法制審議会民法(債権関係)部会 第29回会議 議事録 第1 日 時  平成23年6月28日(火)自 午後1時00分                      至 午後5時34分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会,第29回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 お手元の資料について確認させていただきます。   まず,本日もヒアリングを行いますが,そのヒアリング先の各団体から意見書その他の資料が提出されておりますので,それをお配りしております。   また,本日は,事務当局において行いましたヒアリング関係の資料もお配りしております。これについては,本日の会議の最後に御紹介しようと思います。   このほか,資料番号5-4と7-2という参考資料をお配りしております。これは,実態調査の結果報告に関するものでございます。これにつきましても,本日の会議の最後に御紹介しようと考えております。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議に入ります。   本日は,日本損害保険協会,日本賃貸住宅管理協会,日本弁護士連合会(消費者問題対策委員会)からの御意見をちょうだいする予定です。   本日の具体的な進行については,事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 本日は,ただいま部会長から紹介がありました順番に,各団体からヒアリングを行うことを予定しております。各団体からの報告は20分,その後に質疑応答を10分間ということでお願いをしてあります。   もっとも,日本弁護士連合会(消費者問題対策委員会)については,説明と質疑応答で合計3時間を予定しております。ここまで部会でのヒアリングについては各団体を,形式的に一律に同じ扱いにするということで進めてまいりましたけれども,日弁連(消費者問題対策委員会)からは,多岐にわたる報告を時間をかけて行いたいという御要望がありました。他方,これまでの部会でのヒアリングを全体として見てみますと,事業者団体からのヒアリングがトータルの時間としては圧倒的に多くなっております。そこで,全体的なバランス,実質的なバランスということも考えて,日弁連(消費者問題対策委員会)の御要望に沿った取扱いをすることにいたしました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま事務当局から説明のありましたように,日本損害保険協会からの意見聴取を行います。参考人の水野俊裕さん,よろしくお願いいたします。 ○水野参考人 よろしくお願いいたします。日本損害保険協会企画部会法制PTのリーダーを務めております水野でございます。   本日は,このようなヒアリングの機会を頂きまして,誠にありがとうございます。   今月,パブリックコメントに付されました債権法改正に関わる中間論点整理につきましては,弊協会におきましても内容を検証しながら意見提出の準備を進めているところでございます。今次の改正においては,債権法改正に関わる規律の全面改定が予定されており,論点も幅広く多岐にわたっております。損害保険業界との関係においては,約款に関わる規制を初めとして,実務への影響が想定される項目が多々ございます。   本日は,このうち,特に当業界の実務との関連が大きい課題の一つであります中間利息控除につきまして,実務への影響,検討の在り方への意見等につき御説明させていただき,今後の検討に当たっての御参考にしていただけましたらと考えております。   それでは,レジュメに沿いまして御説明をさせていただきます。   まず,表紙をめくって1ページ目を御覧ください。   まず,本件に関わる課題の提起につきまして,委員の皆様には御案内のところかと思われますが,債権法改正の検討において,民法第404条に定める法定利率について,変動利率制の採用が検討されております。これに伴い,中間利息控除に係る利率,すなわち将来期間に係る損害賠償額の算定において,将来期間分の運用益を控除する利率につきまして,現行は法定利率によることとされていますが,法定利率の変動方式の採用の検討と併せて,立法的な見直しの当否について検討を行うことが提起されております。   次に,2ページ目のほうを御覧ください。   中間利息控除に関わる実務としまして,まず,損害保険会社で中間利息控除を行うことにより損害額を算定し,保険金をお支払いしている保険商品を挙げております。   下の段の表を御覧ください。主だった商品分野としまして,賠償責任保険に属するものと傷害保険に属するものがございます。担保している保険としまして,賠償責任保険では,自動車損害賠償責任保険,いわゆる自賠責保険,対人賠償責任保険等,傷害保険では人身傷害補償保険がございます。自賠責保険は,自動車事故の被害者の方に対する賠償責任を補償するための保険で,自動車損害賠償保障法により契約が義務付けられている,いわゆる強制保険になります。対人賠償保険は,自賠責保険と同様に,自動車事故の被害者の方に対する賠償責任を補償するための保険ですが,自賠責保険の保険金額に限度があることから,それを超えた部分を補償するための保険で,任意に付保いただく保険でございます。人身傷害補償保険は,御契約の自動車の運転者の方が自損事故で死傷された場合のように,御自身の損害を補償するための保険で,やはり任意に付保いただく保険でございます。   これらの保険商品の取扱規模としまして,参考値ということではございますが,2009年度の保険金の支払実績につきまして,自賠責保険では約110万件,8,000億円の支払,対人賠償保険は46万件,4,050億円の御支払を行っておりまして,相当に大きな規模の取扱いであるということが御実感いただけるかと思われます。   これらの支払保険金のうち,中間利息控除との関連では,死亡・後遺障害事案に係るものが対象となります。   続いて,3ページを御覧ください。今し方,死亡・後遺障害の事案が対象となることを申し上げましたが,実際にどのように中間利息控除が行われるのか,損害額の算定項目,算定方法につきまして御案内をしております。   下の段のほうになりますが,死亡事案における損害額算定の例を紹介しております。死亡事案の場合の損害額の項目としまして,葬儀費,被害者の方が将来期間に得られた収入に相当する逸失利益,被害者本人や御親族への慰謝料といった項目がございます。   このうち,逸失利益につきまして,事故前の年収入額から被害者御本人分の生活費相当分を控除したものに被害者の死亡時の年齢からの就労可能年数分を乗じたもの,こちらが損害額ということになりますが,将来分の損害を現時点で一括で支払うに当たりまして,将来分の運用益を控除しております。具体的には,これまでの損害賠償事例に係る判例並びに裁判所の運用を参考に,5%の複利計算による利息控除を行っております。   次に,4ページのほうを御覧ください。   今般提起されているポイントとしまして,法定利率が変動方式となった場合に,従来から法定利率を採用している中間利息控除も,連動して変動方式となるのかどうかという点があるかと認識をしております。本ページでは,仮に中間利息控除に係る利率が変動方式となった場合に,実務面で想定される影響を列挙しております。   まず一つ目としまして,控除の基準となる利率が変動することによる支払保険金への影響がございます。一例としまして,モデル例で,中間利息控除の割合を現行の5%を3%ないし1%とした場合の支払保険金の差額,変動率を示しております。利率の低下により支払保険金が上昇した場合,最終的には保険料の値上げとなって,保険契約者の方に御負担をお掛けするというようなこととなります。   二つ目としまして,実際に保険金の算出,支払を行う損害調査の実務への影響が考えられます。現在は一律5%の利息控除を行っておりますが,頻繁に利率が変更されますと,システム手当て等が必要となって,運営コストが上昇することが懸念されます。また,利率の適用基準日につきまして,こちらが事故日となった場合ですが,利率の変更前後の事故で事故日が不明の場合,どちらの利率を適用するのかといったような問題が出てくることが想定されます。   三つ目としまして,保険商品への影響ということで,人身傷害補償保険のように保険約款で保険金の計算方法を明記している保険商品におきまして,中間利息控除の割合を約款で明記しておりますが,利率の変更があった場合に,逐次,商品改定を要するのかといったような問題を検討する必要が出てくるかと考えております。   続きまして,5ページを御覧ください。中間利息控除に係る利率の検討の在り方につきまして,弊業界としまして,2点,意見を申し上げたいと思います。   まず1点目としまして,将来期間に相当する損害である逸失利益の算定にあっては,算定の基礎となる項目のそれぞれにおいて,一定の仮定に基づくみなしが掛かっており,中間利息控除もその一つのパーツにすぎないということであります。死亡事案が顕著な例でございますが,被害者の方はお亡くなりになっておりまして,将来の見込みが分からない以上,一定の仮定によらざるを得ないということであります。   下の段の図で,逸失利益の算定に係るそれぞれの項目について,仮定と実際のギャップについてコメントをしております。例えば上から三つ目の就労可能年数につきまして,被害者の方が就労期間中にわたって就労されることを仮定しておりますが,実際に生きていらっしゃった場合に,失業されるというようなこともあり得るわけです。   また,就労可能年数と連動して,中間利息控除についても,就労可能期間中5%で運用されることを想定しておりますが,実際に運用した結果として,5%とずれるということも通常であります。   このように,諸要素に関わった仮定の積み重ねとして,損害賠償額の算定という全体像となっておりまして,この中で中間利息控除のみを切り出して検討・修正を行うということが,かえって全体のバランスを崩してしまうのではないかというようなことを懸念しております。   領域論の話を当方からコメントするのはいささか大上段に過ぎるかもしれませんが,本件検討においては損害賠償額の算定の問題であり,本来的には不法行為の領域で検討されるべきではないかというふうに考えております。   次に,6ページを御覧ください。もう1点,法定利率との関係について意見申し上げます。   御案内のとおり,中間利息控除に係る利率は平成17年の判例により法定利率によることとされておりますが,法定利率と中間利息控除に係る利率は性質等において異なるものであり,法定利率が変動方式になったとしても,中間利息控除に係る利率はこれに連動するものではなく,個別に検討されるべきではないかということであります。   下の段で,法定利率が本来適用される利息債権に係る利率と,中間利息控除に係る利率を比較した表を掲載しております。どちらも法定利率をよりどころとしている点については同様ですが,両者で異なるのは,利息債権に係る利率が過去の期間に対応しているのに対して,中間利息控除に係る利率は将来期間に対応しております。この結果として,利息債権に係る利率は損害認定時には妥当な利率が検証可能であるのに対して,中間利息控除に係る利率の場合は,損害認定時には検証不能であり,実際に期間が終わった後にならないと妥当な利率が判明しないということがございます。   この点について,補足としまして,9ページのほうになりますけれども,国債利回りの推移の表を掲載しておりますので,そちらのほうを御覧いただきたくお願いいたします。例えば中段のところになりますけれども,平成3年から平成12年までの10年間の期間別の国債の利回りを掲載しております。平成3年時点での1年国債の金利は5.031%でございますが,その後10年間の推移としまして,平成7年以降,1%未満の低金利の状況が継続しております。一方で,平成3年時点では5%程度での運用が可能であったところ,その後の10年間の金利状況を予測し,修正することが可能であったかといえば,実際には困難であったのではないかとも思われます。   このような特性も踏まえつつ,現に損害賠償実務が継続していることを鑑みますと,中間利息控除に係る利率については,まずもって被害者間の公平性,損害の予測可能性といった観点から,安定的な運用とされることが望ましいと考えます。   最後,7ページのほうを御覧いただきたく,お願いいたします。当方意見をまとめたものです。   まず一つ目といたしまして,検討の在り方につきまして,中間利息控除の利率の問題は損害賠償額全体の問題であり,本来的には不法行為の領域で検討されるべきではないかというふうに考えます。   二つ目としまして,法定利率との関係について,中間利息控除に係る利率は,本来適用が予定される利息債権に係る法定利率とは性質が異なるもので,法定利率が変動方式となっても,中間利息控除に係る利率がこれに連動するものではなく,被害者間の公平性,損害の予測可能性という観点からは,安定的な運用とされることが望ましいということでございます。安定的な運用という点につきましては,これまで御説明させていただきましたとおり,中間利息控除に係る利率が変動方式となった場合に,支払保険金を初めとした実務への影響が大きく,また,国の強制保険である自賠責保険への影響も想定されるところでございます。また,中間利息控除に係る利率の設定については,将来の金利情勢を把握しながら,妥当な金利を設定することが困難であるということもございます。このようなことより,不法行為の領域での整理がなされるまでの間,当面は現行実務,すなわち5%控除が維持されるべきではないかと考えます。   弊会のプレゼンは以上でございます。御清聴ありがとうございました。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   ただいまの御意見に関して,委員,幹事の皆様から御質問がありましたら,御自由に御発言ください。 ○佐成委員 4ページの「中間利息控除に関する実務」のところで,冒頭の囲みの中には「システムコスト等の上昇」というふうに書かれていますけれども,「損害調査実務への影響」のところでは,「システム手当てを要することによる運営コストの上昇」と書かれていまして,現行のシステムを変更するためのコストは発生するのかどうかを確認させてください。 ○水野参考人 現行は一律,中間利息控除については一律5%ということでございますので,実際に個別の案件があるごとに,手計算といいますか,個別に計算をしているというようなのが実際の実務でございますけれども,実際に変動するサイクルがどうかというところもございますけれども,変動するということになりますと,間違いがないように保険金を,適用時期も含めて確認するために,一定機械的な手当てをしなければならないだろうということを想定しておりまして,ここは運営のされ方とも連動しますが,相当頻繁に変わるというようなことがもしあるのだとすると,一定そういった手当てもしていかなければならないだろうということを想定しております。 ○佐成委員 イニシャルでは特にコストは発生しないという理解でよろしいでしょうか。変動制を入れた当初に何か大幅に変更するとか,そのような必要性はないということでよろしいでしょうか。 ○水野参考人 変動する…… ○佐成委員 要するに,ランニングとしてコストが発生するという理解でよろしいでしょうか。 ○水野参考人 そうですね,はい。 ○佐成委員 ありがとうございました。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○大村幹事 今の実務の影響ということとの関連ですけれども,変動制を導入するということで,それを基礎に中間利息の控除をするということを想定した場合の問題点を指摘されたと思いますが,問題点の中には,変動制に伴う問題と,それから,金利が下げることに伴う問題があるかと思いますけれども,仮に変動制を導入しないで,現在の中間利息の利率が高過ぎるから下げるということになったときに,それにもかかわらず,損害賠償についてはなお5%で計算すべきであるという積極的な理由は何かあるのでしょうか。 ○水野参考人 5%を維持するということにつきまして積極的な理由というのは,正直,ございません。最後のところで御説明しましたように,変動すると仮にした場合に,どのような形で今の5%を修正していくかというようなことを考えましたときに,いわゆる将来期間分に相当するものを是正していくというところが今回のポイントとしますと,なかなかそこは,在りようというのは難しいのではないかと考えているところでございまして,仮に妥当な利率がこうだというようなところのものがあれば,そういった修正をしていくことはあり得るかと思いますが,将来的なものを今引き直しているというところにおいて,妥当なものを置いていくというのは,なかなか難しいということではないかと感じているところでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中井委員 保険商品の中身について,確認したいのですけれども,損害保険の保険期間は,一番多いのは何年ぐらいで,最長は何年ぐらい。一番短いのであれば,例えば1年とか数か月なのか,保険期間について概数を教えていただけないでしょうか。 ○水野参考人 まず,今日御紹介しました保険で言いますと,自賠責保険につきましては,いわゆる車検期間との連動ということで,その車検期間を満たすような保険期間をということでございますので,3年ないし2年というような期間のものが多く,手元にデータがございませんが,基本的には2年ないし3年のものが多いという認識になろうかと思います。   任意の自動車保険,今日御紹介している件で言いますと,対人賠償保険ないし人身傷害補償保険というところは,任意の自動車保険になりますが,こちらもデータは正確なものがございませんけれども,期間としては1年更新のものが多く,毎年保険の割引率も無事故の期間によって変わりますので,期間としては1年の期間のものが多いと思います。 ○中井委員 質問した趣旨は,利率が変動すれば損害賠償額が5%,3%,1%と例示されているように大きく変動する。当然,支払額が異なれば保険料の額も変えないと,恐らく採算がとれない。最長でも2年ないし3年だとすれば,一定の予測可能性の範囲内で保険料を定めることは,一応実務的には可能とお聴きしてよろしいのでしょうか。それとも,かなり難しい問題が発生するのでしょうか。 ○水野参考人 料率については結果的に,その改定により,支払保険金が上昇するということの結果,検証をもって料率改定を行っていくというような流れになろうかと思いますが,明らかに見えている部分があれば,それを織り込むかというようなところもあるかと思います。基本的には,結果を受けて支払保険金の総体が上昇することをもって,次期の料率改定を行っていくというような対応ということになろうかと思います。 ○潮見幹事 確認のための質問と,あと,ちょっと補足をお願いしたいところの質問がございます。   確認ですが,7ページのところにもありますように,利息債権で問題になる利息率と,中間利息控除による利息率は違うという認識ですね。御発言になっているところを伺っていると,過去の,それが3年であれ,5年であれ,10年であれ,20年であれ,過去の何年間かの利率の平均をもって今後将来の利率というものを推測する,あるいは予測するということには根拠がないという御主張も,この法定利率との関係の中での御主張の中に入っていると理解してよろしいですか。 ○水野参考人 基本方針で,そのような考えを示されていることは承知をしており,それ自体を否定するということではございません。一方で将来期間分の金利動向を見越して妥当な利率を一定修正していくという視点に立った際に,その手法として,過去の平均値を取ることをもって妥当な利率になっているかどうかということになるかというと,そこは妥当な手法なのかという疑問を持っているところはございます。ただ代案として,こういうあるべきもの,将来期間分のものを,今妥当なものを置くというところで,なかなかいい答えが見いだせていないというところが正直なところでございます。 ○潮見幹事 どこかに妥当だという,その基準があるわけですよね,そちらの協会のほうには。 ○水野参考人 そうですね,そこは5%のものを何%かというものまで,正直,現時点,持ち合わせているというところではございません。ただ…… ○潮見幹事 それは,大村幹事に対する先ほどのお答えと同じ意味ですよね。なぜ5%なのでしょうか。 ○水野参考人 5%を維持すべきというところについては,現時点,適用されているところをスタート地点として,代案がないというところと,あと,不法行為の領域で一定,全体を検討されるんだとすると,当面,現行の5%が維持されてもよいのではないかという主張でございます。 ○潮見幹事 分かりました。   1点,確認ですが,中間利息の控除の利率を固定すべきであるということの積極的な理由を伺っていると,法的安定性の確保ということがいろいろ出ておるようですけれども,7ページに書いておられる被害者間の公平性,損害の予測可能性というのは,具体的にこれは何を指しているのでしょうか。   被害者間の公平性とか損害の予測可能性というのは,こういう理解でいいんでしょうか。つまり,保険に加入する場合,保険契約を結ぶ場合,契約を結ぶのにはいろいろな時期があるけれども,実際に保険金が支払われるのは事故が発生したときである。その事故が発生したときの利率というものが適用されるところ,現在の固定利率であれば,どこで事故が発生しようが,その顧客の間に違いはない。ところが,仮に,事故時の利率を適用するということになれば,ここからがちょっと分からないので教えていただきたいんですが,保険契約を結んだときには当然ある前提で保険料というものを決めなければいけないから,そこで,どのぐらいの利率というものが妥当するのかということを想定した上で保険料というものが決めていかなければならない。ただ,それと事故発生時の利率が変わってしまう。同じ時期に契約をした人の間でも,実際に受け取る金額が変わってしまうということになって公平に欠けるということなのでしょうか。あるいは,損害の予測可能性という観点も同じような趣旨で理解したらいいのでしょうか。それとも,またそれとは違う意味で,ここの被害者間の公平性だとか損害の予測可能性というのはお考えになっておられるのでしょうか。それをちょっとお教えいただければと思います。 ○水野参考人 被害者間の公平性ということにつきましては,念頭としては,賠償責任保険を念頭に置いております。賠償責任保険は相手の方,被害者の方への賠償責任を担保する保険ということになりますので,個別に賠償額を認定していくというようなことになっていくかと思われますけれども,先ほど,事故日ベースということになった場合に,同じような損害,被害に遭われた方に対する損害賠償責任であっても,適用時期によって,たまたまある日,5%だったのが3%になるというようなことで,ちょうど変更前後で同じような被害にもかかわらず賠償額が変わってしまうというようなことがあるだろうと。そこは,余りに変動があると,その前後での公平性という観点があるのではないかというところでございます。   補足で言いますと,人身傷害補償保険,先に約款で支払基準を決めているような保険につきましては,契約時に約款で中間利息控除の割合を明記,具体的に,こういうふうに控除しますという係数を明記しており,それに従って御支払するということではございますので,直接的には公平性ということ,見合った保険料を頂いたところで契約は成立するということではないかと思います。ここの被害者間の公平性については,いわゆる賠償事故の被害者の方に対する賠償額は,利率によって大きく変わるということについての問題点といいましょうか,観点ということで挙げさせていただいております。   損害の予測可能性というところは,そこと関連するところになりますが,加害者側,被害者側という観点もあるかもしれませんが,大きく頻繁に変動が起こると,どういったものが自身の損害になるのかが見えにくくなってくるという観点で,一定連動しているということもございます。   特に被害者間の公平性というところについては,賠償事故の被害者の方というところで,賠償ということを念頭に置いているというところでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○松本委員 ちょっとお教えいただきたいんですが,死亡事故であれば死亡事故日に将来利益を全て計算した上で,そこで,その当時の中間利息で控除して現在価値を決めると。しかし,実際争いがあって,支払われるまでに二,三年かかったとすると,その分は遅延利息が付くということですが,その中間利息も5%,遅延利息も5%ということで,今やっておられるわけですか。つまり,そこの部分,差し引きは同じ利息でやっているということですか。 ○水野参考人 現在の実務と……。 ○松本委員 現在の実務で。 ○水野参考人 現在の実務は5%で行っております。 ○松本委員 そうしますと,将来その二つを分けるべきだというのが今の御主張だったわけで,中間利息控除の利率に関しては,フィクションなんだから,5%なら5%で,固定しましょうと。しかし,支払遅れ,つまり事故日以降,自動的に遅延利息が付くという今の判例実務からいくと,そこの部分は変動利率で1%になるかもしれないと。それはそれでいいではないかということですか。 ○水野参考人 積極的にそのようにすべきだということではございませんけれども,現行,今日御意見申し上げたというところの結果として,泣き別れといいますか,というようなことは想定をしているところでございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,時間もほぼ予定の時刻となりましたので,日本損害保険協会からの意見聴取を終わりたいと思います。水野参考人におかれましては,御協力ありがとうございました。   