法制審議会会社法制部会           第12回会議 議事録 第1 日 時  平成23年8月31日(水) 自 午後1時30分                       至 午後6時31分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  会社法制の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり)                議    事 ○岩原部会長 予定した時刻がまいりましたので,法制審議会会社法制部会第12回会議を開会いたします。本日も,お忙しい中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   (幹事及び関係官の異動の紹介につき省略)  まず,事務当局から配布資料の説明をしてもらいたいと思います。よろしくお願いします。 ○坂本幹事 それでは,御説明させていただきます。配布資料目録と部会資料12及び部会資料13を事前にお送りしております。各部会資料の内容につきましては,後ほど御説明させていただきます。配布資料につきましては,以上でございます。   なお,会社法の規定等における技術的・細目的事項等で見直しをすべきものにつきましては,第8回会議におきまして,どのような問題点があるのか,見直しの方向性等も含めて事務当局において整理するようにとの宿題を頂いております。そのような技術的・細目的事項等の見直しにつきましては,部会資料13には載せておりませんが,まず中間試案で採り上げるべき事項につきましては,次回以降の中間試案の取りまとめのための議論の中で採り上げて御議論をお願いしたいと考えておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。   それでは,本日の御議論をお願いしたいと思います。まず,部会資料12の第3,「1 株主総会決議不要型の新たなキャッシュ・アウト制度の創設」につきまして,前注も含めまして事務当局から説明を頂きたいと思います。 ○内田関係官 それでは,「第3 キャッシュ・アウトに関する論点」について御説明します。まず,前注では,現行法上,キャッシュ・アウトを行うために利用されている主な手法を,類型ごとに区分しております。区分の仕方につきましては,いろいろな視点があり得るところかと存じますが,ここでは,当部会において採り上げている各論点について更に御議論を深めていただくための便宜という観点から,法的効果と対象会社における手続に着目した区分をしております。まず,法的効果の違いに着目して,少数株主の有する株式がキャッシュ・アウトを行う株主に現金を対価として直接移転する類型と,少数株主の有する株式が一旦端数株式となった後,端数の処理により当該端数株式が売却され,当該売却の代金が少数株主に交付される類型という,二つの類型に区分することができます。部会資料12では,便宜上,前者を「直接移転型」,後者を「端数処理型」と仮に呼んでおります。また,対象会社において必要となる会社法上の意思決定手続の違いに着目して,株主総会決議必要型と株主総会決議不要型という二つの類型に区分することもでき,これらを踏まえると,現行法において利用されている主なキャッシュ・アウトの手法は,部会資料12の2ページ冒頭の表のようになるかと存じます。当部会における議論を踏まえますと,キャッシュ・アウトに関する規律の在り方については,このようなキャッシュ・アウトの手法の類型ごとに検討する必要があるものと存じますが,各手法に共通するものとして,キャッシュ・アウトは正当な事業目的がある場合に限って認められるべきであるとの指摘もされています。もっとも,正当な事業目的という実体要件を一律に設けることは,無用の混乱をもたらすおそれがあると考えられます。濫用的なキャッシュ・アウトに対しては,キャッシュ・アウトの手続に関する具体的な規律の見直しによって対応を図ることが,より適切であるように思われます。   次に,「1 株主総会決議不要型の新たなキャッシュ・アウト制度の創設」について御説明します。1の本文は,対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を有する株主によるキャッシュ・アウトに関し,株主総会決議不要型の新たな制度を創設することについて問うものでございます。これは,現行法上,キャッシュ・アウトに通例的に利用されている全部取得条項付種類株式の取得には,常に株主総会決議が必要となり,時間的・手続的なコストが大きいなどの指摘がされていることを踏まえたものでございます。他方で,新制度は,実質的に株主間での株式譲渡の強制を認めるものであるため,株式を失うこととなる少数株主の利益に配慮する必要があるものと存じます。現行法上,譲渡制限株式の相続人等に対する株式売渡請求の制度や全部取得条項付種類株式の制度においては,対価の適正さを確保するための仕組みを設けた上で,個別の株主の同意を得ることなく,その有する株式を移転させることが可能とされていますので,これを踏まえ,新制度においても,対価の適正さを確保するための仕組み等について検討する必要があるものと存じます。   そこで,(注)は,新制度の制度設計について問うものでございます。その検討に際しては,少数株主の利益に配慮しつつ,キャッシュ・アウトの時間的・手続的コストが増大することとならないように留意する必要があるものと存じます。まず,①の法的効果につきましては,キャッシュ・アウトの目的を踏まえると,直接移転型の制度とすることが直截であり,経済実態にも合うと思われます。具体的には,少数株主に対する株式売渡請求制度,すなわち,キャッシュ・アウトを行う株主が,少数株主に対して,その有する株式を自己に売り渡すことを請求することができるものとする制度とすることが考えられます。この場合には,時間的・手続的コストへの配慮や法律関係の画一的処理の観点から,例えば,対象会社による通知又は公告がされた場合には,各少数株主に売渡請求の意思表示が到達したものとみなすこと等により,各少数株主に対する個別の意思表示は要しないものとし,また,株式の移転の効力は,特定の効力発生日において一律に生ずるものとすることが考えられます。   次に,②の当事者の範囲等につきましては,まず,対象会社は,株式会社とすることが考えられます。その場合,対象会社がストック・オプションとして発行している新株予約権を含めた一括処理等のメリットを考慮して,株式のほか,新株予約権も適用対象に含めるべきか,検討する必要があるものと存じます。次に,キャッシュ・アウトを行う株主については,現行法上の「特別支配会社」の定義を参考に,対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を有することを要件とすることが考えられます。また,組織再編とは異なり,会社以外の法人や自然人も新制度を利用し得るものとすることが考えられます。   ③のキャッシュ・アウトの条件の決定方法等については,まず,キャッシュ・アウトを行う株主が条件を提示するものとすることが考えられます。もっとも,少数株主の利益への配慮という観点からは,一定の制約が必要であり,例えば,対象会社の取締役会の承認を要件とすること等について,検討する必要があるものと存じます。また,対象会社の株主等への周知の徹底という観点から,対象会社が書類の備置や通知・公告を通じて一定の役割を果たすものとすることが考えられます。   ④の少数株主の救済方法については,主なものとして,裁判所に対する価格決定の申立て,差止請求及びキャッシュ・アウトの効力を争う訴えが挙げられます。まず,裁判所に対する価格決定の申立てについては,新制度においても,現行法上のキャッシュ・アウトの各手法と同様,これを認めることが考えられますが,新制度においては,裁判所が決定した金額も,キャッシュ・アウトを行う株主から支払われるものとすることが考えられます。なお,当部会においては,裁判所が価格を決定した場合には,少数株主の全員にその効果を及ぼすべきであるとの指摘もされています。もっとも,自ら積極的に価格を争っていない株主にまで価格決定による利益の享受を認めることが適切と言えるか等の点について検討する必要があるほか,キャッシュ・アウトに必要なコストが過度に増加することとならないかという点にも配慮する必要があると思われます。また,価格決定の申立てに関する手続については,申立てに先立って協議期間を設けるべきかどうかを検討する必要がありますが,新制度においては,協議期間を設ける実益は乏しいように思われるため,全部取得条項付種類株式の取得価格の決定の申立てに関する規律と同様,協議期間は設けないものとすることが考えられます。価格決定の申立期間については,キャッシュ・アウトの効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までとすることが考えられます。次に,新制度においては,株主総会決議の取消しの訴えによる救済の余地がないため,それに代わる少数株主の救済方法として,法令違反の場合や対価が著しく不当である場合における差止請求の制度を創設することが考えられます。また,新制度によるキャッシュ・アウトは,多数の株主の利害に影響することから,法律関係の安定性を確保するため,その効力を争うための訴えの制度を創設することが考えられます。この場合,キャッシュ・アウトの無効は,効力発生日後一定の期間に,訴えをもってのみ主張することができるものとし,また,無効判決の効果は,将来に向かってのみ生ずるものとすることが考えられます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,株主総会決議不要型の新たな制度の創設の当否及びその具体的な制度設計について,本文と(注)の①から④を一括して御議論いただきたいと存じます。いかがでしょうか。 ○三原幹事 制度の考え方,ないし分析の仕方につきまして,特に部会資料12の2ページの四つのマトリックスの表を作っていただきましてありがとうございました。これを見まして気が付いた点を質問としてお伺いします。現行法でも,現金対価の略式組織再編がありまして,親会社が90%の株式を保有する場合には特別支配会社となって,従属会社の株主総会の決議なしで,例えば現金を対価とする株式交換を行うことによって,従属会社の10%株主をキャッシュ・アウトすることができます。それを御提案の形で一括で行えば,組織再編という手続を経なくてもできるといったイメージで今回の御提案があるのか,それとも全く新しい制度として御提案になっているのか,教えていただきたいという点が一つ目の質問です。   次に,それを前提とした場合,新制度の下では,例えば少数株主の保護等も,既存の制度と同等になるのでしょうか。つまり,現金対価の略式組織再編であれば差止めもありますし,株式買取請求の価格決定もありますし,書類備置もあれば略式組織再編の,例えば株式交換契約であれば,取締役会が従属会社について株式交換契約を締結しますので,従属会社の側,つまり完全子会社となるほうの取締役会の関与や,価格に対する契約締結における交渉があり,それが善管注意義務で担保される,そういう見方でおおむね問題がないのかどうか教えていただきたいという点が二つ目の質問でございます。 ○内田関係官 まず,一つ目の,略式組織再編との関係でございますけれども,今回御提案を申し上げている新制度は,直接移転型で株主総会決議不要型という御提案ですので,部会資料12の2ページの表の四つの欄で言うと左下,つまりは今,現金対価の略式組織再編が区分されているのと同じ欄に入るものとなります。ただ,組織再編としての御提案ということかと言いますと,そうではございません。新制度は,会社が契約当事者になるような組織再編あるいは組織法上の行為という整理ではなく,端的に株主間で株式が移転するという制度として新たに創設することを想定しております。   それから,具体的な少数株主の保護の水準につきましては,略式組織再編のみならず,実務上はむしろ全部取得条項付種類株式の取得という形でのキャッシュ・アウトが広く行われておりますので,そういった制度の下での保護の在り方―それ自体,見直しが必要な部分は今回見直しを検討しているわけですけれども―とのバランスを考えながら,少数株主の保護が不十分にならないように,どのように制度を仕組んでいくのか,この場で御議論を頂ければと考えております。 ○三原幹事 そうしますと,部会資料12の2ページの表の中での箱の入り方としては,実態的にはこの直接移転型で株主総会不要型ということで理解しました。この箱自体の形にこだわるつもりはありませんが,実質的にはこの現金対価の略式組織再編で既に実現可能となっている状況を簡便な形で御提案になっているということかと思ったのですが,それはちょっと大まか過ぎる議論かもしれません。 ○内田関係官 株式が直接移転するという法的効果を生ずる類型が株主総会決議不要型の中にも存在するという意味では,御指摘のとおりかと思います。ただ,その法的構成として,キャッシュ・アウトを目的とする場合に,わざわざ会社を当事者とする組織再編あるいは組織法上の行為としてこれを行うことまでが果たして必要なのかというのが,問題意識の出発点かと思います。キャッシュ・アウトの目的からすれば,端的に株主間で株式を移転させれば足りるのではないかと思われますので,略式組織再編と同じ,あるいはその延長線上にある制度を作るという発想に立っているわけではございません。 ○岩原部会長 よろしいですか。ほかに御質問,御意見ございませんでしょうか。 ○前田委員 第一読会のときから議論がございましたように,キャッシュ・アウトが必要であることは否定し難いところだと思いますので,現在のようにほかの目的で設けられた制度を流用するのではなくて,真正面からこういうキャッシュ・アウト用の制度を創設するのがよいと思います。そして,制度の基本的な仕組みとしては,部会資料12で提案されていますように,会社ではなく支配株主が買い取るという方式が優れていると思います。簡明で実態に合うということのほか,財源規制など債権者保護のための仕組みを考えなくて済むという点でも優れているのではないかと思います。そして,会社は売買の当事者にはならずに,売買は会社の外で行われることになりますけれども,手続の適正を確保するためには会社を手続に関与させるのがよく,提案されていますように,会社に通知・公告をさせて,また,会社に情報開示を行わせるのがいいのではないかと思います。   それから,当事者の範囲等については,せっかく新たな制度を作るわけですから,完成度の高いキャッシュ・アウトを実現することができるように,新株予約権も適用対象にするのがいいのではないかと思います。そして,支配株主については,略式組織再編とのバランスのほかに,少数派にとって株主でい続けることにほとんどメリットがないという観点からしましても,御提案のように10分の9という割合にすることに賛成です。   あと,条件の決定方法等については,先ほど申しましたように会社を手続に関与させるということを考えますと,会社が締め出しを承認しているということが前提になりますので,御提案のように取締役会の承認を挟んでおくのがいいのではないかと思います。株主構成の変更について,ちょうど譲渡制限株式の譲渡承認のように,キャッシュ・アウトが会社の利益になる,つまり業務運営の柔軟化などの点で会社の最善の利益になると取締役会で判断させておく。支配株主に対しては,支配株主は株主にすぎませんので,濫用的なものはともかくとして,悪いキャッシュ・アウトをするなということはなかなか言いにくいわけですけれども,取締役に対しては,悪いキャッシュ・アウトには関与するなということが言えるはずでありまして,適正なキャッシュ・アウトを確保する一つの方法になり得るのではないかというように考えます。 ○中原幹事 私も,様々な多くのことに御配慮いただきながら,このような提案をしていただいたことに敬意を表したいと思いますので,基本的な方向感について賛成させていただきたいと思います。したがって,こうした制度を作ることはもとより,新株予約権を含めること,総株主の議決権の10分の9以上を条件とし,会社以外の法人や自然人も利用し得るようにすること,現金に限定するということ等につきましては,原案に賛成したいと存じます。なお,対象会社の関与をどこまで必要とするかという点につきまして,前田委員からお話のあったことは一案かとは存じますけれども,事務当局の御提案にありますとおり,組織法上の行為ではなくて,これは株主間の行為なのだという考え方を徹底しますときは,対象会社の取締役会の承認までは必ずしも要しないということも含めて考えてよろしいのではないかというふうに思います。   それから,これはちょっと質問ですけれども,開示を強化すると。開示強化というか開示事項を整備するところがございますけれども,これは,事前に例えばTOBとかが前置であったりしますと,相応の事項を開示しているわけですけれども,それと同様のものがここでお考えになっている開示の事項だというふうに考えてよろしいのかどうか。その開示の具体的な内容を御教示いただければと思います。 ○内田関係官 開示の内容について御質問を頂きましたが,具体的にどこまで詳細な開示を求めるかという点については,現時点で事務当局として具体的な案があるということではございません。公開買付けの場合に求められる開示の内容も参考にはなると思いますけれども,果たしてそこまでの開示が会社法上の要件として必要なのか等,議論の余地があるところかなと考えております。 ○静委員 現在上場会社が一般に利用している買収スキームは,御存じのとおり2段階買収スキームでして,実務上は1段階目の公開買付け等で議決権の90%を取得することができるかどうかが2段階目のキャッシュ・アウトの可否を決める一つの目安になっているという形でございます。したがいまして,今回このような新しいスキームができると,今までやってきた買収スキームはほとんどこの形でカバーできるのではないかと思います。そうだとしますと,この新制度は,単に総会の決議が要らなくなって手続面で楽になったということだけではなくて,強制的にキャッシュ・アウトされてしまう少数株主の保護にも欠けることがないような仕組みになっているということが大事だと思います。それは,部会資料12で御指摘のとおりだと思います。   そういう目で見たときに,1点だけ申し上げたいと思ったのは,先ほどの中原幹事の御発言と関係しますけれども,③の条件決定方法のところでございます。部会資料12では,これを対象会社の取締役会決議事項にするという御提案をされていると思います。キャッシュ・アウトをされる側の取締役会決議事項にすることで,される側の少数株主の保護を図るという趣旨だというふうに理解をしましたけれども,その取締役会は圧倒的な支配株主がいる会社の取締役会でございますので,それにもかかわらず少数株主に配慮したような判断ができるというようにするためには,ただ単に取締役会の決議があるということだけではなくて,少なくとも独立性のある取締役の方がその取締役会の中に存在をしているということが当然の前提になると私は思っております。本日,それが必要かどうかということについては直接の議題ではないということだと思いますけれども,念のために申し上げておきたいと思います。 ○杉村委員 現在利用されておりますキャッシュ・アウトの手法をそのまま残していただくという前提で,このような新しい制度の創設を検討いただくことは,意義があると考えております。   その上で,各論の(注)につきまして2点ほど申し上げます。まず,②の当事者の範囲等に関しまして,先ほど来議論がありますが,新株予約権あるいは新株予約権付社債という形のものを含めて一括で処理できることは,円滑なキャッシュ・アウトへのメリットとなりますので,是非そのような方向でお願いしたいと思います。   また,④の少数株主の救済方法に関しまして,裁判所による価格決定の法的効果を少数株主全員に及ぼすかどうかという点につきましては,自ら積極的に争っていない株主にまでこのような利益の享受を認める必要はないと考えられることや,キャッシュ・アウトのコストの問題などもありますので,やはり少数株主全員に及ぼす必要はないと考えております。 ○神作幹事 私も,立法論として整備されたキャッシュ・アウトの制度を創設することには,大きな意義があるものと考えます。キャッシュ・アウトの制度を創設し,適切な利益調整をしつつ実務のニーズに応える一方,他の手法を利用してキャッシュ・アウトを行う場合についても,法が整備した理想型が解釈論に様々な影響を与え得るという意義があるのではないかと思います。   そのことを前提に,具体的な制度の設計について述べさせていただきます。前田委員が御指摘になった会社の関与という論点に関連するかもしれませんけれども,私は,単なる多数株主と少数株主との取引,株式の移転にすぎないという整理だけでは,キャッシュ・アウト制度の公正性が担保されないおそれがあると思います。実質的に申しますと,キャッシュ・アウトをする側が対価を決定する際に公正な価格を決めることができるような制度的仕組みを整える必要があると考えます。具体的には,当該会社についての正確かつ最新の情報を,キャッシュ・アウトする側がきちんと入手できる体制が法律上担保されているとともに,会社の側もそういった情報を支配株主に提供することが保証されていることが必要になると考えます。取締役会の承認を要求するということは,そのような実質に結び付く意味を持つのであれば,大きな意味を有するように思われます。また,開示だけで足りるかどうかという点もやや危惧しております。キャッシュ・アウトについて,排除される少数派株主が支配株主に対し実際に質問をしたり,意見を述べたりする機会が与えられたほうがよいのではないかと思われます。もっとも,このようにしてキャッシュ・アウトの制度を重くしていきますと,そこまでするのであれば株主総会を開催し決議を取ればよいではないかという話にもなりかねませんけれども,しかし,そこのところはバランスの取り方の問題でありまして,対価の公正な決定を確保するための法的手当てと,それから,少数派株主の情報に関する権利が開示だけで足りるのかという2点について発言させていただきました。 ○栗田幹事 資本市場の観点から申し上げますと,会社から退出を強いられる少数株主の利益の保護ということがやはり重要ではないかというふうに考えております。このスキームでは,事後的に少数株主が争う仕組みが用意されておるわけでございますけれども,それだけで十分なのか,やはり少数株主に提示される対価の適正性が確保される仕組みが必要ではないかというふうに考えております。そのために取締役会の承認という手続が提案されているのだと思いますけれども,支配株主が存在する中で取締役会が本当に少数株主の利益を配慮して対価の適正性の当否を判断することが制度的にできるのかどうかという点について,検討が必要ではないかというふうに考えております。手続的に余り重くするのも何かとは思いますけれども,取締役会における承認に当たって,例えば第三者の意見を聴取する仕組みを導入するとか,そういうことも検討に値するのではないかというふうに考えております。 ○上村委員 具体的な制度の話になっているんですけれども,あえて理念的なことを確認しておきたいと思います。私は,株式会社制度というのは,市場の論理とデモクラシーの論理を調整してきた,そういう歴史がある制度であって,今回の金融危機でも,新しい金融商品については市場の論理だけが突っ走ったと。つまり,専門家だけが分かる世界が大展開した。今回の震災・原発にも通ずるような,そういう非常に大事なことをジャック・アタリなんかは言っているわけです。イギリスには確かに90%持ったらキャッシュ・アウトできるという制度がありますけれども,その前提になっているのは,株主の大半が個人であり,機関投資家は個人に対して厳しい責任を負っている存在である。その機関投資家と個人が株主の大半なのですね。そういう社会の質を維持したいという強い気持ちがあって,公開買付けをすれば全部買付けで100%にするのはよいけれども,それをしたほうの会社を支配しているのは,どこまでも個人で市民である。つまり,そういう社会的な規範意識と言いましょうか,そういうものが非常に強くて,例えば,一方で公開買付けをすると個人が減りますけど,他方で公募原則というのがあって個人が増える。それを前提にして,ライツ・イシューで,その比率を維持しようとする。そういう強い規範意識の下で,90%を取得した場合には,それは経済合理性のほうを優先して,キャッシュ・アウトを認める,そういうぎりぎりの判断として出てきているのが英国のキャッシュ・アウトの制度だと思います。日本では,どっちかと言いますと,法人株主とかファンド,それも公衆の裏付けのない私募ファンドが支配株主になって,わずかしかいない個人や市民がキャッシュ・アウトによって殊更に排除される可能性が高いのですね。ただ,実際に今この状況で,これだけ全部取得条項付種類株式など使われている状況をたった今単純に否定することはできませんので,その弊害を最小限にするためのこうした提案にはそれなりの意義はあると思います。しかし,会社法制の在り方として最終的に一体何を目標にしているのか,そのことを常に問い続ける必要がある,私はそういうふうに思います。   それから,先ほどの会社の関与という点ですけれども,このキャッシュ・アウトのメリットというところを見ると,部会資料12の3ページの真ん中ですが,これは,長期的視野に立った経営の実現,株主総会に関する手続の省略による意思決定の迅速化,有価証券報告書の提出義務,株主管理コストの削減,これは会社にとってのメリットを言っているわけですね。ですから,会社のメリット,メリットと言っていて,手続は株主間だけでいいんだということには,私はならないと思います。 ○本渡委員 まず,これは支配株主と株主との取引です。略式組織再編においては公告でも足りる場合がありますけれども,少数株主に対する株式売渡請求については,公告のみでは足りないと思います。株主総会の招集と同じような発送主義でいいと思いますが,個々の株主にきちんと通知するという必要があると思います。   あと,もう1点として,この少数株主の利益の保護ということを考えたときに,やはり強制的に株式を売り渡させられるわけですから,簡単には納得しないと思いますが,やはり納得するぐらいの,少しでも多くの株主が納得するようなことが必要なので,もう御提案にもありますように,対価の相当性に関する書類等を備え置くとありますけれども,この対価の相当性に関する書類,余り大部になるのであればその概要でもいいですけれども,そういうのをきちんと株主に通知すると同時に,それも添付するというような制度を構築したほうがよいのではないかなと考えております。ほかの御提案については,私は賛成しております。 ○内田関係官 御指摘のあった通知の点でございますけれども,そもそも新制度の御提案は,全部取得条項付種類株式の取得を利用する場合に常に株主総会を開催しなければならないため,時間的・手続的コストが掛かるという問題意識から出発しているわけですが,個々の株主に対する通知が必要ということになりますと,ある意味では,恐らく株主総会の招集通知をするのと変わらないぐらいの時間的・手続的コストが掛かるおそれがあるように思います。特に,振替株式の場合には,株主名簿の名義書換は,基本的に総株主通知がされるまで行われないため,単に株主名簿記載の株主に通知すればよいというものではなく,その前提として,総株主通知が必要になろうかと存じます。総株主通知及びそれに基づいて特定された株主への個別通知の準備等に掛かる時間を考えると,せっかく株主総会決議不要型の新制度を創設しても,個別通知が必要となれば,そのこと自体によって,新制度のメリットがかなり減殺してしまうという面はあろうかと思います。   それから,部会資料12では詳しくは記載しておりませんが,頂いた御指摘を踏まえますと,会社から株主に対する通知を公告で代えられるという規律については,現行法上の類似の規律と同様,公開会社に限って適用されるものとするといった手当てが必要になるのかなと考えております。 ○本渡委員 公告というのは,現在,略式組織再編で公開会社については公告で足りるということになっていることはもちろん承知しておりますが,株を強制的に売り渡さないといけない立場に置かれる人に,公告をして大概見る人もいるでしょうけれども,見ない人もいて,それが,気が付いたら株が代金に,もう自分が売ったことになってしまうというのは,ちょっと違和感が正直なところありまして,やはり通知はすべきではないかなと感じておる次第です。 ○齊藤幹事 私が発言を希望した点も,ただ今,本渡委員が指摘されたところと同じです。株主への情報提供と差止めの機会の確保という点から,公告だけでよいのかということについては少し疑問があります。今回提案されている制度は,キャッシュ・アウトはこの手続を踏めばできるというタイプのものでありまして,行われる会社の株主構成とかについては余り区別をされておりませんし,公開買付けが前置されるというようなことも条件にはなっておりません。例えば,似たような制度として,ドイツには,同じように条件を問わず,持株要件を満たすだけでキャッシュ・アウトできるという制度がございますけれども,それは,ドイツでは,株式会社というのは比較的大きな会社に限られておりまして,閉鎖的な会社は,ほとんどそういう制度がない有限会社を採っているという実態を踏まえてなされたものでございます。我が国の場合には,株式会社といってもいろいろなタイプのものがございます。もちろん正当な事業目的というのを正面から要求するということについては,上場会社の場合には混乱も多いと思いますので,私は,条文で一律に設けなくてもよいのではないかと思いますけれども,御提案の下では,この制度を利用する会社が閉鎖的な会社である場合もあること,閉鎖的な会社であっても,法律上は公開会社である場合もあるということを踏まえて制度設計をする必要があるのではないかと思っております。 ○岩原部会長 ほかに何かこの点での御指摘はございますでしょうか。部会資料12の11ページのところに書かれていますように,現在,実際上ほとんど実務的に使われている全部取得条項付種類株式については,通知又は公告がないわけですね,現時点で。 ○内田関係官 その場合には,株主総会の招集通知が常に必要になることから,通知又は公告という制度は用意されていないというのが現状かと存じます。 ○岩原部会長 株主総会の招集通知がそれに代わるものになっている。それと比較して,こういう新しいキャッシュ・アウト制度を作るときにどれぐらい株主が知り得るような体制を作るかということでいろいろ御意見のあったところですが,何か更に御意見がございますでしょうか。 ○田中幹事 今の問題についてですけれども,株主がキャッシュ・アウトについて裁判で争おうとするときに,確かに,略式組織再編との均衡上は恐らく差止請求制度を設けることになるでしょうし,それはそれでもいいと思いますが,やはり基本的には90%支配株主に議決権を握られている以上,キャッシュ・アウト自体は不可避ということで,少数株主は,基本的には価格の相当性を争うということになると思うんですね。そのことを前提にすると,価格決定の申立てを効力発生日の前までに終わらせると。そこを貫徹しようと考えると,ちょっと公告だけでは,少数株主の知らないうちにキャッシュ・アウトの効力が生じていて,もう争えないということになってしまうという点が問題になるだろうと思います。ちょっと新しい制度を作るのですから,必ずしも,今までの制度と同じでなくてもいいので,キャッシュ・アウトが効力を生じた後でも価格の相当性について争えるという制度にするというのも考えられるのではないかと。キャッシュ・アウトの効力が生じれば,少数株主にキャッシュを渡さなければいけないわけですから,必ずどこかの時点で株主は知ることができるので,そこから争えるということにすれば,必ずしも事前に全員に通知する必要はないのかもしれません。ただ,何が何でも効力発生日までに全部反対する人はみんな何らかの形で意見を述べなければならないという制度にすると,ちょっと公告だけだと問題含みとなる可能性があるのではないかと思っております。 ○伊藤(靖)幹事 今まで御発言を伺っていると,例えば,90%以上を有する株主がいるのだから取締役会の承認は要らないですとか,そもそも90%以上握られているのならば締め出しは仕方がないですとか,あるいはとにかく締め出しを可能にするのであればコストは掛からないほうがいいというような御発言がよくあるわけですけれども,基本的にそういう考え方にはかなり違和感があります。あるいは,この新しい制度を設けた上で少数株主を保護するときの仕組みというのは,せいぜい現行法の与えている程度でよいというような感覚も幾つかの御発言からは読み取れます。しかしながら,むしろ私は,こういうふうな株式の譲渡を強制するという制度は,認めるとしても,必要性が高いその限りで,かつ少数株主の保護は十分以上に図った上でしか,認めるべきではないのではないかと考えます。   私は,現行会社法が制定されたときに,一般的にキャッシュ・アウトを可能にしようというような政策判断は,行われていないと認識しています。現行会社法ができたときには,組織再編のときの対価を柔軟化しましょう,組織再編の対価を柔軟化した結果,対価がキャッシュになれば,キャッシュ・アウトは可能になるでしょうという話があった。それから,100%減資を多数決でできるようにしたいので,結局は全部取得条項付株式という制度ができました。しかし,それらを超えて,一般的,抽象的な形でキャッシュ・アウトをできるようにしましょうというような政策決定は,されていないと思います。ですから,この部会で,そこを超えて抽象的にどんな会社でもとにかく90%以上握れば,しかも,第三者割当てによってそのような要件を満たすことでもよいといった制度を設ける以上は,その必要性がかなり高いということが十分に論証されねばならないと思います。また,仮に必要性が高いので制度を作るということだとしても,株式の譲渡を強制するというのは,つまりお前の持っている財産を無理やり譲渡せよというものですから,十分以上に少数株主の保護のための仕組みを設けるべきではないかと思っています。 ○岩原部会長 そうすると,伊藤幹事のお考え方ですと,部会資料12の中にあるキャッシュ・アウトを認めるためには正当目的が必要だというようなお考えにむしろシンパシーを感じるということでしょうか。 ○伊藤(靖)幹事 正当目的が必要であるという考え方は,それはそれで問題が大きいということでしたから,そこまで主張したいわけではございません。ただ,公告だけでいいというのはやはり問題であろうと思いますし,6ページに書かれているように,価格決定の利益は全株主に与えられてもよいのではないかと思います。 ○岩原部会長 必要性が高いことを論証する必要があるというようにおっしゃいましたけれども,それは具体的にどういうふうにするのですか。 ○伊藤(靖)幹事 いや,当部会のここまでの議論で,ここまで広範で,かつ一般的なキャッシュ・アウトの制度が必要なほど,世の中の企業がキャッシュ・アウトというものを必要としているのかということが,十分に議論されているようには思えないのです。 ○岩原部会長 そうすると,立法事実としてこういう制度を作る必要があることをもっときちんと論じる必要があるというお考えですか。 ○伊藤(靖)幹事 そういうことになります。 ○藤田幹事 根本的な問題提起の発言の後にしゃべりにくいんですけれども,若干元に戻って,この提案に関する発言になります。技術的な細かなことではなくて,この提案の基本的な考え方のところで1,2点お話をします。   まず,ここまで,取締役会の関与の要否という形で議論されてきた話ですけれども,むしろ,この制度の下における取締役の行為規範と言いますか,行うべき義務というのは何かということが基本だと思います。思い切り割り切ってしまうなら,これは株主間の取引です,会社は手続を提供しているだけです,だから,不適法な手続にならないように手続を管理はするけれども,それ以上の関与はしませんという考え方があり得ます。これに対して,もう一つの極に,取締役は締め出される株主のためにできるだけいい値段を取ってきてあげます,―取ってきてあげますと言っても,もちろんその値段が多数株主からオファーされなければ駄目ですから,悪い値段だと承認しないという消極的な形で,いい値段を確保するという義務を負うわけですが―,そういう役割を想定する考え方があり得ます。重要なのは,取締役会の承認が必要か否かといった形式ではなくて,むしろ今申し上げたうちのどちらの発想でものを見るかというのが本質だと思います。そして,その際に組織再編のアナロジーで考えるか,株主間の売買で見るかといったことで議論をしてはいけないと思うのですね。仮に売買と見るとしても,これは,多数決によって強制される売買であって普通の売買ではありませんので,任意に行われる通常の株主間の売買について取締役がどういうふうに関与するかというのとはおのずと違う話です。この制度の下での取締役の行為規範が何であるかということは,この新しい制度を組織再編と見るか売買と見るかということから決められる話ではないと思います。取締役が少数株主のためにベストな値段を取ってくる義務があるという話は,突き詰めていくと,会社に対する忠実義務,株主全体の利益を追求する義務ではない性格の義務になっていく可能性があるので,理論的にはなかなか難しい面もあるのですが,こういう極めて限られたコンテクストの中でそういう行為規範を特に課すということもおよそ不可能ではないでしょうし,また,必要なのではないかと思っております。ですから,私も,結論としては取締役会の承認が必要という方向に賛成なのですが,承認が必要という意味は,今言ったような考え方を背景に取締役の関与が要求されるのだというふうに考えています。もう一つ,ついでに申し上げますと,仮に,取締役には,少数株主のために「よい値段」を確保する義務があると考えるなら,どっちみち9割持っているから取締役会の独立性なんか信用できないとか,だから取締役会決議など要らないとかいった方向に行くのではなくて,そういう中でどういうふうにその義務を果たさせるかを考えるのが筋でしょう。会社法レベルで独立取締役を要求するような制度を組むか,取引所の規則等に任せるかはまたその先の問題ですけれども,どうせ独立性が弱く実効性が弱いから要らないといった議論をすべきではないと思います。以上が1点目です。   2点目は,公告で十分か否かという形で議論されている話です。この問題の本質は,田中幹事が言われたとおりで,私は,株主総会決議が必要な場合の株式買取請求権ですら,本質的には同じ問題があると思っています。つまり,効力発生の前の一定の期間内に買取りを申し立てるとか,更には総会決議を経る場合には,事前に反対に意思表示をして,かつ決議のときに反対しなければいけないとか,そういった要件を課して,それをした人しか値段について文句を言えないという現行法の制度の作りそのものに由来する問題点です。実際には,締め出しが行われた後でいろいろな事実が出てくる,なぜ締め出しをしたか,締め出しをしておいて何を企図していたかが後で分かる,そして,後から考えたら随分ひどい追い出され方をしていたということが判明することがしばしばあるようなMBOのケースについて,そういう形の救済しか与えないということの持っている話です。公告よりも事前開示の仕方をもうちょっと充実させるというのは,それはそれで改善ではあるのですけれども,最終的に株式買取請求権だとか価格決定請求権という方法だけで少数株主に事後的救済を与えようとしている限りは,本質的には解消しない問題で,何かもう一つ考えないといけない点なのではないかと思っています。一番簡単に思い付くのは,多数株主の少数株主に対する忠実義務のような話でしょう。価格決定請求,要件は,無条件で値段を請求できるというものではなくて,別の要件が加わってくると思いますけれども,そういうのもあり得るのかもしれませんし,あるいは取消しとの関係に連動させて,何か救済を考えなければいけないのかもしれません。いずれにしても,公告が必要か否かというそこのテクニカルな話というよりは,本質的には,事後的救済の現在の組み方が持っている限界に関係するような話なのではないかと思っております。 ○中原幹事 私が最初に御発言させていただいたことが何か90%以上株式を取得している以上は,もうやっても無駄なので,少数株主の保護はそれほど重視しなくていいのではないかという発言に聞こえてしまいましたら,誠に申し訳がないと思っておりまして,少数株主の保護が不要であるというようなことを申し上げたつもりではなく,そのためにこの手続にふさわしいツールを用意していくということは必要なことではないかと考えております。その中で,取締役会の承認と書かれますと,何か取締役会の決議がこのキャッシュ・アウトを発生させるための効力要件になっているようにもちょっと思われまして,株主間の,株主同士でなされている株式の取引について,取締役会という会社の機関が承認しなければその効力は生じないというふうにするのは,これは,価格等の条件以外の点で反対することなどもあり得ることを考えますと,なかなかちょっと筋が違うのかなという気もしました。もっとも,藤田幹事おっしゃった少数株主に対する義務というのを考えていきますと,株主共同の利益を図るというよりは,第三者に対する責任の延長線上に考えられるのかなと思いますけれども,その方向性で何らかの取締役会,あるいは取締役の関与を検討すること自体は有益なことなのではないかなと思います。 ○荒谷委員 現在,税法上の理由などから全部取得条項付種類株式が本来の形では使われていないということを考えますと,やはりキャッシュ・アウトに特化した今回の制度を導入するということについては,基本的に賛成をしたいと思います。ただ,先ほど来出ておりますように,会社がこれに関与することは必要だと思いますけれども,支配株主が大勢を占めている中で,取締役会が果たして中立の立場を保てるのか,あるいは少数株主にとって本当によい方向に働くのかということについては若干懸念を抱いておりまして,もし取締役会の承認を必要とするのであれば,社外取締役を複数入れた取締役会での承認若しくは監査役会設置会社の場合には監査役に,そのような任務を担わせるといったような形で,会社が関与する必要があるのではないかと考えております。   それから,もう一つは,ここの議論のときには欠席いたしましたので,余計なことを言うかもしれませんけれども,90%以上取得した人には強制的に株式を取得する権利を与えるという制度を創設する場合には,セルアウト,いわゆる90%以上取得している株主が現れた場合には,私の株も買ってほしいといった形の申出ができるような制度の導入も併せて考える必要があるのではないかと思います。これも,少数株主の保護につながるのではないかと思いますので,御検討いただければと思います。 ○伊藤(雅)委員 公開企業に新たなキャッシュ・アウトの制度を設けることに賛成でございます。円滑な組織再編ですとか,こういうことを行っている企業にとっては,キャッシュ・アウトというのは有効な手段であると思います。企業を買収したり,組織再編をする際に,TOBを行うことも多いですが,これを円滑に進めるために,キャッシュ・アウトはすごくいいことだと思うんですよ。ところが,日本の会社の数の中で99%ぐらいが中小企業なんですね。もちろん商いとして考えると,公開会社が6割ぐらいを占めているわけなんですけれども。非公開企業が多数を占める中小企業の株主の構成を考えてみると,友達や身近な方々で出資したような企業が多いわけです。この場合,キャッシュ・アウトで価格が上昇するような場合には,キャッシュ・アウトされる側も仕方ないと納得できる部分もありますが,算定の基準日等によっては投資額が当初のものから大幅に目減りする場合というのがあるではないでしょうか。親戚であるとか友達であるとか,身近な方々で出資し合ってできている非公開会社の中で,心情的な関係で非常に仲が悪くなって,親戚の方とかおじさんですとか,そういうものもこうやって90%取得したからキャッシュ・アウトが有効であるということには,ちょっと問題があるのではないかなと思います。例えば,中小企業の場合は株主総会決議を経た上でのキャッシュ・アウトの活用をするとか,別途手当てをする必要があるのではないでしょうか。よろしくお願いいたします。 ○朝倉幹事 若干視点が違うかもしれませんけれども,まず一つ目は,差止請求についてです。株式の10分の9を有する多数株主に売渡請求権を付与するということになりますと,対価が不当な場合というのは,多分裁判所に対する価格決定の申立てでカバーされるということになってくると思われますが,実際にこの差止請求を認めるのはどういう場面を想定されるのかということについて,まだ具体的にイメージできないものですから,教えていただきたいと思います。それを踏まえて,その場合にはどういう要件で,どういう場面で認めるかというのが1点目でございます。その場合には,もし認めるということになりますと,多分時間的に非常に切迫した中で仮処分でやるということになると思いますので,短期間の間に結論を出せるような明確な要件を立てられるかどうかということについてきちんと検討しておく必要があろうかと思います。   それから,二つ目は,キャッシュ・アウトの効力を争う訴えですけれども,この位置付けがまだ今一つ分かっておりません。これは,キャッシュ・アウト全体の効力を争うということだとしますと,現状でも株主権確認の訴えで自分のものについては確認できるのだと思われるのですが,それ以上に全体に影響を及ぼす必要があるのかどうかというところがよく分かりませんので,そこのところを教えていただきたいと思います。それはどこまでの間で異議を述べるべきかというあたりの話とも関連してくるのかもしれないと思います。   それから三つ目は,これは要望の類ですけれども,今回も新しい価格決定の類型が出てくるということになりますと,会社法上の価格決定申立事件というのは非常にいろいろな類型が出てまいります。この類型間でどういう違いがあるのか,若しくは同じなのか,もっと言えば株式価格の決定を適切に行うということは非常に重要だと思うんですが,それについての基準等について現状でいいのか,それとも何らかの立法的手当てを行う必要があるのかといったあたりについても,場合によっては検討する必要があるのかもしれないと思うところで,これについても事務当局のほうで検討していただければと思います。最後のところは要望でございます。 ○内田関係官 御質問いただいた二点のうち,まず,一点目の差止めでございますけれども,こちらは部会資料12にも書かせていただきましたとおり,略式組織再編の場合に,株主総会決議の取消しの訴えに代替する株主の救済方法としての差止請求制度という発想がございますので,これと同じ発想に立ったものです。差止事由についても,略式組織再編の差止請求制度を参考にしながら検討していくということになると思います。具体的には,先ほど冒頭でも御説明申し上げましたけれども,法令違反の場合でありますとか,それから,対価が著しく不当である場合に差止めを認めるということになろうかと思います。著しく不当という要件について,事前に時間がない中での判断が必要な状況で,何をどこまで審査するのかという点につきましては,解釈・運用の問題として,例えば対価の決定プロセスを中心に審査していくといった取扱いもあり得るところかと思いますけれども,これも略式組織再編に関する差止事由をどう考えるのかというところと全く同じ問題です。要件としては,「著しく」不当ということになりますので,差止事由の有無の判断は,価格決定の場合における「公正な価格」の決定とは,相当な違いがあるのではないかと考えております。   それから,二点目は,無効訴訟が必要かどうかという観点からの御指摘ですけれども,やはり利害関係者が非常に多くなるということで,個々の株主についての株式の移転の効力だけを個別に争うことでよいのかという問題意識がございます。会社法においては,法律関係の画一的な処理等の要請が強い場面について,無効訴訟の制度を設けているわけでありまして,正にこの新制度によるキャッシュ・アウトの場面では,そのような要請が強いのではないかという観点から,こういった御提案をさせていただいているところでございます。   それから,最後に御指摘を頂きました,価格決定でどういう価格が決定されるべきかという点につきましては,他の制度を利用したキャッシュ・アウトの場合と異なる考え方があり得るのか等,この場で御議論いただければと思いますが,基本的には,現在行われているキャッシュ・アウトにおいて会社が支払うこととなる「公正な価格」と同様の考え方によることになるのではないかと思っております。 ○上村委員 先ほど伊藤幹事がおっしゃったことに全面的に賛成です。私が賛成しても余りうれしくないかもしれませんけれども,全面的に賛成です。私は,それよりももっと遡った話を先ほどしたのです。そもそも先ほど伊藤幹事がおっしゃったように,株式の併合という制度は何なのかというと,これは,部会資料12の書き方ですと,直接移転型,端数処理型,端数処理型の中の株主総会決議必要型,それが株式の併合,つまり,これは,キャッシュ・アウトをする真っ当な制度として位置付けられているかに見えるわけです。しかし,元々そういうものではないし,そういうことが議論されたこともないというのは伊藤幹事がおっしゃったとおりで,会社法(現代化関係)部会の部会長であった江頭先生も,あれは全部取得条項付種類株式についてだと思いますが,実際作ってみると実務家はいろいろ考えるものですね,と言われていました。しかし,現実に株式の併合がキャッシュ・アウトのために使われてしまったという実態があって,それは全部取得条項付種類株式の場合でもそうですが,きちんとした弊害防止のための制度的な対応がないにもかかわらず,事実が進行しており,事後的な解釈論でこれを問題にできないでいる。これはもう今更全面的に戻しようがないから,せめて制度的に少しでも補強しておこう,こういう議論を今しているんだろうと思うんです。私は,例えば正当な事業目的があるかどうかを問題にするのは,無用の混乱をもたらすおそれがあると言われていますが,併合は元々,併合を必要とする理由の説明が求められているのですね(会社法180条3項)。それが,行為の前後を含めてトータルに見ると,合理的な理由のない併合が行われてきたと見ることもできるわけです。それから,有利発行の場合も,「募集をすることを必要とする理由の説明」が求められております(会社法199条3項)。この規定がどの程度の重みを持つかの理解については解釈が分かれると思いますが,そういう制度は幾らでもあり得るわけです。ですから,およそこういう制度は無用な混乱をもたらすと言って安易に切り捨ててはならないと思います。   それから,第一読会で議論がありましたけれども,こういうキャッシュ・アウトのような制度を堂々と認める前提には,全部取得条項付種類株式は減資のための制度,株式の併合は単位の切上げのための制度というように,その本来の目的に閉じ込めると言いましょうか,そういうことが必要で,その代わりキャッシュ・アウトの需要はあるから,すれすれのところでキャッシュ・アウト専用の制度を別に認めようという,そういう意見もあったと思いますし,私も,そういう考え方が望ましいと申し上げた経緯もあります。閉じ込め方にはいろいろあって,正当な事業目的を課すこともあり得るし,制度目的を法律で限定するということもあり得ると思います。 ○野村幹事 伊藤幹事にだけお話をしようと思っていたんですけれども,上村委員にもお話ししなければいけなくなったので,ちょっと荷が重くなってしまいましたが,別に反論というわけではございません。ただ,私が承知する限りにおける前回の改正の経緯というのを考えてみますと,略式組織再編を90%の要件にした際には,議論の途上で,諸外国におけるキャッシュ・アウトの制度を参照したという事実がありますので,全くキャッシュ・アウトを念頭には置いていなかったわけではないというふうには思います。ただし,そこでは,一般的なキャッシュ・アウトの制度を作るのではなくて,組織再編という形でキャッシュ・アウトが行われるという掛け合わせの形で制度が導入されてしまったために,キャッシュ・アウトというのは組織再編の形を採らないとできないのかという議論が出てきてしまったというのがむしろ前提ではないかなというふうに思っております。確かに私の住んでいる世界が特殊なのかもしれませんけれども,日常的なニーズがありますのは,やはり公開買付けを実施するに当たって,100%化を目指した公開買付けが実際に行われても,当然のことながら応じてくれない方々がいるということを前提にした上で,最終的に100%化する方法として,常に組織再編を絡めなければいけないのかという議論が出てしまったというのが背景事情かなというふうには思っております。そこで,組織再編ではなくやれる方法として登場してきたのが全部取得条項付種類株式だったということでありますが,この制度は,もう皆様御指摘のとおり,全く違う目的のものを流用しているわけですから,もしそういうニーズがあるんだとすれば,真正面から法制化する時期が来ているのかなというふうに思っております。   それから,上村委員御指摘のとおり,併合については,180条3項で,必要とする理由を説明することが要求されていますので,必要性の要件があるということだと思いますが,これは,私が申し上げるまでもありませんが,併合は,昔は法定された限定的な目的でしか利用できないというふうになっていたものを,併合の制度を一般化するに際して,濫用的な活用が懸念されたことから,導入された要件だと記憶しております。弊害防止の手段としては,併合という制度に少数派株主の保護手段をくっ付けるということも恐らく可能だったものと思われますが,従来の制度が目的を限定するにとどまっていたことから,理由すなわち目的の説明を通じて濫用事例を封じ込めようという政策を採ったものと承知いたしております。したがって,正当な事業目的による規制というのは,従来の改正の経緯からすれば,少数派株主に対する保護手段とトレードオフの関係になっていたと理解するのが素直ではないかと思います。   あと1点,伊藤委員のほうから御指摘がありました,あるいは齊藤幹事のほうからも少し御指摘があったかもしれませんが,ドイツでは,株式会社は我が国における上場企業と同程度の数しかなく,ほかはみんな有限会社であるといった状況の中で,スクイーズ・アウト制度の適用対象が限定されているのに対して,我が国の場合には,非公開会社も含めて適用されると弊害が多いのではないかといったような御指摘もあったかと思います。私自身もそうは思いますが,我が国においては,ここについては,やはり非公開会社は,また別な問題領域として,この強制的な排除の問題が議論されてきたという経緯がありまして,例えば,174条以下のところにあります相続人等に対する売渡請求,これは,会社が買うという形ですから株主間の譲渡にはなりませんけれども,強制的に追い出すという制度である点では軌を一にしている。他方で,ドイツにおきましては,制定法上の定めはありませんけれども,有限会社においては古くから判例法上,「除名」と訳していいのかどうか分かりませんが,株主総会の決議によって一部株主を追い出すという制度が存在していて,これ自体については,平成2年の会社法改正についての提案の中では,我が国においても非公開会社においてそういった制度の必要性があるのではないかという提案があったかというふうに記憶しているところであります。その場合,ドイツでは,制度の歯止めとして,「重要な事由」というふうに訳すんだと思いますけれども,やはり目的に照らして真に必要性がなければ使えないという制度的な枠組みを設けているかと思います。我が国では,そこまで一般化せずに,相続人が生じた場合に,相続人のほうに問題があるようなケースを想定しつつ,限定的に強制的な排除の制度を導入した経緯でありますので,スクイーズ・アウトの制度を非公開会社に認めるか否かを検討する際には,こうした「除名」の制度との関連性も踏まえて検討することが必要かと考えます。