法制審議会会社法制部会            第14回会議 議事録 第1 日 時  平成23年10月26日(水) 自 午後1時30分                        至 午後4時38分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  会社法制の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり)                  議    事 ○岩原部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会会社法制部会第14回会議を開会いたします。本日もお忙しい中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。  まず,事務当局から配布資料の説明をお願いいたします。 ○坂本幹事 御説明いたします。配布資料目録と部会資料15を事前にお配りしております。部会資料の内容につきましては,後ほど御説明させていただきます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,本日の議論をお願いしたいと思います。まず,部会資料15の「第2部 親子会社に関する規律」の第1の「1 多重代表訴訟」から始めたいと存じます。まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ○塚本関係官 それでは,「第2部 親子会社に関する規律」の「第1 親会社株主の保護」のうち,「1 多重代表訴訟」について御説明いたします。当部会においては,株式会社の親会社の株主が当該株式会社の取締役等の責任を追及する訴え,いわゆる多重代表訴訟の制度を創設することの当否について,意見が分かれたことを踏まえ,多重代表訴訟の制度を創設するものとするA案と,創設しないものとするB案の両論を併記しています。  A案は,当部会における議論を踏まえ,多重代表訴訟が認められる子会社の範囲について,企業集団において一定の重要性を有している子会社で,かつ,完全子会社に限るものとしています。すなわち,まず,①は,提訴請求の日において,親会社が子会社の完全親会社であって,かつ,株式会社である完全親会社を有しないもの,すなわち最終完全親会社であるものに限るとしており,最終完全親会社の株主のみが多重代表訴訟を提起することができるものとしています。これは,子会社に少数株主が存在する場合には,当該少数株主に子会社の取締役等に対する責任の追及を委ねることができるとして,完全親子会社関係がある場合に限り,多重代表訴訟を認めるべきであるとの指摘がされていることを踏まえたものです。また,④は,親会社が有する子会社の株式の帳簿価額が当該親会社の総資産額の5分の1を超える場合に,そのような重要な子会社の取締役等の責任に限り,多重代表訴訟の対象とすることができるものとしています。これは,子会社の取締役等であっても,実質的には親会社の従業員にとどまる場合にまで親会社株主による責任の追及の対象とすることは適切でないとの指摘がされていることを踏まえ,親会社の取締役等に相当し得る子会社の取締役等の責任のみを多重代表訴訟の対象とするものです。他方で,④の(注1)にあるとおり,子会社の取締役等の責任の原因である事実が生じた日において,子会社がそのような重要な子会社であるのみならず,同時に完全子会社であることをも要するものとすることについて,検討する余地があるものと思われます。また,(注2)にあるとおり,仮に子会社の取締役等の責任の原因である事実が生じた日において,子会社が完全子会社であることまでは要しないとする場合,親会社が間接的に有する子会社の株式の帳簿価額をどのように算定すべきかについては,更に検討する必要があるものと思われます。  A案における多重代表訴訟の制度のより具体的な制度設計について御説明いたしますと,A案の基本的な考え方は,現行の株主代表訴訟における原告適格を一つ増やし,最終完全親会社の株主に原告適格を認めるというものです。また,現行法に基づき株主代表訴訟を提起することができる株式会社の株主は,多重代表訴訟の制度を創設した場合においても,最終完全親会社の株主と並んで,株式会社の取締役等に対する株主代表訴訟における原告適格を引き続き有することとなります。以上を前提として,まず,①は,提訴請求の相手方は,現行法の規律と同様に,株式会社,すなわち完全子会社としています。また,当部会における議論を踏まえ,会社法第847条第1項ただし書に定められている①のアの場合に加え,取締役等の責任を追及する訴えに係る請求の原因である事実によって親会社に損害が生じていない場合にも,当該親会社の株主は提訴請求をすることができないものとしています。なお,②の(注)にあるとおり,提訴請求の対象となる完全子会社には,親会社が発行済株式の全部を直接有している完全子会社だけではなく,間接的に有する完全子会社,すなわち親会社が多層構造により間接的に支配している完全子会社も含まれます。すなわち,A案は,いわゆる二重代表訴訟に限定するのではなく,多重代表訴訟とすることを前提としています。また,親会社が多層構造により間接的に支配している場合に,中間に存在する別の完全子会社は,株式会社に限らないものとしています。  次に,提訴請求に関して,③は,現行法の規律と同様に,親会社が公開会社である場合にあっては,提訴請求をすることができる親会社の株主は,6か月前から引き続き当該親会社の株式を有するものに限るものとしています。これに加え,③の(注)のとおり,株式会社とその親会社の株主との関係は,当該親会社を通じた間接的なものであることなどから,例えば,多重代表訴訟の提起権を少数株主権とすることや,多重代表訴訟が子会社の株主の共同の利益とならないことが明らかであると認められる場合には,提訴請求をすることができないものとすることについても,検討の余地があるものと思われます。  ⑤は,現行法の規律と同様に,子会社が提訴請求の日から60日以内に取締役等の責任を追及する訴えを提起しないときは,提訴請求をした親会社の株主は,当該子会社のために,当該訴えを提起することができるものとしています。  ⑥は,当部会において,多重代表訴訟の制度を導入した場合に,現行法の規律のまま,完全子会社の総株主の同意によってその取締役等の責任を免除することができるようにしてしまうと,多重代表訴訟の制度を導入した意義が減殺されてしまうとの指摘がされていることを踏まえ,子会社に最終完全親会社がある場合には,子会社の取締役等の責任,すなわち①の提訴請求の対象となる④の要件を満たす責任である限りは,最終完全親会社の総株主の同意がなければ,免除することができないものとしています。また,(注1)にあるとおり,この場合には,取締役等の責任の一部免除についても,所要の規定を設けることとなります。  ⑥の(注2)は,先ほど申し上げましたとおり,A案の下では,新たに最終完全親会社の株主に株主代表訴訟の原告適格が認められることとの関係で,多重代表訴訟の対象となる重要な子会社の取締役等の責任を追及する訴えにおいては,なれ合い訴訟の防止のため,当該子会社又はその株主のほか,当該子会社の最終完全親会社の株主も,当該訴えに係る訴訟に参加することができるものとしています。また,そのような訴訟参加の機会を確保するため,アからウに記載した仕組みを設けるものとしています。以上申し上げました規律のほか,(注3)は,不提訴理由通知等についても,現行法の株主代表訴訟に関する規律に準じて,所要の規定を設けるものとしています。  (注4)は,会社法第851条の規律の適用場面を拡張することについて,なお検討するとするものです。会社法第851条は,株主代表訴訟の提起後に,株式会社が株式交換等により他の株式会社の完全子会社となった場合であっても,原告である株主が当該株式交換等の対価として完全親会社の株式を取得したときは,引き続きその訴訟を追行することができるとしています。他方で,株主代表訴訟をまだ提起していない段階において株式交換や株式移転が行われた場合であっても,株式会社の株主が当該株式交換等によって当該株式会社の完全親会社の株式を取得したときは,当該株式交換等の後に当該株式会社の取締役等の責任等を追及する訴えを提起することができるものとすることについて,検討する余地があることから,(注4)を記載しています。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。部会資料15では,多重代表訴訟の制度を創設するというA案と,創設しないというB案が併記されております。この点に関しまして,本日御欠席である藤田幹事から御意見を頂戴しております。事務当局からその御紹介をお願いしたいと思います。 ○塚本関係官 それでは,藤田幹事の御意見を朗読させていただきます。  「「第2部 親子会社に関する規律」のうち,第1の「1 多重代表訴訟」に関して,若干のコメントを申し上げたいと思います。  現在は中間試案のたたき台を検討する段階であるため,「多重代表訴訟」の採用の是非やA案として書かれている内容の個別論点についての意見は,控えさせていただき,専ら,この提案の提示の仕方に関して,1点だけ気になった点を申し上げます。  多重代表訴訟は,元々,平成22年4月の第1回会議の会社法制部会資料1「会社法制の見直しについて」において,「現行の会社法制における親会社株主の保護について,どのように考えるか」という形で提起された問題意識を受けて,平成22年10月の第6回会議において,海外法制の紹介を踏まえて,詳細な議論が開始されました。導入の是非に関して鋭く意見が対立する論点であったために,以後は,当部会においても,「多重代表訴訟を導入するか否か」という形で議論が繰り返され,パブリック・コメントに付す中間試案でも,細部まで詳細に検討したA案と,採用しないというB案の二者択一の形で意見が問われる形になっています。  ただ,このような問い方が,「企業結合・グループ会社化が進行した現状の下,親会社株主の観点から見て適切な結合企業のガバナンスの体制が確保されているか」という当部会に対して投げ掛けられた本来の問題意識を受けた適切な聞き方なのか,一抹の不安を覚えます。  というのも,現在のように多重代表訴訟は是か非かという問い方をしてしまうと,B案が採用され,多重代表訴訟の導入が―技術的な難点,企業経営の実態への影響,更にそもそも現在の株主代表訴訟制度一般に内在する問題に由来する懸念等,いかなる理由からであれ―否定された場合,「株主の観点から見た適切な結合企業のガバナンスの体制に関し,何か改善すべき点はないか」という問いに対して,会社法制部会として,「改善を要すると考える点は一切ございません」と答えたことになってしまう,少なくともそのように受け止められてしまうおそれがあるからです。親会社株主から見た規律の強化という観点からの法改正のための選択肢が,多重代表訴訟という一種の劇薬を用意するか,一切何もしないかという二者択一の問い方は,これまでの議論の仕方からすると仕方ない面はあるものの,余りに窮屈な気がします。また,仮に,パブリック・コメントにおいて,多重代表訴訟への批判が強かったとしても,それが親会社株主から見た規律の強化という観点からは,一切何もしなくてよいという意向だと理解してよいかもやや疑わしいと思います。このことは,日本の企業ガバナンスに関して内外投資家から改めて厳しい目が向けられるような事件が起きている状況では,慎重に留意すべき点ではないかと思っております。  中間試案は,これまでの議論を前提に,部会として公に意見を問うものですから,現段階に至って,部会での議論を経ていない全く新しい提案を盛り込むことはできないかもしれません。ただ,現在のA案,B案に加えて,B案の補注のような形で,例えば,「仮に多重代表訴訟を設けない場合,企業結合における親会社株主から見た規律の強化という観点から,何らかの改善手段がないか,更に検討する。」といった一文を入れる程度の柔軟な扱いは,必ずしも不可能ではないように思います。具体的な字句にはこだわりませんが,A案,B案の二者択一をやや緩和するような何らかの表現を加えた上で,公に意見を問うことが望ましいのではないかと考えております。」  以上でございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。ただ今御紹介いただきましたように,藤田幹事からは,第2部,第1の「1 多重代表訴訟」に関して,B案に補注を付けるような形で―あるいはそれ以外の考え方もあり得ると思いますけれども―,多重代表訴訟の導入の是非という形以外の,親会社による子会社の管理に関するガバナンスの強化の検討についても中間試案の中で言及するといったことが考えられてよいのではないかという御提案を頂いたところであります。そのような点も含め,多重代表訴訟の制度の創設につきまして,皆様から御意見を頂きたいと思います。どうかよろしくお願いします。 ○神作幹事 少し長くなるかもしれませんが,しかも,藤田幹事の御意見と共通する部分もあるかと思いますけれども,発言させていただきます。そもそも今回の法制審議会に対する会社法制の見直しに係る諮問は,利害関係者からの一層の信頼を確保する観点から,企業統治の在り方及び親子会社に関する規律等の見直しを求めるものでございました。本日第一に審議される予定の多重代表訴訟制度は,ガバナンスの問題と結合企業の問題の両方に関連する,そういう意味では今般の会社法制部会の議論においても最も重要かつ中心的な論点の一つとして認識され,これまで議論されてきたテーマであると理解しております。