法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会           第1回会議 議事録 第1 日 時  平成23年6月29日(水)自 午後 3時07分                      至 午後 5時13分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○加藤幹事 ただいまから法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会の第1回会議を開催いたします。 ○西川委員 本日は,御多用中のところお集まりいただきましてありがとうございます。   私は,法務省の刑事局長をしており,当部会の委員でもございます西川と申します。後ほど当部会の部会長を互選していただくということにしておりますが,それまでの間,恒例によりまして,私の方で進行に当たらせていただきます。   最初に,法務大臣から挨拶があります。 ○江田法務大臣 法務大臣の江田五月でございます。今日は,皆さん,お暑い中,また,お忙しい中,こうしてお集まりくださいましてありがとうございます。法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会の第1回会議の開催に当たり,一言御挨拶を申し上げます。委員及び幹事の皆様におかれましては,本当に御多用中のところ,こうして本会議に御出席を頂き,誠にありがとうございます。   さて,このたび皆様には,時代に即した新たな刑事司法制度の在り方に関する諮問第92号についての調査審議をお願いしているところでございます。21世紀を迎え,一連の刑事司法制度改革により裁判員制度が導入されるなど,我が国の刑事司法制度は大きな変革を遂げつつあるところです。   もっとも,近年の情勢を見ますと,昨年の大阪地方検察庁における一連の事態においては,現在の刑事司法制度の構造を背景にして,検察官に,取調べや供述調書を偏重する風潮があったのではないかという指摘がなされております。この問題については,本年3月まで私の下で開催されました検察の在り方検討会議で熱心な御議論を頂き,その結果,取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方を抜本的に見直して,制度としての取調べの可視化を含む新たな刑事司法制度を構築するための検討を直ちに開始せよという提言がなされました。   そこで,この提言を踏まえて諮問第92号を発したところ,本年6月6日に開催されました法制審議会の第165回会議で当部会の設置をお決めいただき,本日その第1回の会議を迎えたという経過でございます。   今回,御審議を頂く内容は,国民の生活にも影響する刑事司法全体の在り方に及ぶものであり,専門家の先生方にも大勢参加をしていただいておりますが,専門家の知見だけではなく,これに加えて,広く国民の声を反映した審議を行っていただく必要があると考えております。そのため,当部会には刑事法の専門家に加えて,それ以外の,正に各界の有識者の方々にも相当数加わっていただいたところでございます。委員各位におかれましては,活発に御議論に参加していただきますようお願いいたします。   なお,録音・録画による被疑者取調べの可視化につきましては,法務省内に政務三役を中心とする勉強会を設けて調査・検討を続けてきたところでございますが,今後,できる限り早い時期に,その検討の成果を取りまとめて実現を図ることとしております。この成果については,当部会にもお示しし,それをも踏まえた御審議をお願いしたいと考えております。また,現在,検察当局で行われております取調べの全過程の録音・録画を含む試行の状況や,国家公安委員会委員長の研究会において進められている取調べの可視化や捜査手法の検討状況につきましても,十分踏まえた御審議を頂きたいと存じます。   当部会において,時代に即した新たな刑事司法制度を構築するための幅広い御審議を賜り,できる限り早期にその形を明らかにしていただきますようお願いいたします。   どうぞ御審議のほど,よろしくお願いいたします。 ○西川委員 ここで,法務大臣は公務のために退席いたします。   それでは,初対面の方も少なくないかと存じますので,まず,部会長を互選していただく前提といたしまして,委員の方々に簡単な自己紹介をお願いしたいと存じます。時間の関係もございますので,お一人1分程度で,御経歴やお立場,お名前などを伺えればと存じます。本日は,お名前の五十音順に御着席願っておりますので,その順序に従って,恐縮でございますけれども,青木委員からお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○青木委員 弁護士の青木と申します。   1981年の登録で,その年以来ずっと関わってきた事件に,先ごろ再審無罪判決がございました,布川事件がございます。この事件は正に取調べや供述調書に過度に依存した捜査・公判が行われた事件だったというふうに思います。その中で,代用監獄の問題点や取調べの一部録音の危険性,全過程の録画の必要性,全面的証拠開示の必要性などについて痛感いたしました。また,なぜ虚偽自白が生まれるのか,黙秘権の保障とはどのようなものなのかということについても考えさせられました。   この部会の議論の材料の一つとして,この布川事件の当事者のヒアリングや,あるいは録音テープを聴く機会を持っていただくということなどを含めて,この事件での経験を生かせたらというふうに思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○井上委員 東京大学の井上でございます。長年,刑事訴訟法の研究教育に携わってまいりましたし,先頃はまた,検察の在り方検討会議の議論に参加させていただいたこともあり,今回の諮問事項は,我が国の刑事司法全体の在り方を大きく変容させることにもなり得るものとして,殊の外重大に受け止めております。   これから,幅広い分野の皆様と真剣で建設的な議論を重ね,より良い刑事司法の在り方と,そのための方策を見いだしていければと考えております。どうぞよろしくお願いします。 ○岩井委員 岩井宜子と申します。専修大学法学部と法科大学院で,刑法,刑事政策を教えております。   私は,東大の法学部の助手のときには団藤先生に師事したのですが,その後,法務省の法務総合研究所の研究官補にしていただきまして,そのとき以来,刑事政策を主に研究いたしております。少年法や刑罰制度,被害者学,法と精神医療など,その他いろいろのことについて関心を持っております。検察の制度というものについては,刑事政策の担い手として最もよく機能するシステムにするには,どうすればいいのかを一生懸命考えたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○岩瀬委員 警視庁で副総監をしております岩瀬と申します。   警視庁という現場で,刑事に限らず様々な部門の捜査というものについて担当しているところでございます。そのような立場から,この部会の御議論に貢献をさせていただければ大変有り難いと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○植村委員 植村と申します。最高裁の事務総局で刑事局長という仕事をしております。   今,皆さんの本当に御支援の下,裁判員制度を主として担当しておるということになります。今回のお話は非常に大きな話で,皆さんの御意見をいろいろ伺いながら自分でも考えていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いをいたします。 ○大久保委員 大久保と申します。私は犯罪被害者遺族です。   自分が刑事裁判に直面して,被害者には何の権利もなく,どこからも支援を受けることができないという現実にとてもショックを受けました。欧米先進国のように被害者を守る法律や制度を作ってほしいと願いながら20年が過ぎました。現在は,被害者支援都民センターと,その支援の全国組織でありますNPO全国被害者支援ネットワークで,被害者支援に携わっております。新しい刑事司法には,是非被害者の視点も取り入れていただきたいと心から願っておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ○大野委員 最高検の大野と申します。現在,刑事部副部長をしております。   これまで30年余り検事を務めてまいりましたけれども,主に検察の現場で仕事をしてまいりました。検察の現場をよく知る者の一人としていろいろな御意見を申し上げたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○小川委員 東京高等裁判所刑事部に勤務しております小川正持と申します。   これまで東京,新潟,千葉の木更津支部などで刑事裁判,民事裁判,少年事件などを担当してまいりました。そうした立場から,今後の刑事司法制度について,皆さんの御意見も伺いながらいろいろ議論させていただきたいと思っております。どうかよろしくお願い申し上げます。 ○小野委員 小野正典でございます。1975年に弁護士登録をしております。   弁護士会では,裁判員関連や可視化関連の委員会で活動を続けております。この会議で建設的な議論ができるようにと考えております。