法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会 第2回会議 議事録 第1 日 時  平成23年7月28日(木)自 午後 2時03分                      至 午後 4時52分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事 (次のとおり) 議     事 ○加藤幹事 ただいまから法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会の第2回会議を開催いたします。 ○本田部会長 本日は皆様大変お忙しい中,お集まりいただきましてありがとうございます。   それでは,まず事務当局から資料についての説明を受けました後で,委員の皆様から今後の当部会で行うべき調査なり,また,検討すべきであると考えられる課題,そしてその他調査審議の進め方等につきまして,現段階でのお考えをお伺いいたしたいと考えております。   それでは,まず事務局から配布資料について御説明をお願いいたします。 ○加藤幹事 配布資料について説明します。なお,資料の番号は第1回部会で配布した資料から連番ですので,今回は資料16からとなっております。   まず,資料16-1から4までは検察当局における検察改革の取組に関する資料です。検察当局においては,資料2-1「検察の在り方検討会議の提言」及び資料6「検察の再生に向けての取組」と題する法務大臣指示等を受けまして,検察改革のための取組を進めております。   資料16-1は,本年7月8日,最高検察庁が公表した検察改革の現状と今後の取組方針の内容をまとめた資料です。その内容は,1ページ目にあります分野別の専門委員会の設置,特捜部の組織の在り方の見直し,更に2ページ目の公判段階における組織的なチェック体制の構築,違法・不適正行為の監察の実施,更に3ページ目の検察運営全般に関する外部の有識者からの意見・助言を得られる仕組みの構築などにわたっております。   このうち,当部会における御審議に直接関係すると思われるものとして,3枚目の三つ目及び四つ目の○,すなわち特別刑事部が取り扱う独自捜査事件及び知的障害によりコミュニケーション能力に問題がある被疑者等についての取調べの録音・録画の試行の開始について,資料16-2から4までに沿って説明をいたします。   資料16-2は本年7月8日付けで発出されました「特別刑事部が取り扱う独自捜査事件の取調べの録音・録画の試行について」と題する,次長検事の依命通知です。資料16-3はその運用に関する最高検察庁刑事部長の事務連絡です。   特別刑事部は,全国10の地検に設けられており,他の所管事務に加えて特捜部と同様の独自捜査を行っている部署です。特別刑事部が取り扱う独自捜査事件につきましては,既に本年5月以降,各庁の実情に応じ,可能な範囲で取調べの録音・録画の試行を実施して差し支えないこととされてきたところですが,今回の通知等により全国の特別刑事部において本年7月8日以降に被疑者を逮捕した独自捜査事件について,録音・録画機器の整備の実情等を踏まえた上,正式に取調べの録音・録画の試行を開始することとされました。   前回の会議で説明いたしましたとおり,特捜部においては,特捜部が取り扱う身柄事件について,被疑者の検察官面前調書が任意性・信用性等に疑念を生じるものではないことを的確に明らかにするため,当該被疑者の検察官面前調書を証拠調べ請求することが見込まれる事件等において,取調べの持つ真相解明機能を損なわない範囲内で,検察官による取調べのうち相当と認められる部分を適切に選択して取調べの録音・録画を試行することとし,また,法務大臣の指示を受けて,全過程の録音・録画を含め,できる限り広範囲な録音・録画を試行するとの観点からも積極的かつ柔軟に対応することとしております。   今回,正式に開始された特別刑事部における取調べの録音・録画の試行につきましても,このような特捜部における取調べの録音・録画の試行に準じる方法により,これを行うこととされたものです。   次に資料16-4は,本年7月8日付けで発出された「知的障害によりコミュニケーション能力に問題がある被疑者等の取調べの録音・録画の試行について」と題する次長検事の依命通知です。知的障害によりコミュニケーション能力に問題がある被疑者等につきましては,本年5月から東京地検において取調べの録音・録画の準備的な試行に着手しておりますところ,この資料の1枚目の1というところにありますとおり,本年7月8日以降は,東京地検,大阪地検及び名古屋地検において,身柄事件につき,知的障害の程度やコミュニケーション能力等の被疑者の特性,事案の内容,被疑者の精神的負担や供述に与える影響等を考慮し,録音・録画を試行するのに適した事案について,録音・録画機器の配備状況を踏まえ,取調べの全過程を含む広範囲な録音・録画を行うなど,様々な試行を実施することとされました。   また,この資料の1枚目から2枚目にかけての2という部分にありますとおり,これらの3地検,すなわち東京,大阪,名古屋以外の地検におきましても,取り扱う身柄事件が被疑者の知的障害という特性に着目して試行に適した事案であると考えられる場合には,各庁の実情に応じ,可能な範囲で取調べの録音・録画の試行を実施して差し支えないこととされております。   これらの録音・録画の試行については,1年後を目途として多角的な検証を行うこととされているところです。   続きまして資料17-1は本年6月30日に警察庁から公表された「警察における取調べの録音・録画の試行の検証について」と題します報告書,資料17-2はその概要版です。警察においては,裁判員裁判における自白の任意性の効果的・効率的な立証に資するためにはいかなる方策が有効であるかを検討するため,平成20年9月から一部の都道府県警察において,被疑者取調べの録音・録画の試行を開始し,平成21年3月にそれまでの試行についての検証を行った上,同年4月から全都道府県警察において取調べの録音・録画の試行を行ってこられたものと承知しております。   この度平成21年4月から平成23年4月までの2年間に実施された試行について全てのDVDを検分するとともに,試行に従事した取調官からの聴き取り調査を行うなどの検証を実施されるなどして,その結果を取りまとめられたものがこの報告書であり,今回公表されたものでございます。この報告書につきましては,御要望がございましたら,その内容につき,改めて詳細に御説明する機会を設けさせていただくことを検討したいと存じます。   本日の資料の説明は以上ですが,お手元には,更に番号なしで,本日欠席されている佐藤委員から提出された意見及び委員の皆様から提出された本日の御説明用の資料も配布してございます。委員の皆様方におかれましては,それぞれ御提出いただいた資料に間違いがないかどうか,今一度御確認をお願いします。 ○本田部会長 ただいまの説明に対しまして何か御質問なりございませんでしょうか。  (質問等なし) ○本田部会長 それでは,御質問等ないようでございましたら議事を進めさせていただきたいと思います。   委員の皆様方から,今後当部会にて行うべき調査や検討すべきであると考える事項,その他調査審議の進め方等につきまして,現段階における皆様方のお考えを承りたいと思います。各委員,大変厳しいことになるかと思いますが,申し訳ありませんが5分以内で順次御発言を頂きたいと思います。限られた時間の中で全ての委員の方に御発言いただきたいと思いますので,持ち時間の範囲内でよろしく御協力お願いいたします。   それでは本日も五十音順に並んでいただいておりますので,恐縮でございますがその順番に沿って,まず青木委員からお願いいたします。 ○青木委員 ではまず青木から申し上げます。   この部会に最も求められていることはえん罪を生まない刑事司法制度を考えることだと思っております。そのためには,今の制度の下でなぜえん罪が生まれるのかを知る必要があると思います。   布川事件を例に採りますと,誤った有罪判決が下された大きな原因の一つは無実の人が死刑や無期懲役になる可能性もある重大な事件について,逮捕されてから間もない時期に自白などするはずがないという,誤った認識だったと思います。そこで虚偽自白はなぜ生み出されるのかということについて,布川事件の櫻井さん,杉山さんからのヒアリングや供述心理学者の方からのヒアリングを行うことを提案いたします。   それらは虚偽自白を生まないようにする制度の在り方を考え,更には自白調書に依存する裁判の在り方を見直す有益なヒントとなると考えております。   布川事件の誤判原因の大きな二つ目は,警察での取調べの最終段階での録音テープが有罪の心証を与えてしまった。すなわち一部録画・録音の弊害が端的に表れてしまったということです。そこで取調べの可視化に関して布川事件の供述録音テープを聴いていただくということも提案いたします。なおヒアリングなどは会議とは別の機会で行っていただくというような工夫が必要だと思っております。   布川事件では,証拠開示が適切になされなかったということもえん罪が生まれた大きな要因でした。全面的証拠開示の必要性について,布川事件での証拠開示についての検証をしていただくことも提案したいと思います。検証の中身は,証拠開示されなかったことによる弊害,現在の法制度の下であればその弊害は防げたのかということなどについてです。併せて,全面的証拠開示を導入している他の国の例についても調査をしていただきたいと思います。   布川事件では,犯行現場付近で櫻井さん,杉山さんを目撃したという複数の人の目撃供述について,それが事件当日のことだったのか別の日のことだったのかが問題になりました。公判では複数の証人が事件当日のことであったことを否定したにもかかわらず,密室で作られた検察官調書の方が採用されて,事件当日の目撃であることにされました。公判では両名とも否認しており,強盗殺人の犯人性を直接証明する証拠は自白調書しかありませんでした。   供述調書に過度に依存した裁判が行われ,真実に反する内容の供述調書によって誤って有罪とされたのです。このことからまず被疑者取調べにおける供述の任意性・信用性を確保するための制度の見直し,取り分け取調べの全過程の録画が必要であると考えます。取調べ時間の規制,取調べの中断や,「取調べを始めるのはもう少し後にしてほしい」などと求める権利を認めることや,取調べへの弁護人立会権など,弁護人等の援助をいつでも得られるようにする方策なども検討課題だと思います。参考人についても取調べの全過程の録画,取調べ時間の規制などが検討課題だと思います。   また,取調べの結果を記録する方法を一問一答式にするなどの見直しも必要だと思っております。   取調べの結果を記録したものを裁判で証拠とするに当たっての要件も,より厳しいものとする見直しが必要だと思います。   更に身体拘束を自白を得るために利用することを可能とする制度の見直しも必要だと思います。身体拘束を自白を得るために利用することを可能とする制度の最たるものが代用監獄だと思います。勾留要件・保釈要件の見直し,起訴前保釈,身体不拘束の原則の確立なども検討課題だと思います。   証拠へのアクセスについても見直しが必要だと思います。全面的証拠開示は是非とも必要です。科学的証拠についての第三者的保管・鑑定機関を設けることや科学的証拠に対する被告人・弁護人のアクセスについても検討が必要だと思います。   どんなに良い制度を作ったとしても誤りはあり得ます。その場合の救済手段も重要です。再審法制の見直しや再審における全面的証拠開示,えん罪原因調査究明のための第三者機関の設立も是非とも必要です。これらを充実させることによって,えん罪を生まない制度がより良く機能することになると思います。   このように,問題点は多岐にわたりますけれども,取調べの結果を裁判での証拠に用いるのであれば,検証不能な密室での取調べからの脱却,すなわち取調べの可視化についてまず検討し可及的速やかに実現することが必要だと思います。 ○本田部会長 ありがとうございました。今の青木さんの御意見に対して委員の方から御質問等あろうかと思いますが,今日は全員の方に御発言いただきたいと思いますので,まずは委員の方からの御発言を頂きます。 ○井上委員 井上でございます。時間が限られておりますので,この部会において審議すべき最も中心的な課題に絞り,お手元のペーパーに沿って,その要点をかいつまんでお話しすることにしたいと思います。   まず,これまでの我が国の刑事司法の中心的な問題点の一つが捜査・公判における事実解明や立証・認定が捜査官による被疑者等の取調べとそれにより得た供述証拠,これは主として供述調書ですけれども,それに過度に依存したものとなっていたというところにあり,そのような在り方を改めていくことが必要であることについては,おそらく皆様異論がないところだと思われます。   ただ,捜査・公判を通じて被疑者等の供述が持つ意味は大きく,ペーパーに書きましたように,犯罪の種類や事案によっては,犯罪行為の存否そのものや,そこに挙げましたような幾つかの事項について被疑者や関係者の供述に全くよらずに解明あるいは立証・認定することは極めて困難,あるいはほとんど不可能だと言われております。しかも我が国では,これに加えまして,犯行の動機や経緯,あるいは犯行の詳細な内容,その行為当時の心理状態などの詳細についても明らかにすることを求めるのが,これまでの刑事司法ないしそれを取り巻く社会や国民の間に特有の性向,これは松尾浩也先生の名付けられた言葉では「精密司法」と呼んでいますが,であったと言えますけれども,そのような詳細にわたる事実を解明・認定するのは本人の供述によらない限り十分にはできないという実情にあります。   公判での事実認定については,この点,裁判員制度の導入によりまして変化も見られるようになってはきていますが,全体としてこのような性向がすぐに大きく変わるかは疑問でありまして,そうであるとすれば,かなりの程度供述証拠によらざるを得ないというところがあるのが否めない現実だろうと思われます。   そうだとしますと,供述証拠の必要性・重要性を前提としつつ,それへの依存の度合いを実質的に低下させていく工夫をするとともに,供述証拠自体についても,是が非でもこれを得ようとして無理なあるいは不当な取調べがなされることを防止し,真実性のある信頼できる供述を得ることをいかにして確保するかということを考えるのが,適切な対応だと思われます。   そこで,供述証拠への依存度を実質的に低下させる方策について見ますと,ペーパーにるる挙げておりますけれども,刑法上の犯罪成立要件の立証を容易なものにするということとか,供述証拠に代わる事実解明ないし立証の手段を整備すること,取調べ以外による供述等の獲得方策を講じることなどが考えられますが,それぞれについて,基本原則ないし憲法上の保障との関係で極めて慎重な検討が必要であったり,あるいは対象者の権利の保護とか公正・公平性や得られる証拠の信頼性の確保等の観点から,その採否及び採用する場合の具体的内容について十分かつ慎重な検討が必要だと考えられます。   