他方,A案を支持する考え方の中にも,どのように制度設計をするかということについては,極めて難しい問題が数多く含まれており,必ずしも統一された意見が形成されるには至っていないということも認識しております。すなわち,A案を支持する意見の中でも,幾つか考え方が示されました。例えば,100%の子会社に限るのか,その中でも重要なものに限るのか,あるいは100%かどうかを問わず,重要な子会社に限るのか等々,A案の中にもいろいろな制度設計がこれまで提案されてきたと思います。私は,まず,A案の中にそういったいろいろなものが含まれてきたということが明らかになるような―例えば,A1案,A2案とするのが適切かどうかは分かりませんけれども―,もう少しA案の中身を細分化して,具体的に多重代表訴訟を採るか,採らないかという二者択一のような形でパブリック・コメントを持っていくのではなくて,A案を採った場合には,ではどのような制度にしますかという聞き方になるような中間試案のまとめ方をすることがよろしいのではないかと思います。  それから,第2点でございますけれども,これは,藤田幹事の御指摘と共通するかもしれませんが,B案の回答というのは,もし,これが結合企業あるいはグループ企業におけるガバナンスの問題点について,現行法のままで十分であるという捉えられ方をすると,諮問に対して誠実に答えているのかという疑問を持って受け止められる危険性があるのではないかと思います。したがって,B案を提示する場合には,幾つか,その前提と申しますか,あるいはB案とセットで提案されるべきものが含まれていなければならないのではないかと感ずる次第でございます。具体的に,では,例えばどのようなことが考えられるか,この時期に申し上げるのは非常に遅いのかもしれませんけれども,私は,A案の中でどのような制度にするのがいいのかということに専ら神経を集中させてしまい,B案が出てきたときに前提として,又はセットで提案されるべき事項について考えが及ばず,この期に至って申し上げるのは大変申し訳ないと思うのですけれども,もしB案のような提案をするとしたならば,例えば,次のような修正や追加が必要なのではないかと考える次第です。  例えば,第1に,A案の(注4)の考え方というのは,これまでの部会の議論の中でも,むしろ現行の851条1項の拡張と申しますか,同項の延長といった観点からも検討し得る問題であるという指摘がなされております。したがいまして,多重代表訴訟制度を創設しないとしても,3ページの(注4)にあるような程度での改善と申しますか,見直しというのは当然にあり得るのではないかと,まず思います。そうだといたしますと,A案に付されています(注4)は,A案かB案かを問わず,くくり出して別個独立に検討するに価すると考えられます。  第2に,多重代表訴訟を創設しない場合であっても,現行法におきましても,大会社に対して既に課されております内部統制体制の中で,親子会社すなわちグループ企業について,健全な経営がなされるような体制を構築する義務が認められておりますけれども,事業報告において,企業グループにおける内部統制システムの具体的な内容,それから運用状況及び遵守状況をも開示させて,更に監査役にその内容の相当性について意見を述べさせる,そうすることによって,情報の提供という点で現行法よりも改善することが考えられると思います。  第3に,重要な子会社の取締役の行為について,親会社の取締役が監視するという規範を明らかにすることが考えられます。現行の結合企業に係るガバナンスの問題点の一つは,親会社からの何らかの権利行使なり指図が株主権の行使ないしは事実上の影響力という形で,法的に非常に規制しづらいところに問題点があるように思います。そこで,親会社は少なくとも重要な子会社の取締役について監視義務を負うということを明文化し,親会社の行為規範を法的に明確化することが考えられると思います。  第4に,多重代表訴訟とまではいかないのですけれども,親会社の株主に対し,親会社は,子会社の取締役に対して代表訴訟を提訴するということを請求する権利を認め,それを拒絶する場合には,せめてその理由を開示してもらう。そうすることによって,結合企業におけるガバナンスの向上に少しでも資するような情報を提供するよう促していくことが考えられます。  以上のように,B案は,結合企業のガバナンスを向上させるためのその他の提案と併せて提示することが望ましいのではないかと考えております。  また,これは,次に扱われます第2の論点,すなわち子会社における少数派株主等の保護の問題になってしまいますけれども,子会社に対して不当な指図をしたり影響力を行使する場合の親会社の責任を明定し,親会社が責任を負うことを明確にすることも,ひいては親会社株主の保護に資する可能性があります。と申しますのは,親会社が結合企業法上の責任を負ったことについて,親会社の株主が更に親会社の取締役の責任を問う,このように,親会社の取締役の責任によって解決するというモデルに従って考える場合においても,現行法では必ずしも十分でないと考えられる部分については,更に何らかの見直しをするということが必要ではないかと思う次第であります。 ○岩原部会長 神作幹事からかなり包括的な御提案がございましたけれども,その点でも,あるいはそれ以外でも結構ですので,御意見を頂きたいと思います。 ○中東幹事 私も,藤田幹事,神作幹事のおっしゃった基本的な考え方に賛成でございます。取り分け申し述べたいと思っておりますのは,神作幹事がおっしゃいました情報の関係でございます。親会社株主の情報収集に関する規律,これは,第6回の会議,第一読会のときには部会資料に項目としてあって,検討されたものです。齊藤幹事からは,検査役の調査を活用することによって,代表訴訟のようにドラスティックな方法によらなくとも,親会社からの規律が図られ得るのではないかという提案がなされたりしておりました。これに対しての異論はなく,他の事項についての議論もございましたが,岩原部会長のお取りまとめで,どのようにうまく書けるであろうかを事務当局で検討していただくことになったにもかかわらず,第二読会ではこの項目は落ちてしまっています。私は,第二読会のときに多重代表訴訟制度の導入に反対であると申し上げましたが,その折に上村委員からも御指摘がありましたように,情報が十分に親会社の株主に与えられるならばという前提で発言させていただきました。そういう意味で,ただただ,このA案が無くなってしまうとこれでおしまいということであれば,問題であると思っております。のみならず,この間の議論には合っていないですし,諮問そのものにも合っていないと理解しています。諮問を遡りますと,平成17年会社法制定時の衆参法務委員会の附帯決議で,企業結合法制について検討を行うこととされた上で,会社法案は通っているわけですので,そういう意味でも,我々としてはやるべきことをやっていないということになろうかと思います。 ○杉村委員 経済界としましては,B案がよいと考えておりますが,中間試案として提示する案文としてのA案に幾つか疑問がありますので,御説明したいと思います。  A案の①で記載されておりますア,イという限定でありますが,まず,アに関しましては,親会社に対する加害的な訴訟という懸念もありますので,当該会社だけではなく,親会社への加害を目的とする場合も提訴請求できないものとすべきだと思っております。また,イに関しましては,このこと自体は当然だと思うのですが,実際の状況を考えた場合,子会社が親会社に損害が生じていないことを立証しなければいけないということには,若干違和感を覚えるものであります。  ③の(注)でなお検討するとされているという事項は,非常に重要だと思います。濫訴防止の議論については,部会の中でも大きな論点になったかと思いますので,少数株主権とすることや株主の共同の利益とならない場合には請求できないとすることについては,是非本文で投げ掛けていただければと考えています。  ④の重要な子会社の基準の5分の1につきましては,必ずしもここに議論が収れんしていないといった印象を持っております。これまでの部会では,制度導入を支持される方からも,更に対象を絞るべきであるという意見もあったかと思いますので,ここに関しては,決め打ちではなく,むしろ親会社取締役と子会社取締役が実質的に同視し得る場合ということで,もう少し高い基準とすることも含めて,問い掛けていただければと思っております。  ⑥に関しましては,この免除の権限と,子会社株主による当該子会社取締役の選解任の権限の関係というのが疑問でありますし,(注2)に関しましても,訴訟参加できる者に,株式を間接保有する場合の最終完全親会社が含まれない点に疑問がございます。  (注4)に関しましては,多重代表訴訟と必ずしも内容がリンクしているものではありませんし,これまで深い議論がなされているかということについても疑問を持っておりますので,中間試案で問い掛ける段階にあるかということについて,疑問を持っているところであります。  そのほか,濫訴防止という観点では,他国では経営陣の意見を尊重する仕組みが導入されておりますので,こうした点についても少し言及してはいかがかと思っております。 ○安達委員 今回は,広く国民に供する中間試案ということですので,十分に慎重に対応すべきだと私も思います。そもそもなぜ今,多重代表訴訟の導入が日本に必要かということに関する議論を必ずしも国民は正しく理解していないと思います。ですから,今回この中間試案を仮にA案,及びB案として出しますと,非常に唐突感があることは否めないと私は感じております。B案としてこの制度は創設しないという案が両論併記されていますが,この見方としては,A案が具体的な内容にかなり言及されていますので,今後の議論でいろいろと修正されるかもしれませんけれども,実際にはほとんどの皆さんの関心がA案の具体的な中身に移るのではないかと私は強く感じております。今回かなり苦心されて作られた結果,A案に関しましては,適用の範囲がかなり限定的になっていることは事実です。ですから,仮にA案の多重代表訴訟の制度が創設された場合に,かなり限定されていますので,大半の場合は対象適用外ではないかと判断するのではないでしょうか。したがって,違和感なくと言いますか,抵抗感なく受け入れられる可能性があると,私はどうしても感じてしまいます。実際は,それとこれとは言ってみれば次元の違う問題ではないかと思いますので,必ずしも今回,A案,B案を両論併記すればいいのだろうかと感じているところがあって,この出し方にやや疑問を感じています。もう少し多重代表訴訟そのものの是非を問うような言い方のほうがいいのではないかと私は思っております。 ○坂本幹事 今の安達委員の御発言について,一言申し上げたいと思います。そもそも多重代表訴訟をなぜ導入するのかということですが,導入するという御意見はどういう根拠に基づいているのかということにつきましては,補足説明で御説明することになるだろうと思っております。もう少し広く多重代表訴訟の是非を聞くべきであるということですが,他方で,これは,部会の御議論を踏まえてこういう形にさせていただいているわけで,そもそも多重代表訴訟とは何なのかということ自体,先ほど神作幹事からも御指摘いただきましたとおり,いろいろと考え方が分かれているところでございますので,単に導入の是非のみを問うたとしても,言わば空中戦となってしまう恐れもございますので,具体的な制度のイメージを持っていただいた上で御議論あるいは御意見をお寄せいただいたほうがよいという考えに基づくものです。その中で,もちろんいろいろな御意見,ここはこうすべきではないかという御意見はあり得るだろうと思っておりますけれども,そのためのたたき台としてこのような形でお示しさせていただいていると御理解いただければと思っております。 ○三原幹事 私も,3点ほど,書き方につき御質問を含めてお伺いしたいと思います。まず,第1点は,③のイでございます。③イのところは,「①の訴えが当該株式会社の株主の共同の利益」と書いてありまして,そして,その次の行は,「当該株式会社の親会社の株主は」となっていますから,通常の直接100%株式保有の場合,1行目の「株式会社の株主の共同の利益」というのは,親会社のことを指していて,一般株主のことではないと思います。その上で,親会社の利益にならないときには,2行目で「当該株式会社の親会社の株主」が請求できないということになってくるので,どうしてこうなるかが分からなかったという点が一つです。ただ,先ほどの御説明で少し分かりかけたのは,これは,原告適格を足しただけだということになるとすると,現在の部会資料15のとおりになってしまうのですけれども,原告適格を足しただけとはいえ,一般株主の共同の利益が害されたときに,この訴えは提起できないとするべきなのかまで聞くべきなのか,この点を御検討いただきたいというのが一つです。  それから,次の一つは,1ページにあります完全親会社という定義をわざわざ今回作っていただきましたので,そうしますと,この言葉を使う場合には同じ言葉を使っていただいたほうが分かりやすいのかなと思います。具体的に言いますと,先ほどの③イの「当該株式会社の株主」というのは,実際には完全親会社の場合には完全親会社で,間に,複層的に間接保有がある場合にはそれがどうなるのでしょうか,その場合も,同じ言葉で指すべきなのか,それとも違う言葉で指すのか,定義があるのですから,言葉を同じものは同じように使っていただいて,違うものは違うように使っていただくと分かりやすいというところでございます。  それから,3番目は,先ほどの藤田幹事のお話に関してです。総論的には,多面的な質問を出すことについて賛成します。A案の1個だけで,それ以外はもうないということではないと思います。現在の質問としてはA案,B案となってしまっているので,更に工夫の余地があると思いますし,事務当局で御検討いただく余地は随分あると思った次第です。 ○岩原部会長 ただ今の三原幹事の御発言は,事務当局に対する御質問も含まれていると思いますので,まず事務当局のほうからその点について御説明いただいて,それから,ほかの委員・幹事からの御質問をお受けしたいと思います。 ○塚本関係官 ただ今三原幹事から頂きました御指摘につきまして,まず,1点目の③のイの点ですが,部会資料15でお示ししている多重代表訴訟は,基本的に,現行の代表訴訟と同じように,株式会社が持っている請求権を代わりに行使するというものですので,その権利主体である株式会社にとって利益となるか否かと,それはすなわちその株主の利益となるか否かと,そのように考えてここは作っております。ただ,いずれにしましても,ここは,前回の部会で藤田幹事などから御指摘を頂いたところを踏まえて書いた,ある意味でコンセプト的なところでもありまして,必ずしもこのまま条文になるわけではないとは思っております。  それから,2点目の「親会社の株主」ではなく,「完全親会社の株主」という言葉を使ったらどうかという点ですが,ここは,実は部会資料15を作成するに当たって悩んだところでもありまして,①で,「親会社の株主」は,提訴請求をすることができると書いておりますので,③の(注)のイでも,①の請求をするのは「親会社の株主」ということで,そろえて書いているというものです。②で,提訴請求をすることができるのは,①の請求の日において,最終完全親会社の株主であるものであると書いておりますので,本来的には,そもそも①と②をセットで書けばよいのではないかという御意見もあるかもしれないとは思います。しかしながら,他方で,④で,取締役等の責任の原因である事実が生じた時点においては,完全親子会社関係にあることを必要としていない関係で,①で,「完全親会社」という文言を用いてしまいますと,④でいう「親会社」との結び付きというか,④でいう「親会社」とは,①の「完全親会社」とどういう関係にあるのかということが分からなくなってしまうという,専ら技術的な問題かもしれませんが,そのような悩みがございまして,①と②を分けて書いております。その関係で,イのほうも,①の請求をするものは,「親会社の株主」という前提で,「完全親会社」という言葉は使っておりません。趣旨としては,三原幹事から御指摘を頂いたとおり,「完全親会社の株主」という趣旨でございます。 ○三原幹事 そうすると,③のイにおける「当該株式会社の株主の共同の利益」とは,親会社の利益ということになりますので,①のイのところで,親会社に損害が生じていない場合には請求できない,つまりこちらのほうは恐らく棄却になると思いますのでので,①のイのところは,親会社に損害が生じていない場合,③のイは,親会社の共同の利益とならない場合ということで,かなり似てくるように思います。 ○塚本関係官 今の点ですが,①のイと③の(注)のイは,場面が異なると考えております。①のイは,任務懈怠行為そのものによって親会社に損害が生じていない場合,問題となっている子会社の取締役等の行為自体によって親会社に損害が生じていない場合―典型的には,親子会社間の取引あるいは兄弟会社間の取引の場合―に関するものです。他方で,③の(注)のイは,これは,多重代表訴訟ないしは提訴請求自体が,子会社あるいはその株主の利益にならない場合に関するものです。したがいまして,問題としている場面は―いずれも,結果として棄却あるいは却下となるにしても―,異なると思っております。 ○前田委員 ⑥の(注4)の問題は,先ほど神作幹事から御指摘がございましたように,現在は,A案の中に入っていますけれども,多重代表訴訟が導入されるかどうかにかかわらず,検討を要する事項だと思いますので,A案,B案の外に出して,中間試案に入れていただくのがいいのではないかと思います。  それとともに,851条については,この(注4)の問題のほかにも,この機会に若干検討しておくべき事柄があるように思います。具体的には,例えば,851条についても,代表訴訟の追行を認める限りは,責任免除について,2ページの⑥と同様の手当てをするのが合理的ではないかと思います。あるいはまた,851条のように,株式交換等で株主でなくなる場合については,代表訴訟に限らず,決議取消しの訴えなど他の訴訟についても同様の扱いをするのが合理的だと思いますので,既に851条を類推適用すべきだという説も有力に提唱されているところですけれども,この機会に明文で明らかにすることは検討に値するのではないかと思います。後者の問題は,多重代表訴訟の問題を超えてしまうのかもしれませんけれども,中間試案では,851条についても所要の見直しをするというような文章を入れることを検討してはどうかと思います。 ○神田委員 感想と質問を申し上げたいと思うのですけれども,既に御発言がありました意見と共通しますので,手短に申し上げます。感想は3点あるのですけれども,1点目は,前田委員のおっしゃったように,(注4)は,私も独立の論点だと思いますので,そういう聞き方のほうがいいと思います。また,そういうことは,今回の部会資料15の後のほうの項目にもありますし,前回の部会資料14にもあったと思うのです。そこで聞いていることとは独立している。その辺は一般的にはなかなか難しくて,どのような(注)の付け方をすべきか,外へ出すとしても,どこへどのように書くのかという問題があると思いますので,併せて御検討いただければと思います。  2点目は,これも,先ほど御指摘があった点ですけれども,ここで何を聞いているかという趣旨は,要は補足説明の書き方ですよね。ですから,補足説明はかなり丁寧に,どういう背景があって,何を議論して,ここで何を聞いているのかということを書いていただければと思います。  3点目は,藤田幹事がおっしゃったようなことで,確かにA案,B案を二者択一で聞いて,B案だったら何もしませんということを同時に意味すると取られるのは本意でないと思いますので,B案に,藤田幹事がおっしゃったような(注)を付けるとか,どういう工夫があるのか,難しいところではあると思いますけれども,そこは誤解を招かないような聞き方をするのがいいように思います。  以上が感想でして,質問は,私が誤解しているかもしれないのですけれども,A案の②あたりに関係するのかもしれません。今,Aという会社が子会社でありまして,B,C,Dと上に親会社が100%で積み上がっているような場合に,Bは,普通の代表訴訟が起こせる。Dは,仮にA案が通れば,多重代表訴訟が起こせる。Cは,起こせないという意味なのでしょうか。 ○塚本関係官 おっしゃるとおりでございまして,今の例ですと,Cは,多重代表訴訟を提起することはできないという前提で,部会資料15は作成しております。 ○神田委員 そうすると,その理由は,補足説明で述べられるということですか。 ○塚本関係官 補足説明に記載するつもりでございます。確か,第二読会のときにも少し触れていたかとは思うのですが,完全親子会社関係にあることを前提としておりますので,基本的には,その中間に存在する子会社にあえて多重代表訴訟の提起権を認めなくてもいいのではないかと考えております。 ○太田委員 藤田幹事を始め,多くの幹事の方々あるいは今の神田委員からの指摘と少し重複しますので簡単に申し上げます。相当丁寧な補足説明が前段なりあるいは本文にないと,誤解を生むおそれがあるという意味では全く同感であります。部会資料15から単純に最初は読んでしまったのですが,A案とB案とありますと,B案は確かに何もしないとだけ取られるのは,恐らく今の経営の実態,あるいは,あえて私は監査役協会の立場ですから申し上げれば,連結した監査の目線という日々の監査実務の点からも,必ずしもこれで万全であると思っているわけではないので,当然,幾つかの修正なりアメンドメントを日々重ねていくというのが,企業の経営の実態ですし,監査の実態でもあるという意味で,やはり丁寧な補足説明が必要だと考えます。もう少し具体的に申し上げますと,一つは,情報開示の充実ということです。多重代表訴訟があろうがなかろうが,これは極めて重要な項目でして,何をもって株主が判断できるのかという観点から見れば,まだ相当宿題が残っていると,監査役としても思うところであります。  もう一つ,仮に,こういう新設の制度が入った場合においてはなおさらなのですが,今の監査役の配置あるいは補助監査人の配置の実態等々から,十分に株主の期待に応え得るのか否かという観点から,不安なしとしません。まだ,明確な定義ができませんが,言わば,連結監査体制の整備充実,あるいは先ほど申し上げましたような子会社からの親会社情報に対するアクセスの問題など,幾つか補完的な政策パッケージがないと,実効性が上がらないのではないかと懸念いたします。まだこの場で十分議論がされていない項目が確かにあると思いますので,今私が申し上げましたのも一つの事例にしかすぎませんが,たくさんの補完的な政策をこれから議論し,充実させていくのだといったことを最低限このB案と付随して,あるいはA,B案に共通した前文の中でそういう認識論を示して,世に問うべきではないかと,監査役協会としては思います。 ○岩原部会長 ほかにございますでしょうか。よろしいでしょうか。 ○齊藤幹事 短く1点だけ発言させていただきます。先ほど中東幹事からも御指摘があった点なのですが,親会社株主の情報収集権の充実については,私も,A案とは独立して検討する意義のある提案ではないかと思います。その論点が落ちた理由の一つとして,現在の検査役制度でも十分ではないかという御配慮もあったのではないかと拝察いたします。しかし,現在の検査役制度は,株主が直接投資している会社の業務の執行に関係する限りで検査役の調査を申し立てることができ,その検査役が,必要があると認めれば子会社まで調査することができるという建て付けになっているのではないかと理解しているのですけれども,多重代表訴訟に関する議論の背景には,子会社に何か問題があれば,それ自体として,親会社の株主も関心を持つ場合もあり得るということもあると思いますので,358条があるからといって,何も改善の余地はないというわけではないのではないかと思います。どちらの結論を採るかはいろいろ御意見があるかと思いますけれども,独立して検討する意義のある提案ではないかと思います。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。多くの委員・幹事の方から大変有益な御意見を頂きました。多くの方が御指摘になったように,この多重代表訴訟に関するパブリック・コメントの聞き方,そしてまた,それについての補足説明については,中間試案に関するパブリック・コメントを求められた国民一般の方によりよく理解してもらえ,よりよい御意見を頂けるように,なお工夫する余地が大きいと存じます。最初に藤田幹事からの御意見,それから神作幹事からの御指摘にありましたように,元々,この法制審議会に,今回の会社法制見直しの諮問を頂きましたのは,平成17年改正のときの国会の附帯決議にもございましたように,企業結合法制において,なお充実すべきところがあるという認識が一般的にあったためです。現に最近でもいろいろ不祥事等が報道されたりしているわけでありまして,問題があるということはかなり広く認識されている。さらに,それにはもう一つ,次のような事情があると思います。すなわち,平成11年商法改正を契機に持株会社等が作られましたが,持株会社の中には,親会社よりもむしろ子会社のほうが経営の中心にあって,親会社が子会社をきちんとコントロールできていないものがあるのではないか,それでいながら,現在の法制の下では,コントロールできていない親会社のほうの役員の責任しか株主には追及できないなど,親子会社のガバナンス体制につき十分ではないところがあるのではないか,多分そういう認識からこういう多重代表訴訟という案が出てきたのかと思います。  多重代表訴訟というのは,それ自体が望ましい制度というだけではなくて,むしろ,今言いましたように,企業結合の法制で十分でないところがあって,その一つの解決の仕方として,多重代表訴訟というものが提案されていた面もあるのではないか,そういうことを考えますと,多重代表訴訟を受け入れるかどうかというだけの問い掛けというのは十分ではないのではないかという何人かの委員・幹事からの御指摘は,非常にもっともではないかという感じがしております。多重代表訴訟の内容についてもいろいろな御意見があるわけですし,仮に多重代表訴訟という形を採らないにしても,全体としての企業結合におけるガバナンスの充実を図るために,もっとほかの手段の必要もあり得るのではないかという問い掛けを,中間試案の形で国民に御提示するという必要がある,多くの委員・幹事の方もそういう感覚を持っていらっしゃるのではないかという感触を,今日の皆様の御議論から得ました。そこで,是非事務当局に,今日頂きました御意見,例えば神作幹事から頂いたかなり具体的な御提案等を踏まえ,あるいは今日の御意見だけでなくて,先ほど御指摘がありましたように,齊藤幹事や中東幹事からもっと前の段階でも具体的な御意見を頂いておりましたので,そういうものも踏まえて,できればより具体的に,多重代表訴訟以外にも,企業結合におけるガバナンスの充実を図るための制度改正の可能性について問い掛けをするという形の中間試案の工夫をしていただきたいと思います。  その過程で,中間試案の作成まで時間が余りございませんので,具体的な案にしたときに,どういう形での問い掛けがいいかということについて,必ずしもこの場で十分に議論する時間がないかもしれません。その場合は,事務当局に御苦労いただいて,部会の場の外でも委員・幹事の方にそれぞれの御感触を頂きながら,中間試案を少しでも充実したものにするという努力をしていただきたいと思います。