法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会           第10回会議 議事録 第1 日 時  平成22年12月15日(水)  自 午後1時30分                         至 午後3時40分 第2 場 所  東京地検刑事部会議室 第3 議 題  民法(親権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○野村部会長 それでは,定刻を過ぎましたので,法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会第10回を始めたいと思います。   まず,配布資料の確認を事務当局のほうでお願いいたします。 ○森田関係官 本日は,部会資料11としまして,「児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する要綱案(案)」を事前に送付させていただいております。それから,本日,席上で参考資料16として,「社会保障審議会の児童虐待防止のための親権の在り方に関する専門委員会報告書骨子案」を配布させていただいております。御確認ください。 ○野村部会長 それでは,審議に入ります前に,杉上幹事から社会保障審議会の議論状況につきまして,御報告をお願いいたします。 ○杉上幹事 参考資料16で配布させていただきましたものは,先般,12月7日,第7回社会保障審議会にお出しした資料と同様のものでございます。この資料につきましては確か前回,この法制審議会においても,議論の途中経過ということで御説明を申し上げました。その議論の論点等について,報告書の骨子案という形でまとめさせていただいたものでございます。   順次,御説明を申し上げます。まず,私どもの審議会でございますけれども,一番最初に確か御説明しておりますが,報告書のような形で取りまとめていただくと,こういうことになっているわけであります。この報告書につきましては,社会保障審議会のほうで議論しております七つの事項それぞれにおきまして,(1)問題点の所在等,(2)検討すべき論点,(3)社会保障審議会の専門委員会における議論,(4)検討の方向性,(5)考えられる対応策,こういうようなつくりで七つの事項について,それぞれ記載しているところでございます。   それでは,順次,御説明を申し上げますが,4ページをお開けいただきたいと思います。第1の論点,「施設入所等の措置がとられている場合の施設長等の権限と親権の関係について」のところでございます。考えられる対応策ということで,前回も御説明したとおり,権限関係を明確化しようと,こういう形で審議会のほうにお出ししたところでございます。   これに対しまして次のページ,5ページでございます。上記の枠組みを講じるに当たり,次の点を併せて実施すべきというようなことで,前々回,審議会のほうで御議論いただいたものにつきまして,併せて実施すべきものということでまとめさせていただいております。この中には当然,法的事項以外に運用であるとか,あるいは予算面の措置というようなことが必要になるような事項等々がございます。私どもの考えとしましては,報告書を取りまとめいただいた後に,法的対応が必要なもの,あるいは運用面で対応すべきもの,そういったものを検討していくと,こういう形になると思います。   ここに書かせていただいているもの以外にも,例えば権限関係を明確にした場合,親権者にきっちり説明すべきというような御意見や,あるいは児童相談所を始めとし民間団体等も活用した親に対するサポート体制,そういったものを充実すべきではないかと,こういうような意見もちょうだいしたところでございます。   次に,8ページでございます。「一時保護中の児童相談所長の権限と親権の関係について」ということでございます。これは,今,申し上げました1番の論点と大体同じということでございます。一時保護中の場合にも同様の仕組みを入れると。それで,9ページにありますとおり,配慮すべき事項については同様というようなことで御議論が進んでいるところでございます。   三点目でございます。12ページまで飛んでいただきまして,この三番目の論点は,「里親等委託中及び一時保護中の親権者等がいない児童等の取扱いについて」と,こういうことになっているわけでございます。ここも,ここに書かせてもらっているとおり,12ページの一番下の行でございますけれども,1(5)において述べたように,施設長や里親の資質の向上のための取組みということを進めるべきではないかというようなこと,あるいはここには書かせていただいていませんが,前回,御議論の中に未成年後見人となる者のサポートを進めなさいと,そういったような御議論を頂いたところでございます。   四番目でございます。「一時保護の見直しについて」でございます。15ページでございます。考えられる対応策については,前回,報告したのとほぼ同様の内容になっておりますが,児童福祉審議会の意見を聴く等,適正な手続を進めるべきというような全体の意見の中で,児童福祉審議会,これについて運用のモデル例を示すなど,きっちり機能するのが重要ではないか,あるいはそもそも審議会の機能自体を強化すべきではないか,こういった御議論を頂いておるところであります。また,この考えられる対応策の中,2か月を超える親権者の同意のない一時保護となっております。この中で,28条の申立てを行っている場合などは除外して,迅速といいますか,余り過度な負担にならないような形で考えるべきではないかと,そういったような意見も頂いたところでございます。   五番目の論点は,「保護者指導に対する家庭裁判所の関与の在り方について」ということでございます。18ページ,19ページのところに,考えられる対応策を書かせていただいております。司法との関係を考える中で,なかなか保護者指導に対する家庭裁判所の関与をいきなり入れるということは難しいのではないかというようなことを前回,御説明を申し上げました。ここの19ページの最後のところでございますが,また,保護者指導の担い手となる民間団体の育成を進めるべきと,こういうような意見があったと前回,御説明を申し上げております。今,申し上げたとおり,司法との関係等難しい中,児童相談所の介入の機能と保護者指導の取組の推進というある意味相反するような性格がございますので,そういった面で,民間団体の育成ということをもっと強調して,進めてほしいというような御意見も頂いたところでございます。   それから,次が「施設入所等の措置及び一時保護が行われていない親権者等がいない児童等の取扱いについて」でございます。対応策のところは22ページでございます。ここも前回,御説明した形で御議論いただきました。ここでも言われておりますのは未成年後見人,この法制審議会で,法人であるとか複数選任ということを認められる方向になっている中で,未成年後見人を進めるためには,そのサポート体制というのを考えていったほうがいいのではないかと,そういうような御意見を頂いたわけでございます。   最後が「接近禁止命令の在り方について」ということでございます。考えられる対応策のところは26ページでございます。前回,御紹介したのは在宅ケースについて制度化は難しいという意見がある一方で,必要性のある子供は現にいるのだから,何らかの手当てが必要と,こういった二つの意見があったということで御議論いただくこととなっていると,こういうふうな御説明を申し上げました。   前回の社会保障審議会の意見の中でも,人格権に基づく差止訴訟というのが一つのポイントになりまして,法務省のほうからも現行制度等について御紹介を頂いた上で,やはり,それではなかなか民事上の取扱いとなって,私人の力では罰則がある警察が関与してくれるような制度にしないと,意味がないのではないかというような意見があった一方で,そうした罰則付きのものとすることになると,要件自体のハードルが高くなって,かえって想定しているような例えばある程度,自立して施設を出たお子さんで,親が金を無心に来るといったようなケースというのは,その要件から当然のことながら除外されてしまうと,こういった意見がございました。また,この点については次回,また,整理して御議論いただくのかなというようなことも考えているところであります。   いずれにしましても,社会保障審議会は来週21日に第8回を開催する予定としております。 ○野村部会長 どうもありがとうございました。   ただいまの御報告について何か御質問はございますでしょうか。 ○平湯委員 二点,お伺いします。   資料の22ページ,未成年後見の関係で考えられる対応策,「極力その保護に欠けることのないような環境整備を進めることが必要である」,これはこのとおりだと私も思うのでありますけれども,現実にどういう点が難点になっているのかということもいろいろ指摘されているところだと思いますが,具体的な環境整備としてどの程度の御議論がされて,あるいは厚労省としてどのような整備を考えていらっしゃるのかというのをお尋ねしたいのが一点であります。   第二点は,接見禁止の関係で最後に御説明があったところですけれども,26ページに面談強要等禁止を求める訴え及びその仮処分というのが紹介されているわけですけれども,これは民事訴訟というか,民事の保全の手続でありますから,いわゆる保証金担保を付けるのが原則ということになっておりますので,この担保の保証金の用意というのができなければ,それがまた一つのネックになると思うのですけれども,その点についての御議論というのはいかがだったでしょうか,お尋ねしたいと思います。 ○野村部会長 それでは,お願いいたします。 ○杉上幹事 一点目でございます。平湯委員のほうからも「極力」というのが,どのような議論があるのかという御質問です。社保審での議論でございますけれども,正直なところ,児童相談所が関わってこなかったようなケースについて,児童相談所が迅速に対応できるのかというような問題点が提起されたところでございます。そういうような御議論,あるいは環境整備のところの具体的な議論でございますけれども,これについては正しく未成年後見人に例えば社会福祉法人がなる場合について何らかの手当てが必要ではないか,そういったような環境整備,あるいは未成年後見制度自体を取り仕切る例えば社会福祉法人がなった場合,そこを指導するといいますか,援助・支援するような形を何らかできないか,こういったような議論があったところでございます。 ○飛澤幹事 社会保障審議会のほうで,担保の点までは直接的には話題に上っていなかったと思います。ただ,民事保全法上,担保は原則は積むことになるのでしょうけれども,常に積むかというと必ずしもそういう制度になっておらず,また,担保を積むとしてもその金額については,運用上,事案に応じてそんな無理な金額を積めということにはならないのではないかと思っているのですけれども。 ○野村部会長 よろしいでしょうか。   ほかに何か御質問はございますか。   それでは,これについては以上にしまして,本日の審議に入りたいと思いますが,本日は要綱案を取りまとめるということで,この要綱案については第1から第4までに分けて書かれておりますので,その順番で御審議をお願いしたいと思います。   まず,第1は親権の効力ということで,ここは,1,2と二つ,監護及び教育の権利義務と懲戒という二つに分かれておりますけれども,まず,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○羽柴関係官 それでは,部会資料11の第1について御説明を申し上げます。本日は主として前回の資料から変更した点につきまして御説明したいと思います。   第1の1は,変更はございません。   