてはやや違和感があります。確かにこういう判例はあるんですけれども,これは要するに和解の意思解釈の問題なのではないだろうかと思います。こういうことについて条文をつくりますと,考え方が硬直化しないだろうかと,事案に応じた柔軟な解決をするということが難しくなるのではないだろうかということを心配いたします。 ○佐成委員 今,村上委員がおっしゃった関連論点のところでございます。これを明文化することについて,こういう判例があることは承知しておりますし,実務もこれを踏まえて対応しております。ただ,本当に明文の規定を置くのか疑問です。仮に置く場合はかなり要件を厳格にしていただかないと,非常に不都合が生じるのではないかと感じております。というのは,基本的に人身の場合はとりわけ被害者救済のために,できるだけ早く解決したいと思うわけですけれども,このような規定を置くと,非常に軽微なときであってもやはり慎重になります。どんなに軽微であっても責任を一回認めてしまうと,後でもう一回大きな責任に発展するということになりますと相当慎重になって,和解契約なり示談なりをするに当たって,非常に時間がかかってしまうのではないかと思います。そうなるとかえって被害者救済が十分できなくなるとか,それから,加害者側にしても非常に慎重になるということで,その分,コストが掛かるということも考えられるので,仮に規定するとしても相当厳格な条文をつくる必要があるのではないかと感じております。 ○中田委員 互譲の点と人身損害について申します。   互譲の点につきましては,やはり緩やかであるにしても残すほうがいいのではないかと思っております。先ほど松岡委員からどっちにしたって確定効があるではないかという御指摘があったのですけれども,確定効によって何を考えているのかということは人によって様々だと思います。恐らく和解によって争いをやめるということと,紛争の蒸し返しを封じるということと,もう一つ,権利変動が生じるということがあると思います。とりわけ権利変動が生じるということについては,反対の証拠が出たとしても和解を尊重するという意思が重要な要素になるわけでして,そうすると,やはり互譲というのがそれを根拠付ける要素になるのではないかと思います。それから,更に村上委員のおっしゃった訴訟上の和解との関連も考慮すべきだと思います。   人身損害につきましては,今まで出た御意見と同じように,わざわざ特則を置く必要はないのではないと思います。特則を置くとかえって和解の意義について波及する効果もあり得ると思います。 ○中井委員 互譲の要件に関しては,弁護士会のほとんどの意見は,高須幹事から話がありましたように,互譲の要件は残してほしいというものです。確かに松岡委員がおっしゃるように論理的に考えれば互譲の要件がない場合にどうなるのか,そのときでも確定効を認めるのなら,という御意見は,論理的にはそうなるのかもしれません。  実務上,和解というのは紛争解決の方法として極めて大きな位置を占めていることは間違いがなくて,それによって社会・経済的にも損失が少なくて,円満な合意解決ができる,そのこと自体の意義が非常に大きい。そのときに我々がどのような形で当事者を説得しているかという考えたときには,やはり互譲がないとなかなか合意が成立しないというのが実態だろうと思います。   その互譲は極めて薄い互譲,緩やかな互譲の場合もあるのかもしれませんけれども,互譲があって双方が納得して和解が成立しているという事実,これは間違いのないことで,現に裁判所においても,お互いを何らかの形で説得していただいて,互譲があればこそ和解が成立している例はたくさんあります。互譲の範囲を緩やかにするだけのことかもしれませんけれども,お互いの互譲で成立するという形は是非残していただきたい。これが弁護士会の多くの意見でございました。   それから,二番目の和解の効力の問題については,関連論点にも関わるのですけれども,今,申し上げましたように,和解というのは紛争解決において非常に大きな役割を果たしていますので,いったん,和解が成立した以上,争いが蒸し返されるということはあってはならない。だから,確定効がある。   その上で,ここで御提案されている錯誤の範囲について,争いの目的となった事実について,錯誤主張はできない。その前提という事実についてはなおできる。こういう切り分けは一つの切り分けとしてありますけれども,現実の和解において,一方当事者が何らかの金銭給付を早期に受けたいがために必ずしもよく分からないまま,そういう窮状のある中で合意を迫られる,その合意をするときに大幅な譲歩が求められる,極めて抽象的には予見可能性があるんだけれども,現実的には予見可能性のないようなことについても,放棄を前提とした和解が求められ,やむなくそれで合意をして,一定の金銭的給付を受ける,そういう和解が少なからず存在するのは事実です。そのときに,確定効の範囲を広くとる方向に進むとすれば,それは危険で,それについては慎重であってほしいと。   関連論点の和解の効力の問題についても,こういう明文の規定を置くと確かに硬直化するかもしれない,だから,意思解釈の問題として解決していくのが好ましいのかもしれません。しかし,今,申し上げたような一方当事者の窮迫の事情や必ずしも本意ではないような和解がないわけではないので,その効力の範囲については,それなりに限定ができるような,ここに書いている要件が十分な限定になっているのかどうか,このような明文化が適当かどうか分かりませんが,このことを何らかの形で明記できないか,考え方としては非常によく分かるということを申し上げたい。   それから,この考え方をとるかどうかはともかくとして,人身損害に限っているということについても,果たしてそれでいいのか。財産的損害についても,和解の効力について,限定的に考えることが必要な場面があると思います。 ○岡田委員 まず,和解の互譲の精神ですが,一般の人間にはこの言葉が重要に機能すると思います。法律の専門の方はそれがあろうがなかろうが関係ない,結果は同じだよということで済むでしょうが一般の人からすればそう簡単ではなく,和解というのはお互いが痛み分けとか歩み寄りとか説明して初めて納得してくれるという部分が覆うものですからこの言葉は残すべきではないかと思います。   また確定効に関してですが,交通事故に関して一般的に想定外の後遺症が出た場合に関しては,前の和解にとらわれないと私たちも知っているような気がしますね。ですけれども,そのそれが条文にないという部分で,いわゆる専門の人だけが共有するということでいいのだろうか。かといって,条文化することで多分,事件が増えて,蒸し返しになるのかなというふうなことを考えますと,入れるべきとは言えないかもしれませんが判例等でほぼ確定しているような考え方は一般の人にもある程度浸透するようであってほしいと考えます。知らないがために,泣き寝入りをしなければいけない。専門家のところへたどり着くことができなかった場合に,その人は,結局,甘んじなければいけない。そういうことはあってはいけないのではないか。特に人身に関しては強く思います。 ○深山幹事 互譲の点は,私はどちらでもいいと思っているのですが,やはり関心があるのは錯誤無効の主張との関係で,どういう点に錯誤があったときに確定効が覆るかという点です。多分,これは紛争解決を業務としてやっている弁護士の多くの感覚だと思うんですが,基本的には和解をした以上,紛争を蒸し返さないということが基本であって,そう簡単に錯誤がありましたということで覆ったのでは,何のための和解か分からないと言えます。しかしながら,一定の場合に和解の効力を覆すべき場合があり得ることも確かだろうと思います。   これをどう規律するかというところが正に悩ましいところなんですが,恐らく紹介されている提案もその一つの提案として,争いの目的となっていった事項と,その前提なり基礎になっていた事項で区分けしているという提案をしていますが,しかし,これでどうもうまくすっきり場合分けができるか,適切な区分けになるかというと,どうもそういう気もしないのです。もっといいメルクマールがあれば提案したいところなんですが,なかなか難しいということを考えると,むしろ,特にそういう明文の規定を設けないで,95条の規定が現行法どおりになるかどうかはさておき,錯誤による無効ないし取消しの規定の当てはめにゆだねるというほうが下手な明文基準を設けるよりはよいのではないかと,こんなふうに考えています。 ○鹿野幹事 私も,錯誤のところと人身損害について,一言ずつ申し上げたいと思います。   現在の696条の規定は,和解の確定効について規定していますが,それと錯誤との関係については,規定の上では必ずしも明確ではありません。それにより,先ほどご指摘がありましたように,一般の人,少なくとも法律を勉強したことがない人にとって,分かりにくくなっているのではないかと思います。ですから,文言表現については注意をする必要があるとは思いますけれども,従来解釈上認められてきたこと,つまり,和解の確定効が生ずる範囲については,その確定効の結果として,錯誤の主張が認められないのだということを,明文でより分かりやすく規定するべきだと思います。   その上で,和解の確定効が及ばず,なお請求等をし得る場合について規定をどうするのかについてですが,これは非常に悩ましいところであり,さらに検討を要すると思います。確かに明確性の観点からは,これについても,もし一般的な形で定式化することが可能であれば,規定したほうがよいのかもしれません。しかし,先ほど既に御指摘がありましたように,これは要するに,事実はどうであれこれで解決させるのだとされた趣旨と範囲はどこなのかに関する当事者の意思解釈の問題です。その意思解釈においては,和解の文言のみならず,当該和解がどういう状況のもとでされたのかを含めた諸事情が考慮されることになるでしょうし,その上で,その後に発生した事実が当初の当事者の予定した範囲外のものであったといえるのかが,判断されるべきことになるのだと思います。そのような意思解釈の在り方は,少なくとも資料19-1の9ページの最後に掲載されている提案のような形では,うまく表現できていないのではないかと思います。   と申しますのも,この9ページの表現を見ると,一方で,人身損害については極めて広く,和解の確定効を否定し得るかのように誤解を招くおそれがありますし,他方では,先ほど確か中井委員から御指摘がありましたように,人身損害だけが特別のケースであって,財産損害についてはこのように和解の確定効を否定する余地はおよそ認められないのだということになると,その点では狭過ぎるように考えられるからです。だからといって,それに代わる適切な定式化が可能かというと,それもなかなか難しそうです。したがって,和解の確定効を否定し得るところの,いわば例外的な場合については,明文で規定を置くのは難しいのではないかと思いますし,少なくともここに記載されたような形では置くべきではないと考えているところです。 ○潮見幹事 和解の効力について,三点,申し上げたいと思います。   ゴシックで書かれている部分にもかかわるのかもしれませんが,ここで問題になっていること,あるいは今まで議論になっていることは,大きく分けて三つあるわけで,一つは互譲した内容について,もはやその後で無効あるいは取消しという形で,効力を否定することはできないということをルールとして設けるべきであるかどうかという問題,二つめは,先ほど深山幹事の話にもちょっと出ておりましたが,そうではない事項,つまり前提事実あるいは基礎事実の錯誤というような場合に,それを理由とする取消しあるいは無効というルールを設けるべきかどうかという問題,それから,三つめは,関連論点のほうにかかわるのでしょうけれども,和解という契約をしたときに,その契約の効力がその後に起こった事情だとか,和解をするに当たっての交渉に際しての両当事者の行為態様とかといったものを考慮に入れて何らかの形で制約されるのかという問題,都合三つあるのではないかと思います。   そのうちのゴシックで書かれている部分,つまり,互譲の対象となった事項について,もはや,それを後で錯誤等によって効力をひっくり返すことができないという部分については,私は,明文で書くべきではないかと思います。そう書くことによって,実際に先ほど先生方がおっしゃられていたようなこともよく分かるようになるから,これはこれでいいのではないかと思います。   二点目の前提事実あるいは基礎事実についての錯誤をどうするかということについては,もし書き方として誤解を招くとか,あるいは何を指しているのか分からないとか,あるいは,従来,言われていることとは違ったような処理が,こういうことを明文にすることによって何らかの形でもたらすおそれがあるということならば,この部分については解釈に委ねてもいいのかなという感じがしないわけではありません。   ただ,これも民法総則との規定との関連でいえば,従来の言い方をすれば,動機の錯誤というものが原則として民法総則では考慮されないけれども,和解の錯誤のところでは,動機錯誤的なものについても考慮に入れる余地が広がってくるというようなことがここでもたらされることになるし,それを積極的に肯定していくということであるのならば,民法総則とは違ったルールがここで妥当するのだということを示す意味で,この部分について規定を置くということに関して,賛成したいと思っています。   それから,三点目なのですが,関連論点のところで出てきておりましたが,その中で幾つか出てきている問題の中で,一つは和解をするときに一方の窮迫に乗じて和解をしてしまったというような場合が,中井先生の御発言の中には出てきたと思いますけれども,そういう場面については現行法で言う90条で対処すればよいと思います。これに対して,ここで最高裁の判決として挙げられているもの,ただ,これが判例かなと個人的には疑問がありますが,ともかく,この最高裁判決で出てきているようなケースについては,要するに和解がされた後,予期せぬ事情が出てきたときに,その事情について和解の対象になっていたかどうかという,先ほど村上委員がおっしゃられたことが問題になっているわけですから,その部分については村上委員がおっしゃったとおりで規定を設けるまでもなく,むしろ,和解の解釈という形で処理をすればいいのではないかと思います。   かえって,ここで事後的に予期せぬ事態が生じたから,そういう事態については契約の効力はそのようなものには及ばないと解釈をしろというルールをつくるということになると,基本的にその他の契約一般についてのルールにも大きな影響を及ぼしかねません。事情変更の規定なんて置くまでもなく,契約の効力についてはそのような解釈をしろというようなことまでも含意するようなことになりかねないので,関連論点で示されているような規定を置くのは,余り好ましいものではないと思います。   長くなって申し訳ありませんが,この関連論点について申し上げますと,仮にこの判決を,これを判例だという形でルール化するにしても,資料の下段に挙げられているような提案内容は,最高裁判決が言っている法理をそのままの形で書いたものではありませんし,このような内容のものとして規定を置くことについては反対です。 ○佐成委員 互譲の点で,企業側の感触でございますけれども,互譲を削除してもいいのではないかという意見は,かなり強い意見でございましたけれども,一方,中井委員もおっしゃっているとおり,やはり互譲という言葉が,実務上,和解契約を締結するに当たって非常に有効に機能しているという,そういうような面を積極的に評価する意見も相当数あったということでございます。 ○松本委員 潮見幹事が途中でおっしゃったことで,和解の問題となっている錯誤は動機の錯誤だからとおっしゃったと思うんですけれども,私は動機ではなくて紛争対象の錯誤だから要素の錯誤だと思うんですが,これは別にどっちでもいいんですけれども,その上でやはり岡田委員のおっしゃったような分かりにくいという点があります。民法の一般論から考えたら,そんな特則を置かなくてもいいでしょうというのは,多分,そのとおりなんでしょうが,紛争解決のための契約という特殊性からくる分かりにくさから,ここだけ特別にはっきりと錯誤の特則というか,あるいは確認規定的なものとして置くというのは,分かりやすい民法ということを二つのグループともおっしゃっているわけなので,そういう点では十分考慮できるのではないかなと思います。 ○中田委員 和解と錯誤について,今,錯誤の一般ルールでいいではないかという御意見が幾つか出ているんですが,論点としては,そもそも和解契約というのは争いをやめるという契約ですから,やめることになった争いについて和解契約の効力が及ぶのは当然であるという,その和解契約自身の性質との関係も考慮すべきだと思います。 ○松岡委員 総論的なところでお話しすべきだったのかもしれませんが,和解契約について書面を要するというようなことを規律する必要はないのか,前々から少し疑問に思っております。日本の民法はこれまで過度に諾成契約を原則としているのですが,特に紛争をやめるというときに,何がお互いで紛争であり,何をやめにしたのかをはっきりさせないことには,後に更にこじれることになります。恐らく実際の和解契約で書面を作らないことはまずほとんどないと思っているのですが,その点は,実態をよく知りません。それも伺った上で,できれば書面要件の有無についても併せて検討していただければと思います。 ○山本(敬)幹事 やはり少し気になりますので,確認させていただければと思います。先ほどの錯誤との関係ですけれども,民法の一般原則に委ねるべきではないかという御意見がかなりたくさん出ていました。それによると,規定を置かないことになるのだろうと思います。そうしますと,実際にそのような形で民法の改正が行われた後に,同様の紛争が生じたときに,どうすべきだとおっしゃっているのでしょうか。この点を確認をさせていただければと思うのですが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 和解と錯誤に関して特に規定を設けない,あるいは一般原則に従えばいいという御意見の方への御質問ということですね。 ○山本(敬)幹事 そうですね。 ○深山幹事 意思表示に錯誤があると無効なり取消しなりという総則規定を和解契約に当てはめるとしたら,和解した当事者において一定の事実関係などに錯誤があって,その事実が例えばAではなくてBだということを認識していたなら,その和解に応じなかったであろうという意思が推定されるときに錯誤無効の余地が出てくるだろうと思います。そのときには,どういう点に争いがあって,それに対してどういう落としどころで解決したかということを総合的に判断して,和解当時の合意した意思が何を前提にし,その前提が変わっていれば合意しなかったであろうと評価できるかということが判断されるのであろうと思います。   そうなると,あとは個々具体的な事案において,ケース・バイ・ケースで考えるしかないんですけれども,基本的には,一定の紛争があって,それについて紛争をやめるということを目指したわけですから,つまり争いのあることが仮に黒であれ白であれ解決するという意思がそこにあらわれているのですから,その意思の効力を覆すに足るだけの錯誤を容認するというのは,かなり狭い要件,厳しい要件で認められるべきだとは思いますが,そういうことを明文化をしようとしても難しいので,95条の解釈適用に委ねると,こういう趣旨でございます。 ○山本(敬)幹事 錯誤の規定の解釈という意味を広くとれば,錯誤の規定の解釈にあたるのかもしれませんが,和解契約をする前提として,何らかの事実について一定の認識をしたが,その認識が誤っていた場合には,動機錯誤ないし事実錯誤があると一応は言えそうです。仮にそうだとしますと,錯誤一般のルールが適用されるはずで,現在の判例によりますと,その事実に関する認識が法律行為の内容になったかどうかによって,錯誤無効が認められるかどうかが判断されることになると思います。ここで和解について,特にそういった一般ルールと異なることを定める可能性があるというようなことを,鹿野幹事も少しおっしゃいましたし,中田委員もおっしゃったように思いますが,要するに,前提となる事実について,ある一定の認識をしたけれども,それが事実と違ったというのではなくて,その前提となる事実がたとえAであろうとBであろうと,そういうことにかかわりなく,このような和解契約をするわけですから,そもそも錯誤がないといいますか,仮に錯誤があるとしても,当該当事者のもとではもはや錯誤無効の効力を認めないという趣旨がはっきりしているときには,錯誤の一般ルールとは違うルールを認めるということではないかと思います。   そうしますと,これは,錯誤の規定の解釈というよりは,やはり和解の解釈の問題であって,もしそうだとするならば,和解について,①の争いの目的となっていた事項-という表現でよいかどうかは更に詰める必要があるとしましても,そういった事項-について事実がどうであろうとも,このような和解契約をする以上,もはや後で認識した事実と異なるということがあらわれても,錯誤無効ないしは取消しの主張を認めないということをここで規定すればよいだけのことではないかと思います。   それ以外に錯誤無効の主張が認められるかどうかは,何も規定しなければ先ほどの一般ルールの解釈によることになるでしょうし,そこで現在の判例法を前提とするならば,法律行為の内容になったかどうかが決め手になる。それでは狭過ぎる,錯誤無効ないし取消しの範囲をやはり和解についてはもう少し広げるべきだというのであれば,先ほど潮見幹事がおっしゃっていましたように,争いの目的である事項の前提又は基礎とされていた事項と言うかどうかは別として,それをここでもう少し広げるという規定を置くことになりそうです。私はあまり広げた方がよいと思っていませんが,確認のためにそのような規定を置くことはあってもよいでしょう。