法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会           第27回会議 議事録 第1 日 時  平成22年10月29日(金) 自 午後1時30分                        至 午後5時38分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  非訟事件手続法・家事審判法の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○伊藤部会長 予定の時刻でございますので,法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会の第27回の会議を開会いたします。   御多忙のところ,御出席いただきましてありがとうございます。   それでは,配布されている資料につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○脇村関係官 本日使用いたします資料は事前に送付しております中間試案に関する家事事件手続部分に関する意見を取りまとめました部会資料29と今回取り上げます論点につきまして整理しております部会資料30でございます。部会資料30では,家事事件に関する部分のうち,家事事件の総則部分と家事審判のみの総則,更に各則のうち,中間試案で言いますと第4の6から9,主に子どもに関する部分について取り上げております。そのほかの論点につきましては,次回,再度別の部会資料を配らせていただく予定でございます。 ○伊藤部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   事務当局から部会資料30に即しまして,第1総則,5,裁判所職員の除斥及び忌避から9の任意代理人までの説明をお願いいたします。 ○脇村関係官 まず,第1総則,5の裁判所職員の除斥及び忌避の(9)家事調停委員への準用でございますが,パブリックコメントにおいて甲乙丙を支持する意見がそれぞれありましたが,家事調停委員は公正の立場である必要があり,それを確保するためには除斥に関する規律を準用すべきでありますが,他方で忌避に関する規律まで準用しますと濫用的な申立てにより手続が不当に遅延するおそれがあることから甲案が相当ではないかと考えております。   (11)の家庭裁判所調査官への準用についても,甲乙丙を支持する意見がそれぞれありましたが,忌避に関する規律まで準用いたしますと,濫用的な申立てにおいて手続が不当に遅延するおそれがありますことから,甲案が相当であると考えております。   6の当事者能力及び手続行為能力等の(5)法定代理権の消滅の通知については,パブリックコメントにおいては乙案を支持する意見もありましたが,非訟事件につきましては前回議論いただきまして,裁判所への通知をもって代理権消滅の効力を発生するものとして賛同が得られたと記憶しておりますが,非訟事件に比しまして,本人保護の要請が高いなどの理由から,甲案を支持する意見が多く出されており,甲案が相当であると考えております。   (6)の制限行為能力者の代理人等については,行為能力の制限を受けた者と実体法上の法定代理人等が競合するケースを問題視する意見も出されておりますが,同様の問題は,人事訴訟における成年被後見人と成年後見人にもあり,人事訴訟においては法定代理人は行為能力の制限を受けた者の意思を尊重する義務を負っていることを踏まえて解釈にゆだねられていることから,ここでも競合については解釈にゆだねることとしつつ,中間試案を維持することが相当であると思われます。   7の参加のうち,当事者参加についてはパブリックコメントにおいても賛成意見が多く出されていることから,中間試案を維持することが相当であると考えております。   なお,当事者参加のうち(1)の強制参加としては,遺産分割事件において,相続人が相手方になっていないケースに相続人を引き込むことを想定しております。他方で,例えば特別養子縁組のように,複数人が共同して申立てをしなければならないケースで,一人しか申立てをしていないケースに,裁判所がもう一人を申立人として引き込み,申立てを適法化することは予定しておりません。   前回の部会では,当事者となる資格を基礎付ける地位が移転するケースの参加について,検討すべきとの御意見があり,その点については承継した際の時効や除斥期間をどう考えるのか,他の当事者を引き込むことの是非等を検討する必要があると思われますが,家事審判の場合では,承継が問題となるのは遺産分割の相続分の譲渡以外にはおよそ想定できず,遺産分割における相続分の譲渡については,中間試案の規律に特段の問題が生じないと思われますので,この規律を維持することとしております。   次に,8の脱退については部会資料のような規律を置くことについて御検討いただければと思います。遺産分割を例に採りますと,AがB及びCを相手方として遺産分割の審判の申立てをしていたところ,Bが相続人でなかった場合や,AがBを相手方として遺産分割の審判をしていたところ,Bが相続分をCに対して譲渡した場合に,Bが家事事件の手続から離脱する方法として規律を置くことは考えられますが,他方で,Bが手続から離脱するためにはAのBに対する申立てを取り下げる,あるいは裁判所がAのBに対する申立てを却下すれば足り,特段規律を置かずに対応することで足りるとも思われます。   なお,本文のような規律を置く場合には,他方当事者の同意を脱退等の効力の要件とすべきではないと思われます。仮に他方当事者の同意を脱退等の効力の要件とすると他方当事者が同意をしない場合には,当事者となる資格を有しない者が手続から離脱することができないからであります。   次に,9の任意代理人についてはパブリックコメントにおいても乙案を支持する意見が多数でしたが,非訟事件手続における法定代理権の消滅の規律とバランスを考慮して乙案が相当であると思われます。 ○伊藤部会長 それでは,順次御審議をお願いしたいと思います。まず,裁判所職員の除斥及び忌避に関するもので,1ページの家事調停委員への準用に関して,3案が一応併記されておりますけれども,甲案の除斥に関する規律を準用する,忌避に関してはその対象としないというような考え方でどうかという,ただいま事務当局からの説明がございました。この点はいかがでしょうか。 ○増田幹事 私のほうでは,いずれも従前から乙案を述べていたところであります。しかしながら,家事調停委員につきましては,確かに当事者本人と接触する機会が多くて,当事者本人について理解を求める,あるいは説得するという方法で調停の成立について尽力していく役割であり,その上で,誤解に基づく忌避が濫発されるおそれがあるということは十分理解できますので,手続の遅延を防ぐという意味から甲案を採ることも一つの考え方ではないかと考えます。   ただ,家庭裁判所の調査官につきましては,裁判所に対して,専門的な見地から調査報告をするという立場ですので,審判結果に関与する度合いが高いということ,知財調査官にも忌避があること,判決には全くかかわらない民訴の専門委員にも忌避があることから,その辺りの均衡を考えるとやはり甲案ではバランスを欠くのではないかと考えます。 ○伊藤部会長 そういたしますと,今,増田幹事の御発言の前半部分,家事調停委員に関しては,乙案の立場が正当と思われるけれども,しかし甲案の考え方も理解できるという御趣旨の御発言がございまして,この点は他の委員は何か御意見はございますか。 ○三木委員 私も調停委員に関しては,事務局提案の甲案でよろしいのではないかと思いますが,1点確認したいのは,この法制審議会の直接の対象にはならないかもしれませんが,規則事項になるのかもしれませんが,回避の規定を規則なりでどうお考えなのか,その点だけお伺いしたいと思います。 ○脇村関係官 三木委員がおっしゃったように,置くとしても規則事項でございますので,この後,家事審判法が改正になったあかつきには,最高裁判所でしかるべく御検討されるものだと理解しております。 ○三木委員 おっしゃるように規則事項とすれば,ここで私があれこれ言うのが適切かどうかは疑問ではありますが,やはり回避の規定は是非規則のほうで置いていただければと思います。そうしないと除斥しかなくて,それ以外に疑いのある者が離れるという手段がないというのは困る気がします。 ○伊藤部会長 ただいまの点は,そういった御意見を踏まえて,最高裁判所におかれてしかるべき検討がされると理解いたします。そういたしますと,家事調停委員については,甲案ということで御了解いただいたものとしてよろしいでしょうか。   引き続きまして,家庭裁判所調査官ですが,増田幹事からはこちらに関しては,先ほど何点か理由を挙げていただきましたが,それらに基づいてやはり忌避に関する規律の準用も必要ではないか。つまり乙案の考え方を採るべきではないかという御意見がございました。他の委員,幹事の方はいかがでしょうか。 ○古谷幹事 先ほど調停委員のところでもお話があったかと思うのですけれども,実際に家裁調査官が面接する相手方というのは当事者本人になりまして,代理人がつくということは余りないということがあります。感情的な対応をする困難当事者を相手にするという,そういった職務環境の中でやっているということがございまして,この点,同じ調査官とは言っても知財調査官とはかなり状況が違います。やはり忌避の濫用のおそれ,それによる審理の迅速性が損なわれるという危険性が非常に高いと思われますので,乙案に対しては反対でございます。 ○伊藤部会長 考え方が対立しているようですけれども,他の委員,幹事の方はいかがでしょうか。 ○長谷部委員 私は調査官については,甲案でよいと思います。先ほど知財調査官,専門委員との均衡について御指摘がありましたが,専門委員や知財調査官の場合には,本人や証人に直接問いを発するという形で手続に関与することがあるわけでありますけれども,家裁の調査官の場合には,そういった形で手続に関与することはないという意味で,違いがあってもそれは合理的なのではないかと思います。   理論上は,手続の主宰者であるかどうかということで分けるという考え方があると思いまして,そういう意味では,私は調停委員について忌避の制度を設けることはあっても,調査官については設けないということがあるかと思います。その逆は余り理解できないと思っておりまして,調停委員については忌避の制度を適用しないということで,甲案が多数のようですのでそこはそれで結構なのですけれども,仮に調停委員について忌避が設けられたとしても,調査官についてはそうではないと思います。 ○伊藤部会長 家裁調査官の職務の内容,あるいは手続上の地位などに関しまして,お考えが分かれているようですが,ほかにいかがでしょうか。 ○山田幹事 私はこの調査官に関しては忌避の準用があってしかるべきではないかと考えております。確かに,今,長谷部委員が言われたような分け方というのは,一つのあり得る考え方だと思います。が,他方で,この家庭裁判所の調査官の専門的な知見が非常に強く調停あるいは審判に影響するということ,その影響力の強さということから考えますと,仮に調査官において何らか忌避に該当するような事情があった場合に,それを排除するということがあってしかるべきだろうと思います。   理論的には調停委員についても本来忌避が認められるべきだろうと思いますが,それはそのような場合には当事者が手続から離脱するという形でそれを回避することができる。しかし,調査官についてそれはないということであれば,やや問題でないかというふうに実質論的な議論ですが考えております。 ○伊藤部会長 山田幹事,先ほど古谷幹事から調査官は直接当事者から情報を得るとか,対話をするとかいう関係があるので,忌避という制度をこちらに設けることがいろいろ問題を生じるのではないかと,そういう立場からの消極論があったように思いますが,その点に関しても乙案という考え方で何か補足していただけることがあればお願いしたいと思います。 ○山田幹事 実際に,実務をやっておりませんので,どれだけ大変な目にあっておられるのかということを踏まえずに申し上げるのは大変せん越でございますが,ただ,一つには濫用的な申立てがあれば,これは簡易却下の方法で対応していくというふうにお願いするほかはないかなということと,代理人を使うという方も増えてこられるのかなという期待ぐらいのことしか申し上げられず,申し訳ありません。 ○伊藤部会長 意見の分布が,二分されているような状況でございますが。 ○豊澤委員 濫用的な申立てに関しては,簡易却下で対応するというお話が出ましたけれども,簡易却下に対しても即時抗告ができるという仕切りになるとすると,濫用的な申立てであればあるほど即時抗告まで争われる可能性が高く,実際に子どもにかかわる事件等で早急に結論を出す必要がある場合に,高裁までいって判断が出るまでストップせざるを得ないという事態が実務の立場としては懸念を覚えます。 ○髙田(昌)委員 私個人としては,甲案がいいとか,乙案がいいと断定できないのですけれども,一つ考慮すべき点として,調停の場合は調停委員が手続主宰者とありますが,最終的に合意が形成できなければ調停不成立ということで決着しますけれども,家裁の調査官の場合には,家事審判のように手続に関与し,なおかつ事実の調査を介して審判の結論に対して重大な影響力を及ぼし得る上に,審判が合意型ではなく裁断型の手続であるということを考えますと,仮に手続主宰者でないといっても忌避の制度を設けておく必要があると考える余地はあると思います。 ○鶴岡委員 家裁調査官の経験のある者として申し上げますと,家裁調査官の基本的な職務である事実の調査の方法としては,調査面接,面接によって事実を調査するというのが基本でありまして,この面接は御承知のように第三者の立会いを経ずして,密室で調査するという構造があります。それは調査官の調査が,まず当事者との信頼関係を築くということを心掛けておりまして,そういう構造の中で,初めて当事者の真意,あるいは子どもの真意,子の意向に関する客観的な事実をつかもうとするわけです。ですから,当事者との間に信頼関係を形成してやっていく,あるいは事実を確かめるための心理学的な方法も用いるということでありまして,事実の調査結果に対する客観性が争われること自体については当然のことでありますけれども,調査の方法について,それは公平を失しているとか,そういうやり方で事実が分かるのかというふうに言われることが懸念されるわけであります。 ○伊藤部会長 両用の意見で,大勢がいずれかということを見いだすのはなかなか難しいかと思いますが,今,鶴岡委員からのお話がありましたような調査官の職務内容の特質,あるいはそれを支えるものとしての服務規律,そういったことを考えて,忌避の制度まで設ける合理性があるかどうかという,そういう意見が総体的にはどうも委員,幹事の発言された数という点では多いというように思いますが,しかし他方,何人かの方から有力な乙案を支持の御意見もありますので,今回,大勢を見いだすのは難しいということで,もうちょっと検討いたしましょうか。皆さんの御議論を事務当局で更に踏まえて検討してもらうことにいたしましょう。   それでは,調停委員のほうは甲案で,家庭裁判所調査官に関してはなお検討を続けるということにさせていただきたいと思います。   次に,6の当事者能力及び手続行為能力等の(5)法定代理権の消滅の通知ですが,調停をすることができる事項についての規律として本人又は代理人から他方の当事者に通知しなければならない,その効力を生じないという考え方が甲案で,その理由は先ほどを脇村関係官から説明されたとおりでありますが,この点に関しては,いかがでしょうか。   ここは甲案を採用するということで特段御異論はございませんか。もし,よろしければそういうことで取りまとめさせていただきます。   引き続きまして,(6)の制限行為能力者の代理人等でございまして,この点は先ほど説明がございましたように,実体法上の法定代理人の取扱いについては,この中間試案の考え方を維持するということで,理由は先ほどの説明があったとおりですが,この点はいかがでしょうか。   ここも特段御異論がなければ,このような考え方で取りまとめさせていただきます。   次に,参加,脱退に関してですが,当事者参加については中間試案を維持するということとそれから脱退に関しては,幾つかの考えるべき点があるので,どのように考えるかという問題の提起にとどまっておりまして,特に申立ての取下げ,申立ての却下との関係で脱退の制度に関する規律を設ける必要があるのかどうか。これは先ほどの脇村関係官からの説明でありますが,参加及び脱退に関してはいかがでしょうか。 ○三木委員 脱退についてはかねてより疑問を呈しておりましたが,やはりこのペーパーを見るにつけても,疑問があると思います。7ページの(2)の①を見ますと,当事者となる資格を有しない,あるいは資格を喪失した者が許可を得て脱退することができるということが書かれていますが,当事者となる資格がない者であれば,当事者が申し出ようが,申し出まいが裁判所は手続から排除すべきだろうと思いますので,これをなぜ脱退という仕組みにするのかということは理解が困難であります。   当事者適格一般について言うと,民事訴訟でも適格のない者の脱退という制度は存在しないわけですし,なぜここの場合にだけ必要なのかということで,結論としては必要ないと思いますし,もし仮に置くのであっても,脱退という言葉を使うのは概念の混乱を招きますので,それは避けていただきたいと思います。 ○伊藤部会長 この点もかねてから何度か議論したところでございまして,三木委員は今の状況で言うと申立ての却下ということで対処することができるし,またすべきであるということでしょうか。 ○三木委員 却下になる場合もありましょうし,相手方の場合には手続からの排除ということになると思います。 ○伊藤部会長 ということで,対処が可能,あるいはそうすべきであるのにこういう新しい概念をここで立てる必要はないという御意見ですが。 ○長委員 7ページの(2)の①のことでありますけれども,却下にするということはもちろんあり得ることだと思うのですが,通常ですと全部の当事者に対して審判書を送って,確定するのを待つことになります。例えば相続分の譲渡などをして資格を喪失したことにつき,だれも争うところではないという場合には,実務では簡易な手続ということで相続分の譲渡の契約書と脱退届を出していただきまして,それで手続から抜けるということをしていました。仮に何か争いがあるということであれば,そういう簡易な方法は採りません。はっきりしているような場合に,簡易な方法で当事者を整理することが,脱退という制度を設けるとできるのではないかと思います。単に却下の場合とは手続的には違う方式になると思っています。   ②というのは強制排除だと思いますけれども,強制排除につきましては,もし脱退という制度がなければ,一部却下するということで実現できることはできるのですけれども,この点につきましても明白に当事者適格を失ったのですけれども,脱退書面を出してこないという場合ももちろんあるわけです。このようにたまたま手続を怠っているような場合に,一部却下するというよりは②のような手続をつくっていただけるのであれば,実務的には非常に整理しやすくなる。もちろん,問題になるような事案につきましては,本案の中で却下するという運用になるのではないかと思います。このような制度が設けられますと実務的には使いやすくなると思っております。 ○伊藤部会長 今,長委員の御発言はもちろん却下ということはあり得るけれども,却下と脱退という言葉を使うかどうかは別にして,ここで言われているような脱退というのは,相いれない制度ではなくて,相互にそれぞれの場面を置くことにして,併存し得る制度ではないかということかと思います。 ○三木委員 長委員のおっしゃったことは一見すると私の発言と対立しているように見えますけれども,今から申し上げるような,私の考えていることとの事柄の実質と重ね合わせますと,余り対立してないようにも思います。   長委員のおっしゃったように,手続の明確化のために当事者から書面を取るのがいいのか,形はともかく,何か書面的なもので対応するということは私はもちろんあっていいと思いますけれども,それは訴訟法上の脱退制度を設けるということとは別な話であって,手続的にそういった手続を執るということの事務的な意味での合理性とか,そういう問題ではないかと思います。   その関係で言いますと,②に書いてある手続の排除というところですけれども,長委員が先ほどそういう制度を新たに設けていただけるのであればなお望ましいということをおっしゃって,その点は,私も違った観点からかもしれませんけれども,そういうことはあってもいいという気がいたします。   と申しますのは,民事訴訟でもそうですけれども,途中で当事者とすべきでない,すべきでないというのは,いろいろな場面が民事訴訟的にはあり得て,当事者適格がないということもあるし,それだけではなくて当事者確定論的に言って,当事者でないことが分かったという場合もありますけれども,そういうときには一般に手続から排除しなければいかんと言われるわけですけれども,当然当事者でないわけですから,あるいは当事者たるべきものではないわけです。しかし,その排除の手続というのは,訴訟手続としてはないわけです。事実上の排除というか,次から呼出状を送らないとか,「あなた,違うから帰ってください」とかいうようなことで対応せざるを得ないと思いますけれども,そのときに排除手続,それが排除決定なのか分かりませんけれども,長委員がおっしゃった当事者から同意を取るのがいいのかどうかと私が言ったのは,同意を取るのが裁判所の決定的なものなのかは,何か書面なり訴訟上の手続として明確にするという作業があったほうが恐らくいいと思います。   ただ,繰り返しますけれども,資格のないものが私が抜けますという書面を出すというのは,論理的には何かおかしくて,資格がないわけですから,抜けるも何もないわけです。手続的に何か書面とかあるいは手続によって明確化するものがあってよいというところは私は同感です。それが当事者の同意書面であるべきなのかということが一つです。さらに,その根底には,同意書面であってもいいですけれども,脱退という訴訟上の手続から意思によって離脱するという手続を構想することが資格のないものの離脱というのが観念しにくいという意味で,概念としてはおかしいのではないか。手続のやり方としてはもしかしたら同じようなことを考えているのかもしれない。そういうことであります。 ○長委員 私は形式的に当事者が確定すると考えているものですから,仮に当事者適格がない人であれ,手続上,当事者として表示された場合には,手続上明確にその人を排除する必要があるだろうと思います。そうであるとすると,事実上の扱いということではなくて,その人が形式的な当事者であったものをその当事者から排除するということで裁判所の許可,審判が必要という考え方はあり得るのではないかと考えたわけです。   よくお聞きしてみると,三木委員がおっしゃっていることはそれほど違わないことのように思います。同好の士を得たような思いがしております。 ○鈴木委員 私も前からこの脱退という言葉にこだわっておりまして,多分三木委員とほとんど同じ考え方だと思います。脱退と申しますと,訴訟法ですと,自分は抜けるけれども,後に出る判決の効力を受忍するという効力があるわけですが,ここでの脱退はそういう脱退者に対する効力は伴わない脱退になります。現在,実務で行われている相続分の譲渡の場合のいわゆる脱退というものは何らかの形で制度としてはあったほうがいいと思うのですけれども,訴訟法とは違うものですから,できれば別の言葉で制度化していただくというほうがいいのではないかという気がいたします。 ○伊藤部会長 先ほどの三木委員,長委員の御発言にもありましたように,従来はこういう制度を設けるか設けるべきではないかということで,考え方が正面から対立しているような印象を与えた節がございますけれども,しかし,いろいろ議論が進行いたしますと却下ということ,あるいは申立ての取下げということとは別に特に承継の場合だと思いますが離脱するとか,あるいは進んで離脱しないものを排除するとか,そういう手続までおよそ合理性がないということではなくて,その点はかなり認識が共通しているとすれば,かえってこの脱退という概念をここに持ってきて,それを考えるということ自体が若干問題があるように思いますので,ここでの議論を踏まえて,もうちょっと事務当局に,先ほど長委員は同好の士を得られたという表現を使われましたが,共通している認識部分を制度としてどういうふうに仕組めるかを事務当局に検討してもらうということでいかがでしょうか。 ○畑幹事 ちょっとよく分からなかったのですが,今のお話は申立ての取下げと却下とは別のものを設けるということでしょうか。私個人は,資格のない人が手続から外れるということは,何かしらあってしかるべきだと考えておりますが,非訟のときは申立ての取下げと却下でそのことが実現できるという話を前回したように思うのですが,こちらになるとそれでは足りないということになるのでしょうか。 ○金子幹事 この制度を入れるかどうかで一番悩ましいのが相手方側に当事者の地位の変動があったという場合で,申立人側に地位の変動があった場合には申立人が自ら取り下げれば地位から離脱できるのに対し,この場合には,申立人側が取り下げるか,あるいは裁判所側が却下するかということをしないと,譲渡人がその地位に拘束されてしまうという状況があって,それが必ずしも望ましくないのではないかという問題があります。   非訟のところが,顕在化しないのは相手方がある事件を必ずしも想定した規定としていないからであります。 ○畑幹事 今の御説明では,非訟でも相手方がある事件であれば,同じことがあるということになりそうですが,遺産分割であれば相続分の譲渡ということが実際上もあるようですが,そのような例が非訟では事実上思い浮かばないということでしょうか。 ○脇村関係官 今,金子のほうから説明がありましたように,問題となるのはほとんど相手方のあるケースだと思うのですけれども,借地非訟事件のようなケース等を考えてみますと,普通は相手方ごとにやはり申立てがあると考えるものが多いのではないかと考えておりまして,そうしますと申立ての取下げか却下で,ほとんどの場合が対応可能である。他方で,遺産分割は我々としても相手方ごとに申立てがあると考えていいのかがどうしても踏ん切りがつかない。そういう意味でかなり特殊な事例だと考えておりまして,それは正に遺産分割が被相続人の財産の分けることが申立てだとすると,相続人がだれかというのはある意味関係ないと考えやすいのかなと。そういったことを考えますと,こういったときについては申立ての取下げでは対応できないので,少なくとも脱退のような制度が,実務上も脱退をやっていることを踏まえて,あってもいいのではないかと思っていたところでございます。   ここもレジュメに書いていますように,結局それごとの申立てを却下できると考えてしまえば,排除のような手続をあえてつくらなくてもいいのではないかということも一つ考えられますけれども,先ほど御議論を聴いていますと,いずれにしてもあってもいいのではないかというお話ではないかと。実務上の御意見,あるいは三木委員がおっしゃるように手続からどかすということがあってもいいのではないかということであれば,実務上の運用,実情を踏まえておくことも一つではないかと聴いていて思っていました。 ○畑幹事 今,お聴きした限りでは,やはり非訟と家事で違うという理由はよく分からないように思います。 ○三木委員 私,前回の非訟のときに取下げとか却下で,脱退が要らないと申したことでもありますので,今日の発言との関係を一言だけ申し上げておきたいと思います。   そのときの趣旨は少なくとも今日の発言と同じですけれども,民事訴訟法上の脱退概念で規律するのはおかしい,先ほど鈴木委員がおっしゃったのと同じ趣旨です。では,どうするかというと繰り返しになりますけれども,それは非訟であれ家事であれ,当事者となる資格のない者,あるいは確定論的に当事者ではない者は,裁判所は義務として手続から排除しなければいけない。それは訴訟でも同じことです。ただ,現実にそういう訴訟のほうですら,排除裁判の制度というのは置かれておりませんので,実質そういうことがもしあれば,めったにないとは思いますが,あれば事実上の措置で対応しているのだと思います。そうだとすれば,こちらも家事や非訟も事実上の措置で対応すればいいのではないかと。少なくとも脱退というのはおかしいという趣旨です。   仮に,先ほど私と長委員とのやり取りにありましたように,排除裁判というものを特に設けるというのであればそれは畑幹事が言うように,それは家事に限るという理由はもちろんないのであって,非訟にも置くべきだし,更に言えばもちろんこの法制審の対象ではないですけれども,民事訴訟にも置くべきだと。という論理関係にあるのだと私は理解しております。 ○畑幹事 いろいろな方の意見が一致しているような,いないような気がするのですが,私は,相続分の譲渡のように当事者適格が移転したという場合と,三木委員がおっしゃる当事者確定的な意味で非当事者である者を排除するという問題は別の問題として議論する必要が少なくともあると考えます。   ついでに言えば,当事者適格が移転したような場合に,簡易な手続でできないかということ,それは工夫する余地はあるのではないかと思っております。民訴法改正のときも訴訟承継について争いがない場合は簡易な手続でできていいのではないかという議論があったわけでありますし,そういうことを工夫する余地はあると思いますが,いずれにしても非訟と家事で違うということではないように思います。 ○伊藤部会長 分かりました。先ほど私がちょっとまとめ的なことを申しましたが,ということでこの家事に関して,事務当局に返答してもらって,その際に非訟については前回ああいうことで一応の方向性が決まっておりますけれども,それと矛盾しないのか。あるいは非訟についてもう一度考え直してみる必要があるのか。その辺りのことも併せて事務当局に検討してもらいましょう。   ほかに参加,脱退の関係で御発言はございますか。 ○増田幹事 これは確認ですけれども,非訟のときに問題になっていた利害関係参加の要件である「重大な利害」についてですが,この文言については引き続き検討ということでよろしいのでしょうか。 ○脇村関係官 はい,そうです。 ○伊藤部会長 そういたしましたら,次に9の任意代理人のところの(7)の任意代理権の消滅の通知でございまして,これも法定代理の場合との差異を考慮して,乙案を採用することでどうかというのが事務当局からの説明でございましたが,ここはいかがでしょうか。   もし特段の御異論がなければこういうことで取りまとめたいと思いますが,よろしいですか。   それでは,次に10の手続費用から15の子の意見表明までの説明をお願いします。 ○松田関係官 では,御説明いたします。まず,10の手続費用(2)手続費用の負担の裁判ですが,ここでは当事者にとっての明確性の観点から中間試案第1の10(7)の家事事件が審判及び調停によらないで完結した場合等の取扱いも含めまして,甲案の規律を採用することを提案するものでございます。   なお,手続費用の負担の裁判に対する即時抗告につきましては,引き続き検討することとしておりますが,この点につきしても特に御意見等がございましたら,承りたいと存じます。 ○川尻関係官 11の審理手続(1)本人出頭主義では,家事審判手続の期日においては本人から直接事情を聴取する必要性が高いと考えられますことから,中間試案の規律を維持するものとすることを提案しております。   12,裁判資料(5)証拠調べ,ア,民事訴訟法の準用では,尋問の順序について民事訴訟法の規律を準用するものとすることを提案しております。 ○脇村関係官 続きまして,15の子の意見表明ですが,(1)子の利害関係参加についてですが,この点については,子は手続行為能力を有する家事審判事件においては,当該審判により影響を受けることから,利害関係参加を認めることが相当であると考えられます。もっともこの点については,父母等が自らに有利に働くことを期待して,子に対して手続参加を強要し,自らの主張を子に代弁させようとしている場合や父母の対立が激化しており,手続に参加することで子がその対立に巻き込まれるおそれがある場合など,子に利害関係参加を認めることが子の福祉から見て不相当な場合もあると考えることから,裁判所が子の手続参加を拒絶する余地を残すべきであるとも考えます。   そこで子の年齢及び発達程度その他一切の事情を考慮して子の福祉を害すると認める場合には,裁判所は利害関係参加の申出を却下できるものとすることが相当であるとも考えられますが御検討いただければと思います。   なお,このような例外を設けるか否かは子が審判を受ける者である場合と受ける者ではないが重大な利害を有する者である場合とで区別する必要はないようにも思われますので,併せて御検討いただければと存じます。   (2)の子の陳述聴取についてですが,子の意思を審判に反映させるためには,陳述聴取の方法でその意思を表明することが重要ですが,他方で現実問題として,子の中にはその年齢等から自らの意思を表明することができない場合や陳述聴取が適切でない場合があり,陳述聴取以外の方法で子の意思を把握すべき場合があるところでございます。   そこで子の意思を審判に反映させるべき場合においては,陳述聴取が義務付けられている15歳以上の子については,陳述聴取を義務付けるため個別に規定を設け,他方で15歳未満の子についてはどのような方法で子の意思を反映するかについては,裁判所の合理的な裁量にゆだねることとし,陳述聴取を義務付ける規定を設けないことが相当であると考えられます。   (3)の子の意思を代弁する者又は子の客観的利益を主張する者の選任については,この点については中間試案の(注2)に記載している諸点について検討する必要がありますが,結局は選任する者について,どのような役割を果たすことを期待するのかを検討しなければなりません。   この役割としては,例えば,子が自らその意思を表明することができ,当該事件について何らかの意見を有している場合に,その意思,意見を適切に代弁し,手続に反映させることにその役割があるとする考え方やあるいは子が自らその意思を表明することができないような幼少の子の場合にも,その子の意思を把握し,又はその子に代わり客観的利益を主張することにその役割があるとする考え方があると思います。   前者のような考え方については,既に,子が一定の事件においては自らの意思を手続に反映させるために,自ら手続に参加することができ,その際には子に任意代理人をつけることができる制度を導入する予定であることから,このような制度では不十分か否かを検討する必要が出てきます。