法制審議会 第152回会議 議事録 第1 日 時  平成19年2月7日(水)   自 午後1時00分                        至 午後5時36分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題   1 電子債権制度に関する諮問第76号について   2 戸籍の公開の在り方等の見直しに関する諮問第74号について   3 民事訴訟法の見直しに関する諮問第79号について   4 犯罪被害者等の保護に関する諮問第80号について   5 裁判員の参加する刑事裁判制度の円滑な運用のための法整備に関する諮問第81号に     ついて   6 自動車運転による過失致死傷事犯等に対処するための刑法の一部改正に関する諮問第     82号について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事   (開会宣言の後,法務大臣あいさつを法務副大臣が代読した。)  法制審議会第152回会議の開催に当たり,一言ごあいさつ申し上げます。  委員及び幹事の皆様方におかれましては,公私ともに御多用中のところ御出席をいただき,誠にありがとうございます。この機会に,皆様方の日ごろの御尽力に対し,厚く御礼を申し上げます。 本日の審議会におきましては,五つの諮問案件について,それぞれの部会でお取りまとめいただきましたので,各部会長から御報告をいただきたいと存じます。  本日の議題の第1は,電子債権制度(仮称)に関する諮問第76号についてです。  この諮問事項については,平成18年2月の諮問以後,電子債権法部会において調査審議が続けられ,その結果,「電子登録債権法制の私法的側面に関する要綱案」が取りまとめられたものと承知しております。 議題の第2は,戸籍の公開の在り方等の見直しに関する諮問第74号についてです。 この諮問事項については,平成17年10月の諮問以後,戸籍法部会において調査審議が続けられ,その結果,「戸籍法の見直しに関する要綱案」が取りまとめられたものと承知しております。  議題の第3は,民事訴訟法の見直しに関する諮問第79号についてです。  この諮問事項については,平成18年9月の諮問以後,民事訴訟法部会において調査審議が続けられ,その結果,「民事訴訟法の改正に関する要綱案」が取りまとめられたものと承知しております。  議題の第4は,犯罪被害者等の保護に関する諮問第80号についてです。  この諮問事項については,平成17年12月に閣議決定された「犯罪被害者等基本計画」を受けたものであり,平成18年9月の諮問以後,刑事法(犯罪被害者関係)部会において調査審議が続けられ,その結果,「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための法整備に関する要綱(骨子)」が取りまとめられたものと承知しております。  議題の第5は,裁判員の参加する刑事裁判の制度の円滑な運用等のための法整備に関する諮問第81号についてです。  この諮問事項については,平成18年11月の諮問以後,刑事法(裁判員制度関係)部会において調査審議が続けられ,その結果,「裁判員の参加する刑事裁判の制度の円滑な運用等のための法整備に関する要綱(骨子)」が取りまとめられたものと承知しております。  以上,本日各部会長から御報告いただく五つの案件につきましては,いずれも,早急に,その法整備を図り適切な措置を講ずる必要がございますので,委員の皆様方には,できる限り速やかに御答申をいただけますようお願い申し上げます。  最後に,新たな課題として,自動車運転による過失致死傷事犯等に対処するための刑法の一部改正に関する諮問第82号について,御検討をお願いしたいと存じます。  近時,飲酒運転中の死傷事故などの悪質な自動車事故が社会問題となっており,その罰則が国民の規範意識に合致しているのかとの指摘もあります。また,自動車運転による業務上過失致死傷事犯の最近の科刑状況を見ますと,その法定刑や処断刑の上限近くで量刑される事案が増加しています。  そこで,自動車運転による死傷事故に対し,事案の実態に即した適正な科刑を行うため,早急に,刑法の一部改正が必要と思われますので,そのための御検討をお願いするものです。 それでは,これらの議題につきまして,どうぞよろしく御審議をお願いいたします。  (委員の異動について紹介した後,会長に青山善充委員が互選・指名された。) ● ただいま委員の皆様方の御推挙と,それに基づく法務大臣の御指名がございましたので,鳥居前会長の後を受けまして会長の職をお引き受けさせていただきます。   法制審議会は改めて言うまでもなく,法務大臣の諮問を受けまして,国民生活に最も密接な民事法や刑事法のいわゆる基本法の制定や改正のための調査,審議をし,その結果を法務大臣に答申するという機関であると承知しております。近時,司法制度改革審議会意見書に基づいて,この民事法,刑事法の分野におきましても,非常に多くの重要な改正が行われました。しかしながら,進展する情報化,国際化の中で,なお社会の現実と法律の対応との間にギャップが感じられる現象や問題は現在なお多く存在するように思っております。そのギャップは,ある場合には法律が古くて,社会の現実や人々の要望に追い付かないことによってギャップが生ずる場合もありますし,ある場合には法律はきちんとあるのに,社会の現実や人々の要望が,それを無視して先走っていくということによるギャップもあるように思います。前者の場合には,法律を改正して社会の現実をサポートしていく必要があると思いますし,後者のように少し社会の現実が暴走ぎみの場合には法律を強化して,これをコントロールする必要があるように思います。いずれの場合におきましても,基本法の分野でそのような社会の現実をサポートしたり,あるいは社会の現実をコントロールする法律を審議するのが,この法制審議会の任務であると思っております。   そのことに思いをいたしますと,浅学非才な私が果たして,その会長の任に耐え得るか,内心じくじたるを免れませんけれども,お引き受けいたしましたからには,全力を傾けて,この職務を遂行したいと考えております。どうか,全委員,幹事,あるいは事務当局の方々におかれましても,御協力と御支援をお願いしたいと存じます。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   先ほどの法務大臣からのごあいさつにもございましたように,本日の議題は全部で六つございます。内容は大変盛りだくさんでございますので,今日の終了時間5時という時間を大体考えておりますが,それをどこか頭の中に置きながら,しかし内容的には十分な審議を尽くしていただきたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。   それでは,本日の第1の議題,電子債権制度の整備に関する諮問第76号について,御審議をお願いしたいと存じます。   まず,電子債権法部会における審議の経過及び結果につきまして,○○部会長から御報告をお願いしたいと思います。 ● 電子債権法部会の部会長を務めております○○でございます。   諮問第76号につき,本年1月16日開催の電子債権法部会第14回会議におきまして,電子登録債権法制の私法的側面に関する要綱案を決定いたしましたので,その審議の経過及び要綱案の概要につきまして御報告をいたします。   お手元に配布資料の民2と書いてあるのがございますが,それをごらんいただければというふうに存じます。   まず,要綱案の決定に至る審議の経過につきまして御報告をいたします。   諮問第76号は,「金銭債権について,その取引の安全を確保して流動性を高めるとともに,電子的な手段を利用した譲渡の法的安定性を確保する観点から,別紙,電子債権制度(仮称)の骨子に記載するところを基本として整備することにつき,検討の上,その要綱を示されたい。」というものでございます。そして,その別紙には,電子債権の概念を「電子債権は,①売買等によって発生する原因債権とは別個の金銭債権であり,②電子債権管理機関(仮称)において管理する電子的な帳簿である電子債権原簿(仮称)に発生登録をしなければ発生せず,移転登録をしなければ譲渡されず,抹消登録をしなければ消滅しない債権であって,③指名債権とも手形債権とも異なる類型の新たな金銭債権とする」等,制度の骨子が記載されてございます。   近時,中小企業の円滑な資金調達を実現するために,売掛債権等の金銭債権を活用した資金調達手法が注目されておりますが,そのための手段である指名債権の譲渡については,債権の存在を確認するためのコストを要することや,あるいは二重譲渡のリスク,人的抗弁の対抗を受けるリスク等があることの問題点があり,また手形につきましては,盗難,紛失のリスクがあることや,券面の作成,保管,運搬のためのコストを要すること等の問題点があると指摘されてきました。   そこで,金銭債権を活用した資金調達について,取引の安全を確保し流動性を高めるためには,近時における我が国社会のIT化の進展を踏まえ,IT技術を活用して,このような問題点を克服した新たな金銭債権の類型を創設する必要がございます。こうしたことから,電子的な手段による債権譲渡を推進するための施策の検討を進めるべきことが,平成15年2月の「e-Japang戦略2」以降のIT戦略本部決定等に掲げられ,また,平成18年3月31日に閣議決定された規制改革民間開放推進3カ年計画の再改訂版では,電子債権法(仮称)の制定に向けた検討を進め,平成18年度中に法的枠組みの具体化を目指すことが法務省,経済産業省,金融庁及び関係府省の課題とされ,これを受けて法務省が電子登録債権法制についての私法上の問題点について,金融庁が電子登録債権制度と金融制度の在り方について,経済産業省が電子登録債権制度の活用方法について,それぞれワーキンググループや研究会を設けて検討を行ってまいりました。   以上のような情勢を踏まえ,法務大臣は平成18年2月8日に法制審議会に対して,電子債権法制の整備に関する諮問,諮問第76号をし,これを受けて電子債権法部会が設置されたものでございます。同部会は,平成18年2月の第1回会議から,ほぼ3週間に1回のペースで会議を開催いたしまして,私法上の観点からの審議,検討を行い,同年7月の第8回会議では,それまでの審議の中間的な成果として,電子登録債権法制に関する中間試案を取りまとめました。この中間試案については,関係各界に対する意見照会とパブリックコメントの募集手続が実施され,その後,中間試案に対して寄せられた意見も踏まえて,さらに検討が進められ,本年1月16日に開催されました第14回会議におきまして,電子登録債権法制の私法的側面に関する要綱案の決定を見るに至ったものでございます。   続きまして,要綱案の概要について御説明をいたします。   まず,この要綱案においては,電子登録債権法制に関する私法的側面,すなわち電子登録債権(仮称)の定義等の総則的事項並びに電子登録債権の発生,譲渡及び消滅等に関する部分を検討の対象としております。これは,電子登録債権の管理を行う管理機関(仮称)についての監督の在り方については,別途,金融審議会の審議の対象とされていたためでございます。   なお,同審議会は既に審議を終えており,平成18年12月21日に「電子登録債権法(仮称)の制定に向けて~電子登録債権の管理機関のあり方を中心として」と題された報告書がまとめられております。   次に,要綱案で仮称している電子登録債権は,諮問や,それ以前の研究会の報告書等においては,電子債権と仮称されてまいりました。しかし,部会において,電子債権という名称を用いると,一般国民は,いわゆる電子商取引に際して発生する債権全般を指すものと誤解するおそれがあるとの問題点の指摘がされましたので,管理機関の電子的な帳簿に登録することを債権の発生,譲渡の効力要件とする金銭債権という特徴をあらわす名称として,電子登録債権という仮称を用いております。   それでは,要綱案の具体的な内容について,順次,説明をしてまいります。   最初に,要綱案の第1総則についてでございます。   総則では,電子登録債権の概念や第2以下の各項目で共通して問題になる電子登録債権に係る意思表示,登録等の事項を取り上げております。   まず,電子登録債権の定義として,以下の3つのものが電子登録債権であることを明らかにしております。すなわち,第1に発生登録により発生するベースとなる電子登録債権,これを本日の御報告では基本電子登録債権と呼ぶこととしますが,この基本電子登録債権のほか,第2に電子登録債権に係る債務の保証人として登録された者,これを登録保証人として定義しておりますが,この登録保証人に対する登録保証債務の履行請求権及び第3に,登録保証人が主たる債務者に代わって弁済をした場合に,主たる債務者等に対して取得する求償権,これを特別求償権と定義しておりますが,この3つのものが電子登録債権に該当することを定義において明らかにしております。その上で発生登録も含めて,登録は管理機関が当事者からの請求を受けて磁気ディスクをもって調製する登録原簿(仮称)に,登録事項を記録することによって行うものとし,電子登録債権も設権性のある金銭債権として整理をしてございます。この点は,諮問の別紙に記載された制度の骨子と同様でございます。   次に,当事者からの登録の請求の方法については,私法の一般原則に従って,発生登録であれば債権者となる者と債務者となる者の双方がしなければならないものとしております。このほか,総則では登録の請求の意思表示について,民法と比べて第三者をより保護して,取引の安全を図るとともに,登録の請求の意思表示をした者が消費者である場合には,このルールを適用しないこととして,消費者保護にも配慮をしております。   また,管理機関が登録事項を登録原簿に記録しない限り,登録としての効果が認められないなど,管理機関が適切に登録を行うことが電子登録債権制度において重要な前提となっていることにかんがみまして,管理機関が不実の登録をした場合や,権限がない者の請求に基づいて登録をした場合における管理機関の損害賠償責任について,管理機関に無過失の証明責任を負わせるものとしております。   次に,要綱案の第2でございますが,基本電子登録債権が発生登録をすることによって発生することを明らかにした上で,発生登録における登録事項と,そのために当事者が請求しなければならない情報の内容について定めております。要綱案では,この発生登録の登録事項として,債権額や債務者の氏名等の債権であれば当然備えているべき事項のほかに,当事者の合意次第で,支払方法についての定めや,利息についての定め等の多種多様な事項を管理機関が業務規程で許容する範囲内で登録することができるものとし,電子登録債権制度を手形等の既存の制度の代替としてだけではなく,さまざまな用途に用いることができるようにしております。   次に,第3の登録保証(仮称)の制度について御説明をいたします。   登録保証とは,電子登録債権に係る債務を主たる債務とする保証であって,保証登録をしなければ効力は生じないものをいうものとされています。その上で,この登録保証には手形保証と同様の独立性を認めるものとされ,主たる債務者に対する時効中断の効果が登録保証人には及ばないものとする等の民法の特則が置かれております。また同時に,こうした独立性は登録保証人が消費者である場合には認めないこととして,消費者保護を図ることとしております。   このほか,登録保証人が主たる債務者に代わって弁済をした場合に,主たる債務者等に対して取得する特別求償権については,手形の代替としての用途が電子登録債権制度の主要な用途の一つであることも踏まえ,手形の裏書人が債務者に代わって弁済をした場合の手形法上の遡求の制度と類似した規定を設けることとしております。   次に,第4の登録記録の分割について御説明をいたします。   要綱案では,電子登録債権の債権者であることが登録記録に記録されている者は,当該電子登録債権が記録されている登録記録を分割する登録を単独で請求することができるものとしております。これは,例えば一つの電子登録債権を有している債権者が,このうち一部について譲渡を行おうとするときや,相続等によって一つの登録記録に複数の債権者の電子登録債権が記録されている場合に,そのうち一つの電子登録債権について譲渡を行おうとするときには,登録記録を分割した上で譲渡をする必要があることから,譲渡の前提として登録記録を分割する制度を認めたものであります。   要綱案では,他の登録と同様に分割登録の登録事項と,そのために当事者が登録の請求をしなければならない情報の内容について定めておりますが,登録事項の中には,例えば債権額や分割払いの電子登録債権の支払期日などのように,分割に際して記録を改めて行わなければならないものもありますので,こうした事項についての記録の方法についても定めております。   次に,第5の電子登録債権の譲渡について御説明をいたします。   要綱案では,電子登録債権の譲渡は譲渡登録をしなければ,その効果を生じないものとして,譲渡登録を電子登録債権の譲渡の効力要件としております。これにより,債権譲渡のプロセスを明らかにできるようにしておくとともに,二重譲渡が行われるリスクを排除し,債権譲渡の円滑化を図っております。また,要綱案では譲渡登録の効力として,手形に認められている善意取得や人的抗弁の切断の制度を認めることによって,電子登録債権の流通を保護しております。さらに,消費者が譲渡人である場合には善意取得の制度を,消費者が債務者である場合は人的抗弁の切断を,それぞれ適用しないものとして,消費者保護を図っているほか,手形における満期後裏書の制度と同様に,支払期日以後の譲渡登録についても,善意取得や人的抗弁の切断を認めないこととして,債務者の二重払いの危険を防止する措置も講じております。   なお,基本電子登録債権についての譲渡禁止の特約についてでございますが,部会におきましては,電子登録債権が金銭債権の流通性を確保することによって,中小企業等の資金調達手段を確保しようとするための制度であることや,譲渡禁止特約をめぐる最近の国際的な法制の動向にかんがみ,電子登録債権については完全な譲渡禁止と,債務者の承諾がない限り譲渡することができないとする特約を設けること,これを禁止すべきであるとの強い意見が出されました。この点につきましては,部会においても時間をかけて慎重に審議をいたしましたが,電子登録債権制度をさまざまな用途に用いることができる柔軟な制度設計とすることからすれば,完全な譲渡禁止特約つきの電子登録債権はやはり認めることが望ましいこと,また,これまで譲渡禁止特約については,譲受人が知ることができない隠れた譲渡禁止特約が存在するリスクがあることが主として問題とされてきましたが,電子登録債権においては,登録外の譲渡禁止特約は人的抗弁として,原則,切断されるため,このような問題が生じることがないという,そういう意味で譲渡禁止特約つきの債権にも電子登録債権制度を適用する実益があること等の理由から,最終的には完全な譲渡禁止の特約も管理機関がこれを禁止しない限り許されるものとすることになりました。   次に,第6の電子登録債権の消滅についてでございます。   電子登録債権の消滅については,論理的には債務者が債権者に電子登録債権に係る債務の支払いをした場合であっても,支払等登録をしない限り,電子登録債権に係る債務は消滅しないとすることもあり得るところでございます。現に,諮問の別紙に記載された制度の骨子には,そのような考え方がとられております。しかし,部会においては一たん支払いを受けた債権者に,再度の支払いの請求を認める必要性はないと考えられる一方,第三者との関係については,支払いをしたことが人的抗弁になるに過ぎないと,そういう取扱いをすれば,取引の安全に欠けることになるおそれはないこと等が指摘されたことから,要綱案では,電子登録債権に係る債務は,当事者間では支払いがされた時点で消滅をするものとしております。   また,支払い等の債務の消滅原因行為がされた事実を登録する支払等登録の制度については,債権者の単独での登録の請求や,債権者の承諾を得た上での債務者の登録の請求を認めることと並んで,当事者の請求によらない管理機関による支払等登録として,口座振替の方法によって支払いが行われた場合において,管理機関が口座振替の手続を行った金融機関から入金についての連絡を受けたときは,直ちに管理機関は支払等登録をしなければならないものとすることによって,債務者の二重払いを防止する仕組みをとってございます。   以上のほか,手形法における支払免責の制度と同様に,債務者が登録上の債権者に支払いをした場合には,当該債権者が実際には支払いを受ける権利を有しなかった場合であっても,債務者に悪意又は重大な過失がない限り,支払いを有効とするものとして,債務者を保護しております。   次に,第7の登録事項の変更についてでございますが,登録事項の変更には債権者に相続があった場合のように,法律上,当然に変更の効果が生じるものと,債権の当事者間で合意の上で債権の内容を変更するものとの二つの類型がございますが,要綱案ではこのうち後者について,電子登録債権の設権性を踏まえて,変更登録をしなければ,その効力を生じないものとしております。   また,変更登録の請求権者については,原則として,当該変更登録をすることにつき登録上の利害関係を有する者の全員がしなければならず,相続の場合も相続人全員の請求が必要であるとした上で,改名や住所の変更等の軽微な変更に基づくものについては,例外的に改名等が生じた者だけで登録を請求することができるものとしております。   その他,最後に要綱案では電子登録債権を目的とする質権の設定,電子登録債権の信託及び登録記録等の開示について触れております。