法制審議会民法(債権関係)部会           第22回会議 議事録 第1 日 時  平成23年1月25日(火)自 午後1時01分                      至 午後5時59分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第22回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   では,配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として,部会資料22をお届けいたしました。また,机上には事務当局からの配布物として,「質問予定事項」という表題の参考資料9-1と10-1を置かせていただきました。これは実態調査に関するものですので,本日の会議の最後に御説明しようと思います。このほか,委員等提供資料ですけれども,全国青年司法書士協議会作成の「民法(債権関係)改正に関する意見書」が配布されております。   配布物の確認は以上ですが,部会資料22に関して一言説明を付け加えます。前回の会議で中間的な論点整理の書き表し方に関して,幾つかの総論的な御意見を頂きました。例えば岡正晶委員から,それぞれの論点について議論の目的でありますとか,実務が変わるのかどうか,それから改正の理由などを書き込むべきではないか,こういう御意見がありました。前回の部会資料21でも,私どもなりにそれを意識していたつもりですけれども,今回の部会資料22ではそういった御指摘があったことも踏まえて作成作業をしたつもりであります。ただ,前回の会議後,資料発送までにはほとんど時間がありませんでしたので,なお不十分であったかもしれません。次回以降もそれを更に意識して,努力をしていきたいと考えております。   もっとも,御指摘があった様々な事項をコンパクトに表現するのが実際上なかなか難しい論点もあります。ですので,できる限りの努力はいたしますが,それでも足りない部分は,補足説明という別の文書の議事の概況等で紹介するなどといった工夫をしていきたいと思っております。この点も是非考慮していただいた上で,本文の書き方について,個別的に改善の御提案をしていただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 それでは,よろしくお願いいたします。   本日の審議に入ります。   本日の進行予定としましては,休憩前に部会資料22の「第19 決済手法の高度化・複雑化への民法上の対応の要否(多数当事者間の決済に関する問題について)」まで御審議いただき,その後,部会資料22の残りを全て御審議いただくことを予定しておりますが,前回会議で部会資料21の「第3 6 労働契約における解除の意思表示の撤回に関する特則の要否」を論点として維持するかどうかについて,新谷委員の御意見を伺うことになっておりましたので,まず,この点について新谷委員から御発言をお願いいたします。 ○新谷委員 発言の機会を頂きありがとうございます。前回欠席しましたが,資料の第3の6の,「意思表示の撤回の規定の要否について検討してはどうか」という記載について,一部委員から削除の提案があったとお聴きしています。この点につきまして,私は第4回の会議において労働分野の特別法の領域で規定すべきか,民法に盛り込むことが可能かという点も含めて,議論をしていただきたいということを申し上げています。前回の御議論の中で,この部分について「いずれの場で取り上げるべきかも含めて,検討してはどうか」という御提案もあったと聞いていますので,私としてはそのように記載していただければ有り難いと思っています。 ○鎌田部会長 分かりました。   それでは,ただいまの御発言を受けて何か御意見があればお願いをいたします。よろしいですか。   では,部会資料22の1ページから5ページまでの「第11 債権譲渡」のうち,まず,「1 譲渡禁止特約(民法第466条)」について御意見をお伺いします。 ○沖野幹事 表現の問題ですけれども,1の(1)の6行目,相対的な効力案の説明に関しまして,「譲渡禁止特約は原則として相対的な効力を有するにとどまり,債権譲渡の当事者間では有効とする考え方」と記されております。この書き振りですと,第三者との関係では無効というような含意が出てくるように思われますが,それはもともとのこの考え方とは違っておりますことから,この部分は表現を変えてはどうかと思います。短くするならば,「有するにとどまり,債権譲渡は有効」として,「当事者間では」という限定を取るか,少し詳し目に「債権譲渡は有効であるが,債務者は特約を主張できるとする考え方」とするなど,いずれにせよ,疑義のないような表現に改めてはどうかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内幹事 同じところなのですが,絶対的効力案というのと相対的効力案というのは,債権譲渡の当事者間の効力の問題を考えるということなのでしょうか。債権譲渡禁止特約の相対的な効力というのを,債権譲渡の当事者間では特約は有効だということになると,譲渡の効力は生じないような気がするのですが。特約の当事者間の話とは少しレベルの違う話なのでしょうか。私の理解が不十分なのかもしれないんですけれども。 ○鎌田部会長 では,事務当局から説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 今の道垣内幹事からの御指摘を必ずしも正確に理解できていない部分があるのかもしれませんが,御説明させていただきます。沖野幹事から御指摘を頂いた部分とも関連するのではないかと思うのですけれども,この部分の原案の記載の趣旨としては,3行目にあります「その上で,譲渡禁止特約に違反した債権譲渡の効力については」というところから,少し飛んで,「譲渡禁止特約は原則として相対的な効力を有するにとどまり,債権譲渡の当事者間では効力を有効とする」とつながりますので,「譲渡禁止特約は原則として相対的な効力を有するにとどまり,債権譲渡の当事者間では,債権譲渡は有効である」というものでした。そのことが分かりにくいという御指摘を頂いたのではないかと思いますので,修文を検討させていただければと思っております。 ○道垣内幹事 分かりました。「債権譲渡禁止特約が絶対的な効力を有し,債権譲渡の当事者間で無効」というふうに書きますと,無効なのが特約の効力のように読めてしまうので,「無効」の前に「債権譲渡は」というのを入れていただいたほうがよろしいかと思います。 ○中井委員 前回,書面でコメントを差し上げたわけですけれども,本文にどの程度のことを書き込むのがいいのか,先ほどの御説明も踏まえて指摘させていただければと思います。例えばですが,(1)の譲渡禁止特約の効力の整理について,問題の背景として,財産権である債権の処分の自由があり,資金調達等の目的で債権譲渡禁止特約付き債権であっても譲渡して,資金調達をする実務上の要請がある,他方で,債権譲渡を禁止することによる債務者の利益保護の必要性がある,こういう要素を書き込むほうが分かりやすいのではないか。   ただ,先ほども御指摘がありましたけれども,どこまで書き込むのがいいのかどうか,難しい点はあろうかと思います。分かりやすさの観点,前回,岡委員がおっしゃっていますが,ここでも単に絶対的効力説があります,相対的効力説がありますというだけではなくて,その前か後ろに,例えば,今,申し上げた「財産権である債権の処分の自由,資金調達等の目的で譲渡禁止特約付き債権を譲渡することの実務上の要請,債権譲渡を禁止することによる債務者の利益の保護の必要性等に留意しつつ,更に検討してはどうか」とか,そういう考慮要素を挙げることができないか,御検討を賜ればと思っております。これが第一点で総論的な意見でございます。   各論的なことで申し上げますと,同じ(1)で,「また」以下でアとイが掲げられ,イで書き出しが「将来債権の譲渡の安定性を高める観点から」とのみ記載されているわけですけれども,これも先ほどの前振りからすれば,他方で債務者の利益を保護するという観点があるはずだろうと思うのです。将来債権が譲渡された後,債権者と債務者との間で新たな取引をするときに,債務者サイドとしては譲渡禁止特約を付けたい場合があるでしょうし,そのような債務者の利益の保護も必要な場面があると思いますから,この書き出しでも例えばですが,「債務者の利益を保護する観点や将来債権の譲渡の安定性を高める観点」という二つの利益の対比というものができないものかと考える次第です。   次に,(2)ウの論点ですが,第1文の中の「考え方について」の次ですが,「管財人等の債権回収のインセンティブが働かなくなるおそれがあるという問題意識」,この記載は適切ではないように思われます。これは私の発言を引用していただいているのかもしれませんが,管財人のインセンティブが問題となる場面はこの場面ではなくて,そもそもこの御提案では,悪意の譲受人であっても倒産手続が開始すれば,債務者に対して権利行使ができるわけですから,管財人は債権回収する必要がないので,そこでインセンティブの問題は起こらない。   管財人のインセンティブの問題が生じる場面というのは,相対的効力説を採って,かつ倒産手続が開始しても譲渡人が権利行使できる,その上で悪意の譲受人は譲渡人,つまり,破産財団に対して財団債権若しくは共益債権として権利行使ができる,そういう場面で管財人が回収するインセンティブがなくなると,こういう指摘をしたつもりです。   そこで,対案といいますか,この考え方について更に検討する要素としては,これも例えばですが,悪意の譲受人がいた場合に開始決定までは譲渡人又は善意の他の譲受人が権利行使できたのに,開始決定があると,突然,悪意の譲受人が権利行使できることによる不都合が指摘されていると思うのです。そのとき債務者の利益が害されるおそれがある。また,開始決定により権利行使者が変更になることにより,債務者の権利行使者に対抗できる抗弁の基準時が不明となりかねない,こういう指摘もあったと思います。だから,「こういうことに留意しつつ,更に検討してはどうか」と,こういう対案が考えられるわけです。   こういう対案を考えたときに,口頭で申し上げるのがよいのか,本当は事前にメモを作ってお渡しするのがベストでしょうけれども,前日に日弁連の意見を聴いて,朝考えて,ここで発言するとなると文書化する時間がございませんので,どうしても発言で終わってしまうんですが,発言したことを記憶にとどめてメモにして差し出すのが好ましいのか,このあたりもどうしたものかと,思っております。   さらに,この1の範囲で申し上げますと,この(2)ウの「また」以下ですけれども,①の記載の趣旨はここにいらっしゃる方々は分かると思うんですけれども,分かりにくいのではないか。つまり,一体,いつ債権譲渡禁止特約付き債権の譲渡があったのか,また,いつ対抗要件を備えたのかという点です。これは,山本和彦幹事がおっしゃった問題提起ではないかと思いますが,これも言葉で申し上げますと,①については「譲渡人の倒産手続の開始決定後に譲渡禁止特約付き債権を譲渡して対抗要件を具備した場合において,債務者は譲渡禁止特約を譲受人に対抗できない」,こういう考え方の当否ではないかと思うんです。倒産手続を開始したときには譲渡禁止特約は飛ばしてはどうかという趣旨ではなかったかと思いますので,今,私が申し上げたほうが分かりやすいのではないか。   長くなりましたけれども,以上でございます。 ○筒井幹事 大変貴重な御意見をありがとうございました。意見をお届けいただく方法についてですが,本文をどのように修正するかという点は,基本的に会議の機会に御発言いただいた上で,それを踏まえて,私どもで更なる修正案を考えるという手順にすべきであろうと思います。もっとも,会議時間内には発言し切れなかったというときに,何か別の形で御意見をお届けいただくという方法も,参考にさせていただくという意味で有益だと思いますので,そういう方法が可能でしたらお考えいただければと思います。ただ,会議の外で頂いた意見で,それを次の資料に反映させる場合には,それはやはり一度,その議論を会議の場に載せる必要があると思いますので,次に議論をする機会に,こういう意見が会議外で寄せられたということを紹介して,更に議論していただくというプロセスを採るべきであろうと思います。   個別に頂いた意見については,私どもで十分しんしゃくして次の資料を作成しようと思います。ただ,一般論として一言だけ付け加えますと,分かりやすくいろいろなことを書き込んでいくのは,もちろん大変重要なことだと思いますが,前回も申し上げたことですけれども,ある程度は全体のボリュームのことも意識せざるを得ないのではないかと思います。一つ一つの論点を丁寧に書くことも大変重要なんですが,それによって全体のボリュームが大きくなったときに,全体を一読するのに大変な時間が掛かることになりますと,基本となる文書がそれでよいのかという問題があって,やはり,ある程度はコンパクトさも意識しながら進めていく必要があるのではないかと思っております。   そういう観点で,前回も触れたことの繰り返しになりますが,各論点の説明については部会資料詳細版の該当ページを引用することによって,それを併せて御覧いただきながら理解を補充していただくことを考えておりますし,また,その論点についての議論の状況は全て議事録を読まなければ分からないというのでは大変不親切なので,議事の概況等という別の書面を用意することを考えておりますので,そういったものとの分担を考えながら,本文のボリュームについて,更に私どもとしても検討していきたいと考えております。 ○佐成委員 今の,(2)ウの「管財人等の債権回収のインセンティブが働かなくなるおそれがあるという問題意識」というところですが,ここでの考慮要素の一つとして,「債務者にとり倒産手続の開始決定の有無を確認することが必ずしも容易とは限らないこと」も加えてほしいという意見がございましたので,「債務者にとり倒産手続の開始決定の有無を確認することが必ずしも容易とは限らないことを踏まえつつ,更に検討してはどうか」という修文案を御検討いただきたいと思います。債務者の立場からすると,開始決定を確認するのが困難な場合も予想されるので,取扱いは事務当局にもちろんお任せいたしますけれども,そういう要望があったということだけはお伝えしたいと思います。 ○岡本委員 二点,申し上げたいと思います。   まず,一点目は「債権譲渡禁止特約の効力」のところで,論点として落とされている部分がございますので,それについてなんですけれども,かつて部会の場で三上委員のほうから出された意見の中に,仮に譲渡禁止特約の効力について否定したり,制限したりといった考え方を採る場合であっても,預金債権のように譲渡禁止特約の効力を認める必要性が高い,そういった債権については,一定の例外を認めることが望ましいのではないかというふうな意見があったかと思います。   これについては特別法で定めればよくて,民法に規定する事柄ではないのではないかと,そういった意見など反対意見があったことから,論点として取り上げないという形にされたんだとは思いますけれども,確かに預金債権を殊更取り上げて民法に規定するといったことは,ちょっとなじまないところがあるとは思いますけれども,譲渡禁止特約は原則として有効とした上で,一定の種類,一定の性質の債権について例外を設ける,あるいは逆に譲渡禁止特約については原則として無効あるいは効力が制限されるとした上で,債権の種類,性質に応じて一定の例外を設けると,そういった考え方,債権の種類,性質に応じて特約の効力を民法の中で書き分けるといった選択肢も,あり得るところなのではないかと思いますものですから,一応,論点としては残していただけないかというのが希望です。   どういった書き分けをするかということについては,特に腹案があるわけではないんですけれども,例えば大量迅速に弁済する必要があるような,そういうふうな債権,これをうまく要件としてくくり出して,そのような債権については譲渡禁止特約の効力に制限を設けないといったことにするであるとか,あるいは債権を譲渡しなくても,別の手段で債権を譲渡したのと同様な効果を生じさせることができるような債権,例えば銀行の預金債権などは払い戻して他人の口座に振り込むというふうなことを行えば,譲渡したのと同じような効果を得るといったこともできるのではないかと思いますけれども,そういった債権をうまくくくり出して,譲渡禁止特約の効力に制限を設けないこととするといったようなことができないだろうかと考えます。   以上が一点目でございまして,二点目は「譲渡人について倒産手続の開始決定があった場合」についてです。こちらにつきましては,先ほど佐成委員からお話があったこととちょっとかぶるところではございますけれども,かつての部会の議論の中では,譲渡人に倒産手続が開始したからといって,債務者の保護の必要性が変わるわけではないであるとか,あるいは債務者にとって譲渡人の倒産手続開始を知ることができないおそれがあるといった意見がございまして,問題意識としてはこちらの問題意識が重要なのではないかと思いますので,できれば併せて掲げていただけないかと思います。 ○筒井幹事 今,岡本委員から新たな提案として,新たな提案と申しますか,以前に三上委員から発言があったことを更に補充する形で御提案いただいたものについては,本日の会議で御議論いただいた上で,論点として掲げるかどうかを更に検討しようと思います。その結果,論点として載せることは,もちろんあり得る選択肢だと思うのですが,載せた上で,次に第二読のときにどういう形で議論を進めていくのかという点では,載っているものは全て事務当局で検討して次の案が出てくるというわけではありません。ですので,もし載せることになったとすれば,更に岡本委員においても,その具体的な内容を補充していただくような検討をしていただければ有り難いと思います。 ○奈須野関係官 (2)のアの「譲受人に重過失がある場合」について,通常,債権には譲渡禁止特約が付いているという実務の実態がある中で,重過失がある場合に対抗されてしまうと,債権の流動化が非常に難しくなるのではないかという観点から,条文上,「譲受人に重過失がある場合」を明らかにするということに対しては,商社から消極的な意見がありました。このことは先ほど岡本委員がおっしゃられた債権の種類,性質により譲渡禁止特約の効力が違ってしかるべきという考え方を採った場合には,なおさらどのような場合に重過失が認められるのかということについて,不明確な部分が出てくると思われるので,この観点からも少し留保いただくのが良いと思います。 ○岡委員 三点,申し上げたいと思います。債権譲渡の最後まで,今は対象になっているという理解でよろしいんでしょうか。 ○鎌田部会長 今は1をお願いしております。 ○岡委員 では,1については一点だけでございます。(1)の「譲渡禁止特約の効力」の中の「絶対的効力案」という表現ですけれども,現在の最高裁の判例は主張できる人が限られた無効説を採っており,これは「案」ではなく判例ですので,今,判例はこうであると明記していただいて,それに対しその判例を変える案が出されていると書くほうが,国民にとって分かりやすくなるのではないかと思います。 ○深山幹事 (2)のウの譲渡人について倒産手続が開始された場合の後段の部分ですが,①の点については先ほど中井先生のほうから御指摘があったように,コンパクトに書かれていることによって,どういう場面を設定しているのか分かりにくいように思います。つまり,倒産手続開始後に譲渡があった場合なのか,譲渡はそれ以前にあったけれども対抗要件の具備が開始決定後だった場合のことなのか,問題設定としては両方あり得るんでしょうけれども,どちらを問うているのか分かりにくいということを私も感じました。同じような意味で,②のほうがどういう場面を設定しているのか,つまり,譲渡人について倒産手続が開始された場合というタイトルの中に入っているので,倒産手続が開始された場合を前提にしているのかとも思いますが,②の論点は必ずしも倒産手続が開始されていない場合でも,問題になり得るような気がいたします。ここでの問い掛けが倒産手続開始決定があったことを前提にした場面での問い掛けなのか,あるいは必ずしもそうでもないのかというのが,私自身も趣旨が分からなかったし,ほかの弁護士からも,この趣旨はどちらなんでしょうかという質問を受けたところです。   仮に倒産手続を前提にしないとなると,むしろ,(3)の差押債権者との関係では特約の効力が否定されるという判例法理の問題に近づいてくるような気もするので,ちょっと整理の仕方ないし質問の仕方を工夫し,もう少し場面設定を詳しくしていただくと,分かりやすいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 事務当局からお願いします。 ○松尾関係官 ただいま御指摘を頂いた点は,部会での発言を受けて記載をさせていただいた点なので,必ずしも正確に理解できていない部分があるかもしれませんが,②を論点として検討すべきだと御指摘された御意見は,ウの前段の論点を条文上,規定すべきとする理由として,債権を奪い合うような状況になった場合には債務者が譲渡禁止特約によって保護される利益が失われるというものが挙げられていたけれども,その理由は後段の②にも妥当するものであるから,これも論点として検討されてしかるべきではないかという内容であったと理解しております。つまり,②は,ウの前段が採用されることが前提となる論点であるということですので,ウの後段で論点として掲げさせていただいたものです。もっとも,深山幹事から,今御指摘いただいたような分かりにくさがあるのかもしれませんので,そこはまた改めて検討させていただきたいと思います。 ○山本(和)幹事 この部分は恐らく私の発言を取り上げていただいたんだと思います。②については,今,関係官から御説明があったとおりの趣旨で,特に破産手続開始は前提にしていないということです。①につきましては先ほど中井委員から言っていただいたように,私は倒産手続開始決定後に譲渡があって,第三者対抗要件が具備された場合を念頭に置いておりました。開始決定前に譲渡されて第三者対抗要件を具備するという事態があり得るかどうかという破産管財人の第三者性を前提にして,恐らく再生手続でも私はそうだと思うんですけれども,手続開始前に譲渡がなされていて,手続開始後に管財人や再生債務者がそれについて対抗要件を具備するという事態は,基本的には考えなくてよいのではなかろうかという気がしておるものですから,そういう意味では,確かに中井委員の御発言のような形で書いたほうがより問題は鮮明になると思いました。 ○鎌田部会長 それでは,御指摘いただいたような点を踏まえて,事務当局で更に検討をしていただきます。   次に,「2 債権譲渡の対抗要件(民法第467条)」について御意見をお伺いします。 ○鹿野幹事 二点,申し上げたいと思います。   一点目は,(1)の総論及び第三者対抗要件の見直しについてですが,この段落全体にわたり,記載された文章からは,債権譲渡の対抗要件制度を変えることが大前提であるかのようなニュアンスが感じられ,そのような表現を採ることに私は疑問を覚えました。具体的に申しますと,例えば1行目から2行目において,「債権譲渡の対抗要件制度の在り方については,債務者に過大な不利益を負わせているという民法上の対抗要件制度の問題点を解消するための方策や」という文章があります。確かにこのような問題点の指摘は存在しますが,この点が重大な問題で,したがって対抗要件制度を変えなければいけないというところまでは,この部会での意見の一致は得られていないのではないかと思います。   そこで,この文章を修正して,例えば,「債務者に過大な不利益を負わせているという問題点の指摘があることを踏まえ,その問題点を解消するための方策や,登記制度を更に利用しやすいものとするための方策について検討してはどうか」というような表現にすると,少しはニュートラルになるのではないかと思います。それから,その次の文章についても,「その上で,それらの検討結果を踏まえて」というところはよいのですが,「基本的な見直しの方向として」という表現は,やはり,この制度を変えることが既定の方針であるようなニュアンスが伝わってきますので,「基本的な見直しの方向として」という文言はあえて付ける必要はないし,むしろ削除するべきではないかと思います。特に先ほど指摘しましたように,一文目の文章が一定の結論を打ち出したもののように見えますことから,余計にこの部分についても,色があるように伝わってくるのかもしれません。細かな点ですが,この箇所は削除したほうがよいのではないかと私は思います。   それから,二点目は,(2)の債務者対抗要件の見直しについてです。ここで,「債権譲渡の当事者である譲渡人及び譲受人が,債務者との関係では引き続き譲渡人を債権者とすることを意図し,あえて債務者に対して債権譲渡の通知をしない(債務者対抗要件を具備しない)場合にも,債務者が債権譲渡の承諾をすることにより,譲渡人及び譲受人の意図に反して,譲受人に対して弁済する事態が生じ得るという問題に対応するために」と書かれているのですが,この文章も,ここに書かれている事態が非常に重大なゆゆしきものなので,この制度を何としても変えなければいけないということを意味する表現のように,私には感じられます。