法制審議会民法(債権関係)部会           第16回会議 議事録 第1 日 時  平成22年10月19日(火) 自 午後1時00分                        至 午後6時11分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第16回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。    (委員の異動紹介につき省略)   では,配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として,部会資料17-1及び17-2をお届けいたしました。正確に申しますと,17-2のうち比較法部分は本日席上配布となってしまいました。資料の送付が遅くなり申し訳ありませんでした。また,本日は,前回,前々回の会議用に配布済みの部会資料15-1,15-2,16-1,16-2も併せて使わせていただきます。以上の資料の内容は,後ほど関係官の大畑,亀井,笹井,松尾から順次説明いたします。   このほか,机上には参考資料4-2を置かせていただきました。これについては,本日の会議の最後に触れたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議に入ります。   本日は,まず前回御審議いただいた賃貸借に関して補充的な御発言を頂いた後に部会資料15-1の贈与の部分及び部会資料16-1の使用貸借の部分を御審議いただき,その後に部会資料17-1について御審議いただく予定です。具体的な進行予定としましては,賃貸借,贈与及び使用貸借を休憩前に御審議いただくことを予定いたしております。その後,休憩を挟みまして部会資料17-1について御審議いただきたいと思います。また,本日も審議対象が大変広範,多量にわたっておりますので,円滑な審議に御協力をお願いいたします。   それでは,前回の部会の最後で,時間の関係で発言できなかった方については今回の冒頭で御発言いただく時間を確保するとお約束申し上げましたので,賃貸借について前回発言できなかった方は追加の御意見を簡潔に御発言いただければと思います。よろしいでしょうか。 ○高須幹事 簡潔に申し上げます。終了時の原状回復義務の範囲につきまして先般,最後のほうで議論をさせていただいて,判例等で問題になっている通常損耗については,これは賃借人の負担に帰すべきではないという議論をしたと思うのですが,「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」という国土交通省の平成16年作成のガイドラインですと,いわゆる賃借人の通常の使用により生ずる損耗である通常損耗とは別に建物,設備等の自然的な劣化損耗等の範ちゅうに属するものを経年変化という用語であらわしております。そして,その経年変化と通常損耗の両方について,本来これは賃借人の負担に帰すべきものではないと。このような形で国土交通省では整理をされているようですので,今後の立法化に当たっても,その点を配慮して御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   よろしければ部会資料15-1の13ページから19ページまでの「第6 贈与」について御審議いただきます。事務当局に説明してもらいます。 ○大畑関係官 まず,既に御説明申し上げた点ですが,部会資料15-1と15-2の関係,また冒頭の「1 総論」の位置付けにつきましてはこれまでと同様です。そこで,ここでは部会資料15-1の第6の2以降に掲げました個別論点について御説明いたします。   まず,2は無償契約である贈与について契約の法的拘束力を認めるためには目的物の交付や書面の作成等を必要とすべきという考え方について御審議いただくものです。これは他の無償契約にも関連する問題ですので,その点も踏まえまして御意見を頂ければと思います。   また,関連論点では1において条文の文言を通説に従って整序するという提案を,2において冒頭規定の規定方法を現行の効力発生要件を規定する方式から定義規定に改めるという提案を取り上げました。このうち2は典型契約全般に共通する問題ですので,その点も踏まえまして御意見をいただければと思います。   次に,3では書面によらない贈与の撤回における書面の内容について,基本的に契約書の作成を必要とするなど厳格化し,そのことを条文上明確化すべきという考え方を取り上げました。この考え方は書面要件を比較的緩やかに認定する判例の傾向を改める考え方と言えますので,御意見を頂きたいと思います。   関連論点では,負担付贈与の負担が履行された場合,贈与者は撤回できないということを明文化すべきという考え方を紹介しました。   次に,4では贈与の担保責任について,現行規定では基本的な法律関係さえ不明確なままであるとして,その法的性質を踏まえて要件効果を明確化すべきという考え方を取り上げました。具体的には売買と同様,原則として債務不履行の一般原則に一元化する考え方が提案されていますので,御意見を頂きたいと思います。   関連論点では,他人の権利の贈与者は原則として他人の権利を自ら取得する義務は負わないという考え方を取り上げました。   次に,5では(1)で負担付贈与の担保責任についての一般的な解釈を明文化する考え方を,(2)で負担付贈与に双務契約の規定の準用を認める民法第553条の削除を検討すべきという考え方を取り上げています。   次の6は,死因贈与に準用される遺贈の個別規定を明確化すべきという考え方について御議論いただくものです。   そして,7の(1)では無償契約である贈与の予約について一般規定を設ける考え方がありますので,規定の必要性等について御議論いただきたいと思います。(2)では背信行為あるいは忘恩行為を理由とする撤回解除の規定を新設するという考え方を取り上げました。判例学説の傾向の明文化を試みるものと言えます。関連論点では,規定を設ける場合に検討すべき論点を列挙しましたので,現時点で御意見がありましたら頂きたいと思います。(3)では解除による原状回復義務の目的物が滅失,損傷した場合の贈与の特則という問題を,また関連論点では背信行為等を理由に撤回等をした場合の原状回復義務について更に特則を設けるべきという考え方を取り上げました。いずれも発展的な論点ですので,現時点で御意見がありましたら頂きたいと思います。そして,最後の(4)は贈与が無償契約の典型であることを重視し,贈与の規定をその性質に反しない限り,他の無償契約に準用するという包括規定を設けるべきという考え方を取り上げました。贈与の規定と他の無償契約の規定の検討を経た上で検討すべき論点であるとも思われますが,現時点で御意見がございましたら頂きたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。それでは,ただいま説明がありました部分のうち,まず「1 総論」について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○奈須野関係官 総論的な話として,部会資料では,贈与がどのような場合に行われるかということの基本認識について,「贈与者の受贈者に対する恵与,好意,感謝,義理等に基づいて行われることが多い」という認識がなされています。   しかし,実際のビジネスにおいては,最近は「フリー」のビジネスモデルといった,無料で製品サービスを供給することによって次のビジネスチャンスを拡大していくということが広く流行しています。例えば,携帯電話あるいはソフトウエアなどは,多くの場合は無料で提供されています。贈与とは少し違うかもしれませんが,テレビ放送も民放については無料と言えるかと思います。   こういうものは「恵与,好意,感謝,義理」というものとは無関係に存在しているわけですから,実際のビジネスに即した認識に立って,この贈与の規律は考えるべきだと考えております。具体的な内容については後で申し上げます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○岡本委員 ここで申し上げるのが適当かどうか分かりませんけれども,ほかに申し上げるべき機会がなさそうなので申し上げたいと思います。   無償行為ということの関連なんですけれども,以前,一人計算のところでもちょっと触れましたけれども,無因の債務負担行為といいますか抽象的債務負担行為といったものの効力をどういうふうに考えるかといった論点についてでございます。この点が実務上問題になることはそれほど多いわけではありませんけれども,たまに商品組成を考えるといったときに問題になってくることがあります。無因の債務負担行為,この効力を否定する考え方もあるようですけれども,これが有効であるということが明らかになるような手当ができたらと希望したいと思います。無因であっても,当事者が真にそういうふうな債務を負担するという意思があるのであれば,それを認めても差し支えないと考えますし,仮にその意思表示に瑕疵があるのであれば,その意思表示の瑕疵の規定で対応すれば足りるのではないかと思っております。   贈与契約を有効にすることができるといったところは異論ないところだと思いますけれども,そうであるとすると,無因の債務負担行為,これも認めて何ら差し支えないのではないかと思うところでございます。   それから,何をもって原因と言うのかといった点もいま一つよく分からない問題があるのではないかと思いまして,それであればむしろ端的に無因の債務負担行為,抽象的債務負担行為,これも有効であるということを認めていただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○大村委員 今,直前にお二人の方から御発言がありまして,それぞれ問題提起として興味深いものを含んでいたと思って伺いました。最初の奈須野関係官のおっしゃることはもっともで,贈与が経済的な取引の広い意味での一部として行われている場合について配慮する必要があるというのはそのとおりだろうと思います。他方で,部会資料に書かれているように,市場における経済的取引としてではなく贈与が行われるということも極めてしばしばありますので,そのバランスを取って規定を設ける必要があろうかと思います。今般の債権法改正は全体として経済的な取引の現代化にどのように対応するかという観点で行われておりますけれども,債権法は言うまでもなく一般の私人の非取引的な関係にも適用されるものでございますので,その点も十分に考慮に入れて臨むことが必要かと思います。それが第一点です。   それから第二点ですが,抽象的な債務負担行為についてですけれども,抽象的な債務負担行為を認めることが必要な場合があるということはそうかもしれないとも思いますけれども,単なる合意で債務を負担するということを認めることが民法の体系全体との整合性で問題を生じさせないのかということについては十分な配慮が必要かと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   よろしければ,またいつもと同じでございますけれども,2以下の個別論点の議題に進ませていただきたいと思います。お気付きの点がありましたら,そのときにまた総論的な課題についても御発言いただければと思います。   「2 成立要件の見直しの要否(民法第549条)」及び「3 書面によらない贈与の撤回における書面要件の明確化(民法第550条)」について御意見をお伺いいたします。 ○山本(敬)幹事 まず,一番最初に,「成立要件の見直しの要否」のうちの関連論点の2についてお話しさせていただければと思います。この点は,これまで既に典型契約を扱っていますので,順序が逆のような形になってしまいましたけれども,ここで改めて指摘をさせていただきたいと思います。   結論としては,部会資料に書かれていますように,現行法の定め方を変えて,定義規定の形式に統一するという考え方を支持したいと思います。   その理由として,部会資料では,「まずは当該契約の定義を設ける方が,契約各則全体の分かりやすさの観点から望ましい」ということが挙げられています。これは全くそのとおりだと思います。   その上で更に,もう少し体系的・理論的な観点からする考慮も付け加えておきますと,まず前提として,契約に効力が認められる根拠は,厳密に言いますと,「契約,あるいは法律行為をすれば,原則としてその効力が認められる」という基本原則に求められます。この審議会でも,法律行為について検討した際に,「法律行為の効力」について,「法律行為は,この法律その他の法令の規定に従い,意思表示に基づいて,その効力を生ずる」という基本原則を冒頭に定めるという考え方が示されていました。   その上で,それに加えて典型契約に関して冒頭規定を定めるとしますと,この基本原則によって効力が認められる「法律行為」を具体的に示して,それがどのようなものであるのかということを定義するものとして位置付けるべきではないかと考えられます。もちろん,このように考えましても,冒頭規定で定義された契約が実際に行われたかどうかということを判断する必要があることに変わりはありません。ただ,そのようにして実際に行われた契約が効力を有する根拠は,先ほどの基本原則に求められるという説明になると思います。   このような整理をしておきますと,いわゆる無名契約が効力を有することの説明が簡単になります。無名契約については,典型契約のような冒頭規定に当たるものがありません。しかし,そのような無名契約に効力が認められることは,それが法律行為に当たる限り,先ほどの基本原則によって基礎付けられることになります。   この点について,現在どのような説明がされているかといいますと,要件事実論で支配的といいますか,実務で前提にされていると言われているいわゆる冒頭規定説という考え方によりますと,典型契約の効力発生根拠は冒頭規定,無名契約の効力発生根拠は現在の民法91条という説明になっていまして,どうもすっきりしませんし,時として混乱した説明がなされることもあるようです。典型契約の効力発生根拠が91条ではなく,冒頭規定とされるのは,やはり「その効力を生ずる」という今の冒頭規定の書き方に影響を受けていると推測されます。   このような理解を体系的・理論的に整理し直すためには,効力発生根拠に当たる規定とそれぞれの契約類型の定義規定をそれぞれそれと分かるように書き直すことが望ましいと考えられます。冒頭規定を定義規定とすることには,このような体系的・理論的な意味もあるということを指摘しておきたいと思います。 ○山野目幹事 同じく関連論点の2につきまして,山本敬三幹事がおっしゃったことと結論として同じ趣旨のことを申し上げさせていただきたいと考えます。ただし,そのように申します際に,それに先立って申し上げたいことといたしまして,現在採られている文体はよく考えられたものであるということも申し上げておきたいと感じます。それぞれの契約の本質的な部分を簡潔に示すとともに,その契約が要物契約であるか諾成契約であるかなど契約の成立要件の在り方を伝えるという役割を担っています。現行民法制定後に学界では契約の本質的部分の意義や見極めに関する研究が深められましたし,また,訴訟における攻撃防御の構造を考える上で冒頭規定が指標として果たしてきた役割も見逃すことができません。それらの意味において,冒頭規定を大切にするという姿勢を私たちは受け継いでいかなければならないと感じます。   その上で申し上げますと,これからの見直しにおきましては,部会資料で示唆されております定義規定の方式にすることがよろしいと考えます。例えばそれぞれの契約の当事者を何と呼ぶかということは,法律家のみならず一般市民にも概念を共有してほしいと感じますが,契約の成立のストーリーを書きあらわす現在の文体では「売主」,「贈与者」,「賃貸人」などの言葉が冒頭規定の次の規定以降にならないと登場いたしません。また,これは消費貸借,寄託,使用貸借などの審議の様子を見守らなければなりませんけれども,今般見直しにおきましては,現在は要物契約とされているものを大幅に見直す可能性がございます。もしそれを前提とすることが許されるのでありますれば,契約の成立要件を表現するということが冒頭規定の文体の選択に与える負荷は更に小さいものになるということを申し添えたいと考えます。   関連して申し添えますと,このように冒頭規定を大切にしていこうという姿勢から申しますと,そのことと論理的に直結するものではありませんが,方向といたしましては,抽象的,無因的な債務負担約束を正面から認めるような考え方を導入することについては十分に慎重であっていただきたいという先ほど大村幹事がおっしゃった御意見に私も同調したいと考えます。 ○松本委員 中身の議論というよりは,なぜ贈与のところでこの論点が出てきたのかというのがちょっと理解できないので,事務局に何で売買のところでこの議論をしないで,贈与のところで出てきたのかについて御説明願いたい。 ○筒井幹事 現在の典型契約の規定順で冒頭にあるのが贈与であるためで,それ以上の理由はありません。部会資料で売買を先に取り上げたのは,その規定内容についての実質的な検討をする際に,売買から始めたほうが資料も作りやすいし,議論もしやすいであろうと考えたということです。 ○松本委員 その程度の話であれば売買のところでやったほうがよかったわけですよね,この議論は。はい,分かりました。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○深山幹事 今のお話とは違うことで,現行法の550条の規定に出てまいります撤回という用語について,私自身の不勉強もあるのかもしれないんですけれども,この撤回というものが何なのかというのがいま一つ分かりません。本日配布の部会資料でも現行法の条文に出てくる撤回という用語はずっと出てきますし,ただ他方,解除という用語と並んで出てくる場面も多くて,この後議論になるのかと思うんですけれども,例えば諾成的な贈与契約を認めた場合に任意解除権がどういう要件でできるかというようなことを議論する際に,その任意解除権と撤回とはどう違うのか,同じなのか。あるいは取消しという制度があるわけですが,この取消しと撤回というのが同じなのか違うのかという疑問です。遡及的な効力があるかないかで使い分けをするという説明を以前聞いたことがあるような気もするのですが,そういうことなのか,そうでもないのか。いずれにしろ,この撤回という用語を今後とも新しい民法に使うかどうか,使うとしたらどう使い分けるのかということについて御検討いただきたいと思います。あるいはもう既にそれは研究者の間では常識になっているのであれば教えていただきたいと思います。 ○奈須野関係官 同じく撤回の話ですが,書面によらない贈与の撤回における書面要件の明確化の話に関しまして,書面要件を厳格化していくという方向性の提案については,反対します。   例えば,大学への寄附金,あるいは被災地への義捐金,ふるさと納税,こういった贈与に類する行為をインターネット上で募集する場合を考えると,通常はその決済はクレジットカードの方式によることが考えられます。   そして,クレジットカードによる決済として意思表示があった後,これは電子的になされるわけですが,これを受けて決済事業者が支払をした後で,「これは書面によらない同意であるため撤回する」ということになると,クレジットカード会社は非常に困ることになります。このことが,現在,寄附金あるいは義捐金といったものがインターネット上で行われにくくなっていることの一因となっています。   昨今,情報技術の進展によって,我が国においても「寄附金文化」というものが広がっていく可能性が高まっています。例えば,先般の宮崎県の口蹄疫被害の復興支援について,ヤフーだけで3,600万円の募金が集まったように,相当の金額を短い間で集めるということについて,電子的な方法は今後非常に重要な役割を果たすのではないかと考えられます。ところが,書面によらねばならないということで電子的なものが含まれないことになると,こういったものの発展が阻害されるのではないかと考えます。   ちなみに,このヤフーの口蹄疫被害の復興支援については,パソコンの壁紙を好きな金額で購入し,その対価として金銭の交付をすることによって,これは贈与ではなくて売買であるという処理をして撤回を防いでいるということです。本来的にはそういったことをせずに,贈与は贈与として扱える仕組みが期待されていると思います。 ○高須幹事 今の御発言を踏まえてでございますが,御趣旨がよく分かりました。その意味では大事なことだと思っているのですが,考え方としてはもう一つあって,あくまで書面を要求するということにした上で,その書面性について,部会資料の詳細版にも論点として出ておりますが,電磁的記録によるものを書面として認めていくという方向もあっていいのではないかと思います。頂いた部会資料では,やはりまだ電磁的記録の場合には軽率になされることが多いのではないかということで,書面を要求している趣旨に合わないのではないかという記載があります。確かに私の世代は御指摘のとおりだと思うのですが,だんだんこれから若い人の世代になっていくと,書面と電磁的記録の差を決定的に設けていくという時代ではなくなっていくのではないか。したがって,電磁的記録でも慎重に行われるような仕組みを作ることによって,書面と同じような意味合いを認めていくということができるのではないかと思います。そういう意味で,書面要件を設けること自体を否定するのではなくて,書面に電磁的記録も含むというような形での理解のほうがこれからの民法としてはいいのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 関連して御発言ございますでしょうか。 ○中田委員 別の論点でもよろしいですか。部会資料15-1の14ページの関連論点1の②,贈与の目的を財産としているのを財産権に改めるべきであるということについて意見を申し上げます。   この中で,現在は贈与契約は売買と同様,財産権移転契約であると理解されているという御説明がありますけれども,この意味が少しはっきりしないような印象があります。少し前までは用益物権の設定や債務免除が贈与だというのは通説的な理解であったと思います。現在の教科書やコンメンタールでもこういった説明をしているものが少なくないわけです。もちろん贈与について財産権の移転にしか言及しない教科書も多いのですけれども,だからといって例えば用益物権の無償設定が贈与でないと言っているわけではないと思います。もちろん財産権の移転が贈与の中心であることは間違いないわけでして,それを中心に考えていくということには異論がございません。   問題はその周辺にある行為をどのように規律するかということです。二つの問題がありまして,そのうちの一つが周辺の行為についての贈与の規定の適用で,もう一つは無利息消費貸借ですとか使用貸借ですとか無償の役務提供といった他の契約類型に属する規律との関係をどう考えるのかです。この2種類の問題があると思います。もしそのほかの契約類型,例えば使用貸借などでカバーされるものについてはそこで規律すると考えますと,結局,残ってくるものは限られておりまして,制限物権の設定,相手方に対する権利の放棄,債務免除,免責的債務引受,信託契約などが主なものだと思います。これらについて贈与の規定をどこまで適用ないし準用するのが妥当かということを考えた上で,その後取扱いを決めるべきではないかなと思います。つまり財産にするか財産権にするかというのは,財産権に限定することによってはみ出る部分についてどのような規律を置くかを考えた上で決定すべきものではないかと思います。   それを決めないで贈与の範囲を縮減した上で,はみ出た分について,これは後でも出てきますけれども,贈与の規定を無償契約一般に準用するということになりますと,またそこで問題が出てくるのではないかと思います。あまり大きな問題を議論するのではなくて,現行規定のもとで贈与とされていた取引,地上権の無償設定だとか言わば言葉は適当でないかもしれませんけれども,準贈与的なものについてどのように規律するかという判断をすべきだと思います。ですから,例えば一つの例ですけれども,「財産権の設定,変更,放棄,その他自己の負担において相手方に利益を与える財産の処分」というものを考えて,そこに贈与の規定を準用するというような方法もあるかなと思いました。 ○野村委員 今のこととも関連するのですけれども,贈与という契約を典型契約の類型として残すのかという問題だと思うのです。贈与というのをある程度厳密に定義して,それを他の恩恵的な行為に準用していくという考え方もあります。無償契約であっても,他の契約類型の中でカバーされるのももちろんありますが,むしろ適当な日本語の用語が作れるのであれば,恩恵的な行為全体についてうまく要件効果を規定してその中で贈与も一つの類型であるということも考えられるのではないかと思います。そうすると,無因の債務負担行為とか先ほどの奈須野さんからあった最近のビジネスの世界での無償取引とか,そういったものもうまく入れられるようなことが考えられ,立法としては,それも一つの方法ではないかと思いました。 ○中井委員 第一点は成立要件の見直しについて,要式契約ないし要物契約との考え方が提案されていますけれども,これについて弁護士会は相対的に消極といいますか,むしろ反対という意見が多くありました。それは実際になされている贈与は口頭のものが非常に多いというのが現実だからです。これを要式契約とすると,現実の贈与が阻害されるのではないかという意見です。   また,要物契約とすることについても消極的な意見です。何年かに分けて贈与していくことを想定して,何年かと言ったらちょっと言い過ぎかもしれないけれども,例えば一定の期間贈与を受けることを想定して学校に通っている。しかし,要物契約とすることによって,それが途中で履行されないことがありうる。そういう将来の援助等を約束するケースなどもありますので,要物契約としてしまうことによる弊害があるのではないか。要式契約,要物契約等にすることについては慎重意見が多くございました。   2点目の撤回に関する書面の様式の明確化に関しては,これについては現在の判例の書面というのはやはりちょっと緩やかにすぎるのではないか。撤回できない場合のこの書面というのはもう少し厳格であっていいのではないか。いったん契約しても事情が変化し,経済状況が変化したりして撤回を求める場面というのはないわけではない。そうだとすると,余り書面を緩やかに解してしまうと,そういうことができなくなる。そこまで受贈者を保護しなければならないのかと,そういう面から,書面についての一定の厳格化があっていいのではないか,こういう意見が多くありました。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○松本委員 今の中井委員の御意見ともちょっと絡むんですが,むしろその前の中田委員の御意見との関係で,贈与という言葉でどこまで含むかという点です。他人のための担保提供,債務引受,債権放棄,債務免除等々がこの贈与の範囲に入るんだから財産権ではなくて財産なのだという説明で従来やっていたとして,では例えば物上保証人になるという場合に贈与の規定が実際に適用されるという話になるのか。つまり,書面によらない場合はいつでも物上保証を撤回できるというような議論をしているのか。確かに登記をするためには書面化しないと駄目だから,どこかで書面になっているんでしょうけれども。