法制審議会ハーグ条約(子の返還手続関係)部会           第3回会議 議事録 第1 日 時  平成23年9月9日(金) 自 午後1時30分                      至 午後5時52分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  ハーグ条約を実施するための子の返還手続等の整備について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○髙橋部会長 定刻になりましたので,ハーグ条約部会の第3回会議を開催いたします。     (幹事及び関係官の異動の紹介につき省略)   審議に入ります前に,配布資料の説明を事務当局から申し上げます。 ○佐藤関係官 それでは,簡単に説明させていただきます。まず,資料番号3として事前送付のものですが,「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(仮称)」を実施するための子の返還手続等の整備に関する検討事項(2)と題する書面がございます。続きまして資料番号10,こちらも事前送付のものですが,「「ハーグ条約の中央当局の在り方に関する懇談会」第1回会合」と題する書面をお渡ししております。こちらについては後ほど外務省から御説明いただきます。続きまして資料番号11として,こちらは席上配布のものになりますが,国際的な子の連れ去りに関するアンケート結果報告と題する書面をお配りしております。こちらについては日弁連から後ほど御説明いただきます。 ○髙橋部会長 それでは,部会資料の検討に入ります前に,今,御紹介がありましたけれども,前回の部会におきまして磯谷幹事から,外務省において開催された懇談会の概要について紹介していただければという御提案がございましたので,外務省から今日,概要の説明を頂けるとお聴きしております。では,辻阪幹事,お願いいたします。 ○辻阪幹事 参考資料10でございますが,ハーグ条約の中央当局の在り方に関する懇談会でございます。この法制審はハーグ条約の国内法の作成に当たり,司法手続部分について議論していただくという場だと理解しておりますが,中央当局の部分につきましても検討する場が必要だということで,懇談会を7月27日に立ち上げております。真ん中のところに「1,出席者」とありますけれども,小早川先生,成蹊大学法科大学院教授に座長を務めていただき,この場にも御出席いただいておりますが,棚村教授,それから日弁連からは大谷弁護士にも御参加いただいております。関係府省庁も出席しているという会議でございます。   第1回目はフリートーキングということで,1枚めくっていただきましてハーグ条約の中央当局の在り方に関する懇談会主要論点ということで,ここには基本的に中央当局が条約に基づき行うべき業務が書いてありますけれども,これについてそれぞれどのような問題があるのかということを検討する必要があるのかという論点ペーパーを配布しまして,これに基づいたフリーディスカッションを行いました。次回は来週を予定しておりますが,それぞれの論点につきまして更に議論を深めていきたいと考えております。この懇談会におきましても,法制審とこちらとタイミングを合わせてパブリックコメントを実施して,また,ヒアリングも今後,実施したいと考えております。大体月1回ぐらいのペースで論点を詰めていくという作業を今後,行っていきたいと思っております。 ○髙橋部会長 ただいまの御説明につきまして,質問がございましたらお伺いいたしますが,よろしいでしょうか。   それでは,次にこれも先ほど説明がありましたが,日弁連提出の資料,本日机上配布でございますが,これにつきまして日弁連関係の委員から,では,大谷委員から御説明をお願いいたします。 ○大谷委員 簡単に御説明を申し上げます。従前から,この法制審部会の第1回でも多少話に出ましたが,なかなかハーグ条約の対象となるような事案が実際にどの程度起こっているのかについて統計的な数字がない。外務省のほうでもアンケートを実施され,その結果につきましては本部会の資料としていただいているところでございますけれども,日弁連といたしましても相談を受ける立場にある弁護士が把握した限りということにはなりますが,独自にアンケートを実施して,少しでもその実態の把握に資することができればという目的から,このたび,アンケートを実施いたしました。   調査の概要につきましては,お配りしました資料の1ページのところにあるとおりでございます。期間も短く,回答数も限られてはございますが,得られた回答の中からはある程度の数字がつかめている内容になっているかと思います。時間の関係で詳しくは省略させていただきますが,簡単に申し上げますと,設問1,2は,それぞれいわゆるアウトゴーイングケース,日本から外国に子どもが連れ去られそうという相談が設問1,実際に連れ去られたということに関する相談が設問2,それから設問3及び4,5はいわゆるインカミングケースで,3のほうは外国から日本に連れ帰ること,あるいは配偶者が連れ帰ろうとしているということについての相談,設問4,5は,それが実際に起きてしまったという場合の相談について質問し,まとめたものでございます。   詳しくは後ろのほうのデータを御覧いただきたいのですが,細かくなっていますので若干,分かりづらいかと思われますので,ちょっと件数だけ表からは合計しないと出てこないことになっていますので申し上げます。設問1のアウトゴーイングケースが起きそうだという相談は合計が108件,そういうことが起きたということに関する相談,設問2の相談件数は149件,それから設問3のインカミングの起こる前の状態での相談件数は79件で,実際に起きたということについての相談件数は143件と,それぞれなっております。また,相談の全国分布ですとか,あるいはアウトゴーイング,インカミングそれぞれの相手国が締約国と非締約国別に分析してございますので,御覧いただければと思います。その他,特にインカミングケースにつきましては,相談の内容及び帰国理由について,帰国理由も弁護士が記憶している範囲で回答しているものですので,それほどの正確性という点では限界があるかとは思いますが,一応,分析して表にしてございますので御参照いただければと思います。 ○髙橋部会長 ありがとうございました。   ただいまの御説明につきましても何か御質問があれば。 ○棚村委員 ちょっとお尋ねをしたいのですが,弁護士さんの所属についての分布は表の中にあるのですが,相談者の居住地域あるいは場合によっては子どもがいるところの質問はあるのでしょうか。 ○大谷委員 相談者の居住地は,子どもの居住地と一致する場合が多いかもしれませんが,それはこのアンケートからは分かりません。飽くまでアンケートの対象が弁護士で,弁護士の相談ということで取っておりますので,特に地方会の弁護士が受けた相談については,その地域に在住する相談者からの相談ではないかと推測することが合理的かと思われる反面,東京で相談を受けた件数というのが多いわけですが,東京や大阪の場合ですと必ずしも東京若しくは大阪とは限らない,地方からの相談の可能性もあるという程度にしか分析できません。申し訳ありません。 ○棚村委員 そうすると,管轄権の集中のときにいろいろな議論が出ていましたけれども,相談者もかなり広範囲に分布をしていると理解をしてよろしいのでしょうか。もちろん,大都市圏がかなり多いということはあると思いますけれども,全国的に分布をしているというふうな理解でよろしいのでしょうか。 ○大谷委員 日弁連のほうでは,今回のアンケート結果をどう解釈するかということについては,現在,統一的に何か発表できるような見解はございません。できるだけ客観的なデータをそのまま公表するように努めております。今の分布に関しましては3ページの調査結果のところで,相談を受けた経験のある弁護士の所属会ということで,東京,第一東京,第二東京,それから大阪,横浜が多いということは表から読み取れますので,そのように公表しております。   棚村先生の今の御質問のようなことが言えるかということなのですが,表から確実に言えることは,相談を受ける弁護士は全国に分布しているということです。恐らく事件としては,相談者が全国にいらっしゃるということは言えると思います。他方で,例えばインカミングの事件の当事者の方が常に東京にお住まい,あるいは大阪にお住まいであるために,相談がそこに多いかということの関連性は必ずしも読めない。逆に言うと,全国にそういう相談者がいらっしゃるけれども,相談先としては東京ないし大阪が多いということもあり得るかもしれず,そこについては読み取れないので,日弁連としてはちょっと申し上げることはできません。 ○棚村委員 ありがとうございます。 ○髙橋部会長 ほかによろしいでしょうか。   では,部会資料3,検討事項(2)に基づいて御議論いただきますが,恒例により途中休憩を取る予定でおります。   では,部会資料3の(2)の30,適宜,まとまりをもって説明してもらいますが,まずは30の説明からお願いいたします。 ○佐藤関係官 では,説明させていただきます。   「30 裁判」は,返還命令の主文について検討するものです。本条約は子の具体的な返還先や返還方法については明示しておらず,返還命令における主文の在り方は各締約国の解釈・運用に委ねられており,部会資料の参考例で示したとおり,各国が様々に運用している状況です。我が国においても,主文をどのようなものとするかは法律で明示するようなものではなく,運用に委ねることで足りるとも言えますが,前回の部会においても検討課題となっておりました申立ての趣旨の在り方とも関係し,また,裁判を具体的にどのように実現するかの議論にも影響するもので,後にその実現を担当する機関にとって,実現の方法が明確に判断できるように検討する必要があるという点に留意すべきであると言えますので,ここで御議論していただければと存じます。   本条約に基づく子の常居所地国への返還を実現するために,申立人と相手方との間に何らかの権利義務関係が生ずると観念すれば,返還命令の主文としては相手方に対し,一定の給付又は作為を命じるものが想定されます。想定される主文例について,条約との整合性や問題点について検討しますと,まず,相手方は子を常居所地国と認定された特定の国に返還せよとすることが考えられます。   この主文は条約が,誰がどのように監護権を行使するかの問題は,子の返還後に常居所地国において判断すべき事項であり,返還国は子を常居所地国に返還する以上の権限を持たないという条約の枠組みと整合し,諸外国でも条約に基づく返還が常居所地国への返還で足りると一般に解されてきたことなどにも照らし,実務上,考えられる最も現実的な例であると言えます。もっとも,後に裁判の実現方法の項目で述べるように,この主文ではその実現方法が明確ではないという問題があります。   この派生型として相手方は子を常居所地国に連れ帰れという主文が考えられます。これはどのように返還すべきかを明確にしたものです。もっとも,この主文とした場合に条約上は相手方が子の常居所地に帰ることまで要求されていないのではないか,どのような方法で裁判を強制することができるか,連れ帰る以外の方法で子を返還した場合に,命令を履行したことになるのかなどが問題となります。なお,(注)に記載したように,これらの主文は申立人の相手方に対する請求権を,子を返還させるために,一定の作為を求める性質のものであると考えるものと整理することが可能であると考えられます。   次に,相手方は申立人又は申立人の指定する者に子を引き渡せという主文が考えられます。この主文は,子の返還の実現方法として申立人に引き渡すのが相当であると判断される場合,例えば申立人が日本国内に所在しているか,あるいは子を受け取るために日本国内に来る予定である場合には,現実的な主文であると考えられます。しかしながら,このような返還命令を出すことが相当かという問題がありますし,前述したように条約の枠組みに照らして,申立人の引渡しまで認めることが相当なのか,また,申立人に引き渡す以外の実現方法,例えば相手方が子を連れ帰ることでは,命令の履行と言えないのかといったことも問題になります。なお,(注)に記載したように,この主文は相手方が申立人に対して,いわゆる与える債務類似の給付義務を負うと考えるものと整理できると考えます。   さらに,相手方は申立人が子を常居所地国に連れ帰ることを妨害してはならないとすることが考えられますが,申立人による連れ帰りを前提とすることで条約の枠組みとの整合性が問題となるほか,申立人への引渡しを命ずる主文と同様の問題があると言えます。諸外国では履行手段等の詳細を返還命令に記載するという例もありますが,調整のために手続の遅滞を招くことが考えられますし,具体的な方法を書くと,それ以外の手段による履行が命令の履行と言えるのか,疑義が生じるという問題もあることから,慎重な検討が必要であると言えます。   次に,(2)のundertakingについては,担保法上,特段の規定は設けないものとしております。undertakingの具体的な例としては資料に記載しましたとおり,申立人が子を相手方の監護の下から奪い去らないこと,暴力を行使しないこと,扶養料,旅費,弁護士費用等を支払うこと,刑事訴追の放棄や告訴の取下げを約束することなど多岐にわたります。このundertakingは,その履行が裁判において命じられたとしても,外国において履行されるべきものである場合には,我が国の法制において強制執行することができないという問題点があり,そのようなものを担保法上に明文規定を設けて認めるのは相当でないと言えます。もっとも,当事者の約束については和解条項に盛り込んだり,理由中に記載して,事実上の履行を促す等の扱いが考えられます。 ○髙橋部会長 それでは,どの点からでも御意見をどうぞ。 ○磯谷幹事 私のほうから,日弁連のバックアップのグループでの議論を少し御紹介をさせていただきたいと思います。   まず,返還命令の主文についてですけれども,やはり条約の趣旨と最も整合するのは,今回の検討事項の中で①とされています,相手方は子を常居所地国に返還せよ,若しくは連れ帰れというふうなところではないかという意見が多かったと思います。ただ,後に返還の執行のところで恐らくまた議論させていただくと思いますけれども,執行の段階で果たして間接強制だけで足りるのかというふうな意見もございまして,それとの関連で,この命令の主文もより検討する必要があるのではないかということでございました。   次に,undertakingについてですが,これについては私どもも特に設けないということでよろしいのではないかという意見が大勢でございました。理由は先ほど法務省のほうで御説明いただいたところと重なりますけれども,昨年の外国の方を招いたシンポジウムの中でも,履行可能性について疑問を呈する見解が少なくなかったということ,それから元々undertakingは13条1項bの抗弁が認められても,返還するという文脈で形成されてきたということであること,更には条約上,特段根拠を持たないというふうなことから,我が国ではなかなかなじまないのではないかという意見が大勢でございました。 ○棚村委員 今のundertakingに関するところなのですけれども,結論的には現行の司法制度の手続の枠の中ではなかなか難しいということは分かるのですが,ハーグ国際私法会議の常設事務局で出しているドメスティックバイオレンスとかファミリーバイオレンス等,13条の重大な危険の運用に関するリフレクションペーパーというのが5月に出されています。それを見ましても,25の締約国でもって92のケースが最近,DVとか暴力の絡みで返還拒否をめぐって争われたときに,49の返還が命じられたケースがあるわけですけれども,そのうちの25で安全な返還を確保するために約束,undertaking又は何らかの条件が付されていたというような報告でした。   そうなると,undertakingの問題は実は返還拒否事由との関係で,こういうような条件やこういうような環境を確保すれば返還を命じられると活用されていることになります。確かに執行とか,それから返還命令が出た後の具体化という点ではいろいろな問題があるし,余り条件を付け過ぎると手続の遅延につながるので,好ましくないという意見はあるのですけれども,ただ,返還拒否事由の議論をするときに,実はundertakingのような制度をうまく活用しながら,ほかの国々でも何らかの形でそれを取り入れて安全な子どもの,しかも適切な返還の条件を確保するということですので,制度としては設けないにしても,先ほどから出ているような形で何らかの形で関連付けながら工夫をして,できるだけ執行上,問題があったとしても盛り込めるような配慮は必要になってくるのではないかと思います。 ○辻阪幹事 今の御意見と一緒になってしまうのですけれども,undertakingに関しては制度自体を設けることは難しいということは理解しておりますけれども,4ページのところの補足説明の真ん中ぐらいに書いてあるのですが,例えば調停条項や和解条項に約束した内容を盛り込んだりとありますとおり,こういうのを盛り込んだりとか,司法手続において当事者が述べる個々の約束を考慮要素としたりということは,多くの国でundertakingを導入しているということからも有益だと思いますので,このような対応を検討していただけたらと思います。 ○古谷幹事 当事者間である程度の条件なり,場所なりの合意が出来上がっているようなケースにおいては,それを調停でするか,ハーグ手続内の和解でするかはあるにしても,合意の中に条件を取り込む形で解決していくことは十分考え得ると思います。ただ,主文の中に条件を入れる形でやるとしますと,常居所地国に帰った場合に履行される保証がないことになりますので,そういう主文を形成することについては,問題があると考えるところです。 ○棚村委員 もちろん,そういうところで執行上の問題とか,主文にどの範囲で,どのくらい入れるかという問題は技術的にあると思います。ただ,私なんかが見ている限りだと,特にDVとか,それから帰国後の生活の困難みたいな主張,それが子どもの利益に非常に著しい悪影響を与えるのだという主張の中には,家族の住居として使っていたところからの退去を条件にしたり,それからストーキングとかハラスメント,これ自体はやってはいけないことなのですが,子どもに付き添って帰る場合と子どもだけを返す場合と,いろいろあると思うのですけれども,何かいろいろな前提条件みたいなものが少なくとも約束でも何らかの形でも示されていく方向というのがあると,割合と抵抗感が少なくはなると思います。   どうやって技術的にそれを担保したり,組み入れていくかというのは確かにおっしゃるとおり難しい問題だと思うのですけれども,随分,返す側にとっても常居所地国で最終的な監護をめぐるきちっとした裁判をするのだというときでも,裁判をするまでの間は監護に関する訴訟とか,法定手続をたくさんやってきて,脅しのような訴訟という表現でよく言われるのですけれども,経済力とか社会的なパワーを持っている人たちは,適正な法的手段をいろいろな形で採るような形でもってプレッシャーをかけたりということも,実際には起こっているわけです。   ですから,そういうような環境整備みたいなことを今後,制度上はなかなか組み入れることは難しいということを言われても,今後,例えば中央当局なんかが援助をしたりするときに,当然,どの程度,どんなふうに援助するかというときに,返還手続だけはundertakingみたいな制度は一切無理だなというのではなく,また,合意ができればできるけれども,盛り込めないというよりは,少し判決の理由中とかいろいろなところに書けないものか,例えば刑事裁判でも説示するような部分というのはございますよね。それが実際,効力を持たない訓示的なものであるということであっても,当事者に与えるインパクトとか,影響力というのは僕は決して小さくはないのではないかと思っています。 ○大谷委員 今の議論に関連して,あと,また,磯谷幹事から御紹介いただいた日弁連内の議論の補足ですけれども,棚村先生あるいは辻阪さんがおっしゃっていたお話というのは,子の安全な返還のためにどういう配慮をなすべきか,あるいはそういうことを促進すべきではないかという話ではないかなと思っておりまして,そういう形でのいわゆるundertakingの活用については,日弁連内でもできるだけしたほうがいいのではないかという意見が多かったように思います。ただ,懸念がされるのは特に13条1項bの返還拒否事由との関係で,undertakingなる日本においては制度上ないものを条件として重大な危険の返還拒否事由を認めないという形でundertakingが使われることです。特に主文で入ったりすることは執行が確保できないことや,そもそも返還するかどうかの判断において,undertakingが前提となってしまうということについての懸念がございます。   undertakingがなければ重大な危険があるのだと,undertakingがなされて初めて,守られて初めて重大な危険がないと判断できるかというような場合には,後で返還拒否事由の議論だと思いますけれども,その場合は返還しないという判断にむしろ向かうべきであり,返還という結論が出ている事案においては,どれだけ親の懸念を解消し,また,子どもが帰国後,安全を確保できるかという観点で,そうした条件整備をできるだけ促進するということなのだろうと理解しております。その促進するときに,やはり,その促進の方法としてはどうしても当事者間の話合いを促すと。そこは裁判官から説示があったりとか,勧めがあったりということはあると思うのですけれども,主文に入れて命ずるというのはなかなか難しいのではないかという観点で,日弁連内では議論がございました。 ○山本(和)委員 今の(2)の点では,純粋に裁判のテクニカルな主文の観点からすれば,返還後の何らかの事情を条件にするというのは,多分,あり得ないことで,というのは,それが条件だとすれば,まず,条件を果たして,条件成就執行文を取って本来の主文についての間接強制を図って返還を求めるということになるわけなので,返還後のことを条件にするということは,多分,主文の構成としてはあり得ないと思っています。ただ,このundertakingとして語られている中に,私もよく分からないのですけれども,返還前にあり得ること,例えば旅費を支払うというようなことは,返還前に履行することができて,それを条件として返還せよという命令を出すという,あるいは告訴を取り下げるというのもそうなのかもしれませんけれども,そういうようなことは何かあり得て,その履行を条件として条件を果たして,場合によっては条件成就執行文とかを取って執行に入るというようなことは,論理的にあり得るような気がいたしました。   