2の懲戒は,前回はペンディングの意味でPとしておりましたが,今回,新たに御提案をさせていただいております。まず,①は親権を行う者は第1の1の規律による監護及び教育のために必要な範囲内でその子を懲戒することができるものとすることを御提案しております。これは現行規定の文言では,親権を行う者は必要な範囲内でその子を懲戒することができるものとされており,文言上,必要な範囲内に何ら限定が設けられていないところ,児童虐待に対応する現場において,本来,懲戒として許容されない虐待行為について,懲戒権を口実とするような者がいることに鑑み,文言上,適切に必要な範囲内を限定しようとするものです。すなわち,第1の1の規律で,親権を行う者は子の利益のために子の監護及び教育をする権利義務を有するものとされますので,このように子の利益のためにする監護及び教育のために必要な範囲内で懲戒をすることができるものとし,その懲戒の範囲について文言上,明確に限定を付すこととするものです。   懲戒につきましては従前から御議論がありまして,削除意見も強く主張されているところでございますけれども,他方,本来することができる懲戒の範囲内のしつけをしている大多数の親権者に問題があるのではなく,懲戒として許容されない虐待について独自の主張をして,懲戒権を言い訳にする者があることに問題があるのでありまして,それにかかわらず規定を削除すると,逆に本来できるしつけができなくなるといった誤った受け止め方がされないかなど,現在ある規定を削除することによる社会的な影響についての懸念もありますし,また,様々な御意見があり得るところですので,慎重に検討する必要があるということも考えられます。   そこで,懲戒につきましては,監護及び教育の中でできるものとしても,単純に懲戒権の規定を削除するということではなく,むしろ,独自の解釈・主張がされないように,懲戒の範囲について文言上,適切に限定を付けることが相当ではないかと考え,そのような案を御提示させていただいております。   ②は現存しない懲戒場に関する部分については,懲戒の規定中から削除することを御提案するものです。 ○野村部会長 それでは,この第1について御議論をお願いしたいと思います。 ○小池幹事 懲戒という語を残している原案に賛成をします。懲戒権の是非について,はっきりした定見が私にあるわけではないですけれども,本部会で特に懲戒権をどうするかということについて結論を出す必要はなくて,今後の検討課題として残しておくべきだという立場です。   そもそも懲戒権の削除に消極的な立場というのも,今,事務当局のほうからの御説明もありましたけれども,虐待行為を正当化するために懲戒権を残せと言っているわけではないと思いますし,そういうことからすると,そもそも懲戒ということで何ができるのかということについて,恐らく争いがあり得ると思うのですね。そうしますと,民法の懲戒権規定が虐待問題への対応にとって障害だというのは,必ずしも論理的にそうつながるわけではないと思いますし,それから,虐待防止法のほうで14条2項には,それに対応するような手当てが既になされていますので,現段階では原案のように懲戒権というのは残しておいて,その行使の範囲を子の利益の観点から限定するということをはっきり書くということでいいのではないかと思っています。   それから,ちょっと蛇足になりますけれども,子供が何か悪いことをしたというときに,国が刑罰あるいは刑事法上の措置によって対応する,それだけしかないというのではなくて,やはり親にも,あるいは家庭にも一定の何か対応するということが期待されてしかるべきだという観点からしますと,懲戒という言葉が適切かはともかくとして,親権者が何らかの対応をすべきであるというような仕組みが,民法の中にもあったほうがいいとは考えています。これも虐待防止法の14条の1項のほうにしつけという言葉ですけれども,規定があって,本来であれば,それを民法のほうに持ってきたほうがいいとは思っているのですけれども,そういうことまで考えますと,来たるべきといいますか,親権の内容について,どういうカタログを民法で用意をするのかというもう少し大きい観点から,改正をするときに,懲戒権の点も併せて検討したほうがいいということで,今後の検討課題として残すべきだと考えております。 ○水野委員 事務当局のほうで御苦心をされたということで,どうしてもということでしたら,今の小池幹事のような御意見もありますので,絶対に反対というわけではございませんが,私自身は懲戒という言葉は削ったほうがいいと考えております。実際に子供たちを救うには人手が必要なのであって,法律の文言をこの部会でどうこういじっても,できることはごく僅かだとずっと考えておりました。それでも,やはり民法が持っている言葉の力は相当に大きいものがございます。親権行使の濫用を封じることができる概念を設けることが,民法改正の眼目だと思います。ここで懲戒権という言葉を残しておくことのマイナスを私は危惧しております。教育権という言葉ははっきり明示されております。本来,教育権という概念に含まれるしつけ以上のものを懲戒権という言葉で別個に定める必要があるとは思われません。   体罰禁止という意向を持ってはおりますが,国民全体の理解や考え方もばらばらですから,国民全体の理解を得ることは難しいだろうと思いますので,体罰禁止を入れることまでは要求いたしませんけれども,少なくとも懲戒権という言葉は削れないでしょうか。教育権だけで十分,概念としては必要なものを尽くしているように思います。教育権という概念に含まれるしつけ以上のものを何か示唆してしまうような懲戒権という言葉を入れることには,私は個人的には賛成できません。 ○平湯委員 私は②はもちろん賛成でございますけれども,懲戒場に関するうんぬん削除は賛成でございますけれども,①のような形で懲戒権を残すということについては,個人としても反対であります。個人としてもと申し上げたのは,日弁連でつとにそのような提言をしておりますけれども,私のこの席での意見として反対であります。   理由ですけれども,虐待行為をする親の行動というのが何によってさせられているかというと,確かにしつけと言っている人が多いわけでありますけれども,単に民法の条文に懲戒という言葉があるからだけではなくて,例えば民法のテキスト,注解民法,コンメンタールなどを見ましても,いまだに例えば殴る,つねる,ひねる,あるいは食事を与えない,そういうようなことが日数とか期間とかは別にして,できると書いてあるわけですね。現在の条文の必要な範囲ということについては,例えばそのテキストはどう書いてあるかといいますと,数時間で済むところを数日入れると,一,二回,たたけば足りるところをもっとたたいた場合,そういうようなことが行き過ぎだと書いてあるだけでありまして,基本的に物理的な力を加えるということについては基本的にこれを認めている。   虐待をする親が一々コンメンタールを見るとは思えませんけれども,そういうような今の民法の条文,これは必要な限度,必要な範囲ということで全く青天井でございますけれども,それの解釈としておよそ権威のある学会の解説がそうなっているということは,回り回って,このようなことができるのだということを親に,国民に知らせていく作用がどうしてもある。今,虐待防止にとって必要なのは,親ができるということの限度や,子供の利益にならないようなことは,監護・教育として許されないというメッセージを発する必要があるのだろうと思うわけです。   後先になりましたけれども,820条の改正についてのこの原案も賛成でありますけれども,820条をこういう形にしたとしても,なお,懲戒という言葉を822条に残すことによって,どういうものとして残るかということがここに表現されてしまう。つまり,第1の1の規律による監護及び教育のために必要な範囲内というのは,先ほど事務当局の御解説もありましたけれども,なお,不要な誤解が残ってしまう。どうすれば誤解が残らずに済むかというと,懲戒という言葉をなくすのが最大,一番の解決だとは思います。   そういう観点から,つまり,今,国民に監護・教育をする上で表現は難しいわけですけれども,暴力又は体罰といいますか,そういうものが基本的に許されないというメッセージを発することが,今の改正に当たって要求されているのではないか。そういうことで結論を申し上げますけれども,親自らの懲戒という文言もなくすべきであると思います。そして,この事務当局の原案では親に対する啓蒙的といいますか,啓発的な効果を考えても一歩前進であることは認めますけれども,なお,今の社会の要請に足りていないと思います。 ○磯谷幹事 私は今回の事務当局の案については,小さからぬ一歩であるとは評価をしたいと考えています。これまで何ら制限のなかった懲戒権の規定に,間接的な書き方ではありますけれども,子供の利益というところをきちんと盛り込んでいるというところは,否定できない一歩であろうとは評価をしております。ただ,そうではありますけれども,やはり少なくとも理論的に,あるいは理想的にといいますか,懲戒権は全面削除が望ましいというふうなことは,やはりここでも私の意見としては表明させていただきたいと思います。   その理由については,水野委員や平湯委員から,今,おっしゃっていただいたことに全く私も同感でございます。それに加えまして,やはり懸念されるというところは懲戒権をいきなり全部削除した場合に,国民に与える影響というふうなところでございますが,しかし,現実にはほとんどの普通の家庭というのは,こういった懲戒権の規定などを全く知らずに生活をしているわけですし,また,懲戒権の規定があるから何かしつけができるとかということでもなく,また,懲戒権の規定があるから虐待が,暴力が許されるわけでもない。要するに,これはなくても実際上は何も問題がないというものでありますので,削除しても懸念されるほど,国民の生活に大きな影響があるということにはならないのだろうと思っております。   それから,以前,少し発言をいたしましたが,児童虐待防止に長年取り組んできた私も含めて多くの人たちにとって,この懲戒権というのは強過ぎる親権の象徴的な存在でもありました。今回,懲戒権が残るということが,そういった最前線で取り組んでいる人たちに対するメッセージとしてどう受け止められるのかいうところも,懸念しているところであります。ということで,事務当局の案は評価はいたしますけれども,なお,理想はやはり全面削除であろうというふうなことでございます。   それから,今,事務当局の案は評価させていただくと申しましたが,事務当局の案自体に若干懸念を感じるのは,第1の1の規律による監護及び教育のために必要なというふうなことになりますと,すぐ私どもが思い浮かぶのは虐待をする親が,自分は子の監護・教育のためだと思ってやっているのだというふうな形で,すぐ弁解をしてくることが目に見えていると。そうすると,目的ということで制限をしていくということがやや不十分なのではないか,より客観的な形で制限をできないかなと思います。例えば第1の1の規律による監護及び教育の後の「のため」というところを除いてみますと,「監護・教育に必要な範囲内で」というふうな形になりまして,そうすると,先ほどの案と比べますと客観性が増すのではないかとも感じます。というふうな形で,少し書き方についても率直な感想を述べさせていただきました。 ○吉田委員 懲戒権についてですけれども,私はやはり懲戒権規定をこのまま残す必要があるとは思われないということであります。一つ,まず,第1の理由は前にもこの委員会で出ましたけれども,やはり国連の子供の権利委員会からの勧告が現に出ていますが,かなり強い調子で出ているというものに対する配慮をしなくてよろしいのだろうかという点が一つであります。