法制審議会会社法制部会 第11回会議 議事録 第1 日 時  平成23年7月27日(水) 自 午後1時31分                       至 午後5時58分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  会社法制の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり) 議    事 ○岩原部会長 それでは,予定した時刻がまいりましたので,法制審議会会社法制部会第11回会議を開会いたします。本日は,お忙しい中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   この度の東日本大震災の影響により,3月23日から7月上旬まで予定しておりました会議の開催を見合わせることになりまして,5か月ぶりの開催となります。この場をお借りいたしまして,被災された方々に心からお見舞いを申し上げます。      (委員,幹事及び関係官の異動の紹介につき省略)   それでは,事務当局から配布資料の説明をしてもらいたいと思います。よろしくお願いします。 ○坂本幹事 それでは,御説明いたします。まず,事前配布資料といたしまして,配布資料目録と部会資料11を事前にお送りしております。部会資料11の内容につきましては,後ほど御説明させていただきます。また,このほか,本日,机上に,「会社法制部会の日程(予定)」を追加して配布させていただいております。こちらにつきましても,後ほど御説明させていただきます。配布資料については,以上でございます。   なお,当省におきましては,東京大学の加藤貴仁准教授に,企業結合法制に関する諸外国の状況の調査研究をお願いいたしました。第6回会議においては,加藤准教授に参考人としてお越しいただき,その調査結果の概要につきまして御報告を頂いたところでございます。そして,過日,当省のホームページにおきまして,その調査研究の成果として,「企業結合法制に関する調査研究報告書」という題名の報告書を掲載いたしておりますので(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00042.html),報告させていただきます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,本日の審議に入ります前に,今後のスケジュールについて,事務当局から説明がございます。よろしくお願いします。 ○坂本幹事 東日本大震災の影響によりまして,3月23日から7月上旬まで予定されておりました会議の開催を中止したことにつき,皆様の御理解を賜りまして,誠にありがとうございます。   当面の今後の日程につきましては,本日席上にお配りいたしました「会社法制部会の日程(予定)」を御覧いただきたいと思います。ここに記載されております日程は,いずれも,既に御案内させていただいた日程と同じでございます。   この日程に従いまして,今後の審議の予定について,若干補足して御説明させていただきます。まず,本日と8月31日に予定されております会議で,親子会社に関する規律に関する論点とその他の論点について御審議をお願いする予定でございます。この2回で御審議いただく論点は,多数にわたると思われますので,その一部は,9月の会議に持ち越しということにさせていただく可能性もございますけれども,基本的には,9月の会議から,中間試案の取りまとめのための御審議をお願いできればと考えております。そして,中間試案の取りまとめの時期につきましては,従前,当部会におきましては,本年夏前ごろの見込みということで申し上げておりましたが,審議を中断させていただいた期間分,そのまま後ろにスライドということにさせていただければと存じます。具体的には,もちろん当部会における御審議の状況いかんということになろうかと思いますけれども,12月に開催する予定の会議を目途に中間試案の取りまとめをお願いできればと考えてございます。中間試案をお取りまとめいただいた後には,パブリック・コメントの手続に付すこととさせていただきたいと思っておりますけれども,その期間あるいはその後のスケジュールにつきましては,また当部会で御相談させていただければと存じます。   以上でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○岩原部会長 ありがとうございました。ただ今の事務当局の説明のとおりでよろしゅうございましょうか。   御異論ないようでございますので,そのように進めさせていただきたいと存じます。   それでは,本日の御議論をお願いしたいと思います。まず,部会資料11の第1,「1 多重代表訴訟」につきまして,事務当局から説明をしていただきます。お願いします。 ○塚本関係官 それでは,御説明いたします。まず,部会資料11の全体像についてですが,部会資料11は,親子会社に関する規律に関する論点の検討の(1)として,「第1」では,親会社株主の保護に関する論点を採り上げ,「第2」では,子会社少数株主・債権者の保護に関する論点を採り上げております。なお,今回は,いずれの論点も,導入の当否について議論があるところですが,具体的な案を前提に御検討いただくことが議論をより深めるものと考えて,具体案を挙げております。   それでは,「第1 親会社株主の保護に関する論点」の「1 多重代表訴訟」についての御説明に移らせていただきます。本文の前段は,親会社株主が子会社取締役に対して多重代表訴訟を提起することを認める制度を創設することについて問うものでございます。当部会においては,多重代表訴訟の制度を創設することとすると,企業の組織選択に影響を及ぼし,企業集団における効率的経営に支障を来すとの指摘がされている一方で,多重代表訴訟が認められていない現行法の下では,株主代表訴訟を通じた子会社取締役の任務懈怠の抑止が十分に働かない場合が生じ得るとの指摘等がされております。多重代表訴訟の制度を創設することの当否については,これらの指摘も踏まえ,検討する必要があると思われます。   本文の後段は,仮に多重代表訴訟の制度を創設することとする場合,多重代表訴訟が認められる子会社の範囲について,どのように考えるかを問うものでございます。まず,A案は,子会社に少数株主が存在する場合には,当該少数株主に,子会社取締役に対する責任の追及を委ねることができるとの指摘を踏まえ,多重代表訴訟が認められる子会社の範囲について,完全子会社に限るものとする考え方でございます。他方で,B案は,完全子会社に限るという点では,A案と同じですが,子会社取締役であっても,実質的には親会社の事業部門の長である従業員にとどまる場合にまで親会社株主による責任の追及の対象とすることは,役員間の提訴懈怠の可能性に着目した現行の株主代表訴訟の制度に整合しないとの指摘を踏まえ,多重代表訴訟が認められる子会社の範囲について,企業集団において一定の重要性を有している子会社で,かつ,完全子会社に限るものとする考え方でございます。B案のように考える場合には,重要性の基準の在り方が問題となりますが,例えば,いわゆる簡易事業譲渡や簡易組織再編の規律を参考にして,当該子会社の株式の帳簿価額が親会社の総資産額の5分の1を超える子会社とすることなどが考えられます。   なお,多重代表訴訟が認められる子会社の範囲に関するこれらの議論のうち,完全子会社に限るか否かという点は,多重代表訴訟の原告適格が認められる者を完全親会社の株主に限るか否かという問題として整理することができ,また,企業集団において一定の重要性を有している子会社に限るか否かという点は,多重代表訴訟の被告適格の問題として整理することができると考えられます。   (注)は,本文の後段の点のほか,仮に多重代表訴訟の制度を創設することとする場合の具体的な制度設計について問うものでございます。多重代表訴訟の制度の具体的な制度設計については,親会社が多層構造により間接的に子会社を支配している場合の規律の在り方も考慮する必要があり,部会資料11の3ページに例として挙げているような具体的な支配の対応を念頭に置きつつ検討する必要があると思われます。   まず,注の①は,多重代表訴訟の提訴権が認められる親会社株主の範囲について問うものでございます。この点については,株式の保有期間の要件に関する検討が必要であると考えられます。現行の株主代表訴訟の制度においては,会社法上の公開会社の場合には,株式継続保有要件を充足すること,すなわち,原告適格として,株主が6か月前から引き続き株式を有することが必要とされております。そして,株式継続保有要件の趣旨が濫訴防止にあることを踏まえ,多重代表訴訟においては,親会社が会社法上の公開会社である場合には,親会社株主が6か月前から引き続き親会社の株式を有することを要件とすることが考えられます。これに加えて,親会社が6か月前から引き続き子会社株式の全部を有することを要件とするかどうかについては,濫訴防止という株式継続保有要件の趣旨との関係で,親会社による子会社株式の継続保有を要件とすることが合理的か,親会社が多層構造により間接的に子会社を支配している場合の規律の在り方も考慮しつつ,検討する必要があると思われます。   また,親会社株主と子会社は,親会社を通じた間接的な関係を有するにとどまることから,どのような親会社株主であれば,適切に子会社を代表して多重代表訴訟を追行することを期待することができるかについて検討する必要があると思われます。例えば,一定数以上の親会社株式を有する親会社株主にのみ多重代表訴訟の提起権を認めることなどについて,検討の余地があると思われますが,この点を検討するに当たっては,現行の株主代表訴訟の制度との整合性について,考慮する必要があると思われます。   (注)の②は,親会社に損害が生じていない場合の取扱いについて問うものでございます。子会社に損害が生じた場合であっても親会社に損害が生じていないときには,親会社株主は,子会社取締役に対する責任追及について利害関係を有しておらず,これに関与させることは適切ではないとも思われます。そこで,親会社に損害が生じていない場合には,多重代表訴訟を提起することを認めないこととすべきか,検討する必要があると思われます。   (注)の③は,多重代表訴訟における提訴請求の在り方について問うものでございます。まず,現行の株主代表訴訟における提訴請求の趣旨が,権利主体である会社に対して訴訟を提起するか否かの判断の機会を与えることにあることを踏まえ,多重代表訴訟においては,親会社株主は,その提訴に先立ち,権利主体である子会社に対して提訴請求をするものとすることが考えられます。また,子会社取締役に対する責任追及の在り方は,企業集団における子会社管理の在り方に関わるものであることから,多重代表訴訟の提起に先立ち,子会社に対する提訴請求がされたことを親会社に知らせるための仕組みを設けることについても,検討の余地がございます。   なお,これらに加え,親会社が多層構造により間接的に子会社を支配している場合に,中間に存在する別の子会社にまで提訴請求をすることは,要件とすべきではないと考えられます。   (注)の④は,多重代表訴訟の被告の範囲について問うものでございます。この点について,会社法第847条第1項を参考に,子会社取締役のほか,子会社の発起人,設立時取締役,設立時監査役,会計参与,監査役,執行役,会計監査人及び清算人を多重代表訴訟の被告とすることが考えられますが,多重代表訴訟の制度の趣旨を踏まえ,これらの子会社の役員等のうち多重代表訴訟の被告とすべき者の範囲について,検討する必要があると思われます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,まず,本文の多重代表訴訟の制度の創設の当否及び仮にこれを創設する場合に多重代表訴訟が認められる子会社の範囲について,御議論をお願いしたいと存じます。部会資料11では,子会社の範囲について,A案とB案の二つの案が提示されております。このような案の当否やほかに考えられる具体的な案を御議論いただくことはもちろん,ただ今事務当局から説明がありましたように,このような案を踏まえながら,多重代表訴訟の創設の当否についても,御議論を頂ければと存じます。それでは,よろしくお願いします。 ○杉村委員 それでは,経済界の意見を申し上げたいと思います。まず,御説明を頂きました部会資料11では,多重代表訴訟の制度が創設された場合の具体論についてかなり検討されているわけでございますが,制度を創設するか否かという結論は出ていないということを確認させていただきたいと存じます。経済界といたしましては,このような制度の創設には,断固として反対でございます。この点は,第一読会のときから,八丁地前委員も強く主張していた点でございます。先ほど今後のスケジュールの中で御説明がありました中間試案のパブリック・コメントの際には,多重代表訴訟の導入に強く反対する意見があることを明記いただきたいと思います。それから,部会資料11には,導入する場合の選択肢としてA案,B案とあるわけでございますが,パブリック・コメントの際には,導入の是非につきましても,選択肢としていただき,広く各方面の意見を聴いていただきたいと思います。   それでは,反対の立場から,以下4点ばかり申し上げたいと思います。   まず1点目ですが,現行の会社法は,たとえ親会社,子会社といえども,それぞれ別個の法人格,法的には独立の存在であるということを前提としており,多重代表訴訟は,この前提を覆すものであります。また,現行法の下でも,親会社株主の権利保護は十分に図られていると考えております。すなわち,親会社としましては,株主総会の議決権行使を通じて,子会社を適切に管理監督しておりますし,仮に子会社取締役の善管注意義務違反などで損害が生じた場合は,親会社の立場としまして,親会社取締役にはその責任を適切に追及することが求められているわけでございます。もしそれがなされないとなれば,親会社株主は,親会社取締役の責任を追及すべきものであり,必ずしも多重代表訴訟で責任を追及する必要はないと思います。さらに,親会社には,グループを含めた内部統制システムの構築義務が課されております。このようなグループ全体の内部統制システムの構築の努力を行っているにもかかわらず,多重代表訴訟という新しい制度を導入するということは,このような内部統制の努力を今一つ評価していただいていないのか,このような努力は軽視されているのかということも,考えざるを得ないわけであります。もし内部統制システムの構築の努力が果たされていないというのであれば,親会社取締役の責任を追及していただくということで,十分に対応は可能なのではないと思います。   2点目といたしまして,企業の実務の観点から申しますと,部会資料11にも記載がございますとおり,子会社取締役というのは,親会社で言えば,事業部の部長クラスに相当するというケースが多いと考えられます。多重代表訴訟の制度を認めれば,実質的には使用人の立場の者が代表訴訟の対象になってしまうということで,その者が本来負っております義務や責任に比べまして,過大な責任追及の方法を認めることになりかねません。また,実態におきましても,親会社は,子会社取締役の責任を適切に追及しているわけです。すなわち,子会社に何か多額の損害が生じることになりますと,子会社取締役に対しまして,更迭したり,報酬をカットしたり,退職慰労金を放棄させたりといった格好で経営責任を問うておりますし,子会社取締役を解任して退任させた後,法的な責任を追及するというケースもあるわけでございます。多重代表訴訟を導入するということは,親会社が現在行っております,言わば内部の強力なメカニズムによりきっちり子会社を管理していくというインセンティブを失わせ,親会社株主が多重代表訴訟で手を下すまでは,親会社としては傍観し,関与しないということにもなりかねません。実務運用面におきましても,多重代表訴訟の制度が設けられますと,真面目な会社ほど,子会社取締役は積極的な事業運営を行うことをちゅうちょし,経営のダイナミズムが失われることが懸念されます。さらに,代表訴訟のリスクにさらされます取締役の人数も大幅に増えますので,例えばD&O保険という格好で,具体的なコストアップというのも見込まれるところであります。   3点目といたしまして,部会資料11のA案,B案についてです。まず,A案,B案いずれも,完全子会社を想定した例であると思いますが,完全子会社の場合は,子会社取締役の任務懈怠によって生じた損害は,その子会社の全株主が同意すれば免責できるという仕組みになっているわけでございます。したがいまして,親会社の立場としまして,子会社に対して責任追及しないという判断をするということは,子会社の責任を免除するというのと同じ意味だと思います。この場合,もしこの責任追及をしないという判断に問題があるとするならば,それは,親会社取締役の責任を問うべきだと考えます。さらに,B案では,重要な子会社に限定するということでございますけれども,日本企業におきましては,多くの場合,重要であればあるほど,親会社は,子会社をきっちり管理しておりますし,重要な子会社の取締役は,親会社の取締役を兼務しているという関係も多うございます。多重代表訴訟の制度によらなくても,親会社株主は親会社取締役の立場の者を責任追及するということでよろしいのではないかと思います。仮に兼任関係がないといたしましても,内部統制システムの責任分担におきまして,子会社の管理監督を担当する役員がおりますので,こちらを責任追及していただければ足りると考えております。   4点目といたしまして,多重代表訴訟の制度の創設には乗り越えるべき課題が非常に多いと考えております。部会資料11に記載がない大きな問題の一つといたしまして,例えば,外国子会社の問題があることを指摘したいと思います。このような制度を創設いたしますと,日本の親会社の米国株主が,その会社の米国子会社の取締役に対して,米国の裁判所において多重代表訴訟を提起することになる可能性を指摘する意見もございます。このような米国での訴訟に巻き込まれれば,日本企業としては,負担が非常に大きく,海外戦略にも影響が出かねないということが危惧されるわけでございます。たとえ,会社法におきまして,対象として外国会社は除くという条文の手当てをするといたしましても,企業の関係者からは,果たしてそういう条文の手当てで本当に大丈夫なのかという強い疑問が出されているわけでございまして,このリスクはなかなか許容できるものではないと思っております。   また,諸外国では多重代表訴訟が可能な国もあるということでございますが,そうした国の制度を見てみますと,通常の代表訴訟の制度におきまして,少数株主権化されていたり,あるいは訴訟委員会の制度が導入されていたりという格好で,濫訴の防止を図る仕組みがございます。これにより,企業側と株主側の適切なバランスが図られていると思います。日本には今申したような手当てがなく,この上,日本で多重代表訴訟を導入するという話になれば,諸外国と比較して,企業側に大変負担の重いものとなるのは明白であると思います。このような点も是非御考慮いただきたいと思います。 ○岩原部会長 ほかの御意見はございますでしょうか。 ○静委員 元に戻ってしまうようで申し訳ありませんが,審議スケジュールについて,一言だけ先に言わせていただきたいと思います。震災で議論が遅れてしまったのは仕方ないと思いますし,会社法は国の基本法の一つであるので議論に時間が掛かるのは理解していますが,中には,ライツ・イシューのように一日も早く進めなければいけないと思われる課題もあります。イギリスでは,ライツ・イシューの発行決議から資金調達までに掛かる期間を更に1週間短縮することに向けた改正が行われ,これまで1か月半で可能とされていたものが1か月ぐらいでできるようになり,日本との差が更に開いていっています。日本でも,金商法のほうは対応が進んでいることもありまして,会社法の対応だけが遅れているように見えているところも,特に海外からはあるようでございます。全体を早く進めるということも大事だと思いますが,ライツ・イシューのように方向性に異論がなく,ほかの論点との関わりも強くないという部分につきまして,前倒しで進めることができないかどうかということも併せて御検討いただければありがたいということを,一つ申し上げておきたいと思います。   内容の話に入らせていただきます。多重代表訴訟につきましては,問題が頻発しているということでもないかもしれませんし,代表訴訟を逃れるために何らかの形で組織の選択がゆがめられているということが数多くあるというわけでもないかもしれませんけれども,そういうことがあったときに対応策がなくては困ると思いますので,私は,この問題は前向きに検討を進めるべきではないかと思います。   部会資料11では,A案,B案が出されておりますけれども,どちらかというと,私は,B案に賛成ということを申し上げたいと思います。完全子会社,かつ重要な子会社というふうに限定されるのが,具体的な案を考えるときにはよろしいかと思います。理由は,まず,重要な子会社の役員ということであれば,単なる親会社の従業員というよりは,先ほど御指摘がありましたけれども,親会社と兼務しているとか,兼務していなくても,親会社に戻った場合に役員であってもおかしくないという人がなっているということが普通だと思います。完全子会社の役員ということで言えば,完全子会社ですから,配慮すべき株主は誰もいないというか,正確に言えば親会社がいるのでしょうけれども,せめて親会社の少数株主の利益ぐらい考慮しても,罰が当たらないだろうと言われれば,恐らくそうだろうと思うからでございます。したがいまして,完全子会社で重要な子会社に限定するという形で代表訴訟を認めるのであれば,余り大きな問題はないのではないかと私は思います。   最後に,重要な子会社というときの重要性の基準をどうするかという問題が,部会資料11で提起をされております。御提案では,子会社株式の簿価を使ってはどうかということでございますけれども,簿価というのは,子会社の価値を反映しないということが多いだろうと思います。ましてや,親会社にとっての重要性を表しているということも言いにくいと思います。事業規模で親会社にとって重要かどうかを図るのが現実的だと思いますので,親会社の単体の総資産と子会社の単体の総資産を比較するというほうが問題の趣旨にはかなっているのではないかと思います。実際に,新設分割につきましては,これに近いコンセプトで簡易な手続でいいかどうかを決めているようでございますので,既にある仕組みとのバランスもいいのではないかと思います。 ○中原幹事 新しい制度の創設などを私どもが権限ある当局にお願い申し上げるときには,それ相応の立法事実なり,その必要性といったようなことについて,議論を求められることが多いわけですけれども,今回の多重代表訴訟の検討に際しまして,まず,その点がどのようにクリアされたのだろうかというのは,必ずしも釈然としないところがございます。例えば,会社に損害を与えたとして第三者に対して損害賠償を請求するかどうかというのは,そもそも,業務執行者である代表取締役であるとか,委員会設置会社であれば代表執行役の経営判断であるという前提に立ちながら,しかし,会社に対して責任を負っている取締役,執行役等とそれ以外の取締役,執行役等とは親密な関係にあること等から,責任追及,訴訟提起の懈怠可能性が定型的に認められるだろうということで,特別の訴訟担当を組んだという制度の前提に鑑みますときに,子会社であるからといって,殊更に,別法人の取締役に対して定型的に訴訟提起の懈怠可能性が認められるというのは,少し論理が飛躍しているのではないか,もう少し丁寧な分析が必要なのではないかと思います。先ほども御指摘がありましたように,子会社の取締役というのは,当然,解任だっていつされるか分からないということもあるわけですし,場合によっては,株式だって売られてしまうかもしれない,報酬もカットされるかもしれないということになるわけでありまして,私ども,普段の業務の中で産業界の方とお話をする中で,子会社に出向することになった皆様,先輩方の壮絶なお気持ちに思いを致しますときは,これが事実の問題としても,訴訟提起の懈怠可能性が定型的に認められるというところまでいっているのだろうかという点については,もう少し慎重な議論が必要なのではないかと考えているところでございます。   それから,先ほど来出ておりますように,子会社の責任が遮断される,あるいは組織形態をゆがめるというのも,元々,例えば,従業員であれば代表訴訟にさらされているわけではないわけですから,株主代表訴訟の対象にならないことを理由として子会社形態が採用されるということはないだろうと思います。