次に,無理なあるいは不当な取調べがなされなかったかをチェックし,供述の任意性・信用性あるいは特信性を判定するためには,取調べの録音・録画が有効な方策であることは疑いないところであり,その方策の導入はまた,翻って,無理なあるいは不当な取調べが行われること自体を抑止する効果があることも確かだと思います。そして,そのような観点からは,被疑者をはじめ全ての者に対する取調べの全過程を録音・録画するというのが,最も徹底した方策であると言えるだろうと思います。   しかし,問題は,そのような観点からだけ考えることで良いかということでありまして,現に,一線の捜査関係者等からは,現状で問題のない取調べにより真実性のある供述をするに至っている被疑者等が,全ての過程が録音・録画されることになると真実の供述をしないことが多くなり,ひいては犯人の摘発や真相の解明に実質的な支障を来し得るとの強い懸念が表明されているところであります。これに対しては,取調べの録音・録画を実施している外国において特に支障は生じていない等々の反論もありますが,一たび支障が生じると広範かつ深刻な影響のある問題でありますので,外国の実情を正確に把握し参考にしつつも,あくまで最終的には我が国の問題として,刑事司法の全体構造の中で,どのような影響をもたらし得るのかについて,できる限り実証的に検討し,見定める必要があるのではないかと思われます。   取調べの録音・録画が,取調べの適正さの確保や供述の任意性・信用性等の有効な判定のための強力な方策であり,また供述調書に代わる有用な証拠方法ともなり得るものであることから,法制度としてその導入を目指すとしても,今申した点にも配慮し,先ほど述べたような他の方策を講じることの可能性をも併せて,幅広い視点から,かつきめ細かく検討することが肝要なのではないかと考えております。 ○岩井委員 この部会は新時代の刑事司法制度の在り方を考える特別部会ということですので,日頃,刑事司法について考えていることを是非討論していただきたく,それについての課題をお話ししたいと思います。   刑事政策の担い手としての検察の在り方といたしまして,検察の役割は社会正義の実現とともに再犯を防止し社会の安全を保つという重要な役割があるわけで,犯罪者の処遇は逮捕・勾留・裁判・行刑・社会内処遇という一連の過程を通じて行われるものです。検察は勾留中の取調べや起訴裁量,公判における立証活動や求刑,刑の執行にわたって主要な権限を持っているわけで,取り分け特別予防機能に対して責任を負うものと言わなければなりません。   犯罪者の多くは社会に戻っていくのでありまして,実質的に犯罪対策を考えるためには再犯防止システムの構築が不可欠であります。今も刑務所の再入率が50%を超え,平成21年は54.8%であったということが犯罪白書で出ているわけで,この事実は,量刑実務,刑務所における処遇と社会内処遇との連携がうまく行われていないことを示すものでありますので,実効的な再犯防止システムの構築のために全体的な処遇の流れの俯瞰が必要であると考えております。   そのために適切な量刑がまず大事なのですけれども,そういうシステムの構築のために判決前調査制度の導入などもこの機会に検討課題に加えられないかと考えております。そのため今回の議論の前提として,部会委員の間で未決勾留や矯正,保護の現状についての認識を共有していただく必要があると思われます。そこで部会で視察を行う場合には,視察先に矯正施設や更生保護施設も加えていただきたいと思います。   次に性犯罪対策についてですが,性犯罪被害者の救済のための刑事司法の見直しは,平成12年に法制審議会の議論に基づいて告訴期間の撤廃や証人尋問における保護規定の創設などの改正が行われました。また,公訴時効の見直しの議論の際には性犯罪についての公訴時効の見直しについて強い訴えがあったわけですけれども,今後の検討に委ねられたわけです。しかしいまだ性犯罪の暗数は多いのが実情で,性犯罪被害者が被害を訴えやすい条件は整っていないと言えます。それは被害直後のケア体制が十分でないためにその後の手続において必要な証拠保全等が行われなかったり,その後の刑事司法側の対応によって二次被害を受けたり,親告罪であるため不当な告訴取下げの圧力を受けたりするということが観取されるわけです。   そこでこの機会に性犯罪規定の見直しを含めて,性犯罪被害者の深い心の傷や客観的証拠の得にくい性犯罪の特質に配慮した手続の検討を行っていただきたいと思います。そのために性犯罪被害者や支援対策に関わっている人たちのヒアリングも行うなども考慮に入れていただきたいと思います。   3番目に捜査の在り方に対する比較法的検討についての要望ですが,取調べにおける可視化の必要性が論じられてそのための方策が議論されているわけですが,その試行の結果を十分検証するほか,それを実施している各国の背景・事情など,そこの勾留期間がどういうものであるかとか,司法取引が行われているかという,そして捜査手法にどのようなものが導入されているか等,実情についていろいろ聞いてはおりますが,できるだけ詳しくその資料の情報を与えていただきたいと考えております。 ○岩瀬委員 捜査の現場であります,また日々凶悪事件と対峙しているという警視庁に勤務している立場から若干申し上げたいと思います。特に現場で勤務しておりますと警視庁ですから都民の皆さんの治安・安全に対する思いというものは非常に強いものがあると感じております。   東京都が毎年実施しております都民生活に関する世論調査というものがあります。この中で都政への要望という項目が入っているのでありますが,昨年まで7年連続で治安対策というものが第1位となっているということがあります。日常生活の安全を願う都民の皆様の切実なる思いが表れているということで,警視庁としてもいろいろと努力をしているところであります。   この部会では,取調べの録音・録画の在り方が大きな検討課題となると思いますが,そういう治安情勢を踏まえ,また事案の真相解明のために取調べが果たしている機能の大きさを考えますと,取調べの機能を損ねるようなあるいはそれによって治安水準を低下させかねないような制度の変更,可視化ということでありますが,を行うことによって安全を求める都民・国民の期待に応えられなくなるようなことにならないように慎重な検討が求められていると考えております。   特に取調べ全過程の録音・録画については問題が大きいと考えておりますが,実際に現場の立場で3点ほどお話をしたいと思います。   第一に取調官と被疑者との間で率直なやり取りができなくなるということで,真実の供述を得ることが困難になるという問題があります。人は自分に不利なことは話したくないものであり,自分の犯した罪を正直に話せば死刑等の重罰を受ける可能性があればなおさらだと思います。犯罪を犯した被疑者から真実の供述を得るためにはその良心に訴えることが重要でありますけれども,なかなか容易なことではありません。取調官は犯行そのものだけではなく,被疑者にとって大切な家族のことから生い立ち,犯行の背景になった不幸な経験,悩み等に至るまで自分自身の経験等も織り交ぜて被疑者に問い掛けていきます。その中で被疑者の表情とか,あるいはしぐさから必死になって隠している本当の感情の動きを読み取り琴線を探っていくというわけであります。こうした過程を経て被疑者は次第に心情を吐露するようになり,刑罰への恐怖や不安を乗り越えて心を開き,己しか知り得ない事実をも話し始めるものでありますが,カメラの前では互いのプライバシーをさらけ出して被疑者と取調官が心を通い合わせることは到底不可能ではないかと考えております。   第二に犯罪被害者を始め関係者のプライバシーを侵害する恐れがあるということです。取調べにおきましては被害者のプライバシーに関わる事柄も聴取の対象となりますが,特に強姦等の性犯罪の被疑者につきましては取調べにおいて被害者が他人に知られたくない事実に言及し,あるいは被害者にとって耐え難い虚偽の供述をすることがあります。また侵入窃盗の被疑者であっても自分が侵入した家の中に被害者が他人に知られたくないものがあったというようなことを語ることもあるわけであります。こうした事柄は関係者のプライバシーに配慮して供述調書に録取しないことは可能でありますが,全過程が録音・録画されればそのまま記録に残ってしまうわけです。被害者等にとってはこうした記録が公判廷で他人の目にさらされることはもちろんでありますが,記録が残ること自体が苦痛となるわけであります。その結果,被害者が被害申告をためらい,犯罪が闇に葬られる,こういうことも懸念されるところであります。   第三に組織犯罪では報復等を恐れ供述をしなくなる可能性があります。暴力団では首謀者である組幹部の指示により配下の組員が直接の実行行為を行います。同時に巧妙な証拠隠滅工作が行われることも常であります。実行犯は家族も含めて,殺害等の報復があり得るとの恐怖から供述をしないケースが少なくありません。その場合,被疑者の生命身体を守る必要からあえて調書化を避け,その供述を基に別の証拠を収集することで検挙につなげる努力をしております。   暴力団でなくとも,薬物密売グループ,外国人組織犯罪,ヤミ金グループ等の組織犯罪については同様のことがしばしばありますが,録音・録画されればこのような供述をしている場面がそのまま記録されるため,組織犯罪の検挙に必要な供述を引き出すことが事実上不可能になると思われます。以上3点,私から申し上げたい点であります。   最後に皆様方には現場で警察官が現行の所与の制度において大変な努力をして治安の維持に当たっているという実情を御理解いただきたく思い,その上で審議をしていただきたいという思いから,どうか第一線の捜査員や犯罪被害に苦しむ被害者の方々からのヒアリングや第一線現場の御視察をお願いしたいと存じます。 ○植村委員 植村です。今回の検討は検察の在り方検討会議提言,それから検察の再生に向けての取組,これらを前提とする諮問第92号に基づくものでございます。これらによれば,今回我々が検討すべき事項は,最初から極めて広範な事項に及ぶべきことが予定されていると理解しております。諮問第92号は刑事の実体法及び手続法の整備の具体例といたしまして,取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直しや被疑者の取調べ状況を録音・録画の方法により記録する制度の導入,これを挙げております。   取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直しについていえば,公判における心証形成を,供述調書の取調べにウエイトを置いたものから証人や被告人の公判廷における生の供述,それから捜査段階で収集された客観的証拠あるいは科学的証拠にウエイトを置いたものに変えていく必要があるわけであります。そのためには,検察の在り方検討会議提言の第4の3の中でも言及されておりますが,公判廷での供述の信用性を担保することができるような制度的仕組みを作る,また,客観的証拠・科学的証拠をより広範に収集する仕組みなどを作る,ということについて検討する必要があると考えております。   それから2番目の被疑者の取調べ状況を録音・録画の方法により記録する制度の導入について言えば,そのような制度導入の必要性,導入する場合にはどのような制度が良いのかについて検討する必要性があると思っております。   以上のような広範囲にわたる事項の検討が予定されておりますのは,一国の刑事司法制度というのは多数の制度が連関して出来上がっているからであると理解しております。一つ一つの制度が独立して存在し,バラバラにその機能を果たしているわけではないということであります。したがって,ある制度を変えるということになりますと他の制度との関連はどうなるのか,他の制度も変えなくてよいのか,そういったことをよく考えなければいけないのだろうと思います。   第1回の部会で諸外国の制度に関する資料が配布されましたが,諸外国の制度を参考にする場合にはそのような視点に立ったデータを踏まえた実証的な分析・検討が欠かせないと思います。そして,それは我が国の制度を考えるについても同様でございます。   残りの時間は諮問にございます供述調書に過度に依存した捜査・公判の見直しとの関係で裁判員裁判の運用について若干お話をさせていただき,参考にしていただければと考えております。   裁判員裁判が始まる前の刑事裁判につきましては,法廷に多くの供述調書ほかの書証が提出されまして,裁判官は閉廷後裁判官室で調書を読み込んで心証を取っている,これは調書裁判ではないかという言い方をされることがございました。裁判員裁判では,裁判員の方々が閉廷後評議室に戻って提出された調書を読み込むなどということはあり得ません。裁判員裁判では,初めて刑事裁判に参加される法律の専門家ではない裁判員の方々にも分かりやすい審理となるよう,目で見て耳で聴いて分かる審理を実現しよう,証人や被告人が法廷で述べたことを中心に心証を取っていただこうということを大きな方針としてまいりました。   制度が始まってしばらくの間は比較的単純な自白事件が多かったわけでございますが,その後事実認定の難しい否認事件や重い量刑の予想される事件などの審理も行われるようになってまいりました。裁判員の皆様には,そのような事件についても熱心に取り組んでいただきまして成果を上げてきております。しかしながら,裁判所部内では目指していたところと異なり,次第に書面への依存が高まる傾向があるのではないかという指摘がされるようになってきております。この6月に全国の高裁長官,地・家裁所長が集まって議論した際にも,現状認識といたしまして,自白事件を含め当事者が裁判員に配布する書面,例えば冒頭陳述の内容を記載した書面が詳細なものになっている,それから立証の面でも,証人調べではなく書証のウエイトが増してきている,判決書もかつてのような精密なものなってきたという指摘がされました。   そして,自白事件におきましては検察官が請求した供述調書について弁護人が証拠にしてもいいという意見を述べますと,法廷でその供述調書が朗読されるということが多いわけですが,調書の朗読が続いたのでは裁判員はなかなか心証が取れないのではないか。したがいまして,そうではなくやはり生の事実を裁判員に聴いてもらって,生き生きとした心証を取ってもらうためには証人調べの方法を活用する必要があるのではないかという意見が出されました。   この方向はどんな事件についても原点に立ち返りまして,供述調書に依存しない審理,証人調べを基本とする審理を実践していこうというものでございます。もちろん実際には,例えば被害者の皆様のことにも必要な配慮をする必要がございます。そして個々の裁判において各裁判体が判断し,当事者の御協力を得て実践していく問題でございますが,裁判所といたしましては,全体としては裁判員に分かりやすい審理を実現し,制度を定着させていくために供述調書に依存しない審理を目指す方向にあると言ってよいだろうと思っております。 ○大久保委員 それではよろしくお願いいたします。お手元にありますこのカラーのレジュメを参照していただければと思います。私が被害者として刑事裁判に関わったとき,どうしても納得できなかったのはなぜ加害者ばかりが大事にされて,被害者は冷たく放置されるのかということでした。最近は多少配慮されるようになりましたが,被害回復にはほど遠い状況ですので,まずは被害者が置かれる現状を皆様にも御理解していただきたいと思います。   犯罪被害者が事件そのもので心身を傷つけられることを一次被害と言います。その関係者の言動や法制度の不備で更に傷つけられることを二次的被害と言います。一次被害,二次的被害を受けた結果やり場のない気持ちから,自暴自棄となって仕事も辞めて家庭も崩壊させ,周囲からも孤立して社会生活を送れなくなる被害者がたくさんいます。ただ関係者にも社会にもその実態はまだ理解されていません。その実態の一部がこちらのカラーの2番の犯罪被害者遺族が被害後に苦悩した問題の表です。日常生活への影響,心身への影響,刑事手続上の負担,民事や各種手続の負担,加害者への対応,身近な人との関わりを示しました。右側の数値が大きいほど苦悩している被害者が多いということを表しています。このように苦悩する被害者が心身の回復と社会復帰を図るためにはレジュメ2ページの3の①~⑨のように被害直後から精神的,経済的,司法に関することなど多岐にわたる支援が必要です。   では,そういう状況にある犯罪被害者が現状の刑事司法をどう思っているのかということを4の①~⑥にまとめました。刑事司法制度を維持して更に発展させるためには,被害者からの信頼や期待を得ることが不可欠です。二次的被害となる刑事司法であっても,被害者は,真実が明らかになり,加害者には適切な罰が与えられると信じているからこそつらい事情聴取にも応じ,証言台にも立っています。でも,刑事裁判で直面させられるのは被疑者・被告人ばかりがたくさんの法律や憲法で守られている現実です。なぜ被害者には何も権利がないのかと思い司法に絶望してしまいます。まず守られるべきは被疑者・被告人から被害を被った犯罪被害者なのではないでしょうか。   次に5の可視化についてですが,2ページの下の方から3ページにかけて⑦を御参照ください。被害者がいる犯罪の場合は可視化はしないでください。被害者は加害者の勝手な言い分が録音・録画に残されているとそれだけでもう精神的には回復できなくなります。また,被害者は真実が知りたいのです。なぜ殺したのか,そのとき被害者の様子はどのようなことだったのかなどです。   被疑者・被告人は調書を取る人の,その人柄に触れることで本当は秘匿しておきたい真実を話すのではないでしょうか。録音・録画することで秘匿された事実を被害者が知ることができなくなりますと,③のところに《 》で書きましたように被害者はより悲惨な状況を想像し続けて四六時中そのことで苦しみ続けることになってしまうからです。   私は先月数社のメディアの方から取材を受けました。主な質問は可視化をどう思うかということでした。私は可視化に反対ですと言い,その理由をレジュメに書いてあるように説明しますと,皆さん一様に「言われてみれば本当にそうですね」「犯罪被害者の現状や視点は考えたことがなかった」「恥ずかしいことですが,言われてみて初めて気が付いた」と,皆さんそうおっしゃいました。犯罪者の対極にはその犯罪者によって人生を奪われ,苦しみ続けている被害者がいるということを決して忘れないでください。   「おわりに」ですけれども,行っていただきたい調査や検討していただきたい事項についてはレジュメの(1)の①と②のとおりです。是非直接被害者の声を聴く機会も設けてください。   この部会は新しい時代の刑事司法制度全体を考えることだと思いますので,可視化を先に議論して結論を出すということはしないでください。犯罪被害者等が刑事司法に裏切られたと思わないで,刑事司法に関わって自分なりの役割を果たし,人としての尊厳を取り戻すことができる刑事司法に改革するため,抜本的に改正し新たな法律の制定や創設などをするための部会にしていただきたいと思います。   被害者支援についても,被害直後から支援を受けることができるように支援活動を保障する仕組みを刑事訴訟法等の法令に盛り込むなどの検討もしてくださるよう強くお願いいたします。 ○大野委員 大野でございます。当部会の検討においては,刑事司法の使命を損なうことがないように,刑事司法全体でバランスの取れた見直しを検討することが重要であると考えます。   世界各国の刑事司法は,それぞれの国が持つ固有の制度や歴史の影響を受けてユニークな発展を遂げています。もちろんそこには共通の原則が見られますが,捜査と公判の間のウエイトの置き方,あるいは刑事手続全体の中での捜査機関,検察,被告人・弁護人,そして裁判所の間の関与の在り方にはそれぞれの特徴があります。   日本の刑事司法も,これまで日本なりのやり方で,人権擁護と真相解明とのバランスを保ちつつ,国民生活を守るという使命を果たしてきました。今回の見直しが,仮に,捜査段階,取り分け取調べだけを対象とし,ここへ外国で行われている制度・運用をそのまま持ち込んで,それで終わりということになれば,これまで保たれていたバランスは崩れ,刑事司法は国民生活を守るという使命を果たすことができなくなりかねません。   こうした視点を前提に,私から二つのことを申し上げたいと思います。   一点目は捜査における取調べについてです。   我が国では,これまで取調べが真相解明に大きな力を果たしてきました。これに対し,取調べではなく客観的証拠による捜査を行うべきとの指摘があります。客観的証拠の重要性については強調してもし過ぎることはありませんけれども,そのことによって直ちに取調べとそれに基づく供述証拠が不要となるものではありません。すなわち,客観的証拠は言わば点を明らかにしてくれますが,客観的証拠と客観的証拠,すなわち点と点を結ぶことができるのは供述証拠であり,その意味で取調べの重要性は変わらないと考えます。   取調べを見直す方策として,検察官に裁量を許すことなく一律に取調べの全過程の録音・録画を義務付けるべきとの提案があります。しかし,私はこれについてはかなり問題が多いと考えております。   私は検事に任官して30年になりますけれども,そのうちの約半分の期間は,直接,被疑者の取調べを担当してきました。取調べは,相手が無実の被疑者である場合,そのことを明らかにするものでなければならないことはもちろんです。しかし,実態として,被疑者の取調べの大半は,罪を犯した被疑者が隠しておきたいと思っている事柄について,追及し,説得して,供述を得て調書を作成する過程です。   被疑者が本当のことを話したくないと思う理由は様々ですが,多くの場合,何とか罪を逃れたいという思いや,できるだけ軽い罪に見せかけたいという気持ちが背景にあります。罪を認めることで,社会的地位を失うことや,家族への影響を不安に思っている被疑者の気持ちを痛感する事件も多く担当しました。また,オウム真理教による一連の事件では,多くの被疑者は,洗脳による教祖への忠誠心から逮捕当初は何もしゃべらないという状態でした。   このように様々な理由から本当のことを話したくないと思っている被疑者に対し,警察官あるいは私たち検察官は,取調べで,供述の矛盾点や曖昧な点を追及するとともに,相手の立場に自分の身を置いてみて,相手の心情や真実が言えない要因は何かなどを想像しつつ,その要因が家族への影響であると思われるようなときには自分の家族のことなどプライバシーに関する話をするなどして説得を重ねているのです。   被疑者が本当のことを話そうとする場合において,他者にその場面を見られたくないという心理が働くことは少なくありません。検察は,裁判員裁判対象事件については,これまで,犯行を認めている被疑者を対象として,取調べのごく一部を録音・録画してきましたが,そのような録音・録画であっても,今年の1月から6月までの間に実施した件数が726件であるのに対して,録音・録画を実施しようとしたが被疑者が拒否した件数は104件もあるのです。特に,会社経営者など組織のトップが関与した贈収賄事件において,私自身,中間管理職的な立場にある被疑者の取調べを担当し,組織のトップの具体的な関与について供述を得たことも少なくありませんが,振り返って考えますと,それらの供述が果たして可視化された状況で得られたかどうか疑問に思うところです。   こうした点からしますと,取調べの全過程の録音・録画を一律かつ義務的に行うことになれば,被疑者から真実の供述を得ることが難しくなり,取調べの真相解明機能が低下することは明らかであるように思います。この点に関連して,一律に取調べの全部の録画を義務付けないと検察官に都合の良い場面だけが録画されてしまうという意見があります。しかし,刑事司法はあらゆる争いを裁判所の判断に委ねている世界です。検察官が恣意的に自分にとって都合の良い場面だけを録音・録画したとしても,裁判所の支持が得られるわけがありません。供述調書の証拠能力を見てもらうために,いかに説得力のある場面を録音・録画するか,これはひとえに検察の能力に関わっており,この判断を誤れば証拠を採用されないというリスクは,全ての立証責任を負担する検察が負っているわけです。録音・録画の範囲ややり方については基本的に裁判所のチェックに委ねることで十分であると考えるところです。   二点目として,新しい捜査・公判を支える諸制度の導入について述べます。   我が国の刑事司法では,事案の真相を解明し,真犯人を適正に処罰することが国民から強く求められています。そして,いわゆる可視化を認める国と比較して,取調べ以外の証拠収集の手段が極めて限定されている我が国において,被疑者の取調べが,真犯人を特定して適正に処罰するため極めて重要な役割を果たしてきたことは間違いありません。このような点については,ヒアリングや検察庁等の視察,公判傍聴等を実施していただき,この部会として共通の認識を持っていただくことが必要だと思います。   その上で,この部会が,捜査・公判の在り方の見直しを検討するに当たり,特に重要な点として留意すべきことは,刑事司法全体としての真相解明機能を低下させないことです。そのためには,取調べに過度に依存しなくても真相解明を果たすことができるように,取調べ以外の新たな捜査手法や仕組みの導入について,同時に検討を進めることが必要と考えます。   また,捜査から公判へのウエイトシフトが予想される中において,公判における真相解明機能を高めていかなければなりません。すなわち,公判における被告人,証人等の供述・証言の真実性を担保する制度や,外部の者がこれらの関係者に働き掛けて真相解明に向けた司法作業を妨害することを防止する制度などを併せて検討していく必要があると考えます。 ○小川委員 東京高裁の小川でございます。私,これまで刑事裁判を中心として裁判の実務に携わってまいりました。裁判官として,現行の刑事司法制度の運用に携わってきた者でございまして,現に今も実際の刑事事件を担当してその運用に携わっているという立場にございます。   ところで今回の部会には法律家の方だけでなくて,法律家とは異なる広く多方面の知識・経験をお持ちの方々が委員として参加されておられます。そのようなことを考えますと私といたしましては,前回部会長さんがおっしゃられました今後当部会においてどのような調査を行うべきかという点,それから現段階で検討すべきと考えられる事項は何かという点,その他どのように検討を進めていくべきという点につきましては,基本的にはまず委員の皆様方からいろいろ御意見を伺わせていただきたいと考えているところでございます。また,現行司法制度についても具体的な御指摘をいただきたいと思います。そうした意見交換がなされていく過程の中で,私のこれまでの刑事裁判の実務の経験に基づいて意見を述べさせていただきたいと思っております。   ただ,私のこれまでの経験を踏まえまして諮問にございます取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直しという点につきまして若干意見を述べさせていただきます。供述調書に過度に依存しないという観点から述べますと,刑事裁判では供述調書ではなくて法廷での証言や供述が証拠として重視されるべきであり,そのような公判審理を実現していくべきであるということが第1点だと思います。それから,第2にはそもそも供述に頼りすぎないで客観的な証拠による立証に重きを置いた公判審理を実現していくべきであるというようなことになると思います。   ここでは第1の点についてふえんして述べますと,供述調書という書面を読んで判断するということよりも法廷で事実を体験した人から直接話を聞いて判断するほうがベストの証拠にじかに接するわけですし,話を聞いて疑問を感じた点があれば直接質問をして確かめることもできますのでより望ましいということが言えます。また,供述調書ではなくて法廷での証言や供述が証拠として重視されるということであれば,捜査をし,公訴を維持するという側としても法廷に証拠として提出されることを念頭に取調べをして詳細な供述調書を作成するということに多大なエネルギーを投入するということではなくて,法廷で供述をしてもらうということに力を振り向けるということになるのではないかと思うわけです。   このように供述調書ではなく法廷での証言や供述を証拠として重視するという公判審理の在り方は実は現行刑事訴訟法の原則的な考え方でもあります。これまでの刑事裁判の運用はやや原則と例外が逆転していたというきらいがあったわけです。そうしますと供述調書ではなく法廷での証言や供述を証拠として重視する公判審理というのは現行刑事訴訟法の原則的な考えに立ち返った運用を徹底するということでもあろうかと思います。今回新たに裁判員裁判制度が導入されましたが,このこともこうした運用を徹底していく転機になるものと考えられているところです。   しかし,こうした公判審理を実現していくに当たってもいろいろな観点から検討しておくべき事項があろうかと思います。例えば法廷での証言や供述が証拠として重視される公判審理を実現するということは,当然の前提として法廷での証言や供述が真実を語るものでなければなりません。そうでなければ適正な裁判を実現することができなくなってしまいます。そうした真実の供述を確保するための実効性のある手だてをどうするかということがあります。   また,過度に供述調書に依存しないとしても事情によっては供述調書が証拠とされるべき場合があることは否定できないと思います。したがって,その場合の取扱いについても念頭に置く必要があろうかと思います。その場合には供述調書の作成過程,被疑者の取調べ状況がどうであったかなども問題となるわけです。これまでの裁判では,被疑者の取調べ状況をめぐって法廷で争いとなって被告人の主張内容と取調べをした捜査官の供述内容が対立するということが繰り返されてきました。