この問題は,アメリカでは,御案内のとおり,デットロックになったときの解散判決に代わる救済という形で伝統的に議論されてきているものでありまして,解散させるぐらいであれば,一部株式を強制的に買い取って会社を継続させるということに合理性があるのではないかという形で議論されていますので,この制度との関係もきちっと整理していく必要があるかなと思います。   長くなりましたが,私自身は,上場していた会社に対する公開買付けを通じた100%子会社化というものを実現させていく必要性から,今御提案になっているものについては賛成したいと思います。そして,これは,先ほど冒頭申し上げましたように,組織再編を絡めない形で行われる,組織再編とは異なるキャッシュ・アウトの制度として位置付けることが,非常に重要なのではないかなと思っております。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。幾つか重要な御指摘がありましたので,今後の審議を促進する意味でも,ある程度議論を要約できるところは要約していきたいと思います。今日御指摘いただいた点をまとめてみますと,一つは,そもそもこういうキャッシュ・アウト制度を設けることについて,恐らく基本的には賛成だという御意見が多かったかと思いますが,伊藤幹事,上村委員,それから伊藤委員から,こういう制度を設けることについての若干の危惧が指摘されたことも確かでありました。取り分け非公開会社について,公開会社についてはこういう制度を設けるにしても,非公開会社については別の考慮が要るのではないかという御指摘を頂いたところでありますので,そういう点は今後事務当局でもまた検討していただくことになるかと思います。   そのようなそもそも論のほかに,本当に少数派株主の利益がきちんと考慮されるようにする必要があるという点では,多くの方が一致しているところでありまして,そのための方策として取締役会の承認ということが必要であるという御意見が多かったかと思います。ただ,問題は,取締役会の承認という形式的な手続だけではなくて,その際にそういう少数派株主の利益を取締役会がどこまで配慮する義務があるかという問題である―言わば一種のアメリカにおけるレブロン基準みたいなことを考えるのかもしれませんが―という御指摘が藤田幹事その他からなされたかと思います。   それから,そういう言わば単に取締役会という手続的な形式だけでなく,全体として少数派の株主の利益がきちんと配慮された形でなされるようにするために,荒谷委員の御指摘のように,監査役を関与させてはどうかという御提言―現在でもM&Aに対する,企業買収に対する買収防衛措置の導入の妥当性について監査役が意見を言うという制度が設けられておりますけれども―もあったところでありまして,そういう点も今後考慮される点の一つかと思います。   次に御指摘がありましたのは,アナウンスの方法として,通知,公告,特に公告だけでいいのかという問題でありまして,そこから更に発展して,そういう公告というようなアナウンスの手段だけでなくて,むしろキャッシュ・アウトの効力が発生した時点の後でも争うことができるような制度を考えたらよいのではないか,という御意見がございました。従来,合併等の組織再編については,組織再編の効力を確定させるという意味で,一定の時点までしか異議が述べられないというような制度が採られてきたわけでありますけれども,キャッシュ・アウトのような制度の場合は,キャッシュ・アウトの効力が発生した後でもそういう事後的に争うような制度も考えてよいのではないか,言わば完全な事後的救済の制度にしてはどうか,という御指摘だったかと思います。そういう点も,今後なお検討の余地があるかと思います。   それから,価格決定の申立てをした株主に対する裁判所の決定が他の株主に及ぶべきかどうかという論点については,御意見が分かれたかと思います。これは,余り時間がなくて十分に御議論いただけなかったのですけれども,部会資料12の6ページの一番下のところに書いてあります問題です。一方で,買取価格を同一にしなければいけないのかという問題も,後で15ページのところにも出てきます。現行法上,何人かの株主がばらばらに争ったとき,それを統一的な買取価格にするという体制になっているのでしょうか。非訟手続の上でどうなっているのですか。訴訟ですと訴えの併合とかそういうことをして,実際上統一するという手続が問題になるかと思うんですけれども,非訟ではどうなのですか。 ○坂本幹事 手続が併合されれば,そういうことになりますし,新しい非訟事件手続法にも,手続の併合の規定が設けられています。 ○岩原部会長 必要的な併合になるわけですか。 ○坂本幹事 必要的な併合という形にはなっておりません。 ○岩原部会長 こういう価格の統一というのは実際上,先ほど伊藤委員からの御指摘がありましたように,株主間で不公平感が出るという問題もありますので,そこら辺の手続的なことも検討していく必要があるかと思います。論点として出たのは,以上のようなところではないかと思いますが,よろしゅうございましょうか。   ということで,次に進ませていただきたいと思います。次に,第3の「2 株主総会決議必要型のキャッシュ・アウトに関する規律の見直し」に移りたいと思います。(1)から(4)まで一括して事務当局から説明をお願いしたいと思います。 ○内田関係官 それでは,「2 株主総会決議必要型のキャッシュ・アウトに関する規律の見直し」について御説明いたします。まず,(1)は,端数処理型の方法によるキャッシュ・アウトに関し,その対価の適正さを確保するための仕組みに関する現行法の規律を見直すことについて問うものでございます。この点については,株式の併合について端数となる株式の買取請求制度を創設することが考えられるほか,全部取得条項付種類株式の取得について組織再編の場合と同様の事前開示手続を設けることにより,キャッシュ・アウトの対価等に関する情報開示の充実を図ることも検討する必要があるものと存じます。この場合のキャッシュ・アウトの対価は,端数株式の実際の売却額となるため,確定額をあらかじめ開示することはできませんが,端数の処理の方法や端数株式の売却額の見込み等を事前開示の対象に加えることが考えられます。また,株式の併合についても,端数となる株式の買取請求制度を創設する場合には,同様の情報開示の規律を設けることが考えられます。なお,当部会においては,端数処理型のキャッシュ・アウトは認めないこととすべきであるとの指摘がされている一方,対価の適正さを確保するための実効的な仕組みがあれば,端数処理型のキャッシュ・アウトを禁止する必要はないとの指摘もされています。現時点で端数処理型のキャッシュ・アウトを一律に禁止することが適切と言えるか,税制上の理由等から全部取得条項付種類株式の取得を利用するキャッシュ・アウトが実務に広く定着しているという現状にも配慮しつつ,検討する必要があるものと存じます。   次に,(2)は,株主総会決議必要型のキャッシュ・アウトを行うための株主総会の決議要件を厳格化することについて問うものでございます。この点については,10分の9の賛成を必要とすべきであるなどの指摘がされている一方,そのような決議要件とすることは,キャッシュ・アウトを行う株主以外に多くの株主が賛成していても,一部の少数株主が反対すればキャッシュ・アウトを阻止し得ることになってしまう点で,合理的な規律とは言えないとの指摘がされています。また,一部の少数株主がキャッシュ・アウトを阻止し得るものとすると,そのような立場が濫用的に利用される懸念があるとの指摘もされています。現行法は,多数決の濫用に対しては,株主総会決議の取消しの訴えや裁判所に対する価格決定の申立て等の手続を設けることで少数株主の救済を図ることとしており,この点について具体的に見直しを要する状況があると言えるか,決議要件の厳格化に対する当部会での指摘も踏まえつつ,検討する必要があるものと存じます。   (3)は,株主総会決議必要型のキャッシュ・アウトによって株式を失った者が株主総会決議の取消しの訴えを提起し得る旨の明文の規定を設けることを提案するものでございます。この点につきましては,当部会でも特に御異論のなかったところかと存じます。   (4)は,全部取得条項付種類株式の取得価格の決定の申立てに関する現行法の規定を見直すことについて問うものでございます。まず,①は,取得日後に取得価格の決定の申立てがされる場合における法律関係の複雑化を避けるため,申立期間を取得日の20日前の日から取得日の前日までとすることについて問うものでございます。このような見直しをする場合には,併せて,取得日の20日前までの通知・公告の手続も設けることが考えられます。このような規律の見直しは,取得を決議する株主総会で議決権を行使することができない株主に対して,取得の事実を周知する観点からも,意義を有すると考えられます。次に,②は,価格決定の申立てをした反対株主に対してまで株主総会決議により定められた対価が一律に交付されるものとすることは合理的でないように思われることから,そのような株主に対しては対価が交付されない旨を明らかにする規定を設けることについて問うものでございます。 ○岩原部会長 ありがとうございます。それでは,今御説明いただきました点について皆様から御意見,御質問等を頂戴したいと思います。(1)の端数処理型のキャッシュ・アウトに関する規律から順次お願いしたいと思います。 ○前田委員 部会資料12の9ページのなお書きのところに関しては,今回せっかくキャッシュ・アウト用の新たな制度を設けることにするのであれば,現在のこの端数処理型のキャッシュ・アウトの方法はもう認めないことにするのが最も望ましい制度の在り方であると私は今も信じております。ただ,他方で,特に株式併合については,キャッシュ・アウトに使ってはいけないという規定を設けるのもまた難しいということは,否定できないところだと思います。つまり,株式併合は,株主管理コストの削減が主たる本来の機能でございますけれども,キャッシュ・アウトというのは,言わば管理コスト削減の究極の形とも言えるわけでありまして,管理コスト削減はいいけれども,キャッシュ・アウトに使うのは駄目だという規律は,設けにくいのは確かだと思います。全部取得条項付種類株式のほうについては,これは,本来の使い方がされるように何とか手当てができると一番いいとは思うのですけれども,先ほど来議論がございますように,正当な事業目的を要件に加えるということについても反対の意見が多いようでありまして,こちらもキャッシュ・アウトに使われないような限定を法律で設けるということは,残念ながら難しいかもしれないと感じています。そうしますと,端数処理型のキャッシュ・アウトの方法も残さざるを得ないことになるのかもしれませんけれども,もし残すのであれば,対価の適正を確保するためにここで提案されているような手当ては,是非とも必要になってくると思います。そうしないと,今回の見直しが単にキャッシュ・アウトの選択肢を一つ増やすだけになってしまいまして,元々の見直しの目的であった少数株主保護にはならないことになってしまうのではないかと思います。 ○静委員 私も,前田委員の御意見に基本的に賛成でございます。先ほど議論したような新しい形のキャッシュ・アウトの仕組みにつきましては,正面からそういうものを認めるということであれば,もうそちらに一本化をするのがもちろん筋でありまして,基本的に既存の制度は禁止をするのが本当ではないかと思います。仮に百歩譲って既存の仕組みを残さざるを得ないということであれば,私は,少なくとも決議要件の引上げが必要ではないかと思います。どうしてかと申しますと,前にも一度お話ししたことがあるかもしれませんけれども,内外のいわゆるグローバルな投資家は,支配株主が絡むような取引については,支配株主の議決権を排除して少数株主だけで多数決をするべきだと強く主張しているからでございます。これは,香港で採用されているグローバル・ベスト・プラクティスだというふうに主張しております。部会資料12にもありますように,彼らの案では,少数株主による権利濫用を招くのが心配だという方もいらっしゃると思いますけれども,そうだとすれば,既存の制度による場合には,せめて全体の10分の9の賛成を要するというような形にすべきではないかと思っているわけでございます。仮にそうなれば,支配株主が10分の9を保有している場合には先ほどの新しいタイプのスキームを利用することができますし,そうでない場合にはほかの株主からの賛成を得て10分の9を取るという形でキャッシュ・アウトの道が残るということになると思いますので,先ほどの決議不要型とのバランスも取れるのではないかと思っているところでございます。 ○杉村委員 実務の観点からいたしますと,全部取得条項付種類株式を利用したキャッシュ・アウトの手法は,実際上広く利用されております。そのため,部会資料12にも記載いただいておりますとおり,仮に新しい制度を創設することになったとしましても,税制面を含めて使い勝手がどうなるかというところが不明確な中で,現行の手法を丸々禁止すれば大きな問題が生じるため,禁止には反対であるということを申し上げさせていただきたいと思います。   また,(2)になりますが,決議要件につきまして,これを10分の9とするとの議論もございますが,そうしますと,ごくごく少数の株主の反対でキャッシュ・アウトが頓挫することになってしまいます。それでは合理的な規律としてはいかがかなと思いますし,かえって濫用のおそれも生じると考えられます。公開買付けの実務を考えましても,下限を90%以上にしなければならないとなりますと,成功の確率がかなり下がってしまい,不確実性が増してしまいます。このようなことを踏まえ,株主総会の決議要件を厳格化することのないようにお願いしたいと思います。   それから,部会資料12の8ページに株式併合について若干記載がございましたので,一言だけ付言させていただきます。端数株式の買取請求制度を創設することになりましても,売買単位の集約のような,濫用とは関係のない株式併合のケースまで一律に対象とするというのは,やはりよろしくないと思いますので,是非配慮を願いたいと思います。 ○田中幹事 キャッシュ・アウト制度を作るのであれば,既存の端数処理型のキャッシュ・アウトは認める必要はないのではないかという意見に対しましては,今,杉村委員がおっしゃったように,そのように考えることができるかどうかは,新設のキャッシュ・アウト制度は10分の9以上の株式を持っている支配株主だけが利用できる制度になっているわけですから,10分の9未満の株式しか持っていない株主であってもキャッシュ・アウトを利用できるようにすべきかどうかということに懸かってくるのではないかと思います。その点につきましては,私も,杉村委員と同じで意見で,やはりキャッシュ・アウトについて一律に10分の9以上の賛成を要件とするというのは,10分の1の株主に非常に強い拒否権を与えてしまって弊害が大きいのではないかと思います。これは,何も私は現経営陣の肩を持っているわけではありませんで,敵対的買収であっても,敵対的買収のときに現経営陣がこれに反対する一つの根拠として買収後の少数派株主の保護ということを言うわけです。それに対する敵対的買収者の最も抜本的な対策は,全株式を買うということなんですね。そのときに,10分の9以上取らないとキャッシュ・アウトできないということになりますと,かなり大きな上場会社でも経営者その他の内部者は10分の1ぐらいの株式は持っていますから,内部者が拒否権を持ってしまうことになるわけです。そういうふうに非常に小さい株主に拒否権を持たせますと,現経営陣にとって都合が悪い少数株主に強い権限を与えるというだけではなくて,全株式の取得を目指すような敵対的買収もかなり困難にするという両方の側面での弊害があると考えています。   それから,静委員がおっしゃった少数派株主のマジョリティの賛成を要求するというのは,確かに一つの解決策としては考えられるんですけれども,これは,一回の決議で一気にキャッシュ・アウトを実現してしまうという場合を考えれば,少数派株主のマジョリティの賛成を要求するということでいいんですけれども,日本の場合は,一回の決議でキャッシュ・アウトを実現することが,金銭対価の組織再編だと税制上不利になってしまうということから困難になっております。そのため,まずTOBを掛け,支配株式を取ってしまって,次に全部取得条項付種類株式の制度を使ったキャッシュ・アウトになるわけで,このような2段階の取引ですと,キャッシュ・アウトに賛成の株主はみんな1段階目のTOBに応募しているので,2段階目の株主総会決議の際には,キャッシュ・アウトに反対する株主が少数派株主の中のマジョリティになってしまうわけです。この問題を解決するためには,2段階買収のときには,2段階を全体的に捉えて少数派のマジョリティの賛成があればいいという制度にすればいいと思います。これはあり得る提案だとは思いますが,現在の制度の下でマジョリティ・オブ・マイノリティの賛成を立法として要求するためには,結構手の込んだ条文を作らないと,合理的なキャッシュ・アウトもできなくなってしまうおそれがあると思っています。私個人は,ちょっとここは静委員とは少し異なるんですけれども,キャッシュ・アウトできるかできないかという点については,現在の制度と同じにして,マジョリティ・オブ・マイノリティの承認を得ているかどうかというのは,反対株主が価格決定を申し立てた際に,マジョリティ・オブ・マイノリティの承認が全体として得られていないときには,裁判所は非常に厳しく公正な価格について審査するとか,そういったやり方で行うということでもいいのではないかというふうに考えております。 ○岩原部会長 ほかの御意見等ございませんでしょうか。先ほど(1)だけと申しましたけれども,それ以降についても御意見を頂けますか。 ○藤田幹事 どの項目とも厳密に対応しているわけでもないものですから申し上げにくかったんですけれども,まず端数処理型について言いますと,私も前田委員に近い考え方です。こういうものをなくして,現金対価のものに限定すれば,すっきりとするのですが,ただ現在,税法がどうしてもついてこないということで残さざるを得ないというのなら,それはそういうものとして消極的には支持といいますか,反対はしないというレベルの支持をします。   次に,キャッシュ・アウトについての株主の保護の方法ですが,組織再編について株主総会決議がある場合であっても差止めを認めるという制度を議論することになっていますが,もしそれを認めるのであれば,こちら側も当然差止めというのは入ってくるのかなという気がします。 ○坂本幹事 藤田幹事のほうから御指摘いただきました株式の併合や全部取得条項付種類株式の取得についての差止めという点につきましては,部会資料12の17ページの一番下の3で,差止請求制度の創設について検討する必要があるということで挙げさせていただいております。 ○藤田幹事 部会資料12の17ページで書かれているものは,既存の組織再編についての話だと思っていたのですけれども・・・。 ○内田関係官 部会資料12の9ページでは,既存の株主総会決議必要型の手続を念頭に置いておりまして,その場面での差止めについては,坂本幹事から説明があったとおりでございます。新制度によるキャッシュ・アウトの差止めにつきましては,部会資料12の7ページに記載しましたとおり,差止請求制度を創設することが考えられますが,更に部会資料12の17ページに記載した差止請求制度も創設する場合には,これら二つの差止請求制度をどのように位置付けるか,両制度の関係について整理が必要となると思います。 ○藤田幹事 分かりました。次に事後的な救済手段ですが,これは先ほど申し上げたことの繰り返しとなりますが,新しいキャッシュ・アウト制度に限定された話だけではないという趣旨で繰り返させていただきます。要するに価格決定にしても株式買取請求にしても,かなり不完全な救済手段にしかならないことで,先ほど申し上げましたとおり,対価の不当性というのが次第に判明してくるというケースが,実態を見ていると少なくない気がするのです。例えば時価より多少上乗せした値段,例えば2割増しで追い出されたので,まあこのくらいの値段ならいいかとか思っていたら,その後で合併されて,残った人が得た対価はそれよりずっと高かった。そうなると,少数株主としては,そんな値段で対価をもらえる株式だったんですか,それを隠して追い出しておいて,シナジーは独り占めですかということを言いたくなるわけですが,これは現行法上は,どうもうまく価格決定を申し立てるチャンスがないようにできている。実際こういうタイプの紛争が裁判になっています。対処の一つは,今の全部取得条項付種類株式だと全く欠けている開示を充実させ,開示が不十分であることを理由に決議を取り消すことです。そういう形で,開示は意味を持ってくるでしょうから,そういう意味では,ここでなされている提案には意味があると思います。ただ,開示される情報の中身が問題で,部会資料12に書かれているような,端数処理の値段が幾らになるのかについての意味のある情報,できればある程度の保証が付いた値段の提示だけではなくて,対価の決定そのものにまつわる様々な情報というのが重要です。「対価の相当性」といった場合に,合併等の場合以上に,なぜこのタイミングでやるのか,このタイミングの値段というのが本当に良い値段なのかということを含まなければいけないと思いますが,条文で書けるかというと,なかなか書きにくいかもしれません。   ただ決議の取消しということに連動させて,それをエンフォースするために事前の適正な情報開示をさせ,そこで適切に十分な情報を出さなかったら決議が取り消されたりする可能性があるということだけでいいのかというと,ちょっと頼りないところがあります。最終的には,先ほど申し上げましたように,多数株主や取締役の少数株主に対する忠実義務とその違反に基づく損害賠償請求のような救済でもない限りは,十分ではないのかもしれません。こういう種類の救済については,かなり抵抗があるのかもしれませんけれども。株主総会の特別決議と株式買取請求あるいは価格決定請求というのが,株主保護のための万全の策であるかのような前提で会社法は作られてきたのですが,どうもそういう救済がうまく働くタイプの紛争類型ではないのではないかということを思わせるようなものが増えてきていることを,繰り返しておきたいと思います。 ○中東幹事 私も,基本的に藤田幹事と同じ問題意識を持っております。部会資料12の9ページ,(2)の決議要件の厳格化との関係で申し上げますと,手続を厳格にする,あるいは,厳格な手続を法定しないにしても,厳格な手続が経られていない場合には公正さの証明責任を会社に負わせることにする等,株主総会の手続をもう少し重くすることが必要だと思っています。部会資料12の9ページの最後の段落では,多数決の濫用に対してはいろいろな対処法が既にあるということですが,既に藤田幹事が御発言くださっていましたように,実効性という点では極めて怪しいと私も思っています。価格決定の申立てにしても,先ほど藤田幹事がおっしゃいましたように,後から分かったものはどうするのかという問題があります。株主総会の決議取消しの訴えについても,決議の日から3か月以内に起こさないといけないわけですから,やはり後から分かったときに使える手段かと言えばそうではないと思います。また,現実に訴えを提起して得をする人は誰なのか,提訴するインセンティブがあるかというと,私が知っている限りでは吉本興業の事例であったぐらいではないかとも思います。藤田幹事がおっしゃった差止めとの関係でも,やはり問題とされるべき事実が分かっていないことには差止めもできないわけですので,だからこそ情報開示の重要性についてお話になられたと理解しています。こういった現状にあることを考えると,事後の救済に頼ることでは足りないと思っています。その意味で,こういった多数決の濫用の余地がある,つまり構造的な利益相反があるような組織再編については,キャッシュ・アウトを伴っていようが,伴っていまいが,静委員がおっしゃいましたように,本来的にはマジョリティ・オブ・マイノリティを採るべきだと考えております。このときの分母に,つまりマイノリティに何を入れるかは,田中幹事がおっしゃってくださいましたように,基本的には,もし2段階で行うのであれば,第1段階からの分をマイノリティとして入れるのが望ましいと考えています。これを全部書き込んだ上で手続を厳格化するのが理想的であると思っています。   ただ,他方で,ではこれを全部書けるかというと,なかなか書き切れないというところもあろうかと思いますので,もしそうであれば,基本的に構造的な利益相反のあるような組織再編,支配従属会社間の組織再編については,これは不公正なものと推定する形にしまして,公正だと言いたければ,会社の側で公正だと証明するべきであると思います。そのときに公正だと言いたければ,マジョリティ・オブ・マイノリティを採っている,きちんと情報を与えた上でそれを採っているということも,一つの材料にすることができるということにすべきだろうと思っています。いずれにいたしましても,やはり事後的救済がしっかりしていない以上は,手続的に制約をしていかないと,変なものが出てきて止められないということになると思っています。 ○安達委員 (1)の端数処理型のキャッシュ・アウト及び(2)の対象会社の株主総会における決議要件ですが,両件とも,慎重に御判断いただきたいと思います。特に(2)の株主総会における決議要件,この厳格化というのがここに出てきたのは,若干違和感があります。先ほど議論しました新たなキャッシュ・アウト制度の創設というのがあったと思いますが,何かそれを出すことによってこれは取引条件として厳格化が付随的にできたのではないかと私は思っています。なぜ今ここで厳格化が必要かというのが私にはよく理解できません。同じ理由は繰り返しませんが,やはり事業戦略性を持ったキャッシュ・アウトに対して,一部の少数株主による反対でそれが安易に阻止されるということでは,経済活動を萎縮させる非常に大きな問題に成り得ると思います。この厳格化については慎重に御判断いただきたいと思っております。 ○中原幹事 藤田幹事,中東幹事がおっしゃったことで,ちょっと私が必ずしも全部正確に理解していなかったら大変恐縮なんですけれども,通常の株主総会決議必要型のキャッシュ・アウトは,普通は株式交換契約で相対する経済人同士が侃々諤々で取引を行って,それで,その交換比率を決めて,それでお互いの株主総会で承認をするというところが前提になっているわけでございます。それで,その上に更に反対株主の買取請求というのも手当てされているほか,先般の会社法改正の「公正な価格」というところで,シナジーの配分についても請求する余地はありますよというような手当てがされているわけでございまして,したがいまして,一連の手続を見るときに,少数株主といった株主を保護することの重要性自体,それ自体については私も全く異論はないのですけれども,現在の手続がそれについてかなり不備だとかいうようなことでは必ずしもないのではないかと思います。それで,もし特別な利害関係を有する者が議決権を行使したときというのは,決議取消しの訴え,831条の中で対処されていくということ自体は手当てされているわけですし,その執行停止の仮処分といったようなことで対応するというようなことも従前から考えられていたところではないかと思いますので,現行のものについて見直すかどうかという点につきましては,先ほど田中幹事や安達委員が正に正当に御指摘になったとおり,一部の少数株主に特別な拒否権を与えるというのは,場面次第では,会社に対する規律を強化するという観点からもよろしくないのではないかと思います。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。(1)については,本来であれば,このような新しいキャッシュ・アウトの制度を作る以上は,それ以外の方法によるキャッシュ・アウトというのは認めないことが望ましいけれども,現在の税法上の制度等を考えると,他の手段を一切認めないということは難しいかもしれないという御感触がどうも多かったかと思います。