ですから,規定を何も置かずに解釈に委ねるといいましても,和解特有の問題がここに出てきていますので,それならば,もう少しここで基準を詰められるかどうかを検討してみてはどうかと思う次第です。 ○深山幹事 ちょっと説明がうまくなかったのかもしれないですけれども,紛争があって白か黒かが両当事者で争われているときに,和解をするということは,それが白であれ黒であれ一定の終局的解決をするということです。しかるに,やはり白だったとか,やはり黒だったということについての客観的な証拠が後日出てきても,それによって覆るということであっては,そもそも和解の趣旨に反するわけで,錯誤無効が問題になるとしても,そういう争っている事項そのものが白か黒かはさておきという,さておいたところに錯誤があっても,それは錯誤無効という言い分は通らないんだろうと思うんです。   和解の前提となる事項と和解の対象となる事項という区分けが,果たして表現として妥当かどうかというところに疑問を持っているのであって,もちろん,一切,錯誤無効を認めるべきでないと言っているつもりはないですし,もし,御議論,御検討いただいて,適切な基準が立てられるのであれば,それを否定する気はありませんので,是非,御提案いただければと思います。 ○鎌田部会長 一定の錯誤主張の余地があるということは共通に認めているんだけれども,それをどのような形で表現することが最も妥当なのかというところについては,かなりの難しさを感じていらっしゃる方が多いということだろうと思います。関連論点のようなケースについても,ある意味で,そこの例外の中に含まれるのか,そこからはみ出て,更に特別の考慮が要る問題なのかという認識にかかわっているんだろうと思いますが,それらの点を意識した上で,様々な提案の内容をもう少し精査し,その他の議論を踏まえて整理をさせていただくということでよろしいでしょうか。   引き続きになりますけれども,次に部会資料18-1の10ページから13ページまでの「第4 新種の契約」について御審議をいただきます。事務当局に説明してもらいます。 ○大村幹事 新種の契約に入る前に,一点だけ確認をさせていただきたいのですけれども,部会資料17-1の最後のページにありました31ページの役務提供型契約に関する規定の編成方式という話は,既に終わったという理解でしょうか。 ○鎌田部会長 一応,前回の最後に少し議論しましたけれども,役務提供契約もそういう意味では新種の契約でございますので,これから議論する新種の契約と関連して御意見をお出しいただいて結構でございます。 ○大村幹事 了解いたしました。 ○松本委員 ちょっと今の点の確認ですけれども,役務提供契約を新種契約として13プラス1にするという考えもあると思いますし,私は前回,そういうような主張をしたかと思うんですが,そうではなくて,13,14というのではないレベルの何か受皿という中2階的なイメージでの主張もあるわけなので,そこは新種契約ですという言い方はちょっとミスリーディングなのではないでしょうかね。 ○鎌田部会長 そういう意味で,新種契約というのはここで言うような現在ある13以外の典型契約という意味ではなくて,現在の民法の中には規定されていない,どの次元であるかは別にして,新しいタイプの契約ですから,それが14番目の典型契約という扱いになるのか,あるいは役務提供型の中2階的な契約になるのかというのは,先ほど言われた編別問題という形で議論の対象にしようと,問題を提起しているんですけれども。 ○松本委員 それはどこでやるんですか。 ○鎌田部会長 どういう取扱いにするかということは,前回の議論の中では必ずしも決まっているわけではございませんから,前回の議論も踏まえつつ,新種の典型契約について議論するのだったら,役務提供契約もそれと併せて新種契約型で整理すべきではないかというふうな話が出てきても,それは一向に差し支えないという趣旨で,今日のこのテーマの中で,前回の項目を繰り返していただいても構わないと申し上げています。 ○松本委員 新しい典型契約,14番目として何を入れるかというレベルの議論と,それから,中2階型を新たにつくって,全体を再編しようかという議論は,別のレベルとしてあり得ると思うんです。第三者のためにする契約をどうするんだという議論も確かあったと思いますし,そういうレベルの議論はどこかでまとめておやりになるつもりなのか,それとも,各論的なところで言っておかないと駄目だという話なのか,どちらなんでしょうか。 ○鎌田部会長 前回の最後は,そういう形での議論をしていただくというつもりで問題提起したところですけれども,そこで全部話が終わってしまったから蒸し返しは許さないというわけではなくて,むしろ,ここで新種契約をやる以上は前回の役務提供契約というのも,これと関連付けて話をしましょうというのは,それはそれでやっていただいていいですし,残された問題はたくさんあって,継続的契約とか,先ほどおっしゃられた第三者のためにする契約もまだ残されておりますので,それらを全部,見渡した上で,全体の編別とか,あるいは位置付け,段階付けですかね,典型契約を13,14,15と並べるだけではなくて,もうちょっと違う切り口もあるわけで,それを全体としてどう編成するかというのは,最後まで残る問題だと思いますので,それは最終的な論点整理の最後の段階で,また,御議論をいただきたいと思っています。 ○松本委員 では,最後の段階で,そういう体系的な議論をやるという理解でよろしいですね。 ○鎌田部会長 ええ。必要に応じて,この場で出していただいても別に構いませんし。 ○筒井幹事 今,部会長におまとめいただいたとおりです。次回あるいはその次の会議で何をやるかというのは,本日の最後にも御紹介しようと思いますが,全体的な債権関係の規定の配列,編成の在り方といったようなことは,次々回に検討項目として取り上げることを予定しておりますし,そういった項目にうまくおさまらないその他の問題についても,次々回に御発言の機会を設けることを考えようと思っております。 ○鎌田部会長 よろしいですか。   それでは,「第4 新種の契約」に入りたいと思います。 ○亀井関係官 それでは,「第4 新種の契約」について御説明いたします。   「1 総論」では,民法で定められている13種類の典型契約について,民法制定以来の社会・経済の状況の変化を踏まえ,典型契約の類型に過不足がないかどうか,不足があるとすると,新たに設けるべき契約類型としてどのようなものがあるのかについて,御審議をいただきたいと思います。このうち,新たに設けるべき契約類型として,ファイナンス・リースが提案されておりますので,「2 ファイナンス・リース」で取り上げました。   「(1)総論(典型契約とすることの要否)」では,ファイナンス・リースは現代社会において重要な取引形態であり,また,民法の典型契約のいずれにも解消されない独自性を有していることから,新たな典型契約として規定すべきではないかとの提案を取り上げております。ファイナンス・リースの特徴として,「(2)ファイナンス・リースの定義」以降で取り上げた事項が指摘されておりますので,典型契約化することの要否について,(2)以降の論点に関する検討も含め,御審議いただけたらと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分のうち,最も重要なのは「1 総論」だと思いますので,まず,総論について御意見をお伺いします。御自由に御発言をお願いいたします。先ほど既に岡委員から新しい種類の契約に取り組むんだとしたら,医療契約,在学契約その他のものが重要ではないか,それをなぜ取り上げないんだという御発言がございましたけれども,もう少し付言することがありましたらどうぞ。それから,それに関連した御発言がありましたら,御発言をいただければ。 ○佐成委員 積極的に何か提案しようとか,そういうことではございませんで,一応,企業側といいますか,実際,使っている事業者の中で幾つか聞いてみたのですが,余り積極的にやってほしいというものは全然見当たらないというのが実際のところであるということでございます。 ○松本委員 せっかくですから,先ほどの寄託のところで言ったことですけれども,やはり大変ニーズが高くて,かつ紛争が多い分野として資金移動取引について,きちんとしたルール整備ができればやっていただくというのがいいと思うんです。確かに金融行政等の規制との関係もあるので,どこまで民法で書くのがいいのかはちょっと難しいところもありますが,有因,無因の問題等は民法プロパーの問題だと思いますから,やはりできればきちんと典型契約として,しかも,日々,大量に取引の行われている典型契約なので,必要ではないかと思います。 ○鎌田部会長 ここへ出てこなかったら,ほかの契約類型はないという結論が出たということには全然ならないので,この後も更に引き続き新しい契約類型については,随時,御提案を受けて検討を続けていきたいとは考えておりますけれども,今,御提案があればお伺いしておきたいということでございます。 ○内田委員 この後にファイナンス・リースというのが議論されますけれども,これは事前に検討していた特定の学者グループの提案でしかなくて,どういう典型契約を入れるかというのは,この部会が決めることですので,余り既に出ている提案に拘束されずに,これからの民法にとって必要な典型契約はどういうものであるべきかということを部会で是非御議論いただければと思います。 ○鎌田部会長 今,御発言が特にないようでしたら,2以下のファイナンス・リースについて御意見をお伺いしておきたいと思います。 ○深山幹事 リースの議論に入る前に,総論的な話として,既に例として示されている在学契約であるとか医療契約であるとかといった,今の社会で多数用いられている契約について,それらを典型契約化するべきかどうかということは,新たな契約類型として何を選択するかということ以前の問題としてあると思います。在学契約にしろ医療契約にしろ,あるいは,旅行とか保険とか運送とか,そういう例に挙げられる契約の多くは,いわゆる役務提供型の契約として一定の特色のあるもので,比較法的にも外国にもそういう個々の役務提供契約を広く取り上げている例もあるとお聞きするので,一つの立法の在り方としては,そういうポピュラーになった契約や重要と思われる契約のデフォルトルールを民法になるべく広く取り上げていくということは,一つの考え方だろうと思います。   そういう意味からすると,先ほど議論した終身定期金契約などよりは,よほど多く使われている契約がたくさんありますので,終身定期金契約を,今後使われるかもしれないということで残しておくというよりは,現実に使われていて,今後も使われそうなものを拾い上げていくというのは一つの在り方だろうと思います。   しかし,別の考え方としては,そういう色の付いた個別契約を拾っていくというよりも,色の付いていない委任とか雇用とか請負とかというあたりを並べておくと,そういう類型として特徴のあるものに限って,民法には置いておくというスタンスもあるんだろうと思います。   