法制審議会民法(債権関係)部会           第21回会議 議事録 第1 日 時  平成23年1月11日(火)自 午後1時00分                      至 午後5時26分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○鎌田部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第21回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。また,本年第1回でございますので,改めて新年の御挨拶を申し上げます。本年もよろしくお願いいたします。   では,配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いします。 ○筒井幹事 事前送付資料として,部会資料21「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理のたたき台(1)」を送付いたしました。   それから,本日,机上にて幾つかの委員等提供資料を配布しております。まず,日本証券業協会から「民法(債権関係)改正に関する意見書」を御提出いただきました。それから,これは高須幹事の御紹介で,東京弁護士会法制委員会の「民法(債権法)改正に関する中間論点整理のたたき台(1)に対する意見書」を頂いております。それから,本日は御欠席ですが中井委員の御紹介で,近畿弁護士会連合会消費者保護委員会編の「消費者取引法試案」をお配りしております。これは前回コピーでお配りしたものが製本されたということで,改めて御提供を頂いたものです。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議に入ります。   本日の進行予定といたしましては,休憩前に部会資料21の「第6 その他の新規規定」まで御審議いただき,その後,部会資料21の残りを全て御審議いただくことを予定しております。   部会資料21についての審議に入る前に,まず本年3月までの会議における審議の進め方等について,事務当局に説明してもらいます。 ○筒井幹事 本日の会議から,中間的な論点整理に向けての議論を行っていただくことを予定しておりますけれども,その議論を始めるに当たり,改めて中間的な論点整理の意義の確認などを含めて,今後の議事の進め方などについて御説明,御提案をさせていただこうと思います。   この部会の審議スケジュールにつきましては,一昨年10月にこの部会が設置された後,第1回ないし第2回の会議におきまして,当面,最終的な改正要綱案の取りまとめの期限は設定せず,平成23年4月を目途に中間的な論点整理を行うことを決定していただきました。   この中間的な論点整理を行う意義について改めて振り返ってみますと,一つには,この部会の審議対象が大変に広汎にわたることから,今後の作業見通しを立てるためにも,まずは具体的な改正検討項目を一通り確認し,それを部会内部で共有しようということであったと思います。   また,もう一つには,民法の債権関係の規定が,国民の日常生活や経済活動に密接に関わるものであることから,部会の内外で広く問題意識を共有しながら審議を進めていく必要があり,そのために中間的な論点整理という節目を設け,パブリックコメントの手続を経ることが有益ではないかということであったと思います。   この中間的な論点整理の中では,論点の整理という作業をして成果物をまとめることになりますけれども,この成果物のほうも,今後は「中間的な論点整理」という名で呼ぶことにしようと思います。   この成果物である「中間的な論点整理」には何を書き込むのかということでありますが,それは,繰り返しになりますけれども,これまでの部会の議論の到達点を確認して共有するということであると思います。   この点は,当初のスケジュールを立てるときから,中間的な論点整理は決して中間試案ではない。結論を出すこと,議論を集約することを必ずしも目指さないで議論するということが確認されていたと思います。したがって,中間的な論点整理では,基本的には,今後議論すべき論点の範囲を確認し,それを書き込むことになると思います。あとはそれぞれの論点ごとの議論の進捗状況に応じまして,問題の所在が共有されたもの,あるいは,それぞれの論点ごとの議論の進捗状況に応じて,問題の所在が共有されたもの,議論の対立軸が明らかになったもの,あるいは今後の議論の方向が見えてきたものなど,様々だと思いますけれども,基本的には論点の整理,論点の範囲の確認がベースになるのだろうと思います。   したがって,今後,中間的な論点整理を公表してパブリックコメントを行う際におきましても,個々の論点の中身についての賛否を問うというよりも,論点の範囲を確認することに主眼を置くべきであろうと思います。もちろん,賛否の意見をお寄せいただくことも差し支えはないと思いますけれども,このパブリックコメントで賛成が多かったとか少なかったとか,そういった議論の進め方をするのは適当ではないと考えております。また,特に賛否の意見を述べなかったからといって,消極的に賛成したというような扱いをすることには決してならないものと考えております。   この中間的な論点整理のパブリックコメントとの関係で,本日,東京弁護士会法制委員会から,「たたき台(1)」に対する意見書をいただいております。大変な力作でありまして,こういったものを早々に御提出いただいたことに敬意を表したいと思います。ただ,最初にこういう大作が出てまいりますと,これほど詳細なものを出さなければいけないのかという,かえって委縮効果を与えるのではないかと若干懸念いたします。このパブリックコメントでは,これまでの審議の際に紹介された個々の立法提案に対する賛否を明らかにすることまでは,決して必須のことではなく,基本的には論点の範囲についての御意見を頂ければ良いのではないかと思っております。   なお,東京弁護士会法制委員会の意見書では,繰り返し,具体的な提案を行うべきであるといった御指摘が出てまいりまして,この点には若干の誤解があるのではないかと思います。中間的な論点整理は,基本的には,この部会における審議の到達点を整理するためのものであり,具体的な立法提案をまとめる作業は,これまでの審議ではしてこなかったと思います。中間的な論点整理は飽くまでも論点整理であって,中間試案ではないということを確認しておきたいと思います。   もっとも,このような意見が出てくる背景には,パブリックコメントの機会がこの1回限りなのかどうかが関係してくるのではないかと思います。中間的な論点整理の後のスケジュールについては,中間的な論点整理を終えた段階でまた御相談したいということを当初から申し上げてきたわけですが,この段階まで来ましたので,次のステージの目標について御提案申し上げたいと思います。次のステージにおきましては,中間試案の策定を目指すことにいたしまして,それについてもう一回パブリックコメントの機会を持つことを御提案したいと思います。そういう前提で,今回の中間的な論点整理においてどの程度の精度のものを目指すのかを,本日から御議論いただきたいと考えております。   なお,中間試案の策定までにどの程度の時間を掛けるのか,こういった点については,中間的な論点整理を終えた段階でまた改めて御相談させていただきたいと考えております。   続きまして,部会資料21の説明をいたします。   まず,今後の作業スケジュールですけれども,本年1月から3月までの間に予定されている6回程度の会議で,「中間的な論点整理」という名の成果物の決定をしていただこうと思います。この6回程度の会議の進行予定といたしましては,全体を4回ないし5回の会議に分けて一巡目の審議をしていただき,その議論を反映したものを残りの2回ないし1回で検討していただくということにしたいと思います。   部会資料21は,中間的な論点整理のたたき台のうちの第1分冊となるものです。おおむね全体の4分の1に相当するという見立てで作成いたしました。   部会資料21は,これまでに部会資料5,7及び8で取り扱った領域を対象とするものです。個別論点ごとの内容の説明は省略させていただき,その代わりに,これまでの部会資料(詳細版)の該当箇所のページ数を付記してあります。   個別論点を記載する際の文末は,「どうか。」という問いかけの形にしてあります。その項目が論点であるということを部会の内部で確認するとともに,外部に対してそれを問いかける形にするのが適当ではないかと考えたからです。   この文末の「どうか。」は,更におおむね次の3通りに書き分けてあります。   基本形は「何々について,更に検討してはどうか。」というもので,多くの論点はこの基本形によっていると思いますけれども,ある程度のコンセンサスがあると思われる論点は「何々とする方向で,更に検討してはどうか。」とし,更にコンセンサスがあると思われる項目は「何々としてはどうか。」といたしました。なお,部会での発言に基づいて新たに取り上げた論点は,「更に」を付けないで「何々について,検討してはどうか。」としてあります。   このように文末を書き分けましたのは,昨年1年間の議論の到達点を確認し,今後の議論の参考にする試みにすぎません。「何々としてはどうか。」という整理をしたからといって,それがすぐに条文案になることを意味するわけではありませんし,これで最終的な改正要綱に盛り込むことを確定させるという趣旨ではありません。   部会資料21は,ちょうど今回の会議で議論していただく1回分の量という想定であります。審議時間に限りがありますので,大変恐縮ですけれども,基本的にこの中間的な論点整理のたたき台である部会資料21の記載内容を対象として,その加除修正などを中心に,議論をしていただきたいと考えております。   それから,パブリックコメント用の資料のことについても触れておきたいと思います。   中間的な論点整理の決定後に行われるパブリックコメントの際には,「中間的な論点整理」とともに「中間的な論点整理の補足説明」という文書を公表して,意見募集を行いたいと考えております。これまでの部会資料でも補足説明という言葉を使っておりましたので,ちょっと紛らわしいのですが,これまで法制審議会の中間試案の公表のときには,補足説明というタイトルの文書を添えることが慣例でしたので,ここでもまた補足説明という言葉を使わせていただこうと思います。   この補足説明には,総論と各論を設けようと思っております。   総論では,諮問の趣旨やこれまでの審議経過などを説明しようと思います。この部会の初期の段階で行っていただきました改正の必要性に関する議論の模様も,ここで紹介しようと考えております。それから各論では,中間的な論点整理で取り上げられた個別論点についての「議事の概況等」を書き込もうと思っております。議事の概況等は部会での議論の概要や状況などを紹介するものであります。パブリックコメントの際には,部会資料の詳細版の該当部分で論点の説明を読んでいただき,それから補足説明という文書中の議事の概況等を併せて読んでもらうことによりまして,論点の説明と議論の状況を理解していただくことを想定しております。   補足説明のほうは,これから事務当局において執筆作業を行っていくことになり,準備にまだ時間が掛かりますので,これについては部会での審議の対象とはせず,事務当局の責任で執筆するものという整理をさせていただこうと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ただいま説明があった点につきまして,何か御質問等はございますでしょうか。 ○松岡委員 念のために1点だけ申し上げたいと思いますが,これまで20回の議事の中ではいろいろ議論が錯綜しておりまして,時間も足りずに,一人ないし二人の意見があるだけで,そのままで次の論点に移っているものもあります。今回整理された中には,そういう意見を尊重して,最初に資料で出されたのとは少し違う形で取りまとめがされているものがあります。しかし,時には議論が十分ではなかった部分がありますから,そのまとめが認識として必ずしも共有されているとは言えないと思いますので,ここで更にそのまとめ方について議論をしてよろしいでしょうか。さっきの筒井幹事の御説明では,今まで議論してきたことをこういう形でまとめることが妥当かどうかだけを議論して,議論を蒸し返すのは時間的にも難しいのではないかというニュアンスにも受け取れました。しかし,時間が足りず議論不足というところがかなりあるような気がしますので,そういう問題については更に議論をさせていただいて構わないと考えてよろしいでしょうか。 ○筒井幹事 お尋ねの点については,部会資料21に書かれている文面をどのように修正するかという範囲内で議論していただけると大変有り難いと思っておりますが,それは松岡委員がおっしゃったような議論を排除しようという趣旨ではありません。 ○松本委員 過去の討議資料と一々照らし合わせていないので,簡単にお答えできるならお答えいただきたいのですが,ここの中間的な論点整理案の中には3ランクの色付けがなされていて,多くのものが継続検討になっているわけです。他方で,当初の討議資料の中にいろいろな論点がありましたが,あの論点は全て基本的にみんな生き残っていて,継続検討になっているという理解でよろしいのか。あの中でも批判が多かったもので,落としているというのが果たしてあるのかないのか,その辺りですね。つまり,大部分は継続検討だけれども,その中にも相当ニュアンスの差があるのではないかという気もするわけですが,その辺は一切区分しないで,全て継続検討として残っているわけでしょうか。 ○筒井幹事 少なくとも今回の部会資料21「たたき台(1)」の範囲では,これまでの部会資料で取り上げていて今回落としたというものは,ありません。 ○深山幹事 今の御説明とも関連すると思ってお聴きするのですけれども,今回の中間的な論点整理をパブコメに付す目的ですが,今の御説明ですと,飽くまで論点整理に関するものであり,この部会の中でした論点整理の成果を広く国民に伝え,こういう論点を取り上げることでいいかを問うということ尽きるように伺いました。   この段階において拙速に方向性を余り絞り込まないほうがいいと基本的には考えているのですが,パブコメをするに当たって,取り上げることの当否の問いかけだけですと,ここの部会のメンバーは,これまで議論していますから,引き続きやりましょうと言えば,今までの続きをやるというイメージがわくわけですが,広く国民が,いきなり,この点を検討することでいいかと聞かれると,よほどのことがない限り,議論の内容はさておき検討してはいかんという話にはならないと思います。そういう意味では,もう少し踏み込んだ,内容の意見にわたる部分についても,先ほど必須ではないという言い方をされましたけれども,もう少し,それはそれで出しても構わないというニュアンスを出した問いかけの仕方をしたほうが,今後パブコメを受けてこの部会で更に検討する上で,参考になる程度が大きいのではないかと考えます。   文章の末尾の結び方の問題なのかもしれないのですが,必須ではないにしても,どう考えるかというニュアンスを出した問いかけをしたほうが良いと全般的に感じております。そもそも論点として取り上げる必要性があるかないかということを考える上でも,そこについてどういう考え方,意見を持っているかということと,実質的にはリンクする話だと思いますので,どういう考え方をするかを抜きに,ただ議論をすべきかどうかということだけを切り取って議論するのも,何か実態に合わないような気がしますので,その問いかけの仕方について工夫していただいたほうがいいのではないかと思います。 ○筒井幹事 ありがとうございます。個別的な論点の書き方にはきっといろいろ工夫する余地があるのかなと思います。個別的な論点の取上げ方として,留意点をもう少し書き込んだ方がいいとか,こういう内容の反対意見があることを書き込んだ方がいいとか,そういった様々な工夫の余地があるだろうと思いながら作業をしてまいりました。   その一方で,大きな視点といたしましては,広く国民一般にこの部会での議論の到達点を理解していただき,問題状況を共有していただく上では,本文のボリュームが著しく大きなものになっては支障があるのではないかという気がしております。ですから,本文のボリュームにはある程度限界があるのだろうと思います。それを補うものとして,あとは議事録を読んでくださいというのでは余りにも不親切なので,補足説明という文書の中に「議事の概況等」という項目を作って,そこで議事のエッセンスを紹介することにしようと考えたわけであります。   ですから,本文となる「たたき台」と,補足説明の中に書かれる「議事の概況等」,これらを併せてお読みいただくことで,議論の状況が理解いただけるようにしようと工夫したつもりであります。 ○鹿野幹事 今の点に関係するところですけれども,中間的な論点整理のたたき台としてまとめられている文章は,非常に抽象的でありまして,このようなものだけがパブコメにかけられるとすると,国民一般が広く意見を述べるということはなかなか難しいように感じておりました。ただ,今の御説明にありましたように,補足説明を併せて公表するということであれば,補足説明と中間整理を併せて見ることにより,具体像が明らかになり,意見を述べることも少しはしやすくなるのではないかと思います。   そして,確かにそれは一つのやり方だとは思うのですが,そうなってくると,補足説明というものが非常に重要な意味を持ってくることになろうと思います。ところが,先ほどの御説明では,補足説明は基本的に事務当局の責任でお作りいただくということでした。時間の限界もあるので,基本的にはそういう形を採らざるを得ないのだろうとも思うのですけれども,その補足説明についてはここでは全く議論はしないのか,その点をお聞きしたいと思います。補足説明の重要性に鑑みると,その内容がどういうものになるのかは非常に重大な関心事となろうかと思いますので,改めてその点をお聴きしたいと思うのです。   それからもう一つ,この文章の表現が,3通りに書き分けてあるということなのですが,その趣旨については,パブコメにかけるときにも明らかにすると理解してよろしいでしょうか。以上,2点をお尋ねしました。 ○筒井幹事 お尋ねいただきましたうちの2点目,文末の書き分けの意味については,補足説明の中で明らかにしようと思います。   この補足説明のうち,特に議事の概況等に何を書くのかということなのですが,最終的には事務当局の責任でということは繰り返し申し上げたとおりですけれども,しかし,本日以降の議論の中で,こういった内容を議事の概況等の中に書き込んでほしいという御指摘を頂くことは,全く差し支えないですし,それは大変有益なことだと思います。 ○松本委員 先ほども質問したわけですが,従来の民法(債権法)改正検討委員会,それから民法改正研究会,金山教授の時効研究会の改正提案は全て入っている,落ちこぼれていないとすると,そしてそれが全て継続検討のほうに割り振られているとすると,そちらを見てくださいというのとどこが違うのかという感じがするのです。   むしろ私は,これを読むときには,「何々としてはどうか」,それから「何々を置く方向で検討してはどうか」と書いてある部分,ここは何か方向性を出しているのだから,きちんと読んでコメントしなければならないだろうと思わせられましたが,「何々について,今後とも更に検討したらどうか」という趣旨の部分について,今おっしゃったとおり,相当スペクトラムのある論点について,十把一絡げにそういう整理がされているのだとすると,それについてどうこうというコメントはしにくいという感じがするのです。   ですから,むしろ方向性を打ち出している部分について,はっきりと意見を聴くというのは意味があると思うのですが,そうでない部分については,ここ数年挙げられた改正論点を引き続き検討していくことでいいか,はい,というような話になってしまいかねないのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 松本さんの今おっしゃった点は,そうなると思います。 ○松本委員 つまり,議論して,これは今回は出さないでおこうという部分がもしあるのであれば,かなり意味があると思うのですが,そうではないわけです。総出しなわけです。となると,むしろ方向性を打ち出しているものが意味があるということではないですか。 ○鎌田部会長 更に検討を続けるものが大部分であって,それはそうですねという話にしかならないという御指摘については,そういう性質のものにならざるを得ないと考えています。しかし,この議論が始まったときのことを考えれば,そもそもそんな議論すらする必要がないというのがかなり有力にあったことを思えば,今みたいにおっしゃっていただけるということは,この間議論してきたことに大いに意味があったということだろうと思います。 ○松本委員 恐らく今でもそんなことを議論する必要はないと思っている委員の方は,それぞれの論点についていらっしゃると思うのだけれども,実際に議論してきたことだからというだけの話だと思うのです。 ○鎌田部会長 そういう意味で,正に第1段階は,何をここでの審議の対象として今後とも議論の対象とし続けていくか,それとまた,議論の幅について,論点整理,それから論点整理に付加される補足説明,それ以上に,部会資料を参照しながら,どういうスタンスでこの問題について議論していくかということをこの段階でいったん整理し,それに基づいて具体的に第2クールではその中身を詰めていくという,そういう意味では非常に慎重な手順を踏ませていただいている。 ○内田委員 松本委員の御発言の中で少し気になる部分があったのですが,学者が作った案が三つぐらいあって,そこに挙げられた論点が全て盛り込まれているのだろうという御発言がありました。しかし,そうではなくて,学者が作った案が複数ありましたけれども,それは参考資料とした上で,その上で何を議論すべきかということを部会資料としてこれまでずっとお出ししてきたわけです。それを元に議論して,今日の対象領域については,これは扱う必要はないとして落とすことにこの部会の中でコンセンサスが得られたものがなかった。その結果,部会資料に載っているものは全て論点として落ちていません,ということです。ですから,学者グループが挙げた論点が全て入っているということではありません。飽くまでこの部会での1年間の審議を経て,議論の範囲を確定したというふうに理解をしております。   松本先生の,もっと中身を具体的に議論しないと意味がないという御趣旨は非常によく分かるのですが,鎌田部会長からも御発言がありましたように,当初は改正に対する立法事実はないという意見が非常に強く寄せられ,それを我々としては非常に重く受けとめ,留意しながら慎重に審議を進めてきたのだと思います。立法事実があるかどうかというのは,結局,改正の範囲に関わるわけですが,どのくらいの規模の改正をするかということ自体が真剣な議論の対象になっていたわけです。そして,1年間議論した結果,改正するかどうかについて真剣に検討すべき論点の範囲はこれだけあるということについて,この部会の中でコンセンサスができるのであれば,それを公表して,この規模での検討を更に進めていいかということについてのパブリックコメントをするということには,意味があるのではないかと思います。 ○大村幹事 内田委員がおっしゃったことには基本的に賛成ですけれども,先ほどから,文末の表現として「更に検討してはどうか」というのが基本形で,ほかに「何々の方向で」というもの,「何々として」というものの三つがあるという御説明がされています。