よろしくお願いいたします。 ○金髙委員 警察庁の刑事局長の金髙と申します。担当は刑事警察全般ということになります。   警察は刑法犯だけで年間約160万件程度の認知,犯罪の捜査をしておりますけれども,警察庁は直接捜査をする立場ではありませんで,各都道府県警察がする捜査に対する指導・調整ということで関わりを持っている立場でございます。   それと,先ほど法務大臣も言及されましたが,国家公安委員会委員長が警察の捜査の在り方ということで「捜査手法,取調べの高度化を図るための研究会」という有識者の研究会を作って,今検討が行われております。その事務局も仰せつかっておりますので,その立場からもこの議論に参画をさせていただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。 ○川端委員 明治大学の川端と申します。法科大学院と法学部で刑法を教えております。   今回の諮問事項によれば,実体刑法についても議論するということでございますので,私は主として実体刑法の立場から発言させていただきたいと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○神津委員 神津里季生と申します。ここに組織の名前,非常に長い名前がありますが,略称で基幹労連というところの委員長をやっております。基幹労連というのは,8年前に当時の鉄鋼労連と造船重機労連,非鉄連合という三つの組織が一緒になった組織であります。   ただ,私は,この場には今,兼任といいますか,非専従で,連合の副会長という立場でありますので,むしろ,その位置付けで臨ませていただくことになろうかと思っています。そういう意味では,職場で一生懸命働いている多くの方々の素朴な気持ちを代弁できればと思います。ただ,そういう方々,いろいろな関心はあっても知識を得る場がありませんので,自分がその分一生懸命勉強しながら,ただ,一回頭の中はゼロクリアしながら,そのものを素直に考えて意見を申し上げていきたいなと,こういうふうに考えております。どうかよろしくお願いいたします。 ○後藤委員 後藤昭でございます。現在,一橋大学の法科大学院で刑事系の科目を担当しております。   私は,若い頃にごく少しだけ弁護士の仕事をしたこともございますが,その後は,専ら研究者として日本の刑事裁判のことを考えてまいりました。検察の在り方検討会議にも加えていただいた一人でございます。   私自身は,日本の刑事司法,もちろん良いところもたくさんあると思いますけれども,いろいろ大きな問題も抱えているのではないか,ここで大胆な見直しが必要ではないかというふうに考えております。私の考えておりますことが,ここでの皆様の議論の御参考に少しでも役に立つことがあれば幸いでございます。 ○酒巻委員 京都大学教授の酒巻匤と申します。法科大学院で刑事訴訟法という科目を教えております。   私はちょっとだけ後藤さんの後輩で,研究を始めて約30年ぐらい経ったところでございます。最近では,裁判員制度や,新しい証拠開示制度の設計に関与いたしました。   この会議は,「新時代の刑事司法制度特別部会」という名前がついておりますけれども,新時代の刑事司法を担うのは,今法科大学院で一生懸命勉強している志の高い学生さんだろうと思います。そういう人たちが,正に志高く熱意を持って誠実に仕事ができるような新しい刑事司法制度を構築するお助けになれば,とてもうれしく存じます。どうぞ,今後ともよろしくお願いいたします。 ○佐藤委員 佐藤でございます。本日はこれだけ大勢の方がお集まりの中で,これほど陳腐な名前の佐藤というのが一人しかいないということで,大変珍しい会だと,うれしく思っております。   私は,警察におきまして,都道府県警察を中心に約20年ほど犯罪捜査に携わってまいりました。そういう関係で,先頃まで開かれました検察の在り方検討会議にも参画をさせていただき,捜査をめぐる問題が非常にいろいろと深刻な問題をはらんでいるということを改めて痛感いたしました。しかし,社会正義を実現するということと,そして,基本的人権を擁護するということ,この二つのいずれをも達成しなければならないと考えますと,制度設計をするときには,この両立を図って進めていくべきだと確信をいたしております。   さきの検討会議では,専ら検察問題を中心に,しかも,取調べを中核とした捜査に関しての議論が中心でございましたけれども,この審議会では,新しい制度を構築するということが諮問されているわけでございますので,将来に向かって知恵を出して建設的な,将来に向けて後顧の憂いが生じない,そういう制度を作り上げるということにいささかなりとも参画できればうれしいと,このように考えております。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○椎橋委員 椎橋と申します。中央大学法科大学院と法学部におきまして,主として刑事訴訟法を担当しております。   この会議は,今後の日本の刑事司法制度の在り方について非常に大きな影響を与え得る会議だと思います。なるべく広い視野に立ちながら,より良い刑事司法の在り方というものを考えたいと思います。真摯に努めてまいりたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○周防委員 周防と申します。映画監督をやっています。   「シコふんじゃった。」とか「Shall we ダンス?」とか,比較的明るい,未来に希望を持てるような映画を作っていたんですが,つい数年前に「それでもボクはやってない」という,ほとんど絶望的な映画を作るはめになりました。そのきっかけは,東京高裁で出た痴漢事件の逆転無罪判決,その新聞記事を見たのがきっかけで,日本の刑事裁判というものを初めてつぶさに取材し,その中で,ほとんど疑問と怒りで頭がはちきれそうになりまして,その結果が「それでもボクはやってない」という映画になりました。   見たくない人もいらっしゃるでしょうが,是非一度,しょせん映画だろうと,たかが映画だろうと思われても全然構いませんので,御覧になってください。これは本当に刑事司法に素人だった僕が,ミステリー小説やミステリー映画の中でこんな立派な検察官がいるんだ,こんな立派な弁護士がいるんだ,こんな裁判官がいるんだという思いの中で,何となく日本の刑事裁判像というのを自分の中で勝手に作っていたんですが,その全てを覆されるという日本の現実に大変なショックを受けました。刑事裁判とほとんど関係なく生きてきた人間が,いきなり日本の裁判というのを見ると,こんなふうに感じるんだということを分かっていただきたいなと思います。   その絶望的な映画を作ってしまった責任から,絶望しているだけではやはりまずいだろうということで,たまたまこういうお話を頂いたので,是非,映画でやった続きを,今度はこういう実際の法律を考えていくという場で自分の意見を述べさせていただきたいと思っています。   失礼な発言が多くなるかもしれませんが,先ほどこの部屋に入った瞬間,すごく場違いな感じがして,そもそもこんな空気の会議に出たことがないんで,いや,これは違うぞと,正直,かなり戸惑いました。大体,映画の企画会議でこんなに空気がよどんでいたら何も出てこないので。法律は映画と違うので,皆さんの専門家としての御意見は,きちんと理解しようと頑張っていきますので,是非実りある会議にしていただきたいと,というか,しようと思っています。よろしくお願いいたします。 ○但木委員 但木と申します。   今,周防監督から面白い話を聞けたなと思いまして,やはり刑事手続というのが国民にどれほど近くなっているかという,その距離感というものを本当に感じました。それは,周防監督の非常に大きな功績の一つであるというふうに思っております。もちろん,そのベースにあるのは,刑事手続そのものがだんだん国民に近づいて裁判員制度になっていったという大きな流れであろうと思っています。   私も,検察の在り方会議の委員をやってまいりました。私が感じたことは,やはり新しい時代に向けて新しい刑事手続というのを,何のこだわりもなく考えていく必要があるのではないか,そのため,専門家の考え方だけではなくて,周防監督を始め,国民の直接的な感性とか感覚というものも受け止めながら,新しい時代を創っていけたらいいなと,私もその一助になれたら非常に有り難いと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○龍岡委員 龍岡でございます。学習院の法科大学院で刑事法を担当いたしております。   それまでは40年間裁判官をやっておりまして,ほとんど刑事裁判を担当してまいりました。検察の在り方検討会議の一員としても参加させていただきました。そこでのいろいろな方面からの議論などを踏まえて,新しい刑事司法制度の構築のため,建設的な議論ができますように,私も微力を尽くしてまいりたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○本田委員 本田勝彦と申します。よろしくお願いいたします。   先ほど周防さんがおっしゃいましたけれども,私も,ずっと青木さんから話を聞いて,こういう専門家の皆さんの中で会議というのは初めてでして,大変どきどきしていたのですが,周防さんがおっしゃっていただいたんで,私も経歴だけ少し申し上げます。   