債務引受でも同じで,どの段階までくれば債務引受を履行したことになり,もはや撤回できなくなったと言えるのか。もっとひどいのは債務免除で,特定の債務の免除をしますと債務者に言えば,それでもう債務免除の効力が発生してしまうのではないかという気がするんで,いつでも撤回できるなんていう議論には多分ならないと思うんです。そのあたり,財産権の移転と言われているものと違うタイプの財産的な何らかの利益が相手方に無償で与えられるという場合に,本当に贈与の,特に成立絡みの規定の適用の意味があるのか。贈与を完全に諾成契約化してしまえば,書面によらない場合でも撤回もできないとしてしまえば,今のような議論は無意味になるのかもしれないです。ですからそのあたりを考えると,財産権の移転という形での分かりやすいルールをきちんと組み立てた上で,それ以外の従来これも贈与ではないかと言われていたものについてもう少し個別にどこまでいけばもう効力が覆されなくなるのか,あるいはどこまでいけば効力が発生したことになるのかというあたりを詰めたほうがいいのではないかという気がいたします。 ○中田委員 私の意見も松本委員と同じでありまして,先に決めるのではなくて,詰めて考えるべきだと。例えば信託法の改正の際に,旧法では財産権という言葉が使われていたのに対して,新しい法律では財産と書いた。これは担保権の設定をどうするのかということが問題となったからだと思います。ですから,そこはまず中身を詰めていって,どこまで財産権の移転についての贈与の規律を適用ないし準用することが可能かどうかということを考えた上で言葉が決まってくるという問題ではないかと。その意味では松本委員と同じ理解でおります。 ○松本委員 違うと言われれば違うし,同じと言われれば同じかなと思うんです。考える順序だけの問題であって,財産権の無償の移転という部分については皆さんかなりクリアな見解を持っておられるのですが,そのルールをどこまでそれ以外の財産的利益の無償での享受の部分まで広げられるかについては,個別に検討した上でないと,贈与の規定をどこまで適用するかということが決まらない。そして,それを贈与の本体でカバーするとするのか,それとも贈与は贈与であらかじめきちっとしたタイプのものでかためておいて,別のタイプのものについて別に準用するのかという第二ステップをどうするかで,中田委員はひょっとすると第二ステップも含めて贈与の定義を決めましょうということかもしれないんですが。 ○中田委員 今,抽象的に議論しても仕方がないかもしれませんけれども,財産権の移転についてまず考えていくということについては同じでして,その上でそれとは違うタイプの財産権の設定とか変更とかについてどこまで準用されるかを考えてみると。これも同じでありまして,その上で最後に,仮にその他のものについての準用がほぼ全部に及ぶのであれば,そうすると最初から広い概念を使ってもいいでしょうし,一部にしか及ばないのであれば贈与については財産権の移転を中心に規律して,それ以外のものについては先ほど仮に準贈与という言葉を使いましたけれども,それに贈与の規定を準用するというような方法もあるだろうということで,それほど違ってはいないかなと思うんですけれども。 ○松本委員 余り意見は変わっていないと思います。 ○大村幹事 松本,中田両委員のお話を伺いましたが,実質は松本先生と中田先生とちょっと違うような気がしますけれども,議論の段取りについては一致していると理解しました。   それで,野村委員からの御発言もありましたけれども,結局,今のところ皆さんともに,財産権について贈与のルールが適用される,そこはいいけれども,その以外についてどうするかというので,贈与の中に入るというお立場と,贈与の外で贈与の規定が準用されるというお立場と,それから準用ではなくておよそ無償行為一般についての総則的な規定を設けるべきだというお立場,野村委員はこの最後のお立場だったと思うんですけれども,幾つかお立場があったように思います。中田委員がもともとおっしゃったのは,狭い意味での贈与の外に出るものについてどうするのかということと併せてでないと議論できないのではないかということだったように思いますが,既にそこの議論が今の議論の中に入ってきておりますので,とりあえずこの段階では財産権を想定しておいて,これを更に広げるかどうかは後で準用規定の問題と絡めてもう一度議論するということにして,先に進んだほうがよいのではないか思います。 ○鎌田部会長 御指摘のようにさせていただきたいと思います。2及び3についてほかに御意見ございましたらお出しください。 ○筒井幹事 先ほど深山幹事から,撤回という用語と解除との関係についての問題提起がありまして,それがそのままになっておりましたけれども,この資料の作成上は,撤回という用語を解除に改めるべきであるという立法提案があることは認識した上で,それは当面専ら言葉遣いの問題であろうという整理をして,取り上げないこととしております。その点について深山幹事から,その点についても今後留意していく必要があるのではないかと,そういう問題提起があったものと受け止めました。   もっとも,民法550条の撤回という用語自体が,平成16年の現代語化のときに従来の取消しという用語をその当時の一般的な理解に従って改めたという経緯がございますので,それについて更に改めるに当たっては,解除とか解約といった周辺にある用語との使い分けをよく整理してみる必要があるのではないか思っておりますが,しかし,用語の問題ですので少し先の課題かなと受け止めております。 ○佐成委員 2,3のところで。要式契約にするという論点があって,それを支持される方と支持されない方といらっしゃるということで,もともとこれ,諸外国立法例を見ますと要式契約が一般だったわけなんでしょうけれども,昔からそうだったんだと思うんですけれども,この起草者といいますか,もともとのこの明治時代の民法の起草者は基本的に要式契約であることととらずに,要式でなくて合意で成立すると,そういう政策を採られたわけですね。多分その背景には世の中にはいろいろな贈与というのがあって,奈須野関係官がおっしゃったようなものとか,もろもろいろいろあると。当時はなかったかどうか分かりませんけれども,あって,その中で有益なものもあれば有害なものもあると。仮にその要式契約にしたからといって有害なものが一律に排除されるわけではなくて,有益なものができなくなる危険性があるので,そこは広くカバーしようということで入れられたのではないのかなと,そういうような認識がちょっとございまして,ですから,ここで要式契約にするということは有害なものはもちろん排除されるかもしれないけれども,逆に有益なものが排除されてしまう危険性があるのかなと。それで起草者は多分そういうふうにされたのかなと感じているのが一つと,結論的に要式契約にするかどうかというところについて言っているわけではないんですけれども,ちょっとその辺は慎重に考えていただきたいというのが一つと,それから,書面について厳格化しようというお話なんですけれども,それも一つの考え方だと思うんですが,今のやはり厳格化したからといって有益なものが裁判で争いになるというときは大体無効にするということになりますから,厳格化していれば無効なものが増えるわけですわね。そうすると,有害なものも有益なものも全部消えてしまうということで,やはり立法当時の明治の時代の話ですけれども,それとちょっと違いますので,言わば角を矯めて牛を殺すみたいな,そういう形にならないように,やはり有益なものは広く拾えるような,そういうような贈与の形にしないと,余り厳格に公正証書を多くするとかしてしまうと,ちょっとこれはまずいのではないかなという気が実務家としての感覚でございますので,御一考をということでございます。 ○鎌田部会長 2及び3につきましては,これまで賜りました御意見を踏まえて,更に検討を深めさせていただくということにして,「4 贈与者の担保責任(民法第551条第1項)」及び「5 負担付贈与(民法第551条第2項,第553条)」について御意見をお伺いいたします。 ○潮見幹事 多くを語るつもりはございませんが,担保責任について一言考えを申し上げさせていただきたいと思います。特に具体例として法定責任説と,それから契約責任説,立法論としての債務不履行一元論ということが部会資料の中に書かれておりますので,その点についての意見を中心に申し上げたいと思います。   私個人の意見としては,法定責任説を贈与の場合に採用することについて,ほかの場面では,売買のあたりでは債務不履行契約責任という枠組みでとらえているのに,ここだけを法定責任という観点からとらえることには反対です。およそ債務の不履行あるいは目的物に瑕疵があった場合の処理を考える場合には,契約においてどのようなものが合意されたのか。それに基づいてどのような債務が当事者間で設定されたのかということがまず決定的です。そのときに贈与に限ってここでも書かれているような,特に特定物の贈与の場合に特定物を引き渡せばこれで債務の履行としては完全なのだという考え方を採る理由の説明が付かないのではないかと思います。その意味では契約責任説あるいは債務不履行一元論という形でまとめられているものに沿った形で,贈与の場合とはいえ,債務というものの内容の確定をし,その債務の不履行というものを考えていくという枠組みで物事を処理していくという姿勢を示しておくということがここでは肝要であると考えます。   その上でですけれども,贈与の場合に目的物に瑕疵があった場合,例えば免責事由というものをより広く認めてやるべきだというような判断をするのであれば,それは免責事由の処理として考えればよいということになろうかと思います。さらに,そのときに,仮に現行法を契約責任説のような観点で読んだ場合に,これは悪意・非通知の場合にのみ責任を負うという形で免責の範囲の拡張という処理をしていると読むのでしょうが,果たしてこれでいいのかということはなお検討をしておく必要があると思いますし,そもそもここで,部会資料15-2にあるように無償性を考慮に入れて免責事由を広く,あるいは柔軟に考えていこうということであるのならば,果たして現行法のような形での免責の枠組みでいいのか,それとは違った免責の枠組みを採るべきなのかというのは慎重に考えていただきたいと思います。更に申し上げますと,ここで無償性を考慮に入れて特別の免責要件ということを定めるということであれば,ほかにもいろいろ無償契約はございますし,もっとこれも進めば有償契約の場合の免責事由は一体どうなのかということで個別にルールを置くのか置かないのかという態度決定までせざるを得ない状況にも立ち至らざるを得ない部分があろうかと思います。そのようなことを考えますと,私自身は債務不履行一元論に立ち,かつ免責は結果的にはそれは広く範囲を認めることになるとしても,ここにあえて特別の規定を設ける必要はないのではないかと考えます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   それでは,またお気付きであれば追って御発言いただくということで,「6 死因贈与(民法第554条)」及び「7 その他の新規規定」について御意見をお伺いいたします。 ○奈須野関係官 2点申し上げます。   1点目は,背信行為,忘恩行為等を理由とする撤回解除について,賛成できないということです。理由は,先ほど申し上げたとおり,世の中で行われている贈与的な行為の多くは冷徹な経済計算に基づいて行っているからです。このような経済行為に対して情愛や信頼関係等を基礎とするような規定を及ぼすことは,特定の価値観を民法が押し付けるという効果になるのではないかと懸念しています。   企業間においては,例えば,マイクロソフトから無償でソフトウエアを提供されている場合に,同社に対して背信行為をしてはならない,具体的にはそのソフトウエアについての訴訟を提起してはならないということになると,競争制限的な効果が発生することになります。あるいは個人間においても,例えば,バレンタインデーに義理チョコをもらった場合,その女性に対して失礼なことをしてはいけない,失礼なことをしてしまうとチョコレートを返せということになると,個人間の生活も窮屈なものになっていくというおそれがあります。このようなことを考えると,贈与には遺贈以外の様々な類型があるのであって,これらに対して背信行為,忘恩行為を制限するような規定を及ぼすのは賛成しかねます。   2点目は,先ほども指摘がございましたが,贈与の規定を無償契約に準用するか否かということです。多くのソフトウエアなどのサービスの提供契約は,約款の形式によることが多いわけです。この約款の形式によって無償でソフトウエアが提供された場合に約款規制が適用されるのか,あるいは不当条項が適用されるのか,ということが論点になります。無料だから義務を軽減してもいいのではないかと思われますが,そうであれば単に準用するという規定を置いて済むのか,あるいは無償契約を念頭に置いた約款規制なり不当条項規制なりというものを観念する必要があるのか,ということについて,問題提起だけさせていただきます。 ○大村幹事 今の奈須野さんのお話についてなんですけれども,経済取引の一環としてなされる場合や日常的な贈答の場合には,御指摘のとおりかかもしれません。しかし,奈須野さんのお話の中にもありましたけれども,ここでは,遺贈の話ともかかわる相続代替的な機能を持つ贈与というのが中心的なものとして想定されているのではないかと思います。贈与法は,そもそも相続法と密接な関係を持つものとして展開されてきたわけです。その結果として,相続,遺贈と,贈与の間に関連を付けるための規定を置かれているということだろうと思います。その関連性の一部が現行法では欠けているのではないかという認識が,背信行為,忘恩行為等を理由とする撤回解除の提案につながっているのではないかと思います。   これだと不適切なところがあるという御指摘は,そういうことはあるかもしれないと思いますけれども,それはこのルールの適用の場面を限るという方向で調整するのが望ましいのではないかと思います。 ○松本委員 奈須野関係官の指摘についてですが,一つはバレンタインのチョコレートの世界なんかは,約束といえば約束あるいは一つの関係ではあるけれども,法律論に乗っかってくる話ではないのではないかと思います。すべての人と人との約束とか触れ合いがすべて法律行為かというと,多分そうではないので,デートの約束をしてすっぽかされたから債務不履行で損害賠償かというと,そういうことはあり得ない次元の話であるというのが一つ。   それから,無償ソフトの問題は大変論点としては大きいと思います。無償ソフトの提供を贈与という範疇で考えるのかどうかというのは,先ほど中田委員と議論いたしました財産権の無償の移転という概念に無償ソフトというのが入るのか入らないのか。言わばライセンスを無償で与えるという行為ですから,用益権の無償設定に比喩的には近いかもしれないので,そういう贈与の定義のスパンの問題として一つは考える必要があるし,それから無償のライセンス契約を含めたライセンス契約そのものについての法律論は別途いろいろ議論する余地があるかと思います。 ○山野目幹事 奈須野関係官がおっしゃったことを伺っていて,なるほどと感ずる部分もございましたし,それを受けて大村幹事と松本委員がおまとめになったことも適切な御意見であると感じます。これこそ正に今後パブリックコメント等において国民の意識を尋ねた上で立法の態度を見定めていくテーマであると感ずるものでございますけれども,そうであればこそ,少し私は内容の意見というよりも言葉遣いのことについて今後のパブリックコメントや部会資料などにおける扱いに関し,要望を申し上げておきたいことがございます。   それは,忘恩行為という言葉に関してでございます。もちろん部会資料は従来,学界論議においても忘恩行為という言葉が用いられ,どちらかというと,こちらの言葉のほうが無造作に使われてきた嫌いがあると思いますが,そういう学界状況を踏まえてこの言葉をお使いになったものと想像しますけれども,しかし,一語で済むなら背信行為という言葉にしていただきたいと考えますし,二つ挙げるのであれば今のとおり,背信行為を前に置いていただきたいと要望するものであります。受贈者が贈与者に対して恩を忘れるということによって贈与契約の効力が動揺をさせられるかもしれないという問題提起が,いろいろイメージを拡散させたり,様々に議論を混乱させたりする部分は極めて大きいのではないかと危惧します。信義に反する行為に基づいて贈与契約の効力を見直すのであるという市民社会的な通用性のある概念を用いて国民の意識などを問うという手順を今後採っていただければ大変有り難いと感ずるものでございます。 ○高須幹事 今の背信行為,忘恩行為のところの論点の続きでございますが,以前に私がある依頼を受けて実のお父さん,私のお父さんではありませんよ,依頼者のお父さんを訴えたことがありまして,そのとき裁判官から徹底的に叱られました。やはりそれは背信行為だったんだと思います。ただ,同様の行為で例えばIBMを訴えたとしても,実際にはまだ訴えたことはありませんけれども,例えばIBMを訴えたとしても恐らく裁判官は叱らないだろうと思います。ですから,御指摘の点はそういう問題があるのは確かで,ビジネス一般にこういうことが及ぼされてはならない,この点はそのとおりだと思っておりますが,何が背信行為かという理解のところ,背信行為の考え方とかそういうようなところで乗り越えていける問題ではないかと思っております。大村幹事がおっしゃったように,やはり相続の前倒しみたいな形で贈与がなされているようなケースとか,そういうようなことも踏まえていろいろな場面に対応できる規定にしておくべきだと思いますので,この背信行為を理由とする撤回解除については検討の価値があると思っております。 ○中井委員 この忘恩行為,背信行為について,契約が成立してから贈与するまでの未履行の状態における背信行為,忘恩行為の場合と,いったん履行してから後に発生した背信行為,忘恩行為に対してどのような撤回解除が認められるか。頂いている部会資料ではそこの区別が明確になされているとは思えないのですが,履行前と履行後では質が異なるのではないかと思うのです。履行前に背信行為,忘恩行為が行われたときに対する撤回解除は広く認められてしかるべきかもしれませんが,履行後と同一要件でいいのかどうか,場合分けをしなければならないのか,御検討いただければと思います。 ○岡本委員 死因贈与のほうについて申し上げます。死因贈与については遺贈に関するどの条文が準用されるか明らかにするという点につきましては賛成したいと思います。特に今の判例ですと,死因贈与の撤回については民法の1022条が方式に関する部分を除いて準用されるとされているようでございますけれども,遺贈は相手方がない単独行為であるのに対しまして,死因贈与は契約だということで,その撤回について遺贈の規定を準用するというのは相手方の信頼にかんがみまして,必ずしも適当ではないのではないかと思うものですから,特に死因贈与が書面によってされたときは撤回することはできないという形にしていただければと考えます。 ○村上委員 7の(1)の贈与の予約についてですが,このような規定を設ける必要性が果たしてあるのか,もう一つぴんと来ない感じがいたしますし,このような規定が設けられますと,むしろそれが悪用される危険があるのではないか,非常に大きな財産について贈与の予約を言わばさせられるというようなことになってしまう危険があるのではないかということを危惧しております。 ○潮見幹事 すみません,元に戻って申し訳ありません。贈与の予約については今,村上委員がおっしゃったのと私も同じような意見を持っております。それはそれとして,死因贈与について一言お願いがございます。岡本委員からは積極的な御発言があったと思いますけれども,私はこれをここで意見照会があるような形で検討していくということになった場合に,相続法とかあるいは相続の実務,裁判実務等々に与える影響というものは極めて大きいところがありますので,慎重にやっていただきたいと思っています。中途半端に一部分を改正してしまいますと,全体がばらばらになってしまうというおそれがあるということを少し危惧しておるからです。   この点に関して申し上げますと,ここで挙げられているうちの先ほど岡本委員が紹介されたどの条文が準用されるのかを明らかにする方向で検討すべきであるということは,基本的にはこれでいいのかもしれませんが,ゴシックで書かれているように可能な限り明らかにするということになった場合には,これは規定振りにもよりますけれども,挙げられなかったものについて準用されないのか,準用するのかという極めて悩ましい問題が出てまいります。準用ができることが確実なものを規定にして明らかにできればよいということでは済まされないと思います。   それからもう一つは,これは解説の中あたりでも書かれていることですが,特に準用の可否に関する事柄で,部会資料15-2のほうの84ページの検討委員会試案に書かれているような公正証書と自筆証書のどちらか一方という形での方式処理の採用についての提案が出ているんですが,こういう形であると,死因贈与については遺贈とも違う方式を要求し,かつ,諾成契約でもないというような取扱いがされることになります。遺贈の場合には遺言によりますから秘密証書の方式もあります。秘密証書の方法は遺言では現実には余り使われないからは死因贈与については秘密証書の方式は採用しなくてよいということになったら,遺言による遺贈の場合の秘密証書をどうするのだという話にもなりますし,更には,遺言のところでは,普通方式だけではなくて危急時遺言という特別方式のものもございます。そうしたものも含めて考えたような場合には,単純に公正証書と事実証書を上げればよいということには,簡単にはいかないのではないか。もう少し慎重にやったほうがいいのではないかというのが私の意見です。   さらに,仮にこのような形で実際に成立面のところで方式でチェックをするということになったら,これは先ほど岡本委員がおっしゃられた撤回にもかかわることなんですけれども,死因贈与の場合に遺贈と同じような撤回というものを認めていいのかどうかということも議論の余地があろうかと思いますし,さらに,その場合にどのような方式によって撤回を認めるのか,あるいは撤回擬制ということを許すのかというあたりも検討する必要があろうかと思います。   加えて申し上げますと,死因贈与については,遺留分のあたりの学説や裁判実務でも議論がある問題があって,そこのところにも波及するのか,波及しないのかも定かでないような状況でもありますので,そうしたことも含めて慎重にやっていただきたいと思うところです。 ○山本(敬)幹事 今までの御意見で,慎重に検討しなければならないという指摘は非常によく分かるところです。ただ,その上で,ではどうするのかというのが次の問題でして,御指摘されているのも,積極的に,現行法のままで置いておくべきだということではないのだろうと思います。検討する必要はあるけれども,難しいかもしれないということなのでしょう。この点に関しては,現在の規定で,一体どこまでの規定が準用されるかということが,実務上も学説上もおよそ確立していないのではないかと思います。きちんとした形で書かれているものは極めて少ないですし,書かれていても,非常に複雑になってるのが現状です。その意味で,現行法自体が非常に不明確な状態になっているのではないかと思います。それだけに,慎重に考える必要があることはよく分かるのですけれども,やはりもう少し前向きに考える必要があるのではないかということだけは指摘させていただきたいと思います。 ○沖野幹事 考え方の点につきまして私も一言申し上げたいと思います。死因贈与と遺贈との関係あるいは相続法との関係ですけれども,それらを視野に入れないと考えられないという点ではそのとおりだと思いますし,相続法への影響ということも十分考えなければいけない,慎重な考慮を,という点は強く共感するところです。その際の考え方なのですけれども,例えば遺贈であればこうなるという場合,そこでそういう判断が採られていることからすると,死因贈与の場合も同様に考えるべきだという方向に行くのか,それとも遺言という方法を使うならばこのような帰結がもたらされるのだけれども,言わばそのすき間にある,例えばいつでも撤回できるということではなくて,一定の安定を与えたいというような要請があるとすると,死因贈与という形を使うならばその点に手当ができるという方向もあり得ると思います。   ですから,相続法と常に同じ規律が働くべきかについては必ずしもそうではないと考えられまして,それとは違う要請を受ける制度として構築する必要があるのかどうか,またそれが適切なのか。そうしたときに相続法における規律と整合性を持って,例えば異なる制度だとすると異なる制度であるということが十分な正当性を持って構築できるのかと,そういう観点からの検討の必要が出てくると思いますので,そのような観点もあるということを付言したいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに贈与の関連で御意見,いかがでございましょうか。 ○深山幹事 今の沖野先生の御発言と重なってくるところなんですけれども,実務的にも遺贈をするのか死因贈与をするのかということを考えて,悩むことがあります。いずれにしても,依頼者の趣旨としては権利関係の安定を求めて確定的に贈与をしたい,あるいは贈与を受けたいという場合が多いのですが,その場合に死因贈与についても遺言と同様,自由に撤回できるという考え方があることを考えると,死因贈与契約にしても余り安定的ではないといえます。これは単に受贈者の利益という観点で問題となるだけでなく,贈与がなされる背景というのはいろいろな状況があって,ただ単に恩恵だけではなくて,実質的に負担に相当するような一定の事情とセットで贈与がなされるということもままあります。   そうなると,その辺の事情を考えて贈与を受けること自体を安定的に合意したいというときに,死因贈与であってもなおその後撤回されるおそれがあるということは,その関係当事者の意図するところではないということになります。そのような状況で,死因贈与ではなくて死亡を始期とする贈与契約を結んだことなどもございます。しかし,そもそも考えてみると,そういうことは余り悩まなくていいような規律というのがあってもいいのではないかなと常々思っていたところでございます。遺贈との整合性や同質性というものも意識しつつ,しかし,全く同じにしなければならないということではないと思います。むしろ違いを設けておくところに別の制度を作っておく意味があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかによろしいですか。 ○道垣内幹事 バランス上一言申しますと,沖野幹事と深山幹事のお話は極めて能力のある人を念頭に置いているとしか思えないのです。遺言と死因贈与とを撤回可能性を踏まえながら選択するというわけですよね。本人にそこまでの能力があったり,きちんと弁護士に頼んだりする例ももちろんあるとは思いますが,そうでない紛争事例は多々あると思いますので,そう簡単ではないのではないかという気がします。 ○中田委員 別の点でもよろしいんですか。無償契約への準用の方式について簡単に申します。問題点は二つありまして,一つは先ほど出てきました贈与契約の概念を絞り込んだ場合に,そこからはみ出る分をどのように規律するかという問題です。それからもう一つは,無償契約一般についての民法の規律の在り方の問題です。この第二の問題点につきましては,部会資料15-2の96ページに非常にコンパクトにおまとめいただいていますので,特にこれに付け加えることはございません。