松本委員のほうからは,「更に検討してはどうか」が非常に多いではないかという御指摘があったのですけれども,「更に検討してはどうか」は,内田委員がおっしゃったように,改正の外枠を画すとともに,この資料を拝見すると,「更に検討してはどうか」の中には,何に留意したかということが書き込まれているわけですので,この部分をこれから議論するということなのではないでしょうか。   もちろん,この先,中間試案を作成し,更に最終的な要綱を取りまとめる段階で,現在の作業に全面的に拘束されるということではないのだろうとは思いますけれども,一読が終わった段階で,我々が共通の観点として確認していることは何なのか,それをパブコメにかけて,そんな観点を重視すべきではないとか,もっと他の観点があるのではないかということを言っていただいて,それらを踏まえて次の議論の進むというのが,論点整理のたたき台について議論するということの,またパブコメの意義かと思いましたが,そういうことではないのでしょうか。 ○岡委員 さっき質問等はないかとおっしゃいましたけれども,中間論点整理をどのようにするかという意見でもよろしいでしょうか。   中井先生のペーパーの第1の点がその点に関することですので,後で朗読していただければと思います。このたたき台は年末に頂いたものですから,年末年始に多くの弁護士がこれを読みましたが,ほとんどの人がよく分からない,この本文だけ読んでも何を聴かれているのかがよく分からないという感想でした。   ただ,事務当局が御苦労されているのはよく分かりますし,補足説明と一体となって資料になるということも分かります。そこで,本文についてどうしたらもう少し分かりやすく有意義な,国民が読んで分かりやすくなるのかという工夫点を少し議論してまいりました。   まず第1点としては,なぜこの議論をしているのか。さっき立法事実というふうに内田先生がおっしゃいましたけれども,こういう問題があるからこの議論をしているのだと,判例法理があるので分かりやすくするためにこの議論をしているのだとか,債権者代位権のところであれば,今の実務がおかしいのでそれを直そうとしているとか,普通の人がなぜこの議論をするのかが分かるような,議論の目的みたいなものをもう少し書いたら,分かりやすくなるのではないかというのが一つございました。   それから第2点としましては,弁護士から見ると,この改正をすると実務が変わるのか変わらないのか,今の実務を単に表現し直すだけだという部分と,実務自体を変えようとする案であると,そういうことを明記していただくと読むほうが分かりやすくなるのではないか,そういう意見もございました。   ほかにもいろいろあったのですが,一番大きな意見としては,東弁の意見にあるような,なぜこの改正案が出されているのか,分かりやすくするという目的なのか,あるいは経済情勢の変化に合わせるという目的なのか,改正の理由を明らかにできないかというのが一つです。もう一つは,実務を変えるものか変えないものか,その観点も書き込んでいけば分かりやすい有意義なものになるのではないか,その二つの意見が強く出されました。 ○潮見幹事 私も,先ほど鎌田部会長がおっしゃられたことでいいと思っております。改正案という言葉が岡先生のほうから出ましたが,この1年間,私どもがやってきたのは,もちろん最終的にはこういう案に改正しようということは出てくると思いますけれども,その前段階として,どういう論点があるのかということをここでいろいろ考えて議論する作業でした。もちろん議論し切れなかった部分はあるでしょうけれども,そういうものとしてこの1年間の審議をやってきたのではないかと思います。   そうした中で,私どもが債権関係に関する制度やルールの中で見出した論点について,いきなり中間試案,いわゆる改正案的なものを提示する方向に走るのではなくて,今の段階でまず整理された論点を基に,国民の方の意見を聴くという方向に持っていくというのが,先ほどの説明にあったことではなかろうかと思います。それ自体は,正に手続を進める上でいい方向ではないでしょうか。かえって今ここで改正案的なものを出してしまうと,今,こういう案が決まっているのですということをいうに等しく,その方向で意見を聴いて,賛成か反対かということを問うのは,これまでやってきたことに対する誤解を生じるのではないかという懸念があります。それゆえ,先ほどご提案されたような形で議論をこれから先進めていくことについて賛成する次第です。   もちろん,なぜこういう論点が出てきたのか,なぜ改正の必要があるのかといったような部分については,審議会で過去に配られた資料等を見ていただいて判断していただくしかないと思います。ただ,それでも,これまでに配ったものではなお分厚くて分かりにくいということなら,それを要約したようなものを付けるか付けないかというところで工夫するのが良いと思うところです。 ○高須幹事 今までの議論を受けてでございますが,今,岡先生から御指摘があったように弁護士会で議論しておりますが,ともかくパブリックコメントを充実したものにしたいと,これが一番の出発点だろうと思います。そういう意味において,分かりやすいものでなければならないと考えております。そこで,実社会に影響があるとか,今までの扱いと変わるというようなことがあるという場合には,そういうことも触れて意見を求めたほうが,答えるほうもそれを踏まえて答えられるのではないかと,こういう意味で充実したものにしたい,これが出発点なのだろうというふうに理解しております。   その意味で,先ほどの2点のほかにもう1点は,今,潮見先生がおっしゃったこと,あるいは部会長がおっしゃったこととも重なるわけですが,方向性を出す場合には,慎重にといいますか,現時点ではまだニュートラルに慎重にやっていただくことが大事ではないか。先ほどの御指摘ですと,3通りの書きぶりにするということですから,そうすると,その方向で更に検討するとか,こういうことでどうかという表現にするというのは,何らかの価値判断を部会においてしているというニュアンスが伝わると思いますので,そのこと自体を否定するわけではありませんけれども,そこは慎重に,ある程度のコンセンサスが得られた部分に限るということにすべきと思います。ここで改めて,4回なり6回なりの今後の部会の会議の中で検証して,ここはまだそこまでいっていないというところであれば,無理に方向性は出さないほうがいいのではないかというようなことを考えております。 ○筒井幹事 本日御欠席の中井委員から,中間的な論点整理の取りまとめ方についてということで,総論的な意見を頂いておりますので,朗読する形で紹介いたします。   たたき台では,基本的に,「~検討してはどうか」といった形で極めて抽象的な論点の提示がなされている。しかし,このような,「検討してはどうか」という問いかけであれば,その回答としては,当該論点を今後さらに「検討することに賛成である」というほかには,「ほかのことも検討すべきである」(論点漏れの指摘),または,「そのことは検討不要である」(主として改正不要の指摘)といった回答となりかねない。   しかし,パブリックコメントの主眼は,各論点について具体的な問題点を示した上で国民がどのような意見を持っているのか(各論点に対する改正の要否やその方向性・内容についての積極的意見)を表明してもらうことにあるはずであるから,各論点について,国民が具体的に意見を表明しやすい形で中間的な論点整理をするのが好ましい。   もとより,中間的な論点整理をするに当たって,事務当局で,改正の要否やその方向性・内容を一定の結論に誘導するような形で取りまとめることが好ましくないことは言うまでもなく,たたき台は,この点への配慮が強く感じられるところではあるが,それが行き過ぎると,論点の提示として抽象的で曖昧となり,国民にとって具体的で建設的な意見の表明がしにくいという問題が生じるおそれがあり,たたき台では,その懸念が顕在化しかねないように思われる。   たたき台は,極めて簡潔に,かつ,抽象的に論点を整理していることが,意見の表明を困難にしかねない一つの理由であるように思われる。もとより,部会資料の検討事項と併せて補足説明が用意され,そこで,各論点についての具体的な問題意識とそれに対する複数の見解や部会における議論の状況が紹介されるなど,国民の意見表明の参考となる資料が提示されることになるものと思われるが,そのことを考慮するとしても,「中間的な論点整理」本文の中に,各論点についてもう少し具体的に問題点を整理して指摘し,その問題解決について複数の方向性や見解があるときは,それらを簡潔にまとめて紹介したりして,それらに対して国民の意見を求めていることを明示し,国民が意見の表明をしやすい形にすることが望まれる。   国民に分かりやすい民法を目指す以上は,国民に分かりやすい,国民が具体的で建設的な意見を表明しやすい内容と形式でパブリックコメントを求めるように最大限の努力をすることが強く求められていると考える。更なる工夫を検討していただきたい。 ○岡委員 今の中井さんの第2段落のところですが,「具体的な問題点を示したうえで国民がどのような意見を持っているのかを表明してもらうこと」,弁護士会としてはこのようなことが中間論点整理の目的と思っていたのですが,先ほど来の事務当局の説明だとそうではないということになるのですか。 ○鎌田部会長 中身の理解の仕方にもよりますけれども,先ほど筒井幹事から説明がありましたように,この論点整理を踏まえて,ここで論点とされたものについて第2クールで検討し,そして中間試案で具体的な内容が提示されて,それをめぐっての意見を求めるというのが,多分,岡委員,中井委員がおっしゃられているようなものになってくるのではないかと思っているところです。   まだ東京弁護士会の意見の中身を詳細に拝見しておりませんけれども,A案,B案,C案というふうに整理して,それぞれのメリットとデメリットを書いていくというほど,一つ一つの案についてここの部会で審議をしてきたかというと,これまでの部会の審議は,こういう問題について議論の対象とすること,それから大まかな考え方の方向性や対立点までは明らかにしてきましたけれども,具体的な案の一つ一つについて,部会の審議を事務当局において整理すれば一覧表示できるような内容での審議はしてきていない。それにはまだまだ不十分であると考えているので,今の段階で事務当局が整理できるのは,ここに要約されたこと,その背景にある部会資料に詳細に記述されたことというのが,現時点までのこの部会での役割だったのではないかと考えているところです。   よろしいでしょうか。先ほど筒井幹事から,時期は今の段階では明示できませんけれども,次のステージでは中間試案の策定を目指すこととして,その中間試案が策定された段階で,もう一回パブリックコメントの機会を持つという具体的な提案があったわけでございますけれども,この点については御承認いただけますでしょうか。 ○岡委員 もう1回あるいはもう2回パブコメは是非していただきたいというのは弁護士会の意見ですので,その点については弁護士サイドとしては了解できると思います。しかし,せっかくやるのだから,もう少し分かりやすく親切に,先ほど筒井幹事も,賛否の意見は必須ではないが,否定はしないとおっしゃっていましたので,せっかくやる以上は,議論の到達点を紹介し,国民が反応できるものは反応しやすく,そういう工夫は是非していただきたいというのは,弁護士会の意見として申し上げておきます。 ○鎌田部会長 分かりました。今日の審議対象の部会資料21につきましても,この点の表現をもう少し工夫しろという形で御提案を頂ければと思います。   それでは,恐縮ですけれども先に進ませていただきます。   まず,部会資料21の1ページから2ページまでの「第1 履行の請求」について,御意見をお伺いいたします。これは,特に説明は必要ないと思いますので,直接御意見を頂ければと思います。 ○佐成委員 第1の1の「請求力等に関する明文規定の要否」というところでございますけれども,この御提案は,末尾が「どうか」となっているので,置く方向というふうに見受けられるのですが,改めて内部でいろいろ議論をしましたところ,明文規定を置くこと自体にやや異論がございまして,このまとめ方で本当にいいのかということでございます。   なぜそのようなことを言うのかと申しますと,言い方はよくありませんけれども,このような教科書的な規定は実務ではそもそも不要であるという意見とか,こういった教科書的な規定や,これに類したものをどんどん置いていくと条文数が増えてしまって,かえって分かりにくくなるのではないかという意見とかがありましたので,この論点についても慎重に考えてほしいということでございます。もちろん,経済界には,仮に明文規定を置くのであれば,ここに掲げてあるような請求力だとか訴求力といったものを書き込むこと自体については,それほど違和感はないのですけれども,是非書いてくださいというような,そこまで強い意見は現段階ではございませんので,この末尾の記載は「更に検討してはどうか」とか,せいぜい「方向で検討してはどうか」という形でおまとめいただけると,現時点での経済界の意向には沿うのではないかと思われますので,是非御検討いただきたいと思います。 ○筒井幹事 異論があるということであれば少しトーンダウンすることになるのかなと思いながら,御発言を聴いておりました。そういった御発言があったことを踏まえて,次のバージョンでまた考えたいと思います。   今の御発言にありましたように,条文数が著しく増えていくとすれば,そのことでかえって分かりにくくなるのではないかという懸念は,部会の初期のころ,第1回会議で大島委員からも御指摘があったところだったと思います。個別の論点について,それは結構だけれども,その積み重ねで条文が増えていくことについての懸念を,いろいろお持ちなのかなというふうに承りました。そういった御意見の紹介の仕方については,議事の概況等などに書き込んでいくべきなのかと思いながら聴いておりました。 ○鎌田部会長 それでは,ほかの御意見,お願いします。 ○深山幹事 2番目の414条のところについて,最後のなお書きの記載ぶりの点についてですが,「引き続き第3編債権に置く方向で検討してはどうか」ということの意味合いについて伺います。民法の編さんの仕方については,20回目でしたか,最後に議論をして,幾つかの御提案が委員,幹事の先生方から出されましたが,それを拝見する限りでは,今の民法の五つの編を基本的には維持する意見が出されていたかとは思うのですが,別にその方向性が決まったということではないとすると,第3編が債権だということをここで書かれているのは,そこに意味合いが余りないのであれば,読み込み過ぎなのかもしれませんが,ここの意味するところは,編についての議論は前提になっていないという理解でよろしいのでしょうか。 ○筒井幹事 この部分の記載自体は,第3編債権という編の位置ないし名称が変わらないことを含意しているのではなく,物権的請求権などにも適用されることを視野に入れて現在とは違う置き場所に配置すべきではないかという議論があることを意識して,必ずしもそういう方向の意見はなかったこと,引き続き現在で言えば債権編の位置にこの規定を置くことで良いのではないかということを表現しようとしたものであります。 ○深山幹事 余り積極的な議論をしたわけでもないし,物権的請求権についての強制履行のことを意識した議論をしてはいなかったのですけれども,そもそも,民法にこういう規定を置くかどうか,手続法との架橋のような規定を置くかどうかということとも関係すると思うのですが,仮に置くこととした場合にも,それは債権に関する強制執行に関する規定だけを念頭に置けばいいのかどうかということは,なお議論すべきであるように思います。ここは方向性を示しているだけなので,別の意見があればそこで出せばいいということであれば,余りこだわるものではございませんが,そこが少し気になったところです。 ○山本(和)幹事 別の点で,今の第1の2の部分の2段落目のところでありますけれども,前段と後段に分かれているのですが,後段の執行方法の一覧規定を置くという点については,私自身は若干の懸念を持っているということは,部会で申し上げました。そのこと自体は「更に検討してはどうか」となっているので,これで結構だと思うのです。   ただ,前段のほうは方向性が出ているわけですけれども,この段落全体を見ると,執行方法の一覧規定を置くかどうかはともかく,執行方法の問題というのは,実体法的規定か手続法的規定かの区別が困難なものであって,それについて手続法で詳細な規定を設けることはともかくとして,それは妨げないとして,一般的・総則的な何らかの規定を民法で考えるということに読めるのですが,詳細な規定ということの意味にもよるのですが,何となく日本語的に言うと,手続法は細則を決めることで,基本的な部分は,執行方法について民法で決まるというふうにも読めるような感じがいたしまして,もしそうだとすれば,私自身は必ずしもそれには賛同できないと考えております。   ですから,前段も「更に検討してはどうか」なら別にいいのですけれども,ここで方向性を打ち出されるのであれば,もう少し慎重な,「手続法において詳細な規定」というところを何か別な形で書いていただくか,あるいは「実体法と手続法を架橋するような一般的・総則的な規定」というのをもう少し明確化していただくか,何らかの形で,もう少し明らかにしていただければというのが私の希望です。 ○筒井幹事 今,山本和彦幹事から御指摘があったことは,第3回会議だったでしょうか,前回の議論でも御指摘いただいたことで,私はそのように理解はしておりましたので,御指摘があったように「詳細な規定」という言葉でうまく表現できているのかどうかという問題なのだろうと思いました。その点について,考えさせていただきたいと思います。 ○山本(敬)幹事 別の点で,2ページ目の「4 履行請求権の限界」について,このようなまとめで良いのかという指摘を二つほどさせていただければと思います。   まず,第1段落で,「履行請求権の限界に関する規定を設けることとし」という点は良いのですが,「その判断基準」について,「契約の趣旨という契約内在的基準」と「社会通念ないし社会の取引通念という契約外在的基準」を「総合的に考慮できるものとする方向」というのが,本当にこれで良いのかということです。   第3回会議の議事録を見返してみますと,そこでは,この二つの基準は「二者択一」のものではないのではないかという意見が何人かの方から出されていました。そして,「二者択一」のものでないということの意味については,厳密に言うと,二つの理解が示されていまして,一つは,「社会通念」が基準になるといっても,それはデフォルトであって,契約の趣旨からそれと異なることが出てくる場合はそれによる。その意味で両者は「二者択一」のものではないという理解です。それに対して,もう一つは,「社会通念」と言っても,それは当該契約から離れた客観的なものではなくて,当該契約の性質や内容に照らした規範的評価ではないか。つまり,「契約の趣旨」が要であって,そこに社会通念に相当するものが組み込まれている。その意味で両者は「二者択一」のものではないという理解です。   これは,いずれの考え方にしても,この二つの基準を「総合的に考慮する」というのとは,少し違うように思います。どうすれば適切に言い表すことができるか,なかなか難しいのですけれども,もう一度議事録を読み返していただいて,適切な表現に変えていただくように御検討いただけないかと思います。   もう1点は,2段落目の部分ですが,これと第1段落との関係がもう一つよく分からないということです。つまり,第2段落では,「具体的な履行請求権の限界事由」については,「信義則上の限界事由等を念頭に置きつつ,更に検討してはどうか」とされていますが,この「信義則上の限界事由」と先ほどの第1段落で示されていることとの関係がよく分からないと思います。これも,第3回会議の議事録を見返してみますと,岡委員の御発言だったのですが,どちらかといえば,追完請求が出された場合,つまり損害賠償を含めて複数の救済手段が考えられる場合を念頭に置いて,交渉の実務では,信義則上の限界や損害軽減義務といったもので,そこまでの救済を求めることはできないというような交渉をすることがあるという御指摘がされていました。この部分は恐らくそれを受けたものだと思うのですが,果たしてここまで一般的な形でまとめられるような御指摘だったのかといいますと,そうではないように思いました。かえって,ここでこのような形で「信義則上の限界事由」と言いますと,先ほどの「契約の趣旨」や「社会通念」と違うものを想定しているのかといった無用の疑問や混乱をもたらすおそれもあるように思いました。   したがって,この部分は,削除するか,あるいは,少なくとも御発言の趣旨に沿ったものに修正する必要があるのではないかと思った次第です。 ○中田委員 ただいまの山本敬三幹事の発言の前半の部分に関連してです。私も,読んでいて大丈夫かなと思いましたのは,契約内在的基準と契約外在的基準という言葉でして,やや強過ぎるのではないかという印象を受けました。この表現自体は,部会資料5-2の13ページで既に用いられて,第3回会議で出ていたものですけれども,まとめとしてこういうふうに記載されますと,表現がひとり歩きしてしまう危険もあるかと思いますので,この内在的,外在的というのはもう少し工夫したらいいのではないかと思いました。 ○村上委員 「履行請求権の限界」について,一定の方向を打ち出せるほどの十分な議論がされたと言えるのかどうかについては,やや疑問があると私も思います。 ○鎌田部会長 4の第2段落は削除してしまうというのが山本敬三幹事の一つの提案と理解してよろしいですか。 ○山本(敬)幹事 少なくとも第3回会議での御発言は,このような提案をするというほどの強い御意見ではなかったように理解しました。ですから,削除でも良いのかもしれませんが,せっかくの御発言の趣旨が全く残らないことになりますので,残すのであれば,違う表現で趣旨に沿ったものに変えていただければということです。 ○岡委員 信義則上という言葉は,確かに私も使ったのを議事録で確認しましたが,そのときの趣旨は,規定まで設けると窮屈になるのではないかと,信義則的な一般論でいいのではないかという趣旨でした。弁護士会で議論して,「規定を設けることとする方向で」というコンセンサスまではないのではないか,先ほど村上さんがおっしゃったように,設けることの方向性まで議論はされていないのではないかというのが弁護士会での強い意見でございました。 ○鎌田部会長 それは前段のほうですね。 ○岡委員 はい。 ○潮見幹事 一言だけ。履行請求権の限界の話がいろいろ出ているのですが,私も若干違和感があると同時に,他方で,どういうふうにまとめたらいいのかという点はかなり難しいとも感じました。と申しますのは,先ほど山本敬三幹事が整理されたような方向で履行請求権の限界を考えるのが基本的には良いと思っているのですが,当日の議事録を見た限りでは,そうしたきれいな整理を必ずしもされずに,社会通念か,それとも契約の趣旨に照らしてなのか,あるいはどちらも総合的に考慮すべきではないのかとかいう議論が入り乱れ,こんなにきれいに整理できるのかと思しき内容の意見を出された方々のほうが多かったのではないかという感じがいたします。   