法制審議会民法(債権関係)部会           第20回会議 議事録 第1 日 時  平成22年12月14日(火)自 午後1時00分                       至 午後6時03分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○鎌田部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第20回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。   では,配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として,部会資料20-1及び20-2をお届けいたしました。   また,本日は,前回の積み残しを御審議いただく関係で,配布済みの部会資料19-1と19-2も使わせていただきます。これらの資料の内容は,後ほど関係官の川嶋,大畑,笹井から順次説明いたします。   このほか,本日は机上に多くの配布物があります。いずれも委員等提供資料ですが,まず,岡正晶委員から第一東京弁護士会会報453号の御提供を頂きました。次に,中井康之委員から近畿弁護士会連合会消費者保護委員会作成の「消費者取引法試案」と題する書面の御提供を頂きました。さらに,本日御審議いただく規定の配置ないし編成に関しまして,大村敦志幹事,山野目章夫幹事,山本敬三幹事から,それぞれ事前に意見書を提出していただきましたので,それを机上に配付させていただいております。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議に入ります。   本日は,部会資料20-1のほかに,部会資料19-1の前回積み残しとなった部分について御審議いただく予定です。具体的な進行予定といたしましては,休憩前に部会資料19-1「第7 継続的契約」及び「第8 法定債権に関する規定に与える影響」を御審議いただき,更にその後に,休憩を挟みながら,部会資料20-1を御審議いただくことを予定いたしております。休憩までにできるだけ20-1についての審議もたくさん進めておきますと,予備日を使わなくて済むようになると思いますので,よろしく御協力のほどをお願いいたします。   まず,部会資料19-1の11ページから12ページまでの「第7 継続的契約」について御審議いただきます。事務局当局に説明してもらいます。 ○川嶋関係官 それでは,部会資料19-1「第7 継続的契約」について御説明いたします。   現代社会においては,継続的供給契約や代理店契約,特約店契約のように,取引関係が長期にわたる契約が重要な役割を果たしておりますが,こうしたいわゆる継続的契約に関して,民法は,一般的な規定を置いておりません。このため,実務においては,契約の解消の場面を中心に継続的契約をめぐる紛争が少なくないにもかかわらず,その解決は,専ら解釈に委ねられているのが現状です。「1 総論(規定を設けることの要否,定義等)」では,こうした現状を踏まえ,継続的契約一般に妥当する規定を設けることの当否について御議論いただきたいと思います。継続的契約一般に妥当する規定を設けることに対しては,多種多様な継続的契約を統一的に定義することが現実的に可能であるのかどうかについて疑問が示されておりますし,また,賃貸借や雇用といったこの定義に該当し得る個別の規定との関係をどのように整理すべきかも問題となり得ます。こうした点についても御意見を頂けたら,と思います。   「2 各論」では,継続的契約一般に妥当する規定を設けることにした場合に,具体的にどのような規定が考えられるかについて御議論いただくものです。公表されている立法提案を基に,三つの論点を掲げております。   「3 その他」では,継続的契約に関連するものとして,公表されている立法提案を基に,「分割履行契約」,「多数当事者型継続的契約」という二つの契約形態についての規定を設けることの是非を御議論いただくものです。 ○鎌田部会長 ただいま御説明のありました部分のうち,まず「1 総論(規定を設けることの要否・定義等)」について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○大島委員 継続性のある契約は多種多様で,契約の種類によりそれぞれ固有の問題があるのではないかと思います。ライセンス契約やフランチャイズ契約などは,終了時の賠償金について争われることがあるとも聞いておりますが,契約解消の場面だけを取り上げて継続的契約を一律に規律することは難しいのではないかと思います。規定化の要否については各界の意見を聴きながら十分検討することが必要ではないかと思います。 ○佐成委員 今,大島委員がおっしゃったとおり,継続的契約には非常に多様なものが含まれていますので,経済界には一くくりに一般的な規定を設けることについて消極的な意見が非常に多くありました。他方,事務当局の御説明にもあったとおり,継続的契約には実務上,非常に紛争が多いということも事実でございます。   取り分け企業間の継続的契約では,どうしても重要情報をお互いに共有するという場面がありますので,信頼関係ということが基礎になりますけれども,企業間でも,かなりウエットな関係がありまして,それはそれでよい面もあり,柔軟なこともあるのですけれども,感情的になりやすいというところもあって,いろいろ我々としても契約終了場面では手を焼いているというのが実際でございます。本当は契約開始局面でも十分調査をすればいいんでしょうけれども,有力者が紹介をしたり,口利きをしたりするとか,そういったようなことも行われますので,その有力者がいなくなってしまったりすると,とたんにこじれるというようなこともよくあります。   それで,仮にその終了時点での事後処理・後始末ということになりますと,先ほど申したとおり,既に重要情報をいろいろ共有していますので,それらの回収等に非常に時間が掛かるということになりますから,実務的には十分話合いをした上で解決するということにしております。ですから,果たして一律に規定を設けてうまく機能するのかということについては,相当懐疑的な意見が強いということでございます。   それともう一つは,企業間取引では,しばしば継続的契約が上流から下流に至るサプライチェーンを構築する上で一つのパーツになっているものですから,それぞれの契約が,バック・トゥー・バックの契約条件で結ばれているというようなことがよくあります。ですから,個々の継続的契約の終了場面だけではなくて,全体的なサプライチェーンを意識した上で検討しないと,実務的にすっきりしたものが出てこないのではないかという気もしております。   そういったことでございますので,慎重な御議論をしていただきたいというのが実務界一般の見解でございます。 ○岡委員 四つ申し上げます。   今まで出た意見に沿うわけでございますが,継続的契約関係の中には相当様々なものがありますので,それに注意すべきであるという観点からの発言です。   まず一つ目に,雇用契約も継続的契約に入ると思いますけれども,その場合に,このあらかじめ合理的な期間を置いて解約申し入れをすることにより終了するという規定は,とても認められない規定でございますので,それははっきりさせないといけないと思います。   二つ目に,全くそれと逆な方向でございますが,役務受領者,お金を払って役務を受領するほうが消費者である場合,この場合にはあらかじめ合理的な期間を置けば解約申入れできるという場合がかなりあるであろうと思います。   三番目に,その真ん中といいますか,その真ん中に相当幅広い領域がございまして,その場面においては継続するという信頼をどの程度与えたか。その信頼に基づいて,どういう投資をしたか。どういう理由でやめたいか。やめるという予告期間をどのくらい置いたか。多分そのような総合的な事情によって終了を決めておると思いますので,このあらかじめ合理的なという,合理的な期間という要件だけでそれを全部読み取るのはとても不可能だろうと思いますので,何らかの規定を置くにしても,判断要素が複雑であることが分かるような規定を置くべきであると思います。   最後の四番目に,詳細版74ページの関連論点のところで,継続的契約の解除について,やむを得ない事由という言葉を入れるかどうかの論点です。これは,債務不履行ではないけれども合理的な予告期間を置いて解除する場合ではなく,債務不履行解除がどの場合にできるかという論点だろうと思いますが,やむを得ない事由という文言がふさわしいとはなかなか思いがたいという意見でございます。結果的には,その判例等を見ますと,先ほど申し上げたような継続的関係に至った経緯でありますとか,信頼でありますとか,債務不履行の内容・態様でありますとか,先ほど佐成委員がおっしゃったような,その関係に基づいて何が提供されたか,そういう様々なものの中で出てくる解除要件だと思いますので,書くにしても,もう少し判断要素を明記した書き方にすべきではないかと,そういう意見でございます。 ○道垣内幹事 今,岡委員の御発言において,もう少し文言をきちんと考えるべきであるという話がありましたが,それ自体には異論はありません。事務局で作成された資料は,現在提案されているものだけを書いたものだと思いますけれども,既存の提案が完璧なものだと思いません。   しかしながら,佐成委員がおっしゃったことの意味が私にはよく分からないのです。佐成委員は,継続的契約関係においては通常の1回きりの契約関係と違って,債務不履行があればそれだけで催告して解除できるというわけではなく,様々な要素があり,いろいろな背景があるところを考慮しなければならないとおっしゃったわけですが,そうなると,それは通常の契約の解除とは異なる規律が必要であるということをおっしゃっていることにほかならないのではないかと思うのです。そして,その異なる規律の内容が,ここに現在書いてある既存の提案の内容でよいかという問題は別問題でして,もっといろいろ細かく考えなければならないのでしょうし,私は,この段階で,個々具体的な一つ一つの規定について何か申し上げようというつもりはありませんけれども,継続的契約関係における解除については,通常というか,1回きりの契約の場合の解除とは違った規律が必要であるということについての認識をまず共有すべきではないかと思います。 ○佐成委員 道垣内幹事がおっしゃった点についてですけれども,確かに一般の解除と比べると実務的にはすんなりいかないなという感じはします。ですから,契約書に書いてあるから,あるいは何か債務不履行があるからということで,すぐに解除というわけにもいかないわけです。仮にそういうことをしますと,実際,先ほど言ったような重要情報だとか帳票類だとかいろいろなものを回収する場面で非常に困難を生じるものですから,事後処理・後始末の円滑を考えてやはり十分な話合いをするということでございます。しかも,長期的に維持されてきた契約ですから,取引相手に契約終了を切り出すに先立っても,死活問題にもなり得るだけにいろいろな話合いをしていくという過程が必要になります。ですから,確かに道垣内幹事が御指摘されたとおり,普通の解除とは若干違うかなという気はしていますけれども,私が申し上げているのは,そのような相当いろいろな実務上の局面をも考えなければいけないのではないか,となると,規定化も非常に難しいのではないかということでございます。   それともう一つは,ほかの皆さんもおっしゃっていたように,継続的契約には多様性があるのに,一くくりに規定することが本当に妥当なのかということについても疑問があって,経済界では積極的に入れてほしいという意見はあまり聞きませんし,入れたからすぐその種の紛争が解決するというものでもないのではないかということでございます。   それに,現在,実務では継続的契約の解約,解消場面だけではなくて,先ほど申し上げようと思ったんですけれども,解消の一歩手前でいろいろ契約内容を変更していくということもよくあるわけです。昨今では企業を取り巻く競争環境も日々非常に厳しく変化しておりますから,企業としては環境変化の中で生き残るためにサプライチェーンをいろいろいじくったりするわけです。標準化していた従来のノウハウとか,そういったものが通用しなくなってくるときに,それらをいろいろな局面で変えていくわけですけれども,いきなりITを変更してくれとか帳票類を変更してくれとなりますと大変なコストが掛かるわけで,迅速に変更したいけれども,それなりに時間を掛けて変えていくということでございます。それでも変更できれば良いのですが,時間やコストの点で変更に応えられないところとは最終的には解約という形になっていくことになります。ですから,おっしゃるとおり,その意味では,通常の解約とはやや違う考慮要素があるということ自体は認めますけれども,だからと言って,本当に通常の解約とは別に一般的な規律を今回入れられるのかは別論で,それには相当疑問があります。その点を強調しておきたいということでございます。 ○中井委員 今の点ですけれども,先ほどからありますように,多様な契約類型があるだけに,統一的なルールを作って解約,終了事由を決めることができるかについても,弁護士会の中でも多様な意見がございました。これをこの段階で諦めるのではなくて,解約の場合の基準が表現できるなら,それに努めるべき,議論を進めるべきであろうと思っております。   そこで,多様とはいえ,今回ここで提示されている継続的契約の中には,大きくは2種類あって,その2種類が同じような形で議論されているのではないかという思いがありますので,その点だけ指摘させていただきたいと思います。   一つは,契約内容と対価が決まっている長期契約型。例えばビルを警備します,清掃します,メンテナンスしますという契約,エステ等の継続的サービスなど,役務の提供を受けて対価を払う,それが長期間決まっている。新聞の定期購読もそうかもしれません。そういう類型について,契約を終了させる場面。   もう一つは,判例の中でたくさん出ているのは,そういう類型ではなくて,基本契約が締結されている,たとえば,販売店・代理店契約もしくは製造供給契約が締結され,決まっているのは決済期の定めとか支払条件だけで,別途,個別具体的な契約の成立が予定されている,そのような類型です。発注書が来れば受注し,その都度供給する。販売店代理店契約でも,一定の商品について販売店側は一生懸命販路の拡張に努力し,製造メーカーはその販売店を通じて商売を拡張していく。そこで一定の信頼関係ができて,取引が継続する。そういう形成された継続的契約関係をどこかで終了させる場合,これは先ほどの類型とは結構場面が違います。   今回提示されている資料では意識された議論がされているのかという点について,御検討いただき,こういう類型化によって要件が更に明らかになるなら,それはより好ましいことだと思います。 ○岡本委員 総論については特にございませんけれども,各論と関連論点について申し上げます。   各論の(1)番ですけれども,期間の定めがない契約でございましても,永続的に契約に拘束されるということは認めるのはよくないというふうに考えますので,この部会資料で提案されているような規定を設けること,これにつきましては,「あらかじめ合理的な期間」というものの当否は別といたしまして,基本的には賛成したいというふうに考えております。もっとも,このような規定を設ける場合でも,特約でもって即時解約条項を置いたという場合には特約が優先するということは確認させていただきたいと思います。   それから,(2)の期間の定めのある契約の終了でございますけれども,こちらにつきましては信義則の規定に委ねれば足りるので,こういった規定は不要ではないかという意見ですとか,あるいは,信義則を適用した結果と同じであるとはいっても,あえて具体化した規定を設けると,この規定を盾にして濫用的な主張がされるおそれがあるのではないかといった否定的な意見がございました。   それから,関連論点についてですけれども,解除の要件として信頼関係破壊,これを必要とするということについては,要件としては厳格に過ぎるのではないかという反対意見がございました。 ○鎌田部会長 各論のほうにも御意見を頂きましたけれども,まず総論に関するものがあれば,先に総論のほうの御意見をお願いします。 ○松本委員 私は,岡委員,それから中井委員のおっしゃった弁護士会の考え方,つまり,ここで問題になっているタイプの継続的契約は幾つかの異なった種類のものがあるのではないかという御指摘に非常に賛同いたします。   しかるに,ここでは問題提起としては,継続的契約一般に妥当する規定という表現をされておりまして,その前提となる継続的契約一般というので,どこまでのスパンを置いているのかが非常に分からない状態で議論を始めようとしている。人によっては継続的なサービス契約を考えて議論するかもしれない。別の人はフランチャイズを考えている。別の人は代理店・特約店契約を考えているのかもしれない。そうすると,そこで一般に妥当する規定というのは,なかなか合意は難しいのではないかと思います。   したがって,こういう問題提起で議論するのであれば,ここでいう継続的契約というのは一体何なのかということを決めた上で,それに適切な規制は何かという議論をしないと,前提があいまいなままでの一般規定であっても,学者がいろいろなタイプに契約を分類して整理するということは恐らくやるんでしょうけれども,民法の条文には余りふさわしくないのではないかと思います。ニーズが高いという点では,中井委員がおっしゃった継続的サービス契約と代理店・特約店型のものだろと思いますから,そういったものに特化して,その範囲内での一般ルールを定めるということはあり得るかもしれない。   ただ,私は,継続的なサービス契約の場合は,むしろここの継続的契約一般に入れるよりは,サービス契約のほうで手当てをしたほうが適切ではないかと思います。というのは,賃貸借契約は継続的契約だけれども,賃貸借のところでそういう継続的契約についての特性を踏まえた規定が置かれているわけで,雇用は雇用で正にそうです。であれば,役務提供について,どこまでのスパンで役務提供契約を典型契約として類型化するかについてはいろいろな議論があったわけですけれども,そちらのほうで引き取ったほうが適切であろうと。多くのサービス契約は継続的なものがかなりを占めているということからは,典型契約のほうで手当てをしたほうがいいのではないかと思います。 ○深山幹事 直前の松本先生の御指摘は,ごもっともだと思います。典型契約の中でも継続的な類型のものについては個別のところで規定をするという規定の仕方は一つあろうかと思いますし,既に,例えば賃貸借契約における信頼関係の法理というのは,解釈としては確立されていようかと思います。そうなりますと,役務提供契約を何らかの形で典型契約化するかということが一つの大きな議論になっていますが,それが仮に典型契約化されれば,役務提供型の契約については,そこで一定の規律を入れるということも可能かもしれません。   しかし,役務提供型の契約のうちの一定のもののみが典型契約として取り上げられるとなると,そこからこぼれてくる役務提供型の契約については,継続的な契約であるがゆえの規律というものを別途どこかに置かなければならないことになります。あるいは,役務提供型契約に限らず,売買型契約なども含めて,実務的には様々な継続的な契約関係があり,そういう民法に典型契約化されないもろもろの継続的な契約について,先ほど道垣内先生がおっしゃったように,一般的な規律として,例えば解除の場面や契約更新の場面について違う規律が妥当するんだということが言えるのであれば,それをどこかに総則的に規定をしておく必要があるのではないかと思います。   私の日常的な実務感覚からしても,やはりこの種の継続的契約の終了時をめぐる紛争というのはしばしば出くわすのですが,今の法律にはその点に関するストレートな根拠条文がないものですから,契約の継続を望む側から相談を受けると,継続を主張する正当性の根拠がなくて苦労いたします。結局,力関係に委ねられるということになりがちです。様々な類型があるから,そう簡単に一律の規律が設けられないのではないかとの指摘については,確かにそういう面はあるのですけれども,だからといって,何も規律がないほうがいいかというと,決してそういうことではなくて,かなり抽象化された規律であっても,あるいは提案で示されているような限られた場面の規律であっても,根拠条文があるということは非常に大きな意味があると思います。飽くまでデフォルトロールですから,事細かに契約の終了時について個別の契約で決めれば,それがその当事者間のルールになるわけですが,往々にしてそういうことを決めていない契約書が多くて,そしてトラブルになるということがありますので,私は何らかの形で規律を設ける方向で是非検討していただきたいと思います。 ○鹿野幹事 3点ほど申し上げたいと思います。   一つは,既に松本委員が先ほどおっしゃったところですけれども,この継続的契約においてどこまでのものを規律しようとしているのか,その射程が必ずしも明確ではないということです。ここでの議論の中でも各人のイメージが一致していないのではないかと思います。ですから,もし継続的契約についての規律を設けるのであれば,その点を明確にすることが必要であろうと思います。   第2点は,これも先ほどから何人かの委員,幹事の方がおっしゃったところですが,継続的契約にも多様なものがあるということです。この資料の各論の中で触れられている契約の解消についてみても,継続性ゆえに契約関係を維持するべきだという方向に働く場合と,そうではなくて逆に,長期にわたってその契約に拘束させるということは不都合であり,したがって比較的容易に解消させようという方向での配慮を要する場合とがあるのではないかと思います。特に信頼関係破壊の法理についてみると,これは賃貸借を中心にして展開されてきた法理といえるでしょうが,賃貸借においては,賃借人の賃借権つまり契約関係を維持する利益の保護という要請もあって,先ほどの分類で言いますと,賃借人の利益において契約関係を維持するということが重視される場面だったのであろうと思います。   しかし,もう一方では,先ほど岡委員もおっしゃいましたように,特に消費者が一方の当事者となって他方の当事者である事業者から役務を受領するというような契約においては,特定商取引法のように消費者に契約関係を解消する権利を認める特別法があったり,あるいはそのような特別法がない場合にも,準委任という性質決定のうえで,民法651条の適用を通して,役務受領者側の任意解除権を認めるという解釈が行われてきたのではないかと思います。   これだけに限りませんけれども,要するに継続的契約だからとして一律にくくってしまうのは不都合な場合があるのではないかと思うのです。継続的契約と言っても幾つかの異なる類型があるように思われますので,規律を置くのであれば類型化をした上でそれぞれに適した規律を置くということが必要であろうと思いますし,その際に考慮されるべき判断要素を抽出する作業が必要なのではないかと思います。   それから,3点目ですけれども,継続的契約に関する規律を置くとして,それと役務提供に関する規定との関係や規律の分担をどうするのかということが少々気になるところです。賃貸借とか雇用とか,そういう個々の契約類型に関する規定との関係では,各契約類型の規定のほうが特則として優先的に適用されるということになるのでしょうけれども,役務提供契約に関する規定が,言わば中二階的なものとして置かれることになるとすると,それとこの継続的契約に関する規律との関係はどうなるのか,不明確な場合が出てくるのではないかという気もします。役務提供契約は常に継続的とは言えませんし,役務提供以外の契約でも継続的なものがあるので,継続的という性質に由来する規定をここにまとめて置くという考えは,抽象的レベルでは理解できるのですが,そのようにきれいに切り分けられるのかが問題です。いずれにしても,役務提供契約と継続的契約のそれぞれにどのような規定を割り振るのかは,慎重に検討する必要があるように思います。 ○潮見幹事 最初に道垣内幹事が言われたこととよく似ているのではないかと思うことを申し上げます。直前の鹿野幹事がおっしゃられたことに一部賛成,一部反対ということです。   例えば継続的な供給契約だとか,あるいは代理店契約だとか特約店契約とか,そういう個別の継続的な契約類型について,個別の場面に規定を置くということについては,それをやれれば,それに越したことはないと思います。そういう努力はするべきかとは思います。   ただ,そういう個別類型という形で規定が置かれなかった継続的な契約というものが出てきたときに,それをどう処理するのかということを考えなければいけません。その部分については,継続的契約一般に関する規定がないということであれば,契約一般に関する規定によって処理がされるというようなことになろうかと思います。そうしないということならば,それは取引実務の実務界でやっていることに信頼を寄せて,それに任せてほしい,だから法律としては何も口出しをするなというようなことを言うに等しいことになってしまうと思います。   そうであれば,仮に契約一般に適用されるものとして予定されたルールというものが,広い意味の継続的契約のところに妥当するのは好ましくない,例えば今日の資料のところにも出てきていますような,解除については遡及効を認めないとか,あるいは契約の終了については契約一般について妥当するルールとは違うようなものを設けるのが望ましいのだとかいうのであれば,契約一般について妥当するのとは別の継続的契約一般に妥当するルールをつくる方向での努力を重ねるべきではないかというように思います。 ○松本委員 今の御意見,一部賛成,一部反対でもないかな,少しコメントしたいんですが,私は,共通のルールが作れるのなら作ればいいとは思います。賛成です,確かに。   ただ,先ほどの発言のときに言いましたけれども,継続的契約ということを定義しないで,しないまま一般の共通規定を置くべきだという議論は,大変生産性の低いものになるのではないかという点で,もう少し対象を明確にした上で議論すべきではないかという発言をさせていただきました。   今の潮見幹事の御発言だと,民法の契約一般の理論を適用すると不都合な場合があるでしょうと。あるでしょう,はい。では逆に,そういうのについて継続的契約というふうに定義するんですかというと,これトートロジーになってしまうわけで,実質論はそうかもしれないけれども,法律論として立てる場合には,こういうタイプを継続的契約と言いますということにした上でないと,要件は立てられないでしょう。それがクリアにできるのであれば私はやったほうがいいと思いますが,できないのであれば,無理をして民法の条文に入れるのではなくて,学説とか,あるいは類推適用等に任せておいたほうがいいのではないかと。クリアにできる部分について,継続的契約と一般に言われているものの中で,ある程度皆さんが一致して,ああ,これはそうだし,共通ルールが必要だと思うものについて,取りあえず共通ルール化をして,それと近いけどちょっと違うねとかいうものについては,今後の法発展に委ねるということでいいのではないかなと思っております。 ○高須幹事 幾つか議論を伺っている間に,要は継続的契約というのも様々な契約類型がある,あるいは,更にいえば継続的契約というよりも契約一般の中で様々な契約類型があるという問題であるというようなことがイメージできてまいりました。したがって,継続的契約ということだけで何かの法理を作っているわけではないのだろうと思います。