続きまして,日本賃貸住宅管理協会から意見聴取を行いたいと存じます。日本賃貸住宅管理協会の土岐勝哉さん,よろしくお願いいたします。 ○土岐参考人 皆さん,こんにちは。日本賃貸住宅管理協会の土岐と申します。   今日は,このような意見を申し上げる場を頂きまして,ありがとうございます。   まず,私ども日本賃貸住宅管理協会の概要につきましては,お渡ししておりますレジュメの表紙の一番最後のところに大体の概要を書かせていただいております。会員数が1,200社で,会員の管理戸数が400万戸。平成13年度に設立いたしました財団法人でございます。   それと,現在の日本の賃貸管理の業界の概要のほうを表紙の上段のほうに書いております。特に下線の部分のところにつきまして御説明させていただきます。全体の住宅ストックのうち,賃貸住宅は約1,700万戸以上,そのうち1,300万戸が民間の所有する賃貸住宅です。また,その80%以上が個人の所有する賃貸住宅で,居住年数,大体平均4年で,年間に約300万件の賃貸借の契約件数となっております。また,これだけの契約を取り扱う事業者も膨大で,業界全体で40万の事業所,そのうち99%が従業員9人以下の,またオーナーの経営規模については保有戸数2戸未満のオーナーが全体の57%。90%以上が50代以上のオーナーさんということでございます。また,全国1戸当たりの最新の平均賃料は5万6,000円というようなデータでございます。この前提でお話を聴いていただければ幸いでございます。   その下の部分につきましては,後ほど御覧いただければというふうに考えております。   それでは2ページ目,御覧いただきたいと思います。今回,特に賃貸借に関わるところについて,民間の住宅の賃貸借に関わるところについて,いろいろ検討しましたところ,今回20分という時間もございますので,この4点について意見を述べさせていただくということにいたしました。具体的内容は後ほど述べさせていただきます。   3ページ目につきましては,先ほどの賃貸借の業界の概況データということでございますが,一部ちょっと間違いがございますので,御修正のほうを頂きたいと思います。   2番の賃貸住宅の経営規模というところで,円グラフの114世帯と書いておりますが,これ,114万世帯の間違いでございます。これは,114万というのはオーナーの数ということで御理解いただきたいと思います。同じように,その隣も114万世帯ということで,この2点について御修正のほうを頂きたいと思います。   それでは,4点のうちの1点目から,意見のほうをさせていただきたいと思います。   まず,4ページのほうを御覧いただきたいと思います。「意見1‥3.賃貸借と第三者の関係 (4) 敷金返還債務の承継」でございます。主に太字と,それから下線部についての御説明をさせていただきたいと思います。   まず,最初のところの太字で下線のところでございますが,「また,これによって賃借人の同意なく敷金返還債務が新所有者に承継される場合には,賃借人の利益を保護する観点から,旧所有者もその履行を担保する義務を負うものとすることの当否については,旧所有者の地位を不安定にし賃貸不動産の流通を阻害するおそれがある等の指摘があることを踏まえ,更に検討してはどうか。」ということでございます。   以下,まず1番の総括意見の下線の部分でございますが,この敷金返還債務の新旧賃貸人での併存は,多数・複雑な敷金の精算業務を生じさせること,賃貸人が永久に簿外債務を抱えることになり,それを嫌った物件流通の停滞,それから阻害を予想させる。   また,「(1) 旧所有者が敷金返還債務を負うことのリスク」につきましては,②の,このことは,旧物件の簿外債務を抱え続けることを意味し,「賃貸物件の保有=リスク要因」となる。事業系賃貸人は,金融機関の審査においてリスク要因として判断される懸念があり,結果として賃貸人の不動産事業意欲を低下させてしまう可能性があると。   また,「(3) 総合的にみて」というところでございますが,旧賃貸人が敷金返還義務を負うということは新賃貸人の連帯保証をしていることと同義であり,取り分け零細事業者・個人オーナーが中心を占める賃貸住宅市場において,大きな混乱を引き起こす可能性があるということでございます。   また,5ページ目の,「2.改正における影響予測と現在の不動産実務」の(2)のところでございますが,③,資金難などの事情を抱える賃貸人が物件の売却を望んでも,簿外債務への抵抗感から買い手が見つからず,賃貸人の破綻が加速するおそれがある。その結果,賃借人の敷金の回収可能性が低くなることが予想されるということで,実は新しいオーナー様のほうが資金的には余裕のある方が多いので,新しいオーナーさんに移るほうが賃借人の敷金の回収の可能性はむしろ高くなると。移動しないことによって,むしろ回収の可能性が低くなることが予想されるということでございます。   また「(3) 不動産取引の一般的な取り扱い」の②でございますが,中間点論点の「賃借人に同意なく」という部分に関しましては,賃借人が全く知らない賃貸人に賃料を支払うということは考えにくいと。買主は必ず通知を行うというのが不動産の実務対応でございます。いうことで,Bが知らないうちにCに移るということは,Cのほうが新たに賃料を払ってもらうという手続をしないということになりますので,そういうことは現実には余りないというようなことであります。   以上から,結論といたしまして,前段の明文化そのものは問題ないと考えるが,後段の敷金返還債務の履行の担保を旧所有者に求めることは反対であり,全体として明文化には反対するということでございます。   理由のポイントとしましては4点。   1番,新旧両方の賃貸人に敷金返還債務が併存することにより,精算業務の混乱や永久的な簿外債務を抱えることにより,賃貸事業リスクが拡大する。   1により,今後,賃貸物件の流通,新規参入業者の減少を招く。   1,2により賃貸業界への投資が減少することで,既存物権の質的低下や新規物件の供給が減少すると。   結果として,賃貸住宅の住環境が低下し,賃借人の利益には直接つながらないということで,この点につきましては明文化に反対したいと考えております。   続きまして2点目でございます。6ページのほうを御覧いただきたいと思います。「4.賃貸人の義務 (2) 賃貸物の修繕に関する賃借人の権利」でございます。   これも下線の部分を読ませていただきます。「これを踏まえて,賃借人が自ら必要な修繕をする権限があることを明文化することの当否について,賃貸人への事前の通知の要否など具体的な要件に関する問題を含めて,更に検討してはどうか。」ということでございます。   こちらについても,7ページの下線の部分でございますが,「改正による影響予測と現在の不動産実務」の「(2) 修繕しても機能回復できないケース」ということで,例えば雨漏りなどの場合は原因の特定が極めて難しい。屋根全体を葺き替えるべきか,部分でよいか,また,葺き替えても,実は屋根ではなくてサッシの部分から入っていたとか,いろいろ原因箇所が違うケースも予想される。   また(3)の①,例えば物件が老朽化し,シロアリの被害が進んでいる場合,賃貸人は部分的修繕よりも建て替えなどを検討している場合もあるというようなこともありまして,また「(4) 不動産取引の一般的取り扱い」の②でございますが,修繕といっても,例えば壁の工事ですと,短時間で済むものから,隣人のあるいは1棟全体の許可を要するものまで,多岐にわたると。これらの各部位の修繕に関しては,一定の要件を設けることは現実的でないというふうに考えるということでございます。   以上をもって,結論といたしましては,「必要な修繕」という表現は曖昧であり,その特定も事実上不可能であると判断し,明文化には反対いたします。   理由のポイントとしましては3点。   1番,賃借人による修繕は賃貸人の資産に手を加えることを意味している。賃借人の権利をはき違えることが助長され,新たな混乱を生じさせてはならない。どんな修理をしても構わないという勘違いを生じさせると。   2番,「必要な修繕」の判断は,誰が行うのか,どう決めるのかが明示されなければならないが,そのことも含め,「必要な修繕」を特定することは事実上不可能であると考える。賃借人は,必要性の妥当な判断ができるだけの専門的知識や,的確な現状把握力を常に持っているとは考えにくい。賃貸人の建物の維持管理や経営の方針なども必要性の判断材料とされるべきであり,賃借人だけが必要性を判断するのであれば混乱は必至である。   つまり,3,「必要な修繕」を合理的に決めることができない限り,賃借人が自ら必要な修繕を行うことは不可能であり,曖昧な表現のままで明文化することにより,賃借人,賃貸人,双方が大きな混乱に巻き込まれることにつながる。したがって,この明文化には反対であるということでございます。   続きまして8ページ,意見の3でございます。「5.賃借人の義務 (2) 目的物の一部が利用できない場合の賃料の減額等」。   「使用収益の対価である賃料は,使用収益の可能性がなければ発生しないものとすべきであるという理解に立って,目的物の一部が利用できなくなった場合には,その理由を問わず(賃借人に帰責事由がある場合も含めて),賃料が当然に減額されるものとすべきであるとの考え方がある。この考え方の当否について,目的物の一部が利用できなくなった事情によって区別する必要性の有無や,危険負担制度の見直し(中略)との関係に留意しつつ,更に検討してはどうか。」ということでございます。   こちらにつきましても,8ページの総括意見の3点目,取り分け「賃借人に帰責事由がある場合も含めて」の部分を強調することは,賃借人の誤解を助長する,あるいは悪意の賃借人の出現を助長するなどの事態を懸念する。   「(1) 現状の商習慣における信頼関係」の②,しかし,帰責事由がありながら賃料が減額されるという表現によって,賃借人のモラル低下を招くおそれがある。   続きまして9ページの,「改正による影響予測と現在の不動産実務」の「(2) 現段階での対応」の②,現行法の運用で問題がなかったものが,今後は賃借人への損害賠償請求で対応することになろうが,損害賠償に発展することは一般的な市民感覚で避けたいものということでございます。一般的には,ほぼ火災保険等でこういうことは処理されながら,家賃もそのまま払ってもらうということで済んでおりますが,そのたびに賃貸人のほうから損害賠償だと,ではその分は,家賃は幾らだということを決めていかないといけないということで,③でありますように,このことによる一般的な賃借人,賃貸人にとっての時間的・金銭的負担は大きいと考えるということで,コストの掛かるものについては,それをまた家賃以上に,損害賠償としてのコストを付加していかないといけないということなので,この負担は双方ともに大きいというふうに考えております。   結論といたしまして,「その理由を問わず(賃借人に帰責事由がある場合も含めて),賃料が当然に減額される」という表現は,商習慣上の信頼関係を損ね,無用なコストを発生させるために反対する。   理由のポイントとしましては,1,このことの明文化,特に括弧付きでの強調は,賃借人に誤解を与える可能性が極めて高く,賃借人のモラル低下や悪意の賃借人の出現を助長することは避けられない。   2,賃借人に帰責事由がある場合でも賃料が請求できなくなることは,賃貸人の資産が毀損している以上,賃貸人を一方的に不利な立場に置くことになり,著しい不公平を生じさせてしまう。   3,現行法では,賃借人の過失によらない場合に賃料減額を認めており,この考え方で何らの問題も生じていない。仮に賃借人に相応の過失があった場合でも,損害賠償相当の賃料として双方納得の上,処理されている。   4,賃借人に帰責がある場合,最終的には損害賠償という処理になるであろうが,一般の市民感覚では,賃貸住宅の家賃という比較的少額な争いで損害賠償請求されることには抵抗感があるのではないか。同時に,損害賠償請求を起こすことの時間的・金銭的負担は,賃貸人,賃借人にとっても大き過ぎるということで,この表現については反対をしたいということでございます。   続きまして最後,4点目,10ページのほうを御覧いただきたいと思います。「7.賃貸借の終了 (2) 賃貸借終了後の原状回復」。   「賃借人の原状回復義務の規定を整備する方向で,更に検討してはどうか。その際には,賃借物に附属させた物がある場合と賃借物が損傷した場合の区別に留意し,後者(中略)に関しては原状回復の範囲に通常損耗の部分が含まれないことを条文上明記することの当否について,更に検討してはどうか。」,「これを条文上明記する場合には,賃貸人が事業者であり賃借人が消費者であるときはこれに反する特約を無効とすべきであるとの考え方が併せて示されている(中略)が,このような考え方の当否についても,更に検討してはどうか。」という点でございます。   こちらにつきましても,10ページの1の(1)の③,大手,資金力のある事業系の賃貸人と個人で資金力の脆弱な賃貸人が同時に存在し,圧倒的契約はこれら小規模の賃貸人が市場取引を支えていることを踏まえた上で,多様な工夫や自由な競争を保証する視点から,検討が必要だと考えます。   また,「(2) 一律でない通常損耗」。賃借人の物件の使い方,また家族数や暮らし方の違いによる原状回復費及び通常損耗費も一律ではないと。大きい部屋でも一人で住んでいる場合,あるいは大家族で住んでいる場合,きれい好きの方,ちょっと掃除は余りされない方,いろいろいらっしゃると思いますので,そういうことにおいて,通常損耗という概念が一律ではないということでございます。   それから11ページの,改正による影響予測と現在の不動産実務ということで,2の(2)の④,このことで,物件をきれいに扱う賃借人,粗雑に扱う賃借人にも一律の費用負担をすることになるが,結果として,きれいに扱う賃借人が費用負担になって不公平になるということでございます。   以上から,結論といたしましては,物件に応じた契約内容の設定など多様な工夫を一律の条件で縛ることとなる,この強行規定の導入には反対をするということでございます。   理由としましては,1番,例えば,過疎地の一軒家を賃貸するために行われている工夫,例えば低家賃と引換えの通常損耗費の賃借人の負担などができなくなり,地域ニーズへの多種多様な対応が困難になるということでございます。今回の震災でも,少し空いている離れを被災の方に低家賃で提供する,できるだけ低家賃で提供するというようなことが行われておりますが,こういう強行規定が入ってしまうと,そういうことに対してのリスクも出てきてしまうということもございますので,こういうことができなくなってしまうということが過疎地が一層過疎につながってくるということも,なってくるということではないかということでございます。   また,通常損耗の取扱いには,物件によって一様ではないし,同じ物件でも,賃借人の家族構成・暮らし方によって,通常損耗費の発生の仕方は異なるのが実情である。   3,そのことを全て一律で規制することは,最終的に家賃に転嫁することでの解決を導き,結果,きれいに長く住む人が損をすることになるなど,不公平を生じさせてしまう。   以上により,4番,契約自由の原則を否定することとなる強行規定の導入には反対するということでございます。10ページの1の(1)の②で書いてありますとおり,現状,国交省のガイドラインでありましたり東京ルールなどで取り組んでおりまして,こういう形での対応が極めて現実的ではないかというふうに考えております。   今回,膨大な賃貸借に関連する部分で,日管協の中でもいろいろと検討してまいりましたが,今回の時間の制約もございますので,今回についてはこの4点,特に検討していただきたい4点につきまして,本件をまとめさせていただきました。   御清聴ありがとうございました。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   ただいまの御意見に関しまして,委員,幹事等の皆様からの御質問がありましたら,御自由に御発言ください。 ○山野目幹事 簡潔に要点を絞った意見の表明を頂きまして,誠にありがとうございました。それぞれの論点についての御意見は,大変よく分かりました。   最後にお挙げになった賃貸借の終了の際の原状回復について,所感といいますか,希望が1点と,それから質問が1点ございます。   最後の論点のところについておっしゃったことの御意見自体は大変よく分かりましたけれども,現在の民法の賃貸借における原状回復関連の規定が大変簡略なものであるということは,恐らく共通の認識であると考えますから,御意見を伺っておりますと,強行規定にするという前提で,非常に硬い規律が導入されるというふうな御懸念からの意見をおっしゃっているように映りますけれども,この辺りについては今後また,どのような規定の置き方がよいか,ということについて,今日この場ではそういうことにはならないでしょうけれども,細密な意見交換をさせていただきたいということを感じました。   お尋ねが1点でございますけれども,最後にもお触れになった国土交通省のガイドライン,それから東京ルールと言われているもの,こういったものの運用の現状,あるいは評価に関しては,貴団体に参加しておられる業者の皆様方は大筋,これでの運用ということについては抵抗感がないというか,問題がないというふうに認識しておられるものであろうか,ということを,確認のため,お尋ねさせていただきたいというふうに感じます。 ○土岐参考人 山野目先生からの御質問につきまして,東京ルールと,それから国交省のガイドラインの運用について,当協会の会員が抵抗を示しているのか,ちゃんと,やはり前のままのほうがいいのではないかというようなことがないということかと思いますが,現実的には,少なくとも現場のお客様と接している,本当にフロントで働いている人間につきましては,一番はお客様との,やはりもめ事を少なくしたいというのが一番なんですね。ですので,こういう形できちっと示していただいて,その件を先に説明して,ちゃんと契約するという形の現状につきましては,ほぼ異論はないというふうに考えております。   ただ,文章での規定になりますので,起こっていることが非常に多種多様になりますので,いろいろな改善点は,事細かく言えば,少しずつはあるかと思いますが,おおむね,この点につきましては特に異論はないというふうに考えております。 ○松本委員 1点,少し趣旨が分かりにくいので,お教え願いたいんですが,5ページの真ん中,(2)の③です。「更には,資金難などの事情を抱える賃貸人が物件の売却を望んで」いるというシチュエーションですね。こういう場合に,簿外債務への抵抗感から買い手が見つからないということの意味が,ちょっと私,理解しかねておりまして,買い手側としては,保証債務は当然引き受けるというのが法律のルールだから,敷金返還債務は引き受けるということで値段を付けて買い取るわけですよね。それでも賃貸人は保証の責任がまだ潜在的に残るという簿外債務があるという,だから反対だというのは分かるんですけれども,だから買い手が当該賃貸物件を買わなくなるということがちょっと理解しかねるので,その趣旨を御説明願いたいんですが。 ○土岐参考人 今の御質問は,上の表でいきますと,Cという人が簿外債務,本来はAが簿外債務を抱えるのに,Cが簿外債務を抱えることについてのリスクを感じて買わないのはどうしてかということかと思いますが,そのような形でよろしいでしょうか。 ○松本委員 何でCが簿外債務を抱えるのかという意味が分からないんです。 ○土岐参考人 こういう収益物件の売買のケースには,例えば老朽化が進んで,投資がなかなかできなくて,それで空室になってしまうケース,あるいは利回りが悪くなってしまう,収益が悪くなってしまうケースがあります。これは,資金力のある業者であったりオーナーさんが買い取って,それを更に投資をして満室にして,それから収益力を挙げて,それを今度転売するというビジネスがございます。   今度は,Cという人がAを買って投資をして転売する際に,Dというオーナーに売ったときに,自分たちがお客さんを付けた,入居者を付けた者に対しての簿外債務を,DからE,EからFという形でどんどんされたときに,そこに対しての簿外債務が,結局,Aと同じ立場になってしまうというようなことがありまして,そういうことで,Cがそちらのリスクを感じて買わなくなってしまうと。そういう物件に対しての投資をやめてしまうということによって,Cへの物件の転売が難しくなるという考え方です。 ○鎌田部会長 恐らくそういう趣旨だろうというふうに拝読したんですけれども,ということは,逆に言うと,賃貸物件を買い取るケースの大部分は転売をするというのが現実であるというふうに理解していいですか。 ○土岐参考人 そういうわけではありませんけれども,そういうケースもあるということですよね。 ○松本委員 そうすると,転売目的で賃貸物件を購入する事業者がちゅうちょする可能性があると,そういう程度ですね。 ○土岐参考人 そういうことです。 ○松本委員 分かりました。 ○中井委員 同じ敷金返還債務の承継のところで,教えていただきたいのですが,この前段の明文化そのものは問題ないと考えると,この部分です。これは,旧所有者の下での延滞賃料債務等に充当された後の残額の敷金返還債務が承継されるというのが判例で,これを明文化しようという考え方が示されているわけです。そこで,実務の確認ですけれども,売買時点で賃借人が賃料を延滞している場合,例えば10万円延滞している,敷金が50万円入っている,こういうときに,50万円から10万円控除した残額が新所有者に承継される。確かにこういう判例はあるのですが,実務は果たしてそうやっているのでしょうか。つまり,50万円は契約上,敷金として入っている。だから,新所有者は額面上の50万円を承継して,売買の時点で未払賃料等は清算させているのではないかと思うのですが,このあたりの実務を教えていただけないでしょうか。 ○土岐参考人 ちょっと分かりにくかったんですが,まず,買う物件に滞納者がいた場合ということでしょうか。 ○中井委員 はい。 ○土岐参考人 その滞納者が家主との間で敷金を払っていて,例えば,10万円の敷金で滞納が10万あったと,あるいは滞納が20万あったという場合には,それを差し引いて売買されているのではないかということでしょうか。 ○中井委員 今の例としては,50万の敷金が入っていて,10万円の未払いがある場合,売買代金が1,000万円だとすれば,50から10引いた40,1,000万円から40万円引いた960万で決済されているのですかと,それが実務でしょうか。 ○土岐参考人 すみません,申し訳ないんですが,特にそういう,私はサブリースの会社の者ですから特に転売をメーンにしているわけではないんですが,メーカー系のサブリースなので詳しくは分かりませんけれども,幾つか当社で,実はオーナーさんから買い取ってくれということで買い取ったケースはございまして,その中でも滞納しているケースもございましたので,そのケースでいきますと,滞納部分については事前に清算をして,それで引渡しを受けるというようなことで実務はさせていただいております。   したがいまして,その滞納分をオーナーが,我々が買ったときに,旧所有者が持っていた滞納分を引き続いて債権として引き継ぐということはないですよね。多分,賃貸借の関係でいくと,オーナーチェンジでも賃料債務の譲渡はできないのではないかなと思うんですけれども,ちょっとこの辺は私も詳しくないので申し訳ないんですけれども,そういうことだと思います。 ○鎌田部会長 おおよそ時間になりましたけれども,よろしいでしょうか。   それでは,どうもありがとうございました。日本賃貸住宅管理協会からの意見聴取を終わります。土岐参考人におかれましては,御協力ありがとうございました。   では続きまして,日本弁護士連合会(消費者問題対策委員会)から意見聴取を行います。日本弁護士連合会(消費者問題対策委員会)の池本誠司さん,山本健司さん,辰巳裕規さん,よろしくお願いいたします。 ○池本参考人 早速よろしいでしょうか。御紹介いただきました池本でございます。   審議会の貴重な議論の時間の中で,しかも長時間の,発言時間を提供していただきまして感謝申し上げます。   最初にまず,説明資料の(2)を今日特に中心に利用して御説明を差し上げたいと思いますが,初めに,私たち3人の発言する立場のことを一言申し上げておきます。   日弁連,日本弁護士連合会では現在,全国の弁護士会あるいは日弁連の中の関係委員会に意見照会をして,弁護士会全体としての意見取りまとめはしております。それから,日弁連の中の各種委員会は内部の諮問機関ということですので,委員会としての意見を外部に表明するという扱いは慣例上もしておりません。したがって,一応これは日弁連の執行部に了解を得た上でのことでありますが,委員会の中の多数の意見を踏まえつつ,今日発言する3人の個人意見という形で意見表明をさせていただきたいというふうに申し上げます。   それから,今日お話しするところは,特に民法の現代化,現代の消費者と事業者を初めとする,そうした実態,社会の中の格差も含めた民法の現代化を図るという観点で,特に消費者問題に取り組む立場からの発言をさせていただけているものと理解しております。したがいまして,特に消費者被害の実態,実際に取り組む事件を通じた経験等を含めた問題提起を中心にさせていただきたいと思います。   そこで早速,まず私のほうから総論的なことを申し上げ,順次バトンタッチしていきたいと思います。   民法の中で消費者契約をどういうふうに位置付けるかということで,まず市場全体の中で,消費者の市場というものが大きな位置付けにあること。それは国内総生産の中で55%を超える割合を占めているということにも端的に表れますし,しかも,消費者の取引は単価が非常に小さいものですから,問題とする契約,取引の単位でいうと本当に膨大な数が占められているであろうと。