また,直前の岡委員のお話もありましたように,履行請求権の限界に関する規定を設ける方向でいこうというところまでいったかどうか,私は設けるべきだと思いますけれども,そこまでいったかどうか,まだ若干ニュアンスがあるところではなかったかと思いますので,履行請求権の限界に関して社会通念あるいは契約の趣旨といったような基準を考慮に入れて,更に検討してはどうかというように,まずは置いておいて,提出された意見がどういう形で,どういう観点から限界というものをパブコメで書いてくるのかを見極めるのも一つの方法ではなかろうかと思います。   後段の信義則については,岡委員が外していいということであれば,ここまで強く出す必要もないのかなと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ただいまちょうだいしたような意見を踏まえて,次の論点整理案をさせていただきます。 ○松本委員 潮見幹事の最後の発言で,こういうふうに書けばこういう意見が求められるから書くべきというような御提案がありましたが,それは筒井幹事の先ほどの説明と矛盾しませんか。つまり,こういうふうに書けば,具体的にここはこういう文言がいいのではないかという提案が出てくるのではないかと,そういう意見を誘発するためのパブコメなのかということです。パブコメの目的は何かという先ほどの議論なのですけれども,こういう論点を今後とも議論しますよ,いいですかということではなかったですか。それとも,その中身について積極的な御提案を下さいということを求めますか。 ○筒井幹事 先ほど来の議論の中では,言葉としては松本委員の御指摘のようなものもあったかもしれませんけれども,基本的には,この論点の中身をどういうふうに表現するのか,それが適切に伝わるのかということについて,議論が深められてきたように私は感じております。考慮事項でありますとか留意事項でありますとか,そういったことをどのように表現するとこの論点の意味がうまく伝わるのかという意味で,先ほどの議論は私は大変有益だったのではないかと思います。 ○松本委員 聴いていることとお答えが少しずれていると思うのですが,つまり,「何々してはどうか」とか「何々する方向で検討してはどうか」というのは,かなり方向性を示している文言になりますから,それに対しては意見がかなり出てくると思うのです。今でもいっぱい出てきましたよね。これに対してはそこまでまだコンセンサスがないという趣旨の意見,あるいはそういう方向はよくないという意見が多分出てくると思うのですが,そうでないところの「更に検討を継続してはどうか」という,恐らく七,八割はそういう整理の仕方をされています。その部分に対してのパブコメをすることが,それについて具体的な御意見をお出しくださいということをエンカレッジするのであれば,先ほど弁護士会から出ているような,もっと中身に踏み込んだ内容にならないと意見を出せないではないかということになると思うのです。 ○筒井幹事 積極的な方向性を殊更に出して意見を求めようとすることは,意図しておりません。これは最初に私が申し上げたことですけれども,この部会のこれまでの議論の到達点として一定の方向のコンセンサスがあるとすると,そのことを現時点で確認しておくのは有益だということで,3通りの書き分けをしたわけであります。   先ほど来の議論では,ここでは方向性を確認するほどには,一致点,コンセンサスはなかったのではないかという御意見があったので,その点については書き直すことも含めて,事務当局のほうで更に検討しようと思いますけれども。 ○松本委員 それは分かっているのですが,つまり方向性をこの中で出しているまとめ方と,出していない,つまり論点としては従来どおり残っていますよという整理の仕方とあるわけですね。方向性を比較的出しているところの上の二つのランク,恐らく1割から2割ぐらいについては,法制審議会の意思がかなりはっきり出ているわけだから,当然,パブコメをする側としても,注意深く点検して意見を述べてこられるだろうと思うのですが,そうでないところの,論点として生き残っていますよと,ただその場合にはこういう点,こういう点が検討すべき事項として,審議会の中では意見が出ていたという部分も含めた論点生き残りリストですから,そこのリストの部分について,何を国民の皆様から求めるのかという点で,先ほどから二つの異なった意見が出ているわけです。一つは,その論点について具体的な対立点等を明らかにした上で,積極的に意見を求めたほうがいいのではないかという意見と,そうではなく,論点のリストであり,議論の幅を示しているものである,これで継続して議論してもいいのですかということだけを答えていただければいいという意見。各論点に関わる具体的改正提案等についてコメントを求めているわけではないというのが事務当局の御説明だったと私は理解しているのですが,それでよろしいですか。 ○鎌田部会長 それはそれでよろしいです。 ○山野目幹事 4の論点の扱いについて私なりの提案がございます。「方向で」というのを避けて,「更に検討してはどうか」というランクにするのが良いのではないかという御提案が1点です。それから,契約内在的基準と契約外在的基準という言葉を避けて,社会通念と契約の趣旨という言葉を残した上で,更に文章を練っていただくのがよろしいと感じます。   1点申し添えますと,松本委員が御心配のことは,内容それ自体よく分かりますが,潮見幹事のおっしゃったことに少し誤解があったように感じます。潮見幹事は,ここの文章を余り狭くする態度決定をして踏み込むということをしないで,パブリックコメントを待とうということを抽象的におっしゃったのみであって,パブリックコメントの趣旨については,恐らく理解を共有しておられると見えました。 ○道垣内幹事 4は大体済んだということですと,申し訳ないのですが,3に戻りたいのです。3の最後の文章の「併せて,代物請求権を履行請求権ではなく追完請求権の具体化と位置付けることの法的意義の検討を踏まえつつ,追完請求権の要件となる「不完全な債務の履行」の意義について,更に検討してはどうか」というのが,よく分かりません。   第1に,恐らくは,ここで言う「不完全履行」とか「不完全な債務の履行」とかという言葉は,民法の普通の教科書における説明,つまり,債務不履行には履行遅滞と履行不能と不完全履行がある,というときの「不完全履行」とぴったり重なるかどうかが必ずしも明らかではなく,むしろ別の概念であろうと思うのです。ここにおける「不完全履行」とか「不完全な債務の履行」とかというのは,追完請求権が生じる要件としてはどういう履行状態を考えればよいかという意味で用いられているのであり,そうすると,「不完全履行」という,これまで一定の意味を持って使われてきた言葉は,避けたほうが誤解を生じせしめないのではないかと思います。   第2点といたしまして,「代物請求権は履行請求権ではなくて追完請求権の具体化である」と書いてあるのですが,本当にそうなのか私には分かりません。それを「踏まえつつ」と言われると,みんなそう考えていたのか,と私はびっくりしてしまいます。そうではなくて,ここで明らかにしようとしているのは,代物請求ができる場合はどういう場合かということを具体的に検討していきましょう,それはよろしいでしょうかという話だと思いますので,もっと端的にそういうふうにお書きになればよろしいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 今の御意見を踏まえて,少し修正を検討してください。   ほかに,履行の請求に関連して御意見ございますでしょうか。もしよろしければ,次の「債務不履行による損害賠償」の1及び2について御意見をお伺いします。 ○道垣内幹事 よろしいでしょうかと言われるとちょっと困るのですが。と申しますのは,履行請求権に関しては,第1の1のところで,単純に,債権者には履行請求権があるのだと書くという可能性を示しておいて,4において,しかしそれは常ではないでしょう,限界があるでしょうという話をするという形になっているわけですが,追完請求権に関しては,3のところで既に限界の議論に入っているのですね。そうすると,5のところとどう書き分けるのかというのが,例えば私がパブコメを求められたというときに,多少戸惑う点があるように思うのです。3と5を分けられた趣旨について御説明を頂き,その趣旨が説得的なものであれば,そのようなことが分かる形で修文をする必要があるのではないかという気がいたします。 ○鎌田部会長 これは事務当局から。 ○大畑関係官 3と5を区別した意図ですが,単純に部会資料5-2の論点の分け方に沿って書くほうが参照しやすくて分かりやすいだろうと考えたということです。部会資料5-2の記載に沿って追完請求権そのものの規定と限界事由の規定の論点を書き分けたつもりですが,これまでの議論を踏まえて更に整理して書き分けるべきだという御指摘だと思いましたので,検討してみたいと思います。 ○潮見幹事 中身に立ち入るわけでは決してありませんが,道垣内幹事の御質問の御趣旨等も含めて,私が見たところでは,3のところで書かれているのは,追完請求権に関する一般規定を設けるべきか否かという論点,それと,「また」のところは,追完方法が複数ある場合の選択に関する規定というものを設けるべきかどうかという論点,それから,飛んで5のところは,仮に追完請求権というものがあったとして,その限界事由をどのように考えるかという点に関する論点と,追完請求権についてはこの三つが入っていると思うのです。   したがって,こういうことではいかがかという形で御検討をお願いしたいのは,1が履行請求で履行請求権の問題。そして,2,3飛んで4が履行請求権の限界となっているところ,1は履行請求権に関する明文規定の要否でいいのですが,4を1の次,すなわち2の前に置くか2の後に置くということで整理していただけないだろうか。それから,3と5ですが,後のところでも(1),(2),(3)という分類もされていることですから,「3 追完請求権」とした上で,(1)で追完請求権に関する一般的規定の要否,(2)として追完請方法が複数ある場合の選択権,それから,(3)として追完請求権の限界事由というようにしたほうが,分かりやすいのではないかと思います。さらに,それでもなお,私が言ったところの(2)と(3)が若干かぶるということであれば,そこで尋ねている内容は違うのだということを分かりやすく書いたほうがいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 どちらの理由も成り立つような気がするので,御意見を踏まえて事務当局のほうで検討させていただければと思います。 ○内田委員 道垣内さんの御意見では不完全履行という言葉は避けるべきだということですが,何か代案はありますか。 ○道垣内幹事 すみません。まだ代案は具体的にはないのですが,言葉が今までの言葉と同じですと,私自身が読んでいて引きずられたものですから。しかし,少し違うのかなという気がしたもので,発言だけさせていただきました。申し訳ございません。 ○沖野幹事 言葉だけの話ではあるのですけれども,履行の請求関連のところで,「履行の請求」,「請求力等」,それから「履行の強制」,「任意の履行を請求する」,「履行請求権」というのがそれぞれ出てきます。もちろん,部会資料ですとか補足説明を読めば分かるということだと思うのですが,もともと概念として非常に分かりにくいところがあります。取り分け履行請求権というのがどれを指しているのかが,この文書の中で分かるように連関付けをする必要があるのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 その点は検討をお願いします。   よろしければ,第2の1及び2に進ませていただきます。 ○大島委員 まず初めに,中間的な論点整理のたたき台として,非常に分かりやすい資料をおまとめいただいたことにつきまして,部会長はじめ事務当局の方々の御努力に心から敬意を表したいと思います。   「第2 債務不履行による損害賠償」の2の(2)「「債務者の責めに帰すべき事由」の意味・規定の在り方」については,第3回会議で異なるお立場から多くの御議論があったと記憶しております。その中で,私も中小企業の実務者の立場から,契約の拘束力に帰責根拠を求めた場合,契約交渉能力の格差を反映して,一方当事者に不利な契約が締結されるおそれが高まるなどの懸念を申し上げたところです。   資料の3ページの下から5行目にございます「債務不履行による損害賠償責任の帰責根拠については,判例が必ずしも過失責任主義を採用しているわけではないとの認識を確認した上で,帰責根拠を契約の拘束力に求めることが妥当かという点について,更に検討してはどうか」という部分については,こうした議論を踏まえてまとめてくださったものと認識しておりますが,会議当日は契約の意味についても非常に多くの意見が呈されたと思います。   その際,鎌田部会長から,「契約により引き受けている,いないというと,やはり契約書に何を書いているかというのが重要,それが全てであるかのような受け止め方をされる傾向が強いと思うのです。しかし,全く契約条項を定めていない契約であっても,類型的に何を引き受けているかというのは決まっていく,そういう意味では規範的な概念であって,書いたものを意味しているのではないということをまず議論の前提にしていただかないと,この主張をしている考え方自体の理解が狂ってきてしまうのだろうと思うのです。その後は,言葉の持つ力で,いろいろ言われたような,寝た子を起こすようなことが起きるかもしれない」という御発言がございました。   また,「帰責の根拠として,どういうことを考えているのかという問題と,それを表現するのにどういう文言を使えばいいかということをできるだけ切り分けて議論をしていただければと思います」という御発言がございまして,中小企業の経営に携わる私にとりましても大変分かりやすい整理をしていただいたと思いました。   私は,契約の概念については,議論するに当たって実務家にとって非常に重要な前提になると思います。たたき台において,部会長の御発言も踏まえながらこうした議論があったのだというプロセスについても,分かるような表現ぶりで整理していただけると,各界の皆さんの理解も深まりますし,有り難いのではないかと存じます。 ○潮見幹事 大島委員がおっしゃられた点については,特に私はどうこうということはございませんが,関連する箇所で若干,書き方について御検討あるいは再考をお願いしたいところがございます。   2の(1)については,全面的な書き直しをしていただけないかというお願いです。別に私の考えを押し付けるというわけでは決してありません。それだけは誤解のないようにお願いいたします。   それから,2については,1か所,言葉を補ったほうがいいのではないかというところをお話しさせていただきたいと思います。(1)ですが,これを読みますと,責めに帰すべき事由という要件が後段にしか書いてないから,前段にも,判例で及ぶようにしているから,そういう方向で「規定内容を見直すものとしてはどうか」と書いているのですが,この書き方をされますと,全ての債務不履行について帰責事由が,あるいは責めに帰すべき事由という言葉でもいいのかもしれませんが,要件となるという読み方になります。帰責事由を要件とすべきであるという方向で明文を作れという提案とも受け取られかねない記述内容になっているのではないかと思います。   しかし,債務不履行を理由とする損害賠償における責めに帰すべき事由というものをどう考えるかということについては,いろいろな議論がありました。むしろ,(1)で言わんとしていることは,債務不履行による損害賠償の一般的な要件について,現行法で言う後段に書かれている履行不能とそれ以外の不履行を区別せずに,統一的に定める方向で検討をしてはどうかということではなかったかと思います。ですので,できればそのような方向で再検討をお願いしたいというところです。   それからもう一つ,(2)の,「判例が必ずしも過失責任主義を採用しているわけではない」という,これもいろいろな書き方があろうと思いますけれども,「過失責任主義」というところに括弧でも付けて説明をしておいたほうが,誤解がなくなるのではないかという感じがいたします。本日の席上で東京弁護士会がお出しになっている意見書をざっと拝見したところでも,若干その気がないわけではないと感じます。そうであれば,過失責任主義という言葉で何を考えているのかについて学者の間にでも若干ぶれがあるようなところもございますので,人の行動の自由を保障する原理を指すものですというような補足といいますか,言葉を補っておいたほうがいいのではないかと思います。 ○高須幹事 今の3ページの2の(2),潮見幹事の御発言のところと相通ずるものがあるのですが,最初のところの「判例が必ずしも過失責任主義を採用しているわけではないとの認識」という表現については,ある程度の弁護士が,このことを非常に疑問視しております。   そういう意味で,今,潮見先生がおっしゃったように,そこに何らかの説明を付けるというのも一つだと思いますし,仮にそれが難しいようであれば,あえてここに,なぜ「過失責任主義を採用しているわけではないとの認識を確認した上で」という言葉を付けねばならないのかというところが疑問になりますので,そこの表現については,きちんとした説明が難しいようであれば,「判例の内容を精査・検討した上で」という程度の表現にとどめることができないかどうか工夫してみるべきだと考えます。基本的には,更に検討しようという,まとめ方でございますので,ここで取り分け何かの含みを持ったような主張をしているというふうに取られないほうが,ニュートラルな議論が今後できるのではないかと思っております。   それとの関係で,3ページの一番下から4ページにかけてのところでございますが,これを受けてということだと思うのですが,「「債務者の責めに帰すべき事由」という文言については,債務不履行による損害賠償責任の帰責根拠との関係で,より適合的な他の文言に置き換えることができるかどうか」という表現も,「より適合的な他の文言に置き換える」という言葉自体に,既に何らかの方向性が含まれているやに感ずる人も間々おりますので,ここも,「損害賠償責任の帰責根拠との関係で,他の文言に置き換えるかどうか,またそれが適当かどうか」というような形で,適合的という言葉をむしろ省いていただいたほうが,やはり議論ができるのではないかと思っております。 ○松岡委員 3ページの1の(4)「履行期前の履行拒絶」についてです。そもそもこの履行期前の履行拒絶については,議事録を読み直しましたが,それほど議論が深まっているわけではないと思います。特に「債権者に不当な利益を与えるおそれに留意しつつ」という表現が少し分かりにくいという気がいたします。   確か松本委員が,履行期前に損害賠償を取ることがそもそも認められるかどうかを指摘されていたと思いますが,補足の説明がないと少し分かりにくい気がいたします。 ○佐成委員 戻りまして,先ほど大島委員,高須幹事がお話しになったところでございます。2の(2)「「債務者の責めに帰すべき事由」の意味・規定の在り方」でございますけれども,私も高須幹事がおっしゃった意見に賛成でございまして,この論点は学界,実務界ともに非常に関心が高い論点であって,いろいろな意見がございますし,非常にセンシティブな論点ですので,できるだけ丁寧に書いてほしいと思います。   特に,「判例が必ずしも過失責任主義を採用しているわけではないとの認識を確認した上で」という表現ですけれども,この記載は,伝統的な通説とか判例の理解が過失責任主義であるということが前提になって書かれているのではないかと思われます。つまり,従来の伝統的な理解では,通説・判例は過失責任主義を採用しているとされているけれども,実際に現時点で判例を見ると,必ずしも過失責任主義を採用しているとも,採用していないとも,明確には言い切れないということではないかと私は思います。   つまり,判例だけを幾ら分析しても,それだけではこの論点の十分な決め手にはならないので,伝統的な過失責任主義の立場に捕らわれることなく,契約の拘束力を重視する立場も含めて,この論点はそもそも立法論として議論するわけですから,広く自由に立法論を議論してはどうかと,そういう趣旨だと思います。私はその点については全く異論がございません。   ただ,この表現ぶりでは,ややもすると,判例はもはや過失責任主義を採用していないというふうな一定の抽象的な評価が既に下されていて,それを部会メンバー全員が共有しているという誤った印象を受けるような気もします。そこで,この記載も,先ほど高須幹事がおっしゃったように,できるだけニュートラルにしていただけないかと思います。表現ぶりで一定の方向性を出してしまいますと,自由に意見表明ができなくなる可能性もありますので,例えば,「判例が過失責任主義を採用しているとも採用していないとも明確には言い切れないことを踏まえつつ」とか,あるいは,「判例だけではこの論点の十分な決め手にならないことを踏まえつつ」といったようなニュートラルな表現,基本的には表現ぶりは事務当局にお任せしたいと思いますけれども,分かりやすい表現でここを書いていただくか,あるいは高須幹事がおっしゃったように削除していただくか,そのような方向で検討していただければ有り難いと思います。 ○中田委員 今の点ですけれども,二つ意見がございます。一つは判例の認識ですけれども,これは,この点が審議された第3回会議の際には,その認識自体については特に異論がなかったのではないかと思うのです。ただ,今の時点で,それを改めて疑義があるとおっしゃるのであれば,それはそれを踏まえてということになるだろうと思います。私としましては,先ほど潮見幹事がおっしゃったような括弧なりを付けて丁寧に説明するということで,よろしいのではないかと思います。   もう一つは,同じ2の(2)のところですけれども,「帰責根拠を契約の拘束力に求める」ということについて疑義をお持ちの方もおいでだと思うのですが,ここは帰責根拠を契約の拘束力に求めるということと,一定の場合に免責されるということとを,2段階に分けて書くことも考えられるかなと思います。つまり,帰責根拠を契約の拘束力に求めることが妥当かというレベルの問題と,仮にそれを前提としたとして,一定の場合にどのような要件あるいは理由によって免責されるのかという免責の要件をどうするのかの問題があり,これを分けると,議論が少し整理できるのかなと感じました。 ○岡田委員 消費者契約に関しては,契約に至る経緯を十分に考慮して,判断や決定をするということが必ずしも全ての消費者に完全とは言えないものですから,意思主義というのは向いていない点が多いと思いますので,帰責根拠を契約の拘束力に求めることに関しては,不安があります。 ○深山幹事 2点あって,1点目は,直前の中田先生から御発言のありました,契約の拘束力に帰責根拠を求めるという考え方を採るという問題と免責事由の問題とを分けて議論するという点ですが,この点は私も全く同感でございます。理念として,帰責根拠について契約の拘束力を中心に考えるかどうかということと,帰責ないし免責の要件の問題というのは,関係はするのですけれども,必ずしもストレートに連動するわけでもないという気がいたしますので,そういう意味で分けて考えるということに賛成したいと思います。   それからもう1点,何人か前に松岡先生の御指摘のあった履行拒絶のところの「債権者に不当な利益を与えるおそれに留意しつつ」というのが分かりにくいという点は,私も分かりにくいと思って読んだのですが,これは私の理解が間違っていなければ,私がその種の発言をしたことを反映していただいたのだろうと理解しております。