法制審議会民法(債権関係)部会           第25回会議 議事録 第1 日 時  平成23年3月8日(火)自 午後1時00分                     至 午後5時34分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○鎌田部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第25回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   では,配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いします。 ○筒井幹事 事前送付資料として,部会資料25をお届けいたしました。これは中間的な論点整理のたたき台(1)と(2)を改訂したものです。1月に開催された2回の会議での御議論をできる限り反映させるように努めたつもりでありますが,必ずしもここに反映されていない御意見については,従来から説明しておりますように,補足説明における議事の概況等において紹介しようと考えております。よろしくお願いいたします。   また,次回会議の資料の見通しについても先に御説明いたします。今回は,たたき台(1)(2)の改訂版という形でお届けいたしましたが,次回,3月29日につきましては,中間的な論点整理(案)という形で,全体をまとめて資料をお届けしようと考えております。これは,実質的にはたたき台(3)(4)の改訂版であるとともに,(1)(2)については本日の議論を反映させた再改訂版ということになります。前半の(1)(2)と,後半の(3)(4)とで形式的には取扱いが違うことになりますけれども,2月に開催された会議の際のたたき台(3)(4)につきましては,1月に開催された2回の会議の議論を踏まえて,資料の作成方針を調整しながら御提供しておりますので,実質的にはこのような取扱いで前半と後半のバランスを取ることが十分できているのではないかと考えております。しかし,行き届いていない部分については適宜,御指摘を頂きたいと考えております。   次に,委員等提供資料ですが,日本司法書士会連合会の「司法書士からみた民法(債権関係)改正に関する意見書」を机上に配布させていただいております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,本日の審議に入ります。   本日の進行予定としましては,休憩前に部会資料25の「第10 保証債務」までを御審議いただき,その後,部会資料25の残りをすべて御審議いただくことを予定しておりますので,よろしく御協力のほどをお願いいたします。   まず,部会資料25の1ページから3ページまでの「第1 履行請求権等」について御意見をお伺いいたします。 ○潮見幹事 一つは,言葉だけの問題ですが,2ページ目の4の(1)です。これは前もそうだったので,そのときに言うべきだったのですが,下から3行目に「不完全な債務の履行」と書いているところを,「債務の不完全な履行」としていただければと思います。不完全債務という話もありますので,よろしくお願いします。   それと,書き方について,どうしてこうしたのかという体裁についてのお尋ねなのですが,次の第2のところもそうなのですが,第1の「履行請求権等」の3の「履行請求権の限界」のあたりで,こうこう,こういう意見やこういう意見があったとあり,4(1)も,こうこう意見があった,(2)も検討すべきであるという意見があったということを踏まえてと,それから,5ページ目の(2)の「債務者の責めに帰すべき事由」のところでも,これこれの指摘があった,提示された,というまとめ方がされています。   ほかの箇所をずっと通読したところ,大抵のところは,こういう指摘があるとか,指摘がされているというような形でまとめていただいているのですが,債務不履行の部分に関しては,意見があった,指摘があったというような形での体裁でまとめられているところが多いように感じました。意見があったということになったら,法制審のこの部会でこういう意見が出されたというようなニュアンスをかもし出すので,できましたら,この部会以外の状況も踏まえたという趣旨で,もう少し一般的,客観的にというか,ほかの箇所の叙述のスタイルと合わせたほうがいいのではないかと思います。 ○筒井幹事 御指摘をありがとうございます。特に「意見」という言葉と「指摘」という言葉を明確に使い分けたということではないので,今の御指摘を踏まえて全体を見直してみようとは思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   では,次に「第2 債務不履行による損害賠償」についての御意見をお伺いします。 ○山本(敬)幹事 損害賠償の6ページの3「損害賠償の範囲」の「(3)予見の対象」について,少しだけ修正をお願いできればと思います。  4行目あたりから「予見の対象の考え方によっては損害賠償の範囲の問題と損害額の算定の問題との区別が不明確になり得る点に留意する必要がある旨の意見があった」とされています。これは,前回の資料では「損害賠償の範囲の問題と損害額の算定の問題との関係に留意しつつ」とされていたのを,もう少し内容が分かるようにふえんされたところです。このようにふえんしていただくことは,非常に結構なことだと思います。  ただ,この意見は,恐らく第3回会議のときの私の発言に対応しているのだと思いますが,少し趣旨が異なります。と言いますのは,私が申し上げたかったのは,損害のどのレベルで捉えるか,つまり,より具体的に捉えるか,より抽象的に捉えるかによって,賠償範囲を確定した上で,次にその損害額を算定するという作業をする必要が出てくる場合もあるけれども,そうではなくて,賠償範囲の確定と同時に損害額も確定する場合もある。つまり,賠償範囲の確定によって賠償額の算定に関するルールを適用する必要がなくなる場合もあるし,賠償額の算定の問題として議論されている問題のうち,一部は賠償範囲の確定の問題に吸収される可能性もある。そういうことを指摘したかったということです。   その意味で,「両者の区別が不明確になり得る」というよりは,「予見の対象の捉え方によって,損害賠償の範囲と損害額の算定のいずれが問題になるかが左右される可能性があることも踏まえて議論すべきである」というほうが正確ですので,この部分もそのように修正をしていただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,その点,もう少し正確に反映できるような表現を検討させていただきます。   ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 5ページの「(2)「債務者の責めに帰すべき事由」の意味・規定の在り方」の2行目から3行目にかけて,過失責任主義の説明がございます。その括弧内のところで「人の行動の自由を保障するため」うんぬんとなっておりますけれども,これは過失責任主義自体の説明としてはやや狭いのではないかと思います。過失責任主義の沿革あるいは根拠付けというのはほかにも幾つかあるかと思います。したがいまして,ここは「人の行動の自由を保障するため」というのを取るか,あるいは残すとすれば,「故意・過失がない場合には責任を負わないとする考え方」というのを先に出し,それに続けて,「この原則の下で人の行動の自由が保障される」というようにしたほうがより正確ではないかと思います。 ○鎌田部会長 そこは少し事務局のほうで工夫をさせてください。 ○内田委員 定義を私は別に入れなくてもいいのでないかと思ったのですが,しかし,分かりやすく書くようにと強い御要望が前回の審議であったので,あえてこういう定義が入っています。取るという余地もありますでしょうか。 ○中田委員 私はなくてもいいかなとは思います。 ○鎌田部会長 括弧書き全体を取るということも含めて,事務当局で検討させてください。 ○中井委員 「過失相殺」の7ページ,「要件」の第2段,「債務不履行による損害賠償責任の帰責根拠に関する議論との関連性に留意しつつ」とのみ記載されていますけれども,債務不履行に基づく損害賠償と不法行為に基づく損害賠償で過失相殺に関する議論が関係しているわけですので,この後ろに「及び不法行為における民法722条2項に関する議論との関連性に留意しつつ」というのも加えてはどうかと思います。   それから,定義の問題にも関わって,入れるのがいいのか,入れないほうがいいのかという問題でもあるんですが,その上の「債権者の損害軽減義務の発想」という言葉遣いです。当日の部会でも「義務」と記載されていることに起因して意見が分かれた,また,懸念の表明も多くあったのではないかと思います。法的な債務不履行と同視できるような義務として観念する場面もありますし,そうではなくて広い概念,もっと広いことを想定して表現されているという理解もあったかと思います。   そこで,そういう限定された義務より幅広い概念として,ここでは「発想」という言葉が使われていると思いますので,その趣旨といいますか,それがもう少し分かるように記載できないものかと思っております。例えば,債権者が債務不履行の発生,損害の発生又は損害の拡大を防ぐために,合理的な処理を採ったかどうかというようなことではないかと思いますので,そのようなことを括弧書きなりで記載したほうが,議論が錯綜せずに済むのではないかと思います。 ○内田委員 損害軽減義務の捉え方については,いろいろな議論があると思います。一般的にはオプリーゲンハイトとして理解されていると思います。つまり,義務を法的に強制することはできないけれども,損害賠償額の算定において考慮されるというような義務として考えられていると思いますけれども,それで完全に一致しているわけでもないように思います。したがって,詳しく説明を書き込もうとすると,かなり厄介な問題であるように思います。更に書くかどうかは部会の御判断に委ねたいと思いますけれども,そういう問題点はあるように思います。 ○中井委員 そういう御指摘,反論があるのだろうなと想像はしながらも,例えば債権者側の事情,内田委員がおっしゃった強制できる,できないというレベルでの義務にとどまらず,債権者側に起因する事情,不法行為の場合で言えば,体質などもその事情なのかもしれませんし,ここでは全くパラレルにはなりませんが,広く捉える考え方もあるだろう。それは結論を議論していることになるのかもしれないので,定義に入れるのは適切でないのかもしれないんですが,それであっても単に損害軽減義務とだけあることによる分かりにくさを何とか解消できないものかという趣旨です。御検討を賜ればと思います。 ○潮見幹事 今の直前の話について申し上げますと,私も内田委員の考え方と同意見でして,損害軽減義務の発想について,その意味,内容を書けと言われたら,それほど簡単に書けるものではありません。学説もいろいろ分かれておりますし,更にそれにどういうふうな効果を与えるのかということ自体についてもいろいろな見解がありますので,余りそういうところは,こういうところで書くべきではないと個人的には思っているところです。ただ,中井委員が後のほうでおっしゃられたことについては分かるところもございまして,そうであれば,「損害賠償責任の減額事由として,どのようなものを考慮するのが適切か」というような言い回しも併せて示すことで,損害軽減義務の発想とともに検討してはどうかという形で聴けば,中井委員がおっしゃられた意図というものは,実現されるのではないかと思います。   あと,先ほど中田委員がおっしゃられた過失責任主義という言葉だけを残すということについては,確か前に私がこれを残すとかえっていろいろな意味が盛り込まれるので,むしろ,道垣内幹事だったと思いますが,過失責任主義という言葉自体をここに上げるのが果たして適切かというような御意見もあったかと思います,過失責任主義という言葉だけを残すのはよくないのではないかというのが,私の意見です。   それと,もう一つ,中田委員が前の整理のときにおっしゃられたことが,ここの整理で一つ落ちているのではないかという部分がありまして発言をさせてください。この前の中田委員の発言の中で,ここの問題というのは大きく分けると三つあって,一つは「債務不履行による損害賠償責任の帰責根拠を契約の拘束力に求めることが妥当か」という,ここに書かれていること,それから,もう一つはワーディングの問題としての責めに帰すべき事由という言葉を使うことの適否ということですが,更に,その間にあるものとして,帰責根拠を契約の拘束力に求めたときに,損害賠償責任からの免責の枠組みをどのように捉えていけばよいのかという御発言もあったと思います。   これは非常に重要な意味を持つ発言だと私は思っているところでして,できれば2段落目の「以上の議論を踏まえ,債務不履行による損害賠償責任の帰責根拠を契約の拘束力に求めることが妥当か」の次のあたりに,また,帰責根拠を契約の拘束力に求めたときに,損害賠償責任からの免責の処理はどのようにされるのが適切かという点について問うていただきたい。以下はこれでいいかと思いますけれども,こうこうというような形でまとめていただければ有り難いなと思って発言をいたしました。 ○中井委員 ただいま潮見幹事がおっしゃっていただいた損害軽減義務のところで,少なくとも減額事由としてどのような事情を考慮すべきなのかというような観点からの表現が入るのであれば,それはそれで御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   それでは,部会資料25の8ページから13ページまでの「第3 契約の解除」について御意見をお伺いします。 ○中井委員 「債務不履行解除の要件としての不履行態様」,1の部分の①のウですけれども,「重大な不履行」等の不履行の程度によるという考え方と債務の分類によるとする考え方の二つを挙げています。部会の審議のときでもそうだったのではないかと思いますが,この二つを挙げるのなら,この不履行の程度と債務の質の両方を加味して評価するという考え方があるはずですし,現にあるのだろうと思いますので,その考え方を含めて記載したほうがよろしいのではないか。   二点目は,5の「複数契約の解除」の部分ですが,「複数の法律行為の無効……との整合性に留意しつつ」となっておりますけれども,複数の契約関係について解除するか,無効にするか,更にもう一つ共通の考え方に基づくものとして抗弁権の接続もあろうかと思いますので,整合性に留意するとすれば,抗弁権の接続についても記載することを,御検討いただければと思います。 ○内田委員 中井先生の今の御指摘の前半の部分なのですが,債務不履行解除について不履行の程度によるものとする考え方と,債務の分類によるものとする考え方があるというのを挙げているわけですけれども,例えば債務の分類によると,これは判例の言い回し,レトリックですけれども,判例は付随義務違反の場合でも要素たる債務の不履行になることがあり,その結果,契約の目的が達成できなければ解除できるという言い方をしている。つまり,債務の種類だけでもって結論がストレートに出るわけではなくて,種類に応じて解除をもたらす不履行の要件というのがやはり加重されたり,あるいは軽くなったりということがあるのだと思います。   それから,不履行の程度による場合,例えば重大な不履行という要件も,売買契約で目的物を渡さなければ当然に重大な不履行だけれども,付随的な義務の場合には何らかの付加的な要因が加わることによって重大になるということで,当然,債務の種類による判断というものも加わっている。したがって,どちらの切り口でいくかだけの話であって,行われている判断のプロセスそのものにそれほど大きな違いがあるわけではないように思います。ところが,ただ今の御指摘のように両方を勘案するというものを入れてしまうと,最初の二つの立場がやや極端に色分けされてしまうことになるのではないかという懸念を感じます。 ○松本委員 今の点に関してですけれども,これを以前の部会で議論したときに道垣内幹事が重大な不履行の「重大な」ということの意味が曖昧だ,「すごい不履行」とか何かそういうふうな表現でおっしゃったのがいまだに記憶に残っていて,不履行の程度ということの意味がちょっと多義的なのではないかと思うんです。今,おっしゃったような目的物を引き渡さないというのは大変重大なことで,契約の目的を達成できないということですから,解除が認められて当然だということなんでしょうが,催告をする,しないという別のステップがありますよね。催告をして,それで履行がなされれば不履行による解除は認めないわけだから,ある時点で目的物を引き渡さないということは大変大きな不履行だけれども,別に履行期が遅れても構わないという意味では重大ではないという評価になるのかもしれない。   ここで言う「程度」というのが不履行の質というのか何というのか,契約の目的達成との関係で大変大きなウエートを占めているタイプの債務なのか,そうではなくて,重過失とかいう場合の過失の程度が甚だしいとか,違反の程度が甚だしいと,きちんと履行しろと言っているのになお履行しないというのが程度の問題だということなのか,そのあたりが曖昧だと思うんです,不履行の程度という言い方だと。それが催告解除か,無催告解除かという問題とも恐らく連動してくると思うんですが。 ○道垣内幹事 解除の方式に結びつけて議論をされた松本委員のおっしゃるところは誠にもっともなんですが,少しその点をおきまして,この部分だけに着目して考えてみましたとき,内田委員がおっしゃったことは全くそのとおりであり,完全に賛成なのですが,しかし,この資料の文章のままですと,また審議会外で,「重大な」というのは量的な概念なのかという議論を何か巻き起こすような気がするのです。「重大な不履行」というのは,ファンダメンタル・ブリーチ・オブ・コントラクトだとか,マテリアル・ブリーチ・オブ・コントラクトといった用語の翻訳から始まった概念だと仮に仮定するならば,そもそも「本質的な不履行」と翻訳してもよかったわけでして,そうするとこれは不履行の程度でないことは明らかだと思います。   このことを表すのに,「重大な」という程度のような雰囲気のある言葉を使って議論をするという方法と,債務の分類によるかのような言葉を使って議論する方向とがあるというのはもちろんそのとおりなんですが,ここに「不履行の程度によるものとする考え方」という言葉を入れると,重大な不履行というのは不履行の大きいときという程度の問題であるという議論になり,再び混乱を起こすのではないかという気がいたします。   したがって,最終的にどう修文するかということに対して,私にクリアな見解があるわけではございませんけれども,上記の判例法理の趣旨を明文化する場合の具体的な要件に関しては,「重大な不履行」という言葉の後に「本質的な不履行」という言葉を併記したり,あるいは「契約の目的を達成できない」といった言葉を付加したりしたほうがよいと思いますし,「程度」というのは,不履行の内容に着目することであり,それに対して,「要素たる債務の不履行」というのは,債務をまず分類して,それの不履行という形で考えていくという,同じことをいうのに二つの方向からのアプローチ,あるいは,用語の使用法があるという形で整理をすべきだろうと思います。 ○中井委員 関連ですけれども,ウで程度と債務の種類と二つの書き分けをして,次,エのところで不履行の程度という前者を選択した場合となって,その後,三つの案が書いているんですね。このウとエの関係も分かりにくい。内田委員のような御説明だとすると,エが前者だけの関係で出てくる話ではなくて,後者を選択したって出てくる話でないとおかしいのではないかと思います。   私もウのところで二つの分け方自体なぜこうなるのか,程度の問題もあれば質の問題もあるけれども,結局,それを全部評価して,そこは規範的な評価になるんでしょうけれども,解除できる解除できないという区分けになって,その中の位置付けとして程度の問題,債務の種類,質の問題が出てくるわけでしょう。最初から二つに分けてボールを投げること自体に何か違和感があり,実は第三の道が結論的には正しいのではないかという意味で,第三の道になったときにエの問題も不履行の程度によるものとした場合のみならず,債務の種類によるとした場合だって,それが軽微なのか,契約の目的を達成しないのかどうか,こう連関していくのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 多分,債務の質とか内容と不履行の態様とを総合的に判断するんでしょうけれども,要件化するときに債務不履行の内容というか,債務不履行の重要さの側で要件立てをしていって,債務的にはどういうものが重大,軽微となるかというふうなことは,その要件の解釈問題になると,こういうふうなやり方と,付随的債務と,要素たる債務あるいは本質的債務というふうな債務で分類して,どちらに違反したかによって債務不履行になるかどうかを決めるというものがありうる。考えている内容は中井委員のおっしゃるようなことなんだけれども,それを要件化するときに債務不履行の重要さに着目して整理していくのか,債務の分類・性質に応じて要件化していくのかという,その二つの整理の仕方があり得るというのが,①のウで書いてあることなんだろうと思うんです。そして,債務不履行の重要さに着目して整理しようとするとエに書いてあるように,ここでもいろいろな表現の仕方,これも重大さの側から見ていくのとそうでないのと見ていく側と,両方が出てくるというふうなことになるのではないかと理解しているところです。 ○松本委員 しょせん,これは判例法理の趣旨を明文化するということだから,ゴールは一緒であって,もし違った結論になるとすれば明文化できていないわけなのです。そういう場合に言葉的整理としてどっちから見るのが適切でしょうかという整理でそのとおりだと思います。どちらからの整理であっても同じなんだと。ただ,ここで不履行の程度という「程度」という言葉が入ることによって非常に議論を混乱させると,実際,混乱しています。   つまり,不履行の程度というのが主観的態様であるかのように読めてしまうわけです。だから,期日を守らないぐらいなら大したことはない,まだ軽微なんだと,一回催告して履行しない場合に重大なんだと,いや一回の催告ぐらいではまだ重大ではないんだ,五回催告をして初めて重大なんだと,そういう議論になりかねないわけですから,不履行の程度という表現はやめて,まだ不履行の内容とかのほうが,結論は同じだけれども,視点の違いを言うだけであればよいのではないかと。