(2)の決議要件については,かなり御意見が分かれたということかと存じます。   次の(3)の株主総会決議の取消しの訴えの原告適格及び(4)その他の関連論点でございますが,これらはどちらかと申しますと細目的・技術的な論点ではないかと存じますので,もし部会資料12の方向性に特に御異論があれば,ここで御指摘いただくということにさせていただきたいのですが,どうでしょうか。何か御意見ございますでしょうか。よろしいですか。   それでは,これらに関する見直しの詳細は,部会資料12の方向性で,事務当局において更に詰めていただくということにいたしまして,ここで休憩に入らせていただきたいと思います。           (休     憩) ○岩原部会長 それでは,審議を再開させていただきたいと思います。第4,「1 株式買取請求制度」に移らせていただきたいと思います。(1)から(5)まで一括して事務当局から御説明をお願いいたします。 ○髙木関係官 それでは,「第4 組織再編における少数株主の救済方法に関する論点」の「1 株式買取請求制度」について御説明いたします。本文(1)は,株式買取請求の撤回の制限をより実効化するため,株式買取請求に係る株式が振替法上の振替株式である場合に,株式買取請求に係る口座―部会資料12では買取口座(仮称)と呼んでおりますが―を設け,株式買取請求をしようとする反対株主は,同時に,当該買取口座を振替先口座とする振替の申請をしなければならないものとすることを提案するものです。   本文(2)は,株式買取請求に係る株式の価格が決定される前に,株式買取請求を受けた会社から反対株主に対し,会社が公正と考える額を支払うことができる旨の明文の規定を設けることを提案するものです。当部会においては,このような制度を設けることには異論がなかったところと存じます。なお,当部会においては,反対株主は,株式買取請求に係る株式について法定利息を得る以上,剰余金配当受領権を有しないものと整理すべきであるとの指摘がされております。この点については,利息発生後の議決権の取扱いを含め,反対株主の権利を不当に害さないよう配慮しつつ,規律を見直すべきか,検討する必要があると思われます。   本文(3)前段は,存続株式会社等における簡易組織再編及び譲受会社における簡易事業譲渡において,存続株式会社等又は譲受会社の反対株主が株式買取請求権を有しないものとすることを提案するものです。当部会における御指摘を踏まえ,存続株式会社等における簡易組織再編について類型ごとに検討いたしますと,まず,簡易株式交換は,株式交換完全親株式会社の資産及び負債に対する影響が小さいので,株式交換完全親株式会社の反対株主に株式買取請求権を認める必要はないと考えられます。次に,簡易合併及び簡易分割について見ますと,承継される事業に潜在債務が存在するおそれがありますが,その場合,反対株主は,一定数の株式を有する株主の反対により株主総会決議を求めることや,役員等の損害賠償責任の追及をすることができることを踏まえますと,簡易合併及び簡易分割を簡易株式交換と区別する必要性は乏しいと考えられます。そこで,これらのいずれについても,反対株主は,株式買取請求権を有しないものとすることが考えられます。   本文(3)後段は,当部会において,簡易組織再編に限ることなく,株式買取請求権を認める必要性のある組織再編形態は何かという点について再検討すべきであるとの指摘がされていることを踏まえ,完全親会社を吸収分割株式会社とし完全子会社を吸収分割承継会社とする吸収分割,単独新設分割又は単独株式移転において,吸収分割株式会社,新設分割株式会社又は株式移転完全子会社の反対株主が株式買取請求権を有していることの是非について問うものです。これについては,対価の公正が問題とならず,かつ株主に与える影響は大きくないから,反対株主に株式買取請求権を認める必要はないとの指摘がされております。もっとも,これらの組織再編がされた場合,吸収分割株式会社,新設分割株式会社又は株式移転完全子会社が会社分割又は株式移転前に有していた事業に対する,株主の支配が間接的なものとなります。この点を踏まえ,これらの組織再編における反対株主の株式買取請求権について,現行法の規律を見直すべきか,検討する必要があると思われます。   本文(4)は,株式買取請求の濫用を防止する観点から,会社が,株式買取請求に係る通知又は公告において,組織再編の具体的な条件を通知又は公告した場合には,当該通知又は公告後に取得された株式について株式買取請求権を認めないものとすることについて,問うものです。これにつきましては,昨年のみなし配当益金不算入に関する税制改正後の株式買取請求に係る実情や,本文(2)の,会社が公正と考える金額を支払うことができる制度が導入された場合における,同制度が株式買取請求の濫用を防止する効果を踏まえた上で,このような規律を設けるべきか,検討する必要があると思われます。   本文(5)は,株式買取請求に係る「公正な価格」を定める基準日を見直すことについて,問うものです。現行法の下では,株式買取請求に係る「公正な価格」を定める基準日は,「株式買取請求がされた日」であるとの解釈が,本年4月19日の最高裁決定によって示されたところです。同決定により明確となった現行法の規律について,この機会に見直すべきかどうか,検討する必要があると思われます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,まず,本文の(1)及び(2)について御議論を頂きたいと思います。本文の(1)の,株式買取請求の撤回の制限をより実効化するための仕組みを設けることにつきましては,振替制度上の技術的な事項についての検討が必要でございますが,部会資料12の方向性に御異論があれば,ここで御議論,御指摘を頂きまして,もし御異論がなければ,事務当局において部会資料12の方向で更に詳細を詰めるということにさせていただきたいと思います。   また,本文の(2)につきましても,第一読会では特に御異論がなかったところかと存じますので,部会資料12の方向性でどうかということを御議論いただきたいと思います。本文の(2)の補足説明のなお書きにある,反対株主に剰余金配当受領権を認めることの当否につきましても,御議論を頂ければと存じます。いかがでしょうか。 ○前田委員 なお書きの部分に関してなのですけれども,ここは是非手当てをしておくべき事柄ではないかというように思います。つまり,買取請求した株主は,利息発生後は,実質的にはもう投下資本を回収したのと同等の経済的地位が保障されているはずでありまして,それにもかかわらず,なお配当を受けることができるということになりますと,実質的には二重取りという不合理な結果を生じるように思います。形だけ見ますと,株主のままでありまして,ここで挙げてくださった下級審判決に表れていますように,解釈論だけでは配当受領権を否定するのは困難に思われますので,ここは立法による手当てが必要ではないか。つまり明文で,利息発生後に基準日が到来した場合には,その基準日に係る剰余金配当は受けることができないと定めるということです。あるいは,そもそも株式の移転時が合併の存続会社等の側では代金支払時とされているのですけれども,これが必然的なものなのか。合併の消滅会社等の場合は効力発生日ですから,効力発生日にそろえてしまうのがいいのではないかというようにも思うのです。つまり,消滅会社等の側の株主か存続会社等の側の株主かで,どちらも株式買取請求権を行使して会社からの離脱を表明しているにもかかわらず,配当の受領とか議決権で今ほどの差があるのは不合理ではないかというように思いますので,引き続き審議の対象としていただければと存じます。 ○岩原部会長 ほかにいかがでしょうか。(1),(2)について御意見ございませんでしょうか。   (1)の買取請求の撤回の制限の実効化については,これは先ほど申し上げましたように,かなり技術的な問題でありますので,事務当局のほうで振替制度上の問題について詰めていただくということでよろしゅうございましょうか。   (2)について今,補足説明のなお書きの部分について前田委員から御意見がございましたが,何かほかの御意見はございますでしょうか。 ○荒谷委員 前田委員と違いまして,判例の考え方を支持したいと思います。法定利息を受け取るとはいってもまだ株主の地位は失ってはおりません。株主である以上は剰余金配当請求権,議決権その他の株主権を有していると考えるのが筋かと思いますので,後で精算するなど何らかの手当てをする必要があるとは思いますけれども,法定利息を支払ってもらったので,即二重取りの危険があるから株主としての剰余金配当請求権を奪うことができるかというと,私は疑問に思っております。 ○田中幹事 今のなお書きについてですけれども,配当受領権と言うときの配当が,基準日以前になされる配当なのか,基準日後になされる配当なのかで,違いが生じると思います。基準日後の配当について仮に受領権があるとしますと,基準日の株式の市場価格というのは,基準日後に得られる配当の予想キャッシュ・フローを反映して決まっているので,基準日後の配当についても受領権があると,実質的には二重取りになるのではないかと考えております。基準日については,ちょっと解釈論になってしまうので,基準日が組織再編の効力発生の以前なのか,それとも以後でもあり得るのかどうかいろいろ難しい問題もあるかと思うんですけれども,経済実質的には,やはり基準日後の配当については受領権を認めるべきではないし,それから,公正な価格の決定においても,基準日後にされる配当を更に足し合わせて公正な価格を決めるとかそういうことをすると,どうしても二重取りになってしまうので,それは認められないという制度にする必要があるのではないかと思っております。 ○岩原部会長 ほかに御意見ございますでしょうか。よろしいですか。御意見が分かれたということですが。 ○髙木関係官 田中幹事に確認したいのですが,何の基準日なのかを教えていただけますでしょうか。 ○田中幹事 価格決定の基準日ですね。いつの時点の「公正な価格」を指すかという,その基準日です。 ○藤田幹事 まず,今,田中幹事が言われたことの補足ですが,その株式を何月何日に持っていたなら幾らであったであろう値段ということを考えることになるという意味での基準日だとすれば,田中幹事の意見で全て一貫すると思います。基準日という言葉は,どうも使う人によっていろいろ意味合いが違って,それが事務当局の質問だったと思うのですけれども,厳密に言い出すと複雑な話になってしまいます。ただ,いずれにせよ一定の場合に二重取りになってしまう可能性があるということ自身は,田中幹事のおっしゃるとおりですので,調整の必要がある局面もあることを前提に,テクニカルにもう少し詰めていただくという方向で検討されたらいいと思います。恐らくは,請求してしまったらそこで配当請求権がなくなるという扱いにした上で,後は,場合によっては価格の算定のところで調整するというのが,一番処理としては簡単な気がしますけれども,技術的な点も含めて検討していただければと思います。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。それでは,藤田幹事から御指摘になったような点等を御検討いただくということで,先に進めさせていただきたいと思います。   次に,本文の(3)の一定の類型の組織再編等における株式買取請求権について,これはいかがでございましょうか。 ○安達委員 私は,ベンチャーキャピタルということでベンチャー企業の投資家という立場で意見を申し上げます。多くの場合私どもは少数株主になりますので,そういう観点から二つ申し上げたいと思います。この(3)そのものに関しましては,前段の御提案は賛成いたします。  それで,第一点ですけれども,今回御準備いただきました論点に入っておりません。実を言いますと,先月21日付けで私ども日本ベンチャーキャピタル協会から法務省民事局参事官室に意見書を提出させていただきました。そこに書かせてもらいましたが,簡易組織再編の適用対象,現在の法律は確か資産基準,総資産額の5分の1を超えないというような規定があるかと思います。私どもベンチャーキャピタルの投資先の企業は当然未上場企業ですが,昨今のICT革命等があって,従来のアセットの基準が大分変わり,当然ノウハウとか,将来に対する新しい技術の可能性とかそういう目に見えないアセットが大きな比重を占めるようになってきました。したがいまして,できればこの簡易組織再編に関しての適用対象を総資産だけではなく,売上げとか利益とかそういうものでもう少し実態的な基準を作っていただくということで一つ方法があるのではないかと考えています。是非御検討いただければというのが第一点目でございます。   それから,全く同じ意味にはなるかもしれませんが,部会資料12の14ページの下から2段落目に,「当部会においては,対価の公正が問題とならず,かつ,事業が」というところがございます。その2行目の最後に,「株主に与える影響は大きくないから,反対株主に株式買取請求権を認める必要はないとの指摘がされている。」とあります。確かにこれはおっしゃるとおりですけれども,実は第一点目と実は全く同じことが言えます。未上場のベンチャー投資に関しては,先ほどの資産額で算定されますと,やはり大きな問題になります。これに関しては,上場企業と未上場を分けるとか,何らかの手当てすることをご検討頂ければ非常に有り難いと思います。 ○前田委員 (3)の前段は,簡易株式交換はいいと思うのですけれども,補足説明で挙げてくださっていますように,簡易合併,簡易分割については,幾ら交付する対価は僅かであっても株主が大きな損害を受けるおそれはあるのですね。承継する財産が実はひどい実質的マイナスであったというような場合があるわけで,その場合の救済として,ここで挙げられた制度あるいはもう後は合併無効を争うしかないと思いますけれども,救済のハードルが高いので,それで本当に十分かということは相当慎重に考えておく必要があると思います。後で出てまいります差止めの制度も簡易の制度には認めないということにするのであれば,簡易合併と簡易分割については,株式買取請求権を今のまま残すということも考えるべきではないかというように思います。   あと,(3)の後段については,前回の部会で審議されました子会社の重要な意思決定に親会社株主を関与させるかという問題についての解決が実現するかどうかによると思います。そちらで相当な手当てがされるのであれば,完全親子会社間で財産が動いたり,株主が動いたりするだけであれば,株式買取請求権はなしでいいと思いますけれども,そちらでの手当てが実現しないのであれば,やはり株主が受ける影響は小さいとは言えず,株式買取請求権なしでいいということにはならないのではないかというように思います。 ○岩原部会長 ほかに何か御意見ございますでしょうか。よろしいでしょうか。それでは,この問題については,前段については余り御異論がなかったようで,後段については今の前田委員のような慎重な御意見があったということでよろしいでしょうか。   それでは,先に進ませていただきます。本文の(4)の組織再編の具体的な条件の通知・公告後に取得された株式に係る株式買取請求権については,いかがでしょうか。 ○静委員 部会資料12の(4)では,公表後に取得した株主が買取請求権を行使するのは一種の権利の濫用であるといった考え方が紹介されていますが,この考え方は,取締役会で何らかの買取請求権の対象になるようなことを決めたとしても,それが株主総会で可決されると決まっているわけではないと考えて株を取得する投資家がいるということを見落としているのではないかというような気がしております。つまり,取締役会がそういう方針を決めたとしても,総会で可決されるまでは会社としての意思決定は決まっていないということですから,そう考えて反対が通ると思って投資する方もいるということなので,その保護を図るのが不当だということは,私は成り立たないのではないかと思います。したがって,公表後に取得した株式につきましても,買取請求権を認めるのは当然ではないかと思います。 ○田中幹事 何度も同じような意見を言っていて恐縮ですけれども,ごく最近,幻冬舎という会社のキャッシュ・アウト事例に関連して,これに反対する投資家が株式を買い集めるというケースがあったかと思いますが,ああいう投資家の株式の買い集めをけしからんといって懲罰するということになると,買い集めをする人はいなくなるわけです。現在,株式の価格決定についてアメリカのようなクラスアクション制度がない日本では,基本的に費用を自前で,自分の持っている株式を買い取ってもらうということですから,零細株主は根本的にこの制度を利用することが難しいということになっていますし,まして,価格決定に要する費用の帰属が裁判所の裁量に任されている部分が大きい中で,もしも会社が主張する価格よりも高い価格が公正な価格であると認められた場合であっても,その価格は株主が主張した価格よりも低いようなときに,あん分比例的な形で株主が費用負担をさせられるといったおそれもあるという中では,零細株主がこの制度を利用することを極めて期待し難い状況になっているわけですね。そういった形で,少数株主保護の外堀を埋めておいて,一方で,例えばキャッシュ・アウトの価格が非常に不公正であると思うから,株式を買い集めて,あわよくば決議不成立に持ち込むと,駄目であっても買取請求をすると,そういう形の投資判断も封殺するということになりますと,外堀も内堀も埋まるということになるわけです。基本的に,株式の価値というのは,その株式の権利を行使することで将来得られると期待できるキャッシュ・フローの現在価値ですので,将来の株主の権利を制限すれば,現在の株主も害されると,そういう構造になっているかと思います。そのようなことも含めて,日本の会社法が大きく事前的な規制から事後的救済に舵を取ったと言われているわけなんですけれども,法制度をうまく使って利益を上げられるということになっていないと法制度は使われないわけで,使われない法制度を作っておいて,使われなかったら世は平和で事もなしというふうに考えると,事前的規制から事後的規制の転換というのは,いつになってもうまくいかないのではないかと思います。   それから,最後に,この株式買取請求の制度を投機目的で使うというようなことが昨今問題になっているんですけれども,投機目的の制度の利用を防ぐためには,価格算定の仕方を考えなければいけませんで,ここに書かれているような規制をしただけでは,必ずしも投機目的の利用は防げません。最近,組織再編をするという予定は会社は公表したが,組織再編の条件については公表しないでいる間に,投資家が思惑で株式を買って,それが株価を高めているというケースがあります。その後,組織再編の条件が公表されると,これが思惑で形成された価格に満たないと,市場価格が下落します。こういった場合に,裁判所が,組織再編によって株主価値が害されたというふうに簡単に認定してしまうというようなことになりますと,組織再編が公表されたけれども条件はまだ公表されていない間に,すごい買い集めが起きてしまいまして,その後条件が公表されて市場価格が下がると,下がる前の高い価格で買い取ってもらえるということになりますと,非常に問題のある投機を助長します。というように,投機の弊害というのは,いろいろな場面ごとに,価格決定の中で慎重に考慮していかないと防げないのでして,単純に,条件を公表した後に株式を買った者は買取請求を認めないというだけで防げるわけではないということです。これまでの意見の繰り返しになっている部分も多いかと思うんですけれども,私はこの提案には賛成できません。 ○杉村委員 経済界としましては,(4)にあります,公表後の株主に買取請求権を与えるべきではないという考え方を支持したいと思います。組織再編の具体的な条件を知りつつ株主となった者について,そこまでの保護を考える必要があるのだろうか,という意見でございます。部会資料12の15ページに「税制改正後の」という話がありますけれども,税制改正後の事情を考慮いたしましても,株式買取請求の濫用の余地というのは残されていると思いますので,やはり何らかの手当てが必要ではないかと考えております。 ○岩原部会長 ほかにありますでしょうか。よろしいですか。この(4)については御意見が分かれたということかと思います。   次に,(5)の公正な価格を定める基準日について御意見いただきたいと思います。いかがでしょうか。 ○藤田幹事 この問題は,極めて技術的な話なのですけれども,まず根本的に,基準日がばらばらになるのが理論的におかしいかというと,私は,必ずしもおかしいと考える必要はないと思います。ですから,是非とも最高裁決定を修正して,基準日を統一するために規定を置くべきだとは思いませんので,積極的にこの提案を支持するつもりはありません。ただ,そろえることが間違っているとまで言うつもりもなくて,効力発生日とか買取請求期間満了日,株式買取請求期間満了日にそろえるという改正をしてはいけないとまでは思いません。  ただ,私が気になっているのは,そこから先の問題です。仮にそろえるとすると,「基準日」なるものを定義して,それを条文で書かなければいけないのですが,本当に「基準日」というのがきちんと書けるものなのだろうかということについて若干懸念を持っています。「基準日」という言葉が,現在どうも多義的に使われ,何か混乱しているきらいがあり,提案を読ませていただいた限りだと,正確な条文の提案にまで結び付くかどうか,若干気になります。最高裁が最近の楽天対TBS事件の中で言っている基準日というのが具体的にどういう意味かということについての正確な認識と,それを修正するための正確な条文が書けるのかということです。  少し技術的過ぎるのですけれども,確認的に申し上げておきます。買取請求との関係で,ある日程を特定しなければいけないシチュエーションは幾つかあるんですけれども,一つは,例えばいわゆる「ナカリセバ価格」ではなくて,公正な対価,公正な比率を求めて株式買取請求をすることも,現行法ではできるようになったとされているわけですが,その場合に,例えば1対1で存続会社株式を割り当てられたけれども,公正な比率は1対2だ,だから株式2株分の値段で買い取れというふうに,買取請求権者が主張する場合,どの時点の企業価値を基に1対1が正しいのか,1対2が正しいのかを決める,そういう日付が問題になります。これは合併なり組織再編条件を決める日でないといけないので,組織再編決議の日だと思います。これは楽天・TBS事件で最高裁が言っている基準日とは違うのですね。これは区別しないといけない。  次に,株式買取請求権者が持っているはずの株式,ナカリセバ価格ですと元々持っていた株式ですし,今の不公正な比率が対価だという例ですと,実は一株ではなく二株割り当てられなければいけなかったとすれば,二株分の株式ということになりますが,そういう買取請求権者が持っていたと想定すべき株式を金銭的に換算する際に,どの時点の株価で換算するかという,その日付です。最高裁判決が言っている基準日というのはこれです。注意してほしいのは,こういう意味での基準日は,例えば現金対価の組織再編についてナカリセバ価格ではない買取請求を求めたケースだと問題にならないのですね。この場合だと,組織再編決議日で本来何円が公正な対価額だったのかということが決まれば,そのまま買取価格が決まるので,この二つ目の意味での基準日は,考えなくていいのです。  最後に,これはもう今多くの学説も認識していると思いますが,ナカリセバ価格を算定する場合に,組織再編の効力が発生する前の株価を参照して,基準日なら幾らになっていただろうというふうに思考するわけですけれども,それを推計するために,計画発表前の日付の株価を参照します。これももちろん最高裁の言う基準日とは違う日ですし,最高裁自身別の言葉―「参照株価」―で呼んでいます。  このように,基準日を条文化する場合には,今言った二つ目の意味であることをきっちり特定して,技術的に混乱がないようにこれが書けて,そろえられるのであれば問題ないんですが,うっかり変な書き方をしてしまいますと,間違って一つ目のものとか三つ目のものも何かどこか変なところ影響を与えてしまう危険があります。いろいろ文言を工夫することにトライされることに反対するつもりはありませんし,具体的な条文案を御提示いただければ,具体的な賛否について申し上げたいと思いますけれども,作業が大変な割には,最初に申し上げたとおり,どうしてもそろえなければいけないというほど理論的必然性があるわけでもないとすると,要らないことをしないほうがいいかなという気もしております。 ○三原幹事 この(5)ですが,公正な価格の基準日ということだけでなく,もう少し幅広に,事務当局にもう少し考えていただけるかどうかというお願いも含めて質問します。公正な価格ということで買取請求をしたときには,まず協議をするわけですが,実際にこの60日以内に公正な価格の協議が調わないと,裁判所に価格決定の申立てをします。公正な価格は何ですかということですが,合併ナカリセバというワーディングが改正で法文から消えました。それは,シナジーを一部分配するためだという議論が背景にあったと理解しますけれども,実際には,裁判所に頼めば,つまり法文に公正な価格と規定しておけば,きっと適正な価格が出るだろうという裁判所に対する立法府からの絶大な信頼あるいは司法に対する大変大きな信頼を持ってこういう規定があるようにも思います。司法への大きな信頼があるということは,大変有り難いと思う反面,具体的な個々の案件でこの価格を公正だと主張する場合,基準がはっきりしないものですから,公表株価がある事例の場合には,株価がアップ・ダウンしたら,これはどういう理由でアップしたのか,どういう理由でダウンしたのかという主張立証を現実には行っているわけでございまして,具体的案件では当事者は非常に苦労しています。そうなると,価格の公正さというところについて何か基準をもう少し考えていけないのか,つまり実体法で公正さという概念を考えていけないのかとも思います。つまり会社非訟事件として扱うことにしてしまえば,価格の公正さというのは裁判所から自動的に出てくる,ということではないわけでございます。   苦労するもう一つのところは,例えば,鑑定なり第三者意見を取るときの費用負担という点があります。少数者株主保護という論点がありますが,例えば,買取価格が100円と提示されたのに対し,120円が適正だ,又は150円が適正だという主張をする場合,その鑑定を取るなりして主張・立証していくことになりますので,例えば第三者の専門的な意見を取るなど,非常に大きな負担があるという点があります。非訟事件手続法が確か今年の5月25日に成立しましたけれども,未施行でありまして,それに基づくと,原則は費用は各自負担となっていて,ただし,事情により,裁判所が判断すれば当事者又は第三者等々で裁判により直接利益を受ける者についても費用負担が命じられるという形になっています。これは一般的,抽象的な非訟事件全般における,例えば事務コストとか謄写費用なども想定した規定だと思われるのですが,非訟事件の中でも価格決定の第三者鑑定などの場合には,非常に大きな,例えば何千万円という金額が掛かるような事件もあるわけでございまして,その価格のコスト負担という手続の問題,これを非訟事件手続法において任せてしまうのでよいのか,非訟事件手続における費用負担は,これも裁判所に行ってしまうわけですけれども,これも何か実体法で考える必要があるのかどうか,と思っています。公正な価格というのは,実際の価格の問題が少数者保護の関係では非常に大事だということでありますので,これは,裁判所の手続に任せてしまうということではなくて,少し実体法として基準を考えていただくことができるのかどうか。   以上の二点について,私に具体的なアイデアがないからでありますけれども,もう少し事務当局でお考えいただけないかというお願いでございます。 ○坂本幹事 先ほど具体的なアイデアがないからとおっしゃったところですが,具体的に何かアイデアがあれば御提案いただければと思っている次第です。