それから,(1)の点は私もやはり①の常居所地国に返還せよというのが主文として最も素直な感じがするのですけれども,ただ,この返還せよというのは多分,返還の対応というのがいろいろなやり方があり得るような,一種の抽象的な形での作為命令のような感じがいたしておりまして,つまり,債務者,相手方に対して一定の返還対応の裁量を与えるというところがあるような気がするのですが,場合によっては相手が間接強制等によっても返還に応じないような場合には,裁量が縮減するというような考え方もあり得るのではないか。つまり,場合によっては申立人に子どもを引き渡して,申立人が連れて帰るというような対応で,返還をするというような形に裁量が縮小するというようなこともあり得なくはないような感じがして,ドイツの例というのは何か,そういうようなことを意味しているような気もいたしまして,これも後の執行のところと関係しますけれども,そういうようなことも考えられないかなという印象を持ちました。 ○古谷幹事 今の山本先生の御指摘との関係なのですけれども,確かに決定前に調整できる事情であれば,それを主文に組み込むというのは,理論的にはあり得ると思うのですけれども,そういった場合であれば,例えば旅費をきちんと用意したと,あるいはこういった条件を整えたということを確認した上で,常居所地国に返還せよという形での命令を出す扱いが運用上は考えられるところと思います。一方,返還後の事情を条件に組み込んでの主文というのは,全く御指摘のとおり無理だと考えた次第です。 ○髙橋部会長 よろしいでしょうか。議論はもちろんいろいろできますし,主文の形を法律で決めるというのも不可能ではありませんけれども,この辺は議論をした上で,最終的な条文はまた別途考えるということになろうかと思います。裁判そのものに関してはよろしいでしょうか。   では,次に効力の発生時期等,31から33をまとめて説明してください。 ○松田関係官 では,御説明させていただきます。   まず,「31-1 裁判の効力の発生」についてですが,ここでは子の返還命令の申立てについての裁判は,確定しなければその効力を生じないとするものです。子を他国に返還するという重大な効果を伴うこと,裁判の変更を受けて子が再度,帰国するような事態は子の福祉に反することから,その効果は確定しなければ生じないとするのが相当と考えられます。   続きまして,「31-2 裁判の取消し」ですが,ここでは子の返還命令が確定した後,事情の変更により,その裁判を維持することが不当であると認める場合などに,その裁判を取り消すことができるものとする規律を設けることについて検討することを提案しております。本条約では,子の利益が最も重要なものと位置付けられていることを踏まえますと,子の返還命令が確定した後に,その裁判を維持することが子の利益に照らして不当であると認められるような事情が生じた場合には,その裁判を取り消して,子の利益に合致させることができるようにするのが相当と考えられます。他方で,子の返還を求める申立てについての裁判に対しては,即時抗告をすることができるものとするのが相当と考えられますところ,子の返還命令が確定したにもかかわらず,確定前の事情を理由に裁判を取り消すことができることとしますと,即時抗告によって早期確定を図ろうとした趣旨に反し,子の利益に沿わないものと考えられます。   そこで,この部会資料の8ページの補足説明の2(1)にも記載しておりますように裁判確定後の事情変更,すなわち,当事者間の合意の成立などによって子の返還命令を維持する必要性が失われた場合や,子の返還命令を維持することが不当であると認められるに至った場合に限定して裁判の取消しの規律を設けるものとし,裁判時に存在していた事情を理由とする取消しについては,再審によって対応するものとすることを提案しております。なお,子の返還を求める申立てを却下する裁判につきましては,裁判確定後に事情の変更があった場合には,改めて申立てをすることで足りると考えられますことから,裁判の取消しの対象には含めないことを予定しております。   また,補足説明1の(注)では,取消しだけでなく変更まで認めるものとするか否かにつきまして,ただいま,御検討いただきました「30 裁判」の(1)の子の返還命令の主文の内容についての検討の結果などを踏まえて,なお検討することを提案しております。その他,本手続における裁判の取消しの規律として部会資料の8ページの補足説明2(2)では,裁判の取消しは申立てによるものとし,また,2(3)では,裁判の取消しの期間制限等に関しまして子の監護環境の早期安定の要請から,子の返還命令が執行された後は裁判の取消しをすることはできないものとする一方で,執行前であれば必要に応じて裁判を取り消して,子の利益に合致させるのが相当であり,また,取消事由を事情変更の場合に限定するのであれば,期間制限になじみにくいとも考えられますことから,特に期間制限を設けないものとすることについて,それぞれ提案しております。   また,2(4)は裁判の取消しに伴う執行停止に関するものです。返還命令の執行後は,裁判の取消しをすることができない規律とすることとしますと,裁判の取消しの申立て後,その取消しの裁判が確定するまでの間,子の返還命令の執行を止める手段が必要になると考えられますので,裁判の取消しの申立てに伴う執行停止の裁判の制度を設けるなどの規律の要否を検討することを提案しております。   32-1につきましては以上です。   続きまして,「32 取下げ,裁判上の和解等」について御説明させていただきます。   裁判が確定するまで申立てを取り下げることができるものと,ここでは提案しております。ハーグ条約に基づく子の返還事件も,基本的に二当事者間の紛争と位置付けることができ,また,合意による解決方法など当事者による処分を認めていることから,裁判が確定するまでは申立てを取り下げることができるものとするのが相当と考えられます。取下げにつきましては相手方の同意を要するとすべきかが問題となりますが,子を返還させるかどうかにつき,相手方が裁判を得る法的利益を有しているとは言えないこと,条約第12条から,原則として子の連れ去りから1年以内に返還命令の申立てがされることが想定されており,申立人の再申立てに応じなければならない負担も,現実にはほとんど問題とならないと考えられますことから,同意を要しないとすることが考えられます。   32につきましては以上です。   続きまして,「33 不服申立て」の(1)についてですが,ここでは子の返還を求める申立てについての裁判の不服申立てとして,高等裁判所への即時抗告並びに最高裁判所への特別抗告及び許可抗告の三審制の規律を設けるものとすることを提案しております。このうち即時抗告に関しましては,補足説明の2に記載しておりますように,即時抗告権者は基本的に当事者に限るのが相当であるように考えられますが,例えば父又は母が当事者となっていない場合については,別途,即時抗告権を認めるべきであるとも考えられますので,当事者以外に即時抗告権を認めるべき者について検討することを提案しております。   また,子の即時抗告権については,この手続が基本的には連れ去り以前の状態に子を戻す,常居所地国に返すことを目的とするものでありまして,監護の権利の所在について判断するものではないこと,子は通常,居所を自ら選択する権利までは有していないと解されること,子の意思が返還拒否事由の一つとなっており,その意思が手続上,十分に配慮されることなどを考慮しますと,即時抗告権は認めないことでいいのではないかということで,そのことを前提としております。また,部会資料14ページの補足説明2(2)では即時抗告期間を2週間とし,その起算点を裁判の告知を受けた日とすることを提案しております。なお,部会資料では3か所で審判の告知と記載しておりますけれども,いずれも裁判の告知の誤りでございますので,この場をお借りして訂正させていただきたいと存じます。   この裁判の告知の方法としまして,裁判書の送達によるものとした場合には,日本に住所を有しておらず,かつ日本に住所を有する弁護士を代理人として選任していない者への送達が一般的にはかなり長期間を要しますことから,その対応について検討する必要もありますところ,部会資料の(注)のほうにも記載しておりますように,基本的には任意に日本国内の送達場所の届出をしてもらうことで対応できるとも考えられますが,日本国内に送達場所を確保できないような場合も想定されますことから,例えば中央当局を送達場所及び送達受取人として届け出ることができるようにするなどの手当てをすることの要否及びその具体的な内容などについても,検討することを提案しております。更に裁判時に相手方の所在が不明であったときに,公示送達の方法によって裁判の告知をすることができるものとするか否かについても,検討することを提案しております。   部会資料15ページの(3)では,抗告審の手続の規律について即時抗告,特別抗告,許可抗告のいずれにつきましても,家事事件手続法におけるいわゆる相手方のある事件についての抗告審の手続と同様の規律とすることを提案しております。なお,子の返還命令の効果の重大性に照らしますと,特別抗告や許可抗告にも執行停止効を付与する余地もあるとは思われますが,本手続における特別抗告及び許可抗告は,いずれも民事訴訟法などと同様に一定の重大な事由がある場合に限り,特に認められた不服申立て手段であると整理しておりますので,執行停止につきましても民事訴訟法等と同様に,事案に応じて執行停止の裁判をすることで対応するのが相当であるように思われます。   部会資料16ページの補足説明3は,移送の裁判などの手続的な裁判に対する不服申立てについて,基本的には家事事件手続法と同様の規律とすることを提案しております。   それから,部会資料21ページの本文(2)ですが,こちらは再審に関するものです。本手続におきましても裁判時に存在していた重大な瑕疵を是正するため,民事訴訟法などと同様の再審の制度を設けることについて検討することを提案しております。もっとも,子の利益の観点からは子の返還命令が執行された後は,子の監護環境の安定を図るほうが優先すると考えられますことから,子が返還された後は再審を認めない規律とすることも提案しております。なお,子の返還を求める申立てを却下する裁判につきましては,再度,子の返還を申立てをすることで足りるとも考えられますが,他方で,再度の返還の申立ては,条約第12条第2項との関係で申立人に不利益になるため,前の手続の再開続行である再審によって,裁判を是正し得るようにすべきであるとも解されますので,この点についても検討することを提案しております。   33につきましては以上です。 ○髙橋部会長 かなり多岐にわたりますので,まずは31の二つ,発生時期と取消変更のところで御意見を頂ければと思いますが。 ○磯谷幹事 この点につきましても日弁連内の議論を御紹介させていただきます。   「31-1 裁判の効力の発生」につきましては,特に異論はございませんでした。   「31-2 裁判の取消し」につきましては,基本的にはこの原案に同調する意見が多かったと思います。一部,取消しを認めることで蒸し返しを懸念する意見もございましたが,今回の原案では,法務省のほうの案では取消しの事由もかなり制限をされているように読めますので,そうすると蒸し返しの懸念というものも払拭されているのかなと思っております。   引き続き,ちょっと個人的な疑問なのですけれども,取消しについてですが,事後的な事情変更ということで事務局のほうからは当事者の合意の成立,それから内乱勃発等で返還した後の子どもの安全が保証されない事態ということを例示していただいているわけです。   少し具体的に考えてみますと,例えば子どもが病気になっているような場合にどうなのかと思ったり,それから確かほかの国の例であったと思いますが,執行の時に子どもが非常に強く抵抗した場合,私の記憶では何か飛行機のドアを開けて外に出ようとしたり,そういうふうな強度の拒否があった場合にどう対応するのか,実際上,子どもの年齢がある程度,高くなって,子どもの意思の関係で執行が困難だという場合に,この命令はどういう扱いになるのか,そのあたりを少し疑問に感じているところですけれども,何か事務局のほうで教えていただけることがございましたら,教えていただきたいと思います。 ○金子幹事 これも特に事務局内で話をしたわけではありませんが,結局,取消し時で判断した場合には前の結論が不当だったということになりますので,当初は返還を命じましたけれども,その後の事情が変わって,今だったら返還を拒否するという場合に取り消すということに理論的にはなるのではないかと思います。今,おっしゃった例えば子どもの強い抵抗は,返還拒否事由になかなか乗ってきづらい話で,ここで考えていた事情変更とは少し違うという印象を持ちました。お子さんの病気については,あるいは返すことによって向こうでは適切な医療を受けられないとかいうことになると,拒否事由のどこかに乗ってくる可能性はあるという印象を持ちました。 ○磯谷幹事 ありがとうございます。そうすると,子どもが仮に強度に拒否をして,現実的に返還することが困難で,かつ,そういう意味で相手方のほうを非難できないといいますか,そういうふうなケースについてはどう処理をすることになるのか,そのあたりはいかがなのでしょうか。 ○金子幹事 当初の返還命令時には,返還拒否事由としての子どもが拒否しているという要件は充足されていないという判断があって,それが確定したということになりますね。実際に強制的に,あるいは任意でもいいのですけれども,返還させようとした際に強いお子さんの拒否があったということをどう見るか。前のときはお子さんがその意見を考慮に入れるのが適当な年齢,成熟度に達しており,しかし,強い拒否はなかったということで返還を命じたけれども,その後,何らかの事情の変更があって,今,判断するのであれば拒否事由のほうに乗るというのであれば話は変わってくるかもしれませんが,そういうことではないということになると,前の確定裁判の安定性の問題もあるので,あとは,執行の段階の問題として捉えるほかないのではないかなという気がしております。 ○大谷委員 元々この取消しにつきましては,各締約国の判例を読んだりとか,担保法,実施法を見ている中で,そういうことを設けている国があるということ,今,磯谷幹事が例に出されたような子の異議がうまく返還手続の審理の中で,本来,そこで拾われるべきだったと思うのですけれども,それがなされずに返還命令が出てしまって,その後,執行段階で子どもが抵抗するということがあり,返還命令を後で取り消しているというような裁判例を読んだりしたことから,私としては正にむしろ,そういう場合に活用できるように設けておくべきなのだと思っていた次第です。   執行段階でこのような事態が生じる可能性については,本来は返還手続の中できちんと審理がなされるべき,そのように制度設計すべきと思いますけれども,何らかの事情でそういうことができなかった。その場合は取消しなのか,再審なのかというのもよく分かりませんし,飽くまで取消しというのは確定した後に何らかの事情が出てきている場合を想定していると思いますので,審理のときに本来,きちんと審理されるべき子どもの異議が審理されなかったために出てしまったときの扱いというのは,取消しではないのかもしれません。   それから,執行停止で対応できるのではないかという御意見があるかもしれませんが,執行ですと執行しないという状態が残るというだけであって,確定した返還命令というもの自体は残っているわけですね。実際,現実の実務の中で出会った事案でもありましたが,命令が残っていますと,もう一度というか,いつまでもこれに従って返しなさいということが繰り返しプレッシャーとして起きるわけで,そういう事態というのは子どもの利益,安定のためによろしくないのではないか。もしも返せないということがはっきりして返すべきではないと,事後の事情にしろ,あるのであれば返還命令自体を取り消して,その後,監護権の本案の確定なども日本できちんとできるようにということにして,安定性を図るべきなのではないかと思っています。   また,病気というのも実際,経験したことがあります。返還命令が出ている状態の後に子どもさんが病気になって帰れないと。そういう場合というのは,やはり取消しということを認める必要が出てくるのではないかなと思います。それよりは返還命令後に合意ができた場合ということは,わざわざそのときに申立てをして取消しを求める人がどのぐらいあるかとうのは分からない。その場合に取消しを認める必要があるのかと言いますと,それこそ執行障害等で場合によっては対応できるのではないかと考えます。 ○山本(和)委員 私も事後的なものにだけ限定するというのは,やや不安があるような感じがします。基本的には返還拒絶というのは子の利益が中心になっていると思うのですけれども,この手続自体では子はそれ自体は当事者ではないということで,例えば子に対する暴力みたいなことが何らかの事情で最初の裁判のときには明らかにならなかったのが,この裁判の確定後にそれが明らかになるような事情が出てきたというときに,なお,やはり子どもを返還させるのかと,取消しの余地を認めないのかということは,やや私は何か危惧を覚えるところで,もちろん,それを認めることによって取消申立てが濫用されるのではないかと,蒸し返しが多くなされるようになるのではないかという懸念は,理解できるところでありますけれども,取消申立てにはそれ自体は執行停止効はないわけで,執行停止の裁判を創るとしても,個々的な事案の裁判所の裁量に委ねられるとすれば,そこで対応するということも考えられそうな感じがして,本当に事後的な事情だけに限定して大丈夫かなという危惧は私も持ちます。 ○棚村委員 私も子の取消しの制度について合意ができたときなど余り限定をしないほうがいいのかなと思うのは,実は相談を受けたケースで別の弁護士さんが今やっておられるのですけれども,医療事情がかなり悪い国で暮らされていて日本に帰ってこられた。そして,かなり,そういう意味では日本の医療水準の中で育っているということで,それが当初の争点みたいなことにはなかなかならずに見過ごされてしまって,現在,日本で裁判が起こっているのですが,それをやはり主張をしなければいけない。   だから,再審のところになるのか,取消しになるのかはちょっと分かりませんけれども,その後の事情の変更という中で,かなりお子さんの健康状態とか,精神状態に重大な影響が出るようなことが発生した場合に,子ども最善の利益というか,子どもの幸せのために奪い去りを禁止する,防止しようという条約の趣旨ですから,その範囲ではやはり取消しという制度は使う必要が出てくるのではないかと思います。そうだとすれば,余り狭く限定をしないで柔軟にできるような,そうでないと返還拒否事由のところも重大な危険とか,耐え難い状況とか,そういうようなものの解釈・運用,それ自体,非常に包括的で,余り明確ではないところがありますので取り消すという制度も置いて,なおかつ,見過ごされた重大な事情の変更があった場合に,適切に対応できるような制度として設けておくという必要はあると思います。 ○犬伏委員 今の議論をお聞きしていて,審判の取消しについては,その審判を不当と認めるときと事情の変更と二つあると思うのですが,今の事情の変更は確かに裁判後だとは思うのですけれども,当初の審判を不当であると認めるときも取消しということになるとすれば,それほど狭くはないように感じるのですけれども,ここでの御提案というのはそういう通常の家事審判手続で取消しが認められる場合よりも狭くという方向での御提案だったのでしょうか。裁判確定後の事情変更に限るということが趣旨だったのでしょうか。 ○松田関係官 家事事件手続法の裁判の取消し・変更というのは,即時抗告をすることができるものについては認めていませんので,民法上,根拠があるなど明文の規定で認められ,又はその類推適用による事情変更に基づく取消し・変更というのだけが即時抗告をすることができる裁判については別申立てによってできて,あと,裁判時の事由による不当を理由に取り消すという場合は再審だけとなります。   ここで提案させていただこうと考えていた規律としましては,やはり即時抗告をすることができる裁判ですので,裁判時の事由を理由とする取消しについては再審で,裁判後に事情が変更してその裁判が不当になったりですとか,維持する必要性がなくなったりしたような場合は,31-2で提案させていただいている取消しで対応するというふうな規律にしておりましたので,家事事件手続法の中でいいますと,即時抗告をすることができる裁判で事後的な事情変更に基づく取消し・変更が認められている扶養の方法の決定とか,そういったものに近いような規律になっているのかなという整理です。 ○犬伏委員 そうしますと,再審と取消しをふるいに分けてと考えて,今の御議論は再審であれば可能であるということになるのでしょうか,今,いろいろ出ている危惧,つまり,裁判の時点で不当であったとかいったようなことであれば。 ○松田関係官 そうですね。裁判時に存在していた事由であれば再審事由に当たるかどうかということを検討して,再審事由に当たるという判断がされれば,それで取消しなり,変更なりするということで対応できるのではないかと考えて,再審と裁判の取消しのすみ分けというか,そういうふうに重ならないように整理しているということです。 ○山本(和)委員 恐らく今の趣旨との関係では,私が申し上げたようなものは再審では救えない。つまり,再審事由には当たらない。つまり,新たな証拠が出てきたとか,そういう事情が新たに分かったというようなことは,民事では再審の事由にならないはずですので,それは取消しの範囲に含めなければ救えないだろうということを前提として私は発言しました。 ○山本(克)委員 私も今の和彦委員の御発言に全く賛同しておりまして,やはり,これはかなりラフな手続になり得るわけですね。ですから,そういう安全弁は残しておいたほうがいいのではないかと思います。ただ,その仕組み方をどうするかというのは,これから詰めていかなければいけないので,できるだけ濫用がないような規律の仕方があり得るかどうかということを検討することを含めて,今後,議論していただければと思います。 ○髙橋部会長 今日で決めるわけではもちろんありませんが,再審ですと別の再審を創ってもいいのですが,民訴法の再審を使うと手続的な瑕疵,偽証があったとか,証拠を捏造したとか,そういうことにとどまり,判断の誤り,法律の適用の誤りというのは再審事由になりませんので,かなり限定されてまいります。また,我々が作ろうとする法律の基というのでしょうか,モデルとしては規定がなければ家事事件手続法の例によるとかになるのだろうと思うのですが,家事事件手続法では即時抗告のできるものは取消しの対象にしていないと。家事事件手続法との関係は親子みたいなところで,子どものほうでどこまで変えられるかということもございます。   ただ,先ほど来言われていることは,元々いわゆる既判力のない手続の中で,実際をどこまで考えるかでしょうね。再審も乱暴かもしれませんが,判断遺脱というのはどこまで広げられるかということになりますし,ここでも結局は事後的な事情変更の意味となり,我々が想定している子どもの手続を前提にしたときの事情変更では,先ほど山本和彦委員が言われたようなことは,裁判のときには出そうと思っても出せなかったというようなことで救える範囲に入ってくるかもしれません。