しかし,確かにこの点についてもここに書かれている趣旨の問題提起があったということは事実ですが,債務者対抗要件制度を変えるということについては,むしろ,消極的な意見が多かったのではないかと思います。   そもそも,この問題の前提として,このようないわゆるサイレント型と言われるような債権譲渡とそこにおける債権譲渡人の利益を,どこまで保護をするべきなのかというところについても,必ずしも意見の一致が得られているというわけではないと思われます。また,仮にある程度これを保護する必要があるということにつき了解があったとしても,だからといって,債務者の承諾を債務者対抗要件から外すという方法を採らなければならないかは,更に次の問題としてあり,少なくともこの点については,かなりの異論があったのではないかと私自身は認識しておるところであります。そういうわけで,今,申し上げました箇所の書き方を変えていただければと思う次第です。 ○松本委員 (2)の債務者対抗要件なんですが,この6行目あたりですか,鹿野幹事が指摘されたような変えるんだという方向性がかなり強くにじんでいる中で,障害となる理由として,「実務上承諾に利便性が認められているという指摘があることに留意しつつ」と書いてあります。では,そのような利便性よりも,変えるほうが重要だということになれば,変えたほうがいいと読めてしまいます。私は利便性の問題よりももっと理論的な問題点,すなわち,対抗要件とは何ぞやという点の障害のほうがはるかに大きいのではないかと思うんです。対抗要件だから権利を行使する側から行使するためには必要だけれども,債務者の側から承諾することによって,債務の履行をしても構わないというのが恐らく伝統的な考え方だったわけですが,そのような考え方をやめてしまうんだという意味がこの大前提に入っているわけですね。   (3)では,それを踏まえて対抗要件という言葉をやめて,権利行使要件と呼び変えようということですが,権利行使要件と呼び変えても,結局,同じ問題は残るわけです。すなわち,ここで立案者が意図されていることは,債務者との関係では債権譲渡が実はなかったんだ,しかし,債権譲渡の当事者の間では何かがあったんだということでしょうが,それは一体何なんだという,そこの理論的な解明をきちんとしないと,どういう言葉に呼び変えても,結局,よく分からない問題が起こってくるのではないかと思います。そもそも債権譲渡の効力と債務者との関係をどのように整理するのかという部分をきちんとした上で,更に実務的ニーズがこういう点である,そうでない別のニーズもこういう点であるということを踏まえて考えるというのが,一番正しいやり方ではないかと思います。 ○山野目幹事 二点ございます。   2の(1)のところでございますが,A案とB案の関係が,必ずしも審議の経過を見ていない方から見て,一読明瞭になっていない部分があるのではないかと感じます。A案について,登記制度を利用することができる範囲を見直すことがあり得るということが分かるような文言を,何か少し付け加えていただくとよろしいのではないでしょうか。現行の,法人ができるということのみを前提にA案を考えていただくとすると,趣旨が伝わらないと考えます。   それから,B案の新たな対抗要件制度の「新たな」というものが具体的に例えばどのようなものを意味するかは,補足説明でも結構ですので記していただくと,A案とB案の関係が明瞭になると考えます。債務者をインフォメーションセンターとしない対抗要件制度は登記制度もそうですが,新たな,であるところに特色があると考えますから,その具体像も何か補足説明などでお示ししていただければ,論議を適切に喚起できるであろうと感じます。   もう一点でございますが,2の(3)の対抗要件概念の整理のところは,部会で論議した際に意見がほとんど出なかったところから,更に検討してはどうか,という慎重な問題の整理をなさったものと感じますけれども,恐らく(1)(2)の検討を踏まえて,1項,2項の関係を明確化すること自体については,それほど大きな御異論はないのではないかと感じます。権利行使要件という言葉を用いるかどうかあたりは,依然,先ほどから指摘されている(2)との関係で論議があるかもしれませんが,ここをもう少し可能であれば,グレードを上げるような問題提起にしていただく余地もあるのではないかと感じました。 ○岡本委員 二点ございます。   まず,一点目は(1)のところでございますけれども,この点については先ほど鹿野幹事がおっしゃっていただいたことと全く同じ感覚を持っておりまして,特に「債務者に過大な不利益を負わせているという民法上の対抗要件制度の問題点」,ここの記載振りについては,そのような過大な不利益を負わせているという評価があたかも前提であるかのような記載になっているので,プレーンな記載にしていただきたいといったところで,鹿野幹事の御意見に賛成したいと思います。   それから,二点目ですけれども,(2)の「債務者対抗要件(権利行使要件)の見直し」についてでございますけれども,ここのところは部会の議論でも,これに疑問を持つ意見はあったものの,これに賛成する意見は確かなかったのではないかと思っておりまして,場合によってはこの論点についてはむしろ削除してもよいのではないかと考えます。 ○深山幹事 (2)の債務者対抗要件のところについて,既に御指摘がなされていることと重なるかもしれませんけれども,まず,そもそも譲受人に対して弁済する事態が生じるという問題というのをネガティブな問題と捉えている印象があるという点は,私も鹿野先生と同感であり,そのこと自体がどうかなと疑問に思うのですが,更にその後,松本先生がおっしゃったように,それ以上に問題なのは,それをネガティブな問題と捉える立場を採ったにせよ,ここで提案されている対抗要件を通知に限るという考え方を採ったからといって,その問題は解消しないということです。   つまり,松本先生の御指摘のとおり,これは債務者側の問題であり,対抗要件なり権利行使要件として,権利者側が行使するときにどのような要件を求めるかとは別に,債務者のほうで譲渡の効力を主張できるかという問題のはずです。もともとこの議論が債権譲渡の対抗要件の議論の中で提案がなされてきているのは承知していますが,それをこのままこの場面において議論し,パブコメを求めるということではなくて,むしろ,債権譲渡の対抗要件とは別項目で,そもそも債務者との関係で債務者側から譲渡を積極的に認めて支払ってもいいのか悪いのかを問うべきであると思います,提案の考え方は,払わせないという規律とすることを意図しているのだと思いますが,そのこと自体の当否の議論を,別項目で掲げないと,議論が混乱をするのでないかと私も思います。 ○道垣内幹事 最初に鹿野幹事のほうから,(1)などが一定の方向性を持っているのではないか,少なくともそう読めるのではないかという意見が出たわけですが,これは,結局,1を「総論及び第三者対抗要件の見直し」と,一つの項目にまとめてしまったことに原因があるのではないかと思います。例えば民法の債権譲渡のいろいろな制度を考えてみますと,例えば同時到達の場合はどうだとか,片方がどうなって,片方がどうなった場合はどうだとか,判例法理によって債務者がいろいろな場面で採るべき行動が異なってきますし,3になっておりますが,抗弁の切断の問題とかで,債務者に過大な不利益を負わせているということがあるのだろうと思います。   そして,そのように債務者に不利益があるというときに,同時到達その他の場合に,債務者がどうすべきかという明確な規定を置くべきだという話は出てくるわけであって,それは対抗要件制度の改正をしない場合でもそうなるわけです。その話と,対抗要件制度をどうするかは,確かに債務者に過大な不利益を負わせている可能性のある債権譲渡制度を改正するとき,改正すべき点になるかもしれないが,別の話ですね。結局,全体をどうしていって,債務者に余り負担が掛からないようにするとかというのが論じられるべきだろうと思っております。   そうなりますと,(1)のうち,「総論」は「総論」としてまず切り出して,現行の債権譲渡は対抗要件の制度というものも含めて,債務者にかなりの不利益を負わせているのではないかという意見もあって,そういうのをどう改正すべきなのかということを今後,検討するという話と,2として対抗要件制度が現在,複数並存しているというときに,それをどう整理するのか,あるいは整理する必要性がそもそもあるのかとして,二つを分けていただくのが,誤解を招かないのではないかと思います。 ○奈須野関係官 (1)のパラグラフの後段が,A案,B案,C案の三択になっています。しかし,中間論点整理の段階では国民に対して,A案,B案,C案のいずれを採るか決断してもらう段階ではないと思います。したがって,D案,E案でもし良いものがあれば取り入れていくということですので,ほかの案もあるのではないかという形に修正していただければと思います。 ○沖野幹事 2の(2)に関連しまして,この問題をそもそも取り上げるか,それから,取り上げるとしてどういう位置付けの問題とするかという点について御指摘があったと思います。取り上げるかどうかについては,部会での沈黙をどう評価するかということにもつながると思うのですけれども,意見がなかったということは,それについて反対であるということなのか,賛成であるということなのか,その評価の問題だと思いますけれども,逆に,こういう問題は取り上げるべきではないという積極的な反対がないということは,この問題は問題として生きるだろうと思います。もし,意見が必要であれば,私は問題としてこの点は挙げるべきだと考えておりますし,資料に対して特段の反対のつもりはないので沈黙していたというつもりです。   二点目は,この問題をどこで取り上げるか,債務者の行動対応や保護という問題から取り上げるのか,対抗要件問題として取り上げられるのかということですが,(2)で問うているのは,現行法上,対抗要件とされている債務者の承諾という制度をどうするのか,更に第三者対抗要件と債務者対抗要件という区別の中で,この制度をどう位置付けるかということですから,第三者対抗要件の問題が(1)ないしそれを総論と第三者対抗要件で切り分けるとすると(2)になりますが,第三者対抗要件の問題をそこで扱うとすると,別途,債務者に対する対抗要件である承諾をどうするかという問題は,その見直しを問うという点で対抗要件に関して立つ問題だろうとは思います。   そのときに承諾という制度をなくしたほうがいいのかについては,ここに書かれているような事象をどう評価するか,その中には鹿野幹事がおっしゃったサイレント型への評価をどうするか,あるいは債務者の利益の保護をどうするか,更には松本委員がおっしゃった理論的な問題に対してどう考えるかということが出てくる,そういう問題だろうと考えております。   なお,前回も出た話ですが,日本語はとても難しくて,読点がどこに係っているのかがよく分からないところがあります。(2)につきましても,「問題に対応するために」という部分が,考え方の内容であって,問題点の指摘に対してこういう考え方があるというところであるのか,対応するために更に検討するという,この問題意識は共通しているという説明であるのか,日本語として両方に取られるように思われます。いずれにしましても鹿野幹事の御指摘を踏まえて,明快にしたほうがいいのだろうと思います。 ○松本委員 今の沖野幹事の御意見との関係なんですが,(2)の債務者対抗要件の見直しという枠内でこれを論じるというのは,私はやはりおかしいと思います。深山幹事のおっしゃった考えのほうが正しいと思うんですね。というのは,債務者の承諾が債権譲渡の債務者対抗要件になるということの意味は,通知はしていないけれども,債務者が債権譲渡を一旦承諾したんだから,弁済しないというのは許されないぞと,つまり,譲受人側から弁済を強制できる前提として,あなたは,以前,承諾したではないかということが言えるという意味だと思うんですね。   それが対抗要件なんですが,ここで実務上,困るから何とか廃止してほしいということの意味は,債務者が譲渡人の意図を無視して,譲受人に弁済をしてしまうということをやめさせたいということですから,対抗要件の問題ではなくて,債権譲渡がたとえあったとしても,通知がない限りは債務者はもともとの債権者,つまり,譲渡人にしか弁済してはいけないんだと,そうでない限り,弁済の効力が認められないんだという新しい制度を導入する提案だと思います。そういう点で深山幹事が指摘されたとおりですので,そういう論点をもし残したいのであれば,やはり,見出しを変えて債権譲渡の新しい枠組みとか,そういう債務者との関係では譲渡がなかったことになるけれども,譲渡人,譲受人との間でのみ,債権譲渡の効力が発生するような債権譲渡という新しい制度を創るかどうかという検討課題を設定すべきかと思います。 ○鎌田部会長 そこは少し,こちらのほうで御指摘を踏まえて検討させていただきます。 ○鹿野幹事 先ほどからの議論を受けて,2の(1)の箇所について改めて意見を申し上げたいと思います。基本的には先ほど道垣内幹事がおっしゃったことに賛成です。ここでは総論と対抗要件の問題を整理し直して記載されたほうが,分かりやすくなると思いますし,その上で対抗要件につきニュートラルな書き方にしていただければよいのではないかと思います。その際,最初のほうに触れられるであろう債務者の過大な不利益という問題については,少し説明を加えていただければと思います。ここで問題提起をしている立場が,何を指して債務者の過大な不利益と言っているのかについては,先ほど道垣内幹事が改めて触れられたところですし,この部会では以前から共通の認識があると思いますが,パブコメにかける文章としては,なお分かりにくいと思います。そこで,中間整理ではその本文中に,その内容を少し盛り込んだ形で記載していただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   よろしければ,「3 抗弁の切断」についての御意見をお伺いします。 ○岡委員 「明確化する方向で」と書かれている点について,反対の意見が弁護士会から出ております。補足説明を見れば書いておるのかもしれませんけれども,意思表示の一般的な規律に全面的に従わせてしまうと,悪意の譲受人にも放棄の効果が生じてしまうであるとか,抽象的,包括的な認識で放棄した場合も,放棄の効果が生じてしまって不都合ではないか,そういう二点の問題があるということが提起されていたと思います。原案ですと,一般的な規律に従うことを明確化した上で,今の二つの問題点も含めた問題を検討しようという書き方になっておるんですが,そこまではまだいっていないのではないかと思います。「方向で」というのを取った,もう少し問題点をフラットにしたような問題提起にしてほしいと,そういう意見が弁護士会にございました。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○松尾関係官 今,岡委員から部会での審議の際に,「方向で」と言えるほどのコンセンサスはなかったのではないかというふうな御指摘がありましたが,原案の趣旨を御説明させていただきますと,部会での審議の中では,抗弁の放棄という意思表示は現在でもできるのであり,岡委員が御指摘された問題は現在でもある問題であって,異議をとどめない承諾という不明確な制度を廃止したことによって生じる問題ではないという指摘がありました。だから,これらの問題をもって,異議をとどめない承諾を廃止しないという結論にはならず,この不明確な制度自体は廃止して,今後は今でもある問題について,どのように対処するかということを検討すべきではないかというような議論の方向ではなかったかと承知しておりました。ただ,まだ,そこに至らないというような御意見であれば,改めて御議論いただいて検討させていただきたいと思っております。 ○鎌田部会長 意思表示の一般的な規律に従うということをはっきり書くというのではなくて,従っていることの内実をはっきり書くという趣旨ですね,ここの文章は。単に意思表示の一般的な規律に従うというだけだと,いろいろな解釈が出てきてしまうというふうな御懸念かなと岡委員の先ほどの御指摘を承ったんですけれども,そういう趣旨ではないんでしょうか。この文章の読み方が何とおりかに読めてしまうということに関係するかなと思いましたけれども。 ○中井委員 岡委員と同じことを申し上げることになるのかもしれません。異議をとどめない承諾を廃止する方向について,恐らく議論の一致を見たのだろうと思います。それに代わるものとして,意思表示にすることで異議をとどめない承諾では守れなかった利益を守ることができるという,その方向性についても一定の認識の一致はあったのかもしれませんが,その内実についてきちっと合意があったかといいますと,岡委員が言ったように問題が残ると思います。   つまり,Aという抗弁,Bという抗弁が想定される,それ以外,一切の抗弁についても放棄しますよと,書面で明示的にしたとしても,一切の抗弁を放棄するという包括的なところまで認めることが適切なのかどうか,また,譲受人側が悪意であっても,重過失であっても意思表示の一般理論になって放棄したことになるのだろうか。そこまでのことを認めていいんですかと,その二点についてなお留保が弁護士会の一般的な認識としてあります。ここで意思表示の一般的な規律に従うということを「方向」と言ってしまいますと,その二点について守れない事態が生じるのではないか,こういう懸念を表明したわけです。この「方向」という言葉の使い方も,そういう意味で難しいのかもしれませんが,意図としてはそういうことです。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   それでは,「4 将来債権譲渡」についての御意見を伺います。 ○岡委員 二点,申し上げます。   一点目は,表現の確認なんですが,4の(3)の前段部分でございます。「なお見解が対立している状況にあることを踏まえ,立法により……規定を設けるものとする方向で」と書かれておりますが,見解が分かれているので,ここは立法でどれか一つに決める,そういう方向性がそれなりのコンセンサスを得たと,そういう表現なんでしょうか。もし,そうだとすると,見解が分かれているということは認識共有されたと思いますが,その中の一つを立法でこの際,決めてしまおうよと,そこまでの方向性は出ていないのではないかと思います。それが一つ目でございます。   二つ目は,これは研究者の先生にお伺いしたいところなんですが,対抗力の限界,「第三者に対抗することができる範囲」と書かれておるんですが,これでよいのでしょうか。ある人が将来の債権につき譲渡する旨の意思表示をしたと,その後,違う第三者の下で生じた債権について,前の譲渡の意思表示による譲渡の効力が生ずるかどうかという,効力が及ぶか否かの問題のように思いますので,「対抗」という言葉で本当によろしいのですかという質問がございました。その二つです。 ○沖野幹事 岡委員が御指摘になった二点目につきまして,この問題の性格は,対抗力という形でのいわゆる第三者対抗要件ですとか,効力が生じているものの対抗の問題ということではないのだろうと思います。将来債権譲渡というものが一体,どこまで効力を認められるのかという効力範囲の問題で,それが(2)とは別に(3)に書かれたような事情のもとで出てくるときに,規律を明らかにしてはどうかということですので,そのものに対して主張できるかという意味では,共通した形にはなってくると思いますけれども,いわゆる対抗力の問題とは違うということを明確化するためには,表現を変えてはどうかと思います。その効力の限界ですとか,そういった表現に変えるほうがより明確ではないかと思います。 ○筒井幹事 岡委員が御発言になった一点目のことですけれども,「立法により」,それで途中を飛ばして「規定を設けるものとする方向で」と書いてある意味は,岡委員が御指摘になったとおりでありまして,いろいろと見解が分かれているけれども,それで不明確な状態を解消するために立法的な解決を図るのが適当ではないかという意見が,それなりに支持を集めていたのではないかかと受け止めて,このように書いたものです。それは違うということであれば,表現を改める必要があると思います。 ○中井委員 一点目,(1)の記載内容について将来債権譲渡が原則として有効であること,第三者対抗要件を具備することができることは,いいと思うんですけれども,その前提として,将来債権の定義の問題というのでしょうか,有効に譲渡できる将来債権の範囲について留意しながら議論しないといけないと思うのです。将来債権で譲渡できるのは,譲渡人が処分権を持っているものですよということは,当然の前提なのかもしれませんけれども,例えば「有効に譲渡できる将来債権の範囲ないし定義について留意しながら」そういう留保が必要ではないか。   (2)の「将来債権譲渡の効力の限界」の中で考慮要素として,債権者による過剰担保の取得に対する対処という御指摘があります。これはこのとおりですが,これに限られないだろうと思います。   債権者による過剰担保だけではなくて,真正譲渡であっても,譲渡人が苦し紛れの資金調達のために安くしか売れない,こういう事態が将来債権譲渡の場合は十分に発生し得ますので,問題点としては譲受人が過大な利益を享受することにもある。他方,公序良俗の問題として,譲渡人自身の事業継続が困難になり,譲渡人の一般債権者を害してしまう,こういうことへの対処が必要である,こういう問題に留意した上で更に検討する,こういう形になるのではないか。   先ほどから申し上げていることは,どこまで書くのかは難しいのかもしれませんけれども,譲受人が過剰な担保や利益を取る,他方で譲渡人もしくは譲渡人の一般債権者が害されるおそれがある,こういうことを考えながら公序良俗の観点から議論すべきではないか,こういう指摘が好ましいのではないかと思っています。   (3)についていうならば,どこまで合意があったかということですけれども,立法で解決するというところまでの合意があったという認識がなかったものですから,ここは場合によっては解釈で解決するという考え方も残っているのではないか。また,仮に立法で解決する方向であるとしても,規定を設けるとしたときの範囲についてどのように定めるのかということが正に問題なんでしょうから,検討の対象事項についてもう少し記載があったほうが分かりやすいのではないか,と思います。 ○佐成委員 4の(1)ですけれども,将来債権譲渡の有効性と第三者対抗要件を具備できることを明文化するということについては,実務界にはほとんど異論はないので,末尾は「してはどうか」ということで結構だと思います。ただ,当然のことなんですけれども,一つ確認しておきたいのは,明文化する規定の中身なんですけれども,この中身の議論がうまくまとまらないとか,そのような事態になれば,明文の規定を置くとしたとしても,結局,置かないという,そういうおそれもあるという,それが前提であるということを一応,念のため,確認をさせていただきたいと思いまして,発言させていただきます。 ○筒井幹事 佐成委員から御指摘があったとおりだと思います。この段階で何々してはどうかと書いてあったとしても,最終的な改正要綱の中にその検討項目が残るかどうかというのは,次の段階の議論を待たなければ分からないことだと私も認識しております。 ○岡委員 4の(3)の「方向で」という表現についてですが,いい規定ができるのであれば立法でいいよねと,それの合意はあると思うんですね。でも,あの将来債権譲渡に関する議論を見ていると,とても何か立法で解決できそうな状況にはまだないという印象があるもので,そういうときに「設けるものとする方向で」と書かれると,もうどれかに決めるんだなというのが世に出てしまうとなると大変だなと,そういう印象でございます。 ○鎌田部会長 その点は配慮しながら整理したいと思います。 ○松本委員 私も今の何人かの御意見と一緒で,4の(1)における明文の規定というのは,念のため的なものとして置くことは十分あり得るでしょうが,(3)の範囲を明確にする規定というのが置けるのかというと置けないと思うんですね。期間だとか,種類だとか,ファクターとしてこういう点を考慮して,最終的な効力を裁判所が決めるというような判断ファクターを条文に挙げることは可能だろうと思いますが,明確にというのはちょっと難しいと思います。そういう意味では,明確な規定を置けるかどうかを更に検討するとか,それぐらいであればやってみましょうということでいいかと思いますが。 ○鎌田部会長 御意見を踏まえて検討させていただきます。   ほかにはよろしいでしょうか。 ○中井委員 第11が終わるようですので,申し述べていなかったところを一言だけ。2の(4)についてどなたからも発言がなかったんですが,アの中の後段,「また」以下,「債務者が供託により免責される場合を広く認める」ということについては,皆さんの認識の一致があったのではないかと思うんですね。