法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会           第28回会議 議事録 第1 日 時  平成22年11月12日(金) 自 午後1時31分                        至 午後5時26分 第2 場 所  東京地方検察庁刑事部会議室 第3 議 題  非訟事件手続法・家事審判法の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○伊藤部会長 それでは,予定の時刻でございますので,法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会の本日第28回会議を開催いたします。御多忙のところ,御参集いただきましてありがとうございます。   配布資料についての説明を事務当局からお願いします。 ○川尻関係官 本日の部会のために配布しました資料は,部会資料31になります。内容につきましては,後ほど御説明いたします。 ○伊藤部会長 それでは,早速ですが本日の審議に入りたいと思います。   まず,事務当局から,前回途中まで参りましたが,部会資料30について,第2,家事審判に関する手続(総則),2,家庭裁判所の手続,(3)裁判長の手続指揮権から(6)調停をすることができる事項についての家事審判事件の特則までの説明をお願いします。 ○川尻関係官 (3)裁判長の手続指揮権では,釈明について,職権探知主義の下では明文の規律を置かなくとも当然にできるものであること,当事者に対する不意打ち防止という点は,事実の調査の通知等,他の規定を設けることにより対応することができると考えられますことから,規律を設けないものとすることを提案しております。   (6)調停をすることができる事項についての家事審判事件の特則,イ,陳述聴取は,調停をすることができる事項についての家事審判事件における陳述聴取の方法について,書面照会や家庭裁判所調査官による事情の聴取が相当な場合もあることにかんがみ,実態に応じた適切な審理を行うことができるように,甲案を採用するものとすることを提案するものです。また,裁判官の面前での陳述を求める当事者に対しては,期日の申立権を付与することが考えられますことから,この点について御意見を頂ければと存じます。   ウ,審問への立会いでは,人事訴訟法第33条第4項と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。   エ,事実の調査の告知は,事実の調査の結果,裁判に重大な影響を及ぼすことが明らかになった場合には,事実の調査をした旨を当事者及び利害関係参加人に通知する旨の規律について検討することを提案するものです。その趣旨は補足説明に記載したとおりですが,それを適切に表現するための文言については,なお検討するものとしています。   カ,審判日では,審判を待つ当事者にとっては,審判がされる日というのは重大な関心事であることから,これを当事者に通知するものとすることを提案しております。   キ,その他は,当事者照会制度について,家事審判手続における当事者間の関係や代理人が選任されないことも多いといった手続の特質にかんがみて,制度を設けることによる弊害が強く懸念されることから,これを設けないものとすることを提案するものです。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,順次御審議をお願いしたいと存じます。   まず,23ページの(3)裁判長の手続指揮権の関係ですが,従来から議論ございました釈明については,ただいま説明があったようなことから設けないものとすることでどうかという提案がなされておりますが,ここはいかがでしょうか。 ○三木委員 私は,やはり設けたほうがいいのではないかと思います。記憶をたどりましても,この審議会部会のかつての議論でも,設けるべきだという御意見のほうが多かったように思いますし,パブリックコメントの結果も見る限りは,圧倒的に置くべきだという御意見が多いようです。   また,補足説明に書かれておりますところですけれども,職権探知主義あるいは弁論主義との直接の関係はないように思います。すなわち,職権探知主義だから置かなくてもいいとか置くべきだというような論理関係にはないのではないかと思います。規定を置かなくても,もちろん釈明ができるとは思いますが,通常の手続で置かれている釈明権の規定が,この家事審判のほうでは特に置かないというのは,かえって不自然ではないかと思います。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか。 ○畑幹事 私も前々から同じことを申し上げて恐縮ですが,置かないという理由はないだろうと考えております。不意打ち防止の根拠規定として機能することも考えられるという話についてでありますが,確かに事実の調査の通知のような制度を整備するということは重要なことであり,それを今我々は議論しているわけでありますが,だからといって釈明義務のようなものが要らなくなるという性質のものではないと思います。それは民事訴訟を考えれば明らかなので,民事訴訟では,期日での立会いですとか記録の閲覧ですとかいうことは,ほぼ完全に保障されているわけですが,しかし釈明義務というのは重要な役割を果たしているわけであります。その範囲がどこまでかということについては難しい問題がありますし,取り分け近時は,釈明義務がもう少し後退していいのではないかという話もありますが,しかし釈明義務がおよそ要らないとは,民事訴訟については研究者,実務家を問わずどなたも考えておられないのではないかと思います。   他方,非訟,家事においては,例えば記録の閲覧にしても期日での立会いについても,ある程度合理的な制限がかかるということに恐らくなりそうですし,私もそれが正しい方向であろうと思います。ということは,つまり非訟や家事においては釈明義務というのは,より重要な役割を持つということだと思います。 ○伊藤部会長 その辺りの認識は,恐らく事務当局でも同じだと思うのですが,ただ,ここに置かなくても当然できると,あるいは必要な場合にはすべきであるということで,そういう意味での釈明作用について特別の規律を設ける必然性があるかという疑問かと思いますが,どうぞ髙田(昌)委員お願いします。 ○髙田(昌)委員 私も,三木委員,畑幹事と同じ意見です。裁判長の手続指揮権を認める規定が置いてあればよいかというと,これは,基本的に,「できる」という裁判所の権能のほうからの規律であり,一方,民事訴訟法149条の釈明権の規定は,単なる「できる」というだけではなく,文言からは直接は出てこないにしても,釈明義務というものを根拠付けている条文でもありますので,職権探知主義が幾ら妥当するからといっても,その手続の下で釈明義務を認めることを積極的に根拠付けるという意味があるのではないかと思います。それと,家事審判手続では,事実の調査の通知などによって不意打ち防止が図れるということですけれども,例えば釈明義務には,法的観点指摘義務といった内容も盛り込まれておりますので,そういったものを取り込もうとするならば,事実の調査の通知といった形では不十分ではないかと思いますし,そういう意味でも釈明権の規定を置く積極的な意義があると考えます。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○山本幹事 反対の御意見が続いていますが,私自身は,釈明について規律を設けないということも十分あり得ると思っております。民事訴訟法149条の規定は,これは釈明することができるという規定ですけれども,私の理解では,わざわざこういう規定が置かれたのは,やはり民事訴訟では,当事者が主張しない事実は裁判所は考慮することができないという規律を前提にして,裁判所の介入によって当事者の主張を変容させるということは,ある意味では間接的にではありますけれども,裁判所が自ら裁判できる範囲を広げるという側面を持っていて,そのこと自体が,果たして先ほどの前提と整合的かという疑念も生じ得るところから,このような明文の権限規定を設けているのではないかと思っております。そうだとすれば,非訟事件については,当事者の主張がなくても事実を考慮することはできるわけですから,仮に裁判所が介入して当事者の主張が変容したとしても,裁判所が判断できる範囲がそれで広がっているわけではないのです。そういう意味からすれば,理論的には区別をするということはあり得ることと思っております。   今皆さんが言われたように,私も,非訟事件においては釈明義務は非常に重要なことであると思っております。畑幹事が言われたように,民事訴訟以上に重要な側面を持っているとは思っておりますが,ただ,それが149条,この釈明権の規定と関連するかというと,釈明という権能は当然非訟でもできるということを前提にして,それが義務になるか,義務になるとして,どこまで義務になり得るかというのは解釈の問題ということになると思っています。個人的には,民事訴訟法に私は釈明義務の規定を置くべきだと思っておりまして,それが置かれた場合には,その際には非訟事件にも同様の規定を設けるべきだと個人的には思っておりますけれども,民事訴訟法は現在解釈でやっているということであるとすれば,非訟でも解釈でということはあり得るということです。 ○伊藤部会長 分かりました。なかなか従来の議論もありまして,ここは直ちに意見の一致を見るというのは難しいように見えますが,他方,今の皆さんの御意見にありましたように,非訟事件において,例えば積極的釈明が望まれる場面があるとか,あるいは更に立ち入って釈明が義務付けられるような状況がある。そういう状況において,裁判所が釈明権ないし釈明権的な行為をすべきであると,ここについては恐らく認識は一致していると思うので,その上で何らかの規定を置くかどうかと,その辺りの違いかと思いますので,ただいまの発言を受けて事務当局でもう少し検討してもらえますか。   それでは,次に,(6)の調停をすることができる事項についての家事審判事件の特則で,イの陳述聴取の関係ですが,先ほどの事務当局からの提案では甲案を基礎にして,審問の申立権を付与することについてどのように考えるかについて更に御意見を承りたいと,こういうようなことでございましたが,この辺りはいかがでしょうか。 ○山本幹事 私は,乙案に賛成です。これは前から申し上げていることではあるのですけれども,やはり調停をすることができる場合のような争訟性が認められる事件において判断を受ける当事者は,少なくとも1回は,その判断を下す者を目の前にして自分の言い分を直接に聴いてもらえる機会を持つというのが手続保障としては基本的なことなのではないかと思っているからであります。前にもお話ししましたように,行政手続においてすら,行政手続法とか行政不服審査において,一定の場合には聴聞という形で口頭で意見を聴いてもらえる機会というのが設けられることになっているとすれば,そういう手続保障の全体の相場感からすれば,裁判所が行う手続で争訟性があるものであるとすれば,やはり口頭で意見を聴いてもらう機会があってしかるべきと思っております。   それで,この理由の中に,書面照会等のほうが当事者の攻撃防御の機会を実質的に保障し得る事案もあると書かれておりますが,それはそういうこともあり得るとは思うのですけれども,その場合には,当事者は恐らく口頭で聴いてもらうという機会を放棄して,自分は書面でいいですということで書面で意見を述べるということになると思いますので,そういう,自分であえて申し出てこない者にまで必ず口頭で聴かなければいけないとは思われませんので,自分で口頭で聴いてほしいと言ってきている以上は,やはりそれは聴く機会を与えるのが筋かなと思っております。 ○伊藤部会長 山本幹事自身は,乙案ということを基本にしてお考えのようですが,今の御発言を踏まえると,例えば甲案を前提にしながら,しかし当事者が求める場合については審問の機会を与えるというのも選択肢の中に含まれると理解してよろしいですか。 ○山本幹事 そういうような手続であれば,十分当事者の手続保障を満たしていると私には思われます。 ○伊藤部会長 分かりました。   どうぞ,ほかの委員,幹事の方。 ○増田幹事 私も従来から乙案ということでお話しておりました。口頭で意見を述べることが重要であることは,民事訴訟法の弁論準備手続におきましても,双方が意見を闘わせてディスカッションの中で裁判所との間で共通認識を形成していくという過程が重視されているとおりです。家事事件におきましても,調停をすることができる事項についての事件では,双方が意見を闘わせて,その中で争点が形成されていくという過程は民事訴訟と同じだろうと考えておりますので,共通認識を形成した上で間違いのない裁判ができるようにするためには,乙案が望ましいと考えております。   ただ,確かに当事者双方が必要がないと考える場合,もあると思います。例えば年金分割なんかはそうだと思うのですけれども,そういうケースにつきましてまで審問を開く必要があるとまでは申し上げません。その場合は,例外のところを少し考えるということを前提に,原則的には審問は必要だと考えております。 ○伊藤部会長 なるほど,分かりました。   ただいまは乙案ないし,その考え方を基本にした御意見が山本幹事,増田幹事からは述べられましたけれども,ほかの委員,幹事の方はいかがでしょうか。 ○古谷幹事 基本的に相手方の面前でやるのが望ましいケースが多いのは,そのとおりかと思いますけれども,補足説明にもありますように,当事者の精神的な状況とか肉体的な状況によっては,書面による,あるいは調査官調査でやるほうがいいということがあるのだとは思います。   さらに,先ほど当事者のほうでそれを放棄したらいいのではないかという話もあったのですけれども,代理人がついているケースであればうまくいくと思うのですけれども,本人の場合はどうしても,いざ審問期日だということになると,やはり無理して出ていってしまうということになろうかと思うので,そこまでの必要性があるのかというところは疑問に感じるところでございます。 ○伊藤部会長 分かりました。   いかがでしょうか。 ○畑幹事 定見があるとまではいかないのですが,私も乙案あるいは甲案に審問申立権を組み合わせた辺りに共感を覚えているところでありますが,ただ,今お話があったように,いろいろな事件,いろいろな状況があるでしょうから,本人の側がその権利を放棄するということでなくても,例外というのは,やはりあるのかなという気はいたします。それが,乙案のただし書で十分かどうかということについては,やや不安も残る。つまり,例外がもう少しあってもいいのかなという気もしているというぐらいの感触を持っております。 ○伊藤部会長 なるほど,分かりました。   それでは,今の御意見を伺っていますと,甲案,乙案と,言わば二項対立的に書いてありますけれども,審問の申立権まで甲案に付随して考えるとすれば,実質においてそれほど二つの考え方に大きな差があるわけではないし,また畑幹事からも,例外についてこういうことだけでいいのかという御指摘もありましたので,それを踏まえて,今までの皆さんの御意見の実質がしかるべく生かされるような形で事務当局に工夫してもらうことにいたしましょう。   よろしければ,次のウの審問への立会いですけれども,(注)の関係でこういう形での例外を設ける方向で考えるということですが,この辺りはいかがでしょうか。特段御異論はございませんか。 ○増田幹事 例外の場合について,立ち会えなかった当事者に対する適切な手続保障をするということを条件に,これについては了解することとします。   それから,例外に該当するケースと考えられるものであっても,例えば電話会議だとかビデオリンクを使うとか,できるだけ立会いに準じた工夫をするといった運用をしていただきたいということを申し上げておきます。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○三木委員 基本的には,(注)を含めて事務当局御提案に賛成ですけれども,(注)の例外に関する規律ですが,審問が開かれる場合に,相手方がそれに立ち会う権利というのは,これは手続保障的にはかなり根幹をなすといいますか,本質的な権利だろうと思います。したがって,例外はこの場で具体的な御提案まではございませんけれども,何か事実の調査に支障を生ずるおそれについて例示のようなものを挙げた上で,こういう包括的な文言を置くというほうが望ましいと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。   では,三木委員の最後の部分の御発言は検討してもらうことにいたしまして,そういうことを含めて,この審問への立会い,実質は例外の部分についても,ここで御了解いただいたことといたします。   引き続きまして,26ページのエの事実の調査の告知ですが,これも(注)の部分で調停をすることができない事項についての審判事件に関してですが,事実の調査をした旨を当事者及び利害関係参加人に通知するということに関してどのように考えるかという問題の投げ掛けがございますが,ここはいかがでしょうか。審判に重大な影響を及ぼすことが明らかになった場合ということが前提になっておりますけれども,御意見を出していただいたほうがある程度方向性が固まると思いますので,是非お願いしたいと思います。 ○山本幹事 私は,ここに書かれていることに基本的に賛成です。