この辺は相当程度,裁判所の実際の解釈・運用になろうかと思います。   そこを含めて,しかし,条文上,どう構成するかというのが我々に課せられた役割ですが,しかし,今日の委員・幹事の皆様方の大体の方向は分かりましたし,それを事務局も別に否定するわけではなかろうかと思いますが,あとは家事事件手続法等々を見ながら,更に検討させていただこうと思います。期間制限あるいは執行停止執行が当然ないというあたりはよろしいでしょうね。   では,次の32の取下げのところ,和解は調停で議題にいたしますので,取下げに相手方の同意は要らないというところが一番のポイントかと思いますが,いかがでしょうか。 ○磯谷幹事 この点につきましては,日弁連の中では相手方が一定の行為をした場合,恐らく家事事件手続法の挙げる例によりますと,期日として陳述であるとか,あるいは書面の提出だったかと思いますが,そういったものがある場合にはやはり取下げには相手方の同意を求めるべきだと,同意がなければ取下げはできないようにすべきだと。相手方としても一旦この手続に例えば弁護士も依頼して組み立てていって,一定の立場が築かれたのにその立場を取下げによって一気に失うということは非常に納得し難いという,そういう意見が強かったように思います。一応,そのような内容になっております。 ○山本(和)委員 今,磯谷幹事が言われたことは分からないではないのですけれども,ただ,家事事件手続法の中においては,先ほど部会長も言われました既判力のない手続でもあるので,基本的には審理中の審判が出るまでの間の取下げというのは,相手方の同意なしに認めるという形になっていると思いますので,それとこの手続とを区別する理由には余りなっていないような,家事事件手続法でも当然,弁護士に依頼して一定の行為をするということはあると思いますので,ですから,余りそういう違いがないのだとすれば,それと同じということでよろしいのではないかという気がするのですが。 ○磯谷幹事 実は私どもも不勉強で,家事事件手続法の中で一部については今申し上げたように相手方が本案について書面を提出したり,手続の期日において陳述をした後は,同意がなければ取下げの効力は生じないという規律になっていると思うのですが,これがどういうふうな経緯で,これだけ特別な扱いになったのかというのがよく分からなかったものですから,このあたり,もしどなたか,お分かりの方がいらっしゃれば教えていただければと思います。 ○髙橋部会長 分かりますか。 ○松田関係官 家事事件手続法の中では,今,磯谷幹事のほうから御指摘がありましたように財産分与と遺産分割,この二つにつきましては相手方のほうが一定の対応をした後は同意がなければならないというふうな規律にしていますが,この二つだけ,そのような同意を必要という規律にしたのは,財産分与ですとか遺産分割については,相手方のほうにも審判を得ることについて一定の利益というのがありまして,やはり申立てを受けて準備をした以上は相手方の審判を受ける利益,それを保護する必要がある,そういう必要性が高いということで相手方の同意が必要というような規律にしました。 ○大谷委員 家事事件手続法を前提にして,また,既判力のない裁判だとすると,特別に同意を必要とするような規律にする必要はないのではないかということは,そういう考え方もよく分かります。他方で,ハーグ条約の特殊性というのがあるのかなと感じております。その特殊性というのは,一旦,常居所地国に子を迅速に返還するという手続です。それを1年以内にしなければ,また,新たな12条2項との関係で抗弁が出る可能性があって,認められにくくなるということはあるのかもしれませんが,本来的にもし申立人が迅速な返還を希望するのであれば,なるべく早くにその申立てがなされ,それで返還する,されないということが結着し,もって子が返還されるのであれば戻って,常居所地国で監護権の本案の審理を受けると。そうでないならば,子が所在している国において安定した生活というのが始まるわけですから,その法的関係が安定するということが子の利益にかなうと。   そうしたことで考えますと相手方というのは親なわけで,親が改めてまたもう一度,申立てをされるかもしれないという不安感が残る,また,いつか,そういう対応をしなくてはいけないということもございますけれども,子にとっての安定といったような観点からも,ある程度,手続が進んだ場合には,返還の申立てについて返還を認める,認めないということを一度,そこで判断を出すということがやはり望ましいのではないか。そういう特殊性があるのではないかなと感じます。 ○髙橋部会長 見通しとしては同意を必要とするとした場合に,多くの事件かどうか分かりませんが,同意する人も結構いるだろうと思いますので,従って,同意を要求することによってどれぐらい手続が遅れるかということでしょうかね。でも,相手方は恐らく日本にはいるのでしょうけれども,しかし,先ほどの遺産分割と財産分与とは性質はかなり違うようでもありますが,ほかにこの同意の点はいかがでしょうか。 ○棚村委員 家事事件手続法なんかも,基本的には審判の効果との関係もあると思いますけれども,本人の出頭とか,本人の意思を尊重するということでできる限り同意は必要ないと理解しております。ただし,財産関係に関わるような紛争とか,子どもの返還ですから相手方の利害に関わるのですけれども,子ども自身がどっちで暮らすのが一番いいかという話ですから,基本的には申立てをした当事者間の紛争という性格の位置付けをするのであれば,本人の意思でそれを取り下げたいのだったら,できるだけ取下げを認めるということになると思います。   ただし,それが適当でないような時期や状況に至ったときは制限をするとか,内容によって制限をするということで,原則はやはり同意が要らないで取下げも自由にしておく。ただし,それが濫用的なものであったり,問題を生じて子どもにマイナスに働くというような場合には一定の制約を掛けるということでよいのではないか,ですから,家事事件手続法の基本的な構造とか考え方というのは,家事事件というのは本人の意思とかを割合と尊重するので,できるだけ取下げは自由にしながら余りにも問題がありそうなものに歯止めを掛けるという発想だと思います。   子の返還手続も基本的には子どもの問題ですから,常居所地国へ迅速に子を返すということを基本的な目的として,子どもの利益も図るということですので,申立てをしている親ですから,親が取り下げたいということで合意をする場合もあれば,いろいろ取下げにも二通りあると思います。実質はそれで解決をする方向の取下げもあれば,そうではなくて時期をもう一回,改めて出直すというのがあって,いつまでも確定しないということはあると思いますけれども,子ども自身が非常に流動的で,当事者の生活環境も極めて流動性の高い状況ですから,本人の意思を尊重していくという考え方というのは,家事事件手続法と同じようなものはあるのではないかと思います。 ○佐野関係官 ちょっとよろしいでしょうか。今の棚村先生の御提案は,原則,取下げということは認めるが,問題があるような事案は裁判所のチェックによって取下げの適否について判断されるという御提案かなと思ったのですけれども,取下げの適否のチェックに当たって,そこでまた,何か裁判所がいろいろな事情を鑑みて,また,背景事情の説明を要求したりして,あるいは子どもの意見を聴いたりしてということになると,結構,そこでまた,手続が遅延したり,また取下げの適否の判断は,結構,難しい判断になるような気がするので,その辺はどうお考えなのでしょうか。 ○棚村委員 結局,相手方の手続権の濫用みたいなケースですよね。自分に有利な判断が出そうもなくなったときに取り下げてしまうというのはよくあります。成年後見なんかでもよくありますけれども,自分の思ったような後見人候補者みたいなものではなくて,第三者が指定されるときに下ろすというのはよく起こりました。そういう趣旨の濫用的なものをチェックするというのでいかがかという提案です。ですから,一々細かいことを取下げの有無の裁量権を行使するに当たって細かい事情をやり始めたら,かえって手続の進行が非常に混乱するのではないかと思うのです。 ○豊澤委員 遺産分割と財産分与に関して,審判前の取下げについても相手方の同意を要するとされたのは,相手方にも審判を得る利益がある,具体的に言えば,財産分与にしろ,遺産分割にしろ,相手方にも何らかの取り分が発生する蓋然性があり,したがって,一旦審判の手続が始まってしまえば,相手方も取り分が期待できるという地位,そういう実質に着目してのことだったと思うのです。それ以外のものについては申立ての取下げがされれば,要するに現状が引き続きそのまま推移するというだけです。例えば,養育費の支払や子どもの引渡しを求めるといった審判の申立てがされても,取下げになってしまえば,相手方にとってみれば現状がそのまま続くだけで,相手方には,そういう意味で失うものは格別何もないということになると思います。  ハーグ条約に基づく子の返還命令についても,申立人が返還を求めないとして申立てを取り下げれば,相手方にとってみれば日本での生活がそのまま維持されるだけです。   確かに再申立ての可能性はありますけれども,それは取下げによって終わる場合であろうと,却下によって終わる場合であろうと,理屈の上では既判力がない以上,再申立て自体を抑止することはできないわけです。そういう意味では,相手方にとって却下の裁判を得ることにそれほどの利益があるのだろうか,遺産分割や財産分与におけるのと同じ程度の利益があるのだろうかという問題のような気がします。   また,申立ての取下げが濫用的なものかどうかという点については,成年後見などの場合には被後見人本人の保護の問題という別途の考慮が入ってきますので,新しい家事事件手続法では取下げの制限が入ることになりましたけれども,今回の場合は先ほども言いましたように,申立てが取り下げられれば,相手方からすると,日本での生活がそのまま維持されるというだけですので,濫用的な申立てかどうかという観点から取下げにつき許可に掛からしめるまでの必然性はあるのだろうかという気がします。 ○髙橋部会長 詰めていきますとそうなるのですが,恐らく取下げに同意をという方は法律的には何の意味もないのですけれども,申立てが棄却された,つまり,日本にいてよいという積極的なお墨付きが裁判所からもらえるということを重視するのですよね。現状維持という点では変わらないのですが,返還請求は棄却されたということの法律以外の意味なのですかね。しかし,そうだとすると法律以外の意味まで規定できるかということにも反転いたしますが,この関係でもう一つ,不服申立てのところも少し複雑でございますので,不服申立てに関しましていかがでしょうか。 ○磯谷幹事 33番の不服申立てのうち,まず一番目のほうですけれども,即時抗告の関係でございます。基本的には特に異論はございませんでした。ただ,子どもに即時抗告権を付与するかどうかというところについて,先ほど否定的な御説明がございましたけれども,私どもは,やはり子どもに即時抗告権が認めることが望ましいという意見が大勢でございました。もう一つ,(2)の再審のほうにつきましては,特段,異論はございませんでした。先ほどの取消しとのすみ分けの問題は,意識する必要があるという意見はございましたけれども,本質的には特段,異論はございませんでした。 ○相原委員 子どもの即時抗告権につきましては,13条2項で子どもの意思の確認等の規定はございますが,相手方のほうが割とすんなり,それほどきちんとした主張をしないとかということも考えられます。子どもにとって非常に大きな結論になるこの話に全く一切関与できないまま,そういう決定がなされてしまうというようなことも考えられます。したがいまして,即時抗告権につきましては子どもの意思の問題とも絡みますけれども,付与していただきたいというのが私の個人的な意見でございます。 ○犬伏委員 同じような意見ということになりますけれども,先ほど取消し等で御議論があったときにも,やはり子どもの抵抗が激しいというようなことで,執行ができないというようなことが出てくるという懸念が示されたわけです。確かにここに書いてあるように,子どもの意思が手続上,十分に配慮されるということがあれば,即時抗告権を独立して認める必要まではないかとは思うのですが,やはり,相原委員が指摘されたように子どもの意思をどう聴いているかというレベルで,必ずしも嫌だと言えば,そのままというわけではなく,そこから酌み取ったという部分での子どもの意思ということを考慮することになるでしょうから,やはり,それが子どもの側からすれば,どうしても自分の気持ちとの理解,酌み取り方としては反するという思いが発生するというようなこともあろうかと思います。ただ,ドイツのように14歳に達するというような年齢的なことも考慮に入るということはあろうと思いますので,今後,即時抗告権を認めるという方向で考えた場合に,どうするかということも含めて少し御議論いただくと有り難いと思っております。 ○古谷幹事 子どもの即時抗告権の関係なのですけれども,確かに子の異議との関係での問題というのはございます。ただ,実際問題として子が返還に対して異議なり,反対感情を持っているときに,それが抗弁として提出されないという事態が果たしてどれぐらいあるかは,実際上はかなり乏しいと思われることが一つありますのと,子は利害関係参加することがあり得るところで,その方法を子が採っていない場合に,あえて即時抗告という形で認める必要はあるのか,それはかえって争いの前面に子どもを出してしまうことになり,かえって子どもの利益を害する事態も懸念されると思います。 ○磯谷幹事 こういった問題は,子どものこういうふうな即時抗告権を認めることで,かえって福祉を害するのではないかという意見は必ず出てまいりますし,また,それはあながち間違いではないと思ってはおりますが,しかし,やはり道を認めておくというのは,一般的にどういうケースが多いかどうかと離れて,非常に重要なことではないかと思います。連れてきた子の親,相手方のほうが常にきちんとした争いをしてくれるのか。ケースによっては例えば実は子どもが強く帰国を希望して,それに押される形で相手方が連れ帰ってきた,そういうふうなケースの場合は相手方がどの程度,争ってくれるのかという懸念もあるかと思います。基本的に返されるのは子どもですので,そういう意味で,やはりそこの利益をきちんと見るということは重要かなと思います。   それから,法務省のほうで用意していただいた理由の中でも,正直に申し上げて余り説得力はないのではないかなと感じておるのですけれども,例えば居所指定権の問題も出されてはおりますが,しかし,民法821条というのは何かそれ自体が強制的に実現されるような強いものではないという理解をしておりますし,特に年齢がある程度,高くなってきて,また,子どももきちんとある程度,成熟した考え方が持てるようになってきたときに,現実的にどれぐらい意味がある規定なのかなというふうな気もいたします。   それから,子どもの意思が返還拒否事由の一つになっていて,手続上,十分配慮されるという点につきましても,先ほど犬伏委員がおっしゃったことと重なりますけれども,それについて上級審の判断を更に仰ぐという利益もあるのではないかなと思います。そういうことから,子ども自身にも即時抗告権を認めるということが望ましいのではないかと思います。 ○棚村委員 私自身も子どもの権利とか,意見表明権の尊重というのは児童の権利条約の12条でも保障されていますし,世界的な傾向だと思います。ただ,ちょっと危惧するのはやはり返還手続にどのような形で主体的に参加できるかというときに,利害関係人ということで参加をするとか,それから手続上,こういうような形で即時抗告権を認めるとかという,要するに当事者的な地位を与えたり,申立権を与えたときに,一番危惧するのは親の間の代理戦争みたいにならないように配慮していかなければいけない。   それから,子どもの代理人というか,手続代理人という今の制度の枠組みの中で,どの程度,子どもの実質的な声を反映をしたり,手続の説明をしたり,安心して参加できるような環境を整えるか。そういう議論をきちっとした上で即時抗告権,それから手続への参加,それから手続での審理をする場合の意思の確認とか聴取とか,配慮をすべきか,こういうものがセットになって即時抗告権の議論もすべきだと思うのです。   ですから,高田先生なんかもよくおっしゃるのですけれども,実体的なルールの中で子どもの声や子どもの立場をどの程度に位置付けるかという議論をして,その上で手続上の地位だとか立場みたいなものも,それにふさわしい形でもって与えていくという方向が望ましいのではないでしょうか。そして,それを補充したり,サポートする人としてどんな人をどんな形で付けるかというような構造的な全体的な見通しの中で,即時抗告権の問題もやはり議論したほうがいいように思います。水を差すわけではないのですが,私自体は子どもを積極的にそういう当事者として参加をさせたり,声を聞いたりという制度は,是非,必要だと思うのですけれども,一つの点だけが突出して,そして手続上の何か資格だけが認められるのではなくて,全体としてバランスよく子どもの地位が保障されるような仕組みというのを考えたほうがいいと思います。 ○織田幹事 私も棚村先生がおっしゃったようなことを考えておりました。趣旨としては先ほど磯谷先生がおっしゃったように,道筋をつけておくのは非常に説得力があると思いました。それについて私も異論はございませんけれども,例えば即時抗告,これを一つの訴訟行為のようなものと見ますとどういう形で代理人を付けるのかとか,そういうところからやはり話を詰めていくべきではないかという気がいたします。 ○金子幹事 実は,この問題は家事事件手続法の立案の過程でも大分議論がありまして,結果的には子の引渡しと子の監護に関する処分については即時抗告権は認めなかったということになります。一部に子の必要的陳述聴取については規定を入れていますが,これは15歳以上の子に限ると。あとは家庭裁判所の調査官がお子さんの年齢に応じたしかるべき方法でお子さんの意思を把握して,それを裁判に反映させるという方法により対応することとしたわけです。その辺のことを大分議論した上で,家事事件手続法においては先ほどのようなことで合意に至ったということもありますので,似たような配慮が必要であろうと思っております。 ○髙橋部会長 この不服申立て,即時抗告期間,許可抗告,再審等々はございますが。 ○古谷幹事 公示送達の関係なのですけれども,先ほど事務当局のほうから説明もありましたが,代理人が付いている事件では特に問題はないのですが,代理人が付かない場合,迅速な解決という点からいいますと,何らかの形で手当てが是非必要かと思います。ここには例えばということで中央当局が記載されていますが,何らかの形での手当ては是非必要と思っています。 ○辻阪幹事 今の送達場所のことなのですけれども,基本的には国外にいる申立人,レフト・ビハインド・ペアレントのほうが弁護士なしで返還手続を進めるということは理論上,可能であったとしても非常に想定しにくいケースだと思いますので,まずは申立人のほうが日本国内で送達場所を確保するように促すということをしてもらった上で,それでもなお,ほかに手段がなく,国内で送達場所を確保できないというような場合の最終手段として,条約上,中央当局が窓口になっているので,中央当局を送達場所として指定するということも考えられなくはないと思いますが,どういう形で伝達するのかとか,ちょっとここは更に検討する必要があると思っております。 ○髙橋部会長 よろしいでしょうか。   では,強制執行のところをいたしまして,休憩ということにさせていただければと思います。では,説明を。 ○佐藤関係官 では,「34 子の返還の実現方法」について説明させていただきます。   「34 子の返還の実現方法」は,子の返還命令が出た場合に,その裁判をどのように実現すべきかを検討するものです。裁判の実現方法には強制執行,裁判手続内での任意の履行を促す方法,裁判外で任意の履行を促す方法等が広く考えられますところ,このうち強制執行の方法としては間接強制によるとすることを提案しております。   間接強制のほかに,国家機関が子を直接的に相手方の元から取り上げ,これを返還するような執行方法を認めるという制度も考えられるところですが,これには,まず,1として,国家機関が子を直接的に相手方の元から取り上げ,国境を越えて常居所地国へ返還等をさせるとした場合,事柄が重大であって,種々の手続を経なければならないことから,国内事案以上に不測の事態が生じやすく,子に対して心理的悪影響を及ぼすのではないか,また,2として子の福祉のためには単に常居所地国に帰せばよいというのではなく,子を適切に監護できる者に適切な方法で引き渡す必要がありますが,そのために具体的に誰に,どのように子を引き渡すのかという問題をどの段階で,誰が調整するのか,もし主文に記載するとすれば,「30 裁判」の項目で指摘しましたとおり,事情の変更によって裁判をやり直すという必要が生じてしまうという問題があります。   三つ目として,返還命令の主文としては条約との整合性を考えると,子を常居所地国に返還せよというものが用いられるケースが多く想定されますが,この主文が用いられた場合に,どのように命令を実現すればよいのか明確ではなく,また,何をもって執行終了とすべきかの基準を立てるのが困難であるという問題があるなどの問題があります。また,相手方自身によって返還がなされることを前提とする間接強制のほうが子の福祉の侵害の程度が相対的に低いと言えます。以上のような問題があることからすると,強制執行としては直接的な強制を認めずに間接強制によるものとし,その他に後で述べますような任意の履行を促すための手段を充実させるというのが相当ではないかと考えます。諸外国においてはドイツや英国のように,直接的な執行が認められている国もありますが,例えばドイツでは現実に直接強制が行われる例は極めて少なく,任意に履行がされるか,子が連れ去った親の元にとどまる旨の合意がなされることで解決しているようです。   次に,34の後段では強制執行以外に裁判手続内で任意の履行を促すための手段として,現在,家事事件において活用されている履行勧告を認めるものと提案しています。また,担保法に規定を置くものとするものではないのですが,裁判外で任意の履行を促す手段の活用も考えられるところでありまして,これとの関係では,条約第7条2項の子の安全な返還を確保するための必要かつ適当な行政上の措置をとることとされた中央当局の役割や民間型ADRの活用等が考えられると言えます。 ○髙橋部会長 この点も,では磯谷幹事から。 ○磯谷幹事 それでは,この点につきましても日弁連内の議論を御紹介いたします。この点は大変微妙な難しい点でございまして,何か日弁連の中で一定の立場が明確になっているということではございません。