そうしたことを考えますと諮問にあります取調べ状況の録音・録画の在り方ということが検討されるべきであろうと思います。   以上述べてきましたが,公判審理の在り方にしても捜査の在り方にしても相互に密接に関連しておりますから,そうしたことを考えながら検討していく必要があろうかと思います。 ○小野委員 小野でございます。我が国の捜査は取調室という密室の中で被疑者・参考人の供述調書を作成することに重きが置かれてきました。供述調書というのは被疑者・参考人が自分で作るのではなくて取調べをする捜査官があたかも自分が被疑者・参考人であるかのように文章を書いて作られます。   例えば私が交通事故を起こした被疑者だとします。私の供述調書は,例えばですね,「私は平成何年何月何日何時ごろ,虎ノ門のどこそこ路上を自動車で運転中に信号のない交差点で左方向から走ってきた誰それ運転の原付自転車と衝突して転倒させました。その運転手に全治10日間の足首の挫傷の傷害を負わせてしまいました。これは私が交差点を通過する際に左方向を十分に見ていなかったからです。」こんな記載振りになります。   しかし,これは私が書いたのではなくて,これは捜査官が全て書くわけです。しかし,私の言い分は,「いや,これは出会い頭なのだから避けようがなかったのですよ」とこう言うわけです。そうすると,捜査官は「ああそうですか」と。「そうすると,しかし相手は怪我しているのですよ。あなたは何も過失がないというのですか。うーん,そうだということになると今日は1日たっぷり時間を取って話を聞きましょうか」。こういうことになって,「いやいや私はこれから仕事があるので,そんな無理ですよ」「そんなことを言ったってあなたがそう言うんだったらしょうがないでしょう。じゃあ,まあいい。じゃあ明日1日やりましょう」「いや,明日もそんな1日もできませんよ」「そうですか。じゃあ明後日また朝9時からみっちりやりましょうかね」というようなやり取りが実際に交わされるわけです。   一般の市民からすると,例えば毎日のように呼び出されてこの調書に署名しなさい,捺印しなさいと言われるわけで,これはとても耐え難いこと,こういうことで調書が出来上がってしまいます。逮捕・勾留されている被疑者の場合は,多くの場合連日長時間にわたる取調べを受けて同じように調書に署名捺印を求められる。署名捺印しなければ保釈されないことがあるよと言われることもあるわけです。その結果,事実に反する調書ができる。多くの場合これは裁判で証拠とされます。で,調書の記載に従った判決となってしまうわけです。裁判官には供述調書が密室の中でどのようにして作られたか分からないからです。こうしてえん罪が生まれてきます。   こういった捜査,こういった裁判をこれ以上続けていくことができないことはもう明らかだろうと思います。こういった刑事手続を根本的に改めるときが今来ているわけです。その第一歩が取調べ全過程の録画であります。更には取調べ時間の制限や一問一答式の供述調書の作成,調書の証拠採用の厳格化,保釈の拡大,全面的な証拠開示といったえん罪の発生を防止する手立てを整えることが必要です。   この部会での検討に当たりまして,委員の皆様にはこれまでの法曹三者による取調べ全過程の録画についての検討経緯を簡単に御紹介しておきたいと思います。そもそも司法制度改革審議会意見書,これは2001年の意見書です。これに基づいて一連の司法制度改革が実施されたわけですけれども,その中では取調べの録音・録画や弁護人の取調べへの立会は将来的な検討課題とされました。他方で刑事免責制度等新たな捜査手法の導入は多角的な見地から検討すべきとされたわけです。   裁判員法などの法律制定に当たって,衆議院と参議院の法務委員会で附帯決議がされています。参議院の附帯決議,2004年5月20日の決議ですけれども,これは法曹三者による刑事手続の在り方等に関する協議会における協議,これを踏まえて裁判員裁判施行までの実現を視野に入れて,こうなっております。実質的な論議が進展するように取調べ状況の可視化,新たな捜査手法の導入を含め,捜査又は公判の手続に関し更に講ずべき措置の有無及び内容について刑事手続全体の在り方との関連にも十分に留意しつつ実質的検討を政府は行うと,こういう決議がされたわけです。   しかしながら,結果的にはこの刑事手続の在り方協議会,法曹三者協議会は2004年から2008年まで10回ほど開かれました。その間,実質的な協議の場とも言える幹事会も四十数回開かれました。そこに警察庁も参加したことがありますが,事実上進展はありませんでした。その間2009年には裁判員裁判は実施されるようになってしまいました。結局裁判員裁判施行までの実現を視野に入れとの附帯決議は実現されないのが現状になりました。法曹三者だけでは取調べの可視化立法は全く実現できなかったという経緯があったことを委員の皆様方には御承知おきいただきたいと思います。   なお,民主党は可視化の法案を2007年の12月に参議院に提出し,2008年6月の参議院本会議では可決されております。衆議院では廃案となりました。2009年4月にも同じ法案が参議院に提出されました。これも可決され,やはり廃案となっております。こういう中で可視化に関する議論は既に出尽くしていると考えます。具体的な制度設計の段階に至っているわけです。この特別部会では何よりもまず,取調べ全過程の録画について速やかに具体的な制度設計に着手するべきである,こう考えております。 ○金髙委員 警察庁の金髙でございます。私は一国の刑事司法制度を論ずるということに当たっては,それがどの程度機能して,国民にどのような利益をもたらしているか。また,制度の変革が全体としての機能にどのような影響を及ぼすかを十分に踏まえた議論が必要であると考えています。   我が国ではこれまで現在の刑事司法制度下において先進国の中でも高い水準の治安が確保されてきたところがあります。数字的なものを見ると我が国の犯罪発生率は,例えば殺人についてはアメリカの5分の1,英仏独の3分の1から2分の1でございます。   一方で殺人の検挙率を見るとアメリカが60%台,イギリス・フランスが80%台であるのに対して我が国は過去60年間,ほぼ一貫して95%を超している状況にあります。   真犯人に対する検挙・起訴がなされているかということの一つのメルクマールとして無罪率を見てみますと,我が国は無罪率が0.1%,これに公訴棄却等,有罪とならなかった数字を含めても0.5%でありますが,イギリスはその40倍,米国では20倍というのが現実でございます。   したがって,総じて言いますと我が国は先進国の中でも犯罪の発生が少なく,検挙率が高く,無罪率が低いと言うことができるわけであります。今年1月の内閣府の世論調査によりますと,日本の誇りとして治安の良さを上げられた方が44.2%おられます。現在の刑事司法制度の下で市民の安全・安心が比較的高水準で維持され,良好な治安が社会の発展を支えてきたということは直視されるべきであると考えます。   ところで,警察は昨年,刑法犯だけで159万件を認知して,50万件を検挙しておりますけれども,検挙事件の36%は被疑者の取調べが端緒となっております。また,平成21年,全国の捜査本部事件,これは殺人等かなり大きな事件に対して,捜査本部というものを作って捜査をいたしますが,捜査本部事件の解決した事件を見ますと6割において被疑者の取調べから死体を発見あるいは凶器を発見,被害品等を発見,あるいは共犯者を割り出したという実情がございます。   犯行の動機や故意といった主観面はもとよりでありますけれども,いわゆる死体なき殺人事件のように被疑者の供述がなければ事実そのものが解明できないという事件も多いわけであります。それだけ取調べは犯罪の検挙解明に重要な機能を持っているというところでございます。   一方で,警察庁が昨年,八つの可視化実施国・地域を調査した結果,それらの国では捜査構造の中で取調べの持つ機能が小さいことが判明しております。例えばイギリスにおいては取調べは1事件に1,2回,1回に30分程度でございます。アメリカにおいては20%のケースで取調べそのものが行われていないという現状がございます。   反面,そのほぼ全ての国で一定の逮捕被疑者等からのDNA資料の強制採取でありますとか,あるいは多様な種類の犯罪に対する通信傍受,それから司法取引,刑事免責といった我が国にはない捜査手法,刑事手続を持っておりまして,それらを駆使することによって犯罪の解明・立証を行っていることが分かっております。調査した国などでこれらの捜査手法のどれも持っていない,つまり日本と同じ状況ですが,どれも持たずに可視化を実施している国はございませんでした。   これまで我が国は取調べが有効に機能してきたので,これらの可視化実施国が持つような捜査手法を持つ必要はなかったとも考えられるわけでありますけれども,我が国も可視化実施国と同様に取調べへの依存度を下げるということであれば,少なくともこういった可視化実施国と同様の捜査手続,捜査手法等を持たない限り,我が国と比べて決していいとは言えないこれらの国と同程度の治安水準も維持できなくなる可能性があると考えます。   犯罪を犯した人,これは自首した人は除きますと,その多くは逃げ隠れしているところを検挙されるというのが実態でございます。当然,刑罰から逃れようとするものであって,自ら積極的に自白する人は少ないのが現実でございます。凶悪事件であれば自白は重い処罰につながるためかたくなに口を閉ざす。こういった被疑者に対して情理を尽くして心を開かせて真実を語らせるということは大変困難な作業でございます。人格同士のぶつかり合いでもあって,カメラの前でこれを求めるのは困難なものを更に困難にするに等しいことであります。   取調べが大きな役割を果たしている現在の捜査構造下で取調べの機能不全がもし生じた場合には直ちに捜査力の低下に直結し,真実の解明を求める被害者,国民の期待に応えられないということがあり得ると思います。したがって,捜査手続,刑事手続全体の在り方の中で取調べの機能や可視化の在り方も検討されるべきであって,可視化だけ切り離して論じることは失当であります。   国家公安委員会委員長主催の有識者研究会においては,そういった問題意識の下で治安水準を落とすことなく可視化を実現することをテーマにして,警察における捜査手法の高度化と取調べの可視化の在り方を総合的に議論していただいております。先ほどちょっと触れました可視化実施国の持つ捜査手法等についても検討が進められております。第一線捜査現場の大部分は警察が担っているというところでもあり,警察捜査の実態・実情及びこの国家公安委員会委員長主催の研究会の検討結果も当部会で十分に踏まえて審議をお願いしたいと思います。 ○川端委員 川端でございます。私は実体刑法の立場から話をさせていただきたいと思います。   現代の刑事司法制度の中で実体刑法がどういう意味を持つのかという視点を考慮に入れないと,今回の現代の刑事司法制度の全面的な改革は困難になるであろうと考えております。刑事司法制度において刑法がどういう状況にあるのかについて申し上げますと,これまで刑法は総体的に非常に安定していたという評価が可能であると考えております。刑法の任務は,罰すべき行為が何であり,これに対していかなる種類の刑罰をいかなる分量で科すべきか,そしてまた,その根拠は何かを解明することであります。この点について刑法理論と実務は,常に我が国固有の国民意識を重視して,諸外国の法制や理論・実務を参考にしながら,国民が納得のいくような刑法を作り出していくことを解釈・運用の指針として実践してまいりましたので,国民の支持を得て安定が保たれてきたと思います。   さらに解釈・運用だけではなくて立法の点についても,刑法は,国民の理解と共感を得て充実した内容を有していると解されます。つまり,社会の変化に伴っていろいろな要請が出てきますが,それに適切に対応して処罰の必要性のある行為とその根拠を明確に提示して刑法の一部改正という形で立法がなされてきたのであり,国民もそれを支持してきたのであります。こういう経過がありますので,刑法は,解釈・運用上も立法上も非常にうまく機能してきたと考えている次第でございます。このような観点からしますと,今回の法改正に関しましては積極的に刑法を全面的に改正する必要性はないと考えております。   刑事訴訟法との関係という観点から見ますと,かつて刑法の客観化が議論されたことを想起する必要がございます。つまり,刑法の中に想定されている犯罪の主観的な要素は立証するのが困難であるから,できるだけそれを排除して客観的な要素を重視した刑法体系を作るべきだという意見が展開されたことがございました。しかし,それは,先ほど申し上げました刑法の任務という観点からしますと,極めてまずい状況を生み出すことになります。すなわち,国民の側からしますと,行為者がどういう考えの下で,つまり,どういう主観的意図でそういう行為に出たのか,主観的側面を無視してその行為の違法性とか責任とかを考えていくのは実態に合わないということでございますので,今回の制度改革についても,刑法の客観化というような一般的な観点からのみで刑法改正に関与するのは望ましくないと考えております。   しかしながら,この特別部会におきまして,捜査の手法や公判の在り方などについていろいろ議論されるわけで,新たな制度設計もここで示されてくるだろうと思います。そのような場合に刑法はただ傍観するのではなくて,新たな制度が必要であるとされたときには,それをサポートするような刑罰規定の創設を考える必要があると思います。必要なものについては刑法も,それについて新たな規定でもって対応すべきであると思っております。   例えば捜査妨害罪の新設とか,いわゆる司法取引を実効化するための刑の減免規定や捜査協力を推進するための免責規定の新設とかについて,私は刑法の立場から理論的な整合性がある形でこれを実現することにやぶさかではありません。今後,そういう問題が出た時点で刑法の立場から意見を述べさせていただきたいと思います。   それから,審議の在り方につきましては,先ほど来御意見が出ておりますように多角的な観点から総合的に議論していただきたいと思います。やはり有機的な連関のある諸制度でございますから,総合的・有機的な形でそれが実現できるような観点も考慮に入れて御議論していただきたいと思っております。 ○神津委員 連合から来ております神津です。私はレジュメ,簡単なものですけれども用意しておりますので御覧いただければと思います。   先ほどからいろいろな御意見も出ております。これはもう大半の方々が一家言を有する委員でいらっしゃると思いますので,のっけから取調べ可視化の問題とか捜査手法の改善の検討というところに入りたいというお気持ちも含めて出されているわけです。私は最後にこの部会として一つの結論を見出していこうということであればあるほど,ベースの認識整理と,それを本部会で共有化する,どこまでが共有化できるかということについてはなかなか大変だと思いますけれども,それをまずやっていくことが急がば回れといいますか,後々本論に入ってシビアな議論のところでまた立ち返るということが避けられるのではないかと思います。   