私は,昭和40年に日本専売公社に入社しまして,それからずっと,どちらかというと企業経営のほうをやってまいりました。ちょうど昭和60年,1985年に民営化いたしましたけれども,民営化対策室長をやったり,そういう意味で,以後,正に企業経営ということで,平成12年以降6年間社長をやっていたのですけれども,その中で大蔵省へ二度出向いたしまして,各官庁の方やら,今日の先生方も大勢存じ上げているところです。今回非常に大事な案件ではございますけれども,刑事司法分野についての知識,経験も乏しいことでありますので,どうかいろいろと御指導のほどをお願い申し上げまして御挨拶とします。どうもありがとうございました。 ○松木委員 北越紀州製紙の取締役をしております松木と申します。現在,東京大学法科大学院で商法の客員教授も務めております。   この4月までは三菱商事に在籍しておりまして,三十数年間,企業法務,コンプライアンス関係を担当してまいりました。この間,どちらかといえばこういった刑事司法とかこういう問題にはできるだけ関与しないようにすることを一生懸命やってきましたが,御承知のとおり,事前規制型の社会から事後制裁・救済型の社会への転換が企業法務の分野でも言われるようになりました。これは司法制度というものが,企業にとっても,その存続に非常に重大な影響を及ぼすものになってきたことを表しているということでございます。   そういったようなことから,今回議論に参加させていただけるということで,バランスの取れた良い制度ができ上がるように,できる限りの議論をさせていただきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○宮﨑委員 大阪弁護士会の宮﨑誠と申します。   日弁連前会長ということもありまして,検察の在り方検討会議の委員としていろいろ議論をさせていただきました。そこでの,ある意味煮詰まらなかった課題,あるいは同床異夢というんですかね,そういうもろもろの課題が,全てこの諮問事項として,この特別部会になだれ込んできているということであります。しかしながら,ここから先送りする機関はないわけで,ここで様々な課題に決着をつけなければならないということだろうと思います。私も検察の在り方検討会議の議論を紹介させていただきながら,司法制度改革審議会意見書から10年余り先送りされてきました取調べ全過程の可視化などを含みます刑事司法の諸課題について,一生懸命取り組ませていただいて,制度改革に少しでも貢献できればと,このように思っております。どうかよろしくお願い申し上げます。 ○村木委員 内閣府の政策統括官の村木でございます。   仕事のほうでは犯罪被害者の問題ですとか,障害者,高齢者,子供,若者の問題を担当しております。そういった目でもこの問題を見ていきたいと思っております。   私も,周防監督ほどではないと思うんですが,全く専門外の分野でちょっと居心地が悪くて,審議会もいつも事務局の席におりますものですから,今日はちょっと何か勝手が違いますが,皆様の御経歴をお聴きしても,余り刑事事件で取調べを受けたり,刑事裁判の被告人になった御経歴の方はいらっしゃらないようにお聴きをいたしましたので,経験者の立場から,率直に素人なりに素朴な意見を申し上げていきたいと思っております。よろしくお願いいたします。 ○安岡委員 安岡と申します。日本司法支援センターの法テラスというところで,知名度が低くて,この場でも宣伝したいところなんですが,それはさておいて,そこの非常勤理事をしております。   2月まで日本経済新聞で三十何年間かずっと記者をしておりました。最後の7年間は司法担当の論説委員をしておりました。それで,今日御列席の委員の先生方に何人も取材させていただきました。   一応,司法担当の論説委員ということで,専門記者ではあるんですが,新聞記者の専門知識というのは,とても,常に一知半解で生かじりのものでございます。それで,そういう程度の知識で難しい裁判の解説記事であるとか,論説,社説を書くときに非常に苦労するのは,世間一般読者の方々の常識というものと,この刑事司法の世界の常識というものが甚だかけ離れているというところで,記者としては,通訳をしながら記事を書いているような感覚にいつも捕らわれていました。   そういう立場から,通常の国民,通常の判断力というんでしょうかね,通常の判断力と知識を持った市民は,この今の刑事司法の在り方というのをどういうふうに感じているのかというような視点から発言していきたいと思っております。 ○山口委員 東京大学の山口でございます。大学では刑法を担当いたしております。   私自身は,昭和50年代から一貫して刑法の研究を行ってまいりました。先ほどどなたかおっしゃいましたけれども,これからの刑事司法の在り方を考えようということですから,この部会ではいろいろな観点から問題を考えていく必要があろうかと思っております。私は,主として実体法の観点を踏まえながら発言させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○西川委員 どうもありがとうございました。   それでは,続きまして,当部会の幹事の方々を御紹介いたしたいと思いますが,時間の関係でこちらの方からお名前と経歴を御紹介申し上げます。 (西川委員により,幹事の紹介がなされた。) ○西川委員 なお,本日は野村豊弘法制審議会会長に御出席を頂いております。 ○野村会長 野村でございます。よろしくお願いします。 ○西川委員 また,関係官として法務省の松尾浩也特別顧問,それと,黒川弘務大臣官房付の御両名に御出席を願っておりますが,関係官の御出席については部会長選出後に改めてお諮りするという予定でおります。   次に,部会長の選出に移りたいと存じます。法制審議会令第6条第3項により,部会長は部会に属すべき委員及び臨時委員の互選に基づき,法制審議会会長が指名することとされております。そこで早速,当部会の部会長を互選することとしたいと存じますが,御質問等はございますか。御質問がなければ,御意見を伺いたいと存じますが,どなたか御発言をお願いいたします。 ○井上委員 僭越ですけれども,私の方から御推薦申し上げます。   先ほどの法務大臣の御挨拶にもありましたように,今回の諮問事項は国民の生活にも影響する刑事司法制度全体の在り方に関わるものであり,そういうことから,広く国民の声を反映した審議がなされることが期待されております。そのため,私などを含め,刑事法の専門家というと口はばったいものですけれども,その方面に携わってきた者以外の各界の有識者の方々も数多く参加されておられますので,この全体を取りまとめていただく方としては,むしろ各界の有識者の方々の中からお願いするのが適切ではないかと考えます。   その点で本田勝彦委員は,その御経歴と人柄,御識見に照らして,当部会の部会長をお務めいただくのに特にふさわしい方であると思いますので,本田委員にお願いすることを御提案申し上げます。 ○西川委員 ただいま井上委員から,本田委員を推薦する旨の御提案がございましたが,この御提案に関しまして御意見はございませんか。 (「なし」と言う者あり) ○西川委員 特に他の御意見もないようでございますので,部会長には本田委員が互選されたということでよろしゅうございましょうか。 (「異議なし」と言う者あり) ○西川委員 それでは,ただいまの議事のとおり,部会長には本田委員が互選されましたので,野村法制審議会会長に部会長の御指名をお願いいたします。 ○野村会長 部会長は,互選に基づいて会長が指名するということになっておりますので,ただいま互選されました本田勝彦委員を部会長に指名したいと思います。よろしくお願いいたします。 ○西川委員 それでは,野村会長に本田委員を部会長に御指名いただきましたので,今後の議事進行につきましては,本田部会長にお願いすることといたします。本田部会長,よろしくお願いいたします。   なお,野村会長はここで御退出されます。 ○本田部会長 ただいま部会長を仰せつかりました本田でございます。一言御挨拶をさせていただきたいと思います。   率直に申し上げまして,部会長を仰せつかりまして大変戸惑っておるといいますか,そういう気持ちと,もう一つは,先ほどからずっとお話を伺いながら,その重責に大変身の引き締まる思いがしているのが今の心境でございます。   先ほどもちょっと申し上げましたけれども,私自身は,もともと企業経営活動中心にずっとやってきており,最近,政府の審議会,官民競争入札等管理委員会や社会保障審議会委員等をやらせていただいていますけれども,ただ,刑事司法の分野につきましては,率直に申し上げまして,知識も経験もほとんどないということもあって,戸惑ったわけでございます。ただ,先ほどの大臣の話にもありましたし,皆さんの話にもありましたように,正に刑事司法制度というものを考えますと,国民の人権の尊重を図りながら,なおかつ国民の安心・安全を確立するということは,国民,また,国家にとっても大変重要な事柄であろうと思います。そういう意味で,大変浅学非才ではございますけれども,まとめられるのかな,まとめなければいけないという意味で身が引き締まる思いと申し上げます。   是非,委員の皆様にはいろいろな意味でこの審議に御協力いただき,また,積極的な御意見を頂きますようお願いいたします。よろしくお願いをいたします。 ○本田部会長 初めに,法制審議会によりますと,部会長に事故あるときに,その職務を代行する者をあらかじめ指名しておくこととされております。