子会社形態を採用するのは,例えば,親会社の取締役との関係で,あなたの言ったとおりに業務を執行しますよという監督形態から,子会社取締役になることによって,マンデートをあなたに与えましょうと,しかし,失敗したら首だからなと,そういう意味での監督という形で尻をたたいていくと,言葉は悪いですけれども,そういうことなのではないかと考えられますことから,組織形態をゆがめているという指摘自体も必ずしも正確ではないのではないかと考えております。 ○前田委員 制度導入の当否につきましては,既に第一読会のときから議論がございましたように,もしこの制度がないといたしますと,完全子会社の取締役であれば,事実上,およそ代表訴訟で責任追及はされない,つまり定型的に提訴懈怠の可能性が認められるわけでございまして,子会社取締役に対する規律付けが甚だ不十分になってしまうということになりますので,制度は入れるべきではないかと思います。   ただ,どういう絞りを掛けるのかということが問題でございまして,A案かB案かということが難しい問題になってこようかと思います。重要な子会社に限るというB案は,実質的には事業部門の部長に相当する者を代表訴訟の対象にするのは適当でないという考え方に基づいているのだと思います。この,実質的には部長と同じだという要素は,子会社取締役の責任の発生のレベルでは考慮に値する要素だと思うのです。つまり,子会社取締役というのは,指揮命令に服することはございませんけれども,そうは言いましても,親会社の影響力の行使を受けて行為せざるを得ないわけですから,そう簡単に,子会社取締役に任務懈怠ありと言ってはいけない,というレベルの話なら分かるのです。しかし,今は,子会社取締役の責任が既に発生した後の話です。既に取締役としての責任が発生している場面で,提訴懈怠の可能性が定型的に認められるかどうかは,重要な子会社であろうがなかろうが変わりはないでしょうから,代表訴訟の対象とすることを否定する理由はないのではないかと思います。   あるいは,B案は,重要性の基準として,簡易組織再編等の基準を参考にしていますので,重要でない子会社の事業であれば,親会社株主から見て影響が小さいので,その監督是正の権利を与える必要がないという考慮も働いているのかもしれません。しかし,代表訴訟の制度というのは,単一の会社でありましても,原告株主自身が受ける影響の大きさとは無関係に,つまり賠償額の大きさにかかわらず認められている制度でありまして,やはり重要な子会社に限るという理屈は立てにくいのではないかと考えます。私は,A案がいいのではないかと思っております。   あと,杉村委員から,責任免除について言及がございましたので,一言だけ申し上げさせていただきます。せっかく多重代表訴訟の制度を入れるのであれば,親会社株主の関与なしに簡単に責任免除されてしまっては,制度を導入する意味が減殺されてしまいますので,責任免除規定も連動して手当てをしておくのがいいのではないかと思います。本来は,現行の851条を入れたときに手当てをしておいてもよかったようにも思うのですけれども,今回,もし,多重代表訴訟の制度を入れて,現在の851条を実質的に拡充するという改正をするのであれば,この機会に,責任免除との関係についても手当てをして,責任免除については,親会社株主全員の同意を要することにするのがいいのではないかと思います。 ○中原幹事 今のお話,確かに,当部会においてこれまで議論があったということ自体については,相応に配意をしなければいけないとは思っております。しかしながら,前田委員が今御指摘になった中で,100%子会社とかであれば,およそ株主代表訴訟の提起にさらされることはないと,それが問題だということですけれども,それは,この世に株式会社として生を受けた以上は,株主代表訴訟にさらされなければいけないのだというテーゼに立っておられるように思われ,少しおかしいのではないかと思います。当然,現行制度の下では,一人会社等が想定されているし,代表訴訟の提起を待つまでもなく問題が解決されることもあるわけですので,御指摘の前提自体に従って議論するのが適当なのかどうかということがあるかと思います。   それから,訴訟懈怠可能性についての御指摘がございましたが,代表訴訟を議論する際における訴訟懈怠可能性というのは,会社に対して責任を負っている取締役等に対して責任追及がなされるか,ということを問題にしているのでありまして,親会社の株主が子会社の取締役を訴えられるかといったように何らか訴訟が提起されることそれ自体を問題にしているわけではないと思いますので,訴訟の提起の懈怠可能性という言葉の使い方が,今の議論の中ではおかしいのではないかと思いまして,誤解していたら申し訳ありませんが,指摘をさせていただきます。 ○田中幹事 先ほど来,こういう規制をするのに必要な立法事実があるのかという御指摘がありまして,ごもっともかと思いますので,私の意見を申し上げたいと思います。確かに,100%子会社というものは,会社制度ができてからほとんど常に存在していたわけですから,100%子会社の役員を全部代表訴訟の対象にするということになりますと,なぜ,そんなドラスティックな規制を今になって入れるのかという問題が出てくると思います。しかし,これが,B案のように,重要な子会社に限って入れるということになると,それは,それなりの必要性があるのではないか。それは,株式移転制度などができて,今や上場会社のかなりの割合が持株会社になっているわけですから,当然,以前であればその会社が直接行ってきた事業を,子会社を通じて行っていて,株主としては,それまでは代表訴訟の対象に当然できていた事業がその手を離れてしまっていると,そういった部分が,こういった規制を今になって入れる理由になってくるのではないかと思います。   重要な子会社に限るというのは,提訴懈怠の可能性という点でも重要で,一般的には,100%子会社の役員であれば,それは,事業部門の長程度の者であって,その人の責任を追及するか,追及するとしてどう責任を追及するかというのは,経営陣の裁量に任せればいいのですけれども,重要な,少なくとも総資産の5分の1ぐらいを占めているような事業の役員ということになりますと,その経営上の影響力という点からしても,ホールディングスの役員と同じく,言わば経営陣という立場になっている可能性があるので,提訴懈怠可能性が定型的に認められると考えていいのではないかと思います。   それからもう一つ,子会社に損害が生じたときに,場合によっては,親会社役員の責任を追及すれば足りるのではないかという御指摘がありました。これは,確かに,特に会社法になって,企業集団についての内部統制システムを整備する義務というのも,一定の会社に認められていますから,そういった責任が追及される可能性はあるわけですけれども,事実の問題として,これまで,海外の重要な子会社を含む重要な子会社での法令違反とかそういう損害について,親会社である日本国の会社役員の責任が追及された著名な事例が幾つか起きているわけですが,いずれも株主側が敗訴しています。これは,特に親会社の役員が子会社の経営管理にどこまでの責任を持つべきかということは,非常に難しい問題で,余り厳しい義務を課しますと,今度は,子会社を作って子会社経営陣の裁量を広く認めることのメリットが損なわれますから,基本的には,裁判所は,親会社役員の責任を認めるのに非常に慎重になっているという事実があると思っております。   ですから,一方で,子会社の裁量を広く認めるという観点から,そう簡単に親会社の役員の厳しい管理義務は認められないとすれば,他方で,少なくとも特に重要な子会社については代表訴訟の対象にすることで,カウンターバランスを設けるということが,一つの調整案になり得るのではないかと思っております。   最後に,現在,真面目な上場会社は,内部統制システムを作って子会社が損害を起こさないように努めているというお話がありました。これは,そのとおりだろうと思います。本制度を創ることが,そういった試みに対してどういう影響を与えるかというのは,結局のところ裁判所が適切に制度を運営していけるかということに懸かっているわけです。つまり,裁判所が適切に役員の責任追及制度を運営しているのであれば,親会社は,内部統制システムをきちんと設けていれば,子会社の役員は,義務違反を犯すことはなく,仮に株主が代表訴訟をしても負けるということになろうと思います。したがって,親会社は,内部統制システムを適切に運営する動機があるだろうと思います。これに対して,裁判所の責任認定の精度が非常に悪いと,義務を尽くそうが尽くすまいが,何か損害が発生すると責任を課してしまうとか,非常に不正確に責任認定がされるということになりますと,何をしても無駄だということになりますから,企業集団の内部統制システムの努力を無にするということになると思います。ここは,人によって評価が分かれると思いますが,私自身は,個々の事件では賛否の余地はあるかもしれませんけれども,全体として日本の裁判所は,責任制度を相当適正に運営してきているのではないか。義務を尽くした役員が過剰に責任が認められるということは,現状ではそれほど起きていないのではないかと考えております。 ○太田委員 第一読会では,監査役協会長は,この問題について御発言が必ずしも十分でなかったかと思いますので,改めて監査役協会の目線から見た意見について,4点ほど申し上げたいと思います。   まず,状況認識に関してなんですが,これは,正に釈迦に説法なんですけれども,現行の会社法自体は,法人格の独立性ということに基盤を置いて,企業グループの内部統制システムの充実を図るということで,子会社役員の任務懈怠の防止を図っているというのは,もう御案内のとおりだと思います。したがいまして,もし万一任務懈怠が発生した場合どのようにするかということなんですが,やはり原点に戻り,自律的に規律された法人によって統制を図るということが本来ではないかということが,まず1点目考えるところです。   2点目。一方,監査の目線からこれをどう見るかということなんですが,私ども日本監査役協会では,今年の3月に,都合10回目になりますけれども,監査役監査基準の改定を3年ぶりに行いました。その中の力点を置いた1点の改正項目の中に,「企業集団における監査」という条項があります。第22条なんですが,ここに盛り込みました意識は,親会社取締役の子会社等に対する管理責任を強調して,取り分け,内部統制システムが会社又は子会社等において適切に構築・運用されているかということに一層留意を図ることと,企業集団における監査環境の整備に努めるベストプラクティスを要請すべきであると,こういう建て付けにしております。その背景にありますのは,企業集団における子会社の自律的な企業統治を前提としたサイクルを回していくということが,最も効率的ではないかというふうに考えたというところが2点目であります。   3点目ですが,こうした取組を行ってきている中で,仮にですが,子会社でありましても重要な―先ほど来のA案かB案かという議論に入る前なんですが―子会社であれば,通常は,重要性に鑑みて,常勤の監査役を必ず配置しています。したがいまして,親会社の監査役としましては,そういった子会社の監査役の監査活動を通じて得られた情報をベースに,企業グループの内部統制を中心とした監査を行って,企業集団全体の業務の適正性だとか厳然性の確保に努めるという物の考え方に立っているわけです。親会社監査役からの目線で見ますと,子会社監査役自身がきちんと仕事を子会社において回してもらうということが大前提の仕組みになっているということを,3点目に申し上げたい。   4点目,これが最後なんですが,現在の監査役協会の登録会員数は,約8,000名であります。大体の数字ですが,約4,000名がいわゆる親会社を持つ子会社の監査役です。つまり,この子会社の監査役がモラルを高く,何をインセンティブにしながら自分たちの監査活動を,365日やっているわけですが,きちんと回していけるのかという観点から考えますと,この人たちがモラルハザードに陥らないようにする仕組みが大事だということになろうかと思います。   以上4点申し上げましたが,岩原部会長御指摘のように,当否も含めてということでありますので,監査役協会の立場から見ますと,子会社における監査の充実が親会社の企業グループを含めた企業集団の監査の充実につながるのではないかという観点から申し上げますと,多重代表訴訟制度の導入―条件の議論はまた別なんですが―,この点については,反対と言いますか,慎重に考えるべきではないかと考えております。 ○中東幹事 私自身,いろいろ考え,悩んだのですが,結論的には,導入そのものに反対という立場で現在おります。杉村委員がおっしゃった理由について申し上げますと,1点目の別個の法人であることと,2点目の実質的には親の部長クラスであることと,この二つの理由は,法形式と実態とを都合良く使い分ける説明であって,そういうのはよろしくないと思っているのですが,加藤参考人がいらっしゃったときにも議論がありましたように,実質的な意思決定者を代表訴訟の対象にすることが重要であると思っております。その意味で,ある法人の中にいるのか外にいるのかということを分けて対象を特定することは,そもそも難しいというのが現状であると思います。裏返して言えば,親の部長であれば訴えられないわけですけれども,外に出してしまって子の役員になれば,実質は同じだけれども訴えられてしまうということになると,均衡を欠く,むしろ逆転現象が起こっていることにもなりかねないと思っています。そこの平仄を合わせるのであれば,例えば,親会社の執行役員のような,取締役でもない者についても代表訴訟の対象にすると,また,部長であっても代表訴訟の対象にすると,そういった割り切りをするならば,それはそれで一つあり得る代表訴訟制度の設計であると思います。ですが,杉村委員も最後のほうでおっしゃいましたように,日本の代表訴訟の建て付けは,とにかく提訴請求をしたら後は必ず代表訴訟まで持っていけるという形になっていますので,例えば,提訴請求を受けた者が,もう十分に責任を取らせたから責任追及はしないと,あるいは,たとえ訴えを起こしたところでお金を取れるのは限られているから,費用対効果で見合わないという形で,ある種の経営判断として提訴しないということを決めたのもオーバールールして,訴えを提起してしまうことになっています。訴訟委員会がいいとは私は思っていないのですが,何らかの歯止めがないと,代表訴訟の対象を広げていき,役員でない社内者も含めるというわけにはいかないと思います。そういう意味で,根本的に代表訴訟制度を再構築しない限り,中と外と同じように考えるのであれば,多重代表訴訟についても否定的になろうと思っています。   ただ,田中幹事もおっしゃいましたように,それならば,親の取締役に任せて大丈夫かと言えば,その点については,私は,確信を持つには至っておりません。部会資料11で取り上げられなかったのが残念なのですが,親会社の株主に十分な情報が与えられて,親会社の取締役の義務違反を問うに当たって,証明の困難さが障害にならないようにすべきであると考えています。子会社の管理について親会社は一体何をしていたのか,子会社に不祥事があったときにどういう対応を採ったのかということについて,きちんと情報が出る形にしたほうがよいと思います。この方法については,直接的に書類等の閲覧請求を認める必要はないと思っていまして,齊藤幹事が以前おっしゃいましたように,検査役制度を広く認めるという形がよいと思いますし,先ほど太田委員からお話がありましたように,監査役が非常に実効性を持った形で監査することが期待できるようになり,監査報告を読めば,子で何が起こっているかもよく分かる,そういう形であれば,それはそれでよいかと思っています。   いずれにいたしましても,理論的には,中の人も訴えるという仕組みがないまま,多重代表訴訟のみを認めるということは,問題があろうと思っています。ただ,こういった割り切りをするということになれば,親の取締役がきちんと子を監視監督するということがはっきりするように,情報の点でも,しっかりとしているということを株主が思えるようにすべきであり,不都合があるときには親の取締役を訴えることに支障がないような制度にしておくことが必要であると考えています。田中幹事がおっしゃいましたように,訴えられないのは情報がないからで,子の取締役を訴えるよりもハードルが,証明責任が高くなりますので,そのあたりを解消した上で,それを前提としてですが,多重代表訴訟の導入には反対という立場です。 ○上村委員 今,杉村委員のほうから,それからそのほかの委員の方からもいろいろ御意見がありましたが,今の中東幹事の話も,反対だけれども条件付だとおっしゃいました。逆に言うと,条件があれば賛成と言われているようなものでして,要するに,杉村委員も,諸外国の例を見てもいろいろな手当てがあるとおっしゃっているわけです。ですから,そういう条件について議論することが大事なのですね。その意味では,最初に杉村委員が断固反対と言われたのは言い過ぎで,そういうことにはならないはずですね,今の議論ですと。   それから,子会社の取締役は,部長や従業員みたいなもので,元々代表訴訟の対象になっていないではないかとおっしゃいますけれども,判例では,日本航空電子工業の事件とかハザマとか,ああいうのは,使用人兼務取締役の責任が,かなり巨額な賠償責任が認められている事例ですけれども,これは,平取締役としての責任が認められているわけではないんですね。実際は,従業員としての責任が,取締役という名にかこつけて追及されているのです。日本航空電子工業の場合ですと,6か月前まで従業員だった部長が,取締役になったら過去の部長の分まで責任が追及されています。あるいはハザマの場合も,支店長として贈賄しているので,平取締役として贈賄しているわけではない。ですから,私は,実質的には,平取締役の純粋な責任が追及されているのではなく,使用人としての責任が取締役という名前を使って追及されてきたというのが実態ではないかと思います。ですから,その辺が取締役の責任との関係できちんと詰められていないというところに,本当は問題があるのですけれども,そういう実情があることを申しておく必要があると思います。   それから,任務懈怠可能性の話が先ほどから出ておりますけれども,懈怠可能性を問題にするということは,懈怠してもらっては困るという認識があるわけです。ですから,それは,代表訴訟がきちんと機能すべきだという前提に立っているわけでして,先ほど中原委員が,代表訴訟が機能することはいいことだという前提に立っていること自体が疑問ではないかとおっしゃいましたけれども,同時に懈怠可能性を問題にしているということは,その制度がきちんと機能することが望ましいという価値判断があるのではないでしょうか。   それから,代表訴訟は,勝ったからといって個人的にもうかるという話ではありませんので,会社経営の公正さの確保とか,そういうものを目的にする株主の監視監督機能で説明する人もいるわけです。住民訴訟に似た機能を持っているという説明もされているわけです。そういう意味では,子会社経営の公正確保という観点は当然必要でして,例えば親会社が内部統制構築義務をしているといいましても,子会社にも,独自の内部統制構築義務があります。その場合,親会社にとって重要か重要ではないかということは,余り問題ではなくて,子会社の債権者保護とか子会社の公正な経営と言いましょうか,そういう観点は当然に重要ですので,そこに責任があれば,責任がきちんと追及される仕組みがそこに存在していなければならないはずだと思います。その意味で,私は,前田委員がおっしゃったように,A案が望ましいのではないかと思っております。 ○安達委員 今の上村委員の発言に対して,別に挑戦するわけではありませんが,私の意見を最初に結論から申し上げますと,断固反対と表明したいと思います。この多重代表訴訟という制度そのものは,これを見るにつけ,経済活動を阻害する,又は萎縮効果を与えるということを,明白に感じております。それが反対理由ですが,先ほど杉村委員その他の方がおっしゃったことを繰り返しますと時間の無駄になりますので,それを踏まえた上で別のことを一つ申し上げます。私は,投資家の立場でもありますので,そういう観点から申し上げます。日本の経済活動の中で,今,残念なのは,成長が止まって次の成長戦略が見えないということです。それを打開する一つの手段として,例えばM&A,これが経済のダイナミズムを支える一つの手段であると私は思っていますが,これが非常に起こりにくい環境になっております。これは,もちろん個々にはいろいろ理由はあると思います。ですが制度的に,又はシステム的に非常に起こりにくい環境になっていることも事実だと思います。今回,多重代表訴訟を仮に導入したとすると,間違いなく,M&Aという活動を阻害すると私は思います。例えば,ある日突然,明日から親会社になりましたと言われて,全く知らない株主から訴訟のリスクを受けるということが現実に起こるわけです。これは,被買収企業にとってみれば耐えられないことで,多分取締役会は反対すると思います。となると,元々経済を活性化させるための一つの手段としてあるM&Aが発生しないということになりますと,我々投資家から見ても,日本の経済を萎縮するような多重代表訴訟を導入してくれということは,外国人株主を含め,そういうことはあり得ないと思います。   私は,反対という意見を出しましたので,各論であるAとかBということは,意見を申し上げる立場ではありません。この段階でかかる精緻な議論を重ねて,仮に精緻にやればやるほど,将来,頻繁な改正を誘引するということも起こるわけで,ここで精緻な議論をしながら多重代表訴訟を導入するということを議論すること自体に,残念ながら,私は,余り意味を感じていません。この意見を明確に表明しておきたいと思います。 ○岩原部会長 今,理由として挙げられたM&Aとの関連について申しますと,M&Aの対象になる前は,独立した企業で,当然代表訴訟の対象になっていますから,多重代表訴訟が認められることになったからといって,M&Aによって子会社になった結果,代表訴訟が特に増えるとは限りませんし,そのことの故をもってM&Aの対象会社の取締役会がM&Aに反対して,M&Aの可能性が減るという関連は,余り考えられないのかなという感じはします。ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○藤田幹事 私は,多重代表訴訟が議論された第6回会議を欠席していましたので,この件については初めて意見を申し上げることになるのですけれども,基本的にはB案で,場合によっては更に何らかの限定を掛けた上で導入することに賛成という立場です。   この提案に対する強い反対には,二つ論拠があるように思います。最初に杉村委員が言われたことなのですけれども,一つは,親会社が株主として責任を追及する形で自律的にメカニズムが働いているから問題ないという議論ですね。ただ,これについては,もう既にいろいろな方から議論がありましたけれども,親会社が株主として子会社の責任を追及することについての親会社取締役の判断は,経営判断ですので,幅広い裁量が認められる。株主代表訴訟というのは,そもそも役員の責任追及をするか否かに関しては広い裁量を認めるべきではないということが出発点なので,これを切り札に反論されると,議論がずれる気がします。親会社の役員であると同視できるような人に対して,親会社経営者側の裁量が認められない形で責任追及する道を残すというのは,論理的にはあり得ることで,それがこの提案なのです。  問題は,子会社の役員の責任追及を,親会社の役員の場合と同視していいかという点で,そこが,杉村委員の言われた二つ目の話です。つまり事業部門を持っている100%子会社の取締役というのは,実は事業部門の部長のような存在なのではないか,だから役員と同視するのはおかしいのではないかという議論です。感覚としては分かるところもないわけではないのですが,こういう論理を認めますと,次のようなことになります。もし本体で事業をやっていれば,必ずそこを担当する責任者となる役員がいるはずです。ところが,事業を全部外出しすると,直接株主が訴えられるような形で責任を取ってくれる人は全く存在しないような事業形態を作り出すことが可能になってしまう。これが,この多重代表訴訟を導入するときの一番本質的な理由だと思うんです。そういうことから,子会社役員は,親会社から見れば従業員と同視できるから,役員扱いすべきではないというロジックを余り強調すると問題があるような気がします。   なおこの点との関係で,提訴懈怠可能性について,中原幹事からかなり強い意見が出されました。ただ率直に言って,この問題は単なる割り切りです。たとえ同じ会社であっても,例えば,仲間割れして追い出された役員は,現在の取締役からいつ過去の業務執行について代表訴訟で訴えられるか分からない,したがって提訴懈怠可能性は極めて低いかもしれませんし,親子会社であっても役員兼任などによって一体感が非常に強ければ,提訴懈怠可能性はあるかもしれない。ケース・バイ・ケースとしか言いようがない。