そうしたときの「どうか」というこれは,弁護士会では「Cタイプ」と呼んでいるんですけれども,決まっているのが「Aタイプ」で,方向というのが「Bタイプ」,これは「Cタイプ」と呼んでいるんですけれども,これは先ほどの4の(3)と比べれば,かなり方向性が明らかになっていたのではないか。こういうことから,4のアの「また」以下については,方向が入ってもいいのではないか,つまりBタイプではないかという意見がありました。   それとの関係で(4)アの表題ですけれども,債務者保護のための規定の明確化ということと併せてそういう保護の拡充という意見ではないかと思いますので,例えば表題も「明確化及び拡充」としてはどうかという意見もございました。 ○中田委員 一般的なことですが,譲渡禁止特約について実態調査をしていただいておりますけれども,実態調査の結果の取扱いをどうするのかについて,書き方を全体として考えておいたほうがいいのではないかと思います。補足説明の中で書くというのも一案でしょうし,論点整理の中で例えば抽象的に実態の把握も踏まえた上でというような書き方もあるでしょう。御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   よろしければ,部会資料22の5ページから6ページまでの「第12 証券的債権に関する規定」について御意見をお伺いします。この部分は一括して御意見をいただきます。 ○岡委員 3番の「有価証券の定義規定は設けない方向で,更に検討してはどうか」の表現ですがこのままでは何か禅問答になって,親切な整理にはならないのではないかという意見がございました。特に紙と合体しない電子株券だとか電子債権だとかがどんどん広がってきて,いわゆる有価証券というものはどんどん少なくなっていっているというイメージが一般にも広がっていると思いますので,有価証券の定義が難しいのは分かるけれども,何かもう少しイメージが湧くようなことを書いてあげたほうがこの部分は伝わるのではないか。そういう意見がございました。 ○筒井幹事 有価証券の定義規定を置くことが難しい理由については,部会資料の詳細版で詳しく説明してありますので,それを引用したというのが,ここでの私の説明になります。ただ,岡委員の御発言は,それでは不親切であるという指摘でもあると受け止めました。要するに,有価証券という検討項目の冒頭から,いきなり定義規定は設けない方向でどうかと問い掛けても,それはいかにも不親切で分かりにくいという御趣旨なのかと思います。その御指摘については,書き方の問題として工夫をしてみたいと思います。更に進んで,実質的にも定義規定を設ける方向でもう少し頑張ってみてはどうかという御指摘であれば,そう書いても構わないのですが,それを誰が考えるのかという問題が残ると思います。 ○鎌田部会長 設けられないという事務当局の現時点での考え方を反映する文章にすると,こうなってしまったということだと思いますけれども。 ○神作幹事 私法上の有価証券とは何かということにつきましては,比較法的に見ても法律により厳密に定義をする国はほとんどございません。その理由は,有価証券かどうかということについては,特に商慣習ですとか慣行の働く余地が非常に大きく,定義規定を置くことが困難であるという点にあるように思われます。御提示いただきました部会資料9-1,9-2におきましても,有価証券の定義については触れずに,その法的効果について書いていくというアプローチをしていたものと理解しておりますが,商法,有価証券法を勉強している者からいたしますと,有価証券の定義は,学説も多岐に分かれており非常に困難であり,かつ,そうすることは現行の日本法の体系にも合致しておりません。すなわち,現行の日本法におきましても,有価証券について民法上あるいは商法上,定義した規定というのはございませんので,そういう意味では現行どおりであるということが言えようかと思います。 ○松岡委員 もうほとんど同じことの繰り返しになってしまいますが,私も最初に読んだときやこの議論をしたときに少し違和感を感じました。規律は置くけれどもその規律の対象がはっきりしない,というのは一体どういうことなのかが分かりにくいのです。しかし,神作幹事や山下委員がその議論の折に,定義を設けるのは極めて困難であって,むしろ,機能的な形で規律するしかないという趣旨のことをおっしゃったのを伺って,なるほどそうかなと思いました。先ほどの岡委員の発言や,それに対する筒井幹事の御返答で既に明らかであると思うのですが,定義が難しいが規律がないわけにはいかないからこういう方向で検討することにしたいということを,短くてもできるだけ書いていただいたほうが望ましく,この説明だけでは分かりにく過ぎる気がいたします。 ○鎌田部会長 それでは,御指摘を踏まえて事務当局のほうで検討させていただきます。 ○岡委員 現行法どおりというのがどこかに入ると,何か安心感が増えると思います。 ○鎌田部会長 現行法と同様に定義規定を設けないで,その機能についての規定を設けることとするとか,何かそういうふうな書き方だと少し収まりはいいのかもしれませんので,その辺を含めて検討してもらうようにいたします。   ほかにはよろしいでしょうか。 ○佐成委員 2の部分で,「その上で」以下です。「その上で,有価証券に関する通則的な規定が民法と商法に分散して置かれることによる規定の分かりにくさを解消するために,有価証券に関する通則的な規定群を一本化した上でこれを民法に置くかどうかについて,更に検討してはどうか」という,この記載自体は別に問題ないとは思うんですけれども,ただ,内部で検討したときに,民法に有価証券の通則的規定を置くという記載自体に対して,違和感を示す方がいましたので,補足説明できちっと,なぜ,そのような余地があり得るかというところを書いていただきたいということです。実務界では,有価証券というと,商法に通則的規定を置くのが筋ではないかという,そういうイメージがあるものですから,その辺を丁寧に,補足説明で説明いただけないかという希望でございます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   よろしければ,部会資料22の7ページから9ページまでの「第13 債務引受」と,9ページから10ページまでの「第14 契約上の地位の移転(譲渡)」までについて,一括して御意見をお伺いいたします。 ○岡本委員 1の「総論」のところの意見とすべきなのか,あるいはその他のところの意見とすべきなのか,よく分からないんですけれども,一点ございまして,部会の議論では債務引受のときにではなくて,一人計算の議論のときに少し申し上げたところなんですけれども,債務引受と差押えなどが競合したときの規律をどう考えるのかといった論点があるのではないかと思います。例えば免責的債務引受がされた後で,元の債務者を第三者債務者として差押えがされた場合,こういった場合に正確には対抗関係というのとは違うのだろうと思いますけれども,対抗関係のような考え方を採るのかどうか,仮に採るとすれば,どういった規律を考えるのか,そういった点については余り今まで議論されてこなかったように思うんですけれども,債務引受について規定を置くのであれば,論点として掲げる必要があるのではないかと思います。   それから,差押えだけでなくて債務引受と債権譲渡が競合した場合,こういった場合についても同じような論点があるのではないかと思います。例えば債権譲渡がされた後に,元の債権者の承諾を得て債務引受がされた場合,こういった場合に債権譲渡の第三者対抗要件が具備されているときには,引受人はそれによって対抗されるべき第三者に当たるのかどうかとか,そもそも対抗要件,対抗問題として考えるのかどうかとか,そういった問題ですとか,あるいは逆に債務引受のほうが先に行われた場合,こういった場合に元の債務者を債務者として特定して行われた債権譲渡がどうなってしまうのか,そういったところも一応,論点にはなるのではないかと思いまして,この論点も追加してはどうかと考えます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○松岡委員 細かいことで恐縮です。9ページの1,2行目のところ,免責的債務引受の効果に関して,第13回会議のときに鹿野幹事がおっしゃったことと関係するのですが,免責的債務引受の場合には,引き受けられた時点で免責が確定すれば求償権の発生時期はその時と解することになるかもしれません。ここでは「引受人が債務を履行した場合における」という限定が付いているのですが,議論を正確に反映するとすれば,「引受人が債務を履行した場合における」というのは削除して,「求償権の有無や発生時期に関する規定の要否について検討してはどうか。」というほうがより正確ではないかと思います。 ○中田委員 7ページの2の「(1)併存的債務引受の要件」の第2パラグラフについてです。「債権者の承諾の要否については,第三者のためにする契約における受益の意思表示の見直しと関連することに留意し」ということには賛成なのですが,これとともに債務引受の効果,つまり,絶対的効力事由の範囲がどうなるかとも関係するのではないかと思いますので,その点も留意対象になるのではないかと思いました。 ○中井委員 8ページの3の「免責的債務引受」の(1)ですが,最後の一番下から2行ですけれども,「利益を受ける者の意思の尊重の要否に関する民法上の制度間の整合性」と記載されておりますので,これは免除の場合の法的構成が,単独行為なのか,契約なのか,合意の問題が議論されているので,その関係での御指摘と理解できますけれども,そういう免除の法的構成との関連性・整合性というのがこの文言で分かるのか,付加して記載したほうが分かりやすいかは,御検討いただければと思います。   また,第14の「契約上の地位の移転」の2ですが,契約上の地位の移転の要件として,ここの書き方は一つが三者間の合意の場合と,それ以外に譲渡人と譲受人の合意がある場合にも認められるけれども,後者について相手方の承諾が必要の場合と必要でない場合と,こういう書き分けになっています。客観的にはそういう書き分けでもいいのかもしれませんけれども,契約上の地位の移転については,三者間の合意で行われるか,若しくは譲渡人と譲受人の合意,プラス,相手方の承諾,これが原則ではないか。例外的に譲渡人と譲受人の合意がある場合で,相手方の承諾が要らない場合があるのではないかと思いますので,そうだとすると,原則は三者間の合意か,両者の合意,プラス,相手方の承諾で,例外的に相手方の承諾がない場合があって,その要件をどう定めたらいいのかと,こういう聞き方のほうがいいのではないかと思います。   例えば,「契約上の地位の移転は譲渡人,譲受人及び契約の相手方の三者間の合意がある場合」と,「譲渡人及び譲受人の合意がある場合で契約の相手方が承諾した場合」とまず書いて,「後者については契約の相手方の承諾を必要としない場合があることから,その要件をどのように規定するかについて,更に検討してはどうか」と,こういう流れのほうが分かりやすいのではないか,と思います。 ○岡委員 9ページの債務引受の4の「その他」のところでございます。(1)(2)ともに検討することはいいことだとは思うんですが,これだけ膨大かつ重要な問題がめじろ押しの中で,こういうことにまで,今回,力を注いで考えるんですかと,そういう意見が弁護士会の中にございます。一番最初に松本先生がおっしゃった,とにかく考えられることは全部オーバーホールで考えていくんだと,考えるのはいいことなんですが,これから立法に向かうときに,こういう細かいことも全部改正する勢いで一生懸命やるんだぞと,そういう姿勢があるとしたら,その表現でいいんだと思うんですが,それは現実的にかなり無理な話ですので,そういう立法の優先順位というのを今回の中間整理でどう考えたらいいのか。その辺はどこかで議論したほうがよろしいのではないか。   とにかく,全部,こう書いてしまうと,読んだ国民はやはりこんな細かいことも全部,今回,検討してすごいんですねと思うと思うんですね。思わせるんだということであれば結構なんですが,何かそれは現実としてどうかという意見,そういう議論を日弁連でいたしました。その代表例が今回はこの「その他」の(1)(2),こんなの,実務はないよということの反映だと思います。それが一点目でございます。   それから,二点目は契約上の地位の移転の対抗要件制度のところの,これも単なる書き方の意見でございます。書いてある文章は何の問題もないんですが,創設する必要性があるのかないのか,必要性があるとして適切なものが考えられるのかどうか,そんなふうな問題提起のほうが実務家には分かりやすいという意見がございました。 ○筒井幹事 ただいま岡委員から御発言があったうちの前半は,現実的に検討可能なものに論点を絞り込んでいく作業をどこかの段階でやるべきではないか,そして現段階においてもできる範囲でそういう合意形成を図るべきではないかという意見であると受け止めました。私はそれに大賛成であります。具体的に言及がありました「4 その他」の(1)(2)が現段階で削るべきものなのかどうかは,別の問題だと思いますけれども,これらを削除してはどうかという御提案があったと受け止めて,御議論いただいてはどうかと思いました。 ○鎌田部会長 という御提案と受け止めてよろしいですか。 ○岡委員 そういう意見があったということで。 ○鎌田部会長 岡本委員,関連ですね。 ○岡本委員 「その他」の(1)の将来債務引受についてなんですけれども,実例がないかどうかという点については,集中決済などで将来債務引受を現実に使っていることもありますので,必ずしも実例がないわけではないということだけ,ちょっと申し上げておきたいと思います。 ○道垣内幹事 先ほどの岡委員の最初の御発言に関してなのですが,一見,もっともな御意見だと思いますが,結論としては無理ではないかと思います。つまり,今,将来債務引受についてすら,これは当然要らないだろうという意見と要るのだという意見があるわけですから,そうなると,削除するか否かは,一個一個,検討していくということになってしまい,結局,それぞれ「検討してはどうか」というのと変わらないことになってしまいます。この場で,削除するというコンセンサスが可能かということを一つ一つ議論するのも,第一読会に残された時間からすると無理なところがあって,それは正に今後議論していくべきであろうと思います。   二点目は,岡本委員が少し前におっしゃった債務引受と第三者,第三者というのは債権譲渡の譲受人とか,そういうふうな差押債権者とか,そういった者との関係の議論なのですが,私は岡本委員がおっしゃった事柄の全てが理解できているわけではありませんし,逆に,それは違うのではないかと思っているところもあります。つまり,どのような第三者との関係が問題となるのかということが大前提として問題になるのだろうと思います。したがって,岡本委員のおっしゃることはごもっともだと思うのですけれども,もし論点として書くとしても,債務引受に関して第三者との優劣関係等を定めなければならないような場面というものに,どういうものがあるのかということから検討をしていくという方向でおまとめいただければと思います。必ずしも差押債権者ですとか,債権譲渡との関係とかというふうな具体的な形でお書きいただかないほうがいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 先ほどの岡本委員の御発言は,実例はあるという御指摘でしたけれども,したがって,ここでの検討課題としてもなお残しておくことが必要だと,そこまでの御意見だと。 ○岡本委員 はい,そうです。 ○奈須野関係官 部会資料9ページの債務引受の「4 その他」の(2)履行引受について,実務上は中小企業などが期限前弁済をしたい場合に,誰かに一旦支払って,債務としては帳消しにしておきたいというニーズがあります。このように履行引受という形態を採ることがあるので,ニーズはあると思います。 ○鎌田部会長 分かりました。論点整理の段階で論点が減ってくれることを期待していないわけではないのですけれども,御指摘のようなことでございますので,この形で残しておくということにさせていただきます。   ほかによろしいでしょうか。   よろしければ,部会資料22の10ページから17ページまでの「第15 弁済」のうち,まず,「4 債権者以外の第三者に対する弁済(民法第478条から第480条まで)」までについて御意見をお伺いします。1から4までです。 ○鹿野幹事 細かなところで恐縮ですけれども,2の(1)のところで「利害関係」と「正当な利益」の関係というところの次の行ですが,冒頭に「債務者の意思に反しても」という言葉を付け加えるべきではないでしょうか。もちろん,条文を見れば分かるし,その後のほうに,その趣旨は書かれているのですが,ここでは,「第三者による弁済が認められる「利害関係」を有する第三者」と書かれているにすぎません。現行法では,第三者は474条の1項で弁済ができることが原則なのですが,ここの記述で言いたいのは飽くまでも「債務者の意思に反しても」弁済することができるということだろうと思いますので,ここは若干ミスリーディングな記載になっていると思います。ですから,その点を付け加えていただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○松岡委員 11ページの4の(2)のアに当たるのでしょうが,中身には別段異論があるわけではありませんで,本文の中にも書いてありますように,債権の準占有者という要件という問題だけではなくて,そもそも,債権の準占有者という概念がこの規定の趣旨から見て適当なのかどうかという議論がありました。表題を,例えば,債権の準占有者の概念及び要件というようにしていただいたほうが議論の中身と合致する気がいたします。 ○松本委員 2の(2)の「利害関係を有しない第三者による弁済」について,ここでは債務者の意思に反してでも弁済を有効とするという方向の提案に対して,①とか②とかの関係に留意しつつ検討するという書き振りなんですが,私は留意すべきことはこういうことではなくて,むしろ,13ページの8の(1)の2段落目の「また」以下に書かれている部分のほうがもっと留意すべきだろうと思います。というのは,利害関係のない第三者が債務者の意思に反して,しかし,債権者の了承の下に弁済をした場合に,債務弁済の効力を認めて,求償権を取得しないという形で債務は消滅するということにしても,債務者としては大変ありがとうございましたで終わってしまうことで,それはそれでいいと思います。   問題は,債権者が弁済を受けたくないと思っているのに,第三者による弁済が有効であるという言い方の含意からは,弁済の提供も本来の債務者が債権者に弁済を提供するときと同じ効力が発生すると普通は理解できるわけです。そうなりますと,債権者としてそんな無関係の人から弁済を受けたくない,拒否したいにもかかわらず,拒否をすると不利益を受けるというような状態に追い込まれる,つまり,全く無関係な第三者が債権者の了解も債務者の了解も共になしに債権関係に割り込むことを許すのかという話になってくるので,ここが最大の眼目だろうと思いますから,8の(1)の「また」以下を2のところにきちんと移して,何が一番問題なのかを明らかにすべきと思います。 ○松岡委員 今の松本委員の御意見を積極的に支持いたします。議論の中で,確かに債務者の意思に反することを要件として維持するかどうかも問題になっていたのですが,弁済の提供によって受領遅滞になる点も問題です。むしろ,諸外国の立法例等の傾向は,債権者の意思的関与を必要としているという指摘もあったと思いますので,松本委員の御指摘のような方向で整理をし直していただくのがよろしいかと思います。 ○岡田委員 細かいところですが,15の1の「弁済の効果」のところで,私どもからすると,ここは大賛成ですが,ここに同じ様に私たちが頭を悩ます給付という言葉についてもできたら分かるようにしてほしいという意見が周囲からありましたので,御検討頂きたいと思います。 ○中井委員 15の1の「弁済の効果」のところですけれども,弁済によって債権が消滅するという基本的ルールを明文化するということは結構ですけれども,そのときに弁済による代位が認められた場合の原債権の帰すうとの整合性を考えなければいけないと思うんですが,その指摘を入れておくのが適当かどうかも含めて,御検討いただけないか。   それから,2の(2),現行法が無効とされていることに対して,これを基本的に有効と変更することを前提として,諸要素を考えましょうという提案になっていますが,現行法の規定を維持するかという一言を選択肢として残しておくべきではないかと思うものですから,「無効とされているが,この条項を維持すべきか,若しくはこれを有効とした上で」と続くのが,ニュートラルな提案としてはよろしいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○岡本委員 ちょっと細かいところなんですけれども,12ページの受取証書の持参人に対する弁済のところなんですが,前に三上委員のほうから,480条を単純に廃止したのでは免責証券の要件の成否に係る唯一の根拠がなくなってしまうかもしれないと,そういう危惧があるので,免責証券の要件も併せて検討いただきたいというふうな意見をさせていただいているところでございまして,480条が免責証券を認めるよりどころになっているのかどうかは別にいたしましても,免責証券の明文化については論点としてあり得るところだと思いますし,その旨,部会資料の6ページのところに記載を頂いているところですけれども,480条の廃止の論点の記載に当たっても,できれば,免責証券の明文化の論点と併せてといったような注意的な文言を入れるとか,そういったことができればなお有り難いなということでございます。 ○岡委員 今の一つ上の12ページの4の(2)のエのところでございます。表現が分かりにくいということだけの指摘でございまして,判例が478条の類推適用により救済を図っていることを踏まえて,条文を設けるのか,そのまま解釈に委ねるのか,そういう二つの出口があるのだと思います。原案「拡張することについて,規定の射程等に留意しつつ,更に検討してはどうか」という表現では,意味が伝わってこないということでございます。判例法理があるわけだから,判例法理を明文化するのかしないのか,選択はその二つかなと思いますので,そこを分かりやすく書いていただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   よろしければ,「5 代物弁済」以降について御意見をお伺いします。 ○松岡委員 再三,発言してすみません。14ページの8の(2)の「口頭の提供すら不要とされる場合の明文化」という個所のまとめ方の問題ですが,資料にも示されているように,口頭の提供すら不要とされる場合を明文化することには必ずしも賛成だけではなく,口頭の提供すら不要という場合は,契約関係の種類や特殊性を反映した極めて例外的なものなので,信義則に任せておいてもいいという意見もあります。   そして,第8回会議で山川幹事から,労働関係の問題については,口頭の提供すら不要であるという明文があるほうが望ましいかもしれないという御発言がありましたが,山川幹事御自身も一般化して設けることについては,なお,慎重に検討する余地があるかもしれないと付言していらっしゃいました。それゆえ「このような判例法理を条文上明記する方向で」というのは,やはりやや行き過ぎで,「判例法理を条文化するかどうか更に検討してはどうか」という程度でまとめていただいたほうが適切ではないかと思います。 ○深山幹事 5の「代物弁済」の(1)のところについてですが,代物弁済について法律関係を明確化するという観点から,規定を整備することについては積極的に賛成したいと思います。その点を検討することについては,書いていただいたとおりでよろしいのですが,「また」以下で①から⑥まである個別的な問題点について,取り上げ方に疑問があります。例えば③の代物弁済の合意後の本来の債務の履行請求の可否というようなことについては,可とするのか否とするのかという二者択一にすべきだという考え方もあり得るでしょうが,それは二者択一の問題ではなくて合意次第という規律のほうが私は望ましいと思います。代物弁済の合意というものにどのくらいの幅といいますか,自由度を持たせるのかという問題になりますが,契約自由の原則に従い,自由に決められるというのをベースにすべきではないかと基本的には思います。しかし,全く自由にしてしまうと問題があるということであれば,ある程度,そこに一定の枠をはめるということはあってもいいんだろうと思います。   いずれにせよ,ここは考え方がいろいろあるのかもしれないので,検討課題として問題提起をした上で,最終的に規律を決めればいいと思いますが,どうもこの書き振りですと,何か一つ一つの個別の項目,問題点について,法律で代物弁済の効果はこういうものだと一つに絞ってしまうような感じがしましたので,もう少し,代物弁済の効果をどこまで自由に決められるのかというような観点から,そういうことを検討できるような尋ね振りにしていただければ有り難いと思います。 ○中井委員 6の(1)の「特定物の現状による引渡し」に関して,御指摘のように,その内容に誤解があると書くのであれば,その誤解の内容について一言記載があってもいいのではないか。つまり,これは特定物の売主は瑕疵のあるものを引き渡したとしても,原則として責任を負わないような誤解だとすれば,一言あってもいいのではないか。   それと同時に,実務的には特段,特定物の品質等について合意しない場合については,現状のまま引き渡すということで,存在意義があるという意見もあったように思いますので,削除するという意見と存在意義があるからこれを維持するという意見があることから,更に検討してはどうか,としてもよいのではないか。   二点目は,16ページの(3)のイですが,「保証債務の一部を履行した場合における債権者の原債権と保証人の求償権の関係」ですが,ここは方向で検討してはどうかというBタイプのまとめになっているわけですが,私の理解が及んでいないのかもしれませんが,代位によって取得した原債権とその担保権については,御指摘のように保証人は権利行使ができないのかもしれませんが,求償権そのものについても全く同じ劣後するとしていいのかどうか,そのことについての方向性の一致まであったのかということについて,御確認いただきたいと思います。   それから,検討が終わっている部分で大変恐縮ですが,4の(2)エ,岡委員が質問した部分についてですが,これを素直に読んだときには,弁済以外の行為にも拡張することについて,これを規定として明確化することを提案し,明確化するとすれば,その規定の射程に留意するとしています。この規定の射程というのが分かりにくくて,実際には拡張するとした場合の範囲というのでしょうか,行為の類型についての範囲を議論しているんだろうと思いますので,「射程」という言葉よりは「拡張する対象となる行為の類型」とか「範囲」というほうが分かりやすいのではないか,と思います。 ○中田委員 表現のことだけですけれども,二点,ございます。   一つは13ページ,「7 弁済の充当」の第2パラグラフの③の部分ですが,「複数の債権者が同一の債務者に対して債権を有する場合」ということですけれども,審議の際に出ていた御意見は,信託受益者の例であったかと思います。それはそれで理解できるんですが,ここでの書き方だけですと,そのことはちょっと理解が難しいのではないかと思います。同一の債務者に複数の債権者がいるという場合は幾らでもあるわけですので,もう少し趣旨を明確にしたほうがいいのではないかと思いました。   それから,もう一つも表現だけなんですが,17ページの一番上のイの「担保保存義務違反による免責の効力が及ぶ範囲」についてです。これは判例法理を御紹介になった上で,その明確化についてということで,その内容は結構なんですが,全体として一文で構成されておりまして,初めて読んだときには非常に難解な気がいたしますので,少し表現を分かりやすくしていただければと思いました。 ○村上委員 7の第2段落の中の②,配当について合意による充当や指定充当を認めるべきかどうかという問題ですが,この点について検討すること自体は異論はないものの,合意充当や指定充当を認めた場合民事執行の手続が円滑に進むのかという観点からの検討が必要になろうかと思います。そのことが明らかになるような記載にしていただけないものだろうかと思います。 ○青山関係官 「10 弁済による代位」の(2)の「弁済による代位の効果の明確化」のアの「弁済者が代位する場合の原債権の帰すう」です,15ページです。この結論がおかしいということではないですが,ちょっとこの文章だけを読むと,こういう場合に原債権が弁済者に帰属すると複雑なので,何か問題なので整理をしたほうがいいというニュアンスに読めます。実際,そういう議論もしたと思うのですが,ただ,この部会の議論のときには原債権は,消滅するけれども,観念されるとか,債務名義となるなどという提案も紹介されて,ただ,それについては分かりにくいとかいう御意見もあった,あったけれども,原債権の扱いについての明確な方向性が余り絞られず,議論が終わったのではないのかなという感触でおります。ですから,そういうことも含めて引き続き検討したほうがいいいう意味で,例えば,文章の間に,「原債権がなお有すべき機能等にも留意しつつ」のような表現があったほうが,そういう点を含むことも含めて引き続き議論ができるかなと思いました。   と申しますのは,確かこのときにもなお関連御意見として,倒産法制でもこういう弁済代位の場合の帰すうの規定もあるので,それとの関係があるという議論もありましたし,本来専門家でもない私厚労省の関係官の者が申しますのは,私どもの政策で倒産などした会社からの賃金が払われなくなった労働者に政府が代位弁済するという制度を持っていて,政府が後で企業サイドに求償するということをやっているのですが,その際にもともと持っている原債権である賃金債権の倒産法制上の機能,これが財団債権ということなのですが,それが意識されて求償権の性格も決まるか決まらないかという議論がよくなされます。このため,非常に気になっていまして,それはユーザーとしての関心で申し訳ないのですけれども,せっかく御議論も特に収れんせずに終わっているかなと,部会の議事録を見ていて思いましたので申し上げました。 ○岡本委員 13ページの「弁済の充当」のところですけれども,前の議論のときに三上委員のほうから弁済充当の規定の冒頭に,合意による充当が優先することを条文上,明記してほしいといった意見を出させていただいておりまして,その点がちょっと論点としては記載されていないんですけれども,合意が優先することは任意規定であれば当然だと思いますし,一方では,総論的に各条文について任意規定であるか,強行規定であるか,明らかにできないかといった提案も申し上げているところでございまして,ここの弁済の充当のところも,言ってみればそこの一環なのではないのかと思うんですけれども,どこに記載するかは別といたしまして,各条文について任意規定か,あるいは強行規定か,明らかにすることについてどう考えるかといった論点をどこかに記載していただけないかと考えます。   それから,二点目なんですけれども,14ページ,「口頭の提供すら不要とされる場合の明文化」です。ここでは債権者の受領拒絶の意思が明確な場合には,口頭の提供すら要しない旨を明文化することが論点として記載されているわけですけれども,口頭の提供すら不要とされる場合には,債権者の受領拒絶の意思が明確な場合以外にもあるんだろうと思うんですね。   例えば弁済を受領すべき時期あるいは場所があらかじめ債権者にとっても了知されているような取立債務であって,債務側としては債権者の受領行為以外には何ら協力を得る必要がないような,そういった債権についても裁判例では口頭の提供すら要しないとされていたかと思うんですけれども,この提案だけではあたかも受領拒絶の意思が明確な場合だけ明文化するような,そういった記載のふうにも読めるものですから,それ以外の場合についても明文化するとか,あるいは少なくとも仮に明文化するのであれば,これ以外にも口頭の提供すら不要とされる場合があることが明らかになるような,そういった形にすべきではないかと思うものですから,そういった論点もあるということが分かるような記載振りにしていただければと思います。 ○筒井幹事 今,岡本委員から御発言がありましたうちの強行規定と任意規定の区別の明確化という点については,この部会でもいろいろな機会に複数の委員から御発言がありました。それについては,まずは「たたき台(2)」で,民法91条に関連する論点として取り上げております。それから,もう一つ,岡本委員御自身からも,その区別は契約各則のところでより重要であるという御指摘があったと思いますので,その部分をまた別途,「たたき台(3)」でも取り上げようと思っております。いずれにしても,御指摘がありました点は,部会資料の中で順次取り上げてまいりますので,それに関してまた御検討いただければと思います。 ○松尾関係官 岡本委員から御発言があった第1の点,合意充当が優先することを条文上明確化すべきであるという意見が論点として取り上げられていないという御指摘についてですが,原案の趣旨としては7の前段の部分,「弁済の充当に関する規律の明確化を図る方向で」ということの内容の一つとして,その点は意識しているつもりで,そのことは今後,公表する補足説明において明確化させていただこうとは考えておりました。ただ,これをゴシックにも書くかどうかについては,ほかとのバランスも含めて検討させていただきたいと思っております。 ○岡委員 14ページの8の(2)の「口頭の提供すら不要とされる場合の明文化」のところで,弁護士会の相応の意見として松岡先生と同じ意見がございました。判例法理と書いているけれども,賃貸借の場合の極めて例外的なもので,判例法理と言えないのではないかという意見です。それから,一般化すること自体に反対であるという意見もございましたので,ここは「方向」というのは取っていただきたいというのが弁護士会の意見でございます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   よろしければ,部会資料22の17ページから21ページまでの「第16 相殺」に移ります。まず,1の「相殺の要件」から3の「不法行為債権を受働債権とする相殺」までについて,御意見をお伺いします。 ○高須幹事 二点でございますが,まず,一点目は表現のことかと思いますが,17ページ,1の(2)の「第三者による相殺の可否」の下から3行目の部分,「また」で受けている部分で,「規定を設ける場合には,危機時期以前に」というふうな表現になっておりますが,危機というと倒産法ではよく使われる概念だと思いますが,今回は民法の議論でございますので,無資力とか,そういう表現を御検討いただきたいと思います。会議の際にもそのような議論をしたと記憶しております。少し唐突に危機という言葉が出てきたように思いますので,もう少し民法的な表現にしていただいたらいかがかと思っております。   それから,二点目でございますが,18ページの2の「相殺の方法及び効力」のところの(1)と(2)のところでございまして,ここは私が所属しておる東京弁護士会で強い意見がございましたということも踏まえてのお話になるのですが,遡及効の見直しの規定のところは頂いている資料でも,「遡及効の有無のいずれを規定するのが適当か」という,ある意味ではニュートラルな意見を頂いておりますので,これでいけないのかと言われれば,そんなことはないということになるとは思うのですが,大きな流れとしては遡及効を維持するという意見が部会の中では比較的,強く出ていたようにも思いますので,部会の中での発言内容をもう一度,御確認いただいて,正にこのニュートラルの表現がいいのか,それとも遡及効はそれなりに意味があるという意見を強調した表現にしていただいたほうがいいのかをもう少し御検討を頂ければと思っております。   それから,2の(2)の時効消滅した債権の相殺ということでございまして,趣旨はこのとおりで,私どもも賛同しておるところなのですが,一番最後の2行について修正の余地があると考えております。つまり,「時効を援用することができるものとするかどうかについて」は,「時効制度の見直しの検討結果を踏まえて,更に検討し」と,時効制度との兼ね合いということだけが指摘されておるのですが,部会の議論では債権の時効完成を防ぐことができなかった消費者なり,あるいは消費者に限定する必要はないのかもしれませんが,そういう人たちにも相殺の機会を与えるべきだということの観点からの発言をさせていただいたと記憶しておりますので,ここでは「時効制度の見直しの検討結果を踏まえて」だけではなくて,両論的に,「時効の完成を防ぐことのできなかった者にも相殺の規定を与えるべきであるとの議論や時効制度の見直しの検討結果を踏まえて」と書き加えていただければと,このように思っております。 ○中井委員 今の高須幹事の意見と重なりますが,2の相殺の遡及効の見直しについては,高須幹事の評価としては一応,ニュートラルという評価をされているようですけれども,これは遡及効を認める民法506条を見直すことを前提として,弊害も考慮しましょうと読めるようにも思われます。少なくとも遡及効を認める506条を見直すのか,それとも506条を維持するのかという形での提起のほうが適当ではないか,また,同じことが(2)についても言えまして,508条を見直すことを前提に,それは時効援用の機会を確保するために,こういう方策があるから検討しましょうということですが,ここも意見が分かれていたかと思います。508条を見直すというのは,ここで言うAの相殺期待が害されてしまう結果になることについて,留意する必要があるということではないかと思います。(1)と(2)については見直す,維持するということが両方出てくるような表現に直すべきではないかと考えております。     二点目は17ページの(2)の「第三者による相殺の可否」ですけれども,ここに括弧内で問題状況の指摘がございます。これは次のページで言うAが無資力である場合の問題の指摘であろうかと思います。括弧内が長くなるかもしれませんが,Aが無資力である場合の問題の指摘とともに,三上委員からだったと思いますが,AがBに対して債権を持っている場合にBによる第三者相殺がなされると,AのBに対する相殺期待が害される,こういう指摘もありましたので併せてお書きいただければと思います。   三点目は,3の「不法行為債権を受働債権とする相殺」に関してですが,これも問題意識が簡易な決済が過剰に制限されている,だから問題だというトーンが強いように思われます。それに対して留意すべきところとして保険の実務のみが記載されているわけですが,保険の実務自体をもちろん留意事項としてお書きいただくことについて異存はないわけですが,より一層問題なのは被害者の保護に欠けるおそれがあることではないかと思いますので,第一には被害者の保護に欠けるおそれがある,二つには保険実務への影響がある,三つ目としては当事者が合意すれば簡易決済は可能なわけですから,あえてこのような制限をする必要があるのかという問題提起もあったと思います。こういう点について留保しながら,更に検討してはどうかと思いますので,そういう留意事項を追加していただくことを御検討いただけないかと思います。 ○鎌田部会長 どうぞ。 ○岡委員 18ページの2の(1)の4行目ぐらいのところに,「任意規定として……適当かという観点から」という記載がございます。検索したところ,今回の資料の本文の中に任意規定という言葉が二回出てきておりまして,その心は何やという推測の議論が出ました。任意規定であることは当たり前のことですよね。債権法のほとんどは任意規定として設けるわけでございますのに,ここの相殺の遡及効のところと,あと,24ページの「原始的に不能な契約の効力」のところ,その二つだけ任意規定であることを考慮し,いかがかと書かれています。何でここだけ書くのかという疑問です。合理的な説明があれば残して結構だと思うんですが,特に大きな意味がないのであれば,削ったほうがよろしいかと思います。 ○鎌田部会長 何か,コメントは。 ○松尾関係官 岡委員からの御質問に対するお答えとしては,部会の中でそういう御意見があったから記載したということです。具体的には,デフォルトルールとしてどう在るべきかという観点から検討すべきであるというような御意見があったので書いたのでありまして,それ以上のことはありません。削除すべきだという御意見であれば,それを踏まえてまた検討させていただくということになろうかと思います。 ○大村幹事 今の関係官の説明のとおりかと思いますが,私はむしろ,これは残したほうがいいと思います。今,岡委員が直接問題にされているところは,遡及効ありにするのか,なしにするのか,いずれにしてもデフォルトルールではあることを念頭に置きつつ検討するという趣旨だろうと思います。表現がいいかどうかは別にして,ここで何が問題になっているのかということは分かる形で残したほうがいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかによろしいですか。   もしよろしければ,「4 支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止」及び5の「相殺権の濫用」について御意見をお伺いします。 ○高須幹事 4の(2)の「債権譲渡と相殺の抗弁」のところでございます。中間整理案としてどのような表現にするかを考えた場合,やはり,実務にどのような影響を与えるかという観点も大切であり,ある論点が実務上も影響を与えることが想定されるようなところであれば,そういうことを指摘したほうが,パブリックコメントではいろいろな回答を得られやすいと基本的に考えております。そのように考えた場合,(2)の「債権譲渡と相殺の抗弁」のところは,結局,債権譲渡という取引行為との関係で差押えがどういう影響を与えるかが問題となる,つまり,債権取引に与える影響ということが法定相殺等のような典型的なケースと,少し違うところだろうと思っておりますので,一つの例でございますけれども,(2)のところの書き振りの中で例えば3行目のところですが,「検討結果を踏まえて,転付命令と相殺との関係について議論にも留意しつつ」ということだけではなくて,この間に「検討結果を踏まえて,債権取引に与える影響や転付命令と相殺との関係についての議論にも留意しつつ,更に検討してはどうか」というほうが,これを読んだ方々が,そういう観点もあるなと考えていただけるのではないかと思っております。このような表現にしたらいかがかと思っております。 ○岡本委員 5の「相殺権の濫用」のところなんですけれども,相殺権の濫用につきましては「規定を設ける方向で,更に検討してはどうか」という記載振りに整理されていますけれども,相殺権の濫用も権利濫用の一例にすぎないという理解からすれば,権利濫用の一般規定があれば足りるのであって,相殺権の濫用について特別な規定を置く必要はないという考え方もあり得るところではないかと思いまして,ここの部分については,かつての部会の議論がどうだったかというのはあるのかもしれないですけれども,方向性を示さないニュートラルな記載にしていただけないかと思います。 ○山本(和)幹事 20ページの(3)の「自働債権の取得時期による相殺の制限の要否」の部分でありますけれども,書き振りの問題ですが,21ページの2行目のところで,「民法第511条による相殺の制限を潜脱しようとするものであることから」と書かれていますけれども,確かに差押え等の申立てをして債権を取得する場合には,そのようなこともあろうかと思いますけれども,この規定自体,私の理解では破産手続開始申立て後に債権を取得した場合の相殺制限の規定,破産法でいえば72条1項4号にありますけれども,その規定とパラレルな規定なのかなと思うんですが,ただ,破産法の場合には債権の取得の対応によって例外を定めていて,例えばここでいえば,差押え申立て前の原因に基づいて債権を取得したような場合には,相殺の合理的な期待を保護する必要があるとか,あるいは債権の取得が契約に基づくような場合には,要するに自分に対する債権を引当てとして債権を取得しているのだから,それによる相殺は保護する必要がある等の理由で,例外的に相殺が可能な場合を認めております。   私自身,こういう規定を置くのであれば,何かそういう例外はこの場合でも必要になるのかなという気がしておりまして,そうだとすると,「潜脱しようとするものであることから」という断定的な書き振りはやや書き過ぎではないかと思っておりまして,ですから,書くとすれば「潜脱しようとするものである場合があることから」ぐらいのトーンにしていただいて,そういう例外的な規律があり得るべきというような余地を残すような形にしていただければ有り難いと思います。 ○鎌田部会長 これは実際に適用されるケースはほとんどないですよね。期間も非常に短いわけで,倒産法における必要性と肩を並べるほどの立法的課題かという点についても,少し疑問がないわけでもないですけれども。 ○山本(和)幹事 個人的には全く部会長と同じ意見です。 ○鎌田部会長 これは「方向で」ということになっていますけれども。   ほかによろしいでしょうか。 ○中井委員 内容に関わってしまうのかもしれませんけれども,今の山本和彦幹事の御発言の確認ですが,(3)の提案の意図は,基準時を申立てにする場合のことと思うんですが,山本和彦幹事の御発言をそのまま使えば,申立てではなくて現行法の差押えの場合であっても,その後に取得した債権の原因が前であれば,相殺可能であるという新たな御提案のようにも思えるんですが,そこまでのことを含んだお話だったのでしょうか。念のために確認する趣旨でございます。 ○山本(和)幹事 現行法典は差押え後に取得したという場合ですね。その場合は,私は倒産手続においても,倒産手続開始決定後の債権の取得については,2項の例外は適用にならないと,そういう形で完全に処分禁止の効力が生じた後については,債権取得した場合に前の原因とかということは考慮しないという意味で,現行法制は一貫していると私は理解していまして,そこを改正しろというところまで含んだ趣旨ではございません。 ○中井委員 分かりました。それと同じところの「また」以下の部分ですが,当時の議事録を確認していないのですが,「また」以下の発言があるとすれば,私か岡委員ではないか。岡委員に確認するのが適当かどうか分かりませんが,支払不能になった債務者が支払不能後に債権を取得したからといって,相殺を禁止するというのは現行破産法のレベルからいっても超えています。価値の毀損した債権を取得するならもちろん問題ですが,自ら債権を新たに取得した場合も駄目なように読めるものですから,そうだったでしょうか。 ○鎌田部会長 事務当局から。 ○松尾関係官 今の中井委員からの御質問を頂いた事項は,部会の中で岡委員から御発言を頂いた点を踏まえて書かせていただいたつもりですが,もしかすると私の理解に誤りがあるかもしれませんので,補足していただけると大変助かります。 ○岡委員 破産法にスライドさせて考えれば,新たに取得した他人の債権という表現のほうが正しいんでしょうね。 ○中井委員 それなら,そうなんですけれども。 ○岡委員 では,新たに取得した他人の債権と書いておいていただけますでしょうか。 ○山野目幹事 中間的な論点整理の文章の整理一般について,少し心配になってきたことがございますから申し上げさせていただきます。   本日の審議の何回かの場面で,現行の何々の規定を見直すことの当否について,更に検討する,という文案に対して,現行法を維持し,という選択肢のフレーズを入れてほしいという御要望があったように見受けますけれども,私の理解するところでは現行の何々の規定を見直すことの「当否」という言葉で,論理的には現行法を維持するか,見直すかということの問題提起であるということは伝わっているのだろうと思います。現行のある規定を見直しと書き出すと,何か見直しのほうに傾いた事務局の誘導があるというふうな御心配があるとすれば,それは必ずしもそういう御心配に及ぶことではないでしょうし,あるところは現行法を維持し,というフレーズが入っていて,あるところは入っていないというような不ぞろいが生ずるということについても適切ではないと考えますから,事務局のほうにおいて,今後,推敲されるに当たっては御留意を頂きたいと望むものでございます。 ○高須幹事 休憩前に本当にすみません,先ほど岡本委員から御指摘のあった相殺権の濫用のところを方向として打ち出すかどうかということでございまして,もちろん,中身に関する議論をここでするわけでは全くないのですが,部会での議論をしたときに相殺に関してはとても強力な効力が与えられると,無制限説・制限説の対立等の問題も踏まえて,国家の強制執行秩序よりも更に効力の強いような場面もあると。こういう場面もあるということを前提にしたときに,相殺権の濫用という問題については,やはり独自に取り上げる価値があるのではないかという理解があって,濫用の問題について確かに一般的な権利濫用規定はあるわけだけれども,ここにも一つ,そういうことを設けることの意義は検討したほうがいいのではないかというような議論であったと私は理解しております。ここのところは私としてはこの「方向で」という言葉を残していただいても,決して部会の議論に反するものではないと思っております。 ○村上委員 相殺権の濫用について,一定の方向で検討するということで意見が一致するというところまではいっていなかったと思います。もちろん,検討の対象にするべき問題かとは思いますけれども,方向を打ち出すほどのコンセンサスがあったかどうかについては,疑問ではないかなというのが私の感覚です。 ○鎌田部会長 この辺は議事録を精査し,また本日の御発言を踏まえて検討させていただきます。 ○中井委員 先ほどの山野目幹事のおっしゃったことに関連して,最終的な表現については事務当局にお任せをいたしますが,私が申し上げたような懸念を表明する意見もあることについては認識をしていただきたいということです。