程度という言葉は使わないほうがいいと思います。 ○潮見幹事 中身に入ってきた議論がもう一度出てきているので,そういう方向からの発言,整理の仕方も含めて発言させていただいてよろしいでしょうか。   前からの議論でずっと若干気になってきたところがありましたのは,9ページのイ以下のところなのですが,先ほどもちょっと御発言があったところですが,判例が付随義務違反の場合に,こういう解除の枠組みを立てているところ,それをどのような形で明文化していこうかという観点で,ここの議論はずっと流れているのですよね。もちろん,こういう整理というのもありかとは思いますが,ただ,従来というか,この間,ここで議論していたのは,催告を要件としなくても契約を解除することができる場合がありますが,それはどういう場合でしょうかということが問われるべきではないでしょうか。   そこでは,先ほど部会長が発言されたように,あるいは直前に松本委員がおっしゃられたように,不履行の内容に着目をして,これこれ,こういう場合には催告は要件とならず,しかし,解除は認めてやりましょうという角度から,あるいは,そうではなくて,債務の分類という言葉とかが出てきておりますけれども,違反された債務の種類に注目をして,催告がなくても解除を認める場合があっていいという形で,問題としては捉えられるべきだと思うんです。重大な不履行を理由とする解除という形で議論していたものの根幹には,今,申し上げたような発想があったと思います。   そうなりますと,無催告解除については,部会長の直前発言ではないけれども,不履行の内容とか,あるいは債務の分類ということから,催告を要件とせずに解除を認めるという考え方について,更に検討してはどうかというのがまずあって,その後で,そうしたらその場合にどのような要件のもとで解除を認めていったらいいのか,それぞれの要件の内容はどう在るべきかということを更に検討してはどうかという話が次に続いてくるのではないかと思います。   そうなりますと,資料ではイ,ウ,エ,オとありますが,これは果たして①の「催告解除」の枠の中で書くべき事柄なのでしょうか。むしろ,①の「催告解除」のところにはアだけがあれば足りるのではないでしょうか。イからオまでは,②の催告を要件としない解除という枠組みをどのように立てるかということに関する問題ではないでしょうか。そのことが見えにくくなっているのは,イのような書き方をするからではないでしょうか。   前回は,気にならなかったのですが,今日のような大阪弁護士会からの御意見があるようであれば,明確にイを出発点にせずに,無催告解除のところで,催告を要件としない解除の枠組みはどうあるべきか,こういう指摘がある,こういう指摘がある,これらの考え方を踏まえて更に検討してはどうかという聴き方をして,次にその要件の具体性,明確性というものが実務に与える影響に留意して具体的要件,規定ぶりを更に検討してはどうかと聴くというのでよいのではないかと思います。 ○道垣内幹事 今の潮見幹事のご発言は,アのところに書いてありますように,催告後,相当期間が経過することで無催告解除を正当化するのと同等の不履行の重大性が基礎付けられるということが恐らく前提になっているのではないかと思うのですが,そこ自体については部会ではかなり議論があって,催告をして履行をしないというときにも,なお,解除は認められないで,損害賠償だけしか認められない場合というのがあるのではないかという意見があったと思います。したがって,部会の現在のコンセンサスが取れた状況を書くということとして,イからオの話を②のところに全部持っていくということは,私個人として反対であるばかりか,今までの整理としては正しくないのだろうと思います。   ただ,他方で潮見幹事がおっしゃったような見解が一定程度,有力であるということも確かであるところ,イからオまでを催告解除の中に当然のように入れておくというのも,ある種,別の方向の一方に加担してしまっているのかもしれないという気がいたします。そうなると整理が大変難しくなりまして,どうするのかというのは,ちょっと私は急には言えなくて困ってしまうのですけれども,差し当たって潮見幹事に反対するために発言をしたというのが趣旨でございます。 ○山本(敬)幹事 方向としては,潮見幹事が言われた方向に私も親近感を持ちます。今の道垣内幹事の御発言はあるのですが,イの判例は,催告解除が問題となっているケースもあるのだとは思いますけれども,やはり付随的義務違反についてはそもそも解除は認められない。解除が認められるのは,重大な不履行や契約目的の不達成をもたらす場合に限られるということでして,催告解除が例外的に認められるということでは必ずしもないと思います。それが①のイに挙がっているというのが,整理としては問題がある。その意味では,潮見幹事が言われたことも,もっともではないかと思いました。   仮にイを踏まえて後を構成するとしても,②に入れるか,あるいは別立てにするか,考える必要があるわけですけれども,更に問題になるのは,①の中のオをどう書くかということです。というのは,オのところでは,「ウエにおける解除を否定する要件の主張立証責任に関しては,債務者の抗弁と位置付けるべきであるという意見があった」とされていますが,これは,イで,判例がこの場合に「解除の効力を否定していることを踏まえて,この判例法理の趣旨を明文化する」ことが前提になっているはずです。そうしますと,どのような債務不履行があったかということは,請求原因レベルで明らかになりますので,それが付随的義務の違反であることはそこで示されます。ということは,判例によりますと,そのような義務違反があるだけでは,契約を解除できませんので,請求原因レベルで,更にそれが重大な不履行を来す,あるいは契約目的を達することができないということが示されませんと,そもそも解除できないことになるはずです。したがって,オで,これを抗弁に位置付けるという考え方は,イの判例法理の趣旨を明文化するという方向とは相入れない,ある意味では矛盾していると言わざるを得ません。   仮にそうだとしますと,エで,「具体的な要件の規定ぶりに関して」,「例えば」として,「軽微な不履行」,「重大な契約不履行でないこと」,「契約目的を達成することができること」などの案が示されていますが,いずれも,これらを抗弁に位置付けることが前提になった表現になっています。これは,いずれにしてもオで,賛否両論があると書かれているところですので,問題だと思います。少なくとも,ここはニュートラルな表現にすべきですが,今も言いましたように,イで判例法理を明文化するとしていることと表側を合わせるならば,むしろ逆に,「重大な不履行」,「重大な契約不履行であること」,「契約目的を達成することができないこと」という書き方になっていくのではないかと思います。もしそうだとしますと,潮見幹事が先ほどおっしゃられたようなまとめ方をしていくのがむしろ自然ではないかと思った次第です。 ○松本委員 重大な不履行という概念を立てる考え方の前提には,日本の現行民法における催告解除を原則として,無催告解除を例外とするという一応の整理のやり方を変えようと,無催告解除が原則で催告解除は付加的なものだという考え方が背後にあると思うんです。それはそれで一つの立法論的学説として検討に値するわけですが,ここで現行の民法についてどういう点を改正すべきかという論点の並べ方からいくとすれば,やはり催告解除についての問題点をまず指摘すべきだろうというのが部会としての従前のまとめで,順序はこうしましょうということに確かなったと思うのです。そうしますと,やはり催告解除の枠内において現行判例を客観的に反映する文言としてはどういう表現が適切かという議論をまずした上で,それから,無催告解除の議論をするという順で,問題ないと思うんですが,先に無催告解除をやると,やはり議論をそちらに誘導していると思わせることになります。 ○内田委員 この資料は,ある一定の立法論を前提に,体系的に論点を整理したというものではなくて,既に出されている改正の論点を取り上げ,それについての部会の議論をできるだけ反映するように書き込むという方針で作られていますので,全体として体系的に整合性が取れているかどうかということを第一義に作られているわけではありません。そして,飽くまで現行法の改正の論議なので,まず現行法の条文からスタートするということで,まず541条関連,これは催告解除の規定なのでそれに関連する議論をまとめた。その後,無催告についての542条,履行不能に関する543条の論点をまとめた。しかし,それぞれの中に入っている論点が最終的に現行法を組み替えて改正法を作ったときに,体系的にどういう位置付けになるかというのは,これはまた別の問題で,論点整理の後の段階の問題だと思います。   現に部会ではいろいろな意見が出て,○○するものとしてはどうか,というような方向あるいは内容が固まるところまではいかなかったわけですので,お互いに抵触する,あるいは矛盾する意見が出ているというのが現状なのだと思います。それをなるべく忠実に反映するように資料を作っているということですので,この資料そのものが体系的にうまく作られているというようなことは全くありません。先ほどの重大な不履行について,この中身に入るとまた実質の議論になってしまいますけれども,これについて不履行の程度というのを性質とか内容に変えるというのは,何ら私は問題があるとは思いませんけれども,そうやって表現を変えて,取りあえず何が論点となっているか,何を更に検討するかということが分かる資料が作られれば,当面はいいのではないかと思います。今,出ている御議論を反映しようとすると,この論点整理の次の段階に進む必要があるように思えますが,それは事務当局が勝手にやっていいことではないだろうと思います。ですから,今,出された御意見をそのまま反映させるというのはなかなか難しいように思います。 ○鎌田部会長 この部分は,どういう順番で記述していくのがいいかということを含めて,前回,この点について議論したときに相当長時間掛けて議論した結果,こういう形の整理の仕方に落ち着きましたので,基本的にはこの枠組みを前提にして,御指摘を頂いたような難点を少しでも解消するような形での工夫を事務当局のほうでさせていただくということで,お許しいただければと思いますが,よろしいでしょうか。 ○松本委員 「重大な不履行等の不履行の程度」という表現が具体的な立法提案に基づくものであれば,立法提案をしている人が重大な不履行というのは不履行の程度の問題であると認識されていて,それ以外の何物でもないんだということであれば,勝手に内容を変えてしまうと具体的立法提案の中身を変えてしまっているということになりますから,それは多分,越権だと思うんですが,重大な不履行という概念を提案されている方が不履行の程度という表現を使っておられないのであれば,より適切な表現に変えたほうが議論が混乱しなくていいと思います。不履行の程度というのが立法提案だとすれば混乱する議論をしてくださいという御提案だから,混乱してもやむを得ないかと思いますが。 ○鎌田部会長 そこは立法提案の内容に照らしながら整理をさせていただきますが,立法提案をしている側でも「程度」というような概念に重きを置いた提言をしているわけではないと理解しています。 ○高須幹事 大変本質的な議論の後に細かなことで大変申し訳ないのですが,ちょうど今の箇所の続きのところです。9ページ「① 催告解除」のオのところの書きぶりだけのことでございますが,議論を抽象的にとどめて書いていただいているのですが,要はここは催告をしても解除できない場合の要件があるということを議論しましょう,それについては抗弁に回るという意見がありましたねというくだりの議論をしたときの記述なのだと思います。   それはそれでよろしいのですが,事業者間の契約か否かで区別するという考え方がある。事業者間については抗弁でいいけれども,事業者間以外の契約ではむしろ請求原因のレベルで例えば重大な不履行とか,そういうことを立証すべきではないかということについて,どう考えるかというのが恐らくオの趣旨なんだろうと思いますが,その議論に関しましては,これまでの議論を振り返ってみますと,第4回の議論では奈須野関係官のほうから事業者間とそうでないのを分けるというのは,民法という性質上,いかがなものかという慎重論が出され,それから,第20回の事業者,消費者の議論をしたときに,これは私からでございますが,やはり事業者間契約とそうでないものとを分けることには合理的な理由はないのではないかと,慎重論を述べさせていただいたところでございます。   一方,このこと自体に対する積極的な賛成論というのは,議論の中ではなかったのではないか。立証責任全般について慎重に検討すべきだという御意見は頂いておるのですが,ここに関して,事業者間契約か否かで区別を設けるべきだということについての積極的な議論は出ていなかったように思いますので,賛否両論が表明されたという場合の賛成意見はどこにあったのかという疑問があります。このような表現にすると,何かここだけがすごく対立したみたいに読めてしまったものですから,むしろ,立証責任全般についてどう位置付けるべきかについて慎重論が出され,抗弁でいいのではないかという議論があり,その中で事業者間契約に関しては慎重論が示されたというのがこれまでの議論の経過だと思いますので,殊更ここだけ賛否両論と書く表現はもう一度,御検討いただければと思っております。 ○鎌田部会長 そこは少し検討させていただきます。   ほかによろしいでしょうか。 ○岡田委員 中井委員のほうから出ましたけれども,12ページ,「複数契約の解除」のところにやはり私たちの立場からも,抗弁権の接続を入れていただきたいと思います。というのは,割賦販売法の抗弁権の接続の部分が私たちにとっては解除に至るか至らないか,その間での唯一の武器みたいなものになっていますので,是非,ここで入れていただければと思います。 ○村上委員 12ページの4について意見を申し上げます。第4回会議の議事録のこの部分に関してどういう議論がされたかと読み返してみたのですけれども,ほとんど議論はなかったように思います。解除権の存在を知らなかったとはいえ,契約の目的物について加工・改造したということになりますと,契約関係を解消したいという意思はないという場合もかなり多いのではないだろうかと思われます。また,これに関して3(3)との関係,すなわち,原状回復の目的物が滅失・損傷した場合の処理の問題との関係を検討しておくべきであるとの指摘をする御意見があり,この点についてもう少し突っ込んだ検討をしておくほうがよいのではないかと思うのですけれども,まだ,その機会が十分に持たれていないのではないかと思います。ですので,この段階で4について方向を打ち出すのはやや時期尚早ではないだろうか,末尾が「ものとしてはどうか」になっておりますけれども,ここは方向を打ち出さないで,例えば,更に検討をするという程度にとどめておくほうがよいのではないだろうかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   それでは,部会資料25の13ページから14ページまでの「第4 危険負担(民法第534条から第536条まで)」について御意見をお伺いします。 ○山本(敬)幹事 1の「債務不履行解除の危険負担との関係」について,少しだけ表現の修正をお願いできればと思います。  具体的には,1段落目の下から7行目から8行目にかけて,解除一元案を支持する理由として,「反対債務からの解放を当事者の意思に委ねる方が予測可能性に資すること」が挙がっています。これは,まず,反対債務からの解放を当事者の意思に委ねるほうが「私的自治の要請にかない」というような表現を補った上で,「予測可能性に資する」というよりも,「明確性に資する」というほうが適当ではないかと思います。当事者に決めさせるという趣旨ですので,考え方の根底には,私的自治の要請があると考えられますから,それを明確にするほうがよいと思いますし,解除の意思表示がされたかどうかで決すれば,将来の予測が可能になるというよりも,法律関係が明確になるということだと思います。少し細かくなりますが,修正をお願いできればと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,部会資料25の14ページ,「第5 受領遅滞」について御意見をお伺いします。   ないようでしたら,部会資料25の14ページから15ページまでの「第6 その他の新規規定」について御意見をお伺いします。   では,次に部会資料25の15ページから21ページまでの「第7 債権者代位権」について御意見をお伺いします。 ○中井委員 20ページの「債権者代位訴訟」の(4)のところです。まず,判例の理解ですが,債権者代位訴訟が提起されているところに,差し押さえて取立訴訟があった場合,その両方が進行してともに認容することができる,こうしたとき,その判例はどちらが優先するかについての判断は示していないと思います。   それを前提に「しかし」以下ですが,これは確か山本和彦幹事から差押えを受けた場合に,債権者代位訴訟の進行が止まるという提案,その前提として差押えを優先させるというところからきていたわけですけれども,差押えを優先させるからといって,代位訴訟の進行を止めるという決断をまだしなくてもいいのではないか,更にそれは検討の余地があるのではないかという発言があって,差押えがあれば代位訴訟の進行を止めるという部分は削除されているのかと思います。にもかかわらず,「判例と異なり」と書いていますが,判例は差押え優先についてまだ明示していないとすれば,「判例と異なり」という部分は要らないのではないか。   その次の「また」以下ですけれども,差押えを優先とするとしても債権者代位訴訟の進行を止めるか,止めないかについては留保したはずという理解をして,この1段目と2段目を読んだんですが,3段目は「差し押さえられたために進行が認められなくなった債権者代位訴訟の帰趨」となっておりますので,3段目では進行が止まることを予定しているようです。そうすると,前後の脈絡といいますか,一方で,前回の原案,たたき台から括弧書きを消したにもかかわらず,進行を止めることを前提としているなら,そごしているのではないか。3段目を全部削除するのか,若しくは差押えがあった場合に債権者代位訴訟の帰すうについてはなお議論をするという余地を残す意味で,3段目のうち,「差し押さえられた」の後の「ために進行が認められなくなった」という部分のみを削除するのか,整合性を取る必要があるのではないかという意見です。 ○鎌田部会長 この点について事務当局から何かありますか。 ○川嶋関係官 「この判例と異なり」と記載したのは,判例は優劣をつけていないけれども,それとは異なり,優劣をつけてはどうか,というニュアンスのつもりだったのですが,判例では優劣について触れられていないではないかという見方もできるでしょうから,疑義を招くということであれば,「この判例とは異なり」という文言を削除しようと思います。   3段落目については,部会資料19-2では,関連論点として,債権者代位訴訟の進行が認められなくなった場合の処理の問題を扱っておりますので,全部削除するのは適当ではないと思いますが,中井委員の御指摘を踏まえた修正はいたしたいと思います。 ○山本(和)幹事 それで異論はないですが,恐らく優先させるという場合には,債権者代位訴訟を中止するという以外にも,差押えが解除されることを条件付きにして給付判決をするとか,あるいは判例は債務者の訴訟追行の場合はそうだと思いますが,無条件で給付判決をして,あとは執行のところで調整すると,配当の場面で調整するというようなやり方で優先するということもあり得ると思いますので,そういったようなことを補足説明で書いていただければ結構かなと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。 ○中井委員 17ページの3の(2)の上から4行目ですが,「(事実上の優先弁済)を否定する場合には」となっていますが,前後のところでは「否定又は制限する場合」となっているかと思います。ここだけは「否定する場合」としているんですが,これは意図的にそうして,制限する場合には異なるという理解をしているのか。ほかと同じように否定又は制限する場合であってもよろしいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 少し検討させていただきます。   ほかにはいかがでしょうか。   それでは,部会資料25の21ページから30ページまでの「第8 詐害行為取消権」について御意見をお伺いします。 ○新谷委員 25ページの「偏頗行為」の部分の表現についてです。詐害行為取消権の取消しの対象範囲をめぐる論議については,第5回のときに私のほうからある会社の実例を挙げて,詐害行為取消権が債権回収の実務上,大きな意味があるということを申し上げました。部会資料25ページのウ(ア)の「債務消滅行為」の記述では,第1パラグラフの最後のほうに「広い場面があるといった問題(逆転現象)」という表記がされていますが,今回の提起内容は一定の立法論の提起ではなく,部会の議論の反映であるということからいいますと,逆転とか問題とかを取っていただいて,単に「現象」という表記に変えていただいたほうが,公平な審議に向くのではないかということを指摘させていただきたいと思います。これ以下の部分でも,同じように「逆転現象」という表記がありますが,その部分についても同様です。 ○川嶋関係官 「逆転現象」という言葉が,民法(債権関係)改正の議論の中で初めて考え出されたものであるということであれば,用い方にもより留意が必要なのかもしれませんが,私の理解では,以前から,つまり倒産法等の改正がされたころから,既にこの分野では定着している用語なのではないかと思っております。そうであれば,確かに逆転という言い方には一定の評価が含まれているのかもしれませんが,この論点を示すときに,「逆転現象」という言葉を用いたほうが,読み手にとっては論点をぱっと把握しやすくなることもあるのではないでしょうか。この「逆転現象」という用語がどれだけ定着したものであるかについては,私にもよく分かりませんので,部会の皆様の御意見を伺えたらと思います。いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 ということですので,御意見をお出しください。 ○奈須野関係官 これは「逆転現象」といったものの何が困るかという説明の仕方の問題だと思います。  つまり,ここで書いてあるような「詐害行為取消権の方が否認権よりも取消しの対象行為の範囲が広い場面がある」というのは,専ら学問的な整理学の問題で,一般の人は,さほど重大な問題ではないと思ってしまうわけです。けれども,一方で,債務者の経済状況が危殆にひんしている局面で弁済や担保の供与を受けようとするとき,破産法で否認はされないけれども,詐害行為取消権を受ける危険があり,安心して弁済や担保の供与を受けることができないということ自身は,問題だと思います。「逆転現象」というのは,単なる法律のでこぼこ関係ではなくて,このことによって安心して弁済を受けることができない,あるいは安心して担保の供与を受けることができないというのが実態的な問題だと思います。そういう説明をすれば,「逆転現象」ということの問題意識も伝わるかもしれないと私は思います。 ○沖野幹事 「逆転現象」という表現ですけれども,やはり,そこには逆転しているという評価が入っており,それが問題ではないかという,そういう認識があることは確かだろうと思います。表現の適否ですが,便利な言葉であるということもありますし,それなりに分かる言葉として普及していると考えております。本資料においても,そういった現象があちこちに起こっているということが出てきております。それぞれのところで逆転現象という表現を用いることでそこに共通した問題があることを簡便に示すことができますので,それを逆転現象なり,何らかの名称で語ることには意義があり,資料の複数の箇所で逆転現象と言っているものが何を指しているのかが分かるような形で記され,その上で各所でこの語が用いられるのは,資料の作り方として有用であろうと思います。   また,逆転現象という表現を用いることによって,この現象が問題で是非とも解決すべき点であるというわけでは必ずしもないと考えられます。それは,そういう現象に対してどう取り組むかという問題であって,既に,逆転現象と言われる問題事象に対しては,その解消を絶対視したり,その解消が非常に重要であって第一になすべきものだとする必要はないという考え方も公表されております。この表現を用いましても,これにどう取り組むか,それをどこまで重視するのかは別途様々な考え方があるというところが明らかになれば,御懸念は緩和されるのではないかと思います。ですので,言葉の使い方としてそれなりに有用性があるということで,御懸念に対してはその解消をどの程度重視するか自体が一つの検討課題であることを示すなどの対応をすることで,そのまま用いていいのではないかと思います。 ○川嶋関係官 御意見どうもありがとうございました。頂いた意見を踏まえて,どのように扱うかを少し考えさせていただこうと思います。いずれにせよ,「逆転現象」という言葉の使い方について議論があったことは,議事の概況等の記載に反映させたいと思います。 ○松本委員 質問ですが,「逆転現象」という表現を使われる方は,否認権の対象のほうが詐害行為取消権より広いのが正常であって,ところが今回は逆になったから逆転という指摘なのか,それとも両者は一致すべきものなのに,今回,破産法の改正の結果,詐害行為のほうが広い状況で残っていると。これをもって逆転と言っておられるのか,どちらなんですか。普通,逆転というと否認権のほうが広く在るべきなのに,逆になったという印象を受けるんですが,そういう趣旨ですか。 ○沖野幹事 私自身の理解は松本委員がおっしゃった最初のほうで,否認権のほうが広くてしかるべきではないかというところが逆になっているという趣旨だと考えています。その問題の解決として,両者で一致させるべきなのか,詐害行為のほうが狭い形で広狭が付くということなのか,解決策はいずれもあると考えております。 ○山本(和)幹事 今の沖野幹事と同じかどうかちょっと分からないんですが,私は否認のほうが広いか,一致すべきか,どちらかであって,詐害行為取消しのほうが広いという規律は相当ではない。つまり,否認の範囲は詐害行為取消権に対して,大なりイコールになるというのが私の理解です。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○中井委員 偏頗行為に関して,本文の記載に関わらないんですけれども,偏頗行為,債務消滅行為をどのような基準で切り分けるか,幾つかの考え方を示していただくことで結構かと思いますが,私的整理ないし通常の会社の事業再生にこの切り分けの仕方が影響を及ぼす点があるということを本文ないし補足説明等で補足していただきたいと思うんです。     偏頗行為を詐害行為の対象としない考え方に対して,平場のときに詐害行為があっても,それに対して適切な対応ができなくなる懸念があるから,一定の偏頗行為も詐害行為の対象にするべきであるという意見が一方である。それは私的整理を促進する意味で,それがなければ力の強い者が債権回収行為,担保設定行為に走ってしまうおそれがあるので,それを防ぐという意味で,偏頗行為も詐害行為の対象に入れるべきだという意見がある。  他方で,偏頗行為を詐害行為の対象と広く捉えることによって,かえって私的整理を阻害するという意見もある。例えば破産法と全く同じだとすると,支払停止ないし支払不能が起こった後,債務者が事業再生のために一生懸命頑張って,例えば取引債権者に弁済して事業再生をしようとするけれども,それが詐害行為だといって取消しの対象になれば,逆に私的整理を阻害する,事業再生を阻害する要因になる。こういう両面があることを適切に表現していただければと思います。 ○深山幹事 2の(1)のイの「無資力要件」のところです。無資力要件を条文上も具体的に明示するかどうかについて検討項目として挙げることについては,全く異論はないんですが,その次の議論として,明文化しないということになれば,それで終わるわけですが,明文化する場合に,どのような要件にするのかということが当然,問題になります。この質問の中にも当然それは含まれているという読み方もできるとは思いますし,論理的には当然含まれているわけですが,意見を求めるという観点からすると,ほかのところでもありますように,仮に明文化するとしたらどのような要件にするかと書き加えてもよいと思います。そのときに,こういう考え方や,こういう指摘を考慮してというようなことも指摘しながら,もう一つ次の質問も加えてもいいのではないか,むしろ,そこが大事なのではないかと思います。   同じような議論は債権者代位のところでもあり,無資力要件と一般に言われているところの,そこでは保全の必要性というタイトルになっていたかと思いますが,似たような議論があるわけです。そちらのほうはゴシック体の本文部分でももう少し詳しく丁寧に書いてあって,広目に要件を立てるか,狭目にするかとか,あるいは債務超過との異同を意識した解説のようなこともいろいろ書いてあります。もちろん,代位権と取消権とで必ずしも同じ要件になるというものでもないでしょうし,同じ表現にすべきだということでもないんですが,やはり,検討事項としては同じような問題点があって,規定を設ける場合にどのような規定ぶりにするのかということも,もう少し議論が広まるような形で問い掛けをしたほうがよろしいのではないでしょうか。 ○村上委員 その次の(2)のアの最後のところ,最後の段落の第2文,「そして」以下の文のところについて少し申し上げたいと思います。細かな話になるかもしれませんので恐縮ですけれども,法律行為以外の行為が取消しの対象になるとはいいましても,どんな行為であってもすべて広く取消しの対象になるのかというと,恐らくそうではないのだろうと思いますが,この表現のままですと,そういった誤解を生じさせるおそれがないわけではないような気がいたします。ですので,書き方を少し直していただいたほうがいいのではないだろうかと思います。   例えば「法律行為以外の行為も」の次に,一定の制約はあるもののですとか,一定の範囲でとか,一定の限度でというような文言を入れていただいて,それから,「「法律行為」という文言を改め」の次の「法律行為以外の行為も取消しの対象になることを」という,このあたりは削っていただいて,法律行為という文言を改める方向でという程度におさめていただくほうが,先ほど申しましたような誤解が避けられるのではないかなと思います。 ○沖野幹事 二点ございます。   ページが前後するのですけれども,先に27ページの「転得者に対する詐害行為取消権の要件」についてです。転得者に対する詐害行為取消権の要件は,分類の仕方としまして,この表題自体が取消しの対象行為の中の一項目とされており,また,その本文の第2段落では,「そこで,仮に詐害行為取消権の要件に関する規定を取消しの対象となる行為ごとに類型化して整理する場合には」とされております。しかし,転得者に対する詐害行為取消権の要件で語られているのは,具体的に行為類型ごとに整理した場合の一つの行為類型の規律というよりは,転得者の主観的要件等の話ですので,問題が違うのではないかと思います。そうだとしますと,まず,位置といたしましては(2)のオではなくて要件の問題の(3)とし,それに伴って次の「詐害行為取消訴訟の受継」を(4)という扱いにするとともに,2段落目の「そこで……には」という部分は削除してはどうでしょうか。   それが一点目ですが,もう一点目は戻りまして24ページの「無償行為」についてです。二点あります。一つは25ページの2段落目のところで,無償行為の取消しについて無償否認の要件と同様の要件を設ける場合には,効果の面で善意者保護の手当てを設けることを検討してはどうかという記載があります。この少し上,このページの上から3行目を見ますと,「無償否認の要件とは異なり受益者の主観的要件のみを不要とすべきであるとする考え方」も一つの考え方として示されています。この考え方,つまり受益者の主観的要件のみを不要とするという考え方を採った場合も,効果の点で善意者保護の規律を考える必要があります。そうだとしますと,この部分の提示の仕方と「また」以下の提示の仕方というのは,必ずしも正確ではないと思われます。3行目の記述を残すのであれば,「また」以下については「無償行為の取消しについて無償否認の要件と同様の要件を設け」ではなくて,「受益者の悪意を要件としないときには」というような形で,効果面で善意者保護の観点からの特則を設ける場合を示す,その特則につき破産法167条2項参照ということですが,そのような形で書き換えてはどうかと思います。   もう一つの点は,無償行為の問題についての提示の仕方です。その前段階として,これは私自身が議論を正確に把握していないせいなのですが,確認させていただきたいのです。今までに出された考え方としては,受益者の主観的要件を不要とする考え方と,それから,債務者自身の主観的要件も不要とする,その点で無償否認と並びであるという考え方は確かに指摘されたと思うのですが,それを超えて支払の停止や,破産手続開始は関係ないと思いますけれども,その6か月前にした無償行為という,こういう要件も含めて詐害行為取消権の要件とするという考え方も,これまでに論じられているという理解でまずよろしいのでしょうか。   なぜ,こういうことを聴くかといいますと,無償否認並びとするという,その考え方は,支払の停止や期間限定の点はまた別だということではなかったかと思われまして,そうすると,24ページからの第1段落,第2段落全体の書き方を少し変えるということも考えてはどうかということです。これに関して二点あります。一つは支払の停止前6か月という要件を含めて完全に無償否認並びの要件とするという考え方まではないのではないかということです。もう一つは無償行為のところの記述の出し方です。ここでは,無償行為については現在の詐害行為取消しではこうなっている,要件面の点では別にそれによる特則というのは設けられていないということが書かれ,続けて,これに対して破産法ではこうなっているということが書かれ,それで詐害行為取消権の要件の規定に関する規定を取消しの対象となる行為ごとの類型化して整理するという場合には,無償否認に合わせるかどうかが問題となるという,問題設定です。この問題設定ですと,あたかも否認のほうで類型ごとに立てているものは,ことごとく詐害行為のほうでも検討する必要があると読まれかねないように思うのです。しかし,そういうことではないと思います。無償行為というものの性質に照らして,主観的要件の緩和なりを考えていくべきではないかという問題意識がまずあって,無償否認のほうでも一定の参考になるものがあるという,そういうことではないかと考えます。  この理解が正しいのであれば,という留保付きでですが,そうだとすると,むしろ無償行為について24ページの最初の3行で出されている,このような無償行為については破産者や受益者の主観を問わないものとする考え方や,受益者の主観的要件のみを付与とするという,そういう考え方が示されていて,それについて無償否認の規定が参考になるということを言及しつつ,そういう考え方について検討してはどうかと,そういう書き方に改めてはどうでしょうか。  ですので,全体の理解が正しいかということをまずお伺いしまして,その上で書き方を検討してはどうかということです。 ○川嶋関係官 詐害行為取消権に関する既存の立法提案には,時期的要件をも含めて否認権の要件にそろえようというものは,なかったかもしれませんが,抽象的に否認権の要件とそろえてはどうかという意見もあったようにも思います。そこで,ここでは,「時期的な限定を民法に取り込むことの是非が論じられている」というよう記載をすることによって,時期的要件までも含めて否認権の要件にそろえるという議論もあり得ることを示そうとしたわけです。しかし,せっかく御指摘を頂きましたので,ここで確認させていただきたいのですが,時期的要件までも含めて否認権の要件にそろえるべきであるという御意見が具体的にあるようでしたら,教えていただけませんでしょうか。 ○深山幹事 私の個人的な認識としては,確かにこの部会での議論もそうですし,この部会以外のところでの議論も,無償行為についての議論は主観的要件を中心に現行法でいいのか,破産法等に合わせたほうがいいのかという点の議論が目立っており,そちらの議論のほうが多かったと思うんですが,他方で,今,御指摘の時期的な点について全く触れられていないということではなかったのではないかと思います。   先ほどもちょっと出ました逆転現象というようなことが話題になるときは,偏頗行為のところで最も指摘をされますけれども,無償行為のところでも現行法でもあるということが言及されています。そういう意味でも,やはり時期的な要件についても,否認権との整合性を意識して検討すべきであると思います。もちろん,結論として一致するかどうかは別にして,そこを意識して,類型ごとに見直す中の一つの項目としては主観的要件のみならず,時期的な要件についても検討をすべきだと思いますし,そういう議論が全くなされなかったわけでもないだろうと思います。主観的要件に絞っての問題提起ではなくて,時期的要件のことも視野に入れた問題提起をすべきであり,今のようなところを削ってしまうのではなくて,表現をこのままにするかどうかはともかく,何らかの形で残していただきたいと思います。 ○中田委員 時期的要件を入れるとすると,例えば支払停止あるいはその前の6か月というようになると思うんですが,そうすると無資力要件との関係が非常に難しくなってくるのではないかと思います。それについては,また,支払不能概念を導入するかどうかという問題も別途あるわけですけれども,ここで,その点についてこれまで本格的に議論がされたわけではないのではないかと思います。したがいまして,時期的要件について今の段階で唐突に入れるというのは,今までの議論からすると,次の段階に入ってしまっているのではないかと思います。ですので,これは補足説明などで触れていただくということで足りるかと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか,そういうことで。時期的な要件に全く触れないと,また,新たな逆転現象の問題も起きてくるかもしれないので,広い意味での検討対象に何らかの形ですべきものとは思われますが,本文で書くべきことかどうかという点については検討させていただきたい。   ほかには。 ○中井委員 「無償行為」のところです。今までも同じ書き方で気付いていなかったんですが,「財産を無償で譲渡したり」の次が「不相当に低廉な価格で売却したり」が挙げられて,その後は債務免除であったり,対価なくして行った債務負担行為で,不相当に低廉な価格で売却したもの以外については正に無償行為という理解でよろしいかと思うんです。しかし,不相当に低廉な価格で売却した行為が破産法で言ういわゆる無償行為と同視すべき有償行為の例として挙げられているなら,そういうことなのかもしれませんけれども,普通はいわゆる低廉価格譲渡は無償行為の範ちゅうではなくて,原則的な財産減少行為で,他の債権者を害することを知って,受益者もそれが悪意で行われた場合の典型例かと思うんです。したがって,無償行為の中に「不相当に低廉な価格で売却したり」というのを入れておくのがいいのかどうか,御検討いただきたいと思います。 ○沖野幹事 同じ無償行為のところですが,無償否認の要件と合わせた形で考えること自体も検討項目として入れておくということで,それはよろしいのですけれども,その際の書き方です。大変に細かいことではありますが,25ページの2行目,「設けるかどうかが問題となる。この点については」というこの問題の出し方が少し気になるものですから,細かいことではありますけれども,このままの形で残すとすると,「設けるかどうか」の「が」から「点」までを削除し,「無償否認の要件と同様の要件を設けるかどうかについて,無償否認の要件とは異なり」と,そういう表現に改めてはどうでしょうか。 ○鎌田部会長 それでは,中井委員の提起された点について,表現を事務当局で工夫させていただくようにします。   ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 別のことですけれども,23ページの上から2行目から3行目にかけて,被保全債権に関する要件として「被保全債権が強制力を欠く場合には」という記載があります。他方で,債権者代位権については18ページの5の(1)で,「被保全債権が訴えをもって履行を請求することができず,強制執行により実現することもできないものである場合にも」となっておりまして,両者はやや食い違っているようにも見えるのですけれども,これは食い違いを意図的にするという議論ではなかったのではないかという気がします。また,強制力という言葉については,1ページの「履行請求権等」の中で定義がありますけれども,それとの関係についても同じと理解していいのかどうかということもございます。ですので,債権者代位権と債権者取消権のそれぞれの被保全債権に関する要件のこの部分については,少し調整していただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   それでは,部会資料25の30ページから35ページまでの「第9 多数当事者の債権及び債務(保証債務を除く。)」について御意見をお伺いします。 ○岡本委員 部会資料31ページの「履行の請求」のところなんですけれども,連帯保証人に対する履行の請求に関しましては,少なくとも連帯保証人が債務者から委託を受けていた場合であるとか,債務者と連帯保証人の間に一定の関係がある場合には,絶対的効力を認めてよいのではないかというふうな意見を申し上げているところでございまして,連帯債務者に対する履行の請求のところでは,必ずしも明確にはそのような発言は行っていなかったところではありますけれども,両者をパラレルに考えるという観点からは,連帯保証のところと同じように,少なくとも両者に委託関係があるとか,一定の関係がある場合には,絶対的効力が認められるべきだといった意見を,ゴシックでなくても結構ですので反映いただけると有り難いと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 30ページの1の「(1)分割債務」についての記述と,34ページの2の「(1)分割債権」についての記述との間で最後の部分が違っております。ただ,これは違えるという議論がなかったのではないかという気がいたしますので,どちらも「条文上も明らかにする方向で」ということになるのではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 よろしいですか。それでは,そのようにさせていただきます。   ほかにいかがでしょうか。   特にないようでしたら,部会資料25の35ページから40ページまでの「第10 保証債務」について御意見をお伺いします。 ○中井委員 35ページの1の「(2)保証契約締結の際における保証人保護の方策」の部分ですが,記載内容自体に異論があるわけではありません。しかし,部会のとき,それから,前回のたたき台の議論のときにも出ていたかと思いますが,一定額を超える保証契約の締結には保証人に対して説明した内容を公正証書に残すことや,保証契約書に保証人の自署を要求する考え方,また,過大な保証の禁止を導入する考え方,これらについても議論されてきているわけで,ここは是非本文で取り上げていただけないかと思います。取り上げるとすれば,具体的には第2パラグラフの「また,より具体的な提案として」の次に,今,申し上げたことを追加していただいて,それに引き続き取消権の問題としていただければどうかと思います。 ○鎌田部会長 それでは,そのような方向で検討させていただきます。   ほかにいかがでしょうか。 ○奈須野関係官 中身ではないのですが,38ページの「連帯保証(1)連帯保証制度の在り方」の下から3行目,「連帯債務の効果の説明を具体的に受けて理解した場合にのみ連帯債務となる」とありますが,「連帯保証」の間違いではないでしょうか。 ○鎌田部会長 これは「連帯保証となる」と訂正をさせていただきます。2か所出てくるのですが,両方とも,「連帯保証」ですね。   ほかにはいいですか。 ○加納関係官 形式的な話で恐縮ですけれども,36ページの1の(2)の上から5行目ぐらいで,説明義務,情報提供義務に関し部会資料を引用されていますけれども,多分,本文の項目で例えば後ろのほうで情報提供義務が出てくる第21の2というところがそうだと思うんですけれども,そちらを参照とかとして,ほかの引用箇所も何かそんな感じになっているような気がするんですけれども,部会資料がここでぽんと出てくるのは違和感がありました。 ○鎌田部会長 本文の中に部会資料が出てくるということは時々やってはいる。 ○筒井幹事 論点相互の関係を示すときは,中間的な論点整理の項目番号で引用したほうが分かりやすいと思いますし,加納関係官の御指摘はそういう趣旨かと思いました。この部分は御指摘のように改めたほうがよいと思います。もっとも,全体としては,過去の部会資料に立法提案の詳細な説明が載っているので,そこを引用するというような例がありますので,そういう引用の形も残ると思いますけれども,御指摘がありました部分はそのように訂正させていただきます。 ○鎌田部会長 分かりました。どうも失礼しました。   ほかには。 ○中井委員 保証に限らないのですけれども,いわゆる不当条項規制との関係について,どのようなコメントを差し上げたらいいのかという問題です。今回の部会資料でいうと8ページの「7 債務不履行責任の免責条項の効力を制限する規定の要否」という項目が作られて,ここには不当条項規制との関係で,検討してはどうかと最後にあるんですね。保証のところでも,例えば日弁連の消費者契約法の試案などでは,例えば事業者の保証に対する担保保存義務を免除する条項や,保証人が保証債務を履行した場合の主債務者に対する求償権の範囲を制限する条項について不当条項規制の対象とするか,こういう問題提起をしているわけです。   しかし,この保証のところについては,不当条項規制との関連についてのコメントはどこにもないので,こういう考え方についての整理ですが,もちろん,不当条項規制に関する大項目があって,そこに様々な検討課題が将来議論されるだろうと思いますけれども,8ページの損害賠償義務の免責条項の場合と同じように,保証についても不当条項との関連で検討項目を入れるかどうか,質問的意見ですが,御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 では,その点,ほかの部分とも関連しますので,こちらのほうでも検討をさせていただきます。   ほかにはいかがでしょうか。   それでは,次に部会資料25の40ページから46ページまでの「第11 債権譲渡」について御意見をお伺いします。 ○岡本委員 当然のことなので,今まで触れられてこなかったということなのかどうかはちょっと分からないんですけれども,債権譲渡の対抗要件につきまして,あるいはもうちょっと総論的な話なのかもしれないんですけれども,債権譲渡の規律は,債権の質入れの規律と整合的な規律にする必要があるのではないかと思っておるんですが,そういった論点というのはどう考えたらいいのかということです。   今回の諮問の範囲では物権法は含まれていないんですけれども,債権譲渡だけ改正されて債権の質入れと異なる規律になるとしますと,例えば譲渡と質入れで対抗要件の制度が異なるということになりますと,両者が競合したときの優劣の判断ができないとか,あるいは譲渡禁止特約の効力につきまして,相対的効力案が採用された場合に質入れについてはどうなるのかとか,そういった点も一応問題にはなるのかなと思うんですけれども,今回は物権は諮問の範囲には含まれないから,直接的には触れられないということなのかどうか,そこら辺もちょっとよく分からない,あるいは現行法でも指名債権の質入れの対抗要件については467条の規定に従いとなっていて,債権譲渡の規定に従うことになっていますので,少なくとも対抗要件については放っておいても同じことになるからいいという,そういうことかもしれないんですけれども,そうなのかどうか,そこら辺のあたりの考え方をちょっと教えていただければと思います。 ○鎌田部会長 関連ですか。 ○松本委員 関連といえば関連だけれども,今の御意見に対する意見ですが,いいですか。債権譲渡というのが担保のために行われているケースはかなり多いと思いますし,明確な担保と言わなくても債権流動化というのは,そういう要素がかなり多いんだとすれば,実質的な配慮として債権質との関係をどうするかも考慮に入れた上での議論が必要だということは一般論としては言えますが,ここでは債権譲渡そのものを議論しているわけであって,担保としての債権譲渡制度はいかに在るべきかという議論ではないと私は理解しております。そういう点で債権の質入れとの整合性をとるために債権譲渡の要件効果等についてこうすべきだという議論は,少し本筋からは外れてくるのではないかと思います。債権譲渡を担保サイドが言わば活用して行っているというのが実情だと思いますから,アメリカの統一商法典のように全て担保のほうに取り込んでしまって,アサインメント(債権譲渡)は全て担保だというルールで一元化するというのも一つの発想としてはあるかもしれないですが,日本の民法は今までそういう発想を採っていなかったわけですから,今回,債権質との関係について,表立って議論する必要はないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 対抗要件については債権譲渡と債権質とを同じにしていますので,実際に規定の必要があるかどうかは別にして,譲渡禁止特約その他,債権譲渡の規定が変わったときに,それが債権質の成立及び効力等に関してどんな影響を与えるかということは議論になる。これは,債権質制度の改正のためにではなくて,債権譲渡に関する規律が変わったことが,債権質にどんな影響を与えるかという問題で,この点については,私は,付随的な検討の対象にむしろ入るべきではないかと考えています。 ○松本委員 別に反対いたしません。先ほど言ったとおり,それは考慮に入れたらいいけれども,それを正面に立てて整合させましょうという議論はちょっと邪道だと。そうであれば,売買だって担保として行われているケースがいっぱいあるわけですから,担保目的の売買というのを正面から議論しましょうかというと,そうではないというのが今回の債権法改正の議論だと思います。 ○鎌田部会長 そこはおっしゃるとおりだと思います。よろしいですか。 ○筒井幹事 部会長から御説明があったとおりだと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中井委員 41ページの債権譲渡禁止特約で,ア,イ,ウと三つ挙げられています。特にウとの関連で申し上げますが,相対的効力案にしたときの問題点は,そのままであればデッドロック状態が生じる,元の原案ないし立法提案は倒産手続を開始したときに,相対的効力案そのままであったら破産管財人が債権を回収し,その後,譲受人は悪意であれ,管財人から財団債権又は共益債権で回収することができるので回収のインセンティブが働かない,デッドロック状態が生じる。だから,倒産手続を開始したら特約の主張はできなくなって,譲受人が権利行使できる。こういう提案がウであろうかと思いますが,その状況は倒産手続が開始した場合だけでなくて,開始しない場合でも生じている。   つまり,悪意の譲受人であっても譲渡は有効なわけですから,倒産手続開始前であっても債務者は譲渡人に払う。譲渡人か回収するけれども,回収したものは全て悪意の譲受人に持っていかれる。そのときに回収のインセンティブは働くんですかといったら同じ問題でしょうし,更に二重譲渡の場合に,善意の譲受人と悪意の譲受人があり,悪意の譲受人が先行している場合に,善意の譲受人に回収インセンティブが働かない。こういうのは倒産手続開始前でも起こるのではないか。   そこで,第7回の部会のときでも,近く大阪弁護士会が出す書物の中でも提案していますけれども,そのデッドロック状態を解消する方法を採らないと,相対的効力案をとっても余り機能しないのではないか,資金調達のためにも使えないのではないか,という問題意識からの提案です。債務者が期限が到来しているのに払わない,つまり,延滞状態になっているときに,なお特約の有効性を認める必要があるのかという切り口から考えれば,そのような場合には悪意の譲受人であっても,譲受人のほうから債務者に対して履行請求ができる,このような形にすれば相対的効力案を採っても,デッドロック状態が解消できるのではないか,譲渡禁止特約付債権の流動化ないし資金調達に資するのではないかという観点から,提案をしております。   そこで,具体的には,エとして,「譲渡禁止特約の効力について相対的効力案(前記(1)参照)を採るとしたときは,上記ウの譲渡人につき倒産手続の開始決定があった場合だけに限らず,一般に,債務者に対抗できない譲受人は,債務者に対する請求を行うことができず,一方,譲渡人(又はその管財人等)も,譲渡した債権の回収をしても不当利得返還請求に基づき譲受人に引き渡さなければならない結果,債権回収のインセンティブが働かない,というデットロック的な関係が生じる。このような問題意識を踏まえて,上記ウの別案として,譲渡人又は譲受人が,債務者に対して,(相当期間を定めて)譲渡人への履行を催告したにもかかわらず,債務者が履行しないとき(当該履行をしないことが違法でないときを除く)には,債務者は譲渡禁止特約を譲受人に対抗することができないとする考え方がある。このような考え方の当否について,検討してはどうか。」という提案を追加できないか,まだ,議論が熟していないとすれば,こういう意見があるという紹介をしていただけないか。 ○鎌田部会長 それはお引受けする方向で処理させていただきます。   ほかに。 ○深山幹事 2の「債権譲渡の対抗要件」の(2)の「債務者対抗要件(権利行使要件)の見直し」のところです。以前も申し上げたこととやや重複して恐縮なんですが,二,三,申し上げたいと思います。   表現の問題からまず言いますと,一点目は5行目,6行目あたりに「譲受人に対して弁済する事態が生じ得るという問題がある」という表現,それから,それを受けて「このような問題に対応するため」とありますが,この「問題」という言葉が,先ほど指摘のあった逆転現象と同じような意味合いで,ネガティブな評価が含意されているように思います。もちろん,よろしくないという評価をすること自体を否定するわけではなく,そういう考え方もあり得ると思いますが,もう少し「事態」とか「事象」という客観的な,評価の入らない表現のほうが好ましいという気がいたします。   それが一点で,もう一つの表現の問題として,その後に「債務者に対する通知がない限り,債務者が弁済すべき相手方は変わらないとする」と記述されている点です。まず表現の問題として,「債務者が弁済すべき相手方は変わらない」というのは余り法律的な表現に感じられません。私の理解するところでは,これは,債務者に対する通知がない状態で債務者が譲受人に対して弁済をしても弁済としての効力がないということを法律的には意味している考え方なんだろうと思います。そういう意味で,まず,表現として「弁済すべき相手方は変わらない」というのは素人的には分かりやすいのかもしれませんが,法律の議論としては適当ではないのではないかということが二点目の表現の問題です。   一番申し上げたいのは,この記述の内容です。ここの議論というのは,項目のタイトルは「債務者対抗要件の見直し」ということで始まっているんですが,以前も申し上げたように,譲受人が債務者に対して私に支払ってくださいというときに,どういう要件を満たしている必要があるかという意味での権利行使要件の問題とは,異質の問題だと思います。   前回ここを議論した際,私と松本先生がそのことを指摘しましたが,それを受けて「このような考え方の当否について」の後に,「制度趣旨と整合しない考え方であるとの指摘」があったということは入れていただいているんですけれども,これはほかのところと違って,指摘があったことを入れていただくだけで果たしていいのかというと,よろしくないと思います。問題提起としてこういう提案を検討すること自体は全然否定しないんですけれども,従来の債務者対抗要件が今のままでいいかどうかという問題と,それから,ここで示されているような債務者を拘束するような効果を持たせる債権譲渡というものを認めるかという問題とは,別の問題だと思います。やはり項目を分けて,別の項目として議論していただくのなら異論はないのですが,ここに全部ぐちゃっとまとめてしまうと,結局,ここでは何を議論しているのかが私にはよく分からないという気がなおしておりますので,是非,再考をお願いしたいと思います。 ○松本委員 今の深山幹事の意見に賛成いたします。前々回,私も,指摘させていただきました。43ページの(2)の見出しがそもそもミスリーディングなので,ここで提案されている内容は,債権譲渡人と譲受人との間では債権譲渡の効力が完全に発生します。そして,対第三者との間でも第三者対抗要件としての効力が発生します。しかし,債務者との間では,債権譲渡の効力がありません。したがって,譲受人に対して弁済しても,それは弁済としての効力がありませんという,そういう新たなタイプの,債務者に対してのみ効力のない債権譲渡という制度を創るのが,実務上,有益であるという提案があるということだと思うんです。   流動化ビジネスをしている観点からは,43ページ2(1)の最初の5行に書かれているような問題があって,実務上の障害であるという指摘があるということであれば,そこは客観的な記載としてよいと思うんです。そして,そのようなニーズを実現するために,新たな債権譲渡,従来とは違った債権譲渡の制度を民法上,強行法規として認めようという提案がある,この提案について検討するのはどうかと,こう書けば分かりやすいわけですが,「債務者対抗要件の見直し」という非常にミスリーディングなタイトルの下では,議論を混乱させると思います。 ○松尾関係官 今,松本委員と深山幹事から御指摘があったことについて,このような記載にした趣旨を説明させていただきます。   まず,深山幹事から頂いた御指摘のうち,最初の二つの表現ぶりの問題は検討させていただきたいとは思いますが,一番最初に御指摘を頂いた「問題があると指摘されている」というところがニュートラルではないという点については,問題があるという指摘があることは事実だと思いますので,別にこれが一定の方向性を志向しているとは思えないと考えているところです。   また,深山幹事と松本委員から共通して指摘していただいたところですけれども,先ほど内田委員からも説明がありましたように,まずは現行法の規定が出発点だと思っています。その観点から申しますと,弁済の相手方を譲渡人に固定するという目的を達するためには,債務者対抗要件・権利行使要件としての承諾を外すかどうかということは必ず問題となるわけです。他方,債務者対抗要件が具備されなくても債務者が譲受人に有効な弁済をすることができるかという点については,検討した結果,深山幹事と松本委員が主張されるように,現行法下の考え方とは異なる新たな考え方が採用されるということになるのかもしれません。ただ,債務者対抗要件が具備されない場合についての譲受人への弁済の有効性については,現行法下での考え方に立ち入らないこともあり得ると思われますので,今の段階でどういう問題提起をすべきかということについては,やはり,現行法を出発点とするということからすると,債務者対抗要件を見直したらどうかという形で論点として掲げられるべきではないかと思い,このような記載を維持したという次第です。 ○松本委員 承諾が対抗要件だということの意味は,承諾をしたことによって債権譲渡の効力が発生するという意味ではなくて,譲受人が債務者に対して債権者としての権利行使をする場合に,債務者が承諾をしていれば拒めないというだけの話ですから,債務者が自発的に弁済をするかしないかというのは,承諾の有無とはちょっと次元の異なった話だと思うんです。承諾がない限り,弁済ができないという話ではなくて,一旦,承諾をすれば譲受人からの履行請求を拒めません,なぜならば,あなたは承諾したからだ,債務者対抗要件を満たしているからだと,こういうロジックのはずなんです。したがって,承諾をしようがしまいが,債務者である以上は債権者に対して弁済することができるという話だと思います。通知は対抗要件だから,通知がなければ通知がないということを理由にして,債務者は譲受人に対する弁済を拒めるというだけの話ですよね。債権譲渡は有効にあったわけです。 ○鎌田部会長 現行法上は,今,松本委員がおっしゃったようなことになるのを,通知がない限りは譲受人に弁済しても効力がないという制度にしたいということだとすると,その通知は,現在言われている対抗要件と違うものになると,そういうことですね。そういう内容の制度改正の提案があるけれども,そうだとすると,これは対抗要件というものの考え方と食い違ってくるという問題点が指摘されているという,全体としてそういう……。 ○松本委員 完全に新たな制度の創設という点では議論に値しますし,そういうことを求めている実務ニーズが一部にあるということも多分,事実なんでしょうから,それを検討すること自体は結構ですが,こういう書き方でやると何か誤解を与えると思います。 ○鎌田部会長 こういう書き方のような提案がされているから,なかなか創設的には書きにくいということなんだと思いますけれども,御趣旨は理解しています。 ○松本委員 創設的な提案をしておきながら,そうではないようなふりをするというのはずるいです。 ○鎌田部会長 いや,ちょっと待ってください。創設的な提案を事務当局がしているのでないということ,事務当局で中身を創設的に書き下ろすことは難しいですねということを申し上げたので……。 ○松本委員 きちんと一般の人が理解できるような言葉に翻訳をして,提案者はこう書いているけれども,実質はこういう意味だから,国民の皆さんもこういう方向で議論していいですかと,きちんと整理すべきです。 ○内田委員 現行法の理解について,松本委員のような考え方が十分成り立つというのはよく分かりますけれども,現行法の承諾の位置付けについて,そうでない考え方が現実に存在します。そういう考え方からすると,こういう書き方は完全に成り立つと思いますので,現在の学説自体が松本先生のような意見で一致しているわけではないと思います。ですから,そこは立ち入らずに,現行法上の債務者対抗要件と言われているものについての見直しの提案があるということをその限りで紹介をして,更に検討の対象にしているということだと理解しています。 ○深山幹事 私もこだわるようで恐縮なんですけれども,現行法の解釈として,例えば分かりやすく言えば,通知も承諾も何もない状態でたまたま債務者が債権譲渡があったということを知って,では譲受人に払いますといったときに,有効な弁済ができないとは皆さん考えていないのではないかと私は理解したんです。債務者側から,あなたは権利者なんだからあなたに払いますと言ったときに,それが制限されるという解釈が,ひょっとしたらあるのかもしれませんけれども,通説的な理解は,それはそれで有効な弁済になるという理解なのではないかと認識しています。したがって,それを変えるためには新たな制度を創る必要があって,債務者対抗要件に承諾を残すにしろ,残さないにしろ,それとは別の問題として,債務者の方から積極的に権利者と譲受人を認めて,払うということを制限するような新たな制度が必要だから,こういう提案がなされているんだと思うんですね。   その提案を議論することはやぶさかではないし,実務のニーズがあることも承知していますので,取り上げるのはいいんですが,やはり,新たなニーズに応じた新たな制度だということを,この立法提案をしている検討委員会がそう言っていないのは私も承知していますから,この部会の場における議論として,そういうことをもう少し紹介していただかないと,やはり,この場にいた皆さん方は分かると思いますけれども,パブコメの際に,一般国民は,単に債務者対抗要件の問題なんだなというぐらいのことにしかならなくて,建設的な議論にならないような気がいたします。 ○沖野幹事 余り中身に立ち入って議論するのもどうかと思うのですけれども,深山幹事から現行法の解釈に関して御質問というか問題提起があったと思いますので,それに対しての考え方を申し上げたいと思います。現行法で,今,言われたような場面,債権譲渡がされている,しかし,通知はないという場合に,債権の債務者が承諾をして譲受人に支払うという場合,それが有効な弁済にならないのかというと,それはもちろんなるわけで,そこは現行法の解釈として異論はないのだろうと思います。ただ,それをどう理解するかというときに,現行法において債務者対抗要件,これ自体の捉え方が問題なわけですけれども,承諾があればそれが適切な譲受人という形になるという規定があるからなのか,そして,特に対抗要件の基礎に債務者の認識というものを置かないという制度を採る場合にも,何の規定がなくともそういうことになるのか,それとも,従来,ここでずっと指摘がされております対抗要件という制度の本質上,規定があろうがなかろうがそうなるということなのか,そこの理解が違うのではないかと思います。   ですから,現行法自体の下での帰結については変わりがないのだけれども,現在の債務者を情報センターとした形での,その認識を通じた公示ということに基礎を置いた対抗要件制度というものをやめるというような考え方に立った場合に,その点がどうなるかについては二様の解釈があり得るということではないかと思っています。  その上でですが,対抗要件ということからすると提示されている考え方は全く違う話になるのだという点について,その表現が44ページですとか,あるいは43ページの見出しからすると,その指摘が隠されているというか,弱い。特に44ページの「対抗要件の制度趣旨と整合しない」というのが表現として弱いということがあるのであれば,ここをもう少し変えるということはあり得るかと思います。直ちに適切な言葉を思い付かないのですが,制度と整合しないというか,そういうものは対抗要件ということでもないし,かつ権利行使要件とするとしたとしても,権利行使要件からも説明できないんだという,そういう指摘が分かるような形で表現を改めるということではいかがでしょうか。つまり,現行法の467条のその改正の一環の問題であるということを示すとともに,しかし,それに対して,それはその範ちゅうで語り切れることなのかという問題の指摘があってその問題意識がより鮮明に出るという,そういう表現の工夫をすることでいかがでしょうか。 ○松本委員 今の沖野幹事の御整理だと,通知も承諾もない状況で,しかし,譲渡は事実として行われていて,債務者が譲受人に弁済する場合には,承諾をした上で弁済をしていると考えるべきだという,つまり,承諾をしていない弁済というのはあり得ないんだと,弁済行為の中に承諾も含まれているから,そこで債務者対抗要件としての承諾を満たしているという御説明と理解していいですか。 ○沖野幹事 そういう理解でいるのですが。多分,それに対する反論として,知らずに弁済していたらどうかという議論があるかと思いますが……。 ○松本委員 いや,知らずに弁済ではなくて,承諾という別個の行為をした上でないと,弁済という行為ができないという話なのか。私の理解だと承諾をする,しないとは別次元の問題として債務者である以上,債権者に弁済することができる。それは承諾の問題ではないと理解していますが,それは一つの学説にすぎないと言われれば,そうかもしれないです。他方で,今回の立法議論の中では第三者は,債務者の意思に反しても,債権者の承諾がなくても,弁済できるんだという立法提案がなされているわけで,この提案と債務者が譲受人である債権者に弁済できないということが何かすごくアンバランスな感じがするんです。それは別の提案だから,一貫しなくても構わないんだということで結構ですけれども,第三者は譲受人に対して,当然,弁済ができるという話になるんですよね,その二つの提案が両立すれば。 ○内田委員 今,その実質の議論をここでするのが適当かどうかというのは疑問に思うのですが,沖野幹事が言われたような考え方は,現行法の解釈論として私は一つの成り立ち得る考え方だと思いますので,やはり,それを含めて論点として議論していただくということになるのではないでしょうか。この点について,どちらの理解に立って論点整理をするかを決めようとすると,恐らく立法論の中身について,かなり立ち入った議論を時間を掛けてする必要があると思いますので,今現在は取りあえず現行法の債務者対抗要件とされている承諾についての提案ですので,そういうタイトルの中で記述している。これは別に一定の方向性を先取りしているわけではなくて,現行法の条文の編成の中で論点を提示しているということです。その理論的位置付け,性格については,今後,議論するということにしたほうがいいように思います。 ○松本委員 いろいろな学説があるということは理解できますから,そうしますと,整理のところでもう少し書き込んでいただいたほうが正確だと思います。つまり,対抗要件とされる承諾というものをそのように理解している立場があって,それが今回の立法提案につながっていると。しかし,他方で,ここで承諾を対抗要件から外したとしても,なお,弁済すること自体は制度上は妨げることができないのではないかという考え方もあると書いていただければ,大変議論がクリアになります。 ○道垣内幹事 44ページの4行目の「制度趣旨」という言葉を「制度の本質」と変えるということでいかがでしょうか。 ○山野目幹事 内田委員が御心配になったように,内容の議論になってしまっている色彩がかなり強いと感じます。そこで,当面,43ページから44ページにまたがる部分について,ここで作成しようとしているドキュメントの項目の立て方について意見がございます。基本的には2の(1)として「総論及び第三者対抗要件の見直し」と書かれていて,その後に(2)として「債務者対抗要件の見直し」というふうな見出しと順番で問題提起をお出しいただいていることは,現行法の改正の論議の問題提起の仕方としては,最もナチュラルなものであろうと考えます。  深山幹事と松本委員が御心配になるように,(2)のところの議論について,一部,提案されていることの議論を推し進めていきますと,従来,必ずしも対抗要件制度の概念というか,問題意識では注意されてこなかった部分に議論が発展していく可能性があって,そのことについて,パブリックコメントに答えてくれる方々の注意を喚起する必要があるとは感じますけれども,そのことは44ページの文章の推敲や補足説明によって明らかにされるべきであると感じます。沖野幹事のお話も現在の項目の立て方を維持するという趣旨を基調として含んでおられたと感じますし,道垣内幹事の御意見もそのように感ずるものでありますから,項目の立て方はこれを基本にした上で,必要な推敲をなさっていただきたいと望むものでございます。 ○松本委員 そういう御提案の流れだということであれば,見出しについては提案者はそういう発想で議論しているということで結構です。ただ,債務者対抗要件の制度趣旨と整合しないというのは,主張している人は分かりますし,ここで議論を聴いている人も,こういう趣旨で考え方に違いがあるのだろうということは分かると思うんですが,中間的な論点整理の文章だけを読むと恐らく分からないと思います。制度趣旨と整合しないということの中身をもう少し,対抗要件としての承諾を廃止したとしてもなお弁済することは可能だという考え方,それが対抗要件という趣旨だという理解の仕方もあるので,私は別にそれを墨守しろということを言っているわけではなく,こういう方向に変えてしまうというのもあり得るかもしれないですが,パブリックコメントとしては,文章をもう少しパラフレーズしたほうが親切だろうと思います。 ○鎌田部会長 これは新しく提案されている制度の内容に立ち入った議論という側面もないわけではないんですけれども,現行法の対抗要件がどういうものかという理解の問題でもあって,一つは対抗要件のそもそもの考え方からいえば,承諾をなくして通知に限ったところで債務者からの勝手な弁済は有効にしかならないという,これは対抗要件の考え方からいけばそうなるんだというのが一つの理解ですね。それに対して,しかし,債務者対抗要件を具備しない限りは有効な弁済ができないという,これも現行法の理解としてそれがあり得るという考え方もある。この点が一つの対立点。その上で,対抗要件の意義についてどっちの考え方をとろうとも,要は,債務者対抗要件と言われるものが具備されない限りは,債務者が譲受人に弁済しても効力が生じないことにしたいという政策目標をもった改正提案があって,そのこと自体については松本委員も別に反対しているわけではないですよね,そういう政策提言があるということ自体について。 ○松本委員 中身は議論をしないということですから,それはしません。そういう議論があって今後も検討しましょうで結構です。 ○鎌田部会長 だから,その二つは少し位相の違う問題で,対抗要件を変えれば自動的に新しい政策提言に直結するわけではないという指摘があるということを,本文の中にそこまで詳しく書くのは難しいと思うんですけれども,そういう状況の中で議論が行われているということがよく理解できるように,議事の概況等も含めて,全体としてどこに議論のポイントがあるかということが正確に伝わるような工夫をしてもらうということにしたいと思います。 ○中田委員 41ページ,「譲渡禁止特約の効力」に関するところのイの部分です。ここで「債権の流動性の確保が特に要請される一定の取引類型から生ずる債権につき」という記述がございますけれども,一定の取引類型についての規定を民法で定めるのが妥当どうかについての疑問が出ていたと思います。これについては,補足説明の中で触れておくという考え方だと思いますけれども,これは民法に何を規定するのかというかなり大きな問題ですので,むしろ,この点は本文に入れたほうがいいのではないかと感じます。   それからまた,この「一定の取引類型から生ずる債権」というのが一体,何なのかがよく分かりません。部会資料9-2では,UNCITRALの国際債権譲渡条約が参照されておりまして,そこでは賃貸借契約とかクレジット契約が出ているんですけれども,ここで言っている一定の取引類型というのは債権発生原因となる契約を指しているのか,債権譲渡契約のことを指しているのか,それもよく分からないので,少なくとも例示を補足説明などで出しておいたほうがよいのではないかと思います。 ○内田委員 比較法的には金銭債権については,一律にそうするという考え方もありますが,それも含めてのことです。そうすると,民法に書くこと自体は多分,おかしくはないのだろうと思うのですが,それも含めて広くという趣旨ですけれども,そこはやはり具体的に書いたほうがいいでしょうか。 ○中田委員 一定の取引類型というのが,今,内田委員がお示しになった例以外にも理解はあり得ると思うんです。そこのところがこの文章だけを読むと分かりませんし,それから,一定の取引類型という言葉のイメージにもよるのですけれども,広いものではなくて割と特定的なものだと理解すると,それを民法の中で規定することはどうかという議論もあり得るように思います。そこで,今の内田委員の御指摘も含めて,もう少し説明をしていただいたほうがいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 金銭債権全部ということだったら,逆に一定の取引類型から生ずる債権という書き方は狭過ぎるということになりますので,その辺,正確に趣旨が伝わるように全体としての工夫をお願いいたします。   ほかに「債権譲渡」に関連して御意見はございますでしょうか。 ○山本(和)幹事 非常に細かいところなんですが,44ページの一番下のウの項目ですが,45ページの2行目のところに「差押命令・転付命令の送達」というのが出てくるんですけれども,ちょっと転付命令というのが出てくるのにやや違和感を覚えました。具体の判例は差押え・転付の事例だったのかもしれませんが,ここで問題になるのは債権譲渡の対抗要件と差押命令の送達の時期の問題なのかな,転付命令の送達の時期に独立の意味があるとは思えないような感じがして,そうだとすれば,転付命令というのは削除したほうが紛れがないのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 この点はよろしいですね。   ほかにはいかがでしょうか。 ○中井委員 45ページの「将来債権譲渡」の「(2)将来債権譲渡の効力の限界」の部分です。ここでは過剰担保の取得についてのみが指摘されているんですけれども,お書きいただくのなら,この基準設定については譲渡人自身の事業活動の継続ができる,できないの問題にも関わる,更に,譲渡人の一般債権者を害するかどうかにも関わる,それの一つとして過剰担保の問題でしかないわけですから,そういう将来債権譲渡が公序良俗で限定される理由としては,そちらのほうが大きいのではないか,そういう事情を併せて挙げていただければと思います。   なお,過剰担保の後ろに「担保物権法制の問題と関連」と記載された趣旨,ここに記載する必要があるのかについて疑問があります。担保物権法制と関連するからここでは及ばないがごとくに思われるんですが,公序良俗との関係でいうならば,担保物権法制との関連というのは要らないのではないかと思います。この点も併せて御検討いただければと思います。 ○松尾関係官 部会の議論の中でも,これは担保物権法制の過剰担保という問題と密接に関連する問題だから,具体的な基準を置くことをこの部会で検討できるのかというような御発言があったと記憶しています。今回,担保物権法制の問題ということを新たに書き込んだのは,正にそのことをよりクリアに問題点として御理解いただくために書き込んだということであって,中井委員が先ほどおっしゃられた譲渡人の事業活動の継続であるとか,そういった観点とは全くまた別の次元の問題点の指摘ということで書かせていただいたと御理解いただければと思います。その上で,中井委員から,今,御指摘いただいたようなことを新たに書き込むかどうかということは,他の論点とのバランスなども含めて改めて検討させていただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 今の中井委員の御発言の趣旨を踏まえて,中身を再検討させていただきます。   ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,ただいまより休憩ということにさせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開をさせていただきます。   部会資料25の46ページから47ページにかけて,「第12 証券的債権に関する規定」について御意見をお伺いいたします。   特にないようでしたら,部会資料25の47ページから50ページまでの「第13 債務引受」について御意見をお伺いいたします。 ○奈須野関係官 「併存的債務引受の効果」ですけれども,49ページの上から3行目で,「不真正連帯債務」になると書かれています。確かに部会ではこのような議論がありましたが,よく考えてみると併存的債務引受は,事業譲渡や会社分割から必然的に生じることが多いので,類型的に見ると主観的共同関係があるようなケースが多いと思われます。そうだとすると,不真正連帯債務をデフォルトとするよりは,通常の連帯債務をデフォルトとするほうがニーズに合っているようにも思えます。もちろん,見ず知らずの人がやってきて,併存的債務引受をしていただけることがないわけでもないと思いますけれども,そういう場合には「不真正連帯債務にする」という特約を定めればよいのではないでしょうか。   この点,もう一つの資料の26ページで「議事の概況等」の3行目では「連帯債務(ただし,現行法よりも絶対的効力事由が限定されたもの」となっており,記述ぶりとしてはこっちのほうが良いという感じがします。   いずれにせよ,連帯債務の効力の見直しはするわけですから,その結果を踏まえて決めれば良いので,今の段階で不真正と決め打ちをする必要はないと思います。 ○鎌田部会長 そこについては配慮をしていただくということにします。 ○筒井幹事 御指摘を踏まえて書き方を考えようと思います。このような方向で更に検討すると書いてあるだけに,そこは不真正連帯債務と決め打ちしないほうがよいのではないかという御趣旨であると受け止めました。奈須野関係官から御指摘があったように,連帯債務の絶対的効力事由そのものが見直しの対象になっていますので,そのことを踏まえての書き方ができるように考えてみたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   よろしければ,部会資料25の50ページから51ページまでの「第14 契約上の地位の移転(譲渡)」について御意見をお伺いいたします。 ○新谷委員 契約上の地位の移転に関して,原則として相手方の承諾が必要とされているという点については,当事者間で交渉力格差のある契約において,様々な弊害が出る懸念もあると考えています。特に労働契約においては,例えば,今,学生の就職が厳しく,大分,就職活動に苦労されているのですが,そういった労働契約の締結の際に,事前に包括的に将来の転籍等について同意をした場合に,転籍等の時点での個別の同意を不要とされてしまうと,いろいろな弊害が出てくると思っています。今後の論議の際には,相手方の承諾の時期というのが事前の包括的同意だけでは足りないのではないか,契約上の地位の移転時点での個別の承諾が必要なのではないかというように,承諾の時期についても議論ができるように,是非,論点の中に加えていただければ有り難いと思っています。 ○鎌田部会長 議事の概況等とどちらに振り分けるかというふうなことも含めて検討させていただきたいと思います。   ほかにはいかがでしょうか。   それでは,部会資料25の51ページから59ページまでの「第15 弁済」について御意見をお伺いいたします。 ○村上委員 55ページの「7 弁済の充当」についてですけれども,下のほうの①,②,③とある,このうちの②民事執行手続における配当について,合意充当及び指定充当を認めるべきかどうかという指摘がある部分についての意見です。私は,22回目の会議のときに,合意充当や指定充当を認めた場合に,執行手続が円滑に進むかどうかという観点からの検討が必要だという意見を述べました。できればそれを反映したような書き方にしていただけないだろうかと思います。その方法はお任せしますけれども,②は①や③とはやや異質な面もあろうかと思いますので,例えば②を独立させることにして,①,③で一旦文を区切ってから,②についての記載に移り,その中で,執行実務に与える影響等も踏まえて検討するというような表現でどうだろうかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○山川幹事 55ページの「弁済の提供」の「口頭の提供すら不要とされる場合の明文化」のところで,前回の議論で松岡委員の御意見だったかと思いますが,「方向で」という文言を削除するという御提案があり,今回,それに沿った案が出てきております。その際,それを落とすことについて異存はないという趣旨で発言しなかったわけですけれども,今回の案では,賃貸借のみが言及されておりますが,雇用契約においても同様の取扱いがなされているということがあるのではないかと思います。ただ,判例法理といえるほどに明示されているものではなくて,実際上,例えば解雇が無効とされた場合,改めて口頭の提供をしなければ債務不履行となったり,賃金請求ができなくなったりするということではないというのが一般的な取扱いと思いますので,例えば補足説明においてでも,このような取扱いは雇用契約において解雇が無効な場合についても妥当するとの意見があったとか,そういう形でこれまでの議論が認識可能にしていただければと思います。細かくはお任せします。 ○道垣内幹事 55ページの7の「弁済の充当」の③でございますけれども,確かに部会の議論においては信託の例が出たのかもしれませんが,信託の例が出た本来の意味は,債権を取り立てる人が内部的にはと申しますか,利益の帰属する人との間では公平義務などを負っているときに,単純に債権が複数あるという場合と同じにしてよいのかという話だろうと思います。   そうしますと,別に信託でなくても,例えば委任契約によって取立権がある人に集中的に帰属しているという際に,同一の債務者に対して委任者の異なる複数の債権を取り立てるという状況にある場合も同じです。現在の法制度は,これらの問題を恐らく内部的なものとだけ捉え,外部的というか,債務者との関係では弁済の充当の問題として処理をするけれども,内部的にお金を分けるときには,委任や信託の規律による結果が生じてくるというように分けているのだと思います。これを,外部的にも,つまり,債務者との関係でも一定程度,貫くかということだろうと思いますので,もう少しマイルドにといいますか,一般的な文言にしてくださったほうが議論の実質を伝えているのではないかという気がいたします。 ○鎌田部会長 そこは工夫をお願いするということにいたします。   ほかにいかがでしょうか。 ○松本委員 先ほどの債権譲渡で債務者の承諾を債務者対抗要件から外せば,債務者は譲受人に弁済することができなくなるという解釈論を採った場合で,かつ52ページの(2)の「利害関係を有しない第三者による弁済」というのが新しい制度として実現した場合に,両者の関係がどうなるのかというのがちょっとひっかかっているんです。債務者が譲受人に弁済できないという結論が先ほどの債権譲渡についての改正の結果,導かれるとすると,第三者による弁済はそれとは無関係に譲受人を債権者だということでできるという話になるのか,債務者が弁済できない以上は第三者もできないと,すなわち,債権譲渡の効力は債務者だけではなくて,第三者との関係でも発生していないということになるのかどうかというのがちょっとひっかかっているんですが,どなたか,クリアな御説明を頂けるでしょうか。 ○鎌田部会長 どなたか,もし御発言があれば。 ○沖野幹事 クリアな説明ができるかどうかはよく分からないのですけれども。考えていなかった問題です。対抗要件が何かはともかく,何も備えていないというときにということですよね。 ○松本委員 恐らく立案者は第三者対抗要件を債権譲渡登記(ファイリング)一本にすることによって,第三者対抗要件は備えているけれども,債務者には通知しないタイプの債権譲渡による流動化を考えておられて,ああいう提案になっていると思いますから,第三者対抗要件を備えているが,しかし,債務者には通知はしていないし,承諾もないという場合を前提とした議論だと思います。その上で,債務者の意思に反する第三者による弁済というのがどうつながってくるのか。 ○沖野幹事 一層,明確に答えられないのですけれども,最初の御質問を伺ったときには,第三者としても元の債権者というか,譲渡人のほうに弁済するしかないのではないかと考えておりましたけれども,更に場面設定を伺いますと,一方で,債務者に対する要件とそれ以外の第三者に対する要件とを切り離したときの第三者の範ちゅうに,こういうものが含まれてくるのかをどう考えるのかということも,考えなければいけないんだろうと思います。 ○鎌田部会長 そういう問題も起きてくるということで,具体的な内容の審議の際には考慮に入れていただければと思います。   ほかに。 ○潮見幹事 一点だけお願いですが,55ページの(1)で「弁済の提供の効果の明確化」のところの段落ですが,そこに1段落目で「受領遅滞の規定の見直しと整合性を図りつつ」というのが入っているんです。休憩前に扱った14ページの「受領遅滞」のところには,弁済の提供の制度に関する記載がないんです。ですので,お任せはしますけれども,「受領遅滞」のほうにも「弁済の提供の規定の見直しとの整合性を図りつつ」というのを,どこかで何らかの形で記載しておいていただければありがたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 51ページの「1 弁済の効果」の最後に,「弁済と給付との関係を整理することについても,検討してはどうか」というのがございます。これは前回でしたか,こういう御提案があったわけですが,これは給付の概念にも関わる非常に大きな問題ですので,ここで論点とするのが適当かどうかという気がいたします。もしもこれを論点として取り上げるのであれば,もっと前のところで給付の概念に関して出すということになるかもしれませんし,あるいはここでということであれば,むしろ,今の段階では補足説明にとどめておくということもあり得るかなと思いました。 ○鎌田部会長 その点は検討をさせていただきます。   ほかにはいかがでしょうか。   それでは,部会資料25の59ページから64ページまでの「第16 相殺」について御意見をお伺いいたします。 ○岡本委員 部会資料60ページの「第三者による相殺の可否」のところなんですけれども,第三者による相殺を認めた場合の問題の例といたしまして,括弧書きのところに「例えば」として,Aが無資力の場合にAの債権者の利益が害されるという問題が示されているわけなんですけれども,前に三上委員のほうからAがBに対して反対債権を有する場合でBが無資力の場合の問題の指摘,これを行っておりまして,この問題指摘はAが無資力の場合の問題に勝るとも劣らないというか,そういう問題指摘だったと思っておりまして,これについてもAが無資力の場合に加えまして,括弧書きの中に加えていただけないだろうかと思います。   加える内容としては例えばですけれども,AがBに対して反対債権を有し,かつBが無資力の場合に第三者による相殺が認められることによって,Aの相殺の期待が害されるという問題,こういった程度でしたら,それほど分量も増やさずに加えられるのではないかと思いますので,御検討いただきたいと思います。 ○松尾関係官 前回審議した際にも中井委員から同じような御指摘を頂いていたと思いますが,今のような文言で正確に書き切れるかということも含めて,もう一度,検討させていただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○中井委員 マイナーな話ですけれども,60ページの2,「(1)相殺の遡及効の見直し」と次の61ページ,「(2)時効消滅した債権を自働債権とする相殺」の部分ですが,書きぶりだけの問題です。(1)は3行目,前半の「考え方がある。このような考え方の当否について」でつないでいる。(2)のほうは下から2行目ですけれども,こういう考え方について「検討してはどうか」につながっている。こういう「考え方がある。このような考え方の当否について」というのが,非常に多く出てきていまして,私には分かりやすくて結構だと思っています。ところが(2)のほうは違う書き方をしているので,これは何か意図があるのか,たまたまこうなってしまっているだけなのかということの確認です。もし特段のことがないのであれば「考え方がある」としたほうが,前の文章が非常に長いだけに分かりやすいのではないか。特にどちらというわけではなくて,分かりやすさの観点から見ていただければと思います。 ○筒井幹事 御指摘をありがとうございます。特に使い分けたわけではありませんので,御指摘を踏まえて直す方向で考えたいと思います。全体を通じてかなりボリュームがあるため,表現について全ての平仄をとるのは限られた時間の中では大変難しいので,前回も御説明いたしましたけれども,特に何か意図的に細かい表現をいろいろ使い分けているわけではないことを御理解いただいた上で,目についたところは直しておくようにしようと思います。 ○中田委員 同じような細かいことなんですが,今の部分,2の(1)と(2)と(3)のそれぞれの見出しが最後のところが微妙に違っております。「見直し」というのと「見直しの要否」と「見直しの必要性」と,これもそろえていただいたほうがよろしいのではないかと思います。 ○松本委員 ちょっと自分の無知をさらすかもしれないんですが,60ページの「相殺の遡及効の見直し」というところの一番下の行に,「任意規定としての遡及効の有無のいずれを」という言い方をされていて,私は相殺というのはかなり公序に関する規定だと理解をしておりましたので,任意規定だと言われると本当かなと,私の誤解かなとも思うので,ここの意味をちょっと御説明願えますか。遡及効の有無,つまり,相殺契約がありますから,そこは自由にやればいいのでしょうが,単独行為としての相殺の遡及効について,相殺はするけれども,遡及しないとか,あるいは半分だけ遡及するとかいうような内容の単独行為ができるという趣旨で,特に条件を付けていなければ遡及するという,そういう意味で任意規定だというふうな表現をされているんでしょうか。 ○鎌田部会長 これは一方的にやるわけにいかないから,合意によって相殺権を与えるとか,相殺の効果についての合意をしておくということは必要なのではないでしょうか,法定相殺であっても。 ○筒井幹事 例えば銀行取引において,相殺の意思表示をしたときの効果をあらかじめ約定しておいて,実際に相殺の意思表示がされた場合にその約定に従った効果が発生するといった例があると思います。そのような合意が許されるという趣旨で,任意規定と表現したものです。 ○松本委員 分かりました。事前の基本契約によって一定の制限をしたりできるものだからという意味ですね。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   それでは,部会資料25の64ページから65ページまでの「第17 更改」について御意見をお伺いします。 ○岡本委員 「相殺」のところで一つ発言を漏らしておりましたので,部会資料の63ページなんですけれども,「法定相殺と差押え」のところでございまして,第2段落につきまして改定前の版では,「まずは無制限説を明文化することを基本とした上で」という記載になっていたんですけれども,今回,改訂版では「無制限説を明文化することの当否について」という,そういう記載ぶりに改まっておりまして,読むと相当トーンダウンしているという印象があるものですから,この点については元に戻していただけないだろうかと,こういう意見です。 ○松尾関係官 なぜ戻したのかということですが,これまでの議論の中で,本文の書き方の違いについて極めて詳細な御指摘を頂いていたことから,この部分の書き方も御指摘を頂いていたわけではなかったものの,極力,ニュートラルになるようにというつもりで書き直したものです。要するに,直した趣旨としては原案の趣旨をよりクリアにするために直したわけですけれども,今の岡本委員の御発言は,原案よりも更に方向を強く出したほうがよいという御指摘ではないかと受け止めました。そうであれば,皆様で御議論いただいて,方向を強く出すということでよろしいのであれば,そのように修正したいとは思います。 ○岡本委員 提案がかなり強く読めたものですから,それが弱まっているという,そういう。 ○高須幹事 今の点でございますが,私は無制限説についてはある程度の検討が必要ではないかとやはり思っておりまして,そういう意味では,今回,直していただいたような案でむしろまとめていただいたほうが,本来的によかったのではないかと思っております。その点で私は今回の修正案といいますかね,表現のほうがよりニュートラルな立場で議論ができるのではないかと思っております。 ○松岡委員 私も,自分の意見としては無制限説でもいいのではないかと思っているのですが,非常に議論があるところでもありますし,無制限説を明文化する方向性についてまで合意が取れたかとは思えませんので,もう少し慎重に,この修正案のほうが良いと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか。ほかにはいかがでしょうか。   それでは,「更改」についての御意見があればお出しください。   ないようでしたら,部会資料25の65ページ,「第18 免除及び混同」について御意見をお伺いします。   次に,部会資料25の66ページから67ページまでの「第19 新たな債務消滅原因に関する法的概念(決済手法の高度化・複雑化への民法上の対応)」について御意見をお伺いします。 ○奈須野関係官 67ページの2の①で,「第三者の取引安全を確保するため,登記を効力発生要件とし」とあるのですけれども,読みようによってはCCPの登記と読めるのですが,提案者の意図としては,多分,そうでないと思われるので,何の登記を何の効力発生要件とするのか明確にしたほうがよろしいかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   では,次に部会資料25の68ページから69ページまでの「第20 契約に関する基本原則等」について御意見をお伺いします。   ないようでしたら,部会資料25の69ページから70ページまで,「第21 契約交渉段階」について御意見をお伺いします。 ○岡本委員 69ページの「債権債務関係における信義則の具体化」ですとか,それから,「契約交渉の不当破棄」,このところでは特定の場面についてのみ,信義則を具体化することについて,信義則の一般規定としての性格が不明確になるという指摘を反映していただいているんですけれども,「契約締結過程における説明義務・情報提供義務」,こちらのほうには同様の記載がないので,論点としては同じなので同じように反映いただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 同じ「説明義務・情報提供義務」の70ページの第2パラグラフの3行目の「効果」のところで,括弧の中に「取消しの可否」というのが今回,入っているのですけれども,これは少し説明が必要なのではないかと思います。義務違反の効果として契約の解消との関係を考えるのは自然なんですけれども,詐欺による取消しの規律との関係ですとか,取消原因をもっと広げた場合の規律との関係ですとか,あるいは契約の解除との関係ですとかということも出てきますので,これだけを書くとちょっと分かりにくいのではないかと思います。 ○笹井関係官 ここは,第22回会議において中井委員から御指摘があったところですので,中井委員のほうから補足があれば教えていただきたいんですけれども。 ○中井委員 教えるということは私には難しいんですけれども,山本敬三幹事もこの点については御説明いただいたのかと思うんですが…。 ○潮見幹事 ここで言おうとしていることは,結局,ここの部分で損害賠償の話をする場合には,当然,その後で出てくる不実表示を理由とする取消権との間の制度間の関係というものを十分意識して,取消しの可否も考えなければいけないという含意でおっしゃられたのではないかと思います。ですので,そういう方向からちょっと文章を整理されれば,より意味の分かりやすいものになるのではないかという感じがいたします。   後で発言するつもりだったのですが,そうなりますと,84ページの5のところに不実表示とかがあるのですが,そこと,今,問題になっている箇所との間にリンクを張ってもよいように思います。 ○笹井関係官 そういう方向で修正するということでよろしいですか。 ○松本委員 別に私はこれを主張しているわけではないですが,もし書くのであれば,効果としては損害賠償のように金銭で解決するタイプと,それから,契約の拘束力から解放するというタイプが当然あるわけです。取消しの可否というのは契約の拘束力からの解消として,取消権を与えたらどうかという議論だろうし,それをすると恐らく不実表示の議論と関係が出てくるわけだから,そこは議論しなければならないのは当然の話だし,更にドイツ法的な契約締結上の過失という考え方を採って,それに違反した場合は解除だという議論の流れを主張している人もいるわけですから,そういう意味では解除というのも,検討対象としてはここに入ってくるタイプだろうと思います。 ○鎌田部会長 包括的に「契約の解消」というような受け方でもいいのではないかという気はしますけれども,その辺は工夫をさせていただきます。 ○中井委員 言わずもがなかもしれませんけれども,現実には例えば証券取引,極めて複雑な商品が最近,非常にたくさん出ております。それが証券会社などの金融機関,銀行も含めて販売するパターンで,それが予期に反して半額になる,9割の損失を被る。こういう訴訟類型において従来,損害賠償請求のみで基本的には処理されていますけれども,取消主張が現になされているという事実があります。それが詐欺,不実表示に当たれば,場合によっては新しい類型の中に入るのかもしれませんけれども,そこに当たらないものであっても説明や情報提供が不十分であれば取消対象になり得るのではないか,そういう問題提起です。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○中井委員 同じ2の「説明義務・情報提供義務」のところの2行目ですが,ここに「情報処理能力」という,ある意味で目新しい言葉が出てきていますが,この言葉を取り入れていただくことについては大変結構なことではないかと思っています。つまり,情報収集能力のある者とない者,集まった情報量の多い少ないだけではなくて,当該本人が受け取った情報をきちっと理解できない,その情報を処理できない,だから,それを考えましょうという意味で,この言葉を入れることは大変いいことではないかと思います。   ただ,格差については,交渉力の格差も通常言われるんですけれども,交渉力という言葉が省かれています。それは情報量と関係がないから省いたのかなと思うんですけれども,現実には情報を集めるというのは,自ら集める場合もありますけれども,相手方との交渉の中で相手方から得るというのも情報収集の一環でして,それができるできないは交渉力の違いによって起因するところです。したがって,交渉力の違いを省く理由はないだろうと思います。更に検討していただければと思います。 ○笹井関係官 説明義務の存否を判断するに当たって考慮される代表的な要素を例示し,その他の要素は「など」に含めているということです。余りごてごて書き過ぎてもかえって分かりにくくなるということもあるでしょうから,バランスを考えながらということにしたいと思います。 ○中井委員 交渉力と一言で終わるものですから,なぜ,その一言を省いたのかなと素朴に思ったわけです。 ○鎌田部会長 交渉力になると,情報処理そのものとは違うものがたくさん入ってきて,かえって焦点をぼやかしてしまうということも恐れたのかと思います。 ○中井委員 私もそう推測して,先ほどその趣旨の発言をしたつもりです。推測はしたけれども,更に御検討いただければという意味です。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   よろしければ,部会資料25の70ページから74ページまでの「第22 申込みと承諾」について御意見をお伺いします。 ○岡本委員 71ページの「申込みの推定規定の要否」のところなんですけれども,申込みの推定規定を設けるべきであるという考え方に反対する指摘として,「これら行為をした者が応諾を拒絶することに合理的な理由がある場合もあり」という指摘を記載していただいておりますけれども,部会の議論の際には,そうした場合の例といたしまして確か金融庁の藤本関係官のほうから,反社会的勢力との間で契約を締結しないようにする,いわゆる反社チェックと言われているもの,これに支障が生じるのではないかといった趣旨の指摘があったように思います。   それから,次の「拒絶の余地がないとすると取引実務を混乱させるおそれがある」という指摘も記載していただいておりますけれども,こういった場合の例としては例えばカードローンの広告をやったんだけれども,それが申込みだと推定されてしまって,債権者側で審査をする余地がなくなってしまうといった例も考えられるのではないかと思うんですけれども,こういった何か具体例があったほうが分かりやすいと思うので,ゴシックなくても結構ですので,何かそういった具体例の記載を頂けると有り難いかなと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかにはいかがでしょうか。 ○道垣内幹事 極めて細かいことで恐縮なんですが,71ページの2の(3)の「交叉申込み」の定義なのですが,「申込みが交叉して行われること」では,交叉申込みが理解できない人が分かるようになるとはとても思えないので,「同一内容の二個の申込みが両当事者から」といったふうに,いや,それで分かりやすくなったかどうかは自信はありませんが,意味をもう少し分かりやすくしないと,説明になっていないような気がします。 ○内田委員 ではどう書けばいいでしょう。 ○道垣内幹事 ブリタニカ百科事典によりますと,「当事者双方が偶然同一内容の『申込み』をすること」と書いてあるのですが,これでよいかは若干疑問です。 ○鎌田部会長 相手方から申込みがあったことを認識していないということが重要なのかと思うんですが。 ○道垣内幹事 そこら辺は微妙ですが,少なくとも交叉して行われるというのは何か当たり前かなという感じがします。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○松本委員 今のところで単なる言葉の揚げ足取りですが,「同一内容の2個の申込み」というと,両方が売りましょうという申込みでは駄目なので,この辺はもう少し表現を工夫していただいたほうがよいと思います。   もう一点,中身のほうでありますけれども,73ページの6の「申込者の死亡又は行為能力の喪失」というところの3行目,4行目あたりで,525条前段の部分の趣旨については,「このことは当然のことであるから……削除するものとしてはどうか」とほとんど結論が出ているわけですが,当然のことは書かないというルールでこの部会は動いているのかどうかということなんです。   そうしますと,例えば3の(1)とか,4の(1)とか,このあたりは何々が「撤回できることについては,学説上異論がない。そこで,この旨を条文上明示するものとしてはどうか」と書いてあるわけです。このあたりがちょっと一貫していないのではないかと。すなわち,6のところで525条前段を削除すると,こういう場合はどうなるんですかという議論が起こってきて,学説上,異論がないということになると,また,もう一度戻って明文化しましょうかという話になりかねません。この辺は今回の改正の基本的ポリシーはどうなのかというところをはっきりさせないと,何か非常に一貫しないような内容になるのではないかという気がいたします。確か前回,私が欠席したときにも1か所,そういう趣旨の文章について書面で御指摘をしたと思いますが,これは別にここだけの議論ではなくて共通の論点として,一つここで出てきていることだとお考えいただいたらよいと思います。 ○鎌田部会長 これは,当然のことかどうか,異論がないこと一般ではなくて,どれが任意規定かということは明示の必要があるのかもしれませんけれども,反対の特約があれば,それに従うということ自体はここだけに書かなくてもいいではないかということと,申込者が申込みの際に反対の意思を表示した場合には97条2項が適用されないことは自明ではないかという,ここで問題とされている具体的な内容と合わさって,こういう方向性になっているんだと思います。 ○内田委員 今,部会長がおっしゃったとおりで,一般的に当然のことを書くかどうかという,そういう話ではなくて,任意規定である部分について一々当事者が反対の意思を表示したときには,この限りでないということを書くかどうかというのは,強行規定,任意規定をどう区別するか,区別するときに強行規定について,これは強行規定であるということを書くのか,あるいは両者の中間的なものもあるのではないかという議論もあって,それをどうするかは別途,議論されますので,そこで併せて議論したほうがいいのではないかと思います。 ○松本委員 そういたしますと,債権の譲渡とか相殺の部分もかなり似たような書きぶりになっていて,原則として譲渡性がある,しかし,当事者が反対の意思を表示した場合はそうではないと。相殺も確か同じ書きぶりで,相殺も任意規定なんだというのが,先ほどの話ですよね。そうすると当たり前のことだから書かなくていいのかと。債権の譲渡性があるというのも当然のことであって,任意規定なんだということであれば同じ議論にならないですか。 ○内田委員 譲渡性については譲渡を禁止するという特約を当事者が結んだ場合に,その特約にどういう効力を与えるかというのは,これを法律できちんと書こうという別の問題がありますので,そこで,そこについて規定が置かれているということで,単に任意規定であることを示すという趣旨ではないと思います。 ○鎌田部会長 内田委員からも御指摘があったように,強行規定と任意規定をできるだけ分かりやすく振り分けたほうがいいのではないかという御提案もあるところですので,強行規定,任意規定であることをどういう形で表現するか,それから,それも歴然としたものと非常に判断が難しいものとがあり得るので,その点についてはまた別に考慮する機会は作らなければいけないと思うんですけれども,ここはわざわざ言わなくてもいいのではないかという判断がなされた部分であるということだと思います。ほかにはいかがでしょうか。   それでは,次に部会資料25の74ページから75ページまでの「第23 懸賞広告」について御意見をお伺いします。   それでは,次の部会資料25の76ページから77ページまでの「第24 約款(定義及び組入要件)」について御意見をお伺いします。 ○岡田委員 つい最近なんですが,複数の弁護士と複数のかなりベテランの相談員で約款の話をしていたのですが,全く双方の解釈が違っていまして,弁護士側は一致しており相談員側と全然議論にならなかったのです。ここに書いてあるいわゆる約款というのを相談員にも分かるような形で例示していただきたいと思います。 ○笹井関係官 約款の定義については「2 約款の定義」で議論するということになっており1では特定の定義によらずに御議論いただきたいということで問題提起しているんですが。 ○岡田委員 そういうことだとは分かるのですが,弁護士側が言うには,いわゆる東京電力とか東京ガスとか交通約款をイメージされていて,相談員側は訪問販売業者等の事業者の場合も約款と思っている感じで双方の理解にかい離がありました。弁護士側も約款とは何ですかと相談員側に質問される場面がありましたが,結局弁護士側と相談員側との共通理解は得られませんでした。相談員のレベルと言えばそれまでですが,今後の議論に相談員も参加できるようにお願いしたい次第です。消費者契約法では条項と言っていますが,トラブルになった事業者の不当条項を問題にすることが少なくありません。もしかしたら相談員の中で,約款と条項がその辺で混乱しているのかもしれません。パブリックコメントに意見を出すことは当然考えていると思いますので,約款に関して説明を入れていただければ助かります。 ○筒井幹事 岡田委員の問題意識は大変よく分かりました。どう書き表したらよいかはちょっと頭をひねってみようと思いますけれども,先ほど笹井関係官から発言があったとおり,約款の定義そのものが議論の対象で,どう定義をするかによって,どのようなものが入ってくるかが決まるという関係になります。そのため,どう書き表すかはなかなか難しいのですけれども,検討してみたいと思います。 ○新谷委員 約款の2の定義のところです。この下のパラグラフの下から4行目のところでは,前回御指摘を申し上げた点を組み込んでいただき,感謝しています。