私が申し上げたのは,前倒しで損害賠償請求権を発生させるということになると,それは従来の債権者の地位以上のものを与えることになってしまわないかということです。履行拒絶を解除の要件の一つにするということはともかくとして,損害賠償請求権の発生根拠として認めることについては,従来の債権者の地位以上のものを与えるということになりかねないという懸念を指摘したことを反映していただいたもので,その議論を前提に「不当な利益」というふうに簡潔に表現するのは,間違ってはいないと思うのですが,これだけを読むと何を言っているのか分からないだろうと思います。   ちなみに,松本先生は私の発言を受けて,自分もそういうことを少し考えたのだけれども,必ずしもそうではないという,むしろ反対の意見を述べられていたような記憶ですので,そういう意味では,この発言の責任は私にあるということも併せて申し上げておきます。 ○鎌田部会長 3ページの1の(4)については,今御指摘のような点を踏まえて,少し事務当局で整理させていただきます。 ○大村幹事 少し戻りますけれども,先ほどから応酬のある3ページの2の(2)について,一般論とともに意見を述べさせていただきたいと思います。   これまで,様々な項目について様々な御意見,御提案が出ているかと思いますけれども,その中で,これまでの会議の席で,十分には議論されていない事柄が書かれているのではないか,それについては書かないほうがいいのではないかという御意見がたくさんあったかと思います。確かにそういうところはあるだろうと思いますけれども,この場で議論されて一定の認識が共有されているものについては,省略しないでむしろ書いたほうがいいのではないかと思います。   3ページの2の(2)について,書き方は,佐成委員がおっしゃったように工夫のしようはあると思うのですけれども,ここで言われているように,帰責根拠を契約の拘束力に求めるという考え方を採ったとしても,判例と矛盾するものではないということについては,議論されたのではないかと思いますので,そのことは書かれてもいいのではないかと思います。 ○道垣内幹事 私も,2の(2)のところですが,佐成委員等,過失責任主義は採られているのではないか,という見解と,過失責任主義ではないということは一致があったという意見の間には,恐らく差異がないのではないかと思うのです。例えば,今日頂いた東弁の資料におきましても,なす債務ないし手段債務については,過失責任主義が妥当していると言うべきであると書いてあるのですけれども,結局,当該なす債務において,債務者が何をすべきであったのかということを債権者側が主張して,それをしなかったということを主張していくというのが債務不履行責任を問う訴訟の在り方であるということを前提としたときに,それを,過失責任を問うていると言うのか,契約違反を問うていると言うのかというのは,恐らく言葉の問題にすぎなくて,事務当局が用意してくださった資料における「過失責任主義を採用しているわけではない」というのは,契約から生じる義務の違反のことを「過失」と呼ぶ場合の「過失」について書いているわけではなく,債権をそれを発生させた契約と切り離された存在であると観念した上で,そういった債権の侵害というふうな形で債務不履行を観念する場合における主観的意味における「過失」を前提とする「過失責任主義」を採っているわけではないということを書いているのだろうと思います。   ただ,ここを単に「過失責任主義を採用しているわけではない」と書きますと,確かに佐成委員がおっしゃったように,あるいは東弁の意見書に書いてありますように,現行法は過失責任主義ではないかという反論が出てくるのももっともであって,やはり言葉は変えたほうが良いのではないかと思います。   言葉を変えたほうが良いと申しますと,内田委員から,それではどう変えるべきなのかと問われると思います。そのために,潮見幹事がおっしゃったように,かぎ括弧を付けたうえで,「独立した云々」と書けばいいのかと申しますと,それではますます分かりにくくなるような気がいたします。むしろ,「過失責任主義」という言葉を用いず,「契約とは切り離された債務者の不注意を要求しているわけではない」とかといった説明のほうが良いのではないかと思います。 ○村上委員 2の(2)ですけれども,一般の人が読まれたときに,2通りの読み方をしてしまう書き方になっているのではないだろうかと思います。   一つの読み方は,「判例が必ずしも過失責任主義を採用しているわけではないとの認識を確認した上で,帰責根拠を契約の拘束力に求める」という考え方があって,そういう考え方を採るかどうかについて検討しましょうという意味です。もう一つは,「帰責根拠を契約の拘束力に求めることが妥当か」ということを検討しましょう,ただ,その検討をするに当たっては,判例が必ずしも過失責任主義を採用しているわけではないということが前提となりますという意味です。どちらか一つの読み方しかできないような書き方に変える必要があるのではないだろうかと思います。 ○鎌田部会長 それぞれ対処の大変難しい御提案をたくさん頂いたのですけれども,事務当局で少し工夫をさせていただくということでよろしいですか。 ○内田委員 ずっと前になるのですが,潮見幹事からの御発言で,3ページの第2の2の(1)を全面的に書き直してほしいという御意見があったのですが,2の(1)の本文2行目の「同様な帰責ないし免責の要件を」という表現は,潮見さん御指摘の御懸念に対応するために使っている表現なのです。これだけでは十分ではないということでしょうか。 ○潮見幹事 その後に「判例法理を」と書いておりまして,また,判例法理の理解の仕方でここの部分が,先ほど中田委員がおっしゃられたように,判例は過失責任主義を採用していないという前提で,それについては皆さん意見の一致を見ているという理解をして読んでいただければいいのですが,そうではなくて,ここで判例と言っているのは通説が言っている過失責任主義のことではないかと取られると,ちょっと違った意味合いになるのではないでしょうか。 ○内田委員 分かりました。 ○鎌田部会長 よろしければ,「3 損害賠償の範囲」から「7 債務不履行責任の免責条項の効力を制限する規定の要否」までについての御意見もお伺いいたします。 ○松岡委員 5ページの3の(4)についてであります。ここでは比較的に態度決定がはっきり出ていて,故意・重過失の場合の特則は設けないという考え方を基本としつつと整理がされています。しかし,この点については,三上委員がそのような趣旨の御発言をされていますが,結構時間が詰まっていて,最後のほうで時間切れになりました。そのときに言わなかったのだから今言うのはどうかと怒られるかもしれませんが,申し上げます。もともとの資料の案にはA,B,Cとあって,その中で特則を設けるのがA,B,設けないのがCとなっていました。三上委員は,Cの意見に近いことをおっしゃったわけですが,他方,この問題は予見可能性の基準時の問題と極めて強く連動しておりまして,4ページの(2)でありますとおり,予見可能時について基本的に契約締結時を基本とする考え方もなお検討の対象になっています。この考え方によれば,契約時には予見可能性はなかったけれども,違反時について悪意の場合には損害賠償範囲を拡張するという考え方も十分に成り立つわけです。(2)で態度決定をまだしないのであれば,(4)について先走って態度決定をしてしまうのは少し矛盾があるような気がいたしますし,先ほど申し上げたように,この点で御意見を出されたのは一人だけでしたので,資料の確定的な書き方は再考していただけないかと思います。 ○村上委員 6の(1)についても,先ほど2の(2)で申し上げたのと似たようなことなのですけれども,「金銭債務の不履行についても免責を認める余地があることを前提に」というのがどういう意味を持つのか,二通りの読み方が可能な書き方になってしまっていると思いますので,読み方が二通りにならないような書き方に変えていただきたいと思います。 ○中田委員 二つあります。   一つは,4ページの3の(1)です。この中で,「予見可能性ルール(保護範囲説・契約利益説)」という表現がありますが,この趣旨が分かりにくいのではないかと思います。特に,「予見可能性ルール」とか「契約利益説」という言葉は,近年の有力な学説が使っている言葉ですけれども,それほどなじみのない人も少なくないのではないかと思います。それから,予見可能性ルールと保護範囲説や契約利益説の関係も,括弧の中に入れられるものではないのではないかと思います。さらに,3の(3)で,予見可能性ルールという言葉がやはり出てくるのですけれども,(3)の言葉と(1)の言葉が同じかどうかということについても疑問があるのではないかと思います。ということで,3の(1)及び3の(3)の「予見可能性ルール」という言葉について,更に吟味されてはどうかと思います。それが一つ目です。   2番目は,6ページの6の(2)でございます。「利息超過損害の賠償」について,このまとめ方を拝見しますと,現行規定を変更しないという方向性がかなりうかがえることになっているのではないかという印象を受けました。第3回会議の当日の議論ですけれども,部会資料5-2の中で,利息超過損害の賠償を認めることが望ましいという考え方が紹介されたのに対して,それに対する疑義が委員の中から出てきて,それがここに反映されているということだろうと思います。しかし,時間の関係もあり発言が出にくかったのではないかと思うのですが,部会資料5-2で出された考え方に対して,むしろその方向を支持するという見解は決して少なくないのではないかと思います。そこで,(2)の書き方を積極的な意見もあり得るということを反映させていただいたほうがいいのではないかと思いました。 ○潮見幹事 直前に中田委員がおっしゃられた6の(2)について,意見を申し上げたいと思います。この書き方ですと,少し気になるのは,「判例法理の当否について,更に検討してはどうか」ということになっています。判例法理の当否というものをここで検討するのではなくて,正に先ほど出ていたような出だしの部分,「金銭債務の不履行における利息超過損害の賠償請求を認めるべきである」という考え方があるけれども,それについて更に検討してはどうかということではなかろうかと思います。   さらに,「更に検討してはどうか」というところも,これも誤解のないように,あるいはどちらかの方向にぶれない形で書くのであればということなのですが,「指摘があることも踏まえ」というのは果たして要るのか。これは概況等という形でいずれ公表されるのかもしれませんが,そちらのほうに落とし込んでもいいのではないかという感じがいたします。   それと併せて,この問題というのは,かつて議論がされた場で申し上げたとは思うのですが,利息超過損害の賠償を認めるべきではないという考え方を支持する論者の方々が,ここにも書かれているようなこと以外の理由として,利息超過損害の賠償を認めてしまうと,賠償範囲が際限なく拡張されるおそれがあるというような観点から疑問を提示していたようなところもあったと思います。むしろ,そのような懸念に対しては,決して無制限になるわけではなく,債務不履行の損害賠償に関する一般法理によって処理されることになるということも,詳細版のほうに書かれていたかと思いますので,これは論点整理という形では挙げる必要はないかもしれませんが,何らかの形で概要の部分で少し分かりやすく説明を加えておいたほうがいいと思いました。 ○岡委員 今の6の(2)のところですが,冒頭に申し上げたことにも関係しますけれども,更に検討する対象は,一般的に否定している判例法理を変えるかどうか,一般的な判例法理を変更する明文化について検討しているということだと思いますので,今の判例法理を変えることが検討対象だというふうに分かるように書いていただいたほうがいいと思います。   それともう一つ,潮見先生が,「指摘があることも踏まえ」という段落を取ったほうがいいということでしたけれども,この段落は弁護士会は非常に好感を持って受け止めているところでございますので,せっかく書いたものは消さないで,この部分は残していただきたいというのが意見でございます。 ○潮見幹事 後半のほうは別にいいかと思いますが,前半におっしゃられたことについて私は反対です。ここの部会では,判例法理を前提として,変えるならそれを変えましょうという形で検討しているのではありません。判例は判例として捉えた上で,しかしその判例というのは,今の実体民法を前提として展開されているものだから,判例を前提としてそれを変えるかどうか,いいか悪いかという形で課題設定するというのは,ここの部会の当初の出発点とは大きく違うことではないかと思いますので,その部分については,そうはしていただきたくないというふうに申し上げたいと思います。 ○岡田委員 また消費者レベルで申し上げますが,「4 過失相殺」のところなのですが,「(1) 要件」のところで,3行目に「判例・学説の解釈を踏まえ」というふうにありまして,判例でそういうふうにほとんどなっているというのですと,仕方がないのですが,債権者に過失がある場合について,消費者センターに消費者が相談してくる場合にもっと早くに相談してくれればよかったというのが余りにも多いものですから,「損害軽減義務の発想」,これは消費者にとっては負担が重すぎると思えます。相談現場で相談を受けている立場からすると,ここまで入れられるとなると,消費者被害の救済が後退する感じです。 ○岡委員 潮見先生の発言ですが,ここをどううまく書いていただくと分かりやすいかという話だと思います。こういう判例法理が今まであったけれども,社会経済状況の変化に伴い今後は見直すべきではないか,そういう検討をしているのでしょうか。超過利息損害の賠償を認めようという立法提案が出ているわけですから,その立法提案が判例法理にも関わらず今検討されているというのは,こういう判例法理が今まであったけれども,社会経済の実態に合わなくなったので変えようと,そういう検討という表現がぴったりしているのでしょうか。 ○鎌田部会長 「判例法理の当否」というと,立っている次元が少し食い違ってくる感じがしますので,岡委員の御指摘も踏まえて,どういう形で書くのが今の問題状況を一番正確に表現できるか,事務当局に工夫をしていただくということで引き取らせてください。 ○岡委員 もう1点だけ。岡田さんの発言の追加ですが,弁護士会でも同じような懸念を示す意見がございまして,具体的には「損害軽減義務の発想を導入するか否か」のところに,こういう弊害もあることを踏まえと,損害軽減義務についてはそういう弊害があることの指摘を是非入れていただきたいという意見がございました。 ○松本委員 一般的な質問をしたいのですが,中間論点整理の文言をどうしようかというところで今のような様々な随分細かい議論がなされているわけです。それは国民一般の方にコメントしてもらいやすいようにする,誤解を与えないためにはどうすればいいかという趣旨だと私は理解しているのですが,むしろ,ここの文言に法制審議会の第2ラウンドが拘束されるのではないかという前提の下に,どういう文言を入れるべきかという小競り合いをやっているのかなという印象が大変強いのです。もしそうであれば議論を全部やり直していただきたいと思うのです。そうではなくて,もっとフリーに第2ラウンドで議論をできるということだと私は理解しているのですが,それでよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 当然です。ただ,それぞれ,こういうふうにまとめられると一生懸命しゃべったことがここに反映されていないという御感想をお持ちになる向きもあるかもしれませんので,細かい議論も出てくるのだと思います。ただ,ここに全部盛り込むのではなくて,補足説明の中の「議事の概況等」の中で処理させていただくこともあるかもしれませんが,その点は少し工夫の余地を事務当局にお与えください。 ○松本委員 継続検討ということが最後に書いてあるのだけれども,その前提に書いてある,「何々を踏まえ」とか,「何々の考え方を基本としつつ」とかという部分は,単なる例示であって,そこの枠から外れたらもう議論できない,つまりマンデートの枠が決められるというわけではないですよね。 ○鎌田部会長 そういうわけではないです。 ○鹿野幹事 先ほど岡委員がおっしゃったことに基本的に賛成の方向での意見を,一言申し上げたいと思います。まず,先ほど議論のあった6ページの「利息超過損害の賠償について」に関してですが,私はこの部分の記載を,「金銭債務の不履行における利息超過損害の賠償請求を認めるべきであるという考え方に対しては,消費者や中小企業等が債務者である事案において債務者に過重な責任が生ずるおそれがあるとの指摘がある。このことも踏まえ,利息超過損害の賠償請求を認めるべきか否かについて,更に検討してはどうか。」という形にしてはどうかと考えております。   さらに,より一般的な形で申しますと,要するに,基本的な提案とそれに対する疑問点ないし批判が挙げられ,対立点がある程度明確になっている部分については,簡潔にであれその対立点を含めてここに示すことが,分かりやすいパブコメにつながり望ましいのではないかと思います。本日,最初のところで私は,中間整理のたたき台の記載が非常に抽象的で,これだけを見ても意見を出しにくいのではないかという懸念を申し上げました。もちろん補足説明が付くということでその点は理解しましたが,補足説明が付けられるとしても,本文がまず重要であることは言うまでもありません。そこで,対立点がはっきりしているものについては,この6ページの問題に限らず,それを中間整理の本文の中で示すべきだと思いますし,それをお願いする次第です。 ○鎌田部会長 ありがとうございます。   それでは,「第3 契約の解除」についても御意見をお伺いいたします。「第3 契約の解除」につきましては大きな論点がたくさんありますので,まず,「1 債務不履行解除の不履行態様等に関する要件の整序」,「2 「債務者の責めに帰することができない事由」の要否」,この二つの項目についての御意見からお伺いいたします。 ○岡委員 弁護士会の代表的な意見が中井ペーパーに出ておりますので,可能でしたら,中井先生のペーパーをお読みいただけますでしょうか。 ○筒井幹事 では,本日御欠席の中井委員から事前に頂いた発言メモを読み上げる形で紹介いたします。   民法第541条「債務を履行しない場合」及び民法第543条「履行の全部又は一部が不能となったとき」の限定の要否について。   たたき台では,検討事項における整理と同様に,債務不履行解除の要件のうち不履行の態様等に関する判例・学説が,付随的義務等の義務違反や軽微な一部不能等による解除が否定されていることを踏まえ,その判例法理等を明文化する方向で検討を進めることとし,その上で,上記判例法理等における解除を否定する要件について,「重大な不履行」ないし「付随的義務違反」等の内容や程度に関して議論の整理を試みている。しかしながら,かかる整理の方向については,部会の議論の過程で,「催告」の位置付けをめぐって,実務家の委員や幹事から多くの疑問が提示されたところである。そこで,催告解除を基本とした上で,催告して不履行でも解除できない場合(不履行でも解除が否定される要件),あるいは,催告を要することなく解除ができる場合(無催告解除が認められる要件)とはどのような場合(要件)かについて議論できるように論点整理をすることとしてはどうか。このような解除の要件について「催告」を起点とする整理(手続的明確性を重視する整理)に対して,「不履行の重大性」を起点として(不履行の態様等の実質を重視して)解除の要件を整理する見解を取り上げて,それらを等しく対比できるように論点を整理して,解除の要件を検討することとしてはどうか。   解除の要件論は,実務に与える影響が大きいので,中間的な論点整理をするに当たっては,「催告」の位置付けに十分配慮した上で,論点整理の内容・方法,その記載順序も含めて,更に,慎重に検討していただきたい。 ○大畑関係官 今,中井委員から発言メモという形で御指摘いただいた点につきましては,第4回会議においても強く出された意見だと思います。そのことを踏まえて,そのことを反映させる形で今回の中間的な論点整理のたたき台を作ったつもりです。   その趣旨を簡単に説明させていただきますと,中井委員が御指摘された手続的明確性を重視する整理と不履行の態様等の実質を重視して整理する考え方というのは,必ずしも議論の中身について対立するようなものではなくて,最終的に議論すべき内容というのはかなり重なってくるのではないかと考えています。   ここでの論点での一番の出発点というのは,まず判例・学説があらゆる不履行について解除を認めているわけではなくて,軽微な違反ですとか付随的義務等の違反については,解除を認めていないと考えており,これは広く共有できる考え方ではないかと,そうであればこれを明文化してはどうかということがまず出発点にあるのだろうと思います。   といいますのも,この考え方は,履行不能であっても履行遅滞であっても等しく妥当する考え方ではないかと思いましたので,まずその点について,①から③までにおいて論点として整理しました。その上で,④以下は,無催告解除と催告解除の要件についての議論で,この点についてはその二つを明確に分けて,それぞれの要件を検討してはどうかということを書いたつもりです。さらに,その中では,⑥において,催告解除はこれを原則にすべきだと,手続的要件の意義を重視すべきだという考え方を前面に出した上でまとめたつもりです。   ですので,基本的に中井委員の御意見を取り入れて書いたつもりのものではあります。この点を説明させていただきたいと思います。 ○潮見幹事 いろいろ御苦労いただいて整理されたと思います。大変な御苦労があったと思います。ただ,私自身は,中井委員とは解除の捉え方自体に対しては若干考え方が違うところがございますが,しかしながら,整理の仕方については,中井意見と同意見というか,それに近いものがございます。   整理された文章の柱書きと言ったらいいのでしょうか,前文と言ったらいいのでしょうか,判例法理を明文化する方向で更に検討するなどというような観点から,この部会でこの議論をしたつもりは,少なくとも私はございません。ここで問題になっている①から⑦の並び方も,どうしてこういう並び方になるのかというのが,今説明を伺っても私はよく分かりません。むしろ,議論の全容を,しかもある程度どの立場によるかということに関わりのないような,できるだけニュートラルな形で申し上げますと,ここの柱書きと前文を別にして言えば,①から⑦まで挙がっているうちの出発点に来るのは⑥ではないでしょうか。   ⑥の内容も,中井委員と私の意見で少し違うところがありますが,いろいろな意見があったと思いますので,催告解除と無催告解除の関係に関しては良いとしても,その次のところは,一方で,催告解除と無催告解除のいずれかを原則とし,他を例外とする考え方があったと思います。他方で,催告解除と無催告解除とでは想定される適用場面が異なることから,必要に応じて両者を区別して規定すべきであるという考え方もあったと思います。そういう様々な意見があったことを踏まえると,冒頭に来るのは「催告解除の正当化原理の内容及び無催告解除の正当化原理との異同の検討を踏まえて,更に検討してはどうか」ということではないでしょうか。   