そういう意味で,その個別類型ごとに,この契約ではこういう規定が大事ですよというのを各規定の類型の中に設けていくというのは重要だと思いますし,あと,契約一般の問題として議論されることももちろん,この継続的契約場面の中でも検討していかなければならないと思っています。   そういう前提がある中で,あえて継続的契約ということで何かを定めようということだとすれば,やはり長期間継続的に一定の法律関係,契約関係が形成されてきたという事実を何らかの意味で法的に評価すべきではないか,具体的には契約関係の解消の場面において,長期間継続された法律関係の解消ということに対しては一定の慎重性を持って臨むべきではないか,ここが恐らく継続的契約一般というような,先ほど来議論が出ている中での本質的問題ではないかと思いますので,その点を何らかの形で規定に設けるということだと考えております。それからあとは個別具体的に,それ以外の法理が必要な場面についての配慮も怠らないようにする。こういうような発想でまず考えていくのが大事ではないかと思いました。 ○岡田委員 消費者契約の場合,特定商取引法の中で,特定継続的役務提供で六つ,業種が指定されていますが,書面の交付義務,クーリングオフそして中途解約というものが認められています。  しかしあくまでも6業種であることは残念です。消費者からすると,継続的な契約に関しては解約がいつでもというか,かなり自由にできるということを求めたいと思います。これは継続的役務ではないかもしれませんが消費者センターで一番頭を悩ますのが新聞の購読契約です。高齢者が1年先や2年先までの長期の契約をさせられていて,状況が変わったので解約したいと希望しても期限付きの契約のために中途解約ができないというものです。センターとしても事情が分かるだけに希望をかなえてあげたいと販売店と交渉しますが解決は困難です。これも継続的な契約といえると思いますので,継続的契約に関しては解約を容易にできるような規定が欲しいと思います。特に新聞のケースでいえば期限を定めない契約ですと解約は自由と民法にはありますが全て長期期限付き契約が現状ですので全く機能しません。   今後は消費者契約の中で,新しい継続的役務契約や継続的契約が増えていくように思います。例えばいろんな会員契約などです。できましたら民法の中に継続的契約に関するルールが欲しいと思います。 ○山川幹事 一般的規定を置くかどうかについては必ずしも意見を述べる立場ではないかもしれないんですが,雇用に関しては各論のところで申し上げますけれども,必ずしもここで紹介されている提案は適切でないと思われる部分がありまして,詳細版の67ページのところで,雇用については特則,特別法の関係に位置付けるということになろうかと思いますが,問題はその先の点で,これは若干一般的なお話になるかもしれないんですけれども,現在存在する規定が特別法になることは問題がないとしても,規定がなくても判例法理がほぼ確立しているルール,それから規定がなくともその類推適用がなされるべきルールについて,例えば一般的な規定を置く場合に,その類推適用が排斥されるとか,あるいは判例法理が排斥されるおそれはないかという懸念がなくはありません。これは役務提供契約や約款に関しても同様の問題があるところでしたが,恐らく雇用以外の観点からの様々な御意見も,そのように一般的な規定を置くことによって柔軟な解決が損なわれる可能性があることに対する御懸念ではないかというふうにも感じております。研究者からすると,そういう問題が生じても新しく解釈してルールを立てればいいということになるんですが,多分,実務家の方々からの御意見が比較的多いのは,条文が作られるとそれが重視されてしまい,そのような柔軟な解釈が言わば抑制されるということに関する御懸念かと思います。   例えば雇用でいえば,雇用に関する規定の類推適用を阻むものではないと規定するようなことが―これは,法技術的あるいは立法技術的な問題かもしれないんですけれども―可能かどうか。最低限,解釈論としてコメンタール等で記述するというのは可能かもしれませんけれども,今述べたような形で,あるいは契約の性質に反する場合を除くというような形で,必ずしも結論が今は出てこないんですけれども,新たな事態,あるいは明文の規定だけでは律し切れない事態について,その性質や実態に即した解決ができるような形の規定の定め方ないしルールの設け方がないかなと思っております。 ○中田委員 継続的契約についてのイメージが様々であるということを皆様の発言を伺っていて感じました。ですから,どういう継続的契約を念頭に置くかとか,あるいは実質的な内容として解消を容易にするのか,困難にするのかなど,様々な御意見が出ているのだと思います。それは当然なんですけれども,そういった議論をするためのそもそもの土台といいますか,出発点を共有できるところは共有したほうがいいのではないかと思います。   まず,継続的契約ですから期間があります。それはあらかじめ決まっている一定の期間の場合もあるでしょうし,あらかじめは決まっていない不定の期間の場合もあるでしょう。それぞれについて,どのようにして契約が終了するのかということは,恐らく一般的な形で整理できるのではないかと思います。期間が定まっていない契約は永久に続くということは多分なくて,やはりあるところで終わる,それは解約の申入れで終わるのでしょう。また,期間の定めのある契約は期間が来れば終わる。以上のことを出発点にして,どうやって変更していくのかということかと思います。また,例えば解消に関して,解除とか,解約とか,解約申入れとかという言葉が今は人によって使い方が違うこともあるようですけれども,そのようなことも明確にしておく。そのようにして実質的な議論ができることになる,そのための最低限の土台を民法に置いておくということには意味があるのではないかと思います。その上で,各種の契約との関係については,もちろんこれは詰めていく必要があると思いますし,それから更に類型化をしたほうがいいのではないかというのも,それは可能であれば考えたらいいと思います。   例えば中井委員からお出しいただいた基本契約と個別的な契約ですか,それについては詳細版の中でも外国の立法例が紹介されていて,その中で枠契約という概念が紹介されておりますけれども,例えばそういうのも検討することができるかもしれない。しかし,まず出発点として,最低限のことを共有できるところを決めておいたらどうかと思います。 ○鎌田部会長 総論的な課題について,ほかにはいかがでしょうか。類型化をして,それぞれについて対応を考えるべきという御意見はあったんですけれども。 ○松本委員 今の中田委員の発言が言わば一種の提案だとすれば,継続的契約というものをこう定義しましょう,その上で議論しましょうという御提案だとすれば,一歩前進だと思います。すなわち,期間というのが本来的な要素として入っている契約を継続的契約というと定義して,その上で一般ルールとしてどのようなものが必要かということを議論しましょうということだから,それで合意できるならそれで結構ですが,そうではなくて,継続的契約についてはもっとほかの定義があるのだということであれば議論は多分進まないだろうと。 ○鎌田部会長 逆に,類型的に対応すべきだという御主張の場合には,具体的な類型を提案していただかないと,どれにも対応できないということになるので,そちらのほうを仮に積極的に御主張になるんだったら,その類型を出していただきたいと思います。   各論のほうについて既に少し意見は出ておりますけれども,各論の(1),(2),(3)について,一括して御意見をお伺いします。 ○奈須野関係官 現行の民法上,期間の定めのない継続的契約の終了に関して,契約の終了について争いになることが多々あります。そこで,あらかじめ合理的な期間を置いて解約の申し入れをすることにより,将来に向かって契約を確実に終了させることができるとする規定を置くことに賛成します。   ただし,銀行の当座預金口座に関する契約や,相手方が反社会的勢力に関与していることが判明した場合のように,解約申入れ時に即時に解約することが必要なものもあるので,合理的期間というものが不当に解約を制限しないものとしていただきたいと考えています。   一方で,期間の定めのある契約については,期間の満了により終了するのは原則であります。しかし,頂いた資料ですと,この原則の確認のないまま更新拒絶を制限する規定を設けることについての提案があります。こちらは当事者が期間を定めた趣旨を没却するものであって,契約の拘束力を緩め,私的自治への不当な介入であるという批判が多くありました。   また,更新後の状況は契約締結時とは異なっているにもかかわらず,同一の条件で再契約を余儀なくされる可能性があるというのであれば,万一の更新後のことも考えて条件を定めるということが必要になります。特段の問題がない大多数の場合においては,お互いに非効率が大きいというふうに考えられます。むしろ相手方に再契約を期待させる言動をしたというのであれば,それはケースとしてはまれな場合と思われるので,損害賠償で処理するほうが社会的コストは低いと考えられます。したがって,判例を規定することには反対します。   それから,(1)期間の定めのない継続的契約の終了の規律と(2)期間の定めのある契約の終了の規律の関係なのですが,資料では,「期間の定めがある契約では,信義則上相当でない場合,更新の申出を拒絶することができない」としているのに対して,期間の定めのない契約では,「合理的期間を置いて解約申入れをすれば,将来に向かって契約が終了する」としています。この(1)と(2)を足し合わせると,期間の定めのない契約のほうが確実に契約を終了できて,期間の定めを置くことは逆に法的不安定性を招くという内容になっていて,提案としては論理的整合性を欠くと考えます。 ○新谷委員 各論の(1)の期間の定めのない継続的契約の終了については,これを雇用に当てはめると,使用者からの解約の場合には解雇ということになり,この点については判例法理を成文化した労働契約法が既にできていますので,かなりの部分はカバーできていると思います。   その一方で,各論の(2)の期間の定めのある契約の終了については,使用者側からの更新拒絶の場合と労働者側からの更新拒絶の場合の両面があると思います。そのうちの労働者側からの更新拒絶の場合には,憲法による職業選択の自由との関係でどう考えるかという点,また,労働契約というのは生身の人間が契約の当事者になるため,不当に長期間契約に拘束されるおそれがあるのではないかという点で,懸念を表明しておきたいと思います。今後はこの点も念頭に置いて,慎重な検討をお願いしたいと思っています。 ○深山幹事 資料で紹介されている期限の定めのない場合の規律,それから定めがある場合の信義則に係る規律について,基本的には賛成したいと考えております。   その上で,先ほど奈須野関係官が最後のほうで指摘された,その両方を足し合わせると,期限を定めたほうがかえって終了しにくくなって不合理であるという御指摘についてのコメントなんですけれども,期間の定めのある場合に,信義則等に照らして,その更新をせずに終了することを拒絶できるという規律を入れた場合に,では,いつまで契約が続くのかということは,その先の問題であって,従前の期間と同じだけ,言わば再契約した状態になるかどうかはまた別の問題だと思います。   御案内のとおり,借地借家法の適用のある不動産賃貸借契約では,法定更新された後は期間の定めのない契約になるという解釈が定着をしているわけですけれども,同じように,従前は期限の定めがあっても,信義則に基づく更新後は,一定の合理的期間内の予告期間等を定めて,その期間満了時に終了するという規律も十分あり得るルールだと思いますので,そこはそう単純に,だからおかしいということにはならないのではないかと思います。 ○青山関係官 労働契約について,何人かの方がおっしゃいましたので,補足する形で発言いたします。   (2)の期間の定めのある契約の終了につきまして,提案されている,信義則上相当でない場合に更新拒絶ができないという定めについてです。労働契約については,法律上は特に期間の定めのある労働契約の終了についての規定はないですが,先ほど山川委員もおっしゃった判例法理として更新拒絶に一定の制約をかけるルールが定着しています。具体的には反復継続された態様を見まして,期間の定めのない契約と実質的に同じとなったと認められる場合や,労働者に,その継続についての合理的な期待が認められる場合には,全て更新拒絶できないと言っているのではないですが,更新拒絶には合理的な理由は必要という,解雇と同じ考えを適用するもの,すなわち,解雇に関する法理を類推適用する法理があります。既に判例法理のほうでできているルールとの関係を考えると,更新拒絶に関し民法で書かれた場合に,期間の定めのある労働契約に関する判例法理が損なわれるということになると問題かと思っております   特に労働契約の場合には,労働者と使用者の力関係が違うということから問題となるわけで,こういう期間の定めのある労働契約についてのルールについて,特に終了の場面も含め,今ちょうど厚労省の中でも審議会で検討を始めたところでして,こういう更新拒絶に係る判例法理の扱いも議論になるかと思いますので,それとの関係が非常に気になっております。個別の契約類型の性格や態様との関係で,十分な整理,慎重な整理が必要ということを申し上げたいと思います。 ○山川幹事 先ほど申し上げたこととの関係で,また,今,青山関係官がおっしゃられたこと,あと新谷委員が先ほどおっしゃられた労働者側からの更新拒絶も制約されるとすると妥当でないということとも関係しますが,判例はここで書かれている提案とちょっと違う要件を立てておりまして,有期労働契約につき使用者による更新拒絶が権利濫用法理によって合理的な理由がある場合に限られることになるのは,実質的に期間の定めがない労働契約と同視される場合というのは一つの要件でして,もう一つ,反復更新されたりするなどして,雇用継続に対して合理的期待が認められる場合という要件が満たされる場合も,解雇権濫用法理が類推適用されます。   この(2)は継続的契約一般についてということになりますので,例えば今回,現在国会に係っております派遣法の改正案で禁止されるような1週間の派遣契約,日雇い派遣ですね,このような短期の有期労働契約で更新がない場合も継続的契約としてこのルールが掛かってしまうということになって,今の判例からかなり乖離するように思われますので,このあたりはちょっと先ほどの適用除外等の工夫が,もし規定を置かれるにしても必要ではないかと思います。 ○青山関係官 一つ言い忘れました。山川委員が,要件が判例法理と書かれようとしているものと違うとおっしゃったことで気付いたのですが,実は更新拒絶が認められない場合の効果についても,期間の定めのある労働契約についての判例法理の考え方は違っております。というのは,今回の御提案の詳細版のほうの74ページでは,更新拒絶が認められない場合には更新がなされたとなるのでしょうが,更新後の契約は従前の契約と同一の条件でしかも無期のものと推定するということが,一つの考え方として提示されています。   一方,労働契約については,使用者による更新拒絶が認められない,つまり,雇い止めを認めないとすることがあるという先ほど御説明した判例法理におきましては,認めないという判断がされる場合にも,飽くまでも有期契約の更新が行われるということと一般的に言われています。確かに裁判でははっきりしないものもあるんですけれども,逆に無期として更新されるとはっきり言った判例はないと思いますので,効果についても,今回の御提案と,期間の定めのある労働契約に関する判例法理とは違ってきているということも含めて,慎重に検討すべきということを加えさせていただきます。すみませんでした。 ○中井委員 先ほど類型化ということで部会長から御指摘を受けて,具体的な整理ができているわけではございませんが,少なくとも先ほど申し上げましたように,一つはサービス契約のように長期契約型で,給付の内容と対価が当初から定まっているという類型と,もう一つの別の類型,これは個別契約締結予定型ないし基本契約締結型かもしれませんが,基本契約があって,その上で個別売買契約なり個別供給契約が締結されている類型があり,この二つの規律は異なるのではないかと感じております。   では,どのような規律になるのかという具体提案を持っているわけではございませんが,少なくとも効果を考えた場合,前者であれば,契約が終了しなかったら同じ内容の給付と対価が支払われ続けるわけですけれども,後者の個別契約締結予定型であれば,基本契約の継続を認めただけでは不十分なわけで,その後,個別発注があれば受注しなければならない。現実にそれが続けば問題ありませんが,実務ではその履行がなされず,結局は損害賠償で処理されている。このあたりの問題を踏まえて,どのような規律ができるのかを考える必要があるのではないかと思っております。   個別の論点ですけれども,一つは,期間の定めのない場合の解約について,資料の趣旨の確認にもなるんですけれども,合理的期間を定めて解約すべきだとしていますが,合理的期間を定めなかったらどうなるのかということについて必ずしも明確ではない。また,合理的期間を定めて解約告知をした,その期間が合理的範囲内であれば期間満了時に終了するというのはいいとして,仮に期間を定めて解約告知したんだけれども,それが合理的期間ではなかった,短かったという場合に,その解約告知は無効なのか,それともそうではなくて,更に裁判所が相当と認める合理的期間が経過したときに終了すると解するところまで読み込んでいるのか。このあたりの整理が分かりません。   私としては,解約のときに合理的期間を定めて解約の申し入れをさせるべきだろう。それが合理的であれば,その時点で終了する。それが合理的でなくて短過ぎるならば,しかるべき合理的期間が経過したときに終了する。こういう規律でいいのではないかと思っております。   もう一つは,期間の定めのある契約について,一定の場合,信義則に反する場合は更新拒絶ができないという規律はいいとしまして,その後の期間の問題ですけれども,資料の御提案は期間の定めがない契約として更新するものとし,判例でもあるようです。しかしながら,それだと,更新拒絶が信義則に反するとして契約の更新を認めながら,直ちに合理的期間をもって解約,終了させることができるということになります。せっかく更新を認めたのにもかかわらず,結果的に解約ができる。合理的期間の期間の長さによるのかもしれませんけれども,解約を認めることになって,更新拒絶を認めた趣旨が没却されるのではないか。そうすると,一定期間の定めのあるもので,更新拒絶が不当だとされた場合,その後の期間は同じ期間になるという考え方も十分あり得るのではないかと思っております。   解除についても御提案がありますけれども,そのときに信頼関係の破壊を必ず要件とするとまで硬直的に考えるのは,行き過ぎではないか思います。これは飽くまで債務不履行解除を想定しているのでしょうから,原則―これは解除論の考え方が違うのかもしれませんけれども―債務不履行があれば催告して解除できる。ただし,軽微の不履行等であれば解除できない場面が,ここでも機能するのではないかと思っております。   最後に,先ほどから雇用に関して,継続的契約関係の規律という中で,議論されていますが,その射程は余りにも広過ぎるのではないかという印象を受けます。仮に継続的契約関係に関する規律を認めるとしても,雇用についてはもちろん別ですよね,という確認があっていいのではないでしょうか。 ○高須幹事 終了の問題でございますが,その期間の定めのある契約と期間の定めのない契約によって区別して規律をするということ自体は,考え方としては確かにその二つの場合ですよねというのはそのとおりだとは思うのですが,実際の取引社会においては,本当にそこまでの区別がされておるのだろうかというような根本的な疑問を持っております。例えば契約書に1年契約と書いてあって,更にお互いの間で異議が出なければ自動更新でまた1年だ,以後も同様とすると書いてあるというようなケースは良くあります。そうすると,3年目,4年目ぐらいになると,もうすっかり契約書の記載のことは忘れてしまっていて,ずっと契約は続いて,どこかでどちらかが断るまでは続いていくんだろうなみたいなことが当事者の意識になっている。つまり,期間の定めのある契約だという意識は希薄になっている。反対に期間の定めていない契約というのも,期間を定めないと当事者間で明確に意識したわけではなくて,契約書を作っていないから自動的にそういう話になっておるんですというような取引もないわけではない。そうすると,どうも両者の区別というのは現実問題としては必ずしも絶対的なものではないようなところがあり,その両者の違いで終了要件を変えるということになるとどこか違和感があるのかなと考えております。   先ほど奈須野関係官が,逆転的な現象が生じませんかと御指摘されたようなところも,そのとおりかどうかは別としましても,そういう何かちょっと不自然な印象を持つというところと関係があるのではないかと思います。期間の定めがない場合は合理的期間ですよ,期間の定めがある場合は信義則ですよという,今頂いた資料の書き方については,それは合理的期間をどう定めるかにより具体的内容は変わってくるのかもしれないのですけれども,どうもやや分かりにくい側面があるのかなという気がいたしまして,もう少し考えていきたい,考えていくべきではないかと思っております。 ○松本委員 契約終了の局面として,1と2,すなわち期間の定めのない場合についての終了,それから期間の定めのある場合についての更新という,二つの局面についてある程度一般化できるのではないかという提案ですが,三つ目が落ちているのではないかなと思います。それは何かというと,期間の定めのある契約についての期間内解約について,ある程度一般化する必要があるのではないか。すなわち,やむを得ない事由があれば期間内であっても解約できるという規定が民法の条文の中にも一部ありますし,判例法理的にも恐らく認められていることだと思いますから,もしそういう従来の議論を基にして幾つかの一般的なルールを置くということであれば,期間内解約についても一定のルールを置く必要があると思います。そんなことは判例に任せておけばいい,信義則の問題だということであれば,この二つ目の問題だって信義則だと書いてあるわけだから要らないという話になるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 今の点は,(2)の関連論点の中で触れています。信頼関係破壊の法理というのは,先ほど継続性を維持するための法理という御指摘がありましたけれども,逆に,信頼関係が破壊されたら当然終了する,無催告解除ができるという,その両面を持った法理です。この関連論点の中ではその両面が出てきておりますので,今の点については一定の配慮はあるということだと思います。 ○鹿野幹事 松本委員がおっしゃった期間内の解約の点につき,私もそのとおりだと思います。期間内の解約については,今,鎌田部会長から関連論点に言及の上,御説明がありましたが,私は,なお信頼関係の破壊ということでは尽くせない,その概念には含まれない形でのやむを得ない事由というものもあるのではないかと思います。   もしそうであれば,信頼関係破壊以外の事由によるところの期間内の解除・解約の規定が必要なのではないかと思います。また,先ほどから消費者契約のことについても何人かの方が意見を述べられました。これについては,そもそも民法の中に消費者という概念を入れるかどうかという大問題が前提としてありますけれども,仮に入れるとすれば,期間内において消費者が解除する場合に関して,特別の手当てを設けることにつき検討が必要だと考えております。 ○山本(敬)幹事 質問をさせていただきたいのですが,今の期間内の解約についても考える必要があるのではないかという御指摘についてですけれども,具体的にどのような契約のどのような関係を想定しておっしゃっているのかを御説明いただければと思います。役務提供等に関して任意解除の規定がある場合は,いずれにせよそれによることになると思いますので,恐らくそうではない場面を想定されているのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。それがどのような場合なのかということをお教えいただければ,議論もしやすくなると思います。 ○松本委員 確か民法の典型契約にそういうのがあったような記憶があるんですが,ちょっと確認しますが,どこだったか,雇用でしたか。 ○鎌田部会長 いや,雇用はやむを得ない事由による解除です。 ○松本委員 雇用にはやむを得ない事由による解除がありますね。ほかにもやむを得ない事由による解約が幾つかありますよね。それだけの話で,それを一般化できるルールをここに入れましょうということなんだから,別にそれで何か問題があるんですかということです。   それで,鹿野委員もおっしゃったけれども,信頼関係の破壊の部分がここの関連論点の流れだと債務不履行のところで出ているわけです。継続的契約で期間の定めのある場合に債務不履行解除がどうかというのは,また一つの問題としてあるかもしれないけれども,債務不履行とは言えないようなもの,やむを得ない事由というのは基本的には債務不履行の問題とは別の事柄として議論されているわけであって,このまま契約を,期間内拘束を続けさせることが信義誠実の原則に反するような事情がある場合ということだろうと思うんですね。   したがって,(2)の更新を拒絶することが信義則上相当でないと認められるべき事情がある場合というのと,文言上は同じようなことだと思います。 ○鎌田部会長 山本敬三幹事は,更にそれに加えて,例えば現行法でいえば651条で委任契約はいつでも解除できる,やむを得ない事情も何もなしに解除することができると,こういう形のものがあるのにもかかわらず,それは使えない,それから信頼関係の破壊とも違うというのだとしたら,どういう場面を想定されているのか,どういう態様が新たに必要になるのかという御質問なんですけれども。 ○山川幹事 すみません,雇用契約についての628条ですと,やむを得ない事由があれば,部会長が御指摘のように予告期間を経ずに解約できるんですが,債務不履行ではない例ですと,天災地変によって使用者の事業が停止したような場合などは,ほぼ異論がないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ここで議論を詰めて最終結論に至ろうというわけではありませんので,問題点を御指摘いただいて,それで更に検討すべき課題の御提示を頂いたということでよろしいかと思います。   よろしければ,「3 その他」についての御意見をお伺いしたいと思います。 ○大島委員 (2)の多数当事者型継続的契約についてでございますけれども,例えばフランチャイズ契約において,フランチャイジーのAとBがそれぞれ同じ契約違反をした場合に,フランチャイジーBから支払われるロイヤリティーが高額であることから,フランチャイジーAについては契約を解除するとするけれども,フランチャイジーBについては契約を解除せずに指導を継続するということもあり得ます。   このように,継続的契約は多くの場合,個別的交渉で決まるという側面を持っていますから,多数当事者型継続的契約の規定化の検討に当たっては,状況により異なる取扱いをする合理的な理由もあるという実態についても考慮していただければと思います。 ○奈須野関係官 大島委員のお話と同じですが,多数当事者間契約の規定を設けることには反対します。   その理由ですが,第1に,多数当事者間の契約であっても,契約としては1対1の契約の積み重ねによるものであって,それぞれの契約では,契約の締結の時期,交渉経緯,信用力,立地条件などにより,条件面で差異が生じることは当然のこととして,お互い納得ずくで取引関係に入っています。   