後者の考え方については,どのような資格を有する者がどのような方法で子の意思や客観的利益を調査するのか,このような場面で特に専門性を発揮する家庭裁判所調査官等の役割との関係を検討しなければならないということでございます。 ○伊藤部会長 それでは順次審議をお願いいたします。まず,10の手続費用の(2)手続費用の負担裁判でありますけれども,甲案,乙案ということで,従来議論していただいてきましたけれども,これに関しては,甲案を採用,明確性の観点というのが最大の理由になっているかと思います。甲案を採用することでどうかというのが事務当局からの提案ですが,まずこの点はいかがでしょうか。   特段,御異論がなければ,この考え方で御了解とさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか。   もう一つ,先ほど説明があった9ページの補足説明のなお書きのところ,手続費用の負担の裁判に対する即時抗告については,もし御意見があれば現段階で承っておきたいということですが,この点はいかがでしょうか。 ○山本幹事 非訟のときに申し上げたことと基本的には同じで,第一審で当事者ないし参加人でなかったような者に対して,負担させるような場合には,やはりその者には即時抗告を認める必要があるのかなという印象を持っています。 ○伊藤部会長 山本幹事の御意見の理由付けについては以前お話を頂いたとおりだと思いますが,ほかの方で何か御意見はございますか。 ○金子幹事 山本幹事の御発言に関して,ちょっとお聴きしたいのは,当事者であっても,即時抗告ができない場合というのがあるわけで,その場合に当事者に手続費用の負担をする裁判があったというときに,これについては即時抗告を認めないということでよろしいのか。それと先ほど第三者の場合には認めるべきだということとの整合性についてどのように説明したらいいかという点についてお伺いできればと思ったのですが。 ○山本幹事 十分考えられているわけではないのですが,当事者ないし第一審に関与していた人,理論的には第一審で一応手続費用の負担についても争う機会はあったのではないかというふうに思われるので,そこはしようがないのかなという感じがします。それに対して,第一審に全く関与しない人に財産上の負担を課してしまう,何らの攻撃防御の機会が全くないという状況は最低限,だからそれは第一審でその人に何か言わせる機会があるということでも私はいいのかなと思うのですが,そういう手続をつくるのは非常に難しそうな感じがするので,即時抗告になるのかなと,そういうことなのですが。 ○金子幹事 本案について争っていることを通じて,手続費用についても攻撃防御があったとみなすというのは民事訴訟においては敗訴者負担という原則があるので,それにのっとった費用負担の裁判が通常は出るので,一生懸命本案について勝つ方向で努力すれば,それはそういう費用についてもそのようなみなしというものができるのではないかと思うのですが,各自負担を原則とした費用負担の発想の下で,それが通用するかどうかという辺りをちょっと悩んでいるのですが。 ○山本幹事 私が申し上げた先ほどの趣旨は,本案について争っているのが手続費用について争ったものとみなされるということではなくて,理論的には直接手続費用についても攻撃防御ができるはずだと。つまりこの手続の裁判というのは職権で行われる裁判ですけれども,それはだれかに負担させる可能性というのは常にあるわけだから,理論的には自分は負担すべきではないということを第一審の段階では言えるはずであると。その機会は少なくとも与えられているだろう。そういう趣旨で申し上げました。 ○伊藤部会長 今の山本幹事の発言を踏まえて引き続き検討してもらうことにいたしましょう。ほかの方で何か御意見がある方はいらっしゃいますか。 ○増田幹事 ちょっと今の議論で,よく分からないところを1点だけお伺いしたいと思います。手続費用の負担の裁判について,即時抗告を認めるとすると本体の裁判についても確定が遮断されることになるのでしょうか。その辺りはどうお考えなのでしょうか。 ○松田関係官 そこも併せて現段階では検討したいと考えております。 ○伊藤部会長 なかなか難しい問題が出てくることは間違いないのですよね。 ○増田幹事 私はやはり本体の裁判に関してまで遮断されるのであれば,即時抗告は認めなくてもいいのかなというふうに考えているのですが。 ○伊藤部会長 御意見はよく分かりますが,山本幹事の御意見もございますので,併せて検討してもらうことにしましょう。   それでは,11の審理手続で,本人出頭主義の例外に関しては,この中間試案の規律を維持するという,この点はいかがでしょうか。 ○増田幹事 現行の運用が維持されるということだと思いますので,特に反対はしないということとします。 ○伊藤部会長 ほかに何か御発言はございますか。もしよろしければ増田幹事からもそういう御発言がございましたので,ここで中間試案の規律を維持する,例外のほうですね,ということで取りまとめたいと思います。   引き続きまして,12の裁判資料の関係ですが,尋問の順序に関する民訴法の規律をこちらに準用する,ここは恐らく御異論はないところかと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,この点も御了解いただいたものといたしまして,次の15の子の意見表明の関係ですが,まず子の利害関係参加につきまして,利害関係参加を認めるという前提でかつそれが子の福祉にとって福祉を害するような状況がある場合に除外の規律を設けるかどうかということで,やはり補足説明にございますように,一定の場合にはそういう除外の規律を設けることが合理性があるのではないかというのが事務当局からの説明ですが,まず子の利害関係参加及びその除外に関する規律についてはいかがでしょうか。 ○杉井委員 子に利害関係参加を認めることが子の福祉から見て不相当な場合というのがちょっとよく分からないのです。ここで書かれているのは父母等が自ら有利に働くことを期待して,子どもに対して手続参加を強要したり,自らの主張を子に代弁させようとしている場合というようなことが書かれておりますが,むしろ父母等が有利に働くことを期待したり,自分の意見を子どもに代弁させたりということを排除するために,子ども自身がどういうふうな意思を持っているか,どういうふうに考えているかという,そういう子ども自身の意見表明が可能なようにということが子の利害関係参加のもともとの意味だと私は思っております。親同士が紛争の渦中にあるわけですから,子どもがその対立に巻き込まれるうんぬんと言っても,もともと巻き込まれているわけで,その巻き込まれている中で,本当に子どもはどう考えているか。本当に子どもの福祉を守るにはどうしたらいいかということを客観的にきちんと裁判所がつかむ意味でも,あるいは当事者が納得する意味でも子の利害関係参加というのを認めるべきであって,そういう意味から利害関係参加の申出を裁判所が却下できるものとすることが相当であると考えられる場合があるのではないかという指摘はちょっと私としては納得いきません。 ○伊藤部会長 ただいまの杉井委員の御発言に関連いたしまして,そういう形での除外を設けるべき合理性がある状況というのは想定しにくいということのようですけれども,いかがでしょうか。 ○古谷幹事 今の杉井委員の御指摘のように,子に参加させるほうがいいという場合も当然多くあると思うのですけれども,他方,ここで記載されておりますケース,仮に実際にそういうケースがあったとしたら,それは子どもをむしろ参加させないほうが子どもの福祉にとって良い。あるいは子どもを参加させることによって子どもが親に対する不信感を持ったり,傷つくという事態はやはり場合としてはあり得ると思われるので,そういったケースを排除できるような形にしておく必要があると考えました。 ○鶴岡委員 この15全体を通じて,非常に難しい問題なのですけれども,子どもの意見表明,子の意思を最大限尊重するということは非常に大事なことだと思っております。また,それを手続上最大限引き出すような制度設計が望ましいとも思っております。これは,手続に参加して意見表明をする,また意見表明をしたことからくる結果に対する責任を持つ主体として,子どもを見るという思想だと思うのですけれども,子どもと言いましても,年齢や発達によっていろいろ違いまして,例えば思春期の子どもでありましても,親に対する自分の言動について,その後成人になってから非常に後悔したり,罪悪感を持ったりするということが実はあります。あるいは同居親に対する過剰な同調から自ら同居親の代理役を買って出るというようなケースも少なくないわけであります。そういう場合に,その子がそのことについて意見を表明し,あるいは参加して態度を表明したことによって,その子自身が将来受けるであろう心的外傷などを全く排除できる手続になるかということが心配であり,参加させれば子どもの主体性が保たれるとばかりは言えない局面があるのではないかということを考えております。 ○伊藤部会長 そうすると例外的ではあるけれども,かえってそのことが子の福祉から見て相当でないという判断を裁判所がする場合には,それを認めないという選択肢,余地を残しておくことが子の福祉という点からも合理性がある,そういう場合が存在するのではないかと理解してよろしゅうございますか。 ○鶴岡委員 明らかに強い情緒的な不安があるとか,明らかに忠誠葛藤で非常に不安が高いと思われるような子どもがそういう態度を示したときに,やはり裁判所の側が,これを客観的に考えていく余地を残すことが必要なケースがあるのではないかと思うわけであります。 ○増田幹事 私も心理学的なことについては,余り論じることはできませんけれども,仮に将来,悪影響を残すというようなことがあるとしても,それを参加申出の時点で判断できるかどうかというのは,すごく難しいことではないかと思います。逆に,自分は参加したかったのに,参加できなかった。自分の意思が全く裁判所に伝わらなかったということは悪影響をもたらさないのかどうかという問題もあると思います。ここは法的には一応割り切って参加できる者には参加を認めるというほうが適当なのではないかと考えます。 ○伊藤部会長 それぞれ違った立場からの御意見が述べられておりますが。 ○豊澤委員 補足説明に書かれているように,手続に参加させることが子どもの福祉の観点から相当でないと思われるケースがあり得ることは恐らく否定し難いと思います。ただ,そういった場合であっても,参加を認めないからといって,子どもの意向を全く考えないということはもちろんないわけで,家裁調査官による調査が当然行われるでしょう。その限りにおいて,子どもの意向は十分最終的な結果には反映される。そういうケースがあり得るということであれば,そこは適切な例外を設けておいていただいたほうが,子どものためでもあろうかと思います。 ○伊藤部会長 実務に携わっておられる委員,幹事の間でも意見が分かれておられるようですが,研究者の委員,幹事の方はいかがでしょうか。 ○髙田(昌)委員 1点お伺いしたいのですが,今ありましたように,子の手続参加を拒絶する余地を残しておくという場合に,実際に手続参加を排除した場合,今の豊澤委員の御発言にもありましたけれども,この場合に子の福祉や利益をどういうふうに保護するかというところでは,どのように考えておられるのか。例えば陳述聴取とか,あるいは,後のほうにかかわってくると思いますが,家裁の調査官にその役割を担わせるとか考えておられるのか。その辺りのお見通しをお持ちでしたら教えてくださいますようお願いいたします。 ○脇村関係官 ここにつきましては,いずれにしても陳述聴取の対象から外すということではなくて,陳述聴取は当然,15歳未満をどう書くかというのはありますけれども,予定している者については行うことを当然の前提にした上で,そういう手続参加することをどう考えるかと考えております。そういう意味では,子どもの意見の反映ということは,手続参加を認めていないケースについても当然陳述聴取等で行えるということは予定しております。ここで問題としておりますのは,そういった陳述聴取等をした上で,更に子どもが参加の申立てをしたケースについては認めるべきだという御意見があったのに対しては,一定の場合にはそういう手続上の行為,主張,立証,証拠,申立て等のそういう地位を付与するということ自体が場合によっては何らかの弊害が生じるのではないか。弊害が生じるのであれば,一定の除外,そういったものを設けるべきではないかというところで御検討していただければと考えているところでございます。 ○伊藤部会長 という前提でお考えいただいて,髙田(昌)委員は今の例外を設けるべきかどうかという点についての御意見はいかがでしょうか。 ○髙田(昌)委員 今までの話を伺った限りでは,参加のところについては認めないという余地を残しておく必要があるのかなと思いますけれども,そこから先のことについては,まだはっきりした考えを持っておりません。 ○山本幹事 私も今の髙田(昌)委員と同じで,先ほどの鶴岡委員のお話は私は説得的なように伺いました。この問題は恐らく子が手続行為能力は認められるにしても,やはりその行為能力は必ずしも十分なものではない。いろいろな影響を受けたり,不安定なものであるということが前提になっているのかなというふうに思いました。   その手続行為能力を補完する方法としては,任意代理人を選任するということがあり,第一次的にはそれによって解決できる問題であればそれによるべきなのかなという気がしますけれども,やはり任意代理人も子の意思には従属する関係にあると思いますので,完全に今のような問題が解決できるとはやはり思えないというところがあるとすれば,最後の手段としてはこのような形で例外的に手続参加を拒絶するという余地は認められてもよいのかなと思いました。 ○増田幹事 今図らずも山本幹事がおっしゃったように,これは任意代理人がつくということを前提としてお考えいただければ有り難いと思います。その任意代理人については従前に述べてきたような子どもの代理人のような働きをすることが期待されているということを前提にすると,自ら参加したいという子どもについて,入り口のところで拒絶するということは疑問です。また,入り口のところで争うということによって何か無益な手続を積み重ねるということにも,当然不服申立てというのもあるでしょうから,そうなりかねないと考えております。これが入り口のところの議論であることをもう一度確認していただきたいと思います。 ○伊藤部会長 なかなか難しいところですが。 ○菅野委員 現時点では,家事,人訴と離れているわけですけれども,以前経験していたときからで眼に浮かぶ光景というのがやはり幾つかあるわけです。そうしますと高校生ぐらいの方でも非常に感情的なことがやはり多いという印象を持っています。現在は,子どもが自分の立場で参加しているわけではないですけれども,それでも,ときどき子どもさんが手続に実際に来ていたり,あるいは手紙,陳述書,そういう書面がいろいろ出てきたり,あるいは写真とかが出てくることがよくあります。   子どもさんが高校生で,家のふすまとか畳に「何々死んじまえ」とかむちゃくちゃなことを書いて,片方の父,母を攻撃するものを書く。あるいはそういうたくさんの手紙とか,中に強烈なことを書いたものを持ってくる。そういうことがあります。調査官の方から聞いていると,そういう話も,また変わったりもするということです。猛烈にある時期に憎んだり非難したりして,それが永続するかというとそうとは限らないという説明を受けることもあるのですが,やはりそういう情緒的に猛烈に強くなるときがある。   私はそういう場合は本当に例外に当たるのかどうかも十分自信はないのですけれども,いろいろなことをふと思い返すと,ああいうふうに猛烈に片方を敵視しているときに,自分としては手続主体として主張したいというときに,そういう子どもを入れてそれは御本人のためになるのだろうか。何年かたったときに,どう思うのだろうか。自分がそれに参加して,そういうふうにしてしまったということで,本当にすごく嫌な思いをするのではないかと,不安な感じがするので,やはりどこかこういう例外のところを残しておかないと,子どもの福祉のためによくないのではないかということを今のお話を聴いていて思いました。 ○伊藤部会長 道垣内委員,あるいは小池幹事,そういう親族等の御研究の立場からは何かございますか。 ○小池幹事 質問ですけれども,例外を認めるほうがいいと思っているのですが,例外ではねたときに,その不安定なお子さんにケアをすることは多分特にないのですよね。そうすると先ほど増田幹事がおっしゃっていたように,任意代理人が本当にそこまでケアをしてくれるのであれば,そっちの選択肢もあるのかなとちょっと思ったものですから,個人的には例外を認めるというふうには賛成なのですけれども,子どものケアという観点からすると,どっちにしても何か穴があるのかなという気がしています。 ○増田幹事 どうして裁判所がそこまで心配されるのかなというのが率直な感想です。そこはもう任意代理人に任せてもらったらいいのではないでしょうか。   もちろん心理的なケアが必要な子どもであれば,補助者として適切な専門家に依頼するということにもなろうかと思いますし,その辺りは民間のノウハウを活用していただいたほうがいいのかなと。裁判所が入り口ではねて,それが子どものためだと言われるのはちょっとどうも疑問だなと思っています。 ○杉井委員 もちろん子どもの気持ちはそのときどきで変わるし,あるときはもう極めて精神的に不安定,そういう時期があるということも分かります。