法制審議会民法(債権関係)部会           第23回会議 議事録 第1 日 時  平成23年2月8日(火)自 午後1時00分                     至 午後6時15分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○鎌田部会長 定刻となりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第23回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   では,配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いします。 ○筒井幹事 事前送付資料として,部会資料23をお届けいたしました。また,本日は,前回の積み残しを御審議いただく関係で,配布済みの部会資料22も使わせていただきます。本日は,部会資料に関して補足して説明する事項は特にありませんので,前回に引き続き順次御審議いただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議に入ります。   本日の進行予定としましては,休憩前に部会資料22の「第28 不当条項規制」と部会資料23の「第36 売買-売買の効力(担保責任)」までを御審議いただき,その後,部会資料23の残りを全て御審議いただくことを予定いたしております。現在,事務当局におきましては,次回会議用の資料の作成とこれまでにちょうだいした御意見の取りまとめと両方の作業を平行して行っておりますので,審議のスケジュールがずれ込むと,また仕事が増えていくということになりますので,今日は少し6時を過ぎてでも全部審議したいと思っておりますので,是非よろしく御協力のほどお願いいたします。   それでは,まず,部会資料22の37ページから38ページまでの「第28 不当条項規制」について御意見をお伺いいたします。 ○佐成委員 2の不当条項規制の対象から除外すべき契約条項,ここもよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 全部一括して御意見を伺います。 ○佐成委員 そこの二つ目の「例えば」以下のところなんですけれども,この中に労働契約が例示されていることについて意見がございましたので,御検討いただければと思います。この記載は,労働契約に不当条項規制が及ぶことを前提とした例示となっておりますけれども,労働契約に不当条項規制が及ぶかどうか自体が大きな争点ということなので,見方によってはこの例示によって結論の先取りがなされているとも受け取られかねず,必ずしも適切ではないのではないかという意見がございました。ニュートラルな表現に改めたほうが妥当だと思われますので,少なくとも労働契約の例示については削除するなどの見直しを御検討いただけたらという意見でございます。 ○岡本委員 不当条項の効力,部会資料の38ページのところなんですけれども,部会の場では条項の全部とか一部とか言うためには,何をもって一個の条項と言うのか明確にならなければならないけれども,必ずしも明確でなくて,これが明確にならない限りは不当とされる限度で一部の効力が否定されるにとどめるほかないのではないかといった意見を申し上げさせていただいておりまして,それに対する反論もちょうだいしておりましたけれども,そういった対立点があることが部会資料の記載からは必ずしも分かりませんので,そういった対立点があることを示していただいたほうが若干分量は増えるかもしれないですけれども,分かりやすくなるのではないかと思います。   それから,私のバックアップ委員会の議論の中では,条項の全部が無効になると,いずれの産業においても無効条項に基づく金銭の返還請求がなされるとかいった事態が生じて,著しい混乱,損失を招くのではないかといった懸念も示されておりましたので,併せて御紹介させていただきます。 ○新谷委員 先ほどの佐成委員の御指摘ですが,不当条項の規制の対象から除外すべき契約条項の例示として労働契約を入れていただいている点については,個別に交渉された条項について不当条項規制の対象から除外すべきという項目で,第一巡目の審議のときに私が指摘させていただいたものを記載していただいたと思っています。個別に交渉されたとしても,労働者側が条項の使用者になる可能性があるため,除外すべき項目として入れていただきたいということで,私が主張した内容がそのまま記載されているという判断だったのですが,このような理解でよろしいのか確認をさせていただければと思います。 ○筒井幹事 労働契約がここに例示として挙がっている理由は,正に新谷委員から御指摘があったとおりです。佐成委員からの御指摘は,ここに例示することが適当でないという趣旨ももちろんあると思うのですが,そもそも労働契約が不当条項規制の対象外であることを明らかにすべきではないかという意見を更に頂いたと受け止めたほうがよろしいでしょうか。 ○佐成委員 それは前段の中身の議論だと思うんですけれども,前段のところでそれを書くか,後段でそういうふうにするのか,そのあたりは事務当局にお任せしますけれども,バックアップ委員会のほうでそういう議論がありましたものですから,一応御紹介して御検討をということです。特にこだわっているわけではございません。 ○筒井幹事 御発言の趣旨はよく分かりましたので,それを踏まえて検討したいと思います。 ○山川幹事 この不当条項規制の提案の対象がもともとは確か約款と消費者契約ではないかということであったかと思いますので,今のお話の前提は,恐らく就業規則上の条項に個別交渉を行って合意がなされた場合を想定しているのだろうと思いますが,就業規則が約款として規制対象になるかどうかという問題はまた前提にありますけれども,就業規則上の条項につき個別交渉により合意がなされた場合ということを何らかの形で示すようなことであれば,紛れがないのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 別のところでよろしいでしょうか。2の「不当条項規制の対象から除外すべき契約条項」についてですが,第2段落の個別交渉条項を除外するかという点については,第11回会議のときに,どのような場合に個別交渉があったと言えるかということを判断する基準が不確かであるという御指摘に対して,「個別に交渉を経て採用された条項」ではなく,「個別に合意された条項」は不当条項規制の対象から除外するという考え方を含めて検討してはどうかという提案をさせていただきました。これは,「個別交渉」という言葉ではカバーされない提案だと思いますので,ここに追加していただければと思います。例えば,「個別に合意された条項を不当条項規制の対象から除外するという考え方も含めて,更に検討してはどうか」というような形で,表現はお任せいたしますけれども,御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○油布関係官 5の不当条項のリストのところの表現ぶりでございます。ここを拝見しますと,最初の3行でリストを作成すべきであるという考え方が書かれておりまして,続けて,このような考え方について反対意見もあることから,更に検討してはどうかと書いてございますが,ここ5の小見出しがそもそも「リストを設けることの当否」になっております。実際に設けるとする場合にグレーリスト,ブラックリストをどうするかといったようなことはその下の段落にしっかり書いてありますので,切り口というか入口としては,「このような考え方について」更に検討してはどうか,という表現のところは,むしろこういうリストを「設けることの当否について」更に検討してはどうかとすべきではないかと思います。その上で,第2段落以下で,もし設ける場合にはこうこうだと示す,そういう感じなのかなという印象を持ちました。 ○岡委員 1番のところで先ほどの山川先生と同じ問題意識なんですが,不当条項規制の例示といいますか,約款の場合あるいは消費者契約の場合にこういう議論がされているというその二つの場合を何らかの形で書いていただいたほうが読むほうは分かりやすいと思います。 ○鹿野幹事 5番の不当条項リストを設けることの当否に関する記載ついて一言申し上げたいと思います。前のところには,民法に不当条項規制に関する規定を設けるかどうかという問題提起が書かれているのですが,仮に不当条項規制に関する規定を民法に設けるとしても,リストについても民法に設けるという選択肢と,リストについては別に例えば消費者契約法などの特別法に委ねて不当条項の一般条項的なものだけ民法に設けるという選択肢とがあるのではないかと思います。これにつき,正面から明確な形でこの部会で議論されたかについてははっきり記憶していないのですが,少なくともその趣旨を含むような御指摘はあったと認識しております。そこで,その選択肢の存在が含まれるような形で少し言葉を足していただければと思います。 ○中井委員 1のところですけれども,どのような契約類型をその適用の対象とするかという尋ね方になっていますが,この契約類型にはいろいろなものが入っているんだろうと思います。先ほど岡委員からありましたように,例としては消費者契約や約款の含まれる契約が念頭に置かれている。しかし,ここではそれらに限らず一般的な聴き方をしていただいているという理解をしておりますし,そのような聴き方をするのが適当であろうと思います。仮に例示をするとしても,約款が含まれていない,消費者契約でもない,つまり事業者間契約で約款も含まれていない契約もここでの議論の対象にして,それを含めるのか含めないのか,議論ができるような立て付けにしていただければと思います。例示をしたときに例示したものだけに限られるというような誤解の生じないような記載にしていただきたいというお願いです。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。今,複数の御意見を頂きましたけれども,それらをどのように処理するかについては,事務当局のほうで引き取らせていただいて,検討をさせていただきたいと思います。   恐縮ですけれども,次に進ませていただきます。部会資料23の1ページから5ページまでの「第29 無効及び取消し」について一括して御意見をお伺いします。 ○奈須野関係官 3ページ(イ)では,利益が存する限度で返還すれば足りる,それから(ウ)では,現存利益に縮減されないと書いてあって,書いてある趣旨は分かるのですが,一般の市民から見てこの「利益が存する限度」というものが何を指すのかというのが明らかでありません。民法の教科書を読めば,ギャンブルですった場合には返さなくていいとか悪いといった議論が出ているのですが,この返還義務の範囲について議論する必要があるのではないのかなという感じもしますが,いかがでしょうか。少なくとも「利益が存する限度」というものについて,これはこういうものだよと読者が分かればよいのですが。 ○松本委員 今の御指摘とも絡むんですが,この2ページの3,無効な法律行為の効果の全体に関わってまいります。確か既に一度この問題を議論したと思いますが,ここでは,(1)では条文上明示してはどうかというかなりもう方向が決まった書き方だと思います。給付利得について侵害利得とは別に考えるべきだというのは,私もそのとおりだと思いますから,解釈論的にはこれで特に異論はございませんが,ただし,体系的にどうするんだと。703条,その(2)のアのところで別に新たに規定を設けるかどうかについて更に検討してはどうかと。これと(1)は矛盾するのではないかなとも思うんですが,一体侵害利得と不当利得を全く別のものだという形で別々のところに規定するのか,それとも包括的な不当利得の下に分けるのかというような,かなり重要な論点があると思うんです。そこを是非書き込んでいただきたいということと,それから,給付利得の問題になるケースとして法律行為が無効である場合しかここに挙がっていないんです。取り消されれば無効だから,取消しはここに入るということかもしれないんですが,給付利得になる場合はもっとほかにも例えば不成立とかいろいろあるはずなので,給付利得を本当に考えておられるのであれば,もっとそういうのが全体に入るような言い回しにすべきだろうと思います。無効の場合だけについて特別の不当利得の規定というのは,ちょっといびつな感じがいたします。 ○中田委員 幾つかございます。最初は,1の相対的無効です。下から3行目に「これを無効とする規定を維持する場合には」という表現がございますけれども,意思無能力については無効とする規定が今あるわけではないので,ちょっと不正確かなと思いました。   それから,相対的無効が問題となる他のもう一つのケースとして暴利行為があるかと思います。暴利行為についても効果をどうするかという議論がありましたので,それにも言及したらいいかなと思いました。   それから,相対的無効の最後のところに「相対的無効(取消的無効)に関する規定を設けるかどうか」とありますが,これは相対的無効についてまとめた規定を一つ置くという方法と,それぞれのところで個別的な規定を置くという方法と両方あり得るという意味を含んでいると理解しておりますけれども,もしそうでないのであれば,まだ一つの方法に決める段階ではないのではないかと思います。   続きまして2の一部無効の(1)ですが,本文の2行目に「個別の規定(民法第604条第1項等)が設けられているときを除き」とあるんですが,これは表現が分かりにくいのではないかと思いました。と申しますのは,604条1項というのは賃借権の存続期間の上限を20年にするという規定だと思うんですけれども,これはむしろ一部無効の例になるのではないでしょうか。ところが,それを除いてというように書いているものですから,少し文章が分かりにくいのではないかと思いました。   それから,効果の点,2ページの3の(1)の①です。「当事者は無効な法律行為に基づく債務の履行を請求することができない」と書いているんですけれども,これは無効な法律行為に基づいては債権が発生せず,したがって,その履行が請求できないという意味ではないかと思います。この表現ですと,債務は発生するけれども,というようにも読まれかねませんので,少し注意が必要ではないかと思いました。 ○新谷委員 3ページの(4)の無効行為の転換についてです。第11回の部会で論議をされた際には,無効行為の転換を肯定する意見についても,「無効行為の転換が肯定される場面があるとしても限定的であるべきである」といった前提があったのではないかと思います。今回,たたき台では,明文の規定を新たに設けるかどうかについては更に検討してはどうかという御提起を頂いておりますけれども,(4)のどこかに「無効行為の転換が妥当する分野について検討した上で」といった言葉を補って,この点を明示すべきではないかと思いますので,御指摘を申し上げたいと思います。 ○沖野幹事 二点ございます。一点目は1ページの2の(1)一部無効のところの第2段落です。条項の一部無効に例外を設けるかどうかについて三つの指摘が示されております。考え方としては二つですけれども,その最後に「原則に対する例外を設けないという考え方があることを踏まえ」と書かれています。これは先ほど岡本委員が御指摘になった点でもあると思うのですけれども,ここだけを読みますと,取り分け二つ目に出されているその段落の2行目からの「無効原因がある部分以外の残部の効力を維持することが当該条項の性質から相当でないと認められる場合」,こういう場合があることを前提に,その場合にもなお例外は設けないというのはなかなか反論として難しいように思われます。そうだとしますと,この例外を設けないという考え方が何に着目しているのかということを書いたほうが全体として分かりやすくなるのではないかと思います。   そのときに議論がされましたのは,取り分け約款等の場合には不当な条項に対する事前予防的な効果の面と,それから先ほど出ました一部という以前にそもそも条項の1項というのをどうやって確定するのかというその明確性ないし不明確さの問題が指摘されまして,前者についてはその考慮をここで入れることの当否や,後者については明確性の観点からの懸念が指摘されました。その具体的な指摘の部分を加えたほうが全体として分かりやすくなるように思います。   二点目は4ページの4の(1)追認の要件です。この趣旨自体は対象となる行為について取消権を行使できるということを知っているということが必要だという要件を条文上明示するということで,それが最初の段落で,二段落目はこういった場合も同じようにするということなのですけれども,これに関して二つあります。一つは,第1段落において「だれが」という主体を補ったほうがいいのではないかということです。具体的には,追認権者が取り消すことができる行為を追認するためにはとしてはどうかということなのですが,仮にこれを補ったとしますと,第2段落の「また」以下で法定代理人や制限行為能力者の保佐人や補助人が追認をする場合というのも,「追認権者が」という中に含まれることになると思われますので,それでカバーできるのではないだろうかと思います。明確性を期すのであれば,第1段落においてこういった場合も含めて,とか含めるという旨を書けばよろしいのではないかと思います。   それから,2段落目のその後の,制限行為能力者が法定代理人等の同意を得て自ら追認する場合にもこうしてはどうかという部分です。この場合にもこれらが追認権者であるならば先のような記載の手当てで全てカバーするということになるのですけれども,ただ,この部分は解釈上言われている同意を得て追認することができるということを明文化するということが前提で,そして明文化した場合にはこの話となるというものです。部会資料でもまずこれを明文化するということが提案されて,その上で記載の項目が提案されるという形になっておりました。ですから,その前提部分を書き足してはどうかと思います。 ○道垣内幹事 一部無効のところなんですが,(1),(2),(3)と分かれていて,多分こういうことなんだろうなと思います。つまり(1)は,一つの条項の中のある部分に無効原因があったら,その部分だけが無効になり,ほかの部分には原則としては広がらないということを示している。(2)は,条項一つが無効になったときも当該法律行為のうちのほかの条項に無効は及ばないのが原則であるという意味である。第3は,一つの法律行為が無効になったとき,ほかの法律行為には無効は及ばないのが原則であるが,及ぶときもあるということを示す。以上のような整理なんだろうと思っているんですが,その理解が正しいとしたときに,先ほど中田委員が御指摘になられたことなんですけれども,民法604条1項を挙げられている趣旨がちょっとよく分かりません。604条1項はどういう意味の例示なのかというのをお教えいただければと思います。結論から申しますと,中田委員と同じように,私もここで同項を引用するのは妥当ではないだろうとは思うのですが,挙げられたからにはそれなりの理由があると思いますので,お教えいただければと思います。 ○笹井関係官 民法第604条第1項は,当事者が賃貸借の存続期間として20年より長い期間を定めても20年にすると規定しており,存続期間を定めた条項のうち20年を超える部分だけが無効になります。そういう意味で,一つの条項のうち一部だけが無効になって残部の効力が維持されることを明文の規定で定めた一つの例として挙げたという趣旨でございます。 ○道垣内幹事 ということはこれ,除きではなくて個別の規定があるときは,もとよりということでしょうか。 ○笹井関係官 明文の規定があれば効果は明確であるけれども,そのような場合を除いて,一部に無効原因がある場合の効果が明らかではないということを記載したかったのですが,ちょっと言葉足らずだったと思います。 ○道垣内幹事 分かりました。 ○村上委員 2の一部無効についてですが,(1)と(2)では,原則を設けることについて方向性を打ち出し,例外を設けることについては検討にとどまっています。しかし,このような問題は,原則を定めるのであれば例外をどうするのかという問題が当然出てくるわけですから,例外について適切な規定を設けられるかを考える必要がありますが,例外をきちんと列挙できるかどうか,疑問がありますし,例外が規律できず,原則の規定のみが存在することになると,事案に応じた柔軟な判断を行うことができなくなるのではないかという心配が生じます。加えて,(2)は(3)との関係も含めて全体的に検討する必要があると思いますけれども,(1),(2)については方向を打ち出す書き方であるのに対し,(3)は原則についても方向を打ち出さない書き方になっています。このようなことから,(1),(2)についても,原則を規定することについて方向性を打ち出すかどうか,もう少し検討してみてはいかがでしょうか。   2ページの3の(1)ですが,「無効である場合」とありますが,いわゆる相対的無効の場合,無効を主張できない当事者に対して履行請求できなくなるのか,また,無効を主張できない当事者も相手方に対して給付物の返還を求められるのか,違う規律になるのではないかという問題があると思いますので,その点を意識した書き方をしたほうがよいのではないでしょうか。   4ページの4の(1)の追認の要件として,取消原因となった状況が消滅しただけでなく,取消権を行使できることを知っていることが必要である旨を条文上明示するものとしてはどうかと記載されています。しかし,特に取消権を行使できることを知っていることは要件にはならないのではないか,少なくとも実務ではこの点を考慮していないのではないか,したがって,この点についてもう少し十分な議論をしておくほうがよいのではないだろうかと思います。明示することとするとまで強く打ち出さないほうがいいのではないでしょうか。   5ページの5の(2)抗弁権の永続性のところですけれども,この点についてもそれほど十分な議論はされなかったのではないでしょうか。反対意見も有力な考え方としてあり得るところだと思いますので,御検討を頂ければと思います。 ○岡本委員 三点申し上げたいと思います。一点目は先ほど沖野幹事が二点目のうちの一点目ということでおっしゃっていただいた部分と全く同意見ですので繰り返しはしませんけれども,そういう意見でございます。   それから,二点目なんですけれども,複数の法律行為の無効のところです。部会資料では条文上明示することの当否について更に検討してはどうか。仮に条文上明示するとした場合の要件の規定内容はどのようにすべきかという記載ぶりにしていただいておりまして,確かに論理的にはプレーンな記載になっているんだとは思うんですけれども,全体のトーンから見ますと,条文上明示することに何か積極的な記載のようにも見えかねないようなところがあるように思われまして,この論点につきましては,密接関連性の不明確さを指摘する意見でございますとか,特に複数の契約の相手方が異なる場合において,相手方の保護に欠けるおそれがあるのではないか,こういった意見など反対意見もあったところですので,そういった反対意見についても,例えばですけれども,これこれの積極的な考え方がある一方で,こういった消極的な考え方があることも踏まえみたいな,そういった形でも結構ですので,公平に記載していただいたほうがいいのかなと考えました。   それから,三点目なんですけれども,追認の箇所でございます。追認することができる無効を設けるとして,その無効行為の追認と,それから取消し得べき行為の追認の両方にまたがるところなんですけれども,部会の議論のときに相手方に追認するか否か確答すべき旨の催告権を与えるという必要はないんだろうかといったことをちょっと一回申し上げさせていただいたことがあったんですけれども,もしかしたら私のほうで何かとんでもない誤解をしていて,議論自体失当だということで反映されていないということなのかもしれないので,そうだとすればちょっと教えていただきたいんですけれども,そうでなければ何かそういった論点についても反映いただけると有り難いなと考えます。 ○筒井幹事 一部無効に関する第29の2については,岡本委員から御発言がありましたように,(3)では,密接関連性などの要件の下で,ある法律行為の無効に伴って他の法律行為も無効となるという規定を設けることに対して明確な反対意見がありましたので,その点で(1)(2)とは違う書き方になっているわけです。先ほど村上委員から(1)(2)と(3)がなぜ違うのかという御発言がありましたが,それに対するお答えは,そういうことだと思います。   (1)と(2)については,原則がどうなるかという点では特に異論が見られなかったように思います。しかし,例外をどのように定めるかという点では異論があるという受け止め方をして,事務当局としてはこういう整理を御提示したわけです。それに対して,村上委員の御発言は,例外がはっきりしないのであれば原則を書くかどうか自体もまだ不安定なのではないかという御趣旨かと思いました。そういう御意見があることは理解いたしましたけれども,その上で,ある程度一致点のあるところは「方向」と書いておいたほうが今後の議論がしやすいのか,余り「方向」とは書かないほうがいいのかといった整理の問題があると思いましたので,なお御発言いただければと思います。 ○深山幹事 今の一部無効の点ですが,この(1),(2)と(3)のニュアンスの違いというのは御指摘のとおり,議論としてはあるのかなというふうに私自身も思っているんですが,ただ,ちょっと今の整理なり議論を聴いていて疑問に思ったのは,(3)の複数法律行為の無効については必ずしも原則例外がはっきりしていないのではないかという点です。私の理解するところでは,ここに指摘されている他の法律行為が無効になり得るという判例というのは,むしろ例外的な判例があるということを指摘しているわけです。つまり表現はこういう言い方になっていますが,趣旨としては,一つの法律行為だけが無効になるのが原則であるということを前提に,しかし,例外もある,他の法律行為も無効となる場合も例外的にあるということを書いたらどうかというふうに読めるわけです。つまり(3)のところでも(1)や(2)と同様に,原則は他の部分には及ばない,無効原因がある条項なり,その部分だけが無効になるというのを原則としつつ,例外的にそれがもっと広がる場合があるということです。そういう意味では(1),(2),(3)というのはレベルの違いはあるけれども,同じ原則例外の構造になっているんだと思うんです。   ただ,そうは言ってもちょっと法律行為の場合と条項の場合とでニュアンスの違いがあって,(1),(2)のほうは方向性を出すけれども,(3)は出さないということになるのであれば,少し説明が必要になると思います。(3)については必ずしも原則例外の関係ではないとか,(3)のところについて密接関連性がはっきりしないではないかという観点から,例外を認めないという考え方も,それはそれであり得るんでしょうけれども,原則と例外というのを一応認めるかどうかというところがここでの問題だと思います。(1),(2)との書き分けをするのであれば,どういう意味で(1),(2)と違うのかということが分かるような書き方をしたらいいのではないかと思います。今のままですと,この例外の判例があることだけが指摘されていて,これは飽くまで例外として規定するんでしょうから,やはり原則例外という(1),(2)と余り質的に変わらないようなニュアンスで問題提起すべきであるような気がするんですが,いかがでしょうか。 ○奈須野関係官 (3)の部分の議論がややこしくなっている原因は,今御指摘があったとおり,リゾートマンション事件の判示事項をどのように理解するかについて,判例の正確な紹介をしていないところにあるように思います。  