それから,もう一つ,この部会自身,児童虐待防止のための親権制度の見直しということで,正にこの点はこの部会の核心に当たるところだと思うのです。まず,これをなくすのだというメッセージをこの部会から発するということ,これはやはりこの部会が置かれた意味であるということから考えれば,どうしても廃止が必要ではないかと思います。そうした意味では,懲戒権規定の廃止というところに,やはり落ち着かざるを得ないのではないかと思っています。   今回,事務当局のほうから出されたこの提案,監護・教育のために必要な範囲というのはありますけれども,この文言を入れるということが,今まで自分の虐待行為をしつけだと称していた親に対する歯止めになるとは思えません。むしろ,それを正当化するような使われ方をしてしまう,そのおそれがあるのではないか。それでしたら,もっとはっきりと懲戒又はしつけの範囲というのを先ほど磯谷委員がおっしゃったような形で明確にしたほうがいいのではないか。ですので,私はこれを廃止するというのが一番ですけれども,どうしても残すというのであれば,懲戒という言葉,これを別の言葉,例えばしつけと置き換え,かつ,監護・教育のためにという文言を例えば体罰を使わないとか,それから,子供の品位を傷つけないとか,そういう明らかに虐待につながらないような,そうした文言に置き換えたほうがよろしいのではないかと思います。 ○松原委員 二つの局面から質問と意見を述べたいと思うのですが,一つは虐待対応ということで,現実に今,引き起こされている虐待への対応ということで,親権を制限していくというのが今回の一つの大きなテーマでしたから,実際,児童相談所の現場とか,あるいは児相が様々な手続を開始する司法,つまり,家庭裁判所にとって,今回,こういう形で子の利益のためにというのが入り,その後で懲戒のところに,その文言は私も磯谷幹事の文言というのは一つの提案だなと思いますが,こういうものが入ることによって,実際に例えば一時停止とか,親権喪失ということに関して,今まで以上に児童相談所がやりやすくなるのか,あるいは家庭裁判所として一定の方向が出しやすくなるのか,この点についてはちょっと事務当局でも結構ですけれども,お答えをいただきたい。   二点目は違う側面で,虐待の今度はそもそも発生の予防ということから考えてみますと,今までの何人かの委員がおっしゃったように,親がほとんどこんなのは見ていないので,虐待が起こる,起こらないというのはもうちょっと教育,医療,福祉,すべてのところから関わって施策を講じなければいけないので,むしろ,民法の文言をどう変えたからといって,余りそこで予防ということでは意味がなくて,むしろ,これを受けて,今,開始している厚生労働省のほうの様々な対応の課題になるのではないかなと思っております。   その上で,事務当局のほうで様々勘案されて,今回,この規定でむしろ法改正の実現をできるというような展望をお持ちであれば,私は懲戒権に関する意見は二回ほど前に個人的な意見を述べさせていただきました。繰り返しませんが,そういう事務当局の御提案も今まで幾つかのこういった民法上の改正で止まってしまっているのもありますので,現実的な選択としてはあり得るかなと思いますので,一点目については少しお答えをいただきたいと思います。 ○野村部会長 それでは,先に事務当局のほうから。 ○飛澤幹事 それでは,最初に事務当局のほうから御説明申し上げます。今までも,民法822条にいう必要な範囲内で懲戒するという場合には,当然,子供の利益のために必要な範囲内ということが含意されていたところだと思うのですけれども,懲戒権を児童虐待の口実とする親に対しては,どこに書いてあるのだと言われると明確に書いていないため説明がしにくいというところもあったかと思われます。   それを今回,民法820条を引く形で子供の利益のためにということが明らかにされることにより,先ほどもちょっとお話に出てきましたけれども,子供の利益のためにと,こう書いたのは何も親の主観的目的で子供の利益のために思っているかどうかではなくて,客観的に見て子供の利益のためかどうかという趣旨ですので,そうだとすると,親に対して,あなたがどう思っていようが,あなたの行為は,客観的には子供の利益に反するねということで,それなりに,例えば児童相談所の介入の場面や裁判所での判断の場面において一定の指針を与えることになるのではないかと考えております。   特に裁判所のほうの判断ということになりますと,親権喪失の審判あるいは親権停止の審判というところですが,こちらも正に今回,要件を変更することによって,子供の利益が害されているかどうかという観点から見ていくというところでもありますので,そういった判断方法ともつながるものがあるのではないかと考えておる次第でございます。 ○松原委員 もし,司法とか児相の現場の立場からのコメントがあれば,教えていただきたいと思います。 ○野村部会長 いかがでしょうか。それでは,まず,豊岡委員,お願いいたします。 ○豊岡委員 児童相談所の現場では,懲戒権を口実にされる方は確かにいらっしゃいましたし,しつけをして何が悪いのだというようなことで,この懲戒権は何とかならないものかなという思いで,この審議会に臨ませていただきました。皆さんに本当に積極的に御議論いただいたというか,御議論があったと理解しています。この資料を見まして私もかなり前進が見られるなと思います。ここに書いてあるから,あるいは書いていないから虐待がすぐ直接的に影響するかどうか,それは分かりませんけれども,私のほうとしては前進という部分はやや評価をしているということでございます。なかなか児童相談所全体でこの問題を議論するということはできない部分もありましたので,全国の児童相談所としての意見としては,中立的な立場で意見はなかったように記憶をしております。個人的には,今,申し上げた印象です。 ○長委員 私は「子の利益のために」の点について申し上げますと,裁判所の実務の中ではこの文言がなくても,親権というのは子の利益のために行使されるべきであるという認識で,実務は動いてきたと思いますけれども,文言上,明確になることによって,当事者の方に御説明をする際には,こういう条文を引くことも可能でありますので,そういう意味では,大変意義は大きいのではないかと思っています。 ○野村部会長 よろしいでしょうか。   ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○大村委員 懲戒の規定をどうするかということについての個人的な意見は以前に申し上げました。基本的には削除がいいと思っておりますけれども,ただ,これは小池さんもおっしゃったことですけれども,親権の他の規定をどうするかということと併せて考えるべき問題かと思っております。今や居所指定権もそれ自体としては意味がなくて,子の引取りなどの根拠をどのように定めるかが問題となるということだろうと思いますが,そういうものも含めて,親権の中身あるいは権能がどんなものなのかということについて,どこかで整理する機会があればよいと思っております。   それで,今回の立法につきましては,皆さん,これでともかく一歩踏み出せるという点では認識が一致しているかと思いますので,やれることをやるということが肝要かと思います。平湯委員から先ほど御指摘があった点,あるいはその他の方々が挙げられている点もありますけれども,この立法をすることによって,考え方が変わってきているのだということを民法の教科書,体系書に限らず,社会に向かってアピールするということが必要だろうと思います。   今までの皆さんの発言の中にも出てきているのですけれども,懲戒という言葉があるから親は懲戒権を行使したと主張する。では,懲戒をしつけにしたらどうかというと,しつけだからと主張するという御指摘もあるわけです。では,しつけをなくしたらどうかというと,今度は教育だからと主張するということがあるので,言葉を置き換えるだけでは決まらないところがあります。ですから,懲戒,しつけ,教育という言葉はどの言葉であっても,親は子供の利益のためにそれを行うのだということを明確に示していくということが必要なのではないかと思います。   何人かの委員から民法の言葉がどうであっても余り影響はないのではないかというお話がありましたけれども,私たちは影響があるだろうという前提の下で,これまで考えてきたのではないかと思います。直接,親が民法の規定を見ることは考えにくいわけですけれども,どこかで小耳に挟んできたとか,あるいは周囲の人がこう言っているというような形で,親権の行使の仕方については,世の中の考え方に影響されるというところがある。それに対して私たちは働きかけようということで,今回の立法をしているということだろうと思います。   もう一度,平湯委員の厳しい御指摘に戻りますけれども,注釈書が遅れているというのは確かにそうなのかもしれません。これは時差の問題もあるだろうと思います。現在の注釈民法も少し古くなっているのだろうと思います。また特別法と民法の間の落差という問題もあります。特別法に規定されていることがなかなか民法の解釈に浸透しないということがあろうかと思います。今回,民法の規定の本体そのものが変わるということになりますと,注釈書もそのままであるということはあり得ないということになるのではないかと認識しております。 ○野村部会長 どうもありがとうございました。   ほかに御発言はいかがでしょうか。特によろしいでしょうか。   そうしますと,この第1についてはどう要綱案としてまとめるかということかと思うのですけれども,いろいろ御議論いただきまして,事務当局の案が現行の規定よりは進んでいるという評価は,大体,共通に頂いているかと思います。この部会では親の子に対する正当なしつけを否定するものではないけれども,懲戒権を口実に児童虐待を正当化することは許されないという点は共通に認識されていると思われますけれども,事務当局の案に一定の理解を示しながら,懲戒については監護・教育に含まれるということで,懲戒権を児童虐待の口実とさせないためにも,民法822条の規定については全部削除するという御意見もかなりあったところです。もちろん,そういう考え方は十分成り立ちますけれども,他方,懲戒についてはいろいろな意見があり,まだ,十分な検討が必要ではないかということで,直ちに民法822条を全部削除するということについては,委員の間で意見が分かれています。そこで,要綱案としてはそういう全部削除するという方法があるということは十分認めた上で,なお,現段階では懲戒権の規定を残しつつ,懲戒権は児童虐待を正当化するものではないということを示すということで,一応,原案を取りまとめの案とするということでよろしいでしょうか。いろいろこれも解説とかを書かれることになるわけですので,その中で,今,申し上げたような一方で全部削除するという方法もあり得るということと,それから,こういう形で規定は残し,しかし,だからといって,懲戒権は児童虐待を正当化するものではないということがメッセージとして伝わるように,事務当局で表現等を工夫していただくということでいかがでしょうか。   それから,もう一つ,先ほど磯谷幹事から出たところなのですけれども,文言の問題は具体的に条文化をするところの過程で,先ほどのような意見があったということも,十分,お考えの上で事務当局のほうでお考えいただければということではないかと思います。このような取りまとめでいかがでしょうか。 ○平湯委員 意見を申し上げます。今の部会長の御提案は事務当局原案を更に修正するように事務当局に求めると,委ねると,こういう御趣旨でしょうか。   そういう趣旨であるとすると,基本的に削除されるべきであるということを言わば無視された形の取りまとめということにちょっとならざるを得ないと思うのですね。それには反対です。 ○野村部会長 一応,こういう事務当局の案で「ために」というその文言はちょっと若干,事務当局で検討させていただくということではどうでしょうかと申し上げましたが,今,平湯委員からはそれには反対という意見が出ました。 ○平湯委員 ちょっと初めに私はお聴きしたい。座長の御提案は事務当局案を修正するということでしょうかということに対して,そうではないという,要するにいじくらないということでしょうか。 ○野村部会長 「ために」という文言のところだけはちょっと事務当局で検討していただくということで。 ○平湯委員 そういう御提案とお伺いしてよろしいですか。 ○野村部会長 必要な範囲内で子を懲戒することができるものとするという,この①の部分は全体としてもちろん残すということでいかがでしょうかということなのですが,どうぞ。 ○大村委員 今回のこの要綱案の取りまとめについては,様々な御意見があり,平湯委員が懲戒権を削除すべしという御意見であるということも承知しておりますけれども,多くの方々は削除が望ましいとしても,それが現段階で困難な事情もあるだろうということについて,一定の理解を示されたのではないかと思います。取りまとめるということであれば,その線で取りまとめていただいて,平湯委員の御意見,それから,私自身も長期的な考え方としては削除したほうがいいのではないかと思っておりますし,ほかにもそういう方はいらっしゃると思いますので,そうした意見がこの法制審議会の部会の場ではあったということを,要綱案には書けないといたしましても,補足説明等で必ず触れていただくということを御要望するということでいかがでしょうか。 ○平湯委員 多数の方が理念的には廃止すべきであるけれども,現時点でそっくりそのままではないとしても,とにかく残すというまず大きな議論のふるい分け,整理をされるのであれば,それはそのとおりだと思います。今,多数はとおっしゃいましたけれども,ちょっと私の理解では先生方の今までの御主張も含めて,それほど多数だろうかという疑問もございます。 ○大村委員 今のような疑義が出ておりますので,現在の段階で,おっしゃった修文の問題はありますけれども,そうした留保は別にして,基本的にはこれでよろしいとお考えになるのかどうなのかということについて,改めて意見を聴いていただいたらいかがでしょうか。私は先ほど個人的な意見を申し上げましたけれども,今回の取りまとめとしては,部会長が提案されるように取りまとめていただいて結構だと考えております。 ○野村部会長 それでは,先ほど申し上げたような事務当局案を基本的に認めるという形で,この部会としての要綱案をまとめるということについていかがでしょうか。 ○吉田委員 事務当局案のこの線に沿ってということですけれども,先ほどの繰り返しにならないようにしますが,要はこの廃止が望ましいにしても仮に残すとしたら,この文言でいくかどうか。先ほどのまた繰り返して申し訳ありませんけれども,やはり,監護・教育のためにという,その部分だけの話ではないと思うので,更に検討していただくのであれば,必要な範囲を限定するという部分に関して,もう少し事務当局のほうで練っていただいてもよろしいのではないかと思います。 ○松原委員 私は前々回のときにも,820条だけでほかの居所指定権,懲戒権とも要らないではないかという発言をさせていただきました。それは今でも変わっておりませんが,大村委員,小池幹事がおっしゃるように,そうすると全体的な見直しを掛けていくということになって,そういう時間の掛け方もひょっとしたらあるのかもしれませんけれども,なかなか,それですと議論が進まないと思いますので,今回は一つの前進だと考えて,修文の問題はともかくとして,こういう形で,この時点でのまとめをされることについて反対はいたしません。 ○垣内幹事 私自身も個人としましては恐らく懲戒という規定は,中長期的にはなくすという方向が望ましいのではないかという考えは持っておりますけれども,しかし,現在,議論している児童虐待防止ということの緊急性等に考えた場合に,今回の立法の要綱としては,先ほど大村委員あるいは松原委員が言われたような考慮から,原案に賛成してよいと考えております。 ○山田委員 日弁連の委員の立場で,また,個人的にも平湯委員が発言されたように,懲戒権の規定は削除されるべきだと考えております。それが今回でなければならないか,小池幹事,また,大村先生から御発言がありましたように,今後,そちらの方向に向かってという前提で,この場で意見交換をさせていただいたということも踏まえ,大きな改正時,家族法全体であるか,親権制度全体であるか,この問題は一部制限の議論のときにも,やはり,今回は難しいとなった部分,そのあたりをもう少し広げ,近い将来に是非この議論踏まえ,また,日弁連のこれまで発言してまいりましたスタンスも踏まえて,更なる前進に向かっていきたいと思っているところでございます。   時間的な宿題の期限があるということは,研究会の時点からお示しいただいております中,今回,皆様と議論させていただきました中で,それなりに実りある成果を得られる機会と思っております。懲戒権の件に関しましては,議論も理解もまた共通にさせていただいている部分もあると感じておりますので,今回,できるところを是非実現するという方向でお取りまとめいただきまして,前に進ませていただき,併せて今後ともいろいろな機会に,目指す方向に向かってまたいろいろお力を貸していただけるようにと思っております。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○中島委員 ありがとうございます。私どもも基本的な考え方としては,懲戒権は必要ない時代に入っているのではないかと思いますけれども,現実的な進捗なり,実現可能性という意味で方向性を明示した上で,内容としては事務当局の御提案の範囲で妥当ではないかと思っております。 ○野村部会長 それでは,いろいろ御意見を頂きました。事務当局案に反対という方もおられますけれども,現在の段階ではこういう懲戒権の規定を残しつつ,懲戒権が児童虐待を正当化するものではないという,そういうことを示しているのがこの案であるということで,事務当局の案で取りまとめるということでよろしいでしょうか。 ○平湯委員 すみません,確認のようですけれども,そっくりそのままということですか。 ○飛澤幹事 先ほど磯谷幹事から御指摘のあった「監護及び教育のために」というところで,これが主観的目的と誤解されるのではないかというのも,ある意味,そういう人もいるのかなと思うのですが,これも先ほど申し上げましたとおり,こちらとしては「ために」という目的は,別に当該当事者たる親の主観という趣旨ではなくて,客観的に見た目的のためにということを考えている次第です。ただ,この「ために」を入れるか,あるいは「に」にするかというのは,最終的に条文にする場合には法制的な問題もございます。磯谷幹事が御指摘になった御趣旨と我々が考えていることは,違わないと思っておりますので,そこも踏まえて,条文上,どう表せるかというのは,更に検討させていただくことにしてはいかがかと思うのですけれども,どうでしょうか。 ○野村部会長 よろしいでしょうか。   それでは,「第1親権の効力」については,1についても2についても事務当局の提案どおりで要綱案をまとめるということでよろしいでしょうか。どうもありがとうございました。   それでは,次に「第2 親権の喪失等」ということで,ここは1から4までございますけれども,まず,事務当局から御説明をお願いします。 ○羽柴関係官 第2は,親権喪失等の親権制限に関する部分です。今回は条文を意識した書き方にしておりますので,表現の変更がございますけれども,実質的内容はこれまで御議論いただいたことを変更するものではございません。   まず,1は親権喪失の審判についてですが,まず,喪失原因の書き方を若干変更しております。これは親の親権行使が著しく困難又は不適当であることと,子の利益を著しく害することとが別々に観念されるのではなく,要するに親権を喪失させるのは,親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときですので,それを端的に表現する書き方にしたものです。   また,時制の点につきましては,審判までの各事情を要素として,審判時にそのような状態であると認められるときに親権喪失の審判をするわけですから,それを端的に表す現在形にしております。そして,著しく不適当であること等の程度を示す意味でも,典型的な場合は列挙することに意義があるという意味でも,虐待又は悪意の遺棄を例示として掲げることが適当と考えられますので,これは前回も例示をしていたところですが,引き続き例示として掲げております。   次に,用語の問題ですが,現在は「親権の喪失を宣告する」ものとされておりますけれども,「禁治産宣告」,「破産宣告」などの用語が改められておりますので,「親権の喪失の宣告」につきましても「宣告」の用語を改め,「後見開始の審判」に倣って,「親権喪失の審判」をすることができるものとすることでいかがかと考えております。   そして,前回も御議論いただきました子を請求権者に加えるかという点につきましては,御議論を踏まえまして子を請求権者とすることを御提案させていただいております。この点につきましては,そもそも虐待などで子の利益が著しく害されているときに,親権喪失の審判をするのですから,そのとき,最も利害関係を持っている当事者は子自身であり,その当事者が虐待や不適当な親権行使から逃れる必要があるとき,親権喪失の審判の請求をすることができてしかるべきであるとの意見が出されており,その趣旨は相当であると考えられますし,子の利益が著しく害されているけれども,誰も親権喪失の請求をしないということがあり得て,そのときに子が請求をする余地がなければ,子の利益が著しく害されて非常に困るとして,強いニーズが示されているところでもございますので,これまでの御議論を踏まえますと,子を請求権者に加えることが相当ではないかと考えられます。   なお,親権停止については請求権を認めつつ,喪失については認めないものするかどうかという点につきましては,性的虐待の事案でニーズが指摘されているなど,より深刻な事態である喪失において強い必要性があるとも考えられますので,親権喪失につきましても,子に請求権を認める案を御提示しております。   子を請求権者とするに当たり,年齢制限を設けるかどうかにつきましても御議論いただきましたが,先ほど述べたような子を請求権者とする理由において,例えば15歳と意思能力ある14歳とで違いがあるとは思われません。意思能力が必要であることは民法上,一般に当然の前提ですが,親権喪失等の場面において,そのような実質を超えて,形式的に年齢で線引きをする合理的な理由はないのではないかと考えられますことから,形式的な年齢制限は設けないものとしております。   なお,特別代理人を選任するような方法につきましては,親権喪失等の審判の請求をするべきかどうかを判断させるのに適当な者をどのように選ぶのか,特に子の周囲に適当な人物がいないようなときに,どのように選ぶのかといったような課題ですとか,手続をワンクッション挟んだことで,実際には親権を喪失させるべき原因があって,子がそれを求めているのに代理人が申立てをしないというようなときに,喪失させる道筋がなければならないのではないか,いずれにしても,最終的に子がイニシアチブを持って請求できる方法が残されていなければならないのではないかといったような課題があることを考えますと,適切な制度設計はなかなか困難ではないかと考えられるところでございます。そこで,今回は端的に,子に請求権を付与する案を提示させていただいているところでございます。   次に,第2の2は親権停止の審判についてです。