第2に,当事者間の交渉力の不均衡については,現在,独占禁止法又は小売商業振興法で対処するということになっており,現時点ではこれで足りるというふうに考えています。   例えば独占禁止法では,公正取引委員会の「フランチャイズシステムに関する独占禁止法の考え方について」において,フランチャイズシステムにおいては加盟希望者の加盟に当たっての判断が適正になされることが取り分け重要であり,加盟者募集に当たっては本部は加盟者に対して十分な情報を開示することが望ましく,また,フランチャイズ契約締結後の本部と加盟者との取引においては,加盟者に一方的に不利を与えたり,加盟者のみを不当に拘束するものであってはならないとして,本部・加盟者間の関係の公正を規律しており,加盟者同士の取扱いの平等は要求しておりません。   また,多数当事者間契約の大部分は,中小小売商業振興法の特定連鎖化事業に該当します。同法では,事業者が加盟者との契約を締結する前に,加盟料,商品の販売条件,経営指導に関する事項,契約の更新及び解除に関する事項その他を書面により交付し,説明することを義務付けており,これに従っていない事業者に対しては主務大臣からの勧告・公表といった行政上の制裁措置が定められています。しかし,契約の内容については,他の加盟者との間で条件面に差異があるということが前提になっており,特段の規制を設けていません。   このように,現行法制では多数当事者間契約について不平等取扱いを禁止すべきことは要請しておりません。将来,仮にこういった法律の規制内容の変更が必要となる場合であったとしても,これは専ら独禁法又は中小小売商業振興法の問題とすべきであり,この場で議論し民法で定めることは適切でないと考えます。 ○新谷委員 (2)の多数当事者型の継続的契約について申し上げます。   これについては,当事者の一方が多数の相手方と同種の給付について共通の条件で締結する継続的契約であるということですので,正しく労働契約がこれに適合するのではないかと思います。検討事項では,その相手方のうちの一部の者を合理的な理由なく差別的に取り扱ってはならないとする規定を民法に設けるという考え方が提示されていますが,この点については,労働契約において各種の差別の禁止ということに大きく影響するため,大いに賛成したいと思っています。 ○佐成委員 今の同じ論点で,多数当事者型継続的契約ですが,経済界では,取引実務において異なる条件で複数の契約が締結されているということは非常に多いので,どのような場合に合理的な理由なく差別的に取り扱ったかということがあいまいであると,実務に大きな混乱を生じる可能性があるので,十分慎重な議論をしてほしいという要望がございました。 ○高須幹事 今の同じ論点でございます。デリケートな問題であるということは非常によく分かっておるつもりでございますが,やはり差別と区別は違うということだと思います。これでは法学部の学生が行う憲法の勉強のイロハみたいな話になってしまうんですが,ここでの問題意識は合理的な理由なく差別的に取り扱ってはならないということを考えていこうかという御趣旨だと思いますので,異なる取扱いが取引社会においては行われるということ自体を否定するものでもないし,そもそもが否定できるような話でもない。確かに極端な発想というのは取引界の混乱を招くとは思いますけれども,飽くまでここは理性的な抑制というか,社会的な公平というか,何かそういうものが維持された社会はビジネスにとってもいい社会なのではないかと思いますから,発想としてこういうものを持つということ自体は意義のあることだと思います。行き過ぎない,慎重に検討するという前提で,この種のことをここで議論することは大切なことだろうと思っております。 ○岡委員 弁護士会の意見の大勢を御報告したいと思います。   まず,分割履行契約につきましては,普通の弁護士の間ではぴんとこないというのが正直なところでございます。読んでいて,それほど悪くはないと思うんですが,非常に実務に役立つので是非賛成したいという人は一人もいませんでした。こういうのを,ウィーン売買条約には書いておるようですが,経団連等から非常に実務にも役立つという声が出てくれば反対するものではございませんが,現時点では必要性が本当にあるのかしらというのが弁護士の一般的な感想でございます。反対というわけではございませんが,そういう立法事実等があるのかという意見が多かったです。   多数当事者型継続的契約につきましては,この理念が民法なのかなという違和感を覚える弁護士が多くございました。書いてあることは,新谷さんがおっしゃるように,非常にいいことですし,法律の理念として在るべき理念だとは思うんですけれども,民法に入るべきものなんでしょうかという違和感でございます。でも,それは民法のそれこそ発展のために,多数当事者の平等とか公平というのを民法に入れるということであれば,本当に新しい民法ということで合意ができるのであれば結構かと思いますが,現時点の一般的な弁護士の感覚としては,何かやっぱり独禁法の理念ではないだろうか,という感想を持つ者が多かったです。 ○青山関係官 労働契約に関しまして発言します。   多数当事者型継続的契約の関係ですが,仮にこれに労働契約が該当するとした場合を前提としてではありますが,差別禁止という基本的な理念は全く否定するものではないと思うのですが,今の岡委員の意見にもありましたとおり,実際に,どういう差別をどのように禁止すべきかというのは,労働契約については,労働現場の実態や労働市場の在り方,労使慣行などをいろいろ勘案して緻密に検討しなければいけないということであり,事実そういうこともあって,労働に関する各政策立法の中で,均衡,差別禁止などというルールをいろいろな要件を置きながら定めています。こうしたことは,奈須野関係官がいろいろ紹介された特別法と同じ考えで,それぞれの政策立法の中でやっていますので,やはりどちらかというと,そういう各政策立法の中で規律すべきものなのではないかなという感想を持っております。   また,この意見は,今回提案されています多数当事者型継続的契約に労働契約が該当するという前提で申し上げましたけれども,ちょっとその定義との関係で気になる部分がありまして,是非皆様に御教示いただきたいところです。多数当事者型継続的契約の定義において,「当事者の一方が多数の相手方の間で同種の給付について共通の条件で継続する」というところは確かに労働契約など多くの契約に該当するのかもしれませんが,その次に,「であって,それぞれの契約の目的を達成するためにほかの契約を締結されることは相互に予定されている」という箇所については,これがどういうものなのか。恐らく,労働契約などは,飽くまでも使用者と労働者の個々の1対1の契約がたまたま集団的に存在するというだけなのに対し,契約の概念として,互いの契約が相互に想定されているというような,何か民法上の組合のような感じを定義から受けました。この部分を見ると,私どもが所管する労働契約がどう該当するのかちょっと分からなくなってしまいまして,この趣旨とか,もっと理解が違うのであれば,こちらの間違いを正す意味で御教示いただきたいと思います。すみません。 ○松本委員 私も全く今の御指摘と同じ疑問を持っております。労働契約,恐らく使用者一人,被用者一人でも労働契約と言うんだと思うんですね。複数の労働者を雇わない限り労働契約と呼ばないという定義はないと思うんですが。   そうしますと,ここでは複数の人を必ず前提とした契約を念頭に置いているようだと。学校の在学契約なんかが例として挙がっています。在学契約はやはりマスで教育をしようということだから,これに当たるのかもしれないけれども。では,通常の企業が行っている売買契約,単純な売買契約がどうかというと,多数の顧客を相手に売らないと経営が成り立たないという意味ではマス相手にやっているんでしょうけれども,それぞれの売買契約が締結されることが相互に予定されているかというと,多分そうではないということであって,したがって,売買契約において買い手ごとに条件を変えて区別して扱うこと自体は多分構わなくて,それを規制するとすれば別の法律を持ってくるということになるんだと思います。現実に,販売価格はばらばらだと思うんですね。   となりますと,ここで言う多数当事者型継続的契約というのが一体何なのかというのが大変分かりにくくなってくるわけです。在学契約においてそれぞれの学生ごとに差別して扱ってはいけない,そのとおりだと。フランチャイズも恐らくそれに近いような感じになってくるのかもしれないわけですが,そうでない代理店・特約店契約は縦の流通契約であって,フランチャイズとは少し違うのではないかなと思うのです。そうすると,ここに全く同じようにしていいのかどうか,そのあたりちょっと疑問があるというのが一つですね。多数当事者型継続的契約の定義についてのあいまいな部分があるというのが一つ。   もう一つは,顧客を差別的に扱ってはいけないという一般ルールを民法に置くべきかどうかという話で,置くんだとすれば,もっと総則的な規定として置くことになるのではないかという印象があって,なぜここだけ差別的取扱いを禁止するのか。民法の様々な局面で契約の相手方差別が禁止されるべき事柄というのはもっとあるのではないかと思っており,そういう点から違和感を感じております。 ○大村幹事 松本委員がおっしゃった点,2点ともごもっともと思いますけれども,しかし,御指摘になったことと関連させつつ理解すると,次のような提案がなされているのではないかと思って伺いました。   まず一つ目ですけれども,後のほうにおっしゃったことことに関わりますが,確かに一般的な差別禁止というのは既に民法の中に潜在する原則であるとも言えるでしょうし,それを明文の規定で定めるということも考えられるのではないかと思います。先ほど,岡委員だったでしょうか,民法の問題だろうかとおっしゃいましたけれども,差別的な取扱いが公序良俗に反するという扱いをされることはありますので,それは民法の原則に含まれているだろうと思います。   そういうものを定めていくということも一方で考えられるのですけれども,ただ,それを定めるということになりますと,その適用について,今まで各委員,幹事から出ているような様々な問題,疑義というのが出てくるということが予想されます。これには,一般条項だから,それでいいではないかという考え方もあるわけですけれども,ここではそういうものとは別に非常に限られた局面で,同種の給付について共通の条件で締結する継続的契約という絞りをまずかけているわけです。松本委員が御指摘になったような学校ですとか,あるいは会員権みたいなものを想定されているように思いますが,入口のところは一緒だったのに,その後の履行や解消について差別的な扱いがされるのは少なくともおかしいのではないか。そういうルールをここに設けたらどうかということなのではないかと思って伺っております。   差別禁止原則そのものを定めるということとは別に,このように特定された形で,その一応用例を定めて,あとは,松本委員の言葉で言うと,法発展に委ねるという考え方だと思っております。 ○深山幹事 大村先生の御指摘とほとんど重なるのかもしれないのですが,民法の中に公平の観念を一般的に入れるということは,それはそれとして妥当だと思いますが,そのこととは別に,今御説明のあったような一定の類型の契約における公平性をここでは想定しているのだろうと,私は部会資料を理解しました。   典型的には在学契約であるとか会員権契約のようなものと思われますが,例えば在学契約であれば,その学校に入学する契約をするとほかの生徒と同じ教育を受けられるということが,正に在学契約の中身になっているのではないかと思います。会員権契約にしても,単なる同種の契約の束ではなくて,その同等の契約をした人と同じ扱いを受けられるという債権債務関係がそこには含まれている,そういう契約なのではないかと思います。   そのような契約関係がどのような契約にまで広げられるのか,例えばフランチャイズ契約はどうかというように広げていったときに,限界はなかなか難しいのかもしれないのですけれども,典型的な契約類型を想定すると,当該契約自体に,相手方に対する一定の給付などの債権債務とは別に,横並びの他の契約者との間で同じサービスなり給付を受けられるということが債権債務の内容として含まれている類型の契約があるように思います。それは契約の解釈の問題なのかもしれませんが,そういう類型があると思います。もっとも,それを一つの類型としてくくり出して規律を設けるのが妥当かどうかというのはまた別の問題で,規律を置くべきかどうかということについては慎重に考えていいと思うんですが,そういう意味で,ちょっと議論が混乱しているように思いました。   別の見方をすれば,ここでいう多数当事者型継続的契約の定義の仕方によって,そうした混乱が解消されるのかもしれませんが,そういう類型があること自体は社会的事実としては間違いないのではないかと思います。 ○高須幹事 趣旨は今もう大村幹事,深山幹事から出たところと私も同意見でございますが,先ほど,この規定については意義があるのではないかという観点から意見を申し上げましたので,一言,付け加えさせていただきます。私も,ここは契約一般に及ぶルールとして申し上げたつもりではなくて,それぞれの契約の目的を達成するために他の契約が締結されることが相互に予定されているという契約類型に関して言えば,特にこういう要請は強く働くのではないか,こういう規定を設けることがいいのではないかという趣旨で,好意的にというか前向きに捉えたということでございます。   私どもの法律事務所は私立学校の法律顧問などもしておるのですが,やはり処分問題,懲戒処分の有効性などというときに,よくほかの学生さんとの比較ということが問題になることがございます。裁判に発展したようなケースで教育的配慮ですとかいろいろな主張を試みるのですが,やはりそのような場面では既に何らかの形で,学生同士を合理的な理由もなく異なる扱いをしてはいけませんよねということが,共通の認識としてあるのではないかと思っておりますので,ここに指摘されているような契約類型については,この種の事柄が定められてもいいのかなと思います。   あと,松本委員が先ほど御指摘された特約店契約ですが,これも捉え方によるのだとは思うのですが,大きなグループのような場合には,特約店というのは全国に網の目のように張りめぐらされていて,九州地区とか四国地区とかいうふうな形で,みんなで仲よく手を取り合って生きていきましょうねみたいな発想で,活動しておるというところがあると思いますので,そういう意味では,この種の類型の一つに入ることもあるのかなと,このように思ったりしております。 ○松本委員 深山幹事の御説明につきまして,ちょっと違和感を感じるのは,同じだけの価格を払って同じレベルの商品・サービスを供給するように契約をしているのに,差別的に扱われるのはけしからんではないかというのはそのとおりだと思うんです。   それは別にこういうタイプでなくても,普通にラーメン屋さんに入って,自分が先に注文しているのに後から入ってきて後から注文した人に,同じ商品なのにそっちに先にでき上がりましたと出されたら,誰でも腹が立ちますよね。これ,差別的取扱いではないかと。   ただ,これは全然多数当事者型でもなく,継続的な契約ですらないわけですが,そういうのは確かに当たり前のことであって,契約上きちんと価格とサービスの内容について合意されているのだから,そのとおりにやってくださいという話で終わるのであって,ここで議論するとしたらもっと特殊な話。特に在学契約の話であれば,一人が契約から離脱すると,その学校としての教育をきちんとやるための収入が欠けることになって,全体の教育に影響が出てくるんだと。そういう面が一つの契約と別の顧客との契約が非常に密接に関係しているということの本質だと思うので,そこに焦点を当てるのであれば,それ特有の議論をしなければならないだろうし,顧客の平等的取扱いということであれば,ここに全く限定されない議論かと思います。 ○鎌田部会長 ここでは,顧客といいますか契約の相手方の一般的平等ではなくて,ここでの差別的取扱いが契約の存立それ自体の根幹に影響を及ぼすという,そういうふうなものが念頭に置かれていると理解するのですが,一体どういう場合に最も典型的にこういった考慮が妥当して,その外縁はどこなのかということが明確でないから議論が混乱するんだと思いますので,その辺のところは更に今後検討させていただくと同時に,最初に御指摘があったように,民法の中でこういう問題に対処するのが妥当かどうかということも,更に検討させていただきたいと思います。   大分時間が経ってきたんですけれども,更にこの継続的契約に関連して,どの部分でも結構でございますけれども,御意見があればお伺いいたします。 ○山川幹事 今の多数当事者型継続的契約について,要件面では先ほど青山関係官が御指摘のものと同じような感想を抱きます。   1点だけ,効果面ですが,差別的に取り扱ってはならないとする規定の意味について,差別的な取扱いが無効になるというような効果を定めたものとするのか。それとも,これは理念規定のようなものとして,民法1条のようなものとして置くのか。それとも,これは予定されていないであろうと思いますけれども,差別的取扱いの禁止請求権のような請求権の根拠規定とするのか。効果面からの検討も場合によっては必要になるかなと思います。 ○潮見幹事 先ほどの2のところで申し上げるべきだったのかもしれません。継続的契約で債務不履行にはならないけれども,やむを得ない事由による解除ということを考えてはどうかという御意見がございまして,また,そのとき山川幹事が後をとる形で,天災地変のような例をお挙げになりました。そういう方向で仮に考えていくのであれば,前回問題とされておりました事情変更の法理との関係という問題が出てまいります。事情変更の法理について規定を置くか置かないかということについては,なお今後検討するということであったと思いますが,その際には要件・効果面で両者の絡みというものを考えていただきたいと思い,発言させていただきました。 ○鹿野幹事 私も先ほど,この期間内の解除ないし解約のことにつき発言したときに,信頼関係破壊という概念では尽くされないような問題があるのではないかと申し上げました。そしてそのときにイメージしていたのは,やはり一種の事情変更でした。ただ,事情変更と言っても,一回的な契約の場合の事情変更と,継続的契約の場合の事情変更とでは,異なる考慮が必要ではないかと思われます。そこで,もし継続的契約についてのまとまった一連の規定を置くのであれば,一般の事情変更の規定に委ねるのではなく,その一連の規定の中に,そのような継続的契約の特殊性も織り込んだ形での期間内解除の規定を置いた方がよいのではないかと思った次第です。 ○中田委員 期間内解約については,事情変更,信頼関係破壊,解約権留保の合意,それから特別の事由による解除と,4種類ほど検討する必要があると思いますが,それは継続的契約のほうに書くのか,それとも例えば事情変更のルールのほうに書くのか,両方あり得ることだと思います。継続的契約に何もかも入れてしまおうとすると,かえってまた収拾がつかなくなるかもしれませんので,一番ベーシックなところを決めていくというのでいいのかなと思っております。 ○松本委員 私が言いたいのは,特に期間を定めれば,その期間内は必ず拘束されるのかというところが継続的契約の本質的なものとして出てくる可能性がある。消費者契約なんかでは一番それがシビアに出てくるところがあるわけです。   そうしますと,議論のスタート点として継続的契約一般とは何かということで,期間が本質的な要素であるところの契約だということで議論しましょうということでスタートしたわけです。そうしますと,その期間内における契約からの離脱という一般的なルールについてもここに定めておく必要があるのではないか。ほかの一般ルールでできるからいいでしょうという言い方をすると,この審議会で議論している事柄のかなりの部分は別に民法に明記しなくてもいいでしょうという話になるわけですが,そうはしないで,分かりやすい民法にしようということであれば,ここに置くニーズは大変高いんだろうと思います。 ○奈須野関係官 皆さんのいろいろな意見を聞いていて,分かったところと分からないところがあります。多数当事者型継続的契約に関して,共通の条件で締結したものは合理的理由なく差別的に取り扱ってはいけない,共通の条件でない前提であれば差別的に取り扱っていいとすると,これは単に契約の一解釈の問題であって,当たり前のことを言っているように見えます。そうすると,例えばフランチャイズ契約であったとしても,事業者間取引では共通の条件であるということは普通期待していないわけなので,フランチャイズ契約は多数当事者型継続的契約ではないという結論になってしまいます。フランチャイズ契約が対象外だというのなら,一体ここでは世の中に起きているどのような問題を解決するためにこの規定を置こうとしているのかを明確にしたほうがよいのではないかという感じがします。   2点目は,ちょっと言い忘れたことで申し訳ないのですけれども,分割履行契約についてです。先ほど岡委員から指摘があったとおり,これは一体何のために設けるのか趣旨不明に感じています。寄せられた意見としては,仮にこの継続的契約の解除の部分が規律が使いづらいものになった場合,あるいは多数当事者型継続的契約についても規律が使いづらいものになった場合,分割履行契約という処理をすることによって脱法が生じるのではないかというような懸念がありました。これは杞憂かもしれないですが,分割履行契約について,これを定めることにどのような意義があるのかということについても明確にしたほうがよいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,御指摘いただいたような点を更に詰めて検討することといたします。   次に,部会資料19-1の13ページ,「第8 法定債権に関する規定に与える影響」について御審議いただきます。事務当局に説明してもらいます。 ○大畑関係官 当部会では,契約に関する規定を中心に見直しを行うという諮問内容との関係で,事務管理,不当利得,不法行為等のいわゆる法定債権に関する規定は,契約関係の規定の見直しに伴って必要となる範囲に限って見直しをすることが想定されています。そこで,ここでは法定債権に特有の問題について御議論いただくのではなく,主に契約に関する規定に見直しが法定債権の規定に与える影響という観点からの御意見を頂きたいと思っております。また,法定債権の規定に与える影響は,契約関係の規定の見直しを終えるまで検討課題として残る問題ですので,本日は主に現時点における今後の検討の留意点等について御意見を頂ければと思っております。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について,御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○岡委員 検討すべきであるというのは,ここに書かれている論点全てを検討すべきであると思います。ただ,これを本格的に検討しようと思うと,予備日が幾らあっても足りないという状況になるだろうと思います。その観点からは,法定債権の損害賠償の範囲等については今の416条を残して,取りあえずは416条の今までの判例を生かすというような形で,今の扱いを変えない経過規定みたいなもので取りあえず対処するのが現実的ではないかというような意見が多くございました。 ○鎌田部会長 経過規定という……。 ○岡委員 いや,単なるイメージですが,416条の損害賠償の範囲の条文が契約法でもし変わったとして,不法行為は今416条を類推するという最高裁がありますので,416条をそのまま残しといて,不法行為の損害賠償の範囲は今までどおり,その昔の条文の類推で運用していくというあたりが一番分かりやすくていいなという意見でございます。 ○鎌田部会長 ほかには特に御意見ございませんでしょうか。 ○潮見幹事 言うべきかどうか迷ったのですが,今の岡委員が御発言になられたところについての意見と,それから,私自身の少し見方というようなものをお話しさせていただきたいと思います。   一つは,不法行為では416条が類推適用されて損害賠償の範囲が決められていると言われていて,確かに最高裁の判例の一般法理としてはそのようなものがありますけれども,実際に多くの裁判例等々を見ていった場合に,果たして416条が定めている枠組みで不法行為の損害賠償の問題処理がされているのかということをつらつら見ていきますと,端的に416条を類推適用して処理をしたというケースというものは必ずしも多くないという印象を持っております。これは私だけではなくて,不法行為の本の中でもいろいろ書かれているところです。   さらに,債務不履行のところでも416条の基礎にあると言われている相当因果関係という枠組みをそのまま使って,不法行為の損害賠償の処理がどこまでされているのかということ自体も必ずしもクリアでないという印象も個人的には持っております。   以上は岡委員がおっしゃられたところについての意見ですが,それ以上に,この問題に関して検討をしていただきたいということも込めて発言をさせていただきたいことがあります。それは何かと言ったら,結局,債務不履行の損害賠償のところもそうだったのですけれども,民法の改正に当たって,この問題というのは賠償されるべき損害というのは何かということの決定基準が何かということと,それをどのように条文に書き込んでいくのかというワーディングの問題ではなかろうかと思います。   このことを考えたときに,これは債務不履行でも不法行為でも,恐らくどちらもそうなのでしょうが,およそそういう債務不履行とか不法行為と条件関係さえあれば,それによる損害というものは全部賠償されるべきだという考え方は採るべきでないという点については,恐らくここにいらっしゃる先生方の間で異論はないのではないかと思います。要するに,その原因関係,条件関係があれば全部賠償しろという考え方は採らないということであろうと思います。   そうなると,次の問題は,被害者あるいは債務者に生じた損害のうち,賠償されるべき損害と言われているものが何なのか,法的に見て賠償させるのが妥当な損害というのが一体何なのかを判断する決定基準を探る作業ではなかろうかというように思います。そのときに,これは債務不履行の損害賠償のところで少し出たところですけれども,先ほども申し上げた相当因果関係を決定基準として持ち出したところで,それは賠償するときの被害者に生じた損害のうち,賠償されるのが法的に見て妥当な損害とは法的に見て賠償されるのが相当な損害であるという,一種のトートロジカルな,そういう表現をしたにすぎないというように私などは感じております。   それでもやはり相当因果関係のある損害を賠償すべきであるということを書けと言うのであれば,それは単に条件関係にある損害は全て賠償されるべきというルールは採らないということルールとして示すということに意味があるという,それだけの意味を持つにすぎないのではないかと思います。   もちろん,トートロジカルな表現であるということに目をつぶり,こういう消極的な観点から規定を設けるというのも考え方としてはあると思いますけれども,もう一つ更に進んで,賠償範囲の決定基準というものをルール上でより積極的に明確にしていくということが望ましいということならば,その方向を採ることを否定すべきではないというように思います。以前に債務不履行の損害賠償のところで出てきて,部会資料の詳細版のところにも書かれていた考え方は,正にその債務不履行の場面で賠償されるべき損害を判断する際の決定基準というものをより積極的に書き込んでいこうという姿勢の表れではなかったかと思います。   