この部分について,本日の資料ですと,「一定の関係があるときに無効になり得る」という言い方をしている一方,別の回では「同一当事者間の場合には無効になり得る」という言い方をしているので,言うたびに判示事項の紹介が変わっているように見えます。このため,読者にとって見れば,複数の法律行為の無効の論点は「もしや判示事項を超えて何か新しいルールを創ろうとしているのではないか」という誤解を招いているところがあるのではないかと思っております。   この判示事項自身については,今の御紹介のとおり,さほど極端なことを言っているわけではなくて,恐らく当たり前のことを言っているのです。「一定の関係」という部分を余りサボらずに丁寧に紹介すれば,読者も(3)の部分について誤解を生むことはなくなります。そうすると,(1),(2),(3)との間でも何が問題になっていて,問題になっていないのかというのが分かりやすくなるのかなという感じがいたします。 ○鹿野幹事 今,奈須野関係官がおっしゃったことと一部重なるのですが,まずは,判例がいかなる事案においてどういう判断を下しているのかにつき,より正確に紹介する必要があると思います。ただし,それを踏まえて行う検討については,判例をそのまま条文化することの是非に限定して問題提起をする必要はないと思います。むしろこの部会では,この点につき,判例が明確に認めた場合に限定するべきか否かについても一致を見たわけではありませんので,判例が認めた場合に限定した規定を置くのか,それともより一般化した形での規定を置くのかどうかまで含めて,検討対象になるのだと思いますし,その趣旨を伝える記載にしていただいたほうがよいと思います。   さらに,あと一点だけ付け加えたいと思います。5ページの抗弁権の永続性というところですが,この点については,確か村上委員がおっしゃったように,この部会では,この方向で行こうというところまでの意見の一致は見られていないのではないか,むしろかなり疑問を呈する意見もあるのではないかと思います。したがって,この部分の表現については改めていただくほうがよいと思います。 ○内田委員 一部無効についての議論ですが,(1),(2)と(3)の関係について質的な違いはあるのかという深山幹事からの御指摘がありまして,深山幹事の御理解の中では質的な違いがないということはよく分かったのですが,この資料の趣旨は,(3)については例外的な判決があるけれども,それが例外則として確立するまでには至っていないということ。つまり非常に特異な事例についての一判決があるだけであって,原則に対する例外則があるとまでは言えないという理解もあるだろうということで,この点は,奈須野関係官の御理解とはちょっと違うのかもしれませんが,そういう立場もあるということに配慮して例外則を明示することの当否について,という書き方になっているのだと理解しています。   これに対して,(1)と(2)については,村上委員から例外が書けるかどうか分からず,明確に書けないかもしれないのに方向性を出すのは早過ぎるという御意見があったと私は理解したのですが,しかし,これについては例外がうまく書けるかどうかはともかくとして,例外則が存在することについてある程度コンセンサスがあるのではないか。そうであれば,書けるかどうか試してみてはどうか。規定を設ける方向でというのは,一応いろいろな規定の内容を工夫してみて,書けるかどうかについて検討してはどうかという趣旨です。その上でどうしても書けないということになれば,規定を置かないということになるわけですが,しかし,規定を置かないからといって例外則はないという判断をしたわけではなくて,例外則がうまく書けないという判断になったにすぎない,そういう理解ではないかと思います。   例外則が存在するという点について,根本的な異論がないのであれば,何々してはどうかとまでいう強いタイプではないわけですので,規定の具体的な中身について検討してみて,書けるかどうかやってみようという趣旨で,(1),(2)についてはこういう表現ではどうだろうかと考えております。 ○佐成委員 今の内田委員の御発言に関してですけれども,内部で検討したときも一部に村上委員が御指摘されたとおり,やはり一般条項化は難しいのではないかという疑問の声がございました。ただ,この方向性そのものを否定するというような強い意見は今のところ産業界のほうにもないようですので,この方向性それ自体はそれほど問題ないのではないかという気がいたします。   もう一つは,筒井幹事がおっしゃっていましたけれども,ある程度方向性を出せるものは出したほうが二読が効率的になるという面もありますので,もし大きな御異論がなければここはこの方向でというのでもいいのではないかという気はいたしております。 ○中井委員 たたき台(3)はたたき台(1)に比べて,また,たたき台(2)も,考え方を例示したり,その根拠なり問題点などを記載していただき,大変分かりやすく,国民の立場から見て検討しやすくなったという好印象を持っております。そうするとそれだけ意見も出ますし,更に考慮してほしい事情を言いたくなるところもあって,そういう意味で若干細かな事情になるかもしれませんけれども,申し上げたいことがございます。   まず,一点目は2ページの(3)複数の法律行為の無効ですけれども,一定の関係については同じ当事者間における複数の法律行為なのか,当事者間が異なってもいいのかという点は大きなテーマと思いますが,それが一切示唆されていない形になっています。それもフラットな問い掛けなんだろうかとは思いますけれども,同じ当事者間の複数の法律行為にとどめるか,異なった当事者間の法律行為についてまでも考えるのかということは何らかの形で示唆されていいのではないでしょうか。   また,同じ項ですけれども,複数の契約の解除の要件との関係でも議論されておりましたし,そのときの要件との平仄の問題もあろうかと思います。だとするならば,複数の契約の解除の要件との整合性等に留意するという指摘があってもいいのではないか。また,そうしますと,複数の契約の解除のところでは,ここに書いてある密接関連性ともう一つの要件である「他の法律行為をしなかったと合理的に考えられる場合」という表記ですけれども,「他の法律行為の目的を達することができない場合」という表現ぶりもあったと思います。この辺の表現ぶりを合わせるのがいいのかどうか,異なった表現ぶりとなると,また内容が違うのか,それとも同じなのか,別途検討するべきなのかということが議論になると思いますので,そういう表現ぶりの統一についても確認していただければと思います。   3ページの(3)制限行為能力者の返還義務の範囲の部分ですけれども,この制限行為能力者が例えば浪費癖のあるものだとすれば,返還義務のあることを知っていてもやむを得ず費消する場合もあり得ますので,制限行為能力者の保護が後退することのないように留意する必要があるだろうと思います。そのような表現を入れることができないか御検討いただけないかと思います。   次に,4ページの4の(2)法定追認ですが,ここも反対する考え方が御紹介されているので,これで尽きるのかもしれませんけれども,部会の審議の際には取り消し得ることを知って積極的に受領する若しくは担保の受領をするような場合であれば,本来的な追認と言えるのではないか。それでカバーされるのであれば,単なる債務の履行を受領した若しくは担保を受領したことによって法定追認を認めることによる懸念が指摘されていたわけです。反対する考え方の背景事情も書けないかと思った次第です。   最後に,5ページ目の一番上の5(1)取消権の行使期間の期間の見直しの要否については,慎重意見が多かったかと思います。そうだとすると,債権の消滅時効期間の在り方にも留意するとなると,これは深読みかもしれませんけれども,期間短縮の方向と平仄を合わせるという読み方にもなり得ますので,これも短縮化については慎重な意見もあったことをやはり踏まえるなり留意する必要がありますので,そういう記述が入るべきではないかと思う次第です。 ○鎌田部会長 事務当局からどうぞ。 ○笹井関係官 ちょっと岡本委員に確認させていただきたいんですが,追認に対する催告についての御意見ですけれども,無効及び取消しの箇所に一般的な形で催告に関するルールを設けるべきだということですか。 ○岡本委員 設けるべきというか,そういう論点もあるのではないかというだけです。 ○笹井関係官 例えば民法第20条のように,個別の取消原因を定めた箇所に催告が設けられている例がありますので,そういうものとして設けるのか,あるいは無効及び取消しについての一般的な制度として設けるのかという問題もあり,それでその御意見の扱いにちょっと迷ったところがあるんですけれども。 ○岡本委員 そういった点も含めて,全く検討の俎上に載っていないものですから,そういった意味での注意的な論点の指摘なんですけれども。 ○鎌田部会長 よろしいですか。ほかに……。 ○内田委員 一番最初のほうの松本委員の御指摘について,部会資料をどう改めるか助言を求められても,私は内部で助言する自信がありませんので,お伺いしておきたいと思います。2ページの3の無効な法律行為の効果の(1)ですけれども,ここに書かれているのは,中田委員からも御指摘いただいた①は無効な法律行為があった場合には債務が生じないので,履行の請求はできないこと。②は無効な場合には給付したものは返還請求できること。これらの余り異論のない効果をその限りで書いて,明示してはどうかということです。これについて,給付利得,侵害利得の理論枠組みの中の位置付けを書き込めというような御指摘を頂いたように思えたのですが,ここは,そういうことには一切立ち入らずに無効についての異論のない効果を最小限書くというのが(1)の内容ではないかと思います。それ以上に書き込みますと,いろいろ学者の議論が誘発されてしまいますので,それはあえて書かないというのが(1)ではないかというのが私の理解です。   それから,(2)以下については,給付利得と呼ばれる類型の一つの代表的な場面である無効の場合の返還の範囲について,多少なりとも分かりやすくするという趣旨からある程度の指針を書き込んではどうかということですけれども,これについてはいろいろ議論の余地はあるという前提で部会資料は作られています。しかし,その場合も給付利得全体が理論的にどういうふうに整理され,その中でこの問題はどう位置付けられるかというようなことを条文に書く必要はないのではないか。したがって,もしこういう規定を置くとしても,解除の場合ももちろん議論の対象にはなり得ると思いますが,ここでは無効に関する返還の範囲の問題として規定を置く。それと,703条,704条との関係については,解釈に委ねるというのが基本的なスタンスではないかと思います。   それ以上に何か侵害利得,給付利得というような類型論に立ち入った記述をする必要があるということでしょうか。 ○松本委員 今の御説明はそれなりに分かりますが,混乱が出てくるのではないかと。すなわち返還請求権の根拠として,無効の効果の条文と不当利得の一般の条文との関係がどうなるんだというような議論が出てくるのではないかということで,こういう方向で当局としては進めたいのであれば,それで結構ですけれども,その場合は不当利得との関係についても踏まえつつとか,何かそういうような文言を入れる必要があるのではないかということです。 ○内田委員 踏まえるというのは,(2)の議論をする際に踏まえた議論がなされればよいのであって,この部会資料の中でそこまで立ち入るということについて,ここでコンセンサスができますでしょうか。 ○松本委員 では,いわゆる給付利得の問題になるケースについて,一々返還請求ができるんだというようなことを書くんですか。無効についてだけ念のため書くんですか。そこが何かバランスを失している感じがするんですが。 ○道垣内幹事 しかし,解除についても返還義務が生じることが明文になっているわけですよね。 ○松本委員 解除については学説上いろいろな議論があったというふうに私は理解しておりますが。 ○鎌田部会長 議論があるから規定があるのか,規定があるから議論が出てきたのか。 ○松本委員 それはどっちの説もあると思いますが,解除と不当利得の関係をどう考えるかについては,解除の性質論と関係して歴史的ないろいろな議論があると承知をしておりまして,別にどの説がどうこうとは言いませんが。 ○山野目幹事 提案でございますけれども,ここの2ページ,3ページのところについては内田委員が示唆されたところに基本的には賛成するものでありまして,不当利得についてのいろいろな考え方を踏まえつつ,というような字句を入れるということは,かえって受け止めて意見を書こうとする方々に様々な誤解を生じせしめて議論が混乱するおそれがあるのではないかというふうに考えます。ここのところについてはこのような意見を申し上げます。   もう一点ですが,松本委員が数次の御発言で御心配になっておられることについては,もし無効,解除などについての中間の論点整理についての一巡の審議を了した上で,一番最後のところに法定債権の扱いについて今後どういうことに悩んでいったらよいかという項目が用意されているわけでございますから,あそこの補足説明のところに,もしそういった問題について松本委員が御心配のように議論を混乱させるような素地があるとしたら,なお若干の整理をしておきたい,というような説明を補っていただくということはあり得るのではないかと感じました。 ○鎌田部会長 実際に第2クールになって,この中身を具体的に検討していくときにはそれぞれの考え方に基づいて,ここで言えば3の(2)の中身はこう在るべきだという主張になっては出てくるんだと思うので,そういう意味で不当利得制度との関連は考えざるを得ないとは思うんですけれども,立法提案の中身として記述するかどうかという点については,少し慎重であったほうがいいかもしれないということだろうと思いますが,松本委員の御意見も踏まえて,それから今御指摘のありました山野目幹事の御意見も踏まえて少し整理をさせていただくということでよろしいでしょうか。   ほかの点についていかがでしょうか。   もしよろしければ,部会資料23の5ページから10ページまでの「第30 代理」について一括して御意見をお伺いいたします。 ○高須幹事 1の有権代理のところの(5)復代理人の選任,復代理権の問題でございます。御提案の中でどこまで復代理を認めるかの記述として,(5)の説明の文章のところの本文3行目です。任意代理人が復代理人を選任することができる要件を緩和して,自己執行を期待するのが相当でない場合について検討するというような趣旨を想起させるような表現になっておると思います。この自己執行を期待するという場合の,期待という言葉がちょっと弁護士会の中では今まで余り聞き慣れていないというようなこともございまして,違和感がございます。エクスペクトという言葉の翻訳で,ヨーロッパの法令改正案などでよく用いられており,それを期待という用語で日本語としては訳していると思うのですが,それだけに限って議論するのだろうかという心配が生じてしまいます。もちろんこの表現を掲げていただくことはいいと思うのですが,そうするかどうかと断定的に書くのではなくて,という考え方があるという表現方法が好ましいと思います。そして,一方では復代理人が本人の意思に反して選任されてしまうという慎重意見もある,これらのことを踏まえて,更に検討してはどうかというような形で,もう少しいろいろなことを考えてもいいという表現にしていただければと思います。 ○奈須野関係官 (6)の利益相反行為のところで,こちらも判例の紹介をしていますが,この判例自体は借家人の代理人を貸主が選任しているというケースで,自己契約及び双方代理に近い判例です。このような自己契約及び双方代理的な判例を根拠に利益相反行為一般を原則として禁止するというのは,論理的に厳しいところがあって,それなのにこの判例を引用すること自体,この文章が何か特定の方向に議論を誘導しようとしているのではないかという誤解を招くように思います。公平感がないということです。  この利益相反行為についての部会の審議では,私から,利益相反といってもいろいろなものがあって,一般的に禁止するというのは行き過ぎではないかといったことを申し上げたと記憶しております。そういった部会での議論を何らかの形で書き込んでいただけると誤解がないのかなと思います。 ○岡委員 二点だけ簡単に申し上げます。8ページの白紙委任状については,第一読会のときもなかなか規定は無理ではないかという消極論があったところだと思います。今回も弁護士会としては,もう論点から落としていいのではないかと,そういう意見が弁護士会にございました。   それから,10ページの授権のところについても実際上も重要であると指摘されている処分授権と書かれていますけれども,余り弁護士会としてはそのような認識もなく,この忙しいときにここまで論点として上げなくてもいいのではないかと,そういう意見がございました。 ○加納関係官 同じく8ページの白紙委任状のところなんですけれども,書くのであればということなんですが,下から4行目の「これについては,白紙委任状の内容やその交付の態様が様々であることなどを指摘して」と,この辺なんですけれども,その白紙委任状を交付した者の認識が必ずしも明確でないというような趣旨のことを書き込むべきではないかと思います。この点は部会の中の議論でも指摘されていることだと思います。   それから,もう一つは仮にこういう推定規定のようなものを設けた場合に,委任者側の予想を超えて代理人側に悪用されるリスクというような御指摘もあったかと思いますので,この点はちょっと補足説明のほうで書いていただくのでもいいかなというふうに思いまして,その辺はバランスを取っていただければと思いますけれども,そういう重要な指摘もあったと思いますので,書き加えていただいたほうがいいのではないかと思います。 ○道垣内幹事 私は,白紙委任状について論点から落とすことには反対します。 ○深山幹事 白紙委任状について,私は論点から落としてもいいという考え方なんですが,今の道垣内先生の御指摘も踏まえますと落ちる可能性が少ないと思いますので,仮に残した場合のことを申し上げます。仮に残る場合,今の書き方というのは,規定を新設する考え方があると言った上で,それに対して消極的意見もあることを踏まえ,となっています。反対意見の存在も指摘はしていただいているんですが,どう見てもこれはフラットというよりは,方向性という言葉こそないけれども新設する考え方のほうが前面に出ています。反対意見もあることも念頭に置いてもう少し考えましょうというのは,むしろ部会の議論の状況を正しく反映しておらず,弁護士の意見に偏っていたかもしれませんけれども,そういう意見の分布ではなかったように私自身は印象を持っていますので,仮に残すとしても逆のニュアンスで書くか,よりフラットにするか再考いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 基本的には部会資料で整理された既に存在している提案というのがまず考え方として提示されて,それに対してここでの議論が紹介されて更に検討と,こういう仕組みになっているので,もともとの提案のほうに誘導しようとするつもりはないんですけれども,そういうふうな読まれ方をする傾向が一般的に強いとすれば,全体を通じて今申し上げたような整理になっていますので,全体としてどういう表記の仕方にするのが誤解なく理解されるかということを検討させていただきます。 ○山本(敬)幹事 二点ないし三点申し上げたいと思います。まず,有権代理の(6)と(7)について,論点をもう少し丁寧に上げていただけないかという提案をしたいと思います。   まず,(6)の「利益相反行為」についてですが,第2段落で,「代理人の利益相反行為一般を原則として禁止する」場合に,それに違反した場合の効果について,「無権代理となるものとする案」のほかに,「本人への効果の帰属を原則とした上で,本人は効果の不帰属を主張することができるものとする案」も対象として,更に検討してはどうかとされています。このこと自体はこれでよいのですけれども,自己契約と双方代理だけではなくて,利益相反行為一般に対象を広げますと,相手方の信頼をどのように保護するかという問題が出てくることになります。無権代理とする案ですと,これは表権代理の規定に委ねられることになりますが,本人への効果の帰属を原則とした上で,本人は効果の不帰属を主張することができるものとする案ですと,相手方の信頼を保護するために特別な規定を定める必要が出てきます。さらに,この案によると特に,転得者などの第三者についても,そうした第三者の主観的態様がどのようなものであれば,本人は効果の不帰属を主張できるものとするか,明文で定める必要が出てくると考えられます。このような論点もあることも,やはりここに書いておいていただければと思います。   同様に,次の(7)の「代理人の濫用」では,第1段落で,相手方の信頼に関する要件を含めて規定を設ける方向で,更に検討してはどうかとされていますので,この限りでは問題ないのですけれども,先ほどと同じで,特に効果について,本人の効果の不帰属を主張することができるものとする案を採用する場合は,転得者などの第三者が出てきたときの主観的要件について明文で定める必要が出てくると考えられます。このような論点があることも,ここに書いておいていただければと思います。   それからもう一つ,4の「授権」についてですが,第13回の会議のときに,この制度の意味について,たくさんの御質問があって,それに対して私なりの理解を申し上げさせていただきました。下から2行目に「その概念が必ずしも明確でないという指摘」とあるのは,恐らくそのような議論を受けてのことだと思いますが,なぜそのような議論になったかといいますと,概念そのものが不明確というよりは,これは鎌田部会長が御指摘になったことでもあるのですが,部会資料に挙げられていた概念図が少し誤解を招くようなところもあったということも影響していたように思います。   今回の11ページの概念図で言いますと,授権者から相手方のところが,そのときの部会資料では「法律行為の効果」となっていまして,何か代理のように,法律行為,例えば売買契約に基づく権利義務が全て授権者と相手方との間に生じるかのように見えたというのが,誤解が生ずる一因となっていたと思います。   今回の11ページの概念図は,そのときの指摘を踏まえて,この部分が「権利の移転等の法律効果」と改められています。これは正確ではあるのですが,誤解の余地を完全に封じているかといいますと,なお心配が残りそうです。「権利の移転」はよいのですけれども,「等の法律効果」とは,何を指しているのか。権利の移転以外の法律行為の効果は入るのか入らないのか。そういう疑問の余地が残りそうです。   そのような疑問ないしは誤解の余地を少しでも減らそうとしますと,この「権利の移転等の法律効果」の部分は思い切って「権利の移転」だけにするか,せいぜい「権利の移転等」にとどめるべきではないかと思います。さらに,若干くどくなりますけれども,この一番下の被授権者と相手方のところは,「法律行為」の下にでも,括弧書きで「権利の移転(等)を除く法律効果」という説明を付け加えてはどうかと思いますが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 大変詳しく追加の論点を御指摘いただいたんですけれども,この論点整理の中に全部盛り込むか,ほかの処理の仕方をするか,少しそこは検討させてください。 ○松本委員 たまたま今の授権のところと,それからその前に議論されました白紙委任状のところの書きぶりを見ていて,先ほどの鎌田部会長の説明との関係でおやっと思ったんです。つまり白紙委任状のところは,深山幹事が非常にこっちの方向に持っていこうとしているのではないかというふうに読めるというぐらいの書きぶりではないかという指摘をされたのに対して,いや,そういう考え方がまず出されて,それに対する疑問点があるということも踏まえて更に検討しようということで,それはよく分かるんですが,そうすると今の授権のところは書きぶりが全然違うんですね。「処分授権に関する明文の規定を新たに設けるかどうかについて若干明確でないという指摘もあることに留意しつつ,更に検討してはどうか」と。この処分授権について新たに設けるという考え方は提起されていないんですか。 ○鎌田部会長 あるんです。 ○松本委員 そうすると,なぜそのあるところではこういう考え方があるとして,そういう考え方について,随分肯定的な印象を与えるぐらい丁寧に書かれて,ここではそういう考え方があるという書き方でなくて,非常に客観的に「かどうかについて」というふうに書かれるのか。どうしてそういう違いが出てくるんですか。 ○鎌田部会長 多分これは整理する側としては同じ趣旨なんですね。設けるという考え方がある,これに対してうんぬんというのが標準的だと申し上げましたが,比較的短いものについては,授権のような書き方のほうがむしろ最初から作っていた書き方で,これが分かりにくかったり何かするというので,長いものについては途中で「考え方がある」というふうに一旦切って次に移るというふうにしたので,整理している側としては主観的には同じことを違うスタイル,短いものはもともと書いていたようなスタイルにして,長いものは複数の文章に区切るようにしたというだけだと思いますけれども,その辺のところが何か非常にそれ以外の意図を持っているように読まれるのであれば,そこは避けなければいけないと思います。 ○松本委員 読みやすさのほうが私は重要だと思いますから,もし今の御趣旨であれば,この中間的な論点整理の一番最初の部分に,例えば三つの種類があって,「ではどうか」というのと,「方向でどうか」というのと,「更に検討したらどうか」という三つに分けたということが多分書かれると思いますから,そういうところにこの書きぶりについて「考え方がある」というふうにわざわざ書いている部分は文章が長くなるから,ここで切る趣旨であるというような,いわゆる凡例というんですか,判決の判例ではなくて,辞書なんかに出てくるところの凡例というようなこの中間論点整理の読み方というのを解説されるべきかと思います。 ○鎌田部会長 もともとの立法提案が一個しかないものはこういう形で整理できますけれども,二つ三つあるときにはまた違う形になっていたりするかとも思いますので,全体を通じてどんなふうにするのが最も誤解が生じないか,慎重に検討しながら進めさせていただきたいと思います。これまでの資料を全部見直すだけでも相当な分量になりますけれども,いろいろと御指摘のあった点は注意して整理していきたいと思います。 ○内田委員 内部で資料を作っている人を見ている者から一言申し上げますと,三つのカテゴリーがあるわけですが,そのうちの方向性のない更に検討してはどうかというものの中に,前回も申し上げましたが,何かグラデーションがあるというようなことは全くありません。また,微妙な表現によって意図を暗に示そうというような,そんな細かな芸当をするような余裕は事務当局には全くありませんで,とにかく議論を整理して書くということにひたすら忙殺されているというのが現状です。   それで,松本委員の御意見とか,あるいは中井先生からも留意事項についての書き方について御指摘を頂きましたけれども,なるべくそういう御指摘を頂かないようにしようと思えば,全て同じスタイルで統一して,留意すべきことについても同じようなスタイルでバランスを取りながら書いていくという,ちょっと条文を作るのに近いような記述の工夫する必要が出てくるかと思うのです。