そこで,椎橋隆幸委員に部会長代行をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。   次に,関係官の出席の承認の件でございますが,法務省特別顧問の松尾浩也先生,及び法務省大臣官房付黒川弘務氏に関係官として当部会に出席していただきたいと考えておりますが,よろしいでしょうか。 (「異議なし」と言う者あり) ○本田部会長 それでは,松尾特別顧問及び黒川官房付には,部会の会議に御出席いただくということにいたします。よろしくお願いいたします。   次に,今後の議事進行に当たりまして,幾つかお願いをいたしたいと思います。   まず,今後の調査審議に当たりましては,委員,幹事の皆さんには十分御発言いただき,活発な議論をお願いできるように努めたいと考えておりますが,何しろこれだけの大変な大人数でもございますので,一回当たりの御発言はなるべく簡潔にしていただきまして,なるべく多くの方の御発言ができるよう,お互いに御配慮をお願いしたいと思います。   また,特に刑事法の専門家である委員,幹事の方にお願いでございますけれども,当部会には,私を含めまして,刑事法を専門とする方以外の方々も相当加わっておられますので,御発言の際には,非常に申し訳ございませんけれども,専門家以外の委員の方にも分かるような表現で,できるだけ議論が活発化するように是非お願いしたいと思います。   それでは,当部会の議事の公表等の在り方につきましてお諮りいたしたいと思います。   まず,当部会の議事録の取扱いについてでございますが,法制審議会の部会における議事録の作成・公表方法等につきましては,先ほどのお話にありましたが,本年6月6日の法制審議会第165回会議におきまして,発言者名を記載した議事録を作成して,原則としてこれを公表することとするとともに,一定の場合には発言者名等を明らかにしないことができるとされたと聞いております。その法制審議会での審議の経緯等につきまして,事務局から御説明いただきたいと思います。 ○加藤幹事 法制審議会の総会における議事録の取扱い等に関する審議,決定の状況について説明します。   法制審議会の議事録については,これまで平成20年3月開催の第156回会議における決定により,次のとおりとされています。第一に,総会については原則として発言者名を明らかにした議事録を作成することとし,例外的に審議事項の内容,部会の検討状況や報告内容といった諸要素を考慮して,発言者名を明らかにしない議事録を作成することができるものとされ,第二に,部会についても,諮問事項ごとに先ほどの諸要素を考慮して発言者名を明らかにした議事録を作成するかどうか判断することとされてまいりました。   平成20年3月以降は,この決定に基づく運用がなされてまいりましたが,本年4月1日に公文書管理法が施行されたことに伴い,内閣総理大臣決定として「行政文書の管理に関するガイドライン」が定められ,審議会の議事録については,発言者名を記載した議事録を作成する必要があるものとされました。その趣旨からいたしますと,今後は,法制審議会総会及び部会のいずれにつきましても,発言者名を記載した議事録を作成すべきものとなります。そこで,当部会におきましても,発言者名を明らかにした議事録を作成させていただきたいと存じます。   その上で,本年6月6日に開催されました法制審議会第165回会議におきまして,議事録の公開方法について改めて審議がなされました結果,その公開方法については次のとおりとすることが決定されました。   すなわち,まず,総会については,発言者名を明らかにした議事録を公開することを原則とする一方,法制審議会の会長において,委員の意見を聴いて,審議事項の内容,部会の検討状況や報告内容のほか,発言者等の権利利益を保護するため当該氏名を公にしないことの必要性,率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれの有無等を考慮し,発言者名等を公開するのが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないことができることとされました。また,部会につきましても,発言者名を明らかにした議事録を公開することを原則としつつ,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,総会での取扱いに準じて,発言者名等を公表するのが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないことができることとされました。   したがいまして,当部会におきましても,原則として,発言者名を明らかにした議事録を作成するものの,部会長におかれて,委員の御意見をお聴きし,ただいま申し上げたような諸要素を考慮して,発言者名等を公表するのが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないこととすることができることとなります。 ○本田部会長 ただいまの御説明に対して何か御質問はございますか。   もし御質問がなければ,ただいまの御説明を踏まえて考えますと,当部会におきます審議の内容を広く国民の皆さんにも知っていただくという観点からも,発言者名を明らかにした議事録を公開することが相当かと考えるところでございます。   それで,私といたしましては,原則として発言者名を明らかにした議事録を作成いたしまして,法務省のホームページ上において公表するという取扱いにしたらよろしいのではないかと考えます。   もっとも,今の説明にありましたけれども,審議事項の内容,その他の事項を考慮して,発言者の氏名を公表するのが相当でないと考えられるような場合には,その都度皆様にお諮りして,部分的に公表しない措置を採ることとしたいと考えますが,いかがでございましょうか。 (「異議なし」と言う者あり) ○本田部会長 それでは,議事録につきましては,発言者名を明らかにしたものを作成して,これを原則として公開するという取扱いにさせていただきたいと思います。   次に,当部会におきます会議の公開についてお諮りしたいと思います。   この点につきましても,本年6月6日の法制審議会第165回会議におきまして,当部会における議事の公開の在り方について議決がなされたと聞いておりますので,その経緯等につきまして,事務局のほうから説明をお願いいたします。 ○加藤幹事 お手元の資料15-1から3までを御覧いただきながらお聴き取りください。   当部会における会議の公開の件につきましては,資料15-3のとおり,法制審議会の第165回会議におきまして議決がなされております。法制審議会の会議につきましては,資料15-2の法制審議会議事規則第3条及び第7条によりまして,公開しないこととされております。しかし,当部会につきましては,刑事司法制度全般の在り方に関わる調査審議がなされるものであり,また,広く国民の声を反映した部会とする必要があるとも考えられますことから,その議事を公開することも含めて検討する必要があることなどを踏まえ,さきの法制審議会総会において資料15-3の議決がなされ,当部会における審議につきましては,当部会の判断によりその会議を公開するかどうか,公開するとして,その範囲や方法をどのようにするか決定することができることとされたものでございます。   したがいまして,当部会の会議を公開するかどうか,公開するとしてその範囲や方法をどのようにするかについては,当部会でお決めいただく必要がございます。 ○本田部会長 ただいまの説明に対して何か御質問はございますか。   特段の御質問がないようでしたら,私から提案させていただきたいと思います。   まず,会議を公開するかどうかという点でございますが,当部会におきまして広く国民の声を反映するためにも開かれた審議を行うという観点から,原則として会議を公開するのがよろしいのではないかと考えます。ただ,今後の審議の過程では,正に今後の捜査なり公判への影響や,関係者の名誉・プライバシー等々の観点から公表に適さないような内容にわたる場合もあろうかと思います。このような場合には,委員の皆様の御意見を伺った上で,議事を非公開とする措置を採ることができることとしてはいかがと思います。   また,公開の方法については,この会議場に傍聴者に入っていただくという方法も考えられるところですが,会場の広さには余裕があるとは申せませんし,そういう中で,なおかつ,委員同士の冷静かつ自由闊達な議論を行える環境を確保する必要もありますことから,検察の在り方検討会議でもそうであったと伺っておりますけれども,傍聴者には別室に入っていただき,モニターを通じて会議の模様を同時進行で傍聴できるようにするのがよろしいのではないかと思います。   もっとも,この方法で公開するといたしましても,どうしても会場の設備の問題などもございます。毎回同じようにできるかどうかは確認する必要がありますし,できない場合にはまた別途考えなければなりませんけれども,取りあえず本日につきましては,事務当局から,この方法による会議の公開が可能であると聴いています。また,今後もできるだけこの方法による会議の公開が可能となるよう,事務当局におかれましては,会場の確保など,是非よろしくお願いいたしたいと思います。   