そういうことで1.を2.や3.より先行させていただきたいという思いであります。1.の(1)は本部会が検討対象とするところに関わる刑事手続の制度等に係る諸ルール,諸ルールという,私はそういう意味では素人ですからこなれていない言葉を使わせていただいていますけれども,憲法から始まっていろいろ,警察,検察の中に内規的なものもあるのかもしれません。そういったルールについて全て洗い出しをしていただきたいということであります。   そのルールというのは,その一つ一つに基本的な目的とか背景というのが必ずあるはずであります。それを洗い出していただきたいということと,その一つ一つの決め事に対しての現状と問題点,これの洗い出しをしていただきたいという思いであります。   戦後66年たって,いろいろなことが風化してきていて,これが実際にはなかなか守られていないということもいろいろな具体例の中で散見されるということも聞き及びますので,一つそれは洗い出しをしていただきたい。   それは,実際に現実に刑事手続あるいは取調べをしていくときに,ルールはこうだけれどもこういうことの方が実態には合うのだみたいなこともあるのかもしれませんが,私どもはこの問題をきちっと取り上げるためにはそれを掘り下げてやっていく必要があるのではないかという思いであります。   (2)(3)もそれに伴っての話ですが,明治維新で欧米の制度を取り入れた歴史とか,それは取調べにおいてどうか。あるいは捜査手法ということにおいてどうか。今日の姿に至るまでにどういった変遷があるのか。   あるいは,(3)の国際比較で,私も海外でのこの種のやり方について何でも真似すればいいということではもちろんないと思いますが,議論を一つの閉じられた中でやるだけではなくて,やはり大いに参考にすべきもの,あるいはこれはちょっとひどいな,違うなというものを含めて国際比較というものが重要なのではないのかということであります。   専門家の方が大勢いらっしゃる中で非常にまどろっこしいと思われるところはあるかと思いますが,先ほど申し上げたようなことで,結果的には結論を導き出す近道になるのではないかという思いであります。   そして,そういった意味での認識の共有を最大限図った上で,この取調べの可視化の検討,捜査手法,改善の検討ということに移行していただきたいと思うのですが,私自身の現時点におけるこの問題の捉え方ということでは,これを相互にリンクするということありきではないと思っています。ただ,区分けをする限り,どちらの検討を先にすべきということではなくて同時並行という姿があってもそれはいいのではないかということです。   それから,1点目で申し上げた急がば回れと似たようなところがありますが,公判における取調べの位置付け,こういったことについてのそもそもの議論・検討が必要だということであれば,それは個別の検討に入る前に行っていくことはやはり望ましいと思います。 ○後藤委員 後藤でございます。神津委員のメモの次に私の発言用メモが綴じられていると思います。日本の刑事司法で悪い面があるとすればどういうところか。それは私の理解では,建前はもちろん法廷で有罪,無罪を決めるわけですが,実際には密室で被告人の運命を決める,あるいは決めようとする傾向が強いというところだと思います。大臣の諮問にあります「取調べと調書に過度に依存した」手続の在り方というのは正にそのことを表現していると思います。ですから,これを改革するために何が必要か,やや標語的に言えば,人を尊重する公明正大な刑事司法に変えていくことが必要だと思います。それは別の言葉で言えば,刑事司法の透明度をもっと高めていくことです。それが今,私たちにとって一番大きな課題であろうと考えております。   そのために具体的に何が必要かと考えますと,まず取調べについて外からの検証ができるようにすることが必要だと思います。録音・録画あるいは弁護人の立会いによる,いわゆる取調べの可視化という課題がこれに相当します。   取調べ自体の方法も,もう一度見直す必要があるのではないか。これまで日本の捜査における実際の取調べは,捜査官が既に持っている仮説を裏付けるような供述を採取するという視点で行われることが多いと思います。それをより客観的な情報の収集,情報聴取という方向に移していくことが必要ではないかと思います。そのためには,取調べの方法について科学的な観点を取り入れることも重要だと思います。   刑事訴訟法の問題としては,供述調書を証拠として利用することをもっと厳格に規制していく必要があるのではないか。これはやや専門的な言い方では,いわゆる伝聞例外の規定の問題です。つまり条文の上で,供述調書は原則的には証拠として使えないけれども例外的には使えるという立て付けになっております。その例外の部分の規定の運用,あるいは規定振りを見直すことが必要ではないかと思います。   それから勾留,これはいわゆる未決の勾留ですが,それが自白をさせるための手段にならないようにする。そのためには未決拘禁の制度とその運用を見直す視点も必要であろうと思います。   今後の調査検討の順序については,まずは現状の問題点の認識を共有することが必要ではないかと思います。そのためには経験者からの聴き取り,例えばえん罪の経験者などが考えられると思いますが,そういった方から聴き取りをするという方法があり得ると思います。   いわゆる取調べの可視化は今申しましたように重要な課題だと思いますし,諮問にもありますので,まずそれに取り組むべきではないか。これについて現在,実務的に試行と検証が進んでいるわけですけれども,その結論が出るまで待っている必要は必ずしもないのではないか。それと並行して,試行の結果も取り入れながら随時検討を進めていくことが必要ではないかと考えます。   それから,取調べに代わる代替的な捜査手法ないしは立証の方法についての議論が今までの委員の御発言にも出ています。そういう議論が出てくることは私も理解はいたします。ただ,取調べのいわゆる可視化の交換条件としてそれを導入しなければいけないという位置付けは適切ではないと思います。取調べの可視化は無理な取調べを防ぐためには必要なものなので,それはそれとして実現していく必要がある。それと並んで別に新たな捜査手法が必要であるかどうかは,御関心を表す意見が多ければ検討したらよいと思います。   その際には,現実に日本の刑事手続で何が行われているのか。あるいは何が起きているかを建前論や精神論に捕らわれずに虚心坦懐に見据えて,本当に何が必要なのか議論していく,そういった視点が必要であろうと考えております。 ○本田部会長 委員の方に順次御発言いただいていますが,ちょうど半分ぐらい時間経過いたしましたので,おそらく皆様もくたびれたかと思いますので,ここで休憩を取らせていただきまして,再開後,酒巻委員からお願いいたしたいと思います。 (休     憩) ○本田部会長 それでは,議事を再開させていただきたいと思います。 ○酒巻委員 京都大学の酒巻です。調査検討すべき事項と方法について意見を述べます。   この部会は新時代の刑事司法の在り方について,幅広い視点,第1には刑事司法を構成している特定の部分だけにとどまらず,これを全体として検討の対象にすること。また,第2に刑事司法の専門技術的事項にとどまらず,この部会の委員となられた広い範囲の有識者,国民の視点をも重視して検討するものと理解しております。   刑事司法は自然科学や医療技術とは異なり,国民の意識や社会的な感受性に深く関わる固有の,いわば「文明の技術」ですから,このような視点は誠に重要だろうと思います。特に諸外国の制度を調査して,我が国と比較対照して検討の参考にする際には,単に日本に無い外国の制度を調べる,あるいは,日本と似ているように見える外国の制度を調べて比べるということだけでは,全く十分ではありません。本気で比較調査をするのであれば,刑事司法の部品,例えば取調べの録音・録画という制度が特定の国の刑事司法制度全体の中で現にどのように働いているのかというところまで正確に把握した上で議論すべきでしょう。あるいは日本流の取調べや調書というものが,そもそも外国にあるのか。仮にあるとして,それが裁判の証拠として実際どのぐらい用いられているのかといった背景事情を全く気に掛けずに,供述調書に頼るの頼らないのという話をしてもおそらく無意味です。外国の制度の調査というのは刑事司法制度全体の中に位置付けて理解,利用しなければ意味が乏しい。   刑事司法が自然科学や医療技術と決定的に異なるのは,他国でうまく働いている部品や手法だけを引き移して日本に移植しても同じ様にうまくいくとは限らないことです。場合によっては短所だけが見事に花開き,長所は拒絶反応によって働かないどころか,制度全体を機能不全にすることさえあり得ます。   私は日本や外国の刑事司法の歴史や制度,技術の専門家として30年近くこのようなことを調べ考えて暮らしてまいりました。専門家というのは,自分で申すのは大変恐縮ですが,専門領域の知見については皆様のお役に立つことがあろうかと思いますので,どうぞ専門家の意見を参照し利用していただければと念じております。   他方で,刑事司法の基本的な在り方は一般国民の健全な社会常識に支えられたものでなければ,いつか破綻すると思います。諮問事項にある取調べの録音・録画は,密室の取調べで自白をしていただくというこれまでの供述獲得手段の働きを衰弱させるでしょう。そうすると自白がなければ有罪にできないタイプの事件で不起訴やあるいは無罪判決が増えるかもしれないという単純な予測があり得ます。この予測が仮に正しいとして,残虐な犯罪の被害者遺族の気持ちも分かるが,真犯人が起訴できないあるいは無罪になってもやむを得ない,あるいは巧妙な知能犯や汚職や組織犯罪が解明できないかもしれないが,それでも仕方がない。密室の取調べで自白を獲得するよりはましであると諦めるのか,それとも諦めずに何か別の供述獲得方法や立証手段を考えるのか。こういう事柄こそは,刑事司法に対する国民の社会的感受性や意識に配慮しなければならない大きな,かつ非常に重い責任を伴う決断事項だと思っております。   もっとも今のところ,こういう予測に確たる根拠はありません。そもそも取調べで作られる自白調書がなければ,有罪にできなかったであろうあるいは犯人や犯罪事実が解明できなかったであろう事件が,一体これまでどのぐらいあったのか。まずはこの点をできれば実証的・客観的なデータで明らかにすることが不可欠の検討調査事項であると思います。   なお,諮問事項にある供述調書に過度に依存しない刑事司法が実現するのであれば,これまで大いに依存してきた取調べや供述調書の適正を担保するための録音・録画は,ほとんど意味のある話ではなくなるでしょう。このように物事は全て連関いたしますので,供述調書に依存しないでやっていくことができるのかどうかというところを始めとして,刑事司法全体について目配りをし,運用面での改善可能性,更には法改正の必要性を包括的に検討していくのが適当であろうと考えています。 ○椎橋委員 椎橋でございます。私はこの審議会に臨む基本的姿勢についてお話し申し上げたいと思います。ペーパーはございません。   我々が持っている日本国憲法には国民に様々な基本的人権を保障しております。この中にはもちろん刑事被告人の権利も含まれているわけですけれども,国民がこれらの基本権を最もよく享受できるためには社会が安全で安定していること,コミュニティがよく機能していること,そして一定の経済的発展があること,この三つの要素が必要だと考えます。   このことは日本憲法下の六十数年の歴史によって実証されているのではないかと思います。つまり日本におきましては国民の様々な基本権が良好に保障されてきたと言ってよいと私は考えます。   次に社会の安全と被疑者・被告人の自由の保障というのは刑事司法制度の在り方に関係します。日本の刑事司法は戦前,戦後,そして現在に至る過程におきまして刑事司法に携わる方々の努力によりまして社会の安全の維持と,それから被告人の自由の保障,これの双方を着実に実現してきている。いろいろ波はありますけれども大きく言ってそう言えるのではないかと思います。もちろん諸外国に比べて日本の刑事司法の特徴はあると思います。取調べを重視した捜査もその一つと言えると思います。取調べに比重を置く捜査が展開されてきた理由には様々なものがあると思いますけれども,我が国では諸外国では広く取り入れられている捜査手法,例えば通信傍受,会話の傍受,おとり捜査,潜入捜査,DNAの採取,DNA鑑定のデータベースの構築,刑事免責,司法取引,それからビーパーとかGPSを利用した捜査である位置探索捜査,こういった捜査方法がありますけれども,これらについては非常に強い批判がありましたために,それらのうちには法制定が実現されていないもの,それから一部は法制度ができたり,あるいは判例によって認められたりということはございますけれども,しかしそれらも諸外国に比べますとかなり限定されたものとなっております。   こういった背景事情があります。こういう事態をたどってきたことに対する評価はいろいろあると思いますけれども,背景事情としてはそういうことも取調べを重視する捜査になってきたということが一つの事情として言えると思います。   さて,その取調べの機能でございますけれども,思い込みで事件の構図を描いて,裏付けを怠った取調べがなされた結果,虚偽自白を採取して,それが原因となって誤判,えん罪が生じた事案があります。これは厳しく反省されなければならないと思います。しかし,他方で被疑者の弁解を聴取して,裏付けを丹念に行う捜査によって被疑者が犯人でないと判断される,こういう役割も取調べは果たしているということも間違いないと思います。   この取調べの負の部分をいかにすれば正すことができるのか。取調べの本来果たすべき真相の解明,犯人を有罪とし無実の者を無罪とする,そういう真相解明機能をいかに維持するか。真相解明において果たしてきた取調べへの依存度を下げるのであればいかなる捜査手段が取調べに代わる代替策として適切かつ効果的であるのか。これらのことを刑事司法全体の機能の中で適切に位置付けて議論すべきである。しかも,最近の司法制度改革の意義とか運用の状況,流れ,こういったことを踏まえて検討するということがこの審議会に期待されていることだと確信しております。   なお,先ほどから言われておりますヒアリングのことですけれども,私も議論を実証に基づいて行うというためにはその有力な参考資料としてヒアリングというのは必要ではないかと思います。私としましては,現実に捜査に携わっておられる検察や警察実務家の皆さんについてのヒアリングも是非していただきたい。可視化しても取調べの機能には影響がないという意見がございますけれども,本当にそうなのかどうか。これについてはやはり突き詰めた議論が必要なのではないかと思うからでございます。   