先ほど法務省が御説明になった間接強制のほうが望ましいのではないかと事情もいずれもそのとおりだとも考えて,そういうふうな意見も少なくございません。   ただ,一方で間接強制だけということになった場合に,実効性の点で懸念があるのではないか。特に財産が余りない,相手方に資産がないという場合に,現実的に余り効果が期待できないのではないか。そして効果が期待できないと,結局のところ,任意で返還を促そうとしても最後の手段がないということになりますと,任意の返還も難しくなるのではないか。そういうふうな懸念が大きかったと思います。また,実効性に問題があるということになりますと,諸外国から見たときに,日本の制度がどう映るだろうかというところも懸念する意見もございました。   という反面,そうすると直接強制かとか,あるいは日本では恐らく例はないのでしょうけれども,何らかペナルティのようなものを課して実行させるのかというふうなところも,考え方としてはあるとは思うのですが,なかなか特に後者のほうについて,そうやすやすと認めるのも難しいのではないかとも思われまして,非常にここは悩ましい,歯切れの悪い議論ではございます。まとめますと,ただ,間接強制のみではやはり実効性に課題が残る,そこが結果的には任意の返還もうまくいかないのではないかという懸念があると,こういうところになるかと思います。 ○朝倉幹事 磯谷幹事がおっしゃったことは,懸念としては十分理解することができます。問題はそれを解決する方法が,現行の法制上,あり得るのかというところだと思います。間接強制は良いという点では,恐らく同意ができているところだと思うのですが,プラスアルファとして直接的に強制する手段について,民事執行としての直接強制,しかも引渡しの直接強制を考えるのであるとすれば,第1回部会でも申し上げましたとおり,条約の要請が常居所地国への返還にとどまる中で,本当に申立人側に引き渡していいのかという問題があります。また,国内事案における子の引渡しの直接強制がどのようなものであるかについて,実態を十分理解していただく必要があり,その上で,本当に条約事案における返還命令の実効性確保になるのかというところを検討していただかなければならないだろうと思います。   国内事案における子の引渡しの直接強制は,民事執行法上,明文の規定がありません。そのため,従前は,実務上,子の引渡しを命ずる債務名義に対する民事執行としては,平成10年代の半ばごろまでは間接強制しか行われていなかったという実態があります。その後,特に審判前保全処分と人身保護法との関係が整理されたこともあり,解釈上,何らかのことができないかということで,最終的には動産執行の規定を類推適用しながら行われるようになりました。  部会資料にもありますとおり,実務では,折衷説に従った運用がされており,意思能力のない子について子の引渡しの直接強制を行っています。他方,意思能力のある子については,少なくとも現行法上は難しいというのが実務の前提です。そうすると,まず,ハーグ条約の対象は16歳までですから,意思能力のある子も多く対象となっているため,国内とパラレルにやるとしても,意思能力のある子については,子の引渡しの直接強制はできないということになります。   それから,子の引渡しの直接強制は,執行場所に子が所在して初めて行えるものになります。国内であれば元々その子が住んでいたところが執行場所となるのですが,ハーグ事案の場合には,外国から逃げてきていて住んでいるところですから,いわば居所のようなものであり,しかも,返還命令が出て,間接強制にも従わないような相手方が,民事執行としての直接強制の時まで,執行場所に本当にとどまっているのかという問題もあります。  さらに,子の引渡しの直接強制といって,どこまで御想像になるか分かりませんが,例えば,執行官が執行場所に立ち入って泣き叫ぶ子を抱えて親から無理矢理でも物理的に切り離すということになると,子どもに対して非常に大きなトラウマを与えることになりかねません。そのため,実際の実務では,そこまではしないというのが原則です。そうすると,基本的には,一生懸命,現場で説得する作業が中心になってくるわけですが,それで実効性が高まるのかは疑問があります。お金がない者に対して間接強制では不十分とはいっても,任意履行の促しや調査官の履行勧告にも応じない者が,居所から逃げもしないで,執行官の説得には応じるという例がどのぐらいあるのかは疑問であり,直接強制をすれば,実効性は上がるというのは,適切な認識ではないのではないかというのが1点です。   もう1点は,直接強制をやるとき,国内では執行官が現場に行って,その子がどのぐらいの意思能力を持っているかというのを判断しなければならない点です。御存じのとおり,執行機関というのは判断機関ではないので,本来,そのようなことをすべき機関ではなく,まして子どもの専門家ではないわけですが,現在はその判断を強いられています。そうすると,執行官は,現場で子どもと話をしながら,若しくはその前の審理のときの家裁調査官の調査等も踏まえながら意思能力を判定し,そして子どもにも話をしながら,子に悪影響を与えないように配慮して執行を行っているわけですが,ハーグ事案であれば,日本に帰ってきた子どもたちは,例えば,ハーフの子どもで,文化も違うということがあり得るわけで,子どもの体の大きさも日本人の子とは違い,話している言葉も日本語かどうかも分からず,そのような中で意思能力を判断し,まして何かを説明しなければならないということは極めて困難を伴うと考えております。   そういう意味で,間違って意思能力のある子を持ってきてしまってもいけませんし,法の趣旨に従ってやるために,執行官を用いることが適切なのかどうかということについては,執行官を所管する裁判所としては,非常に難しいのではないかと思っています。 ○相原委員 直接強制で泣き叫ぶ子を物理的に引きはがして,心理的外傷を与えるというようなこと自体は絶対に避けていただきたいと思っておりますし,多分,どなたもそんなことは思っていないでしょう。日弁連若しくは個人的な弁護士としても,本当に同じことを思っております。ただ,フランスとか,直接強制はないけれども,それなりに返還がなされているということのようなのですけれども,ちょっとそこら辺について,どうしてそううまくいくのか,外国では直接強制でないのだとすればどうしてなのか。なお,日弁連の意見も別に直接強制ありきなんていうのは思ってはおりませんので,そこら辺は絶対確実に否定させていただきたいのです。   しかし,制度的な立て付けとして,私がテーキングペアレントの代理人になったときに,はっきり言って間接強制場合,うまく説得をどういうふうにしたらできるのかなと思います。事案として帰らなければいけないが,結果的に間接強制だねという説明は,多分,逆の帰らなくてよいという説明にしてしまうでしょう。いいとか,悪いとかではなくて,ハーグ条約というものに批准した流れの中で全ての制度がどう進んでいくのか不明の中で,直接強制をいいというつもりは全くありませんが,そのお知恵を頂く必要があるのかなというのが個人的な意見として思っております。   つまり,フランスなんかは直接強制がないとすれば,どういう形で運用しているのか,それから海外においては割と母親が子どもを連れていくこと自体が刑事事件的な扱いをされていたりするので,そこら辺の土壌が大分違うことが起因しているのかどうか,そこら辺をうまく分析しておかないと,テーキングペアレントの代理人になる可能性がある者としては,間接強制で最終的にどこまで説得して持っていけるのか難しいところです。どこまで確実に返還命令が出た後に対応できるのかというところは,非常に悩みとしてあります。  先ほど磯谷幹事が悩ましい,微妙というのを再三,繰り返して申し上げているのはそういうところでございまして,是非,お知恵を頂ければなと。外務省,法務省で分かっておられることがあれば教えていただければなと思います。 ○棚村委員 ハーグ条約では,ちょっと古い統計ですけれども,1,300件ぐらい事件がある中で任意の返還が45%,返還命令が30%で,拒否されたのは20%というような,そういう流れの中で見ると,要するに日本の執行制度自体が有体動産の執行みたいなことで組まれているわけです。ですから,子どもとか人とか,そういうものについての引渡しとかということについて,元々制度的に十分でない。ところが海外ではどうかという先ほどの話もありましたけれども,やはり,子どもの返還の執行の特殊性からいろいろな配慮をしているわけです。   直接強制は認めるとはいうのですが,対象が子どもですから子どもに不安感を与えない,それから当事者に実力行使まがいな現場を見せるとか,実現するということは非常にふさわしくないということで,直接強制そのものは制度としてはあるものの,めったに使わない。使うとしても使い方については人を扱うということを非常にソフトにやっていて,例えば私がアメリカなんかで見たケースも人身保護の手続ですけれども,きちっと判事室とか,そういうところのチェンバーとか,そういうところに子どもをきちんと女性の事務官とか,セクレタリーみたいな人が顔をきちんと合わせて,そしてお母さんとかお父さんから確保させてもらっておいて,そして,その後も穏やかな雰囲気の中で段階的に引渡しを実現するように工夫をし,決して無理はしないように配慮していました。   ところが日本の場合には,この間,函館の人身保護請求事件なんかでは,父親にしがみついて離れない子を母親が無理やり引き離そうとする,そして父親に対して手を引き離して手を挙げろというふうな指示を裁判長がされて,子どももすごくしがみついて抵抗しているわけです。そこを母親が引渡しを認められるということで,無理やりに引離して連れて行くという形が取られたようです。だから,執行の方法としても恐ろしいことが行われたり,逆に物すごく配慮をされて,うまく動産とは違うので執行不能みたいな形になっているケースもあるようです。   ただ,問題ははっきり言いまして,直接強制という方法が今,物を対象として人を対象としていない。僕が1985年にカリフォルニアに初めて行ったときに見せてもらった裁判は,犬の取り合いだったのです。ペットは法律上はモノですが,ペットというのは子どもと同じですから,パンツを履かせたり,名前も付いていますし,そのときに共有物の分割みたいな話にやはりならないわけです。そうすると,裁判官は,夫婦の間のペットの取り合いで,ベスト・インタレスト・オブ・ザ・ドックという子どもの最善の利益の基準に準じて,きちんと法廷の中で審理しどちらになついているかで判断し,面会も認めていたのが面白かったのです,ペットですら,モノとして分けるのではなく,どっちになついているかとか,どれぐらい面倒を見てきたかとか,そういうようなことで実体に則して処理したケースを見たときに,一方では笑い話ですけれども,やはりヒトとモノの間みたいな扱いを法律上きちっとしていくとことは参考にすべきだと思いました。   だから,ちょっと長くなりましたけれども,執行の方法というものを工夫して,現在でも先ほど朝倉幹事なんかも言っておられましたけれども,大変ではあると思いますけれども,執行法そのものの枠組みが直接強制は認められず,間接強制しかないで終わるべきではないと思います。直接強制の中でも子どもを対象とした実現方法ですから,子どもの引渡しを実現する方法として一番子どもにとっても,当事者にとってもふさわしいやり方,だから,先ほどの主文のときも居住国に戻せという次に段階を踏んで細かくいろいろ,強制執行のときも非常に手順を踏んで準備をよくやっていますね。ですから,そういうような形で,モノではない子どもに対する扱い方というので,面会交流をしたり,接する時間を長くしたり,段階的に実現をしていくという方法をハーグ条約を機に日本も考えていくべきです。   ですから,面会交流のときもそうですけれども,間接強制になるかならないか,債務名義になるかならないかとかという,そういう議論が多いのですけれども,任意にそういうことができるような条件作りをしながら,最後の最後のところで駄目な場合にはどういうやり方で,どう直接的に具体的に実現をするかというものを置いておくからこそ,その前の手続や執行のやり方というものが意味を持ってくるのだと思います。ですから,直接強制の可能性と方法とかを検討するということも,是非,今回の条約の中では考えていただく方向に賛成したいと思います。 ○横山委員 恐らく条約の締約国の中にも間接強制だけという国があると思います。それは国内事件でもそれ以上の手段を持ち得ないからそうなのだという形で間接強制というわけです。国内の類似の事件では直接強制があり得るのに,子の奪取条約についてだけ間接強制しか考えないというのであれば,それなりの説明が必要であると思います。23ページでいいますと,国内事案以上に不測の事態が生じやすくというようなことをもう少し分かりやすく,どういうことを想定しておっしゃっておられるのかということをもう少し丁寧に説明していただいたらよろしいのではないかなと思います。 ○山本(和)委員 私は先ほどちょっと主文のところで申し上げたような感じを持っていて,第一次的に子を常居所地国に返還するというのは,非代替的作為義務だと思われますので,間接強制で執行するというのはそのとおりだろうと思うのですが,ただ,先ほど申し上げたように子の返還の対応というのは自分で連れていってもいいし,申立人等に渡して申立人等に連れ帰ってもらってもいいというような義務なのだろうと理解しています。   その場合に間接強制を受けても,なお,自分では連れて帰らないという行動対応を相手方が取る場合に,申立人が自分に渡してくれと言った場合には,私は申立人に渡すという請求権を認めてもいいのではないか。先ほど相手方の裁量が収縮すると申し上げましたけれども,そういうことはあってもいいような気がいたしております。もし,そういうようなことが認められるとすれば,結局,申立人の引渡請求権を日本で執行するということになりますので,通常の子の引渡請求権の執行方法と同様ということになって,先ほどの朝倉幹事の説明によれば,意思能力がある場合には間接強制だ,これは結局,変わらないということになってしまうわけですけれども,意思能力がない場合には直接強制ということもあり得るべしということになるのかなと。   そして,棚村委員の御指摘で,私も現在の日本の一般的な子の引渡請求権の執行方法が現状のままでいいのかということについては疑問を持っております。ただ,私自身は,しかし,現在の国内の執行方法で執行するということが本来であろうと思っているのですが,ただ,国内の子の引渡請求権の執行方法が将来,変わっていけば,この場合も申立人に対する引渡請求権の執行方法が変わっていく可能性があるのではないかと思っていまして,そういうことも含めて,私は第二次的には申立人に対する直接の引渡請求権というのを認める余地もあって,それについての執行ということを考える余地があるのではないかと思っております。 ○山本(克)委員 私も同じようなことを考えているのですが,申立人あるいはそれの指定する者に対する引渡しをどこで命ずるかという問題は別途考えなければいけない問題で,返還手続の裁判所が命ずるべきなのかというと,かなり資料にも書いてありますように将来の予測に関わる事項が含まれて,適切な主文を書けるかどうかという問題が出てくると思うのですね。ですので,私は今の制度にはないのですが,間接強制を担当する執行裁判所が一定の場合に,直接の引渡しを命ずることができるというような形で仕組んでいけばどうかと,ちょっと思い付き以外の何ものでもありませんが,そうしたほうがより事態に即した主文が書けるのではないかと考えております。 ○山本(和)委員 実は,私もできればそれがいいのではないかと,私自身の今の発想は正に竹下先生を前にしてあれなのですけれども,抽象的差止命令と言われるものについての考え方を参考にしたような発想なので,本来的には一種の救済法的な考え方で,執行裁判所がそこまでできればいいのかなと思って,現行の制度からするとかなりちょっと出る部分があるかなとは思っております。 ○清水委員 家庭裁判所が主文を書いて,その執行ということで間接強制という仕組みを採るのであれば,執行裁判所というのは同じく家庭裁判所になると思います。それで,恐らくこれは物すごく大きな問題につながるもので,現行の執行法には歴史があり,これまでの体系を根本的にいじれば,先ほど何人かがおっしゃっているようなことも考えられるのかもしれませんけれども,少なくとも今までの積み重ねと現行の執行の現場,実務を前提とする限りは,直接強制ということは無理ではないかなと考えています。だから,そこまで根本的に変えるというのであれば分かりますが,そうなると余りにも大きな問題になり過ぎて,今回の枠組みを超えてしまうのではないかという,ちょっとそんな感じがしております。 ○大谷委員 ほとんど皆さんがおっしゃったことで言いたかったことは尽きていますので,それ以外の点だけに発言をとどめたいと思いますが,事務局からの御説明の中,あるいは朝倉幹事の御発言の中にあったかと思うのですけれども,この条約の目的からすれば,子の引渡し,引き渡す相手方,誰に引き渡すかということが重要で,適切な人に引き渡す必要があるということなのですが,遡って考えますと,この条約というのは返還自体が子にとって子の利益を著しく害するような場合は,そもそも返還拒否をするわけで,そうでない限りはいったん返すということが,子の利益に一般的にはかなうという考え方に立っている条約だと理解しています。その考え方を受け入れて国際条約に入り,実現しようというのであれば,本来,返還手続を審理する裁判所が子の返還を命じた場合に,それをなるべく実現しようということがやはり締約国としての義務ではないかと考えます。   また,皆さんの議論を聴いていて,若干,心配に思いましたのは,日本はどうしても子を連れて帰ってくる親というのが母親である場合が,今,報道等を見ましても多いですし,今後も予想されると。何かそれが前提となって,父親に返してもいいのだろうかということが仮に若しくは議論の中に少しあるとすれば,そのようにはっきり皆さん議論されているわけではないのですけれども,その逆の場合も当然ありますし,それから連れて帰ってきた人が日本国内において,どのような監護状態でやっているかというのは,様々な場合があるわけですね。   そうすると,その人が説得に応じないからと,間接強制では駄目だからと,それだけで日本国にはそれ以上の手段は全くないのですと,法的にあり得ませんということで,果たしてそれが子の利益にかなうのか。やはり,いろいろな場合を想定して,制度というのは作らなくてはいけないのではないかと。そのような場合には,先ほどから議論にも出ていますとおり,申立人に引き渡すことがかえって子の利益にかなう場合もあるわけですし,それが制度上,全くできないという制度の作りというのは,いかがなものかなということを先ほどから聴いていて感じました。   先ほどから,執行制度を根幹から揺るがすようなことは難しいというお話が出ていて,そうだろうなと思って希望として述べるのですが,本来は事務局の御説明にもありましたように,国境を越えて子を返還するということについて,非常にこれは私どもも難しいと思っているのはそのとおりでございまして,そうであれば,ハーグ条約に関して動産引渡しということではなくて,子の国境を越えた返還の実現のために,何か特別規定があってもいいのではないかというぐらい思うのですけれども,それが難しいのであれば,先ほどから何人かの委員がおっしゃっているように,国内であるものを国境を越えた場合にできないと,制度として置かないということの説明がどのぐらいできるのか。   これはそれを置いたからといって,実効性があるかどうかという問題とはやはり切り離して,実効性がなくて,そこに問題があるのであれば,それをどう作っていくかということは,次の問題としてあると思うのですけれども,そもそも制度として全く置かないということがどこまで説明ができるのかなということは疑問に思っております。 ○磯谷幹事 今,直接強制の問題についていろいろと議論がございましたが,もう一つは何らかのペナルティを課すのかどうかという論点もあり得るかと思います。これは日弁連として申し上げるのでは全くなく,飽くまでも個人的なところですけれども,そういった何らかほかでは余りないという理解はしておりますが,命令に従わないことについて強制力を伴う何らかのペナルティを設けるということは想定しがたいのか,それとも,それは何とかあり得るところなのか,このあたりはどういう御意見なのでしょうか。 ○髙橋部会長 事務当局としてはですね。 ○佐藤関係官 ペナルティを設けるといいますと,例えば外国で行われているものを見ますと,拘禁というようなものがあり得るかとは思うのですけれども,民事的な拘禁という制度を設けることがどうかという点は,日本の法制度全体にも関わってくる難しい問題ですし,この事案でそこまでして,例えばお母さんなり,お父さんなりを拘禁して,その間に子どもを奪い去っていいのかとか,拘禁というのにどういう意味を持たせるのかなど,検討しなければならない問題が多く,すぐに設けるということが現実的なものではないかなというような感触で考えております。 ○朝倉幹事 問題意識としては先ほど大谷委員がおっしゃられたことや磯谷幹事がおっしゃられたことは非常によく分かるのです。問題は,子の返還の実効性確保をどのような手段によって実現できるかというところであり,相原委員がおっしゃられたように,いい知恵が欲しいというところだと思っています。この世の中で間接強制以外はあり得ないと言っているわけではなくて,間接強制はまずは問題ないでしょうという話を踏まえて,更に何があるかという話ですが,国内の事案には民事執行としての子の引渡しの直接強制があるから,ハーグ条約のような国際的な事案についてもこれを使えばいいではないかという意見は,やや安易にすぎるのではないかということです。   第1回部会のときにも申しましたとおり,ハーグ条約というのは常居所地国に子供を返して,その国で監護権,親権を決めようという制度なので,国内事案のように,既に監護権,親権の帰すうは決まっていて,監護権者なり親権者に引き渡すことに最終目的がある国内事案の直接強制の場面とは違うだろうというのが1点です。   もう一つは,申立人に渡してもいい事案というのもあるのではないかとおっしゃるのはそのとおりですが,間接強制はどの事件でやってもいいけれども,申立人に渡すことはそのうちの特定の事件であるとして,どの事件が適切なのかを執行機関が判断するというのは,執行の仕組みを考えると,なかなか難しいのではないでしょうか。家裁でやっているときには返還せよという主文を出して,申立人に渡すのが適切かどうかまで審理していなくて,執行段階で本当に引き渡していいお父さん若しくはお母さんかを改めて判断するというのは,本案以上のことを改めて行うようなものであり,執行機関が行うものとして,適切なものではないのではないかと思われます。   