反論する必要のないものが多いとかということは,これはその要件で,文言はあれですけれども,重大な影響を及ぼすことが明らかとは言えないということで,こういう場合は通知をしないという扱いでそれほど大きな不都合があるようには思われなかったのですが。 ○伊藤部会長 分かりました。そうすると,この点はこういう趣旨の規定を置くという方向でと,山本幹事からの御発言はそういうことですが,皆さんも同様の御意見と承ってよろしいでしょうか。   それでは,そのように御了解いただいたものといたします。   次に,27ページのカの審判日に関してですが,ここは審理を終結したときは審判をする日を定め,これを通知するというような内容の規律にしてはいかがかというのが先ほどの事務当局からの説明ですが,この点はいかがでしょう。 ○杉井委員 私は,この点,前から強く要望していたところでございまして,大賛成です。 ○伊藤部会長 杉井委員からは大賛成という非常に力強いお言葉をちょうだいしましたが,他の委員,幹事の方で特に何か御意見ございますか。 ○古谷幹事 これも従前から出ていますけれども,審判日の概念というのが不明確ですので,これを法律上,明確にするとか何らかの手当てをしていただければと思います。 ○伊藤部会長 それでは,ただいまの古谷幹事からの御発言のことも踏まえまして,このような方向で行くということでよろしゅうございますね。   そうしましたら,キのその他で,当事者照会制度に関する規律は設けないものとするというようなことで説明がございましたが,ここはいかがでしょうか。 ○増田幹事 当事者照会というのは,本来は証拠収集制度の一環でありますので,民訴と同様に明文で入れていただきたいところなのですけれども,明文は置かないというレベルで了解いたします。 ○伊藤部会長 分かりました。   それでは,特に他の委員,幹事からの御発言がなければ,事務当局からのこのような趣旨での考え方の提示に賛成が得られたということにさせていただきます。   それでは,引き続きまして(7)裁判から(9)取下げによる事件の終了までの説明をお願いします。 ○松田関係官 それでは,説明いたします。   まず,(7)裁判のア,審判の(エ)審判の告知では,中間試案を維持し,相当と認める方法で告知するものとすることを提案しております。パブリックコメントでは,審判書等の送付により告知するものとすべきであるとの意見もあり,実務においても,ほとんどがその方法で告知されているものと考えられますが,家事事件における事案の多様性を考慮しますと,当事者本人の面前で口頭で告知する必要がある場合等もあり得ると考えられ,告知の方法を法律上,限定するのは相当でないと解されますことから,中間試案を維持し,相当と認める方法で告知すべきものとすることを提案しております。   (8)裁判の取消し又は変更では,中間試案を維持し,審判の取消し又は変更をすることができるものとすることを提案するとともに,この場合に,当事者及びその審判を受ける者の陳述を聴かなければならないものとする規律を置くべきか否かについて検討することを提案しております。パブリックコメントでは,審判の取消し又は変更の規律を置くことに反対する意見もありましたが,遺留分放棄の許可の審判,不在者財産管理人の権限外行為許可の審判,未成年者の養子縁組の許可の審判など,取消し又は変更の対象となる審判について,その審判を存続させることが不合理,不相当と認められるに至った場合には,裁判所が職権でこれを是正することができるものとするのが,家事審判手続の性質及び目的に合致すると考えられますので,中間試案を維持することを提案しております。   なお,再審において期間制限が設けられていることとの平仄についてですが,再審は,確定した審判を対象に,一定の事由がある場合に限定して当事者等に認められた非常の不服申立方法であることから,法的安定の要請をも考慮して,一定の再審事由については期間制限を設け,他方で是正すべき必要性の高いものについては期間制限を設けないこととしているものと考えられます。これに対し審判の取消し又は変更は,即時抗告をすることができない審判について,事由を限定せずに審判後の事情変更により審判が不当になったものも含めて裁判所がその審判を放置できないと認めたときに職権で行う制度であり,法的安定よりも,事情に合致した法的状態の形成を重視していると考えられますので,期間制限には親しまないものと考えられます。したがって,取消し又は変更の制度においては,再審と異なり,期間制限を設けないものとするのが相当であると考えられます。   また,本案裁判を取消し又は変更する場合に,当事者及び審判を受ける者に対する必要的陳述聴取の規律を置くものとするか否かについては,パブリックコメントでは賛否両論がありましたが,審判の取消し又は変更の性質やその効果に照らせば,取消し又は変更の裁判をする際には,これにより少なからぬ影響を受けると考えられる当事者及び審判を受ける者に陳述の機会を与えるのが一般的には相当であって,これらの者を全く関与させずに取消し又は変更の審判をすることができる余地を残すのは,迅速処理の要請や公益性を考慮しても正当化することは困難であるとも考えられますので,このような点を踏まえて御検討いただきたいと存じます。 ○川尻関係官 (9)取下げによる事件の終了,ア,取下げの要件,(ア)終局審判前の申立ての取下げの要件では,一律に相手方の同意を要するものとするのは,規律としては過剰になるのではないかと考えられることから,申立人は終局審判があるまでは申立てを取り下げることができるものとする甲案を採用することを提案しております。   (イ)終局審判後確定前の申立ての取下げの要件については,甲案を採用することを提案するものです。調停をすることができない事項についての審判事件については,審判後に申立ての取下げを認めるべき場合は極めて例外的と考えられますことから,そのような場合に備えて一律に裁判所の許可制を導入するのも,ほとんどの場合は不許可になることにかんがみれば,相当ではないと考えられます。他方で,調停をすることができる事項についての審判事件においては,申立ての取下げに相手方の同意がある場合にまでその取下げを制限する必要はないと思われますことから,そのような場合には申立てを取り下げることができることとしております。   (注1)では,申立ての取下げにつき相手方の同意を要するという規律を採用した場合には,民事訴訟法と同様に,取下げの同意の擬制に関する規律を設けるものとすることを提案しております。   (注2)では,不熱心当事者に対する対応として,例えば申立人が連続して2回,期日に出頭しなかった場合等には,申立ての取下げがあったものとみなすことができるものとする旨の規律を設けることについて御意見を頂ければと存じます。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,また順次審議をお願いしたいと思います。   (7)裁判,アの審判の(エ)審判の告知における告知の方法に関してですけれども,これを審判書等の書面の送付に限定するか,それともそれに限定をしないで相当と認める方法によれば差し支えないものとするか,この辺りについての説明が今ございまして,やはり相当と認める方法でという中間試案の考え方を維持するということですが,ここはいかがでしょうか。   特に御異論はないようでしたら,こういうことで御了解いただいたものとさせていただきますが,よろしいですか。   それでは,次の(8)裁判の取消し又は変更ですが,大きく分けると三つぐらいのことでしょうか。そもそも取消し又は変更をすることを認めるかどうかということと,それについての期間制限を設けるかどうか。さらに,取消し又は変更をする際に,当事者及び審判を受ける者の陳述聴取を必要的なものとするかどうか。こういった三つぐらいの問題があって,それぞれについて先ほど事務当局から説明がございましたが,いかがでしょうか。 ○三木委員 審判から一定の時間が経過した後に取消しや変更がされる場合というのは,恐らく裁判所が自らそれを当事者に関係なく行うことは少ないだろうと思いますので,実質的には当事者から何か,申立てとは呼ばないかもしれませんけれども,申立権はないわけですけれども,事実上の申出があった場合が少なくないのではないかと思います。そうすると,その申出の内容によっては,例えば本来,内容としては再審事由を主張して,しかも再審期間の経過後であるとか,あるいは再審では争えないと解釈されているようなものについて,それをこちらのほうで言わばう回して申し立ててくるというようなことがあり得るわけであります。そういったことが,言わば職権ということで法律的には制約なくフリーにう回できるという余地があるのがいかがなものかということであります。そういう問題が生じるのは,期間の制限もなければ事由の制限もない。事由は,もちろん不当と認めるというのがありますけれども,極めて抽象的,一般的な要件ですので,実質的には不当と認めるから変えるのでしょうから,要件はなきに等しいわけですので,期間,実質,あらゆる点で制限がないので,先ほど言ったようなことで,本来できないことがう回的に使われる余地があるということを私は問題視しているわけであります。   したがって,期間制限を置くべきだという主張をしていますが,それは唯一の主張ではなくて,期間制限を置くか,あるいは事由の制限を置くか,何かしらこのような無要件に近い状態で,裁判という国民,市民の権利状態の安定が場合によっては覆されるというようなことが認められるのはいかがなものかということであります。   私は,期間制限のほうが規律としては容易だろうと思いますが,仮に期間ではなくて事由で置く場合には,御説明等を伺うと,そればかりではないと思いますが,主として,やはり想定されているのは事情の変更があった場合ですので,例えば事情の変更のようなことを要件に置くとか,これは私は唯一の提案としているわけではありませんけれども,やはり何かしら,審判というよりも裁判ですので,裁判がこういう無要件に近い状態で安定性が害される,それによって何かしら法律上あるいは実質上,不利益を受ける当事者が生じ得る可能性があるわけですので,そこを多少,やはり規律すべきではないかと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。三木委員からは,非訟に係る法律関係の安定のようなことを考えると,期間制限というのも一つの考え方だし,それから実質的にはそれに代わるものとして取消し又は変更の要件をある程度限定するというようなことが必要ではないかと,そういう御発言ございましたが,この辺りはほかの委員,幹事の方はいかがですか。 ○畑幹事 この取消し,変更の制度というのは,実はかなりもともとからは話が変わってきております。現行法の制度というのは,即時抗告の対象となる審判は除外されておりますが,通常抗告の対象になる審判は対象であります。そして,不服申立てができない審判がどうかということについては,私の理解では見解が分かれていて,そもそも取消し,変更の対象にならないという意見もあったかに思いますし,あるいは不服申立てができないことの趣旨から,変更ができる類型とできない類型があるという見解も有力であったように思います。それが,今回通常抗告というものがなくなりそうですので,もともとよく分からなかった不服申立ての対象にならない審判だけがここに残っているという状況にあります。   したがって,確かにここに書いてあるように,非常に広範な取消し,変更が可能であるというのは少しおかしな感じがするのは確かであります。しかし他方で,実例,実際こういう場合があるということが幾つか紹介されておりますが,非訟,家事の世界ではいろいろな事件があり,いろいろなことがあるようですので,何かしら受皿のようなことは必要ではないかと思います。取消し,変更するための受皿というのは,やはりあってしかるべきであろうと思います。かつ,私も三木委員と同じで,うまく限定する方法は思いつかないのですが,もし先ほど三木委員がおっしゃったように,事情の変更という場合に限られるのであれば,実務上そういうことが必要になってくるのが事情が変更したような場合だけであるということであれば,そう限定するということは確かに考えられるのではないかと思っております。 ○伊藤部会長 分かりました。   他に御発言ございますか。   事務当局いかがですか。よろしいですか。   そうしましたら,三木委員,畑幹事おっしゃること,それぞれごもっともと思いますが,ただ,厳密な意味での事情の変更に限るような要件の限定ができるのか,それが主たるものであるということは,恐らく実際上は間違いないと思いますが,この辺りは難しい問題があるように思いますけれども,それはもう少し事務当局で検討してもらうということでよろしいですか。   それでは,そのようにさせていただくことにして,そうすると期間制限については,従来からそういう御意見ございましたが,必ずしもどうしてもそういうものを設けなければならないということではないと,実質的にそれに代わるようなものがあればということで御発言ございましたので,そこには期間制限そのものをどうしても設けなければという御意見ではないという理解をさせていただきます。   それから,取消し,変更の場合の当事者及び利害関係人,審判を受ける者の陳述の必要的聴取に関してはいかがでしょうか。補足説明のところでは,陳述聴取は,もちろん原則としてそういうものが必要な状況は想定されるけれども,必要的としてしまうほどの合理性があるかどうかということです。 ○中東幹事 補足説明2の最後のなお書きにあることは十分理解できるのですが,補足説明1の第2段落についての説明で,事情に合致した法的状態の形成を重視するとされています。こういう観点から審判の取消し又は変更を認めるということなのであれば,やはり原則として陳述聴取はすべきであると思います。ただ,例外的に,ここで書かれていますように,聴くべき人がつかまらないというときについては,それはしなくてよいという形で十分でしょうが,やはり原則としては聴くという形にしていただくのが,この説明からすると少なくとも筋ではないかと思います。 ○伊藤部会長 そこは事務当局から何か補足がありますか,今の中東幹事の発言に関しては。 ○松田関係官 補足説明のほうで書かせていただいたように,やはり審判の内容を変更するのは,最終的に相当な結論となることを目的とするものですので,変更することによって当事者が不測の不利益を受けるということでは相当な結論ということにはなりませんので,基本的には事前に陳述を聴くのが相当だとは思われるのですが,他方で,中東幹事からも御指摘ありましたように,当事者に連絡がつかないといったときに迅速な対応ができなくなりますので,そういう場合をどうするかということで,当事者に連絡がつかなければ陳述聴取しなくていいということを,法律上規律するのも難しいものですから,その点はどうすべきかと考えているところです。 ○古谷幹事 この点は,各家裁の意見で申しますと,必要的にするということについては比較的反対の意見が多いというのが実情でございます。 ○伊藤部会長 分かりました。   ほかには御発言ございますか。それでは,ただ今述べていただきました御意見を踏まえて,事務当局でこの点に関しては検討をするということにさせていただきます。   引き続きまして,(9)の取下げによる事件の終了ですが,まず,終局審判前の申立ての取下げの要件に関して,甲案の考え方を採用することでどうか。乙案のように相手方の同意を得なければうんぬんというような規律を置かないということですが,まずこの辺りはいかがでしょうか。 ○山本幹事 これは,私はやはり違和感があります。乙案のように,調停することができる事項については相手方の同意というのがあったほうがいいのかなという気がしています。確かに補足説明に書かれているように,相手方の審判を得る利益は事実上のものにすぎないといえば,確かに既判力までは生じないとすれば,それは事実上のものといえばそうなのかもしれませんけれども,やはり申立人の申立てに応じて,その手続に付き合わされてきたことは事実なので,それは最後までやってくれよというのはあってもいいような気がどうしてもいたします。それで,取り下げるというのは,自分に不利益なものが出そうだから取り下げるということが多いのだとすれば,やはり相手方の立場に立ってみれば,その取下げをそのまま認めるのはどうかという気はいたします。   ただ,補足説明に書かれているように,事件類型によっては,そういう相手方の利益というのはおよそ,あるいはほとんど想定されないような類型もあるのかなと思いますので,あるいは各則で例外とかという問題はあるのかもしれませんけれども,基本的な考え方としては,私はやはり乙案なのかなと思っております。 ○伊藤部会長 分かりました。   どうぞ他の委員,幹事の方お願いいたします。 ○増田幹事 私も乙案なのですが,この補足説明に出ている相手方に不利益が生ずることが基本的には想定されない事件類型の場合には,同意が得られないことが逆に想定しにくいわけですから,乙案を採ったとしてそれほど不都合であるということではないと思います。   あと,例えばこれも理屈の上の話かもしれませんけれども,財産分与などは出訴期間の制限がありますから,取下げがあれば,相手方のほうからはもう一度申し立てることができないという場合も考えられます。また,従来から申し上げているように,実際上一番問題になるのは遺産分割で,長期間係属しているのに,取下げがあればすべてが消えてしまうというのでは,相手方には余計な手続的な負担が掛かっただけという結果になりかねないと考えます。各則のところで手当てがされるのであれば,また別途の考え方もあるかと思いますが。 ○長委員 31ページに記載されておりますような例については,相手方に不利益が生ずることが想定されないということが言えるのではないかと思います。財産分与であるとか遺産分割の問題については,御指摘のような問題はあると思いますが,それを避けようと思えば,御本人のほうから同時に申立てをするということもできるものですから,そこはクリアできるのではないかと思います。少なくとも31ページに挙げられたようなものについてまで同意を要するという点については,私は反対です。   非協力な態度を相手方が採っているような場合に,別に審判を求めるつもりではないのだけれども,同意の意思表示自体をしないということが実務の中では現実にあるものですから,甲案のほうがいいのではないかという印象を持っています。 ○伊藤部会長 相手方の持つ手続形成的な利益を尊重するという御意見,乙案的な考え方だと思いますが,しかし取下げの意思の表明している以上,もはやその手続を遂行する意欲は申立人のほうにないので,仮に相手方が同意しないということになると,実際上その手続というのはどうなってしまうのか,相手方の手続的利益を尊重するというだけで,果たして問題が解決するのかというのが恐らく乙案に対する疑問のようなことになるのだと思いますが,他の委員,幹事の方はいかがでしょうか。 ○畑幹事 新しいことを付け加えるわけではないのですが,私も甲案で割り切ることには若干違和感がございます。乙案は規律として過剰ではないかということですが,それを言えば甲案は,ちょっと規律としては過小ではないかという印象であります。相手方が同意を積極的にしようとしないというような問題であるとか,あるいは両方がやる気がなくなっているというようなことについては,ここの(注1)とか(注2)に書いてあるようなことで対応できないかという気がしております。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○豊澤委員 ここの補足説明に,「取下げにより相手方に不利益が生ずることが基本的に想定されない事件類型もある」と書かれていますが,相手方からすれば,申立てが取り下げられれば現状は何も変わらないという事件類型についてまで,相手方の同意が本当に必要か疑問があります。相手方に異論がなければ同意するだろうとおっしゃいますけれども,なかなか協力的でもないようなケースもあり,そのようなケースでは,同意を擬制するために取下書等を送達しなくてはならず,そのための特別送達の費用を申立人に負担してもらうということにもなるわけですが,果たしてそこまでしなくてはならないのだろうかと思います。   先ほども話が出ていましたが,一般的には相手方の同意を不要として,遺産分割と財産分与については各則で何らか合理的な手当てを考えるというような方法も一策ではないかと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○金子幹事 今日の御意見を踏まえて検討させていただきますが,各則のアプローチの案もありましたので,ちょっと検討してみたいと思います。これまでは,調停ができる事件につきましては,先ほど長委員から御説明ありましたとおり,相手方の利益をどう考えるかというときに,これについては当事者からも何らかのアクションも起こせるということで一律に考えていたのですが,同じような調停をすることができる事項について同意が必要なものと不要なものとの違いについてうまく説明がつけば,各則のアプローチというのもあるかなと思いました。その辺も含めて,理屈の世界と実際上不都合が生じそうな事件とうまく説明がつくような規律ができるか,少し検討してみたいと思います。 ○三木委員 長委員がおっしゃったこと及び今,金子幹事がおっしゃったことをちょっと考えていたのですけれども,今から述べるような考え方でよいのかどうか。特に長委員がおっしゃった趣旨を確認してみたいと思うのです。   豊澤委員がおっしゃったように,財産分与ないし遺産分割の事件を想定すればいいのだろうと思うのですが,それを想定した場合,当初から複数の申立てがあった場合にはもちろん,ある申立てが取り下げられても残りの申立てが生きているので,そこで対応できます。ただ,長委員がおっしゃった趣旨は,私の理解が間違っていなければ,ある一人の者が申し立てて,その者がある程度進んだ段階で取り下げるというときに,それを続行してもらいたいという他の者が,その段階で,「では私が申し立てます。」ということで対応できるのではないかという御趣旨だと思いました。私は,それで対応できるなら,もちろん同意の規律はなくてもいいと思います。   その考え方ですが,申立ての手続に,新しい申立てを当然に併合させる申立権が他の者にあるということではないように思いますので,考え方としては,その申立ては言わば別申立てとしてなされて,職権で形としては併合すると,両手続を併合された場合には,従前の手続の結果が新しい手続に特段の援用なく使われるということで理解してよいのであれば,それで対応できるのかなという気がしますが,そういう理解でよろしいのかどうか,長委員に確認したいと思います。 ○長委員 もしそのような効果を求めるのであれば,当初の申立てが取り下げられる前に申立てをすれば,併合いたしますので,それによって実現することができると思います。   最初の申立てが取り下げられた後に,後の申立てがされた場合には,最初の事件は終了していますので,それについては職権探知で記録に対して事実の調査を行って資料にしていくということはあるとは思いますけれども,当然に引き継がれるということにはならないのではないか。何かの特別な手続を考えれば,それは可能かもしれません。 ○三木委員 おっしゃった点は全く異論はありません。これは,運用の問題としてそういうことが行われ得るのかどうかと,今から申し上げることはそういうことですけれども,おっしゃるように取下書が出されて,それが受理されて,その取下げが効力を生じた後では,別事件を立てて記録の取り寄せなりで対応するしかないと思うのですね。ただ,それではなくて,運用として取下書が出されたときに,適切かどうかという問題もあろうかと思いますけれども,それの受理を保留して,つまり取下げの効力が生じない状態を運用上つくっておいて,その間に,取下げに反対している当事者がもしいれば,「申し立てる必要がありますよ。」ということを示唆なり釈明なりしてやるという運用で賄えるのかどうか。つまり,そういう運用を行うことに問題はないと実務のほうでお考えかどうか,確認したいと思います。 ○長委員 大変興味深い御指摘ですが,取下げの意思表示がいつ効力を発生するのかという問題が一つあろうかと思います。猶予期間を設けるという運用は少なくとも現在は行っていませんが,今御指摘のようなところについて工夫をするという考え方はあり得ると思うのですけれども,手続上は運用では無理だろうと思います。 ○三木委員 私も法律学者的に考えれば,理論的な説明としては難しいというか,余り望ましくないという気はしますが,直接関係ないのですけれども,場面は全然違いますけれども,よく退職願などをひとまず保留するというようなやり方があります。もちろん局面は違います。しかし,ああいうようなことが世の中ではしばしば行われて円滑に回るということはありますので,何かしらあれば,金子幹事が御懸念されているように各則で置くというときの特定のものをピックアップすることの適切性とか,あるいは選択の基準という問題は回避できるのかなと思った次第です。 ○伊藤部会長 そうしましたら,ただいま質疑がございました実務の運用のあり得る姿等も考慮して,先ほど金子幹事から発言ございましたように,なお検討してもらうことにいたしましょう。   それでは,よろしければ引き続いて,終局審判後確定前の申立ての取下げに関して,甲案ということですね。調停をすることができない事項とできる事項とを分けて,取下げを認めないというのと,相手方の同意がある場合には認めるという規律を違えたものとして設けると,ここはいかがでしょうか。この点は甲案でよろしいですか。   それでは,御異論がないようですので,このような方向で決めさせていただきます。   それから,(注1)の取下げの同意の擬制に関する規律を置くものとすることでどうかということですが,これはいかがでしょう。先ほども若干関連する御発言ございましたが,よろしいでしょうか。 ○畑幹事 私は,この種の規律というのは必要であると思いますし,それが民訴と全く同じでなければならないということはなくて,非訟,家事にふさわしく,もう少し柔軟という表現がいいかどうか分かりませんが,少し違う規律にすることで,先ほどから出ていたような問題に対応するということが十分考えられるのではないかと思います。 ○伊藤部会長 誠にごもっともな御指摘だと思います。そうしましたら,ただいま畑幹事から発言がございましたようなことも含めまして,この点については了解いただいたということにさせていただきます。   (注2)の不熱心当事者に対する対応,この点に関する規律についてはどうでしょうか。どのように考えるかということで問題を投げ掛ける形になっておりますけれども,一面,こういう規律を置くことは合理的なように思えますし,また,しかし,余りこういう形でのものを設けることが弾力的手続の運営に障害になるというようなことがもしあるのであれば,御発言いただければと思いますが,いかがでしょうか。 ○豊澤委員 専ら申立人の利益のみに係る甲類の事件,氏の変更とか名の変更とか,こういったものの中で何らかの理由で手続遂行の意欲を失ったまま,取下書を出すわけでもなく,連絡しても応答がないという場合,実体判断にもなかなか熟しているとは言い難いし,かといって裁判所が職権で事実の調査等を行った上で認容か却下かの判断をするほどの実益があるとも思われません。こういったものについては,取下げ擬制のような仕組みがあると,裁判所としては随分助かるところもあるのではないかと思います。 ○伊藤部会長 そういう可能性を開いておくということ自体は有用ではないかという御発言ございましたが,御異論がないものとして扱ってよろしいですか。 ○畑幹事 ここでも同じですが,この種のことというのはあっていいと思います。今お話があった甲類で申立人の利益に専ら係るような場合でありますとか,調停をすることができるような事件について両当事者が不熱心という場合には,この種のことはあってしかるべきであろうと思いますし,ここでも訴訟と全く同じという必要もなく,もう少し違う扱いもあり得るのではないかと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○髙田(昌)委員 これは確認なのですけれども,ここでは,訴訟のように口頭弁論期日とか弁論準備手続期日という形で期日というのが明確になっていないところがありますので,ここで期日という規律を置く場合,どういう期日を想定しているかということを明らかにする必要があるのではないかと思います。その点はどう考えたらよろしいでしょうか。 ○川尻関係官 ここでいう期日というのは,審問の期日を想定しておりまして,当事者,片方であれば片方ですし,両者であれば両者を呼び出してということを考えておりました。 ○髙田(昌)委員 というと,例えば審問ではなくて審尋期日のようなものは含まれないということになるのですか。審尋期日,事実の調査の期日で双方対席ではない場合というのは関係ないのですね。 ○川尻関係官 何か書面を出してくださいというようなことを言って,そのときまでに書面が返ってこなければ,それは要するにそれを守らなかったと,そういうような御趣旨でよろしいでしょうか。 ○髙田(昌)委員 例えば,当事者の一方だけを呼び出して事情聴取をするという期日はあり得ないのですか。双方から口頭で事情を聴く場合というのは,すべてが審問期日で行うわけではないのではないですか。それとも,当事者から口頭で事情を聴くという場合はすべて審問期日で行うという理解でよいのですか。それであれば別に構わないのですが。 ○金子幹事 基本的には,相手方がいれば立会権を認めるということですので,当事者から事情を聴くというときは審問として行い,立会権はあるという前提で考えております。それは先ほどの25ページのウのところで御了解いただければ,そういう形になるのだろうと考えていたものです。 ○伊藤部会長 それでは,基本的な考え方は御了解いただいたものとして,ただ,不熱心な手続遂行の言わば対応をどういうことでとらえるのか。ここでは,飽くまで例えばということで例示がございますけれども,当然のことながら更に検討をしてもらうということにいたしましょう。   他に特別御発言がなければ,次の事項に参りたいと思いますが,第2の3の不服申立て等から,第3,審判前の保全処分に関する手続(総則)までの説明をお願いします。 ○松田関係官 では,説明いたします。   3,不服申立て等の(1)審判に対する不服申立てのア,抗告審の手続の(前注)では,中間試案を維持し,抗告審においては,不利益変更禁止の原則及び附帯抗告に関する規律は特に置かないものとすることを提案しております。パブリックコメントでは,調停をすることができる事項に関する審判については,不利益変更禁止の原則及び附帯抗告を認めるべきであるとする意見もありましたが,調停をすることができる事項に関する審判においても,何をもって不利益というかが事案によって必ずしも明らかでない点で,不利益変更禁止の原則が必ずしも妥当しないことや,家事審判手続においては,後見的見地から裁量的に適切妥当な判断がされることが求められていることから,民事訴訟と同様に不利益変更禁止の原則や附帯抗告を認めるべき特段の必要性はないと考えられます。   次に,ア,抗告審の手続の(カ)抗告があったことの通知では,パブリックコメントの結果等を踏まえ,抗告があったことの通知の規律をどのように考えるべきかについて,それぞれ改めて検討することを提案するものです。   まず,b,調停をすることができる事項についての家事審判事件については,補足説明の1のとおり,パブリックコメントでは,早期に防御の準備の機会を与える必要性が一層高いとして,乙案の本文の規律を支持する意見もありましたが,抗告状の記載等から抗告に理由がないとして速やかに棄却することができる場合においてまで,相手方当事者に防御の準備をさせる必要はなく,むしろ速やかに棄却の裁判をするほうが当事者本人の利益にかなうとも考えられます。抗告される事件の多くが迅速性を特に求められる婚姻費用や養育費の分担に関する事件であることや,本人自らが手続を追行している場合も少なくないことからしますと,相手方当事者が速やかに棄却の裁判を受けることができる場合には,その利益を確保することも同様に必要であると考えられますので,そのような場合には抗告があったことの通知をせずに棄却の裁判をすることができる余地を残すのが相当であるとも考えられます。   また,抗告審において抗告があったことの通知をする場合の方法については,代理人のつかない事件も少なくなく,抗告審においても調停による円満解決の可能性を探るのが望ましい場合もあることなど家事抗告事件の性質を考慮すると,通知の方法については,抗告状の写しの送付に限定するのではなく,一定の例外を設け,抗告状の写しの送付に代わる通知によることができる場合を認める規律とするのが相当と考えられます。   次に,a,調停をすることができない事項についての家事審判事件については,パブリックコメントでは甲案及び乙案のそれぞれを支持する意見がありましたが,補足説明の2のとおり,特に認容審判に対する抗告がされた以上は,抗告人と原審の当事者等との間に一定の紛争性が生じており,原審と異なる判断がされる可能性もあると考えられますから,調停をすることができる事項についての審判事件と異なる取扱いをすべき理由はないと考えられ,通知の例外も通知の方法も,調停をすることができる事項についての審判事件と同様の規律とするのが相当であると解することができます。   このような観点から,抗告があったことの通知の規律についてどのように考えるか,御審議いただきたいと存じます。   なお,前回の部会での審議の結果を踏まえ,原審判を受けた者で原審の手続に利害関係参加をしていなかった者に対しては,抗告があったことの通知をしないことを前提としております。   (キ)陳述聴取では,調停をすることができる事項についての家事審判事件における陳述聴取の規律について改めて検討することを提案するとともに,陳述聴取の方法については審問に限定しないこと,利害関係参加人に対する陳述聴取については中間試案を維持し,利害関係参加人であって審判を受ける者でない者に対する陳述聴取は,必要的なものでないものとすることを提案しております。   まず,調停をすることができる事項についての家事審判事件における陳述聴取の規律については,補足説明の1のとおり,パブリックコメントでは甲案を支持する意見もありましたが,抗告があったことの通知の規律と同様,速やかに棄却することができる場合についてまで相手方当事者に反論させる必要はなく,むしろ速やかに棄却の裁判をすることが相手方当事者の利益にかなうものと考えられますことから,陳述聴取の規律については,抗告があったことの通知の規律と同様にすることも考えられます。   次に,陳述聴取の方法については,家事抗告事件の当事者の置かれている状況が様々であることや,抗告審の土地管轄が広範であることを考慮すると,常に審問の期日で陳述を聴取しなければならないものとした場合には,当事者に過度の負担を掛ける結果になる場合も考えられます。