A案だけでなく,B案についても,一つの問い掛けでない,もっと多様な問い掛けがあり得るのではないかという御指摘を何人かの委員・幹事から頂いておりますので,そういう点を含めて,多重代表訴訟に係る第1の1の中間試案の書き方を工夫していただきたいと思います。場合によっては,先ほど神田委員からも御指摘がありましたように,この多重代表訴訟に係る案という形ではなくて,そこから独立したような形での問い掛けということもあると思います。その辺は是非,事務当局には大変御負担をお掛けしますけれども,工夫して,何とか中間試案の発表までよりよい案にするようにしていただきたいと思います。そのようなことでよろしゅうございましょうか。  それでは,第1の「2 親会社による子会社の株式等の譲渡」に移らせていただきたいと思います。事務当局から御説明をお願いしたいと思います。 ○塚本関係官 それでは,「2 親会社による子会社の株式等の譲渡」について御説明いたします。親会社による子会社の株式等の譲渡については,事業譲渡に実質的に当たるものとして,親会社の株主総会の承認を受けなければならない旨の明文の規定を設けるべきであるとの指摘がされています。そして,親会社が子会社の株式を譲渡することにより,株式の保有を通じた当該子会社の事業に対する支配を失う場合には,事業譲渡と実質的に異ならないと考えられます。もっとも,親会社の株主総会の承認を要する子会社株式の譲渡の範囲は,株式の譲渡の効力に影響し得ることから,子会社の事業に対する支配を失うかどうかは,客観的かつ形式的な基準によって定めるべきであると考えられます。また,譲り渡す株式の帳簿価額が小さい場合にまで親会社の株主総会の承認が必要であるとすることは,迅速な意思決定という企業集団による経営のメリットを害するおそれがあると考えられます。そこで,2は,株式会社,すなわち親会社は,子会社の株式の全部又は一部の譲渡をする場合であって,ア及びイのいずれにも該当しないときは,効力発生日の前日までに,株主総会の特別決議によって,当該譲渡に係る契約の承認を受けなければならないものとしています。また,(注1)は,反対株主の株式買取請求制度等についても,事業譲渡に関する規律に準じて,所要の規定を設けるものとしています。以上申し上げました規律については,(注2)にあるとおり,子会社が株式会社以外の会社等である場合も,その対象となります。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。親会社による一定の子会社の株式等の譲渡について,株主総会の特別決議を要するというものでございますが,(注1)と(注2)を含めて,御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。 ○杉村委員 御提案に関しまして,特に5分の1の基準のあたりにつきましては,これまでの部会の議論でも必ずしもこの基準に集約されてきたような印象もありません。むしろ逆に,規制を設けることに反対という意見もあったかと認識しております。いずれにしましても,これを問い掛ける際には,特に基準のあたりなどは,少し選択肢を設けたほうがよろしいかと考えております。  それから,細かい点でこの記載の内容についてですが,対象になる子会社株式については実質基準を設定しているのですけれども,イのところでは,過半数という客観基準を用いているということで,これは必ずしも整合していないような気もします。むしろここは,子会社の事業性という観点から,両方とも実質基準で判断するべきではないかと思っています。 ○神田委員 1点質問なのですけれども,ここの御提案は,現行法との関係では特別規定という御提案なのでしょうか。つまり,具体的に言うと,仮にこういう規律ができて,要件が例えばイで外れた場合に,現行法の事業の重要な一部の譲渡に当たり得るという可能性はまだあるということなのでしょうか。例えば,子会社管理事業というものをそこに認識できるような場合などです。それとも,もうこれは特別規定であってこういう世界を作ったので,子会社株式の譲渡は,ここの規律でいきますということでしょうか。これも補足説明で書かれることだとは思いますけれども,明らかにしていただいたほうがいいように思います。 ○塚本関係官 今御指摘を頂きました点は,解釈の問題とも言えるかもしれませんが,補足説明に書けるどうかも含めまして,検討したいと思います。 ○安達委員 これは,選択肢がない書き方になっていますけれども,A案,B案というように選択肢を書かなかった理由というのは何かございますでしょうか。 ○塚本関係官 まず,子会社の株式の譲渡については,現行法上,解釈によっても,事業譲渡に当たり得るという御指摘が多かったと認識しておりまして,他方で,解釈ということになりますと,明確性の問題もありますので,明文化したほうがいいのではないかということになります。いずれにしましても,基本的には,事業譲渡と実質的に類似するような株式の譲渡をきちんと捉えることができるのであれば,こういった制度も考えられるのではないかということが,これまでの部会での御意見の大勢を占めていたのではないかと認識しておりまして―もちろん,一部反対論があったことは十分認識してはおりますが―,A案,B案とはしない形でお示しいたしました。 ○安達委員 そうすると,現行の規律を変更しないというB案もあったほうが私はいいかと思います。 ○中原幹事 子会社管理事業の事業部門を子会社の株式も含めて譲渡したと見られる場合と,単に子会社の株式を譲渡したと見られる場合は,論理的には区別できるのではないかと思いますところ,現在の提案を普通に読みましたら,恐らく,子会社管理事業の事業部門の譲渡に当たるような場合だけを規律したという読み方はしないのではないかと思います。そうした前提の中で,例えば,会社分割あるいは現物出資のような形で子会社を設立するために必要な特別決議がまずあり,その後,更にそれを譲渡するときにまた特別決議を要するという整理になるということでよろしいのですね,この提案だけでいくときは。 ○塚本関係官 そうです。おっしゃるとおりです。 ○中原幹事 そうしますと,最初に重要な全部又は一部の事業が「譲渡」されることから特別決議がなされたのだけれども,実はまだ子会社であるということは自ら事業を行っているということであり「譲渡」されていなかったため,再度,事業譲渡のための特別決議が必要になるということになってしまい,制度全体の考え方の整理がまだ十分にできていないような気がするのですけれども。 ○内田関係官 まず,どういう場合に株主総会決議を必要とするかということですが,現行法を前提にしますと,一つは,会社が自ら行っていた事業を下に落として子会社という形態で行うこととする場合には,事業に対する直接の支配が,株式保有を通じた間接の支配に変わるので―株主権の縮減という言い方をされることもありますけれども―,そのことについて株主の意思を問うということがございます。それとは別に,重要な資産を含めて,会社の事業が外に出て行く場合に,そのことについて株主の意思を問うという話もございます。御指摘のあった,事業を分割して子会社に承継させた上で,子会社株式の形で譲渡するという取引について,子会社への承継と子会社株式の譲渡の両方について株主総会の決議を取るというのは,多分今申し上げた二つの観点からそれぞれ株主の意思を問うということですので,それほどおかしなことではないのではないかと思っております。 ○中原幹事 恐らく現在の会社法は,資産の譲渡について,資産の価額の大きさのみに着目して株主総会の特別決議を要求するという考え方ではできておらず,大きな資産であっても,例えば遊休資産であれば,その価額の適正性は取締役の善管注意義務でそれを担保しましょうという考え方で整理されているかと思います。先ほどの例で,最初の特別決議の際に,その後のあり得る子会社株式の譲渡につき定款で留保することも可能であり,その留保の仕方も事案に応じて株主総会において様々な工夫ができたのだと思うのですけれども,そうした留保はなされず,取締役会の業務執行の範囲で判断していただいて結構です,その代わりに善管注意義務が果たされているかという観点から厳にチェックしますという特別決議がなされているわけですよね。 ○内田関係官 単なる資産の譲渡であれば,価格が大きいからといって常に事業譲渡として株主総会決議を要するものとされているわけではないことは,御指摘のとおりかと存じます。その意味で,先ほどの「重要な資産を含めて」という表現は,ミスリーディングだったかもしれません。子会社の株式を,それ自体事業を構成する一体としての資産と捉えることを前提とした発言であり,重要な資産の譲渡が常に事業譲渡に当たるといった趣旨ではありませんでしたので,御指摘を踏まえて補足させていただきます。 ○中原幹事 ただ,子会社管理事業としてその株式を売るときだけを対象にしているわけではなくて,要は,子会社の管理部門というものを売るときだけをこの規定の対象にしているわけではないのだという説明だったような気がしたのですけれども。 ○塚本関係官 そこは,このコンセプトとしましても,先ほどの神田委員等の御質問とも関連するかもしれないのですが,子会社管理事業の譲渡を捉まえるということではなくて,株式の保有を通じた,事業に対する間接的な支配を失うところを捉まえるというものですので,子会社管理事業とは異なるとは思います。 ○田中幹事 今ほどの議論ですが,従来の解釈論で,子会社株式の譲渡にも事業譲渡の規制が掛かるという解釈は,二通りの考え方があって,一つは,子会社管理事業ということで,それが譲渡されるという考え方もあったとは思うのですが,もう一つ―むしろ学説はこちらを言っていたほうが多かったのではないかと思うのですが―,社会実態というか経済実態で見れば,子会社を通じてやっている事業も親会社の事業でしょうと,そういうことから,子会社株式を譲渡したときに,そこに,事業を譲渡したという実態が観察されるのだという考え方をしている人が,どちらかと言えば多かったのではないかなと私は思っています。ですから,この規定をもし入れるとすれば,そのあたりの解釈のいずれかを問わず,これぐらいの規模の重要な子会社を持っていて,譲渡によってその支配を手放すという場合は,経済実態から言って,事業譲渡をした,それも重要な事業の一部を譲渡したと考えられるというルールではないかと思っていまして,そういった意味では一応筋は通っているのではないかと思います。それと,中原幹事が言われたことで,事業を子会社に譲渡するときに,そこで,その管理は取締役会のレベルに委ねたのだと,そういう考え方もあり得るかもしれないのですが,実際には明示されていない株主の意思をどのように解釈するかということになってしまって,ちょっと決着が付かないかなと思います。子会社にして,支配が間接的にしか及ばないものになるというところを捉えて,株主総会の特別決議を一度取っているのだとすると,間接的にすら及ばない状況になるときにはもう一回特別決議を取るというのもおかしくはないかと思います。それと,子会社に落とすところで事業譲渡の承認決議を取っているからいいではないかという考え方は,初めから子会社レベルで事業を設立した場合は当てはまらなくなるので,その論理だけでこの規制全部に反対というのはなかなか難しいのかなと思います。  私がこの提案を見て思ったのは,なぜこの提案の最初のところに「重要な」子会社の株式の全部又は一部の譲渡としないのかということです。つまり,現行法は,まず,事業の「重要な」一部の譲渡のときは株主総会の特別決議が必要として,ただし,この提案の2のアにあるような形式要件が満たされていないときは外すとなっているがために,まず,重要性で一般的に判断するということになっているわけです。それから見ると,このルールというのは,重要性という要件が最初から外されていることから,子会社株式の譲渡をするときは,本体事業を譲渡するときよりも株主総会の承認決議を要求される場面が広くなっている。ちょっと違和感を感じるところがあるとすれば,その部分なのです。ただ,実際問題としては,このルールによって特別決議が要求されるのは,事業会社の子会社では多分一つもないというのが実際のところであって,せいぜい,純粋持株会社の子会社のうちで1個か2個ということになるので,現実的にはそれほど大きな影響はないのではないか。それを株主の意向を問わずやるのは変だと投資家が違和感を感じるようなものがかなり含められているのではないかなという感じを持っております。 ○塚本関係官 ただ今田中幹事から御指摘を頂いた最後の点,「重要な」子会社ということをあえて記載していないのは,2のアの要件である5分の1を超えている場合であれば,基本的には,「重要な」子会社と言えるであろうと。確かに,おっしゃるように,現行法の下における事業譲渡の規律とは文言上は異なってくるとは思いますが,実態としては,正におっしゃったように,5分の1を超えるような場合は,さすがにそれが重要でないとは言えないのではないかということで,部会資料15では,「重要な」という文言は入れておりません。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。  それでは,ただ今頂きました御意見を踏まえて,更に文言を練っていただく,あるいは補足説明を考えていただくということにさせていただきたいと思います。次に,第2の「1 親会社等の責任」に移らせていただきたいと思います。事務当局から説明をお願いします。 ○内田関係官 それでは,「第2 子会社少数株主の保護」のうち「1 親会社等の責任」について御説明します。親子会社関係,特に,親子会社間の利益相反取引においては,親会社が,子会社株主総会における議決権を背景とした影響力により,子会社の利益を犠牲にして自己の利益を図ろうとするおそれがあると考えられることから,そのような取引によって子会社が不利益を受けた場合における親会社の責任に関し,明文の規定を設けるべきであるとの指摘がされています。