法制審議会民法(債権関係)部会           第33回会議 議事録 第1 日 時  平成23年10月11日(火)自 午後1時00分                       至 午後6時22分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第33回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。   事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として,部会資料31をお届けしました。また,本日は,積み残し分の議論をしていただく関係で,部会資料29と30を使わせていただきます。以上の資料の内容につきましては,後ほど関係官の笹井,金,亀井,新井から順次説明いたします。   また,松岡久和委員から無効な法律行為の効果に関する意見書が提出されましたので,机上に配布いたしました。これは,前回会議での発言内容を明確にする趣旨で御提供いただいたものと承っております。この資料につきましては,法務省ウェブサイトでは今回の第33回会議ではなく前回の第32回会議のページに,会議後の提出であることを明らかにして追加的に掲載するという扱いにさせていただこうと思います。 ○鎌田部会長 それでは,審議に先立ちまして,私のほうから分科会に関する御報告をさせていただきます。前回までの審議におきまして,意思表示における第三者保護規定の在り方,部会資料27の「第3」の「1(2)」,「2(1)」,「3(6)」及び部会資料29の「第1(3)」でございます。それから,意思表示の到達及び受領能力のうち,意思表示の受領を擬制すべき場合,部会資料29の「第1」の「3」の「(3)」,及び無効な法律行為のうち返還請求権の範囲,部会資料29の「第2」の「3」の「(2)」という三つの論点につきまして,分科会で補充的に審議することとされました。これらの論点については,いずれも第一分科会で審議していただくことといたします。   また,部会資料29「第3 代理」までの論点につきましては,本日の審議の対象でございますけれども,本日の審議の中で分科会において補充的に審議することとされた場合には,これも併せて第一分科会で補充的に審議していただくことにしたいと思います。   本日,審議していただく論点のうち,部会資料30以降の論点で分科会で補充的に審議していただくものがあった場合には,どの分科会で審議していただくかについては改めて検討の上,追って報告させていただくこととしたいと思います。よろしくお願いいたします。   次に,本日の審議の予定でございます。   本日は部会資料29の積み残し部分と部会資料30と部会資料31とについて御審議いただく予定でございます。具体的には,まず部会資料29の「第2 無効及び取消し」のうち,「4 取り消すことができる行為の追認」以降と,「第3 代理」について御審議していただき,適宜休憩を入れることを予定いたしております。   休憩後,部会資料30と部会資料31について御審議いただきたいと思います。   それでは,部会資料29の「第2 無効及び取消し」のうち,「4 取り消すことができる行為の追認」について御審議いただきたいと思います。   事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 「4 取り消すことができる行為の追認」「(1)追認の要件」では,追認権者が取消権の行使可能性を認識していることが必要であるとすることを提案し,併せて成年被後見人の追認の要件として,行為の了知が必要であるとする民法第124条第2項を削除することを提案しています。また,取消しの原因となっていた状況の消滅という要件は,法定代理人等が追認する場合のほか,制限行為能力者が法定代理人等の同意を得て自ら追認する場合には不要であるということを提案しています。   「(2)法定追認」では,その要件として取消権の行為可能性の認識が必要かどうかという点について,判例に従い,これを不要とすることを提案しています。また,弁済の受領及び担保権の取得を追加するかどうかについて御審議いただきたいと思います。   「(3)追認の効果」では,適用場面がないとされる民法第122条ただし書を削除することを提案しています。   「(4)相手方の催告権」では,仮に催告権に関する規定を設けるとしても,一般的な規定を設けず,取消原因ごとに規定の要否を検討することを提案しています。どのような取消原因について催告権を設けるかについて御審議していただきたいと思います。   以上です。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま御説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。   御自由に御発言ください。   追認の要件につきましては,いかがでしょうか。特に御異論はないと承ってよろしいでしょうか。 ○中田委員 追認の要件の中で,細かい点ですけれども,一つございます。124条の2項の削除につきまして,これは方向としてはこれでよろしいかと思うのですが,法定追認への波及を検討しておく必要があるのではないかと思います。と申しますのは,資料の46ページの上から7行目ぐらいでしょうか,成年被後見人については124条2項の趣旨から法定追認の場合でも行為の了知が必要であるということになっております。そうしますと124条2項を削除してしまうと,これは法定追認の規定の仕方にもよるんですけれども,影響が出てくる可能性がありますので,そこは検討しておいたほうがいいと思います。 ○鎌田部会長 その点については,追認の要件に関する提案に対する異論ではなくて,法定追認との関係をどう処理するかという問題になろうかと思います。 ○松岡委員 今ここで具体的に提案するものではないのですが,法定追認の書き方には,かなり紛らわしいものがあります。例えば,履行の請求というのは,取消権者が履行を請求する場合に限られて,相手方から履行を請求されて法定追認になるはずはないのですが,理解している人にしかそうは読めませんので,表現を含めて細かいところは補充分科会で是非検討していただければと思います。 ○松本委員 同じく法定追認の2段落目の部分なんですが,弁済の受領を付け加えるかどうかの部分であります。どうも弁済の受領という概念が曖昧と言いましょうか,様々な意味に使われている。受領遅滞のところでもいろいろな考え方がありますし,もっと大変なのが瑕疵担保責任のところで,受領というキーワードがいろいろな意味で使われている。そういう中で,ここでいきなり弁済の受領というのを入れたらどうかというのは,弁済の受領とは何ぞやということが少し固まってからでないと決められないのではないかと思います。   弁済の受領については,どこかで定義するという御予定なんでしょうか。 ○筒井幹事 どこかでまとめて議論するかどうか,また,何らかの手当てをするかどうかは,まだこれからの議論かと思います。ただ,いろいろなところで関連する議論が出てくるという御指摘は全くそのとおりだと思いますので,全体への目配りという留意事項を御指摘いただいたものと受け止めたいと思います。 ○中井委員 法定追認の前段の要件について,ここでは取消しの原因となっていた状況が消滅した後,とだけになっているわけですけれども,それでよいのか,取消可能性の認識が必要ではないかという意見です。追認自体が結局は取消権の放棄を意味するものである,44ページの一番上ではそう説明されて,追認をするのに法律行為を取り消すことができるものであることを知って,かつ取消権を放棄する意思であることを要するという理解を前提とするならば,法定追認として追認が認められる要件としてもそれを充足するに足りる行為でないと駄目だろうと思うわけです。   だとすれば,ここで取消可能性の認識が必要でないというのは適当ではなく,取消可能性の認識も要件とすべきではないか。これが1点目です。   2点目は,法定追認事由として弁済の受領と担保権の取得を付け加えるという提案について,第一読会で反対していたわけですけれども,やはりこれは反対であるということを申し上げておきたいと思います。   その理由は,弁済の受領について,説明資料によれば積極的に債務の弁済を受けるという意思を含むものと解して,限定的だからそれで大丈夫だろうという,趣旨と思いますけれども,消費者被害的なものを考えるならば,代金請求する前に,例えば不良なものでもとりあえず受け取らせておく。そうすることによって,取消事由がある場合であっても,法定追認だと主張する余地を残すという危惧があり,金融債権の場合でも,債権者側がダミーの保証会社を作って,そこに取りあえず保証させることによって担保権の取得に類似する行為をさせて,法定追認という,こういう危険があるのではないか。   したがって,積極的な行為でない受領ないし積極的でなくても取得できる担保権の取得について法定追認事由とすることは,慎重意見です。 ○鹿野幹事 今の中井委員の御意見とほぼ重なってしまうのですが,2点申し上げたいと思います。第1点は,法定追認は,本来的な追認の前提要件が備わった場合において取消権者の一定の行為があった場合に追認の効果が法律上発生するものとして捉えるべきだと思いますし,したがってその前提要件に関する点を明確に確認する必要があるということであります。それから,もう1点は,特に法定追認事由の中でも弁済の受領についてです。これは,先ほど松本委員から御指摘があったところの弁済の受領の定義にも関わると思いますし,また,中井委員の今の御指摘にも関係するのですが,取消権者が意思的な関与をしなかった場合はこれに含まれないということをここに明確にする必要があると思います。現在の書き方ですと,資料の46ページにも指摘されておりますように,あらかじめ指定されていた銀行口座に相手方から振込みがされたような受け身的な受領の場合,つまり取消権者が積極的な関与しなかった場合までこの法定追認事由に含まれてしまうような印象を与えるのではないかという危惧を覚えます。そこで,少なくともそのような場合は含まれないということを,条文の上で明確にする必要があると思います。 ○鎌田部会長 法定追認については,表現については分科会でというお話もございましたけれども,実質的なところでの議論がありますので,それらの点を事務当局で整理させていただいて,その中で表現についても工夫をするという処理にさせていただければと思います。   追認の効果についてはいかがですか。   この点は特に御異論はないと理解させていただきます。   相手方の催告権につきまして御意見はございますでしょうか。 ○中井委員 (2)の点で,松本委員若しくは鹿野幹事から受領という概念をもう少し明確にする。そこに意思的要素を定義付けるなりすることによって解決しようという御提案かと思いますが,そのような形で解決することについても危惧があります。外形的には売買契約で品物を受領すれば受領した,そこから当然受領する意思というのが推認されるリスクがありますから,そういう定義で本当に足りるのか。認識をした上で,積極的にその契約を履行するというところまでを,受領という行為の定義付けだけで解決できるのか疑問です。商品を送りつけて受け取ったではないかと言われたときに,商品を受け取ったほうが,いえいえ,そこに積極的意思はありませんでした,ということを反証しなければならないという構造になりそうな感じがします。   その反証のリスクを取消権者側に負わせるような結果になるのではないか。その定義だけで本当に解決できる問題なのかどうかという危惧があるということを重ねて申し上げたいと思います。 ○松本委員 私が言った趣旨は,ここの条文を何とかクリアしたいという意味で言っているのでは全くなくて,むしろこの条文以外のところで受領というのが大変大きな争点になっている。受領義務を規定しようという提案もあるわけです。海外の法制がそうだからということで。そうなると,物理的な受取義務を受領義務と呼ぶようなことにもなりかねないわけなのです。したがって民法で受領という場合に一体どういう要件を満たせば,受領ということになるのかという定義をまず明確にしておかないと,それぞれの条文ごとに,この場合の受領はこう意味です,この場合はこういう意味ですというような解釈では大変混乱して困ったことになるという趣旨です。受領という言葉をキーワードにしてあるルールを作るのであれば,まずその受領とは何かということをきちんと定義して,そして他の局面においてもぶれないで使えるような形でやる必要があるという意味で,根源的にまず受領のほうを先に議論しましょうという提案で,ここだけ受領まがいの概念を入れようという提案ではございません。 ○鎌田部会長 それは,それぞれについて理解したつもりでございます。   それでは,相手方の催告権につきまして御意見をお願いします。 ○山本(敬)幹事 相手方の催告権については,取消原因ごとに催告権を認めるかどうかを検討する方向でよいと思いますが,趣旨としては,不安定な地位に置かれる相手方を保護するところにあるわけですので,相手方がそのような不安定な地位に置かれても仕方がない場合のほかは,催告権を認めてよいと考えられます。したがって,詐欺,強迫の場合のほかは,原則として催告権を認めるという方向で規定を整備してはどうかと思います。 ○岡本委員 ほぼ同じになります。取消原因ごとに催告権の要否を検討すること,これはこれで差し支えないと考えますけれども,不安定な立場におかれる相手方の保護,これは重要だと考えておりまして,意思無能力,あるいは錯誤による意思表示を取り消し得べき意思表示ということにするときには,相手方に催告権を与えるということに賛成したいと思います。   それから,部会資料29の49ページのところに,詐欺や強迫による意思表示の場合には,相手方を保護すべき必要性はないから催告権を与える必要性はないという考え方が示されていまして,これはこれで差し支えないと思うんですけれども,第三者による詐欺とか強迫の場合,この場合は必ずしもそうとは言えないようにも思われますので,相手方に催告権を与えるという考え方もその場合にはあるんではないかと思います。 ○中田委員 相手方の立場の保護を考えるべきだというのは,それは賛成です。ただ,それとともに本人側の事情についてもやはり考慮する必要があるのではないかと思います。意思無能力の効果を取消しとする場合に,催告プラス追認擬制ということになりますと,詐欺の被害者よりも意思無能力者の保護が弱くなってしまう。それが相手方の立場だけから見て,それでいいと言えるかどうかというのはやや問題ではないかと思います。   もちろん催告する場合には,意思能力の回復があるということが前提となっていると思いますけれども,そうしますと催告受領時の意思能力の有無が再び争点になって,複雑になると思います。そうしますと結局元に戻って,意思無能力の効果を取消しとするのがよいのか,無効とするのかということを更に検討すべきで,仮に無効とした場合に相手方保護をどのように考えていくのかということも検討すべきではないかと思います。 ○岡委員 弁護士会の多数意見は,催告権を与えるべきではない,与えることに反対であるという意見でございました。相手方の地位が不確定になるのを防ぎたいというのは分かりますが,それは事実上,催告をして反論を見るということもできるわけですし,この法定の催告権で,先ほど中田先生もおっしゃいましたように,期間内に確答を発しないときは追認したものとみなすという強い効果を持った催告権を現行法以上に広く認めることには反対です。錯誤,あるいは意思無能力について無効であるという立場に賛成しておりますので,無効だから必ずというわけではないんですけども,その人たちを保護するという観点に立てば,この確答を発しないときは追認したものとみなすという強い効果を伴った催告権には反対であるという意見が多くございました。 ○山本(敬)幹事 中田委員に質問なのですが,無効構成を採用した場合に,相手方の保護を別に図る可能性を検討してはどうかということでしたけれども,具体的にはどのような方法が考えられるのでしょうか。 ○中田委員 条文にどういうふうに書けるかは分からないんですけれども,イメージとしては能力が回復した後,又は法定代理人に対して催告するという枠組みで考えられないかということなんですけれども。 ○山本(敬)幹事 無効構成を前提にした上で,その場合はどのように無効が確定することになるのでしょうか。 ○中田委員 それは相対的無効の効果をどのように構成するかということに依存しているわけで,それはまだここで固まっていませんから,更に具体的に考えていくということになると思います。 ○岡委員 今のように両説あった場合には,第2ステージの段階ではどのようになるでしょうか。 ○鎌田部会長 ここで,どっちかに決まればいいんですけれども,今の状況の下で議論を続けていてもどっちかには決まらないので,今日の部会で意見がこういう形で分布しましたが,幾つか問題点を提起されましたので,その部分を事務当局において補充するとこうなりますというような形の部会資料を作成して,次のラウンドではいよいよ御決定を頂くというふうな運びにせざるを得ないかと考えております。 ○岡委員 優劣のつかない両案が第二ステージで出てきて,そこで決着がつけばいいし,決着がつかなければそのままパブコメと,そんなイメージでしょうか。 ○鎌田部会長 部会での意見がほぼ均等に分かれるようだったら両論併記でパブコメになる可能性が高いと理解しています。 ○中井委員 (4)について,若干補充させていただければと思います。   これは催告権を認めて確答しなければその結果として擬制されるという構造になっています。相手方の取引を保護するという見地から不安定な立場に長く置くのは適当でない,何らかの形で結末が早く付くような制度を構想する。その背景事情は理解できないわけではないのですが,現実に相手方として履行を求めていく,具体的にそこでやり取りがあることによって通例はほとんどの場合解決するのではないか。そこで契約がお互いに履行が完了すればそれで終わるし,履行請求に対しておかしいと思えば,そこで取消権行使の機会が与えられて,取消権を行使すべきときはするのではないか。実務的にそこで解決できるのだとすればこのような強い効果がある規律をあえて設けなければいけないのかというところに疑問があります。   それから,帰責事由のある場合については,例えば詐欺と強迫については不要だと山本敬三幹事もおっしゃったかと思いますが,仮に不実表示も取消しという構成が新しく取り入れられるとすれば,それも帰責事由のある場合に当たるから催告権は不要になると思います。錯誤についても相手方からの情報によって錯誤に陥る場合もあるわけで,相手方に帰責事由のある場面があるとすれば,やはり催告権を設ける必要性があるのか。   現実的に考えていくと,そういう強い制度を作るほどの必要性,実務上の要請があるのか,疑問を持っています。 ○鎌田部会長 それでは,続きまして,部会資料29の「第2 無効及び取消し」のうち,「5 取消権の行使期間」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 「5 取消権の行使期間」「(1)期間の見直しの要否」では,追認可能時から5年間,行為時から20年間というそれぞれの期間のそれぞれについて見直しの要否を御審議いただきたいと思います。「(2)抗弁権として行使される取消権の存続」では,いわゆる抗弁権の永久性に相当する法理を取消権について規定するかどうかについて御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○中田委員 これも細かいことなんですけれども,抗弁権の永久性につきまして,53ページの最後の結論のところで,双方未履行の債務であることを要件とすることが考えられると書いているわけですけれども,この双方未履行ということの趣旨がちょっとはっきりいたしません。これは双方の債務のいずれもが全く履行されていないということなのか,一部履行されていない場合も含むという趣旨なのか,いかがでしょうか。文脈からすると全く履行されていない場合なのかなとも思ったんですけれども。 ○笹井関係官 記載の趣旨といたしましては,中田先生が今おっしゃったとおり,いずれも全く履行されていない場合に限ってはどうかという趣旨でございます。 ○中田委員 分かりました。そうしますとこれは表現だけの問題ですが,ここでの用語と破産法の双方未履行双務契約と概念がずれて来ますから,そこは区別しておいたほうがよいと思います。その上で実質的に考えるとどうかですが,一部でも履行されると抗弁権がなくなるというのは,ここでの議論は分かるのですけれども,ちょっと問題になる場合が残るかなという気はしております。 ○潮見幹事 私も抗弁権の永久性に係るこの(2)について一言私の意見を申し上げさせていただきたいと思います。   補足説明のうちの2に書かれている処理について,私は基本的に賛成できません。抗弁権の永久性とか抗弁の永久性ということが問題になる場面というのは大きく分けて二つあって,一つはいわゆる履行請求,それがされたときにその請求権,あるいは請求を阻止するというもので,代金減額請求がその典型例だと思いますけれども,もう一つ,それとは違って,請求権,あるいは請求の発生原因となる契約だとか,法律行為の効力を否定するという観点から作用するような場面での抗弁権の永久性,あるいは抗弁の永久性ということが問題な面もあります。取消権が問題になる抗弁権の永久性は,後者の場面です。つまりそれは請求権自体に対する阻止ということのみならず,発生原因自体を消す,そのために取消権という形で権利主張するというものです。そうであれば,そのような観点から主張する以上,実際にそこで出てきた結果というものは契約,あるいは法律行為の効力が全否定されるというものになるべきです。   2のところに書かれているような個別の技巧を施す必要すらないのではないかと思います。さらに,そのように考えましたらならば,先ほど中井委員の御発言があったような双方未履行の債務であるなどという限定をすることはこの場面に限っては,私は要らないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。今頂戴した御意見を踏まえて事務当局で検討させていただきます。   期間の見直しの要否の点につきましてはいかがでしょうか。 ○岡委員 (1)については,弁護士会の多数意見は共に甲案で現行法どおりでいいというものでした。権利行使期間を短縮する理由として,証拠の保全義務の軽減とかいろいろな議論が時効のところでありましたけれども,今どきそういうことも余り尊重しなくていいのではないか,やはり権利の確保と言いますか,権利を大事にする発想から言えば,現行法どおりでいいのではないかということで,共に甲案賛成が多くございました。   それから,(2)の抗弁権としての取消権の存続ですが,内容的には考え方としてはこの考え方に賛成である,しかし,条文化するとなるとここにあるような先ほどの双方完全未履行に限るかどうかとか,いろいろな議論が出てきますので,本当にいい条文ができるのか,議論がそんなに煮詰まってないのであれば,解釈で運用するということでよろしいのではないか,そういう意見がございました。   付け加えますと一部履行,あるいは一部受領している場合にややこしくなるという意見については,法定追認が認められる場合が多いので,こんな細かい議論は出てこないのではないだろうかというのが実務家としての素直な感想です。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。期間の見直しについて。 ○山野目幹事 今,話題になりました5の(1)の期間の見直しの問題でございますけれども,岡委員のほうから御紹介を頂きました弁護士会の御意見の御趣旨はよく理解することができました。それと同時に,この問題は,後ろのほうで予定されております消滅時効に関する期間の取り方等の帰趨との理論的なつながり,ないしバランス感,それらのものと関連がある問題もあるかもしれませんから,そちらも見据えながら引き続き検討していただきたいと感じる部分がございます。したがいまして,意見分布を把握していただく上では,なおアについての乙案,イについての乙案についても,それらの案の採用の可能性に配慮しながら引き続き検討の必要があるということに御留意いただきたいと感じるものでございます。 ○中井委員 潮見幹事の(2)に関する意見の確認ですけれども,結論としては取消権の行使期間経過後であっても取消権の抗弁権を認める。認めた上でそれは原因についての取消しだから,全部巻き戻しをするのが当然であって,一部履行の場合について特段懸念する必要はないと理解してよろしいわけですね。 ○松本委員 潮見幹事の趣旨は逆だと単純に理解しておりまして,期間が終了しているんだから取消権なんか認める必要はない,終わりだという議論だと思ったら,逆だとおっしゃることの意味は,取消権は5年なら5年経過しても全く問題なく行使できるという,期間制限をやめてしまえという御主張ですか。 ○潮見幹事 抗弁権として取消権が行使される場合で,それに対する再抗弁としての消滅時効の主張を許さないというのが,ここでの問題ではないでしょうか。 ○鎌田部会長 期間にもよるんですけれども,取り消し得べき法律行為がされて,それによって生じた債権の消滅時効期間が10年だとすると,5年経過した後に請求すると,取消権は行使できなくなっているので,弁済を強制することができる。取り消す側は攻められて来ないから取り消すまでもないと考えていたら,取消権が消えた後に請求されてしまうという,その不都合を回避しようというのが,川島先生などのおっしゃられた防衛的に取消権が働くときには抗弁権の永久性の考え方を導入すべきだという考え方で,そういう御趣旨ですね。 ○松本委員 抗弁権の永久性はそういう意味でしょう。ここでの立法提案は違うんですか。 ○鎌田部会長 適用される場面が,そういうふうに法律行為を取り消しして請求権の存在自体を全否定する場合と,履行請求権に対して部分的に提出する抗弁の場合と二とおりあるのに,ここの補足説明がその両者を明確に区別していない説明になっているのではないかというのが先ほどの潮見幹事の御意見で。 ○松本委員 伝統的通説であるところの抗弁権の永久性は認めるというだけの話ですね。つまり抗弁として出すときは期間制限に掛からないという。 ○潮見幹事 それはもちろん前提で……。 ○松本委員 だから我々が一般的に理解しているルールどおりだということですね。分かりました。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。期間の見直しの要否については余り積極的な御意見も出ていないんですが,当面甲案,乙案両方とも,これも優劣決め難いというのが全体の御意見と理解せざるを得ないようにも思いますけれども,よろしいですか。 ○中井委員 今の部会長の整理ですが,山野目幹事のおっしゃったように,消滅時効の関係がありますから,その段階での議論を踏まえて,一定留保することについて,そういう考え方でいいかと思います。ただここで出た意見は岡委員の甲案のみだったのではないか,乙案について積極的に,現行法では長過ぎるんだという御意見があるのかどうか。