これは親権の一時的制限ですが,一時的に親権全部を行えないものとすることを表現する用語として,現時点では親権停止という用語を用いております。親権停止の原因の書き方につきましては,喪失原因と同様に条文を意識して書き振りを変更しておりますが,実質において変更を加えるものではございません。   ②は,親権停止の期間の定め方についてのもので,家庭裁判所は,親権停止の審判をするときは,その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間,子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して,2年を超えない範囲内で親権を停止する期間を定めるものとしております。期間を定めるに当たっての考慮要素として最も重要なのは,原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間でありますから,それを考慮要素として掲げています。 親権停止の原因は,親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときですので,この原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間を考慮することになります。例えば輸血拒否の医療ネグレクトのような事案で,1か月後には完全に手術が終わって原因が消滅することが明らかだと分かるときは,それ以上親権を停止する必要はないわけですから,それより長く親権停止をすることは想定されません。しかし,実際には,原因の消滅時期がそのように明確には分からないという事案が多々あると考えられますし,例えば1年から2年程度で原因が消滅すると見込まれるというように,幅があることもあると考えられます。そのようなときに子の心身の状態や生活の状況その他一切の事情を考慮して,親権を停止する期間を定めるものとすることが相当と考えられますことから,そのような考慮要素も書き込んでおります。   3は,管理権喪失の審判についてです。原因につきましては,親権喪失及び親権停止と表現を合わせる形の書き方にしております。その他,前回の御指摘を踏まえまして請求権者に未成年後見人を追加いたしました。   次に,4の審判の取消しにつきましては,ほかと表現を合わせただけで,実質的な変更はございません。   なお,1から3の親権制限の審判につきましては,未成年後見人を請求権者とすることにしておりますが,これに対しまして制限の取消しにつきましては,原因が消滅して親権を適切に行使することができるようになった場面ですので,親権制限を取り消してもらうことに最も利害関係を持っている父又は母本人と,子を含む,その本人の親族に請求権があれば十分であって,あえて未成年後見人に請求権を付与する必要性はないと考えられますことから,請求権者には追加しておりません。   第2につきまして,資料に記載してあることの御説明は以上ですけれども,現在は記載していないことで,第2の1から3に関しまして,一点,御議論いただきたい点がございます。それは親権喪失,親権停止,管理権喪失の審判の請求権者に,未成年後見監督人を加えるかどうかという点でございます。今般,未成年後見人につきましては,親権を制限すべき場合に,それが分かることがあり得まして,そのときに親権制限の請求をすることができるものとしておいたほうが便宜であり,未成年後見人はそのような判断をさせてもよいと考えられる立場の者であることから,親権喪失等の審判の請求権者に加えることとしております。 この点に関しまして,未成年後見監督人については,一方で,子の利益が害されているときに親権喪失等を請求できる者は適切な者である限り,広く認めておくのが相当であり,未成年後見監督人も未成年後見人を通じて子を見る中で親子関係が見えることもあり得て,親の不適当な状況に気付いたときには請求できたほうがよいのではないか,また,その判断をさせてもよい立場にあるといえるのではないかとも考えられます。しかし,他方で,未成年後見監督人は,未成年後見人を通じて子を見ることがあるとしても,その親を見ることまで予定されているわけではなく,基本的には親の状況まで分かるということは想定し難いので,請求権を認める必要があるのか,また,そのような遠い立場の者にまで請求権を与えることが相当なのかどうかという観点もあり得るところと思われます。そこで,未成年後見監督人を親権喪失,親権停止,管理権喪失の審判の請求権者に加えるかどうかについて御議論いただければと存じます。 ○野村部会長 それでは,ただいまの御説明に従って御議論をお願いしたいと思います。まず,子供を請求権者に加えるという点については,かなりずっと議論してきた問題ですけれども,これについてはいかがでしょうか。 ○水野委員 私自身は,子供が最大の利害関係人であることを否定するものではもちろんございません。ただ,そのことが子供にイニシアチブを取らせることに直結はしません。むしろ,ここでは子供にイニシアチブを取らせるよりも,子供を保護することが採るべき方法であろうと考えておりますので,個人的にはここで,子を入れることには賛成ではございません。ただ,このように事務当局が今回,まとめられたことにあえて反対をするまでのことはいたしません。ただ,前回も申し上げたことで繰り返しになりますが,意思能力のある子ということですから,非常に広範囲の子供がこの対象に入ります。離婚紛争に巻き込まれて提訴するようなリスクを始め,様々な弊害も危惧されますので,これを入れた場合には家庭裁判所の慎重な判断とそれから現場の理解を期待したいと思います。 ○磯谷幹事 今回,子供に申立権を認めていただいたということで,大変私は有り難いと思っています。今,水野先生もおっしゃいましたが,一方で,今までいろいろと消極論も出ていたことは事実で,特にこの制度を設けることによって子供の負担が増すのではないか,あるいは様々な紛争に巻き込まれる弊害があるのではないかという御懸念もございました。今,水野先生は家庭裁判所に対する御期待をおっしゃいましたけれども,私ども弁護士のほうもこういった御指摘を踏まえた上で,十分にこういったことを配慮しながら,この問題に対応していきたいと考えております。また,これに関連して恐らく子供の申立権が付与されたとしますと,その手続,そして,その代理人というふうなことで,家事審判法などの仕組みの改正ということも予想されるところでございますけれども,こういったところについても,私どももしっかりと子供の利益保護という視点で考えていきたいと思っております。   それから,もう一点,前回,私のほうで申し上げたことですけれども,やはり子供の申立権が認められることによって,児童相談所が言葉は適切ではないですが,それに甘えてしまって,本来,児童相談所がやるべき仕事をやらないということになると,これは大変な問題であると考えています。この点,前回,私のほうで厚生労働省から例えば通知などという形で,子供の申立権が認められたとしても,児童相談所は当然,それに期待するのではなくて,必要な法的な対応を採るべきだというふうなことをやはり明確にしていただく必要があると思っておるのですけれども,この点,できれば厚生労働省のほうから何かお考えがあれば伺いたいと思います。 ○野村部会長 それでは,石井委員からどうぞ。 ○石井委員 今の御指摘は前回の議論の中でも,様々な委員の先生から頂いたところと認識いたしております。今回の法制審での検討,それから,児童福祉法のほうでもいろいろ改正が検討されているわけでございまして,当然,改正が成就した暁には,私どもは通知はもちろんでございますが,各種会議を通じまして,間違っても,本来,やるべきことをやらないということがないように,その周知徹底はしっかり図ってまいりたいと思っております。 ○豊岡委員 子供を申立人に加えるかどうかという議論があったときに,子供の負担が大き過ぎるというような議論があったと思います。児童相談所が適切に業務を遂行していくということは当然だと思いますので,私も全国の児童相談所の事務局のほうへ,しっかりと伝えていきたいと思っております。 ○野村部会長 どうもありがとうございました。   ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○垣内幹事 前回,御提案を申し上げましたように,子に申立権を与える場合には,例えば特別代理人の選任をしなければならないというような規律をすることが,私個人としては子に申立権を与える場合の弊害を緩和する一つの有効な方策となり得るのではないかと考えていたところでありますけれども,いろいろ実際に条文上,制度として構築するに当たっては解決すべき課題もあるという点については理解できますので,原案のように子に申立権を認めるという形での御提案には賛成できるかなと思っています。ただ,水野委員もおっしゃいましたけれども,例えば手続内で必要な場合には,弁護士を代理人に選任するといった措置を柔軟に講じていただくということで,実務上,運用上,様々な配慮をしていただくということが望まれるところであろうと考えております。 ○平湯委員 原案に賛成でございますけれども,児童相談所にちょっと注文の追加をさせていただきたいと思います。児童相談所は直接申立てを従来できたのを,これからしないようになっては困るというのがもちろん片方にあるわけですけれども,もう少し実際的に考えますと,子供が児童相談所に相談に来るということもあると思うのですね。要するに,親権喪失について,親権がこのままでは困るのだということを子供本人あるいは周囲の人,弁護士も入るかもしれません,そういうときにサポートする人たちからすると,児童相談所にどうしても申立てをしてほしいという場合もあるでしょうし,自分が申立てをしたいのだけれども,あと,親のほうがどうなるか,親のサポートがどうなるか,それも気になるとか,いろいろあると思うのです。   前々から子供の申立権というのは,むき出しでそれがあるだけでは,果たして本当に妥当な結果が得られるのだろうかという御懸念はいろいろ出されたと思うのですけれども,そこの基本的な原点に戻ると,子供に申立権は認めつつも,児童相談所が初めのところでよく相談に乗ると,乗って,それでやはりそれはやりましょうと児相がなるかもしれませんし,ひとつ応援するから頑張ってごらんということにもなり得ると思うのですね。どちらになるにしても,親の親権があることによって困っている子供が,児童相談所にも相談しやすいような体制と姿勢をお願いしたいなと思います。 ○豊岡委員 当然,相談に見えられるということがあれば正式に受理をして,業務として関わっていくのかなという印象を持ちました。そうなると思います。 ○野村部会長 どうもありがとうございました。 ○大村委員 今の平湯委員の意見に賛成です。前回までいろいろな議論をしてまいりましたけれども,先ほどの垣内幹事の御意見も含めまして,中間的な案も幾つも上げられて検討されたところでございます。それらの中間的な案はやはり,先ほど平湯委員がむき出しのとおっしゃいましたけれども,子供を申立権者に加えればそれでよいのかという危惧から発した御意見だったかと思います。出された様々な案に難点があるということで,このような形になったわけですけれども,そのような危惧を踏まえた形で,是非,運用をお願いしたいと思います。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。   それでは,いろいろ実務上の配慮等についての御意見はありましたけれども,子を申立権者に加えるということについては,原案どおりということでよろしいでしょうか。   それでは,もう一つ,先ほど,今回,初めてということで案の中に書き込むかどうかということですけれども,未成年後見監督人に親権喪失,親権停止,それから,管理権喪失の請求権を認めるかという,これらの点について御意見を頂ければと思います。 ○磯谷幹事 未成年後見監督人を請求権者にすることについて,私としては率直に言って,今まで十分に検討してきたわけではありませんけれども,実務的に思い付くのはやはり親権停止をして,未成年後見人が就任をすると。そして,未成年後見人はやはり親権者と対峙といいますか,硬軟を取りまぜていろいろと関わっていくことに実際にはなると思うのですけれども,そういう意味では,親権者ととても微妙な関係に立つだろうと思われるわけです。しかし,この停止がもう一回必要だということになった場合に,その親ととてもデリケートな関係になっている未成年後見人がイニシアチブを取って停止の申立てをするということは,なかなか厳しいこともあるかなと思います。   そういう場合に,未成年後見監督人がイニシアチブを取って停止の申立てをする。恐らくは後見人と十分に議論した上でということになると思いますけれども,そういった形になりますと,その手続は未成年後見監督人のほうでやり,引き続き未成年後見人のほうで,ひょっとするとそれが今度は職務代行者になるのかもしれませんが,そういった形で親と向き合うというふうな形が採れるのかなと。そういう意味では,未成年後見監督人に申立権を認めるということは,使えるかもしれないなと率直に感じております。ということで,あと,また,差し支えのような状況というのも余り想定できないと思いますので,結論的には入れていただいたほうがよろしいのではないかなと考えております。 ○水野委員 磯谷幹事のおっしゃるように,このようにどんどん列挙することに差し支えが積極的にあるかといいましたら,虐待している親の親権を停止することを,たくさんの人々が申し立てるということはもちろん悪い理由は考えにくいわけですが,それは基本的には私人の間で子の問題を解決する路線を考えることにつながる気がいたします。メインはやはり社会を代表する公権力が,具体的には児童相談所長が対応するというのが王道のルールで在るべきであって,虐待の可能性に気が付かれた方は児童相談所に通知をするということになるべきでしょう。ここで虐待に気付いて裁判所に直接申し立てるといいかもしれないような人を列挙し始めると,それこそ切りがなくなってしまうと思いますし,児童相談所のスクリーニングがかからないと濫訴のおそれもありそうです。現行法の「親族」は確かに相当に広く認めているわけではありますが,なるべくメインのルートだけを書き込んで,それプラスアルファを考えるくらいでよいでしょうから,現在,書かれているものだけでいいように思います。 ○野村部会長 ほかに御意見は,この点についていかがでしょうか。 ○垣内幹事 気付いた人は誰でも挙げていけばよいというものではないというところは,今,水野委員が御指摘のとおりかと思いますけれども,他方で,未成年後見監督人は,事務当局からの御説明にもありましたように,確かに親との関係では間接的であるというところは否定できないように思いますが,しかしながら,未成年後見監督人が未成年後見人を監督するということを通じて,結局,何を実現しようとしているのかといえば,それは子の利益にかなった当該子の監護・教育といったことが終極的な目的となるというように考えますと,それほど遠いということでもなく,ここに未成年後見監督人を申立権者に加えることが,合理性を欠くということはないのではないか,という感じを持っております。   他方で,このことについては部会の多くの皆様に共有されているところではないかと思いますけれども,子自身に申立権を与えるといたしましても,これは言わば最後の手段であるのであって,できる限り,その周囲で子の利益に配慮すべき立場にある方が,子の利益が著しく害されているというような場合には申立てができるようにしておいたほうが,子になるべく負担を掛けないという観点からも望ましいと考えますと,未成年後見監督人を申立権者に加えるということには,十分,理由があるのではないかと私自身は考えます。 ○大村委員 なかなか悩ましい問題で,どうしたらいいかよく分からないところがあります。皆さん,今までおっしゃった御意見はそれぞれにごもっともなように思って伺いました。それで,一点,考える際の要素ですけれども,今回,後見人のほうについても制度改正を予定しておりまして,法人というのも認めるということで,言わば未成年後見人あるいはそれを監督する未成年後見監督人も含めて,社会に開かれた形になるのではないかと思います。水野委員の危惧は,そんなことは周りの人で,親族でやってほしいということになっては困るということだろうと思いますけれども,未成年後見人あるいは未成年後見監督人というものを,そうした社会性を帯びたものとして捉えて,検察官その他とともに子供の利益を守るということで,入れてみるというのも一案かと思いました。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。大体,御発言はよろしいでしょうか。   そうしますと,この点について水野委員からやや消極的な御意見を頂きましたけれども,未成年後見監督人も親権喪失,親権停止,管理権喪失の請求権者の中に入れるということで取りまとめるということでよろしいでしょうか。どうもありがとうございました。   それでは,全体として第2はここにあるような形でよろしいでしょうか。 ○大村委員 取りまとめに入っておりますので,強くは申し上げませんが,第2の2の②について,一言だけコメントをさせていただきたいと思います。2の②で親権停止の審判をするときの期間の定め方につきまして,その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間,それに加えまして,子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情というのが加えられているわけですけれども,基本的な考え方としては,親権停止の原因があるので,その原因がなくなるまでの間,止めるというのが本則なのだろうと思います。確かに,事務当局の説明にありましたように,どれだけの期間が必要なのか,よく分からないという事情はあろうと思います。手放しでその原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間と書いたときに判断の要素がなくて,裁判所としてもお困りになるということがあるのではないかと思います。   ただ,子の心身の状態及び生活の状況というのを後ろに付けますと,その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間のほかに,後ろにあるこれらの要素が考慮されるということになると思います。ところが,その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間のその原因というのは何かというと,2の①に出てまいります父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するということですので,子の利益が害されるという状態がなくなるか,なくならないかということが決め手になるのだろうと思います。そして,子の心身の状態及び生活の状況その他の事情というのは,子の利益の判断の要素なのではないかなと思えるのです。そうだとすると子の心身の状態及び生活の状況を改めて後ろに掲げるというのは,条文の作りとして果たしていかがだろうという感想を持ちます。   ただ,このような事情を書き込みたいという御趣旨はよく分かりますので,文章の作り方の問題だろうと思います。ただ,私自身はむしろ御趣旨のようなことを書き込みたいのならば,判断要素のほうを前に出して,子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して,その原因が消滅するまでに要する期間として2年を超えない範囲で親権を停止する期間を定めるというような形で,後ろに付け加えられたものを原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間の判断要素になるような形で,修文していただいたほうがいいのではないかと思いますけれども,技術的な問題ですので,この場でのお答えは特に求めません。御検討いただければと思います。 ○吉田委員 技術的なところでちょっと教えていただきたいのですけれども,親権喪失の審判のところで,父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときとなっています。その2行目で,子の利益を著しく害するときと,虐待と悪意の遺棄は例示であると先ほどおっしゃって,それはそれでよろしいかと思うのですけれども,表現として悪意の遺棄があるときというのがなければいけないのかなと。817条の6ですか,特別養子縁組の同意免除の表現では,「とき」というのは入っていないですよね。   ですので,それとの使い分けというのが一つあるのかどうかというのを教えていただきたいというのが一つと,それから,あと,親権喪失審判のときの子の意見ですけれども,この後にやります未成年後見のところでは未成年被後見人の意見というのが入っていますよね。ここは現行法に倣っているところかと思いますけれども,かねてより親権喪失のときの子の意見というのは,家事審判法にも入っていなかったので,これは審判法に任せるということだと思いますが,それでよろしいのか。後見人選任の場合には意見を聴くというのが民法に入り,親権喪失は入らないという,その理由を教えていただければと思うのですけれども。 ○羽柴関係官 まず,一点目の虐待又は悪意の遺棄があるときですけれども,これは御指摘のように親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときの例示でございまして,虐待又は悪意の遺棄があるときというのは,必ず当然に子の利益を著しく害するわけですので,そこまでは重ねて書かずに,このような形で書いているところでございます。   そこで,御指摘のように名詞で並べるという方法もあって,意味としては虐待又は悪意の遺棄その他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害する事由があるときというのでも同じなのであろうと思います。構文の作り方としていずれもあり得るとは思いますけれども,余りにも前の名詞のつながりの部分が長くなると読みにくいのではないかなどの技術的な問題もありまして,このような形にしているところでございます。   それから,二点目の子の意見でございますけれども,親権の喪失等の原因の中身といたしましては,子の意見がどうかということよりも,やはり,直接的に子の利益を著しく害するのかどうかということが原因になっていると思われます。子の意見を聴くかどうかということにつきましては,正に手続的なほうで考えるべきことであろうと思っています。未成年後見人ですとか成年後見人の選任のときの考慮要素につきましては,正に選任をするときにどの方を選ぶのか,誰が適任かということについて,実体的に判断の内容に被後見人の意見が入ってくるということで,喪失原因とは位置付けが違うといった整理かと思っております。 ○水野委員 新しいことを申し上げるのではなくて,大村委員の御意見に賛成だということだけでございます。私も今,指摘されるまで気が付かずにおりましたが,このままこの1,2,3の事情を考慮してとありますと,確かに原因があって,この子の親権を止めたほうがいいのだけれども,親権を止めてしまうと,この子のその他一切の事情で非常に悪い環境の施設へ行くしかないというようなことが配慮に入ってしまうかのような読み方がしてしまえて,できればやはり目立たないほうの位置に入れていただいて,メインは原因が消滅するまでにというところにあるという書き振りに,できるものならしていただければと思います。