他方で,現行法の下でも,解釈論により親会社への責任追及を認めることができるとの指摘もされています。そこで,親子会社間の利益相反取引によって子会社が不利益を受けた場合における親会社の責任に関しては,明文の規定を設けるものとするA案と,明文の規定を設けないものとするB案が考えられます。  親会社の責任の有無を決するための基準については,部会資料15の補足説明における(b)の基準,すなわち独立当事者間取引基準を形式的・厳格に適用することは,経済効率性を害するおそれがあるとの指摘がされていることを踏まえ,(a)の基準,すなわち,取引が行われなかったと仮定した場合と比較して子会社にとって不利益かどうかという基準によることが考えられます。そこで,A案の①は,そのような基準によって子会社が不利益を受けたと言える場合,具体例を挙げれば,子会社が親会社のために製品を製造し,その原価を下回る不当に低い金額―次に御説明しますように,この「不当に低い金額」というのは,他の取引の条件を含めた全ての事情を考慮して判断されるということにしております―,そのような不当に低い金額でこれを親会社に販売することにより,子会社に積極的なマイナスが生ずる場合等に限って,親会社が子会社に対して当該不利益に相当する額を支払う義務,すなわち,マイナス部分を填補する義務を負うものとしております。また,当部会においては,子会社が不利益を受けているかどうかは,個別の取引のみではなく,継続的な親子会社間の取引を総体として考慮した上で判断すべきであるとの指摘がされております。そこで,②において,①の取引による子会社の不利益の有無及び程度は,当該取引の条件のほか,親子会社間における当該取引以外の取引の条件その他一切の事情を考慮して判断されるものとしております。  このほか,当部会における議論を踏まえ,③では,①による親会社の義務の免除には子会社の総株主の同意を要するものとすること,また,④では,当該義務は子会社における責任追及等の訴えの対象とすることを,それぞれ定めるものとしております。(注)のとおり,親会社の責任について①から④までのような明文の規定を設けることとする場合には,その有する議決権の割合等に鑑み,親会社と同等の影響力を有する自然人の責任についても,同様の規定を設けることになろうかと存じます。  A案のような規定は,親子会社間の利益相反取引においては,親会社が議決権を背景とした影響力により子会社の利益を犠牲にして自己の利益を図ろうとするおそれがあることを踏まえ,当該取引によって子会社が積極的に不利益を受けた場合には,親会社による影響力の行使の態様を具体的に特定することを要せず,また,子会社取締役が責任を負うことを前提とすることなく,親会社に対する責任追及を可能とするものと言えるかと存じます。このような明文の規定を設けることとする場合には,子会社債権者にも,債権者代位権や詐害行為取消権の行使を通じた親会社への責任追及の余地があると考えられます。  以上の親会社等の責任とは別に,当部会におきましては,総株主の議決権の10分の9以上を有する支配株主が残りの株式を買い取らないことには合理性がないことを理由に,少数株主が自己の有する株式を当該支配株主に売却することができるものとする制度の創設も検討すべきであるとの指摘もされています。もっとも,このような制度は,支配株主の異動が生じた場合に少数株主に退出を認めるための制度として位置付けることは困難と思われるため,制度の目的・趣旨を慎重に検討する必要があるものと存じます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。この点につきましては,第二読会で様々な御意見を頂いたところでございまして,部会資料15では,親子会社間の利益相反取引により,当該取引がなかったと仮定した場合と比較して子会社が不利益を受けたかどうかということに着目して,親会社の責任に関する明文の規定を設けるというA案と,明文の規定を設けないというB案が併記されております。この点,いかがでございましょうか。 ○杉村委員 この論点は,経済界の認識としましては,一番上のタイトルにもありますように,子会社少数株主の保護という流れの中で理解しておりまして,そのような観点から種々議論があったと認識しております。けれども,部会資料15を見ますと,A案の中身あるいは補足説明に至りましても,子会社少数株主の保護のための特別の措置という観点は,余り出ていないような気がしております。まず,この論点は,少数株主の保護のための特別の責任という議論なのかどうかを確認したいと考えております。もし仮に,そうではなく,少数株主の有無にかかわらず,一般的に新しい責任を親会社に負わせるということであれば,世の中に問い掛けるほどには,まだ議論が固まっていないのではないかと思います。  それから,B案の記載の仕方についてです。経済界はB案の内容を主張しておりまして,それが反映されていると思うのですが,B案の記載の仕方は,「明文の規定は,設けないものとする」となっております。これでは,明文の規定は設けないが,親会社には新たな責任が観念されるという認識の前提とも理解されてしまいます。飽くまでこの論点は,新たな責任を設けるかということを問うているので,B案の表現は,「現行法の規律を見直さないものとする」といった表現にしていただいたほうがいいかと思っております。  また,A案についても,少し注文なのですけれども,部会資料15の5ページに具体例ということで,「子会社が親会社のために製品を製造し,その原価を下回る」といった例が挙げられております。これでは,あたかもこういうケースが,親会社の責任が生じる非常に典型的な,もう疑う余地のない例といった感じになってしまうと思われますので,これは,必ずしも適切な例ではないと思っております。例の示し方は,少し検討いただいたほうがいいと思います。それから,この御提案は,①で個別の取引を対象にしても,②で一切の事情を考慮するのでカバーできるのではないかという考え方でありますが,これまでの部会の議論を踏まえましても,捕捉する対象の絞り込みがまだ十分ではない案ではないかと思いますので,A案の記載も少し考えていただいたほうがいいかなと考えております。 ○坂本幹事 部会資料15にある例が典型的な例ではないのではないかという御指摘を頂きましたけれども,杉村委員が考える典型的な例とはどういうものか,教えていただけないでしょうか。 ○杉村委員 この例が典型的でないと申し上げたのは,親子会社に限らず,通常の取引でも,交渉の過程で価格についてはいろいろな形で決まってくるというケースがありますので,必ずしもこれが分かりやすい,子会社にとって不利益が起こる例ではないということで,ここであえて例示を記載するのはいかがかなといった趣旨で申し上げたものでございます。 ○内田関係官 3点について御指摘を頂いたかと思います。1点目は,少数株主保護の観点からの措置なのかどうかということでしたが,第一義的には,子会社に少数株主が存在する場合に,その株主の利益が害されるのではないかという懸念が出発点となっておりますので,少数株主の保護という文脈での議論と御理解いただければよろしいかと存じます。ただ,子会社債権者との関係でも,子会社の無資力等の要件が満たされる場合には,この責任が債権者代位権や詐害行為取消権の行使を通じて債権者保護のために機能する余地がゼロではないということにつきましては,これも,部会で併せて御議論いただいたものと認識しております。そのような限定的な局面においては,子会社債権者との関係でも意味があるということになるのかなと思っております。  次に,2点目のB案の書き振りについてですが,明文の規定を設けなければ,現行法の解釈として新たな責任が生じるということには多分ならないので,御懸念には及ばないように思います。ここで「明文の規定は,設けないものとする」という表現としておりますのは,現行法の解釈で責任追及が可能であるという御指摘があることを踏まえますと,A案を採る場合でも,それは現行法の規律を見直して新たに責任の範囲を広げるということではなく,現行法の解釈において既に追及可能と考えられる責任について,明確化のために明文の規定を設けるという説明になると思われるからです。その意味で,規律の見直しの当否という形ではなく,明文規定を設けることの当否という形で整理させていただいている次第でございます。  それから,最後の点は,坂本幹事からも申し上げたとおりですけれども,先ほども御説明いたしましたとおり,部会資料15の5ページ中段の括弧内に掲げた例というのは,他の取引の条件を含めた全ての事情を考慮した上でやはりまだ不利益が不当に生じているという場合には,さすがにそれを正当化することはなかなか難しいのではないかといった意図で挙げたものです。これに関連して,先ほど杉村委員から,取引の条件は交渉の過程でいろいろな形で決まってくるという御指摘がありましたが,②では,一切の事情を考慮するということにしておりますので,交渉の過程できちんと話し合ってまともな取引条件を決めて取引をしたような場合にまで,結果責任という形で広く親会社の責任を認めるということにはならないと思います。事務当局の考えとしても,この規定で,そういった場合にまで親会社の責任を生じさせることを意図しているわけではございませんので,念のため補足申し上げます。 ○神田委員 2点,感想めいたことなのですけれども,ここは,補足説明が書いてあるものですから,目がそちらのほうにいってしまいまして,1点は,先ほどの点とやや共通するかもしれませんが,A案,B案を二者択一で聞くというのは,もうちょっとうまく聞けないかなと,どう聞いたらいいのですかと言われるかもしれませんけれども,ちょっと補足説明の4ページから5ページにかけて見て,感想として持ちました。  それから,もう1点は,5ページの真ん中あたりの独立当事者基準とかというところです。この部会での御議論を踏まえて聞くということでもちろん結構なのですけれども,ちょっとこれだけでは十分とは思えませんで,もうちょっと説明していただきたい。なぜかと言いますと,今,会社法の中にある利益相反取引の規範というのは,例えば,取締役・会社間の取引,この場合は,取引自体の手続の規制として356条,365条とあって,責任のほうは例えば423条3項とか428条とか,あるわけです。これは,このどっちの基準ですかと言えば,「なかりせば」基準ではなくて,独立当事者間基準です。補足説明の表現で言うと,それを形式的・厳格に適用すると経済効率性を害する,確かにそうなのかもしれませんけれども,そういうルールが取締役・会社間の利益相反取引では採用されているわけです。ですから,こちらでそうでないとすると,もうちょっと説明が要るかなと。これは,既に御指摘があったのかもしれませんけれども。同じように,組織再編でも,「なかりせば」基準かシナジー分配基準かという議論をすると,現在のルールは,シナジー分配基準の場合もあるわけです。ですから,結論はこれでいいのかもしれないのですけれども,ちょっと読んだ人が,これだけですと,おやっと思うということがあるので,もしこれでいくのであれば,ちょっとその辺を,利益相反取引の基準として,ほかでは違う基準が採られている場合もあるけれども,ここではこれだという聞き方をする。そこをもうちょっと丁寧に書いていただいたほうがいいように思います。 ○岩原部会長 事務当局のほうで,今の御指摘を踏まえて,よりよい表現をお考えいただきたいと思います。 ○齊藤幹事 神田委員から御指摘があった点については,私からも1点お願いがございます。ここでA案として示されているものは,大きく二つの決定というか判断がなされていることが前提になっていると思います。一つは,不利益の有無について,当該取引だけを見ずに,企業グループ運営全体から判断するというものであり,もう一つは,填補される額というのが不利益であって損害ではないというものです。しかも,不利益の填補というのは,先ほどの原価割れの例のように,マイナスになる部分をゼロにするようなイメージである。A案の①と②には,それぞれ賛否両論があり得るのではないかと思いますが,特に①の不利益の捉え方は,企業結合法制の中でとても重大な政策的判断をすることになる可能性がある。企業結合法の少数株主の保護に関する研究で悩まれているのは収益の分配の話でありまして,子会社が潜在的に持ち得る収益力をどのように発揮させて,それをどのように支配株主と少数株主の間で分配するか,その分配の基準を法が定めることになります。このような規定を設けますと,それが解釈として少数株主の地位にはね返ってくる可能性があるのではないか。つまり,これが,よほど濫用的な場合だけを特別に捉えた規定というのではなくて,より一般的な意味を持ち得る可能性があるのではないか。経済効率性の観点からの議論から第二読会でなされたということでございますが,経済効率性の追求と,少数株主への収益の分配というのは,トレード・オフの関係にある問題でございます。少数株主の請求権に関する法規定は,効率性の観点から少数株主には収益は期待するなと言うのか,それとも幾らかの公正な分配の権利を与えられるかどうかにつき,法がどのような立場を採っているのかの一つの手掛かりになる可能性がある。ですので,①の不利益の意味について,実際に中間試案の補足説明として書かれるときに,不利益というのは,このような意味に限定して使われるということにはそれ相当の意義が込もっているということが分かるように,また,それには異論もあり得るということを前提に,不利益の内容について検討する余地があるということが分かるような表現にしていただくほうがいいのではないかなと思います。 ○岩原部会長 不利益という言葉の意味についてかなり突っ込んだ御質問がございましたが,事務当局からお答えをお願いします。 ○内田関係官 御指摘の点は,正に,(a)の基準でいくのか,(b)の基準でいくのかという点に関するものですが,ここでは,明文の規定を設けるのであれば(a)という形で,前回の部会での御議論を踏まえて御提案させていただいている次第でございます。補足説明の書き方につきましては,神田委員と齊藤幹事から御指摘を賜りましたので,十分留意して検討したいと思っております。念のため補足いたしますと,A案のような明文の規定を設けたからといって,現状の解釈論による責任追及の余地が否定されるわけではなく,それはそれで残るという前提で考えております。 ○三原幹事 これも書き振りの話でございますが,2点あります。先ほど神田委員がおっしゃったとおり,①のところについては,「なかりせば」基準ということでしたが,書き方の問題かもしれませんが,何となく結果責任を考えているような表現になっています。当該取引がなかったらと仮定した場合と比較して責任を負わせるという話になっているからです。これに対し,取締役の場合には,結果責任ではなく経営判断の原則がある。ですから,時点も含めて,補足説明で御説明いただくほうがいいのか,又は書き方で調整されるのがいいのか,分かりませんけれども,そこの書き振りについては何か工夫の余地があるかどうかを御検討いただきたいということでございます。つまり,神田委員がおっしゃった「なかりせば」基準なのか,独立当事者間基準なのかということも含めた中で織り交ぜていただければいいのですが,仮に結果責任ということですと,今の利益相反の取締役・会社間の善管注意義務・忠実義務がある場合に比べて,親会社ではもう少し責任範囲が広くなるという御提案のような印象を受けてしまいました。  それから,②につきまして,補足説明の途中にありますように,取引の安定性や法的安定性の関係からすれば,一義的に客観的にというお話になりますが,総合的にとか全般的という基準という,総合評価の関係をどのように考えていけば親子会社間取引をうまく考えていけるのかということについて,補足説明でもう少し工夫して説明いただきたい。私が申し上げたいのは,客観的にしないと困るという一つの見方と,それから,総合的判断をしないと,親子会社間なのでできないという,そういう二つの見方がありますので,そこについては,どのような視点を持ってこの提案をされているのかということをもう少し書いていただけたらという趣旨でございます。 ○内田関係官 基準の客観性というのは,どういう場合に親会社に責任を負わせるのかという基準に関するものかと思いますが,そこは,正に「なかりせば」基準と言いますか,取引をしないほうがましだったという場合にのみ責任を負わせるという基準を,ここでは御提案申し上げている次第です。そのような意味での基準の明確性という議論とはまた別の問題として,どこまでの事情を考慮して当該基準への該当性を判断するのかという問題が出てくるかと思いますので,それを②で記述しております。②については,本来,このようにはっきり書かなくても,当然そうなるのかもしれませんけれども,親子会社間の取引については,考慮すべき要素としていろいろなものがあり得るので,それらを総合的に判断するということをあえて明記している次第です。すなわち,基準の客観性という議論と,どこまでの事情を考慮して当該基準への該当性を判断するのかという議論とは,別次元の話として,それぞれ①と②で分けて整理しているということでございます。 ○伊藤幹事 恐らく神田委員と齊藤幹事のおっしゃったことと重なることかと思うのですけれども,A案の①の基準が,分かりにくいものになっていると思います。補足説明を読んでも今一つ分からない。しかも,①の基準の中心的な部分は,その取引がなかったと仮定した場合と比較して不利益が生じたというところにあると思うのですが,こういう日本語で意味する内容と,実際に補足説明で書かれている,子会社に原価割れのような損失が生じる場合というものが重なるかどうかということも,よく分からない。もう少し素朴に考えて,どういう事例であれば,A案の①の基準からしてこのような不利益が生じたことになるのかということを,端的に説明していただきたいと思います。簡単なことを伺うと,例えば,子会社が帳簿価額1億円の土地を持っていました。その土地の時価は2億円です。そのような土地を1億5,000万円で親会社に売却することになりました。この場合,このような不利益は生じているのでしょうか。 ○内田関係官 帳簿価額より高ければよいというものではなく,2億円の価値のあるものを1億5,000万円で売れば,基本的にはマイナスになっているといえるのではないかと理解しております。 ○伊藤幹事 ただ,それは,別に独立当事者間基準からしても不利益が生じていることにはなるわけですね。つまり,①の基準と独立当事者間基準は,排斥し合う基準ではないと思うのですが。 ○内田関係官 両者が必ずしも排斥し合う基準でないことは,御指摘のとおりだと思います。 ○坂本幹事 前段部分の具体論ではなく抽象論のところで,確かにおっしゃるとおり,この書き方で,やろうとしていることが十分示されているのかということについては,いろいろ御意見があるだろうとは思っております。前回の御議論で,こういう明文規定を設ける場合に捉えるべき実質につきましては―反対意見がもちろんあることは承知しておりますけれども―,いわゆる「なかりせば」基準のようなものにとどめてはどうかということを御指摘いただいていたところでございます。ただ,それを実際にどのように表現するのかというところが,実は事務当局で一番苦労したところでございまして,これならば何とか意図が伝わるのではないかなと考えてこのように書かせていただいているというところでございます。よく分からないという御指摘はもちろん真摯に受け止めたいと思いますけれども,では他にどういう書き振りがあるのかということを御示唆いただけると大変助かるなというところでございます。 ○静委員 今,独立当事者間基準を必ずしも排斥するものではないという御説明があったと思うのですが,この①を読んだ方は,普通に考えると,独立当事者間基準ではないものを使うと思うはずですし,私もそのように理解しました。実は独立当事者間基準と大差ない場合もあるのだとすると,よく御説明いただいたほうがよいと思います。全く排斥するものでないとすれば,部会の議論も完全に収束したとは言えないと思いますので,両案併記みたいな形のほうが分かりやすいのではないかという気もします。必ずしも両論併記がいいとは申しませんけれども,御検討いただいたほうがいいのではないかということが1点目でございます。  もう1点申し上げたいのは,部会資料15からは消えてしまっているのですが,第二読会の部会資料で,独立取締役が過半数を占める委員会のチェックを受けた場合には立証責任を転換するといったアイデアが披露されたと思っております。こちらは余り議論にはならなかったような気もするのですけれども,部会資料15でいう②と同じように,経済効率を害さないための工夫としてとてもいいアイデアなので,この案も併記したほうがいいと思います。 ○田中幹事 先ほどの伊藤幹事の御質問に関連したことですけれども,私は,A案の①というのは,その基準は,賛否はあるかもしれませんが,概念として理解困難なものでは特にないと思っております。A案の①というのは,基本的には,親会社との取引で子会社にマイナスが生じると,つまり,その取引をしないときよりも不利になるというものについては,直接子会社の少数株主が親会社の責任を追及する,そのぐらいのチェックを効かせる必要があるだろうということでこういう規定を置いたということかと思います。実際には,取引によってプラスが生じたときに,そのプラスを親子会社間でどのように分配するかということも重要な問題になり得るわけで,それは,齊藤幹事がおっしゃったとおりなのですけれども,利潤の適切な分配という点についてまで子会社の少数株主が親会社を直接攻撃できるというルールを一般的に設けることは,濫訴の危険が大きくなるのではないかという見解が,この部会において相当数の支持のあったことを踏まえて,こういった,取引によってマイナスが生じる場合のみをカバーする規定振りになったものと理解しています。その点に関連して,補足説明にある,製品を製造し,その原価を下回る不当に低い金額で売ったというのが,A案の①に当てはまるかどうか分からないという指摘があったのですが,原価割れで販売するというのは,正に取引においてマイナスが出るということで,極めて分かりやすい例だと思います。ただ,恐らくこれは,杉村委員が問題とされていることかと思うのですが,例えば3年ぐらいの長期契約で価格が固定されているという場合に,3年目ぐらいに製造原価が非常に高くなったというときに,結果としてその年だけ不利になるということがあり得なくはない。ただ,それは,そういうリスクがあるとしても,3年間安定した価格で供給できるというメリットが上回る。したがって,そのような取引は,少なくとも取引を締結した時点の期待値で評価したときに,子会社に不利益を生じさせてはいないのではないかというケースが考えられるということかと思います。私は,そのような事情は,正に,②にある,当該取引の条件のほか,「当該取引以外の取引の条件その他一切の事情」を考慮して判断されるものであろうかと思います。  最後に,私も神田委員と同じ懸念を持っていまして,A案というのは飽くまで,子会社の少数株主が親会社を会社法847条第1項の責任追及の訴えの対象にできる規定として設ける場合に,濫訴のおそれといった部会の議論を踏まえてこういう規定にしたのであって,従来の解釈論で論じられているような,例えば不公正な取引をしたときに,子会社の取締役に善管注意義務違反が生じて,その善管注意義務の教唆ないし幇助という形で,親会社に不法行為に基づく責任が生じ得る。そして,そのような場合は,子会社取締役の善管注意義務違反を考える際には,子会社の取締役は,単にマイナスが生じる取引をしてはならないというだけではなくて,積極的に子会社の利益を図る義務を負っておりますので,場合によっては,取引からプラスが生じたとしてもその分配が不公正なものと評価される場合には,善管注意義務違反が認められる可能性はあり得ると思います。そして,その場合,逸失利益も損害の一種ですから,プラスが生じる取引について損害の発生が認められる場合もあり得る。そのような形で法理が発展していく可能性を排除するものではないということを,この中間試案なり補足説明の中で明確にしていただけると,大変有り難いと思っております。 ○岩原部会長 御指摘の点なども,補足説明の中などできちんと説明していただくということかと思います。よろしいでしょうか。 ○荒谷委員 4ページの親会社等の責任の補足説明のところですが,1の「親会社等の責任」の後で,2として「大多数保有支配株主に対するセル・アウト制度」が記載されているのが,唐突な感じがするのですが。そもそも,本文1の親会社等の責任とか,2の情報開示の充実というのは,親子会社関係が作られてしまったときの子会社株主の保護を念頭に置いていると思いますが,セル・アウト制度というのは,親子会社関係等が生成される過程において少数株主をどう保護するのかという問題として,部会でもかなり議論があったところだと思っておりますので,親会社の責任と並んでセル・アウトの問題を補足説明のところで一括処理してしまって,こういう意見もあるとするのではなく,セル・アウト制度について,別に何らかの形で問い掛けをするような工夫をしていただければと思います。 ○内田関係官 補足説明で10分の9という要件でのセル・アウトを記載させていただいておりますが,これは企業結合の形成過程の話かというと,10分の9を取られた後の話になりますので,恐らく正に企業結合が形成された後の話も含めてということになると思います。形成過程におけるセル・アウトというのは,新たに支配株主が現れた場合の退出権の付与ということで,第二読会でも御議論いただきましたが,M&Aの阻害という懸念も含めて,現段階ではちょっと時期尚早ではないかといった御意見が強かったことを踏まえまして,中間試案のたたき台には載せていないということでございます。 ○杉村委員 セル・アウトの話が出ましたので,こちらからも少し補足します。部会資料15には,90%以上を買って,残りを買わないのは合理性がないといった記載もあるのですけれども,企業の実務からは必ずしもそうではないと思っています。特に形成過程ではなく,恒常的な状態のケースで合理性がないと言われてしまうと,例えばジョイント・ベンチャーなどいろいろなケースがありますので,この記載は言い過ぎなのではないかなと思っております。 ○岩原部会長 そういう御意見もあったかということでありまして,それは別に部会としてその意見が承認されたというわけではないですね。よろしいでしょうか。 ○中東幹事 今の荒谷委員の発言とそれに対する説明を伺っていますと,むしろ「第3 キャッシュ・アウト」の「1 特別支配株主による株式売渡請求」,これを創設するのであればという形で,そちらで整理していただくことになるかと思います。 ○坂本幹事 今の中東幹事の御指摘は,キャッシュ・アウトのところに位置付けるべきではないかということからすると,いわゆる武器対等論と申しましょうか,そういう背景に基づく御意見なのかなと理解しましたけれども,そういうことでよろしいでしょうか。 ○中東幹事 はい。90%持っているということを前提に組み立てるというのであれば,残りを売り渡してほしいというのもあれば,残った人が買い取ってほしいというのも対になり得るという趣旨でございます。 ○岩原部会長 では,そのような御意見も踏まえて,最終的な中間試案の案を考えていただきたいと思います。