前半の部分,公正な価格について実体的な基準が書けないかというところでございますけれども,公正な価格の決定に当たっては,いろいろな事情を考えなければならず,その全てを条文で書き切ることはできないので,不確定要素というのはどうしても出てこざるを得ないのであろうと思います。どのような手当てをしても,果たして御指摘のような点が解決するのか,というところはあろうかと思います。   後段部分の非訟事件の費用というところで,この価格決定については,かなりの費用が掛かるということは承知しておりますけれども,他方で,基本的には,費用負担の原則というのがあるわけで,その中でこの手続だけ特別の規定をなぜ置けるのか,また,仮に置くとして,誰に費用を負担させるのか,という問題があるかと思います。当事者のどちらかに負担させるということしかないんでしょうけれども,それをどう考えていくのかというところについては,原則から離れていくことになってしまいますので,いろいろ考えなければならない難しい問題があるのかなと思います。 ○三原幹事 今の御回答を踏まえ,もう少し補足させていただきますと,前段の点につきましては,例えば,有利発行のときには,大体10%減までという基準と,過去6か月,3か月,1か月の平均を取るという実務の基準があると思います。そういう考慮に入れるファクターが実務に存在するわけでございまして,これは,裁判所がルールとして見るというよりも,むしろ例えば証券業協会のルールだったり,あるいは旧商法時代の有利発行の学説の考え方だったりするわけですが,例えば,そういう何か,こういうことをファクターとして入れるということを列挙して,それ以外の状況も勘案の上,公正な価格を決定する等といった立法技術はないかという意味です。実は,具体的なアイデアはないのですが,今考えられるとすれば,強いて言えばそういったところです。   それからもう一つ,少数者保護ということの関係で,この鑑定費用ということを申し上げたのは,例えば,代表訴訟でも,訴訟費用の申立費用を8,400円にしたら,実は実務が変わったというのと同じような視点でありまして,実際に実務でネックになるところはかなり細部のところであったり,最初の一歩を踏み出すときのコストだったりするわけでございますので,一般的,抽象的には,会社非訟は対立当事者間ではないということが通常でございますけれども,買取請求では,コスト面で少数者の利害がかなり先鋭化するため,少数者保護を図るとした場合,具体的には,コスト面での対応が必要かなと考えた次第です。   それからもう一つ申し上げると,先ほどのキャッシュ・アウトの新制度における価格決定の点を見ますと,これは,当事者間の売買であるところ,実際には,価格決定の形で利害の問題が出てくるということになり,とすると,より対立当事者間という関係が出てくることになります。そうだとすると,この新制度については,別途考える余地が実体法においてあるのではないかとも言えます。非訟事件手続法をもう一回改正してくださいということを申し上げているのではなくて,非訟事件になる場合の費用負担については,少数者保護という立法趣旨から何か考える余地がないのか,そういうことを申し上げたわけでございます。後者については,具体的なアイデアはございませんが,引き続き御検討いただければ有り難いと思います。 ○鹿子木委員 価格決定の費用負担の問題について,裁判所では,当事者の主張と決定した価格の遠さと言いますか,かい離度に比例して分担を決めることが多いわけです。何も規定がないものですから,当事者間の公平な分担という発想でいくと,そういうことになるかなと思って運用しているところであります。ここは,実際のところ,鑑定費用を予納する段階でも相当にもめるところであります。例えば,会社側に当面全部予納してくださいというと,では予納するのはいいんだけれども,その後はどういう分担になるんですかということを問われるということになりますし,あるいは双方に予納を取りあえず半額ずつお願いするとすると,それについても,今後どうなるんですかということになるので,そういう運用ですと言って御説明して,何とか予納についての協力を頂いているというのが実態です。もし,少数株主保護ということで,費用負担について規定で決められているのであれば,こうなっているからと,予納についても理解を得やすいということもありますので,そういうことが可能なのであれば規定をしていただくのがよろしいかなと思います。参考になるものとしては,倒産手続の担保権消滅手続における価額決定に要する費用負担というのが法律で決まっていますので,そうしたものも参考に決めていただくというのも一案かなと思います。 ○坂本幹事 買取価格の実体要件につきましては,会社法の現代化のときにもいろいろ議論されていたところでありまして,それでもなかなか名案が浮かばないということで,今のような形になっていると承知しております。そういう意味では,一定の事項を挙げて例示するということを御提案いただきましたけれども,そもそも何を例示するのか,特定の項目だけを挙げるのが適切かどうかということ自体,いろいろ問題があり得るのかなというのが1点でございます。   後半部分の非訟事件手続の費用のほうですが,何か実体法的に書けないかということで,代表訴訟の例があるかと思いますが,その場合に,誰が受益者なのかというところを考えていかなければいけないのだろうなと思っています。代表訴訟の場合は,最終的に会社のためだということになるので,会社に費用負担を請求することができるというふうになっているものと理解しておりますけれども,少数株主保護といったときに,最終的に利益を受けるのはその少数株主であるということになると思われます。実体法的にとおっしゃいましたけれども,利益を受ける人間が費用を負担するというのが基本的には原則的な形態になっているとすると,では少数株主保護という観点から,本来利益を受ける株主以外の者に費用を負担させることができるのかどうかというところについては,いろいろ慎重に考える必要があるのかなと思っております。 ○田中幹事 (5)について御意見しようと思ったんですが,三原幹事から,費用負担の御意見が出されましたので,私の意見を申し上げたいんですが,非訟事件手続法で,原則的に各当事者の負担とした上で裁判所の裁量を広く認める制度になっていると思いますが,それは,非訟事件にはいろいろな種類のものがありますから,それについて一律にルールを決めるのは不可能ですから,全部に適用されるルールを作ろうと思ったらそのぐらいしかないだろうというようなことで制度が作られていると思っていまして,そうだとすると,個別の制度の中で,いろいろな考慮で非訟事件の中でもこのカテゴリーに属する制度については,別途費用負担を設けるというのは当然あってしかるべきではないかなと思っています。株式買取請求に関して言うと,やはり基本的には会社が多数株主の承認の下で決めた組織再編に対して反対株主が異議を述べるという制度であって,裁判の中では,会社の側は,組織再編は企業価値も株主価値も毀損しておらず,シナジーも適正に分配されていると主張することに対して,反対株主の側は,組織再編が企業価値ないし株主価値を毀損し,あるいはシナジーが適正に分配されていないといって争うと,そういう構造になっており,これはある意味で非常に訴訟に近い構造になっているといえるのではないかと思いますこれは,例えば遺産の分割とか,とにかく意見がまとまらないから裁判所に決めてもらうというのとは,かなり違う構造があるのではないかと思っています。そうすると,具体的にどういう制度にすればいいのかというのが問題なんですけれども,反対株主の株式買取請求に係る価格決定に絞って制度を作るのであれば,原則は,裁判所の裁量というところでもいいのかもしれませんが,例えば,裁判所が,組織再編は企業価値,株主価値を毀損し,あるいはシナジーが適正に分配されていなかったと認めた場合には,それは,少なくとも裁判所の認定によれば,会社は悪い組織再編をしてしまった,そのことによって反対株主は費用と負担を掛けて価格決定をするという状況に追い込まれたのですから,原則的には,その場合は,費用は会社が負担するということでもいいのではないかと。確かに,会社が費用負担するといっても,それは,残りの株主が結局負担するということですから,本当にそれが公平かという意見もあるかもしれませんが,少なくとも少数株主のキャッシュ・アウトのような場面では,費用は実質的には支配株主だけが負担するのですから,公平の観点から見てもそれでもいいと思います。独立当事会社間の組織再編だと確かにちょっと迷う部分もありますが,独立当事会社間の場合は,大体は会社の定めた条件が裁判所によって公正と認められていますし,万一公正と認められなかった場合には,賛成した株主の負担で反対株主に補償するということでいいのではないでしょうか。このように,裁判所がどのように認定したかによって費用の負担方法を変えるというのは,非訟事件手続の費用負担の一般ルールとしては,とてもそういうことはできないでしょうが,価格決定という特定の場面に限定したルールであれば,私は,十分可能だと思っていますので,そういったことも考えていただいていいのではないかと。仮に,今言ったような一般的なルールが書けないとすれば,やや譲歩した提案ですけれども,キャッシュ・アウトにおける価格決定の場面だけに限定して,キャッシュ・アウトのときに会社の決めた額よりも低い価格で裁判所が買取価格を定めた場合には,それは会社が裁判で敗訴したということですから,会社に負担してくださいというルールにして,後は,それを一つのメルクマールにして裁判所がほかの場面の費用負担についても解釈で決めていくと,そういうことでもいいのではないかと思います。このように,費用負担についてはいろいろなルールが実際には考え得ると思いますので,もう少しちょっと,このあたりについてもお考えいただければいいかなと思っております。 ○三原幹事 私の問題提起に関し,田中幹事からお話がありました。その関係で1点だけ補足させてください。私としては,特にアイデアないと申しましたとおり,誰がどう負担するかは分からないのですが,ルールを何か決めてくださいとだけ申し上げたつもりでした。田中幹事より,もう一歩進んで,これは対立当事会社間の問題だという御指摘もありました。それがいいかどうかについて,私は特に意見を決めておりませんけれども,そうであるなら,(5)は,やはり公正な価格はどこかの日に決めたほうがいいように思います。なぜかというと,買取請求期間の最終日に買取請求した人についての公正な価格決定と,3日目に請求した人と5日目にした人でばらばらになってくると,それぞれに価格決定の算定をたくさん訴訟で抱えながら,どの費用がどの負担でとやっていき,最終的には各人ごとに違ってくるのでしたら,一つの日に基準日を定めて,それで一つ決まれば,別に非訟手続を併合しなくても全部同じ価格で決められるというほうが訴訟経済上も適正のような気がします。買取請求での価格決定訴訟が複数出るのなら基準日は同じ日にしたほうがいいのではないかということを今,田中幹事のお話を聴いて思いました。 ○藤田幹事 議論がエンドレスになるのは本意ではないので,ごく簡単にコメントします。もし公正な価格について,実体的に,現在の条文以上に踏み込んだものを書きたいのであれば,制度を根本的に直す必要があると思います。今の買取請求権制度は,余りにも雑多なものを含み過ぎていますので,これをフォーミュラとして書くのは難しいと思います。どうしてももっと明確にしたいのであれば―これは,私は前々から言っているので,そうしてくれればうれしいですけれども―,株式買取請求権は,「ナカリセバ価格」一本にしてしまうべきだと思います。そうすると,基準日なんかも比較的すっきり書けます。そういうふうにした上で,現在の制度の下で,シナジーの公正な分配等と言っている話は,株式買取請求権制度ではなくて,言わば追加対価請求権制度とでも言うべきもの,つまり,決議された組織再編対価に幾らお金を足してくれれば公正な条件になるだろうかという観点から,追加して支払うべき対価を請求するという制度によって対処する。そもそも一株のところを本当は1.5株ではないと不公正であると不満を言うときに,どうして全株差し出し,株主であることをやめないと救済を受けられないのかという根本的な問題がありますので,今言ったような制度のほうが本来の趣旨には合う。そのようにすれば,きれいに役割分担ができ,買取価格の基準ももうちょっと実体的に明確に書けますし,先ほどの基準日なんかも書きやすくなり,いいことずくめだと思うのですが,それを一切しないまま,現在のような雑多な役割を株式買取請求権制度に担わせたままにするのなら,現在の「公正な価格」ぐらいの抽象的な文言でとどめなければいけないと思います。 ○岩原部会長 それでは,よろしいですか。かなり多様な御意見を頂きましたので,それを受けて事務当局で更に検討していただくことにしまして,先に進ませていただきたいと思います。第4の「2 組織再編に係る差止請求制度」について,事務当局から説明を頂きます。 ○髙木関係官 それでは,「2 組織再編に係る差止請求制度」について,御説明いたします。本文前段は,略式組織再編以外の組織再編について差止請求制度を設けることの是非について,問うものです。現行法は,組織再編の無効の訴えを設けておりますが,事後的に組織再編の効力を否定することは,法律関係を錯綜させるおそれも否定することができません。また,現行法は,反対株主に株式買取請求権を認めておりますが,株式買取請求では,請求をした反対株主のみが利益を受けるのに対して,差止請求では,組織再編が差し止められた後に再交渉がされて当該組織再編の条件が適正なものへと変更されれば,全ての株主がその利益を受けることができるとも考えられます。他方,組織再編が差し止められた場合,当該組織再編の当事会社は,再交渉により条件が適正なものへと変更され得る組織再編まで完全にやめてしまう可能性があるとの指摘や,差止請求制度を設けると,組織再編の実施に対して萎縮的効果を及ぼすおそれがあるとの指摘もされております。このような指摘を踏まえ,略式組織再編以外の組織再編について差止請求制度を設けることの是非について,検討する必要があると思われます。   本文後段は,仮に略式組織再編以外の組織再編につき差止請求制度を設けることとする場合における差止請求の要件について,どのように考えるかを問うものです。先ほど本文前段について御説明いたしましたとおり,差止請求制度を設けることの是非自体について様々な御指摘を頂いているところですが,具体的要件についても御議論いただくことは,差止請求制度を設けることの是非についての検討に際しても有用と考え,具体的要件をお示ししたものです。当部会における議論を踏まえると,差止請求の要件について,A案又はB案の考え方があり得ると思われます。現行法では,株主による取締役の行為の差止めは,当該行為によって会社に著しい損害又は回復することができない損害が生ずるおそれがあることを要件としております。しかし,組織再編においては,会社に著しい損害又は回復することができない損害が生ずるおそれがあるとは言えないが,株主に著しい損害が生ずるおそれがある場合があり得ると考えられます。そこで,A案のように,組織再編については,当該組織再編によって個々の株主に著しい損害が生ずるおそれがあるときに,株主による差止請求を認めるものとすることが考えられます。なお,ここで言う法令違反には,取締役の善管注意義務や忠実義務の違反を含むと考えられますので,A案によれば,取締役がこれらの義務に違反した場合にも,株主による差止請求が認められ得ると考えられます。   もっとも,株主総会決議により,多数株主が組織再編の条件を相当と判断している場合には,その条件に不服のある少数株主の保護は,原則として,公正な価格での株式買取請求により図るべきであるとも考えられます。このような観点からは,多数株主の意思決定がゆがめられ,又はゆがめられるおそれのある場合に限って組織再編の差止請求を認めることが考えられます。具体的には,B案のように,組織再編が法令又は定款に違反する場合のほか,特別の利害関係を有する者が議決権を行使することにより,組織再編に関して著しく不当な株主総会決議がされ,又はされるおそれがある場合であって,株主が不利益を受けるおそれがあるときに,株主による組織再編の差止請求を認めるものとすることが考えられます。これらの考え方を踏まえ,仮に略式組織再編以外の組織再編につき差止請求制度を設けることとする場合における差止請求の要件について,検討する必要があると思われます。   仮に略式組織再編以外の組織再編について差止請求制度を設けることとした場合であっても,簡易組織再編については,差止請求制度を設ける必要性は乏しいと考えられます。このほか,例えば,事業譲渡やキャッシュ・アウトに利用し得る制度である株式の併合及び全部取得条項付種類株式の取得等,組織再編以外の場面について差止請求制度を設けることとすべきかについても,検討する必要があると思われます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,組織再編に係る差止請求制度について,御議論を頂きたいと思います。部会資料12では,差止請求の要件について,A案とB案の二つの案が提示されております。このような案の当否やほかに考えられる具体的な案を御議論いただくことはもちろん,ただ今事務当局から説明がありましたとおり,このような案を踏まえながら,組織再編に係る差止請求制度の創設の当否についても御議論いただければと存じます。 ○中東幹事 私は,前段については,差止請求権を設けることに大賛成でございます。後段について,A案がよいかB案がよいか,導入されるならどちらでもいいというのが正直なところでございますが,実質的にはそれほど違いがないのかなとも思っております。この点は,ほかの委員,幹事の皆様の議論を聴いた上で考えさせていただければと思います。B案については,決議取消しの訴えの考えを使う形で設計されているわけですが,取消事由が理由かもしれぬということであれば,組織再編の場合に限らない形での差止請求のほうがよろしいのではないでしょうか。例えば全部取得条項付種類株式が残るならば,その事例も含めたほうがよいと思います。従来の学説でも,決議取消しや無効の訴えが保全事件で被保全権利になるという見解が有力であったわけですから,このような見解にも合っていると思います。   補足説明の1の第2段落に関しまして,組織再編が頓挫してしまうのではないかということであれば,そういうものは頓挫してしまえばいいのではないかというのが正直な感想でございます。むしろ,差止めを乗り切れば,後は,巻き戻しはないのだという意味で,安心して組織再編ができることが重要ではないかと思っております。 ○杉村委員 この差止請求制度につきましては,企業経営に大変甚大な影響を与えるものでありますので,部会資料12にはA案,B案とございますけれども,私どもとしましては,導入自体に反対でございます。   理由の1点目ですが,実態面におきまして,組織再編はタイミングが非常に重要になりますので,部会資料12にも記載がございますように,株主から差止めを請求されれば,再交渉ということは期待できず,組織再編自体をやめてしまうことになってしまうと思います。また,中東幹事より,巻き戻しの議論がありましたけれども,現実の組織再編を見てみますと,ビジネスの現場では,組織再編を発表したり意思決定をしたりした後,効力発生日までの間に,社内あるいは社外の関係も含めて準備や対応を事実上不可逆的に進めていかなければ,組織再編は実現できないものであります。逆に言いますと,差止請求制度があることでそのような準備の進行の見通しがない中,組織再編の意思決定をしろと言われても,ちゅうちょしてしまいます。そういう意味で,差止請求制度を創設すれば,適正な条件による組織再編に対しても萎縮効果を及ぼすことを非常に懸念するところであります。   2点目として,現行法でも,組織再編の無効の訴えや取締役の行為の差止めにより組織再編の効力を争う手段がありますし,対価の適正性に関しましては,株式買取請求制度が準備されております。こうした手段で対応できますので,このような影響の大きい制度を新しく作る必要はないのではないかと思っております。 ○鹿子木委員 差止請求を設けるかどうかにつきましては,政策論でありますので,その点については意見を申し上げませんが,仮に導入されるとした場合に,審理を担当する立場からの意見を申し上げたいと思います。これが導入されますと,実際の手続としては仮処分で争われることになると思われます。そうすると,タイミングよく組織再編をすることによって得られるであろう経済的利益,例えば数十億,数百億,場合によっては数千億というものが関わってくる,そういう問題について,1週間ないし2週間で判断をする必要が出てくるということになります。そういうことからしますと,ここの要件というのは,相当具体性のある明確なものとしていただく必要があろうかと思われます。その観点から議論をするとすれば,具体的に,株主の行動あるいは会社の行動としてこういうことが想定される,いろいろな事案を想定して,この場合については差止めで対応するのが適当だと,この場合については買取請求で対応すれば足りるといったことについてこの部会でコンセンサスを得ていただいて,その上で,差止めが適当な事案について差止請求の要件を考えるとすればこういう要件になるといった手順で要件を考えていただきたいと思います。現在頂いているこのA案,B案は,非常に抽象的で,どこまでが差止めの対象となるのか判断できないということを申し上げたいと思います。   それから,それに関連しましてもう一つの問題がありまして,これは,差止めを認めるということになりますと,それが仮に本案で覆ったときに,会社に生ずる損害をどう担保するかという問題があります。差止めを認めて,それが本案で覆った場合には,御案内のとおり,無過失責任で,差止めを請求したほうが全ての損害を賠償する責任を負いますが,それが数十億,数百億という利益に関わる場合に,一体誰がそれを担保するのかという問題であります。それからしますと,差止めを認める場合には,相当な担保が必要になってくるということが考えられます。抽象的要件であればあるほど,本案でその判断が覆る可能性が生じますので,そういうものについては相当高額な担保を積んでいただかないと発令ができないということになります。そういう意味で言うと,やはり,これを導入するのであれば,かなり明確な要件を立てて,こういう事実が明らかだから,もう会社側の瑕疵は明らかなので,担保については相当低額でいいといった考えを採っていけるような要件を立てていただく必要があろうかと思います。恐らく手続的な要件を立てて,この手続的要件の有無だけを審理すれば差止めを認めてよいというような場合に限定していくことが適当ではないか,条件の当・不当の問題に踏み込むと,かなり困難な問題になるのではないかというように考えるところでございます。 ○太田委員 差止請求権の問題についてなんですけれども,監査役協会といたしまして,第3回会議だったと思うんですが,主に大規模な第三者割当増資への対応ということを念頭に置いた上で,監査役の差止請求権の拡充の必要性について問題提起をしたという記憶がございます。少し振り返ってみますと,現在の会社法において―私が申し上げるまでもないと思いますが―,差止請求権制度というのは,いわゆる監査委員を含め,監査役設置会社におきましては,取締役の違法行為の第一義的なチェックと言いますか,是正の機会というのは,監査委員あるいは監査役が負っていると,こういうふうに理解をしておりまして,会社の損害が回復できない場合に初めて株主が差止権限を行使できると,こういう建て付けになっているのではないかと,まずこういうふうに理解をしております。こうした中でなんですが,この部会資料12での御提案のように,株主によります新たな差止請求権の創設提案がなされておりまして,今,各委員の方から,もう少しきめ細やかなディフィニッションが必要である,手続論と言いますか,あるいは経済界のほうからは,いかがなものかと,こういう御意見があったわけですけれども,いずれにしても,眼目は,現行法上の組織再編における会社法で定められた会社に回復することができない損害が生ずるとは言えない場合において,株主に著しい損害が生ずるおそれに対応するものとして,株主に新たな差止めの請求権を認めようとするものであろうと,こういうふうに理解するわけです。ここからが質問なんですが,今回提案されております組織再編に係る新たな差止請求制度の枠組みにおきましても,株主による権限の前置的な仕組みとして,監査役による差止権という考え方に立っているように思われるのですが,この認識はまず正しいかどうか。監査役の差止請求権の在りようといいますか,在り方については,特段部会資料12にも記載がございませんので,まず,その趣旨の確認を含めて1点御質問したいと思います。   もう1点は,要望,要請になるんですが,私ども監査役協会として理解するところを少し申し上げますと,具体的に16ページのA案,B案というふうにありますけれども,A案の場合には,必ずしも個々の株主の損害状況が一様ではない。多様な株主利害が交錯することにもなるという状況の中で,一方,B案によれば,多数株主の意思決定がゆがめられ,また,ゆがめられるおそれと,部会資料12にありますように,そういう場合を問題とするものでありますので,仮にそのような場合を想定するとすれば,組織再編が法令定款に違反する場合はもちろんのことですけれども,組織再編が多数株主の意思を尊重したものであるか否かを,いわゆる社内業務に精通しているであろう常勤の監査役を中心とした監査役がこれをきちっとチェックをするということが,まず出発点だろうと思いますし,我々の認識する監査役の職責とも極めて整合的であると,こういうふうに理解をするわけです。また,第一読会の議事を確認いたしましても,差止請求権全体の問題として,その一部を成すであろう監査役の差止請求権のありように関しても,継続した議論が必要ではないかと,こういう御指摘があったというふうにも記憶しておりますし,今日の前半部分の議論におきましても,荒谷委員の御指摘だとか,あるいは岩原部会長の中間の取りまとめにありましたように,我々監査役協会としては,新たに株主による差止請求を巡る諸課題の検討に際しましては,現在の会社法との論理的な整合性とか,あるいは有り体に言いますと,現行法の使い勝手の良さ・悪さ,こういった観点も含めて,機関としての監査役あるいは監査役会への期待,役割と言いますか,こういったことも含めた議論をこれからも是非継続していただきたいと思うわけであります。後段のほうは要望であります。前段のほうは質問であります。 ○髙木関係官 部会資料12では,監査役の差止請求権はないという形でお示ししております。差止請求の要件として株主の損害を求めておりますので,第一義的には株主が差止請求権を有するという整理です。その当否については,是非御議論いただければと思います。 ○齊藤幹事 差止めは,非常に大きな影響力を持ちますので,その実効性と会社に生じる不利益等のバランスを取る必要性については,私も考慮する必要があると思います。同じような問題について,ドイツにおいては,多くの組織再編は,登記によって効力が発生するようになっていますけれども,株主総会の決議取消しの訴えが起こされていると,登記ができないということになりまして,訴え提起に事実上の差止めを認めています。しかしながら,これは,とても濫用の危険が高いということも認識されまして,その後,裁判所の裁量で,争われているのが軽微な問題の場合には登記を認めるというような法の形成も観察されております。我が国においても,組織再編における差止めの必要性と企業への影響のバランスを取るという必要性は,ここで考慮しなければならないのではないかと思います。   