弁護士会の各単位会の意見を聴きましても,この5年,20年について決して長過ぎるという意見は基本的にはなかったからこそ先ほどの発言があったわけで,その点は取りまとめにおいては留意していただきたい。 ○鎌田部会長 分かりました。前回までの御議論からの引き続きという形で先ほどのような理解をしています。 ○内田委員 ちょっと戻るのですが,抗弁権の永久性について一言意見を申し上げたいと思います。   取消権などについて期間制限が掛かっている趣旨は,一定の期間が過ぎたらもう取消権の行使を認めず,したがって法律関係が形成権によって変動することはもう認めない。つまり,法律関係を安定させようということであるわけです。ところが,双方の債務が未履行で取消権が行使されていない状態というのは全くまだ権利変動が起きていない。そういう状態で放っておいたところ,取消権が消滅してから履行の請求を受けた。そういう場面では,取消権の行使を認めること,つまり抗弁権の永久性を認めることが,現状をそのまま維持するということになるので,結局,形成権に期間制限を掛けた趣旨にもかなうであろう。したがって,期間制限が過ぎたとしても今のような形で抗弁権として機能する場合には取消権行使を認めていいのではないかというのが,元々の抗弁権の永久性の発想だと思います。つまり,取消権行使をしたとしても,巻き戻しのための権利変動は起きないということが前提になっていたと思いますので,典型的には双方の履行が全くなされていないという場合が想定されています。比較法的にもそういう規定の例があります。   ところが,一部の履行がされている場合にも抗弁権の永久性を認めるということになりますと,取消権の期間制限が過ぎているにもかかわらず,給付した物の返還という,取消しによる権利変動が起きることになりますので,趣旨が変わってくる。その場合でもなお取消権行使を抗弁として認めるのかということは,課題として残る問題だろうと思います。 ○鎌田部会長 期間の見直しの要否につきましては,中井委員からの御指摘も踏まえた整理をさせていただきます。   ほかにこの点について御意見がないようでしたら,次に進ませていただきます。   次に,部会資料29の「第3 代理」のうち,「1 有権代理」の「(1)代理行為の瑕疵―原則」から「(5)任意代理人による復代理人の選任」までについて御審議していただきたいと思います。 ○金関係官 「1 有権代理」の「(1)代理行為の瑕疵-原則」については,代理人が相手方に対して詐欺,強迫をした場合に民法第101条第1項の適用がないことにはおおむね異論がないと思いますが,そのことを条文上明確にするに当たっては,代理人の意思表示に瑕疵等がある場合と相手方の意思表示に瑕疵等がある場合を区別した上で,代理人が相手方に対して詐欺,強迫をした場合は,相手方の意思表示に瑕疵がある場合に該当するものの,その相手方の意思表示の効力が本人,代理人側の主観的事実の有無によって影響を受ける場面ではないので,同項の適用がないとの説明をすることが考えられます。(1)の前半ではその旨の提案をしています。(1)の後半では,代理人又は相手方の意思表示に瑕疵等がある場合を漏れなく示す表現として,どのような表現が適切であるかについて,御審議いただきたいと思います。   「(2)代理行為の瑕疵-例外」のアについては,本人が代理人をコントロールすることができる場合に民法第101条第2項を適用すべきであることにはおおむね異論がないと思いますが,そのことを条文上明確にするに当たっては,本人が知っていた事情と本人が過失によって知らなかった事情を区別した上で,それぞれの場面に即した規定を設ける必要があると考えられます。アの前半では本人が知っていた事情について,アの後半では本人が過失によって知らなかった事情について,それぞれの規定の仕方を提案しています。イでは,甲案として,本人が有過失の場合には代理人の善意を主張することができないとする立場,乙案として,本人が有過失の場合には代理人の善意を主張することはできるが代理人の無過失を主張することができないとする立場を提案しています。   「(3)代理人の行為能力」では,制限行為能力者である法定代理人の行為に何らかの制限を設けるべきとする甲案,乙案と,その必要はなく現行法を維持すべきとする丙案を提案しています。   「(4)代理権の範囲」のアでは,代理人の権限に関する基本的規定を設けることを提案しています。なお,任意代理の場合に関しては,ブラケット内に示した「代理権授与の目的を達成するために必要な行為をする権限」をも明文化すべきかどうかについても,御審議いただきたいと思います。イについては,権限の定めのない代理権授与行為の有効性が議論のポイントで,これを無効と考えて任意代理には民法第103条の適用がないとする甲案と,これを有効と考えて任意代理にも同条の適用があるとする乙案を提案しています。   「(5)任意代理人による復代理人の選任」では,復代理人の選任要件を緩和すべきとする甲案と,その必要はなく現行法を維持すべきとする乙案を提案しています。   以上御説明しました論点のうち,(1),(2),(4)については,分科会で補充的に議論することも考えられると思いますので,その可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ただいま御説明のありました部分につきまして御意見をお伺いいたします。御自由に御発言を下さい。 ○深山幹事 「(2)」の「代理行為の瑕疵の例外」のところについてでございます。そのうちのアのところについて,コントロールする可能性があるかどうかという観点から,委託及び指図がない場合についても,その適用範囲を拡張するという考え方については,今御説明があったとおりほとんど異論のないところかと思いますが,それをどう表現すべきかというところについては,前段のところでは,「本人が自ら知っていた事情を任意代理人に告げることができたとき」という表現ぶりで,後段のほうも,過失により知らなかった事情でも,「その事情を知ってこれを告げることができたとき」という表現になっております。   その趣旨がコントロールの可能性というところに着目しているということは理解できるんですが,表現として「告げることができたとき」というのは,非常に広がる可能性のある表現であり,その解釈によっては非常に緩やかに適用される余地があって,本来意図した以上に適用範囲を拡張することになってしまうのではないかという危惧を感じております。   どういう表現にしても,ある程度規範的な評価を含む概念にならざるを得ないという気がするんですが,例えば,「告げることができた」というところを,「告げるべきであったとき」という表現にしたほうが良いように思います。そこに規範的な評価が加わるということを意識させる表現でもありますし,その解釈適用においても過度に広がり過ぎることにならないのではないかという観点から,これがベストな表現かどうかはともかく,「告げることができたとき」よりは,「告げるべきであったとき」のほうがよろしいのではないかと考えます。 ○高須幹事 今,深山幹事のところについては,私も同じように考えておりまして,その告げることかできたときがどの程度の判断をされることになるのか。ここが非常に分かりにくいのかなというところで,何らかの工夫が必要かなと思っております。   続けて,(2)はイの部分がございますので,イの部分につきましては甲案,乙案あるわけですが,乙案のほうが本来であろうというのが弁護士会の基本的な意見ということでございます。私もそのように考えております。こちらは余り議論にならないのかもしれませんが,そういうふうに弁護士会としては理解しております。 ○岡委員 今の(2)の弁護士会の大多数の意見は今のお二人のとおりなんですが,更に広がり過ぎる懸念を示す意見として,アのところで特定の法律行為の委託がある場合に限る,本人の指図までは絞る必要はないでしょうけれども,特定の法律行為の委託がある場合という要件は現行法を維持して残したほうがいいのではないかと,そういう意見がございました   ついでに(3)に移ってもよろしいでしょうか。(3)については,来年4月1日施行の民法改正によって財産の管理処分権に限定した後見人を複数の中で選べるという制度が施行されると聞いております。そのような制度改正がなされるのであれば,部会資料には書いてないですけれども,法定代理について行為能力者に限る,そういう案を導入しても新制度の下ではいいのではないかという意見がございました。   ただ,その新制度のほうはまだ深く研究しておりませんので,ぴったりフィットするのかどうか更に検討したいと思っておりますけれども,甲案,乙案,丙案ではなく,行為能力者に限るという案も検討すべきであるという意見が昨日の弁護士会のバックアップ会議の議論で出てきましたので御紹介申し上げておきます。 ○岡本委員 (3)の代理人の行為能力のところなんですけれども,特に甲乙丙案どれを支持するというわけではないのですが,取引の安全性の観点にも配慮して慎重な御検討を頂きたいという意見がございましたので,それだけ申し上げておきたいと思います。 ○山本(敬)幹事 (2)と(3)を併せて,意見を申し上げたいと思います。   まず,(2)のイで先ほど高須幹事がおっしゃられた点です。(1)の101条1項に対応する提案は,これでよいと思うのですけれども,(2)の2項に対応する部分は,少し疑問があります。特に,イの部分ですが,部会資料を見ますと,101条の2項後段について,甲案と乙案という考え方があり得るというのですけれども,甲案のように,「本人が過失によって知らなかった事情についても,同様とする」というのを,本人は代理人の善意を主張することができない旨の規定と理解するという考え方は,実際にこれまで主張されたことがあったのか,定かではありません。少なくとも,善意のみが要件とされているときに,たまたま代理行為が行われれば,本人は善意でも,過失があれば,代理人の善意が主張できない。つまり,善意という要件を何か本人の善意無過失という要件に読み替えるようなことになりはしないかという危惧があります。その意味では,高須幹事がおっしゃいましたように,乙案のように理解するのが自然であって,ここでは乙案を採用するという方向で考えてよいのではないかと思います。   (3)も併せて申し上げますと,代理人の行為能力について,結論としては甲案ないしは乙案に従って,法定代理人が制限行為能力者である場合について,本人を保護するための規定を設けるべきではないかと思います。丙案に従って,何も規定を置かないことにしますと,先ほどの岡委員の御指摘はあるところですが,現行法の下では,法定代理人が制限行為能力者であるケースが出てくる可能性があるのに,そのような者を自分で代理人に選んだわけではない本人が,不適切な代理権の行使によって財産を失う恐れが出てくることになります。これは,やはり現行法の不備に当たると考えられますので,少なくとも本人にそのような不利益を生じさせないような措置を講じるべきではないかと思います。   その上で,甲案と乙案のどちらがよいかということですが,どちらも一長一短のあるところですけれども,私は甲案のほうが適当ではないかと思います。と言いますのは,乙案によると,法定代理人が制限行為能力者である場合に,法定代理人である制限行為能力者が自分を当事者としてするのであれば単独ですることができる行為の範囲に代理権の範囲を制限することになりますので,それを逸脱した行為が行われたときは,無権代理になると思います。しかし,そのような行為をしたとしても,結果として適切な行為が行われる場合もあり得ると考えられますので,一律に無権代理とするのは行き過ぎではないかと思います。この点は,甲案によりますと,問題のある場合に限って取り消せばよいわけですので,それで過不足なく対処できると思います。  もちろん,これは債権法改正の範囲を超えるかもしれませんけれども,将来,親族法等を含めた改正を考えるときに,本当に制限行為能力者が法定代理人になる可能性を認めるかどうかについて,慎重な検討をすべきだろうと思いますが,当面の手当としては以上のような方法を採るべきではないかと思います。 ○山野目幹事 部会長から分科会の審議に委ねるべきではないかという御提案のあったところは,全てそのようになさることがよろしいのではないかという意見を述べさせていただきます。その上で山本敬三幹事が後半でおっしゃった(3)の論点について,若干類似の御提案を含む意見を述べさせていただきたいと考えます。   この問題を考えるに当たっては,家庭裁判所が成年後見人等を選任した上で,選任しっぱなしではなく,しかるべき監督の仕事を一所懸命なさっておられるということに十分留意しつつも,ほぼ家庭裁判所もマンパワーが限界になりつつあって,高齢化社会の進行の中で家庭裁判所が見ていてくれているから大丈夫であろうというふうなオプティミスティックな考え方に立って物事を考えてはいけない,ということもたしかであろうと考えます。   高齢化社会の進行の中で,制限行為能力者が法定代理人等に就任するという事態が,極めて稀であるかもしれませんが,ありえないものではない,という前提に立った上で,併せてノーマライゼーションの要請との調和も勘案しながら,検討がされるべきではないでしょうか。この問題について適切な解決を得るためには,岡本委員がおっしゃったような取引の安全への留意ということも重要でありますけれども,やはり甲案又は乙案を採るという方向で,つまり丙案を採用しないという方向で何らかの立法措置が講じられるべきではないかと考えます。   岡委員がおっしゃった御意見,つまり制限行為能力者が就任すること自体を否定しようという御意見は,趣旨は理解できますけれども,ノーマライゼーションの要請の下で考えると,にわかにそれに賛成することに躊躇を覚えます。年老いた夫婦が両方とも判断能力が衰え,しかし寄り添って支え合って生きていこうという場面を考えたときに,甲案ないし乙案のような手当が必要である場面がないと言い切ることはできないと考えます。   甲案,乙案の比較の中では,甲案のほうがどちらかと言うと,ノーマライゼーションの要請に対して緻密に応えている部分があるのに対して,乙案のほうが比較的制度理解の簡明が得られるという長所があるかもしれません。しかし,いずれにしても甲乙を中心として,どちらを採用するかは技術的細密な検討を要する部分もあるように感じます。   それから,岡委員が御示唆になった周辺制度の展開や現状との関係も,もう少しきちんと検討しなければいけないのではないかと思います。そこで私の感じるところですが,なるべく丙案を採らないで,甲乙で努力するという方向で,甲乙の詳細な比較対照も考えるということとし,先ほど部会長の御提案では(3)は分科会事項としての付託予定から外しておられたかに思いますが,甲乙のいずれかで検討していただきたいという付帯の気持ち付きで,(3)も,分科会の御負担を大きくしますが,そちらで少し時間を掛けていただいたほうがよいのではないかと感じる部分がございます。 ○岡委員 今の山野目先生の意見に二つ発言させていただきたいと思います。   一つ目は,年老いた夫婦同士でありますとか,親子同士でありますとか,愛情の問題とか身上監護の問題とかそれはおっしゃるとおりだと思いますけれども,財産管理の問題になりますと,やはり本人保護のためには行為能力者という制限があったほうが保護になるのではないかと思うところであります。   もう一つ,ノーマライゼーションという言葉について,弁護士会のバックアップ会議でも議論いたしました。平穏で正常な生活を営めることを是非保護しましょうという意味はそのとおりだと思うんですが,その中に法定代理人になること,それがノーマライゼーションの一つと言えるんだろうかという疑問が出されました。弁護士会でも更に検討いたしますが,そこまでをノーマライゼーションの保護として考えることはないのではないかという意見が出ました。 ○山野目幹事 年老いた夫婦が支え合って,という表現は,皆さんの印象に強く刻まれたであろうと私自身その手応えを感じたと同時に,誤解も与えるものであろうということも少し気になっておりましたが,岡先生の今のお話を伺っていて,私の言葉足らずであった部分もあったものと感じます。   身上監護の部分のみではなくて,おっしゃった財産の管理,処分,とりわけ管理に関するところでしょうけれども,正に年老いた夫婦が,しかし周辺の人々を支えてゆかなければならない場面というものは,起こりうることであろうと想像します。それからノーマライゼーションについても,単純な旗印のような言葉遣いをしていけないことは確かであると考えますが,やはり現状に即して,この問題についての解決を得ていただきたいと考えますし,弁護士会のほうにも成年後見の仕事を専門的に手掛けておられる先生方がおられますから,そういうふうな方面の御意見を伺う機会なども得つつ,引き続き検討していただきたいと願うものでございます。 ○鎌田部会長 これは,岡委員,法定代理人は行為能力者に限るという積極的な提案もするということですか。 ○岡委員 そういう案が出ました。 ○中井委員 (3)の補充です。是非裁判所の御意見も聴きたいんですけれども,バックアップ委員会が家庭裁判所でどういう実務がされているのか確認をしたところ,現在,制限行為能力者を法定代理人に選任している事例はまずないのではないか。それが判明したときには解任の手続を取っているのが家裁の実務ではないかという,一部の弁護士会からですけれども,そういう報告がありました。実務が本当にそうなのかと確認しなければいけないことと思います。   もう1点は,今年法改正がなされ,来年4月から未成年者についても身上監護と財産管理を分けて複数の後見人を選任できるようになったとのことです。この意図するところは,身上監護については制限行為能力者であっても,財産管理については,それは重要なことだから,後見人を分ける,すなわち行為能力のある人を選任する。こういう立法意図があるのではないか。にわか勉強ですので,確認をしてから改めて発言すべきかと思ったんですが,そういう認識から先ほどの弁護士会の意見が出ました。 ○松本委員 私は,山野目幹事の発言に非常にインパクトを感じたわけですけれども,支え合ってということの中身が,行為能力を制限されているところの人々がお互いに法定代理人になり合っているのでは,これは何も前進しない,恐らく甲案でも乙案でも動かないわけでしょう。そうなると一方が成年後見が必要な状態で,他方が補佐が必要な状態とか,行為能力の制限の程度が少し違う老夫婦が支え合うというよりは,能力が残っているほうが他方を支えるという趣旨だろうと,財産的な面については思います。   ノーマライゼーションで一番必要とされている通常の日常生活に関する行為については単独でできるというのが民法にも書いてあるわけですから,そうするとここで法定代理人が必要なのはもう少し大きな資産を動かすとかという話になってくるとすると,やはり岡委員が強調されているようなきちんとした判断能力のある人がいないと当初意図したことが実現しなくなるのではないかという印象を受けます。   実際に,裁判の実務がそういうふうに動いているのであれば,それは正しい,適切なことをやっておられるんだと思います。 ○鎌田部会長 今,(3)に議論が集中しておりまして,直接的には丙案支持という意見は表明されていないところでありますけれども,この部会資料によれば,第12回会議においては取引の安全の確保という見地から丙案をという意見が記録されています。岡本委員から取引の安全への配慮というふうな御指摘があって,それを丙案支持の意味を含むものとして受け取るべきかどうかということが,ちょっと気になるところですけれども。 ○岡本委員 丙案支持とまでは行かないです。ただ,いずれの案を採るにしても,取引の安全については配慮いただきたい。そういう趣旨でございます。 ○山本(敬)幹事 岡委員に質問をさせていただければと思います。御提案のようにされた場合には,親族法の規定との関係,つまり,847条で,後見人の欠格事由が規定されていますが,成年後見制度を導入するときに,ノーマライゼーションの考え方から,後見開始の審判を受けていることは後見人の欠格事由とはしないこととされたわけですけれども,そのような規定との調整は必要にならないでしょうか。つまり,この規定だけを修正すればよいというのではなく,親族法等の規定を含めて見直しが必要になってくるのではないか,その点についてどうお考えかということをお聞かせいただければと思います。 ○岡委員 中井委員と同様,ちょっとににわか勉強で話しておりますので先ほどの制度趣旨,来年4月1日の施行の背景でありますとか,弁護士会内の意見を聴いた上で回答させていただきたいと思います。 ○中田委員 私もはっきり記憶していないんですけれども,今回,未成年後見人を複数にすることが可能になりましたが,その場合に身上監護と財産管理の分担や分掌は認めるわけですけれども,たしか財産管理権を一切持たないという後見人はなくて,身上監護権を持たない後見人はありうるというような作りではなかったかと思います。そうだとしますと弁護士会におかれましても,その点も含めまして更に御検討いただければと思います。 ○松本委員 全くこの分野を勉強してない者からの印象的発言なんですけれども,今の議論の流れを聞いていますと,成年被後見人であっても他の成年被後見人の後見人になれるかのような議論がなされていると。そうしますと夫婦が共に成年後見人が必要な状況になった場合にお互いをお互いの成年後見人に任命するなんていうことを実際には裁判所はしないと思いますけれども,それでもいいんだという考え方は私は全く理解できません。それでは何のための成年後見ですかという感じで,そんなことをしたら両方の財産が全部取られてしまうではないですかと思います。 ○鎌田部会長 (1)及び(4)についてはまだ御意見が出ておりませんけれども。 ○山本(敬)幹事 (4)について申し上げたいと思います。特に代理権の範囲の(4)のうちのイの部分です。  ここでは,現在の103条に相当する規定が任意代理の場合にまで適用されるかどうかという点について,適用されないとするのが甲案で,されるとする乙案が挙げられていますが,その理由として,権限の定めのない代理権授与行為は有効か無効かというところに焦点が当てられているのは,考え直す必要があると思います。   任意代理で,代理権授与行為をどう解釈しても,およそ授与された代理権の範囲を確定することができない場合は,そもそも代理権授与行為として有効なのかという問題が出てくることは,確かです。実際に,そのような場合に,代理権授与行為が無効だと判断されることもあるだろうと思います。  しかし,代理権授与が行われたことは確かで,その範囲が明確に規定されてないだけであって,代理権授与行為が無効とまでは言うことはできないという場合もあるだろうと思います。問題は,そのような場合に,本当に現在の103条が任意規定として適当な内容になっているのかどうかです。授与された代理権の範囲が明確でない場合の多くは,かなり包括的に代理権が与えられている場合ではないかと思います。そのような場合に,103条のように,保存行為や管理行為に代理権範囲を限定する規定を適用するのは,実際には合わないだろうと思います。つまり,103条は,任意代理で授与された代理権の範囲が不明確な場合に適用されるべき任意規定として必ずしも適当な内容ではないのではないか。だから,これは任意代理の場合には適用すべきではない。結論は甲案と同じですが,理由は少し違うというのが私の申し上げたいことです。 ○鎌田部会長 同じような考え方で,処分権まで与えるというのは極めて例外的だから,明確に処分権が与えられたという断定ができない限りは管理行為までにとどめるというのを解釈の基準とすべきとは考えられませんか。要するに,代理権の範囲が不確定の場合には,意思表示の解釈になるわけですよね。どの範囲までの代理権が与えられたと判断するのが妥当か……。 ○山本(敬)幹事 おっしゃるような場合もあり得るだろうとは思いますが,全ての場合に妥当する任意規定が一つあるのかという問題になるかもしれません。そのような意味で,少なくとも現在の103条を前提にすると,これのみを任意代理についての任意規定として定めるのは少し問題があるのではないかということだと思います。 ○鎌田部会長 (5)についてはいかがでしょうか。 ○中井委員 (4)の今の山本敬三幹事の御発言ですけれども,そうすると,適用がないが無効ではない,有効という場合,その権限の範囲の分からないものについてはどのような代理権が与えられたかということが常に問題になる。   だとするとやはりリスクがあるので,最小限の保存行為,一定の範囲に限るというほうが安定性があるように思うのです。無効ではないが,適用はない,となると,何らかのものを与えているとしたときのその範囲については合理的な解釈によるということになるのか。そういう場合,103条の適用を受けて,保存行為に限るというのは合理性のある基準かと思うのです。   (5)についてですが,現在の,本人の許諾の場合とやむを得ない事由がある場合について,とするのは狭いのではないか,したがって,それを広げる方向での検討をしていいのではないか。ただ,その代案として甲案の自ら代理行為をすることを期待するのが相当でないというこの要件については,いかがなものか。期待することが相当でなければ本来自ら辞任するのが適当な場面ではないか。第一読会のときもこの判断権者が誰かという意見もありましたが,この要件立てについては疑問があります。   とするとどういう要件立てかということで,弁護士会で議論が出ているのは,本人の利益を考えるとやはり復代理人を選任したほうがいい場合というのは必ずあるわけで,それを具体的な表現として探せば,例えば,本人の利益のために正当と認められる場合とか,一定の客観的な合理性が認められる場合,そういうときにはやはり復代理人の選任が許されるのではないか。やむを得ない事由よりは広く,しかし一定の客観性合理性のある範囲で認める。そのような形が検討できないかと考えております。 ○山本(敬)幹事 先ほどの任意代理についてですけれども,基本的にはアのルール,つまり代理権の発生原因である法律行為の解釈によって定められる行為,更にそれを少なくとも確認する趣旨と位置付けるかどうかは理論的にはなお検討の余地があるかもしれませんが,代理権授与の目的を達成するために必要な行為を,任意代理についての代理権の範囲確定の基準として定めておけば,基本的にはこれでカバーされるのではないかと考えています。   その上で,これで定まらない場合は,先ほども申し上げましたように,いろいろな場合があり得るので,現在の103条の内容だけで全部でいけるというのは問題ではないか。あとはやはり,解釈準則を整備していく以外に道はないのではないかと考えています。 ○岡崎幹事 (5)についてですけれども,過去の裁判例を見てみますと,例えば黙示の許諾を比較的柔軟に認定するなどして,妥当な結論を導いているものがございました。要件を拡張するという中井委員のような御意見もあるのかと思いますが,現行法の要件からは外れるけれども,要件を拡張して本人の許諾なく復代理人を選任したほうがいいような具体例というのは何かあるのだろうか,というところを疑問に思いました。 ○鎌田部会長 確かに,少し拡張する,現行法ではこれは落ちているけれども,こういうものは救う必要があって,そのためにはこういう改正が必要だという例が具体的に挙げられたほうが皆さん納得しやすいと思いますので,何かあれば。 ○山本(敬)幹事 具体例ではなく,考え方を少し申し上げてよろしいでしょうか。  (5)で出ている考え方の基礎にあるのは,民法典が100年以上前に制定された当時と比べて,現在は分業社会であって,代理人個人に対する信用よりも,代理人が持っているはずのスキルや能力に対する信用のほうが重視される取引が多いのではないか。そうすると,「代理人自身に代理行為をすることを期待するのが相当でない場合」でいいかどうかについては議論があったところですけれども,このような場合については,他の同等以上のスキルや能力を持つ者を復代理人にすることも許されるようにする。少なくともその限りで,代理取引の現代化というと大げさかもしれませんが,そういった要請に応えるべきではないか。これは,信託等でも議論されてきたところですけれども,代理の基本原則についてもそのような考え方を定めてはどうかという趣旨だろうと思います。 ○中井委員 今,山本幹事のおっしゃった趣旨についてはその必要性はこの現代社会にあると思います。仮に弁護士との委任契約をとっても通常の委任状には復代理人選任の件と必ず入っていますけれども,入っていなくてもその代理人たるものが必要に応じて本人のために,それが今のような事例だけに限らずむしろ本人のためになるときには,復代理人を選任して,当該分野について選任することはあり得ると思いますので,そういう意味で広げるという方向については十分に理解をしていますし,背景事情は同じ理解です。   ただ,ここの期待するのは相当ではないという文言に引っ掛かりがあるのかもしれません。そうするとその期待することが相当という文言についてもう少し,先ほど私の言ったことが適切かどうか分かりませんが,私も更に検討いたしますけれども,考えていただければと思います。 ○松本委員 私も代理人自ら代理行為をすることを期待するのが相当でない場合という言葉がよく分からなくて,これは一体どういうことを言っているんでしょうか。例えば,代理人が急病になって,自分が代理行為ができない場合,そういうことを言っているのか。それは従来やむを得えない事由でカバーしたと思います。あるいは,この代理人は悪いやつで,代理権を濫用しそうだから,そんな者に代理行為をすることを期待するのは,相当ではない。そういう場合を言っているのか。言葉が大変多義的と言いましょうか,よく分からない。   山本幹事がおっしゃったような趣旨であれば,そういう趣旨をもっと明確にするような文言にしないと,これでは動かないと思います。たしか,法人は代理人になれるんですよね。その上で個別の代理行為は法人がやっているという立て付けなのか,その法人内部の特定の誰々さんが更に法人から復委任か何かを受けてやっているという立て付けなのか,現在はどちらでしょうか。法的構成としては。そこが明らかになればこの問題は解決するような気もするんですが。 ○能見委員 今のことに対して直接答えることになるかどうか分かりませんけれども,私は法人自身が代理人であった場合には,法人との間の代理契約と言いますか,法人に対して代理権を授与する委任契約などがあって,その代理権を法人の従業員などが行使する場合には,一種の履行補助者的な考え方で説明することになるのではないかと思います。その意味で,中間的な,他人が代理権を行使するのですが,完全な復代理人ではなくて,履行補助者的な中間的なものがあっていいんだろうと思います。実際的には現在どうなっている私もよく分かりません。    発言したついでに,今までの議論に私の意見を付け加えさせていただきたいのですが,私も甲案というのが現代の社会においては必要性ではないかと思っております。ただ,代理人の難しさというのは,どうも民法典が作られた当初,代理として想定されていたのは,売買契約などの単純な代理で,こういう単純な代理については,例えば売ることを頼まれた代理人が復代理人を選んで,復代理人が相手方と契約を締結することは余り予定されていないし,必要性も大きくない。ところが,財産管理などように非常に広い範囲の代理権が出てきますと,財産管理をする代理人としてはその権限の中でいろいろなすべき行為があって,その中には,必ずしも当初の代理人の能力,技能等では十分に対応できないものがあり,こういう行為については必要な資質を備えた復代理人を選任したほうがむしろ望ましいという場合があり得ます。このように単純な代理から多様な行為をしなければならない包括的な代理まで,いろいろなタイプの代理があるところで,何かルールを作らなければいけないということの難しさがここに表れているのだろうと思います。   結局,ルールを作るときに,代理を上記のように二つに分けるというのもなかなか難しいので,今の述べたような狭い範囲の代理権と広い範囲の代理権の両方を含めてルールを作らざるを得ないと思いますけれども,広い範囲の代理権を与えられた場合に,代理人自身では必ずしもできない場合があることを考えますと,本人もそのことをある程度認識しているでしょうから,甲案のような,その条件の部分をどう書くかはまた次の問題ですけれども,甲案的な考え方がよろしいのではないかと思っています。 ○深山幹事 考え方については,私も異論はないんですが,その規定ぶりについて,「期待するのが相当でない」という表現は,やはり分かりにくいと思います。誰がいつの時点で期待するのが相当かを判断するのかが非常にファジーな気がして,もう少し良いワーディングがないかという気がいたしております。既に御発言があるように,信託法改正のときも受託者が第三者に信託事務を委託する場合の規定をめぐって似たような議論があったことは御案内のとおりですけれども,信託法では「信託の目的に照らして」という枠をはめて「やむを得ない事由があると認められるとき」とか,「相当であると認められるとき」とかという規定を設けたわけですので,それになぞらえて考えると,「代理における委任の趣旨に照らして」などという形で一定の枠をはめて規定することが考えられるのではないかという気がしますので,表現ぶりについてはそのような観点も踏まえて御検討していただければと思います。 ○村上委員 本人の許諾があれば何の問題もないわけですよね。しかし,許諾を取ればよいではないかと言うことが適当でない場合があるというのが,甲案支持の理由なのだと思います。そこで問題は,許諾を取ることが適当ではない場合というのが実際にあるのかどうかということです。そのような場合がほとんどないのであれば乙案でいいということになります。また,そのような場合があるとしても,それが具体的にどういう場合なのか,もう少し具体像を頭の中に描かないと,甲案を採用するとしても,どういう文言にするのが適当なのかは決められないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 5までについて一通り御意見を頂戴したところでございますけれども,(1)につきましては,特に御意見はなかったと思います。大方この方向でいいということだろうと思います。ただし,後段につきましては,意思の不存在,詐欺,強迫という文言では意思能力,動機の錯誤等については入ってないわけですから,今後の検討次第ではそれらとの調整を図らなければいけないということになりますが,これも多分認識は共通していると思いますので,これらの点も含めて,最初に関係官から提案がありましたように,分科会で問題点の整理をしていただく,あるいは表現上の工夫を含む具体的な規定の在り方を検討してもらうということでよろしいでしょうか。   それから,(2)の代理行為の瑕疵につきましては,これも(ア)について表現が適切かどうかというふうな御指摘もあったところでございますので,この点についても分科会におきまして表現を含む具体的な規定の在り方について補充的に検討をしてもらうということにしたいと思います。   イにつきましては,伺っている限り,乙案を支持するということで決着つけていいのではないかというふうな御意見であったかと思いますけれども,そういうことでよろしいでしょうか。   それから,(3)につきましては,これは甲乙丙のほかに,丁案も提案されてきたということでございますが,内容が少し多岐に分かれているということで,分科会で補充的な議論をするという提案はしなかったんですけれども,分科会で少し検討してもらったほうがいいのではないかという御意見も頂いたところでございますけれども,いかがいたしましょうか。分科会で,それぞれの考え方に立ったときにどういう問題点が出てくるかの整理をしてもらう。それに基づいて部会で再度審議をするというふうな処理にさせていただきたいと思います。   (4)につきましては,これも議論が少し分かれているところではございますけれども,それぞれアの大きな方向性に根本的な疑問までは出ていなかったと思いますので,アの点について,それからイについても少し説明の仕方,あるいは理論構成についても御意見のあったところではございますけれども,やや細かい議論を注意深くするという領域に属すような気がいたしますので,(4)につきましては,それぞれの内容に伴う問題点の検討を分科会にお願いするということにしたいと思いますけれども,よろしいでしょうか。   (5)につきまして,甲案を支持する意見が有力ではありますけれども,考え方としては分かるけれども,どう規定するのが妥当であるかという点,あるいは乙案から踏み出さなければいけない必然性が必ずしも十分に理解できないという趣旨の御意見もあったところでございますので,この点については更に継続して部会で検討するということにさせていただければと思います。 ○金関係官 すみません,今までの議論に関して2点確認させていただきたいのですが。まず代理権の範囲に関する(4)のイについて,ここで想定しているのは,不明確な代理権授与行為をぎりぎりのところまで解釈したけれどもやはり分からなかったという場合ですので,その場合に代理権授与行為が有効だとすれば,先ほど中井委員がおっしゃったように,代理権の範囲について何らかの準則がないと,代理権は授与されているけれども何もできないという状態になりかねないと思います。先ほどの山本敬三幹事のご発言は,代理権授与行為の解釈によっても代理権の範囲が定まらないけれども代理権授与行為自体は有効であるという場合について,民法第103条の準則を用いるのは適切ではなく,別の準則を用いるのが適切であるということだったと思いますので,もし何か具体的に別の準則をお考えであれば,御提案いただけると非常に有り難いと思っております。 ○山本(敬)幹事 補足のみですけれども,アで確定できない場合が残るかどうかは一つの問題ですが,仮に確定できない場合が残るとして,何も定めないで大丈夫かという御指摘だろうと思います。先ほど申し上げた例は,かなり包括的な代理権を与えたことは確かだけれども,どこまで与えたかが明確でないという場合で,このようなことは起こり得るだろうと思います。先ほど申し上げたのは,そのときに現在の103条と同じ規定を定めておいて,これを適用して足りるというわけにはいかないのではないかということです。   私自身の考えでは,これに関する任意規定を一つだけ民法に書くことはできないのではないかということです。これは,広い意味での民法の解釈に委ねる,ないしは法律行為の解釈準則を整備していくということかもしれませんが,少なくとも103条を任意代理についての任意規定として残すのは適当ではないということです。 ○金関係官 次に復代理人の選任に関する(5)の例がよく分からないという点について,これは私の個人的なイメージですけれども,例えば,重大ではない風邪を引いた代理人が,自分で代理行為をしようと思えばできるけれども,風邪で調子が悪いので委託の際に想定された自分の実力を発揮できないというような場合に,調子が悪い自分よりも的確な代理行為をすることのできる復代理人を選任するといった場面があり得るのではないか。村上委員が先ほどおっしゃったように,そのような場合には本人の許諾を得ればよいということになるのかもしれませんけれども,一応,「やむを得ない事由がある場合」と「自己執行を期待するのが相当でない場合」の違いとしては,今申し上げたような例があり得るのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 そういう牧歌的,外在的事情でいいのかどうかということも一つの問題点であろうと思うんですけれども。 ○中原関係官 私は基本的には山本先生がおっしゃった方向観に賛成をさせていただきたいと思います。経済社会が高度化した現在にあって,事情変更が生じた場合などにおいて,代理権授与契約において定めていない事象について,本人に許諾を常に得なければならないこととするのは,現実的でないばかりか,かえって効率性を阻害し,本人の利益にも反するようなケースがあることを踏まえますと,甲案が妥当ではないかと思います。より具体的な例については更に考えていきたいと思います。 ○松本委員 今までの議論と絡むんですけれども,代理人の権限の範囲は基本的には委任契約,依頼者と最初の受任者との間でどういう趣旨で代理権を与える契約が結ばれたかによって,基本的には決まってくるのだろうと思います。山本敬三幹事がおっしゃっているような様々な解釈テクニックを使って,詰めていくことになると思うので,それでも詰まらないとすれば,それは私は代理権は無効ということでもいいのではないかという気がしますので,(4)のイに関しては,甲案でいいのではないかと思います。   少なくとも管理権だけは与える趣旨であったというようなことぐらいが認定できればいいということで,それすら分からない,何かさっぱり分からない,それはちょっと駄目ではないかと思うんです。あとは広範な代理権を与えている,しかしその広範の趣旨が分からない,これもやはり契約の従来の交渉過程等から解釈してすら分からない,決められないというのもやはり駄目ではないかなと思います。   その関係で(5)の先ほどの能見委員がおっしゃったように従来考えていた代理は単純な売買契約の代理のようなものだけれども,山本敬三幹事がおっしゃったようなもう少しプロフェッショナルな総合力を発揮して,依頼者のベストになることをやるというような類の代理ということになってくると,ちょっと同じ代理,同じ委任といっても趣旨が違うのだろうと思います。そうすると当初のクライアントと受任者との間で,どういう趣旨,何を目的とした委任契約だったのかということの解釈からある程度出てくることだろう。窓口としてあなたのためにベストになる様々な専門家を使ってソリューションを提供しますという趣旨であれば,それは当然復代理人の選任権は与えられているということだろうし,そうではなくて,個人的な信頼に基づいて依頼しているということであれば,やはり本人の許諾を得なければならないということでいいのではないかと思います。 ○潮見幹事 先ほど金関係官,それから中原関係官の御発言がございましたので,一言だけ申し上げたいと思います。(5)についてです。恐らくこの問題を考えるときに,先ほど山本敬三幹事がおっしゃられた復代理の現代化という方向性については,これを否定する委員は余りいらっしゃらないのではないかと思います。ただ,伺えば伺うほど,甲案のような考え方を採ったとしても,更にその背後にどういうふうなビジョンをそこに具体化するかというところで,例えば金関係官のようにかなり広い捉え方をされておられます方もいらっしゃいますし,逆に中原関係官は先ほど御発言の中で事情変更という言葉もおっしゃられておりましたが,捉え方次第では,これはものすごく狭くなる可能性もあります。あるいは本人の利益という言葉を強調したら,それはそれでまた観点の違うものが出てきますので,これは先ほどから出ている補充分科会のところで,先ほど村上委員の御発言にあったような,どういう場面を想定するのかを踏まえて,一番好ましい文言を立てていただきたいですし,またそのときに先ほどの現代化という言葉で出てきたものをよりブレークダウンしたような思想をお示ししていただければいいかと思います。   選択の方法次第では,今直前に松本委員がおっしゃったような,例えば(4)のイの甲案と同じように少し包括的な規定を置くという可能性もあるのかもしれないなというところも,意見を聞いていて思い浮かんだということも,併せて申し上げさせていただきたいと思います。 ○山野目幹事 内容としては今,潮見幹事がおまとめいただいたところに全く同感であると感じますとともに,少し手順の問題ですが,部会長の先ほどのおまとめというか,当初からの事務局からの御提案でも(5)は分科会に委ねる事項ではなかったと理解しておりました。部会長のおまとめも,継続して次のラウンドに向けて甲乙を,とおっしゃったものです。   そこで,私は基本はそれでよいのではないかと考えますが,次のラウンドに向けて甲乙を,ということのみですと,また今日と変わらないことに形の上ではなっておりますことが,気になります。議論の実質感を拝見した限りでは,山本敬三幹事のおっしゃる復代理の現代化という思想にはすごく共感するところがあると同時に,おっしゃっている復代理の現代化のような事象に対する対応は,村上委員などがおっしゃられたように,既にここまでの裁判実務においても代理権の根拠である委任契約の解釈であるとか,本人の黙示の許諾の運用の中で,ある程度反映されている部分もあるであろうと想像します。   ここまで幾ら議論しても,この甲案のことを規定としておかなければいけない決定的な契機,あるいはそれを規定として置くときの具体的な手掛かりになる実際的,具体的なイメージはいまだ全く示されていなくて,このまま次のラウンドに継続して,とおっしゃられても,事務局も我々もですが,困るばかりであるとも感じます。   潮見幹事からは分科会という御提案もあり,それも一案ですが,私は先ほどの部会長のおまとめの大枠のとおり,次回のラウンドに継続するということでよろしいと考えますとともに,特段の具体的なイメージが獲得できなければ,乙案で進むこととし,しかしそこでは今日御指摘があったような復代理の現代化の思想ということにも十分に留意しながら新法の運用を期待するというような取りまとめになっていかざるを得ないのではないでしょうか。常に村上委員がおっしゃったところの,本人の許諾も得られないのにしなければいけない場面がありますか,という,仮に村上テストというニックネームを付けさせていただきますと,あのテストを乗り越えられる事例が見つからない限りは,やはり乙案なのであろうという感触を抱きましたから,そのような発言があったということも踏まえて,次回のラウンドに継続していただくというのであればよろしいのではないかと感じるものでございます。 ○中田委員 この問題については,ただ今,山野目幹事も言及されましたとおり,委任契約との関係も重要かと思います。委任契約において自己執行義務をどこまで課するのかということとつながってくるわけでありまして,もちろん内部の問題と外部の問題とは違いますけれども,できれば両者の平仄があっているほうがいいのではないかと思います。   そういたしますと,今,甲案について適切な例がここで出てこないとしましても,恐らくそれぞれの方がイメージしておられるものはあると思いますし,いきなりですからそれを出しにくいということなのではないかとも思いますので,それだからといって直ちに乙案に行ってしまうというのはやや後戻りのような感じがいたします。私としては委任との関係も含めながら甲案をなお検討してはどうかと考えております。 ○鎌田部会長 単なる表現の問題を超えた根源的な問題があるということで,分科会任せにするには適さないと思ったところでございますけれども,ただ今回の議論を通じても明らかになってきたかと思うんですが,事務当局としても対応がやや手詰まり状態でございますので,委員・幹事等の皆さまのお知恵を借りながら次に向けての準備を進めさせていただければと思いますので御協力方よろしくお願いいたします。   それでは,続きまして,部会資料29の「第3 代理」の「1 有権代理」のうち「(6)利益相反行為」及び「(7)代理権の濫用」について御審議していただきます。   事務局当局から説明してもらいます。 ○金関係官 「(6)利益相反行為」のアでは,利益相反行為一般を禁止すべきとする甲案,現行法を維持して自己契約及び双方代理のみを禁止すべきとする乙案を提案しています。イでは,アについて甲案,乙案のいずれの立場を採るかにかかわらず,民法第108条に違反する行為の効果等について御審議いただきたいと思います。ここでは,無権代理構成を採る甲案,効果不帰属主張構成を採る乙案を提案しています。なお,効果不帰属主張構成を採る乙案については,そこにいう「効果不帰属の主張」を意思表示と捉えるべきかどうか等の問題についても,御意見を頂きたいと思います。ウでは,利益相反行為禁止の例外について,現行法の挙げる「債務の履行」に代えて「本人の利益を害さないことが明らかな行為」を挙げることを提案しています。   「(7)代理権の濫用」については,規定を設けること自体にはおおむね異論がないと思いますが,代理権濫用行為の効果等については,無効構成を採る甲案,効果不帰属主張構成を採る乙案を提案しています。なお,無効構成を採るか効果不帰属主張構成を採るかという問題と,相手方又は第三者の主観的要件をどのように定めるかという問題は,それぞれ論理的には独立したものであり,相互に連動するものではないので,その点にも留意しつつ御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いします。 ○山本(敬)幹事 「(6)利益相反行為」についてですが,結論として,アについては甲案,イについては乙案を採用すべきではないかと思います。   まず,アについては,実際にこれまで自己契約,双方代理以外の場合についても,現在の108条を拡張ないしは類推を認めることについて,判例・学説上特に異論がなかったと思いますので,これを正面から認めて,利益相反行為を一般的に禁止する規定を置いてよいと考えられます。利益相反の基準については,現在の826条やあるいは860条と同じように,いわゆる形式説によるべきだと思いますし,そうすれば,その範囲も不必要に広がったり,曖昧になったりすることはないと思います。   イについては,利益相反行為は,飽くまでも内部関係において代理人が本人に対して負う忠実義務に違反した行為です。しかし,利益相反行為は,定型的・客観的に忠実義務に違反している行為として評価されるだけですので,本人が定型的・客観的には忠実義務に違反している行為をしたとしても,本人がそれによって実際に自分の利益が害されたと思ったときに限って,効果の不帰属を認めれば足りると思います。したがって,考え方としては,無権代理と考えるのではなくて,乙案のように,本人が,自分に対してその行為の効果は帰属しないと主張できると考えるべきだと思います。   ただ,相手方又は第三者が利益相反行為であることについて善意であり,重過失がないときは,本人は効果の不帰属を主張できない。そう考える理由は,部会資料の66ページのまん中の段で非常にうまくおまとめいただいているとおりですので,もう繰り返しません。   もう一つだけですが,部会資料では,その後のほうで,法定代理人による利益相反行為にいて,相手方や第三者の保護要件を「善意かつ無過失」に加重すべきかどうかについて検討する必要があると指摘しています。   確かに法定代理の場合は,本人は自ら代理人を選んでいるわけでありませんし,代理人をコントロールすることも期待できるわけでもありませんので,相手方の保護要件を加重することには相応の理由があるようにも思います。   ただ,あとでまた議論させていただきたいと思いますが,代理権濫用と場合とは少し違いまして,利益相反行為の場合は,先ほどの形式説によると,行為の外形から形式的,客観的に見て利益相反行為に当たると判断される場合ですので,重過失の認定が相対的にはしやすいのではないかと思います。したがって,法定代理の場合に,要件を加重する規定を置かなくても実際には余り変わりはないのではないかということを指摘しておきたいと思います。 ○能見委員 基本的には,今の山本敬三幹事の発言された内容とほぼ同じ方向の意見ですが,先ほども申し上げましたけれども,現在の代理では財産管理のための代理のように,非常に広い範囲の仕事をする権限を伴う代理が出てきておりまして,そういうところでは利益相反行為という包括的な形で規制の対象を捉えるのが適当だろうと思います。   それから,法人のところの規定と言いますか,民法との関連ですと一般法人法ですけれども,そこでは理事と法人の間の規律として利益相反行為という概念で規律しておりますので,それとのバランスという点からも利益相反行為を対象として取り込むというのがよろしいかと思っております。   ただ,ここから先は山本敬三幹事と違うかもしれませんけれども,利益相反概念についての形式説を採ればこの利益相反行為が何であるかということはある程度明らかになるとは思いますけれども,それでも利益相反行為の有無の判断に際してはやはり実質的な判断をある程度せざるを得ませんので,そういう実質的な概念が入ってくることについて何らかの手当をする必要はないのかという点がちょっと気になっております。それは次のようなことです。審議会で既に議論されたことがあるのかどうか分かりませんけれども,現行の108条の規定というのは,自己取引および双方代理というものを禁止するという形の規定になっておりまして,これは禁止するということの意味は,自己取引や双方代理では代理権が制限されるということが中心的な意味ですが,同時に本人と代理人の内部的な関係では禁止されている行為をするということで,代理人の義務違反が当然に生じるという意味も含んでいるのではないかと思います。   自己取引と双方代理という禁止される行為の範囲が形式的に明確な場合はこれでもよいのですが,実質的な利益相反行為という基準で判断することになると,そこがどうなのかなと思います。代理人からすると,利益相反行為に該当するとは思わないで行動したが,結果的に利益相反行為であると判断されて,本人に対する関係で義務違反としての責任が生じるということが生じます。余りそういう事例はないのかもしれませんけれども,論理的にはあり得るので,そういうときに禁止という形で規定すると,何か結果的な責任を負わされるということになりかねないので,それはどうも適当ではないのではないかと思います。   そこで,この108条,これはその効果とも関係するのですが,禁止するという表現ではなくて,単に効果不帰属ないし無権代理になるということを意味する規定にしたらどうかと思っております。 ○佐藤関係官 私も今,能見委員がおっしゃったところと関連する問題意識を持っております。まず,アの点につきましては,基本的に乙案に賛成と思っております。その趣旨といたしましては,この正に利益相反ということがどのようにして客観的に分かり得るのか。会社の取締役又は理事と法人本体との関係ですとか,あるいは親権を行使するといった場面,そういう限定された場面におきましては,確かに比較的観念しやすいのかなと思うところでございますが,その一方で例えば金融取引など,又は金融に限らず恐らく経済取引一般におきまして,いろいろな関係の代理関係があろうかと思っております。   