例えば先ほど申し上げました18ページの相殺のところで2の(1)(2)でいうならば,(1)については確かに山野目幹事がおっしゃったように2行目ですが,「生ずるとすることの当否について」という「当否」という言葉が入っております。ところが例えば(2)になりますと,今度は「できるものとするかどうかについて」という表現がございます。   他のところでは,例えば(1)の例でいうならば「相殺の意思表示がされた時点で相殺の効力が生ずるとすることについて」という表現がございます。そこで,微妙な書き分けが意図してなのか,意図せずにかございます。「当否に」となってくると正に両方かもしれませんが,「について」となると改正をするんだけれども,こういう弊害も指摘されているから考えましょうと,ちょっと書き振りが少しずつ違うところもございます。こんな細かなことを議論するのが適当かどうか分かりませんが,併せて御検討いただければと思います。 ○松本委員 前回の議事録を読んでいましたら,私がいろいろなところで今のような疑問点をしつこいほど展開しているというのでちょっと申し訳ないぐらいだったんですけれども,やはり,根本的なところになると思うんです。三ランクに分かれているというのはよく分かるんだけれども,三つ目の弁護士会で言う「Cタイプ」がどうも本当は更に「C1タイプ」から「C9タイプ」ぐらいまであるような感じがして,そういうあたりを読み解くというのに大変な能力が要ると。それを求めるのかということでありまして,今日の資料を見ていますと,前回の資料より何となく文章が全て長くなっているのは,もう少し丁寧に書くべきだという指摘が前回なされたので,それを踏まえているんだと思うんですが,文章を書けば書くほど,こっちの方向に読むのか,それとも別の方向に読むのかという部分が出てまいります。これは中間論点整理のための文章整理のはずなんですが,事実上,第2ラウンドの議論を先取りしているのではないかと思えるような議論が前回も今日もあるわけですね。   そこで,少しこの際,お聴きしたいのは第2ラウンドの議論の仕方という点です。つまり,パブコメを取ってこういう意見がありましたということは,当然,事務局で整理されて,それを委員や幹事の皆様に知らせた上で,次の第2ラウンドの議論が始まるんでしょうが,第2ラウンドの議論は一体どういう形でするのか既にお考えがあればお出しいただくと,そういう議論をするためには中間論点整理でこういうふうな書き振りにしておくのがいいのではないかと,あるいはこんなに細かく書かなくてもいいのではないかとか,その辺が少し出てくるかもしれないと思うんです。第2ラウンドについては全く白紙の状態なのか,それとも,ある程度,腹案があって例えば想定条文というようなものを出してきて議論をしようということなのか,それとも,第1ラウンドの繰り返し,それをもっと丁寧に,より深くやりましょうというイメージなのか,そのあたりはいかがなんでしょうか。 ○筒井幹事 今,松本委員のお尋ねのことに答える前に一言付け加えますが,前回会議の冒頭で,文末の表現振りには三ランクがあるということを申し上げました。そのうちの弁護士会が言う「Cタイプ」でしょうか,何々について更に検討してはどうかというタイプのものの中で,更に書き分けがあるのかという点が話題になりました。その点については,何か意図的にルール化して書き分けているということは一切ありません。お話を聴いていますと,いろいろ気にされているようですので,不必要に表現がぶれないようにしようとは思いますが,余り深読みをしていただいても生産的ではない気がいたします。何々の当否について検討と書いてあるのと,何々について検討と書いてあるのは,いずれもそれが論点であることを書き表そうとしているだけなのですから,余りそれ以上に詮索していただくのは,生産的でないと思います。しかし,同じことはできるだけ同じように表現したほうが分かりやすいという御指摘でもあったかと思いますので,それは留意していきたいと思います。   それから,松本委員からお尋ねがあった第2ラウンドの審議の進め方については,前回会議でもこのたたき台を準備するだけで事務当局は自転車操業状態だと申し上げたところですので,その先のことについて何か腹案があるとか想定条文をすでに用意しているなどということは一切ありません。しかし,前回会議で第2ラウンドでは中間試案の作成を目指すことが決定されたわけですから,一つ一つの論点について一定の方向性を出せるように議論を進めていく必要があると思います。そのときに,この中間的な論点整理におけるまとめ方が影響を与えるかという点では,直接リンクする部分はそれほど多くないかもしれませんが,しかし,このような方向で検討とか,何々としてはどうかというまとめ方をしたものについては,第2ラウンドで事務当局から提示することになる原案は,基本的にその方向に沿ったものになるのではないかと私は思います。それを原案として事務当局からお示しした上で,どのように議論していただくか,それは全く自由であるということを,繰り返し申し上げているわけであります。 ○松本委員 問題は多くの七,八割ぐらい残っている「Cタイプ」の論点については,どういう感じになるのかということなんですが。 ○筒井幹事 特別な考えは,今,持っておりませんので,一つ一つの論点についてパブリックコメントの結果も踏まえて,適切な議論ができるようにもう一度,事務当局で考えた上で資料を作成するということに尽きるのではないかと思います。 ○内田委員 私の理解では三つのタイプの中の,方向のつかない「更に検討してはどうか」というものの中で,更に何かグラデーションがあるかというと,それは全くない。どういう表現を使っていようと全く同じ扱いであるというのが私の理解です。   今までに出された立法提案があり,そして,それについてここで議論をして,全く理由がないというものはもちろん落とす。しかし,それなりに理由があるというものについて,更に検討しようということで残ったのが「更に検討してはどうか」というタイプです。ですから,第2ラウンドでは恐らく既に出ている立法提案をまた第1ラウンドと同じように検討の俎上にのせて,更に改善するような提案があれば,それも加えて議論をするけれども,やはり無理だということになれば現行法に戻るというのは当然のことです。山野目幹事から今の書き方でニュートラルな趣旨が出ているのではないかという御指摘がありましたけれども,資料の作成者側の意図としては全くニュートラルでして,表現を少し変えたからといって,よりニュートラルになるというようなことは全く想定しておりません。   ただ,細かな表現の違いによって御懸念が生じ得るということはよく分かりましたので,そういう誤解の生じないような表現を使い,また,留意すべき事項はバランスをとって書き込む必要があるということはよく理解いたしました。しかし,どう書くかによって,「更に検討してはどうか」タイプの中身の方向が変化するということは全くないと考えております。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。 ○大村幹事 今の事務局の御説明で分かりましたので,念のための確認ですけれども,「更に検討してはどうか」と書かれているものについては,皆同じだということだったかと思います。そうだとすると,「更に検討してはどうか」の前の文章は何のためなのかということなんですけれども,これは,この部会でこれまで考慮すべき要素として挙げられたものをここに集約するということで,筒井幹事がその前におっしゃいましたけれども,立案について検討する際には,ここに観点として挙げられたものが考慮されて原案として出されることになる。それに対して,委員,幹事としてはそれとは違うことを提案するのは全く自由である。こういう理解でよろしいでしょうか。 ○松本委員 今の大村幹事の御趣旨が事務当局の趣旨だとすると,「Cタイプ」のものについてもいきなり何か立法提案が出てくるということですか。内田委員の御説明は,もう一度,第1ラウンドの議論,論点をもっときちんと議論しましょうと理解したんですけれども,立法提案ですか。 ○内田委員 「Cタイプ」というか,単なる「更に検討してはどうか」という論点に,いきなり事務当局の提案としてこういう改正をしてはどうかという特定された案が出ることはないということです。ただ,現に提案がありますので,既に出されている提案,これは学者グループの提案もありますが,弁護士会などからもいろいろな反対提案も出ているわけで,そういった案や,更にそれらを踏まえて,こういう案が考えられますという議論の材料を事務当局から出すということは当然だろうと思います。それに対して,委員,幹事の先生方の中から,今,大村幹事がおっしゃいましたように,具体的にこのほうがいいという提案を更に出していただけるのであれば,それは歓迎すべきことだと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか。今の御議論に一応の区切りがついたということであれば,ここで休憩を取らせていただきます。このペースでいくと多少積み残しが出るかもしれませんけれども,必要な点については休憩後もきちんと議論をしていただければと思います。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,そろそろ再開をさせていただきます。   部会資料22の21ページから22ページ,「第17 更改」と,22,23ページの「第18 免除及び混同」について一括して御意見をお伺いいたします。 ○佐成委員 「第17 更改」の2の「更改による当事者の交替の制度の要否」というところでございます。ここでは単純にこの規定を削除してはどうかとなっていますけれども,ここでも指摘されているとおり,確かに債権譲渡や免責的債務引受と機能面で重複があって,何らかの整理が必要であるという問題意識は実務でも共有できますので,基本的には更改による当事者の交替の制度を廃止するという方向性自体は実務的に問題がないのではないかと,そう考えてはいるんですが,ただ,そうは言いつつも,当事者の交替による更改を完全に廃止して,実務上,本当に大丈夫かというところについてはやや自信がない面があります。と申しますのは,非常にまれですけれども,当事者を交替するに際して,ノベーションとアサインメントのどっちを選択するかというような契約交渉が実際に行われていまして,最近,ちょっと身近でも行われて実態がどうなのか調べたいと思ったんですけれども,時間がなくて調べられなかったからです。それに本当にどれだけ違いがあるのかよく分からないんですけれども,ともかく現在でもそういったことが実務上,問題になっているようなので,単純に廃止と言い切ってしまうのはどうかなという,ちょっと自信がないところがあります。もちろん,実際上は最終的に契約書に細かく書き込んでしまうものですから,両者の違いというのは契約書ではほとんどタイトルの違いぐらいしかなくて,中身が本当にどれだけ違うのか,私もよく分からないところもあるんですけれども,ただ,この点はもう少し慎重に検討したほうがやはり望ましいのではないかと思いますので,現時点では「削除する方向で,更に検討してはどうか」ぐらいのレベルに落としていただけないかということです。二読に際して,もうちょっと実態を聴いてみたいと思いますので,是非,御検討をよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   よろしければ,部会資料22の23ページ,「第19 決済手法の高度化・複雑化への民法上の対応の要否(多数当事者間の決済に関する問題について)」について,御意見をお伺いします。 ○油布関係官 このCCPをめぐるところにつきましては,第13回の議事録を拝見いたしました。ページ数にしまして15ページ近くにわたって,慎重な御意見と支持する御意見とが活発に交わされているように読み取りました。慎重な御意見の中で恐らく一番の力点が置かれていたのは,こういう規律を民法に設けることが適切なのかというのが一つ大きくあったんだろうと読み取りました。しかし,資料の23ページを見ますと「また,」以下のセンテンスに,それに応えるようなニュアンスのことが書いてはあるのですけれども,その文章の文末は「民法に設けるべき規定の内容について」更に検討してはどうか,となってしまっております。ここは「民法に規定を設けることの当否や内容について」というのでしょうか,そういう表現のほうが,議事録を読む限り,当時の議論を忠実に反映することになるのではないかと思いました。   あと,その前の「多数の当事者間における」という言葉で始まる段落についても,基本的には,現在,この法律関係を説明するのに適した概念が民法には存在しないと指摘されている旨の記載があり,やや前向きの記述のみが書いてあるようにも読めます。議事録を見る限りでは,まず民法に規定を置くべきかどうかという議論が一つ。あと,二点ほど,複数の方から「現状,特に懸念すべき点は見当たらない」という御指摘もございましたし,それから更に進めて,これも複数の方の御意見でしたが,「こういう概念を設けるとかえって悪用される」というふうな指摘もあったところです。分量の問題がありますので,この両方を全部書くかどうかは別ですけれども,ちょっとその辺,御検討を頂いたほうがよろしいかなと思いましたので申し上げます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○松本委員 今の御意見と全く同感なんですが,先ほど更に検討するという場合は事務当局の書き振りとしてはニュートラルなんだとおっしゃいましたけれども,今のところなどを見ると,明らかに改正あるいは新設にポジティブな意見,観点しか書いていない。「決済の安定性を更に高める等の観点から……検討してはどうか」と。ポジティブな要素がこんなにあるんだから検討しましょうとしか読めないわけで,ニュートラルに書くのであれば,そういう観点と他方でこういう制度を民法に一般規定として入れるのがふさわしいのかどうかという法体系の観点からとか,そういうものも併記しないと,やはり,こちらのほうに誘導したいのではないかという疑心暗鬼を抱かせることになるのではないかと思います。 ○深山幹事 第19の提案については,当初何が提案されているのかということについて,必ずしもよく理解できなかったところがございます。つまり,集中決済のための制度という説明が前面に出ていますので,そういう制度全体が提案されていると受け止める者が私自身も含めて多くて,多くの弁護士が,そんなことは特別法で規定すればよいという考え方になっているかと思います。   ただ,いろいろ議論を拝聴して,あるいは改めていろいろ資料を読み直すと,そういう制度の一番基になる概念として,AからBに対する債権がAからCCPへの債権と,CCPからBへの債権に置き換わって,もともとのAからBへの債権が消滅するという債権の消滅原因の一つを新たに加えるんだという提案であるということが理解できました。そういう債務消滅原因を活用しながら,それを複数束ねることによって集中決済が円滑に図られるという制度に使えるんだということであり,債権の消滅原因の新たな事由として,二つの債権に置き換わることによって従来の債権が消滅するということを民法に規定することが相応しいかどうかという問題なわけです。   つまり,新たな消滅原因として規定を設けるかどうか,あるいは法的概念を創設するかどうかという問題提起であることが理解をしましたが,一般の人にとって,その点はちょっと分かりにくいのではないかなと思います。   補足説明ではいろいろ書き込まれるのかもしれませんけれども,それを踏まえてもかなり分かりにくくて,決済制度全体が民法に盛り込まれるかのようなイメージに受け止められて,そんなものは民法にふさわしくないと,こういう議論にいってしまって,本当に議論すべきことがそこで議論されないままになるのではないかということを心配します。私自身は,必ずしもそのような新たな規定を入れることに積極的に賛成だということではないんですが,議論が正しく行われるためには,もう少し工夫をして説明していただき,これは全く新しい話ですから,そういう意味では初めて聴く者にとっても,何が提案されているのかをもう少し分かりやすく書いていただく必要があるのではないかと思います。この問題については,ほかのところと違って,少々ボリュームが増えても致し方ないのではないかと思う次第であります。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○道垣内幹事 極めてつまらないことを申し上げて恐縮ですが,第19の4行目の左のほうにある「明解に説明する」の「明解」なんですが,「明解」の「解」は「快」ではないかと思います。「明解」というのは,明瞭な解釈という意味で,余り書名以外には用いない言葉ですね。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかにはよろしいですか。   それでは,次に部会資料22の23ページ,24ページの「第20 契約に関する基本原則等」について御意見をお伺いします。 ○中井委員 1の「契約自由の原則」のところです。大きく二つの段落に分けられているわけですけれども,1のほうは契約の自由の原則について,「条文上明示する方向で」と書いて正に「Bタイプ」,それに対して次の契約自由の原則を条文上明示する場合に制約原理を規定するかどうかについては,更に検討するという「Cタイプ」になっています。これはアンバランスではないか。いずれも「Cタイプ」なら「Cタイプ」,若しくは最初が「Bタイプ」なら次も「Bタイプ」ではないか。つまり,契約の自由の原則を表明するなら,それに対応する制約の原理がやはり表明されるべきではないか。必ずしもこの前の議論で一致しているわけではないのかもしれませんが,一方で契約の自由を条文上,明示するということであれば,制約原理についても同等な位置付けにすべきではないかと思います。   二点目は3の「原始的に不能な契約の効力」についてですが,先ほど岡委員がおっしゃった任意規定という言葉が入っている二つ目のものですけれども,ここについては従来の考え方もあるわけですが,それに対して否定的な意見のあることは十分承知した上で,一般国民の常識的感覚への配慮が必要ではないかと思いますので,そのような表現を入れることが検討できないか,御提案したいと思います。   4の「債権債務関係における信義則の具体化」ですけれども,基本的にはこういう形になろうかと思いますが,どういう場合に生じるかということで,例えば最初の「当事者は相手方に対し」の次辺りかもしれませんが,契約当事者の地位や属性,契約の目的や内容若しくは契約の交渉経緯,そういうものに照らして本来的な給付義務に付随する義務や協力義務を負うことがあるのではないかと思われますので,今のは例示ですが,そういう諸要素について記載があるほうが分かりやすいのではないか。   また,その下のほうですが,「信義則を具体化した規定と民法第1条2項との関係」とのみ書いておりますけれども,ここももう少し言葉を足していただかないと,何を想定して書かれているのかが分かりにくいのかと。具体化した規定の射程範囲などが問題になるのかと思いますが,具体的な御指摘を頂いたほうがいいのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 二点あるわけですが,一点は,今,中井委員がおっしゃった最初のほうの「契約自由の原則」に関する点です。この問題を審議したときの議論では,契約自由の原則を明文化すること自体については,ほとんど異論はなかったのではないかと思います。御懸念をお持ちなのは後半についてでして,お考えになっていることは非常によく分かるのですけれども,そのときの議論では,今回の資料の23ページから24ページにかけての「契約自由に対する制約と法律行為一般に対する制約との関係,契約自由に対する制約として設けられた個々の具体的な制度との関係」が議論の対象になったと思います。つまり,契約自由の原則に固有の制約というのではなくて,法律行為一般について,あるいは他の具体的な制度も含めて,制約に関する制度があるのに対して,それと違うものをここに定めることになるのかならないのかという点が議論されたように思います。そこでは,少なくとも方向性が出るまでには至らずに,更に検討するということになっていたのではないかと思います。その意味では,これは議論をかなり忠実に反映していただいているのではないかと思いますので,これでよいのではないかと考える次第です。   もう一点は,2の「契約の成立に関する一般的規定」の第2段落についてですが,ここでは「契約の核心的部分(中心的部分,本質的部分)についての合意が必要であるという考え方があるが,このような考え方を採ることの不都合を指摘する意見もあることから,更に検討してはどうか」とされています。この点については,そのときの第9回会議で,確かにたくさんの御異論が出たのですけれども,それは,ここで言う「契約の核心的部分」は何かあらかじめ客観的に決まるものだという理解を前提にしていたからではないか。しかし,ここで言う「契約の核心的部分」は,そのようなものではなくて,その契約の当事者にとってその契約の成否を左右する事柄かどうか,つまり,その部分についての合意がなければ,少なくとも一方当事者は契約を締結しないと考え,そのことを相手方も認識している事柄だと理解すべきではないのか。そうすれば,懸念も払拭できるのではないかという意見を申し上げたのに対して,中井委員も含めて,このような理解を支持される意見がかなり出たように思います。  そうしますと,ここでも「契約の核心的部分」を客観的に捉えるか,当事者の意思や認識に即して捉えるかという点も含めて,というような表現を付け加えていただいたほうが,審議会での議論を適切に伝えられるのではないかと思います。 ○中井委員 今,山本幹事が御指摘いただいた1の「契約自由の原則」について,当時の議論の取りまとめといいますか,意見の出方が御指摘のとおりであったことについてはそうであったと私も記憶をしております。仮にそうであったとしても,ここで1というか,前半について「契約自由の原則を条文上明示する方向で」と少なくとも御記載いただくなら,その前か後ろに契約の自由の原則を表明したときの懸念の指摘のあったことにも配慮するという,こういうことについては,それは次で一応は重ねて記載いただいているのかもしれませんけれども,契約の自由を定めるに当たっては,そういう懸念の表明のあったことは間違いがございませんので,前半4行の中にその一言を含めることができないか,御検討いただければと思います。それのみです。 ○鎌田部会長 先ほどの中井委員から3の「原始的に不能な契約の効力」について一般国民の常識的感覚に配慮するというふうな表現を盛り込めということでしたが,なかなか感覚を立法提案に読み込むのは難しい要素もありそうに思うんですけれども。 ○中井委員 これは,ほかのところでも発言させていただいたかもしれませんけれども,一方の債務が消滅すれば,他方の債務も消滅するというところにも関係するのかもしれませんけれども,もともと履行の不能であったものについてはその効力がないというのも従来の理解の一つなわけですから,それは国民の法的理解として一定あるのではないか,こういう指摘をしたわけです。私の表現が常識的感覚と,こう言ってしまったことから,「感覚」は法的には評価し難いねという御指摘はそのとおりかと思いますけれども,言葉の真意は「国民の常識的理解」にも配慮するということを指摘したかったということでございます。 ○鎌田部会長 事務当局にとっては,なかなか難しい課題が多いかと思いますけれども,御指摘を踏まえて表現振りを工夫していただければと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○大村幹事 単に単なる繰り返しで恐縮ですが,山本幹事がおっしゃった2の「契約の成立に関する一般的規定」というところの2段落目ですけれども,まず山本さんがおっしゃったような形で修文をしていただければと思いますが,それとの関係で,「このような考え方を採ることの不都合を指摘する意見もあることから」というところは内容が曖昧だろうと思います。考え方自体がおかしいということなのか,考え方はいいとして,実際にそれが使えるのかということなのか,その辺りを整理していただければと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。今の点もよろしくお願いいたします。   もしよろしければ,次に部会資料22の24ページ,25ページの「第21 契約交渉段階」について御意見をお伺いします。 ○大島委員 25ページの2の「契約締結過程における説明義務・情報提供義務」については,契約を締結するに際して必要な情報がどの程度まで指すのかが曖昧であり,取引に支障が出るのではないかとの声が中小企業から上がっていることを以前,お伝えしたところです。取引の種類や取引相手により,必要な情報の内容に違いが出てくると思われることに加え,コスト増が懸念されることから寄せられた意見だと思います。