開示につきましては,取引履歴は営業秘密につながるので,なるべく開示されたくないという意見が実務界から強く出されたため,不動産登記のように広く一般に開示するのではなく,電子登録債権の債権者及び債務者等が必要な範囲で登録記録の開示を受けることができる制度としております。以上のほか,登録記録の保存期間,罰則,その他所要の規定を整備するものとしております。   以上,要綱案の概要につきまして御説明をさせていただきました。よろしく御審議のほどをお願い申し上げます。 ● どうもありがとうございました。   ただいま部会長から御報告と要綱案の内容について御説明をいただきました。技術的に大変高度な内容の要綱でございます。司会をいたします私が補足するのはおかしいということで,後でおしかりをいただくかもしれませんけれども,ここは必ずしも法律の専門家ばかりではございませんので,私から一言申しますと,要するに今お聞きしましたように,これは売掛代金等の金銭債権を資金調達のために活用したい。ところが,売掛債権のままにしておきますと,それがその債権があるかどうかという存在を確認することが大変困難であったり,あるいは二重譲渡のリスクというようなものがある。これを手形にしたらどうかと申しますと,手形にいたしますと,もちろん流通性は高まりますけれども,今度は手形の紛失,盗難というリスクやら,手形という紙をつくること自体の作成の費用,あるいは保管のコストというものがかかる。 そこで,取引の安全を確保しつつ金銭債権の流動性を高めて資金調達を図るためには,電子登録債権というものをつくって,それによって民間の資金調達の需要にこたえたいというのが,この要綱の基本にある考え方でありまして,それを実現するために今非常に細かな技術的でかつ精巧な要綱の内容を御説明いただいたと私は理解しております。   これにつきまして,委員の皆さん方から御質問と御意見を賜りたいわけでございますが,まず御質問がございましたら承りたいと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。   どうぞ,○○委員。 ● ただいまの会長のまとめで非常によく分かってないかな,でも分かったつもりでいるのですが,通常,債権があると債務があるわけですよね。その債務について,この要綱案というのは電子登録債務についても全部包括的に,その規定が入っているというふうに解釈してよろしいんでしょうか。 ● 債権がございますと,当然,その反面,債務がこれはもう表裏の形で存在しているわけでございますので,債権が発生し,それを管理機関に登録をするということになりますと,当然,債務もあわせて登録をされたということに,表裏一体ですからもちろん登録されたという扱いになるわけでございます。 ● 債権者が変わらなくても,債務者の方が債務の名義が変わる場合というのもあると思うんですけれども,それももちろん入っているということなんでしょうか。すみません,私ちょっと今の説明で,そこのところがよく分からなかったものですから。 ● それも,もちろんできる形になります。主眼としては,債権が発生し,その債権を資金調達のために譲渡すると,債権者が変わるという形のものがおそらくメインだと思うんですが,もちろん債務者が交代するということもあり得ます。それは,債務の引受けという形に多分なる,あるいは債務者の交代という形になると思いますが,それは可能でございまして,登録としては変更登録という形で,それを表現するということになろうかと思います。 ● そうしますと,そういうふうに債務が入っているのに,この要綱案が電子登録債権というふうになっているのは,債権の方に着目して,この電子登録債権を認めようとしたからだという解釈でよろしいんでしょうか。つまり,会計をやっていますと,必ず債権,債務というんですけれども,ここにそういうふうになっていないものですから,そこのところは債権の方の譲渡等を中心としたところの規定であるからという解釈,先ほど会長が説明してくださったことで債務というものが,この初めのこの文書の中に入っていないというふうに解釈してよろしいんですか。 ● 例えば,売買契約があって代金が100万円の債権が発生したとしますよね。そうしますと,この100万円の債権は同時に支払う側からしますと100万円の債務ということになりますので,これは一つのものなんですね,表裏一体のものなので,だからそれを債権という言葉で代表させているという,そういうふうに御理解をいただければと思います。 ● 法律上は債権といったときには,その反対側の債務が必ずもうペアで考えられていると,債権は片方については債務。 ● ペアでなくて,それ自体は同時に債務。 ● 分かりました。 ● ほかに御質問ありますでしょうか。   どうぞ,○○委員。 ● 財産の譲渡登録の効力のところで,消費者というのが出てきたものですから,これちょっとどういうことかなというのが分からないんですが,ここにある「電子登録債権の譲渡に(消費者である場合に限る。)」というのが,これがどういうことか,イメージとしてわかないものですから,ちょっと一つ,二つ具体的なことをお話しいただければと思ったんです。 ● どこの部分ですか。 ● 13ページの要綱案の3の譲渡登録の効力のところのBです。Aは電子登録債権の譲渡人で,この中に「(消費者である場合に限る。)」と書いてあって,ちょっとこの電子登録債権というのが,どうも事業者に関係ばっかりしているというふうなのが頭にあるものですから,ここでぽんと消費者が出てきたんで。 ● 電子登録債権の債権者は,通常はおそらく事業者であるというふうに思うんですが,消費者であるという場合を排除するわけでは必ずしもないので,消費者である者が電子登録債権の債権者であるという場合はもちろんあり得るわけですが,その場合について,債権の譲渡等で例えば善意取得というような制度を適用しますと,真の債権者が債権を失うというようなおそれが出てくるわけですが,その債権者がたまたま消費者であるという場合については,余りそういう形で第三者保護を図りますと,債権者が債権を失ってしまうということがありますので,消費者であるという場合については,特にそういう善意取得という法制の適用,いわば制限しようという形で,消費者である場合には消費者として保護するという形にしようということで,したがって消費者保護というものにも配慮しているという,そういう趣旨でございまして,これはそういう趣旨がここで表現されている一文だということです。 ● そうすると,こういうケースというのが,これからますます増えてくる可能性があるのか。それとも,たまたま消費者の場合は保護するという形によって,やはりこれは事業者向けのことなんだという,そういう考え方でいいんでしょうか。それとも,何か電子登録債権というのが,これからどんどん消費者がかかわっていくのかなと,その辺のちょっと不安があったものですから。 ● どんどんかかわってくるということには,おそらく通常はならないんだと思います。たまたま,消費者がかかわってくるという場合について,取引の論理で第三者保護をしますと,権利者というものが権利を失うおそれがある。そういうこと,消費者である場合については,なるべく適用しないように,そういう趣旨で消費者保護,全体として配慮するように,ここだけではございませんが,幾つかのところで配慮するようにという規定を置いたわけです。 ● 例えば,具体的にどういうことが考えられますか。全然,イメージとして,何かもしありましたら,そうするともっと理解できるかなと。今はないから,しょうがないと言えばしょうがないですが。 ● むしろ,お分かりになる例が消費者が債務者になるケースの方が多いんだろうと思いますけれども,この場合,今ごらんになっている項目のすぐ下に人的抗弁の切断というのがございます。これは,私,あの人にこういう理由で一定の場合には,この債務を支払わなくてもいいという,そういう原因を持っていた場合,それはその債権がほかの人に譲渡されても,それはその人にはもう主張ができないという,こういう関係になります。しかし,債務者が消費者の場合には,私はあの債権者には,こういうことが言えたんだから,あなたにもこういうことを同時に言えるというようになって保護されるわけです。むしろ,そういうケースが消費者の保護としては,この電子登録債権の場面では多いんではないかなというように考えています。 ● つまり,手形とか,小切手という特殊なものの中で消費者を保護しますよという,そういう手形とか,小切手というか,切断されてしまいますよね。 ● 今までは,手形,小切手の場合は,小切手はともかくといたしまして,手形の場合にはほとんど消費者の関与というのは少なかったと思うんですけれども,それに比べますと,この電子登録債権は債務者として,消費者が出てくる場合はあり得ることであろうというふうに思っております。 ● 分かりました,すみません。 ● ほかに御質問ございますでしょうか。   御質問がございませんようでしたら,次に御意見を伺いたいと存じます。   この要綱案について,何か御意見がございましたら,どうぞ承りたいと思いますので,よろしくお願いいたします。 ● 今,消費者についてのお話が出ましたけれども,消費者という観念はほかの法律で定義されているので,ここで使っても構わないんだろうとは思いますけれども,ただ卒然として読みますと,この「消費者」というのは一体何だろうという疑問が起こりますので,もしその辺をもう少し解消する方法があれば,よろしくお願いしたいような気がいたします。 ● この3ページをごらんいただきますと,ちょうど真ん中あたりに(5)のb①というのがございますが,消費者については,この消費者契約法の規定するところに従うということで,一応整理はしてございます。 ● ほかに御意見ございますでしょうか。   なければ,原案につきまして,採決に移りたいと存じますが,採決に移ってよろしゅうございますでしょうか。   御異議がないようでございますので,採決に移らせていただきます。   それでは,諮問第76号につきまして,電子債権法部会から報告されました,ただいまの電子登録債権法制の私法的側面に関する要綱案のとおり答申することに賛成の方は挙手をお願いいたします。 (賛成者挙手) ● ありがとうございました。   念のために反対の方いらっしゃいますでしょうか。 ● では,採決の結果を御報告申し上げます。   議長を除くただいまの出席委員は14名でございます。   原案に賛成の委員は14名でございました。   以上です。 ● ただいまの御報告のとおり,採決の結果,全員賛成でございますので,電子債権法部会から報告されました,ただいまの要綱案は原案のとおり採決されたものと認めます。   採決された要綱につきましては,本会議終了後,直ちに法務大臣に対して答申することといたします。   ○○部会長,14回にもわたる部会,本当に御苦労さまでございました。    (法務副大臣退席のあと,次のように審議が続けられた) ● 続きまして,第2の議題,戸籍法の公開の在り方に関する諮問第74号について,御審議をいただきたいと存じます。   まず,戸籍法部会における審議の経過及び結果につきまして,総会委員でもいらっしゃいます○○部会長から御報告をお願いいたします。 ● 戸籍法部会長の○○でございます。   諮問第74号につきまして,昨年12月19日開催の戸籍法部会第14回会議におきまして,戸籍法の見直しに関する要綱案を決定いたしましたので,その審議の経過及び要綱案の概要につきまして御報告申し上げます。   まず,要綱案の決定に至る審議の経過につきまして御報告いたします。   諮問第74号は個人に関する情報を保護する観点から,戸籍及び除かれた戸籍の謄抄本等の交付請求をすることができる場合を制限するとともに,当該交付請求の際に請求者の本人確認を行うものとするなど,戸籍の公開制度の在り方を見直し,あわせて戸籍に真実でない記載がされるのを防止するため,戸籍の届出をする者の本人確認を行う必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について,御意見を承りたいというものでございます。   我が国の戸籍は,日本国民の親族的身分関係を登録,公証する制度であり,広く一般に公開して国民の利用に供すべきであるとの観点から,これまで戸籍公開の原則がとられてきております。現行の戸籍法のもとでも,何人でも請求の事由を明らかにして戸籍の謄抄本等の交付請求をすることができ,市町村長はその請求が不当な目的によるものであることが明らかなときに限り,これを拒むことができることとされております。   また,戸籍に記載されている本人等が請求する場合のほか,国又は地方公共団体の職員,弁護士等の一定の資格者が,職務上請求する場合には,請求の事由を明らかにする必要はないものとされております。しかし,平成17年4月から個人情報の保護に関する法律等が施行されるなど,個人情報の保護に対する国民の関心の高まりにかんがみ,戸籍についても個人情報を保護する観点から,現行の制度の在り方を見直す必要性が出てまいりました。また,請求の事由を明らかにする必要がないとされている資格者が職務上の請求ではないにもかかわらず,不正に戸籍の謄抄本等の交付請求を行うという事件も多く発生しております。さらに,婚姻,養子縁組について,他人に成り済まして融資を得る目的等のため,当事者が知らない間に虚偽の届出がされ,戸籍に真実でない記載がされるという事件も発生しております。   このような状況に照らし,第三者が戸籍の謄抄本等の交付請求をすることができる場合を現在よりも制限するとともに,交付請求の際に本人確認を実施すること。また,戸籍に真実でない記載がされるのを防止するため,届出の際にも本人確認を実施することなどが必要であると考え,平成17年10月にこの諮問がされ,戸籍法改正のための調査,審議を行うために,戸籍法部会が設置されたものでございます。   同部会は,同年11月の第1回会議から毎月ほぼ1回のペースで会議を開催して審議を行い,昨年7月の第10回会議には,それまでの審議の中間的な成果として,戸籍法の見直しに関する要綱中間試案を取りまとめました。この中間試案については,関係各界に対する意見照会とパブリックコメントの手続が実施され,その後,中間試案に対して寄せられました意見を踏まえて,さらに検討が進められ,同年12月19日に開催されました第14回会議において,戸籍法の見直しに関する要綱案の決定を見るに至ったものでございます。   続きまして,要綱案の概要について御説明いたします。   要綱案をごらんいただきたいと思います。まず要綱案第1の1ですが,戸籍の謄抄本等の交付請求ということですが,まず戸籍に記載されている者等による当該戸籍の謄抄本等の交付請求について御説明いたします。   戸籍に記載されている者又はその配偶者,直系尊属若しくは直系卑属は理由を明らかにすることなく,当該戸籍の謄抄本等の交付請求をすることができるものとしております。戸籍に記載されている者以外の,このような一定の者について,戸籍に記載されている者と同様に扱うことは社会通念上,許容されていると考えられ,現行の戸籍法のもとでの取扱いも同様であり,これを維持するものでございます。   次に,そのような戸籍に記載されている者,その他一定の範囲の者以外の者は,次のいずれかの場合に限って戸籍の謄抄本等の交付請求をすることができることとしております。   まず①ですが,自己の権利を行使し又は義務を履行するために必要がある場合です。   例えば,貸金債権者が死亡した債務者の相続人に債務の支払いを請求する際に相続人がだれであるかを調べる必要がある場合が,これに当たります。   次に,②国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある場合です。   例えば,税務署に対する相続税の申告に際して,戸籍の謄抄本等を添付する必要がある場合が,これに当たります。   次に,③その他の戸籍の記載事項を確認するにつき正当な理由がある場合です。   これは,前記①,②以外の場合,例えば民生委員が死亡した身寄りのない高齢者の親族を探そうとする場合などが,これに当たります。   そして,以上の理由に基づいて,戸籍の謄抄本等の交付請求をする者は,そのような理由の具体的事由を明らかにすることとしております。   次に,公用請求ですが,国又は地方公共団体の機関は,法令に定める事務を遂行するために,戸籍の謄抄本等を利用する必要がある場合には,その事務の種類及び根拠となる法令の条項並びに利用目的を明らかにして,戸籍の謄抄本等の交付請求をすることができることとしております。   ところで,現行の戸籍法のもとにおいては,国又は地方公共団体の職員が職務上,請求する場合には,請求の事由を明らかにする必要はないとされておりますが,個人情報を保護する観点から,このような扱いを改めるものでございます。   次に,弁護士等による請求ですが,前述のとおり,現行法のもとでは,その職務上の請求の場合は請求の事由を明らかにする必要はないとされています。しかし,今回の見直しにおいては,弁護士等は受任事件の依頼者について,要綱案第1の1(2)のいずれかの必要がある場合に,その具体的事由及び依頼者の氏名を明らかにして,戸籍の謄抄本等の交付請求をすることができるものとしております。これは,弁護士等といえども上に見てきたような個人情報保護の観点からは,基本的には請求の事由を明らかにしないものとする理由はないと考えるからです。ただし,紛争解決手続の代理業務を遂行するために必要がある場合は,その代理する紛争解決手続の別,紛争の種類及び利用目的を明らかにすれば足りるものとしております。これは,弁護士等が紛争性のある事件を処理する場合には,その職務の性質にかんがみ,その紛争解決のために戸籍謄抄本等を利用することを含めた必要かつ十分な証拠収集手段を弁護士等に与える必要があると考えることから,依頼者の氏名や依頼者の権利行使のために必要である旨の具体的事由を明らかにする必要はなく,その代理する紛争解決手続の別,紛争の種類及び利用目的を明らかにすれば足りるものとしたものであります。   次に,要綱案第1の2の資料の提供等に関して御説明をいたします。   今回の見直しにより,市町村長は戸籍の謄抄本等の交付請求において,要綱案第1の1(2)から(4)までのいずれかの要件に該当するかどうかを認定する必要性が出てきます。そこで,市町村長は戸籍の謄抄本等の交付請求において,そのような要件を認定するために明らかにすべき事由が明らかにされていないと認めるときは,交付請求者に資料の提供又は説明を求めることができることとしております。   次は,要綱案第1の3で本人確認等について御説明いたします。   現行の戸籍法には,戸籍の謄抄本等の交付請求の際に,交付請求者等の本人確認を行う旨の規定は設けられておりませんが,第三者が一定の者に成り済まして他人の戸籍の謄抄本等の交付請求をするという不正事件を防止する措置を講じる必要があります。   また,現行の戸籍法上,戸籍の謄抄本等を不正に取得した者に対する過料の制裁規定が設けられておりますが,不正取得者の特定が不十分であると事後的な責任追及もできないことになります。そこで,交付請求のために市町村の窓口に出頭した者については,交付請求者本人である場合も交付請求者の代理人又は使者である場合も,運転免許証を提示する方法等により,自己がだれであるかを明らかにしなければならないものとし,市町村長はこれが明らかにされないときは,戸籍の謄抄本等の交付を拒むこととしております。   また,郵送による交付請求の場合にも,運転免許証の写しを送付させる方法等により,同様に本人確認を実施することとしております。   また,現行の戸籍法については,代理人又は使者によって戸籍の謄抄本等の交付請求がされる場合に,代理人又は使者が市町村長に対し,その権限を明らかにしなければならない旨の規定は設けられておりませんが,代理人又は使者に成り済まして不正に戸籍の謄抄本等の交付請求をすることを防止するため,代理人又は使者は市町村長に対し,委任状を提出する方法等により,その権限を明らかにしなければならないこととしております。   次に,要綱案第2の除かれた戸籍の謄抄本等の交付請求について御説明いたします。   現行の戸籍法のもとでは,除かれた戸籍の謄抄本等の交付請求については,戸籍の謄抄本よりも厳しい制限が付されていますが,今回の改正によって戸籍の謄抄本について,より厳しい要件を定めることとしておりますので,除かされた戸籍の謄抄本等についても,同様の規律とすることとしております。   次に,要綱案第3の戸籍の記載の真実性を担保する措置について御説明いたします。   冒頭で御説明したように,近年,当事者が知らない間に第三者によって虚偽の婚姻届や養子縁組届が提出され,戸籍に真実でない記載がされるという事件が相次いでいます。そこで,このような事件を防止するために,平成15年の民事局長通達により,市町村の窓口において届出の際の本人確認が行われ,原則として届出を受理した上で届書を持参した者が届出人であることが確認できなかった場合は,届出人に届出が受理された旨を通知する扱いがされております。しかし,このような通達による運用は全国の市町村の間で必ずしも統一されていないことから,虚偽の届出によって戸籍に真実でない記載がされることを防止する措置としては十分ではないという指摘がございました。そこで,今回,この取扱いを法制化し,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,効力を生ずる婚姻,協議離婚,養子縁組,協議離縁及び認知の届出があった場合には,運転免許証を提示させる方法等により,届書を持参した者がだれであるか,その者が届出人であるかどうかを確認するものとし,届出人の全員について,届書を持参したことが確認できなかったときは,届出を受理した上で確認できなかった届出人に対して,届出がされたことを通知することとしております。   次に,届出の不受理申出について御説明いたします。   