よろしいでしょうか。  それでは,次に進ませていただきたいと思います。第2の「2 情報開示の充実」に移らせていただきたいと思います。事務当局からの説明をお願いします。 ○内田関係官 それでは,「2 情報開示の充実」について御説明します。当部会においては,親子会社間の利益相反取引につき,監査役の意見の開示を通じて,子会社少数株主への情報開示の充実を図るべきであるとの指摘がされています。これを踏まえ,2では,個別注記表又は附属明細書に表示された株式会社とその親会社等との間の取引について,情報開示に関する規定の充実を図るものとしております。例えば,親会社等との間の取引についての監査役の意見を監査報告の記載事項とする旨の規定を設けること等が考えられます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。この点について,第二読会では特段の御異論はなかったと存じますが,よろしいでしょうか。 ○太田委員 まず,異論はございません。この方向性については,私どもも,むしろそういう立場で是非サポートしていきたいということなのですが,例えば,計算規則112条の範囲を改めて見ますと,親会社あるいは子会社だけではなくて,関連会社あるいは関連会社の子会社とか,対象に規定されている範囲が非常に広いわけです。そういった意味で,監査役協会に属している監査役の過半の監査役は,こうしたことについて取締役の業務執行の監査という目で見ているという印象を私どもも捉えてはおりますが,その精粗については,実は相当ばらつきが大きいと思います。したがって,ここに御提案になっているような監査報告等による情報開示に関する規定の充実,これに対しては全く賛成なのですが―ですから,これは,テーク・ノート事項という意味で聞き流していただければいいことかもしれませんが―,詳細の決定に当たりましては,ある程度現実的なと言いますか,その具体的な検討をやっていただき,監査役の任務だけが過大になって,背負えなくなるということにならないように,協会としては是非要望しておきたい。この方向性については賛成でございます。 ○岩原部会長 そういう点を配慮して進めたいと思います。よろしいでしょうか。  それでは,ここで一旦休憩を取らせていただきたいと思います。           (休     憩) ○岩原部会長 それでは,そろそろ時間でございますので,審議を再開させていただきたいと存じます。第3の「1 特別支配株主による株式売渡請求」に移らせていただきます。事務当局からの御説明をお願いいたします。 ○内田関係官 それでは,「第3 キャッシュ・アウト」のうち「1 特別支配株主による株式売渡請求」について御説明します。キャッシュ・アウトは,長期的視野に立った柔軟な経営の実現や各種コストの削減等のメリットを有すると言われています。しかし,キャッシュ・アウトに通例的に利用されている全部取得条項付種類株式の取得には,常に株式総会決議が必要となり,時間的・手続的なコストが大きい等の指摘がされています。そこで,1では,当部会における議論を踏まえ,キャッシュ・アウトのための新たな制度を創設するものとし,その具体的な制度設計をお示ししております。  具体的には,③で,対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を直接又は間接に有する者を特別支配株主と定義した上で,①で,そのような特別支配株主は,他の全ての株主に対し,その有する株式の全部を売り渡すことを請求することができるものとしております。また,②では,対象会社がストック・オプションとして発行している新株予約権等の一括処理を可能とするため,対象会社の新株予約権も売渡請求の対象に含めることを認めるものとしております。この点に関連して,新株予約権付社債に付された新株予約権については,基本的に社債と分離して譲渡することができないものとされていることを踏まえ,その取扱いについて別途検討する必要があろうかと存じます。そこで,(注1)では,この点については,なお検討するものとしております。また,(注2)のとおり,新株予約権の売渡請求に関する手続等については,株式売渡請求に関する規律に準じて,所要の規定を設けることになろうかと存じます。  ④から⑪までは,株式売渡請求の手続を定めるものです。まず,④及び⑤では,株式売渡請求をしようとする特別支配株主は,対価の額や取得の日を明らかにした上で,当該請求をする旨を対象会社に通知し,その承認を受けなければならないものとしております。⑥のとおり,対象会社が取締役会設置会社である場合には,この承認は,取締役会の決議によることになります。これは,特別支配株主の一方的な条件提示のみによって無条件にキャッシュ・アウトを認めることは,売渡株主の利益への配慮という観点から適切でないという考慮によるものです。対象会社の取締役又は取締役会が,特別支配株主から通知された対価の額等を検討した上で,株式売渡請求の承認の当否を判断するという形で手続に関与するものとすることにより,売渡株主の利益の保護を図ろうとするものです。対象会社は,株式売渡請求の承認をした場合には,⑦のとおり,売渡株主に対する通知をすることになります。公開会社においては,公告をもってこの通知に代えることができるものとしております。公告によることの当否については,当部会でも御指摘があったところですので,御指摘を踏まえて改めて検討しましたが,常に通知を要するものとすれば,時間的・手続的なコストの増大につながると思われるほか,現行法における他の制度を見ましても,公開会社における重要事項の周知は公告によることが認められておりますので,それらの制度とのバランス等も考慮して,このような御提案とさせていただいております。⑧では,このような通知又は公告がされた場合には,売渡株主に対する株式売渡請求があったものとみなすものとしております。これにより,各売渡株主に対する個別の意思表示が不要となりますので,時間的・手続的コストの増大を避けることができるほか,法律関係の画一的処理にも資するものと考えられます。所定の手続に従って株式売渡請求があったものとされる場合には,⑩のとおり,売渡株式の全部が取得日に一括して特別支配株主に移転することになります。⑨と⑪は,事前及び事後の開示手続を定めるものです。⑨の事前開示では,対象会社の取締役又は取締役会が株式売渡請求の承認に際して果たすべき役割を考慮し,対価の額等の基本的な事項のほか,その額の相当性に関する取締役又は取締役会の判断及びその理由等を開示事項とすることが考えられます。また,第三者機関による株式価値の評価や社外役員等の意見の聴取等,売渡株主の利益を害さないように留意した事項がある場合には,これも開示事項とすることが考えられます。  ⑫以下は,売渡株主の救済方法に関するものです。⑫及び⑬は,価格決定の申立てについて,全部取得条項付種類株式の取得の場合に準じた規定を設けるものですが,株式売渡請求の場合には,裁判所により決定された価格の支払義務は,特別支配株主が負うことになります。申立期間は,取得日の20日前の日から取得日の前日までの間としておりますが,当部会においては,取得日後も一定期間は申立てを認めることとしてはどうかといった御指摘もありました。そこで,⑫の(注)では,この点につき,20日という期間を例示した上で,なお検討するものとしております。また,⑬の(注)のとおり,第4の2にありますような価格決定前の支払制度につきましても,所要の規定を設けることになろうかと存じます。⑭は,株式売渡請求によるキャッシュ・アウトについては,対象会社の株主総会決議の取消しの訴えによる救済の余地がないことから,それに代わる売渡株主の救済方法として,差止請求を認めるというものです。株式売渡請求が法令違反である場合や,対価の定めが著しく不当である場合のほか,対象会社が事前開示等の手続に違反した場合にも,差止めの対象となるものとしております。また,⑮から⑰は,売渡株式の取得の無効の訴えの制度を設けるというものです。法的安定性の確保や法律関係の画一的処理等の観点から,提訴期間及び提訴権者を限定するほか,被告,裁判管轄,確定判決の効力について,規定を設けるものとしております。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,皆様から御意見を頂きたいと思います。いかがでございましょうか。 ○荒谷委員 キャッシュ・アウトを行う株主からの一方的な条件提示だけでキャッシュ・アウトを認めるのは適切ではありませんので,少数株主の保護の観点から,7ページの⑤のように,取締役会の承認という形で会社を関与させるという御提案についてはよろしいと思いますけれども,取締役会で少数株主の利益を配慮したいわゆる対価の当否を判断できると言えるようにするためには,ただ単に取締役会の承認というだけでよいのか,それとも更に進んで独立性のある社外取締役を入れることが必要なのか,あるいは監査役とか第三者委員会のような中立的な機関の意見などを聴く必要があるのか,そういった仕組みの構築の必要性の有無についても,補注で結構ですので,広く盛り込んでいただいて,意見を問うような形にしていただければと思います。 ○三原幹事 2点お伝えしたいと思います。まず1点は,①の最初の「ある株式会社」ということで,対象会社は,全ての株式会社になっているわけでございますけれども,これについて,キャッシュ・アウトの制度は,一定の会社は対象にしないということをお伺いしていただけるかどうかということを御検討いただきたいと思います。具体的に何を申し上げているかと言いますと,荒谷委員と同じ発想なのですが,株式を多数株主の意思で強制的に買い取ってしまうという制度になっている関係で,必ずしも組織再編と同じということではないという前提からしますと,少数株主の保護ということがあります。それから,上場会社を念頭に置くと,TOB等の場合があるのですが,そうではなくて一般の事業承継が対象となるような非上場の中小の会社には,実態的には,株主の株主権ということの意味が,経済的な意味での権利よりも,支配権であったり,あるいは株主としての権利そのものが,例えば家業であったり,土地財産であったりというところに間接的に直結しているという場合があって,その結果,90%を相続によって取得したら,それでキャッシュ・アウトできるということになりますと,実態的にはそういった家業などの部分も全部取得するような場合があり得るのではないかという問題意識の下に,このような場合をキャッシュ・アウトの対象から外す,例えば,具体的には公開会社に限定する可能性なり余地があるかどうかをお聞きいただけるかどうかを検討していただきたい。例えば補注か何かで結構でございますけれども,問題意識は,この点にございまして,普通にリターンやキャピタル・ゲインを考えている場合ではなくて,支配権なり支配利益という点に焦点が当たる非上場会社の事業承継を実態的に株主権の形でやっているような場合はどうするのかという点です。もちろん,それに対して,中身の議論としては,90%の株主が定款変更をして公開会社にしてしまえば同じことができるのではないかといった問題意識はあるのですが,そのような点も含めた問題意識を持った上で,キャッシュ・アウト制度が社会にどういう形で貢献するのか,あるいは利用価値はどこにあるのか,あるいはそれによる弊害はないのか,少数株主保護はどうか,そういう大きな見地で御検討をお願いします,例えば一つ目はそれであります。  それから,もう一つが,荒谷委員と同じかもしれませんが,承認の手続の中では,90%の株主ですから,承認しなければ,その次には必ず取締役を切り替えて,承認するだけの形になってしまうということが,それは,外から見た場合の客観性・公正性あるいは価格の適正性が本当に担保できるのかということがあるので,少数株主の保護の見地として,どういう形の手続の公正性があるのかということを広く問い掛けるような形というのは,今の形以外にあり得るのか,そういう手段性の問題について問い掛けていただくことができるのかどうか。  以上の2点の御検討をお願いしたいと思います。 ○岩原部会長 最後の点は非常に難しいですね。 ○内田関係官 荒谷委員と三原幹事のお二人から頂いた御指摘に共通するものとして,社外の独立した者の意見を聴く等,株式売渡請求の承認の際のプロセスにつきましては,部会資料15で申し上げますと,⑨の(注)の中に書いてございます開示事項の内容として,対価の相当性に関する事項を挙げており,括弧書きで,それに関する取締役又は取締役会の判断及びその理由を含むものとしております。その理由の中には,当然,専門家に意見を聴いたとか,独立した者の意見を聴いたとかということも含まれるでしょうし,更に売渡株主の利益を害さないように留意した事項も開示事項の例に挙げております。これは,既に,共通支配下にある当事者間の合併等の場合における事前開示事項として,会社法施行規則第182条第3項第3号等に定められております。その中身としては,第三者機関の意見や評価書等を取った場合に,それを開示するといったことが含まれるものと思いますが,実際にどういう形で対価の適正さを確保するかは,実務でも非常にいろいろな形で工夫がされていて,特定の方法で完全なものが編み出されているわけではないと思います。そこで,特定の方法を採ることをキャッシュ・アウトの要件とするというところまで踏み込むことは難しいと思われるため,むしろ,そういったものも含めていろいろな工夫をした場合には,この開示事項として開示していただくという建て付けにしている次第です。 ○三原幹事 実はその件で,これは申し上げないでもよいかなと思ったのですけれども,例えば,価格は適正な価格でなければいけないとか,公正な価格とか,著しく不当な価格ではいけないとか,そういう価格の判断の材料ではなくて,価格そのものを縛るべきなのかという議論もあり得るところだと思うのです。