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。特に御意見はよろしいでしょうか。 ○羽柴関係官 大村委員と水野委員から御指摘を頂きましたので,その点について御説明を申し上げたいと思います。確かに御指摘を頂きましたので,そのような懸念が生ずるのであれば,説明の仕方には留意をしたいと感じたところでございます。   ただ,条文といたしましては,なぜ,このようにしたかといいますと,大村委員から御指摘も頂きましたとおり,やはり親権を停止するのは親権停止の原因があるからでございますので,原因が消滅する時期まで停止をするというのが大原則,基本であろうということはそのとおりだと思っています。そのために最も大きな考慮要素といたしまして,その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間を考慮するものとしているところでございます。ただ,先ほども申し上げましたように,それでなお明確に分からないときがあるという実態に即して考えたときには,補充的にと申しますか,幅のある中,あるいは余り明確でない中の見込みの中で,一点の時期を決めるというのに当たって,一切の事情を考慮するというものがあったほうが,判断をしやすいのであろうと考えているところでございます。   そして,子の心身の状態や生活の状況は,もちろんのこと,親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するというものの中に入ってくる部分は,当然,考慮されるものと考えられます。原因は子の利益を害するときでございますので,原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間の判断に当たり,子の側の事情が考慮要素に入らないということはあり得ないと考えているところでございますけれども,必ずそれに集約して入ってくる要素しかないのかといいますと,子の側の事情でもう少し別の考慮があり得る場合があるのではないかということも考えられますので,このように後ろのその他一切の事情を付け足し,その他一切の事情として考慮するものの中では,やはり子の心身の状態や生活の状況というのが重要な要素と考えられますので,このように併記しているところでございます。   むしろ,子の心身の状態及び生活の状況を前に出すなどして,結局は原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間にすべて集約するような形で書いてしまいますと,それしか考慮できないのかという,かえって柔軟性のないような読まれ方をする形になってしまうという懸念もありますことから,このような形にしているところでございます。 ○平湯委員 ちょっと考え切らないままで中途半端な質問になってすみませんけれども,子供の生活状況,子の心身の状況があるわけですけれども,親のほうの状況についてはどういう位置付けで理解したらよろしいでしょうか。 ○羽柴関係官 親の側の事情として,もともとどのような親権行使の問題性があったのかですとか,どういったことをしているのかといったようなことは,当然のことながら,親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときの中身の重要な判断要素になろうかと思いますので,親の側のそういった大きな事情は,ほぼ原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間の中で考慮されることになってくるのではないかと考えているところです。その他,それに必ずしも含まれるのかどうかはっきりとは分からない,例えば生活の状況などがあるのかもしれませんけれども,それはその他一切の事情に入ってくると考えております。   その他一切の事情でそれを考慮するとしても,ただ,親の大きなものは原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間で拾えるでしょうから,その他一切の事情のほうで考慮すべきものの中で何が重要かというと,それは子の心身の状態や生活の状況のほうが前面に出されるべきであると考えましたことから,特出しして親の側の事情というのを個別にばらばらとは書いていないと,そういった整理をしているところでございます。 ○大村委員 今の平湯委員の御指摘の点が正に問題だろうと思うのですね。それは父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するということを掲げていて,諸般の事情は子の利益を害するというところに含めていたはずなのに,子の心身の状態及び生活の状況というのを外に切り出すことによって,中に残っているのは親の側の事情だけなのではないかという,当初の前提と違う解釈論を呼び起こすのではないかと思いまして,その懸念をふさいでおく必要があるのではないかと思ったのです。   事務当局の御説明は,そういう趣旨ではなく,子の心身の状態及び生活の状況は,第一次的にはその原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間の中で考慮するけれども,外に漏れるものもあるかもしれないというお話でした。その説明はその説明として承りましたけれども,前のほうの原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間というところで出てくる原因について,2の①のほうと違う理解が広がらないように御留意を頂ければと思います。 ○水野委員 同じ表現が906条にもあったなと思って,今,確認をしてみたのですが,遺産分割のところで「各相続人の年齢,職業,心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」という条文がありますが,この一切の事情を考慮して分割をするという条文にもかかわらず,遺産分割審判で相続分を変更することは許されず,法定相続分に従って遺産分割をすると実務で解釈されていると理解しております。それと同様のことがここでもいえると考えますと,これもまず期間について定めるものであって,それと異なる判断がこれらによってもたらされるものではないということだけを確認していただければ,このままで結構でございます。 ○野村部会長 ほかにいかがでしょうか。特に3,4についてはよろしいでしょうか。   それでは,第2については一応,文言について若干疑義が出されましたけれども,事務当局からの御説明を一応了解していただいたということで,原案どおりに要綱案としては取りまとめるということでよろしいでしょうか。先ほどの未成年後見監督人はここに書き込むということでございます。よろしいでしょうか。どうもありがとうございました。   それでは,「第3 未成年後見」について,ここも1から4までございますが,事務当局からまとめて御説明いただいて。 ○羽柴関係官 第3の1と2は,前回と同じでございます。なお,前回,第3の2の未成年後見人選任の考慮要素で,年齢を追加することを亀甲括弧に入れた形で御提案しておりましたけれども,年齢を入れることにつきまして御了承いただきましたので,今回は亀甲括弧を外した形で記載しております。   第3の3は,未成年後見人が数人ある場合の権限の行使等についての規律で,前回,注で御提示しておりましたが,御了承いただきましたので,今回,本文にしております。形式的な表現振りに若干変更を加えましたけれども,内容は前回と同じでございます。   第3の4は,未成年後見監督人についての規律です。前回は注で未成年後見人と同様とする旨の記載をしておりましたが,御了承いただきましたので,今回は本文に記載しております。具体的には,未成年後見監督人についても,家庭裁判所が必要と認めるときは追加選任をすることができるものとし,当初の選任,未成年後見人が欠けたときの選任,追加選任のすべての場合を通じて,家庭裁判所が必要と認めるときに未成年後見監督人を選任することができるものとするのが①の規律です。②は未成年後見監督人の選任の考慮要素及び未成年後見監督人が数人ある場合の権限の行使等の規律につきまして,未成年後見人と同様の規律とするものでございます。 ○野村部会長 それでは,この第3について御意見をお願いしたいと思います。   特に御意見はないでしょうか。よろしいでしょうか。実質的に既にお認めいただいているところが大部分だと思いますけれども。それでは,第3については事務当局の原案どおりということでよろしいでしょうか。どうもありがとうございました。   そうしますと,最後は「第4 その他」ということで,これもまず事務当局から御説明をお願いいたします。 ○羽柴関係官 第4の1は,15歳未満の者を養子とする縁組において,親権を停止されている父母の同意を必要とする規律で,前回,注で記載しておりましたが,御了承いただきましたので,今回,本文に記載しております。なお,前回は注において,この同意なくされた縁組について,第806条の3第1項と同様に,同意をしていない者から取消しを請求することができる旨の規律を併せて記載しておりましたが,同条第2項の詐欺又は強迫によって同意がされた場合の取消しにつきましても,この場合に適用するものとすることが適当と考えられますので,今回は注において,第806条の3の規定は,第4の1の同意についても適用するものとしております。   第4の2は,その他関連する規定について所要の整備をするものでございます。なお,想定される整備としては,例えば民法において,第857条の規定中に懲戒場に関する部分がありますので,その部分を削除するなどの所要の整備がございます。また,親権停止の審判及び複数の未成年後見人の権限行使の規律を新設すること,懲戒場の規定を削除すること等に伴いまして,家事審判法や戸籍法に所要の手当てをすることも含まれております。 ○野村部会長 それでは,この第4について御発言はおありでしょうか。 ○大村委員 第4の提案については賛成いたします。第4の1については前回,注という形で出てきて,このような措置をすることが必要なのではないかということで,決まったものだと認識しております。その後,こういうものがほかにないかと考えてみたのですけれども,成年被後見人とか被保佐人は,審判がされると親権が止まるというのが現在の理解なのではないかと思います。そのときに,本件の第4の1と同じように同意権を認める必要がないだろうかということについては,検討を要する課題であるように思うのですけれども,今回の改正でできることではありません。そもそも成年被後見人や被保佐人について,親権が止まるという理解でよいのかどうかということも含めて,いずれ検討する機会があればよいということを所感として申し述べます。 ○野村部会長 ほかに御発言はいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,第4についても原案どおりお認めいただいたということで,そうしますと,先ほどの親権停止の審判等に未成年後見監督人の請求権を付加するという点を含めまして,要綱案は原案どおりお認めいただいたということでよろしいでしょうか。   それでは,これで9か月間にわたる御審議の結果,本日,要綱案がまとまったということですけれども,最後に何か御発言がございましたらどうぞ。 ○水野委員 今回の親権制度改正では,児童虐待防止関連の規定のみをそういう観点からだけ改正を議論してまいりました。