現行の戸籍法には,協議離婚届等の不受理の申入れに関する特段の規定はありませんが,昭和51年の民事局長通達により,協議離婚届に署名したが,その後,離婚意思を翻した者等が申し出たときは,当該申出を受け付けた後,6カ月の期間内に提出された協議離婚届は,これを不受理とする扱いとしております。このような不受理申出は虚偽の届出により,戸籍に真実でない記載がされることを防止するために有効なものと認められ,先ほど御説明した届出の際の本人確認と組み合わせた新たな不受理申出の制度を法制化することが適当であると考えられます。そこで,本人確認を義務づける届出については,届出人本人は市町村長に対し,あらかじめ届出がされても当該届出人の本人確認のない限り,これを受理しないよう申し出ることができるものとし,市町村長は,当該申出がされているときは,届出があった場合でも,当該確認ができない限り期間の限定なく,これを受理しないこととしております。   次が,要綱案第4の1学術研究のための戸籍及び除かれた戸籍の利用について御説明いたします。   従来から,医療機関が特定の疾病に係る患者の生存率等を統計的に調査する目的で,戸籍又は除かれた戸籍の謄抄本等により,患者の生存又は死亡の事実を確認し,死亡している場合には死亡届書に添付された死亡診断書等により,その死因を確認することが認められてきたところであります。このように,学術研究の目的での調査については,今後も戸籍に記載されている者又はその親族の権利・利益を害さないような範囲において,戸籍又は除かれた戸籍に記載された情報や,死亡診断書に記載された情報を研究機関等に提供する取扱いをする必要があると考えられることから,市町村長は学術研究の目的のために,戸籍又は除かれた戸籍に記載されている事項に係る情報の提供をすることができることとしております。   次に,要綱案第4の2制裁の強化について御説明いたします。   現行の戸籍法では,偽り,その他の不正の手段により,戸籍の謄抄本等又は除かれた戸籍の謄抄本等の交付を受けた者は,5万円以下の過料に処せられることとされております。これは,戸籍法第121条の2でございます。しかし,住民基本台帳法等によれば,偽り,その他不正の手段により住民票の写し等の交付を受けた者や,偽り,その他不正の手段により開示決定に基づく保有個人情報の開示を受けた者は,10万円以下の過料に処せられることとされており,このような類似制度の扱いを勘案しますと,現行の戸籍法の制裁は不十分であると考えられます。   また,今回の改正において,戸籍及び除かれた戸籍の謄抄本等の交付請求を制限することにより,戸籍及び除かれた戸籍に記載されているものの情報の保護価値が制度的に高まる上,不正取得事件が多く発生している状況にかんがみ,このような事件を防止するため,偽り,その他の不正の手段により,戸籍の謄抄本等又は除かれた戸籍の謄抄本等の交付を受けた者に対する制裁を強化することとしております。   そして,最後に要綱案第4の3不服申立手続についてですが,戸籍及び除かれた戸籍の謄抄本等の交付請求に関する市町村長の処分を争う手続について御説明いたします。   今回の改正によって,戸籍の謄抄本等の交付請求に対する市町村長の処分の適否が争われるケースが増えることが予想されるところでございます。このような争いに関する判断については,現行法では家庭裁判所がこれを行うこととされておりますが,住民票及び戸籍の附票並びに外国人登録原票の写しの交付請求に関する市町村長の処分の適否に関する争いについては,行政処分に対する一般的な不服申立手続である行政不服審査法に基づく不服申立てとされております。このこととのバランスを考慮して,戸籍及び除かれた戸籍の謄抄本等の交付請求に関する市町村長の処分を争う手続についても,行政不服審査法に基づく不服申立手続及び行政事件訴訟手続によることとしております。   なお,戸籍法の見直しの観点から,中間試案においては掲げていたものの,今回の要綱案に掲載しなかった項目が二つございます。   一つは,市町村長は戸籍に記載されている者等以外からの当該戸籍の謄抄本等の交付請求があった場合に,請求の目的から戸籍の抄本,個人事項を交付すれば足りることが明らかなときは,戸籍の抄本,個人事項を交付することができるとするものであります。しかしながら,これについてはどういう場合に抄本を交付するのかとの個別の判断が市町村長には困難であり,むしろ戸籍の謄本の提出を求める側において,必要最小限のものを求めるという意識改革を啓蒙していくのが筋であり,またそれに沿った窓口での対応等などを検討することとし,今回の見直しの対象からは落としております。   もう一つは,戸籍に記載されている者から,その戸籍の謄抄本等の交付請求書の開示請求があった場合には,交付請求書の全部を開示するものとするものです。これについては,現状では各市町村の個人情報保護に関する条例によって規律されていると承知しておりますが,常にこれを開示する扱いとすることは,戸籍の公証機能等の視点から難しい問題を含みますし,パブリックコメントの結果においても意見が完全に分かれたため,今回の見直しの対象からは落としております。   以上,簡単ではございますが,要綱案の概要につきまして御説明させていただきました。よろしく御審議のほどをお願い申し上げます。 ● どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの部会長の御報告及び要綱の全般につきまして,御質問と御意見を賜りたいと思います。お聞きになりましたように,この要綱案は個人情報の保護の思想を背景といたしまして,戸籍謄本,戸籍抄本の交付要求と新たな戸籍の届出の双面につきまして,不正な目的のために戸籍謄本・抄本が交付されることがないように,また虚偽の戸籍が作成されることがないようにということを主眼として,このような改正をしたいというものでございます。   まず,御質問がございましたら,御質問の方から最初に伺いたいと思います。   どうぞ,○○委員。 ● この戸籍の謄本・抄本等という「等」なんですが,この対象となる「等」がどの程度の範囲のものなのかどうか。ここでは,戸籍に記載した事項に関する証明書などをちょっと例示されておりますけれども,よく私たちが必要とする附票というもの,これはどういうふうな扱いなのかという,そういった観点で「等」というのは何か。 ● 戸籍の附票というのは,これは戸籍本体とは別のものでございますので,ここで「等」の中に附票はもちろん含まれておりません。これも開示の対象しては,全く別個の問題でございます。 ● それを請求する場合には,これはこの要綱では対象にならないと,こういうことになって,従来どおりの扱いということになるんですかね。 ● これにつきましては,基本的には主管庁が総務省でございますので,総務省の方で今回,個人情報保護の観点から似たような開示の制限の制度を考えておられます。そちらの方にゆだねられることになります。 ● 附票については。 ● はい。 ● よろしゅうございますか。ほかに御質問ございますでしょうか。   どうぞ,○○委員。 ● 偽りによって,謄抄本の交付を受けた者に対する制裁の強化ということでございますが,この制裁の中には刑事制裁も含まれておりますでしょうか。そしてまた,具体的に刑事制裁が含まれるとすれば,どういった種類の,どの程度の刑罰か,御検討されたかどうか,お伺いさせていただきます。 ● これは,私から簡単にお答えしますけれども,特に現在より強化するという方向だけを要綱の中では記載しておりまして,具体的なことについては,なお今後の立法のときに,先ほど住民基本台帳との関連もありますので,そういったものとのバランスを考えて決めるということだと思いますけれども。 ● ちょっと補足させていただきますが,これは基本的には委員の間でも刑罰の中で罰金刑ということを想定しておられまして,私どもそれを前提に,ほかとの並びで10万円単位の罰金刑ということを想定して,現在,検討をいたしております。 ● よろしゅうございますか。ほかに御質問等ございますか。   どうぞ,○○委員。 ● 従来,いろいろ問題であったところ,この要綱案で大分進歩してよろしいかと思うんですけれども,どうもこれ運用にかかわるところ,非常に多いのではないかと思うんですが,ちょっと気になっているのは,これはいずれにしても本人確認をどのようにするかという,そこをきちっとしないと全然これせっかくやってもだめになるように思うんですが,これによりますと,運転免許証を提示させる等というふうに書いてありますけれども,本人確認はどういうふうに,それ以上を考えておられますか。 ● これにつきましては,全体として市町村が所管していて,実際の窓口になっていて,しかし全国でばらばらになるというのは,必ずしも望ましくないということで,決められるところは法務省令なりで細かなところは,ある程度全国で一律になるように決めていくということで,ただ本人確認につきましては,運転免許証が100%確実かと言えば,もちろんそうでない場合もありますし,また運転免許証を持ってない人間もいるわけですけれども,いろいろな方法があり得るということで,それを省令の中に書き込むかどうかは,まだ必ずしも十分決まっているということではない。しかし,いろいろな方法があり得るということです。 ● よろしゅうございますか。ほかに御質問ございますでしょうか。   御質問がなければ,次に御意見を賜りたいと思います。この要綱案の採否につきまして,御意見があれば伺いたいと思います。   どうぞ,○○委員。 ● 戸籍なんですけれども,ふだん認識が全くないんですよね。個人情報の最たるものでありながら,例えばどこかへ就職の受験するとか何かのときに,謄本又は抄本と書いてあれば,大方の方は謄本を用意していくと。私の周りでも,まだそういうのがあるという部分では,やはり求める方,こういうものを持ってこいと言う側が徹底して,もう抄本でもいいものは抄本ということをきちっと言うような,この法律の性質からして,行政指導とか何とかができないかと思うんですけれども,やはり法制定ないしは施行の段階で,その辺を徹底できるように,ぜひ配慮していただきたいと。地方自治体の窓口の方が,ものすごく苦労なさっているということを考えていただければと思います。 ● どうぞ。 ● 今おっしゃった点は,実は一方では戸籍のコンピュータ化によりまして,従来よりはいろいろと事項を選んだ証明書を出せるということになっておりまして,他方,この利用についても,私どもはある程度どういうところで戸籍の謄抄本が利用されるかということを,この研究会,先立つ研究会,あるいは法制審の部会の検討に際しまして,いろいろと調べもいたしました。中間試案では,この点,先ほど部会長からも御説明がありましたとおり,謄本というのは,あくまで謄本が必要なときにだけ出すのであって,それが明らかに必要でないのに謄本を求められたときは,抄本でも出せるようにするという制度も一応考えたんでございますけれども,なかなかその判断がやはり申請をされる方の側で,そういうことを理解された上でやられた方がいいなという感じがいたしております。ですから,私どもは今おっしゃった趣旨は十分に理解しておりますので,むしろどういうときに謄抄本を出しなさいという,例えばパスポートの申請でございますとか,いろいろございますが,そちらの謄抄本を要求する側に必要最小限の事項の証明書を要求していただくようにお願いをし,それに沿った運用が市町村の窓口で可能なような措置というのをできるだけ,つまり何か最低限の事項をそれぞれパターン化して,それぞれ名前を付けるとか,そういうようなことも考えて少し工夫をしてまいりたいと思っております。 ● よろしゅうございますか。ほかに御意見ございますでしょうか。   なければ,この要綱案の採否に移らせていただきたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。   それでは,諮問第74号につきまして,ただいま戸籍法部会の部会長から報告を受けました戸籍法の見直しに関する要綱案のとおりに答申することに賛成の方は挙手をお願いいたします。 (賛成者挙手) ● 念のために反対の方はいらっしゃいますでしょうか。 ● では,採決の結果を御報告申し上げます。   議長を除くただいまの出席委員は14名でございます。   原案に賛成の委員は14名でございます。 ● ただいま御報告のとおり,全員賛成でございますので,戸籍法部会から報告されました戸籍法の見直しに関する要綱案は,原案のとおり採決されたものと認めます。   採決されました要綱につきましては,本会議終了後,直ちに法務大臣に対しまして答申することといたします。   ○○部会長には,大変長い審議で御苦労さまでございました。どうもありがとうございました。   続きまして,第3の議題,これは民事訴訟法における付添い等の措置に関する諮問第79号について,御審議をお願いしたいと存じます。   まず,民事訴訟法部会における審議の経過及び結果につきまして,○○部会長から御報告をお願いいたします。 ● 民事訴訟法部会の○○でございます。着席して説明させていただきます。   諮問第79号につきまして,本年1月26日開催の民事訴訟法部会第4回会議におきまして,民事訴訟法の改正に関する要綱案を決定いたしましたので,その審議の経過及び要綱案の概要につきまして御説明申し上げます。   審議の経過でございますが,これにつきまして,まず御報告を申し上げます。   諮問第79号は,犯罪の被害者等の権利利益の保護を図るとの観点から,証人尋問及び当事者尋問の際の付添い,遮へい及びビデオリンクの措置等を民事訴訟法上認める必要があると思われるので,その要綱を示されたいというものでございます。   刑事訴訟法におきましては,犯罪被害者の方などが証人として被告人や傍聴人の面前,あるいは法廷という場所で供述する際に,強い不安や緊張等を覚えるような場合に,その不安等を軽減するための措置として,付添い,遮へい,ビデオリンクの各措置が既に規定されております。   他方,民事訴訟におきましても,例えば犯罪被害者の方が加害者に対して,損害賠償を求める訴えを起こし,法廷で尋問を受ける場合等がございますが,民事訴訟法には刑事訴訟法のような措置に関する規定がございません。そこで,犯罪の被害者等の権利利益の保護の観点から,これらの措置を民事訴訟法上も認める必要があるではないかと考えられた次第でございます。そして,平成17年12月に閣議決定されました犯罪被害者等基本計画で,この点についての検討をすることとされたわけでございます。   このような状況を踏まえまして,平成18年9月にこの諮問がされまして,その調査,審議を行うために,民事訴訟法部会が設置されたものでございます。同部会は,同年10月の第1回会議から,毎月ほぼ1回のペースで会議を開催いたしまして審議を行い,本年1月26日に開催されました第4回会議におきまして,民事訴訟法の改正に関する要綱案の決定を見るに至ったものでございます。   続きまして,要綱案の概要について御説明申し上げます。   まず,第1の1でございますが,証人尋問における付添いの措置に関するものでございますが,これは(1)にありますとおり,証人の不安や緊張を緩和するのに適当な人を証人が陳述する間,証人に付き添わせるという措置でございます。現在の民事訴訟法には,この措置についての規定はございませんが,これまでも運用上,裁判長の訴訟指揮の一環として可能であると考えられてきたものでございます。要綱案は刑事訴訟法と同様,その要件や措置の内容を明確に規定し,より円滑に実施されることを図る趣旨のものでございます。   また,(2)にありますとおり,付き添うこととされた者は,裁判長の尋問を妨げない等の責務を負うこととしております。   なお,この措置をとることを決める主体は,これまでの運用と同じく裁判長としておりますが,(3)にありますとおり,裁判長の処置に対しては,合議体としての裁判所に異議を申し立てることができるとしております。   次に,第1の2は証人尋問における遮へいの措置に関するものでございます。   これは,証人と当事者,あるいは傍聴人との間につい立てを置くなどの措置でございます。この遮へいの措置につきましても,現在の民事訴訟法には規定はございませんが,裁判長の訴訟指揮の一環として,運用上可能と考えられてきたものでございますが,要綱案の趣旨は,先ほどの付添いの場合と同様でございます。   まず,(1)が当事者又は法廷代理人との間の遮へいの措置でございます。   この措置をとることができる場合は,ここにありますとおり,事案の性質等の事情により,証人が当事者等の面前で陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であって,相当と認めるときとしております。基本的には,刑事訴訟法と変わりがございません。ただし,刑事訴訟における証人としては,犯罪被害者が典型として想定されますところ,民事訴訟の場合には必ずしも事案が犯罪に関係するものに限られません。したがいまして,この措置がとられる証人として,犯罪被害者の方を典型例として示さないと,必要以上に緩やかにこの措置がとられてしまうおそれがあると,こういう議論がございました。そこで,(1)では当事者又はその法廷代理人との関係の中に,証人がこれらの者が行った犯罪により害を被った者であることが含まれることを明らかにしたものでございます。   なお,刑事訴訟法では被告人に弁護人がついていない場合には,被告人から証人が見えなくするような遮へいの措置はとることができないこととされていますが,この要綱案では民事手続と刑事手続との性格の違いを踏まえまして,犯罪被害者の方等の権利利益の保護の観点から,当事者に訴訟代理人がついていない場合でも,当事者から証人が見えなくするような措置をとることができることとしております。   次に,(2)は傍聴人との間の遮へい措置に関するものであります。   この措置をとることができるのは,事案の性質等の事情を考慮し,相当と認めるときでありまして,基本的に刑事訴訟法と同様の内容となっております。ただ,先ほど申し上げましたように,ここでも措置がとられる証人の典型例として,犯罪被害者の方を示しております。   次に,第1の3はビデオリンク方式による尋問,すなわち証人に法廷とは別の場所に来てもらって,その場所と法廷とを回線でつないで,テレビモニターを介して尋問をするという方式に関するものでございます。   現行民事訴訟法の下では,テレビモニターを介した尋問は,証人が遠隔地に居住する場合に限って認められております。要綱案は,新たに犯罪被害者の方等の権利利益の保護の観点から,遠隔地に居住する場合でなくても,これを認めることとするものであります。具体的には,事案の性質等の事情によって,法廷で陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害するおそれがあると認められる場合であって,相当と認めるときに裁判所の決定によって行うこととしております。基本的には,刑事訴訟法と同様の措置となっております。   なお,ここでも措置がとられる証人の典型例として,犯罪被害者の方を示しております。   以上,証人尋問に関する事項を御説明申し上げましたが,犯罪被害者の方などが原告として損害賠償の訴えを起こす等,当事者本人,法定代理人として尋問を受ける場合もございます。要綱案の第2は,そのような場合も証人尋問の場合と同様に,既に御説明した3つの措置を取り入れることとするものであります。   以上,簡単ではございますが,要綱案の概要について御説明させていただきました。よろしく御審議のほどをお願い申し上げます。 ● どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの部会長の御報告及び要綱案の全般的な点について,御質問と御意見を賜りたいと思います。   まず,御質問がございましたら,どうぞ御発言をいただきますようにお願いいたします。   御質問ないようでございますので,もし御意見があれば,どうぞ御意見をいただきたいと思います。   どうぞ,○○委員。 ● 刑事訴訟よりも,むしろ被害者からすると民事訴訟の方が,こういう制度がもっと早くに検討されるべきだったというふうに思っていまして,犯罪被害以外の例えば製品事故とか,ああいう関係なんかも,やはり法廷でいろいろ聞かれたりするというのがたまらないということで,裁判を起こさないとか,そういう事例もたくさんありますので,ぜひこれはできるだけ早くに法制化していただきたいと,そういうふうに思います。 ● ほかに御意見ございますでしょうか。   御意見がないということであれば,採決に移らせていただいてよろしゅうございますでしょうか。   それでは,特に御異議もないようでございますので,諮問第79号につきまして,ただいま民事訴訟法部会長から御報告がありました民事訴訟法の改正に関する要綱案のとおり答申することに賛成の方は挙手をお願いいたします。 (賛成者挙手) ● 反対の方はいらっしゃいますでしょうか。 ● では,採決の結果を御報告申し上げます。   議長を除くただいまの出席委員は14名でございます。   原案に賛成の委員は14名でございます。   以上でございます。 ● ただいま御報告のとおり,全員賛成でございますので,民事訴訟法部会から報告されました民事訴訟法の改正に関する要綱案は,原案のとおり採決されたものと認めます。   採決されました要綱につきましては,本会議終了後,直ちに法務大臣に対して答申することといたします。   ○○部会長,どうもお疲れさまでございました。ありがとうございました。   続きまして,第4の議題,犯罪被害者等の保護に関する諮問第80号について,御審議をお願いしたいと存じます。   まず,刑事法(犯罪被害者関係)部会における審議の経過及び結果につきまして,総会委員でもいらっしゃいます○○部会長から御報告をお願いいたします。 ● 刑事法(犯罪被害者関係)部会長の○○でございます。   私から,当部会における審議の経過及び結果を御報告申し上げます。   諮問第80号は,犯罪被害者等基本法の趣旨及び目的にかんがみ,刑事手続において,犯罪被害者等の権利利益の一層の保護を図るため,早急に法整備を行う必要があることから,「損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度」等,四つの事項に関して,その整備要綱の骨子を示されたいというものでした。   犯罪によって傷ついた被害者やその遺族の方々の保護・支援を図っていくことは極めて重要であるところ,これまでも,例えば,いわゆる犯罪被害者保護二法により,被害者等による意見陳述や,公判記録の閲覧・謄写の制度等の法整備がなされるなど,様々な取組が行われてきましたが,平成16年12月,犯罪被害者等の方々の権利利益の保護を図るため,「すべて犯罪被害者等は,個人の尊厳が重んぜられ,その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」こと等を基本理念に掲げた「犯罪被害者等基本法」が成立し,これを受けて,平成17年12月には,「犯罪被害者等基本計画」が策定されました。そして,この基本計画の中で,刑事手続に関するもので,立法的手当てが必要であると考えられるものについて,今回の諮問がなされたものです。   本審議会は,平成18年9月6日開催の第150回会議において,この諮問について,まず部会で検討させる旨の決定をしたことから,これを受けて,刑事法(犯罪被害者関係)部会が設けられました。部会では,その構成員として犯罪被害者関係団体の方々にも加わっていただき,同年10月3日から平成19年1月30日までの間,合計8回にわたって審議をいたしました。部会においては,当初から具体的な要綱骨子を示して審議を進めるのではなく,我が国にふさわしい制度としてどのようなものが考えられるかにつき,幅広い観点から意見を求めて議論を進め,要綱骨子を組み立ててまいりました。そして,各諮問事項について,いずれも賛成多数により,本日配布資料刑1としてお手元に配布しました「要綱(骨子)」のとおり法整備をすることが相当であるとの結論に達しました。   それでは,部会における議論の概要につきまして,御説明申し上げます。   まず,「要綱(骨子)」の第一の「損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度」について御説明いたします。   被害者等の方々が損害賠償の請求によりその損害の回復を図ることについては,「犯罪等によって傷つき疲弊している精神に更なる負担を与えることになり,また,訴訟になると高い費用と多くの労力・時間を要すること,訴訟に関する知識がないこと,独力では証拠が十分に得られないこと」など,多くの困難に直面しているとの御指摘があるほか,「全国犯罪被害者の会」,いわゆる「あすの会」においては,①同一の裁判所が刑事と民事の裁判をすること,②刑事判決が出てから,民事裁判の審理をすること,③上訴審では,刑事と民事は別々の手続で審理することなどを内容とする附帯私訴制度案要綱を発表されるなど,被害者等の方々からは,損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度を求める御意見・御要望が示されていました。そこで,最初の部会において,被害者等の方々の御意見・御要望を紹介した上,「あすの会」の附帯私訴制度案要綱の内容を説明していただき,これをベースに議論を進めていくこととされました。   なお,英米の法制に見られるようないわゆる損害賠償命令制度についても議論の対象とされましたが,刑事裁判で取り調べた証拠の範囲で認められる損害額についてのみ賠償命令を発するものとすると,被害者は,別途,民事裁判で残額の請求をせざるを得なくなり,被害の実態に即した有効な救済とはならないのではないかとの御指摘等があり,これに対して特段の異論は示されませんでした。   いずれにせよ,部会においては,先ほど申し上げたような進め方で審議・検討を行っていき,その結果,「要綱(骨子)」の第一に記載したとおりの結論を得ました。   それでは,「要綱(骨子)」の第一の具体的な内容について,順に御説明いたします。   まず,一の「損害賠償の請求」について御説明いたしますと,一の1に記載している,刑事の被告事件の被害者等が,当該被告事件の係属する地方裁判所に対し,訴因を原因とする不法行為に基づく損害賠償の請求をすることにより本手続が開始されるという点については,特段の異論は示されませんでしたが,本手続の対象とすべき犯罪の範囲をどうするかという問題については議論がなされ,本制度の実効性を確保する観点からは,救済の必要性が高く,かつ,簡易迅速な手続で審理するのが相当と思われる犯罪を対象とすべきであることから,故意の犯罪行為により人を死傷させた罪や強姦・強制わいせつの罪等,類型的に身体的・精神的に疲弊して,通常の民事訴訟を提起することが困難であると思われる犯罪であり,かつ,刑事手続において認定された事実を基に簡易迅速な手続で民事上の請求についての判断をすることができる犯罪をその対象とすべきであるとの意見が大勢を占めました。この点に関し,いわゆる財産犯や業務上過失致死傷罪も対象とすべきであるとの意見も示されましたが,財産犯については,起訴された事件の被害者と起訴されない事件の被害者との間に不均衡が生じるなどの問題点等が示され,業務上過失致死傷罪については,民事訴訟において過失割合等の審理に時間を要しており,刑事手続の成果を利用して簡易迅速に紛争を解決することとされる本手続には馴染まないのではないかとの問題点等が示された上,本制度の実効性を確保する観点からは,救済の必要性が高く,かつ,簡易迅速な手続による審理が想定される犯罪を対象とするのが相当であることなどから,それぞれ対象犯罪とはしないとの意見が大勢を占めました。   また,本手続の損害賠償請求の方法等については,一の2以下に記載していますが,その請求をしようとする者は裁判所に書面を提出することとされたところ,その書面には,請求の内容を特定するために請求の趣旨を記載させることとしたほか,刑事裁判とは関係のない書面が裁判官の心証に与える影響についての懸念にも配慮しつつ,どの訴因に基づいてどのような損害の内容が生じたのかということを明示するために,請求の原因となる訴因及び損害の内容を記載させることとされました。そして,被告事件について無罪等の裁判がされたときは,請求の原因となる事実が認められなかったということになりますので,当該請求は却下することとされましたが,その場合においても,時効中断に関する民法の規定を踏まえ,その却下の決定の告知を受けた時から6か月以内に裁判上の請求等をした場合には,時効中断の効力を維持することとされました。さらに,刑事裁判中には民事に関する審理を一切行わないこととしましたが,被害者等が刑事に関する審理の内容等を把握しておく必要性があることなどから,裁判長は,申立てをした被害者等に対して,公判期日を通知することとされました。   続きまして,二の「審理及び裁判」について御説明いたします。まず,審理の方式に関し,簡易迅速な手続で審理を行うという観点からは,審尋でも審理を行えることとすべきであるとの意見が示されたことから,二の1に記載しているとおり,審理の方式を「口頭弁論又は審尋」という任意的口頭弁論とすることとされ,このことから,裁判の方式は二の5に記載しているとおり「決定」により,その不服申立ての方式は四の1に記載しているとおり「異議」の方法によることとされました。また,民事に関する審理については,迅速な審理の実現の観点から,できるだけ早期に最初の期日を開催し,当事者の言い分を明らかにさせ,争点を整理することが適当であると考えられることなどから,二の1に記載しているとおり,基本的には,有罪の言渡しがあった後直ちに開始することとされました。   そして,二の2以下に記載しているとおり,口頭弁論又は審尋のいずれの方式であっても,手続保障の観点から,期日を定めたときは,当事者双方を呼び出さなければならないこととして,その出頭の機会を確保することとされ,また,審理の回数は,原則4回以内とされました。さらに,刑事判決の拘束力に関して議論がなされ,刑事判決を原因判決とすることにより刑事判決に法的拘束力を認めるべきとの意見が示されましたが,刑事判決のどの部分に法的拘束力を認めるかという枠組みを決めるのはかなり困難があることなどから,二の4に記載しているとおり,刑事の被告事件の訴訟記録を改めて取り調べることにより,事実上の拘束力を認めることとされました。   また,損害の賠償を命ずる決定に仮執行宣言を付することの可否についても議論がなされましたが,早期に被害者の被害回復を図る必要性が認められる上,先ほども申し上げたように,当事者双方に出頭の機会を確保することとして,手続保障をより手厚いものとしたことなどから,その決定に仮執行宣言を付することとすべきという意見が大勢を占めました。その上で,仮執行宣言を付することを必要的とするか,裁量的とするかについても議論がなされましたが,必要的に付することとしているのは,少額訴訟等ごく一部の手続に限られていること,実務においては,民事訴訟における一般の判決についても,裁量的であっても,金銭請求に係るほとんどの事件で仮執行宣言が付されていることなどから,事案に応じて適切にその判断ができるよう,裁量的に仮執行宣言を付することができることとされました。   さらに,二の6以下に記載しているとおり,決定は,主文及び理由の要旨を記載した書面を作成して行うこととされるなど,所要の手続が整備されることとなりました。   続いて,三の「通常の民事裁判所への移行」について御説明いたします。これは,裁判所の判断又は当事者の申立てにより,損害賠償の請求に係る事件を通常の民事裁判所へ移行させるというものであります。   具体的には,まず,裁判所の判断,すなわち職権による移行については,三の1に記載しているとおり,裁判所は,最初の口頭弁論又は審尋を開始した後,民事に関する請求が複雑である等の理由で4回の期日内に審理を終結することが困難であると認めるときは,事件を通常の民事裁判所に移行させることができることとされました。なお,この場合に,当事者の手続保障をより十全なものとするという観点から,当事者に職権の発動を促す申立権を認めることとされました。   次に,当事者による移行については,まず,相手方の同意を得ないで被害者が一方的に事件を移行させることができるか否かについては,手続の選択は原告である被害者の専権であることや,この制度が被害者救済のためにあることなどから,これを認めることとされました。なお,終局裁判の告知の後,すなわち刑事判決の後にまで被害者に一方的な移行権を認めることは,被害者によるいわゆる裁判所選びを正面から認めることとなり,制度の在り方として問題ではないかとの意見があったことから,三の2に記載しているとおり,その終期については終局裁判の告知があるまでとされました。また,これ以外に,三の3に記載しているとおり,損害賠償の請求についての決定があるまでは,相手方の同意を要件とした上で,両当事者に移行権を認めることとされました。   そして,以上の手続によって,通常の民事裁判所へ移行した場合には,三の5以下に記載しているとおり,損害賠償の請求をした時点で当該民事裁判所に訴えの提起があったものとみなすこととして,時効中断効を維持させ,また,刑事手続の成果を利用するという観点から,当該民事裁判所に刑事記録を含めた一件記録を送付すべきこととされました。さらに,通常の民事裁判所に移行した後における書証の申出については,被害者等の負担を考えて特例を設け,証拠とすべき記録の範囲を特定する方法によって,書証の申出をすることができることとされました。   続いて,四の「不服申立て」について御説明いたします。四の1以下に記載しているとおり,当事者は,損害賠償請求についての決定に不服があるときは,決定書の送達を受けた日から2週間以内に,裁判所に異議を申し立てることができることとされました。そして,先ほど申し上げた通常の民事裁判所に移行した場合の取扱いと同様,適法な異議の申立てがあったときは,損害賠償の請求をした時点で訴えの提起があったものとみなして時効中断効を維持させ,当該民事裁判所に刑事記録を含めた一件記録を送付することとしたほか,書証の申出の方法についての特例を設けることとされました。また,適法な異議の申立てがあったとしても,被害者の迅速な被害回復の実現を図る観点からは,仮執行宣言を付した損害賠償の決定の効力を維持することが相当であると考えられることから,四の4に記載しているとおり,損害賠償の請求についての決定については,仮執行の宣言を付したものを除き,その効力を失うものとされ,他方,適法な異議の申立てがないときは,四の5に記載しているとおり,当該決定は,確定判決と同一の効力を有することとされました。   以上が,「要綱(骨子)」の第一についての御説明でございます。この「要綱(骨子)」の第一に記載した内容につきましては,私を除く出席委員17名のうち,賛成15名,反対2名の賛成多数で,このような結論に至ったものでございます。   次に,「要綱(骨子)」の第二の「公判記録の閲覧及び謄写の範囲の拡大」について,御説明いたします。   現行法においては,検察官や被告人・弁護人以外の者が,公判記録,すなわち,公判係属中の刑事被告事件の訴訟記録を閲覧・謄写することは,原則として認められておらず,被害者等の方々については,損害賠償請求権の行使のために必要があると認める場合等の正当な理由がある場合であって,かつ,犯罪の性質等の事情を考慮して相当と認めるときに限り,例外的に,これを閲覧・謄写することが許されることとされています。しかしながら,この点については,被害者等の方々から,「事件の当事者」である被害者として,事件の内容を知りたいと考えるのは当然であり,公判記録の閲覧・謄写が認められる範囲を更に拡大してもらいたいなどといった御意見・御要望が示されていました。   そこで,部会においては,このような被害者等の方々からの御意見等をも踏まえ,公判記録の閲覧及び謄写の範囲の拡大について審議・検討を行った結果,「要綱(骨子)」の第二に記載したとおりの結論を得ました。   その具体的な内容を御説明しますと,まず,一の「要件の緩和」についてですが,現行法では,例えば,単に事件の内容を知りたいとの理由で公判記録の閲覧・謄写を希望する被害者等については,必ずしも,正当な理由があるとは認められず,閲覧・謄写が認められないものと解されていますが,被害者等が,事件の内容を知りたいという心情から,公判記録の閲覧等を望むことは当然のことであり,法律上も十分尊重すべきものと考えられます。そこで,この「要綱(骨子)」では,現行法の要件を改め,まず,被害者等については,原則として公判記録の閲覧・謄写は認め,例外的に,閲覧等を求める理由が正当でないと認める場合,又は犯罪の性質,審理の状況その他の事情を考慮して相当でないと認める場合に限り,閲覧等を認めないこととされました。また,現行法においては,「損害賠償請求権の行使のための必要性」が正当な理由の例示とされているところ,この例示を削除することにより,正当な理由が認められる範囲を拡大することとされました。   次に,二の「対象者の拡充」についてですが,現行法においては,刑事被告事件の公判記録の閲覧等が認められるのは,当該刑事被告事件の被害者等に限られていますが,このような被害者等以外の者であっても,当該刑事被告事件の公判記録中に自らの損害賠償請求権の行使のために必要な証拠が含まれている蓋然性が類型的に高いと認められる者もいると考えられることから,そのような者についても,当該刑事被告事件の被害者等と同様に,公判記録を閲覧等すべき必要性があり,かつ,これを認めることが,被害者等の保護に資するものであって,相当な場合があると考えられます。そこで,この「要綱(骨子)」では,いわゆる同種余罪の被害者等については,一般に,先ほど申し上げたような自らの損害賠償請求の行使のために必要な証拠が当該刑事被告事件の公判記録中に含まれている蓋然性が類型的に高いと考えられることから,損害賠償請求権の行使のために必要があると認める場合であって,犯罪の性質,審理の状況その他の事情を考慮して相当と認めるときには,公判記録の閲覧等を認めることとされました。   以上が「要綱(骨子)」第二についての御説明でございます。この「要綱(骨子)」の第二に記載した内容につきましては,棄権された委員を除く,委員16名全員の賛成で,このような結論に至ったものでございます。   続いて,「要綱(骨子)」の第三の「犯罪被害者等に関する情報の保護」について,御説明いたします。現行法上,被害者の氏名等については,起訴状の朗読を始めとして,刑事訴訟手続の各場面において,公開の法廷で明らかにされることがあります。また,検察官等は,証拠書類の取調べ等を請求する場合においては,あらかじめ,相手方に対し,証拠書類等を閲覧する機会を与える,いわゆる証拠開示をしなければならないこととされており,その際に,被害者の氏名等が相手方に知られることとなります。しかしながら,例えば,いわゆる性犯罪の事件の場合のように,どこのだれが当該事件の被害者であるかが一般に明らかにされると,その名誉やプライバシーが著しく害されることとなりかねないなど,被害者等の方々の多くは,自らの氏名等が他に知られることにより,名誉やプライバシーが害され,あるいは再び危害を加えられることに対し,深刻な不安を抱いておられます。   そこで,部会においては,このような被害者等の方々の御意見等をも踏まえ,犯罪被害者等に関する情報の保護について審議・検討を行った結果,「要綱(骨子)」の第三に記載したとおりの結論を得ました。   その具体的な内容を御説明しますと,まず,一の「公開の法廷において性犯罪等の被害者の氏名等を明らかにしないようにする制度」についてですが,公開の法廷で,被害者の氏名や住所等,その者が当該事件の被害者であることを特定させることとなる事項,以下「被害者特定事項」といいますが,この被害者特定事項が明らかにされることにより,いわゆる性犯罪はもちろんのこと,それ以外の事件であっても,当該事件の犯行の態様や被害の状況等の事情にかんがみると,被害者等の名誉やプライバシーが著しく害されるような事態が生じるおそれがあると判断される場合も考えられます。また,例えば,組織的な背景を有する事件など,当該事件の犯行の態様や被害の状況等の事情にかんがみると,公開の法廷で被害者特定事項が明らかにされることにより,被害者等の身体・財産に害を加え,あるいは,被害者等を畏怖・困惑させるような行為がなされるおそれがあると判断される場合も考えられるところです。そこで,この「要綱(骨子)」では,まず,裁判所はいわゆる性犯罪に係る事件及び被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる事件を取り扱う場合において,被害者等の申出があり,相当と認めるときは,被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができることとされました。また,このような事件以外にも,裁判所は,被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることより被害者等の身体・財産に害を加え,あるいは,被害者等を畏怖・困惑させる行為がなされるおそれがあると認められる事件を取り扱う場合において,相当と認めるときも,同様の決定をすることができることとされました。そして,裁判所がこのような決定をした場合には,起訴状の朗読及び証拠書類の朗読については,被害者特定事項を明らかにしない方法により手続を行い,また,証人尋問や被告人質問等の場面において,訴訟関係人のする尋問等が被害者特定事項にわたるときは,犯罪の証明に重大な支障が生ずるおそれや,被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときを除き,裁判長がその尋問等を制限することができるものとされました。   次に,二の「証拠開示の際に,相手方に対して,性犯罪等の被害者の氏名等が関係者に知られないようにすることを求めることができる制度」についてですが,先ほども申し上げたように,被害者特定事項がみだりに他人に知られることとなると,被害者等の名誉やプライバシーが著しく害される事態が生じたり,その身体や財産に危害が加えられる事態が生じるおそれがあると判断される場合も考えられます。そこで,この「要綱(骨子)」では,検察官は,証拠開示に当たり,被害者特定事項が明らかにされることにより,被害者等の名誉や社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認めるとき,あるいは,被害者等の身体や財産に害を加え,又は被害者等を畏怖・困惑させる行為なされるおそれがあると認めるときは,弁護人に対し,その旨を告げて,被害者特定事項が,被告人の防御に関し必要がある場合を除き,被告人を含め,他人に知られないようにすることを求めることができるものとされました。   以上が,「要綱(骨子)」の第三についての御説明でございます。この「要綱(骨子)」の第三に記載した内容につきましては,一の「公開の法廷において性犯罪等の被害者の氏名等を明らかにしないようにする制度」については,賛成15名,反対1名の賛成多数でこのような結論に至ったものであり,また,二の「証拠開示の際に,相手方に対して,性犯罪等の被害者の氏名等が関係者に知られないようにすることを求めることができる制度」については,賛成15名,反対2名の賛成多数でこのような結論に至ったものでございます。   