他方で,株式買取請求権の救済としての限界については,今日も議論されましたけれども,株式買取請求権の場合は,特に零細な株主については負担の大きい制度ですので,先ほど田中幹事が御指摘になったような形で救済が事実上図られる場合もあるかもしれませんが,そうでない場合に,株式買取請求のコストを負担できない株主も,きちんと監視している株主等の差止めによって不利益から免れ得るということが期待されていることも否めないのではないかと思います。しかしながら,株式買取請求権の救済としての精度が高まれば,株主を金銭的な損失から守るという機能を差止請求制度の趣旨から外すということもまた視野に入ってくるのではないかと思います。再びドイツの話になりますけれども,ドイツでは,追加的な差額の請求権というものが整備をされているので,対価の公正さというのは,この組織再編の効力には影響を及ぼさないというようにするような努力もなされています。したがいまして,差止制度の設計というのは,ほかの救済制度の有効性とのバランスにも依存していると思います。 ○伊藤(靖)幹事 まず,差止請求をこのように認める主な目的としてどのようなことを考えているのかということを伺いたいと思います。どのような組織再編を主に差し止めたいのかということです。部会資料12の16ページの真ん中あたりには,株式買取請求では,請求をした反対株主のみが利益を受けるのに対して,差止請求では,再交渉がされて,当該組織再編の条件が適正なものへと変更されれば,全ての株主がその利益を受けることができると書かれていますので,あるいは特に組織再編の対価の公正を考えているのかというふうにも読み取れます。もしそうだとすると,例えば,このA案のほうの要件として書かれている,「取締役が法令若しくは定款に違反する行為」をするというところには,対価を公正でなく定めるような組織再編契約を締結するということを読み込まないといけないことになると思います。他方で,全ての株主がその利益を受けることができるようにしましょうといったことまでいろいろ考えるのであれば,齊藤幹事も指摘された,ドイツにあるような事後的に全ての株主に効果を及ぼす差額請求権という制度を考えるほうがよいのではないかと思います。ただ,どちらにしましても,一方で,買取請求権については,先ほど来幾つか御発言がありましたように,買取請求権を行使できる場面を限りましょう,しかも,買取請求に係る通知や公告以後に取得された株式については買取請求を認めないようにしましょうと言いつつ,他方で,差止請求のほうも認めたくないというのでは,これはいかにも少数株主にとって不利で,バランスを失するように思います。 ○田中幹事 私,この問題については定見があるわけではありませんが,これまで論じられていなかったことを中心に,2点ほど御指摘したいと思います。   1点目は,伊藤幹事の意見にも関連しますが,この制度を認めることで何が変わるのかという点でありまして,現行法の下でも,取締役・執行役の違法行為差止請求権という,抽象的に言うとものすごく広い差止制度がありまして,法令に違反する行為であって,かつ公開会社の場合は回復不能の損害を会社に生じさせるときは差止めの対象になり,そして「法令違反」には善管注意義務違反も含むという解釈が一般的ですから,普通の経営判断であっても,善管注意義務違反であることがその上立証されて,かつ回復不能の損害についても立証されると差し止められてしまうと。言ってみれば,ほとんどありとあらゆる行為が抽象的には差止対象になっているという状況があるんですね。組織再編について,この違法行為差止請求制度が使いづらいと考えられているのは,会社に回復不能の損害が発生することが要件になっている結果として,組織再編対価が不当であるというような場合には,消滅会社等の株主には損害が生じるけれども,会社に損害が生じることがないので,この請求権を立てるのが難しいという問題があるだけなわけです。ですから,逆に言うと,対価が不当な場合には会社に損害が発生する場合,具体的に言えば,金銭その他の存続会社等の株式以外の財産を対価にしている組織再編だと,仮に対価が存続会社等にとって不当である場合,存続会社等には損害が生じると認めざるを得ないものですから,現在の制度の下でも,当該組織再編は違法行為差止請求の対象になるんですね。それから,もう一つ言いますと,もちろんM&Aは組織再編に限らないわけで,普通の株式の買収とか公開買付けの場合,対価が不当に高額過ぎると,買収会社に損害が発生すると認めざるを得ませんから,全部違法行為差止請求の対象になっているということです。そして,もちろん違法行為差止請求の要件というのは,今回出されたA案,B案に負けず劣らず抽象的なのですね。それでも,現状では特に見た感じ大きな問題になっていないのは,私の想像するところ,要件が抽象的なことで不利を被るのは,何と言っても,要件の証明責任を負っている株主のほうなので,勝ち目が薄い裁判は最初から起こしていないと,それが理由ではないかと。そうふうに考えると,果たしてこの制度を作ったとして,かつB案みたいに対価の不当性を差止請求の対象に含めたとても,それによって組織再編がどんどん差止請求の対象になるという状況がどこまで起きるかはちょっと疑問があります。このように,現在の制度の下での比較という視点を考えたほうがいいのではないかなと思います。これが1点目です。   2点目は,さはさりながら,対価の不当な組織再編を差止めの形で解決していくのがいいかというのは,確かに多くの委員,幹事が懸念されているような問題があると思っておりまして,非常に短い審理期間の中でこれを裁判所が審査するというのは,大変な困難を伴うと思います。私は,ちょっとドイツのことはよく存じ上げませんけれども,アメリカでも組織再編の対価が不公正だということで差し止める,向こうだと,インジャンクションといいますが,そういうことは余りないのではないかと思っていまして,基本的には,確かに対価が不当だとしてインジャンクションを起こすことはありますが,インジャンクションの審理をしている間にも組織再編が実行されてしまって,後は,支配株主の責任を問うクラスアクションに置き換わっていることが実際には多いのではないかと思っています。ですから,仮にB案のような制度にしたとしても,裁判所として,即時に調べられる証拠によって著しく不当だという疎明がなされたと判断できないときは,すぐに申立てを却下していいと思いますし,私は,そのほうが望ましいというか,基本的に,組織再編の公正さというのを事前の差止めという形で争うのは,ちょっと無理があるのではないかと思っています。争えるとすれば,単純な手続違背,例えば,余り例はないと思いますが,株主総会決議をしていないとか,あるいは法定の開示が欠缺しているとか,そういうケースぐらいなのではないかなと思っています。そういう意味で言えば,A案というのも一つの考えでありまして,A案というのは,本当に法令や定款の具体的な条項に違反すると,そういう意味かと思いますから,そういう形の案にとどめるということも考えられるのではないかなと思っております。 ○安達委員 今,田中幹事が私の言おうと思っていたことをかなり詳しくおっしゃっていただき,私が本来言うべきことを若干失念してしまいました。まず,本件に関しましては,反対を表明したいと思います。田中幹事がおっしゃったとおりですけれども,現行法の下でも,幾つかの組織再編の無効の訴えだとか,取締役に対する行為の禁止規定があります。その上更にこの差止請求制度を作るということは,屋上屋を架すとともに,事実関係の認定をするのも非常に難しくなると考えます。実態的に難しい制度ということで,反対を表明したいということが一つ。   それからもう一つは,恣意的にと言いますか,例えばですが,競合会社が一部少数株主を使って差止請求するということも想定できなくはありません。やはり濫用の問題を,私は強く懸念いたします。当部会は,組織再編を積極的に推進しますということを議論する部会ではありませんが,私の立場から発言しますと,日本の成長が止まって,今後の成長をどうするかということを考えた場合に,成長シナリオを作るための一つの手段としてM&Aなり組織再編が非常の有効な戦略であること明白です。ここで,経済界に萎縮効果を与えるような,また,屋上屋を架すような規制をどんどん作っていくということに関して,反対したいと思っております。 ○伊藤(雅)委員 まず,このA案,B案というのがお話に何回も上がっていると思うんですけれども,例えば,A案でいう定款に違反する行為とかというのは,どのようなイメージを持っていらっしゃるのか。A,Bともに想定されているイメージをちょっとできれば教えていただきたい。また,差止請求権を認めることで,部会資料12にありましたように,組織再編が再交渉されて当該組織再編の条件が適正なものに変更されると―例えば16ページの補足説明の真ん中ぐらいですね―,こんなことがあり得るのかなということ。皆さん,経営側にいらっしゃる方々が国際競争力の維持に必要不可欠な組織再編を阻害する制度の導入は反対だとおっしゃっていますけれども,慎重に検討していただきたいと思います。こういう差止請求を起こす場合は,基本的には株式買取りの対価に不満があるケースがほとんどなのではないかなと私は考えます。そのような株式買取請求権ですとか,そういうものがあるので,やはり組織再編を阻害する大変大きな問題でないのかなということで,差止請求権の導入については慎重に検討していただきたいと思います。 ○上村委員 田中幹事がおっしゃいましたように,対価の不当だけが問題で組織再編を全部止めるというのには,齊藤幹事もおっしゃいましたけれども,ちょっと抵抗感がありますね。特に現在の会社法360条ですか,差止請求でかなりやれるというのも,これもおっしゃるとおりだと思います。ただ,A案との関係で言いますと,会社法360条で,「当該行為によって当該株式会社に著しい損害」と書いてあるのを,「会社又は株主に」としておけば,A案と一緒に足したような文ですけれども,その程度で済むかなというのが一つです。   それから,ただ,もう一つは,部会資料12の17ページの3のところに書いてありますように,全部取得条項付種類株式とか併合とか,こういうのは,対価の不公正よりも企業再編のほうが大事だといい得るような行為とは私には思えないので,こちらこそむしろ差止めを大いに認めたほうが良いと思います。ただ,事業譲渡については,事業譲渡が事実上の合併としての意味を持つような事業活動の承継を含むようなものの場合には,合併類似の無効の制度があったほうが良いかと思います。現行法は,事業譲渡が違法な場合,総会決議がない場合でも,何らの対応がないので永久に無効だという前提で信義則などを使っているのですが,その辺がむしろ問題かなと思っています。結局,現在の一般的な差止めに若干の文言の修正を加え,かつ差止めを認めるのであれば,むしろ組織再編以外の併合とかそちらにこそ認めるべきではないかと思います。 ○岩原部会長 ほかにありますでしょうか。よろしいですか。この問題についても,かなり御意見は分かれたかと思います。ですから,私がここで,ここの議論の一定の傾向について要約することはできないかと思いますが,恐らく,田中幹事の御指摘等にもありましたように,A案,B案も,現行法と一体どれだけ違うのかということは,確かにチェックする必要があろうかと思います。既に解釈論として,弥永教授などは,現行法の下でも,対価の不公正を理由に,会社法360条等で合併の差止めができるというような解釈論を提起されておりますけれども,それを一歩進めたいというのが多分A案かと思います。一方で,A案について,360条との違いは,先ほど田中幹事が御指摘になったように,会社の損害というのを,株主に著しい損害というふうに書き直しているというか,そこを変えているわけですけれども,一方で,新株発行差止めの場合ですと,会社法210条は,株主が不利益を受けるおそれがあるときに差止めができるわけで,それを著しい損害ということとして,多分,210条に比べると,その分だけ要件を絞ったということでしょうか。 ○髙木関係官 A案で「著しい損害」とお示しした趣旨は,A案は,会社法360条の変容であることから,会社法360条の「著しい損害」をそのまま要件として掲げたものです。この要件を210条と同様に「不利益を受けるおそれ」とすべきかどうかは,御議論があるところかと思います。 ○岩原部会長 そこら辺について,多分,中東幹事の御意見は,むしろ210条と並ぶような制度として考えるということでしょうか。昔から解釈論として,新株発行差止請求権でもって,合併の差止めができるという議論があったように思いますが。 ○中東幹事 鹿子木委員がおっしゃいましたように,使いやすい形の差止めが望ましいという意味では,要件は明確なほうがいいと考えます。このような観点からは,B案のほうがいいかと思っております。 ○岩原部会長 一方で,B案のほうも,現行法の下でも,株主総会決議,組織再編の承認の決議について,部会資料12に書いてあるように,特別の利害関係を有するものが著しく不当な決議をした場合ですと,決議取消訴訟を本案にした仮処分で止めるということができるという見解もあり,それと比較すると,一体どれだけ違うのかなという感じもするわけであります。そこら辺を含めて,実際,田中幹事がおっしゃったように,何か具体的に,現行法の下よりもプラスになるにはどういうふうな定め方があり得るのか。そして,それがまた実務でうまく機能するように,鹿子木委員が御指摘になったような問題等を考え,かつ経済界の懸念についても,多分実際は現行法と余り変わらないのではないかという気がするんですけれども,そこら辺を考えて,よりスムーズに,一定の少数派株主の利益の保護を図るような制度が考えられるかということを更に検討していきたいと思います。何か更に御指摘いただくようなことはあるでしょうか。よろしいですか。   それでは,先に進ませていただきたいと思います。次は,会社分割に関する規律です。部会資料12の第5の「1 会社分割に関する規律」に移らせていただきたいと思います。まず,「(1) 詐害的な会社分割における債権者の保護」について,事務当局から説明をお願いしたいと思います。 ○塚本関係官 それでは,「第5 組織再編の手続に関する論点」の「1 会社分割に関する規律」のうち「(1) 詐害的な会社分割における債権者の保護」について,御説明いたします。本文は,分割会社が,承継会社等に承継されない債務に係る債権者,すなわち残存債権者を害することを知って会社分割をした場合には,当該残存債権者は,承継会社等に対して,当該債務の履行を請求することができる旨の規定を設けることについて問うものであります。当部会における議論を踏まえると,いわゆる詐害的な会社分割における残存債権者の保護については,民法の一般原則に委ねるだけではなく,会社法に規定を設けることが考えられます。その保護の在り方について,当部会においては,会社分割について一律に手続を加重すべきではないとの指摘や,承継債権者及び会社分割の前から存在する承継会社等の債権者の利益にも配慮する必要があるとの指摘がされており,これらの指摘に配慮する必要があると考えられます。通常,承継会社等は分割会社から事業を承継するところ,詐害的な会社分割において,承継会社等が分割会社から承継した事業を構成する資産を返還しなければならないとすると,承継会社等における当該事業の継続及び当該事業に係る従業員や取引先等の利益を害することとなりかねないとの指摘がされています。また,民法上の詐害行為取消権が行使された後の原状回復の方法については,判例上,逸出した財産の現物返還が原則とされているものの,詐害的な会社分割について,逸出した財産の価額賠償を認めた裁判例があります。以上を踏まえると,詐害的な会社分割における残存債権者の保護については,承継会社等に対して金銭の支払を直接請求することができるものとすることが適切かつ簡明であると考えられ,会社法に本文のような規定を設け,残存債権者が,詐害的な会社分割に係る行為を取り消すことなく,承継会社等に対しても,債務の履行を請求することができるものとすることが考えられます。   なお,ただ今述べたような事情に鑑みて会社分割について本文のような規定を設けることとする場合には,同じ事情が認められ得る事業譲渡についても,同様の規定を設けることが考えられます。   (注)は,仮に本文のような規定を設けることとする場合の具体的な制度設計について問うものであります。(注)の①は,本文のような規定に基づく承継会社等の責任の限度額及び存続期間の要否について問うものであります。まず,会社法第22条第1項を参考にして,承継会社等の責任について,限度額を設けないものとすることが考えられます。他方で,いわゆる人的分割の場合には,残存債権者は,会社分割について異議を述べることができ,各別の催告を受けなかったときは,原則として,承継会社等に対して,「承継した財産の価額を限度として」,債務の履行を請求することができるものとされていることなどを踏まえ,承継会社等の責任も,分割会社から承継した財産の価額を限度とすることも考えられます。本文のような規定に基づく承継会社等の責任の限度額の要否については,これらの点を踏まえ検討する必要があります。また,本文のような規定を設けることとする場合には,例えば会社分割の効力が生じた日から2年間などというように,承継会社等の責任の存続期間を設けることが考えられます。   (注)の②は,承継債権者及び会社分割の前から存在する承継会社等の債権者を保護するための仕組みを設けることについて問うものであります。この点について,民法第424条第1項ただし書を参考にして,吸収分割の場合であって,吸収分割承継会社が吸収分割の効力が発生する時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは,本文のような規定に基づく責任を負わないものとすることが考えられます。このような要件を設けた場合には,これらの債権者は,詐害的な会社分割について悪意であったために本文のような規定に基づく責任を負うこととなった吸収分割承継会社の役員の責任を追及することにより,自己の利益を保護し得ると考えられます。このほか,これらの債権者を保護するための仕組みを設ける必要があるか,検討を要するものと思われます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,詐害的な会社分割について,会社法に本文のような規定を設けることの当否及び具体的な制度設計について,本文及び(注)の①と②を一括して御議論いただきたいと存じます。いかがでしょうか。 ○中原幹事 基本的な根幹としてこのような制度を設けることに賛成をさせていただきたいと思います。そして,私は,こういう制度ができた暁には,詐害行為取消権とは異なって,必ずしも裁判上の行使が必要だというふうに考えているわけではないというふうに,一応理解をさせていただきました。   なお,現在,民法の債権法の検討がされている中で,偏頗弁済の行為について,それを詐害行為の取消しの対象とするべきかどうかという議論もありまして,その議論次第では,この問題の本質が偏頗弁済であるということに鑑みますときは,影響を受け得るのかどうかという前提も確認をさせていただきたいと思います。   また,この制度ができた暁には,この問題については,民法の詐害行為取消権で対応するのではなくて,この規定のみによって解決をすると。そうしませんと,取消権を行使する人と承継会社に請求する人とが両方出てきてしまうというようなことはよくないと思いますので,この規定で解決するということでよろしいかということも確認をさせていただければと思います。   その他の点につきましては,民法の詐害行為取消権の規定との整合性からも,承継会社に善意であったことの立証責任を要求することとするほか,例えば新設分割などといったようなものが一定の目的のために機能する責任財産の塊を作り出すんだという機能に鑑みますと,その機能を信頼して承継会社に対して新たに債権を有することとなった者というものの利益も考えないといけないかと思いますので,その責任の限度額というのは,承継された財産を限度とするということでよろしいのではないかと考えております。 ○塚本関係官 まず,本文に記載しております承継会社等の責任を追及することにつきましては,裁判上に限られず,裁判外でも行うことができるということを前提としております。   民法(債権関係)部会における議論との関係につきましては,まず,そもそも詐害的な会社分割の本質が何かという点も,恐らく議論のあるところかと思っております。また,債権法の改正の議論も,まだ先が見えておりませんので,まずは会社法上の規律としてどのようなものが在るべき規律かというところから御議論いただければと思っております。   本文のような規定と民法424条との関係については,この場で御議論いただきたいと思っております。会社法に明文の規定を設けて民法424条の適用を排除するということもあるかもしれませんが,(注)の①,②にあるような具体的な制度の作り方によっては並存させるほうが望ましいということもあるかもしれませんし,解釈論で対応するということもあるかと思っております。 ○三原幹事 会社分割の制度的な問題ということで,濫用という形ではなくて,現行制度そのものにある制度的な問題であるということで,昨年の8月に本渡委員と私のほうでこの件については提案を申し上げたわけでございまして,採り上げていただきまして,大変有り難いと思いますので,まずは御礼を申し上げたいと思います。その上で,この制度について,三つお伝えしたいと思います。   まず一つ目は,これは質問になるのかもしれませんが,部会資料12の18ページの本文で,「吸収分割承継会社又は新設分割設立会社に承継されない債務に係る債権者を害することを知って」ということですから,これは,いわゆる新信託法11条の詐害信託に似たような形で,いわゆる詐害分割という形でお認めいただいたと思いますが,立証責任というところが具体的にどうなるのか。つまり,これを「知って会社分割をした場合は」,とありますので,恐らく請求する債権者がこれを主張立証していくとなると,主観的な要件で,知っているかどうかということまで立証しなければいけないのか,あるいは,分割会社が債務超過である,又は会社分割によって債務超過になるという状況の客観的な状況を立証すれば,それで知っていたということになるのか,この主観的要件の主張立証責任のところで,債権者側が大変苦労するという実務的なことが起こるのかどうか,あるいは立証責任の転換に近いような状況で保護されるのかどうか,これがまず1点目でございます。   2点目ですが,部会資料12の21ページで,債務超過の場合であっても,吸収分割の場合で承継会社が吸収分割の効力発生時に善意であるという場合には,これは,詐害分割の適用外になる場合を想定されている。なぜかというと,民法424条1項ただし書を基にして,その場合には同様な措置になるとあります。ということは,結局,吸収分割の場合に,承継会社が知らなかったときには,やはり現行制度の制度的な問題点,というふうに私は申し上げているのですが,これが残ってしまうことになります。したがいまして,これをどうするのかということの対処の方法として,例えば考えられるのは,第一読会のときに申し上げたような形ですけれども,債務超過である会社又は分割による債務超過である会社の場合においてだけでもいいのですけれども,799条2項とか810条2項の場合,残存債権者のうちで一定範囲ないし一定額の債権者に限り,やはり個別通知の催告を会社から行うことにしていただく,という規定を御検討願えないかと思います。なぜかというと,この場合の吸収分割で,かつ承継会社が善意の場合には,これは,現行と同じ形が残るわけでございますので,そうであるなら,その場合に限ってはやはり個別通知がないと実際には難しくなってしまうのではないかということです。一定額と申し上げたのは,例えば,総負債額の数%という限定を考えてみますと,会社が知り得る債権者を,総負債額の例えば3%と考えたら33人でございます。総負債額の1%と考えたら100人まででございますけれども,そういったもので,かつ,ちょっと細かくなりますが,事後的に出てくるものを排除する,つまりその時点で合理的に認識している債権者に限るとすれば良いのではないかと思います。この民法424条1項ただし書の転用のある場合に限っては,通知か何かないとやはり難しいのではないかと思っています。   3点目ですが,この2年という期間制限について,民法426条では,取消しの原因を知った日から2年と規定され,同じく期間は2年ですけれども,今回の御提案の例示しているものは,客観的に会社分割の効力発生日からということとなっています。会社分割の効力発生日から2年との規定ですと,知らないまま会社分割されて,最後に会社が潰れてから分かるという話になることはないのか,これは経験則上そうなるのか分かりませんが,詐害行為取消権の場合とは違う期間制限になっていますが,知ったときなのか効力発生日なのか,その相違はどういう背景か。以上,3点でございます。 ○塚本関係官 三原幹事から頂いた御指摘の1点目の,「害することを知って」の立証責任の問題につきましては,民法の詐害行為取消権でいう詐害意思の要件の立証責任の考え方も踏まえて解釈論に委ねるか,あるいは条文上何らかの規律を設けるかという点を御議論いただきたいと思っております。   2点目の,第一読会でも御提案を頂いた債務超過の場合の通知という点につきましては,第一読会では,債務超過という要件の不明確性について御指摘があったことも踏まえ,部会資料12では記載しておりません。また,会社分割の効力発生日の前までに残存債権者に対して通知をすることについて,会社法上どのような効果を与えるべきかということ―三原幹事からの御提案では,承継会社が残存債権者に対して責任を負わないものとするということだったかと思いますが―や,また,通知を受けた残存債権者が,会社分割の効力が発生するまでの間にどのようなアクションを採ることができるのかといった実効性も踏まえて検討する必要があると思っております。   3点目の,存続期間が2年間という点は,部会資料12では,飽くまでも例示ではございますが,あえて,民法の詐害行為取消権の存続期間,すなわち,取消しの原因を知った時から2年間というものと異なり,会社分割の効力が生じた日から2年間と書いた趣旨は,部会資料12にも書いておりますとおり,その他の債権者,すなわち,承継債権者や会社分割の前から存在する承継会社の債権者の利益を踏まえまして,存続期間が余り長くなってもよくないという面もあると考えまして,また,起算点としての明確性という観点から,会社分割の効力が生じた日から,ということで例示をしております。 ○鹿子木委員 現在,東京地裁で倒産事件,特に破産事件,民事再生事件を担当している者の立場として意見を申し上げたいと思います。部会資料12で紹介していただいているような濫用的会社分割の事例は,実際に非常に多いわけでありまして,このような手当てをしていただくと,解決に向けて相当前進をしていくものと考えますので,そうした事件の担当者としては,非常に歓迎すべきことというように考えております。   その上で,要望について1点だけ申し上げたいと思います。破産事件あるいは民事再生手続におきまして,破産管財人若しくは監督委員の立場で同様の請求ができないかどうかということについても,こういう制度を設ける場合には併せて御検討いただければというように思います。その場合には,破産管財人が権限の行使をできるとするのであれば,その他の債権者は権限の行使はできないというような仕組みとしていただけると有り難いかと思いますので,御検討を頂くようによろしくお願いいたします。 ○神作幹事 現在,実務において会社分割が濫用的に用いられている事実が存在するということは,様々な事件等で承知しているところでございます。そして,会社分割のところだけ立法的措置を講じても,現在行われているタイプの濫用的な会社分割の多くは,事業譲渡という法形式によっても行うことが可能ですから,部会資料12に掲げられているように,今回の御提案が事業譲渡にも適用されるとしますと,現在実務で生起している問題に対する対応としては,合理的かつ適切な解決になり得ると思います。   