法制審議会民法(債権関係)部会           第28回会議 議事録 第1 日 時  平成23年6月21日(火)自 午後1時00分                      至 午後6時16分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第28回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 お手元の資料について御確認いただきたいと思います。   前回会議に引き続き,本日の会議でもヒアリングを行うことになっておりますが,そのヒアリング先の各団体からそれぞれ意見書その他の資料が提出されておりますので,それを机上に配布させていただきました。一件一件の表題を読み上げて確認することは省略させていただきますけれども,各団体からの意見書等がそろっていることを御確認いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議に入ります。   本日は,日本建設業連合会,全国宅地建物取引業協会連合会,全日本不動産協会,不動産協会,不動産流通経営協会,日本司法書士会連合会,全国サービサー協会,信託協会,リース事業協会,ABL協会から御意見をちょうだいする予定です。   本日の具体的な進行については,事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 本日は,ただいま部会長から御紹介がありました順に,ヒアリングを行うことを予定しております。各団体には20分で御報告を頂き,その後,質疑応答を10分ということでお願いしてあります。1団体当たり基本的に30分ということです。もっとも,二番目の全国宅地建物取引業協会連合会から全日本不動産協会,不動産協会,不動産流通経営協会までの4団体につきましては,報告内容が関連しておりますので,この4団体から続けて,それぞれ20分ずつの御説明を頂いた後に,まとめて質疑応答の時間を15分ほど取りたいと考えております。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまから,事務当局から説明のありましたように,日本建設業連合会から意見聴取を行いたいと存じます。参考人の泉俊道さん,宇和川眞信さん,南波裕樹さん,よろしくお願いいたします。 ○泉参考人 日本建設業連合会の法令契約部会の会長をしております泉と申します。よろしくお願いいたします。   それでは,本日の資料に基づきまして,お話,意見申述させていただきます。   当日本建設業連合会は,全国に総合建設業を営む企業145社及び,それらの企業を構成員とする建設業者団体5団体を会員とする団体であります。今回は,中間的な論点整理の中で,建設業に関係の深い請負の部分に関しまして,特に影響が大きいと考えられる論点,五つについて意見を述べさせていただきたいと存じます。なお,その他の論点につきましては,現在募集されておりますパブリックコメントにおいて意見提出させていただく予定としておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。   それでは,個別に意見を申し述べさせていただきます。 ○宇和川参考人 それでは,第1点目の意見を述べさせていただきます。日建連の宇和川でございます。   お手元の資料の1ページに沿って御説明したいと思いますけれども,まずは注文者の義務,それから報酬に関する規律のうち,報酬の支払時期との関連ということで,意見を述べさせていただきたいと思います。   注文者の受領義務の規定の新設について御議論いただいているところですけれども,注文者が受領義務を果たさないということが,注文者の債務不履行(受領遅滞)ということで,請負者に損害賠償請求権,それから解除権等を発生させることになるので,一定の積極的な意義はあると考えますが,一方では,受領義務の新設というのが報酬の支払時期に関する規律とも密接に関係するということから,受領の意味をどのように定義するかということによって,請負人に大きな不利益,例えば注文者が受領しないということで報酬を受けられなくなるというような不利益をもたらすことになることが懸念されるので,この点を念頭に置いて,慎重に御検討いただきたいというふうに考えます。   その理由について,以下,述べさせていただきます。   まず1点目でございますけれども,報酬支払時期を客観的な完成引渡しという現行の実務から,主観的な履行として認容する行為へ変換することの弊害という点でございます。建設請負における建物の完成引渡しというのは,法定の完成検査あるいは監理者による検査手続を経まして,契約の目的物が契約どおりに完成したことを客観的に確認して引渡しを受けるということが一般的な実務になっておりますけれども,そこで,受領の意味をどのように定義するかということが問題になってくるわけですけれども,少なくとも請負代金の支払時期とリンクするということになりますと,報酬支払時期を,上記のような客観的な概念である現行の完成引渡しというものから,注文者の主観的な行為態様として,履行として認容する行為に係らしめるということになる場合には,注文者が,例えばささいな不具合,不適合を主張して,履行として認容せず,いつまでも引渡しを受けないと,したがって請負人に報酬が支払われないといった,請負代金支払をめぐるトラブルの発生する可能性がますます高くなるというふうなことが懸念されるという点。   もう1点でございますけれども,これは建設業法の規制との関連という点でございますが,建設業法におきましては,元請負人と下請負人の取引に関しまして,元請負人は,完成通知を下請負人のほうから受けた後に20日以内に検査を完了して,下請負人から引渡しを受けるということ,それから,下請負人からの引渡しの申出から50日以内に下請負代金を支払うということが,業法上義務付けられてございます。元請・下請取引において,このような規律,規制が存在する一方で,先ほど申し上げました注文者と元請負人との間に意思的な要素の伴う受領というふうな考え方が導入されるということによりまして,元請負人が間に挟まれて,リスクが集中することにならないかというふうな点が懸念されるというところでございます。   1点目は以上でございます。 ○泉参考人 続きまして2点目になります。お手元の資料,2ページを御覧いただきたいんですが,完成した建物の所有権の帰属ということで,審議会では,完成した建物に関する権利関係を明確にするため,建物建築を目的とする請負における建物所有権の帰属に関する規定を新たに設けるかどうかについて検討しておられるということでございますが,取り分け論点整理の中では,学説上,原則として,注文者に原始的に帰属するとの見解が多数説であるというふうに整理されております。   この点に関しまして,完成建物の所有権の帰属を論ずるに当たりましては,論点整理の中で述べられている,誰が材料を供給したかという観点とともに,完成までにどれだけの請負代金の支払が行われたかという点も重要な要素になってまいりますので,この点も視野に入れての検討が必要であると考えております。取り分け,論点整理において学説上多数説とされているとする注文者原始取得説では,請負代金債権保全の面で請負人の保護に欠けるところがあり,問題であると考えております。   その理由でございますけれども,1点目は,建物完成時の請負代金支払の実態ということで,建設請負の実務におきましては,建物完成時に請負代金が全額支払われているケースはそれほど多くはなく,極端な例では,建物完成時には請負代金の二,三割程度しか支払われないという支払条件。これ,延べ払いと言っておりますけれども,そういったケースもあると。今後,完成建物の所有権の帰属を議論する場合にあっても,学説の立場--これ,注文者原始取得説ですけれども--を採ることは,注文者の倒産という局面において請負人の立場を極端に不利にするという面がありますので,このことに留意して御検討いただきたいというところ。   2点目は,請負代金債権保全策の不十分性ということでございますが,請負代金の支払が上記のように延べ払いになっている場合には,建物完成引渡し時に注文者に信用不安が生じたとしましても,その同時履行の抗弁権や留置権を行使することはできません。さらに,請負代金債権の保全措置としては,不動産工事の先取特権が民法上規定されておりますけれども,これも工事着手前に予算額の登記が必要であることなどから,全く利用されていない制度でございます。このように請負代金債権の保全策が有効に機能しないという点からも,完成建物の所有権が原始的に注文者に帰属するという考えは問題であるというふうに考えております。   続きまして3点目でございますが,3ページ目を御覧いただきたんですが,瑕疵担保責任についてでございます。   審議会におきましては,土地の工作物を目的とする請負の解除ということで,土地の工作物を目的とする請負についての解除権を制限する規定を削除し,請負に関する一般原則に委ねるという考え方や,建て替えを必要とする場合に限って解除することができる旨を明文化するかどうかの検討がなされているということでございますが,この点につきましては,建て替え費用相当額の損害賠償を認めた最高裁の裁判例の趣旨を明文化するには,その当該判例事案が居住用木造建物であるという特殊性があることを考慮すべきかと思いますし,さらに,建物だけでなく,特に土木工作物を収去する場合に惹起されます社会的・経済的な損失は非常に大きいことから,明文化するには慎重であるべきというふうに考えております。   理由をもう少し詳しく申しますと,1点目は,平成14年,これは9月24日の最高裁判例の特殊性ということでございますが,この最高裁判例の事案は,木造ステンレス鋼板葺二階建ての居住用建物に関する事案でありまして,土木構築物も含む広い概念である土地の工作物に関する瑕疵担保責任に関して議論する際に引用するには,慎重であるべきかというふうに考えています。   2点目としまして,土木工作物における建て替え不能性ということで,土地の工作物を目的とします建設請負におきましては,請負契約の解除がなされた場合,売買契約などのように代金返還と引換えに売買目的物を返還すれば原状回復が済むのとは異なり,実際問題として,現状を元に復することは極めて困難を極めます。このことは,土地の工作物が大規模化し,高度化・高性能化した現代社会では,この傾向が特に顕著であると考えております。更に言えば,トンネル,シールド,ゴルフ場といった,地盤に密着した土木工作物につきましては,そもそも収去・建て替えといった概念になじみにくいという点がございます。このような土木工作物に関しましては,万一瑕疵があった場合でも収去・建て替えは不可能であり,補修・修繕で対応する以外にはないのが実態であり,この点を考慮いただきたいということでございます。 ○南波参考人 日本建設業連合会の南波と申します。よろしくお願いします。   それでは,5点あるうちの4点目,5点目について説明させていただきます。   4点目につきましては,土地工作物に関する性質保証期間の点でございます。土地工作物に関する性質保証期間と申しますのは,任意規定とはいえ,実務上の影響と混乱が大きいということを今懸念しておりまして,規定の新設には反対させていただきたいと思っております。   その理由といたしまして,4点ほど挙げさせていただいております。   この性質保証期間の考え方,簡単に申せば,仕事の目的物が契約で定めた性質ないし有用性を備えていなければならない期間というふうにまとめることはできると思いますけれども,この考え方につきましては,瑕疵概念への該当性判断の通説・判例の考え方,要約すれば,契約内容に照らして不完全な点があるか否かというものと近似しております。しかるに,責任の存続期間の設定に当たりましては,年数の経過によって事実や原因が不明確になると,そういうリスクをどの程度どちらに負わせるかという見地が不可欠なはずでございます。ところが,この性質・有用性という視点から責任期間を設定するとなりますと,先ほど申し上げました事実や原因が不明確となると。このリスクについて,結局,請負人のほうのみに負わせることになるのではないかということで,適当ではないと考えております。   2点目としまして,2点目,3点目は関連するんですけれども,建設請負の契約目的物の性質・有用性というものにつきましては,経年劣化,使用劣化,メンテナンス等において大きく左右されます。その期間をあらかじめ契約段階で確定させることは非常に困難であるというのが実務の感覚でございます。その不確定性ゆえに,請負人がどの程度の責任期間を覚悟すべきかといったような予見可能性が著しく損なわれて,適当ではないというふうに考えております。   それから,3点目としまして,建設請負の契約目的物は構造物の種類が多種多様でございます。ダムとかトンネル,あるいはその建築におきましても,鉄筋コンクリート,鉄骨造とか,いろいろなものが想起されますけれども,これらの構造物の特性・強度等に相応して,それぞれ性質保証期間ということで責任期間を定めるということは,実務上は非常に煩雑だというふうに考えております。   4点目としまして,この性質保証期間に関する議論におきましては,期間経過後であっても,注文者が受領時に瑕疵があったことを立証すれば,瑕疵担保責任の追及は可能であるとする考え方でありますとか,あるいは,性質保証期間内でありましても,瑕疵が発現した場合には,請負人が受領時に瑕疵がなかったといったような反証は許されないといったような考え方が議論されております。もともと注文者優位の傾向にある建設請負の市場におきましては,更に請負人のほうが長期の責任を強いられ,しかも瑕疵に関する反証の機会を喪失するなど,不利益を被るおそれがあるということが理由として挙げられます。   最後に,5点目の意見でございますが,下請負人の直接請求権という点につきまして意見を述べさせていただきます。   下請負人の注文者に対する直接請求権というものが御議論されておりますけれども,これが転貸借関係とパラレルに議論されているというふうにお見受けしております。しかし,多様かつ複雑な請負関係との整合というものは非常に困難であって,結局は元請負人にリスクと負担が寄せられることになるのではないかということで,その規定の必要性に比して実務上の弊害が大きいというふうに考えますので,規定の新設には反対したいと思っております。   理由としては,大きく3点挙げさせていただいております。   先ほど申し上げましたように,転貸借関係と請負関係を同列に論じるということが果たしてどうなのかという点でございまして,転貸借関係では中間に介在する賃借人の役割はほとんどなく,権利関係は比較的シンプルだと思われます。これに比べまして,請負関係につきましては請負人が多様な役割を負っておりまして,下請負人につきましても多数にわたり,また重層関係というものが多く,また,その下請負人と同列におります材料納入業者というものよりも下請負人を優位に置くとか,あるいは,担保権以上の優先権を下請負人に与えるといったことになりますけれども,これらの合理的説明は困難であると考えておりまして,かように下請負人関係におきましては利害関係が複雑であるということでございます。   2点目としましては,リスクが元請負人に寄せられるおそれという点でございます。恐らくこの下請負人の直接請求権が導入された折には,注文者のほうは二重弁済リスクを回避するために,元請負人の下請人に対する支払完了まで元請負人に対する支払を保留するというような態度に出る可能性があります。また一方,その注文者におきましては,下請負人の仕事の成果物の価値・報酬等を査定するような知見を有する立場にございません。また,その元請負人と下請負人との間の精算協議がこじれたような場合におきましては,元請負人によりまして,注文者にそのようなトラブル等が持ち込まれることを懸念しまして,協議もほどほどに下請負人の要求額を認めるなど,下請負人が自らの主張を通しやすくなることも予想されております。結論的には,元請負人のほうにリスクと負担が寄せられる結果になるのではないかということを懸念しております。   最後に3点目でございますが,既に建設請負の世界におきましては,下請負人の保護制度としまして,建設業法41条第2項,第3項,これは立替払等の措置を講ずる勧告制度でございますけれども,そのほかにも,建設工事紛争審査会,それから建設業法令遵守ガイドライン,これは,その改訂版におきましては,元請負人と下請負人の関係に係る留意点を詳細に定めたガイドラインでございますけれども,あと,駆け込みホットラインといったようなものが国土交通省のほうにおきましても用意されております。これらの保護制度が存在する状況にありまして,更にその下請負人の直接請求権まで制度化するという必要性は乏しいのではないかというふうに考えております。 ○泉参考人 本日は,このような意見申述の機会を設けていただきまして,大変ありがとうございました。   なお,今回は中間的な論点整理とのことですので,この後,パブコメを経まして,審議会では更に整理・御検討がなされることと思われますけれども,改正の方向性が更に明確になりました段階で改めて意見を申し述べる機会をもう一度いただければ,更に有り難いなと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   ただいまの御意見に関して,委員,幹事等の皆様から御質問がありましたら,御自由に御発言ください。 ○道垣内幹事 まず,1ページ目です。「履行として認容する」ということと報酬の支払とを同時履行関係に立たせるのはトラブルを増やすということなのですが,先ほどの御説明ですと,完成して引き渡すというときに,その報酬の支払義務が発生するのだということでやっているので,それを変えられるのは困るということだったと思います。そこで,事実の問題として伺いたいのですけれども,実際に建物なら建物が完成しているか否かということで争いになって,その支払時期が争いになったり,また支払を拒まれるというふうなことは現実には多くないのでしょうか。「完成」という言葉自体も評価の要素を含んでいますので,瑕疵等があったときに,それを完成と言うのかどうかということで紛争になるような気がするのですけれども,どうなのでしょうかと。これが第1点です。   続けて,事実の問題ですので,もう1点を伺いたいと思うのですが,3ページ目です。修補・修繕で対応する以外ないというタイプのものもあるので,解除を制限する規定を削除するというのは良くないのではないかというお話なのですけれども,修補・修繕では対処できない,あるいは請負人の側が修補・修繕に応じないというときには,契約の解除を認めるということ自体には御異論はないのでしょうか。これが第2点です。   よろしくお願いいたします。 ○宇和川参考人 第1点目の御質問についてお答えいたしますけれども,完成自体をめぐるトラブルというのがどの程度あるのかということですが,実務において,確かに完成自体,契約の目的物が完成したかどうかということをいろいろ,先ほど申し上げました客観的な検査手続の中で,検査済証というふうなものを取得するという手続の中で確認していくわけでございますけれども,そこで,その建物の不具合等,施工の不完全な部分というのがその検査の過程で指摘されて,それを手直しすることによって一応客観的な完成というものを双方認識した上で引き渡す,それを受領するというふうな手続が一般的なんですが,そこで,その引渡しまで一定の時間を要するということは当然,それぞれの個別の工事の中ではあり得るわけでございますけれども,そこでいったん,それ自体でトラブルが起きるというよりも,引き渡した後の瑕疵の問題として,工事の契約の履行の不完全な部分ということが問題になるケースのほうが,むしろ実務の中では多いというふうに認識しております。   以上でよろしゅうございましょうか。 ○泉参考人 続いてもう1点目でございますが,修補に応じない場合,解除を認めるということかという御質問だったかと思うんですけれども,この点につきましては,論点整理5の(2)のほうで,やはり同じ点が挙げられているかと思います,(2)瑕疵を理由とする催告解除ということで。   この点,ちょっと論点を離れるかもしれませんが,541条を基に,これ,履行遅滞による解除権ですけれども,当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方から相当の期間を定めて,その履行の催告をし,その期間内に履行がないときは相手方は契約の解除をすることができるということで,これに基づいて,修補に応じない場合,解除ということもやむを得ないのではないかというような議論がなされておるようですけれども,これにつきましては,そもそもこの541条というのは,請負の本来債務である請負工事,仕事をしない場合に催告しても,解除されてもやむを得ないという規定であって,瑕疵があって,それを修補しないから,この規定を準用して解除という考え方にいくのは,ちょっと論の飛躍があるかなというところは1点感じておるところなんですが。   それともう一つ,先ほどのところに戻りまして,土木構築物については,基本的には,解除をされると結局,契約法の原則としまして,解除ということは原状回復ということがやはり物理的に無理となるということですので,修補でしか対応できないということですので,そういう定め振りをされますと,なかなか対応ができないのではないかというふうに考えております。   ちょっとピントずれましたかもしれませんが,以上でございます。 ○松本委員 今の1点目の御回答がちょっとよく分からないんですが,すなわち,完成というのは客観的なものであり,履行として認容するというのは主観的だから困るという御趣旨だったんですが,注文者が履行として認容しないという事態が発生するのは,恐らく瑕疵がその時点であるということを注文者が主張しているからだと思うんですね。つまり,ここがおかしいではないかと言っているからトラブルになっており,その時点で履行として認容しないわけで,言わば完成をしていないという主張を注文者はしているということになると思うんですね。後から新たな瑕疵が出てきた,発見したというのは別の問題になると思います。したがって,主張されていることは,むしろ完成というのは,工事監理者だとか建築主事の竣工検査・完了検査という,第三者が客観的にこれで設計図どおりですよというふうに言えば完成なんだと,当事者がそれで納得するかどうかは別だという主張をされているというふうにしか理解できないんですが,そういう趣旨でしょうか。 ○泉参考人 普通の物品,製品と違いまして,工業製品と違いまして,瑕疵の判断,非常に微妙,難しいものがあります。建設請負の場合,単品受注生産でございまして,注文者がこれを作ってほしいというのが明確に図面に落とし込まれるというのが,少ないというんでしょうか,限界があります。したがいまして,どうしても出来上がったときに,これは瑕疵だ,瑕疵ではないという争いが起こります。これは,請負人サイドとしては当然注文者の意図を酌んで造ったつもりですけれども,向こうはこうではないと。この行き違いというのは必ず,精緻な図面,物があるわけではないので,起こってしまうと。   そこで,それがやはり向こうの履行として認容するという主観に係らしめられることは,いつまでも,往々にして延びてしまうという点が一番懸念されるというところなんでございますけれども。それは一つには,第三者の監理が入ることによって客観性が保たれるということにはなっておりますけれども,それも基本的には,監理者というのは発注者サイドの立場の者というふうに認識しておりますので,そこの争いがなかなか頻発するのではないかと思っております。 ○松本委員 そうだと結局,請負人の側が完成したと言えば,代金を払ってくださいという主張をされたいのか。つまり,完成したかどうかは,どういうプロセスで決めるべきだという御提案なんですか。確かに,現在の履行として認容するということを正面から認めれば,請負人と注文者側がこれでオーケーですということで合意をすれば,それで完成ですという趣旨がかなり強くなります。それは困るという御指摘なわけだから,そうしますと,完成かどうかは請負人が決められることなんだという御趣旨なのか。誰が決めるんですか,完成を。 ○泉参考人 これはもう客観的に決めていただくと。請負人としては,受領に係らしめるのではなく,完成引渡しとして引き渡した以上,定め振りとしては完成引渡しと同時で支払がなされるという形で,こちらとしては完成建物を完成したとして引き渡した時点でお金を頂けるという。 ○松本委員 それは結局,請負人側が決められるということですよね。つまり,注文主側としては,完成していないんだから引渡しを受け取らないと言いますよ。 ○宇和川参考人 今までの実務の中で,特に請負人と注文者側のそれぞれが確認するというバランスの取れた実務が定着している中で,今回の御議論の中で,受領ということの意味付けの中に主観的な要素が込められると,そういったものを含むという考え方が御提起されていることに対して,そのバランスが注文者側に寄るのではないかということを懸念しておるわけでございまして,特に請負人が完成を決めるというようなことを,それが良いというふうに申し上げているわけではございません。 ○鎌田部会長 予定した時間を既に過ぎておりますけれども,御発言の要望がそれぞれ出ておりますので,松岡委員,佐成委員,中井委員,高須幹事,簡潔にお願いいたします。 ○松岡委員 簡潔に伺います。完成した建物の所有権の帰属についてでございます。注文者帰属説を採ると請負人にとって極めて不利になるとおっしゃっておりますが,現在,請負人に所有権があることで,実際,どういうふうに請負代金を回収できているのでしょうか。と申しますのは,建物は注文者若しくは第三者の土地の上に建っていますから,所有権を主張しただけでは,なかなか代金回収に結び付かないと思うからです。その点を御説明いただけませんか。 ○泉参考人 現実に,どのような形で代金回収をするかという点でございますね。正しくそこは,何も手立てがなくなるということでしょうか。引き渡した後の信用不安に基づく倒産,注文者倒産ということになりますと,それこそ取りつく島がないといいましょうか。留置権…… ○鎌田部会長 現状ではどうしているかということ。請負人に所有権があれば,それで有効に債権回収に役立っているのかという質問です。 ○泉参考人 基本的に,いや,そこまではございません。有効に,それが決定打になると,もちろん,ではないですね,確かに。ただ,少なくとも原始的に注文者帰属になりますと,かなり債権回収の場面では,ますますもって窮するというところでございます。 ○佐成委員 3ページの瑕疵のところで,全て修補・修繕で対応されるということですけれども,実際には,一からやり直さないで修補しただけですと,どうしても安全性とか耐久性に欠けるようなケースが出てくるのではないかと思うんですけれども,その場合,どのように対応されているのかという点を,確認させてください。 ○泉参考人 実際に,実際の例ではどうでしょうかね。いや,基本的には修補で対応する。例えば--ごめんなさい,土木構築物ではないかもしれません--杭が下まで,基盤まで到達していないような事案であっても,もう一度これをやり直して下まで打ち直すということではなくて,基本的には,マイクロパイルという鋼材を基盤まで打ち込んで支えることによって修補が可能になるというようなケースが多くて,それでほとんど機能上も構造上も問題なく修補できるというケースがほとんどでございます。 ○佐成委員 分かりました。もし修補以外に,何か追加的な補償とか損害賠償とかをしているのであれば,トータルで結局,実質的には一から建て替えをしたのと同じになるのではないかと思ったものですから申し上げました。 ○中井委員 最初の引渡しの問題について,実務の確認をしたいのですが,戸建て住宅と大規模ビルでは違うのかもしれませんけれども,戸建て住宅のことを考えるなら,注文者が建物完成したときに現場に行って立ち会って,この扉は動きますね,キッチンはきちんと合っていますね,屋根は問題なくできていますねと,チェックリストがあって順番にチェックしていく,不具合があれば不具合部分について,これは直しましょうとチェックをして修理する,そして,ではオーケーですねと確認をして引渡しを受ける。鍵渡しをする。これが通常の戸建て住宅の実務だろうと思うのですけれども,まずそれが違うのか。   大規模建築物であっても同じで,施主さんが最後引渡しを受ける前に建物を順番に見て回って,エレベーターは動きますね,扉は動きますね,設計図どおりできていますねということをチェックして,違うところがあれば,ここは分かりました,直しますとなり,1週間2週間後に直したものを確認して引渡しを受ける。実務はそうではないのですか。   それをどういう言葉で表現するか,完成と言うのか,履行として認容してと言うのかはおいといて,事実としては,そういうやり方ではないのかと思うのですが,いかがですか。 ○泉参考人 事実としては,戸建ても大規模ビルも,今お話のございましたような手続が一般的でございます。 ○中井委員 そうだとすると,その手順を経た後,注文主さんが建物なりを受け取る,引渡しを受けるのは,自ら確認をした,理解した上で受け取ると,こう思っていいんですね。 ○泉参考人 それで結構でございます。 ○高須幹事 せっかくの機会ですので,御専門の方からお教えいただきたいのですが,今回の御説明の中で繰り返し,建設請負では注文者優位の傾向が見られるという御指摘を頂いておるのですが,その注文者優位という業態であるということの根拠といいますか,どういうところがそのような状況をもたらしているのか。そのあたりの御認識を伺いたいのが1点と。   それから,それと関連するかと思いますが,2ページのところの理由①の2行目に,建設請負の実務においては,請負代金債権は完成時に払われているケースはそれほど多くないという御指摘を頂いておりますが,その意味は,完成の後なされるであろう引渡しの時には全額払われているという意味なのか,それとも,更に引渡し時においてすら全額払われないというケースもありますという意味で記載されているのか,その点が2点目。   以上の2点を教えていただければと思います。 ○泉参考人 後者のほうは,引渡し時にも全額支払われていないケースが多いと。これは手形払いも含めまして,手形払いもサイトがございますので,基本的には延べ払いと同じ考え方であるとしますと,完成引渡し時に全額払われていないケースがほとんどだと。竣工後1か月後,いいケースでも1か月後,残金というような形が多いということでございます。   1点目でございますけれども,注文者に比べて受注者側,請負者側が不利な状況にあるというところにつきましては,これはどういうあれでしょうかね。よく業界では,ちょっと明確に今出てこないんですけれども,「請け負け業」というふうに言われておりますけれども,やはり単品受注で,どこに頼むという選択権は圧倒的に注文者にあると。これをA社,B社,C社に,どう振っていくんだということについては注文者。これ,古い言葉でお施主様という,施主というふうに言っておりますけれども,施主から注文を賜るという図式。これは,なかなか言葉ではうまく説明ができないんですけれども,有利・不利の関係,甲乙の関係にあるということは言えるのかなと思いますけれども。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,日本建設業連合会からの意見聴取を終わります。泉参考人,宇和川参考人,南波参考人におかれましては,御協力ありがとうございました。   続きまして,全国宅地建物取引業協会連合会,全日本不動産協会,不動産協会及び不動産流通経営協会から意見聴取を行います。4団体からそれぞれ意見を聴取した後に,質疑応答の時間をまとめて取りたいと存じます。   それでは,まず最初に,全国宅地建物取引業協会連合会の神垣明治さん,よろしくお願いいたします。 ○神垣参考人 社団法人の全国宅地建物取引業協会連合会の神垣と申します。どうぞよろしくお願いいたします。   本日は,このような場を設けていただきまして誠にありがとうございます。   まず初めに,私どもの全国宅地建物取引業協会,通常,略して全宅連と申しておりますが,団体概要を簡単に申し上げます。現在は,宅建業者は全国に約13万社ほどありますけれども,そのうちの約8割に当たります10万強の業者が私どもの全宅連系に加入しております。私どもの会員のほとんどは,いわゆる中小・零細業者でございまして,資本金規模で申し上げますと,大体5,000万以下といったあたりの業者が80%以上を占めております。会員の特徴といたしましては,その多くが売買や賃貸の仲立ち,いわゆる媒介業務と言われる業務に従事しておりまして,業態区分と申し上げますと,全体の売上比率の約6割が媒介業,いわゆる売買・賃貸の仲介と言われる分野でございます。残り2割が分譲や開発業,残りの2割は賃貸管理業というのが業態区分の状況でございます。   以上を踏まえて,今回の民法改正につきまして,私どもの意見を述べさせていただきます。   まず,今回の改正の総論としての意見でございますが,お手元の資料の2ページを御覧いただきたいと思います。そこには,まず,今回の改正の必要性についてという見出しで記述させていただきました。   今回の改正につきましては,論点が非常に多岐にわたって複雑であるがために,私どもの素人が一読しただけではなかなか分かりづらい。どんな改正になるのか,イメージがつかめないというのが正直な感想であります。ただ,部分を読んでおりますと,債務不履行や瑕疵担保責任の考え方,賃貸契約の規程の見直しなど,不動産取引にとりましても特に重要な部分が大きく変わるのではないかと懸念しております。従来の取引慣行が一気に変更ということになりますと,法改正についていけない,いわゆる法律弱者を生むこととなりまして,我々の取引現場は大変混乱するのではないかと危惧をしております。特に不動産は,一般の物品と異なりまして高額であります。また,法律関係が複雑であることから,民法改正による取引現場への影響,消費者の不安は計り知れないものがあろうかと推測するわけでございます。   そもそも今般の震災の影響で,我々は全国に業者を抱えておるわけでございますが,その一部地域では,今回の改正について意見を集約することが大変困難でございます。憲法に次ぐ国民の根本規程でございます民法改正を,このような状況で拙速に進めていいものか,疑問を感じておる次第でございます。   したがいまして,本会といたしましては,法改正そのものについては慎重に御対応いただきたいというのが率直な意見でございますが,現在提案されております各論点につきましても,我々日常感じております現場の観点から,何点か意見を申し上げたいと思っております。   まず,お配りしております資料につきまして,A3判の大きな資料が配布しておりますが,これは売買と賃貸の業務のフロー図を整理したものでございます。この流れに沿って説明をしたいと思います。   まず最初に,不動産売買の媒介業務のフローに対応した論点でございます。   一番左側から,まず契約交渉の不当破棄に関してであります。今回の改正案では,契約交渉の不当破棄をした場合の責任を法文上明文化することが検討されているようでございますが,御案内のとおり,不動産取引において,特に私どもが行っております媒介業務では,売り主と買い主,双方の要望や条件に開きがあるのが通常であります。媒介業者は双方の希望を調整して,成約に向け交渉するわけでありますけれども,条件が折り合わず契約が破棄される場合や,あるいは逆に成約見込みの低い取引が,そういう取引を行う場合も,粘り強く交渉していく行為が,ここで規定してございます不誠実な交渉であるとして責任追及されるおそれがないか。そういったことが,法の濫用されるおそれがないか,懸念するところであります。   次に右隣の,意思表示に関する規定の拡充でございます。これは,右に行く流れで不動産売買の業務が流れていくわけでございますので,その流れの中で,この意思表示に関する規定の点が該当するわけでございますが,今この中間の論点では,現在,消費者契約法で規定してございます不実表示による取消しを民法の一般規定とすると。また,不利益事実の不告知に関する内容も,その中の特に故意要件を外すということが検討されておるようでございます。ただ,個人間の不動産取引におきましては,故意でない場合にまで責任を問うことはいかがなものかということと,逆に,事業者同士の取引についてまで,特に宅建業者の場合,該当すると思いますが,こういったプロ同士の取引,事業者同士の取引についてまで不実表示の取消しを認める必要があるのか。これは大変慎重に検討すべきことではなかろうかというふうに考えております。   次に,暴利行為に関する規定の明確化ということでございますが,この論点で整理されて指摘されておりますように,非常識な暴利行為は当然規制されるべきものというふうに考えておりまして。ただ,不動産取引の場合は,例えば今,既存住宅の流通ということが叫ばれている折に,特に中古住宅を業者が買ってリフォームして,いわゆる付加価値を付けて販売するケースであったり,売主や買主の動向や地価の動向によって,安く仕入れて高く売るといったケースもあるわけでございまして,こうしたケースが安易に暴利行為として責任追及されることがないよう,特段の配慮をしていただきたいというふうに考えております。   次に,契約締結過程における説明義務についてでございます。先ほどから申し上げているとおり,不動産取引では個人が売主になる場合がありますが,不動産取引は大変専門性が高いものですから,消費者の知識レベルと申しますか,その知識のほうも多種多様であろうかと考えております。また,個人が売主の場合に,その説明義務を一律に課すということについては,先ほど申し上げました知識レベルも多種多様でございますので,大変問題であろうかと思っております。今回の論点整理では,当事者,売主,買主が,第三者と申しますか媒介業者,我々のことになるわけでございますが,契約交渉を委託した場合,その第三者に当たる我々が説明義務違反に該当した場合に当事者が責任を負うとしております。現在我々は,宅建業法の35条,重要事項の説明事項というわけでございますが,また37条では書面の交付ということで,宅建業法で定めてございますけれども,説明義務をそういう形で課しておるわけでございまして,宅建業者が説明違反をした場合に依頼者たる売主に責任が及ぶということになれば,問題ではないかというふうに考えております。   さらに,今回の論点でも大変影響が大きいと考えておりますのが債務不履行の規定変更及び瑕疵担保責任の見直しでございます。   この論点の中で,債務不履行の過失責任主義を見直して,契約の拘束力を重視した規定に改めるとしてございます。この記述のみではいま一つイメージがはっきりしないわけでございますけれども,契約で引き受けた,引き受けないという責任の有無の分かれ目になるとすれば,契約書は重要事項説明,我々が取り結んでおりますそういった説明書にあらゆる項目を盛り込むこととなりまして,現状,大変分かりづらいと言われております不動産取引が更に複雑化して,また契約書が長文化することとなりまして,消費者にとって分かりづらい,不利な状況になるのではないかということで,懸念をしているところでございます。   また,瑕疵担保責任を契約責任として位置付ける点でございますが,この債務不履行と同様,重要事項説明の書類が大変膨大になるというふうに感じておりまして,書類に記入すれば良いという風潮をもたらすのではなかろうかということで,この点も危惧しているところでございます。   この瑕疵担保責任の期間につきましては,現状,宅建業法では,引渡しから2年以上と規定されておりますけれども,今回の見直しによりまして,いわゆる担保の責任期間について,長期になる,又は実務にそういったことの影響が生じないように,御配慮をお願いしたいというふうに感じております。   また,実測,公簿との数量の不足が出ることが実務ではございますけれども,そういった場合の担保責任の明確化によりまして,現在行われております土地の実測精算売買が制限されることのないよう,御配慮をお願いしたいというふうに感じておるところでございます。   以上が売買についてでございますが,2ページ目の賃貸についてのフローについて,その中から特に4点ほど,意見を申し上げたいと思います。   まず,建物賃貸契約の場合には,通常,保証人を要求するケースが多いわけでございますが,今回の保証契約についての見直しが提案されております。まず保証契約時に貸主が保証人に対して,保証人の知識等に照らして十分な説明を行うこととされておりますけれども,例えば貸主が借主の資力に関する情報を保証人に説明することが義務付けられてしまうということになりますと,実務上の影響は大きいと思われます。また,連帯保証の効果の説明を理解した場合のみ連帯保証人となるべきとの提案がございますけれども,理解したかどうかは連帯保証人の主観的な問題であることから,無用な混乱が生じかねないと思われます。建物賃貸借における連帯保証人は,賃料滞納などの金銭担保以外に,また別の意味もございまして,身元引受人的な意味合いが大きいところがございます。この点が融資に係る保証人の性質と異なっている点であろうと思いますので,この点につきましては十分な配慮が必要と思います。   次に,目的物の一部利用できない場合の賃料の減額でございます。賃借人からの減額請求を待たずに,当然に賃料が減額されるとすると,実際に賃料にどのように反映されるのか。減額は,認められる範囲や基準はどのように定められるのか,トラブルの原因となるのではないかと,その点を懸念しております。理由のいかんを問わず減額されるというのは少し行き過ぎであって,法的なバランスに欠けるのではないかというふうに考えております。   また,賃貸でよくトラブルになります原状回復の規定の明確化でございます。先般,二つの最高裁,平成17年12月16日付け,また最近では平成23年3月24日付けの判決で,個人の借主の居住用賃貸借につきまして,いわゆる通常損耗の補修特約を否定していないということで,これらを十分踏まえて,今回の原状回復の規定も議論すべきであろうかと思われます。我々も業界団体といたしましては,国が示しております原状回復のガイドラインというものが国交省を中心に定めてあるわけでございますが,また,この判例に基づく実務運用も,現場では,我々業界といたしまして,相当努力をしております。あえて民法で規定する必要があるのかどうか,慎重に検討すべきであろうと考えております。   敷金返還債務の承継でございます。この中で,旧オーナーが敷金返還債務を負わなければならないという意見がございます。これは,賃貸物件の売買を行いましたときに,通常,敷金の返還分を代金に反映させて,いわゆる相殺をして,決済を行って引き継いでおるというのが通常の売買の状況でございまして,こうした取引慣行に影響を及ぼすのではなかろうかと思っております。この敷金返還という将来債務をいつまでも旧オーナーに課すというのは,取引の安全性に欠くおそれがあるというふうに感じておりますので,十分実態を踏まえて検討していただければと思っております。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   それでは次に,全日本不動産協会の久保田善九郎さん,よろしくお願いします。20分の範囲内で収めるようにお願いいたします。 ○久保田参考人 ただいま御紹介いただきました全日本不動産協会,私ども略して全日と申しておりますが,まず,私どもの団体の概要を説明申し上げます。社団法人全日本不動産協会は,建設大臣より設立許可を受けた公益法人で,昭和27年6月10日,今の岐阜選出の野田聖子さんのおじいちゃんが建設大臣だった折,設立された,業界で最も歴史のある団体でございます。47都道府県に会員を持っておりますが,約2万6,000社ございます。会員である我々宅建業者は,売買,賃貸借,媒介業務等々をやっておりますが,全宅さんと同じで,ほとんど零細業者が多うございます。   そういう団体でございますが,今,全宅さんのほうでるる細かく説明ございましたので,私ども4団体,これいらっしゃいますが,焦点を絞ってしゃべりたいと思っております。   まず総論ということで,宅地建物取引業法は免許制度を実施,必要な規制を行うことで消費者の利益保護を図ることを目的としています。宅建業法は27年の制定以来,数次の改正を経て現在に至っており,宅建業者は宅建業法の規制の下業務を行っています。民法改正に当たっては,宅建業者とその取引の相手方との間に成立する契約に関する法的規制は,全て宅建業法に定める立場を守っていただきたい。この中身については,宅建業法が制定されて60年,昭和27年ですから60年たっているわけでございますが,多岐にわたる重要事項説明など,消費者保護を重視した法律であること。それから,民法改正によって宅建業法による規制の下行っている業務に何らかの変更が生じないよう,配慮していただきたいということが総論でございます。   それから次,媒介契約についてということですが,民法改正に際し,媒介契約のことを民法改正法に定める必要はないと考えております。将来,両者間の媒介契約に関する法的規制を必要とする事項が生じた折は宅建業法に追加して定めれば事足りると,このように思っております。もし民法改正法に媒介契約を定める場合においても,心理的,環境的問題--この心理的というのは自殺とか事故死,孤独死。これから老人の独り世帯多くなっておりますから,アパートの賃貸なんかでも分からないうちに死んでいたというようなことが多々現出しております。あるいは,その部屋で自殺をした,そんなことで物件の,賃貸収益物件の場合ですけれども,一戸建ても同じなんですが,価値が大幅に損なわれる。あるいは火事で死んだ場合,建物は無くなっているわけでございますが,相場の半値で売っても,なかなか売れないというようなことがございます。環境的というのは,そこに近くに暴力団事務所があるとか,暴力団員の住居があるとか,そんなことが環境的問題ということです--について,媒介業者が過大な調査事務を負わせられないよう,立法に配慮していただきたい。   これは東京都条例で,例えば自殺,あるいは殺人あった場合は,おおむね5年ぐらい過ぎれば説明義務はいいのではないかというような案も出ておりますが,私ども,実際売買契約やるに当たっては,おおむね10年ということを一つの目安にしてやっております。ここでは殺人ありましたということを,10年過ぎれば言わなくてもいいのではないかと。ところが現実問題は,15年たっても,近所の方が,あそこでは殺人があったんだというふうに言うんですね。そんなことで,我々困るときがあります。   ですから,この環境的問題あるいは心理的問題というのは,例えば一戸建て,7万5,000円で貸したが,そこで自殺してしまったというふうな場合は,その物件はもう売れないんですね,半値でも。外部から来て,分からないで買ってしまったという場合はあるんですが。その辺が,5年でいいのか,10年でいいのか,あるいは禰宜様にお祓いすればそれで事足りるのか。私どもは,現実的には,やはり禰宜様を呼んでお祓いをして,きちんとね。法律的ではないですけれども,神道のお祓いをしてやっているのが実態でございますが,そんなことまで分からない場合もあるわけですよね。売主が何回か変わって分からない場合もあるわけなので,その辺のところを,調査義務を負わせられないよう,立法に配慮していただきたいということですね。   次,瑕疵担保責任についてですが,先ほど全宅さんのほうからるる説明ございました。ございましたけれども,私どもは,宅建業者が宅地又は建物の売主になる場合の瑕疵担保責任については,宅建業法40条,品確法95条に定める以外に新しい規定を必要としない。それほど全部宅建業者に,これもやれ,あれも説明しろ,どんどん押し付けて,今回のアスベストも耐震基準もそうですけれども,56年6月1日以降はこうだよと,融資しても借りられないよということまで,私ども,どんどん重要事項説明書の項目が多くなるんですね。そういうことまで押し付けないでほしいということで,宅建業法と品確法があれば,もう十二分ではないかというのが私どもの考え方でございます。   それから,履行の着手についてということですけれども,これ,何回も裁判になっておりますが,解約手付ということで,手付金放棄あるいは倍返しで契約を解除するのはできますということになっている。買主にとっては,例えば銀行に申込みをしたということで,これは融資,停止条件付きの物件で,取引がない場合,銀行に申込みをしたという時点では認められるのか,認められないか。民法については,取引実態を踏まえた「履行に着手」の意義を明確化することは望ましいというふうに考えております。   今は,平成3年2月のバブルの崩壊から20年続けて,相続で路線価表も下がっているし,土地も。東京の場合は一部,平成16年ごろミニバブルがありましたけれども,田舎のほうは20年続けて土地が下がっております。したがって,今2,000万で売って400万手付もらったけれども,別な人が2,800万で買うというようなことは今はまずありませんね。2,000万でやったと思ったら,今度は2,000万では高いから1,800万にしろというのはあり得ますけれども。そういう状態ですが,やはりトラブル起きないためには,この履行の着手についてということをもう少し明確化にしていただければいいのかなということでございます。   以上4点,申し上げました。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   それでは次に,不動産協会の高橋健文さん,よろしくお願いします。 ○高橋参考人 不動産協会専務理事の高橋でございます。   本日は,法制審議会民法部会の場で,私どもの意見を述べる機会を頂きましたことに感謝申し上げます。   お手元に,民法の改正についての協会の説明資料と,あと,社団法人不動産協会の紹介資料,パンフレットを付けてございますので,両方を御参照いただければと思います。   まず1ページ,お開きいただきたいと思います。まず,不動産協会の紹介でございます。不動産協会,現在,三菱地所会長の木村惠司が理事長をしておりますが,都市の開発や魅力的なまちづくりに取り組む大手デベロッパーを中心とする不動産事業者,168社で構成されております。会員各社は,良質なオフィス・住宅の供給,住宅ストックの円滑な流通等に努めておりますが,不動産協会では,これらの事業を会員各社が積極的・効果的に推進できるよう,不動産関連制度についての政策提言を行うとともに,調査・研究,社会貢献活動等に取り組んでいるところでございます。当協会では,顧客ニーズに応えて,的確な情報や適切なアドバイスの提供により,顧客のライフスタイル追求を支援する顧客本位の経営を企業行動理念としております。   これらにつきましては,また後ほどお時間のありますときに,この不動産協会のパンフレットを御覧いただきますと,最初開いたところに不動産協会の企業行動理念,また,真ん中あたりに会員の固有名詞が出てございます。   次に2ページに移ります。今回の民法改正についての,当協会の基本的視点でございます。   まず,民法の改正に当たりましては,当協会としましては,取引の安定性を確保するという観点を重視していただきたいと思っております。   次に,判例法理を条文化されるということは,取引の安定性を確保するためにも望ましいと考えております。   消費者保護につきましては,一般法といいますか,私法の基本法である民法に規定するというのではなくて,現在,宅地建物取引業法や住宅の品質確保の促進等に関する法律等,一定の政策目的に従った特別法がいろいろございます。そういう中で対応していただくほうが,契約の当事者でございます消費者にとっても,また不動産事業者にとっても分かりやく,消費者保護が実効あるものになるのではないかと考えております。   本日は,売買と賃貸借に関する四つの論点について意見を申し上げたいと思います。全般につきましては,後日改めて会員企業の意見を集約の上,文書で提出させていただきたいと考えております。当協会の性質上,今回の申し述べます意見につきましては,売買につきましては新築分譲マンションの売買契約を念頭に,賃貸借につきましてはオフィスビルの賃貸借契約を念頭に,意見を申し上げたいと思います。   3ページに移ります。まず,今回の論点整理第23-2の,契約締結過程における説明義務・情報提供義務でございます。   この点につきましては,説明義務・情報提供義務に関する一般的な規定を民法に設けることは,宅地建物取引業者が関与する不動産取引におきまして,宅建業法上の説明義務あるいは情報提供義務以上の,過剰な情報提供を求められるおそれがないかどうか,懸念しております。改正に当たりましては,既存の実務に影響を及ぼさないよう,十分な配慮をお願いしたいと考えております。   理由につきましては,先ほど来,全宅連あるいは全日のほうからもお話がありましたが,宅建業法35条では,重要事項の説明等について極めて詳細な義務が規定されております。また,宅建業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるものについての告知義務が同法47条でもございます。そういった宅建業法で大変詳細な義務が課せられております。さらに,説明だとか情報提供の必要性あるいは程度は,事業分野といいますか,物の対象ごとに異なっておりますので,宅建業法では宅地建物取引に即した消費者保護規定が設けられております。そういう中で,一般法である,基本法である民法で規定されるよりは,宅建業法上の,現在かなり厳しい詳細な規定がございますので,それで十分ではないかと考えております。   第二番目に,論点整理第39-7,民法第572条,担保責任を負わない旨の特約の見直しの要否についてでございます。この規定を見直す場合には,宅建業法や住宅の品質確保の促進に関する法律で定められました免責特約の範囲を制限することにならないような,配慮をお願いしたいと考えております。   理由として申し上げますのは,まず,関係当事者の利害調整,あるいは取引の安全性への配慮の下に,宅建業法第40条では,宅建業者が売主であります場合の売買契約における瑕疵担保責任の特約の制限,これは2年以上の特約であれば有効であります。さらに,住宅の品質確保の促進に関する法律95条では,新築住宅の構造耐力上,主要な部分等の瑕疵担保責任,これは10年間。そういったいろいろな事案に即した形で,個々の政策目的に従った特約が決められております。こういったことで現在対応しておりますので,それらの免責特約の範囲を制限することになることのないように,お願いしたいと思っております。   次に5ページに移ります。第三番目に,論点整理第45-3(4)でございます。