第三者ですら,関係次第では,責任追及が懈怠される可能性だってある。このあたりはケース・バイ・ケースだから全部個別判断に任せるというのであれば,アメリカ法のように,代表訴訟の被告は形式的に限定しないで,全部個別判断で,裁判所が適切な代表か否かといった要件で判断すればいいということになるわけです。日本法は,そういう行き方を採らず,形式的にどこかで割り切るという前提で被告適格を限定する方針を採っているわけです。そこから先は,どのあたりで割り切るかという政策判断であって,場合によっては完全子会社の役員という以上に何か要件を課してもいいかもしれない―私が最初に,場合によっては更に何らかの限定を掛けた上でと申し上げたのは,提訴懈怠可能性といった観点から何らかの制約を場合によっては導入することも考えたからですが―,およそ同じ会社の同僚の役員以外という以外には,提訴懈怠可能性の有無の形式基準がないかというと,論理的に全然別です。別の会社である以上は提訴懈怠可能性があるというのは全く誤解であるといった言い方は,幾ら何でも概念法学かなという気がいたします。   もう一つ,中東幹事は,現在の代表訴訟制度というのは,一旦多くの株主が訴えるのはやめようと思ったのをオーバールールして,一人の株主が頑張れば訴えられる制度であって,それは100%親子会社のところにコンテクストを持っていくと,株主である親会社がいいよと言ったのに,それを誰かがオーバールールすると,それが問題だと指摘されたと思います。これは,実は二段階代表訴訟の話ではなくて,既に普通の株主代表訴訟ですら,他の株主がみんなやめろと言っているのを一人の株主が頑張ったら,訴訟で最終的に結論が出るまでとなっているという問題はあります。私は,こちらは深刻な問題だと思っておりまして,明らかに株主全体の利益に合わないのを最後まで付き合わされるということが,株主代表訴訟制度の最大の弊害だとすると,そういう株主全体の利益にならない「悪い」訴訟を早くやめさせるためのメカニズムが,確かに今の日本法は制度的には欠けているのかもしれません。もしそう考えるのであれば,多重代表訴訟には全面反対というのではなくて,代表訴訟制度一般の中に何らかの形の防止メカニズムを導入することを考えて,それとのパッケージで多重代表訴訟についても一律反対しないという方向で行くのがいいのかもしれません。そういうメカニズムとしては,いろいろあり得るでしょう。訴訟委員会制度を直ちに導入するというのは余り良くないと思いますけれども,例えば平成17年の際の会社法(現代化関係)部会の要綱には,濫用的な代表訴訟を終結させる裁量却下という制度を提案はしていました。国会段階の審議で落とされたのですけれども。そういったものを更に別の形で発展させるような制度は,考えてもいいのかもしれません。ただ,このような何らかの濫訴防止のメカニズムと一緒に多重代表訴訟制度を導入することは,考えられると思います。   また,杉村委員が外国子会社との関係を言及されましたが,これは,論理的には無関係だと思います。そもそも,法廷地がどこで,どこの国の法律で規律される問題かよく分からない点があるのですけれども,典型的には,多重代表訴訟制度を持っている外国で訴えられることを想定されているのでしょう。その場合,問題がその国の法律で決まるというのであれば,日本法の内容は無関係ですし,そういう国で訴えられる危険があるのは今だって同じです。もし,日本法が適用される,つまり,その国の法廷において日本法によって規律される事項だと考えられるのであれば,日本法の内容に従って訴えられれば訴えられるし,訴えられなければ訴えられない。日本法上の代表訴訟制度は,現在のところ,株式会社の「株主」を原告とするという造りになっており,このことは,例外的に親会社株主に原告適格が認められる851条のケースでも同様です。仮にこれに沿った形で二段階代表訴訟を創るとすれば,結局,当該外国の裁判所が,日本法に沿って判断する限り訴えられないことになります。もちろん,外国会社の株主にも原告適格を認めるような法制を創ることも可能ですが。いずれにせよ,二段階代表訴訟を導入したとしても,そのこと自体によって,外国での訴訟において事態が殊更に悪くなるということにはならないと思います。   最後に,B案を採る理由です。前田委員が言われたことですけれども,重要な子会社であることを理由に絞るというのは確かに余り論理的ではない。そのことは重々分かっているのですけれども,何らかの形の絞りというのはあってもいいのかもしれません。訴訟懈怠可能性の観点もありますし,また,これも先ほどの繰り返しになりますが,少なくとも現在の代表訴訟制度は,アメリカと違って適切代表という要件がありませんので,一旦起こされたら最後まで行ってしまうという制度なので,そういう観点からも何らかの絞りは恐らくあってよいと思います。B案のような重要な子会社という要件の絞りが,今の懸念を適切に反映する要件なのかというのは疑問もありますが,何らかの絞りは必要と思うので,B案プラス場合によっては更なる要件を付けることで,この制度導入というのは支持できると思っております。 ○中原幹事 藤田幹事のお話の中で,藤田幹事から割り切りというお言葉をお聴きするとは思っておりませんでした。お話の中で,第三者に対して責任追及をするかどうかというのは経営判断で,しかし,経営判断であるけれども,役員の責任追及については広い裁量を認めるべきではないという建前で会社法はできているというのは,おっしゃるとおりだと思いますが,その趣旨は,会社に対して責任を負う役員に対する責任追及について,同じ会社の取締役,監査役等の経営判断に任せきりにしてはいけないということであり,したがって,子会社の役員に対する責任追及について親会社の経営判断を認めるべきではないということでは必ずしもないだろうと思います。したがって,子会社の役員について,株主として責任追及するかしないかというのは,親会社としての正に経営判断事項であり,それは,例えば,親会社ではない一般の法人株主が株主代表訴訟を提起するかどうかが当該法人株主にとって経営判断であることと大きく異なるところはないと思われます。子会社の役員が親会社の役員と同視できるかという点について,先ほどの割り切りという言葉に絡むわけですが,例えば,同じ機関,同じ株主総会によって選任された,会社との関係でも同じ委任の関係に従う取締役同士ということであれば,これは,提訴の懈怠可能性が定型的に考えられやすいのではないかと思うのですけれども,重要な子会社の取締役について,責任追及の懈怠可能性が,法定の訴訟担当を新たに創らなければならないほどに,定型的に認められるというほどに立証されたのかどうかというところが,必ずしも釈然としないのではないかと思います。もちろん,置かれた個別状況等によって,訴訟提起の懈怠可能性が生じ得ることがあり得るということ自体は,否定しませんけれども,それが定型的に認められるかどうかというのは,別の話ではないかと思います。 ○本渡委員 私は,結論から言うと,B案に賛成です。株主代表訴訟を提起されると,被告になった方は,非常に負担が大きい。そういう点から言って,株主代表訴訟をどんどん推進したほうがいいということは,全く考えておりません。しかし逆に,現在の日本の会社というのは,独禁法の改正によって純粋持株会社・ホールディングスが非常に多くなって,そこにぶら下がっている100%子会社にはかなり大きな会社がありまして,大きな100%子会社の取締役の方たちは,ホールディングスの取締役の方たちと実際は同列ぐらいの,権限というか,力を持っている方も多いのではないかと思いますので,一つのグループを一つの会社と考えて,その中でトップ10人ぐらいに入るような人たちには,株主代表訴訟があり得るという心の規制を掛けておいたほうがいいのではないかということ。   あと,先ほど太田委員がおっしゃったんですが,子会社の監査役の方が一生懸命やるのは非常にいいことなので,それで違法行為が止められればそれに越したことはないですが,監査役が指摘したにもかかわらず,適法ではないようなことをやってしまって損害が出るとか,そういうことだってあり得るわけで,そういうときに,そんなことをやったら株主代表訴訟で責任を追及されるかもしれませんよと―言うかどうか分かりませんが―,株主代表訴訟を提起されるおそれがあるということが分かっていれば,抑止効果にはなると思います,監査役の方が一生懸命調べて,これは適法ではないという結論に達して,その旨を言ったにもかかわらずやってしまうようなことは,非常に少なくなるのではないか。そういうことで,監査役の方たちが一生懸命仕事をするインセンティブにもなり得るのではないかという気がしておりますので,私は,非常に大きな100%子会社に限って認めることには賛成です。 ○岩原部会長 監査役自身も会社を代表して取締役を訴える権限はあるわけですけれども,実際上,株主の代表訴訟があれば,より抑止力になるだろうという御指摘かと思います。 ○杉村委員 藤田幹事から何点か御指摘いただきましたが,まず,子会社取締役は親会社で言えば従業員のような立場の者という意見に対して,親会社の中で事業を行えば,その者は従業員であっても,担当する役員がいるはずという御指摘があったと思います。事業を行う際に,親会社本体で行わずにあえて子会社の形で行うことに関しましては,それなりの経営判断がありまして,その組織形態の選択を企業グループとして行っているわけであります。仮に本体の中でやるというのであれば,御指摘のように取締役の責任の範ちゅうで行いますし,子会社でやるということになれば,先ほど来あります内部統制の中でしっかり監督していくといった使い分けを行っているわけでございます。そこは,私どもの感覚としてはちょっと違うものではないかと思っております。   それから,外国子会社の話でありますが,1998年のアメリカの判例におきまして,先ほど私が申し上げたような事例で,日本では多重代表訴訟が認められていないということを理由に訴訟が退けられたケースがあります。逆に考えると,もし日本に多重代表訴訟の制度があれば,アメリカで訴訟が退けられなくなるのではないか,と危惧をする企業の関係者は大変多いということでございます。   併せまして,田中幹事から少し前に御指摘がありました,きちんとやっている会社への影響についてでございます。私といたしましても,代表訴訟に対する日本の裁判所の判断に何か疑義があるということを申しているわけでは決してございません。申し上げたかったことは,訴訟で勝てるとしましても,訴訟に巻き込まれること自体が,非常に大きなコストであるということでございます。すなわち,訴訟への対応に経営資源が割かれるということには,多くの目に見えないコストが生じます。もっと言えば,多重代表訴訟の制度が創設されれば,きちんとやっている会社であればあるほど,より堅く堅く判断することになり,これまで権限移譲の中でどんどん意思決定できていたものが,複数のメンバーで慎重に慎重に議論しましょうとか,弁護士やアドバイザーの意見をいろいろ採ってコストを掛けてやりましょうということになってしまいます。グループ経営の持ち味であります迅速性や果敢性といったものに対するデメリットを大きなコストと認識している次第でございます。 ○伊藤委員 今,皆さんの話をいろいろ聴いていて,子会社の役員というものがどの程度の人材であるかということが議論になっているのではないかと思います。皆さんがおっしゃるとおり,完全子会社やB案にあるような重要な子会社となると,経営者の資質が大分違うのは事実ですが,基本的に,私は,この創設に反対です。例えば,完全子会社であれば,杉村委員がおっしゃるとおり,親会社の役員の方が来るのか部長が来るのか,どちらにしても,そんなに重要ではない方が現実問題役員になるケースが多いと思うんです。我々経営者として考えるのは,そのトータルのコストだと思うんです。いろいろ訴訟が起きるとなると,子会社の中に,当然仕組みの中には,リスクを起こさないとか,会社の内部が正常かというような組織を持たなければいけません。しかし,トータルのコストで考えると,親会社が考える内部監査制度を利用したほうが,私は得だと思うんです。最大限の利益を当然子会社も出す,それから親会社も出すというところから考えると,こういう制度によって,子会社がびくびくしてしまって,なかなかいい経営ができないのではないかという懸念がございます。   それと,監査法人のグループ子会社に対する利益追求というのは,非常に大きなものがあるんです。意図的に赤字を出す子会社は,そういうことをされる経営者の方もいらっしゃるんですけれども,それが数年続くと,これは,厳しい罰則が待っています。要は,シナジーで一緒になった会社がローコストでいい経営をしていくためには,親会社のほうに,いろいろな意味での内部監査制度であるとか監査制度であるとか,そういうことを責任を持たせるべきなのではないかと思います。   一般的に子会社の役員というのは,実際に親会社の従業員にすぎないケースが多い。余り権限が与えられていない。これは,会社の制度にもよるんでしょうけれども,人事異動によって異動された社員に大きなリスクを負わせることは酷なのではないかと考えます。企業経営全体への大きな影響をもたらすものと思われて,私自身は,この創設自体に反対でございます。 ○荒谷委員 私も,多重代表訴訟を特に積極的に導入するべきであるというわけではありませんが,断固反対というわけでもありません。結論から申しますと,B案若しくはそれに更に要件を付加した形で認めるのであれば,よいのかなという気がしております。その理由ですが,一口に親子会社と申しましても,先ほど来出ておりますように,各企業グループ内でいろいろ戦略がございまして,その対応も様々なわけです。したがって,一律に完全親子会社という形で一くくりにして,多重代表訴訟を認めるべきであるということについては,いささか疑問に思っております。すなわち,子会社の取締役といっても,実質的には事業部門の統括をする従業員であるにすぎない場合もありますし,親会社と子会社の取締役を兼任している場合もあります。また,金融持株会社のように,実は子会社の取締役自体が事業を自主的に担っているような場合など,実に様々あるわけで,その独立性の程度にも差がございます。前者の場合,いわゆる事業部門の実質的な従業員にすぎない場合には,子会社の取締役に親会社の影響から独立した経営判断を期待することは,およそできないのではないかと思います。したがって,この場合には,親会社株主からの多重代表訴訟の対象とするべきではないのではないか。むしろ,この場合は,内部統制の問題ですとか,親会社の管理責任という形で,親会社の取締役の子会社の管理責任を追及すれば,それで十分ではないか,あるいはそれで足りるのではないかという気がいたします。それに対しまして,子会社が事業の実質を担っている場合ですとか,子会社の収益性が非常に高くて親会社の収益力に占める割合が非常に高いというような場合については,子会社の取締役の独立性は高いと言えますので,企業グループであっても,各会社を飽くまでも単体ベースで考える現行の会社法のスタイルを採りますと,親会社が子会社に対してガバナンス機能をどの程度発揮できるかという点について,若干疑問がございます。したがって,こういう場合については,多重代表訴訟を認めてもよいのではないかという気がしております。   それからもう1点は,部会資料11の4ページにあります,親会社に損害が生じていない場合の取扱いについても触れさせていただきますと,子会社の取締役が親会社の指示に従って親会社と子会社との間で自社に不利益な条件で取引を行ったような場合には,子会社の取締役が親会社から任務懈怠責任を追及されるということは,まずほとんど考えられないのではないかと思います。したがって,少なくとも親会社,あるいは企業グループが損害を被った場合に限って,多重代表訴訟を認めればよいのかなと考えております。   以上を総合いたしますと,B案若しくはB案プラス更に要件を絞った形で多重代表訴訟を認めるのが,今のところは妥当ではないかというのが,私の意見でございます。 ○三原幹事 2点お伺いします。先ほどの議論の中で海外子会社というお話がありました。子会社という定義自体の問題として,会社法第2条第3号の子会社の定義を施行規則の第2条第3項,第3条,第4条と合わせて見ますと,「会社等」を指すと規定され,会社だけでなく,組合や法人格のないものまで入っていますが,上場会社の下に組合等が入って子会社の定義を今のまま使うとなれば,法人格がない場合における,その経営陣とは何を指すのか分かりません。そこまで含めてここで議論がなされているのでしょうか。恐らくそうではなくて,普通の株式会社が下にぶら下がっている場合だけを考えていて,そこは,第2条の定義の子会社というところと少し違う議論がされているのではないでしょうか。この制度を導入するかどうかは別にして,議論の前提として,株式会社の下に株式会社がいる場合だけを議論しているのではないかを伺いたい。それから,会社等という定義には海外子会社も入っていますので,海外のLPSのようなパートナーシップを含んでしまうのかどうかということになります。定義との関係で,ここでの議論は,会社の下に株式会社がある場合だけなのか,あるいは合同会社や海外のパートナーシップの場合も含むのか,今後の検討に際して考えたほうがよいと思いました。   それからもう一つは,先ほどの藤田幹事のお話の中で気になった点ですが,現行の代表訴訟においても,いわゆる駄目な代表訴訟について,いつまでも付き合わされると,役員個人の負担は重いというのも実感としてあるわけでございますが,いつまでも付き合わされるものについて,早期にそれを解決する制度が,現在は欠けているのではないかという見方だと思います。そういう訴訟を早期に解決できる制度ができないのかどうか。どうすればいいという知恵があるわけではないのですけれども,そういう制度が欠けているのではないかというふうな御指摘については,そういう考え方もあり得るのかなと思いましたので,これは代表訴訟の現行制度の問題ということなのかもしれませんが,事務当局でお考えいただけるのであれば,是非お考えいただきたいと思いました。 ○坂本幹事 今の三原幹事の御指摘,2点ございましたが,前半の外国会社の点についてお答えいたします。今まで事務当局内部の検討におきましても,基本的に株式会社というものを前提にしておりました。もちろん,それ以外の会社に広げるという御意見を否定するつもりはございませんけれども,現行の代表訴訟制度自体,株式会社を対象にしておりますので,それを更に広げるということになると,それは,一つ乗り越える壁が高くなってしまうところはございます。したがいまして,繰り返しになりますけれども,基本的には株式会社ということを想定してございます。 ○伊藤幹事 多重代表訴訟の導入に賛成する者からしますと,前田委員あるいは田中幹事ですとか藤田幹事の御発言に余り大きく付け加えることはございません。一つだけ,先ほど来何度か話が出ています提訴懈怠可能性について,小さい話をさせていただければと思います。役員間の提訴懈怠可能性に着目して現行の株主代表訴訟制度ができているという話がされているわけですけれども,既に現行制度の下でも,会計監査人に対して代表訴訟を提起できるわけですから,完全に役員の間の提訴懈怠可能性というものだけから代表訴訟制度の存在を説明することはできません。したがって,役員間の提訴懈怠可能性ということだけを突っ張って,実質的に事業部門の長である従業員である者についてはおよそ代表訴訟の対象とすべきではないという話にもならないのではないかと考えます。 ○朝倉幹事 創設すべきかどうかについては,私ども,定見があるわけではありませんので,立法事実を踏まえて,本当に必要なのかどうかということについては,きちんと議論していただければいいと思っています。ただ,仮にこれを創るということになった場合に,A案であれば一義的に明らかなのですが,B案の場合の「重要な」というところについて,部会資料11にも記載していただいていますけれども,これは,入口のところで議論になって重たくなるということになると,審理が長引くということにもなりますので,一義的に明確となる基準を規定することが重要であるということだけは,一つ留意していただきたいと思います。もう一つ,先ほど親会社の損害の発生の要件という話がありまして,この場合に,親会社の損害というのをどういうふうに考えるのか,子会社自体の利益が害されたことによって子会社の株式自体が全体として価値が下がっているなんていうところまで入ってくるのかどうかも含めて,もしこれを入れるとすれば,そこまで議論がまだいっていないと思いますけれども,入れる場合には,そこは,きちんと考えておく必要があるだろうと。この2点でございます。 ○岩原部会長 今の御指摘にもございましたように,(注)の中の問題についても,皆様に御議論いただきたいと思いますけれども,その前に,総論についていろいろ御意見が分かれました。最初に御指摘ありましたように,そもそも立法事実としてなぜこういうことを考えるかということが重要かと存じます。多分,大きい問題意識は,先ほど本渡委員の御指摘にもあったように,持株会社制度が認められ,かつその中で非常に大きい子会社を持っている持株会社があって,特に金融関係などに多いのですけれども,そういうところで,持株会社のほうが必ずしも子会社に対して強い監督を行使できていない,言わば親会社のグリップが効いていない例があるのではないかというのが,大きい実際上の問題関心ではないでしょうか。それで子会社にいろいろ問題が起きたりしたときに,親会社の株主が,実際上それを運営している子会社の役員に対して,何らかのチェックを掛けていくことができるのだろうか,そこが大きい問題関心であって,その一つの方法として,多重代表訴訟ということが提案されているのかなと思います。   それに対して,本来だったら親会社が子会社の役員に対しグリップを効かせるべきだという考えがあり,それがあるから多重代表訴訟は要らないんだという御意見もあったと思います。そういう考えを採るとしたら,現実に日本でそういう重要な子会社に係る問題が起きていることを考えると,親会社が子会社をきちんと監督するという体制が現在の法制で十分なのか。もしそれが足りないとするならば,具体的にどういう改革をしたら多重代表訴訟に代わるような制度を創ることができるか,そういう御議論が必要になるのかなと思います。もしそれではうまくいかないとすると,多重代表訴訟というのがその対策の選択肢の一つとして考えられて,それが,御指摘のような弊害が起きないような範囲で具体的にどういう制度を創ったら,うまくそれなりにそういう問題をカバーできるかというのが,ここで検討されていることかと思います。   そういう意味で,実際制度を創るとしたら,先ほどの藤田幹事の御指摘のように,一定の限定を加えるというときの限定の加え方,それを御議論いただきたいと思っておりまして,(注)の中で①から④までございますので,ここの部分についての御意見を頂けたらと思います。いかがでしょうか。 ○野村幹事 総論につきましては,私も,かねてから,金融持株会社を例に採って必要性を申し上げてきましたので,これ以上は申し上げませんが,各論ということですので,先ほど静委員のほうからも御指摘がありましたけれども,果たして帳簿価額でいいのかという点については重ねて問題提起しておきたいと思います。帳簿価額でいきますと,評価替えがずっと行われていない古いタイプの会社の場合は,射程の外に追いやられてしまう可能性がありますので,立法に当たっては,帳簿価格で計算した場合にどのぐらいの会社が捕捉できるのかという点を可能な限り実証的に把握していただいた上で,最終的な結論を出していただければ有り難いなと考えるところでございます。本来ならば,売上高なども,基準としては考えられるわけでしょうが,現行法の下では売上高は開示されていませんし,なかなか使いにくいということも分かりますので,結果的には帳簿価額になるのかもしれません。あるいは,連結をしているわけですから,連結作業の途中で,内部的に評価が行われているわけでありますけれども,これを使えるかどうかということも一応検討してみていただければと考えております。   更には,6か月要件にも問題があります。私がよく理解できていないのかもしれませんが,100%であるということについては6か月の要件を掛けようという御提案のようでありますけれども,重要性の要件については6か月要件が掛かるのかどうかについて,どのように考えているのかが分かりません。途中で評価替えが起こったというような場合はどういうふうに考えていくのかというのは,技術的には詰める必要のある問題かと思いますので,御検討をお願いできればと考えているところであります。   