法制審議会ハーグ条約(子の返還手続関係)部会           第4回会議 議事録 第1 日 時  平成23年9月22日(木) 自 午後1時30分                       至 午後5時44分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  ハーグ条約を実施するための子の返還手続等の整備について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○髙橋部会長 定刻でございますので,ハーグ条約部会第4回会議を開催いたします。    (関係官の異動の紹介につき省略)   審議に入ります前に,事務当局に配布資料の説明をお願いいたします。 ○佐藤関係官 それでは,説明いたします。   資料番号4といたしまして,部会資料4,「『国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約』を実施するための子の返還手続等の整備に関する中間取りまとめ(案)」と題する書面を事前配布しております。   次に,席上配布のものになりますが,資料番号12といたしまして,「『ハーグ条約の中央当局の在り方に関する懇談会』第2回会合」と題する書面をお配りしております。こちらにつきましては,外務省辻阪幹事より後ほど御説明いただきます。 ○髙橋部会長 配布資料の説明は以上ですが,具体的な検討に入る前に,今紹介がありました外務省において開かれております第2回目の懇談会の概要について,参考資料12がございますので,辻阪幹事から概略を御紹介いただければと思います。 ○辻阪幹事 9月13日に外務省において「ハーグ条約の中央当局の在り方に関する懇談会」の第2回会合が開催されました。今回,第2回は議論をもう少し掘り下げて各論点について議論が行われました。   簡単に御紹介いたしますと,「議事要旨」とあるところの(1)ですけれども,まず総論において,中央当局が機能するために他の機関による協力が非常に重要であるというような御意見が出されました。   また,(2)のところですが,子の所在特定,中央当局が申請に対する援助を行うためにまず最初にやることとして,子どもがどこにいるのかという所在を特定する必要がございますが,これにつきましては,●の二つ目のところにありますとおり,中央当局が情報を持っている国内関係機関に対して情報提供を求めるということになりますけれども,その際に本人の同意が必要と構成することでは,条約の趣旨にも鑑みて適当とは言えないという議論がございました。   ●の三つ目ですけれども,その反面,個人情報の保護という観点がございますので,中央当局に提供することについて義務とすべきかについては,そうしないと中央当局は必要な情報を収集できないというおそれがある一方で,個人情報の慎重な取扱いの要請という側面からも考慮する必要があるという意見が出されました。   次のページの上から三つ目の●の辺りですけれども,集めた情報を,原則として他国の中央当局や申請者に共有しないということは,例えばDV保護等の観点からは極めて重要であるという意見も出されております。   (3)の子の社会的背景に関する情報の交換ということで,相手方中央当局から情報を求められた場合に,関係機関に情報を出してくださいということを中央当局はするわけですが,この場合においても,やはり個人情報の保護という観点,それから,どの範囲,どういう情報を出すのかということを正確にした上で,情報提供を求める必要があると。また,本人の同意も相手方に提供する際には必要であるというような議論が行われました。   下のところの(4)接触の権利ですけれども,そもそも接触の権利というのは,どのような場合に申請を受け付けることになるのか。   次のページに行きまして,接触の権利の享受又は行使の支援を受けられる者に対しての要件は何なのか。子どもが国境を越えた移動がない場合はどのように対応するのかといった議論が行われました。   (5)不服申立てですが,基本的には中央当局が行う各種援助は不服申立ての対象にはならないというふうに構成したいと思っていますが,そもそも申請が受け入れられなかった場合は不服申立てができるというふうに構成すべきではないかということに対して,逆に中央当局が申請を応諾した場合,taking parent側の不服申立ての可能性についても検討する必要があるのではないかという意見が出されました。   そのほか,情報収集を中央当局はやるべきだとか広報をしっかりやるべきだなどの意見が出されました。   それから,今後の予定ですが,第3回の会合は10月に予定しておりまして,懇談会といたしましても,パブリックコメントをこちらの法制審と同じタイミングで実施したいと思っております。第3回会合ではヒアリングを実施したいと考えております。   以上でございます。 ○髙橋部会長 ただいまの御説明につきまして,質問等がおありであればお願いいたします。   よろしいでしょうか。   では,部会資料4の中間取りまとめ(案)について御議論いただきたいと存じます。いつものとおり,途中区切りのよいところで10分程度の休憩を取りたいと思っております。   また,若干お諮りするということになるのですが,皆様に頂いている時間は5時半までということになっておりますが,前回,前々回を見ますと,どうも5時半というのはかなりきついように思われます。前回は強引に6時ごろに切りましたが,6時もきついかもしれません。場合によっては6時,6時半,まあ6時半を超えることは絶対ないと思いますが,延長が日によってはあり得るということを御了解願えないでしょうか。ですから,お帰りの時間,その後ろの御予定なども6時,6時半を念頭にということを御了解いただけないでしょうか。もちろん5時半が原則であることは間違いありません。   では,本日の部会資料4ですが,第1の1から4までまとめて事務当局のほうから説明いたします。 ○佐藤関係官 では,説明いたします。本部会におきましては,部会資料2及び3における提案から変更した点を中心に説明したいと思います。   まず「1 判断機関」ですが,部会資料2から特に変更はございませんが,部会資料2では,子の返還の判断は司法当局が行うものとしておりましたが,判断だけではなく手続全体を主宰する主体の問題ですので,本文の記載も,子の返還のための手続は司法当局が行うものとしております。その関係で,項の題も「判断機関」から「子の返還のための手続を行う主体」と変更したいと考えております。   「2 採用する手続」ですが,部会資料2から内容が大きく変わるものではありませんが,「非訟手続による」としていたところを「訴訟手続による必要はないもの」としております。これは,「非訟手続による」としてしまうと,非訟手続とは何か,非訟事件手続法の適用があるのかという難しい問題が生じます。ここでは,後に具体的な審理手続の内容を検討する前提として,少なくとも本手続が実体的な権利義務の存否を確定することを目的としたものではなく,憲法上訴訟手続によることが要請されているものではないという点を明確にするにとどめたものです。   「3 管轄」では,(1)の職分管轄を家庭裁判所とする点については,部会資料2から変更がございません。   (2),管轄の集中については,3案を提起することについては部会資料2から変更がございませんが,部会において4庁とする案などが出ておりましたので,(注)として記載しております。また,土地管轄の基準を,子の住所地とする点については,東京家庭裁判所1庁とする甲案を採った場合には問題とならないことから,(後注1)において乙案又は丙案を採る場合の規律として記載しております。   さらに,部会資料2におきましては,合意管轄について,これを認めるかどうかという問題提起をするにとどめておりましたが,パブリックコメントに付す案においては,(後注2)として,乙案を採る場合には東京家庭裁判所又は大阪家庭裁判所に,丙案を採る場合には8高等裁判所所在地の家庭裁判所に,合意により管轄裁判所を定めることができるものとすることを提案しております。   これは,管轄を集中させる必要性などに照らしますと,基本的には当事者の意向によって管轄を定めることができるとする合意管轄を認めるべきではないと言えるのですが,事情によっては合意による管轄を認めたほうが当事者の利益にかなうとも考えられること,乙案又は丙案によって,管轄裁判所となり得る裁判所にのみ合意による管轄を生じ得るとすれば,一定の裁判所のみが事件を処理することができるとする管轄の集中を認めた趣旨には反しないとの考え方によるものです。   これに対しまして,(後注3)としまして,応訴管轄は認めないものとしております。その理由は,応訴管轄を認めますと,相手方の応訴態度を待たなければ管轄が定まらないことになってしまい,手続の遅延を招き得ること,不都合がある場合は,次の4項で述べますように,裁判所の判断による裁量移送や自庁処理によって対処することが相当であるという点にあります。   次に,「4 移送」ですが,部会資料2から提案を具体化しまして,(1)として管轄違いに基づく移送を認めること。(2)として,先ほどの3の(2)において,乙案又は丙案を採る場合に,裁量移送及び自庁処理を限定的に認めることを提案しております。裁量移送及び自庁処理の具体的な規律としましては,(注)として記載しておりますが,先ほどの合意管轄の規律と同様,乙案又は丙案により管轄裁判所となり得る裁判所に対してのみ裁量移送を認め,これらの裁判所のみが自庁処理を行うことができるとするものです。このような規律とすることで,管轄を集中させる趣旨に反することなく,具体的事案における当事者の利益に配慮した柔軟な措置を採ることが可能になるとの考え方によるものです。   1から4までは以上になります。 ○髙橋部会長 では,どこからでも御意見,御質問があればお願いいたします。   山本委員。 ○山本(克)委員 2ページの(後注2)と(後注3)ですけれども,普通は合意管轄と応訴管轄はワンパックだというふうに考えてきたと思うので,こういうふうに合意管轄は認めるけれども,応訴管轄は認めないというのは,私の知る限りでは例がないような気がするんです。応訴の態度を待たないと管轄が定まらないということがそれほど重要なことなのかどうかということですね。つまり,応訴の態度が分かる前に管轄違いで移送することもできるはずなのではないのかと思いますので,移送してしまえばいいのではないのかという気がしますが,応訴を待たなければいけないということを理由として,今までの伝統的な法制の仕組みを変えるというのはどうかなという気がするんですが。 ○金子幹事 応訴は恐らく事後的な合意の意味があるということで,合意管轄とパラレルに考えるのが通常の考え方であるというのは承知しているつもりですが,応訴管轄を認めた場合は,今,山本先生が指摘された中でちょっと分からなくて,あるいはほかの先生方にお聞きしたいのですが,応訴管轄を認めると,相手方の意向を優先するというか,重視するために取りあえず意向を聴いてみる,あるいは,態度を待つというのが普通のようにも思ったのですが,そこはそうではなくて,裁判所か応訴管轄を認めつつ,相手方の応訴態度を見るまでもなく移送してしまうということはさほど不自然ではないものなのでしょうか。 ○山本(克)委員 よろしいですか。その点,民事訴訟の場合に,第一審で被告が欠席した場合に,任意管轄違反であれば,当然その時に移送するのではないでしょうか。そう思っていたのですが,実務の扱いは違うのでしょうか。 ○佐藤関係官 民事訴訟で言いますと,恐らく実務の扱いはそのようになっているところが多いのではないかと思いますけれども,この手続を考えました場合に,どういうふうにモデルを組むかというところにもよってくるのですけれども,書面である程度やり取りをしまして,それが詰まったところで期日のようなものを開くというものを何となくイメージしておりました関係で,書面でやり取りをする前提として,どの裁判所が扱うのかというところを早く決する必要が,期日というものを開く前に決する必要があるというようなイメージがありました。その関係で応訴の態度を待ってとするのではなく,早めに管轄を定めることができるとするように規律を作ったほうがいいのではないかと考えたものでもあります。 ○山本(克)委員 そのときの応訴というのが期日でしなければいけないというのがそもそも問題ではないでしょうか。必要的口頭弁論の手続ではないので,期日前に書面でそういう応訴というものを考え得ると。「そう」という言葉は余り適当ではないと思いますけれども,いうことであれば,特に期日を待たなくてもいいのではないのかなという気がしたのですが。 ○髙橋部会長 細かいところですが,(後注3)ですね,応訴管轄は認めないものとする。両案併記とするか,こうしておいて補足説明の中で,今,山本委員の御指摘のようなことを書くかですかね。私も民訴を専攻しておりますので,奇異には感ずるのですが,相手方の意向を確かめる手続,時間的なもの,それすら惜しいと,そういうことのようですね。   そして,応訴管轄があれば認めていいような場合には,それは裁判所側が考えることですが,次の自庁処理でそれなりにカバーもできるというのが先ほどの説明のようです。後で出てきますが,6週間という制約をどの辺まで考えるかですね。山本委員も,文章まで変えるか,補足説明で入れるか。 ○山本(克)委員 はい,結構です。 ○金子幹事 合意管轄は事前の合意を想定していまして,規則事項になるかもしれませんが,場合によっては合意は書面でしなければならないという規律は考えられるところです。そうしますと,実務的には余りこの種の事件で事前に管轄の合意をしておくということは想定されないのに対して,応訴管轄を認めますと,常に目配りをするという運用が必要になってきて,応訴管轄のほうが実はずっと影響は大きいのですね。その辺も踏まえて実務的なことを申し上げると,応訴管轄はうまく機能するかなという懸念もあって,おっしゃるとおり理屈の上では合意管轄と応訴管轄というのは,事前か事後かにせよ,両当事者がその管轄に納得するという趣旨だろうかと思うのですが。家事事件手続法では応訴管轄を認めていませんで,一定の事件ですが,合意管轄のみ認める類型の事件を設けたのですが,そういう場合であっても応訴管轄を認めないという選択をしたという例はあります。 ○髙橋部会長 この案で中間取りまとめにして,パブリックコメントに掛けていいかということが最終的な今日の議決事項ですが,第2読会を念頭に置いて御意見,あるいは,それまでに事務当局で検討しておけという事項がございましたら,どうぞ御遠慮なく御指摘いただければと思っております。 ○萩本幹事 山本先生に御質問なのですが,仮に応訴管轄を認めるとした時の山本先生のお考えは,どの裁判所でも応訴管轄が生じてしまうということなのか,乙案,丙案のように集中した裁判所に限っての応訴管轄ということがあり得るのか。その辺りがちょっと分からなかったものですから。 ○山本(克)委員 すみません,言い方が悪くて誤解を招きました。私は別に応訴管轄を認めなければいけないと思っているわけではないんです。この二つを切り離すことは,家事事件手続法の勉強不足であったということが分かったのですが,なぜそうなっているのかというのはまだ納得ができないということだけですので。むしろ合意管轄をやめたほうがいいのではないかという気がしていて,民訴の19条のような合意に基づく管轄を何らか認めるのであれば,19条のような規律のほうがよりよいのではないか。いずれにしろ,合意管轄を,おっしゃったように,認めたところで使われる場面というのは,前にADRで調停が事実上先行していたというような場合ぐらいしか考えにくいと思いますから。合意管轄ということを出す必要がそもそもあるのかというイメージでおります。すみません,混乱させるようなことを申し上げまして。 ○棚村委員 私は訴訟手続関係は余り詳しくはないんですけれども,家事事件手続法の発想というのは,訴訟という形ではないけれども,当事者の地位とか手続保障を評価しようと。結局,判決ではないので,迅速に,裁量性もある程度あって,判断をしたいとうものと理解しています。こういう手続のイメージからいくと,合意管轄というのはある面では当事者同士が便利だと思うところである程度やらせる。ただし,管轄の集中の問題がありますから,どこにも用意するというわけにはいきませんから,ある程度専門性のある判断機関とか人です行う。   家裁でもよくやるのは,遠隔地だったりすると,合意でもって弁護士の便宜とか当事者の便宜を考えて合意管轄は認める。ただし,応訴は認めないという形で,逆に僕らは余り疑問を持たなかったものですから。子の返還手続というものをどう位置付けるかという時に,一方で非訟手続という形で家庭や子どもの問題であり,子の迅速な返還の問題であるということなので,応訴管轄についても特に認めないという扱いで,他の処理の方法で弾力的にできるのかなと考えておりました。要するに子の返還手続では,応訴したら直ちにそこが管轄になってしまうということの不都合のほうが大きいような感じはします。 ○大谷委員 私も,合意管轄と応訴管轄について違う規律を設けることが適切かどうかという観点については,意見を申し上げる専門的な能力はないのですが,実務の感覚から言いますと,合意管轄は認めていただいたほうがよいと考えます。例えば8庁だとした場合ですけれども,相手方が頼んだ弁護士が東京にいると,申立人のほうも東京でやってもらったほうが,行くことの場合を考えるとよいと,あるいは,相手方のほうが所在は分かっているのだけれども,あまり自分のところの近くではしたくないと。いろいろな配慮というのがありますので,合意管轄は認めていただくのがよいのではないか。   ただ,合意管轄ということを明記するのではなくて,合意がある場合には裁量でできるとか,そういうことで合意管轄と応訴管轄が分かれることが問題があるのであれば,そういう考え方もあるのかと思ったのですが,先ほどの事務当局の御説明ですと,家事事件については切り離していることがあるということなので,それであれば合意管轄は残していただきたい。あと,応訴管轄につきましては,相手方の反応を見てどうなるかを待つのが,待てないほどの迅速性の要請があるかということなのですが,実際,普段の家事事件でも事前に合意をしないで申し立てて,反応を見てということをやることがあるのですけれども,正直言って始まるまですごく時間が掛かります。合意管轄が事前にできる場合はもちろんすると思うんですけれども,そこで合意によらずに申し立ててみて,相手方の反応を見た上で,そこからいろいろ始まるというのでは,時間の経過というのはかなり掛かるのかなというのが実務での感覚です。 ○髙橋部会長 先ほど山本委員もおっしゃいましたが,移送のところで,民訴で言えば19条の事後的な合意管轄を今日の案では認めていないわけですが,それに準ずるようなものは補足説明で入れておきますかね。条文が多くなり過ぎるとかいうことで最後は削るかもしれませんが,意見としてはあり得るということだと思います。 ○金子幹事 19条は必ず移送しなければいけないという規律ですよね。 ○髙橋部会長 「必ず」というのは厳しいかもしれません。 ○山本(克)委員 しかし,合意管轄で,専属的な合意管轄まで認めるのであれば同じことですよね。その場合でもなお自庁処理ができるというふうにするかどうかの問題で。ですから,19条についても相当でないときには自庁処理ができるという仕組みにすればいいだけのことのような気がしますが。 ○髙橋部会長 最後に申しますが,補足説明は事務当局の責任でやりますので,必ず載せるかどうかは確約はできませんが。 ○金子幹事 では,御趣旨を踏まえて補足説明を工夫できるか検討します。 ○髙橋部会長 いやいや,確約することはないのですが,検討はしていただくということで。   ほかの点はいかがでしょうか。相原委員。 ○相原委員 これから御質問させていただくのは,本来は一番最後になるであろう第3の面会交流関係との関係なんですが,管轄の観点から考えておられることを教えていただきたいと思います。   今回の管轄は飽くまで子の返還手続に関する管轄という前提ですから,こういう書き方になろうし,パブコメとしてはこういう表現になろうかという理解は十分しております。ただ,面会交流関係が一番最後になっておりますが,特有の裁判手続に関する規律を設けないものとするということになりますと,通常のこれまでの我が国の手続法にのっとると思われます。そうなると,各地での家庭裁判所における面会交流の申立てに基づくことになるかと思うんですが,今,外務省で御検討いただいている懇談会との関係からいきまして,先ほどの合意管轄にもちょっと関連してくるかなと思いますが,面会交流の申立てが各地方であった場合と,それから,子の返還手続が申立てられた時の関係に関して,若干の問題が出てくるのではないかなというふうに理解しているのです。今の段階でパブコメにはそこまで,書き込めないかなと思いつつ,何か御検討されているところがありましたら,教えていただきたいのですが。   また,質問としては,これは一本で,外務省の中央当局が考えておられる面会交流との関係については,特段,今回は対象と考えていないという理解でよろしいでしょうか。 ○佐藤関係官 御質問にございました外務省で検討している面会交流というものが何を指しているのか理解できているか分からないところがあって,うまく答えられるか分かりませんけれども,基本的にこの部会で検討を考えております面会交流につきましては,特段の規定を設けず,今の裁判手続,審判としてできるものについて考えるけれども,そちらについて,特に規定を設けるものではないということを提案しております。   