敷金返還債務の承継についてでございます。   まず,目的不動産の所有権の移転に伴い,敷金返還債務が当然に新所有者に承継されるとする判例・通説を明文化していただくことには賛成であります。しかしながら,旧所有者もその履行を担保する義務を負うとすることは,旧所有者の地位を不安定にし,賃貸不動産の流通を阻害するおそれがあります。   まず,敷金返還債務の権利関係は,これは賃貸借契約に付随して存在するものでありまして,独立して存在する債権債務関係ではありません。賃貸人の地位が承継されることによって敷金返還債務も新所有者に承継されるものであって,旧所有者が敷金返還債務の履行を担保する義務を負うとは賃借人も考えないと思われます。一般的には,旧債務者が免責されることが前提となっておりまして,旧所有者に履行を担保する義務を負わせることは,実務における賃貸不動産売買の契約締結方式及び売買代金の決済ルールに重大な影響を与えることになりますので,よろしくお願いしたいと思います。   第四番目に,賃貸借終了時の原状回復,論点整理第45-7(2)でございますが,まず,原状回復の範囲に通常損耗部分が含まれないことを条文上明記するといたしましても,これに反する特約を無効とする考え方については賛成できません。理由といたしましては,通常損耗の具体的な事例への当てはめは困難であります。そういったことから,その対象範囲を契約時に当事者間で具体的に定めることによって,当事者が具体的に確認することができ,そのことによって,紛争を予防することができると考えます。そういった意味で,特約を無効とするという考え方には賛成できませんので,よろしくお願いしたいと思います。   不動産協会からは以上4点を本日申し上げました。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは次に,不動産流通経営協会の守内哲男さん,よろしくお願いします。 ○守内参考人 それでは,しんがりでございますけれども,不動産流通経営協会の守内でございます。   本日は,意見陳述の機会を与えていただきましてありがとうございます。お手元の3枚資料に基づきまして説明をさせていただきます。私どもは,意見を申し上げるといいますよりも,売買取引に関して標準契約というものを作っておりまして,それをめぐる実務上の懸念というようなものを若干申し上げてみたいと思います。   当協会は,そこの第1行目にありますように,大手・中堅を中心とした不動産流通業界の協会でございます。それで,不動産流通業者というのは,ハウスメーカーあるいは新築分譲業者のように,宅地造成,マンション・戸建てといった建物建築を行う業者ではございませんで,売主・買主,貸主・借主の間に立って,売買,賃貸借の成立に業務を行うという媒介業者でございまして,その売主,買主等とは媒介契約を介して,依頼者と媒介業者の関係に立っております。   それで,今申し上げましたように,当協会は,既存住宅というふうにも呼んでおりますけれども,いわゆる中古住宅,これの売買の取引に関する標準的な契約を作っております。当協会の会員会社は現実の取引においてこれを使用しておりまして,強制ではございません,任意のものではございますけれども,大手・中堅,主立ったところはほとんどこの標準契約を使用しているという実態でございます。なお,これは中古住宅,いわゆる売主が一般の方,一般の売主の場合の仲介でございまして,いわゆる新築の分譲のように売主が宅建業者であると,専門業者といいますか,デベロッパーであったり,そういう場合を想定しているものではございません。   これにつきまして,まずⅠでございますけれども,一応実務の流れを書いております。中古住宅を売買する場合,特に買う場合の私ども会員が仲介をする場合,その流れを書いております。買いたいというお客様に対して物件を紹介するわけですけれども,2のところにございますように,相手方がございます。売主のほうの者,それに対して物件の現地見学をやっていただいたり,それから,買主様の購入希望条件を書面にして,売主の媒介業者を通じて,それを通知するというような手続・折衝を行います。それと同時に,それに併せて,3のところでございますけれども,いわゆる依頼者との間で,買主との間で,媒介契約を締結するわけでございます。それで,5のところが売買契約,いよいよ成立するわけですが,先ほど来ありますように,4のところで,これは宅建業法第35条の重要事項説明,すなわち不動産の情報や契約の条件をしっかりと説明すると。これが宅建業法上義務付けられておりまして,しかも,これは宅建業法上の資格を持ちます宅地建物取引主任者が行わなければならないという規定になっております。それを行った後に売買契約を締結するわけでございますけれども,売買契約書の内容につきましては,双方の媒介業者が,売主,買主について,書面でもって説明をすると。これは宅建業法37条書面と呼ばれています。売買契約書がある場合は,その写しで代えることができるという規定がございまして,大概の場合には,その写しでこれを説明いたしています。そのときに,契約締結時に買主は売主に手付金を支払う。それから,私ども媒介業者は買主から媒介報酬の半分を頂くというようなことが,まず売買契約時でございます。そして6のところで,いわゆる決済・引渡しのときに,残代金を買主は支払うということと,それから,売主がそのときに買主に対して所有権移転登記等の必要書類を交付する。それから,鍵などがある場合には鍵を引き渡す。次のページへいっていただきまして,固定資産税等の諸費用の清算もこのときに行い,そして最後に,買主の仲介を行っておりますので,その買主様から媒介報酬の残りの半分をお支払いいただくという手続の流れでございます。   この流れにおきまして,追加的に若干のポイントがございます。   その追加説明のところにございますが,まず3の,今御説明しました媒介契約と申しますのは,宅建業法に基づきます建設省告示115号で示されている標準媒介契約約款そのものを使用しております。したがって,これは我々媒介業者が内容を変更するということはできません。ということでございまして,今この部会において約款について御検討されておりますけれども,その際,このことを御理解いただいた上で御検討いただければというふうに考えております。   次に,5の売買契約でございます。これは,先ほど言いましたように,標準売買契約を私どもの会員が使用しておりますけれども,これは売買契約のたたき台のようなものでございまして,そこにございますような築年数等の物件の状況,買換えの場合か否か等々,当事者の状況によって,千変万化とは言いませんけれども,かなり個別具体的に状況は違います。したがって,特約を設けて当該取引に適した契約に変える。特約の表現自身も一応たたき台はありますけれども,場合によっては特約の表現自身も変わると,こういうことになります。したがって,いわゆる約款と申しますのは,大量な取引を合理的・効率的に進めると,行うということを目的とするわけでございますが,むしろ不動産の取引におきましては個別具体的なもの,即地的なものという面もございますので,我々は標準売買契約は約款ではないというふうに理解をしております。   次に6で,引渡しの場合でございますけれども,これも実務でございますけれども,融資を利用する場合,ローンを付ける場合は金融機関で行います。それから,それ以外の場合には私ども媒介業者の事務所において,各当事者,媒介業者,一堂に会して残代金が支払われたことを確認して,そのときをもって所有権が移転する,引渡しは完了したものとして,そして登記手続の書類をその場で司法書士に託すというような形が通常でございます。   なお書きで書いておりますが,先ほど来,他団体から意見が出ております一般法と宅建業法の関係でございますが,省略いたします。   次にⅡのところで,これは今の部会,法制審議会で御検討の,代金の支払期限,民法第573条につきまして,不動産売買においては登記の重要性に鑑み,目的物の引渡し期限ではなく,登記移転の期限を基準とし検討するのはどうかというような検討をされておりますけれども,これにつきましては,いわゆる実務で行っている同時抹消という登記上の手続に支障が出るのではないかという懸念がございます。そこに書いてございますように,大半のケースにおきましては,売主が買主から受領いたしました残代金を,残代金を払われたときに中古住宅の借入金で抵当権が付いております,それの返済にまず充当すると。それで,抵当権を抹消すると同時に買主への所有権移転登記を行うと。これを同時抹消と呼んでおりますけれども,これが長年の商慣行といいますか取引慣行になっております。これは,同時抹消を行いますと,売主は事前に抵当権を抹消するための費用を工面する必要がございませんし,それから,金融機関が立ち会いますので,買主のほうといたしましても非常に安心であると,確認ができるということでやっております。これが,いわゆる登記期限,引渡し期限まで支払期限という形になりますと,私どもはそれを特約で,そうはならないような形で確認的にしているのが通常の取引ですけれども,若干買主に支払を留保する理由を与えることになりますと,実務において,取引の現場において,非常に混乱すると。安全・安心な取引,また迅速な取引,不動産流通の活性化というのは,社会のニーズだと思われますので,その辺の御配慮をお願いしたいと思います。   次に,最後のページでございますが,Ⅲ,中間的な論点整理で媒介者を含めた第三者が交渉に関与することについて,交渉の相手方が損害を被った場合には交渉当事者に責任を負わせることの提案がなされております。不動産の媒介業者は,売主・買主の契約交渉に何らかの形で関与いたしております。契約の成約に向けて尽力をいたしておるわけでございますが,その媒介業者の関与により相手方に損害を生じたと,こういうふうになりますと,宅建業法による業法上のいろいろな処分等は,これは当然のことでございますが,更にそれを超えて,民法上のといいますか,私法上の負担が例えば売主に掛かったりいたしますと,売主が非常に不安に陥る。売却を場合により断念したり,あるいは不安の対価を価格に転嫁してくれというような言い方がなされるおそれもございます。実は,一番大事なのは買主ではないかというふうに考えます。売主がこのような行動に出ますと,いわゆる現状有姿で売るというときに,買主は,先ほど言いました宅建業法上の重要事項説明等によって,都市計画規制を初め,いろいろな不動産に係る規制を知ることができると。それは業法上の義務なんですが,そういうことですけれども,どちらかというと直接取引のような形になりますと,かえって現場の取引が混乱するのではないかという観点でございます。   最後でございますが,Ⅳで,瑕疵担保責任と追完請求権でございます。これにつきましては,追完請求権につきましては,一般的,総則的な規定を設けるべきである考え方があるがということで検討されておりますけれども,これも現場の実態でございます。媒介業者は契約当事者ではないので,売買物件に不具合があった場合に,直接買主に対して担保責任を負うものではないけれども,売買取引を円満に完了させるため,買主と売主との間に立って事態の収拾を図る。この場合,発生した不具合が瑕疵に該当するか,すなわち,あるものが一般的に備えるべき当然の機能・品質・性能が備わっていないのか,それとも,経年変化,使用に伴う性能低下・傷・汚れにすぎないのかというのが,現場では往々にして問題になります。特に性能低下にすぎないという場合であっても,売主の担保責任がないにもかかわらず,往々にして買主のほうから売主に責任追及するというような場も見受けられるというようなことがございますので,瑕疵を議論していただく中で御考慮を頂きたいポイントでございます。   具体的には,その下に引き続き書いてございますけれども,物件の不具合がありまして,売主が責任を負う場合には,売主は不具合の箇所の修復を行うということになっております。損害賠償を行うのではなくて,追完をするという形になっております。これを,しかし,追完請求権というような形で,更に修復請求権という権利までに高めることには懸念がございます。例えば設備なんかの場合に,これが故障した場合には,部品が保管期限を過ぎているときは,設備そのものを新品に交換する必要がございますが,これを,例えばキッチンの設備とかバスの設備とか,すべからくやりますと,買主のほうから,正しく新品を負担しろということになるわけでございますけれども,これは,現場におきましては,売主負担分と買主負担分を話合いにおいて決めていただいていたりしております。追完請求権を権利という形に余り強めますと,このような形で売主に対して買主の権利がツーマッチというか,強くなり過ぎる,保護し過ぎるという点がございます。   ここにはございませんが,不動産の流通の活性化にとりまして,買主の保護というのもやはり重要な観点ではないかというふうに考えてございます。それで私どもの,バリューアップモデルと称しまして,昨年の5月から始めているプロジェクトあるいは取組がございます。これは,私どもの会員でございます三井不動産販売ですとか,あるいは住友不動産販売,東急リバブルといった個社が個別に取り組んでこられたものを,FRK,不動産流通経営協会の一般的な取組として始めようということをスタートさせたものでございます。   具体的には,取引の実務におきましては,売主は現状有姿で,現状のあるままで3,000万,4,000万という形でこれをできるだけ早く売ってくれと,こういうのが現状でございますが,昨今,買主は,やはり耐震性,それから建物のインスペクション,いわゆる建物が品質を持っているかどうかということについては非常な関心があるんでございますけれども,なかなかそれを言い出せないという立場がございます。このために,耐震診断を売主で行う,それからインスペクションを売主で行う,このような取組をやっていこうではないかということにやっております。それで,これをやることによって,先ほど言いました売主の瑕疵担保の免責特約を付けると。例えば,インスペクションを行って,いわゆる雨漏りとか,配管とか,主要構造部の躯体について,全てインスペクションを行います。それで現状の状態,これを買主に開示いたします。そして,これで買ってくださいと。それで,万が一それが違うようなことになった場合には保証で。チェックをした売主側が保証を掛けまして,それでそれを追完するというような形を採ります。それで,そのような形になったときには,先ほど言いました標準契約の中で特約がございまして,免責特約。つまり,瑕疵担保3か月という通例の条項を入れておりますけれども,それを外すというような特約もやっております。今日的な社会的ニーズでもあると思いますけれども,耐震性,それから建物診断,インスペクション,この推進に努めているというようなことは,ちょっと付言をさせていただきたいと思います。   以上でございますが,最後に書いてございますように,今後,私どもといたしましても,これは取りあえずの,標準契約を使用する上での懸念のようなものでございますので,意見というものにつきましては,また検討させていただきまして,適宜の機会に改めて申し述べたいと思います。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   ただいままで頂戴しました4団体の御意見に関しまして,委員,幹事等の皆様から御質問がありましたら,御自由に御発言ください。 ○山野目幹事 4団体におかれましては,それぞれ丁寧な御説明を頂戴いたしまして,誠にありがとうございました。   重要事項説明というものが実際においてはどのように行われているのか,ということについて,お教えを頂きたいというふうに考えます。   そのようにお尋ねをする趣旨を御説明しますと,ただいまの御説明で幾つかの団体から重要事項説明についてお触れをいただきましたし,民法の一般的規律として説明義務が設けられることとの関係についても,やや御懸念も表明いただいたところでございます。しかしながら,私が想像するところでは,宅地建物取引業者の皆様方は,売主になろうとする当事者とも連携して,宅地建物取引業法35条の規定に基づく重要事項説明を,かなり分厚い資料を用意し,まとまった時間を確保して,場合によっては事前に書面を相手方に送付するなどして,丁寧になさってこられたというのが一般的な実態ではないかというふうに考えています。もちろん個別の事例においてはいろいろ問題のある事例もおありでいらっしゃいましょうけれども,そういうものに対しても,もちろんここにおられる4つの団体の方々が,それぞれ傘下の会員に対して指導をなさったり,あるいは研修をなさったりという研さんをなさってこられたものであろうと思いますし,そういうことについても敬意を表したいと考えます。そうであるとしますと,その実態をお教えいただきたいのですが,そこでお話しいただく事柄というのは,恐らく宅地建物取引業法35条に違反していないというのみではなくて,考えられている民法の一般的規律に照らしても遜色のないことを,今まで現実になさってこられているのではないかというふうにも想像する部分がございます。   そのような趣旨から,その実態をお教えいただきたいのですけれども,四つの団体,いずれも関係しておられることでありましょうが,四つ全部お話しいただく時間はないと思いますので,最初にかなり念入りにそのことにお触れいただいた全国宅地建物取引業協会連合会のほうから,一般業者の方々の傘下の会員のお仕事の御様子などお教えいただければ大変有り難いというふうに感ずるものでございます。 ○神垣参考人 すみません,それでは,今の御質問についてお答えいたしますが,宅建業法では,取引主任者制度というものがございます。これは国家資格を取った主任者が,この取引する物件につきまして,重要事項説明という形で,書面をもって契約前に説明する義務があるわけですが,その際,当然その説明する中に,物件に関すること以外にも,先ほど,ほかの委員さんからも御説明がございましたように,最近では47条説明といいますか,重要な事項の告知する部分ですが,この部分を説明する義務がございます。   もしこれに反して,消費者に御迷惑が掛かるような取引になりますと,所期の目的が達せられないというようなことがございますと,業者の責任という形で,我々は営業保証金という形で保証制度を持っているわけなんですね。ですから,消費者保護という面では,この保証制度といいますか,弁済制度といいますか,こういったものは旅行業法と宅建業法しかないわけでございますが,そういった形で,消費者保護のスキームとしてきちっと整備しているつもりであると。   今回の民法改正につきましては,そのことによって売主まで責任が連帯してくるような制度というものが,そこまで必要なんでしょうかというのが御意見申し上げた趣旨だったと思うんですけれども。ちょっと十分なお答えではないかも分かりませんが。 ○鎌田部会長 ほかに,いかがでしょうか。 ○中井委員 山野目幹事からの質問と同じことを聴くことになるのかもしれませんけれども,事実,実態を教えていただきたいというのが先ほどの質問の趣旨であったと思うのです。   一般に売買契約をするとき,仲介さんにお願いすれば,土地利用規制から始まって,当該建物の故事来歴,土地の状況,隣地との関係,越境の状況,それなりに詳細に調べられていますね。それを,重要事項説明書と称する分厚い書面に書いている。宅建業者さんは,宅建主任者証をテーブルの上に置いて,私は主任者ですよと示して,買主さん御本人に説明されているのではないのですか。実態はそうだろうと私は理解しているんですね。   そうだとすると,民法に,売主さんは説明しなさいよと定めることが,何か皆さん業者さんにとって支障が生じるのでしょうか。生じるとおっしゃる,そのポイントがもう一つ,何なのかなと思うのです。   実態について,私の理解でよろしいのか,違うのか,こういうふうにやっているんですよというのがあれば,教えていただきたいですし,それを尽くしていれば,業者,業界の皆さんとしては,民法に定めることに支障がないのではないかという疑問に対して,御説明いただければと思います。 ○神垣参考人 当然,先ほど,設備のことも含めて,引渡しに際して,本人からの告知という形で,我々実務は重要事項説明の中に,37条の書面の中にも,その売主本人さんから,いわゆる告知という形で契約書上に添付するようにいたしております。ということは,我々も不可視部分については調査が十分,分からないところも調査の中にあるわけでございますけれども,当然,本人でしか分からない部分はあるわけですね。そのことにつきましては本人のいわゆる告知という形で,全宅連のほうは,どこの団体もそうだと思いますが,告知書という形で,その物件に関する,例えば補修履歴も含めて,その設備のことに関してましても,現状こういうふうな形で引渡しができますという形で告知をさせていただいています。ですから,それは業界にとりましては一部調査が不十分なところの免責事項になっているというところもあるわけですが,そういうような形での本人の告知という形を採らせてもらっているという状況でございます。 ○高橋参考人 主に媒介の場合に御関心あるようですが,私ども不動産協会,冒頭申し上げましたように,新築分譲マンションの分譲契約の場合について申し上げます。皆さんも既に御経験あるかと思いますが,重要事項説明書,相当分厚い書面を大体2時間ぐらい掛けていろいろ説明すると聞いております。特に,今御指摘ございましたように,主任者証を提示して,責任ある者がきっちりと説明いたします。取り分け新築分譲マンションの場合は,事業者が直接自ら用地を手に入れ,そこで建設し,自ら造ったものですから,それについては責任持って,相当の時間をかけて説明しております。それらについては,消費者保護行政,非常に最近その観点が厳しくなっておりますし,国土交通省の宅建業法の指導のほうも相当厳しいものがあります。   それとあと,民法で規制する,規定することについての考えでございますが,先ほど申し上げましたように,物の性格によって説明すべき範囲とか,あるいは程度というのは変わってくると思います。そういう意味で,宅建業法であるとか,そういう宅地建物取引に着目した法律で,特別法で,より厳しい規制が掛かっているわけですから,民法で一般的な情報提供義務と規定されることによって,ほかのいろいろな財との絡みで,本来,宅地建物取引で求める必要がないものまで説明義務が掛かってくるようなことになりはしないかという,そういう懸念を持っているということを申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 そこのところが余りよく分からないんですけれども,民法に一般的な説明義務の規定が設けられると,例えば不動産取引で,どんなことを説明させられるようになると御懸念されているのでしょうか。 ○高橋参考人 いや,それは分かりません。ですから,宅建業法を御覧になっていただきますと,35条で,いろいろな権利の制限について重要なことをずっと書いてあります。ですから,それ以上のものはないと思っておりますので,現在,我々は宅建業法に基づく重要事項説明で,消費者保護のためにきっちりした対応をさせていただいているということを申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御質問,いかがでしょうか。あるいは御意見もあれば。 ○山本(敬)幹事 詳細な御説明をいただき,本当にありがとうございました。2点,質問させていただきたいと思います。   1つは,一番最初の全国宅地建物取引業協会連合会の御説明についてです。意思表示に関する規定の拡充のところで,問題点として,特にプロ同士の取引についてまで取消しを認める必要があるのかという御指摘をされておられました。これは,プロ同士の間で契約をしたのではあるけれども,後で一方当事者の表示が不実であるということが分かった,それが分かっていれば,こんな契約するはずがなかったという点について,不実の表示があったという場合に,では,どうすればよいということなのでしょうか。お考えになっているのは,このような場合は,プロ同士なのだから話合いをして,しかるべき解決をすればよいということなのかもしれませんが,そのような場合に,話合いでうまく決着がつかないときに,実際にどうしておられるのか,あるいはどうするのが望ましいとお考えになっているのかという点をお伺いできればと思います。   もう1点は,最後の不動産流通経営協会の方からの御説明についてです。一番最後におっしゃられた点について,正確に理解できなかったところもありますので,お教えいただければと思います。具体的には,バリューアップの取組についてです。耐震調査,あるいはインスペクションをきちんとやって,そして,その後に不幸にしてそれと異なるような問題が出てきた場合については,「保証」による対応を図り,そしてその一方で,瑕疵担保については免責特約を入れるというような御説明をされたかと思います。そのときの「保証」の中身をお教えいただけないかと思います。具体的にどのような「保証」の約定を入れておられて,どういう対応をしておられるのかということです。 ○神垣参考人 基本的には,私が申し上げたのは,プロ同士といいますか,特に宅建業者同士ならずとも,商法で規定ございますように,事業者であれば当然,商法にも規定ございますように,引渡し後6か月以内ですかね,いわゆる調査義務があると思います。まず,そういったようなところも商法でも定まっておりますし,当然ながら,我々の宅建業者であれば特に業法でも,その点は買主である宅建業者も調査義務があるんですよということで,いわゆるそういう免責といいますか,そういったような一つのルールがございます。そういう意味で,当然,宅建業者が売主の場合,また買主が宅建業者の場合も,双方が注意義務がございますよというのが我々不動産取引のルールでございますので,特にそういったところまで消費者契約法の考え方が適用されるのは,ちょっとどうかということを申し上げたつもりでございました。 ○山本(敬)幹事 双方にそのような義務があるとして,では,その後,どうなるのでしょうか。更にもう一言,御説明いただければ有り難いと思います。 ○神垣参考人 ですから,そこまで,今の同業者,事業者同士の間のことのところまで,その不実なところ,いわゆる故意といいますかね,今回の改正の点が「故意に」というところを削除するという考え方があるとすれば,そういうところまで必要なんでしょうかということを申し上げつもりなんですが。 ○守内参考人 不動産流通経営協会ですが,先ほどの御質問ですけれども,まず,標準契約の中で瑕疵担保責任項目という,特に戸建ての場合なんですけれども,四つ決めております。それは,具体的に言いますと,雨漏り,それからシロアリの害,それから建物の構造上主要な部位の瑕疵,構造上の主要な部位,それから四番目に給排水管からの漏水と,この4点がやはり,中古の売買,戸建ての売買をするときに重要なものですから,これを瑕疵担保責任項目にして,3か月以内にこれに隠れた瑕疵があれば,売主がそれを負担するという,標準的な契約はそうなっております。   しかし,FRKのモデルで,それはもちろんインスペクション等は実施しないものですから,買主は何も分からないで買わざるを得ないという状況があるという前提ですけれども,そのFRKが検査会社と提携をいたしまして--FRKというのは不動産流通経営協会の略です--不動産流通経営協会の提携インスペクション会社でインスペクションを実施していただきます。