それを受けて次に来るのが,一案としては,催告解除のことをまず論点として置き,そして,ここからは枝はどうでも流れていくと思いますけれども,例えばその次に④が来て,無催告解除,ここは括弧を付けていただければ有り難いと思うのですが,「従来の不履行等を理由とする解除」みたいな,そんなイメージですけれども,「無催告解除が認められる要件については,不履行の程度に着目し,重大な不履行がある場合とする考え方,不履行の程度によらず,催告が無意味である場合とする考え方─この意見もあったと思います─,主たる債務の不履行があり,契約の目的を達成することができない場合とする考え方などがあることを踏まえて,更に検討してはどうか」というのが来て,その後に②とか③とか⑤とか⑦が来るというのが,並びとしては,あるいは実際にパブコメを書こうという形でお読みになる方からすると,分かりやすいのではないでしょうか。   あるいは逆に,今述べたのは催告解除から入った書き方ですけれども,別案として,重大不履行等を理由とする解除から入って,それで催告解除のほうに流れていくか,どちらかにしないと,一体ここでどういう観点から何をどう意見として申し上げたらいいのかというのを書くほうが悩むし,場合によっては,意見をお書きになられる方が自分のスタンスに混乱を来すというおそれなしとしないところがありますので,どちらでもいいですから何とかしたほうがいいと思います。 ○松本委員 先ほど潮見幹事に対して私が言った疑問がまたここで出てきたのですが,つまり,このパブコメは何を目的にしているのですかということです。具体的な改正提案について,どういうのがいいかというのを聞きたいのであれば,正におっしゃったとおり,こういう意見の対立があり,法制審議会はこういうふうに理論的に考えていますが,あなたはどう思いますかという問いかけになりますが,そうではないというのが事務当局の御説明だったと思うのです。こういう論点を今後とも継続的に議論していいですかということを聴いているだけなのであって,そういう意見を出してほしいというのであれば,そういう書き方に全部直したほうがいい。それが正に弁護士会が言っている主張なわけです。 ○鎌田部会長 それとも違って,第3の1の(1)で述べようとしていることの全体像が少し見えにくい,それをどう整理したほうが見やすくなるかという,そこの工夫の問題ですね。 ○潮見幹事 そうです。それだけのことです。   ついでに一言だけ言えば,私がこうあってはいけないと言っているのは,こちらで改正案としてこういう考え方がありますということを中間試案として提示して,それについて賛成か反対か,その理由を言えというような形での聴き方はやめたほうがいいのではないかということです。一般的に論点を示して,その論点についてどう思いますか,論点と扱っていいですか,はい,いいえということだけではなくて,それに対して何か意見を言うようなきっかけができるのであれば,その書き方のところで,この中で共有することがあれば,それは書いても別に構わないのではないかと思います。 ○松本委員 私は,書いても構わないかどうかという話と,書くほうをエンカレッジするためのパブコメなのかという基本的な視点の違いを言っているので,書いてはいけないと言ったところで弁護士会は書くでしょう。そういう話ではないと思うのです。書いてもらうためのパブコメなのか,そうではなくて単にこういう点で今後も議論していきます,いいですかというだけのものなのかということなので,出してもらった意見をきちんと取り上げるのであれば,意見の出しやすい形に中間論点整理はしないと駄目であって,現在の状況ではそれが非常にやりにくい状況です,はっきり言いまして。 ○鎌田部会長 繰り返し申し上げているように,内容に関する賛否の意見を積極的にお出しくださいという段階では今はないということです。ただし,この問題についてこういう視点から議論を続けていくこと自体がおかしいとか,同じ解除の問題を取り上げるのでも,取り上げるのだったらこういう視点からやりなさいと,こういう形の意見はあっても構わないです。だからそういう意味で,こんな考え方でやっていきたいけれども,それについて,具体的な内容に踏み込んだ意見を積極的に出してくださいということを特に求めているわけでは,今の段階ではないけれども,そうした意見が出てくれば,それは次の段階の議論に何らかの形で反映されることは……。 ○松本委員 つまり,議論の方向性を決定付けたいのであれば,「という方向で検討してはどうか」というふうに,はっきりと書けばいいわけです。 ○鎌田部会長 そういうものも,これまでの議論の中でほぼ異論がなかったものについては,そういう形の整理になっているわけです。 ○山野目幹事 2点ありまして,1点目は,今,部会長が整理なさったように,潮見幹事と松本委員の間にはどうしても豊かな誤解がありまして,私が聴くところでは,潮見幹事は,特定の意見をエンカレッジするために何か文章の改定をお願いしているような発言は一貫してされていないと感じます。パブリックコメントの受け手が分かりやすく書くにはどうしたらいいかということを心配なさっておられるので,それは松本委員のお考えと共有されていると見ております。   2点目ですが,潮見幹事の御意見を伺っていて,お尋ねというか感想ですが,るるおっしゃったことは分かりますとともに,最後に,逆の書き方もあって,どちらかはっきりしてほしいとおっしゃったのですが,逆の書き方というのは,多分この部会資料が書いている流れなのだろうというふうに私は理解しました。それで,逆に⑥の催告解除と無催告解除の関係から書き始めるというのは一つの考え方であろうと思いますし,従来の学界論議を専門的に見ていた方,あるいは法律家の目から見るとそのほうが分かりやすいのかもしれないのですが,おっしゃった,ある流れとその逆のどちらが,読んでみて,潮見幹事が御心配なさっておられるとおり,一般国民をも含めて分かりやすいのかということは,微妙であるという感じが率直なところいたしました。そして,それは,ここで御意見をお出しいただいて決められれば良いことであると感じます。 ○高須幹事 私も中井先生の先ほどのペーパーと同じような意見でございまして,ということは,今の潮見先生の意見とも基本的には一緒ということになるのですが,催告解除と無催告解除の関係から入ったほうが,ここの問題のパブリックコメントを求める上では,求められたほうの人が書きやすいのではないかと思います。その意味で,⑥の論点から入るということも一つかなと。さらに,⑥の表現の中で,「催告解除の正当化原理の内容及び無催告解除の正当化原理との異同の検討」とだけ例示されているわけですが,恐らく正当化原理の異同のことだけ考えてくれみたいな印象ですと非常に書きにくくなると思いますので,併せて,更には解除実務に与える影響の検討も含めて,更なる検討をしてはどうかという形で,理論的な面だけではなく,実際に法を使う立場の人はこう思っていますというような意見も寄せられるような形にしていただければと思っております。 ○鎌田部会長 これは,①から⑦までをずらっと並べるのが妥当か,大きく二つの基本的な発想の違いに応じて考える論点が変わってくるということを分かりやすく整理するのか,その辺のところを工夫してもらったらどうでしょうか。 ○筒井幹事 今,部会長におまとめいただいたとおりに,改めて検討させていただきたいと思います。こういう配列でたたき台をお示しした理由は,大畑関係官から説明したとおりなのですが,少し付け加えますと,この論点について部会で議論したときには,確かに催告解除と無催告解除の区別が強調されたのですが,もともと,重大な不履行という要件に置き換えるという立法提案に対しては,現在よりも解除を制限しようとするものではないかといった批判があり,そもそも立法の必要性が一体どこにあるのだといったような議論がされていたと思います。かなり昔のことのようにだんだん思えてきますけれども,そういうことがかつてあり,それに対して,部会の議論で共有された問題の所在を的確に伝えるためには,付随的な義務違反などについて判例が解除を否定しているという,そのことを確認した上で議論を進めていってはどうかというのが,一つの考え方,並べ方としてあり得ると思っております。しかし,いろいろ議論がありましたので,改めて考えてみたいと思います。 ○内田委員 よく分からないところがあるので教えていただければと思うのですが,現在の部会資料は541条の現行法からスタートして書かれているのですね。現行法は催告解除が原則ですので,条文には債務不履行があれば催告をして解除できるというルールが書かれている。ところが判例は,どんな債務でも催告解除を認めるかというと,認めていないので,その判例を明文化するためにはどうすればいいかがまず論点なるでしょう。判例の文言そのものを使えば,要素たる債務という,債務の種別を分けているような言い方をしていますので,債務の種類,付随的な債務かどうかということで分けるというやり方も一つあるけれども,しかし催告解除した結果,それが重大な不履行と評価できるかどうかというようなやり方もあるだろう。そういう,債務の種類でいくか債務不履行の大きさでいくか,二つのルートがあり得るということを最初に①で書いて,そのつながりであとの部分がずっと書かれている。これは全て現行法の541条を前提にして書かれていることですから,中井先生の言われる催告解除を基本形とするという,正にその構造で書かれているように私は理解していたのですが,そうではないでしょうか。 ○岡委員 実務家が単純だけなのかもしれませんけれども,催告解除が原則で頭にあると。催告解除ができない場合が確かにありますねと。それについて,内田先生のおっしゃったような議論をして何か整理しないといけない,それはすっと頭に入ってきます。それとまた別に,催告しなくても解除できる場合だって判例法上ありますから,それも整理しましょうと。そう書いてくれると,普通の実務家は分かりやすいというのが多くの意見でございました。 ○内田委員 ですから催告解除に続いて,④のところで判例上無催告解除が認められている場合があるので,それは一体どういう場合か,これを明文化するかという話が書かれているわけです。伺っていると,何か特定の学者グループの提案を前提として解除の構造を捉えて議論しておられるような印象を私は持ちましたが,現行法からスタートするとこうなるのではないかと思います。 ○高須幹事 内田先生の御指摘を聴いて,なるほどそうだったのかと疑問が氷解はしたのですが,ただ,一般的には541条から入っているから,催告解除は前提になっておりますという理解をできている人はそんなに多くないと思うのです。そういう意味では,パブリックコメントというのは正に特定の人を対象にして意見を求めるわけではないわけですから,飽くまで541条が前提だということであれば,そのことを分かるような形で書いていただければよろしいのではないかと思います。私どもがついていけないだけなのかもしれないのですが,催告解除が原則にされておられますということであれば,その旨が早い段階で表現の中に出てきたほうが,やはり分かりやすいのではないかというふうに,引き続きお願いしているような形で申し訳ありませんが,そういう印象を持っております。⑥を①にするとまでは言わないまでも,早い段階で,催告解除が民法の原則ですということは触れていただいたほうがいいのかもしれないと思います。そこ自体が実は議論になっているのではないかと私どもは理解していたものですから,それに対応する形で議論してきたつもりなのですが,誤解かもしれませんが,そのような認識を持って発言させていただいた次第であります。 ○鎌田部会長 (1)の最初の柱書きの部分の書き方の工夫にもよるかもしれないですね。できるだけ分かりやすく,取り分け伝統的な考え方にしっかりなじんでいる方にとってもすっと頭に入りやすい整理の仕方を,いま少し工夫をしていただくということにします。 ○松本委員 議論を聴いていると,①の読み方が分かりにくいのです。つまり,催告解除の流れから書いているというふうに内田委員が説明されたのだけれども,いきなり「重大な不履行」という言葉が出てくるわけで,これは重大な不履行ということであれば,無催告解除だという別の議論をすぐにほうふつさせてしまうわけです。他方で,催告さえすればどんな違反でも解除できるというわけではないという意味の重大な不履行なのでしょうが,そうではない議論が先に来ているように見えてしまって,重大な不履行,無催告解除,これが原則だという議論のように思わせられるというところがあると思うのです。   そこで,二重の意味というか,それぞれの考え方の人によって勝手な解釈をして,批判したいほうに解釈をすると,そういう方向になるのではないか。だから,①は書き方をもう少し工夫されたほうがいいと思います。 ○鎌田部会長 その点は工夫をしてもらうことにします。 ○岡委員 今,第3の終わりまでいっているのですか。 ○鎌田部会長 今は,第3の1と2について御意見をお伺いしているところでございます。 ○佐成委員 1の(1)の②の論点について,この論点自体はこの表現でいいと思うのですけれども,選択的に幾つかの案が示されていて,これらを踏まえて更に検討してはどうかとなっておりまして,具体的な案が示されております。それで,実務界には,この選択によって取引実務に相当大きな影響を及ぼすだろうという強い懸念をされる方がいらっしゃって,それはどの論点でも,もちろん取引実務には大きな影響を及ぼすのですけれども,取り分けこの論点では,案の選択に当たっては,「取引実務に与える影響も十分踏まえつつ」という程度の記載を追加してもらえないかと,そういう要望がございました。ここだけこのような記載をするというのはバランス上どうかという気もするので,中間的な論点整理作業を一通りやった後で考慮していただきたいということでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。特になければ,ここで休憩を取らせていただきたいと思います。ただ,このペースでいきますと,今日の予定を終えるのが難しい感じにもなってまいりますので,是非後半は,こちらのほうの議事進行ももう少し要領よくしたいと思いますけれども,整理して御意見をお出しいただければと思います。よろしくお願いします。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは再開いたします。   部会資料21の8ページ,「第3 契約の解除」のうち「3 債務不履行の解除の効果」以降について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○岡委員 これからは余り長い意見はないので,議事進行に協力できると思います。   5番の複数契約の解除のところでございます。これについては,何々とする方向でどうかという表現ぐらいのコンセンサスはできているのではないかというのが弁護士会の意見でございます。 ○奈須野関係官 2点あります。   1点目は,「解除による履行請求権の帰すう」についてです。これは表現ぶりの問題ではありますが,付随的な義務や附帯義務の履行については解除があっても履行が請求できるという理解ですので,例えば,個人情報の保護や秘密保持契約といったものが該当しますが,このようなものが落ちてしまわないように表現を工夫していただけると分かりやすいと思います。   2点目は,「5 複数契約の解除」についてですが,岡委員の御意見とは反対ということになります。私が以前発言した趣旨が議事録上うまく表現されていなかったものと思いますが,複数契約が同一当事者間で締結された場合に限らず,異なる当事者間で締結された場合も規律すべきと申し上げたのではなく,契約の目的達成に一体不可分なときは,その全部又は一部が解除できる場合がある,と言ったにすぎません。ここで要件となっているのは,当事者間が同一か否かという問題ではないだろう,ということを申し上げたわけです。   ここで申し上げたい趣旨としては,このような規定を設けることによってあたかも同一当事者間の契約については全て解除することができるかのような,原則と例外を逆転させるような誤った理解が広まる可能性があるため,そもそもこのような規定は置くべきではない,と申し上げたわけです。具体的な要件設定について更に検討するのではなく,このような規定の要否について更に検討していただきたいということです。 ○岡本委員 「5 複数契約の解除」のところでございまして,部会の議論のところで,三上のほうからは特に発言はしていなかったのですけれども,この点については,複数の法律行為の無効の論点のところで,私が申し上げた反対意見と同じ理由で反対したいと考えておりまして,今,奈須野関係官がおっしゃられたように,反対意見もあることが分かるような記載にしていただきたいと思います。 ○油布関係官 今の御意見にほぼ重なるところではございます。ここは第11回の議論の複数法律行為の無効のところと議事録を実際読んでみますと,かなり慎重な意見も多かったように理解しております。一つは,何らかの要件設定自体を議論するのはいいにしても,本当に適切な要件設定が可能かどうかというのは相当難しいという意見もかなり出たように思います。今の部会資料21の原文だけを見ますと,具体的な要件設定について,かなり方向性が出ているようなニュアンスを感じるので,例えば,奈須野関係官がおっしゃったような表現ぶりにするとか,適切な要件設定が可能かどうかとの観点から,更にその要件設定について検討するというような書きぶりが適切ではないかと思いました。 ○鎌田部会長 「5 複数契約の解除」に関連して御意見がありましたら,この際全部出していただければと思います。 ○岡田委員 消費者の立場からしますと,クレジット契約とか,最近は4社契約,5社契約が増えていますので,これはこの書きぶりでお願いしたいと思います。 ○鎌田部会長 そういう意味で正に「更に検討してはどうか」とせざるを得ない状況ですので,何を検討の対象にするかについて,ただいまの御発言を踏まえて,少し事務当局で工夫してください。 ○松本委員 それでまた発言したいのですが,ここに書いてあることに拘束されるわけではないという確認を先ほどもさせていただいたわけで,パブリックコメントをするためのものにすぎないのであると。「何々について」と書いてあっても,それ以外は,今後我々は第2ラウンドで議論できないわけではない。だから,ここにどういう文言で書こうが第2ラウンドの議論は拘束されないわけですね。 ○鎌田部会長 それはそうなのですけれども,基本的なここでの議論のポイントであるとか対立点が簡潔に明示できるのであれば,それを明示しておいたほうが,それに関連した御意見をお出しいただくことがより容易になるということで……。 ○松本委員 だから,そういう方向性を出したいのであれば,「何々する方向で」というふうに書いたらいかがですか。 ○鎌田部会長 それは方向性ではないのですけれども,そこが御理解いただけていないのですけれども,どういうところについて重点を置いて議論をしていくつもりであるかということを示したいのであって,これは正に今,方向性が全く二つ,両極に分かれているわけですけれども,それをどこでどういうことが分かれているのかが分かったほうが,広く意見を求めやすいというのであって,どちらかの方向性を提示しようという趣旨で申し上げたのではない。 ○松本委員 ただ,文言の書き方が,具体的な要件設定について検討するのであれば,これは設けるという方向のもとに,具体的な要件として何が適切かを検討するというふうに読めるわけです。他方で,それに対しては反対だという意見もあるわけです。 ○鎌田部会長 だから,そういうふうに読まれないような表現にしたほうがいいということを工夫してくださいということを事務当局にお願いしました。 ○松本委員 我々は拘束されないわけですね。何回も確認しますが。 ○鎌田部会長 それはそうです。ただ,拘束されないということを強調すると,何も書かなくてもいい,表題だけあればいいということになるわけですが,そうはならない。 ○松本委員 こういう論点はまだ我々は議論します,詳細な議論については,議事録とか詳細版をお読みくださいということでいいわけですよ。そこに文言を入れようとするから,こういう方向に誘導したいのではないかという疑心暗鬼を抱かせることになるわけで,そういうことに対する反対意見が出てくるというおそれがあるわけです。 ○鎌田部会長 ですから,できるだけ疑心暗鬼をなくすような表現が可能であればそうしたいということです。   それでは,5以外のところについての御意見を頂ければと思います。 ○佐成委員 「6 労働契約における解除の意思表示の撤回に関する特則の要否」というところで,この論点自体を議論することは大事だとは思うのですけれども,この論点を一般私法のルールを論じていく我々の使命の中で,一定の方向性を導くというのは非常に難しくて,むしろ労働政策上の観点から論じていったほうがより適切な論点だと思われます。   そして,このような労働政策上の議論をするのであれば,最も適切なフォーラムとしては労働政策審議会がございますので,今後の二読で,一般私法ルールの観点から議論を深めていくべき多様な論点が他にもたくさんありますので,この論点が一読の過程で出たということの意義は非常に大きいと思うのですけれども,これを二読の対象にしていって,生産的な議論が本当にできるのかというところに若干疑問があります。   今日は新谷委員がいらっしゃらないので,この論点自体の取扱いについてここですぐに決められないと思うのですけれども,もし新谷委員のほうで異存がなければ,この論点は二読からは外したほうが,ほかの論点に集中できて,より生産的ではないかと思いますので,御一考いただければと思います。 ○青山関係官 今と同じ場所についての意見ですが,趣旨は似ています。部会のときの意見も,労働契約上の具体的トラブルを捉えて,そういう場に対処できるように解除の意思表示を撤回できるようにすべきという御意見であっと思うのですけれども,そういう問題があることも否定はしないのですが,そのときも,では引き続きこの民法部会で債権法ルールの,民法改正の問題として検討していこうという認識の共有まであったかなというと疑問があります。当省は発言もしなかったので恐縮なのですけれども,当時,発言した新谷委員も,労働法の特別な領域であればそうかもしれないし,基本法の問題なのかどうかも含めて議論したいとおっしゃって,それに対して法務省の筒井幹事も,意思表示の一般ルールで捉えるものかもしれないし,雇用契約の特則かもしれないし,労働契約法との関係も出てくるということもおっしゃったので,正に今,佐成委員がおっしゃったフォーラムの問題,労働契約法なり,労働法制の問題として,労働政策審議会などで議論したほうがいいという議論は当然あり得ると思いますし,当省もそうは思っています。   ただ,実際出た意見なので,私もこの時点で,削除すべきというのはどうかと思い,そこまでは言い切れませんし,これをどう直したらいいかもはっきり分からないですが,フォーラムについても疑義があるし,もともとの議論のときにも,その点を留保した上でのお話が当時の発言者の間であったということも認識して,記載するならすべきだと思います。 ○山川幹事 おおむね同意見で,実はこういうようなことを検討してはどうかにつき,労働契約法制の検討の前段階で,研究会でこのような報告書において提案をしたということもありますので,検討の必要性自体はあるかと思いますが,先ほどのお二人の委員,関係官のお話でありましたように,例えば一つはこれを落とすというのもあろうかと思いますが,もう一つは,いずれの場で取り上げるべきかを含めて更に検討してはどうか。そういう形ですと,ここでの議論のまとめとしては,より正確になるのかなと思っております。 ○鎌田部会長 ほかに,この問題について関連の御発言ございますか。 ○筒井幹事 ただいま御議論がありました項目については,佐成委員から御指摘がありましたように,この部会のかなり初期の段階で新谷委員がされた発言に基づいて,事務当局でリストアップしたものですけれども,第一読会の後半の方の,特に雇用のときの議論では,新谷委員からやや異なるニュアンスの御発言もあったかなという気が私もしております。ですので,新谷委員の御意見をお伺いした上で,落とすという選択肢も含めて検討したいと思います。 ○道垣内幹事 落とすというのは一番おかしいと思うのです。落とすなら,「労働契約において労働者が解除の意思表示をした場合については,民法には規定しない方向でどうか」とすべきであって,これ自体を落とすという選択肢はないのではないかと思うのです。   やはり一番妥当なところは,山川幹事がおっしゃった,フォーラムがどこかということも含めて検討してはどうかということなのではないかと思います。落とすというのは,民法に規定をしないということについてのコンセンサスがここで得られて,第二読会では民法の規定としては置くか置かないかについて議論しないということだと思いますが,ここでそのようなことが決まったわけではないと思うのですが。 ○筒井幹事 そういう整理もあるのかもしれませんが,基本的には改正をする論点についての整理であると思うので,改正しないということを確認するのは,この論点整理の作業での課題とは少し違うのかなと思います。いずれにしても,先ほどの点は発言者の意向も尊重されるべきだと思いますので,また次回以降にお諮りしたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,これは新谷委員の御提案に係る事柄ですので,新谷委員の御意向も伺った上で,次回以降,場合によって,第2クールの論点にならないという意味で落とすという選択肢も含めて,検討させていただきます。   ほかによろしいでしょうか。よろしければ,部会資料21の9ページ及び10ページにあります「第4 危険負担」について御意見をお伺いします。 ○山野目幹事 10ページの2の項目でございますけれども,上から4行目,「様々な問題点」とあるところですが,もしかないますれば,「様々な課題」というふうにしていただけないかというお願いでございます。括弧の中に挙がっているのはネガティブな意味ではなくて,解決を要する事項であるという趣旨ではないかと感ずるものでございます。   なお,一言いたしますと,第4回の会議のときの危険負担と解除の重複の在り方についての議論が,特に散会間際,中井委員と潮見幹事の意見交換が少し時間不足で不十分でしたので,そのことも関係しているのかもしれませんけれども,ここのところのニュアンスをニュートラルにしていただきたいと願うものでございます。 ○山本(敬)幹事 「危険負担」の「1 債権者主義の適用範囲の限定」についてですけれども,ここでは,「民法第534条第1項については,その適用範囲を限定する方向で検討することを確認した上で」とされています。しかし,「適用範囲を限定する」ですと,規定を存置した上で適用範囲を絞るという印象がありますが,ここで問題になっているのは危険の移転時期ではないでしょうか。つまり,物権の設定又は移転を目的とする契約でも,その他の契約と同じく,一方の債務が消滅すれば他方の債務も消滅する。つまり534条1項は廃止すべきである。ただ,ある時点以降に目的物が滅失したときは,既に危険が移転しているので,他方の債務は消滅しない。他方の債務が消滅するのは,危険が移転するまでに目的物が滅失した場合であるということがここで問題になっているのだと思います。これは,534条を残した上で適用範囲を限定しているのではなくて,534条を削除した上で危険の移転時期を問題にしているのではないかと思います。したがって,ここでもそのような形でまとめていただいたほうが,問題の所在が分かりやすくなるのではないかと思いました。   それから,ここだけの問題でなく,最初に出てきた問題でもあるのですが,例えば,次の「2 債務不履行解除と危険負担の関係」ですと,括弧内に挙げたような「様々な問題点」,課題でもいいのですけれども,「の検討を踏まえて,更に検討してはどうか」とあるだけです。これは,問題の所在が分かっている人を相手にしたまとめ方でして,必ずしもそうでない人たちにとっては,何が問題なのか,これだけでは少し分かりづらいのではないかと思います。最低限,「解除制度に一元化する」という考え方は,どのような考慮に基づいてそう主張するのか,それに反対する考え方は,どのような考慮に基づいて反対するのかという理由に当たるものがもう少しは示されていませんと,何が問題なのか分かりにくいのではないかと思います。もちろん,これは補足説明を見て考えてほしいということなのだろうと思いますけれども,特にこの問題のように,かなり大きな考え方の変更が問題になっているようなところは,もう少し丁寧な論点整理の示し方をしておく方が望ましいのではと思った次第です。   ついでに言いますと,次の「3 民法第536条第2項の取扱い等」についてですけれども,ここでも,「第536条第2項の実質的な規律内容は維持するものとしてはどうか」とありますが,「実質的な規律内容」とは何なのかというのも,問題を知らない人にはすぐには分からないだろうと思います。例えば,先履行に当たる債務が履行できなくなった場合でも,それが債権者の事由による場合には,反対給付を請求できるようにするといったことが示されている必要があるのではないかと思います。このあたりを含めてもう一度検討していただければと思います。 ○内田委員 今,三つ御指摘があったうちの,まず2点目と3番目ですが,これはこの資料の書き方に関わるのですけれども,過去の部会資料の該当箇所が全部引用されていまして,それを読んでいただくということが前提になってこの資料は作られています。その部会資料の中身を分かりやすくここに盛り込むとなるとかなり膨大な資料になってしまいますので,内容的にも重複するということで,できればそれを避けたいというのがもともとの資料作成の趣旨です。   それから,第1点目の第4の「1 債権者主義の適用範囲の限定」ですが,これは534条1項の適用範囲というふうに書いたので,御批判を頂いたのだと思いますが,表題にあるように「債権者主義の適用範囲」であって,結局は危険の移転時期が遅くなるという趣旨です。それをなお債権者主義と呼ぶのかという問題はありますが,規定を廃止するというと,それに対してかなり過剰なといいますか,予想外の反応があるものですから,危険負担という制度そのものを廃止するわけではなくて,債権者主義の適用における危険の移転時期についての見直しであるということが分かるように書いたほうが穏当なのではないかという趣旨が込められているのです。それはもう少しはっきり書いたほうがいいということでしょうか。 ○山本(敬)幹事 御趣旨はよく分かったのですけれども,これは書き方の問題なのかもしれませんが,「債権者主義の適用範囲」という書き方は,時期的なものというよりは,対象についてどこまで含めるのが望ましいかといった理解につながりやすいのではないかと思います。さらに,危険の移転時期が債権者主義の適用範囲の問題なのかといいますと,債権者主義がある時点以降は採用されるのだということなのかもしれませんが,もともとは,危険が移転するまでは,一方の債務が消滅すれば他方の債務も消滅することが前提になっていて,ある時点以降に債権者に危険が移転する,つまり他方の債務は消滅しないことになるというのが,「債権者主義の適用範囲」という問題設定の仕方で分かりやすく伝えられているかというと,少なくとも分かりにくいのではないかと思います。その点も含めてもう一度お考えいただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○山川幹事 10ページの「3 民法第536条第2項の取扱い等」ですが,先ほどの山本敬三幹事の御意見とも関わりますが,5行目くらいで「契約各則における議論を踏まえて」とありますけれども,記憶によりますと,第4回の部会ではそれ以外にも,例えば受領遅滞との関係といいますか,受領拒絶がなされた場合にどうなるのか,また,その部会ではなかったかもしれませんが,これまで出されている提案の中の義務違反を要件とするという考え方をもし採用する場合には,受領義務との関係が問題になるのではないかといった議論がありましたので,この5行目に,例えばですが,「契約各則における議論や受領遅滞との関係を踏まえて」というような形で,議論で出てきた視角を示してはいかがかと考えます。 ○鎌田部会長 それはよろしいですね。ほかによろしいでしょうか。 ○潮見幹事 ささいなことで申し訳ありません。中身については,今,お二人の委員,幹事の先生がおっしゃられたことと同じです。   形式だけですが,今,1が534条,2が債務不履行解除と危険負担,3が536条2項となっていますが,これは2,3,1の順番にして,1のほうは,先ほどの山本敬三幹事ではありませんが,危険の移転時期というのを分かるような形で挙げるというふうにしてはいかがかと思います。またそのほうが,前のほうの解除の場面でのいろいろな問いかけとの連続性も確保されるのではないかと感じるところです。   さらに,先ほど内田委員のお話がございましたが,部会資料という形で挙げておられるからということあれば,これはゴチックで書かれているほうに入っているからこれでいいのでしょうか。売買のところでもかなり資料というのが出ておりましたから,ゴチックに書かれているところにあればいいです。 ○鎌田部会長 順番に関しましては,現行法の規定の順番等との関係もあったりしますので,そこは少しこちらで検討させてください。   よろしければ,部会資料21の10ページ,「第5 受領遅滞」について御意見をお伺いします。   特になければ,「第6 その他の新規規定」についての御意見をお伺いします。 ○奈須野関係官 「債務者の追完権を認める規定を設けるかどうか」ついて,部会では余り評判が良くなかったため,このような書きぶりになったものと思いますが,全体を通じて議論をしてみると,このアイデアはもう少し見直しても良いのではないかと思っています。   具体的には,瑕疵担保責任の中身次第ではありますが,無催告解除を許すような制度となった場合には,売主に追完権を認める意義があるかもしれない。また,契約締結上の瑕疵をもって取消事由が増えた場合には,一方当事者に追完権を認める意義があるかもしれない。このように考えると,「債務者の追完権」というように限定する必要もないのではないかと思います。今申し上げた例であれば,売主や一方当事者ということになるかもしれませんが,もう少し広くアイデアを募集する書きぶりにした方が良いのではないかと思います。 ○岡委員 奈須野さんと対立する意見が多いのですが,弁護士会のそれなりの意見を御紹介申し上げますと,追完権と代償請求権については論点から落としていいのではないかと。この二つについては批判も多いし,議論も熟していないし,これだけ忙しい多くの論点のある中で,残さなくてもいいのではないかという意見がそれなりにございました。 ○山本(敬)幹事 追完権についてですけれども,この点はここでも議論したわけですので,私は残して良いいのではないかと思います。   ただ,ここでは,「追完権が債務者の追完利益を保護する制度として適切か否か」という観点が挙げられているのですが,この点を議論したときの議論を見てみますと,これ以外に,さらに,債務者の追完利益は他の制度によって十分に確保できると考えるかどうかということが問題になっていたように思います。例えば,債権者のほうが解除する場合に,催告要件や契約の重大な不履行という要件を設定するならば,そこで債務者の追完利益を十分に確保できると考えるかどうかといったことが議論されていたと思います。   したがって,もし観点を挙げるとするならば,これだけではなく,今申し上げたような観点も併せて挙げるほうが議論を正確に反映しているように思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   よろしければ,11ページ以降の「第7 債権者代位権」についての御意見をお伺いします。まずは12ページから13ページにかけての第7の1,2,3について,本来型関連の御意見をお伺いいたします。 ○山本(和)幹事 3の(3)の第2段落に関してですけれども,これは確か畑幹事が第一読解で御指摘されていたと思いますけれども,不動産に対する強制執行を行うための登記申請権の代位行使というのは,必ずしも債権者代位権で対応するのではなくて,執行手続の中で対応するということも考えられるのではないかという御指摘があったと思います。その後,昨年6月でしたか,最高裁のいわゆる朝鮮総連事件の判決で,債務者が権利能力なき社団の場合の特殊な場合ではありますけれども,債権者代位権で対応せずに,第三者名義の登記のままで債務者に対する債務名義で直接,一定の証明に基づく差押えを認める最高裁の判例が出ているところで,少なくともそういったような手法があり得るかどうかというのは,検討の対象になり得るのではないかと思います。   そういう点からすれば,現在の案は,代位行使する場合には特別の取扱いをすべきであるかどうかという聞き方ですが,これを債権者代位権の問題とするかどうか,そうするとしてもそういう特別な取扱いをするかどうかというような形の問いかけにしたほうがよろしいかと思っています。 ○岡委員 二つあります。   一つ目は,3の(1)の,これは表現だけなのですが,見出しに「(事実上の優先弁済)を否定する方法」とありますけれども,本文の中にもありますとおり,「否定又は制限する」という表現にしてほしいという意見がございました。弁護士会の中では,完全否定について異論もありますので,「制限」というのを見出しにも書いていただきたいということでございます。   二つ目が(3)「保全の必要性(無資力要件)」のところでございますが,これも一番最初の,どう書くかということにつながりますが,無資力説と保全の必要性で足りるという説も議論の中にありましたので,無資力要件を条文上も具体的に明示するかどうか,ほかの説もあることを踏まえて更に検討してはどうかと,ほかの説も書いていただきたい。この意見も,何が議論されているかが本文でも簡潔に分かるようにしてほしいという意見の一環でございます。 ○鎌田部会長 この場では,無資力要件不要説は余り支持する意見はなかったようにも思うのですが。 ○深山幹事 今の点ですけれども,岡先生の趣旨は,無資力要件と言われるものを明文化するかという問題と,明文化する場合にどのように明文化するかという二つの問題があって,ここでは,「債務者の資力がその債務の全てを弁済するのに十分ではないこと」という要件を明文化するかどうかだけを問題にしていますが,別の表現ぶりなり要件立てで明文化するという余地もあるのではないかという指摘かと思います。それは私もそういう気がするので,明文化すること自体とどのように明文化するかということは,2段階あるということが分かるような表現にしたらよろしいのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 ほかになければ,「4 転用型の債権者代位権の在り方」についても御意見をお伺いします。 ○岡委員 ここもランク付けに対する意見だけでございます。最初に15ページ,後半部分全部ということですね。 ○鎌田部会長 「5 要件・効果等に関する規定の明確化等」以降も結構です。併せてお願いします。 ○岡委員 5の(4)「善良な管理者の注意義務」のところにつきましては,「方向で」というランクは少し行き過ぎではないかという意見がございました。単純に善管注意義務と書くとやはり懸念が残るという,中身の意見が弁護士会にありますので,「方向で」ということについて異論が弁護士会で強くございました。   もう一つは,17ページの債権者代位訴訟が提起された場合の差し押さえられた場合の処理でございますが,ここについても,「方向で,更に検討してはどうか」という表現につき,この方向性について,そこまで議論は熟していないのではないかという意見が強くございました。その2点についての意見です。 ○筒井幹事 「第7 債権者代位権」の5(3)「債務者への通知の効果」の部分について,新谷委員から事前に発言メモが提出されていますので,読み上げる形で紹介いたします。   たたき台では,「債務者への通知によって債務者の処分権の制限が生ずることはないとする方向で,更に検討してはどうか。」とされている。   債権者代位権は労働債権保護のために,労働の現場で非常に重要な使われ方をしている。   本来型の債権者代位権の債権回収機能について,少なくとも労働債権に関して現行法制どおりとすべきであり,これに制限を加えることには賛成できない。このことは,一巡目の議論の中で,既に繰り返し指摘しているところである。   債務者への通知によって債務者の処分権を失わせるとの現行の判例法理は維持されるべきである。 ○筒井幹事 続けて発言いたしますが,新谷委員から「方向で」を削るという意見がございました。もちろん,コンセンサスの程度に応じて書き分けるということですので,異論が強いということであれば「方向で」を削ることになりますけれども,ほかに御意見があるかないか,お聴かせいただければと思います。 ○山本(和)幹事 7の(4)の部分の「方向で」のところですけれども,私自身は,差押えを優先させるというのは賛成の意見を述べましたので,このままで結構だと思うのですが,括弧内の部分,「債権者代位訴訟の進行を認めない」というのは,これは差押えを優先させるというのと必ずしも同義ではないと思います。確か意見でも申し上げましたが,債務者が給付訴訟を起こしている場合に,その債権が差し押さえられた場合に,債務者の給付訴訟が止まるかというと,現在の判例ではそれは止まらない,判決までいくというのが一般的な理解だと思います。   そういうことを考えると,代位訴訟だけ止まるという扱いにすることはもちろんできると思うのですが,やや取扱いが複雑な形になるような気もしますし,差押えを優先させる方法は,必ずしも代位訴訟をとめるという方法だけではないようにも思われますので,このあたりはもう少し議論が必要なところのように思いまして,今の段階で,進行を認めないというところの方向性を示すというのは,やや時期尚早かなという印象は持っております。 ○山野目幹事 7の債権者代位訴訟のところに「方向で」が3箇所出てくるでしょうか,先ほどの山本和彦幹事の御注意ももちろん踏まえつつ,この3箇所の「方向で」は,このままであってよろしいというふうに私は感じます。 ○深山幹事 私も,7の代位訴訟について,一読のときに必ずしも十分な議論をしていなかったところではあるのですが,ほかの点でも出ているように,民法でどこまで書くかという議論があろうかと思います。7の(1)では,「必要な範囲で」という言い方にはなっているので,この「必要な範囲」というのがどこまでのことをイメージしているのかにもよりますが,訴訟法なり執行法にわたる部分についてどこまで民法に書くのかという問題があります。議論はするけれども,それは訴訟法なり執行法に規定を置くという選択もあり得ると思いますので,規律としてどういう規律がいいのか,それを明文化するかという問題とともに,それを定めるのが民法なのかその他の法律なのかということも議論の対象にすべきだろうし,そのことを示した上で問いかけをするようなパブコメに付すことを検討していただければと思います。 ○岡本委員 「善良な管理者の注意義務」のところ,15ページの(4)です。既にかつていただいた部会資料7-1では,誰に対する注意義務かという点につきまして,債務者に対する関係での注意義務であるというのが資料から分かる記載になっていたと思うのですけれども,今回の部会資料21では,その点が必ずしも分からないような記載になっているものですから,債務者に対する関係での注意義務であるということが分かるような記載にしていただけないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   よろしければ,「第8 詐害行為取消権」について御意見を伺いますが,まず「1 詐害行為取消権の法的性質及び詐害行為取消訴訟の在り方」について御意見を頂きます。 ○高須幹事 法的性質のところでございます。18ページの整理案では,ここは責任説も有力に主張されているということを指摘した上で,それを踏まえつつとした上ではありますが,「まずは判例法理の問題点を個別的に克服していく方向で,更に検討してはどうか」という形で,方向性を出すという結末の付け方になっています。しかし,部会での議論のときには,確かに少数ではあったと理解しておりますが,責任説に対する親和的な意見というのも,決して単独ではなくて複数あったと理解しておりますし,必ずしも少数なら即方向性を出すということではなくて,今まで整理案を作ってきたように思いますので,ここが「方向で」というのは,やや厳し過ぎるのではないかと考えております。   詐害行為のところの論点項目,数えましたら31項目あるのですが,そのうち29項目は「更に検討する」となっています。方向性を出しているのは,ここと19ページの取消しの対象の「法律行為」という言葉を「行為」に改めるというところだけなのです。「「行為」に改める」のほうは,恐らく部会での議論も特に異論は出ませんでしたし,今日もう一回諮っても異論は出ないと思うのですが,それと同じ扱いをこの法的性質のところでするというのは,ほかは全て「更に検討する」なのに,責任説のところだけは方向性を出しましょうかという,誤解を受けるのではないかという気がします。そこで,表現ですが,「まずは判例法理の問題点を個別的に克服していくという考え方を基本としつつ,その要件や効果を更に検討してはどうか」というような形で,収めていくことも可能ではないか,あるいはそのほうがよろしいのではないかと思っておりますので,御考慮いただければ有り難いと思います。 ○鎌田部会長 この点について,関連する御意見がございましたらお出しください。 ○内田委員 いろいろな対案を出すことが容易なテーマもあるとは思うのですが,責任説については,もちろん立法論は出されていますけれども,それに対して問題があるということが部会でも指摘されていて,そうすると,指摘された問題点をクリアした新たな責任説の案を用意する必要があるわけです。   二読になりますと,恐らく事務当局が何らかのたたき台といいますか,議論の素材を出していくということになるだろうと思います。そこで,ここで責任説を完全に並列して書いてしまうと,問題点をクリアした責任説の案を事務当局がつくるということになりかねないのですけれども,それがなかなか難しいということです。仮に,まずは判例の問題点を個別に克服していくという現在のような方向で議論したとしても,より優れた責任説的な提案が出てくれば,それが議論の俎上に乗るということは全く排除されていませんので,取りあえずは,これから詳細な手続の規定を作っていくことになりますので,その方向としては,判例法理の問題点を個別的に克服するという方向の案をまずは俎上に乗せて議論するというのでどうだろうかというのがここでの提案の内容です。それよりももう少し踏み込んで,責任説的な案も用意する形で二読の議論をすべきであるというお考えでしょうか。 ○高須幹事 そこまで考慮しての意見では決してなかったのですが,飽くまでパブリックコメントに出すための中間整理だという前提からすると,パブリックコメントを出すときにこの表現ではどうなのかなと思ったということでございます。