だとすると,私法のルールである民法の中で消費者契約というものをきちんと位置付けていただきたい。   特に消費者問題は,10年の単位で見ると2倍以上の紛争が全国の消費生活センターに寄せられている。2009年度で約90万件に上る数字です。しかも,これは氷山の一角で,消費者が被害を被ったと感じたものの中で,消費生活センター等に相談をする割合というのは13.9%しかないという統計データも出ております。したがって,数百万人の単位で消費者のトラブルが発生しているというふうに理解することができると思います。   この数字は,交通事故の被害あるいは刑法犯の被害などの発生割合と比べても,大変大きな数字であるということが言えると思います。しかも,消費者被害というのは,全般に少額だということはよく言われるんですが,つぶさに見ていきますと,数百万円あるいは1,000万を超える被害の例と,数万円というごく少額のものとが入りまじっております。消費生活センターに寄せられる苦情相談の平均契約金額が150万くらいということですから,決して無視し得ない,当事者にとっては深刻な問題であるというふうに捉えることができると思います。   しかも,これも平成20年の国民生活白書の中での分析ですが,こうした消費生活センター等に寄せられる苦情相談を逆算していくと,社会の中で消費者被害に遭う経済的な損失額というものが,最大3兆4,000億,少なく見積もっても1兆8,700億であると,こういうふうな試算の数字も示されております。その意味で,消費者契約に関する問題は,我が国の私法の全体の中でも非常に大きな位置付けがあるということが確認していただけるだろうと思います。   そして,このページの最後にありますように,諸外国,先進諸国と比べても,我が国では消費者の権利を擁護されていると感じているという国民意識が非常に低いということが言えます。これは,やはり法制度の問題として,私たちは受け止める必要があるのではないかと考えております。   そこで,どういう法制度を考えていくかということですが,これは一つには,特に消費者問題の分野でいうと,行政機関が消費者被害の拡大防止・救済を図るという切り口で,例えば消費者庁が創設され,あるいは地方消費者行政を更に拡充しようと。言わば事業者を規制するという方向での取組。それから,消費者あるいは消費者団体による被害防止・救済という切り口。この中では,消費者団体訴訟制度,更には集団的被害救済制度の議論もありますが,やはり一番根本のところでは,消費者自身が被害救済できる,そういう私法の制度が必要なのではないか。また,そういうルールが確立することによって,事業者も適正な取引を行うというルールに結び付いていくだろうと思います。   ただ問題は,そういった消費者関連の民事ルールをどういう法制度の枠組みの中に置くかということで,これは三段階あり得るんだろうと思います。現にそうなっておりますが,一つは,事業者規制法の中に民事の特別規定を設けるという,例えば特定商取引法とか割賦販売法とか,様々な消費者関連の特別法がそれであります。それを横断的にくくった消費者契約法というものもあります。これは,縦割りの業種業態別ではないという意味では,非常に評価できるところであります。そして,私法の一般法である民法の中に置くという。三つの考え方があります。民法の中では,これまでは特に当事者の格差を意識した規定というものはなかった。解釈の中で受け止めていたわけですが,今後の民法の現代化ということからすれば,格差是正や社会問題の解決に使える民法ということを考えていただく必要があるのではないか。   ただ,そう言いましても,では,全てを民法の中に置けばいいのかという意味ではございません。一般私法として,現代社会に適合したルールとして,一定の範囲のものを取り込むということは必要であろうと思います。特に対等当事者間の民法から,社会の実態,格差がある--ここで言う格差は消費者と事業者だけではない,それは一つの典型で--当事者間の格差を是正するということを意識して,規定を設けていただく必要があるだろうと思います。   最終的には,民事特別法と消費者契約法と,そして民法という三つのレベルの規定を,どういうふうに有機的に組み合わせていけばよいのかという課題になっていて,このあたりから各論的な問題を,次に山本から説明させていただきます。 ○山本参考人 山本でございます。私のほうからお話をさせていただきます。   まず,中間論点整理で取り上げていただいております論点に関する消費者の観点からの全般的な意見につきましては,本日,資料として配布いただいております説明資料(1)という書面をもって陳述させていただきたいと思います。その上で本日は,説明資料(2)として配布させていただきました補足説明書記載の第2から第7の諸論点について,掘り下げたお話をさせていただきたいと思います。   まず最初に,私のほうからは,民法と消費者概念という点についてお話をさせていただきたいと思います。中間論点整理の第62の1~2というところで御照会を頂いております論点に関する意見でございます。   まず,消費者概念の導入の是非という論点について,考えないといけない問題点と,あり得る選択肢については,別紙のフローチャートのような形で整理できるのではないかということで,私ども,議論をさせていただいております。別紙添付させていただいておりますカラーの図面のほうを御覧いただけますでしょうか。   まず一つ目の問題点として,民法は格差に対応する必要があるのか否かという点に関して,一つ問われている。   ここで,民法においては格差是正に対応する必要はないというふうな意見にもし立つとすれば,そのような具体的な規定は要らないということになるのだろう。その場合,では,民法に一切消費者という表現は要らないのかということになると,一切要らないという選択肢もあれば,分かりやすい民法という観点から消費者契約法へのレファレンス規定はあってもよいのではないかという考え方もあり得るのだろうという議論をしております。   一つ目の問題点について,もし格差是正に対応する必要があるという前提に立つとすれば,次に,どういう方法で民法において格差を是正するのかを考えないといけないことになる。   その在り方としては,一つ,一番上の赤いラインのように,消費者保護規定を置くという在り方が選択肢として考えられるのだろう。その場合には,更に消費者契約法の私法実体規定との役割分担をどう考えるのかという問題が出てくる。   それに対する在り方としては,民法に一元化する考え方,いわゆる統合論というのが選択肢としてあり得るのだろう。また,違う在り方として,消費者契約法の消費者保護規定と異なる消費者保護規定が民法にあっても構わないのではないか,併存してもいいのではないかという考え方もある。   その場合,下の併存的な考え方に立つとすれば,民法固有の消費者保護規定として何を定めるのかということを,次に考えないといけない。内容としては,消費者保護に関する理念規定のみを民法に置けばいいのではないか,消費者契約に関する個別の特則規定は消費者契約法の改正で同法に充実させればいいのではないかという考え方が一つあり得るのだろう。もう一つの在り方としては,個別の特則規定を民法に置くという在り方もあり得るのだろう。もう一つの在り方としては,理念規定も個別の特則規定も設けるという在り方もあるのだろうという話をしております。   この流れの場合には,デメリット面として,消費者以外の契約弱者の保護については明文では出てこない,もちろん解釈では出てくると思うのですけれども,明文では出てこないことになるなという話をしております。   もう一方の在り方としては,真ん中の黄色のような流れもあり得ます。それは,一般的な格差是正規定を置く,中小零細事業者など他の契約弱者のことも考えて格差契約一般に関する是正規定というのを置くという在り方です。その場合には,では,どのような規定を定めるのかという問題が次に出てくる。   それに対しては,同じく理念規定のみ,個別の特則規定のみ,理念規定と個別規定の双方を置くという在り方があるのだろう。また,消費者契約法等の消費者契約の特則規定を格差契約に準用するというふうな規定を定めるというのも,選択肢としてはあり得るのではないか。ただ,この場合には,消費者契約に関する特則を民法改正と同時に消費者契約法の改正で充実させるといった,そういうことが同時に考えられないといけないのではないかという話をしております。その点,民法と消費者契約法の同時改正が実際問題としてできるのかどうかということが,この流れのほうでは一つ,検討しないといけない問題となってくるという話をしております。   三つ目の在り方として,オレンジのような流れもあるのではないか。赤のような消費者保護規定を置くという在り方と,(黄色のような)一般的な格差是正規定を置くという在り方は,両立しないものではないだろう。両方併存して考えられるのではないか。その場合,両方とは具体的にどのような規定を民法に置くということになるのかという点に関しては,これは,上のQ1~Q3と,S1~S4の,その組合せによっていろいろな形態があり得る。   例えば,R1として書かせていただいたところの右の例にありますような,格差是正に関する一般的な理念規定を置く一方で消費者保護の個別規定を置くというような,S1プラスQ2というふうな在り方というのも一つ考えられるのだろう。   また,そのようなSとQの組合せの中で,格差契約への消費者契約に関する特則の準用規定なども併存して更に置くというふうな在り方も,選択肢としてはあり得る。このような,いろいろな組合せがあり得るところなのではないか。   結果として,もし消費者概念の導入という問題が,民法に消費者という文言が入るか入らないかという問題なのだとすれば,下のところのマスのところに書かせていただいたような,P説,Q1~3説,R1~2説,S4説,T説というのは民法典に消費者という文言が入る在り方になり,S1~3説とU説というのは民法典に消費者という文言が入らない在り方になるという議論を内部でしております。   説明資料(2)の通し番号の4ページに戻らせていただきたいんですけれども,そのような中で,では,個々の論点についてどのように考えるかという点につきまして,まず第一番目の,民法における契約当事者間の格差への対応の当否・要否,格差対応は特別法に委ねておけばよい問題なのかという点に関しては,我々の意見は,民法も現実の人に存する知識・情報・交渉力等の様々な格差に対応する必要があるとの考え方に賛成であるというのが意見内容でございます。現に,裁判例では対応・救済していただいている例もありますけれども,真正面から受け止めて法制化すべきものではないかというふうに考えます。   その理由としては,先ほど池本弁護士からもお話がありましたけれども,現代社会における消費者市場と消費者契約の割合の大きさ,消費者問題の深刻さ等は大きな理由になると思います。   また,消費者契約は飽くまでも格差契約の典型例であって,消費者以外にも,個人と大差ない中小零細事業者などが数多く存在しております。最近では,消費者保護法の適用の可否が不明確な,中小零細事業者の契約被害というのが社会問題となっているという実態もあるかと思います。   また,一般法である民法の受皿としての機能への期待という観点もございます。特別法での救済に困難を伴う事案について民法における救済を図る,よりそういうふうな救済を図れる可能性を高めるという意味でも,民法に格差是正という考え方を正面から入れるというのがいいのではないかと考えております。特に高齢者の被害などでは,クーリングオフの行使や他者への相談もせずに時間が経過しているケースや,不実告知や威迫・困惑といった要件を必ずしも満たさない不当勧誘事例が少なくないことを考えたときには,民法における救済の必要性というのも,これは少なくないのではないかというふうに考えております。   二番目の論点として,当事者間に格差がある場合には劣後する者の利益に配慮する必要がある旨の抽象的な解釈理念を規定することの当否という点について,中間論点整理で問いをちょうだいしております。それに関しては,規定すべきとの考え方に賛成という意見内容でございます。その理由については,今申し上げたところとほぼ重なるところでございます。   三番目の論点として,消費者契約に関する規定を設けることの当否という点につきましては,まず,後述する法形式の問題というのはあると思うんですけれども,新たな消費者契約に関する特則を今まで以上に法制化する必要性は高いというふうに考えます。   消費者契約法の早期改正による私法実体規定の充実というのは,日弁連が従前より切望しているところでありまして,これは必要なところかと思います。法制審での議論や中間論点整理において,消費者契約の特則の立法の要否という問題について,具体的な内容を含めて論点としていただいていることについては,高く評価するとともに,期待をしております。   消費者契約に関する問題点,消費者契約トラブルをめぐる問題点と対処策に関する基本的な考え方というのを,レジュメの通しの11ページのところに図面でまとめさせていただきました。研究者の方々にはもう釈迦に説法の内容でございますけれども,一応基本ということで,確認をさせていただきたいと思います。   まず,消費者契約につきましては,契約当事者間の格差,情報や交渉力の格差が存在するということから,一つ目の問題点として,事業者が十分に情報提供や説明をせずに契約を勧誘することや,二つ目として,事業者が一方的に有利な契約書や約款で契約を締結するということが生じ,それが消費者契約トラブルという形で顕在化しております。   具体的な弊害として,消費者側としては,不本意な契約への支出・拘束を余儀なくされる不利益がございますし,事業者側としても,本来ならば消費者に支持されないはずの劣悪な販売方法や契約条件しか提供していない事業者に健全な事業者が売上げを奪われるという,社会正義に反する事態を招来しているのではないかと思います。   そのような消費者契約の割合とか被害の規模の大きさについては,先ほど平成20年度の国民生活白書の数字からも,無視できない規模になっているのではないかと考えられると思います。   対応策としては,契約締結過程の公正というのが一つ目になり得るでしょうし,二つ目としては契約内容の公正を図る施策が必要であろう。これによって,消費者側としては真に望む契約に基づく金銭支出が実現でき,事業者側としても,良質の販売方法や契約条件を提供する事業者が消費者に支持・評価され,売上げを確保できる,健全な消費者取引市場が実現するというふうな,いい方向に歯車が回っていくかと思います。   こういう見地から,消費者契約法が現に立法されているわけですけれども,現行法については不十分な点があると思います。  まず,現在の消費者契約法については,契約締結過程を規律する規定も,契約内容の規律も,極めて不十分である。  また,一般法である民法については,詐欺・錯誤・公序良俗といった規定しかない。消費者契約法が立法されるに至った背景事情ですけれども,このような民法の規定が必ずしも社会問題の解決に向けて積極的かつ柔軟に運用されていなかったという実態があったのではないかと思います。トラブル増加を現に招いたという反省すべき点があったのではないかと思います。   日弁連では,消費者契約法の改正提案という形で,2006年に意見書を取りまとめておりまして,そこでは,今申し上げたような二つの観点から,契約締結過程の公正をより進めるために,情報提供義務・説明義務を明定すべきではないか,消費者取消権の現行法の要件を見直すべきではないか,新たな消費者取消権の導入,具体的には,情報提供義務違反,状況の濫用,不招請勧誘,不当勧誘行為に関する一般規定の導入といった,新たな取消権を規定すべきではないかという意見を申し述べております。また,契約内容の公正確保の施策として,現行法の一般規定,消費者契約法第10条の要件の見直しですとか,現行法の不当条項リストの要件の見直し,不当条項リストの大幅な拡張,ブラックリスト,グレーリストとして列挙するような方式でもっと拡充すべきではないか,継続的契約に関する中途解約権の明定などといった提案をしております。   今般,民法改正で要検討事項として取り上げられている論点の中には,今のような提案内容とオーバーラップするところが少なからずあるのではないかというふうに認識をしております。   レジュメの通しの5ページに戻っていただけますでしょうか。   まず,第3の1のところですけれども,消費者契約に関する規定の要否につきましては,今申し上げましたような消費者契約に関する民事ルールの不十分さと立法の必要性が認められると思います。   6ページに移らせていただきます。   この点に関しては,内閣府及び消費者庁においても,これまで法改正に向けた取組は一部存在したというふうに認識はしております。(イ)のところですけれども,消費者契約法の所轄官庁であった内閣府,これは当時ですけれども,実体法改正に向けた準備作業として,不適切勧誘行為に関して,平成18年に諸外国の立法状況の調査結果を公表しております。また,平成16年,19年の2回にわたって,不当条項に関する我が国の社会実態の調査作業を行っております。また,国民生活審議会は,平成19年8月に,消費者契約法の実体法改正に向けた現行法の評価や論点の検討・整理を行っております。   上記のような調査結果や報告内容は,消費者契約法の実体法改正の必要性や在るべき方向性を裏付ける立法事実として,極めて重要な基礎資料と評価できます。けれども,残念なことに,現在,消費者庁では,他の立法課題との関係で,消費者契約法の実体法改正に向けた具体的な立法作業は行っていない模様であるというふうに耳にしております。   日弁連では,法改正に向けて,先ほど申し上げたような取組,意見の表明をしてまいりました。また今般,民法の改正論議に伴う新たな消費者契約の特則の検討の必要性というのも出てきました。例えば,債権の消滅時効の特則に関しては,もし仮に,債権の消滅時効に関して,当事者の合意により法律の規定と異なる時効期間や起算点を設定できるようにするのであれば,少なくとも消費者契約においては,その法律の規定よりも,消費者に不利である合意変更はできないという特則規定を設ける必要があるだろうといった点について,要検討ではないかと話をしております。   そういう意味で,消費者契約の特則に関して考える必要性はより高くなったと思っております。消費者契約に関する特則規定の充実は,早期立法が必要な事柄であろうと思っております。ただし,それを民法で立法化するのがよいのか,消費者契約法で立法化するのがよいのかというのは,別途,長所・短所を考えながら検討すべき問題かと思います。民法と消費者契約法との役割分担の在り方というふうに言い換えられるところかと思います。   この点について,上記のような消費者契約に関する特則の立法化については,消費者庁と法務省との協力によって,民法と同時に消費者契約法を改正する方向で立法化していただくことが望ましいのではないかと思っております。また,民法改正を機に,消費者契約法の私法実体規定を民法に取り込んで消滅させるという考え方には反対でございます。   理由は,レジュメの通しの8ページの上から5行目以下のところで書かせていただいているところですけれども,消費者問題というのは,社会実態に適合して迅速な法改正の必要性があるという特徴があります。したがって,民法よりも消費者契約法で立法化したほうが,後のことを考えれば,望ましいのではないかというのが中心的な理由です。あと,消費者保護水準の低下への懸念というのも一つ理由として挙げられます。また,消費者契約法の民法への統合については,これはしないほうがいいだろう。今申し上げたような理由からでございます。   ただ,その意味で,現状の,法制審議会のほうでこれだけ民法改正の議論が進んでいるにもかかわらず,消費者庁のほうで消費者契約法の改正に関する議論が余り熱心に行われていないという点については,極めて残念で,非常に問題だと思っております。この法制審議会には消費者庁の関係官の方も御列席されているというふうに聞いていますので,法制審議会の議論の成果を生かすような形で,歩調を合わせて,消費者契約法の同時改正というふうな動きを是非とも進めていただきたいと思っております。この点については,消費者基本計画の2010でも,消費者契約法の改正については民法改正の議論と連携して検討するというのがテーマに上がっていたかと思いますので,是非前向きに動いていただきたいと思っております。   ただ,今後の手続によっては,そのような同時改正が難しいということも,それはあり得るところかと思っております。そういう場合には,消費者契約の特則を立法化する必要があるということと消費者契約法において立法化するのが望ましいということの二つが両立しないような形になった場合には,消費者契約の特則の立法化というものを優先すべきだろう。その場合には,消費者保護を進めるという観点から,既存の消費者契約法の私法実体規定はそのままに,消費者契約に関する特則を民法に設けるというやり方も選択肢としてはあり得るところだろうと考えております。ただ,その場合には,消費者契約に関する特則が他の社会的弱者に対して不当に反対解釈されたりしないように,むしろ格差契約の典型例として類推適用されるように,格差是正の必要性に関する理念規定を併せ規定すべきものと考えます。   また,将来的には,中長期的なテーマとしてですけれども,民法における消費者契約に関する特則が,消費者契約法ないしそれを包含する包括消費者法典に吸収する方向で,検討される必要があるのではないかと思います。   レジュメの通しの8ページの下の3のところに移らせていただきます。   消費者契約に関する規定の具体的な内容というものですけれども,この点について,抽象的な理念規定だけを設けるのがいいのか,個別の規定を設けるのがいいのかという問い掛けを中間論点整理でちょうだいしております。   この点については,消費者契約法の同時改正によって同法に消費者契約に関する特則が十分に規定されるのであれば,民法には,消費者契約の解釈に関する理念的な規定ないし契約当事者間の格差是正に関する理念的な規定を設けるだけでもよいのかもしれません。しかし,もし仮にそのような個別規定が十分に規定されないのであれば,民法には,解釈に関する理念規定のみならず,個別の特則規定を設ける必要があるのではないかというふうに考えます。   あと,消費者の定義という点につきましては,消費者契約法における定義よりも拡大する方向で検討するのがいいのではないかと思っております。理由は,実質的に個人と大差ない個人事業者等について,消費者保護規定を拡大して,より適用範囲を広めるという理由からでございます。ただ,その方法論としては,消費者の定義を広げるという方法論以外にも,消費者概念を相対化するとか,格差契約一般に関する格差是正の理念規定を介した消費者保護規定の準用ないし類推適用といった在り方もあるのかもしれません。この点については,いろいろな在り方があり得るところではないか,どれが一番いいのかについて今後考えていかないといけない問題だろうというふうに考えております。   あと,消費者契約の具体的な特則について,中間論点整理の第62のところで,12項目について御照会を頂戴しております。これについては後ほど各論のほうに譲らせていただきたいと思いますが,基本的に,消費者保護を進めるという観点から,立法化には賛成という見解でございます。   ただし一部,消費者契約の特則を定める以前の問題としての原則自体について,慎重に検討する必要があるのではないかという項目が幾つか含まれているように思います。先ほどの債権時効の点もその一つであるというふうに位置付けております。また,法形式について,民法がいいのか,特別法がいいのかという点については,おのおの検討すべき点ではないかというふうに考えております。   以上,まず,第2の民法と消費者概念の問題について,意見を陳述させていただきました。   引き続いて,レジュメの12ページからの,約款と不当条項の問題に移らせていただきたいと思います。   まず,約款の組入要件に関する規定の要否という問い掛けをちょうだいしております。中間論点整理の第27のところでございます。   この点に関しては,約款に関する法規定を設けることに賛成という意見でございます。   現代社会では,我々,電車に乗って通勤する,携帯電話で話をする,電気を使う,インターネットを使う,クレジットカードを使う,DVDを借りる,旅行する,宅配便を送るといった日常生活の中の多くの契約内容が約款で規律されている。にもかかわらず,現行民法には約款に関する法規定が存在しない,その法的拘束力の要件・効果が不明瞭であるという問題があるかと思います。また,実際問題としても,契約の一方当事者が契約条項を作成する約款については,相手方の承諾を擬制しながら,その開示が十分でなかったり,その内容が一方的なものとなっている例が少なからず存在すると思います。民法の現代化という観点からは,約款をどう位置付けるのかという点について,民法に規定する必要があるのではないかというふうに考えます。   その約款の定義ですけれども,この問題については,日常用語としては,契約書や申込書から独立した規定集などが約款と呼ばれることが多いように思われます。けれども,一方で,契約書や申込書の裏面に記載されている契約条項なども裏面約款と呼ばれている実態があるかと思います。また,日常用語としては,契約書,約定書と呼ばれているような書面であっても,契約の一方当事者が作成した定型書式の契約書で,個々の契約条項について個別交渉が予定されていないものなどは,希薄な合意しかないという意味で,約款規制の趣旨は妥当するのではないかと思います。   実際にも,インターネット販売や店舗販売などでは,定型化された契約内容の重要な部分,例えば返品・返金の条件などが,会員規約,御利用規約,お買い物規約,販売条件,商品ガイド,よくある御質問,よくある御質問と御回答,Q&A,入会案内といった表題の下に列挙されて,顧客に提示され,顧客からの苦情処理の際にもそれが利用されているということが少なくないと思います。   