物すごい不具合がある場合には,当然その場で追完するということになるわけですけれども,現状,先ほど言いましたような,いろいろな経年変化による劣化というのは当然あるわけでございますが,まずもって,そのインスペクション項目の結果を現状として開示すると。インスペクション会社がこれを開示する。もちろん検査料は売主が払わなければならないと。それで開示をして,このような形で売買契約を何千万で結びますけれども,いいですかという形で契約を結んでいく。その際,検査料だけではなくて,売主は保証料というものを払うと。これも検査会社とタイアップをしておりまして,その検査料プラス保証料を売主が負担することによって,瑕疵担保責任を売主は免責特約を付けて免除されると同時に,買主のほうは安心を手に入れるというような形でやっております。   これは,昨年の5月から,全体の取組として始めたばかりのものでございます。全部強制的にこれをやりましょうということではなくて,相変わらずインスペクションを実施しないケース・バイ・ケースのそういう売買も,急ぐ場合なんかは当然そうです。それはありますけれども,そういう手続を考えて導入しているということでございます。 ○山本(敬)幹事 私がお聴きしたかったのは,インスペクションを実施したけれども,そこで見落としのようなものがあったときに,それが後で問題になった場合に,お聴きした感じでは,それについて「保証」を考えておられているようだったのですけれども,それはどのような内容かという点ですが,いかがでしょう。 ○守内参考人 保証料を売主が払いますから,それを検査を行ったインスペクション会社が,それについて,もし開示をした内容以上の瑕疵がそれに存在していたということになると,それは当然,保証料を受け取っている側が対応するという形になって,売主はそこの責任を負わないという形でございます。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○山本(敬)幹事 分かりました。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○中井委員 宅地建物取引業協会連合会の方と,不動産協会の方にお聴きするのがいいのかと思いますけれども,賃貸借契約に伴う保証に関連して実態を教えていただければと思います。   報告内容と異なって,大変申し訳ないのですが,通常の賃貸借契約において保証人を取る事例というのは,一般的なのかどうか。通常の居住用建物のときに保証人を取るとすれば,一般的にどのような方々を取っているのか。   不動産協会の方には,オフィスの賃貸借契約を主にと書かれていますけれども,オフィスの賃貸借契約のときに保証人を取るようなことがあるのか,ないのか。基本的には取っていないと思うのですけれども,異なるのかどうか。   仮に取っている場合ですけれども,通常,保証人に対して,賃貸借契約の内容,賃料であるとか,もしもこうなったときは保証人はこういう責任を負いますよと,仲介業者として説明されているのか。いかがでしょうか。 ○神垣参考人 今,これは都会のほうと地方のほうでは若干取扱いがちょっと違っているかも分かりませんが,最近,この保証人制度につきましては,御承知かも分かりませんが,保証会社という形で賃貸契約の市場に入っているところもございますけれども,一般的に,今御質問の保証人については,そのほとんど,実務的には知人であったり,また御兄弟であったり,やはり依頼しやすい方にお願いするケースが多かろうと思っております。その際に仲介業者が,もちろん業者によっては保証人の資力のチェックと申しますか,いわゆる管理業を主にしている会社でございましたら,家賃の代行収納するようなところでございましたら,所得の証明であったり,そういったものの保証人のチェックは当然するわけでございまして,いわゆる金銭の連帯債務的な部分も大きくチェックする要素になっておると思います。   しかしながら,場合によっては,学生のケースであったり,同じ賃貸の顧客によっては,親,両親が保証人,法定代理人になるようなケースも多いわけでございますので,そういったケースの場合は,身元保証的なものの要素がちょっと強くなってくるというのが実態だろうと思います。   その際に,今,確認はどういうふうにされるのかということでございますが,前段の場合でしたら当然,保証人の方を求めるときには,保証人の所得証明等も,実印の印鑑証明等も取り寄せるケースが多うございますので,当然ながら,その連帯保証する場合の責任というものは十分認識した上で,そういう形に応じておられるということ。   また,後段のほうのケースの場合でありましたら,身元保証的な要素も多うございますので,仲介業者は必ず本人さんに連帯保証のことの承認というものを確認して,承諾を得るというようなことが一般的だろうと思っております。 ○高橋参考人 業務用については,保証人を取るということは聴いておりません。一般的には敷金で対応するということだと思っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかにはいかがでしょうか。 ○中井委員 最初の協会の方は,大震災のことを記載されています。震災では相当程度の借家建物で,一部滅失的なことが起こっているようですね。そこで,賃料減額の在り方について,今の法では賃料減額請求することができるとなっているわけですが,これを当然減額することについて異論を差し挟まれているように思われます。今回の震災の事例で,情報収集されているとすれば教えていただきたいのですが,震災によって使われなくなった一部若しくは一部の期間について,賃料減額が現実的に行われているのかどうか。それは請求があって行われているのか。それとも,もう当然,家主さんのほうで下げているのか。この辺の実態というのは分かりますでしょうか。 ○神垣参考人 残念ながら,その辺はまだ十分な情報収集はできておりませんが,隣が福島の本部長さんでございますので,被災地の,正にそういう実態がよくお分かりになると思います。ちょっと私の質問と,替わりますけれども,よろしいでしょうか。 ○久保田参考人 3・11,突然の震災で,福島はそのほかに原発の被害,放射能の問題を抱えております。浜通りの浪江町,富岡,楢葉,被災した方,郡山,福島県は広うございます。浜通りから郡山市まで60キロあります。福島市までは北に約50キロちょっとあります。南に45キロ,白河,西に60キロ,会津若松というのがあるんですが,現実は,若松まで行けば,いわきから130キロくらいありますから,放射能の被害はほとんどないんです。   私,郡山に住んでいるものですから,大体34万人ぐらいの街です。うちの会社は400世帯くらい管理しておりますけれども,震災でやられたアパート・マンションはあります。それで,亀裂が入ったり,あるいは風呂場が,FRPのあれがひび入ったりしたのがあります。抵当の少ない大家さんは,これの補修に非常に前向きなので,入居者に,例えばちょっと2か月くらい減額という要求があった場合は,応じているケースございます。それと,全く,例えば全額借金して作ったような賃貸物件ございますね。まだ抵当が5,000万ぐらい残っているというような場合は,もう大家さんも返済ありますので,どうしたらいいべという相談,結構私ども受けております。改修業者に見積もりを取って,辺りに足場架けたりなんかして,千万単位で掛かるということになると,借金能力といいますか,そういうのが限界に達している大家さんも半数ぐらいいらっしゃるんですね。そんなわけですから,その大家によって違うんですけれども,入居者に対しては,これは天災なので,大家さんも減額,ちょっと厳しいんだと。どうしてものときは出ていっていただくしかないですよというふうな対応を採っております。あと,改修に,しょうがねえなと,やりましょうというふうに,能力のある大家さんの場合は全改修。   耐震,昭和56年6月以降です。もちろん築10年ぐらいの物件でも,かなり一番被害があったのは鉄骨ALC板ですね。ALC板がずれて,やはりクラックが入って,ずれてしまった。そうすると,ALC板の目地にコーキングしただけでは駄目なんですね,全部外してやらないと。ALC板がずれた場合はどうしようもないんですよ。そんなことで,RCの場合も,本体躯体にひびが入って,ばさっと崩落して,サッシがアールに湾曲した物件も,4棟ぐらい出ております。耐震基準をクリアしても施工が悪いと駄目。何で施工が悪くなるのか。簡単なんです。値引きしたからなんです。しゃぶコンまでいかなくても,そういうところはやはりやられている物件が多い。   だから,入居者には個々に対応で,統一したものはまだ法律もできていませんので,天災はどうしようもないよと。もう一回地震来たらどうするんだという場合は,出ていってくださいと,自主的に,お願いします。立ち退き料を払わないという対応。それで問題あったときは,やはり個別に,それはまあまあということで,文句言うお客さんがいた場合は,柔らかく,言うことはきつく対応して,処理しております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかにはよろしいでしょうか。   それぞれの団体からはまた,個別の論点について,あるいはもっと進んだ段階で,コメントを頂けるということでございますので,それをお出しいただけると思います。ただ,例えば全宅連さんの御意見では,「引き受ける」の意義が不明というふうな御指摘を受けているので,そこはもうちょっと分かりやすくしたほうがいいなとは思っています。けれども,契約で引き受けていなかった事由については免責だと言った途端に,何でも契約書に書いておかないといけないことになるというふうには我々必ずしも考えていないので,その辺のところの説明が不十分であるかもしれませんけれども,異なる前提で御意見いただきますと,議論にずれが生じてきたりもします。そういう感じのところがほかにも何箇所かございますので,当方といたしましても,中身をもっと分かりやすくする努力はいたしますけれども,できるだけかみ合った形で,御意見を今後お出しいただければということを希望させていただきます。   全国宅地建物取引業協会連合会,全日本不動産協会,不動産協会及び不動産流通経営協会からの意見聴取を終わらせていただきます。神垣参考人,久保田参考人,高橋参考人及び守内参考人におかれましては,御協力ありがとうございました。   それでは,これから休憩を取らせていただきます。再開後は,日本司法書士会連合会からの意見聴取を行いたいと存じますので,よろしくお願いいたします。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開いたします。   日本司法書士会連合会からの意見聴取を行います。参考人の細田長司さん,よろしくお願いいたします。 ○細田参考人 日本司法書士会連合会の会長の細田でございます。   このたびは,私ども日本司法書士会連合会に債権法改正に対し意見を述べさせる機会を与えていただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,本年3月9日に提出させていただきました意見書,司法書士から見た民法改正の中から,司法書士の実務の観点から,特に密接に関わる論点として消費者問題関連と債権譲渡について,当連合会の意見を表明させていただきたいと思っております。   それではまず,消費者問題関連として,非対称性概念の導入について御説明したいと思っております。お手元の意見書の2ページを御参照ください。   現在,実務において,私たち司法書士が取り扱っている,いわゆる悪質商法事件などにおいては,契約当事者間の情報量,情報処理能力,交渉力などの格差,すなわち,契約当事者間の非対称性が問題となっているケースが多く見られるところであります。このような非対称性が認められる取引について,消費者契約法は,特定商取引法や割賦販売法などのような特別法の規定振りとは異なり,特定の取引に対象を限定することなく,消費者及び事業者間の取引については,契約当事者間の非対称性の存在を明記し,その上で意思表示規定や不当条項規制に関する特別のルールを設けていることは御承知のとおりであります。しかしながら,契約当事者間に非対称性が認められ,一方の契約当事者が消費者契約法で設けられている特別のルールによる救済措置を必要とするケースには,中小・零細企業者をターゲットとする悪質商法などのように,消費者契約法に定義される消費者契約には限らないというのが,実務を取り扱う司法書士の現場からの率直な感想であります。   このような現状への対応策としては,消費者契約法等の既存の特別法の見直しや,新たな特別法の立法も検討すべきですが,特別法においては,取引類型若しくは契約類型が限定されることが強く予想され,その結果,どうしても適用から外れてしまう,透き間事案が生じてしまうのではないかと危惧しているところであります。そこで,そのような取引が生じぬよう,本来,私法の基本法たる民法において,対象を消費者契約に限定せず,広く契約当事者間の非対称性の存在を前提とした一般規定や意思表示規定の見直し,あるいは,解釈基準の明確化が行われるべきであると考える次第であります。   続きまして,制限行為能力者の返還義務の範囲についてですが,お手元の意見書の21ページを御参照ください。   最初に,制限行為能力者制度は,そもそも制限行為能力者が保護されなければならず,その必要性の高さから特別の規定が定められているということを改めて確認し,そこから議論をスタートする必要があるものと考えております。   制限行為能力者については,御承知のとおり,現存利益は,物品を目的とする契約において現物を返還した場合では使用利益の問題が残るにとどまりますが,役務提供を目的とする契約の場合は一層の問題が生じます。つまり,役務提供契約では,未成年者が受けた役務が,利益の性質上,金銭その他の有体物と異なり,いったん当該利益を享受すると,その後に当該利益を費消するなどして消滅させることができないなどと解されており,このため,既に受けた役務については取消権を行使しても,実質的には原状回復としての法的効果が生じないという事態が生じています。   例えば近年の裁判例を見ると,携帯電話通話料金につき,未成年者取消しを認める一方,現存利益を利用料金そのものと同額であるとして,対価相当額の返還を要する客観的価値としたものがあります。このため,現民法においては,かかる不利益を是正するため,制限行為能力者側の主張立証責任において,相手方の権利濫用あるいは過失等を根拠に,返還範囲の調整を導き出す必要があります。現に,先に触れました携帯電話の裁判例においては,権利濫用論による利益調整を行い,最終的に携帯電話会社の請求の7割減額を認めています。しかしながら,既に述べたとおり,結果はともあれ,制限行為能力者側において主張立証責任を負担せざるを得ない点については問題なしといたしません。   以上のとおりですから,現民法下において,制限行為能力者が法律行為を取り消した後の原状回復にまで目を向けると,既に目的物の交付を受けた売買契約と比べて,既に提供を受けた役務提供契約では,総体的に,より多くの反対債務が保護されないといった問題点が生ずるなど,制限行為能力者制度の立法趣旨からすれば,現民法の返還義務の範囲の考え方は不十分なものであると言わざるを得ないところです。以上の不備を踏まえた返還義務の範囲の見直しが必要であると考えられるところです。この問題に対して,今般の民法改正において,制限行為能力者の保護という基本趣旨に即し,整合性を保った改正を検討していただきたく,強くお願いする次第であります。   続きまして,債権譲渡について,債権譲渡の役割と現状の問題点について御説明させていただきたいと思っております。   債権譲渡の重要性については,皆様も御存じのとおりであると思います。ところで,債権譲渡制度を国民が安心して利用するためには,債権の譲渡が確実に行われることが望まれます。債権も不動産と同様に重要な財産権となることから,取引の安全のために,債権譲渡に関する第三者対抗要件が信頼できるものであることが必要であると思います。しかし,現在の民法上の第三者対抗要件である通知・承諾制度では,以下の理由から,信頼性が確保できなくなっております。   1点目は,通知の先後について,それを知り得るのは債務者でありますが,債権の譲受人からの問い合わせに対して,法律上,回答義務のない債務者に照会しなければ先後が判明しない制度では機能しないこと。   2点目は,現在,法人が有する金銭債権の譲渡については,債権譲渡登記制度を利用することができますが,これらの債権譲渡では,通知・承諾と譲渡登記の二つの制度が併存するため,譲受人は債権譲渡の有無についての調査の負担が問題となります。   3点目は,債権譲渡登記制度を利用する場合は,債務者不特定の将来債権についても譲渡することができますが,現状では,法人が有する金銭債権の譲渡しか債権譲渡登記を利用することができないため,個人事業者等が有する将来債権の譲渡はできません。そのため,個人事業者等における財産権処分が制限されている状態となっています。   以上が主な問題点として掲げられます。これらの問題点を解消するために,法制審議会では様々な提案がなされているところですけれども,当連合会としては,次のとおり問題点を解消する方法を考えるべきであると考えております。   債権譲渡の第三者対抗要件は,債務者の認識を通じて債権の所在を公示するという現民法における制度を廃止し,債権譲渡登記制度に一元化する方向で検討すべきであると考えております。お手元の意見書の43ページから48ページを御参照ください。債権譲渡の第三者対抗要件を登記制度に一元化する際には,真実性の担保と利便性の向上の両立を図るため,現存の登記制度について,次のとおり整備を併せて行うべきであると考えております。   その整備についてですが,まず一点目は,債権譲渡登記の対象について,金銭債権に限定せずに,非金銭債権も含む全ての債権の譲渡とする。   2点目が,債権譲渡登記の利用者,譲渡人について,法人に限定せずに個人も利用できるものとする。   3点目は,債権譲渡登記の申請については,出頭申請,郵送申請のほか,オンライン申請が認められておりますが,このオンライン申請については,現在不動産登記申請で認められておりますと同様に,添付書類について,法務局への別途持参又は送付の特例を設ける。また,債権譲渡登記における証明書について,登記事項概要証明書のインターネット登記情報による情報取得ができるようにする。   4点目は,現行の債権譲渡登記制度に以下の修正点を加えるということであります。以下について述べさせていただきます。1が,原因証明情報の提供を義務付ける。2が,登記申請の補正を認める。3が,一定の場合に変更・更正登記を認める。4は,登記申請に係る登録免許税及び証明書取得に係る手数料を低減化する。5が,登記申請を当事者が利用しやすい仕組みに整備する。6が,債権差押え等についても登記をすべきである。   次に,債権譲渡の第三者対抗要件を登記一元化した際の,実体上及び手続の問題の対応策について御説明したいと思います。   まず,債権譲渡登記の対象についてですが,現行において,債権譲渡登記の対象となる債権は金銭債権に限定されています。しかし,信託受益権や預託金会員制ゴルフクラブ会員権など,実務上,譲渡の対象となる債権の中には,金銭債権と非金銭債権との区別が困難なものも少なくありません。このような債権の性質を解釈によって決定し,その都度,登記制度の利用が可能か否かを決定するとする取扱いは,法的安定性の観点からも問題があり,取引の安全に反すると考えます。そこで,登記の対象を金銭債権に限定することなく,非金銭債権も対象とするのが相当であり,複合的債権を含む非金銭債権を対象とすることができるようにする必要があると考えます。   次に,利用者についてですけれども,現行において,債権譲渡登記を利用することができる譲渡人は法人に限定されております。それは,現行の登記制度が民法上の対抗要件の維持を前提として,債権流動化による企業の資金調達に資することを目的に,必要最小限の範囲で整備されたものであるためだと考えております。登記一元化に当たっては,譲渡人の範囲を個人まで拡大すべきであると考えますが,個人に拡大する場合には,譲渡人の同一性を識別することができなければ公示機能が確立されません。この点,法人については商業・法人登記が一定の役割を担っていますが,個人については,同一性識別のため,氏名,住所,性別,生年月日等といった情報を,前提の登記等により公示する必要があります。その場合には,システム整備のコスト,プライバシー・個人情報についての配慮,住所や氏名等の変更の履歴の反映方法といった問題をクリアする必要がありますが,現在,後見登記制度においては,個人の住所,氏名,生年月日等が登記されており,また,後見登記等がされていないことの証明として登記のないこと証明を発行することで,取引の安全が確保されております。債権譲渡登記におきましても,後見登記制度と同様な制度設計ができるものと考える次第であります。   次に,登記一元化に伴う手続上の問題とその対応策として,まず,アクセスについて述べてみたいと思います。現行において,債権譲渡登記を取り扱う法務局が全国に1か所しかなく,そのアクセスについて懸念する声は小さくありません。具体的には,登記申請の場面と証明書等の情報取得の場面におけるアクセスということになります。登記申請については,出頭,郵送,オンラインの三つの申請方式が認められていますが,オンライン申請の利用拡大を図ることにより,地理的アクセス問題を減ずることができます。なお,オンライン申請について,全ての情報をオンラインで送信しなければならないとすると,全ての書面を電子化するためには困難が伴うことがある場合があるから,現状では実現可能性が乏しいことは不動産登記において実証済みであります。そこで,一定の社会基盤が確立するまで,不動産登記と同様に,申請はオンラインで行い,添付情報は別途書面で持参ないし送付する取扱い,いわゆる別送方式による申請を認めるべきであります。別送方式による申請を許容すると,登記の即時処理が損なわれることとなりますが,不動産登記においても格別不都合は生じていないことを踏まえると,一元化を前提とすれば,大きな問題にはならないものと考えます。   証明書等の取得について,登記事項証明書及び登記事項概要証明書は,インターネット登記情報による情報の取得が認められていません。しかしながら,登記事項概要証明書については誰でもが取得できるものであり,インターネット登記情報による取得を認めることで,登記の存続期間,登記時刻も確認することができ,利便性は格段に向上することになります。実務において最も必要とされる情報は,譲渡人に債権譲渡登記がなされているか否か,登記がいつまで存続するかであり,登記事項概要証明書に記載されている情報がタイムリーに確認できれば,ほとんどの場合で役割を果たすことができるように考えます。   次に,現行の登記制度の改良について申し述べます。   現行において,債権譲渡登記申請には不動産登記で採用されている原因証明に係る情報の提供は要しないものとされていますが,登記一元化に当たり,原因証明情報の提供を義務付けることにより,登記の真実性を担保することができます。   また,登記の普及には手続の利便性の向上という点への配慮も必要であります。原因証明に係る情報の提供や資格者代理人の関与により真実性が担保されるのであれば,共同申請の緩和,いわゆる単独申請の許容等や,提供情報の省略を検討すべき点もあろうかと考えます。   また,現行において,登記申請後の補正は認められていません。不動産登記では補正制度が認められており,申請人の便宜に寄与しています。債権譲渡登記においても,一元化を前提とした上で,登記の即時処理に捕らわれなければ補正制度を導入することは可能であり,申請人の利便につながるものと言えます。   また,現行において,登記の存続期間の延長以外の登記事項の変更・更正を認めておらず,変更や更正すべき場合には,当該登記を抹消し,新たに登記するほかありません。そうなると,優劣関係についての支障や実体との乖離といった問題が生じます。一元化を前提とすれば,一律に変更・更正登記を認めないとする必要性はなく,一定の場合には変更・更正登記を認めることは申請人の利便につながるものと言えます。   登記の利用の促進を図るため,登録免許税及び登記手数料の低減化が必要であります。登記一元化に伴い,登記申請,証明書交付申請数の増加は必定であることから,登録免許税や登記手数料について一定の低減を図ったとしても,総体的には,制度・システムを維持運営するコストを賄うことは可能であるものと考えております。   また,債権譲渡登記申請において申請システムを複雑にすると,当事者の利用促進を阻害することになります。そこで,登記申請等について,なるべく簡易なものとし,当事者が利用しやすい仕組みを整備する等の工夫が必要であります。   最後に,登記一元化を図る以上,保全を含めた債権差押え等についても登記を要するとしなければ登記に情報の集約が図れず,取引の安全が確保されないことになります。そのため,裁判所にとっては事務負担が増えると思われますけれども,債権差押え等についても登記を要するとすべきであります。   以上で当連合会からの説明を終わらせていただきます。今後の参考にしていただければ幸いです。   御清聴いただき,どうもありがとうございました。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   ただいまの御意見に関して,委員,幹事等の皆様から御質問がありましたら,御自由に御発言ください。 ○中田委員 債権譲渡につきまして,登記一元化制度について具体的な御検討を頂きましたが,非常に勉強になりました。どうもありがとうございました。   その上で,若干お教えいただきたいんですけれども,譲渡人が個人である場合に債権譲渡登記を利用できる制度設計をすべきであるということにつきましては,これは債権譲渡登記制度のみということなのか,それとも現行の制度を残すのかを確認させてください。   もしも登記制度のみということですと,例外的なものが残るかどうかについてのお考えを伺いたいと思います。例えば親族間ですとか相続人間におけるような少額の場合どうかとか,あるいは契約上の地位の移転に伴って債権も譲渡されるという場合はどうかとか,そのあたりについて,もし御検討しておられるようでしたら,お教えいただきたいと思います。 ○細田参考人 まず私どもは,債権譲渡登記一本にすべきであるというのは,第三者対抗要件として一元化すべきであるという考え方をしております。ですから,現在の民法上での第三者対抗要件であるいわゆる通知・承諾の制度では,公示がされていないということから,公示をするために第三者対抗要件として登記一元化を図ろうということであります。   そういうことから言いますと,今,先生が御指摘をされました,いわゆる親族間の債権譲渡,あるいは地位の譲渡等,債権者,債務者,第三債務者が密接に関わっておられ,わざわざ第三者対抗要件を備える必要がないと考えられるならば,それはその三者間でやっていただければいいということだと思っております。私どもは,第三者対抗要件と債務者対抗要件という考え方をしておりまして,飽くまで第三者対抗要件を登記一元化にしてはいかがかということを提案させていただいている次第です。