あと,管轄,要するに子の返還と同じ裁判所で処理できるようにするかどうかという点につきましては,運用の問題ということになりまして,子の返還手続が先行していまして,その後,面会交流の申立てがあった場合に,本来管轄裁判所ではないところでできるかどうかという点については,申立てを受けた裁判所がそれをどう処理するかということになると思います。その段階でこの事件が係属しているということが分かっていればその旨配慮して,当然事件の種類は違いますので,併合ということにはなりませんけれども,同じ裁判所で事実上処理するという運用もなされ得るとは考えますが,特段そうしなければならないとか,特別の管轄規定を置くということは,子の返還に関しても面会交流に関する規律についても考えておりません。   以上のところでお答えになっておりますでしょうか。 ○棚村委員 今の相原委員の質問ともちょっと関係するのですけれども,子の返還手続の管轄権の集中について,こういうふうな形で甲案,乙案,丙案ということで出て,私はどちらかというと理想的には丙案で,大谷委員が言われた四つぐらいというのが実際的ではないかという御意見にも極めて共感を持つところがあるわけです。これも裁判官とか調査官,あるいは,弁護士さんの専門性の確保とか,ハーグ条約についての専門知識とか,外国の法令等についてのある程度の知見,それから,和解とか合意による解決の促進とか,そういうようなことを考えても,管轄権の集中というのは大事だと思います。   一方,前も言いましたけれども,子どもの住所地での審理というのは,生活の様子がこっちの国とあっちの国とでどうだということをある程度考えざるを得ないところがあるわけですから,そういう場合には子どもの生活場所に近いところとか,あるいは,当事者の利便ですね,特に訴えられるほうの当事者の利便性も考慮すると,日弁連の調査でも,私が把握しているのでも,割合と当事者は全国的に散らばっているような傾向があるわけです。しかも,相原委員も言っていましたけれども,面会交流については,子どもの住所地に裁判管轄権が認められて,そこで家裁が面会交流の調停とか審判をするということになると,仮に今言ったように移送するとか自庁処理とかいう制度を使うにしても,そこの間で余りにもリンクしないということだと具合が悪い場合が出てくるとように思います。   こういうようなことを考えると,一方では中央当局との連携ということもありますけれども,管轄権に関して理想的には8庁ぐらいで用意ができるような形にしておいて,ただ人員とかいろいろなことで直ちにはそれができないということであったとしたら,四つぐらいのところで管轄の裁判所を定めた上で適切に処理されるべきです。面会交流等のバラバラな処理というのは非常に問題ですし,しかも,面会交流が促進されたり,会えるということがある程度確保されることによって,返還の手続自体にも良い影響を与える場合もあるかと思います。   これは甲案,乙案,丙案というふうにありますので,丙案と,どちらかというと私は四つ,要するに乙案の(注)のところに出ていますけれども,丙案とその間ぐらいの考えを持っています。それは面会交流ということと,子どもの返還を判断する裁判所が余りにも一極集中型ですと,子どもの住所地で子どもの問題については考えるという管轄の基本的な考え方とのバランスを取るべきではないか。記載の仕方だけかもしれません。甲,乙,丙というふうに出ていますので,注記をされる時に是非,大谷委員が前に御提案されたようなことについて,私もそちらのほうに現実的な路線としては加わる可能性があるということです。 ○髙橋部会長 4までですが,ほかによろしいでしょうか。早川委員。 ○早川委員 この段階で伺うべきかどうか,また,中間取りまとめに関係するかどうか分からないのですけれども,基本的なことで一つだけ確認させていただきたいと思います。確認したいのは,今回作る新しい返還手続と既存の手続との関係についてです。どういうことかと申しますと,ここで検討している法律ができますと,ハーグ案件は,本来は全てその法律の定める手続に乗るということになるのだろうと思います。ところが,何らかの理由で,その法律ができた後も,ハーグ条約によれば子を返すことになるという実体を持っている案件が,例えば人身保護手続とか通常の家事審判手続という形で裁判所の前に出てきたときに,裁判所としてはどのようにするのかを,特に民訴の先生方に教えていただければと思った次第です。   日本国としては,ハーグ条約の定める返還要件を満たしている事件については,条約上の義務として子を返さなければいけないということになっていると考えられます。そうすると,たとえ,人身保護とか家事審判手続とか,ほかの手続で請求がなされた場合にも,裁判所としては条約上の義務に照らして,返還を命ずる必要があるのか,それともハーグ条約実施のための法律以外の手続で請求がなされたときにはそれはもう考えなくていいのかが問題となりうるように思います。さらに,考えなくてもいいとしても,それでは考えてもいいのかということ,つまり裁判所が人身保護・家事審判手続のなかで条約のルールを適用したり考慮したりすることが許されるのかということも問題となりそうです。この点は,この中間取りまとめとは直接関係ないかもしれませんが,一応どこかの段階で考えていただけお考えいただければと思います。 ○棚村委員 第1回の時に私もそのことで発言しました。織田幹事も触れられて,結局,従来の子どもの引渡しとか返還の手続との関係ということで,ハーグ条約を中心に考えるというのか,それともハーグ条約の手続はこれまでのものと併存して並列した形でいくのか。ただし,その結果についてはそれぞれが余りにバラバラになるというのはやはり問題でしょうから,ある意味では審理の手続とか範囲というものをかなり限定した,従来の手続と併存し得るような新しい類型の手続ということで,それぞれは相互に並立し得るということなのかというお話をしました。   皆さんの中に実際にどうかということが今日の問題提起だと思いますけれども,ハーグの返還手続は,私は新しい手続としてこれまでのものとは違った性格のものとして存在していいと思っています。そうでないと,逆にいうと,今はハーグ条約の批准を考えているというので,家裁での子の引渡しや人身保護による引渡しとかそれぞれの役割分担に混乱が生じてしまっている可能性があります。そういう意味では,今回の手続は新しいハーグ条約のための返還手続ということを位置付けて,性格付けてやっていいのではないか。そして,人身保護とか従来の手続がそれにより事実上変容してくるということはあり得ても,それが持っているそれぞれの成り立ちとか目的というものは,本来的なものが変容しながらも独自なものがあるはずです。   そこでプラスマイナスみたいなものを当事者が勘案して,旧来のものを使うということもあっていいし,逆にハーグという新しい手続を使ってやってくるということがあって,相互に影響を与えることはあると思います。今回の新しい法律を作るには,第三の手続としてのハーグ条約ということで,むしろそれが国際的な連れ去り事件でどう使われるかということよりも,国内法にもいろいろな影響を及ぼす可能性が出てくると思ますが,一応並存する第三の新しい手続ということでいいがかと。ほかの手続も民事訴訟の親権に基づく引渡し請求というのも判例上は認められていたのですけれども,実際にはそれが使われなくなったりということは起こると思います。だけれども,ハーグ条約に関しては,僕は並存して新しい手続として構想していいのではないかということを思っております。 ○早川委員 新しい手続を作った方がいいということはよく分かるのですけれども,新しい手続と既存の手続とが並立している場合に,既存の手続のほうの審理の中で,裁判官がハーグ条約を日本国が遵守しなければいけないということを反映した判断をしなければいけないか,あるいはできるかということを伺いたかったのです。 ○棚村委員 ハーグ条約の中でも,例えば人身保護手続,運用がどうなっているか分かりませんので,当事者としてみれば一番効果的で自分の目的を達する手続を選ぶということをするのではないかと思います。ですから,立法的に我々がどういうものを構想して作ったにしても,それ自体は並立して使われなくなるかもしれません。また,裁判官がこの手続になる場合にはむしろこれはハーグでやるべきだと考えたり,あるいは,ハーグの判断に沿って人身保護手続を運用するということは起こり得るんだと思います。しかし,立法の段階では,僕はそこまで考えないで,ハーグ条約の目的を達成するために,日本の中で一番必要な手続としての新たな類型というものを追求していいように思います。 ○大谷委員 今日は条文を持ってきませんでしたので,条文が確認できないのですけれども,ハーグ条約の中に,国内法に非要請国,受託国の国内法に基づく返還を妨げるものではないと,18条でしたか,規定があったと思うんですけれども。その関係から,例えばハーグ返還手続を申し立てるであろう類型にもいろいろなものがあると思うんですけれども,既に常居所地国で申立人が単独の監護権を付与されている,そういう決定があるような場合などは,これまでも人身保護でやっていましたし,今後も,ハーグ返還手続の例えば執行方法などとの関係から,人身保護でやりたいという場合というのは出てき得るのではないか。それは条約上は妨げられないし,日本の国内担保法の在り方としても妨げるものではないと考えております。そうすべきではないかと思っております。   他方,例えば共同親権,共同監護状態で,そこについては何ら決定はなされていない場合でも,不法な連れ去り・留置に当たってハーグの返還手続は可能であると。その上で,例えばこれまでのようにまず家庭裁判所で子の監護者指定を求めて,家裁の手続の引渡しを求めるという選択が可能かと言われると,可能だとは思うんですけれども,そういうことは恐らく余りないのではないか。あった場合にできるかどうかというと,条約16条の関係で相手方のほうからそういう申立てがあれば,その判断をしてはいけないということになっているのが,仮に申立人からそういう申立があった場合にも,それが裁判所としてはハーグ案件が係っている間,親権あるいは監護の判断をしてはいけないという形で規律が掛かってくるのかという問題になるのではないかと理解しています。 ○金子幹事 今のやり取りの中に幾つかの問題点が混ざっているような気がするのですが。立法論か運用の問題なのかという問題もありますけれども,おっしゃるとおり,正確な条文の用語はちょっと出てきませんが,連れ去りの申立てがあったということが通知されると,仮に前に係属していた本案に関する裁判は当面止めるというのが条約上決まっていますし。そういう意味での関わりはあるんですが,どの手続を選ぶかというのは基本的には申立人に選んでもらうということを考えています。   その場合に,例えば,今回18の(1)のイのbのところで,「申立ての趣旨に本手続による旨を含む」と書いたのは,ハーグ条約にのっとった手続を求めますということを,きちんと申立人に明示してもらうことによって,ほかの手続を選んだのではないということを表明していただくという趣旨で入れてみたのですけれども。そこは取りあえずはどの手続を選ぶかというのは申立人に委ねるということを考えていまして,なお事案によってこれは別の手続のほうがふさわしいのかどうかという辺りをどうするのかというのは,言わば事実上の問題として教示するなりということはあるかもしれませんが,それでもきちんと新たな申立てをしてもらわなければいけないという立て付けで考えています。 ○髙橋部会長 織田幹事。 ○織田幹事 人身保護法の関係のお話が出ましたけれども,私も原則としては手段の多様性というのを確保しておいたほうがいいように思うんですけれども,この手続に関しましては,例えばハーグのこの手続で負けてしまったので,今度は人身保護法だというふうにすると,この手続の実効性が,これで負けてしまったので,次は人身保護でいくかみたいになりますと,その実効性がちょっと問題になる,そこが一つ懸念されるところではないかと思います。だからどうしたらいいのかというのは,実は私も迷っているところですけれども,それが一つ。   それからもう一つ,先ほどの早川先生の御指導にありましたけれども,日本で人身保護あるいはそのほかの既存の手続が行われる場合に,これは理想論ではありますけれども,裁判官の方が頭の片隅に日本はこのハーグ条約を批准しているのだということを置かれた上で,何か手続を採っていただければ一番いいのかなという気がいたします。 ○棚村委員 先ほど大谷委員も言いましたハーグ条約の18条のところで,ハーグ条約というのは併存的な性格がかなり強いと思います。今言いましたように,実効性とか言って濫訴みたいなことが起これば,当然,裁判所は,そういう資料が出されるでしょうから,それに基づいて人身保護の請求もやはり適切に処理する。よほどの事情変更がなければその判断を尊重するわけです。そういう意味で,オルタナティブとして選択肢の範囲を広げておいて当事者に選ばせる。渉外事件であってもハーグという新しい迅速な処理の手続を設けたことで,それを使われてほかの手続をされるのであれば,それはそれでいいし,それを使って負けたからリターンマッチみたいなことをすれば,裁判官は国内の家庭裁判所であろうが,人身保護手続であろうが,適切な判断をする。ですから,その辺りは運用で十分できると思います。 ○豊澤委員 先ほど金子幹事からもお話がありましたとおり,今回の返還命令の手続は,ハーグ条約に基づいて新たに創設される手続であって,これと,従来からある子の監護に関する処分として,又は親権若しくは監護権に基づく子の引渡しとか,人身保護といった手続とは,それぞれ独立の目的ないしは要件,効果を伴った形で構成されています。したがって,どれを選んで申し立ててくるかは申立人サイドの問題であり,裁判所は,申立人の選んだ申立てに対して,定められた要件,手続に従って判断をしていくという形になっており,基本的にはそういうことに尽きているのではないかと思います。 ○髙橋部会長 よろしいですか。   では,次は5から8まで一まとめに説明をお願いします。 ○佐藤関係官 では,5から8について説明させていただきます。   「5 裁判所の構成」については,部会資料2から特に変更はございません。   「6 除斥及び忌避」につきましては,部会資料2で「家事事件手続法と同様の規律とする」としていたところを具体化しまして,「裁判官及び書記官について除斥及び忌避を設け,裁判所調査官に除斥の制度を設けること」としたものです。併せて,忌避の裁判につきましては,迅速処理の要請から簡易却下制度を導入することを提案しております。   続きまして,「7 当事者適格」については,(1)として申立人について,部会資料2では「監護権を侵害して,子が連れ去られたか又は拘束されていると主張する者を申立人とする」旨提案しておりましたが,主張に係る部分を削除いたしました。   (2)の相手方につきましても,同様に「現に監護していると主張されている者」ではなく,「現に監護している者」としております。これは,子の返還を求める手続において,正当な当事者として扱い,主体的な地位を与える必要があるのは,単に連れ去り等による監護権侵害を主張している者ですとか,現に監護していると主張されている者ではなく,現に連れ去り等によって監護権を侵害された者や,現に子を監護している者であるとの考えによるものです。   このような規律とすることは,当事者参加の規律を考えた場合に,主張しているだけではなく,実態を伴って初めて参加を認めるのが相当であり,また実体要件を具備していれば,主張の有無にかかわらず強制的に引き込むことができるとするのが相当であるという考え方にも合うものです。この点について,民事訴訟では基本的に権利を主張する者であれば当事者適格が認められ,権利の存否の問題は実体判断の問題となるのに対しまして,家事事件では審判事項との関係で当事者適格が定まります。   本手続におきましても,特定の子の返還のための手続は申立人や相手方ごとに異なるものになることは相当ではなくて,正にそのための手続を遂行するのにふさわしいものを適格当事者として扱うべきという考え方に基づいております。   (3)の子の当事者適格につきましては,特に変更はございません。なお,当事者適格について,部会資料2におきましては,中央当局は申立人とはならないことについて触れておりましたが,当事者適格を提案のような規律にすると,中央当局が当事者とならないことは明らかですので,あえて記載するまでのことはしておりません。   「8 当事者能力及び手続行為能力」では,(1)の当事者能力については変更はございません。   (2)の手続行為能力につきまして,第2回の部会では2案を併記しておりましたが,パブリックコメントに付す案としては,意思能力を有する限り手続行為能力を認めるものとしております。これは,子の返還を求める手続を,子の親権者を定める本案事件をするための準備的な行為と位置付けて,本案の規律と同様に考えるのが相当と考えますと,家事事件手続法において「親権者の指定又は変更の審判において,親及び子について意思能力があれば足りる」としていることと平仄を合わせたものです。   5から8につきましては,以上になります。 ○髙橋部会長 それでは,御意見,御質問をお願いいたします。村上幹事。 ○村上幹事 8の当事者能力との関係なんですが,部会資料ですと,相手方は現に子どもを連れ去った者だけではなくて,今,子を監護している団体や機関も含むということだったと確か思うんですが,その場合,そういう団体や機関に法人格がない場合は29条を準用して考えるということでよろしいんですか。 ○佐藤関係官 基本的にはそのように考えております。ちょっとそこまでは比較的細かい話になってきておりますので,今のところ補足説明にも特に記載する予定ではないのですが,基本的な考え方はおっしゃっていただいたとおりです。 ○髙橋部会長 また元に戻っても結構ですが,少し関連しますので,次に9から13のほうに移ります。 ○佐藤関係官 では,9から13につきまして説明させていただきます。   「9 参加」ですが,基本的に変更はございませんが,(1)当事者参加及び(2)の利害関係参加につきまして,それぞれ②として強制的な参加,いわゆる引込みの制度を設けることとしております。これは,参加し得る者の手続保障を図りつつ,適切な資料収集を可能とするために,一定の場合にはその者の申出によらずに参加を認める必要があるという考え方によるものです。ここで,利害関係参加人として想定しておりますのが,主として返還を求められている子です。なお,当事者となる資格を有する者の引込みについては,利害関係人の場合と異なり,職権による場合のみならず,当事者の申立てによって参加させることを認めております。   この当事者参加と利害関係参加の違いは,当事者参加については,既存の当事者が立証活動等との関係で,他の当事者となる資格を有する者の参加を必要とする場合が想定されるのに対しまして,利害関係参加については,申立てまで認める必要は通常ないということによるものです。   「10 代理人」ですが,(1)弁護士代理及び(3)職権による代理人の選任については,前回の第2回部会資料から特に変更はございません。   (2)の許可代理につきましては,部会資料2では許可代理について特に採否の提案をしておりませんでしたが,パブリックコメントに付す案としてはこれを設けるとする提案をしております。その理由は,本事件におきましては,例えば社会福祉法人が当事者となる場合に,代表者ではなく,事情をよく知る担当者が代理人として手続行為をする必要があるというような場合も想定されること,非訟事件手続法及び家事事件手続法においては許可代理が認められており,これと平仄を合わせることが相当であると言えることにあります。   次に,「11 裁判費用」については,特に変更はございませんが,(3)の手続上の救助について,部会資料2において補足説明として記載していたものを具体的な提案としたものであります。   「12 公開・非公開」について,非公開としつつ相当と認める者の傍聴を許すとする家事事件手続法に倣った規律とすることを提案しております。   「13裁判記録の閲覧等」につきましては,基本的に変更はございませんが,家事事件手続法第47条の規律のうち主要なものであります,①当事者又は第三者が家裁の許可を得て閲覧・謄写ができるものとすること,②当事者からの申立ては基本的に許可しますが,一定の事由があれば不許可とできること,③第三者からの申立ての場合は相当と認めるときに許可できるものとすること,を具体的に記載した上で,当事者からの閲覧・謄写請求における不許可事由についてはなお検討するものとしております。   13までは以上になります。 ○髙橋部会長 参加その他につきまして,いかがでしょうか。相原委員。 ○相原委員 補足説明というのはパブコメに掛けられるのでしょうか。子の当事者適格については,ならないものとすると明記されているわけですけれども,先ほど御説明くださった利害関係参加の直接の影響を受ける者と,素直に読めばそうなんだということなのですが,そこら辺のところを明記していただけるという理解でよろしいのでしょうか。 ○髙橋部会長 これは明記しますよね。 ○佐藤関係官 はい。 ○相原委員 ありがとうございました。 ○髙橋部会長 古谷幹事。 ○古谷幹事 10の代理人の(2)の許可代理のところで,先ほど当局から法人等の場合に一定の必要性があるという御指摘もあったところですけれども,ハーグ事案の場合,かなり高度の専門性が要求され,通常の家事事件とは異質のものではないかと考えられるところであります。