そのような社会実態を踏まえれば,日常用語として約款と呼ばれていないとか,契約書と呼ばれているとか,約款という表題がついていないといった形式的な理由で約款規制が及ばなくなるというのは不合理だと思います。また,実際問題としても,容易に約款規制の潜脱を許す結果となってしまうのではないかと思います。   したがって,法規制の対象とすべき約款の定義については,「多数契約に用いるためにあらかじめ定型化された契約条項の総体」といった定義の御提案などを参考に,約款規制の立法目的から合目的的に決されるべきであるだろうというふうに考えます。より分かりやすくするために,「名称・形態は問わない」といったことを明示したほうが望ましいのではないかと思います。   この点,日常用語として既に一定の意味合いを持っている約款という用語と,法的に規制を及ぼすべき必要性のある定型契約とのずれが,議論の混乱につながっている側面もあるのではないかと思います。立法後も日常用語とのずれが誤解を生むことにつながる可能性もあるのではないかと思います。その意味で,約款という用語の使用を避けるということも選択肢として検討されてもよいのではないかと思います。   次に,約款の組入要件の内容ですけれども,これについては原則として,約款が契約締結までに相手方に提示されていることが必要と考えるべきでしょう。けれども,契約の性質上,契約締結時に約款を開示することが著しく困難な場合については例外を肯定すべきというのは,社会実態を考えれば,そのとおりだろう。その例外要件については,今後検討されるべき問題だろうと思います。   不意打ち条項についてですけれども,これについては,不意打ち条項を設けるべきであるというのが意見内容でございます。具体的内容としては,取引慣行に照らして異常な条項又は取引の状況もしくは契約の外形から見て約款使用者の相手方にとって不意打ちとなる条項は契約の内容とならないとする考え方や,相手方が合理的に予期し得ないような性質の条項は,その内容が相手方により契約締結時までに理解されていたことを条項使用者が証明した場合を除き,契約の構成部分とならないとする考え方などが検討されるべきではないかと思います。   不意打ち条項については,情報提供義務・説明義務で対処ができるのではないかという見解や,不当条項規制で対応できるのではないかという考え方があるというのは承知はしておりますけれども,それだけで対応し切れないというケースがあるのではないか。不意打ち条項には,その条項自体は必ずしも不当条項と呼べないものもあるわけですし,不当条項規制とは別に検討されるべき問題ではないかと思います。   次に,認可約款について特別扱いすべきではないかという点については,これは例外的扱いを認めるべきではないと思います。行政庁による約款の認可は,行政的な規律にとどまるものであって,契約当事者間の拘束力までを積極的に承認するものではないと思いますし,相手方の意思が反映される機会・手続も欠けている。認可後に公示されることもない。認可約款についても,契約への組入れについて例外的扱いを認めるべきではないと思います。   また,不当条項規制についても例外的取扱いを認めるべきではないと思います。行政の審査は必ずしも不当条項審査という観点からなされているものではないと思いますし,実際上も不当条項を十分に排除することはできていないと思います。   学納金返還請求訴訟の事案においても,大学の学則については文部科学大臣の認可が必要であるから消費者契約法の適用はないというふうな主張が訴訟においてなされた経緯がございましたけれども,これについては裁判例においても,それをもって直ちに入学金・授業料等の金額の妥当性が十分に担保されているということは言えないし,交渉力の格差がないと言うこともできないという大阪高裁の裁判例もありますし,最高裁も大学の学則等に対する消費者契約法の不当条項規制の適用を肯定している例からも,認可約款について特別扱いをする必要はないのではないかと思います。   次に,不当条項規制について,中間論点整理の第31の問題点について,移らせていただきます。通し番号の15ページからでございます。   まず,不当条項規制の要否ですけれども,民法に不当条項規制の規定を新たに設けることには賛成でございます。   現行の消費者契約法について,消費者契約に絞った形で不当条項規制が8条から9条に定められていますけれども,極めて不十分なものであるというふうに言えると思います。例えば,8条でしたら損害賠償責任以外の契約責任の免責規定の不当条項リストはないですし,9条には平均的損害の立証責任の問題がある。10条には,前段要件の要否や後段要件の判断基準に関する問題がある。また,そもそも不当条項リストが少ないという問題点もあるかと思います。また,消費者契約以外に関する不当条項規制というのは明確に存在しないということを考えたときには,不当条項に関して法規制を設けるという必要性は非常に大きいのではないかと思います。   この点に関して,社会実態として実際にどういう契約条項が使われているのかということについて,確認しておく必要があろうかと思います。レジュメの27ページを御確認いただけますでしょうか。   この点について,内閣府の「平成19年度消費者契約における不当条項研究会報告書」における実態調査が公にされております。これは,調査対象業種30業種,調査対象事業者163,調査対象約款225という調査対象のもとに,この研究会が開催されたのは平成19年11月から平成20年3月ですけれども,当時の社会で使用されている約款の実態調査がなされて,その結果が報告されております。この調査結果などは非常に参考になるのではないかと思います。   具体的な例を挙げさせていただきますと,28ページからが同報告書で挙がっている契約条項を抜粋したものでございます。ちょっと全部は見られないので,特に一部を御紹介させていただきたいと思います。なお,最初に申し上げておくべきは,これらは全てが違法・無効な契約条項として列挙されているわけではなくて,当時使用されて,実際に存在した契約条項として,参考事例として列挙されているものでございます。   まず一つ目の,4番という通し番号のところに書いてある賃貸借契約の契約条項は,「乙が賃料の支払を2か月以上滞納し,かつ甲にその住宅を通知することなく不在,密室にした場合,甲は乙に通知を要することなく,賃貸契約を合意解約したものとみなす,その場合,甲は乙の居室の鍵を交換するとともに,居室の占有を回収し,乙の所有に係る家財の一切を任意に処分売却し,未払い家賃に充当することができる。」という契約条項でございます。これについては,延滞の事実と,あと連絡しなかったという事実で,賃貸借契約が消滅して,かつ占有を賃貸人のほうが取得でき,かつ部屋の中の所有物についても処分できるという結果になるというもので,かなり一方的な内容ではないかと思います。   あと30番のところで,これはインターネットサービスの利用契約ですけれども,「運営者が本サービスを通じて,随時発表する諸規定は,本規約の一部を構成するものとします。運営者は本サービスへの表示をもって,会員の承諾を得ることなく,いつでも料金規定の変更を含む,本規約及び諸規定の変更を行うことができます。なお,変更はWEB上に公開された時点で有効とします。」という内容です。契約内容の変更権に関しては,料金部分に及ぶもの,及ばないものがあります。あと,事前通知期間を置くものと置かないものがあるかと思いますけれども,これは事前通知期間を置かずに,公表された時点で即効力が発生するという契約条項になっております。   次,47番の賃貸借契約の契約条項例ですけれども,「租税・地代・物価等が高騰した場合,又は甲が特に必要と判断した時は,期間中といえども随時,家賃,共益費,保証金等の値上げに対し,乙は異議なく承諾するものとする。」というふうな契約条項になっております。   次,29ページの一番下の132というところを御紹介させていただきます。これは電子マネーの会員規約ですけれども,「当社は,本サービスの全部又は一部の提供を,理由のいかんを問わず,何時でも中止することができ,当該中止に関連または起因して生じた登録会員の損害について,いかなる責任も負わないものとします。また,当社は,本サービスの内容変更又はサービスの提供の遅れに関連又は起因して生じた登録会員の損害について,いかなる責任も負わないものとします。」という規定内容でございます。   次の30ページの171-2,一番下のところの契約条項を御紹介申し上げます。これは宅配便の運送約款ですけれども,内容としては,「(荷送人から事業者に対する荷送物の)滅失又は毀損に対するクレームは,運送料等の全額が支払われるまでは受理されないものとします。クレーム金額は事業者が請求する運送料等から減額することはできないこととし,荷送人は,事業者の運送料等とクレーム金額の相殺に関する制定法及び慣習法によるものを含むいかなる権利もこれを放棄するものとします。」というふうな契約条項でございます。   続いて31ページに移らせていただいて,189という番号の,真ん中ぐらいに,宅配業者の運送約款でございます。■■■,これは事業者名ですけれども,「■■■に対する荷送人のクレームは,■■■が貨物を引き受けた日より30日以内に,■■■が貨物を引き受けた場所の最寄りの■■■の事業所へ書面で通知していただきます。この期限を経過した後にはクレームの申し立てはできません。」という内容でございます。期日と場所と方式の限定があるという契約条項でございます。   同じページの下から三番目の199-2のペット販売の販売契約書では,「お買い上げいただきました生体は,(中略)返品,返金,交換,及び金銭によります補償はできないことをご了承の上,ご購入いただきます。」ということで,契約書を見ると,言えることがないのではないかと思われます。   次に,次の32ページの一番下のインターネットサービスの会員規約ですけれども,「接続サービスの利用不能が,弊社がその業務の全部又は一部を委託している第一種電気通信事業者又は他の電気通信事業者の責に帰すべき理由により発生した場合,弊社が接続サービス会員に対して応じるべき損害賠償の額の総額は,かかる事由に関して当該第一種電気通信事業者又は他の電気通信事業者から弊社が受領した損害賠償額を上限とします」という契約条項でございます。事業者が契約関係を結んだ電気通信事業者から回収できる金額に損害賠償責任を限定する,持ち出しの分がないというふうな契約条項と整理できるかと思います。   34ページの315ですけれども,賃貸借契約の契約条項です。これについては,「本契約が解除,解約,期間満了,その他の事由によって終了した後において,乙及び乙の関係者が本物件から退去せず,明け渡さない場合は,爾後明渡し済みまで,毎月1日金*円の割合による遅延損害金を甲に支払う。」という内容です。これは,金5万円ぐらいになっているもので,1か月で150万円になるというふうな違約金条項でございます。   次に,37ページに飛んでいただきまして,499番,賃貸借契約書の利用約款でございます。「乙は,室内を原状回復の上,甲に本物件を明け渡すものとする。」という規定で,借りた状態にきれいにして返してくださいという契約条項は少なからず見受けられる契約条項ではないかと思います。   同じページの下から二番目や一番下について,裁判管轄を東京地方裁判所とするというふうな約款は非常に多い約款条項かなと思います。   38ページに移らせていただいて,上から四番目の530,ソフト販売契約ですけれども,準拠法について,「本契約は,カリフォルニア州法及びそれを統括している米国連邦法に準拠するものとします,管轄や準拠法を選択することはできません。」という約款でございます。   あと,558番,同じページの真ん中ぐらいですけれども,旅客運送の規約において,「会員は入会に際し,■■■プログラムに関連して発生する,すべての紛争・論争及び権利の要求は,当該会員の■■■登録住所がある各地域の規則や法的手続に従い,仲裁によって解決することに合意したものとみなします。■■■登録住所別の仲裁機関については,以下のとおりです。」といった,仲裁に関する条項が置かれている例もあります。   同じページの下から四番目の571の予備校の申込み規定については,「申込書記載の不備・誤記,申込書又は本規定についての不知・誤解釈があったとしても,これによる不利益については,当社は責任を負いかねます。」といった免責約款でございます。   次の39ページに移らせていただきます。   一番上の583番のフィットネスクラブの会員規約ですけれども,「メンバーは,同伴又は紹介したゲストの本クラブ内における行為及びクラブに関する支払並びに事故等一切につき,連帯責任を負っていただきます。」という契約条項であります。   真ん中ぐらいの622番のソフトウエア販売の規定ですけれども,「本保証規定は法律上無効とされない限度でその効力を有するものであり」というふうな,いわゆるサルベージ条項が設けられている例でございます。   あと一番下,658については,自動車買取契約の契約約款ですけれども,「買取自動車から生じる品質問題についてはこれを建設的に解決し,甲乙双方の前向きの理解と建設的協力によることを解決の第一歩とします。甲の理解度・協力不足により解決が遅れ難航する場合は乙が総合的判断をもって裁定し解決します。甲は,この結果に一切の異議を唱えないものとします。」という契約条項で,最終的に,乙が決めたことに服さないといけないというような契約条項になっております。   以上,この不当条項研究会の報告書に添付されて報告されている契約条項の具体例から,幾つか御紹介させていただきました。これらを見ていただけば明らかなように,いろいろな,ちょっと考えさせられるような契約条項は,実際に社会でたくさん存在するというふうな実態があるのではないかと思います。これらについての規律というのは,現行法上では消費者契約について一部あるだけなんですけれども,これは極めて不十分ではないかと思います。   あと,ちょっと補足させていただきますと,今御紹介を申し上げた約款については,対象を必ずしも個人に限定していない契約約款が少なからず存在するということについて,補足をさせていただきたいと思います。   あと,27ページのレジュメの「多かった契約条項の類型」というところで,一つ補足させていただきますと,この統計では一つの契約条項について二つの評価ができる場合は,その二つで評価をしているので,②損害賠償の予定というところと③清算義務免除というところでは,一旦受け取った契約金などは一切返金できませんという契約条項は,②にも③にも当たるという形でカウントされている模様です。この点について,数字の見方として補足をさせていただきたいと思います。   レジュメの15ページに戻っていただけますでしょうか。今のような社会実態も踏まえて,民法に不当条項規制の規定を新たに設けることには賛成という意見でございます。   16ページに移らせていただきます。   不当条項規制の適用対象として,これについては,約款というものを,約款を使用した取引における契約条項を一つ対象とすべきではないか。   あと,消費者契約に関する不当条項についても,一つ対象とすべきではないか。   あと,公序良俗に反する不当条項規制について,当事者の属性や契約の類型にかかわらず,法的効力を否定すべき具体的な契約条項についても,それを類型化ができる場合には,一つ視野に入れていいのではないか。  不当条項規制の適用対象として,いずれも排斥し合うものではないのではないか,立法の必要性と内容について並行して検討されるべきではないかと思います。   次,レジュメの17ページに移らせていただきます。   不当条項の対象から除外すべき契約条項ということで,個別の交渉を経て採用された条項についてですけれども,約款条項に関する不当条項規制の場合には,個別交渉を経て合意された契約条項であれば,適用除外としてもよいのではないかというのが一つの考え方かと思います。ただ,この場合にも,形ばかりの形式的な交渉しかしなかった場合などは適用除外とすべきではないと思います。   理由のところの(ア)のⅲのところに書かせていただいたのですけれども,個別の交渉を経た条項を約款規制の適用から除外するという場合には,実質的な交渉の対象となった特定の条項や特定の項あるいは号のみが規律の対象から外れ,交渉されていない他の条項や項については不当条項規制の対象になるという点については,明確にしておくべきではないかというふうに考えます。なぜならば,ダミーのような条項を1カ条用意して,その条項に修正交渉を行えば,他の条項までが不当条項の規制に服さなくなってしまうというのは,不当な事態ではないかというふうに考えるからでございます。   あと,消費者契約に関する不当条項規制の場合には,個別の交渉を経て採用された条項を適用除外とすることには,これは反対でございます。契約当事者間で情報・交渉力格差があるという前提を考えると,個別の交渉を経たのみで合意内容の合理性を当然には肯定できないというふうに考えるからでございます。   次,レジュメの18ページに移らせていただきます。   契約の中心部分に関する契約条項についてですけれども,これは,約款条項に関する不当条項規制についても,消費者契約に関する不当条項規制についても,中心的部分に関する契約条項を適用除外とすることには反対でございます。実際問題として,契約の中心部分か,そうでないかは,厳密な区別が困難という面がありますし,あと,不当条項規制が及ぶべき事項を給付に関する条項に組み入れるといったことによって,規制を脱法的に回避することにつながるおそれがあるというふうに考えるからでございます。   次に,不当性の判断の枠組みという点について,特に比較対照すべき標準的な内容を任意規定に限るかという点については,これは,比較の対照を任意規定に限る考え方には反対であります。当該契約条項の内容と当該契約条項が存在しない場合の当事者の権利義務関係を比較すべきであろうというふうに考えます。不当条項規制において重要な点が,原則的な権利義務関係から逸脱したような契約内容かどうかという点にあるということを考える場合には,原則的な権利義務関係というものは,法律上の明文の任意規定だけでなく,判例等によって確立しているルール,明文のない基本原理などによって決まるのではないかというふうに考えるからでございます。   あと,不当性判断の判断基準については,信義則に反する程度かどうかという基準でいいのではないかというふうに考えております。   あと,不当条項の効力として,全部無効か一部無効かというふうな論点について,意見が照会されておりますけれども,これについては,原則は全部無効と考えるべきだろうというふうに考えております。約款条項に関する不当条項規制についても,消費者契約に関する不当条項規制についても,およそ無効な不当条項を定めていても,裁判所がぎりぎり有効なところで制限解釈によって有効にしてくれるのであれば,不当条項の流布は止まらないというふうに考えるからでございます。   その点,サルベージ条項について,法によって許容される限り有効とするような条項については,問題条項であってもぎりぎり業者に有利な内容・有利な法的地位を確保できることが可能になるという点において,これは不当条項として検討されるべき契約条項ではないかと思います。   次に,不当条項のリストを設けることの当否の点についてですけれども,これについては,不当条項リストを設けることについて賛成でございます。現在では消費者契約に関する一部しかない不当条項リストについて,これを拡大する方向で考えたほうが,何が不当条項になるかというのが分かりやすいのではないかと思います。   あと,不当条項リストの在り方については,ブラックリストとグレーリストを整備したほうがより分かりやすいのではないか,一般条項だけがあるよりも分かりやすいのではないかと思います。   あと,具体的なリストの内容については,約款条項に関する不当条項規制の場合には,民法改正検討委員会の「債権法改正の基本方針」で列挙されているような例ですとか,消費者契約に関する不当条項規制の場合には,21ページに列挙させていただきましたような提案例などを参考に,具体的に検討されるべきではないかと思います。   レジュメの22ページから24ページ,これは消費者契約法に関するもの,その意味で,消費者契約を対象としたものに限定されますけれども,日弁連の不当条項規制に関する提案内容を抜粋させていただきました。   これは1999年のものですけれども,当時,第2条の(4)のところで,約款(の定義)については,「事業者が,多数の消費者との契約のために予め作成した契約条項で,契約内容になるものをいい,その名称,範囲,形態を問わない。」といった提案をしておりました。   あと,不当条項の禁止については,12条のところで一般条項を定めて,13条,14条で不当条項リストを列挙するというふうな提案をしておりました。12ページの一番下の⑩,⑪のところでは,過量販売とか長期間拘束についても,不当条項の一つとして提案をしております。   レジュメの25から26ページ,これは2006年の消費者契約法の実体法改正に関する意見書の不当条項関係の抜粋でございますけれども,一般条項の提案として,13項において,「信義誠実の原則に反して消費者の利益を不当に害する消費者契約法の条項は無効とする。」というふうに改めるべきではないかという提案をしております。   あと,不意打ち条項については15項で,「消費者契約の類型及び交渉の経過等に照らし,消費者にとって予測することができない消費者契約の条項は契約の内容とならない。」という提案をしております。   あと,消費者契約の解釈準則について19項で提案をしております。あと21項において,「消費者は,消費者契約に係る継続的契約を,将来に向かって解除することができる。」という条文の提案をおります。これは,期限の定めのある継続的物品販売契約について中途解約権を確保するためのものであります。典型例は新聞の購読契約です。長期間の役務提供契約ならば,準委任契約と性質決定することで中途解約権は原則的にある,それを特約で排除していた場合には不当条項ではないかということで中途解約権を確保させられます。けれども,継続的な物品販売契約の場合には,原則的な中途解約権が必ずしも法律上ないので,その救済にいつも困っているという実態がございます。解釈上,認められてしかるべきではないかという言い方をするのですけれども,この点については明確に定めておいていただいたほうが非常に有り難いと思います。中間論点整理の第62の12項列挙されているものの一つに挙がっていたかと思いますけれども,これについては是非とも立法していただきたいと思っている条文の一つ,消費者契約法の特則の一つでございます。   引き続いて,レジュメの40ページに移らせていただきます。不実表示・公序良俗というところでございます。   この点に関しては,まず,契約締結過程に関する消費者契約の規律については,消費者契約法4条で,このレジュメ40ページの理由の1,(1)の(ア),(イ)のところに列挙させていただきましたような消費者取消権が現行法上規定されているところですけれども,この法規定に関しては,いろいろと問題点がある,不十分であるという指摘があります。   まず,不実告知に関しては,重要事項の意義に関して争いがある,解釈によっては非常に狭いものとなる,動機部分が含まれないという問題があります。   断定的判断の提供に関する「将来における変動が確実な事項」という部分の解釈についても解釈が分かれており,狭いほうの解釈でいけば,適用範囲は狭くなってしまう。   あと,困惑による取消しに関しては,非身体拘束型の困惑惹起行為の類型がないという問題点があります。   あと,レジュメの41ページの上のほうですけれども,ほかにも不当勧誘行為の類型は存在する。催眠商法・SF商法,恋人商法・デート商法,高齢者への不当勧誘行為などは,必ずしもこれらでカバーできるのかどうかということについては,事案によっては疑義や難しいところがあります。また,新たな不当勧誘行為が発生してきているし,今後も発生するであろうという問題点もあります。個別列挙では後追いになるのではないかという問題があるかと思います。   この点に関しては,日弁連のほうでは,現行法の条文を改正すべきではないか,重要事項の内容については契約動機に関する事項が含まれる旨を明文化すべきであるという提案や,困惑による取消しや他類型の存在に対する対応として,情報提供義務違反,状況の濫用,不招請勧誘行為等について消費者取消権を付与すべきであるという提案や,信義誠実の原則に反する不当勧誘行為について消費者取消権を付与する一般規定を制定すべきであるという提案をしております。受皿規定を設けるべきではないかという提案をしております。   今回,民法改正問題において,不実表示という新たな意思表示に関する規定の拡充という意見照会がなされております。これについて,契約を締結するか否かの判断に影響を及ぼすべき事項,動機部分を含む事項に関して誤った事実を告げられた場合について,消費者保護の観点から新たな取消権を認めるということについては,これは考え方としては賛成です。消費者契約法4条に関する日弁連の改正意見との共通点があるのではないか,実際問題として,詐欺の主観的要件の立証の困難さを考えるときには有益な規定になるのではないかと考えております。   もっとも,消費者契約法上の消費者取消権としてではなく,民法上の取消権として立法するという場合には,消費者保護の観点から,いわゆる逆適用の問題というものを考慮に入れざるを得ない。要件に関しては慎重な検討をしていただく必要があるのではないかという意見を併せ持っております。   あと,民法における不実表示の規定については,動機の錯誤の要件緩和という観点から検討されるべきもので,この立法によって消費者契約法4条1項1号の不実告知規定を削除するような事態となることには反対という意見を持っております。   