また,この方法により,別室で会議の模様を傍聴していただく方についてどうするかという問題がございますが,法務省の登録基準に準じたフリーランスの方を含めまして,報道機関の方々を対象にするのが良いのではないかと考えます。この点につきましては,報道機関だけを特別扱いする理由はないとの御意見があるかもしれませんが,傍聴会場の広さという設備上の問題,また,庁舎内にどなたでもお入りいただけるとした場合の警備上の問題等々,現実的な問題もございますので,広く国民に対する報道の任に当たっておられる報道機関の方々を対象とすることで良いのではないかと考えます。   その場合でも,傍聴会場の広さ等の関係で,全ての報道関係の方というわけにはいかない場合には,報道機関につきましては一社お一人に制限させていただくということもあり得ると考えております。   なお,会議の模様を録音又は録画すること,インターネットで動画配信することは認めないということでいかがかと考えます。   今,申し上げましたような方法によりまして,当部会の議事を公開することについて,御意見等ございますか。 ○本田部会長 特段の御意見,御異議もないようでございますので,そのように決めさせていただきたいと思います。   それでは,これから公開手続に入りますので,10分間の休憩をさせていただきたいと思います。 (休     憩) ○本田部会長 それでは,議事を再開いたします。   まず,さきの法制審議会総会におきまして当部会で審議するように決定のありました諮問第92号についての審議に入りたいと思います。   まず,事務局から諮問の朗読をお願いいたします。 ○加藤幹事 本日の資料番号1の諮問第92号を朗読します。   近年の刑事手続をめぐる諸事情に鑑み,時代に即した新たな刑事司法制度を構築するため,取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直しや,被疑者の取調べ状況を録音・録画の方法により記録する制度の導入など,刑事の実体法及び手続法の整備の在り方について,御意見を承りたい。 ○本田部会長 それでは,諮問に至ります経緯及び趣旨等につきましても,事務当局から御説明をお願いいたしたいと思います。 ○西川委員 諮問に至りました経緯及び諮問の趣旨について御説明を申し上げます。   まず,諮問に至る経緯でございます。   既に御承知のように,法務省におきましては,大阪地方検察庁における一連の事態の発生を受けまして,昨年10月,外部の有識者から成る検察の在り方検討会議を設け,検察に対する信頼の回復を図るべく,幅広い観点から検察の在り方について御議論を頂きました。その結果,本年3月31日,「検察の再生に向けて」と題する提言がなされたところでございます。   同提言におきましては,被疑者の取調べの録音・録画について,検察の運用及び法制度の整備を通じて,今後,より一層その範囲を拡大すべきであるが,制度としての取調べの可視化の具体的方策については,国民の声と関係機関を含む専門家の知見とを反映した検討ができる場において,関連する諸課題と併せて検討を進めることを期待したいとされました。   他方で,今般の一連の事態の原因について考えてみると,検察において,我が国の刑事司法制度特有の構造をも背景として,取調べ及び供述調書を偏重する風潮があった点に本質的・根源的な問題があるとの指摘がなされ,今後,国民の安全・安心を守りつつ,えん罪を生まない捜査・公判を行っていくためには,追及的な取調べによらずに供述や客観的証拠を収集できる仕組みを整備し,取調べや供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方から脱却する必要があるとされたところでございます。そして,そのような見直しを進め,制度としての取調べの可視化を含む新たな刑事司法制度を構築するため,直ちに,国民の声と関係機関を含む専門家の知見とを反映しつつ,十分な検討を行う場を設け,検討を開始するべきであるとの提言を頂きました。   この提言を受け,法務大臣は,本年4月8日,「検察の再生に向けての取組」を公表し,現在の刑事司法制度が抱える問題点に加えて,取調べの録音・録画の拡大と法制化に伴う問題点に正面から取り組み,多岐にわたる諸課題を検討して新たな刑事司法制度を構築していくため,法制審議会に対し所要の諮問を発する準備を開始する旨を明らかにし,本年5月18日,この諮問に及んだものでございます。   次に,諮問の趣旨について御説明いたします。   今般の諮問は,近年の刑事手続をめぐる諸事情に鑑み,時代に即した新たな刑事司法制度を構築するため,刑事の実体法及び手続法の整備の在り方についての御意見を幅広く承りたいというものでございます。   今後の御審議に当たりましては,刑事司法制度に関わる事項について幅広い観点からの御議論をお願いいたしたいと存じておりますが,諮問におきましては,検察の在り方検討会議における議論の経過に鑑み,特に御議論を頂きたい事項として主なものを二点挙げております。   その一は,「取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直し」であります。この点に関し,検察の在り方検討会議の提言においては,新たな時代の捜査・公判への移行のため必要となるものの例として,供述人に真実の供述をする誘因を与える仕組みや虚偽供述に対する制裁を設けてより的確に供述証拠を収集できるようにすること,客観的な証拠をより広範に収集する仕組みを設けること,実体法の見直しを行うことなどが議論されたところであります。また,平成22年2月から,国家公安委員会委員長におかれましても,外部有識者から成る「捜査手法,取調べの高度化を図るための研究会」を開催されており,新たな捜査手法等について議論がなされているところでもあります。当部会におかれましては,これらの議論をも踏まえ,捜査・公判の在り方を見直すため,必要となる制度等につき,幅広く御議論を頂きたいと存じます。   その二は,「被疑者の取調べ状況を録音・録画の方法により記録する制度の導入」であります。検察当局においては,裁判員制度対象事件について取調べの録音・録画を実施し,また,特別捜査部が取り扱ういわゆる独自捜査事件についても,取調べの録音・録画の試行を開始しているほか,特別刑事部が取り扱う独自捜査事件における被疑者の取調べ及び知的障害によりコミュニケーション能力に問題のある被疑者等の取調べについても録音・録画を試行するため,その方法について検討するなどしているところです。警察当局においても,裁判員制度対象事件について被疑者取調べの録音・録画の試行を行っているものと承知をしております。また,法務省におきましては,平成21年10月から,政務三役を中心とする取調べの可視化に関する省内勉強会を開き,この問題に関する議論・検討を進めております。国家公安委員会委員長主催の研究会においても,取調べの可視化が検討課題の一つとなっているものと承知をしております。当部会におかれましては,検察の在り方検討会議における議論の内容を参考にしつつ,法務省等において調査・検討が行われていることを踏まえ,被疑者取調べの録音・録画制度の在り方に関し,御議論を頂きたいと考えております。   諮問の趣旨は以上のとおりでございます。   委員の皆様方におかれましては,諮問の経緯及び趣旨について御理解いただきまして,十分御審議下さりますようお願い申し上げます。 ○本田部会長 次に,事務当局からかなり分厚い資料が配布されておりますので,この資料の説明をしていただきたいと思います。 ○吉川幹事 それでは,配布資料の説明をさせていただきます。非常に大部でございまして恐縮でございます。詳細は適宜御参照いただくことといたしまして,本日は,その概要を説明させていただきたいと思います。   まず,資料1は,先ほど朗読いたしました諮問第92号です。   次に,資料2から資料5までは,検察の在り方検討会議に関するものとなっております。資料2-1は,「検察の再生に向けて」と題された検察の在り方検討会議の提言,資料2-2は,その概要版です。資料3は,検察の在り方検討会議の議事録です。同検討会議は,今般の諮問の契機となったものですので,御参考までに,その議事録をお配りするものです。資料4は,同会議において行われた,全国の検事に対する意識調査の結果を取りまとめたものです。そして,資料5は,検討会議において行われた韓国における視察の概要です。これら資料2から5に関連する検察の在り方検討会議における議論等の内容につきましては,後ほどまとめて御説明をいたします。   続きまして,資料6です。これは,検察の在り方検討会議の提言を受けて,本年4月8日,法務大臣が公表した「検察の再生に向けての取組」と題する書面でございます。その1ページ目及び2ページ目は,検察の在り方検討会議の提言事項の中で,主に最高検察庁が検討・推進すべき事項とされたものについて記載された部分です。そして,3ページ目を御覧いただきますと,「2.法務省が検討・推進すべき事項」とされておりますが,この部分が法務省において担当することとされた部分であります。そのうち,「(2)提言の第4『検察における捜査・公判の在り方』関連」とあるところを見ますと,「○新たな刑事司法制度の構築に向けた検討の開始」とされ,特に留意すべき事項として,「現在の刑事司法制度が抱える問題点に加えて,取調べの録音・録画の拡大と法制化に伴う問題点に正面から取り組み,多岐にわたる諸課題を検討して新たな刑事司法制度を構築していくため,直ちに法制審議会に対し所要の諮問を発する準備を開始する。」