それから,先ほどもちょっと説明がありましたが,親会社の損害がない場合については,本来これは訴えさせる意味がない,訴える利益がないというような考え方になってくるのかなという感じもするんですけれども,具体的に想定されている事例は,親会社が子会社の利益を吸い上げているようなケースと,兄弟会社というか姉妹会社間で利益移転が起こっているようなケースなんだと思うんですけれども,そういう理解で合っているのかどうか。ほかにもあり得るのかどうかよく分からないので,教えていただければ幸いです。と言いますのは,適用除外を行う場合に,損害の有無という形で類型的に適用除外にしてしまってよいのか,それとも個々の事件の中で個別具体的に適用除外にしたほうがよいのか,なお検討の余地があるように思ったものですから,よろしく御検討ください。 ○坂本幹事 まず,重要性の要件について6か月要件が掛かっているのかという御質問でございますけれども,部会資料11では,重要性の要件につきましては6か月という要件は課していません。もちろん,どの時点でどのようにこの重要性という要件を掛けるかということ自体,考えていくと,いろいろなパターンが出てくるだろうと思っておりますので,そういう点も含めて,御指摘いただければと思っている次第でございます。   後者のほうでございますけれども,損害が生じていない場合というのはどのような場合かと。今,二つのケースを御指摘いただいたかと思いますけれども,事務当局といたしましては,この御指摘いただいた二つが典型的なものであろうし,ほかには考えにくいのではないかと思っております。そのときに,親会社の損害を法律上の要件にするのか,それとも運用の中で落とし込むのかという御指摘かと思いますけれども,要件として掛けなかったときに,そういうものを運用上考慮していただけるのかどうかという問題もあろうかと思います。また,そういう御指摘を踏まえて,これを積極的な要件とするのか,それとも,被告側,すなわち子会社の取締役側において親会社に損害が生じていないことを立証させるという考え方もあり得ると思っておりますので,その点も含めて御議論いただければと思っている次第でございます。 ○塚本関係官 ただ今野村幹事から御指摘いただいた点について,若干補足いたします。6か月要件につきまして,部会資料11では,親会社株主が親会社の株式を6か月間持っていることを要件とするというのがまず素直に出てくると考えられます。これに加えて,親会社が,6か月間,子会社株式を100%持っている必要があるのか,あるいは100%でないにしても親会社として幾ばくか子会社株式を持っている必要があるのかという点は,議論の余地があると思われますので,御議論いただきたいと考えております。   次に,重要性の基準につきましては,ただ今坂本幹事から申し上げましたとおり,6か月間ということは考えておりません。ただ,いつの時点で重要である必要があるのかという点は,検討していく必要があると考えております。   それから,損害の点につきましても,従来からよく言われているところや裁判例からいたしますと,親会社が持っている子会社株式の価値の下落分が親会社の損害ということになるのではないかと思われます。 ○岩原部会長 ほかに何か御意見,御指摘はございますでしょうか。 ○前田委員 親会社に損害が生じていない場合にどう考えるかは,悩ましい問題だと思うのですけれども,一般には,代表訴訟の制度というのは,原告株主は,自分自身が損害を受けているということは必要とされていないと思います。不祥事が起きてから株式を安く買った者でも,訴えを提起できるという制度でありまして,別に,原告株主自身が痛みを受けていなくても,それで監督是正ができるなら何も差し支えないという考え方に立っているのではないかと思います。ただ,今回,多重代表訴訟の制度を完全親子会社関係がある場合に限るのだといたしますと,御指摘のような完全子会社から親会社に利益移転があった場合,あるいは完全子会社相互間で利益移転があったという場合には,代表訴訟を提起できるかどうかという以前に,そもそも子会社取締役が子会社に損害賠償責任を負うのかということが問題になるようにも思います。つまり,そんな利益移転のケースは,一般に利益相反取引規制も及ぼさなくていいと解されているケースでございまして,債権者が害されるところまでいけば問題ですけれども,そうでないならば,子会社取締役が子会社に対して責任を負うのかということが,そもそも問題になるように思うのですけれども,ともかく,多重代表訴訟との関係では,子会社取締役が子会社に対して責任を負うべき関係が生じているのであれば,親会社の損害は考えなくていいのではないかと思います。どういうふうに要件に組むかにもよると思うのですけれども,こういうデリケートな要素を取り込みますと,先ほど朝倉幹事から御指摘がありましたように,訴訟の入口のところでまた紛争の種を増やすことになりかねないという懸念がございます。 ○中東幹事 多重代表訴訟制度の導入については現時点で反対と申し上げながら,要件について発言するのは違和感もありますが,提訴請求の対象について,部会資料11の5ページで,「権利主体である子会社に対して」ということになっていますが,親会社の代表訴訟提起権を法定訴訟担当で奪い取るということかと思いますので,子会社に対する提訴請求で十分なのかは,疑問を持っております。   親会社の株主についての株式数をどれだけ持っていないといけないかということについてですが,適切に子会社を代表できるのは誰かという視点から,やはり区切らなければいけないということについてはもちろん賛成ですが,結局こういう形で区切るということになれば,先ほどの法定訴訟担当としての代表訴訟とも併せて考えますと,藤田幹事のお話にもありましたように,訴訟を代表する関係が多重になっているという発想ではなくて,むしろ代表訴訟の対象となるべき者の拡大という話として理解をしたほうがよいと思っています。その意味では,藤田幹事がおっしゃいましたように,ほかの株主の利益を犠牲にしても,思い立った株主が訴訟を追行することができてしまうことについて,何らかの制約を課すという形でやるのが組み立て方としていいと思います。仮に,グループ会社,結合企業集団ということを念頭に置くにしても,多重代表訴訟というとしっくりこない感じがしますので,代表訴訟の対象として子会社の取締役等を入れるか否か,入れるとすればどういう要件なのか,こういう問題提起なのであれば,私も,要件さえきちんと定まっているのであれば,必ずしも反対するものではないということでございます。 ○上村委員 今の論点とちょっとずれるかもしれないですけれども,損害額の問題については,免除の話が先ほど出ましたけれども,軽減のほうですね。例えば,年間報酬の2倍,4倍,6倍となっていますけれども,これをここまで軽減できる,これは,株主総会で軽減するといっても,親会社の株主総会で軽減するのかというと,これも,そのために親会社の株主総会を開くというのもなかなか大変だと思いますし,取締役会で軽減するといっても,少数株主の異議というのがありますね。そこは,少数株主はいないはずなのでどうなのかということもあります。私は,今の株主総会で軽減という損害額決定のやり方自体に問題があると思っています。そもそも重過失だったら300億円だけれども,軽過失だったら数千万円とか,裁判所が間違えるから株主総会で正そうというような,法治国家とは思えないような変な制度になっていると思います。本当はそういう本質的な問題だと思いますけれども,この場合,もしこういう制度を何らかの形で入れるとすれば,軽減ということではなく,法律で2倍,4倍,6倍を上限に決めてしまうとか,かなり乱暴だと言われるかもしれませんけれども,そうでないとしたらほかにどういう手段があるのか,そこは,大本がおかしければ,ここをきれいにするのはなかなか難しいのですね。法で定めるというのは乱暴でしょうが,そのぐらいの発想の転換をしないと対応できないのかなという感想を持ちましたので,一言申しておきます。 ○伊藤幹事 部会資料11の3ページの親会社が6か月前から引き続き子会社株式の全部を有することを要件とすることという話ですけれども,確かに,親会社が自ら子会社の株主として子会社の取締役の責任を追及しようとすれば,子会社が公開会社であればこの6か月の要件が適用されてしまう。それに比べて,多重代表訴訟になればこの要件がなくなるというのは均衡を失するように見えます。しかし,むしろ,多重代表訴訟でない場合のほうを考え直すということもあり得るかと思います。そもそも,子会社が非公開会社であれば,その単独株主ですら継続保有要件なしに代表訴訟を起こせるわけですから。 ○藤田幹事 余りテクニカルな議論に現段階でどこまで深入りするのがいいかというのはあると思いますが,純粋に技術的な問題,変なことにならないようにしてくださいという技術的な問題と,一見技術的に見えながらそもそも二重代表訴訟を認めるべきか否かの根本に関わるような問題があって,少なくとも後者については現段階でも議論したほうがいいかもしれません。  書かれた順序に沿って申しますと,まず,継続保有の要件については,場合によっては合算のようなことも考えなければいけないのかもしれません。合算という意味は,親会社の株主であった期間と親会社が完全親会社であった期間との合算ということで,6か月以上親会社株主であった後に,例えば完全親子会社関係が作り出されたようなケースとか,いろいろパターンがありますので,組織再編前後で株主であった期間を足し算して継続保有要件を考えないと困るかなということですが,こちらは純粋に技術的な話です。   持株要件は,もう少し実質のある話です。例えば少数株主権にするか否かという議論は,二つ論拠があり得て,一つは,ある程度以上重要な利害関係を持った人でないと適切に訴訟追行することはできないだろうという観点から何かの要件を課すという話,もう一つは,純粋に濫訴防止のような観点です。前者との関係でいくと,B案を採るのであれば,そこのところで重要な利害関係はあるということになっていますので,A案を採るなら考慮する必要があるかもしれませんが,B案を採るのであれば考えなくていい話だと思います。後者の濫訴という話については,これは,多重代表訴訟の話というより,先ほど申し上げましたけれども,代表訴訟一般について,株主の利益と違うことを特定の株主がやっているときに負わせるメカニズムが十分ないという一般的な問題だと考えるべきで,これを多重代表訴訟の提訴要件で抑止しようとすると,ちょっと本筋からずれるような気がします。むしろ,対処するなら,一種の裁量却下のような制度が議論の出発点になるようなことかと思っています。   損害の要件は,ある意味当然でして,前田委員の言われたような議論に尽きると思います。これは,あるいは本案の「損害」等の問題としても議論できるのかもしれませんが,入口の段階で,原告適格の問題として処理して,子会社側の利益移転,あるいは子会社から親会社への利益移転のようなケースは,当該親会社の株主は利害関係がないはずなので入口ではねるという形にしても,整理としてはいいと思います。原則100%子会社に限定すれば,子会社に損害があれば当然に親会社に損害があるのが原則だけれども,子会社間の利益移転や親会社の利益移転を基本的にはねるということで,まあ,二重代表訴訟の原告適格を定める条文にただし書でも置けばいいと思います。   提訴請求は,純粋に技術的な話で,変にならないように制度を工夫して創ってくださいということに尽きると思います。いろいろなやり方が考えられますし,余りこうしなくてはならないというふうな積極的な意見はありません。単純に考えると,両方に請求させておいて,後は親子会社間で調整してもらって,最終的に親会社が提訴するのでも子会社が責任追及するのでもいいけれども,そういうことが起きなかったら訴えるというふうになればいいと思います。テクニカルにどのように設計してもいいですけれども,提訴請求の期間が倍にならないようにすればいいという話だと思います。   最後に,被告の範囲はかなり深刻な問題だと思います。これは,正に認めるべきか認めるべきでないかという話にも波及するような話だと思います。部会資料11の5ページを見ますと,いろいろな人が挙がっていて,このうちのどれかを落とせという議論は,あり得ないと思います。ただ,そういう観点からの制約はないと思うんですが,場合によっては,提訴懈怠可能性という観点から別の絞りというのはあり得るかもしれません。飽くまで,「例えば」,「試みに」,というレベルの議論ですけれども,親子会社の取締役会の兼任関係の存在等といった,ある種提訴懈怠可能性を類型的に示唆するような指標をもう一つぐらい付け加えてもいいのかもしれません。この手の形式要件は,常に割り切りですので,そのものずばり提訴懈怠可能性を論理的に導ける要件が作りにくいですけれども,100%子会社で重要な完全子会社というだけだと,提訴懈怠可能性を示唆する要素としてどうも弱いというのであれば,何かもう一つぐらい付け加えることがあり得るし,付け加えるのであれば,被告となる取締役の範囲のところで付け加えるのだと思います。 ○太田委員 仮に導入する場合という前提で気になっている点が4点ほどありますが,項目の指摘だけにとどめます。   まず,親会社に損害が生じていない場合,監査役として何を判断基準にして,親会社の監査役の動き方あるいは子会社の監査役に対する対応の仕方ということを立てたらいいのかということが理解できません。具体的には,損害のないケースにおける適用というのはあり得ないのではないかということが,まず1点。   2点目に,提訴請求先に関する点ですが,子会社の取締役の会社に対する損害賠償責任を追及するのは,一義的には子会社の監査役でありますから,提訴請求先は,その場合には,明らかに子会社監査役以外にはないのではないかと思います。   3点目,対象会社の範囲ということですが,現在,多重代表訴訟自体が企業集団を念頭に置いた制度であるということに鑑みますと,重要性の評価というものも,単体ではなくて,飽くまで連結ベースの評価に準拠すべきだと思います。具体的には,例えば連結総資産の一定割合とか,その他の指標でも結構ですが,濫訴の排除なり,あるいは企業グループに与える影響というものを勘案してしかるべきだろうと思います。   それと,4点目なんですが,3点目とややオーバーラップしますが,適用の対象範囲についてですが,仮に少数株主がいる子会社が対象の場合,いずれも,A案でもB案でもないということになりますが,その場合,少数株主をオーバーライドして親会社株主が決定権を持つというような矛盾を避けるという観点も勘案しながら,やはり一定程度の重要性を加味した完全子会社に限定するということ以外にないのではないか。飽くまで導入する場合の指摘であります。   以上4点です。 ○荒谷委員 ちょっと教えていただきたいのですが,部会資料11の5ページの第2パラグラフのところで,企業集団における子会社管理の在り方に関わるものについて,親会社に知らせるための仕組みを設ける必要があるのではないか「検討の余地がある」と書かれておりますが,この意図を教えていただきたいのですが。もしかすると,これは,親会社が子会社の取締役側に,訴訟参加をするというようなことを念頭に置かれているのでしょうか。私は,現行法でも,会社が被告取締役側に訴訟参加することについては,否定的な見解を持っておりまして,多重代表訴訟において,株主である親会社にここにまで情報を提供する必要があるのか,親会社の子会社取締役側への訴訟参加まで念頭にあるのかということを,教えていただければと思います。 ○塚本関係官 「提訴請求がされたことを親会社に知らせるための仕組み」につきましては,先ほど来御意見もございましたように,例えば,親会社に対して提訴請求の請求を親会社株主にさせて,親会社が,子会社役員に対する代表訴訟を提起するということもあるとは思いますが,部会資料11の5ページにもございますとおり,正に,企業集団における子会社管理の在り方は様々でありまして,必ずしもそういった責任の取らせ方をするわけではないと思います。他方で,親会社株主が多重代表訴訟というアクションを採ることをきっかけに,親会社がそれを知ることによって何かアクションを採ることもあり得ると思いまして,必ずしも提訴請求あるいは提訴請求の請求という形ではなく,知るということでも足りるのではないかといった観点から,こういう書きぶりにしております。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。特になければ,多重代表訴訟に関する議論はこれぐらいにして,一旦休憩に入らせていただきたいと思います。           (休     憩) ○岩原部会長 それでは,そろそろ時間ですので審議を再開させていただきたいと思います。第1,「2 子会社に関する意思決定への親会社株主の関与等」について,事務当局から説明をしていただきたいと思います。 ○塚本関係官 それでは,「2 子会社に関する意思決定への親会社株主の関与等」について,御説明いたします。本文の前段は,親会社が重要な子会社の株式を譲渡しようとする場合に,親会社株主総会の承認を受けなければならないものとすることについて問うものでございます。当部会においては,親会社が子会社株式を譲渡しようとする場合には,事業譲渡に実質的に当たるものとして,親会社株主総会の承認を受けなければならない旨の明文の規定を設けるべきであるとの指摘がされております。もっとも,このような規律を設けると,その対象となる譲渡の範囲によっては,迅速な意思決定という企業集団による経営のメリットを損なうおそれがあるとの指摘がされております。そこで,親会社が重要な子会社の株式を譲渡しようとする場合に親会社株主総会の承認を受けなければならないものとすることの当否やその具体的な制度設計を検討する際には,このような指摘や法的安定性に配慮する必要があると思われます。   本文の後段は,仮に,親会社が重要な子会社の株式を譲渡しようとする場合に親会社株主総会の承認を受けなければならないものとするときには,その対象となる譲渡の範囲について,どのように考えるかを問うものでございます。まず,親会社が,重要な子会社の株式を譲渡することにより,当該株式の保有を通じた当該子会社の事業に対する支配を失う場合には,事業譲渡と実質的に異ならないと考えて,重要な子会社の株式の全部又は一部を譲渡することにより当該子会社が子会社でなくなる場合に,親会社株主総会の承認を必要とすることが考えられます。もっとも,譲り渡す子会社株式の帳簿価額が小さい場合にまで親会社株主総会の承認が必要であるとすることは,迅速な意思決定という企業集団による経営のメリットを害するおそれがあると考えられます。そこで,現行の事業譲渡の規律を踏まえ,譲り渡す子会社株式の帳簿価額にも着目して,親会社株主総会の承認の要否を決めるべきであると思われます。以上を踏まえ,例えば,子会社株式の全部又は一部を譲渡することにより当該子会社が子会社でなくなる場合であって,当該譲渡により譲り渡す子会社株式の帳簿価額が親会社の総資産額の5分の1を超えるときに,親会社株主総会の特別決議による承認を受けなければならないものとすることが考えられます。このように考える場合には,譲渡の前後における子会社株式の保有形態や企業集団内における譲渡か否か等の譲渡の態様を整理した上で,対象とすべき子会社の範囲や譲渡の範囲について,事業譲渡に関する現行法の規律との整合性や(注)の検討結果にも配慮しながら,更に具体的に検討する必要があると思われます。   なお,当部会においては,事業の重要な一部の譲渡について,株主総会の承認を不要とする基準である,総資産額の5分の1という要件を,機動的な企業の運営の観点から緩和すべきであるとの指摘もされております。この要件は,吸収分割等におけるいわゆる簡易組織再編と同様のものであるところ,簡易組織再編の要件については,平成17年改正前の商法の下では20分の1以下とされていたものが,会社法において5分の1以下に緩和されております。そこで,このような改正の経緯に鑑み,現時点においてこの要件を更に緩和することが適切か,検討する必要があると思われます。   以上に加え,親会社が重要な子会社の株式を譲渡しようとする場合に親会社株主総会の承認を受けなければならないものとするときには,反対株主に株式買取請求権を付与するものとすることが考えられます。   (注)は,子会社が組織再編を行う場合等の一定の意思決定をする場合に,親会社株主総会の承認を受けなければならないものとすることについて問うものでございます。子会社が組織再編を行う場合等の一定の意思決定をする場合に親会社株主総会の承認を受けなければならないものとすることは,親会社とは異なる法人の意思決定についての親会社株主の関与の在り方の問題であるため,慎重に検討する必要があると思われます。また,当部会においては,子会社が一定の意思決定をする場合に親会社株主総会の承認を受けなければならないものとすると,意思決定の迅速性を害し,経営の機動性を確保することはできないとの指摘もされております。そこで,これらの点を踏まえ,検討する必要があると思われます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,まず,本文の,親会社が重要な子会社の株式を譲渡する場合に親会社株主総会の承認を要するものとすることの当否及び承認を要するものとした場合における具体的な規律の在り方について,御議論をお願いいたします。この論点につきましても,部会資料11に示された具体案の当否やほかに考えられる具体案を御議論いただくとともに,このような案を踏まえながら,親会社が重要な子会社の株式を譲渡する場合に親会社株主総会の承認を要するものとすること自体の当否についても,御議論いただければと存じます。いかがでしょうか。 ○杉村委員 それでは,意見を申し上げさせていただきます。子会社株式の譲渡についてですけれども,まず,事業譲渡と同視し得るというような話がありますが,本当に同視し得るのかということは,改めて検討が必要であると考えております。と言いますのは,事業譲渡の場合は,その後の企業の収益にも大きく関わってくるような将来的な判断と考えることができますけれども,株式の譲渡であれば,資産の一形態の譲渡ということで,その場,その時点での判断と考えることができます。したがいまして,事業譲渡の場合は非常に厳格な手続を要しているという現行の考え方も,非常に合理的なのではないかと思います。   仮に事業譲渡と株式譲渡が同視し得るものであり,親会社による子会社株式の譲渡が事業の重要な一部の譲渡と実質的に異ならないという場合に限定をするのであれば,親会社株主総会の承認といったことも認める余地もあるかもしれないと考える所存です。しかし,その場合でありましても,部会資料11にも記載がありますように,企業集団におけます機動的な意思決定を阻害しないよう十分な配慮を求めたいと思います。   この点に関しまして,部会資料11にも記載されております,会社法第467条の事業譲渡に関する総資産基準5分の1の要件について申し上げれば,株主の想定を超えるような投資対象の変更というものは,5分の1という程度では,そう簡単には生じないという見方もございます。そこで,例えば,米国における基準であります事業の実質的な全てなども参考にいたしまして,事業譲渡の場合の基準自体を緩和するということも必要なのではないかと思います。そういった事業譲渡自体の緩和を前提といたしまして,この子会社株式の問題に関しましても,5分の1というふうに提案されておりますけれども,これの更なる緩和ということも考えていくべきではないかと思っている次第でございます。また併せまして,この基準は,親会社の単体の総資産をベースに検討されているようでございますけれども,これは,むしろ連結の総資産を基準に検討するほうが自然ではないかと考えているところでございます。   なお,(注)は,子会社の組織再編に親会社株主総会が関与するという提案でございますけれども,子会社の迅速な意思決定に多大な影響を及ぼすことでありますので,経済界の意見としましては,反対でございます。もし,子会社の意思決定が何かおかしい,親会社の議決権行使がおかしいということでありましたら,親会社の議決権行使自体を親会社に対して問うということで,十分に規律が働くのではないかと考える次第です。 ○野村幹事 まず,前半の部分の必要性に関してですが,確かに,単純な株式の譲渡について親会社株主総会が関わるということは想定しにくいという点は,杉村委員がおっしゃられたとおりだと思いますが,現行法のままですと,例えば,会社分割を行ってから,後で株式を譲渡しさえすれば,会社から事業・営業を切り離すことができるわけで,ややいびつな状況だと思います。と言いますのは,会社分割をするときに株主に説明しているのは,子会社化するということだけであるにもかかわらず,それで了解を取ったからといって,後は自由に処分してしまってもいいというのであれば,厳しい言い方をすれば脱法可能な状態になっていますので,これは,きちんと制度的に整えるべきではないかと思います。