レジュメ42ページの公序良俗のところに移らせていただきます。   消費者契約問題をめぐる現行法については,いろいろと不十分な点があるのではないかという問題意識を持っているというのは,先ほどから申し上げさせていただいているとおりです。日弁連では,消費者契約法の改正という提言を以前からしておりますけれども,それだけでもカバーは完全にはし切れないと思っております。   レジュメの43ページの上のほうですけれども,消費者契約問題と民法の役割というのは,これを機に考えられる必要があるのではないかと思っております。   そもそも私法一般法である民法が,現代社会における消費者契約問題に,これまで効果的に対応できてこなかったということ自体が問題ではないのかという問題意識を持っております。もし消費者保護の特別法が未制定の分野,新たな問題とかで未制定の分野や透き間の分野が存在しても,一般法である民法が受皿としての役割を果たすことができるような,そんな在り方がないものだろうか,そういうふうな民法であってもらいたいという意見を持っております。   今後も,特別法の新設や改正は重要であろうと思います。しかし,一般法である民法の射程範囲や積極的で柔軟な運用の必要性とは別個の問題ではないかと思います。実際問題としても,消費者契約法や特定商取引法などによる救済の可否が問題となる事案は数多く存在いたします。高齢者の被害事案ですとか,中小・零細事業者の被害事案などは,そういうのが少なからず認められます。   一つの裁判例の紹介ですけれども,奈良地判の平成22年7月9日の判示を紹介させていただきます。「消費者保護法制による違法な勧誘行為がなされていないとしても,私法行為一般に適用されるべき民法第90条が適用されなくなるものではない。」「本件取引は,財産の管理能力が痴呆症のため低下している原告に対して,それを知りながら,個人的に親しい友人関係にあるかのように思い込ませ,これを利用し,原告自身の強い希望や必要のない商品を大量に購入させ,その結果,原告の老後の生活に充てられるべき流動資産をほとんど使ってしまったものである。このような売買は,その客観的状況において,通常の商取引の範囲を超えるものであり,民法の公序良俗に反すというべきである。」といった裁判例です。個別の消費者保護の特別法のどこにも触れていない,抵触するような行為はしていないというふうに言った事業者の反論に対して答えた裁判所の判示部分なんですけれども,特別法に反していなかったらそれでいいというものではないだろう,民法の公序良俗に反する販売方法であるというふうな判示です。このような,受皿規定としての民法90条を有効に活用した,被害救済がしやすいような90条の改正であってもらいたいと思っております。   この点,暴利行為の明文化という問題が,具体的な御照会内容としてちょうだいしておりますけれども,公序良俗違反の具体化として,いわゆる暴利行為の明文化を行う方向で検討することには賛成でございます。暴利行為規定が明文で存在するほうが,実社会における暴利行為の抑圧や排除を期待できるように思われるからでございます。   あと,その要件定立のときには,伝統的な暴利行為の準則よりも,いわゆる現代的暴利論に依拠した暴利行為規定のほうが,種々の要素を取り込んだ総合的な判断や,社会の変化に伴った柔軟な対応が可能となるという意味において,そのような形での要件定立のほうが望ましいというふうに考えております。   伝統的に暴利行為が,相手方の窮迫・軽率又は無経験に乗じるという主観的要素と,著しく過当な利益を獲得するという客観的要素から成るとされてきている点については,承知はしております。しかしながら,上記のような規範に事実を当てはめて結論を下している裁判例が,現代において,どれだけあるのかというところは,検証される必要があるのではないかと思います。実際問題としても,相手方の窮迫・軽率又は無経験に乗じたような不公正な取引行為による相手方の利得を,「著しく過当ではない」という理由で正当視するとすれば,それは不正義ではないかと思います。実際に存在する高齢者被害や恋人商法などの被害事案などを考えても,要件については現代的に見直される必要があるのではないか,現代社会の被害実態に適合したような要件に合う形での法制化というのが検討されるべきではないかと思います。   あと,他の行為類型の明文化検討の必要性についてですけれども,暴利行為以外にも,行政法規に違反している場合で公序良俗違反と評価できるような場合ですとか,刑罰法規や強行法規等の脱法行為と評価できる場合ですとか,状況の濫用と評価できる場合など,他に公序良俗違反と評価可能な行為類型が認められる場合には,その明文化について検討することは,法律関係の明確化,違法行為の抑制という観点から有益でないかと思います。   あと,レジュメの42ページの意見の(4)というところにも書かせていただいたのですが,新種の取引契約や販売方法で消費者や中小零細事業者に発生した契約被害を民法の公序良俗や信義則といった一般規定で救済しやすくするためにも,暴利行為等の明文化に加えて,民法の理念の一つとして,先ほども出てまいりましたけれども,契約当事者間の格差是正の必要性等について明文化することは検討されるべきではないかと思います。民法においても,消費者に代表される契約弱者の権利自由は,法的に保護ないし支援されるべき基本的な権利・利益であるという位置付けを明確にしておいていただくことは,有益かつ重要なことではないかと思います。   あと,レジュメ45ページ,46ページは,消費者契約法日弁連試案の契約締結過程の部分について抜粋したものでございます。第5条の(1)の⑥で,「その他信義誠実に違反する不当勧誘行為」という受皿規定を,消費者取消権として認めるべきだという提案をしております。   あと,47ページから49ページは,2006年の消費者契約法の実体法改正に関する意見書の契約締結過程に関係する部分の抜粋です。48ページの部分で,現行法に下記の内容を追加すべきであるということで,消費者取消権の拡張として,第1号で「重要事項に関して消費者が理解できる方法で情報提供を行わなかったこと。」,第5号で「当該消費者の知識の不足,加齢・疾病,恋愛感情・急迫状態等による判断力の不足を知り,又は知りうるため,信義則上勧誘を行うべきでないにもかかわらず勧誘を行うこと。」,第6号でいわゆる不招請勧誘,あと第7号で「信義誠実の原則に反する行為。」という受皿規定を,消費者取消権として提案しております。   レジュメ50ページから53ページまでは,具体的な裁判例を若干紹介させていただいております。   50から51ページについては国民生活センターの消費者問題の判例集より,動機の錯誤と公序良俗の事案として,最近紹介されている事案を抜粋したものであります。時間の関係で,内容の紹介については割愛させていただきます。   52ページから53ページは,暴利行為に関する裁判例で,最近のものを判例データベースで「暴利行為」という言葉でヒットしてきた中のうち,不法行為に基づく損害賠償請求構成をしていないものについて,若干御紹介させていただいたものであります。下線の部分が当てはめ部分,暴利行為である,公序良俗違反であるという判断をしている部分なんですけれども,伝統的な暴利行為論の二つの要件に当てはめるというふうな形式は確かにとっていないというところを御確認賜れればと思います。   私からは以上です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   日弁連からの意見聴取の途中ではありますけれども,ここで15分程度,質疑応答をして,その後,休憩を取り,休憩後に,また残りの部分の意見聴取を行うということで進めさせていただきたいと思います。これまでにちょうだいした御意見に関しまして,委員,幹事等の皆様から御質問がありましたら,御自由に御発言ください。 ○中田委員 詳しい御意見いただきまして,どうもありがとうございました。   不当条項規制と約款について,関連する問題を一つお伺いさせてください。不当条項規制の中で,契約内容の一方的変更が話題に出たわけでございます。それに対しまして,約款の変更についてのルールを置くこと自体は,これは説明資料1のほうでございますけれども,それは賛成だという御意見を表明しておられます。そうしますと,その両者の関係をどういうふうに構成すればよいのか,もし具体的な御検討がございましたら,お教えいただければと思います。 ○山本参考人 御質問ありがとうございます。   約款の変更の論点については,この法制審議会の終盤のほうで,独立の項として出てきたところかというふうに理解をしております。今まで,約款の変更については,不当条項規制のところでグレーリスト等で検討すべきではないかというふうな検討はしておりました。けれども,組入れのところでどういうふうな規定を定めればよいのかということについては,今後,我々も検討していかなければいけない内容で,現時点では,こうあるべきではないかというふうな具体的な提案内容は持ち合わせておりません。 ○山本(敬)幹事 時間が限られているようですので,本来はいろいろお聴きしたい点はあるのですけれども,1点,時間があれば2点,お聴かせいただければと思います。   具体的には,40ページの,意思表示に関する規定の拡充の部分です。ここでは,不実表示による取消しを民法に定める方向性に賛成するとしておられますけれども,動機の錯誤の要件の緩和という観点から賛成すると述べておられます。これが何を意味しているのか,お聴かせいただければと思います。そして,その前提として,錯誤について,現在の判例法をもとに,動機の錯誤でも動機が法律行為の内容とされたときには,意思表示の無効ないしは取消しを認めるという方向性が提案されているところですけれども,それは支持されるのか。その上で,動機の錯誤の要件を,なぜ,どのように緩和すべきだと言われるのかというのが,私から質問させていただきたい点です。   と言いましても,これだけではちょっと分かりにくいかもしれませんので,もう少しだけ私の理解を述べておきますと,まず前提として,ここで言う動機の錯誤とは,意思表示の基礎とされた事実に関する認識を誤ることだと思います。そういう事実に関する情報については,本来は自己責任の原則が妥当する。そして,そのような情報収集の失敗に関するリスクを相手方に転嫁するためには,それを合意の内容にしたことが必要であるというのが,先ほどの錯誤に関する提案の基礎にある考え方だと思います。これを前提にしておられるのか。もしこれを前提としますと,本来ならば,動機の錯誤はあっても,合意されていない限りは,意思表示の無効ないし取消しは認められない。けれども,そうした動機の錯誤が相手方の不実表示によって引き起こされた場合には,相手方が言わば表意者の意思決定を害したと見ることができますので,そのような情報収集の失敗を引き起こした相手方がリスクを負担すべき理由がある。だから,合意の内容になったかどうかにかかわりなく,取消しを認めてもよいというのが私自身の理解なのですけれども,それと異なることをお考えになっているのかどうかということをお聴かせいただければと思います。 ○山本参考人 御質問ありがとうございます。非常に難しい御質問をちょうだいしていると思っております。   特に消費者が表意者になっていないケース,事業者から消費者に対して不実表示の取消権が主張されている場合を念頭に置いているんですけれども,例えば事業者において,むしろ情報を収集すべきであったケースというのもあるのではないか。消費者からこういう情報を受けたから,不実の表示があったから取り消すというふうな主張がされているケースでも,事業者自身において積極的に情報を収集すべきケースというのはあるのではないか。そういう観点から,事業者から消費者に対する不実表示を理由とした取消権というのを無制限に認めるのは,広きに失するのではないかというのが基本的な考え方です。   それを,もともとの錯誤の理論の中で,表意者に重過失があったケースとパラレルに考えられるのかという点に関しては,今後まだ検討しないといけない点があるかと思うんですけれども,事業者からの取消権の行使については制限的に考えるべきではないかというのが,基本的な考え方のスタンスでございます。 ○山本(敬)幹事 要するに,消費者側からの不実表示に関する「逆適用」とおっしゃっているものを御懸念されているのであって,それとの関係で動機の錯誤の要件の緩和とおっしゃっているだけであるという御趣旨なのですか。 ○山本参考人 すみません,もう一度御質問を願えますでしょうか。 ○山本(敬)幹事 要するに,「逆適用」の場合を何とかする必要があるので,それについては,錯誤に関して,もともと表意者側に重過失があるときには錯誤無効は認められないという考え方があることから,それを緩和すれば,事業者側からの取消しを否定できるということだけをお考えになってこうおっしゃっていると理解してよいのか。   逆に言いますと,私が先ほど申し上げましたような通常の場面を想定したときの不実表示の趣旨,及びそれと動機錯誤に関するルールとの関係については,特に御異論はないという御趣旨なのかということです。 ○山本参考人 前者のほうでおまとめいただいたような観点から,この意見を申し述べておりますのは,そのとおりでございます。 ○山本(敬)幹事 後者は。くどいようですけれども。 ○山本参考人 もうちょっと検討させていただけますでしょうか。 ○大村幹事 具体的な問題についての質問が続きましたので,一般的な,あるいは抽象的な問題について確認をさせていただきたいと思います。   まず,最初に池本さんのほうから,現代社会における消費者契約のウエイトの高まりを考えるならば,民法が消費者契約を無視することはできないという認識が示されたものと理解いたしましたけれども,そういう認識であれば,私はそれには全く賛成です。   その上で,ではどう考えるかというときに,次の山本さんのお話の中にあったこととも関わるのですけれども,格差是正規定を民法の中に置くというのは望ましい,そういうお話があったと思います。消費者保護規定を民法の中に置くことが望ましいのか,望ましくないのかということについては,どうもスタンスをはっきりさせておられないような気がしました。消費者契約法に置けないのならば民法に置けばいいというようなお話だったかと思いますが,民法に置くことを積極的にお考えなのか,それとも望ましくないことだとお考えなのかということを,理由と併せて御説明いただきたいというのが第1点です。   それから第2点は,今の理由とも関わるのかもしれませんが,民法の中に規定を置くと改正が遅くなるのではないかという御懸念を,本日も少し述べられましたし,これは様々なところで言われているところかとも思います。しかし,消費者契約法に置けないのならば民法に置くというお話は,民法の改正は遅く消費者契約法の改正は早いという前提と両立しないのではないかという印象を持ちます。少し揚げ足取りになって恐縮ですが,一般論として考えたときに,民法ないし消費者契約法に置くような,消費者契約一般に適用されるような規定の安定度という問題と,特商法その他に置かれる,非常に迅速に改正を要するような規定の安定度というものの間に,私は差があるのではないかと考えています。その辺についてどうお考えなのかというのが第2点です。 ○池本参考人 御質問ありがとうございます。   私の認識は,今,大村先生がおっしゃった一番最後の部分とかなり近いと思っております。つまり,民法そのものが消費者契約をきちんと視野に置いた,抽象的な理念規定だけではない,ある程度民法の中に取り込むべき規範として,すくい上げるものはあるのではないかと思います。   しかし,消費者契約法にあるものを全て民法に取り込んで,消費者契約法を完全に統合してしまうということには反対なわけです。と申しますのが,先ほどの紹介でもありましたし,今,日弁連で議論しているのは,消費者契約法そのものを更に具体化し,深めていく,あるいは広げていくということを提案しております。消費者契約法はそうやって日々進化していくものですし,一歩具体化することによって適用しやすいということがあるわけです。   それに対して,消費者契約法が定着していくことによって,民法全般の中の安定的な規範になる,それは完全な一般法化して定着するものと,ある程度格差のある消費者契約,あるいはもう少し広げてでも,格差のある当事者に向けた規定として安定的なものを拾い上げていくということはあると思うんですが,その一歩先の,更に時代の状況に応じて,消費者契約法に更に取り込むべきだというものは,やはりあるのではないか。   その意味で,併存説的な考え方ですが,民法にどの範囲のものを現時点で入れるのがよいのかという部分の結論が,まだ見定められていないところというような認識です。 ○山本参考人 後者の点に関して御質問をちょうだいしましたので,回答させていただきたいと思います。   消費者保護法と民法との関係,射程領域をどういうふうに考えるのかという問題かというふうに理解しております。なかなかいろいろな考え方があるところで,難しいと思うんですけれども,民法の射程領域について,消費者保護を含む格差是正規定まで広げて考えるというふうになった場合には,消費者契約法の射程領域とオーバーラップしてくるところはかなりあるんだろうと思います。消費者特別法の消費者契約に関する民事ルールについては,消費者契約法のみならず特定商取引法にもありますので,その点,完全にオーバーラップし切るのかどうかというのはちょっと分からないですけれども,民法の射程領域を広げて考えると,消費者契約法の対象としている領域と民法が対象としている領域というのがオーバーラップしてくるというのはあり得る。そういう領域は広くなってくるんだろうと思います。   現在論じられているような消費者契約に関する特則というのは,そのオーバーラップしている部分に存在するものではないのか。したがって,理屈上は民法に規定するというやり方もあるのでしょうし,包含される関係にある消費者契約法で規定するという立法形式もあり得る。両方とも理念的におかしいというものはなくて,どっちのほうがよりいいか,法形式として便利,使いよい,望ましいかという,法形式の選択の判断かというふうに理解しています。その中で,民法というのが今まで110年改正されてこなくて,今後はこんなことはないのかも分からないですけれども,少なくともそんなに頻繁に改正される法律ではないだろうということを考えたときには,消費者契約法のほうに位置付けたほうが,くるくると改定できるような法律のほうに位置付けておくほうが,今後のことを考えたときには,よりいいのではないか。だから,消費者契約に関する特則については消費者契約法に位置付けておくほうがいいのではないだろうかという考え方です。 ○大村幹事 お二人の意見が一致しているのかどうか,ちょっとよく分からなかったのですが, 私が伺いたいのは,消費者契約法をどうするかということはさておいて,民法に消費者に関する規定を積極的に置いてほしいというお考えなのか,それは便法にすぎなくて,本当は消費者契約法に置きたいのか,そこをはっきりさせていただきたいということです。 ○池本参考人 実は,消費者契約法改正で置けないのであれば民法をという,あのくだりは私たちの中でも多少議論があって,異論があるところなんです。つまり,私が前半で申し上げたように,消費者契約法という,ある程度機動性のあるところを更にバージョンアップしていくことが必要ですが,今動いていない消費者契約法の側をやるべきであって,民法はごく一部だけだというふうに考えるのか。どの範囲を民法に入れ,どこから先を消費者契約法に置くかという,そこの見極めが,私たちの中でもまだ議論が見定まっていないということの反映なんです。   そのために,消費者契約法が改正されるべきだから,そちらへできるだけ入れるべきで,民法はもう最小限,理念規定だけだということではないはずです。むしろ消費者契約法の改正を待たず,民法の中に取り込むべきものは入れるべきです。それを,どの範囲かというところで,私たちが出した提案の中には,むしろ性質からすれば,これは消費者契約法ではないかという議論もしながら,取りあえず全部列挙したので,何か全部を民法へというふうに聞こえてしまっているのかもしれませんが,実は,その配分の仕方については,二つのバランスはあるだろうというふうに考えております。 ○山本参考人 問いに対して端的にお答えをさせていただけていなくて,申し訳ございませんでした。   その点に関しては,我々を含め説明資料(1)を策定していた際に議論している中でも,民法に置くべきではないかという意見も,消費者契約法に置くべきではないかという意見も,それは両方ございました。両方ございましたけれども,消費者問題対策委員会の中で議論している中では,消費者契約法に置くほうがいいのではないかという意見のほうが多数意見であったように思います。 ○松本委員 2点ありまして,一つは今の大村幹事の御質問と関連があるんですが,あるルールを民法ではなくて消費者契約法に入れるべきだという場合の意味が,例えば,今回の民法改正の提案の中には従来なかったような条文がいっぱいあります。例えばリース契約を典型契約として認めようという提案がありますが,リース契約は事業者間では意味があるけれども,消費者にとっては何の意味もないものなので,消費者契約に関しては,これは適用しないという特則を置かざるを得ないと思うんですね。そういうような新たに民法に新設される条文について,消費者契約には適用しないという趣旨の規定を,民法とは別の消費者契約法のほうに,民法何条は消費者契約には適用しないというような規定を入れるのがいいということなのかどうかという,条文の配置ですね。消費者契約に関するルールを消費者契約法に入れる,民法に入れるという議論との関係で,民法のある条文を適用しないというのはどっちに入れるんだという話。   もう一つは,このフローチャート,大変よくできていると思います。格差是正規定というものがうまくできれば,消費者保護規定はひょっとしたら要らないかもしれないと思うんですが,格差是正規定の中の特に個別規定というのが果たしてできるのか。つまり,格差のある契約当事者とは誰と誰の場合だということが,定義ができるのかと。できるのであれば,恐らく消費者保護規定は要らなくなると思うんですが。そのあたりの成算は,日弁連としてはお持ちなのでしょうか。 ○池本参考人 まず,前半の御質問の点です。   リース契約を一つ例に出されました。実は,これは後半で御説明させていただこうと思っているところですが,規定の種類によっては,消費者契約について適用除外という提案ではなくて,提携リース形態の場合は別の特別法の規律が必要だという形で提案をしようと思っているのですが。おっしゃるとおり,規定の中では,格差ある当事者間では妥当しないものと,するものという線引きはすべきだと考えております。 ○山本参考人 後者に対する御質問に対して,お答えさせていただきたいと思います。   正直申し上げて,規範定立はなかなか難しいんだろう,ハードルは高いんだろうと思います。今後検討していくべきテーマの一つになると思うんですけれども,消費者・事業者というふうな既成の概念,ある程度外縁のはっきりした言葉を使って定義できるものに比べて,なかなか難しい条文定立をしないといけない,条文化するときは難しい規定になるんだろう,ハードルは高いんだろうという問題意識は有しております。 ○山本(敬)幹事 先ほど,もう1点お伺いしたいと言っていたのがこの格差に関わることですので,併せてお聴かせいただければと思います。   4ページに,民法も現実の人に対する知識・情報・交渉力等の様々な格差に対応する必要があるとの考え方に賛成するとありますが,ここで言う情報・知識・交渉力等の様々な格差というのは,どこまでのものをお考えになっておられるのでしょうか。消費者だけであれば,情報・交渉力の格差という現在の消費者契約法が想定しているものが念頭に置かれているのかなと思いますが,ここではわざわざ「様々な格差」とおっしゃっていますので,例えば年齢だとか,性別だとか,障害だとか,国籍,民族などなど,そういったものに由来する「様々な格差」もお考えなのか,あるいは,財産の有無・量に基づく格差も含んでいるのか,あるいは,出自とか,受けることができた教育だとか,経歴だとか,そういったものに由来する「様々な格差」もお考えなのかということをお聴かせいただければと思います。   そしてもう一つ,消費者契約に限って言いましても,現行の消費者契約法は,事業者・消費者間に存在する情報・交渉力の構造的な格差を念頭に置いてできている法律ですが,ここでは,そのような構造的な格差だけではなくて,個別的な格差に当たるものまで拾っていこうというようにお考えになっているのか。そうすると,現行法に対して,根本的とは言いませんけれども,非常に大きな違いをもたらす可能性があって,そこまでお考えになった上で検討されているのか。   この2点について,確認させていただければと思います。 ○池本参考人 非常に問題の深いところを御指摘いただきました。私たちは,この格差というときに,個別事案の個別事情を全部取り込むような規定ということまで申し上げているわけではありません。   ただ,例えばフランチャイズの契約とか中小企業の問題などを見ても,事業者と事業者間であっても,むしろ構造的な格差として評価すべき部分というのはあるのではないか。そういう構造的な格差の場合の判断要素として,これまで消費者契約法等で言われていた情報・交渉力という言葉でくくり切れないものがあるのではないか。それは,どういう形態のどの要素が,その構造的なもの,類型的なものであって,言葉として何を足せば過不足がないかというところまで詰めてあるかというと,まだ,申し訳ありませんが,そこまでは詰め切れておりませんが,少なくとも現在の消費者契約法の文言よりはもう少し広げ,射程を広げる必要があるというような意見です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,いったんここで休憩を取らせていただきます。