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○山野目幹事 ありがとうございました。3月に日本司法書士会連合会から当部会に御提出を頂きました意見書が,大変充実したものであるというふうに感じて拝読しておりましたが,本日は,二つの項目に絞って,また明快な,簡潔な御説明を頂きまして,ありがとうございました。   私のほうからは,中田委員と同様に債権譲渡登記制度の問題につきまして,感想が一つとお尋ねを一つ,申し上げさせていただきたいと考えます。   感想でございますけれども,債権譲渡登記制度の方向に一元化する方向ということを明確にお述べになったということを,大変重い意見として伺いましたし,それも単に机上の議論ではなくて,正に登記制度のお近くにおられて,このことをよく御存じでいらっしゃる職能であればこその,具体的な制度改善提案を添えて提言をなさっておられることについても感銘を受けました。ここまでが感想でございます。   お尋ねですが,その上で,その債権譲渡登記制度を改善していくに当たっての具体的方策として,これも具体的な御提案を頂いておりますところ,とりわけ登録免許税,証明書取得手数料を低減化すべきであるというコストの問題,ここを解決することができるかどうかが一元化の実際的な帰すうにとってはかなり大きなウェイトを持ってくるというふうに,皆様方も考えていると思いますが,私も感じているところです。そのように言ったときに,安くしなければならないのは登録免許税のみではなくて,債権譲渡登記を申請するときに専門家のサポートを得なければならないというふうに多くの場合考えられますが,ありていに言うと,その方にお支払いするお金の問題というものもコストの一角を構成しているものでありまして,その種の問題について,どのような見通しをお持ちでいらっしゃるのか。   それに関連しますけれども,登記原因証明情報の提供が今求められていないのを求めるようにするというのは,更に専門家の関与が必要な方向に,この制度を重くする嫌いがあるものでございまして,債権譲渡登記制度の従来の仕組み方からいっても,これで良いのかということについて,私は少なからぬ疑問を感じます。恐れながら,皆様方が登記の問題を議論すると,どうしても重く考えていく傾向もおありなのではないかというふうに感ずる部分もありまして,その点について,このコストの問題について,どのような見通しをお持ちでいらっしゃるか,お教えいただければ有り難いと感じます。 ○細田参考人 ありがとうございます。   まず,コストの面につきましては,既に御存じのとおりに,登録免許税のほうからいきますと,五千個までの分が登録免許税7,500円ということから,一個当たりの債権にするとそれほど高くないように思われます。しかも,事項証明書も1通500円ということですから,それもそれほど高くないというように思うんですが,ただ,事項証明書一つを取りますと,五千個の債権譲渡をしまして個々の債務者の方に仮に通知をしようとすると,五千個の債権があると,ひょっとすると五千個の事項証明書を取る必要がある。それは五千個掛ける500円ということになって,多額の金額が要ります。しかも,先ほど言いました登録免許税の7,500円というのは,極端に言えば,一個の債権譲渡登記でも登録免許税は7,500円であります。五千個でも7,500円というのは,これは余りにも大ざっぱに分け過ぎているんだろうと。極端に言えば,十個までは幾ら,十個から五十個までは幾ら等々の,もっと細分化された登録免許税の制度であってもいいというように思いますし,登記事項証明書につきましても,それほど多くの債権を譲渡し,それに個々に譲渡証明書を取られるとするならば,コンピューター化されていくことから考えれば,もっと低廉な証明書にできるだろうというのが,まず実費のほうでのお話であります。   2点目が,私どものほうのコストという,要するに専門家のコストということを山野目先生は御指摘されました。決して私ども司法書士,あるいは専門家が,この債権譲渡登記に常に関わらなければ駄目だと言うつもりは一切ございません。そういう意味から,システムをより簡便にし,誰でも利用できるようなものにしておく必要があるというのが一つであります。ただ,真実性の担保,あるいは取引の安全性を確保するという意味で,債権譲渡人と譲受人が資格者を利用すればいいということになれば,利用していただければいいというように考えています。当然,資格者必置というか,そんなことは一切考えておりませんので,皆さんに御利用いただくような状態にすればいいというように考えます。   それともう1点の,登記原因証明の情報の提供という意味からいきますと,いわゆる先ほど言いましたように,親密な三者の間で,あるいは二者の間でも構いませんが,そこの間でやっておられるときには,当事者間で合意をされれば,それで十分債権譲渡はできると思います。飽くまで第三者対抗要件として,第三者に利害関係があるということから考えますと,その債権譲渡がきちっとなされているかどうかというものは,やはり添付書類として付けておくべきではないか。いわゆる偽りのようなものをやられてしまったときに,詐害行為等になりかねないことも起こりますので,きちっとした登記原因証明情報を付けることによって第三者にきちっと対抗しましょうという趣旨で,登記原因証明情報の提供を唱えているわけであります。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○高須幹事 2点伺いたいと思います。   まず第1点目は,消費者関連問題のほうでございますが,最初に,非対称性概念について,その導入を検討すべきであるという御指摘を頂いたというふうに今伺ったつもりでおります。一方で,本日,頂きました3月の段階の意見書でございますね。この2ページ等を見たときは,私の勉強不足なのかもしれませんが,民法に非対称性概念の導入を検討すべきという意見とはやや違うというか,消極的な御見解の記述なのかなというようなイメージを持ったものですから,私の読み方のむしろ間違いなのか,あるいは今回の御説明に当たって少し御趣旨が変わったということなのか。その辺をお教えいただければと思っております。   それからもう1点,今の山野目幹事の御質問の趣旨とほぼ一緒なのかもしれないのですが,現行の制度では内容証明郵便を郵便局で出すことで対抗要件を満たしていることとの関連で,新しい制度がどこまでアクセスのしやすさが可能かということが一元化に当たっては大事ではないかと私も思ってはおるのですが,先生方の御専門の立場で御覧いただいて,登記をどこまで利用しやすい制度にできるかについてのポイント,簡単に言えば,普通の人が普通に譲渡登記をするということに対して,こういうことが一番ポイントになるだろうみたいな,御見識のようなものをお持ちであれば教えていただければと思います。 ○細田参考人 では,先に非対称性の件のほうからいきたいと思います。多分,2ページの私どもの案が読みにくいかもしれませんが,基本的には,具体的な規律といったものは特別法で規定を委ねるべきであると考えておりますけれども,それとは別に,基本法である民法の中にきちっとした,全てのどの分野でも含めるような非対称性の規定を置くべきであるということを,終始そのように述べているつもりです。飽くまで私どもとしては,基本法である民法の中で,非対称性の規定をきちっと盛り込んでおいていただければ,今後,どのような事情が応じたとしても,そこで考えられるという考え方をしているわけであります。   2点目の,債権譲渡の部分で,今ちょっと内容証明等々で,いわゆる通知を送る件と登記の絡みですか。 ○高須幹事 2つの制度の比較において,アクセスのしやすさという観点で,正直申し上げると,やはり登記をするということで敷居の高い面があって,先生方にお頼みしないと難しいのではないかという部分があると思っておりましてですね。そうではいけないと先ほど先生もおっしゃったので,そうすると,具体的にどのような登記制度を構築したらよいのか,私どもには,いま一つイメージが分からないものですから,こういうところを大事にすればもっとアクセスしやすくなるのか,こういったものがあれば教えていただきたいと思っておるんですが。 ○細田参考人 まず,登記の一元化の部分については,先ほども言いましたように,第三者対抗要件としての登記の一元化を述べているのでありまして,個々の親密な関係の方の債権譲渡まで登記をしなければ駄目だと言うつもりは一切ないわけであります。第三者対抗要件を備えたい方に登記申請をしていただきたいと,こういうのがまず大原則にあります。   今の債権譲渡の通知と登記を仮に見比べてみたときに,債権譲渡の通知は飽くまで譲渡人から第三債務者に対して通知がなされていくということになりますから,譲受人のほうが主体を持っていろいろなことをやるというのは,なかなか難しい部分があります。譲受人と譲渡人の間で特にいろいろな問題でもめているときには,譲渡人がやると言ってもやってくれないというときもなきにしもあらずというのは現状でありますから,登記の場合には,その申請を行ってしまえば,あと登記事項証明書を譲受人の方が第三債務者にそれを送付する,登記を示して債権譲渡が行われましたということを通知すれば,それでいいわけでありますから,本来ならば登記を行って,それをいわゆる確定日付でないもので送るので十分であろうというように考えています。   アクセスの仕方としては,先ほどから言いますように,申請書の形式というのは,書類で作るというのを,繁用することは考えておりません。インターネットを利用してオンラインで申請するという形を,より簡易に考えていただくならば,それはそれほど難しくないだろうというように考えております。 ○鎌田部会長 それでは,時間になってしまいましたので,日本司法書士会連合会からの意見聴取を終わりたいと思います。細田参考人におかれましては,御協力ありがとうございました。   続きまして,全国サービサー協会から意見聴取を行います。参考人の安藤光隆さん,よろしくお願いいたします。 ○安藤参考人 ただいま御紹介を頂きました全国サービサー協会理事長の安藤と申します。私は,三菱UFJフィナンシャルグループのエム・ユー・フロンティア債権回収の現在社長をいたしておりまして,大手各社の持ち回りで,現在,協会の理事長を仰せつかっている次第であります。   そして,このたびは,法制審議会民法(債権関係)部会で発言の機会を本日ちょうだいいたしまして,誠に光栄でありまして,また感謝を申し上げる次第でございます。   それでは,先に配布資料の確認をさせていただきます。お手元には2種類の資料をお配りしています。まず一つは,「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」の主要な論点に対する私どもの業界の意見書。以降,意見書と言わせていただきます。それともう一つ,お手元,ブルーの表紙の「全国サービサー協会のご案内」。この2点をお配りいたしております。   それでは,まず初めに,サービサー業界につきまして,少し説明をさせていただきますので,まず資料の意見書を御覧いただきたいと思います。意見書,表紙を1枚めくっていただきまして,1ページ目をお開きいただきたいと思います。   平成11年2月に,債権管理回収業に関する特別措置法,いわゆるサービサー法が施行されました。そして,この法律によりまして,法務大臣の許可の下に設立された債権回収会社,いわゆるサービサーは,バブル崩壊に伴い発生をいたしました金融機関の膨大な不良債権処理の担い手としまして,日本経済再生に重要な役割を担ってまいったわけであります。すなわち,不良債権処理を専門的・効率的に行うサービサーが登場したことによりまして,金融機関から不良債権が切り離され,不良債権の流動化並びに金融機能のアンバンドリング化が進められてきております。アンバンドルというのは,やや耳慣れない言葉だと思いますけれども,こういった金融機能を切り離すということであります。   また,サービサーは,債権回収という役割に加えまして,中小企業の事業再生の担い手といたしまして,地域経済の活性化に貢献するという役割も担ってきたわけであります。   現在,サービサーは96社ございますけれども,サービサー法制定以来,サービサー会社全体の取扱いの債権累計総額は,平成14年には64兆円であったものが,平成22年12月には308兆円ということでありまして,約11年間ちょっとで300兆以上の債権処理をしてまいったと,こういうことでございます。   それでは,お手元のブルーの表紙の資料,「サービサー協会のご案内」を御覧いただきたいと思います。   5ページ目をお開きいただきたいと思います。上に行動憲章,下に制度の仕組みをお示ししています。サービサーは,その業務の執行に当たりましては,法務大臣の厳格な監督のもと,法令遵守,すなわちコンプライアンスを最優先課題として,債務者保護の観点から,適正な管理回収を行うことを旨としておるわけであります。そして,業界を挙げまして,より一層の業務適正化を徹底すべく,今年の6月,当協会の社員総会におきまして,詳細な自主規制規則を制定したところでございます。これについては,昨年7月の法務省から出ました事務ガイドラインに基づいたものであります。   同じく,「ご案内」の16ページ以降を御覧いただきたいと思います。この16ページ以降に統計数値が掲載をされております。かなり詳細な数字でございますけれども,御参考にしていただければと思います。   以上のようなサービサー業界の状況を踏まえて,このたびの民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点に対しまして,業界として特に関心の深い項目につきまして,幾つか意見を述べさせていただきたいと思います。   それでは,お手元の資料の意見書を御覧いただきたいと思います。2ページ目の目次をお開きいただきたいと思います。御覧のように,本日意見を述べさせていただきます項目は,この1から5の5項目でございます。   それでは,1枚おめくりをいただきまして,3ページ目をお開きいただきたいと思います。3ページ目にサービサー業務の特徴が書かれております。サービサーが債権の回収を行うに当たっては,上の図のように,債権者,つまり,ここで言う譲渡人から債権を譲り受けるという形式と,下図のように,債権者,つまり,ここで言う委託者から業務の委託を受けて行う形式があります。ここのところを念頭に置いてお聞きいただければと思うわけであります。   それでは,本題に入りたいと思います。   4ページを御覧いただきたいと思います。まず第1に,公序良俗違反の具体化のうち,現代的な暴利行為ということについてであります。   まず,意見といたしましては,暴利行為を明文化する場合には,要件について,経済合理性を踏まえた慎重な検討をお願いしたいという点であります。   理由を御覧いただきたいと思います。   理由1にありますように,サービサーが債権を譲り受ける形式の場合,譲受け価格に比して多額の回収をすることを,暴利行為ではないかといった主張がなされるケースがまま見受けられます。しかしながら,そもそもサービサーは,債務者がもともと負担をしていた債務額の範囲内で請求をしているわけでありまして,それをもって暴利行為に当たるということはあり得ないというふうに考えております。裁判の判例でも,暴利行為に該当しないというふうに判断をされております。   また,譲受け価格は,私ども,いろいろなリスクを含んだ回収想定額,またコストを考慮して検討され,入札方式が採用されているわけでありまして,この決定には経済的な要素,それから経営判断,そして競争原理が働いているわけであります。さらに,サービサーは債務者の再生に寄与するべく,事業・財産等の事情を考慮した上で,額面額を下回る額で解決をするということがほとんどであります。過当な利益を得ているわけではありません。   したがいまして,今申し上げたとおり,債権回収行為は暴利行為には該当しないというふうに考えておりますけれども,明文化することによりまして,かえって不当なクレーム等の影響を生じさせないよう,慎重な御検討をお願いしたいと思っております。   続きまして,これに関連した論点について申し上げます。6ページを開きいただきたいと思います。契約締結過程におけます説明義務・情報提供義務についてでありますけれども,サービサーといたしましては,一定の範囲で説明義務・情報提供義務を負うことについて,異論はございません。しかしながら,説明義務の対象となる事項,範囲については,慎重な検討が必要であるというふうに考えております。   私ども,どういう点に問題意識があるかという理由を御説明いたします。   まず第1に,サービサーとしては,債務者との間で債務の支払につきまして条件変更の合意,また和解の合意などの示談契約を行っておりますが,この契約を締結する過程におきまして,対象となる債務の内容及び存否,和解合意によって生じます債務者の責任の内容,これらを知らせることは必要であると認識をいたしております。特に,その交渉の相手方が弁護士さんとか司法書士さんのような専門家でなく当事者本人の場合には,この点は重視されるべきものであると考えております。しかしながら,以上のような契約の締結過程におきまして,債務者から債権の譲受け価格の開示を求められることがままあります。譲受け価格は,債務の対象内容とか和解合意の内容や,これらとは関係のないものというふうに私ども考えておりまして,譲受け価格の開示は不要というように考えます。   第2に,譲渡人からの譲受け価格につきましては,そもそも商取引の世界で仕入れ値に当たるというふうに考えております。したがいまして,開示をさせられることは妥当ではないと考えておりますし,また,サービサーにとりまして営業上の機密に属するものでありますから,開示することは妥当でないと,この点からも考えております。   したがいまして,以上の点も考慮し,契約締結過程における説明義務・情報提供義務の明文化に当たりましては,譲受け価格の開示などといったクレーム等が増加しないよう,適切かつ可能な範囲での義務になるような,要件については慎重な検討をお願いしたいというふうに考えております。   次に,債権譲渡の第三者対抗要件について申し上げます。8ページをお開きいただきたいと思います。   まず,意見としましては,論点整理の中にあるC案である,現在の二元的な対抗要件制度,つまり,登記制度の活用と確定日付のある通知又は承諾といった現状の制度を維持し,修正を試みるという案に賛成でございます。   理由について申し上げます。現状,サービサーが金融機関から債権を譲り受けて,第三者対抗要件を具備する場合は,譲渡人から債務者への確定日付のある通知をする実務を行っております。言わば内容証明郵便ということでございますが,現実の実務は,債権譲渡登記はほとんど行われておりません。一方,債権譲渡登記制度は,二重譲渡問題等の発生時には有効という事例もございますので,必ずしもA案に反対ということではなく,登記制度を拡張していくことについて賛成ではありますけれども,登記費用の面,制度上のいわゆる使いやすさ,利用する際の実務上にまだいろいろ課題があると認識しておりますけれども,この使いやすさの面については,十分に検討をしていただきたいものと考えております。したがいまして,現状の対抗要件の制度を残しつつ,債権譲渡登記制度のより一層の普及,充実をしていただきたいというふうに考えております。   よって,当業界の要望といたしましては,中間的な論点整理のC案を支持いたしたいというふうに考えます。   次に,10ページをお開きいただきたいと思います。10ページ,項目3の保証について,2点述べさせていただきます。   まず,第1点目は,保証契約締結後における保証人の保護の方策についてであります。   論点整理におきましては,主債務者の返済状況を保証人に通知する義務を債権者に負わせたり,期限の利益を喪失させる場合には保証人にも期限の利益を維持する機会を与えるという提案がなされております。しかしながら,私ども意見としましては,反対をするものでございます。   理由について申し上げます。そもそも金融の実務におきましては,主債務者と保証人との関係は,債権者と保証人との関係よりも密接であるのが通常でございます。債権者からの情報提供ではなく,本来,主債務者から保証人に情報提供がなされるべきものというふうに考えております。よって,保証人保護という理念自体は理解いたしておりますけれども,この提案には反対をするものでございます。   続きまして,保証についての第2点,適時執行義務について申し上げます。11ページをお開きいただきたいと思います。   この点につきましては,債権者が主債務者の財産に対して適時に執行を行ったために,主債務者からの弁済額が減少し,保証人の免責規定の要否についての論点と,こういうことであります。意見としては,反対をするものでございます。   まず,理由を御覧いただきたいと思います。   理由1にありますように,サービサーが債権を回収する際,債務者が債務不履行に陥ったからといって直ちに担保権を実行するということは実務ではなく,債務者と協議をしつつ,債務者の再生を念頭において,任意の弁済を受けるケースが実務上は大半であります。そのお手元の資料の理由1の4行目,括弧の中に,ちょっと見にくいですけれども,統計値が,数字がございます。例えば,物的担保付き債権の回収については,約60%が債務者の任意弁済。物的担保なしの債権につきましても,77%が任意弁済というのが実態でございます。   数字についてちょっと詳しく申し上げたいということで,大変お手数でございますけれども,もう一つのお手元の資料,ブルーの表紙の「全国サービサー協会のご案内」,この25ページをお開きいただきたいと思います。最後から2枚目でございます。この25ページに円グラフがございます。1の物的担保付き債権の場合,債務者弁済以外ですと,任意売却が19.8%,競売が10.3%,保証人弁済が3.4%であります。債務者以外の弁済ということであります。また,右のグラフは,これは担保なしということでありますけれども,強制執行は僅か1.1%ということであります。これが実務における割合と,こういうことであります。   また大変お手数ですけれども,もう一度意見書にお戻りをいただきたいと思います。   意見書11ページの理由2にありますように,もしこのような規定が民法に置かれますと,適時執行義務違反だということになりまして,連帯保証人への請求の全部又は一部ができなくなる場合が出てくるために,債権者としては,早期に担保権の実行を行ったり,訴えを提起して主債務者に対し強制執行を行ったり,行わざるを得ないという判断になると,かえって主債務者の再生を妨げるということになりかねないというふうに考えております。   また,皆様よく御存じのように,一昨年の12月から金融円滑化法ということで,これに基づきまして,金融機関が支払期日の猶予を現在行っております。仮にこの適時執行義務が課されますと,支払猶予をすることにより,保証人からすると,適時の執行がなされていないと主張されかねないというのが実情でございます。   また,適時執行義務規定を設けると,債権者としては実務上,管理不能になるという懸念がございます。   したがいまして,本件については,業界としては反対をするものでございます。   続きまして,12ページをお開きいただきたいと思います。項目4の当事者間の交渉・協議による時効障害ということであります。   意見にありますように,業界としては賛成ではございます。ただし,交渉等の定義,その開始及び終了の要件,並びに交渉等の始まり,それから終わり等が明確で,利用しやすいものとなるよう,是非検討をお願いしたいと思います。   理由のところを御覧いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 恐縮ですけれども,説明のための時間が大分超過しつつありますので,手短にお願いいたします。 ○安藤参考人 では,急ぎます。   理由のところですけれども,まず第1に,債権回収は法的手続によるものでなく任意の話合いによるということが,これが好ましいと,こういうことであります。先ほどの数字にあるとおりでございます。   サービサーとしては,法的手続によらない当事者との交渉・協議が時効障害とされること自体は前向きにとらえております。しかしながら,理由2にありますように,この交渉・協議の開始の時期,終了の時期,この辺が明確になりませんと時効障害をめぐる紛争が多発するおそれがあると,このように考えております。こういう場合,債権者は時効障害事由が不明確な場合は,完成を阻止するために法的な手続を採るようなことが考えられますので,債務者にとっても不利益になると,こういうことであります。   したがいまして,交渉・協議の意味とか,交渉・協議の始まり・終わり,これらの要件を明確にしていただきたいと,こういうことでございます。   最後に,14ページの競売についての担保責任について申し上げます。   これは,債権者が競売における物の瑕疵に関する担保責任を認めるかどうかという論点でございますけれども,これは反対をするものであります。   まず,理由1にありますように,瑕疵担保責任は売主が買主に対して負担する責任であるというふうに考えておりまして,債権者,担保権者に瑕疵担保責任を負担させることは妥当ではないと考えております。特にサービサーについては,物件についての競売の際,調査手続,機会,権限もなく,瑕疵の存在を知らないというのが通常でございます。   また,2といたしましては,任売では売主ですら担保責任を負担しておりません。   更に理由3では,競売手続に参加する買受人は,こうした瑕疵の存在も全部分かった上で,低廉な価格で入札・競落をしているものであります。競売における瑕疵に関する担保責任を認める必要性には乏しいというふうに考えております。   以上のようなことから,競売における物の瑕疵に関する担保責任を認めることによりまして,競売代金の算定時にも影響が出て,現在の競売制度の利点が損なわれてしまい,不良債権処理についても支障を来すおそれがあると考えております。したがいまして,瑕疵に関する担保責任を規定することは反対でございます。   大変長くなりました。以上で説明を終わりたいと思います。特に今日は関係の深いものだけ意見を申し述べさせていただきました。   どうもありがとうございました。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   残り時間が少なくなってしまいましたけれども,ただいまの御意見に関しまして,委員,幹事等の皆様から御質問がありましたら,お願いいたします。 ○深山幹事 各点について,よく理解したつもりです。サービサーというお立場から,そういう御意見を持っておられるのはごもっともだというふうにお聴きしたのですが,1点お尋ねしたいのは,債権譲渡の対抗要件について,C案賛成というところについてです。   C案賛成の前提として,現在の実務上,対抗要件具備のほとんどが譲渡登記ではなく,いわゆる通知・承諾で行われているという御紹介がありましたが,現状,譲渡登記が使われていない理由なり実情について教えていただきたいと思います。つまり,サービサーは,業として債権を買い受ける立場であり,それから債権を売るほうも金融機関であったり,あるいは倒産債権であれば倒産管財人であったりということで,必ずしも素人同士ではない者の間で譲渡がなされることほとんどだと思うんですが,にもかかわらず譲渡登記が使われない理由がどこにあるのかということを教えていただけますでしょうか。 ○安藤参考人 それでは,お答えいたします。   幾つか実務上の観点はありますけれども,バルクで債権を売買する場合は,言わばお互いがプロ同士ということもあります。債権者から例えばサービサーが買い取る場合,よほどにその債権者の資産状態が悪いとか,そういうケースでない限り,実際には内容証明で第三者対抗要件は事足りるというふうに考えております。   もう一つは,現在の登記制度の,一つは登記の費用の問題,それから使い勝手の問題も,この実務に影響を与えていると思います。バルクの例えば固まりで何百件,無担の場合になりますと何千件という件数になりますので,そうした場合の実務を考慮して,第三者対抗要件は内容証明郵便で十分であるという実務上の判断もあります。   なおかつ,これは第三者対抗要件とは関係のない話でございますけれども,無担の大量のバルクをサービサーで購入する場合は,普通郵便で通知をするというケースもございます。   A案に反対ではないということは,例えば将来,登記制度のインフラの整備がされて極めて使い勝手のいい,コストの面におきましても,それから債権の譲渡をされたか,されないかとか,いわゆる手続の確認とか同一性の確認も含めまして,あと検索のしやすさ,そういうトータル的なインフラが整備されるということは,当然,私どもも期待感が一方でございます。したがいまして,A案に反対するものではございませんが,実際の実務においては,コストの問題,時間の問題もございますので,現在の制度を残しつつ選択の余地,一元化というよりは選択の余地という形にしていただきたいと,これが実情でございます。 ○高須幹事 1点お伺いしたいのですが,11ページのところで,具体的な統計資料を基に御説明いただきまして,大変そこは勉強させていただいたわけですが,この統計資料の根拠はブルーの「ご案内」というほうの25ページの表に基づくものですということでございましたが,この統計資料は,そうすると,サービサー協会に加入されている会員の方々からの,専らその集計ということでよろしいのかどうかということを教えていただきたいと思います。   併せて,その表のところに特定金銭債権という表示がタイトルとして出ておりますので,これが特定金銭債権に関するデータだということは分かるんですが,その特定金銭債権というのはどういう債権を意味しているのか。念のため教えていただければと思っております。 ○安藤参考人 お答えをいたします。   この報道発表資料となされている16ページの業務の概況は,これはいわゆるサービサー協会に加盟している96社,若干変動はありますけれども,それの全体の数字をトータルしたものであります。したがいまして,今御質問にありましたように,特定金銭債権の範囲内ということでありますが,サービサーの業務としては,兼業業務としてこの特定金銭債権以外の取扱いもございます。   特定金銭債権というのは,基本的には貸金がベースとなっております。例えば例示的に申し上げますと,通常のいろいろな売掛金とか,ファクタリング会社の債権のうちサービサーが保有するに至ったいわゆる二次譲渡のものなどは,サービサーが本業として取り扱うことができる特定金銭債権とはされておりません。もっと具体的に言いますと,例えば銀行の商業手形のうち割引手形の二次譲渡分及び手形の買戻請求権や,金融派生商品と言われているデリバティブに係る債権とか,こういうものは特定金銭債権に入っておりません。したがって,日本全国で考えたときに,では,広く債権債務という形で採ったときに,これが日本全国の実態を表しているかというと,それはそうではないと,こういうことであります。飽くまでもサービサーに加盟した会社のトータルの数字と。よろしいでしょうか。 ○高須幹事 ありがとうございました。 ○鎌田部会長 ほかには。 ○中井委員 1点だけ。   保証契約締結後の保証人保護の方策の点で,反対するという御意見のようですけれども,過大な負担というのが大きな理由ではないかと推察するわけです。ここの提案として,主債務者の返済状況を保証人に伝えるということは,確かに常時その情報を提供することは結構過大かなと,管理にも大変コストが掛かるかなと思いますが,仮にそうではなくて,その後段,主債務者が延滞状況に陥ったときに,主債務者に対して当然督促をする。そのときに併せて保証人に通知する。このこと自体は極めて容易ではないかと思うのです。管理上の問題も少ないし,事務上の手続もそれほど負担にはならないように思えますが,その点,実務的にはいかがでしょうか。 ○安藤参考人 お答えいたします。   実際の実務は,これは,連帯保証人はもう何の抗弁権もないわけでしょうから,それを我々も分かっておりますので,実際の実務は,連帯保証人の方から照会があったときは,本人確認をした上で,例えば債務の残高,それから返済の状況は,お答えをしております,実務上はですね。   その中で,今御質問のあったように,期限の利益の喪失云々というのがございましたけれども,これも実際の実務上は,例えば住宅ローンで申しますと,6回目の延滞で期限の利益を喪失いたします。そうしますと,5回目の段階で,1か月余裕がある段階で,債務者とそれから連帯保証人に通知を出すというのが実際の実務であります。全てにおいてこれを行っているわけではありませんけれども,少なくとも私どもの会社といいましょうか,メガバンクが行っておる住宅ローンについては,特にこのルール,規定があるわけではありませんが,実態に即した形で通知をいたしております。   今日ここで反対であると申し上げたのは,この保証人に対する,どういう情報提供をするのかという範囲も明らかでありませんし,もう一つは,私ども,延滞債権だけではなくて,実は健常債権,つまり,何の延滞もしていない健常債権の管理も請け負っているわけですね,委託者によっては。そうしますと,これは膨大なものになります。返済状況はどうなっているんだというのは,これを規定で定期的に全部出せということになりますと,健常債権も含まれるというようなところに援用される可能性もありますので,そういう意味で反対であるというふうに申し上げております。   実態の実務は前半で申し上げたとおりであります。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,全国サービサー協会からの意見聴取を終わります。安藤参考人におかれましては,御協力ありがとうございました。 ○安藤参考人 どうも今日は機会をいただきましてありがとうございました。 ○鎌田部会長 では続きまして,信託協会から意見聴取を行います。参考人の秋山朋治さん,よろしくお願いいたします。 ○秋山参考人 御紹介あずかりました,みずほ信託銀行法務部の秋山と申します。どうぞよろしくお願いいたします。   早速ではございますが,お手元に資料のほうを御用意させていただいたかと思いますが,これに沿いまして御説明を申し上げたいと思っております。   それで,信託協会のほうから御要望申し上げたい点は大きく4点でございます。各論で見ていくともう少し増えますけれども,大きく4点です。1ページ目の四角囲いの中の項目が当協会のほうから御要望申し上げたい事項ということでございます。   まず1点目が信託約款と契約の変更。こちらは,第27の約款(定義及び組入要件),及び第31の不当条項規制関連についてでございます。この点につきましては,論点二つ挙げさせていただいておりまして,(1)として信託約款の変更と信義則違反の推定と,それから,(2)として約款の定義と不当条項規制と契約書ひな型についてでございます。   それから,大きな論点の2点目としまして信託受益権と消滅時効。こちらは,第36の消滅時効関連についてでございます。   それから3点目ですが,3点目が敷金返還債務の承継と旧所有者の責任。こちらは,第45の賃貸借関連でございます。   それから4点目,こちらは債権譲渡と対抗要件についてでございます。これは債権譲渡関連ということなんですが,こちらのほうにつきましては,業界内で二つの意見を出させていただいております。二つというのは,一つは現行法の二元的な対抗要件制度を維持してほしいという意見と,これは矛盾するんですけれども,もう一つのほうは(2)として,登記に一元化すべきという意見が出ているということでございます。   早速ですけれども,1番から御説明させていただきたいと思います。   まず,1の信託約款と契約の変更についてでございますが,(1)の信託約款の変更と信義則違反の推定というところです。   約款に該当した場合の効果につきまして,これは「債権法改正の基本方針」から引用してきた考え方でございますけれども,①として,当該条項が存在しない場合と比較して,条項使用者の相手方の利益を信義則に反する程度に害するものは無効とし,②として,条項使用者に契約内容を一方的に変更する権限を与える条項は,当該条項が存在しない場合と比較して,条項使用者の相手方の利益を信義則に反する程度に害するものと推定するという考え方が示されております。   実務では,例えば貸付信託約款,あるいは合同運用金銭信託約款,投資信託約款等におきまして,受託者が信託約款を変更できるという旨を規定していることが多うございます。これらの規定が相手方の利益を信義則に反する程度に害するというふうに推定されるということは,非常に大きな懸念となっております。   信託法及び信託業法並びにいわゆる兼営法では,信託の変更という制度が定められておりまして,一定の厳格な要件の下に,受託者が信託の変更ができるとされております。このように,法がデフォルトルールとして,又は業法として,契約内容を一方的に変更する条項を定めることを認めているという場合には,上記のような考え方は適用されない,あるいは,このような考え方を採るとしても,相手方の利益を信義則に反する程度に害するものと推定されない,そのような手当てがされることが望ましいと考えております。   続きまして,(2)のところですけれども,約款の定義・不当条項規制と契約書のひな型というところです。   約款につきまして,不当条項規制の対象とするとの考え方の前提となる約款の定義について,多数の契約に用いるために,あらかじめ定型化された契約条項の総体を言うと考え方が示されております。しかしながら,約款の定義につき,このように考えますと,契約書のひな型なども約款の範ちゅうに含まれてしまう。その結果,契約書のひな型などが広く不当条項規制の対象とされかねないということを懸念しております。   しかし,少なくとも信託実務における事業者間の契約では,その契約書ひな型を用いて一方当事者が案を作成すると,双方の当事者が当該契約書案を確認して,必要に応じて修正しながら使用する,すなわち,契約書の使用について個別の交渉が行われるというものでありまして,不当条項規制の対象からは除外すべきというふうに考えております。したがって,仮に約款を不当条項規制の対象とするとしても,契約書ひな型などが一律に不当条項規制の対象となることがないように,約款の定義について慎重に御検討いただきたいというふうに考えております。   続きまして,大きな論点の二つ目になりますけれども,信託受益権と消滅時効についてでございます。   消滅時効の効果に関しましては,甲案として当事者が援用したときに債権の消滅という効果が確定的に生ずるとの判例準則を条文上明記するという考え方と,それから,乙案として消滅時効の完成により債務者に履行拒絶権が発生するというような規定をするという案が示されております。乙案を採用した場合に,受益債権が消滅しない,その結果として信託も継続するという結論になるのであれば,我々協会としては甲案の採用を要望いたします。   具体的には,以下の二つの問題を想定しております。   ①のところですけれども,信託法の解釈では,全ての受益債権が時効消滅した場合には,信託目的不達成となって,信託は終了するというふうに考えられます。しかし,乙案によりますと,受益債権に係る債務の履行を拒絶できるということで,債権が完全に消滅するものではないというふうに考えられる。少なくとも信託法102条4項の除斥期間が経過するまでは,受益債権が消滅することはない。信託も存続するのかどうなのか,明らかではなくなるということでございます。仮に信託が存続するとしますと,業者としては信託業法の適用を受け続けることになりますので,例えば信託業法27条1項の信託財産状況報告書,あるいは,29条3項の書面を作成し続けなければならないというような疑問が生じるということでございます。   続いて,②のほうですけれども,例えばaとbという二人の受益者がいる信託を想定します。aの受益債権が時効により消滅した場合には,信託財産の全部を今度はbが取得するというような信託を想定した場合に,乙案のケースで言いますと,aに対して履行を拒絶できるだけですので,bが信託財産の全てを取得できるのか,判然としないことになります。また,aが受益者であるのかどうかも判然としませんので,受益者の意思表示についてどう考えるのかという問題も生じるというふうに懸念しております。   少し分かりづらいかもしれません。参考資料で7ページのほうに簡単な図を,図1という形で付けさせていただいておりますけれども,今想定したようなケースというのはこの図のとおりでございまして,受益者がa,b,二人いるとして,そのうちaのほうが時効消滅によって受益権を失うことになるのか,どうなのかというところが判然としないという趣旨でございます。   3ページのほうに戻っていただいて,論点の3点目のほうに移らせていただきたいと思います。敷金返還債務の承継と旧所有者の責任についてでございます。   賃貸借の目的不動産の所有権が移転された場合に,敷金返還債務が新所有者に承継される場合には,旧所有者もその履行の担保をする義務を負うという規定を設けるべきではないかというような考え方が示されております。このようなルールを定めた場合には,旧所有者は,将来敷金を返還するかもしれないという不確実な義務を負うこと,それから,敷金を返還した場合には,今度は新所有者に対して不当利得返還請求権を取得すること,このようなことになるために,新所有者に対する信用リスクを負担することになります。そうしますと,賃貸者の目的物たる不動産の譲渡の当事者となることに障害が生じるのではないかというふうに考えております。   例えば不動産流動化の場面で考えますと,信託財産である賃貸不動産を売却して信託を終了する場合に,固有財産でその敷金返還債務のところを担保する義務が生じるということになりますため,信託財産である賃貸不動産から生じる経済的利益を全て受益者に移転せずに,そのリスク相当額を信託財産内に留保せざるを得ないということになりますと,不動産証券化手法の障害となるでしょう。また,信託が終了するときに信託財産である賃貸借不動産を委託者や受益者に交付するというような信託においても,同様の問題が生じるということでございます。   さらに,実際に旧所有者として支払う場面というのを想定しますと,賃借人が未払賃料等の支払義務を賃貸人に対して負担しているという場合には,それを調査して返還すべき敷金の額を計算する必要があるなど,旧所有者にとっても非常に負担が大きいということでございます。   このように,旧所有者が敷金返還債務の履行について担保義務を負担するというルールは,不動産売買あるいは不動産の流動化手法にとっては,かなり大きな障害となる。ひいては経済活性化の阻害要因になるのではないかというふうに考えております。   また,その賃借人の側に立ってみると,判例・通説に従えば,新所有者が敷金返還債務を承継することが条文上ももし明文化されるのであれば,最終的には賃料債務との相殺という手段を用いて,あるいは不動産が競売されたということであれば,競落人による債務の承継という道が残されているのではないかというふうに考えておりますので,ここまでの過剰な保護は不要なのではないかというのが私どもの意見でございます。   続きまして,4点目の債権譲渡と対抗要件のほうに移らせていただきます。   債権譲渡の対抗要件制度につきましては,協会においても以下のように,現行法の二元的な枠組み,民法467条と特例法登記という対抗要件制度を維持すべきとの意見と,それから,登記に一元化すべきとの意見があります。いずれにしましても,債権譲渡の第三者対抗要件を登記に一元化するかどうかを検討するに当たっては,どのような登記制度を前提とするのか,その登記制度に一元化した場合のメリットやデメリットというのを考慮しながら,慎重に検討がなされるべきというふうに考えております。   まず,前者の現行法の二元的な対抗要件制度を維持すべきという意見について,御説明申し上げます。   現在の登記制度というのは,債権の特定方法が画一的ではない。このため,登記されている債権が譲渡を予定する債権と同一であるのかという確認が困難であるという問題がございます。現在は,登記によって対抗要件を取得している企業が実際上は余り多くないというところもありますので,登記をしていないということが確認できれば,確認をすれば,そこで十分だろうということなんですけれども,登記に一元化されるということになれば,問題が顕在化するおそれがあります。   また,譲渡禁止特約のある債権が譲渡対象となる場合には,債務者の承諾を得るという事務は残りますし,小口債権以外の債権を流動化する場合,この場合でも抗弁権の切断を図るため,債務者の異議なき承諾を取ることが一般的となっております。そのため,登記制度の一元化については,対抗要件を確認するための事務負担が軽減されるかという疑問が残ります。   さらに,信託の世界で言いますと,下請企業の資金調達手段である一括支払信託につきましては,登記制度に一元化された場合,継続が非常に困難になるのではないかというふうに考えております。   一括支払信託というのは,後ろのほうに簡単な図を付けさせていただきました。9ページのほうを見ていただきますと,図2というのを付けさせていただいております。9ページの上のほうになりますが,多くの納入企業が,A,B,Cとありますけれども,これが数百,数千となるケースが多いのですけれども,それらが,支払企業,つまり,大手のメーカーさん等が多いですけれども,そういったところに売掛債権を持っていて,これを信託銀行に信託する。A,B,Cが債権者兼委託者になるという形ですね。これを資金化していくという仕組みになっております。こういった一括支払信託は,多数の納入企業が支払企業に対する売掛債権を信託すると,売掛債権に代わる信託受益権を取得して,当該受益権の割引を受けることによって資金調達を図る仕組みです。債務者(支払企業。今の話で言いますと大手のメーカーさん)の異議なき承諾を記載した書面を1通,確定日付を得ることで,債務者対抗要件及び第三者対抗要件を具備して,抗弁の切断を図るということにしております。   一方で,これを登記に一元化した場合にはどうなるかというと,登記は債権の譲渡人との共同申請で行うことになりますので,多数の納入企業との間で債権譲渡ファイルを調整しまして,登記申請書を作成し,中野の法務局のほうへ申請する必要がございます。これはコスト負担の増加に非常につながりまして,単純化しても,従来700円の確定日付で済んでいたものが,7,500円掛ける債権者分となり,下請企業が仮に1万社あるスキームですと,1回の信託の設定で7,500万円のお金が掛かるというようなことになります。   また,支払企業,納入企業,双方における事務負担も増大する可能性が高いということで,事実上,一括支払信託の運営は困難になって,下請企業にとっては正に資金調達の選択肢が減ることになるのではないかというふうに考えております。ちなみに,加盟会社1社当たり,10万社を超える納入企業が関与しているケースもあるということです。   動産・債権譲渡特例法の登記は,債権者が多数の債権を一括して譲渡する場合には,極めて有用な制度だとは思っております。一方で,多数の債権者の債権譲渡の対抗要件を取得する場合とか,あるいは少数の債権譲渡の対抗要件を取得する場合というのは,債務者をインフォメーションセンターとする現行制度のほうが,関係者の事務負担やコストの観点から,望ましい場合が多いと考えられます。さらには,債権譲渡が全て登記によって開示されるとなると,自己の債権が譲渡対象になっているということを知られたくない企業様もいらっしゃいますので,そういった企業にとっては資金調達手段としての債権譲渡を阻害する要因ともなりかねません。そのため,取引に応じた対抗要件取得が可能である現状の維持が望ましいとする意見です。   あわせて,登記制度の改善策について考えてみたところ,以下のようなことが考えられるのではないかということでございます。   ①として,現状の債権者単位での登記ではなく,債務者単位での登記も可能とすること。   ②として,同一の債務者に対する多数債権の譲渡を,単一の債務者への通知及び承諾と同等の登記費用や事務負担,例えば債務者による登記申請を認めることによって,使いやすくなるのではないか。   ③として,債務者が自己に対する債権の譲渡の状況について容易に確認できるような制度にすること。   ④として,二重譲渡の確認が確実かつ簡便にできる制度とすることということでございます。   ただ,このような措置を採ったとしても,やはり債務者の承諾が必要な場合というのはまだ残る可能性はあると思います。また,登記による開示を望まない債権者の存在というのもやはりあります。大量の契約変更事務を必要とする改正をあえてここで行うのかという問題提起をここでさせていただきます。特に,一括支払信託などにより中小企業の資金調達が今活況になされているという状況からしますと,多様な調達手段の維持がされるべきであり,それを前提に制度改善がされることを要望いたしますということでございます。   (2)のほうですね,こちらは逆に登記に一元化すべきという意見でございます。   民法467条の対抗要件制度と債権譲渡登記制度が二重に存在しているため,民法467条による対抗要件具備と,それから特例法登記による対抗要件具備による債権の二重譲渡の可能性というのは,これは排除できないということでございます。債権譲渡の第三者対抗要件具備の方法を登記に一元化することによって,登記を確認すれば,優先する債権譲渡があるのかどうかというのを即時に把握することができます。現行法の二元的な対抗要件制度を維持することに比べますと,二重譲渡を防止するということにおいてはメリットが存在しますね。このため,特に流動化あるいは証券化市場の発展のためには,債権譲渡の第三者対抗要件制度を登記のほうに一元化することに賛成すべきだろうという意見もちょうだいしております。   ただ,この場合でも,特例法上の登記制度について,先ほど申し上げた4点含め,利用者の拡充とか,あるいはその利便性の向上を図る方向で,現行制度を見直すことが望ましいというふうに考えております。   私からの御報告は以上でございます。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   ただいまの御意見に関して,委員,幹事等の皆様から御質問がありましたら,御自由に御発言ください。 ○道垣内幹事 1の信託約款と契約の変更のことについてなのですが,確かに信託法及び信託業法には信託の変更という制度が定められています。そこで,仮に特約で受託者側が条項を変更できるというふうなことが定められているとき,その特約が無効になったとしても,そのときには,信託法・信託業法で定められているデフォルトに戻るわけですから,それらの法律に定められた要件に従った信託の変更は可能なんだと思うのです。そうなると,信託の目的に反しないこと及び受益者の利益に適合することが明らかであるときという場合には,仮に約款における条項が無効だとされても,信託の変更が受託者の書面又は電磁的記録によってする意思表示によって可能となると思うのです。さて,そうすると,にもかかわらず第27のところで,信託法のように変更権限が法律で認められているようなものについては,一方的な変更を可能とする条項を無効とする規律から排除すべきであるという主張をされるということになりますと,受益者の利益に適合することが明らかでない場合にも一方的に条項の変更をしたいというニーズがあるということなのでしょうか。つまり,どのようなニーズで,一方的な変更権限を認めるということを望んでいらっしゃるのかということについて,お伺いできればと思います。 ○秋山参考人 協会としては,今の現行の信託法であったり,あるいは業法であったり,貸付信託法であったり,そういった枠組みの中でやっているもの,認められているもの,それが我々の中で今後もスムーズにやっていけるということであれば,それはそれでよろしいのではないかとは思っております。   ただ,その約款のデフォルトルールというんでしょうか,民法が改正されることによって,先ほど道垣内先生がおっしゃられたような,無効と言ったときに,その無効の効果というのがどこまで広がるのだろうかというところが,我々のところも明確に分からないところがあります。どういうふうな跳ね方をするんだろうかといったときに,今,整然と整理いただいた形で,信託の世界のデフォルトルールにきれいに落ちていくのであれば,それほど我々として強いニーズがあるというわけではないんですが,むしろどうなってしまうのだろうかいうところが,よく分からないというところが非常に懸念するところでございます。 ○山本(敬)幹事 私のほうからは,その次の契約書ひな形について,2点御質問させていただければと思います。   1点目は,契約書のひな形が不当条項規制の対象とされかねないということを問題としておられるわけですが,そうしますと,約款と,ここでおっしゃっている契約書のひな形というものが,定義上,区別可能なものなのか,可能だとして,約款をどのように定義すべきだとお考えになっているのかということです。   2点目は,今の点と関係しますが,約款の不当条項規制に関しては,約款による場合であったとしても個別に交渉がされた場合,あるいは個別に合意がされた場合については,私は個別の合意のほうがいいと思っていますが,それはともかくとして,そのような場合については,約款特有の不当条項規制は適用されないということも併せて提案されているところです。としますと,ここで御懸念されていることについては,個別交渉ないしは個別合意があるという場合をお考えのようですので,これで不当条項規制の対象から外れるとしますと,御懸念が必ずしも当たっていないのではないかという気もいたしました。その点についてはいかがお考えでしょうか。 ○秋山参考人 ありがとうございます。   まず1点目の御質問というか,定義について明確にできるかというところにつきましては,正直,すみません,具体的なアイデアは持ち合わせておりません。   ただ,懸念としては,その約款というくくりの中で,こういったひな型,必ずしももともとの在るべき契約書の形がそのまま,多数の方にそのまま適用されるものではない「ひな型」と言われるものについても約款の規制が掛かってくるというところを,もしかしたら片面的な見方なのかもしれませんが,ただ,そこの部分がそう掛かってくることについては,やはり我々としては一抹の不安があります,というのが,お答えになっていないかもしれませんけれども,我々の思いでございます。   