しかし,全く自分がいないところで自分に関係することが行われていくということは,逆に子どもに対して不安を与えるのではないかと思います。これは飽くまでも意思能力のある子どもが前提ですので,手続に参加することによって,任意代理人もつくことによって,いろいろな現段階でどういう手続が行われていて,あるいはそれぞれ両親がどういうことを言っているか。そこをきちんと正しい情報を得て,その上で子ども自身が自分なりに判断していく,ということを私は期待できるのではないかと思います。   それを裁判所のほうが,これは子どもの福祉に反するうんぬんという形で,上からそれこそ入り口のところで制限するというよりも,やはり子ども自身にできるだけ手続に参加させて,そこの中で子ども自身の気持ちの整理と判断とそういうものを形成させていくということがやはり正に国連の子どもの権利条約,子どもの自己決定権,意見表明権という,そういう流れに沿うものではないかと思います。 ○菅野委員 若干口答えみたいな話で申し訳ないのですけれども,理想的な姿というか,あるいは期待すべき姿で済むならば,それはそれでいいわけでして,子どもの福祉,子どもの心情に十分知識のある代理人がついているならもうそれで大変結構なことであって,したがって,こういう制度自体に反対するという,そういう趣旨ではありません。ただ,現実にはいろいろな場合があり,非常に慣れてない方がついていることもあるでしょう。家事や人訴で修羅場があったなとか,いろいろ思い浮かぶのも代理人がついている事例がかなりあるのです。かなり議論になった場合でもいろいろ思うこともあるのです。そういう意味で先ほどから例外ということを言っているわけで,一般論としてこういう制度が非常にどうのこうのと言っているものとはちょっと違うのです。   やはりいろいろな場合がある,そういういろいろなときに対処できるような手段というものを残しておいていただかないと,多分現時点の家庭裁判所の実務でも困るのではないかと思って発言した次第です。 ○伊藤部会長 これも両方の意見が正面から対立しておりまして,なかなかこの場で収れんすることは難しいと思いますが。 ○金子幹事 一切例外を認めなくていいのかという辺りはやはり非常に疑問がありまして,例えば参加するといっても,いろいろな段階のことが想定されるわけですが,調査官調査でそれなりに子どもの高い忠誠葛藤が伺われて,これを本人の希望どおり,参加人として活動してもらうのが本当に問題がありそうだという報告があがって,なおかつそれでも裁判所は認めなければいけないのかというと,例外要件の書きぶりの問題はあるのかもしれませんが,何らかの裁判所のほうから拒絶する道を残しておいていただかないと,取り返しがつかないということにもならないのかなというのが懸念されるのですが。 ○増田幹事 だからこそそういう子どもにはケアが必要ではないですか,という話なのです。結局裁判所は面倒を見られないわけです。もちろん代理人だけの立場でも面倒を見られないと思います。何らかの救済が必要なのであれば,それはひとまず代理人に任せておけば,何らかの措置は講じるだろうということが考えられます。   もう一つは,例外は絶対に明文で入れなければいけないのかということをちょっと考えていただきたいのですが,本当にひどい場合は,明文で例外を入れなくたって,一般条項的に許可しないということもあり得ないことではないと考えます。 ○伊藤部会長 ここでは子の福祉のことを主として念頭に置いているのです。その参加が権利濫用とか信義則とか,そちらの話になるのとはちょっと違うように思えるのですけれども。 ○長委員 屋上屋を重ねることになるかもしれませんけれども,やはり子どもの問題については鶴岡委員から発言があったように,慎重に対応しなければいけない事例というのはたくさんあるわけです。任意代理人がつくとおっしゃっても,任意代理人は子どもの一般的な状況の救済のためにつくわけではなくて,手続を解決するための任意代理人になるわけでありますから,そういう点ではやはり限界があるのではないかと思います。   そのお子さんに対する救済の問題というのは,これは別途いろいろな形で考えなければいけないかもしれませんけれども,当面,この家事事件において,お子さんについてどう考えるかという問題を考えたときには,やはり裁判所が後見的かつ職権探知に基づいて子どもの状況なども最終的には責任を持って把握しなければいけないということになりますので,そうしたときには,やはりその観点からの子どもの手続参加についての裁量的な部分がやはり残っていないと裁判所の果たすべき後見的役割を果たし切れなくなってくる,そういう可能性があるのではないかと思いますので,今までの議論で出ておりますように,例外的なものは残していただきたいと思います。   その例外を残す以上,それがどういう場合が例外になるのかということははっきりさせておいていただかなければ,裁判所の判断というものが条文の上では担保されませんので,そういう意味では,今の議論の流れの大勢を私も支持したいと思います。 ○伊藤部会長 長委員から,大勢とおっしゃっていただいたのですが,いやいや,その辺が若干認識が皆さんの間で違うところかと思いますが,きっ抗しているのか,大勢なのか,どうでしょうか。金子幹事からもお話がありましたように,もちろん例外の要件をどういうふうに限定するかということと関係がありますが,先ほどの増田幹事の御発言でも,およそ絶対状況として参加を否定しなければいけないような問題が存在すると考えられないというわけではないと私は理解したのですが,そうだとすると根拠がはっきりしない運用だとか,あるいは一般則というよりは厳格な要件の下での例外を残しておいたほうがいいようには思うのですが,しかし余りそこまで私が申し上げると越権かもしれませんけれども。 ○杉井委員 子の利害関係参加というのは,先ほど審議しました5ページの(2)の利害関係参加ですよね。これに当たりますよね。それで,アの①は審判を受けるべき者という形で子ども自身が審判を受けるという場合の話ですが,②というのが,これが審判を受けるべき者以外の者ということですから,ここで想定されているのは,子どものことで想定されているのは,ここの②の重大な利害を有するものということであり,しかも裁判所の許可を得て,というこの規律に当てはまる場合ですよね。   最終的には,裁判所の許可ということがあるわけですから,いろいろ考えた上で,どうしてもこれが子の福祉から見て本当に不相当だというような場合は,裁判所が許可しないということもあり得るのではないですか。 ○脇村関係官 これまでは,参加の許可基準一般については,利害があるかないかということで,決めるべきではないかという意見が多数というか大勢であったと思うのです。   仮に,子の参加を子の福祉の観点から認めないことがあるものとするとすれば,最終的に条文にするときにどうするのか,許可の中で読むという方法もあるのかもしれませんし,あるいは今,長委員からもありましたように,明示的に書く方法もあります。最終的には実質が決まった段階で,どういう文言にするかについては,逐次検討させていただければと思っていますが,ここでは,私どもとしては実質において,そういう場合に穴をあけることがいいのかどうかをまず御議論していただければと思って,このような形で提案させていただいたところでございます。 ○伊藤部会長 そういたしましたら,今日の時点でどちらかにこの当部会としての議論を集約するというのは,やや難しい状況かと思いますので,本日の御意見を踏まえて,事務当局に更に検討してもらうことにいたしましょう。 ○高田(裕)委員 1点だけ確認させていただきたいのですが,先ほど来,任意代理人の話が出てきております任意代理人についてですけれども,今確認されたように,利害関係参加を前提としますと,参加する子自身が任意代理人を選ぶことが可能であるとともに,特にその法定代理人である親も子の任意代理人を選ぶことができるということになりそうです。そうだとすると,親が子の任意代理人を選んで,その任意代理人のイニシアチブで子が参加するということも可能となりそうですが,可能という前提で理解してよろしいのでしょうか。 ○脇村関係官 法定代理人が契約するということはあり得ると思いますが,子どもについては有償契約になりますと契約を結べるかどうかという問題がございますので,子が自ら任意代理人を選ぶのは,実際上は,難しい面があると考えております。 ○高田(裕)委員 親が子の任意代理人を選んだ上で参加してくるという可能性があり,これを認めた後の問題かもしれませんが,どう手当てをするかという問題が残っているということだけ申し上げておきます。 ○脇村関係官 高田(裕)委員がおっしゃるように,正にそういったときに参加を認めるかどうかということに絡むのかもしれないのですけれども,併せてまた検討させていただければと思います。 ○伊藤部会長 そうしましたらこの点は引き続き検討することにいたしまして,(1)の子の利害関係参加についてまで審議していただいたということで,ここで休憩を取りまして,休憩後,(2)の子の陳述聴取について審議をお願いしたいと存じます。           (休     憩) ○伊藤部会長 それでは再開いたします。   12ページの子の陳述聴取についてですけれども,これも先ほど説明がございましたように,15歳以上についての陳述聴取の義務付け,それから15歳未満の子についての陳述聴取に関して,意思の把握に関する裁判所の合理的裁量をゆだねるという趣旨から陳述聴取の義務付け規定は,こちらについては設けないという考え方が先ほど紹介されたところですが,この点に関してはいかがでしょうか。 ○増田幹事 確認ですけれども,ここで言う陳述聴取というのは,裁判所が子から直接陳述を聴取するという意味でよろしいでしょうか。と言いますのは,当初そういう意味で使っていたはずなのですけれども,あとで審問に代わって陳述聴取とか,ほかのところで陳述聴取という言葉が別の意味で出てきているところがあるものですから,ここについては裁判所に対して,子が口頭で陳述をする。そういう意味と理解してよろしいかということです。 ○金子幹事 必ずしも御質問の趣旨があっているかどうか,15歳以上は必要的に陳述聴取をしなければいけないというときの陳述聴取は裁判所が子どもから何らかの方法で陳述を聴くということであって,それが調査官調査の場合でもあるわけです。 ○増田幹事 それだとここの①では,子からの陳述聴取,家庭裁判所調査官の調査,その他適切な方法により,つまり子からの陳述聴取と家庭裁判所調査官の調査とは明確に区分されている。そういう理解だったと思うのですが,いかがでしょうか。 ○金子幹事 そうですね。そういう意味では,①の書き方のほうに問題があるのかもしれませんが,子の陳述を聴取するという場合に,担当裁判官が直接子どもから聴くという場合に限定されるものと考えていなかったです。それは今の実務も多分そうだと思います。そこは今の,どういう事件について15歳以上から聴くということについては御議論があると思いますけれども,15歳以上からは陳述を聴かなければならないという今の規則の運用を変えるというつもりはありませんでした。 ○伊藤部会長 そうするとこの11ページのところの書き方について,ちょっと増田幹事が御指摘のような問題があるようですが。 ○脇村関係官 これまでは,言語的表現で表すということで,対比していたのは,家裁調査官が子の仕草であるとかそういったことから子の意思を把握するということであったように思います。そういったことで議論していたのだと私としては理解していましたが。 ○杉井委員 この15の①というのは,これは15歳以上ということではありませんよね。15歳未満も含めて,基本的に裁判所は子の意思を把握するように努めなければならないということなので,子からの陳述聴取と家庭裁判所調査官の調査,その他適切な方法うんぬんでかなり幅広いやり方で,意思を把握するように努めなければならないという規定です。   それはそれでいいと思うのですが,この15歳以上に陳述聴取を義務付けるという義務規定になった場合に,その陳述聴取というのはこれはどうなのでしょうか。直接やはり裁判所に来てもらって,裁判官が直接聴くのか,聴くだけではなくて,やはり家裁の調査官の調査も含めてという意味なのでしょうか。 ○金子幹事 そこは先ほども御説明しましたが,今,おっしゃったのは15歳以上である場合に必ず聴くという場合の子の陳述聴取,これも方法は限定されていないと考えています。   ①のほうは,全く同じ文言として受け取られると少し部会長御指摘のとおり問題があるかもしれませんが,杉井委員がおっしゃったとおり,15歳未満であっても,陳述聴取という場合も可能であればありますし,調査官の調査という場合もあるということで御理解いただければと思います。 ○伊藤部会長 ということで,増田幹事,その前提の確認はいかがですか。 ○増田幹事 裁判官が子から陳述聴取をするという前提であれば,これについて原案どおりでよろしいかというふうに思っていたのですが,ちょっと困ったなというところです。   現在でも15歳未満の子からの陳述聴取というのをされておりますし,それは今後も続くであろう。デフォルトルールとして15歳以上の者については,必ず必要的になるのだということにする。その範囲では,弁護士会の意見として異なる意見がありましたけれども,基準を明確にするという意味で,それで特に反対はしないというつもりだったのですが,15歳以上の子についても調査官が調査すればいいのだと言われるとちょっと①の子の意思の把握とどれほどの違いがあるのだろうかという話になってきます。 ○金子幹事 実情については長委員に後ほど御紹介いただければと思いますが,子どもが裁判所に来て,裁判官の面前で述べるというのは,恐らく私が認識しているところでは,相当大きな子でもかなりまれなケースだと思っております。   ①のほうは,方法のいかんを問わず子どもの意見をきちんと把握しなさいということで,方法については,発達程度に応じて考えましょう。15歳以上については,方法はともかく必ず陳述を聴取しましょうと,こういうつくりになっていまして,裁判官が直接子どもから聴くかどうかということでの議論はこれまでもしてこなかったつもりですし,ここでもそういう形で区切るということは考えておりません。 ○増田幹事 現在の運用は分かっていますけれども,裁判官が直接聴くのでなくてもいいとして,子からの陳述聴取の方法としては,どこまでの範囲のものを認めるという趣旨でしょうか。 ○伊藤部会長 陳述聴取をする主体のことですね。 ○増田幹事 要するに,陳述聴取というからには陳述を聴くということが必要だと私は思っているわけです。だから,陳述書は駄目ですよね,ということを確認したいのです。 ○伊藤部会長 聴取ということの意味ですね。そこはどうでしょうか。 ○金子幹事 書面による陳述聴取というのはあったと思うのですけれども,それも駄目ということですか。つまり聴くのは裁判所,だからそういう意味で調査官も裁判所の一員なので,そこは間違いないと思うのですけれども,従前はその書面による陳述と言いますか,裁判所がどうですかと照会したときに返ってくるものも含めて,陳述聴取というふうに呼んでいたと思うのです。 ○増田幹事 そもそも部会の議論として,そういうのは書面審尋とするとか,そういう形で議論してきたと思います。陳述聴取というのはやはり口頭での陳述だというふうに言っていたと私は理解しているのですけれども。どこかの部会資料に書いてなかったですか。 ○山本幹事 この補足説明にそういうふうに書かれているように読めましたけれども,その口頭によりその意思を表明することが相当であると考えられ,陳述聴取が義務付けられている15歳以上の子という表現は,子の陳述聴取は口頭で行われるということを前提にしているような印象を持って読んでいたのですが,そうではないのですか。 ○伊藤部会長 増田幹事の前提のところが必ずしも……。 ○増田幹事 もともとは口頭による陳述聴取としてほかのところと区別して,陳述聴取という言葉はここしか使われてなかったのです。ところが,別のところで審尋とか審問とか,その辺りが陳述聴取という言葉に変わってきて,境界があいまいになってきたのです。多分,抗告審の場合の相手方の陳述とか陳述聴取とか,調停をすることができる事件の当事者の陳述聴取とか,そういったところは多分従前から現在使われている言葉で言えば,審尋,審問という言葉で代替できるもので,例えば書面審尋ということも考えられると思います。子の陳述聴取というのは,ほかの方法による調査とはあえて区別してずっと使われていたという理解でいるのですが。 ○脇村関係官 方法としては限定しないということで,考えていたと思うのですけれども,正に口頭でということで皆さんが御理解をしているのであれば,あとはどう書くかというところなのですが,そこをちょっと自信がないので確認していただいた上で,それでよければ表現ぶりについてまた更に検討させていただければと思います。 ○伊藤部会長 先ほど増田幹事からの指摘がありましたが,陳述聴取という概念自体がほかのこととの関係でやや外縁が膨らんでいますが,ここで言われている陳述聴取というのは聴取の主体が審判をする者であり,調査官であれ,口頭で子の陳述を聴くということを想定しているということはいいのですか。 ○長委員 子の陳述聴取がなぜ必要かということを考えますと,その子どもの真意を確認するためです。そのために審問の場で直接子どもから聴くという方法が採られることも多い。