しかし,それに本当に意味があるのかということは少し疑問に思えまして,三つのカテゴリーに分けて,更に検討するというのは,とにかくもう一回第2ラウンドで様々な資料を前に規定を設けるかどうかについて議論をするのだと申し上げているわけですので,余り細かな文章の統一に労力を費やすよりも,あるいは留意事項を細かく書き込むことに労力を費やすよりも,もう少し前向きの方向に時間を使えたらいいなというふうに感じます。 ○中田委員 今の内田委員のおっしゃるとおりだと思います。ただ,実際に読んでみますと,自分の意見と違う表現があると何だか気になるというのは多分皆さん共通ではないかと思うんですね。そういうふうに感じられてしまうというのは,多分ここのメンバーでもそうだと思いますし,外に出るともっとそうなるだろうと思います。また,例えば私が気になりましたのは「踏まえて」という言葉があちこちに出てくるんですが,そのニュアンスが異なって取られる可能性がある。そのことを前提とした上でという意味なのか,単に念頭に置いた上でという意味なのか,様々に取られてしまう可能性があるように思います。こういったことにも御理解を頂きまして,御準備いただければと思います。 ○奈須野関係官 4の授権のところがやはりまだ気に掛かるのですが,「委託販売の法律構成として実際上も重要であると指摘されている」という書きぶりが,ちょっとグラデーションを感じてしまうところです。   確か,部会での議論では,山本敬三先生からこの仕組みについての御説明があって,世の中で「委託販売」と言われているものがここで言う「委託販売」ではないことが明らかになって,部会としての理解が進んだ経緯があります。こうした部会での議論の成果を反映するとすれば,この「委託販売の法律構成として実際上も重要である」という言い方は,世の中で「委託販売」と言われているものを想起させてしまい,やや誤解を招くところがあると思います。しかし,ここのフレーズを削除すると,何のことだか分からなくなってしまう可能性もあります。   そこで,誤解を招かないよう,より正確に書くとすれば,例えば「被授権者が自己の名で授権者が有する権利を処分する法律行為をすることによって,授権者がその権利を処分したという効果が生じる」など,「処分授権」の重要性を説明するのではなくて,「処分授権」の内容を説明することにしたほうがよいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○中井委員 内田委員のおっしゃる趣旨は十分理解したつもりでございます。それであっても弁護士会でこの資料を配布すると,弁護士会のバックアップ委員のほうから意見が出てくる場合があります。典型例を一個だけ御紹介しておきますと,8ページの(2)のアで法定代理への適用の可否が,9ページの(3)のアでも法定代理の適用の可否がございます。いずれも,判例は法定代理も適用がある,学説上は適用を認めない見解も有力である,その次に,「同条が法定代理には適用されないことを条文上明記するかどうか」検討するとなっています。これは明らかに適用されないという方向性,あえて「ない」という言葉を使うというのはそういうことだろうと思うのです。これを仮にニュートラルだとおっしゃるんだったら,「法定代理に適用されるかどうか」更に検討する,これであれば否定形ではありませんから,通常「するかしないのか」どっちだとなります。原案はやはり方向性を感じ取ってしまう。このあたりについては配慮があったほうがいいのではないかと思っています。 ○内田委員 これは,法定代理への適用を認めないという規定を新たに設けるべきであるという提案があるので,その提案の是非について議論をしてはどうかという趣旨だと思います。ここでは,一からといいますか,白紙の状態でどんな案が考えられるかの議論をしているわけではなくて,現行法に対して様々な改正提案がなされているわけで,適用を認めないという規定を新たに置くべきであるという案について,それは採らないという判断をすれば,現行法に戻って特に規定を置かないか,あるいは適用を認めるという確認の規定を置くのか分かりませんが,別の方向になると思いますけれども,取りあえずは議論の素材として,現行法に対する改正提案が出ているので,それについて更に検討してはどうかという書き方になっていると理解をしています。 ○鎌田部会長 これは,もともとは後ろの2行ぐらいが提案の内容で,それを既存の判例や学説との関係をはっきりさせろという御要望があったので,まず判例があって,有力な学説があって,そしてこういう提案が出てきたというように,前回出された注文に答えてこういう書き方にしたがゆえに,こういうふうになっていると理解しています。現にある提案というのは「法定代理には適用されないことを条文上明確にする」と,こういう提案があるだけなので,この書き方になっているということです。よろしいですか,一応の事情の説明ということで。 ○沖野幹事 別の点で,5ページの1の(1)です。ここもクロスレファレンスを付けてはどうかというものです。代理行為の瑕疵について代理人が詐欺・強迫をした場合については,端的に96条1項を適用すれば足りるということですが,中間論点整理におきましては,一方で第三者による詐欺についての項目も上げられておりまして,ちょうど今回該当する部会資料があるのですが,第27の4の(2)です。そこでは表現としては「法人の従業員等」と書かれております。ちなみにそれの基になりました部会資料の12の2の45ページでは「代理人その他の相手方が責任を負うべき者である場合」として,代理人というのが端的に上がっております。ですので,代理人による詐欺等はここで扱う問題であり,そこではそういう提案をしているということを明らかにする意味でも,例えば「96条1項を適用すれば足りることから」という4行目の後あたりに「第27の4の(2)参照」ぐらいを入れてはどうかと思います。   さらにですが,戻ってしまうかもしれないのですが,そうしたときに,その第27の4では「法人の従業員等」と記載され,あえて「代理人」が挙げられていないのですが,その表現がいいのかというのは検討の余地があると思います。と申しますのは,元の部会資料の12の2では,代理人についてはそうなると書かれているのですが,それはしかし,民法101条による大審院の判例が引かれて,それでそうなるという記述ぶりになっておりますので,そのままですとこちらの提案との関係で齟齬が出かねません。それを考える必要があると思われますことから,第27の4の記述も「代理人」を出すことを考えてはどうかと思います。いずれにせよ,最低限クロスレファレンスを付けてはどうかと思います。 ○岡本委員 先ほどの中井委員のお話とちょっとかぶるところもあるかもしれないんですけれども,表現の問題と言われてしまうのかもしれないんですが,表見代理の109条,110条,112条いずれも共通なんですけれども,部会の議論では確か法定代理の適用の可否について,確かにこの部会資料の記載はプレーンといえば論理的にはプレーンな記載になっているんですけれども,部会の議論では反対の議論もあったんだろうと思うんですね。そういう反対の考え方が記載されていないと,そういう意味では公平でないとも読まれるような記載になっているのかなというところがありまして,確か部会の議論のときには法定代理であっても無権代理行為を本人が放置しているような場合,そういった場合には適用の余地があるのではないかというふうな意見もあったところではなかったかと思いますので,公平な記載にするという意味ではそういった意見も分かるような記載に従っていただいたほうがよろしいのかなというふうに考えました。   それから,二点目なんですけれども,10ページの無権代理人の責任のところなんですけれども,無権代理人が自らに代理人がないことを知らなかった場合に無権代理人を免責する,そういう提案が記載されているんですけれども,確か相手方保護とのバランスで単に無権代理人が知らなかったというだけで免責してしまってもよいのか,そういった疑問を呈する意見もあったのではないかと思いまして,そういった意見があったことも分かるような記載にしていただけないかということです。 ○松本委員 今,中井委員がおっしゃったこととの関係ですが,法定代理への適用の可否の一連の文章の書き方がやはりちょっと分かりにくいのではないかということで,先ほどからの書き方のルールとの関係でいくと,確かにこれすごく分かりにくいんです。分かりにくいことの一つは,学説上は法定代理への適用を認めない見解も有力であると,それは有力です。他方で同条が法定代理には適用されないことを条文上明記するかどうかについてというのは,これは立法提案があるからだというデフォルトルールですよね。そこで言う立法提案というのは学説ですよね。そうすると,かぶっているんです,これは。そういう学説をどう評価するかという話なので,むしろ先ほどのルールからいけば,法定代理に表見代理の規定を適用しないことを条文上明記するという説があるというのは書かなくてもいいですけれども,するかどうかについてというのを頭に持ってきて,判例は適用があるとしている点も踏まえて,更に検討するのはどうかと。これで非常にニュートラルになると思うんですけれども。 ○中井委員 この問い方に関する一般論ですけれども,先ほどの私の疑問に対して内田委員のほうからは,立法提案として法定代理に適用されない,こういう提案があるからそれを問うものだと,こういう御発言があって,前回もそういう御説明があったなと思います。それを翻って考えてみたんですけれども,国民に問い掛けるときのこの法制審の立場ですけれども,ある研究者若しくは複数の研究者の出している立法提案をここを通過して問い掛けるというふうに聞こえてしまうように思うんです。本当にそうなんでしょうか。我々は,ここでは様々な立法提案があることを承知して当該論点を拾い出して議論をする。しかし,その立法提案の当否を超えてこの法制審のメンバーでこれが今回の民法の改正の論点として取り上げるべきか検討する。それは立法提案がたまたまあったから,それを契機として考えたかもしれませんけれども,立法提案のないところについても委員若しくは幹事から問題提起があれば,当然それは審議の対象になるだろう。逆に立法提案とは反対の意見がここで一致すれば,反対の問題提起を当然するのだと思うんですね。   そうすると,確かにAという方向の立法提案はあったけれども,ここで議論した結果,国民に問い掛ける問い掛け方としては何も立法提案にこだわる必要はないのではないか。法定代理を適用するかどうかについて判例と学説で争いがある。一方で,そういう立法提案もあるかもしれない。しかし,ここで問い掛けるときには,「さあ,適用するのがいいのですか,しないのがいいのですか」と,双方のメリット,デメリット若しくは学説上の有力説,最高裁の判決,こういう情報を提供した上で問い掛ける,こういうスタンスがあっていいのではないのか。そうではなくて,既存の立法提案を問い掛けなければいけないのかと素朴な疑問を持ちましたので,ここではその表明だけさせていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 原則論は中井委員のおっしゃるとおりだと思うんですね。ただ,具体的な提案として存在しているのは,これ事務当局が作った提案ではないということだけを強調したんだと思うんですけれども,事務当局が自分の考え方で提案をし,あるいは方向性を決めているのではなくて,今あるものをまずは提示した。それに対して,ここでの議論をしていただいて,それが今までの議論ですと,それと完全に違う対案を御提案いただくこともあるかもしれませんけれども,多くはそれに対する批判的な意見が出されてはいるけれども,対案が出された形は少ないですから,そうすると,これこれの提案がある。それに対してはこういった批判もあるけれども,この提案をめぐって更に議論を続けていいかどうかと,そういうスタイルでの整理の仕方にならざるを得ないケースが多いということであって,既存のなにがしかの提案を積極的に言わば法制審議会の原案的に位置付けようという意図はないということは御理解いただければと思っております。 ○松本委員 それとの関係なんですが,2回前の部会のときに御質問してお答えいただいたことで,第1ラウンドで検討課題として上がったことについては,全て中間論点整理の段階では残っていると。それを三つの3ランクに分けて整理されているという御説明でした。それと今,事務当局が作った案ではなくて,既存の立法提案なんだということとの関係で,既存の立法提案といいますと,三つの大きなグループが直近でいろいろ出しています。さらに個別の学者が個別にいろいろな立法提案を論文等あるいは学会等でやっているというのもあります。そういう中から第1ラウンドの討議資料に事務当局がピックアップして,ある立法提案は盛り込むが,ある立法提案は盛り込んでいないということなのか,それとも出ている立法提案は全て一応討議資料に盛り込まれ,その結果として中間論点整理に全て残っているということなのか。つまり事務当局の討議資料の整理の段階で,既に立法提案の一部はもう考慮外とされたのでしょうかという確認ですが。 ○筒井幹事 何か意図的に一個一個の立法提案について事務当局で検討をして,例えば取るに足らない提案は落とすというような進め方は,しておりません。しかし,およそ世にある立法提案を全てくまなく拾い上げたのかと問われると,そういう確信はありません。ですから,これまでの部会資料では,常に検討項目の冒頭に「総論」を設けて,ほかにどんな提案があり得るのかということを問い掛けながら,ここまで審議を進めてきたわけであります。 ○松本委員 そうしますと,少なくとも我々がすぐ目にすることのできる三つの直近のメジャーな提案については,一応全部論点として入っているという理解でよろしいですか。 ○筒井幹事 先ほどの回答の繰り返しですけれども,基本的にはそのとおりだと思っておりますが,この立法提案が入っていないと後から指摘されても責任を負いかねるということです。 ○山野目幹事 今,たまたま皆さん御覧になっている9ページのこの(3),アの法定代理への適用の可否の問題を例にしての御議論は,中間的な論点整理の文章スタイルの問題を中心に一般的な性格を持っているというふうに感じますけれども,私の拝見するところでは,事務当局の文章推敲は極めて生真面目過ぎるというくらい一定のルールに従って客観的に作業を進めようというふうになさっているという印象を抱きます。そこの文章でいいますと,「学説が」というふうにありますが,学説と提案とは別のものであるというふうにお考えになって書いているはずですから,かぶっているということはないだろうと考えます。   それから,提案としてお取り上げになっているものは,部会審議の第1巡の際に部会資料として御提示いただいた中で既に拾っておられるものをここでまた中間的な論点整理のために客観的に反映されようとしているものであろうというふうに受け止めました。その上で,更に検討してはどうか,という問い方とは別に,検討してはどうか,という問い方もあったということを思い起こしていただきたいと考えます。ここで言いますと,主要な提案として出されているのは法定代理には適用されないという提案でございますから,それについて批判があったことも踏まえて,更に検討してはどうか,というふうに書かれているのでありまして,これもルールどおりです。   先ほどから御議論がありますように,法定代理に適用されることとするかどうかということになりますと,これは既になされている提案とは別に,ここでの御議論を反映して新たな修文を行うということになるのでありましょう。それがいけないとは申し上げませんけれども,その場合には,更に検討してはどうか,ではなくて,検討してはどうか,という問い掛け方の要素が入ってくるというふうに感じます。なお,提案というふうに申し上げているのは,もちろん学者がした提案だから尊重されるべきだということではないわけでありまして,ここでの審議において注意を払うことが相当であると認められる提案であれば,学者の提案,実務家の方々の提案,様々な方面からの提案というのが全部俎上に載ってくるのではないかというふうに感じます。   それで,ここまでは資料の文章作成を拝見しての私の印象ですけれども,提案でございますが,更に検討してはどうかとか,検討してはどうか,という言葉の使い分けのルールは今後も維持されていって基本的にはよろしいと思いますが,部分,部分を見ますと,国民への問い掛けの文章として少し分かりにくいというふうに,生真面目にお作りになった結果そういうふうになってくるところというのはあるのではないかと感じられますから,そのような点につきましては,ここでの御審議で,いや,ここはもう少し分かりやすい表現にしようという御意見が有力に出て,コンセンサスが得られる方向になるのであれば,それを参考にして事務当局が更に推敲していただくという例外もあってよいというくらいの柔らかなポジションを採って作業をお進めになるのがよろしいのではないかと感じました。   少し個人的な思いですが,今日の部会審議は先ほどから,この文章をどうするとか,それから,事務当局が何か誘導しているのではないかとか,その種の話ばかりが相当のウエートで続いているように感じます。どういうスタイルで国民に問い掛けるかということの議論は確かに大事だというふうには思いますけれども,そこに過度にこれだけ時間とエネルギーを費やすということについて,個人としてはかなりの焦燥感を抱いているものでありますから,申し添えさせていただきます。 ○内田委員 書き方について余り一般的な議論をしても生産的ではないと思うのですが,この法定代理への適用に関しては,「学説上は」というのは,これは解釈論ですね。現行法の解釈論として有力な学説がある。これに対して,立法論としてある考え方が出されているということを部会資料で御紹介をし,そして,それが部会で議論され,それを明文化することに対して疑問が提起された。しかし,その疑問の中で例えば中井委員は,「明確にするまでもないということであって,適用されることを明確にしてくださいというわけではありません」と発言されています。つまり法定代理に適用される旨明示せよという立法提案があるわけではありません。適用しないという立法提案があり,それに対して疑問が提起されたというのが部会の審議の内容です。それを反映してこういう書き方にしたということだと思います。 ○川嶋関係官 ただいまの御議論からは,次元の異なる二つの御指摘を頂いているように感じられました。つまり,論点の示し方として改正の方向性についてニュートラルな表現になっているかどうかということと,論点を示す際に部会会議の場に現れた意見をニュートラルに取り上げているかどうかということです。前者については,改正の方向性についての表現の仕方には三つのカテゴリーしかないことは説明があったとおりですし,その確認のやり取りが議事録に残るのは,それはそれで有意義なことなんだろうと思います。ここで私から申し上げておきたいのは,後者についてです。この論点整理の作業において最も重要なのは,論点の内容をどれだけ分かりやすくお示しできるかということだったのではないかと思います。論点の内容を分かりやすくお示しするために,その論点に関する代表的ないし特徴的な意見を紹介するということはあり得ることでしょうし,その方向で努力しているつもりではあるのですが,しかし,部会会議の場に現れた全ての意見を平等に紹介せよと言われると,それは少し違うのではないかという気がいたします。部会会議の場で現れた意見を紹介するものとして,議事の概況等をまとめた補足説明を作成いたしますので,論点整理と補足説明との役割分担ということにも御理解を頂けたらと思うのですが。 ○鎌田部会長 山野目幹事の御説明もあったし,先ほど来の私の発言も関連するんですけれども,できる限り,第1回で出されたような書き方にしようとしてきましたが,分かりやすく書くということ,判例と立場が違うなら,まず判例がこうなんだというふうに書くべきだということが提案されましたので,それに応えるために,大分書き方のスタイルを改めた部分があって,その新形式にしたところに大体今日はクレームが集中しているということなので,そういう意味では最初に作った原則をずっと貫いていたほうが,分かりにくいという議論はあるかもしれないけれども,今日御指摘があるようなブレはなしで済んでいたのかもしれないというふうに反省をしているところではあるんです。けれども,ここでの23回にわたる議論に参加した方が読むのと,初めてこれを読む方とでは大分印象が違ってくるんだろうと思いますので,そういう意味では分かりやすくて,しかも我々の意図が正確に伝わるような工夫は最大限していきたいと思っています。   ただ,全体としては更に検討するもの,方向性をある程度示していくもの,それから,この部会で初めて出たものについては,検討してはどうかというふうな書き方をするというようなここでそれぞれの提案についてのこの部会の現時点での論点整理段階でのスタンスというのは出ているのであって,それ以外の部分でスタンスを示すことはしていないということについては,是非ここでコンセンサスを形成していただいて,そのコンセンサスを前提としたときにこの表現は妥当でないというふうなことでの修正提案をしていただければというふうに期待するところでございます。事務当局には,作業は大変ではありますけれども,今日の御意見を踏まえて可能な範囲内で誤解を避け,また,ここで頂いた貴重な御意見を取り込めるような修正をしていただければと希望いたします。   関連して代理関係でほかに御意見ございますでしょうか。 ○高須幹事 今の御趣旨を踏まえての意見です。決して後戻りするわけではありませんで,一見似ていますが,別なことのお願いでございます。9ページのところの112条の(3)のイの「善意」の対象のところでございまして,実はこの点については13回の会議のときでも私のほうで申し上げたのですが,この「善意」の対象についての判例の理解というところの記述で,行為の時点で代理権の不存在を知らなかったことで足りるという形で分析されておられるわけですが,私としては,ここの判例は下級審にそういうのがあるということは認識しておるんですが,最高裁の判例としてはそうではないと理解しております。資料に引用されておりました最高裁の昭和44年7月25日判例というのは,その趣旨ではないというふうに理解しております。今日もここに来る前にロースクールの学生がよく使っております要件事実の教科書などをもう一回見てまいったんですが,やはりそこでもそのような解説になっている,むしろ私の意見のような分析だったというように理解しておりますので,ここは事務当局でもう一度,この分析どおりでよろしいのかどうか,御確認いただきたいと思います。実務家が検討する際には,判例がこうだと言われますとどうしても非常に気になってくるところでございますので,もう一度検討していただいて,このとおりに書かれるかどうかを御判断いただきたいと思いますし,もしこのとおり書かれる場合には,私は違う意見を持っていますので,補足説明のほうにはそういう意見もあったということだけはせめて書いていただきたいと思っております。 ○村上委員 9ページのイの代理人の「権限」についてですが,事実行為を含めた対外的な関係を形成する権限で足りるという見解が有力であることからという書き方になっております。そういう考え方が有力であるというのはもちろん十分承知しておりますけれども,ただ,この見解によると代理人の範囲が際限なく広がってしまうのではないか,歯止めなく広がってしまうのではないかという危惧をする意見もあるはずです。ここでの書き方は,事実行為を含めた対外的な関係を形成する権限で足りるとする見解のほうがよいから,これを条文上明らかにしようという方向性があると受け取られるおそれがあるのではないでしょうか。ですから,こういうふうに書くのであれば,上記の見解に対して,それでは歯止めがなくなるのではないかという反論があることも書くか,あるいはもっと中立的な印象をもたらす書き方にするか,工夫していただきたいと思います。 ○道垣内幹事 これから申し上げることも若干書き方の問題であるかのような雰囲気が漂ってしまうのですが,そのつもりはありません。先ほどから問題になっております表見代理に関して,判例と学説というふうな形で書いてあるんですが,判例は果たしてこうなのかというのはかなり疑問な感じがします。先ほどリゾートマンションの事件について判例をどうまとめるかということについて奈須野関係官のほうから御意見がありましたけれども,例えば110条に関して,判例は法定代理にも適用があるとしているというのは,私の理解している限りにおきましては,もちろん夫婦間の話もあるのですけれども,最初の判決というのは親族会の同意がなかったという事案に関するもので,単純な権限外行為とは若干違った話だと思いますし,また判例としてもそれほど新しいものではないわけです。先ほど高須幹事がおっしゃったように,判例は固まっているのだけれど,学説に反対がありますという言い方をしますと,いや,わざわざ学説の言うように変えることもないでしょうという話になるのですが,個々の書き方は,判例がどのような立場なのかということについて,ちょっと予断を与え過ぎてはいないだろうかという気がします。例えば「判例は法定代理にも適用があるとしていると解されているが」とか,判例の立場について説明するに当たって,若干弱めていただいてもいいのではないかと思われる箇所があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 9ページの(3)のイなんかも,先ほど高須幹事の御指摘になったところを「足りるとするものと解されている」という婉曲な表現にしてはいるんですけれども,このまま素人が読んでは面倒くさい言い方をしているとしか思われないかもしれませんが,その辺のところ,気が付いた範囲では御指摘いただければそれに合わせて対応することを検討してもらうようにいたします。   ほかにいかがでしょうか。   もしよろしければ,部会資料23の11ページ及び12ページの「第31 条件及び期限」及び「第32 期間の計算」について一括して御意見をお伺いいたします。 ○中田委員 11ページ,第31の2のところです。「条件の成就によって利益を受ける当事者が条件を成就させた場合について」という記載がありますけれども,これですと,判例の趣旨が伝わりにくいのではないかと思います。判例は故意に成就させたというふうに言っていますが,ただ,その「故意に」という要件が適当ではないので,ほかの要件にするという議論はもちろんあるわけですけれども,これだけを見ると,そのような留保が全然ないので,読んでいて分かりにくいのではないかと思います。 ○村上委員 同じところですけれども,この判例は,結局は信義則に反するので130条を類推適用して条件が成就しなかったこととみなしたというものと考えられていると思います。判例が,条件の成就によって利益を受ける当事者が条件を成就させたことを要件としていると見るべきかについては,疑問があり,部会資料に記載されているような表現でパブコメに出しますと,判例の内容についての誤解を招く危険があるのではないかと思います。また,要するに信義則の問題なわけですから,条文を明文化せず,一般原則で処理すればよいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 その点は部会資料のほうでは大分書き込んではあるんですけれども,こちらのほうにどこまで盛り込むかについて検討させていただくということで,ほかにはよろしいですか。   それでは,部会資料23の12ページから17ページまでの「第33 消滅時効」のうち,まず「1 時効期間と起算点」について御意見をお伺いいたします。 ○大島委員 14ページの(4)時効期間の起算点についてでございますが,本文にはいわゆる主観的な起算点を導入する考え方が示されておりますが,商工会議所からは債権管理をする上で大きな負担になるとの事業者の声に基づき,第12回会議において,起算点がいつなのか判断が難しくなる。複雑な制度にはしてほしくないとの意見を申し述べたところでございます。「実務に与える影響に留意しつつ」という記載を加えるなど主観的な起算点がいつか判断が困難であることを指摘する意見があったことが分かるような表現を本文中に追加できないか御検討いただければと思います。 ○新谷委員 三点申し上げます。まず,12ページの(1)の短期消滅時効制度についてです。第12回会議では,現在短期消滅時効が適用されている労務供給の対価たる報酬については,本来他の債権よりも手厚く保護すべきものであり,一般債権と同じ時効期間とすべきであるという旨の発言をさせていただきました。たたき台12ページの一番下のパラグラフには,「現在は短期消滅時効の対象とされている一定の債権など,比較的短期の時効期間を定めるのが適当であると考えられているものを」という記載がありますが,この部分について,「労務供給の対価である報酬等について,短期の時効期間を認めることは適当ではなく,一般の債権に適用される原則的な時効期間とするべきであるとの意見があったことにも留意して,短期消滅時効の対象を整除することとした上で,比較的短期の時効期間を定めるのが適当であると振り分けられたものについては」と,記載を変更していただけないかということについて御検討いただきたいと思います。   また,第12回会議の際に,元本が一定額に満たない少額の債権であっても,労働債権については短期時効期間を設けることについては反対であるということを申し上げていますが,このような意見についてもたたき台に何らかの反映をしていただけないか御検討いただきたいと思っています。   次に,13ページの(3)のウの不法行為等による損害賠償請求権について申し上げます。12回の会議では私のほうから労働災害における被災労働者の例を挙げ,不法行為による損害賠償請求については現行法上の20年という期間制限を廃止・短期化することについて反対である旨の発言をさせていただきました。たたき台の14ページのところに生命,身体等の侵害による損害賠償請求について,債権一般の原則的な時効期間よりも長期とする特則を設ける方向で更に検討してはどうかという記載をしていただいていますが,今回の審議においては原則的な時効期間を短期化するということも検討事項に上がっているため,現在のこの書き方では,債権一般の10年の時効期間の短縮を肯定した上で,この短縮した時効期間よりは長い期間とするということを検討するものであるという誤解を招きかねないのではないかと思います。この点について,生命,身体等の侵害による損害賠償請求権については,現行法制による20年の期間を時効期間として,その時効期間よりも長期とすべきという意見があったことを明示するような工夫をしていただけないか御検討いただけないかと思います。   三点目は,14ページの(5)の合意による時効期間等の変更についてです。   第12回の会議では交渉力の弱い立場にある当事者が不利益を被ることを危惧する意見を申し上げたところでございますが,これについてもたたき台では,「合意による時効期間等の変更を原則として許容しつつ」と「合意の内容や時効等に関する所要の制限を条文上明確にすることの当否について,交渉力に劣る当事者への配慮等に留意しつつ」というように,二つの「しつつ」との前提が書かれており,最初の「しつつ」の部分については,時効期間の変更を原則として認めるという一定の方向を示しているというような誤解を招きかねないと思いますので,この点についても書きぶりについて更なる工夫をお願いしたいと思っています。 ○筒井幹事 ただ今,新谷委員から御指摘いただいたうち前の二点については,御意見を踏まえて検討したいと思います。   最後の一点も同様なのですが,御指摘いただきました14ページの(5)の「許容しつつ」というのは,それを許容しつつ制限を条文上明確にすること,こちらに掛かっている部分です。それで全体として一つの考え方を提示している部分なので,そのことが分かるように表現すれば新谷委員の問題意識を反映することができると思いましたので,そんな方向で考えてみたいと思います。 ○鎌田部会長 第一点も,多分,12ページの下のほうの1の(1)の第2段落ではなくて,第1段落に関わる事柄になるんだろうと思います。第2段落は消滅時効期間を短くするほうが合理的に思われるようなものをどう取り扱うかというので,時効期間を短くしてしまうことがいいかどうかというのは第1段落のほうだと思いますので,そちらのほうで少し検討をしてもらうと思います。 ○新谷委員 お任せします。 ○中井委員 少し長くなりますが,1の時効期間と起算点の全体の論点整理の在り方について,提案をさせていただきたいと思います。   時効期間と起算点のこの整理についてですが,短期消滅時効の問題を取り上げて,それが不合理だからそれを廃止するところから議論をスタートするのが果たしていいのかという疑問を持っております。消滅時効については時効障害事由も含めてですけれども,相当大きな提案が,しかも複数の研究者グループからされています。部会の審議において必ずしも十分時間を取って審議できているわけではありません。   消滅時効制度の根幹というのは,時効期間の問題と起算点の問題,それの組合せの問題だろうと思うのですが,それを最初から分節して個別論点に入ると全体を見失うのではないか。また,そういう形で今回パブリックコメントを国民に対して提示するのがいいのかというところから考えると,せっかく三つの研究者グループから詳細で体系的な提案がなされているわけですから,少なくともその時効期間と起算点については,まずそれらの提案があることも踏まえて問い掛けるのが適切ではないか。その中で,基本的な原則との兼ね合いで時効期間をどう考えるのか,起算点と関連付けながら一般原則の中でどう位置付けるのか。他方で起算点についても時効期間と関連付けながら,その一般原則の中でどう位置付けるのか,そういう問い掛けが最初にあるほうが分かりやすいのではないか。   そして,起算点と時効期間に関する一般原則を検討する過程において,債権の種類,債権の発生原因,債権者の属性又は債権額の多寡などによって,時効期間や起算点について原則に対する例外として特則を設ける必要性が認識された場合に,それら例外的取扱いを必要とする債権等について,順次,検討を進めるのが分かりやすく,論点整理として適切ではないでしょうか。   具体的には,その検討過程の中で短期消滅時効として列記されている170条から174条までの取扱いについて,果たして合理性があるのか。場合によっては,それは廃止してもいいのではないか。廃止した場合には他の手当ては必要なのか,そういう議論が起こるでしょうし,13ページにある定期金債権についても始期と期間の点について原則では捉えにくいので,例外的にというか注意的に検討しなければならない,判決に基づく権利についてもこの性質から期間を変えるということが検討されなければならない。さらに不法行為に基づく損害賠償請求権についても同じように言えるのではないか。そのあとに,現行民法にない新たな論点として,「預金債権等」や「合意による時効期間等の変更」を取り上げることとしてはどうか。こういう例外則として何を設けていくのかを列記して論点整理をしていく,こういう構成がいいのではないでしょうか。   このように考えまして,大阪弁護士会のバックアップ委員会では「時効期間と起算点」について代案を検討いたしましたので,ここで紹介をさせていただきたいと思います。   最初に,1の(1)で「消滅時効の一般原則について」と題して,例えば,「債権の消滅時効に関する一般原則をどのように定めるかを検討するにあたっては,時効期間と起算点を関連付けて検討すべきであるとの指摘や単純な時効期間の短期化の必要性を疑問視する指摘があったことを踏まえ,消滅時効の制度趣旨を確認しつつ,①起算点を現行民法第166条と同様に「権利を行使することができる時」と定めた上で,原則的な時効期間を検討すべきであり,その期間については現行民法167条と同様に10年とする見解(大阪弁護士会),あるいはこれを短縮する見解(研究会試案),②起算点を権利行使の期待可能性が認められる時点とした上で,時効期間をどのように考えるかを検討すべきとする見解(時効研究会試案),③債権を行使することができる時という客観的起算点からの時効期間を10年とした上,債権者の認識に基づく主観的起算点からの時効期間を3ないし5年と定め,その到来により時効期間は満了するとする見解(検討委員会試案)などについて,現行制度との連続性やこれを変更した場合の実務に与える影響を踏まえて,時効障害事由の定め方との関連にも留意しつつ,時効期間と起算点に関する一般原則をどのように定めるか,更に検討してはどうか。」という整理案です。   その上で時効期間については,「原則的な時効期間を5年ないし3年に短縮化するという考え方の当否については,短縮化により債権者の権利を害するおそれがあり,短期化の必要性を疑問視する指摘のあることを踏まえて,時効障害事由の定め方とも密接に関わることに留意しつつ,時効期間と起算点に関する一般原則の検討に関連して,更に検討してはどうか。」という13ページの(2)の考え方を提示し,ついで,起算点に関して,「時効期間の起算点については,債権の内容や種類又は発生原因等に応じて,債権者の認識や権利行使の期待可能性といった主観的事情を考慮する考え方を導入するかどうかについて,時効期間と起算点に関する一般原則の検討に関連して,更に検討してはどうか。」という14ページの(4)の第1段落の部分の問題提起をしてはどうでしょうか。   このように一般論について論点を整理した上で,例外則について順次,たたき台で言う短期消滅時効制度について,定期金債権,判決等で確定した権利,不法行為等による損害賠償請求権を提示し,最後に起算点の中に含まれている論点ですけれども,預金債権という特殊性からくる論点を提示してはどうかと考え,そういう構成を提案しております。   なお,短期消滅時効制度についての論点整理については,廃止した場合の代案についてもう少し明確に提示する方が分かりやすいのではないかと思い,次のような整理案を提案したいと思います。12ページの(1)の後段部分ですが,「その際には,現在は短期消滅時効の対象とされている一定の債権など,比較的短期の時効期間を定めるのが適当であると考えられるものをどのように取り扱うべきであるかが問題となる。この点について,①原則的な時効期間を短期化することによって相当程度吸収すべきであるとする考え方(原則的な時効期間を短くすることによる対応),②原則的な時効期間を短期化するか否かに関わらず,時効期間を単純化・統一化することのメリットが大きいので,単純に短期消滅時効制度を廃止することで足りるとする考え方(特別の対応をしない),③職業別の区分によらずに,例えば元本が一定額に満たない少額の債権を対象として短期の時効期間を設けるなど,新たな短期時効消滅制度を設ける考え方(新たな制度を設ける)などがあることを踏まえ,更に検討してはどうか。」という整理の仕方です。   最後に,合意による時効期間等の変更は,時効期間と起算点についての例外則ではありますが,合意自体というところに根拠を求めるところから別項立てにしてはどうかと思います。ただし,変更を許容するかどうかについてまず論点を提示した上で,これを許容する場合の制限の内容等について更に検討するという形にしてはどうでしょうか。   さらに,部会での審議のときにそれほど議題にもなっておりませんし,検討項目としてもありませんが,研究者グループからの具体的な提案がなかったからかもしれませんけれども,実務的には「権利を行使することができるとき」という起算点に関して,様々な紛争が生じていることは御承知かと思います。例えば,契約に基づく債権の場合でも,給付債務か,なす債務か,不作為債務かといった本来の債務の種類によって起算点の考え方は違うのであれば,それらに着目して例外としての特則を設ける必要があるのかどうかが問題となります。また,債務不履行ないし履行不能を発生原因とする債権についても,一回的に履行すべき債務の場合,継続的若しくは一連の過程で履行すべき債務の不履行の場合,さらに,本来の債務ではなく付随的な義務,安全配慮義務や保護義務などの債務の不履行の場合で起算点が異なるのではないか。そうであれば,不履行の債務の内容や態様に着目して例外ないし特則を設ける必要があるかどうか論点を整理して提示することとし,それらは不法行為債権における起算点と時効期間の考え方とも関連しますので,それに関連付けて検討することも必要であり有益と思いますので,そのような論点整理はできないでしょうか。このような起算点に関する検討が,時効の成立をめぐる紛争の防止に有益であるとすれば,これは部会での検討,第一読会では検討対象になかったかもしれませんけれども,改めてこれを提起してもいいのではないかと思っている次第です。それについては,たたき台の修正案として組み込めてはおりませんけれども,そういうことも御検討いただけないかということでございます。長くなり恐縮です。 ○鎌田部会長 ただいまの御発言には,編別といいますか,章立ての組替えの問題と,中身の若干の修正の御提案と,それから新しい論点の追加という三つの内容があったので,まず,この章立てについての組替えの御意見について関連する意見があればお伺いしたいと思います。 ○能見委員 私もこの短期消滅時効の問題から出発して時効の一般的な期間をどうするかという問題へつなげる仕方は問題の提起の仕方として適当でないということを以前もこの会議で申し上げましたが,現在もそのように考えており,ただ今の中井委員の御意見に賛成でございます。もっとも,別の御意見も当然あるでしょうから,余り強くは主張しませんけれども,例えばこの33,消滅時効の1のところの(1)の短期消滅時効制度についてというものと(2)の原則的な時効期間についてというものの順番を逆にして,一般的な時効期間自体を何年にするか,縮めるのか今のままでいいのかが一番重要な問題だと思いますので,そのことを明らかにするのがよいと思います。この部分を前に持ってくることで,この問題の重要性を明らかにするという対応ができるのではないかと思います。 ○筒井幹事 項目の順番の入替えという御提案があったことに関して,その点の是非はこの場で御議論いただければよいと思いますが,事務当局の案がこのようになっている理由について一言申し上げたいと思います。消滅時効をめぐっては様々な立法提案があるわけですが,現在の制度のどこに問題があるのかという観点から,その様々な立法提案を見てみますと,漠然と一般的に期間を短くするとか長くするという議論があるわけではなくて,我が国においては短期消滅時効という制度があり,このことに対して様々な問題が指摘されているのではないか。だからこそ,そこから派生して様々な立法提案が出てきているのではないかという理解をいたしまして,まずは一番問題があると指摘されているところから議論を始めてはどうかという趣旨で,このような配列にしたものであります。 ○内田委員 今筒井幹事が言われたのと同じことを少し刺激的に申し上げるだけになるかもしれませんが,中井先生の御説明の中身は非常に理論的であり,体系的であり,私にはよく理解できました。ですから,御趣旨はよく分かるのですが,しかし,そういう問題設定の仕方こそ弁護士会の先生方が当初反対しておられたことではないのかと思います。体系的に現在の消滅時効制度全体を見直そうとか,それを体系的,理論的に検討していこうということではなくて,現行法のどこに改正を必要とする立法事実があるのか,それをまず明らかにせよということが繰り返し指摘されてきました。この資料は,それを非常に重く受け止めて,現行法で問題が指摘されており,そして最もコンセンサスを得やすい立法事実はどこにあるかといえば,やはり19世紀初頭のフランス民法典に由来し,日本で現在合理的な説明がほとんどできなくなっている短期消滅時効ではないか。それを整理・統合して何らかの形で仮に一元化していくということになると,そして,商事の5年も,商人という概念の恣意性は既に繰り返し指摘されているところで,それも含めて一元化するということになりますと,では10年は一体どうなるのだということが当然問題になってきて,そこで初めて10年の是非が議論の対象になるのではないかと考えて,資料が作成されているわけです。   ですから,理論的・体系的でないかもしれませんが,やはりまず立法事実からスタートせよということを重く受け止めた結果,こういう構成になっているということを御理解いただければと思います。 ○山野目幹事 中井委員から,具体的にこういうふうに推敲したらどうかというものまで含めた御提案を頂いているのを大変有り難く伺いましたし,弁護士会の先生方が御議論いただいた成果としてお示しいただいた修正の案文を見てみまして,こういう問題提起の仕方もあり得るのであろうということは確かに感じました。それと同時に,しかしながら,ただいま部会資料で提示いただいているように短期消滅時効制度の問題点をまず指摘して,国民に対し現在の消滅時効制度の抱えている問題点の内容,それに関わる悩みを共有してもらうという問題提起の仕方は,それとして根拠があるのではないかというふうに感ずるものでありますから,その観点から意見を述べさせていただきます。   現実に存在している課題から問題提起をしていくということがよろしいように感じますし,それでいきますと,今のこの整理になると感じます。時効期間の起算点と時効期間そのものを一般的にどうするかという切り出しで問題を提示するというのは,工夫をしないとかなり茫漠的で抽象的な問題提起になってしまうおそれがあります。また,幾つかの研究者及び実務家のグループの提案を列記するという方法も一つの方法ではありますが,これも工夫をしませんと,かなり学理的な文章になって,これまでの議論の経過を知らない人にとっては分かりにくいという部分があるのではないかと思います。国民生活の現実にある問題から問題提起をしていくということが基本に据えられて,よいパブリックコメントになるというふうに感じます。   新谷委員がおっしゃったように,民法の規定で労働者の賃金債権を念頭に置いて1年という期間があるのはおかしいではないかという御指摘は全くそのとおりであるとともに,あの規定に対する特則として,労働基準法115条が別の期間を定めているわけでございまして,あのように話がぎくしゃくしてきて労働者の賃金債権という正に生活にとって重要な問題が適切に見やすいにように処理されていないことの根源が短期消滅時効制度にあるということがはっきりしているものでありますから,そこから問題提起をしていただくというこの部会資料の整理の仕方というのは,相応の根拠を持つものであるというふうに感ずるものでございます。 ○潮見幹事 私も山野目幹事がおっしゃったように,このまとめ方でも特に問題はないと思います。ただ,その反面,中井委員がおっしゃられたことも分からないではないという思いもあります。つまり,今回の論点整理を全体としてみた場合に,これこれという制度のこれこれの点についての基本的考え方,制度の在り方はどう在るべきかということについて更に検討すべきではどうかというような指摘がされている箇所も,少なからずあるんですよね。しかも,それが基本的な部分で大きなパラダイムの転換になりかねない箇所でされているわけです。   一例を挙げますと,債務不履行の損害賠償の帰責事由のところがそうであって,当初配られたたたき台では債務不履行による損害賠償の責任の帰責根拠については,判例が必ずしも瑕疵責任を採用しているわけではないとの認識を確認した上で,帰責根拠を契約の拘束力に求めることが妥当かという点について更に検討してはどうかという問い掛けの文章がございます。恐らくは中井委員の発言の一部はそれにも関わってくるのではないかと思います。つまり,債権の消滅時効の制度についての起算点だとか,あるいは期間に関する基本的な考え方について検討してはどうかという問い掛けのメッセージをたたき台の中に盛り込みたいという認識があるのではないかと思います。そういう方向も積極的に取り込んでやっていくのが適切なのか,それとも,いや,そうではなくて,これこれの規定ということについてどういう規定を置いたらいいのか,あるいはその規定の内容をどうしたらいいのかという観点からたたき台というか問い掛けをしていくのが果たして分かりやすいのかという,そのあたりのバランスの取り方が非常に難しい部分かと思います。   その上で,この消滅時効のところに限って申し上げますと,先ほどの帰責事由のあたりとは違って時効制度全般にわたりますので,一般的な基本的なスタンスがどうであるかということについて,まず最初の総論部分で聴いて,それを基にその後のパブコメを集めた私たちがどう議論していったらいいのかというところを考えた場合に,果たしてどこまで意味のある回答が寄せられてくるのか,あるいは更にそれが個別の論点にどう関わってくるのかというあたりが見えにくいという懸念があります。したがって,原案の問い掛けのほうがいいのではないかと思うものです。   それからもう一つ,大阪弁護士会の中間的な論点整理の代案というところで出されている「案を並べる」ということについては,私は反対です。これは先ほど別のところで議論がありました点に関わりますが,この部会ではある特定の誰かが出した案を前提にその是非を議論しているということではありませんので,かえってそういうものをここに上げるということによって,何か別の間違ったメッセージを一般の市民の人に与えるのではないかと思ったからです。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○松本委員 この整理の今の御議論,12,13ページの(1)と(2)の関係が文章表現上ちょっと分かりにくいということを指摘したいんです。つまり(1)では短期消滅時効制度を廃止する方向で更に検討しようと,かなり方向性が出ているわけですね。そうすると,消滅時効はもう職業,契約タイプ等では区別されなくなるということで,そうしましょうという提案ですね。(2)のところでの頭の部分で短期消滅時効制度を廃止して時効期間の統一化ないし単純化を図ることと併せて,期間を短くすることがどうかについて更に検討しましょうということですが,その「併せて」ということの意味が大変分かりにくいのです。これは(1)の短期消滅時効を廃止して時効は一本化するという立場を採った場合には,債権の消滅時効期間を短くすべきだという提案だと思うので,「併せて」ではなくて「単純化を図るという立場を採った場合には」とか,そういうきちんと条件を付けたほうが正確だと思います。 ○能見委員 こういう危惧を恐らく私が持っており,先ほどの私の発言もこのような危惧に基づいています。現在の短期消滅時効については,廃止する方向に私自身は個人的には賛成なんですが,では,短期消滅時効が廃止されることになると,全てが10年の時効になるのかというと,それは必ずしも適当ではないと思います。現在の短期消滅時効を単純に一般の消滅時効に解消するのではなく,何か中間的な大きなグループとして例えば5年の消滅時効とかいうふうにまとめるということも考えられます。その中では余り細かい,いろいろな職業などに応じた細かい区分は設けない。このような中間的な時効というのが論理的にはあり得る。そういうふうにすると,現在の短期消滅時効を廃止しても,原則的な10年の時効をなお維持できる体系が考えられる。   ところが,今のこの文章では,普通の人は次のように読んでいくのではないかと思います。すなわち,(1)のところで短期消滅時効の廃止が提案され,それはなるほど,合理性があるなと考える。そして短期消滅時効を廃止するとなると,現在の10年の一般的な時効のほうも一緒になって時効期間が定められる結果,10年も当然に短縮されることになると。論理的にこのようにつながっていくようなニュアンスが出ている。これは(2)の書き方が原因なのかもしれない。今,松本委員が言われたことと関係するのかもしれませんが,そういうふうに取られる可能性があるのではないかというところにちょっと危惧を感じています。そこで,うまく表現できないんですが,短期消滅時効は廃止する。だけれども,10年を維持するという選択肢もあり得るということが文章から分かるとよいのではないかと思います。 ○亀井関係官 一点補足をしたいと思うんですけれども,これまでの御議論の中で,部会資料12ページの1「(1)短期消滅時効制度について」において短期消滅時効を廃止する議論をすると,その検討結果が,「(2)原則的な時効期間について」の検討において必然的に原則的な時効期間が短くすることにつながるのではないか,という意見が示されたように思いますが,(1)で問題提起されているのは,今ある職業別に区分された短期消滅時効を見直すこととしてはどうかということまでであり,見直した場合の時効期間については,第2パラグラフにおいていくつかオプションが示されていることを紹介しております。その中には何らかの新たな短期消滅時効制度を検討してはどうかという提案もされております。その上で,現在短期消滅時効の対象になっている債権のうち,短期消滅時効の対象とはならない債権が出てくるであろうことも踏まえて,原則的な時効期間をどのように考えたらよいのかというのを(2)で書かせていただいています。したがって,短期消滅時効を完全に廃止するので,その結果,原則的な時効期間を短くするという提案をしているものではないということを御理解いただければと思います。 ○松本委員 今のは(2)を読む限りは,そういう提案がされていて,それを検討しましょうということではないですか,(2)は正に。 ○鎌田部会長 最初に言われたこの併せてというのが…… ○松本委員 つまり(1)で短期消滅時効の現行の制度を廃止すれば,もう原則一本になると。もしそういう立場を採った場合には,(2)で原則的な時効期間を5年ないし3年に短縮すべきだという提案があるので,その点についていろいろな点を留意しつつ検討してはどうかということだから,正に短縮化の提案がなされているので,それを検討しましょうということではないですか。それ以外には読めないと思いますが。 ○筒井幹事 ですから,先ほど亀井関係官が発言したのは,(1)にも「その際には」という第2パラグラフがあって,その中に一つの例として②の職業別の区分によらない新たな短期消滅時効制度を設けるという提案もあることを指摘していることを紹介したのだと思います。 ○深山幹事 今までの議論を聴いていても,やはり原則的な時効期間の問題の前に短期消滅時効の議論が並んでいることは不適当であると私も思うんです。恐らく短期消滅時効について廃止する考え方というのはかなり多くの人の賛同を得ているところだと思うんですが,そのことと原則的な時効期間を今より少し短くするかどうかということは,必ずしもリンクをしない問題であり,短期消滅時効制度とは切り離した議論として,原則的な時効期間なり起算点を見直すという議論はあるのではないかというふうに私は理解しています。短期消滅時効制度を廃止するということになると,それとあいまってより見直すという方向に働くということはあり得るとしても,本来は独立の議論として,原則的な10年ということがいいのかとか,起算点は今のままでいいのかという議論があるんだと思うんです。やはり,まずは原則を決めて,それから例外があるとしたら,どういう場合にどういう例外を設けるかという論理的な思考をするというのがごくごく自然なことであって,それをあえてこのように逆転させて例外から議論するというところにやはり無理があるんだろうと思います。   