債務不履行を理由とする損害賠償の場面で部会資料中に出てきていたのは,当該契約の下で債権者に生じた損害が債権者と債務者の間でどのように割り当てられているのかという観点から賠償範囲を画すべきであるというものでした。予見可能性ルールだとか,あるいは契約利益説というふうに言われている考え方というのは,今申し上げたような理解を基礎として立てられているものと,私などは考えているところでして,416条の当初考えられていたような基礎にある考え方や,比較法的に最近言われているような多くの立場が採用している考え方も,今申し上げたような考え方を基礎にして展開されているものと思っております。要するに,その契約の下でのリスク分配,当事者間に妥当している契約規範が賠償範囲を決定する基準としての基礎に据えられるべきだという考え方に出ているものではなかろうかと思います。もとより,これをどういうふうにワーディングするかというのはまた別の話です。   不法行為を理由とする損害賠償の場面でも,今申し上げた考え方と同様の枠組みを不法行為を理由として賠償されるべき損害は何かについての決定基準を考えるに当たり捉えたときにどうなるのかを,債務不履行を理由とする損害賠償について今申し上げたような方向で考えるのであれば,検討していく必要があるように思われます。一般に保護範囲論とか保護範囲説と言われている考え方というのは,正にその決定基準というものを明らかにしようとした動きでして,結構誤解はされているようでありますけれども,そこで言われているのは,国家が法益侵害を禁止する規範だとか,あるいは法益保護を命ずる規範というものを立てることによって,市民に生じたどのような損害の回避を目指したのかという観点から賠償範囲を画すべきであるという立場と捉えることができようかと思います。保護範囲論の当初の発想というのは,こうではなかったかと思います。   仮にそうであれば,不法行為において賠償されるべき損害について,どのようなルールを立てていったらいいのかを検討するに当たっては,債務不履行の損害賠償で,先ほど申し上げたような方向が是とされるのであれば―ワーディングは別です,これいろいろ誤解がありますので―あえて申し上げますと,ワーディングは別として基本的な考え方として,そういう発想がいいということであれば,不法行為の場面でも,今申し出た意味での禁止規範とか,あるいは命令規範というものを立てることによって回避しようとした損害が賠償されるべきだという決定基準を基礎に据えて条文化をし,適切なワーディングを試みていくのが適切ではなかろうかと思っています。   もとより,岡先生のおっしゃられたところに戻りますと,従来,保護範囲論,保護範囲説と言われている考え方は416条の類推適用を基本的に否定しておりますが,そうなると,不法行為における賠償範囲を定めた根拠条文はどこだと言われたら,709条であるというほかないでしょう。だから,もし不法行為のところで賠償範囲のルールをなかなか書けないなということであれば,709条の下で,今申し上げたような観点からの解釈が妥当することを確認しておけば,それでもいいのかなという感じがしないわけではありません。   長くなりまして申し訳ありませんでした。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   これは,先ほどの説明の中にもありましたように,いろいろな問題の関連で常に出てくる問題だと思いますので,今回限りではなくて,また今後お気付きのときに御意見をお出しいただくということにして,次に進ませていただきたいと思います。   部会資料20-1の1ページ及び2ページの「第1 消費者・事業者に関する規定」について御審議いただきます。事務局に説明してもらいます。 ○笹井関係官 まず,部会資料20-1と20-2の関係,各項目冒頭の「1 総論」の位置付けは,これまでと同様です。   それでは,「第1 消費者・事業者に関する規定」について御説明いたします。   民法にはすべての人に区別なく適用されるルールのみを規定すべきであるとの理解もありますが,これに対して,今日においては社会の構成員が多様化し,「人」という単一の概念で把握することは困難になっており,民法が私法の一般法としての役割を適切に果たすためには,消費者や事業者に関する規定を民法に設けるべきであるという考え方も示されていますので,このような考え方について御審議いただきたいと思います。   民法に消費者や事業者に関する規定を設けるという考え方からは,大きく分けて,消費者と事業者との間の契約に適用される特則,事業者に関する特則を設けるとの考え方が示されていますので,これらを2と3で取り上げました。   また,事業者に関する特則については,更にその適用範囲を限定するため,経済事業という概念が提案されていますので,3の(3),事業者が行う一定の事業について適用される特則においては,このような概念についても御議論いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について,一括して御意見を伺いたいと思います。御自由に御発言ください。 ○加納関係官 消費者庁の加納でございます。   この消費者・事業者に関する規定ということに書かれているところについて,全体的に申し上げますと,今回のこの部会における議論,民法を現代的な取引に合わせて発展させるという観点から,消費者とか事業者の概念を規定して,一定の消費者保護に関する規定を設けるということ,そのこと自体は一つの考え方としては十分理解できますし,検討されることにも意義があると思います。ただし,いろいろと難しい検討をしなければならない点もあると思いますし,取り分け現行の消費者契約法の規定に関して,例えばなくすとか,そういうことになるかどうかについては慎重に検討すべきであるという意見を申し上げたいと思います。   若干長くなるかもしれませんが,敷衍して申し上げたいと思いますが,現在,消費者契約法及びそれ以外,いろいろな消費者契約に関する様々なルールが特別法という形で規定されているところでありまして,それにつきまして民法にも,対等当事者間でも適用できるんだという考え方の下に,民法に何らかの措置をするということは,それ自体はあり得ることだと思います。また,見方を変えれば,民法の中に消費者目線というものが入るというふうにも評価できるのではないかと思いますので,そのこと自体,何ら否定的にとらえる必要はないと思います。   他方で,これは法制的な話になってしまうかもしれませんが,概念として,「人」という概念のほかに,消費者であるとか事業者という概念が入る。それから更に,商法に商人の規定が残るということを前提としますと,非常にバリエーションといいますか,登場人物の階層が若干複雑になるのではないかという気もするところでありまして,その辺はよく検討する必要があるのではないかと思います。   特に事業者と商人につきましては,この部会資料20-1の3の(3)に経済事業という形で先ほど御説明もありましたが,こういう概念で,また別途の規律を設けるということが一つ考えられるということでありますが,正にそういうことも起こり得ると。事業者と商人,営利目的をしなくても事業者にはなりますので,その場合にどこまで規律を及ぼすのかというのはいろいろな考え方があると思いますから,やはりこういう経済事業とか,そういう考え方も場合によっては必要になってくるということだと思います。そうしますと,人,消費者,事業者,それから経済事業,それから商人とか,いろいろやはりバリエーションが出てこざるを得ないのではないかというところ,そこをどう見るかという問題があるのではないかと思います。   それから,ちょっと細かい点になりますが,例えば従前の部会の議論になりました不実表示のような形で一般法かということを考えるというところもありましたが,細かい話ですけれども,現行の消費者契約法では労働契約は適用除外になっておりますので,そこが入ってくるということについてはどうなのかというのも,また別途考える必要が本来あるのかなというような気がいたします。   むしろ考え方としまして,例えば,これはちょっと思いつきの類いになってしまうかもしれませんが,不実表示のような規定を民法に設けるということにつきまして,消費者契約法の不実告知の発展版というふうに位置付けることもあり得るんでしょうが,結局そこで言われていることといいますのは,かなり今現在の錯誤に近いのではないかと思われるわけでありまして,今回,錯誤取消しという形で立法提案もあるところですけれども,重要事項の概念を拡張して取消しの対象にするということになりますと,ほとんど錯誤の延長線のような形で不実表示という形を位置付けるということも,十分考え方としては,整理の仕方としてはあり得るのではないかと。   それからまた,契約の解釈ルールに関する議論もありましたけれども,正にこれも従来からの民法の考え方の延長線上のものとして位置付けるということもあり得るのではないかと思いますので,そういうふうに整理すると,それは民法の中で消費者目線の観点から,そういった規律も設けるし,他方,消費者契約法におけるいろいろな規律は,それはそれで消費者契約法の世界で,いろいろと発展させていくというふうにしていくことも考えられるのではないかと思います。   それから,部会資料の詳細版のほうに触れていただいているところ,詳細版3ページのあたりで,消費者契約に関する特例として,他の法令に設けられている規定をどうするかと,いずれの法典に置くかというようなことで,例えばとしまして,断定的判断の提供に関する消費者契約法上の規定などというふうにお書きいただいているところであります。それについては,何行か下に,「もっとも」というところで,消費者契約法については同法1条の目的規定を踏まえた解釈の必要性や実体ルールの機動的改正の要請等も考慮する必要があるとの意見と。これはこれまで関係各所からよく指摘されているところで,その辺を踏まえてお書きいただいたのではないかと思いますけれども,そういう視点というのもありますが,あともう2点ほど,ちょっと加えさせていただきたいと思います。   一つは,こういう消費者契約法その他のルール,消費者契約に関するルールを作るというときに,私どもは何を気にするかといいますと,やはり相談現場で使われてほしいということでございます。消費者契約に関するトラブルといいますのは,裁判,訴訟において解決されるということももちろんありますが,多数はむしろ相談現場において相談員さんなどが活用することによって紛争解決ルールとして使われていることのほうが,恐らく数としては多いと思われます。   ちょっとデータとして古くなりますけれども,消費者庁の前身である旧内閣府時代に,国民生活審議会において消費者契約法に関して裁判例がどれぐらいあるかというのを調べましたら,二百数十件ぐらいというようなものでありました。それに反しまして,先般,国民生活センターのほうで消費者契約に関する紛争処理ということで,どれぐらい苦情相談が上がっているかということで,データの採り方はいろいろございますけれども,勧誘ということであれば虚偽説明に関して,消費者契約法に関して上がってきた例としては2万9,133件であるとか,長時間勧誘に関する相談としては4,105件であるとか,解約料に関する不当条項に関する相談としては2万1,987件と。これは単なるそういう相談があったというデータでございまして,それが直ちにどうかと,客観性のある数字かどうかというのは検討の余地があるのですが,というデータが2009年度におけるデータということであるということでありまして,やはり裁判実務というよりも,むしろ相談現場で使われることが多いというような法律ということも踏まえる必要がある。   そうしますと,やはり分かりやすさ,あるいは規定の適用範囲の明確性といったことが重視されるのかなと思うところでありまして,そういう観点で消費者契約法は適用範囲の類型化ないし明確性というのも意識して規定が設けられております。   また,その類型性,明確性ということに関しましては,利用者の予測可能性を確保するとともに,現行の適格消費者団体による差止請求制度の対象とするという側面もございます。なので,こうした側面も踏まえる必要があると。さらに,この差止請求の対象の問題につきましては,直接それ自体どうのというわけではないんですが,いわゆる被害者救済制度への発展の可能性というのもあるところでございまして,これにつきましては現在,消費者委員会において,検討がされているところでございます。   ですので,この消費者契約法の規定というのは,非常にそういう相談現場で使えるための規定としての明確性や,差止請求の対象としての類型性などという要請もございますので,そういったところを十分加味した規定振りがあり得るべきだと,あってしかるべきだと思いますので,そういう観点も踏まえて慎重に検討すべきではないかと思います。 ○岡委員 まず,消費者概念を民法の中に持ち込んで,消費者保護的な規律をやろうと,不当条項規制でありますとか,抗弁の接続でありますとか,そのような方向性については,弁護士会としては次のような条件付きで賛成でございます。   最終的な法律の位置としては,やはり消費者契約法あるいは今日の資料にあるような消費者統一法典という法律のほうが望ましい,国民にとっても分かりやすいという方向性を多くの弁護士が持っております。ただし,現時点で消費者法の改正の動きは見られておらない。あるいは,近々にそれが動く予定もないとすれば,将来的にはそちらに移すにしても,今せっかくこういう形で議論が深まるのであれば,民法の中に規律するということでよろしいのではないかと。その方向で議論を進めるべきではないかというふうな意見を持っております。   そうなりますと,山野目先生のレポートの2ページの真ん中辺りにあります,単に消費者概念を導入するというだけではなくて,前のほうに,消費者の概念もその基本理念の一つになるし,当事者間の格差というものを民法の中で考えるべきであると。そういう少し広い理念の規定も是非置いていただきたい。それを置けば,従前から問題になっております,個人ではないけれども個人に準じた中小零細企業者等も救えるような,射程距離のある,少し広目の理念を是非冒頭部分に置いた上で,消費者概念を導入するのがよいのではないかという意見が多ございました。   詳細版12ページ以降の細かい論点について,多少申し上げたい意見もございますけれども,総論の部分に今限って申し上げますと,今言った概念を入れて実質化することには賛成で,将来的には消費者法だけれども,そちらが動いていなければ今,民法でやっていただきたい。その抽象的な理念の規定も置いていただきたい。それから,現在提案されている消費者概念の定義の問題でございますが,今のこの詳細版の1ページを見ますと,事業者と消費者,事業者でない者が消費者という形で,国民を消費者と事業者に二分することになっています。二分した上で事業者の中を経済事業の有無でまた分けると。それにまた商人があるという,先ほどの4段階になっておるわけでございます。しかし消費者の定義としては,やはりもう少し広目に定義をしたほうがよいのではないかという問題意識を持っています。ただ分かりやすさの観点から消費者契約法の定義と同じにすべきではないかという意見も多く,-両方の意見がございました。   取りあえず総論のところでは以上でございます。 ○大島委員 今般の民法の見直しにおいて,分かりやすさと同時に,取引当事者間の情報量や交渉力の格差を是正し,公平で自由な取引を実現させようとする方向性については理解できます。安心して契約を結ぶことができる環境を創るという考え方については,よいのではないかと思います。   私どもは,経済活動は飽くまで自由な取引が大原則であるとの基本認識を持っております。これを前提に実業界の立場から申し上げますと,事業者と一言で言っても,大企業から中小企業,また零細企業まで,様々な事業者がございます。法務対応という観点から申し上げましても,中小企業においては法務専門の部署がある会社は極めてまれですし,顧問弁護士のいない会社も珍しくはございません。法務対応能力については,事業者間に大きな差があるのが実態でございます。個人と何ら変わりない事業者も多数おります。   他方,消費者も,その情報量の保有については多様であると思われます。   こうしたことから,大企業は別として,私ども中小企業者は,詳細版の2ページの記述にございます「取引について情報や経験を有する事業者・法人とそれらを有しない消費者の間の格差が拡大している」という認識には全面的に至っておりません。現実がどのような実態であるのかを把握いただくことが極めて重要であると存じます。   仮に格差が存在するならば,その是正には画一的でない格差の実態を踏まえた柔軟かつ実効性のある方策が求められるものと思います。どのような方策がよいのかについては,各界の意見を踏まえて,慎重に検討を行う必要があると思います。 ○岡田委員 第一回目の部会で,私は民法の中に消費者の位置付け等を入れていただくことに関して大賛成だと言いましたが,帰りましたら,周りの消費者関連団体方々からものすごい反論がありました。今日も恐る恐る出てきたのですが,岡弁護士のほうから弁護士会の様子がどうもこっちへ風を送っていただいた感じで,元気が出てきた次第です。   今,消費者市民社会という言葉がちらちら日本においても言われるようになりましたし,消費者基本法の中で消費者の権利も導入されました。また消費者契約法がかなり認知されて裁判でも使われるようになりました。消費者相談現場でも特商法と同じように使われるようになりました。そういうことを踏まえますと,市民生活の基本となる民法の中に消費者というものを明確に位置付けていただくことは必要だろうなと思います。   一つ例を言いますと,ある有名な司法試験の予備校の約款に,納入したお金は一切返さないという条項があることが判明しております。もっと小さな企業に対して私どもは消費者契約法の遵守を説得している現状にあって,法曹家の登竜門ともいえる予備校が平然と消費者契約法で無効とされる約款を使っているということに,何とも情けない思いになります。このような現実を考えても,民法に消費者の位置付けや関連法規のルールを入れていただくことに意義があると考えております。民法の特別法である消費者契約法との関係も入れていただくことを願っています。その辺が明らかになれば,もっと私たちの契約紛争の解決や処理に関して消費者契約法や民法が強い味方になると思っています。   ただ,不当条項のところですが,ここの部分に関して民法の中で消費者に関して定義付ける際に,消費者にも格差があって,一色ではなくて,能力的に劣る消費者もいれば,高齢によって判断力が全くなくなっている消費者もいるし,逆に不当な権利主張をする消費者もいるということを考えますと,この不当条項の部分にはいささか懸念を持っております。   というのは,悪い契約といいますか,消費者にとって悪い契約というのは,不実告知とか錯誤とか,そういうことだけではなくて,消費者の状況というか環境というか,その辺も本来なら考慮していただきたいのです。もし民法でその辺が組み入れられない場合は,消費者契約法の中でより詳細な対応をしていただくことを願望したいところです。これは消費者庁の所管になりますが。 ○岡本委員 私どもとしましては,民法に消費者・事業者概念を取り込むということについては慎重意見でございます。   理由といたしましては幾つかあるんですけれども,一つ目は,消費者・事業者についての特則は,現在,消費者契約法など特別法で規定されているということでございまして,消費者契約法につきましても,制定されてから必ずしもそれほど長期間を経たという状況にはないのではないか,いまだ流動的なところがあるのではないかというふうに考えております。   そういう意味では,消費者・事業者に関する特則を民法に設けるというには,まだ若干機が熟していないというところがあるのではないかと思います。現段階で民法に規定するといたしますと,一種固定化するということがあると思いますし,引き続き消費者契約法などの特別法に委ねることにいたしまして,消費者契約の規律について今後の事例あるいは判例の蓄積を待った上で,改めて検討するというふうにするのがいいのではないかということです。   消費者法制については,いまだ流動的でございまして,新しい問題に対処していくという必要があるのではないかと思うんですけれども,民法に規定することによりまして,特別法に規定しておくよりも,改正を行いにくくなるというふうな問題があるのではないかというところを考えております。民法だからといって改正ができないわけではないということかもしれませんけれども,特別法よりもやはり一定程度改正はやりにくいということはあるでしょうし,民法の価値としましても,それほど頻繁に改正がされないといったところにも民法の価値というのはあるのではないかと思いまして,そういう意見でございます。   それから,今の消費者保護の法制については相当の成果を上げてきているということなんだろうと思いますけれども,そこでは,消費者被害を生じさせているような,そういう悪徳業者,こういったものに対して迅速な対応を図るという側面,これが必要である一方で,言ってみれば健全な経済発展というか,産業のイノベーションを図るといった観点からは,正常な取引活動,これを制約することがあってはならないという別な側面もあるのではないかと思います。   仮に民法に消費者保護の規定が置かれるということになりました場合には,特別法で規定する場合よりも技術的な規定というか,要件・効果を細かく書き分けていく,そういった規定がしにくくなるといったことも場合によってはあるのではないかと思っておりまして,仮にそうだといたしますと,規定がある程度概括的な規定になってしまって,本来規制すべきでないものについてまで,正当な取引まで結果として規制するといったことになりはしないかというふうな懸念がございます。   それから,消費者と事業者の定義,これについてなんですけれども,今回の部会資料記載の提案では,事業活動以外の活動のために契約を締結する個人という提案がございますけれども,例えばネットオークションとか,あるいは中古品の売買を繰り返し行っているような,そういった個人,こういったものについて事業活動なのかどうか,必ずしも判然と区別することできないような,そういったケースもあるのではないかという意見もございました。この点については,民法に規定しようが特別法に規定を置いておこうが,どちらも同じではないかといった意見もございましたけれども,こういった概念規定についても流動的な余地が残っているということを考えますと,やはり民法に規定するよりも,いましばらくは特別法に置いておいて,もまれたほうがいいのではないかという意見でございます。   総論のところについては以上です。 ○松本委員 先ほども岡田委員から御指摘がありましたが,消費者市民社会論が国際的にも日本国内でも主張されている状況から見て,民法の前提とする「人」の中心として,生きている個人・市民・消費者がきちんと位置付けられることは大変重要だろうと思います。そういう意味で民法が,ビジネスのための法律という側面ではなくて,市民生活にとって必要なルールをきちんと入れていく方向に発展していくということは重要だと思います。   ただし,現在の非常に不十分な消費者契約法をそのまま民法に移行して,先ほどの岡本委員の御指摘にもありましたように,大変改正がしにくくなるような状況に現段階において追い込むというのは,そういう消費者法の発展という点から見て,むしろマイナス要因のほうが大きいのではないかと思います。将来において民法が消費者法概念をたっぷり取り入れるということには賛成なんですが,現在において消費者契約法を統合するということに対しては反対をいたします。これは実は本審議会の冒頭で議論したときに私が申し上げたことと変わっていないわけです。そのときには,反対だけれども,万一統合するということであれば消費者契約法1条の理念を民法の総則の冒頭の解釈理念として置くべきだろう,統合するからには理念も統合すべきだという主張をいたしまして,本日配布されております何人かの幹事の方の意見書にもそのことが書かれております。   その後,しかし私,考え方がちょっと変わってまいりまして,統合するなら理念を入れろというのではなくて,むしろ統合しないで理念だけを入れたほうが,よほど民法の様々な条文が消費者取引の特質に合わせて法発展していく可能性が大きくなるのではないかという考えを現在持つに至っております。そういう意味では,消費者とか事業者の定義もどこかで入れた上で総則のところに,消費者契約あるいは消費者取引に民法を適用する場合にはこういう点に留意をして解釈すべきであるというような一般条項を入れておくということは,大変いいことだろうと思います。総論にのみ入れたほうがいいのではないかという意見です。   もちろん,それぞれの各論のところで,B to Bには適切だけどB to Cには適切でないというような部分について個別に議論が可能なのであれば,そこについては,消費者取引・消費者契約についてはこの規定は適用しないというような,ただし書を入れるということはあり得ると思いますが,現段階の消費者契約法を統合するということには,もう一度反対だと申し上げたいです。 ○鹿野幹事 結論から申しますと,私は,消費者・事業者概念を民法に取り入れてよいのではないかと思います。   理由の第一は,確か第1回目に既に申し上げたところですが,現実の社会においては非対等の当事者間の取引が圧倒的に多いわけですし,その中でも消費者と事業者との間の取引は,取引全体においてかなり大きなウェイトを占めているということでございます。民法が市民生活に関わる基本的な民事ルールを定める法律ということであれば,これを正面から取り上げるということに意味があるのではないかと思うのです。また,消費者契約に関する規律が,今までのように特別法にのみ置かれていると,それは特別の例外規定なのだという意識をどうしても招きやすくなるのではないかと思います。非対等性を正面から民法に取り込むことによって,民法の基本的な考え方として,非対等者間の場合には対等当事者間とは異なる考慮が働くのだということが分かりやすくなると思いますし,その意味でも,これを取り入れることに賛成するものでございます。   それからもう一つは,先ほど岡田委員でしょうか,おっしゃったように,教育という観点からも,つまり将来的に特に法律家の意識がどのように変わるかというような観点からも,取り入れには意味があるのではないかと思います。   抽象的には以上のような理由を挙げることができると思いますが,より具体的にも,例えば今まで検討対象とされた項目の中でも,不当条項とか,あるいは抗弁接続など,従来特別法に限定的に置かれていた規定を民法に取り込むことによって,それを発展させる可能性が出てきます。さらに,例えば本日,直前に議論がありましたところの継続的な契約に関し,期間の定めのある継続的契約の期間内解除について,仮に一般的ルールとしては信頼関係破壊とか,あるいはやむを得ない事由という要件の下でのみ解除できるという規定が置かれることになるとしても,消費者による期間内解除については,より容易に解除を認める特別の規定を置くというようなことが考えられてよいのではないかと私は思います。具体的な点の是非はともかく,そのような検討の可能性を広げるためにも,消費者概念を民法に取り込むということについて賛成でございます。   ただし,その取り込み方については,まず,単に消費者等の概念と具体的な規定だけを取り込むということではなく,言わば消費者契約に関する規律の理念あるいは趣旨に当たるような規定を置き,なぜ消費者契約につき一般と異なる特別の取扱いがなされるのかということを明らかにするべきだと思います。