申し上げた点を踏まえ,第2パラグラフに規定を設ける場合,規定の内容を検討する際の留意点をきちんと示していただいたことは大変結構なことだと思います。しかし,第1パラグラフを拝見いたしまして,濫用のおそれを指摘する意見について注意を喚起されていることはよろしいのですが,先ほど申し上げたような中小企業の声があることも踏まえ,規定の要否を検討する際に,取引実務に与える影響を踏まえることを加筆していただけると,実業界の方々の理解が進み,関心も高まるのではないかと思います。 ○新谷委員 契約締結過程における説明義務について,第9回会議の際に,特に労働契約においては契約の対象が生身の人間であるため,労働者側の説明義務についてはプライバシーや,思想信条といったような憲法上の人格権との調整が必要になってくるということを申し上げていると思います。今回の資料の中に,濫用のおそれを指摘する意見との記載や,二つ目のパラグラフにあります説明義務の対象となる事項等々に留意してという留意事項の記載をしていただきましたので,これは私どもの意見を反映していただいたものと理解しており,この点については感謝を申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○岡本委員 最初の「契約交渉の不当破棄」,これもそうなんですけれども,次の「契約締結過程における説明義務・情報提供義務」,それから,後で出てくる暴利行為のところも同じなんですけれども,一般条項を具体化するという論点につきまして,部会の議論の際に一般条項を具体化する規定を置いた場合には,一般条項が一般条項として普遍的に適用されるという,そういった性格がかえって見えにくくなるのではないかとか,あるいは具体的規定を置いた場合に,それが一般条項の具体化に過ぎないのか,仮に新たな規律をそこに盛り込むのであれば,一般条項による規律とどういった違いが生ずるのか,そういったところを明らかにすべきだといった意見を何度か申し上げさせていただいているんですけれども,一つ前の「債権債務関係における信義則の具体化」,ここのところでは,こういった意見につきましても「信義則を具体化した規定と民法第1条第2項との関係などに留意しながら」という記載でもって抽象的ではありますけれども,ある程度,反映いただいているところなのではないかなと思っておるんですけれども,それ以外の箇所では必ずしもこのような記載がないようですので,それ以外の箇所でもできますれば,一般条項の具体化が論点になっている箇所については同様の御配慮を頂くとともに,できれば,ここは抽象的な記載になっているものですから,ある程度,ここを具体化していただきたい。これは先ほどお話があったところと,中井先生からあったところと同じなんですけれども,その点について申し上げておきたいと思います。 ○沖野幹事 表現ですけれども,1の最後の部分,25ページの上から4行目から5行目に,交渉の不当破棄について交渉当事者が補助者を使用していた場合の責任というのが一つ項目として挙がっております。それとともに,3で交渉等に第三者を関与させた場合の責任というのが挙がっております。この両者の関係がこの部分の1から3までだけを読みますと表現も少し違っておりまして,かえって分かりにくいのではないかと思います。もし1の問題が一般的な3の問題の一つの具体化であるならばそれを明示するか,むしろ,元の部会資料のように1のこの箇所の記述は削除して3のほうに全てを盛り込むということも考えられると思われまして,ここの表現を整理したほうがいいのではないかと思います。 ○岡委員 単純な書き方なんですが,前回も申し上げた,判例法理を明文化するのか否か,条文を変えるのか否か,実務を変えるのか否か,そういう点を明らかにしたほうがいいという観点からの意見でございます。第21の2の説明義務・情報提供義務のところですが,第一文の「説明義務・情報提供義務を負うことがあるとされている」と書かれています。しかしこれはかなり膨大な判例があるわけですので,第21の1と同じように「判例上従来から認められている」くらいの表現をした方が正確だと思います   その観点で見ていくと,24ページの第20の3と4のところを見ると,3の原始的に不能な契約については,こういう学説が最近有力であるがとか,こういう見解が有力であるので,それを条文化したらどうだという表現にすると,分かりやすくなりそうな気がします。さらに4の信義則のところも「負うことがあるとされている」というのも,判例法と言っていいんだとすると,判例法上,こういう義務があることが認められている,そこで条文化に向けて検討したらどうかというふうな表現にすると,また,分かりやすくなるのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 その点は工夫をさせていただきます。 ○中井委員 2の「契約締結過程における説明義務・情報提供義務」ですけれども,ここも分かりやすさの観点ですが,2行目に一定の場合に負うとなっているわけですけれども,「一定の場合」と書くのみでは不親切ではないか。例えばですけれども,ここで議論されているのは,契約当事者に交渉力や情報力に構造的な格差がある場合などが念頭に置かれているわけですから,この「一定の場合」については,そのような例示があってもいいのではないかというのが一点です。   同じく後段ですけれども,「規定を設ける場合」についてですが,対象となる契約類型を踏まえることが必要ではないか,そういうことも入れてはどうか。その上で効果について「効果」の一言になっておりますけれども,損害賠償,取消しという議論があったわけですので,義務違反の効果として損害賠償ないし契約の取消し等について念頭に置いた議論ができるように,括弧書きでもいいと思いますけれども,追加があってよろしいのではないかと思います。 ○佐成委員 2の説明義務・情報提供義務のところですけれども,先ほど大島委員がコストと負担増の問題を濫用のおそれに加えて,これらを踏まえつつというような表現振りが望ましいという御指摘をされたと思いますが,それら以外の考慮要素として,この部会での御議論の中で,「企業間の取引においては情報格差がないと考えられるので,説明義務等を一般化するのは相当でない」という意見があったとのことでございますので,その辺りももし補足説明ではなくて,ここに明示できるようであれば明示していただければということでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   よろしければ,部会資料22の25ページから28ページまでの「第22 申込みと承諾」に移ります。まず,「1 総論」について御意見をお伺いします。   よろしければ,2以降……。 ○沖野幹事 すみません,これも表現の話なのですけれども,25ページの最終行で「申込みや承諾の意思表示の到達時期を明らかにする規定の要否」とありまして,他方,36ページの箇所では第27,6(1)で,効力発生時期に関して到達の意味内容や判断基準について明確にするという考え方が示されております。戻りまして25ページの「到達時期を明らかにする規定」ということの内容が「到達」というものの内容や判断基準の話であるならば,こちらとクロスリファレンスをしたほうがいいように思いますし,そうでないことを意味しているのであれば,もう少し説明して,「到達時期を明らかにする」ということが何を意味するのかを明らかにしたほうがいいのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 余り細かいので申し上げるのをやめようかと思いましたが,一応,調べましたので,御指摘させていただければと思います。第9回会議の議事録を見ますと,木村委員から,特に電子的な手段による場合に,いつ現実に到達したことになるかが法律上明確ではないので,その辺りも一緒に検討していく必要があるという御意見が出たのに対して,高須幹事から,恐らくこれは契約の成立の問題というよりも,民法が採っている到達主義の問題であって,例えば受取拒絶のような場合にどうするかということを一体として検討する必要があるという御指摘があったのを受けているのではないかと思います。そうしますと,今,沖野幹事からおっしゃっていただきましたように,ここでわざわざ申込みや承諾の意思表示の到達時期を明らかにする規定を設けるべきだという御提案ではなかったのだと思います。その意味では,強いて言えば,「意思表示の到達に関する規定」をどのように整備するかということを踏まえて,という程度でよいのではないかと思った次第です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○高須幹事 今の御発言を受けまして,私も全くそれに異存はありませんので,整理していただくことには問題はないと思っております。 ○鎌田部会長 単純に削除することも含めて検討させていただきます。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,「2 申込み及び承諾の概念」以降についての御意見をお伺いします。 ○奈須野関係官 2の「申込み及び承諾の概念」について二点あります。   一点目は第1パラグラフと第2パラグラフの関係です。第1パラグラフは「更に検討してはどうか」として「Cタイプ」に書いてあります。一方,第2パラグラフは「する方向で,更に検討してはどうか」という「Bタイプ」になっています。これは,読みようによっては論点に関する結論を先取りしているようにも見えるので,記載を合わせたほうが良いと思います。   二点目は一定の行為を申込みと推定することの要否についてです。私が部会で申し上げたのは,慎重に契約することのほうに実務上のメリットがあるので,申込みかどうか不明瞭であるという問題意識に対しては一定の行為を申込みと推定するのではなく,逆に一定の行為を申込みの誘引と推定することのほうに実務上のメリットがあると考えられるということです。一方の論点だけ要否を検討するのではなく,バランスを取った議論にしたほうが良いと思い申し上げました。 ○内田委員 今,御指摘のあった26ページの2の第1パラグラフと第2パラグラフのカテゴリーをそろえたほうがいいという点なのですが,これは論理的にそうなるものではないのではないかと思います。第1パラグラフのほうで申込みと承諾の概念の意義を明示するかどうかということが「Cタイプ」といいますか,更に検討ということになっていて,仮に明示するとなった場合には,方向はやはりこういう方向になるのではないかと思います。それぞれ扱っている問題が違いますので,そろえなえれば論理的におかしいということではないのではないかと思います。 ○奈須野関係官 確かに,第2文は申込みと承諾の意義を条文上,明示するものとした場合の仮定の議論です。しかし,「例えば」以降で書かれている「申込みはこれを了承する旨の応答があるだけで契約を成立させるに足りる程度に内容が確定していなければならない」ということについても,若干疑義がある意見が寄せられているので,必ずしも自明ではないと思います。 ○内田委員 学説上は全く自明なことだと思いますが。 ○鎌田部会長 第1段落が「更に検討してはどうか」だから,第2段落で「方向で」が付いてしまうとおかしいということであれば,それは状況が違うのでそうは言えない。中身的に異論が多いから「方向で」は取るべきだという,そういうことであれば「方向で」を取るとなるんですけれども,今までの議論ではそれほど強い異論が出されたわけではないように議事録等を拝見しているところでございます。 ○内田委員 申込み,承諾の概念について,世界の中で日本だけが特別の概念を採用するというのならばあり得る見解ですけれども,これだけ世界中で基本概念が標準化されているときに,あえてそういう提案をする必要があるのかという点についてちょっと疑問を持ちます。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。ほかの点で。 ○山本(敬)幹事 28ページの「8 申込みに変更を加えた承諾」についてですが,基本的にこれで結構なのですが,2行目から3行目に「ここにいう変更は契約の全内容から見てその成否に関する程度の重要性を有するものであり,軽微な付随的内容の変更があるに過ぎない場合は有効な承諾がされたものとして契約が成立する」とあります。これは,先ほどの「契約の成立に関する一般的規定」のところで出てきた「契約の核心的部分」をどう理解するか,つまり,客観的に捉えるか,当事者の意思や認識に即して捉えるかということと連動した問題だと考えられます。実際,第9回会議のときにも,そのような議論もされたところです。  したがって,ここでも問題の所在をもう少し分かりやすくするために,例えば,上記2の「契約の成立に関する一般的規定」との関係にも留意しながら,更に検討してはどうかというように付け加えてはどうかと思います。 ○中井委員 8のところですけれども,本文については山本幹事がおっしゃるとおりだろうと思います。その上で,そのときの議論ですが,こういう考え方を採った場合,契約の拘束力の及ぶ範囲というのでしょうか,変更された部分についてどうなるのかという議論が確かあったのではないかと思います。変更されたために一致していない部分があるわけですけれども,その取扱いについて留意して,更に検討してはどうかということではないかと思います。不一致の部分について,意見が統一されているわけではなかったと記憶しておりますので。 ○岡本委員 ちょっと戻りまして,26ページの「申込み及び承諾の概念」のところの申込みの推定規定の要否のところなんですけれども,部会の議論でこの考え方について支持する意見は確か提出されていなかったのではないかと思いまして,沈黙によって賛成している方がいるかどうかちょっと分からないんですけれども,そういうことがなければ,この論点についても削除していいのではないかと考えます。 ○大村幹事 私はこの回に発言しなかったかもしれませんが,検討することについては賛成します。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○村上委員 5番ですが,これは対話を一旦取り止めるときの止め方次第だという考え方もあり得るのではないかとも思いますし,十分な議論がされたと言えるかどうかということもありますので,方向性を打ち出さない記載にしたほうがいいのではないだろうかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   もしよろしければ,部会資料22の28ページ,29ページ,「第23 懸賞広告」について御意見をお伺いします。   特にないようでしたら,29ページ,30ページの「第24 約款(定義及び組入要件)」について御意見をお伺いいたします。 ○加納関係官 2の定義のところなんですけれども,いろいろな御意見が出ていたかと思いますが,その2段落目で例えばこれこれという考え方があるが,「これによれば契約書のひな形などが広く約款に含まれることになって不都合であるなどの意見」があったということなんですけれども,含まれると何が不都合なのかが分からない限り,余り書く意味がないような気がいたします。定義を議論するのは何のために議論するかといいますと,結局,そういう規律の対象になって,どういう効果なりが生ずるのかということを見据えて,定義について議論していくということではないかと思いますので,例えば効果との関係を見据えながらとか,どうしても書くのであれば,何かそういうふうな文言を入れたほうがよいのではないかと思います。 ○大村幹事 30ページの3の「約款の組入要件の内容」というところについてなんですけれども,第2パラグラフの終わりのほうに「約款を契約内容にする旨の合意の要否」というのが出てまいりますが,私の理解では約款を契約内容にする旨の合意が常に必要か否かということは検討の対象になると思うのですけれども,合意が全く要らないという意見もあったのかという点は御確認いただいて,そういう御意見があったのであればこのままで結構ですけれども,要らない場合もあるのではないかという御意見であったのであれば,その旨に直していただければと思います。合意の要否というのはそういう趣旨かもしれませんけれども,やや紛らわしいので,御確認を頂ければと思います。 ○山本(敬)幹事 約款について,二点,指摘させていただきたいと思います。   まず,2の「約款の定義」についてですけれども,第11回の会議のときに,約款については,約款の組入れの問題と不当条項規制の問題という二つの問題があって,両者は少し性格を異にするということが私を含めて多くの方から指摘されて,おおむね共通の理解が得られたのではないかと思います。2の「約款の定義」の最初の2行は,恐らくそれを踏まえて,約款の定義については,組入規制の対象となる約款をどのように定義するかということをまず検討する必要があるという書き方になっていると思います。   問題は最後の2行でして,ここでは「個別の交渉を経て採用された条項や契約の中心部分に関する条項が約款に含まれるかどうか」という問題が挙げられています。しかし,これは組入規制の問題ではなくて,このような条項についても約款に特有の不当条項規制を及ぼすべきかどうかという問題だと思います。実際,後ろのほうの37ページの「第28 不当条項規制」の2「不当条項規制の対象から除外すべき契約条項」のところでも,正にこの二つの問題が挙げられています。そうしますと,元に戻って29ページのほうの最後の2行は,削除してしまったほうが混乱を招かないのではないかと思います。   もう一点は,今,大村幹事が指摘された3の「約款の組入要件の内容」についてですが,2段落目が私も少し分かりにくくなっているのではないかと思います。ここでは最初に「原則として契約締結までに約款が相手方に開示されていることが必要であるという考え方」について,「更に検討してはどうか」とされていますが,3行目で「約款を契約内容にする旨の合意の要否及び相手方に対する約款の開示の具体的な程度を中心に」とされています。この二つを中心に検討する必要があるというのはそのとおりなのですが,このままですと,「約款を契約内容にする旨の合意」,つまり組入合意の要否という問題が何か唐突に出てきて,位置付けが分かりにくいのではないかと思います。   正確に言いますと,最初に示されている考え方が,実は,原則として約款の開示を必要とするだけではなくて,それに加えて組入合意があって初めて約款が契約内容になるという考え方なのですが,それが示されていないのが分かりにくさの原因になっているのではないかと思います。したがって,第2段落の最初の2行を,開示とともに組入要件を必要とする考え方であるというように修正するほうが分かりやすいのではないかと思います。その上で,先ほどの大村幹事が御指摘されたことが続くと思います。 ○新谷委員 29ページの「約款の定義」の二つ目のパラグラフに,「多数の契約に用いるためにあらかじめ定式化された契約条項の総体」という定義に対して不都合があるという例示として,「契約書のひな形など」と,記載されています。第11回会議の際にも申し上げましたが,雇用関係で働く雇用労働者は日本で5,500万人おり,5,500万本分の労働契約があるわけで,影響が大きいわけです。労働の分野では就業規則なり労働協約については,既に関係法制の中で契約の決定システムが確立されていますので,約款の条項が入ってきたときに,就業規則等が約款的な位置付けになるかもしれないということで,不都合が生じる可能性があるという点を御指摘させていただいています。そういった意味で,不都合があるという例示として書かれている「契約書のひな形など」という中に,就業規則等が含まれるかどうかということについて,事務局の見解をお伺いしたいと思います。 ○笹井関係官 ただいまの御質問ですけれども,約款の定義に関しましては契約書のひな形のほか,今御指摘のありました就業規則等が約款に該当するかどうかについても指摘があることは認識しておりますので,そういった御意見も含めて,部会資料に記載したとおりにまとめたと御理解いただければと思います。 ○佐成委員 今の関連ですけれども,1の「約款の組入要件に関する規定の要否」というところですけれども,ここで,今,労働契約法上の就業規則が出てきましたけれども,それ以外にも個別事業法等の法的規制,その辺りの既存の法体系との関係性というのは,この議論では非常に重要になってくると感じますので,最初の「いわゆる約款を契約内容とするための要件に関する規定を民法に設ける必要があるかどうかについて」というところに,「既存の法体系,取り分け個別事業法や労働契約法との関係に留意しつつ」とか,そういったような注意的な記載が入れられないかという,そういう意見がありましたので御検討いただければと思います。 ○岡委員 今の1についての意見でございます。こう書いたほうが分かりやすいのではないかという観点からでございますが,契約条項が多過ぎるとか,定型的で交渉で変更できないとか,分厚過ぎて読まない場合があるとか,それでも契約の内容になる場合があるし,内容にしたほうがいい場合があるという約款学説というか,理論が存在すると。個別合意が原則だけれども,そうではない場合にも合意を認めるべき場合がある,そういう学説及び比較法に基づいてここの問題を提起しているんだということを書いたほうが分かりやすいと思います。   約款というと,普通の弁護士も含めて分厚い契約で読まない場合でも,個別合意が認定される場合があるというのがすっと浮かぶわけですが,どうもそれだけではなくて,1対多数で交渉する余地がないような契約も含めているからこそ,約款の定義のこの案が出てきていると思うんです。そうすると「いわゆる約款」という表現だけではなかなか一般国民に伝わらないと思いますので,学説も比較法もたっぷりあるようですから,個別合意が認めにくいところでも認めるべき現代的問題がある,そこから提案ですということを1のところに書いていただければ,2,3が分かりやすくなってくるのではないかと思います。 ○岡本委員 先ほど山本幹事がおっしゃったところで,2の「約款の定義」の最後の2行については削除したほうが紛れがなくてよいのではないかという御意見がありまして,その趣旨についてちょっと質問をさせていただきたいんですけれども,その御趣旨としては例えば個別の交渉を経て採用された条項であれば,それが契約の内容になることについては当然であるから削除するという,そういう御趣旨なのかどうか,ちょっとそこを確認したいんですが。 ○山本(敬)幹事 約款の組入規制に関しては,約款が先ほどの組入れの要件を満たすかどうかということにのみ従って判断すればよい。個別交渉条項が特に問題になるのは,組入れの問題ではなくて,このようなものについても約款に特有の不当条項規制を掛けてよいのかどうかという場面だと思います。正に後ろのほうでもそのような問題提起がされているわけですから,むしろここで書いてしまうと,何のために約款の定義を問題にしているのか,非常に分かりにくくなってくるので,後ろへ回したほうがよい。そのような趣旨なのですが,いかがでしょうか。 ○岡本委員 ちょっとそれに関連してなんですけれども,「また」のところで個別の交渉を経て採用された条項が約款に含まれるかどうかについて,こういうふうな検討事項の立て方にされているんですけれども,部会の議論では,個別の交渉を経て採用された条項は組入要件を問題とすべき約款には当たらない,言ってみれば契約の内容になるのは当然であるという意見を申し上げさせていただいておりまして,更にそれに加えて個別に交渉された条項がある場合には交渉の機会があったわけだから,その条項を含む条項群の全体について,これまた,組入要件を問題にすべき約款には当たらないと考えるべきではないか。さらには,実際に個別交渉が行われていなくても,個別交渉の機会がありさえすれば,そもそも条項群の全体については組入要件を問題にすべき約款には当たらない,要するに組み入れられて当然であるといった意見も申し上げているところでございまして,この辺りについてはちょっと論点として記載されていないものですから,差し支えなければ挙げていただけると有り難いなと思います。   それから,二点目なんですけれども,一つ上に戻りまして「約款の組入要件に関する規定の要否」のところなんですけれども,ずっと後に参りまして37ページに「不当条項規制の要否,適用対象等」というところがあるんですけれども,こちらの不当条項規制のほうでは,判断する前提として「正確な実態の把握が必要であるとの意見などにも留意しつつ」という留意文言が付いているんですが,約款の組入要件のところでも,確か同じような意見があったのではないかと思われまして,1番のところにも同じような留意すべき文言を加えていただけないかと考えます。 ○奈須野関係官 先ほど山本先生がおっしゃられた30ページの3の「約款の組入要件の内容」の第2パラグラフの指し示す検討の対象が明らかではないということに対する補足です。この点が分かりにくくなっている原因の一つは,「約款を契約内容にする旨の合意の要否」というのが全体の中で浮いているということです。