そう考えたとしても,例えば先ほど松本先生が御指摘された資金移動契約などは,それ自体,特殊性があり,単なる役務提供の延長ではとらえられないような類型なので,そういう取引類型そのものに特色のあるものについて,契約関係そのものに特色のあるもので漏れているものがあって重要なものがあれば取り上げていくというスタンスもあるのかなと思います。具体的に何を取り上げるべきかということについて,定見を持っているわけではないんですが,基本的なスタンスとして,細かく各論的に拾っていくスタンスがいいかどうかということが,まず考え方の問題としてあるのかなと思います。その上で,仮に取り上げていくとなったときにどれが取り上げられるのか,例えばリース契約,ファイナンス・リース契約というのがそれにふさわしいのかということにつながっていくのかなと思っております。 ○野村委員 典型契約という言葉で何をイメージするかということがかなり人によって違うのかなと思いました。先ほども申し上げましたが,具体的に個別の契約類型で,世の中でたくさん行われているものをピックアップするということは,もちろん重要だとは思うのですけれども,やはり民法の中では,典型契約というのは,ある程度,一般化,抽象化した上で,多様な契約類型を含むものとして,つくられていると思うのです。現在の民法における典型契約もそういうものだと思います。そういう意味で,私も具体的にこういう契約類型を必ず入れるべきという明確な意見を持っているということではないのですが,,実際に行われている様々な契約をある程度,一般化,抽象化して,多様な契約類型を民法の中に取り込むという発想が必要なのではないかと思います。在学契約や医療契約も,抽象化すると,役務提供契約に集約できるのもかも知れません。 ○中井委員 この問題について深く考えているわけではございませんけれども,今回,弁護士会の中で,ここの論点については具体的に意見が出てこなかったのは事実です。差し当たって出てこなかったのか,考え尽くして出てこなかったのかはともかくとして,検討会を幾つか開きましたけれども,出てこなかった。   民法の中で何を定めるのかということについて,従来ある13の典型契約のほとんどは,基本的には立場の互換性が想定される契約類型ではないのか,売買,贈与に始まって。それに対して,この後,議論するファイナンス・リースについても先走って言えば,特定のリース事業者とだれかの契約になっている。ここで挙げている代理店・特約店契約についてはちょっとおきますと,医療契約については,医療事業者,クレジットについても与信者側の事業者,在学契約だったら学校という事業者,旅行契約であったら旅行業者という事業者,少なくともこのような事業者とだれか一般との契約で,これら取引関係の規律をどこに置くのか,先ほどの役務提供契約の中で包括的に考えるということはできるのかもしれませんけれども,その中から特定の事業者との契約関係を規律するものを民法に持ち込んで,そこで一定のルール化することが民法の役割なのかどうか,このあたり,研究者の方々がどうお考えになっているのか。   実務家からは,そのような要請が出てこないのは,それぞれの事業者なりの関係で規律していくほうが素直なのではないか,必要な規律があれば,そこで規律していく。そういうことを想定しているのかとも思うわけです。この立場の互換性というのがキーワードになるのか分かりませんけれども,弁護士一般の感覚として,そのような類型については民法の典型契約として漏れているものがあれば,それは加える,こういうことについては受け入れやすい,ただ,それが思い付かない。逆に事業者との関係の契約について,これを民法に入れるということについては,その必要性を感じない。それはそれで,それぞれの場所で規制すればいいのではないか。民法の空洞化という言葉が出てきていますし,それとの兼ね合いになるのかもしれませんけれども,そういう感想を持っております。 ○大村幹事 先ほどの深山幹事の御意見,それから,直前の中井委員の御意見との関係で私の意見を述べます。あるいは野村委員がおっしゃったことも関係するかもしれません。社会的な実態として,こういう契約があるからということで,だから直ちにそれについて民法で対応しなければいけないという考える方は,多分,この中には少ないのではないかと思います。ただし,社会的実態がないのに典型契約類型を設けるのかというと,それはやはり何らかの立法事実は必要だろうと思います。   その上で,どのようなものを類型として取り上げるかということですが,岡委員あるいは中井委員のほうからは,一方当事者が事業者であるようなものは除外したらどうかという御意見がありうる考え方として示されたと思いますけれども,松本委員は必ずしもそうではなかった。先ほどの資金移動のようなものは,個人間で行うことが想定されるかというと,それは必ずしもそうではないだろうと思います。しかし,資金移動というものが現在の我々の日常生活の中で持っている重要性を考えるのならば,それを取り込むことが必要ではないかという御議論だったと思います。   さらに,加えて資金移動の場合には,従前の法理に十分に還元できないものが含まれているのではないか。そのようなものは民法の中に取り込んでおく必要があるのではないか。こうしたことが松本委員の御発言の中にあったのではないかと推察いたします。先ほどの終身定期金についても,同様の考え方からなお保存する必要があるのではないかということが,一部で言われたということだと思います。そういう観点から考えたときに,先ほど出た在学契約ですとか,医療契約ですとか,あるいは旅行契約ですとか,それらの中に,法理上こういうものがあり得るということで民法の中に置いておいたほうがよいものはないのか。そうした観点で検討を加えるということは,一つあっていい視点なのではないかと思いました。 ○山本(敬)幹事 かなり共通しているのですが,少し違う角度から意見を述べさせていただければと思います。典型契約としてどのようなものを定めるべきかという点については,最低限,二つの問題を区別すべきではないかと思います。   一つは,現在の社会・経済の基本的な仕組みを把握するために必要な契約類型は,民法に定めておくべきではないかということです。それが現在の13の契約類型でよいかどうかは別として,現在定められている典型契約類型の大部分は,そのような性格を持ったものだろうと思います。このような契約類型を民法から外すという意見は,今のところないのだろうと思いますけれども,仮にそのような意見があるとしますと,こうした私法関係を法的に構成するための基本的な概念枠組みにあたるような契約類型を外してしまうと,私法の「基本法」としての民法の役割を果たしたことにはならなくなってしまうと言わなければなりません。したがって,このような意味での基本的な契約類型は典型契約類型として民法の中に規定すべきであると考えられます。   そのような観点からみて,現在の民法に不十分なところがあるかどうかというときに問題になりそうなのが,たとえば資金移動に関する問題,ないしは私が先ほど申し上げた指図のような法律行為だと思います。このような基本的な概念枠組みにあたる制度がありませんと,資金移動のような現在の社会・経済の基本的な仕組みを法的に説明することができなくなってしまいます。このようなものは,やはり私法の基本法である民法の中で定めておくべきではないか。そのような観点から,どのような契約類型を民法の中で定めておくべきかということを考える必要があると思います。   ただ,このようなものを民法の中に定めるべきであるということについては余り異論はないと思うのですけれども,もう一つの問題は,民法の中に定めるものはこれに限るべきか,それとも,それ以外のものも取り込んでよいかということです。これは,立場の分かれるところかもしれませんが,私個人は,これに限るべきだという考え方は硬直的に過ぎるのではないかと思います。やはり,この種のものは最低限定めておかなければならないけれども,それ以外のものも必要に応じて定めてよいのではないかと思います。   では,必要に応じてというのは,どのような基準によるのかということが,まさに先ほどから出ている問いの一つだろうと思います。この点については,社会的・経済的なニーズがあって初めて規定を置くべきだということが,いわば最低限の要請だと思うのですが,ニーズが非常にあるというだけで民法に規定を置くべきかどうかは次の問題です。この点については,例えば,その契約類型がある程度一般性を持つ契約類型であるということが必要になってくるのではないかと思いますし,さらに,その契約類型が民法に規定するに足りる程度に確立しているのかということも,やはり重要なポイントになるのではないかと思います。  例えば,役務提供契約の多くの類型は,現実の社会でよく使われているかもしれませんが,典型契約類型として規定するまでには必ずしもまだ熟していないようなものも多いだろうと思います。これについては,今後の議論の中でよく調べて検討すべきだろうと思いますが,いずれにしても,このような観点から,今,民法で規定するに足りるだけの契約類型として確立しているものが,そして一般性を持ったものがあるかどうかという点も,ニーズの有無と合わせて考えるべきではないかと思います。 ○内田委員 中井委員から言われた互換性ということについて,一言だけ,私の歴史的な認識を申し上げたいと思います。   確かに200年前,1804年にフランス民法典ができたときは,互換性というか,すべての人間は平等であり,その平等な人間に適用される一般法をつくるということが指導理念とされたのは,そのとおりだと思います。これは当時,貴族や聖職者がコントロールしていた社会から,自由で平等な社会に移るという哲学が背景にあったからで,歴史的には大きな意義があったと思うのですが,現実の世の中は平等な人間だけで成り立っているわけではありませんし,その後労働者とか消費者が登場します。20世紀以降にできた民法は,多くは商法を中に取り込んでおりますので,商取引とそれ以外の取引との違いも入っていますし,労働者とか消費者といった概念を入れるものも多くなっている。このように,社会が変化するのに応じて,民法のあり方も世界的には多様になってきています。それを踏まえて日本の民法をどういうものとしてとらえるべきかということを考える必要があると思います。少なくとも,およそ民法とは互換性のある人についての法典だからという議論は,歴史的な事実認識としては正しくないということは指摘できるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 これからの民法がどの程度の典型契約をどういう視点から取り込んでいくかというのは,様々な御意見がまだまだあるだろうと思いますので,今後とも御提案を受け付けていきたいと思いますので,是非,よろしく御検討をお願いいたします。 ○筒井幹事 ここまでの委員,幹事の皆様の発言の中で,実務のニーズというものが新たな典型契約を考える前提として必要ではないかという指摘がありました。そういう実務のニーズをどのように把握していくのかという点では,いろいろなアプローチがあるのだろうと思います。経済界の方では,新たな典型契約を設けることに消極の意見が多かったという指摘がありました。そういった声を集めていくというのも一つの方法かもしれませんけれども,裁判例に現れた紛争からはどのような傾向が読み取れるのかを調べてみることも,この問題に関する実態調査として興味深いのではないかと考えておりまして,事務当局において,そういった調査の準備を進めております。そういった成果も踏まえて,今後,更に議論をしていただきたいと考えております。 ○大村幹事 筒井幹事から大変積極的な御発言があり,裁判例をお調べいただけるということで,有り難い御提案だと思って伺いました。内田委員から世界的なすう勢というようなお話もあったわけですけれども,日本の典型契約のセットの仕方は一つの例でありまして,諸外国の多くと重なっている類型もありますけれども,重なっていない類型もあるわけです。重なっていない類型が設けられているのには,それぞれの国の事情があろうかと思いますけれども,特に最近になって新しく典型契約類型を追加したという立法例もあると思います。そういうものについて,どのようなものが追加されているのか,また,もし分かるのならば,なぜ,それが追加されたのかということについても,可能な範囲で調査いただけると大変有り難いと思います。判例を調査すると言っていただいたので,それに乗じて要望させていただきます。 ○鎌田部会長 総論的な部分について特に御意見がもうこれ以上ないようでしたら,この資料にも書いてありますけれども,仮にファイナンス・リースについて規定を設けるとしたらということで,既存の提案の内容が要約してあるわけでございます。規定するといたら,どういうふうな形になるかの一つの見通しの例ということで,その限度で御議論いただければと思いますが,御意見があればお出しください。 ○大島委員 ファイナンス・リースの総論のところでございますが,ファイナンス・リースは既に社会で,ある程度,普及が進んだ取引形態となっております。商工会議所には御提案のファイナンス・リースの定義によると,リースの対象が物に限定されていることから,ソフトウエアやシステム,又メンテナンスを含んだリースなどが対象外となってしまうのではないかという意見がございました。典型契約化することで取引の円滑化が進むのか,現行の取引実態を十分に把握してから,慎重に御検討を進めていただきたいと思います。また,会計や税務における取扱いと異なる定義が採用されれば,やはり実務上,混乱が生じるのではないかと思います。 ○佐成委員 本日,机上配布ということで,リース事業協会と日本自動車リース協会の意見書が提出されて,基本的に経済界は典型契約化に対して消極的な意見が強いということは事実でございまして,二つの協会とも典型契約化については消極的であります。ただ,経済界の中ですべての人たちが消極的であるというわけでもなくて,これらの意見書はいずれもリース事業者からのものですけれども,ユーザー側の事業者も当然いまして,それは必ずしも消極的であるわけではないということでございます。ですから,実際,大島委員も今,おっしゃったように若干の懸念はございますけれども,典型契約化をする余地も残していると思います。   特に具体的に御指摘するとすれば,詳細版の53ページの4のところでリース物件が損傷・滅失した場合のリース料の取扱いということで,基本的に両当事者の責めに帰すべきでない事由によって滅失したような場合に,残リース料金,リース料債務を負担するということは当然だと思うんですけれども,現行の実務では期限の利益を喪失させてしまうということになっていまして,この意見書ではそれを損害保険がてん補するので,当事者の意思に合致するということですけれども,必ずしもそういう意見ではない方もいらっしゃって,これは行き過ぎだろうと,そういうような御意見も承っております。 ○加納関係官 ファイナンス・リースの総論のところですけれども,典型契約として規定すべきとの考え方をどう考えるかというところですが,典型契約に関する規定を豊かにしていくという観点からすると,このリース契約について規定していくということは,積極的に考えられてよいのではないかと思いますので,そのように意見を申し上げたいと思います。消費者政策の観点からの一番大きな理由としては,消費者契約法10条の適用の関係が明らかになるというところと思っておりまして,確かにリース契約がこれからビジネスとして発展する可能性を阻害するのではないかというふうな御意見も分からないではないんですけれども,社会実態に照らしてルールを明確化していくということ自体は望ましいものであると思いますし,消費者契約法の適用関係を明らかにするという点でも,メリットとなってくるのではないかと思うと。   ただ,いろいろな視点は併せて検討していく必要があるのではないかと思っておりまして,特に消費者団体などからは逆に消極的な意見のほうが現時点では寄せられておりまして,やはり,リース契約における消費者トラブルといいますか,それが非常に多発しておると。そういう中で,特に中途解約権の規定などを盾にしたリース会社からの対応というのが,紛争解決を困難にするというところがあるというのは意見として聞いておりますので,規定振りについてはよく検討をしていきたいと,私どもとしても検討していきたいと思っております。   どのような点に留意して検討すべきかという11ページの最後の段落のところについてちょっと申し上げますと,(2)以下でいろいろと論点が書かれている,そのこと自体はそれでいいと思うんですけれども,結局,リース契約をめぐるトラブルということで,消費者相談とかでよく寄せられているものとしましては,「参考図」というところでいいますと,ユーザーとサプライヤーの間の①の物件の選定・決定というところで,サプライヤーが非常に不当な説明をすると,本来,必要性がないような電話機について高額のリース契約を組ませるとか,あるいはパソコンとか,このパソコンを買ったら事業を紹介してあげますよというふうな形でパソコンをリース契約させるというようなトラブルというのが非常に多いと。   そういうトラブルが発生した場合に,サプライヤーもどこかに行ってしまうとかということが多いわけでして,ユーザーとリース会社との間でリース契約だけが残って,そのリース料金の支払義務が残るのかというトラブルが起こると。割賦販売法のような抗弁権の接続の適用がないということで,しかも,中途解約ができませんということで,リース会社とユーザーとの間でトラブルが残るというところが実態でありますので,①をどうするかというのが消費者生活の観点からすると,非常に大きいというところでございますので,その辺を検討というか,検討項目として留意していただければ大変有り難いなと思っております。 ○奈須野関係官 ファイナンス・リース契約の典型契約化について,事業者団体から反対意見が寄せられています。お手元にあるのが社団法人リース事業協会及び,一般社団法人日本自動車リース協会連合会からの反対の意見書です。その理由を社団法人リース事業協会の意見要約から簡単に御紹介します。   すなわち,ファイナンス・リース契約自身は,通常は事業者間の取引であって,リース事業協会の標準契約に基づいて,詳細な取り決めがなされているというのが実態ですので,敢えて典型契約として規定する必要性はないとのことです。また,ファイナンス・リース契約というものは,会計上,税務上の特定の仕組みを前提にできているので,今後,社会・経済上の変化に応じて,様々に変わっていくだろうとのことです。これに応じて民法が変わればそれで良いが,実際にそれは難しいということを考えると,差支えが多いとのことです。   こうした反対意見の背景事情を御説明します。リース取引には二種類あり,中途解約が制限され,かつフルペイアウトになっている「ファイナンス・リース契約」と,そのようになっていない,通常,「オペレーティングリース契約」と呼ばれている二種類のリース契約の類型があります。オペレーティングリース契約は,今回の典型契約化の議論の対象になっていないということですが,取引実態からすると,賃貸借に極めて近いということで,恐らくは除外されたのかと思っております。   ファイナンス・リース契約にも二種類あり,最終的に所有権が移転するという条項,あるいはそのオプションが付いている「所有権移転ファイナンス・リース契約」と,それがない「所有権移転外ファイナンス・リース契約」という二種類がございます。このうち,所有権移転ファイナンス・リース契約は,所有権が移転するということが賃貸借とは異なるということで,従来から会計上,税務上も,売買扱いに近い整理がなされています。所有権移転外ファイナンス・リース契約は,従来は賃貸借と整理され,リース料を会計上は経費処理,税務上は損金に算入することができたということです。   しかしながら,平成20年度から会計基準が変更され,300万円以下又は1年未満の短期のものを除いて,売買に準じた処理をして資産計上を行う扱いに変わっています。その理由は,長い間,ファイナンス・リース契約に対して批判があり,売買取引で取得した資産は法定の年限で,定率又は定額で減価償却をしなければいけないことに比べ,ファイナンス・リース契約で取得した資産については賃貸借として扱うことによって,恣意的な会計処理や租税回避が起きているのではないかという批判があったからです。   こうした批判を受け,平成20年度に会計基準が変わり,ファイナンス・リース取引で取得した資産は,売買に準じた処理をして減価償却の対象にする扱いになっています。ただし,中小企業についてはリース料を減価償却費とみなして計上する税務上の処理が行われていますので,中小企業については従来どおり,リース料を費用計上,損金算入することができます。   こうしたファイナンス・リース契約の会計上,税務上の扱いの変更によってか,リース業界の市場規模は縮小しています。今年上半期には扱い残高が最盛期の半分の規模になっています。特に大企業向けのファイナンス・リース契約につきましては,ほとんど新規契約がない状況にまで至っているとのことです。   このような事情を背景として,リース事業協会等から反対意見が出されているものと思われます。こうした中で,ファイナンス・リース契約を賃貸借と異なる典型契約として位置付けることによって,現在,僅かに認められている中小企業向けの処理に影響が及ぶと,業界としての発展が困難になるという事情があるようです。このようにして,ファイナンス・リース契約が使われなくなると,せっかく民法に典型契約として規定しても,その頃までにはファイナンス・リース契約は存在しなくなっているということになりかねません。   