それは,その内容にしましても,場面にしましても,なおかつ本人と代理人の関係というのも様々であろうかなと思っております。こうした場合に利益が相反するということ,この一言をもってして全て客観的に律し得ることができるのか。更にはこの代理人になることができない,できないという行為規範として機能し得るのか。その点について,危惧を持っております。   そうした点につきまして,思わぬところで取引の安全性への主張が生じるかという懸念も持っておりまして,一つはこの規定ぶりの問題かもしれないと思っているんですが,ただ一方で明確に過不足なく規定できるのかなというところは非常に問題意識として持っておりまして,むしろここで律するよりは,一つは権利濫用のところで実質に応じて律するということが方向性として適当なのかなと,このような意見を持っております。 ○山下委員 今のお二方の意見と同じような感じですが,例えば会社と取締役の利益相反という局面を採ってもいわゆる間接取引まで会社法では規定しております。そういう限られた局面を採っても解釈が非常に混迷しておりますので,やはり利益相反と一言だけでいろいろなタイプの代理に包括的に適用して混乱が生じないのかというのは気になるところです。その点は,イのところの効果をどう規律するかで,乙案のような形にするとか,もう重過失を外して,悪意の場合のみ限るとかやっていけば,そこら辺の調整はある意味では効くとは思うのですけれども,しかしアのほうの甲案にいくには相当慎重な態度が必要かなと感じるところでございます。 ○能見委員 私の考え自体は,アについては利益相反というものに賛成する立場ですが,ただ利益相反行為を「禁止する」という表現は使わないほうがよいというものです。規制の対象としては利益相反行為とすることでよいという意見ですので,今のお二方とは違う意見ですから,「同じように」と言われますとちょっと違うので,そのことを指摘しておきます。 ○鎌田部会長 利益相反行為に関連して,ほかに御意見ございますでしょうか。 ○岡委員 アについては,弁護士会も考え方としては,利益相反行為の規定新設に賛成が多いんですが,金融庁の方と同じような危惧を持つ弁護士も少なからずおります。山本先生がおっしゃった形式説というのをうまく文章化できないのか,外形的に見てとか,客観的にという要件が入れば危惧も薄れると思うのですが,しかしそれでは会社法とか親権の条文と違ってくることになり,大丈夫かという話も出ました。   弁護士会の一部にはグローバル化に反対する人もいるんですが,ユニドロワとかそういうのにキャッチアップすべきだという意見もありまして,このユニドロワを見ますと,部会資料別紙の22ページでございますが,そのことを相手方が知り,又は知るべきであったときと条文に書かれていますが,どのように運用されているのかを知りたいという意見がございました。それがアについての意見でございます。    それから,イについてですが,無効と効果不帰属の主張がどう違うのだという質問が出されました。最終的には効果が帰属しないということであり,主張する人が限られるという意味では相対的無効とどこが違うんだと。効果不帰属というのはパソコンで検索する限り,この部分にだけ出てくるようですので,実務界から見て,この効果不帰属と無効と相対的無効とどこが違うのか,大して違わないんだったら,新しい概念を持ち込まないでほしいという意見でございます。 ○道垣内幹事 第一読会で検討したところを引き継いでいるわけですので,それと切り離して,今回の資料の文字面だけを見て発言するというのは恐縮なのですが,(6)として書いてあるところは,自己契約及び双方代理を含んだ形で利益相反行為という概念を用いるという前提で作られているのか,それとも自己契約,双方代理は別枠で,それに当てはまらないものでも利益相反行為に当たるものは駄目だという形で作られているのでしょうか。   と申しますのは,先ほど岡委員も言及されましたように,ユニドロワですと利益相反の一本の形になっていますし,また会社取締役の場合も利益相反という言葉で一括化されているわけですけれども,本当にそれでいいのかということが気になります。例えば第三者保護という場合に,自己契約や双方代理の場合とそれ以外の利益相反の場合とで区別して考える必要はないのかも若干気になります。資料の作り方についてお教えいただければと思います。 ○金関係官 自己契約,双方代理とは別に利益相反行為の規定を設けるという方法を第一読会で道垣内幹事がおっしゃったことは十分認識しておりますし,そのような方法を排除する趣旨では必ずしもないのですが,この資料では,利益相反行為という概念の中に自己契約,双方代理を含むという整理をしております。 ○能見委員 もしそうであれば,私としては自己契約,双方代理という言葉を残しつつ,その他の利益相反行為を規制するというのがよろしいのではないかと思います。これは提案ですけれども。 ○潮見幹事 今の提案には私も賛成ですが,私は,基本的にはアは甲案,イは乙案でいいと思っているのですが,先ほど,御発言があった能見委員に一つちょっと確認だけの質問を,それから,佐藤関係官にも確認のための質問をさせていただいてよろしいでしょうか。   立証責任の話です。能見委員のお話ですと,先ほど形式説を採ってもその中に実質的な判断が含まれる場合があるという趣旨のことをおっしゃられました。佐藤関係官のほうは乙案を採られるということでした。今回の事務局がお作りになっているところを見れば,いわゆるここで言う利益相反のところと代理権の濫用のところとで主観的要件についての立証責任が違うという可能性を含めた説明がされています。実際にアで甲案を採り,イで乙案を採ったら,この場合に相手方が利益相反に当たる部分について自らの善意無重過失というものを主張,立証すべきであるということになります。こういう枠を採用するとき,しかもそれの理由としては補足説明を拝見している限りでは,形式説を採れば,形式的,あるいは客観的,外形的にどういうことかという事態が明確であるから,代理権濫用の場合とは違った形で立証責任というものを違えて処理をしているようにも見えたものですから,仮に能見委員のお考えを採った場合には,その部分が一体どうなるんだろうと思ったところです。代理権濫用と同じような形になるのか,やはり実質的な判断が含まれてもなお形式説を採る以上は,このような形での主観的要件の立証責任の分配でいいとお感じなのでしょうか。   それから,佐藤関係官に対しては乙案を採った場合には,かなりの部分が全部はじき飛ばされることなって,後の代理権濫用の枠組みで考えるようなことになるので,基本的にそこで書かれているような枠組みで今申し上げた立証責任の問題等も含めて処理をすれば,それが望ましいとお考えになっているのかというところをお教えいただきたいと思っているところです。 ○能見委員 それでは,私のほうから御説明します。私が考えていたのは,利益相反行為であると証明するのは本人側と言いますか,代理人を使った本人側であって,それが証明されるとそれにもかかわらず有効であるということを言うために相手側のほうから一定の主観的な要件を証明するというような構造を考えておりました。そういう意味では,自己取引,双方代理と同じ扱いをするということです。実質的な要素が入ると言ったのは,たとえ形式的に利益相反行為を考えても,例えば826条などではある程度形式化された利益相反行為が考えられておりますけれども,それでも代理人と本人の利益が形式的に相反するというものの新たな類型が出てくるかもしれないし,そういう判断をするとなると,どうしても実質的な判断が入るだろうという趣旨でございました。 ○佐藤関係官 先ほど私の発言で1点間違いがございまして,権利濫用と申しましたのは,代理権の濫用という趣旨でございます。そこで処理をすれば,少なくとも私の意見としてはいいのではないかというのがまず第1点でございます。若干,補足でございますが,これは第一読会でも私の前任の関係官が申し上げたかもしれませんが,いろいろな金融関係の法律で,要するにこういうなかなか律し得ないようなところについて,業者に対して規制を掛けております。利益相反になりそうなものを禁止するという,業者に対する規制を掛けて,なおかつそれだけでも必ずしも対応できないので,業者側に対して利益相反になるような行為を防止するための体制整備を採らなくてはいけないという,そういう規制を掛けて,そういうところで補足的にと申しますか,業法の中で必要な対応をしている。そういった方向性もあり得るのではないかと思っております。 ○山本(敬)幹事 先ほど申し上げたことの補足ですけれども,かなり以前にも申し上げたかもしれませんが,ここでは,民法の,しかも代理に関する部分で規定するわけですので,問題になっているのはやはり,代理人がした行為の効果が本人に帰属するかどうかを規律することだと思います。したがって,利益相反行為一般についての行為規制をすることがここで問題になっているのではなく,効果帰属が認められるか,認められるとしてどのような場合かということを定めることが,ここで問題になっていることだと思います。その意味では,能見委員が最初のほうでおっしゃったのと同じような考え方を私も持っているということを申し上げたいと思います。   その上で,効果不帰属構成ということと無効との関係が分かりにくいという岡委員の御指摘がありましたけれども,従来は自己契約,双方代理については,違反行為については無権代理として捉えるのが通説的な考え方でした。そうすると,例外的に本人に効果が帰属する場合は,表見代理に係るルールの問題として位置付けられることになります。これに対して,効果不帰属構成というのは,無権代理ではなく,本人側が効果不帰属の主張をするかどうかを選択できるというものです。そのように考えるならば,表見代理の問題にはなりませんので,相手方ないしは第三者が善意かつ無重過失である場合について,本人が効果の不帰属を主張する可能性について特別な規定を設ける必要が出てくることになると思います。 ○高須幹事 行為規制が掛かっているという意味では弁護士も同じでございまして,弁護士法25条で,利益相反的な行為はもちろんしてはならないとなっています。ただし,それに関しては二つの根拠を説明されていて,一つは職務の清廉性という意味で,もう一つは端的に利益相反と通常言っているわけです。つまり利益相反という実態法上の問題として,そういうことはできないんだという実態法上の根拠があると思うものですから,やはりここでも民法上の代理のところに自己契約,双方代理以外にもいわゆる利益相反的なものを入れていただくということがそれなりの合理性があるのではないかと。このように思います。   それから,道垣内先生がおっしゃったように,自己契約,双方代理の場合とそれ以外の場合とは確かにどこか微妙なところで変わってくるところがあるのではないかと。第三者の保護規定その他のところでもあるのではないかと思いますので,規定の書きぶりとしては一番典型的な自己契約,双方代理の場合とそれ以外の場合と意識して書いていくということが有益なのではないかと思います。 ○松本委員 消費者被害の領域で利益相反的な典型例として商品先物の勧誘において,例えば買建て玉を勧誘しておいて,逆に業者の側が売建て玉という向かい玉でやってくるというタイプの取引があります。これが利益相反なのかどうかということで,恐らく金融庁ないしは監督官庁がこういう場合はやってもいいけれども,こういう場合は駄目だというルールを作っていると思うのです。ファイヤーウォールがきちんとしてあって,全く無関係にたまたま自己取引部門が逆の取引をしていたという場合は,利益相反ではないというようなルールになっているのだろうと想像しますが,そうでないような場合,悪質業者はそうではないわけですから,そうでない場合についてどうなるのか。確かに最高裁の判決があって,不法行為で責任を追及すればいいではないかということですが,契約法のところに落とし込んでくると,利益相反についても一定の民法上のルールを入れるとして,イのところの甲案,乙案のうち,甲案でいくと効果発生しないと言いますか,代理行為として間接代理でしょうけれども,本人の計算には帰属しないということになりそうな感じがしますが,他方,乙案だと相手方や第三者が善意かつ無重過失,今の場合に相手方,商品先物市場の相手方ということになると,それは善意無過失なのが普通だということになって,有効だという話になってくるので,相当違いが出てまいります。   ただ相手方について,結局向かい玉を建てているんだから,取引員が自分で相手方になっているんだと考えれば,それは無効だ,効果不帰属だということで,結果として甲案,乙案どちらでも同じになるのかという気もいたしますが,そんな解釈でよろしいのでしょうか。 ○能見委員 あるいは松本委員の御意見を少し誤解しているかもしれませんが,私が前から持っている問題意識に引きつけて今の問題を考えますと,実は双方代理というものの位置付けがなかなか難しいと思っております。ちょっと話を前に戻しますが,自己取引,双方代理およびその他の利益相反ということで私は規制の対象として三つ並列させるのがいいと思うわけですけれども,そのような立場を採る理由の一つは,利益相反を本人と代理人の利益が相反する場合だと理解して,規制の対象は利益相反行為であるという言い方をしますと,実は双方代理が規制対象になるのかどうか問題となります。というのは双方代理では別に本人と代理人の利益が相反しているのではなく,むしろ本人とその代理人が代理しているもう一人の本人との利益が相反しているからなのです。双方代理することによって,同一の代理人が代理している双方の本人の間の利益相反があるにすぎないのです。代理人も報酬などをもらえば,代理人の利益と本人の利益の相反ということが生じますが,それが双方代理の中核ではありません。それに,代理人が代理の報酬をもらう場合でも,通常は代理人が報酬のために双方代理をするわけではなく,双方の本人が取引をしたいと考えている結果,双方の本人の間で契約が成立し,その結果として報酬をもらうにすぎません。そう考えると,双方代理によって,代理人がたまたま受け持っている複数の本人の間で取引を成立させたというだけで,本人と代理人の利益が衝突するという意味の利益相反が生じるわけではありません。   双方代理には以上のような問題があると考えるわけですが,これはちょっと概念的な問題かもしれません。なお,双方代理が規制されるとして,その効果に関しても検討を要する点があると思います。イの効果のところで提案されている甲案と乙案のどちらがよいのか,まだ自分の考えがまとまっていませんが,乙案では,「相手方や第三者」が善意・無重過失の場合には効果不帰属を主張できないことになるわけですが,双方代理のときの相手方の扱いが問題となりそうです。今,Aという本人とBというもう一人の本人がいて,代理人Cが双方代理してAB間の契約を締結した場合を考えますと,BがCが双方代理をしていることを知らないときなどにはAはCの代理行為の効果不帰属を主張できないとしてよさそうに思いますが,乙案でいくとこのような結論を導けるのでしょうか。双方代理は,本人Aから見れば,代理人Cが相手方Bの利益を図るというタイプの権限濫用に似ているので,相手方BがCの権限濫用,双方代理の場合には具体的な権限濫用までは要らないので,その危険ということになりますが,相手方Bが善意・無重過失であれば,相手方Bを保護する余地があってよいのではないかと思うのです。現行法の下ではこのような処理は考えていなかったと思いますが。双方代理に関しては,利益相反概念との関係,具体的な処理の仕方など,意外と難しい問題が残っているのではないかと感じました。 ○鎌田部会長 イのほうは,無権代理構成か効果不帰属構成かというよりも,相手方あるいは第三者の保護が無権代理プラス表見代理なのか,効果不帰属の主張が一定の主観的要件の下で許容あるいは抑制されるという構成なのかという,そちらのほうが重要な違いですね。 ○山本(敬)幹事 表見代理のルールに乗せていくべきなのかどうかということだと思います。 ○鎌田部会長 そうですよね。イについてはどちらかと言えば表見代理構成よりは,善意無重過失者保護的な構成のほうが妥当だろうという御意見が多数だと理解しておりますが,アのほうにつきましては,甲案,乙案のほかに自己契約,双方代理と利益相反行為は別立てにすべきであるという御意見が複数の方から出て,収れんではなくて,更に議論が複雑になってきたところでございますが,これは今日の御意見を踏まえてまた事務当局に整理をお願いせざるを得ないかと思います。 ○松本委員 アでいく場合に,利益相反という言葉をオープンな形で残して,あとは解釈に委ねるという方向でいくのか,利益相反をもう少しブレークダウンしてこういう場合,こういう場合というのがはっきり分かるような形にするのかで,大分違ってくるという感じがするんですが。 ○鎌田部会長 それはそうだと思います。能見委員から御指摘がありましたように,双方代理は利益相反なのかとか,その辺の概念の整理については,何通りかの考え方が提示されているところですので。 ○松本委員 双方代理と利益相反の関係がどうかではなくて,従来自己契約と双方代理というのは比較的はっきりした定義で動いていた。それに対してその他の部分にも同じルールを適用しようという場合に,拡張する部分がその他の利益相反と一般的に今呼ばれているわけだけれども,それが具体的にどういうものなのかというのがもう少し分かるような形で出てくるのか。それとも利益相反と一般的に評価できる場合はというオープンな概念として残しておいて,今後の判例や学説の解釈にお任せするということなのかという点です。 ○鎌田部会長 その点も含めて,いろいろと出された御意見を踏まえて,引き取らせていただいて検討を続けさせてください。 ○中井委員 弁護士会の意見を補充します。利益相反行為のアの部分ですけれども,弁護士会の多くは,実質的な利益相反行為というのはある,それは原則禁止の方向での立法化に基本的に賛成する意見です。ところが,その規定ぶりを本人と代理人との利益が相反する行為というこのような形にしたときの外縁が非常に不明確になって,それについては非常に不安だという意見が出ています。山本敬三幹事は外形的に若しくは客観的にそれを画することができるではないかとおっしゃっているんですけれども,そこに対する危惧が表明されています。原則甲案を採ると言いながら,その躊躇をどのように整理するか,何らかの限定ができるのかどうか。先ほど金融庁の佐藤関係官もおっしゃられましたけれども,恐らく金融実務の中では大きな組織として動いていますから,利益相反的なところが多数発生する可能性がある,そういう潜在的リスクのある中で一般的規定が入ることによる危惧の表明ではないかと理解するものですから,実質論としては甲案であるけれども,その規定の仕方にやはり留意する必要があるのではないか。外形的,形式的にそういう基準が定律できるのか,それが書き込めるのかという点を懸念する意見ということです。   イについては,弁護士会は,従来の裁判例がそうだったということ以上に積極的理由があるのかと聞かれると説得的な理由付けができないのですけれども,この甲案の無権代理行為という考え方を採った上で,表見代理による保護でよいのではないかという意見が多くありました。これはあったという報告にとどめさせていただきたいと思います。 ○岡委員 乙案の効果不帰属の構成ですが,敬三先生にお伺いしたいのは,これは取消しとはやはり違うんですか。違うとしたらどこが違うんですか。 ○山本(敬)幹事 取消しとの違いということで念頭に置いておられるのは,どういうことなのでしょうか。 ○岡委員 効果不帰属の主張をすることができるという意味が先ほどお伺いしたところ,取消しとほとんど一緒かなという気がしたものですから。意思表示があって初めて効果不帰属になる,それまでは有効だとすると,取消しでいいのではないのと。概念がいろいろ増えるのは実務としては厄介ですので,取消しで整理できないのですかという質問でございます。 ○山本(敬)幹事 代理行為が行われた場合に,本人に効果が帰属するかどうかが問題となる場面で,従来は,広い意味で「無効」という表現で呼ぶことはあったかもしれませんが,このような問題を「取消し」という言葉で捉えるのは,少なくとも法律行為ないしは意思表示の「取消し」という場合とは,かなり性格が違うと受け止められる可能性があるのではないかと思います。その意味で,ここで「取消し」という言葉を使うと,混乱が生じる恐れがありますし,取消しに関する規定がそのまま適用されるのかという問題も生じるかもしれません。したがって,効果不帰属という,言葉は目新しいかもしれませんが,実質はこういうものだという了解は得られるのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○中井委員 山本敬三先生にお尋ねしたいんですけれども,先生のお考えで,この民法の議論の中で,効果不帰属構成が出てくるのは,ここと次の代理権の濫用だけで,それ以外にもあるのでしょうか。 ○山本(敬)幹事 私が答えるべき事柄かどうかは別としまして,これは講学上の問題に属することなのかもしれませんが,効果不帰属という言葉が学説上使われてきたのは,法律行為が行われた場合に,その効果が一体誰に属するのかが問題となる場面でして,代理や授権,場合によっては行為能力制度が考えられますが,主として念頭に置かれてきたのは代理だと思います。この言葉を使うのは,ややローカルなところもあるのかもしれませんが,いずれにしても,基本的には代理の場面を中心に使われるものだと思います。その上で,効果不帰属構成が出てくるのは,今のところ,この利益相反行為と次の代理権濫用の場合ではないかと思います。 ○松本委員 昔勉強した民法総則のレベルですが,無権代理の場合は効果不帰属と説明されていましたが,これは京都ローカルな説なのでしょうか。ひょっとすると,京都ローカルかもしれないですが,無権代理の効果は効果不帰属だと覚えさせられましたから,甲案も108条に違反する行為は無権代理であり,したがって効果不帰属というのがまずデフォルトに発生して,表見代理という立証ができれば,効果が帰属するということになるだけで,乙案は逆に効果は帰属というのがデフォルトで発生していて,一定の場合に効果不帰属とひっくり返せるというということで,いずれも効果不帰属で説明すれば難しくはないと思うのですが。 ○鎌田部会長 少なくとも最近の学説では,無権代理行為は無効ではなくて,本人への効果帰属要件が欠けているだけ,そういう意味で効果不帰属と評価するのが一般だと思います。どうも無効説と効果不帰属説が対立するという整理がどちらかと言うとなじめなくて……。 ○野村委員 そもそも,かつては,有権代理の場合には有効,無権代理の場合には無効と表現されてきましたが,それぞれ,本人に効果が帰属するか,しないかとするほうがより正確であると考えられるようになっているのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 説明の仕方としてはあり得ると思うのですけれども,ここでは,法律構成の違いを強調しているのではなくて,効果不帰属だから無権代理であって,あとは表見代理で行くのか,それとも,このイの乙案というのは,私なりの理解では,対抗可能のタイプ,効果不帰属であるということの主張が抑制される,一定の対人的関係において積極的主張が抑制されるというタイプの処理を提案するものであって,効果不帰属であるか無効なのかの区別は重要ではないと考えたほうがよくて,次の代理権濫用も似たところがあると思います。 ○山野目幹事 2点ございますが,1点目は今,部会長がおっしゃったとおりであって,決して京都ローカルのルールではなく,なぜに弁護士会の先生方が効果不帰属という言葉にこれほどビビッドに反応なさるのかということが全く理解することができません。   イの甲案と乙案の差異は効果不帰属か無効かではなく,多分二つあって,一つは部会長がおっしゃったように対抗,主張を待って効果不帰属になるか,当然に効果不帰属になるかという違い。それからあと,相手方の主観的要件が甲案でいくと表見代理,現行法で申しますと110条で考えることが普通でありましょうが,それに委ねられて処理されるのに対して,乙案では善意無重過失という基準で処理されることになる。ここの実質のところを見ていただいて,それに良い悪いという御議論を頂きたいのであり,効果不帰属の語が検索して何か所出てくるかとか,そういう議論はしないでいただきたいということを切にお願いしたいということ,これが1点でございます。   それから,もう1点は,少し違うことですけれども,中井先生から利益が相反するということだけでは弁護士の先生方において不安がおありだという御意見を頂いて,それはそのとおりだと感じますけれども,826条とか会社や法人関係の規定が全て利益が相反するという概念を用いていて,その下でもちろん解釈,運用に苦労があるのは認識しておりますけれども,それ以上に細かく書き下していない中で,ここだけ細かく書き下すということが可能かということ,あるいは適切かということが問題になって,確かに金融庁が担っておられるような特定のフィールドに関しては,そういうことが可能かもしれませんけれども,一般的にそういうことを書き下すことの可否や書いたときの波及効果,反対解釈の恐れなどを考えると,あるいは事務局のこれからの作業の負担その他を考えると,それは非常に難しいものであろうと思います。そこのところについて,御懸念があるならばこの提案自体の採否まで遡って議論しなければならないと考えますけれども,基本的には,そうではなく,利益が相反する事項という文言で立法の議論が進んでいくものであろうという漠然としたイメージを私自身は抱いておりましたから,そのことも申し添えさせていただきます。 ○神作幹事 会社法の観点から利益相反の規律について申し上げさせていただきたいと思います。会社法では,例えば取締役の利益相反取引規制を例に取りますと,「自己又は第三者のために」という文言で,「第三者」を一般的に広く捉えた上で,あとは解釈論で対処しております。もし,端的に規律するとすれば,例えば一定の範囲の親族及びその他の利害関係人を本人と共に並べて利害関係者の範囲を明らかにするというアプローチが考えられると思います。いずれにしても,方向としては,実質的な利益相反をできるだけカバーする形で議論することが債権法の現代化を図るに当たっては望ましいと思います。また,金融規制という観点からも,民事法上,利益相反規制に服するかどうかが業法的な規制を行うに際しても重要なポイントとなっていると思われます。すなわち,業法上の利益相反規制は,民事上の利益相反行為と解されている場合を含み,更にそれよりも広めにカバーする形で規制されるべきことになるように思われますので,そのような私法と業法との関係を考えても,私法上の利益相反取引は実質的な利益相反を取り込む方向で考えていくことが適切であると思います。   「第三者のために」という文言の解釈については,名義説と計算説の争いがあり,議論が分かれておりますが,ここでたとえ名義説を採ったところで,いわゆる「間接取引」に該当するかどうかの判断に際しては正面から利益相反の実質に照らして判断せざるを得ないことになりますし,取締役の忠実義務一般の適用も問題になり得ますので,会社法は,結局のところどこかで実質的な利益相反が捉えられることになっていると理解しております。   