先ほど内田先生が,弁護士会こそが改正すべき立法事実があるのか明らかにせよと言ったではないかと指摘されましたが,確かにそういう言い方をあちこちでしているんですけれども,それは議論の取っ掛かりとして,そもそも立法事実があるんですか,見直す必要があるんですかということをまず意識すべきだということの指摘ではあっても,議論の必要性がありそうだとなったときにどういう順番で議論するかはまた次の問題であります。確かに短期消滅時効についてはいろいろな意味で廃止すべきだという考え方は強いですが,そういう意味で時効制度というのを見直すというふうになったときに,ではそこだけを見直せばいいのかというと,いやいや全体についても併せて見直そうということになり,そうなれば,実際に見直しの順序としてはやはり原則から考えていって,原則から漏れてくる例外を考えるという中で,短期消滅時効についても当然見直しないし廃止という流れになっていくのであって,必ずしも議論の取っ掛かりとなる立法事実がそこにあるからといって,検討の順番もそこからしなければならないということにはならないんだろうと,こんなふうに思います。 ○内田委員 ちょっと教えていただきたいのですが,仮に短期消滅時効を現状のまま存置する。つまり,職業別の消滅時効は存置する。そして,商事の消滅時効もそのまま存置するという前提に立って,つまり売掛債権とか請負債権とか,あるいは商事の債権に,全部5年以下のところが適用されるという前提に立った上で,まず10年から議論しましょうということになると,10年の時効が適用されている債権の代表的なものは民事の貸付債権と不当利得の返還債権,これが代表的なものだと思います。その二つの債権について10年の期間を短縮するとか,起算点を動かすというような立法事実はあるのでしょうか。短期のところは一切動かさずに,そちらに手を付けずにまず10年からスタートして改正しようという立法事実があるでしょうか。 ○深山幹事 今私が申し上げたかったのは,内田先生が今前提としたような,短期消滅時効に手を付けないでという前提を採るということではないんです。つまり短期消滅時効制度について手を付けるかどうかを白紙の状態で,まずその原則を考えるべきだと言っているのです。これが変わらない前提で,後に残る10年の時効期間を適用させる場面だけを意識して,そのようなかなり狭いところから議論すべきであるなどと,決してそういう意味で言ったのではなくて,短期消滅時効制度について見直しをするかしないかを白紙の状態で原則から考えるべきだと言ったわけです。ですから,読みようによっては,世の中の債権の大部分がカバーされるような短期消滅時効制度というのは,現行法上,かなりの部分の適用場面のシェアを占めているかもしれませんけれども,それをなくせば全部原則にいくわけですから,どういう場面が原則に対する例外なのかという例外の範囲を先に決めてしまう必要はないし,決めるべきでもない。原則を決めたときにその例外をどの範囲で認めるかというのは,原則を決めた後に考えるべきことであって,時効期間の長さとか起算点が決まらないと,その原則では不適切な場面というのも決まってこないといえます。要するに,全く白紙から議論するという意味で,原則から考えるのが論理的でしょうということを申し上げたのであって,ちょっと議論がすれ違っているかなという気がいたします。 ○中井委員 内田委員がおっしゃったように,弁護士会としては立法事実は何かというのは常に問い掛けて,立法事実がない改正というのは何なんですかと主張しています。仮に短期消滅時効について問題であるという立法事実が現実にあって,それは改正しなければならない,場合によっては廃止しなければならないとなったら,それは真摯に受け止めて,ではどうするんだ,それが時効制度における期間の判断若しくは起算点の判断に影響を及ぼしてくるとすれば,それらについて一般論として考えなければいけない。発端は必要性があって,立法事実があって,時効制度一般原則について考えなければいけない,だから改正しましょうとなるので,深山さんも同じことを言ったんだろうと理解していますけれども,国民に論点を提示する,意見を聴くときに,その立法事実となった問題点から順番に議論するのが分かりやすいのか,それともその立法事実をそしゃくしてどういう問題点があるのかを整理し直して,聴き方の順序を変えて出すのか,ここは正に料理の仕方ですから,必ずしも問題の出発点から順番に問う,この論理必然性はないように思うんですね。能見委員がおっしゃっていただいたのも同じことではないかと,私は自分に都合よく解釈しているのかもしれませんけれども,そう思います。ここは論点を整理した上で問い掛けとしての順序は考えていいのではないかと思っています。 ○鎌田部会長 この論点の整理の仕方としては,どちらの案も成り立つと思います。どちらがより問題の核心を理解していただきやすいかというところの比較でしかないのかもしれません。多分事務当局もこの順番以外は一歩も譲らんぞという姿勢ではないので,どちらがより合理的あるいはどちらがよりパブリックコメントに付すにふさわしい章立てなのかということについては,ここで御意見を頂いて,それを参酌した上で最終的に事務当局でまとめ直すということはあり得るという前提で御発言を整理させていただきます。 ○大村幹事 部会長がおまとめいただいたので,もう発言することもないのですが,今の短期消滅時効から入るのか,それとも原則論から入るのかということについては,今日の席上でも意見が分かれていると思います。私もどちらか意見を言えと言われましたら,原則的なところから入るという考え方も十分成り立つとは思いますけれども,短期消滅時効からというこの案でよいのではないかと考えます。山野目幹事がおっしゃったのと同じ意見です。   ただ,(2)のところが松本委員も御指摘のように,ちょっとこれだけではそっけなくて,それから(1)との関係も分かりにくいだろうという意見は多々出ているところでございますので,この場合は,この(2)のところについては十分な理解ができるように増補していただくということにしまして,(1),(2)の順序については,これは決着が付かないので,事務当局のほうで最終的には御判断いただくということしかないのではないかと思います。 ○鹿野幹事 私も,まず記述の順番については,時効期間の原則論を最初に持ってこないほうがよいと思います。確かに一般的には,原則的なところから記載されて次に例外等が出てきたほうがすっきりと理解できるようにも思われます。しかし,時効期間に関して見ると,この原則的な時効期間を定める規定が適用されるところの債権はいかなるものなのかということがその前提として明らかにされないと,原則的期間を何年にするのが妥当なのかが決まらないと思うからです。   それとも関連してもう一点,(2)の最後の2行に書いてある文章について意見を申し上げたいと思います。時効については特に,いろいろな項目が絡み合ってワンセットというようなところがあります。特に時効期間をどのくらいの長さにするかは,実質的にその期間がどのように確保されるのかに関わってきます。つまり,これは前にも申し上げましたが,起算点とか,あるいは時効障害事由をどのような形で定めるのかによって,その何年という期間の持つ実質的な意味が全く異なり得ると思います。したがって,時効期間をある長さにすることの当否は,このように関連する項目につき検討した上で,そのセットの中で初めて,決まってくるのではないかと思いますし,本来はその上で意見を問うことが適切なのではないかと思います。   そこで,一つの方法としては,時効に総論的な記述を設けて,各項目間の関連性や現在の制度の問題点などに触れ,その後に,具体的なところを書き出すということが考えられます。ただ,全体のスタイルがそうでないとすると,時効についてだけ総論を設けて書くと,突出してしまい,バランスを欠いてよくないのかもしれません。しかし,総論を置くかどうかはともかく,各論点の相互のつながりや,時効全体の中で現行法の問題点がどこにあるのかということが示されないと,いきなり各論から始める場合には,各論のうちどの項目から始めるにせよ,分かりにくさが残るのではないかと思います。   そこでもう一つの方法としては,関係する記載が(2)の最後の2行に一応置かれていますので,これを少し修正して,項目相互の関連がより分かるような書き方をしていただくことが考えられると思います。 ○山野目幹事 部会長が整理されたとおりですから長くは申し上げません。小さな修正意見が一つございます。(1),(2)の順番は今のとおりでよろしいという意見に添えて,(1)の冒頭,「短期消滅制度については」とあるところを「現行の消滅時効制度のうち短期消滅時効制度については」という言葉を補うならば,この議論に入るときの問題提起としていささか自然になるのではないかと感じます。中井委員と深山幹事がおっしゃったことのお心に応えようとするものですが,それでも遠いというお話しかもしれません。そのくらいのことはあったほうがナチュラルであろうと感ずる次第でございます。 ○鎌田部会長 ほかに御意見いかがでしょうか。 ○新谷委員 先ほど山野目幹事から労働債権に関して民法と労働基準法について言及を頂きました。今日は何も申し上げていませんでしたが,第12回の会議のときにこの点について特別法である労働基準法の115条で短期消滅時効については,賃金については2年,退職金については5年という規定があることは承知の上で,労働基準法の適用にならない家事使用人や家内労働者,また,もちろん労務供給については雇用以外の契約もあり,これらの労務の供給の対価について非常に懸念を持っているということを指摘していますので,改めて申し上げておきたいと思います。 ○青山関係官 表現についてなのですが,新谷委員が,初めのほうの発言において,第33の1の(1)の2パラの初めの「その際には,短期消滅時効の対象とされている~」という部分について懸念,御意見があると言われ,それに対して部会長がそれは第1パラで読まれるというお話をされましたが,そのとおりだと思います。1パラで短期消滅時効を廃止するという御提言がされており,2パラは恐らくそれでもなお一部の部分について短期のものを残す必要があるかもしれず,それについての議論をされていると思われますが,今の表現のままであると,2パラの1行目を読むと,現在の短期消滅時効のほとんどあるいは多くを再び今の短期消滅時効制度に戻すような議論をしているように読めてしまうので,例えば「~一定の債権のうち」など,一部の議論であることが分かるような表現に直されると疑義がないかと思いました。非常に技術的な意見ですみません。 ○山本(敬)幹事 これも分かりやすくするためのアイデアという程度なのですが,先ほど,(2)の説明については,もう少し補っていただいたほうがよいのではないかという御提案がありました。それと関連するのですが,(1)についても,もう少し工夫する余地があるようにも思います。といいますのは,表題に「短期消滅時効制度について」とのみあるわけですが,(2)のほうでは「短期消滅時効制度を廃止して時効期間の統一化ないし単純化を図ること」というのが出てくるわけですけれども,(1)についても,「短期消滅時効制度を廃止する方向で」というのは,「時効期間の統一化ないし単純化を図る」ということではないかと思います。こういう言い方をしますと,短期消滅時効制度という制度をどうするかということだけではなくて,時効制度全体について統一化ないし単純化を図るというコンセプトと関わることがより一層はっきりするようにも思います。その意味では,(1)の表現ももう少しだけ補っていただければよいのではないかと思います。 ○筒井幹事 御指摘ありがとうございます。原案がなぜこうなっているかという理由を,ただいまの山本敬三幹事の御発言との関係で説明いたします。前回の部会資料14-2では,短期消滅時効の廃止と時効期間の統一化という議論を比較的ストレートに結びつけて提示していたのですけれども,これに対しては様々な異論もあって,両者の議論を結び付けないほうがよいという意見もあったと思います。それで,今回の部会資料22では,(1)を二つのパラグラフに分けたわけです。その第1パラグラフでは,短期消滅時効制度の廃止の当否を抽象的に取り上げるのではなく,その中でも最も批判が強いと思われる職業別の区分の廃止という問題を取り上げております。この部分について,前回の議論では,必ずしも明示されていなかったかもしれませんが,大方のコンセンサスがあったのではないかと思いました。ですから,その区分は廃止しようという方向のまとめ方をいたしました。   その上で,第2パラグラフでは,先ほど御指摘があったような時効期間の統一化という考え方を①として提示する一方で,職業別の区分は廃止するけれども,現在とは異なる短期の時効制度を設けるという考え方を②として提示しております。このうちの①を採る立場からは,次に(2)で短期化という議論が出てくるという整理をしたわけです。このような整理のほうがコンセンサスを得られやすいのではないかと考えたわけです。 ○山本(敬)幹事 今の御説明,よく分かりました。そうしますと,(2)のほうも「前記(1)参照」というだけでは若干分かりにくいかもしれませんし,そしてまた,御趣旨を踏まえて,第2段落の表現について,より分かりやすい書き方をもう少し考えてもよいのではないかという気がいたします。 ○松本委員 今のところと関係してですが,私も(1)の1パラと2パラ,これ別々のことを言っているわけで,言わば1パラが大前提ですよね。1パラだけを独立させて,それから(2)が来て,ついで期間を短縮するという(2)の提案を採用するかしないかにかかわらず,なお(1)の1パラを採用した場合に例外として残すべき短期の何かがあるのではないか,一般の期間短縮の是非の問題とは別にあるということだと思いますので,(1)の1パラ,それから(2),それから(1)の2パラというのが論理的には分かりやすいのではないかと思います。 ○佐成委員 時間のないところすみません。二点申し上げます。(1)のところですが,短期消滅時効制度を廃止する方向性については全く産業界にも異論はございません。しかし,先ほど山野目幹事,新谷委員が労働基準法115条を挙げられたんですけれども,この論点のところには見直しに伴う実務上の様々な影響に留意しつつと,こう書いてあるので,補足説明のところでそういった個別法の在り方にも影響が及ぶというようなことをもし説明できるのであれば説明していただいたらよろしいのではないかなということを一つ申し上げたいと思います。   それからもう一つは,(3)のウの不法行為等による損害賠償請求権の生命,身体等の侵害に対する長期化の論点でございまして,「~の方向で更に検討してはどうか」ということで,長期化する方向性を打ち出すということだと思います。確かに,生命,身体等の被害者保護の必要性それ自体は,当然認められるといたしましても,他方,証拠の散逸や記憶の曖昧化といった安定性の問題がやはり出てくるということで,産業界の中ではそれを強く懸念する意見があります。何が言いたいかというと,先ほど新谷委員が労災のところを取り上げており,ここについて何かちょっと書いていただきたいというようなことをおっしゃっていたので,バランス上申し上げておきたいのが,もしそういうことであれば労働法の分野での懸念として,例えば30年前のセクハラを持ち出すということが可能になったとすると非常に実務上困るとか,アスベストについては別途個別法があるので,そういった対応も考えられると,そういったような反対意見というのもございます。補足説明のところで結構ですけれども,もし労災のことを取り出して書くのであればバランス上そういったものもちょっと入れておいていただきたいということでございます。 ○岡本委員 何点かございまして,まず総論的なところなんですけれども,この部会資料23につきましては消滅時効の総論のところで行った議論がかなり落とされているのではないかと思っておりまして,一点目としましては,消滅時効の存在意義をそもそもどう考えるのかという論点があったかと思うんです。非常に大きな論点でありますけれども,時効制度の全体をどういうふうに設計するのかというマクロの観点からも,それから細かい制度設計をどうするのかというミクロの観点からも,いずれも時効制度の存在意義をどう考えるのかという点は常に関係してくると思いますし,この点の検討をおろそかにすると,まとまりのない議論になりがちかなというふうに思っておりまして,一応論点として掲げるべき重要なところなのではないかなというふうに思っております。それでもって直接に,直ちにこの点についてこうだというふうな条文に直結するような話ではないのかもしれないですけれども,論点としては重要なのではないかというふうに思っております。   それから,総論の話というわけではないんですけれども,相殺のところで民法508条の時効消滅した債権を自働債権とする相殺についてどうするかという議論をしたときに,消滅時効の検討結果を踏まえて改めて検討するのがよいのではないかというふうな意見が複数あったんだろうと思うんですけれども,一方で時効の検討のときにどうだったかというと,必ずしも十分には検討されていなかったのではないかと思います。この論点につきましては,改正提案があります一方で,私どもとしては相殺の期待の保護の重要性といったところを重視しておるものですから,現行法維持の意見を持っているところでございまして,もしかしたら前の議論のとき,前回の部会で申し上げたらよかったのかもしれないんですけれども,相殺の箇所でもいいですし,時効の箇所でもどちらでもいいので,そういった相殺の期待の保護をどう考えるのかという論点もこの508条の関係ではあるということが分かるようなことにしていただけると有り難いなというふうに考えております。   それから,ちょっと長くなって申し訳ないんですが,原則的な時効期間についてのところなんですが,部会の議論で商事債権について5年を下回るようなことがあると実務が混乱すると,そういった議論があったかと思いますけれども,こういった意見が反映されているのかされていないのかちょっとよく分からないような記載になっているように思われまして,商事については触れないということであればそうなのかなと思いますけれども,その点ちょっとどうなのかなと思いました。   それから,次に時効期間の起算点のところなんですけれども,時効期間の起算点について部会資料では主観的起算点を導入するかどうかについて更に検討してはどうかという書きぶりをしていただいているわけなんですけれども,この点については主観的起算点がいつか分かりにくくなるとか,時効制度の存在意義から主観的起算点を設けることの説明が付くんだろうかとか,そういった意見があったところだと思いまして,そういう複数あった反対意見につきましても積極論,消極論のバランスの観点からいたしまして,反対意見にも留意すべきとか何かそういった記載を加えていただけると有り難いかなと思います。   それからあと,ちょっと戻って不法行為等による損害賠償請求権ですけれども,これに特則を設けるのかという点につきましても,私のほうからですけれども,原則論としては客観的起算点一本とすべきであろうけれども,こういった債権者の知らないうちに時効が完成してしまうようなそういう類型の債権については,主観的起算点を併置する意味もあって,どっちか遅いほうとか,そういうふうな議論をさせていただいたこともあったんですけれども,そういった提案はちょっとどこにいったのかなというふうな気がしているところがあります。   それから,ちょっと長くなって申し訳ないですが,生命,身体等の侵害による損害賠償請求権のところ,ここにつきましては,この身体等の「等」に何を含めるかということであるとか,あるいは被侵害利益とは異なる基準で対象を限定すべきとか,そういった意見があったんだと思うんですけれども,ここの点について方向性まで書き込んでいいのか,疑問があるように思いました。   それから,私ども銀行に非常に関心があるところは預金債権等の特則のところなんですけれども,預金債権等の特則についても例外的な扱いを設けるべきであるとする考え方についても更に検討してはどうかという記載ぶりになっておりまして,方向付けはされていないんだけれども,特則を設けるほうについての考え方だけが示されておりまして,前に部会の議論の際には債権に関する記録の作成,照会に応じるべきことと,弁済の証拠を保存すべきこと,これは異なるといった指摘をさせていただいておりましたし,金融機関が取引結果の開示に応じるべき義務というのは民法の645条から来るというのが判例でございまして,そうだとすると,委任に伴って受任者が債務を負う場合一般について同じような特則を置くんだろうかといった疑問もあるところでございまして,そういった反対意見があることについても併せて消極論,積極論のバランスという観点からお願いできないかというふうに思っております。   それから,今の預金債権等のところの記載ぶりなんですけれども,「債権に関する証拠の作成,保存が債務者に義務付けられていることや」と,そういう記載があるんですけれども,この表現ですと,預金債権の弁済の証拠の作成,保存が金融機関に義務付けられているかのごとく読まれかねない,ミスリードのおそれがあるのではないかというふうに考えております。確かに金融機関は受任者の報告義務に応ずる必要がある限度では記録を作成する,保存する,これは必要になってきますし,あと預金保険法の上でも預金保険機構から資料の提出の求めがあれば提出しなければいけない限度では,預金債権の内容その他の事項についての記録の作成,保存をする,こういった必要はあるんですけれども,弁済の証拠の保存の義務というわけではないので,ここについてはちょっと工夫を頂かないとミスリードになるのではないかと考えております。   時効期間と起算点のところは以上です。 ○山川幹事 14ページの(3)のウですが,さきに新谷委員の言われたことへの追加提案のようなことですけれども,2段落目の「債権一般の原則的な時効期間よりも長期とする特則を設ける方向で」というふうに書く場合は,これを議論したときに申し上げた点ですが,恐らく現在の消滅時効期間を下回るようなことは多分予想されていないであろうと思いますので,現在の消滅時効期間を下回らない範囲においてとか,そういうことを付け加えてはいかがかと思います。   それから,次の最後のところで,「特則の対象範囲や期間について」とありますが,先ほど岡本委員の言われた生命,身体以外をどう考えるかについては恐らくここで更に検討するという形で受けられているのかなと思います。それとは別ですが,これを議論したときに,安全配慮義務違反の場合の消滅時効期間が債権の原則どおり10年ということですが,これも言わば視点に入れて検討してはどうかというようなことを申し上げたかと思います。方向と言えるほど議論は出ていなかったかもしれませんので,このあたりに例えば「また,安全配慮義務違反を理由とする場合にも留意しながら」などとして,安全配慮義務違反の場合も踏まえた議論ということにしていただければと思います。ウの表題自身が不法行為等とありますので,厳密に不法行為には限られていないのではないかと理解しておりました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○松岡委員 先ほどの1の(1)と(2)の関係について私も一言だけ申し上げたいと思います。基本的には先ほど松本委員がおっしゃったのと同じで,(1)の前半と後半は少し違うことを言っているので,分離するほうがいいと思います。すなわち,前半は現在の短期消滅時効制度のような細かい区分が適切でなく単純化を図るべきだと主張しているのですが,完全に単純化して統一するのではなくて,後段では短期消滅時効に掛かるものをなお残すほうがよいという提案でした。それゆえ,(1)を全部合わせて統一ないし単純化を図る趣旨であるとして(2)に引用しているのは,やはり誤解を招くのではないかと思います。   それから,先ほど併せて岡本委員がたくさん御指摘になったうちの一つで,商事債権との関係があります。民事債権が10年で商事債権が5年と異なっていて本当にいいのかという点は,統一化・単純化を図るという方向性の中で出てきた議論ですから,どこかで触れていただくほうがよろしいのではないかと思います。 ○松本委員 14ページの(4),起算点のところの本文の2行目に「比較的短い時効期間の起算点として」という表現があるので,これが一体何を意味しているのかよく分からないんです。つまり不法行為の損害賠償のように3年,20年という二つある場合の短いほうという意味なのか,それとも絶対値的に例えば5年というのは短い,3年というのは短い,10年は長いとかいうそういうイメージで言っておられるのか。もうちょっとクリアにしていただいたほうがよろしいかと思います。 ○筒井幹事 主観的な起算点を導入するという立法提案では,いつまでも時効期間がスタートしないという弊害を避けるために客観的な起算点からの別の物差しを用意することが,おそらく多いのだろうと思います。そうしますと,比較的短いというのは,相対的に短いという意味でよろしいのではないかと思いますが,それと異なる立法提案があるのかないのかは直ちに確認できないので,そういう御指摘があったことを踏まえて検討いたします。 ○松本委員 つまり二つの時効期間が定められているような場合についての短いほうという意味ですね。 ○筒井幹事 そういう意味にまずは理解できると思いますが,それ以外の意味があるかないかは持ち帰って考えたいとお答えしたつもりです。 ○鎌田部会長 1だけで大分時間をちょうだいしてしまいまして,こちらの当初の予定に照らすと2時間近く遅れているんですけれども,非常に重要な御意見をたくさん頂きました。   それで,一つは岡本委員からありましたように,もともとの部会資料にあった総論がこの論点からは落ちていることが全体の見通しを悪くしているという要素があるのかもしれないと思います。ただ,総論で時効制度の在り方というのを問い掛けるとしても,100年以上議論してきても一つの結論に達しない問題ですので,それはひとまず置いておいて,ともかく具体的な制度設計について議論をしていかなければいけないということになったと理解しているのですけれども,ここに上がっている論点がなぜ出てきているのか,相互にどういう関係にあるのかというのは少し説明があったほうがいいのではないかと思います。ただ,この論点整理の中にはそういう一般的な説明のための総論というのを入れていないのが普通ですから,議事概要の中でそういうことがうまく工夫できないかというようなことも少し事務当局で検討してもらう,あるいはこの地の文の中にそういう背景事情が分かるような表現を入れてもらうことで,少しでも相互の関係を理解しやすいものにするということを検討してもらいたいと思います。   中身についての御議論,御意見も幾つも頂きまして,分かりにくさといいますか,こちらで書いてあることが正確に伝わらないおそれがあるという部分の御指摘もたくさん頂きましたので,そこはそれぞれについて適宜修正をしていただくということで,今日の頂いた御意見を踏まえて,章立ても含めて事務当局で再度検討をさせていただきたいと思います。   ということで,休憩をここで取らせていただきます。最初に申し上げたように,本日の予定は全部処理したいとは思っておりますが,なるべく残りを少なくし,かつ,余り遅くならないようにということを休憩後の進行では配慮したいと思います。よろしくお願いします。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開いたします。部会資料23の14ページから16ページまで「2 時効障害事由」について御意見をお伺いいたします。 ○佐成委員 (4)の当事者間の交渉・協議による時効障害についてです。