ただ,子どもの状況によっては直接審判官が聴かないで,調査官に聴かせるということも十分あるわけですから,そしてその調査官がどういう方法で聴くかということについてもいろいろな方法があって,おかしくないわけです。そのお子さんの状況,15歳以上であってもいろいろなお子さんがいるわけですから。それを全部口頭で直接,今のお話だと審判官が聴かなければいけないという規律になる可能性があるとすれば,それは実務が耐えられないことになるのではないでしょうか。 ○伊藤部会長 審判官かどうかというのはちょっと,口頭かどうかというのはまた別の話ですよね。 ○長委員 例えばお子さんが口頭で伝えられない,そういう場合もあり得ます。ですから,いろいろな場合があるのではないですか。 ○増田幹事 本当にざっくばらんに言いますと,陳述書を排斥したいだけのことです。要するに,真意を担保することが必要だというのは長委員と全く同意見でございます。陳述書では真意を担保することは到底不可能だと考えているわけです。 ○長委員 それはそうするとお子さんが意思を表明した内容について,審判官がどういう資料に基づいて子どもの真意を確認したと認定するかという問題になるわけでして,そうすると例えば陳述書のことを取り上げた場合に,陳述書が出てきた。そしてそれに関係する代理人の方もそれで差し支えないという場合だってあるわけです。   あるいは,ほかのいろいろな事情からそこにその子どもの真意が明確に書かれている。こういう認定がされたとすれば,それは陳述書だけではありませんけれども,それが資料となるということはあり得るわけですから,一概に全部それを排斥してしまうということにはならないように,実務的な観点では思うのですけれども,いかがですか。 ○増田幹事 当事者の同意というのは,非常に当事者主義的な話で,それもちょっと子どもの関係では,それでオーケーですというわけにはいかないように思います。   今,言われているのは子どもの真意であると,その内容が子どもの真意であるということの認定の問題だということだと思うのですけれども,そこが陳述書を安易に用いることによって非常にルーズな運用がなされているという現状認識があるわけです。その下で陳述書はやめてほしいと考えているのですけれども,少なくとも陳述聴取という言葉である以上は,言語による表現が必要なわけで,中には話せない子どもとか,あるいは知的障害のある子ども,いろいろな状況が考えられるので,必ずしも100パーセント口頭ということにこだわるわけではありませんけれども,その子どもの真意を担保する方法として陳述書というのは余りにも不適当だと考えます。調査官が調査して,この子どもは口頭による表現は十分にできないということで,調査官の前で子どもが陳述書を書いた,作文したということであれば,それを否定するのかと言われると否定しにくい。しかし,現行の陳述書の話と長委員が言われたような話とは相当ギャップがあるだろうと思います。 ○長委員 認定の対象になるのは,そのお子さんの真意,言語を話せる方については陳述を直接聴いたのと同じような程度で意思を確認したと言えるかどうかということが一番のポイントだと思います。そうするとその点については,証明の対象ということからすると,これは自由心証で決めるということになっているわけですから,その際に直接審問する場合もあるでしょうし,書面を資料の一部として用いる場合もあるでしょう。いろいろなことが考えられます。   その中から陳述書だけを排除する,証拠排除するということは,これは余り適当なことではないのではないか。要するに,そういうものに頼った審理をしてはいけないという指摘をされることはこれは私は否定しません。いろいろな資料を用いて,適正な判断をしなければいけない。こういう御指摘であれば,それは受けます。しかしながら,証拠方法の中からそれは排除するということにすることが適当ではないのではないかと考えます。 ○杉井委員 別に陳述書を証拠排除しろということまで増田幹事が言っているわけではないと思います。ただ,陳述書のみでこれでもう陳述聴取に代えたということになるとやはり問題ではないかという気がします。長委員が言われたように陳述書もあるけれども,そのほかいろいろ諸般の手立てを尽くして,そこの中で,子の陳述書は真意に基づくものだというのが確認できればそれはそれでいいと思います。陳述書のみでということになると,私も非常にどうかと思います。これは陳述書はどうしても作文になってしまうので,そういう意味でやはり子の意見聴取というこういう大事な場面ですから,陳述書のみで判断してほしくないということです。 ○豊澤委員 子どもの陳述を聴く必要があるときに,子の意思の確認について,陳述書以外の資料が記録上全くないということは普通は考えられない。長委員,杉井委員もおっしゃられたように,様々な資料があって,きちんと子どもが真実の意思に基づいて意見を表明したものかどうかは,裁判所の認定によるということだろうと思います。そういう意味で,総合認定が排除されるというのはちょっと狭すぎるような気がします。口頭による方法に制限するというのは分からないでもないですけれど,陳述書もその他と合わせて総合認定の材料とする余地も残すべきであって,そういう意味では,陳述聴取を口頭による方法に制限するべきではなく,言語表現による意思表明が可能な子どもは陳述聴取により,そうではない子どもはそれ以外の方法によるということなのかなと思います。   さらに,この規定自体は総則に置かれる規定なので,審判だけではなくて調停にも当然に及んできますが,調停で当事者である親双方が合意しており,実質において争いがなさそうなときまで,口頭による陳述聴取を必要とする必要があるのだろうかと思います。 ○増田幹事 総則と言われたけれども,今は総則のところで議論していますけれども,子の陳述聴取が出てくるのは,審判事件の各論の場面ですね。これは確認です。 ○脇村関係官 今,問題となっているのは審判をする際に陳述聴取をしたというときに,何をもって陳述聴取をしたと言えるかどうかという問題なので,調停とは場面が違うような気がします。   ところで,例えば,裁判所のほうから別居している19,18歳ぐらいの子ども,大学生かもしれないのですが,その子に書類で,どうしますかというのを送って,陳述書が返ってきたというのも基本的に排除するという議論ですか,それとも片方の親が,子どもがこう言っていますと持ってきた陳述書で陳述聴取ですというのは駄目だということなのか,ちょっとそこはどういう状況を想定して書面による陳述が排除されるということなのか,ちょっと確認させていただいてもいいですか。 ○増田幹事 基本的に問題視しているのは,片方の親若しくはその代理人が作成した陳述書です。それはやはり作文ですから,それでもって子の陳述聴取の要件を満たしたと言われると,それは子どもの真意を担保するという法定の要件を欠くものであると言わざるを得ないと思います。   ちょっと先ほどからの議論を聞いていて不思議なのですけれども,子の陳述書というのは証拠なのでしょうか。民事訴訟では,その信用性はともかくとして,陳述書は一応書証であると扱われます。だけどこの場面においては,子の陳述そのものが手続要件として課せられているわけです。だから,それが書証だというのにはかなりやはり違和感があります。 ○脇村関係官 私も聞いていて,証拠それ自体と言われると正直違和感があって,多分,おっしゃりたいことは,陳述を本当に聴いたということは,最終的には認定の問題ではないかという御趣旨ではないかと理解しております。そういった意味で,正に増田幹事が言っていたように,争っている片方の親が持ってきた陳述書がその子どもがきちんと言ったことだというふうに認定できるかどうかの問題だと思います。ただ,問題がある場合には,別途やるのではないかというふうに理解していますが,そういった意味では,増田幹事が言っていることを恐らく長委員も否定されているわけではないと思いますが。 ○山本関係官 類似の制度としまして,人事訴訟法の32条の4項というものがございまして,一定の事件については15歳以上の子の陳述を聴かなければならないという,ここでいう陳述聴取と同じ意味だろうと思っております。親権者の指定に争いがある場合には,調査官調査,あるいは審問という方法によって子の陳述を聴くというのが通常の対応だろうと思いますけれども,親権者の指定に争いが全くなく,かつ原告,被告双方とも子どもの真意については全く同意見である事例についても,この規定によりますと15歳以上である子どもの陳述を聴かなければならないということになっております。   このように子どもの真意について全くだれも異論を差し挟んでないような場合には,全員の同意の下に,子どもの陳述書を主に監護親から提出するということをもって陳述聴取と扱っている例がございますので,それとの関係も整理する必要があると思っております。   事実の問題として,争いがある事件について,そのような方法で済ますかどうかは全然別問題だろうと思いますが,概念として排除されるということになりますと,人事訴訟法との関係等も問題になってくるのではないかと考えております。 ○鈴木委員 私も人訴法32条の関係でお話をしようと思ったのですが,今,御指摘がありましたように,子の陳述を聴かなければならないということがこれと全く同じ意味だとしますと,現在の実態がどうかということになると思います。私は,この規定が入ってから一審は担当しておりませんが,高裁でもときどき一審では15歳未満であったが控訴審に来るころに15歳になってしまったというケースがあります。どうしようかということになりますが,控訴審では親権者の問題は争いになってないということもありますし,お子さんを連れてきますかと言ったら,とても無理です,子どもは来ません,ということもあります。規定がある以上,何らかの形をつけなければいけないということがありまして,お子さんに直筆の書面を書いてもらえないかと聞いても,それもとても無理ですと。やむを得ないものですから,裁判所のほうから子どもあてに簡易な言葉で,こういうことをどう考えるかということを尋ねる文書を送って返送してもらい,意見を聴いた形にしたこともあります。   このケースは控訴審では親権者についてはそれほど争いがなかったケースですが,それは親がそう言っているだけであって,子どもの真意は分からないではないかということもあるわけですから,本来の趣旨からすると親の意向だけで決めてはいけない。特に,15歳以上の人については本人の意向を確認しましょうということから言えば,いろいろ考え方はあろうかと思います。しかし,実態としては,直接の陳述聴取は難しいということも多いわけですから,人訴の32条4項と同じ文言でやるとなりますと,同様な問題が出てくるだろうという気がいたします。 ○金子幹事 今の御議論は陳述聴取というものが何を指しているのかという問題であろうかと思います。ほかの法律とか今回,ここで議論されている家事審判法の改正でもいろいろな場面で使っていますので,何をもって陳述聴取というかということについて,ちょっと整理しなければいけないと思っております。   結局,ここの場面で言えば,15歳以上の子については必ずするという提案をさせていただいているので,恐らくその前提がはっきりしないと議論のしようがないということになるのかもしれませんが,今の御議論を聴いていますと,子どもの陳述書では陳述聴取したことにならないという御主張だと伺ってよろしいのですよね。 ○伊藤部会長 増田幹事,私もそう理解していますが,いかがですか。 ○増田幹事 これまでずっと陳述聴取はそういうものだとして,こちらも議論していましたので,口頭での陳述聴取とその他の方法による意見表明とは区別して考えるという理解でいたので,少し認識が違ったかなと思っている次第です。   意見聴取の要件を加重する基準を年齢に置くことまでについては,これはやむを得ないだろうと。そういう意見にとどめておきます。陳述聴取の中身は非常に,これまで補足説明等で書いておられたことと違うのだから,そこは何らかの工夫をしていただきたい。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○金子幹事 先ほどの御議論があって,実質が変わらないようなお話もありましたが,子どものほうから親を通じて出された陳述書がどんなに真実性を担保していても,それは結局満たしたことにならないということになるわけです。飽くまで陳述者の子どもから直接だれかが口頭で聴かなければいけない。それが陳述聴取だという話になれば,陳述書の真実性が幾ら担保されたところで要件を満たすという話には本来ならないはずなので,そこは御議論が食い違っていたと思うので,そこは整理したいと思っているのですが。ちなみに,陳述書であっても最低限の要件は満たしていて,あとは評価の問題だというのが人訴法における実務でもあろうと認識しています。 ○増田幹事 実務の認識は全く一致しています。これからつくる制度としてどうかという疑問を呈しているわけです。 ○伊藤部会長 もちろん先ほど証拠かどうか,そこは問題があるところですが,およそ陳述書を排斥するとか,そういう話ではないのですが,ここで言われている義務付けられる陳述聴取について,陳述書をもって足りる場合を認めるのかという点に関しては,やはり意見,考え方が違うようですし,またここの補足説明の書きようとか,従来の説明に関しては増田幹事がおっしゃることも十分私なりに納得できますので,他方,先ほど御指摘のあった人訴の規定などとの関係での話もありますから,ちょっとここはもう一度整理して,その上で,増田幹事御自身も年齢で一定の義務化と合理的裁量でうんぬんということ自体については,その合理性を否定するものではないけれども,しかしそれは結局陳述聴取の対応の在り方とも関係するのでとおっしゃっていますから,もう一度整理して議論していただきましょう。 ○長委員 証拠と申し上げたのは,手続の中で,子どもの意思を聴いたということを認定することになると思います。そういう認定の上で考えますと,先ほどのようなことになるという趣旨です。 ○伊藤部会長 よろしければその点はちょっともう一度整理した上で,審議を頂くことにいたします。   引き続きまして,子の意思を代弁する者,又は子の客観的利益を主張する者の選任について,ここもどのように考えるかという問題提起になっていますが,先ほどの補足説明におきましては,子の任意代理人の制度,あるいは家裁調査官の制度との関係で,果たしてこういう形で代弁する者,あるいは利益を主張する者の選任の合理性があるかという問題提起があったわけですが,この点に関してはいかがでしょうか。 ○増田幹事 従前から子どもの代理人ということで,書物にも書いてきたところでございます。そこに書いた子どもの代理人というのは,児童の権利条約から説き起こして格調高く子どもの権利を実現するというものです。しかし,『ジュリスト』1407号で最近書いたものを見ていただければ御理解いただけると思うのですけれども,実は,今回,かなり子どもの手続保障が強化されることによって,子どもの代理人制度というのはそれほどほかの到達点から飛び離れたものではないというふうにも思うわけです。   というのは,先ほどちょっと議論がありましたけれども,利害関係参加の制度,それから代理人のいない子どもについては裁判所が任意代理人をつけることができるという制度が入ってくる。そうなってくると,子どもが自ら手続に加わりたい場合には,若干の例外があるかないかというのは別として,基本的に裁判所に代理人をつけてもらえる。そして,自分の意見を表明できるというところまで来ているわけです。   あとは子どもの代理人制度とどこが違うかというと,一つは意思能力のない子ども,乳幼児の場合ですが,これについてはここまで行くと現段階では相当のハードルが高い制度だろうと考えます。   もう一つは,子ども自身が積極的に来るということは余り考えられない中で,当事者ないし裁判所が子どもの意見を特に聴く必要がある場合,例えば利害相反関係のようなものを考えているわけですけれども,当事者とは別に子ども独自の立場を手続に反映する必要があるというふうに考えた場合に,いわゆる訴訟でいったら引き込む形の制度というものが考えられないかどうかということだと思います。   そういった点から考えると,それほど体系的に遠い位置にあるものではない。つまり利害関係参加で任意代理人がつけば,ほぼ当事者と同じような行動ができるわけですから,その子ども代理人が子どものために行動すれば,正に従前から言っていた子どもの代理人というものにつながってくるということになります。現実には子どもが自ら参加するということは非常に難しく,子ども自身にとってハードルが高いですから,そこを当事者若しくは裁判所が後押しするような制度をつくっていただければ,それほど今回の枠組みからかけ離れたものではないと考えております。 ○伊藤部会長 ということで,増田幹事から,一方で子どもが進んで参加する場合の手続的な利益,子どもの利益保護に関しては今までの審議の中で前進が見られる。他方,それを超えた部分に関して,今,お話があったようなことで,強制というよりはそういう参加の後押しというふうにおっしゃいましたが,そういうことですよね。機会ができるような制度を仕組んでその中で,子どもが手続上の主体としてその利益を主張し得るようなことを考えてはどうかというようなお話がございましたが,この点に関してはいかがでしょうか。 ○脇村関係官 特に自分の意見というわけではございませんが,従前の議論を一応補足というか説明させていただきますと,家事審判法の第12条に,家庭裁判所は相当と認めるときは,審判の結果について利害関係を有するものを審判手続に参加させることができるとされています。