これら二つの問題があることを念頭に置いて,いずれにしても,他の無償契約についても十分審議していただいた上でお決めいただくことかなと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   よろしいようでしたら,引き続き部会資料16-1の12ページから14ページ「第3 使用貸借」について御審議を頂きます。事務当局に説明をしてもらいます。 ○亀井関係官 それでは,部会資料16-1の「第3 使用貸借」について,2以下の個別論点の御説明をいたします。   まず「2,使用貸借契約の成立」においては,消費貸借などと同様に,従来要物契約とする立場を改め,合意によって成立する諾成契約とすることが提案されております。また,諾成契約とする場合には,物を引き渡すまでは契約を解除することができるなど,合意の拘束力を調整する仕組みについても提案がされていますので,御議論いただきたいと思います。   次に,「3」では使用貸主の担保責任の問題を取り上げております。民法は贈与者の担保責任を準用しておりますが,贈与者の担保責任の見直しの方向性に合わせるという意味で,現状を維持すべきとの提案や,贈与と異なり使用貸借では担保責任が生じないことを原則とし,それが積極的に基礎付けられる事情がある場合に,例外的に責任が生じることとすべきとの提案がされておりますので,御意見を頂きたいと思います。   最後に「4」の使用貸借の終了について,終了事由を分かりやすく規定し直すべきとの提案や新たな終了事由として貸主に予期できなかった目的物の必要性が生じた場合や貸主と借主との信頼関係が失われた場合などを追加すべきとの提案がされています。また,損害賠償請求権や費用償還請求権の期間制限についても賃貸借と同様に債権の消滅時効として整理すべきではないかとの提案がありますので,これらの点について御審議いただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。部会資料16-1の12ページ,「1 総論」についてまず御意見をお伺いいたします。 ○岡本委員 部会資料に記載された論点ということではないんですけれども,使用貸借の効力について若干意見があったので御紹介ということなんですけれども,現在少子高齢化が進んでいると言われておりますけれども,子供が親の土地の上に家を建てたいといったニーズが生じる場合がございまして,その場合,賃料の授受はしないで土地の使用貸借がされるわけですけれども,現状の使用借権は非常に弱い権利で対抗力を持ち得ないということにされておりまして,そうした場合,子供から金融機関が建物建築資金の融資を求められるといったことがあるわけですけれども,金融機関としては建物を担保に貸し出しをすることができないという状況になっております。そこで,何とか使用借権にも対抗力を持たせて,担保として適格になるようなそういった道をつくり出すことができないだろうかという意見がございましたので,御紹介させていただきます。 ○鎌田部会長 ほかに総論的な課題について,御発言はありますか。   よろしければ各論に移らせていただいて,その中でまた総論的な御意見があれば適宜お出しいただくということにさせていただきます。「2 使用貸借契約の成立」から「4 使用貸借の終了」までについて一括して御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○新谷委員 では,労働の分野でこの使用貸借についての事例を少しご紹介しながら意見を申し上げます。現在,日本の労働組合においては約8割の組合が企業側から組合事務所の供与を受けています。厚生労働省が定期的に調査しているデータによれば,企業側から組合事務所の供与を受けている約8割の労働組合のうちの76.5%が無償で組合事務所の供与を受けているとされています。つまり日本の労働組合の過半数は使用貸借によって企業側から組合事務所の供与を受けているというのが現状です。   この点,現行民法597条は使用貸借の返還時期に関して,第1項で契約所定の時期と定め,第2項本文で契約に返還時期の定めのない場合には契約に定めた目的に従い,使用及び収益が終わったときに返還しなければならないと定めているため,例えば労働組合と使用者との間で緊張が高まり,紛争状態に至ったという場合にも,それだけでは直ちに企業側から供与を受けている組合事務所を返還すべき義務は生じません。   しかし,今回の検討事項の中では,貸主と借主との信頼関係が失われた場合における貸主の解除権を追加すべきであるという考え方が提案されています。仮にこの考え方が採用された場合には,労働組合と使用者の間で緊張関係が高まって争議状態に至ったというときに,使用者が労働組合との信頼関係が失われたということを理由に解除権を行使して組合事務所の返還を求めるという可能性が否めないわけです。そもそも労働組合と使用者との関係というのは一時的に険悪な状態になったとしても,いずれはその関係を修復させて良好な関係を形成することが望ましい性質のものであり,一時的に信頼関係が失われる場合があるとしても貸主と借主の関係が将来に向けて永続的に絶縁関係になるということは想定していないわけです。したがって,その一時的な信頼関係の喪失を理由に,直ちにそれだけで使用貸借の終了を肯定するということは日本の労使関係が将来に向けて継続性のあるものであることに照らしても,妥当性を欠くのではないかと考えています。もし現行民法の使用貸借物返還時期に関する規定を改めて,使用貸借の終了事由を追加するのであれば,受贈者の背信行為や忘恩行為などを理由とする撤回解除の場合に準じて,厳格な要件を設定するということをお願いしたいと思っています。 ○奈須野関係官 今の御意見に近い話ですが,貸主と借主との間の信頼関係が失われた場合における貸主の解除権を追加すべきという考え方については,慎重に検討すべきだと考えております。   先ほどの贈与と似た話ではございますが,ソフトウエアを無償でライセンスするということが仮に使用貸借的な行為とされますと,ライセンサーとの間での信頼関係が失われたということを理由に,ライセンス契約がターミネートされるというリスクが生じることになります。昨今コンピュータの中には多種多様な無償のソフトウエアが含まれており,互いに相手方の権利を侵害しているかもしれない,あるいはもしかしたら訴訟を提起するかもしれない,ということになるため,これが制約されることになると,競争制限的な効果が大きいのではないかと考えています。   前回も申し上げましたが,使用貸借,賃貸借についてはその借人の安全性を高めることにより利便性を高めて,限られた少ない資源を有効に活用していくことが期待されています。使用貸借の解除事由のカタログを増やすということはこの方向に逆行するものであり,慎重な検討が必要であると考えます。 ○高須幹事 様々なケースがあるということだと思うのですが,不動産,具体的には土地を身近な人に,要するに知り合いあるいは親族に貸して,その親族がそこに建物を建てるというケースがままあると実務的には理解しております。それを無償でやりますと,それは使用貸借ということになりまして,土地使用の目的は家を建てることですから,家が建っている間は返ってこないということになります。そうすると,家が建っている間はずっと土地をただで貸していなければならないということになり,その間に親族間の仲が悪くなったりしたようなケースでも基本的には使用させ続けねばならないというような事態が起きるということがままあるのだろうと思います。判例もそういうような,親族間でただで土地を貸して家も建ててしまったというようなケースの判例がたくさん出ております。その場合には条文で言うところの597条の2項のただし書の使用及び収益をするのに足りる期間の経過というところが大きな争点になってまいります。かなりの期間経過したものについては,その期間が経過したということで,家は建っているのに終了を認めたという最高裁判例もあるということでございますから,やはりここはもう少し条文を整備をして,ケースによってはやはり信頼関係が破壊した場合とか著しく長期間経過した場合などについては,終了にするか解除にするかは方法論だとは思いますが,やはりもう少し返ってきやすいような法律にするという方向の改正案もあってもよろしいのではないかと思っております。   先ほどの信頼関係破壊による解約についても,最高裁の昭和42年の11月24日という判例が認めておるようでございますから,その観点からも検討の必要があるのではないかと思います。 ○村上委員 貸主に予期できなかった目的物を必要とする事由が生じた場合の終了という問題について,私も一言申し述べます。   貸主の必要性による解除が認められないために妥当な解決ができないという事態が果たしてどの程度あるのかということは,もう少し実態を調べる必要があるのではないだろうかと思います。使用貸借契約が締結されて現実に借主が目的物の使用を継続しているという段階に至りますと,借主の側の利益を考慮の外に置くわけにはいかなくなってくると思います。特に,先ほどから御指摘がありますように,土地の使用貸借をして,その土地上に建物を建てているというような場合ですと,貸主側に必要が生じたというだけで簡単に契約解除を認めるのが妥当かどうかということは,もう少し慎重に考えたほうがよいのではないかと考えています。 ○山本(敬)幹事 3の「使用貸借の効力」のうち,「貸主の担保責任」について一言意見を述べたいと思います。   これは,先ほど贈与のところで潮見幹事が御指摘くださったところと関係しているといいますか,ほとんどそのままに近いわけですけれども,もし売買について法定責任説から契約責任説へと転換するとしますと,やはり贈与契約,そしてまた使用貸借契約についても,法定責任説のような考え方を前提にすることはできないだろうと思います。法定責任説というのは,性質について当事者がどのような合意のようなものをしたとしても,それは契約の内容にならないのであって,あるのは法律が定めた法定責任だけであるという理解を前提とします。しかし,贈与であれ使用貸借であれ,無償であるからといって性質がおよそ契約の内容になり得ないと考える必然性はないと思います。無償契約でも当事者がやはり一定のことを考えて,このような性質を持ったものを贈与する,あるいは貸すという契約をすることは当然可能でして,当事者がそのような合意をしているときに.それはおよそ契約の内容にならないと言ってしまいますと,もはやこれは売買のところで前提にした立場とは入れないと思います。   そのような意味では,この使用貸借についても同様の考え方を採るべきだと思います。ただ,誤解してはいけないのは,例えばある目的物について贈与契約を締結した,あるいはある目的物について使用貸借契約を締結したというだけで,何か既に一定の性質が契約の内容になっている,だから契約違反を理由とする担保責任の追及ができると考えるべきではないということです。やはり,その契約においてどのような性質を持ったものを贈与する,あるいは貸すという契約が行われたかということを確定して初めて,その性質が目的物に備わっていなければ責任を追及できることになると考えるべきです。   その意味では,部会資料の13ページで,2段目の最後の部分に,契約の趣旨等から積極的に基礎付けられる場合に限って貸主の担保責任を認めるべきであるとの考え方も示されているとありますが,これは少し理解に苦しむところがあります。法定責任説から転換すべきであるといいましても,先ほど言いましたように,あくまでもその契約において物が一定の性質を持つことが契約内容にされているときに限って,その瑕疵に基づく責任を追及できるわけですので,ここで言っていることは契約責任の考え方そのものではないかと思うぐらいです。その意味では,基本的な考え方を踏まえれば,あくまでも契約内容になったと言えるかどうか,そして,無償契約の場合に,果たしてそのような性質が契約の内容になったと言えるかどうかということが,契約の解釈問題として出てくるわけでして,正にそのような問題として考えればよいのではないかということを指摘させていただきたいと思います。 ○大村幹事 今の担保責任の問題,先ほどの贈与もそうですけれども,基本的な考え方は潮見幹事や山本幹事が言ったことに,私は基本的な考え方において同意見です。ただ,直前に山本幹事も御指摘になられたように,無償契約の場合の解釈をどうするのかという問題があるわけです。この点については解釈にゆだねるのだというのも一つの考え方でありますけれども,無償契約である以上は担保責任についての一定の解釈準則というか,基準はあるだろうと考えることもできるのではないかと思います。これは潮見幹事も御指摘になったところですけれども,そのような標準的なものを定めることがよいのかどうなのかということとかかわっておりまして,それは更に贈与の規定を準用するという規定を置くかどうかというところにもかかわっていると思います。確かに無償契約は様々なものを含むわけですけれども,有償契約とは違うということに着目して無償契約の特徴を示すような規定を贈与のところに置いて,必要に応じて準用していくというのが一つの考え方であるかもしれないと思います。 ○鹿野幹事 二つ申し上げたいと思います。   第一点は今,大村幹事もおっしゃったところですけれども,担保責任についてです。私も,これは契約責任という考え方で整理することができると考えているのですが,ただ,これを個々の契約の解釈にゆだねるとしたときに,果たしてそれでうまくいくのか,明確性に欠けるのではないかという心配がございます。そして,やはり典型的には有償の場合と無償の場合で当事者が引受けるであろうところのリスクの在り方が異なるのではないかと思います。そこで,その類型的な違いをとらえて,もう少し明確な形で有償の場合とは違う担保責任の規律を無償契約について置くべきではないかと考えているところです。   それから第二点ですが,これは先ほど総論のところで既に御発言があったところですが,使用貸借の場合にも対抗力を付与するような可能性を検討すべきではないかと思います。これは,資料で言うと13ページの使用貸借契約の成立のところで触れられているところとも関係します。つまり使用貸借とものは,無償とは言っても,他の取引関係等を背景とする合理的な貸借の場合など様々なものがあるということが現実です。そうであるなら,無償だから対抗力がないというのではなくて,一定の場合には対抗力を取得しうる方法を認めるべきではないかと思います。 ○中田委員 大分戻ってしまうんですけれども,使用貸借の終了と,それから担保責任について一つずつ申し上げたいと思います。共通する観点なんですけれども,使用貸借の終了については先ほど高須幹事がおっしゃいましたような例を考えると,やはり何らかの終了原因を追加する必要があるのではないかと思います。新谷委員の御懸念というのは,これは適用の問題で,そこは適正な解決ができるのではないかと思います。また,奈須野関係官がおっしゃいました無償ライセンスについては,ライセンス契約一般をどう考えるのか,そもそも使用貸借の目的物は物に限るのではないかということもありますので,これは適用範囲の問題かと思います。その上で申し上げたいことは,贈与の背信行為による撤回なり解除と,それから使用貸借の信頼関係破壊による解除,どちらが広いのかということなんです。贈与の解除なり撤回というのは,さかのぼって法律関係をなくしてしまうものでありますけれども,使用貸借の解除というのはそれまでの経過期間については有効であって,将来に向かって終了させると。使用貸借というのはもともとは最終的には目的物を返還する約束ですから,その返還時期が早まるということですので,贈与とは若干違うのではないかなという気がいたします。   それから次に,使用貸借の担保責任につきまして,これは大村幹事がおっしゃいましたように,解釈準則を置くかどうかということなのかと思いますけれども,やはり置いたほうがいいのではないかと思います。その上で,これまた贈与との比較なんですけれども,贈与の場合には種類物を目的物とすることもあるかと思うんですけれども,使用貸借の場合には普通は自分の持っているものを他人にただで貸すということが多いわけですので,その違いというのは若干あるのではないかと思います。 ○山川幹事 先ほどの使用貸借の終了との関連で組合事務所に関して1点だけ申し上げます。実態は新谷委員の言われたような状況ですが,裁判例は,下級審裁判例しかないんですけれども,使用貸借と構成するものと,あと無名契約と構成するものがありまして,ただ,その性格論とは別に,裁判例は,事務所貸与を終了させる正当事由のようなものを要求しているという傾向があるかと思います。正当理由という言葉が常に使われているわけではないんですけれども,ただ,それにもし信頼関係という言葉を使うとしたら,先ほどの新谷委員の御指摘のように,労働組合と使用者の関係というのは情義的な意味での信頼関係とはちょっと違うので,ワーディングについては慎重に御検討いただければと思います。 ○潮見幹事 先ほどの担保責任のところで解釈規定あるいは解釈準則について置くべきであるという御意見があったものですから,発言させてください。そういう規定を置く方向も私はあるかとは思いますが,これを考える場合には,無償契約において債務の内容をどのように確定していくのかという観点からの解釈準則と,それから,無償契約における物に瑕疵があったような場合の免責のルールとしてどのようなものとして置くべきかという二つのものがあって,単に解釈準則と言っても,どっちかというのをはっきりしておく必要があるのではないかと思います。更にその中で,御発言の中で無償契約の場合には解釈の場面で明確性に欠けるというような御発言が出たのですが,仮に先ほどの冒頭の規定のところで債務の内容を,しかも定義規定絡みで置くというようなことになった場合に,果たして明確性に欠けるというような状況が少なくとも債務の内容のところで出てくるのかということに関しては,私は若干疑問を覚えるところです。冒頭の規定で「無償」と書くということが前提になるのかもしれませんが。   ただ,そのところを仮にクリアしたとしても,次に免責のところで何か解釈準則のようなものを置くのかということになったら,そこで明確な解釈ルールというものとしてどのようなものを考えるのかということをはっきりとさせておく必要があるのではないかと思います。先ほど贈与で申し上げたことと同じように,ここでもいわゆる故意・非通知のみ責任という立場を採るのか,それともそうでないのかというあたりが手掛かりになるのかもしれませんし,更に言えば同じ無償契約だと言っても,こと免責が問題になる場面を考えたときに,贈与のところで免責の規定を置いて,更にそれが準用等々の形で展開されていくようなスタイルで免責の枠組みを立てるべきなのかということについて,私自身は疑問を持っているということを申し上げておきたいと思います。 ○鹿野幹事 潮見幹事が今おっしゃったことを受けて,先ほどの私の発言の趣旨を多少補足したいと思います。契約の解釈準則という形で規定を置くことは,確かに容易ではないかもしれません。しかし要するに,私が申し上げたかったのは,リスク分配の基本的な在り方につき,有償の場合と無償の場合とでは違いがあるのではないかということです。その違いを類型的に規定することなく,個々の契約の解釈にゆだねて債務の内容を確定し,その確定された債務につき客観的に不履行があったら債務者は責任を負うこととし,しかもその際,帰責事由は問わないとした場合に,果たしてそれでうまくいくのかにつき疑問を感じるものです。類型的に違いを設ける規定の仕方としては,幾つか考えられると思いますが,免責事由という表現が適切かどうかはともかく,免責で差を設けるということも一つであろうとは思います。 ○中井委員 この瑕疵担保についての弁護士からの感覚的な意見とすれば,先ほどから潮見幹事,山本敬三幹事がおっしゃっておられるように,贈与契約であっても使用貸借であっても契約の中身の確定の問題で解決するのだということについてはいささか違和感があります。今,鹿野幹事がおっしゃった,もしくはそれに類することをおっしゃった方がいらっしゃいますけれども,やはり有償と無償とでは違うのではないかというのが基本にありまして,そこから何らかの準則が導けるのなら,潮見幹事からはなかなか難しいのではないかとおっしゃいましたけれども,見つけることができれば,そういう準則を明らかにしていただくほうがありがたい。それは恐らく結論としては相対的に有償のほうがより責任は重く,無償のほうがより責任は軽く何らかの形で規定されるのか,免責の範囲が広くなるのかもしれませんが,それが一般市民的な感覚に合うというのが正直な感想ですので,是非その点,御検討を進めていただきたいと思います。 ○道垣内幹事 使用貸借権の対抗の問題なのですが,認めるべきだという意見が二つ出ましたので,またバランス上,そう簡単ではないのではないかという意見を述べておきたいと思います。使用貸借権が第三者に対抗できることになりますと,それは結局,虚有権といいますか,土地は所有しているのだけれども,使用権はなく,かつ,その対価も入ってこないという状態でして,それは当該土地が差押不能財産になってしまうということに近くなります。そうなりますと,土地を債権者の手から守るためにも使えるようなところがある気がします。差押債権者や新所有者に賃貸借が対抗できるというのは――いや,対抗と言うかどうかが前回から問題ですけれども――,広い意味で対抗を受けるとしましても,賃料は入ってくるのであり,経済的にそれが適正であれば何とか元はとれているというところなのですが,差し押さえても1円も入ってこないというふうな形にしてよいのかというと,私はかなり疑問があります。落ち着くべきところは,恐らくは,親族から借りているときには無償なんだけれども,当該親族が借金まみれになって,その土地が差し押さえられたら,その後,使用貸借が有償の賃貸借に転化するということなのだと思うのですが,それはなかなか法的に仕組みをつくるというのは難しい。そうであるならば,使用借権の消滅を前提とした明渡請求に際して,両当事者の話合いによって落ち着きどころを探る,というしか考えにくいのではないかなという気がします。反対意見もあり得るということで申し上げておきたいと思います。 ○鎌田部会長 人役権制度を導入しなかったということも併せて考慮に入れなければいけないんだろうという気がしますけれども。 ○山本(敬)幹事 少し戻りますが,中井委員が指摘された担保責任の点についてですが,先ほども少し申し上げましたように,売買契約の場合でも,物が一定の性質を持つものとするということが契約の内容になって初めて,それが存在しないことを「瑕疵」として,債務不履行責任としての担保責任を追及できるわけです。契約を基準にするというのは,そのようなことだと思います。   とするならば,贈与や使用貸借の場合でも,目的物が一定の性質を備えるものとすることが当事者間で合意されなければ,債務不履行責任としての契約責任はおよそ追及できないことになるという点は変わらないのではないかと思います。その意味では,先ほど潮見幹事がおっしゃられましたように,債務の内容について何か特別なことを書くのは,なかなか難しいというよりは,そもそも適当ではないのではないかという気がいたします。   ですから,ご指摘されているのは,ひょっとすると,債務の内容の問題ではなくて,免責事由について何か差を設けるべきであるということなのかもしれません。ただ,「契約を基準にすべきではない」ということで,一体どのようなことをお考えなのか,少し見えにくいものですので,何となく感触としてついていけないというようなことをおっしゃっているのは分からないではないのですけれども,具体的にどのような方向をお考えになっているのかということがまだつかみかねているところです。これは,鹿野幹事が先ほど補足された点についても,なお残っている問題のように感じられます。 ○中井委員 それはもう契約の内容になっているのかもしれませんけれども,給付された対象物に対する追完請求権的なもの,修補請求権的なものが,有償の場合と無償の場合と全く同じなのか,もしくは損害賠償の範囲について同じなのか,免責の範囲について同じなのか。その辺で契約の合意内容のみですべて解釈できていくのかということについての素朴な不安を持っております。これは感覚的意見かもしれませんが。 ○鎌田部会長 例えば無償の契約,贈与だから正に現状有姿そのものが債務内容であり,有償契約の場合には通常有すべき性能を持っている物の引渡しが債務内容だ。そこに債務内容の差であるということは割と素朴に理解,納得できそうな気もするんですけれども。 ○山本(敬)幹事 素朴に納得できるかもしれませんが,少なくとも売買について,有償契約であれば,通常有すべき性質を備えていることが契約内容にあるというのは,前に売買のところで議論した契約責任説の内容とは,やはり異なると言うべきだと思います。通常有すべき性質かどうかが問題なのではなくて,あくまでも当該契約においてどのような性質を有するものとして目的物の内容が合意されたかということが決め手になりますので,それを確定しないといけないわけです。こう考えれば,それは贈与であれ使用貸借であれ,同じことでなければならないはずです。その意味では,素朴に納得がいくというのは,何かやはり従来の法定責任説で言う瑕疵の概念を前提にしておられるのではないかという気がします。もしそのような考え方を売買についても採用すべきだということをおっしゃるのであれば,それは適当ではないと申し上げたいところです。潮見幹事からもご補足があるかもしれませんけれども。 ○鎌田部会長 多分個別に契約内容は個別の契約ごとに決められていくんだろうけれども,ともかく何が合意されたのか明確でないときに,一般的合理人がどの程度のことを期待するのかというところに差があるんだとしたら,それが標準的な形として提示されるほうがなじみがいいということで,それは免責事由とは違うところで出てくるのではないかということではないかという気がするんですが。 ○潮見幹事 中井委員や鹿野幹事がおっしゃっていることも,基本的に債務の内容が契約によって決まるということであって,ここは多分異論ないのではないでしょうか。 ○鹿野幹事 その限りでは私には異論ありません。 ○潮見幹事 そうだとすれば,お二人がおっしゃっておられるのは,要するに無償契約の場合に債務の内容を確定するための解釈基準が不透明である,分からないから,判断できない。だから民法典の中に解釈準則としてきちっと書いておいてくださいという提案をされているのでしょうか。それであれば,そのようなものがなぜ必要なのかということが恐らく問題になるでしょうし,更にその場面で無償というところだけにこだわることについて私は違和感を覚えます。   それからもう一つ,お二人が免責のほうで考えるというコンテクストで仮に考えられていたとしても,債務不履行からの免責の考え方自体についてもここで議論されているのは,帰責事由という言葉を使うかどうかというワーディングは別として,契約を基準に置いた場合に,そのときにその債務の不履行があったときに契約から考えればどういう場面で損害賠償責任から解放されるのかという観点から免責事由あるいは免責のルールというものが立てられるべきだというものでした。そうであれば,免責の箇所で,今度は解釈準則というものが無償の場合には分からないから置いてくださいねということをおっしゃっているのに等しいように私は思いました。そこもまた考え方としてはいろいろあろうかと思いますけれども,果たしてどういう考えなのか。   