例えば社団法人リース事業協会の意見要約の「ファイナンス・リースの基本」という箇所を見ますと,四角囲いの中に,「ファイナンス・リースの法的性質については,基本的な要素は賃貸借的側面にあり,ファイナンス・リース契約は賃貸借を中核とし」と,繰り返し書いています。民法に典型契約として位置付けることによる会計・税務に関する制度への波及と,そのことによるリース業界に対する影響についても,御配慮いただければと思います。 ○岡田委員 消費者向けのファイナンス・リースというのは余りないように感じていますが,消費生活センターには小企業からの相談がたくさん入ってきます。リース契約対しての定義は必要だと思いますが,今回の提案につきましては,既存の約款をそのまま持ってきたような感じで,これですと消費生活センターに飛び込んでくる小企業の人たちは救済されないと思います。   今のお話ですと小企業がターゲットになることは今後さらに増えることになりトラブルも増えることが目に見えています。電話機のリースについて,経済産業省で個人商店等に関して特定商取引法でさかのぼって消費者契約と同じように解釈するという通達を出しました。そのことによって小企業の方々も救済された部分がありますが法律的には有権解釈として明確でない感じで消費生活センターでは処理に限界がかなりありました。消費者ではないけれども,消費者に限りなく近い事業者のことを考えますと,やはりファイナンス・リース契約がどの程度の方々に利益があるのか不明です。何らかの手当てをしてあげないといけないのではないかと思います。 ○松本委員 私は奈須野関係官が正におっしゃったとおり,なぜ,今,リースの需要が急激に減少しているときに,リースを民法の典型契約とするのかというのが,枯れ木を固定しようとするようで,大変不思議なのです。そもそもファイナンス・リースが出てきたのは,税法と会計という外からの誘導の結果だと思うんですね。そのような外からの誘導がなくなった途端に減少していくという,そういったようなものを学問的に面白いからという理由だけで,典型契約としてこの時期に入れるというのは,時宜を失したことだろう。もっと以前にやっていればまだ意味があったかもしれないですが。   他方で,消費者リースというのは,私はインチキだと思っています。そもそも割賦販売法の脱法行為であって,リースと称せば,割販法の抗弁の対抗等々が一切かかってこないというところだけをねらった商法なので意味がない。つまり,事業者であれば,従来,会計上,税務上の優遇があったから,割賦販売等で購入して所有権を取得するよりは経済的なメリットがあった。消費者の場合には税法上,会計上のメリットは何もなくて,単に抗弁が切断されるという不利益のみがある。これは全然トレードオフの関係にならないわけですから,一方的に不利益を押し付けるだけの契約だろうと思います。   ただ,最近,環境問題との関係で廃棄物処理のコストについて所有者負担という部分が出てきていますから,ファイナンス・リースでは最後まで所有権が移転しないので,レッサーが最終的に自分の費用で引き取って廃棄処分をしてくれるという部分のメリットが,ひょっとすると将来的には消費者にとって大きくなるかもしれないというところがあります。その辺をどれぐらい評価するかによって,消費者リースというのを合法化するかどうかの違いが出てくるかなと思います。全体としてファイナンス・リースを民法の典型契約として入れる必要は,今はもうないと思いますし,関係業界も反対している,消費者にとってもメリットはないということで,立法事実はないということかと思います。 ○山本(和)幹事 私は倒産法の立場から,もし可能であれば,規定を置いていただきたいということを申し上げたいと思います。倒産法の局面でファイナンス・リース契約のその取扱いが問題になるということはかねてからあり,最近も比較的重要な判例が出されているという状況にありますけれども,いまだ,その取扱いには不透明な部分が残っていると理解しております。先般の倒産法改正に際しましても,リース契約の取扱いをどのようにするかということについて,倒産法の中で明文の規定を置くべきではないかという議論はかなり有力にあったと思います。しかし,そのときはリースについて民法その他の実体法に明文の規定がないにもかかわらず,倒産法の中でその局面のみについて取扱いを明確にするような規定を置くことは困難であるとして明文化は断念されて,引き続き解釈に委ねるということになったと理解しております。   その意味では,倒産法に何らかの規制を置く必要があるとすれば,前提として民法の中に規定を設けていただければ有り難いということで,民法は他の法律の一般法という性格をやはり持っておりますので,特別法で何らかの規定を置く場合に,民法に規定がないとなかなか難しいという場面があるということは,御理解をいただければと思います。ただ,先ほど来,御議論があるように,もし,ファイナンス・リースというのが減少していくのであれば,特段,倒産の場面でも問題にならなくなるであろうと思いますので,それほど強くは申し上げませんが,残り続けるということ,そのあたりの見通しは私は全く分かりませんので,残り続けるということであれば,何らかの規定を設けていただければ有り難いということです。 ○中田委員 私は規定を置いてもいいのではないかという考えです。一つは,ファイナンス・リースの社会的重要性です。それが減ってきたとはいえ,将来,どのようになるのかはいまだ分かりません。この点については,むしろ,業界の皆様の見通しなどをお聞かせいただければと思います。   それから,二番目にリース契約には契約としての独自性があると思います。賃貸借の面と信用供与の面があるけれども,賃貸借とも違うし,信用供与とも違うということがあると思います。それぞれ,それだけではない。先ほど賃貸借であることを強調しているということがございましたけれども,リース料というのは使用収益の対価とは違うということで,やはり賃貸借とは区別されるだろう,あるいは中途解約の禁止というのもそこに含まれるだろうと思います。他方で,物の利用を伴っているということで,単純な信用供与とも違う。しかも,契約開始後のある段階で法律関係が大きく変わるという独自性もあるということです。   三番目に,今,山本和彦幹事がおっしゃいましたことなんですけれども,倒産法との関係でどのような契約かを示しておくことが安定的な解釈に資するということです。実際,判例も少なくありませんので,そういう需要はあると思います。他方で,懸念としまして,ファイナンス・リースの多様な発展を阻害するということですが,これについてはファイナンス・リースを余り細かく分けて,現在,使われているものをそのまま民法に置くということではなくて,もう少し一般的な規定を置くことが考えられると思います。具体的に申しますと,フルペイアウトに限らない,あるいは現在の会計,税務で規定されたものに限らない,もう少し抽象的なレベルで規定するということが考えられると思います。   最後に消費者保護との関係ですけれども,一つは加納関係官がおっしゃいましたとおり,消費者契約法10条を通じて方向付けをするという意味があるということと,それから,ファイナンス・リース契約についての規定を民法の中で置いて,その中で消費者保護を明確にしておくということと,両方の意味で,消費者保護が図られるのではないかと思います。 ○亀井関係官 一つだけ情報の補足ですけれども,リース事業の将来性に関して議論になりましたので情報だけ提供しようと思いまして発言をさせていただきます。リース事業協会の資料によりますと,民間設備投資額に占めるリース設備投資額の比率の推移は,1978年では2.76%だっものが年々上がりまして2002年には10%を超えるぐらいまでになりました。ただ,その後,下がっておりまして,一番最新の数字で2009年には7.03%となっております。このように,下がってはきているんですけれども,それなりの数字で推移しているというような状態です。 ○山野目幹事 やや比重の小さい観点を一つ付け加えさせていただきたいと考えます。2のところだけではなくて,本来は1のところで申し上げるべきことだったのかもしれませんけれども,民法第398条の2という根抵当権の規定の中の一定の種類の取引という概念との関係で,観点を付け加えさせていただきたいと考えます。従来の登記実務上,民法に典型契約として名称を与えられて,規定が置かれているものを名前に冠した売買取引とか賃貸借取引とかいうようなものは,一定の種類の取引として認められる傾向が強かったような印象を抱きます。しかしながら,その反対の命題,典型契約として載せられていないと,一定の種類の取引として認められてこなかったのかというと,そうではないであろうとも感じます。   申し上げたいことは,1の典型契約にこれからいろいろ筒井幹事がおっしゃったような調査をなさったりして,実質的な検討がされていってよいだろうと思いますし,是非,実質的な検討をしていただきたいと感ずるものでありまして,根抵当権の被担保債権の範囲基準として認められるから立候補しようとか,そういう観点と余り引き付けないで議論をするのがよろしいのだろうというふうなことを申し上げさせていただきたいと存じます。恐らく典型契約になっていなくても,実質的に取引の個々の事象を見て,今までもそうだったと思いますが,登記を扱う当局が今後とも機械的ではない仕方で判断をなさっていかれるであろうと予測いたします。   また,今回の典型契約に関する議論の帰趨がどのようなものであれ,そこでの議論の様子なども参考にしながら,今後の登記実務が進められるであろうと想像しますし,そのことを期待したいと考えます。 ○松本委員 リースの取扱額が今,奈須野関係官の説明でも減っていると。その理由は何かというと,税務当局が方針を変えたから,会計基準が変わったからということであって,今までリースが繁栄していたのは,正にその二つの支えによって,使っている人がメリットを感じていたからなんですよね。その制度が変わった途端に使われなくなるような,言わば法と税や会計とのすき間をうまく使うタイプの新種契約について,民法に普遍的な意味の典型契約として置く意味があるのかという点,これは典型契約とは何ぞやという議論に還元されるのかもしれないんですが,そういう点からいって,先ほど言いましたように事業者としてもメリットがうんと減ってきていて,中小企業にとってはまだ特典が残っているけれども,そこも税務当局が税収増のほうを考えれば変わってくるわけですよね。そうなると中小企業も使わなくなる,消費者向けには脱法行為以外の何物でもないということだとすると使われなくなるわけです。そういったような制度が典型契約に果たしてふさわしいのかどうかですね。 ○高須幹事 本来のというのでしょうか,ノーマルなというのでしょうかね,そういうリース契約が今後,どういう帰趨をたどるかという問題は確かにあるのだろうと思います。