また,無用に許可の申立て等がされますと,迅速性も相当害されるという懸念もございますので,この点は慎重な検討が必要と考えております。 ○髙橋部会長 例示のところで,軽々に社会福祉法人の担当者が当然に代理できるようには書くなということなのでしょう。どんな場合,どんな人が可能なのかというのは補足説明で書くのでしょうが,そのときに注意するということで。弁護士強制ができればいいのですが,この手続だけ,というわけにはいかないでしょうから。   ほかの点いかがでしょうか。   13の裁判記録の閲覧等を許可しない場合のことをまだ事務当局も検討を十分しておりませんので,パブリックコメントではこのようなものですが,家事事件手続法47条4項を見ていただければおよそのイメージはできるかと思います。しかし,この辺りいろいろ難しい問題が出てくるかもしれませんが,パブコメではこの程度ということで……。   先ほど申しましたが,また戻っての御質問も結構ですが,次の14から17までの説明をお願いします。 ○松田関係官 では,説明させていただきます。   まず,「14 送達」の関係ですけれども,部会資料2と同様に,基本的な規律としましては,民事訴訟法第1編第5章第4節の規定に準じた規律を検討するものとしておりますが,(注1)では,部会資料3の33の不服申立てのところで触れましたように,民事訴訟法第104条の規定に相当する送達場所等の届出の規律に関しまして,日本国内に住所を有しない申立人等が日本国内に適当な送達場所を確保できない場合に,迅速な解決が困難となる可能性があることを考慮しまして,日本の中央当局を送達場所及び送達受取人として届け出ることができるものとするなどの手当てをすることについて検討するものとしております。   また,部会資料2では,公示送達の規律を設けるものとするか否か,設けるとして,何らかの特則を置くべきか否かについて検討すべきものとしておりましたが,本条約において中央当局が子の所在の特定のための適当な措置を採るものとされておりますことから,この手続においては,当初から又は途中から子の所在,すなわち相手方の所在が不明であるような場面はそれほど多くないと考えられますが,そのような場面があったときに,事案によりましては公示送達によってでも手続を進めて,子の返還を命ずる裁判をするのが相当である場合もあり得ると考えられますので,中間取りまとめとしましては,(注2)に記載しておりますように,公示送達の規律も他の送達の規律と同様に,民事訴訟法の規定に倣って設けるものとすることと整理しております。   「15 手続の併合・分離」につきましては,部会資料2において提案しました内容から特に変更はございません。   「16 手続の受継」につきましては,部会資料2において,規律の内容を検討するものとしておりました受継につきまして,場面を分けて整理しております。   まず,(前注)では,この手続における受継の意味につきまして,本手続の性質,すなわち当事者の関与がなくても審理を進めることができる場合も少なくないことを踏まえまして,中断しないことを前提とするものであることを明らかにしております。   (1)では申立人が死亡した場合の受継の規律について,本手続により子の返還を求めることのできる地位は包括承継されるようなものではなく,申立人の死亡により原則として手続は当然に終了するものと考えました上で,例えば第三者が子を連れ去り,監護権を有する一方の親のみが申立人となっていた場合における他方の親のように,本手続の申立てをすることができる者が従前の手続を受け継ぐことができるものとしております。   この場合に手続が受け継がれるかどうかが不確定な状況が長く続くことは相当ではなく,また,他の申立権者は別途,自ら申立てをすることができますことから,受継をするかどうかの考慮期間を1か月として,全体としましては基本的に家事事件手続法45条第1項の規定に倣った規律としております。   次に,(2)は,例えば当事者が子を監護する施設などの機関であった場合に,その機関が合併によって消滅したときには,合併により設立され又は合併後も存続する機関が当然に手続を受け継ぐものとするのが相当ですから,①では,家事事件手続法第44条第1項の規律に倣い,当事者が資格の喪失その他死亡を除く事由により手続を続行することができない場合には,法令により手続を続行する資格のある者がその手続を受け継がなければならないものとしております。   また,②では,①により手続を受け継ぐべき者が自ら受け継がないときに,手続を迅速に進めるために,家事事件手続法44条3項の規律に倣い,裁判所は他の当事者の申立てにより,又は職権で手続を受け継ぐべき者に受け継がせることができるものとしております。なお,(1)の申立人の死亡の場合には,手続を受け継ぐか否かは他の申立権者の選択に委ねればよいと考えられますことから,②に相当する規律は設けないものとしております。   (注)におきましては,相手方が死亡した場合の取扱いについて説明しております。本手続による相手方適格は,先ほど7(2)のところで御説明しましたとおり,現に子を監護している者に認められるものとしておりますので,相手方が死亡した場合でも,新たに子を監護することとなった者が相手方適格を有するものであると考えられます。   このような状況は,例えばこの手続が係属している途中で,相手方が子の監護を放棄したため,子を現に監護する者が代わったというような場合と同じように考えられますので,相手方が死亡した場合につきましては,手続の途中で相手方適格を有する者が代わった場合と同様のものと捉えまして,受継ではなく,新たに子を監護することとなった者が自ら参加するか,又は裁判所が職権で当事者として参加させる方法,先ほどの9(1)②に相当しますけれども,これによって対応すべきものと整理しております。   続きまして,「17 手続の中止」ですが,基本的には部会資料2における考え方と同様に,手続の中止について民事訴訟法130条から132条までの規定に相当する規律を設けるものとしております。なお,部会資料の2では,条約12条3項との関係で,子が他の国に連れ出されたと信ずるに足りる理由がある場合の取扱いを検討項目として挙げておりましたが,子が日本国内にいるということは返還事由の一つでありまして,子が他の国に連れ出されて,短期間のうちに帰国する具体的な見込みがないような場合には,基本的には申立てを却下すべきことになると考えられますことから,この場合を想定した中止の規律は特に設けないものとしております。   17までは以上でございます。 ○髙橋部会長 大谷委員。 ○大谷委員 14の送達ですけれども,申立人が日本国内に住所を有しない場合に,我が国の中央当局を送達場所及び送達受取人として届け出ることができるものとするなどの手当て,今はこの中間取りまとめ案についての意見というわけではないのですけれども,この手当てのことに関しまして,それは多分届け出ることができるものとすると,あるとしてもそういう規律なのではないかと思うんですが,余り例はないと思いながら,想定して質問して恐縮なのですが,申立人に代理人もおらずこの届出もしない場合というのは,この現在の中間取りまとめ案ですと,それは外国送達によらざるを得ないと理解してよろしいのでしょうか。 ○松田関係官 そのように理解していただいて結構でございます。 ○髙橋部会長 倒産事件の申立てなどですと,申立ての誠実性というのがあるのですが,今のは誠実性に欠ける申立てのような気がしますけれども,そこまでの規律はしないということで。1年半掛かっても送達するということでしょうね。   余計なことを申しました。ほかにいかがでしょうか。大谷委員。 ○大谷委員 その場合,非常に審理が遅れると思うんですね。ただ,届けることができるものとするといっても,中にはしないという場合もありますので,その場合は,送達のために日本語で出した書面等を翻訳して,その費用等は相手方に掛かりますし,審理も延びるということになるのは非常に困るなと思うんですけれども,届出の強制はできないのでそれはやむを得ない。審理が遅れることについての影響というものは致し方ないのかなと理解しておりますが,私の意見は,送達にするということに対して異論があるということではなくて,そういう場合が生じ得るということで理解してよろしいのかということなので,仕方ないのだろうと思います。 ○髙橋部会長 送達のうちの(注2)ですが,公示送達は前からいろいろな御意見を頂いておりますが,今回の中間取りまとめといいますか,パブリックコメントの案としてはこういうふうに書いてみてはどうかということです。あるいは,強過ぎるということであればまた考えますが。   16の受継も,民事訴訟法を勉強している人間からすると,中断,受継というのはセットなのですが,ここも民事訴訟法とは違うということで。言葉遣いあるいは概念の使い方が少し違っているようですが,理由を聞けばなるほどなということです。相手方死亡等につきましても,広い意味の訴訟承継ですが,当事者参加の方向で,強制参加で対応するということで,大きくは訴訟承継と基本的な精神が変わるわけではないということでしょう。   では,17までよろしいでしょうか。もう少し進ませていただければと思います。では,18から20の説明をお願いします。 ○松田関係官 では,説明させていただきます。   まず,「18 申立ての方式等」につきましては,(1)申立ての方式のアは部会資料2と同様です。イの申立書の必要的記載事項につきましては,a,bは部会資料2と基本的に同様ですが,申立ての趣旨につきましては,先ほど少し話題に上りましたけれども,本手続によって審理及び裁判をすることを求めるものであることが明らかにされている必要があると考えられますので,申立ての趣旨についてはその点を明確にしております。また,当事者及び法定代理人に加え,本手続により返還を求める子につきましても必要的記載事項に加えております。   あと,部会資料2のほうでは,相手方や子の住所地を必要的記載事項とすべきか否か検討することを提案しておりましたが,この点につきましては,例えばDV等が疑われる事案など,子の住所地を相手方に明らかにするのが相当でない場合もあることなどを踏まえますと,一定の場合には申立人が相手方や子の住所地を把握しないまま申立てをすることも許容する余地を認めるのが相当と考えられますので,このような場合には,住所地以外に相手方及び子を特定し得る情報が記載されていれば足りるとの考え方を前提としております。   また,子の生年月日につきましては,確かに申立書にその記載があれば,条約第4条の要件を備えているか否かの判断に資するものと解されますが,中央当局への援助の申請におきましても,可能な場合に子の生年月日を申請に含めるものとしているにすぎないこと,条約8条2号bに当たりますけれども,その条約の規定との整合性とか,申立て時又はその後に提出されました資料によって16歳未満であることが確認されたのでは足りずに,飽くまで申立書に記載していなければならないとする必要まではないと考えられますことを考慮しまして,子の生年月日につきましては,子を特定する情報の一つではありますけれども,これ自体を申立書の必要的記載事項とはしないことを前提としております。   (2)の併合申立てでは,当事者の便宜や手続経済の観点から,複数の子について返還を求める場合には併合申立てをすることができるものとしております。   (3)の裁判長の申立書審査権では,部会資料2においても提案しておりましたように,裁判長の申立書審査権に関する規律を家事事件手続法49条4項及び5項に倣って設けるものとするものです。   次に,「19 証明責任」では,部会資料2と基本的に同様としております。なお,第2回の部会では本条約の13条2項に定める返還拒否事由,子が返還されることを拒み,かつ,その意思を考慮に入れることが適当である年齢及び成熟度に達している場合という返還拒否事由ですが,これについて相手方の証明責任を認めることの是非が若干議論になりましたが,当事者が証拠資料として提出する資料だけでなく,裁判所が職権探知によって収集した資料も含め,裁判所が自由な心証によって全ての裁判資料を検討・評価しても,なお条約13条2項に定める事由があるとは認められないと判断した場合には,条約13条2項に定める返還拒否事由はないものとして扱われるという意味で,相手方が客観的証明責任を負うと整理するとしても特に問題はないものと考えられますので,本条約の13条2項に定める返還拒否事由の証明責任についても,他の返還拒否事由と同様に扱うこととしております。   次に20ですが,裁判資料の収集方法は,部会資料2においては,家事事件手続法型とするか人事訴訟法型とするかについて検討するものとしておりましたが,迅速処理の要請が特に高いことを考慮しまして,基本的な規律としましては家事事件手続法型,すなわち,事実の調査として裁判所が職権で自由な方式によって裁判資料を機動的に収集することができるものとしつつ,証拠調べについては職権によるほか,当事者にも申立権を認める規律とすることとしております。   なお,証拠調べの手続については,21の(6)に記載しておりますよう,民事訴訟法の証拠調べに関する規定に相当する規律を基本的に設けるものとしております。   裁判資料の収集方法につきまして,一般的な規律としては以上申し上げたとおりとすることとしましても,先ほど御説明しました19において,当事者が客観的証明責任を負うものとした返還事由又は返還拒否事由の基礎となる事実につきましては,基本的には当事者が最もよくこれらを知っていると言えますから,これらの資料の提出を第一次的には客観的証明責任を負う当事者がするものとし,裁判所は必要があると認めるときに補完的に職権で事実の調査及び証拠調べをするものとするのが,当事者に客観的証明責任があるということの手続上の意味を明確にするためにも,また,迅速処理の要請の点からも相当であると考えられますので,20のただし書の部分では,家事審判の手続のうちの審判前の保全処分の手続において当事者が第一次的に疎明義務を負うものとされております規定,具体的には家事事件手続法106条2項,3項に当たりますけれども,この規律を参考にしまして,当事者が客観的証明責任を負う事実については,その当事者が第一次的に証明義務を負うものとしまして,裁判所は必要と認めるときに職権で裁判資料を収集するものとすることとしております。   20までにつきましては,以上のとおりです。 ○髙橋部会長 いかがでしょうか。高田委員。 ○高田委員 内容的には分かりやすさという点から,特にこだわるつもりはないのですが,18の(1)のイのbとcの関係なのですが,民事訴訟ですと,当然のことながら返還を求める子を特定して初めて申立ての趣旨が特定できるということだろうと思うんです。家事審判ですと,申立ての趣旨というのはもっと緩やかな意味で使われていると思いますし,補足説明で書いていただけるのだろうと思いますが,bの申立ての趣旨と理由ということについて,どういう記載をイメージされているのか御説明いただければと思います。 ○松田関係官 bの「申立ての趣旨及びその理由」につきましては,基本的には家事事件手続法と同様に,「申立ての趣旨」と「理由」がそれほどはっきりと分かれるものではなくて,これらが相まって,監護権を侵害されて子を国境を超えて連れ去られたのでハーグ条約の手続に基づいて子の返還を求めるといったことが読み取れればいいかと考えております。 ○髙橋部会長 最終的な条文はどうなのですかね。申立ての趣旨の中に子どもが特定されていなければいけないと。まあ,そうなのでしょうね。 ○高田委員 結構です。ついでながら,今の点に関係するわけですけれども,申立ての趣旨及び理由の,理由のほうですが,子どもが特定されていれば,恐らくハーグ条約によって子どもを返すということですから,理由がなくても申立ては特定できるはずのようにも思えるのですが。法制的な問題かと思いますので,どこかの段階で御検討いただければと思います。 ○髙橋部会長 はい。 ○金子幹事 理由は恐らく何月何日に締約国であるA国から我が国に入国したというようなことを記載するのではないかなと思いますが。 ○高田委員 そこまでしないと申立ては特定されないという御趣旨なのでしょうか。 ○金子幹事 そういう意味では理由がなくても特定している場合は十分あると思います。 ○高田委員 あり得るということですね。ここで特定以上のことを要求するのはいかがかと思いますので,その点も含めて表現を御検討いただければと思います。 ○髙橋部会長 御指摘よく分かりました。清水委員。 ○清水委員 19の証明責任の関係なのですけれども,先ほどの御説明で非常によく分かりますけれども,19の中の証明責任という意味は客観的な証明責任ということであるとすれば,そこに端的に「客観的」という言葉を入れることについては何か問題があって省かれているのか。20のほうで主観的な証明責任のことを触れられているので,これと合わせて読めば分かるという趣旨で省かれているとも想像されるのですけれども。はっきりさせるという意味からすれば,「客観的」ということを入れたほうが明確になるのかなという気もしますので,その辺をちょっと伺いたいのですが。 ○松田関係官 本文のほうは「証明責任」と単に書いておりまして,「客観的」とは書いていないことについて,特にそれほど強いこだわりがあるわけではないのですが,手続法的な用語としては「証明責任」というのがノーマルといいますか,通常の用語であるように思われますので,「客観的証明責任」という用語を用いてよいかどうかというところもありまして,ここは「証明責任」という用語を使っておりますが,補足説明のほうでは客観的証明責任だということで説明しております。ただ,確かに御指摘のとおり,「客観的証明責任」というふうに明確に書いたほうが,その意図しているところが分かりやすいかと思いますので,ここで「客観的証明責任」という用語を用いて特に支障がなければ検討させていただきたいと思います。 ○犬伏委員 私も訴訟法は不案内ですが,通常は「証明責任」という言葉に「客観的」という語をかぶせないと思うのですが,事実の調査とか職権の調査との関係では,最終的にノンリケットの場合の「負担になる」というほうが比較的分かりやすく,あえてここで「客観的」という言葉をかぶせたほうが,ある意味分かりやすいのかなという気はいたしました。正直ちょっとなじまない気はしますが。 ○髙橋部会長 パブリックコメントですから,条文の形式と同じである必要はありませんから,その辺を含めて事務当局で検討させていただきます。 ○山本(克)委員 20のただし書の書き方なのですけれども,「当事者が証明責任を負う事実については」と記載されていますが,そうすると当事者が証明責任を負わない事実があるというふうに普通は読むように思うんですが,そういうことなのでしょうか。それとも,修辞上こうならざるを得なかったというだけのことなのでしょうか。 ○松田関係官 この手続で認定すべき事実の多くのものが,どちらかの当事者が証明責任を負うものに含まれるとは思うんですが,それ以外にも裁判所が職権で認定すべき事実もなくはないと考えられますので。 ○山本(克)委員 それが一体何なのかというのが知りたいのでお伺いしたんですが。 ○松田関係官 管轄を認定する上での事実ですとかがこれに当たるかと思っておりましたが。 ○山本(克)委員 管轄の認定の事実も真偽不明のときにはどちらかに不利に働く,何が有利か不利なのかよく分からないですが,働くはずなので,それはもう客観的証明責任を観念しているんだと思うんですね。ですから,手続上問題になる事実について客観的証明責任はない事実というのは考えにくいのではないかなという気がしているんですが。 ○髙橋部会長 御指摘のとおりですので,この表現は直さなければいけないと思います。説明にもありましたように,言いたかったこと,主として念頭に置いているのは19の規律ということなのですが,それが分かるような表現にすべきでしょう。訴訟要件にも客観的証明責任はあるわけですから,そのとおりだと思います。   ほかにいかがでしょうか。   21は一つですが,長くなりますので,21の説明を。 ○松田関係官 では,21について説明させていただきます。   「21 審理手続」は,部会資料2の21の①から⑩までにおいて検討することを提案しておりました点について,規律を整理しております。   まず,(1)申立書の写しの送付等では,家事事件手続法第67条の規律に倣いまして,アにおいて原則として申立書の写しを相手方に送付すべきものとしまして,イにおいて,申立書の写しを送付することができない場合に,申立人が補正に応じないときは裁判長が申立書を却下すべきものとする規律を設けるものとしております。ここで,「送達」ではなく「送付」としておりますのは,家事事件手続法の規律と同様に,適宜の方法によることができる送付によるものとするほうが,迅速処理の要請にかなうと考えられるためです。   次に(2)事実の調査等のアでは,事実の調査について,家庭裁判所調査官に事実の調査の権限を認めるほか,他の家庭裁判所等への事実の調査の嘱託と,家事事件手続法第58条から第62条までの規定に倣った規律を設けるものとしております。イでは,手続の期日における通訳人の立会い等の措置について,民事訴訟法第154条等の規定に相当する規律を設けるものとしております。   (3)事実の調査の通知では,本手続における迅速処理の要請と当事者の手続保障の調和の観点から,少なくとも当事者が事実の調査の結果について閲覧・謄写をすることができる機会を保障する趣旨で,裁判所は事実の調査をしたときは,原則としてその旨を当事者及び利害関係参加人に通知しなければならないものとしております。   次に(4)電話会議・テレビ会議システムでは,当事者の便宜や迅速処理の要請を踏まえまして,テレビ会議又は電話会議システムを利用して,証拠調べを除く期日の手続を行うことができるものとし,証拠調べの期日の手続につきましては厳格な方法で行う必要がありますので,民事訴訟法第204条等の規定に相当する規律によるものとしております。   (5)の陳述聴取では,アにおいて原則として少なくとも一度は当事者の陳述を聴取すべきものとしておりますが,ここでいう「陳述聴取」の意味については,部会資料2から特に変更はございません。この陳述聴取が審問の方式によるかどうかは裁判所の適正な裁量に委ねることとしておりますが,審問の方法によるとした場合に審問の期日の当事者の立会権については,イでは両案を併記する形にしております。   甲案は,本手続の当事者対立的な構造を考慮しまして,審問の場合には対審的な手続を採ることにより,当事者に攻撃又は防御の機会を十分に与えるのが相当であるとの考え方に基づき,原則として当事者に立会権を認めつつ,事実の調査に支障が生ずるおそれがあると認められるときについては,例外を設けているものです。これに対して乙案では,迅速処理の要請を重視しまして,事案に応じた裁判所の適正な裁量に委ねるのが相当であるとの考え方に基づき,立会権に関する規律は特に設けないものとしております。   (6)の証拠調べの手続では,家事事件手続法64条1項の規定に倣って,民事訴訟法第2編第4章第1節から第6節までの規定のうち,本手続の性質に鑑みて,同様の規律を設けることが相当でないものを除き,民事訴訟法の規定と同様の規律を設けるものとしております。この同様の規律を設けることが相当でないものとしてどのようなものがあるかについては,(注)のところで「なお検討するもの」としております。   この点につきましては,基本的には弁論主義を前提とする規定がこれに当たると考えられるのではないかと思っておりますが,当事者に客観的証明責任及び第一次的な証明義務を負わせることとしている子の返還事由・子の返還拒否事由につきましては,弁論主義を前提とした規定を本手続において導入する余地もあるのではないかと考えられるところでございます。   次に(7)調書の作成等では,部会資料2の21では検討項目としておりませんでしたが,当事者に対する手続保障として,手続の記録化が重要であることに鑑み,(7)では,家事事件手続法第46条の規定に倣いまして,裁判所書記官が原則として期日の調書を作成しなければならないものとしつつ,証拠調べの期日以外の期日については裁判長において調書の作成の必要がないと認めるときは,経過の要領を記録上明らかにすることで足りるものとする規律を設けるものとしております。   (8)審理の終結では,当事者に対し裁判資料の提出期限や裁判の基礎となる裁判資料の範囲を明らかにするために,家事事件手続法71条の規定に倣って,原則として相当の猶予期間をおいて審理を終結する日を定めるべきものとしております。   (9)の裁判日では,裁判がされることに重大な関心を有している当事者が時期的な見通しを持つことができるようにするため,家事事件手続法72条の規定に倣い,裁判所は審理を終結したときは裁判をする日を定めなければならないものとしております。   21につきましては以上でございます。 ○髙橋部会長 手続のやや細かいところかもしれませんが,いかがでしょうか。相原委員。 ○相原委員 (4)の電話会議・テレビ会議システムのところなのですが,これは多分以前の御議論でもありましたが,遠隔地というのは海外にいる申立人というのは想定されないのかどうかいうことが一点です。   それからもう一つ,その関連ですが,陳述聴取があるわけですけれども,例えば家庭裁判所調査官が調査として聴取する場合に,直接な審問という場合は難しいにしても,テレビ会議等を使っての調査,いわゆる直接の調査みたいなものというのは含まれるのでしょうかと教えていただければと思います。 ○松田関係官 まず一点目の電話会議・テレビ会議システムを海外との間でできるかどうかについてですけれども,問題がなければやれるのかなというところで,その問題については,従前から話が出ておりました主権侵害の点があるのですけれども,そちらは別途検討することとしまして,そういった問題がクリアされれば海外とでも使い得るということになるかと思ってはおります。   二点目ですが,調査官が調査としてテレビ会議などで子どもの調査をすることができるかどうかということですが,電話会議・テレビ会議システムは,期日における手続を電話会議・テレビ会議ですることができるということですので,審問の期日や証拠調べの期日などの期日でないとできませんので,調査官による事実の調査を期日でするならできるんですけれども,そうではないときはできないと思います。 ○髙橋部会長 はい,大谷委員。 ○大谷委員 21の審理手続の(1)のイですけれども,申立書の写しの送付をすることができない場合というのは,結局,相手方の所在が分からなくて送付できない場合を含んでいるのかどうかということを教えていただきたいと思います。それは,先ほど14のところで公示送達の御説明で,(注2)では相手方の所在が当初から不明である場合を含め,公示送達により手続を進めることができる余地を残すという御説明でしたが,それとの関係で,14のほうではその余地を残すとされており,こちらで送付をすることができない場合として,公示送達によらなければできないような場合が含まれるのかという関係についての質問です。   もう一点は,私が先ほど送達のところで質問したことに関連しまして,私の理解が間違っていたような気がするので,もう一度確認させていただきたくて質問するのですが,先ほどの私の質問は,例えば申立人が外国に居住していて,中央当局を送達場所として届出をしない場合,かつ,代理人がいない場合,外国送達によらざるを得ないのかという御質問をしたのですが,そのときに考えていたのは,途中の様々な文書送付のことを考えていました。例えば答弁書とかです。   ただ,今の中間取りまとめ案ですと,13の裁判記録の閲覧等の関係等の理解で,文書については,直接送付するとか送達ということではなくて,裁判所に対して提出して,それを当事者が閲覧・謄写をするという造りをお考えになっていらっしゃるので。そうだとすると,例えばですけれども,答弁書はそもそも申立人に送達ということにはならないという理解で考えれば,先ほど私は途中で,もし送達場所を国内に届け出ない人がいた場合,手続が遅延するようなイメージを持っていたのですけれども,それはないと理解してよろしいのでしょうか。そうだとすると,送達すべき文書としてお考えなのは最終的な決定のみということで理解してよいでしょうかという質問です。 ○松田関係官 まず一点目の申立書の写しの送付をすることができないという場合ですけれども,相手方の住所地が分からない場合は,基本的には中央当局の措置によって探すわけですけれども,それを経た上でもどうしても分からないという場合もあり得ると思いまして,その場合に公示送達の申立てがあれば,公示送達の要件を満たしていれば公示送達によって送達して,申立書の写しを送付することがそれでできますので,却下にはならない。公示送達の申立てが申立人からなくて,相手方の住所地もずっと分からないという場合は,補正命令を出した上で却下ということになるのではないかというふうに整理しております。   二点目の答弁書等を相手方に送達することを予定しているかどうかという点ですが,この手続は訴訟手続ではなくて事実の調査を中心としてやることになりますので,答弁書という形で出てきたとしても,それは多分事実の調査の対象の1つという整理になるかと思います。特に主張が書いてあるからということで,他方当事者に送達しなければならないものだというふうに考えておりませんので,事実の調査の一環としてそういった答弁書も見るということで,(3)の事実の調査の通知として,答弁書が提出されています,答弁書という書類を調査しましたよということを知らせる限度だと考えております。   この手続で送達を考えているのは何かということですが,最後の裁判書の告知を,直接の告知ではなく文書の送付でするときは,即時抗告の起算点になりますので,確実に当事者に届ける必要があるということで,そこは送達による必要があるのではないかと考えておりますが,ほかの点については特に送達でなければならないというふうに現在のところでは考えておりません。   取りあえず以上でよろしいでしょうか。 ○大谷委員 今の御回答に対して更に二点。すみません。   一点目は,21の(1)イで公示送達の申立てで送付ができるということですと,先ほど14のところでは,第一読会で議論になりました,当初から相手方の住所が不明である場合も,公示送達によって手続を開始ができて手続自体はできるし,最終的な判断までできるという手続として,今想定されていると伺ってよろしいのでしょうか。   もう一点は,答弁書が出ましたという通知ですが,細かいことで恐縮なのですけれども,やはり申立人が外国に居住しており,代理人がおらず,送達場所の届出がないような場合は,基本的には手紙とか,そういう方法で送られるというふうに理解していいのでしょうか。 ○松田関係官 まず一点目ですが,大谷委員からお話がありましたとおり,相手方が当初から所在が分からないという場合について,第2回の部会の時に少し議論があって,そこまで公示送達で賄うことは相当ではないのではないかという話もありましたが,他方で子の所在地,子の所在地イコール相手方の所在地と考えていいと思うんですけれども,それを特定する措置は中央当局が採るものとされておりまして,中央当局が探してもどうしても分からないといった場合に,だから駄目なんだというふうに申立人の申立てを切ってしまっていいかというところがありまして,手続は進めて裁判を出す必要がある場合もあるのではないかと考えまして,当初から相手方の所在が不明であった場合についても公示送達を認めることとしたというのが14の(注2)の趣旨でございます。よろしいでしょうか,一点目については。   二点目ですが,事実の調査をした旨の通知の方法ですが,特に送達という方法でとは考えていませんので,簡易な何らかの通知でいいのではないかと現時点では考えております。 ○金子幹事 通知にしても,あるいは裁判の告知にしても,これは裁判の告知であって送達による必要は法律上はないとして作っておいて,あとは運用に委ねると。その結果,即時抗告権が侵害されたということであれば,その救済手段を別途採っていただくという話になります。つまり,裁判が告知されたことがきちんと立証できなければ,それは即時抗告期間が始まらなかったということになる。そこまできちんとやるのであれば最初から送達するし,そうでなければ何らかのアクションを待ってやるということもあるかもしれないのですが,そこは運用の問題に委ねようと思っています。ただ,すべからく送達としてしまうとちょっと重すぎると思っていますので,そこは運用に委ねると。ただ,実際は送達による場合が多くなるかもしれないという趣旨です。 ○髙橋部会長 3時を過ぎておりますが,22から28までやってみたいと思います。   説明をお願いします。 ○佐野関係官 では,22から28までご説明致します。   22番は,「中央当局と裁判所の関係等」ですけれども,ここは,これまで中央当局と裁判所の関係を各論点ごとに分けて検討していたかと思いますけれども,それを分かりやすさの観点から一まとめにしたものです。   具体的には,②につきましては,中央当局の調査・協力の在り方はなお検討するものとしております。   また,③につきましては,部会資料から特段の変更点はございません。   一方,①と④につきましては,今回新たに提案するものですけれども,具体的には裁判手続の開始又は終了の際にはその旨を裁判所から中央当局に通知することを提案しております。   一般的に子の返還の援助申請を受けている中央当局としましては,子の返還の裁判手続の状況については把握しておくことが望ましいと思われますし,また,裁判手続が開始したことは,条約第11条第2項の遅延理由の説明の起算点になりますから,その点から①の提案をしております。また,裁判手続が終了した場合につきましては,中央当局の援助も同じように多くの場合は終了するものですから,この観点から④の提案をしております。   (後注)としまして,13番で検討しました裁判記録の閲覧等についての中央当局の規律を記載しております。実際のところ中央当局が裁判記録を閲覧あるいは謄写する必要はどのよう場合かというのは必ずしも明らかでないため,閲覧・謄写に中央当局特有の規律を設けるかどうかについては,ここでは(後注)で「なお検討するもの」と付記するにとどめています。   次に23番と24番,25番,26番につきましては,各々部会資料2から特段の変更点はございません。   次に,12ページの「27番 条約第16条関係」ですけれども,ここでは,部会資料2での提案を基に,更に裁判所が判断してはならない監護の権利の本案の範囲についてブラケットを付す形で提案しております。この点につきましては,親権者の指定又はその変更についての裁判についての判断が禁止されるというのは条約16条から明らかと思うんですけれども,これに加えまして,ブラケットの中ですけれども,例えば面会交流であるとか,養育費の取決め,更には子の引渡しといった,子の監護に関する事項についての判断も常居所地国において判断するべきであって,我が国の裁判所は判断してはならないとも考えられますので,ブラケットという形で付記しております。   ただ,実際問題としては,子の返還手続が進行している場合であっても,現在の監護状態を前提に暫定的な面会交流を日本の裁判所で取り決めたり,あるいは,養育費を暫定的に支払うような裁判をすること,あるいは,調停においてその旨を協議するということは可能であると思いますし,ハーグ条約に基づく子の返還の裁判と並行してこのようなことを審理することにより,かえって子の返還の手続が友好的に解決するということも想定されますから,子の監護に関する事項,ブラケットの中について判断することが禁止されるわけではないのではないかと考えております。   その後の(注)ですけれども,本案の裁判が係属している場合に,不法な連れ去り又は留置があった旨を通知する方法について,具体的には誰がどのようにしてどの裁判所に通知するかについては,「なお検討する」としております。   最後,「28番 条約第17条関係」ですけれども,ここでは,条約第17条と同旨の規定を国内法に設けることを提案しております。既に監護権等の判断がされていることをもって,子の返還を拒否してはならないということは明らかと思いますが,この点,国内担保法に明確にすることによってその旨が表れるほうがよろしいのではないかとも考えられます。   また,条約第17条によりますと,例えば条約第13条の返還拒否事由の存否の判断の場合には,既存の監護に関する決定の理由を考慮することができるとされていますので,この点も明確にするのが望ましいと考え,条約17条を担保する規定を設けるのが相当ではないかという提案をしております。 ○髙橋部会長 いかがでしょうか。村上幹事。 ○村上幹事 22の④なのですが,本手続が終了した場合というのは具体的にはいつの時点を指して,決定が出た時点なのか,それとも執行まで全部終わった時点なのか,ちょっと細かいのですけれども,中央当局の関わり方にもよると思うんですが,どの時点を指していらっしゃるのでしょうか。 ○佐野関係官 今の段階では,裁判が確定した場合と和解や取下げで終了した場合を想定しています。執行後に初めて通知するのであれば,子の安全な返還ということも中央当局の任務としてありますので,ちょっと遅すぎると思っています。 ○髙橋部会長 相原委員。 ○相原委員 27の条約第16条の関係ですが,子の返還命令の申立てが決定されるまでの間に判断をしてはならないという対象としては,この流れでは離婚の調停とか訴訟というのも当然ストップすると,そういう理解でよろしいでしょうか。 ○佐野関係官 例えば,離婚裁判の場合ですと,親権者の指定を附帯処分で命じなければならなくなっていますので,そうすると自ずと本体の離婚訴訟の判断もストップしてしまうと考えています。 ○棚村委員 27の今の関連で,先ほどの養育費とか面会交流についても,条約の16条の監護の権利についての判断ということの中に含めて考えておられるのでしょうか。要するに,離婚訴訟に付随して附帯事項についても争われるということが起こるかと思いますけれども,養育費とか面会交流とか,例えば虐待などが起こって,古谷委員が前に言われたと思いますけれども,親権者の職務執行停止とか代行者の選任とかいう保全処分がありますよね。こういうような緊急的なものについても,前にちょっと御意見を申し上げたのですけれども,むしろそれは判断をしないのか,状況に応じて全て判断させるということだと,監護についての,本案についての判断はさせないと。そうすると,保全処分でしかも付随することについても含まれるのですかね。つまり,さっき言った暫定的な養育費だとか,当面の面会交流とか接触というのは,今すぐでもしなければいけないことはありますよね,そこまで拘束が掛かってくるのですかね,16条の解釈として。ちょっと御質問です。 ○佐野関係官 そこは,面会交流とか養育費を止めるべきかどうかについては,このブラケットの中をどう扱うかでして,先ほど御説明したとおり,そこまでのことはしなくてもいいのではないか,面会交流や養育費の取り決めがされることは,かえって返還の友好的な解決につながることにもなるのではないかと考えております。ただ,提案としましては,この点の検討がこれまで部会資料2,3においてされていませんでしたので,今回そのような形についてブラケットという形で委員幹事の皆様の御意見を聴こうという趣旨でございます。 ○大谷委員 今の関連なのですが,中間取りまとめ案を見て,パブリックコメントで意見を言う立場から見ますと,このブラケットの使い方が若干分かりにくいかなという気がしまして,もう少し丁寧に,このブラケットを入れないものか,ブラケットを入れるようなものかという聴き方に,(注)か何かで説明していただくと親切なのかなと思いました。   それから,条約の解釈は法務省とか外務省の専門の方にお願いしたいのですが,16条は一応「merits of rights of custody」という言い方なので,一般的に面会交流とか養育費の判断をしてはいけないというところまで条約は言っていないのではないかと考えます。ただ,今の16条の中間取りまとめ案でブラケットを含まない書き方の中では,親権者の指定又はその変更で,子の監護に関する事項の中に,先ほど面会交流や養育費,引渡しとおっしゃったのですが,監護者の指定・変更は「rights of custody」のメリットに当たると思いまして。そこは意見で言えばいいのかもしれないのですが,子の監護に関する事項の中でもまた更に細かく場合分けして考える必要があるのではないかと。それが今の聴き方で十分聴いていることになるのかという辺りが少し懸念されますので,この聴き方についてもう少し整理,御検討いただけると幸いです。 ○佐野関係官 事務当局としましては,ブラケットの中まで判断を止めるということは相当ではないのではないかと考えておりますので,部会の委員・幹事の皆様の御了解が得られれば,このブラケットを取った形の「親権者の指定又はその変更についての裁判」という形でパブコメに付すことも考えたいと思います。 ○大谷委員 監護者の指定はむしろブラケットの外に出していただきたいと。すみません,今の私の発言が明確ではなかったかもしれません。 ○佐野関係官 監護者の指定を外に出した上で,面会交流等の子の監護に関する事項を除いた形でパブコメに付すということでよろしければ,それはそれで変更したいと思います。 ○髙橋部会長 清水委員。 ○清水委員 御承知かもしれませんけれども,監護者の指定の本案とともに,子の引渡しが本案で求められることが一般的かと思います。ですので,監護者の指定と子の引渡しを分けて考えるとなると,実務的には非常に混乱を来すという感じがしております。 ○髙橋部会長 豊澤委員。 ○豊澤委員 22の④の関係で,中身に異論があるというわけではありませんが,一言申し上げます。先ほど佐野関係官の御説明の中で,手続が終了した場合,中央当局の援助手続そのものも終了するのが通常だからということでしたけれども,子の返還命令が却下された場合は確かにそうだと思いますが,返還を命ずる裁判が確定した場合には,引き続き子の安全な返還に対する援助という中央当局の役割は残っているはずだと思います。補足説明のレベルで,少し工夫していただければと思います。 ○村上関係官 22の②の中央当局による裁判資料の収集の関係でちょっと理解を確認しておきたいところがございます。先ほど19と20で証明責任の話が出た関係ではあるんですけれども,中央当局として裁判資料の収集に協力を求められる中には,当事者が証明すべき資料,事実等は含まれないという理解で正しいのか。すなわち,返還拒否事由等は相手方が立証すべきであるという建前になっている中で,それに関連する資料等を中央当局を経由して収集するということが想定されているのかという点を確認できればと思います。 ○佐野関係官 ここは,基本的に相手方が証明責任を負うか,誰が証明責任を負うかということとは関係なく,一般的に外国にある証拠にアクセスできにくいと,その証拠偏在の問題から中央当局がそれを補えるかどうかという話ですので,特にそのような切り分けはせず,一般的に中央当局がその証拠を外国の中央当局に頼むなりして収集することが適当かどうか,また現実的かどうか,やれるかどうかについてなお検討するという部会資料2の提案のままになっています。 ○村上関係官 今の点は,当事者が証明すべき事実があるけれども,証拠のアクセスが困難であると,それについて中央当局がヘルプをするということを想定されていらっしゃるということかと思うんですが,その場合,中央当局が,片方の当事者の代理ではないですけれども,証拠収集を行うというような形になってしまわないのかなという,これまで議論を踏まえての整理に対する疑問があるのですけれども,その点はいかがでしょうか。 ○佐野関係官 片方の味方をするという面もあるのかもしれませんけれども,国境をまたいで向こうの国にある証拠は集めにくいというアンバランスが生じているので,そのアンバランスを中央当局の助力によってバランスの状態に戻すという位置付けとして理解していただければと思うのですけれども。例えば証拠偏在の問題で,証拠が集めにくいときに立法措置において片方のかさ増しをするということもよくあるので,今回は中央当局がかさ増しすることができるかどうかという運用上の問題として考えていただければと思います。 ○棚村委員 基本的には中央当局の任務をどういうふうに解するかということですけれども,裁判所が適切な返還の命令について,あるいは,判断するについて必要な資料を入手し難いときというのはあると思うんですね。そういうときに,中央当局が外交的なルートとか他の中央当局との連携というようなことで,必要な書類を提供するということなので,証明責任ということで特にどちらかに偏るというのではなくて,裁判所が判断をするについて,必要な範囲でできる限りの資料収集の協力をしてもらうという位置付けだと理解しています。 ○古谷幹事 若干補足しますと,証明責任が課されている事実でも,場合によっては裁判所が職権で資料収集するというケースがあるように思われます。その情報が海外にあるという場合には,裁判所のほうから中央当局に対して嘱託なり何なりの手続を採ることも想定されていると思うので,証拠の偏在を何らかの形で,裁判所から中央当局に嘱託等をするか,当事者自身が中央当局に申し立てるかという,ルートの違いはあるにしても,それは制度上予定されているという認識です。 ○大谷委員 今の「なお検討するものとする」の中身なのですけれども,今,皆さん発言されたように,職権でいろいろな資料収集をされるということはあって,ただ海外にある証拠について中央当局がどのように収集できるかということは,相手国の中央当局に委託するのかとか,中央当局自身の任務,権限,あるいは,相手国のほうの体制に関わってくると思うんですね。そうすると,中間取りまとめ案で「なお検討するものとする」という,こちらの返還手続の関係で更に検討する予定のものというのはどういうことになるのでしょうか。 ○佐野関係官 ここは,どういうルートで例えば調査嘱託をするのか,あるいは,当事者が任意に中央当局にお願いして飽くまで当事者ルートでやるのか,証拠を裁判所に提出,顕在化するようなルートはどのようなものが考えられるのかについて,この部会ではなお検討するという提案になっております。 ○村上関係官 その観点ですと,条約の7条のdの「望ましい場合には,子の社会的背景に関する情報を交換すること」というのが中央当局の任務として定められていますので,基本的にはこの範囲に限られる。大谷委員がおっしゃったように,相手国の中央当局からどれだけの情報が出てくるのかというのは,相手国次第というところがあらざるを得ないということは考えているところでございます。 ○髙橋部会長 よろしいでしょうか。   では,ここで休憩を設けます。           (休     憩) ○髙橋部会長 それではまた,まとまったところということで29番から33番までの説明をいたします。 ○松田関係官 では,説明させていただきます。   まず,「29 裁判」では,(1)として,主文については基本的に裁判実務の運用に委ねるものとすることにしますが,具体的な在り方についてはなお検討するものとしております。これは,前回の部会において提案したとおり,主文の在り方について,法律事項として詳細な規定を置くのは相当でないものの,申立ての方式や執行方法とも深く関連するところでございますので,引き続き検討するものとしているものでございます   次に,(2)のundertakingについては,部会資料3と同様,特別の規定を国内法において設けないものとしております。なお,部会において議論がありました「規定を設けない場合でも,当事者の約束を和解条項の中に盛り込んだり,裁判の理由として考慮することは可能である」という点については,補足説明において記載する予定でおります。   次に,「30 裁判の効力の発生」は,部会資料3から変更はございません。   次に「31 裁判の取消し」では,部会資料3の31の2と同様に,本手続において裁判の取消し等の制度を設ける必要があることを前提に,その裁判の取消し等の制度の規律として,前回の部会での議論を踏まえまして,甲案及び乙案の両案を併記するものです。なお,甲案及び乙案のいずれにおきましても,当事者の申立てを待ってするものとして,職権による裁判の取消し等の規律は設けないものとしております。   また,子の返還を命ずる裁判が執行された後は,裁判の取消し等をすることができないものとしておりまして,そのことを前提に,取消し等の申立てに伴って,子の返還を命ずる裁判の執行停止の制度を設けることを想定しております。また,子の返還を命ずる裁判の主文がある程度具体的な事項を含む場合も想定され得ることや,乙案においては申立てを却下する裁判もその一部を規律の対象に含めるものとしておりますことを踏まえまして,現段階では取消しだけではなく,変更も認める規律として考えております。   甲案,乙案の具体的な中身ですが,まず甲案につきましては,部会資料3に基づき,前回部会で事務当局のほうから提案しておりました規律とほぼ同様の考え方によるものであります。具体的には,子の監護環境の早期安定及び法律関係の早期確定を図るため,不服申立ての方法を即時抗告とした趣旨を踏まえまして,裁判時の事情については,裁判確定前は即時抗告によって,裁判確定後は再審によって対応すべきものとし,即時抗告や再審によっては対応できない裁判確定後の事情変更を理由とする場合に限定して,裁判の取消し等を認めることとしているものです。裁判確定後の事情変更に限定した場合には,子の返還を求める申立てを却下する裁判の取消し等を認める必要はないと考えられますので,甲案では子の返還を求める申立てを却下する裁判はその対象に含めないものとしております。   この甲案に対しては,前回の部会で,必要な場合が含まれなくなってしまわないかといったいろいろな意見が出されましたので,乙案は,前回の部会での御意見を踏まえまして,裁判確定後の事情変更に限定することなく,その裁判を維持することが不当であると認めるに至った場合や,維持する必要がないと認められる場合を広く対象に含めるものとした上で,子の返還を求める申立てを却下する裁判についても,裁判時に存在した事由を理由とする場合には,条約12条2項との関係で,裁判の取消し等の規律で対応する必要があると考えられますので,裁判確定後の事情変更による場合を除き,規律の対象に含めることとしております。   この乙案に対しましては,法律関係の早期安定のために,不服申立ての方法を即時抗告に限定した趣旨との関係ですとか,不当な裁判の蒸し返しが起きることが懸念されるとか,再審事由があった場合には取消し変更も再審もいずれも求めることができることになってしまうといった問題点もなおあるかと考えられます。   (注)では,乙案を採った場合に期間制限を設けるか否かという点や,甲案及び乙案のいずれでも取消し変更の裁判をするには,両当事者の陳述を聴かなければならないものとするかといった点など,手続の詳細についてはなお検討するものとしております。   次に,「32 取下げ」につきましては,事件の終了について当事者にイニシアチブを与えまして,申立てを取り下げることができるとする点に変更はありませんが,相手方の同意の要否に関する規律について,前回の部会において一定の場合には相手方の同意を要するものとすべきとの議論がされたことを受けまして,子の返還に関する裁判がされた後は,相手方の同意があることを効力要件とすることを提案しております。   これは,裁判がされた後は,裁判所の判断を無駄にすべきではないと一般的に言えること,返還命令の裁判に既判力がないとしても,裁判が出た後はその裁判の確定及び法的安定に対する相手方の信頼が保護に値すると言えること,家事事件手続法においても,相手方のある裁判においては,原則として裁判後相手方の同意を要するとしていることを理由とするものです。これについては,相手方が何らかの書面を提出するなどした後は相手方の同意を要するとする意見もございましたが,相手方が裁判を得ることについて法的な利益を有しているとまでは言えず,事実の期待にすぎないと考えられますことから,裁判後に限るものとしております。   続きまして,「33 不服申立て」では,部会資料3と同様に,子の返還を命ずる裁判の効果の重大性や,迅速処理の要請,子の監護環境の早期安定を図る必要性などを踏まえまして,不服申立ての規律としては基本的に即時抗告の方法によることと整理した上で,(1)即時抗告のうち,アの即時抗告権者については,部会資料3と同様に,当事者に即時抗告権を認めるものとしつつ,前回の部会での議論を踏まえまして,子の即時抗告権を認めるかどうかについては,(注)においてなお検討するものとしております。   イの即時抗告期間,ウの抗告審の手続,更に(2)特別抗告及び許可抗告,及び(3)手続的な裁判に対する不服申立てについては,部会資料3と同様です。   (4)再審については,基本的には部会資料3と同様ですが,子の返還の申立てを却下する裁判についても,条約12条2項との関係から再審の対象になるものとし,子の返還を命ずる裁判が執行された後は,裁判の取消し又は変更の場合と同様に,再審を認めないものと整理しております。なお,裁判の取消し又は変更の規律として,乙案を採用した場合には,裁判の取消し又は変更の対象と再審の対象とが相当程度重複することになりますから,その相当性や規律相互の調整の要否等について検討する必要があると思われます。   33までにつきましては以上です。 ○髙橋部会長 御意見,御質問をお願いいたします。山本委員。 ○山本(克)委員 31等で「子の返還を命ずる裁判が執行された後」という言葉が何度か出てくるのですが,そのときの間接強制が主としてと,あるいはそれだけだという議論だったと思うんですが,その場合の「執行された」というのはいつを考えたらよろしいのでしょうか。 ○松田関係官 すみません,ここは言葉が余り正確ではなかったかもしれませんが,基本的には子どもが常居所地国に帰ったらということを想定しておりましたので,その実質がきちんと出るような表現にしたいと思います。 ○山本(克)委員 強制執行ではないというくくりで,任意の場合も含むのであれば,そういうふうにしていただいたほうがいいと思います。   それから,31の変更の裁判の主体は,今後詰めればいいことなのかもしれませんけれども,変更の対象である裁判をした裁判所なのか,第一審なのかというのがあると思うんですが,それについてはまた追って検討するということでよろしいんでしょうか。 ○松田関係官 その点についてはまだ詰めて考えておりません。裁判時の事情を理由としているのか,裁判確定後の事情変更を理由としているのかによっても変わってくるかもしれませんので,そこはまた検討させていただきたいと思います。 ○髙橋部会長 大谷委員。 ○大谷委員 29(1)の返還命令の主文ですが,補足説明が付くのかどうか分からないんですけれども,どういうことが問題になっているのかということの説明がないと意見が述べにくいのかなと思います。 ○佐藤関係官 こちらの補足説明につきましては,基本的には前回の部会資料において補足説明部分としていたところと似たようなもので,こういうものが具体的には考えられるけれども,これにはこれこれのような問題があるのではないかと,執行方法との関係もあるのではないか,というような説明をする予定でおります。 ○髙橋部会長 村上幹事。 ○村上幹事 その場合の主文の在り方なのですけれども,前回の議論では,undertakingの内容となるような義務のうち,子の返還をする前に可能な義務は,引換給付みたいな感じで主文に載せるというような議論が確かあったと思うんですけれども,それもまだ考えられているのですか。 ○佐藤関係官 undertaking的なものをどういうふうに扱うかという点につきましては,国内で返還前に履行が可能なものと,それ以外,返還後に履行されるようなものとを分けて考えるべきではないかという点については,何らか補足で説明しようかと思っておりますけれども,引換給付のようなことが考えられるというところまで具体的に記載するかどうかは,ちょっと検討というところになるかと思います。 ○村上幹事 具体的な在り方についてなお検討するということなので,今はいいです。また次回に。 ○髙橋部会長 この辺は更に検討しなければいけませんが,取りあえずパブリックコメントといたしましては,31の取消しのところは両論併記でパブリックコメントには付したいと思います。   32は少し踏み込みまして,相手方の同意は裁判がされた後は例外として,基本的には相手方の同意不要ということなのですが,前回いろいろ御議論ありましたけれども,これでパブリックコメントに付すということにしてあります。   以上のようなところでよろしいでしょうか。それでは,34から37にかけてお願いいたします。 ○佐藤関係官 「34 子の返還の実現方法」では,前回の部会におきまして,間接強制以外の手段についても積極的に検討すべきであるという議論がされたことを受けまして,パブリックコメントに付す案としましては,間接強制のみの提案とはせずに,「ただし,他の方法についてもその実現の可能性を含めてなお検討するものとする」とすることを提案しております。その上で,考えられる具体的な手段や問題点につきましては,前回の部会で議論しました内容を踏まえて,補足説明に記載することとしております。   また,部会資料2では,本文に記載しておりました履行勧告については,強制力のない手段でもありますので,他の民間型ADRの活用や,中央当局の役割等と併せまして補足説明で記載することを考えております。   「35 調停・和解」ですが,本文に和解を入れた点以外は部会資料2と同様です。補足説明におきまして,本手続においても調停の利用が考えられるけれども,なじむかどうかという懸念がある上,検討すべき問題点があることや,本手続においては和解の導入というのも考えられることなどを記載する予定でおります。   なお,現在,(注1)として記載しております部分は,本文において「和解」の文言を入れたことから,パブリックコメントに付すものからは(注1)自体削除することとしたいと思います。(注2)とある部分は,内容的に運用の問題ではあるのですが,諸外国において子の返還をめぐる事件で任意の返還を実現する手段として民間型ADRが活用されていることから,それについても触れたものであります。   「36 保全的な処分」ですが,子の返還申立てが係属する裁判所が,返還を求める子の安全を確保して,国外への連れ去りを防止するために必要な保全処分を命ずることの適否及びその規律についてはなお検討するものとしております。その上で,前回の部会において多く議論がございました出国禁止命令や,旅券の一時保管命令を一例として紹介しまして,問題点を検討しやすくしているものであります。   「37裁判官ネットワーク」では,諸外国の裁判官との連携につきましては,今後の運用に委ねることとしつつ,その在り方についてはなお検討する旨提案しております。裁判官ネットワークは,条約上当然に予定されているものではなく,また,その規律を法律等において設けることは適切ではなく,裁判所における今後の運用に委ねるのが相当でありますが,実際にどのような場面でどのような利用が考えられるかについては,なお明らかでない点が多いため,その在り方についてはなお検討するものとしているものです。   以上です。 ○髙橋部会長 いかがでしょうか。大谷委員。 ○大谷委員 37の裁判官ネットワークにつきまして,これも補足説明で加えられるのかもしれないのですが,裁判官ネットワークというもののイメージが湧きにくいと思いますので,どういったものか,例えば,これに参加している締約国では裁判官ネットワークに参加する裁判官の指名をして,ハーグ私法会議事務局が事実上事務局のようになって,その名前がお互い分かるとか,何かもう少し説明を加えていただけるとよいのではないかと思います。 ○髙橋部会長 村上幹事。 ○村上幹事 34の子の返還の実現方法なんですけれども,補足説明が入れば分かりやすくなるのかもしれませんが,原則は飽くまでも間接強制という趣旨なのでしょうか。それとも,直接強制とかも含めて他の実現方法も並列で考えるという趣旨なのか。ちょっと分かりにくいので説明をしていただきたいと思います。 ○佐藤関係官 原則例外というような位置付けで説明するということは考えておりませんで,本文をこういう書き方にしているのは,間接強制は法律上特に障害なくできるだろうと。それ以外のものについてはなお検討するとしているだけで,それ以外のものをもし取り入れるとした場合に,採り得る間接強制とほかの手段との関係をどうするかというのは今後の検討に委ねるということにしておりますので,原則例外という形では記載しない予定でおります。 ○髙橋部会長 御指摘のとおり,補足説明でどう書くかによってニュアンスは全く変わってくるのでしょうが,実現可能性を含めて検討するというと,それほどポジティブな方向で検討するわけでもなさそうだというニュアンスかもしれません。いやいや,これはどう読むかです。むしろ村上幹事としては,例えば今申しましたように,「その実現可能性を含めて」を削れというような御提言であれば,それをまたお伺いしたいと思うのですが。 ○村上幹事 実現可能性を消してしまうともっと積極的に……。 ○髙橋部会長 そうそう,そうなりますね。 ○村上幹事 私としてはそのほうが前向きでいいかなと思いますが,いろいろ実務上のこともあると思うので。 ○髙橋部会長 前回の御議論のようになかなか難しい問題もあるようですが。 ○清水委員 繰り返しになるかもしれませんけれども,ハーグの基本的な枠組みが常居所地国への返還と,そして,基本的にはなす債務と。そして,申立人に引き渡せという主文ではなくて常居所地国へ返還せよと。そういった主文に対応する強制執行ということになると,直接強制というのはなかなか難しいのではないかなというところははっきりしておいたほうがいいのかなと思います。執行ということを考えた場合には,主文とそぐわない執行というのは問題だし,現場がそれで非常に混乱しますし,そこはきちっとハーグの枠組みに乗って考えていかないといけないのではないかなと思います。 ○髙橋部会長 最終的には事務当局の責任で補足説明は書くわけですが,そういう御意見が部会でも強かったことは当然含めて書くのでしょうね。 ○棚村委員 また繰り返しますけれども,海外でも,子どもなので,物の執行ではありませんから,直接強制とは言っても相当いろいろな工夫をしています。ハーグは新しい手続ですから,それに見合った執行方法の可能性も工夫をしていくということで,この表現でよろしいのではないでしょうか。というのは,海外では,犯罪になって,なおかつ日本も同じように刑罰でもって間接的に強制するような人身保護もあるわけです。そういうようなことも含めて,一番効果的で,一番子どもに優しい方法みたいなことの検討をするということを補足説明の中に書いていただいて,一番いい方法を追求することはあり得ると思います。直接強制,間接強制という今の執行の枠組み自体がいいのか悪いのかということも含めて,少し検討するという幅を持たせていただければなと思います。 ○大谷委員 今の点に関連するのですけれども,これもまた前回の繰り返しになりますが,直接強制ありきという意見を申し上げたいわけではないのですが,間接強制だけでよいのかと。今,棚村委員もおっしゃいましたけれども,ほかの国で今いろいろな方法を試みているという,その「いろいろな方法」というところをもう少し丁寧に検討できないかという問題意識を持っております。   その関係でお伺いしたいのは,こちらの法制審のほうでは,返還手続との関係でその実現方法,端的にいうと間接強制を認めるのか認めないのか,間接強制まではいいとして,直接強制を認めるのか認めないのかという議論で終わってしまうのかなという感じを持っていまして。他方で,返還命令が実際に出た後にそれを具体的に,その後においても任意的な返還というのはあり得ると思うんですが,そこに中央当局がどのように関与できるのかということは,外務省の懇談会のほうのマターになっているような気がするのですね。そこで行ったり来たりしているうちに,その検討が落ちてしまうというのが懸念されまして。   そういう意味では,こちらの検討では間接強制,直接強制というのではない,いろいろな専門家がかんでとか,そういうことはこちらの検討課題として入ってこないのか,それとも,この「なお検討するものとする」ということに含んでおられると理解してよろしいのでしょうか。 ○佐藤関係官 今の御質問の中にありました専門家がいろいろかんでという手段が,裁判手続外の手段を想定されているとすれば,基本的にはそのイメージ等について議論すること自体は,イメージ作りのためにいいのかもしれないですけれども,法制審が直接対象としているものではないという整理ができるのではないかと。裁判手続としてどういうものを組むかということをここでの対象にするものと考えております。 ○髙橋部会長 横山委員。 ○横山委員 34の子の返還というときは,前提として子の常居所地国への返還というのが前提になっていると思います。しかし,例えば申立人である父がアメリカ人の軍人とか軍属で,奪取後横田基地に配属になったというふうな場合に,わざわざアメリカに返還する必要はないので,その父に引き渡せばよろしいのではないか。これが条約の趣旨なのだろうと思うのです。返還といったときは常に常居所地国というのが前提になった議論になっているのだと思いますので,そこのところは留保を付けないといけないのではないかなと思います。 ○髙橋部会長 辻坂幹事。 ○辻阪幹事 基本的には子どもが住んでいた国の裁判所で本案について決着するのが望ましいという考え方ですので,お父さんの元に返すということではなくて,住んでいたところに返すというのが条約の趣旨というふうに理解しております。 ○横山委員 そうすると,今のような場合には条約のルートには乗ってこないんだという趣旨なんですか。 ○棚村委員 先ほどの取消しとか再審とかいう話で,ちょっと事情によりますけれども,先ほどの軍属の話で,そこにいらっしゃって,受入先が大きく変わってしまったということです。それは判決後なのか判決時に存在したのかにもよりますけれども,重大な事情の変更があって,お子さんがそこで暮らすことが幸せということになると,やはり場所の問題なのではないかと私も理解しています。最終的に,先生がおっしゃった例で,その方がいる場所でお子さんが暮らすことが幸せだということになれば,返還を常居所地にするという判断をしたのが,後の事情変更で取り消されたり,不当だということで変えるという手続になるのではないかなと私も思うのですが。   ですから,基本は元の常居所国に戻して,そこで慣れていたのだから,いきなり連れ去られたんだから,それを原状に戻してやる。たまたまお父さんが転勤したり,どこか場所を変えて,そこで受け入れるということになったら,そこで暮らすことがお子さんが幸せで,常居所地国に戻すことが不当なのだという事情でもって,再審なのか取消しなのかという形で対応されるのではないでしょうか。 ○横山委員 条約の中には常居所地国に返還をするというふうに書いてないんですね,意図的にそういうふうに書いてないんです。それは今言った横田基地の軍属のような例があるからなんですね。常居所地国に返還をするとは条約は絶対言っていない。それは意図的なものなので,ここのところは留意しておかないと駄目です。 ○棚村委員 僕も分からないので教えていただきたいのですが,常居所地国で監護をめぐって,そこで将来的に子どもが暮らすのが幸せなのかどうかはそこでやる。そういうことをする前に,あるいは,している最中に連れ去られているような場合には,あるいは,それをした直後に連れ去れた場合には,一旦そこに戻すという考え方が前提になっているのかなと思って発言したのですが。 ○横山委員 原則は多分棚村先生がおっしゃっているパターンだと思います。 ○髙橋部会長 取りあえずはその原則形態でパブリックコメントに付すというようなことで。 ○横山委員 そこのところは割と議論になって,条約を作成する段階でも常居所地国への返還を入れるのか入れないかについては議論があって,意図的にそれを入れなかったということは考えておかないといけないということで,パブリックコメントも,これは常居所地国への返還ということを前提としたことなのだということは断っておいたほうが正確だと思います。常居所地国への返還が求められているという場合ですよね。 ○犬伏委員 教えていただきたいのですけれども,そういう場合,判決の主文はどうなるんですかね。先ほどは,常居所地国への返還ということで,清水委員などもそういう発想で,執行の問題も考えるとおっしゃられたわけですが,運用に任すということなので,具体的にはないと思うんですが,そういうときは父に返還するということになるのでしょうか。 ○横山委員 私もそう思います。それはデシジョンメーク。だけど,常にこの条約は必ずしも常居所地国への返還を対象にしたものではないのだということは頭に入れておかないといけないと思います。 ○棚村委員 ちょっとお聞かせいただきたいのですが,主文というときにほかの国のをいろいろ見ていますと,常居所地国に住んでいた,例えば住所ではなくてそこの国という場合も,それから,州だったら州にという場合と,段階的に二段階でもって,細かくなればなるほど,前に住んでいた場所を指す場合,そして,そこに返還しろという場合もあります。もっと細かく言うと,どういう方法で飛行機に乗せてここに戻せというものまであります。ただし,先ほど言ったような形でその受入先の親がもうどこかに移っていたというときに,主文としてその親に引き渡せという形になるのでしょうか。親が移動していて,元の居住国で子どもを育てられないという事情がいつ発生したかによると思うのですけれども。 ○横山委員 条約はそういう場合も入っていると思うんですよね。父に返せと,むしろ子の利益ということを考えると,父にダイレクトに返しなさいという,直接強制で引き渡すということもあり得るんだろうと思います。 ○棚村委員 僕,学生から質問されたことがあるのですけれども,例えば外国人の夫婦が日本に住んでいて,一方がアメリカとかドイツとかフランスに連れ帰ったと,そしてまた元の日本の違う場所に戻ってきたという場合に,ハーグ条約に基づいて返還手続を取ることになるのでしょうか。 ○横山委員 それは常居所地国がどこにあるかがまず問題ですよね。 ○棚村委員 はい。日本で住んでいたわけですよね。 ○横山委員 それは常居所地国をどういうふうに定義するかの問題ではないですか。 ○棚村委員 なるほどそうですか。 ○大谷委員 今のところは大変重要なところで。すみません,別に中間取りまとめ案についての意見ではないのですけれども,条約そのものの理解として,少なくとも私ども日弁連の中で様々議論している中で,この条約は飽くまで常居所地国への返還について定めているのだということで,条約についても様々懸念がある中,必ずしも申立人への返還までは想定されていないと。むしろこれは執行の問題で,申立人が任意に引き取るとか,引渡しを命ずるようなことがあるかもしれませんけれども,条約そのものの元々の趣旨としては申立人への引渡しを想定しているものではないという理解の下これまで議論してきたものですから,是非そこは事務当局のほうでも明らかにしていただけると有り難いです。   私はこの条約について専門的な発言できるほどの知見はございませんが,そこは非常に重要な問題なものですから,これまで条約についての説明をするときには,常居所地国への返還について定めた条約だと説明し,横山先生おっしゃるように,条文をあれこれ探しましても「常居所地国への返還」という言葉がはっきり出てこないのですが,前文の中に「prompt return to the State of their habitual residence」という言葉がありまして,前文がこのように書いていることから,条約全体を通して常居所地国への返還が前提になっているものと理解していたのですが,それがもし間違っていましたら,お教えいただけると有り難いです。 ○横山委員 それは前文でだけ入れたのです,本文に入れられないから。前文にあるから,全て本文もそうだというものではないのです。前文で言ってあるから,当然本文で言う必要ないだろうというような趣旨で言っているわけではないのです。本文に入れられなかったから,せめて前文に入れるという趣旨に理解すべきだと思います。 ○大谷委員 度々すみません,ちょっと重要なところなので。今度は外務省の国際法局の方にお伺いすべきなのかもしれませんが,ウィーン条約法条約の条約の解釈規則で,「文脈の中で用語の通常の意味に従い」という31条の規定の中で,文脈という場合に前文も含めて読むということで,そのように読んでもいいとそれまでずっと思っていたのですが,御説明いただけると有り難いです。 ○横山委員 立法者意思説を採るかどうかなのですが,少なくともペレス・ベラのハーグ条約の解説には,私の言った趣旨のことが書いてあると記憶しております。 ○辻阪幹事 今,横山委員がおっしゃったことでございますが,そのコンメンタールなのですけれども,「連れ去り前の子の常居所地国にもはや申請者が住んでいない場合,当該国への子の返還は解決が難しいと思われる実質的な問題を引き起こす可能性がある。この問題に関して,条約が沈黙していることは,避難先国の当局に後者の現在の居住地にかかわらず,申請者に直接返還することを認めているものとして理解されなければならない」ということを踏まえての,横山委員の御発言だと理解しております。 ○勝亦幹事 今の辻阪室長からの発言に補足したいと思います。コンメンタールにそういうことが書いてあるのは事実でございます。ただ,条約全体の趣旨,目的という観点から言えば,条約の前文に書いてあるケース,すなわち子が常居所を有していた国への当該子の迅速な返還というのが全体の流れとしてはあると思います。かつ,実際の判例においてもそういうものがほとんどであると。ただ,横山先生がおっしゃるように,その条約の起草経緯において,先ほど言ったような例外的な,直前になって返還する場所に返還されるべきといいますか,元々の監護をするべき親がいなくなってしまったという状況においては,一定の注釈書というのが残っておりますので,条約の運用上,そういうケースの場合についてはその注釈を参考にするというケースもあり得ると,こういう関係になるかと理解しております。 ○髙橋部会長 朝倉幹事。 ○朝倉幹事 外務省の方が政府として有権的な解釈をした後で何か言うことではないのかもしれませんが,お二人の外務省幹事の方のお話を聴いていると,条約としては基本的には沈黙をしているのだと思います。起草の経緯でいろいろあって,本文中には「常居所地国」というふうに明示はできなかったけれども,そこについては沈黙しているということは,要するにそこまでやらなければいけないという義務が加盟国にあるわけではなく,やってもいいのだけれどもということにとどまるのではないかと私は思います。今のお二人の話を総合すると,そういう理解になるのではないかと思っています。   逆に,現象面から見てみますと,引っ越さなければ常居所地国への返還で相手方が連れて帰るのが原則だけれども,自分が引っ越してしまえば自分への引渡しも受けられるのであれば,戦略的には引っ越せば引渡しを求められるということになって,不当ではないかと思います。また,この後議論になる子の返還拒否事由は,基本的に相手方が常居所地国において監護することができない事情が拒絶事由になっているわけですから,引渡しを義務付けるのであれば,そのような拒絶事由は意味をなさないということになろうと思います。そういう意味では,横山先生の御指摘も含めて総合的に考えますと,先ほど申し上げたような見解になるのではないかと思われます。 ○横山委員 当然のごとく何も断りもなく常居所地国へ返還というふうにパブコメでは言わないほうが,そういう場合もあるわけですから。どういうふうにデシジョンメーキングするかというのは,朝倉さんがおっしゃったようなのが筋として正しいのかどうなのか,多分正しいと思いますけれども,法制審としては,そういう事態が起こり得ることも検討しないで,想定しないでということではなくて,一応考えていると言った上で,34のようなことを書いているのだということははっきり言うべきだと思うんですね。 ○髙橋部会長 そういうコンメンタールがあるということを我々は共通に頭の中に入れることができましたが,補足説明でどこまで書くかはちょっと検討をお許しいただきたいと思います。 ○金子幹事 パブリックコメントという性質上,基本的に想定されているもので意見を聴きたいですね。今の横山先生のようなことを前提に意見を頂くというのは,パブリックコメントとしてふさわしいかという問題もあるような気がしますので,今のようなことを積極的に否定するように見えないようには工夫させていただきますが,聴く対象としては,我々がこれまで議論していたような,元の常居所地国に返すということを返還だというようなトーンで,別の国内にいる一方の親に返すようなことも含んでいるということはあえて触れなくてもいい形にさせていただきたい。ただ,積極的に否定するようにならないようには気を付けたいと思います。 ○髙橋部会長 ほかの点いかがでしょうか。   35の調停・和解,前回御指摘いただいて和解も入れてみたのですが,親法というんでしょうかね,家事事件手続法には和解というのがないのだそうです。ですから,最終的に法制的に詰めたときにどうなるか分かりませんが,パブコメとしては和解ということで入れているということで,先ほど説明がありましたように,(注1)は削るということですね。   36の保全的な処分で,前回かなり議論いただきましたものですが,具体例として出国禁止命令,旅券の一時保管命令はその一例と。言わば本文に掲げる形でパブリックコメントに付すわけですが,これもこれでよろしいでしょうか。ちょっと踏み込み過ぎだという御意見があれば。これも今後検討する過程で無理なものであれば無理だということになるわけですが,中間取りまとめとしては例示をして出すということとさせていただければと思います。   37の裁判官ネットワークですが,もちろん補足説明で具体的イメージは書くんですが,連携については運用に委ねるということですので,私だけの読み方かもしれませんが,条文になるわけではないけれども,ここでは必要な範囲で検討はするという,そのようなニュアンスだと思っております。そういう形でパブリックコメントに掛けると。   どうぞ,清水委員。 ○清水委員 裁判官ネットワークに関してですけれども,一般的な事項について他国の裁判官と直接にコミュニケーションするということは,例えば会議に行って話し合うということはあり得ると思うんですけれども,特定の事件について,当該事件について外国の裁判官と直接にやり取りするということは,日本の司法の今の在り方,司法権,それから,当事者をさておいて,言わば当事者の知らないところで直接に情報をやり取りするということ自体にも問題がありますので,そういった意味での裁判官ネットワークというのはちょっと問題があるのではないかなと思っております。 ○髙橋部会長 工夫しますが,補足説明ではそういう御意見があったことを留意して。   横山委員。 ○横山委員 裁判官ネットワークという概念自体が非常に流動的で,特にカタカナで書いてしまうと,英語のネットワークというものをすぐ連想させてしまうんですよね。各人が都合のいいように理解してしまう恐れがあります。これはいつも概念がアップデートされているような状況にあるので,言葉をもう少し一般的な用語として使う。特に裁判官ネットワークというのは非締約国の裁判官も入ってくるものなので,果たして「ネットワーク」という言い方をするほうがいいのかなと。むしろ一般的に裁判官同士がどのぐらい協力できるかというのは,一国の法律・法令が認めている範囲内でのみできるわけで,その範囲での協力がどの程度できるかということは今後検討するというような,一般的な記述のほうがいいのではないかなと思いますけど。 ○髙橋部会長 イメージが先行してもいけませんので,少し注意して書くということで。   では,第2の返還事由・返還拒否事由のところ,それから,第3の面会交流も2行ありますので,説明を。 ○佐野関係官 「第2 子の返還事由・返還拒否事由」につきまして御説明いたします。   まず,「1 返還事由」につきましては,前回の部会資料3から変更はございません。   また,次の「2 子の返還拒否事由」につきましては,まず冒頭の柱書きに記載しておりますとおり,ここに掲げております①から⑥いずれかの事由が認められる場合には,裁判所は子の返還を拒否できることとしておりまして,子の返還拒否事由が認められた場合であったとしましても,裁判所は事案に鑑み,なお返還を命ずる裁量があることとしております。   その上で,ここに掲げております返還拒否事由のうち,④以外の①,②,③,⑤,⑥につきましては,前回の部会資料3から変更はございません。一方,④条約13条第1項bに該当するものですけれども,ここでは前回の部会での議論を踏まえまして,甲案,乙案の2案を併記することとしております。   まず,甲案につきましては,前回の部会資料3における提案を基にしまして,その表現を抽象化したり,一部変更したりしましたが,実質的な内容の変更という点はございません。一方,乙案では,返還拒否事由につきまして,考慮要素を例示する形の案としております。具体的には,返還拒否事由としては,子に対する重大な危険ということを掲げつつも,それを判断する際の裁判所の考慮要素として,例えば子に対する暴力,相手方に対する暴力,帰国後の更なる暴力のおそれを挙げるほか,例えば甲案のウのような事情を判断し得るための要素としまして,子の返還後の監護環境が子に与える影響といったものを掲げております。   後に書いております(注)ですけれども,第1回目の部会で配布しました参考資料で,関係閣僚会議の「了解事項」との関係を記載しております。なお,前回の部会で甲案自体について各要件や事由について意見がございましたので,その旨も付記しております。   次,「第3 面会交流関係」につきましては,部会資料3から何も変更はございません。   以上です。 ○髙橋部会長 それでは,協議をお願いいたします。犬伏委員。 ○犬伏委員 確認ということになりますけれども,最初の子の返還拒否事由の前段のところに文が入ったところは,裁量ということだということですね。そうすると,④の甲案でも裁量が生きるということですね。私としては乙案が好ましいと思うのですが,そういう意味で甲案のア,イ,ウ,エというのは,いずれかがあれば一応該当するけれども,上のほうの「できるものとする」というところでは,裁判官の裁量が働くというふうに理解してよろしいということですね。 ○髙橋部会長 相原委員。 ○相原委員 これも確認なんですが,今の甲案のウの「相手方が子を常居所地国において監護することができない事情等」,これは前回等の御議論で確認があったのかもしれませんが,「常居所地国において,相手方に逮捕状が発付され又は刑事訴追を受け,その身柄を拘束されるおそれがあること」,この場合は罪名は問わないということでよかったのですね。 ○佐野関係官 はい,ここはその者が子の監護をできなくなるということが重要ですので,特に罪名は関係ありません。 ○相原委員 罪名が何であろうと,後の「かつ」があるからいいんだと,この前の御説明はそういう御説明だったかなと思うんですが,罪名は問わないということですか。 ○佐野関係官 はい。 ○髙橋部会長 大谷委員。 ○大谷委員 第一読会の時に発言していないことで申し訳ないのですが,この中間取りまとめ案を読んだときに分かりにくいかなと思うかもしれないで申し上げるのですが,子の返還事由の⑤と,2の子の返還拒否事由の②の関係なのですが,これは条約どおりなのでどうしようもないのですけれども,返還事由のほうが申立人に証明責任があり,これをまず証明しなくてはいけないと。   つまり,子の連れ去り又は留置の時に,申立人が現実に監護権を行使していなかった場合には,次の現実に監護権を行使したであろうことというところを,自分のほうで主張・立証すると。そうしたときに,相手方のほうで,返還拒否事由の②に同じ文言がありまして,「子の連れ去り又は留置の時に申立人が現実に監護権を行使していなかった」ということを立証すると返還拒否事由になると。ぱっと読むとこの関係が分かりにくい。仕方ないのですけれども,補足説明でそこは説明されるということでしょうか。 ○佐野関係官 前回の部会資料3におきまして,返還事由の⑤と返還拒否事由の②の関係を(注)で記載していたと思いますので,そのような配慮を補足説明の中に,その趣旨が分かるようにしたいとは思っております。 ○金子幹事 前回の部会資料を今すぐに見るということは難しいでしょうが,1の⑤の中に既に2の②が立証された場合のことを含めて書いているので,言わば再抗弁的なものを含めて書いているので,非常に分かりにくくなっているのですが。ただ,再抗弁的なものなので,これは返還事由になるものですから,こちらに含めて書いているということで御理解いただければいいと思います。そこが分かりにくいということであれば補足説明で補うようにしておきます。 ○髙橋部会長 そうですね。どうぞ,犬伏委員。 ○犬伏委員 先ほどの横山委員の説明を聞いてちょっと不安になったことは,乙案にしても包括条項にしても,「子を常居所地国へ返還することが」と書いてあるので,もし横田基地だったら日本ではないかみたいなことで,どうなるのだろうという不安が起きたのですが,パブリックコメントなので,その後詰めればいいかとは思うのですが。条約上は「返還」としか書いてないので,あるいは,「常居所地国」と書かないことにしなければいけないのかという不安もあるのですが。 ○髙橋部会長 ちょっと待ってください,それはまた。パブリックコメントはこういう形で分かりやすい典型例で。   