そこで,当事者側の事情も踏まえた柔軟な対応が可能となるよう,陳述聴取の方法については審問に限定しないものとするのが相当であると考えられます。また,必要的陳述聴取の対象については,利害関係参加人であって裁判を受ける者でない者については,原審の当事者及び裁判を受ける者に比して原審判が取り消されることによる影響が相対的に小さいものと考えられ,必要的陳述聴取の対象とすることは迅速処理の要請に反する結果になりかねないとも考えられますことから,中間試案を維持することを提案しております。   次に,(ケ)家庭裁判所の手続の規律の準用では,家庭裁判所の手続を抗告審の手続に準用するについて,抗告があったことの通知及び必要的陳述聴取の規律の例外に当たる抗告事件においては,審理終結及び審判日の規律を置かないものとすることを提案するものです。抗告があったことの通知や必要的陳述聴取の規律の例外に当たる抗告事件は,基本的には相手方当事者の反論等がなくても速やかに棄却の裁判をすることができる場合であり,抗告人に更なる資料提出等を促す必要もないものと考えられますことから,このような場合に審理終結日や審判日を設定する必要はなく,審理終結及び審判日の規律の準用は除外するのが相当であると考えられます。   次に,(チ)原審の管轄違いを理由とする移送の(注)では,原審に管轄違いがあった場合について,必要的取消しの規律は置かないものとすることを提案しております。パブリックコメントでは,必要的取消しとすべきであるとの意見もありましたが,家事審判手続における管轄は,調停をすることができる事項についての審判事件に仮に合意管轄を認めるとしても,調停をすることができない事項についての審判事件については専属管轄であると考えられますところ,自庁処理も認められる緩やかなものであることと解される点で,民事訴訟法第309条が前提としている専属管轄とは性質が異なるものとも考えられます。原審において管轄違いが見逃されていたとしても,当事者には管轄について特段不服がない場合もあると考えられますので,家事審判手続における迅速処理の要請に照らしても,管轄違いがあった場合の原審判の取消しについては,抗告裁判所の裁量にゆだねるのが相当と考えられます。   イ,即時抗告の(ウ)家庭裁判所による更正では,事件を限定せずにこれを認めるものとする甲案と,調停をすることができない事項についての家事審判事件に限ってこれを認めるものとする乙案のいずれを採用するのが相当か,改めて検討することを提案しております。パブリックコメントでは,いわゆる再度の考案の規律に対して全面的に反対する意見もありましたが,少なくとも調停をすることができない事項についての家事審判事件については,その性質上,原裁判所において審判を更正することにより,簡易迅速に事件を処理するという再度の考案の趣旨がなじみやすいと解されます。他方,調停をすることができる事項についての家事審判事件については,双方当事者に対する手続保障を尽くし,審理終結概念も導入して十分な実質審理をした上で審判がされた以上は,内容の変更にわたるような審判の更正を安易に認めるべきではないとも考えられます。このような観点から,再度の考案の規律として甲案と乙案のいずれによるのが相当か御審議いただきたいと思います。   次に,第3,審判前の保全処分に関する手続の2,保全処分の(1)管轄及び保全処分の要件では,審判前の保全処分の管轄及び要件について,甲案の規律を採用することを提案しております。パブリックコメントでは,更正を要する事件や迅速性を要する事件の支障となることから,本案事件の係属を要件とすべきでないとの意見もありました。しかし,そもそも審判前の保全処分において,民事保全手続とは異なる本案事件の係属を要件としたのは,補足説明のとおり,家事審判手続の保全処分と民事訴訟手続上の保全との性質の違いから,本案認容のがい然性の要件の意味が両者間で大きく異なるためであり,民事保全における本案認容のがい然性と同程度のがい然性を認めるためには,少なくとも本案事件が係属していることが必要であると考えられたためであると解されることや,民事保全以外の他の保全手続のほとんどは,いずれも本案の係属を要件としていることとの均衡からも,本案事件の係属要件を外すことには慎重であるべきと考えられます。   また,保全処分の密行性については,密行性を要する保全処分の事案が比較的限定されているため,実務の運用により密行性の要請に対応することも可能であると考えられますし,迅速性については,本案事件の申立ては,保全処分の申立て及びその疎明資料と共通する部分が多く,保全処分の迅速性を実質的に害する要因になっているとは考えにくいと言えます。   このような点からしますと,本案事件の係属を要件としないことの具体的な必要性が高いとまでは必ずしも言えないものと考えられますので,家事審判手続における保全処分の性質から要求されている本案事件の係属要件を維持するのが相当であると考えられます。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,順次審議をお願いしたいと思いますが,3の不服申立て等,(1)審判に対する不服申立ての抗告審の手続,そこでは不利益変更禁止の原則及び附帯抗告ということに関する規律を特に置かないという提案がございましたが,この点はいかがでしょうか。家事審判の裁判の性質からして,こういう原則に関する規律を置くというのはなかなか難しいと思いますし,また実質的にもそれが妥当かということで疑問もあるということで,こういうことで御了解いただけますか。 ○三木委員 不利益変更禁止の原則及び附帯抗告に関する規律を置かないということについては,全く異論はありません。あとは,前から何度か申し上げているこういう資料,あるいは将来法律改正がなったときには,その説明資料等の説明の問題ですが,附帯抗告については,規律があるかないかだけが問題になりますので,そこは結構ですけれども,不利益変更禁止については,原則といっているように,規律がなければこういう考え方がとれないのかという問題は別途ありますので,何をもって不利益変更禁止の原則というかという定義の問題ともなりますが,この前注に書いているように「認めない」という言葉遣いの意味ですけれども,当然解釈上の不利益変更的な禁止,特に政策説的な立場に立っての将来の解釈,運用をもちろん制約することは考えられませんので,その辺の書き振りには御注意いただければという要望です。 ○伊藤部会長 何か金子幹事のほうから補足して説明ありますか。 ○金子幹事 将来の解釈の余地を残すという含みを持たせるようなことは考えたいと思います。もともと中間試案の前注と違い,今回の提案自体このような形にしているのは,事件類型によっては不利益変更禁止の原則の適用はあってしかるべきだというような御議論があることを考慮した結果ですし,その辺は立案の段階でおよそできないという形にはするつもりはないので,そのようなところがにじみ出るように工夫したいと思います。 ○伊藤部会長 それでは,そういうことで,もちろん将来の解釈論等の議論はいろいろあり得ることですし,それを立案ないし立法の段階での説明でどうこうするというようなことは望ましくないと思いますので,そういった辺りのことについては,しかるべく配慮をしてもらうということにいたしましょう。よろしければ,この点はこの程度にさせていただきます。   次の抗告審の手続ですが,調停をすることができる事項についてとできない事項について,それぞれ一応分けた上で,まず調停をすることができる事項についてですけれども,抗告があったことの通知をせずに棄却の裁判をすることができる余地を残すと,そういうことが適当ではないかということで考え方として先ほど説明ございましたが,まずこの点はいかがでしょうか。 ○三木委員 御説明にあったように,速やかに棄却ができる場合にまで通知ないし抗告状の送付がなくてもいいのではないかということ自体は,考え方としておかしいと申し上げるつもりはないのですが,甲案を採用した場合には,その速やかにというところが規定上は表れていないわけですね。したがって,もちろんそういう説明は,仮に甲案を採った場合にするにしても,文言解釈としては,じっくりと審理を尽くした上で棄却するときも通知をしないという運用が可能なように文言上は読めてしまうということを考えると,少なくとも現在の甲案にはそのままではちょっと賛成し難いということであります。   乙案の抗告に理由がないことが明らかなときというほうで賄えない場合がどの程度あるのかということを考えるわけですが,私個人は,この規定で賄える限度では棄却ができますし,賄えないような場合は,やはり一応相手方に抗告審の係属を知らせる必要があるのではないかとは思いますので,甲案でなおその規定振りを工夫できるのであれば,若干その案を伺いたいとは思いますが,そうでなければ乙案だろうという気がいたしております。 ○増田幹事 理由は非訟のときにも述べましたけれども,ここはやはり乙案にしていただきたい。確かに,迅速に棄却できる場合があるということですけれども,その場合には相手方の反論の期間を短くするなどの運用で賄えるのではないかと考えます。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○鈴木委員 非訟事件一般のところで家事抗告を例にしてお話ししましたので,それを繰り返しませんけれども,非訟事件一般の議論のときには,私自身どういうものを一般型と考えていいか分からないところがありまして,例えば前回,会社非訟事件について,通知等が必要ではないかというお話が出まして,私自身もそうだろうなという気がいたしました。ただ,会社非訟事件は,私,3年間高裁におりまして,3年間で10件やったかやらないかぐらいでございますし,借地非訟の抗告もその程度だと思います。一方では家事抗告件数というのは東京高裁全体で年間1,000件ぐらいあると思います。もちろん家事抗告もいろいろなパターンがございまして,遺産分割のような当事者主義的に考えていいものもありますが,毎回例に出しております養育費とか婚姻費用,あるいは先ほど例に出ました年金分割といった事件も,ちょっと件数は分かりませんけれども,かなりの割合を占めているわけであります。結局,何を原則として何を例外にするかというところで,裁判所としては,もちろんそれをうまく使い分けていくというところが必要なのだろうと思いますが,実際にやっている者としましては,法律上は例外のものがかなりの数を占めてくるというのは,かなり気になるところがあるわけでございます。   本日のテーマは家事抗告ということで,正にそれが問題になってくるわけですけれども,例えば養育費とか婚姻費用というのは,むしろ従前,急ぐ必要があるのに,いろいろな細かな問題があって遅れていた。それを最近,算定表というものを定着させようと,それによって迅速化を図ろうということが進められておりまして,かなりその成果が上がっているわけでございますが,やはりそういった簡易迅速というもの,あるいは考え方によっては暫定的な判断が必要とされる事件について,手続をきっちり決めることによってかえって遅くなるということになりますと,悪女の深情け的なことになってしまうのではないかという気がするわけでございます。   私も,どちらがいいかというよりは,その例外というものがどのように定められるかというところの問題かなという気がいたします。先ほど「速やかに」という表現がありましたけれども,速やかにというのも分かったような分からないような部分がございまして,気持ちとしては親近感はあるのですが,書き方としてそれが適当なのかどうかということがあります。結局はどの程度急ぐかという問題と,言葉が適当かどうか分かりませんが,事案の軽重といいますか,金額的なことなどを考えた場合に,その事案の軽重というものとスピードとの関係,先ほども申しました借地・商事非訟等,大きいのは何億という単位の問題になる事件と,月々何万円の支払を求めている,ただ,当事者にとってはそれが切実な問題で早く結論が欲しいという事件,それぞれについて,相手方の立場を考えたときにも果たしてどちらがいいのかという問題なのだろうと思います。私も甲案ということですけれども,例外規定の定め方は別でもいいなという気がしております。   以上でございます。 ○伊藤部会長 分かりました。   どうぞほかの委員,幹事の方,御意見をおっしゃっていただけますか。 ○増田幹事 1点だけなのですけれども,急ぐと言われている,例えば婚姻費用の事件などにつきましては,通常は原審の審判のときに保全処分が同時に出ておりますので,抗告審の決定が出るまで全く支払われないということではないわけです。ですから,急ぐのは急ぐのですけれども,そこまでもともとの申立人のほうが待ってはおれぬという状況ではないということは御了解ください。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○金子幹事 増田幹事の御意見についてですが,必ずしも保全が先行して出されているかというと,むしろ保全がされているケースは少ないということを示す資料を見たことがあるのですが,その点はもしどなたかが御存知であれば,議論の前提として把握しておければなと思うのですが。 ○伊藤部会長 今の金子幹事からの質問に関していかがでしょうか。実務を御担当の方で何か。 ○長委員 私も件数を調べたわけではありませんけれども,感覚としては,金子幹事がおっしゃったような印象を持っています。もちろん,保全がついているものもありますけれども。 ○伊藤部会長 ちょっとそこは事実認識の問題ということですから,より正確には別に調べる方法もあるかと思いますので。   そうしましたら,乙案を支持する意見が比較的多いようですが,しかし甲案に関しても,このままの甲案であればちょっと問題があるけれども,何らかの形での修正ができないかというような御発言もございましたので,更に事務当局で甲案,乙案の要件などを比較しながら検討してもらうということでよろしいですか。   調停をすることができない事項についての審判についての甲案,乙案に関してもよろしいですね。   それから,抗告状の写しの送付によることに限定するかどうかに関しては,ただし書のような規律を置くものということでの説明がございましたが,この点はいかがでしょうか。 ○増田幹事 この点については,特に反対するものではありません。   しかし,申立書よりも抗告状というのは無内容でして,抗告理由が余り書いていないということと,書いてあったとしても,非難されるのは相手方ではなくて原裁判所であるということから,ただし書をおいても余り意味のない話かなとは思うのですが,特に反対するものではありません。 ○伊藤部会長 そうですね。ということですが,限定するほどの必然性はないだろうという趣旨であれば反対ではないということですが,ほかの方はいかがでしょうか。   もしよろしければ,この点はここで示されているような考え方で了解いただいたということにしまして,(キ)の陳述聴取から再開後に始めたいと思いますので,休憩を取らせていただきます。           (休     憩) ○伊藤部会長 それでは,再開いたします。   35ページの(キ)の陳述聴取の項目のところからですが,調停をすることができる事項についての審判事件において,いずれの考え方を採るべきかということでの問題の投げ掛けがございますが,ここはいかがでしょうか。 ○山本幹事 基本的には,通知の先ほどの御議論とパラレルな話と思っておりまして,私も先ほどのところで要件の問題と思いますので,ここでも今日は二つの案になっていますけれども,何かうまい要件があればというぐらいの感想です。 ○伊藤部会長 分かりました。  ほかの方はいかがでしょうか。 ○増田幹事 これも理由は多分非訟のところでもお話ししたと思いますが,通知のときとパラレルで甲案ということになります。 ○伊藤部会長 分かりました。そういたしますと,今,増田幹事から甲案というお考えが示されましたが,乙案のことも踏まえて,先ほど山本幹事からも発言ございましたように,どういう要件の下にということで,なお甲,乙両案という対立でないような考え方も検討の結果あり得るようにも思いますので,この点はよろしいですか。先ほどのところと似たようなことになりますけれども,事務当局で検討してもらうようにいたしましょう。   そして36ページの,a及びbのいずれの家事審判事件についても,陳述聴取の方法を審問に限定しないとか,利害関係参加人に対する陳述聴取は必要的なものとはしないということの提案がございますが,ここはいかがでしょうか。 ○古谷幹事 何回か議論には出てきておりますけれども,かなり遠隔の地の方,新潟とか佐渡島というふうなケースで東京高裁に抗告したという場合に,その事案が婚費でそれほど金額も高くないという場合に,片や仕事を休んで行かなければいけない,交通費も掛かるというところもございまして,その負担感というのは大きいのではないかと思われるところでございます。また,実際電話会議システム等は代理人がついていない場合の利用というのは困難なところもございますので,審問の形に限定するというのは反対でございます。 ○伊藤部会長 古谷幹事からは,ここで示されている考え方が合理的なものではないかという御発言ございましたが,特段……,どうぞ増田幹事。 ○増田幹事 原審の立て方にもよるのですけれども,ここでも審問を原則としていただきたいということはもちろんですが,原審で原則的に審問が必要的なものとされるのであれば,抗告審で審問期日を必ずしも経なければならないものでもないであろうかと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。