それからもう一つ申し上げますと,本日,警察庁の録音・録画の検証結果が机上配布されておりますけれども,法務省におかれても取調べの可視化に関する省内勉強会の過程で国内外にわたる幅広い調査を行って録音・録画のメリット,あるいは問題点,これらにつき実証的なデータを収集していると聞いております。そうした調査データというのはこの審議会においても大変貴重なものであると思いますので,できるだけそういうものもお出しいただきたいと思います。   そういったことを含めて,ともかく全体として刑事司法は機能しているということがございますので,その全体の中に適切に位置付けて取調べの録音・録画を判断すべきである。録音・録画だけを切り離すのではなくて,全体の機能の中で是非判断すべきではないか。このように考えている次第でございます。 ○周防委員 まず,これだけ多くの人が各分野から会議に参加していますので,現状の刑事司法の問題点について最低限の共通認識を持つ必要があると考えています。そこでまず私が考える日本の刑事司法における主な問題点というのを大雑把にまず3点示したいと思います。  1.調書裁判 2.人質司法 3.証拠開示。   調書裁判について。日本の裁判では調書に重きが置かれています。調書は密室での取調べで取調官が作文したものです。調書の文体は一人称独白体であり,被疑者が自ら進んで話している物語として書かれています。この形式に何の疑問も感じず調書が作られ続けていることには驚きを禁じ得ません。一人称独白体の形式に何の合理性があるのでしょうか。被疑者から言葉を奪うことで取調官による被疑者の思想や人格の書換えが実現されるだけです。   もっともそれが取調官にとって有罪獲得の上で誠に都合の良い書式であることは理解できます。取調べは多くの場合,取調官の質問に被疑者が答える形で進んでいると思われます。そのやり取りを一問一答で正確に記録することが取調べの録音・録画以前にすぐにでも実行できる一つの可視化であると考えます。   取調官によって作文された一人称独白体調書ですが,しばしば裁判ではその一字一句が問題となり,言った言わないの水掛け論に陥ります。韓国では検察官調書について,その内容が正に被疑者が話したことであると証明されない限り裁判官は証拠採用しないようになりました。したがって検察官は取調べを撮影・記録し,調書には被疑者が話したとおりのことが書かれていることを立証しなければなりません。   日本における密室での取調べでは公正さも公平さも担保されません。ところが獲得された自白は裁判官に有罪判決を下させる最も重要な証拠となります。以前,元検察官の方を取材したときに彼はこう断言しました。「物的証拠だとか何とか言うけれども,たとえ殺人現場に凶器があって,被害者の血痕がついていて,加害者の指紋があったとしても,それだけではなぜ殺したのか分からないんですよ。どうして殺人を犯したのか。どう殺したのかは犯人自らにしゃべってもらわない限り分からないのです。」そういうふうに自白しか真実にたどり着く道はないと警察官,検察官は信じているので,結果として自白偏重の取調べとなります。密室で作られてきた自白調書の歴史が正に日本の刑事裁判の歴史となっています。   次に人質司法について。警察に被疑者を勾留し,いわゆる代用監獄ですが,取調べも含めて被疑者を24時間,食事から排せつ,入浴,睡眠に至るまで管理することで追い詰めます。悪いやつはそれぐらいのことをしなければ本当のことは言わないと信じているのかもしれませんが,そういった取調べは無実の人を虚偽自白に追い込む可能性があり,決して合理的なものとは言えません。仄聞したところによれば取調官が自白を得るための心得は,取調べ中もしかしたら本当はやっていないのではないかと絶対に思ってはならないということだそうです。人が人を裁くことの困難さを考えるとき,私たちが犯してはならない間違いは無実の人間を罰することです。「10人の真犯人を逃しても一人の無辜を罰するなかれ」というのであれば人質司法は決して許されるものではありません。   痴漢事件などの軽微な事件の取調べでも自白しなければ勾留は続きます。いくら無実であっても23日間勾留が続くことを考えるとうその自白をして罰金を払って終わりにした方がダメージが少ないと考える被疑者は少なくないでしょう。したがって軽微な事件でのえん罪が数多く存在するのではないかと考えられます。   3番目,証拠開示です。刑事裁判の取材を始めたとき,とても驚いたのは弁護側は検察官の持っている全ての証拠を見られるわけではなく,どんな証拠があるのかさえも分からないという事実です。公判前整理手続によって以前よりは証拠開示が進んだようですが,いまだに検察官がどんな証拠を持っているかは分かりません。無罪方向に考えられる証拠が隠されていることもあり,公平で公正な裁判を実現するためには全面的証拠開示は必須だと考えます。   以上3点ですが,具体的に刑事裁判の現状を知るためには被告人として刑事裁判を経験した方のヒアリングを行う必要があると考えます。例えば委員のお一人である村木さんは検察の在り方検討会議でも話されており,その議事録を読ませていただきましたが,御自身の経験を通して,より具体的にこれからの取調べの在り方についての御意見をお伺いしたいと思います。   そして,日本の刑事裁判のあらゆる問題点が詰まっていると考えられる布川事件の被告人だった櫻井昌司さん,杉山卓男さんのお二人には,虚偽自白に至った経緯,無罪を主張して闘った一審水戸地裁から再審で無罪を確定するまでの長い闘いを通して感じた日本の刑事裁判について話していただきたいと考えます。   あと,痴漢事件で取調べを受けることになった,それまで犯罪とは無縁だった一般市民の話も聴くべきです。現行犯逮捕をされたことも知らず警察に連れていかれ,いきなり被疑者として取調べが始められ,言い分は一切聴いてもらえず,被害者証言だけが一方的に認められる中で裁判を闘い,結局は物的証拠がないままに供述証拠だけで有罪になってしまう。その理不尽な裁判については,映画「それでもボクはやってない」で分かりやすく描きましたので観ていただきたいと思います。   更に私が書いた本ですが,刑事裁判について調べて疑問に思ったことを映画の内容に沿う形で元裁判官の木谷明さんに質問をした「それでもボクはやってない-日本の刑事裁判、まだまだ疑問あり!」という幻冬舎から出ている本もありますので,法曹界の人間ではない,私という一般市民が見た刑事裁判の姿,そういうものを書きましたので馬鹿にせずに是非読んでいただければと思います。刑事司法がこう見えてしまうということは非常に重要なことだと思います。   最後に付け加えますが,現状の刑事司法の問題点については当然のことながら全ての責任が警察,検察にあるとは考えておりません。例えば調書裁判を推し進めてきたのは裁判所にほかならないと思います。裁判官は自らの職場である法廷で語られた言葉より密室で作られた検察官調書に重きを置きます。人質司法についても裁判官が検察官の勾留請求を安易に認めてしまうことが大きな要因の一つです。警察,検察は密室での取調べで自白を獲得し,被疑者に反省を促し,謝罪させ,一人称独白体の物語調書を作り上げます。裁判所はその調書を基に判決を下してきました。つまり日本の刑事裁判は取調室の中で終わってしまっています。そう言っても過言ではないと思います。   取調官と被疑者だけの密室での取調べでは公平さも公正さも担保されません。その不公平で不公正な仕組みを変えるにはまずは取調べを可視化する必要があると考えます。人が人を裁くことはとても困難なことです。私たちが絶対に犯してはならない罪は無実の人を罰することです。 ○但木委員 但木であります。これまでたくさんの方々,それぞれの御立場でそれぞれの御意見を述べられました。内容は全く違うように見えますが,今これからの日本の刑事手続をどうしたらいいのか。やはり社会の正義が保たれなければならず,またえん罪は決して生んではならない。そういうテーマで皆さんがそれぞれの御立場で述べたことであると思っております。その意味で無責任でありますが,皆様方がこれまで申し上げられたことは全て私賛成であります。   昭和24年の1月1日に刑事訴訟法が施行されたわけですが,それから早62年がたっております。62年実務が行われて,その制度自体が疲労を起こさないというのは大体無理な話であると思っております。日本の場合,長い間取調べによって真実を究明するという機能が非常によく働いた。実際に昭和40年代の世界に冠たる治安の時代というのは,それによって真実が究明されて適切に犯人が処罰されるということに国民が深い信頼を置き,それが社会的安定の一因になっていた時代であったと思います。   ただ,それがその後特異な発展,ここにおられる松尾さんの言葉を借りればガラパゴス的発展を遂げた。諸外国は多様な捜査手法を発展させている。例えばミランダ判決が出たら,それに対応して捜査手法や捜査体制をそれなりにあみ出してきた。それぞれの国も多様な発展を遂げてきた。ところが我が国では取調べによって真実を解明し,それが調書に結実される。その結実された調書に基づいて裁判所が非常に精密精緻な判決を下す。これをずっとやってきたわけです。それがやがて取調べとか,あるいは調書に対する過度の依存という弊害をもたらしてきたのではないかと思っております。   憲法には裁判の公開が規定されています。当たり前のことですが,この規定は国民に理解され,支持される刑事裁判というものを要請しております。新しい時代の刑事手続はこれを根幹にしなければならないと思っております。とにもかくにも今までのように過度に調書を重視して,裁判官もその記録をうちに持って帰って自宅で心証を取るというやり方はそろそろ変えなければならないときが来ているのではないかなと思っております。公判中心主義への移行と公判における供述及び公判に提出される証拠資料の正確性や分かりやすさが重要であると考えております。これを担保する制度を議論していくことが本部会のテーマであると思っております。   私は,本部会においては,何事にもとらわれず,全ての事柄について自由闊達かつそれぞれのお考えを徹底的に述べていただくことが大事ではないかと思っております。その中から新しい日本の刑事手続で採るべきものというものを発見していかなければならない。これだけ立場が違い意見が違うので,それは無理かなというふうな感想の人ももちろんおられると思います。私はそうではなくていろいろな立場の人がおられるからこそ,新しい時代の刑事手続というのがどこら辺にあるべきかということを皆さんでお考えいただける。私もその中の一員として働くことを望んでおります。   ヒアリングはできるだけ広範に被害者の方からも聴かなければいけないし,それからえん罪事件の被害に遭われた人からも聴かなければいけないし,治安を守るために一生懸命捜査している人々の実態も聴かなければいけない。あるいは国際的な制度についてもできるだけ実態に即して,つまり制度がこうなっていますではなくて実際にどう行われているのかということがよくよく分かるような調査をお願いしたい。それでできるだけここの委員あるいは幹事を含めて認識を共通させた上で在るべき姿というのを探求していくべきではないかと思っております。 ○龍岡委員 龍岡でございます。本会議で検討すべき事項について申し述べさせていただきます。先般の検察の在り方検討会議に参加しました一員としては,この特別部会においてはこの提言の実現に向けて,次のような事項について,刑事司法全体構造をも視野に入れながら検討することが考えられると思います。   検察の在り方検討会議では,取調べの録音・録画によるいわゆる可視化,この問題が主要な論点の一つでありました。検察庁においては既に裁判員裁判対象事件について一定の範囲で録音・録画が試行され,平成21年2月に検証結果が公表されており,このたび検察検討会議の提言を受けて,現在,検察庁の特捜部,特別刑事部において一定の犯罪について被疑者の取調べの録音・録画が試行されているほか,警察庁からも先月,警察における取調べの録音・録画の試行の検証について報告書が公にされております。   このような状況の下では,試行とはいえ,録音・録画による可視化の運用の動向を注意深く見守る必要があるとともに,これらの検証結果を踏まえて,録音・録画による,いわゆる可視化の利害,得失,問題点を総合的に把握し,これらを的確に分析検討し,更には諸外国における立法例や運用の実情なども参考にして,いわゆる可視化について立法の必要性,立法するとした場合の対象範囲,手続,方法等について多角的な検討をする必要があると考えます。   いずれにしても取調べの録音・録画についての法制化には,現在行われている試行の結果についての十分な分析・検討・検証を踏まえて,必要にしてかつ有効に機能する制度設計を検討することが必要であると考えます。   供述に頼らない捜査の在り方についてですが,これが検察の在り方検討会議の提言の最も大きなテーマであり,本諮問に対する本部会での大きな検討テーマであるわけですが,可視化の問題も実はこの中に位置付けられるものだと思います。   そのほか,おとり捜査,通信傍受等のほか,DNA鑑定やその他の科学的捜査手法については,その適正有効な活用が更に研究検討されることが求められますが,これら以外の新たな捜査手法についても,諸外国での実例,運用例なども参考に検討し,これらの手法の導入の可否,導入するとした場合の適正な運用のための手続等について,法制化の必要性等を検討することが必要であると思われます。   適正な方法による供述証拠の獲得と活用について申し述べますが,供述証拠に頼らざるを得ない事件というのがあることは否定できないと思います。裁判員裁判の円滑な運用にも配慮した供述証拠の適正な獲得手法,活用方法等について,現行法制の見直しのほか,新たな制度の導入の可否についても検討されるべきであると考えます。その一つの例として,刑事免責の制度,あるいは手続の適正・公正さを確保した司法取引の制度の導入などについても,検討すべき時期が来ているのではないかと思われます。   また,現在の実務ではある程度裁判例が集積されてきておりますが,供述証拠に関する違法収集証拠排除法則の適用や伝聞法則等についても,改めて法制化や法改正の要否を検討する必要があると考えられます。   このほか,裁判員制度の円滑な運用のためにも,公判で適切な証言が確実に得られるように,偽証に対する制裁制度の実効性を確保するための方策,被害者,証人保護のための方策の拡充なども検討されるべきであると思われます。   その他検討することが考えられる事項として,今申し述べました偽証罪に関しては,その主観的要件について推定規定の導入の可否などが考えられますが,このような実体法上の手当等についても検討すべきものがあると思われます。これらのほかについても議論の推移の中でまた意見を述べさせていただくつもりであります。   