効果との関係につきましては,利益相反行為が権限の範囲の中と言えるか外と言えるかという問題は,資料のアのところで利益相反行為をどこまで対象にするかということと恐らく密接に関連しているのではないかと思われます。利益相反行為の対象を狭くすれば,これは権限外ということになるかもしれませんし,広げていくに従って次第に微妙なケースが出てきて,この場合には一応権限の中であるという議論が生じてくるのではないかと考えられます。アとイは,恐らくそのような関係に立つのではないかと思います。会社法の議論におきましても利益相反行為が果たして取締役の権限内の行為であるのか,それとも権限外であるのかは,簡単には線引きのできない問題であると思います。 ○鹿野幹事 先ほど来,効果不帰属について議論がありました。確かに無権代理における無効は,他の一般的な無効とは異なり,効果不帰属という意味での無効であることは,従来から言われてきたことであり,その限りでは効果不帰属という概念に違和感はありません。しかし,ここで効果不帰属の主張なる概念を採用した場合,その法的性質とそれをめぐる具体的法律関係は必ずしも明らかではなく,それを明らかにする必要があると思います。従来は,自己契約,双方代理の場合は無権代理であり,したがって効果不帰属という意味での無効であることから出発して,例外的に追認があった場合等に効果が発生すると理解されていました。しかし,ここで提案されている効果不帰属の主張は,無権代理無効の主張の単なる言い換えではないように見えます。つまり,原則例外を逆にし,原則としてこの場合にも一応有効であるが,効果不帰属の主張によって効果を否定できるとしているように見えます。そうした場合,その効果不帰属の主張はどういう法的性質を持ち,誰がいかなる期間行使することができるのか,その効果はどうなるのか等が問題となります。その主張は,積極的な形で行われる場合もあるでしょうし,消極的に相手方の請求に対抗する抗弁の形で主張されることもあるでしょうが,その両者で行使期間等に違いがあるのかも明らかでありません。取消しについては,一連の規定が存在し,あるいは議論があるわけですが,効果不帰属の主張として取消しとも異なる概念を用いる場合には,取消しの規定も直接には適用されないことになるでしょう。そうするとこの効果不帰属の主張をめぐる法律関係については,別に規定する必要が出てくるかもしれません。少なくともそのような点まで考えておく必要があると思います。 ○沖野幹事 4点,お話ししたいことがあります。1点目は,アの甲案か乙案かに関してです。私自身は自己契約,双方代理というそれぞれの類型を出した上で,その他のという形で利益相反行為を捉えたほうがよいと思っているのですけれども,それでもなお利益相反行為というものがどういうものかが分かりにくいということでありますと,例えば信託法の31条などを参考にしながら,既に議論に挙がっております間接取引の類型の例を挙げ,一例を挙げることでどういうものを捉えようとしているのかを明らかにするという考え方もあると思われますので,自己契約,双方代理プラス利益相反という考え方に立った場合の更なる一つの考え方として検討項目に加えていただければと思います。   2点目はその場合のウとの関係です。この場合の利益相反行為については形式的,外形的な利益相反ということを元々考えております。ウは自己契約,双方代理の禁止の例外とされているのですが,これとアの甲案との結び付きについても考える必要があると思いますので,その点を確認しておきたいと思います。   3点目は,効果に関係してイの点です。乙案による場合の法律構成です。鹿野幹事が御指摘になり,また,弁護士会から取消権構成との違いについて御指摘がありましたように,効果不帰属の主張というのはこの場合形成権ということになるのではないかと思います。もしそうだとしますとやはり期間の問題などが出てくるのではないかというわけで,この効果不帰属の主張というのがどのような正確なのかを更に詰めておく必要があると思います。形成権構成ではないのかと思うのですが,もし違っておりましたら,訂正をお願いしたいと思います。   4点目は効果の点です。この問題は,対内的には忠実義務違反の類型になるもので,その違反の効果が更に対外的にどう及んでいくかという観点からも捉えることができます。この問題に関して例えば信託法の31条では自己契約型のようなものは無効とし,第三者が絡むときは取消構成を採っています。そういう考え方との整合性を考えていく必要があると思います。これは本則は民法のほうであり,民法のほうで基本的な代理についての考え方が決まったときにそれとの整合性で問題がないのか,見直しが必要かということも含めて考えていく必要があると思われまして,派生する問題として念頭におく必要があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   利益相反行為については予想外の盛り上がりになりましたけれども,御指摘いただいたような意見を踏まえて,資料自体も再整理する必要があると思いますので,事務当局において引き取らせていただきたいと思います。   代理権の濫用は密接に関連いたしますけれども,ここで休憩を取らせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開いたします。   代理権の濫用について御意見をお伺いいたします。代理権の濫用につきましては,現在,規定のないところでございますけれども,規定を設ける必要があるのかないのか。設けるとしたら,現在は甲案,乙案が提示されているのだけれども,この点についてどう考えるかという点が問題になると思います。   山本敬三幹事,お願いします。 ○山本(敬)幹事 正にその点ですが,代理権濫用については,規定を設けた上で,乙案を支持したいと思います。  これは第12回会議のときにも申し上げたことですけれども,この代理権濫用については,現在の判例法理のように,心裡留保に関する93条を類推するという考え方を基礎にしてよいと思います。心裡留保については,前々回に審議をしたときに,新しい提案を採用するとしてどのような意味があるかという御指摘がありましたが,正にその点に関わるところです。心裡留保に関する新たな提案といいますのは,原則は,現在の93条と同じように,相手方が悪意又は過失があるときに限って,意思表示は無効になる。しかし,どう呼ぶかは別として,「欺罔型」とその時は申し上げましたが,そのような欺罔型の心裡留保については,相手方が悪意のときに限って,意思表示は無効になる。つまり,相手方に過失があるだけのときは,欺罔しようとした表意者が,相手方には過失があるのだから意思表示は無効だと主張できるのはおかしい。そう考えるべきだとしますと,代理権濫用の場合は,相手方から見ますと,代理人は本人側に属する者であって,そのような本人側に属する者が背信的な意図を隠して代理行為をしているわけですから,これは欺罔型の心裡留保に類すると考えられます。したがって,効果の不帰属を本人が主張するためには,相手方に悪意が要求されることになります。過失があるだけでは,足りないということです。  ただ,代理権の濫用の場合は,背信行為をしているのは代理人でして,本人自身はしていません。このような一種の被害者でもある本人との関係では,相手方が善意でも,重過失があるときは,相手方は保護を受けられなくなっても仕方がない。これが乙案の考え方でして,これを支持したいと思います。   部会資料の69ページの一番最後の段落で,乙案による場合には,法定代理人による代理権濫用行為について,本人又は相手方の主観的要件を「悪意又は重過失」に加重すべきどうかについて検討する必要があることが指摘されています。法定代理の場合は,先ほども少しお話しましたが,本人が代理人を選んだわけではありませんし,本人が代理人をコントロールすることは通常期待できないというのが,この提案の理由ですが,先ほどの利益相反行為の場合と違って,代理権濫用の場合は,定型性を欠くものでして,代理人の背信的な意図について個別具体的に知り得たかどうかが問題になりますので,常に重過失があるとは言えません。そうしますと,この場合には,本人が簡単に権利を失う恐れが大きくなりますので,法定代理の場合について,要件を「悪意又は有過失」に加重すべきだと思います。その方向で明文化するという考え方を支持しておきたいと思います。 ○鎌田部会長 高須幹事,どうぞ。 ○高須幹事 代理権の濫用について規定を設けるという点は私も賛成でございます。代理権の濫用行為というのは,取引行為の中でまま見られることでございますから,それに対する規定を設けるということは有益なことだと思います。   その上で,今,山本先生から御指摘のあった主観的要件の問題なのですが,私はちょっと違う考えをしております。今御指摘いただいた68ページの一番下のあたりのくだりの類型分けというのでしょうか,飽くまで代理人を選んだのは本人だから本人側の帰責事由ですよと。ただし,問題になる行為をしたら,本人そのものではなくて,代理人がしているので,そこにやや被害者的な面がありますよと。これはそのとおりだと思っているわけですが,それを実際,善意と重過失で区切るということになると,通例,重過失が認められる場合はかなり限定されてきてしまうということになりますので,論理的には極めて分かりやすい整理付けにはなっているわけですが,実際には今のような分け方をすると代理人を選んだ本人の帰責性というのを相当程度認めるという発想なのではないかと思います。   そうなると,これはもう見方,考え方の問題になるのかもしれませんが,ある人を見損なうと言いますか,このようなことはする人ではないと思って頼んだら,裏切られましたということはあり得ることではないかと思っておりまして,そのときに必要以上に帰責性を認めるというのは,結論の妥当性においてやや座りが悪いのではないか。となると,相手方の保護事由は軽過失まで含めて,その軽過失の判断の中である程度の柔軟な解釈ができれば,結論的には座りのいい考え方になるのではないかと思っております。そういう意味では,悪意・有過失という従来の判例の見解も一つの考え方ではないか。私としてはそちらのほうがいいのではないかと思っています。   以上です。 ○鎌田部会長 ほかの御意見いかがでしょうか。 ○松本委員 先ほどの利益相反のところでは,効果のところで甲案,乙案があり,甲案は無権代理行為である。ここでは無効ではなくて効果不帰属だということでしたが,代理権濫用のところの甲案ははっきりと法律行為は無効だと書いてあります。ここで言う法律行為というのは代理行為ですよね。代理行為が無効だから,効果不帰属の議論をするまでもなく,効果は一切発生していないという整理ですよね。乙案は,基本的には効果は発生しているが,不帰属を主張できると。ここで,効果は発生しているが,両者の間の案というのがあり得ないのかどうか。別にそれを主張するという意味ではないのですが,論理的な意味として。つまり,追認の可能性をなお残すような感じの代理権濫用の効果というのがあり得ないのかどうかということなのです。   代理権濫用だけれども,その代理人の得た利益を全部本人として自分のほうによこせと言いたいようなケースを考えると,本人の側から……,あり得ないですかね,そういう場合というのは余り……。黙っていればいいだけですか。ああ,そうか。黙っていて,代理人に対して,代理人の取得したものをこちらに引き渡せと言えばいい。しかし,甲案は言わばデフォルトに無効だという話だから,無効であれば渡せと言えない,代理権の発生原因である委任の効果として,代理人の受け取ったものを本人に渡せと言えないという話になりそうですね。 ○鎌田部会長 代理権濫用では相手方や第三者の保護要件をどうするかということで,ここの提案が主として出てきているのですけれども,法律構成次第では内部関係にも影響があるという御指摘なので,法律構成と内部関係,相手方や第三者の保護要件の双方について幾つかの組合せも考えられるところですので,御意見を参考にして整理をさせていただきます。 ○中井委員 7の代理権の濫用ですけれども,先ほど高須幹事から高須幹事の意見としてお話がありましたけれども,多くの弁護士会も同じ意見でした。まず代理権濫用について明文化することについては基本的に賛成である。そのときの主観的要件については,必ずしも悪意・重過失とまで狭くするよりは,悪意・有過失で,有過失の中で調整するほうが好ましいのではないかという意見です。   その効果が無効か,効果不帰属かについては,先ほどの話も含めてですけれども,弁護士会の多くの意見としては,従来,代理に関連しては多くの裁判例があり,それなりに裁判例で形成されてきたことが一般に承認されているのではないか,それで実務は動いているのではないか。その実務にあえて大きく変更を加える,大きくではないのかもしれませんけれども,変更を加える必要性が果たしてあるのか,というのが基本的な背景にあり,この代理権濫用についても言われているところの判例法理を明文化するので足りるのではないか。   そうだとすると,無効構成になって,第三者の保護の問題については,この資料にもありますけれども,94条2項等の類推適用という考え方で対応可能ではないかというのが,多くの意見でした。 ○鎌田部会長 ほかに。はい。 ○岡委員 私も同じようなことを言おうと思っていたのですが,甲案の「無効」という言葉は,先ほどの京都・九州ルールからいくと,ここは効果不帰属になっても全然おかしくないということですか。その場合は無権代理になって,表見代理の問題も起きてき得るということなのですか。表見代理は言えないですか。相手方が悪意・有過失である時のみ効果不帰属なのだから,あとは第三者の保護だけを94条2項か,そちらのほうで考えればよいという整理になるのですね。 ○鎌田部会長 表見代理によって善意・無過失のときだけ保護されると,そういう法律構成を採る説も,少数説ではありますが,かつて存在したと記憶しています。 ○山本(敬)幹事 仮に無効構成を採用した場合に,無権代理になるのかどうかということがまず問題としてあると思いますし,仮に第三者保護要件を考えるとして,表見代理によるのか,94条2項の類推適用法理が今後も残るという前提で,それによるということで本当によいのかという点を確認させていただきたいのですけれども,いかがお考えでしょうか。 ○岡委員 誰に対して……。 ○山本(敬)幹事 お二方に対してです。 ○中井委員 多くの弁護士会意見は,その正当性について論証した結果というより,判例法理のままで理解するところが多かったという,そういう回答になるのかもしれません。 ○鎌田部会長 はい,高須幹事。 ○高須幹事 二人には入っていないのですが発言させていただきます。私としては,無権代理構成にした上で94条2項という従来の構成,これが今までの判例法理の枠組みであったかと思っておりまして。そういう構成が今後も分かりやすいのではないかと思っております。下級審判例ですが,東京地裁の平成7年の1月26日という裁判例なども,第三者の保護について94条2項及び110条の法理に照らして善意・無過失の第三者は保護されるべきであるとしています。こういった裁判例などもあるようでございますので,そういう考え方は十分あり得るのではないかと思っております。 ○山本(敬)幹事 一点だけ。従来の考え方では,先ほどの自己契約・双方代理については無権代理と考えて,そこから先は表見代理の規定によると,少なくとも学説ではあまり説明を加えることなく,一言二言で書くということだったのではないかと思います。代理権濫用の場合は,原則は有権代理であって,内部的義務に違反した行為なので,心裡留保の規定を使って例外的に無効になる場合があり得るということですから,あとは自己契約・双方代理とは論理的には違って,無効である以上,94条2項の類推適用という方向で考えていくべきであるというようにお考えなのでしょうか。 ○中井委員 その枠組みを積極的に変えるという意見は出てきていませんでした。 ○山本(敬)幹事 そうしますと,新たに代理権濫用について明文の規定を置くのだから,第三者保護要件については,無効構成を前提した上で別途定めるという考えは採らないということなのでしょうか。 ○中井委員 採るか採らないかまで検討していませんけれども,94条2項のままで考えていたというのが正直なところです。その違いは,悪意又は重過失か,善意・無過失かですね,第3者の関係で言うならば。だから,より本人のほうの帰責性を大と考えて,第三者保護を拡大するかどうかという,その価値判断という理解をしてよろしいのでしょうか。 ○山本(敬)幹事 要件をどう設定するかという点については,先ほどのように心裡留保についてどう考えるか,そして,心裡留保の類推,ないしは,同じ考え方で考えるかどうかということで決まってくる事柄かと思います。ただ,御指摘されているような甲案で,しかも,効果を無効構成にした上で,今のようにお考えになるということに対して少し指摘しておきたいのは,利益相反行為との関係です。  利益相反行為について規定を設けるということについては,基本的には御賛成だったのではないかと思います。それは,基本的には本人に効果が帰属するけれども,内部的な義務違反があることを理由として,例外的に本人に効果が帰属しない場合があり得る。構成は別としてそのような効果を認めるということだったかと思いますが,ここで甲案による場合は,少なくとも利益相反行為と代理権濫用との関係について,両者を質的に異なるものとして位置付けることになりはしないかという問題もあるように思います。   いずれも内部的な義務違反であるけれども,利益相反行為の場合は,定型的にそのような義務違反が認められるのに対して,非定型的なものをカバーするのが代理権濫用という位置付けですと,効果や構成が全く違ってくるのは問題があるのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 潮見幹事,どうぞ。 ○潮見幹事 ちょっと弁護士会の御意見の点で確認させていただきたいことがあるんです。無効とか効果不帰属というのはちょっと置いておきまして,先ほど高須幹事の御発言のあたりから,この代理権濫用の場合には,代理人を選んだ本人の帰責性を大きく見積もるべきであるというところから入って,甲案のほうに進まれたとに伺ったのですが,むしろ代理人を選んだ本人の帰責性を大きく見積もるのであれば,相手方の主観的要件というものは乙案のほうで考えなければいけないということになりませんか。 ○高須幹事 すみません。私の趣旨は,乙案を採る方は必要以上に帰責性を大きく見積もっているのではないかと。ですから,むしろそうではなくて,甲案にいくのが妥当ではないかということでございます。 ○道垣内幹事 私,議論を伺ってよく分からなかったのですけれども,第三者とおっしゃっているのは,相手方のことではなく,代理権濫用である代理行為がされ,それを前提してさらに登場する第三者の話ですね。そのときに,例えば代理権濫用で無効なら無効なのだけれども,しかしながら,代理行為によって登記なら登記が移っているときには,その登記を信頼した第三者をどう保護するかという問題について,94条2項の類推適用の可否という話があるというわけですね。   そのとき,山本敬三幹事がそのこと,つまり現行法でいえば94条2項の類推適用を問題にされる趣旨がよく分からないのです。94条2項を類推適用するときには本人の帰責性が必要なんだけれども,この場合には本人の帰責性を語れないのではないかといったことならば分かるのですが,現行法における94条2項の類推適用のルールについて,改正において何らかのルールを置くとするならば,そのルールの解釈の問題であって,ここの問題ではないような気がするのです。 ○山本(敬)幹事 立場が違っているので,結局繰り返すことになってしまうのですが。ここで問題にしているのは,代理行為の効果が本人に帰属するかどうかという問題であって,そのような問題として先ほどの利益相反行為並びに代理権濫用に関する規律を整備すべきだとするならば,94条2項類推適用以前に,そもそも代理行為の効果が本人に帰属するか,そして,相手方との関係だけではなく,第三者との関係でも帰属したものとして扱うべきかどうかということについてルールを整備すべきではないかということです。これが整備されるならば,94条2項の類推適用の問題は語る必要がなくなるといいますか,正にそのような問題に関するものとして規定を置くべきであるということだと思います。ただ,弁護士会の方々の御主張が必ずしもそうではなかったもので,どうお考えかというのを確認させていただきたかったということです。 ○道垣内幹事 大変細かくなって恐縮なのですが,今の山本幹事のお話は,例えば代理権の濫用に当たるような代理行為がなされて,登記が相手方に移り,更に第三者に移ったという場合に,本人が第三者に対して登記を戻せという請求をするときの根拠条文も代理権の濫用の条文になるという御趣旨ですか。 ○山本(敬)幹事 Aが本人,Bが代理行為の相手方,更に第三者としてBの相手方Cがいるというケースですね。問題になっているのは代理権濫用であって,代理人を例えばDとしますと,DとBが行った代理行為の効果が本人であるAに帰属するかどうかが問題になっている。利益相反行為であれ代理権濫用であれ,ここが問題になっているときには,Dが行ったBとの代理行為の効果が本人Aに効果帰属するかどうかということを問題とすべきであって,その際に相手方Bの主観的要件がどうかというのが問題になっていたところですね。   ここで,これを効果不帰属構成によって捉えますと,Bとの関係で効果が帰属していないという主張を認めるかということだけではなくて,更に第三者Cが出てきたときにも,AとBとの間で効果が帰属していないという主張を認めるかどうかを問題にする余地が出てくると思います。それについてルールが必要ではないかというのがここでの問題であって,それとは別に94条2項類推適用,つまり,登記が問題になるとするならば,登記がAからBに移転していることによってBが所有者だと信じた。その信じたことについてCが保護されるべきかということは,これとは別の問題ではないかと思うのですが。 ○道垣内幹事 だから,最初,高須幹事が68ページの真ん中あたりに94条2項の話が書いてあるとおっしゃったのは,山本幹事のおっしゃるところの正に別の問題についてお話をされただけなのではないかということなのです。 ○鎌田部会長 本当にそうなのでしょうかという質問ですね。 ○中井委員 Bのところに登記があるときのCの保護の問題とすれば,94条2項なのではないですかと素直に考えていたのですが,如何でしょうか。 ○山本(敬)幹事 そうすると第三者の信頼保護要件は,何についての信頼なのでしょうか。 ○中井委員 Bのところの外観とAの帰責性ではないでしょうか。 ○鎌田部会長 それはあり得る構成だと思うのですけれども,何となく違和感があるのは,代理権の濫用というのは,代理権の範囲内の行為を例外的に相手方との関係で効果不帰属にしようという,その範囲の議論を元々はやっていたわけですよね。そのときに心裡留保の類推でいくか,あるいは,信義則説的にいくかという,本人と相手方との関係を中心に考えていた。第三者・転得者の保護の問題は,その後に出てくる,言わばついでの問題なのですけれども,むしろここでは,甲案を採るか,乙案を採るかによって,第三者保護をどうなるかを中心にして法律構成の在り方を考えて,弁護士会としては制度設計を考えているということでしょうか。 ○中井委員 先ほどから弁護士会の意見と言ったのは必ずしも正確ではなくで,ここは意見が分かれています。多いのが甲案で,私の所属する大阪弁護士会は乙案なのです。今部会長がおっしゃったように,代理権の濫用については,そもそも代理権の範囲内なのだから,原則有効で帰属しているではないか,出発点はそこからすべきではないかという強力な意見があることからすれば,山本敬三幹事の話になるのだろうと思うのです。   ところが,総体的に多い意見は,判例法理をそのまま再現する案で支障があるのか,もちろん主観的要件に違いは出てくるのですけれども,現在の実務の流れを変える必要があるのか,ここからスタートしているものですから,論理で説明しろと言われたときに,回答に窮しているところがあるというのが正直なところです。94条2項類推適用の根拠に関しては,先ほどのA,B,Cなら,Bのところにある外観とAの帰責性なのだろうと思います。 ○鎌田部会長 代理権濫用後の転得者の保護に確固たる判例法理が確立しているとまで言えるのですかね。余り重要な論点として従来議論が詰められてきたような感じはしない。そういう問題を議論するとすれば,そうなるだろうという議論はあったとは思うのですけれども。 ○中井委員 前提として無効構成を採ったらそうしないと救済できないものですから,そういう論理になっていると言ったほうがいいのかもしれません。 ○岡委員 効果不帰属で,効果はAに帰属しないということで,Bにある登記は実態を反映していないという結果になるわけですから,Cについては一般的な権利外観法理で問題ないのではないかと思います。その場合の信頼の要件は何かというと,代理権の濫用で効果不帰属あるいは無効の主張ができることについて,善意,無過失,その場合だけ保護するのではないでしょうか。接木かもしれませんけれども,それほど違和感を感じないのですが,敬三先生から見ると変なのですか。 ○山本(敬)幹事 すみません。御質問をもう一度確認したいのですが。 ○岡委員 代理権の濫用で,Aに効果が帰属しない,効果不帰属主張ができる場合が生じたとなると,Bにある登記はAとの関係では真実に合致していないと,Aは取り戻すことができるという状態になります。その状態でCが取引に登場した場合に94条2項を適用して問題ないように思うのです。Bにある登記が無効というか,真実に合致していない理由が,代理権濫用の場合と,利益相反行為の場合と,本当の無効の場合と,それは余り関係ないのではないでしょうか。94条2項の善意・無過失の対象が何であるかだけが異なっており,それによって保護されやすい場合とされにくい場合があるという整理で,それほど違和感を感じないという意見です。 ○山本(敬)幹事 効果不帰属構成を採用する場合にはどのように考えられているかと言いますと,先ほどの例で言えば,AとBの間で,Bと代理人Dとの間で行われた行為の効果が本人Aに帰属するかどうかという問題について,原則として,鎌田部会長がおっしゃっておられますように,従来の考え方ですと,当然帰属するのに対して,一定の要件が備わる場合,代理権濫用ですと,例えば相手方Bが悪意であった場合は,効果不帰属の主張をAに認めてよいということですね。   それに対して,Cが出てきた場合に,部会資料の中でも指摘されていた問題かもしれませんが,CからAに対して一定の請求が来たときに,Aの側が,DがBとした代理行為の効果はAには帰属していないという主張をすることができるのかどうかが問題になってくる。このときに,Bの主観的態様に照らして効果不帰属の主張ができるか,更にCの主観的要件も考慮して効果不帰属の主張ができる場合,できない場合が出てくるのかということが,効果不帰属構成を採ると必然的に出てくる問題ではないかということで,先ほどから意見を述べていました。