そうしますと,先ほどの原審における陳述聴取や審問の申立権との関係で,それがしかるべくところに落ち着いた段階で,この点についてももしそれとの関係で合理的であれば,ここに掲げられたような考え方で御了解いただいたということでよろしいでしょうか。   それでは,その点は今申し上げましたようなことにいたしまして,次に(ケ)のほうに行ってよろしいですか。ただいまの議論の言わば延長線上のようなことですけれども,通知や必要的陳述聴取の規律の例外に当たるようなものに関しては,審理終結及び審理日の規律の準用を除外するという考え方が示されておりますが,この点は何か御意見ございますか。 ○増田幹事 若干の懸念だけ申し上げておきます。   例外のほうを広く取る考え方に立った場合,裁判所の方は迅速に処理すべき場合だとおっしゃっているのですが,現行の運用などを考えますと,例外のほうで,かつ,こういう規律が除外されますと著しく遅延するという可能性があります。そういう懸念だけ申し上げておきます。例外のほうを狭く取る考え方であればこれで結構です。 ○伊藤部会長 分かりました。そうしますと,これも例外のほうの要件をどう設けるかということとの関係がございますので,そちらがしかるべく形で決着を見るということが前提になりますけれども,このこと自体は特段御異論がないものとして承ってよろしいですか。   それでは,そのように御了解いただいたものといたします。   次の(チ)の原審の管轄違いを理由とする移送うんぬんという項目の関係で,(注)のこととの関係で必要的取消しの規律は置かないということでどうかという説明がございましたが,ここはいかがでしょうか。特段御異論はございませんか。   それでは,ここは御了解いただいたものといたします。   次に,38ページのイの即時抗告で再度の考案の関係ですが,甲案,乙案いずれを採用すべきかという問題の提起がございますが,ここはいかがでしょうか。乙案のようなただし書を設けることについて。 ○三木委員 乙案のような形にすることに賛成します。理由は,補足説明に書いておられることで,大体私が申し上げたいことは尽きているかと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。こういったただし書を含めた規律を内容とする乙案支持の御意見ございましたが,ほかの方はいかがでしょう。 ○山本幹事 私も,三木委員に賛成です。前に申し上げた,基本的にここに書かれてある理由のとおりと思っていますが,民事保全法において審理終結等の概念を導入して十分な手続保障があるということを前提として,保全抗告については再度の考案をしないことにしたという経緯からすれば,ここでも同様のことが妥当するのではないかと思っております。 ○古谷幹事 各庁の意見照会の結果を見ますと,甲案を支持するというふうな意見が多数ではございました。ただ,乙案支持というのも一定数ございましたところです。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○増田幹事 従来いずれも反対であって,違和感のある規定ではございますが,乙案であれば了解いたします。 ○伊藤部会長 そういたしますと,若干ニュアンスの違いはございますけれども,乙案の考え方を結論として支持される,あるいは反対しないという御意見が多いようですが,他に特段の御発言がなければ,一応この場での多くの御意見が乙案の考え方であるということで取りまとめたいと存じますが,よろしいでしょうか。   そういたしましたら,次の第3,審判前の保全処分に関する手続(総則)の39ページの管轄及び保全処分の要件で甲案,乙案とありまして,要するに本案係属を前提とするかしないかということでの考え方の分かれ道で,原案としては,先ほど説明がございましたような理由から甲案でいかがでしょうかということですが,この点,どうぞ御意見をおっしゃってください。 ○杉井委員 以前から私は本案係属は必要ないという意見です。そういう意味で,やはり乙案を支持いたします。補足説明にあるように,民事の保全と家事の保全というのは違うのではないかという御説明がされておりますが,確かに財産分与にしてもその他でも形成権ではありますけれども,しかし財産分与にしても,あるいは婚費にしても養育費にしても権利が全くないというわけではなくて,その金額とか,あるいは財産分与で言えば分与の方法とか,そういうことは確かに本案で最終的に裁判所の審判という形で決着が着くものでありますけれども,権利が全くないというわけではないと考えます。請求権という言葉では表せないと思いますけれども,権利がないというわけではないということがまず一つです。   それと,いつも申し上げているのですが,やはり保全処分というのは,本案と別に保全処分があるということは,これは緊急を要する事件について迅速な裁判所の判断をする,その必要性があるからそういう規定があるわけです。ところが,現実の運用では,やはり本案係属ということが要件になっているものですから,結局保全処分と本案とが並行的に審理されます。私の今までの経験の中で,本案とは別に保全処分が先行して,保全処分の審判が出たというのは,実は子どもの虐待の事件で,父親が親権者だったのですが,子どもが母親のところに逃げてきて,それで父親から母親への親権者変更の申立て,これを本案にして,そして母親を親権の職務執行代行者に選任する,この職務執行代行者の選任については保全でやりました。これは本案よりも,本当にこれは緊急を要したものですから,ほんの二,三日で審判を頂きました。これは,そういうことでこの保全の意味があったと思っています。   しかし,婚費やその他のものについては,今現在も子の引渡しの事件をやっておりますが,基本的にこれは本案と保全処分とが全く並行審理です。やはり本案の審理と並行するということは,迅速性の概念が違ってくると思うのですね。確かに裁判所としては,普通の本案の審理よりはかなり迅速にやってくれていることはよく分かります。よく分かりますけれども,しかしそれは数か月単位の審理ということになるわけで,先ほど言った職務執行代行者の選任は,それは二,三日の審理で出していただきましたから,そういうのに比べたら,全然その迅速性が違うわけです。   それで,主に子どもの権利にかかわっている弁護士から聞きますと,最近,医療ネグレクトなどで,つまり入院や手術が必要なのに親がそれに同意をしないということで,今言った職務執行代行者の選任の保全処分を取る必要があるケースがあります。このケースについては,本当に緊急ということで二,三日でぱっと,あるいはその日のうちに審判が出るということを聞いております。だから本当に緊急な事案であれば,やろうと思えば本案と切り離してやれるわけなんですが,実際にはやれていないということを見るときに,私は,やはり本案係属ということが要件になっているがゆえに,結局並行すればいいというふうな意識に裁判所がなっているのではないかとつくづく思います。   でも逆に言いますと,保全処分を先行させたときに,今度,現実に本案のほうは棚上げというか,あるいは最終的には目的が達していれば,特に先ほど言った医療ネグレクトの場合などは,もうこれは保全で目的が達していますから,本案については取下げという形で解決することもたくさんあるわけです。ですから,そういう意味で必ずしも本案の係属を要件にする必要はないのではないかと思います。   ですから,やはり保全と本案というのが,緊急性についても何にしても違った要請から申立てがされているのだということを御理解いただきたいと思います。あと言われている本案の申立て,つまり本案の審判の申立てをやればいいのだから,申立てだけをすればいいのだから,それは簡単ではないか,申立てさえすれば保全は申立てできるのだから,それでいいのではないかとおっしゃいますけれども,そうではなくて,私が今るる述べているように,本案の申立てが面倒だとかそれが大変だとか言っているわけではないのです。やはり本案係属が要件になっていることが,全体的に保全処分の目的からして緊急性,迅速性というものに応じられていないと思います。そういう意味で本来の保全処分という目的からするならば,やはり本案係属というものは要件とすべきでないと思います。 ○増田幹事 同じく乙案でございます。この補足説明の中には,本案審判において一定の具体的な権利義務が形成されるがい然性が必要となると考えられると,それを認めるためには少なくとも本案審判事件が存在することが必要であると考えられるとありますけれども,本案審判事件が申し立てられたからといって権利義務が形成されるがい然性が認められるわけではないし,逆に,申し立てられていないからといってがい然性が認められないわけではないと思います。これは,その個々の事件での疎明の程度の問題にすぎないと考えられます。   具体的に考えても,婚費などで双方の収入資料が出ていて,かつ算定表により算定できるというようなケースで,本案審判を待たなければ保全処分が出せないというようなことは非常に考えにくいことです。また,杉井委員が述べられたような虐待や医療ネグレクトのケースでは,逆に,保全処分が出てしまえば本案が必要でなくなるようなケースでして,それほど緊急性を要するものに,わざわざ本案事件の申立てをしなければならないのかという必要性が逆に問われるところだと思います。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか。理論的な問題と,それから杉井委員がおっしゃったような実務の運用が,本案係属を要件とすることによって,言わば本案のほうに引きずられてしまうというようなことがあるのかどうか,そういう実務運用の問題,両面があるように思いますが,どうぞほかの委員,幹事の方。 ○長委員 まず,医療ネグレクトのことが指摘されましたけれども,児童虐待というのは大変重大な問題なものですから,裁判所のほうも迅速処理を心掛けておりまして,短い期間で審理をするようにしていますが,疎明資料によって明白に裏付けられた事例についてそういう結論が出されていることになるわけであります。本案の審理についても,これをやらなくていいということではないのですけれども,子どもと親との再統合の問題があるので,実務上は今おっしゃられたような形で本案を取り下げるということもされています。しかし,そのような運用のままでよいかどうかは別のことであります。   それ以外の養育費とか婚姻費用の問題でありますけれども,これらについて,確かに本案と同一歩調を取られる例はあると思います。しかしながら,それは緊急性の問題であるとか,それからどういう形で決着するのがその事案についてふさわしいのか,そういうことなどが総合考慮されることによって,そういう事態になっているのではないかと思います。現に,本案とは別に早く保全処分を出される例というのもありまして,一つのことをもって全部が一緒だという議論は,これは不適当な議論でありまして,仮に不都合な実例があったとして,だからといってこういう制度を設けることがおかしいということに,つまり甲案がおかしいということにはならないのでありまして,保全には保全にふさわしい審理方式を採って迅速処理をしている裁判官も多数おりますし,そうでないものについては是正されていけばいいわけであります。   家事非訟事件として形成されていかなければいけないものについて,一方だけから事情を聴いて直ちに結論が出せるようなものはそれで足りるのですけれども,双方から事情を聴いて進めなければいけないものについては,ある程度の時間が掛かるということはあり得るところなものでして,それがゆえに,幾つかの実例を引かれることによって甲案が不当であって,乙案でなければいけないという結論に結び付かないのではないかと考えています。むしろ家事審判事件で取り上げる権利の性格というものからすれば,理論的には甲案のほうが優れているのではないかと,そのように考えております。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか。一定の事件について,特に保全の関係で迅速な判断が必要になる場合があると,これは恐らく認識は一致しているところだと思いますが,そのことが甲案,乙案という選択にどう結び付くのか,この辺りの認識の違いが委員,幹事の間にあるように思いますが,どうぞほかの方,御発言ください。 ○杉井委員 理論的なこととおっしゃいますが,これも前にも述べたことですけれども,財産分与を被保全権利とする保全処分について,全く調停前に飽くまでも民事の保全処分,離婚がまだ成立していない場合に民事の保全処分という形でやることはよくあるわけですよね。その場合には,本案係属は前提要件でない。ところが,もう離婚成立してしまっていて,あと財産分与についてだけの審判が残っている場合に,それは審判前の保全処分ということで本案係属が要件になるというのは,これは私はどうして理論的にどうこの違いを説明されるのか,全然理解できないのですけど。 ○伊藤部会長 なるほど。その辺りも民事保全とこちらの保全との関係をどう理解するかという理論的な問題にもかかわってくるところですが。 ○長谷部委員 先ほど長委員がおっしゃいましたけれども,本案の申立てを要求したから保全の審理が遅延するかというと,それは運用の仕方によるのだと思いますので,必然的な関係はないのだろうと思います。ただ,私は結論としては乙案を支持するものでありまして,すべて甲案で割り切れるのだろうかと,その点には疑問もあると思っております。それは,杉井委員もおっしゃいましたけれども,本案の申立てを必ずしも前提としないほうが,紛争処理の在り方として適当な場合もあり得るのではないか。すべてだとは申しませんけれども,甲案で例外がないということになると,いささか問題がある場合があるのではないかと考えております。   具体例は子の監護をめぐる処分なのですが,例えばまだ別居中で離婚が成立していない夫婦の一方が子どもを監護していて,両者間で調停が係属中であるとか,あるいはこれから調停をしようというとき,離婚自体にはそれほど争いはなく,離婚後の子の親権だとか監護権だとかについて争いがあって,それを調停で解決しようとしているときに,一方が子どもを連れ去ってしまうとか,あるいは現在監護している親がどこか外国に行ってしまうおそれがあるという場合に,このままでは調停の話合いが不可能になってしまう,それは困るではないかということで,取りあえず子どもを元に戻して話合いをする。そういう状態を考えたときに,甲案によるといきなりそこで審判の申立てをすることになってしまいます。本来は,まずは調停で話合いをした上で審判というのが適当なのではないかと。そういう意味で,本案の申立てを常に要求するのはよろしくないのではないかと思うわけです。   パブコメに対する裁判所のほうからの御意見にもそういった内容のものがありまして,109ページ,乙案に賛成というところで,婚費の仮払い,財産分与のための仮処分のほか,子の監護に関する事件が挙がっております。申立人あるいは相手方の意図も本来は調停でということだったのが,子どもの監護をめぐってはいろいろなことがあるだろうと思いますので,先ほどのようなことが起きてしまったときに本案としての審判の係属を要求するというのはいささかどうかなと思います。私は,すべて要求しないと言っているのではなくて,本案係属が要求されない場合もあってしかるべきだという意味で,乙案に賛成でございます。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○長委員 ただいま御発言の,調停の最中に子どもをどちらかが連れ去ってしまった,あるいは外国に連れていってしまうかもしれない,こういう事態は話合いの前提を破壊してしまうような行為でありますから,調停を不調にしなくとも,その原状回復のために直ちに本案を提起していただいて,子の引渡しの保全処分を求めていただければ,もしそれが全く違法に,例えば暴力的に連れ去ってしまうようなことであれば,むしろ早期な原状回復が必要でありますので,保全処分の審判を出すことになると思います。調停が係属したままでも,本案審判の申立てができますから,今の例は,保全処分の申立てについて本案を前提としない手続にすることの理由にはならないのではないかと考えます。 ○伊藤部会長 分かりました。一方で,本案の申立てを前提として要求することが実際上,保全処分の迅速な運用を阻害するという御意見があり,他方,そういうことは仮にあるとしても是正されるべき問題であって,本案の申立てを要求しないことの根拠にならないという御意見があり,結局この審判前の保全処分と民事保全との関係をどう考えるかとか,そういう問題につながるのかなと思いますが,先ほど長谷部委員から御発言いただきましたが,研究者の委員,幹事の方,今の点はいかがでしょうか。 ○山本幹事 大変難しい問題だと思うのですが,私は前にも発言したかと思いますが,甲案ということでよいのかなと思っています。やはりこういう家事審判手続上の特殊保全処分の最大の特色は,本案と保全との間の密接な関連性というものかなと思います。つまり,本案なくして保全処分だけが長期にわたって存続するというような事態は想定されないものであるということかなと思います。もちろん民事保全でも起訴命令等,当事者のイニシアチブでそのような事態を打開する方途は認められているわけですけれども,家事の保全処分は当事者のイニシアチブに任せるということではなくて,保全処分と本案との一体性というものが制度的に確保されるということが理論的に必要なたぐいのものかなと思っているということです。   