それとも先ほど山本敬三幹事がおっしゃったように,いや,債務の枠付け自体のところで無償契約の場合にはこのような債務というものが存在するということをどこかの規定のところで明確に置くべきだというところまで含意されておっしゃっておられるのか。どうもそのあたりがはっきりせずに無償と有償で,無償の場合には重い,有償の場合には軽いというそのイメージ的なものが若干先行して議論がされているようなところがあったものですから,ちょっと御発言させていただきました。 ○中井委員 これ以上申し上げませんけれども,先ほど部会長がおっしゃいましたように,現状有姿,これは契約の中身だと言ってしまうならば,無償契約における贈与の対象物,使用貸借における対象物については現状というのが契約の内容になっている。だから本来あるべきものについて基準を設けて,その修補などの追完請求はできない。そのために無償契約における対象物は現状有姿が原則だというのは,それも一つの契約内容の解釈における基準だと理解することはできないんでしょうか。 ○松本委員 現状有姿かどうかは有償,無償とは別のものかなと思うんです。現状有姿の有償の売買契約というのも十分考えられるはずなので,それはそういうふうに当事者が合意したからそうなるわけだと思うんです。例えば災害に遭った人のために企業がいろいろ自社製品を無償で寄附したりしますよね。そういう場合に新品であれば,新品としての性能があるということが恐らく食品の場合でもそうですし,その贈与の本来の趣旨だろうと思うんです。そこで,我が社としてはもう昔から在庫があって,ひょっとしたら使えないかもしれないけれどもとりあえず送りますよということで送れば,その分現状有姿ということで責任は限定されるかもしれないわけで,そういう点ではどういうシチュエーションでどういう形で無償の契約がなされるのかによって責任の内容が変わってくる。それは有償契約であっても同じことになるのではないか。有償契約で本来,有償のものとして有しているべき品質・性能がなければならないということが社会的なスタンダードとしてあるのであれば,それは最低有していなければならない上に,更にカタログ等でこういう性能があるとか言っていれば,そこまで満たしていないと駄目だということになるので,無償か有償かで全くロジックが変わってくるということにはならないのではないかと思うんです。 ○鎌田部会長 そうすると,債務内容の点では一概に有償,無償の区別をすることはできないということですね。 ○大村幹事 松本先生がおっしゃったような場合はあると思いますけれども,だからおよそ有償の場合と無償の場合をすべて同じように考えるということにはならないのではないかなと思います。潮見さんがおっしゃったように,無償の場合についてクリアな基準を置くということはできないかもしれない。最終的には個別の契約について考えなければいけないので,その意味でのクリアな基準はないだろうと思います。しかし,それは有償の場合にも程度の差はあれ共通に言えることだと思います。   また,何も置かないと当事者が負う責任について個別に考えるという以上の手掛かりはなくなってしまうわけですが,果たしてそれでいいのかということですね。山本敬三さんがそれは従来のとらえ方,考え方にとらわれているところがあるのではないかとおっしゃったんですけれども,山本さん自身も有償の場合の債務内容と無償の場合の債務内容と,それは契約の解釈としては違ってくることはあるという前提に立たれて説明されたように思います。私たちは契約解釈の問題としてそのような差を考慮に入れればよいということは分かるわけですけれども,一般の人々に分かるような形で示す必要はないのかというのが,ここでの問題なのではないかと思っております。 ○鹿野幹事 一言だけ。無償の場合で確かに現状有姿という約束と解されることもあるでしょうし,その場合には,給付された物にたとえキズがあったとしても,それはそもそも債務不履行にならないということで片付けられと思います。しかし,無償の場合でも,例えば贈与の場合において,目的物が一定の性質を持ったものとして契約されることはあると思います。その場合に,その性質を欠いていたときの法律関係がどうなるのかが問題です。これは,客観的には契約に適合しない給付がなされたのですから債務の不履行ということになりそうなのですが,そのときに,およそ有償のときと同じように,しかも債務者の帰責事由を問うことなく,直ちに責任を負わされるということでよいのかという点が問題だと思います。債務不履行につきおよそ帰責事由要件を廃止するとすれば免責事由に差を設けるということになるのかもしれませんし,帰責事由という概念を残すのであれば,帰責事由の要件に差を設けるという形を採りうると思いますが,いずれにしても,有償と無償の場合で,責任を負わされる要件に差を設けてしかるべきだと考えます。 ○道垣内幹事 難しい問題なのでよく分からないのですけれども,現在の学説で売買の瑕疵担保について契約責任説が多くなってきていますが,それは現行民法の起草過程からそうであったという理解が結構強いのではないかと思います。しかるに,そうすると,瑕疵担保は契約責任であり,特定物ドグマは否定されているのだという状況においても,551条が存在することになります。そうすると,同条がおよそ契約責任説と両立し得ないものかというと,恐らくそれはそうではないのだろうと思います。   次に,単によく分からないのですけれども,書面による贈与契約で引渡しがない場合の損害賠償はどうやって算定しているんですかね。債務不履行ですよね。そういう目的物が来るという前提のもとで全額取れるということなのでしょうか。もし仮に全額とれるということになると,贈与目的物に瑕疵がある場合には,贈与者の側で,これは瑕疵があるものだから,受贈者にはそれほど利益がなかったのだと主張する,言わば,自分で瑕疵を自白して賠償額を減らす。こういう構造になるのでしょうかね。少しそのあたりもよく分かりませんで,およそ責任は負わないということには恐らくならないんだろうという気がします。その意味では,現在でも,無償契約だから一切責任は負わないという形にはなっていないのだろうと思います。 ○鎌田部会長 使用貸借の担保責任については,同時に贈与の担保責任とも併せて,ただいま御指摘いただいたような部分を含めて慎重な検討を続けていただかなければいけないということであろうと思います。使用貸借の終了の部分についても,御意見をお出しいただいたところを検討の対象にしたいと思います。 ○内田委員 ここしばらくずっと学者同士の議論になっていまして,何でこんなことを議論しているんだと思っておられる実務家の先生方もおられるかと思います。でも,正にここは実務家の出番であったのではないかと思います。結論は余り変わらないように見えるので,そんなことにこだわる必要はあるのかというような御発言があってもよかったのではないかという気がいたします。   ただ,学者にとっては,ここはかなり路線闘争的なところがあって,意思によって契約内容が決まるという点において異論はないけれども,しかし,その意思が非常に自由に様々に形成し得る意思なのか,それとも人間の意思というのはそんなはっきりしたものではないし,また幾つかのパターンがあり,その最も標準的なパターンは任意規定として置いておいたほうがいいと考えるか。そこはかなり根本的なスタンスの違いがあるものですから,規定の仕方などにも反映していくのだと思います。ただ,これは今ここで議論して決着が着く問題ではないので,今後もいろいろなところで再燃するとは思いますけれども,是非実務家の先生方も,意味のある議論なのかどうかといった御発言を積極的に頂ければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ここで使用貸借関係の議論を一区切りとさせていただきまして,休憩を取らせていただきます。休憩を取った後は役務提供型の典型契約の審議に入らせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開させていただきます。部会資料17-1の1ページ,「第1 役務提供型の典型契約(雇用,請負,委任,寄託)総論」について御審議いただきます。事務当局に説明してもらいます。 ○笹井関係官 まず,部会資料17-1と17-2との関係や各項目の冒頭に記載された「1 総論」の位置付けはこれまでと同様です。「1 総論」においては留意すべき点について幅広く御議論いただくとともに,この資料で取り上げられていない論点についても御指摘いただきたいと思っております。   それでは,「第1 役務提供型の典型契約(雇用,請負,委任,寄託)総論」について御説明いたします。   これは,現代社会における新しいサービス契約への対応と役務提供型に属する既存の典型契約相互の機能分担の見直しの観点から,雇用,請負,委任及び寄託からなる役務提供型の典型契約全体の在り方について御審議いただくものです。なお,役務提供型の典型契約の規定の編成等については,具体的な規定の内容を議論した後,資料17-1末尾の後注・関連論点で審議していただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○新谷委員 事務局から幅広い論議をということでしたので,総論の論議について少し長くなりますが,申し上げます。   今回の検討事項には,新たなサービスの給付を目的とする契約への対応の必要性という視点で全体を見直すという論調の記載があります。ただ,詳細資料17-2に例示されている契約の類型などを拝見しますと,その多くは消費者契約に属する性質のもの又は企業間取引に属する性質のものを主眼においていると感じています。しかし,民法における雇用,請負,委任という典型契約の中には生身の人間が個人として自ら労務を供給し,その報酬を受け取るという契約もたくさんあります。役務提供契約を当事者の関係に着目して分類をしてみますと,一つ目は役務提供者が事業者であって,役務受領者が個人という契約類型,二つ目はその多くが労働契約的なものと捉えられている役務提供者が自ら有償で役務を提供する個人であり,受領者が事業者であるという契約類型,そして三つ目は提供者,受領者ともに事業主という契約類型。役務提供型契約には,このような契約類型が混在しているのではないかと思います。そのうちの二つ目の個人自らが有償で労務を提供するという契約類型ですが,この多くは「サービスの給付」を事業として行う企業に労務を供給するというケースであり,契約上の地位の格差が非常に大きいというのが通例になっています。この個人自らが有償で労務を供給する契約をめぐる問題として,事業者が労働法の規制を免れることを目的として,自ら労務を供給して就労する個人との間でいわゆる業務委託契約というものを締結し,労務供給者を労働者としてではなく,独立事業者として扱うというケースが最近非常に増えています。こうした業務委託契約のもとで働いている就労者は,本来は労働法規の対象となる労働者にもかかわらず,その契約類型が雇用ではなく請負又は委任,あるいは無名契約であるとして,労働者として取扱われていないのです。   新聞の折り込みチラシの版下の作成,従業員の寮での調理,パソコンのプログラムの作成,雑誌の取材や原稿の作成,バイク便による配送,本の編集,テレビ番組の撮影,冷蔵庫・冷凍庫等々の家電の修理等,あらゆる分野にこういった契約形態が広がっています。連合では,全国47都道府県の地方連合会に「何でも労働相談ダイヤル」という相談窓口を設けていますが,最近このような契約形態に関する相談事例が非常に多いです。雇用契約から業務委託契約への切り換えが実際に行われており,その中には正社員を業務委託契約に変更する際に,「この契約の変更に応じなければ別の施設に移ってもらう。」と配置転換を匂わせながら契約書のサインを迫るといったケースや,情報サービス産業等IT関係業界では,契約社員という有期契約で働いていた方に対して,「あなたは,プロのエンジニアですから,あなたのスキルを生かして独立をされたらどうでしょうか。同じ職場でこのまま働き続けられるし,手取りも増えますよ。」といった労働者の心をくすぐるような甘言を弄して契約形態を変更してくるケースもあります。企業側は雇用契約から業務委託契約への切り換えによって,社会保険,労働保険の加入を回避でき,事故が起こったときの補償の回避もでき,更に有給休暇とか賃金の支払等々の労働者保護の規制も回避できると考えているため,このようなことが実際に多く行われているわけです。   さらに,このような契約形態は請負又は委任といった契約類型になるため,仕事を依頼した事業者側が仕事の結果に対して「依頼した数字に達していない。」とか,「別の者に手直しさせて費用が掛かったため報酬は払えない。」というように, 「仕事の完成」についての評価基準が明確ではないことに起因する報酬支払拒否の事例が頻発しています。   今後,役務提供契約の検討を進め,報酬請求権の発生要件や支払時期,履行不能の場合の報酬請求権等々の規定の整備を行うという前提に立つのであれば,役務提供者が弱い立場にあり,その保護に配慮すべき場合があるということを,事業者間の役務提供契約又は役務提供者が事業者であり役務受領者が消費者である役務提供契約との区別も念頭に置きながら,検討を進めていただきたいと思います。   またもう一点,今回の検討事項では,既存の4類型の,四つの典型契約の機能分担の見直しという視点で御提起を頂いています。その中に準委任に代わる役務提供型の受皿契約を創設するということが挙げられておりますが,これについても慎重に検討を進めていただきたいと思っています。いわゆる役務提供契約の中には,民法上の請負や委任又は無名契約,混合契約といった様々な契約類型があります。民法の「雇用契約」といわゆる「労働契約」の概念については,その異同をめぐって学説上いろいろな議論が重ねられてきているところであり,確かに対等当事者間の契約関係を規律する民法と,交渉力の非対称性を前提として政策的に立法してきた労働契約では性格の違いがありますが,民法の雇用に当たらない場合でも契約関係の実態において労働法規の適用対象となるものは労働契約とするというのが現在では通説的な考え方だと思いますので,そういった労働契約の概念を念頭に置きながら慎重な検討をお願いいたします。 ○鎌田部会長 ほかに総論的な課題についての御発言ございますか。   よろしければ,部会資料17-1の2ページ,「第2 請負」に進ませていただきます。まず,そのうちの「1 総論」から「2 請負の意義(民法第632条)」について御審議いただきたいと思います。事務当局に説明してもらいます。 ○笹井関係官 それでは,「第2 請負」について,2以下の個別論点の御説明をいたします。   まず,「2 請負の意義(民法第632条)」は請負の意義を仕事の成果が有体物である類型や,仕事の成果が無体物であるが成果の引渡しが観念できる類型のものに限定すべきであるとの考え方がありますので,このような考え方の当否について御審議いただくものです。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○松岡委員 請負契約一般ではなくて,具体的には建物建設の請負契約についてでありますが,建物の所有権帰属については周知のとおり議論がありまして,判例と学説が対立していささか不明確な状況にありますので,法律関係の明確化のためには何らかの規定を置くほうがよいのではないかと思います。もちろん幾つか消極的な意見も予想されまして,第一には,本部会は物権編については改正対象としておらず,物権編総則の物権変動あるいは不動産付合とか加工などの所有権取得の規定に影響があり得るこの問題だけを取り上げてここで議論できるのかとの疑問があります。しかし,他方で物権編での規律が一般的にはどうなるとしても建物建設請負の特性に着目した特別の規定を置くことは可能ですし,規定を置くとしたら請負契約のこの箇所しかないと思いますので,今ここで議論する必要があるだろうと思います。   それから,第二にこの問題は請負人の請負代金債権担保を全体としてどう考えるかという課題でありますし,不動産工事の先取特権や民事・商事の留置権と併せて検討しなければならず,担保物権編についても改正対象ではありません。しかし,現在問題になっているところを議論しておいて,将来になるかもしれませんが,検討の布石とすることは決して無益ではないと思います。   さらに第三に,中身の話といたしまして,この問題についてはこれも御承知のとおり,いわゆる材料主義によって実際には請負人帰属説を一貫して採っていると思われる判例と,注文者原始的帰属説を採る近時の通説が非常に対立しております。また,関係当事者が両すくみ状態になっていることでむしろ紛争解決の交渉が促進されるという意見もあり,検討しても規定としてまとまらない懸念はもちろんあります。しかし,意見が対立している場合にもいろいろありまして,先ほどの前半のところにあったように,理論的な対立ですと立法によって一刀両断的に決めるのは必ずしも適切ではないかもしれませんが,この問題はどちらかというと交通整理のようにデフォルトの基準をどちらに置くかという性格のものではないかと思います。そうだとすると,むしろ明確に基準を設定しておくほうがよいと思われます。更に具体的に考えてみますと,請負代金が工事出来高に応じて段階的に支払われるというのが実務上多いことからしますと,両説は理論的には先鋭に対立しておりますが,結論としては相当歩み寄っておりまして,少なくともその一致点を規定上明らかにしておくのはいずれの説に立っても可能ではないかと思います。以上の諸点を踏まえますと,この問題は,少なくとも検討の俎上には上げておいたほうがいいのではないかと思います。 ○岡委員 2点申し上げます。請負の一部である建物請負契約の所有権の帰属ルールについて民法上重要なものなので規定を置くべきであると,そういう意見が弁護士会の一部に有力にございました。そういう意味で松岡先生の説に賛成でございます。   二つ目に請負の意義について有体物である類型や無体物であっても引渡しが観念できる類型のものに限定すべきであるという意見について,限定して何をしたいんだというのがよく分からないという意見がございました。その議論をしている中で,この引渡しが観念できるものについては現行法の引渡しから1年という瑕疵担保の規定を適用し,引渡しが観念できないものについては,その引渡しから1年という瑕疵担保を一切適用しないと。もう債務不履行の一般則に従って,権利を行使できるときから5年,10年というルールにゆだねるという提案なんでしょうかという質問がございました。後で申し上げますけれども,弁護士会としては引渡しから1年というあのルールについて通知義務を課すという構成でありますとか,知ったときから1年と,そういう短期限定について反対という意見でございますので,引渡しが観念できないものについては現行法の1年という瑕疵担保責任を適用しないと,そういう案であれば賛成であるが,そうでないとすると,何のために限定するのか明らかにしてほしいと,そういう意見がございました。 ○奈須野関係官 今の御意見と近い話ですが,請負の意義について,役務提供型の典型契約全般にも該当しますが,それぞれの契約類型の該当性の判断基準とその判断基準を設けることの意味を明らかにしていただきたい。   今御指摘のあった,仕事の成果が有体物である類型や仕事の成果が無体物であるが成果の引渡しが観念できる類型としては,例えば,弁護士に鑑定書の作成を依頼したり,あるいは会計士に監査報告書の作成を依頼するような場合は,成果物の引渡しが観念されるけれども,通常は委任と整理されていたところです。ところが,今後,このようなものを請負と定義を変更することにどういう意味があるのか,ということです。契約として行われている行為の一部分だけを切り出して,形式面のみに着目してこれは請負です,ということにされると,契約全体としての当事者の意思と違う効果が発生してしまうものと思います。もちろん,これは任意規定でしょうから,弁護士に鑑定書を作ってもらうときに下請負を禁止するのかもしれないですが,実際の運用としては違和感があります。 ○岡田委員 消費者契約の場合に本当に請負なのか委任なのかよく分からないという契約が増える一方です。そこで請負,委任ないしは準委任について分かりやすく明確になるということは歓迎します。相談の現場で例えば結婚情報サービス業に関して,相手と見合いをさせるというのだと委任だろうと思うのですが,結婚相手が見付かって成立となるとそれは請負なのかなと悩むところです。その意味では明確に分けていただくのはいいかと思うのですが,分けた後に本当に問題が出ないのかなという点で不安があるものですから,専門的に十分に議論していただいた上で,消費者にも分かるような条文にしていただきたいと思います。 ○村上委員 引渡しを要しないものを請負から切り離すということになりますと,それをいわゆる役務提供型契約として処理するということになるのだろうと思いますけれども,従来請負として処理されてきたことによって何か不都合が生じているということがあるのだろうかということを疑問に思います。また,引渡しを要しないものについても,完成という概念はあるわけですから,完成された仕事の内容に瑕疵があるという場合はもちろん生じるわけで,その場合に瑕疵担保責任の規定は適用されることになるのか,ならないのか。恐らく適用されないということになるのではないかと思いますけれども,そうしますと,その点で取扱いを変えることになります。それが望ましいことなのかどうかという観点から検討する必要があるだろうと思います。   また,後に第2の7で,下請負についても議論することが予定されていますけれども,現在,下請負とされているものの中には,引渡しを要しないものが恐らくあるのではないかと思います。そうしますと,そのようなものを請負から切り離して,下請負ではないとすることが果たして適当なのかという観点も必要かと思います。 ○青山関係官 厚生労働省の青山でございます。何人かの方がおっしゃったことと意識はほぼ共通しているんですけれども,請負について有体物と無体物で分けるということについてはどうなのかと思います。物と結び付いている請負がどういうもので,結び付いていないものがどういうものかについては実際には判断が難しい場合もあるかと思いますので,外延をしっかり明確にしないと混乱が生ずるかと思います。特に無体物のほうは請負から切り離すということですが,どのような類型,ルールに服させるかというのは非常に重要な話です。今下請負の話もありましたし,先ほど新谷委員の御発言にもありましたように,個人が企業に対してサービスを提供するようなケースはそちらに流れてしまうのかなと思うことから関心を持っております。   そこで新谷委員の先ほどの認識に一定の共通なものを感ずるということで発言するんですが,個人が企業等にサービスを提供するという形で,サービスを提供する側のほうが立場が弱い場合も相当あると思いますので,そのことに留意したルール化が必要かと思っております。そもそも労働者であるかどうかという点も微妙なのですが,それに仮に当てはまらないにしても業務委託契約とか請負で,個人で企業に対して仕事をしている人は相当いると思っておりまして,例えばある当省の関係の研究機関では125万人程度その個人請負型の就業者がいるのではないかという推計もしておりまして,ほかの人の研究でもそういう就業者が増えているという報告もありますので,そのようにそういう人達がそれなりのボリュームを持っているということも認識しながらのルール化が必要かと思っております。 ○中田委員 今,何人かの方から御指摘のありました請負について引渡しを要しないものを別に切り出すということはどんな意味があるんだろうか,むしろ弊害があるのではないんだろうかという御懸念はよく承りました。ただ,これは請負の問題だけではなくて,役務提供型契約を全体としてどのようにするのかということと関連するのだろうと思います。仮に,後でまた出てくると思うんですけれども,受皿的な規定あるいは総則的な規定を置くとすると,それと個別の典型契約との関係をどうするのかということは,これは当然考えなければいけないと思います。そのときに個別の典型契約に不明確な部分があるとしますと,一般的なルールとの間が結局はよく分からないままになると思います。そうだとすると,まず請負なら請負で明確な部分をきっちり規定するということを考えて,その上でそこからはみ出る部分,不明確な部分についてどう考えるのかということになると思います。それは恐らく一般的な受皿規定あるいは総則規定がカバーするんでしょうけれども,それでも個別の典型契約から少し外れたといいますか,にじむような部分について受皿的規定,総則規定をいきなり適用するのか,それとも個別の典型契約の規定,規律を勘案して考えるのかと。これは次の問題になると思います。   そこで,今度は請負について,引渡しを要するかどうかで分けるのはおかしいのではないか,あるいは懸念があるということなんですが,現行法自体も請負の中で引渡しを要するものと要しないものとを区別している規律が相当あるわけでありまして,実際引渡しを要するものの場合には引渡しと受領との関係ですとか,あるいは瑕疵担保責任の問題ですとかかなり特色がありますので,これはこれで規律を明確に定めることができるのではないかと思います。 ○新谷委員 総論のほうにも規定されていますが,現在の「請負」は非常に対象が広くて,多様な契約類型になっています。そのため本来「請負」の規律になじまない契約まで含まれているということは事実だと思います。民法の改正にあたって,改正を論議したときの社会の情勢に基づき,社会にある契約類型を典型契約とするか,しないかという論議が非常に重要だということは認識しており,任意規定として典型契約を規定する,当事者の意思が明らかでない場合に備えて意思表示解釈のルールを決めておくということは非常に重要なことだと思っています。   ただ,今回提起されているように,本来「請負」の規律になじまない契約を「請負」から分離するといったときに,この分離された契約がどこに置かれるのかが明確ではありません。受皿規定の中に位置づけられるということになるのかもしれませんが,労働者にとって今の規定のままがいいのか,改正するほうがいいのか,その受皿規定の内容が不明確である現時点では結論は述べられないため,そのどちらにも懸念があるということを申し上げておきます。 ○山川幹事 どこで発言したらいいのかなかなか難しいところで,雇用の概念をどう考えるかという点にかかわることでもありますが,一言だけ申し上げますと,やはり先ほどの個人請負就業者といいますか,あるいは個人で役務を提供して,かつ交渉力が弱い提供者のような類型がかなり共通して意識されているようです。しばしば役務提供者のほうが力が強い場合が想定されているようですけれども,役務提供者といってもこうした二つの類型が少なくともあるような感じがいたします。ただ,これは雇用の概念をどう考えるかですとか役務提供契約に関する規定の内容,更には労働契約法の守備範囲の問題もありまして,論点が錯綜しているのでありますけれども,少なくとも役務提供契約における交渉力の格差というのは少なくとも二通りあるということはここで申し上げておきたいと思います。 ○佐成委員 今この分類ですけれども,引渡しのあるなしで分類するというのは,これは現行法の解釈といいますか,現行法はそういう建て付けになっているから,それを切り分けて議論しましょうということだと思うんですけれども,それはそれで分かるんですが,比較法的に見ると,これはどういうようなあれになるのか。