しかし,ここでは本来的なリース契約とは別に既に議論の中で出ているように,零細企業等に対する非常に問題性のある商取引の手段としてリース契約が使われることに注意すべきだと思います。こういう状況がある点について弁護士会としても非常に重要視しているわけでございまして,社団法人リース事業協会,今日の参考資料としてこの協会作成のものが提出されていますが,私もそのリース事業協会のホームページを見てみました。そうしたら,小口リース取引に係る苦情というのを受け付けているとありました。小口リースというのは500万以下のリースなんだそうでございますが,平成21年度に4,500件の苦情が協会に寄せられておって,その5割近くがホームページをつくるというようなことをめぐるトラブルであったり,あとは電話機等のトラブルであったりするとのことです。   今日の議論の中でも松本先生がおっしゃられましたように,あるいは割賦販売法とか特定商取引法の問題なのかもしれません。それによって解決を目指すべき問題なのかもしれないのですが,ただ,先ほど来,今日の議論の中で出てきた典型契約というのは私的自治のお手伝いだという部分,私はすごくその言葉に共感に感じたのですが,そういうことを考えたときに,全部が全部,そういう特別法でいいのかどうか,やはり本来のリース契約というのはこういうものではないのかというのが,民法の典型契約の中にあってもいいのではないかという考えもまだ捨て切れずにおります。その意味では,いろいろな議論を通じて最終的には民法から落として特別法にということがあるのかもしれませんけれども,とりあえず,議論としてはこの部会の中で議論する価値があるのではないかと思っております。 ○鹿野幹事 三点,申し上げたいと思います。   一つは,およそファイナンス・リースというのが典型契約として必要なのかということについてです。私は,ファイナンス・リースは,第一に,もはや従来の賃貸借の変型としてはとらえきれない性質を有し,そのような意味で独立性があるということ,そして第二に,これにつき従来,相当数の利用があったという社会的な事実の存在を前提として,新たな典型契約として設ける必要性があると考えられたのではないかと認識しておりました。ところが,今後,その利用が激減する傾向にあるということだとすれば,これを今あえて新たな典型契約として設ける必要性がどこまであるのかにつき,再度検討する必要があるのかもしれません。   それから,二つ目は,仮にこれを設けるとした場合についての意見です。リース契約は,基本的にユーザーとリース会社との間の契約であるということについては異論ないのですが,しかし,この契約に関してサプライヤーが重要な役目を果たしていることも事実です。そこで,少なくともサプライヤーの責任について明らかにすべきだと思われますし,それも含め,ユーザーの権利がどうなるのかということについて,きちんと規定しなければならないように思います。この資料の記載では,ユーザーの義務ばかりが押し出され,ユーザーの権利が明確ではありません。売買契約はリース会社とサプライヤーとの間でなされるけれども,従来の実務つまり約款上多くは,リース会社が取得した買主としての権利はユーザーに移転し,それをユーザーがサプライヤーに対して行使できるということが予定されていたのではないかと思います。もしこのファイナンス・リースを典型契約として立法するのであれば,むしろ,法律上正面からユーザーの権利を明確にしていくべきであって,その点で資料に掲げられた提案は検討すべき事項が十分に採り上げられていないような気がいたしました。   それから,第三点は,消費者リースについてです。先ほど松本委員から,消費者リースというものが,割賦販売法の適用を回避するための言わば脱法的な手段として用いられてきたという趣旨の御指摘がありました。これにつき特に問題となってきたのは,抗弁の接続に関する規定の適用回避だと思います。私は,消費貸借のところで抗弁の接続が議論されたときにも少し申し上げましたが,抗弁の接続の規定は,消費貸借に限定した形で置くのではなくて,これを民法に置くのであれば,そのような一種の脱法を許さないような形で,より一般的な形の規定を置くということが工夫されてよいのではないかと思います。これは,ファイナンス・リースを典型契約として設けるかどうかということとは別に,検討されてよいのではないかと考えております。 ○潮見幹事 消費者リースについては,鹿野幹事がおっしゃられたのと同意見でして,ここに規定を置くかどうかとは関係ないと思います。それとは別の話で,ファイナンス・リースの典型契約性ですが,山本敬三幹事が言われたところの典型契約というものをどうとらえていくのかという目で見たとき,取引の基本的な仕組みであるから,民法の中に典型契約として置くべきであるという観点からファイナンス・リースを民法典の中に規律するという可能性と,これとは違って,現代社会において重要な意味を持つもの,現代社会のニーズに沿ったものは積極的に取り込んでいくという観点から,ファイナンス・リースというものを典型契約として取り込んでいくという可能性と,可能性としては二つあるわけです。後者の可能性からいうと,松本委員がおっしゃったように,ファイナンス・リースはいずれ重要ではなくなっていくようなものであれば,今,民法改正するときに果たしてこういうものを典型契約として規律する必要があるのかという点に対しては,かなり大きな疑問が出てくると思うのですが,しかし,ここで提案としてこのようなものがあるという形で示されている内容は,どちらかというと前者,つまり取引の基本的な仕組みというものを考慮に入れたときに,現在,ファイナンス・リースと言われているようなものが持つ基本的な仕組みに目を向けて,それを基本的なルールあるいは制度として設計して規定するという積極的な提案ではなかろうかと思います。高須幹事がおっしゃったのも,そういう観点からの御意見ではなかったかと思います。そうだとすれば,後者の視点から見ると,ファイナンス・リースというものを民法典の今の規定の中に設けることについては,必ずしも否定的に解するべきではないと思います。 ○岡委員 最初に,消費者リースだけではなくて,零細事業者もかなり被害を被っているという声が弁護士会で相当ありました。その観点から,このファイナンス・リースの立法の資料の中に,そういう被害が現にかなり出ているということが1行も出ていないことに非常な不満といいますか,立法する態度としていかがなものかと。現実問題,被害があることを踏まえて前に進まないと,幾ら基本的な考え方,パーツ,抽象的な議論といっても,現に被害が出ていることを直視しない立法態度というのはいかがなものかと,そういう大きな批判がございました。   二番目に,その観点からいきますと,ファイナンス・リースを典型契約化するのに絶対反対ではないんですけれども,小口リース,零細事業者に対するリースの被害について,こういう手当てをするからやるんだと被害救済とセットで考えない限り,現代の立法,新しい分かりやすい民法をつくるやり方として反対であると,そういう意見が強うございました。   その次に,どういう規定を置けば,そういう零細事業者あるいは消費者を救えるのかと,そこを考えないといけないわけですが,先ほどから出ているサプライヤーの責任,サプライヤーが倒産あるいは逃げたときの責任,抗弁の接続,中途解約のあたりの問題だろうと思います。そうすると,任意規定ではなくて何か強行規定を置かざるを得ない。そのときには抗弁の接続か,密接関連当事者の法理を何か導入するのか,そこはまだ弁護士会としても検討中でございますけれども,民法の中にも現に出ている被害を救済,あるいはそういう被害を出さないような装置をビルトインさせるべきであると,そういう意見がございました。   最後に,ここに書いてある規定はファイナンス・リースに関するものです。先ほどおっしゃっていたオペレーティングリース,車のメンテナンスリースなんかはそうなんですけれども,現実問題としては先ほどの賃貸借に属する性質を得たいのか,実需もあるのか,かなりサービスの契約を組み込んでいる感じがいたします。車なんかは契約終了時の残価がたっぷりありますし,日々,5年間の税金をリース会社が継続的に払うというサービスもミックスされておりますし,先ほど松本先生がおっしゃったリース目的物を契約終了後法律に従ってきちんと処理しますとか,あるいはリース目的物に関する償却資産税をまとめてリース会社で納めますとか,そういうサービスがかなりいろいろな程度で組み込まれてきていますので,そういう複合化した契約が多いときに,最近少なくなりつつある純化したファイナンス・リースについてだけの典型契約化で本当にうまく規律できるのか,そこに疑問を持ちました。 ○道垣内幹事 世の中でたくさん行われている種類の契約を典型契約として載せるというのではなくて,ある特殊な,他のところにはない仕組みないし要素が入っているというものを典型契約類型として載せるという考え方もあり得るというのが,終身定期金のところでも議論になったわけですけれども,ここにも同じような問題があるような気がするんですね。つまり,ファイナンス・リースについて規定するというのは,ファイナンス・リースについて規定する,規定しないという二者択一の問題なのか,ということでして,物の使用が行われているのだけれども,そして,その間に使用している者から所有者なら所有者に対してお金が支払われているのだけれども,しかしながら,それは使用の対価として支払われているのではないというふうなタイプの合意があるということを正面から認めるような規定を置くべきか,という問題は,先ほどの二者択一問題とは別のレベルに位置づけられるように思うのです。   なぜ,そのようなことを思うかというと,譲渡担保にせよ,所有権留保にせよ,かつては賃貸借契約というのが並行して規定されているという契約書が使われたことだってあるわけでして,そのときでも,所有権留保において賃貸借であると合意をしていても,使用ができなくなったら払わなくていいのかというと,払わなければいけないとなっていた。譲渡担保であっても,その間,ずっとお金を払うということにはなっているわけですけれども,物が滅失したら,逆にあわてて今度は全部払わなければいけなくなるわけであって,払わなくてよくなるというわけではないわけですよね。したがって,使用している者が所有者に対してお金を支払っているのだけれども,それは使用収益の対価としてではなくて,使用収益というものができなくなっても存続するのだということは,ほかのところにもあるような気がするんですね。   多分,もう一つ残っているのは,売買契約というものがユーザーとサプライヤーとの間に存在しないにもかかわらず,ユーザーがサ,あたかも買主のような権利を,サプライヤーがあたかも売主であるようなかたちで有するという問題です。