ただ,御指摘のように,そこを外観法理の問題であって,94条2項類推と言うかどうかは別として,そのような問題として処理することは,考え方としてはありそうだということは分かりました。 ○鎌田部会長 鹿野幹事。 ○鹿野幹事 先ほど利益相反のところで,効果不帰属の主張がどういう性質のものかという議論がありましたし,取消しとは違うとしても形成権と捉えられるのではないかという指摘もありました。そして,取消しとも異なり,効果不帰属の主張という新しい概念を採用するのであれば,それをめぐる様々な法律関係について,整理する必要があるのではないかという趣旨のことを私から申し上げました。第三者との関係もその一つだと思います。つまり,一方で取消しについては,利益状況の違いによって,取消しの効果を第三者に対して主張できる場合とできない場合がありますし,取消権を行使した後に利害関係を持った第三者との関係についても,従来から解釈論の展開があるところです。このような取消しをめぐる法律関係との異同やバランスも考慮に入れながら,ここでの効果不帰属の主張がどういうもので,この場合に,どのような形で関係した第三者を,どれだけの主観的な要件の下で保護すべきかということを検討する必要があると思います。 ○鎌田部会長 道垣内幹事。 ○道垣内幹事 微妙に問題が変わるのかもしれないのですけれども,現在の代理権濫用の議論というのは,自己契約双方代理だけが権限外になるということを前提の下に行われているわけですけれども,仮に利益相反一般について,権限そのものを否定するという見解を採った場合には,代理権濫用との境目は微妙になってきます。取り分け,代理権濫用の判断にはある程度実質が入ってこざるを得ないということになると,そこには連続性が出てくる。そして,連続性が出てくるということになりますと,今までは無権代理の場合と有権代理で否定される場合というふうに,概念的にクリアに区別して議論してきたわけですが,そういう区別をしていいのかという問題が出てくるような気がいたします。   もちろん,概念的な整理としてはそうかもしれないが,そこは実質を考えなければならないということを考えますと,相手方の保護要件についてはバランスが取れていることが必要になると思いますが,弁護士会は,7の代理権濫用について甲案を採るときには,利益相反行為については一般の表見代理で処理をすることが前提になる,あるいは,表見代理構成ではないのだけれども,善意・無重過失ではなくて,善意・無過失であるということが前提となると理解してよろしいのでしょうか。 ○中井委員 多くの弁護士会はそういう理解ですね。 ○鎌田部会長 以上でよろしいですか。 ○道垣内幹事 はい,結構です。 ○鎌田部会長 松岡委員,お願いします。 ○松岡委員 今までの議論を聴いていてもう一つ分からなかったのですけれども,表見代理の場合にも,代理取引の相手方については善意・悪意が問題になりますが,転得者については表見代理の規定の適用はありません。それと同じく,代理権濫用についても問題になるのは原則として代理行為の当事者間のみであって,第三者の問題は,先ほど弁護士会の委員が御発言になったように,一般的な無権利者からの取得者の保護の問題として整理しておかしくないと思います。 ○鎌田部会長 ただ,信義則説的発想から言えば,代理権濫用は有権代理であって,しかし代理人の内心の意図を知っている人間がそれを援用するのはけしからんので,その人間に対してだけは効果不帰属の主張ができるのであって,それ以外の人にはできないという構成があり得る。それを一旦相手方に効果不帰属の主張ができる以上は無権利者ではないかと,無権利者から出発してあとは無権利の法理で全部やっていこうというと,94条2項類推適用の世界に入っていきますけれども,代理権の濫用というのは一体どういう法理なのかというところを見直していくと,主張できる相手方が最初から制限されているという構成は十分にあり得ると思います。   どうぞ。 ○松本委員 くしくも松岡委員と同じようなことを言おうと思っていたわけですが,乙案の効果不帰属という構成は,相手方との関係で本人に効果が帰属するかしないかというのが決まれば,次の第三者はまたもう一度振り出しに戻って効果帰属か不帰属かを考えるという,いわゆる相対的無効というか,新たな登場人物の善悪でころころ変わるというものではないのではないかと私も考えています。 ○鎌田部会長 「効果不帰属」という言葉の作り出したイメージの物神化なのだと思うのです。逆に言えば相手方が代理人の濫用的意図を知りながら,代理権の範囲内の行為だと主張すること自体がけしからんというだけの話だと考えれば,権利がどこにあるかという話とは違う次元の問題として,代理権の濫用は処理できるということはあり得る。 ○松本委員 最高裁判決における大隅裁判官の意見は正にそれなので……。 ○鎌田部会長 そういう考え方もあり得るので。 ○松本委員 それはそれですっきりしているわけですが,効果帰属・不帰属という考えでいく限りは,まず相手方との間で確定をした上で,あとは無権利の法理で処理をするというのが,一番論理的な考えになるのだろうと思います。もちろん裸の権利濫用論で処理をするとすれば丙案ですね,そうしますと。 ○鎌田部会長 そういう意味で,最初に関係官の御説明がありましたけれども,法律構成と相手方の保護要件をどうするかという問題を表裏一体で,このワンセットしかないという前提で議論するのは,ちょっとミスリーディングかもしれないという留保が付いていたところでもありますので,今日頂戴した意見を踏まえて再度また整理をさせていただきたいと思います。宿題が更にどんどん増えていって大変ではありますけれども,逆にここでの議論を通じて論点がよりクリアになってきたのではないかという気はします。   恐縮ですけれども,少しでも前に進みたいと思いますので,御容赦のほどお願いいたします。続きまして,部会資料29の「第3」,「代理」のうち「2.表見代理」の「(1)代理権授与の表示による表見代理」から,「(3)代理権消滅後の表見代理」までについて御審議いただきます。   事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 「2 表見代理」の「(1)代理権授与の表示による表見代理」の「ア 代理権授与表示と意思表示の規定」では,観念の通知である代理権授与表示について,錯誤や心裡留保と同様の規律を及ぼすことを提案しています。   「イ 白紙委任状と代理権授与表示」では,空白部分の補充された白紙委任状が相手方に提示された場合について,代理権授与表示の事実を推定する一般的規定を設けるべきとする甲案と,白紙委任状の交付,提示の態様は事案によって様々であるから一般的な推定規定を設けるのは相当でないとする乙案を提案しています。   「ウ 本人名義の使用許諾」では,第13回会議での御指摘を踏まえ,(ア)の名義使用者が本人であるかのように振る舞い本人を当事者とする法律行為をした場合と,(イ)の名義使用者が自らを当事者とする法律行為をした場合を分けて,御審議いただきたいと思います。(ア)では,名義使用者が本人であるかのように振る舞って法律行為をしたため当該名義使用許諾が代理権授与表示には該当しないという場面において,それでもなお本人に民法第109条に準じた表見代理責任を負わせるべきかどうかについて,御審議いただきたいと思います。(イ)では,名義使用者が自らを当事者とする法律行為をした場面において,名義貸与者に商法第14条等の名板貸責任と同様の責任を負わせるべきかどうかについて,御審議いただきたいと思います。   「(2)権限外の行為の表見代理」の「ア 代理人の権限」では,民法第110条の基本権限の範囲について,事実行為の代行権限を含む対外的な関係を形成する権限で足りるとする甲案と,それでは広きに失するとして「権限」との文言の解釈に委ねるべきとする乙案を提案しています。   「イ 正当な理由」では,民法第110条の「正当な理由」との文言を「善意かつ無過失」との文言に改めるべきとする甲案と,「正当な理由」との文言を維持しつつその考慮要素を例示すべきとする乙案を提案しています。甲案,乙案ともに難があるとされた場合には,現行法が維持されることになりますが,それは「正当な理由」との文言を維持しつつその考慮要素を例示しない案と位置付けることができます。   以上御説明しました論点のうち,(1)のアと(2)のアについては,分科会で補充的に議論することも考えられると思いますので,その可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明いただいた部分について御意見をお伺いしますが,順にいったほうがかえって議論を整理しやすいと思いますので,「(1) 代理権授与表示による表見代理(民法第109条)」についての御意見をまずお伺いいたします。   アについては,こういった特則を設ける必要があるかどうかというところが,まず議論になるところでございます。 ○中井委員 質問ですけれども,まず,条文上明示すべきかどうかが一つあって,明示すべきとなった場合に幾つかの特則が考えられるだろうと思いますが,その中で①と②,つまり錯誤に関することと狭義の心裡留保について,この二つだけを取り上げて,他の意思表示の瑕疵に関するものを特段取り上げていない。特に①,②だけを取り上げる理由というか,審議の経過からの反映というのがあったのでしょうか。 ○金関係官 部会資料29の71ページの上から6行目あたりから記載しているところですけれども,代理権授与表示に意思表示の規定を適用すべき場面の典型例として,錯誤と狭義の心裡留保を挙げたという説明にならざるを得ません。もし一般的に規定するとすれば,観念の通知全体について意思表示の規定全体を適用するというような規定を設けることになりますけれども,それはさすがに難しいということで,観念の通知の中から代理権授与表示を,意思表示の規定の中から錯誤と狭義の心裡留保を選択しております。 ○中井委員 そうだとすれば,弁護士会の多くの意見としては,確かに代理権授与表示については意思表示に関する規定が及ぶのだろうと思いますが,仮に及ぶとしても,あえて①,②だけを特に取り上げてここに規定することはいかがなものか。そうなると詐欺,だまされて授与表示した時はどうなるのだ,狭義の心裡留保以外の心裡留保の場合はどうか,他の類型についてかえって混乱するのではないか。代理権授与表示についても,意思表示の瑕疵に関する規定が及ぶという理解が共通であれば,それで足りるのではないか。あとはそれを念のため明文化するかどうかという問題は残るにしても,特定の場面だけを想定した規定を設ける必要はないのではないか,こういう意見が大勢です。 ○鎌田部会長 それでは,松本委員,次に山本敬三幹事。 ○松本委員 109条というものを固有に取り上げて準法律行為と言われているのでしょうけれども,それについての錯誤というふうに見るのではなくて,70ページの補足説明1の3段落,「ところで」以下のところに,代理権授与表示においてされた代理権と,現実に与えられた代理権とが食い違う場合ということであれば,現実に与えた代理権のほうを中心に考えて,そちらからの錯誤だとかいうほうが素直なのではないかと思いますから,準法律行為的な意味の代理権授与そのものではないけれども,それに類似した表示の錯誤という非常に分かりにくい構成を採るのではなくて,本来の代理権授与の意思表示の齟齬が主張できるかできないかというほうで見ればいいのではないか。そういう意味では特則は要らないのではないか思うのですが。 ○鎌田部会長 山本幹事,どうぞ。 ○山本(敬)幹事 今の御指摘については,本人と代理人との間で代理権授与行為が行われている場合に,そこで行われた代理権授与行為自体には瑕疵がないのではないかと思います。つまり,本人と代理人との間ではこういう代理権を与えるということで一致しているし,そこに錯誤も何もない。起こってしまったのは,本人が相手方に対して,どのような形でかは別として,内部的に与えた代理権と異なる代理権を代理人に与えたという表示をしてしまったという場合であって,これは代理権授与表示が相手方に行われてしまっているので,109条の表見代理が認められるのか,それとも,この代理権授与表示自体に瑕疵があるので,構成はともかくとして,本人について表見代理が成立しない場合を認めるかどうかということが問題になると思います。その意味で,109条の表見代理を認めるかどうかという問題として構成することになるのではないかと思います。   その上で,本来申し上げたかった事柄ですけれども,代理権授与表示に意思表示の規定が類推されかどうかという点については,類推が認められるというのが従来の学説としてはほぼ確立していると思いますが,ではどのように類推が行われるのか,そして,効果はどうなるのかという点については,幾代先生を始めとして研究はあるのですけれども,疑義が残る余地があるのではないかと思います。このような場合は,疑義が残らないように,改正の際に明確にしておくことが,あり得べき立法の態度ではないかと思います。   その際に,全てについて書くのが丁寧かもしれませんけれども,それが望ましいかどうかはまた別問題なのだろうと思います。その意味で,最も問題になる事柄について疑義が残らないように規定するという観点からは,この①,②の場合が考えられる最も典型的な場合だと思われますので,少なくともこれについて明確に規定するという考え方を支持しておきたいと思います。 ○鎌田部会長 この点については,ある意味でかなり込み入った事情についての分析が必要になるので,分科会で少し細かく検討してもらってはどうかというのが事務当局,関係官からの最初の説明ですけれども,いかがでしょうか。   この原則の典型的な適用対象としてどのような事案を想定するかというのもかなり微妙なところがあって,資料29の70ページの説明だけでいくと,白紙委任状の委任事項濫用ケースはこの典型例の一つになるのですが,伝統的には110条で考えてきていないですか。AがBに代理権を与えて,Bに白紙委任状を与えたら,Bが委任事項を本来与えられた範囲よりも拡大して,相手方に提示して行為したというときに,本人はそのような表示をするつもりはなかったので,109条について錯誤があるという処理が原則なのか,代理権の範囲を超えて代理人が代理行為を行ってしまっただけだから110条での処理が原則なのだというふうな,そこの境目の理解についても,これは白紙委任状特有の問題も絡むのですが,ちょっと御説明いただけると。 ○山本(敬)幹事 今御指摘された問題は,109条構成ができるし,110条構成もできるという理解を前提として,その両方を認めるのか,それとも一方のみを認めるのかという形で議論されているところで,考え方は分かれるかもしれませんが,110条のみで構成するという考え方が確立しているわけではないと私は理解しています。 ○鎌田部会長 そういったケースについて,109条については適用を排除できる根拠を作るという意図を含む提案ということになるわけですね。なかなか難しい問題だと思いますので,分科会で少し細かく検討していただくという取扱いでよろしいでしょうか。   それでは,そのようにさせていただきます。   次が,「イ 白紙委任状と代理権授与表示」の問題でございます。 ○中井委員 弁護士会の意見を申し上げておきますと,基本的に白紙委任状と代理権授与表示に関する規定については,第一読会の時も申しあげましたが,一般的規定は設けないという乙案に賛成です。   これもアとイと同じ基本的な考え方なのかもしれませんけれども,いずれもここまで詳細な規定を民法の中に設けるのかというそもそも論があって,そこまで具体的に類型化した規定は要らないのではないか。取り分け白紙委任状については,白紙委任状の中身は種々様々なものがあるし,それが提示される形態,その流通,転得者まで考えれば,流通も様々なものがあることについて,一般的な推定規定のような形で置くことに対する危惧が強く言われています。   のみならず,民法の中に白紙委任状が一般的に使われることを予定した条文があること自体,極めて不自然なことではないか。本来,代理というのは委任事項を明示した委任状を作成して委任するものなのだということを民法の中に明示することが好ましくて,白紙でした場合はこういうふうに考えて処理しますというのは,基本的に本末転倒な話ではないか。本末転倒な場合のことを規定すること自体に対する違和感というのがあるわけです。   いずれにしろ乙案でよいのではないかという意見です。 ○鎌田部会長 村上委員,どうぞ。 ○村上委員 私も甲案には問題があるだろうと思っています。一読の時にも申し上げましたし,申し上げたことは補足説明の中に詳しく書いていただいていますので,繰り返すことは避けますが,中井委員からもお話がございましたように,白紙委任状と言いましても,どこまでのことが記載されているものを指すのか。極端なケースを考えてみますと,委任する人の名前だけが書いてあるものまで含むのでしょうか。さすがにそれは白紙委任状とは言わないと思いますけれども,では,どこまで書いてあれば白紙委任状になるのかという問題がありますし,代理権授与表示を認めてよいかどうかというのは,記載の程度や作成するに至った経緯等々,様々な事情を考慮して決めるしかないのだと思います。   もしこの提案のような条文を作るとしますと,白紙委任状をまず定義した上で,定義に当たる場合には推定されるという規定を置くことになるのだろうと思いますけれども,白紙委任状の定義に当たるものは推定する,当たらないものは推定しないというような一律の取扱いをするということになりますと,必ずしも妥当とは言えない結果を多々招くことになる危険があるのではないかと思っています。 ○鎌田部会長 山本敬三幹事。 ○山本(敬)幹事 やはり一言申し上げておきたいと思います。何度か繰り返していることですので,簡潔にしたいと思います。これについては,甲案に従って明文化する方向でよいと思います。と言いますのは,御承知のとおりですが,現在の109条が実際に適用されてきた主たる場面は,この白紙委任状が交付された場面でして,判例法理もほぼ確立しているわけですので,ルールの明確化を図るために,可能な限りそれを明文化することが望ましいというのがその理由です。   ただ,このような規定を設けるときに,白紙「委任状」という文言を用いるのは避けたほうがよいと思います。「委任状」と言いましても,そこに含まれる内容は多様でして,必ずしも法律行為の代理を内容とするとは限らないように思います。ここでの関係で意味を持つのは,飽くまでも代理権の授与を内容としているものですので,例えば「他人に代理権を与える旨の書面」というような文言で,「委任状」という文言を使わずに規律すべきではないかと思います。 ○鎌田部会長 授業をする立場から言うと,白紙委任状についての授業は大変やりにくくて,何かしっかりしたルールの確立が可能であれば,大変助かるという感じを持っていますけれども,御指摘のような点を踏まえて検討したいと思います。   はい,道垣内幹事。 ○道垣内幹事 判例で確立したルールを明確化するということの一般論には賛成なのですが,判例のルールには,例えば委任状を転得者が用いた場合には制約が掛かるなどということがあって,甲案において,これが判例のルールなのだよというためには,補足説明の真ん中あたりにありますように,一定の場合には錯誤の問題として処理をするということなどを前提にせざるを得ない。   そうなりますと,アの問題が現在先送りされているわけですけれども,そこがはっきりしないままに,甲案でよいのかという問題がありますし,また,甲案のように白紙委任状に関する判例法理を何らかのルール化して明文化するとしましても,白紙委任状が転得者にいったときには,錯誤の問題として処理されることによって本人が救済され得るのだというのを,書かれているルールから読み取るというのはかなり困難だろうという気がいたします。   それでは,より一般的に,白紙委任状を出した人には落ち度があるから,それだけで広く責任を負うと言っていいのかというと,それは判例法理とも違いますし,また,使用者責任における使用者の権限・業務範囲と被用者の行為との牽連性といった問題,つまり日本民法がほかのところで採っているルールとの不整合が出てきますので,この場面だけ判例法理を拡大することはできないだろうと思います。したがって,山本幹事のおっしゃったことの抽象論部分には賛成はするのですけれども,仮に規定するのだったら,かなり難しいことになるのではないかなという気がいたします。 ○鎌田部会長 ほかに御意見いかがでしょうか。ウについても併せて御意見を頂ければと思います。   神作幹事,どうぞ。 ○神作幹事 商法の観点から申しますと,73ページの参照条文として商法14条と会社法9条を引いていただいておりますけれども,双方とも「自己の商号を使用」して営業することを許諾した場合に範囲が限定されておりまして,本来規定されていてもおかしくない商法14条からも「本人の氏名」を使用することを許諾する場合が改正の結果落ちてしまっているという状況にございますので,民法の規定の中でこれについて一般的な規定を置いていただけると有り難いと考えております。 ○山下委員 その点は私も同じ考え方なのですが,73ページの上の(イ)だと,これは一回限りの法律行為について名称の使用を許諾した場合も適用対象となるわけですね。名板貸について商法で規定していたころは,事業についての名称の使用許諾ということでありまして,一回限りのものについても(イ)のように民法で一般化することのニーズがあるのかどうか。事業についての名称使用を許諾していますと,あの商売,あのビジネスは名前を貸している人のビジネスなのだなという,定型的な外観信頼方法があるということで,従来,商法では名板貸の規定を正当化していたと思うので,それが商法の改正で商号以外のところが抜け落ちてしまっているので大変困ったことになっているのですが,かといって,民法で単発の行為にも全部,この際拡大した規定を置くのがいいのかどうか。そこは必ずしも実態がよく分からないので,名前を一回でも貸したら両方で連帯責任があるとするような規定を置くニーズが世の中にあるのかどうかですね。そこら辺を十分踏まえて決めるべきかなということを感じております。 ○鎌田部会長 神作幹事,どうぞ。 ○神作幹事 今の山下先生の御指摘に関連いたしまして,長期的な法律関係ではあるのですけれども,営業の許諾とは異なる場合であって(イ)が適用され得る具体的局面として,株式の引受けをする際に名義を貸す場合が挙げられると思います。株式引受けの際の名義貸しにおいては,会社は名義貸人と名義借人の双方に対して株金の払込みを請求することができるというニーズがあり得,また,実際にそのように解する説が有力であると思います。そういう意味では営業に限らずに,(イ)のような規律が存在したほうが望ましいケースも否定できないと思います。もっとも,山下先生が御指摘されましたように,全ての名義貸しについてそれが妥当するかというのは別途検討する必要はあるかと思います。 ○鎌田部会長 松岡委員。 ○松岡委員 今のお二人の委員と幹事の商法の御説明についてちょっと分かりかねるところがありますので,御説明いただきたいと思います。特に山下委員が言われた一回限りの取引については,民法で規律を一般化する需要があるのかどうかはよく分かりませんが,一回限りの取引か継続的な取引かが,相手方にとってそれほど影響するのでしょうか。自分が契約した相手方が誰かの信用できる名前を使っていて,それを信頼して取引をしたときに,保護されるのが,この名称使用が複数回目だったのか初回だったかによって,違いがあると考えていいのでしょうか。 ○山下委員 程度問題というか,一回か継続かで何か事の性質が全然変わってくるという性質のものではないとは思うのですが,名板貸は従来名前を貸した方が責任を負うというのは外観説明で説明してきたかと思うので,それなりに強い外観の信頼があるという前提ではないかと思います。それが商法では営業についての名称使用許諾ということで要件化されていたかと思うので,そこが全部抜け落ちてしまって,神作幹事も言われるように単発でも名前を信用したということが世の中にあるというのは間違いないと思うのですけれども,一般化した形で規定を置くのがいいのかどうかというあたりがまだ疑問が残っていると,その程度でございます。 ○鎌田部会長 中田委員,どうぞ。 ○中田委員 私も73ページの(イ)は,このままだとやや広過ぎるのではないかと思いました。営業又は事業を行うことというような絞りがここで適当かどうかは,今の商法の先生方のお話を踏まえて更に検討し,あるいは別の絞りを掛ける必要があるのかもしれませんけれども,いずれにせよ単に自己の名義の使用の許諾ということだけだと相当いろいろなものが入ってくると思います。しかも,商法の解釈論として,商号使用の許諾は黙示でもよいという学説があるかと思います。それもここに持ってきたとすると,非常に広くなってしまいますので,何らかの限定は必要かと思っております。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○筒井幹事 ただいまの論点につきましては,今回の資料作成に当たって第13回会議での議論を改めて振り返ってみたところ,中間的な論点整理の際の論点の整理にやや不十分なところがあったと考えまして,(ア)と(イ)を分離したわけです。ただ,その(イ)として提示した考え方につきましては,「あり得る」と書いたものの,御指摘がありましたように本当にこのような広い規定を設けることで果たしていいのかどうかについて,私は甚だ疑問を持っております。   中田委員から御指摘がありましたように,仮に設けるならば相当に限定を掛ける必要があるだろうと思いますが,その要件についての議論はまだかなり不足していて,次の段階で適切な限定を施した案を事務当局から出せるかというと,それは非常に難しいという認識を持っております。また,仮に今回の資料のような一般的な規定を設けるとすると,現在の商法の規定,会社法の規定などはこれに包摂されて論理的に不要になると,恐らくそういう関係になっていると思うのですが,そのような規定を設けることが本当に議論されているのかどうかも甚だ疑問があると思っております。先ほど神作先生からは,特に商法や会社法において必要な規律が及んでいない場面が現に生じているという問題提起があり,その問題意識は理解するのですが,それについて民法で何か規定を用意することについては,本日の議論を聴いていても,極めて難しいのではないかという感想を私は持っております。 ○鎌田部会長 関連して御発言ございますでしょうか。極めて難しいということ,付随していろいろ問題が更に出てきてしまう可能性もあるということで,これ以上事務当局でどれぐらい検討を深められるかは心もとないところがありますので……。 ○山下委員 余計なことを言えば,商法を昔のように戻すというのも一案かなと思います。 ○鎌田部会長 「(2) 権限外の行為の表見代理(民法第110条)」についてはいかがでしょうか。   岡委員,どうぞ。 ○岡委員 (2)につきましては,アは代理人の権限を広げる案について,弁護士会としては甲案の賛成意見が多うございました。それから,イの正当な理由につきましては,乙案,あるいは,考慮要素を掲げない正当な理由という,従来の表現を残す案,こちらのほうの賛成が強うございました。   