もう一点は「例えば,原則として契約締結までに約款が相手方に開示されていることが必要である」として,契約締結までにという「いつ」,約款がという「何が」,相手方にという「誰に」というこの三つだけが挙げられている点です。後段では「相手方に対する約款の開示の具体的な程度を中心に」として,今度はhowが出てくるので,前段と後段の指し示しているものが一致していないように見えます。この点は文章の工夫次第だと思いますが,前段と後段がずれている感があるので,整理していただくのがよろしいと思います。 ○道垣内幹事 山本幹事のおっしゃった2の最後の2行を削除するということに賛成するということだけ申し上げたかったのですが,岡本委員が若干の発言をされましたので,それの関連で申しますと,岡本委員がおっしゃった問題は,結局,それは個別交渉を経て採用された条項が含まれているということによって,3における組入要件というものを満たすかどうかという問題であって,それが独自の論点になるというものではないと思います。組入要件の例としてそういうものがあり得るかあり得ないかという問題であって,実は2の下の2行とは無関係の問題ではないかと考えます。3の組入要件の内容のところの例示として,そういう意見もあるということを書くということ自体には,私は反対しませんけれども,2のところで論ずべき問題ではないという山本幹事の整理は,そのとおりではないかと思います。 ○山川幹事 先ほど,新谷委員の御発言を受けて佐成委員が御提案されたことに賛成です。あと,その前の大村幹事の御指摘との関連でいえば,約款を契約内容にする旨の合意については,もし就業規則が約款であるとすれば,労働契約法によって,合意は不要である場合があるということが定められておりますので,これは規定の要否の問題なのか,約款の定義の問題なのかという問題はあるのですが,労働契約法等特別法との関係にも留意しつつというような形で,考慮事項として加えるのがこれまでの審議の内容を反映しているのではないかと思います。 ○高須幹事 「約款の定義」のところの先ほど新谷委員からお話が出ました「ひな形など」の「など」の中に就業規則等が入っているのであれば,ある程度,クローズアップをしてもいいのではないかというのが弁護士会の中でもやはり強い意見としてございます。中間論点整理案を分かりやすくまとめるという意味では,「など」に集約せずに就業規則という問題も明示するということがあってもいいのではないかと。ただ,それだと約款の性質論のところがちょっと出てきて,不都合という言葉でまとめていいのかどうかという議論が出ると思いますので,そこはお任せするようで申し訳ありませんが,事務局のほうで差し障りのない表現にしていただければいいと思っています。ともかくも就業規則という言葉は入れていただいたほうがしっかりした中間整理案になると考えています。 ○内田委員 随分前になるのですが,大村幹事から,そして,その後,山本敬三幹事からも同じような御指摘があったかと思いますが,「約款を契約内容にする旨の合意の要否」という箇所について,合意は要らないという意見があったのかという御質問がありました。部会の議論の中では,特別法によって規制されている約款については,一々,合意がなくても組み入れられるのではないかという意見があったと思います。そういうことを踏まえての記述です。 ○道垣内幹事 正に電力会社の約款について,そういう意見が出たのですが,仮に「約款の定義」のところに,定義ないしは1のところに事業に関連する業法等の規制も考慮して書くのならば,今度は二重になるのではないのでしょうか。 ○内田委員 要否という言葉の「否」は,今申しましたような審議を反映する趣旨で書かれているという指摘をしただけです。 ○道垣内幹事 それはそうなのですが,否をどこで書くかという話です。そのときの御発言というのは,電力事業の場合には,約款自体について認可を受けて,そして,その約款に従って契約をしなければならず,かつ契約の申込みがあれば断れないというシステムになっているにもかかわらず,説明をしなかったため組入要件が満たされていいないということになった場合に,どういう契約になるのか,無効になるのはおかしいのではないかという意見だったと思います。しかし,ここで1のところに「労働関係法や事業関係の規制法というものを考慮して」と書きますと,その意見は吸い上げられていることになるような気がするのです。そうなると,1のところにそう書きながら,更に3のところに「否」という可能性を書くというのは,同じ論点を二重に書いているのではないか。私は申し上げたことはそういうことなんですが。 ○鎌田部会長 前者で必ず外れると決まったわけではないとなると……。 ○深山幹事 3の組入要件の内容についてですが,既にいろいろ議論が出ていて,分かりにくいということも含めてなんですが,結局のところ,ここで書かれている開示の問題,何がどのように開示される必要があるかという問題と,それから,組み入れるという合意が要るか要らないか,要るとなった場合に,どのような合意である必要があるかという,その二つのことは,もちろん関連はすると思うんですが,一応,分けて考えるべきだと思います。一文で表現されているんですが,二つに分けた問題提起をして尋ねたほうが整理もつくし,分かりにくさも解消するのではないかという気がします。いずれにしても,そこは表現を工夫されると思うんですが,二つだけではないかもしれませんけれども,要件を考える上での一つのポイントとして合意の要否,二つ目として開示の程度等,あるいは更にその他と,こういうような整理をしていただければと思います。   また,定義のところに関連して,最後の2行のところについては,既に御発言が山本敬三先生からもありましたけれども,私もこれは定義の問題ではなくて,むしろ,約款が一定の要件のもとに組み入れられることになった場合に,その後の問題として,個別交渉があった場合はどうかというむしろ効果との関係の問題であり,検討すること自体はいいんですが,定義の中で検討すると定義自体が非常に分かりにくくなると私も思います。 ○大村幹事 先ほど内田委員から御発言を頂いた合意の要否ということについて意見があったということなんですが,御紹介いただいた意見は常に合意が要らないという趣旨ではなくて,要らない場合があるということだと思います。それで,ここの文章は先ほどから分かりにくいという指摘がなされていますので見直していただくということになりましょうが,「例えば」から始まる1行半は原則としての考え方が示されているわけですけれども,その後に,現代社会における約款の有用性ということから,例外の必要性とか開示の程度という具体的な話が出てきますので,そのコントラストを出していただければ,問題は解消するのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,部会資料22の30ページ,31ページ,「第25 法律行為に関する通則」について御意見をお伺いします。 ○奈須野関係官 1の(1)の「公序良俗違反の具体化」に関して,私が部会で申し上げたのは次のことです。暴利行為が無効という強い効果を発生させるものとすると,その要件についての現在の判例が主として金銭債権を念頭に置いたものであるので,具体化の範囲がかなり狭いものとなってしまうかもしれません。一方で,このようなものを規律するメリットも考えられるので,むしろ,無効という強い効果であるということを前提としなければ,要件をもう少し柔軟に考える余地もあるのではないかということを申し上げたつもりです。したがって,暴利行為の効果についても論点として議論できるようにしていただきたいと思います。 ○大村幹事 31ページの2の「法令の規定と異なる意思表示」という項目ですが,先ほども話題になりました,任意規定と強行規定の仕分けに関する点ですけれども,第2パラグラフの2行目で,「どの規定がそうでないかの区別が条文上明らかにすることができるかについて」となっております。条文上明らかにすることができるかどうか難しいというようなことは私も発言した記憶がありますが,併せてそれが適当かどうかということも,これは明確には申し上げていないかもしれませんが,そういう問題もあるのではないかと思っております。   任意規定と強行規定というので二分法で考えたときに,任意規定であれば全て合意で排除できる,強行規定であれば何を決めても無効になるという考え方をそのまま肯定するということについては,学界ではかなり異論が述べられているところだろうと思いますので,それが分かるような形にしていただけると幸いです。修文としては,条文上明らかにすることができるか,又は適当かというような言葉を入れていただくとか,その後の「その基準」,「その」というのは「区別の」という意味だと思いますが,ここを「その区別の意義やその基準の在り方」などという形に改めて,区別することの意味や効果についても検討いただけるような形で修文をお願いできればと思います。 ○山本(敬)幹事 1の「(1)公序良俗違反の具体化」についてですけれども,2段落目に「暴利行為の要件の見直しについて,更に検討してはどうか」ということが示されています。これは,基本的にはこれで結構なのですが,見直す項目の具体例として,ここでは,主観的要素については「相手方の従属状態や抑圧状態に乗じることを付け加えるか」,客観的要素については「著しく」という要件が必要かということを挙げています。これは「など」と書かれていますので,これだけではないことが示されているといえば,そのとおりなのですけれども,第10回会議のときにも,客観的要素については,更に相手方の知識の不足に乗じることを付け加えるかということも議論されていましたし,主観的要素については,利益の獲得だけではなくて,相手方の権利を害することも付け加えてはどうかということも議論されていました。例示をするのであれば,少なくともそこまでは含めていただければと思った次第です。 ○岡委員 今の山本先生の意見に賛成でございます。それに加えた意見として,今の1の(1)の最後の段落の「また」のところですが,「暴利行為のほかに」,その次に「例えば状況の濫用など公序良俗に反する行為の類型であって」うんぬんと,状況の濫用という言葉が松本先生から議事で出たと思いますし,オランダ民法にもあるようですので,そういうことを書いたほうがより分かりやすいパブコメになるのではないかと,そういう意見がございました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 3の「任意規定と異なる慣習がある場合」についてです。民法92条については任意規定と慣習の優劣の問題のほかに,契約の解釈との関係の問題もあると思います。そのことも指摘しておいたらどうかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○中井委員 2の関係です。ここでは公序良俗に関する規定を取り上げています。いわゆる取締法規については必ずしも公序良俗に関する規定とはいえないであろうと思いますが,取締法規に反する合意,例えば建築基準法に反する合意,最近でも裁判例があったようですけれども,そういう合意についても,例えばその法規の目的や違反の程度や当事者の不利益の状況等で無効と解する余地があるのではないか。結果としては,それらを公序良俗に関する規定と理解して,この中に取り込むことができるのかもしれませんけれども,そういう論点もあるのではないか。当時,議論されたのかどうかは記憶にはないんですけれども,補足できないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   よろしければ,部会資料22の31ページ,32ページ,「第26 意思能力」について御意見をお伺いします。 ○岡委員 3の「効果」のところですが,ここも考え方という表現になっておるんですが,判例・学説は現在,無効と考えているはずですので,そうだとすれば現在の判例実務はこうで,それに対してこういう考え方もあるので,検討したらどうかと,そう表現していただいたほうが分かりやすいと思います。 ○深山幹事 意思能力の定義について,かつて議論したときにも発言をさせていただいたんですが,事理弁識能力という古典的な定義にするのか,そうではなくて,法律行為の意味を理解する能力とするのかというように,定義の問題としてどちらの定義がよろしいかという問題の立て方をされているんですが,私はそれぞれ別のものであって,二者択一の話ではないのではないかと考えています。つまり,概念としては両方必要な概念なのではないかと思いますし,直ちにそれを明文化することにはつながらないのかもしれませんけれども,少なくとも概念としては,どっちが正しいとか,ふさわしいということではなくて,別のものとして認識すべきではないですかということを申し上げました。   もちろん,どういう効果が結び付くのかということを意識して,こういう効果を生じさせる前提となる意思能力というものをどう定義付けるのかというように,効果との関係で検討することになると思うのですが,いずれにしても,入口の定義のところで二者択一の議論をしてしまうと,必ずしも正しい議論にはならないおそれがあります。両方それぞれ位置付けることが可能となる余地を残していただくような議論の立て方をしていただけないかなと思います。 ○鎌田部会長 定義の中身になってきますので,定義の案として御提案を是非頂いたほうが,事務局でひねり出すよりはよろしいかという気がいたします。 ○佐成委員 定義のところですけれども,内部で検討したときに意見が出たので御紹介させていただいて,御検討いただければと思います。中身は,意思能力を一時的に失った場合については,仮にこれが意思能力を欠く場合ということになると,契約関係が不安定になるだけでなく,意思表示を受ける側が容易に判断できない場合も多く,不測の損害が発生する可能性があるという,そういう意見があるということを踏まえつつ検討してほしいと,そのような意見がありましたので,御検討いただければと思います。 ○中田委員 「効果」の点なんですけれども,第2パラグラフの「その検討に当たっては」というところで,法律行為の無効,取消しの全体設計に関わるというのはそのとおりだと思うんですけれども,それとともに審議で出た意見として,意思無能力者が法定代理人を欠く場合の保護の問題ですとか,意思無能力者の相続に関する問題について,かなり議論されていたと思いますので,その点も留意事項にしてはどうかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   それでは,恐縮ですけれども,次に進ませていただいて部会資料22の32ページから37ページまで,「第27 意思表示」について御意見を伺います。まず,1の「心裡留保」から4の「詐欺及び強迫」までについて御意見を頂きます。 ○高須幹事 「心裡留保」のところでございます。「第三者保護規定」の33ページのところでございまして,ここが「設けることとしてはどうか」という形で強い方向性が打ち出されておると思うのですが,問題はそこの主観的要件のところです。「その無効について善意かつ無過失であることを要件として」という表現が入っておりますが,部会で議論したときには,そこは議論がほとんどなかったと議事録で確認しております。その前提となる部会資料でも94条2項を類推適用してというような表現であったと確認しております。そうなりますと,必ずしも無過失であるという前提で皆で議論したわけではないのではないか。私の意見としても必ずしも心裡留保の場合には,無過失を当然に要求するかどうかは別かもしれないという理解をしておりますので,一定の主観的要件を経て保護されるということをお書きいただくのはいいと思うのですが,善意無過失とここで書き込んで,「どうか」とまでしてしまうのは,やや行き過ぎではないかと思っております。 ○鎌田部会長 善意者保護には異論はないけれども,無過失まで要求するかどうかについてはなお検討の余地があると,そういうことですね。 ○山本(敬)幹事 「心裡留保」についてですが,今の点についてはそのような御意見が出たということで,少しトーンを下げていただいてよいと思います。個人的には,無過失を要求すべき理由があると考えてはいますけれども,それはまた,別の機会に改めて議論できればと思います。   「心裡留保」については,(1)の「心裡留保の意思表示が無効となる要件」のうちの第1段落と第2段落はこれでよいと思うのですけれども,第3段落に「無効の主張権者の範囲について,非真意表示の無効を主張することができるのは表意者に限定すべきであるが,狭義の心裡留保の無効は相手方も主張することができるとの考え方もある」として,この考え方の当否について,更に検討してはどうかとされています。これは詳細版の該当部分にこのような記載があって,それを受けたものだと思いますが,私もいろいろ調べてみたのですけれども,これまでのところ,ここに書かれているような考え方を主張する提案は必ずしもされていないのではないかと思いました。 つまり,非真意表示と狭義の心裡留保の区別を提案しているのは検討委員会試案ですが,そこでは,無効の効果を誰が主張できるかという点について,少なくともこのように非真意表示と狭義の心裡留保を区別していません。むしろ,両者を一括して,効果は「無効」として,あとは解釈に委ねることを提案しています。さらに,第10回会議のときにも,このような考え方は全く議論になっていなかったところです。   そうしますと,このような考え方を積極的に御提案される方がおられれば別ですけれども,「更に検討する」必要もないのではないかと思いますが,いかがでしょうか。削除候補の一つではないかということです。少なくとも,今ここで結論をというのではなく,少し御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 結論が出れば出していただいたほうが事務当局としては助かるということですけれども,事務当局としてもよろしいですか。分かりました。事務当局のほうで少し検討させていただきます。   ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○新谷委員 35ページの4の(1)の「沈黙による詐欺」の項では,明文規定について「規定を設ける必要性を疑問視する意見があることなどを踏まえ」という記述をしていただいて,更に検討ということになっています。この点については,労働契約締結過程にある労働者を適用対象にするかどうかということについて,第10回会議の際に発言メモを提出させていただいており,その意見が,「規定を設ける必要性を疑問視する意見」の中に含まれているのではないかと理解しております。そのため,この記述について感謝を申し上げたいと思っています。なお,後の,「意思表示に関する規定の拡充」のところでも同様に「濫用のおそれを指摘する意見」という記述を頂いていますので,この点についても同様の理解をさせていただきたいと思います。 ○中井委員 33ページの2の「民法第94条第2項の類推適用法理の明文化」ですが,議論の過程ではこのような外観法理について理解を示している意見が多かったわけですが,確か松岡委員から,ここに御記載の物権変動法制全体との調整についての御指摘があったかと思うんです。ここの整理の仕方ですが,それを踏まえて「当面,更に検討することとしてはどうか」という,ここだけ「当面」という言葉があるんですが,ここの真意がよく理解できないものですから,意見を申し上げる前に,お教えいただければと思います。 ○筒井幹事 御質問を頂き,ありがとうございます。「当面」という言葉を置いた趣旨は,御指摘がありましたように物権変動法制全体との調整を考えながら検討することが必要であることを踏まえまして,今回の改正対象との関係で困難な作業になる可能性があるという事務局の認識を,この一言で表したということです。それでもなお,しっかり検討すべきであるという御意見があれば,この「当面」という文字を削ることもあり得ますし,少なくとも当面は検討を続けるということでよいと思うのですが,先々まで検討対象として残るかどうかというと,今の時点ではやや消極に感じているという趣旨が込められているわけであります。 ○大村幹事 今の筒井幹事の御説明はよく分かりましたので,それならば,何かもう少しその趣旨が分かるように書いていただいたほうがいいと思いました。というのは,私は逆の意味だと思いまして,94条2項の類推適用法理は民法を改正するならば,どこかに関連の規定を置いたほうがいい。そのことについては,ここで議論すればかなり程度までコンセンサスが得られるのかもしれない。しかし,今回の検討対象を考えるならば,仮にそういうことになったとしても,「更に検討する」以上には書けないという御趣旨なのかと思って伺ったのです。このままでは,やはり不明瞭さが残ると思います。 ○中井委員 申し上げようと思ったのは,御指摘のとおり,94条2項の適用事例は松岡委員がおっしゃるとおり,不動産に関するものが圧倒的に多いわけで,物権変動法制との関係の調整が必要だという御指摘は誠にもっともだと思うんです。しかし,外観法理一般についてのコンセンサスが得られたときに,どこに規定するかという問題はともかくとして,物権変動法制に影響するからという理由だけで不可能になるのか。筒井幹事の御説明では,そこの関連があるから難しいようですが,一般法理としても表明することができない問題なのかということについて,よく理解できないところです。 ○松岡委員 補足をさせていただきますが,94条2項類推適用法理の明文化の是非は,物権変動法制の中で公信の原則をどの程度認めるかという政策的判断と密接に結び付いておりまして,そう簡単に決められないという趣旨のことを発言したことはあるかもしれません。私は個人的には94条2項の類推適用は,大まかな方向性だけでもむしろ規定をしたほうがいいと考えていますが,民法改正研究会で物権法の改正を検討したときの多数の意見が消極的だったことから,こういう形で意見を紹介させていただいたのです。   中井委員がおっしゃるとおり,物権変動法制とは別に権利外観法理という形で民法総則の中に,あるいは場所はどこでもいいのかもしれませんが,ルールとしてある程度判例法理を表現するものができることに合意が得られるのであれば,私自身は,全然反対するものではありません。 ○山野目幹事 私の記憶では,この論点を検討したときに松岡委員は,大体,今のような感じでメリット,デメリットをバランスよくおっしゃったように認識します。むしろ,私のほうから,厳しく解釈すればこれは諮問の範囲外の事項のことになるし,内容的にも困難が多いので,これをエネルギーを割いて取り上げることには反対であるということを明確に申し上げました。筒井幹事は,事務局として抱いている見通しを「当面」というところで言葉をあらわして,そのことを表現いたしました,というお話で,大村幹事から更に推敲したらどうかという御提案をいただきましたが,いずれもごもっともなお考え,感触であると思います。私の見るところ,ここの「当面」の前の「今回の改正作業で取り上げることは困難であるとの指摘があることも踏まえつつ」で,十分,先々,大変だよということは伝わっているようにも感じます。その点,コメントを申し上げたいと考えます。 ○岡田委員 「錯誤」の(5)の「錯誤者の損害賠償責任」のところが余りに簡単過ぎまして,消費者相談の場面でいくと,ここのところは大変関係があるものですから,これだけの文章ですと,きっと相談員の間で混乱するように思われます。第10回の議事録を見ますと,岡委員のほうから弁護士会の多数意見として,不法行為の要件でいいのではないかという発言があります。その辺の説明が入れば相談員や一般の人にも判断ができて,パブリックコメントに対してもそれなりの意見が出せるのではないかと思いました。 ○岡委員 今の「錯誤者の損害賠償責任」については,今回,議論したときも弁護士会では,実体的にも反対であるので,当時の賛成論もそれほど多くなかったのであれば,論点から落としてもいいのではないかと,落とすべきではないかという意見が結構,強くございました。もう一回,議事録を見直していただいて,支持する意見がそう多くないのであれば,弁護士会としては外していただく方向に賛成でございます。   次に「第三者保護規定」についてでございます。心裡留保,錯誤,詐欺,強迫,この四つについての表現をある程度,統一していただいたほうが読むほうは分かりやすいと思いました。   まず,当時の部会資料にはきちんと書いてあるんですが,現在,心裡留保に第三者保護に関する規定はないと。解釈論として94条2項類推適用説が有力であると。それを踏まえて,今回,ここにも新たに設けることとしてはどうか,と書いた方が分かりやすくなるのではないかと思います。   錯誤の第三者保護規定については,第2段落で分かりやすく書いていただいていますので,それを心裡留保とか詐欺のほうにも援用・利用などして,統一的な説明をしていただくと大変分かりやすいと思いました。   詐欺のところについても,現在,善意を保護するという条文があると。それをこういう考え方で無過失と変える案を検討してはどうかと,書いたほうが正確だと思います。