続いて,「要綱(骨子)」の第四の「犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる制度」について御説明いたします。   刑事裁判手続における被害者等の処遇については,「被害者は証拠として扱われているにすぎず,『事件の当事者』にふさわしい扱いを受けていない。」との現状への御批判があり,被害者等の方々からは,刑事裁判に直接関与することを求める御意見・御要望が示されていました。   そこで,部会においては,このような被害者等の方々からの御意見等をも踏まえ,犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる制度について審議・検討を行った結果,「要綱(骨子)」の第四に記載したとおりの結論を得ました。   まず最初に,諮問事項第四に関する部会の議論の概要について御報告いたします。   部会においては,まず,刑事裁判における被害者等の地位や関与の在り方についてどのように考えるべきかという,基本的かつ根本的な論点から議論が行われました。この点については,様々な意見が示されましたが,国家が犯人を訴追し,刑罰を科すという現行法の原則を踏まえつつ,犯罪被害者等の尊厳にふさわしい処遇の一つとして,犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる制度について,我が国にふさわしいものを新たに導入する方向で必要な検討を行うことを求める「犯罪被害者等基本計画」に従い,被害者等が,刑事訴訟手続に参加し,一定の訴訟活動を直接行うことができる制度を導入すべきであるとの意見が多く示され,最終的には,被害者等が,裁判所の許可により,「被害者参加人」という,訴訟手続上の地位を取得した上で,この地位に基づいて一定の訴訟活動を直接行うものとするという考え方が大勢を占めました。   また,被害者等による関与の在り方として考えられる具体的な訴訟活動として,訴因の設定・上訴,公判期日への出席,証拠調べの請求,証人の尋問,被告人に対する質問,証拠調べが終わった後における弁論としての意見陳述を設定した上で,そのそれぞれについて,これらの訴訟活動を被害者等が直接行うことの当否やこれを認める場合の要件について,議論が進められました。その結果,これらの訴訟活動のうち,訴因の設定・上訴や証拠調べの請求については,国家が犯人を訴追し,刑罰を科すという現行法の原則との関係をどのように考えるのかなどの問題が指摘され,被害者等がこれらの訴訟活動を自ら直接行うことについては,消極的な意見が多く示されました。他方,公判期日への出席,証人の尋問,被告人に対する質問及び証拠調べが終了した後の弁論としての意見陳述については,そのいずれについても被害者等が直接これを行うことを認めるべきではないとの意見も示されたものの,犯罪被害者等の尊厳を尊重し,その尊厳にふさわしい処遇を権利として保障している犯罪被害者等基本法の理念等にかんがみると,一定の要件の下で,被害者等がこれらの訴訟活動を直接行うことを認めるべきであるとの意見が大勢を占め,最終的に,「要綱(骨子)」の第四に記載したとおりの意見が取りまとめられました。   それでは,「要綱(骨子)」の第四の具体的な内容について,順に御説明いたします。   まず,一の「被告事件の手続への被害者参加」について御説明いたします。先ほども申し上げましたように,部会においては,刑事裁判に直接関与する被害者等について,一定の訴訟活動を行うことの前提となるような,訴訟手続上の地位を定めることとするか否かが議論されました。そして,この点については,刑事裁判に直接関与する被害者等の地位を明確にするとともに,様々な訴訟活動を直接行うこととなる被害者等の訴訟手続上の処遇が円滑かつ適切に行われるためには,被害者等が訴訟手続上の地位を取得した上で,この地位に基づいて一定の訴訟活動を直接行うものとすることが適当であるとの意見が多く示されました。そこで,被害者等が,被告事件の手続に参加することの申出を行い,これに対する裁判所の許可を受けることにより,「被害者参加人」の地位を取得した上で,この地位に基づいて,公判期日に出席することともに,一定の要件の下で具体的な訴訟活動を直接行うという制度とすることとされました。   その上で,まず,一の1に記載しているとおり,裁判所は一定の事件の被害者等やその委託を受けた弁護士から,被告事件の手続に参加することの申出があり,犯罪の性質,被告人との関係その他の事情を考慮して相当と認めるときは,被害者等が被告事件の手続に参加することを許すこととされました。また,このような制度を円滑に実施するためには,その対象となる被害者等の範囲を定めることが適当であると考えられるところ,生命,身体又は自由に害を被った被害者等を広く対象とすることが,被害者等の「尊厳にふさわしい処遇」の一環として被害者参加の制度を設ける趣旨にも合致すると考えられることなどから,故意の犯罪行為により人を死傷させた罪,強制わいせつ及び強姦の罪,業務上過失致死傷等の罪等の被害者をその対象とすることとされました。   そして,一の3に記載しているとおり,被害者参加人又はその委託を受けた弁護士は,公判期日に出席することができることとされました。なお,例えば,被害者参加人が後に証人として証言することが予定されている場合においては,その証言の信用性を確保するため,他の証人の尋問が実施される間に公判期日に出席することは相当でないと判断される場合も考えられることなどから,一の6に記載しているとおり,裁判所は,審理の状況,被害者参加人等の数その他の事情を考慮して,相当でないと認めるときは,公判期日への出席を許さないことができることとされました。さらに,被害者参加人として公判期日に出席する被害者等を保護するため,一の7に記載しているとおり,必要に応じて,付添いや遮へいの措置を採ることができることとされました。   また,部会において,このような被害者参加の制度が円滑に実施されるためには,被害者参加人等と検察官との間の密接なコミュニケーションに基づき,検察官は,被害者参加人等の要望を十分に踏まえつつ,適正な訴訟活動を行い,被害者参加人等は,検察官の訴訟活動を十分に理解した上で,これと協力し合って訴訟活動を行うことが重要であるとの指摘が多くの方からございましたことから,一の10に記載しているとおり,被害者参加人等は,検察官に対し,当該被告事件についての刑事訴訟法の規定による検察官の権限の行使に関し,意見を述べることができることとされ,また,検察官は,当該権限を行使し又は行使しないこととしたときは,必要に応じ当該意見を述べた者に対し,その理由を説明しなければならないこととされました。   続いて,二の「証人の尋問」について御説明いたします。被害者等による証人尋問を認めることとするか否かについて,部会においては,いわゆる情状証人の証言の内容が納得できない場合に,これを弾劾するための尋問をしたいとの被害者の心情は十分に尊重に値するとともに,そのような尋問を認めることは,被害者等の名誉の回復や立ち直りにも資するものと考えられるとの意見が多く示されました。また,犯罪事実に関する尋問を認めると,検察官の主張・立証と矛盾する尋問が行われて真相の解明が困難となったり,被害者等自身の証言の信用性が損なわれかねないなどの弊害があるものの,犯罪事実に関係しない情状に関する事項に限って検察官の尋問を補充して証人を尋問することができるものとすれば,弊害のおそれも少なく,そのような場合には,証人尋問を認めるべきであるとの意見が大勢を占めました。   そこで,二の1に記載しているとおり,裁判所は,証人を尋問する場合において,被害者参加人等から,その者がその証人を尋問することの申出があり,審理の状況,申出に係る尋問事項の内容,申出をした者の数その他の事情を考慮して相当と認めるときは,犯罪事実に関するものを除く情状に関する事項についての証人の供述の証明力を争うために必要な事項について,申出をした者がその証人を尋問することを許すこととされました。   続いて,三の「被告人に対する質問」について御説明いたします。被害者等による被告人質問を認めることとするか否かについて,部会においては,被害者等が被告人に問い質したい事項について直接質問することを認めれば,これに対する被告人の対応をも判断要素として,意見陳述をより実質的かつ効果的に行うことができることとなる上,被害者等の名誉の回復や立ち直りにも資するものと考えられる一方で,被告人は,被害者等の質問に対し,供述を拒否することもできる上,弁護人の援助を受けることもできることなどにかんがみると,被告人の防御権を侵害することとはならないと考えられることなどから,一定の要件の下で,被害者等が,被告人に対して直接質問することを認めるべきであるとの意見が大勢を占めました。   そこで,三の1に記載しているとおり,裁判所は,被害者参加人等から,その者が被告人に対して質問を発することの申出があり,被害者参加人等が意見の陳述をするために必要であると認める場合であって,審理の状況,申出に係る質問を発する事項の内容,申出をした者の数その他の事情を考慮して相当と認めるときは,申出をした者が被告人に対して質問を発することを許すこととされました。なお,意見陳述のために必要であると認められることを要件とした理由は,この質問が,訴訟の推移や結果と結び付く目的でなされる訴訟活動であることを明らかにするためです。   続いて,四の「証拠調べが終わった後における弁論としての意見陳述」について御説明いたします。被害者等によるこのような意見陳述を認めることとするか否かについて,部会においては,被害に関する心情を中心とした現行の意見陳述とは別に,被害者等が,検察官と同様に,被告事件の事実又は法律の適用について意見を述べたいとの心情は,やはり十分尊重に値する上,これを認めることは,被害者等の名誉の回復や立ち直りにも資すると考えられる一方で,被害者等による意見の陳述は,そもそも証拠となるものではなく,また,訴因として特定された事実の範囲内で陳述することとすれば,被告人の防御の対象が不当に広がることとはならないことにかんがみると,被告人の防御権を侵害することとはならないと考えられることなどから,一定の要件の下で,事実又は法律の適用についての意見陳述を認めるべきであるとの意見が大勢を占めました。   そこで,四の1に記載しているとおり,現行の意見陳述のほか,裁判所は,被害者参加人等から,事実又は法律の適用について意見を陳述することの申出がある場合において,審理の状況,申出をした者の数その他の事情を考慮して相当と認めるときは,公判期日において,刑事訴訟法第293条第1項の規定による検察官の意見の陳述,すなわち検察官の論告・求刑の後に,訴因として特定された事実の範囲内で,その意見を陳述することを許すこととされました。また,この被害者参加人等による意見の陳述は,検察官の論告・求刑や弁護人の弁論と同様に,純然たる主張としてなされるものであり,その性質上,犯罪事実に関しても情状に関しても証拠とはならないことから,四の3に記載しているとおり,この点を明確にすることとされました。   以上が「要綱(骨子)」の第四についての御説明でございます。この「要綱(骨子)」の第四に記載した内容につきましては,賛成15名,反対2名の賛成多数で,このような結論に至ったものでございます。   概略,以上のような審議に基づき,諮問第80号については,「要綱(骨子)」のように法整備を行うことが相当である旨が決定されました。   以上で,当部会における審議の経過及び結果の御報告を終わります。 ● どうもありがとうございました。   それでは,ただ今の刑事法(犯罪被害者関係)部会の部会長からの御報告及び要綱案の御説明の全般について,これから御質問と御意見を伺うことにいたしますが,内容が非常に多岐にわたっております。要綱には四つの内容がありますが,要綱の第一は,これは新聞等の報道では附帯私訴などと言われておりますが,要するに犯罪被害者が刑事訴訟の裁判の資料を利用して,その同じ裁判所で簡易・迅速に民事的救済,損害賠償をも請求し,簡易な決定を得るという制度を創設しようというものが要綱の第一。第二は,公判記録の閲覧・謄写の拡大。第三は,犯罪被害者の情報の保護。それから,第四,これがまたかなり大きな内容でございますが,犯罪被害者が法廷の中に入って,刑事裁判に直接関与できる制度を創設しようというものであります。この第四につきましても,既に新聞等では大きく報じられたところでございます。   この要綱の四つの内容につきまして,質問でございますが,質問は第一から第四までのどれという順序はなく,どの点からでもどうぞ御自由に御質問を賜りたいというふうに思っております。   御質問がありましたら,どうぞお願いいたします。   どうぞ,○○委員。 ● 部会においては,様々な御意見がありまして,大変な御苦労があったかと思います。そういった中で,新たな制度設計をこのような形でまとめられたことに敬意を表したいと思います。   まず,一点だけ御質問させていただきたいと思いますが,「要綱(骨子)」第一の一の1ですが,ここで被害者の範囲を定める対象犯罪について述べられておりますが,「故意の犯罪行為により人を死傷させた罪」となっておりますが,これは結果的加重犯を含むかどうか,例えば傷害致死罪,こういったのを含むかどうかという点についてだけ,教えていただきたいと存じます。 ● 結論は,そのように理解して構わないと思います。 ● ほかに,御質問はございますでしょうか。   どうぞ,○○委員。 ● この「要綱(骨子)」の4番目ですか,犯罪被害者等が直接バーの中に入るという,この仕組みについて,新聞でもいろいろ書かれたりしておりますが,新聞の論調等を見ていますと,犯罪被害者の裁判参加により,公正というか,冷静な判断というのが懸念されるというような論調もあり,そういう中で事実関係の審理と情状に関する審理を,かなり明確に峻別して進めていかないと,とりわけ,裁判員制度等が入ることを考えますと,その辺が情状と真実の審理がちゃんぽんになってしまってみたいなことで,いろいろ審理に懸念が出てくるんではないかというような御意見の方もおられますが,その辺はどんな御議論だったのか,教えていただきたい。 ● 通常,刑事裁判では,まず犯罪事実についての審理が行われた後で,情状の審理がなされますので,それを前提として議論をいたしました。そういうことで,特に今,○○委員が御指摘のような形で,その両方がごっちゃになるのかというような話は直接は問題にならなかったかと思います。ただ,この事実について,被害者が証人尋問をできるか,あるいは情状証人の証言の弾劾についてだけ認めるべきかというところでは議論がございました。それで,報告で申しましたように,この場合は後者に限るという考え方をいたしたわけであります。 ● 私も,手続のことはよく存じませんが,何か現行の刑事訴訟規則というものの198条の3というのが,その辺をもう少しきちっと分けてやるように努めなければならないと,事実の審理と情状の審理を,そういう規則があるそうですが,そういう懸念を持つ方も多いんで,今後は法案として整理されるときに,刑事訴訟規則198条の3を法律にきちっと書いたらどうかというような意見があるんですが,いかがでしょうか。 ● それは,事柄の性質上,事務当局の方からお願いいたします。 ● 関係官の○○でございます。   御指摘の刑事訴訟規則は,今回の司法制度改革におきます裁判員制度の導入を踏まえ,公判手続について,いろいろ見直していこうという中で,新たに規定として盛り込まれたものと承知しております。そこに表われておりますように,実務的にもある程度,犯罪事実の証拠調べと,それから情状についての証拠調べが,分けて行われるというのが一般であろうと思いますが,そのことを規則でもきちんとし,それが特に裁判員の方にとって,分かりやすい審理になるようにということで,こういう規定が設けられたんだろうというふうに思っております。   被害者の方が参加した場合,そういった犯罪事実の審理と,それから情状についての審理がごちゃごちゃになるのではないか,あるいは,感情的な活動が行われるのではないかといったような,もろもろの懸念というのは,部会の審議の中でも議論があり,先ほど部会長の方から報告にもありましたが,そういったことを踏まえて,例えば被害者の方がいろいろな活動を申し出る際に,検察官にまず申出をして,検察官との話合いを経た上で裁判所の方に伝えることとされ,それによって,適切な範囲で活動が行われるように,検察官が被害者と十分コミュニケーションをとって,訴訟が混乱しないような形で進むように制度設計がされているところであります。御指摘の犯罪事実と情状を区別して,そこがごちゃごちゃにならないように審理が進められるということについても,当然,検察官も意識しているところでありますし,裁判所の方の訴訟指揮も適切になされるものと思っております。   いずれにしましても,規則でこのような形で明示的に規定がされておりまして,被害者が参加する場合も,当然,これが適用になりますので,それを踏まえた訴訟の運営がなされるというふうに考えております。 ● どうぞ。 ● では,法廷の中で被害者と検察官は,どういう形で並んで座るんですか。 ● 一応,想定されているものは,被害者は検察官と並んで座るということです。その趣旨は,この部会でこの点は非常に重要だということが強調されたのですが,この制度を導入するためには,検察官とそれから被害者の間のコミュニケーションが十分なされなければならない。すなわち,検察官が,被害者がどういう要望を持っているかということを十分前もって理解し,それで訴訟活動に臨むと。それから,裁判の過程においても,絶えず両者のコミュニケーションというのを協調して行うと。これが,一部でいろいろ批判をされております,この制度を導入すると,感情的なものが訴訟活動に加わるのではないかとか,それから被告人が萎縮するのではないかというような懸念が指摘されておりますけれども,そういう形で検察官と被害者等のコミュニケーションというのは,非常に重要であると。しかも,それは部会の過程で検察庁の代表の委員からも,これは実務的にもその点を周知徹底するという御発言がございました。そういうことを考えますと,一応,我々は想定しましたのは,被害者参加人は検察官と並んで座るということになろうかと思います。 ● そうしたら,加害者というか,被告人と弁護人も一緒に並べてやったらどうですか。 ● そちらの方ですか。それは,また別な話で,もし事務当局の方で何か御発言があったら。 ● どこに座るかというのは,それぞれの法廷の大きさですとか,机の配置による部分が大きいですし,最終的には裁判所の指揮の下で決められる事柄であると思っております。被告人の座る位置につきましても,実務的には必ずしも統一的ではないと聞いておりますし,おそらく被害者につきましても,統一的にここというふうに決まるというよりは,今回の制度の趣旨に従って,特に検察官とのコミュニケーションにも支障がないような形で運用がされると思っております。 ● それから,今の御質問との関係で,この制度の概要というのは報告いたしましたけれども,私どもの方で,部会でどのような認識があったかということについて,ごく簡単に説明させていただきたいと思います。   今回のこの第四の制度ですけれども,これは従来の刑事手続の基本構造を変えるものでは全くないという認識で,したがってこれを部会としては採択したということであります。その折に,被害者の方,被害者参加人というのは,どういう立場にあるのかというと,これはあくまでも補充的,あるいは補助的な立場にあるという認識であります。それは,今申しましたように,証人尋問についても,いわゆる情状証人の弾劾にしか尋問ができないというふうに制限されている。しかも,実際に証言が行われるときでも,まず検察官が尋問を行う。それで,どうしても被害者が自分も聞きたいというときに認められるというふうに,その意味でも補助的,補充的になっております。   それから,被告人に対する質問というところでも同じことがありますし,被害者も単に感情的な発言が許されるというのではなくて,意見陳述の目的のために,この被告人質問が許されるという枠がはめられておりますし,それからあと意見陳述についても,検察官の設定した訴因の範囲内でのみ,これを行うことができるということになっております。それで,そのことはそれぞれこの「要綱(骨子)」に規定されているわけですけれども,その全体を支える手当てとして,この要綱の12ページを御覧いただきたいんですけれども,12ページの9というところに,裁判長は被害者参加人,あるいは弁護士のする尋問,質問,意見の陳述が,今申したようなことですけれども,法律上許されない事項にわたるときは,これを制限することができるものとするという規定を置いているわけです。訴訟指揮に基づく制限をすることができる。これは,一つの支えなわけです。   それから,その次の10は,今申しました検察官と被害者参加人との間のコミュニケーションを十二分にとるべきであるという思想が,この10の方に盛られております。それに,この被害者参加人のほかに,その委託を受けた弁護士という条項が随所にありますけれども,この弁護士というのは,被害者のための弁護士でありまして,これも無論,法廷で訴訟活動を行うことができる。この弁護士の役割というのも非常に大きいわけで,そういう手当てによって,刑事事件が感情的なもの,あるいは訴訟活動が感情的なものになるとか,被告人が萎縮するというようなことは,究極的にはあり得ないというのが,本部会の判断でありました。   現在でも,現行法上も被害者には心情に関する意見陳述というのが行われておりますし,それから裁判の傍聴につきましては,優先的に認められて,現在,さしたる支障ということはないわけで,このような手当てをした上で,この制度を導入しても問題は少ないのではないかと思います。   それから,もう一点申しますと,これは被告人の防御権を害するのではないかという批判がございました。