2点目につきましては,正しく御指摘いただいたとおりだと思っておりまして,もしそういう形で不当条項規制の枠が外れるということになるのであれば,それはそれで我々協会にとっては救いの道というか,前が開けるということなんだと思います。ただ今後,どんな議論がなっていくのか,我々も見守っていきたいとは思っているんですけれども,それが確実にそういった条文の中に,あるいは規定の中に反映されていくということであれば,先生御指摘のとおり,我々の懸念も大分減っていくだろうと。逆に,それが入ってこないということになると,また我々として悩みの種が一つ増えると思っております。 ○鎌田部会長 よろしいですか。ほかには。 ○高須幹事 3項の敷金返還債務の問題でございますが,「不動産流動化の場面で考えると」という3ページのところでございます。信託財産である賃貸不動産を売却する場合,このとき,敷金返還債務がなぜ存在するかといえば,それはもともと敷金を預かっているからということのはずですから,その預かっていたはずの敷金相当の金銭が,そもそもどうなっているのが取引においては通例なのか。仮に残っておるとすると,つまり譲渡しようとする人間がまだ持っているとした場合には,この売却に当たって,どのような取扱いをするのか。あるいは残っていないとすれば,それはその後の調整というんでしょうかね。もう残っていないんだからしょうがないで,買主が専ら負担しているのが現状なのか。売買代金の調整等で,何らかのリスク調整が図られているのか。実情としてどうなのかを教えていただければと思います。 ○秋山参考人 分かりました。ありがとうございます。   実態から申し上げますと,不動産取引においては,ほとんどの場合,敷金相当額を売買代金から差し引くという形で,新所有者があたかも敷金相当額のお金を持っているというような形で,不動産の決済がなされることが圧倒的に多いと思います。例えば10億円の賃貸不動産を売買いたしますと言ったときに,テナントさんの敷金が2億円ありましたということであれば,時価10億円ということなんですが,そこから2億円を差し引いた8億円を売買代金の決済に充てるというのが,もう実務的な慣行で,ほぼ確立しているのではないかと私は認識しております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,時間になりましたので,信託協会からの意見聴取を終わります。秋山参考人におかれましては,御協力ありがとうございました。   続きまして,リース事業協会から意見聴取を行いたいと存じます。参考人の稲村公一さん,佐藤勝さん,よろしくお願いいたします。 ○稲村参考人 社団法人リース事業協会の法務委員長をしております稲村と申します。   本日は,法制審議会民法関係部会のヒアリングにお招きいただきまして,ありがとうございます。私のほか,副委員長をしております佐藤と共に御説明をしてまいりたいと思います。   それでは早速でございますが,お手元の資料に従いまして説明を申し上げていきたいと思います。   初めに,私ども社団法人リース事業協会につきまして,簡単に御説明いたします。資料は,1枚めくっていただきまして,1ページでございます。現在,会員会社は253社となっておりまして,ほとんどの会員会社がリース事業を営んでおります。設立は1971年10月,所在地は千代田区内幸町ということでございます。機械設備等のリース事業及び関連産業の健全な発展を図ることにより,我が国経済の発展と国民生活の向上に寄与すること,これを目的といたしまして活動いたしております。業務の概要及び役員は資料のとおりでございます。   続きまして,ファイナンス・リースにつきまして,簡単に御説明いたします。資料の2ページを御覧ください。   我が国のファイナンス・リースは,ユーザーが選定いたしました機械設備を,当該ユーザーだけを相手方といたしましてリース会社が長期間賃貸するものでありまして,ユーザーが支払うリース料には,物件の取得価格,そのほかリース取引に関わる諸費用のおおむね全てが含まれまして,リース期間中の解約はできないという取引でございます。   リースの仕組みを,資料2ページの図に従いまして簡単に御説明いたしますと,まず,設備等はユーザーがサプライヤーとの間で選定いたします。導入を希望する設備が決まりますと,ユーザーからリース会社にリースの申込みをしていただきまして,リース会社はユーザーを審査するということになります。そして,この審査を通りますと,リース会社とユーザーの間でリース契約を締結するという流れでございます。リース契約を締結後,リース会社と今度はサプライヤーの間で,ユーザーが選定いたしました設備の売買契約を締結いたします。リース物件はサプライヤーからユーザーに直接搬入・納入されます。ユーザーは,搬入されました物件を検査・確認いたしまして,リース会社に借受証,あるいは物件受領書と言っておりますけれども,発行いたしまして,この発行によりましてリースが始まっていくという流れでございます。   今申し上げたところのファイナンス・リースの特徴というのを下に簡単にまとめておりますけれども,まず物件の選択権,これはユーザーにあるというところでございます。リース会社は,ユーザー指定の物件をユーザー指定のサプライヤーから購入いたしまして,ユーザーにその使用を認めるということでございます。物件の所有権はリース会社が有しております。それから,リース料には,物件の購入代金,リース会社の資金コスト,諸費用,手数料等のおおむね全てが含まれるものでございます。リース契約はリース期間中解約はできないという特徴がございます。物件の保守・修繕義務はユーザーが負担いたします。その関係でもございますけれども,リース会社の免責ということで,リース会社は,物件の滅失・毀損等の危険負担,それから瑕疵担保責任を負わないということでございます。   次に,3ページを御覧いただきまして,リース業界の現状について簡単に御説明いたします。   まず,リース業界の規模でございますけれども,2010年度のリース取扱高は4兆5,553億となりまして,前年度比7.4%減。これは5年連続で減少しておりまして,非常に厳しい環境下にございます。   民間設備投資に占めるリースの割合,すなわち,我が国の全ての民間企業の設備投資に占めるリースによる設備導入の割合ですけれども,これは約6%となっております。   リース物件につきましては,このページ右の中ほどの図のとおり,物件といたしましては,電子計算機,商業及びサービス業用機器,輸送用機器,産業機械などを取り扱っております。ソフトウエアのリースもございます。   リースの顧客につきましては,その下の図のとおり,中小企業が全体の取扱高の約47%,大企業が44.6%,官公庁ほかが8.5%となっております。   それでは,4ページをめくっていただきまして,ファイナンス・リースの典型契約化に対する当協会の意見を述べさせていただきたいと存じます。4ページでございます。当協会の意見につきましては,昨年11月の第18回部会におきまして席上配布させていただいておりますけれども,改めてここで御説明いたします。   まず,意見の一番目でございますけれども,ファイナンス・リースの典型契約化は取引実態上の必要性がないと考えております。   その理由でございますが,まず,ファイナンス・リースのほとんどは事業者間の取引であるという点でございます。先ほど3ページの図でお示したとおり,9割超が事業者間の取引でございまして,残り1割が事業者と公的機関という実態になっております。個人間でファイナンス・リースを行うことは,実態としてもないということでございます。   また,当事者間で合意内容を明確にするために,ファイナンス・リースの場合は必ず契約書が作成されております。当協会が作成しております「リース契約書(参考)」の項目を4ページの下にお示ししておりますけれども,ファイナンス・リースの基本的条項が全て網羅されておりまして,実際の取引においても,ほぼ各社において同内容の契約書を用いて締結しております。また,これらのリース契約の条項だけではなくて,実際にはリース会社とサプライヤーの間で締結する売買契約,注文書,注文請書ですが,これらの内容が一体となりまして,リース会社,ユーザー,サプライヤーの権利義務の全てが当事者間で,書面で定められるというのが実態でございます。   つまり,今申し上げたことを踏まえますと,仮にファイナンス・リースを民法に規定されたといたしましても,現時点はもちろんですけれども将来的にも,この民法の規定が実際の我々が行う取引に適用されるという場面はないのではないかというふうに考えております。   次に,5ページを御覧ください。意見の二つ目でございますが,二つ目は,典型契約化の影響を業界としては非常に懸念しておるということでございます。   その理由でございますが,現在,リースは非常に多様化しながら発展しておりまして,リースの対象資産も非常に広がってきております。従来の動産だけではなくて,ソフトウエアですとか,不動産ですとか,非常に拡大しております。さらには,リース会社がリース物件の保守・点検を行う,いわゆるメンテナンス・リースも盛んに行われております。   また,リースはユーザーの利便性を高めるため創意工夫を重ねているわけですけれども,このためには,その種類に合った契約内容を当事者間の合意で自由に設定できるということが非常に大きな要素であり,取引の前提になってくると思っております。5ページの下に,リース会社が取り扱っているリースの種類を例示しております。これまでのファイナンス・リース,オペレーティング・リース,メンテナンス・リースだけではありませんで,パッケージ・リースといったような土地・建物を含めました複合的なリース取引,あるいはリース・バック取引など様々なリース取引が行われておりますけれども,それぞれの取引の特性,内容などに応じまして,リース会社とユーザーとの間で契約内容を定めておるというのが実態でございます。   こういう取引実態を踏まえますと,現在,正に多様化しつつあるリースを民法に規定できるのかという疑問を抱いております。また,自由な経済活動が阻害され,その結果,顧客の利便性を損ねるというようなことがないかということも懸念しております。一言にリースと申しましても,今申し上げましたように非常に変化をしておりまして,民法にファイナンス・リースというのが規定されることによって,これらの取引に枠がはめられないかという懸念を持っておるということでございます。   以上が協会としての意見を簡単に申し述べたものでございますけれども,せっかくの機会でございますので,その我々の意見とは別に,ファイナンス・リースの典型契約化につきまして,幾つか論点があるのではないかと考えておりまして,それをお話ししたいと思います。資料は6ページでございます。これからお話しする論点につきましては,その論点が解決されれば典型契約化に賛成するという趣旨ではございませんけれども,ファイナンス・リースの典型契約化の検討を仮に進めるのであれば,超えるべき課題がいろいろあるのではないかと思っておりまして,それをお示しするという趣旨でございます。   まず,論点の一つ目ですけれども,これは法制度への影響でございます。   我が国の各種法制度におきましては,ファイナンス・リースは賃貸借に包含されております。これはリース会社だけではありませんで,ユーザーも各種法令に定めます賃貸借の規律に従って現在取引をしております。これが司法の基本法である民法にファイナンス・リースというものが規定された場合,この各種法令の中の賃貸借と民法のファイナンス・リースというのはどう関係するのか,どう該当するのかという疑義が生じるのではないかと考えております。   例えば,会計・税制というのがリースの根幹なのですが,法人税法では「リース取引とは,資産の賃貸借で,次の要件に該当するものをいう。」という定め方をしておりまして,リースの取引を賃貸借として整理しております。また,建物のリースに関連する借地借家法ですとか,さらには消費生活用製品安全法などにおきまして,リース会社は賃貸事業者として各種の義務を負っておるという現実であります。これら例示でありまして,そこに資料にお書きしたように,薬事法であるとか,放射線障害防止法等におきましても,賃貸借に関する定めがございまして,リース会社はそれらの規制の下でリースを行っているということでございます。   すなわち,ファイナンス・リースの典型契約化の議論と同時に,この賃貸借の定めのある各種法令の検討が必要になるのではないかと考えております。具体的には,賃貸借とファイナンス・リースの定義,賃貸人,賃借人の義務等の整理が必要になるのではないかと考えております。   論点の二つ目は倒産法の取扱いであります。資料は7ページです。   倒産法におけるファイナンス・リースの取扱いにつきましては,リース債権の共益債権性を否定しまして,リース物件を担保としての意義を有するものとする最高裁の判例はございますけれども,実態上は,現実には個別事案に応じた様々な解決が図られているという状況であります。このリース物件の担保権的な取扱いにつきましては,リース会社のリース物件の所有権を完全に否定するものと我々は考えておりまして,協会としては反対しておりますけれども,いずれにしましても,最高裁の判例でも,その担保の性質については全く言及されておらないと理解しております。   部会でも委員の方から御指摘あったというふうに伺っておりますけれども,倒産法を視野に入れてファイナンス・リースの典型契約化を議論されるのであれば,資料にも書いておりますとおり,二つの点に留意する必要があるのではないかと考えております。   一つはファイナンス・リースの定義の関連ですけれども,ファイナンス・リースの定義として,リース提供者が,ある物,これはリースの目的物ですが,これの所有権を第三者から取得しというふうになっておりまして,リース会社が物件の所有権を取得するということになっておるわけですけれども,倒産法のみならず,基本法である民法改正の検討におきまして,どのような契約関係,法律的な根拠,時期や方法によってこのリース会社の取得しました所有権が担保権に変質するのかという,理論的あるいは技術的な検討が必要なのではないかというふうに考えております。   また,2点目といたしましては,ファイナンス・リースに関する権利義務関係を明確にする場合には,担保権など物権に関する事項に議論が及ぶのではないかと思われますけれども,当部会に関する法務大臣の諮問は,基本法典である民法の債権関係規定について,契約に関する規定を中心に見直しを行うというふうに伺っております。もしそうであれば,この担保権などの解決がきちんとされるのかどうか,我々としては懸念を持っておるということでございます。   三つ目の論点につきましては,8ページでございますけれども,定義規定についてであります。   8ページの中段に図にしてお示ししておりますけれども,企業は会計・税務の区分に従ってリースの処理をしているというのが現実であります。すなわち,リース会社とユーザーは,ファイナンス・リースとオペレーティング・リースは全く異なる取引であると認識しておりまして,それぞれ税務上・会計上の整理をしております。しかしながら,部会提案のファイナンス・リースの定義では,会計・税務上のオペレーティング・リースまでもが対象となってしまうのではないかというふうに考えられますので,このままでは取引関係者の混乱を招くということが確実なのではないかということを懸念しております。   これ以外にも,定義規定に関しましては,2ページで御説明しましたけれども,ユーザーがリース物件とサプライヤーを選定するということがファイナンス・リースの特徴であり,ファイナンス・リースの第一歩でありますけれども,御提案の定義規定にはこの観点が含まれていないということで,典型契約化された場合には,当事者の権利義務関係について争いが生じるのではないかという点を懸念しております。   また,資料の5ページでは,リースには様々な取引があるということを御説明いたしました。今や,いわゆるファイナンス・リースだけではなくて,売買に極めて近いもの,あるいは賃貸借に近いものなど,様々な取引が開発されて利用されております。部会で審議されている定義規定では,賃貸借とファイナンス・リースを区分するメルクマールが不明確であるということを指摘せざるを得ないと考えております。   繰り返しになりますけれども,取引の実態として,リースに関しましては,会計・税務の区分というのが定着しております。また,今回の民法改正の趣旨の一つに判例・法理の明確化ということがあるにいたしましても,判例のほとんどはフルペイアウトのファイナンス・リースに関わるものであるということを指摘しておきたいと存じます。   最後に,9ページを御覧ください。部会でも御指摘のありました小口リースにつきまして,協会としての対応策,それから苦情の現状につきまして,御説明いたします。   当協会におきましては,小口リースの問題解消を目指しまして,本年の1月26日に新たな対応策を講じて,これを実行しております。   そこに七つ書いておりますけれども,1番のサプライヤー情報交換センターの設置につきましては,これは中ほどの右の図にございますように,小口リースの苦情の半分近くが,これはサプライヤーの販売方法に起因するということから,従来,サプライヤーの情報については各リース会社がそれぞれ持っていたわけでございますけれども,これを会員会社間で情報交換をしようという趣旨でございます。これが1番のサプライヤーの情報交換センターの設置でございます。   それから,2番にございますサプライヤーとの関係の見直しの,これは各社それぞれやっておりますけれども,更にこれを徹底するということでございます。   3番の対面による契約関係活動の実施ということで,小口リースというのは非対面が原則でございますけれども,やはりサンプル的にでも対面による契約確認活動を実施しようということでございます。   その他,契約締結過程の総点検,物件見積書提示の徹底の要請,顧客の相談窓口の体制の確認・強化,対応策の実効性確認,これらを実行しております。   苦情の状況でございますけれども,公的機関におけるリースの相談件数によりますと,2010年度のリースに関する相談件数は4,750件ということで,2009年度比,約2割減少しておりまして,ピーク時の2005年度比では約6割減少しておるという状況であります。   当協会におきましては,小口リース取引に関わる問題につきましては,これは業界全体としての問題でありますので,引き続き問題解消を目指してまいりたいと存じます。   以上,簡単でございますが,ファイナンス・リースの典型契約化につきまして御説明させていただきました。   部会の委員並びに幹事の皆様方におかれましては,当協会の意見並びに論点につきまして,十分な御理解を賜りたいと存じます。当協会の意見の詳細につきましては,説明資料とは別に2点,意見書を配布させていただいておりますので,後ほど御覧くださいますようお願い申し上げます。   最後になりましたが,本日はこのような説明の機会を頂きまして,誠にありがとうございました。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   残り時間が大分少なくなってしまいましたけれども,ただいまの御意見に対する委員,幹事等の皆様からの御質問をお願いします。 ○中田委員 詳細な御説明をどうもありがとうございました。   資料の見方についてだけ教えていただきたいと思います。3ページにリース業界の現状というのがございまして,リースの顧客の内訳が示されておりますけれども,ユーザーが個人であるというのは,この中に入っているのでしょうか。それとも外なんでしょうか。 ○稲村参考人 ファイナンス・リースにおきまして,実際に取引をしておりますのは,いわゆる営業性個人と言われている方たちでして,つまり,会社形態ではないけれども事業をされているという方で,それは,この中小企業に入っております。事業をやっておられない,いわゆる非営業性の個人の方とのファイナンス・リースというのはございません。 ○中田委員 ございませんというのは,実態としてないというのか,この表には含まれていないというのか,どっちなんでしょうか。 ○稲村参考人 我々リース会社の実態としてございません。 ○中田委員 消費者リースというのは,そうすると,ないということですか。 ○稲村参考人 まず,我々リース会社が,非営業性,つまり営業されていない個人の方とファイナンス・リース契約を結ぶということはございません。ただし,そういう事業をやっておられる方だと思って契約したところ,実際は事業をされていないとか,御存じのとおり,電話機リースなどではそういう実態が出てきておりますので,結果として事業をやっておられなかったと,事業性の個人ではなかったというケースはございます。ただ,初めから事業をやっていない個人であるということを認識しながら契約したケースというのはないという御理解をいただければと思います。 ○松本委員 今の点との関連なんですが,リース事業というのは,私の理解では,許認可業種ではなくて,誰でもリースはできるはずですよね。ですから,リース業協会というしかるべき団体に加入していないところの貸金業者だとかクレジット業者が,リースと称する契約をすること自体は全く禁止されていないわけで,そういう事業者が消費者リースと称して,事業者向けのリースと同じような条項を使って,非常に消費者に不利な状況にしているという実態が存在するということは御存じだと思いますが,それは協会外の業者であると,こういう御認識でしょうか。 ○稲村参考人 そもそもそういう,つまり,全く本来リース事業をやっておられない会社が,同じような契約書を使って消費者にファイナンス・リースをされているということは,ファイナンス・リースの取引現場に居る者として,そのような取引があるとは認識しておりませんし,思いもつかないというのが実感です。 ○松本委員 リース契約と称する消費者向けの与信というのが存在しておりますが,それは割賦販売法の脱法行為だというふうに我々は見ているんです。契約書の書面としてはリースという用語を使ったり,リースなんだからどうこうというような形で販売をしているというケースはございます。 ○稲村参考人 先ほどのお答えとダブるかもしれませんけれども,我々は,先ほど言いましたように,事業性のある個人の方とのリースはしております。それを,これは個人との取引ではないかというふうに言われることはございますが,リース会社としては,今,少なくともこの協会に加盟しているリース会社としては,そういう事業性のある,事業をやっておられる個人の方と契約をしていて,今御指摘になったような実態については,申し訳ないんですが,我々としては存じません。 ○松本委員 例えば割賦販売でやれば一定の規制は掛かってくる。しかし,リースというのは許認可業種ではなく,規制法が何もない世界ですから,貸金業をしなければ何の規制もないわけです。リース事業でありますと言っている限りは何の規制もない世界,全く契約自由の世界なので,そこを隠れみのにした与信が行われているということです。協会加入事業者はそういうことをされないと思いますが,リース事業を名乗ることは全く自由だということです。 ○稲村参考人 リース事業が許認可業種ではないという点についてのみ,御指摘のとおりと思われます。それ以外の御指摘は,我々として実態を存じ上げないのでコメントしようがありません。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,リース事業協会からの意見聴取を終わります。稲村参考人,佐藤参考人におかれましては,御協力ありがとうございました。   では続きまして,ABL協会から意見聴取を行います。参考人の中村廉平さん,よろしくお願いいたします。 ○中村参考人 ABL協会理事・運営委員長の中村廉平でございます。今日はどうぞよろしくお願いをいたします。   私どもは設立間もない団体でございますから,ABL協会なるものの御説明をまず簡単にさせていただいた上で,具体的な今回のヒアリングに際してのアンケート結果をまとめましたので,御紹介をさせていただきたいと思っております。大部ではございますが,お手元にお配りをしております資料につきまして,若干まず確認をさせていただきます。   ①から④というふうに表示をさせていただいておりますが,①はA4,1枚紙でございます。今回,私が申し上げることのレジュメであります。加えまして②以下でございますが,まずは,このレジュメにも引用しておりますが,別紙1から順に,具体的な私の申し上げたいことにつきまして,取りまとめをしております。加えまして③でございますが,これは会員アンケートの詳しい一覧表でございまして,時間の制約もありまして,この場では指摘をさせていただくことができませんので,後ほど御熟読を頂ければと思います。更に④でありますが,これは皆様御記憶の向きもあろうかと思いますが,当民法(債権関係)部会の第19回,平成22年11月30日に配られましたABL協会の実態調査結果報告であります。これも改めまして御参考までにお付けをした次第であります。   まず初めにでございますが,「ABLの観点からみた民法(債権関係)改正論点に関する実務ニーズ」というふうに銘打っております。   ABLは,アセット・ベースト・レンディングの略でございまして,ABL協会は,その関係業者の集まりであるということでございます。   ②の1ページ目に設立趣意書を付けておりますが,その3段目のパラグラフでありますが,ABLは,企業が有する在庫や売掛債権,あるいは機械設備等の事業収益資産を活用した金融手法であるということでありまして,言わば事業価値の総体を見極める基本的な融資審査の目線を持ちながら展開されるものとも思います。借り手と貸し手のリレーション強化による信頼関係の深耕に立って,中小企業を中心とした資金調達の多様化・複線化,これの拡大に大きく資するというように考えておりますが,ABL協会は,そのような観点に立ちまして,多業種の業者が言わば横断的に集まった団体でございます。したがって,まずもってお断りをしたいのは,単一業態の利益を代弁するということはおよそございません。この点は御留意を頂きたいと思います。   ABL協会の現在構成されております役員一覧を簡単に付けさせていただいております。何分まだ総会が開かれていないので1年前の役員構成でございますが,ほぼ同様の業態で,改めて理事等が選任される予定でございます。現時点では,正会員59法人,特別会員16名ということでございますが,先ほど申し上げましたとおり,金融機関,ノンバンク,商社,あるいはABL関連のサービス業者等とともに,弁護士,司法書士,公認会計士等で構成をされているということであります。しかも,金融機関やノンバンク等の会員を代表する者たちは,決して法務部門の人間ではございませんで,むしろ営業あるいは審査の第一線に立つ者たちばかりでございます。後ほど御紹介をするアンケート結果についても,そういう意味で,有り体に申し上げますけれども,現場感覚に基づいた声が出てきているというふうに自認をするところであります。   さて,このABL,アセット・ベースト・レンディングの普及・活用についてでありますが,これにつきましては,②の2ページ目に「ABLの普及・活用に向けた各省庁の取組み」として,経済産業省さんの御報告書から引用しておりますが,これこのとおり,経済産業省,法務省をはじめ,金融庁,農林水産省等が,こぞってこの推進・普及にお力を尽くされております。