この部会の進め方として,先ほど来提案されていますように,ヒアリングについてはできるだけその実態を知るためにも,適切な方を選んでヒアリングをしていき,また,できるだけ諸外国の法制,実態,実例についての資料なども提供していただいて,ここの本部会において適切な方向が見出せるようにしていただければと思います。 ○西川委員 法務省の西川でございます。まず諮問第92号におきましては,審議いただきたい事項のうち主なものとして取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査公判の在り方と見直しと被疑者の取調べ状況を録音・録画により記録する制度の導入を掲げているところでございます。このうち被疑者取調べの録音・録画につきましては,第1回部会においても御説明申し上げました通り,平成21年10月以降,法務省の省内勉強会において国内外の調査及び検討を進めてきたところでございまして,先月までに調査を終え,今後できる限り早期に勉強会としての検討の成果を取りまとめることとしております。   また検察当局においては裁判員制度対象事件については供述の任意性を効果的・効率的に実証する方策として,検察官の判断と責任において被疑者取調べの録音・録画を実施しているほか,法務大臣の指示等を踏まえ特捜部が取り扱う事件等においても取調べの全過程を含む取調べの録音・録画の試行を開始しております。当部会における取調べの録音・録画に関する検討に当たっては,これらの試行や検討状況も踏まえた審議をお願いしたいと考えております。   次に調査の必要性ということでございます。かねてから取調べの録音・録画により取調べの持つ真相解明機能が害されるのかという点について少なからぬ意見の相違があったと考えられます。もっともこれまでの議論はともすると具体的事例から離れた抽象的なものにとどまるか,あるいは再審で無罪判決が下された事例など,特定かつ少数の事例に基づいてなされてきたようにも思われます。   むろん不適正な取調べがあってはならないものであり,そのような事態をどのように防ぐかという観点からの検討は不可欠でありますが,他方で我が国においては年間150万件を超える多数の事件について取調べが行われ,その真相解明が図られているのであり,刑事司法制度全体の中において取調べがどのような役割を果たしているのかという点については,具体的な事例に即して十分に調査・把握していく必要があると考えられます。   そのような観点からも省内勉強会による国内の調査及び特捜部等において行われている取調べの録音・録画の試行は,取調べの機能・役割や録音・録画が与える影響等について,実証的な検討材料となり得るものと思われます。   次に新たな捜査手法の必要性ということでございます。次に当部会においては取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査公判の在り方の見直しという点についても御審議を頂きたいと考えております。我が国の刑事司法制度におきまして捜査機関が取調べに頼ってきたということは,私自身の経験に照らしても間違いのない事実であると思われます。もっとも近年,取調べを取巻く環境は厳しさを増していて,現場の検察官たちは取調べにより真実の供述を得ることが徐々に困難になる中において,それに代わる手段もなく,取調べにより供述を得ることに努めているというのが現状であると思われます。   例えば本年2月に実施された検事の意識調査の結果によりますと,「近年の捜査・刑事司法を取り巻く環境の変化により,捜査の中心的手法である取調べを通じて被疑者や参考人から供述を得ることが困難になってきていると感じるか」という設問に対しまして,「大変よく当てはまる」と答えた者が全体の約44.8%,「まあまあ当てはまる」と答えた者が約37.4%で,合計すると8割以上の検事が取調べによる供述獲得の困難化を肌身に感じているのが現状であります。   また「実体的真実の究明のため,今後取調べ以外の捜査手法を充実させる必要があると思う」という設問に対しても「大変よく当てはまる」と答えた者が約64%,「まあまあ当てはまる」と答えた者が約27.9%と合計すると9割以上の検事が取調べ以外の捜査手法を充実させる必要性を訴えております。昨今の情勢を踏まえ,特に検察に厳しい目が向けられていることは承知しておりますが,現場の大多数の検察官たちが真相解明及び刑事事件の適正な処理のために日夜努力しているものであり,そのような実情も御理解を頂きたいと思います。その上で取調べに頼り過ぎない捜査,刑事司法を構築するためにも供述その他の証拠を収集するための取調べ以外の手法や仕組みを整備することが不可欠と考えられます。   具体的には取調べ及び供述調書への過度の依存を見直すとして,どのような手法や仕組みを設ければ過度の依存による危険を解消して,適正な手続により事案の真相を解明するための供述証拠や客観的証拠を収集することができるかという点について十分議論・検討していく必要があると考えております。 ○松木委員 松木でございます。私は今回の部会の議論ではまず国民全体のための刑事司法制度を作ること,これを目指すべきと考えております。人が人を裁く以上,誤りが完全にゼロになるということはないのではないかとも考えられますが,どのような制度であれば被疑者側も被害者側も国民も納得できるのかという観点を含めて議論をしていくということが有用と思います。   この点,価値観がぶつかり合ってしまうような可能性もありますけれども,全ての関係者の人権の擁護と秩序維持の要請,これがバランスよく満たされる必要があると思います。と申しますのも企業は,個人ではなかなかそういうことはないのかと思いますが,被疑者にも被害者にもなることがございます。これまで企業の法務部長としまして企業に関わる刑事事件を見聞する機会も少なくありませんでしたが,その際には取調べ及び供述調書に過度に依存した刑事実務の実態というようなものも仄聞をしてまいりました。   企業に関する犯罪は関係者の供述がなければ解明・立証できない事案が多いということでは確かでありますが,これまでのような取調べの在り方,またあるべき取調べについてはこの機会に議論・検討することが必要であると考えます。   一方,刑事司法の使命・目的の一つは治安,秩序を維持するということにあります。犯罪に対しては厳しく対処すべきであり,これがなされないと企業の円滑な活動が妨げられてしまうことになります。このためにはやはり真実を解明し,証拠を集める有効な手法が必要であると思います。経済界に関わるそのような手法としましては不当な取引制限を防止するために独占禁止法において,諸外国の制度も参考にして,リニエンシー制度が近時導入されまして活用されております。   このように密室における取調べによらなくても供述等の誘引を与えて証拠を獲得できるようにする仕組みも検討されてよいだろうと思いますし,そのほかにも外国の制度をそのまま取り入れようということではありませんが,諸外国の制度を参考にして様々な手法や仕組みを幅広く検討すべきであろうと考えます。   その上で新たな刑事司法制度が全体としてどのように機能するかも検討しつつ,全体としてバランスの取れた適切な手段や仕組みのパッケージとしての刑事司法制度というものを見出していくべきと考えます。   その際,刑事司法全般といったような形で議論するのではなく,例えば殺人罪と経済犯罪といったような犯罪類型を区別して議論をしていかないと議論が混乱する可能性がある場合があるのではないかと感じております。私自身は企業に関わる犯罪については比較的身近に見聞きするチャンスがございましたけれども,殺人とか暴力団が関わるものだとか犯罪の種類は様々でありますし,それに関わる被疑者や被害者の受け止め方,これも様々であると思われます。したがいまして,少なくとも部会での議論のいずれかの段階からは犯罪の類型によって区別することが必要となるということがあろうと思いますし,その前提として犯罪類型によって現在の捜査の進め方や公判における立証の仕方がどのように異なるのかという点についても把握しておく必要があるように思われます。   このような観点からもこの部会として警察,検察などの現場の視察といったようなものも十分に行っていただきたいと考えております。また,諸外国において用いられております仕組みや手法についても,そのような仕組みや手法を成り立たせている社会情勢とか,他の諸制度との関わりなど,こういったような背景等も含めて詳細に御紹介を頂ければと思います。   冒頭述べましたとおり,今回の部会ではまず国民全体のための刑事司法制度を作ることを目指すべきであり,そのためにはそういったことはないと思いますが,法曹三者が各々の立場に拘泥して,例えば検察側に有利かとか弁護側に有利かとかそういったような観点からではなく,企業を含む一般市民が犯罪から守られて安心に暮らせる社会をどのようにして作り上げていくのか,こういう観点から議論をするべきであると思いますし,それが私も含めました今回の部会メンバー全員に課せられている共通の責任であろうと考えております。 ○宮﨑委員 宮﨑です。私は日弁連の推薦を受けて検察の在り方検討会議に参加しておりましたが,そのヒアリングでお隣に座っておられる村木さんが,取調室の検事と被疑者はプロボクサーとアマチュアボクサーがレフリーもセコンドもいない一方的なリングで闘うようなものとか,あるいは証拠偽造に驚いたけれどもそれは例外的なこと,もっと怖かったのは多くの関係者の事実に反する,しかし検事の筋書きどおりの調書が多数作成されていたことだなどと述べられたことが印象的でありました。   一方的なリング,言い換えれば弁護士の助言もなく密室,長時間の追及的な取調べで作成された検事調書がむしろ信用され,自白しない被疑者の保釈をなかなか認めない運用などを指しています。   特別部会設置を決めた6月6日の法制審総会の席上でも刑事訴訟法は明文で供述調書の採用に歯止めを掛けているのにもかかわらず,解釈でそれを緩めているという指摘があったそうです。今回の特別部会はこのようなえん罪を生みやすい実務を根本から見直し,人権を保障しながら真実を発見する刑事司法本来の機能を回復させるために何をなすべきかが問われています。   ところでえん罪を防止するため一部録画ではなく取調べ全過程の録音・録画を主張すると必ず自白が取れなくなる,治安の関係で新しい捜査手法が必要だ,こう言われます。しかし,10年前の司法制度改革審議会以降,新しい捜査手法というキーワード,これは専ら可視化を遅らせるためだけの便利なキーワードとして使われただけで,具体的な中身の提案は一切ありませんでした。在り方検討会議でも取調べや供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方を抜本的に見直す,こういう総論は一致しましたが,各論では追及的取調べに代わる強力な捜査手段導入を考える立場や反対に制度としての取調べ全過程の録画を最優先として,弁護人立会権や保釈制度改革など,過度の追及的取調べを制約する逆のアプローチまで様々でした。したがってこの特別部会で今度は今までの10年とは逆に十分検討されていない,あるいは何年掛かるか分からない提案,あるいは方向性の異なる制度案が多数示され,それらを並列的に一から議論する。しかも,それらをバランスよく導入するという神学的な要素まで含めますと,結果的に可視化導入が更に遅れるだけという結果にならないか不安を覚えています。   そもそも私の理解では,可視化立法と新しい捜査手法をワンパッケージで導入した国はありません。いや,外国はもともと代わりの捜査手段があるのだという御意見をお聞きしますけれども,検察の在り方検討会議で治安状況や法律制度がよく似ている韓国を視察したところ,韓国では裁判所が人権擁護の立場から検事調書の証拠採用に非常に厳しい立場を採っていること,録音・録画だけでなく弁護人立会権までも裁判所の判決を通じて実現していること,しかしながら代わりの捜査手法は導入されていないこと,判決後10年近くを経た最近,ようやく新しい捜査手法が国会に提案されようとしていることなどが分かりました。しかし,国会通過は楽観できない,こうおっしゃっていた立法担当者の御説明から新しい捜査手段の導入に当たっては丁寧な国民的議論を長期間繰り返していることを改めて知った次第です。   そういうことを踏まえて,この本部会の進め方ですが,取調べ全過程の録音・録画は多くの国で既に制度化されています。弁護人立会権は更に多くの国や州で導入されています。これらの蓄積と我が国における議論の成熟度,緊急度を考えますと本部会では制度としての全過程の録画が真っ先に議論されなければならないと思います。   可視化の議論だけを進める,こういう意見には治安の観点から無責任だとか,バランスを崩す議論だ,こういう御批判を聞くことがあります。しかし,韓国では弁護人立会権まで含めて可視化を先行実施しています。これだけ問題になる密室の取調べを放置したまま,捜査手法などの議論を今から一から開始する。それまで制度としての可視化を導入しない,こういうこと自体無責任だと考えています。議論はまず弁護人立会権を含む取調べの可視化についての法務省,国家公安委員長,日弁連など各種研究会が今まで積み重ねてきた議論,また6月中と聞いていました法務省内ワーキンググループでの取りまとめを御報告いただき,その議論を通じて委員間の認識をできるだけ共通にし,その上で順次可視化を導入する事件の範囲,参考人の録画問題など各論の議論に進み法案化を図るべきだと考えます。そのためえん罪被害者のヒアリングや諸外国制度の調査が有益だと思います。   また,一定の成果を上げている証拠開示制度の更なる拡充や保釈など,人質手法の改革も議論されるべきです。なお新しい捜査手法や実体法の改正については意見は頂いておりますが,現時点で検討すべき具体的なイメージはないので申し上げるべき意見はありません。 ○村木委員 村木でございます。審議の進め方についてでございますが,諮問事項に二つの事柄が具体的に書かれておりました。一つ目は取調べや供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直しということでございます。私自身の経験を通じて供述調査は大変に事実と違うものが大量に作られてしまうということを実感いたしましたので,是非この見直しをしっかりしたいと思っております。   それで,これに関連しては二つ私は希望がございます。まず一つは,どういったことが議論の対象になるのかということを早い段階で1回お示しを頂けないかということでございます。この諮問事項は私ども素人にとっては非常に抽象的で,過度に依存をしないとかこういうふうに言われてもどういったものを想像したらいいかというのがなかなかイメージが浮かびません。例えば取調べや調書の役割がどこまで変わることを想定すればいいのかとか,あるいは何度か皆さんからもお話が出ていますが,新しい捜査手法の導入ということがよく言われますが,そういうものを導入する必然性というのは何なのか,どういったものが候補になるのか,それらはどういうふうに有用なのかというようなことについて一般の人間にも分かるように議論の早い段階でこんなことが議論の対象になり得るということをお示しを頂けないかということが一つでございます。   