つまり,嫡出でない子とか離婚後の共同親権という問題については対象になっておりませんでした。ただ,これらについても喫緊の課題であることは間違いないことでございます。   議論されてこなかったので根本的な改革はもちろんできないわけですけれども,ただ,私だけがこのメンバーの中で,平成8年の婚姻法改正の法制審議会の身分法小委員会の議論に加わっていた者だと思います。その立場からもしこういうことを発言するならば私かと思いまして,発言をさせていただきます。この婚姻法改正の審議をいたしましたときに,別氏とか,あるいは五年別居離婚などがメインでしたので,親権については離婚後の共同親権も考えないではなかったのですが,現行法を前提として議論をいたしました。   けれども,少なくとも離婚後の子の監護についてだけ,766条の改正において,面会及び交流とそれから子の監護費用について定めを置くということが,確か平成8年の婚姻法の改正の法制審議会の答申には含まれていたと思います。その提案については少なくとも当時の身分法小委員会では全く反対がなかったと記憶しております。既に法制審議会答申となってまとまっておりますので,この面会交流の部分,これを虐待関連の改正とともに,もし可能性があるのであれば,お考えいただけないかと思います。   ただし,この最後の回になってこういう発言をすることがいいことなのかどうか,非常に迷いがございます。民法について法制審議会を通さないで改正をされるという可能性について,私はかねてより非常に危惧をしておりまして,もし万一そういうことになると民法の体系性と安定性が危うくなると思います。民法の改正は,議員立法で簡単になされるのではなく,是非法制審議会の民法部会を通していただきたいと思っております。もちろん本当はここできちんと議論をした上で改正をしていただきたいと願っておりますけれども,でも,もし,そういう必要性があるようでしたら,議員立法でされるよりはここでちょっと瞬時,お考えいただいて,かつ平成8年の段階でいったん答申が出ておりますので,その可能性を含んでお考えいただければと思います。 ○野村部会長 これはもちろん,今回の諮問事項の外側にある問題ですけれども,何か御発言はおありでしょうか。 ○大村委員 先ほど山田委員からも御指摘がございましたけれども,今回,できたことは児童虐待と関連する限られた事柄であったわけです。今,水野委員がおっしゃった面会交流の問題というのを今後検討していかなければいけないということについては,全くそのとおりだろうと思います。しかし,ほかにもいろいろと検討すべき問題がございますし,766条の規定に限って申しましても,これは小池幹事が最初のほうで触れられたところとも絡むのかもしれませんけれども,親権の内容というのが何なのかということとの関連で,平成8年の段階ではともかくとして,現時点では今回の審議を経て検討し直すべき課題も多々あるのではないかと認識しております。親権について,今回,立法ができるというのは大変意味のあることで,この間,やや停滞気味であった家族法の立法を推進する契機になるのではないかと思います。平成8年の要綱に掲げられたもの,掲げられていないものを含めまして,法制審で必要な議論をしていただきたいと考えております。 ○平湯委員 感想みたいなことで申し訳ありませんけれども,今回の審議で,民法典の中で虐待防止のために一定の手直しがされたという方向が打ち出されたということは,非常に意味があることだと思っております。同時に,子供たちの保護という点からいいますと,言わば施設によって守られる年齢層の子供たちについては,ここ及び社保審のほうでもいろいろ議論がされたと思いますけれども,施設によって保護されない年齢の子供たち,あるいはそういう生活をしている子供,そういう子供たちを親権者の濫用から守るということについては,まだまだ実現がされていないと思います。その点は,民法だけの改正だけで済むことではないということもございますけれども,そういう取り残された子供たちの生活実態,その中からどういう法的な課題が今は出てきているのかということを,この審議の中でもたびたび個別な形で出てきましたけれども,改めてそういうものが残ったということは指摘させていただきたいと思います。 ○水野委員 児童虐待関連のこの部会と関連のない提案ではないということだけを少しだけ言い訳をさせていただきます。子の奪い合いというのは,子にとっての虐待だと私は考えております。そして,それをどのように解決するかということは,DVケースへの対応も含めて,非常に難しい様々な問題をそれこそ長い議論をして考えなければいけない問題です。しかし,少なくともかつての日本には,離婚のときに片方の親が引き取ってしまいましたら,もう片方は,電信柱の陰から隠れてそっと見守るしかないというような文化があったわけです。   そういう伝統が非常に深刻な子の奪い合いを激化させているということは明らかですので,面会交流というものが実務上は認められてきたわけですけれども,それを条文の中に書き込むということがもし幾らかでも奪い合い紛争を緩和する要素がある力を持つことができるのだとすれば,必要な改正だと思います。そして児童虐待防止のための親権に関する制度の見直しという今回の改正とも,関連はある提案であろうと思って発言をさせていただきました。 ○大村委員 水野委員のお気持ちもそれから御認識もよく分かります。平成8年に法制審でまとめられたものでございますので,それをそのまま立法するということで,支障がないということであれば,それをやっていただくということに反対する気持ちはございません。ただ,残る課題は多い。それをやったからといって,後が停滞するようなことにならないようにしていただきたいということを強く要望したいと思います。 ○野村部会長 それでは,ただいまの水野委員あるいは大村委員の御意見は事務当局のほうで少しお考えいただくことにいたします。今後の在り方については,このようなことでよろしいでしょうか。   ほかに何か,本日は最終回ですので,御発言がございましたら。   特になければ,それでは今後の予定について,まず事務当局のほうからお願いいたします。 ○飛澤幹事 それでは,本日はどうもありがとうございました。   今後の予定でございますけれども,本日,お取りまとめいただいた要綱案について,もし,誤字・脱字等を含めた形式的な文言の修正があれば,部会長に御一任いただいた上で若干修正させていただくことがあるかもしれませんけれども,基本的には,今日,お取りまとめいただいた要綱案を来年2月の法制審議会総会にお諮りしまして,そこで採択いただいた場合には,速やかに法務大臣のほうに答申いただき,そのような答申がされた場合には,事務当局といたしましては,それを踏まえて次期通常国会に法案を提出できるように努めてまいりたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 ○野村部会長 それでは,最後に原局長のほうからお願いいたします。 ○原委員 この部会は,本日で10回目の会合を重ねてまいったわけでございますが,委員,幹事の皆様には終始,熱心に御議論を頂きまして,また,本日,要綱案を取りまとめていただき,誠にありがとうございました。今,担当官から御説明いたしましたけれども,来年2月半ばに法制審の総会が予定されておりますので,その総会において答申が得られますならば,できるだけ早期に法案を国会に提出して,会期内での成立を期してまいりたいと考えております。これまでの委員,幹事の皆様の御努力に,事務当局を代表して厚く御礼を申し上げたいと思います。   ただ,国会は今,法案を通すのが非常に難しい情勢になっております。今月3日に臨時国会が終了したわけでございますが,新聞等で御案内のとおり,臨時国会での法案の成立率は非常に低い状況でございました。これは夏の参議院議員選挙によりまして,衆参のねじれ現象が生じたことに,その一因があります。それから,臨時国会は菅改造内閣が現実的に始動した国会であったわけですが,様々な事件が起こり,その対応をめぐって与野党が非常に対立をしているという中で,なかなか普通の法案についての審議がされない,質疑時間が取れないという状況が続いたことも,その一因であったわけでございます。   実は民事局からも,臨時国会に法案を一本提出いたしました。これは余り新聞で取り上げられておりませんので,御存知ない方もおられるかもしれませんが,国際裁判管轄法制を整備するための民事訴訟法と民事保全法の一部を改正する法律案でございます。この法律案は,国際裁判管轄をどういう場合に認めるかという法案でございますので,原告に立つ立場の方と被告に立つ立場の方では,やはりかなり意見の相違がございましたけれども,最終的に部会としましては要綱案全体としてはバランスが取れているということで,全会一致で要綱案を採択していただいて,法制審総会でもそのまま御了承いただいた法律案でございます。そこで,私どもとしましては意見対立のない法案であるということで,実は通常国会に法案を提出いたしました。しかし,通常国会で審議未了により廃案になってしまいましたので,臨時国会に法案を再提出したのですが,参議院で継続審議となってしまいました。このように意見対立のない法案でさえ,なかなか,今,国会を通過しないという,こういう実情になっております。   来年の常会を見通しますと,今の政治対立がまた続く状況でございます。それから,来年は統一地方選がございますので,予算や予算関連以外の法案についての質疑時間が余り取れないという状況でございます。そこで,与党の国対からは来年の常会に提出する法案の数はできるだけ絞るようにと,こういう指示も来ているわけでございまして,こんな状況を考えますと,意見対立がある法案については国会提出を見送るべきだ,あるいは提出ができたとしましても,なかなか常会の間に法案質疑に入っていただけない,こういう危険性もあるわけでございます。   ただ,私どもといたしましては,児童虐待の防止,これは,今,喫緊の課題でございますので,当部会で審議をしていただいた民法改正に合わせまして,今,厚労省のほうで御審議を頂いている児童福祉法の改正,これを一体としてできるだけ早く改正を実現したいと思っております。そういう意味で,厚労省と併せて最大限の努力をいたしまして,常会で法案の成立ができるようにする所存でございますが,今,御説明したような国会情勢でございますので,委員,幹事の皆様にもお手伝いをお願いするような事態になるかもしれませんが,どうか,よろしくお願いしたいと思います。   多少,長いお話になってしまいましたけれども,改めて委員,幹事の皆様方の御支援に感謝を申し上げまして,御礼の挨拶とさせていただきます。どうも本当にありがとうございました。 ○野村部会長 最後に,私からも一言,お礼を申し上げたいと思います。9か月にわたって,全10回,熱心に御議論いただきまして,私の司会の不手際にもかかわらず,本日,このような形で要綱案をまとめることができまして,ひとえに皆様方の御協力のたまものと思い,誠にありがとうございました。   先ほど水野委員からありました平成8年の法制審議会の決定ですけれども,当時,私も民法部会の財産法小委員会のほうに属していましたので,部会での議論には参加しておりました。いろいろな事情から,それが法律として出来上がらないまま,今日に至っておりまして,そのために親権のみならず,8年の決定だけでなくていろいろなところで家族法の分野でも検討しなければいけない問題がたくさんあると思いますので,法務省でも是非とも取り上げていただければと個人的には思っております。いずれにしろ,長い間,御協力いただきまして,どうもありがとうございました。   それでは,以上をもちまして,児童虐待防止関連親権制度部会の第10回の会議を終わりたいと思います。   どうもありがとうございました。 -了-