この部分については,「労働基準法の要件を満たさない就業規則」と記述をいただいていますが,実は就業規則については御承知のとおり,労働契約法にも規定があり,それぞれ要件が違っています。ここに記載されている労働基準法の要件というのは,例えば10人未満の労働者を使用する場合には就業規則の作成の必要がない等が挙げられますが,労働契約法のほうでも変更手続の要件等がありますので,労働基準法の前に「労働契約法及び」という文言を付け加えていただくとよいのではないかと思いますので,御検討いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。少し工夫させていただきます。 ○青山関係官 今の部分,多少,違うことを言うかもしれませんが,「要件を満たさない」というのがよく分からない。前回の1月の議論では,労働契約上の就業規則というのは,労働契約法でそれが労働契約の内容になることについての規律が既にあるので,新たに約款の契約への組入れのルールが設けられると,既存の労働契約法上の組入れのルールとの関係が問題となるという議論だったと思います。焦点は労働契約法での就業規則に関する規律との関係であると思うので,私としては労基法というのは余り関係ないし,しかも「満たさない」としてしまうと余計分からなくなってしまうのかなと思います。就業規則が約款となるとすると,労働契約法の規律との整合性が問題となるというぐらいの表現のほうが最近の部会での議論を反映したものになるのかと思います。   二点目ですが,1パラグラフの最後から2行目で約款に関する業法や労働契約法その他の関係,と書いていただいているとおり,労働契約法や各業法との関係も問題になると思うのですが,そういうことも含めて,3の「組入要件の内容」のパラグラフでも,77ページの1パラグラフ目の下から2行目の「約款の有用性や組入要件と公法上の規制との関係」で説明しているのだと思うのですが,「公法上の規制」という表現が業法を指しているようにしか見えないので,労働契約法は民事法であることから,例えば公法上の規制やその他の法令との関係,のように記述いただくほうが,労働契約法も含むように見えて有り難いです。   あと,もう一点はちょっと表現だけの問題ですが,4の「約款の変更」のパラグラフの表現で,2行目に「変更の効力については規定がなく,明確でない」という表現があるのですが,これはどこに規定がないということをおっしゃっているのか。そもそも今の民法上,約款に関する規定全体がないので,変更の規定についてのみ特にないとする表現の意味がちょっと分からなかったので,ここは単に疑問を感じており,趣旨をお聞かせ願えればと思います。 ○鎌田部会長 最後の点については。 ○笹井関係官 民法にないということです。 ○青山関係官 それは事実として分かるのですが,今民法には,約款が契約の内容になるかという記述そのものがないので,この変更のところでだけそれを書くと,何かバランスが悪くないでしょうか。表現だけの問題であり,工夫の部分だと思いますのでお任せいたしますが。 ○鎌田部会長 確かに約款についての規定はないんですけれども,民法のどこを見渡しても,こういう場合を想定した規定がないという,民法の側からいえばそういう話になるので,その辺のところをうまく調整して余り違和感のない表現が見つかれば,そういう方向で工夫をさせていただきます。   ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○岡本委員 「約款の組入要件の内容」のところなんですけれども,「当事者の合意がなくても慣習としての拘束力を認めるべき場合があるとの指摘」,これを記載されているんですけれども,部会の議論のときに慣習があるとまでは言えなくても,約款によることが社会通念上,周知の事実になっているような場合についても拘束力が認められてよいのではないかということを申し上げておりまして,これもできれば併せて反映いただけると有り難いと考えます。 ○鎌田部会長 分かりました。   ほかにはいかがでしょうか。 ○山川幹事 先ほどの76ページ,2の「約款の定義」のところの御議論ですけれども,労働基準法の要件を満たさない場合について先ほど新谷委員から御説明がありまして,労働契約法のほうは非常にすっきり理解できるんですが,労働基準法の就業規則作成義務が生ずる要件に該当しない10人未満の事業場における就業規則も,前も議論しましたけれども,労働契約法上は規律の対象になっておりますので,私としても,労働契約法との整合性のみを問題とすれば足りると思います。その意味では,青山関係官の御発言と同意見ですけれども,それ以外に,もし労働基準法の要件を満たさない事業場で,何か整合性で問題になる場合があるとすれば,ちょっと具体的に教えていただければと思いますけれども。 ○新谷委員 この論議をしたときに,現在の労働契約において法律効果を与える根拠について,個別同意であったり,労働協約であったり,就業規則であったりするという論議をする中で,労働基準法の要件に満たない10人未満の就業規則について,約款とみなされて新たな権利関係を構成する要因,つまり第四の法源にならないかという懸念を申し上げたところです。私どもとしては10人未満の労働者を使用する使用者が作った「就労規定」というような社内文書が新たに約款的効力を持つということについて,非常に危惧をしているというのがこの内容です。 ○山川幹事 分かりました。つまり,10人未満の事業場については,労働契約法の周知と合理性という要件を満たしたとしても,契約内容とはならないという理解に立った場合ということですね。どちらかというと,そういう場合でも労働契約法の周知と合理性の要件を満たせば契約内容になるという理解のほうが多数だとは思いますけれども,判例等で明確になっているわけではないので,そうしますと労働基準法,そこの表現も難しいのですが,労働契約法等の労働法令上の要件を満たさないとか,そのくらいの表現のほうがいいのかなと思います。必ずしも労働基準法の要件を満たさないということから直ちに,今,挙げられた事例の扱いが一般的に異論なく承認されているかどうかは議論の余地があるので,ちょっと今すぐ思い付きませんけれども,表現を御工夫いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,場合によって御相談を申し上げながら,表現を工夫させていただくこととさせていただきます。   ほかにはいかがでしょうか。   では,次に部会資料25の77ページから79ページまでの「第25 法律行為に関する通則」について御意見をお伺いします。 ○山本(敬)幹事 1の「法律行為の効力」について,論点の追加を提案したいと思います。これは,前回のときに気が付くべきだったのですが,この問題について最初に検討したときの部会資料12-1では,「公序良俗違反の具体化」の前に「(1)法律行為の意義等の明文化」という項目が挙げられていました。これが現在のまとめ案では落とされているのですが,これを削除する理由はないように思います。この段階になって申し上げるのはやや時宜に後れているところはあるのかもしれませんが,審議したことを反映させるためには,やはりこの項目を追加していただきたいと思います。   具体的には部会資料12-1の表現をほぼそのまま生かす形で,例えば次のようにしてはどうかと思います。   「(1)法律行為の意義等の明文化  現行民法上,法律行為総則の冒頭には,法律行為が例外的に無効となる場合を定める規定(同法第90条)が置かれ,法律行為の意義についての一般的な規定が置かれていないため,条文上,法律行為という基本的な概念の意味が分かりにくいという問題が指摘されている。他方で,法律行為は,多様なものを包含する概念であるため,その正確な意義を条文化することは容易でなく,かえって分かりにくい規定になるおそれがあるとも指摘されている。   そこで,法律行為の効力が意思表示に基づいて生ずるという基本原則を明記することによって,法律行為の意義を条文上も明らかにすべきであるという考え方もあるが」,ここまでが部会資料12-1と同じですが,「このような考え方の当否について,更に検討してはどうか」。   以上です。 ○筒井幹事 御指摘をありがとうございます。中間的な論点整理のたたき台を作成する作業をする過程で,この論点の置き場所を動かしているうちに元に戻すのを忘れて現在に至っているというのが実情でした。意図的に落としたわけではないので,それについてお気付きいただき,指摘していただきましてありがとうございました。書き方については少し考えさせていただきたいと思いますけれども,これまで議論を経ていないので,もしこの場でもほかに御意見がありましたらお聴かせいただきたいと思います。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。それでは,この項目を追加させていただくということにします。表現について細かいところでは,少しまた修正があるかもしれないということを御了解いただければと思います。   ほかにいかがでしょうか。   次に,部会資料25の79ページから80ページまでの「第26 意思能力」について御意見をお伺いします。 ○中井委員 80ページのところで,「4 一時的に意思能力を欠く状態で行われた法律行為の効力」という項目が,前回の議論を踏まえて新たに追加されたのかとは思います。しかし,これを追加するまでの必要があるのかということについて,申し上げたいと思います。つまり,意思能力を欠く状態で行われた法律行為の議論は,1のところから始まるわけですけれども,常時,意思能力を欠いている場合もあるでしょうし,一時的に意思能力を欠いている場合もあり,同じ意思能力を欠いている場合の規律について,1,2,3と議論をされているのではないか。つまり,4は既に含まれているのではないかと思うんです。それを,ここで取り上げる理由が何なのかがよく分からない。   仮にこれが例えば原因において自由な行為というのでしょうか,そういう意味で,一時的に意思能力を失った原因がほかにあって,その結果,こういう意思能力を欠いた状態になっているときに,特別な取扱いをするような新たな提案だとすれば,それはそれで取り上げる意味があるのかもしれません。しかし,前回の議論が,必ずしもそういう御趣旨ではなかったとすれば,ここで取り上げるというのはどうなのかと思います。弁護士会は今まで新たに取り上げろ,取り上げろと言いながら,取り上げたものについていかがなものかというのは矛盾した言動かもしれませんが,御検討を賜ればと思います。 ○松岡委員 今の点を議論したときに確かに原因において自由な行為の規律は,民法改正研究会の提案に含まれていたと思うのですが,提示していただいた原案にはなかったと思います。また,弁護士会からの御意見だったと思いますが,そういう例外的な細かいことまで規律する必要はないとの御意見があり,私も民法改正研究会の一員ではありますが,それに異論を申し上げることはいたしませんでした。ほかにも原因において自由な行為を規定するべきだとの御意見はなかったと記憶しております。それゆえ,4が原因において自由な行為を意味するのであれば,なくてもいいのではないかという今の中井委員の御意見に賛成です。 ○笹井関係官 これは第22回に,一時的に意思能力を欠く状態で行われた法律行為が例外なく無効となる法律関係が不安定になるのではないかという御指摘があったので付け加えたものです。そのときの御意見の表現をそのまま使ったということですが,改めて考えてみますと,多分,その御意見の趣旨としては,常時意思能力を欠いているのであれば相手方にも分かりやすいけれども,一時的に意思能力を欠いた場合にはそれについて善意の相手方の保護に欠けるのではないかという趣旨であろうかと思います。そういう意味では,原因において自由な行為とは少し趣旨が異なっていると理解しておりました。ただ,先ほど申し上げた趣旨だとしますと,「一時的に」というよりは,意思能力を欠く状態で意思表示をした者の相手方をどのように保護していくかという形で問題提起をしておいたほうが適切かもしれません。もし御了解が得られれば,そういう方向で修正したいと思いますが。 ○鎌田部会長 相手方のほうから規定するというのが一つだし,1の「要件」の中の一部かもしれないですね。一時的な意思無能力者をここの意思無能力の規定の適用対象に入れていいかどうかという……。 ○笹井関係官 部会長の御指摘のとおり,もともとの御意見があったのは定義のところで御意見があったわけです。ただ,多分,御意見の趣旨としては,一時的に意思能力を欠いた状態を定義上意思能力から除外するということではないと理解しました。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○中井委員 この意思能力の問題について,一時的であれ,本人に意思能力がなければ無効,効果は取消しという説もあるのかもしれませんけれども,相手方の知,不知で効果を変えるという議論はあり得るのでしょうか。また,そのような問題設定は今まであったのでしょうか。そのような問題設定をすることについては強い疑義があると思いますが。 ○笹井関係官 今までの学説上,どうかということであれば,恐らく相手方の知,不知によって効果を変えるという議論はなかったのだと思います。しかし,第22回会議の御意見で新たに問題が示されましたので,それに応じて記載したということでございます。 ○大村幹事 今の中井委員の御質問については相手方の知,不知で結果は変わらないということになるのだろうと思います。前回の議論の際にどういうことが出たのか,正確には覚えておりませんが,笹井関係官の御説明から推測すると,こういう規定を置くことによって,一時的な意思無能力の場合の主張が増えるということに対する危惧の念が示されたのではないかと思います。そういう観点から,この規定を置くということに対する反対意見があったのかどうか確認していただいて,あったのならば,そういうものがあったと,それから,それに対して,だから置かないという考え方とは別に笹井関係官がおっしゃったように手当てをするという考え方もあると思いますので,そのあたりを書き込んでいただければと思います。 ○道垣内幹事 中間的な論点整理を行うに際して,これまで当部会では結論を出すための議論を差し当たってはしておりませんで,いろいろな学説等の主張がある場合には,それらを比較的広く取り上げてきたと思います。しかるに,一つ民法全体について改正案を発表されている民法改正研究会は,笹井関係官の御説明とはちょっと違って,どちらかといえば原因において自由な行為みたいな話で,故意又は重大な過失により事理弁識能力を欠いていたというときに関しては,相手方の善意を要件にしながら,意思能力がなかったという主張を認めないという案を提示しているわけです。そうなったときに,この案だけを取り上げないということに現在の段階でするというのがいいのかというのが,私にとっては気になるところであります。ちなみに,それに賛成しているわけではないのですが。 ○中田委員 意思無能力について議論が分かれているわけなんですけれども,その原因の一つに法律行為のレベルの問題として捉えるのか,それとも継続的に意思無能力状態にある人の保護の問題として捉えるのかという何か見方の違いもあるような気もします。そうすると,4というのはちょうどそういうのを明らかにするという,議論を触発するという機能もあるかと思われますので,今の道垣内幹事の御説明と,結論的には同じように考えていいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。道垣内幹事の御発言は,この場で出たのは要するに一時的に意思能力を欠く状態の人まで意思無能力者として保護すると,保護の範囲が広がって取引の安全を害する懸念があるという類いの意見がここで出たんだけれども,それ以外に原因において自由な行為型のものがあるので,その両方を含めて論点に掲げるべきだという御趣旨でしょうか。 ○道垣内幹事 そこまでの趣旨はありません。一時的に意思能力を欠く状態で行われた法律行為がどのような要件で無効となり得るのかということについて4に書かれている範囲に,先ほど申しました立法提案というのも含まれ得ると思います。つまり,表意者の帰責性というものと相手方の要保護性というものを考えて,この場合は処理をするということでしょうから,このままでも構わないのであり,特に文章を付け加えなければならないというわけではないと思います。しかし,4を今現在,消せるのかというと,ちょっと消すのは妥当ではないのではないかということです。 ○鎌田部会長 分かりました。その辺の趣旨を生かしながら整理をしてもらうようにします。4に,独立して「一時的に意思能力を欠く状態で行われた法律行為の効力」という項目が設けられていることが,中田委員の言われたことの裏返しなんですけれども,二つのタイプの意思無能力者のうちの継続的な意思無能力者だけが1,2,3の対象であって,一時的に判断能力を失った人は意思無能力とは言わないということであるとすると,今までの意思無能力者に関する考え方からのかなり大きな転換を暗に示すことになるので,その辺のところも少し気になるんです。 ○山本(敬)幹事 もし継続的に意思能力を欠く状態のある人を保護するのであれば,要件の書き方が,「意思能力を欠く人が行った法律行為」となるのではないかと思います。ここでは,ひとまず包括的に,「意思能力を欠く状態で行われた法律行為」とされていますので,一応,そのような疑義が生じないような書き方になっているとは思います。ただ,部会長が言われるように,4に出てくると,これは一体どういうことかという疑義が出てくる可能性があるのもおっしゃるとおりだと思います。ですので,いずれにしても,紛れがないような整理の仕方をしていただければと思います。 ○笹井関係官 ちょっと最終的にどうすればいいのか方向性が分からないのですが。今の1から3までは,一時的に意思能力を欠く状態で行われた場合を包含する形で書いてありまして,中井先生がおっしゃったのは,そういう意味でなぜ4だけ特に分けて記載しているのかということであろうかと思います。私の理解としては相手方をどう保護するかという趣旨であれば修正はできるんですが,原因において自由な行為の話とかをどのように扱えばよいでしょうか。 ○鎌田部会長 相手方の保護という観点からいえば,原因において自由な行為は入れにくくはないというか,入れやすいと思います。 ○道垣内幹事 入れにくくはないというよりは,相手方の保護のための要件をどうするかの問題で,表意者に一定の帰責性を要求するということでしょうから,それは構わないのだと思います。 ○笹井関係官 私が申し上げたような方向でよろしいですか。 ○道垣内幹事 そうですね。ですから,私が先ほど笹井関係官の御説明とは少し違うと申しましたところは,撤回します。 ○松本委員 一時的にという点で,そういうお酒に酔っ払ってとかいうのもありますけれども,高齢者の場合にはかなり日によって時間によって違うというのがあって,これは本当に難しい問題で,そういうのをどうするかというのは,実際に消費者保護に当たっている弁護士としていつも問題にしているケースです。消費生活センターの相談員の場合もそうだと思うので,これをきちんと議論する必要があると思いますから項目としては落とさないで,どう保護するかという話と,それから,当然,相手方の信頼保護という点もありますから,そのあたりを通常の意思能力という固定した制度ではない形でどうやれるのかということを議論しなければならないと思います。だから,落とさないでいただきたい。 ○山本(敬)幹事 せめてまとめ方としては,4として「一時的に意思能力を欠く状態で行われた法律行為の効力」と置くのではなくて,1の「要件」の中の(1)と(2)というような分け方をして,大きく要件の問題の中の一つであるという位置付けをされれば,多少は整理しやすくなると思うのですが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 そういった方向で,あるいはこういう一時的な場合の特則の必要性というふうな形にするのかもしれませんけれども,ちょっと相談した上で適宜の方法を見いだして,中身は生かしていくということにさせていただきたいと思います。 ○中井委員 整理の方向についてはお任せをいたします。意見としてですが,一時的であれ,常時であれ,意思能力を欠いた状態における表意者,その本人保護というのはやはり基本に据えるべきで,原因において全く帰責性がなくて一時的に意思能力のない場合について,常時と違って保護が弱くなるという発想は,私自身はあり得ないと思っていますので,その記載の方法,補足説明なりは,十分,御配慮いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○佐成委員 今の点ですが,発言は私が確かしたかと思うのですけれども,もともとは「原因において自由な行為」とかを想定していたわけではもちろんございません。議論が,今,そういった方向に進んでいたので,それはそれで結構かなと思って発言しなかったのですけれども,まとめ方は事務局にお任せいたしますが,実務界としては,要するに,一時的に意思能力を欠く場合に取消しを認めると意思表示を受ける側に不測の損害が発生する可能性があるといった懸念が表明されていたということでございます。ですから,まとめ方の方向としては,あるいは山本敬三幹事がおっしゃったような1のところでまとめるというのがもともとの趣旨ではありましたけれども,別枠にして議論いただくにいたしましても,十分価値がある論点かと思います。 ○鎌田部会長 ほかによろしいでしょうか。 ○岡委員 表現だけですが,79ページの「効果」のところで,取消説に対する批判の文章の「このような考え方に対し」の最初ですが,期間制限があるために保護に十分ではないということもあるかもしれませんが,それよりも取消しの意思表示がなされるまでは行為が有効になってしまうこと,これが保護に十分ではないというほうが実務界としては大きな理由ですので,期間制限の前に今のような取消しの意思表示がない限り,有効になってしまうことというのを付け加えていただければと思います。 ○内田委員 それは,取消しに遡及効があってもということですか。 ○岡委員 意思表示をできる人がいないとか,行方不明であるとか,意思表示を適法に到達することができないとか,そういう場合を想定しております。 ○笹井関係官 取消しの意思表示ができるまではというよりも,そういう取消しの意思表示という手続的な要件が必要になるという趣旨でしょうか。 ○岡委員 趣旨はそうですけれども,やはり,取消しが有効になされるまで有効で,止めることができないという感覚が強いと思います。 ○松岡委員 弁護士会が多分,強くおっしゃっていたと思いますが,取消権者がいないようなケースや取消権者が狭いというケースをどうするのかが問題だと思います。 ○鎌田部会長 成年者に限っていえば,取消権者がいないときにしか,多分,意思無能力の問題というのは出てこないということが問題になるんだろうと思います。   ほかにはいかがでしょうか。 ○松本委員 26ではなくて25のほうで一点,落としていたところがございますので申し訳ございませんが,78ページの3で,強行規定と任意規定の区別をしたほうがいいんだけれども,難しいということがここに書いてありまして,検討しましょうということですが,そこで,先ほど私が73ページの6のところで,525条前段は当然だから削除という提案についてちょっと意見を申し上げたところ,97条2項は任意規定なんだから,わざわざ特約が可能だということは書かなくていいんだということを内田委員から説明をされて,それはそれで一つの分かりやすい説明なんですが,それでは,その前の71ページの3の(1)のような「承諾期間の定めのある申込みは撤回することができない」と書いてある民法521条1項について,申込者が撤回権を留保すればできるんだという点は,521条1項は任意規定だという前提の下に,こういう解釈が学説上,異論がなく固まっているということなので,そうすると,結局,任意規定だからそれに反した別段の意思表示をすることができるというのは当然なんだということであれば,ここもやはりわざわざ明文化しなくていいということになるのではないかと思うので,その点,一貫していないかなと思います。   ある条文は明確だから,わざわざ任意規定であることを明示するような特約によって別段の意思表示ができるということは書かなくてよい。しかし,ある条文は必ずしもそうではないから明記したほうがよいと。これは結局,条文の性質について一定の評価をした上で,あるいはそれがどこまでのコンセンサスになっているか,あるいは一般市民が読んで分かるかと,そういった点で判断をするということであればいいんですが,両者を見て,それほど明確なものなのか。一方は見ただけで分かる,一方は見ても分からないという類いのものなのかというと,必ずしもそうではないのではないかということです。結局,78ページの3の問題にぐるっと回って帰着するということで,ここがはっきりしない状況下において,ある特定の条文については任意規定であることを明記するために,別段の定めが可能だということを書き,あるところでは任意規定であることが明白だから外そうというのは,ちょっと一貫していないのではないかなという気がいたします。 ○内田委員 任意規定というのは合意で外すことができるという趣旨ですけれども,今の申込みの撤回は合意ではなくて,申込者が一方的に申込みの中に撤回可能性を留保するという場合について,それの効力を認めるということは,やはり明文の規定がないとルールは不明確なのではないかと思います。ですから,合意で外せる任意規定について,一々,合意で外せるということを書かないということとは趣旨が違うように思います。 ○松本委員 525条前段は申込者が反対の意思を表示した場合はということですから,申込みという単独行為の中で,一方的にこの条文と違う趣旨で私は申し込んでいるんですということを表示している場合ということです。先ほどの相殺の遡及効のところは,銀行約定書などでそういう事前の基本契約があるケースなんだと説明されましたから,そうかなということですが,ここは必ずしも事前の基本契約があった上で,今後の契約の申込みについては,こういう取決めでやりますということが前提だとは読めないんですが,単独行為という点では。 ○鎌田部会長 そう言われればそうですが,死ぬ前に承諾してくれれば契約しますといっても,この条文があるから死んだ後の承諾だって契約が成立するという主張は通常出てこないという,ここで想定している場面事態の特殊性というのもあるんだと思うんです。その点も含めて審議をして,いずれにしろ,削除してはどうかというのに対して,そんなことをしたら分かりにくくなるから削除するなという意見がたくさん出てくるということになると……。 ○松本委員 私が分かる,分からないという話ではなくて,今回の民法改正の一貫したポリシーとしては何なのかということで,余りにも明白過ぎるから削除しましょうというのは,それはそれでよろしいわけですけれども,今,部会長がおっしゃったような死亡した後でどうこうということは,実質上,問題がないから,そんな仮想事例はルール化する必要はないんだというのは一つの理由だと思うので,そうであれば,任意規定だからという説明ではない説明をしないと,一貫しないという指摘でして,実際,これをどうするかということ自体を,今,議論したいというわけではございません。 ○鎌田部会長 一般的に当然だから削るというスタンスではないことは確かなんです。任意規定だから合意によって排除の余地があるというものを全部,拾い上げて明示的に規定するかというと,必ずしもその必要はないだろうというのが,ある種の基本的な原則とまではいかないかもしれませんけれども,一つの方向性として存在していると,それの一例だと御理解いただいたほうがいいのではないかと思います。 ○松本委員 削除しようという提案と付け加えようという提案との一貫性がないということです。別の人がそれぞれ提案しているんだから,一貫していなくていいんだというのは,個々の提案レベルではそれでもよいけれども,実際の改正要項としてまとめる段階になれば一貫しないポリシーで,つまみ食い的な改正というのは許されないと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。よろしければ次に進ませていただきます。   部会資料25の80ページから85ページまでの「第27 意思表示」について御意見をお願いします。 ○山本(敬)幹事 80ページの「1 心裡留保」について二点,分量的には小さな修正をお願いできればと思います。   まず,「(1)心裡留保の意思表示が無効となる要件」の第1段落で,非真意表示と狭義の心裡留保を区別して,「無効となる要件に差を設けるべきであるとの考え方」が示されています。しかし,これだけでは,どのような「差を設ける」か,すぐには分かりません。もちろん,議事の概要等を見れば分かるわけですけれども,ほんのわずかなことですので,これはもう少しだけ補っておいてはどうかと思います。具体的には,この考え方の後に,括弧書きで,「①の場合は相手方が悪意又は有過失のときに無効になるが,②の場合は相手方が悪意の場合に限り無効になるとする」という説明を付加しておいてはどうかと思います。   次に,(2)の「第三者保護規定」のほうですが,80ページの一番下の行から,「規定の内容については,例えば,第三者は心裡留保の意思表示が無効であることについて善意かつ無過失であることを要件として保護されるものとすべきであるとの考え方」が示されています。  この点については,まず,善意無過失ではなく,善意で足りるとする考え方もあることを明記する必要があると思います。これは虚偽表示次第なのですが,現在の94条2項と平仄を合わせて善意で足りるという考え方は,もっともなところがあると考えられます。   更に,そうした善意や善意無過失の対象ですが,この部会資料では,「意思表示が無効であることについて」とされていますが,これは厳密に言うと違うようにも思います。むしろ,表現としては,現在の94条2項に合わせる形で,例えば次のように改めてはどうかと思います。「規定内容については,心裡留保の意思表示が無効であることを善意の第三者に対抗できないとする考え方のほか,善意無過失の第三者に対抗できないとする考え方もあるが,それらの当否を含めて更に検討してはどうか。」というような形でまとめてはどうかと思います。 ○鎌田部会長 そこはそういった趣旨を生かせるような形を工夫させていただきます。   ほかにはいかがでしょうか。   では,部会資料25の85ページから87ページまでの「第28 不当条項規制」について御意見をお伺いします。 ○新谷委員 1の最後の部分に,不当条項規制の適用対象について,「労働契約は対象から除外すべきであるとの意見がある」という記載をいただいています。この部分については一巡目の論議のときに,不当条項規制を片面的ではなく両面的な規制とするのであれば,労働契約については除外をしてほしい,労働契約に適用する場合は片面的に,条項使用者が使用者側である場合に限って不当条項規制の対象としてほしい,という趣旨で発言をしています。そのため,具体的な提案として,「労働契約は」という部分については,「労働契約の労働者側は」という記載を追記することについて,是非,御検討いただきたいと思っています。 ○笹井関係官 労働契約全体を除外すべきだという意見もありましたので,現在の記載はそれを踏まえたものです。それに加えて御意見のような記載をするかどうか,検討させていただきたいと思います。 ○山川幹事 今の点ですけれども,労働契約全体については,23回目に佐成委員から御指摘のあったところかと思いますが,もしそうだとすると,この問題と2の点との関連性なんですが,労働契約の取扱いについては三つくらいあって,およそ労働契約は,就業規則が約款である場合もそうでない場合も含めて不当条項規制の対象外だとする取扱い,片面的な場合も含めてですが,それと就業規則が約款と見られる場合についてのみ適用対象とするというのが中間的な扱いで,三番目はどういう場合であっても,個別の労働契約でも就業規則が約款である場合でも不当条項規制の適用対象とすると三つあると思うんですけれども,労働契約一般につき,片面的であれ,両面的であれ,対象からそもそも除外すべきだという問題と,就業規則が約款として適用対象となる場合にどう考えるかという問題は,次元の異なる問題ではないかと思います。   そうすると,2で出てくる,個別に交渉して合意された場合については不当条項規制の対象から除外するのかという論点は,労働契約が全て適用対象外になるかという問題とは別の問題として生きてくるのではないかと思います。前回,佐成委員の御発言では,労働契約を全部適用対象から除外するということを記載することと,それから,少なくとも2の点についての労働契約の取扱いを削除するということの両方を必ずしも求められたわけではなかったわけではないかと思いますので,ここについては,つまり,2の「例えば,消費者契約」に続く部分について,労働契約において就業規則が約款として不当条項規制の対象となるとした場合というのも加えても,論理的には整合性は維持できるのではないかと思います。ちょっと複雑な話になりますけれども,1のほうは労働契約がおよそ適用対象から除外されるかどうかの問題で,2のほうは就業規則が約款を解した場合に,個別交渉を経た条項については適用除外としないほうがよいかどうかという問題ですので,両者を記述しても問題ないといいますか,むしろ,記述したほうがいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 御意見を参考にして少し検討させていただきます。   ほかにはいかがでしょうか。 ○中井委員 1の「不当条項規制の要否,適用対象等」の第2段ですけれども,前回の議論を踏まえて例示を入れていただいたんだろうと思います。例示を入れていただいたこと自体は結構かと思いますが,もう少し正確に入れていただいたほうがいいと思います。「約款や消費者契約は一方当事者が契約条項を作成することが多いことから」と,この二つについてそういう理由になっていますが,不当条項規制についての考え方は部会資料の詳細版にありますように,約款については約款アプローチ,すなわち,使用者側が一方的に作成するから隠ぺい効果なり,希薄な合意になる,そういうところから不当条項規制が及ぶというアプローチだろうと思いますし,消費者契約のほうは消費者契約アプローチで,消費者と事業者間の格差を理由として不当条項規制を及ぼしており,理由が違うんだろうと思います。これを同じ理由でまとめられているところは不適切ではないかと思います。  また,約款や消費者契約が例示であることは確かですけれども,もう一つ不当条項アプローチ自体があるわけですから,条項自体が不当であれば不当条項規制を及ぼすという考え方を検討対象として残すべきだろうと思っていますし,上の第1段ではその検討が残っているのだろうと思います。だとすると,この例示のときにもそのこと,不当条項自体を対象とすることも含めた記載にしていただけないかと思います。 ○鎌田部会長 その点は検討させていただきます。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。   本日,予定をしていた議事は以上のとおりですが,予定された項目以外に御意見がございましたらお出しください。 ○青山関係官 予定された項目以外ではないのですが,先ほど調整するという話があったので細かい話はもうやめますが,約款のところで,労働契約との関係で御議論があった76ページの例の2パラグラフのところで,私も別の意見を言ってしまったので混乱したかもしれないです。ちょっと整理だけしておきますと,恐らく新谷委員がおっしゃっている話は,そういうものが本当にあるのかどうかということもありますが,労基法などの要件を満たさない規則みたいなものがあるとすれば,そういうものが約款の規制のほうに服せしめられてしまって,それでいいのかという懸念なのだと思われ,それは確かにおありなのだと思います。   それと私が述べた話は別の話で,労働契約法上のその概念に該当する就業規則というものは,労働契約法のほうで契約となることについてのルールがあるので,そのような既にあるルールとの整合性が問題になるという話です。   このため,二つの違う問題意識を先ほどごちゃごちゃと私と新谷委員とで発言してしまったので,それらの点を書くのであれば,二つを並べて書かなければいけないと思います。細かい話はまた御相談かと思っていますので,そういう理解でよろしければ調整に応じます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○岡田委員 先ほど言い忘れましたが,83ページの「錯誤者の損害賠償責任」,ここはやはり気になりまして,できたら上から4行目,「無過失責任を負わせるのは錯誤者にとって酷な」とありますが,ただ錯誤者ではなくて,できたら消費者ないしはそれに準じたというようなことを入れていただきたいのですが。 ○笹井関係官 ここは消費者に限った議論ではないと思います。 ○岡田委員 それは前回より前進なのですが,余り広いとなくなってしまうのではないかと心配になりました。 ○鎌田部会長 錯誤者取り分け消費者ですか。 ○岡田委員 そんなものは駄目だよと言われてしまって,結果的には無過失責任が残ってしまうのは困るのです。 ○鎌田部会長 議事の概況等の中にうまく御懸念の点を反映できれば,そのように工夫させていただきます。 ○岡委員 改正の理由について当部会の1回目と2回目で大分議論したと思います。それを今回のパブコメの頭の部分にでも要約を紹介して,国民にも意見を聴くというようなことは考えられていないんでしょうか。 ○筒井幹事 たたき台についての議論を始める直前の12月の会議で,中田委員から,改正の必要性についてどのような形で取り上げるのかという御発言があったと思います。それを受けて本年1月の最初の会議の際に説明したとおりですけれども,事務当局の責任で作成する「補足説明」の前半,総論的な記載事項の中で,1回目と2回目の会議において集中的に改正の必要性についての議論をしたということと,その議事の概要について紹介しようと考えております。それに対して意見を出していただくのは,もちろん差し支えないということになるのではないかと思います。 ○岡委員 本文には書かないという御趣旨ですね。 ○筒井幹事 はい。そのように考えております。 ○松本委員 今の岡委員の御発言との関係,続きのようなものですが,改正の必要性という話で,もし改正するとすればどういう観点からするのがよいかというのもパブコメの意見として受けたほうがよいかと思います。先ほどからかなり議論しておりますが,明白なことは書かないという視点でいくのか,明白なこともやはり普通の人が読んで分かるように丁寧に書き込んでいく,あるいは定義規定的なものも入れていくほうがいいのかどうかというのは,個々の条文でそこが問題になることもあるかもしれないけれども,個々の検討条項のところからは出てこないような共通的な論点については,やはり,総論的に少し意見を募るようなほうにしたほうが建設的ではないかと思います。 ○鎌田部会長 ちょっと考えさせていただきます。おっしゃる例に出されたように定義規定を置くかというのと,先ほどのような任意規定について,なお当事者間の合意があれば排除してできるというのを書くかというのはかなり性質が違ってくるので,そういうものをパターンごとに全部,一般的な質問事項として立てるというのもいかがなものかという感じもしなくもないので,ちょっと検討させてください。 ○松本委員 個々に議論されているのが,必ずしも一貫したポリシーに基づいていないような提案が雑居しているというところがあるので,そういった中から,個々の条文の改正提案に解消されないような共通の論点として,幾つか出てくるのではないかなという趣旨です。 ○筒井幹事 今の段階で取り上げている論点が一貫していないというのは,ある意味で当然のことですので,そうすると,どのような論点項目を用意したらよいのかということなのですが,例えば,総論的な意見を自由に言っていただくような枠をどこかに設けておくということになるのでしょうか。 ○松本委員 それは一つですが,漠としてその他御自由にお書きくださいというのでは,そういう枠があろうがなかろうが,書く人は書くし,書かない人は書かないということだと思いますから,できればもう少しブレークダウンをして,幾つかの総論的論点というのを挙げられれば挙げたほうがいいんだと思います。 ○筒井幹事 考えてみます。前回の会議で,中井委員から,その他の検討すべき課題としてどのようなものがあるかという項目を,独立の一項目として設けるかどうかを検討してほしいという御提案があって,そのことについて改めて考えますとお返事したと思いますので,それと同様に,最終的にどうするかについて私のほうでももう少し考えたいと思いますが,もう少しブレークダウンした形でというのが,何も思い浮かばないので,何かアイデアがありましたらお伝えいただければと思います。 ○新谷委員 先ほど青山関係官が約款の定義のところで労働基準法なのか,労働契約法なのかということに関連して発言をされたので,私のほうも発言させていただきたいと思います。雇用関係で働く方のうち非常に多くの方が10人未満の事業場で働いておられるのですが,ここで使用者が契約内容を定型的に書面で作ったものが,約款としての効果を与えられたときには,労働者にとって非常に弊害があります。この点について,労働基準法の要件を満たさないという部分で申し上げましたので,ここの整理をどうするかということについては二巡の論議のときに行うことになると思いますが,懸念を申し上げておきたいと思います。 ○鎌田部会長 規制の対象とするという以前に,そもそも,そういうものが法的拘束力を持っていいのかどうかという次元の問題ですね。 ○新谷委員 そうです。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   それでは,最後に次回の議事日程等につきまして,事務当局に説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 次回は,3月29日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省20階第1会議室でございます。   このときに議論していただく内容については,本日,冒頭で簡単に触れましたけれども,たたき台(1)(2)の改訂版について,本日の議論を踏まえた手直しをするとともに,たたき台(3)(4)について2月の議論に基づいた改訂版をお示しして,それらを全体として中間的な論点整理(案)という形でお示ししようと思います。次回会議のうちに,それについて御意見を頂いた上で,修正の方向などを決めていただいて,最終的に部会として中間的な論点整理についての決定を頂くところまでいきたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。   それから,関連いたします今後の予定ですけれども,パブリックコメントの期間について御説明いたします。3月29日,次回会議において,中間的な論点整理についての部会決定が得られた場合には,その後,パブリックコメントの手続を採ることになるわけですけれども,その期間について,これまで未定でしたが,この点について様々な関係方面から御意見を頂き,それらを踏まえまして,2か月とさせていただこうと思います。   もっとも,3月29日に部会決定があったとしても,直ちに,あるいは4月1日から,パブコメの期間をスタートすることができるかというと,それは難しいと思います。具体的には,補足説明,特に議事の概況等についての記載の整理をさせていただいた上で,それを中間的な論点整理と同時に公表する形でパブリックコメントの期間をスタートさせたいと思いますので,そのために若干の準備期間が必要になると思います。したがって,次回3月29日で部会決定に至ったとしても,パブコメ期間のスタート時期については,また改めて御連絡を差し上げることにさせていただきたいと思います。また,そのスタート時期との関係で,関係団体などから意見書を出される際に,その機関決定の手続との関係で日程上いろいろ御都合があるということも,既に御連絡を頂いておりますので,その点については改めて調整をさせていただきたいと考えております。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   本日は御熱心な御審議を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-