そういう観点からすれば,(注)のほうも,本来ならば,前段部分の子会社株式の譲渡についてこういう規律を設けるのであれば,理論的には全部同じものなので全部同じように規制すべきだということになるだろうと思います。しかし,そうなると,株主総会の開催頻度がかなり多くなってしまいますし,実際のところ子会社の管理運営に支障を来すという,経済界の御意見にも,ある程度耳を傾けなければならないと思います。   そこで,一つ提案なのですが,子会社の株主総会で親会社が議決権を行使するから承認されるわけですが,その際,子会社における議決権行使を行う親会社の代表取締役は,親会社の取締役会できちんとその点の了解を取ってから,子会社の株主総会に臨むのが筋だと思うわけです。ところが,現行会社法第362条第4項は,その承認の要否を「重要な業務執行」という柱書きの文言の解釈にかからしめているため,ほとんどの親会社では承認を取るんだろうなとは思いますが,取らないケースもあるやに聞いています。だとすれば,「重要な業務執行」という柱書きに任せるのではなく,それを受けた各号の中で,例えば,子会社における組織再編行為が行われるときの議決権行使については,取締役会の承認を得てから代表取締役が賛成票を投ずるように要求することも,検討に値するのではないでしょうか。そうすれば,賛成した他の取締役にも責任が及ぶことが明確になりますので,代表訴訟リスクを背負いながら慎重な判断をするといったメカニズムが機能しやすくなり,親会社株主の権利も一定程度強化されることになるのではないかと考えます。 ○逢見委員 この件については,第6回会議でも申し上げた点でございますが,子会社の株式譲渡が実質的に事業譲渡と同等というケースは,我々が経験する中でもかなりございます。従業員の視点から申しますと,子会社の株式譲渡というのは,自らが所属している企業グループから離脱するということを意味する,全部譲渡あるいは大部分を譲渡する場合にはですね。そういった場合には,今までの企業グループから離脱して,自分たちがやっている職場がどうなるのか,あるいはそこでの取引関係やその後の将来ということについて大きな不安も持つわけですから,これを,経営者の一存で株主総会の承認を経ずに決めるということではなくて,株主総会の承認を必要とすることというのは,法務大臣から当初諮問された,「会社を取り巻く幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保する」という観点とつながる部分があるのではないかと思っております。そういう意味では,子会社でなくなる場合ということに限定してもいいと思います。   もう一つ,帳簿価額の5分の1要件の緩和というのが出ておりますけれども,これについては,緩和する必要はないのではないかと思っております。 ○中原幹事 子会社株式を譲渡するときに,これが実質的に事業の譲渡と同様にみなせる場合があるではないかと,そのときに,親会社の株主総会の特別決議が必要だということ自体については,その根本にあるスピリットについては,僭越な申し上げ方ですが,共感を覚えないわけではありません。ただその一方で,今回の案のままですと,会社分割で特別決議を得て,子会社株式を譲渡するときに特別決議を得てということになって,事業再編のために,一体,何回株主総会を開催しなければならないのだろうかという疑問が湧いてまいります。次に,制度の仕組みの作り込みとして,これを果たしてうまく作り込めるかという問題もあろうかと思います。仮にこのような規律ができたときには,子会社において,譲渡先,提携先に,第三者割当増資をして,子会社の定義に該当しなくなった後に譲渡するというようなことも考えられるわけでございます。そして,こうした行為を常に脱法,濫用などというふうに評価すべきことなのかというと,必ずしもそうではないと思います。これらを総合して考えたときには,会社分割や株式移転がなされる際には,株主総会におきまして,ある一定の株式の譲渡については株主総会の決議を要しなさいといったように,本来であれば取締役会に帰属する権限を定款に留保するということは,会社法295条により可能であると思いますし,かつての商法においても230条ノ10という規定により可能であったと思いますが,株主総会の時点で,株主としては,一定の留保を定款に設けなかったという点において,子会社株式の譲渡については取締役の選解任というところで規律しますという見方をしているという考え方ができるのではないかと思っております。定款の中で,全ての子会社の株式というのではなくて,その状況に応じて特定の子会社株式の譲渡について定款で留保するというような在り方が考えられてよいのではないかと思います。 ○上村委員 これは,確認ですけれども,(注)のところですけれども,「子会社が組織再編を行う場合等」という,この「等」の中には,新株発行とか第三者割当てとか,こういうものも入っているのでしょうか。あるいは後で,これはまた議論されるのか。それにもよりますけれども,事前に親会社株主総会の承認が必要だという立場を採らないとしても,要件によっては親会社株主による差止めということはあり得ると思うんです。ですから,その辺は今議論すべきことなのかどうか教えていただきたいのですが。 ○塚本関係官 「組織再編を行う場合等」の「等」の中には,第三者割当増資も入り得るものとして記載しております。 ○上村委員 そうだとしますと,巨額の,大変大きな第三者割当てを子会社にやらせる,それに対して,親会社株主が差し止める機会は全くないというようなことは,実際にも三菱・UFJの件であったと思いますので,そちらの方法も選択肢として考える余地はあるのではないかと思います。 ○前田委員 まず,本文のほうにつきましては,親会社株主が受ける実質的な影響の大きさを考えますと,事業譲渡とパラレルな規律を設けるということに賛成です。   そして,5分の1基準を見直すべきかという問題提起もされていますけれども,20分の1から5分の1に劇的に緩和をしてから,その影響が十分に検証されていないことを考えますと,直ちにこれを見直すことについては,慎重に考えたほうがいいのではないかと感じております。   それから,より難しいのは(注)のほうの問題だと思います。(注)のような手当てが必要と思われる一番明確なケースは,先ほどの多重代表訴訟の場合とも共通するのですけれども,完全親子会社関係があって,しかも親会社は純粋持株会社であって,下に完全子会社が一つだけぶら下がっている,こういう場合が典型例だと思います。少なくともこんな場合に,完全子会社の事業譲渡ですとか組織再編も親会社取締役だけで決めてしまって,親会社株主が全く口出しできないというのは,不当ではないかと思います。御指摘にございますように,親会社株主の関与を認めますと,意思決定の迅速性ですとか経営の機動性を害するという問題はあるのですけれども,何の手当てもしないというわけにはいかないのではないでしょうか。ですから,親会社株主保護と意思決定の迅速性,経営の機動性等を調整して,今の典型的なケースを出発点にどこまで規律を広げるか,上村委員御指摘のように新株発行等まで含めるのか,いろいろ議論はあろうかと思いますけれども,差し当たり,重要な完全子会社の事業譲渡,組織再編については,親会社株主総会を要するという手当てをすることは,考えられるところではないかと思います。(注)につきましては,補足説明のところにございますように,異なる法人の意思決定に親会社株主を関与させることになり,こういうふうに聞きますと,一見,特異なルールのようにも見えますけれども,要するに,親会社が子会社の株主総会で議決権をどう行使するかの意思決定を,取締役でなくて株主総会で決定しなさいということでありまして,親会社の内部で意思決定権限の所在を取締役から株主総会に移すだけのことです。親会社の定款で書くこともできますけれども,余りに影響の大きな一定の事項については,定款自治に任せずに,法律で株主総会の権限にしてはどうかというものでありまして,そう特殊なルールではないと,私は理解しております。 ○藤田幹事 質問になってしまうんですけれども,一点確認させてください。提案の基本的な考え方は,事業譲渡と同視し得るような子会社の株式の譲渡というのは,総会決議を要求する,事業譲渡の場合と同じような要件にするという発想のようですが,要件の切り方は,譲渡される株式の帳簿価額の比率と株式の譲渡によって支配を失うことという二つです。この二つで今の事業譲渡との類似性と言いますか,パラレルの状況を確保しようとしているのですが,これだけですと,子会社の株式の一部を市場売却するような場合,例えば,大量に市場売却したり,子会社の株式をいろいろな人にばらばらに売ったりしても満たすことになります。これでいいのかどうかというのは,少し考えなくてはならない問題です。今のようなケース,例えば,市場で全部持っている株式を売却した―実際に子会社の株式を全部売却するなんてあり得るかどうかはともかく―場合というのは,親会社から見ると,むしろ事業部門の一部清算のような感じだと思うんですけれども,事業部門の一部清算は,仮に本体でやったとしても,別に現行法上,株主総会決議を要求されているわけではないのですね。だから,先ほどの要件で,本当に事業譲渡と同視すべき範囲をうまく確保できているのかどうか,少し気になったので質問させていただきました。そもそも,親会社株主から見たら,子会社株式をばらまこうが,一括して誰かにまとめて渡そうが影響は同じでしょうという議論はできるのですけれども,それを言い出すと,本体でやる事業譲渡の場合も,資産をばら売りしようが一括譲渡しようが同じはずなのに,後者だけが株主総会決議が要求されている,そもそも事業譲渡法制がおかしい―実際,私は,日本の法制は比較法的に見ても奇異だと思っていますが―という見方はあると思うんですけれども,それはそれでおくとすれば,パラレルになっているのかなという疑問です。もちろん,元々事業譲渡の要件の立て方がおかしいと,だから,おかしいものに律儀に付き合う義理はないんだという割り切りも,あり得るのですけれども,整理としてどういうふうにお考えなのか教えていただきたい。今言ったような疑問を突き詰めていくと,株式そのものを一括して譲り受けている人の存在というのが第三の要件になってくると思うんですが,それは,積極的に要求しないほうが実質としてもいいということで作られているでしょうか。 ○坂本幹事 今の御指摘の点ですけれども,部会資料11は,基本的には,今,藤田幹事から御指摘いただいたような点は意識せずに作成しております。そういう意味で,一部清算とパラレルに考えるとどうなんだという御指摘は,なるほどそういう御指摘はあり得ると受け止めている次第でございます。その上で,では,どこまで事業譲渡と合わせるのかというところの考え方はあろうかと思いますので,現時点で,事務当局といたしましても,それについて定見を持っているわけではございませんけれども,今の藤田幹事の御指摘につきましても御議論いただければと思っております。 ○濱口委員 事業譲渡と同じレベルで制限していくということは,そのとおりだと思います。後は技術的にどういうふうに平仄を合わせていくかが問題。会社分割で株式という形になっていることで,市場売却も可能なので,それをどう捉えるかということと,あと,帳簿価額というものも,株式ですから,上場されていればマーケットでいろいろ動くわけで,事業譲渡の場合と並列的に考えられるのか考えられないのか,会計上のテクニカルな問題も含めて変なことにならないように慎重に決めていく必要があるのではないかと思います。 ○安達委員 先ほどの前半の多重代表訴訟と全く同じように,この件に関して,私自身は反対という意思表示をしたいと思います。私が属しています日本ベンチャーキャピタル協会で法務委員会という小委員会を作っており,会社法見直しに関する議論を過去3か月間にわたり,会員各社と重ねた結果,意見書を出しましょうということになり,実は先週21日に,坂本幹事に直接お渡ししました。そこにも書いてありますが,先ほど言いましたとおり,M&Aを含む経済の活性化という観点から,手かせ足かせが増えるということに関しては,幾重にも慎重に御判断いただきたいというのが,私の意見でございます。   それともう一つ,会社法にとってのユーザーと言いますか,ユーザーという言葉は法的な言葉ではないかもしれませんが,ユーザーである会社そのもの,ユーザーの意見をもっと聴いていただいて,現場の問題点,課題等々を充分に反映した形の会社法の在り方が重要であると私は思っています。そういう意味で言うと,パブリック・コメントという制度がありますが,それでは時間的にも大分後半になるので,できればもっと手前で,ユーザーの意見をよく聴いていただくということが,会社法をより良いものにするためには絶対必要だと私は思っています。是非そういう機会を作っていただければと思っております。 ○野村幹事 先ほど藤田幹事のほうからもお話がありましたが,私は,基本的なコンセプトとして,前半部分の本文の部分には賛成していますが,要件の立て方については,まだ検討の余地があるだろうと思っております。と言いますのは,そもそも,なぜ事業譲渡について親会社株主総会の承認を取っているのかということ自体を突き詰めて考えていくと,考え方はもちろん分かれているわけですが,最高裁判所の判例の考え方からいけば,いわゆる有機的・組織的一体としての財産を譲渡することによって,その後,競業避止義務を負うものという考え方があるわけで,この考え方というのは,結局,その事業ができなくなるという点に着目しているわけなんです。競業避止義務を負ってしまうから,要するに今までやってきた事業ができなくなるという話で,そこに,株主に生ずるインパクトの大きさというのがあると考えているわけですね。譲渡してしまってから,実は譲渡したので今までどおりの事業は継続できなくなったから定款変更をお願いしますといって,その時点で初めて株主総会を開くとすれば,株主の側からは,だったら事業を譲渡する前に承認を取ってくれよという話になるわけで,そこに事業譲渡の承認を株主総会に諮る根拠があるという考え方なわけです。この立場からすれば,それと同様にインパクトが果たして子会社株式の譲渡の際に生ずるのかどうかということを考えてみる必要があるわけですよね。この点で,どうも,部会資料11は,そういった考え方というよりは,重要な財産が会社から無くなってしまうことによるインパクトのほうに着目しているように思われますので,伝統的な事業譲渡に関する議論とは必ずしも平仄が合っていないと思うわけです。私自身,承認を導入するという結論自体には賛成ですが,理論的にはこの点を詰めて議論していただければと思います。 ○神作幹事 事業の概念と,子会社の株式の譲渡との関係をどのように見るかという問題についてでございますけれども,私は,100%の株式であれば,事業とパラレルに扱うことができると思います。そして,保有している100%の子会社株式をそのまま全て譲渡する場合には,事業譲渡とパラレルに扱うべきであると思います。これに対し,子会社の株式を一部譲渡するにすぎないときに,事業譲渡とシチュエーションは同じかというと,相当違う問題なのではないかと考えます。現行法でも,100%子会社の株式の全部を譲渡する場合については事業譲渡に当たるという解釈があるところです。これに対し,事業の一部譲渡と子会社株式の一部譲渡とをパラレルに扱うことは適切でないと考えます。事業の一部の譲渡とは,私の理解では,事業目的の下に統合された有機的一体性を有する一まとまりの事業の一部を意味しているのではなく,当該一部の事業がそれ自体として事業という単位を構成する場合をいうと理解しております。そうだとすると,事業が証券化され株式に変わった場合にその一部の譲渡を法的に評価する場合に,事業の一部譲渡とパラレルに考えることはできないはずです。逆に,そこのところの考え方が,事業そのものを譲渡する場合の全部又は一部の立法論や解釈論と連動する必要はないということだと思います。   次に,本来,「2 子会社に関する意思決定への親会社株主の関与等」で論じているテーマは,親会社の株主にとって,子会社について重要な出来事がなされるときに,その意思を表明する機会が与えられなくて良いのかという問題意識から出発しています。したがって,事業譲渡の場合に限らず,本来であれば,親会社の株主に甚大な影響を与えるような子会社の行為全てが挙げられるべきでありまして,そこには子会社の新株発行等も含められるべきだと思うのですけれども,実際には,それが何であるのかを網羅的に特定して条文として具体化するのは非常に難しいと思います。ドイツにおいても,この問題は解釈論によって対応しており,例えば,事実上の定款変更すなわち会社の目的を事実上変更する行為であり,したがって親会社の株主総会決議を要するといった理屈で,解釈上対処しているところかと理解しております。仮に立法を行う場合には,そのような観点からの検討も必要ではないかと思っております。 ○岩原部会長 ほかにございますでしょうか。よろしいですか。   それでは,第2,「1 子会社少数株主の保護」のほうに移りたいと思います。まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ○内田関係官 それでは,「1 子会社少数株主の保護」について,御説明いたします。1の本文は,親子会社間の利益相反取引等によって子会社に損害が生じた場合に,親会社が子会社に対して損害賠償責任を負う旨の明文の規定を設けることについて問うものでございます。当部会においては,親会社が子会社やその少数株主の利益を犠牲にして自己の利益を図ろうとするおそれがあることから,子会社少数株主の保護のため,親会社の子会社に対する損害賠償責任に関して明文の規定を設けるべきであるとの指摘がされています。また,子会社少数株主の保護のための法的規律を充実させることは,子会社に対する合理的な投資インセンティブの確保という観点から意義を有するとの指摘もされています。これに対して,子会社少数株主の保護は,現行法の下における規律によって十分に図られているとの指摘や,親子会社関係の在り方は,企業によって多種多様であり,一律に論じることはできないとの指摘もされています。そこで,親会社の損害賠償責任に関する明文の規定を設けることの当否や,その具体的な内容を検討する際には,これらの指摘も踏まえ,企業集団における効率的な経営を不当に妨げることにならないよう配慮する必要があると思われます。   次に,(注1)は,仮に本文のような規定を設けることとする場合の制度設計について問うものでございます。本文のような規定を設けることに関しては,その当否自体について様々な御意見があるところかと存じますが,具体的な制度設計について御議論を頂くことは,そもそも明文の規定を設けるかどうかという本文の検討に際しても有用ではないかと考えております。   (注1)の①は,本文のような規定の適用対象となる親子会社間の利益相反の類型について問うものでございます。まず,親子会社間の利益相反取引は,本文のような規定の適用対象とすることが考えられます。また,親子会社間における事業機会の配分等の場面も適用対象に含めるため,親会社が子会社取締役と同様の義務・責任を負うなどの一般条項を設けるべきであるとの指摘もされています。もっとも,親子会社間における事業機会の配分等の在り方は極めて多様であることや,親会社は飽くまで株主であり,会社との利害対立状況において自己の利益を図るべきでない取締役とは異なることからすると,そのような一般条項を設けることは適切でないようにも思われます。   (注1)の②は,親会社の責任の要件について問うものでございます。この点については,条文の文言の検討に入る前に,まず,どのような場合に親会社の責任が生ずることとすべきかを整理しておく必要があると思われます。部会資料11の9ページ一番下の段落では,親会社の責任の有無を決するための基準として,二つの例を挙げておりますが,このうち(a)は,取引が全く行われなかったと仮定した場合と比較して子会社にとって不利益であるような場合に親会社が責任を負うものとする基準です。例えば,子会社が親会社のために製品を製造し,その原価を下回る不当に低い金額で親会社に販売することにより,子会社に損失が生ずる場合など,親会社との取引によって子会社に積極的な損害が生ずる場合を想定したものです。また,(b)は,いわゆる独立当事者間取引基準,すなわち,取引が独立当事者間であれば合意されたであろう条件によって行われたということまで仮定した場合と比較して,子会社にとって不利益かどうかという基準です。(a)及び(b)は親会社の責任の有無を決するための基準の例であり,ほかにも多様な基準が考えられるところかと存じますが,これらを含め,本文のような規定を設ける場合に,親会社の責任の有無をどのような基準によって画すべきか,御議論を頂ければと存じます。この点について,当部会においては,(b)の独立当事者間取引基準によるべきであるとの指摘がされている一方,これを形式的・厳格に適用することは,経済効率性を害するおそれもあるとの指摘もされているため,この点にも配慮する必要があると思われます。以上を踏まえ,親会社の責任が生ずるための具体的な要件については,例えば,「不公正な利益相反取引によって子会社に損害が生じた場合」とする旨規定することなどが,一案として考えられます。また,企業集団における経営に過度の萎縮効果を与えることにならないよう,取引の不公正が著しい場合に限って親会社の責任が生ずるものとすることも考えられます。これらを含め,本文のような規定に基づく親会社の責任が生ずることとすべき場合を適切に捉えるための具体的な規定方法について,検討する必要があるものと存じます。   (注1)の③は,親会社の責任の要件に関する証明責任の在り方について問うものでございます。子会社における損害の発生については,親会社の責任を追及する者が証明責任を負うものとすることが考えられますが,当部会における指摘を踏まえると,取引の公正さについては,親会社が証明責任を負うものとすることが考えられます。この場合には,親会社に過度の負担を課すこととならないよう,例えば,部会資料11の10ページ後段のアやイのような手続が履践される場合に証明責任が転換され,親会社の責任を追及する者が,取引が不公正であることの証明責任を負うものとする仕組みを設けることも考えられます。他方で,子会社における損害の有無と取引の公正さは,実際上,重複する場合が多いと考えられるため,取引の公正さについても,親会社の責任を追及する者が証明責任を負うものとした上で,事実上の推定などの柔軟な取扱いに委ねることも考えられます。取締役と会社との利益相反取引について,取締役の責任を追及する者が会社の損害に関する一応の証拠を提出すれば,取締役が取引条件の公正さを証明する責任を負担するという考え方に立った裁判例があるとの指摘もされており,この点も踏まえて検討する必要があるものと存じます。   (注1)の④は,本文のような規定に基づいて責任を負う者の範囲について問うものでございます。この点については,株主総会における議決権を背景とした会社に対する影響力を定型的に有し得ると考えられる者として,親会社をその適用対象とすることが考えられるほか,それと同等の影響力を有し得ると考えられる自然人も適用対象に含めることについて,検討する必要があるものと存じます。   続いて,(注2)は,本文のような規定による子会社少数株主の保護の実効性を確保するための仕組みについて問うものでございます。まず,親会社との利益相反取引によって子会社に損害が生ずるような場合には,本文のような規定に基づいて親会社の責任が生ずるとしても,子会社が当該責任を追及しないおそれもあるとの指摘がされています。そこで,子会社少数株主が子会社に代わって親会社の責任を追及することを認めることについて,検討する必要があるものと存じます。また,本文のような規定に基づく親会社の責任は,子会社の総株主の同意がなければ免除することができないものとすることが考えられます。   次に,当部会においては,親子会社間の利益相反取引につき,監査役の意見の開示を通じて,子会社少数株主への情報開示の充実を図るべきであるとの指摘がされています。これを踏まえ,例えば,個別注記表等に表示された親会社等との取引に関する監査役の意見を監査報告の記載事項とすることなどについて,検討の余地があるものと存じます。   (注3)は,企業結合の形成時において,少数株主に適正な対価による退出の機会を与える制度を創設することについて問うものでございます。具体的な制度設計については,少数株主に株式買取請求権を付与するという部会資料11記載の案のほかにも,様々な案があり得るところかと存じますが,このような制度を創設する場合には,企業価値を高める企業結合の形成がされにくくなるおそれもあるとの指摘がされています。