これを前提に従前は当事者的参加と当事者ではない参加があって,そういったものをどう仕組むかということで御議論させていただいたところ,当事者参加については引込みを認める,当事者でない参加については,陳述聴取など何らかの機会に通常は係属していることが分かるので,それであえて入ってこない人についてまで強制的に引き込む,手続保障を与えるために引き込むということまで必要ないのではないかということで,そちらについての強制参加の規定については設けない方向で議論していったというところでございます。   増田幹事の御意見というのは,そうは言いながらも当事者が参加する機会はあるけれども,未成年者のように意思能力が十分にあるわけでもないというケースについては,後押しがあってもいいのではないかという御意見と理解させていただきましたが,他方で,手続行為能力があるのであれば,機会だけあれば十分ではないかという御議論もあるのかもしれません。従前はそういったことで現行法と違うことを提案させていただいたところを補足というか説明させていただきました。 ○伊藤部会長 ほかの委員,幹事の方,ただいまの点につきましてはいかがでしょうか。 ○杉井委員 私ども弁護士会がずっと提案してきたものは,子ども自身が意思を表明することができない,極端に言えば赤ちゃんまで何らかの形で子どもの客観的利益,福祉を守るために子ども代理人ができないかということで提案してきたわけです。しかし,確かに現状の中で,そこまでの制度というのは恐らく現実的ではないというふうに私も個人的に思います。   そうした場合にやはり飽くまでも子どもが自分自ら意思を表明できる子どもについてその意思や意見を手続に反映させる,そういう代弁をする,そういった代理人という形で考えたほうが,一番すっきりするだろうと思うのです。そうしたときに,増田幹事がおっしゃったように,子ども自身が自ら参加したい,そしてそのために任意代理人をつけたいということであれば,そこについてはもう一定の今までの議論の中でフォローできているわけです。しかし,なかなか子ども自身がそういう気持ちになるのは大変だし,またすぐに適当に任意代理人を選ぶということも難しい,そういう中で,現実には非常に高葛藤の事例で,恐らく裁判所のほうから見ても本当に子ども自身がどういう意思を持っていて,どうなのかということを手続に参加させて,確認していきたいという思いもある,そういうケースも恐らくあるのではないかと思います。   そうしたときに,裁判所がイニシアチブを持った参加の手続,そしてそれに任意代理人をつけるという仕組みであれば,今,脇村関係官がおっしゃったように現実に現行法にもあるわけですから,それを何とか工夫しながら,新しい仕組みというものを考えられないのかということを私自身も是非検討していただきたいと思っています。 ○伊藤部会長 分かりました。いかがでしょうか。増田幹事,杉井委員からのお考えに関しては。 ○高田(裕)委員 今の御発言,お二方で微妙に違うところがあるような気がしないではないのですが,また十分に理解しているかどうか分からないところがございますけれども,今のお二方の御発言の基礎には先に議論した子に利害関係参加を保障すべきであるということを前提に,あるいは言葉を変えれば,子の手続上の地位を保障するということを前提に広い意味での環境整備というものをしようという発想だろうと理解させていただきました。   いろいろな環境整備の仕方があり得ると思うのですけれども,その一つとして少なくとも利害関係参加ができるような子どもについては,任意代理人を付すことをセットにして職権参加というものを認めることがいかがかという理解をさせていただいたのですけれども,それでよろしいのでしょうか。 ○増田幹事 そのような制度とすれば現行の制度とも適合するし,現実的ではないか,新しい制度の中にそれほど無理なくマッチしていくのではないかと考えた次第です。 ○高田(裕)委員 そうだとしますと,先ほどの議論の延長線上でして,利害関係参加人という地位を子に保障しようとするところに足を踏み出すならば,それを実質的に保障しようという方向に一歩踏み出すならば,環境整備の一環としてあり得る法制だと思いますが,問題は子を結果として職権的に参加させるということにあるように思いまして子どもの福祉のためには参加することが望ましい子どもというのがいる場合には,その者を参加させ,手続上の地位を実質的に保障するということでは,非常に魅力的だと思うのですけれども,いかなる場合に子どもを手続上の主体として参加させるかどうかという判断を裁判所にゆだねると申しますか,裁判所の判断に期待するということになりますので,それが可能かどうかということが一つの問題かなということで,そこら辺の感触を実務家のほかの方にお聴きできればと思います。 ○伊藤部会長 考え方としては十分理解できるが,結局のところそういう立場にある子どもを裁判所の判断によって,参加人としての手続主体としての地位を与えるということになると,その場の前提としての裁判所の判断の要件と言いますか,そういう問題になってきて,それが実際にうまく機能するようなことで考えられるのか。これは現行の規則との関係でもそういう問題があるのかもしれませんが,ちょっとその辺りのことを高田(裕)委員からの問題提起がございましたので,もしほかの委員,幹事の間で御指摘があればお願いしたいと思います。 ○長委員 なかなか難しい御指摘なので,うまく答えられるかどうか分かりませんが,問題はお子さんが置かれている状況を手続の中に正確に反映させたいということですね。その役割を従来担っていたのが,家庭裁判所調査官になると思います。それで,そこにもう一方子どもの代理人が出てきたときに,その目標がうまく達成できるのか。それともかえって難しい問題が生じないか。こういうことではないかと思います。   それで,先ほど高葛藤の例などが問題になるとすれば,調査官調査がそういうお子さんに対して,うまく行えるような状況をつくりだすということをどうやって実現していったらいいのかという問題ではないかと私は考えています。   そうなるとむしろ方向性は調査官調査がうまく行えるような環境づくりをしてもらうことが大切なのでありまして,そこにもう一方,法律の専門家であるところの代理人が入ってくることがお子さんの真意であるとか,状況を報告するということについてどれだけプラスになるのか。あるいはならないのか。なるという保障がどのようにしてあるのか。そういうところに問題があるのではないかと思います。取りあえず以上の点を指摘したいと思います。 ○伊藤部会長 今の長委員からの指摘に関して,杉井委員,増田幹事から何か補足していただくことはありますか。 ○杉井委員 前々から述べているところですが,もちろん調査官調査を充実させるということは大事だし,私自身も調査官制度ということを十分評価しております。しかし,これは飽くまでも裁判所が審判をする際の裁判所の眼から見た調査だと思います。   先ほどの利害関係参加もそうなのですが,要するに子ども自身が今現実にどういう手続になっているのか。裁判所の手続としてはどういう具合になっているのか。そして,両親がそれぞれどういうことを言っていて,どうなのかという,その辺の情報をきちんと把握した上での意見表明が大事で,そういう意味で正にこれは権利の主体として手続に参加していく,仕組が必要です。利害関係人参加もそのためのものです。ただ最終的に本人が参加してこない場合にも裁判所から見てもこのケースについてはやはり是非強制的にも参加してもらおうという,そういうふうな判断がある場合に任意代理人をつけて参加させるという,こういう仕組みだと思います。   それでこれも何度も言ったことですが,調査官調査というのは,それほど継続的に何回も何回も調査できるわけではありませんし,子どもの意見というのはやはりそのときどきで先ほども言ったように,コロコロ変わる面もあるし,その場面で違った意思表明をすることもあるわけです。やはりそれはある程度,その事件が終了するまである程度継続的に任意代理人としてついているものがその子どもの意思を丁寧に継続的にきちんとフォローしながら把握して,それを手続に反映させていくという,そういうふうな仕組みだと思います。   ですから,そういう意味で,私は決して調査官調査と矛盾するものではないし,調査官調査を幾ら充実してもやはりこういった仕組みというのは,必要であると思います。 ○古谷幹事 ちょっと今の杉井委員の話からずれてしまうかも分からないのですけれども,仮に御提案のような制度を考えた場合に,結局強制的に子どもを参加させるという話になってきて,財産的な事件であれば,無理やり強制参加させて解決するというのはあり得るかなと思うのですけれども,そうでない場合,しかもその子ども自身は自ら入ってこないという場合に,強制的に参加させるのがベターだという判断はかなり難しいものになると思います。その辺りを少し検討する必要があるという印象を持ちました。 ○豊澤委員 今の意見とほぼ同じですが,積極的に参加してくるつもりはない子どもであっても,事情を聞くとか,状況を調査するなどの対象には当然なっていて,更にそこで把握した以上に意思を把握するために子どもを手続上の当事者として正式に関与させる必要があるというケースというのは,ほとんどないのではないかと思います。 ○道垣内委員 当初から子の意思を代弁するのか,子の客観的利益を主張するのかということでよく分からないという話を申し上げてきたのですけれども,先ほどの杉井委員のお話ですと,子の意思を代弁するという形に整理しようということで,それはそれで理解可能ですので,それを前提としてお伺いします。  先ほど長委員がおっしゃって,杉井委員がそれに対してそのとおりだとお答えになったところ,つまり,子の意思が刻々と変わるというとき,そのときは,子ども代理人の発言も刻々と変わるのでしょうか。つまり子どもの代理人制度というのは,子どもの意思に対して一定のスクリーニングをかけて,手続で述べるということを前提にしているのか,子どもが言ったことを直接伝えるということを前提としているのか。前者であるとするならば,それは子どもの代理人と言いながら,子どもの客観的利益を図りながら意見を聞いて述べているということになります。そうすると,やはり,裁判所ではなく,また調査官ではなく,代理人が最も適した判断権者であるという前提がどこかにあるような気がして,どうしてそう言えるのかというのが私にはちょっとよく分からないのですけれども。 ○杉井委員 今,道垣内委員がおっしゃった,私はむしろ前者です。刻々と変わる,調査官にそのままストレートに裁判所に言っていくという,そういう役割はない。もちろん刻々変わるけれども,変わりながらなおかつ最終的な子どもの真意というのはどこにあるかというのをつかむのがこの場合の任意代理人の役目だというふうに思うのです。   どうしてそれが任意代理人が一番把握できるのかということですが,やはりそれは回数とか継続的にどれだけ子どもと接するかということによると思います。やはり裁判所は調査官にしたって,せいぜい2回,大体このごろは1回ぐらいの調査です。それで本当にそういう子ども自身が変わっていく気持ちの裏にある本当の真意というのを把握できるだろうか。それはだから能力の問題ではなく,立場の違いと言いますか,代理人とすれば一番身近にあって,日常的に付き合い,恐らく裁判所から審判の期日が開かれてないときだって,何かあったら私のほうに連絡してという形で,そしてまた何かあったら,子どもと会って,いろいろと話をしながら意思を把握していくという,そういうふうな役割が期待されるし,それができるという意味で,子どもの意思を一番把握できるのではないかという意味で申し上げています。   ついでに申し上げますが,自ら参加してこない子どもを強制的に参加とおっしゃいますが,自ら参加してこないと言っても,これは率直に申し上げて,自分で本当に自ら参加するというのは,これはごく少数だと思います。   普通は,そういう裁判手続も分からないわけだし,弁護士も知らないわけだし,そういうふうな子どもが圧倒的多数なので,別に自分は参加したくないと,そんな裁判所の手紙には参加したくない,関与したくないと思って積極的にそういう消極的な意思を持っている子どもだけではなくて,もっと何が何だか分からないという状況の子どもたちもいると思います。そういう子どもたちに対して,そしてまた親たち自身が余り積極的に子どもにかかわろうとしていないケースで,やはり子ども自身を手続に参加させて意思を聴いてということを裁判所のほうが判断し,これは手続に参加してもらったほうがいいではないかというふうなときに参加させるシステムなので,それは飽くまでもっと大きな眼で見れば,決して強制ではなくて,やはり全体的に見れば,最終的には子どもの福祉というものにかなう制度であり,裁判所としてもそういう観点からこの制度を利用すればいいのであって,確かにそんな数としてはそれほどないかもしれません。本当にレアケースかもしれない。しかし,でもそういうレアケースの場合に,そういう子どもを放っておいていいのかという,そんな気がするのです。 ○伊藤部会長 この場で杉井委員,増田幹事からお話があったような考え方についての結論を出すというのは,今すぐにというのは難しいと思いますが,従来子ども代理人として言われてきたようなことについて,ほかの場面では相当程度の様々な考え方が結実しつつあり,かつまたそれを更に補うものとして,子どもが手続に参加するきっかけを与える,法律的には職権でとか,あるいは場合によっては強制とかいうことになるかもしれませんが,実質はそういうきっかけを与える制度とそれから任意代理人の選任というものを組み合わせて,子の意思を表明することができるような子について,その意思を手続に反映させるような制度をつくることが合理性を持つか,それが調査官制度との関係でどうなのか。そういった点について,本日のここでの様々な御意見を踏まえて,もう少し事務当局にいったん整理した上で,この場で議論していただくことにしてはいかがでしょうか。 ○道垣内委員 以前,私は反対の見解を述べたことがあるのですが,それはやはり制度の骨格がはっきりしていなかったという理由が大きくて,今回のように制度の骨格が非常にはっきりしてきたときに,別に強い反対の意見を持っているわけではございません。必要なのかなという気もいたします。しかし,杉井委員がおっしゃったように,もし仮にこのような制度を入れるのでしたら,子どもの代理人になった人の行動規範についてかなり細かな規定が必要なのではないかという気がします。   つまり一番近くて見ているので非常に丁寧にできるという話は成年後見のときにも何回もよく聴いたところであり,それがうまくいっているかどうかの判断は難しいですが,とにもかくにも,成年後見人には,民法上,様々な義務が課されているわけです。しかるに,子どもの代理人であるという形で,家事審判法に規定を置いたからといって,杉井委員がおっしゃったように,家裁の調査官とは全然違って,いつも話を聴いているのだとなるのかというと,それは置いただけでは決してそうはならないと思います。それなりのバックアップの規定なり,措置なりが必要なのではないかという気がいたします。   それは家事審判法に入れることができるのかという問題があるのかもしれませんけれども,併せて御検討いただければと思います。 ○伊藤部会長 それは御指摘のとおりの問題があると思います。   それでは,この問題はこの程度にさせていただきます。   引き続きまして,第2家事審判に関する手続の1,通則についての説明をお願いします。 ○脇村関係官 第1の(2)の参与員については,パブリックコメントにおいては,反対意見もございましたが,参与員が家事審判官に意見を述べる前提として,裁判資料に記載された内容の趣旨確認等のために資料の提出者から直接説明を受けることができれば,民間人の常識を反映させた機動的な処理を実現する上でも有用であると考えられます。   他方で,調停をすることができる事件について,紛争性が高く,双方の言い分を比較検討する必要があることから,資料提出者の説明を聴取することも,判断権者である家事審判官が自ら事実の調査としてすべきであり,家事審判官が関与しない形で参与員が説明聴取して意見を形成することは相当ではないと考えられますことから,除外する必要があると考えますので,本文のような形で明文化するのが相当であると考えております。 ○川尻関係官 (3)の手続の〔受継〕は,中断の期日を設けないものとすることを,(4)調書の作成等は,調書の作成の例外の規律について乙案を採用することを提案するものです。   (5)記録の閲覧等,ア記録の閲覧等の要件等では,当事者の記録の閲覧等の例外の要件の規律について,中間試案の規律を維持するものとすることを提案しております。   人事訴訟手続においては,対象となる事件と当事者が限定されており,また収集される裁判資料も一定の類型的なものが想定されますが,家事審判手続においては,対象となる事件が多岐にわたっている上,当事者として手続に関与する者も広範囲に及び収集される裁判資料も多様なものが想定されます。そのため,閲覧等の許可も事件の性質や状況,対象となる裁判資料の具体的な内容,閲覧等の申立てをした当事者の地位を材料として,開示が及ぼす事件の関係人の私生活等への影響や裁判資料が審判に与える影響等について,事案ごとに総合的に考慮した上で判断する必要があると考えられます。   