それについてはまだ私は十分に考えていないのですけれども,ファイナンス・リースというふうな形で置くべきなのか,それとも,使用収益とお金の支払いというものが対応関係にないという場合というのを認めるという規定をどこかに置くべきなのかというのは何か違う気がして,つまり,×か○かではなくて,実は真ん中にもポシビリティというのはあるのではないかなという気がします。自分自身,発言しながらよくまとまっていない曖昧な意見だなと思いますので,恐縮ですが, ○山野目幹事 今の道垣内幹事のお話は大変よく分かりましたし,しゃべりながらよく分からないとおっしゃるほど分からなくはなくて,明快であったと感じます。定期借地権が設定されるときに,全期間の賃料を前払いしておくという計算を前提にした上で,土地使用の対価ではない金額を割賦で支払うという開発事業方式がありまして,そういったものとの間で通有性を有する法律関係処理について,何か普遍的,一般的な規定を置くことは考えられるのではないかというふうな発想にもヒントがある,そういうお話であったものと受け止めます。   ただし,少し道垣内幹事にお尋ねしたいと感じたことは,それは規定がないとできないんでしょうかね。それはそうではないかもしれないけれども,しかし,典型的なイメージを民法典に掲げておくという意味であったほうがよいというお話なのか,そこだけ今後の検討の関係で確認させていただきたいと感じましたものですから,もし御高見があったらお教えいただきたいと望みます。 ○道垣内幹事 御高見に対する反対語としての御低見しかないのですけれども,終身定期金にはやはり微妙なところがあって,あれはフランス的な発想で,対価のコーズがあるのかないのかみたいな話があって,特にあのような明示の規定がなければ,そもそも幾ら払うのか分からない合意ができるのかという問題が多分,私は十分に勉強していませんが,あるのではないかという気がするんですね。しかるに,果たして日本法では書かなければ,そういうふうな合意というのは認められないのかというと,ちょっとよく分からないところがあります。ファイナンス・リースについても同じような気がして,日本法においてぎりぎり詰めていったときに,書かなくてもそういう合意が認められることになるかもしれませんが,そうだとしても,なお,そのような支払方式というものがあるということを書くということは,妨げられないのではないかという気がします。だから,日本法でそのような合意が不可能かと言われると,不可能ではないのではないかと思うのですが,それは考えてみると終身定期金も同じかもしれないという気がします。 ○中井委員 先ほど岡委員から弁護士会の意見を述べていますが,若干,補足します。このリース契約の典型化については消極意見が多いわけですけれども,それは奈須野関係官がおっしゃった事業者側からの理由とは正反対で,むしろ,松本委員等がおっしゃるところからの理由です。仮にリース契約を典型契約化したときに想定するのは,現在,消費者リースもしくは小口の事業者リースで生じている問題に目は向けてくださいねということです。   事業者間契約のほとんど多くは正常なといいますか,全うなリース契約でしょうから,その部分を純粋化抽象化した規範を設けたとすると,先ほどから問題視されている消費者リースや提携リースなどのリース契約に同じ規律を適用するとやはり問題が発生するだろう。この事実について目を向ければ,仮に典型契約化するとしても,瑕疵修補請求ができない,抗弁の切断がある,瑕疵があっても中途解約もできないとすれば問題の解決にならない。とすると,そういうことについての問題解決できるように,ユーザーはリース会社に対して,原則瑕疵修補請求はできない,中途解約もできないけれども,例外的にできる場合があることが明らかにされなければならない,リース会社でなければサプライヤーに対して権利行使ができる,そういったことを典型契約の中に書き込まなければならないのではないか。   仮に現在,使われている事業者間契約の基本規律と異なったものとするならば,通常の事業者間の場合は合理的な特約をつくって,特約によって現在のリース契約がそのまま存続することになる。もちろん,それであっても当事者間の別途の合意には限界があるわけで,そこを強行法規にするのか,消費者契約法10条での救済を図ることができることを前向きに評価するのかという問題かと思います。   修補義務,瑕疵担保,中途解約のほかの細かな論点ですけれども,双方の責めに帰すべき事由がなくて目的物が滅失したときの残リース料の支払義務のあり方についても,現在利用されている契約書どおりでいいのか,債務不履行解除の場合に,残リース料の一括支払いになりますけれども,そのときのリース物件との精算の仕方についてもそのままでいいのか。 慎重に御検討いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 あと,御提案もよろしくお願いいたします。   ほかにはよろしいでしょうか。いろいろと有益な御意見をいただきました。ファイナンス・リースを典型契約にすることの必要性と,それから,仮にするとしたら,どういう点について配慮すべきかということについては,大変有益な御意見をいただきました。また,最初にも申し上げましたように,ファイナンス・リース以外の新種契約について,どういう対応をすべきかという点については,なお議論はオープンでございますので,様々な形での御提案をいただければと思っております。 ○内田委員 先ほど大村幹事から新種契約について,外国で新たに追加した例,また,その理由が何であるかといったことについての調査も必要であるというご意見がありまして,委員,幹事の先生方の御協力を得ながら,できればそのような調査も進めたいと思いますけれども,本日,事前に配布できなくて申し訳なかったのですが,机上配布の部会資料18-2の別紙,比較法資料の34ページ以下に,新種契約についての外国法に関する記述がございます。まだまだ不十分なものですけれども,特にフランス語系の民法について,なかなか興味深い分析がなされておりまして,これは若い研究者の方にお願いして作っていただいたものですが,御参考までにアナウンスしておきたいと思います。 ○岡委員 新種契約のところで医療契約というのは重要だろうと思っています。先ほども発言したんですけれども,判例がかなり出ておりまして,地方の中核的な医療機関の場合には高度な義務が生ずるとか,一定の場合には転移義務があるとか,具体的な指針になりうる規律がある程度明らかになっていると思います。実務家から見ると報酬の支払時期だとか任意解約権とか,そんな問題ではなくて,医療契約の債務不履行の債務についての確定判例のリステートメントなんかがあると,相当便利だなという気はするんです。国民に分かりやすい法律で,なおかつ判例が確定しているものを国民にも諸外国にも分からせるということであれば,例えば医療契約の債務不履行のかなり確定したものを国民に分かりやすく表現することはどうなんでしょうか。これはかなり有益だと思うんですが,それが民法という法律なのか,リステートメントみたいになるのか,その辺はどう考えたらよろしいんでしょうか。 ○鎌田部会長 と同時に,医療機関の注意義務の議論は,債務としてまとめられてきているのか,不法行為上の注意義務の議論になっているか,後者のほうが裁判例としては圧倒的に多いような気もしますが,その点も判例の無名契約その他の調査の中で出てくれば,御報告がいただけるようにも思いますが,御指摘の点も踏まえて検討させていただきます。   参考資料8-1及び次回の議事日程等について,事務当局から説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 まず,本日,机上にて配布いたしました参考資料8-1について御説明いたします。これは,約款に関する実態調査の質問予定事項です。約款については,第11回会議において,その使用の実態を把握する必要があるとの御指摘があったところです。そこで,これを踏まえ,経団連と商工会議所に御協力をいただきまして,様々な企業から約款の使用の実態等について御回答をいただこうと考えております。この質問予定事項につきましては,これまでのものと同様に,お気付きの点がありましたら,この場で,あるいは後日でも,是非お伝えいただきたいと考えております。その上で,最終的には事務当局に御一任いただきたいと考えております。 ○佐成委員 経団連に協力を頂くということですけれども,これはこれでよろしいんですけれども,事業者としては複数の約款を使っていることが非常に多いものですから,ちょっとそのあたりを注か何かで入れていただいたほうが答えやすいのではないかなという,そういう印象でございます。 ○筒井幹事 分かりました。後日,改めて調整させていただこうと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見は,この点につきまして,ございますか。 ○筒井幹事 次回会議の日程は,11月30日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所はいつもと異なり法務省地下1階大会議室です。ふだんとは会場が異なりますので,お間違いのないようにお願い申し上げます。   次回の議題ですけれども,スケジュール上は,その他の個別的課題となっておりますが,これまでの部会資料で取り上げていなかった個別的検討課題を拾い集めて,御議論いただこうと考えております。具体的に,現在準備を進めております項目を申し上げますと,債権の目的,法定利率,事情変更,不安の抗弁権,損害賠償額の予定,契約の解釈,第三者のためにする契約,継続的契約等,法定債権に関する規定への影響,こういった項目を予定しております。以上の項目について,いつものように事前に部会資料を送付させていただきます。よろしくお願い申し上げます。   それから,次々回の第20回会議では,個別的課題の検討が一巡した後の全般的な検討課題として,事業者,消費者などの概念を用いた規定をめぐる諸問題や,債権関係の規定の編成の在り方などを取り上げたいと考えております。このうちの後者の編成問題に関しては,公表されている立法提案を部会資料で紹介しようと考えておりますけれども,それ以上に掘り下げた詳細な説明を事務当局で用意することには,困難を感じております。そこで,委員,幹事の皆様,とりわけ民法研究者の先生方には,この編成問題に関して御意見をお持ちでしたら,現在の編成を改める方向にせよ維持する方向にせよ,積極的に御発言いただきたいと思いますし,その際に発言内容を補充する書面などを御用意いただけるのであれば,大変有り難いことだと考えております。よろしく御協力をお願いいたします。 ○鎌田部会長 よろしくお願いします。   何か特に御発言はございますか。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   本日は御熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。 -了-