それから,先ほどありました裁量なのですが,2で「返還を拒否することができる」ですから,全体的に裁量なのですが,例えば2の①のときに,1年経過して新しい環境になじんでしまっているときにどれぐらい裁量があるかと言われると,それほど幅があるわけではないでしょう。ところが④は結構あるのですね。ですから,これは立法技術で書き分けるのは難しいかもしれませんけれども,事柄の性質としては,前回も御議論がありましたように,④のほうの裁量はかなり広いと。まあ,かなりかどうか,ほかよりは広いという御理解を頂ければと思うのですね。   その上で,例えば相手方が元いた常居所地国において生計を維持することが著しく困難であることは証明されたと,でも,やはり返還するということがあり得るという頭なのですが,それが何か具体例が出てくると議論がしやすいのですけれど,なかなか。抽象的には分かるのですが。これは学者がよく言う事案の積み重ねに待つということなのかもしれません。 ○大谷委員 今のに関連して,「常居所地国において生計を維持することが著しく困難であること」の中身として想定される場合というのは何か補足説明で入れられるのでしょうか。 ○佐野関係官 特に補足説明の中でここに絞って,具体的にどのような場合かということまで踏み込んで書くことは想定していませんでした。ここの解釈がまだ決め打ちということにはいっておりませんので,こういう場合を念頭にということまでは想定していません。 ○棚村委員 実際のケースを見ていると,重大な危険,「グレーブリスク」ということで,そこの中にいろいろな事情が出てきて,ファミリーバイオレンスとか,チャイルドアビューズとか出てくるわけです。その中の付加的な理由として,例えば養育費を全然払ってくれなくて,なおかつ,社会保障の給付とか生活保護的なものも受けられないというのは出てきます。そうなると,前も言いましたけれども,柔道の技ではないですけれども,一個でもう駄目だという事由もあるけれども,その内容とか程度に応じて,同じ暴力であっても,軽微なもので,1回なものでは難しいこともある,しかも,いろいろな事情があった場合と,影響等でかなり幅も考えられる。   そうすると,例示というのは,前回も言ったのですけれども,生計の維持困難については問題があるように思います,判例の中で常に言われるのは,DVでも何でも,お母さんにDVがあったということで,子どもが具体的にどういう影響を受けて,悪影響が出ているかと問われます。返還をしたら精神的に混乱するとか,環境が変わるから子どもが不安とか緊張感を経験するとか,それだけでは駄目なのだとか。その中にお金の問題も入ってきます。本来だったらそれをきちっとお金を取り立てて払わせるような仕組みがあれば,別個のことなのだという言い方もよくされています。生計の維持が困難だということだけが独立して取り沙汰されるという書き振りはちょっと問題だという話を,横山委員も前回お話されていました。   乙案にはその例示が出てこないというのは,政策的な理由が何かあるのでしょうか。というのは,小さなことでも,それが継続してたくさんあれば拒否事由にはっきりなってくると考えられます。総合判断ではなり得ると思います,グレーブリスクがあると判断される。だけれども,生計維持困難だけが独立して出てくると,お金を払えばいいのかという問題に解消してしまいます。つまり,親同士の争い,それから,その延長みたいなことなので,もし考慮事項として入れるのであれば,入ってくるということは構わないと思うんですが,それ自体が独立で,例えば諸外国の判例の中でグレーブリスクで生活の維持が困難だということだけで拒否されているケースというのはあまり見たことがありません。   大体こういう父親なり母親というのは,むしろいろいろなことについて問題を抱えています。返還を求めているほうがきちっと義務を果たしていないとか,相手方を追い込んで,まず暴力もあって別なこともあってという,合わせ技みたいなのが結構多いと思います。ですから,独立して生活の維持が困難というのは,ある意味では,返還を拒否する側としてみれば,仕事が見つからないとか,子どもを抱えているから働けないということで,割合言いやすいのではないでしょうかね。生計維持の困難だけ入れている理由を教えていただきたいのですが。 ○佐野関係官 特に政策的な意図をもって,甲案には掲げているが,乙案には掲げていないというわけではありませんで。そもそも甲案のウの発想,思想と言いますのが,「かつ」の前のところで,「子が常居所を有していた国において子を監護することが不可能又は著しく困難」かどうかということの指標として,例示を掲げているにすぎません。もちろんこの生計維持が困難という事情のみをもって返還拒否とは考えておらず,また,このウは「かつ」以下の更なる要件もあるので,その「かつ」の前の指標の一つとして掲げたということと御理解いただければと思います。そして,乙案で子どもに養育費を払わないとかいうことが考慮要素になってくるということは当然のことだと思っております。 ○棚村委員 例で出てきていたのが,社会保障の非常に豊かな完備している国と,そうでない国が常居所国で,貧しい国に戻る場合とかいうようなときに返還拒否の理由になりやすいわけです。開発途上国とかそういうところに常居所があった場合には,少し何か工夫をされたほうがいいと思います。 ○早川委員 乙案を作っていただき大変有り難いと思います。乙案のなかの,甲案のウのところを書き換える形でお書きになっている部分ですけれども,閣議了解事項なども考えますと,乙案のほうでももう少しウの表題,つまり,「相手方が常居所地国において監護することができない事情等」を入れてもいいのではないかと思います。それをマイルドにされて,こうやって少し抽象化されたのは,何か御配慮があってなのでしょうか。このままの乙案ですと,閣議了解から離れ過ぎるので駄目だというパブリックコメントが来るかもしれないので,乙案でも閣議了解の文言を入れる形でお書きになるという手もあるかなと思ったのですけれども,その辺りはいかがでしょうか。 ○佐野関係官 甲案,乙案を作るに当たって,ウのようなものをどういうふうして考慮要素に取り込むかについてはいろいろ考えたのですけれども,ウの要素の細かい一つ一つはやはり子に対する重大な危険の判断,要素としては少し遠いと言いますか,例えば子に対する暴力,相手方に対する暴力,帰った後に更に暴力が起きるおそれがあるというのは,子に対する重大な危険の考慮要素としては近いのですけれども,ウに掲げている,相手方が常居所地国に戻って監護することが不可能,困難であるといった事情,更にそれを細かくした入国,滞在できないということが,直接考慮要素として暴力と同じようなもので掲げるというのは少し距離があると考えましたので,ウをまとめるような形で「子の返還後の監護環境が子に与える影響」と表現したところです。 ○古谷幹事 今,甲案,乙案の話が出ましたので,その関係で申し上げます。返還拒否事由の判断がいろいろなファクターの総合考慮になるというのはそのとおりだと思いまして,合わせ技一本というケースもあるのだろうと考えています。例えば甲案のアとかイのように,類型的にこういう状況があれば確実に返還拒否事由として認められるという範疇をうまくくくり出していただけるのであれば,判断する側としては的確な判断につながるので,基本的には甲案のような仕切りが望ましいと考えるところです。   乙案で,いろいろなファクターが,考慮要素として指摘されるわけですが,総合判断をする際に,どれぐらいそのファクターが重みを持っているのかが,分かりづらいので,乙案にはそのような難点があるように思います。もっとも,甲案でも,類型的に,これは返還事由としてもっともだという範ちゅうをうまく作れればいいのですが,そこが茫漠としてしまいますと,かえって限定的な条約適合的な判断をしなければいけないといった問題が出てきますので,その辺りは検討をいただければと考えております。 ○山本(克)委員 先ほど来問題になっております甲案のウですけれども,条約の解釈として,相手方が常居所地国に子どもを返した後に監護を続けることが当然の前提としていいのかどうかというのがよく分からないんです。つまり,何らかの施設に入れるということだってあり得るわけで,仮に申立人が家庭内暴力なり何なりしているということであれば,隔離さえすればいいということになるはずですよね。相手方が監護しなければならないというのは,条約からは当然出てこないと思いますので,やはり私はその辺も含めてもう少し聴き方を工夫したほうがいいのではないのかなと。   通常のケースはもちろん相手方が,連れてきたのが大抵日本人の奥さんで,その方がまた連れて行くというのがノーマルなケースなのでしょうけれども,それに捕らわれ過ぎた拒否事由を書くのがいいのかどうかということは少し考えたほうがいいのではないでしょうか。 ○佐野関係官 今の山本先生の発言ですけれども,相手方以外の者,例えば施設が子を監護することは当然予定されていると思いまして,それを「かつ」以下で「相手方以外の者が」と表現しております。そのため,仮に相手方が帰るのであっても特に問題ないという仕切りにはしています。 ○山本(克)委員 ウがあると,相手方が監護するのが当然の前提のように読めてしまうわけですよね。むしろ子に適切な監護が行われないことが拒否事由になるはずであるので,そこのところは書き振りをもうちょっと考えたほうがいいのかなという気はします。 ○髙橋部会長 「かつ」以下で趣旨は出しているというのが事務当局の考えですが。 ○宮城幹事 現在の論点からちょっとずれてしまうのですが,ウのところで,前回も海外の捜査機関が「うん」とは言いませんよという話を申し上げたかと思うんですが,今回もう一回全部眺めてみると,このところの逮捕状の発付とか,刑事訴追,それから,拘束のおそれ,これは,当事者のほうが問い合わせをして海外の当局が答えるはずがないので,恐らく職権で裁判所がお調べになると。   そうすると,21の3のところで「職権で調べる。必要がない場合を除いて原則当事者に通知する」という仕組みになっていまして,私,家事事件手続法の70条の運用のやり方はよく分からないのですか,ここのところは,そうやってしまうと海外の機関から見ると,「刑事訴追しますか,逮捕状が出ていますか」と聞かれて,きちっと答えた瞬間に当事者に通知されるというふうに見えてしまうので,このあたり若干書き振りを工夫しておかないと,そういう誤解を与えるのではないかと思いますので,ちょっとそこだけテイクノート……。 ○佐野関係官 書き振りは別ですけれども,実際の運用としまして,裁判所が職権で向こうの国の捜査機関に刑事訴追されていますかということまでは,第一次的に当事者に証明責任,証拠の収集・提出責任が課されていますので,そこまでのことはまあないだろうと思います。ここの趣旨は,こういうことが明らかになっている場合について,もう逮捕状が出ていることが分かっていて,指名手配されていることが公開されているという場合について,返還拒否の例示として挙げているという程度なのですが。 ○宮城幹事 恐らく実務上は当事者が聞いてきて,答えることはまず考えられないものですから,いわゆる公知の事実になっている,公になっているというふうに理解するのであれば,それは問題ないかなというふうな考えを持っておりますので。 ○髙橋部会長 大谷委員。 ○大谷委員 今の関連でちょっと確認しておきたいのですが。例えば「逮捕状が発付されていること」というのは比較的分かりやすいと思うんですが,その後の「又は」のあとで「刑事訴追を受け,その身柄を拘束されるおそれがあること」ということで,例えば国外への子どもの連れ出しを犯罪にしているような国からの日本への連れ帰りで,相手方としては戻れば刑事訴追されるおそれがあるのだということを,今の甲案のウの書き振りだと,恐らく言うことになると思うんですね。法律としてはそういうものがあるというのはすぐ分かるわけです。その場合,申立人側としては訴追されませんというところまで言わないと,それはこの要件に当たるということになるのでしょうか。 ○佐野関係官 まず相手方が「私はこういう犯罪を犯して訴追される」ということを証明するわけですよね。そして,例えば重大な犯罪などの場合で身柄拘束をされることがこの国では通例ですということを,相手方が証明し,これらが奏功するかどうかだと思うのですが。 ○大谷委員 そこは前提で,むしろそれは法文上そのおそれがあると。「刑事訴追を受け」というのが「おそれ」にも係っているとすると,それは,そういう法律があるので「おそれがあります」ということだと思うんですね。そうなると,申立人のほうで「そういう訴追は取られていません」ということまで言う必要が出てくるのか。ちょっと細かい質問で恐縮なのですが。 ○佐野関係官 すみません,ここはちょっと説明不足だったのですけれども,「逮捕状が発付され」と同じように,「刑事訴追を受ける可能性がある」というより「受けており」という趣旨です。 ○大谷委員 「受けており」ですか。 ○佐野関係官 表現不足かもしれませんが,「逮捕状が発付」という概念は逮捕状が出ていますということで明らかだと思うのですが,それと同じように,刑事訴追の場合も,刑事訴追されているという趣旨を表現しています。例えば,刑事訴追されているけれども,在宅の捜査の場合もあり得るということで,その後に「身柄を拘束されるおそれ」という事情を付記しています。 ○棚村委員 もう一度確認しますけれども,undertakingみたいなのは採らないということになりました。そうすると,返還事由のところでそういう主張なり不安が出てくると思います。そのときに子の奪取を厳しく犯罪にして処罰をしているという法令を置いているところは,実際にそれをやるやらないに関係なく,「おそれ」にならないのですか。要するに,あちらではundertakingのときには,刑事告発はしないし,手続は採らないし,もししても一切取り下げるみたいなことを約束させて返すわけです。   それをやらないわけですから,私的に個人の約束みたいなのももちろん取らないわけだし,捜査当局がどういうふうに判断して,どういうふうにやるかということを拘束できないような状況だったら,法令上そういうことが犯罪になって処罰の対象になって,こんな重い刑罰が科せられるのだということ以上に,「おそれ」といってもかなり幅がないのか。そういう犯罪になるんだと,処罰もされるんだ,逮捕もされるんだ,可能性あるんだということだけで,返還拒否の主張は出てくるのではないでしょうか。   それが,どの程度かということよりも,むしろ重い処罰をするようなシステムを持っている国の申立人から返還請求がなされていれば,そういう主張が出てきたときに裁判所はどうするのか。要するに,「おそれ」というのは,おそれはかなりあるのではないかということになりませんか。逮捕されたこととか何とか,そういう話だったら別ですけれども。逮捕状が出ているということは割合とはっきりとするのでしょうけれども,訴追のおそれがあるとか,処罰のおそれがあるというのは,広い感じがします。 ○髙橋部会長 刑事訴追は出されている,平たく言えば在宅起訴はされているという前提ですよね。先ほどの説明はそういうことですね。 ○棚村委員 訴追はされていないと駄目なんですね。 ○髙橋部会長 そうそう。 ○佐野関係官 身柄拘束をされるおそれがある場合には,相手方が監護することができないと。そういう場合にも,子どもを返すと,相手方の監護はそもそも期待できないということの一指標として掲げているという趣旨でございます。 ○棚村委員 でも,大概のケースは,出国を止められていたり,それを破って出ていますから,これに当たる場合のほうが多いのではないでしょうか。事後的にもこれでいいわけでしょう,逃げた後に逮捕状とか訴追というのがなされても。安全に逃げ切った後というか,こそこそと逃げ切った後これをやられた場合に,どこの国にいてもおそれはあるわけですよね。 ○佐野関係官 例えばいろいろな罪名,事案もあると思うんです。そのため,刑事訴追があれば必ず身柄拘束されるおそれが絶対あるとまで言えるかどうかについてはちょっと断定できないと思います。 ○棚村委員 そうすると,連れ去り以外で何か犯罪をやった人は親としてもう駄目だということですか。そういう意味でなく,子の連れ去りに関連するものですよね。 ○佐野関係官 いや,ここの罪名は,先ほど御質問ありましたとおり,必ずしも子の奪取の連れ去りに限らず,飽くまで子の監護を相手方ができるかどうかの指標なので,罪名は特に子の連れ去りなので関係ないという仕切りになっております。 ○棚村委員 なるほどそうなんですか。どういう罪名に当たっても。監護ができないような罪名ならばよい。はい,分かりました。 ○髙橋部会長 はい,大谷委員。 ○大谷委員 細かくて申し訳ないのですが,「刑事訴追を受け」のところは「おそれ」に係らないという御説明で分かりました。ただ,その次の「その身柄を拘束されるおそれ」というのは,「逮捕状発付」とは「又は」で関わっているので,逮捕状が発付されている以外の場合で,その身柄を拘束されるおそれというのは,想定されているのはどのような場合でしょうか。 ○佐野関係官 「逮捕状が発付され」も「その身柄が拘束されるおそれ」に係っているということが前提です。多分いろいろな場合があると思うんですけれども,ここに網羅的に書き切るつもりは元々なくて,いろいろな場合があることの一つの典型的な場面を「常居所地国において逮捕状が発付され云々」と書いているので,そういうふうなものとして御理解頂ければと思います。そして,いろいろな場合があってここに書き切れないものについては,「かつ」の前の,一般的なバスケットになっております「その他常居所地国において子を監護することが不可能又は著しく困難な事情」というところで読むという立て付けになっております。 ○大谷委員 例えば,逮捕状が発付されたりしていなくても,連れ帰ってきた親がその国に戻った瞬間に身柄を拘束されるおそれがあるということを懸念されている場合がある。それから,「刑事訴追を取り下げます」と申立人が言ったのに,実際には入国した途端に身柄拘束されたというケースが報告されている。そういうことからすると,「身柄拘束のおそれ」というのはかなり抽象的に広がるのではないかなと思われるのですが,その程度等を裁判所のほうで判断されて,そういう主張が出ていたとしても,現実にどの程度身柄拘束のおそれがあるのかということを審理して判断するということになるのでしょうか。 ○佐野関係官 過去の他の一般的な事例のみをもって,相手方が常居所地国において子を監護することが不可能というのは通常の認定としてはやや行き過ぎであって,その場合,具体的にぎりぎり,「こうこうこういう事情で,逮捕状は出てないですけれども,だから私は拘束されるおそれがあるんです」ということは,しっかり主張,立証を相手方においてする必要があるとは思います。 ○髙橋部会長 先ほど御指摘がございました条約から甲案は外れているかどうかということですが,これは関係閣僚会議の了承を踏まえておりますので,事務当局としては条約の解釈権のある外務省の,正式かどうか分かりませんが,審査を経ているものとして,それを前提にして書いているということです。   関連いたしまして,乙案だと逆に今度は関係閣僚会議の了承から外れ過ぎているのではないかということが懸念されるわけですが,それは先ほど佐野関係官が言いましたように,このペーパーはよくないのですが,補足して乙案も関係閣僚会議の中だと,少なくとも事務当局はそう考えているということはメンションするということになります。その上で,乙案の表現がいいかどうかという御指摘を頂きましたので,それはまたそういうものとして考えるということになります。   ほかにいかがでしょうか。辻坂幹事。 ○辻阪幹事 一点確認をお願いしたいのですが,先ほど乙案の中に,甲案のウの要素をもっと書き込んだらいいのではないかという御指摘があったのに対して,事務局のほうからはアとウであればいいけれども,ウはちょっと遠いのではないか。なので,例示することはできずに,子の返還後の監護環境や子に与える影響という形で丸めて書いたということなのですが,ウに当たることをもってそれは返還拒否だということにおいては,アとイと同じように思うんですが。ウの内容を乙案に書けない理由をもう一回御説明いただけますでしょうか。 ○佐野関係官 ここは多分に技術的な点もあるのですけれども,甲案のウというのは二つの要素からなっていて,かつ,一つ目の要素は更に例示を含んでいるので,考慮要素として書くのであれば,それを全部含めた形でずらずらと書く必要がどうしても出てきてしまうと思います。一方,甲案のア,イというのはある程度抽象化・単純化されるものですので,考慮要素として見映えよくというとあれですけれども,乙案でも書くことは可能なのですが,甲案のウは,ウに含まれている要素をバラバラ一個一個挙げるというのは,先ほど申しましたように,子に対する重大な危険との関係では遠くて,ウの要素がまとまって初めて子に対する重大な危険の判断の要素として近くなると思います。このような次第で乙案のエとしては,甲案のウに掲げられているいろいろな要素をまとめて「子の返還後の監護環境が子に与える影響など」とせざるを得なかったという理由なのですが。 ○髙橋部会長 では,早川委員のほうを先に。 ○早川委員 その御説明は非常によく分かります。確かにうまく書くのは大変難しいのですが,例えば,相手方が常居所地国において監護することはできない,かつ,相手方以外の者が子を常居所地国において監護することは明らかに子の利益に反する,その二つを挙げれば,ちょうどスイスの2007年立法のように何とか平仄の合う形で表現できるのではないかなと思うのですけれども。