これについては大分議論がありましたのですが,結局は部会としては,それに著しい影響を与えるものではないから,この制度を導入すべきだということになりました。すなわち,被告人は弁護人の援助を受けることができるし,それから供述拒否権もあると。それから,ただいま申しました証人尋問とか,被告人質問のときに,必ず制度的にその後に反論をする機会というのが与えられている構造になっているわけです,被告人側は。そういうことからいって,被告人の防御権を著しく害するということにもならないのではないかというのが,当部会の最終的な判断でございました。 ● ほかの点,御質問,どうぞ。 ● 幾つかあるんですけれども,第一,損害賠償の請求関係の問題で刑事事件の判決,有罪の言渡しがあった後,直ちに開始するというふうになっているんですが,この直ちというのは同じ法廷で,刑事法廷で取調べをしようと,こういうふうな発想というふうに聞いているが,そうでしょうか。 ● そうでございます。この直ちにというのは,一応,当部会で考えましたことは,典型的な場合には有罪判決が出ますよね。その後,その日に,その直後,続けてという意味です。 ● そこの場においては,刑事部門では弁護人がついていると。しかし,その後に判決言い終わったら弁護人は,そこから引き下がると。そして,本人一人がそこに,あるいは私選がいれば別ですけれども,代理人としてですね。国選の場合だったら,そういう弁護士がいなくなってしまう,そういう状態で審理が進むと,こういうような想定でしょうか。 ● その国選弁護人は刑事事件だけですから,民事事件はそのままでは関与できない。もちろん,それは委任を受けた弁護士なりがついていれば別ですけれども,そういう解釈であります。 ● 非常に,民事的な点での防御というのも含めて,被告もしくは加害者は厳しい立場に置かれるというふうな認識はなかったでしょうか。 ● この手続は,とにかく簡易迅速に一定の民事事件について,これは不法行為の損害賠償に限られますけれども,それについて結論が出るであろうというものについてのみ,この制度を使うということになっているわけです。ですから,第1回の手続で裁判所が,これは大体4回ぐらいを予定して,4回ぐらいでは,この期日で終わらないなというものについては,職権でもって通常の民事事件に移行することができるわけです。   それから,4回ぐらいやって決定が出た後については,それはもうどちらかが異議を申し立てれば,通常の民事訴訟に移行するということで,手続的には保障がされていると思います。 ● 若干補足して申し上げますと,今,御指摘のありました刑事裁判の言渡し後の民事の手続において,国選弁護人がいなくなるという問題については,部会の審議の中でも,そういう御指摘,それが問題ではないかという御意見はございました。ただ,ここで始められる審理というのは,いわゆる民事の手続でありまして,現在の民事訴訟における関係と基本的には同じものが,ここでスタートする。ですから,被害者の側も,もちろん原告である本人がいて,依頼する弁護士がいれば,その横にいるものですし,被告人側も,被告の立場で本人がいて,依頼する弁護士がいれば,そこに横にいるという,そういう関係として,ここの手続がスタートする。そういうものと理解すべきではないかという考え方であったと思います。 ● これ意見になるかなと,また別ですけれども,質問として言いますと,対象となる犯罪なんですが,ここにもいろいろと書いてあって,何々などというふうに記載,表記されているんですね。1ページの3行,4行目,こういう「など」となると,どういう系統のものかというときには,故意の犯罪行為により人を死傷させた罪というのは,一番先に出ていますが,それとちょっと違うものが出ていて,「など」となると,どういう形でそれを選別していくというか,範囲を決定していくというふうに,何かその考え方は出たんですか。 ● これは,立法事項にかかわることですので,事務当局の方から。 ● ここの「など」と申しますのは,特段ここから範囲をどんどん広げていくという意味での「など」ではございませんで,例えば未遂罪を入れるとか,掲げられているものから付随的に出てくるものを追加するという程度の趣旨でございます。 ● 犯罪としては,ほぼ例示されているけれども,限定的に。 ● そういうことでございます。 ● それに関連するものが出てくると。 ● そういうことでございます。 ● いろいろ問題になって恐縮なんですが,よろしいですか。   仮執行宣言のことが出ていますけれども,事件の不服の場合,民事の一般的な民事の手続に移行すると。これは,基本的形態はそうですね。そういうときに,仮執行宣言を効力を失わさせない,そういうものとするというふうに,これは設定されているわけですね。 ● はい。 ● 弁護士だけではないんですけれども,いろいろと重大犯罪,それから事件なんかでは,仮執行宣言が相手方のいわば認容といいますか,誘うのに非常に有効な手続で,公害事件なんかだったら,絶対仮執行宣言をやるんですよね。それで,それに実行をやると,執行すると。しかし,こういう事案で今の話で言うと4回程度で被告であった人,加害者がほとんど弁護士も付かない状態で判決を受けてしまう可能性も,これは手続的にはあり得るわけですが,こういう状態の中で仮執行宣言がそのまま持続する。すなわち,簡単に言うと迅速な被害回復というふうになることはよく分かるんだけれども,相手方の争いの内容によっては,過酷になるのではないかという感じがするんですが,それが一点。   このことについて,そしてもう少し緩やかにしてもいいのではないかと,効力を失わせてやったらどうだろうかと。それから,刑事記録ももう全部ありますから,次の一審の中でも一般的民事手続のように,多くの時間を要しないと私は思うんですよね。そういう中で,判断を別途させれば,そんなに急がなくても今までの過去の手続の流れから比較すれば,相当程度早く進行するんではないかと。そういうことからすれば,仮執行宣言をいったん失わせたって,それほど被害者のための利益を害さないのではないかと,こういうふうに考えているんですが,そういう議論はなかったのでしょうか。 ● 結論的には,被害者の利益を考えて,これは持続させるという,そういう判断に結論としてはなりました。 ● ちょっと,若干補足させていただきたいのですが,今,御指摘の点は確かに部会でも議論があったところでございます。ただ,それが酷ではないかということに対する問題については,一つはもともとこの手続が有罪判決が出た後の手続であって,不法行為の事実そのものの認定がされているということが一点ございます。   それから,もう一つは当事者の手続保障という観点からすると,任意的口頭弁論ではありますけれども,当事者に対して出頭の機会を与えるという手続を保障しているということがございます。そして,何よりもこの4回程度という手続といいますのは,正にそういう簡易迅速に認定ができるような場合に限ってそれを使うということで,むしろその範囲で認定が難しい,審理が難しいということであれば,裁判所は職権でも民事訴訟の方に移行させることができますし,当事者からその申立てもできるということでありますので,例えば損害額を含めて争いがあって,4回程度ではできないということになれば,むしろ本格的な民事訴訟の方に移行するということを前提にするということですので,その限りにおいて仮執行宣言を付した上で,それが維持されるということも合理性があるのではないかという考え方であったと思います。 ● 意見としては,いろいろな考えを私は持っていますけれども,そのほかの非常に重要なところなんですが,次によろしいでしょうか。   さっきの第四の方ですね,ここに業務上過失致死傷が含まれているんですよね。これを第一においては削除した,ここの大きな差は何だったんでしょうか。 ● 第一につきましては,いわゆる附帯私訴の対象となるという観点から考えられるわけで,そのときはやはり過失事件については,過失相殺とか,そういう民事訴訟における複雑なものがあるのではないかと。ですから,類型的に4回で終わることが困難というものについては,取りあえずここでは除外した方がいいんではないかという理解だったと思います。   第四につきましては,これは被害者が被害者参加人として,この刑事手続に参加したいという者の多くの者は,このように生命,身体を害された者ということ等になりますので,そこでは過失かどうかということは,直接問題にならないのではないかと思いまして,その二つがこの大きな違い,分かれた違いだと思います。 ● 一言で言うと,過失相殺とか,程度の問題とかが起こり得ると。それが,審理を長期化させる可能性があると,片方はね。 ● 民事事件ですね,はい。 ● こちらでは,そういうことが考えられないというか,その弊害が少ないから入れて要綱を作ったと,こういうことですか。 ● はい,そうです。 ● 被害者参加人,もしくはそれの代理人というのが,今,先ほども出ましたが,検察官の補助者としてと先ほど意見でしたが,あるいは協力者として,さっきも言ったのは協力者みたいな形で言っているんですが,これはいわば弁護人とか,被告人の立場から見ると,一体で動く訴追者のようにとか,そういうふうに見えるのが普通ではないかと私は思うんですが,そういう話はなかったんですか,そういう疑問は持たれなかったんですか。 ● それは,訴追者と申しまして考えますと,被害者が独立。 ● 起訴状の内容を証明していくための関係を訴追者と仮に言いますけれども,そういう形では一体となって行動しているものというふうには思われないんでしょうか。私の方は,そう思うように思うんですがね。そうすると,そういうのは訴追の在り方として逸脱してないだろうか,刑事訴訟法の流れ,憲法の流れ。 ● 私どもの議論というのは,まずこの問題は刑事手続の基本構造に抵触するかどうかと。それは,その議論というのはありまして,国家訴追主義に違反する,影響を与えるかどうかという議論をいたしました。その結果,そこのところは変えないと。だから,例えば被害者団体の案としては,検察官と独立の上訴権等を認めるとか,それから検察官が例えば傷害致死で起訴しているものについて,被害者はこれは殺意があるから殺人だと言って独立に訴追をするということも含まれていましたが,そのようなことは認めなかったわけですね。そういう意味では,国家訴追主義ということの枠内で,国家訴追主義を変えるものではないというふうに理解しております。   実質上,これは被害者は被告人に対して,いろいろ言いたいこともあるということで,このような希望をある程度,一定程度取り入れて,ここに入れたわけですけれども,それは必ずしも検察官と一体だというふうには,ちょっと考えられないのではないかと思いますが。 ● 被告から見ると見えるんではないでしょうか。 ● それは,何とも言えないことではないでしょうか。 ● 結構です。質問という程度ですから。   次に,証人に対しての質問,証言を求める地位というか,立場ですが,これは情状に関する事項に限って,しかも証人の供述の証明力を争う範囲で質問させることができると。こういうふうに言っておるわけですが,参加人に弁護士が付いていて,弁護士が質問をするというようなことであれば,そういう分析をしながら質問できると思うんですよね。しかし,当の御本人が法律に詳しくない場合は,これはやはり情状と言っても罪体に関係する情状と,そうでない情状と,どういうふうにこれを区別するのか分からないんですが,いずれにしても証明力を争うためのものだというふうに分離して,そういうものができないんではないかと,非常に困難なことにならないか。そして,かえって法廷がそこで荒れないかというふうに感じるんですが,どうでしょうか。 ● 今,申しました情状と申しても,罪体に関する情状と,それから純然たる情状があります,一般情状がございますね。前者については,尋問ができないということです。ですから,いわゆる情状証人に対しての尋問しかできないと。被害者が一番それを望んでいるというところは,法廷外では例えば示談などしないと言っているのに,法廷で自分は示談をしますと言っているときに,どうしてもそこのところはおかしいではないか,自分が聞いてみたいというような,そういうことが一番被害者としては行いたいことだということでありました。ですから,そこのところを中心にこういう案を作ったというわけです。 ● 若干補足しますと,今,委員の御指摘になりました,被害者の方では,自分が法律上,許される尋問事項といいますか,情状に関する質問なのかどうなのか,区別ができないではないかという御指摘でありますけれども,「要綱(骨子)」の13ページを御覧いただきたいんですが,飽くまでも,証人尋問の申出は,尋問事項を明らかにして検察官にまず申し出るということになっております。ですので,検察官の方でそれが法律上許される尋問なのかどうかというのは,そこでコミュニケーションをとって,もし許されないのであれば,そこで被害者に説明をするというプロセスを経ることになっておりますので,いきなり被害者が立ち上がって質問をするということではないということであります。   当然のことながら,尋問事項を明らかにして検察官に申し出て,それが裁判所に伝えられて,裁判所の方で許すかどうかの判断をするわけですので,御指摘のような懸念というのは,この手続の中では起こらないというふうに考えられます。 ● 分かりました。それはそれでということで。質問は,この程度で一応しておいて,時間も何ですから意見として。 ● ほかに,何か質問ございますでしょうか。   なければ,御意見を賜りたいと思います。   この意見も第一からということではなく,どうぞ意見がある方はお述べいただければというふうに思います。   どうぞ,○○委員。 ● 特に,第四の点なんですけれども,犯罪被害者の参加の問題なんですけれども,やはり先ほど○○委員もおっしゃられましたけれども,いろいろ一般的には疑問というか,懸念,不安が抱かれているわけです。先ほど,いろいろ御説明を伺っていまして,ただそういう問題については,非常にそういう問題をというか,そういう懸念,不安というものを意識されて,周到に議論されてきたということは,私もよく理解できたかなと思います。ただ,私はこれは私の要望といいますか,今後の問題なのかもしれませんけれども,例えば今もお話があったように,被害者が検察官の方と周到に打合せをするとか,あるいは規則というか,法律の範囲を逸したような発言については,裁判官がしかるべき訴訟指揮権から,そういうものを発動していろいろできると。そういう仕組みというものは,それはもう当然であろうと思うわけです。それでも,やはりもし懸念が抱かれるとすれば,そういうふうな仕組みの中で動いていても,被害者等の感情というものは特別なものがあるでしょうし,そういう枠とか,そういうものがきちっとしてあっても,なおかつ突発的にそういう法廷の場で,そういう感情というものが噴出するような場面というか,そういうことに関する懸念というのは,なおあるのではないかと思うわけです。   仮に,そういうことがあるとすれば,さっきも話がありましたように,裁判員制度とか,そういうもとで裁判員の心証とか,感情にも影響を与えるということにもなりますし,そういうことのないようにするために,私が特にお願いしたいのは,仕組みとしてできている被害者とその検察官との間の協議というか,話合いとか,調整とか,そういうものがきちっと実効あるようにしていただきたいし,それから裁判官が何か問題があったときに,これは行き過ぎであるとか,余りにも感情的な発言であって,このままでは公正さが損なわれるという,そういう場合に適切な指揮がきちっとできる,そういう実質的な運用,法律にというか,この要綱には一応枠としては書かれてあると思うんですが,それが実際に機能するように,これからきちっと詰めた議論というのか,それからもちろん裁判官の方,検察官の方もそういう場面を想定したいろいろな研修と言ってしまうと,これ語弊があるかもしれませんけれども,そういう準備もいろいろこれからされていくんだろうと思いますけれども,そういう点を是非きちっとやっていただきたい。そして,こういう所期の目的というか,そういうものがきちっと達せられるように,問題がないように,是非していただきたいというのが私の意見というか,要望でございます。 ● どうも,ほかに御意見ございますでしょうか。   どうぞ,○○委員。 ● ○○ばっかりで申し訳ないんですけれども,いいですか。 ● どうぞ,簡潔にお願いいたします。 ● 先ほど来,話しているところと関係しますけれども,今後はこの要綱案を通していけば,刑事記録を当事者が謄写をし,代理人も含めて見ることができると。そして,問題点等についても,十分に検察官と打合せができる。これは,もう明らかな流れだと。そうすると,被害者の方々のいろいろな思いを,その打合せの中できちんと表明して検察官を通じて,法廷に顕出することができると私は感じるんですが,そういうことがもし可能だとすれば,できるだけ検事を通じて物事を処理していくというのが,本来の姿ではないだろうかと。そして,被害者の方の気持ちを反映させる方策を,直接に行動をとらせることではなくてもいいのではないかというふうに感じているんです。そういうふうな方向での制度設計ができないのだろうかという点を意見として述べるのが一つです。   それから,こういう事件があります。自動車で進行している,それも右折してすぐに曲がって15メートルくらいのところで,スピードが全然出てない状態の中で,その左の方から坂のところを急激に自転車で下りてきた方がおる。見た途端に,もうぶつかってしまった。下りてきた人はブレーキが効いたか,効かないか分からないけれども,すごいスピードで来て,こちらの車は1メートルも行かないでぴたっととまったけれども,どんとぶつかれば,その方が激しい状態で倒れて,結果として死亡されてしまった。   そうすると,運転手としては過失があると起訴されましたけれども,自分としてはなし得るすべてをやり切っていますから,飛び込んできたというふうな認識を持っているわけですね。だから,自分が過失があっただとは,なかなか認め難い。したがって,刑事的に言えば無罪を主張してきた。しかし,相手方の方は亡くなっておりますから,客観的事情については,私なんかは比較的分かるんではないかと思っても,亡くなった方の御遺族は大切な方ですから,もう大変な形で謝りに来い,認めろ,何しろと,例えば言う。法廷においても,全員が来て傍聴する。そういうような実情の中で,意見陳述をきちっとされたんです,被害者の方がですね。この御本人は,被告人は意見陳述というのを聞きながら,どんな方でも自分が刑事的には無罪を主張していても,亡くなったという事実に対しては,とてつもない重い気持ちを持って対応しているわけですね。だから,本当に残念である,あるいはもっと言えば済まなかったと言葉が,過失を認めるという意味ではなくてあるというふうなことがありまして,そういうような実情を前提にしますと,この方に情状的なものでも質問をしたときに,この人は答えられないと思うんですね。そうすると,本人は供述拒否をすることができるからと言っても,ものすごいさいなまれた形にもなっていますからできませんよね。そうすると,すみませんと言うか,黙っているか,あるいは意識の強い人は,これはこういう事情だったんだと言うか。そうすると,そこには大変な争いの起こる可能性は出てくるんですよと,私は感じているものだから,さっきのように検事の手続の中で,検事が知り得た事実,被害者の気持ちをたくさん酌んで尋問されるような方向を何とか,そちらを強めてもらいたいというふうに思っています。   そういうことで,被害者が,それではその人は無罪を争っていたんです。だから,有罪の判決を受けたときは,非常にショックでした。そうすると,そういうショックな状況の中で裁判官から,今度は民事訴訟をやられるなんて言ったら,とんでもない裁判所に対する不信を持つだろうと。だから,私の感じでは有罪というのは,一回目に有罪ではないですよ。これは,確定しているわけではないですから,そういう中で仮執行宣言を許すんではなくて,これが確定をする,あるいは控訴をしないとか,意見を表明するとかいうなら別なんですけれども,異議申立てをしたような場合は,やはり仮執行宣言を取り消すべきだというふうに思っています。   どうか,そんな点も考えてもらいたいなというふうに思って,この法案については,私が言っているのは被害者の方々の意思を,できるだけ先ほどの話で言えば,名誉とか,尊厳というようなものを大事にしながら,やり方があるのではないかと。ましてや,最終的な段階で検事が論告した後で,また自分も違う論告内容みたいなものをやるのが適切なんだろうかと。その前に,意見陳述をきちんとやっていただいた方が,私は素直な姿なんではないかと思うんですね。そういう意味で,確かにたくさんの方々が賛成なさったようですけれども,私の方は個人的な意見として,今の意見を述べさせてもらいます。   そのほか,弁護士会,その他は何か資料をたくさん出しているようですから,私はまだ見てないんですけれども,出された全容は,そういった点も併せて,御審議を今後進められたらありがたいというふうに思っています。 ● ありがとうございました。   ほかに,御意見ございますでしょうか。   なければ,この刑事法部会から報告を受けましたこの原案について,一括して採決をしたいというふうに思いますけれども,よろしゅうございますでしょうか。 ● できれば。 ● 1,2,3,4,それぞれ分割して採決をしろと。 ● やはり,一つ一つ全然違う雰囲気ですので。 ● それでは,これについて,何か事務当局の方から,一つの部会から答申された要綱案の中で,部分的に分割して採否するという前例等ございましたら。 ● 過去の例を御紹介いたします。   