企業結合関係の継続中における少数株主の保護の在り方も踏まえ,現時点おいてこのような制度を創設することが適切といえるか,検討する必要があるものと存じます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,まず,本文の,親会社が子会社に対して損害賠償責任を負う旨の規定を設けることの当否及び仮にそのような規定を設ける場合における具体的な制度設計の在り方のうち,(注1)の「① 適用対象となる利益相反の類型」について,御議論を頂きたいと思います。②以下は,その後で御議論いただきたいと思いますので,まず,(注1)の①のところまで御議論いただきたいと思います。いかがでしょうか。 ○静委員 まず①までということですので,そこまでお話をさせていただきたいと思いますけれども,上場している子会社というのを想定しまして,それに投資している投資家の立場ということで考えてみたいと思います。上場子会社というのは,当然,企業グループの一員として,親会社からある意味多くのメリットを得られると投資家は思っておりますし,その反面で,親会社がいることによって一定の制約を受けることも投資判断に織り込んで子会社株を買っているというのが現実だと思います。そう申し上げるときの,「親会社がいることによる制約」という中には,部会資料11にも書いてあるように,親会社は,飽くまで自己の利益のために株主としての権利を行使するということも,当然入っていると思います。しかしながら,親会社が子会社の少数株主の利益を不当に犠牲にして自己の利益を図るということによる制約までは,恐らく織り込んでいないということだと思いますし,織り込まれるべきでもないと思います。したがいまして,親会社による権利の濫用を防ぐという範囲で,何らかの少数株主の保護策が必要だと私は思います。そういう意味で申し上げますと,親会社の権利濫用を防止する必要性という点について言えば,①の適用対象となる類型という意味で言えば,利益相反の取引も,事業機会の配分の取引につきましても,変わることはないのではないかと思います。 ○杉村委員 本文にあります,親会社が子会社に対して損害賠償を負うという旨の規定を設けることにつきましては,経済活動に多大な影響を及ぼしてしまうという観点から,反対であります。以下,何点か申し上げたいと思います。   まず,1点目は,親会社,子会社は別の法人でありますので,それを前提とした対処をすべきであるということでございます。子会社の側で損害が生ずるような取引があるということであれば,子会社の少数株主は,その子会社の取締役の責任を追及することで規律を図るべきであって,それ以上の手当てというのは不要であると考えております。   2点目が大きな点でありますけれども,実態論としましては,部会資料11にも書いていただいておりますとおり,そもそも親子会社と言いましても,その関係性は正に多種多様でありまして,それを一くくりにして規律を論じるというのは,なかなか無理があるのではないかと思います。親会社と子会社の関係は,資本の論理で一方的に支配・従属して,親会社が子会社に対して一方的に言うことを聞かせているというようなケースばかりだと割り切ることはできません。それぞれ企業グループによりましても違いますし,また,企業グループの中におきましても,子会社ごとにその位置付けが変わっており,多様性がありますし,また可変的でもあるわけでございます。   このような規定を設けた場合の具体的な弊害という形で申し上げますと,企業集団内で頻繁に行われております取引実務に甚大な影響を与えるということが挙げられます。①の要件で,利益相反のことが記載されておりますが,取引である以上,利益の相反というのは当然あろうかと思います。グループ企業の中で,親会社と子会社というのは,日常的にごく普通に取引をしているわけでありまして,そういう点から言いますと,親子会社間では毎日何らかの形で利益相反が起こっているということにもなりかねない話であります。企業集団の中では,一件一件の取引を取り出して,利益が相反しているのかということを考えているわけでは必ずしもありません。むしろ,中期的な利益であるとか,集団としての利益の最大化であるとか,もうちょっと大くくりにいろいろなものを評価して,経営判断をしているわけであります。ここに記載があるようなイメージで,個別の一件一件の取引に関して,利益相反の法的リスクあるいは訴訟にさらされるリスクといったものを気にして経営するということになりますと,経営が立ち行かなくなってしまう懸念もございます。そういう意味で,こういった制度を設けることは,企業の組織選択にも多大な影響を及ぼすということから,反対をさせていただきたいと思います。 ○中東幹事 私自身は,これは,法規制をすべきだという立場でございます。今,杉村委員がおっしゃった中で,経済活動について悪影響があるということ,これは気にしないといけない,おっしゃるとおりだと思いますが,経営法友会がお出しになっている意見を拝読いたしましても,親子会社間の個別の取引は,税法の規定により独立当事者間取引で既に行われているということでございますので,今やっていただいているとおり,そのままやっていただければいいだけの話で,何ら規制のコストはないのではないでしょうか。むしろ,きちんとやっていないところはきちんとやることになるだけで,全然問題はないことだと思っています。   ただ,親子の間の直接又は間接の取引については,そういう形でやっていらっしゃるのが現状ですし,それでいいと思いますが,事業機会の配分は,高度に経営判断事項であるということは,私もそう思いますので,そちらについても厳しい規制が掛かるのは,避けたほうがよいのではないかと思っております。余り細かく言うと次の責任要件に掛かってしまうことですが,不利益指図等,よほど悪いものだけ捕まえれば十分であって,それに至らない事業機会の配分については,グループ全体のことを考えてやっていただければよいのではないかと考えております。ただ,いずれにしましても,一定の規制は必要であると考えております。 ○朝倉幹事 質問の類いですけれども,部会資料11にも書いてあるんですが,先ほどから話が出ています立法事実の話でございます。現行法の下で何か大きな問題が起きていて,こういう問題についてはこういう理由で対処しなければいけないのだというところが,私はまだイメージがつかめておりませんで,イメージがつかめていないものですから,この後,②以下で議論するところのあたりも,どういう要件を立てていくとそれが捕捉できて,そうすると,そうでないものは除外されるようになるのかといったあたりについて,この先,議論に参加するためにも,是非そこを教えていただきたいと思います。 ○坂本幹事 立法事実があるのかということでございますけれども,これは,後で御議論いただく②の責任の要件とも関わってくる問題かと思っております。正にどこまでどう捉えようとするのかというところがまず一つあって,では,それを,今ある規定の中でうまく拾えているのかということがあろうかと思います。裁判所のほうでも,本当にひどいなという事例については,今ある規定を使っていろいろ工夫されていると思っておりますけれども,逆に,解釈ではどうしても限界というのも生じますし,また,解釈ということになってくると,法的安定性あるいは予測可能性ということが問題になり得ると思われます。そこで,現行法の解釈でいろいろ工夫されている,あるいは工夫ではどうしても手が届かないというようなところを立法によって手当てしていくということ,もちろん必ずしもそれだけにとどまらないとは思いますけれども,そういう点も含めて,立法による対応の要否やその範囲を御検討いただくということになろうかと思います。 ○岩原部会長 そのような意味で,「② 責任の要件」の問題も含めて御議論していただいたほうがよろしいかと思いますが,何か御指摘等ございますでしょうか。 ○田中幹事 立法事実については,恐らく,メンバーそれぞれに意見を持っているのではないかと思いますので,各メンバーの意見をお聴きになったほうがいいかと思います。私がというか,学会でこういう質問が出されたときに,恐らくよく出てくる議論としては,現行法でも,親会社に対して非常に不利な条件で取引をすると,子会社の取締役の責任が発生するわけで,現行法でも,子会社少数株主は,子会社の取締役その他の役員の責任を追及できるわけです。それだけで不十分だと考える理由は二つか三つあって,一つは,まず,資力が子会社取締役にないという場合には十分な救済にならないと。これは,親会社には十分な資力があるというケースが前提になっているわけですけれども,そういうこともあるであろうということです。それから,2番目は,裁判官の方はそんなことはないとおっしゃるかもしれませんが,1番目の点と関連して,子会社の取締役には資力がないし,しかも,子会社の取締役は,自分で子会社と取引をして利益を得た場合には裁判所も責任を認めることをためらわないかもしれないですけれども,子会社の取締役自身は,親会社の言いなりになっているだけで,自分では利益を得ていないので,この場合,裁判所は,子会社取締役の責任を認めることはためらうかもしれない。この二つが大きな理由で,現在,子会社の役員の責任を問うだけでは防がれていなかったような親会社との間の不公正な取引が,親会社に直接責任を認めることによって防げるかもしれないとか,そういうことが理由だと思います。それから,三つあるかもしれないと言った3番目は,現在,親会社の責任を問う訴訟はもちろん,親会社と不公正な取引をしたことによって子会社の取締役の責任を問う訴訟も,余りないと言いますか,公刊判例と実際に出ている判決は違うかもしれませんが,余りないように見えるわけです。それは,何の問題も起きていないということならいいんですけれども,実際には,子会社の少数株主は,親会社との間でどんな取引がなされているか分からないので,子会社の経営が悪くなっても,それは運が悪かったんだと言われると,どうすることもできないで終わっているというケースもあるのではないか,それは,情報の開示が十分でないのでそうなっているのではないか。そういう三つぐらいの理由がある。なぜ学者がこういう制度の導入に比較的積極的かというと,親会社の責任を認めている他国の法制度を調べてみると,結構提訴されるというか,それはもちろん,上場会社は次から次へと訴えられるということはないんだけれども,会社法の一大論点になるぐらいには,判例は出ているわけです。ですから,本当は潜在的には訴えたかった人も実はいるのではないかということがあります。これは,なかなか難しいところで,現在訴えがないから何も問題がないというふうには断言はできないというところが,難しい問題ではないかと思っております。 ○野村幹事 この問題を考えるときに,この責任は何のために認めようとしているのかというコンセプトをもう少し確定させたほうがいいのかなと思います。と言いますのは,部会資料11からいきますと,アームズレングス,すなわち独立当事者間取引基準ではなくて,やらなければよかったのに,という取引をしてしまったという点に着目しているわけですが,そういう点で考えますと,別に親子会社だけでそういうことが起こるのではなくて,例えば,取引先との間の取引を優位に進めようと思って,やらなくてもいいような取引を一生懸命貢いでやっていますというようなことも,論理的には同じような問題をはらんでいることになります。にもかかわらず,なぜ親子会社についてだけこういった規制を及ぼしていくのかということを考えなければいけないということになると思います。   考え方は二つあると思うんですが,一つは,親会社,子会社のほうでいきますと支配株主ですね,その支配株主と少数派株主との間の利害対立というのをどう調整するか,これは,諸外国でもよくある論点で,いわゆるエンタイア・フェアネスという考え方ですよね。後から出てきますけれども,部会資料11の10ページのア,イで証明責任を転換するというのは,正にアメリカ法におけるエンタイア・フェアネスの考え方そのものですから,部会資料11のコンセプトとしては,それに近いものを想定しておられるのだろうと思うんです。しかし,我が国の伝統的な問題意識はもう一つあって,親会社というのは実質上子会社の取締役を支配していて,子会社の経営というのは,実際親が決めて親がやっているんだと,その親のやった行為について不公正な行為があった場合について,一種経営責任というような観点から責任追及していくべきではないかというような議論が他方であったと思うんです。こうした発想は,昔で言えば266条ノ3,現行法で言えば429条を類推適用できるかどうかという議論の中に現れていました。制度が欠けているから仕方なくこうした議論をしていたという側面もあると思いますが,こうした議論の仕方をする場合には,親会社のほうに非難されるべき行為があって,その行為に対して一定程度の制裁を加えるべきではないかという議論につながりやすかったと思うわけです。こういう観点から突き進めていくと,親会社のどういう行為を責任対象にしていくのかという議論が必要になり,おのずと要件の立て方が違ってくるような感じがします。ですから,どちらかというと,部会資料11は,前者のほうのアメリカ法の制度設計に近く,支配株主と少数派株主との間に生ずる構造的な問題を捉えて,そこにエンタイア・フェアネスを実現しようという発想で議論が進んでいると思いますが,そういう考え方が我が国において本当に必要なのか,むしろ,親会社の不当な行為によって子会社の利益が略奪されているような場合に限って,親会社に責任を負わせれば足りるような気もします。この考え方であれば,親会社の命令ではなく,子会社の判断で親会社に貢いでいるようなケースが適用除外となるかと思われますので,立法事実を踏まえつつ,慎重に検討していただければと思います。 ○三原幹事 2点ほどお伝えしたいと思います。(注1)の①において,利益相反の類型として,具体的に9ページの(1)の4行目にある,親子会社間の直接・間接の利益相反取引ということで,具体的にどういうことを考えているのかお尋ねします。例えば,親子会社間で子会社が貸主になって親にお金を貸しますと,最後は焦げ付きでお金が返ってこなかったとか,その派生でキャッシュプーリングシステムというのがあって,キャッシュマネジメントを親子間でぐるぐる回していて間に銀行が絡むという場合,キャッシュフローは親が握ってしまって返ってこないなど,そのような事例を典型的に考えて直接相対で問題になる,という場合を考えているのではないかと思います。問題としてお伺いしたい点,つまりこれは問題ではないかと思っているのはその次に出てくる記載でありまして,親子会社間における事業機会の配分等の場面での問題ということになります。例えば,子会社育成のような観点で,わざと子会社に新たな事業機会を提供するように親のほうで行って子会社事業を育成するとか,あるいは,地域間の分割をして東日本と西日本で分けるとか,事業の川上と川下で分けて,こちらの部分はこの子会社で,違うところは別の子会社でなどと,そういうグループ経営を,よくバリューチェーンといっていることも市場ではあるようです。そういった一体的なグループ経営をするような場合,その場合にも,一部の面では利益相反があるのかもしれません。しかし,そういうところまで捉まえていくと,実態的なダイナミックな経営とか事業運営というのは,相当制約されるのではないかというおそれがあるということが一つです。具体的に,この事業機会の配分等の場面という類型は,本当はどのようなことをお考えなのでしょうか。もしかしたら,立法事実としてどういう弊害があったのか,それをどういう形で対応していくのかということでもあるかもしれませんし,野村幹事がおっしゃった,これについては,どういうコンセプトを諸外国から借りてきて,日本でこれを定義していくのかという議論なのかもしれませんが,これについて余り広げ過ぎることについては,影響が大き過ぎるのではないかと思っています。例えば,一つ別の例を挙げますと,親子会社間では,グループ経営指導料などを収受しているということがあって,なぜかというと,親会社が完全持株会社の場合には,税前利益で収益はないですから,グループ間での企業経営の経営指導料という形で収益を上げているということがあると思います。子会社からの配当は,全部親会社の株主に配当として回っているとしても,そういう形が税務上も通常認められています。これも,経営指導料などは利益相反だという話になってしまうのか,そういうことをやり出すと,影響はかなり大きいのですが,どういうことをお考えなのかもう少し具体的に詰めていただきたいというのが一つです。   二つ目は,少し毛色が変わる話なのですが,部会資料11の9ページにあるいろいろな場面を見ていますと,これが仮に法律になった場合には,類型の定性的なものだけが法律に入って,個別具体的なものが省令に委任されて,その省令の中で具体的なものが個別列挙されるのではないかという感じを若干抱くわけでございまして,もしかしたらそれは勘ぐり過ぎ,あるいは間違っているのかもしれません。しかし,そうであるとしたら,300か所もある省令委任の問題は,元々会社法にとっても非常に大きな点でございますけれども,今回も,この類型が事業経営にいろいろな影響を与えることについて,省令委任されるとなると,大変大きな影響があるのでないかと思います。ここは,もし法律を創るのであれば,きちんと法律レベルで定めていただいて,一義的に明確なものを定めていただきたいということです。   それから,最後ですが,これは,当たり前のことですけれども,少数株主がいるという前提なので,完全子会社の場合は,ここでの議論には入っていないという理解でございますが,そういうことで当然でございますねという確認です。 ○坂本幹事 3点御質問があったかと思いますが,まず,具体的にどういうものを想定しているのかということでございますけれども,直接取引,間接取引といった利益相反取引につきましては,あえて御説明するまでもないのかなと思っております。後者の事業機会の配分等の問題ということでございますけれども,正に御指摘いただいたとおり,そこを制約し過ぎると,グループ経営を阻害してしまうのではないかというところもございまして,部会資料11では,そこまで適用対象に含めてしまうのは余り適切ではないのではないかという形で挙げさせていただいております。逆に,具体的にこういうケースはやはり適用対象にすべきであるというものがあれば,そこは御指摘いただければと思っております。   2点目は,省令委任があるのかどうかということですけれども,これは,要件が決まっていない現段階でそこまで具体的に事務当局内で議論しているわけではありませんけれども,基本的に,損害賠償についての実体法の規定ということになってきますので,省令委任というのはなかなか難しいだろうと思っております。具体的にどういう類型のものを捉えるべきかについても,御指摘いただければと思っておりますが,それをいざ要件として仕組んでいくときに,親子会社関係の在り方は企業によって多種多様であるという御指摘がある中で,適用対象として捉えるべき類型をうまく捉えていくことができるのかというところもあろうかと思いますので,部会資料11では,今のところ抽象的な要件という形で挙げさせていただいております。   3番目の確認ということでしたけれども,この「1 子会社少数株主の保護」で取り扱っておりますのは,少数株主の保護ということでございますので,完全子会社は,取りあえずここでは想定しておりません。 ○岩原部会長 部会資料11で提案されているようなことを立法化すると,現行法とどう違ってくるのか。現行法上も多分,子会社に対して不利益を与えるような契約を,親会社が言わば仕向けたというか,親会社の力の下でそういう契約が結ばれた場合は,不法行為なりの形で責任を負う場合はあり得るのではないかと思いますけれども,そういう場合と比較して,過失の要件をなくした責任規定を作るということが,部会資料11で提案されていることなのでしょうか。利益相反とか一定の要件を満たした場合には,民法709条の下で必要な過失等がなくても責任を負うという規定にするのか。具体的にどういうことを考えた規定をお考えになって,こういう提案をされているのですか。 ○坂本幹事 基本的に,不法行為でも捉えられるものがあるということは,正に,今,岩原部会長から御指摘いただいたとおりだと思います。その上で,親会社と子会社の間の,定型的・類型的に利益相反のおそれがあるという関係から,それにふさわしい損害賠償責任の規定を考えていくというのが,ここでの議論のポイントかと思っております。その上で,これは,不法行為責任の特則ということになるのか,特殊な法定責任的なことを考えるのか,そのあたりの整理については,いろいろと議論があり得るところかと思っている次第でございます。 ○岩原部会長 これは,非常に難しい問題だと思っていまして,先ほど御指摘がありましたように,取引なかりせば基準なのか,それとも独立当事者基準なのか,そもそも不法行為責任の下でもはっきりしていない状態だと思います。それと比較して,どういう点で変わった,現行法と違った,あるいはそれを明確化する規定になるのかもしれませんけれども,責任を創ろうとしているのかというのが一つ問題ではないか。現行法から何を変えるのかというところを明確にする必要があるのではないかということが,何人かの方からの御指摘にあったところではないかと思います。   あともう一つ,少数株主の保護の問題がない100%の場合は含まないという御議論がありましたけれども,一方で,この後で出てくる子会社債権者の保護の問題との関係を考えますと,それを本当に最初から無視していいのかという問題もあると思いますので,そこは,留保が必要ではないでしょうか。実際,100%子会社を食い物にしたと見られる事件,例えば,最近の最高裁平成22年1月29日判決の事件などを見ますと,かなりひどい事件です。経営顧問料という名目で,実際ほとんど何もやっていなくても定額のお金を常に親会社のほうに支払う契約を子会社に締結させ,親会社の別の子会社から利息制限法違反の高利で当該子会社に貸付けを行わせて,それを当該子会社従業員から代表取締役にさせた者に保証させ,当該子会社代表取締役の保証責任を追及することによって,利益を全て親会社に吸収しようとしたという事件でして,最高裁は,当該子会社代表取締役の保証責任を否定する判決を出したわけであります。多分,そのような事件であれば,子会社債権者保護の観点からは,親会社の行為は不法行為になり得るのではないかという気がするのですけれども,そういうような場合と比較して,こういう立法提案をすることによって,親会社の責任要件をより明確にして,こういうことは許されないんだ,こういうときは,子会社を保護するためのこういう規定を具体的に考えるんだということを,もう少し分かりやすく御提案いただいたほうが,御議論がしやすくなるのかなという感想を持ちました。 ○内田関係官 今の岩原部会長の御指摘を踏まえまして,1点,部会資料11の御説明ということで補足を申し上げますと,まず,現行法で足りないのかどうかという点について御議論いただくべきであろうという認識は,事務当局としても持っており,部会資料11でも,現行法で十分だという御指摘を御紹介している次第です。不法行為責任で対応することについては,親会社のどのような行為を捉えればいいのかという点も問題になり得るかもしれませんし,岩原部会長がおっしゃった故意・過失の要件との関係でも,難しい面があるといった見方もあり得るところかと思います。   それから,どのような基準でどのような取引まで捉えるのかという点は,親会社の責任の要件にも関連する部分でございますけれども,正にここは,第一読会の議論の際にも,独立当事者間取引基準も含めていろいろな御指摘を頂いた部分だと思っておりまして,どこまでを拾う規律を設ける必要があるのかといったあたりをこの場で御議論いただければ,非常に議論が深まるのかなと考えております。 ○坂本幹事 1点補足ですけれども,今,岩原部会長のほうから,完全子会社に限るかどうかというところでございますが,部会資料11の「1 子会社少数株主の保護」では,少数株主の保護を取り扱っておりますので,取りあえず完全子会社は想定していないというお答えをしましたけれども,御指摘のとおり,仮に実際にこういう規定を考えていく際には,別途,子会社債権者の保護という観点から,完全子会社を除外してよいのかどうかという問題も出てくることがあり得ると考えております。 ○三原幹事 そうしますと,完全子会社の場合も利益相反の問題を考えるというようなニュアンスでしょうか。伝統的には完全親子会社の場合には利益相反はないものと思っていました。つまり,親子会社100%なら一体ではないかという議論があったので,それを踏まえて,部会資料11では,少数株主がいる場合だけを想定しているということで,私は先ほどの3点目をお聞きしたのですが,そうではないということでしょうか。つまり,完全親子会社であって一体であっても,利益相反のある場合はあり得るということを含めて部会資料11を読むべきだということになるわけですか。 ○坂本幹事 基本的には,今御指摘いただいたところがありますので,「1 子会社少数株主の保護」では,完全子会社は取りあえず想定していません。ただ,子会社債権者の保護という別の観点からも考えると,具体的な適用対象の在り方次第によっては,いろいろな議論が出てき得るということでございます。 ○上村委員 確かに,不法行為でもいけるということは,あり得るだろうと思いますし,これについては,いろいろな理論構成はあり得るだろうと思うんですけれども,やはり,親会社の子会社少数株主に対する責任という基本問題は,会社法としてきちんとした立場を明らかにすべきであって,民法理論に頼るというのは,どうかなと思います。例えば,一般条項については,事業機会の配分等の問題についてはどうかと,私も思います。ですから,子会社の取締役と同等の義務・責任を負うなどの一般条項は適切ではないというのは,それでよろしいと思います。しかし,支配株主ないしは親会社が少数株主に対して誠実義務なり忠実義務を負うとか,そういう書き方は可能だし,現にそういう概念が前提になっているところもあるわけです。責任関係の基礎を,一般的・抽象的に明らかにしておくことはあり得るし必要ではないかと思います。例えば,ここでやっているような議論がうまくいけばそれでいいんですけれども,そうでない場合に備えて,後は,裁判所の判例法理が豊かなものになることを期待して,先ほど申したような一般条項を残しておくというのも,一つの選択肢だと思います。私は,不法行為とか民法理論に委ねるというような問題ではないのではないかと思います。 ○朝倉幹事 先ほど立法事実を質問した人間としては,実は,いまだによく分かっていないところでございます。先ほど田中幹事からの御説明は,非常に明確だったんですが,そこで私が分かったのは,子会社取締役の資力が問題のときに問題はあり得るけれども,現実問題として起きていることが多くはなくて,外国ではあるかもと,日本でも潜在的にあるかもというところです。しかし,現状の法の下でほとんど解決されているにもかかわらず,それでは解決できない問題がどういう場面にあって,それは,先ほど上村委員がおっしゃったように,単に概念の整理の問題なのか,それとも,実質的に何か救済すべきものがあって,それは,どういうものを捉えているのかというあたりが,実は私,まだ分からないところでございます。この点については,何をしようとしているのかということが分からないと,裁判所にお任せになられても,私どもとしては,判例を豊かにするのは,何のための立法なのかという立法趣旨が分かりませんとできないと思います。ですから,その点については,是非ここできちんと議論していただいて,共通認識の下で要件論を議論すべきだと思います。   あと,私の理解が間違っているかもしれないので教えていただきたいのですが,部会資料11の9ページの書き方だと,「親子会社間の(直接又は間接の)利益相反取引は」と書いてある。初めから,「利益相反取引は」という評価が入っているんですが,これは,親子会社間の直接取引というのは,基本的に利益相反であると,こういう理解だからこそ,これは,一体化して書かれているというふうに理解していいんでしょうか。そうだとすると,先ほどの杉村委員がおっしゃったように,毎日ほとんどの取引が基本的に違法だという前提で,違法性阻却事由みたいなことを言わない限りは違法だというふうになってくるのですけれども,そういう理解で世の中のグループ間取引を見ていくのかどうかというあたりについては,それでいいのかというのがよく分からないのです。何でそうかというと,グループ間で複数の取引が行われているというときに,先ほどもちょっとありましたけれども,単体で採り上げるとそれは利益相反のように見えても,トータルで見れば双方とも利益が上がっているとか,若しくはグループに所属していることで有形無形の利益があって,そうすると,独立当事者取引基準というと,有形無形のメリットをどのように考慮していくのかとか,グループ会社の中でも,単に親と子がいるだけではなくて,先ほど岩原部会長がおっしゃったように,違う会社を介して何かしたりとかということもあるのです。部会資料11の10ページで「不公正な(利益相反)取引によって」ということが,一つの具体的な要件として提案されているのですが,これだけだと,そもそも目的が分からないこともあるのかもしれませんが,どのような場合にこれに当たるのか,グループ企業間の健全な取引というのを解釈上除外できるのかというところについて,今一つまだ分からないという感じがいたします。 ○内田関係官 実質的な内容については,御指摘を踏まえてこの場で御議論いただければと思いますけれども,利益相反取引という言葉は,いわゆる取締役との間の利益相反取引という場合と同じような概念を示すものとして用いております。その意味では,直接の取引は,それが違法ということになるどうかは別として,基本的に利益が相反するということにはなろうかと思います。加えて,取締役との間の利益相反取引には,間接取引,例えば,会社が取締役の債務を保証したというような場合も含まれるものとされています。そういったものも含めて,現行法にいう取締役との間の利益相反取引と同様の概念を示すものとして,利益相反取引という言葉を使わせていただいております。 ○田中幹事 先ほど来の不法行為責任とどこが違うかというのは,基本的には,現行法の下では,支配株主はその地位において,会社に対して特に義務を負っているわけではないという,会社法の規定を普通に解釈するとそうなると思いますが,そういう法制の下では,親会社に不法行為責任を問うというのは,子会社の取締役に義務違反があって,その義務違反の教唆・幇助ということによって初めて認められるということになるから,具体的に教唆みたいな行為がなされていないといけないのではないか,そういうことになるのではないか。しかし,支配株主であれば,具体的に教唆とかということがなくても,現実に,子会社の間で,市場での同種の取引の条件よりも不利な取引が行われている場合には,親会社の支配的な影響力の下でそれは行われているだろうと,言わば擬制して親会社に責任を認めていくということではないかと思っています。   私自身は,こういう支配株主に対する法規制をある程度導入してもいいと思っているんですが,そこで考えているルールは,少なくとも親子会社間での直接の取引がある場合に,その直接の取引が非通例的な,すなわち,市場における同種の条件よりも不利なものであって,それによって子会社に損害が与えられたときには,親会社に責任が発生して,子会社の少数派株主は代表訴訟でその責任を追及できるというものです。そういう規制をしても,私は日本の上場会社を信頼しているので,それほど,上場子会社で搾取されるような取引がされていて,親会社が次から次へと責任が認められることはないのではないか。ただ,そういったことが全くないかと言えば,やはりそうでないわけで,先ほど岩原部会長が言われたケースは,上場子会社ではないかもしれませんが,上場子会社でも,例えば春日電機事件のように,上場会社を乗っ取ってしまってから非常に不公正な取引で子会社の利益を吸い上げたようなケースがありまして,ああいうケースでも,現行法ですと,これを少数派株主が親会社を訴えようと思っても,なかなか根拠規定がないということがあります。これが,外国の投資家から見たときに,日本は,子会社少数派株主の利益の保護をするための分かりやすい制度がないという形で,ある種の信頼の喪失につながっていく可能性があると思っております。そういう面で言うと,親子会社間に直接の取引があるというケースに取りあえず限定して,非通例的な取引によって子会社に損害を与えた場合に責任を負うというようなルールを設けるということは,一案ではないかと考えております。 ○藤田幹事 私の立場は,今の田中幹事の意見に近いと思うのですけれども,微妙なところで少し違うもので,次のように考えています。子会社に対する親会社の責任を一定の範囲で設けること自身は,反対ではないですけれども,どの範囲で認めるかについてかなり慎重に考えなくてはならないという立場です。第一読会の際にも申し上げたと思いますが,完全な独立当事者基準を余り厳格に押し付けていくと,全体の効率性を害することになると思います。グループ全体の利益を最大化しているときに,個々の会社を見ると,その全部が同時に各々の利益を最大化しているということはほとんどないので,本当の意味での独立当事者基準というのは,厳密には―つまりグループ内の全ての会社があたかも独立で利益を最大化しているかような状況でなくてはならないという基準は―,押し付けてはいけないものです。特に問題なのは,親会社にも子会社にもプラスが出ているような場合のシナジーの分け方,剰余の分け方とか,事業機会の分配みたいなものについて,不当に介入しないように,そのことができるだけ保証された形で制度を組み立てておかないと,弊害が大きいことになるのではないかというのが,心配なところです。   そういう前提で考えると,恐らく,部会資料11の9ページで言うなら,(a)のような,取引が行われなかった場合より状況を悪くする場合―むしろそういう取引はやらないほうがいい,やったら積極的にマイナスだという場合―,差し当たりこういうあたりを基準に考えていくような制度にしたほうがいいと思います。仮に,そういう発想で制度を詰めていくと,恐らく,10ページの「以上を踏まえて」というところでまとめられているようなことにはならないはずです。そうではなくて,積極的に子会社を害するようなことをした場合には,その不利益―これは,「損害」といっても,普通の利益相反取引の損害のように,あるべき公正な条件の取引と現状の差額という意味の損害ではなくて,積極的にやらなかった場合よりも悪くしているそこの部分のことですが―の填補,「ナカリセバ基準」とどなたかおっしゃいましたけれども,言わば「ナカリセバ基準」の株式買取請求権のような発想でその額を填補する,一種の補償請求権のようなものを与えるような制度を創ることになると思います。「不公正な取引によって生じた損害の賠償」といった具合に公正という概念を入れますと,どうしても余剰の分配みたいなものを拾って,過剰に介入してしまう原因になりそうで,これは,「著しい」という修飾語を付けたところで,恐らく改善しないように思えて,こういう方向ではない制度を創ったほうがいいと思います。その内実は,田中幹事の言われたようにそれほど変わらないかもしれませんが,ただ直接取引に限定するといったことは,必ずしも必要なくて,親会社のために非常に不当な条件で保証させたような場合,いわゆる間接取引も含めていいと思います。ポイントは,直接,間接といったことより,むしろ,ナカリセバ基準的なもので拾うようなものに限定する,非通例的という表現もあるかもしれませんが,その内容として元々の状態より積極的に悪くする場合と限定したほうがいいと思います。  なお,こういう種類の取引が当然に不法行為の要件を満たすかどうかというと,私も相当難しいと思っております。親会社が自分の利益を最大化させること自身は,必ずしも違法ではないわけで,先ほど教唆といったことが言われましたけれども,そういう風にテクニカルにどこかの行為を捉えて違法性を基礎付ける要素を見つけなくてはならなくなる。むしろ,そういう無理なことをしないで,この種の行為が行われた場合に当然にかかっていけるような類型の請求権を,できるだけ効率を害さないような範囲で明確に定め,そのことによって少数株主の保護として最低限のものは保証されている形で示し,投資家に安心感を与えると,そういう制度設計にすべきだと思います。   最後に,一番最初に杉村委員が言われたことですが,非常に重要なことだと思うので念のために付け加えます。規制をする場合も,個々の取引を見ていくようなアプローチを取ったらいけないのは当然です。先ほどから,「ナカリセバ基準」と言いますか,取引しなかった場合よりも悪い状態にするような取引について言及してきましたが,その判断の際も,もちろん個々の取引ごとに見るのではなくて,一定の期間での総体を見た上でのプラス・マイナスを判断するという方向で考えなければいけない。これは,どんな形で制度を組んだとしても同じことで,全体としてはいっぱいもうけているのに,ごく一部の損した箇所だけピックアップして,クレームを持っていくというような行為を認めてはいけないのは当然です。しかし,これは,条文レベルの話ではなくて,むしろ運用上の工夫で賄うべき問題だと思います。 ○野村幹事 もう既に皆さんの議論の中で明確になったと思うんですけれども,私が先ほどちょっと言葉足らずでうまく表現できなかったんですが,今,議論の中で,コンセプトは二つに分かれていると思うんです。一つは,先ほど岩原部会長がおっしゃいましたように,正に不法行為になるような場合について,現行法上民法に任せているから,それでは不明確な部分があるだろうということで,制度設計をしていこうという,そういう狭い範囲で責任を限定させていくという考え方です。それに対して,もう一つの考え方は,親子会社には類型的・構造的にそういったようなことが起こり得る危険性があるんだから,先ほど擬制と田中幹事がおっしゃったと思いますけれども,実際に具体的にその行為がなぜ行われたのかというようなことを個別具体的に認定して,責任の根拠を見いだしていくのではなくて,行為自体の客観的な性質が非通例的であるといったようなものについては不当なものとみなして責任を発生させるという考え方です。したがって,まず最初に議論すべきなのは,後者のような考え方に踏み切るのかどうかということにあるのではないか。これが,最初に私が申し上げた発言の趣旨であります。もし後者のほうに踏み切るんだとしたらということで考えた場合に,先ほど来,田中幹事や藤田幹事がおっしゃっておられますように,部会資料11では要件として漠然としている感があって,先ほどの藤田幹事の言葉を借りれば,部分最適を追求するがゆえに全体最適が害されるようなことが起こってしまうような要件構成にもなりかねないという感じがややしております。そういう点でいきますと,相当程度限定的な形での要件を立てる必要があるかなと思うんですが,それを突き詰めていったときに,結局,私が最初に申し上げた,個別具体的にこの行為にどう関わったのかということと,どのぐらい違いが出てくる要件が立つのかということを,最終的には見極めさせていただいた上で賛否を考えさせていただければと思っております。 ○中原幹事 いろいろな御意見を賜ったんですけれども,私は,それでも,先ほど岩原部会長から御指摘いただきましたように,現行法体系でどこまでできて,それ以上のことの何をやろうとしているのか,それには相当する事実はどういうものなのかということを明確にしていただくことは,非常に有益なことではないかと思っております。先ほど御指摘の中で,子会社の取締役には資力がないというお話がございましたけれども,親会社は,株主ですから,例えば利益供与の規定なども考えられるかと思いますので,現在の制度の中で何が足りなくて,どういうものを請求として,特例的なものとして考えているのか,それに相当する事実は何なのかということを明確にして議論をしていただく必要があると思っておりまして,それまでは,この場では,意見は留保させていただきたいということであります。 ○神作幹事 まず,このような規律の必要性については,事実から離れた純粋な法律論の問題として,そういう意味では机上の空論と言われるかもしれませんけれども,子会社の少数派株主と債権者は,支配従属関係がなく独立している会社の株主や債権者に比べると害されやすい地位にいるということは,定型的に言えるのではないか。なぜならば,支配株主は,議決権その他の影響力を行使して自分の利益を図る可能性があるからです。そのような可能性があることは,論理的に否定できないと思います。使われなかったらそれはそれでハッピーなことですけれども,そのような害されやすい弱者を守ることは,法律の最も基本的な役割なのではないかと思うわけです。そうすると,この問題を議論するに当たって,少数株主と債権者というのは同じように害されやすい存在ですから,そもそも両者を完全に分離して議論するのは余り適切ではないように思われます。そのような観点からは,「1 子会社少数株主の保護」の議論の中に,完全子会社は除くというような議論もありましたけれども,そうではなく,子会社の債権者も子会社の少数株主と同様に害されやすい地位にあるわけですから,その保護も同時に念頭に置いて議論していことが望ましいと考えます。   そのような観点からすると,直接取引,間接取引の類型に限らず,理屈の上では取引以外の行為であっても,支配株主が議決権を始めとする支配的な影響力を行使して子会社の少数株主や債権者が害されるおそれがある以上,それに対して会社法が沈黙している,あるいは一般の不法行為責任に委ねているというのは,適当でないように思われます。先ほど申しましたように,その根拠は,議決権を中心とする株主権が,子会社の少数株主や債権者が害されやすい地位にいることの根拠であり原因でありますから,そうだとしたら,会社法の中で当然手当てをすべきであると考えるからです。もちろん要件論として,取引の類型以外の場合には,先ほど中東幹事が示唆されたかと思いますけれども,影響力を行使するとか不利益な指図を行う場合といった要件を加味することなどは,十分に考えられるかとは思いますけれども,問題の所在からすると,取引だけに限るという議論にはならないのではないかと思います。 ○岩原部会長 ほかにございますでしょうか。この問題は,非常に難しい問題で,企業結合の一番難点ではないかと思っています。確かに,幾人かの委員,幹事の方が御指摘になったように,個々の取引だけを捉まえて,そこに,例えば独立当事者基準等を適用するということでいくと,実際の企業結合を必要としている企業の経済的なニーズあるいはグループ経営に合わないのではないか。むしろ,グループ全体として,言わば長期的な利益,お互いに,部分的にある部分では不利を被っているかもしれないけれども,他の部分でグループの中から利益を得ているというようなことを総体的に見て,利益,不利益を判断し,損害の認定をする必要があるのかなという感じはいたします。そういう意味で損害の認定,損害概念が非常に難しいと思います。   先ほど不法行為ということを申し上げましたところ,実際,不法行為はなかなか成り立たないのではないかという御指摘もございましたけれども,ドイツの事実上のコンツエルンの制度などですと,確か支配会社が従属会社になさしめたとか仕向けたというような概念を使っていたと思うので,親会社が子会社を道具的に使って,子会社の自立的な意思が発揮できない形で取引条件が強制されていて,その中で全体としても子会社に非常に不利なことが行われているというようなときは,これは,総合的に見てもまずい場合があるのではないか。今の神作幹事の御指摘は,企業グループの場合はそういうことが起こり得るので,それについて単に一般法に委ねるだけでいいのだろうかということではないかと思います。これは,非常に大きい問題だろうと思います。一般法で言うと,正に先ほど申しました故意過失概念や損害概念の中でそれを処理していくということになると思いますが,一般法に委ねるだけでうまくいくのだろうか,そこから先に何ができるのか。ドイツは,非常に苦労して,従属報告書の中で,先ほどの仕向けとか,そういう概念を使って,何とかそういうものを捕まえようとした。しかし,ドイツも,必ずしもうまくいっているわけではないという評価ではないかと思います。部会資料11における提案は,日本においても,神作幹事が御指摘になったような危惧に対して,何とか制度的に対応できることはないのかということから,非常に苦労し工夫されて提案したものだと思います。しかし,多くの委員,幹事の方が御指摘になるようないろいろな問題がありますので,これは,もっと練っていく必要があると思います。   藤田幹事あるいは田中幹事,野村幹事,皆様からいろいろな御指摘を頂いて,それぞれもっともなところが多いと思うのですけれども,そこの中から何とか知恵を出して,少しでもこういう場合の,極端な場合はチェックできるような制度の仕組みが考えられないか,皆様の御協力を頂きたいと思います。これは,証明責任の問題も絡みますので,「③ 証明責任の在り方」についても,何か御指摘があれば伺いたいと思います。 ○中東幹事 私も,他の幹事の皆様と同じ感覚を持っていまして,責任の要件との関係では,(a),(b)の基準で,藤田幹事がおっしゃったように,実質的には,中身の取り方によって同じになるかなと思っております。独立当事者基準を取っても,今,岩原部会長がおっしゃいましたように,一定の期間のもの,あるいは一定の一連の取引については,まとめて考慮するということが可能であると思います。   それと,今お話がありました証明責任との関係では,形式的に一旦捉える,あるいは定型的に一旦捉えるほうが,裁判所の運用も簡単であり,債権侵害等の不法行為よりも容易であろうかと思いまして,その意味で,一旦この定型的な要件を満たせば責任は負うという法規制にすべきであると考えています。しかし,反証を認めて,一個一個を見たら駄目だけれども,一連の取引を見たら,これは子会社にとっても利益になっているではないかと,こういった反証を認めるという形がよいのではないかと自分自身は思っております。 ○太田委員 ちょっと理解ができないところなので教えてほしいのですが,部会資料11の10ページ目に,「③ 証明責任の在り方」というところのアのところがございますけれども,これは,証明責任の転換という文脈の中での事例だろうと思うんですが,「三人以上の取締役で組織される委員会」うんぬんとありまして,社外取締役等々と限定されています。これは,社外役員というふうに読むべきなのかどうか,つまり,監査役は,この仕事に関しては機能しなくていいということを言っているのかどうかというあたりが理解ができていないんですが,教えていただけますか。 ○内田関係官 部会資料11では,取締役ということで記載させていただいておりますけれども,そもそもこういう制度を導入すべきかどうかというレベルの議論の中での記載ですので,実際に導入すべきであるということになった場合には,どのような範囲の方まで含めるべきなのかという点についても,その後御議論いただく余地はあろうかと考えております。現段階では,こういう考え方の制度を設けることの当否をまずは御議論いただくという趣旨で,このような記載とさせていただいております。 ○太田委員 理解いたしましたが,その際に申し上げればいいことかもしれませんが,少なくとも,親会社の関係者ではない,例えば社外監査役というような者も,適用の範囲であってしかるべきかなと思います。また改めて申し上げます。 ○岩原部会長 ほかに何かございますでしょうか。中東幹事が御指摘になったように,証明責任等も組み合わせて何か機能し得るような合理的な制度を創れないか,皆様のお知恵を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。 ○田中幹事 私の意見というよりも,この問題については,学説レベルではずっと昔から議論があるので,結構具体的な提案はされていますから,文献を収集するのがいいのではないかと思います。例えば,江頭憲治郎先生の『結合企業法の立法と解釈』では,非通例的な取引という言い方がされていまして,先ほどの私の発言も,それに倣っただけです。これまで学説は,市場における同種の取引と比較するのがいいのではないかと。市場価格よりも低い価格で子会社が親会社に物を売却しているということになれば,まずは,それは,取引が不公正で,かつ子会社に市場価格と実際の価格との差額分の損失が発生していると推定されると,これは,法律上推定されるのか,一応の推定なのか,ちょっと分からないですが,ともかく推定されると。その上で,親会社のほうが,それにもかかわらずその取引は公正である,そういう取引条件にする相当の理由があることを反証することで責任を免れることができるということを言っていたわけです。ただ,これについては,いろいろな議論があり得るところで,まず,これまでも出てきた話ですけれども,親子会社間では長期的な関係があるわけですから,個々の取引というのは,市場価格の変動に余り依存しないで取引をしているかもしれないわけですね。ですから,そのときにある一時点の取引を見て,これが市場価格よりも高いとか低いというだけで責任を認めるのは適当ではないだろうということがあります。だからこそ,従来の学説も,そこで反証を認めるというのは,これまでの取引条件というのは,元々市場価格の変動に影響されずに決めていたんだという資料を親会社に出させると,そういうことで,裁判所は,適切に制度を運用することができるのではないかという考えなんです。   