これは修正というよりも補足説明のほうでという趣旨で発言させていただきます。第12回での山本和彦幹事の発言にもありましたとおり,この論点はADR法の立法過程で取り分け精力的に議論されました。私も山本幹事と司法制度改革推進本部に設置されましたADR検討会で御一緒させていただいて,何とか現行民法の枠内でこれを実現したいといろいろ知恵を絞った記憶がございますけれども,結局のところ認証ADR機関を使うという現在の制度に落ち着いたという経緯がございます。なので,私としてもこの方向性自体には全く異論はないんですけれども,そのときの議論等を思い起こしますと,民法を改正すれば直ちにこれが実現できるのかといいますと,必ずしもそうとばかりは言えなくて,前途多難でいろいろハードルがありそうだなと感じております。そこで,補足説明の中にADR法の立法過程でも同様な問題意識の下に,かなり時間を掛けて議論をされたけれども,そのときはもちろん現行法の枠内で,ということでございましたけれども,結局認証ADR機関という形に落ち着いたという程度の説明は加えておいていただけないかなと思います。現在でも当時の議論や資料はインターネットで公開されていますので,今後の議論にも何かの参考になるのではないかと思いますので,御検討いただければということでございます。 ○大島委員 同じく(4)の当事者間の交渉・協議による時効障害についてでございますけれども,当事者間における交渉・協議を新たな時効障害事由とすることについては,第12回の会議におきまして,一見便利そうな制度にも思えるが,交渉や協議の基準がはっきりしなければかえって紛争のもとになるのではないかとの懸念を申し上げたところです。申し上げました懸念の部分については,本文中に反映を頂き,ありがとうございます。ただ,その前段階である当事者間における交渉・協議を新たな時効障害事由とするこのこと自体を私どもは慎重に捉えております。前向きな御意見もございました一方で,ほかの方からも私どもと同様,慎重な意見があったように記憶しております。部会の中である程度のコンセンサスがあるとまでは言えないのではないかと思いますので,ここに書かれている「当事者間における交渉・協議を新たな時効障害事由として位置付ける方向で,更に検討してはどうか」という記載は,「方向で」という部分を削り,「新たな時効障害事由とすることについて,更に検討してはどうか」と記載するなど,コンセンサスのレベルを落としていただけないか御検討をよろしくお願いいたします。 ○岡委員 二つだけ簡単に申し上げます。一点目は今の大島さんと同じでございまして,15ページの(4)については「方向で」というのを取りまして,時効障害とすることの当否についてという表現にしていただきたいという意見が弁護士会では多くございました。   二つ目は17ページの(3)の時効の利益の放棄等のところでございますが,信義則上,時効援用権を「喪失する場合がある」とした判例があることを踏まえというふうにこの判例の射程距離がかなり狭いことが分かるように表現を工夫していただきたいという意見が強くございました。その二点でございます。 ○松本委員 今のお二人の御意見と全く同じで,(4)の「方向で」というここまでのコンセンサスはなかったと思います。取り分け難点が大変大きいのは,いつからというのをどうやって証明するかといいますか,双方が納得する形でいつからというのを決められるのかということでありまして,これから協議,交渉しますということを書面化して,確定日付けを付けるとか公正証書にするとかということであれば一義的に確定しますけれども,一方は交渉しているつもりであるが,他方はそのつもりでなかったというふうに必ずこれは蒸し返されます。ニーズとしては考えられるけれども,実際にルール化するのは大変困難なので,そういうことも踏まえて可能性を更に検討するというのはいいことだと思いますけれども,方向付けまではちょっと行き過ぎだと思います。 ○筒井幹事 交渉・協議による時効障害について3名の方から「方向で」は行き過ぎだという意見がありましたので,それは削ろうと思います。ただ,このようにまとめた理由を一言だけ申し上げておきますと,この立法提案は,複数の研究者のグループから提示されていて,それを実務がどう受け止めたかというと,この部会での議論でも,実務的な観点からも非常に有意義な提案ではないかという積極的な評価が複数あり,懸念として示されたのは主に明確性のことであったと思います。そういたしますと,全く新規の提案であるにもかかわらず,学者グループも実務家も積極的な評価をしているのだから,今後の議論としては,まずは前向きに,新しいものを作る方向で検討してはどうか。その上で,明確性をどうやって確保するかを検討すればよいのではないか。もし明確なものができるとしても,なお反対だという意見があるかといえば,そうではないのではないかというのが,このような整理をした理由です。しかし,懸念のほうが大きくて,そもそも方向感を出すのは適当でないという意見がありましたので,その点は改めようと思います。 ○沖野幹事 二点あります。一点目は簡単なところで,15ページの(2)その他の中断事由の取扱いです。2行目にある,「新たな時効が確定的に進行することとなる事由以外の事由」というのが具体的に何なのだろうか,そのイメージが持てたほうがいいのではないかと思います。そこで,ここに括弧といたしまして,例えばですけれども,「訴えの提起,差押え,仮差押え等」といった,どういうものを定型的に念頭に置けばいいのかというのがこの文で分かるような例示をしてはどうかと思います。   二点目ですけれども,戻りまして14ページの2の(1)です。ここで中断事由の見直しに関しまして上げられている理由は,請求の内容が明確ではないということと,それから処理が複雑で分かりにくいということ,いずれも分かりやすさの問題が理由や考慮点として上げられています。しかし,もともとはこの分かりやすさの問題と時効障害事由自体の硬直性の問題,取り分け現行法の中断事由が中断という非常に効果が大きいものにふさわしいのかという観点からの問題意識と両方があったと思います。硬直性の問題と分かりにくいという二点の問題意識があって,そして,それが現行法の中断事由についての見直しや,更には時効障害事由全体の再編成へとつながっていくということだったと思います。基になった部会資料ではもともと総論でその部分が書かれていたところです。そこがそのうち一部の,分かりにくさだけのところにスポットが当てられた記載になっています。そのために(1)がきれいに対応していないように思います。   そこでなのですが,二つの対応が考えられます。一つは(1)の中で現在の中断事由には中断というのが効果が大き過ぎる事由があるというその問題意識を書き込むというものです。もう一つは,これは(2),(3)にも関わるものですので,総論をやはり立てまして,その上で今の二点,硬直性の問題と,複雑さや分かりにくさの問題とを挙げ,その問題意識から時効障害を再編成するということで検討してはどうかとか,もし再編成自体は異論がないならばもう少し強い「方向で」とか「ものとする」でもいいかもしれません。ただ,その具体的な再編成の内容はどうかというのは(1)以下ということですから,総論だけ「方向で」とか「ものとする」というのは難しいのかもしれませんが,そのような総論を立てるということも考えてよいのではないかと思います。 ○山本(和)幹事 やはり14ページから15ページにかけての(1)のところですけれども,具体的な事由として掲げられているものの内容で,④の民事執行というところです。これは掲げる方向ということなんですが,その方向性を出す場合,この民事執行(執行手続の終了)というのは,やはりやや分かりにくい感じがします。執行手続の終了事由というのはいろいろな事由があって,もちろん取下げとかは含まない,あるいは取消し文書の提出などに基づく取消しなどは含まない趣旨だと思いますけれども,部会では目的を達して終了というような御説明もされたように記憶しますけれども,もう少しこの終了を明確にする必要があるということと,それから,民事執行といった場合に,民事執行に関与する債権者というのはいろいろいると思うのですけれども,そのどれを指しているのか。その申し立て債権者だけを指すのか,あるいは判例では,現在では配当要求については時効中断効は認められると。しかし,担保権者による債権届け出については時効中断効を否定するというのが最高裁の判例だと思いますが,そういったような判例との関係でどの部分までがこの民事執行という概念に含まれるかということは,やはり方向性を出すのであれば少し明確化したほうがいいように思います。 ○中田委員 今の御発言と同じ点でして,内容も今の山本幹事にほぼ尽きております。その前の沖野幹事の御発言との関係もあるんですが,差押えというのが(2)のほうで出てきて,それで(1)のほうはその新しい概念である執行手続の終了というのが出てくるものですから,初めて読むととても分かりにくいということもあると思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○筒井幹事 先ほどの山本和彦幹事,それから中田委員の御発言は,全くそのとおりだと思います。どう書き直すかということなのですけれども,御指摘のような問題意識は私どもも持っていたのですが,まだ議論が深まっておらず,分析ができていない論点ではないかと感じております。執行手続の終了と卒然と書きますと,不正確であることは間違いないのですが,他方で,目的を達成して終了という書き方をすると,恐らく狭過ぎるのだろうと思います。中間にある領域をどのように整理するのかが今後の検討課題であるというのが現在の私どもの認識ですので,そういったことを少し書き込んでおく方向で考えたいと思います。 ○岡本委員 16ページの債務者以外の者に対して訴えての提起等をした旨の債務者への通知のところなんですけれども,確認なんですけれども,この論点の位置付けについて,債務者以外の者に対する訴えの提起等が相対的効力しか生じない場合の論点で,絶対的効力が生じる場合には当然のことながら債務者へ通知したか否かにかかわらず,債務者との関係でも時効障害の効果が生じると,そういう理解でいいのかどうか。仮にそういう理解でいいようであれば,その点の誤解を避けるためにその旨の記載をしておいていただいたほうが分かりやすいのかなと思ったので,ちょっとここの点を確認したいと思います。 ○鎌田部会長 では,また追って。 ○岡本委員 それからあと,時効の効果のほうはもう入っているんでしょうか。 ○鎌田部会長 もう先ほどから御発言がありますので,時効の効果についても御意見をお出しください。 ○岡本委員 時効の効果のところは一点だけです。部会資料16ページだと思うんですけれども,時効の効果につきまして,先ほど申し上げた時効の存在意義をどう考えるかということと密接に関係することだと思うんですけれども,以前部会の議論のときに時効の存在意義につきまして,債務者を弁済の証拠の保存の負担から解放するということに純化して考える考え方からしますと,時効の効果としてそもそも時効消滅ということはやめてしまって,弁済によって消滅したと推定することにとどめるといった考え方もあっていいのではないかということは紹介させていただいているところでございます。相当大胆な提案であるという自覚はございますけれども,時効の存在意義について先ほどのような考え方を徹底した場合,あるいは時効制度は不道徳な制度ではないかという疑問もあるところでございますけれども,そういった疑問を真正面から受け止めるということをした場合には一つあり得る考え方なのではないかと思いますので,できますれば論点として残せないだろうかと考えます。 ○山野目幹事 表現のことのみです。3の(1)の1行目ですが,「消滅時効の効果に関しては,当事者が援用した時」の「時」を平仮名にするということを提案いたします。判例準則は,当事者が援用した「とき」に起算の「時」に遡って債権消滅の効果が生ずるとするものであると考えます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにはよろしいでしょうか。 ○佐成委員 (1)の15ページの「また」以下のところでございます。「時効の中断」という名称については,誤解を生じるためというふうに書いてあって,もちろん「時効の中断」という現在の用語に比べてより適切な用語があれば,そのように改めるということ自体については全く異論はございません。ただ,ここで重要なのは飽くまで新たな時効が進行するということが誤解なく明確になるように規定をしていくということだと思いますので,単に用語を変えれば済むという話ではないので,この記載ぶりでは単に用語を変えればいいというような感じに受け止められないかなと思いました。内部で議論していましたら,少なくとも企業法務では「時効の中断」というのは長年使い慣れているので,意味もはっきり理解しているので誤解するような人はいないと,そのような反応も返ってきておりますので,そういう単なる用語の変更という趣旨ではない,明確化するんだというところをもう少し出して,用語はそのうちの一つというふうなイメージで書いたほうが誤解を受けないのではないかなと思ったので,一応発言させていただきました。 ○中井委員 16ページの3,時効の効果の(1)のところですけれども,二つの考え方を提示していただいて,二つの影響,一つは解釈論との整合性,もう一つは税務会計との整合性を御指摘いただいていますけれども,もう一つ履行拒絶権構成をしたときの問題というのは,履行拒絶権を行使できるのは主債務者に限られるので物上保証人らの保護に欠けその取扱いが複雑になります。こちらの問題があるのではないかと思いますので,その指摘を加えてはいかがかと思います。   もう一点は17ページの(3)時効利益の放棄等のところですけれども,これも実務的に債権者から不当な働き掛けがあって一部弁済がなされる,これは事実そのとおりですけれども,その結果として債務者の利益が害されるおそれがあるというのが問題なので,その債務者の利益が害される点の指摘が加わっていいのではないかと思います。 ○中田委員 先ほどの山野目幹事の御発言と,それからただいまの中井委員の御発言と関連する点です。16ページの3の(1)の時効の援用等についてですが,冒頭に出ている消滅時効の効果に関する判例準則の紹介のところなんですけれども,ここは現行法自体が債務消滅構成を採っているということと,判例が援用を停止条件とすると言っているということと何か両方が交じり合って書かれているような気がして,少し分かりにくいのではないかなと思いました。   それから,履行拒絶権構成については,税務会計その他の実務上の適合性の問題以外にもあるのではないかという中井委員の御発言に私も賛成です。ただ,中井委員のおっしゃった保証人,物上保証人が援用できないのではないかというのは,これは(2)の問題で取り上げられていることとも関係するのかなと思います。むしろ問題なのは,債務が消滅しないと担保も存続したままになってしまうことに伴う問題があるのではないかということかと思います。そのほかに時効完成後も債権が消滅しないという浮動的な状態が永続することの不安定性ですとか,事実上の取り立てを誘発する可能性ですとか,そういう問題も確か指摘されていたと思いますので,それを全部書くかどうかは別にいたしまして,何らかの形で分かるようにしていただければと思います。   最後に,先ほど岡本委員のおっしゃった消滅の推定というのは前の部会でも御主張になっていた非常にユニークな御議論で興味深いと思うのですけれども,ただ,これまでの提案に比べると,やや先端的な御議論かという気もしますので,場合によっては補足説明のほうで取り上げるということもあるかなというふうに思いました。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   それでは,「4 形成権の期間制限」と「5 その他」についても御意見をお伺いいたします。   よろしいですか。   では,次に部会資料23の17ページから18までの「第34 契約各則-共通論点」について御意見をお伺いします。 ○岡委員 18ページの第34の2の強行規定と任意規定の区別の明確化のところですが,条文上明らかにすることができるかどうかと書かれていますが,論理的にはできることはできますので,条文上どの程度明らかにすることができるかという表現のほうがよいのではないかという意見がございました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○大村幹事 今の御指摘の点ですけれども,これは前に確か91条関係のところで同じようなものが出ていたと思いますので,そちらと平仄を合わせて整理をしていただければと思います。 ○佐成委員 すみません,第34の1のところですけれども,冒頭規定の規定方法でございますが,この方向性自体については全く異論ございません。ただ,もう少し丁寧に書いてもいいかなという印象です。これだけを読みますと,現行法の冒頭規定とは全く別の新たな定義規定を一から作り上げるみたいなイメージですけれども,実際の提案を拝見しますと,現行法の表現ぶりを踏まえた穏当なものではないかと思います。確か第16回で山野目幹事も現行法の優れた点を御指摘されていましたので,多分補足説明のほうにはお書きになると思うんですが,若干そういったようなニュアンスが出るようにしていただいたほうがいいのではないかということでございます。 ○鎌田部会長 それでは,部会資料23の18ページ「第35 売買-総則」について御意見をお伺いします。   特にないようでしたら,部会資料23の19ページから23ページまでの「第36 売買-売買の効力(担保責任)」のうち,まず「1 物の瑕疵に関する担保責任」について御意見をお伺いします。 ○新谷委員 19ページの(2)の「瑕疵」の意義についてです。売買に関する規定については民法559条によって,労働契約を含む他の有償契約にも準用されるということになっていますので,第14回の会議においては,瑕疵の定義の仕方次第では,例えば,労働契約締結後に発見された疾病について,隠れた瑕疵と扱われかねず,これは実務上大きな影響を及ぼしかねないということを指摘申し上げました。この点についてこのような論議がなされたということを明確にするという意味で,次の20ページの「(4)代金減額請求権の要否」の後半部分に入れていただいたように,「労働契約等の他の契約類型に準用された場合の不当な影響の有無等に留意しつつ」という記述を(2)の適切な箇所に記載していただけないか御検討をお願いしたいと思います。 ○山本(敬)幹事 同じ(2)の「瑕疵」の意義についてですが,①で,「当該契約において予定された性質を欠いているという要素」と,「その種類の物として通常有すべき品質・性能を欠いているという要素」の「双方を考慮できるものとする方向」で,更に検討してはどうかとまとめられています。これは,どのような立場でも,この二つの「要素」を考慮できるようにするという点では意見は一致しているという理解を前提にしていると考えられますが,それはやはりそう簡単ではないということを指摘しておきたいと思います。  これは,第14回の会議のときにも申し上げたつもりですが,契約責任説によりますと,「瑕疵」の意義は,飽くまでも,その契約において予定された性質を欠いていることであって,契約を離れて,客観的にその種類の物として通常有すべき性質を欠いていることを「瑕疵」ということはできません。もちろん,部会資料の①の2文目にありますように,その上で,その種類の物として通常有すべき性質も,契約内容の解釈・確定において考慮されるというのはそのとおりなのですが,その場合も,そのようにして確定された性質は,飽くまでも「その契約において予定された性質」であるという説明をするのが契約責任説の考え方です。これは「定義」ではなく,「要素」を考慮すると言っているのだから,別に構わないではないかと思われるかもしれませんが,この点は,やはり契約責任説の理解の根幹に関わる部分ですので,そのことがはっきり分かるようにできないものかと思います。少なくとも,この現在のように,この二つの「要素の双方を考慮できるものとする方向」とされますと,契約責任説とは異なる立場が前提にされているかのように,取ろうと思えば取れなくはありませんので,やはり問題が残っているということを指摘しておきたいと思います。 ○潮見幹事 二つあったのですが,一点目は今,山本敬三幹事がおっしゃられたことと同意見です。   もう一点は,20ページから21ページにかけての(6)で,特に21ページの上から5行目のこのパラグラフについてです。そのうちの3行目あたりです。期間内に明確な権利行為の意思表明を求めている判例法理を緩和して,瑕疵の存在の通知で足りるとするかどうかについてとある,その後なのですが,単なる問い合わせと通知の区別が容易でない等の指摘があることに留意しつつというようにありますが,ここでの議論でむしろ重要であり,また多くの発言があったのは,通知ということを問題にした場合に,そもそも瑕疵を知った買主に通知を義務付けること及びその懈怠による失権をもたらすことが問題ではないのかという点であって,こちらを指摘するほうがより重要ではなかろうかと思います。もちろん通知をしないことによる失権という処理の適否については賛否両論があると思いますが,こういう通知を義務付けることとその失権をもたらすことの当否に関する指摘があったということ自体をこの文章の中に組み込んで,一般の方々の意見を聴いたほうが,より適切なのではないかと思います。 ○深山幹事 1の(2)の①瑕疵のところでございます。山本敬三先生の御指摘もごもっともで,それとも関連するんですけれども,そもそもここの①のところでは文章が三つあって,それぞれ最後は検討してはどうかという形で結ばれており,三つのテーマが①の中に含まれております。主観客観双方の要素を考慮できるものとする方向でというところについて,それは契約責任説との関係で,つまり単なる定義の問題というよりは責任の中身と関連するので難しいという御指摘が先程あって,それもそのとおりなんですが,この一番目の検討してはどうかの中身は,正に瑕疵の意義についてなんです。この点について,結論はともかく何らかの内容のコンセンサスを作るということと,三番目の定義のところの関係がよく分かりません。ここでは定義規定を設けるかどうかということが問題提起されていて,これについては設けること自体の当否のような書きぶりでもあって,つまり定義は設けないという選択肢も視野に入れているように読めます。意義と定義と言葉を使い分けているので,その捉え方の切り口が違うのかもしれないんですが,意義のところでは二つの要素をどう考慮するかということはさておき,何らかの意義についてのコンセンサスを作るということを一方で言いながら,しかし,定義は作らないということもあり得るというふうにも三番目のパラグラフでは読めて,中身のことが二番目のパラグラフで問われていて,いずれも確かに関連することではあるんですが,それぞれ検討してはどうかという形で並べられていると,これを何度読んでもこの三者の関係が分かりにくいというふうに私自身は思いましたし,ほかの弁護士からもそういう意見が多数ありました。もう少しここは問い掛けの仕方について工夫をしていただいたほうがよろしいのではないかと思います。 ○筒井幹事 一つ前の潮見幹事の御発言の関係ですが,20ページの「短期期間制限の見直しの要否」のあたりの議論で,通知義務すら設けるべきではないという趣旨の複数の発言があったのは全く御指摘のとおりかと思うのですが,論点をどのように整理するかという点では,通知義務を設けるべきではないという意見は,一定の行為を一定の期間内にすべき義務を課すべきでないという議論ではないか。つまりここで言うと,第1パラグラフのほうに入る議論ではないかと理解して,このように整理したつもりです。そうすると,潮見幹事から御指摘があったことは,第1パラグラフのほうになにか書き足すかどうかということかと思ったのですが,そういう整理でもよろしいでしょうか。 ○潮見幹事 それはお任せします。書きやすいように書いていただけたら結構です。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○鹿野幹事 19ページの(2)の「瑕疵」の意義のところについてですが,先ほど山本敬三幹事と潮見幹事がおっしゃったことについて一言,意見を申し上げたいと思います。   この,「「瑕疵」の意義については」から「更に検討してはどうか。」までの第1文について,特に山本敬三幹事から出された御意見は,より契約責任説的な考え方を表し得るように表現してはどうかというものだったと伺いました。しかし,契約責任説の考え方に立ったとしても,そうでないとしても,瑕疵の有無の判断においては,考慮のされ方に違いはあるにせよ,ここに掲げられた二つの要素,つまり通常有すべき品質・性能と契約で予定された品質・性能という二つの要素は考慮され得るのではないかと思います。瑕疵の意義に関する当該文章とその次の文章が,「その上で」という言葉でつないで書いてあるので,分かりにくいと言えば分かりにくいのですが,第1文で書かれている文章は,契約責任説か法定責任説かという立場を明確にせず,瑕疵の判定において考慮され得る要素を掲げているものと思われます。そして,「その上で」以下の文章で,正に契約責任説の立場におけるこの二つの要素の関係の捉え方を示した上で,そのような考え方の当否について更に検討してはどうかと書かれているのだと思います。つまり,契約責任説によると,いわゆる主観的瑕疵概念が採られ,契約で予定された品質・性能を欠いているか否かが正に瑕疵判定の決め手となるのであって,通常の品質・性能というのは,契約で予定された品質・性能がいかなるものなのかを明らかにする契約の解釈の作業の中で考慮され得る一つの要素にすぎないという関係に立ってくるのだろうと思いますし,「その上で」以下の文章は,そのことを書いているものと思われます。もし,第1文,つまりこの段落の前段まで契約責任説的な書き方にしてしまうと,最初から契約責任説を採る方向性が前面に打ち出されてその是非を問うような格好になり,この文章の意味合いが違ってくるのではないかと思います。ですから結局,基本的にはこの段落の前段はこのままで,むしろ前段と後段で書かれたこの二つの問題を,より明確に分けて書かれるとよいのではないかと思います。 ○村上委員 20ページの(4)代金減額請求権の要否についてですが,請求権の種類が増えて紛争が増える可能性があることや,損害賠償請求権との関係が複雑になるなど,実務に混乱を生じさせるおそれがあり,方向を打ち出せるほどの議論はされなかったと思います。 ○大村幹事 先ほど来話題になっている19ページの(2)の①の文章についてなんですけれども,「その上で」というところの前と後の関係について,この前の部分の冒頭に出てくる「当該契約において予定されていた性質」というのと,それから「その上で」のところで出てくる「当該契約において予定された性質」という二つの表現が同じなのか整理が必要なのではないか私は思います。最初に出てくるのは,当該契約において当事者が意識的に合意していた性質であると私は理解しました。山本さんはまた違う理解かもしれませんけれども。 ○山本(敬)幹事 同じ「瑕疵」の意義についてですが,先ほど申し上げたかったことをもう少しだけふえんしておきたいと思います。鹿野幹事の御理解では,第1文は,契約責任説を採らない立場でも,契約責任説を採る立場でも,共通してこう言えるのではないかというところをまとめたものだという御趣旨だったと思いますが,私が先ほど申し上げたかったのは,第1文は,契約責任説からはこうは言えないということです。