平成11年の125回のこの総会でございますけれども,少年法部会からの報告がございまして,この総会として委員の中から,今,○○委員からお話のあったように,第1,第2と事項ごとに分割して採決をするよう求めるという意見がございまして,他方で他の委員からは,部会の報告というのは全体としてのバランスを考慮した一体のものだから,そのようなものとして,全体について採決をすべきであるという御意見もございまして,そのときは総会の場で採決の仕方について採決をいたしまして,全体を一括して採決するという御意見が多数でございましたので,そのようにして採決をしたという例がございます。 ● ただ今お聞きになりましたように,採決の仕方自身も委員の皆様方でお考えが異なるかと思います。   この答申案は第一から第四まで,それぞれかなり独立した事項でございますから,分割採決がしていけないということはございませんので,採決の仕方について,委員の方々の御意見をお聞きしたいと思いますが,いかがでしょうか。   ○○委員,何か。 ● ○○部会長の部会での状況の御報告は,第一については賛成者何名でとか,何かことを順番におっしゃいましたが,私としては,それは各部会での各項目での審議の密度を表わすものであって,最終的にはこの諮問80号に対して,我々はここでどう判断するかというふうにとらえるべきで,部会とは我々はここは違う場面だと思いますので,この際は一括して賛否を問うのが適当だというふうに思います。 ● そういう二つの意見がございますので,私が決めるのではなくて,この総会の皆様方の御意思によって決めたいと思いますが,それでよろしゅうございますでしょうか。   それでは,この諮問80号につきまして,一括して採決をするということに賛成の方,まず挙手をお願いいたします。 (賛成者挙手) ● それでは,反対の方,挙手をお願いいたします。 (反対者挙手) ● それでは,一括採決するというのが多数でございますので,一括採決をさせていただきます。   それでは,諮問第80号につきまして,刑事法(犯罪被害者関係)部会から,ただ今報告され,質問,あるいは活発な議論をいただきました「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための法整備に関する要綱(骨子)」のとおり,答申することに賛成の方は挙手をお願いいたします。 (賛成者挙手) ● ありがとうございました。   それでは,反対の方も挙手をお願いいたします。 (反対者挙手) ● 採決の結果を御報告申し上げます。   議長を除くただ今の出席委員は14名でございます。   原案に賛成の委員は13名でございました。反対の委員はございませんでした。   以上です。 ● ただ今の報告のとおり,棄権された委員を除き,全員賛成でございますので,刑事法(犯罪被害者関係)部会から報告されました,この「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための法整備に関する要綱(骨子)」は,原案のとおり採決されたものと認めます。   採決されましたこの要綱につきましては,本会議終了後,直ちに法務大臣に対して答申することいたします。   活発な御議論をいただきましたが,○○部会長,お疲れさまでした。どうもありがとうございました。   それで,時間が少し超過していて大変申し訳なかったと思いますけれども,ここで休憩させていただきまして,あと二つ議題がございます。どうぞよろしくお願いいたします。           (休     憩) ● それでは,審議を再開いたします。   引き続きまして,第5の議案は「裁判員の参加する刑事裁判の制度の円滑な運用等のための法整備に関する諮問第81号について」でございます。これについて,御審議をお願いいたしたいと存じます。   まず,刑事法(裁判員制度関係)部会における審議の経過及び結果につきまして,この総会委員でもいらっしゃいます○○部会長から御報告をお願いいたします。 ● 刑事法(裁判員制度関係)部会長の○○でございます。私から同部会における審議の経過及び結果を御報告申し上げます。   諮問第81号は,裁判員の参加する刑事裁判の制度の円滑な運用等のために,早急に法整備を行う必要があると思われるので,要綱(骨子)について意見を求めるというものでありましたが,本審議会は昨年11月20日開催の第151回会議におきまして,まず部会に検討させる旨の決定をされました。これを受けまして,刑事法(裁判員制度関係)部会が設けられ,部会では,同年12月18日,本年1月5日と1月22日の3回にわたって審議をいたしました。部会におきましては,諮問に付された要綱(骨子)について審議が進められ,最終的には,棄権をされた委員を除く委員10名の全員賛成により,これを一部修正の上,本日,配布資料刑3としてお手元に配布いたしました要綱(骨子)のとおり法整備をすることが相当であるとの結論に達しました。   それでは,刑事法(裁判員制度関係)部会における議論の概要につきまして,諮問に付された要綱(骨子)の修正点と併せて御説明申し上げます。なお,修正点につきましては,配布資料刑3の後ろに修正箇所を示した資料を添付しておりますので,適宜御参照いただければと思います。   まず,要綱(骨子)第一は,部分判決制度の創設を内容とするものです。裁判員制度下において,同一被告人に対する複数の事件が係属して審判の期間が長期に及ぶ場合など,裁判員の負担が著しく大きくなるものについて,どのように対処すべきであるかにつきましては,「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」の施行までの検討課題とされていたものでありますが,部分判決制度は,このような場合に対処することを目的として,一部の事件を区分してその審理を担当する裁判員をそれぞれ選任して審理し,有罪・無罪を判断した上,新たに裁判員を選任してその余の事件を審理し,全体の事件について終局の判決をすることができる制度を創設するというものです。   部会における議論では,複数の事件が係属し,審理が長期に及ぶことが予想される場合に,裁判員の負担を軽減する必要があることについては,特段の異論はありませんでしたが,まず,部分判決制度以外に,取り得る制度はないかという観点からの議論がなされました。この議論においては,部分判決制度では,区分事件ごとに裁判員は交代する一方,裁判官は交代しないことから,裁判員と裁判官との間の対等性を確保するのが困難になるとして,裁判員が交代する際に,裁判官も交代すべきであるとの観点から,併合された事件の一部の弁論を一旦分離して審理し,当該事件の罪責について判決を行った上で,その余の事件と再度弁論を併合し,事件全体について終局判決を行うとする制度を採用するべきであるとの意見も述べられました。   この意見に対しましては,一旦併合した後に分離するのであれば,そもそもなぜ最初に併合するのか疑問である上,部分判決制度のように裁判体に連続性を持たせながら一つの審理手続の中で区分して審理するのではなく,分離して別の裁判体が審理することとしながら,後の裁判体が他の裁判体の罪責に関する判断に拘束されるとすることは,現行法制と整合性を保つことが困難ではないか,との意見や,弁論を分離するか否かと審理を担当する裁判官が異なることとなるか否かは論理必然の関係にはなく,裁判官の交代を目的として弁論を分離するという制度には困難があるとの意見,公判運営に責任を負う受訴裁判所が一貫した審理計画を策定することによって迅速かつ充実した審理を可能とする公判前整理手続の機能を十全に果たさせることが困難となるのではないかとの意見などが示されました。また,裁判員と裁判官の対等性に関しても,終局の判決をするに当たっては,区分事件で取り調べられた証拠のうち,刑の量定に必要な情状に関する証拠については,公判手続の更新の手続において取り調べることなどから,裁判員と裁判官の対等性が損なわれることは想定しがたいのではないかなどの意見も示され,結局,諮問に付された要綱(骨子)の基本的な考え方が維持されることとなりました。   次に,部分判決制度がどのような場合に用いられるのかという区分審理決定の要件について議論がなされました。   この点につきましては,併合された事件については,できる限り一括した審理を行うことによって,事実認定のみならず,量刑判断に関しても同一の裁判員が判断できるようにすることが好ましく,部分判決制度は,裁判員の負担を考慮し,やむを得ない場合に行う例外的な制度であるという認識が示され,そのような理解自体について特段の異論はありませんでした。   部会での議論は,そのような考え方を前提としつつ,諮問に付された要綱(骨子)の第一の一の1において「一括して審理することによる裁判員の負担を考慮」するとしていた区分審理決定の要件について,裁判員の負担として考慮されるのは主として時間的負担であることを明示すべきであるとの意見が示されました。   この意見を踏まえつつ,審判の期間のみならず,公判期日の回数の多少等も,負担に関する事情として考慮すべきであることに鑑み,区分審理決定の要件に関する記載を改め,「一括して審判することにより要すると見込まれる審判の期間その他の裁判員の負担に関する事情を考慮」することとして,裁判員の負担として考慮すべき事情の例を具体的に示すこととされました。   また,区分審理決定の要件のうち,「その円滑な選任を確保するため特に必要があると認められるとき」としていた点につきまして,例外的な制度であることを明確にするとの趣旨から,「裁判員の選任が困難になるためやむを得ないと認められるとき」とすべきであるとの意見も示されましたが,ただし書において,被告人の防禦に不利益を生ずるおそれがある場合等には,区分審理決定を行わないこととされているのであるから,区分審理決定ができる場合の要件をさらに限定するのは適当ではないとの意見等も示され,採用されるには至りませんでした。   続きまして,区分審理によることができない場合に関するただし書につきまして,諮問に付された要綱(骨子)では「犯罪の証明又は被告人の防禦に支障を生ずるおそれがあることその他相当でないと認められるときは,この限りでないものとすること。」と記載されておりましたが,被告人の防禦に関しては,刑事訴訟法で既に用いられている「不利益」との文言にすべきではないかとの意見が示されました。そのため,「不利益」とすることによりただし書の適用範囲に変更を生ずるものではないものの,これを「犯罪の証明に支障を生ずるおそれがあるとき,被告人の防禦に不利益を生ずるおそれがあるとき」と改めることとされました。   次に,要綱(骨子)第一の二の区分事件の裁判等につきましては,まず,部分判決において,どのような事実まで認定できることとすべきかについて,議論がなされました。   この点に関しましては,区分審理における被告人の防禦の対象を限定するとの趣旨から,部分判決において認定することができる事項を罪となるべき事実の有無の判断等に必要な範囲に限定すべきであるとの意見が示されました。   この意見に関しましては,部分判決において認定できる範囲を,そのように限定すると,情状に関する事実の多くは,罪となるべき事実と密接不可分の関係にあることから,結局,終局の判決をする裁判体において,区分審理で取り調べられた証拠の多くを再度取り調べることとなり,裁判員の負担軽減にならないとの反論や,公判前整理手続において,情状事実も含めて審理計画が策定されるのであるから,防禦の対象が広がるといった懸念は当たらないのではないかとの意見が示され,部分判決において認定できる範囲については,諮問に付された要綱(骨子)の考え方が維持されました。   また,被害者の意見陳述の取扱いについても議論され,被害者の意見陳述は,量刑についての判断を行う終局の判決のための審理において行うこととすべきであるとの意見が示されました。この意見を踏まえ,量刑上の資料となるにとどまるとされている被害者の意見陳述については,量刑を行わない区分審理の段階ではなく,量刑判断を行う終局の判決のための審理の段階で行うことがそもそもの制度趣旨に沿うと思われることや,現行法上の意見陳述も公判の最終段階で行われるのが通常と想定されていることから,要綱(骨子)第一の二の3に新たに(4)として,被害者の意見陳述は,原則として終局の判決をするための審理において行うものとした上で,当該審理において行うことが困難であるときその他相当と認めるときは区分審理においても意見陳述を行うことができる旨が加えられました。   次に,終局の判決をする裁判体が,併合された事件全体について適切な量刑を判断することができるのかという点に関しましては,さきほど御説明しましたとおり,区分審理においては,罪となるべき事実の有無の判断等に必要な範囲に限らず,罪となるべき事実に関連する事実等についても証拠を取り調べた上,部分判決において判断を示すことができるとの考え方が維持されたところでありますが,これにより,終局の判決をする裁判体は,部分判決において示されたこれらの事実によることになる上,区分審理において取り調べられた証拠についても,量刑の判断に必要な情状に関する証拠を更新手続において直接取り調べること,さらに,終局の審理において,区分事件の被害者を含めた被害者の意見陳述のほか,新たな情状に関する証拠調べを行うことなどから,事件全体の量刑について適切に判断することができると考えられ,この点について,特段の異論はありませんでした。   続いて,要綱(骨子)第一の三にあります「部分判決制度における裁判員等の選任手続等」につきましては,選任予定裁判員及び部分判決後終局判決までの間の部分判決に関わった裁判員及び補充裁判員の職にあった者の法的地位をどのように考えるべきかについて議論がなされました。まず,選任予定裁判員の法的地位につきましては,未だ審判に関与しておらず,評議の秘密等を知ることもないので,裁判員等による秘密漏示罪の適用対象とはならないが,裁判員等を特定するに足りる情報の取扱いに関する規定や,裁判員等に対する接触の規制に関する規定,裁判員等に対する請託罪や威迫罪については,選任予定裁判員を保護する必要があり,適用対象と考えることが相当であるとされました。   次に,部分判決後終局判決までの間の部分判決にかかわった裁判員及び補充裁判員の職にあった者の法的地位については,裁判員等を特定するに足りる情報の取扱いに関する規定,接触の規制に関する規定及び秘密漏示罪に関する規定については,事件の審理自体は部分判決後も継続していることから,終局の判決をする裁判員に対する影響を防止し,公正な判断を確保するためには,現職の裁判員と同様の扱いとすべきであるが,請託罪については,任務が終了した裁判員についてはもはや請託の趣旨となる職務行使が考えられないことから,威迫罪については,現行の裁判員法においても,現職の裁判員とこれらの職にあった者とで取扱いを同じにしていることから,いずれも特段の手当は必要ないと考えることが相当であるとされました。   なお,これらの点のうち,部分判決後終局判決までの間の部分判決に関わった裁判員及び補充裁判員の職にあった者による秘密漏示罪について,区分審理を担当した裁判員の負担をできる限り早期に軽減すべきではないかとの指摘もなされましたが,裁判員法において裁判員の秘密漏示罪につき,現職の裁判員と裁判員の職にあった者とで異なる扱いをしているのは,係属中の審理への影響の有無を重視しているものと思われることからすれば,現職の裁判員と同様に取り扱うべきであるとの意見が示され,さきほど御説明しましたとおりの取扱いとする考え方が維持されました。   次に,要綱(骨子)第二の「証人尋問等の記録媒体への記録」についてですが,裁判員制度下において,証人尋問等を記録媒体に記録することができる制度を一般的に導入し,この記録媒体を評議等において活用することにより,裁判員が充実した審理及び裁判をすることができるようにすることにつきましては,特段の異論はありませんでした。なお,記録媒体につきまして,裁判員の参加する評議や公判手続の更新の際に用いるのみならず,当事者にも再生して見る機会を確保すべきではないかとの意見が述べられましたが,最高裁判所においても,そのような機会を確保する方向で検討が進められているとのことでした。   最後に,要綱(骨子)第三についてです。連日的開廷が法定されたことや裁判員制度の導入により,公判期日後すぐに判決が宣告されることが予想されることから,判決宣告日に近い公判期日についての公判調書の整理期限を伸長することについては,特段の異論はありませんでした。   概略,以上のような審議に基づき,諮問第81号については,諮問に付された要綱(骨子)のうち,御説明いたしました箇所につき一部修正したものが採択され,本日,配布いたしました修正後の要綱(骨子)のように法整備を行うことが相当である旨が決定されました。   以上で,当部会における審議の経過及び結果の御報告を終わります。よろしく御審議のほどをお願い申し上げます。 ● どうもありがとうございました。   それでは,ただいま部会長の御報告及び要綱案でございますが,その全般的な点につきまして,御質問と御意見をいただきたいと思いますが,まず御質問がございましたら,どうぞよろしくお願いいたします。   どうぞ,○○委員。 ● この要綱によりますと,区分審理は特に必要があると認められるときに区分審理決定をするということですが,この特に必要があると認められるときというのは,具体的にどのような内容,状況を,特に必要があると認められるときというふうに御判断なさるのか,その辺について,御論議の経過も含めて教えていただきたい。 ● どういう場合かという点につきましての御質問ですが,基本的には審理期間が長引くおそれが出てくるというような場合です。審理期間が長期間にわたるというおそれがあるような事件については,これを区分して,個々の裁判員が審理に関わる期間等の負担を軽減するというのが主なケースでございます。 ● どういうのが長引くという判断になるんですか。 ● 通常の事件でしたら,事件の認否ですとか,証拠関係ですとか,そういったものを見て,大体何回ぐらいで終わるというのが想定できるわけです。これは,公判前整理手続で論点を絞るなどの調整がなされまして,そのときに明らかになってまいりますが,大まかな観点からすると審理期間の点が,やはり裁判員にとっては,かなりの負担になるだろうという趣旨での種類分けだということになるかと思います。 ● 若干補足いたしますと,基本的には審理期間が長期にわたるということになるわけですが,もともとは同一の被告人に対して,裁判員対象事件であります,例えば殺人とか,強盗殺人などが複数起訴されて,それぞれ争いがあるというような場合,一つ一つおのずと審理が長期化する場合に,それをまとめて一つの裁判体でやると,まさに審理期間が長くなって,非常に裁判員の負担が重くなります。その場合に,裁判員を選任するといっても,円滑な選任が難しくなるという場面を区分審理決定を行う場面として想定しているわけです。しかし,それが一体どのくらいの審理期間なのかということにつきましては,若干の議論はございましたが,一定の期間という形で示すのは,なかなか難しいということでありました。それぞれの事案にもよりますし,そのときの裁判員の意識なり,集まり方という事情も関係するだろうと思われますので,一律に期間を線引きするというのは難しいけれども,本来はまとめて審理する方が望ましく,区分するのは,いわば例外的な場合であるという趣旨で,この「特に」という言葉を加えることによって,その例外的な場合,どうしてもそういうことが必要だという事情が伺われる,そういう長期間に及ぶような場合であるという趣旨をここに表現したということであったと思います。 ● どうぞ。 ● 仮に,例えばA,B,C,3つの事件を部分判決にゆだねるということがあったときに,特にA,Bは量刑を行わず,要するに有罪か無罪かの判断だけをやっていくという意味で,A,Bと,最後の量刑の判断までするCでは,審理のやり方が若干違うのではないかなと思います。特に,A,Bについては,先ほども申し上げましたけれども,いわゆる情状に関するやりとりは,有罪,無罪を判定するという目的だけだとしたら,そんなに突っ込んでやる必要はないのではないかなと,先ほどのところで申し上げました。そういうことについて,今,御説明の中にも御議論があったということをお聞きしましたけれども,私はA,Bのところでは,刑事訴訟規則198条の3の発想をより大事にしないとだめなのではないかなと思います。   それから,もう一つは,そういう審理をしたとしても,裁判官の皆さんはA,B,C,すべての行き着く過程をかかわられるが,裁判員はそれぞれだということです。もちろん,負担の問題を御配慮の上での知恵だということですので,そういう知恵を絞っていただくことは大切だとは思いますが,本来そもそも裁判員制度というのは,国民的な基盤を強めようという趣旨で始めたということですので,裁判官だけはみんなフルに担当になられるということだと,量刑判断にあたって,そういうフルに出た裁判官の人たちの心証に,Cだけしか出てない人たちの心証よりは,もっとウエートが高まるであろうと思います。その辺は,それぞれの御担当の方の,裁判官の方のそういう制度であることを踏まえた御判断のありようにかかわってくるんでしょうか。   そういう意味で,一つは今申し上げました国民的基盤で裁判をやろうということの意義が大分減殺されてしまうなと。そういうことで言えば,A,B,C,その負担は大変だけれども,そちらの方にフルセットで参加をして,裁判官の皆さんと一緒にやった方の価値を大切にするのか,負担軽減の方に重きを置くのか,そこは私は物の考えようではないかなということを,案を拝見して強く思いました。そういう意味では,その辺の御議論はどうだったのかというのを,もう一度,重複するかもしれませんがお願いします。 ● 今の点も御議論ございました。