よろしくお願いいたします。           (休     憩) ○鎌田部会長 再開をさせていただきます。   引き続き,日本弁護士連合会からの意見聴取を行います。質疑応答を合せて90分の範囲に収めたいと思いますので,適宜,時間配分をしていただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○辰巳参考人 辰巳と申します。   説明資料(2)の通し番号の54ページから,第5,保証制度の見直しについて述べさせていただきたいと思います。   私自身は,日弁連の消費者問題対策委員会の多重債務部会というところで,サラ金,クレジット,多重債務,高金利の問題を扱う部会にずっと所属してきました。   自分自身が弁護士になって,当時一番問題になっていたのが商工ローンの問題でして,商工ローンをめぐっては,日栄,商工ファンド,シティズと,最高裁の判決が積み重ねられてきたところで,それは主に利息制限法をめぐるものだったのですが,実は商工ローン被害の大きな問題というのは,利息は主債務者から,そして主債務者がつぶれたときに保証人から元本を回収するのだと,そのように豪語していた保証人被害であったというふうに認識しています。改正貸金業法が成立しまして,御承知のとおり,高金利の引下げとか総量規制が実現しました。かなり画期的な,ひょっとすると日本に独自の法規制かもしれませんが,出来上がりました。ところが,残念ながら保証についてはほとんど手付かずの状態で今に至っております。   そういうことで,日弁連の多重債務部会においては,この保証の問題を次に取り組もうとしていたところ,この民法改正,債権法改正の動きというものが出てまいりました。是非皆様,諸先生方のお力,お知恵を借りて,日本からこの保証人被害というものをなくしていきたいというふうに考えているところであります。   保証について,各論的にはいろいろ議論があることは承知しておりますが,やはり保証というものはどういうものかという点を,少し別の観点から幾つか見ていきたいという形で構成させていただきました。   配布資料の通し番号の54ページから,幾つかの視点ということで,まず,自殺対策の視点というものを挙げさせていただきました。   今回の中間論点整理でも,生活破綻に至るような保証について,保証人保護を強めるべきであるというような記述があります。あるいは,これまでの審議のところでは,自殺の原因となっている連帯保証をどのように考えるかという記述もあったように承っております。ただ,実際に保証と自殺がどの程度関わっているのかというところを調べてみると,実は,はっきりした統計というのは残念ながら見当たりません。   感覚的には,私自身も含めて,多重債務問題を扱ってきた,あるいは中小・零細事業者の破産,倒産事案を扱ってきた実務家においては,経験的には,保証が自殺の原因となっているということは分かる話なのですが,そのような中で,NPO法人で自殺対策支援センターライフリンクという団体がございまして,全国的に活動している組織ですが,その団体が「自殺実態白書」というものを出しております。自殺の遺族1,000人に聴き取りをした調査というものになっておりまして,そこから自殺の危機要因というものを68項目ピックアップされておりまして,その一つに「負債(連帯保証債務)」とあります。法律的に正しい意味で連帯保証債務とされているのか,あるいは,それが通常保証なのか,根保証なのかという区別はありませんが,社会一般で言われている連帯保証というものが一つの要因に挙げられています。何もこの連帯保証だけが自殺を引き起こしているなどと主張するつもりはありませんで,様々な要因が自殺にはありますが,その中の一つに挙がっている点というのはやはり重要ではないかということです。   また,中小企業を主な対象とした連帯保証人制度が事実上の無限責任制度となっており,借り手や保証人に多大なるプレッシャーを与えて,自殺を引き起こす遠因である可能性を示しているというような研究報告もあるようです。   つい先ごろ公表されました最新版の,平成23年版の「自殺対策白書」では,平成22年の自殺者の総数は,やはり残念ながら3万人を超える事態になりまして,13年連続3万人を超えるという異常事態が続いております。いろいろなところで見聞きするところですが,そのうち,原因,動機を特定できた事案のうち,経済・生活問題というものが占める割合が非常に高くありまして,また,有職者の自殺者においては,自営業者と家事従事者の割合が非常に高い。やはり中小・零細事業者が,経営の行き詰まりを理由に命を絶ってしまうという事案が多いということがうかがわれるものであります。   政府のほうでも,この自殺対策につきましては様々な取組をしておりまして,例えば「自殺対策100日プラン」では,連帯保証制度,政府系金融機関の個人保証について,「制度・慣行にまで踏み込んだ対策に向けて検討する」というような表記もあるところでございます。   次に,多重債務被害防止という視点ですが,これにつきましては,日弁連が3年置きに行っております自己破産あるいは個人再生の記録調査においても,保証債務等を原因とする破産が約25%,個人再生でも16.09%という指摘があります。   中小企業庁におかれてもいろいろ調査をされておられまして,倒産直後に経営者個人が負っている負債の額が1億円を超えているという経営者が半数以上の57.4%,事業に失敗すると同時に経営者個人も1億近い保証債務を負ってしまうということが出てきます。あるいは,法人破産のときには関連して代表者個人の,関連個人の破産も約9割に及んでいます。   自分自身の経験でいっても,会社の倒産事件の相談が来たときには,併せて代表者も破産,それから,保証人になっている親族も一緒に来てもらって併せて破産をする。それが何か当たり前のように自分の中でも,破産の実務の中では行っているのですが,果たしてそれが本当に通常の姿なのかというところは,もう一度問われないといけないと思います。   中小企業の再チャレンジという点でも,保証は阻害要因になっていることは様々な研究で指摘されております。そのうち,最新のものでは今年の4月に,「中小企業の再生を促す個人保証等の在り方研究会報告書」というものがありまして,ここは抜粋を記述しておりますが,詳細は本文に委ねまして,ただ,小規模企業者であればあるほど保証人を求められる,しかも代表者以外の個人を求められる,経営にも縁のない個人保証を求められるという割合が高いとの指摘があります。   その下ですが,経営者責任としての個人保証債務の履行ということですが,ここにもやはり,保証債務は個人資産を超えることが通常になる,それで,まずは不動産,自動車等,目に見える財産の処分,相殺等が金融機関によって行われる,保証履行時には個人の預金はせいぜい10万から100万程度の僅かになっている,結局,法人からの回収が済んだ後は,保証人からの回収はそれほど期待できない状態になってしまっているということが記載されています。しかしながら,なおかつ,そのような状態であるのに金融機関が保証人に対して徹底的に保証債務履行を行う理由として,例えば債務放棄時の無税償却が認められないということがあったり,株主からの責任追及があったり,あるいはモラルハザードというものを起こす理由があるということから,徹底した保証責任の追及というのが行われるとありますが,本来の人的担保として,債務者から回収できなかったものを保証人から回収すると本来の目的とは違う目的で,保証というものが取られているのではないかということがあります。   それから,少し急ぎまして,57ページになりますが,右下のほうで,今年の2月28日に金融庁が,中小・地域金融機関向けの,あるいは主要行向けの,監督指針というものの一部改正案を公表しております。先日の新聞報道では,これをもう採用する方向で固まったとあり,まだ報道レベルでしか確認できておりませんが,経営者以外の第三者による個人保証等を原則として取らないということを監督指針に定めるという形で,この保証の問題について,金融庁,銀行サイドでも取組がなされているところです。   58ページの(4),東日本大震災の被災地相談からということで,私も1度,被災地に行って法律相談というものを行ってきたのですが,あるいは日弁連においても様々な形で被災地の法律相談に,今取り組んでいますが,やはりローンをめぐる相談が多い。その中には,被災地は今回は特に中小・零細事業者の被害が多いわけですが,そうなると,必ずこの保証人の問題が出てくるということになります。   今回紹介させていただきましたブログでは,夫が震災で亡くなったと,その夫は,兄弟の情義的な保証人になっていたが,夫が亡くなったときに,その保証債務というのは相続するのですか,ということです。そのときに,法律的には相続しますということになるわけですが,避難所で被災地にいる方にそのまま,あなたは相続することになるから相続放棄をしなさいとか,しかし一方で,相続すべき財産があるときには相続放棄ができない,では最終的には自己破産ですね,というような形では到底助言はできない。大変苦しい思いをしている被災者に,そういう言葉は言えないわけですので,このブログを書かれている司法書士さんですが,やはり情義に基づく連帯保証が壊滅的な災害時にいかに被災者の生活再建の妨げになるのかという指摘をしています。   今,二重ローン対策について,いろいろ取組がなされているところですけれども,これについても,被災債務者がどのような形で救済されるのか,いろいろスキームが検討されていますが,そのときに保証債務も併せて免除されるような仕組みになっていかなければ,結局,被災者はそのようなスキームを選択することができない,保証人に迷惑が掛かるからというようなことも起こるところです。   (5)として,韓国の保証人保護のための特別法というものを紹介させていただいておりますが,これは情義というところについて取り上げたものです。制定理由として,韓国では,我が国特有の人情主義によって,特別な対価を受けずに,経済的負担に対する合理的考慮なしで,好意で行われる保証が蔓延し,債務者の破産が連鎖的に保証人につながれ,経済的・精神的被害とともに家庭破綻等に至るなどの保証被害が深刻であるということで,この保証人保護のための特別法というものを,債権法改正の作業の中で策定したというふうに聞き及んでいるところです。これは正に日本でも当てはまることではないかということです。   次に,最近出てきた保証被害ということで,新たな被害として,保証人紹介ビジネスというものが広がっております。   59ページの下段からになりますが,国民生活センターの報告書ですけれども,これは何かというと,インターネットなどで,一方では保証人ビジネスをしませんかと,迷惑は掛かりませんと,あなたの名前を登録するだけで人助けになりますと,登録していただいても,ちゃんと主債務者が返すし,もし主債務者が返さなければ代わりに当社が返しますというような形で,保証人に登録させる。一方で,なかなか保証人が見つからない人,最近の無縁化社会,孤立化社会というのがあるわけですが,家を借りようにも,お金を借りようにも,あるいは仕事に就職するときに身元保証というのを求められたときにも,なかなか保証人というものを自分で見つけ出すことができない層が広がっております。   特にホームレス状態にある人が生活支援を受ける中で,新たな入居先を見つけるときに,やはり保証人が必要とされるときに,なかなかネックになって,民間の支援団体の方が自ら保証人になっているというようなこともありますが,そのようなときに,この保証人紹介ビジネスというところに手を出してしまって,例えば,大阪の賃貸の借主が東京で登録している保証人を付けて,一度も会ったこともないのに保証契約というものを結んでいる。実際は,その後,約束どおり支払がされずに過大な保証債務を負ってしまったとか,あるいは保証人を付けてもらえなかったとか,いろいろトラブルが生じております。   これにつきましては,消費者トラブルとして,いろいろ対処しないといけないところもありますが,62ページになります,下段のほうですが,これは国民生活センターのまとめですけれども,最終的には保証人紹介サービスの利用を考える消費者は後を絶たず,トラブルに巻き込まれる結果となる,事業者への法規制や監督官庁が保証について存在しない現状において,保証人紹介ビジネスに代わる何らかの社会的制度の整備が望まれる,とされております。   しかし,この保証というものを求める仕組みというもの自体を見直すことができないのかということも考えなければならないのではないか,というふうに考えております。62ページの下段,「2.保証に依存しない社会構造への転換と民法の役割」ということで,少し大仰なタイトルを付けました。この問題を考えると,いろいろ難しい点が出てきます。政策論的な問題も出てくるということは重々承知しているところですが,そこに民法が果たすべき役割というものは何であろうかというところを簡単に記述しました。   保証には,今までよく言われている,情義性,軽率性,未必性,無償性などの問題があります。今回の保証人紹介サービスというのは,正にこの軽率性というものが出てきたジャンルではないかとも思われます。   一方で,私自身も賃貸で生活しておりまして,義理の父に保証人になってもらっております。皆さんもいろいろ保証人になったり,なってもらったりということがあるかもしれません。保証は,非常に日常的に,融資,リース,賃貸,雇用,その他の場面で行われているものですが,しかし,債権者がそのリスクを主債務者以外の第三者である保証人に転嫁できる仕組みが恒常的に,当たり前のように行われている社会構造というものが,果たして健全かどうかという問題意識があります。   特に家をなくした人,派遣切りとかで住居をなくしたような人が,新たな家を見つけて再出発するのには,どうしても家が必要である,あるいは就職も必要である,当面のお金も必要である。そういうような生活・事業に不可欠な融資,賃貸,雇用,これは奨学金等も含めてですが,受ける際に保証人を求められて,保証人が付かなければ融資等が得られないという仕組み自体が,そもそも社会的強者が社会的弱者に対して優越的な地位というものを濫用している場面と言えるのではないか。   あるいは,日本の貧困というものが社会問題化しておりますが,社会が無縁化,孤立化する中で,社会的・経済的弱者が保証人を立てられないという状況下で,そこに保証人紹介サービスのような悪質業者が出てくる土壌があるのではないか。それは,保証人を要求する構造に問題があるのではないか。   あるいは,保証というものは,情義的・無償な保証を前提とすると,ハイリスクでありノーリターンな契約であるとすると,しかも,保証協会などが断ったようなものまで素人が保証させられるということがあります。あるいは,断りにくい上司に頼まれる,親族に頼まれるというふうになると,それはやはり断りにくいという状況下で締結されるものであるから,状況の濫用的な,あるいは不当な威圧を受けたというような契約と言えるのでないか。   先ほど述べたとおり,中小企業者の再チャレンジ阻害,あるいは自殺対策という観点も問題となっているなど,この保証契約はやはり恒常的・類型的にいろいろな問題をはらんでいる契約類型だと位置付ける。よって,もちろん契約一般においても様々な方策というものが採られないといけませんが,さらに,保証契約においては特に保証人保護が強く求められている分野であり,日弁連の消費者問題対策委員会としては端的に,保証契約,個人保証,自然人保証そのものが禁止されるという道を模索していけないであろうかというふうに考えております。   保証の仕組みは民法で定められておりまして,今のような話は政策論のように聞こえるかもしれませんし,あるいは特別法,あるいは中小企業支援など,いろいろな社会保障・経済政策分野などとも大きく関わっているところですが,しかし,保証に依拠しない日本社会への構造転換を図るためには,その責任というものが民法にもあるのではないかというふうに考えている次第です。   日弁連がこれまで出してきました保証に関する意見については63ページ以下になります。これは,今までの審議の過程で机上配布いただいているものというふうに認識しております。統一消費者信用法要綱案,あるいは法制審議会,平成16年改正の際の要綱中間試案に対する意見書というもので,その下に書いているのは,日弁連がこれまで公表してきた意見の概要になりまして,これまでは,消費者信用における保証の禁止,事業者向け融資における第三者包括根保証の禁止,それから,書面の交付義務,支払能力を超える保証の禁止,64ページになりますが,撤回権などなどを提案しております。また,経営者保証というものについても何とか脱却できる道はないのか,あるいは,保証人保護という観点からの説明義務・情報提供義務,これは契約時及び契約締結後。それから,期限の利益というものを維持できる機会がないのか,あるいは,根保証についての特別解約権が認められないかなど意見がなされてきております。これらについては審議録も拝見させていただきまして,かなり熱心に御議論いただいているところは存じ上げているところであります。   その下ですが,保証人がそもそも誰にでもなれる契約なのか。しかし,そうはいっても,説明義務等々だけではなく,そもそも自然人保証,個人保証の原則禁止という可能性を模索することはできないか。是非これからの審議において,その道も模索していっていただきたいというのがお願いでございます。   保証契約というものは,かなり体力のある一定の資格能力があるような機関しかしてはいけないのではないか。あるいは,保証というものは,特定の契約類型のみに許されるという形でのアプローチはできないか。消費者契約となる保証は禁止できないか。あるいは,保証人を要求すること自体が濫用となる場面というものは存しないのか。究極のハイリスク・ノーリターン取引として,適合性の原則というものが導入できないのか。支払能力を超える保証を禁止し--フランスには比例原則という規定がございまして,日弁連の消費者問題対策委員会多重債務部会でも,この秋にフランスに調査に行く予定です--そういったところで,資力のない者の過大な保証というものを排除できないのかということになります。   以下,その他のところは,既に審議のところでいろいろ議論されているところですし,今回,御配布させていただきました日弁連の資料,消費者問題対策委員会の意見というところに記述しておりますので,今日は割愛させていただきます。   保証契約においても,いろいろと,大企業間の保証というものもあることも存じ上げておりますが,やはり保証契約の多くが,一般国民,一般市民におけるもの,私たちが日常目にするのは本当に身近な,ちょっと迷惑かけないから保証人になってくれないかという世界における保証ですので,そこに軸足を置いた保証規制というものを是非考えていっていただきたい。その上で,大企業間の保証等,特別な類型においては別途手当てするという道を採っていただきたいというのが提案になります。   以上,駆け足でしたが,私からの報告,意見になります。 ○池本参考人 続きまして池本から,通し番号65ページ以下,複数契約の解除・無効,抗弁接続,リース契約に関して申し上げたいと思います。   まず,複数契約の解除の関係と無効の関係は関連付けて申し上げたいと思うのですが,いずれについても規定を設けることについて賛成です。そして,契約締結の目的あるいは契約締結過程の密接性という側面と,一方の不履行により他方の契約目的が達成できない,あるいは一方がなければ他方の法律行為をしなかったと考えられるという,重要性という切り口で要件定立は十分可能ではないか。そして,同一当事者だけではなくて複数当事者についても規定を設けるべきであるし,それは,これまで幾つもの,特に消費者契約の特別法の中で設けられた規定などを参照すれば,十分に導入可能ではないかという観点で申し上げたいと思います。   複数契約ということで見ますと,商品の売買に役務提供を付随させるということは,例えば学習指導付き教材販売のような例が,これは特商法の中で,特定継続的役務提供プラス関連商品販売ということで整理されております。その中では,役務提供の受領者が購入する必要がある商品というような表現を使っております。これは,役務提供の要件がかなり絞られていることと,関連商品も指定商品制を採っているということがあるので,関連性はかなり緩やかな表現になっていると思います。   それから,平成8年のリゾートマンション売買プラススポーツクラブ会員権は,これはもう皆さん御承知のとおり,契約締結時の密接不可分性と一方の不履行により他方の契約目的を達成できないときという要件付けをしているということは,御承知のとおりです。   それから,商品を売買し,それを事業者側で預託を受けて一定の利益を配分すると,こういう分野が消費者被害の中でも,例えば豊田商事事件とか和牛預託商法とかなどにもあります。この分野では特定商品預託取引法という法律の中で規律があるのですが,これも指定商品制で限定されているというようなこともあって,あるいは預託の要件も限定されているということもあって,預託を受けることに関し利益を供与するという,関連性のところはかなり緩やかに規定されております。ただ,何しろ指定商品制であるために,例えば⑥の絵画レンタル商法などというのは,全く同じ構図なのですが,規制対象になっていなかったということがあります。   あるいは,商品の売買に伴って利益を提供するという意味では,マルチ商法,連鎖販売取引も,会員を拡大すれば利益が得られるということと商品を販売するということがセットですし,内職商法,業務提供誘引販売取引というものも,利益を供与することをうたい文句に商品を販売するというものです。   ただ,こういう分野は書面交付とかクーリングオフ,勧誘行為規制というような,言わば画一的な規律を規制対象にしているために,それの要件に当たるかどうかということで,要件に当たらないという事例も出てきますので,やはり一般的な民事規定として,民法あるいは消費者契約法などに,もう少し広く規定を置く必要があると考えております。   そして,複数事業者の関係についても,例えば売買と役務提供の,先ほどの継続的役務提供プラス関連商品販売の特商法も,購入する必要がある商品の販売又はその代理若しくは媒介ということで,複数当事者を最初から想定して規定をしています。   あるいは,売買プラス利益供与の連鎖販売取引についても,物品の販売若しくはそのあっせんということを要件にして,これも複数当事者を想定しています。あるいは業務提供誘引販売取引も,物品の販売,そのあっせんを含むということで,当初から複数当事者を予定しております。   最近発生して,私も現にやっている事件で,アパートのオーナーに対して,光ファイバー設備を設置する,そして入居者への利用契約を勧誘し,契約を締結し,利用料金を集金してあげますというのを,セットで契約を取る。これも言わば設備の販売プラス利益供与をセットにして,しかも別業者をセットしているんですが,勧誘は一方当事者がやっているので,その意味では利益供与プラス販売という形で勧誘し,かつ,一方が他方を契約締結を媒介しているという特徴が見られます。   それから,後でお話しする提携型の与信契約も,広い意味では複数当事者による契約かもしれませんが,これはまた別の規律の問題だろうと思います。   こうした問題については,契約を一個と見て全体が解除できるかどうかというときにも,やはりその重要性の要素で一部解除か全部解除かという規律がありますし,二個の契約だとしても,その関連性の重要性という観点で,先ほどのリゾートマンションの件のように,全体に及ぶと判断があるわけですから,やはり本質的なところは,一方をなくして他方だけで成り立つのかという,その重要性の判断に帰するのではないか。   特に複数当事者間の複合契約というのは,この頃いろいろな分野で,やはりそれぞれの事業者が専門分化しているということ,それぞれがそれをまたパッケージにすることによって魅力ある商品にするという,両面がありますので,今後ももっともっと増えていく。そのときに,複数当事者は規律の対象外とすると,簡単に規律を回避してしまうということになってしまいます。そうであれば,複数当事者間に,先ほどのような契約締結過程における一方と他方の媒介関係といいますか,あっせんあるいは媒介というような関係があるとなれば,二つの取引をセットで勧誘し,契約締結しているという事情も認識し得る状況にあるわけですから,規律ができるのではないか。   実は,こういう議論を私たちの中でしている過程で,そもそも中間整理が想定しているものは強行規定なのか,任意規定なのか。解除の場合には合意の中身によって左右される。でも,無効の場合はそうではないのではないかというような議論をしていくと,これは,民法へ置く場合と消費者契約法へ置く場合と,性質が違うのではないかというようなことも議論が出て,私たちの中では,そこは結論は出ませんでした。是非こういうあたりは今後,この審議会の場で議論していただきたいと思います。   それから,68ページの抗弁の接続。これは,割賦販売法に抗弁の接続に関する規定が設けられております。   これについては,最高裁平成2年2月20日判決が創設的規定であるという評価を下しておりますが,その後,消費者契約法が制定され,消費者契約法5条の媒介者の法理の規定も設けられておりますし,平成20年の割賦販売法改正では,むしろ二つの契約の密接性に着目して,クレジット契約も一緒に取り消せるというような規定も入ってきているところであります。   ただ,割賦販売法は書面交付義務とか調査義務といった行政規制とセットの法律ですから,これを,いわゆるマンスリークリア方式,2か月以内の支払にまで及ぼすかどうかということを議論したときにも,取引量に対する被害発生の頻度だとか,いろいろなそういった要素で見送りになったといういきさつがあります。