例えば消費者契約法第1条では,情報や交渉力の格差などに触れられていますが,これを少しふえんした形での理念的な規定を民法に併せて置くべきだと思います。さらには,消費者・事業者間ということに限らず,事業者間でも非対等の取引があって,その場合にどのような取扱いがなされるべきかについても問題だと思いますので,そのようなものも含め,非対等当事者間の取引についての,何らか理念的な,基本的な考え方を示した規定を,かなり抽象的な形になるかもしれませんけれども,置くことができればと思っております。   それから最後に,具体的にどこまで取り込むのかということについてです。消費者概念を民法に取り込むといっても,現在存在する消費者関連の特別法をすべて民法に取り込むべきだと私は考えているわけではございません。飽くまでも,民法が言わば受皿となるように,基本的な民事ルールを取り込むことが必要だということでございます。従来の消費者関連の特別法の中には,業種ごとの特別な考慮に基づいて特別なルールを設けているというものもございますし,あるいは,行政規制と協働してうまく機能しているというものもございますので,そのような部分は残した上で,飽くまでも基本的な民事ルールと目され得るものについて民法に取り込むということに賛成でございます。 ○道垣内幹事 手を挙げてはいたのですが,鹿野幹事がおっしゃったことがかなり重なっています。と申しますのは,先ほどからの議論は,様々なレベルの問題が同時に議論されているような気がするのです。つまり,部会資料20-1のところに「従来は,民法には全ての人に区別なく適用されるルールのみを規定すべきであるとの理解もあったが」と書いてありますが,このように民法の理念との関係で,消費者概念や事業者概念を入れるべきなのかという問題が第1にあります。第2は,例えば消費者契約法が完全に吸収されなくなってしまうのかという問題でして,三番目が,消費者概念を取り入れることによって消費者保護は拡大されるのかという話です。更に四番目に,消費者概念や事業者概念を具体的にどう置くのかという問題があろうかと思います。これらの四つはかなり異なった話だろうという気がします。   まず,民法の理念との関係で申しますと,こういう理念が確かに歴史的にはあったのだろうと思いますけれども,現在,商法にせよ,いろいろな消費者保護法にせよ,様々な特別なルールが規定されることによって民法自体が適用されていない,あるいは,少なくともある民法のルールが排除されているという類型の人は存在するわけであす。もちろん,個別具体的にであって,全体として排除されているという意味ではありませんが,この人の場合にはこちらのほうが適用されるという場合は幾らでもあるわけです。そうすると,現在の民法が,全ての人に区別なく適用されるルールのみを規定しているのかというと,私はそうは思いません。そしてかつ,先ほどから出ておりますように,市民社会の状態というのを考えたときに,消費者等を民法の中に概念として入れ込んでおくというのは大切なことだろうと思います。   二番目の,では,消費者契約法などがなくなるのかという問題につきましては,私は,鹿野幹事がおっしゃったように,消費者ルールのうち基本的なものだけを民法の中に取り入れるというだけであって,消費者契約法自体をなくす必要性は必ずしもあると思いませんし,あるいは特商法などが全部なくなるのかというと,それらを全部取り入れるべきであろうとは思いません。ただ,消費者に対して適用される基本的なルールとしてアクセプトできるものを幾つか並べるということで十分なのだろうと思います。そうなりますと,松本委員が反対だというふうにおっしゃりながら,個々的な条文において消費者が絡むときにはこうではないということは議論し得るという話をされましたけれども,その意見は賛成だというのと余り変わらないのかなという気もしてまいります。今まで議論が出てきた中でも,例えば,私は約款条項についてグレーリストとかブラックリストについて民法の中で規定するのは基本的に反対です。反対だけれども,消費者概念を取り入れることには賛成であるというわけです。   三番目の保護が拡大するかという問題は,先ほども申しましたように,基本的なルールだけを取り入れようということになりますと,民法の中に取り入れることによって保護が現在より拡大するという必然性は全然ないと思います。   四番目の消費者概念・事業者概念をどうするかという問題は,私に現在何か妙案があるというわけではございませんけれども,これはまた別個に考え得る問題であり,かつ個人的には,消費者契約法等々と消費者概念が異なるということになっても本当は構わないのだろうという気がしております。 ○山野目幹事 私自身の考えは,しばらく前に岡田委員が御発言なさったところと全く同じものでございますから繰り返しません。   それとは別に,松本委員が御発言になったことを大変興味深く承ったものですから,それについての所感を申し上げさせていただきたいと考えます。消費者の利益保護の理念のようなものをうたう規定を入れることにむしろ賛成で,その反面において,具体的な内容の面での統合ということには反対であるというふうな仰せでした。お話を承っておりまして,私が感じましたことは,松本委員の心とするところは,統合を必然視するといいますか,あるいは手放しでの統合というものは,今日段階で行うことについて大変軽率であるというお考えをお示しいただき,その上で,恐らくは個別の論点ごとに精査の上で,結果として,統合と実質を同じくするような規律を考案する議論をする局面というものを必ずしも否定されなかったのであろうというふうに感じます。そういたしますと,従来,ともすれば機械的に消費者契約ルールの統合に賛成であるとか,あるいは反対であるとかいうふうな議論がなされてきた嫌いがございますけれども,そういうふうな議論の仕方を超えて,それを深化させる議論を続けていくに当たってのヒントを頂いたものであると感じました。 ○新谷委員 消費者保護の法政策を進めるということは非常に重要だと思っていますが,民法の特則として,消費者契約を取り込むことについては慎重に検討いただければと思っています。   検討事項の中の具体的な定義を拝見しますと,二分法的に書かれていますので,契約当事者が「消費者」と「事業者」のどちらかに入るということになると,例えば労働者については,どちらに入るのかということが,非常に気になるところです。この点について事務局の方で労働者はどちらに入るのかというお考えがあれば,これを聴かせていただきたいと思っています。   また,労働者に近い概念で,自ら労務を供給して,その対価を得て,かつ従業員も使っておらず,見るべき資産もないような役務の提供者,供給者について,これは恐らく個人事業主というカテゴリーに入るのかもしれませんが,仮に個人事業主ということで事業者に当たるということにされた場合,検討事項に挙げられている事業者間の契約に関する特則等々に関して,かなり懸念があります。同じ事業主といっても,個人事業主と大企業との間の契約のように,その情報の質の量や交渉力の格差が非常に大きい契約も当然にあるため,これが全て事業者間契約に分類されることについては非常に懸念がありますので,この点については是非配慮を持った検討を進めていただきたいと思っています。   さらに,このような非対等当事者間の契約類型が事業者間契約ということになったときに,一方が大企業で,一方が本当に零細な労務供給の事業者,個人事業主であった場合には,優越的地位の濫用のケースがかなりあります。こうした優越的地位の濫用については,この弊害を除去するために下請代金支払遅延防止法という立法的措置がなされており,例えば下請代金の支払期日を60日と定めたり,親事業者に書面交付を義務付けたり,下請事業者に帰責事由がない場合に親事業者に給付の需要を拒絶することを禁止する,あるいは不当な低価格を定めることを禁止するといった立法的な対応がなされています。仮に消費者契約を民法に取り込むという検討をするのであれば,非対等当事者間の事業者間契約についても,こうした下請代金支払遅延防止法の理念をどこかに入れられないのかということも検討いただければと思っています。   なお,詳細版の20-2の中に諸外国の立法例が多く分析されていますが,今申し上げたような非対等当事者間の契約類型について諸外国での立法の事例や,その適用範囲,あるいは労働契約との関係について記載しているものがありましたら,御教示いただきたいと思っています。 ○中井委員 基本的に,先ほどの鹿野幹事の御発言に大変共感するところがございます。昨日の日弁連の検討会の中で,横浜弁護士会からの発言で,格差契約なる言葉が出ました。そのことについて,先ほどの鹿野幹事の発言も踏まえて,少し御披露しておきたいと思います。   現在の民法は,様々な人,多種多様な人たちの取引関係すべてを規律する基本法として存在する。だから,それらあらゆる形態の契約関係を規律する,基本ルールを定める。ここに第一の意義があることは間違いがない。   ところが,現実の社会には,御承知のとおり,属性も異なる,知識や経験も異なる,情報力の収集能力も違う,交渉力も違う,そういう多種多様な格差のある人たちがたくさんいる。そういう格差のある人たちが契約を締結したときに,その契約に拘束される。それに拘束されるだけの正当化の根拠として,そういう格差のある人たちも共通の基盤で契約を締結する,そういう環境が整えられなければならない。そういうことをやはり民法の第一原則として―これは山野目幹事のほうの後のレポートの中にもありましたけれども―明示することは大変意義のあることだろうと思います。そのとき,消費者契約という形での規定の仕方ではなくて,正にそういう格差のあることを前提に,そういう格差契約一般に共通するものとして必要な特則が設けられなければならないし,必要な場面ではそういう解釈がされなければならないということを,基本理念として宣明することが非常に有意義ではないかと思っております。   それは具体的には,仮に消費者契約の消費者概念を個人,しかも事業活動を行っている者は除くとなったときに,その個人であっても,直接事業活動を目的としない契約の場合,間接的な契約の場合ですけれども,実質は情報量格差,交渉力格差があって,やはり救済が必要な場面が出てくるにもかかわらず対象とならない。また,中小事業者の場合は,本来的にやはり格差はあるけれども,定義から外れて事業者間契約になってしまう。   このように,仮に消費者契約を定義付けしたとしても,そこから漏れるものは必ず出てくる。それを民法の大原則の中で,格差契約というネーミングがいいのかどうかはともかく,そういう実情の中で契約を締結していることを踏まえた基本理念があれば,消費者契約について特則のルールを定めたとしても,その基本理念の規定は,消費者契約には当たらないけれども格差契約に当たるものについても類推適用される,若しくは準用される,そういうことが可能になるのではないか。   先ほどの鹿野幹事もそういう適用外に漏れるものについての一般的理念を民法の中に設けたらどうかという御発言だったというふうに理解しておりますけれども,正にそういう考え方に賛成するものです。   その次に,法形式についてですけれども,これは松本委員,山野目幹事からの御発言がありましたけれども,また消費者保護委員会からの指摘もあったんですけれども,現在ある消費者契約法の統合の問題と,例えば消費貸借契約を諾成的契約にしたとき,金銭交付前解約を認めるか等,一般ルールを定めたときの消費者契約についての特則を規定化するかという問題と,この二つの問題は分けて議論すべきなのではないか。後ほど幾つかの項目について議論するのだろうと思いますけれども,それらについては一般取引のルールと異なった,特則が承認されるのであるならば,それは民法の中に規定していいのではないか。他方,現在消費者契約法の中で,例えば断定的判断の提供による取消しとか,幾つか定められているものについて,直ちに民法に統合するかという問題については,更に慎重に検討していっていいのではないか。ここは区別して議論すべきだろうと思っております。   私の意見ですけれども,仮にこの部会で現在の消費者契約法に定める例えば断定的判断の提供等による取消しについて,更にその要件を拡充する,充実したものにする,よりよい要件を定めることができて,それが消費者契約法を上回るものだとするならば,これは逆転現象かもしれませんけれども,先行して民法の中に定め,それが将来,消費者契約法なり消費者法典の中に更に昇華していくということはあり得るのではないかと思っております。   最後に,消費者の定義の考え方として,一つは消費者契約法と同一の概念として捉える。二つ目は,日弁連が言っていますけれども,消費者概念を拡張する。例外としては,直接事業に関するものを取引した個人を除くという意味で,直接という言葉を入れることによって消費者概念を拡張する。こういう考え方があろうかと思います。先ほどの格差契約という概念を理解していただけるのであるならば,あえて消費者契約と民法との概念規定を変えて複雑にするよりは,消費者契約の概念を持ち込んだ上で,消費者契約に当たらない格差契約については民法の基本ルールとして格差契約の理念を準用していく,類推適用していくという考え方が可能になるのではないかと思っております。   さらに,近弁連のほうの今日配布させていただいた資料ですけれども,この中では,消費者概念を従来の消費者契約法の概念にしたまま,そこから漏れるもの,つまり格差契約の対象になるものについては,いわゆる事業者間契約だけれども,特別な要件のもとに,それは消費者契約法の適用を認めていきましょうという提案をしております。こういう考え方も一つあり得るのではないかと思いますので,また参考にしていただければと思います。   今日,近弁連の資料として配布させていただきました「消費者契約法試案」ですけれども,本来出版物として配布できればよかったのですが,間に合いませんでした。これはゲラでございます。字句等の誤りが多数あるとの報告を受けておりますので,その点は御容赦いただければと思います。 ○鎌田部会長 ここでいったん休憩を取らせていただきます。その後,この消費者・事業者に関する規定についての議論を更に続けたいと思いますので,よろしくお願いいたします           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開させていただきます。引き続き,消費者・事業者に関する規定の項目について御意見をお伺いいたします。 ○佐成委員 経済界の意見を述べさせていただきます。もう既に出た意見は繰り返しになりますので除いて,それ以外のところを申し上げます。   一つは,中長期的な見通しについてですけれども,現行の消費者法というのは消費者と事業者の実質的な格差が現実に存在することを前提に保護法制を設けております。このこと自体については我々も別に異論はないし,更に積極的に進めていくというのも市民社会の成熟にとっては重要なことだと考えております。実際,企業に働いている我々自身も家庭に帰ればもちろん消費者として振る舞いますから,そこについては全く異論はないのですけれども,ただ,その消費者というのは,飽くまで事業者との実質的な格差という,言わば相対的な保護の問題であって,現行民法にございます無能力者とか未成年者といった,言わば絶対的な保護の問題とはちょっと違うのではないかという印象を受けております。   ですから,やはり消費者自身による格差是正の努力や,あるいは創意工夫というものが求められる余地があるのではないかというふうに考えます。実際,消費者基本法第1条のうち,消費者保護の理念というふうにまとめられる部分はそれ自体もっともだとは思いますけれども,他方,そこにも「自立の支援」というような理念も書き込まれておりまして,やはり消費者の自分自身による創意工夫の努力,そういうような自立のための努力というものがセットで理念として掲げられていると思います。   つまり,事業者との格差といっても,やはり相対的でありますし,時代とともに変化していくダイナミックなものでございまして,消費者の事業者との実質的な格差というのが未来永劫スタティックに続くものではないと考えるべきであろうし,むしろそうあってはならないだろうと思います。実際,消費者の中には,昔から事業者よりもはるかに情報量や交渉力に優れたアクティブな消費者というのも数多くいらっしゃいますし,そうした消費者を類型的にはくくり出しにくいですけれども,企業にとっても,やはり消費者というのはステークホルダーの中では一番重要な存在でございますので,年々高まる消費者の声というものを日々の事業活動の中で常にいろいろな形で拾い上げ,最重要なものとして意識しながら事業を展開しているということでございます。   そういう意味では,今回,消費者概念・事業者概念を一般法としての民法に取り込んでしまうというのは,現時点での格差を概念として固定してしまう面と,将来の柔軟性とか機動性という面,即ち,改正・保護の必要性あるいは緊急性が現れたときに,本当にスピーディーに対応できるのかという面で若干心配があるということでございます。そういうことで,消費者法は,特別法のまま,一般法である民法とは別に独自に発展させていったほうがいいのではないかというふうに考えます。   それから,理念面についてもう一言申し上げたいのは,先ほどから市民社会の構成員の多様性ということについて,いろいろ御議論があったと思います。もちろん,格差があるのでそれを前提にいろいろ規律を設けるべきだということ自体は,ごもっともだと思うんですけれども,ただ他方,現在,現行民法が「人」という単一概念で市民社会の構成員を捉えているという点にも,積極的な意味があるのではないかというふうに経済界としては考えております。というのは,別に「人」という単一概念で捉えることが多様性を認めないということではなくて,むしろ多様性があるということが社会の活力につながっているのではないかと考えるからです。差異があるからこそ創意工夫とか,あるいは追いつけ追い越せの市民社会の活力やエネルギーが生まれ出てくるという面もあるのではないかというふうに感じております。   ですから,ここで「人」という単一概念で市民社会の構成員をくくっているというのは,むしろ構成員間の多様性についていたずらに国家が容喙しないというようなことであるのではないかとも感じております。実質的な平等が自然な形で実現するのであれば,それは望ましいと思いますけれども,国家が強制的に実現しようということになると,かえって社会の活力やエネルギーを喪失させるのではないでしょうか。努力をしてもしなくても結果が同じなら努力する意欲は湧かないということになってしまって,消費者保護という面は非常に大事だと私も思いますけれども,やはり自ら主体的に守ろうという意欲,そういうものも十分考えなくてはいけないのであって,消費者自身による,そういう主体的な意欲を損なう危険をはらむということを踏まえた上で,実質的に消費者保護の問題を考えていく必要があるのではないかというのが経済界一般の考え方であるということが一つございます   ですから,消費者と事業者との間に実質的な格差があるからと言って,それだけで,その実質的な格差なるものを事実上固定した形で,一般私法の基本理念として民法に持ち込んでしまうこと自体にやや違和感を感じるということでございます。   それからもう一つは,利用者としての国民にとっての分かりやすさとか使いやすさという面でございます。消費者概念あるいは事業者概念を仮に民法に持ち込むということにした場合ですけれども,まず現行民法は,そもそも市民が自由かつ平等な状態で合理的に行動した場合に実現するような状態を一般的に規律していますので,様々な特別法をそれと比較対照することができます。要するに,特別法にはそれぞれに固有の目的があるので,特別法を一般法たる民法と比較対照することで,それとの乖離の有無とか程度とか,そういったものが明らかになります。その意味で,民法は,レファレンスフレームといいますか,指針としての機能があるのではないかと思います。もちろん,これらを何らかの形で統合するということは一つの考え方として十分考えられるとは思うのですけれども,やはり従来は,一般法たる民法と特別法たる消費者法,これらが別々に規律され,発展してきたのですから,あえて今統合するというのはいかがなものかということでございます。更に統合することによって規定の一覧性が害されるのではないかということも感じております。   それから,恐らくあらゆる論点について,B to CあるいはB to Bといった場合分けだけではなくて,C to BとかC to Cについても場合分けをして,規定を整備しておく必要があるのではないかということでございます。もしそういうことになりますと,適用関係が非常に複雑化してしまいますし,先ほども指摘があったように,個人には私生活上の活動と,それから事業としての活動の両面があり得ますし,それらの範囲が変化する場合もありますから,事業者にとっては消費者の「消費者性」というのは必ずしも一目瞭然というわけでもないので,そういう意味も含めて,やはり複雑な規定を置くと実務に混乱を生じるのではないかという懸念がございます。   あるいは,B to Cは従来の消費者契約法の規律により,B to Bは従来の商法の規律によるとし,C to BとかC to Cは民法の一般原則によるとする,というような規律になるのかもしれないのですけれども,それでも実務上は異論や疑義というものは当然招くでしょうから,これを防ぐために明確化を図ろうとすると,やはり相当複雑な規定を置く必要があるのではないのかという懸念がありますので,慎重に御議論いただきたいというのが実務界の見解でございます。 ○大村幹事 私の個人的な意見は,今日席上配布していただいております資料に書かれておりますので,それを繰り返すことはいたしません。先ほど来の議論と,それから特に山野目幹事が松本委員の御意見について触れられた点について,少しコメントをさせていただきたいと思います。   いろいろな御意見は今まであったかと思いますが,実際にどういう規定を置くのか,あるいは消費者をどのように定義するのかというようなこと,あるいは労働者の扱いをどうするのかというような個別の問題はございますけれども,原理的に見て,民法に消費者に関する規定があってはおかしいという御意見はなかったのではないかと思います。そうだとすると,あとは消費者に関する規定を置くことあるべしという前提で,どのような規定があり得るのかと具体的に検討する。そういう規定がないのならば,結果はゼロということになるわけですけれども,もしあるのならば,それを必要に応じて置いていく。具体的な規定の当否については,様々なお立場から,この規定を置くべきではないとか,この規定は置いたほうがいいという御議論はあろうと思いますけれども,そうした形で議論をしていくのがよいのではないかと思って伺いました。   山野目幹事がおっしゃったのも,松本委員の意見をそのように理解されたということだろうと思います。松本委員も,消費者契約法の規定を丸ごと民法に入れるということについては疑念を呈されたと思いますけれども,個々の局面で民法の一般原則と密接に関わる特則を民法典に置くということについては,それはあってよろしいことだとおっしゃっていたかと思います。ですから,何を置き何を置かないのかということで議論をしてはいかがかと思います。 ○山本(敬)幹事 具体的な議論に入る前に,もう少しだけ全体的な話をさせていただければと思います。   先ほどから,消費者ないしは消費者契約に関する事柄も,少なくとも基本的な規律については民法の中に規定するという考え方が示されていました。これを民法統合案と―言わないほうがいいのかもしれませんが―仮に言うとしますと,それは,市民社会で日常的に行われている取引の基本原則を民法に規定することが「市民社会の基本法」としての民法の性格に合致するし,民法を現在の実態に適合した分かりやすいものにするという民法の基本理念からも要請される。そういう考え方に基づくのではないかと思います。   私も,この考え方のように,消費者ないしは消費者契約に特有の規定でも,市民社会における一般的な取引の基本ルールを定めていると認められるものは「市民社会の基本法」に属するという考え方はもっともだと思います。ただ,そのような「市民社会の基本法」を必ず民法典という法典に全て集約しなければならないと考えるかどうかは,ひとまず別問題ではないかと思います。法律や規定の体裁ではなく,要は,そのような基本的な事柄が基本的な法律にきちんと定められていればよい。そう考えれば,民法典を基礎としながらも,例えば消費者契約法典のような幾つかの基本法典によってそのような「市民社会の基本法」を構成することも,それ自体としては十分検討に値するのだろうと思います。   私自身は,このような消費者や消費者契約に関わる問題については,法律の形式も重要だとは思いますが,少なくとも現在では,それ以上に規定の中身の整備の方が重要性が高いのではないかと思います。考えられる在るべき方向としては,個別法に散らばっているものも含めて,消費者契約に関するルールを一つに統合し,その基本原理を踏まえて体系化を一度してみる。つまり,そのようにして消費者契約法典を形成するほうが,消費者契約に関する法形成の後押しをするのではないかと思いますが,現在のところ,そのような法典を形成する方向で検討や議論が始まっているわけではありません。そのような状況の下で,なお消費者ないし消費者契約に関する規定の中身を充実させていこうとしますと,基本的な規律に限ってであっても,民法に規定を置くことが,現時点でむしろそのような法形成を後押しできるというのであれば,それでもよいだろうと思います。   要するに,民法の性格や法典編さんの基本理念という観点からは,いずれの考え方もあり得る。では,どのような方向で考えるべきかというと,どうすれば現在及び近い将来における消費者ないし消費者契約に関する法形成を後押しできるかという観点から考えるべきではないかということが,今ここで申し上げたいことです。 ○大村幹事 山本さんがおっしゃったことの前半と後半の関係を,確認させていただきたいと思います。基本的なルールは実質的な意味で民法に含まれる,あるいは形式的な意味でも民法典にあってもよろしいとおっしゃると同時に,消費者契約に関するルールがまとまった形であってもよろしいとおっしゃったように思いますけれども,この二つは両立するという御理解だと捉えてよろしいのですね。二者択一ではなくて,どちらも両立するということだと伺いました。ただ,法典に書くということになると,ある規定はどちらかの法典に属せざるを得ないということになりますので,それについては状況に応じて考えると,そういう御趣旨だったと理解しましたが,それでよろしいでしょうか。 ○山本(敬)幹事 定義や基本理念に当たるものは別なのかもしれませんが,先ほどから問題になっているような現在の消費者契約法に規定されている,特に消費者契約の効力に関わるルールを民法に統合するかどうかという点に関しては,どちらの考え方もあり得るということです。つまり,民法に統合するという考え方もあり得るけれども,消費者契約法典を形成していくという考え方もあり得る。どちらも考え方としてはあり得るけれども,どちらが現時点において消費者契約に関する法形成を後押しするかという観点から考えるべきだというのが先ほどの後半で申し上げたところです。趣旨がはっきりしなかったかもしれませんが,以上のとおりです。 ○奈須野関係官 私どもの見解は,先ほど岡本委員,佐成委員がおっしゃったことと同じですので,繰り返しません。   