改めて申し上げますが,実効性確保という問題意識は分かるのですが,ハーグ事案について何か特別の規定を置くということ,例えば,先ほど磯谷幹事がおっしゃった点も含めて,何か方法があるのであれば,それはそれで考えられると思うのですけれども,今の日本において違う場面で使われている,一見似ている民事執行としての子の引渡しの直接強制を持ってくるというのは,手段としてはフィットしないし,実効性も余り上がらないし,先ほど清水委員もおっしゃられたようにかなり問題が大きいものであって,難産の割には意味がなかったということに,結果としてなってしまうのではないかという懸念があります。 ○髙橋部会長 両方の御意見をありがとうございました。それを踏まえてまたということで,では,ここで休憩を入れさせてもらいます。           (休     憩) ○髙橋部会長 では,「35 調停」,「36 保全処分」,この説明をいたします。 ○佐藤関係官 では,35及び36について説明させていただきます。   「35 調停」は子の返還の調停の在り方について検討するものです。条約は子の福祉の観点から,合意による友好的解決を目指していますが,合意を形成するための裁判上の手続としては調停又は裁判上の和解類似の手続が考えられます。このうち家庭裁判所における調停手続は,渉外事件においても用いられており,本手続においても活用が考えられるところですが,本手続は条約の枠組み,外国法制や文化的背景等に関する専門的知見が必要であるなどの特殊性を考慮すると,日本人の調停委員のみによる現在の調停委員会調停になじむかどうかという懸念もあります。   他方で,何らかの合意による解決のために手続を置くことは,迅速に事件を解決して任意の履行を確保する上で有益と考えられるところ,返還手続内でこれを行うことができる裁判上の和解類似の手続を設けるとすることも考えられます。そして,裁判上の協議手続は実質的な合意形成のための場としてだけではなく,裁判外でなされた合意を債務名義とし,執行力を付与するための手続としても活用が考えられますところ,このような活用方法であればわざわざ調停に付す必要はなく,子の返還のための裁判手続の中で和解をすることができるものとすることで足りるとも考えられます。このほか家事調停を活用する場合,当事者の意に反して調停手続に付することを認めるかどうか,調停委員による調停を基本として考えるべきかどうか,また,調停に用いられた資料を返還命令の手続に用いることができるとするか等について,検討が必要であると考えます。   このほか,裁判外の協議手続として民間型ADRの活用が考えらます。なお,民間型ADRを活用して合意を形成した場合,その合意に執行力が認められないために,将来の強制執行に備えたい場合には,執行力を付与するために裁判上の手続を活用するということが考えられますが,その具体的な在り方についてはなお検討が必要であると考えます。   36の保全的な処分は,子の返還手続に関連した保全的処分の規律について検討するものです。保全的な処分としては,いわゆる断行の仮処分のように子の返還それ自体を命ずる保全処分というのも考えられますが,本手続自体が迅速処理を予定していることからすると,そのようなものまで認める必要はないと言えます。   これに対して,将来の子の返還を確保するために子が国外に出てしまったり,国内で身を隠してしまったりすることを防止し,又は子の安全を確保するための措置を講じるとすることが考えられます。もっとも保全的な処分を認めることには,このような保全処分は仮の地位を定める仮処分に該当するところ,家事事件手続法と同様に相手方の陳述聴取を必要とすれば,迅速な返還の妨げとなるおそれがあるのではないか,また,出国禁止や滞在時の変更禁止のような命令を出しても,その実効性をどのように確保できるかが問題となるなどの問題がありますし,その点について検討の必要があると言えます。   なお,保全的な処分については手続の途中で相手方,すなわち子の監護者ですが,これが変更する場合に備えて当事者恒定効を認めるような保全処分を設けるかどうかが問題となります。(注)にも記載しましたが,これについては子を現実に返還でき,子のために適切な抗弁を提出し得る者を相手方とすべきであるのに,途中で子を監護する者が替わった場合にまで当事者恒定効を認めて,前の監護者に手続を遂行させるのが相当なのかどうか,また,具体的な保全処分としては,例えば子の監護を第三者にさせてはならないと命令することなどが考えられますが,そのような命令を出すことが相当かどうかという問題がありますし,慎重な検討が必要であると考えます。手続の途中で監護者が替わった場合,既存の手続を活用できるように,新しい監護者を手続に引き込むことにより,対応するとすることも考えられると言えます。 ○髙橋部会長 これはどちらとも限らずに,どちらからでも結構ですが。 ○磯谷幹事 今の点につきまして日弁連の中で議論しておりました。   まず,調停に関してですけれども,問題意識としてはやはり迅速性と,それから専門性というところがとても重要だというところでは一致をしております。そして,その具体的な手続としてはまず家庭裁判所の中で調停手続を用意する必要があるのではないか。それは費用の面などからしても,やはり,そういったものも必要なのではないか。ただ,今のままの調停手続では対応がなかなか難しいであろうから,相当,改良といいますか,少し特別のものを用意する必要があるのかもしれないというふうな意見でございました。   また,民間ADRを使うということについても,積極的な意見が多かったかと思います。ただ,やはりADRの場合に,合意に執行力を持たせるというところの工夫をどうするのか。例えばコンセントオーダーのような非常に簡単な形で,裁判所から執行力のある何か命令が出るようなものを用意する必要があるのではないか。こういうふうな意見が出ておりました。   次に,36番の保全処分につきましては,いろいろなものが考えられるのかもしれませんが,特に議論をしたのはパスポートの提出命令ないしは保管というふうなところでございました。一つは連れ去ってきた親のほうが,更に子どもを第三国に連れ去るというふうなことを防止することも一つありますし,また,一方で連れ去られた親,つまり,手続からいえば申立人になりますが,その親が子どもを例えば面会の機会などに連れ去るというふうなことも考えられる。特に二重国籍などでパスポートが二つある場合に,実際,それで連れ去られるおそれも否定できない。そうすると,やはり安心して面会をさせるというためにも,そういった事情が発生しないような工夫として,この保全というものが認められるべきではないかと。パスポートを提出させて保管するというふうなところについては,やはり誰が保管するのかとか,そういった難しい問題もありますが,この法務省の中でもちょっと出ていますが,海外渡航の自由などの制約にもなるというところから,全面的に不可という意見は余りなかったかと思いますけれども,慎重な意見も出ておりました。   それから,余り深くは議論できていないのですけれども,当事者恒定効,今,法務省からは消極的な御意見が示されましたけれども,それはそれとしても,事案によっては相手方のほうが親族などを巧みに使って監護を移転して,そして遅延をしたりというふうなことも考えられますので,そういったときにどのように対応するかということは,あらかじめ考えておく必要があるのではないかというふうな意見もございました。 ○佐藤関係官 今の点に関連して,一つだけ質問させていただきたいのですが,調停のところで特別のものをというお話が出ていましたけれども,もし何か具体的な案などが出てございましたら御紹介いただければと思います。 ○磯谷幹事 具体的にと申しましても,なかなか,それほど知恵があるわけではないのですが,やはり今の調停手続となりますと,少なくともオーソドックスなものを想定すると,1か月に1回程度のペースで,また,両方,必ず日本人の調停委員の方でやっていくということで,結構,時間が掛かっているかなというふうなところもございました。そういったところはハーグの事案であれば,やはりもっと頻繁に期日を入れていけるとか,場合によっては調停委員に専門的な方を入れるとか,そういったような工夫が必要なのではないか。何か根本的に調停手続を全く別のものを用意するとか,そういうふうな議論ではないと思いますけれども,しかし,より適切な形で調整できるところは調整すべきではないかと,その程度の議論でございます。 ○山本(克)委員 今のような特別の運用レベルなのかもしれませんが,特別の調停手続を認めるとして,その前提として管轄集中が必要ではないでしょうか。そんなことが全国津々浦々でできるとは私は思えないので,そのところを抜きに特別の調停というようなことをおっしゃるのは,ちょっと非現実的なのではないかなという気がいたします。 ○大谷委員 日弁連の中でも十分議論はできていないのですけれども,仮に今の家裁の調停で特別なものをということになった場合には,返還手続の管轄集中の議論と関連してまいりますが,例えば高裁8庁に仮に返還手続の管轄を集中させるのであれば,そこにそうした特別の調停を少なくとも設けるといったようなイメージで,日弁連の中では議論されていたかと思います。   それから,磯谷幹事が御発言されたことに若干補足して申し上げます。日弁連の意見というよりは私個人の意見もかなり含まれていますが,磯谷幹事からも御紹介がありましたとおり,日弁連の中では確かに専門性のある裁判外ADRを用意することは非常に好ましいけれども,結局,それへのアクセスとか,それが全国でどこに設けられるのか,設けられた場合に当事者が負担する費用のことを考えると,家裁にも受皿が必要ではないかという議論があったと思います。そうした意味で,家裁に特別なものが何か設けられるのであればそれは好ましく,その可能性には大いに期待したいと思いますが,現在の家裁での調停で難しい問題としましては,1か月に1回程度といったようなことを早めることは,運用の問題でもしかするとできるかもしれないと,あるいは外国語をお話しになる調停委員の方に特別にお願いするとか,専門性についても研修等でかなりの程度,対応ができるのではないかと思います。   他方で,なかなか制度的に難しいと思っておりますのは,やはり調停ということに期待するのはハードな審理の結果,返還命令という形で何か結論が出てしまう前に返還の方向に向かうのか,このまま返還しないけれども,面会交流等を充実させるという方向に向かうのか,出口は二つあると思いますが,できるだけ当事者間の任意の友好的な解決を目指すということにあると思います。そうしたときに,外国にいるレフト・ビハインド・ペアレントの立場からしますと,わざわざ,もしかすると返還手続で返還が認められるかもしれないという中で,調停に応じようということのインセンティブや,手続への信頼ということを考えますと,できれば,そこに各国のハーグ用の特別の専門調停で試みられていますように,外国人の調停委員を入れるといった工夫も,考える必要があるのではないかと思っております。   その点が,今現在の調停委員の資格の点で国籍要件がございますので,そこを変えるのはなかなか難しいのではないか。そうすると,家裁の調停も用意していただきながら,外にもやはり外国人調停委員を入れられるような仕組みというのは有用ではないか。また,申立人は返還手続の関係では,実際に審理に来る必要があるかどうかというのは,今の手続の議論の中でいろいろ検討されているところでございますが,現在の調停の在り方というのは,当然,当事者が来て話し合うということを前提にしていると思います。従前から問題提起しておりますように,国内に関しましては電話やテレビ会議による調停というものも実施されることになると思いますが,外国とはなかなかまだ難しいという中で,裁判外であれば,そうしたことも活用しながらできる可能性があるといったあたりに,現在の家庭裁判所における調停以外のものに有用性がある点があるのではないかと思います。   それから,日弁連で議論したわけではないので個人の意見になりますが,事務局のほうから問題提起されております当事者の意思に反してでも調停に付することができるとするかという点と,調停に用いられた資料を返還命令の手続に用いることができるということでよいかという点に関しまして,個人として意見を述べさせていただきます。   まず,当事者の意思に反してでもというのは調停にはなじまない。少なくともハーグ返還手続において調停前置だからというようなことで,ともかく調停をまず経なさいというのは,それによって任意の解決が実現するという可能性は,極めて低いのではないかと個人的には思っております。ただ,裁判所から見て話合いの機運があるというときに,調停を促すということはあり得まして,非常にそれはいいことだと思っていまして,それを当事者の意思に反してでもと呼ぶかどうかよく分からないのですが,ここに書かれたような設問で聞かれますと,それはないのではないかと思います。   それから,調停に用いられた資料は,返還命令の手続に用いることができることにすべきでないと考えております。理由は返還手続の審理がどうなるかということと別に,子どものために何が一番よいかということを当事者たちが真剣に考え,本音で話すということによる友好的な解決を考えるのであれば,そこで話したことというのは審理の資料に用いるべきでないと考えます。 ○山本(克)委員 大谷委員の御発言に対する御質問なのですが,合意が望ましいというのは,異論のある方はほとんどおられないと思うのですが,それを調達する手続きが調停でなければならないというところが,恐らくこの資料で提起されている問題だと思うのですが,なぜ,調停でなければならないのでしょうか。つまり,審判官なのか,裁判官なのか分かりませんが,が担当する裁判上の和解手続ではなぜ駄目なのかということが一番問題で,つまり,付調停をやってしまいますと,外国人である申立人にとっては何かはぐらかされたような,本来,私は返してほしいと言っているのに,裁判官のいない別手続に移されてしまうと。これはやはりある種,日本の司法に対する不信感をあおる可能性もあるわけですので,裁判官が担当する裁判上の和解手続で合意を調達するということも,選択肢として考えられてしかるべきだろうと私は思います。もちろん,両当事者が同意していて付調停にすると。これは排除するものではありませんけれども,調停でなければならないという理由がもう一つ私にはよく分からないのですが。 ○大谷委員 発言が誤解されるような言い方だったとしたら大変申し訳ございません。調停でなければならないとは全く考えていませんで,言葉遣いの問題かもしれないのですが,先生がおっしゃったような裁判上の和解とこの場合,呼ぶのかどうかが分からないのですが,そのように私どもが観念しているものが活用されるべきということは考えております。それが出口としては今の想定している返還手続の中では,最後に調停に落として調停合意という形で成立させるということがあるのかなと。そういう意味で,裁判上の和解と呼ぶのかどうかと申し上げたのですが,そういう意味ではどこであれ,裁判所の中であれ,期日間であれ,あるいは裁判外のADRであれ,話合いが進んで,それをどう手続に乗っけようかといった段階で,初めて裁判官がそれを調停手続に付すということは仕組みとしてあるかと思うのですが,そうしたこともない中で,まず,調停をやりなさいといって調停手続に回すという意味での付調停というのは余り考えておりません。 ○棚村委員 調停前置主義みたいな形で国内のような家事事件手続法の,旧家事審判法の18条であったような在り方がなじむかどうかというのは,非常に疑問を持っています。国内の事件ですらやはりかなりそういう意味では対立が激しくて,調停みたいなものがふさわしくないというケースが結構あります。ただ,合意による解決を促進しようというのは,ハーグ条約の6月のスペシャルコミッションでのコンクルージョンとか,リコメンデーションの中でも言われていることで確認をされていることです。ですから,現行の家裁での調停で渉外関係の事件を扱っているものがありますので,これをもう少しリニューアルというか,リフォームして専門性とか,言葉とか文化とか,そういう社会的な背景みたいなものを踏まえた専門の方たちが集中的に専門的な調停のチームを組んで解決に当たり,合意形成の支援をするというのは,その選択肢は,是非,有効に活用するなり,置いておいてほしいと思います。   更に民間のADRということで認証団体として,例えば弁護士会の仲裁センターとか,そういうところにこういうハーグ問題の特別なチームみたいなものを作っていくとか,それから法テラスとか,そういうところでも,そういうようなことへの対応ができるようなものを作っていく。要するに受皿作り,既存のもので活用でき,あるいは既存のものを少し充実させると,何とか対応できるというものについては活用の可能性を置いて,先ほど山本先生もおっしゃっていたような裁判所の和解みたいなものも,裁判官がある審理が熟してきた段階でもってでも結構ですけれども,そういうことでできるだけ任意の合意による解決というものを促進していくということが大切だと考えます。   そういう全体のスキームの中で,役割分担の問題ですけれども,先ほど言ったように余り調停を先行させて調停前置みたいな形でリンクさせたときに,実際の返還の手続と調停との関係とか,それから特に連続性のところもありますけれども,調停をやった資料みたいなものをどうやって判決の手続の中で使うか。当事者の中には二通りあると思います。調停は調停で分けてほしいというニーズもあれば,審理の促進のために,是非,活用してほしいという場合もあります。そのあたりは迅速な返還ということですと,ある程度,連続性を持たせるような取扱いというのは必要なのかなと個人的には思います。 ○山本(和)委員 簡単にあれですけれども,民間のADRの活用というのは,是非,進めていただきたいと思っています。それで,執行力の問題が足かせになるとすれば,ADR法全体の問題のようにも思いますけれども,今でも民間のADR機関ではADR合意について即決和解を作って,執行力を取るというような運用もされているようですので,金銭の支払と子の返還というのはかなり違うと思いますので,何か別のドイツの何か仕組みかもしれませんが,何かそういうようなことを工夫していただいて,執行力が取れるようなものを設けていただければというのが一つです。   それから,もう一つ,保全処分のところで当事者恒定効のお話が出ましたけれども,これは,しかし,公示が恐らく考えられないような気がするので,占有移転禁止の仮処分でも処分禁止の仮処分でも,何らかの形で公示がされるというのが当事者恒定効の前提だと思いますので,譲受人というか,承継人の手続保障を考えれば,したがって,当事者恒定効を付与するというのはなかなか難しい。結局,任意の履行に期待する仮保全処分という形にならざるを得ないのではないかという印象を持っております。 ○髙橋部会長 合意型手続はあるほうがいいということと,組合せあるいは資料の利用の仕方をいろいろ考えなければいけないということでございました。 ○相原委員 保全処分のところについて一つだけ確認させていただきたいのです。私がきちんと聴いていなかった点があるかもしれないのですけれども,日弁連ではパスポートの保管というところが割と一番議論になって両論がありました。ハーグ条約の目的等から考えた場合に,子どもの保護という観点から捉えたときに,パスポートの保管というのもあり得るのではないかという意見と,それから子ども自身の渡航の自由といいますか,旅券法の問題も含めて否定的な意見も両方あったのです。法務省の出されているものに関しては,事例のところにはパスポート等について御紹介があるのですけれども,余り保全処分のところではどういうのが考えられるかということに対する論述とかが余りないように見受けられます。具体的にはどこら辺ぐらいまでをお考えなのか,もし,パスポートとかについての保管に関してはかなり積極的か,消極的か,何か御議論があったことがあれば教えていただきたいと思ったのですが,いかがでございましょうか。 ○佐藤関係官 パスポートの保管につきましては,外国でそういうものが行われているという例もありまして,もちろん,検討には上がっているところではあるのですけれども,理論的にどう説明したらいいのか,そもそも例えば出国禁止命令の言わば執行のような形としてパスポート保管ということをするのか,それとも必要な処分だからということで,パスポート保管命令みたいなものだけを出してしまっていいのか,そのあたりの理屈をどう説明できるかという問題があることと,どのように保管することができるのかという執行の問題,それに,やはり国内で行われていますいろいろな保全処分を考えると,余り似たような例がないという問題がございます。そういう問題を考えますと,外国で行われているということは紹介できるのですけれども,こうやったらいいのではないのかという提案まではできず,今のところはちょっと難しいのではないかというような方向でおります。あと,このあたりのいろいろ提案しました保全的な処分,必要と考えられるべき事項につきましては,中央当局の暫定的な手続との関係でも,中央当局がどういうことをやるので,裁判手続としてはここからが必要であるとか,そのいった整理も必要かと思っているところです。 ○辻阪幹事 パスポートの保全に関して,私も今,言おうかなと思っていたのですけれども,やはり条約にある子に対する更なる危害の防止ですとか,そういうこととか,再連れ去りですとか,できるだけ相手方との交流が確保できるようにみたいなことを確保しようとすれば,やはりパスポートをどこかで預かっておくというのは,有効な手段なのではないかなということは私たちも考えていて,ただ,それを行政機関である中央当局が預かるということはなかなか難しく,保全処分のような形で対応できないのかなということをちょっとかねがね考えていたものですから,このあたり,今のお話だとかなり難しいということだったのですけれども,中央当局としてもなかなかここの部分は難しいという部分であり,何らかのほかの方法なり,対応を考えていく必要があるかなということは思っております。 ○朝倉幹事 前提として教えていただきたいのですが,パスポートをどこが保管するにせよ,取り上げて保管した場合に,システム的に再発行できないようにしてしまうといったようなことができるのでしょうか。できないのだとすると,結局,再発行させてしまうと出ていってしまうことになるので,その場合であれば国境コントロールで止めることができるのでしょうか。国境コントロールでもし止めるのであれば,そもそもパスポートを取り上げる必要もなくて,初めから国境コントロールで止めれば済むということになると思うので,その辺の実態を教えていただけますか。 ○辻阪幹事 基本的にこういう場合は,両方の親の同意がないとパスポートの再発行はできないとなっていますので,この場合はパスポートの再発行はできないと考えております。それから出国で止めてしまうということも,なかなか今はこういう取扱いをやっていないので,ハーグ事案だけ出国を止めるということも難しいと話を聞いております。 ○大谷委員 パスポートの保管に関して,日弁連内でもそうだったのですけれども,先ほどの事務局からの御説明でも難しいということがよく言われるのですが,本当にどこがどう難しいのか,それがもし必要なのであれば,今までの日本にない制度かもしれませんが,ハーグ条約というもの自体が日本にとっては新しいものなわけですから,そのために必要なことを理論的にどこがどう難しいからできないということであれば,議論を尽くした上で制度の作り方として,私はそういう決定もあるかと思うのですが,執行官が預かるとか,いろいろなことがほかの国ではなされているわけでして,それが日本の場合,制度的にできないということが余り十分に説明されていませんので,そこは今日,時間もございますので,また,今後で結構ですが,もう少し議論を詰めていただけると有り難いと思っております。 ○長嶺委員 一言,申し上げたいのですけれども,ここで議論しているパスポート,子のパスポートが日本国籍で日本のパスポートであるという前提だけに立つことができないのではないかという点もございますので,日本の政府,外務省が発行したパスポートについては旅券法上,いろいろな命令を掛けることも究極的にはできますけれども,外国が発行した公文書たる外国のパスポートに対して,日本でどういう処分ができるのかということについては,慎重な検討が必要かと思います。 ○村上関係官 事実関係につき朝倉幹事から御質問があった件で申し上げますと,一時保管ということですので,旅券がそもそも有効であるという前提で,更に重ねて発給を受けられるかという御質問であるとすれば,一応,旅券法の第4条の2,六法全書で申し上げますと1,901ページになるのですが,二重発給の禁止という規定がございます。そのため,失効されていない,まだ,生きている状況での一時保管ですので,この条項に懸かってくるということになるかと思います。もちろん,例外もございます。 ○朝倉幹事 法制度としては,もちろん有効なものであるときに再発行を受けるということは,通常,ないというのはよく分かっているわけですが,実際問題としては,無くしたと言ってパスポートセンターに行けば,幾らでも取れてしまうのではないかというあたりも含めて,そういうのを止める措置,例えば裁判所が取り上げた場合には,パスポートセンターでは発給が止まるということができるのかといったあたりの実情をお伺いしたかったわけです。   ここで想定される相手方は,必死になって逃げてきて,必死になって逃げていこうと,裁判所の命令なんか無視しても出ていこうという人たちです。初めから法律をある意味では破って出てきている人たちですから,法を守っていただけるという前提の下に組み立てても意味がないと思います。実際問題,要するに出ていくことを止めるためには,実効性のある手段をどうしたらいいかということなので,その辺のところを伺いたかったということです。 ○磯谷幹事 1点だけでございます。正に今の朝倉幹事の問題意識とも重なるのですけれども,先ほど辻阪幹事のほうで出国のコントロールというのがハーグだけというのは難しいという話だったのですが,それは技術的に困難なのか,何か法的に難しいということなのか,そのあたりをちょっと補足していただければと思うのですが。 ○辻阪幹事 これは私は法務省の方から聞いたので,申し訳ありませんが,お願いできますでしょうか。 ○金子幹事 正確なところはもし必要があれば後日補います。結局,正当なパスポートを持っている人が出国しようというときに,止める根拠というのはほとんどないと聞いております。ですから,出国禁止の現実的な手段としては,パスポートを取り上げるというのが正に直接的な方法であって,パスポートを持って出国しようとする人を,それを何らかの形で止めるというのは今の出入国管理の法制上も,非常に難しいと聞いております。 ○髙橋部会長 では,返還事由のほうの説明を。 ○佐野関係官 では,「第2 子の返還事由・返還拒否事由」についてまとめて御説明したいと思います。ここでは条約の各規定を踏まえまして,国内担保法で規定すべき子の返還事由と返還拒否事由について提案するものです。   まず,37ページの「1 子の返還事由」では,部会資料記載の①から⑤までの全てを子の返還を求める申立人が主張すべき事由として整理しております。   具体的にはまず①に記載のとおり,条約第4条第2文によりまして子が16歳に達していないことを主張する必要があります。なお,審議の途中で子が16歳に達してしまったような場合につきましては,この条約の適用の前提を欠くことになるため,子の返還の申立てはそこで却下されるものになると解されます。   次に②に記載のとおり,ここでは条約第12条第3項によりまして,子が我が国に現在することを申立人が主張する必要があると思われます。   さらに③に記載のとおり,ここでは条約第4条第1文によりまして,子が我が国以外の条約締約国に常居所を有していたことを主張する必要があるものと解されます。   そして,④に記載のとおり,ここでは条約第3条第1項aによりまして,子の常居所地国の法令の下で申立人が監護権を有しており,かつ子の連れ去り又は留置が当該監護権を侵害することを主張する必要があろうかと思います。なお,ここで言います子の常居所地国の法令といいますのは,子の常居所地国の国際私法によって指定された準拠法を含むものと解釈されているかと思います。   また,最後の⑤についてですけれども,これはちょっと特殊でして,ある意味,再抗弁的な位置付けで,相手方から,子の連れ去り又は留置のときに,申立人が現実に監護権を行使していませんでしたということが主張された場合には,条約第3条第1項bによりまして,申立人の側におきまして当該連れ去り又は留置がなければ,申立人が現実に監護権を行使していたであろうことを主張する必要があります。この⑤の具体例ですけれども,例えば部会資料に書きましたように,子の連れ去り直前に子の常居所地国の裁判所が監護権に関する既存の決定の変更を行ったところ,新しい決定によって付与された監護権について,その行使を開始することが子の連れ去りによって不可能となってしまったような事態が考えられるかと思います。   以上が1の子の返還事由の説明になります。   次に,39ページ,「2 子の返還拒否事由」ですけれども,ここでは部会資料記載の①から⑥までのいずれかを子の返還を拒否する相手方が主張すべき事由として整理しております。   まず,①に記載のとおり,ここでは条約第12条第2項によりまして,返還命令の申立てが子の連れ去り又は留置のときから1年を経過した後にされたものであり,かつ,子が新しい環境になじんだことが返還拒否事由になるものと思われます。この①の返還拒否事由の具体的な認定に当たりましては,子が新しい環境になじんだとは具体的にどのような場合をいうのかであるとか,子が例えば隠匿されていたために発見までに時間が掛かってしまったような場合に,この1年との関係をどう考えるのかについて問題がありますので,この点も含めまして御議論いただければと思います。   次に,②に記載のとおり,ここでは第13条第1項aにより,子の連れ去り又は留置のときに申立人が現実に監護権を行使していなかったことというのが一つの返還拒否事由になり,また,③に記載のとおり,申立人が子の連れ去り又は留置の前にこれに同意し,又はその後にこれを承諾したことも返還拒否事由になるものと思われます。   次に少し長い④についてですけれども,条約第13条第1項b,よく問題になる条文ですけれども,これによりますと,要請を受けた国の司法当局又は行政当局は,子の返還に異議を申し立てる個人,施設その他の機関が,返還することによって子が身体的若しくは精神的な害を受け,又は他の耐え難い状態に置かれることになる重大な危険があることを証明した場合には,子の返還を命ずる義務を負わないということとされていますので,国内担保法におきましても,まず,この条約第13条第1項bと同旨の既定を設ける必要があるものと考えられます。   その規定としては部会資料40ページの一番下,エ,包括条項のところの記載になります。その上で,条約第13条第1項bをそのまま引き写した規定のみを国内担保法に設けますと抽象的でありますので,裁判規範としての明確性の要請という観点や,あと,当事者の予測可能性の確保という観点から適当ではないと考えられます。そこで国内担保法の作成に当たりましては,子に対する重大な危険があるとして,条約第13条第1項bに該当するような場合を具体的にもう少し例示するのが相当であると考えられまして,先般の閣議決定の別添の了解事項,参考資料として第1回目にお配りしたようなものにつきましても,このような点が盛り込まれていたかと思います。そこで,今回の部会資料では40ページの④の中に,ア,イ,ウと3点を書き示しまして,第13条第1項bに該当する場合を具体的に例示しております。   ここで,ア,イ,ウの各事例とエの包括条項との関係ですけれども,ア,イ,ウという各要素,各事由というのは,エの包括条項の中に包含されるものでありまして,ア,イ,ウがどれか一つ認定されれば,すなわち条約第13条第1項bに該当してしまうものと,そういうようなものと捉えております。   では,このア,イ,ウの具体的な説明ですけれども,まず,アの子に対する暴力等ですが,ここでは児童虐待の防止等に関する法律第2条の第1号から第3号までを参考にして,常居所地国における子に対する暴力及び返還後における更なる暴力等を受けるおそれがあることを返還拒否事由とする旨を記載しております。   次に,イの相手方に対する言動ですけれども,ここでは配偶者に対する暴力が一定の場合には児童虐待に該当するというふうなことをうたっている児童虐待防止法の第2条第4号を参考にしまして,例えば子どもの面前で申立人が相手方に暴力を振るっていたような場合が典型かと思いますけれども,そのような場合につきまして,子が同居する家庭において配偶者に暴力を振るい,子の返還後にも同様のおそれがあることを返還拒否事由の一つとすることを記載しております。なお,このイの中で末尾に出てくるかかる言動,イの一番最後ですけれども,かかる言動という表現はちょっと曖昧ですけれども,具体的には帰国後に子と同居する家庭において暴力等を更に受けるという意味でございます。   最後,三つ目のウですけれども,これは常居所地国に子を返還したとしても,結局,適切に子どもの面倒を見るものが誰もいなくなってしまうという状態を捉えまして,このような状態が条約第13条第1項bに該当すると考えるものです。このような規律については,現在のスイス法,部会資料の途中に出てくると思いますけれども,スイス法を参考にして,そこからヒントを得たものです。   具体的に,どのような場合が適切に子の面倒を見る者が誰もいなくなってしまう状態と言えるかにつきましては,ウの柱書に該当する部分に挙げる二つの要素から構成して考えております。一つ目としましては,相手方,すなわち子を連れ帰った者が子を連れて常居所地国に帰国することが不可能又は著しく困難な事情があるため,常居所地国において申立人による子の監護ができないということ,二つ目として,一方,相手方以外の者,すなわち子を連れ帰られた者である申立人であるとか,適切な保護施設等が常居所地国において子を監護することが明らかに子の利益に反するような場合という二つの要素でウが構成されています。その上で,条約第13条第1項bに該当するものとして一つ目の要件,相手方が常居所地国で子の監護することができずということについて,どういう場合があればできないかということについて,更に部会資料記載の(ア)から(エ)という形で書き下しております。   以上が④の説明,第13条第1項bの説明になります。   最後,二つですけれども,⑤に移りますけれども,⑤は条約第13条第2項により,子が返還されることを拒み,かつ,子の意見を考慮に入れることが適当である年齢及び成熱度に達していることを返還拒否事由としております。更に⑥に記載のとおり,ここは条約第20条により,子の返還が我が国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により,認められないものであることが返還拒否事由になるものと思われます。   なお,各国の事例におきまして,⑥のような要件が認められたものはなかなか把握できませんで,実際に我が国におきましても,どのような場合がこれに該当することになるのかというのは想定し難いところですけれども,一応,国内担保法におきましては,条約第20条と同旨の規定を置くのが相当であろうとは思われます。   以上が返還事由,返還拒否事由の説明ですけれども,今回の部会資料では,特に条約第13条第1項bに相当する④の部分につきまして,今後,実務上,問題になるのではないかと,あるいは当事者から主張されるのではないかという場合を想定して,詳細に記載することとしております。実際,今後の国内担保法の法文の形としてはまた別になるのかもしれませんけれども,今回の部会資料に記載したような各事情,ちょっと細かくなっていますけれども,このようなものが返還拒否事由として相当かどうかという点につきまして,積極的に御議論いただければと考えております。 ○髙橋部会長 それでは,まず,磯谷幹事。 ○磯谷幹事 これにつきましても私どもの検討について御報告をいたします。また,これについては後ほど相原委員,大谷委員からも補足をしていただければと思います。   まず,返還事由のほうにつきましては,基本的に特に異論はございません。   それから,返還拒否事由につきましても,日弁連としては特に13条1項bについてある程度,明確な形で規定をしていただくということについて,既に賛成の意見も出しておるところではございます。そういう意味では,基本的にある程度,明らかな形で規定をしていただくということに賛成でございます。   その上で,ただ,若干懸念として指摘されましたのが,40ページの④,13条1項bの具体化した部分でありますけれども,建て付けがア,イ,ウがそれぞれ認められると,それはエの要件も満たしたことになるというふうな形になっていますが,そうすると,条約13条1項bの要件をやや逸脱するところがあるのではないかという意見がございました。いずれにしても望ましいのはア,イ,ウのようなことがあり,そして,その結果,子どもに対して身体的若しくは精神的な害を及ぼし,又は子を耐え難い状況に置くことになる重大な危険があるというふうな形で設けるといいますか,そういうふうな基本的には判断になるのかなというふうなことで,このア,イ,ウがある意味,独り歩きをすることについて懸念を示す意見がございました。   取りあえず,以上にさせていただきまして,相原委員や大谷委員のほうから補足がございましたらと思います。 ○相原委員 後でまた大谷委員のほうから,事前の細かい主張をしてもらえると思うのですけれども,今,磯谷委員が申し上げましたとおり,日弁連の立場としましては意見書でそもそも担保法において適切な,特に13条1項bに関しては規定をしていただきたいというのがそもそもの意見書の趣旨で,既に提出しているとおりでございます。今回ある程度の内容が分かるということは閣議決定の流れからありましても,評価するところであります。ただ,その内容が実際に問題になったときに,条文の解釈を超えてしまうのではないかということです。後々,ハーグ条約にのっとった返還命令を戦う,若しくは申し立てたりする,それぞれの代理人になったときのためにも,きちっとしてもらいたいなというのが一つの意見です。   例えばウに関しましては,先ほど相手方以外の者が子を常居所地国において監護することが子の利益に反すること。これに関しましては,例えば施設若しくはスイスの法律においては里親の問題等が出ておりますけれども,日本においては相手方以外の者,母親,施設ないし里親で養育される場合,例えば小さい幼児期の子どもであるとすれば,相手方,大体,想定される母親の下で養育されることのほうが子の利益に合致するのではないかと,母親の下で育つことがきっと小さい幼児に関しては必要であると。判断されるのではないか。   それと,プラス,相手方の生計の維持が困難で,相手方が常居所地国に戻れないというようなことの場合をどのぐらい,どう考えられるのか。これは今後,ウのみが主張・立証の対象になるというような御説明であったと理解しました。つまり,ウに該当する場合は,それがそのまま,重大な危険があるというような判断になると御説明だったかと思います。その場合を想定すると,こちらはどういう判断になるのか,ちょっと質問させていただきたい。  日弁連ではそれがいいとか悪いとかいうより以前の問題として,それがどちらの範疇に入るのかというようなところに関しては,結構,悩ましい問題が出てくるのではないかという指摘がございました。あと,アとかイにつきましても,また,もう少し細かい問題があるのですけれども,取りあえず,そういう問題があったことを申し上げさせていただきます。 ○髙橋部会長 では,取りあえず,今,答えますか。 ○佐野関係官 もう一度,御質問をお願い出来ればと思います。 ○相原委員 では,一つ,分かりやすい例とすれば,主張・立証の対象がア,イ,ウ,それぞれが主張・立証の対象となる。それぞれのみで重大な危険があると。つまり,アとかイ,特に分かりやすく,今,ウが認定されれば,それをもって重大な危険があって,返還拒否事由が認められるという理解でいいのですか。 ○佐野関係官 はい,そのとおりです。 ○相原委員 その次の段階として,例えば今みたいな母親若しくはテーキングペアレントが常居所地国に帰れない,特に生計を立てることができない,経済的理由で向こうで暮らすことができないというようなことと,それから子どもが相手方以外のところで暮らすこと自体が子の福祉に反するというようなことになったら,それがそのまま,返還拒否事由になるということになるのでしょうか。 ○佐野関係官 そのとおりでして,結局,子を常居所地国に戻した場合に,一時的にでも誰もその子どもの面倒を見る者がいなくなってしまうではないかという状況は,子を一人で放置するわけにはいかないので,それは子にとってやはりよくないことだろうと考えています。それはやはり条約上は第13条第1項bの重大な危険に該当すると考えていいのではないでしょうか。スイス法も同じような考えになっていますけれども,そのスイス法にヒントを得て作っておりまして,では,実際にどんな場合が誰も面倒を見られなくなるのですかというときに,面倒を見る主体としてはまず典型的には子を連れ帰ってきた相手方かと思いますけれども,相手方は常居所地国に普通に帰れればいいですけれども,帰れない場合というのは,やはり,子どもの面倒を見るということは困難になります。   では,相手方以外の者,例えば子を連れ去られた申立人あるいはここは施設であってもいいと思うのですけれども,常居所地国においてそういう施設であるとか,あるいは申立人が面倒を一時的にでも見ることが明らかに子どもの利益に反するようなことですと,例えば申立人が薬物中毒であるだとか,施設とはいうものの,名ばかりのものしかない国であるだとか,そういうことであれば,子を常居所地国に返すというのは,やはり,子にとって重大な危険があることですよねというふうなことで,このウが構成されているとい趣旨なのですが。 ○髙橋部会長 関連したご質問をどうぞ。 ○棚村委員 根本的な質問なのですけれども,この条文の構造なのですが,包括条項がありますよね,13条1項bというものがあって,そこの解釈とか運用でいろいろなDVの問題とか,こういう問題が個別的に出てきているわけです。そうすると,実際のケースの分析をしたものを見ると,複合的なものが結構多くあります。実際のケースでは,単発で一個だけ出ているというよりは,非常に複合的なものが多いのではないかと思います,先ほどもう一回,確認しますけれども,アという子に対する暴力等と,それから相手方に対する言動と,それから相手方が要するに常居所地国で監護することができない事情等ということでウがあって,エの包括条項があるわけですよね。そして,ある意味ではエの包括条項のところの例示のような形で,ア,イ,ウというのがあって,更にウの中に(ア)(イ)(ウ)(エ)というのがあって,結局,監護することができない事情等ということで,子の利益に反するとかいうので,エのところには何か更に上のものを包括するような監護することの事情があることとあることになりますね。   構造がよく分からないのは,これの一つ一つが立証されて,証明の程度とか,方法はあるにしても,これらの事実が証明されればアウト(返還拒否)になるのですか。というのは,13条1のbというものの解釈・運用で問題になるのは,子どもに対する重大なリスクがないと駄目だと言っています。当然,場所が変われば,通常,予想されるような混乱とか不安とか,それから不安定な問題というのはあり得るということは想定される。そういうものを超えるものであって,なおかつ,親に生じた問題であっても子どもの問題に密接にリンクしているため,結果的に子どもに最終的には重大なリスクが及ばなければいけない。つまり,親にこういうものが発生したからということだけでは駄目なのだということです。子どもに実質的な不利益が及ばなければいけないのだというので,解釈とか運用はかなり限定されている,   そういう意味では,リスク評価するのと子どもの利益テストみたいなものは,違うのだということをハーグ条約では非常に強調しているのです。そういう中で,ちょっとウのところが一番構造的によく分からないのですけれども,具体的に適法に入国とか,滞在できないとかという,これは出入国に関わるような問題ですよね。そして逮捕されるとか,刑事訴追を受けると。これも結局,安心して,そこに親が戻れないという話です。生計維持の困難だというのは,収入とか養育費だとか,いろいろな仕事とか,生活していけないとういう事情です。それが発生をしたら,直ちに子どもにリンクするという構造になるのでしょうか,この条文の事由だけですと。この一つ一つを主張して立証すればいいということになると,何か子どもに直ちに及ぶ形になるのでしょうか。 ○道垣内委員 ウは,「かつ」で結ばれていますから。 ○棚村委員 「かつ」ですか。なるほどね。子どもの利益に反しないと駄目だからということですか。 ○佐野関係官 この(ア)(イ)(ウ)(エ)というのは「次に」から「できず」までに係るもので,こういうことがあれば相手方は帰れないので,子の面倒を見られなくなるということを表しています。一方,「かつ」以降で相手方以外の者について判断するという構造になっています。 ○棚村委員 子どもを中心に,子どもの不利益になる事情なのだということですか。 ○佐野関係官 およそ監護できる者がいないという状況を捉えています。あと,棚村先生からの冒頭に,各国の裁判例では複合的な事情をもって13条第1項bが判断されているので,アとかイとかウの単発の事由だけで返還拒否を判断することに問題はいのかというような御質問を頂いたかと思うのですけれども,ア,イ,ウの単発だけを見ても,これは十分,子どもにとって重大なリスクがあるものと考えています。例えばアのような事情があれば,これのみをもって単発で13条第1項bに該当すると評価しても全く差し支えないと事案だと思うのです。 ○棚村委員 特にア,イはもちろんかなり直接関わるなと思うのですが。 ○佐野関係官 もちろん,ア,イのような認定が仮にできなかったとしても,例えばアの更なるおそれというところの立証が足りなくて,ア一本では返還拒否できないとしても,それに加えてイとか,あるいはほかの事情を総合考慮して,エの包括条項の中で読むことは全然差し支えなくて,それを合わせて一本とするということは,別に④の提案では否定するものではありません。 ○棚村委員 それと特に例えばウで,生活を維持することが著しく困難で,確かに子どもをそこで育てようとすれば,子どもにも影響が出てきますよね。そのあたりのところは普通だとアンダーテーキングだとか,何らかのコンディションみたいなものを付けて,こういう養育費を払えとか,きちっとお金とか住居とかも確保しろとかいうわけですね。それが認められないわけですから,ここのところでそこを調整するということになるわけですか。 ○佐野関係官 具体的に調整といいますと。 ○棚村委員 調整とか返還拒否のところが一番,こういうものを実現するための道具というか。養育費を支払えとか,よくありますよね,そこで生活できないというようなことについては。 ○道垣内委員 棚村委員がおっしゃったウに関しても,相手方が生活できないということと,「かつ」以下で,「相手方以外の者が子を常居所地法国において監護することが子の利益に反する」という事情があるという構造だと思うので,一方の親である相手方が子を監護することができず,また,他の人に監護させるのは妥当でない,というわけですから,相手方の生活困難が間接的に子どもに影響を及ぼすという捉え方をする必要はないのだろうと思います。それはそうなのですが,ただ,若干,佐野関係官の御説明の中で40ページに書いてある言葉と違う言葉をお使いになられたような気がするのです。御説明のときには「明らかに子の利益に反する」という言葉を何回か,お使いになったような気がするのです。   「明らかに子の利益に反する」ということになれば,ハーグ条約13条1項bに該当するというのは分かるのですけれども,ただ単に「子の利益に反する」と書き,かつスイス法を参照条文として挙げられますと,スイス法の構造自体はベストインタレストの判断のように見えますので,先ほど相原委員がされた質問にも関連してくるのですけれども,相手方がそのまま育てているのと里親に行ったのと,どちらが子どもの利益なのかを考え,相手方がそのまま養育を継続しているほうが子の利益に合致するということになりますと,ここにいう「子の利益に反する」というのに当たるのではないかという気がしてきます。しかし,当たるとするならば,スイス法自体がハーグ条約に合致しているかどうかという問題があると思うのですけれども,ハーグ条約13条1項bのグレイブリスクという要件を満たしているのかという問題があるような気がいたします。   そこで,ウについて40ページに書いてあるような「監護することが子の利益に反すること」というのと,佐野関係官が御説明でお使いになった言葉ですが,「監護することが明らかに子の利益に反すること」というのはどちらなのでしょう。私は,ハーグ条約全体の構造からすると,「明らかに」という場合ではないかなという気がするのですが,いかがでしょうか。 ○佐野関係官 道垣内委員の御指摘のとおり,ここではどちらがいいか,その利益判断,比較考慮を別に求めているわけでは全くございませんので,明らかに子の利益に反するかどうかという後者の理解になります。部会資料の表現が言葉足らずになっている面もあるのですけれども,そちらでいいのではないかと事務当局としては考えております。 ○早川委員 13条1項b号を国内担保法でどう立法するかは,非常に難しい問題だと思います。基本的にはこの返還拒否事由の例示が必要であって,例示がないと,裁判官にとっても当事者にとってもガイダンスがなくて困るというのは,確かにそのとおりだと思います。ただ,やはりちょっと心配なことがあります。具体的な法文化の段階でまた御検討いただければと思うのですが,今のご提案のお考えでは,ア,イ,ウというのはそれぞれ独立の抗弁になるというお考えですね。どれか一つだけ言えればそれだけで返還拒否が認められうると。しかし,そのような法律を作ると,先ほど日弁連の方からもお話がありましたけれども,それは条約13条1項b号の範囲を超えるものではないかという疑義が出てくる可能性はあるのではないかという気がいたします。要するに,法律を作るときに例示は必要だけれども,しかし,13条1項b号の条約違反だと外国から言われる危険がないようにする必要があるのではないかということです。   それではどうしたらいいかについては取り立てていい知恵もないのですけれども,例えばこのア,イ,ウを完全な形で独立にせずに,先ほど事務当局の御説明の中でも例示だというお話がありましたが,正に例示として法文の中に書き込むというのも一案ではないかと思います。参考になる例としては,借地借家法6条・28条の正当事由の規定がございます。あれは,最終的には正当事由があるかという形でまとめていますが,その前に例えば立退料など幾つかの考慮要素が列挙されているわけですね。あの規定では,例えば立退料などの考慮要素の一つのみが独立して正当事由と認められるわけではなくて,列挙されている要素を考慮した上で,正当事由の有無を決めるということになります。これと似たような形で13条1項b号を国内法化するのも一案かもしれません。いずれにしても,外国から,条約違反ではないか,条約の認めていない返還拒否事由を規定したのではないかと言われないように気を付けながら,法文の立て付けをお考えいただければと考えております。 ○山本(克)委員 私は今,早川委員がおっしゃったこととちょっと関連することを一言,申し上げたいのですが,46ページの(参考3)というところから始まっている段落で,該当事由があってもなお返還を命ずることができるという条文は要らないとおっしゃっているのですが,本当にこれで条約違反にならないのかどうかというのが非常に私は心配でして,これを入れておけば早川委員の御懸念も払拭できる可能性は,少しは出てくるのかなというイメージで考えております。私,民訴法学者としては,こういうのはいわゆる裁量免責の既定などがヒントになるのではないのかなというような感じで伺っておりました。   それと,もう1点,お伺いしたいのですが,ウの(イ)ですが,これは子の常居所地法が子の連れ去りを犯罪構成要件として定めている国である場合に,常に(イ)に該当してしまうということになってしまうと,全部,尻抜けではないかと外国から指摘される可能性があるのではないかなと。子の利益に反する場合は,確かにこういう事例ではあると思うのですが,本当に大丈夫なのか,政治的に大丈夫なのかなという,つまり,こうやってスペシファイすることによって外国から,特定の国を念頭に置いていますが,国名は出しませんけれども,そういう国から非難を受けるということがあり得るのではないでしょうか。 ○横山委員 形式的な点を2点,内容的なのを1点,述べます。   まず,40ページの④,ア,イとありますが,イの段落,「相手方が申立人から」という言葉のある2行目「を与えることなるような」というのは,「こととなるような」ということなのでしょうね。それから,もう一つ,形式的な点でウの(エ)が構造的にウの柱書になる部分と(エ)の関係が私はどうしてもリダンダントになっているのではかなろうか,相手方が子を常居所地国において監護することができない事情があるため,相手方が常居所地国において子を監護することができずというのは,漏れがないように(エ)というのを設けられておるのだろうと思いますが,これはつながりが論理的に何か余計だなという気がします。   それから,私はウは要らないのではないかなと思います。アは大丈夫だと思いますし,イも条約の適合性では大丈夫かなと思いますけれども,ウは非常に危ない規定で,むしろ,これがなくても相手方が入国できないとか,逮捕され刑事訴追を受けるおそれがあって,それは子どもの利益にもならないときには,裁判規範として極めて明白なので,こんなことを明文で書く必要は最初からないと思いますし,ウは一番危険な規定で,生計を維持するのは,普通,相手方はできない状況のほうがほとんどなのだろうと思うのですよね。   大体,生計が維持できないから逃げて帰ることが多いのですから,ほとんど外国で生活している場合,子どもを連れ帰ったら,これに当たってしまうと。生計を維持するのが困難というのは,ちょっとほかの立法でも独立した要件として定めているのはないのではないでしょう。これさえ証明できたら連れ帰り拒否ができるというような要件としては,取り上げるべきではないだろうなと思うので,私は全体としてはウはもう一回,考えてほしいなと考えております。以上です。 ○髙橋部会長 確認ですが,裁量の点も含めて説明を佐野さんから。 ○佐野関係官 まず,裁量の点ですけれども,特段,子の返還の裁量を我が国では否定しようとは考えておりませんで,各国の実情を(参考3)で紹介したのですが,それと同様の方向で,条約の趣旨に沿うようなことを今後の立案では考えていくべきではないかなと事務当局としては考えております。   二つ目に,山本先生のほうから(イ)の逮捕の場合,ほとんどがこれに該当しまうのではないかという御指摘は確かにそのとおりで,もし,横山先生の指摘もありましたけれども,仮にウのようなものを書くのであれば,更に逮捕,刑事訴追のところをもっと限定して書くようなことになる,例えば逮捕状が既に発付されておりとか,刑事訴追がされてしまった後でとかということになるのだろうとは思います。   その上で,次に横山先生から,ウをあえて設けなくてもという御指摘をいただきましたが,これはひいては,更にア,イを書かなくとも,エだけ設ければ十分なのではないかということにも関係するのかもしれませんが,突き詰めて言うと,エだけで普通のタイプの国内担保法としては十分だろうということはありつつ,ただ,ア,イを書いた上で,更にウを書いたというのは,この条約をめぐっては,常居所地国において生計維持ができない場合はどうなるのかとか,刑事訴追の場合はどうなるのかなど,いろいろな意見があるものですから,閣議了解も踏まえ,このような意見を返還拒否事由の中で具体的に明示できないか検討してみたところで,その手掛かりとして例えば,刑事訴追のおそれがあるだけでは,返還拒否というのはなかなか条約に適合しないので,そこで,スイス法を参照にして,スイス法を更に具体化したような形で提案させていただいた次第です。今回の横山先生からの御指摘も踏まえまして,どこまで日本の国内担保法として設けるのが適当かということは,引き続き検討していきたいと思います。 ○棚村委員 先ほどウのところでこだわったのは,やはり,そういう事情があって,DVとか,そういうところの解釈でも経済的暴力みたいなのを入れて,そして非常に養育費も生活費も全く入れない。それで仕事もさせないとか,そして生活保護とか社会保障も受けられないと,こういうような状況が出てきて,それで複合的と言ったのは,いろいろなものを総合的に判断をして結論が出されている。大体,返還拒否された最近の事例なんかを見ても,柔道ではありませんが,有効,有効,有効というので,結構,技ありとかというので,要するに一本で全部決まったケースというのはほとんどない感じです。そういうようなことを考えると,ウの事由は例示みたいな位置付けにして,最終的にはそれで親に生じた事情が監護ができない事情で子どもの利益に明らかに反するという,道垣内委員がおっしゃったような形になって,返還拒否が出ているのだという構成がよいかと思います。   ですから,経済事情というのは確かにあると思いますけれども,実はいろいろな精神的にも追い詰められて,経済的な事情も圧迫をされ,義務違反もあれば暴力もあるというか,やるべきことをやらない状況で出ていったときに返還拒否ということになるので,どっちかというと例示型でやりながら具体化しないと,明確化しないと,一体,何が当たるかというのは分かりませんから,そういう意味で,特にこれだけを具体的な事由としてやる場合には,全てこの理由に当たってしまうということにならないか少し危惧しました。 ○磯谷幹事 2点ございます。   1点はアの要件で余り議論がございませんが,また,特に反対するものではないのですけれども,これは児童虐待防止法の規定をほぼそのまま持ってきている。そうすると,児童虐待防止法でどう考えられているかというところに,かなり引きずられる可能性はあるのではないか。では,児童虐待防止法で児童虐待の定義がどう用いられているかというと,いろいろなところで,当然,法律の中で児童虐待というものは出てきます。面会,通信の制限であるとか,接近禁止命令等にも出てきますが,やはり非常に大きいのは通告のところなのですね。   つまり,こういったことがあれば,児童相談所などに通告してくださいよというふうなことでお願いしている,そのために児童虐待という定義がよく使われるのですが,これはかなり広く取る。つまり,通告をしていただいてこそ,まず,対応がスタートするわけで,かなり広く取るわけです。実際に児童相談所としては通告をされても,当然,親子分離に至らない家庭でそのまま見て,そして,そこで児童相談所の福祉士さんが行って,いろいろ助言をしたり,指導したりということも,当然,非常にあるわけです。特に身体的虐待の中で外傷が生じ,又は生じるおそれのある暴行ということで,決して外傷が生じること自体は必要がないということです。   そうすると,児童虐待防止法のところで広く通告を呼び掛ける文脈で広く捉えられているのをそのままここに持ってきて,果たして解釈上,何か問題にならないか,ちょっと広過ぎるというようなクレームが付かないか,というふうな懸念は一つございます。ただ,一方で,確かにこのぐらい規定すると明確になるという意見はあるかと思います。これが1点目です。   それから,2点目はウのところで,先ほどウはないほうがいいのではないかというふうな意見がございました。ただ,恐らく日弁連の中でも特にDVのケースなどに関して,現実的に連れてきた母親が戻ることがなかなか困難な場合に,返還が命じられるということに対しては強い懸念を持つ見解というのは少なくないわけで,議員さんの一部も恐らくそういうふうな御懸念もあるのだろうと思うのですね。ここについてはそういう意味で,今日の段階で何か明確なスタンスを申し上げるわけではありませんけれども,条約を締結するに当たっての懸念を払拭するという意味で非常に大きいものだと思うので,きれいになくしてしまえばいいということでもないだろうと。やはり,そこはかなり慎重に議論する必要があるのだろうと思います。 ○大谷委員 何点かあるのですが,上から順番に申し上げます。   まず,アですが,私は実はアがこうしたことがあって,その結果,エの包括条項,子の返還が子にとって重大な危険があるということになるのであれば,実は暴力のところはかなり広くてもよいのではないかと考えています。ただ,アが独立して,言わばみなし規定のようにアに当たれば,条約上の13条1項bに当たるという解釈の下に作られているとすれば,果たしてこのように,ここまで細かく書いて,その結果,何か後で問題が生じないかなということは,正直に懸念を持っております。また,そこまでの必要があるのだろうかと。   13条1項bに関しましては重大な危険が分かりにくい。特にイの子に対して向けられた暴力は当たっても,それ以外,特にテーキングペアレントに対する暴力は当たらないといったような初期の判例もございまして,そこを明らかにしておくという必要はあるのだと思いますけれども,子に対する暴力というのは先ほどから皆様の御議論を聞いていましても,アは問題ないとおっしゃる。その背景には子に対して直接の暴力があって,更にそれを受けるというおそれがある場合には,ほとんど当たるだろうとお考えになっているのだと思うのですね。そうすると,わざわざ日本でこの条約の実施法を作るときに,ここを日本的に書き下すという必要がどの程度あるのだろうかということは疑問に思っています。   今の点との関連で事務当局の方への質問なのですが,私はアに当たる場合は必ず重大な危険があると言ってよいでしょうというためには,各国の判例法を読んでいますと,アもイも言えるのですけれども,子に対して,あるいは親に対して暴力があったと。ただ,返したとしても,例えば子に近付かないような命令が出ているといったようなことで,それは防げるのだという常居所地国において子ないしは子を監護している親を保護する法制がどの程度,整っていて,実際に機能しているかということを見ている場合が少なくありません。それは,ここでは価値判断として,この要件との関係でどのようにお考えになっておられるのか。そうしたことで今まで暴力を振るっていた例えばLBPがまた振るう可能性はあるけれども,それは返したとしても直ちに保護措置が取られて防げるのだという場合には,アに当たらないというお考えなのかどうか。   もし,そうだとするならば,私はこうした細かい規定を書き込むことの必要性のところで述べられました予測可能性ということとの関係では,この規定からだけではなかなかそのように読みにくいのではないか。磯谷先生がおっしゃったこととも関連するかもしれないのですが,あるいはイでいいますと,日本国内における保護命令の申立要件との関係で,過去にそういう暴力があって,また,受けるおそれがあるということで,直ちにアやイに当たってしまうというふうに読めてしまうような書きぶりになっているのではないかというところが懸念としてございます。   同じようにイにつきましても,先ほど事務局からの御説明では,最後の「かかる」という中には子が同居する家庭においてが含まれているという御説明がございました。そうでなければ,例えば帰ったときに接近禁止命令が出ていて,元の自宅には子どもと連れ帰った親が二人で住めるというような場合というのは,過去には同居する家庭であったかもしれないけれども,帰ったときには同じような暴力はないという可能性が出てくるわけで,そこまで「かかる」ということに読み込むのだとすれば,逆に予測可能性や規範性,これがどういう意味を持って,どういう事態を想定して書いているのかということについて,できてしまった後には何か独り歩きして,こちらが当初,想定していたのではないような場合も含まれてくるのではないかということが心配です。   今のことと関係しまして,もちろん,このまま立法されるというおつもりでなくて,議論のためにということで,今日,御説明いただいているのは承知しておりますが,それを承知の上でなお申し上げますと,アで子に対する暴力等とあるのは分かりやすいのですが,イで相手方に対する言動と,これは閣議了解では暴力となっていたのではないかなと思うのですが,言動というとやはり印象的にもかなり広いと。これだけ柱書かもしれませんが,それだけでも13条1項bの子に着目して,返還が子にとって重大な危険になるかということから離れているような印象を受けますので,そのあたりはもう少し御議論いただけると有り難いと思っています。   最後に,ウに関しても皆さんが御指摘されたので,重複にならない範囲で申し上げますが,私はウを更に検討してよい置き方ができるのであれば,なお,置くことについて検討していただくということをお願いしたいと思っています。その際には道垣内委員が御指摘になられましたが,少なくとも「かつ」以下は明らかにとか,著しくとか,私は明らかにの方がはっきりしてよいと思っておりますが,必要だろうと思っています。それは参照として挙げられましたスイスに倣うということもございますけれども,より実質的な理由としては,棚村委員が御指摘になられましたようにリスクの評価はするけれども,インタレストの比較は行わないというのが条約の構造になっているところ,今の書きぶりですと,子の利益に反するということで返さないと。   子の利益に反するというのは,先ほどから施設に預ける場合というのが出てきていますけれども,「かつ」以下を読みますと,相手方以外の者が子を常居所地国において監護することが子の利益に反する。これは,例えば,子どもが乳幼児の場合,監護するのが誰であれ,例えばテーキングペアレントが母親であれば,母親以外の者が監護するということは母親から引き離すということになる。それは一般的に子の利益に反するという考え方があると思いますけれども,それが入るのかといったようなこと,それからウの中の(ウ)で生計を維持すること,これは先ほどからたくさん御指摘がありますように,これが当たる場合というのはかなり多くあると思います。   ただし,相手方が生計を維持することができるかどうかということは,そのことも含めて,本来,常居所地国において監護権の決定の中で勘案されて,そのために,例えば,相手方の方が子の監護者としてふさわしいのであれば,常居所地国では監護ができないので,リロケーションを認めて帰国を認めるといったような判断が本来なされてしかるべき,といったことにもつながりかねず,かなりウの(ウ)などを見ますと,実際には監護権の本案に踏み込んだ判断をしてしまっていると言われるおそれがあるのではないかと。そういうことを考えると,少なくとも明らかにというのは必要だろうと思います。   最後に,時間を取って恐縮ですが,ウの(ウ)の関係で申し上げますと,生計を維持する,できない場合はどうするのですかという御質問がよくあるとおっしゃって,正にここが大変心配を生んでいるところだと思います。このときに生計を維持するというのが事務局の方でのこの文言の意味としてお考えになったのは,先ほど御説明のありましたように,帰ったときに一時的にでも子を誰も監護する状態がない場合という御説明があったと思うのですが,生計の維持というのは各国の判例の中では,養育費の支払が命じられて,あるいは生活保護等の措置できちんとなされるまでの少なくとも何か月間でさえ,誰もお金を出さないというような場合というのが考えられていますけれども,長期的に相手方がその国で収入を得て,働いて監護していけるかどうかというところまでは,含まずに議論されているように私のほうでは理解していますが,そこのところは事務局の方でどのようにお考えか,教えていただければと思います。 ○佐野関係官 いろいろお話があったかと思うのですけれども,まず,向こうの国での保護命令とか接近禁止命令が出ている場合をどこで読むのですかというご質問ですけれども,そこは大谷先生が前提としてお話になったかと思いますが,アの後段,「おそれがあること」というところで読むこととしています。その上で,ここに,そういうことも含めるのは予測可能性の観点から問題なのではないですかという御質問については,一般的にそうは言えるかもしれませんが,全てを書き切るのはなかなか困難なところですので,今の段階ではそういうことも含めて「おそれがあること」という表現にしております。   二つ目として,相手方に対する言動という表現が弱いのではないかというようなお話だったかと思うのですけれども,ここは確かに閣議了解では暴力になっていたのですが,ここは単に形式的に児童虐待の防止等に関する法律の第2条4号を参照に,その文言をそのまま引き写したことによるものです。