日本特有なものなのか,あるいはほかにもこういった切り分けの仕方で分類するような例があるのかというのも,全く分からないものですから,学者の先生方であればと思いまして,ちょっと発言させていただきます。 ○中田委員 直ちに詳しく御説明申し上げる用意はございませんけれども,役務提供型の契約の類型あるいは概念自体が国によって様々でありまして,日本法と同じ概念を前提として規律がどこでもこうだというわけではないということだと思います。 ○内田委員 特に付け加えるような知識は持ち合わせてはおりませんが,雇用と請負と委任の概念が国によってかなり様々でして,あるものが非常に狭い場合はほかのものを広げてそれをカバーするという形でそれぞれ対応しています。ですから,請負もどのくらいのところまでカバーするかというのは必ずしも国際的なスタンダードみたいなものはないように思います。ただ,最近は請負の中で建設請負のようなものは切り出していくとか,そういった形である程度具体的に切り出せるものに特則を置くような特色を持った立法例もありますけれども,これが国際的潮流というようなものはなかなか申し上げにくいというのが現状だと思います。 ○中井委員 請負の意義に関して,最初に岡委員から話がありましたが,弁護士会の意見を申し上げておきます。今回の御提案というのは仕事の完成と引渡しのほうに相当重点があって,引渡しの観念できるものを請負の対象にしていく。有体物はもちろんのこと無体物であっても引渡しの観念できるものと,こういう切り分けかと思いますけれども,弁護士会の多くの意見としては請負の本質的な要素というのは仕事の完成ではないか。引渡しがある場合,ない場合に限らず,仕事の完成を目的とした契約類型という切り分けのほうがよろしいのではないかという意見です。   仮に引渡しを基準にしたときに,例えば先ほどからありましたけれども,建築における下請の場合の多くは労務提供で,例えば型枠を作る,壁を塗るなど,建物建築の一部を請け負っているわけで,そこでは引渡しを観念できないとすれば多くは役務提供型となり,請負から外れることになる。また,同じ作業であっても,例えばテレビを修理する,車を修理するという場合であっても,現地に来てそこで修理をしてしまえば役務提供かもしれませんけれども,持って帰って引渡しをすれば,それは請負になるのか。家屋の修理ということが検討資料でも挙げられていますけれども,これが請負の概念から外れる,こういうことについてはいかがなものか。むしろこれらは仕事の完成もしくは修理なら修理の完成,それはどこでやろうと引渡しを伴っていても,伴っていなくても請負の範疇に入るのではないか。そういう整理のほうが好ましいという意見です。   その裏返しとして,引渡しを含まないものを請負から外した場合にどうなるのか,その行き先が見えていないのですけれども,仮にそれが役務提供契約だとしたとき,先ほど岡委員からもありましたが,瑕疵担保責任がその中にないとすれば,請負であれば瑕疵担保責任があるのに対して,そこから追い出されたものについてはないという規律になる,それでよいのかという素朴な疑問があります。 ○岡委員 質問でございますけれども,この資料の受皿と考えられている第4,詳細版の56ページ以下ですが,役務提供型契約の受皿規定の中に提供者の義務,報酬に関する規律,任意解約権等とあるんですが,瑕疵担保の規定はここにはありません。この趣旨は受皿規定としての役務提供型契約には債務不履行責任の特則である瑕疵担保責任は今のところ考えていないという趣旨に理解してよろしいんでしょうか。 ○鎌田部会長 これは事務当局の提案というわけではないのですが,事務当局から。 ○笹井関係官 資料の作成の趣旨ということで申し上げますと,現在公表されている立法提案の中には役務提供型契約について瑕疵担保責任を規定することを提案するものがなかったということですが,その意味では役務提供型の受皿規定に瑕疵担保責任を設けるという考えを事務当局として持っているわけではないということです。ただ,この審議会の審議を通じて瑕疵担保責任の規定を設けるべきであるということになるのであれば,もちろんそれは検討の対象になってくると思います。 ○中田委員 今,受皿規定の内容がまだ議論されておりませんので,そこを先走って言うことは難しいと思いますけれども,とりあえず瑕疵担保については先ほどの議論とも関係いたしますが,契約責任としてとらえることを前提として考えたとしますと,わざわざ物の瑕疵について何かのルールを置くというのは,多分それは分かりやすいルールとして置くということかと思うんですけれども,ここで問題となっている一般的な受皿規定は必ずしも物の引渡しを目的とするものではない,むしろ請負の場合には物の引渡しを目的とするものは請負のほうに取り込むわけですから,受皿のほうにはそれはあえて置く必要はないのではないかと思います。しかし,仮に将来ここで議論される受皿的な役務供給契約について何か特別な債務不履行の特則的なものを置いたほうがよいという具体的な問題があれば,それはそこで検討すればよろしいのではないかと思います。 ○内田委員 役務提供の受皿規定の内容はまだ審議対象ではありませんけれども,私の理解では,これまで準委任と言われていたもの,つまり法律行為を頼むのではなくて,事務処理を頼むというようなものについてきちんとした規定がなかった。それをカバーするというのが一つの大きな目的なのだと思います。そして,準委任的な契約については,これはサービスの提供ですので,瑕疵担保でいう瑕疵についての責任は余り議論されていなくて,通常は不完全履行として処理されるのだと思います。瑕疵担保の特則を置く意味というのは通常責任の期間制限をするとか,引き取ってからどのくらいの間に責任追及をするとか,そういう規律が置かれるところに特色があるわけですが,サービスの場合には必ずしもそういう特則は必要ないので,不完全履行の問題として処理すればいいではないかということなのだろうと思います。   これに対して,請負の中で先ほどちょっと申しましたが,建設請負のように定型的なものを切り出して,それについて一貫した規定を置くという傾向が国際的には,潮流という程ではないですけれども,見られます。そういう規定の仕方が一つあるとすれば,同じような形で規定が置けるのは不動産の建設請負だけではなくて,大きな動産についても同じことが言えるではないか。更にまた,必ずしも大きいということはなく,動産一般についても同じことが言えるのではないかと考え,更にまた無体物でも,プログラムをつくって渡すというプロセスがあるのであれば,それはやはり同じではないかということで,建設請負だけではなくてそこまで拡張したものについて一貫した規定を置こうということになり,それを今まで使っていた請負という言葉で表そうとしたのがこの提案ではないかと思います。 ○松本委員 今の御議論を伺っておりますと,引渡しを要するということの意味が建設請負型あるいは製作物供給契約型のような一種の注文を受けて有体物を作って,それを引渡すという売買にかなり近いタイプのものを考えておられるようで,それであれば売買の議論のかなりの部分が,瑕疵担保なんかも売買を中心に発展してきていますから,使えるのではないかと思われるわけなんです。しかし,引渡しを要する,要しないという言い方だけで区別すると,例えば先ほど少し議論がありましたが,修理に来てもらったら,それは請負でなくて,何か労務提供型という上位概念であると。ではここではちょっと修理し切れないからいったん会社に持ち帰って修理してきますということになると,今度は後の引渡しという別の行為が出てくるから,突然請負になるのかというと,それだけで差を付けるというのは何かおかしいのではないかと思います。つまり製作物供給あるいは建物の建設請負のタイプのようなものを請負と限定したいのであれば,引渡しを要する,要しないという分け方ではない別の基準を立てたほうがいいのではないか。オンサイトで修理をする場合,会社に持って帰って修理をする場合,ともに同じ契約ではないかと考えるのであれば今度は違った性格付け,例えば河上先生でしたか,有体物に労務の結果が化体するとか何かそういうタイプの立て方をされていたんですよね。労務の提供の結果が有体物に実現するというか,そういう言い方で請負を考えれば,今の修理というのはどこで修理しようが修理した結果は有体物の修理であれば有体物にはね返るわけだから,それは請負だということでいける。そういう観点が必要ではないかなと。引渡しの有無で分けるというのは何かよくないと思います。 ○中田委員 いろいろな切り分け方があると思います。仕事の結果,有体物に化体しているというのはイメージとしては分かるような気もするんですが,具体的にどういう規律になるのかというと,それもなかなか難しいような気もします。請負の場合には仕事の完成ということと,完成した成果を引き渡すというのが一つのタイプとしてあるわけでして,それが先ほど来出ている不動産や動産の引渡しを伴う請負ということだと思います。それは形式的かもしれませんけれども,ある意味で基準としては明確でありまして,かつ引渡しに例えば受領との関係を結び付けるとか,それから,あるいは単に引き渡されただけの場合ですと,まだ受領していないということで返還して追完を求めることができるとか,いろいろなことを考える上で,結節点としてはむしろ分かりやすいのではないかと思います。   ただ,その場合の問題点として,そうすると例えばそこで修理した場合と,それからいったん持ち帰って修理した場合とでずれるのがおかしいのではないかという御議論が出てくるわけですが,これは引渡しという概念あるいは受領という概念をどのように構成するかということで対応できるのではないかと思います。もちろんほかにもいろいろな方法で切り分けるというアイデアが出てくればよろしいと思いますけれども,少なくとも成果の引渡しを伴う請負というのは,それ自体は比較的クリアな概念ではないかと思います。 ○野村委員 今までの議論を伺っていて思いました。今の民法は仕事の完成ということで切り分けているわけですよね。特に引渡しという概念がなくて,ただ,建物のように引渡しというものが観念できる場合であれば,それが観念できない場合とを区別でき,個別の規定のとの関係で意味を持ってくるということだと思うのです。そこをあえて物の引渡しとは違うものであるけれども,なお引渡しという観念を入れるということの意味がまだ十分に理解できないのです。例えば,日本ですと医療契約は準委任の一つの例と考えられていて,医者が治療をして完全な健康状態にするという約束をしていないと考えられていますが,フランスでは医療契約の中でも比較的単純なものについては請負契約と考えてもいいのではないかという議論もあります。その典型的なのが例えばインフルエンザの予防注射のようなもので,注射をするということ自身が契約の目的であって,それが達成されればそれで契約は履行されたと評価していいのではないかということなのです。そういうところからすると,現行の民法のままでもいいのかなという気がしています。仕事の完成には,物の引渡しが含まれている場合もあれば,そもそも物の引渡が観念できない場合もあるということではないかと思います。あえて物の引渡しとは違いながら,なおかつ引渡しという言葉を入れることの意味がもう少しクリアにならないといけないのではないかと思うのです。 ○内田委員 私は別にサポートするという趣旨ではないのですが,ただ,いろいろ出ている案が正確に理解されずに葬り去られるのはちょっと残念だなと思いますので,少し私の理解を申し上げます。引渡しというよりは,むしろ,鍵になるのは受領なのだろうと思います。つまり有体物であれ無体物であれ,仕事を頼んで,その引渡しを受けるようなプロセスがある場合には,受け取った段階で注文者は注文したとおりのものができているかどうかを調べるであろう。調べておかしければ文句を言うわけですが,その段階で調べて注文どおりのものであったということになれば,そこでいったん受領というプロセスがある。受領というプロセスがあれば仕事をした側としては,それでもう終わったと通常は思うわけですので,そこからやはり責任追及,債務不履行的に言うと不完全履行の責任追及ですけれども,その追及の期間の制限をかけてもおかしくはないであろう。仕事の内容について検査義務を課すかどうかは,大きな問題ではありますが,しかし,義務を課すかどうかはともかく,通常のプロセスでは,いったん検査をして注文どおりのものができているかどうかを調べて,できていなければまたやらせる。できていれば了承して受け取るという「受領」というプロセスがある。そういうものについては,受領に特有のルールを置いておくと非常にうまく規律ができるという理解が前提にあるのではないかと思います。そうであるとすると,受領というプロセスを観念できないようなタイプのものについては別の規律になるし,受領というプロセスが観念できるものについては必ずしも有体物に限る必要はないということになるのではないかと思います。もし違っていれば訂正していただければと思います。 ○松本委員 半分分かるんですが,半分分からないということでありまして,つまり今の御提案は,この事務局整理だと引渡しという概念を使っているんだけれども,ここは有体物の引渡しなんかとは全然違って,仕事が完成したということを注文者の側に確認してもらうというプロセスを意味しているんだと。そうであれば自宅で修理してもらおうが営業所に持って帰って修理をしてもらおうが同じだということになります。その有体物を引き渡すわけではないのだからということで,そうであれば理解できるわけですが,そうすると,これについて引渡しを要する,要しないという表現は多分しないほうがいいだろう。そうすると,引渡しを要しない請負契約,有体物を受け取るという意味での受領ではなくて,仕事の完成を注文者として確認することの必要のないような請負契約がそもそもあるんですかというと,私想像できないんです。確かに633条では「物の引渡しを要しないときは」と書いてあるんですが,これは恐らく今おっしゃったような仕事の完成したことを確認しましょうという意味ではない,もっと狭い意味の引渡しだと思うんですね。そうすると,結局仕事の完成の確認をしないような請負というのは請負ではないということで,議論する余地もないということに戻ってしまうのではないか。 ○鎌田部会長 現行法のもとでも,引渡しがあろうがなかろうが請負ですと言った後で,請負の中で今の633条だけではなくて,例えば637条とか638条というのも引渡しを一つの基準にしていますから,こういう引渡しを前提とした規定の適用のある請負とそうでない請負というように二つに分けるわけですね。それを,引渡しを要する,要しないというのは意味がないというと現行法はおかしいことになるわけで。 ○松本委員 いや,だから狭い意味での引渡しとか受領を観念できないようなものもあるでしょうということだったら理解できるわけですが,そうではなくて仕事の完成を確認するという意味であれば大抵の請負はそれはできるのではないですか。完成という概念が入ってこないような契約はそもそも請負ではないということで定義から外れますから。 ○中井委員 先走るといけないかもしれませんが,役務提供契約に関する整理のところを拝見すると,成果完成型という類型と履行割合型という類型を設けています。翻って請負の中に成果がないにもかかわらず現在請負として処理せざるを得ないもの,請負と称して処理しているものがある。それが一定のサービスを提供している,時間的なサービスもあるでしょうし,それは履行割合的な仕事をしている。それに一定の仕事の完成という概念を入れたり引渡しという概念を入れたりするのは難しい。ですから,大きく仕事の完成と引渡しを伴うもの,仕事の完成はするけれども引渡しを伴わないもの,サービス提供のように仕事の完成を観念できずにサービスを提供するもの,この三つのざくっとした分け方があるとすれば,今現在三つとも請負という中で処理されている。そのうち,三つ目のものを外出しするのは理解ができますが,仕事の完成をしたもの,しかし引渡しを要しない,つまり第2の類型,これを請負から追い出してしまうことについて違和感がある。請負の中心的なものは引渡しというよりは仕事の完成,今の民法の条文のとおりですけれども,何らかの仕事を完成させる,それが修理であれば修理の目的を達成してください。そのときには完成しているかどうかのチェックは必要なのかもしれませんけれども,物の完成,仕事の完成がキーワードであって,引渡しはサブではないか。三つの類型のうち二つは少なくとも請負に残し,三つ目の類型,仕事の完成を観念できないサービス提供について切り出して役務提供契約的な発想をする,こちらのほうがまだ実務に即して理解しやすいという印象を持っています。 ○中田委員 今おっしゃっている3番目の仕事の完成を目的としないというのは,これは現行法のもとでは請負ではないということになってしまうのではないでしょうか。それ以外の二つについても,これまで御議論いただいているところですけれども,仕事の完成が中心であることは確かにそうなんですけれども,しかし,引渡しを伴うタイプのものではやはり引渡しがもう一つ重要な要素になってくる,これは現行法の規定もそうですし,その解釈論でもそうだと。しかも,それは先ほども出ましたけれども,引渡しの後,受領という行為を伴うということで,その意味では引渡しの有無,更に受領の有無ということは大きな分かれ目になるのではないか。それによって何が違ってくるかということなんですけれども,先ほど野村委員からインフルエンザの予防注射の話が出ましたけれども,ではそれがうまくいかなかったというときに瑕疵担保の問題かというと,やはりそうではないのではないかと。そうだとすると,引渡しの有無というのは区分としては分かりやすい。それが受領と結び付くことによって,より意味がはっきりしてくるということだと思います。それでは受領を基準にすればいいのではないかということかもしれませんけれども,ただ,受領という概念になりますと少し分かりにくい,むしろ引渡しのほうが外形的に分かりやすいということかなと私は思っています。引渡しがあった後,受領という次のステップを考えるということではないでしょうか。   結局は元に戻ってしまうんですけれども,受皿的な規定あるいは総則的な規定をどのようなものとして観念するのかということで,恐らく現在のように準委任がその役割を担っているのが適当ではないということはかなり御賛同いただけるのではないかと思うのですけれども,その上で新たな受皿的規定と個別の典型契約類型との関係を明確にしようとすると,そのためには引渡しの有無で請負を区別するということは意味があると思います。 ○松本委員 今の御議論は内田委員の言っておられる受領とは違った意味の受領概念であるかのようにも思えるわけです。つまり有体物の引渡しとその受領という感じで議論されているように思えるわけですが,内田委員のほうはもうちょっと弁済の受領的な,債務の履行を確認してこれでいいですよというような意味で使っておられるように思えるのです。そのように違うのであれば違う,一緒だというのであれば一緒でいいんですけれども,その有体物の引渡しとそれの受領ということだと請負の定義として狭いのではないかというのが私の先ほどからの主張であります。自宅で修理してもらう場合にも引渡し,あるいは受領のプロセスが入っていると,修理をしている間は当該動産であれ不動産であれ,占有がその修理業者に移転しておって,修理が終わった段階で「はい」ということで観念的ですけれども,引渡しをしてそれを受領していると観念するという御提案であれば,その場で修理をしようが,持ち帰って修理をしようが同じ法律効果が発生するから,それはそれで結構です。自宅で修理した場合に瑕疵担保責任がなくて,持って帰って修理した場合には瑕疵担保責任があるというのは,それは到底理解できない議論かと思いますから。 ○内田委員 私の表現がうまくないということかもしれませんが,私は中田委員がおっしゃったことと違ったことを言ったつもりはございません。私は二つ性質の違った問題が含まれているように思います。一つは中井委員がおっしゃったように,仕事の完成が観念できて引渡しを伴うものと,仕事の完成は観念できるけれども引渡しを伴わないものがあって,今ともに請負の中に入っている。この片方を請負から出していいのかという問題提起をされたかと思いますが,現在は請負の中に両方入っているけれども,しかし,引渡しを伴うか伴わないかでもって現に規定上区別があるわけですね。また,立法論としても引渡しを受けて,それを一応調べた上で受領するというプロセスを伴うものについて,特則といいますか,それに即した規定を置くということが可能であるという考え方があると思います。そういう考え方を支持するかどうか,これが一つの問題だと思います。つまり,請負と呼ぶかどうかはともかくとして,引渡しとか受領というプロセスを伴うものについて,ひとまとまりの規定を置くというアプローチを採るかどうか,これが一つの問題です。   もう一つは,仮にそういうアプローチを採った場合に,引渡しを伴わないものを請負と呼ばないという選択をするかどうか。これは概念というか言葉の問題です。請負という言葉をそういうふうに狭くすることに反対であるという立場を採ったことから,引渡しを伴うものに特有のルールを置くという案まで否定してしまうというのはちょっと行き過ぎではないかと思います。ですから,請負という概念をどう使うかという問題と,引渡しを伴うものについてひとまとまりの特則が置けると考えるかどうかを分けて議論したほうがいいように思いました。 ○道垣内幹事 前提で1点分からないところがあるのですが,引渡しによって区別をするという場合には,現行法の637条2項は妥当でないということを前提にしているのか,していないのか。内田委員のおっしゃったように,引渡しと受領との区別における検査の観念などというと,そこから1年にするかどうかはともかくとして,期間制限をするというものも理解できますが,しかしながら,現行法の637条2項は引渡しを要しない場合には仕事の終了から起算するということになっているわけですよね。これは前提とするのはよくないという話なのか,これはこれでいいのであって,しかし,1項と2項とを契約類型として分けるという話なのか。少し前提が分からないものですから,議論がしにくいところがあるんですが。 ○中田委員 637条2項について引渡しを要しない場合に担保責任の特則を置くべきかどうかというのがその前提問題になるのではないでしょうか。現行法の解釈論ではなくて,今後引渡しを要しない現在で言うと請負がなされたときに,その担保責任の在り方をどう考えるのかということから考えるべきであって,そこにもし特則を置くとすれば,その意味はどこにあるんだろうか。それはむしろ余りないのではないかという議論も出てくるのかなと思います。 ○道垣内幹事 しかし,現行法であっても引渡しを要する場合と要しない場合とは区別されているのだから,ということを出発点としながら,検収の話をするのは,少し議論が歪んでいる感じがしまして,引渡しを要しない場合には,仕事の完成時から検収ができるというのが現行法なのではないでしょうか。そうしますと,例えば瑕疵担保に関して637条2項とは異なる規律を置くとすることによって,初めて,受領概念を検査概念と結び付けて,二つに分けるという意味が出てくるのではないかと思うのです。まず二つに分けるということを定めた上で,引渡しを要しない場合の担保責任の存続期間についてはそこで別途議論をするというのは,議論の仕方としてそれでいいのかなというのが気になるところです。逆に言えば,だから,余り入口で議論をしても仕方がないということを意味しているのかもしれないのですが。 ○松本委員 637条の議論をされていますから,これを今議論しているところの製作物供給契約ではないところの有体物の修理契約だと考えれば,営業店に持ち帰って修理するタイプの場合の瑕疵担保責任の起算点は注文者にその修理した物品が返ってきて,修理がきちんとできているかどうかが確認可能になった時点から起算するというのは,それはそれでおかしくないし,637条の2項のほうが仕事の目的物の引渡しを要しない場合というのを,これを注文者の自宅で修理する場合だと考えれば,はい,修理が終わりました。はい,どうぞ見てください。はい,確認しました。その時点から1年がスタートするということで,637条はそういう意味では合理的な書き振りだと思いますから,この2項が不合理だから削除してしまえ,そして,そういうタイプの請負契約は不純な請負だから外してしまえという議論は説得力がほとんどないと思います。 ○潮見幹事 入口のところで議論していいのかというのがよく分かりません。先ほど中井先生が御説明になられたところによれば,請負で従来言われている仕事の完成というのが必須の要素になっている場面で,その意味は二つあるということでした。引渡しがある場合と引渡しがない場合とである。最後の純粋役務提供型はおけば,そういう場合に仮に完成プラス引渡し型というのを請負のⅠ型として,完成があり,しかし引渡しを要しないというのがⅡ型にした場合に,要するに請負Ⅱ型をどういうふうにとらえていくかというのがここでの問題のはずなのです。ところが,それを前提にする場合に,今の現行法を前提にするのであればよいのですが,全体をどう改正していくのかというのがここでの課題でして,そのときに請負Ⅰ型についての規定をどうするのかということ自体がまだ固まっていないんですよね。まして,もう一つの,これをどういうふうに体系的に位置付けるかは別として,役務提供契約というものについて,どのようなルールを立てていくのかということ自体もまた,今のところはあいまいと言ったらいけませんけれども,ペンディングにされているという状況なんですよね。   そうした中で,請負Ⅱ型の位置付けを考えるときに請負Ⅰ型にくっ付けて,それで合わないところは何か特別のルールなり何なりを設けることによって補正をするのがいいのか,それとも請負Ⅱ型については役務提供契約の中に吸収して,そちらでしかるべき対処をすべきなのかということについて入口で幾ら議論しても,きりがないというか,生産的でないと思います。むしろ,恐らく完成があって引渡しがある請負Ⅰ型は,いろいろな立場はあろうかと思いますけれども,少なくとも従来の請負の議論の中では一つの典型とされていたわけであるし,それで従来から出てきている民法の改正論というのも基本的にそれを前提とした形で提案等がされているようですから,それをまず議論して,その中でこれは引渡しを要しない型の場合には違うとか,あるいは同じだという点を確認しつつ,最終的に請負Ⅱ型をどこでどのように処理するのかを議論してはどうか。場合によったら請負というものを広げるという判断になったとしても構わないし,狭くなるんだったら狭くして役務提供で広げましょうということなら,それはそれでいいのではないかと思います。   ついでながら,そのことと内田先生がおっしゃられた受領というものを中心に考えていくということについて,それがさきほどの議論に結び付いていくのかということには,私自身は釈然としない部分もあります。 ○鎌田部会長 今の最後の点も含めまして,内田委員,潮見幹事がおっしゃられましたように,ここでは請負の中に引渡しあるいは有形的なものが内容になっているものと,そうでないものというのがあるというのは現行法上もそうなので,この二つのそれぞれについてどのような規制の内容をしていくのが望ましいかを個別に検討しようというところについては大体意見は一致する。境界はあいまいですけれど。それを請負と言うか違う名前を付けるかというのは,これはまた別の話として議論をしていけばいいと思います。