それで,若干感想めいた意見を言いますと,資料では,民法は,私法の一般法として社会を支える役割を適切に果たすためには,むしろ「人」概念を分節化するのだという,若干ロジックとしては逆説的なことを言っています。「人」概念を分節するときに,分節の方法にはいろいろな方法があると思われますが,少なくともこれまで提示された議論においては,なぜ事業者と消費者という切り口で分節化していくのかということについての価値観が何ら示されていないように思えます。ここが説得的でない理由のように思えます。   分節化するときの価値観として,これまでの議論では,例えば消費者保護の水準が上がるといいからという政策的な見地からの議論もあったかと思いますけれども,少なくともこの場はそういった消費者保護政策を議論する場ではないわけですから,これは採用することができないと思います。   一方で,情報・交渉力の格差,こういったものを何とかしていく必要があるのではないかというのは議論としてはあり得るのかなと思います。ただ,そうである場合には,情報や交渉力の格差が類型的に生じ得る場合というのは事業者・消費者だけではありません。大企業・中小企業の格差であるとか,都会と地方の格差であるとか,あるいは離島・山間部といった様々な格差の中で,なぜ消費者と事業者の格差だけを取り上げてここで議論していくのかということを説明する必要があると思います。   また,仮に特定の格差に着目して,それに対応した規定を設けるとして,様々な政策手段があるのに,なぜそこで例えばアファーマティブ・アクションではなくて,今これまでしてきたような議論だけが存在するのかについても疑問です。格差については,例えば日本人・外国人の格差,男女の格差,あるいは人種間の格差のように,アファーマティブ・アクションを導入しなければ解消できないような格差というものも観念的には存在するわけです。なぜこのようなアプローチをするのか,なぜ他のアプローチをしないのかということについても,説明が必要かと思います。   さらに,資料には,「多様性を前提とした実質的に平等な市民」というものを念頭に置くとなっていますけれども,少なくとも現在の日本国憲法では,このようなことを民法に対して要請はしていません。本当にこういう実質的に平等な社会を我々は作っていくのかということについて,ちょっと冷静に議論していく必要があるのかなという感じがします。   大村先生から,原理的に消費者に関する規定を置くことがおかしくはないという意見がありました。それは原理的にはそうだと思いますが,少なくともそういうことをしなければならないという積極的な要請はないはずです。そこがいまいちこの議論に乗りきれないところです。   では,積極的にこういった規定を置く必要があるとする事情として,後段の2の「消費者契約の特則」であるとか,あるいは3の「事業者に関する特則」というところをちらちら見ながら,こういったものを書く必要があるからという,若干結論先にありきのような考え方を採るにしても,私どもは,ここで挙げられているような「消費者契約の特則」といったものについてはすべて消極的に考えています。よって,結論といたしましては,やはりこういったものを置く必要はないのではないかというふうに考えております。 ○大村幹事 短く発言します。   今の御指摘の点について2点だけ申し上げますけれども,一つは「人」を分節化するということの意味ですけれども,だからといって「人」を解体するということではありません。民法が抽象的な「人」という考え方を持ったというのは,これは一つの大きな達成だと思いますので,そのことを前提にして,しかし局部的にどのくらいの分節化をするかということがここでの問題だろうと思います。   特に今回は契約に関するルールを扱っていますので,契約法の問題として,どのようなカテゴライズが望ましいのかということだろうと思います。男女の問題というのが契約法のカテゴリーとして望まれることなのだろうかという御指摘でしたが,消費者というのは取引の世界で,男女というカテゴリーやその他のカテゴリーとは違う重要性を持っている。このことは否定しがたい事実なのではないでしょうか。奈須野さんをはじめ皆さん方がよくお使いになるB to BとかB to Cとかという言葉遣いが世の中に広がっているわけですね。多くの人はBとC,事業者と消費者は違うものだろうと考えている。ただ,限界的なものになったときに,何がBで何がCかという問題はありますので,そこについては調整が必要だろうと思いますけれども,B to BかB to Cかを考えないで取引ができる社会ではなくなっているということについては多分御同意いただけるのではないかと思って伺いました。 ○沖野幹事 繰り返しではありますが,奈須野関係官の御指摘に関連して申し上げたいと思います。   これまでの議論を伺っている限り,消費者ないしは消費者契約ゆえの特則の必要性ということ自体については,むしろ意見の一致はあるように思われます。意見が分かれているのはそういう特則について民法で手当てをすべきなのかという点であり,民法に規定を設けるならばなぜ消費者や消費者契約だけが取り上げられるのかその十分な根拠がないというのが今の奈須野関係官の御指摘だと受けとめました。   民法でなぜそれを捉えるのかということについてですが,民法が市民社会における基本法だと言われるときに,規律の対象とすべき契約や取引として何を想定するかといえば,一般的な個人が日常的に行う取引がその大きな柱であることは確かであり,この分野に手当てをするというのは,正に民法で担うべきものではないかと思います。消費者や消費者契約はそのような日常生活における契約や取引を幅広くカバーするものですから,民法に規律を設けるとしても幅がありますけれども,民法に消費者概念を入れ,消費者ゆえの特則を定めること自体は日常生活における取引法,それについて基本的な法律関係を明らかにして,その基礎を与える民法の役割としては,むしろ十分に説得的ではないかと思います。 ○鎌田部会長 岡委員,先ほど各論的な問題をたくさんお持ちだというお話がありましたが,できればあと20分ぐらいでこのテーマを終わりにしたいと思いますので,よろしくお願いします。 ○岡委員 資料版の12ページ以下のところでございます。   不当条項リストについては,先ほど申し上げたとおりですが,中身については賛成意見が多くございました。ただ,この約款及び消費者契約に共通のリストを作るという点については別物ではないかという意見のほうが多くございました。特に個別折衝した場合の適用除外問題については同列ではないだろうという意見が強くありました。   それから,次の一部無効に関する消費者契約の特則のところについても,意見がかなり分かれました。まず,一部無効でも残部の効力が維持されることが原則だろうという点自身に疑問を持つ者も多くございました。やはり契約の趣旨,あるいは経緯,目的,一部の占める割合,内容等々,すべてのケース・バイ・ケースの判断になる。したがってこれが原則というのを決めて消費者は例外といっても,その原則のところが,原則とまで言えないのでないかという意見が多くございました。その上で,原則がなくなったときに,消費者について消費者らしい考慮をすべきであるという規定はあったほうがいいと思うんですが,それは共通原則の理念の方で対処できるのではないかと思いました。   それから,合意による消滅時効期間の変更のところですが,弁護士会としては,前にも申し上げたと思いますが,合意による変更自体に消極的な,反対する意見が強くございましたので,まずそこで引っ掛かる意見が多くありました。それがもし通れば,消費者契約について特則を設けることには賛成であると。ただ,そこも消費者だけの特則でいいのか。もっと広い例外とすべきなのか,その辺は詰める必要があるという意見もございました。   それから消費貸借に関する特則のところ,諾成的消費貸借を認めるが故の交付前の解除権,ここも,この原則,解除できないという原則自体に疑問を持つ者が多くて,原則は解除できない,消費者だけは解除できる,そういう図式がすっきりこないという意見が多かったです。事業者であったって原則解除できるという規定もあってもいいのではないかという意見も多くございましたので,すんなりこの部分を消費者の特則でよいという意見は少なくございました。ただ,抗弁の接続,これはリース契約だとかいろいろなものを含めて,是非充実する方向で定めていっていただきたいという意見が強くございました。   6番の賃貸借終了時の原状回復,これも,通常損耗については原状回復の特約を許さないという規定で,原則的には賛成でありました。消費者だけでいいのか,もうちょっと広げるべきではないかという意見もございましたけれども,方向性としては賛成でございます。   7番についての寄託者の損害賠償責任も,これも原則のところの,寄託者が無過失責任という原則が本当にいいのかと,そこに疑問を呈する者がいましたので,原則無過失責任,消費者は別という,そのスキーム自体に差を設けるのはいいけれども,こういう差でいいのかという意見が強くございました。   8番の契約解釈に関する消費者契約の特則は,この解釈の原則は賛成ですし,条項使用者不利の原則も賛成でありますが,もっと大きな,中井さんが言ったような,格差契約に関する理念的な規定まで設けておくのがいいのではないかと,そういう意見が多くございました。 ○鎌田部会長 事業者概念に関しては,まだ御発言がありませんけれども,何か。 ○神作幹事 事業者概念について,商事ルールの民法典への一般化・統合という観点から発言させていただきたいと思います。事業者概念は,御用意いただいた資料の,第1の2においては消費者契約を定義するという機能を営む概念として用いられており,3以降では,商事ルールを民法の中に一般化・統合する場合において,そのルールの適用範囲を画する機能を果たす概念として用いられおり,大別して二つの機能を果たしているように思われますが,後者について発言させていただきたいと思います。   第一に,事業者概念は,もし商事ルールの一般化・統合という観点から検討を進める場合には,必ずしも第1の消費者契約を定義する場合における「事業者」概念と一致する必要はないと考えられますし,理論的には消費者概念と必ずセットで入れなければいけないというわけでもないと思われます。この資料では,民法に消費者や事業者に関する特則を設けることを前提に「事業者と事業者との間の契約に適用される特則」という形で,消費者概念と事業者概念が同時に定義されることが前提とされていると思われますけれども,それは一つの立場ではありましょうが,商事ルールの一般化・統合という観点からいたしますと,必ずしも消費者概念は必要ではないということになろうかと思います。もっとも,民法典の中で消費者概念について定義をせず,消費者についての特別のルールを設けていないのに,事業者についてだけ特則を設けることが適切かどうかという問題は別途あろうかと思います。しかし,商事ルールの一般化・統合という観点から設けられる事業者に関する特則に関していえば,消費者契約を定義するために必要な概念としての「事業者」概念と必ずしも一致する必要はないし,「消費者」概念とセットにする必要もないということは申し上げさせていただきたいと思います。   第二に,商事ルールを一般化・統合する場合でございますけれども,資料20-2の14ページの例えば商法524条,また次のページにございます商法525条では「商人間の売買」という形で適用範囲を画しておりまして,これに対し17ページに掲載されています商法516条は「商行為によって生じた債務」,商法526条は「商人間の売買」,それからまた少し飛びまして21ページでございますけれども,商法511条は「一人又は全員のために商行為となる行為」というように,商法典は,商行為という概念,商人という概念と,更には22ページの商法593条における「営業の範囲内」等,様々な概念を駆使して,それぞれの商事ルールの適用範囲を画しております。経済事業という概念も,これらの商事ルールを一般化・統合する場合に,その適用範囲を適切な範囲に限定しようという趣旨で創設されているものと思われます。商事ルールを民法典の中に一般化・統合するに当たっては,適切に当該ルールの適用範囲を画するために,どのような概念を用いるのが適切なのかを検討する必要がございます。   繰り返しになりますが,商法では,「商人」,「商行為」,「営業の範囲内」等の概念を用いて適用範囲を画しております。「商人」概念は主体に着目するものであり,後二者は専ら行為に着目した概念でありますが,これらの概念またはその組合せを用いて適用範囲を画しておりますので,商事ルールの統合・一般化に当たりましては,各ルールについてその適用範囲を,どのような概念を用いて画するかという観点からの検討が重要になると思われます。 ○岡本委員 事業者の特則につきまして,ちょっと概括的な意見ではございますけれども,民法に事業者に関する特則を置くことを検討するに当たりましては,商法の商行為法との関係をどう考えるのかについて,民法に規定することの妥当性と併せて慎重に検討していただきたいという意見がございました。   それから,ちょっと戻って申し訳ないんですけれども,消費者の特則のところで,いろいろな論点がありまして,かつてそれぞれの論点について検討したときに既に意見を申し上げているところとかなり重複しますので,簡単に項目だけ申し上げておきたいと思うんですけれども,まず,不当条項に関する一般規定につきましては,これについては信義則の規定があればそれで足りるのではないかという意見でございます。   それから,不当条項規制につきましては,これについては,契約の一部の条項をカテゴリカルに取り出して不当かどうかを決めるというのは妥当ではなくて,やはり契約全体を見て決めるべきであるという観点からすれば,契約の合理的解釈であるとか,民法第90条の一般条項で対応するほうが妥当でよいという意見でございます。   それから,消費者契約の条項の一部無効,これにつきましても,そもそも条項の全体とか一部という概念自体,どうやって区別するのか問題があるといったところは前申し上げたところでございまして,かつ,消費者契約の場合には全部無効しかあり得ないとすると,効果としても柔軟性を欠くことになって,過大な結果を生むおそれがあるというところで,これも疑問に思うということでございます。   それから,消費貸借において借主が消費者である場合については,これは既に申し上げたところと全く同じでございますので,省略させていただきたいと思います。   それから,抗弁の接続についても同様でございますね。   それから,事業者に関する特則の方にまいりますけれども,申込みの推定規定を置くこと,これについても前に一度申し上げたことがございますけれども,反対したいということです。現在,反社勢力が入ってこないようにするチェックを行っていますけれども,そういったチェックに対し,そういったチェックができなくなる,あるいはしにくくなるという問題もありますでしょうし,あるいは,カードローンの広告を行った場合に,広告の内容が一定程度具体的であるときには,それが申込みの誘因ではなくて申込みになってしまうということになるとすると,これは貸手としては与信判断の余地がなくなってしまうのではないか,そういうふうな疑問も提出されているところでございます。 ○青山関係官 すみません,また消費者契約に戻ってもよろしいですか。   そもそもの話に若干絡むかもしれないですが,消費者契約,消費者,事業者という概念を設けてルール化をするというのは,理念としては,交渉力の格差などのあらゆる格差を現実視して,それをなくして実質的な平等な社会を構築するということかと思いますし,そのためにルールが必要というのも一般的に理解します。正に労働契約がそうで,当事者間に交渉力の格差がある契約類型です。ただ,労働契約の場合には,そのためのルールを特別法という形で発展してきたという経緯があります。今回,消費者契約については,それを一般の,民法典に定めるかという議論をされているので,ちょっと違うなと違和感を感じて聞いていたのですが,消費者契約一般について何か言える立場でもないので,勉強していた次第です。   ただ,先ほど新谷委員が御質問なさいましたように,人を全て消費者と事業者に分けて二分してしまうと,労働契約上の労働者,使用者はそれぞれどちらだろうという話になるわけです。交渉力の格差はあるという点は共通なのですけれども,どういう交渉力の格差があって,どういうふうに埋めれば適切なのかというところでは,多分,消費者契約と呼ばれているものと労働契約は違ってくるのだろうと思っています。   消費者契約は,恐らく事業者の方が,事業活動をして何かを消費者に提供する人で,消費者はそれを受けて対価などを払う人というイメージだと思うんですが,労働契約は,個人たる労働者の方が労務を提供して,使用者がその対価たる報酬を払うものであり,すると両者は逆と思える部分もあります。全てが逆ではないと思うのですが。今回,消費者契約について,各種特則などが挙げられていますけれども,交渉力の格差一般を考えて当てはめてもいいルールもあるし,一方で,今の逆のベクトルと申した部分が出てしまっているようなところもあるような気がします。例えば消費者契約だと消費者が契約を切りやすくすることを認めたいという場合もあるということで,一部が無効の場合,契約の全部を無効にするというルールが掲げられていますが,それを例えば,労働者は個人だから消費者だと捉えてしまったら,先ほどの新谷委員の質問に対する事務局の御回答を伺っていないので仮定ですけれども,そう捉えた場合に,それでいいのかという部分も出てきます。つまり,何か一部が無効となることが起こると,労働契約全体が無効になった場合,本当に消費者たる労働者にとっていいのか,それは別の切り口なのではないかとも思われるところです。消費者契約法も労働契約は明示的に適用除外しているので,扱いを別にするということは検討すべき視点だと思います。 ○高須幹事 事業者に関する特則も含めてよろしいですよね。今お二方ほど消費者のところの御発言ありましたが,それをちょっと先に言わせていただいてから事業者のほうの話をさせていただきます。手短に終わらせます。   先ほど,奈須野関係官から冷静にこの問題は考えたほうがいいのではないかと言われたことは私も大賛成でございまして,飽くまで冷静に考えるべきだと思います。そこで,冷静に考えた場合なのですが,今の社会において,やはり消費者という範疇といいますか,そういう形で議論されるということが抜きには語れない時代になっているのではないか。それをよしとするとか悪いとするという意味ではなくて,ただ,そういう現実は見なければならないのではないかということを,我々は考えてみたほうがいいのではないかなと思っております。そういうことを真摯にとらえて冷静に,かつ勇敢に議論をしたいなと思っております。   すみません,単なる抽象論で申し訳ありませんが,そのように考えております。事業者の方をむしろ具体的にお話したかったので,そちらの話に移ります。   事業者間の特則というところに関して,本日の資料の中で,詳細版の15ページのところでございますが,解除権の発生要件に関する事業者間契約の特則ということが記載されております。解除権一般の議論をしたときに,少しその議論があったのですが,余りそこは取り上げられずにここまできているという印象を持っておるんですが,この15ページでは,その解除権の発生要件について,これを適切に規律するために事業者間契約とそれ以外では差を設けたらどうかという指摘が書かれており,具体的に立証責任を二つの類型では分けるということが指摘されているわけですが,適切に規律するためになぜこのような分け方をするかに関しての御説明はここには載っていなくて,必ずしもそこは説得的な記述にはなっておらないように思います。   ただ,従前からいろいろなところで議論はされてきたところでございまして,迅速性を高めるとか,あるいは法的予測可能性を高めるというような議論あるいは御説明が,この審議会の場ではないところでなされていることは理解をしておるのですが,事業者間契約以外の場合なら迅速性がなくてもいいのかとか,あるいは解除の可否の予測可能性が明確でなくてもいいのかという話になると,それはやはり少し違うのではないか。催告解除が持っている解除の有効性・無効性を明確に判断でき,事件をある程度安定的に解決できると機能は事業者間契約でもそれ以外の契約でも同じではないか。催告までして応じなかったのだから,もうしょうがないでしょうという,極めて素朴な実感なわけですけれども,そういう法理というものが事業者間のときだけ尊重されるというものではないと思いますので,この15ページに書かれております事業者間の特則という問題において,解除の要件の制度内容を変えるというのは余り合理性がないのではないか。ここは解除の一般の問題ですから,では具体的にどうしますかの答えは,そこできちんと議論しなければならないと思いますが,少なくとも事業者間契約とそうでない契約で分けるということ自体には余り合理性がないと,このように思っております。 ○筒井幹事 私から一言だけ付け加えたいと思います。先に言わなかったのは,発言を制限する趣旨に受け取られたくなかったからですけれども,消費者・事業者という概念を使った規定を議論する際には,いわゆる所管問題というものが,切り離せない問題としてあるということを,最後に一言だけ申し述べたいと思います。   消費者・事業者という概念を民法の中に導入するかどうか,そして,その概念を使って,どのような特則を作るのか作らないのかといった議論は,もちろん民法の在り方の問題として自由に御議論いただければよい問題です。   ただ,その中で,途中で中井委員の御発言で言及がありました区分ですけれども,現在,消費者契約法の中に規定されているもの,こういった区分のものを実質的に民法の中に移すという議論については,これは政府の審議会である以上,所管問題というものがあることを意識せざるを得ないと思います。議論は自由にしていただいていい。このことは,確か第2回会議だったでしょうか,そのときに私が申し上げたことであります。しかし,一定の決定をしようとする場合には,関係省庁との協議その他所要の手続が必要になるだろうと思います。   現時点では,まだそういった段階の議論には至っておらず,消費者・事業者といった概念を用いた規定を民法の中に置くのかどうか,そこの当否が主に議論になっているところだと思います。ですが,今後もし具体的な議論が進んで,現在は他の法律にある規定を民法の中に設けるといった議論が大方の支持を得られることになるのであれば,それは所要の協議等をすることを考えなければならないのだろうと思います。現在はまだその段階に至っていないと思いますし,至るかどうかも分からないわけですが,今後の議論の一定の限界として所管問題があるということは,一応指摘させていただきたいと思います。   しかし,繰り返しになりますけれども,議論は自由にしていただきたいと思いますし,その上で,どういうものが民法としてふさわしいのかを十分に御議論いただきたいと考えております。 ○中田委員 今の筒井幹事の御指摘は,中間論点整理の際にも何らかの形でコメントしたほうが意見が出やすいのではないかと思いますけれども,それは難しいでしょうか。 ○筒井幹事 例えばどんなことになりましょうか。 ○中田委員 所管問題があるから,これにはそもそも関与,タッチすべきではないというような理解を前提とする御意見がもし出てくるようであれば,そのことについて議論することと,最終的に決定することとは段階が異なるものであるから,意見自体は,どんどん自由に出していただくのがよいということであれば,今のような説明があってもいいかなと思います。かえってそれは書くのが難しいということでしたら結構ですけれども,御検討いただければと思います。 ○筒井幹事 御指摘の意味はよく分かりました。   それとは別に,私の先ほどの説明に,もう少し付け加えますと,中間的な論点整理という形で部会の決定をするに当たっても,現在は消費者契約法にある規定を民法に取り込むかどうかという個別の問題を明確に提示することは,政府における審議会の役割分担と抵触するおそれがあるだろうと思っております。   このため,今回の部会資料でも,審議対象を示している本文のレベルでは,総論として一般的な議論を御紹介し,各論として幾つかの立法提案も取り上げましたが,それは先ほど申し上げた審議会の役割分担を意識したものにしております。しかし,その上で,会議の場での議論として,民法の在り方についての様々な意見が出される分には,それは私は構わないのではないかと理解しております。 ○加納関係官 いわゆる所管問題につきましては,消費者庁あるいは―審議会機能はちょっと,消費者委員会ということになりますと消費者庁で責任持ったお答えはできないところがございますけれども―法務省とは最大限連携を取らせていただきながら,やらせていただければと思っております。   また,こちらで,この法制審の場で消費者契約法の消費者契約に関するルールについて御議論いただくことは,この審議会の冒頭において,自由に御議論いただくということについては,消費者庁としても当然そういう前提の下で関係官として参加させていただいておりますので,申し添えさせていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに,この件に関して。 ○新谷委員 今後の検討もありますので,先ほど事務局に質問させていただいた,労働者はいずれのカテゴリーに入るのかという点について,お分かりになれば教えていただきたいと思います。 ○筒井幹事 すぐに返答するのを失念しており,失礼いたしました。   消費者や事業者という概念との関係で労働者がいずれのカテゴリーに入るのかということについて,事務当局において現在一定の考え方を持っているわけではありません。   お答えとしてはもうそれで終わりで,それ以上に何もないのですけれども,強いて言えば,現在,消費者契約法が採っている消費者・事業者の定義,あるいは公表されている立法提案もそうですが,そこでは,ある契約との関係で消費者などを定義付ける形を採っていて,人の属性として消費者か事業者かという考え方は採っていないと思います。ですので,労働者はどちらに属するかという,そういう議論にはならないのではないかと思います。 ○沖野幹事 恐らく新谷委員がおっしゃったのは,労働者の絶対的な属性という話ではなくて,労働契約の締結に着目したときに労働者が消費者概念に当たるのか事業者概念に当たるのかという,そういう御質問だと思います。   現在の消費者契約法の概念に即して申しますと,立案担当者解説によれば,労働者の労務提供の反復継続性から事業に該当するかという点については,それは事業には当たらないとされています。そうすると労働契約の締結の場合労働者は消費者ということになり,使用者との間の労働契約は事業者との間の契約ですので消費者契約に該当します。それに対して一定の支援なり保護を与える必要があるかという点については,労働法の分野が特有の規律を展開しているのでそれによるのが適切であると考えられ,したがって,適用除外を置いているというのが消費者契約法の趣旨説明だと理解しております。 ○岡委員 事業者概念のほうの個別問題でよろしいでしょうか。二つ申し上げます。   一つは,詳細版の19ページのところで,契約当事者の一方が事業者である場合の特則の例として書かれております,売買とか請負の瑕疵担保の場合で,普通の場合には瑕疵を知ったときに通知をせよと。事業者については,知ったときではなく知るべきであったとき。この違いを設けるべきという意見が出されております。   