そのことを前提といたしまして,2点申し上げたいと思います。第一は,詐害行為取消権や否認権と御提案の規律との関係についてです。両者の関係については,この場の議論に委ねるということでございましたけれども,私は,一般的な制度である詐害行為取消権及び否認権の適用を排除するというのは非常に難しい,ましてや事業譲渡の場合は一層困難なのではないかと思います。そうだとすると,両者の規律が重畳して適用されるということを前提にして考える必要があり,その場合には,制度の在り方としては,詐害行為取消権や否認権の行使がなされにくいような,そして可能な限りそもそも濫用的な会社分割等が行われず,かつ正当な会社分割を阻害しないような規律を整備することが重要であると思います。   御提案のような規律を置いたときに大分改善されるだろうという御指摘がただ今,鹿子木委員からなされましたけれども,詐害性の要件が必ずしも明確でないこともあり,この規律だけで濫用的な会社分割を抑制し,かつ正当な会社分割を阻害しないかという観点からは,やや心配があるように思います。そうだといたしますと,例えば,この提案に加えて,会社分割制度の中で更に,先ほど来いろいろな御提案がなされていますけれども,債権者に対する通知の問題ですとか,一定の詐害的なおそれのある会社分割をうまくくくり出して要件化すことができれば,それに対して会社分割法制の中でも対応することが考えられると思います。濫用的な会社分割によって,会社分割制度自体に対する不信感が醸成されつつあるのではないかという懸念を持っております。そういった懸念を払拭するためにも,御提案に加えて,会社分割の中で何かできないかということについて,更に検討を加える必要があると思われます。 ○岩原部会長 具体的には,先ほどの通知の問題とかについて,現在よりも充実したものにするというようなことですか。 ○神作幹事 それが一つ考えられると思いますし,もう一つは,債権者を害することを知ってという要件以外の要件の下で,会社分割法制の中で,承継会社のほうにもかかっていける連帯責任の場合を現行法よりも拡充すること,取り分け債権者異議手続を補充するものとしての連帯責任という現行法の位置付けを見直すことが考えられるかと思います。 ○杉村委員 私どもも,濫用的な会社分割は非常に問題だという認識がございます。それが前提ではありますが,先ほど来,民法の詐害行為取消権との関係について議論がございますけれども,そうした現行の制度では残存債権者の保護が不十分なのかどうか,新しい制度を設ける必要性を十分詰めていただき,慎重に検討を進めていただきたいと考えております。   仮にこうした制度を設ける場合は,詐害的でない通常の会社分割に影響を及ぼさないというのは非常に重要な点であると思いますし,それに加えまして,民法の詐害行為取消権との適用関係の明確化や,要件の絞り込みなどへの配慮をお願いしたいと思っております。 ○田中幹事 詐害的な会社分割がいろいろな裁判で問題になっていることは承知しておりまして,そういった詐害的なものに対して,法制度として許さないというポリシーを明確にするということはいいと思います。ただ,会社法が制定されたころは,そもそも組織法上の行為である会社分割について,詐害行為取消権とか破産法上の否認権を行使できるかどうか自体不明確な点があったわけですけれども,その点について現在,裁判例が急速に形成されていったことで,組織法上の行為であっても詐害行為取消権は何ら排除されないし,それは否認についても同様であるという考え方がどうも確立されつつあるので,そうなってくると,果たして会社法上あえてこういう制度を設ける必要は本当にあるのかという点も少し考えてみてもいいのではないかと思います。先ほど三原幹事がおっしゃったように,この御提案どおりですと,特に請求期間などの面で,むしろ詐害行為取消権を行使するよりも限定されるのではないかと思える部分もありますし,責任限度額の規定などをどういうふうに適用していくかとか,実は必ずしもよく分かっていない問題もあるのではないかと思っております。一方でこの責任を規定しておきながら,他方で少なくとも現物が特定できる限り現物の返還も認める詐害行為取消請求も維持するということになると,確かに両権利間の調整の問題が困難になる可能性もあります。他方で,詐害行為取消しであっても価額賠償が認められるというのが実際の裁判例でもありますから,提案されたようなルールを詐害行為取消制度の中で行うことは不可能なわけではありません。ですから,果たして会社法の制度としてこういう提案をあえて設ける必要性は本当にあるのかというのをちょっと考えたほうがいいのではないかと思います。   会社法の制度として何か設けるとすれば,むしろ三原幹事も言われたように,例えば,現在ある債権者異議手続の個別催告のような,個別の通知による制度を,例えば債務超過会社の会社分割について復活させるというのも一案だと思います。ただ,その場合に,通知をして異議を申し立てないと承認したとみなされるという会社法のルールが詐害行為取消しとの関係ではどうなるのかということが,難しい問題となって出てくると思っております。私は,やはりこういう債権者を害するような会社分割かどうかというのを,かなり短い異議催告期間の間に債権者に判断させるというのは無理があると思っておりまして,債務超過というのも,実質債務超過だと全然要件が決まらないですから,もう簿価債務超過で,形式的に簿価債務超過だったら,これで催告しろというような制度にするしかないと思うんですけれども,簿価債務超過であっても,キャッシュ・フロー予測によっては実質的に債務超過でないということもあり得るわけで,そういうふうに,キャッシュ・フロー予測すると実質的には債務超過ではないんですよといって会社分割をやろうとしているときに,会社債権者に適時に異議を述べることを要求するのはちょっと難しいということもあります。そうだとしますと,たとえ会社法のルールで個別催告を設けても,やはり後から詐害行為の要件を立証したら取消請求ができるという権利が失われないというふうにすべきではないかと私は思っております。ですから,私,基本的には詐害行為が認められるということを明確にしつつ,それに付加的な保護として個別催告の制度を設けるかどうかを考えるというほうがよくて,この承継会社,設立会社の連帯責任の制度というのは,ちょっと詐害行為取消しの制度と抵触する部分が出てくるので,三原幹事が言われたような可能性も考えてやられたほうがいいのではないかなというふうに,現在のところ私は思っております。 ○齊藤幹事 これは,本渡委員と三原幹事にお伺いしたい点ですけれども,現在提案されている制度は,請求をする,場合によっては,訴えを起こす覚悟を持っている人たちだけが救済される制度になっておりますけれども,これは,小口の債権者を見捨てることにならないかという点が気になります。実際に事案として争われているのは,どちらかというと大口債権者の人たちの事案が多いかと思います。小口の債権者は,債権者異議手続が設けられている場合には,異議を述べれば,害するおそれがないと言えない限りは弁済してもらったり担保提供してもらったりするわけですけれども,このように訴えを提起した人しか救済されないという制度でも,現在の起こっている問題の多くは解決されるという御感触をお持ちでしょうか。 ○岩原部会長 本渡委員と三原幹事,いかがでしょうか。 ○本渡委員 異議権を債権者に与えて,残存債権者に対しても全て通知をして,異議を言った人には払ってあげると,それは,非常に債権者にとってはいいことだろうと思いますが,ただ,そこまでやってしまうと,今度は手続がかなり重たくなってしまって,別に会社分割をした会社が債務不履行にならないような場合でも,全てそういうことまでやらないといけないとなると,かなりきついのかなと。それで,そういうことも考えてこの程度の規定を御提案になっているかと考えておりますので,一応これで全て解決できるというわけではないかもしれないけれども,詐害分割が余りにも多いので,それをやってはいけないんだよというメッセージにはかなりなると思うし,あと,承継会社においても,こういうことで後で請求されちゃ困るなということで,かなり慎重になるのではないかなと考えております。 ○岩原部会長 三原幹事も同じですか。 ○三原幹事 はい。 ○岩原部会長 確かに,齊藤幹事御指摘のように,では大口債権者以外の債権者については,個別催告がないまま承諾したものとみなされるということで問題はないのか,という疑問はあるかもしれないですね。 ○三原幹事 大口債権者うんぬんということもありましたけれども,結局全体の手続を重くするのがいいのかという問題意識とのバランスのようにも思います。例えば会社法改正前の合併の事例で,とにかく1円の債権者でも個別催告するということは実務では難しいのですが,では,どの金額の債権者まで催告したらよいの,というのが個別催告における非常に大きな実務上の負担だったわけでありまして,それを会社法で,一定の場合には個別催告しなくていいという規定に改正されています。この過去の実務上の負担というのは実務界ではよく認識しているつもりでございますので,それをもう一回復活したほうがいいということは思いませんが,しかし,現在問題となっている詐害分割への適正な対応はしないといけないという問題との全体のバランスの中で考えていく話だと思います。問題が起こるたびに健全なものにも全部負担が掛かってくるということの問題点については,部会資料12の18ページの一番下のところに,手続を一律加重するのはやはり問題だというと御提案の中に書いてありまして,一律に手続を加重するのではなくて,必要な範囲に限定すべきということなので,やはり全体のバランスと,それから,社会における制度の利用者に対する利便性とかその制度が持つ社会への貢献等も考えていくとした上で,一定程度に限定するということでありまして,あらゆるものをとにかく徹底的にやると大変重くなると思います。   私が申し上げたかったのは,民法424条1項ただし書の転用があるとすると,ここがすぽっと抜けるので,そうしたら,ここを目掛けて皆さんが制度を使い出すことで,やはり同じ問題が限定的には残ってしまうのではないかという問題意識です。つまり,例えば,承継会社となるSPCのような会社を新しく設立して,そこに吸収分割させて,そこには知らせないでいれば善意ですから詐害分割の例外となりまして,それができるのなら,やはり制度の穴が残るのかなと思っただけなのです。 ○岩原部会長 私がちょっと気になったのは,部会資料12の21ページの補足説明のところに出てくるように,会社法789条3項により,不法行為債権者だけが,日刊新聞紙による公告又は電子公告等がされた場合であっても,個別催告がない限りは履行請求ができるとされていることから,例えばゴルフ場の預託金請求権を持っている会員である債権者がたくさんいるときに,彼らは不法行為債権者ではありませんので,ゴルフ場を再建する一つの方法として会社分割で優良資産だけを切り離すというようなことが行われたときに,預託金債権者については,電子公告がなされていればそれで十分であって個別催告は不要だということになった場合,預託金債権者などは多分大口債権者のパーセンテージに入ってこないでしょうし,また消費者的な性格の彼らが電子公告を監視していることを期待することも難しいでしょうから,そういう人たちは結局切り捨てられるということになるわけですが,それでいいのかなという若干の懸念を持っているということです。 ○三原幹事 それは,部会資料12の21ページの一番上のところのお話も同じということでございますか。21ページの下半分のところもあるのですが,私が気になったのは,21ページの一番上の上から3行目の「この点について」以下の記述であり,何%がいいかは分からないですけれども,一定範囲に限る,例えば何百万円以下は要らないとか,分かりませんけれども,何か考えていただきたい。先ほどのものは例示でございまして,そこはバランスの中でということでございます。御検討を引き続きお願いしたいと思います。 ○岩原部会長 ほかにいかがでしょう。先ほど田中幹事からは,むしろ民法の一般制度である詐害行為取消権やあるいは否認権に委ねることで,後は個別催告の制度の見直しというぐらいにするという方向もあるのではないかという御意見もありましたが,鹿子木委員が,こういう制度を導入してもらったほうがいいというふうにおっしゃるのは,民法424条や否認権の行使などを認める裁判例が最近たくさん出てきている中でも,やはりこういう規定を設けることが有意義であるという御意見でしょうか。 ○鹿子木委員 現在対応している方法としては,一つは詐害行為取消権又は否認権を行使する,あるいは法人格否認の法理を持ってきて直接請求を行う,あるいは商号続用責任を追及するといったやり方があります。そのうち,詐害行為取消し又は否認の請求をやるということについては,もちろん実際に行われているわけでありますけれども,問題は,巻き戻し型の手続を採りますと,その後実際に財産を取得して換価してというところまで,相当の手間暇が掛かってしまうということでございまして,むしろ新設会社又は承継会社の事業は継続させつつ,そこに必要な請求ができるようにしていくというほうが救済としては直截で簡易であります。そこで,こうした手続を設けていただいたほうが,詐害行為取消し又は否認の訴えを充実させるよりは,手続としてはより解決しやすいというように考えております。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。ほかに何か御意見等ございますでしょうか。よろしいですか。そうしますと,こういう新しい制度を設けるという方向については,比較的賛成の御意見が多かったかと思いますが,具体的な内容について,例えば限度額を設けるということについて,確か今まで言及された方は皆さん,限度額を設けるほうに賛成の御意見が多かったかと思いますが,そこら辺もよろしいでしょうか。その他の要件についても,詐害に関する要件等についても,部会資料12に書いてあるような方向で大体よろしいということでしょうか。 ○中東幹事 要件に関して,「害する」とするなど,もう少し緩やかで使いやすいように,という感触を持っております。三原幹事がおっしゃった点に賛成でございます。やはり,M&Aなどでは,しっかりと法律関係が確定するということが大事だと思います。期間制限についても,詐害行為取消権が使えるとなると,20年の除斥期間がありますので,そこまでずっと決まらないということになって,それこそ大変なことだと思っております。新しい制度を緩く使いやすい形にするけれども,他方で,適切な期間内に法律関係は確定するという形が良いと思っております。 ○岩原部会長 そのほか,民法424条1項ただし書に係る悪意の問題等についても,大体部会資料12に書いてある考え方で特に御異論はないということでよろしいでしょうか。   それでは,次の(2)のところについて,事務当局から説明をお願いいたします。 ○塚本関係官 それでは,「(2) 会社分割後分割会社に対して債務の履行を請求することができない同社の債権者の保護」について,御説明いたします。当部会における議論を踏まえると,会社分割について異議を述べることができる債権者のうち,分割会社に知れていない不法行為債権者は,分割会社と承継会社等の双方に債務の履行を請求することができる旨を明確にすべきであると考えられます。本文は,このほか,会社分割における債権者の保護に関して,承継債権者の保護の在り方を見直すことについて問うものであります。この点について,当部会において,会社法の下では,分割会社の債務だけが承継会社等に承継されるおそれがあるため,分割会社は,承継債権者に対する各別の催告を省略することができないものとすべきであるとの指摘がされています。もっとも,承継債権者に対する各別の催告の省略については,債権者の保護の必要性と当事会社の手続的負担の軽減の要請を勘案した立法政策的選択であったとの指摘があります。また,承継債権者の保護に関して,法人格否認の法理により,承継債権者の新設分割会社に対する請求を認めた裁判例もあります。そこで,これらの点を踏まえ,承継債権者の保護の在り方を見直すことの要否について検討する必要があります。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。いかがでしょうか。 ○杉村委員 承継債権者に対する各別の催告を省略することができないものとするという点については,反対であります。現行の制度は,債権者保護と会社の手続負担のバランスを図ったものであると認識しております。また,現在は,企業にとっても,あるいは債権者にとっても,インターネットが普及しております。電子公告を採用して公告を充実している企業は増えてきておりますし,法務省の公式ホームページ上でも電子公告リンク集サイトが開設されております。そのため,債権者が公告を確認しやすい環境が整っているという評価ができるのではないかと考えております。 ○前田委員 これは非常に難しい問題で,考えがまとまっているわけではないのですけれども,会社法制定によりまして,会社分割の対象が事業に限られなくなったと解されていますし,また,債務の履行の見込みがあることが会社分割の要件ではないと解されるようになったことから,承継債権者が受ける危険の度合いは,会社法制定前より質的に大きくなったと見るのが正当だと思います。ただ,危険の度合いが増したことに対して,手当てをすべきか,また,どういう手当てをすべきかが本当に悩ましい問題であると思います。つまり,16年改正のときに,会社分割についてまで個別催告の省略を認めていいのかということについて,相当の異論がある中で,債権者保護と手続的負担の軽減という要請をぎりぎりに調整した結果として,不法行為債権者を除いては,厳重な公告で個別催告と同等の周知力は確保できるという決断が行われたのですね。会社法制定によりまして,先ほど言いましたように,債権者の危険が増したのは確かだと思うのですけれども,この16年改正のときの考え方を前提にするならば,この承継債権者というのは,別に公告をチェックすることが期待できない債権者には当たりませんので,そうなると,特に手当ては不要ということになりそうです。つまり,もし見直しをするとなりますと,16年改正で行ったぎりぎりの調整をもう一度やり直さなければいけない。その意味で,悩ましい問題だと感じているところですけれども,先ほど岩原部会長が御指摘になりましたような問題を解決するためには,見直しも視野に入れなければならないかということを感じているところです。 ○藤田幹事 前田委員とほぼ同じで,申し上げる必要もないかもしれませんが,やはり17年改正が虎の尾を踏んじゃったなという感想です。債権者だけ移すということ,つまり純然たる免責的債務引受けですら,公告すればできるという制度を,このまま放置してよいだろうかという疑問が出てきても仕方がないと思います。平成16年改正がぎりぎりの調整だったがゆえに,今言ったような極端な「会社分割」までできるように会社分割制度を変えてしまったことをどう評価するかという問題はあるかと思います。平成16年改正のぎりぎりの調整の実質をそのまま維持したいのであれば―立法技術が非常に難しいかもしれませんが―,従来型の会社分割,つまり事業と一緒に移すのであれば,個別催告を省略し,公告だけで債権者も移してよいというルールにすべきでしょう。もちろん「事業と一緒に移る場合」というのが条文として非常に書きにくいということが,こういう形で立法をする最大の問題なのだと思いますけれども,では事業に属する権利義務が会社分割制度の対象となった以上,公告さえすれば,債権だけ100本ばらばらに移していいというのが当然の帰結ですという開き直りをしていいのだろうかと言う気がします。先ほど,虎の尾を踏んでしまったと言いましたのは,そんな可能性を認めるような会社分割制度に,債権者保護の利害調整をしないまま変更してしまったという意味ですが,そうなってしまったとすれば何か手は打たざるを得ないように思います。従来型の会社分割をする場合でも全ての人に対して個別催告が必要であるというふうな,平成16年改正以前の状態に戻すような解決しかないかどうかは,更に検討の余地はあるとは思いますが。 ○田中幹事 この問題についてですけれども,会社分割の効力発生後に異議を述べることができるという制度にして本当に機能しないのか,ちょっと考えてみたほうがいいのではないですかね。正常な会社分割を妨げてはならないという意見が先ほどから出されていますが,「正常な会社分割」であれば,会社分割をしたときに承継会社に移った債権も十分保全されているので,大抵の債権者は異議を述べないのではないかと思いまして,そうだとすれば,会社分割の効力が発生してどの債権者もみんな自分の債権が移ったことが分かってから会社分割に異議を述べるかどうかを決めさせるということにしても,別に正常な会社分割は阻害されないのではないでしょうか。先ほどの,キャッシュ・アウトについての少数株主保護のこともそうなんですけれども,全部事前に片を付けるんだというふうに考えるほうがちょっと無理があるのではないかなという気がします。ちょっと今からこの考え方を実行に移すのは難しいのかもしれませんけれども,そういった考えも考慮に入れてもいいのではないかと思います。 ○岩原部会長 ほかに何かございますか。よろしいでしょうか。これは,本当に難しい問題であり,かつ最近は色々と弊害も見られる深刻な問題です。そもそも債権者の承諾なしに債務者を勝手に変更するという制度は,民法的に見るととんでもない制度です。ですから,裁判例の中でも,言わば会社法の規定を無視して,民法等の一般法理に従うとして,債権者の同意がないと駄目だと言っているようなものも最近見られるようで(大阪地裁堺支部平成22年9月13日判決・金判1352号37頁),かなり問題のある制度であります。しかし一方で,確かに平成16年改正というのは,ぎりぎりの調整であって,バブルが破綻したときの破綻処理のための非常措置としてやむを得なかったという見方もあるのかもしれませんが,今日の目から見て,何とか少しでも弊害が生じないようにできないか,なおできる範囲で検討してみたいと思います。よろしいでしょうか。   それでは,先に進ませていただきたいと思います。次に,第5の「2 組織再編の手続に関するその他の論点」に移らせていただきます。事務当局からの説明をお願いします。 ○塚本関係官 それでは,「2 組織再編の手続に関するその他の論点」について,御説明いたします。当部会において,会社が,合併等の組織再編や事業譲渡をする場合,当該組織再編等の後の事業計画を従業員に通知した上で,従業員から意見を聴取し,当該意見を株主の閲覧に供する手続を設けるのが望ましいとの指摘がされています。これに対しては,従業員についてのみ,このような手続を設けることの根拠が十分でないとの指摘や,迅速な組織再編の実現を困難にするおそれがあるとの指摘がされています。本文は,これらの点を踏まえ,組織再編における事前開示事項に,従業員に関する事項を含めることについて問うものであります。 ○岩原部会長 ありがとうございました。それでは,御議論いただきたいと思います。御意見等ございますでしょうか。 ○逢見委員 この点に関しましては,第8回会議において,私からこうした提案をさせていただき,補足説明にあるように幾つかの意見が出されました。まず,従業員についてのみ上記のような手続を執ることの根拠ということでありますが,株主や経営者,債権者については,会社法上,組織再編手続に関する一定の関与が与えられています。従業員も,組織再編,例えば合併とか事業譲渡とかについては,やはり自分たちの職場がどうなるのか,あるいは雇用がどうなるのかということについて非常に重要な関心事であるし,実際そうしたことによって自分たちの労働条件が変更されることもあり得るわけです。そうしたことを考えると,事前開示という中に,従業員に対しても,株主や経営者,債権者に比して,それほど劣らない形で事前の情報開示が与えられる必要があるし,それに対する意見表明の機会も与えられるべきであると思っております。従業員の意見の集約に時間的,手続的なコストが掛かって迅速な組織再編が困難になるという意見もございましたけれども,従業員の意見の集約については,会社法の896条,特別清算の際に裁判所が事業譲渡を許可するに当たって,労働組合等の過半数代表の意見を聴くという規定があります。倒産法制におきましても,会社更生法あるいは民事再生法の中で,過半数代表,すなわち使用人の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合,ないときは使用人の過半数を代表する者の意見を聴くというものが取り入れられておりますので,こうしたものを活用すれば,迅速な意見集約ができるのではないかと思います。   それから,第8回会議で,金融庁の古澤元幹事から,金融商品取引法27条の10という制度で,被買収者からの質問回答の開示という中に従業員の意見が付されているケースが報告されております。事実として,そういう場合は,非友好的買収の場合に従業員の意見が付されるということで,合意による買収の場合にはほとんど従業員の意見が付されることがないということが紹介されておりました。このように,恣意的に,経営者が必要だと思うときだけ従業員の意見を付す,そうでない場合は聴かなくてもいいということが金融商品取引法の運用の中で行われるとすれば,もう少しきちんとした手当てが必要なのではないかと考えますし,会社法の中にもそのような規定を入れる意味があるのではないかと思います。フランスにおいては,従業員代表組織がこうした企業組織の再編について情報提供と諮問を受けるということが制度としてあるというふうに聴いております。こうしたことを踏まえますと,我が国においても,会社法で,組織再編の際に従業員への事前の情報提供と意見聴取,意見表明の機会が与えられるということは,株主総会等で株主が判断をする場合にも重要な参考資料になるというふうに考えますし,元々,法制審議会に対する諮問事項である,幅広い利害関係者からの一層の信頼を得ると,確保するという点でも有効であると思っております。 ○上村委員 私は,第一読会で申し上げたことなので,それを繰り返すことになりますけれども,例えば,先ほど岩原部会長が心配されていた会社分割の場合の零細な債権者とか,それから,キャッシュ・アウトされる人たち,日本のような株式の保有構造では個人や市民が排除されて,法人やファンドが残る,そういう構造になっているのではないかということも話題になっております。つまり零細の債権者とか少数の株主とか,そういう問題は,実は生身の人間とか個人が大事にされていないという話でもあります。つまり生身の人間であればイコール労働者でもあり消費者でもあるわけです。そういう大きな問題意識の中でこういう従業員の問題がその一環として提案されるということであれば,それは本格的に取り組む必要があると思うんですけれども,そういう問題や最も大事な基礎理論に対して余り関心がなくて,従業員という言葉が出てくると急に関心を持つというのは,私は,ちょっとどうかなと思います。やはりもうちょっと本格的な議論の立て方をすべきだと。その中で当然のように従業員とか消費者とか,そういう者がそこに組み込まれてくるということであれば,私は今,逢見委員がフランスの話とかいろいろされましたけれども,いろいろとあり得ないことではないと思います。やはりもうちょっと本格的な問題提起をすべきなのではないかというのが私の個人的な感想です。 ○杉村委員 従来の繰り返しではありますが,開示事項に関しまして,従業員のみ特別の手続を設けることには,やはり反対の意思を表明させていただきます。 ○岩原部会長 ほかにございますか。なければ先に進ませていただきたいと思います。   それでは,部会資料13のほうに移らせていただきたいと思います。「第1 金融商品取引法上の規制に違反した者による議決権行使に関する論点」について,事務当局から説明を頂きたいと思います。 ○内田関係官 それでは,「第1 金融商品取引法上の規制に違反した者による議決権行使に関する論点」について,御説明いたします。