むしろ民事規定は取引の仕組みに由来するものですから,行政規制セットの場合とは違うのではないかと思うのですが,やはり特別法に民事規定を置く限界というのが逆に出てくるのではないかと思います。   その関係で,これも問題提起というようなことを書いて大変申し訳ないんですが,抗弁接続の規定を議論するというときに,民法の中では,これは任意規定として位置付けるのか,それとも強行規定として位置付けるのか。もともと割賦販売法に抗弁接続の規定が入ったときは,それ以前は,抗弁は切断するという契約条項が明記されていたわけです。しかし,取引の実態に鑑み,それは信義則上適切でないというような議論を経て,強行規定として入ったものであります。ということは,例えば二つの契約,供給契約と与信の契約を一体として扱うことを合意した場合というような,合意を要素に加えると,これは任意規定的な位置付けになってしまう。しかし,それでは,消費者契約などで約款の中に抗弁を切断すると入れられると,それは適用できなくなるのか。そうすると,任意規定にしておいて,不当条項を入れるのか。そうであれば,むしろ強行規定として置くべきではないか。そういうような議論もしました。是非そのあたりは議論を深めていただきたいという,逆に希望するところであります。   さらに,(3)のところですが,今,消費貸借に関する規定の中で抗弁の接続が議論されておりますが,実は割賦販売法は,消費貸借か,立替払か,保証委託か,契約形式を問わず,いずれであっても取引の実体として信用供与と販売契約が不可分一体であれば,抗弁の接続を認めるというふうにしております。そうであれば,民事規定として,より一般法化しておくんだとすれば,そのあたりも漏れがないようにしていただきたい。   それから,更に議論していくと,第三者与信システムとしてのクレジット型の取引について抗弁を接続するということであれば,これは消費者に限定されないのではないだろうかという意見も出ています。これは現に,先ほどのアパートの光ファイバーシステムのケースもそうですが,中小・零細事業者をターゲットにして,クレジットあるいは後でお話しするリースを利用した,詐欺商法のようなものが現実に発生しているというところもあります。だとすると,この抗弁の接続のよって立つ考え方からすれば,消費者に限定するという必要もないのではないか。   実は,このあたりは現在,割賦販売法の適用,あるいはリース,提携リース被害についての裁判例の中では,営業のためにもしくは営業として締結する場合というのをできるだけ限定的に解釈することによって,中小・零細事業者を救おうという裁判例の傾向があります。これは,ある意味ではやむを得ざる一つの解決手法なのかもしれませんが,むしろそのあたりはすっきりとした規定を置いていただければと思っております。   そして,三番目にファイナンス・リースのことですが,これは,中間整理の問題提起としては,ファイナンス・リースというものを新たな典型契約として置くことはどうか,規定内容はどうかということが課題として提起されているのですが,私たちは,むしろ提携リース契約について,業法的特別法の規制がないままにファイナンス・リース契約というものを典型契約とすることには,非常に反対する意見が多いというところを申し上げたいと思います。   一部には,ファイナンス・リース契約自体,置く必要はないのではないかという意見も出ておりました。その理由は,そこにありますような,当事者の互換性がないのではないか,あるいは市場における取引規模も,クレジットとか保険とかに比べると,それほど大きなものではないのではないかというあたりが理由になっております。   ただ,1で述べましたように,仮に典型契約として置くとしても,提携リースに関する事業者規制法等の措置は,これは不可欠である。その部分を,特に理由を申し上げたいと思うのですが,提携リース,特に電話機リースを発端として,平成18年に,経産省が,中小・零細事業者の名義で契約をしていたとしても,必要性のないものを虚偽の説明で販売している,これは販売業者とリース会社が一体として訪問販売を展開しているという,なかなかうまい解釈,やや包括的な販売業者の捉え方によって,特商法で規律する解釈を示しました。しかも,中小・零細事業者といっても,営業のため,若しくは営業として締結したと言えるかどうかを,少し限定的に解釈することによって何とか救おう。というふうにしてきたいきさつがあります。   それから,リース事業者団体も,今のような小口リース,あるいは小口提携リースという定義付けによって,やはりこの部分が問題であるということで対策を講じておりますし,苦情受付の窓口で相談を受けた件数を公表しておりますが,ほとんど減っておりません。平成22年度は12月までのもので,その後がまだ出ていないのですが,むしろ増えているか,横ばいかという状態であります。   ちなみに,リース事業協会の規律は消費者に絞っておりません。事業者も含めてです。むしろリース契約は,出発点は事業者を対象にしていたために,名義上は事業者名で契約をさせるということで,当事者の大半は事業者という名義になっております。そのために,消費者リースだけという切り口では,実際には救われる者は限られていくということになります。   それでは,ファイナンス・リース一般と提携リースとの区別はどうか。   これは,学説・裁判例でも既に議論されているところですが,ポイントになるのは,商品の供給について供給事業者と交渉し選択をするということと,リースの契約条件についてはリース提供者との間で協議をすると,これが,もともとは別々の交渉過程として位置付けられていたし,実際にそうされていた。また,それを前提に学説・判例がずっと展開してきていた。ところが近年は,リース提供条件に関する交渉も,供給者に委ねて,ちょうどクレジットと同じように,リース契約条件の協議も全部任せている状態です。したがって,契約締結過程については全然関与していないで,信用調査と意思確認だけをすると。ちょうど個別信用購入あっせん,個別型のクレジットとほとんど同じような契約締結過程を踏んでいるということになります。   そういった業務提携関係あるいは媒介の関係を明確に意識した裁判例も,例えば,そこに仙台高裁平成4年の判決などがありますが,意識されてきているあかしかなと思っております。ただ,これまでのところでは,信義則という一般法理を理由に処理するという状態でした。   先ほど申し上げたように,これまでは特定商取引法の解釈・運用の中で,リース事業者も販売業者と一緒に訪問販売を行っているというような,解釈によって何とか取り込んだ。しかし,それは飽くまでも消費者という枠付けがある。それから,消費者契約法5条を活用して取消し等の判断を下した下級審の裁判例もあります。これに対してリース事業協会の対応は,消費者に限らず,消費者,事業者を含めて対応しているというようなことがあります。   そして,最後のページですが,私たちは提携リースについて現在幾つもの弁護士会から次々と,少なくとも提携リース契約については特別法による規制が必要であるという意見書が出ています。包括して販売業者に当たるとか,あるいは「営業のために」を限定解釈するという,かなり苦し紛れのところでは,やはり現実の解決ができないという意見が強く出ております。ですから,こういった,言わば提携リースの実態をきちんと視野に置いて,それは適用対象から外すとするのか,特別法を作るのか。そういうことなしに,本来的な形態を想定したファイナンス・リースの典型契約規定だけを設けると,これまでの解釈論上の積み上げが無駄になってしまうということが一番危惧されるところであります。そのあたりは是非御留意いただきたいと思います。   私からの陳述は以上です。   ○辰巳参考人 そうしましたら辰巳から,配布資料2,通し番号73,「第7.その他の論点について」という非常に多岐にわたるところを述べさせていただきますが,ちょっと報告というか,意見が概括的になることをお許しください。   まず1として,過失相殺,あるいは損益相殺,それから損害賠償の範囲というところを挙げさせていただきました。損害軽減義務の明文化につきましては,反対であるとの立場であります。   これにつきましては,特に私なども商品先物取引被害事件などで,いろいろ自分なりに苦労して立証して,従業員とか尋問をして,それで適合性原則違反だとか,説明義務違反であるとか,いろいろな不適合な契約であるとか,そういう認定をいただいて,違法まで認めていただいて,損害賠償責任があるというようなところまでたどり着く。ところが最後,判決文の末尾のほうの数行で,「しかしながら」ということで,しかし原告の側も事業者の言うことをそのままうのみにしてしまった,利益を安易に求めたところにも落ち度がある,あるいは契約書をよく読んでいなかったでしょうというような,本当に簡単な理由で過失相殺3割,4割とかされてしまってという,痛い思いをすることがよくございます。果たしてこの消費者のささいな落ち度というものが過失相殺事由における過失に当たるのかというところは,特に投資被害の問題を扱っている弁護士の間では,ここ数年,非常にホットな議論で,過失相殺のない判決を勝ち取ろうという形で努力を積み重ねてきたところで,ここにも紹介させていただきましたが,一部の弁護士においての研究成果も出版されているところです。   このような裁判実務の現状の下において,この損害軽減義務というものが明文化されてしまえば,ますます過失相殺というものが広がってしまうのではないかという懸念というものが消費者問題を扱う弁護士の中にはあるところです。少なくとも,この過失事由については,業者側に説明義務違反,誤導,不実表示,断定的判断の提供など,消費者側の落ち度を誘発する事情があるときには損害軽減を行うべきではなく,あるいは,取引の性質,それから,損害軽減回避に向けた債務者側の関与の存否・程度,債権者側の知識・経験・理解・判断能力等の属性を考慮しなければならない。奔放な過失相殺はしてはいけないのだという基準作りというものが必要になるのではないかというところです。   完全な被害回復を図るためには,その他,損益相殺においても,悪質商法における悪質な商品の押し付け部分をどう考えるかという問題がありますし,更に踏み込むならば,懲罰的賠償というようなところも考えていかないといけないというところで,一つのまとめとさせていただきました。   続きまして74ページになります。2,金銭債務についての利息超過損害の賠償につきまして,この利息超過損害の賠償を認める規定を明文化することにつきまして反対でございます。   これにつきましては,その債権回収のための取立費用,弁護士費用等も含めた賠償が行われる,認められる可能性がある。それは,債務不履行の一般原則,あるいは因果関係で切れるのかどうかというときに,必ずしもそこが約束されるところではない。さらには,弁護士費用の敗訴者負担制度につながるのではないかという意見が多く聞かれるところでございました。   続きまして,債権譲渡における異議をとどめない承諾のところであります。この異議をとどめない承諾によって抗弁が切断される制度というものは,非常に消費者トラブルの基になりますので,この機会にこの制度を廃止するということにつきましては賛成という立場でございます。   ただ,既に審議でいろいろ議論されているとおり,現行の法解釈では,その譲受人が悪意あるいは学説上重過失のときには,なおその抗弁の接続というものを認めたり,あるいは双方未履行状態にあるような場合についての保護などもなされているところですので,仮に,逆に抗弁権の放棄制度というものを設けたときに,それらとの兼ね合いがどうなるかというのは,やはり同じように慎重に考えなければならないという認識を持っております。少なくとも包括的・抽象的な抗弁の放棄というのは認めるべきではありませんし,審議の中にありましたが,もし放棄というものが今の法解釈,法制度のもとでもできるのであれば,あえて規定を設けないという選択肢もあるのではないかという意見もあります。   四番目ですが,債権の準占有者に対する弁済についてであります。74ページから75ページになりますが,盗難通帳における銀行預金の引き出しが,一時期社会問題化しましたし,一定の法的な対応がなされている類型もあるわけですが,しかし,この民法478条が拡大適用されてきたという,その判例の歴史というものが逆に,不正利用を防止するという努力というものを遅らせたのではないか,安全システム構築を遅らせた一因ではないかというような指摘もなされているところであります。このような観点から,債権者の帰責性の事由の要否についても慎重に検討すべきであるという立場でございますし,この478条を拡張していくという考え方についても,否定的な立場にあります。   五番目,契約自由の原則です。分かりやすい民法という観点で,当たり前の原則を条文に書こうということになりますが,私たち,特に消費者側で裁判をしている側から見ると,契約自由の原則というものが果たして正しく理解されていないのではないかと感じられる場面に遭う,交渉事件あるいは民事裁判の中でもそのように感じられることがある。契約自由というものが間違って独り歩きしているのではないか。これはもう数値化できるものではないので,感覚であえて申し上げるしかございませんが,この契約自由というものも,契約正義,公序,公平,公正といったものの枠内にあるのだということを,むしろ注意喚起する,もう一度再認識させる,気付いてもらう,自覚してもらうというのが,分かりやすい民法として求められるのではないかという立場でございます。   75ページの6,契約締結過程における説明義務・情報提供義務につきまして,これもいろいろ様々議論があるところでありますし,消費者契約法の実体法改正においても,これまでも立法時にも,それからその後の検討においても,いろいろ議論されてきているところですので,あえて私が申し上げるところではございませんが,しかし,様々な判例や,あるいは法律の分野で,既に説明義務・情報提供義務というものが盛り込まれておりますので,これを民法に基礎付けるコンセンサスというものは既にあるのではないかというのが意見になります。   七番目,消滅時効ですが,これは,消滅時効の短期化というものについて,例えば消費者が債務者となる場合には有利だから短期な時効でいいではないかというようなアプローチが片やあるとして,しかしながら他方で,そもそも消滅時効制度というものはどういうものであろうかというところをきちっと考えないといけないのではないかということは,消費者問題に関わる私たち中でも,これから議論していかないといけないところです。   というのは,実際に消滅時効が問題となるのは債務不履行に基づく損害賠償,不法行為もそうですが,これは,生命・身体に限らず財産的損害も含めて,やはり権利行使の機会を失ってしまう。それは,権利があるかないかがもう過去の問題で分かりにくかったからではなくて,実体上権利の存在がきちんと立証できて,権利があることを分かっておきながら時効で救済されない事案というもの,時効になっているからといって断ち切られる事案というものがあるということを考えていきますと,やはり消滅時効の短期化というものについては基本的には反対のスタンスということになろうかと思います。   77ページ,消費貸借になります。この点もはしょりますが,消費者ローンにつきましては冒頭,保証のところで私も言いましたが,やはり念頭に置くのが商工ローンなど,中小・零細事業者も借主になるというところで,そのときに高利収受というものからいかに債務者を解放するのかというのが視点として常にあります。ですから,諾成的消費貸借をめぐって様々な議論があることは承知しておりますが,その場合でも,あるいは期限前弁済というようなところであっても,その利息相当損害というものを課すのだというような規定は,消費者に限らず,一般ルール化すること自体について反対という立場になります。   九番目,賃貸借終了時の原状回復というところでございますが,これにつきましては,原状回復に通常損耗・自然損耗は含まれない,それは対価である賃料によって賄われているという理解で,それを明文化する,消費者については強行法規化するという考え方について賛成であります。一方で,用法違反による損害賠償請求権につきましては,これはよく,何年か経過した後に家主から急に,クロスがはがれていたやないかみたいな形で請求される事案もございますので,やはり賃借物を返還した後は,どういう状態になっているかというのは借主には分からないわけですから,この期間制限というものは現行法どおりでよいという立場でございます。   十番目,「サービス契約」という,あえてくくりをしました。役務提供契約として提案されていますし,請負,委任という場面も出てきます。あるいは継続的契約というようなところでもかかわってきます。   サービス契約というものが現代の消費者契約においては非常に大きな割合を占めていること,モノからサービスへシフトしているというふうにされております。78ページですが。一方で,このサービス契約に伴うトラブルというものが急増してきているということであります。サービス契約につきましては,そもそもどのようなサービスなのか,評価することも難しいし,受けてみないと分からないというようなところもありますし,受けた後に返還するということも難しいということで,いろいろトラブルになる類型です。しかも,その相談の多くは,国民生活センターでは解約・契約に関するトラブルということになります。   今回,このサービス契約につきまして,今後どのような位置付けされるのか。役務提供契約,あるいは準委任,あるいは受皿規定の設定,あるいは請負の設定などによって,いろいろあり得るので,まだ固まった考え方というものがあるわけではございませんが,これを見ていく視点におきましては,サービス利用者において解約をする権利というものが保障されるべきであること,そのときの解約の際には,損害賠償の制限というものが民事ルールとして設けられるのではないか,予定された報酬相当額が損害となるというようなことにはなってはいけないという考えです。   十一番目,消費者契約の特則についてというところですが,これは,最初に山本弁護士のから報告がありましたので,書面のとおりという形にさせていただきたいと思います。   日弁連では,消費者契約法の実体法改正に関する意見書を平成16年に上げて,実際に消費者基本計画,あるいは様々なところで,消費者契約法の実体法改正に現に動いていたというところ,それが途中で止まってしまっているという認識を持っております。先ほど,民法,消費者契約法という議論はございましたけれども,その議論の成果というものが立法という形で実を結ぶということを求めているというところになります。   以上,本当に大変駆け足で申し訳ございませんが。 ○池本参考人 ちょっと補足させてください。   今日,私たち3人が提案した中には,現在の消費者契約法にもない,更にこういう規定も,ああいう規定もと,あれもこれも民法に入れろと言うのかというふうにお聴きになられたかもしれません。これは,前半の質疑の中で私申し上げたように,民法に取り込むところまで法理として達しているものと,消費者契約法の中に少なくとも入れてほしい,入れることは可能ではないかというもの,レベルはあるんだろうと思います。   全部を民法でなければいかんということを申し上げているわけではありません。この法制審が始まる以前の段階の議論では,消費者契約法を民法に取り込んで,なくしてしまうのか,残すのかという,二者択一的な議論があったときには,私たちはなくするのは困るというほうの意見が多数を占めましたが,むしろ現状では,民法の中に法理として取り込むべきものと,消費者契約法を更に進展していくべきもの,そこのすみ分けが必要ではないかというような議論をしております。どこがその線引きか,私たちもまだまだ分からないところですが,是非そのあたりは踏み込んだ審議をお願いしたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,休憩前にちょうだいした御意見も含めて,委員,幹事等の皆様から御質問がありましたら,御自由に御発言ください。 ○道垣内幹事 保証について1点伺いたいと思います。私も日弁連の委員会の方々と保証について何回か議論をさせていただいたことがありまして,その際,私は,保証人保護と債務者保護というのは両立しがたい面があるのではないかということを申し上げたことがあります。そうしましたら,委員会の方から,保証人を保護することによって無理な消費者信用ないしは貸付けというものがやりにくくなって,それによって総量規制される。そして,そのことによって債務者の保護になることになり,債務者の自殺を防ぐことにもつながるという説明を伺いました。私は,これはこれで大変よく分かる論理だと思います。   しかし,本日のお話では,それを賃貸借などの賃料保証の場合にも広げられましたが,これは先ほどの商工ローンの問題と違いまして,保証人が保護されることによって契約ができなくなると困るという類型なのだろうと思うのです。このときにまで,例えば自然人の保証をさせないようにしようという理由は何なのだろうかというのが伺いたいところでございます。   それについては,実は回答らしきものが今日のペーパーの中にもございまして,そのような生活に必要な賃貸借,住居とかを貸すというときに保証人を取るというのは,強者の優越的地位を濫用していると言えるのではないかという話なのですが,それは,資産のある人はリスクは甘受して資産のない人に貸しなさいという論理でして,私にはとても信じられない論理です。同じく,生活の資についても保証人なしに貸せというのがありましたが,これも信じられない論理で,資産のある人は,これは危ないな,返してもらえなくなるかもしれない,と思っていても貸せという話なのでしょうか。その辺の説明を補足していただければと思います。 ○辰巳参考人 すみません,辰巳です。   非常に難しい質問です。特に賃貸借のところになると,まだ正直言って詰め切れていないところがあります。それ,一つは,実際に民間賃貸借において保証を求められるというのが一般的でありますし,あるいは一方で,保証人を付けられない人に保証会社と名乗るところが保証人になって,実際は追い出し屋という形で,ちょっとしたときにはすぐ賃借人を追い出すようなことをしているというトラブルも出てきているところになります。   そうすると,そもそも住居提供を受けられなくなる人をどうするのかというときに,これ,考えていくと,最終的には何か住宅政策的なところの話にもなって,住居というものが,民間賃貸,あるいは家を買える人は住宅ローンによっていて,公的な住宅というものの提供が果たして今の日本において足りているのかどうかとか,そういうジャンルのところにも入っていくと思われます。   あるいは今のように,資産のある人は貸したくないのに貸せということなのかということは,ひょっとすると,それは公的セクターが本来担うべきところの割合を,日本では民間で担っているところがあるのではないか。その結果,資産のある人はともかく,保証人も無しで貸してくれと言ったら,貸さないといけないのではないかという議論になってしまうのではないかということになります。   そうなってくると,実際に借りられない人が出てくるとどうするという議論は,これはもう融資の場合でも,中小・零細事業者に対して,そうしたら銀行はお金を貸してくれなくなるのではないかというところも含めて,常に出てくる問題で,悩ましい問題ではあるという認識を持っておりますが,しかし,債権者が自らリスクテイクできないような場面で,しかし借主がそれが必要とされる場面については,もう少し公的セクターというところも併せて考えないといけない。   しかし,そこがなかなか,自分たちの知見の範囲を超えているところはあるかもしれないなというところで,その辺は社会政策的なところも併せて考えていかないといけないところかなと思っております。答えにはなりませんが。 ○山野目幹事 3人の参考人の方から保証その他の論点について御意見を頂きまして,誠にありがとうございました。駆け足で,かなり急いでお話しになったのではないかというふうに受け止めますけれども,それぞれの御意見は,大変よく分かりました。   自然人保証の禁止の問題に関連して,1点お尋ねをさせていただきたいことがございます。   「自然人保証の」という一つのワード,それから「禁止」という一つのワードをおっしゃって,問題提起を頂きました。私は,それは大変特徴的な問題提起であるとともに,重い問題提起であるというふうに受け止めました。その上で,今申し上げた二つのワード,「自然人保証」と「禁止」ですが,これらについて例外の類型とか,あるいは緩和とか,そういうふうなことは考えられないのかということについて,何か御検討の経過で既に出てきているものがあったらお教えいただきたいというふうに考えます。   というのは,あらゆる自然人保証を全部漏れなく,しらみつぶしに禁止するという姿は,恐らく立法の在り方として考えられないものであろうと感じます。そうすると,自然人保証のある類型は可能だが,ある類型は認めないとか,それから,禁止というのは全面的な効力の否定ですけれども,そうではなくて,効力を制限するとかいったような緩和的な策というものも論理的にはあり得るはずであります。見方によっては,現在の465条の2以下というのは,ある意味で自然人保証の効力の制限になるでしょう。   そう考えたときに,どのような類型として例外を考えるか,また,効力制限の多様な在り方を考えるかといったようなことについて,今まで御検討のことがあればお教えいただきたいですし,あるいは,なかなか難しい問題でありますから,今後検討なさるのかもしれないし,私どもも考えていかなければいけないのかもしれせんから,質問ないし要望という部分も含まれることになりますけれども。いずれにしても,この御提案を荒唐無稽な提案であるというふうに葬り去らせないためには,そういうふうな刻みを入れ込んでいくというか,彫り込みをしていく作業ということが,これから誰がするかはともかく,重要な作業になってくるであろうというふうに感ずるものですから,お尋ねをさせていただく次第です。 ○辰巳参考人 多分簡単に答えることはできない質問だと思いますが,議論の過程の中では,先ほどの道垣内先生からもございましたとおり,賃貸については,やはりそうは言ってもという議論も,この多重債務問題を扱う弁護士の中にもあります。あるいは,事業者の,自分が経営する代表者である,あるいは経営に関与するところについては,そこまではという意見もございました。   それからあと,全部無効なのか,比例原則的なもので支払の能力ということでいけば,そこを超える部分が無効なのだという考え方を採れば,それは制限的なものにもなるかもしれないし,ただ,それが全然資力のない人まで至れば,全部無効に等しいようなことになるのかもしれない。それは多分,また自由財産とか,執行とかの場面にも関わるのかもしれませんが,一応そのような大きなところの意見はあったとしても,そこから更に,今の段階では詰めているところでありません。   しかし,先ほどの銀行,金融庁においては第三者保証を例えば取らないという定型化したものがあったとしたら,しかし銀行ではない,政府系の金融機関,あるいは信用保証協会も取らないということになっていますが,では,貸金業はどうなるのか,クレジットはどうなるのか,リース業者はどうなるのかとか,いろいろ出てくると思います。   ですから,その類型分けという作業をして,その中で実現できるものを実現していく。それが原則禁止で例外緩和なのか,それとも,このジャンルにおいては個人保証を許容するという形の作業になってくるのか。そのときにそれが最終的に民法になるのか,それとも,個々を規制する法になるのかというのは,これから検討していきたいと思いますので,是非お知恵を貸していただけたらと思います。 ○朝倉幹事 私も保証の関係で幾つかお伺いしたいと思います。   一つ目は,先ほど道垣内幹事がおっしゃったことと関係しますけれども,この直前にヒアリングをさせていただいた日本賃貸住宅管理協会の資料には,我が国において,持家が3,037万戸に対して貸家が1,774万戸,そのうちの76万戸が民営借家であると記載してございました。そのうちの1,062万戸,84%が個人所有のものであるそうですが,そういう家を借りるという方々は不動産を担保にするということはまず無理なわけで,人的担保しかないと思われます。個人の貸家所有者である賃貸人に,保証人も取らずに貸すようにという提案について,先ほどの道垣内幹事の御質問に対して,知見の範囲を超えているとの御回答でしたが,知見がないと言いながら提案されるようなものではないのではないかと思います。それはやはりしっかり考えるべきなのではないか,特に日弁連の,消費者委員会の中の有志ということで,影響力のある皆さん方には,是非考えていただきたいと思います。   次に,64ページに頂いている,保証のその他の中の適時執行義務に関して伺います。この点については,適時執行義務を認めたことにより,貸している側が,義務違反を問われることが嫌なので,できるだけ早くやろうというインセンティブ,予防法学的な考え方が働いて,かえって債務者にとって不利になるということはあり得ないのだろうかという疑問があります。特に最近は中小企業円滑化法等で,かなりの債務に関して,支払が延長されているという状況があります。そういう中で,債権者が延長になかなか応じられないというような社会現象にならないだろうかという心配がございます。本来は保護しようと思っておっしゃっていることだと思うのですが,かえって借りている人に厳しくならないかということについては,どういうふうにお考えかということを一つお聞かせ願いたいと思います。   それから,若干テクニカルなことになりますけれども,そのページの下から二番目の,「その他・民訴法の「二段の推定」は保証契約については排除すべきである。」と記載されている点です。「二段の推定」は作成の真正についての推定でございまして,保証契約だからどうかとかいう話ではなくて,その文章は,その人の印鑑の印影と同じものであれば,その人の印鑑で押したものだろうという推定と,その人が印鑑で押したのであれば,それはその人の文章だというところの推定であって,それ以上に,本当に連帯保証という趣旨が分かっていたかどうかということとは,必ずしも直結しない話だと私は理解していたんですけれどもいかがでしょうか。ここは,どういう趣旨なのかということをお伺いしたいということでございます。 ○辰巳参考人 辰巳です。ありがとうございます。   まず,賃貸のところにつきまして,ただ,この賃貸保証のときに1点だけ考えられるのは,賃貸の家主さんが保証人を取るときに何を求めているのか。賃料の未回収なのか,そうではなくて円滑な明渡しというところの実現なのか。突然,借主さんが居なくなってしまって,そのときに,要するに,明渡しを円滑にするときに言っていく先としての保証人が要るのかというようなところがあります。その賃貸保証における保証人に何が求められているのかというところもちょっと検討しないといけないかなというところはありますが,これは重い宿題だとして,今後検討させていただきたいと思います。   それから,適時執行義務につきまして,これも基本的に賛成であるという,その「基本的に」というところは今,正に御指摘いただいた,一方で主債務者に対する回収という,あるいは猶予というような措置が採りにくくなることは不幸ではないかというところは,正にそのとおりであるというところにあります。ですので,この点についても,この「基本的には」というのは,保証人の立場に立てば,まずは主債務者のほうから回収を図ってくださいという,検索の抗弁,あるいは催告も含めてなのかもしれませんが,その保証のもともとのオーソドックスなスタイルの表れが強化される方向でという意味では,方向性として賛成しているものの,いろいろ問題があるというところは認識しているところで,こういう表記にさせていただいております。   最後の,民訴法のところは,これは本来の守備範囲というところもありますので,やや逸脱している面があるかもしれませんが,一方で,この二段の推定というか,保証契約をめぐって,特に印鑑証明書が付いていて実印が押してあれば,保証否認の裁判ではなかなか厳しいというようなトラブルというものが実際に,日常実務としては非常に多い類型であるというところなので,保証の問題を考えるときに,この点も必要になる。この推定が訴訟法上の位置付けなのか,実体法上の位置付けなのか。そのときに契約類型というものを,訴訟法において逆に区別するのもおかしいではないかとか,いろいろ矛盾は多いところだとは思いますが,こういう問題が実務上はあるという指摘だという点で,御理解いただけたらと思います。 ○潮見幹事 保証以外のところをお尋ねしても大丈夫ですか。   その他のところの9ページ目の,意見の骨子の①の「安易な「過失相殺」につながる損害軽減義務の明文化に反対である。」という,この文について,この結論と,その理由とが一体どうつながってくるのかというのが私はさっぱり分からなかったので,ちょっと説明をお願いしたいと思います。   と申しますのは,どうも伺っていると,現行法の下でも債務不履行における過失相殺に損害の拡大の場面への過失が入るということについては,そうだという御理解に立って説明はされているのだと思うのですが,従来,過失相殺で,もう御案内だと思いますが,大正時代から昭和の初期にかけて,ここに言う被害者の過失とは一体何なんだという話が出てきたときに,これは加害者の過失と同じように,法的な真正の義務であるという考え方だとか,あるいは,義務だけれども不真正の,オブリーゲンハイトとか間接義務とか言いますけれども,そういう義務違反なんだという考え方があったのに対して,それでは狭過ぎるとして,ここで言うところの被害者の過失というのは単なる不注意であり,しかも,それが公平の観点から基礎付けられていくんだと,何が公平かは分かりませんが。そういう形で,対象が曖昧なままで拡張されていき,しかも,その判断基準というものも拡張され,ついには被害者側の過失だとか,あるいは論者によっては素因だとか,そうしたものも含む形で,かなりの広がりを持って展開されてきたのが今日の状況だと思うんです。   そういう考え方に対して,それはけしからん。むしろ被害者の過失というものを考える場合には,意味の分からない公平判断だとか,あるいは観点を示さない結論提示などというものはやめてほしい。むしろ,過失相殺における過失は何かということをもう少しきちんと決めるべきであり,場合によったら,それをルール化すべきであるという御主張のようにも聞こえました。そうであれば,なるほどと思わないわけでもありません。ところが,損害軽減義務という形を採ると,むしろ従来の,単なる不注意という枠組みでの公平判断の下の過失相殺と同等か,あるいはそれ以上にひどいことが行われるかのような御説明がされたわけで,そうなると,従来からの過失相殺をめぐる議論というものを,一体どのように理解されてこのような反対をしているのかということが分からなくなったのです。   この点について,もし何かお考え等があれば,補足をいただければ大変有り難いと思うところです。 ○辰巳参考人 辰巳のほうから,まず述べさせていただきます。   今,潮見先生に御指摘いただいたように,過失相殺とは何だ,被害者における過失は何だというのを詰めていってルール化し,この被害事案において被害者とされる側にはどのような落ち度があって,それが損害にどのようにつながっていったのかという結果,なされる過失相殺というもので,あるいは,債権者の側に損害軽減義務というものが存在するということはもちろん認識しているわけで,その位置付けというところで,本来そういうような形での判断過程というものが示されているのであれば,ひょっとすると,これは懸念にすぎない意見なのかもしれませんが。しかしながら,残念ながら,実務に携わっている私たちにとっては,やはり過失相殺というのがそういう法的に詰めたところでは行われていないきらいがあるというか,行われていないのではないかというところが多く感じるところでして。そういう,ですから法理論的なところと,実務で行われている感覚的なところとの違いで,議論が,ひょっとしたらかみ合わなくなってしまっているのかなと思います。   要するに,突き詰めた過失相殺,あるいは突き詰めた損害軽減義務というものが,裁判上でも実現していくのであれば,それはむしろ歓迎ということにもなってくる。基準作りというところも含めて,なってくるのですが,しかし実際,現場にいる私たちにとっては,本当に判決文の残りの3行で,「しかしながら,被害者側にも」ということで,契約書をよく読まなかったとか何かその,それがやはり,あるいは安易にそのようなものに手を出したとか,何かそういうようなところでしてしまっていて,被害回復が図られていない現実を日々体験しているというところになると,非論理的かもしれませんが,それが更に裁判実務上広がってしまうのではないかと感じられる,この損害軽減義務というものにどうしても抵抗感を覚えてしまうというところで。多分そこが,議論がひょっとしたらかみ合わなく,あるいは何を言っているのか分からないというふうに感じさせてしまったところかもしれません。 ○池本参考人 ほぼ同じ意見なんですが,私たちは,過失相殺事由あるいは考慮要素や判断基準が拡散してしまっていることについては,非常に危惧を覚えています。ただ,それ自体は条文でどうこうするというよりは解釈の指針の問題かなと思って,それ自体の提案はしてなかったんです。   今,辰巳さんの発言にもあったように,損害の回避義務という,拡大防止義務というものが,その拡散した考慮要素の中身を全部押し上げるようなイメージで受け取ってしまったのですが,むしろ過失相殺の考慮事由は,損害拡大につながるところの自らの落ち度を相手方に転嫁してはならないという本来的な意味に絞るというような意味を持つのであれば,全く逆の考慮事情なのかもしれません。ちょっとその点は,こちらも検討させてください。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○松本委員 特に本日の後半のほうで主張された部分は,民法改正において,消費者保護の観点からはこうすべきだという御主張だと思うんです。その場合の規定の立て方として,民法一般のルールとしてこういうふうにすべきだという話なのか,消費者契約に関してはこうすべきだという話なのか。そして,後者の場合に,民法の中にそのような趣旨の規定を入れるほうがいいのか。それとも,最初の話に戻りますが,そういうのは全て消費者契約法のほうに落とし込んでいくという形で,例えば保証についての様々なルールを消費者契約法の中に入れるほうがいいという御提案なのか,民法の保証の中に,もう少し決め細かい規定を置いたほうがいいという話なのか。   例えば個人の貸金等根保証の規定というのは,消費者契約にかなり近いと私には見えるんです。個人保証人のほうは,もう消費者としか読めない。事業として保証する個人というのは,いるかもしれないけれども,ちょっと特殊でしょうから。ただ,債権者の側が事業者とは限らない可能性もあるということから,消費者契約の定義には100%合致しないかもしれないけれども,限りなく消費者契約だと思えます。   そういうふうな感じの規定を民法の中に置いていくのか,それとも,特別法のほうにどんどん置いていくのか。例えば第6とか第7に列挙されているものについては,どこにどういうふうに配置するのが適切だとお考えですか。 ○池本参考人 池本ですが,先ほど,最後に私申し上げたところに恐らくつながるんだろうと思います。   様々な提案をした中には,消費者対事業者にかかわらない,全体的なルールの中でこういう規定を入れてほしいということは,性質上,民法で検討していただきたいということになると思います。第二の要素,むしろこちらのほうが大きいと思うんですが,民法の中の法理として置くところまでの法理の定着度があるかどうかというはかりがあるだろうと思います。   私たちは,民法に入るべきもの,入れてほしいものと,そこまではまだ熟していないけれども,今後もどんどん展開していく中で,消費者契約法には少なくとも入れてほしいというものがあります。その意味では,先ほどの保証の契約は,会社を経営する事業者自身が個人保証をするのは,これは自らの事業のためにやっていることであれば,それはちょっと除外かなと考えれば,非事業者個人が他人のために保証する,そうすると消費者契約法でもいいのかもしれないという選択肢もあり得るのかもしれません。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,以上をもちまして,日本弁護士連合会からの意見聴取を終わりたいと思います。池本参考人,山本参考人,辰巳参考人におかれましては,長時間にわたり御協力いただきまして,ありがとうございました。   以上をもちまして,予定していたヒアリングは全て終了いたしました。   また,今回のヒアリングにおきましては,この部会における意見聴取のほかに,事務当局において意見聴取をし,その結果を部会に報告する形式のヒアリングも実施いたしております。その結果につきまして,事務当局より報告をしてもらいます。 ○筒井幹事 今回のヒアリングでは,2月8日に開かれました第23回会議で,こういったヒアリングを実施する旨をアナウンスいたしましたところ,事務当局に対して直接,あるいは関係省庁などを通じまして,多数の団体からヒアリングを希望するというお話を頂くことができました。その中には,部会の正式な会議時間を使って意見を述べたいという団体がある一方で,必ずしもそういった正式な会議時間ではなく,事務当局に対して率直に意見を述べるという形の方がよいという団体もありました。そこで,後者の団体につきましては,事務当局においてヒアリングを実施し,その結果を部会に報告することにいたしました。   本日,机上に,その報告書類を配布しております。例えば,一番上に「一般社団法人 電子情報技術産業協会からの事務当局によるヒアリング結果概要」という紙がございます。以下,同様の紙が並んでおりますが,これがそのヒアリング結果の概要についての報告書類です。ここでは,それぞれの団体からの意見の内容を正確に部会にお伝えするために,それぞれの団体に書面を用意していただきまして,それを本日の報告書類に添付して配布しております。これをもって各団体からのヒアリング結果の部会への報告とさせていただこうと思います。   具体的な団体名を読み上げます。電子情報技術産業協会,それから預金保険機構と整理回収機構,日本クレジット協会,それから流動化・証券化協議会,eビジネス推進連合会,生命保険協会,日本自動車リース協会連合会,日本フランチャイズチェーン協会,そして日本自動車工業会,以上の各団体です。   御協力いただきました各団体には,この場をお借りして御礼を申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 特に何か関連した御発言,ございますでしょうか。 ○沖野幹事 今の点ですけれども,フランチャイズチェーン協会からのヒアリング結果概要は,口頭により説明が行われたとだけ記載されておりまして,今,手元にペーパーを発見することができないのですけれども,こちらについての御報告というのはどういう形になるのでしょうか。 ○筒井幹事 お尋ね,ありがとうございます。   日本フランチャイズチェーン協会からは,ヒアリングを実施したのですけれども,まだ団体としての意見を形成するに至っておらず,まとまった意見を述べる段階にはないということで,書面で意見を提出していただくことができませんでした。また,口頭で意見を聴取いたしましたところも,個人の意見にとどまり公表するのは適当でないとのことでしたので,部会への報告も,こういう形にとどめさせていただいたわけです。 ○鎌田部会長 よろしいですか。   それでは次に,机上に配布されている参考資料5-4及び7-2について,事務当局に説明してもらいます。 ○松尾関係官 それでは,お手元の参考資料5-4及び7-2について説明させていただきます。   譲渡禁止特約については,既に参考資料5-2,5-3,6-2として,主として債権者側の事情に関する実態調査を行ってまいりましたが,債務者側の事情についての実態調査が必要であるとの御指摘もありました。そこで,債務者として譲渡禁止特約を頻繁に利用する企業が多いと思われる社団法人日本経済団体連合会に御協力を頂き,会員企業に対して質問事項を送付し,会員から受領した回答を事務当局において参考資料5-4と7-2として取りまとめました。その質問事項は参考資料7-1としてお示ししたものですが,質問事項には,参考資料5-2及び5-3で実施した債権者側の事情に関する実態調査での質問事項と同一のものが含まれておりました。そこで,今後の参照の便宜を考慮し,参考資料5-2及び5-3と同じ質問事項に対する回答部分を参考資料5-4として取りまとめることとし,債務者側の事情に関する調査項目に対する回答部分を参考資料7-2として取りまとめました。   まず,参考資料5-4の御回答の概要を紹介いたします。こちらについては,9社から譲渡禁止特約付き債権を譲渡しようとしたことがないという回答があったため,集計から除外した上で取りまとめております。   質問事項1と2についてですが,譲渡禁止特約によって債権譲渡による資金調達に支障が生じているかという点については,支障が生じていることを否定する方向の回答が多数を占めました。支障が生じていることを肯定する方向の回答の具体的な支障の内容としては,資金調達を行うことができなかったり,その条件が悪化したりすることを挙げるものがありました。   次に,質問事項の3と4についてです。質問事項3は,譲渡禁止特約付き債権を譲渡しようとしたものの,債務者が承諾しなかったために譲渡禁止特約付き債権が譲渡できなかったという事例があるかという質問でしたが,事例がないという回答が多数を占めました。   次に,質問事項5と6についてです。質問事項5は,債務者から承諾を取得しようとすることなく譲渡禁止特約付き債権の譲渡を断念したという事例があるかという質問でしたが,事例がないという回答が多数を占めました。譲渡を断念したものについて,その理由を質問事項6として質問したところ,承諾を得るための手続の負担が大きいということや,承諾をしてもらえない可能性が高いことなどが回答として挙げられました。   質問事項7から9までについてです。質問事項7は,債務者の承諾を取得した上で譲渡禁止特約付き債権を譲渡したという事例があるかという質問でしたが,あるという回答が多数を占めました。   承諾が得られた理由について,質問事項9で質問したところ,債務者が譲渡を承諾することのリスクを理解し納得できたからとする回答や,譲受人が特定されており,当該譲受人への譲渡であれば問題ないと判断したということを理由とする回答が挙げられました。   最後に,質問事項10ですが,譲渡禁止特約について,どのような見直しをすることが望ましいかという点について,譲渡禁止特約の効力を制限する方向での見直しを望むものと,見直しの必要がないとするものの,双方がありました。   次に,参考資料7-2について御報告いたします。   まず,質問事項1から3までについてですが,自らが債務者となる債務について譲渡禁止特約を付したことがあるかについて質問したところ,全ての回答が譲渡禁止特約を付したことがあるというものでした。譲渡禁止特約を付した理由として多かった回答としては,自社が望まない第三者に債権が移転することを回避したいということを理由とするものや,過誤払の危険の回避を理由とするものが挙げられました。   質問事項4は,自らが債務者となる債務について譲渡禁止特約を付すか否かを決めるための基準や考慮要素を尋ねたところ,全ての契約に付しているとする回答や,原則として全ての契約に付すこととしつつ,例外的に譲渡禁止特約を付さない事情の有無を検討するとする回答が多数を占めました。   次は質問事項5から7までについてです。質問事項5は,譲渡禁止特約付債権の譲渡について承諾を求められたことの有無について質問したものですが,求められたことがあるとする回答が多数を占めました。   また,承諾を求められた場合に,承諾したことがあるとする回答がほとんどでした。承諾した理由としては,様々な事情を総合的に考慮したことを理由とするという回答がほとんどでしたが,考慮した具体的な事情としては,譲受人の属性・信用性のほか,譲渡人に対する債権保全の観点というものが多く挙げられました。質問事項7は,譲渡禁止特約付債権を譲渡することについて承諾を求められた場合における承諾の可否を決めるための基準や考慮要素について尋ねたものです。こちらについても質問事項6と同様に,様々な事情を総合的に考慮するという回答がほとんどでしたが,考慮する具体的な事情としては,譲受人の属性・信用性のほか,譲渡人に対する債権保全の観点というものが多く挙げられました。   以上,簡単に概略を紹介させていただきました。詳細についてはそれぞれの回答を御参照ください。これらの資料は,今後の審議の有益な参考資料として利用させていただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   大分駆け足の説明でありましたけれども,何か御質問があれば,お出しいただければと思います。 ○高須幹事 資料の7-2のほうで,今御説明いただいた5ページの6項ですかね。譲渡禁止債権について譲渡の承諾を求められたといって,「承諾したことがある」の理由の中で,②のところで,譲渡人に対する債権保全の観点から問題がないと判断したと,こういうふうに書かれていると思うのですが,そうすると,この場合には,債務者がこの質問に答えているということだと思いますから,反対債権を持っているという趣旨と理解してよろしいんでしょうか。 ○松尾関係官 頂いた回答を拝見した限りでは,私はそのように理解しております。 ○高須幹事 分かりました。ありがとうございます。 ○鎌田部会長 譲渡人に対して反対債権を持っていたら,譲渡してもらわないほうが安全なのではないでしょうか。 ○松尾関係官 相殺の抗弁の確保を考慮しなくてもよいから,譲渡を承諾できるという御回答だと理解しています。 ○鎌田部会長 ほかに,よろしいでしょうか。   それでは,最後に次回の議事日程等について,事務当局に説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回会議は,来月7月26日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省20階,第1会議室です。   次回の会議からは,中間試案の取りまとめを目指す次のステージの議論を開始することにしたいと思います。   まず,次回におきましては,中間試案を取りまとめる目標の時期,それから審議の進め方,審議の順序等についてお諮りし,御意見をお伺いして決めていくことが中心的な議題になるであろうと思います。その上で,実質的な各論の審議にも入ることを想定して,事務当局としては部会資料をあらかじめ準備しようと考えております。   審議の順序について,あらかじめ資料を送る関係で,現時点で想定していることを申し上げますと,次のステージでは,基本的に現在の民法の規定の順序に従い,民法総則のうちこの部会で審議の対象とされている部分の先頭,つまり法律行為のところから審議を始めてはどうかと考えております。法律行為,そして意思能力,それから意思表示の途中ぐらいまでを最初の会議用の部会資料として準備し,事前にお届けしようと思っております。次回会議においては,このような実質的な審議についても可能であれば入れるように,審議の事前準備をしたいと考えております。   資料の事前送付については,従前と同様に,会議の2週前の金曜日を目標にお届けできるようにしたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日は御熱心な御審議を賜りまして誠にありがとうございました。 -了-