今後の検討に当たっては,御指摘の点が正面から出るような文言にしたいとは思います。   三つ目としまして,生計維持の点の御質問だったかと思うのですけれども,ここでは具体的に御指摘のようなことを深く考えて,(ウ)を作ったわけではございませんで,ただ,個人的な感覚としては長期的に生計を維持できるかということではなく,子を返還した場合に一時的にでもという趣旨かと考えております。   その上でなのですけれども,アについては,特に日本においては書き下す必要はないのではないかというご意見のほか,アの結果,子どもに対して重大な危険があるということが判断として必要であるというようなご意見もあったかと思うのですけれども,アを書きながら,更にその結果,子どもに対して重大な危険があるというようなことをあえて明示する意味といいますか,そう明示することで,アに該当するけれども,子どもに対して重大な危険がないということを裏から認めているようなことになってしまうような懸念もあるので,一応,事務当局の案としては,子どもに相当程度暴力が振るわれているようなアのような事情があれば,あえてその後に,それは重大な危険であるということを認定するというか,あえてもう一つ,要件立てみたいな形で設けなくてもよいのではないかと考えています。 ○髙橋部会長 道垣内委員。 ○道垣内委員 2点申し述べます。   1点は,ア,イ,ウが問題になっていますが,イなのでございますが,「子が同居する家庭において」というのが,何か微妙な文言のような気がするのですね。というのは,ウでは,里親とか,そういうふうなところで子が監護されるという事態がありうるという前提で議論がされていますよね。これに対して,イでは,相手方に対する言動が問題になっていますので,「子が同居する家庭」というのは,「相手方が子と同居する場合のその家庭」ということになると思うのです。しかるに,それは,子と同居せざるを得ないの,その家庭なのか,事実として子と同居するとすれば,その家庭なのか,後者でもこの要件に該当するのかというのが若干分かりにくい気がするのですね。自分に対する暴力があるから,子どもに精神的等の被害が生じるということならば,別居する方法だってあり得るわけですので,ちょっとそのあたりが不明確かなという気がします。   2点目は,これは後でお考えいただければよいのでして,また私自体がハーグ条約全体の解釈等について不勉強なのを棚に上げて伺って大変恐縮なのですが,幾つかの場合に「申立人が現実に監護権を行使していなかった場合」という文言が出てくるのですが,具体的にはどういう場合を指しているのでしょうか。 ○佐野関係官 共同親権下でありながら申立人が刑務所に入っていた場合であるとか,あるいは全然別居してしまっていたであろうというような場合が想定されるかと思うのですけれども。 ○棚村委員 刑務所でも監視付きで面会交流をさせたりすることがあって,要は権利を与えられてきたのだけれども,全くそれをやろうとしなかった,責任をむしろ果たそうとしなかったということなのではないのですか。権利は持っていたのだけれども,会いもしなければ,例えば共同で物事を決めるということを言われているのだけれども,全く協力しなかったとか,そういう権利不行使の状態の人に子どもについての,要するに子どもを取り返すというような資格を与える必要はないということで,刑務所だけではないと思うのですね,刑務所に入ってやらないはもちろんですけれども。 ○道垣内委員 私も自分で解釈論を展開しろと言われたら棚村委員に完全に賛成なのですが,それが日本語の「現実に監護権を行使していない」というところから導かれるのかというのと,そもそも「アクチュアリー・エクササイジング・ザ・カストディ・ライツ」というのが原文でありますけれども,その解釈としてそうなっているのかというのがちょっと気になるものですから,別に今日,確定していただく必要はございませんけれども,御検討いただければと思います。 ○長嶺委員 同じ日本語ですと,監護権という言葉が出てきますね。恐らく条約の訳文でも監護の権利とか,そういう形で出てくる,要するにライト・オブ・カスタディという言葉が出てきます。それから,今,ウのところで出てきている実際の子どものケア,これは恐らく英語ではケアなるものが日本語では監護という言葉になっていると思います。今後,法文にどうするかというのはまだこれからのことだと思いますけれども。条約上は監護という言葉は,監護権というカスタディライトの形で出てくると思うのですね。正にその監護権がどこにあるかというのを定めるために,常居所で最終的に決着をするための返還という,そういう条約になっているわけです。そこで,今のように監護権を実際には行使していないというような概念と,ウで出てくる子どものケアとしての監護は,混同しないように気を付けていく必要があるのかなと感じます。 ○相原委員 先ほど子に対する暴力,アのところで子が申立人から相当程度暴力を受けているような場合において,それが重大な危険がないというようなことになるのかということだったと思うのですけれども,やはり申立人だけではなくて相手方との関係でも,母親,父親とか,ジェンダーを除いて考えていただいてもいいかと思うのです。いろいろなケースの中には相当程度暴力を受けているのかどうか,感情的な父親ないし母親が暴行を振るってけがをさせ,将来的にも更なる暴力というのも想定されると思います。   しかしながら,監護権に関しては別の観点から,つまり,相互に相手が虐待しているというような主張も結構あるケースが多いかと思いますし,大谷委員から前に教えていただいたのですけれども,結局,連れ去られている関係からすると,父親のほうは母親のほうが暴行,暴力を振るったとか,若しくはかなり強度なしつけをしていたとかという主張がされることもあります。したがいまして,この表現で身体外傷が生じるおそれのある暴行,つまり,何回か殴ったということがあり,その結果,一度か何かもしかしたら打撲や,骨折ということが1回,2回,あるかもしれない。それから,更に性格的には問題があって,子が更なる暴力を受けるおそれがあると。それで返還拒否事由になることになります。   だけれども,申立人が父親で相手方が母親とは限らないわけであり,申立人からすると相手方も相当なことをやっているというようなケースのこともありますし,つまり男女が逆転して申立人が母親で,夫のほうから母親のほうが虐待しているというような訴えもなくはないわけなので,必ずしもこれが先ほど磯谷幹事もおっしゃっていたかと思うのですけれども,形式的に当たったら,それでイコール返還拒否事由までいってしまっていいのかというのは,ちょっと問題があるのではないかと思います。やはり,それにプラス,先ほどのエのところの包括条項を複合的に勘案するというのを立て付けとして残しておかなければ,意外なところでこれに当たってしまうということもあり得るのではないかなと思っております。 ○横山委員 エは当然,そうだと思いますけれども,④のアとイは二つのことを実は言っていて,それがごちゃごちゃになっていると思います。一つはアとイのメッセージというのは,およそ日本の児童福祉に関わる公的機関が発動をする法律要件があるときは,返還はいたしませんという意思を表明している。   先ほど道垣内委員がおっしゃったように,子が同居する家庭にという要件が入っておりますけれども,これは児童虐待の防止等に関する法律の文言どおりなので,実は子どもに対してトラウマを与えるような言動を相手方に働いているとき,別に同居する家庭でなくたって起こってくるわけで,何でこんな要件があるのだろうとかえって不思議に思ってくるのですけれども,これは法律にそういう要件が入っているからわざわざ入れているわけで,要するに日本政府としては,批准するに際しては日本の児童福祉機関が絶対に守るという規範は条約がどうあれ,これだけは最低限,守らせていただきますという意思を表示するものとしてアとイを捉えるべきなのか,そうではなくて,13条のbの理解を裁判規範として明瞭にするために,子どもに対して害悪が加えられる場合を列挙し,かつ,イにおいて相手方に対する言動によっても子どもの利益が損なわれる。   先ほども大谷委員は危険の評価と子の利益というのは別物だと言われましたけれども,私は危険というのは子どもの利益が危険にさらされるので同じことだと思うのです。言葉の遊びだと単純に思うのですけれども,それで利益という言葉を使わせていただきますと,相手方に対する言動も子どもの利益を損なうことがあるのだということを明示するという意味で,アは子どもに直接に,イは子どもに対する間接の利益の侵害ということを明示するという意味なのか。繰り返しになりますが,日本の公法的な法規の適用を確保するという点に力点を置いてアとイがあるのか,それとも子どもの利益を直接,間接に損なうような行動があったら,それは拒否理由になりますよということを明示するのか,どっちのほうに力点があるのかということを確定しておかないと議論がごちゃごちゃになってくると思います。 ○髙橋部会長 考え方はですね。 ○金子幹事 もちろん,我が国の福祉機関の発動という要件も大事ですけれども,条約の枠組みを超えられないことは間違いないので,考え方としてはここでいいますと,エの一つの具体化として考えていました。ただ,それは何かと聞かれたときには,児童虐待防止法に言う虐待に当たるようなものについては少なくとも暴力と捉える,あるいはそこで言う虐待というものに例示されているものについては,十分,参考にされるべきであろうということを補って今に至っていると,こういうことになります。 ○髙橋部会長 御指摘いただきましたが,ほかの法律……宮城幹事。 ○宮城幹事 1点だけ。先ほどの事務当局の説明でちょっとだけ気になったことがありましたので,40ページのウの(イ)のところで刑事訴追の話でございます。ちょっと広過ぎるので,連れ去ること自体が犯罪であればあれですが,その一つの狭め方として例えば令状が出ているとか,あるいは告訴が出ているかということを書いたらどうかということなのでしょうが,普段から令状請求している身になると,具体的に刑事訴追の段階でのことを答えるわけがないのですね,捜査機関が。とすると,実際にそう書いてしまうと,この規定がワークしないことになると思うのですよ。客観的に誰でもそう分かるような形での書き方をしないと,これは難しいのではないかなという感じがいたします。ちょっとそこが気になりましたので。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。 ○金子幹事 いろいろ御意見を頂きましてありがとうございました。検討の方向性なのですが,まず,エだけで済ませられれば非常に立案のほうも楽ですし,条約に違反しないことは明らかなのでいいのですが,これだけですと,結局,裁判所も恐らくこれに携わる当事者,代理人等も何を主張・立証すれば,あるいは防御すればいいのかというのが非常に困るのではないかと思っています。   次に恐らく早川先生がおっしゃったのは,その考慮事情として幾つかを列挙する案も検討したいと思いますが,できればエを直接立証してもいいけれども,それに替わる立証命題を立てて,これが立証できれば当然,立証できたことになるというようなものを作れないかというのが一つ考えられるところです。   そうしますと,考慮事情として列記するのではなお弱いかなと思っていて,なお,それに置き換えて別の命題を立てて,それが立証できれば取りも直さず立証に成功したというものができないか,なお,追求したいと思っています。その上で,ちょっと細かいところをもう少し詰めていかなければいけないという気はいたしました。それから,もちろん,条約の枠組みを出るか,出ないかということについては,条約の解釈権の問題もありますので,外務省等とも相談の上,検討したいと思っております。 ○大谷委員 どなたも指摘されていないので,子の返還事由のほうですが,④で御説明では,これは条約3条1項aに基づいていると思いますが,3条1項aでは監護権を有していたのが申立人とは限られていないところを書き換えておられるように思います。特別,何か理由があれば別ですが,そうでないのであれば,条約どおりとしておくことも御検討いただいてよいのでないかという点だけです。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。 ○佐野関係官 ここに申立人ということを書かないと,取りあえず,誰かの監護権が侵害されればいいということを許容するということになってしまうのではないでしょうか。例えば,取りあえず,誰か分からないけれども,誰かの監護権が侵害されたのでという申立てをしてもいいのかということに多分に関わってくると思うのですが,そこは正しく私の監護権が侵害されているのですという人しか申立てを認めないという意味があって,ここには申立人という限定を付したところなのですが。 ○髙橋部会長 分かりました。御指摘を受けてということで。   御意見の中にもありましたが,最終的な法律の条文の形は更に詰めますし,法制局のチェックも入ります。ただ,どこまで条文として掲げるかどうかは別なのですが,例えばアがあれば当然に返還拒否事由だということは,裁量権があるということですから緩和するのですね。本当に裁量権がどううまく働くかということは別問題として,事務当局の考え方はアがあっても返還させることはあり得るという頭であったということをメンションさせていただきます。   それから,条約の解釈の問題ですが,参事官も今,言われましたように,日本の法制上,外務省のほうに条約の解釈権がありますので,ここで御議論いただくことは大歓迎でございますが,法制的に最終的には外務省の解釈に従って,我々も要綱案を作るほうがいいだろうということで,まだ,詰めてはおりませんが,おいおい,外務省とも協議させていただこうと思っております。   では,もう一つ,面会交流がありますのでお願いいたします,説明を。 ○田村関係官 最後の議題になります。第3の面会交流関係について説明させていただきます。   「第3 面会交流関係」は条約第21条に規定されている接触の権利(rights of access)について,特段,条約に特有の裁判手続に関する規律を設けないことを提案するものです。条約には接触の権利についての明確な定義規定はありませんが,平成23年改正,先日改正されました後に民法766条に規定されております面会及びその他の交流と同義であると解されます。同条に規定する面会交流につきましては,家事審判法及び家事手続法において,面会交流の取決めの審判及び調停を利用できることが定められています。条約上,面会交流に関して条約に特有の裁判手続を設けることは特に要求されていません。諸外国の立法例にもそのようなものはないことから,面会交流について条約に特有の手続を設ける必要はないと考えております。 ○髙橋部会長 これもいかがでしょうか。 ○磯谷幹事 この面会交流につきまして,今,事務局から特段,条約に特有の裁判手続に関係する規律を設けないというお話がございました。基本的には私どももそれでよろしいのではないかと考えておりますが,しかし,幾つか意見は出てございます。やはり,最も大きな懸念といいますか,国内の面会交流の事件でも同じですけれども,面会交流を取り決めても,なかなか実行されないというふうな問題がございます。その背景には求められているほうの不信感であるとか,そういったところもあってなかなか実現が難しい。したがって,面会交流を取り決めたら支援する機関というものを,これはハーグ事案に限らないのだろうと思いますけれども,是非,整備する必要があるのではないか。これが何も整備がないということであると,やはり,外国から見ると,結局,取り決めても余り実効性がないとか,そういうふうな形で見られるのではないかというふうな意見がございました。   それから,特別な規定は設けないということになるわけですが,したがって,条約締結前の面会交流の,つまり,条約締結前に日本に連れ帰ってきたりとか,そういうふうなケースについても,国内の面会交流の事案として対応するのかなと思われるわけですけれども,ハーグの枠組みの場合に,中央当局がある程度,関わることになるのだろうと思いますけれども,それとの兼ね合いでどの程度,遡及的なところが対応できるのか,あるいはそうでもないのかというところが一つ問題かと思います。基本的には過去の,要するに条約締結前に連れ去ってきたものについても,対象とすることが望ましいのではないかという意見があったかと思います。   それから,返還命令が継続している場合に,別途,面会交流のまた調停等をやるということがどの程度あるかはともかくとしまして,そういったことがある場合の管轄をどうするかということがございました。ばらばらでいいのかどうか。   ハーグの事案では申立人側,レフト・ビハインド・ペアレントのほうからしますと,テーキングペアレントがどこにいるか分からない,中央当局は分かっているけれども,それを教えてもらえないという場合,この場合に例えば面会交流の申立てをするのに,一体,どこの裁判所に申し立ててればいいのか。ここはやはり整理する必要があるのではないかという意見がございました。   面会交流の事件についても,特に外国人も含めて扶助を使えるようにする必要があるのでないかとか,先ほどちょっと保全のところでもお話が出ましたけれども,面会交流の最中にレフト・ビハインド・ペアレントのほうが子どもを連れ去ってしまうというようなことがないように,何か防止策を採る必要があるのではないか。こういうふうな意見もございました。 ○髙橋部会長 面会交流の点につきまして。 ○棚村委員 理由のところで,面会交流については766条で民法の改正も行われたこと,そして,ほかの国ではそういうところを設けていないので,特に必要はないような記載なのですけれども,これ自体は諸外国ですと,面会交流というのは共同親権とか,そういうものが認められる共同監護とか以前から親子の交流は図れるのだとされています。これは親の自然権だというような言い方をしたり,いろいろな理由付けをしてきましたけれども,日本の場合には権利性というのは親の争いがある中で権利ということを表に出すよりも,お子さんのために協力しましょうというような形で,面会交流という形で監護処分の一環として規定をしているわけです。   ただ,ここでやはり問題があるのは,今までの規定だから返還手続を特に民法に規定が入ったからというよりは,私自身は子どもの返還という前に,お子さんとできるだけ顔も見たいし,様子を知りたいとか,そういう主張やそういうものが出てくると思っています。そのときに,大谷先生とはちょっと意見が違うかもしれませんけれども,会わせてもらって交流やきずながつながるのであれば,二段階,三段階先には返還ということでいいというようなことは日本のケースの中でも起こりますし,割合と理性的な外国人の父親のケースなんかでも,そういうようなことで応じたりということは起こると思います。ですから,規定を具体的にどう設けるかということよりも,返還手続との関係の中でも,また中央当局も面会交流援助申請を受けるわけですから,面会権についての,あるいは面会交流ということについて,具体的に今の現状でいいということになると管轄権の問題もありますし,それからリンクして返還の請求とそれから面会交流の申立てをしたときに,相互の手続はどうなるのかという議論はやはりきちっとしておかないといけないと思います。   場合によっては,面会交流というのはそもそも面会交流権を条約上,保証するというのは,返還をして常居所に戻って,最終的な将来の子どものことを決めるのだけれども,その前の段階で交流とか,きずなみたいなものを断ち切ってはいけないとしているのではないか。だから,面会交流にはそういうつなぎみたいな意味ももちろんあって,面会交流は非常に重視すべきだとだと考えます。返還ありきよりも返還をなぜ求めなければいけないかというのは,親子のきずなや関わりというのを絶やしてはいけないのだと思います。   そういう重要な権利だと思うのですが,面会交流についてはほとんど議論やそういう最後のところで時間もなくて検討ができていない。やはり,面会交流のところを少し充実をして,どういう仕組みや支援の,磯谷幹事が言ったような形で実現を図っていくかということの議論があって,そして多分,こじれた原因は面会をさせろとか,そういうことがうまくいかなくて,そして追い詰められて連れ帰ったとか,監護の問題でごたごたが解決できなかったから連れ帰ったというケースが基本的には想定されると思うのです。そのときに面会交流というのは,かなり重要な位置付けがあると思っていますので,余り簡単にさらっと規定もあるし,普通の国内の手続だけでやればいいというようなことではなくて,もっとサポートする重要なファクターだとして取り上げていただきたいと思います。 ○髙橋部会長 それでは,よろしいでしょうか。   最後は時計係になってしまうのですが,次回以降のスケジュールについて大切なことですので,お願いいたします。 ○金子幹事 御説明いたします。   本日までの議論で一通りの論点についての議論はできたかと思います。そのため第1回目の部会でお諮りしましたとおり,今後はパブリックコメントのための準備に入りたいと考えております。つきましては次回の部会では,これまでの一読の議論を踏まえまして,パブリックコメントに付す案について,御検討いただきたいと考えております。その後は1か月程度,パブリックコメントに付すとともに,並行して二読の検討に入るということを考えているところでございます。また,次々回以降の二読中は具体的な論点の検討に加えて,ヒアリングの機会を設けたいと考えております。ヒアリングの人選等につきましては,今後,事務当局としても検討してまいりたいと考えておりますが,何かこの点につき,御意見がございましたら事務当局までお寄せいただければと思っております。   なお,言うまでもないことですが,パブリックコメントもこの部会の対象としております返還手続に関するものということになりますので,中央当局の役割等についてはパブリックコメントに当然含まれないことになりますし,また,ヒアリングの対象からもそういうことは想定しておりません。その点は御了解いただきたいと思います。   次回の議事日程ですが,御連絡いたします。日時は9月22日,木曜日,13時30分から,場所が変わりまして東京地方検察庁刑事部会議室,この建物の5階になりますので,御参集いただければと存じます。また,会議の1週間前には資料,パブリックコメント案をお送りいたしますので,よろしくお願い申し上げます。 ○髙橋部会長 次回,9月22日はパブリックコメント案を検討する,そしてパブリックコメントに付している期間も急ぐものですから並行して第二読会をやるということですが,そういう方向でよろしいでしょうか。また,第二読会の中でヒアリングも行うということですが,それでは,そういう方向で,今後,続けさせていただきます。   では,本日はどうも熱心な御議論をありがとうございました。 -了-