私自身は,今言った形でおおむねうまくいくのではないかと思っているんですけれども,もし,それでは親会社に厳し過ぎると,つまり,一応の推定であっても同種の取引と比較して不利だというだけで,そこで親会社に原則的に責任が発生するのは厳し過ぎるということがあるなら,その理由を教えていただきたいんです。先ほど来出てきた議論で,親子会社は,子会社の利益というよりグループの利益を最大にするんだという発想になっていますので,長期的に見ても子会社に不利益になっても大丈夫というふうになるのかもしれないです。ただ,私は,現在の法制度で子会社の取締役の責任が問われるときでも,裁判所は,そういう運用はしないのではないかと思っていまして,子会社に少数株主がいる以上,グループの利益のために子会社の利益を犠牲にするといっても限度があって,やはり,分配面も親会社は配慮していなくてはいけませんで,グループから得られる利益について,子会社は適切な方法で分配が受けられるということが保証していないと,グループの利益最大化というだけで子会社の不利益を正当化することはできないのではないかと思っているんですけれども,それがグループ経営の実態に合わないということがあるのであれば,教えていただきたいんですが。 ○杉村委員 今の点ですけれども,親子会社と言いましても,子会社の犠牲の下に親会社が利益をあげるという,そういう一方的な関係ではないというのはもちろんでありまして,子会社のメリットも考えて,企業グループ内での取引が行われております。市場価格という話がありましたが,例えば,子会社が親会社と取引を行う際に,市場価格より低い価格が設定されており,現在の子会社の能力からすればコスト割れになってしまうとしても,この取引をスキームの中で継続的に行っていく中で,子会社は,その後の企業努力で調達や製造のコストをどんどん削減することができ,子会社も含めたグループ全体として,競争力を高めていくことができるというケースもあるわけです。市場価格を基準にそれより低いという一点だけでは,必ずしも判断できないということであります。今,私が挙げたような例は,そんなにおかしな経営施策というわけではなくて,効率的な企業行動と評価してもいいのではないかと思っております。 ○野村幹事 今,田中幹事がおっしゃった話というのは,どちらかというと独立当事者間取引基準に近い考え方で,先ほど藤田幹事が言っていたのとはややコンセプトが違いますね。藤田幹事がおっしゃっていたのは,市場価格との照らし合わせの中で不利があったら全部駄目だと言っているのではなくて,やったらマイナスになってしまいましたよというもの,すなわち,「やらなければよかったのに」というものを補捉すべきだというお考えであって,両者は基本的に考えている場面が違うというのを,まず確認はしておいたほうがいいのではないかと思います。   それから,市場価格の議論になると,田中幹事は御承知の上でお話しされているとは思いますけれども,当然,市場価格のないものはたくさんあるわけでありまして,ブランド使用料などとなってきますと,そのブランドは,ほかには使用させていなければ,価格が幾らなのかよく分からないという問題はたくさんあると思います。江頭先生の御著書でも,アメリカの判例がたくさん挙がっていますが,結果的には市場価格のないもののほうについての争いがたくさんあって,原価がどうなんだとか,そういうようなことでずっと探っていくというやり方しか出てこないわけですから,突き詰めていきますと,ほとんど訳が分からなくなるというのが正直なところかなと思います。   そこで,例えば,全体最適の話というか,グループ利益という点で考えてみますと,グループ子会社の中で一つ元気のいい会社がありまして,そこの利益を大幅に吸い上げたことによって,他方の子会社の中で調子が悪いところにある程度支援的な形で資本注入するとしたような場合,その結果,その子会社が倒産せずに済んだということで,最終的には,無形のブランドが維持できたといったような場合は,どういうふうに考えればいいのかというのは分からないです。ですから,個別の取引だけから見ると,そんな取引はやらないほうがいいと明らかに思うと整理されるのか,それとも,それも無形の部分も含めて全部計算してみるとプラスだというふうに評価できるとか,あるいは少なくともマイナスにならなかったというふうに評価できるのか,かなり難しい問題をはらんでいると思います。その意味で,本当にこのアプローチでうまくいくのかどうかは,依然としてまだ疑問があります。   私は,子会社はそれでは困ると,そういうことをやっては困るんだと言って反発しているにもかかわらず,親会社が親会社の特定の利益あるいは他の利益のために強制的にそれを強いたというような場面,先ほど「仕向けた」という言葉が出てまいりましたけれども,そういったような場面を捉えて責任を負わせるというのが,最後は穏当な線になってくるのではないかと思うわけです。 ○田中幹事 ごく手短に,取引の公正さの判断基準が難しいというのは,おっしゃるとおりだと思います。ただ,その上で1点言わせていただけると,確かにアメリカの判例は変なのが多いです。それは,私の理解では,市場価格がある場合はそれでやっているので,株主は最初から訴えないからではないかと思っています。必ずしも何もかも訳が分からないという状況ではないのではないかと思います。一方で,市場価格のないものはたくさんあると思いますから,その場合に利益の適切な分配というようなことまで考えると,法的な不明確が生じてしまうので,その場合には,そこで著しい不公正という基準の下で,現実には損失が発生しているとか,それに近いケースだけが責任が認められることになるというのは,ある程度やむを得ないことなのかなとは思います。 ○静委員 先ほどから立法事実の話が出ているので,少しだけ申し上げますと,取引所で子会社を上場するときに一番重点的に審査するのは,実は,ここに出ている利益相反取引を親会社に強いられていないかとか,事業機会を恣意的に配分されるようなことになっていないか,つまり会社としての独立性に問題はないかというようなところです。かなりしっかりと審査しますので,上場した直後は極めてクリアですけれども,そうした状態がいつまでも永遠に保たれている保証はどこにもない,ということを申し上げておきたい。極端な例かもしれませんが,上場したばかりの上場子会社が取引所に電話を掛けてきて,「取引所は,ついこの間の上場審査の際に,私の会社が親会社との間でおかしな取引をしていないかとか,独立性を審査しましたよね。だけど,最近になって親会社が,突然一方的に,経営指導料を取ると言い出しました。私は納得がいかないので断りたいのだけれども,断ると大変なことになるのは目に見えています。だから,取引所が,そんなことをしたら上場廃止にする,と言ってくれませんか。そう言ってくれれば親会社も諦めざるを得ないでしょうから。」と言ってきたような場合を考えていただきたいと思います。このような懸念のある状態を何とかできないかということを,私は非常に期待をしているという意味でございます。 ○岩原部会長 御指摘のように,この問題はなかなか表面化しないんですね。ただ,実際には底に流れているところでいろいろな問題がございまして,何とかそれに少しでもよりよい解決を与えるような立法の案ができないかということで,是非皆様のお知恵を頂きたいと思っている次第です。   では,次に,(注2)と(注3)について,いかがでしょうか。 ○太田委員 (注2)に関して,部会資料11の12ページの上から2段目のパラグラフのところに書いてある指摘なんですが,これは,前回,第一読会のときに,監査役協会からの提案だったと理解しておりますが,現在,監査役がどんな活動をしているかという実態から申し上げますと,先ほどもちょっと紹介いたしましたように,監査役監査基準であるとか,監査役の監査実施要領だとか,こういった中で,非通例的な取引を含む競業取引の監査は,現実的にずっとやられておりまして,平成17年の会社法の制定によって,監査報告書における記載事項から除外されたわけですけれども,実務は綿々とやっているわけですので,これをもう一度元に戻して法定化していただくこと,記載の義務化という観点でやっていただきましても,何ら付加的な業務が監査役の職務に追加されるということはないと思います。むしろ,将来に向けてこの種の議論を是非継続していただきたいという要望であります。 ○三原幹事 (注3)のセル・アウトですが,第一読会において部会資料5で議論したときには,企業結合の形成時において少数株主に適正な対価による退出の機会を与えるという話になっていて,企業結合の形成時という言葉があったのですが,部会資料11の12ページの4の(注3)ですと,「新たな親会社が現れた場合に」という形になっていますが,どういう場合を想定しているのでしょうか。つまり広がってきているのか,単に親会社であるとすれば51%でよいという話になるのですが,これは,部会資料5で議論したときの場合のセル・アウト以外のところまで広がっているということでしょうか。ここのところが分かりません。単純に親会社にセル・アウトできるとなると,49%の株主が買取請求することになり得ますが,決してそういう話ではないものと思います。セル・アウトを規定しているのか,それ以外のことを規定しているのか,そこがよく分かりませんでした。   それから,順序は前後しますが,(注2)の子会社少数株主による株主代表訴訟というと,親会社の取締役個人を訴えるような感じがしました。しかし,ここで言っているのは,親会社という会社そのものを訴えるので,それを代表訴訟と呼ぶと非常に分かりにくいと思います。これは,親会社の責任追及の訴えということですから,代表訴訟という表現が適切な表現なのかは,ちょっと瑣末な問題ですが,お考えいただければと思います。 ○内田関係官 1点目ですが,第一読会での部会資料5の表現との関係というところでございましたけれども,部会資料11における「新たな親会社(支配株主)が現れた場合」という記述は,部会資料5でいう「企業結合の形成時」がどういう場合を想定しているのかということを,より具体的に書いたという以上のものではありません。その意味で,第一読会で御議論を頂いたものと全く違うコンセプトの制度を想定しているとか,その適用範囲を広げているとか,そういった意図を持った記述ではございません。   それから,代表訴訟という表現についても御指摘を頂きましたけれども,代表訴訟というと個人責任のイメージがあるという点は,御指摘のとおりかなとも思う一方,例えば株主の権利行使に関して利益供与を受けた者に対する利益の返還請求につきましては,被告が個人であろうと法人であろうと代表訴訟の対象になるとされておりまして,条文の建て付けとしてもそうなっておりますので,それを踏まえた表現と御理解いただければ幸いでございます。 ○杉村委員 (注3)のセル・アウトにつきまして,一言だけ申し上げたいと思います。先に議論がありました親会社の責任に関する明文の規定を設けないとしましても,このようなセル・アウトの制度というのは必要ないと思います。部会資料11に書いていただいているように,企業価値を高める企業結合の形成がしにくくなるというのが理由でございます。 ○野村幹事 セル・アウトについてですけれども,セル・アウトは,立法の仕方によると思いますが,公開買付けを前提とした上で,その後のセル・アウトというのであれば何となく分かるんですけれども,そうでなければ,一般的な制度にしてしまうのはどうかなという気がします。その意味で,公開買付けを前提とした規律を会社法の中に書くことは本当に難しいのか,よろしく御検討いただければと思います。 ○藤田幹事 ここで提案されているセル・アウトの規定がどういう趣旨なのか,今一つ分からないのですが,むしろ,今,野村幹事が言われたのと正反対に,公開買付けは関係する,つまりこれは,ヨーロッパ流の支配者が現れたときに退出する機会を与えるという意味での権利なのかなと思っていて,そうすると強制公開買付けの変種みたいなもの―現行法と違って一定の割合の株式を取得された後で行う事後的なものですが―との関係性があるようなものだと私は理解していました。したがって,組織再編を前提とするというよりは,市場買付けであれ何であれ構わないのですが,支配株主が現れたときに何らかの形で売る機会を与える―ヨーロッパの場合は,御存じのように,一定の値段,最低価格の保証された公開買付けという形を採るわけですけれども―,そういったものを想定していました。それを株式買取請求権と呼んでもいいですし,公開買付けという形を採ってもいいのですが,根拠規定をどこに設けるかということになると,恐らく,義務付けは会社法に置いて,手続や細かな点は金商法というような割り切りをするなら,こっちにも多少は姿が現れる。もし全部金商法で引き取ってしまうというのであれば,こっち側には何もなくてもいい。ただし,そういう制度を設けるか否か,それ自体については,正面から議論していないものですから,それはそれで効率性を害するという批判ももちろんありますので,そういうものとして検討して,落ち着きの形によっては会社法にも姿が出てくるかもしれないという判旨だと思います。 ○田中幹事 私も,セル・アウトの件では,必ずしも公開買付けだけに限られるものではないと思いますが,例えば,この問題で一番厳しい規制だと思うイギリスのシティ・コードのルールでも,第三者割当増資では,株主総会の決議を得ていれば,部分親子会社関係を形成することができて,その場合,少数株主にはセル・アウトの権利はないと理解しております。何らの限定もなく,ただ単に親会社が現れたら少数派株主はセル・アウトの権利が認められるというと,実務はおよそのめないのではないかと思って,私は,もうちょっと要件を限定して,例えば,90%も株式を取得した場合に,残りの10%は買わないで,上場が廃止しても廃止するに任せるとか,そういうことにはほとんど合理性がないわけですから,そういうケースでは,少数株主にセル・アウトの権利を認めるとか,そういうのはまだいいかと思います。ですから,この親子会社間の取引というそれ自体が重大な論点の中に,(注3)という形でぽんとなされていると,これはのめないねということで,もうこの議論は終わってしまう可能性があって,次回,次々回でもいいんですけれども,もう少し要件についても考慮して,何か議論の機会を設けるというのがいいのではないかと思ったんです。 ○中東幹事 要件についてですが,90%の場合には,上場廃止されてしまう株式をずっと持っていろという考え方は適切ではないので,当然にセル・アウトの権利はあると思います。基本的には,検討の出発点としては3分の2になろうかと思います。金商法上も全部買付義務が生じますので,それとの連携もいいと思いますし,かつ,その場合には,本来的には,買収者は100%買う覚悟を持って買付けをやっていないといけないはずですので,藤田幹事,田中幹事がおっしゃるように,公開買付けを前置することを前提としてはいませんが,3分の2を取るのであれば全部取る覚悟はしてほしいと,その程度であれば機動性を害したとは評価すべきでないというのが私の考えです。 ○朝倉幹事 いつも同じようなことを言っているのですが,今の皆様のお話を聴いていて,この先,もしこれを議論し続けるのであるとすれば,立法事実としては,どんな現象を捉えて何をしようとしておられるのか,立法事実とこのコンセプトのところをもう少し共通認識にするなり表に出すなりしたほうがいいのではないかと思います。買取請求をやると,裁判所に来ることもあり得ると思いますので。 ○藤田幹事 今の直接の答えですが,まず,立法事実的なのは,MBOなどで盛んにされている不当に安い値段で締め出しが行われているかどうかが問題となり,裁判所がそれを認めるような現象が一応想定されます。裁判所に来ることになるかという点については,仮に先ほど申し上げたヨーロッパ型強制公開買付規制類似のものであるとすると,裁判所に行くことなく,全部話は済むことになります。EUの公開買付規制だと,過去1年間の最高取得価格で一律に全員にオファーしなくてはいけないという規律ですが,こういうルールを導入すれば,現行法だと反対した株主の買取請求で処理しているところが全部これに吸収される,そういうコンセプトですので,裁判所としては余り御心配にならなくていいかと思います。 ○古澤幹事 第一読会においても,このTOBの制度につきまして,平成18年改正の実務への定着状況を見ながら対応させていただきたいと申し上げたところですが,今回,部会資料11の本文の「親会社の責任に関する規定を設けることなどにより,企業結合関係の継続中における少数株主の保護の充実が図られるとすれば,現時点において」これが適切であるか検討との表現,ややニュアンスがあるように思いますが,我々としてもこの表現に共感を覚えるところです。 ○岩原部会長 ほかによろしいでしょうか。先ほど三原幹事が御指摘になりました親会社を被告とする代表訴訟の問題についても,特に御意見はございませんでしょうか。よろしいですか。   それでは,次に,「2 子会社債権者の保護」に移りたいと思います。それでは,事務当局のほうから説明をお願いします。 ○内田関係官 それでは,「2 子会社債権者の保護」について,御説明いたします。会社法のほか,民法や倒産法制等においては,債権者の保護のための様々な規律が置かれています。また,親会社が子会社から不当に利益を収奪している場合には,いわゆる法人格否認の法理を適用する余地があると考えられ,これにより,親会社の子会社債権者に対する責任を認めた裁判例もございます。このほか,親会社の子会社に対する損害賠償責任に関する明文の規定を設ける場合には,子会社債権者は,債権者代位権や詐害行為取消権の行使により権利保護を図ることも可能と考えられます。2の本文は,以上を踏まえまして,子会社債権者に対する親会社の責任の在り方について,見直しを要する事項はあるかを問うものでございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,子会社債権者の保護について御意見等ございますでしょうか。 ○杉村委員 また結論だけ申し上げたいと思いますが,部会資料11の12ページの下のほうに書いてあるような理由に基づきまして,企業としましては,このような見直しをする必要はないと考えております。 ○上村委員 先ほど神作幹事がおっしゃったように,少数株主と子会社債権者は,一体として考えるべきであって,特に仙台地裁の事件とか,こういう事例というのは,表に出ないものもたくさんあるはずですので,そういう場合に対応するのは,会社法として当然のことだと思っております。 ○三原幹事 非常に原理原則論の初歩的な話ですが,今,子会社少数株主を保護するという議論をしてきたわけですけれども,子会社の債権者と株主ではどちらが保護されるべきかと言うと,原理原則からいうと,債権者のほうがまず保護されて,その次に残余財産分配請求権を持っている株主が保護されるという構成があるので,少数株主は保護されるけれども債権者は保護されないというのは,部会資料11を読んでいてよく分からない事柄でありました。子会社に損害が起こったときに,少数株主が頑張るから,債権者はそれに乗って,株主への残余財産分配請求の前に債権者が取ればいいという議論なのでしょうか。なぜかというと,債権者のほうが本来保護されてしかるべきで,優劣の関係からそうなっているのですから,部会資料11を読んでいてそこのところの整理がよく分からなかったです。   それから,もう一つは,倒産法との関係です。倒産的な意味としての債権者代位権や詐害行為取消権という意味ですが,それらの使い勝手の議論は,民法(債権関係)部会で行っておられて,そこでの議論がどうなるのか分かりません。そういうことをもし入れるとすれば―入れるか入れないかについては,私は何も決めているわけではないんですけれども―,それは会社法に取り込んだほうがいいという議論もあり得るものと思っています。 ○岩原部会長 いかがでしょうか。債権者保護,特に100%子会社の場合どうするか,最初の議論にも係ってきますけれども,部会資料11の13ページのところの「このほか」以下の文章を見ると,債権者保護も考えて責任規定を考えていたんだという説明がされていますね。 ○内田関係官 子会社債権者を含むのかどうかという点について,子会社少数株主の保護のところでもいろいろと御議論がありましたけれども,もう一度念のため補足申し上げます。  新たな明文規定に基づく親会社の損害賠償責任は,コンセプトとしては,完全親子関係であっても生じ得るけれども,子会社に少数株主がいない場合には,総株主の同意によって責任が免除されるので,このような責任が問題となることは通常なく,その意味で,取りあえず完全親子会社関係の場合は想定しないという趣旨の御説明を申し上げた次第です。ただ,子会社債権者の保護という観点まで視野を広げると,完全親子会社関係の場合でも,新たな明文規定に基づく親会社の責任が子会社債権者の保護のために機能する余地もあると思われますので,部会資料11では,そのように説明させていただいております。 ○田中幹事 三原幹事の御意見についてですけれども,私の理解では,会社法の下では,債権者は債権額までは優先で,その上は,債権者には何の権利もなくて,その後は全部株主のもの,というのが会社法の基本ルールですから,そうだとすると,100%親子会社間の取引で債権者の取り分が確保されていたら,後は親会社の思うがままなので,別に債権者に権利を与えなくていいというコンセプトなのではないかと。部会資料11における提案も,そういうコンセプトでできているのではないかというふうに理解しています。 ○安達委員 時間もかなり超過しているようですので,手短に一言だけ申し上げます。発言しないと賛同したと見られてはいけませんので,子会社債権者保護に関しましても,私は,反対の立場を表明しておきます。日本の企業は,グループ経営ということで国際競争力を高めてきたことは事実だと思います。ただ,それが今,ある意味では大きな曲がり角に来ていて,次にいかに成長するかという非常に難しい課題を抱えています。今回の改正案は,明らかにグループ経営を阻害すると言いますか,急ブレーキを掛けることになります。根本的には,日本企業の国際競争力を失わせる方向に対して,私は非常に危惧します。これは反対したいということで,今日の一連の話は,多重代表訴訟から始まって全てに関してそういう懸念を私は強く持っていますので,私の意見として改めて申し上げておきます。 ○神作幹事 子会社債権者保護についても同様に考慮すべきだと先ほど申し上げましたので,どのような考え方がここで検討の対象になり得るかについて発言させてください。大きく二つの考え方があり得ると思います。第1は,会社法429条的な救済を考えることです。もちろん悪意・重過失の要件が必要であるのかなど,要件をどうするかという問題はありますけれども,会社債権者に直接請求権を与えるタイプの救済です。   それから,もう一つは,部会資料11の11ページにあるような代表訴訟的なものの原告適格に,自己の債権の弁済を受けられない債権者を加えることが考えられると思います。この場合は,責任を負う者が支配株主なので,ディープポケットである可能性もあると思いますので,子会社に財産を回復させることによって子会社債権者の公平な救済を図るという選択肢もあり得るのではないかと考えます。以上の二つの方向が,子会社債権者の救済方法の選択肢として検討の対象になり得るのではないかと考えております。 ○岩原部会長 ほかにございますでしょうか。よろしいでしょうか。   大分時間をオーバーしてしまいましたが,一応,本日予定した議事については御議論を頂いたかと存じます。特に,皆さん,どうしても今ここで,ということはございますでしょうか。   ないようでございましたら,本日の審議を終了させていただきたいと思いますが,その前に,次回の部会の予定について,事務当局から説明をしていただきたいと思います。 ○坂本幹事 次回は,冒頭に御説明させていただきましたとおり,8月31日の水曜日でございます。時間は,午後1時半から5時半までと予定しておりますけれども,冒頭で御説明しましたように,次回は,論点がかなり多岐にわたる見込みで,今日の御議論などを拝見しておりますと,多少延びることもあり得るかもしれませんので,御容赦いただければと思っております。場所は,いつもと異なりまして,法務省地下1階の大会議室ですので,お間違いのないようにお願い申し上げます。   また,これも冒頭に御説明しましたが,次回は,本日に引き続きまして親子会社に関する規律に関する論点についての後半部分の御検討をお願いするということに加えまして,可能でございましたら,その他の論点の御検討もお願いする予定でございますので,よろしくお願いいたします。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。   それでは,法制審議会会社法制部会第11回会議を閉会いたします。本日は,大変長時間にわたり熱心な御審議を頂きまして,誠にありがとうございました。 -了-