それからもう一つのお願いですが,新しい手法の導入以前に今の制度の下でも客観証拠がたくさん得られているわけで,これが重視をされていないということは非常に問題ではないかと思っております。そこがまず基本にあるのではないかと思いますので,証拠の全面開示や適正な管理といった問題も制度改善がここできちんと議論をされるようにしていただきたいということでございます。   それから諮問事項の二つ目でございます。取調べの録音・録画についてでございます。供述調書に頼りすぎる捜査や公判の在り方が見直しをされれば調書の役割は非常に低減をするわけでございますから,まずそれを期待するものではございますが,そういった状況になるまでの間,あるいは新しい制度の下でも例外的にとか,あるいは一定のルールの下で調書が使われるということになるのであれば,それは適正なものであるということの挙証責任というのは,これは全面的に検察がきちんと負っていただく,そのことが確保される制度を是非作っていただきたい,そういう議論をしていただきたいと思っております。   これに関しても二つ具体的なお願いがございます。被疑者の取調べだけでなく参考人らの任意の取調べのようなものについてもきちんと議論の対象にしていただきたいということが一つでございます。   それから,もう一つは具体的で建設的な議論をしていただきたいということでございます。録音・録画は既に試行もされていることでございます。それについて具体的にどういうマイナスがあるか,何が困るかということを検察や警察の方,あるいは犯罪被害者の方からしっかり聴き,そういうマイナス面を小さくできる方法があるのかないのかといった建設的な議論を是非していただきたいと思います。   特にその意味では録音・録画されたものがどう使われるのかという議論をきちんと早めにしていただかないと,何となく取調べの状況が全て広く社会に出ていってしまうかのような言い方がされてしまう,あるいはそういう印象を受けるような話が流布をされるというのは非常に実は違和感を感じております。いずれにしても可視化が是か非かという,余り平行線の議論にならないように具体的な議論に入って,その上で最後に結論を出すとしていただければと思っております。   あと,全体の進め方について二つお願いを申し上げます。一つは司法制度を担っている方のお話,警察・検察,それから弁護士さん,裁判官の方の率直な御意見を聴く機会を作っていただければ大変有り難いと思っております。   それから最後でございますが,やはりそれぞれの立場に過度に拘泥をせずに建設的な議論ができればと思います。捜査で真実が明らかになる,それからえん罪を防ぐ,それから公正な裁判を受けられるという点ではみんな意見が一致できるところだと思っております。それぞれの立場や最初の作り上げたストーリーに拘泥し過ぎることなく柔軟な議論ができて,それからそれを素人にも分かるような形で外にお示しをしていければと思っておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ○安岡委員 安岡です。お手元に発言要旨の資料をお配りしてあります。それを説明するような形で意見を述べたいと思います。   まず,審議する事項ですが,諮問書を見ますと時代に即した新しい刑事司法制度を構築するというのが大目的としてあって,その中で具体的に取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査公判の在り方の見直し,更に被疑者の取調状況の録音・録画うんぬん,つまり可視化制度の導入とあります。審議するべきは当然,この最初に掲げてある,抽象的ではありますけれども時代に即した新しい刑事司法制度を構築することにあると思います。その後に掲げてある具体的諮問事項の供述調書に過度に依存した捜査・公判の見直しは,新しい刑事司法制度の必要条件の一つを上げたのであろうと理解しています。そして,更に可視化については供述調書に過度に依存しない捜査・公判にするための必要条件の一つと考えています。   そこで,時代に即した新しい刑事司法制度とはどういうものかを愚考したわけであります。司法制度改革審議会の意見書は21世紀の司法制度の在り方を大掛かりにいろいろ考え,まとめたものです。その中で刑事司法制度の在り方についても資料に書いてあるように基本は司法が国民的基盤を確立することで,刑事司法制度も国民が理解でき支持できるものにし,透明性があり予測可能性があるものにしならなければいけないと提言しています。   もう21世紀に入って10年過ぎておりますけれども,先ほど最高裁の刑事局長の植村委員からお話がありましたが,この21世紀の刑事司法制度の根幹の一つとして作られました裁判員制度も最近に至って書証依存の傾向がまた見えてきているというお話がありました。これは最高裁の竹﨑長官も5月の憲法記念日の前の記者会見でわざわざ指摘されております。ということを考えますと,幾つもの大きな制度改革がこの司法制度改革審議会の意見書に基づいて実現して,今施行されているわけですけれども中途半端な形で改革が進んでいる。つまり積み残し案件がこの意見書の中でも幾つもあるわけですけれども,引き続き検討が求められるというものがあるわけですけれども,そこを早急に検討して実現していかないとせっかく設けた裁判員制度までが形骸化してしまうのではないかということで,この時代に即した新しい刑事司法制度構築はおそらく司法制度改革審議会の意見書で積み残しになっている案件について具体化を図るということになるのではないかと考えます。   次に,審議の進め方として極めて具体的に①から⑨までの手順を書いてあります。これは何が言いたいかというと,一般国民が公正・透明と了解できる刑事司法制度にしなければならないわけですが,その一般国民が公正・透明と了解できるというのはどういうものなのかをこの審議の場で洗い出して,それを法改正,新しい制度創設につなげていかなければならないだろうということで,ちょっと面倒くさいでしょうが,①から⑨まで読んでいただきたい。言いたいことは特異な委員の構成を採っています当部会の,専門家ではない一般国民の代表という形で何人もの委員の方が入っているわけですけれども,その委員の方たちの問題提起をまず聴いていただいて,それに対して専門家の方たちからそれを補強する意見を出していただきたい。そんなこと言ったって素人の言うことは駄目だね,この法体系の中ではそういうことは無理ですよというような否定的な意見は後段の条文化が近づいた段階で出していただくとして,まず非専門家の委員の問題提起を聴いていただいて,それを基に検討する事項を具体化していく,そういう手順を踏んでいただきたいということを書いてあります。   先ほど何人かの委員の方がそれぞれの立場に拘泥せずと,おっしゃられましたが,拘泥するなと言っても無理だと思うので,非常に失礼なあれですが,実務機関現役の委員の方たちにはこの審議が半ばを過ぎるぐらいまでちょっと黙っていていただきたい,こういうことも書いてあります。それはなぜかというと,今申し上げたようなわけです。まず一般国民が公正・透明と了解できる刑事司法制度にしていかなければならないとの観点から資料に書いた議論の組立てを考えてみました。 ○山口委員 山口でございます。最後になりましたが私の意見を申し上げさせていただきたいと思います。   私たちのこの部会は時代に即した新たな刑事司法を構築することをそのミッションとしております。我が国の刑事司法は御案内のとおり裁判員制度の導入によって新たな時代を迎えたわけでございますが,刑事司法の在り方についてここで検討を加え,より良いものに作り上げていこうとする極めて重要な任務を本部会は負っているものと理解しております。   そもそも刑事司法は国民の権利・利益を害する犯罪行為を認定し,それを処罰することによって国民に奉仕すべきものであります。それを国民により信頼され支持されるような形で適切に実現していくということが極めて大切なことでありまして,この機会にそのための具体的方策についてしっかりと考える必要があると思っております。   本部会の課題はかなり広範にわたっているというように思われます。諮問自体には既に検討を要する事項として取調べ,供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直しと,それから取調べ状況の録音・録画が例示されております。これ自体,既に幾つかの考えなければいけない問題を複合的に含んでいるように思われます。   既に指摘されていることではありますが,例えば取調べに過度に依存しないという観点からは本日も多くの委員から指摘されましたように取調べ以外の証拠収集方法をどのように考えるのかということも問題になります。調書に過度に依存しないということになりますと,いわば公判中心主義という観点からは,実体法の立場から申しましても,たとえば偽証罪の在り方なども問題となり得るところかというように思われます。   更に実体法について申しますと,先ほどもお話がございましたが,犯人の意思などの主観的要件を犯罪の要件から外していく考え方,いわゆる刑法の客観化や推定規定の新設などの問題までも指摘されているところでございます。   取調べ状況の録音・録画につきましては,それが取調べ状況を事後的に検証し,あるいは適切でない取調べを抑止する効果があると考えられる反面,いわゆる全面的可視化についてはマイナス面もあるのではないかという無視できない指摘もなされており,両者の兼ね合いについて具体的に検討することが必要となるように思われます。   これらの問題,特に実体法に関わる問題や,あるいは実体法の観点からする意見につきましては今後必要に応じてこの部会で述べさせていただきたいと考えておりますが,こうした様々な諸問題について考えていくためにはまず具体的な問題点,本日も各委員からお出しいただいているわけですが,それを相互に出し合っていくことが必要かつ有用なことであろうかと思われます。そのためには,これも既に御指摘されているところでございますがヒアリング等も有用であるというように考えております。そして,こういう形で出し合った問題点を整理しながら具体的に議論を進めていくのが良いのではないかと考えます。   新たな制度を導入しようとする,それを検討しようというからには何らかの大胆さが求められることはもちろんでございますが,その反面,それが一体どのような波及効果をもたらすものであるのかということを他の制度との関連性を含めながらしっかり検討することが必要だと思われます。本部会には多数の優れた委員の方々が参画しておられますので,そういった方々の衆知を集めて充実した生産的な審議がなされるよう希望したいと思っております。 ○本田部会長 ありがとうございました。なお,今日,佐藤委員は御欠席でございますけれども,事前に佐藤委員の御意見を頂いております。それを事務局から御説明をお願いします。 ○坂口幹事 朗読させていただきます。   本「会議」において検討すべき事項及び議論の進め方について。佐藤英彦。   我々が意見を求められているのは「近年の刑事手続をめぐる諸事情に鑑み,時代に即した新たな刑事司法制度を構築するため」「刑事の実体法及び手続法の整備の在り方について」であること。   そもそも,刑事手続ないし刑事司法制度は,法律で「罪と罰」が定められていることに伴うものであること。   以上二つの原点に鑑みれば,本会議では,次のように審議を進めるのが適当と考える。   1 まずは,我が国の刑事実体法,裁判手続,捜査手続の内容・特性及び問題点を明らかにし,これらについての知識・認識を共有する。   この場合には,主要な外国における刑事実体法や裁判・捜査手続の在り方と対比しながら進めるのが,我が国の特性を理解する上でも分かりやすく,また,参考になるものと思われる。我が国はもとより,各国の刑事司法制度にはすべからく個性があり,それぞれの制度は,犯罪を的確に処罰でき国民生活の安全・安心を確保するのに有効なものとその国民に受け入れられて今日に至っていると考えるからである。   2 今般の諮問が行われたのは,先の「検察の在り方検討会議」の「捜査・公判構造の在り方を含む刑事手続その他刑事司法制度全体に関する問題については,直ちに検討の場を設けて検討を開始するように重ねて要望する」(「提言」34ページ・「おわりに」)との提言に由来するものと承知する。   もとより,本会議は,同検討会議とは異なる目的により設けられたものであり,その議論や提言に拘束されるべきものではないであろうが,同検討会議と同様の議論を繰り返すことを回避する意味で,同検討会議における議論の経過については必要に応じて事務当局から説明してもらうなどして,効率的かつ円滑に検討を進めるべきであろう。   以上でございます。 ○本田部会長 ありがとうございました。これで一応各委員の方々から伺ったわけでございます。今後,当部会におきまして調査審議すべき事項等につきまして関係者からのヒアリング,いろいろな方のヒアリングとか,また課題,進め方等々につきまして多岐にわたる御意見,御提言を頂いたと思います。したがいまして,今後の当部会におきまして調査審議すべき事項や具体的な議論の順序・方法等につきましては本日の委員の皆様の御意見等を踏まえまして,次回以降の会議におきまして更に議論をさせていただきたいと思います。   また,法務省におきましては現在,取調べの可視化に関する省内勉強会の成果をできるだけ早く取りまとめる予定であると伺っております。そこで仮に次回会議までにその取りまとめが行われていました場合には,次回の会議におきまして事務当局からその説明を頂く必要があろうと考えます。次回の会議までには若干日時が空きますけれども,次回の議事の予定につきましては法務省の省内勉強会におけます取りまとめの状況なども見ながら,私の方で考えさせていただきまして,事前に事務当局を通しまして委員の皆様,幹事の皆様にお知らせさせていただきたいと思います。   本日,予定いたしました事項は終了いたしましたので,これにて本日の議事を終了したいと思います。なお,本日の会議につきまして特に公表に適さないという内容はなかったと思います。そういうことで発言者名を明らかにした議事録を作成させていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。  (異議なし) ○本田部会長 それでは,そういうことにさせていただきたいと思います。   次回の日程でございますが,9月20日(火曜日)午後1時30分を予定いたしております。会場は東京高等検察庁第2会議室ということになります。   本日は私も帰ってから一生懸命に勉強しなければいけないぐらいたくさん教えていただきまして,皆様もお疲れだと思います。長時間ありがとうございました。これをもちまして今日の部会を終わりたいと思います。 -了-