短く書こうということで工夫されたのだろうと思うんですが,ここはかなり重要なところですので,現在,こうだと,しかし,こういう考え方に基づいて新設したり,変更することを検討するのはどうかと,そう書いていただければと思います。 ○山本(敬)幹事 3の「錯誤」の「(1)動機の錯誤に関する判例法理の明文化」についてですが,2段落目に「事実の認識が法律行為の内容になっている場合」に95条を適用するという考え方と,「動機の錯誤を他の錯誤と区別せず,錯誤について相手方に認識可能性がある場合」に95条を適用するという考え方が挙がっています。後者の認識可能性を要件とする考え方は,今日はおいでになっていませんけれども,第10回会議での野村委員の御発言を受けたものだと思います。   しかし,これは,野村委員の御見解を知っている者であれば気が付くことなのですが,いわゆる野村説とは違います。いわゆる野村説というのは,錯誤の認識可能性ではなくて,錯誤に陥っている事項の重要性についての認識可能性を要求するお考えです。  実際,第10回会議の議事録を見てみますと,野村委員は,単に相手方の「認識可能性」を要求するとおっしゃっていました。その上で,更にこうおっしゃっています。「認識可能性の対象が何かという議論はありますが,共通の錯誤と言われているものを取り込むということのためには,認識可能性ということで処理すれば,うまくいくのではないかと,個人的には考えております」と。これは,共通錯誤の場合は,双方が錯誤に陥っているわけですから,双方に錯誤の認識可能性はない。したがって,錯誤の認識可能性説によると,どちらも錯誤しているのに,錯誤無効が認められないことになるけれども,それはおかしい。むしろ,錯誤に陥っている事項が重要であることは,この場合でも双方が認識できる。だから,この場合は,錯誤無効を認めてもよいというお考えです。  そうしますと,下から2行目の「錯誤について相手方に認識可能性がある」ことを要件とする考え方は,提案されていないわけですから,これを挙げるのは少なくとも審議を反映していないと思います。具体的な表現は,あるいは野村委員から御提案があればとは思いますけれども,少なくともこの点は修正を要するということだけは指摘しておきたいと思います。 ○道垣内幹事 先ほど心裡留保の第三者保護規定について,高須幹事のほうから善意無過失とは限らないのではないかという意見が出されましたし,あるいは詐欺のところで,現在,善意ということになっているけれども,善意無過失であるというという意見もあり得ると思います。そして,このような第三者にどのような主観的要件を要求するのかというのは何によって決まってくるのかというと,結局は真の権利者の帰責性と相手方の要保護性というものを考えて,どこでバランスをとるのかという問題なんだろうと思います。   もし仮に全部につき,余り深く考えないで,善意無過失に統一しようというのならば,それはそれで一貫していると思うのですが,仮に高須幹事がおっしゃったように,類型ごとに若干の考察をするということを仮定いたしますと,例えば心裡留保の相手方の保護の規定において,本当にこれは善意無過失なのかということであるべきなのか,本人の帰責性というのを考えたら,善意でよいのではないかというのも可能性としてあると思いますし,更に虚偽表示に関して94条2項の類推適用法理の明文化というのが仮に難しいとしても,94条2項の第三者の保護というものの主観的対応が現在のままの善意でいいのかというのは,類推適用法理の明文化ということについてはあきらめたとしても,なお問題になり得るのではないかという気がいたします。それは今までの部会の議論を必ずしも反映しているのかどうかは,ちょっと私も記憶がありませんけれども,ほかのところの話との論理的なバランスからすると,当然に出てくる話ではないかと思います。 ○松岡委員 今の道垣内幹事の御意見に賛成で,民法改正研究会の議論でも意思表示・法律行為のところの取消しや無効の第三者保護の規定については,全体のバランスをよく考える必要があるという指摘があり,一つにまとめて規定する提案もされています。確か審議の中でもどなたが発言されたか私がしたか正確には記憶にございませんが,そういう趣旨の意見もあったように思います。この意思表示のところはそれぞれの規定ごとにしか第三者保護規定が書いていなくて,ばらばらに置かれています。先ほど来からその表現振りの統一も指摘されておりますが,どこか,最後のところでもよろしいんですが,全体を通じてバランスの取れるような検討をしてはどうかとか,そういう横断的な形での検討も必要ではないかということを,まとめて書いていただけないかと思います。 ○鎌田部会長 94条2項については,類推適用法理は論点に上がっているんですけれども,本体は上がっていないというところは付け加えるということになりますかね,ここで。主観的要件について善意無過失とする考え方があるけれども,検討の対象にするという項目を付け加えるということにさせていただいて……。 ○山本(敬)幹事 確認ですけれども,94条2項について,本来の虚偽表示の場合に,これを善意無過失に改めるべきであるという提案はあるのでしょうか。 ○鎌田部会長 今,そういうことも検討の対象とすべきであるという趣旨の御提案であったと理解したらどうかと,松岡さんの意見も含めて。今までは……。 ○山本(敬)幹事 これまでのところ,そのような提案がなされていなかったのではないかと思いますが,今,ここで新たにということですか。 ○鎌田部会長 今,あったということですが。 ○山本(敬)幹事 それではやはり,理由に当たるものをお示しいただくべきではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○松岡委員 理由もなくはないと思います。私個人は善意無重過失でいいと思っているんですが,従来の解釈論には,表見法理一般として善意無過失が必要だという主張をしていらっしゃる方は複数,有力な学説としてあります。そういうことも考えれば,まとめてもう一度考察してみるという提案には,十分理由があると思います。 ○道垣内幹事 私も94条2項における第三者の主観的態様を善意無過失にしようと提案しているつもりはございません。先ほど心裡留保について第三者保護規定を置く,錯誤について第三者保護規定を置く,そして,そのときの主観的要件について検討するというのであれば,全体のバランスを考えるために,94条2項における第三者の主観的要件も一応は俎上に上ってくるのではないか。その結論として,帰責性その他を考えて善意要件でよいとなるのは,それはそれで構わないし,私はそれでよいと思いますけれども,論理的には出てくる論点ではないかということを指摘させていただいたつもりです。 ○山野目幹事 今の道垣内幹事と重なるところも多いですが,ここで話題になったことは私の見るところ,個別の例えば94条2項の本来の適用の場面について,無過失を加えようとかいうようなお話ではなくて,意思の不存在や瑕疵ある意思表示によって無効や取消しがなされる場合の第三者保護の在り方について,局所的対処療法的ではなく,バランスを考慮して検討することに留意すべきではないかという趣旨の提案といいますか,見出しをどこかに一つ設けていただきたいということが話題になったものであり,そのことは私自身,賛成です。   松岡委員がおっしゃったように学説があることも確かですし,道垣内幹事がおっしゃったように論理的に無過失を付け加えることがあり得るのも事実ですが,山本幹事が御心配のように学説はたくさんあるとして,それを全部有力だから落とさないようにしようねと細かく拾っていくのではなくて,何かそういう第三者保護のバランス論という視覚から,問題提起をパブリックコメントで投げさせていただくことは有益なのではないかと感じますから,その趣旨での提案をさせていただきたいと考えます。 ○鎌田部会長 分かりました。逆にバランス論を採りながら心裡留保は善意無過失だけれども,通謀虚偽表示は善意でいいなんていう話はあり得ないと思うものだから,ここで94条2項が上がっていないことのアンバランスがむしろ目立ちはしないかということも気にはなったのですが,先ほどのように心裡留保のところの書き方が変わるということであれば,それほどアンバランス感はなくて,虚偽表示は論点の対象にしないけれども,全体のバランス論はやりますというのがあってもおかしくはないかもしれません。今の御指摘の点を踏まえて,少し事務当局で考えさせていただきます。 ○内田委員 私は事務当局の一員として発言することが多いのですが,全く一委員として発言させていただけるならば,やはり94条2項についても検討すべきであると思います。 ○鎌田部会長 論点整理の段階になって論点の追加という例は,少なくとも前回にはなかったわけですので,その取扱いも含めて,次回まで事務当局のほうで少し検討させていただきます。ただ,時機に後れたら,一切,論点にならないというふうなスタンスを取る必要はなくて,第2クールに入ってからも新しい論点は付け加わるだろうと思いますので,その点を踏まえて検討させていただきたいと思います。 ○岡委員 36ページの不実表示のところでございます。ここはもう入っているんですね。まだ,入っていないんですか。 ○鎌田部会長 まだではございますけれども,6時までの残り時間があと20分と限られてまいりましたので,意思表示に係る部分についての残りの部分の御意見もこの際,全部,お伺いすることといたします。よろしくお願いします。どうぞ。 ○岡委員 では,その前提で,二点,申し上げたいと思います。やはり,消費者契約法に既にあるものの改良した一般化であるということは,書いていただいたほうが分かりやすいと思います。それから,それとの絡みですが,下から3行目の「濫用のおそれを指摘する意見」という最大のものは逆適用の問題だろうと思います。それは消費者契約法の一般化という説明,プラス,当事者間の格差の逆適用という表現がどうかは別として,逆適用するのは相当ではないという意見がかなりあったと思いますので,そういう具体的な指摘をここでしたほうが,この論点についてはいいだろうと思います。 ○奈須野関係官 意思表示に関する規定の拡充の趣旨を消費者契約法の一般化であると限定することは,今の段階では必要ないと思っています。飽くまでもこの論点は字面のとおり,意思表示に関する規定の拡充として,どのようなものがあるかというアイデア募集の論点と捉えれば足りると思います。部会の場では,私からは表明保証を例に挙げて,履行前は取消し可能で,履行後の損害は金銭賠償が可能という類型についても,ニーズがあるのではということを申し上げました。したがって,必ずしも消費者契約法の一般化に限る必要は今はないということです。 ○山本(敬)幹事 5の部分の第2段落の「不実表示」について,取り消すことができるという考え方の表現を少し修正していただければと思います。   といいますのは,「例えば」の後の「契約を締結するか否かの判断に影響を及ぼすべき事項に関して誤った事実を告げられたことによって表意者が事実を誤認し,誤認に基づいて意思表示をした場合」は,今も御指摘がありましたけれども,基本的には現在の消費者契約法4条1項1号の不実告知を一般法化したものに当たります。この表現は問題ありません。   問題は,その次の「表意者の相手方が表意者にとって不利益となる事実を告げなかったために表意者がそのような事実が存在しないと誤認し,誤認に基づいて意思表示をした場合」です。これは,部会資料や詳細版のほうでも,消費者契約法4条2項の不利益事実の不告知を一般法化しようとしたものだと説明されていますが,この表現ですと,単なる不告知の場合でも不実表示として取消しを認めようとした考え方だと誤解されてしまうと思います。   そうではなくて,もともと不利益事実の不告知は,現在の消費者契約法4条2項によりますと,重要事項又は重要事項に関連する事項について,事業者が消費者の利益となる旨を告げながら,その事項について消費者の不利益となる事実を故意に告げなかったというものです。これは,消費者にとって利益となることと不利益事実とが言わば表裏一体をなすにもかかわらず,そのうち利益となる旨のみを告げて,不利益事実は存在しないように思わせるという行為でして,だからこそ,一つの事実の一面のみを告げるという意味で不実表示に当たると考えられます。もちろん,部会資料や詳細版を見れば,そう書かれているということは分かるのですけれども,無用の誤解は避けるに越したことはないと思います。したがって,この部分は,今申し上げたことがはっきり分かるように修正をしていただければと思います。 ○内田委員 この部分は部会の審議の中でも,錯誤に関するルールの適用で同じことが認められるのではないかという御指摘がありました。実際,事実に反することを知らずに相手に情報提供してしまって,その結果,相手が錯誤に陥ったという場合について,容易に無効主張を認めた裁判例がありますが,そういう視点も含めて,新たな規定の可能性について検討するという趣旨ですので,消費者契約法のある規定を民法に移すとか,それを一般法化するという特定の提案の是非について議論するという狭いものではありません。ですから,山本敬三幹事から御発言がありましたけれども,消費者契約法の規定の一般法化という特定の御提案に特化するような形ではない記述をしたほうが,部会の審議をよく反映することになるのではないかと考えて,こう書いたということです。 ○山本(敬)幹事 御趣旨はよく分かりまして,消費者契約法を一般法化するということのみを目的としたものと見るべきではないというのは全くそのとおりなのですが,それを前提にしても,単なる不告知が不実表示に当たるかのように読めるのは,紛糾のもとになるのではないかというのが先ほど申し上げたかったことです。不実表示という評価を与えることができるような,つまり,一つの事実についての一面のみの不告知をここで取り上げるということではないかと思います。もちろん,それを超えて,単なる不告知の場合についても民法一般で取消しを認めるべきであるという考え方があり,そして,それを積極的に提案するという御意見があるのであれば,これとは別に分かるようにして挙げていただければと思うのですが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 関連していることで。 ○大村幹事 私もこれを読みながら,山本幹事がおっしゃるように二つ目の場合は広過ぎるのではないかと思っておりました。内田委員の御説明はよく分かりまして,そういうことだというのならば,それも十分にあり得る考え方だと思いますが,そうだとしますと,山本幹事が,今,御発言になったこととの関連でいいますと「(併せて不実表示と呼ばれる。)」というのを削られるというのはいかがでしょうか。 ○深山幹事 申し上げたいこととほとんど同じようなことを大村先生がおっしゃったんですが,私も「併せて不実表示」とくくっているような表現になっているので,今のような御指摘がなされていると思います。そういう意味でいうと,消費者契約法の一般法化ということではなくて,もうちょっと広い意味で取り上げるべきだし,取り上げ方としては,いわゆる不実告知と不利益事実の不告知とを明確に分けて,それぞれの要件を詰めるべきであると思います。結果として両方とも取り上げられるのか,どちらかだけになるのかはともかくとして,むしろ,ここは切り離して提案をし,意見を求めるというほうが混乱も少ないんじゃないでしょうか。 ○山本(敬)幹事 先ほど申し上げたことの繰り返しになるのですけれども,今のような御意見があるのであれば,そういうものとしてお挙げいただければと思いますが,ここに二つ示されているもののうちの前半のみが「不実表示」だという考え方はあり得るかもしれませんけれども,考え方としては,先ほど私が申し上げたような一つの事実についての一面のみを告げ,他の不利益な事実については告げないというタイプのものも「不実表示」として捉えるべきであり,積極的に不実の事実を告げる場合と同じように取消しを認めるべきであるという考え方が,部会資料や詳細版でも示されていたわけですので,それはそれとして挙げた上で,別の御意見として取り上げるということではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○松本委員 この括弧書きの「(併せて不実表示と呼ばれる。)」というのは一体誰が呼んでいるんですか。消費者契約法はそうは呼んでいません。イギリス法のミスリプリゼンテーションの定義の中に,ノンディスクロージャーも入っているということから,英語的にはこういう表現もあり得るかもしれないがという程度でしょう。日本の議論としてはそんな熟していないのであれば,「(併せて不実表示と呼ばれる。)」の部分を削除すれば,例えばなんだから,いろいろな御提案がありますねということにすぎません。これに拘束される必要はないというのが先ほどの議論なので,例えばどこまで広げるのがいいかという一例として,こんな議論もありますよという程度でいいのではないですか。何だったら消費者契約法的な有利告知,不利不告知タイプももう一つ入れてもいいですけれども,ここに書いたことに拘束されないということなので,それほどむきになることではないと思うんですが。 ○中井委員 皆さんから出ていることで重複しているのかもしれませんけれども,結局は最初に岡委員が述べたことだと思います。基礎にあるのは消費者契約法の規定だろうと思いますので,分かりやすさの観点からいえば,先ほどそれは必要ないという御意見もありましたけれども,消費者契約法の定めがあって,これをまず消費者契約に限らず,一般的に拡張するのかというのが第一段階にあって,更に第二段階として,不告知について前提となる利益告知がない場合についても拡張していくという考え方もある。   さらに,「影響を及ぼすべき事項」について,これはこのままでともおっしゃっていましたけれども,消費者契約法では「通常」という言葉が入っているかと思います。「通常影響を及ぼす」というのと「影響を及ぼす」のでは,かなり範疇は異なるのではないか,消費者契約法では「通常影響を及ぼすべき事項」だけれども,これは意識的に「通常」を取ったんだとしたら,そこも拡張するという考え方かもしれませんので,今ある規定から,それを一般法化する,更にその中身についても拡張しているんだということが分かるほうが,議論がしやすいのではないか。皆さんの意見を聞いていてそう思いました。 ○鎌田部会長 分かりました。御指摘のような点を踏まえて少し表現を改めるように事務当局で工夫していただくということで。 ○内田委員 時間がないところ,申し訳ありません。今の中井委員のように捉えるという考え方はもちろんあると思うのですが,それはやはり既になされているある特定の立法提案に引きずられて理解されているように思えるのです。部会の審議の中では,錯誤の適用として,既にこういうことが認められるのではないかという指摘があった。それはちょっとまた違った見方だと思うのですね。そちらもきちんとカバーした上で,消費者契約法の一般法化ではない形で,こういう法理が裁判例の明文化という形で認め得るかどうかという点も含めて,議論してはどうかという趣旨で書かれております。余り特定の提案に引きずられた形で議論の射程を限定しないほうがいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 そういうことで少し事務当局で検討させていただきます。   ほかに意思表示関連の御意見がありましたらお伺いを……。 ○中井委員 戻って恐縮なんですけれども,詐欺と強迫の二つ目(2)で「第三者による詐欺」,内容について異議があるわけではございませんが,「また」以下の第2段について,当時の審議のときも申し上げましたけれども,ここの法人の従業員等が行った場合については,「第三者による詐欺」ではなくて「本人による詐欺」という位置付けから同じ結論に至るものですから,「本人による詐欺」という考え方を踏まえて同じ結論にもなるということに留意した記載のほうが適切ではないか。表題と中身にそごがあるといいますか,工夫していただきたいという意見です。 ○鎌田部会長 ここは,項目自体を動かすのか,ここにあっても法的性質としては本人の詐欺の類型として考慮すべきであるみたいことが加わっていればいいという,そういう御趣旨になりますか。それとも,ここの第三者詐欺というタイトルの下にこれを入れること自体が妥当ではないと。 ○中井委員 中身の提案について異議がないわけで,ただ,考え方の背景は第三者詐欺ではないという認識を持っているものですから,それが反映できれば有り難いと思っているものです。 ○鎌田部会長 ほかの点はいかがでしょうか。   ほかに意思表示について御意見がないようでしたら,第28の「不当条項規制」については申し訳ございませんけれども,次回の会議において引き続き御審議を頂くということにさせていただいて,本日の審議はこの程度にさせていただこうと思います。   最後に,参考資料9-1及び10-1と次回の議事日程等について,事務当局から説明してもらいます。 ○川嶋関係官 参考資料9-1及び10-1について御説明いたします。これらは,いわゆる家賃債務保証に関する実態調査の質問予定事項です。根保証に関しては,平成16年の民法改正の際に,参議院,衆議院の各法務委員会において,貸金等債務以外の債務を主たる債務とする根保証についても,取引の実態を勘案して保証人を保護するための措置の検討が求められているところであり,また,第6回会議においても,その実態を把握する必要があるとの御指摘がありました。この実態調査は,こうした事情を踏まえて,根保証のうち我が国において広く用いられている家賃債務保証について,建物賃貸借に関わる複数の立場の団体に御協力をいただいて,その実態等について回答を得ようとするものです。参考資料9-1は,宅建業者の団体や管理会社の団体に向けた質問予定事項であり,参考資料10-1は,保証会社の団体に向けた質問予定事項です。これらの質問予定事項につきましては,これまでと同様に,お気付きの点がございましたら,適宜の方法でお伝えいただけたらと思います。その上で,最終的には事務当局に御一任いただきたいと考えております。 ○山野目幹事 部会参考資料9-1と同10-1に関連して,要望を申し上げておきたいことがございます。この質問予定事項を用いて賃貸人となる者や関係する業者などに対して,意向調査,実態調査を行っていただくこと自体には異論はないのですけれども,御案内のとおり,一昨年の社会資本整備審議会における賃料取立ての行為規制に係る調査審議以降,この領域は大変多様な立場の間の険しい政治的,経済的な対立・錯綜をはらんだ論点になっております。賃借人や保証人となる個人などの側の立場で知見を豊かに持っていたり,熱心に活動していたりする方々もおられます。この調査自体はなさっていただいてよろしいですが,その使い方や,周辺の異なる立場の人々に対する知見意向の聴取などについても,十分,意を払っていただきたいと望むものでございますので,一言,コメントさせていただきます。 ○奈須野関係官 参考資料10-1質問予定事項の最後の根保証について,「家賃債務に関する保証に及ぼす場合には,どのような影響が生じると考えられますか。」とあり,これはもちろん聴く必要がありますが,家を壊してしまったといった不法行為債権についてもこのようなものを及ぼすという実務があるので,この点についても聴いたほうが良いのではないでしょうか。 ○筒井幹事 奈須野関係官から頂いた御指摘については,事務当局の意図としては,建物の賃貸借に関連して生じた賃借人の債務全般についての保証が念頭にあり,それも含めてという趣旨ですので,奈須野関係官との間で認識のそごはないと思います。それが書き表せているかどうか,文言を精査した上で,更に作業を続けていきたいと思います。それから,山野目幹事から御指摘いただいた点は,大変ごもっともだと思いますので,十分留意して進めていきたいと思います。   それでは,引き続き次回の議事日程について御連絡をいたします。次回の会議は2月8日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省20階第1会議室です。次回の検討範囲ですが,本日,「不当条項規制」が積み残しとなりましたので,そこから議論を始めていただきまして,次回分の新たな部会資料としては,無効・取消し,代理,消滅時効,それから契約各則に入って,売買,交換,贈与,更に消費貸借,賃貸借,使用貸借,この辺りまでいきたいと思っております。事務当局における準備の都合でそこまで達しないという可能性もあるのですが,できるところまで準備を進めて,まずは今週金曜日に少なくとも一部はお届けできるように頑張りたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 その他,何か委員,幹事の皆様から御発言はございますでしょうか。よろしいですか。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   本日は御熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。 -了-