それで,A,Bの事件では,まず有罪か,無罪だけを決めるということでございますが,その際に,部分判決の判決書きの中に特に裁判員が重要と考える情状に関する事実,それを記載すれば,その部分が拘束力を持って,後のCの裁判体に対して,最初に認定した情状の事実,これも採用されていくと,こういう扱いになるというのが,今回での部分判決制度の中で示されているところでございます。そういったことで,最初,A,Bにかかわった裁判員の心証形成という部分についても,なお意味を持たせることができると,こういう制度になる予定でございます。 ● ほかに,御質問ございますでしょうか。   それでは,質問がなければ,この原案につきまして,御意見がありましたら,どうぞお願いしたいと思います。   ○○委員。 ● ○○委員の意見,なかなかと私は思うんですが,事実上,非常に難しい設計なんだろうというふうに思うのですね。しかし,本来,裁判員制度が生まれてくるときの審議会の意見でも,裁判官,そして裁判員との実質的対等性とか,それから直接に審理に立ち会って,そして心証を得るという直接主義とか,口頭主義とか,こういったものが非常に重視されているわけですよね。そういう意味でいうと,部分判決に携わった裁判員と,それからずっと連続して,すべてについて関与していく裁判官とは対等性とか,あるいは最後にかかわる裁判員の人は直接主義とか,そういった基本原則との関係で,やはり問題は出てくるだろうと思います。したがって,そういった点を今後配慮しながら,何かいい方法を考えないかということも必要だろうというふうに思って,そんな一つの在り方が,あるいは情状と分けてやっていくという方法も一つ考えられるのかなということがありますけれども,いずれにしても運用等について,なお議論していくべきではないかというふうに思いますが,今回のこれは私の場合は,そういう点を配慮しながら,今後進めていこうという点でいいんではないかというふうに思っているのです。意見としては,そんなところです。 ● ほかに,御意見ございますでしょうか。   どうぞ,○○委員。 ● 意見として,先ほど質問したことと重複するのですが,特に必要あると認められるときときという,これの要件をそんなルーズにやったりしない方がよろしいんではないかと,厳しく運用してほしいなということです。それから,くどいかもしれませんが,事実の審理と情状の審理をきっちり区分けしてやるということをはっきりしておかないといけないんではないかなと思います。特に,このA,B,C,3つの裁判体をつくったりする場合には,その辺のけじめは要るんではないかと,意見として申し上げます。 ● どうぞ,○○委員。 ● 意見というか,感想ですけれども,一言,法制審議会では話題になったということがあってしかるべきだと思っておりますので申し上げておきますけれども,この部分判決制度に携わる裁判官の負担は大変なものになるのではないかという気がしております。それと,その前の案件の80号案件とあわせてみますと,80号案件では犯罪被害者の利益を考えた制度でありますし,この81号案件では裁判員の負担を考えている,それはそれで私は制度の在り方として重要なことだと思いますけれども,ではこの両方を通して見ると,裁判官の負担は一体どうなるのかという,こういう面があるんではないかと思うのです。80号案件でも,裁判官は大変な役割を担うことになるのではないかというふうに思います。これは,最高裁判所,事務局が頑張って裁判官の処遇をうまく考えていただくしかないかもしれませんが,しかし,制度の運用の在り方によっては,裁判官の負担がそんなに重くなると,裁判に対する信頼が揺らぐようなことにもなりかねないので,その辺は十分配慮した運用がなされるべきではないかということでございます。 ● ほかに,御意見ございますでしょうか。   意見がなければ,採決に移らせていただきたいと思います。   諮問第81号につきまして,刑事法(裁判員制度関係)部会から報告されました,ただいまの要綱(骨子)でございますが,このとおりに答申することに賛成の方は挙手をお願いいたします。 (賛成者挙手) ● ありがとうございました。   念のため,反対の方,いらっしゃったら挙手をお願いいたします。 ● 採決の結果を御報告申し上げます。   議長を除くただいまの出席委員は13名でございます。   原案に賛成の委員は12名,反対の委員はゼロ名でございました。   以上です。 ● 採決の結果,棄権された委員を除き,全員賛成でございますので,刑事法(裁判員制度関係)部会から報告されました,ただいまの要綱(骨子)は原案のとおり採決されたものと認めます。   採決されましたこの要綱につきましては,本会議終了後,直ちに法務大臣に対して答申することといたします。   ○○部会長,どうもお疲れさまでございました。   時間が超過しておりまして,大変恐縮でございますが,それでは最後の議題でございます。   自動車運転による過失致死傷事犯等に対処するための刑法の一部改正に関する諮問第82号につきまして,御審議をお願いいたしたいと思います。   まず初めに,事務当局に諮問事項の朗読をお願いいたします。 ● 刑事局で刑事法制企画官をしております○○でございます。   諮問を朗読させていただきます。   諮問第82号 自動車運転による過失致死傷事犯等の実情等にかんがみ,事案の実態に即した適正な科刑を実現するため,早急に,罰則を整備する必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を承りたい。   別紙要綱(骨子)   第1 自動車運転過失致死傷の罪の新設   自動車の運転に必要な注意を怠り,よって人を死傷させた者は,7年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金に処するものとすること。   第2 危険運転致傷の罪(刑法第208条の2)の改正   刑法第208条の2中「四輪以上の自動車」を「自動車」に改めるものとすること。   以上でございます。 ● それでは,この諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由等につきまして,事務当局から理由等を御説明いただきたいと思います。 ● 諮問第82号につきまして,まず提案に至りました理由等を御説明申し上げます。   近時の自動車運転による死傷事故には,飲酒運転中などの悪質かつ危険な運転行為によるものや,多数の死傷者が出るなどの重大な結果を生じるものが,なお少なからず発生しており,そのような死傷事故に対する業務上過失致死傷罪による処罰について,量刑や法定刑が国民の規範意識に合致しないとして,罰則の整備を求める御意見が見られるようになっております。   また,平成14年以降の自動車運転による業務上過失致死傷罪の科刑状況を見ると,法定刑や処断刑の上限近くで量刑される事案が増加しており,特に飲酒運転等の悪質かつ危険な自動車運転により,重大を結果が生じた事案等において,事案の実態に即した適正な科刑を実現することを可能とする必要があります。   そこで,自動車運転による死傷事故に対し,事案の実態に即した適正な科刑を行うため,早急に刑法を改正する必要があると考え,この諮問に及んだものであります。   次に,諮問の内容について御説明を申し上げます。   初めに,要綱(骨子)の第1についてですが,これは刑法に自動車運転過失致死傷の罪を新設しようとするものです。   これまで,自動車の運転に必要な注意を怠り,人を死傷させた者に対しては,5年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金を法定刑とする業務上過失致死傷罪が適用されてきましたが,そのような者を処罰対象とする自動車運転過失致死傷罪を新設し,その法定刑を7年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円の罰金とすることにより,飲酒運転等の悪質かつ危険な自動車運転による死傷事故に対し,事案の実態に即した適正な科刑を実現しようとするものであります。   次に,要綱(骨子)の第2についてですが,これは現行の刑法第208条の2において,危険運転致死傷罪の対象を「四輪以上の自動車」としていたものを,「自動車」と改めることにより,二輪車もその対象に含めようとするものです。危険運転致死傷罪が新設された際,衆議院及び参議院の各法務委員会において,自動二輪車の運転者を同罪の対象とする必要性につき,今後の事故の実態を踏まえ,引き続き検討すべき旨の附帯決議がなされましたが,近時,二輪車による悪質かつ危険な運転行為による死傷事故が少なからず発生していることを踏まえたものです。   要綱(骨子)の概要は以上のとおりでございます。十分,御審議の上,できるだけ速やかに御意見を賜りますよう,お願い申し上げます。   引き続き,配布資料について御説明申し上げます。   御審議の参考にしていただくために,席上に資料4点を御用意いたしましたので,その内容等につきまして御説明申し上げます。   まず,配布資料の資料番号刑5でございます。   これは,先ほど朗読いたしました諮問第82号でございます。   続きまして,資料番号刑6をごらんください。   これは,諮問第82号に関連する刑法の条文の抜粋でございます。   続きまして,資料番号刑7をごらんください。   これは,平成13年の臨時国会において成立した刑法の一部を改正する法律の審議の際に衆参両議院,それぞれの法務委員会においてなされた附帯決議の各抜粋でございます。   続きまして,資料番号刑8をごらんください。   これは,諮問第82号に関する基礎的な統計資料でございます。ページ番号で御説明申し上げます。   まず,1ページと2ページは交通事故の発生件数と死傷者数の推移でございます。   そして,3ページは重度後遺障害者数の推移を,それぞれ示したものでございます。   そして,4ページは二輪車が第1当事者となっている交通事故発生件数及び死亡事故発生件数であり,あわせて信号無視,最高速度,酒酔いの各法令違反を伴うものの内訳を示したものでございます。   なお,この第1当事者とは最初に交通事故に関与した車両の運転者等のうち,その交通事故における過失が重いものを意味するものでございます。   そして,5ページは検察庁における自動車等による業務上,あるいは(重)過失致死傷被疑事件,通常受理人員の推移でございます。   そして,6ページと7ページは業務上過失致死傷罪及び(重)過失致死傷罪の通常第一審終局被告人の科刑状況等をあらわしたものでございます。   以上,簡単ではございますが,配布資料の説明をさせていただきました。 ● それでは,ただいま御説明のありました諮問第82号につきまして,御質問がございましたら,御発言をお願いいたします。よろしゅうございますでしょうか。   御質問がないようでございますので,ここで諮問第82号の審議の進め方について,御意見を承りたいと思いますが,どなたか御意見がある方はおっしゃっていただきたいと思います。   どうぞ,○○委員。 ● 非常に,専門的,技術的な問題が含まれておりますので,部会を新たに設置して審議していただければいいのではないかと思います。 ● ただいま○○委員から,新しい部会を設置して審議をされたいという御意見がございましたが,これにつきまして,何かほかの方から御意見ございますでしょうか。   ほかに御意見がないようでございますので,それでは諮問第82号につきましては,新たに部会を設けて調査,審議をすることに決定させていただきたいと思います。よろしゅうございますでしょうか。   それでは,次に新たに設置する部会に属すべき総会委員,それから臨時委員及び幹事でございますが,これに関しましては,これは慣例によりまして,会長に御一任願いたいと思いますが,御異議ございませんでしょうか。   ありがとうございました。   それでは,今の提案は会長に御一任願うことにいたします。   次に,新たに設置する部会の名称でございますが,この諮問第82号の諮問事項との関連から,少し長いのでございますが,刑事法(自動車運転過失致死傷事犯関係)部会というふうに呼ぶことにしたいと存じますが,これでよろしゅうございますでしょうか。   特に,御意見もないようでございますので,そのように取り計らわせていただきます。   総会委員として,この諮問事項の中身について,他に何か御意見等がございましたら,この機会に伺っておきたいと思いますが,いかがでしょうか。   どうぞ,○○委員。 ● 自動車を含めるということなんですが,私はもし可能ならば,自転車はどうなのか。最近,ちょっと自転車も何か危なっかしい運転というんですかね,自転車は,何ていうんでしょうか,やっている人たちが多いと思うんですね。ですから,ちょっとその部会の方で,そのことについて,無理だったら別に外していただいていいんですが,検討に入れていただくというのがいいのではないかなと思っているんです。 ● 分かりました。これは,何か今の段階で事務当局から何かお答えすることございますか。 ● そのような御意見があったことを踏まえて,部会で審議していただければというふうに思っております。 ● それで,○○委員,よろしゅうございますか。   それでは,この諮問第82号につきましては,今,設置いたしました部会で御審議いただき,それに基づいて,また総会におきまして,さらに御審議をお願いしたいというふうに存じます。   それでは,最後になりますが,報告事項といたしまして,法務省保護局から同局において検討が進められてまいりました更生保護法案(仮称)について,御報告をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ● お時間をいただきまして,現在,私どもで開会中の通常国会に提出を予定しております更生保護法案の概要について,御説明をさせていただきたいと存じます。   お手元に,5種類の資料を配布させていただいております。   まず,1枚目の「刑事手続・保護処分の流れ」と題する色刷りの資料を御覧いただきたいと存じます。   この資料には,非行のある少年と犯罪をした者についての手続の流れを記載しております。緑色にしてありますところが更生保護制度の担う部分でございます。ごく簡単に申し上げますと,家庭裁判所で保護観察処分を受けた少年,それから少年院から仮退院をした少年,あるいは保護観察付執行猶予の判決を受けた者,刑務所から仮釈放をされた者,この4種類の者に対して,保護観察官による保護観察を実施して,その改善更生を助けて社会に復帰させるというのが,更生保護制度でございます。いわば,刑事司法制度の最終段階を担うものでございます。   次に,2枚目の「更生保護法案(仮称)の概要」と題する色刷りの資料を御覧いただきたいと思います。   この資料の右上部にございますように,保護観察対象者による重大再犯事件が相次いだことを受けまして,平成17年7月に法務大臣の下に「更生保護のあり方を考える有識者会議」が立ち上げられまして,約1年間にわたります検討の結果,昨年6月,その報告書が提出されまして,国民の期待にこたえ得る更生保護制度とするために改革すべき事項が提言されました。その中で,更生保護制度の目的を一層明確にし,今後の更生保護制度に必要となる新たな制度を導入することなどの所要の法整備が求められました。更生保護法案は,こうした有識者会議の提言を踏まえまして,更生保護の機能を充実強化するために立案されるものでございまして,現在,犯罪者予防更生法と執行猶予者保護観察法の二本立てで行われております保護観察の根拠法を整理・統合して,新たな一本の法律といたしました上,保護観察における遵守事項を整理して,充実させるなどの所要の法整備を行うものでございます。   次に,更生保護法案の内容の要点について御説明を申し上げます。   第1点目は,更生保護制度の目的の明確化でございます。   お手元の資料のうちで4枚目の「更生保護法(仮称)の目的規定」と題する資料を御覧いただきたいと思います。   更生保護制度は,社会内における処遇を特色といたしまして,その目的は対象者の再犯を防止して,社会の一員として自立し,改善更生するのを助けるということにあるとされておりますけれども,現行法では,「再犯の防止」と「自立」の点が明示されておりません。そこで,この資料の枠の中に書いてありますように,「犯罪をした者及び非行のある少年に対し,いわゆる社会内処遇によって,再び犯罪をすることを防ぎ,又はその非行をなくし,これらの者が善良な社会の一員として自立し,改善更生することを助けるととも」に云々という目的規定を第1条として設けることといたしました。   第2点目は,遵守事項の整理及び充実でございます。   お手元の資料のうちで5枚目以降,「更生保護法案(仮称)の骨子案」と題する資料,これは6ページものでございますけれども,これの第2ページの「第2 遵守事項の整理及び充実」以下を御覧いただきたいと思います。   遵守事項と申しますのは,保護観察対象者が保護観察の期間中に遵守しなければならない事項で,これに違反した場合には,仮釈放を取り消すなどの措置をとることとなるもので,保護観察の中核的役割を担うものでございます。更生保護法案におきましては,この遵守事項を整理・充実させて,個々の保護観察対象者の特性に応じた,めりはりの利いた保護観察を実現したいと考えております。   遵守事項には,すべての保護観察対象者に適用されます一般遵守事項と,個々の保護観察対象者の事情に応じて,対象者ごとに定められる特別遵守事項とがございます。このうち,一般遵守事項といたしましては,現行法では善行を保持すること,あるいは一定の住居に居住することなどが規定されておりますけれども,更生保護法案におきましては,新たに,「保護観察官及び保護司の指導監督を誠実に受けること」,「保護観察官等の面接を受けたり,生活実態を示す事実を申告すること」などを規定することといたしております。   他方,現行法で一般遵守事項とされております「正業に従事すること」あるいは,「犯罪性のある者又は素行不良の者と交際しないこと」というのは,これを遵守事項とすることが必要のない保護観察対象者もいると考えられますので,一般遵守事項からは除くことといたしました。   また,特別遵守事項といたしましては,現行法では,どのような事項が特別遵守事項と足り得るかということについて規定がございません。更生保護法案では,この資料の3ページにありますように,犯罪等に結び付くおそれのある特定の行動をしないことでありますとか,処遇プログラムと呼ばれております専門的な処遇を受けることなどの一定の類型を法定いたしまして,これらについて個々の対象者に即して,具体的に特別遵守事項を定められるようにいたしております。   さらに,現行法では,すべての保護観察対象者に何らかの特別遵守事項を課すこととされておりますけれども,更生保護法案では,必要があると認められる場合にのみ課するということにいたしております。また,現行法では,特別遵守事項の変更や取消しができないこととされておりますけれども,更生保護法案では対象者の実情に応じて,必要がなくなった特別遵守事項を取り消したり,変更したりすることを可能といたしております。   第3点目は,環境調整の充実ということでございます。資料の4ページ,「第3 環境調整の充実」以下を御覧いただきたいと思います。   環境調整というのは,受刑者等につきまして,その社会復帰を円滑にする等の目的で,釈放後の住居あるいは就業先等の生活環境を調整する措置でございます。これは,受刑者等の円滑な社会復帰のために重要な意義を有するものでございますけれども,現行法では,保護観察所の長が必要があると認めるときに環境調整を行うことができるとされているだけでございまして,調整の手段についても明確な規定がございません。そこで,更生保護法案では,必要があると認めるときは,環境調整を行わなければならないとするとともに,調整の手段につきまして,家族等を訪問して協力を求めることができることを明記するなど,より積極的な制度といたしております。   第4点目は,犯罪被害者等施策の導入でございます。資料4ページの第4のところを御覧いただきたいと思います。   平成17年12月に閣議決定されました犯罪被害者等基本計画におきましては,犯罪被害者等の意見を踏まえた仮釈放,仮退院の審理,犯罪被害者等の心情等を加害者に伝達する制度等を2年以内を目途に実施することが求められております。これを受けまして,更生保護法案におきましては,地方更生保護委員会の行います仮釈放等の審理における意見聴取制度と,被害者等の心情等の保護観察対象者への伝達の制度を導入することといたしております。   これらのほか,資料5ページ以下に記載してありますように,行状が良好な少年に対しまして,保護観察を一時的に停止する制度をより使いやすいものとしたり,少年に対する保護観察について,健全な育成を期して実施することとするなど,寛厳よろしきを得た保護観察とするための規定も設けております。   以上が更生保護法案の概要でございます。よろしくお願いいたします。 ● どうもありがとうございました。   ただいまの更生保護法案(仮称)につきまして,これは法制審議会の審議事項とはされておりませんけれども,御報告いただきました内容につきまして,何か御質問,あるいは御意見等がございましたら,承っておきたいと思いますが,いかがでございますでしょうか。よろしゅうございますか。   それでは,これで本日予定しております議事はすべて終了いたしましたが,この機会に何か特に御発言がございましたら,承りたいと思います。今までのことに関することでも,あるいはそれ以外のことでも結構でございますが,何か御発言ございますでしょうか。   御意見がないようでございますので,それでは本日は,私の司会の不手際もありまして,大幅に時間を超過して大変申し訳ございませんでしたけれども,内容的には非常に充実し,活発な質疑応答がなされたというふうに思っております。どうもありがとうございました。   本日の総会は,これにて終了いたします。 -了-