こととされております。これを受けまして,今般の諮問第92号が発せられ,当部会が設置されるに至ったということです。   資料7は,諸外国における刑事司法制度の概要をまとめた一覧表です。我が国の刑事司法制度について御検討いただく前提として,ごく簡単に,主要な国の刑事司法制度について比較した資料を作成したものです。そのため,各国の制度の全容を表し尽くせているものではないという点は御容赦いただきたいと思います。この場では,時間の関係もあり,主な点だけかいつまんで御説明いたします。   例えば,この表の上から二段目にあります起訴までの身柄拘束期間について見ますと,イギリスでは,逮捕から起訴までが原則24時間以内,延長しても最長96時間と短いものとなっております。日本では,逮捕・勾留を通じて最長23日間でございまして,韓国も比較的日本に近く,警察,検察を通じて最長30日間の身柄拘束の後に起訴しているようです。これに対しまして,フランスでは,重罪による予審対象者について原則1年,延長により最長4年間の身柄拘束が認められております。また,ドイツでは,起訴の前後を通じて原則6か月,無制限で延長可能とされるなど,身柄拘束期間が長くなっているという傾向にあります。   次に,表の上から4段目の取調べの録音・録画を義務付ける制度について見ますと,日本,それから,州によっては義務付けられているところもありますが,アメリカの連邦,ドイツ,韓国においては,これが義務付けられてはいないのに対しまして,イギリス,フランス,イタリアについては,被疑者取調べを録音・録画することを義務付ける制度があります。録音・録画が義務付けられている国について,表の左から順に見ていきますと,イギリスにおいては略式起訴犯罪を除き警察署における被疑者の取調べについて,フランスにおいては警察留置中の重罪被疑者及び予審判事による重罪の予審対象者の取調べについて,イタリアにおいては身柄拘束中の被疑者について,それぞれ取調べの録音・録画が義務付けられているようです。   さらに,上から6段目,7段目においては,取調べ以外の証拠収集方法について各国で認められている特徴的と思われる制度を挙げております。各国において様々な制度が採用されていることがお分かりいただけると思います。   最後に,公判関係として,表の一番下の段の無罪率について見ますと,日本では約0.1%,括弧内に書いております否認事件の無罪率でも約2.7%となっております。これに対して,イギリスでは,重大な犯罪を取り扱うクラウンコートにおける無罪率が約18%,否認事件の無罪率については約62%と高いものとなっております。もっとも,ここで「無罪」と申し上げているのは,必ずしも無罪判決がなされたものばかりではなくて,統計上,検察側が訴追を取り消したようなケースも含まれていることに御注意いただければと存じます。一方,韓国では,無罪率が約0.5%と低く,我が国と比較的近いものとなっているようです。   諸外国の刑事司法制度につきましては,法務省の取調べの可視化に関する省内勉強会においても調査を行っておりまして,今後,その勉強会の成果とともに,この国外調査の結果についても当部会の調査・審議の資料として適宜提供させていただきたいと考えております。   次に,資料8と9は,検察当局において実施しております裁判員制度対象事件の被疑者取調べの録音・録画に関するものです。   まず,資料8は,最高検察庁が平成21年2月に公表した「取調べの録音・録画の試行についての検証結果」です。検察当局においては,裁判員裁判において検察官が自白の任意性に関して裁判員にも分かりやすく,迅速かつ的確な立証を行うための方策の一環として,平成18年8月から,裁判員制度対象事件に関し,検察官による被疑者取調べのうち相当と認められる部分の録音・録画の試行を開始しました。そして,順次この試行を拡大し,平成20年4月からは,全国の地方検察庁において,裁判員制度対象事件の検察官による被疑者取調べについて,録音・録画の本格試行を開始いたしました。資料8は,平成20年4月から12月までに行った試行について,最高検察庁において行った検証の結果を記載したものです。   15ページを御覧いただきますと,「第7 裁判員裁判の下における録音・録画の在り方」という項目がございます。ここに,検証を通じた総括的な記載があります。すなわち,この検証の結果,録音・録画に係る「DVDは,自白の任意性等に関する審理の迅速化に資すると考えられる上,立証上の有用性を認めた裁判例が蓄積されており,最高検察庁における見分でも,DVDの内容は,そうした裁判例における評価を裏付けるものであると認められたところであって,これまで検察庁において試行されてきた録音・録画は,自白の任意性等を刑事裁判になじみの薄い裁判員にも分かりやすく,かつ効果的・効率的に立証するために有用であることが明らかとなった。」などとされているところです。   資料9は,資料8の検証結果を受けて平成21年3月27日に最高検察庁から発出された「取調べ録音・録画の実施指針」です。裁判員裁判において自白の任意性を効果的・効率的に立証するため,平成21年4月1日から,裁判員制度対象事件であって自白調書を証拠調べ請求することが見込まれる事件について,検察官による被疑者の取調べのうち相当と認められる場面を適切に選択して録音・録画を行うこととされたものです。検察当局においては,現在も,この実施指針に基づいて裁判員制度対象事件の被疑者取調べの録音・録画を実施しているところです。   続きまして,資料10は,法務省において昨年6月に取りまとめました取調べの可視化に関する省内勉強会の中間報告書です。12ページを御覧いただきますと,第4として「今後の取組方針」が記載されております。その下の「検討の方向性」とありますのは,中間取りまとめの段階における今後の検討方針をまとめたものであり,(1)として,「実務に即した現実的な形での取調べの可視化を実現するため,その対象とする事件や範囲について検討を行う。」とされております。それから,13ページの(2)においては,「録音・録画が捜査・公判の機能や被害者を始めとする事件関係者に与える影響や有用性についても調査・検討の上,その具体的な在り方についての検討を進める。」とされ,更に14ページの(3)におきましては,国内外における調査を実施した上で,平成23年6月以降,すなわち今月以降のできる限り早い時期に,省内勉強会としての検討の成果について取りまとめを行うこととされております。先ほど,法務大臣からの挨拶においても,この成果を当部会にお示しし,それを踏まえた御審議をお願いしたいとされたところです。   続きまして,資料11関連です。資料11-1は,最高検察庁が,昨年12月24日に公表しました,「いわゆる厚労省元局長無罪事件における捜査・公判活動の問題点について」と題する検証結果報告書,資料11-2は,その概要版です。   この検証は,最高検において,いわゆる厚労省元局長無罪事件の捜査・公判活動等の経過及び問題点,並びに3名の検事による証拠隠滅及び犯人隠避事件の経緯を明らかにするとともに,可能な限りそれらの背景事情を明らかにして,再発防止策を講じるために行われたものです。そして,一連の事態の再発防止を図るための方策として,特捜部が担当する身柄事件における取調べの録音・録画の試行を開始することなどを含め,12項目にわたる施策が,この書面の中に示されているところです。   資料12は,本年2月23日に最高検察庁が発出いたしました特捜部,すなわち特別捜査部が取り扱う事件の取調べの録音・録画試行指針でして,資料13は,本年4月26日に最高検察庁が発出しました,その録音・録画の運用要領です。   まず,資料12の2枚目に,「録音・録画試行指針」とありますが,これの1ページ目,「1 試行の趣旨」に記載されていますとおり,特別捜査部が取り扱う身柄事件についての録音・録画の試行は,被疑者の検察官面前調書が任意性・信用性等に疑念を生じるものではないことを的確に明らかにするため,当該被疑者の検察官面前調書を証拠調べ請求することが見込まれる事件等において,取調べの持つ真相解明機能を損なわない範囲で,検察官による取調べのうち相当と認められる部分を適切に選択して,録音・録画を試行することとされたものです。   この試行に関しましては,先ほど御説明した資料6の「検察の再生に向けての取組」におきまして,法務大臣から,全過程の録音・録画を行った場合に,何らかの弊害が生じることとなるかといった問題点についての検討に資するよう,取調べの全過程の録音・録画を含めて試行の対象とするとの指示がありました。   これを受けまして,検察当局では,資料13の「録音・録画の試行指針に関する運用要領」の6ページ目にありますとおり,全過程の録音・録画を含め,できる限り広範囲な録音・録画を試行するとの観点から,積極的かつ柔軟に対応されたいとしているところです。   次の資料14は,国家公安委員会委員長が主催する「捜査手法,取調べの高度化を図るための研究会」の中間報告書です。この研究会におかれては,昨年2月以降本年3月までに13回の会議を重ねて,本年4月,その結果や検討課題について,中間報告を取りまとめられたものと承知しております。