第1の本文前段は,金融商品取引法上の規制,具体的には,公開買付規制,大量保有報告規制及び委任状勧誘規制に違反した者による株主総会での議決権行使を認めないものとする制度を創設することについて問うものでございます。当部会においては,本文前段のような制度を創設すべきであるとの指摘がされている一方,金融商品取引法上の規制違反に対する制裁は,現行法上の制度によるもので十分である等の指摘もされています。また,株主による議決権行使を認めないものとすることは,会社の基本的事項に関する意思決定の在り方に重大な影響を及ぼし得るとともに,これが濫用的に利用されることがあれば,株主総会の運営実務に混乱を招く等会社の適正な運営に支障を及ぼすおそれもあります。本文前段のような制度について検討する際には,金融商品取引法上の各規制ごとに,その違反によって害される利益の帰属主体・内容・程度等を具体的に検討する必要があるほか,当該利益を保護するための方策として,本文前段のような制度を創設することが必要かつ適切といえるかどうかについても,個別に検討する必要があるものと存じます。特に,議決権行使を認めないという効果が当該利益の保護に結び付く態様・程度等について,考慮する必要があると思われます。   そこで,本文後段は,公開買付規制,大量保有報告規制及び委任状勧誘規制のそれぞれに関し,本文前段のような制度を創設することについて問うものでございます。まず,公開買付規制のうち,株券等所有割合が3分の1を超えることとなるような株券等の買付け等について公開買付けを強制する規制や,公開買付者に全部買付義務及び強制的全部勧誘義務を課す規制は,会社の支配関係に大きな変動が生ずる場合に,株主に株式売却の機会を与えることにより,株主の利益を保護する機能を有するとの指摘がされています。このような指摘によれば,これらの規制の違反がある場合には,株式売却の機会を与えられない残存株主の利益が害されると言い得るように思われます。また,違反者による議決権行使を認めないものとすることは,違反者による支配の取得を防ぐことを通じて,残存株主の利益の保護に直接結び付き得ると考えられます。他方で,違反者による議決権行使が認められないものとする場合には,残存株主のみによって株主総会決議が行われることになるため,会社の基本的事項に関する意思決定の在り方に過度の影響を及ぼすこととならないか,検討する必要があります。これらの規制の違反については,金融商品取引法上,課徴金等の制度が設けられており,残存株主の利益の保護の実効性という観点から,これらの既存の制度やその適用範囲の拡大による対応では不十分であるといえるか,具体的に検討する必要があるものと存じます。次に,公開買付けにおける情報開示に関する規制については,違反により害される利益の帰属主体や内容は様々ですが,典型的には,不利な買付条件による公開買付けに応募してしまった株主の利益が問題となる場合が考えられます。この場合には,当該利益の帰属主体は既に株主でなくなっている以上,違反者による議決権行使を認めないものとしても,当該利益の保護に直接結び付くわけではなく,むしろ,当該利益の保護は,公開買付者等の損害賠償責任によって図るほうが直截であると思われます。同様に,公開買付けに関するその他の実体規制についても,違反者による議決権行使を認めないことが規制違反により害される利益の保護に直接結び付くわけではないと考えられます。これらの規制については,金融商品取引法上の既存の制度に加えて本文前段のような制度を創設する必要性は高くないように思われます。   次に,大量保有報告規制については,その適用範囲が会社の支配関係に大きな変動が生ずる場合に限られているわけではないことに加え,会社支配の取得について,情報開示の義務を超える実体的な制約を課すものではなく,当部会においても,公開買付規制に比べると株主の私的利益との関係が薄いとの指摘がされています。そこで,金融商品取引法上の既存の制度に加えて本文前段のような制度を創設する必要性は高くないように思われます。加えて,大量保有報告規制の違反の場合には,議決権行使を認めないものとする仕組みの実効性も乏しいように思われます。   委任状勧誘規制については,議決権の代理行使の委任の当否を適切に判断するという個々の株主の利益が害されると言い得るようにも思われますが,委任の撤回が可能であるため,本文前段のような制度による保護の必要性は高くないように思われます。また,株主総会決議の公正という会社の利益が害されると捉えることも考えられますが,委任状勧誘規制の違反があれば直ちに決議の公正が害されるといえるのか,同規制の具体的な内容を踏まえて検討する必要があると思われます。この株主総会決議の公正という利益は,決議方法が著しく不公正であることなどを理由とする株主総会決議の取消しの訴えによって保護される余地があるとも考えられます。加えて,書面による議決権行使に関し,株主総会参考書類に虚偽の記載がされた場合でも,株主総会決議の取消しの訴えの対象となり得るにとどまることとの平仄も考えますと,本文前段のような制度を創設する必要性は高くないように思われます。   (注)は,仮に本文前段のような制度を創設することとする場合の制度設計について問うものでございます。まず,①議決権行使を認めないものとするための実体要件については,当部会での議論を踏まえ,規制違反の程度が重大である場合に限って議決権行使を認めないものとすることが考えられます。   次に,②議決権行使を認めないものとするための手続については,金融商品取引法上の規制の違反があれば当然に議決権が失われるものとすると,既にされた議決権行使の効果に影響が生ずることとなり,法的安定性の観点から適切でないとの指摘がされています。そこで,株主等が違反者に対して議決権行使の差止めを請求し得る旨の規定を設けることが考えられ,この場合には,株主総会に先立ち,そのような請求権を被保全権利とする議決権行使の差止め又は禁止の仮処分の申立てによって,議決権行使の可否が争われることになると思われます。差止請求権を有する者の範囲については,本文前段のような制度を創設する趣旨を踏まえ,まず,違反者以外の株主に差止請求権を認めることが考えられます。加えて,会社にも差止請求権を認めることについては,規制違反により会社の利益が害されると言い得るかどうか,また,会社を代表する経営者が本文前段のような制度を適切に利用するインセンティブを有すると言えるかどうかといった点を考慮しつつ,検討する必要があると思われます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,この第1について,本文及び(注)の①,②を一括して御議論いただきたいと思います。いかがでしょうか。 ○栗田幹事 この論点は,金融庁の三井元幹事より提案させていただいたものでございますけれども,問題意識の第一は,金融商品取引法に違反して取得した株式の議決権行使がなされるということになりますと,他の株主の共益権が害される可能性があるということでございます。   問題意識のもう一点は,金融商品取引法違反に対するエンフォースメントについてでございます。一つあるのが,金融商品取引法192条による停止命令を裁判所に申し立てるということでございますけれども,192条を行使する場合,通例,その前に187条によりまして調査を行います。調査を行ってある程度証拠を固めて裁判所に申し立て,裁判所から命令を頂くという手順を踏むわけでございますけれども,やはりそれなりに時間が掛かるわけでございまして,そうこうしているうちに,例えば,公開買付けの場合ですと,買付けの決済が終わってしまうということも十分考えられるということでございます。それから,課徴金というエンフォースメントもあり得るわけですけれども,現在までのところ,公開買付規制違反,大量保有報告規制違反で3件課徴金を課した事例がございますが,これらはいずれも,外国企業に対するものでございます。個別企業についての話はこの場で申し上げることはできないんですけれども,一般論として申し上げれば,外国企業に対しては強制執行が実際問題として難しいということがございます。このように課徴金は課したけれども,徴収ができないということは,一般論として十分考えられるということでございます。そういったことを踏まえますと,一定の金融商品取引法違反事例において議決権行使を認めないということを検討していただけるのは,非常に有り難いというふうに考えております。 ○上村委員 一般論ですけれども,まず,金融商品取引法に違反した行為が放置されることで金融商品取引法の目的である資本市場の機能だとか価格形成がゆがめられている可能性が高いはずだと思います。ですから,金融商品取引法の目的を達成するために,違反行為を無効にすることが可能な条件がそろっていればそれによってマーケットの秩序を回復したいという話が一方であると思います。これは,例えば私法上の効力という話で言えば,会社法でも,例えば新株発行の場合,公募を想定していたら,これはもう取引は市場メカニズムの中に埋没して一個一個の取引を追跡できないわけですから,無効にはできないと言わざるを得ない。しかし,本来違法な有価証券ないし株式が大量に市場に残ることで市場機能がわい曲されているはずだから何とかしないといけないというのは,金融庁の立場として主張し得る話だと思うんですね。私は,個々の取引の私法上の効力を有効とした上で,買い入れて消却を求めるとか,そういうことを考えたらどうかと思っております。市場機能を守るという意味でですね。これには短期間で違法を確認する手続などが必要になりますが。他方で,証券市場がある場合の私募とか第三者割当てで,例えば転売制限があって預託義務が課されているとか,支配株主で変動がないというような場合には別に無効にして構わないわけです。これは,公開買付けの場合でも同じで,鹿子木委員がいらっしゃるんですけれども,ライブドアの場合ですと,ToSTNeT取引が今は違法ですけれども,当時の解釈論としてもあれは,相対取引だから私法上の効力は無効だと言えたとしたら,29%ぐらいのToSTNeT経由の株主は,そもそも株主ではありませんということになりますので,当然議決権もありませんということになったはずですね。また,自己株の取得で市場買入れなども,違法な自己株式取得によって資本市場に違法な「買い」が入ったのですから市場機能のわい曲はあり得るわけです。しかし,個々の取引の私法上の効力は全部無効だから,過去に売った株主はまた株主にならなければならないなんていっても無理ですから,しょせん駄目ですが,相対取引でしたら無効の可能性があるように思います。そういう意味では,金融商品取引法に違反した行為の私法上の効力について,一般的理論のようなものを確立して,無効であれば,もう当然議決権行使の話はする必要はないですね。後は,会社法のほうからすると,違法で無効だとまでは言えないけれども,証券市場における振る舞いが悪い株主に対して,それを濫用的な買収者と見たり,あるいは濫用的な株主としてその権利行使を濫用と評価するということはあり得ると思います。私は,公開会社法というのは資本市場での振る舞いの悪い人間は会社法の株主としても真っ当な株主ではないというふうに扱っても構わないと思いますので,そういう会社法としての受け止め方も一方ではあるだろうと思います。また,資本市場で怪しいことをする目的で例えば株式分割をするとか,併合するとかという場合には,それを会社法の立場において一種の公序良俗違反と同等に位置付けることで,その行為の違法性を肯定することがあり得ますし,逆に,金融商品取引法の立場として金融商品取引法の価値を守るためにそうした行為の緊急停止命令を出すとか,そういうこともあり得るわけです。ですから,ここで採り上げられている問題だけではありませんで,全体的に株主権を保護するためにそれを言おうとしているのか,あるいは資本市場を守るために私法上の行為に関心を持つのか,そうした基本的な考え方をまず明らかにして見ていく必要があるだろうと思います。   ちょっと,個々の問題についてここで全てを論じられませんが,例えば大量保有報告というのは,私は,資本市場での「かたまり」の発生・移転・増減・消滅情報の開示制度であって,不完全競争市場における「かたまり」の把握という市場構造規制の観点からする規制だと思っておりますので,基本的には私法ルールに直接は馴染まない話だと思います。しかし,支配権の移転が問題になるような状況で大量保有報告の虚偽記載が存在するような場合には,会社法の問題として私法上の効果に影響を及ぼすことはあり得ると思います。それから,委任状勧誘については,ここにも書いてありますけれども,参考書類・書面決議と同じなんですね。アメリカでは,連邦会社法がないために会社法でやるべきことを証券法でやるというのは,ほかにも,提案権だってそうだし,開示,会計監査だって,実は,取引所で上場していなくても,一定の外形基準で連邦証券法の適用をしているわけです。そういうことがありますので,委任状勧誘規則は,これは,沿革上の理由で証券規制の中に入っているけど,日本で見れば会社法だと受け止めればいいわけです。そういう意味では,参考書類と議決権行使の問題と全くパラレルに考えていいのではないかと思います。問題を個別に見ていく必要がありますが,一般論として,やはり,この問題の全体を整理して,個々の規定の目的が何なのか,それから,それぞれの違反した場合の効力を有効としなければいけない場合と無効とできる場合とありますから,そういう場合を分類して,そして,整理して議論する必要があるのではないかと思います。そういう意味では大きな問題だと思っております。 ○前田委員 どのような金融商品取引法違反を問題にするかということについては,支配の公正を確保するための規制,言わば会社法に入っていても不思議がないような,そういう規制のうちで,かつその違反が議決権行使を否定するという重大な効果と結び付けるのにふさわしい規制ということになりますと,部会資料13において提案されていますように,強制公開買付等の規制ということになるのではないかと思います。上村委員御指摘のような,取引の私法上の効力を否定するかどうかという問題は,金融商品取引法の規定ごとに,その趣旨に照らして個別に考えなくてはいけない問題かと思いますけれども,議決権行使を否定するという効果に結び付けるのであれば,この強制公開買付けの規制の違反ということでよいのではないかと思います。   そして,大きな仕組みとして,株主等が違反者に対して議決権行使の差止めを請求できる制度にすることにも賛成です。株主以外の者にも差止請求権を与えるべきかという問題が採り上げられていますけれども,支配の公正がゆがめられているわけですから,指摘されていますように会社の利益が害されているとは確かに考えにくいのですけれども,それを是正する権限は,取締役,監査役に与えていいのではないかというように思います。権限があると言いますと,義務にもなりますので,異論はあるかもしれませんけれども,取締役らは,会社がまともに意思決定できるような状態にする職責があるのではないかというように考えます。 ○神作幹事 この問題は,基本的には,金融商品取引法のある規律の違反が私的な権利である株主権に対してどの程度の影響を与えるかという観点と,当該違反に対する金商法上のエンフォースメントの実効性や私法上の効力といったエンフォースメントの観点の二つを相関的に考えつつ各論ごとに考えていくべきだと思います。したがって,本日のように一つ一つの論点について個別に検討していくという方法論が適切であると存じます。   その上で,例えば公開買付規制の場合は,前田委員が御指摘になったように,会社の支配権と密接に関係しており,したがって,私的な利益と深く関係していますから,公開買付規制の違反に対して議決権の停止という会社法上の効果を付与することを正当化する余地があるものと思います。しかし,他方で,御質問も兼ねるのですけれども,この規制に違反した場合に議決権が行使できないという法的効果を付与するとして,議決権が停止される期間については,どのように考えるのかが気になります。一旦違反すると,当該株主は,その後ずっと議決権を行使できないということになるのでしょうか。金融商品取引法上の義務の中でも,違反はあっても後から履行できるという場合には,その義務を履行するまでの間だけ議決権が停止しているという規律の仕方を考えることができると思います。しかし,現行法の公開買付規制を前提としますと,それに違反した場合には,治癒することが難しいと思いますので,そのような場合には,議決権をいつまでも認めないということになるのか,一定の期間を設けるべきかについて検討する必要があるのではないかと思います。 ○内田関係官 ただ今御質問を頂いた件ですけれども,正に御指摘のとおり,治癒することができる違反なのかどうかという点に関連してくるところかと思います。公開買付規制のうち,部会資料13の2ページのアに掲げた強制公開買付規制については,御指摘のとおり,一度違反してしまうと後から治癒することはできなくなるというのが現行の金融商品取引法の建て付けであると理解しております。そうしますと,基本的には,一度違反してしまうと,差止請求権が発生してしまいますので,他の株主が本案訴訟で勝訴すると,その違反者が株式をそのまま持っている限りずっと議決権行使が認められないということになると思います。ただ,恐らく実際の紛争では,株主総会前に仮処分の申立てという形で争われることになると思いますが,その場合には,保全の必要性が認められる範囲で,例えば直近の株主総会での議決権行使の禁止なり差止めが認められるかどうかが問題になると思います。その後の株主総会における議決権については,また別の仮処分か本案訴訟で争われることになるのかと思いますけれども,いずれにせよ,違反状態が治癒されていないにもかかわらず,一定期間が経過すると議決権行使が可能となる旨を会社法において定めるという発想は,採りづらいように思います。 ○杉村委員 経済界の立場としましては,会社支配の公正さの確保は非常に重要だと思いますので,金融商品取引法違反に対してこのような制度を設けるという趣旨自体には,賛成できるものであります。他方,これは,違反者へのペナルティであるにもかかわらず,制度設計や運用のいかんによりましては,会社側の株主総会の運営を阻害するなど,企業実務に混乱を来すことになります。そのような制度となってしまうのであれば,慎重に考えざるを得ませんので,丁寧に御検討を願いたいと思います。   それに付け加えて申しますと,少し話は違うかもしれませんが,会社支配の公正ということで言えば,金融商品取引法の違反の話だけなのか,あるいは例えばフランスでは対内投資規制に違反した場合に議決権を停止する仕組みもありますので,ほかの制度でも会社支配の公正という観点から議論することがあるのか,検討が必要だと考えております。また,規制違反への対応は会社法で手当てすべきか,あるいは金融商品取引法やほかの法律の中で手当てすべきかといった点も含めて,少し丁寧に検討いただければと思っております。 ○上村委員 公開買付けの規制の趣旨ですけれども,会社支配の公正というと,何か会社法というイメージですけれども,私は,公開買付けというのは,投資家に対して「売るか売らないか」を迫るのですから,「買うか買わないか」と迫る発行市場の反対現象であって,資本市場のルールだと思います。ともに流通市場の派生市場ですから極めて多くの行政規定で満ち満ちているわけです。しかし,株式というものは,議決権・支配権がある金融商品ですから,その取引規模に応じて会社支配の問題が付いて回るのは当たり前で,これは,発行市場の場合と全く同じですね。発行市場の場合でも差止めもあるし,それから,違反した場合の有効,無効もあるし,取締役会や株主総会決議も必要です。公開買付けも資本市場のルールであると同時に,その金融商品としての性格から会社法的関与が並行して必要になる場合があるのは当然だと思います。だからといって,公開買付けは丸ごと会社法ですということにはなりません。あと,先ほども申しましたが,公開買付規制,例えば3分の1ルールに違反して,そのまま支配株主としてずっと持ち続けているのであれば,それはそのまま無効ですとか議決権がありませんとか言えますけれども,しかし,転売制限とかそういうものが全然掛かっていないとすれば,売出しをしちゃったり,あるいは証券市場にばらばらになって流入してしまうことだってあるわけですから,そのときにどれが無効か,どれが有効か分からないことになるのは先ほど述べました新株発行や自己株式取得の場合と同じです。いずれにしても,この種の問題には,資本市場のルールとして理解すべき話と支配権の話として会社法が関心を持つべき話との両方がありますので,その辺を整理して議論する必要があると思います。 ○荒谷委員 私も,この分類をすること自体は,非常に良いことだと思いますが,前回お話ししたことを繰り返すことになりますけれども,強制公開買付規制等について,議決権をいきなり停止するということについては,慎重に検討する必要があるのかなと考えております。と申しますのも,今,上村委員がおっしゃっておられましたように,公開買付けの場合には,一度違反してしまいますと,後から治癒することはできず,議決権が停止されてしまうことになりますので,違反者は,事実上,株式を売却するしか方法がないということになります。そうしますと,大量の株式が一斉にマーケットに売り出されることになりますので,市場価格が大きく下落するなど既存の株主にも経済的な損失を与える可能性が出てくることも考える必要があるのかなという気がいたします。   そうでなくても,部会資料13にありますように,残存株主のみによって株主総会決議が行われること自体,非常にゆがめられた形になりますので,そういったことを全部含めて,金融商品取引法の違反者については,市場価格に影響を及ぼさないような形で速やかに株式の処分を促すような方法を,金融庁でお考えいただくとか,金商法192条等の差止めを使うといった方法で取りあえず対処していくのが望ましいのではないかと考えております。 ○内田関係官 先ほど杉村委員から御指摘のあった,もう少し幅広くいろいろな規制を対象にしてはどうかというところでございますけれども,株式を持っているにもかかわらず,その議決権を行使できないというのは,非常に強い効果を伴うことになりますので,それを会社法で制度化するとすれば,やはり他の株主の利益が害されるという観点―ある規制の違反自体が悪質であるという観点というよりは,違反によって他の株主の私的利益が害されるという観点―からの検討が必要ではないかと思います。部会資料13では,正にその検討をしているわけですが,そのような観点からしますと,先ほど杉村委員が例に挙げられました対内投資規制等は,株主の私的利益に直接結び付くのかというと,なかなかそのようには説明しづらいのかなと考えております。 ○岩原部会長 部会資料13の4ページの下のほうに,委任状勧誘規則というか,委任状勧誘府令に違反した場合の会社法上の効果の問題について,書面による議決権行使に関する規律に違反した場合との平仄を考える必要があるということから,結局そういう制度を創設する必要性は高くないというふうに結び付けられて書かれていますけれども,書面による議決権行使に関する会社法あるいは会社法施行規則に違反した場合は,会社法上むしろ議決権行使の効力が否定されるのではないでしょうか。それとの平仄ということを言えば,例えば委任状勧誘府令43条に違反して,被勧誘者が賛否を記載する欄を設けず,言わば白紙委任するような委任状勧誘を行った場合,それに基づいて委任状勧誘をした人が株主総会でその委任状に基づいて議決権を行使しようとしたら,それの議決権行使の効果を否定しなくてよろしいのでしょうか。 ○内田関係官 委任状勧誘規制の違反の態様や程度によっては,代理権の授与や議決権の代理行使の効果についても,解釈上の議論はあり得るのかもしれません。 ○岩原部会長 昔から非常に学説上争いがあって,そういう場合にでも議決権行使の効力を認めるのが少なくとも昔の通説であって,その後,鈴木先生等がそれと異なるような学説を出されたわけですけれども,学説上は必ずしも統一した見解が現状あるというわけでもないのです。書面による議決権行使という制度を作った一つの大きい理由は,そういう曖昧さをなくし,委任状勧誘とは異なって,株主の意思がなるべく素直に株主総会での議決権行使に反映されるようにすることにあったと思います。書面による議決権行使により株主の意思が示されるようにし,議決権行使書面に記載されている株主の意思のとおりに議決権行使がなされたものと扱われなければいけないと,強行法的に規定されているわけです。ところが,現状は,書面による議決権行使の制度があっても金融商品取引法に基づく委任状勧誘を行っている場合は,それでもって書面による議決権行使に代替していいということになっているわけです(会社法298条2項ただし書)。その代替していいほうの金融商品取引法上の委任状勧誘府令に基づく議決権行使について,委任状勧誘府令に違反するような勧誘が行われて,それに基づいた議決権行使がされたときに,当該議決権行使を有効に扱っていいとしてよろしいのでしょうか。 ○内田関係官 解釈論としては議論の余地があるかもしれませんが,規制違反にもいろいろと態様や程度がございますので,どういう場合に効力を否定すべきなのかを法律で定めるというのは,なかなか難しいのかなというのが今の印象ではございます。 ○岩原部会長 分かりました。 ○中東幹事 岩原部会長の御意見に賛成でございます。部会資料13にありますような議決権行使の差止めとなると,意見が分かれるかもしれませんが,行使された議決権の有効性のように,会社法の規制と私法上の効力を並べて考えるべき事項については,積極的に検討していただきたいと思っています。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。確かに私は,委任状勧誘府令違反の委任状に基づく議決権行使の会社法上の効力一般に係る解釈問題につき申し上げましたが,部会資料13の第1の論点は,委任状勧誘府令等の金融商品取引法上の規制に違反した者による議決権行使を認めない制度を会社法上創設すべきかという立法論の問い掛けですから,解釈論として議決権行使の効力を認めないという問題とは,別に論じ得るところかもしれません。ほかに何か御指摘いただくことはございますでしょうか。   本日は,時間が既に1時間ほどオーバーしておりますので,部会資料13の第2が残っておりますが,これは,次回の審議に回させていただきたいと思います。よろしゅうございましょうか。   それでは,この論点は次回に持ち越すことにさせていただきまして,本日の部会の終了の前に,次回の部会の予定について,事務当局から説明してもらいたいと思います。 ○坂本幹事 本日は,非常に長時間にわたり御議論を頂戴いたしまして,どうもありがとうございました。次回の予定でございますけれども,次回は,事前に御連絡差し上げているとおり,9月28日水曜日の午後1時半から午後5時30分まででございます。場所につきましては,次回は,いつもの場所に戻りまして,20階の第1会議室でございます。本日と違う場所になりますので,お間違えのないようお願いいたします。   部会資料13の最後の論点である「第2 株主名簿の閲覧等請求の拒絶事由に関する論点」が積み残しになっておりますので,次回は,まず,この論点について御検討をお願いしたいと思っております。部会資料13は,お手数ではございますけれども,次回もお持ちいただきますようお願いいたします。また,次回から,中間試案の取りまとめのための御審議をお願いする予定でございます。次回は,中間試案の取りまとめのための御審議の初回として,企業統治の在り方の論点について御検討をお願いする予定でございますので,よろしくお願い申し上げます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,法制審議会会社法制部会第12回会議を閉会いたします。長時間にわたり熱心な御審議を頂き,誠にありがとうございます。 -了-