そういう意味では,ここの請負という項目に現在整理されているのは有形的な請負を念頭に置いた規律をまず整理するということだと理解していいですか。 ○松本委員 請負Ⅰ,Ⅱというのはちょっとミスリーディングなので,もうちょっと分けたほうがいいのではないか。つまり製作物供給契約型の請負というのがあります。それから,持ち帰り修理型の請負,これら両者を引渡しがあるからということで一つにくくって,純粋な請負としようというのがここの提案あるいは事務局の整理の趣旨だと思うんですが,先ほどから何回も言っていますように,注文者の自宅で修理をする場合も従来は請負と考えられていたわけですよね。従来請負と考えられていた幅がこれぐらいある中で,なぜ出張修理だけがのけ者にされるのか。そうでない部分は引渡しというところで何かあるからだということなんですが,引渡しといっても瑕疵担保責任の起算点がどの時点からであるかということであれば,それは瑕疵があるかないかの確認ができる時期からだということで当たり前の話なので,その契約類型の本質にかかわる問題ではないのではないかと思います。契約の本質という点では仕事の完成のほうがより本質度が高いと思うんですね。そうでないのに無理に引渡しを伴う請負を一つの純粋類型として,その中に製作物供給契約と持ち帰り修理を強引に突っ込むというのはちょっと違和感があります。そのような整理をするのであれば,従来請負とされていたところの有体物絡みの請負の中にも3種類ぐらいあります。それから,無体物に関する請負というのがまた外側にいろいろありますというところから,民法の典型契約の請負としてはどのタイプに絞って規定した上で,それ以外の部分についてはどうしましょうかという議論のほうが生産的ではないかと思います。 ○山野目幹事 議事進行上の提案が一つと,それから意見ないし質問が一つございます。   前のほうから申し上げますと,細部を細かく見ていけば,なるほど松本委員おっしゃったように三つないしそれ以上に分けて議論する必要というのが最終的には出てくると思いますが,当面の類型の区切りとして,議論の進め方の整理は内田委員,潮見幹事,部会長のおっしゃったことが適切な整理になっているのではないかと考えますから,この議論は役務提供型のところにいったときにもう一度そこまでの細目の論点の審議を踏まえてしていただきたいと私個人は望みます。   それから,質問ないし意見ですが,しばらく前に,請負の結果,物が生ずるときの所有権の帰属の在り方を決めてほしいという御意見が二つ,つまり複数ありましたが,この後の作業のことを考えると,少し重いと感じます。議論してほしいとおっしゃったのは分かりますし,物権法の議論だから議論をやめてくれなどという杓子定規的なものを申し上げるつもりはありませんが,中身としてはどういうお考えをお持ちなのかということは,もうこの段階ですと,承っておきたいと感ずる次第でございます。 ○鎌田部会長 松岡委員,何か具体的な提案はありますか。 ○松岡委員 まだそこまで詰めて考えておりませんでした。今日はとにかく改正対象の整理の議論の対象にもなっていないのでは困るのではないかと申し上げたかっただけで,山野目幹事からリクエストを頂きましたが,ここで直ちに明確にお答えできる用意はありません。 ○山野目幹事 中身は松岡委員の御発言で整理いただいたとおりであると考えますが,仮に注文者原始取得説を採用することにして,判例が採っていると見られる請負人帰属説を否定するということになりますと,その実務上の影響を考えたときにそこまで議論が熟しているかということは少し勇気が要ると感じます。反対に請負人帰属説で何か規定を置くとなると,どうしても不動産工事の先取特権の位置付けについての体系的な整理が避けられないことになると私は見通しておりますから,退くも難,進むも難という状況になるため,重いと感ずるということを申し上げます。 ○中井委員 1点だけ。先ほど私が第三類型的なことを申し上げて,仕事の完成を目的としないそれは請負でないと,理解としてはそうだろうと思うんですけれども,実務はそうでありながらもそれらを請負と称している実態がたくさんあります。その典型は,偽装請負という言葉で表現していいのか分かりませんが,それもそうですし,そのような役務提供型のものをあえて請負類型として契約書に書き込んだりしている。それはやはり不適切だろうと思いますから,請負概念を明確にしてそれらを外に出す,この作業は必要なことだろうと思っております。 ○鎌田部会長 いずれにしましても,その二つ,三つあるいは所有権の移転を伴うものもという意見も出てくるのかもしれませんけれども,それらが合体して一つの請負という典型契約になるのか別々にしたほうがよりよいのかという議論については,具体的な規律の内容を検討しないことには,一つか二つか三つか四つかは決まらないということで,請負の具体的な内容,それからここでは差し当たり受皿契約と言われているところに準委任とこの無形の請負とを合体したような形で提案されていますけれども,それらの中身を検討した上で全体の契約の類型化,配置をその後に決めていくというふうな議論の進め方にさせていただければと思います。いろいろと頂戴した御意見については今後の議論の中に生かしていくように最大限工夫をさせていただきます。   ということで,次に進ませていただきます。部会資料17-1の2ページから7ページまでの「3 注文者の義務」から「6 注文者が任意解除権を行使した場合の損害賠償の範囲(民法第641条)」について御審議を頂きます。事務当局に説明してもらいます。 ○笹井関係官 「3 注文者の義務」は,請負契約において注文者は受領義務や協力義務を負うという考え方が示されていることなどを踏まえ,請負契約において注文者がどのような義務を負うのかについて御審議いただくものです。   「4 報酬に関する規律」では二つの論点を取り上げました。「(1)報酬の支払時期」は,注文者は仕事の目的物の受領と同時に報酬を支払わなければならないとの考え方の当否を御審議いただくものです。また,「(2)仕事の完成が不可能になった場合の報酬請求権」は,請負人が仕事を完成させなくても報酬を請求し得る場合としてどのような場合があるか,その場合にどのような範囲で報酬を請求することができるかという問題について御審議いただくものです。ここでは関連論点として,仕事の完成が不可能になった場合の費用の負担についても取り上げました。   「5 瑕疵担保責任」では六つの論点を取り上げました。「(1)総論(瑕疵担保責任の法的性質)」では,売買契約における売主の瑕疵担保責任の法的性質についての議論も参照しつつ,請負人の瑕疵担保責任の法的性質について御審議いただくとともに,瑕疵担保責任について留意すべき点を幅広く御審議いただきたいと思います。「(2)瑕疵を理由とする解除の要件の見直し(民法第635条)」では,催告解除の可否,土地の工作物についての解除制限の見直しについて,「(3)報酬減額請求権の要否」では,仕事の成果に瑕疵がある場合の救済手段として報酬減額請求権を注文者に認めることの要否について,「(4)担保責任の存続期間の見直し(民法第637条,第638条第2項)」では,注文者が合理的な期間内に瑕疵を通知しなかった場合には瑕疵担保責任を追及することができないという考え方や,存続期間の年数を見直す考え方が示されていることを踏まえ,担保責任の存続期間をどのように考えるかについて,それぞれ御審議いただきたいと思います。「(5)土地工作物に関する担保責任の存続期間の見直し(民法第638条第1項)」では,土地工作物に関する担保責任の存続期間を問題とするものですが,この期間の法的性質をどのように考えるかについても併せて御審議いただきたいと思います。「(6)瑕疵担保責任の免責特約(民法第640条)」では,瑕疵が請負人の故意又は重大な義務違反によって生じた場合には瑕疵担保責任の免責特約の効力を制限すべきであるという考え方の当否を取り上げました。   「6 注文者が任意解除権を行使した場合の損害賠償の範囲(民法第641条)」では,この場合に請負人が請求し得るのは約定の報酬額から解除によって支出を免れた費用を控除した額であるとの考え方が提示されていることを踏まえ,この場合の損害賠償の額について御審議いただくものです。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分のうち,まず「3 注文者の義務」について御意見をお伺いします。 ○山本(敬)幹事 「3 注文者の義務」ですが,次の「4 報酬に関する規律」も,注文者の「受領」に関する問題が重なって出てきていますので,併せて指摘させていただいてよろしいでしょうか。具体的には,2点ほど意見を述べさせていただきたいと思います。   まず,3の「注文者の義務」のところでは,請負についても,売買の場合と同じように注文者は目的物を受領する義務を負うという考え方が示されています。このように,注文者の受領義務を定めることについては,私も賛成したいと思います。問題は,先ほども少し出ていましたけれども,そこで言う「受領」の意味です。   部会資料を見ますと,この場合の「受領」とは,占有の移転を受けるという単なる事実行為ではなく,仕事の目的物が契約内容に適合したものであるか否かを確認し,履行として認容するという意思的要素が加わったものとされています。しかし,これは少なくとも,これまで受領義務が認められる場合に想定されていた「受領」の意味とは少し異なるのではないかと思います。この考え方によりますと,注文者が「受領」を拒絶しているときに,「受領」義務の履行を強制する場合に,履行として認容して受領することが強制されるというようなことになるのでしょうか。よく分かりません。   いずれにしても,受領義務で問題になるのはそこまでの意味での「受領」ではなくて,仮にそこに意思的要素があるとしても,当該契約ないしは当該債務の目的物として受領する。つまりその意味での客体として認めるということまでであって,それが契約内容に適合しているかどうかというところまでは,いずれにしても含まれていないのではないかと考えられます。受領義務を定めるとしても,そこで言う「受領」の意味内容は,せいぜい当該契約ないし債務の目的物として受領するという意味にとどまるのではないかと思います。   次に,4の「報酬に関する規律」のうちの(1)「報酬の支払時期」のところを見ますと,「請負契約においては,注文者が仕事の目的物を受領することによって仕事の完成による具体的報酬請求権の発生が確認されるから,そのときに請負報酬を支払うべきである」という考え方が示されています。これは,「具体的報酬請求権の発生が確認される」ということの意味もよく分かりませんが,それ以上に問題になりますのは,これによると,報酬の支払と目的物の引渡しではなくて,「受領」が同時履行関係に立つということになる点です。例えば,請負人が仕事を完成して,目的物を提供したけれども,注文者が目的物を受け取らずに,報酬の支払を拒絶しているという場合に,請負人が注文者に対して報酬の支払請求訴訟を起こしたとしますと,現在では,報酬の支払と目的物の引渡しの引換給付判決が出されることになると思います。それが,ここに書かれている見解によりますと,報酬の支払と目的物の受領の引換給付判決ということになるのでしょうか。これは,先ほどお話しした点とかかわりますが,仮に「受領」の意味を履行として認容して受領するという意味に理解して,その前提として,目的物が契約内容に適合したものであるかどうかを確認する必要があるということになりますと,手続的にどうなるのかという問題も出てきそうです。   いずれにしましても,部会資料で示されている見解は.少なくともこのような問題をクリアする必要があるという問題点を指摘させていただきたいと思います。 ○岡委員 三つ申し上げます。1点目は注文者の義務のところですが,こういう仕事,成果物が契約に適合している場合に受領する義務があるだろう。その確認する機会を与えるべきであろう。必要な協力をする義務があるであろう。この中身についてはそう異論はないんですが,一律に条文でこういう義務があるということを書く必要まではないのではないか。やはりケース・バイ・ケースで信義則で決めることが相当である,書くとしてももう少し柔軟な規定であるべきだという意見が強くございました。   それから,2番目にはその消費者系の弁護士のほうからはやはり一律に受領義務があると書かれると,事実上の強制をされることにもなって,それは不都合であるという意見がございました。先ほど問題になっていた役務提供者が個人の場合ではなくて,役務を受領して金を払うほうが個人の場合からの問題提起でございます。要するに全般的に請負を引渡し型に絞って書くのであれば,こういう受領義務が書きやすくなるであろうというのは分かるんですが,それでもやはり一律に書くことについては不安感があるというのが大勢の意見でございます。   それから,3番目に報酬の支払時期について弁護士会で議論したところでは,ここに書いてある受領は一般的に言う検収に近い形であると受け止めました。検収して初めて代金債務が発生するというのは非常に合理的な制度で分かりやすいという意見も多くございました。ただ,山本先生がおっしゃったように,意思的な要素が入ると本当に引換給付判決がどうなるんだという議論は同じようにありました。成果物が契約に適合しておれば引渡しを受ける,そういう義務だとすると,裁判所で成果物が契約に適合しているという事実認定があれば普通の引換給付判決が出せるのではないかと,そういう理解でよいのかという質問がございました。 ○鎌田部会長 今,議論は3だけではなくて4まで進んでいますので,3と4とどちらの意見もお出しいただいて結構でございます。 ○岡田委員 今まで幾つか出ていますが,この注文者の義務という部分に関しては,消費者の立場から言いますと,自分で注文しておきながら受領しないとか協力しないということは普通はあり得ないと思うのです。もしあるとすれば,やはり履行されたものに対して自分が思っているものと違うとか,話が違うとか,材料が違うとか,何らかそこに自分が期待したもの,合意に達したこと,それと違うから受け取らないとか協力しないということではないかと思うので,こういう形で一方的に義務と言われてしまって,なおかつ仕事の目的物が適合しているかどうか確認するまでの義務を課されるとすれば,これは消費者にとっては大変荷が重いと思います。 ○潮見幹事 3のほうで先ほどから少し話題になっている受領義務,受領概念についてですが,私は,先ほど山本敬三幹事がおっしゃられたことと全く同意見です。まず,受領義務を認めるかどうかについては売買のところでも申し上げましたのですが,仕事完成プラス引渡しというパターンで物事を考えていく場合に,売買のところで定型的な枠組みとして受領義務というものを認めるのであれば,請負でもそれと同等の形で受領義務を認めるというのがよろしいのではないかと思います。もちろん,まずは契約解釈の問題ですけれども,そのことは置いておいて,そのように思うということを1点申し上げます。   それから,受領の意味につきましても,債務不履行のところでの受領義務や,それ以外のところでもいろいろな場面で受領という言葉が出てきているんですが,それはここ整理されているところで言うと事実行為としての受領であって,それを請負の受領義務のところだけで性質承認という性状承認まで含めた形の受領というものを考えるということはいかがなものかと思います。受領義務を認めることと,それとは直結しない。まして3に書かれている内容であれば,これは要するに契約に不適合なものが提供されても注文者には受領する義務はありませんと言えばいいわけで,これは従来の債務不履行の考え方からいったら,本旨に従った履行でないものについては受領なんてしなくてもいいわけですから,そのこと自体は,受領の意味を性状承認の意味で捉えなければならないことについての決定的な意味はありません。まして報酬の支払時期について先ほど岡委員がおっしゃられたことも含めていろいろな問題があるとすれば,あえてここでこのような特化された意味の受領概念を使う必要はないと思います。以上が3についての意見です。   4については,(2)の仕事の完成が不可能になった場合の報酬請求権について大枠だけ申し上げさせていただきたいと思います。   仕事の完成が不可能になった場合の報酬請求権を考えるときには,前に債務不履行の解除が問題になった場面での議論との対応関係を考えておく必要があろうかと思います。あの場面では解除については帰責事由がいらないということが一つ提案としてされ,私もそれがいいと発言をさせてもらったのですが,そのときに,反対給付からの解放あるいは反対給付の存続問題を解除する側の者の意思にかからせるのが果たしてよいのかという問題と,それからまた,解除されない場合の反対給付の履行請求をどうするのかということについての規定を置いておく必要があるのではないかという問題についての議論があったかと思います。今回,請負のところで仕事完成前に履行不可能になった場合の報酬請求権が仮にこのような形で設けられるのがよいと考えるのであれば,この場面では解除という枠組みはもはや妥当しないのだということを考えておくか,あるいは解除をしても結果的には同じようになるという要件効果面での矛盾のない形でのルール整備をするかどっちかだと思います。そうでなければ,せっかくここにこういう規定を仮に置いたとして,せっかくと言ったら別にいい評価をしているわけではありませんけれども,こういう規定を置いたとしても,その規定の意味がなくなってしまいますから,その意味で解除との関係というものについてきちんと理解をしておく必要があろうと思います。   さらに,債権者の義務違反という場合の義務違反の内容をどうとらえるかというのはまた別問題としてありますが,それ以上に,「注文者の領域に生じた事由」という枠組みで割合的な報酬請求を認めるということが本当にこれがいいでしょうか。私も若干不案内なところはございますけれども,請負の具体的な局面を扱う実務の方々がこのあたりは特に関心を持っておられることでしょうから,そういう観点から御意見なり議論をしていただければいいのではないかと思います。 ○深山幹事 既に出ている受領の関係で一言だけ。まず,その受領という概念に仕事の完成について認容するという意思的な要素を加えることについては,特に報酬請求が受領と同時に支払うという規律となり得ること等を考えると,そのような意味を持たせた受領という概念を用いることについては反対をしたいと考えています。また,そうではなくて,客体を単純に事実行為として受領するという意味の概念を前提に考えたとしても,その場合に4(1)で紹介されているように,受領と同時に支払わなければならないとするという規律になると,引換給付判決において何と引換えになるのか,現行の引渡しではなくて単純な客体の取得という意味での受領と置きかえただけでも一体どういう状況になったらその支払を求められるのか分からなくなります。究極的には執行の場面を想定すると,今までであれば引渡しということなので,その物を提供すれば,実際に受け取るかどうかは問わず,それで執行文が取れて執行が可能だったわけですけれども,意思的な要素がないにしても受領と引換えにということになると,あくまで受領されなければ結局執行できないということになるのではないかという懸念があります。また,意思的な要素を含む受領を債権者が証明する必要があるとすると,条件成就執行文の問題となるようにも思え,そうであればもちろん不都合ですし,そうでないんだとすると,そもそも受領と改めることにどれほどの意味があるのかという気がするので,単純な意味での受領ということであっても,受領と引換えに支払うという規律にするのは反対したいと思います。 ○新谷委員 4の(1)と(2)について申し上げます。請負契約の中には様々な類型があり,その中には個人が自ら有償で労務を供給する役務提供という類型があります。こういった契約類型は役務の提供者側が弱い立場にあるということが通例であり,また,その仕事の成果の完成基準が契約で明定されていないケースが非常に多いです。例えば先ほど申し上げた新聞の折り込みチラシの版下の作成,雑誌の取材や原稿の作成といったケースでは,その力関係の差,いわゆる優越的地位を濫用して仕事が未完成であるとか要求した数字に達していないといった理由で,受領者側がその完成物の受領を拒否するというケースが非常に増えています。このように,請負契約の報酬支払時期に関して,現在,引渡しと同時履行とされているにもかかわらず対価の支払がない,報酬を支払ってもらえないという紛争が増えている中で,その同時履行関係に立つものを更に受領まで引き上げるということについては,現在以上に紛争の増加を誘発するという懸念をしています。そのため,少なくとも個人自らが労務を供給する契約類型においては,この規定を設けるということについては反対を申し上げます。   また,(2)の仕事の完成が不可能になった場合の報酬請求権の問題ですが,個人自らが有償で労務を供給する契約類型において,この場合も注文者が優越的地位を濫用して仕事の完成前に一方的に契約を打ち切るというケースがあります。このようなケースについては,従来であれば民法536条2項の危険負担の規定により,注文者の責めに帰すべき事由があるときは請負人は反対給付たる請求権を失わず報酬請求権の全部を主張できました。従来の「注文者の責めに帰すべき事由」と今回提案されている「注文者に生じた事由」,「注文者の義務違反」との違いは明らかではありませんが,今回の提起では,注文者の義務違反にならなければ,個人が自ら有償で労務を供給する契約については,注文者側が仕事の完成前に仕事を打ち切った場合でも既履行部分の割合に応じた報酬が支払をすればよいこととなると推定されます。このように,現在の就労者の権利を後退させる規定については反対を申し上げます。   なお,この場合には損害賠償請求権を行使すればいいではないかという見解もあると思いますが,ご承知のとおり,損害賠償請求権は先取特権の保護の対象になりません。また,就労者が仮に労働基準法上の労働者に該当するといった場合にも,就労者は労働基準法上の賃金不払いの責任を追及できないことになるため,この辺も考慮に入れた検討をしていただきたいと思っています。 ○道垣内幹事 前の話に戻すつもりはないので気を付けながら発言をしたいのですが,4の(2)の仕事の完成という概念は引渡しを含んでいるのでしょうか。個人的な意見も含めて申しますと,この段階では,引渡しというものが含まれている請負についてまず論じましょうということですから,それはそれで結構なんですが,そういう請負というのは,結局,引渡しまでが仕事の内容になっているということにほかならないのではないかと思うのです。それに対して,仕事の完成プラス引渡しなどという言い方をしますと,引渡しは仕事の中身ではないという形になります。今どうのこうのということはないんですが,議論をする際に若干気を付けないと,細かな話になったときには混乱する可能性があるような気がしますので,差し当たって一言申し上げておきたいと思います。 ○村上委員 3のうちの受領義務と4の(1)については,山本幹事を初めこれまでの御意見に賛成だということだけ申し上げておきます。   それから,3のうちの協力義務についてですけれども,これは請負に限らず,ほかの契約でもすべて認められることなのではないだろうかという疑問があるほか,協力義務の具体的内容は恐らく仕事の進捗状況などに応じて変化していくだろうと思いますので,そういう性質の義務について要件と効果を明確に規定することが果たしてできるのだろうかという疑問を感じます。   それから,4の(2)ですけれども,注文者に生じた事由という概念と,注文者の義務違反という概念が出てきます。これがどういう概念なのか,イメージが非常につかみにくいと思います。もう少し明確にならないと,議論すること自体が困難ではないかという気がいたします。 ○中田委員 受領義務と,それから報酬についてそれぞれ申し上げます。   今出ている御議論では,受領に履行として認容というような効果を結び付けるのは過大ではないか,適当ではないという御意見が多かったと思います。ただ,若干議論を整理してみますと,受領という概念の中に単なる受取りと,それから何らかの承認を伴うものと2つのことが含まれているということは一致しているのではないかと思います。これはまた実務においてもそうなのではないでしょうか。先ほど検収という言葉が出ましたけれども,単に受け取っているというだけではなくて,次のステップを踏むことによって履行が終わったことになるということなのではないかと思います。仮にいったん受け取ったとしても,仕事の完成とは目されないような場合には,それを戻してもう一遍追完してもらうということは,実際にもあることではないかと思います。そうすると,何らかの意思的な承認というものが伴っているとして,今度はその中身が更に分析されて,客体としての承認と性状の承認とを区別すべきだというのが潮見,山本両幹事の御意見でありまして,そういう考え方が有力に主張されているというのはそのとおりだと思います。   他方で,意思的な要素について履行を認容するというような理解の仕方もあるわけでして,それは取り分け請負の場合においては仕事完成というのは評価が非常に難しいところもありますので,それをより慎重にさせるという意味があるかと思います。ただ,ここの部分の議論というのは,恐らく学説の従来からある対立を反映した議論でありますので,むしろその議論の違いがあることを前提とした上で,受領後の法律関係がどのようなものであるべきかということを具体的に考えていくこともまた重要ではないかと思っております。   それから,次に報酬請求権との関係で,仕事の完成が不可能になった場合にどうかということで,先ほど道垣内幹事からここで完成という概念を持ってくるのは大雑把ではないかという御指摘がありました。確かに完成前の不可能と,それから完成後の不可能と分けて分析するというのがより精緻になるということはそうだと思います。ただ,ここはより実質的にほかの方から出ていた議論として,注文者の義務違反というのは何なのかということと,それから義務違反とは言えないけれども,なお注文者に生じた事由というのは何なのかと,その二つの線の引き方についてそれが適当かどうかという御指摘があったかと思いますので,これを考えてみたいと思います。   注文者の義務違反のほうですけれども,これは先ほど出ました協力義務も含めて義務違反があった場合ということで,比較的結論は一致しやすいのではないかと思います。問題はその協力義務というものがどのように定義できるのかです。これなかなか難しいというのは先ほど村上委員の御指摘のとおりでありまして,また,これは請負だけの問題ではないわけで,そうすると役務提供型の契約一般に共通する問題として報酬との関係を考えていくことになるのではないかと思います。そのときに積極的に協力義務について定義を置いたほうが分かりやすいことは分かりやすいんですが,実はその定義の置き方が非常に難しいのだとすると,義務違反という言葉の中で含めて考えるということもあり得ることかなと思います。   それから,もう一つの更にその外の注文者に生じた事由というのが非常に漠として分かりにくいという御指摘もそれはそうだと思うんですが,ただ,義務違反とは言えないけれども,満額の報酬を認めるかどうかについて更に検討すべき場合というのはあるのだろうと思います。例えば注文者の肖像画を書いている途中で注文者が死亡したというような場合に果たしてそれをどうするのか,ゼロか100かその真ん中にするのかという議論はあり得るわけでして,そうすると,義務違反の場合と,それから更に,その外に何らかの基準というのを設ける必要は,やはりあるのではないかなと思います。 ○奈須野関係官 2点申し上げます。   1点目は,注文者の義務に関して,請負人が仕事を完成するために必要な協力義務を負うべき,ということを明示することに賛成です。   例えば,情報処理システムの開発では,システムで実現したい業務の内容をユーザーが情報提供してベンダーがそれを実現するための手段を提供するということで,ユーザー,ベンダーの共同作業でこれがなされることになっています。ユーザーの協力なく開発を完了させることはできないわけですけれども,しかし実際には,十分な情報提供がなされなかったということが原因で満足する成果物にならず,受領拒否や当事者間で紛争になるということがよくあります。このような紛争の未然防止のために,注文者の協力義務を規定するということは望ましいと考えます。   これに対して,要件が書きにくい,あるいは消費者にとって酷ではないかという御意見もあるかと思いますが,「注文者の協力が欠かせない契約において請負人が注文者に協力を求めた場合には協力義務を負う」というような規定でよいのではないかと思います。協力義務の内容についてはケース・バイ・ケースであって,消費者に対する要求水準と事業者に対する要求水準が異なるということは当然であるため,一般的に消費者に対して酷になるといったような問題は生じないと考えます。   2点目は,仕事の完成が不可能になった場合の報酬請求権において,①,②以外の原因で仕事の完成が不可能になった場合どうするかです。資料では,既に行われた仕事の成果は可分であり,かつ,注文者が既履行部分の給付を受けることに利益を有するときは,解除が制約される既履行部分について請負人は報酬を請求することができる,という案が示されています。このことについて特段異論を唱えるものではありませんが,あえてこれを書くことによって混乱を招いているところがあると思います。   これは請負なので,基本的には履行割合というものは観念できず,完成して引渡しということで完了するという話のはずなのに,あえて履行割合的な概念を持ち出して,これがある場合にはこうだということを書くことで,それではそうでない場合はどうなるのだという整理学的な混乱を招いております。具体的には,履行割合を観念しづらい業界の方から,バランス上,履行割合が観念できない場合についてもきちんと検討し,報酬を請求できるようにすべきという意見が来ております。これは,少し性質の違う考えをここに入れたために,疑問の声が出てきているという感じがします。 ○内田委員 受領概念について,意思的な要素,特に中田委員の言われた性状の承認まで含めた意思的な要素を含む受領概念は大変評判が悪くて,たくさんの批判があったのですが,本当にそれでいいのかということについて,ちょっと自信がないものですから教えていただければと思います。岡委員から検収という言葉が出ましたけれども,民法は請負規定に限らず,プロの商人同士の取引にも適用される基本法であるわけですが,実際の商人同士の取引においてはやはり報酬の支払というのは検収を終えてからというのが通常ではないかと思います。特に国際取引とかでは受領と受取は明確に区別されていて,受領,アクセプタンスと受け取り,テイキング・デリバリーというのは違うわけです。ところが,日本では商法が現代語化されたときに526条の「受取リタル」が「受領」になった。そこでこの区別があいまいになってしまって,ウイーン売買条約の公定訳をつくるときにもテイキング・デリバリーが確か受領と訳されたのではないかと思います。日本では民法学者は今まで受領遅滞という言葉を使っていて,受領と受取りの区別が余りはっきりしていなかったのですが,江頭先生はこれに対して大変批判的で,江頭先生の商取引法の本の中には民法学者が言う受領遅滞のことは受取遅滞と書かれていて,受領と明確に区別されています。プロの事業者,商人同士の取引まで視野に入れたときの一般ルールとして,本当に受取と受領の区別をなくして大丈夫なのか。報酬支払いというものを受領にかからせなくてもよいのかという点について,特にその分野に明るい委員,幹事の先生方から御意見を賜れればと思います。 ○松本委員 全然明るくなくて,関連質問なんですが,たまたま今日は売買の部分の資料も持っておりますので,売買のところの買主の受領義務という事務局整理と,それから,ここの請負における注文者の受領義務という整理を読みますと,かなり書き振りが違うんです。売買のところではそういう意思的な,履行として承認して受領しなければならない義務を負わせましょうという提案はなくて,請負のところにだけそのことが書き込んであるということの趣旨はなぜなのかがよく分からないんです。私が勝手に推測するには,請負の場合は典型的請負として製作物供給契約,建築請負契約あるいはソフトウエアの開発契約等が念頭に置かれているので,言わば売買に比較的近いタイプから少し発展したもので,かつ注文者のほうが積極的に注文を出す,例えばソフトウエアの開発であればスペックをはっきりと指定しない限り開発できないわけなので,そういう意味で注文者の協力義務というのが当然に出てくる。製作物供給契約でも恐らくどういうものがほしいのかきちんと出してくださいということがあるので,そこまで注文者の側が指定している関係上,一般的な完成品の売買に比べて少し違いが出てくる。そのような結果として改正提案にこういう違いがあるのかなと善解をしております。   特に注文がある場合については,それが完成したのか完成していないのか等についての争いが起こりやすい,注文者側としてはあえて注文どおりでないというような言い方をして受取りを拒否することもあるから,その辺を少し抑えるために売買の場合よりはとりあえず受け取らなければならない場合が多いんだという趣旨でこういう違いをつけているのかなと推測をしております。しかし,他方で請負というのがきちんと注文をして,スペックを決めてこうだというタイプのもの以外の先ほど言いましたが,故障したから修理をしてくださいということで工場に持ち帰って修理をして,はいと言って引渡される。あるいは工場に取りに行って受領するというタイプのものの場合は,それほど注文スペックとかいう話でなくて,故障箇所を調べて部品を変えてくださいというぐらいのものだから,そうなるとここで言っているような履行として認容をして受領しろというような義務までは負わせる必要がないのではないかと思います。売買の場合と違う表現がされていることの理由とその根拠が何なのかということが明らかになれば,請負の射程も一定明らかになってくるのではないかなと。すべてのタイプでこうなるわけではないだろうと思います。 ○内田委員 売買と請負の違いについての松本委員の解釈は大変うまい解釈だと思いますし,一つのあり得る解釈かと思います。ただ,部会資料に関して言うと,そのような意思的な解釈操作を一切せず,とにかく出されている提案を御紹介しているということでございます。 ○神作幹事 商法の条文について言及がございましたので,私個人の理解にすぎませんけれども,商法526条の解釈について申し上げます。商法526条に言う「受領」とは,正に内田委員が指摘されたとおり,受領とは書いてあるけれども,ここでは履行として認容して受け取ったという意味ではなく,単に物理的な引渡しを受けるという意味であり,その後に検査・検収が行われることが前提となっております。検査・通知義務の前提としての「受領」行為が問題となっているということだと理解しております。そういう意味では,商事売買においては,単なる物理的な引渡しと,履行として認容して受領しているのかどうかは,普通は区別して論じられているものと思います。   ただ,そのことを前提として商法526条による商事売買における買主の義務と部会資料第2の3の「注文者の義務」に関する議論で,やや違和感があるのは,商法526条の規定は,商取引の迅速性や商人の専門性を前提としつつ,商人である売主を保護するという明確な目的があることです。売主が適切な対策を講ずることができるように,買主に対して検査義務及び通知義務が課されていると説明されています。部会資料のように民法の請負において注文者に一般的に受領義務を認める場合には,商法526条に相当する請負人の保護という政策的な目的ですとか実務における要請を前面に出すことができるのかどうかという点が少し気になります。もし商法526条とパラレルにこのような規律を入れるとすると,注文者は,請負人に対してきちんと検収して,場合によっては通知までするということになりそうにも思われます。特にそこまではご提案されていないのかもしれませんけれども,注文者の義務として協力義務を観念する場合には,ますます,その内容として,検収ですとか通知ということが問題になり得るようにも思われます。一般的に受領というときには,それは正に履行として認容して受け入れるかどうかを注文者が決定することであって,注文者の義務というよりも,むしろ注文者の権利と申しますか,そういう位置付けではないかと思います。ところが,それが注文者の受領義務,更に場合によっては検収義務とか通知義務という形に転化するとすれば,商事売買において売主保護という一種の政策判断が働いている規定とパラレルに,請負人保護するという一種の政策的な目的を持つ規律が民法典の請負に規定されることになりそうな点が気になったところでございます。 ○潮見幹事 ちょっとまた別の点で内田委員のおっしゃられたことに対する私なりの理解を申し上げますと,基本的に債務不履行その他の場面で受領という言葉が使われているときに,もちろん売買も含めてですけれども,そこでは,こういう性質のものを持つものとして承認の上で受け取った,引き取ったでもいいんですけれども,そういう意味で受領というものが従来捉えられてきたのかということについては,私自身は若干疑問を持っております。従来の債権総論のところの受領遅滞もそうですけれども,それ以外の例えば売買の瑕疵担保のあたりでも,多くは性状承認を伴うもののみを受領ととらえているとは私は思っておりません。   もう一つ,それとはちょっと別のことを申し上げますけれども,今話題になっておりました報酬の支払時期について,先ほど申し上げましたように私は賛成しませんけれども,もし報酬の支払時期について単なる受領ではなくて,検査,確認の上で性質を承認したときに報酬請求権が出てくるというルールが好ましいのであれば,そういう形で規定を置いたほうがいいのではないかというように思います。つまりそれは受領という言葉とは違う言葉でその旨を表現すれば足りるのではないかと思うところです。   もう一つ申し上げますと,先ほど中田委員がおっしゃられたところには,性状承認ととらえるか,客体承認ととらえるか,あるいはそもそも承認というのをどういうふうにとらえていくのかということの学問的な論争とは別に,それをどうとらえるにしても,個別の規定でそれぞれのルールの説明の可能性とかを考えていけばいいというような趣旨も含まれていたのではないかと思いますが,そのときに,担保責任の話などを問題にする場面で受領という言葉に性状承認という意味まで含めて考えていくということが果たして説明として成り立ち得ないとは決して言いません。実際にそういう考え方があるのは承知しています。けれども,そのような考え方を採ることがよいのかという点は少し感じるところではあります。   仮にここで受領という概念を注文者の義務のところに書かれているような検査・性状承認を含めた内容で理解しようということになると,これは先ほど申し上げた売買の担保責任のところや,受領義務一般の理解にも反映してくることは恐らく必定だと思います。松本委員が先ほど後半でおっしゃられたことにかかわってくるのですが,そうなりますと,そちらも含めて,資料でゴシックで書かれている意味での受領概念を使っていいのかということについて,ますます私自身は懸念を覚えるところです。 ○中田委員 受領の概念にいろいろあって,少なくとも事実としての受取と区別される受領という概念があるということは,これは潮見幹事と私と共通していると思います。その上で受領にどういう法的効果を結び付けるのか,どう評価するのかについては特に不特定物の瑕疵担保において,受領によってどういう効果が生じるのか,それによって特定すると言うのか,それとも性状承認と客体承認とのうちの客体承認があると言うのか,それとも履行として受領する意思があって,そこに錯誤があったかどうかを考えるのかというような,いろいろな議論があり,そこはもう従来から学説が対立しているところだと思います。そこを立法で決着するというのはなかなか難しいので,その意味で先ほど申しましたとおり,具体的な規律を考えていくべきではないかということです。もちろんその具体的な規律を考える際に基本的な理解の違いというのが今後もまた何度も出てくるとは思いますけれども,ただ,それを解決しないと規律できないということになると,前に進まないのではないかと思います。それで具体的な規律を考えてはどうかということを申し上げた次第です。   それから,その場合にもう一つ売買の瑕疵担保にも波及するのではないかということですが,ここは売買と請負とを同じに考えるのか,あるいは両者の区別が可能なのかどうか,これは両方あり得るのではないかと思います。私が先ほど申し上げて,それから松本委員も若干おっしゃったことですけれども,請負の場合には仕事の完成の有無という,かなり個別的な評価が入ってくるという特徴はやはりあるのではないかと思っております。   それから,最後に神作幹事のおっしゃった検査通知義務と受領との関係ですが,今回お出しになっている提案は検査通知義務を課すものではないという前提でできているのではないかと思います。ただ,少なくともこれも瑕疵担保のほうの話になっていきますけれども,注文者が瑕疵を知っていたら何か対応するということは求めてもいいのではないかなとは思いますが,これはちょっと先の話になりますので。 ○鎌田部会長 時間も限られてまいりましたので,瑕疵担保についても御意見を頂ければと思います。5の瑕疵担保責任と6と任意解除権行使の場合の損害賠償の範囲,ここまで含めて御意見を頂戴したいと思いますので,続けてください。 ○中田委員 そうしますと,今回の事務局の整理というのは注文者に確認検査事務を一律に課しているものではないと思います。ただ,私の理解としては注文者が瑕疵を知っていたらその通知を求めてもいいのではないかという気はいたします。というのは,瑕疵の有無というのは判定が非常に難しくて,特に時間がたってしまうと難しいわけですから,そうだとすると早めに通知させるということはあっていいと思います。もちろんこれは最終的に瑕疵の有無についての証明責任によって規律されることであるから別に構わないではないかという考え方があるかもしれませんけれども,証明責任で解決するというのは訴訟を前提として,しかも真偽不明の場合を考えるということですから,ちょっと遠いのではないかと思います。むしろ行為規範としても,通知させるというほうが無用の紛争を防止することになりますし,それに対して対応策を打って損害を小さくすることができるという意味でも効率的だと思います。   最後に,一般論としては確認検査義務を課するというのは大きすぎるかもしれませんが,ただ,注文者が事業者であるという場合には検収をするのが普通ではないのかなと思いますので,それを前提にした規律ということはあり得るのではないかと思います。 ○高須幹事 すみません,部会長が時間の心配をされているときに限って発言をするようで大変申し訳ないのですが,今,潮見幹事あるいは中田委員から御説明いただいた中で少し私なりにも発言をさせていただきたいのですが,今の報酬請求権との関係で請負人のほうからすればいわゆる受領というところまで,つまり,履行として認容してというところまで代金がもらえないというのはとても不自然な話だと。引き渡して確認してもらってやっとお金をもらえるかどうかですというのでは引渡しをしてしまうリスクを一方的に請負人に負担させることになります。ただ一方で,注文者のほうからすれば何も見ないで,ただ受取りのときですと,持ってきましたというところでお金を払わねばならないというのもなかなかこれは酷な話でありまして,特に建築請負のように大きな代金が伴うようなときには余り現実的ではないと思います。そうすると,そこをどう調整するかの問題だという意味では,今日の議論を聞いておりまして,やはりまず基本的には受領という形で履行として認容してというところまで引っ張ってしまうと,かなりこれは注文者寄りになってしまうのかなと。そういう意味では単なる受取りといいますか,従来の引渡しといいますか,そこである程度の清算がなされるということを前提としながら,しかしながら一方で,やはり注文者のほうで中を確認させてくれと,性質を確認させてくれというような何らかの抗弁といいますか言い分を織り込んで,そこに先ほど内田先生がおっしゃられた受領ということを全く抜きにしてよろしいのかという部分を反映させるような考え方ができないかと,このようなふうに考えます。全く素人的な考えで申し訳ありませんが,要は両方のいいとこ取りをした何か規定がつくれないかと,このように考えております。 ○鎌田部会長 実務家に対する問い合わせがあって,実務家からの御意見が余り出てこないのですけれども,よろしいですか。 ○岡委員 正直申し上げると,強い立場の会社は検収規定を設けて,検収して初めて払うという契約書を作っている感じがいたします。まともな大企業であれば問題ないんでしょうけれども,新谷さんがおっしゃったようなまともではない力の強いところが検収を盾にするとまずくなるのではないかと,私も思います。それ以外の場合で,まずものが単純な場合であれば引渡しと検収とは,それほど時期的な間隔がなく大きな問題は生じないと思います。ものが複雑な場合であれば,検収するとしても,かなり留保して,とりあえず検収して仕入れと売上げは計上する,しかし,今後不具合が出たらいつでも取りかえてもらいますよと,そういう処理をしていると思います。だから受領と引渡しと検収がどうなるかというのは直ちに申し上げられませんが,実務としては今のような感想を持っております。 ○中井委員 実務の詳細を知るわけではありませんけれども,請負の実務もしくは裁判所との関係で言えば,民法がそうなっているからですけれども,完成引渡しによって報酬請求権が発生するものとして,請負代金請求訴訟が現実に起こる。一般的にはそれで処理が十分進んでいる。内田先生がおっしゃったように,発注者側がそれなりの力を持っている事業者,事業者一般にそう言ってもいいかもしれませんけれども,製造物供給契約にしろ建築請負契約にしろ,ほとんど検収という作業が入っていることは御指摘のとおりで,事実上の引渡しだけではなくて,製造物供給契約的なものであれば,機械がきちっと作動するのか,作動したことを確認して検収をして,検収によって請負代金請求権が発生するという契約書が作られている,これが実務だろうと思います。   では,現実の紛争では,請負者側は完成し納品したと思っているけれども,発注者側は不十分だと言って代金を払わない。そこでどういう訴訟形態になるか,請負代金請求訴訟が起こり,その中で瑕疵があれば,不十分なところがあれば損害賠償請求権なりを対抗しているのではないか。合意としては検収で代金請求が発生するとしているけれども,訴訟の中で受領と引換えにという給付判決にはなっていない。それだけは事実だろうと思います。   では,そこをどう説明するのかですけれども,最初に岡さんがおっしゃったように,受領と引換えにという代金支払,現実の大手の発注者の場合はそうだとしても,判決レベルでは裁判所が本来の本旨に基づく引渡しがあると認定できれば代金請求を認容している,そういう決着になっているのかと思います。仮に受領と代金が引換えだとしても,判決で意思的要素の必要な受領と引換えに払えとなったら実務的にどうなるのか,執行手続が動かないのではないかと思うだけに,何らかの手当が必要になると思います。   繰り返しになりますが,受領を確認した後に代金を払うという合意のある契約であっても今のように処理している,これをどう説明するのかということなのかと思います。 ○松本委員 一貫した問題意識なんですが,今までの議論,今の議論もそうですけれども,やはり注文生産型の請負,最終的な成果物の引渡しとともに権利も移転するタイプについては売買との関係でどうなのかという議論が大変しやすいし,今のような引換給付がどうのこうのという議論になじむわけですが,他方で仕事の完成と引渡しというところだけで切り取られて注文生産型と一緒にされたところの修理委託型の紛争,例えば自動車が故障したから修理工場に持って帰ってもらったというケースを考えると,修理依頼者側としては注文生産における注文者と相当利益状況が違うわけです。注文生産であれば代金を払わないし受け取らないよということがセットで言えるわけで,それに対して生産者側としてはそれでは困るということになるわけですが,修理委託の場合は修理が不十分だから受け取らないよというと,自分は自動車を永遠に使えないという話になってきて,言わば所有権レベルで損をするということになる,紛争類型としてはですね。   したがって,修理の注文者側としては修理が不十分だから完全なものにした上できちんと引き渡してくれというか,あるいは不十分だけれども持って帰り,ほかのところで修理してもらって損害賠償を請求するというような形か恐らくどっちかだと思うんです。他方,修理業者側としては引き渡してしまうと修理代金の請求が裸の請求になって,留置権を行使できないということになりますから,留置権の抗弁を出してきちんとその場で確認してもらって,きちんとしていればお金を払っていただくということになると思うんです。したがって,受領というのを修理が完成したかどうか,つまり仕事の完成があったかどうかを注文者側が確認をして,はい,これでいいですよということであれば,それで代金も払いましょうということできれいな解決ということになるわけですが,そこで修理の完成度について争いが出てきたような場合には当然紛争になると思います。もう一度まとめますと,注文生産型の場合とそれから修理委託で持ち帰りと引渡しを伴うものを同じ一つの請負として議論しましょうということでスタートしているんですけれども,いろいろなところで違いがあるのではないかという気がいたします。 ○加納関係官 注文者の通知のところですけれども,消費者政策の立場からしますと,この通知の問題については,十分慎重に検討をすべきであるという意見を申し上げます。その理由につきましては,既に各所で指摘されているとおりでありまして,消費者たる注文者がそうした瑕疵について通知するということが現実的に期待できるかどうかというふうなところが最も大きな理由でありまして,消費者団体であるとか弁護士会などからそうした意見が消費者庁のほうにも寄せられているという状況であります。   とは言いましても,こういった提案があるということにつきましては,先ほど来議論されている注文者の受領義務の問題であるとか,あるいは現行法の1年間の期間制限についてどう合理性があると考えるかと。どうして1年なのかというふうなことを考えますと,ちょっとよく分からないところがありますので,それに代わる合理的な期間制限の在り方としてどうかというふうな,そういう問題意識自体は理解できますので,そういう中でこういう通知という立法提案があるということは理解できると。ただ,消費者が通知することが期待できるかといいますと,結局なかなかそういう積極的な行為を採らない消費者が多いというのも一方でまた事実としてあろうかと思いますので,仮にこういうふうなことを検討するのであれば,その通知がどのように実効的にされるのかという視点も併せて検討すると。例えば請負人はそういった通知が実効的にされるように,誰に対してどういうふうな通知をしたらいいのかということを消費者に対しても情報提供するとか,そういうことと併せてこの通知を実効的にするということの視点も併せて検討するというのがこの方向で検討するのであればよいのではないかと。そういうことを含めて慎重に検討すべきであると思います。 ○岡委員 少し戻って,仕事の完成が不可能になった場合の報酬請求権と瑕疵担保について意見を申し上げます。   まず,仕事の完成が不可能になった場合の報酬請求権につき,「注文者に生じた事由」と「注文者の義務違反」という二つの要件で規律する点については,こんな要件では実務はとても回らないという感想が大半でございます。ゼロか真ん中か100か,そういう三つの出口があったほうがいいというのはみんな共通しておるんですけれども,この要件でその目的が達せられるかというと非常に疑問を感じる弁護士が多くございました。   その関係ですが,潮見先生が先ほど解除との関係を言われました。義務違反がある場合は注文者の債務不履行がある場合に重なることが多いと思われますので,その場合は請負人が債務不履行解除できるのではないか。そして債務・義務違反に基づく損害賠償が認められれば,100の出口に到達できるのではないか。ここでの案は,多分危険負担の概念を残すということだろうと思うんですが,雇用の場合には契約解除できないという新谷さんが前おっしゃっていたような事情があるので,分かるんですが,請負の場合はほとんど注文者の任意解除か,請負人からする債務不履行解除で終わるケースのほうが多いと思いますので,解除と損害賠償で規律したほうが今までなじみがあって,ゼロ,真ん中,100の出口を実務家としては探りやすいと,そういう意見が多くございます。   ただ,雇用の場合は必要なのかなと思います。しかし必要な場合でも,「注文者に生じた事由」と「注文者の義務違反」という文言ではなかなか対応できないという意見が強くございました。それが1番目の意見でございます。   それから,2番目の瑕疵担保責任のところについてはいろいろ意見があったんですが,最大の問題として詳細版の18ページの(4)の担保責任の存続期間の見直しのところについて意見を申し上げます。   現行法の「引渡しから1年」というのに反対ということは弁護士会の多数意見でございます。それと同じ問題意識を持たれて甲案,乙案,甲案が通知義務を,乙案が瑕疵を知ったときからに起算点を変えると,この二つの案が出ていると思います。最終的には弁護士会としては請負の中の引渡し類型についての特則で,現行法にあるではないかという意見もありますけれども,これはもう一般原則の消滅時効で処理していいのではないかという意見が多数を占めました。そのほうが分かりやすいし,現代に合うのではないか。そう言いますと,では何で現行法は引渡しから1年という規定を置いたんだ,それを解明しないと現行法を大幅に変える意見というのが言えないわけですが,それは是非学者の先生に教えていただきたいところでございます。   繰り返しですが,「引渡しから1年」という現行法,知ったときには通知義務を課すという甲案,知ったときから1年という乙案,いずれにも反対で,そういう短期の権利行使の期間制限はなくていいのではないか,一般の消滅時効で処理するのが妥当というのが,弁護士会の圧倒的な意見でございました。 ○奈須野関係官 瑕疵担保責任について2点申し上げます。   1点目は報酬減額請求権の要否ですが,実際の請負の実務において,例えば,ある商品を100個注文して70個しか完成しなかったという場合には,注文主としては30個分の代金の減額を受けて,手に入らなかった30個によって得るはずだった利益については損害賠償を請求するというのが通常であり,報酬減額を請求することと損害賠償を請求することは通常両立しているということが実務の取扱いです。   