同研究会においては,今後,諸外国に関する調査結果等を踏まえて,取調べの可視化を含む取調べや捜査手法の在り方について,更に検討を進めていくこととされております。   最後に,資料15-1から3までは,先ほど,別に御説明いたしました当部会の議事の公開に関する資料です。   なお,その他に,委員及び幹事の皆様の名簿を卓上にお配りしておりますので,お名前,御所属等を御確認いただければと存じます。   配布資料の説明は以上でございます。 ○本田部会長 諮問第92号がなされました経緯なり,今の御説明をお聴きしますと,本諮問につきましての審議を行うに当たっても,やはり,本年3月まで法務大臣の下で開催された,検察の在り方検討会議における議論なり提言の内容を十分に把握しておく必要があるのではないかと考えます。   検討会議に御出席になった委員の方もおられますけれども,多くの方がその検討会議に出ておられませんので,事務当局から,検察の在り方検討会議におきます議論や提言の内容について簡単に説明していただきたいと思います。 ○加藤幹事 検察の在り方検討会議における議論の状況及び提言の内容等について説明します。   説明の途中,先ほどの資料2-1,「検察の再生に向けて」と題します提言を御参照いただきますので,お手元に御用意ください。   まず,検察の在り方検討会議の開催経緯及び開催状況についてです。   法務省におきましては,大阪地方検察庁における一連の事態を受けまして,当時の柳田法務大臣の御指示により,検察の在り方について幅広い観点から抜本的な検討を加えるため,検察の在り方検討会議を開催いたしました。この検討会議は,外部の有識者15人により構成されており,検討会議の委員のうち井上委員,後藤委員,佐藤委員,但木委員,龍岡委員,宮﨑委員の6名の方におかれましては,当部会の委員もお務めいただいているところです。   検討会議は,昨年11月10日の第1回の会議以降,15回にわたって開催され,本年3月31日に,資料2-1の「検察の再生に向けて」と題する提言を取りまとめて,法務大臣に提出しました。   次に,検討会議における議論の状況等についてです。   資料2-1のうち別紙2を御覧いただきますと,「『検察の在り方検討会議』審議経過」と題する一覧表がございます。この一覧表にございますとおり,検討会議においては,ヒアリングや最高検察庁,法務当局からの必要な説明聴取のほか,大阪,札幌両地検の視察等を行いつつ,検討事項等について意見交換を行い,第6回会議におきまして検討事項についての論点整理を行った上で,以後,その論点整理に沿って議論・検討を行いました。第3回及び第4回会議におきましては,いわゆる厚労省元局長無罪事件等の検証結果について,最高検察庁からの説明聴取とそれに対する質疑応答が行われましたほか,第6回会議におきまして,この場にもおいでの村木委員,あるいは元検察官からのヒアリング等が実施されました。検証結果の詳細につきましては,先ほど御紹介いたしました資料11-1及び2を,ヒアリングの詳細等につきましては,資料3の各回の議事録を,後ほど御参照いただければと存じます。   その後,検討会議におきましては,論点整理の結果に基づいて議論が進められ,第9回から第11回の会議にかけて,検察の捜査・公判の在り方についての議論が行われました。ここでは,取調べの可視化に関する法務省の省内勉強会における検討状況等について,法務当局から説明を行いましたほか,最高検察庁からも本年2月に公表された「特捜部における録音・録画試行指針」についての説明がなされました。この試行指針につきましては,先ほど御説明申し上げました資料12ですので,御参照ください。   一方,検討会議におきましては,検事の意識調査を行うことが提案され,これを受けて本年2月,最高検察庁におきまして,全国の検事を対象とする意識調査を行いました。この意識調査は,検事1,444名を対象として行われ,全体の約90.2%に当たる1,306名から回答が寄せられたものであり,その結果については検討会議にも報告されております。この調査は,近年の取調べの実情に関するものなど,この部会で御審議いただく事項に関連すると思われる質問をも含むものでございます。その結果については,資料4を御参照いただければと存じます。   さらに,検討会議におきましては,本年3月7日及び8日の両日にわたり,大韓民国の視察を行いました。大韓民国におきましては,捜査機関の裁量により被疑者取調べの映像録画を実施することができ,ただし,それを実施する場合にはその回の取調べの全過程を録音・録画しなければならないとされるとともに,供述調書の成立の真正が争われた場合には,映像録画物その他の客観的方法により検察官がこれを立証しなければならないとする制度が導入されております。また,現在,司法協力者訴追免除・刑罰減免制度,司法妨害罪,重要参考人出席義務制度などの新たな捜査に関わる仕組み・手法のほか,映像録画物を実質的な証拠として使用できることとし,被疑者の請求がある場合には,映像録画を実施しなければならないこととする内容の法律案が準備されているとされておりまして,検討会議の委員の方々において,これらの実情等について視察をされたものです。   これらの意識調査,あるいは視察の結果等も踏まえ議論が進められた結果,本年3月31日,資料2-1の提言が取りまとめられたものです。   次に,検討会議の提言の内容について御説明を申し上げます。   検討会議における議論の具体的な内容については,委員の大方の合意が得られた範囲内で,提言に取りまとめられています。資料2-1の2枚目の目次を御覧いただくとお分かりになりますが,この提言は,「第1 検察の使命・役割と検察官の倫理」,「第2 検察官の人事・教育」,「第3 検察の組織とチェック体制」,「第4 検察における捜査・公判の在り方」という4つの柱から構成されています。このうち,当部会における御審議に直接関連するのは「第4 検察における捜査・公判の在り方」の部分でございますので,資料2-1の24頁以下の該当部分に沿って,その内容を御説明いたします。   まず,24ページを御覧いただきますと,「第4 検察における捜査・公判の在り方」とありまして,「1 検察における取調べの可視化の基本的な考え方」とあります。そして,一つ目の枠囲いにおきまして,「被疑者取調べの録音・録画は,検察の運用及び法制度の整備を通じて,今後より一層その範囲を拡大すべきである。」とされています。検討会議におきましては,いわゆる厚労省元局長無罪事件における捜査の在り方等も踏まえ,検察の改革策として,録音・録画による取調べの可視化の実現を求める意見があり,この問題について集中的な議論がなされました。   もっとも,この問題につきましては,24頁の(2)の辺りにございますとおり,虚偽の自白によるえん罪を防止し,被疑者の人権を保障する観点から見ると,被疑者の取調べの録音・録画が有効であり,その範囲を積極的に拡大していくべきであるとの方向性については大方の合意となった一方で,事案の真相を解明して真犯人を適切に処罰し,法秩序を維持するという観点から見ると,録音・録画の導入により,現に我が国の捜査において重要な役割を果たしている取調べの機能が損なわれかねないとの懸念が示されており,可視化の具体的な在り方については,そのような懸念をも十分に踏まえて検討するべきとの指摘も多くの委員からなされたところでした。   そのような中で,検察の在り方に関連し,少なくとも今後の方向性として検察の運用及び法制度の整備を通じて,被疑者の取調べの録音・録画の範囲をより一層拡大すべきであるとする点で大方の合意が得られましたことから,これが基本的な考え方として,まずその枠囲いの中に掲げられたものです。   それから,25ページ以下の「2 検察の運用による取調べの可視化の拡大」の部分においては,先ほどの1の基本的な考え方を前提として,検察の運用による録音・録画の拡大についての具体策が提言されております。具体的には,特捜部における録音・録画の試行において,できる限り広範囲の録音・録画を行うように努め,1年後を目途として検証を実施した上,その検証結果を公表するべきこと,また,特別刑事部が取り扱う独自捜査事件についても,特捜部に準じて取調べの録音・録画を試行するべきこと,さらには,知的障害によりコミュニケーション能力に問題がある被疑者等に対する検察官の取調べにおいても,取調べの録音・録画を試行すべきであり,その試行に当たっては事案の性質や被疑者の特性等に応じ,例えば取調べの全過程を含む広範囲な録音・録画を行うように努めるなど,様々な試行を行うべきことなどが掲げられています。   なお,特捜部における取調べの録音・録画の試行につきましては,検討会議の提言後の本年4月8日になされた,資料6の法務大臣の指示によりまして,取調べの全過程の録音・録画を含めて試行の対象とすることとされ,そのような運用が開始されておりますほか,特別刑事部における録音・録画の試行につきましても,4月8日から3か月以内を目途として試行を開始するように努め,さらに,知的障害によりコミュニケーション能力に問題がある被疑者等に対する検察官の取調べにおける取調べの録音・録画につきましても,3か月以内を目途に試行に着手するものとされているところです。   検察の在り方検討会議は,その名称のとおり,検察の在り方についての検討を加えるために開催されたものでございましたが,その議論の過程において,検察の在り方に大きな影響を与えている我が国の刑事司法制度の構造的な問題点も指摘されました。   