財産分与のお話は,確かに一つのあれだとは思うのですけれども,ただ,後の手続が人事訴訟という訴訟手続なのか,家事審判という非訟手続なのかということは違ってくるのではないかと思います。やはり訴訟を提起するというのは相当の準備が必要であって,それなりの時間が準備に掛かるということを前提とすれば,本案を提起せずに,まず保全処分を発令するという必要性は,より大きなものがあるような気がするということです。   それから,迅速性の問題につきましては,これは長委員も言われましたけれども,やはり運用の問題で,必ずしも本案に引きずられて遅延するという現象は,本案の提起を前提としたから起こるということでもないというのは,かつての民事保全の労働仮処分の運用などを見れば,本案と切り離されていてもそういう遅延という事態が起こることはあり得るでしょうし,逆に本案の申立てを前提としても,倒産法上の保全処分がそうであるように,極めて保全処分として迅速な運用がなされているという例ももちろんあるわけで,杉井委員が言われる保全は本案とは違った要請によるということの意識が徹底されるという必要性があることは間違いないと思うのですけれども,それは必ずしもこの甲案か乙案かというところに制度的に,理論的に結び付くものではないのではないかという印象を持っています。そういう意味では,私は甲案でよいのかなと思っています。   ただ,長谷部委員が言われたように,すべての事件で本当にそうなのかということ,財産分与等に基づく仮差押えというようなものは,確かに本案との密接関連性ということからすると,やや異質なところもあるような気もしておりまして,そういう意味ではちょっと迷う部分はあるのですけれども,基本は甲案でよいのかなという,それぐらいの意見です。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。   三木委員,いかがですか。 ○三木委員 長谷部委員,山本幹事がおっしゃったところでありますけれども,私の結論から申しますと,家事審判事件といっても,やはり事案によるのではないかという気がいたします。山本幹事が主として前提にされていた本案との結び付きが強い事件というのは少なくないと思いますが,他方で先ほど最後に挙げられた財産分与と財産の仮差押えは,私は普通の訴訟事件の本案と保全との関係と何ら変わらないという気がいたしますし,それだけかというと,今ここで網羅的に訴訟のほうと近い例をすべて挙げることはできませんけれども,やはりほかにも幾つかあるのではないかという気はいたしております。   したがって,望むらくは,どちらかを総則的に定めるにしても,いずれを総則にするにしても,各則的に本案を必要としない保全というのを定める,あるいは逆は,恐らく本案と連動しているほうが多いのだろうと,私,全体をチェックしたわけではありませんけれども,感覚的には思いますので,本案との結び付きを要しないものというのを各則的に挙げるという処理が,事務当局がそれをするというのはややお手間とは思いますが,そういう可能性を探るのが一番いいのではないかと現段階では思っております。 ○伊藤部会長 分かりました。   ほかに御発言はございますか。 ○栗林委員 先ほどの長委員の発言の中で,調停途中の場合でも保全が必要な場合は審判申立てをすればいいということで,その話は前からあったと理解しておりますが,今条文を見る限り,なかなかそう理解するのが難しいのではないかと。ですので,これは何か文献とかを読めばそういうことが分かるかもしれませんけれども,法律の条文を普通に読んだ方がそういうふうな理解はちょっとし得ないと思います。ですので,調停手続中の人が保全処分ができるというのは,ちょっと普通には理解が難しいのかなと思っています。 ○金子幹事 いろいろ御意見ありがとうございます。保全の審理と本案の審理,どうしても重複する部分がありますので,制度設計する場合に,重複しても,やはりそれを先行させるだけの意味が強いものと,それほどでもないものというのがあるのかなというふうな気がしまして,訴訟の場合は,先ほど山本幹事御指摘のとおり後ろが重い手続でありますし,また保全の手続と訴訟の手続では,公開,非公開の問題等,あるいは厳格な証明の要否等前の手続と後ろの手続がもともと違うものですから,資料的に重複する可能性が高くても,手続の構造自体が別なので,重複してするというのがやむを得ないというか,必然なのだろうと思うのですが,家事の保全の手続と家事の本案の手続というのは基本的な構造が同じものですから,両方を事実上並行してやっているという実務は,恐らくその辺の工夫からそうなってきているのではないかという気がしているところです。   恐らく杉井委員がおっしゃっているような,保全が出て直ちに本案も出るというのは,本案のほうが早まっているのではないかという気がしているのですが,家事の場合は,被保全権利といっても金銭貸借があったということが疎明されればいいというのとは違って,形成されて初めて生じるものなので,そこは例えば財産分与にしても,双方からの財産を持ち寄ってみないと幾ら分与すべきかが分からないということがあったり,それから何を分与するのかについての疎明がないと思うのですが,そのためには更に審理が必要になるなど,保全処分の要件を満たすための審理というのが相当程度本案と重複しているところが出てくるのだと思うのです。   養育費の問題にしても,最低2万円はということで仮処分が出せるのかというと,この辺はまた難しいところがあって,双方の収入なりを突き合わせてみることが必要であるとすれば,算定表で実は本案が出せるという状況になってしまうこともあるものですから,保全と本案のタイミングがほぼ同時になってしまうことがあるのも,そういうところもあってのことではないかと思います。   そういうことを考えますと,なかなか保全の手続だけを先行するのがいい事件というか,そうすべき事件というのがどれだけあるのかなという気はちょっとしているところです。 ○増田幹事 これも運用ではないかと言われる可能性はあるのですけれども,同質の審理が並行して行われるというのは,私の認識ではちょっと違います。実務的には,一般に乙類審判事件でも,代理人としては普通はまず調停を申し立てて不調なら審判に移行するという方法を採ります。ただ,保全が必要な場合には,わざわざ審判を申し立てて保全処分を申し立てる。その場合に,本案の審判事件のほうはどこへ行くかというと,ほとんどの場合付調停がなされるということになるので,同質の手続が並行して進むというのが一般的ではないだろうと思います。   ただ,もちろんこれは先ほどから言われているように,それは運用ではないかと言われればそれまでの話なのですけれども,本案のほうは当事者も裁判所も調停でまず進めるのが望ましいと考えるようなものについても,わざわざ保全を取るために審判を申し立てるというのが実情だということは御理解いただきたいと思います。 ○道垣内委員 よく分からないままに発言することになり,大変申し訳ないのですけれども,長谷部委員が出された例に関する長委員のお話というのは,なるほどなとは思ったのですけれども,例えば,別居後,配偶者が生活に困っており,婚姻費用の支払を求めたい,あるいは,離婚後でもよいのですが,子どもの養育費が支払われない,という状況があるとします。このような状態のときに,もはや調停は成立する余地はなく,調停の前提が崩れたということで,審判を申し立てられるのでしょうか。先ほどの長委員の出された例というのは,正に海外に連れていかれてしまって,その後話合いをしても意味がないような状態になるのだから,もはや調停の成立可能性は尽きているというふうな形で,申立てだってできるはずではないかという話だったのですが,片方の生活が困っているというときには,別に協議あるいは調停が可能であるという状態は喪失していないのではないかという気がするのです。そうすると,そのときにはどうすればいいのだろうかということが,ちょっと考えていて気になったのですが。 ○伊藤部会長 長委員,もしよろしければ補足していただけますか。 ○長委員 今おっしゃった例は,調停が係属しているのですね,最初に。 ○道垣内委員 はい,それで結構です。 ○長委員 それで保全処分を申し立てたいと,そのためには本案が必要であると。調停が係属して,すぐにそれが不成立という状態ではないけれども,保全処分のために本案として「養育費を支払いなさい。」,あるいは「婚姻費用を支払いなさい。」という申立てが出せるかということですか。それは出せます。調停と審判の両方が存在できます。 ○道垣内委員 それは,現在の家事審判法18条の調停前置というときの調停というのは,調停をやればいいということであって,別に訴えを提起するに当たって調停の前提が崩れるということは不要であるということなのでしょうか。 ○長委員 乙類審判の場合には調停前置主義というのはありませんので。 ○道垣内委員 なるほど,それはそうですね。それだから構わないということですね。それでは,実体法上の問題として,例えば財産分与について,これは非常に形がい化している要件ですからどうでもいいのですが,民法768条2項の文言上は,「協議が調わないとき,又は協議をすることができないとき」に,家庭裁判所に求め得るということになっているわけですね。その文言からだけいきますと,協議が尽きないと申立てはできないのではないかという感じもするのですが,実体法は,そこまで厳格に「協議が調わないとき,又は協議をすることができないとき」という要件を解さなくてよいということでしょうか。 ○長委員 そこまで細かく考えたことないのですが,調停と協議とは違うと,そう考えれば足りるような気がします。 ○道垣内委員 ちょっと聞き取れなかったのですが,調停と何が違うとおっしゃったのですか。 ○長委員 協議ですね。私人間の協議の問題ですよね。 ○道垣内委員 私人間の協議ですね。 ○長委員 調停手続というのは私人間では協議できなくても,話合いで解決するために,裁判所の手を借りて合意をするのですけれども,それと私人間の協議とは違うのではないですか。つまり,裁判所外の交渉と裁判所を活用しての調停手続とは同じに考える必要はないように思います。 ○伊藤部会長 そこはどうでしょうか,議論はもちろんあると思うのですけれども,ここでその点を詰めないとという話でもないと思いますので,適宜また意見交換をしていただいて…… ○道垣内委員 別に詰めなくてもよい話ではないと私は思っておりまして,協議が尽きたときに初めて家庭裁判所に処分を請求できるというものだとしますと,その前に保全処分をしなければならない場合があるとするならば,それは実体法上は訴えが提起できない段階で保全処分をしなければならない状態が存在するということになりますので,結論に影響を及ぼす気がしているのですけれども。 ○伊藤部会長 もちろん,議論の意味は私なりに理解しておりますけれども,今,道垣内委員が最後におっしゃられたように,結局先ほど来の議論を伺っておりますと,被保全権利という形での実体権の存在を前提としている民事保全と,それからここでの審判前の保全処分の関係をどう考えるかということが理論的には一つの考え方の分かれ道で,杉井委員がおっしゃるように,財産分与のようなものについては実体法上の権利などとはちょっと別だけれども,少なくとも一定の法律上の地位を考えることができるのではないかというような考え方に立つと,理論的にも乙案のような考え方が妥当だということになるでしょうし,しかしそれは一つの考え方で,やはり甲案を支持する御意見も強いようですので,なかなか本日ここでいずれかを決めるということは難しいように思いますから,事務当局も難しい作業だと思いますけれども,もう少し検討を続けていただければと思います。   それでは,次の家事審判及び審判前の保全処分に関する手続(各則)から6の婚姻に関する審判事件についての説明をお願いします。 ○松田関係官 では,説明いたします。   6,婚姻に関する審判事件の(1)管轄では,甲案又は乙案のいずれの規律を採用すべきかを改めて検討することを提案しております。パブリックコメントでは,甲案に賛成する意見と乙案に賛成する意見とに分かれており,また補足説明のとおり,甲案及び乙案のそれぞれにメリット及びデメリットの双方があるため,直ちにどちらの規律が相当であるとは言い難い状況にありますが,いずれの規律を採用するのが相当か,御審議いただきたいと存じます。   (2)手続行為能力では,子の監護に関する処分の審判事件における子の手続行為能力について,中間試案を維持し,財産上の給付を求める審判事件を除外するものとすることを提案しております。パブリックコメントでは,子の監護費用の分担等の経済的事項についても,子の手続行為能力を認めるべきとの意見がありましたが,経済的事項に関する審判事件において子に手続行為能力を認めるのは,強行法規と解されている未成年者の行為能力に関する民法の規定とそごすることになり,また民法上,子の監護,教育の方法等の決定は,親権者又は監護権者の裁量にゆだねていると解されますので,その監護,教育のための費用をいかに賄うかも当該親権者又は監護権者の責任で行うべきことと考えられます。子の監護費用の分担等の事件においても,子の意思を可能な限り尊重する必要があると解されますが,監護費用の分担等の審判事件においては,実務上,親権者又は監護権者双方の収入額が大きな判断要素となっていることも併せ考慮しますと,民法上の規定に反してまで子に手続行為能力を認めることは相当でないと考えられます。   次に,(4)給付命令等のウ,子の監護者の指定その他子の監護に関する処分の審判では,子の監護について必要な事項の例示として,面会交流や監護費用の分担等の事項を明示することを提案しております。パブリックコメントでは,子の監護について必要な事項を具体的に例示することに賛成する意見が多く寄せられましたことを踏まえ,実務で申立ての多い面会交流や監護費用の分担などの事項については審判事項であることを明確にするため,法文上にこれらの事項を例示するものとするのが相当と考えられます。   (5)即時抗告のイ,子の監護者の指定その他子の監護に関する処分についての審判では,子の即時抗告権を認める規律は置かないものとすることを提案しております。パブリックコメントでは,審判の結果が子に直接大きな影響を与えるものであることを理由に,子の即時抗告権を認めるべきとの意見もありました。しかし,子自身による即時抗告は,子を父母間の紛争の矢面に立たせることになるため,子の福祉を害し,又は将来的な親子関係に悪影響を及ぼすおそれが高いと考えられます。子の監護者の指定等の審判の結果により,子は重大な影響を受けることから,その意思を十分に尊重した上で審判がされるべきことは当然と考えられますが,そのような手続を踏んでいったん審判がされた以上,これを受け入れるか否かの判断は,子の親権者又は監護権者に委ねるのが相当であると考えられます。   なお,このように子に即時抗告権を認めるものとはしていないことから,子に対する審判の告知の規律も置かないことを前提としています。   (6)その他では,(注1)及び(注2)のいずれも特段の規律を置かないものとすることを前提としております。   (注1)については,パブリックコメントでは明文の規定を置くべきであるとの意見もありましたが,すべてについて明文の規定を置かなくとも,既存の規定の趣旨から類推適用により同じ取扱いをすることができますので,あえて明文の規定を置く必要はないものと考えられます。   (注2)については,パブリックコメントには規律を置く方向で検討すべきとの意見も少なくなく,具体的な提案も寄せられました。しかし,文書提出命令などの手段で資料を収集することが考えられること,過料の制裁を前提にした開示義務を課す場合には,開示義務の範囲を明確にする必要がありますが,その範囲を一律に定めることも事案に即さず不相当であると考えられることなどから,現時点では特段の規律を置かないものとするのが相当と考えられます。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,婚姻に関する審判事件で,まず(1)の管轄ですが,ここはパブリックコメントの結果も分かれておりまして,事務当局もどちらとも決めかねているということなものですから,甲案,乙案のいずれが適当かをこの場で御意見をちょうだいした上で,今後の考え方を決めていきたいと思います。どうぞこの点に関しての御意見をお願いします。 ○三木委員 補足説明に書いてありますように,しばしば経済的に余裕のない側が申立てを起こす,あるいは相手方の地に出向くことが何らかの事情で望ましくない,あるいは困難であるという者が申立てを起こすということも少なくないだろうと思いますので,基本的には乙案がよろしいと思います。それで,これも補足説明に書いてありますが,事案に応じて移送などで対応するということで,乙案に対するデメリットとされている部分はある程度賄えるのではないかと思います。 ○伊藤部会長 三木委員からは乙案支持の御意見の表明がありましたが,いかがでしょうか。 ○古谷幹事 補足説明にありますように,甲案,乙案それぞれメリット,デメリットあろうかと思われるところで,あえて現行規律を変えるまでのことがあるのだろうかというところが1点ございます。それから,実際上も紛争の手続の初期段階で管轄についての争い等を招くと,迅速性にかなうものではないというところもございます。裁判所の意見照会で申しますと甲案が多数でございますので,甲案を支持するものです。 ○伊藤部会長 正に御意見がこの場でも分かれている状況ですけれども,どうでしょう。 ○山本幹事 私は,三木委員と同じで乙案に賛成です。