つまり,契約責任説からしますと,「当該契約において予定された性質を欠いていると」ことが「瑕疵」の意味であって,飽くまでもそれを前提にした上で,「その上で」以下に続いていくものなのですが,ここで第1文を書いてしまうと,契約責任説とは言えない立場がむしろ採用されているのではないかと誤解されてしまうおそれがあるということが指摘したかったことです。先ほど言いましたように,「要素」を考慮するといっているのだから,別に構わないではないかと思われるかもしれないけれども,やはりここは考え方の根幹に関わる部分ですので,このようなまとめ方では問題が残るのではないかということです。 ○鎌田部会長 ここはほかのところと比べるとずっと学説に厚く配慮していて,従来のスタイルではここの第2段落の3行だけでいいというようにも思うんですけれども。 ○松本委員 当該契約においてという文言が私は二つの要素の両方に掛かっているというふうに読んでいるんですけれども,そうであれば正に契約責任説で矛盾しないと思います。当該契約において予定されていた,これは大村幹事のおっしゃったように明確に合意されていた。他方,明確な合意はないけれども,当該契約において当然この種のものであれば備えているべきものというふうに考えれば,契約責任説と矛盾しないと思います。当該契約と無関係にその種類のものとして通常有すべきという議論はおよそちょっと無意味だと思います。 ○深山幹事 先ほど私が申し上げたかったことの結論として,先ほど部会長が言われたように,要するに「以上の検討結果として」以下の3行のところが結論的に問われているのかなと思います。別の言い方をすると,それより上に書かれている1文目,2文目というところは,いろいろ検討はされるんでしょうけれども,条文化されたときに残るのは,結局定義を設けるか設けないか,設けたときどういう文言になるかという,この「以上の検討の結果として」以下のところなんだろうと思うんです。これだけ書くと余りにも分かりにくいので,多分前段をくっつけたのだろうと思います。ただ,そうだとしても,三つ「検討してはどうか」という並べ方をされて,しかも「その上で」とか「以上の検討の結果として」というふうに三者を関連させた聴き方になっているので,答えにくくなっています。やはりここは,結局のところ瑕疵の定義をするかしないか,するとしたらどう定義するのか,そのときにこういうことを考慮したらどうかというふうに,もうちょっと全体を再構成していただいたほうがよろしいのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 確かにここでどういう考え方を採るかによって,ほかにも影響が出てくることは間違いないんですけれども,何説を採るか自体が中心的論点では多分ない,立法的な課題としては中心的な論点でないので,そこだけに議論が集中しないような配慮をしたほうがいいのかもしれないので,少し検討させていただくということにします。   ほかの点はいかがでしょうか。   よろしければ「2 権利の瑕疵に関する担保責任:共通論点」から「9 当事者の属性や目的物の性質による特則の要否」,つまりこの項の最後まで一括して御意見をお伺いしたいと思います。 ○山本(和)幹事 純粋に言葉遣いだけです。22ページの4ですが,題名が強制競売における担保責任というふうになっているのがちょっと気になります。民事執行法の使う強制競売というのは,強制執行としての不動産執行に限定されていると思うのですが,民法は現在強制競売という言葉でもっと広い概念を含んでいると思うのですが,ただ,現在の使い方からすれば,そして実際には担保不動産競売で問題になるのが大半だというふうに理解しておりますので,単なる競売における担保責任という表現でよろしいのではないかと思います。 ○村上委員 同じく4の強制競売における担保責任のところですが,現在の規律を変えると執行の実務に非常に大きな影響が生じる可能性があります。仮に,物の瑕疵に関する担保責任を認めるとなると,執行手続における大量,迅速処理の要請に反する結果が生じ得るところですし,手続や権利関係の安定性を害することにもなりかねないと思いますので,慎重に検討すべきだと思います。 ○岡委員 2件申し上げます。1件は今の村上さんと同じところでございまして,4の上から4行目の「債権回収や与信取引等の実務」ではなく,ここに競売実務であるとか執行実務であるとか,そういう言葉を入れたほうがいいだろうという意見がございました。   それからもう一つは,23ページの6番の数量超過売買の売主の権利については論点から落としていいのではないかと,そういう意見がございました。 ○潮見幹事 今の岡委員の発言があったもので発言をさせていただきたいのですが,6はやはり議論としてはありましたから,論点としては残しておいて,その上でこんなものは規定として置く必要がないという意見が多数であれば,そういう判断を次の第2クールでやればいいと思います。   ついでながら,6のところのもう単なるワーディングですけれども,上から3行目のところに「錯誤無効等では紛争解決手段として不十分」とありますが,この「紛争解決手段として」というのが若干言葉として気になります。むしろ具体的な問題の処理といいますか,結果においてこれでは不十分だという趣旨での議論ではなかったかと思いますので,ちょっと言葉に工夫をしていただければと思います。 ○中井委員 22ページの4の強制競売に関してですが,先ほど岡委員の意見はそのとおりですが,それに加えて最後の2行で民事執行法に設けるべきであるという意見の前提として,強制競売の担保責任というのは当事者間の合意に根拠を求めることができないという御指摘があったわけですから,それを一言加えておくほうが分かりやすいのではないか。   二点目は,23ページの6の数量超過の場合の売主の権利についてですが,この3行目で「錯誤無効等」となっているわけですけれども,その前提としては,契約解釈による代金増額請求と錯誤無効等の二つが指摘されて,それでは不十分だというときに錯誤無効しか上がっていないのはどうかと思います。   それから,後者の立場から例えばということで一つの対策が提案されているわけですけれども,それは錯誤無効の主張を阻止する権利を与えるという御提案ですけれども,部会では,売主に代金増額請求を認める案,若しくは,超過部分について現物返還ができる案などの議論もあったかと思いますので,検討していただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   それでは,部会資料23の24ページから26ページまでの「第37 売買-売買の効力(担保責任以外)」について一括して御意見をお伺いします。 ○松本委員 24ページ,1の(2)の買主の受領義務ですが,ここでは受領義務を明文化する方向でということで方向性を出しておりますが,その前提として受領という概念で何を考えるのかという論争があったと思いますので,そこをもう少しクリアにしていただかないと,弁済として受領する義務かというと多分そうではないはずなので,そうすると何か受取義務というような言い方を学説上しているケースもありますから,その辺,ここで言う受領が何を意味するのかというのをちょっとどこかで記載していただきたいと思います。 ○深山幹事 今の松本先生と同じ1の(2)の受領義務のところなんですが,御指摘はごもっともだと私も思うんです。少しふえんすると,ここでは売買における買主の受領義務ということですが,もう少し広く言えば,いわゆる債権総論的な意味での受領遅滞をめぐる議論のところとかぶってくる問題だと思います。その受領遅滞自体が一つの大きなテーマでしょうから,そこでの議論と当然関連するということとともに,そこでどういう受領遅滞の効果を認めるかということとは別に,その特則として売買における買主の受領義務という規律を何らか設けるということもあり得ると思うので,その辺を意識した問題提起にしていただいたほうが分かりやすいだろうと思います。   また,実務的に問題になる場面として,不動産売買における登記の引取義務の問題があります。登記を引き取らない場合というのは,そう多くはないんですが,たまにあって,それは固定資産税の問題等もあって,売主は引き取ってもらいたいのに買主が所有権移転登記をいつまでたってもしないというような場合があります。引取義務を認めた下級審判例もございますが,そうした事例を意識すると,買主の受領義務といいますか,登記引取義務を規定したほうがいいかなという気もするんです。しかし,それは不動産登記特有の問題だとすれば,それをもって買主の受領義務に一般化するのもまずいのではないか,思わぬ波及効果が出るのではないかという懸念もございます。少しそのあたりについて,登記の引取義務に関しての特則にするのか,もう少し広げて買主の受領義務の特則にするのか,あるいは受領遅滞の一般論に委ねるのかというあたりの問題点ないし視点を少し表現していただくと検討しやすいのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 26ページの4の(2)について,これは表現だけの問題なのですけれども,「債務不履行解除の要件としての帰責事由を不要とした上で,解除と危険負担との適用範囲が重複する部分について解除権の行使を認める考え方」を採用する場合とあります。これは文字どおり読みますと,解除と危険負担が重なって問題になる場合に,「解除権の行使を認める」と述べているだけで,何を意図しているのか,分からないのではないかと思います。そうではなく,ここで言おうとしているのは,解除と危険負担が重なって問題になる場合には,解除制度に一元化し,従来の危険負担制度は廃止するという考え方だろうと思いますので,少なくともこの「解除権の行使を認める考え方」の部分は,例えば「解除制度に一元化する考え方」というように訂正してはどうかと思います。 ○大村幹事 同じく26ページの5の559条の見直しの要否という項目ですけれども,見直しの要否について検討してはどうかと書いてあるのですけれども,どういう観点から検討するかということが書いていないので,何か一言,二言書き込んでおいたほうがいいのではないかという気がいたします。どういう観点から見直すのか,ここには部会資料のレファレンスがないのでよく分からないところもあるのですけれども,考えられるのは売買の規定というのが有償契約の言わば総則的な位置を占めるということを考え直すかどうかということか,あるいは他の有償契約にどこまで準用されていくのかを明らかにするのか,この二つのどちらかだろうと思いますけれども,何が課題なのかが分かるような形で書き込むほうがよいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 これは部会の場で出された御意見ということですね。したがって,その御意見をこちらで要約し切れなかったということだと思いますけれども,議事録を精査した上で,書ければ書き込むということにしたいと思います。 ○中井委員 26ページの一番上の(2),これは先ほど山本幹事がおっしゃったように,解除一本化を採ったときは解除権の行使の限界という形で検討する必要があると,書かれているわけですけれども,仮に危険負担制度を採ったとすれば,債権者主義の適用範囲という形で問題になって,その切り分け基準としては引渡しになるのか,登記になるのか,代金支払いになるのかという議論に発展していく,そういう問題なんだろうと。それを解除権に一本化したときの解除権の限界とのみ提起することが適当なのかという疑問を持っております。これは解除一本化を前提として書いていますが,その前提でスタートしてよろしいのか,両方の考え方があるから両方でどう考えるのかという書き方がいいのか御検討いただければと思います。   24ページの(2)買主の受領義務についてはもう既に先ほどから議論が出ておりますが,消費者保護委員会からの意見として,現実に受領義務を認めたときの弊害があり得る,例えば不適合なものを消費者が押し付けられる若しくは不適合なものでないにしてもいわゆる押し付け販売が起こる,そういう懸念の表明が出ております。この受領義務を明文化することによる問題,ここはもう少し資料を集めて御提供しなければいけないのかもしれませんけれども,そういう問題があるという指摘を受けております。 ○沖野幹事 二点ございます。一つは24ページの2の(2)代金の支払場所についてです。判例を踏まえて更に検討してはどうかという記載になっていますが,それで,部会資料を確認しましたところ,学説上も異論はないというふうに示されておりまして,特に反対意見もなかったとすると,もう少し強い方向になるのかな。A,B,Cランクの切り分けで言うと,Bランクになるのかなと思ったところです。   それから,二点目は25ページの一番下,「4 その他の新規規定」の(1)で他人の権利の売買と相続という点です。これは気になりましたもので念のため確認させていただきたいという趣旨です。無権代理の場合の規律の提唱としては,検討項目が三点上がっておりまして,無権代理人が本人を相続した場合,本人が無権代理人を相続した場合,それから第三者がそれぞれを相続した場合,その三つの場合をそれぞれ考えることとして,ただ,三つ目の場合については判例自体をどう考えたらいいのかということがありますし,判例のような考え方でいいのかという問題意識があり,むしろそれを否定するために規律を置くべきではないかということも含めて,いずれにせよ,第三者による両方相続の場合が上げられているところです。それに対しまして,他人物売買の場合には第三者相続の場面はもう置かないで,あるいは検討の対象にしないで売主の権利者相続,権利者の売主相続というこの二つだけが上がっています。「場面ごとに」とされていますから,第三者相続の場面もここに含まれていると読むこともできるのですけれども,無権代理人の場合とで書き方が違うのが意図的にそうしてあるということだとすると,それを説明したほうがいいようにも思われます。元の部会資料自体が書き分けていたところではあるのですが,両者でこういう書き分けでいいかということは気になるものですから,確認させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 事務当局から。 ○大畑関係官 この他人の権利の売買と相続の部分で第三者が相続した場合を書いていないのは,部会資料15-2で御紹介しましたこの論点に関する立法提案がそのような内容だったからということだと思います。ただ,ここで第三者が相続した場合を排除して,無権代理の場合と他人の権利の売買の場合を区別するという意図はなくて,その意味で「無権代理と相続の論点との整合性に留意しつつ」ということを書いたつもりです。 ○松本委員 先ほど山本敬三幹事が指摘された26ページの(2)の話ですが,私も読んでいて何か非常に分かりにくいんです。中井委員のおっしゃった二つの場合を両方考えているのかどうか。つまり解除の要件として帰責事由を不要とした場合には解除と危険負担の両方が適用されるんだという立場からいけばどうなんですかというのと,それから,そういう場合はもうどっちか一本なんだ,解除をわざわざ緩和したんだから,危険負担はなくなるんだという立場と,どちらを採るかで以下の文章が当然変わってくるわけです。そこを曖昧にしているから以下の文章も曖昧であって,非常に分かりにくいことになっています。そもそも併存説でいくのか解除一元化でいくのかをきちんと書かない限りはコメントのしようがないという感じになります。しいて言えば,「という形であらわれる」という結びの表現がおかしいので,債務者の帰責事由によることなく履行できなくなったときに,その危険をいずれの当事者が負担するかという問題は,どのような場合に債権者の解除権行使が否定されるかという問題と同じことになってしまうが,それでもなお両者を併存したほうがよいか,それなら一本化したほうがよいかということを検討してくださいという話なのではないですか。ここの趣旨は。 ○鎌田部会長 ここでは,併存させるのか解除を一本化するのかというのは別のところで決めることなので,そこでどっちに決まろうと解除権行使のときには解除権行使の限界の問題が出てきて,それはここでやらなければいけないということ…… ○松本委員 そうであれば,「という形であらわれる」という表現が大変分かりにくいんです。 ○鎌田部会長 私が決めたのではないということで。 ○松本委員 これは大変分かりにくいです。「形であらわれる」というのは,これどう読むかは人の解釈で読み方が幾らでも出てきます。この二つの制度が同じ局面で問題になるということだと私は理解するんですが,そうでないように理解する人もいるかもしれない。 ○鎌田部会長 ここは表現を誤解のないように改めてもらいます。 ○岡委員 24ページの買主の受領義務のところですが,やはり懸念の強いところでございまして,明文化する方向でという表現について,明文化するか否かについてというふうに落とすか,規定を設ける方向でとか,議事録をもう一回見直していただいて,修正していただきたいと思います。この明文化する方向でというと,それ以降にきちんと例外は書いていただいているんですけれども,受領義務が条文化されるのかという強いイメージを抱く弁護士が多くございましたので,少し議事録を調べた上で工夫していただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。  よろしければ部会資料23の26ページから27ページまでの「第38 売買-買戻し,特殊の売買」及び「第39 交換」について一括して御意見をお伺いします。 ○松本委員 第39のような書き方,これは改正しないというのも立法提案があったというふうに整理してパブコメをやるんですか。議論の中身がどうこうではなくて,議論の立て方なんですが,改正すべきでないという立法提案はいっぱいあるんですね,今までの議論を聞いていますと。ただ,それは中間論点整理では議論しないと。積極的な改正提案は幾ら少数意見であっても更に検討しましょうということなので,現在の規定内容を維持するのであれば,改正提案ではないのではないですか。 ○筒井幹事 御指摘は全くそのとおりです。この項目をあえて立てましたのは,典型契約のうち一つだけ項目が立たないというのもふぞろいな感じがしたからです。定義規定の形式に改めるという限りでは論点があるということを紹介しながら,あえて項目として立てたということなので,御指摘は全くそのとおりです。形式を整えるという観点から削ったほうがよいということであれば,それもあり得るとは思っております。 ○鎌田部会長 その定義規定の形式に改めるということも,ここにリファーされているように,第34の1で既にカバーされているとなると,交換は消えてなくなる。 ○野村委員 ただ,今のまま,置いておいてもいいのではないですか。意見がたくさん出てくるとも思いませんが,意見を求められている方は,交換について,こういうように書いてほしいという意見は書けるのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 ほかのところとの体裁を整合的にするという観点も含めて工夫させていただきます。   よろしければ「第40 贈与」についても御意見を伺います。 ○沖野幹事 全く表現だけの問題なんですけれども,29ページの7の(2)の背信行為等を理由とする撤回・解除です。本文ですが,ここには一つには背信行為等を理由とする贈与の撤回・解除と,背信行為等を理由とする贈与の撤回・解除とは別に贈与後における贈与者の事情の変化に基づく贈与の撤回・解除とが書かれています。従来,「背信行為等を理由とする」というときにどういうものが念頭に置かれていたかは,分かる人には分かるのですが,後者も「等」に全部含まれるのではないかという考え方も出てくるような気がします。そこで例えばですけれども,「受贈者の」背信行為等を理由とするというふうにしてはどうでしょうか。そうすると,受贈者側の何らかの行為態様ですとか扶養義務の拒絶なんかも含めて,受贈者側の問題行動等に着目したものが一つでそれに対して片方は贈与者側の事情の変化というふうに対比が立って,より分かりやすくなるように思いますので,見出しはそのままで,本文の記載部分についてですが,御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかによろしいでしょうか。   では,部会資料23の30ページから33ページまでの「第41 消費貸借」について一括して御意見をお伺いします。 ○沖野幹事 資料の記載に関わるものではないのですが,やや気になる点がございまして,この時点で気になるということだけを申し上げ,もし可能ならばむしろもっと後の検討の際に考えさせていただければという趣旨で申し上げます。32ページの4のところです。消費貸借の終了という項目立てのものを基に基本的に期限前弁済の場合の規律が書かれています。それで,改めて資料を見まして,この「消費貸借の終了」という項の下でこの問題を扱うのが適切なのかということが改めて気になりました。部会資料16-2には比較法の資料が数多く出されておりまして大変有益だと思うのですが,その中を見ますと,あえて終了という項目を立てていないものもあります。一方,消費貸借の終了という項を立てているドイツ法ですとか,DCFR,ヨーロッパ共通参照枠草案では契約の解約という形での規律があります。確かに,返済義務と連動しておりますけれども,当座貸越しですとか消費貸借ですとかの契約自体の終了という規律のようです。   そうしますと,消費貸借の終了という項の下で返済及びその期限の規律のみが内容であるときにというのがいいのか,もちろん使用貸借ですとか他の貸借方のものとの平仄はございますが,使用貸借のほうは後で契約の解約権ですとかやはり契約をどうするかという観点からの法律関係の整理がされておりますので,やや概念的なことではあるんですが,この時点で多少気になったものですから,どこか頭の隅に置いておいていただければという趣旨で発言させていただきます。 ○岡本委員 消費貸借につきましては四点申し上げたいと思います。   一点目は,要物性の見直し,30ページのところなんですけれども,消費貸借を諾成契約とした場合の懸念事項としまして,「貸す債務」が観念されることによる実務への影響という非常に抽象的な記載を頂いておるんですけれども,部会の議論では「貸す債務」に係る債権の譲渡とか差押えとか具体的な懸念事項の議論があったのではないかと思います。ある程度具体的に書かないとどんな懸念なのか分からないということもあるのではないかと思われますので,若干分量が増えてしまいますけれども,ここにつきましては,若干分量が増えてでも記載していただいたほうが分かりやすいのではないかと思います。   それから,二点目でございますけれども,31ページの目的物の引渡前の当事者の一方についての破産手続の開始なんですけれども,こちらにつきましては,借主に倒産手続の開始決定があった場合だけでなくて,その前の段階,財産状態が悪化した段階でも貸主が貸す義務を免れる仕組みが用意されるべきである,あるいは双務契約のところでは不安の抗弁権の議論がありましたけれども,それに似たような仕組みというのが認められないかどうか,そういった論点の指摘をさせていただいておりまして,これもできれば反映いただければ有り難いなというふうに思っております。   それから,三点目なんですけれども,32ページの事業者が消費者に融資をした場合の特則でございます。細かいところで恐縮なんですけれども,部会資料のほうでは期限前弁済をするかどうかは,交渉力や情報量の格差とは関係しないという意見があることを踏まえというふうにしていただいている部分につきまして,恐らく私が申し上げたことを入れていただいたところだと思いまして有り難いんですけれども,期限前弁済をするかどうかということではなくて,期限前弁済によって貸主に生じる損害を賠償すべきか否かが交渉力や情報量の格差とは関係しない,こういう趣旨の意見だったものですから,差し支えなければそういうふうにしていただけると有り難いかなと思います。   この点に関して,ついでに申し上げますと,それに加えて約定とは異なる弁済をするんだから,それに伴って貸主に生じた損害については賠償するのはむしろ当然ではないかというふうな意見も申し上げておりまして,可能であれば併せて記載していただけると更に有り難いかなと思います。   最後に四点目なんですけれども,抗弁の接続のところでございます。疑問視する見解ということで割賦販売法との比較で要件を緩和することの合理性を疑問視する意見と,こういうふうな記載を頂いておるんですけれども,割賦販売法との関係もあるんですけれども,そもそも論といたしまして,抗弁の接続を認めるべき要件の設定を民法で厳格に行えるのかどうかというところについて疑問に思っているところがございまして,特に民法という一般法に規定するとなりますと要件が広くなる。それだけ曖昧になって,抗弁の接続の規定の適用範囲が不当に広くなり過ぎるではないか,そういったところの懸念がございまして,前の部会の議論の際にはそのあたりのニュアンスというのは十分伝わっていなかったところがあったのかもしれないんですけれども,疑問視する意見の中にはそういうような観点があるということも加えていただけると,更に有り難いと思います。 ○中井委員 利息に関することです。31ページの「2 利息に関する規律の明確化」に記載のとおり合意がある場合に限って利息の支払義務を負う,このことについてその方向性で検討することには異論がないのですが,この利息とは何ぞやという点について,部会での議論が錯綜したのではないかと思います。つまり元本の利用に対する対価と考えたときには,諾成的契約であったとしても元本が交付されない限り利息は発生しない。弁済期の定めがあったとしても,弁済期前に期限前弁済をすればその時点で利息の発生は止まる。つまり元本を借主が利用している限りにおいて交付を受けて返済するまでの間,利用する対価として払うのが利息というふうに基本的に考えるべきなのではないか。だとすればそれを明確にする条項をここに追加する,また,それが議論になるならそれを問題提起するべきではないかと思っております。   それは関連してくるところとしては,同じ31ページの上の(3)目的物の交付前における消費者借主の解除権で,仮に消費者借主に交付前に解除を認めたときに何らかの損害賠償義務があるのかという観点に絡むと思っているんですけれども,ここでは消費者借主の解除権については損害賠償義務がないということを前提にしているのだとすれば,そのことを明らかにした上での問い掛けにするべきだろうと思います。   また,32ページの「4 消費貸借の終了」の(1)期限前弁済のところですけれども,期限前弁済も当初の約束に反して前に返すわけですから,何らかの損害が発生するかもしれないけれども,それは部会のときの議論でもあったと思いますけれども,弁済を受けたときから本来の期限までの間に発生するであろう利息全部ではないし,それとイコールではない。現実に貸主側に発生した損害があるとすれば,それは約束に反したことによって生じたという限りにおいて賠償する義務があるのかもしれませんけれども,返済を受けた金員で貸主が改めて他のものに貸付等をして何らかの利息収受があるとすれば,それは損害から減額されるべきだろうという理解をしておりますので,それら損害との関係でもその理解を確認する意味でも,先ほどの利息というものは元本利用の対価であって,それは交付を受けたときから,そして返済するときまでの間に発生するものをさしているんだということを明らかにすることは意義があるのではないかと思っております。 ○筒井幹事 ただ今の中井委員からの御指摘のうち,利息の定義という問題については,以前の部会資料で申しますと19-1,19-2でしょうか,債権の目的を取り上げているところで,利息の定義という関連論点を掲げていましたので,それを引き継ぐ形で,次回の部会資料24で論点整理のたたき台をお示しすることを考えておりますので,その際にもまた御確認いただき,御意見を頂ければと思います。 ○高須幹事 31ページの(3)ですね,消費者借主の解除権のところでございますが,基本的には議論の中心は消費者と事業者の場合というような特則を設けるかどうかということではあるとは思いますが,ここでは議論を余り限定しないためには,必ずしも消費者だけに限るのかどうかというようなところも含めて議論すべきではないかと思います。零細中小事業者のような場合も含めてどうかというようなことも少し考えるべきではないかと。それは私の思い付きという意味ではなくて,15回の会議のときの議事録を見ましても,松本先生のほうから営業的金銭消費貸借契約という利息制限法上の概念,こういったものも有用ではないかという御指摘も頂いておりますので,議論を消費者に限るような誤解を受けるような表現はもう少し検討の余地があるのではないかと思います。   同じことが32ページの4のところの終了のところの(2)にも出てまいりますが,ここもやはり借主が消費者であるときにという形で限定をしておりますので,消費者等とかそんな形で何らかの工夫をして,今後の議論をより活発にというか,パブリックコメントでもいろいろな活発な意見が出るような形にできればよいのではないかと思います。 ○深山幹事 4の(1)の期限前弁済について,損害賠償をしなければならないことを明文化するという点について,そのこと自体はそのとおりなんですが,問題はやはりここでいう損害の内容であり,何をもって損害とするのかという中身の議論がやはり大事なんだと思います。この点は以前もそういう議論をしており,期限前弁済があったときの賠償の範囲の問題です。先ほど中井先生の御指摘のあった利息のところも,利息の規律としては元本が交付されてから返還されるまで発生するということでよろしいと私も考えているんですけれども,そう考えた場合の延長線上の議論として,利息が発生しなかったことをもって損害というふうに言ってしまうと,利息は発生しないけれども,利息相当損害金が発生するという話になって,すぐに返したときに長期間の利息相当額全額を払うことになってしまい,それでいいのかという問題が実務的には非常に大きい問題です。一般的な実務の状況にも留意しつつという指摘はそういうことを意識しているんでしょうけれども,もう少しその辺を具体的に書いていただいたほうが問題点がはっきりするだろうと思います。   また,先ほど岡本さんが発言されたことに関連して一,二点申し上げます。1の(1)の要物性の関係で実務への影響について,譲渡とか差押えに関する具体的な懸念を記載したほうが分かりやすいというのは全く私も同感です。他方,その後におっしゃった1の(4)の破産手続開始のところに関して,破産手続開始に至らなくてももう少し前段階についても同じような規律を入れることを視野に入れたらどうかという指摘については,これはむしろ私は反対です。お金を借りる人というのはお金がないから借りるわけで,そのような規律は弱者に対して厳しいものであり,お金を借りたい人に対してかなりのハードルになってしまうので,この点については慎重な検討が必要だろうと思います。 ○松本委員 今の御議論とも関係するんですが,消費貸借について要物性を見直して諾成契約にするという立法提案があると。その立法提案をしている人の趣旨は,ここに書かれているような「貸す債務」,それから括弧して「借りる債務」と書いてあるので,ここが何の意味なのかと。「貸す債務」があり,かつ「借りる債務」があるという意味での諾成契約という趣旨の立法提案なのか。もしそうであれば,借りないということは債務不履行だから,そうすると借りる義務違反による損害賠償は何かといったら,貸していれば利息相当額を取れたという今の深山幹事の御意見どおりになるわけなんですね。そこまで立法提案者は考えて提案されているのか,それとも前のラウンドで議論した限りではどうも「貸す債務」だけは認めると。借り手側が貸せと言えば,貸し手側は貸さなければならないけれども,借りる側は別に現実に借りなければ利息を払わなくていいし,それ以外も何も払わなくていいという非常に片面的な形の諾成契約を考えられているのかなと思われなくもないような御議論もあったので,そういたしますと,この(1)における要物性の見直しというところで,どこまでの諾成契約を考えるのかということの検討をしないと,あとの論点の部分が,みんなそこがどっちかによって変わってくるということになると思います。 ○川嶋関係官 すみません,(1)に「貸す債務(借りる債務)」とあるのは,誤記です。「貸す債務(借りる権利)」と書いたつもりでした。貸す債務を譲渡するというような言い方はしないでしょうから,括弧内に同義の言い換えを記載して,借りる権利を譲渡するというような言い方ができるようにしたつもりだったわけです。ですので,松本委員がおっしゃったところまで意図するものではなかったのですが……。 ○松本委員 そうしますと,ニュアンスとしては片面的な,つまり借り手側は権利のみを持つと。借りるか借りないかは自分が自由に決められるんだと。貸す側は借り手の要求があれば必ず貸さなければならないという立法がありましたよね,既に。 ○川嶋関係官 コミットメントラインですか。 ○松本委員 そのコミットメントライン契約に近いようなものを民法の消費貸借の一般ルールとして定めようという提案がこの要物性の見直しということなんですね。そうであればそこをはっきり書いていただいたほうがコメントはしやすくなると思います。そうであれば借りなかったから損害賠償だなんていう話は出てこないです。議論する必要はない。 ○内田委員 今,関係官からも説明がありましたけれども,私の記憶では議論の中で借りる債務が発生する場合もあると,これは岡本委員からだったと思いますが,実際貸すために調達にコストが掛かっていることがあるので,そういう債務が発生する場合もあるという御発言があったように思います。ですから,諾成と言っても合意がなされた段階でどういう拘束力が発生するかというのは場合によるのだと思います。いろいろな場合がある。ですから一定の場合に一定の規範意識が存在するというのは,契約の趣旨によって様々な場合があるわけで,それを踏まえた上で諾成契約化をするかどうかについて更に検討するというのがここでの趣旨だと思います。 ○松本委員 ということであれば,その「諾成」ということにもいろいろな意味があるんだということが少し明らかになるように書かれたほうがよろしいかと思います。今のような厳格な要物契約はやめましょうと。諾成契約にしましょうと言っても,借りる義務まであるような意味での,そして損害賠償義務が発生するような意味での諾成契約という考えもあるし,そうでない片面的な考えもあるし,それは当事者間で自由に定めることができるようにしましょうという考え方もあるし,そういうかなり幅のある立法提案としての要物性の見直しという考えがここで存在するという指摘がされているので,それについて御意見くださいと,こういうことですか。そうであれば,それが分かるようにお書きになったほうがいいと思います。 ○鎌田部会長 ただ,典型契約だとデフォルトがどっちなのかが決まらないとまずいような気もします。借りる債務が発生するのが原則形なのか,しないのが原則形なのか分かりませんという典型契約はちょっとまずいので,どっちが基本形かというのは本来はあったほうがいいんだろうけれども,そこまでは詰めた議論はまだここではされていないということですね,これまでの提案の段階では。 ○松本委員 私は別にどの説を採れということを言っているのではなくて,そのあたりをもう少しきちっと書いたほうがよいと思っています。要物性を緩和しようという提案があるけれども中身は詰まっていないから,御意見くださいという意味の整理もあり得ると思いますし,こういう方向の諾成契約にしましょうという提案がある,これについて御意見くださいでもいいと思うんですが。 ○内田委員 この資料にどこまで書き込むかということなのですが,これは初回にも議論があったかと思いますけれども,部会資料の該当部分が引用され,そして,議事の概況については審議の中身を要約したものが添付されている。今回も要物性の見直しについてはかなり詳細な概況が添付されているわけですが,それに加えてここのゴシックの中で初めて読む人がここだけで理解できるように全て書き込むとなると,かなりの分量を要しますので…… ○松本委員 いや,かなりの分量は要りません。数行で終わります。今言っただけの話ですから,それ以上の深遠な議論は要らないと思うんです。 ○内田委員 そういういろいろな考え方があり得ると…… ○松本委員 いや,いろいろな考えではなくて二つですよ。 ○鎌田部会長 それはここだけではなくて,みんなにそれが出てくる可能性もあるから…… ○松本委員 いやいや,そうではなくて,それほど大規模なことは私,何も言っていません。これを読んだだけだと何を意味しているのかが分からないから,後の利息の扱い等の論点ごとに余分な,過重な議論が発生してくるのではないかという危惧なので,そういう点は1の(1)のところでもう少しクリアにして,この部会では立法提案をもとに議論しているはずなんだから,立法提案をしている人は一体どういう趣旨なのかを明らかにすればそれでいいわけです。他方でそうでないという説もあるなら,それがあると書けばいいわけだから。 ○鎌田部会長 多分これまでの立法提案では「貸す債務」を観念するというところまでは提案されているので,この括弧内の「借りる債務」は逆にここでの議論を踏まえて括弧書きを付け加えたことによって分かりにくくなった。「借りる債務」を削除しておいたほうが一般に議論されている内容との距離がないので,そこを書き足すより,「借りる債務」を削除したほうが分かりやすいのかなという気もしますので,その両側から検討させてもらうと。 ○松本委員 デフォルトとして「貸す債務」が合意によって発生するという提案があると。他方で,それに対して借りる債務はどうなのかという懸念が出ていて,それも認めるべきだという考え方や認めるべきでないという考え方があるということですね。分かりました。 ○中井委員 関連すると思いますので,31ページの(3)のところで先ほど一言利息の関係で申し上げて,その後,高須幹事からも発言があったわけですけれども,目的物の交付前であれば解除できる,ここは消費者の場合には解除できるとなっています。先ほどの私の問題提起は,当然損害賠償義務なくして解除できるという理解をしているわけですが,その点が明確でないので明確にしてほしいということでした。今の松本委員との関連で言うならば,若しくは高須幹事の意見との関連で言うなら,消費者以外の事業者が借主の場合であっても諾成的消費貸借契約を認めたときに金銭交付前であれば借主側からの解除を常に認めるという見解もあり得ると思います。そのとき消費者であれば損害賠償義務は負わないけれども,事業者であれば事業者としてしかるべき行為をしたにもかかわらず借りなかったんだとすれば一定の手数料的な損害賠償義務というのもあり得るのかもしれません。そのような整理に今の議論は関連してくるのではないかと思います。 ○高須幹事 すみません,議論を複雑にしてしまうようで申し訳ないのですが,一つ前の議論で,今の部会長と松本先生との間のお話のことなんですが,先ほど来30ページのところの「貸す債務(借りる債務)」については関係官から「貸す債務(借りる権利)」の誤記でしたという御指摘を頂いております。その借りる権利という言葉を会議の席で使ったのは私でございますので,借りる債務が誤記で,これを消すということは私,全く異存ないんですが,併せて一緒に借りる権利もどこかへいっちゃったということになるとちょっと寂しいものですから,借りる権利という言葉を残すかどうかについては,しっかり意味の違いを理解していただいて,もし残してもいいということであれば,引き続き使っていただければと思います。 ○岡本委員 31ページの(3)のところですね。先ほどはこの借主は消費貸借を解除することができるとするかどうかについて,更に検討してはどうかとしか書いていないので,特に何も申し上げなかったんですけれども,中井委員のほうから解除できるとした場合の損害賠償義務の存否についてお話がありましたので,補足しておきたいと思うんですけれども,中井委員のほうは損害賠償義務がないということを前提にという理解だというふうなお話がありましたけれども,むしろ私のほうとしては逆でございまして,事業者か消費者かを問わず,もともと借りると約束しておきながら借りなかったといった場合に,貸主の側には貸すための金銭であれば金銭を準備するためのコスト,こういったものが生じた場合にはこれを賠償していただく必要があると思いますので,その点については反対の意見もあったと。もし賠償義務について書くとすれば,反対の意見もあったという形が分かるような形で併せて書いていただきたいと思います。 ○松本委員 今おっしゃったようなことがあるから私は1の(1)で明確にすべきだということを先ほどからるる主張しているわけであって,1の(1)で民法の任意規定のデフォルトが単に「貸す債務」,借りる権利のみを発生させる諾成契約ということであれば,実際に借りないこと,実際に受け取らないことは債務不履行でも何でもないわけだから,損害賠償の問題は起こってこないわけですよね。解除というのは結局借りる権利の放棄にすぎないわけだから,やはり損害賠償の問題は起こってこないわけで,議論する必要がないわけです。そうであれば,(3)は要らないわけです。ただ,借りる債務もあるんだという立場に立てば(3)の議論は必要になってくるという構造だと思います。 ○岡委員 先ほど中井さんが言った31ページの2番の利息のところですが,元本交付があって初めて利息が生じるというところ,かなり弁護士会としてはセンシティブになっているところでございます。別途書くという場合にはそのクロスレファレンスをここに書いていただくほかにも,この支払義務を「負う」という表現が何かもうすぐに発生しそうな感じがする印象もありますので,利息の支払義務が「発生する」とか,表現をもう一度見直していただければと思います。 ○松本委員 今の点も私が1の(1)で明確にしてくれと言ったこと,正にそのことなんです。1の(1)で借りる債務はないんだということであれば,当然借りてもいないのに利息は発生しないというのは当たり前だからわざわざ書く必要はないという話になるわけです。借りる債務があるという立場に立って,実際に金銭の交付を受けるのを拒否しているような場合に利息はどうなるんですかという議論が初めて問題になるわけです。 ○鎌田部会長 それは利息なのか利息相当損害金,事業主体によるリスク相当損害金なのかどちらもある。 ○中田委員 借りる債務という表現について,実質的には岡本委員からそういった御発言があったということは記憶していますが,これ第15回の会議なんですけれども,私も気になりましたので事前に検索してみましたが,借りる債務という言葉自体は使われていないようです。そのような言葉を使うよりも,むしろ実質的なところについて各項目で検討すれば足りるのではないかと思います。逆に,借りる債務という不明確な言葉を冒頭に入れますと,かえって混乱を招くのではないか。返す債務については議論があったわけですけれども,そこは区別したほうがいいのではないかと思います。 ○松本委員 では,表現を変えて金銭の交付を受けないことが債務不履行になるのか。 ○中田委員 ですから,それぞれの項目で検討すれば足りるので,抽象的に最初のところで出してしまうと,かえって議論が混乱するのではないかと思います。 ○松本委員 いや,逆に,私は最初に出していなかったから議論が混乱したんだと思うので,各論レベルにおける議論の混乱を避けるためには,最初の定義のところではっきりしておけば,もう混乱はないんだと思います。 ○鎌田部会長 これは,実質的な議論を第2クールでやっていただく以外にないので,ここで決めることは難しいと思います。これ以上は語れないのが現在行われている議論ですというのが実際だと思います。 ○松本委員 先ほどから具体的立法提案があるから議論しているわけですが,具体的立法提案もそこの部分は曖昧にするという立法提案だということであれば,それならそれで仕方ないですが。 ○鎌田部会長 そう明言してはいません。ただし,おっしゃるように(3)に解除というのが出てくるというのは,何も債務を負わないんだったら解除の必要はないということで,何らかの関係が生じていることは前提になっているんだと思いますけれども,それを借りる債務というふうな形で,明確な形で提示できるかというと,そこまできちんと固まった議論にはなっていないんだと思います。   よろしいですか。ほかに消費貸借について。 ○中田委員 抗弁の接続について一点あります。32ページの一番下の行から33ページにかけて,「割賦販売法との比較で要件を緩和することの合理性」という記述がありますが,抗弁の接続についての規定を置くことが直ちに割販法との比較で要件を緩和することになるというわけでもないのではないかと思いますので,ここは少し表現を工夫したほうがいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ここは先ほど御指摘いただいた点も併せて検討させていただきます。 ○中井委員 抗弁の接続のところですけれども,ここの割賦販売法との比較で要件を緩和することの合理性というあたりの趣旨が分かりにくいと思います。一定の要件をどう定めるのかというのが更に今後の検討課題だろうとは思いますが,それは民法レベルで定めること,つまり割賦販売法で定める抗弁の接続では不十分といいますか,その基本的な考え方として一般法たる民法で定める意義があり,特定の領域について割賦販売法で更に規定されているという位置付けではないか。そうだとすると,ここの記載としては割賦販売法で定める抗弁の接続では不十分であり,その前提となる考え方を一般法たる民法で明らかにすべきとするような見解について,プラス・マイナスの意見の対比になるのではないかと理解しています。そのような記載にならないか御検討いただきたいと思います。   その上の4の(2)の事業者が消費者に融資した場合の特則で,交渉力,情報量の格差は関係しないという消極意見もあるんですけれども,逆にこのような考え方を積極的に肯定する意見としては,消費者に対して資金需要のない不必要な借入れを,しかも利息の負担まで課して継続させる合理性や必要性がないと強く言われていると思います。つまり不必要な貸付けを長期化させることになるわけで,それは決して好ましい話ではないはずで,そういう積極的な意見を一言入れて,他方で,いや,それは交渉力や情報量の格差とは関係ないでしょうという消極意見があるというように,ここも対比をしていただければと思います。 ○奈須野関係官 今の中井委員が触れられた「抗弁の接続」ですが,部会での議論では,先ほど中田委員がおっしゃられたとおり,「抗弁の接続」の考え方を民法的に記載するということであれば,これが直ちに割賦販売法との抵触関係を生じさせるものではないという議論と,もう一つ,マンスリー・クリア方式等,割賦販売法が対応していない類型もあるので,そういうところにも抗弁の接続を拡張し,むしろ民法が割賦販売法の制約を乗り越えていくべきだというような,二つの議論があったと思われます。ここの記述ぶりだと,後者だけを念頭に置いているようにも見えますが,そうだとすると,この部会で実質的に割賦販売法を改正する内容を決めるのは適切ではないということを私が申し上げて反対した経緯もあったかと思います。こうした部会の議論を反映するには,まずはこういった「抗弁の接続」の基本原則を民法に位置付けるべきか否かというレベルの議論をして,第2段階として,仮にこれを民法に位置付けることとした場合に,その範囲や効果をどう捉えていくかという,二つに分けたほうがよろしいかと思います。 ○油布関係官 31ページの利息に関する規律の明確化のところですけれども,多分冒頭にこれは,「現行民法では無利息が原則となっているが」というのが抜けているので,ここだけを読むと予備知識のない人はほとんど分からないのではないかという気がいたします。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   6時を過ぎてしまったんですけれども,まだ大量に,大量にというのは項目は少ないんですけれども,賃貸借は非常に大きな中身になりますので,ちょっと例外的ですけれども,一つ飛ばして使用貸借だけ御意見を伺うということはよろしいですか。申し訳ありません。部会資料23の39ページ,40ページの「第41 使用貸借」について一括して御意見をお伺いします。 ○中田委員 表現だけの問題なんですけれども,39ページの第41の3のところですが,二つのパラグラフがあって,それぞれ末尾が「これを踏まえ,これらの考え方について」となっておりますが,その「これ」と「これら」というのがちょっと分かりにくいので,表現を工夫していただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   ほかに使用貸借に御意見がないようでしたら,本日の審議はこの程度にせざるを得ないかなと思います。本日予定していた議事のうち,賃貸借に関する部分が丸々積み残しとなってしまいましたが,これは次回の会議で引き続き御審議いただくこととさせていただきます。 ○亀井関係官 先ほど部会資料16ページの(5)イに関して,多数当事者間における請求の絶対効の論点とどのような関係にあるのかという御質問を岡本委員から頂いておきながら,お答えしていなかったのですが,この提案は検討委員会試案の提案です。そこでは保証人や物上保証人に対して訴えを提起した場合に,主債務者に対して時効が完成してしまうことを中断するためだけに主債務者に対して訴えを提起するのは手続的に面倒なので,主債務者に対して通知をすれば主債務者に対しても時効の中断効が生じるという旨提案だと思いますので,多数当事者間における請求の絶対効の議論とはまた別の議論だと思います。 ○岡本委員 例えば保証人が連帯保証人だった場合,この場合は現行法でいくと絶対効が生じるんだと思うんですけれども,そうすると,債務者に通知しなくてもいいということになると思うんですが,そこの理解はそれでよろしいわけですか。 ○亀井関係官 それはまた別の議論だと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○岡本委員 はい。 ○鎌田部会長 それでは,最後に次回の議事日程等について,事務当局に説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 次回の議事日程について御連絡いたします。次回会議は2月22日火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省20階第1会議室です。   次回の検討範囲ですけれども,本日積み残しとなりました賃貸借から始めていただきまして,次回分の新たな部会資料としては,請負や委任などの役務提供型の契約から始めまして最後まで,部会資料の番号で言いますと,部会資料17から20までで取り上げた範囲を対象として,「たたき台」を準備しようと考えております。   それから,幾つか連絡事項があります。   まず,3月の会議日程について御連絡をいたします。従前から,3月は8日と22日を正規の会議日として,3月29日を予備日とするという御案内を差し上げておりましたが,諸般の事情により,このうち3月22日は開催せず,予備日である3月29日のほうを正規の会議日とさせていただこうと思います。したがいまして,3月の会議日は,まず8日,次に29日ということになります。具体的な進行としては,3月8日に「たたき台」の(1)と(2)の改訂版の審議をしていただき,次いで3月29日には「たたき台」の(3)と(4)の改訂版の審議をしていただくとともに,最終的にこの部会として「中間的な論点整理」の決定をしていただくところまでいきたいと考えております。よろしくお願いいたします。   次に,4月以降の日程に関することですが,パブリックコメントの手続の日程や,この部会の今後の会議日程,会議の進め方などについては,「たたき台」の審議が一巡した後に,順次御相談をさせていただこうと考えており,現時点では未定であります。ただ,本年4月以降も,この部会の開催曜日は原則として火曜日で固定したいと考えております。引き続き,火曜日の日程確保に御協力をお願いいたします。   また,これも4月以降の会議に関することですけれども,4月にパブリックコメントの手続を始めました後,4月ないし5月ごろの会議では,関係者,関係団体からのヒアリングを行ってはどうかと考えております。これは12月の会議で中井委員から御提案があったことでもあります。具体的には,この会議の場に参考人という形で御参加いただいて,意見を述べていただき,質疑応答をしていただく形をイメージしておりますが,ほかのやり方があるかもしれません。このヒアリングにつきまして,そろそろ具体的な進め方を決める必要がありますので,これに関する総論的な意見や,具体的に誰のヒアリングをするかといった各論的な意見などを,是非事務当局にお伝えいただきたいと思います。様々な御要望などを調整させていただいた上で,後日,部会にお諮りしたいと考えております。御協力をどうぞよろしくお願いいたします。 ○松本委員 パブコメの期間は何か月ぐらいを予定されていますか。 ○筒井幹事 今申し上げたとおり,一巡目の「たたき台」の審議が終わって,一応全体の分量等を見た上で,日程をお諮りしようと考えています。 ○松本委員 いやいや,そういう意味ではなくてパブリックコメントの期間,一般国民から意見を求める期間は3か月ぐらい置かれるのか,1週間ぐらいなのか,そこの話です。 ○筒井幹事 そのことを一巡目が終わった後でお諮りしようと思っております。 ○松本委員 まだ決まっていないんですか。 ○筒井幹事 はい。期間の長さについては,いろいろ御意見も頂いておりますので,それを踏まえて御提案しようと考えております。 ○鎌田部会長 今回のパブリックコメントは正に中間的な論点整理で実質的な中身そのものについて意見照会をするのではないということも考慮に入れて,その一方で,次の実質的審議に向けての準備をする事務当局のマンパワーもここにいるのが全てでございますので,その両者の調整の中で,どれぐらいの期間パブリックコメントをやって,それを更に整理して,そして実質審議に入るというスケジュール,それから,パブリックコメントする側の事情も考慮しなければいけませんので,その辺のところを総合的に勘案して決めさせていただきたいと思っています。   次回予定されている議題の中にはいわゆる編別問題その他なかなかまとめ方の難しい項目も多数含まれており,かつ本日の積み残しもあるということで,次回は6時に終えるには相当ハードな状況になると思っておりますけれども,次回の審議予定が先送りになるとパブコメの開始も遅れる可能性が高くなりますので,何とぞ次回の審議につきましても進行に御協力いただきたいと思います。と同時に,余り異論が出ないように上手にまとめていただくように事務当局にはお願いをするということでよろしくお願いします。   本日の審議は,これで終了させていただきます。時間が大分過ぎてしまいましたけれども,御熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。 -了-