ですから,事務当局の御負担が増えるし,それが問題であるという意味であれば,今回の中間整理案の表現がその点を考慮したものだということが明確になるのであれば,決して私どもも,どうしても変えてくれということはできないと思います。まずはということだということがここで確認されるのであれば,議事録にも残ることでございましょうから,それはそれでとは思いますが,私の個人的意見としては,できればということだけ議事録に残していただければと思います。 ○山野目幹事 高須幹事の御意見を踏まえて感じたのですが,この文章は責任説を否定しているのでしょうか。折衷説でいくぞ,責任説は駄目だぞというふうに書いてあるのではなくて,まずは折衷説の問題点を克服する検討をしていきましょうということであり,していった結果,出来上がったものが発想や部分において責任説に近いものができるという可能性は,まだこの文章では否定されていないものでありますし,パブリックコメントでそういう観点の御意見や発想,提言などをお出しいただくことは,何ら妨げられていないというふうに理解いたしました。 ○鎌田部会長 よろしければ,次に,19ページから22ページまでの「2 要件に関する規定の見直し」について御意見をお伺いします。 ○道垣内幹事 高須幹事がここには異論は出ないだろうとおっしゃった2の(1)のウですけれども,「法律行為」という文言を,部会資料の段階では,厳密な意味での法律行為に限らないで,例えば債務の承認とかも含めるのだという説明がなされており,それはそれだと思うのですけれども,それを「行為」というふうにしてしまいますと,例えば目的物に何かを付合させる行為という事実行為も含まれることになってしまいます。しかし,そうすると,実は抵当不動産の付加一体物に関する民法371条の通常の解釈において,なぜそこに特別な規定があるのかということにつき,それは詐害行為取消しの対象にならないからあるのだというふうに一般的に説明されているところと矛盾を来してしまうような気がします。   そこで,「法律行為」という文言を厳密な意味での法律行為も含まないような文言に改める方向ではどうか,くらいにしていただいたほうがよろしいのではないかという気がします。 ○筒井幹事 中井委員から事前に発言メモをいただいている箇所があります。「第8 詐害行為取消権」の2(2)です。読み上げる形で紹介いたします。   たたき台では,「倒産法上の否認権の要件等との整合性」との表題の下に,「ア債務消滅行為」以下,「ク詐害行為取消訴訟の受継」まで8項目の論点を整理している。   しかしながら,「倒産法上の否認権の要件等」との整合性を直接問題とするのではなく,詐害行為取消権において取消の対象となる「行為」について,①財産減少行為,②偏頗行為,③対抗要件具備行為,④転得者に対する詐害行為を取り上げ,その結果生じ得る可能性のある逆転現象に備えて,⑤詐害行為取消訴訟の受継を論点として取り上げるのが,相当ではないか。   つまり,倒産法の規律を見通してその要件や効果に目配りをしながらも,まずは,民法の視点から詐害行為の対象となる行為について検討すべきではなかろうか。たたき台では,「倒産法の規律ありき」からの検討となりかねず,民法における視点がないがしろにされかねないことを懸念するからである。   そこで,以上の観点から,以下のように整理してはどうか。   最初に,詐害行為としての典型例である「(2)財産減少行為の取扱い」を取り上げ,そのなかで,「ア 相当価格処分行為,イ 同時交換的行為,ウ 無償行為」の検討を行い,次に,「(3)偏頗行為の取扱い」を取り上げ,そのなかで,「ア 債務消滅行為,イ 既存債務に対する担保供与行為」の検討を行い,そのあと,「(4)対抗要件具備行為の取扱い,(5)転得者に対する詐害行為取消権の要件,(6)詐害行為取消訴訟の受継」を取り上げることとしてはどうか。   尚,上記のとおり,対象行為を類型化して要件を検討することの当否及びその上で一般的な要件を定める規定を維持するかどうかについては,たたき台と同様に,上記の論点整理のはじめに,一つの項目を設けてはどうか。   そして,「(3)偏頗行為の取扱い」の「ア 債務消滅行為」については,以下のように改めてはどうか。すなわち,その項目中の本文6行目「詐害行為となるとしている。」の次で改行し,「仮に詐害行為取消権の要件を」からその項目の本文の末尾までを削除し,その代わりに次の文章を加えてはどうか。  「 判例は,債務消滅行為のうち一部の債権者への弁済について,特定の債権者と通謀し,他の債権者を害する意思をもって弁済したような場合には詐害行為となるとし,また,一部の債権者への代物弁済についても,目的物の価格に関わらず,債務者に,他の債権者を害することを知りながら特定の債権者と通謀し,その債権者だけに優先的に債権の満足を得させるような詐害の意思があれば,詐害行為となるとしている。   他方,平成16年の破産法等の改正により,倒産法上の否認権について,いわゆる偏頗行為否認の時期的要件として支払不能概念が採用されたこと等に伴い,判例上認められた平時における詐害行為取消権の方が否認権よりも取消しの対象行為の範囲が広い場面があるといった問題(逆転現象)が生じている。このことを踏まえ,債務消滅行為について,詐害行為取消権の要件を否認権の要件に整合するものに改めてはどうかとの意見がある。   具体的には,民法においては直接債権者間の平等が要請されるわけでなく,債権者による債権回収行為や担保設定行為は正当な権利行使として保護されるべきであること等から,偏頗行為は債権者平等の原理が求められる倒産法上の否認制度に委ねることとし,詐害行為取消の対象から一律に除外すべきであるという見解や,同様の基本的発想に基づき本旨弁済については詐害行為取消の対象から一律に除外しつつも,一定の非義務行為たる偏頗行為についてのみ詐害行為取消の対象とすべきであるとする見解がある。   他方で,倒産手続きに至らない平時の場合でも,一定の要件の下で債権者間の平等は保護されるべきであり,また,私的整理による事業再生を円滑に進める観点などから,判例の要件等の下で債権者間の平等を害する債務消滅行為を詐害行為の対象とするべきであるとの見解や,偏頗行為否認の要件(破産法162条)と同様の要件で債務消滅行為を対象とすべきであるとの見解などがあることから,偏頗行為を詐害行為の対象とするかどうか,対象とする場合の具体的要件について,債権者の権利行使の保護と債権者平等の保護の調和の観点,倒産法上の否認対象行為の要件との整合性や,事業再生に与える影響等にも配慮しつつ,更に検討してはどうか。」 ○岡本委員 要件に関する規定の見直しのところで,意見の申し上げ方が難しいのかなと思うのですけれども,最近,詐害的会社分割について注目が集まっているものですから,その関係で,どういう方法であれ,詐害的会社分割が詐害行為取消しの対象になるということを明らかにする方向で検討することができないかという意見がバックアップ会議のほうからありましたので,一応申し上げておくのですけれども,もっとも,詐害的会社分割を殊更取り出して民法に規定するのはなじまないという考え方も当然あろうかと思われますけれども,詐害行為の要件に関する規定の見直しの中で,詐害的会社分割も要件を充足し得るのだといったことになるような改正を図っていく,そういった観点が分かるような記載にできないだろうかといった意見がございましたので,一応申し上げておきます。会社分割だけでなくて,事業譲渡なども同様な問題があるかと思いますけれども,そういった観点が何がしか行間から分かるような対応ができないかという意見です。 ○川嶋関係官 ただいま岡本委員から頂きました御意見ですけれども,詐害的な会社分割への対処については,法制審議会会社法制部会でも検討の対象になっているところでして,まずは,会社法制部会において議論を進めさせていただけたら,と考えております。ですので,今回,民法(債権関係)部会での中間論点整理において詐害的会社分割に関する論点を取り上げるかどうかという点につきましては,会社法制部会における審議の対象となっていることを踏まえて検討したいと思います。 ○岡本委員 それはそれでも結構ですけれども,なぜ会社法では対象になって民法では対象にならないのか,あるいは民法でも対象になるのだけれども,それを会社法で重ねて確認的に明らかにしているにすぎないのか,そこら辺の関係もできれば明らかになったほうがいいかなといったところはございます。 ○深山幹事 今の川嶋関係官からの御説明で,ほかの部会で検討されているということを踏まえてというのは,多分,ネガティブな意味で述べられていて,ここではやらないという方向性が感じられたので,一言申し上げたいのですけれども,ほかの部会でやっているからここでやらないというのは,余り合理的ではないのではないかと思います。最終的に会社法の改正になるのか民法の改正になるのかはさておき,やはり議論をすべきだし,そもそも詐害行為取消権の制度の問題ですから,どちらかといえばこちらの民法における議論のほうが正論ではないかという気もします。どちらが正論かはともかく,双方の観点から検討する必要があるので,別の部会でも検討し,ここの部会でも検討する,あるいは少なくともパブコメに付して意見を求めるという価値,意義は十分あるのではないかと思います。 ○筒井幹事 ただいまいただいた御意見ですけれども,議論を排除しないというのは全くそのとおりだと思うのですが,他の部会で議論されていることもさることながら,会社分割についての特別なルールということになると,規定の置き場所はおのずから決まってくるのではないかと思います。ですから,民法として何を改正するのか,改正するかしないかが,この部会での審議の対象だと思いますので,民法の解釈論に関係しているというのは全くそのとおりだと思うのですけれども,民法の改正とつながっているのかというところに疑問を感じました。 ○深山幹事 少し言葉が足りなかったのかもしれませんけれども,要は,正に19ページで取り上げているように,「法律行為」という文言を「行為」に改めるかどうかというような,詐害行為取消権の対象の議論として,会社分割に限らず組織法上の行為のようなものも,解釈論上,無理なく含まれるという解釈が可能な対象範囲の設定をすべきではないかという気がするので申し上げました。必ずしも詐害的会社分割に限った議論を申し上げているわけではございません。 ○神作幹事 私は,会社法制部会に幹事として参加させていただいておりまして,12月の会社法制部会において,正に詐害的会社分割について会社法で何らかの対処をすべきか,すべきであるとしたらどのような対処をすべきかという問題が議論されました。そこではまだ,第一読会であるということもあり,確定的な方向性や結論が出されたわけではないのですが,会社法上何らかの手当てを講じるべきであるというご意見が優勢であったように理解しております。手当ての方向としては,大きく二つの方向で議論がなされておりまして,第1は,会社分割における債権者保護手続を拡充すべきである,すなわち現行法では限定されている債権者異議手続きの範囲を拡張するために会社法上の手当てをするという提案です。それからもう一つは,分割会社と新設会社若しくは承継会社との間に一定の要件の下で連帯責任を課してはどうか,連帯責任を課すことにより,詐害行為取消しによるのではなく,会社法上の固有の保護を会社債権者に与える必要があるのではないか,といった方向の議論がなされていたように理解しております。   そしてこれらの議論の前提とし,ひょっとしたら人によって議論が分かれるのかもしれませんけれども,私の理解しているところでは,多くの方は,会社分割について民法上の詐害行為取消権の行使は当然あり得る,詐害行為取消権の行使ができないわけではないという前提で,しかしながらその保護ではなお不十分あるいは法的効果として不明確な部分があるので,会社法上の保護について議論をする必要があるのではないかということで議論が進んでいると思われます。 ○鎌田部会長 会社分割特有の規定を民法に設けることは適当ではないし,そういうことを求められているわけではないと思うのですけれども,会社分割等が詐害行為取消しの対象にならないというふうな形の制度にはしないということが最低限必要なのだろうと思いますので,その辺は意識しながら議論していきたいと思っております。 ○岡委員 詐害行為取消しの要件のところで3点申し上げます。   1点目は,中井さんのペーパーに色濃く出ているところでございますが,説明の仕方について,倒産の要件との整合性とか,逆転現象とか,それを解決しましょうと,そういう形で進められていることについて,異論がありました。そうではなくて民法の問題で,民法を考えるときに倒産法を少し考えながら進めると,そういう考え方のほうがよろしいのではないかというのが,中井ペーパーにも出ている弁護士会の多くの意見でございました。   それから,二つ目については,偏頗行為否認の要件と同様の要件を設けるとする案というのは,弁護士会から発信させていただいた案で,一部には,学者の提案以外のものは外されるだろうと思っておったところ,きちんと入れていただいておりますので,安心はしているのですが,この新しい提案については,部会資料を見ても背景事情等が書かれておりませんので,このたたき台あるいは議事の補足説明のほうでしっかり書かないと,部会資料に書かれていない案についてはしっかり書いてほしいと,こういう問題意識がありましたので,中井先生のような少し長い案が出てきているところでございます。   それから,3点目でございますが,もう証文の出し遅れかもしれませんけれども,日弁連で12月に広島でこの問題についてのシンポジウムをやりましたところ,この三つの案プラス現在の民法の判例どおりという案が第4案として出てきました。私は,第2案と今までの民法の判例法理は同じかなと思っていたのですが,そうでもないとのことでした。そういう意味で,第4案として,現在の民法の判例法どおりという案も出てきましたので,それも入れてほしいというのが,弁護士会から今日の午前中の会議で出ました。そういうのは議論していないから出し遅れなのでしょうか。それとも,ここである程度,そういう案もあり得るので載せていいよと言えば載せることは可能なのでしょうか。取りあえず弁護士会としては,判例法どおりという意見も是非載せてほしいという意見がありましたので,ここで述べさせていただきます。 ○川嶋関係官 先ほどの中井委員の発言メモと,ただいまの岡委員の御発言の1点目についてですけれども,これらの御意見は,論点整理の中身を問題とするものではなく,論点の示し方,項目立ての仕方を問題とするものであると受け止めました。   事務当局としては,この部会でコンセンサスが得られた項目立てによって論点をお示しするようにしたいと思っております。部会資料21の項目立てについては,どうしてこの論点が問題になったのかと考えた場合に,やはり平成16年の破産法等の改正によって否認権の規定が改められたことがきっかけなのだろうと思われましたので,倒産法上の否認権の要件等との整合性の観点から論点を整理することにしたわけです。つまり,倒産法上の否認権の規定の改正には,危機的状況にある債務者の救済といった政策目的があり,その政策目的を貫徹するためには,詐害行為取消権の規定についても見直す必要があるのではないか,というストーリーを意識してみたわけです。しかし,中井委員,岡委員から,部会資料21とは異なる項目立ての御提案がありましたので,この部会でのコンセンサスが得られるのであれば,それに沿うように修正をしたいと思います。いかがでしょうか。 ○沖野幹事 今の点につきまして,私個人も中井委員や岡委員がおっしゃったような形での論点の取扱いのほうが適切ではないかと思っております。   出された倒産法上の否認権の要件との整合性という観点は,やはり考慮せざるを得ない重要な問題だと思われます。ただ,その際にそれと合わせるべきだということが大前提としてあるということではなくて,詐害行為取消権と否認権との関連性ということを考え,近時の立法判断ということをどこまで尊重するかということを考えていく,既に詐害行為取消権の解釈にある程度影響が見られるところでもあり,立法に当たってはそのような事情を踏まえて検討すべきだろうと,そういうものだと思います。ですから,これは出されることは重要だと思いますけれども,この観点から全てをくくるというのはどうかと思われるところで,詐害行為取消権独自の要件において,考慮として入れられてくるということではないかと思われます。   また,ここに挙げられているものが全て同じような性格のものかという点がございます。特に最後の受継の問題などは,詐害行為取消権の行使権者の問題とはされておりますが,これについてはむしろ倒産手続の方での問題だと考えられますので,ここに取り上げられている問題にも性格が違うものがあると思われます。   倒産法上の否認権の要件との整合性というのが考慮要素ではあるのですが,それがかなり問題意識として出発点になり得るものとしては,偏頗行為型の扱いと相当価格での処分行為,それから同時交換的行為などです。これらは,その用語自体が既に否認権のもとでの概念を使っているということもあって,それらの影響が大きいと思われます。それに対しまして,例えば無償行為につきましては,21ページのオのところで,無償否認の要件と同様の要件を設けるかどうかについて検討するということが挙がっておりますけれども,これは支払の停止等を入れて無償否認に合わせるということがどれほど強い提案か,私は疑問に思うところがあります。一方で主観的要件のほうを見直すという案もあるわけでございますので,この項目が果たして否認権との整合性だけで論じられる問題なのかということについては,位置付けとしても疑問があるように思われます。   それから,転得者に対する詐害行為取消しの要件というものも,これも確かに破産法のときの議論というものが,起爆剤としてはあるのかもしれませんけれども,もともと民法の判例の捉え方ですとか,他の場面での取扱いとの関係,絶対的構成,相対的構成という議論のほうですけれども,それらも含めてどうかという問題ですので,否認権と合わせるべきだというところから転得者否認の要件の見直しが必ずしも出ているわけではないように思います。   そうだとすると,倒産法上の否認権の要件との整合性という設定のもとで,いろいろな問題を枠付けていくというのではないほうがいいのではないか。また,ここでの御議論もそうであったのではないかという印象を持っております。 ○中田委員 ただいまの沖野幹事の御意見に大体賛成ですけれども,恐らく,「整合性」とか「整合する」という言葉が,原案をお書きになった方の御意図を超えて非常に強い響きを持って受け取られているということだと思います。「整合」という中には,例えば破産法と同じように類型化するという考え方を意味することもあるでしょうし,偏頗行為をどうするかということもあるでしょうし,それから偏頗行為を取り込むとしてその要件をどうするか,あるいはもっと根本的に言うと,無資力要件と支払不能基準との関係をどうするのかというような様々な問題が入っていると思います。それが「整合性」という言葉に盛り込まれているために分かりにくくなっているように思われますので,少し分節したほうがいいと思います。   その中で,私は,論点としては,一番ベーシックなところですけれども,無資力要件と支払不能基準との関係というのは,一つの重要な点かなというふうに個人的には認識しております。 ○山本(和)幹事 私は,今の議論で,どういう順番でこの項目を載せるか,あるいは表題をどのようにするかということについては,特に意見はございません。皆様の御意見に従いたいと思います。   中身の問題ですけれども,この要件の部分は,基本的にはほぼ全て「更に検討してはどうか」という項目ですので,特段のあれはないのですが,1点だけ,沖野幹事が言及された21ページの「オ 無償行為」の部分ですが,沖野幹事が言われたのと同様の感想を持っています。ここでは,「無償否認の要件と同様の要件を設けるかどうかについて,更に検討してはどうか」ということですが,以前の部会で検討されたのは,主として主観的要件の部分でそろえるということで,支払停止前6月という時期の限定という部分についても,同じような規律にすべきだというような意見は,原案でもなかったように思いますし,そういう意見も余りなかったような記憶があります。   そうだとすれば,転得者否認のほうは,破産の場合との違い,いわゆる二重の悪意は求めないというような形で,破産と換えるという部分についても更に検討してはどうかというような書きぶりがされておりますので,「無償行為」のほうも,その議論からすれば,そのような,必ずしも破産と一緒ではない点も検討してはどうかということが明示的に書かれたほうがよろしいかなと思います。 ○畑幹事 私は,同じ21ページの「エ 同時交換的行為」のところについて,表現が分かりにくいのではないかという感触を持っております。あるいはこれは一読で発言しておくべきだったのかもしれないのですが,倒産法上の規律は,多くの方には申し上げるまでもないことですが,同時交換的行為の場合は,偏頗行為としては否認できない,すなわち弁済なり担保の供与を,そこだけを取り出して否認することはできない。しかし,取引全体として,財産減少行為の観点から否認することはできるという規律であり,恐らくそのことにここでも言及されていると思うのですが,どうもそのことが分かりづらくなっているような印象がありますので,表現について御検討いただければと思います。 ○佐成委員 2の(2)「倒産法上の否認権の要件等との整合性」について,「整合性」という強い響きで触発された経済界内部の要望ですけれども,この論点について,「私的整理に関するガイドライン」への悪影響を懸念する声があったということです。「私的整理に関するガイドライン」は,企業の再建のために合目的的に運用できるように,かなり自由な運用を許容していますので,詐害行為取消権制度が法的整理における否認権に近付き過ぎてしまって,リジッドな運用がされるようになると,ガイドライン制定時に想定した前提から少し乖離してしまって,結果的にガイドラインの自由度が阻害されるのではないかという懸念の声が上がっていたということです。   実際の具体的な制度設計は二読で行われるということですので,具体的にここに何か書き込めとか,そういうことではございませんけれども,そういう懸念の声があったということだけを述べさせていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。よろしければ,効果,行使期間に関する部分についても御意見を伺います。 ○筒井幹事 「第8 詐害行為」の3(5)の「イ 受益者の反対給付」の部分について,新谷委員から事前に発言メモが出されていますので,それを読み上げる形で紹介します。   たたき台では,破産法上では,受益者の反対給付については原則として財団債権として扱われるとされており,詐害行為取消しの場合にも,これとの整合性を図る方向で,更に検討することが提起されている。   詐害行為取消権は,労働債権保護のために重要な機能を果たしており,少なくとも労働債権に関しては,現行法制どおりとすべきであって,この機能を弱めることには賛成できない。このことは一巡目の議論の中で既に繰り返し指摘しているところである。   また,破産法において,受益者の反対給付の取戻しを容易にしたのは,企業倒産の危機が迫っている時点で融資を行う者に安心して融資をさせるという政治的・政策的な判断で設けられたものであるにすぎず,これを普遍的一般的な原理と見ることはできない。   