と申しますのも,バブル崩壊の教訓を生かしまして,過度に不動産やあるいは保証人に依存しない融資の一環として,動産債権を主として担保にする融資を,いわゆるABLでございますが,これが推進されるべきというふうな,専ら大きな中小企業界の声もございまして,制度整備に進まれたということでございます。   この部会は債権関係でございますが,法務省さん,従来から債権譲渡登記ございましたが,平成17年に,これに加える形で動産譲渡登記制度が創設され,動産債権譲渡特例法となりましたことは皆様も御承知のことかと思います。   加えまして,金融庁や経済産業省等のおかげをもちまして,このABLの実績は伸びております。それにつきましては,3ページ目以下に記載しております。市場規模でありますが,本年の5月に発表されました経済産業省さんの調査報告書から引用させていただいておりますが,ABLの市場規模につきましては,件数で6,299件,実行金額で1,716億円,残高で約3,000億円となっております。全国銀行貸出残高等から比べますと大変少ない数字ではないかと思われるかもしれませんが,私どもの協会が平成19年に設立されて以降,急速な伸びを示しておりまして,その点で,この数字は更に拡大をしていくということが期待されるところであります。   加えまして,その内訳を鑑みますと,動産と債権担保融資というのが,先ほど申し上げたとおり,約3,000億円ございますが,そのうち,四角書きの真ん中あたりでありますが,「Aのうち動産・売掛債権両方ともを担保とした融資」というのが225件の291億円,残高として565億円ございます。また,下から2段目のところですが,売掛債権のみを担保とした融資でありますが,これが多額に上っておりまして,2,876件,730億円に上っているということでございます。   繰り返しますが,ロットが小さいと思われる向きもあるかもしれませんが,細かに融資を展開する中小企業の残高としては,これは大変大きな数字というふうに言ってもよいものだと思います。   なお,この経済産業省さんの調査は,金融機関のみならずノンバンク等々にもなされています。そのことにつきましては4ページ目の注書きに記載をしてございますが,その4ページ目の上段,ABLの実績のある貸し手は52.4%というのは,ただいま申し上げたような母数でございますが,地方銀行が98%,第二地方銀行が83%ということで,銀行全体としては約9割が何らかの形でABLに携わったという数字が出ております。業種別,あるいはこれは御参考までですけれども,動産の種類につきましては御覧のとおりであります。   後ほども申し上げますが,日本銀行の新たな金融政策の発表によりまして,更なる進展がABLにおいて期待ができるところですが,ABL協会としての研究活動,どういったものがあるかというふうなことも含めまして御案内をさせていただきますと,ABL協会の中に実務研究会,法制研究会等を設けまして,特に実務研究会の場合には,金融機関をはじめとする実務家で構成をし,これから御紹介いたしますアンケート等の作成にも携わったということでございます。また,法制研究会につきましては,特に法制整理におけるABLの処遇につきまして現在検討しておりまして,いずれまた,その成果物を別の場所で発表できればなとも思っております。   いずれにしても,ABLの発展の方向性等々を考えますと,過剰担保の回避を念頭においた循環型というものが基本に据えていかれるべきというふうに考えております。これについては,②の資料の5ページ目以下をお開けください。   ABLは,特定の債権やあるいは動産のみを単独で担保取得して御融資をするということも考えられますが,基本的には循環型と言われるようなスキームというものを想定しております。中村の拙稿で恐縮でございますが,ちょっと読み上げますと,ABLに設定される譲渡担保権や質権の対象となる在庫や売り掛けは,原材料の仕入れ,商品の製造,在庫販売による売掛金取得,売掛金の回収,回収金による原材料の仕入れという,言わば事業のライフサイクルに沿って行われるということでございます。有り体に申し上げますと,在庫が販売されて売掛金に化け,売掛金が決済をされて現預金に化けるという,これは一般的な企業会計のプロセスでありますが,そのプロセスを言わば担保取得するもの,これがABL,特に循環型であろうというように思われます。   それに関しましては,現最高裁判事の須藤正彦先生や,あるいはまた当協会の理事長を務めております池田真朗教授等が詳しい論稿を出されておられますが,ただ,戒めておかなければならないのは,6ページ目の3に書いてございますが,掲載をしてございますが,伊藤眞教授がおっしゃるように,「合理的限界を超えてしまうことは,かえって,担保としての利用可能性を狭めてしまう」と。これについては,私どもも大きく念頭に置きながら事業を展開しているということでございます。   それでは,7ページ目以下の御紹介を申し上げます。これはレジュメでは,「2.「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」とABL実務ニーズ」ということでございます。その目的でありますが,ABLに取り組むABL協会会員の現場感覚に基づく生の声を,幅広く民法(債権関係)改正の議論の場にお伝えをするためのニーズの収集でございます。皆様に是非お聴きいただきたいということを,私がこの場でお伝えをするということでございます。したがいまして,ABL協会として統一した改正要望の意見の形成を目的としたものではございません。この点は御留意を頂ければと思います。   アンケートを求めましたところ,回答が17通ございました。ABL債権者の立ち位置が11通,関連サービスアドバイザーが4通,その他が2通であります。このことに関しまして申し上げますと,報告書者コメントの欄でありますが,回答の半数以上はABLの債権者の実務経験に基づく意見であります。その債権者(担保権者)は,都市銀行,地方銀行,政府系,ノンバンク及び商社等々が含まれております。多種多様な御意見であるということであります。なお,関連サービスアドバイザーというのは,債権回収会社及び評価・処分換価業者ということであります。   それでは,具体的な項目に移ります。時間の制約がありますから,時折飛ばして紹介をさせていただくことをお許しください。   まず,譲渡禁止特約の効力(将来債権譲渡との関係)でございます。中間的な論点整理において第13で位置付けられるものにつきまして忠実にアンケートを行った部分,これから申し上げるところであります。   まず,譲渡禁止特約全般についての会員の意見については,先ほど御紹介した④の資料で報告済みではございますが,中間的な論点整理では,「将来債権の譲渡後に,当該債権の発生原因となる契約が締結され譲渡禁止特約が付された場合に,将来債権の譲受人に対して譲渡禁止特約を対抗することの可否を,立法により明確にすべきかどうかについて」,中略をいたします,「更に検討してはどうか」というふうな御案内がございました。これからは,この中間的な論点整理の御紹介は省略ないし中略をさせていただきます。   このことに関しましてですが,丸印であります。将来債権の譲渡後に,当該債権の発生原因となる契約が締結され譲渡禁止特約が付された場合に,将来債権の譲り受け人に対して譲渡禁止特約を対抗することの可否を立法で明確化することにつきましては,その譲渡禁止特約の効力を制限するニーズを示す回答が10社,並びに,譲渡禁止特約の効力を認めるニーズを示す回答が1社ございました。   具体的には(理由)欄に記載をしてございますけれども,特徴的なことだけ申し上げますと,矢印の一番目,特例法登記が浸透していることから,債務者としても一定程度の調査義務があるのではないか。   あるいは二番目の矢印でありますが,最終行でございます,詐害的な担保逃れ行為を助長することになる。これは恣意的に譲渡禁止特約を締結することによりというのがございますが。   更に三番目,大混乱を来すものではないか。事後的な譲渡禁止特約を有効にするということであればということです。   更に四番目でございますが,譲受人は幾ら注意を尽くしたとしても損失を防ぎようがないという意見であります。   更に五番目でありますが,2行目です,破綻時になって初めて事後の譲渡禁止が発覚するリスクが残り,ABLの拡販を阻害しており,担保評価額を下げる大きな要素であるということであります。   更に矢印でありますが,作業負担が高い,あるいは売掛債権担保が担保不適格扱いに変更された実例があるということが,Cの立場,したがってABLの関連サービスアドバイザーのほうから指摘があります。   これを見ますと,報告者コメントでありますが,将来債権の譲受人を保護すべきであるとのほぼ一致した実務ニーズが示されておりますが,一方で,譲渡禁止特約の効力否定を特に追記する意見も複数あったところであります。なお,注書き4に書いてございますが,譲禁特約の効力を認めるニーズを示す唯一の回答も債権者の立場からなされておりますが,その理由は特に明示はされておりません。   更に9ページ目に移ります。債権譲渡の対抗要件(民法467条)であります。   債務者をインフォメーションセンターとする現行制度の存続又は改善に関してでありますが,まずは,現行制度の存続ニーズに関する意見であります。   これについては,第1行目,最終文字,特に将来債権について既に譲渡されている現状下では,対抗要件制度については,優先順位の変更や制度の統一等は行わず,現行制度を基本的に維持するのが望ましい。   更に二つ目の矢印,債務者の異議なき承諾による対抗要件の安心感は高い。   更に三番目の矢印ですが,民法による対抗要件と特例法による登記を使い分けることにメリットがある。   第四番目であります。これは3行目から読み上げます。デメリットと書いてありますが,売掛債権の担保の掛け目は承諾が最も高く,通知,登記の順に低くなっているというふうな指摘もあります。   更に最後の矢印でありますが,登記制度が十分に拡張するには,現在の登記実務のレベルを勘案すると,相当程度の時間を要すると思われる。したがって,二元的な対抗要件制度を基本に維持する方向で検討されるのが望ましいと指摘をしております。   さらに,債務者をインフォメーションセンターとする現行制度の実効性を疑問視する意見であります。   これにつきましては,1行目,右側から読み上げます。真の債権者が誰かについて,債務者に問い合わせが行われたとの事例は現在のところないようであるということ。   二番目の矢印,1行目から申し上げますが,債務者がインフォメーションセンターとして機能することは難しいのではないか。特定の債務者の債権が多数に及ぶ場合には,債務者にとって過大な負担となる可能性があるほか,管理能力等々で十分な機能発揮はできないというふうな指摘もございます。加えて言いますと,4行目に「そもそも」というのが右方にございますが,ABLレンダーが債務者に直接コンタクトすることは,平時では借入人のビジネス上不適切であり,差し控えてほしいと言われることがあるというふうな指摘もございます。   さらに,債務者が第三者対抗要件上の鍵となってしまう構造に問題があるというような指摘もあるところです。   更に10ページ目に移りますが,債権譲渡の第三者対抗要件を登記に一元化するニーズに関する意見であります。   分かりやすさという観点から,一元化されることが望ましい。ただ,実務上の混乱を回避するため,例えば5年程度の経過期間を設けることができないか。   あるいは二番目でありますが,右側からですが,ABLレンダーとして債権譲渡の順位について確信を有することができない可能性を残すことになるので,担保の設定順位が明確になるような手当てが必要。   三番目,現在の登記制度の改良を進めた上で,将来的には第三者対抗要件の登記への一元化を目指すべきというふうな意見もございます。   これなどを総合いたしますと,債務者をインフォメーションセンターとする現行制度を存続させることについては,実務上のニーズがあることを示す回答が相当数に上っておりますが,他方,債務者をインフォメーションセンターとする現行制度について,対抗要件としての実効性を疑問視する声も複数寄せられました。また,2行目からまいりますが,直ちに一元化を求めるというよりも,将来的な課題として位置付けられるとする,そういうものも目立っております。   加えまして,債権譲渡登記を個人も利用可能とするニーズについてでありますが,資金調達ニーズについては,個人事業主等についても高いものと考えられる。インフラに関して,個人でも可能となるというふうな仕組み作りは,これは必要ではないか。さらに,地域金融機関を中心に,農業従事者等々による,これは畜産担保融資とかよく言われます,あるいはその他の農業関連の融資の展開のときに,個人,これがあり得るということで,利用可能とするということですが,他方,個人を利用可能とするニーズが顕在化していないとする意見も出ております。   さらに,債権譲渡の債務者対抗要件(権利行使要件)の見直しに移ります。   大変申し訳ございません。時間が押しているようでございますから,大丈夫でしょうか。 ○鎌田部会長 あと一,二分でまとめてください。 ○中村参考人 了解しました。それでは,駆け足で先を進めさせて頂きます。   ②で,11ページ目でございますが,債務者対抗要件として,債務者による承諾を併用する現行制度でございますが,報告者コメントだけ読み上げさせていただきますが,一番最後でございますが,債務者対抗要件(権利行使要件)を通知に一本化するニーズを示す回答はなく,寄せられた回答は,承諾を継続して併用する実務上のニーズを示すものばかりでありました。殊に異議をとどめない承諾の有用性を指摘するものも目立っております。現状では,債務者対抗要件については承諾を継続して使用したいという異論のない実務ニーズが示された。これが特徴的であろうと思います。   次に,将来債権譲渡であります。これにつきましても,いわゆる明文化のニーズ等々について確認するとともに,公序良俗の観点からについても確認をしたところでございます。このことを総合して報告者コメント,12ページ目,最後でございますが,ABLに関しては,将来債権の譲受人たるレンダー側に,将来債権譲渡の有効性等を明文で規定することに対するニーズは認められておりますが,明文化に際して,公序良俗の観点からの,その将来債権譲渡の効力の限界が規定されることが,譲受人(ABLレンダー)に不利に働くのではないかというふうな懸念も示されているところであります。   その他,関連するものとして,債務引受や契約上の地位の移転等についてもアンケートを取りましたが,直接ABL実務の固有のニーズに沿うものではございません。詳しくは③の資料を御覧いただければと思います。   なお,このペーパーに書いてございませんので,口頭で申し上げますが,債権譲渡禁止特約に関する相対的効力案についての実務家からの評価。これについては実務研究会で時折耳にするところでございますので御紹介しますと,譲渡禁止特約の効力は当事者で有効であるということは,ビジネス上も尊重すべきもの--現時点ではですが--ということで,借り人が保有します禁止特約付債権に関して,禁止特約に違反する形で売掛債権を当行に担保に提供しなさいと要請すること自体にちゅうちょがあるという声がございます。また,ABLに関係する弁護士と実務家の間でも,相対的効力案はその後の法律関係が複雑になり過ぎるのではないかというふうな懸念もございます。また,譲渡禁止特約の効力を制限してもらいたいというニーズは強いけれども,分かりやすくその効力が説明できるような明確さを求めるというニーズもあるということでございます。なお,銀行の預金債権等につきましては,別途の事情で譲渡禁止特約の効力を認めるべきであるという点に異論はないということでございます。   最後,14ページ目になりますが,これは余談でございますが,つい最近,日本銀行が,ABLの推進を目途に5,000億円の,これは金融機関に対する貸付枠を設けたと発表されました。冒頭に御紹介いたしましたとおり,まだまだ5,000億円には満たない融資実行額や残高であるところ,今後は日本銀行の言わばバックファイナンスによりまして,この5,000億円というものがABLにおいて展開するということが期待されるわけでございまして,その点でも,この部会の御議論が大変また重要な要素を帯びてくるものと思います。今後もABLの普及・発展,特に適切な周知徹底も含めまして,御議論が重ねられることを期待してやみません。   以上,後半の説明が駆け足となってしまったことをお許しください。どうもありがとうございました。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   ただいまの御意見に関しまして,委員,幹事等の皆様から御質問がありましたら,御自由にお出しください。 ○道垣内幹事 7ページから8ページにかけての,将来債権譲渡がなされた後に譲渡禁止特約がなされたという例の話なのですけれども,寄せられた意見の中で,大混乱を来すという意見と,担保不適格に変更された実例があるという意見とがありまして,この二つの関係が良く分からないのです。事後的に譲渡禁止特約がなされても譲渡は有効になされるという前提で,実務は現在動いているんでしょうか,それとも動いていないのでしょうか。   個人的に申しますと,債務者不特定もできるような債権譲渡登記制度の下で,新たに債務者が出てきて,その人が譲渡禁止特約を結んだときに,それが譲渡を制約しないということはあり得ないと思いますが,それは解釈論としての個人的な意見にすぎませんので,実務的には現在どういうふうに考えられているのかということについて,統一的な見解とか実務があれば,お教えいただければと思います。 ○中村参考人 御質問ありがとうございます。   ABLで対象とする売掛債権にも様々な場合がございますので,統一的な運用方針というものが現在あるわけではございません。ただ,一般的に現在の実務慣行として考えるところを申し上げますと,金融機関を中心にしたABL債権者は,実務上,例えば5%でも不安要素があれば,安全性をもってその担保を見,融資をすることに対する支障が生じるわけでございます。大混乱という言葉が実戦部隊から出てきたということは,報告者としては,将来債権の発生をかなり高い蓋然性で見込んで担保評価しているABLの事例もあるということだと解釈しております。   繰り返しますが,ここは推進部隊あるいは審査の部隊の人間たちの声だということで御理解いただきたいと思います。   その観点で,担保不適格扱いというのも,これは忖度をするに,譲渡禁止特約により譲渡担保の効力が損なわれるリスクを考慮せずに担保評価されていたものが,そのリスクが顕在化したことで担保不適格と変更されたものとも思われますが,この点は,当事者ではございませんので,あえて忖度という言葉を使わせていただきます。 ○松本委員 ありがとうございます。   ABLの定義に関わるんですけれども,②の1ページのところの三つ目の段落あたりが定義だと思いますが,ABLというのは,融資の担保として在庫や売掛債権等を取るものにすぎないというふうに,もう割り切ってしまっていいのか。それなら,単なる債権譲渡担保,あるいは動産譲渡担保を専らやっている観点からの御意見という話なのか。それとも,その下の2行目あるいは3行目,企業の事業価値の総体を見極めると,あるいは,借り手と貸し手のリレーションの強化と,私は,マインドとしてはこっちのほうが重要だと思うんですが。もしも後者のマインドのほうを強調してABLを見た場合に,ABL協会あるいはABLとして融資をする場合と,そうでない立場からの債権譲渡担保あるいは動産譲渡担保という形で融資をする場合で,今回の民法改正に対して違った意見が出てくる可能性があるのか,ないのか。   すなわち,ABLであろうがABLでなかろうが,民法改正の観点からはもう意見は同じなのですよというふうに見てもいいのかどうかというあたりを,もしあればお聴かせ願いたいんですが。 ○中村参考人 ありがとうございます。特定の大企業に対する例えば売掛債権,あるいはブランド物の在庫などを指定して,担保取得して融資をするということであれば,リレーションシップというものを勘案せずに,その物の価値だけで融資をするということがないとは言えないと思います。   ただ,それだけですと,特別に手堅い担保評価をできるわけではない在庫を製造し売掛金を得ている,そういう中小企業金融の裾野の広がりにはなり得ません。そこで,ABL協会のこの趣意書では,事業性を重視した資金調達手法の拡大を目標として掲げているところでございます。そして,集合動産や将来債権を担保として活用することは,企業の事業価値の総体を,個別資産を積み重ねた価値を上回る価値で評価できることがあると考えております。   企業が有する事業価値全体を維持保全するといった観点で,リレーションシップの重視してコベンツに基づくモニタリング等を行って,ガバナンスのチェック等を行うということでABLを位置付けておりますので,ただいま委員から御指摘いただいたとおり,単なる従来型の譲渡担保の概念に留まらず,借り手と貸し手のリレーションの強化のマインドを取り入れたところに特色があると言ってよいと思います。   融資の審査の目線がどこにあるかによって違ってくるとも思われますが,先ほど申し上げましたとおり,在庫が売れて売掛金になり,売掛金が決済されて預金になるという,そのような流れ,これをよく商流とか言われます。こうした商流というものを担保に取りつつ,それ自体を見極めていくと。したがって,その事業価値を見極める融資手法の一つであるというふうに金融庁でも定義付けられているということは御理解いただけると思いますが,ただ,その特色を民法改正の議論においてどう反映していただくべきか,という点については,ABL協会は特定の業界利益を代表する団体の性質を持っていることから,何か具体的な意見として集約されたものが現段階であるわけではございません。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○中井委員 2点だけです。   5ページのところで,中村さんと須藤さんの文献が紹介されています。基本的にABLは,期間を定めて売掛債権等を担保に取りますけれども,実質は循環型であり,ある特定の時点における在庫若しくは売掛金,これが確実に担保として回収できる対象財産としてあればよい,こういう理解でよいのかというのが1点。契約では累積型でも,実質は循環型,ある時点における在庫・売掛金が担保なのかというのが確認したいことの1点です。   2点目が,譲渡禁止特約について,資料4で,現実に特約があるために資金調達に苦労されているような実例が前半で紹介されています。今,相対的効力案というのが一つの考え方として提示されていますが,それについては,先ほどの御報告では消極的意見だったようです。資料4の最後の10のところでは複数の考え方が書かれているのですけれども,ABL協会としては,譲渡禁止特約について,こんな考え方はどうかという具体的御提案があるのでしょうか。 ○中村参考人 第1の御質問ですが,反問申し上げて大変恐縮ですが,循環型のABLで,ある特定の時点の担保取得というのは,どのようなイメージをお持ちでございましょうか。 ○中井委員 契約書は累積のようでも,ライフサイクルを担保に取っているわけですから,資産は常に動産から売掛金と回転している。それは常に並行的に存在しているわけですが,あるとき,例えば倒産手続に入ればそのとき,実行に入れば実行時,そのときにおける在庫と売掛金が確保できればいいんだと。これを前提として全体が組まれているのかと,こういう趣旨です。 ○中村参考人 そのことに関して申し上げますと,現段階で何か特段の固定的な意見,特定的な意見が集約できているわけではないんですが,ABL協会の中に設置されました法制研究会で,会社更生手続,あるいは民事再生手続において,いわゆる固定化が生ずるかどうかについて議論を展開し,現在,成果がまとまりつつあるという段階ということのみ申し上げたいと思います。   伝統的な見解のように,開始決定時点で固定化をするということになりますと,ABL債権者としては,本来は流動性を確保して融資をし,その後も流動性,したがって開始決定以後の在庫や債権にも担保の効力は及ぶと考えていても,固定化するとみなされてしまうと,担保権の実行をその開始決定時点で強いられるものであるという懸念もございます。そういう問題意識からしますと,先生の御質問に関しては,ある特定の時期で「固定化」はしないという方向感の議論が進められているところでございますが,現在,研究者の検討を待っているというところでございます。 ○中井委員 言葉が足らずですみません。どこかのある時点における資産の価値を評価しているのではないかという質問です。 ○中村参考人 実務的な問題ではありますが,法理論が定まっていないために融資の現場でも統一的な運用が定められない部分だと思われます。例えば,会社更生手続において更生担保権の評価額が開始決定時に存在している資産に限られるのか,それとも,担保権の効力が将来取得資産にも及ぶと解することができるのであれば,将来取得資産を予測して評価額に加えてもらうことができるのか,といった法的論点が定まっておりません。融資審査の段階では,将来的にその売掛債権が,例えば3年分というふうに取りますから,その3年間の売掛債権の額を担保価値として想定する場合もございますが,将来発生部分は更生手続に入った場合に評価額にカウントしてもらえないリスクがあるならば,金融機関としては,保守的に評価しなければならない,ということもございます。 ○鎌田部会長 一つ目はよろしいこととして,二つ目の質問のほうをお願いします。 ○中村参考人 譲渡禁止特約の相対的効力については,先ほど申し上げたとおり,要するに法律関係が複雑になりすぎるのではないか,という懸念があると。そこで,ABL協会内の研究会の都市銀行のメンバーなどの発言を聞いていると,相対的効力を信頼して担保に取得することは,不可能ではないだろうが,これを担保の評価という点で考えた場合には,金融機関としては,行内稟議における説明の難易もリスクとして考慮しなければならないので,分かりやすく,その効力が説明できるようなものであることが望ましいということでございます。   お答えになっているかどうか分かりませんが,大変恐縮でございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   残念ですけれども,時間が大分超過してしまいましたので,ABL協会からの意見聴取を終わりたいと思います。中村参考人におかれましては,御協力ありがとうございました。 ○中村参考人 どうもありがとうございました。 ○鎌田部会長 では最後に,次回の議事日程等について,事務当局に説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回会議の日程は,来週6月28日,火曜日,午後1時から午後5時半までを予定しております。場所は本日と同じ法務省20階,第1会議室です。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 その他は特にないですね。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日は御熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。 -了-