現行法は確かにそうなのですが,ただ,人事訴訟法はその後乙案的な管轄の規定になっていると思います。いずれにしても,結局甲案によって自庁処理で対応するか,乙案によって移送で対応するかという違いかなという気がするのですけれども,先ほど三木委員が挙げられた補足説明のような例を考えると,こういう人には自庁処理で行けばいいよということではなくて,やはり管轄を保障しておくというのが基本なのかなという印象を持っておりまして,そういう意味では乙案のほうが優れているかなということです。 ○伊藤部会長 分かりました。   ほかにはいかがでしょうか。 ○杉井委員 私も,乙案に賛成です。先ほど山本幹事も言われましたように,人事訴訟の規律の仕方ということを考えても,やはり相手方の住所地に限る必要はないと思いますし,この補足説明にありますように,管轄の問題で申立てをちゅうちょするということは本当によくあることなものですから,相手方の住所地という形で限定してしまうのは,やはり権利救済ということに欠けるのではないかと思います。 ○伊藤部会長 乙案支持の御意見が多い中で,しかし甲案支持の御意見もあり,分かれているところですが,ほかに御発言はございますか。   そうしましたら,ここで私が取りまとめるということはいたしませんが,ただいまのこの場の御意見の状況を見て,事務当局で検討してもらうことでよろしいですか。   それから,次の手続行為能力の関係で,財産上の給付を求める審判事項をこの手続行為能力の点で除外をするというこの点は考え方が示されておりますが,いかがでしょうか。民法の規定との関係など説明があったとおりで,もし御了解が頂ければ,こういうことでと思いますが。 ○増田幹事 民法との関係で御説明のとおりハードルが高いと思いますので,了承するということにいたします。 ○伊藤部会長 そうしましたら,他に特に御発言なければ,この考え方を御了解いただいたものといたします。   次の42ページ,(4)給付命令等に関して,子の監護について必要な事項の例示として,これらの事項を明示するということですが,この点は何か御意見ございますか。 ○杉井委員 これも私は,やはり明示するということも大賛成です。今は何しろ現行規定に全然そういう明文のあれがないものですから,そういう意味で大変大きな前進だろうと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。杉井委員からそのような御意見ございますが,もし他に御意見がないようでしたら,そういうことで取りまとめさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,そのようにさせていただきます。   次の(5)の即時抗告の関係で,子の即時抗告権を認める規律は置かないと,子の意思を審判において尊重するという前提に立って,しかし監護者の指定という事項の性質上,そういうことにするのが合理的ではないかと,こういう考え方が示されていますが,この点はいかがですか。 ○増田幹事 既に紛争に巻き込まれている子が対象ですから,裁判がいったん下されたからといって,それを必ず受け入れなければならないということではないと思います。ですから,やはり子の即時抗告権は認めるべきだと思います。全部の子に認めるのかという御懸念があるということであれば,利害関係参加した子に認めるとかいったことも考えられないわけではないのかなと思っています。 ○伊藤部会長 なるほど。ただいまの増田幹事からの発言に関してはいかがでしょうか。 ○山本幹事 よく分かっていないので私の誤解かもしれませんが,もしそう考えると,結局利害関係参加している,ある程度の年齢の子どもということになると思うのですけれども,これが父又は母を監護者として指定するという処分で,そうすると父を監護者として指定する処分について即時抗告を子どもがするというのは,父は嫌いだと言っているのと同じことで,即時抗告をしないと母が嫌いだと言っていると同じことになりはしないか。そこが多分,紛争の矢面に立たせるので子の福祉を害するというような趣旨なのかなと思うのですが,そういうような懸念はないのでしょうかね。 ○増田幹事 もともと利害関係参加している子というのは,何らかの意見表明をしているということですから,更にそれに加えてそういう懸念が増幅されるかというと,そういうことではないのではないかと思いますが。 ○伊藤部会長 山本幹事,どうですか。 ○山本幹事 その利害関係参加の態様によると思うのですけれども,やはり即時抗告権を認めると,結局子どもに完全に二者択一の選択をその時点で強いるということになりかねないと,私,にわかにそれに賛成だというのはちょっと懸念が残ります。 ○長委員 山本幹事に同意見です。 ○伊藤部会長 分かりました。   ということで,これも考え方が分かれていますが,増田幹事何か。 ○増田幹事 即時抗告をしたら確かにそうかもしれませんけれども,しなかった場合は,別にどうということはないというか,どちらかを明らかに選んだということではないとは思いますので,必ず二者択一を迫っているということは当たらないのかなと思っていますが。 ○伊藤部会長 そうですね,そこは解釈があるかもしれませんが,ほかの方はいかがでしょうか。   髙田委員はいかがですか。 ○髙田(昌)委員 非常に難しい問題で,理屈の上では,子どもが事件本人に近い地位にあることから,子どもに即時抗告権を認めるということも考えられるのですが,子どもの福祉や利益の保護の点を考えますと,そういうことだけでは割り切れない要素を抱えているのだろうと思いますので,子の福祉や利益といった観点から子どもの即時抗告権を認めないという規律もあり得るのではないかというのが,余り理論的ではありませんけれども,現時点において感じているところです。 ○伊藤部会長 なかなかやはり,認めないというとちょっと別のニュアンスがあるかもしれませんが,実質はそうにしても,即時抗告権を認める規律は置かないということでいいのかどうかということで,この場で今伺っていますと,多くの意見は置かないという原案の考え方を支持されているようですが,しかしなお増田幹事のような御意見もあるので,ここもそれを踏まえてもう少し事務当局に検討してもらうことでよろしいですね。 ○杉井委員 例えば面会交流の事件について,子ども自身がもう絶対会いたくないと嫌がっている場合に,それでも原審判で面会交流を認めると,そうせよという審判が出たときに,やはり子ども自身がそういう意思を持っているときに,子ども自身の意見表明は原審でもきちんとされているとは思うのですが,そしてそれはもう双方の親がそれ自体は分かっていると思うのですけれども,そういう中で本人自身は,でもやはり嫌なのだということで即時抗告するということってあり得るのではないかと思うのですね。だから,即時抗告を認めることでどちらかの親を選ばなければいけないとか,改めて子どもに深刻なかっとうを与えるのではないかという言い方をされているのは,そうばかりではないのではないかという気が私はいたします。 ○伊藤部会長 それでは,杉井委員からの認める規律を置くべきであるという御発言もございましたので,もう少し検討してもらうことにいたしましょう。   その他に関して,44ページの(注1),(注2),ここでは特段の規定を置かないということで,それぞれの理由が先ほど来説明されたとおりでありますが,ここは何か御意見ございますか。 ○増田幹事 (注2)については,末尾に書いてあるように,現時点では特段の規律を置かないということで異論はありません。ただ,引き続き何らかの形で検討していきたいとは思います。 ○伊藤部会長 分かりました。ありがとうございました。   それでは,この点は御了解いただいたものとさせていただきます。   引き続きまして,7,親子関係の審判事件についての説明をお願いします。 ○脇村関係官 御説明いたします。   7,親子関係の審判事件,(2)養子をするについての許可の審判事件,エ,審判の告知については,養子をするについての許可の審判は,それ自体で実体法上の効果が生じず,必要があれば,養親となるべき者が養子となるべき者に対し伝えると思われますので,乙案を採用すべき必要性がなく,甲案が相当であると考えております。   オの即時抗告の(注)については,申立てを却下する審判に対して,申立人つまり養親となるべき者が即時抗告をせず,養子縁組の成立を断念しているような場合にまで他の者が即時抗告をし,養子縁組を成立させるための許可を得ることは相当でないと考えられますので,申立てを却下する審判については,申立人に限り即時抗告をすることができるものとするのが相当であると考えております。   (3)死後離縁をするについての許可の審判事件,ウ,養子の代襲者への通知等については,養子の代襲者が死後離縁の審判により受ける影響が間接的であることを考えると,参加の機会を与えられれば手続保障としては十分であり,人事訴訟におけるよりも手厚い手続保障をするだけの必要性はないと考えられるので,甲案を採用することが相当であると考えております。   (5)特別養子縁組に関する審判事件,エ,審判の告知の(注2)については,本文のような規律を置くことは相当であると考えております。   なお,(注)にもありますとおり,ほかにも子に対して審判の告知を行うケースがありますが,そのような場合には同様の例外を設けてはどうかと考えております。   オ,即時抗告の(注)については,当初の申立人が即時抗告を断念しているような場合について,他の申立権者に養親と養子との親子関係を断絶させる方向での即時抗告を認める必要性がある事案は少ないと考えられますし,仮に養親による虐待等が問題となる緊急事態には,養親の親権の喪失等を本案とする保全処分等により対応することができますので,即時抗告権自体は,申立人に限定すべきと考えております。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,順次審議をお願いしたいと存じます。   まず,(2)の養子をするについての許可の審判事件の審判の告知でありますけれども,甲案,養子となるべき者に対しては告知することを要しないという考え方を内容とする甲案を採用することでどうかという提案がなされておりますが,この点はいかがでしょうか。理由は,今,脇村関係官から説明があったとおりですけれども,特別御意見や疑問等はございませんか。もしよろしければ,御了解いただいたものと扱わせていただきます。   それから,次のオの即時抗告の関係での(注)ですけれども,即時抗告は申立人に限ると,それ以外の者についての即時抗告を認めることはしないというこの点はいかがでしょうか。もしよろしければ,御了解いただいたものといたします。   次の46ページ,(3)の死後離縁をするについての許可の審判事件の甲案,乙案の関係では,甲案を採用することでどうかという提案がございますが,ここはいかがでしょうか。この点も御異論はございませんか。それでは,そのように扱わせていただきます。   次の(5)の特別養子縁組に関する審判事件の審判の告知の関係で(注2),48ページのところで,なお検討するものとされている点についての例外を,ここに記載してあるような例外を設けるという点に関しての提案はいかがでしょう。これもよろしいでしょうか。   それでは,御了解いただいたものとして,次のオの即時抗告の関係の(注)ですね,特別養子縁組の当事者を離縁させる審判の申立てを却下する審判に対する即時抗告権者,これを申立人に限定すると。その理由は,先ほど脇村関係官から説明があったとおりですが,ここはいかがでしょう。この点もよろしいでしょうか。   それでは,御了解いただいたものとして,次,8の親権に関する審判事件についての説明をお願いします。 ○脇村関係官 御説明させていただきます。   8の親権に関する審判事件,(1)管轄については,パブリックコメントにおいて,親権又は管理権の喪失の審判事件について,子の住所地の家庭裁判所の管轄とすると子の現在の住所地が明らかになり,問題があるという御指摘があり,子の住所地の家庭裁判所の専属管轄とせず,親権者の住所地との選択的な管轄とすべきであるとの意見がありましたが,仮に子の住所地の家庭裁判所に申立てをすることにより子の住所地が明らかになるおそれがあるような場合には,別途異なった裁判所に申立てをし,自庁処理により対応することも考えられ,また,そのような事情がある場合には,記録中の子の住所地部分の閲覧等を制限することにより対応することが考えられますので,このような事情があることを理由に管轄の規律を変える必要性はないのではないかと考えております。   また,この点については,未成年後見人の解任についても同様の意見がございましたが,今申し上げました理由から,同様に考えるのが相当であると考えております。   (3)陳述聴取の(注2)については,親権をはく奪されるという重大な効果にかんがみ,親権者に対し十分な反論の機会を与えることが必要であると考えられますが,他方で,子の福祉上,簡易迅速処理の要請が高いので,審問期日における陳述聴取の機会を保障するほかは,調停をすることができる事項についての審判事件に適用される規律を準用しないものとすることが相当であると考えております。   続きまして,(4)審判の告知,(1)の親権者の指定等についての子の即時抗告権ですが,この点については,子に即時抗告権を付与すると,子がどちらかを親権者として選ばなければならない状況に置かれるおそれがあります。例えば,先ほども御指摘あったように思いますが,父を親権者とする審判に対し即時抗告しないと,親権者として父親のほうを選んだと思われ,他方で父を親権者とする審判に対し即時抗告をすると,親権者として母親を選んだと思われると考え,子がその行使について苦悩するおそれがあり,また民法上,父母が協議により親権者の指定等をした場合には,子はそれに従わなければならないことからしますと,養子の離縁後に親権者となるべき者の指定についての審判及び親権者の指定又は変更についての審判については,子に即時抗告を認めないものとすることが相当ではないかと考えております。   また,(注1)ですが,養子の離縁後に親権者となるべき者の指定の審判及び親権者の指定又は変更の審判について,子に即時抗告権を認めないのであれば,これらの審判を子に対し告知することは即時抗告権を保障する意味はなく,法的には何ら意味があるものではないと思われますので,子に対して裁判所が告知することについては裁判所の裁量にゆだね,特段の規律を置かないものとすることが相当であると考えております。   (注2)ですが,親権又は管理権を辞するについての許可及び親権又は管理権を回復するについての許可の審判については,子に即時抗告権を認めないと考えておりますが,そういたしますと,これらの審判を子に対し告知することは即時抗告権を保障する意味はなく,法的には何ら意味があるものではございませんので,子に対して裁判所が告知することについては裁判所の裁量にゆだね,特段の規律を置かないものとすることが相当であるとも思われますが,御検討のほどよろしくお願い申し上げます。   以上です。 ○伊藤部会長 そうしましたら,まず50ページの(1)の管轄の関係で,子の住所地の家庭裁判所の管轄とするという考え方を維持して,他の考え方も寄せられたようですが,それは採らないという,その点に関してはいかがでしょうか。 ○増田幹事 理屈の上では,やはり子の住所地の管轄というのが正当であると考えますので,補足説明に書かれたような事案については自庁処理という運用に期待するということで,了承いたします。 ○伊藤部会長 分かりました。   ということで,他の委員,幹事の方も特別に御異論等はございませんか。そうしましたら,そのように了解していただいたことにします。   (注)の未成年後見に関する審判事件の管轄のことについてもよろしいですね。   そうしましたら,次の51ページの(3)陳述聴取の(注2)の関係,なお検討するものとされていますが,そのことに関しては,今説明がございました調停をすることができる事項についての審判事件に適用される規律を準用しないものとすると,それは,子の福祉上の簡易迅速の要請が高いことにかんがみてということですが,この辺りはいかがでしょう。 ○増田幹事 こちらは理屈の上では,やはり重大な結果を招くわけですから,調停をすることができる事項についての審判事件に適用される規律を準用するのが相当であると考えます。また,緊急性の要請については保全処分を先行させれば,本案のほうはそれほど時間を考えなくてもいいとも考えられます。ただ,強く反対するものではありません。 ○伊藤部会長 分かりました。   ということですが,いかがでしょうか。他の委員,幹事の方は,ここで補足説明で述べられているような理由から準用しないということについて,賛成の御意見と承れれば,増田幹事も強くは反対されないとおっしゃっていますので,そのようにしたいと思いますが,どうでしょうか。この補足説明のような理由から,こういう結論でよろしいと承っていいですか。   それでは,そのような取扱いで御了解いただいたことにいたします。   次に,(4)の審判の告知の関係で54ページのところですね,先ほどの議論の延長線のようなところがございますけれども,養子の離縁後に親権者となるべき者の指定についての審判や親権者の指定又は変更についての審判についての子の即時抗告権を認めないものとするということについて,そういう考え方が示されていますが,この点はいかがでしょうか。 ○古谷幹事 少し戻るのですけれども,先ほどの陳述聴取のところで,親権者から審問の期日で必ず聴くという規律が入っていたかと思うのですけれども,これは総則との関係もあろうかと思いますけれども,事案によっては,審問でやらないほうがいいようなケースというのもあり得るかと思いますので,この点検討をお願いしたいと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。それでは,その点は事務当局で検討してもらいましょう。   それでは,もう一度54ページの子の即時抗告権を認めないことについての関係は,増田幹事,何か。どうぞ。 ○増田幹事 すみません。審問を外すとちょっと話が変わってくるかもしれませんので,その点も踏まえて検討してください。 ○伊藤部会長 そうですか。 ○脇村関係官 総則がどうなるのかが見えていないので何とも言えないのですけれども,もともとは特別養子縁組において養子となるべき者の実父母の同意を得ずに,その縁組を成立させる場合とのバランスとかそういったものから,総則とは関係なく審問ではないかなという感覚ではいたのですが,ちょっと総則のほうも流動的ですので,今,増田幹事,古谷幹事等の御意見を踏まえて少し検討させていただきたいと思います。 ○伊藤部会長 そこで整理した上でもう一度お諮りしたいと思いますので,そのような処理で御了解ください。   そこで,もう一度54ページに戻りまして,子の即時抗告権を認めないものとすることに関してはいかがでしょう。 ○増田幹事 繰り返しませんけれども,これは先ほどの問題とパラレルの問題だと思いますので,御検討をお願いできたらと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。事柄の性質上,そういうことですよね。それでは,そのような扱いにさせていただきます。   それから,(注1)の関係ですか,本文を前提にするということで,こちらもちょっとその関係が確定しないと結論が出にくい問題かと思いますが,何か御意見ございますか。   まだ固まっていないところがありますので,この(注1),それから(注2)については,改めてしかるべき形で…… ○脇村関係官 (注1)につきましては,先ほどお話がありましたとおり,即時抗告権を付与し,それを実質的に保障するということまでいくということであれば,告知についても併せて検討することになりますので,併せて検討させていただきたいと思います。   ただ,(注2)のほうは,いずれにしても即時抗告権は子どもにはございませんので,私としては,法的効果から見れば,そういう意味では即時抗告権の保障の意味もなく,離縁の効果も発生しないのであれですが,そういったことからすれば,(注2)のほうは告知がなくてもいいのではないのかなという気はしているのですけれども,御検討いただければと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。(注1)は,先ほど申し上げたような扱いにさせていただいて,(注2)は今,脇村関係官から発言がありましたように,そういうちょっと性質の違った話ですので,先ほど説明がありましたように,裁判所が告知することについての規律を置かないで,そこはしかるべく裁判所の判断にゆだねるということで,どのように考えるかということですが,どちらかというとそういう方向での説明がございましたが,ここはいかがでしょうか。特段の規律を置かずに,合理的裁量の運用にゆだねるということでよろしいでしょうか。   それでは,そのようなことで(注2)に関しては御了解いただいたものといたします。   そうしましたら,次の9,未成年後見に関する審判事件についての説明をお願いします。 ○脇村関係官 すみません。ちょっと説明が私どもで漏れていたところがあるのですが,今まで親権者の指定についての即時抗告については御議論いただいていたところですが,(2)につきましては,親権,管理権喪失の宣告の申立てを却下する審判及び親権又は管理権の喪失の宣告を取り消す審判について,子に即時抗告権を認めるかどうかということを取り上げております。   この点につきましては,ここにも書いてありますとおり,現行民法では,親権,管理権喪失の宣告の申立権を子が有していませんことから,その申立てを却下する審判及び取り消す審判については,子に即時抗告権を認めない方向でどうかということで,そういったことも踏まえて検討していただいていたところでございますが,現在,部会資料に書いてありますとおり,法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会におきまして,そもそも現行民法において子に親権又は管理権喪失の宣告の申立権を付与していないこと自体の是非が検討されているところでございます。ですので,ここについては,民法上そういったことでもし申立権を付与するということになれば,議論の前提が変わってくることもございますので,我々としては,まだあちらのほうも議論が煮詰まっていないと聞いておりますので,そういった状況を後ほどフィードバックといいますか,御報告させていただいた上で,更に検討したいと考えているところでございますので,部会資料のほうはなお検討するとしているところでございます。   以上です。 ○伊藤部会長 ということですので,今,脇村関係官から説明があったとおりで,しかるべき時期にこの点については検討をお願いするということになろうかと思います。今の点,何か御質問等はございますか。   それでは,よろしければ,9の未成年後見に関する審判事件についての説明をお願いします。 ○脇村関係官 それでは,御説明いたします。   9の未成年後見に関する審判事件の(2)手続行為能力の(注1)ですが,未成年者の手続行為能力については,民法上,未成年被後見人に申立てが認められ,手続に関与することが予定されている本文aからcまでの事件に限り手続行為能力を認め,その余の事件についてはこれを認めないことが相当であると思われますが,他方で,民法第811条第5項の規定による養子の離縁後にその未成年後見人となるべき者の選任の審判事件については,民法第840条の規定の未成年後見人の選任と区別するだけの合理的理由がないと思われますことから,これについては認めるのが相当であると思われますので,御検討いただきたいと存じます。   (3)陳述聴取等の(注)でございますが,未成年後見人及び未成年後見監督人の選任及び解任の審判を未成年被後見人に知らせること自体につきましては,総じて法的効果はなく,実際上も選任の場合には,選任された未成年後見人又は未成年後見監督人が,解任の場合には,解任後に新たに選任された未成年後見人又は未成年後見監督人が未成年被後見人に知らせることが必然であると思われますので,未成年被後見人に対して裁判所が告知するものとする旨の規定は設けないものとすることが相当ではないかと考えております。   (5)未成年後見人に関する審判事件における申立ての取下げ制限については,乙案に賛成する意見もございましたが,親権を行う者が欠けているような場合に申立ての取下げがなされ,未成年後見人を選任することができない事態を防ぐために,甲案を採用することが相当であると考えられます。もっとも,取下げ制限を設ける対象者については,特にその範囲を限定する必要はなく,一律に取下げ制限を設けるべきであるとも思われますが,他方で民法は,父親,母親,辞任した未成年後見人あるいは未成年後見監督人,また他の法律によって,児童相談所長及び生活保護法第81条が規定する保護の実施機関のみに申立義務を負わせている趣旨を踏まえ,こういったものに限定すべきであるとも思われますので,御検討いただければと存じます。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,9の未成年後見に関する審判事件の56ページの(注1)で,これは民法の規定との関係ということになろうかと思いますが,ここでいわれているような審判事件について,未成年後見人に手続行為能力を認めて,それ以外の者については認めないという提案が示されておりますが,この点はいかがでしょうか。もし特段御意見がないようでしたら,御了解いただいたものとさせていただきます。   次の57ページの(3)の陳述聴取等の(注)ですけれども,選任,解任のいずれの場合でも伝えるべき者がいるということで,裁判所が告知するものとする旨の規定を置かないという提案がなされていますが,ここはいかがでしょうか。 ○道垣内委員 少し戻ってしまって恐縮なのですが,民法811条5項による未成年後見人となるべき者の選任の申立権を未成年者にも与えるという結論自体に異論はないのですが,それを民法840条でも未成年者ができるからだと説明するのはどうかな,と思います。民法840条というのは838条と対応していて,838条によれば,未成年者に対して親権を行う者がいないときには,それだけで当然に後見が開始するのですね。そうすると,その時点で,「未成年被後見人」と呼ばれるべき人が存在することになるので,その人が,家裁に後見人を選任してもらうための申立てをするという論理になっているのに対して,811条5項が予定している場合というのは,離縁が成立する前ですので,その時点では後見が開始していないのです。利益状況は一緒ですから結論はそれでいいのですけれども,民法840条が直接にその根拠になるかというと,ならないような気がしますので,少し説明を工夫したほうがいいかなと思います。極めて細かい話で恐縮なのですが。 ○脇村関係官 道垣内委員がおっしゃるように,法的には状況が全然違うと,養親がまだいるケースですので,違うケースではあるのですけれども,道垣内委員がおっしゃったように,正に実質的に一緒なのだという説明で,世の中の人に誤解を与えないような感じで説明を考えていきたいと思います。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。では,そこは事務当局に工夫をしてもらうことにいたします。   それでは,先に進みまして,(3)の陳述聴取等の(注)の関係で,裁判所は告知するものとする旨の規定を置かないと,実際上はしかるべき人が告げることになるからということですが,ここはいかがでしょう。 ○増田幹事 ここで言うのがタイムリーなのかどうかという問題はあるのですけれども,今回の資料も次の資料も含めてなのですけれども,一般的に法的効果のない告知については,原則として置かないという立て付けになっております。私個人としては,積極的手続保障の考え方から,裁判所から見て,事件の性質上既に明らかになっている利害関係のある人には広く告知して,サービスしてあげてもいいのかなと思っているのですけれども,今回の改正ではそこまでのことはやらないということで,ひとまず了解をいたします。 ○伊藤部会長 それでは,この点,増田幹事の御意見は今お聴きになったとおりですが,他の方で何か御意見ございますか。よろしいでしょうか。   それでは,御了解いただいたものとして,次の(5)未成年後見に関する審判事件における申立ての取下げ制限で,基本は甲案を基にして,取下げ制限を設ける対象者について,一律に取下げ制限を設けるべきなのか,それともここに掲げられているような申立て義務を負わせている者に関してその対象者にすべきなのかということに関しては問題の提起がございますが,この辺りに関していかがでしょうか。 ○山本幹事 私は,基本的には取下げ制限の対象者は一般的な形で認めるべきかなと思っています。これは,取下げ制限の趣旨というか根拠に関係してくることかと思いますけれども,私自身は,これは次の資料で出てくる成年後見開始の審判についても取下げ制限があっていいのかなと思っているのですが,やはり根拠としては,この場合の申立てというのは,被後見人となるべき者の保護という趣旨があるので,申立人の処分権を自由に認めることはできないという,申立人の処分権制限というところが趣旨なのかなと思っております。そういう意味からすれば,必ずしも申立て義務がかかっているかどうかというのは重要ではなくて,やはり申立人一般について自由に処分ができないということになるような気がいたしまして,そうだとすれば,特に申立て義務者に制限する必要はないのかなという意見を持っております。 ○伊藤部会長 今の山本幹事からの御発言はいかがでしょうか。 ○古谷幹事 この場合,被後見人に対して後見的な役割をどれぐらい果たすかという点から言いますと,別に申立人がだれであろうと同じであるのはそのとおりかと思うのですが,他方,処分権をどれぐらい制限していいかというのは,申立て義務があるなしで濃淡があるのではないかと考えるところでございますので,ここは民法上,申立て義務を負う者に限って制限をするというふうな規律がよいと考えております。 ○伊藤部会長 分かりました。   ここはお考えが分かれているようですが,どうでしょうか。 ○増田幹事 私は,山本幹事に賛成でございます。本件につきましては,申立人の利益よりも,未成年被後見人になるべき者の利益を優先させるべきものだと考えておりますので,その限りで処分権は後退すると一般的に考えていいと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。   ほかの方はどうですか。三木委員はいかがですか。 ○三木委員 必ずしもよく分からないのですけれども,処分権との関係で言いますと,義務のない者は申立ての処分権はもちろんあるわけですけれども,先ほどの山本幹事の御議論ですと,取下げの処分権はないということなので,そういう考え方があり得ないとは思いませんけれども,基本的には,やはり申立ての処分権と取下げの処分権というのはリンクしているのかなという気がいたしますし,実質的に考えて,義務なき申立人が,具体的にどういう事情が個々の事件であるのかよく存じませんけれども,必要なくなったと思った場合に,義務がないにもかかわらず取り下げられないのかなという気もしますので,結論として,最初に申しましたように定見があるわけではありませんけれども,古谷幹事がおっしゃった結論というか,つまり取下げ制限者は義務者に限るというほうでいいのかと,取りあえず思っております。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○山本幹事 反論するわけではありませんが,これは後の後見開始のところの取下げに議論は響いてくる話ではないかと思いますけれども,一般論として言って,申立権しかない者でも取下げが制限される場合としては,例えば破産手続開始の申立てについては,一定の場合に取下げ制限,裁判所の許可にかからしめるという形になっておりまして,そういう例はない。それは,申し立てるかどうかは自由だけれども,申し立てた以上は,その手続が,その場合はほかの債権者等の利益にもなっているという観点に,そういう公益的なものだという観点に基づいているのだろうと思います。そういう意味で,この後見の場合は,やはり被後見人の保護という制度目的からすれば,三木委員が言われるように例外的であるということはそのとおりだと思いますけれども,そういうことがあってもよいのかなと思ったということです。 ○三木委員 反論するわけではありませんが,山本幹事が挙げられたような例で,申立権があって義務はないけれども,取下げ制限が掛かる場合というのは,すべてかどうかは分かりませんけれども,濫用の防止とか,その申立てをてこに濫用的な交渉を迫るとか,他の大勢の人に迷惑を掛けるとか,そういうような考慮があることが多いだろうと思いますので,本件の場合とは事情を異にすると私は思います。 ○伊藤部会長 いずれにしても裁判所の許可があるわけですから,甲案でもしかるべき理由がある場合には,当然合理的な処理がなされるとは思いますが,しかし伺っていますと,甲乙両案がきっ抗しているようですので,ここはもうちょっと検討していただけますか。   ほかにこの点に関して何か御意見ございますでしょうか。もしございませんようでしたら,一応資料30の関係の審議はここで終了ということですが,若干お時間をちょうだいしたいと思います。   資料31の第1の総則の裁判資料の(5)証拠調べのところの説明をお願いいたします。 ○川尻関係官 第1,総則,12,裁判資料は,総則の規律に戻りますが,部会資料30では検討対象としなかったので,補足させていただくものです。   中間試案の規律を維持することを提案しております。この点については,パブリックコメントにおいて,当事者の不出頭について罰金,勾引の規律を家事事件の規律として置くことに反対する意見もありましたが,真実擬制に代わる規律が必要となること,人事訴訟法第21条と同様の規律であることからすると,中間試案の規律のとおりでよいのではないかと考えております。   以上です。 ○伊藤部会長 この点はいかがでしょうか。何か御意見ございますか。もし特段御意見がないようでしたら,御了解いただいたものとさせていただきます。   それでは,部会資料31の正に入口のところまで御審議いただいたことにして,次は次回に回したいと思いますが,次回の日程についての連絡をお願いいたします。 ○金子幹事 御連絡します。   次回は平成22年11月26日,金曜日午後1時30分からです。場所がもう一度変わりまして,お手元に案内図を置かせていただきましたが,法務省高検第2会議室,17階になりますので,御留意いただければと存じます。家事事件手続に関し,部会資料32を御用意する予定でおります。よろしくお願いいたします。 ○伊藤部会長 それでは,他に特段の御発言なければ,本日の部会をこれで終了させていただきます。毎度のことながら熱心な御審議いただきまして,ありがとうございました。 -了-