取りあえず弁護士会の意見の大勢でございます。 ○鎌田部会長 岡崎幹事,どうぞ。 ○岡崎幹事 裁判所で集約したパブコメの意見は逆でございまして,アの代理人の権限に関しては,乙案が多数を占めたということでございます。その理由といたしましては,これまでの最高裁の判例理論がどうだったかというところが前提になっており,学説の中でそれに対する強い反論があるということも承知しているところでございますけれども,なお110条の規律する範囲が広がり過ぎるのではないかというところに対する懸念が強いということだと思います。 ○鎌田部会長 山本敬三幹事。 ○山本(敬)幹事 権限外の行為の表見代理のアについては,今も出ている事柄なのですけれども,従来,事実行為の代行権限や公法上の一定の行為の代行権限に当たるものが「権限」に含まれる可能性があることは判例法理で確立していると思いますが,実際にそれをどう明文化するかとなりますと,かなり難しいのではないかという印象を私も持っています。その意味では,結論として乙案のようになっても仕方がないのではないかと思います。   それに対して,イの「正当な理由」については,少なくとも甲案は採用すべきではないと思います。これは部会資料でも書かれていることですけれども,現行民法110条の「正当な理由」については,学説上も,善意無過失に限らないとする考え方が有力ですし,判例を見ましても,必ずしも相手方の側の要素のみを考慮しているわけではないと思います。例えば,代理権の徴憑についても,それを代理人が偽造したのか,それとも本人から盗み出したのか,その際に本人の管理に落ち度がなかったか,あるいは,本人が代理人に交付したのかといった事情が考慮されていますし,代理人が権限外の行為をしようとしていることを本人が明示又は黙示に承認していると見られても仕方がないような行動を取っているかどうか,あるいは,その行為によって本人にどの程度の不利益や負担が生じているかといった事情も考慮されていると思います。そのような中で,甲案を採ってしまいますと,本人側の事情が考慮されるべきではないと解される余地が出てきますので,やはり適当ではないと考えられます。   したがって,方向としては乙案のように考えるべきだと思いますが,ここに挙がっている①②③だけでは,少し抽象的過ぎるのではないかと思います。特に②で,「代理権の存在を疑わせる事情の有無及び程度」とありますけれども,先ほども言いましたように,代理人が取得する利益の程度や,本人が不利益を受ける程度,本人が負担を負う程度などが考慮要因になることを示せるだろうと思います。そのほか,①の「代理権の存在を推測させる事情の有無及び程度」についても,先ほど言いましたように,特に代理権の徴憑を代理人がどのような経緯で取得したか,本人がそれに関与したかということも,考慮要因として挙げてよいと思います。さらに,代理人の言動に対して本人がどのような行動を取っていたかということも,重要な考慮要因になると思います。少なくともこういった考慮要因を挙げることは可能だと思いますので,乙案の可能性について「悲観的」に考える必要はないということを指摘させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 高須幹事,どうぞ。 ○高須幹事 今のイの点でございますが,弁護士会の意見も乙案のほうに比較的親しみがあったということでございます。そのことを踏まえですが,今,山本先生からも御指摘いただいたように,今までの裁判例もある程度こういうことを考慮してきたのではないかと思いますので,裁判所の御意見としては乙案で書き切ることへの波及効果みたいなものが起きるのではないかという御懸念があるのだとは思うのですが,かといって,現にこういう扱いが既にできているという部分に関して,ある程度思い切った表現も必要なのではないかと思いまして,やはり乙案が,その表現についてはもう少し工夫しなければならないとしても,よろしいのではないかと考えております。   以上です。 ○鎌田部会長 岡崎幹事,どうぞ。 ○岡崎幹事 イの点についてですけれども,考慮要素を明文化するというのは,ほかの論点でも出てくることがあるわけですけれども,適用対象をよく分析した上で規定をしなければいけないのではないかと思われます。その場合に,今の①から③までについて,これでは不十分ではないかというような御意見もあったかと思いますが,そもそも書き切るのが容易ではないのではないかと考えているところでございます。そういう意味で,現行の「正当な理由」という文言そのものでいくか,又は甲案のような考え方もあるのかと思います。 ○鎌田部会長 アのほうにつきましては,うまく書き切れるかどうか,あるいは,適切に書けるのかというふうな問題だということで,関係官からは分科会での検討をお願いしてはという提案でしたけれども,アについてはそのようなことでよろしいでしょうか。   イにつきましては,これをどう深めていくか難しいところはありますけれども,御意見を引き取らせていただいて更に事務当局で検討を深めたいと思います。   はい,どうぞ。 ○中井委員 次に移りそうですので,白紙委任状について追加して。山本敬三幹事が甲案に賛成とのことでした。実務では白紙委任状というのが多用されている,かつ,それがゆえに紛争が多発している。確定的に委任事項がしっかりとした上で白紙委任状の場合もあるでしょうし,委任事項が非常に曖昧なままで白紙委任状が交付されて,それが代理人によって濫用される場合もあれば,代理人から受け取った転得者が濫用する場合もある。それがために紛争が多発し,裁判所がその審理にいろいろ苦労されている。   甲案を採るということは,その実務に対して推定規定を設けることによって一つの道筋を付けるという意味で,紛争解決に役に立つのかもしれませんけれども,私が疑問に思うのは,基本的にそれは白紙委任状を活用した取引にとって,相手方の取引の安全を図るための方向に働くことになる。一定錯誤で留保され,本人が保護される場合が当然あり得るのだろうとは思いますけれども,結論的には,推定規定を設けることによって相手方の取引の保護が図られます。それにより白紙委任状がちまたで多々流通する可能性を増やすことになりはしないかという危惧があります。  本来これは民法にあるべき論を持ってくるのが適当かどうか分かりませんけれども,  先ほど申し上げたかったことは,代理権は本来委任事項がはっきり確定したものを代理人に授与して,代理人がそれに従って行動する,この行為原則を目指すべきだとすれば,白紙委任状が活用されるような方向での立法化というのは基本的な在り方として果たしていいのだろうかという素朴な疑問です。それが,言わんや民法の条文に,白紙委任状という言葉は使わないとしても,そういう方法が民法上に明記され,それが一般的にあり得ることを前提に,それに対する一般的ルールを設けること自体,民法の有り様として適切なのかということを是非お考えいただきたい。   私としては,乙案,更に言うならば,幾つか前の議論ですけれども,委任事項が確定しなかったら,本来任意代理は無効ということを徹底するならば,白紙委任状は委任事項が確定してないのだから,無効なのだという方向だって,あり得るのではないか,これは行き過ぎで,実務が動かないのかもしれませんけれども,そのように思うぐらいでして,より慎重な検討をお願いしたいということです。 ○鎌田部会長 それでは,次に「(3) 代理権消滅後の表見代理(民法第112条)」についての御議論に移らせていただきます。  事務局から説明をしてもらいます。 ○金関係官 「2 表見代理」の「(3)代理権消滅後の表見代理」の「ア 善意の対象」では,民法第112条の「善意」の対象について,代理行為時に代理権が存在しなかったことではなく,過去に存在した代理権が代理行為前に消滅したことであることを,条文上明確にすることを提案しています。   「イ 善意,無過失の主張立証責任」は,第13回会議での御指摘を踏まえて新たに取り上げた論点です。現行法の規定振りのとおり,相手方が自己の善意を,本人が相手方の過失を主張立証すべきとする甲案と,代理権の消滅は本人,代理人間の内部的な事情であるから本人が相手方の悪意又は過失を主張立証すべきとする乙案を提案しています。   「(4)法定代理への適用の可否」では,判例の立場を明文化すべきとする甲案,法定代理への適用を一律に否定すべきとする乙案,各規定の解釈に委ねるべきとする丙案を提案しています。   「(5)重畳適用」では,重畳適用を認める判例法理の明文化を提案しています。   「3 無権代理」の「(1)無権代理人の責任」のアでは,無権代理人が自己に代理権がないことを知らなかった場合について,錯誤に準じた免責を認めるべきとする甲案と,現行法の無過失責任を維持して錯誤に準じた免責を認めるべきではないとする乙案を提案しています。第13回会議では,無権代理人が善意かつ無過失である場合にのみ免責を認めるべきとする御意見もありました。イでは,無権代理人が自己に代理権がないことを知っていた場合には,相手方に過失があるときでも,民法第117条第2項による無権代理人の免責を認めないとすることを提案しています。第13回会議では,無権代理人が悪意の場合だけでなく,重過失の場合も同様とすべきとの御意見がありました。   「(2)無権代理と相続」については,まず規定の要否について御審議いただきたいと思いますが,仮に規定を設けるとした場合について,アでは,無権代理人が本人を相続した場合に関する判例法理を明文化すべきとする甲案と,判例法理のうち無権代理人による追認拒絶を認めないとする点のみを明文化すべきとする乙案を提案しています。イでは,本人が無権代理人を相続した場合に関する判例法理に加えて,その場合に本人は民法第117条第1項の履行責任をも免れるとする学説も明文化することを提案しています。ウでは,他人が無権代理人及び本人の双方を相続した場合に関する判例法理を明文化すべきとする甲案と,相続の順序で結論を異にする判例は相当でないなどとして一律に追認拒絶を認めるべきとする乙案を提案しています。   以上御説明しました論点のうちには,分科会で補充的に議論するのに適したものがあると思います。2(3)アの「善意の対象」,2(3)イの「善意,無過失の主張立証責任」,2(5)の「重畳適用」,3(2)の「無権代理と相続」の各論点です。これらについては,分科会で取り扱うことの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   「2 表見代理」の「(3) 代理権消滅後の表見代理(民法第112条)」につきましては,ただいまの関係官からの説明では,ア,イともに本文記載の提案に伴う問題点の有無を分科会で補充的に審議していただいてはどうかということでございましたが,アについてはともかく,イについては二通りの案が提案されていますので,まずはイについての御意見を伺った上で,方向が決まればそれに基づいて分科会に補充的な審議をお願いするということにしたいと思いますが。   山本敬三幹事,どうぞ。 ○山本(敬)幹事 それでは,イについて意見を述べたいと思いますが,結論としては甲案を私は支持したいと思います。  考え方の順序としては,まず,代理権が消滅しますと,本来は無権代理でして,本人に代理行為の効果は帰属しません。したがって,この代理権の消滅は,有権代理を理由とした相手方からの請求に対しては,抗弁として位置付けられます。つまり,本人側が代理権の消滅について証明責任を負うことになります。   そうしますと,表見代理はその例外を認めるものですので,代理権が消滅したにもかかわらず,112条で代理権があるとみなされるためには,それを正当化する理由として,相手方の善意が必要になると思います。これは,再抗弁か予備的請求原因かは別として,いずれにしても相手方が証明責任を負うと考えらます。  それに対して,その相手方の信頼に過失があるときは,表見代理の効果が阻却されることになります。したがって,相手方に過失があることは,それに対する抗弁として,本人の側が証明責任を負うことになります。そう考えますと,現在の112条の体裁をそのまま維持してよいと考えられます。   念のために言いますと,乙案は,112条を無権代理の例外である表見代理と捉えるのではなくて,代理権が消滅したことは悪意又は有過失の第三者に対してのみ対抗できるという構成を前提にしています。これは,代理権が消滅しても,原則として第三者には対抗できないという考え方に基づきます。比較法的にはこのような考え方を採っているところがあるわけですけれども,日本では,112条も表見代理の一つだという考え方が現在では定着していますので,主張・立証責任についても甲案のように考えるのが適当ではないかと思います。 ○鎌田部会長 高須幹事。 ○高須幹事 今のイの立証責任のところ,私は山本先生と全く同じ考えでございます。やはり代理権の消滅によって本来代理の要件を満たしていない法律行為が行われるわけですから,それは原則無効であろうと考えています。それを有効にするのが表見代理ということであれば,善意の立証責任を相手方が負うのは当然だと思っております。その上で有過失をどうするかという問題はあるので,そこは分科会でよく議論したいと思います。基本的にはここは甲案で賛成ということでございます。 ○鎌田部会長 山野目幹事。 ○山野目幹事 御提案のとおりでよろしいと考えます。理由は部会資料に記されているとおりですから,繰り返しません。イの論点は甲案がよろしいと考えます。これについても,両幹事がおっしゃったとおりでありますし,もう一つ,高須幹事が第31回会議に会議資料としてお出しいただいたものは,この規定の考え方を参照しながらお考えになったものであって,そのことも想起しておきたいと考えます。 ○鎌田部会長 イにつきましては,甲案の方向性で分科会に検討をお願いするということでよろしいでしょうか。   ありがとうございました。   どうぞ。 ○岡委員 追加だけですが,イについて甲案賛成というのは弁護士会の多くの意見でございます。 ○鎌田部会長 次に,「(4) 法定代理への適用の可否」に関しまして御意見をお伺いいたします。   岡本委員,どうぞ。 ○岡本委員 一読の時に,例えば法定代理でも,代理権授与表示があったと同視していい場合があるから,法定代理にも民法109条の適用はされていいと。110条,112条も同様であると,そういった意見を申し上げておりましたので,今回,丁案として109条,110条,112条ともに法定代理にも適用される旨,条文上明確にするという案を提案するかどうかという検討も一応は行ったのですけれども,法定代理の場合には,例えば代理権授与表示そのものがあったというわけではなくて,それと同視してよいというふうに止まるものですから,そういった提案はそのままでは具合が悪いし,修正するにしてもちょっと難しいかなと思いまして,うまくできれば丁案の提案というところも考えたいところではあるのですけれども,現状ではうまい提案ができませんので,取りあえずは丙案に賛成ということです。   以上です。 ○鎌田部会長 山本敬三幹事。 ○山本(敬)幹事 何度も恐縮ですが,法定代理への適用の可否については,結論としては乙案,つまり,いずれの規定も法定代理には適用されない旨を条文上明確化するという考え方を支持したいと思います。  一番問題になりそうな110条について言いますと,仮に甲案のように法定代理にも110条が適用されるとすれば,実際に問題になりそうなのは,保佐人や補助人に一定の代理権を付与する審判が行われたけれども,その代理権の範囲を超えて代理行為が行われる場合ではないかと思います。   しかし,本当にこのような場合について表見代理の成立を認めるべきなのかというと,やはり疑問があります。これは第12回会議のときにも申し上げましたけれども,「権利者が権利を失うことを正当化するためには,その権利者自身に権利を失ってもやむを得ない理由がなければならない」ということが,民法の基本原則として位置付けられるべきだと思います。この考え方によりますと,先ほどの被保佐人や被補助人は,法定代理人をコントロールすることが期待できない。だからこそ,代理権付与の審判が行われているわけです。確かに,そのような代理権付与の審判をする場合には,本人が代理権付与の審判の申立てや同意といった手続に関与する可能性が認められていますけれども,それは飽くまでもノーマライゼーションの理念から,可能な範囲で本人の自己決定権を尊重するという考え方によるものでして,それを本人が権利を失ってもやむを得ない理由にカウントするのは,制度本来の趣旨に反すると考えられます。したがって,ここではやはり乙案を支持すべきだと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見ございますか。中井委員,どうぞ。 ○中井委員 (4)の問題については,中間論点整理に至る一読の過程で,事務当局の整理の仕方にいろいろ意見を申し上げて,それが影響したのか分かりませんが,弁護士会からの意見聴取をすると,丙案賛成が多くなっているのです。ただ,丙案の理由は109条でも110条でも112条の場面でもいずれも法定代理の場合といえども,本人が法定代理人をコントロールする余地,する場面がないわけではない,そういう場面が残っているので,その場合の規定の適用を排除してしまうのはいかがなものかという流れで,そういう意見に集約されているのです。   ただ,個人的には今の山本敬三幹事の意見に非常に共感を持っております。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はいかがでしょうか。乙案支持の意見と丙案支持の意見が出されたところでございます。   中原関係官。 ○中原関係官 法定代理の場合に,これまで解釈で対応されているものも含めて,一律に表見代理の規定の適用がないのだと,適用の余地を今後は認めないのだとすることをはっきりと書くということの必要性が必ずしもあるかどうか,ということを考えますと,甲案又は丙案でいいのではないかなと考えております。 ○道垣内幹事 すみません。(4)についてなのですが,よろしいでしょうか。ここだけ見ますと,私も乙案に賛成なのですけれども,先ほどの利益相反との関係が気になっています。利益相反のところで無権代理構成を採るか否かという話があったのですけれども,それを無権代理とし,かつ,利益相反なのか否かがかなり分かりにくい場合がそこに含まれるとしますと,場合によっては相手方の保護が必要な場面が出てくるのではないかという気もしないではなく,そこら辺がよく分からないでいます。つまり,利益相反について,無権代理構成で表見代理による保護を考えるという構成と,有権代理だが,相手方の悪意・有過失,あるいは,悪意・重過失の場合には代理行為が無効となるという構成は,照明責任の所在の問題はありますが,実体的には,それほど結論が違うものとしては捉えられていなかったと思うのですが,仮に法定代理については表見代理の規定が適用されないことになりますと,二つの構成は大きな差異をもたらすことになるような気がします。 ○鎌田部会長 中田委員,どうぞ。 ○中田委員 私も基本的に乙案かと思うのですけれども,ちょっと残ってしまう問題があるような気がしまして。これは一読の時にも申し上げたのですけれども,市町村長の行為が議会の承認を要するというときに,承認があったと善意・無過失で第三者が信じた場合に,どうするのか。そこで仮に110条の適用ないしは類推適用を認めるとしますと,後見監督人の同意があったと偽った後見人の行為はどうなるのかという問題が更にあって,その両者をうまく区別できるのかどうかというのはちょっと自信がないところです。もしそれについて山本幹事,何か御意見がございましたら,乙案を前提としてそこら辺をどうするか,お示しくださればと思います。 ○山本(敬)幹事 一方で,法定代理にどこまで含めるか,他方で,公法人の行為の場合を代理法の規定で対処していくべきなのか,団体法の問題として処理していくのかという問題などとも関わりますので,そうした射程については慎重に検討する必要があると思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。  では,次に「(5) 重畳適用について」の御意見をお伺いいたします。ア,イともに判例としては一応確定していると考えられるところですので,これに特に異論はないという受け止め方をさせていただいてよろしいでしょうか。   潮見幹事,どうぞ。 ○潮見幹事 全く異論はありませんけれども,これは補充分科会でやっていただけるのだと思いますが,これもまた主張立証責任にも影響を及ぼすようなところがあろうと思いますから,条文の形にするときにそのあたり遺漏のないようにしていただければと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。ただいま御指摘ありましたように,重畳適用の部分につきましては,分科会におきまして,この提案内容で問題は生じないかというような点を補充的に検討していただくこととします。 ○中井委員 今の結論には異存ありません。ただ,弁護士会の意見としては,ここの記載内容について異論はないわけですけれども,それを法文化することについてはほぼ半分半分に意見が分かれました。法文化したほうがよいという意見と,そこまで法文化するまでもない,従来の判例等で形成された法理を実務的に適用していけばいいではないか,これを明文化するのは詳細な部分に及び過ぎる,こういう意見に分かれております。 ○鎌田部会長 次に,「3 無権代理」についての御意見をお伺いします。   山本敬三幹事,どうぞ。 ○山本(敬)幹事 何度も本当恐縮ですが,無権代理人の責任のうち,まずアについては,甲案を支持したいと思います。  これは次のイとも共通するのですが,ポイントは,117条の責任は履行又は履行に代わる損害賠償とされていますので,要するに,自ら契約をしたのと同じ効果が認められることになるという点にあります。そうしますと,自分自身の名で法律行為をしたときでも,錯誤があれば,95条に相当する規定によって保護されるわけですので,無権代理人についても,無権代理人が代理権の不存在を知らなかった場合は,錯誤に準じて,原則として責任を免れる。ただし,無権代理人に重過失があるときは,その限りではないと考えるべきだと思います。   乙案は,恐らく代理取引の安全という考慮から,無権代理人に厳しい責任を課すという考え方に立つものと思いますが,代理取引の安全という考慮から,このような法律行為の一般原則と異なる結果を正当化することができるかどうか,代理取引の安全にそこまでの強い要請があるのかは,疑問だと思います。   次に,イについては,原則として,相手方に悪意又は過失があるときは,無権代理人は履行又は履行に代わる損害賠償責任を免れるけれども,無権代理人に悪意があるときは,相手方に過失があっても無権代理人は責任を免れるべきではないという提案がされています。これは,無権代理人が代理権がないことを知っていながら,自分に代理権があることを相手方に信じさせた場合は,何度も言っていますように,欺罔型の心裡留保に類する行為に当たると思います。とするならば,この場合の無権代理人は,相手方に過失があることを理由に,責任を免れることを認めるべきではない。これが,イの提案の基礎にある考え方だと思います。   そうしますと,部会資料では,更に無権代理人に重過失がある場合も同様にすべきかどうか問題になるとされていますが,このような例外が認められるのは,欺罔型の心裡留保に限られるわけですから,飽くまでも無権代理人自身が代理権の不存在を知っていた,つまり悪意の場合に限って,このような扱いを認めるにとどめるのが適当ではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。中田委員,どうぞ。 ○岡本委員 3の(1)のアについてですけれども,甲案は,無権代理人が善意・無重過失である場合には無権代理人を保護するという提案でございますけれども,相手方も善意・無重過失である場合をどうするかというのが問題になると思います。その場合については,相手方の保護を図るべきではないかと考えますので,甲案については原則として賛成ではあるのですけれども,若干変えまして,無権代理人が自己に代理権がないことについて善意であって,かつ,相手方が悪意又は重過失である場合にはというふうに改めてはいかがかと思います。   それから,イのほうですけれども,ここの括弧を削除して,「又は重過失」,これを本文に含めることで提案に賛成したいと考えるのですけれども,それに加えまして,相手方が軽過失に止まるときには相手方を保護すべきではないかと思いますので,それを付け加えたいと思います。   以上です。 ○鎌田部会長 ほかに何か御発言ございますでしょうか。中田委員,どうぞ。 ○中田委員 イについては,無権代理人の責任が重くなって,不法行為責任に接近してくるような気がするのです。しかも不法行為責任ですと,相手方に過失があるので,過失相殺が問題となり得ると思うのですが,それを認めないとすると,一般の不法行為よりも更に重くなる。それは法定責任だからということなのかもしれませんけれども,それを説明できるのかどうか,あるいは,それは難しいのではないかとも思っております。特に今,岡本委員は割と広く責任を認められるお立場からの御意見でしたけれども,過失相殺についてはどのようにお考えでしょうか。 ○岡本委員 すみません,過失相殺はちょっと考えていませんでした。 ○鎌田部会長 山本敬三幹事。 ○山本(敬)幹事 言わずもがなのことですけれども,不法行為の場合で,加害者側に故意がある場合に過失相殺を認めるかどうかという論点があります。そのような観点からしますと,無権代理人が悪意であることを故意と同じように考えてよいかどうかは一つの問題かもしれませんが,過失相殺が認められないことと整合的な説明が可能になるのではないかと思いますが,いかがでしょう。 ○中田委員 今,山本幹事にではなくて,岡本委員に御質問しましたのは,そういうこともあるからです。 ○山本(敬)幹事 横から口を挟んでしまいまして,失礼いたしました。 ○鎌田部会長 関連した御発言はほかには。   アについては甲案の方向性が示され,イについては,若干細部の検討の余地はあるけれども,大まかな方向性としてはこのような方向だというふうに受け止めたのですけれども,違いますか。 ○松本委員 それほど強固な意見ではないのですけれども,アに関して,甲案の根拠として,本人が自らの法律行為を行う場合と同じように,無権代理行為についても,代理権限の部分については錯誤で扱うというロジックからいけば,重過失がなければいいのではないかという説明を山本幹事がされましたが,代理というのは他人効をもたらす行為だから,人の権利領域に対する侵入行為という側面があるわけで,自らに効果が帰属する本人行為と少し違うものだとすると,全く同じ平面で考えていいのかなというのが少し引っ掛かるのです。そこは別の問題,本人に対する不法行為といった事柄で処理をして,相手方との関係では,代理人としての行為であろうが,本人としての行為であろうが全く同じなのだから,同じような責任しか追及できないのだということで整理していいのかというところに,ほんの少しこだわりのようなものがあります。 ○鎌田部会長 必ずしも甲案に100%乗れないかもしれないということですか。 ○松本委員 他人の権利領域に侵入しておいて,過失があって責任を免れるというのは,一見すると変な感じなのだけれども,それは本人との関係の問題だから,取引の相手方との関係ではそこは考慮する必要がないのだと言われると,そうかなとは思うのですけれども,若干割り切れないところが残るというところです。 ○鎌田部会長 分かりました。   イについて,先ほどのようなことで,大まかにこの方向性ということで理解させていただきました。   「(2) 無権代理と相続」について,御意見をお伺いします。 ○岡委員 個人的にはこのような細かいことは民法に規定しないでいいという意見でございますが,弁護士会の多数の意見は,少なくともアとイについては判例法理がきちんとあるので,それを書くべきだという意見が多数を占めました。ただ,条文数が多くなるのは嫌だなという意見も付いておりますが,アとイについては書く方向でございます。   ウについては,さすがにここまでは書かなくてもいいのではないかと。判例と違う見方もあるので,甲案,乙案に分かれているように,考え方も分かれているので,ウについては慎重にと,それほど賛成意見が多数を占めなかったという状況でございます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見いかがでしょうか。それでは,村上委員,どうぞ。 ○村上委員 単独相続の場合を前提にこの案を作られていると思うのですけれども,現実には単独相続よりも共同相続の場合のほうが多いのではないだろうかと思います。共同相続であっても単独相続と全く同じだというのであれば別に構わないのですけれども,やはり違いが出てくる局面があるわけですから,単独相続の場合についての規定を設けると,かえって誤解を与えかねないことになりはしないだろうかということを心配しています。ですから,思い切って共同相続についての規定も設けてしまうというところまでするのであれば別ですけれども,そこまではしないということなのであれば,単独相続の場合についてのみの規定を設けるというのはいかがなものだろうかという気持ちです。 ○鎌田部会長 山本敬三幹事,どうぞ。 ○山本(敬)幹事 前にも発言させていただいたことがありますが,基本的には,コンセンサスが得られるのであれば,可能な範囲で明文化すべきであると考えています。  そして,今回の部会資料のうち,まず,アの無権代理人が本人を相続した場合については,どちらかと言うと乙案に近いのですが,無権代理人が追認を拒絶することができないとのみを定めてはどうかと思います。「追認を拒絶することができない」と定めますと,本人が既に追認を拒絶しているときに,無権代理人がそれを援用することは禁じられていない,つまり追認を拒絶してはいけないだけですので,本人がした追認の拒絶を援用することは禁じられないということになります。その限りでは,甲案と同じことになります。   ただ,学説でも主張されていることなのですが,原則はそうであっても,無権代理人が,自分は無権代理人であることを知りながら無権代理行為をした場合は,本人が追認を拒絶しても,それを援用することが信義則に反するとされる可能性もあります。そのような可能性は,いずれにしても残されていることは,甲案でも変わらないと思います。  そうだとしますと,結論として,無権代理人が本人を相続した場合は,無権代理人は追認を拒否することはできないとのみ定めてよいのではないかと思います。   次に,ウの「他人が無権代理人及び本人の双方を相続した場合」については,乙案を支持したいと思います。甲案は,この場合に,よく言われていることですけれども,先に取得した資格と矛盾する資格に基づく主張をすることは信義に反するという考え方に立っていますが,これは,部会資料の87ページにも書かれていますように,本人と無権代理人のどちらをどの順序で相続したかという偶然によって結論が左右されることになるのはやはりおかしいと思います。信義則違反を語ることができるのは,自分で無権代理行為をしておきながら,本人の資格で追認を拒絶するところに矛盾行為があるからだと思いますが,双方を相続した場合は,相続人自身は無権代理行為をしていないわけですから,相続の順序に関わりなく,本人の資格で追認を拒絶しても,信義則に違反しないとしますと,乙案のように,追認を拒絶できるとすべきだろうと思います。この点は判例法理と違いますが,違うからこそ明文で定める必要があると思う次第です。   以上です。 ○鎌田部会長 山野目幹事。 ○山野目幹事 (2)の論点でございますけれども,これを分科会に委ねて細密な技術的検討をすることは,先ほどからの御意見の中に規定が必要であるという方向性の御意見もあったところですから,強いて反対を申し上げるつもりはありませんけれども,同時にまた,本日話題になった幾つかの論点,白紙委任状の問題についても私は同じようなことを感ずるのですが,民法という法典がどこまでの精粗をもって市民社会で問題になる題材を扱って,法文に提示するのがよろしいのかという態度決定の問題が背後にあるのではないかと思います。   判例上,単独相続を場とする無権代理と相続に関する紛争が典型的に現れてきた時代と,共同相続が問題になった時代とがあって,今後,高齢化社会に向かっていくに当たってまた判例に現れてくる事案もいろいろな変転があるのではないかと想像しますが,そういうものに対応しながら,設けるとした場合に中途半端な規定を設けるとかえって解釈上の疑義を招きますし,パーフェクトに設けようとするとかなり細かい膨大な規定になるのではないかということもおそれます。   ですから,先ほど分科会へのお委ねに反対しないとは申し上げましたけれども,同時に希望として分科会においては余り頑張っていただく必要はないと考えます。検討した結果,いろいろ大変で弊害も多いから不要ということをおっしゃっていただいて結構であるという発言もあったと,そういうことを記録にとどめておかれつつ,御審議をお願いできればと考えます。 ○鎌田部会長 では,能見委員,それから,松本委員,中井委員の順で。 ○能見委員 よろしいですか。全てにわたって十分考えているわけではないのですけれども,結論としては私はこれについては規定を設けなくていいのではないかと思っております。その理由をアについてだけ申し上げますと,現在のところ甲案が判例の立場だと思いますけれども,先ほど山本幹事が言われましたように,この立場を前提としても,無権代理人が本人の追認拒絶を援用するということは,信義則に反するという方向に発展をする可能性があって,この部分はまだ判例が十分落ち着いたという状態ではないような気がするのです。それが一つの理由です。   それから,仮に甲案のような規定を設けた場合に,どの程度この規定が適用されるかという点についても私はちょっと疑問を持っております。これは本人が追認拒絶をするという場面と言いますか,通常,相手方はまずは本人に履行請求してくると思いますので,それに対して本人が通常であれば当該行為は無権代理だと主張して追認を拒絶するということで,甲案的に言いますと,全体のほうではなくて,後段の部分が生きてくると言いますか,実際には生じるのだろうという気がいたします。そうだとすると,そういう案というか,甲案的なものを設けるということ自体も,実際の適用場面を考えると今のように余り適当ではないように思いますので,イ,ウについては余りよく考えておりませんけれども,この規定はしなくていいのではないかという感想でございます。 ○鎌田部会長 松本委員,どうぞ。 ○松本委員 山野目幹事の御発言に賛同したいと思います。私も白紙委任状の問題を授業でやるときにすごく嫌なので飛ばすことが多いのですが,無権代理と相続も幾らでもパターンが出てくるので,典型的なところだけをやる程度にしております。今後,もっと複雑なパターンが出てくれば,また新しい判例も出てくる。そういうものを全て民法が追いかけていくのかというと,それは適切ではなくて,むしろ考え方の基本になるようなルールについてコンセンサスが取れるのならば,それを規定しておくことによって判例の発展に一定の影響を与える,あるいは,我々がまだ判例のない問題について解釈するときに,この基準でいけばこうなるというふうに考えられるような,手掛かりを置いておくという程度にとどめたほうがいいのではないかと思います。そこで,現在の判例の中からかなりコアになる一般的な考え方,前主の生存中に誰かが一定の処分行為をしたという場合に,相続でどういう関係になるのかという問題について,様々なパターンに適用可能な一般ルールとして定式化できるのなら,それは分科会でしていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 中井委員,どうぞ。 ○中井委員 先ほどの村上委員の話を受けて山野目幹事の話があり,また,それを受けて今,松本委員の話があったのですけれども,私も基本的に同感でして,無権代理と相続について果たして民法に規定するのが適当かということについては疑問を持っています。同じ問題は,先ほど白紙委任状と代理権授与表示についても申し上げたところです。先ほど山野目幹事がおっしゃられた,民法でどこまでのことを書くのかということについての,「態度決定」というお言葉を使われたのかと思いますけれども,それが必要な場面があるのではないかと思っています。   代理のところでもう一つ言えば,先ほどの2の表見代理の(1)アの代理権授与表示と意思表示の規定の部分についても,ここは少し意見が分かれるのかもしれませんが,同じ問題に近いという印象を持っています。 ○鎌田部会長 ただいま御指摘いただいたような点を十分に踏まえていただいて,「(2) 無権代理と相続」に関する規定の要否,及び仮に設けるとしたらどのような内容の規定を設ければいいかということについての,それぞれの提案内容に伴う問題点の検討ということになろうかと思いますけれども,分科会に御議論をお願いするということにしたいと思います。   先ほど,分科会で補充的に審議していただくことについて確認したのかどうかちょっとあやふやになってしまいましたが,「2 表見代理」のうち,(1)の「ア 代理権授与表示と意思表示の規定」について,それから,(2)の「ア 代理人の「権限」」について,これも同様に提案内容に伴う問題点その他の細目の検討を分科会にお願いするということにしたいと思います。   6時になってしまいましたが,部会資料29の「第3 代理」のうち「4 授権」について御審議いただきます。   事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 「4 授権」について御説明します。授権とは,被授権者を当事者とする法律行為の効果の一部を授権者に帰属させる制度を言います。一般に,授権には,権利の移転等の法律効果のみを授権者に帰属させる処分授権と,義務の負担等の法律効果のみを授権者に帰属させる義務負担授権があると言われています。このうち,義務負担授権については,これを認めると被授権者を義務者と信じた相手方に不測の不利益を与えるおそれがあることから,授権に関する規定を設けるべきとする立場においても,義務負担授権に関する規定は設けるべきでないとする見解が有力です。そのため,ここでは,授権のうち処分授権に関する規定を設けるべきとする甲案と,授権に関する規定は設けるべきでないとする乙案を提案しています。なお,第13回会議では,取次ぎや間接代理に分類される「売上仕入れ」という取引形態と,処分授権に分類される「委託販売」という取引形態を区別して議論すべきとの御指摘がありましたので,その点にも留意しつつ御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。   山本敬三幹事。 ○山本(敬)幹事 授権については,処分授権の制度について新たに規定を設けるという甲案をこれまで何度か支持してきました。結論としてやはり変わらず甲案を支持したいと思いますが,もう何度もお話をしてきましたし,今回の部会資料ではそこをきちんとおまとめいただいていますので,それについて特に付け加えることはございません。   問題は,このような処分授権を認める実践的な意味と必要がどの程度あるかということだと思います。主たる適用場面は,これまで何度も出ている委託販売のケースだと思います。つまり,Aの所有物の処分をBに委託する。そして,Bが,自分の名でそのAの所有に属する物をCに売却する。そうすると,所有権はAから,Bを介さずに,直接Cに移転するというのが,授権の効果です。これに対して,AからBに目的物を売却して,BがそれをまたCに転売する。ただ,A-B間には返品特約などが付いているという場合も,経済的には似たような結果を実現することができますが,一旦Bに所有権が移転するかどうかは,特にBが倒産したような場合を考えますと,大きな意味を持ってくると思います。そのリスクを避けようとしますと,Aが所有権を留保するということになりますが,BからCへの転売が通常の事態として予定されているような場合は,授権を利用すれば,AからCに直接所有権が移転しますので,Bの倒産リスクを回避しながら取引の仕組みをうまく説明することが可能になります。少なくとも,こういう処分授権というツールを認めておくほうが,取引の仕組みを法的に構築する上では有意義だろうと思う次第です。   この処分授権は,ドイツ法で認められている法制度なのですが,あちらでは,委託販売のほか,例えば延長された所有権留保や集合財産譲渡担保などででも,処分授権に当たるものが認められているようです。  延長された所有権は,所有権留保特約付きで目的物を売却する際に,買主がその目的物を転売したときは,その転売債権の譲渡を受ける旨をあらかじめ特約しておくというものです。このような特約をするときには,目的物の処分権限を与えている。つまり,処分授権をしている。だから,目的物の所有権は最初の売主から転売先の買主に直接移転すると説明されています。  そのほか,集合財産譲渡担保でも,所有権的構成を前提にしますと,所有権は譲渡担保権者に移転するわけですが,設定者は個々の財産を通常の事業の経過の中で処分することが予定されています。そこで,個々の財産の所有権が,譲渡担保権者から処分の相手方に直接移転することを,処分授権の観念よって説明するということが行われているようです。   補足的な説明ですが,以上のとおりです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   山下委員,どうぞ。 ○山下委員 こういう処分授権という概念が作られると,今,山本幹事から御説明あったようにいろいろな局面で便利に使えるツールであると思いますので,こういう規定を設けることと自体は民法の立法論として御検討いただいて結構かと思うのですが,資料の88ページから89ページにかけて,現在の問屋が行っているような委託販売について,88ページの一番下の整理だと,①の物が順次転売されるという仕組みで,それが問屋の商法の規定に具体化されているような説明になっているかと思うのですが,商法では恐らくそうは考えていなくて,明文の規定はないけれども,ドイツ流に問屋の行う委託販売というのは処分授権として考えているのではないかなと思います。従来,そういう明文の規定はないけれども,解釈論としてそれが使えるというのであれば,この際,明文の規定がなく,全て解釈論で処分授権を認めるというのも一つの方法かなというところでございます。 ○鎌田部会長 道垣内幹事。 ○道垣内幹事 二点発言します。一点目は,「授権」という言葉自体は,例えば代理権の授与に当たって,代理権授与行為と委任契約との関係で,代理権授与は単独行為であるという見解もあり,そのときに「授権」という言葉が用いられまして,かつ,その用法は民事訴訟法関係には多々存在しています。そうしますと,このままでは,「授権」という言葉の意味が民法上の概念の場合と民事訴訟法上の概念の場合とで異なってくることとなり,まあ,だからこそ,「処分授権」という言葉があるのでしょうが,「授権」という言葉で議論してよいのかということについては,ちょっと慎重な検討が必要だと思います。   第二点は,処分授権という制度を認めること自体には反対ではございませんが,山本幹事がおっしゃった,こういう概念を認めることによって,倒産リスクを排除するという効果があるという話と,ドイツ法では,延長された所有権留保や集合動産譲渡担保の法律関係について授権概念が使われているということの関係が,若干微妙な感じがいたします。つまり,例えば集合動産譲渡担保において通常の営業の範囲内で目的物が処分された際に,処分者である譲渡担保設定者の倒産リスクを排除しなければならないのかというと,そうではないような気がします。結局そのメカニズムをどういうふうに説明するのかということに掛かって来るのですが,一般論としての倒産リスクの問題と,具体例として出された二つの問題との間がきちんと対応しているわけではないということを指摘しておきたいと思います。 ○鎌田部会長 山本幹事,どうぞ。 ○山本(敬)幹事 今の点は御指摘のとおりでして,処分授権には一つではなく様々な機能があるということではないかと思います。販売委託について授権という制度を使うことの重要なポイントは,先ほど言いましたような倒産リスクの問題にあるのではないかと思いますが,それが全ての授権に当てはまるというわけではないと思います。   それから,部会資料の89ページの一番下のほうで,今道垣内幹事からも御指摘ありましたように,「授権」という名称は多義的に用いられることから,これに代わる名称を用いる必要があるという意見があったとされています。「授権」という用語は,学者の世界ではそれなりに定着しているのではないかと思いますが,これに代わる表現となりますと,なかなか妙案がないところでして,どうしても説明的なものにならざるを得ないと思います。例えば,「処分行為の同意と追認」,あるいは「処分権限の付与と追完」といったものが考えられますけれども,条文の表題としてはいいかもしれませんが,そのものずばりの名称となりますと,もう少し考えてみないと難しいという感じでした。   以上です。 ○鎌田部会長 能見委員。 ○能見委員 この制度自体に対して私は反対というほどではないのですけれども,まだいろいろと関連する問題点があり,それらが解決される必要があるという気がいたしました。その一つは,例えば瑕疵担保責任みたいな問題です。これは第一読会で議論されたのかもしれませんけれども,普通の委託販売の場合でAからBに授権されていて,BがCに物を売ったときに,直接AからCに物の所有権が移転するというのが授権だと思いますけれども,このときには,私の感じでは,売買契約はB-C間なのですけれども,Aの所有物がCに移転するので,瑕疵担保責任はAが負うのが合理的ではないかと思います。   ところが,先ほどの説明では集合物の譲渡担保で設定者が処分した場合についても,同じくこの法理が使われるということでしたが,確かに所有権的構成であれば譲渡担保権者に目的物の所有権は移転していますけれども,このときに通常の営業の範囲内で設定者が売却したときに,譲渡担保権者にある目的物の所有権が直接買主に移転するのはいいのですが,瑕疵担保責任については,所有者であるとしても譲渡担保権者が責任を負うのは何かおかしい。売主である譲渡担保設定者が瑕疵担保責任を負うべきではないかという気がします。そうすると,所有権の買主への移転についてはどちらも授権を使えるとしても,瑕疵担保責任を負うべき者としては,両者で結論が違うことになるわけですが,それをうまくこの「授権」というものが全て裁けるのか,もうちょっと関連して何か議論しなければならない点があるのではないのか,そういう感想を持ちました。 ○鎌田部会長 それでは,中田委員,中井委員の順でお願いします。 ○中田委員 私も授権という概念は便利だと思いますけれども,多方面に使われる可能性があるので,その可能性について具体的に考えておく必要があるということで能見委員に賛成です。変な使い方ですけれども,例えば中間省略登記の脱法と言いますか,潜脱のために使われるという可能性があるかないかとか。ですから,これはパブリックコメントなどの御意見も見ながら考えていく必要があろうかと思います。 ○鎌田部会長 中井委員,どうぞ。 ○中井委員 私も慎重意見です。慎重意見については第1読会で申し上げていますので,先ほど山本敬三幹事がおっしゃられた二つの場合について一言。  事例としては,動産売買を考えたときに,被授権者の手元に物はある,その被授権者が売買契約を相手方と結んだ後,被授権者が倒産手続に入った。そういう場合に倒産隔離で,相手方は当然授権者から所有権を直接受け取ることができるので,所有権に基づいて取戻権的構成で,倒産者の中にある動産を取り戻す。そういう倒産隔離を形成するための法技術として使われるとすれば,疑問です。被授権者の元に財産があって,占有があるにもかかわらず,それは外から見れば一般財産を形成しているわけで,その外観に対する信頼が害されるように思います。   二つ目の動産譲渡担保については,説明として所有権が譲渡担保権者に行っているので,売買があれば,その所有権は譲渡担保権者から相手方へ直接移転するという構成を考えておられることだろうと思います。しかし,譲渡担保は,外形的に所有権が譲渡担保権者に移っていても,実質所有権はここで言うならば被授権者,債務者にあって,単に担保権として授権者に所有権が移っているにすぎない。その場合に,あえてこの授権的構成で譲渡担保権者から相手方に所有権が移転すると構成しなければならない積極的理由を余り感じない。被授権者の行う,通常の営業の範囲内での売買については,譲渡担保設定者から相手方に所有権は移転する。そのときは単に譲渡担保権者が担保解除について同意しているだけの話ではないか。  加えて,今の能見委員,中田委員の慎重論も十分に御検討いただきたい。 ○松本委員 恐らくこの授権の議論も京都ローカルではないかと思います。我々にとっては普通の概念として使ってきたということですが,担保法的な,あるいは,倒産法的な局面を主として念頭において,物権法的な意味で授権というのが論じられているのではなくて,効果帰属,代理の効果が本人に帰属しますかというのと同じレベルで,物の処分をしたことの効果が本人に帰属しますかという効果帰属として使われている。   効果帰属のための正当化根拠,権限として代理の場合は代理権を与えている。代理人としてではなくて,本人として処分する場合にそれが本来の所有者の物権に効果が及ぶことを説明するのに,「授権」という日本語に訳されたところのドイツ法的な概念が使われているのだと思います。議論の整理のための概念であって,そういうふうに整理すれば,無権代理の話と無権利者の処分行為の話がパラレルに説明ができるではないかというような感じで,言わば説明概念だと。これを言ったから新たな物権的な強い何かが現れるというものではないと思います。それが一点。   もう一点は,88ページの説明の中で,売上仕入れについての説明がちょっと実態と違うような感じがします。これは今の百貨店の主要な販売方法だと言われておりますが,委託・受託ではなくて,テナントの賃貸借でもないのですね。ブランドを持っている業者が百貨店に出店をしてくる。その出店契約の中で,商品の所有権は,販売されるまでは出店者がずっと持っている。しかし,顧客に販売すると同時に,百貨店との間の仕入契約が成立し,従って順次所有権が移転するという形になる。そういうことをすることによって,百貨店の売上高を増やすとともに在庫の売れ残りのリスクを避けるという意味がある。   そして,販売員も当然ショップのほうからの派遣でやっているそうですが,それならスペースを貸して出店させるという形でもいいのではないかと。そうなると賃貸借だから,借地借家法が適用されて,百貨店としては都合が悪くなったときに出ていってもらえなくなると。そういう様々なメリットからこういう形が使われているということだそうで,契約は確かに百貨店と顧客との間の売買契約であり,所有権の移転も転々としてくるから,瑕疵担保責任等も当然百貨店が負うということのようで,「委託者」,「受託者」という言葉で整理するとちょっと誤解を与えると思います。 ○鎌田部会長 潮見幹事,どうぞ。 ○潮見幹事 簡潔に申し上げます。処分授権というものが基本的にどういう枠組みかというのは,松本先生がおっしゃったようなところであって,それ自体は大きな問題はないと思うのですが,こうした基本ルールを民法の中に作った場合に,主要に想定される場面として,今日問題になったような倒産隔離などのような重要な状況があるということであれば,そのあたりに一体どのような波及効果があるのかというのをもう少し見極めてから,規定を置く,置かないという判断をすべきではないでしょうか。伺っている限りでは,甲案にそのまま乗るのはちょっと怖いというのが個人的な印象です。 ○鎌田部会長 分かりました。授権については,最初からかなり意見の分かれている部分でもありますので,今日頂戴した意見を踏まえて更に検討を深めていきたいと思っております。   大分時間を超過いたしましたけれども,これでようやく部会資料29が何とか終わりました。次回以降,部会資料の30,31という形で進んでいきたいと思っております。   以上で本日の審議を終了したいと思いますが,最後に次回の議事日程等について,事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回会議は,11月1日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と異なり,法務省3階,地方検察庁の会議室です。開催通知などに記載されていると思いますが,念のため御確認くださいますようお願いいたします。   次回の議題ですが,ただいま部会長から御紹介ありましたように,部会資料30と31,ちょうど1回分が積み残されている形になりますけれども,それに加えて履行請求権や,債務不履行による損害賠償の部分についての資料を次回用として事前送付したいと考えております。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 なお,新谷信幸委員におかれましては,今回でこの部会への出席が最後になるとお聞きいたしておりますので,この場で御紹介申し上げて,御挨拶を頂戴したいと思います。   よろしくお願いします。 ○新谷委員 この2年間,債権法部会の委員として議論に参加させていただきました。先週開催されました連合の定期大会で一部体制変更がございまして,私は厚生労働省の労働政策審議会のほうに専任する形になりました。次回以降,連合からは,私の後任として,連合の副事務局長をしております安永貴夫という者が参画をさせていただくことになります。   これまで労働者の立場で意見を申し上げさせていただきましたが,110年振りの債権法の改正に少しでもお役に立てれば幸いでございます。これからも皆様方の熱心な御論議で国民に分かりやすい債権法の改正を是非お願いしたいと思っております。   これまでお世話になりました。ありがとうございました。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日も長時間にわたり熱心な御議論を賜りまして,ありがとうございました。 -了-