その点について記載されておりますのが資料2-1の28ページ,「3 新たな刑事司法制度の構築に向けた検討を開始する必要性」の項であり,諮問第92号が発せられる契機となった部分です。この部分におきましては,まず,大阪地方検察庁における一連の事態の背景として,我が国の刑事司法制度特有の構造をも背景として,供述調書による立証,事実認定を重視する余り,検察官の心証に合致する供述さえ獲得できればよい,さらには,そのような供述調書さえ作成できればよいという極端な取調べ・供述調書偏重の風潮の存在が指摘されております。その上で,取調べについては,それが適正に行われる限りは真実の発見に寄与するものであり,被疑者の更生改善に役立つとの指摘もある反面,取調官が自白を求めるのに熱心なあまり過度に追及的になったり,不当な誘導等が行われたりして,事実とは異なる供述調書が作成される結果となる危険性が内在しており,特に社会状況や人々の意識の変化により,取調べによって供述を獲得することが困難化しつつある中において,検察官が証拠獲得へのプレッシャーを感じ,無理な取調べをする危険がより高くなっており,今般の事態は,正にその危うさが露呈したものにほかならないとの評価が述べられています。   また,我が国のこれまでの捜査・公判が取調べ及び供述調書に大きく依存する構造となっている背景として,従来の実務において公判廷での供述の信用性が乏しいと判断されれば,捜査段階の供述調書が事実認定に用いられることが多かったことに加え,背景的事情を含めた詳細な事実の解明を求める期待もあって,一連の犯行の全容について詳細な事実認定がなされ,そのためには被告人や関係者の供述を必要としたこと,諸外国で認められているような他の強力な捜査手法の多くが認められていないことなども指摘されました。   このような問題意識を踏まえつつ,提言は,現在の我が国の刑事司法制度の在り方について考察を加え,裁判員制度の導入を含め人権意識や手続の透明性の要請が高まり,グローバル化,高度情報化や情報公開等が進むなど,刑事司法を取り巻く環境が大きく変化しており,このような新たな時代において密室における追及的な取調べと供述調書に過度に依存した捜査・公判を続けることは,もはや時代の流れと乖離したものと言わざるを得ないとしているところです。   そして,提言においては,今後,国民の安全・安心を守りつつ,えん罪を生まない捜査・公判を行っていくため,抜本的・構造的な改革として,追及的な取調べによらずに供述や客観的証拠を収集できる仕組みを早急に整備し,取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判から脱却するよう,その在り方を改めていく必要があり,直ちに国民の声と関係機関を含む専門家の知見とを反映しつつ十分な検討を行うことができる場を設け,具体的な検討を開始することが求められているものです。   さらに,次の30ページの(2)におきましては,制度としての取調べの録音・録画について記載されております。この問題につきましては,検討会議において活発な議論がなされましたが,30ページの下の方の注にございますとおり,おおむね三つの意見に分かれ,特定の結論を得るには至りませんでした。   主な意見の概要を説明いたしますと,第一の意見は,録音・録画による捜査への影響はないか,あるとしても僅かなものに止まるから,速やかに取調べの全過程の録音・録画を義務付けるべきであるとするものです。   第二の意見は,録音・録画が取調べの機能に与える影響等,精緻な検討を加えるべき論点が解決されないまま残されている現状においては,この問題について結論を出すことはできず,より専門的な場において刑事手続全体の在り方を踏まえて制度設計を行うべきであるとするものでした。   そして,第三の意見は,録音・録画により,被疑者から真実の供述を得て事案の真相を解明することが著しく困難となる事案が生じることは明らかであるから,取調べの可視化を先行させるべきではなく,これと同時に新たな捜査手法の導入や立証を容易にするための実体法の規定の見直し等を行わなければならないとするものでした。   検討会議におきましては,この問題について特定の結論を得るには至らなかったことから,提言においては,この問題について,新たな刑事司法制度を構築するための検討の場において,関連する諸課題と併せて十分な検討がなされなくてはならないと結論付けられています。   そのほか,提言の31ページの(3)にございますとおり,検討会議におきましては,参考人取調べの可視化,証拠開示制度の在り方,取調べへの弁護人立会権,被疑者・被告人の身柄拘束の在り方,いわゆる2号書面制度の在り方などについても問題提起がなされましたが,一定の方向性をまとめるに至らなかったことから,これらの問題についても,新たな検討の場において,関連する課題として議論・検討されることを期待したいとされたものでございます。   以上,検察の在り方検討会議におきます議論等の状況や提言の内容について説明いたしました。 ○本田部会長 ただいまの説明に対しまして,何か御質問ございますか。 ○宮﨑委員 宮﨑でございます。検察の在り方検討会議の委員でございますが,若干ただいまの御説明に付加して御報告申し上げるわけでございますが,取調べの可視化を含み過度に供述調書に依存した捜査・公判の在り方を抜本的に見直すということで,新たな捜査手法の導入等を議論するという説明がありましたが,一方,我が国の治安状況に照らしてバランスを失するような強力な捜査手法の導入については国民の理解が得られないと,こういう観点の意見もあった。端的に言えば,焼け太り的な捜査手法の導入については異論があると,こういう意見も強く主張されたということと,それからあと,取調べの可視化につきましては,可視化に関する法整備の検討が,そういう様々な検討課題の中で遅延することがないよう,特に速やかに議論・検討が進められることを期待したいと,こういう提言もありましたので付加したいと思います。 ○本田部会長 ありがとうございました。   それでは,今の補足説明と一緒にお聴きいただければいいかと思います。 ○井上委員 今日,こういうことを申し上げるつもりはなかったのですけれども,宮﨑委員の御発言がありましたので一言だけ申しますと,検察の在り方会議では,宮﨑委員が今言われたような趣旨の意見もありましたが,それとは違う立場の意見もありました。ですから,一方だけ強調されるとバランスが欠けますので,またそれらの点については,中身に入って次回以降議論させていただきたいと思います。 ○本田部会長 そろそろ時間もまいりましたので,今後の進め方等を含めて,私の方からお話しさせていただきたいんですが,今の経緯と申しますか在り方会議の件についての説明は一応終わりということで,次に入らせていただきたいと思います。本日の会議自体はこの辺りまでとしたいと思うのですが,今回の私どもに対する諮問の調査審議というのは,正に我が国の刑事司法制度全体の在り方に関わるものでございまして,今の御意見などを伺いましても,非常に多岐にわたる検討事項を検討することが必要となり得るものと思います。   また,当部会におきまして,どのような検討事項についてどのような順序で検討を進めるかを決めるに当たりましては,まず,我が国の刑事司法制度の現状にどのような問題があるのかを把握する必要もあると考えられまして,当部会としてはその点について共通の認識を持つために,ヒアリングや視察も必要かと考えます。   そこで,皆さんにお諮りしたいのですが,次回の会議におきましては,時間を区切って誠に失礼ではございますが,ひとまず委員の皆様から,お一人約5分間程度で,今後当部会において行うべき調査なり,また,現段階で検討すべきと考えられる事項,その他検討の進め方等につきまして,現段階における考え方を承りたいと考えております。一人5分,26人ですと,それだけでも大変な時間になりますし,お一人お一人,大変御負担になるかと思いますけれども,今後,大変多岐にわたる調査審議を行うこととなろうかと存じますので,現段階で,まず,委員の皆さんの,今申し上げた3点ぐらいについての御意見をまとめていただき,次回までに御準備をお願いできないかと考えている次第でございます。よろしいでしょうか。   それでは,次回,今後の調査なり検討事項等につきましての御意見を頂くことといたしますから,準備をお願いいたします。なお,次回欠席される委員の方もいらっしゃるようですので,その方々には,事前に,今申し上げた点についての簡単な書面の提出をお願いいたしたいと思います。   それでは,予定いたしました時間も終了してまいりましたので,これにて本日の議事は終了いたしたいと思います。   なお,本日の会議につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思います。   次回の日程につきましては,事前に事務局のほうで皆様の日程を調整させていただきまして,7月28日木曜日の午後2時からを予定しております。なお,会場等につきましては,改めて事務当局から御連絡させていただきます。   本日,慣れない司会進行で誠に恐縮でございましたが,今後ともよろしくお願いいたします。それでは,本日はこれで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。 -了-