受益者保護を強めれば,その分だけ詐害行為取消しの効果は弱まるのであり,今回の提起において変更される必要はなく,現行の制度は維持されるべきである。 ○山本(和)幹事 新谷委員のメモの趣旨が必ずしも理解できない。これは,項目から削除せよという御意見だとすれば,私自身は反対です。そして,破産法の財団債権の趣旨も,私の理解は必ずしも新谷委員とは同じではありません。それだけ申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,検討対象とすべきでないというのが新谷委員の御意見であるのかもしれませんけれども,今の山本和彦幹事の御意見もありますので,これはここに維持しておくということにさせていただきます。   ほかによろしいでしょうか。 ○岡委員 細かい意見が出ていたのですが,一つだけ,22ページの「(事実上の優先弁済)の当否」のところで,事実上の優先弁済を否定又は制限するかどうかのところについては,実務を大きく変える案ですので,もう少し説明をこの本文でもしていただいたほうがいいのではないか。一番最初に申し上げましたように,ここは実務を変えるような意見が出ていることを明記し,その問題意識も簡潔にある程度,そういう重大な問題については本文にも書いたほうがいいのではないか。 ○鎌田部会長 現行の判例と違う内容の提案だということは書いてあると思いますが,もう少し表現の工夫を試みていただくことにいたします。   ほかにはいかがでしょうか。   よろしければ,24ページ以下,「第9 多数当事者の債権及び債務(保証債務を除く。)」という部分に進ませていただきます。残り時間も少なくなってまいりましたので,「1 債務が複数の場合」,「2 債権者が複数の場合」,「3 その他」,一括して御意見を伺います。 ○岡本委員 一括してということなので,3点申し上げたいと思います。   まず1点目が,26ページの(ア)「履行の請求」のところですけれども,履行の請求を絶対的効力事由とすることにつきましては,現行法維持の意見をさせていただいているところだったと思うのですけれども,そういった意見もあることが分かる記載にしていただけないかというのがございます。   2点目は,27ページ,(ア)「一部弁済の場合の求償関係」ですが,ここの記載内容自体は特に意見があるわけではないのですけれども,関連する論点としまして,連帯債務者の一人が一部弁済をした場合の求償権が主たる債権に劣後するといったことの明文化の要望も出していたところでございまして,そういったところについても触れていただけないものだろうかというのが2点目でございます。   それから3点目ですけれども,28ページの(3)「不可分債務」のところでございます。ここで,意思表示による不可分債務も認められてしかるべきではないかといった意見も部会で出させていただいているところですので,そのような意見もあることが分かるような記載とならないかといったところ。以上3点,よろしくお願いいたします。 ○岡委員 弁護士会のそれなりの意見の紹介でございます。先ほど,落としてもいいのではないか,もうこれだけいっぱいある中で重要性が低いし,議論も煮詰まっていないので落とすべきであると,先ほど何点か申し上げましたが,その仲間として,28ページの「不可分債務」,それから29ページの「連帯債権」があります。学問的に整理したい気持ちは分かりますが,これは実務もないし,論点から落としていいのではないかというような意見がそれなりにございました。ただ,検討するのもやめろという意見はなかなか言いにくいのですが,そのような意見もあったということを報告させていただきます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○佐成委員 それほど強い意見ではないですけれども,28ページの「連帯の免除」なのですけれども,「連帯の免除」自体は実務でも余り遭遇することもないので,削除するという方向性はいいのかなと思うのですけれども,債権者が連帯債務者に対して,債務額を負担部分に限定して,それ以上は請求しないとする意思表示が実務上全く行われていないとまで言えるかどうか,そこら辺は余り自信がないところで,この論点は,(2)「連帯債務」の「イ 連帯債務者の一人について生じた事由の効力等」の(イ)「債務の免除」とも関係しておりまして,こちらのほうは「更に検討してはどうか」のレベルになっているので,今の段階では「連帯の免除」についても,「その方向で」というレベルに落とすなり,これに合わせて「更に検討してはどうか」のレベルまで落とすということも考えられますので,この点だけ検討していただければと思います。 ○道垣内幹事 岡本委員の不可分債務についての御見解について,もう少しお伺いしたいのですけれども,28ページの「不可分債務」のところは,「仮に,連帯債務における絶対的効力事由を絞り込んだ結果として,不可分債務と連帯債務との間に効力の差異がなくなる場合には」ということで書かれているわけですね。このような際がなくなるときにも,合意による不可分債務というのを書いたほうが良いという御趣旨なのか,それとも,「仮に」以下が成り立たない場合における不可分債務の話として,合意による不可分債務の可能性について検討したほうが良いという話なのか,いずれでしょうか。最終的な論点のまとめ方がそれで違ってくると思いますので,確認をさせていただければと思います。 ○岡本委員 「仮に」がない場合の話ということになろうかと思います。 ○川嶋関係官 この点については,第6回会議において,債務者が一人の住宅ローンを複数の相続人が相続した場合に,これを連帯債務にすることができれば,実務上のメリットがあるので,債務者が一人である場合にも不可分債務を認める余地があることを前提に,意思表示による不可分債務が認められると便利なのではないかという趣旨の御発言があったと記憶しております。先ほどの岡本委員の御発言も,こうした事例を念頭に置いて,意思表示による不可分債務にニーズがあるとおっしゃられたということなのでしょうか。 ○岡本委員 そうです。 ○道垣内幹事 具体的な内容を議論するところではないと思うのですけれども,意思表示における連帯債務というのとどこか違うのですか。 ○岡本委員 「連帯債務」と「不可分債務」について,効力の差異がなくなると特に違いが出てこないと思うのですけれども,効力の差異がなくならない状態では,やはり違いがあるのかなということです。 ○鎌田部会長 よろしいですか。   では,よろしければ,29ページの最終行の「第10 保証債務」について御意見を伺います。まず「1 保証債務の成立」について,御意見をお伺いいたします。 ○加納関係官 30ページの「1 保証債務の成立」の(2)「保証契約締結の際における保証人保護の方策」ところですけれども,書かれていることに特に違和感があるというわけではないのですが,「債権者に対して,保証人が保証の意味を理解するのに十分な説明をすることを義務付けたり」というところについて,もう少しふえんして書いていただければいいのではないかという気がいたします。特に消費者が保証人になる場合に,要は軽率に保証人になって後々責任を問われることになって非常に大変だということについて,保証契約を締結する際にどの程度分かってもらうかということなので,知識とか経験とか,そういったところに鑑みて,十分説明をしていただきたいという点について,もう少し書き加えられたら良いのではないかと,そういう意見もあったのではないかと思います。 ○岡委員 弁護士会の強い意見を代表しているのが中井ペーパーですので,中井先生の朗読をお願いいたします。 ○筒井幹事 「第10 保証債務」の1(2)につきまして,中井委員から事前に発言メモが提出されておりますので,これを読み上げる形で紹介いたします。   保証契約締結の際における保証人保護の方策の要否,内容について,更に検討することに賛成するが,さらに,説明義務違反・情報提供義務違反の効果として保証契約の取消しを認めること,一定額を超える保証契約の締結には保証人に対して説明した内容を公正証書に残すこと,保証契約書に保証人の自著を要求すること,過大な保証の禁止を導入することなどについて,第6回会議においての提案があり議論されているところであり,これらを積極的に否定する意見はなく,論点として取り上げないとの意見で一致しているわけではないので,これらについても検討することとしてはどうか。   そこで,具体的には,以下の事項を論点整理として新たに追加してはどうか。    「1 事業者を貸付人,自然人を保証人とする場合に,保証契約締結に際して説明義務・情報提供義務を定め,その違反がある場合には当該保証契約の取消しを認めるかどうかについては,対象となる保証契約の類型,説明義務または情報提供義務の内容,その違反の効果として保証契約の取消しを認めた場合の影響等に留意しつつ,検討してはどうか。   2 事業者を貸付人,自然人を保証人とする場合に,自然人が安易な保証契約を締結することを防止して保証人保護を図る観点から,一定額を超える保証契約の締結には保証人に対して説明した内容を公正証書に残すとの提案,保証契約書に保証人の自著を要求する提案,過大な保証の禁止を導入する提案などがあるが,これら新たな保護規定を設ける提案についても,対象となる保証契約の類型や違反した場合の効果に留意しつつ,検討してはどうか。」 ○鎌田部会長 ほかに,保証債務の成立に関連した意見は。 ○岡委員 中井先生の意見に加えて,ここは弁護士会が力を入れている論点でございますが,(2)及び(3)について,今はCランク,中立的な意見提示になっておりますけれども,ここは,「何々とする方向でどうか」というコンセンサスはあったのではないか。特に(2),(3)について,方向までランクアップしてよろしいのではないか,してほしいという意見が弁護士会に強くございました。 ○岡本委員 今の岡委員のお話と逆のような話になってしまうのですけれども,「保証債務の成立」のところに記載されております債権者のいろいろな義務,説明義務とか,情報提供義務とか,あと通知義務とか,期限の利益を維持する機会を保証人に与える義務,それから適時執行義務までいってしまいますけれども,これらにつきましては,やはり反対意見ということがあるものですから,現状ではプレーンに検討してはどうかという形で書いていただいているので,この形であれば,特に反対ということまでは申し上げにくいところではあるのですけれども,バックアップ会議のほうからは,この点についても反対なのだといったところは議論で言っておいてくれという話がございましたので,その点だけ申し上げておきます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。ここは,両極の意見があるということで処理させていただきます。   「2 保証債務の付従性・補充性」から,33ページの上3行までですが,「5 共同保証」までについて御意見を頂きます。 ○岡本委員 先ほど申し上げた連帯債務の場合の話と同じなのですけれども,保証人が一部弁済した場合の求償権と主たる債権の優劣につきまして,ここでも明文化を提案させていただいていたと思いますので,そういう明文化の提案があるといったことについても,検討事項に加えていただけないかという意見でございます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○松岡委員 32ページの4の(3),(4)も関連しますが,委託を受けた保証人あるいは委託を受けない保証人の事前通知義務の話です。これは,前の連帯債務者のところに関する27ページから28ページにかけての方針と対応しています。連帯債務者の事前通知義務については,確かに廃止論があり,廃止するかどうかについて更に検討してはどうかという趣旨のまとめになっているのですが,保証人の事前通知義務についてはもう一歩踏み込んで,保証人についての事前通知義務も廃止する方向でとされていて,両者で少し表現の調子が違うような気がします。   かつ,中身について議論する時間がほとんどなかったので,議論が出ていなかったと思うのですが,私は個人的にはやや違和感があり,連帯債務者と,特に連帯していない場合もある保証人では,利益状況も異なって,全く同一ではなく,少し結論を異にすることもあり得るため,慎重な検討が必要ではないかと考えておりまして,廃止する方向で連帯債務者の事前通知義務との関係も考慮しながら検討する,という程度の表現にしておいていただいたほうが望ましいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 連帯債務者の事前通知義務を廃止する場合にはこちらも廃止するという書き方にしているので,「方向」が付いているのですね。 ○松岡委員 ただ,先ほど申し上げたように,必ず連動することになるのか自体に,少し気になるところがあります。 ○鎌田部会長 なるほど。御検討をお願いします。 ○岡委員 32ページの「共同保証─分別の利益」を原則なくするという提案のところですが,ここは「方向」と出ていないので,書きぶりだけかもしれませんけれども,弁護士会としては,中身についてかなり反対が強いところでございます。書き方として,従前の部会資料によれば,保証人保護を後退させる方向で,現状を変更すべきでないとする見解もあるというのが明記されておりましたので,書くとしても,反対説がある,こういう不利益があるという意見もあるということは,是非書いていただきたいという意見がございました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   それでは,「連帯保証」以下について御意見を頂きます。 ○加納関係官 6の(1)「連帯保証制度の在り方」の「連帯保証人の保護を拡充する方策について,更に検討してはどうか」というところですが,補足説明でもいいかとは思いますけれども,具体的にいろいろな意見が出たところだと思いますので,それが分かるように書き方を工夫していただければいいのではないかと思います。 ○高須幹事 7のことを考えていたものですから先に言わせていただきます。「7 根保証」のところでございますが,「(1)規定の適用範囲の拡大」のところ,これは強い意見というほどのものではなく,ここで皆さんの御確認いただきたいだけなのですが,平成16年の改正で貸金等根保証に与えられたような保護を今回,更に拡充していくべきではないかという議論は,部会でも比較的一般的だったような気がしたのですが,「方向」という言葉を使うかどうか,少し気になったものですから,御検討いただければ有り難いと思います。   二つ目は,意見というか,私のお願いになるわけですが,「(2)根保証に関する規律の明確化」のところです。これは私が発言したことを酌み取っていただいたということで感謝しているのですが,「元本確定前の主債務の一部について債権譲渡があった場合における債務保証の随伴性の在り方などについて,検討してはどうか」と書いてあるのですが,そのとき指摘させていただいたのは,譲渡の問題と,元本確定前に保証債務の履行請求が認められるかという問題と,両方の点を指摘させていただいております。そのこと自体は議事録にも残っていることでございますので,「など」に含めたということだとは思うのですが,やはりパブリックコメントにかける以上は,両方,ここは10文字ぐらいの話でございますので,書き込んでいただければと思います。 ○奈須野関係官 まず,「主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれない根保証にまで規定の範囲を広げるかどうか」ということについては,クレジット業界から反対の意見がありましたので,引き続き「更に検討してはどうか」ということでお願いしたいと思います。   次に,「根保証に関して,判例によって認められているいわゆる特別解約権を明文化するかどうか」ということについては,平成16年改正によって一応立法的に解決されているものと考えられますので,「判例によって認められている」という記述は前提を欠くように思えます。それでもこのような規定をすべきという議論が部会においてあったことはそのとおりですので,少し書きぶりを工夫していただければと思います。 ○佐成委員 「その他」という,部会資料では拾われていない論点なのですけれども,第6回会議で当時の三上委員から,「我々も,消費者保護に関してその姿勢を貫くということは重要であることは十分に理解しているので,保証人保護のために詳細な規定を別途設けることは十分検討に値するが,保証全体がそれに引きずられて重い制度になって,円滑な企業金融に支障が出ても困る。ついては,現行民法の個人保証関連規定ごと消費者法制の方へ移すという選択肢もあるのではないか。」という提案がなされたと聞いております。   現行民法は,根保証について個人保証と法人保証を分ける制度設計になっており,これは直接には平成16年改正で,悲惨な社会問題に応急的に対処するということであったかと思うのですけれども,そもそも個人保証と法人保証とは想定される利益状況が異なります。個人保証の場合には,何といっても生活が破綻するという深刻な問題をどう回避すべきかとか,保証人になった個人をどう保護すべきかとか,そういったところが最重要の考慮要素になります。法人保証の場合には,そもそも生活の破綻ということはないので,個々の法人がそれぞれの経済合理性に基づいて自由に行動できるように,余り過度に規制を加えないとか,全体としての金融の円滑だとか,経済システムの効率性とか,そういった制度全体の経済合理性を実現することが重要な考慮要素になりますので,二読において,保証について,個人保証と法人保証の特性や利益状況に応じて十分検討した上で,もし仮に個人の保証人の保護を現行民法よりも更に拡大していこうという方向性が出てくるのであれば,いっそのこと個人保証関連規定ごと,消費者法制のほうへ移し,消費者保護法制の全体的・整合的な発展の中でこの問題も十分議論し,深化させていくという考え方・方向性もあるのではないかという趣旨のご提案だと思いますので,一応検討してみてはどうかと思います。要するに,もし専ら個人保証で想定されているような事象について更に保護を深めていくということであるとすれば,これらを民法から外して消費者法のほうへ持っていくという,そういう選択肢があるのではないかということをパブリックコメントにかけていただいてはどうかということでございます。 ○筒井幹事 ただいまの御提案について,確かに一読のときにも紹介していただいた御発言があったことはよく覚えておりますけれども,個人保証に関する規定を消費者法などの特別法に移すという議論ということになりますと,民法から削るという意味で民法改正の議論であることは確かなのですが,削るだけで完結しないところに難点がありますので,その点の取扱いについては,少し考えさせていただけますでしょうか。そういったことを議事の概況等に書き込むというのも一つの方法かもしれませんし,取扱いについて考えさせてください。 ○鎌田部会長 個人保証と法人保証,それぞれの特質に応じて規律を変えるということと,消費者法制に移すということとは…… ○佐成委員 要は,二読ではもちろん議論は議論として行っていくのでしょうけれども,個人保証を場合によっては,この議論の結果にもよりますけれども,特性の違うものとして消費者保護法制へ移したほうが適切な場合もあり得るのではないかということでございます。まだ先のことですから分かりませんけれども,弁護士会のほうとか,消費者委員の方からも相当強い意見があるようでございますので,議論を整理する意味でも場合によっては必要かなと,そういうことでございます。 ○鎌田部会長 それぞれの特性に応じた議論をしろということよりも,移せということが重要な提案だということですね。 ○佐成委員 そうですね。移すということもあり得るのではないかという提案でございます。移したほうがいいのかどうかは分かりませんけれども。 ○鎌田部会長 では,筒井幹事が説明したような事情もありますので,検討をするということにさせていただきます。 ○山野目幹事 意見を述べておいたほうがよろしいと感じますから申し上げますが,今,部会長が少し整理しかかったことについて,もう少し強く申し上げたいと考えます。移すかどうかということに焦点を絞った問題提起をしていただくのは困るという感触を抱きます。自然人が保証人である場合と法人が保証人である場合,あるいは消費者が保証人である場合とそれ以外の場合等に応じて,それぞれ適切な規律を考えてみようという問題提起を事務当局が工夫していただくことは,あってよろしいのではないかと考えます。 ○鎌田部会長 では,その点よろしくお願いします。ほかに。 ○岡委員 最初に申し上げた,なぜこの問題を検討しているのかを書いたほうが国民に分かりやすいのではないかという観点ですが,保証人保護をなぜ検討しなければいけないかというところをもう少し書くべきではないかという意見がございました。   やはり日本人の特性から,頼まれたら断れない,保証というのに安易に応じてしまう現実があり,なおかつ,多重債務あるいは自殺等に大きな問題が生じているので,保証人保護を適正に図らなければいけないというのが,この問題の本質であろうと思います。ただ,その本質をどう書いたら一番分かりやすいかが問題です。自殺対策,多重債務者対策,中小企業保護の観点というのをもう少し書くべきだという意見もあります。実際,国会で審議するときも,こういう理由のこういう問題のために保証人保護を強化しなければいけないというのは,必要になってくると思いますので,この段階でも,補足説明ではなく本文のほうにそこは書くべきではないかと思います。 ○鎌田部会長 全体として一定の方向性を色濃く出した論点整理にするかどうかという問題と絡んで,表現の難しい部分があろうかと思いますが,少し工夫をさせていただくということで,事務当局に検討をお願いいたします。   ほかにいかがでございましょうか。   当初,大変懸念していたのですが,本日予定していた議事は以上のとおりで,6時前に終われるようになりそうですけれども,ほかに何か御意見等ございますでしょうか。   ないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等について事務当局に説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回会議は,1月25日火曜日,午後1時から午後6時まで,会場は本日と同じ法務省20階第1会議室です。   次回は,「たたき台(2)」という部会資料を事前に送付させていただき,議論していただくことを考えております。その資料は,これまでの例に倣って2週前の金曜日とすると今週の金曜日になりましょうか,会議の間隔が詰まっておりますので,事務当局はますます自転車操業の状態なのですが,お約束の日までにお届けできるように努力しようと思っております。取り上げる項目の範囲は,今回の続きですから「債権譲渡」から始まりまして,おおむね部会資料の4冊分,意思表示のところまで,最低限そこまでは含まれるようにしようと思います。それにプラスアルファが付くかもしれませんけれども,その程度の範囲を想定しております。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了いたします。   本日は御熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。 -了-