資料によると,報酬減額請求権の位置付けが,他の救済が得られない場合においても最低限の救済として認められる点に意義があるということで,そうだとすると損害賠償請求権と報酬減額請求権の関係が,後者は前者が認められなかった場合の予備的な関係にあるということになりますが,そのようなことを法律上定めると実務上は困るので,あえて規定を設けなくても良いという要望がありました。   2点目は担保責任の存続期間の見直しについてですが,これは以前の回でも申し上げましたが,そもそもこの「合理的期間」についての拒否反応が非常に強いということです。   期間制限というのは売主保護のためにあると考えられますが,一般的に商取引においては買い手が有利であると言えます。特に日本においては,中小企業が事業者の大多数を占めていて,大企業についても狭いマーケットの中で同業他社が競い合うというような環境にあります。つまり,このような状況においては,ますます買い手が強いという状況になっています。   このような中で「合理的期間」という不明確な規定が持ち込まれると,買い手によって売り手が食い物にされるという懸念が産業界に強くあります。任意規定の適用がない場合に利用されるデフォルトルールは一律に定めるべきであって,あいまいな規定はやめて欲しいという意見が多くありました。 ○大島委員 今の意見とほぼ同じなんですけれども,商工会議所では担保責任の存続期間の見直しの部分で,注文者が目的物に瑕疵があることを知ってから請負人に瑕疵を通知すべき期間について,合理的な期間内という規定の仕方では不明確であるという意見がございました。御提案については合理的な期間ではなくて,やはり具体的な期間を定めていただく方向で検討をお願いいたします。 ○道垣内幹事 2点申し上げたいのですが,1点は,奈須野関係官のおっしゃったところでして,報酬減額請求権が損害賠償請求権が認められない場合の最低限の救済手段であるかのような書き方には問題があるのではないか,というのは,そのとおりだと思います。しかし,だからといって報酬減額請求権を規定しなくていいのかというのが少し分かりませんで,例えば報酬請求権が債権譲渡されている場合にどうなるのかという問題があります。異議をとどめない承諾という制度を債権譲渡でどこまで認めるのかという問題もあるのですけれども,私自身は,幾ら債権譲渡をしていても,報酬減額請求が生じ,100万円の請求権が50万円になるときには,譲受人は50万円しか取得できないと考えるべきだろうと思っているのですが,それは報酬減額請求権を置くことによって可能なのか,それとは関係ないのかということが問題として存在します。ここだけの話として考えてはいけないのではないかというのが第一点です。   第2点目は,通知義務につきまして,加納関係官のおっしゃったことに60%ぐらい賛成なのです。ただ,私は,通知するということは一般消費者には期待できないだろうとは必ずしも思いません。そのようなことまで期待できないのでしたら,そもそも権利行使をすることが期待できないのではないかと思うのですが,ただ,通知をしないということが失権を招くという形での効果と結びつけられ,かつ瑕疵の発見から通知までの期間を短くしたときに,実際の訴訟においてはどうなるのかなというのが若干心配なところがあります。と申しますのは,もちろん瑕疵が発見できたときということの証明も難しいのですけれども,より難しいのはやはり通知をしたという証明で,私が仮に注文者でして,目的物の瑕疵を発見したならば,もちろん電話しかかけません。瑕疵を発見しただけで内容証明郵便を送るということは全く考えないです。そうしますと,仮にそんな通知はなかったと言われたときに,私はどう対応すればいいのかというのが若干よく分からなくて,本当にそういう失権効というものと結び付ける形での通知義務というのはいいのかというのが若干気になるところがあります。 ○山本(敬)幹事 存続期間の見直しと通知義務については,これは前に売買のところでも出ていた問題でして,意見としてはそのときと同じで,基本的には一般原則,つまり債権の消滅時効にゆだねるべきであって,それと異なるルールを定める必要性について必ずしも説得力を持った理由は示されていないのではないかということだけを述べた上で,この部会資料で出ていない論点を一つだけ指摘させていただいてよろしいでしょうか。それは,修補請求についてですが,現在の634条1項の本文では,仕事の目的物に瑕疵があったときは,注文者は請負人に対してその瑕疵の修補を請求できるとした上で,ただし書で,「瑕疵が重要でない場合において,その修補に過分の費用を要するとき」は,その限りでないと定められています。  このただし書の趣旨なのですが,現在では,要するに請負人は,請負契約で一定の内容の仕事を完成する義務を負う以上,実際にした仕事がその契約に適合しないときは,仕事が適合するようにする,つまり修補する義務を負う。ただ,修補が不能とまでは言えないけれども,修補に過分の費用が掛かるため,修補義務をそれでも認めると,請負人が当該契約で約定した請負代金にも見合った負担を著しく超えるような負担を課されることになる場合は,そこまでの負担を課すことは契約上予定されていない。だから,そのような修補義務は認められない。それを定めたのが,634条1項ただし書だという説明がされていると思います。   ただ,この現在の634条1項ただし書によりますと,「瑕疵が重要でない場合」であることが,請負人が修補を免れるための不可欠の要件になっていますので,瑕疵が重要である場合は,修補にどれだけの費用が掛かっても,請負人は必ず修補しななければならないという定め方になっています。しかし,これは,先ほどのような趣旨に照らしますと,少し行き過ぎではないかという指摘もあるところです。むしろ,瑕疵の程度も含めて,その契約の趣旨に照らして「修補に過分の費用を要する」かどうかという要件だけで足りるのではないか。これは,実は売買について修補義務を認めるとした場合にも言えることなのですが,634条1項ただし書についてはこういう改正も検討課題の一つとして挙げておいていただきたいということを指摘させていただければと思います。 ○高須幹事 今634条が出ましたので,次の635条でございますが,いわゆる解除の要件の見直しのところで635条のただし書が土地工作物に関する解除制限をかけておる点でございます。これに関しては詳細版の17ページに書いていただいているとおりで,平成14年の9月24日の最高裁判例が損害賠償を認めて,実質的には解除を認めているのと同じではないかというような議論が既に相当程度出ており,ではどうやって解除権を基礎付けるかということも学説上議論されているようでございますので,ここはストレートにただし書については廃止という方向でよろしいのではないかと思います。   その上で,あと問題は解除の一般原則を定めている541条との関係ですが,ここは今回の議論で一般原則の解除のほうも併せて議論をいたしますので,現在の条文との関係でいえば541条と635条が何か矛盾しているかのような印象があるわけですが,今後の541条の議論の中で何かいい塩梅になっていけばいいなと。ここではしたがって,そちらの議論を待ってというか,改めてそこを議論するときにまた考えたいと思っております。 ○中井委員 土地工作物に関する担保責任の存続期間の見直しですが,弁護士会の意見は分かれたのですが,性質保証期間を採用するという考え方が多くの意見でした。その上でこの期間を2年,10年という提案がありますが,それがいいのか,もしくは5年,10年という提案もあり,それをどのような期間に定めるのか。それは債権時効一般をどのように定めるかとも関連していますので,その中で改めて一緒に議論すべきだろうと思います。   ただ,この性質保証期間の中身の問題についてこの詳細版の21ページのところで,「この期間内に瑕疵が明らかになった場合は受領時に瑕疵があったものと扱われる」となっていますが,この「扱われる」ということの理解について,議論が出まして,そうみなすのか,反証を許すのか,この「扱われる」という表現をあえてお使いになったんだろうと思いますけれども,その中身について御教示いただければ有り難いと思います。 ○笹井関係官 ここで引用した考え方を私が正しく理解しているかどうか分かりませんが,私の理解を申し上げますと,性質保証期間というものを採用するのであれば,受領時に瑕疵がなかった旨の反証は許されないという趣旨であると理解をしておりました。 ○鹿野幹事 (4)の担保責任の存続期間について一言申し上げたいと思います。   私も基本的にはその引渡しを起算点とする場合には一般の時効期間を適用するということでよろしいのではないかと考えているのですが,ただ,もう一方で,受け取った注文者のほうが瑕疵を知っているときにまでなお,一般的な時効期間の経過まで権利行使を認める必要があるのかという点は若干気になるところです。資料の6ページにも書かれていますように,目的物を引き渡した以上,その請負人のほうでは債務の履行を完了したと考えている場合も多いのではないかと思われます。その場合には,その請負人の信頼に一定の配慮がなされてしかるべきだと思います。特に,注文者のほうが瑕疵を知っており,したがって瑕疵を請負人に通知しあるいは瑕疵に基づく権利行使をすることができるようになっているときにおいては,請負人のその信頼に相応の配慮がなされてよいのではないかと思います。そこで,引渡しを起算点とするところの一般の時効期間と併せて,注文者がその瑕疵を知ったときから起算されるところの,例えば1年というようなより短い期間制限を置くべきではないかと考えております。   ただこれは,一般の時効をどれぐらいの期間とするのかということにも関係するかもしれません。例えば一般の消滅時効期間が仮に3年になるとすれば,先に申し上げたような2段階の期間制限を設ける必要性は薄れてくるかもしれません。しかし,一般の時効期間が例えば5年ということになると,それとは別に,知ったときからのより短い期間制限を設けるということに十分意味があり,かつ必要なのではないかと思います。 ○深山幹事 現行法の634条1項の請負人担保責任の点ですが,そのただし書はその瑕疵が重要でない場合においてその修補に過分の費用を要するときはこの限りでないと定めて,本文で規定している瑕疵担保責任を免れる例外的な場合をただし書で規定しておるわけですが,私は基本的にはこの現行法のただし書の規律というのはそのまま維持していいのではないかと考えています。つまり原則としてその担保責任を当然負う,その担保責任を追及できる期間的な制限をどうするかということはいろいろ議論が出ているとおりで,いろいろな考え方があると思うんですが,基本的にはとにかく責任は負うという大原則があって,その例外として負わない場合というのは,かなり厳しい要件で定めればよいと思います。先ほどの山本敬三先生の御発言が,瑕疵が重要でない場合においてという部分について疑問を呈されたかのようにお聞きしたので,もしそうだとするとやや疑問であり,私はやはり瑕疵が重要でない場合という要件を維持して,瑕疵が重要な場合にはたとえ過分な費用が発生しようが原則どおりの担保責任を全うすべきであろうと思います。例えば,構造計算上,誤った計算で建物が建てられたような場合,直すとなるといったん壊して作り直すというようなことになる。そうなると,当然もともとの請負代金以上の負担を強いられるわけですけれども,たとえそういう場合であれ,誤った原因がどこにあるかということによって最終的な責任の帰属がどこに行くかはともかくとして,請負人と注文者との関係では瑕疵がある仕事をした以上,過分の費用が掛かっても建て替えざるを得ないのではないかといえます。こんなことが考えられますので,基本的にはこの規律は維持してよろしいのではないかと思います。 ○村上委員 まず,5の(2)ですけれども,この点に関する現行法を改めるということになりますと,目的物が土地の工作物であっても比較的容易に解除できることになるという解釈を生む危険があるようにも思います。それが果たしていいのかどうか,ややためらわれます。   次に,(4)については,通知がなかったから駄目だと言ってしまうということでいいのか,それでは酷な場合があるのではないだろうかと思います。それから,いろいろな瑕疵が次々と見付かってくるような場合,新しく別の瑕疵が見付かるたびに,そのたびに通知をしなければいけないということになるかどうかという問題もあろうかと思います。   それから,(5)ですが,なぜこの場合だけ性質保証期間になるのか。ほかの契約類型,例えば売買とかそういった場合には性質保証期間にはならないけれども,請負についてのみ性質保証期間になるというのはなぜなのか。もしそういう理解をするのであれば,それはなぜなのかという説明が必要になると思います。   それから(6)ですけれども,故意又は重大な義務違反という表現になっているのがどうしてなのか,よく分からないという感じを受けます。故意又は重大な,と来ると,通常は過失とつながると思うのですけれども,ここで義務違反になっているのは,もちろん過失とは意味が違うから義務違反という表現になっているのでしょうが,具体的にどのように違うのか。また,故意があれば,当然,重大な義務違反になるのではないかと思いますので,重大な義務違反とするのであれば,その前に「故意又は」という表現を付け加える必要があるのだろうかという疑問もございます。 ○岡委員 三つ申し上げます。1番目は請負の引渡し型の瑕疵担保責任の期間制限のところでございますが,今の案だと引渡し型については瑕疵を知ってから1年あるいは瑕疵を知ったときは通知と,この規律がかぶってくるが,引渡しを要しないものについては一般の債務不履行に行くということになると思うんですが,それは余りにも大きな違いが出すぎるのではないか。引渡し型でない請負として家屋の修理だとか施設の保守点検というのが入っていますけれども,それも大体「はい,今日で終わりました。」と言って引き上げるという形で,仕事の完成がある一点で区切られると思います。そういうタイプと物の引渡しがある場合とで期間制限に大きな違いが出るというのはやはり妥当ではない。妥当ではないので,全部に通知義務を課すという考え方もあるでしょうけれども,それはやはり余りよくなくて,時効の一般原則に全部をそろえるほうがいいのではないかと思います。これは先ほどの意見の補足でございます。   それから,2番目に土地工作物に関する性能保証期間のところでございますが,弁護士会で議論していた中で,先ほどの村上さんの話にも通じるんですが,土地の工作物については5年間雨漏りしないようなものを作ります,構造部分については10年間もつような家を作ります,そういう債務,そういう合意が普通なされるはずです。そういう合意がない場合でも任意規定として土地の工作物については2年,5年,10年の性能保証を法的効果として与えるんだと,そういう解釈でよろしいのかという意見が出ました。そういう解釈でいいのかどうか,もし回答いただければ幸いでございます。   それから,3番目に瑕疵担保責任の免責特約のところで村上さんがおっしゃったところの詳細版23ページの一つ上のところですが,請負人が知りながら告げなかった事実だけではなく,引渡し時に知らなかったことにつき重過失ある場合,その場合も故意と同じように扱うべきである,故意に準ずる重過失をここにも入れていいのではないかと,そういう意見がございました。 ○松本委員 解除のところなんですが,動産の製作物供給契約であれば瑕疵があって注文どおりでないから解除する,代金を払わないぞ,持って帰れということで処理ができる。不動産の建築請負の場合には解除されると報酬をもらえないだけではなくて,取り壊しの費用まで原状回復義務ということで請負人側が負担させられるから大変だという議論ですね。これはともに言わば注文生産型の場合の問題であって,動産の場合と不動産の場合で違うではないかという話だけれども,動産を対象とするものであっても,先ほどから何回も言っていますが,注文者が所有しているものの修理をしてもらう,あるいは加工してもらうというタイプの請負契約の場合に,そしてそれが請負人の工場で修理ないし加工を行うということで引渡し型になる場合に,仕事の結果に瑕疵があって解除だという話になった場合の原状回復というのは一体どうなるのかよく分からないところがあるんです。その注文主の所有物自体の価値がかなり高いものの場合であって,その物をもう変なふうに加工してしまったというような場合に,原状回復というのは何なのかと。注文主が渡したと同じようなものを調達してきて返還しなければならない,あるいは少なくともそれと同価値の価額賠償をしなければならないというような議論が出てくる可能性があると思います。したがって,注文生産型の解除の場合とまた違った特有の問題が注文生産型でないところの請負にはかなりあるのではないかということです。 ○鹿野幹事 すみません,先ほど期間制限のことについて発言しましたが,その後に岡委員がおっしゃったことに関して一言付け加えたいと思います。   資料では恐らく目的物の引渡しがある場合を念頭に置いてこのように記載されているのだろうと思います。引渡しを要しない場合については,先ほどから他の委員の方々からの御指摘もありましたように,現行民法では637条の1項,2項がありますので,そこに示されている考え方が基本的に採られるべきだと思います。つまり,期間の長さはともかくとして,起算点については,引渡しを要する場合については引渡しの時を起算点とし,引渡しを要しない場合には仕事が終了したときを起算点とする。あるいは,先ほど松本委員がおっしゃったように,要するにその仕事の結果について瑕疵があるかどうか確認できるような状態になったとき,そこが起算点とされて,一般の消滅時効期間の適用に服するものとすればよろしいのではないかと思います。先ほどは,その一般的消滅時効期間に加えて,瑕疵を注文者が知ったときについて,その知ったときを起算点としたより短い期間制限が設けられるべきだということを申し上げた次第です。 ○潮見幹事 手短に申し上げます。638条の土地工作物に関する例の品質保証期間にかかわることで2点ございます。一つは,私自身はこの規定はまだ消滅時効,除斥期間の規定ではないかというように理解していますし,それでよいと思いますが,仮にこれを品質保証期間,この言葉がいいかどうかは別として品質保証期間と読み替える場合には,先ほど村上委員がおっしゃったような疑義について答える必要があると思います。さらにそれに加えて申し上げますと,ここでこのような形で受領時に瑕疵があったとみなすというようなことをやるということになった場合には,理由付け次第では製造物責任法3条の欠陥の証明にもかかわるような問題にも連なっていくということを意識しておいていただきたいといことを申し上げます。   それからもう一つは同じ詳細版で,隣のページに書いている部分ですが,この品質保証期間に結び付けられる効果という形で22ページに書かれている①,②については,私は,この部分についてこそ債権の消滅時効という観点からとらえれば必要にして十分ではないかと思います。そして,そのときに鹿野幹事がおっしゃったような事柄についても,それを含んだ形で債務不履行の損害賠償等々の債権時効の望ましい姿,ルールを立てていけばそれで十分であると考えます。このようなものを品質保証期間というところに結び付けることについてはやや慎重に対処したほうがよいのではないかと思います。 ○中田委員 瑕疵担保の期間制限について若干の整理だけですが,三つの考え方があると思います。現在のように引渡しを基準として1年あるいは別の起算点があるかもしれませんけれどもそこから一定期間,という考え方と,一般の債権の消滅時効に服するという考え方と,通知義務を課するという考え方がそれぞれあるのですが,若干論点が違っているのではないかと思います。  債権の一般の消滅時効に服させるのかどうかということで言うと,これは瑕疵担保の特性をどのように評価するのかの問題だと思います。それについては先ほども申し上げたことですけれども,瑕疵の存否や程度についての評価が時間を経るに従って困難になることをどう評価するかとか,あるいは当事者間の行為義務,行為規範としてどのようなものが望ましいのかということがあり得ると思います。   それからもう一つ,それとは別の問題として,引渡し型の請負を特に別にするとなると,その線引きといいますか微妙なところをどう検討するか,どう評価するかということが問題になるかもしれませんが,これは引渡し型の請負の概念の問題だと思います。   次に,通知義務を設定するのか,現在のように引渡し時から一定の期間で限定するのかということについては,何をその期間内にすべきかということを併せて考慮する必要があると思います。少なくとも現在の売買の瑕疵担保においては権利保存のためには,かなり具体的なことを言わなければいけないということになっていて重いわけですけれども,そういう重い通知ないし権利行使を要求するのか,もっと軽くていいのかということも併せて検討すべきことだと思います。 ○山本(和)幹事 申し訳ありません,今日一言も言っていないので,一言しゃべらせていただきます。   資料にない部分ですが,民法642条についてです。この注文者の破産の際の規定につきましては,これは破産法53条の特則で前回の倒産法改正でも若干手が入れられた部分で,基本的なところはこれでよろしいとは思うのですが,請負契約についての基本的なとらえ方の御議論を伺っておりまして一つ感じたことがあります。というのは,請負を仮に仕事を完成した後,それを引き渡すというような契約であると考えた場合に,資料にも書かれていましたように,そうすると仕事の完成後は基本的には売買契約と同じような規律になるはずであると。売買契約につきましては,もちろん破産法53条で買主が破産したからといって売主が解除できるというようなことにはなっておりません。そうだとすれば,仕事を完成後,引渡し前に注文主が破産した場合には,請負人に解除権を付与するのはそれとバランスを欠く規律になるように思われます。もしそういうふうに考えるんだとすれば,642条にもその641条と同じように,請負人の解除権については請負人が仕事を完成しない間のものに限定するということが必要になってくるように思われます。必ずしも確信があるものではありませんけれども,少なくとも論点にはなり得るかなと思いました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。下請負は丸々残ってしまいましたけれども,下請負以降の取扱いにつきましては,事務当局に調整をしていただくということにします。少なくとも委任は全部終わることを最低目標としないとこの後が大変だと思っておりましたが,実際に大変なことになりそうですので,次回以降の審議について御協力をお願いしたいと思います。   本日はここで審議を終了させていただきたいと思いますけれども,机上に配布されている参考資料4-2について事務当局から説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 それでは,お手元の参考資料4-2について説明させていただきます。   参考資料4-2は別紙に記載されております質問事項について,社団法人不動産証券化協会に御協力を頂き,会員企業からの回答をまとめていただいたものです。質問事項は,以前参考資料4-1としてお示ししたもののほか,10から13までを追加させていただきました。御回答について概要を紹介させていただきます。   まず,賃料債権を担保として資金調達をする事例の有無については,数は少ないながらも事例があるという回答がありました。この場合には抵当権その他の担保権がセットで用いられるということです。そして,賃料債権を担保として資金調達をする場合には,例えば金銭消費貸借契約等の融資関連契約において借入人に対象不動産の譲渡禁止特約を課すことにより,不動産が譲渡されることを防止するための契約上の対応を採っているとの回答がありました。詳細については質問1から4までに対する回答を御参照ください。これに対して,賃料債権を流動化,証券化して資金調達をする取引については,行っているという回答はありませんでした。   次に,賃借人のいる建物の売買の際に,当該建物から発生する賃料債権が第三者に譲渡されていないか,又は差押えの対象になっていないかという点の確認の有無ですが,18社から確認しているとの回答がありました。その方法としては,多くの回答者から売主に対する確認と契約書における表明保証条項の利用により確認している旨の回答がありましたが,このほか特に不動産の売主に資力があることが確実でない場合には,表明保証条項に加えて動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律上の概要記録事項証明書等を取得して確認するとの回答がありました。   また,売主等の表明保証を得たとしても,無資力であれば実質的に担保されたことにはならないため,不動産賃料等の将来債権譲渡や差押えに係る公示制度の整備が期待されるとの意見もありました。詳細については,質問9に対する回答を御参照ください。この点に関して,賃料債権の債務者である賃借人に対して,賃料債権の譲渡について対抗要件が具備されていないかという点を直接確認しないのかということを質問したところ,賃借人に対して直接確認しないとの意見が大半でした。確認するとの回答も1社から寄せられましたが,賃借人に対して直接確認することを前提とするものの,取引前の確認ができないことが多いとのことでした。賃借人に対して確認をしない理由としては,売買契約における表明保証の規定により責任を問うことが可能であることや,瑕疵担保責任を問うことが可能であること等のほか,通常売主の事前の承諾がない限り,買主候補が賃借人に接触することができず,賃借人に確認しようとすることによって売主との信頼関係を破壊するおそれがあるということや,賃借人に確認をしたとしても債権譲渡登記が行われている可能性があり,また,賃借人の回答の正確性が担保されておらず,確認の実効性に疑問が残るため,先行する債権譲渡の有無を完全に確認できるわけではないことなどが挙げられました。詳細については質問11及び13に対する回答を御参照ください。   以上,簡単に概略を紹介させていただきました。この資料は,今後の審議の有益な参考資料として利用させていただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ただいまの説明に何か御質問等ございましたら,御発言ください。よろしいですか。   それでは,最後に次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回の議事日程ですけれども,次回は,予備日として予定しておいていただきました10月26日火曜日,午後1時から午後6時まで。場所は再び法務省20階の第1会議室となります。次回は新たな配布資料はありません。議事の進め方については,基本的には下請負から始めて,その後も資料の順番にということになると思いますが,何か特別なことがあれば改めて御連絡を差し上げるようにしたいと思います。 ○鎌田部会長 不手際で時間を超過した上に大量の積み残しを作って,10月26日に,またお出まし願わなければいけないということになってしまいました。その点につきましては心よりおわびを申し上げます。   本日は御熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。以上をもちまして,部会の審議を終了させていただきます。 -了-