このように家事審判手続の特質に照らせば閲覧等の許可も個別の事案に応じて総合的な判断にならざるを得ないと思われまして,あらかじめ例外の事由を想定して,これを限定列挙することは困難であり,何らかの包括的な文言を置くことが相当であると考えられます。   イの即時抗告では,当事者からの記録の閲覧等の申立てを却下する裁判に対する不服申立ての規律について,甲案又は乙案のいずれが相当であるか検討することを提案しております。 ○伊藤部会長 まず,1の通則(2)参与員に関して,イの本文の原則で,ただし調停をすることができる事項についての例外を設ける。この点に関してはいかがでしょうか。 ○増田幹事 こんなところで強く反対するのは非常にばかばかしい話なのですけれども,本当にこれでいいのかというのをもう一度考えていただきたい。というのは,この参与員というのは資格の限定のない一般人です。こういう人が裁判官のいないところで,独自調査することができるという制度がほかにあるのかどうか。例えば,海外の陪審員,日本の刑事訴訟の裁判員制度などでも裁判官のいないところで自分がだれかから話を聞くようなことは認められていないはずです。本当にいいのかどうかだけ,もう一度お考えください。別に強く,絶対に不都合だというふうに申し上げているわけではありません。 ○伊藤部会長 この点に関して,何か御発言がありますか。   増田幹事は,絶対に反対とかそういうことではないけれども,強い危惧の念を表明されていましたが。 ○増田幹事 非常に違和感がある規定なのです。一般人である参与員がこういう調査権限を持つということ自体がほかに多分ないのではないかと思っているので,そういう懸念です。内容的には本当にしょうもない話ですから,実務的にこれがあったから,なかったからと影響を及ぼすようなものではないはずです。 ○古谷幹事 この規定で定めているのは,参与員が意見を述べるための準備的な行為,これを根拠付けるというだけのものでして,別にそれを事実認定に使うということになれば,別の議論があろうかと思います。   この規定によって,その準備的行為が法的に根拠付けられる一方で,他方でそれは参与員のできる行為を限界付けるという機能を持つことになるので,それは意義を有するものだと考えております。 ○伊藤部会長 今,古谷幹事がおっしゃったことで,参与員のこの説明を聴取する活動というのは一定の限定された場面であるということを前提にしても,しかし増田幹事が言われたように非常に違和感があるという御指摘がありますが,ほかの委員,幹事の方で,その他についての御意見があれば承りたいと思います。 ○畑幹事 確かに増田幹事がおっしゃるように,違和感があることは確かでございますが,他方でこれまでの議論でもこういうことがなければ実際上事件が回らないという話も伺っているところであります。   そこでもう少し具体的にどういうことをするのかということのイメージを持たせていただけると安んじて賛成,場合によっては反対かもしれませんが,できるのではないかと思いますが。 ○山本関係官 最も典型的には氏の変更許可や名の変更許可といった甲類審判事件におきまして,一定の申立書,それから資料の提出があるわけなのですけれども,それについて参与員が審査の上で審判官に対して意見を述べるということになっているわけであります。   参与員が,この意見を述べる上で,資料として出てきているものや申立ての実情として書いてある部分について,記載の趣旨やの資料の意味について直接本人から説明を聴く。こういったことが多いかと思われます。 ○杉井委員 私は後見開始の申立てのときに,立川支部も東京家裁もそうだと思いますが,一応即日面接というか,そういう形で,事情を聴かれるのですが,そのときにもう現に参与員が出てきて,そして参与員からずっと事情を聴かれたという経験があるのですけれども,こういう形で参与員は活用されているのではないかと思うのです。それでただ率直に申し上げて,私はすぐに調査官が出てきているのかなと最初に思いましたけれども,結局参与員だったのですが,調査官であればもちろんかなりポイントを得た聴取になるのですが,参与員だと何かやはり全然関係ないことをいろいろ聴かれたりして,すごく時間も掛かって,こういうことでいいのだろうかという疑問を持ちました。こういう形で安易にこの参与員の説明聴取ができるというのは,こういう形で安易に参与員がどんどん活用されてしまうというのは,ちょっと私も非常に疑問に思っているところです。 ○長委員 後見事件につきましては,あらかじめどういう書類を用意してくださいということで定型書式をつくってお渡ししています。そこに記入したものを持ってきていただいて,そして御本人にも来ていただける場合には来ていただいて,確認するべき要点というのは,決まっているのです。   ですから,そこに開始するためにあらかじめ整えておくべき以上のことをいろいろな微に入り細にわたっていろいろなことを聞いて,その事実の調査をしているとか,そういうことでは決してないので,確かに時間が掛かるのかもしれません。いろいろな書類を出していただくことになっていますので。 ○杉井委員 書類もばっちり,事前に言われてそれはきちんとそろえてあったのですけど。 ○長委員 要するに,申立人が提出した資料の内容について申立人から説明を更に補充的に受けて,そしてそれに基づいて参与員が意見を出す,そのために限られる形での事情聴取になりますので,もし今までの運用が余計なことも聴いているではないかという御指摘があるならば,私は持ち帰りまして伝えまして,必要なことだけ聴くように伝えたいと思います。そういう例をお持ちになりまして,これが否定されるというのは適当ではないと思います。 ○増田幹事 それほど深刻に悩まないでほしいのですけれども,現行の運用を否定するつもりはないです。明文化していいのかという問いかけなのです。こういうものが法律に入る。本当に何の資格も持たない一般人を裁判所が使って調査するというようなことが法律に堂々と書かれるということに違和感を持っているということです。現行の運用は別にやっておいていただいて結構です。それは裁判官が責任を取られることですから。 ○杉井委員 同様の意見です。 ○豊澤委員 一般の方の良識を審判の結論に反映させるために意見を述べるのが参与員の職責です。聴取の内容も,提出された資料についての補足的な説明を受けるという話であって,増田幹事は「調査」という言葉を使われていますが,事実の調査を行うものではもちろんありません。参与員の職責の限度を超えているような運用がされていれば是正していく必要があると思いますが,これまで行われてきた本来あるべき運用に根拠を与え,乙類では駄目ですよということをきちんと定めるという限りにおいて,それほど違和感はないという気がします。 ○山本幹事 私も増田幹事がそこまであれされるのはちょっとよく分からないのですが,やはり参与員というのは国民の司法参加の一つの有力な方法として位置付けられていて,国民の常識から適切な意見を述べてそれを審判に反映させるというものですから,その意見を述べるに当たって,より適切な意見を述べるための準備活動を行うという趣旨の規定かなと思いますので,それがそれほど法律に入ると変だという印象を私は持たないですけれども。 ○増田幹事 他の国民の司法参加との違いは先ほど申し上げたとおりです。裁判官のいないところで直接聴取する規定はどこにもないと思います。要するに,現在やっておられることを否定するつもりも全然ないです。それをやるのだったら,手足としてやってください。裁判官の手足としてやってくださいということです。 ○伊藤部会長 これも御意見が対立しているようでありますが,ほかの国民の司法参加との比較もありますが,裁判員のように判断作用そのものの一部を担うということではありませんし,そういう意味では飽くまで意見を述べるためにということですから,それの位置付けを法律上,明らかにするということについて,増田幹事の御意見も分かりますが,それがマイナスのことなのかなというのは私自身もちょっと疑問を感じるところで,もちろん反対の御意見があることは認識しておりますけれども,大勢がこういうことで実質を明らかにすることに積極的意味があるということで御了解いただければ,そのように取りまとめさせていただきたいと思いますがいかがでしょうか。 ○三木委員 取りまとめについては,今部会長がおっしゃったような結論で私は賛成です。したがって,今から述べるのは,やや細かいというか,やや本質的ではないかもしれない話ですが,このように調停することができる事件,あるは紛争性のある事件を外していただいたということは,むしろ現在はそういう規定も何もないわけですから,前進だと思います。また,そうではない事件,先ほどの氏の変更とか名の変更のような事件で活用されているものを明文化したということ自体もむしろ現在事実上の運用に比べればかえって前進だと評価いたします。   その上で,これも規則事項のことをしゃべることになるのですけれども,具体的に運用の実態を知りませんので,どういう規則事項が入るべきなのかという具体的な御提案までいきませんが,もし何かあればということかもしれませんけれども,この参与員の行動について若干の行動規律について,規則のようなものを検討していただければということはちょっと感じております。   その趣旨というか,一つそう思った理由は,これもさまつというか,くだらないことかもしれませんが,杉井委員のようなベテランの弁護士さんであっても,この人がそもそも参与員かどうかさえも分からない。要するに,名乗っているのかどうか,私は裁判官ではありません。参与員ですとか。弁護士ですらそうであるとしたら,素人の方は誤解混同しているかもしれません。私は実態は知りません。そういったこととか,あるいはこれも聴取の仕方ですけれども,先ほどの杉井委員の話ですと,裁判所の中での審尋的な,審尋ではないかもしれませんが,裁判所の中でやったのですけれども,電話とかで身分を名乗らずにやったりするようなこともあるのかないのか。いろいろな行動がどこまで融通無げであり,かつ素人に誤解を招くような形でされているのかよく知りませんが,そういうことのないように,という意味での手続,行動規律的な規則事項というものを是非考えていただきたいということは申し上げておきたいと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。参与員の活動の適正さを担保するという意味では誠にごもっともな御指摘だと思いますので,裁判所ではしかるべく今の三木委員の発言を受け止めていただければ有り難いと思います。   それでは,ちょっと反対の御意見があるのに恐縮ですが,この場の大勢ということで先ほどのようにまとめさせていただければと存じます。   次に〔受継〕の関係ですが,これは中断の規律を設けないということですが,この点はよろしいでしょうか。 ○畑幹事 前回黙っておりましたし,今回も皆様がこれでいいとおっしゃるならばそれで結構です。ただ,私が申し上げて,若干の方から御賛成も頂いた考え方というのは,中断するけれども当事者がかかわらないことはできるという規律を提案していたということなのですが,補足説明では,残念ながらそのことがうまく表現されてなかったという感じがするということは申し上げさせていただきます。   これは中間試案を取りまとめる際にも申し上げたのですが,レアケースであろうと思いますが,ここに述べられている考え方によれば,即時抗告の追完であるとか,私はほかのこともあると思いますが,何かそういうことでカバーする必要がある局面が生じるということは今後も何らかの形で明らかにしていく必要があるだろうということを申し上げさせていただきます。 ○金子幹事 畑幹事からの御意見は前から伺っていて,一貫していたと思いますので,補足説明でうまく表現しきれなかったところは申し訳なく思っています。   即時抗告の追完のところも即時抗告期間中にこのような事由が発生したとか,そういう場合は十分あり得ることですので,そういう前提の上で,中断の規律までは設けなくていいだろうということでは我々も考えていたところです。 ○伊藤部会長 そういうことで,この考え方自体については,ここでの取りまとめで,こういうことでよろしいでしょうか。   それでは調書の作成等で,ここは乙案ということですね。甲乙丙とありますが,乙案でどうかというのが事務当局からの説明ですが,ここはいかがでしょうか。 ○増田幹事 従前,丙案でしたが,乙案で了解いたします。 ○伊藤部会長 どうもありがとうございます。ということで,従来,丙案というお考えの委員,幹事の御了解もいただけるようですので,原案どおりにさせていただきます。   次に(5)の記録の閲覧等ですが,先ほど川尻関係官から説明がありましたように,結局この例外事由について,人訴の規定と同様に限定的な列挙をするのか,それにつけ加えて,その他,相当でないと認められるときということで,一般的な除外事由等を取り入れることを可能にするような文言を置くのかどうか,その辺りのことが従来も議論があったところですが,改めてここでは一応先ほど説明があったような理由からこういうその他相当でないと認められるということで,今限定的な列挙ではないという考え方が示されておりますが,この点はいかがでしょうか。 ○増田幹事 非訟のときも似たようなことを申し上げましたけれども,次の即時抗告で甲案が採られるのであれば,文言としてはこれで結構です。ただ,先ほど川尻関係官が説明されたような,その他相当でないと認められるときというのを事案において相対化する解釈については,私は反対です。やはり例示したものと同程度の重要な法益保護のために必要である場合と理解しております。 ○伊藤部会長 増田幹事からは即時抗告の関係で甲案が取られるのであればという条件つきでの限定列挙の形は取らないということについての賛成意見が述べられましたけれども,ほかの方はいかがでしょうか。   即時抗告の甲案,乙案,丙案というのも含めまして,併せて議論していただいたほうがよろしいかと思いますが,この場の多くの方の御意見として,今増田幹事がおっしゃったような即時抗告について甲案を取る,それから限定列挙ではなくてその他相当でないというような文言を設けるという組合せということで御了解いただけますか。 ○古谷幹事 その他相当でないというところの解釈,判断枠組みなのですけれども,基本的には川尻関係官から御説明があったように,事件がいろいろあるということと,当事者がこの場合ですと,書かれていますように利害関係参加人も入ってくるということなので,開示の必要性も人とか事案によってかなりまちまちという実態があり得るのかなと思います。   他方,開示せよと言われている情報とそのプライバシーなり私生活との関係は本当にいろいろあるのだと思います。そうしますと登場人物なり情報ががっちり固まっている人訴の場合とは,おのずと構造も違ってくる。保護法益といいますか,係争物の性質と言いますか,それによっては,規律の仕方が変わってくることもあり得るということで,情報と事案と登場人物を掛け合わせて,かなりきめ細かく総合的な判断ができる枠組みとしてこの包括的な条項を入れるということが必要と考えております。文言は特に増田幹事と一致しているのですけれども,枠組みがちょっと違うのかなという感覚を持ちました。 ○伊藤部会長 同床異夢と言いますか,その辺が中身を議論し出すと難しいところがありますが,それは解釈の話でもありますし,ある程度の考え方の幅が許容されるということはやむを得ないことだと思います。   ほかの委員,幹事の方はいかがでしょうか。その他相当でないと認められるときという,内容に関しては,ただいま意見の交換があったような幅はあるかと思いますが,こういう文言で限定列挙そのものにはしないということでは御了解いただけますか。   即時抗告の件は,甲案,乙案のいずれかが相当であるかということで,増田幹事からは先ほど御発言がありましたが,そうしますと甲案ということでよろしいでしょうか。それとも乙案というお考えの方もおいでになりますでしょうか。   もし特段御意見がなければ,甲案の③,②による裁判に対しても即時抗告をすることができるという内容を含んだ即時抗告の案で御了解を得られたものとさせていただきます。 ○長谷部委員 全体として即時抗告まで含めて結構だと思うのですけれども,私はその他相当でないと認められるときという要件の判断が余りぶれてしまっては,やはり問題があると思っております。即時抗告で判断が統一されることを前提として,最初はいろいろな判断があり得るという前提で,スタートするという理解であるならば,それでよろしいのかどうかという問題があると思います。具体例で申しますと,例えば部会資料30の19ページのところに,閲覧謄写を認めないことも許されるものとして,養育費関係事件における再婚家庭の戸籍等の資料が挙げられています。まず戸籍が出てきているということが本当に必要あるのかなと思えるのですけれども,部会資料29の意見の概要の59ページのところでは,再婚家庭の戸籍,その再婚相手の前婚の相手やその間の子の氏名,生年月日等まで,離婚した相手方に明らかにする必要はないと書いてあります。しかし,よく考えてみますと,例えば再婚相手の前婚の相手が死亡しているということであれば,そちらからは養育費の支払がないということで,新しい再婚家庭における相手方の扶養の必要性が高いという判断になると思いますし,前婚の相手との間の子どもが未成年である,あるいは未成熟子であって,今後教育等の費用が掛かるということであれば,それも重要なことであり,相手に見せなくて本当にいいのかなというところがありまして,こういったものについて,その他相当でないと認められるということで,はねられてしまうのかなと,実務的には普通に記録の閲覧を制限できる場合に当たると理解されているのか,その辺りも伺いたいと思います。 ○川尻関係官 まず,再婚家庭の戸籍の関係なのですけれども,恐らく申立人の方は自分の身分事項ということで,自分の戸籍を出しますので,そのときに再婚していれば,当然その段階で出てくるということになろうかと思います。   また,養育費の事件のときに,再婚家庭先でどれくらいの扶養を受けているか,あるいはそこでどのくらいの子どもがいるのかというのは確かに御指摘のとおり事件の審理においては必要な場合があろうかと思います。そのような場合には,恐らく開示することになると思います。   初めのほうにおっしゃられました点につきましては,実はそのとおりと思われるところがございます。ただ,前の三つの例示と全く完全に同等のものでなければ開示しなければならないという点は,事件の総合的な判断ですとか,相対的な評価みたいなところを考慮する必要がある場面がどうしてもありますものですから,ある程度そこは相対的に判断するということを御容赦願えるような形にしていただければと存じます。   さはさりながら,増田幹事がおっしゃられましたように,そこを言ってしまうと,ゼロなのかと,要するに,前のほうで厳格な要件を課しながら,最後のところでそこが非常にオープンになってしまうというのは問題なのではないかという御懸念もごもっともだと思いますので,その他相当でないと認められるときという文言をもう少し工夫することができないのか,検討してみたいとは思うのですけれども,いかがでしょうか。 ○三木委員 難しいと思ったので,先ほど発言しなかったのですけれども,その話が出たので申しますと,私が申し上げるまでもなく,法律学の通常の解釈として,前に例示があって,その後,包括的な要件がある場合には,当然包括的な要件は例示と同等なものというのが解釈学の基礎だと思うのです。ただ,先ほどの御説明ですと,この相当でないというところに前とは性格が違う人による相対性といいますか,参加人と本来の当事者,二重基準を使うとかいうのを読み込もうということが当初からの立法意図だとすると,それはその立法技術的に先ほど難しいだろうということは,私自身もそう思いますけれども,しかしなおそういう趣旨の包括規定だということはさすがに分かるように書く努力はすべきだと思います。そうしないと,要件を立てた意味がなくなってしまうということになるので,従来の包括,前者を受けた包括的な要件とはここは違うように使うというなら,それなりの立法がされなければいかんと理屈上は思います。 ○栗林委員 戸籍のところで,ちょっと1点思ったことなのですが,今,戸籍法の改正があってからかなり地方自治体の扱いで混乱があって,弁護士会にもかなり弁護士からこの場合,職務請求ができるのかどうかという問い合わせが多く来ているところなのです。これは裁判上必要だというところとプライバシーの問題があって,私は個人的には裁判上で使う場合はちょっとプライバシーとは例外ではないかと考えているのですけれども,そこはかなり委縮的な影響を与えているところが大きいので,この第三者の戸籍であるということで,それは見たら駄目だよ,みたいな形になってしまうと,かなり裁判の手続の遂行に障害が出てくる可能性があるのではないかなと思って,この表現がそういう意図でなくても,そういう曲解をされるおそれがあるのではないかとちょっと思いましたので,そこのところの検討をお願いしたいと思います。 ○増田幹事 再度御検討されるということですが,御検討に当たっては,一つは当事者の手続保障というのは,一般のプライバシーよりは優先するということを念頭に置いていただきたいということと,もう一つは,場合によっては調停をすることができる事件とその他の事件の要件を変えるということもあり得るということです。今の事件によってというような相対化をされるのであれば,私は反対ですけれども,そういう相対化されるのであれば,そういうことも考えていただきたいということを申し上げておきます。 ○伊藤部会長 いずれにしてもこの点は,基本的にはこういう文言を含めるということは了解いただきましたが,本日の意見を踏まえて,これより適切な表現ができるかどうか,そこは検討していただくということでいいですね。   そうしましたら即時抗告は先ほどの甲案と……。 ○藤井委員 即時抗告のところですが,どちらを支持するということではありませんが,確認させてください。非訟事件手続法でも,同様に記録の閲覧とその決定に対する即時抗告の規律がありましたが,私の記憶違いだったら恐縮ですが,乙案のほうがやや優勢だったのではないかなと記憶しています。その際の考え方としては,今回と同様に,簡易迅速の要請と手続保障の要請の調和という観点からみて,簡易迅速を優先すべしという意見が多かったように記憶しているのですが,家事審判事件については,逆に手続保障の要請のほうを重く見るという考え方から甲案を採用するという方向になったと,こういう理解でよろしいでしょうか。 ○伊藤部会長 今,藤井委員の御指摘のとおりだと思いますが,その関係は。 ○金子幹事 非訟のほうの扱いについては,またお諮りすることにしますが,前回,数の上でどちらが優勢だったかというのは必ずしも分からないのですが,有力な意見として,乙案ですと,簡易却下がファイナルになってしまうので,別の人の眼から判断の適正さを担保するということができなくなってしまうという有力な意見があったと思います。   それを考えると非訟も甲案でどうかと思い始めていたところでありますが,また非訟のところは御相談させていただきます。 ○伊藤部会長 ほかに今の点に関して何かございますか。 ○小池幹事 非常にさまつな話なのですけれども,その他の使い方で,三木委員からの御指摘もあったのですが,民法の770条とかですと,1号から5号まで離婚原因があって,5号はその他と来るのですけれども,1号から4号は余り関係ないようなことが書いてあるのです。ですから,ここも号を分けてその他という形にして,その他の号に関しては,増田幹事の解釈もあり得るし,古谷幹事の解釈もあり得るというふうなのもあるかなと思いました。 ○伊藤部会長 ちょっと実質が変わってしまうようにも思われますが,一応,形はこのままで,少し文言の工夫をということで検討してもらうことにいたしましょう。   ほかにはいかがでしょうか。   それでは,大分時間も押してまいりましたけれども,21ページの2の家庭裁判所の手続の(1)合意管轄,それから(2)家事審判事件の申立て,のところまで審議したいと思いますので,事務当局からの説明をお願いします。 ○脇村関係官 2の家庭裁判所の手続の(1)合意管轄については,パブリックコメントにおいても当事者の便宜等を考慮して,乙案を採用すべきであるという意見が多く出されておりますが,他方で調停することができる事件についての家事審判事件であっても,当事者以外の者の利益を考慮するべき事件があり,子の監護に関する処分の審判事件や親権者の指定・変更の審判では子の福祉の観点から,子の住所地の家庭裁判所を管轄裁判所としており,そのような事件についても父母の意思のみにより管轄裁判所を別途定めることができるものとすることは,管轄裁判所を定めている理念と相反するようにも思われますので,そのような点を考慮して御検討いただければと存じます。   なお,乙案を採用する場合には,中間試案では,合意の方式や応訴管轄について手当てすることについて言及していましたが,応訴管轄については自庁処理が認められている家事審判事件では特段手当てする必要性が乏しいと思われますし,家事調停においても応訴管轄の規定は設けられていませんので,応訴管轄については別途規定を置く必要はないと思われます。   また,合意の方式については,現在,家事調停については規律がありませんけれども,手続の明確性の観点から調停手続に合意を含め,書面によることとすることも考えられるように思いますので,御検討いただければと存じます。   次が,(2)家事審判事件の申立てのイの併合申立てですが,前回この点につき,様々な御意見がございましたことから引き続き検討するものとしております。特段の御意見がございましたら伺いたいと存じます。   ウの裁判長の申立書審査権では,(注)のうち申立人が期日の呼出費用を予納しない場合の規律について検討することとしておりますが,この点につきましては次のページにあります(6)イの陳述聴取の規律と併せて御検討いただければと存じます。   家事審判事件においては,陳述聴取にて必要的に審問の期日を開くという乙案の規律を採らない場合には,呼出費用の予納がないことをもって手続が進まなくなるということにはならず,そういたしますと他の証拠調べ等の費用を予納しない場合と同様に考えられるため,期日の呼出費用についてのみこのような規律を置くことの相当性は問題ないかと思われます。結局,陳述聴取において甲案を採用するか乙案を採用するかによって,この呼出費用の予納の規律を置くかどうかもおのずと決まってくるのではないかと考えられますので,もしこのような考え方でよろしければ,陳述聴取における議論に基づき決めたいと考えております。 ○伊藤部会長 そういたしましたら,まず(1)の合意管轄で従来調停することができる事項について,合意管轄の効力を認めるという乙案も有力に主張されていましたが,それに対する疑問もパブリックコメントの中で出てきているという状況で,どのように考えるかというのが事務当局からの説明でありましたが,この点はいかがでしょうか。 ○三木委員 私は乙案を支持します。調停ができる事件については合意管轄を調停同様認めるべきだと思いますし,自庁処理で対応可能ということも反対の論拠で書かれていますが,やはり自庁処理は一種の便法の処理であって,やはり正面からの処理ではないということを考えると余りそれは理由にはならないような気がします。   それから,当事者以外の者の福祉や利害がかかわることも家事であるではないかということですが,そういう事件がどの程度あるか知りません。それほど非常に多いとは思いませんけれども,そういう場合にはむしろ原則と例外を逆転というか,合意管轄を認めた上で職権移送なりで対応すべきで,それが原則を逆転させる理由にはならないのではないかと思います。それから,私の見方が間違っていなければ,パブリックコメントの結果も家裁の30庁は乙案に賛成しているというのは現場の感覚からいってもおかしいことではない。この数字の読み方が,私が間違っていれば,御指摘いただければと思います。そういうことが理由です。 ○伊藤部会長 分かりました。いかがでしょうか。乙案の考え方がやはり合理性があるという御意見ですが。 ○脇村関係官 管轄の住所地を子の住所地で決めているものについて,本当に父母で決めていいのかというのはいまだに釈然としないものもございます。やはり理念として原則父母で決めていいということにはちょっとどうなのだということはあるのですけれども,もし御意見があれば伺いたいなと思います。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか。 ○山本幹事 私も脇村関係官と同じような印象を持っています。この家事審判の管轄というのは,本当の意味での専属管轄的なものとそこまで強度の公益性というか第三者の利害が関係するものでないものが入り混じっているような感じがします。脇村関係官が言われた子の住所地の管轄というのは子の福祉の観点を重視して定められているものですので,それを親が合意で覆せるというのはやはり理念としては私はおかしいような感じがいたしております。   入り混じっているので,そういう強い専属管轄的なものについては合意を許さないというようなものを各則で書いていくということも論理的にはあり得るように思うのですけれども,考えると大変な作業のような気がいたしまして,そういうことを考えると,合意で定めてもいいような,例えば遺産分割の相続開始地のようなものは,相続人全員が合意すれば,別にどこでやってもいいような気もするので,そういうものがあるということを考えると合意を一律に禁止するのは相当ではなくて,そうであるとすれば前者のような場合も三木委員が言われたように,やはりどうしても子の利益を守る必要があるという場合には,裁判が職権で移送するというような形で対応するということにならざるを得ないのかなと,そういう印象です。 ○増田幹事 子について疑問が呈されているわけですけれども,子の住所地というのは,多くの場合,父若しくは母,多くの場合当事者のどちらかと同じということが多いでしょうし,合意管轄といっても当事者と全く関係のない場所に合意する,当事者が東京と大阪にいるのに北海道で合意するということはまずあり得ないわけですから,やはりどうしても不都合な場合には移送で対応するということで,それほど不都合な結果が生じるとは思えないのですけれども。 ○伊藤部会長 分かりました。そういたしますとややなお問題があるのではないかという御指摘はありましたが,それについては移送等の措置で対応できるということで,この場の御意見は乙案ということでよろしいですか。   特に御異論がなければ,それではそのようにいたしましょう。 ○道垣内委員 説明が付くのですか。つまり,子どもの利益のために子の住所地にしていると説明して,父母が合意すれば変えられる,ということを同時に説明するのは難しいような気がします。実際には職権による移送で対応すればよいというのは,よく分かるのですけれども,理念的に大丈夫なのですか。 ○三木委員 一律に子の住所地という子の住所地は子の福祉にかなっているかどうか分からないわけで,逆に親の合意が子の福祉を全くいつも考えないという前提がとれない。多くの場合普通は考えるわけですから,その議論は必ずそういう論理構造になるとは限らないのではないでしょうか。 ○伊藤部会長 結局それは,山本幹事が先ほどおっしゃったように,専属性というふうに見るかどうか。その程度の問題かとは思いますけれども。 ○脇村関係官 一つの考え方としては,民法上も,子の福祉については父母がある程度分かっているという前提で,親権者の指定等については,父母にゆだねられているということからいたしますと,父母が一致しているということは多くの場合は子にとっても望ましいというはずだということは言えるように思います。   ただ,常にそうかと言われますと,それは言えないわけですので,それは職権に対応するということは考えられなくはないのかなという気はしております。 ○鈴木委員 家事事件でどうなるかは私もよく分からないのですが,訴訟ですと,代理人の都合でと言ったら言葉が悪いですけれども,当事者双方は東京ではないのだけれども,双方代理人が東京だから合意して東京でやりましょうということがありますね。家事事件だって可能性としてはそういうことがあり得ると思います。それについては移送で対応すればいいというのであればいいのですが,必ずしも親の住所地でもないところで合意ということもあり得るということを実情としてお話ししておきます。 ○伊藤部会長 そういう問題は若干ありますけれども,先ほど確認したのではこの場での御意見は一応乙案でということのようですので,そういうことで取りまとめをさせていただきます。   それから,2の家事審判事件の併合申立てに関してはどうでしょうか。ちょっとこれは引き続き検討するということで,現段階でもし御意見があれば承りたいということなのですけれども。 ○三木委員 時間がないのに引き続きで恐縮ですが,申し上げることも前回の非訟と結論は同じことですけれども,訴えの追加的併合との整合性等を考えると申立てを認めないという規律はちょっと考えにくいので,事務当局が恐らくお悩みなのは要件の置き方でしょうけれども,それは適切かどうかは更によりよい考え方はあり得ると思いますが,訴えの変更要件と合わせるとかで御工夫いただければという気がいたしております。 ○伊藤部会長 三木委員からは併合申立てを認めるという方向での規律を考えるべきであるということで,要件に関してはなお検討の必要があるということですが,ほかには御意見はございますか。   それでは,これは引き続き検討することにいたしましょう。それから,申立書の審査権の関係で,(注)の呼出費用について,呼出費用の予納を命じてその予納がないときは申立却下するということに関しては,次の陳述聴取を必要的とするかどうかという話との関係で決まるというか,そちらの影響を受けて結論がその影響を受けざるを得ない性質の問題であるというのは,先ほど脇村関係官から説明があったとおりですが,これについてはどうでしょうか。何か御意見はございますか。   それでは,この点は,今のような問題がありますので,次回にこの(6)のところについての議論をしていただいて,それを踏まえて,こちらのほうがどうなるかという形で審議をしていただければと思います。   若干予定したところよりは前で時間が来てしまいましたが,本日は,この程度にさせていただければと存じます。   次回の日程についての連絡をお願いいたします。 ○金子幹事 次回は平成22年11月12日金曜日午後1時30分からになります。場所が変わりますので,御留意いただきたいと思います。法務省地検5階会議室になります。順路等につきましては,本日お手元に配布させていただきましたので,御参照いただければと存じます。よろしくお願いいたします。 ○伊藤部会長 ということで,本日の部会はこれで閉会にさせていただきます。毎度のことながら長時間にわたりまして熱心な御審議を頂きましてありがとうございました。 -了-