最初のほうの逮捕とか生計というのをやめにして,そこをまとめたうえで,いま申し上げた二つの要素を挙げるということで,ウを乙案に組み込むことはできるのではないかと思うのですが,それはいかがでしょうか。 ○佐野関係官 それも十分あり得るお考えというか,むしろ望ましいとは思うのですが,考慮要素であるにもかかわらず「かつ」で結ぶようなものというのがなかなか想定できなかったところです。考慮要素としては通常は例えばa,b,c,dが列挙されますがa,b,c,d&eのような体裁にちゅうちょしたとこです。これも多分技術的な話にすぎないのですが。 ○髙橋部会長 内容的にというよりも長過ぎて書けないということですね。正にa,bと同じものとしてc&dがくるのか,それともa,b,cとdなのかが書き分けにくいということなのでしょうが。しかし,それは文章表現を考えることかもしれません。   横山委員。 ○横山委員 外務省の方はどちらのほうがよろしいとお考えなのでしょうか。ちょっとお聴きしたいのは,閣議了解ということを言って,それを忠実に反映させようと思うと,ひょっとしたら甲案という可能性も高いのかなと,分かりやすいかなと思うんですが。私が外務省の方と申しましたのは,もしウを入れて規定ができて,あと,ハーグのレビュー委員会か何かで何年か後にあったとき,中央当局あるいは在ハーグ日本大使館の一等書記官の人は非常に苦境に立たされる説明という意味で,外務省の立場からすると,甲案のウというのはなかなかきつい,説明が難しい規定なのではないかなと思います。私的にはむしろ乙案で十分対処できるのではないかなと思っております。   以上です。 ○勝亦幹事 横山先生からの御指摘ありがとうございます。いずれにしましても5月19日の閣議了解の段階で,それまでのハーグ条約の解釈,趣旨,目的,それから,判例などを総合的に法務省を中心とする関係省庁間でもいろいろ検討して,ここに書いてある要素を抽出してきたわけなので,基本的にここにあるものを踏まえて下記の内容を盛り込むこととする。なお,具体的な規定の仕方については,法制上の問題も考慮した上で検討するということですから,ここに書いてある要素をそのまま法律に入れるということでは必ずしもなくて,こういったような事例がハーグ条約を運用していく上で必要でありましょうということですから,ここに書いてあることを一言一句入れるというよりも,ここに入っている要素をきちんと盛り込んで,的確な判断ができるような法律を作るということで,法務省さん,法制審で御議論いただいていると,このように理解しております。 ○髙橋部会長 棚村委員。 ○棚村委員 中間みたいな話になるのですけれども,早川先生がおっしゃっていたような,これ,何とかの有無ということになっていますから,「そのほか常居所地国において子を監護することが不可能又は著しく困難な事情の有無」とかいうのを入れてはどうですか。というのは,気になったのは,甲案と乙案というのが内容的にも違った形に見えて,なおかつ,どれがいいかという選択を迫ると一般の人たちはなかなかパブリックコメントしづらいと思います。補足説明で書いていただいてもよいのですが,そのほか監護を困難とか不可能にする事情の有無も一つ考慮事情の中に入るんだという形にして,乙案に入れていただくとよろしいのではないでしょうか。   何か座りが悪いと思います,ウの場合にはかなり大人側の事情が占めています。ところが,本来グレーブリスクというのは子どもにそれがどういう悪い影響を与えているかということが問題なので。ただ,時間の関係もあるでしょうし,もし可能だったらということで構いません。余りにも甲と乙が一般の人から見るとものすごく開きが出過ぎているように,省略をされているのではないかと見えるのではないかと思えます。 ○金子幹事 ウは,今まで随分議論に出ていますとおり,「かつ」の前後両方を含むということが非常に重要なのですね。これをばらしますと,先ほど山本克己委員がおっしゃったように,前段だけ捉えられると相手方の事情に非常にシフトして見えてしまうという問題があって,「かつ」の前後をパッケージにした一つの考慮要素,事情というものを作りたいのですが,これがなかなか難しくて,先ほど部会長が要約いただいたとおり,ア,イと同じ形,横並びで「かつ」の前後を含めて一要素とするものが欲しいんですね。   結局,子に与える影響ということを,ウの「かつ」以下で表現したくて,山本克己委員がおっしゃったように,なおそれでも相手方に傾いて見えるというのはそのとおりかなとも思っているんですが。そこを払拭する意味で「かつ」以下が非常に重要なものですから,そこを「アンド」で結ぶのは技術的に難しいので,そこをまとめて今の乙案のように「返還後の監護環境が子に与える影響」というのがいいのではないかと。   それから,甲案と乙案は離れ過ぎているということに見えるかもしれないのですが,将来的に間を取るみたいなことはあり得るのですが,聴き方として,単に技術的に違いがあるだけというものでいいのか,どっちも踏まえていますけれども,言わば考慮要素的なものという発想と,それから,このうち一つでも当たればこれは返還拒否事由になるのだというものを明確にするためには,余り乙案を詳しくしてしまうと,そこの理論上の差が目立たなくなるという面もあって,乙案は比較的抽象度の高いものでお聴きするほうがむしろパブコメとしてはいいのではないかという思いも含まれているということで御理解いただければと思うんですが。 ○棚村委員 御趣旨は分かりました。ただ,スイスの時なども,お分かりだと思いますけれども,枠をはめたということでハーグ条約の締約国からは相当な批判を受けました。だから,それを上回る条項だということは横山委員がおっしゃるとおりだと思いますので。分かりました,私は元々乙案を言っていたわけですから。 ○髙橋部会長 大谷委員。 ○大谷委員 まず,先ほどの「生計を維持」のところなのですが,先ほどの部会長の御説明でも,これは関係省のほうで,法務省,外務省におかれて条約適合ということで検討された上での関係閣僚会議の方針ということは伺ったのですが,先ほど棚村委員が御指摘されたように,締約国の判例を読んでいますと,生計維持困難ということが確かに考慮要素としては出てくるのですが,プラスundertakingという手法を併せ活用して,それでも申立人がundertakingもしないとか,あるいは,undertakingの実効性が信用できないとか,そこまで踏み込んだ判断がなされているというふうに読めます。   日本ではundertakingというやり方は採らないということとのセットで考えたときに,本当にこれを書き出すことが問題ないかどうかということは一応検討していただく必要かあるのではないかと思います。もちろん,この後に「かつ」が係っていることも承知しておりますし,前回の御説明も本日の中間取りまとめ案も全体として裁量が掛かっているので,このウに当たった場合でも,更に返還するかどうかの考慮があるということは分かっているのですが,与える印象としてこれが独立して,なおかつ,かなり頻繁に主張されることになるのではないかと思われることから御検討いただきたいと思っています。   それから,私個人の意見としては,乙案で早川先生がおっしゃったような書き振りができないかということに賛成というか,もう少し検討していただければ有り難いと思っています。法案の書き方については専門ではありませんが,素人的に考えると,「その認定に当たっては」と一文でまとめないで,例えば「その認定に当たっては,次の要素を考慮するものとする」とかしていただくと,a+bというのも入るのではないのかなと思われます。   それから,三点目に,ウで書かれたことが乙案では「子の返還後の監護環境が子に与える影響」という言葉にまとめられているのだと思います。それと,ウの内容を盛り込む場合に,「かつ」以下が重要だということがうまく表せるかどうかという御指摘があったと思うのですが,振り返って考えると,甲案のウの柱書きで「相手方が常居所地国において監護することができない事情」と書かれていること自体が,「かつ」の後の要素が余り入っていなくて,乙案の「子の返還後の監護環境が子に与える影響」というまとめ方と少し齟齬があるような気がしますので,そこも御検討いただけると幸いです。 ○村上関係官 先ほどの早川委員,大谷委員のお話を踏まえて,ドラフティングではないですけれども,例えばウの要素を乙案に書き下す場合,今のところであれば,「返還後の監護環境が子に与える影響などを考慮」という部分を,例えば甲のウを,早川委員,大谷委員がおっしゃっている部分を踏まえて,あと,金子幹事がおっしゃった懸念を踏まえて申し上げると,「相手方以外の者が子を常居所地国において監護することが明らかに子の利益に反する場合において,相手方が常居所地国において子を監護することが不可能又は著しく困難となる事情の有無」といった形で,ウの「かつ」の前後を入れ替える等でつなげてしまうという案もひとつ検討の材料としてあり得るのではないかなと思ったところでございます。口頭で申し上げてしまいましたけれども。 ○髙橋部会長 浦野幹事。 ○浦野幹事 先ほどから甲案と乙案,内容が何となく違うように思われるということで議論がなされていますけれども,ウについては,先ほど大谷委員がおっしゃったように,私も乙案について,「その認定に当たっては,以下の事項を考慮することとする」という形で列挙するのはあるかなと思いました。   それから,甲と乙,若干内容が違うような印象を与えるものとして,例えば甲案のイで,「相手方に対する暴力等」のところで,子に著しい心理的外傷を与えることとなる暴力の有無が問題にされているのですが,乙案では「子の心身に有害な影響を及ぼすこととなる相手方に対する暴力」ということで,「著しい」があるかないかとか,ちょっとした違いが若干文言上気になりました。 ○金子幹事 甲案のイに当たればそれが返還拒否することができる事由に直ちになる。これに対し,乙案は言わば総合考慮を許すということなので,そこに至らない暴力でもそれは考慮事情にできるということを反映した違いで,そこは意識して変えているものでございます。 ○山本(克)委員 大谷委員が先ほどおっしゃったことと同じなのですけれども,undertakingがなくて,しかも強制の方法としては間接強制しかなくて,しかもこういう例外事由がいっぱいあるというのは対外的に説明ができないのではないかなと。少なくとも例外事由の書き方として,できるだけ裁量的だというのを示すのは,プロは見たら分かるんですけれども,一般の方が御覧になったらこういう時には拒否してもらえるんだと,そういう案だというふうにマスコミなどは捉えて報道すると思うんですよね。   ですから,そこのところは,補足説明で書くだけではなくて,本文でそういう事情があってもなお返す場合がありますよということをはっきり出るような形でパブリックコメントを出さないと。一方で国民に対する過大な期待を与えるとともに,海外のメディア等にどういう影響を与えるかということを考えると,甲案についてはもう少し工夫をしていただきたいと思います。 ○髙橋部会長 よろしいでしょうか。どこまでできるかこの場では確約はできませんが,事務当局も今日いろいろ伺った点を含めて検討し直すことは約束するということです。全員の分を反映することはできないわけですが,ぶつかっている意見もありますので。しかし,貴重な意見をいろいろ頂きましたので,更に考えてみたいということです。とは言いながら無限に時間があるわけでもありませんので,その辺は最終的には部会長と事務当局のほうに任せていただくということですが。 ○相原委員 少し遡るんですが,運用の問題になりますが,最後に少し意見を述べさせていただければと思います。   裁判に関しては日本語でやるというのが裁判所法でありますし,書面に関しては訳文を付けるというのが規則でもあったりするわけですけれども,このハーグ条約に関する問題を日弁連等で検討している中で,翻訳というものの非常な負担ということが,経済的な意味でも非常に過剰な負担になるのではないかということが問題になっております。これは法制審の直接の問題ではありませんし,今後どこでどういう政治的な決着といいますか,問題になるのか。つまり,予算面の話になろうかと思うんですが,期待ができない状況にあるのかなと思っています。   一方で,予想される資料に関しましては,裁判の証拠も含めて訳文を全部出すというようなことで,その負担を考えるとちょっと暗たんたる思いがしております。これは運用になるのかもしれませんけれども,いわゆる証明しなければいけないところの範囲がどうなるのか。これは今後裁判所のほうにも御検討いただきたいと考えております。そこら辺はパブコメに掛ける話ではないのかもしれませんけれども,是非早期の段階から問題意識を持っていただきたいなと思います。   もう一点は,先ほど横山委員のほうからもちょっと御説明があったのですけれども,日弁連では飽くまで条約に関する理解としては,子どもを常居所地国に帰して,そこの場所で監護権をきちっとやるという前提で理解して,意見書等をまとめております。立て付けのところといいますか,考え方の理解のところで,前提が違うとなれば話が違うというような意見も日弁連内部で出てくる可能性もありますけれども,飽くまで最初に提出していただきました意見書に関しましては,ハーグ条約の立て付けについては常居所地国に返還するというところからスタートしているんだという理解で意見書等をまとめておりますので,念のため申し上げさせていただきました。 ○横山委員 日弁連の方は法律効果,常居所地国への返還という点で,通常の国内的な子の引渡事件権とは区別し,そこで条約の射程範囲を区切っていると思います。そこのところが私は最初からよく分からなかったんですが,先ほど犬伏さんが私に対して質問されたときに気が付いた話で,私はこの条約と通常の子の引渡事件の区切りは,子どもが国境を越えたと,常居所地国から国境を越えて日本に来たというところに,条約とその他の事件との区切りの基準があるのであって,基本的に条約自体は法律効果の点を照準に合わせているわけではないというふうに私は考えているんです。 ○大谷委員 相原委員のほうから管轄のところで,面会交流についての管轄は今の国内法の手続のままでよいのかという御質問があったのですけれども,もう一点考えておかなくてはいけないように思っているのが,外務省の懇談会の検討事項で,21条の関係での中央当局への支援の申立てがあった場合に,今の外務省の案では,子の所在特定のための援助も行うということで検討されています。そうだとすると,そこで申立人は子の所在が分からないけれども,中央当局が調査されて子の所在が分かったと。だけれども,相手方としてはそれは申立人に知らせないでほしいと,知らされないという場合に,相手方や子の所在が分からないままで子の面会交流の申立てをすることができる場合というのが出てき得るかなと思っていまして。自分でもまだ頭の整理ができていないのですが,そういう場合があるとすれば,そのときの管轄というものを考えておかなくてはいけないのかなとちょっと気になっています。私が頭が未整理でもしかすると誤解があるのかもしれませんが。それが一点です。   それから,既に済んだところで,戻って申し訳ないのですが,一点目は22の②。先ほどもいろいろ質問したところですが,「中央当局による協力・調査の方策につき」というところですが,第一読会の配布資料によりますと,22の項目の御説明で,51ページの一番下の段落で,「証拠の偏在を中央当局への協力で何かカバーできないか」と,その御趣旨はそのとおりでいいと思うんですが,最後の段落で「我が国の中央当局は,条約7条第2項dに基づく中央当局の任務に加え,常居所地国にある必要な資料につき,常居所地国の中央当局に収集を依頼し」というふうに書いてあります。   先ほど外務省の方の御発言で,中央当局の任務といっても7条2項dの範囲内になるのではないかというお話がありまして,私も,これを広げるという規定が中央当局の任務として,今検討されている外務省懇談会のほうで何か出てくるのであれば別なのですが,結局,7条2項dの範囲内で集めることができるものについて,裁判所からどのように調査嘱託等で収集をするのか,あるいは,そこで得られたものをどのように裁判に検出するのかという辺りが,子の返還手続の法制審のほうでは検討すべき範囲内なのではないかなという気がしております。その意味で,今の中間取りまとめ案の「中央当局による協力・調査の方策につき」というのが,中央当局にいろいろやってもらえるということを,こちらで検討するようなイメージに見えるものですが,もしそうでないのであればこの書き振りをもう少し御検討いただいたほうがよいのではないかと思っている点です。   最後に27の条約16条関係で,先ほどもいろいろ御議論いただきましたが,最初に早川委員が問題提起されたこととの関係で発言したことに関連しますが,16条で想定されているのは,一般に相手方が日本で親権者の指定変更,監護者の指定変更の申立てをした場合に,その判断をしないという場面だと思いますが,申立人の側が先に,例えばハーグ条約の手続ができると知らなくて,今までのように家裁の監護者指定・引渡しの審判を求めていたと。その後にハーグ条約が掛かった場合というのも,ここで判断をしてはならないものとするに含めて考えるべきかどうかという点が余りクリアでないような気がしまして。私はそれも含むと思っていますが,そういう理解でよいのかどうかということを確認させていただければと思います。 ○佐野関係官 まず一つ目の面会交流の管轄の点ですけれども,実際問題として,どこの裁判所に申し立てていいか分からないという場合については,仮にこの返還の管轄を8庁にした場合,あるいは,2庁にした場合であっても,必ずどこかに受皿を作らなければ駄目なので,面会交流も全く同じ問題が,子の返還の乙案,丙案を採った場合,あるいは,仮に子の返還について甲案を採った場合であっても,面会交流に関する規律は,別途設ける必要があるのか検討する必要があるものと思います。   二つ目の中央当局の援助・協力のところですけれども,部会資料では確か7条2dが中央当局の元々の厳密な意味での狭義の任務権限なので,それに関する限り裁判所が嘱託,あるいは,当事者が調査をお願いするということは当然あり得て,更にそれ以外にも中央当局の一般的な,根拠としては条約第7条第1項かもしれませんけれども,「円滑な子の返還を実現する」という抽象的なマインドから,更に条約第7条第2dに限らないものについてもやってもいいのか,いけないのかということを,第2回目の部会では議論していたところです。その前提で,実際問題としてそのことを日本の中央当局がやるのか,かつ,相手国の中央当局がそういうことをそもそもできるのかという問題はあるので,なおそこはペンディングな状況なのですけれども,今の御趣旨を踏まえて,補足説明にその点を付記するかについてはまた考えたいと思います。   三つ目の条約第16条についてですけれども,今回のパブリックコメントの27番の提案自体は申立人,相手方を問わず,本案が係属していた場合については,その判断を止めるというのが事務当局の見解になります。 ○髙橋部会長 全体,どこからでも結構ですので。   よろしいでしょうか。それでは,パブリックコメント案につきましては,一通りの検討を終えたということにさせていただきます。いろいろ御議論,御提案いただきましたので,修正があり得るわけですが,適宜修正を加えた上で中間取りまとめとさせていただきます。   なお,最終的な中間取りまとめの表現等につきましては,今日の協議の枠を超えない範囲という限定はもちろん付くわけですが,部会長たる私と事務当局に表現につきましては御一任いただきたいのですが,よろしいでしょうか。          (「異議なし」の声あり) ○髙橋部会長 ありがとうございます。   それでは,この中間取りまとめにつきまして,パブリックコメントに付すことになります。既に何度も申しておりますが,事務当局の責任において補足説明を作成し,公表するというのが通例になっておりますので,今回もそれを踏襲するということにいたします。   それを踏まえて,今後のスケジュールにつきまして,事務当局から。 ○金子幹事 中間取りまとめにつきましては,補足説明を付けましてパブリックコメントに付すということを予定しておりますが,目途としては今月中にはパブリックコメントの手続を開始するということを考えております。期間としましては一か月程度を予定しております。10月一杯くらいになろうかなと思っております。   次回以降ですが,パブリックコメント中にはなりますけれども,懸案事項も非常に多いということでございますので,早速,次回から二読に入りたいと思っております。次回の部会で具体的にどの点を取り上げるかということにつきましては,なお事務当局のほうで検討いたしまして,同じように部会資料を事前にお送りさせていただくというふうにさせていただければと思います。よろしくお願いします。   次回の日時は10月17日,月曜日,13時30分から,場所はまた変わりまして,法務省の地下一階にあります大会議室になりますので,よろしくお願いいたします。   以上です。 ○髙橋部会長 パブリックコメントの結果を見る前から,第二読会を始めざるを得ないということでご了解をお願いいたします。パブリックコメントの結果はもちろん尊重いたしますけれども。   それでは,第二読会,多分網羅的にではなく,更に議論を深めたいところに絞って提案することになろうかと思います。   それでは,本日の第4回の会議はこれで終了ということになります。熱心な御審議,どうもありがとうございました。 -了-