弁護士会は,まず,この通知義務を課すこと自体に反対でございまして,一般の権利消滅時効の考え方で処理すべきであるという意見を持っておりますので,こういう違いを設けることについて,先ほどと同じで,前提が違うという意見でございます。   ただ,ここの問題意識は,事業者の権利行使期間を普通の人よりも短くするという考え方につながる問題ではないかと思うんですが,さっき神作さんがおっしゃった営利性,あるいは商行為,あるいは商人という概念で権利行使期間を短くするという現在の商事消滅時効の考え方から,消費者でない人全部の事業者について権利行使期間を短くするという考え方に変更しようというものなんでしょうか。商事消滅時効というものを今度の民法で認めるのか認めないのか。認める場合に,営利性の概念で区切るのか,この広い事業者の概念で区切るのか。という点をはっきりさせるべきと思います。そしてこの点については,営利性概念で区切るほうが落ち着きがいいのではないか,事業者に広げて権利行使期間を短くするのは違和感があるという意見を申し上げたいと思います。   もう一つは,詳細版の23ページの,保証したときに連帯保証に結びつける要件のところでございますが,ここでも経済事業の範囲内の保証は連帯保証にするということで,経済事業という新たなキーワードを持ってきています。現行法では,恐らく商行為あるいは営利性のキーワードで区切っているところでございます。これを営利性のキーワードからわざわざ経済事業のキーワードに切り替える意味がどれほどあるのでしょうか。収支相償う事業という概念もよく分かりません。連帯保証を切り分けるときのキーワードに経済事業というのが本当にいいのか,やはり営利性というキーワードを残したほうがいいのではないかという,その辺の議論を弁護士会でしておりました。   結論としては,経済事業の概念がよく分からない,連帯保証にするときの理由がやはり営利性でいいのではないか,そういう意見があったことを御報告申し上げます。 ○高須幹事 すみません,本来,岡先生からお話しいただいた方が流れとしては整合性があるんですが,弁護士会の意見というところで1点だけ。先ほど私が発言させていただきました15ページの解除権の発生要件に関する事業者間契約の特則のところでございますが,これにつきまして,弁護士会のバックアップ委員会の中では,各単位会から出てきた意見のそのほとんどの多くが,やはり催告解除について事業者間とそれ以外とで分けるという合理性は認め難い,説得的ではない,こういう意見であったということを指摘させていただきます。失礼します。 ○鎌田部会長 通知義務は,どうなんでしょうか。商事時効期間の問題よりも,現行の商法第526条をもうちょっと緩める方向で考えるとこうなるということではないかと思います。   それから,もう一つの連帯保証のほうも,「経済事業」という語の当否について検討の余地があるとは思いますが,商法511条第2項では「債務が主たる債務者の商行為によって生じたものであるとき,又は保証が商行為であるとき」というので,非常に広く連帯保証が成立するようになっているのを,むしろ狭めるという趣旨でこういう提案がなされていたと私は理解しておりましたけれども,それはそれで間違いないですね。   ほかにはよろしいでしょうか。 ○中井委員 重複になりますが,先ほどの山本敬三幹事の発言と,先ほどの筒井幹事の発言を踏まえて,しつこいですけれども申し上げます。   民法で一般ルールが定められる,その中に,先ほど申し上げましたけれども,格差のある人たちの契約を適正化するための何らかの理念なりを明らかにする必要がある。その格差契約の代表として消費者契約が想定される。消費者契約に関する民法に対する特則的なものが民事実体法として整理されれば,それの将来形としては,弁護士会の意見としては,やはり消費者法典という形で取りまとめるのが好ましいのではないか。その前提としては民法の中に,そういう多種多様な人がいる,格差のある,そういう類型の人たちの契約がいかに適正にするかという基本理念がうたわれた上で,その上に立脚する消費者法典として,取りまとめられたものが整理されるべきである。ただ,現実には消費者法典はできていないし,できる見込みもよく分からない。とすれば,次善の策として,現在ある消費者契約法の中を充実させていく。その中に取り込んでいくのが本来在るべき姿ではないか。こういう原則論がまず多数の意見です。   しかし,先ほど筒井幹事がおっしゃったように,ここの民法の改正で,この審議会で消費者契約法典なり消費者契約法の改正にリンクして議論ができるのか。民法を改正したと同時に消費者契約法を改正できるのかというと,恐らくリンクしないのだろうと理解するならば,実践的に考えなければいけないだろう。そうだとすると,先ほどまで御議論いただいていた各論で定める一般ルールが仮に承認されたとして,それに対して格差契約の代表である消費者契約について特則が必要になるとすれば,その特則を民法の中に規定していく,これが現段階でとるべき道ではないか。この点でも大方の理解を得たと思っております。   その上で,消費者契約法の中にある一部,不実表示に関するものについては,一般法化についてここで議論し,一般法化が適切であればそうするべきだろう。   それ以外の部分,消費者契約法における実体法規について,ここは弁護士会の中でも意見が分かれておりますが,従来どおり,消費者契約法の充実で行うべきだという意見とともに,ここの民法の部会で,しかも,契約の正義論と言っていいのか分かりませんが,それについて極めて造詣の深い研究者がいらっしゃる中で,そういう消費者契約に関する適切な規律が,消費者契約法より更に充実した規律ができるなら,それを民法の中に取り込むことは大変良いことではないか。それを更に消費者契約法なり消費者契約法典に昇華させていく,そういう視点を是非持っていただきたいなと思っております。   重複で申し訳ございません。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   残り時間が1時間ほどになってしまいましたので,申し訳ありませんけれども,次へ進ませていただきます。   部会資料20-1の3ページの第2,規定の配置について御審議いただきます。事務当局に説明してもらいます。 ○大畑関係官 規定の配置は,従来,法制上の技術的な問題とされ,必ずしも法制審議会における検討の対象とはされていなかったと思いますが,債権関係の見直しに関する立法提案の中には,この点に関して積極的な問題提起をするものがあります。そこで,今回の部会資料では,規定の配置に関するものについても,これまでに紹介してきました他の立法提案と同様に,議論の素材を提供する趣旨で取り上げることといたしました。   この規定の配置につきましては,主に契約に関する規定の一覧性を高めるという観点から,第1編総則に配置された法律行為や時効の規定の一部を,第3編債権に配置すべきであるという考え方や,債権総則と契約総則の規定を統合して再編するという考え方等が示されており,また,典型契約の配置を見直す考え方等も示されています。   これらの考え方の具体的な内容につきましては,大村幹事,山野目幹事,山本敬三幹事から御提出いただきました意見書に詳細に記載されておりますので,その内容をも踏まえまして,現時点における御意見を頂ければと思っております。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありましたように,事前に3名の幹事の方から資料が提出されております。事前の提出に御協力いただきましたので,事前に委員・幹事の皆様にも送付することができました。委員・幹事の皆様には事前にお読みいただいていると思いますけれども,資料を御提出いただきました3名の幹事の方から,それぞれ簡単に要点を御説明いただければと思います。恐縮ですけれども,5分以内で御説明を頂ければと思います。 ○大村幹事 私は,仮に今日の審議が全て終わらなくて予備日を使うということになっても出席ができませんので,できるだけ皆さんに今日のうちに御議論していただければと思います。   それで,私の意見そのものは紙に書いたもののとおりでございますので,その内容を繰り返すことはいたしません。若干の補足説明だけをさせていただきたいと存じます。まず本日付録という形で別途配布させていただいたものでございまして,一つは「法教育からみた民法改正」という私の最近の小さな論文のコピーでございます。それから,一番最後に付録2という形で,私の概説書の最後に近い部分の一部を付けさせていただいております。この二つの資料についてだけ,ちょっと補足をさせていただきまして,それから,山本敬三幹事,それから山野目幹事の御意見が出ていますので,それについて一言だけ触れさせていただきたいと存じます。   附属資料についてでございますけれども,私は現在,法教育の推進という仕事をしておりまして,それとの関係で,民法改正に望まれることはどういうことかというのをまとめたものでございます。法教育の観点から見たときに,この場でもよく出ていることでございますけれども,民法典が分かりやすいものであるということが期待されるだろうということと,そのような分かりやすい民法典のために,日本の民法学説は従来努力を重ねてきたということをここに書かせていただいております。   もう一つの付録の2についてでございますけれども,これは,そうした日本民法学の努力の延長線上に,カンボジア民法草案というのがあるのではないかということでございまして,このカンボジア民法草案の考え方などを十分に参照するということが望まれるのではないかというのを書いたものでございます。   松本委員,それから野村委員,あるいは能見委員が,このカンボジア民法草案に関与されておられまして,今日は松本委員がいらしていましたので,何か御発言いただけると期待していたのですけれども,あいにくお三方とも現時点では不在ということになってしまいまして,大変残念ですけれども,これについても十分に御参酌を頂きたいということでございます。   それから,コメントでございますけれども,山本敬三幹事から提出されたものにつきましては,法律行為の概念をめぐる問題がございますが,この点については今ここで申し上げることはいたしません。山本さんと意見は違いますけれども,しかし,法律行為の概念自体が不要だとは考えてはいないということだけは申し上げておきます。   それから,山野目さんが出されたものについては,先ほど事務当局のほうから説明があったこと以上のことが書かれておりまして,私もその点について書いておりますので,少しだけ触れさせていただきます。それは,今回この立法をしますとかなり条文数が増える。どのような形で民法典の中に規定を置くにしても,枝番が多数生ずることになる。それが果たしてよろしいだろうかということでありまして,民法典が全体として完成するまでの間,その債権法ないし契約法の部分を単行法とするということも含めて,条文の条数の振り方を御検討いただいたらどうかということでございます。 ○山野目幹事 書面で事前に配布をいただいているところでございますから,もし部会長のお許しが頂けるのでありますれば,5分とおっしゃったものを返上させていただき,御質疑があればお答え申し上げるということにさせていただきたいと考えますけれども,いかがでございましょうか。 ○鎌田部会長 ありがとうございます。 ○山本(敬)幹事 同様でもよいのかもしれませんが,取りあえずポイントだけを簡単に説明させていただきたいと思います。ポイントは,五つです。   第1は,法律行為に関する規定をどこに置くべきかです。これについては,結論として,現行法と同様に,法律行為に関する規定を総則編に定めることが適当であると考えます。そしてその際に,少なくとも今日に総則編をなお定めるとするならば,市民社会に妥当する共通の基本原則を宣言し,確認するところにその意義を求めるべきであり,法律行為に関する規定は正にそのようなものであると考えています。   第2は,時効に関する規定をどこに置くべきかです。これについては,債権時効の趣旨をその他の財産権の消滅時効と異なるものとし,その違いに応じて規定の内容も異なるものとするという考え方を採用するのであれば,それも特に効果を履行拒絶権とし,その他の時効については現行法の援用権構成を維持するのであれば,債権時効を債権編に規定するのが適当と考えられるけれども,そのような改正が一般の支持を得られないときは,現行法と同じく,債権の消滅時効に関する規定も総則編に定めるのが適当であると考えます。   第3は,債権総則と契約総則を統合して定めるべきかどうかです。これについては,両者統合して,現在の第3編「債権」の第1章を,第1部「債権及び契約総則」に改め,そこに契約総則に定められた制度や規定の多くを取り込むこととするのが適当と考えます。具体的には,その第1部の冒頭に第1章「通則」を定めた上で,第2章に「債権及び契約の成立」,第3章に「債権及び契約の効力」を定めてはどうかと考えます。   第4は,契約について,そのように統合はされないけれども,なお契約一般について問題となる事柄が残る場合に,それをどこに定めるべきかです。具体的には,第三者のためにする契約と先ほどの継続的契約等に関する規定を置くとすれば,その置き場所が問題となります。これについては,第2部の「各種の契約」の冒頭に第1章として「通則」を設けて,そこに規定するのが適当と考えます。   第5は,各種の契約類型について,どのような順序で定めるべきかです。これについては,現行法の配列を基礎とした上で,第1に,同じタイプの契約類型の中では,有償契約を無償契約よりも先に定め,第2に,貸借型契約の中では,賃貸借と使用貸借を先に定めて,消費貸借を後ろに回し,第3に,労務提供契約の中では,最初に役務提供を定め,それに続いて独立労働を目的とした請負・委任・寄託を定めた上で,従属労働を目的とした雇用をその次に規定するのが適当と考えます。   詳細については,お配りしたペーパーに書いたところですし,最後に一覧表を掲げておきましたので,それを御覧いただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,御自由に御発言ください。 ○岡委員 弁護士会としては,規定の配置について意見は盛り上がりませんでした。いい規定を分かりやすく並べていただければ,研究者の皆様の大勢に従うというような雰囲気が大勢でございました。   ただ,余り動かさないほうが分かりやすいと。法律行為については今の総則のままのほうが落ち着きがいいし,債権の消滅時効のところも,動かしてもいいかなと言う人もいますが,元のままでもいいのではないかというような意見が中心でございます。   盛り上がらなく申し訳ありませんが,そのような状況でございました。 ○新谷委員 部会資料の詳細版の28ページと,山本敬三幹事の資料の中にも記載されていますが,役務提供契約の配列について,雇用を最後に配置してはどうかという考え方が示されています。   一般に,労働契約と雇用契約は同じだというイメージがあり,通説もそう解されていますが,労働契約法上の労働契約法制が適用される民法の典型契約を見た場合には,民法上の請負や有償委任,準委任,更には混合契約,無名契約等々にも労働契約法制が適用されると言われています。現在提案されているように,雇用を役務提供型契約の最後に配置するということになると,当該役務提供契約の性質を判断するに当たって,最初に請負・委任といった該当性が雇用よりも先に検討されることになり,労働契約法制上の適用対象が民法上の雇用契約だけであるというような,誤った解釈を広めることになりはしないかという懸念がありますので,この点を懸念事項として伝えておきたいと思います。   また,役務提供型の契約について,総則規定を配置してはどうかということも提起されていますが,これについては,役務提供契約の定義そのものがまだ十分に煮詰まり切っていないのではないかという点と,役務提供契約において,その当事者に着目した類型を考えたときに,その役務の供給者が企業である場合と,無償で個人が役務を提供する非常に弱い立場にある役務供給者の場合があり,それを一律に共通の適用ルールでくくるということが,本当に実体上の運営にとって大丈夫なのかという懸念がある点を申し上げておきたいと思います。 ○深山幹事 山本先生に対する御質問なんですけれども,役務提供契約の位置付けについては,既存の役務提供型の契約に続く五番目の典型契約という位置付けにとどまるのか,もうちょっと総則的な意味合いを持たせるのかということが議論になったかと思うのですが,山本先生のご提案の整理というのは,第2部の第9章に役務提供というのがあるんですけれども,これはどちらを想定した位置付けなんでしょうか。 ○山本(敬)幹事 それについては,どちらかを想定したというわけではなく,どちらを採用するにしてもこのようなことになるのではないかというように考えています。といいますのは,役務提供を完全に総則規定に純化するという考え方は出されていなかったのではないかと思います。つまり,他の類型に含まれないようなタイプの役務提供契約が必ずある。そのようなものについての規定も整備するということが併せて言われていたと思います。そうしますと,いずれの立場を採るにしても,このような並びになるのではないかと思った次第です。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○佐成委員 経済界でも,規定の配置に関しては法制上の問題ということで,幾ら言っても余り参酌されないのではないかというような感じもありまして,余り盛り上がらなかったというところはあります。   ただ,出た意見の中で,ちょっとだけ申し上げておくと,これはもうやむを得ないことですけれども,民法の条文を引用するような契約書というのはいっぱいあるのですけれども,それの全部書き替えになるので,今回の改正によって実務的には相当な負荷が掛かるだろうという感想と,それから,条文数が増えるというのはやむを得ない面もありますけれども,余り増えすぎてしまうとかえって分かり難くなる,つまり,条文数と分かりやすさとの間にはトレードオフの関係があるので,その辺のバランスを十分考えていただきたいというような概括的な意見のみで,学者の先生方の意見書はいずれも十分読ませていただいたんですけれども,議論としては余り盛り上がりがなかったということでございます。 ○中田委員 典型契約の配列について,部会資料20-2の28ページの⑤で,民法は,典型契約の配列について,財産権移転型,貸借型等,同種の契約類型をまとめた上でうんぬんというふうに,現行法についての認識が示されておりますが,これは必ずしも民法自体がそうだというわけではなくて,民法が制定された後,その後の学説による整理であろうと思います。まとめ方にはいろいろあると思いますので,こういうまとめ方もあり得ますし,これをベースにして今回考えられているというのは,それはそれで意味があると思いますけれども,それに伴ういろいろな検討課題も残ってはいるのだろうと思います。余り類型をきつくしてしまいますと,個々の典型契約の性質よりも,その類型のほうが先行してしまうという問題もあることですとか,あるいは,恐らく賃貸借契約が配列の中で一番キーポイントを占めているのだと思いますけれども,それについてのどのような認識をし,評価をするかというような問題が,理論的にはあり得るのだろうと思います。そういうことを踏まえた上で,現代の日本社会において最も適切な配列を考えていく,ということだろうと思います。 ○岡委員 珍しく時間が余っているようですので,山本先生に質問をさせていただきたいんですが,債権と債務の言葉の使い方でございます。   弁護士会で議論している中で,部会資料の詳細版の66ページ以下に付けられた,大村先生がさっきおっしゃったカンボジア王国民法,これ,やはりかなり分かりやすいですね,保証を債務担保のほうに持っていっているあたりも含めて,分かりやすいねという意見がありました。そのカンボジア王国民法は第4編「債務」と書いております。スイスも「債務」法とか言っています。しかし山本先生御提出の資料の12ページの裏側を見ると大きな見出しは全部「債権」と表現し,小見出しで「債務」という言葉を一部使われています。この債権と債務の表現の使い分けというか意味といいますか,その辺,もし分かりやすく御説明いただければありがたいです。 ○山本(敬)幹事 分かりやすくお答えできるかどうか,かなり心配ですけれども,確かにおっしゃるように,カンボジア王国民法だけではなくて,その他のヨーロッパの法典を見ましても,債権法という形ではなく,債務法という形で定めているものが多いというのは事実です。   ただ,日本の民法典を起草する際に,起草者がそのような形ではなく,物権と並べて債権という形で規定したのは,やはり権利を基軸にして民法典の体系を整備しようという考え方がその底流にあったのではないかと思います。そして,私自身は,意見書の3ページにも書きましたように,そのような考え方自体は現在でもなお維持してよいのではないかと考えました。ですので,第3編に関しては,基本的には債権という現行法の用語を維持してよいのではないかと考えました。   ただ,その中で,特に御指摘されていたのは,最後の12ページの一覧表を御覧いただきますと,第3章の中の第1節と第2節で「債務及び契約の履行」と「債務及び契約の不履行」としているところです。このような履行に関わるものについては,「債権の履行」と呼んでも構わないのですが,恐らく一般的には,「債務が履行される」,あるいは「履行されない」というように理解されているのではないかと考えましたので,ここは,そのような一般の理解のしやすさを考えて,「債務」ということにしただけでして,後は基本的には現在の法典の考え方を維持しているということです。 ○大村幹事 山本さんの御説明の中で,ヨーロッパでは債務という言葉が使われているというお話がありましたけれども,ドイツは正にそうだと思いますしフランスもそうだと言われることがありますが,フランスはオブリガシオンという言葉なので,債務と訳されますけれども,債権債務関係だろうと思います。オブリガシオンのほかに債権,債務という言葉は独立にございますので,フランスは立ち入った形で言えば債権債務関係の法ということだろうと思います。   ここで債権という言葉を使うにせよ債務という言葉を使うにせよ,債権債務関係が問題になる場合には,やはり債権の側から見た局面と債務の側から見た局面というのがおのずとあるのだろうと思います。山本さんが御説明になった中に,ここは債務と言ったほうがいいでしょうというのは,やはりそれは債務者の側から見ているからで,債務と言いたい,そう言った方が適切であるということだろうと思います。 ○鎌田部会長 私も実はカンボジア民法の起草委員の一人。 ○大村幹事 そうでした。大変失礼しました。 ○鎌田部会長 いいえ。何か知らんふりをしているとかえっておかしいと思うんで。   今,大村幹事がおっしゃられましたように,カンボジアもフランス法系でございますのでオブリガシオンという言葉を使っていて,厳密に言えば債権債務関係なんですけれども,また,オブリガシオンという言葉は債務の意味でも使われることがありまして,カンボジアのほうで債権というふうな言葉をうまく訳すことが難しい。債務の意味も持つオブリガシオンを受け継いだ言葉のほうが翻訳しやすいということと,それから債務の種類のときにも,日本でもそうですけれども,種類債務とか,与える債務,なす債務といった形で,債務のほうからの表現のほうが割と定着しているので,カンボジアの場合には法律専門家が非常に少ないですから,分かりやすさを優先させる必要があって,日常語によくなじんでいる表現を優先させる。法典の構成も,そういう意味で,できるだけ技術性の少ない,具体的で説明しやすいものというので,法律行為よりも契約を中心にして全体を構成するという,そういうふうな配慮をしたというふうに記憶しております。 ○中井委員 規定の配置について弁護士会で盛り上がらなかったというのは先ほど岡さん指摘のとおりです。昨日,日弁連で検討会を開いたときの統計的数字を言ってもほとんど意味がないのかもしれませんが,札幌,仙台,横浜,東京,第二東京,そして大阪の各弁護士会から,この編成について簡単なコメントが来ております。   その全体的な傾向だけを申し上げます。第1の法律行為については,現行法どおりで,第2の債権時効についても,現行法の総則に置いておくべきだという意見が圧倒的でした。   三つ目の債権総則と契約総則については,区別しておくべきだという意見が多いのですが,一部には統合というのは十分考えられるのではないか。その理由としては,解除と危険負担が後ろに出てきて,前のほうで損害賠償だと,勉強したときに分かりにくかったねと,こういう素朴なところから,合体論というのはあり得るのではないかという意見が出ておりました。   四つ目の契約の目的以下のところですけれども,ここについてはそれほどこだわらないという意見,適切な再配置を御検討いただければいいのではないか。   五つ目の有償を先に無償を後にという,この整理の仕方についても,並べ方としては,むしろそちらのほうが分かりやすいのではないかというのが多くの意見でした。   その中で横浜弁護士会は,第1,第2の論点についても賛成という積極的意見でした。さらに,個人でも,札幌の矢吹会員から御意見を頂いてまして,三つ目の論点については統合説です。理論的背景については説明する能力がございませんので,省略させていただきます。   以上,御紹介です。 ○鎌田部会長 ほかに,よろしいですか。 ○大村幹事 弁護士の先生方は盛り上がらなかったということですけれども,現行の法典の編成を理解するための困難さというのが,私どもも含めて,既に失われているということではないかと思います。これでずっとなじんできたので今は特に困らない。私も困りません。ですので,変える必要はないのではないかという気持ちが働くのは当然かと思います。ただ,今,中井委員から御指摘もありましたけれども,初めて勉強したときには変だと思ったということはあるわけですね。   先ほど,大変失礼しましたけれども,鎌田部会長から補足説明がありましたように,カンボジアで立法するときに,やはり普通の人が見たらどうするのが分かりやすいだろうかということをお考えになったんだろうと思います。   そういう観点から見たときに,これからの法律家,あるいはこれからの国民にとって,何が分かりやすいのか。ここで法典の編成を変えますと,私たちはしばらくの間は困難を抱え込みます。変わった法律について,会社法その他の場合のように,私どもは昔の知識が使えなくなって残念ですけれども,しかし長い目で見て,より分かりやすい編成があるのであれば,先ほど契約書の書き替えが必要だというようなことはございましたけれども,そういうことも含めて対応するというのがよろしいのではないかと個人的には思います。 ○鎌田部会長 まだもう1項目残ってはいるんですけれども,もっと大変に議論が盛り上がるという予測の下に発言を規制してしまったので,山野目幹事,何かここだけは強調しておきたいといことがあれば。 ○山野目幹事 せっかく機会をいただきましたから,むしろ事務的な御相談です。内容は,繰り返し申し上げますと書面に書いたとおりです。   申し上げたいことは,今日3人の幹事が出した資料の公表がどうなるのかということと,それから,私は先ほど説明を全部省略しましたけれども,大村幹事,山本幹事もおっしゃりたいことを全部言ったものではないと思われるところ,それらを前提にここでいろいろ,特定の幹事の意見をそれぞれ内容的理解を前提に委員,幹事の間で討議をしておりますが,そのあたりの扱いをどうしたらよいのかということについては,御案内を頂ければ協力をさせていただきたいというふうに考えます。 ○筒井幹事 本日3名の幹事の先生から提出していただいた意見書については,分類としては委員等提供資料になりますが,本日の会議における発言そのもの,あるいはそれを補完するものという位置付けになろうかと思いますので,3名の先生から御了解が得られるのであれば,法務省ホームページにそのまま掲載する方法を採りたいと考えております。 ○鎌田部会長 よろしいですか。   この問題も,また中身が詰まってくれば必然的に議論しなければいけないテーマで,現在のところ,中身がどうなるか分からないのに議論はしにくいという要素もあるかと思いますので,また繰り返し,この問題には立ち返ってくるということで,今日のところは次に…… ○沖野幹事 すみません,今日のところは次にとおっしゃっているのに。この問題は正直非常に難しくて,考えれば考えるほど分からない問題だと思っています。なぜ分からないかということを含めて資料の補足などをしていただければ,あるいはよりよいかと思われますので,申し上げたいと思います。   大変細かい点から申し上げますと,詳細版の26ページの上から2行目から,法律行為に関する規定の配置について様々な考え方が整理されています。その後の説明を読むと必ずしもはっきりしないところがあるように思われます。cの「原則」と「実体」との切り分けとdとの関係などです。dですと,説明に書かれている,詐欺・強迫と錯誤を分けるという具体例がdから導かれる唯一のものか,もっと別の考え方が実はあるのではないかと思われまして,それを詰めていくとcとdは重なってき得るのではないかとも考えられます。この辺りの記述は,例えばオランダではこうだけれども,ほかの考え方もあり得て,cとdとの切り分けは接近する面を持ち得るなど,説明の補足があったほうが分かりやすいのではないかと思ったところです。   次に詳細版の24ページにつきまして,①から⑤までに関しまして,個人的には④,⑤,それから③につきましては基本的に異論はありません。最も困難なのが①と②だと思われまして,中でも法律行為が非常に難しいのではないかと思っています。   その難しさというのは2面あると考えております。一つは,現在の法律行為の規定の中身が,本当に法律行為一般についての規定として考えられるものなのかという点です。その多くが実は契約を想定したものではないか,もしそうだとすると,法律行為の相当部分は契約のところに持っていき,かつ,契約自体に法律行為総則的な意味合いを持つものとすると,そういうような考え方ができます。この場合今度は,遺言や法人の設立や再編といったものの位置付けをどう考えていくか,契約自体に法律行為総論や意思表示の総論という意味を持たせることができるかという点があります。したがって,現在の法律行為に関する規定の具体的な中身の検証という問題と,契約の規律に法律行為総則的な意味合いを持たせることでいいのかの検討という,その二つの検討が要請されるように思います。   最後にもう一つ,法律行為,また時効にも関わるところなんですけれども,これらを難しい課題にしている考慮点として資料に出ていない点として,論点だけは指摘したほうがいいのではないかと思うのは,民法総則をどういう規定としてその意味を持たせていくのかです。取り分け法律行為について,法律行為自体は非常に重要で,取り分け意思に基づいて法律関係を形成していくという,その根幹の思想を表すような制度だと思われますので,総則に設けるに値するものと思います。その現在のルールの多くが基本的には契約を想定したルールになっているとすると,それらは契約のところに置き,その上で遺言などについて適宜規定を置き,それとともに適切な範囲で準用するというような規定を設けるとしたときに法律行為に残ってくるのは何かと考えますと,26ページで書かれているようなcですとか,あるいはdで,その場合のdというのはオランダ民法とは大分違うというイメージですけれども,そういったものになるのではないかと思われます。   そうすると,法律行為の規定は本当に法人の最初の部分だけのような形になります。山本幹事が基本的なとおっしゃったのですけれども,基本的な制度や理念というとき,理念的なものを宣言するのか,かなり厚みを持った制度がそこにあるということなのかその内容自体も幅があり得ると思います。民法総則というものがどういうものとして構成されていくべきなのかという,民法総則論が,取り分けこの法律行為の位置付けにおいては避けられないだろうと思います。   そうしますと,それは法律行為だけにとどまらず,他の現在総則にあるような規定をどうしていくかということにも関わってきます。将来的な民法の在り方を踏まえた上で,しかし,過渡的にはこうするという,そういう選択肢もあるわけですので,それが完全な決め手ではないのですけれども,民法総則というものをどういうような編として位置付けるのかということが非常に重要であるということを資料に盛り込んでいただく必要があるのではないかと思います。   各制度については,個人的には,能力ですとか,代理ですとか,そういうものについてはまたそれぞれとして検討する必要があるのではないかと思っておりまして,特に能力などはここには挙げられていないのですけれども,今のような位置付けでいいのかは考える余地があると思ってはおりますけれども,問題を拡散させているだけかもしれませんので,これ以上は申し上げません。特に法律行為の位置付けをめぐっては,少し説明を補足していただいたらどうかと思います。   まとまりがなくて申し訳ありません。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただ,事務当局で全部今の御要望に応えるのもかなり厳しいところがございますので,是非沖野幹事から具体的な案を事務当局にお届けいただければと思います。よろしくお願いします。   編別問題は,ただの並べ方の問題ではなくて,基本的な概念の理解にも関わりますし,特に民法の総則はほかの法律との関係,民法以外の法律の関係も出てきますので,かなり慎重に検討を要すると思いますから,先ほど申し上げましたように,また機会を改めて,検討する機会を作りたいというふうに考えております。 ○神作幹事 鎌田部会長から御示唆がありましたので,この機会に発言させて下さい。例えば手形行為ですとか有価証券行為のようなものについて,もちろんこれらの法律行為も契約であるという契約説もございますけれども,通説や判例は必ずしも契約と捉えていないと思います。仮に,成文法では必ずしもその性質が明らかにされていない,有価証券行為のような法律行為が存在するといたしますと,法律行為についての規定が総則には置かれず,例えば契約のほうに移るというとき,有価証券行為のような行為について,どのような取扱いになるのか疑義が生ずるように思われます。 ○鎌田部会長 この点も宿題とさせていただきます。   それでは,申し訳ございません,最後に部会資料20-1の3ページ,「第3 その他」について御審議いただきます。   民法(債権関係)の改正に関する検討事項として,これまでの審議で取り上げられてきたもののほか検討すべき事項がありましたら,御発言を頂きたいと思います。こういった項目での自由な発言の場を創るべきだというのは松本委員からの御要望だったわけでございますけれども。 ○奈須野関係官 先ほどの編の構成の話とも若干関係しますが,この改正をどのようなスケジュールで,どのような順序でやるのかということについても,国民に対して見通しを与える必要があると思います。   例えば先ほどの消費者に関する規定について言うと,私どもとしては,なかなか合意に至るということが難しいということが想定されます。そういう中で,シングル・アンダーテーキングということでやってしまいますと,未来永久,債権法の改正ができないということになって,我々がここまで議論した成果が世に出るというのが当分先になってしまうおそれがあるわけです。   そう考えますと,幾つかのブロックに分けて議論をする,あるいは,そのブロックに分けるにしても合意が得られたところから順にやっていくといった改正の進め方を検討する必要があると考えます。例えば,全く無関係にぱらぱらと改正していると,恐らく規定内容に矛盾が生じるということもあり得ますので,単に合意が得られたところだけ改正するというのではなく,この部分とこの部分については併せて改正することが望ましいといった,何らかの考え方を整理しておく必要があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかに,いかがでしょうか。 ○中田委員 次回から中間論点整理の取りまとめに向けての審議が始まると思いますが,この審議会の1回目と2回目で改正の必要性について議論がなされました。その点についても,できれば中間論点整理の中で,こういう必要性があるんだということを書いておいたほうがよろしいのではないかと思います。こういう必要性があるという意見が出ているということです。そもそも改正は必要ないのではないかという意見をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんので,その点についてもここで十分に議論をしたということを反映できるほうがいいのではないかと思います。 ○筒井幹事 御指摘ありがとうございます。この部会の1回目,2回目の会議で行った改正の必要性や留意点についての議論を外部にも十分伝えていくことは,大変重要なことではないかと思います。もちろん,改正の必要性があるということで法制審議会への諮問がされ,この議論は始まっているわけですが,しかし,必要性の捉え方は各人でそれぞれ異なり,その部分で完全に一致しているわけではないと思います。だからこそ,部会の初期の段階で,改正の必要性について各人の意見を述べ合い,それを共有する作業をしたわけですので,そのことを,中間論点整理の機会に,何らかの形でもう一度,外部に向けて広報していくことを考えたいと思います。中田委員の御発言も,改正の必要性を中間論点整理における一つの論点とするという趣旨では必ずしもなかったと思いますので,そういった理解で,先ほどの御意見を承りたいと思います。 ○山野目幹事 部会資料第3は,内容の点で何か今までの検討の中でこぼれ落ちていた点はないかというお尋ねであったというふうに受け止めましたから,発言を控えておりましたけれども,恐らく第一巡の調査・審議が本日をもって終わるとすれば,第3のその他でお尋ねのこと自体ではないのかもしれませんけれども,中間的な論点整理以降の調査・審議の進め方を考える上で,少し感じていたことを2点ほどコメントさせていただくということは許されるかもしれないと思って,発言をさせていただきます。   第一巡の審議の様子をずっと拝見してきていて気になった点は,矛盾という言葉と重複という言葉をキーワードにして申し上げさせていただくことにしますと,一つは,論点が多岐にわたっておりまして,幾つかのところについては,ある時点で態度を決めないと,矛盾した制度設計が生じてしまうというおそれのところがあるのではないかというふうに感じます。非常に変数の多い方程式を解いているような状況にあるわけですが,幾つかの変数は,ここはこういうふうにするということを決めないと,話が先に進んでいかなかったり矛盾が生じたりするところがあるということを,私たち全体として,どなたがというのではなく,賢く処していくことが求められるのではないかというふうに感じています。   もう一つは重複ということですが,ハプニング的に法制的に機能が重複する制度が盛り込まれてしまうというようなことになるのも困るというふうに感じておりまして,今個別に挙げませんけれども,幾つかの場面に関しては,両方論理的に重複して存在することがおかしいと思われるにもかかわらず,両方あってもいいではないかというふうな議論がなされているところもなきにしもあらずだというふうに感じますから,中間の論点整理と,それについての意見募集などの手順が終わった後のお話にはなると感じますけれども,この機会に感想として申し上げさせていただきたいというふうに考えます。 ○道垣内幹事 「第3 その他」の話なのですが,これは結論としては,今のままでいいのではないかと思うのですが,民法上存在が予定されている契約類型として保証契約というのがあるわけですよね。更には,抵当権その他,地上権もそうですが,その設定契約というものも存在が前提とされているわけで,物権については,また物権法をいつか検討するときにでもということでいいのかもしれませんが,保証契約等に関しては,取り分け加重した説明義務を課すなどのことを考えてみますと,契約編のところに保証契約の成立の規律を置き,保証債務の中身については,今でいえば債権総論のところに置くという可能性についても検討する必要はあるのではないか。結論として,それがいいと思っているわけではないのですが,可能性としてはあるのではないかということを,第3の話として1点指摘したいと思います。 ○中井委員 利息に関する審議があったかと思いますけれども,利息制限法に関しては全く取り上げられていないという点が気になります。それから,保証との関係で言うならば,身元保証に関する契約が取り上げられていない。両方とも社会問題とか政治性があるからという配慮なのかもしれませんけれども,どうしてこれが取り上げられていないのかなと思っておりました。変動金利制を採れば,一体利息制限法はどうなるのというのが素朴に分かりませんので,検討対象にしていただく必要があるのではないかと思います。 ○潮見幹事 これまでの議論の中で節々には若干出てきていたのですが,今回の債権関係法に関する改正というものは,家族法にも波及するところでして,特に相続法辺りには,こちらを変えるとあちらのほうの制度がどうなるのかという問題は必然的に出てくるわけです。   そうした中で,単に例えば言葉だけを変えて,相続法の規定をそのままにしておいていいのかという問題があります。今日の消費者契約法と民法の関係のところでの不実表示等の議論にもありましたけれども,相続法の規定の中で,こういう債権関係に関する規定というものが基礎に据えている立場や考え方というものが,仮に債権関係に関する法律が改正したときに,このままでよいのか。少しこちらも改善して,いい方向に持っていったらいいというようなところがあるのであれば,そういうものはむしろ検討の対象といいましょうか,考慮の対象に入れて判断をしていくべきではあるまいかと思います。場合によったら,その中で翻って債権関係に関する規律,例えば時効とか時効期間だとか,そうしたところに関する改正提案が,このままでいいのかというところにもはね返るところがあろうと思いますので,是非検討の視野に入れておいていただきたいと思います。 ○筒井幹事 先ほどの中井委員の御発言について,その御趣旨を少し確認させてください。   まず,身元保証法に関してですが,身元保証法にせよ利息制限法にせよ,部会資料で明示的に取り上げていない理由は,今のところ特段の立法提案がないということに尽きるわけですけれども,しかし,例えば,根保証に関しては貸金等根保証契約という限定を外すという議論があります。その限定を外すといたしますと,身元保証法が守備範囲としているところと民法の根保証の規定との重複感が出てきますので,いわゆる整備法というレベルで影響が及んでくることは,あり得ることだろうと思います。ただ,それがこの部会での明示的な議論のテーマとすべきものなのかどうかは,もう少しよく考えてみないと分からないと思っております。ですから,そういうレベルのことなのか,更に身元保証そのものの実質的な改正をお考えなのかといったあたりが,気になっております。   それから,利息制限法についても,法典編さんの在り方として,利息制限法の第1章,つまり直近の改正前から存在していた部分の規定については,民法典の中にあってもいいのではないかといった問題なのか,それとも利息制限法の実質的な改正について何か御提案といいますか,議論すべきだというお考えなのか。そのあたりを教えていただければと思います。 ○中井委員 利息制限法に関しては,変動金利制を採ったとき,今のままで済むのかという素朴な疑問から問題提起をしたものです。内容に関わる検討が必要ではないかという趣旨を含んでおります。   身元保証契約に関しましても,保証契約の在り方について議論が進んでいるわけですけれども,雇用特有の契約について,存続期間,更新,解約権等の問題にしても,今のままでよいのか,更にこの場で検討する必要があるのではないかという,確かに立法提案はないのかもしれませんけれども,素朴にそのような問題意識を感じたからでございます。 ○鎌田部会長 それは身元保証法の民法への取り込みも含めてということですか。 ○中井委員 ええ,民法への取り込みも含めてということでございます。 ○大村幹事 大分前の山野目幹事の御発言で,本日提出した意見書については,発言したのと同様な扱いがされるということでございましたので,あえて申し上げることもないのですけれども,山本幹事の提出された書面の一番最後のところに,民法の基本原則について再検討する必要はないだろうかという問題提起がされております。山本さんご自身は今回は難しいかもしれないということを最終的にはおっしゃっているわけですけれども,先ほどの消費者契約法との関連で,消費者契約に関する基本原理のようなものを書いたらどうかという御意見も複数の方から出たわけでございますので,どうするかということは別にいたしまして,そうした基本原理とか,あるいは解釈準則みたいなものを置くのか置かないのかということも,どこかで一度は議論していただくことはあってよいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 中間論点整理の中に入れるべきかどうかということも含めて,そこを少し検討させていただきます。   ほかには。 ○新谷委員 先ほど,中井委員の方から身元保証契約について検討するべきではないかと言う御提言を頂きました。私の方からも保証契約について論議した際に,随分古い法律ですが,現在生きている法律であるため是非検討していただきたいという点を申し上げていますので,併せて御検討いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。もしないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等について事務当局に説明してもらいます。 ○筒井幹事 本日,予定の議事をすべて終えることができましたので,12月20日の予備日については,会議を開催しないことにさせていただこうと思います。したがいまして,次回は,来年1月11日,火曜日,時間は午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省20階,第1会議室となります。   次回から,1月,2月,3月の3か月をかけて,中間的な論点整理に向けた議論をしていただくことを予定しております。そのうちの4回ないし5回の会議で,まず一巡目の議論をしていただき,そこで出された御意見を踏まえて,最後の2回ないし1回になるかもしれませんが,2巡目の確認的な議論をしていただいて,「中間的な論点整理」として,この部会の御決定を頂くという段取りを考えております。   そういたしますと,本年1年間を掛けて御議論いただきました全体を4ないし5のブロックに分けて,たたき台となる部会資料を準備することになりますが,そのうち少なくとも1月11日の分,年明けの最初の会議の分については,年内に資料をお届けしたいと思います。年内と申しましても,普段から大変な負担をお掛けしているバックアップの方などにも年内ずっと待っていていただくのは申し訳ないので,自分を縛る意味でも目標日を申し上げようと思いますが,12月24日,金曜日に,いつものように資料を事前送付することを目標に,今後の作業を進めていきたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 これ,中間的な論点整理がまとまるのが年度末を目途にしているわけで,そこからパブリックコメントを始めても,パブコメ期間というのはそれほど長くならないと思いますので,この中間的な論点整理のたたき台が4回に分けて出てくるとしたら,それを踏まえて各方面でのパブコメ準備を進めておいていただいたほうが,実質的にはいい結果が出るのではないかというふうに愚考する次第でございますので,できるだけバックアップ委員会の方々等との関係でも,そのような利用の仕方をしていただければと思いますが,そのこと自体は差し支えないですね。 ○中井委員 ただ今の部会長の発言と先ほどの筒井幹事の進行予定に関する発言についてですが,まず一つ目の進行に関して,4回ぐらいで一通りということは理解をいたしました。そうすると,この12月24日にお出しいただくのは,その4回分の4分の1なのか,4分の2程度はお出しいただけるのかという点を,確認したいのですが。   二つ目は,今,部会長のほうからパブリックコメントの期間はそれほど長く取れないという御発言がありましたけれども,その趣旨が理解しかねるところでございます。   これまで法務省から,その都度,資料を開示していただいていまして,それについては極めて速報性のある資料提供だと評価しています。それであっても今回,1月から3月の間に論点整理ができたものが,恐らく4月のどこかの時点で一般に開示されたとして,一般的にそれに対する意見を集約して取りまとめるとなれば,その後に機関決定をしなければ公表できないという団体もあろうかと思いますので,時間的に大変厳しいものがあります。   日弁連も同じでして,機関決定をしなければなりません。その機関決定というのは,日弁連でいうならば理事会の決議ですし,大阪弁護士会では常議員会の決議が必要です。仮に4月だとしますと,日弁連の理事会は,5月は7日で,その次は,6月の16,17日です。そうすると,理事会を経ない以上,日弁連としての意見が出せないということを申し上げざるを得ません。   いわんや,基本法たる民法の改正をするに当たって,ほかの法案であれば基本的に1か月程度,短い法案であっても1か月のパブリックコメント期間ではないかと思いますが,1,000条を超すというような,そうなるのかどうか分かりませんが,それなりの規模の法改正を想定しているものについて,10カ条か100カ条か分かりませんけれども,他の法案と同じ1か月基準をとるという考えについては到底理解しがたいところです。日弁連から既にお願いをしているのかもしれませんけれども,3か月とは言いませんけれども,それに近い期間がなければ,取りまとめたものの公表はできないのではないか。それこそ世間から,拙速な,もしくは既に想定されたものがあるのではないかという疑念を助長するようなことになるのではないかと,懸念いたします。   100年続いたものを変えるのに,1か月,2か月余計に掛かって,どれほどのものなんだということを,真摯にもう一度御検討いただきたいと思います。パブリックコメント期間については十分な期間を頂きたい。改めてお願いをする次第です。 ○筒井幹事 部会資料の事前送付に関して,先ほど私が申し上げましたのは,最低限のこととして4分の1の年内送付をお約束させていただくということでありまして,後は,できることは全力でやるということで,御容赦いただきたいと思います。できるだけ早くという御要望があることはもちろん理解をしておるつもりですので,全力で作業を進めたいと思っております。   パブリックコメントの期間につきましては,ただ今の中井委員からの御要望も踏まえまして,改めて私ども事務当局としてどのような案をお示しするのかを考えたいと思いますし,それに対して更に御意見を頂く機会もあると思います。しかし,そうは言っても,期間が大変長くて,物すごく余裕があるということには,恐らくならないであろうと思います。   事務当局で作成する中間論点整理のたたき台となる案については,これまでの部会資料と同様に,会議終了後速やかに法務省ホームページで公表いたします。そういうことも踏まえて,ただいま部会長からありましたように,関係団体等におかれては,1月,2月,3月の審議の経過についても御覧いただきながら,意見形成の準備をしていただけると大変有り難いと考えております。   パブリックコメントの手続を,具体的にどのようにするかということについては,改めて年明けの会議で御相談をさせていただこうと考えております。 ○鎌田部会長 具体的には事務当局のほうで詰めていただくことになると思いますけれども,いずれにしましても,このパブリックコメントを出して,意見が返ってきて,それを整理して,その間ずっとこの審議会が休んでいるというわけにもいきませんので,12月に第一弾の資料が出れば,3月末まで3か月少しの期間があるので,その期間も是非パブリックコメントで意見を出す準備の期間として御利用いただければという趣旨で申し上げた次第でございますので,よろしく御理解のほどをお願いしたいと思います。 ○佐成委員 これもお願いです。パブリックコメントの時期が,企業法務が一番の繁忙期を迎える時期にちょうど重なるということです。要するに総会直前で,企業法務のほとんどの担当者はそれに忙殺されまして,朝から晩までそればかりやっているものですから,なかなか十分なパブリックコメントを出せない可能性がありまして,非常に懸念しております。その辺の御配慮も実務的でございますけれども,是非ともよろしくお願いしたいと思います。 ○中田委員 ただいま関係団体からの御意見の点が出ておりますが,そのほかに,民法あるいはその他の法律の研究者も非常に,当然ですけれども,強い関心を持っております。それに対して,短いパブリックコメント期間であるとすると,それ自体が批判の対象となる可能性があると思います。この点も御考慮いただければと思いますとともに,ただ今,部会長が御指摘の,むしろ1月から実質的にパブリックコメントの期間が始まっているんだというのであれば,そのことを何らかの形で周知するという努力があったほうがいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 これもどこまで公式にそういうことが言えるか,役所の立場もあるかと思いますので,できるだけの工夫をして,実質的に幅広く,きちんとした準備をしていただけるように配慮をしたいと思っております。   ほかに,いかがでしょうか。 ○中井委員 パブリックコメント後のことについて部会長から御発言があったのですけれども,パブリックコメントが相当量出ましたら,それを整理するというのは大変な作業だろうと思います。それを集約して公表することも想定して,情報提供を考えておられるとすれば,それなりの時間が掛かることは十分理解しております。   その間,この審議を休みにする必要があるのか,そう考えなくてもよろしいのではないか。その間も審議を進めることはできると思いますし,これまで1年間,検討事項が公表されて,議事録も開示されていますので,関係団体から意見を表明したいところは相当数あるように聞いております。そういう関係団体のヒアリングの場にすることも一つの方策ではないかと思いますので,1月から3月にかけて,この中間論点整理を進めると同時に,その4月から,パブリックコメントの結果を取りまとめるまでの間の審議の仕方についても,今のようなことも踏まえた検討をしていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 はい,検討させていただきます。   ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,やはり6時を過ぎてしまいましたけれども,本日の審議をこれで終了といたします。本日は御熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。 -了-