それを書いてくださいとは言わなかったのですけれども,⑨の(注)にある「額の相当性に関する事項」という表現になりますと,今日後ほど議論します詐害分割と同じように,履行の見込みに関する事項とかというと,結局だんだん,「関すれば」いいという話になってしまって,文字どおり,関するという形では価格は縛れませんから,価格を縛るべきかどうなのかということも含めて,広く聞いていただいたらいいかと思います。この⑨の(注)は認識しておりまして,これではちょっと足りないのではないかという問題意識を若干持っております。つまり,株主開示をしてあればいいということもありますけれども,結局は90%持たれているわけですから,少数株主はどうにもならないというところの中で考えたときに,これは,直接株主同士の売買契約だという形を採っているものですから,やはり価格のところで適正性を何か広く確保できないかということで,この制度自体を導入する場合の信頼性とか適正性の確保ということを広く問うのはいかがでしょうか。本当は価格の問題も言いたいのですけれども,本日は中身を議論する場ではないし,書き振りの問題だけなので,実はそういう問題意識で先ほどそのように申し上げたということでございます。 ○神田委員 補足説明で書いていただくということかと思いますけれども,⑫の(注)と⑬の(注)なのですけれども,この制度だけに,つまり,⑫の(注)は,次の全部取得条項付種類株式の取得とか,更にその次の株式買取請求の場合にも,一般論としては当てはまるような気がするのですけれども,そういう聞き方はしないで,この場合だけ,取得日後一定期間についてもなお検討するという趣旨なのか,もしそうだとすれば,そういうこともあり得ると思うのですけれども,その理由を示したほうがいいし,もしそうでなければ,一般的な問いとして聞くことになるかと思います。  それから,⑬の(注)も似たような話なのですけれども,ここでは,「上記のほか」,「第4の2における株式買取請求制度の見直しを踏まえて」と書いてありますので,ここと第4の2だけを聞いていて,そうすると,全部取得条項の場合にはこの問題は取り扱わないと,少なくとも卒然と読むと読めるのですけれども,もちろんそういう御判断もあると思うのですけれども,聞き方としては,ちょっとそのあたりは補足説明で理由を述べていただければと思います。まだ補足説明は拝見していないので,的外れかもしれません。 ○内田関係官 2点御指摘を頂いたかと存じます。まず,1点目は,⑫の(注)について,株式買取請求や全部取得条項付種類株式の取得といった場面にも同じようにするのか,それともここだけの話なのかという点でしたが,事務当局の意図といたしましては,この場面だけという前提で(注)を置いております。対価が現金に限られ,かつ,買取りの主体も価格決定の申立ての有無にかかわらず特別支配株主ということで全く変わらず,後は金銭の額だけの問題として処理することが可能ということをもって,他との区別の理由を説明していくことになろうかと思います。  それから,⑬の(注)に関する御指摘については,整理の仕方に分かりにくい点があったかもしれないのですけれども,実は,部会資料15の10ページ,第4の2の(注1)を御覧いただきますと,全部取得条項付種類株式の取得についても,同様の規律を設けると書いてございます。一見分かりにくい書き方になっているのですが,そういった整理をしている理由を一言だけ御説明させていただきますと,第4の2のところは,現行法の規律についてこういう見直しをする場合に,類似の規律についても同じ見直しをしますということで,現行法上の規律を挙げております。これに対して,第3の1でお示ししている株式売渡請求の手続は,今回新たに創設するもので,現行法上の規律ではないものですから,規律の見直しということで第4の2の(注1)に挙げるのも若干どうなのかなということで,新たに創設する制度については,新たに創設する制度の作り方として同じような手当てをするということで,その制度設計のほうに整理して記述しているということでございます。 ○野村幹事 細かな技術的なところで恐縮なのですけれども,8ページの⑭の差止請求の要件なのですが,アとイに書き分けられているのは,これは,会社の行為というよりは,売渡請求をするのは外の株主なので,会社の行為と外の株主がやっている行為それぞれに法令違反等がある場合を想定して書き分けようという趣旨でお書きになられたのだと思うのですが,⑭の場合というのは,株主の不利益に関する差止請求ですので,いわゆる取締役の違法行為の差止請求権の適用がない場面という形で,特別に差止めを強化するという趣旨になると思います。その場合に,ア,イ,ウで十分に適用範囲を捕捉しているのかどうかということについて,もう少し詰めていただいたほうがいいのかなと思います。例えば,すぐに思い付きますのは,例えば,③のところで特別支配株主について,要件を定款で変更しているというケースがあると思うのですけれども,その定款で,例えば要件をもっと高めて,95%取得している者しか売渡請求ができないという定款規定があるにもかかわらず,90%の株主が売渡請求をしてきたものを会社が認めてしまっているといったケースについては,今のア,イ,ウだと差し止められないような感じがするのです。それは,アのところには定款違反というのがないですし,イのところは限定されている感じがしますので,そう細かくはまだ考えていないということなのかもしれませんが,少し詰めていただければと思った次第です。 ○内田関係官 御指摘のうち,具体的な場面として挙げていただいた点につきましては,一見,定款違反とも思えるのですが,定款で特別支配株主の要件を加重している場合には,その加重された要件を満たすことが法律上の要件になり,それを満たしていない場合には請求が法令違反ということになるのかなという理解でおりました。そこはもう,条文の読み方と言いますか,解釈の問題になってしまうかもしれませんが,事務当局としては,一応そういう整理で案を作らせていただいている次第です。 ○野村幹事 分かりました。 ○岩原部会長 では,用語その他については更に検討していただくことにしたいと思います。 ○野村幹事 司法試験の択一試験に出たら,みんな間違うのではないですか。 ○岩原部会長 パブリック・コメントに付すわけですから,一般の人に分かりやすい形で是非パブリック・コメントに付していただきたいと思います。ほかにはございますでしょうか。よろしいですか。  それでは,先に進ませていただきたいと存じます。第3の「2 全部取得条項付種類株式の取得に関する規律」に移らせていただきます。(1)から(3)まで一括して,事務当局から御説明をお願いします。 ○内田関係官 それでは,「2 全部取得条項付種類株式の取得に関する規律」について御説明します。まず,「(1) 情報開示の充実」は,全部取得条項付種類株式の取得について,情報開示の規律が十分でないとの指摘がされていることを踏まえ,事前開示及び事後開示の手続を設けるというものです。事前開示においては,キャッシュ・アウトに際して少数株主に交付される対価に関する情報開示の充実という観点から,(注)にありますように,端数処理の方法に関する事項や,端数処理により株主に交付される金銭の額に関する事項等を開示事項とすることが考えられます。  次に,「(2) 取得の価格の決定の申立てに関する規律」は,取得日後に取得価格の決定の申立てがされる場合における法律関係の複雑化の回避等の観点から,価格決定の申立てに関する規律を①から③のように見直すというものでございます。  最後に,「(3) その他の事項」では,株主総会等の決議の取消しにより株主となる者も当該決議の取消しの訴えを提起することができる旨の明文の規定を設けるものとしております。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。(1)から(3)のいずれにつきましても,第二読会では特段の御異論はなかったと存じますが,この(1)から(3)まで一括して,御意見があればお願いします。 ○静委員 (1)から(3)そのものに異論があるわけではありませんが,そのほかの部分で2点ほどお伺いしたいと思います。まず1点目ですけれども,決議要件について一切の記載が抜けているなと感じたのです。この点については,私もいろいろ申し上げさせていただいたという記憶もありますし,とても重要な論点だと思っておりますので,記載していただきたいと思っております。私自身の考え方は,前に申しましたけれども,今回導入を検討している特別支配株主による株式売渡請求権の仕組みというのは,キャッシュ・アウトのために正面から検討された初めての制度であり,一方で,今議論に入りました全部取得条項付種類株のようなものは,ある意味,目的外利用であるとしばしば言われていたと思います。したがいまして,既存の制度につきましては,新しい制度に整合するように,例えば決議要件を90%に引き上げるといったことを考えるべきではないかと私は考えております。部会資料15には,それは採らないという理由について何の記載もないままに私の御提案が検討の対象から無くなってしまっていて,私としては納得がいかないと思っておりますので,中間試案にはこれも御記載いただいて,広く決議要件についての意見を求めていただけないかというのが1点目です。  2点目でございますけれども,こちらは確認ということになります。キャッシュ・アウトに関する論点はいろいろ出てきてはいるのですけれども,先ほどのものも含めて考えますと,株式の併合をどうするかということについては一切記載がございません。これにつきましては,もはや株式の併合をキャッシュ・アウトに使うことは想定しないという前提でそういう記載をなさっていると理解していいのかどうかということを伺いたいと思います。いずれにせよ,それはそうだというお答えであっても,違うというお答えであっても,中間試案ないしは補足説明のどこかに明確に記載していただくということをお願いしたいと思います。  以上,2点でございます。 ○内田関係官 1点目の決議要件につきましては,当部会でも御議論を頂いたということは認識しておりまして,第二読会までの御議論を踏まえて,10%の少数株主に言わば拒否権を与えるような形になると弊害が大きいのではないかという御意見が強かったのかなと理解しております。その観点から,中間試案には載せないこととさせていただいている次第でございますが,だからといって,90%の賛成を得た場合に,それが何も評価されないということまでを意味しているということではもちろんございません。少数株主の過半数の賛成に関する第二読会での議論にもございましたとおり,それが価格決定手続の中で一要素としてしんしゃくされるということはあるでしょうし,あるいは,決議取消事由に当たるかどうかの判断の中でも,恐らく考慮要素の一つにはなり得るということで,一定の意味があり得るのだろうと思います。  それから,2点目でございますけれども,株式の併合につきましては,これは,ちょっと議論の順番といいますか,元々キャッシュ・アウトとは別の観点から,株式の併合それ自体についての問題点という文脈で御議論を始めていただいた関係上,9月の第13回会議での御議論のテーマとして位置付けさせていただいておりました。ただ,そのような位置付けをもって,キャッシュ・アウトに株式の併合を用いることができないということまで意図しているかというと,そうではございません。株式の併合と全部取得条項付種類株式の取得につき,言わばパラレルな規律を設けることによって,株式の併合が今後キャッシュ・アウトに用いられるということもあり得るとの御指摘もあったところかと存じます。補足説明の書き方等につきましては,御指摘を踏まえて,工夫をさせていただきたいと思います。 ○静委員 株式の併合の部分は同じような規制を設けてどうするかということだと思いますので,それは,今後の議論だということにさせていただければと思います。一方で,決議要件の話につきましては,それでいいか疑問がありますので,もう少しだけ申し上げさせていただきたいと思います。キャッシュ・アウトそのものは,株主が嫌でも意に反してでも財産権を奪ってしまうということを直接の目的にする行為なのだろうと思います。したがいまして,既存の実務でも,90%の取得を目指して公開買付けに掛けているとか,今回の特別支配株主による株式売渡請求権の制度でも,90%という水準で皆さんさほど異論がないということになっているのだと思います。つまり,財産権を奪うという行為は,会社の方向性をみんなで決めようというときに,重要な事項だから3分の2でやろうという行為とは,重さが大分違うというのが私の理解でございます。私の御提案申し上げましたものよりもいい案があるかもしれませんけれども,決議要件について何も記載しないと,これは,意見も出てこないということだと思いますので,やはり何らかの形で書いていただくということを是非御検討いただきたいと思います。 ○中東幹事 私も,静委員の意見に賛成でございます。静委員は,今90%をお挙げになったので,今の内田関係官のようなお返事があったかと思いますが,それだけではなくて,「マジョリティ・オブ・マイノリティ」についても御提案になっていたかと思います。その点については,私も賛成させていただいていたところであり,是非とも選択肢に入れていただく,こういう問題意識を我々の部会としては持っているのだということを掲げていただければと思っております。 ○内田関係官 中間試案あるいは補足説明においてどのように整理させていただくかは,ただ今の御指摘を踏まえて検討させていただきたいと思います。ただ,第3の1でキャッシュ・アウトのための新しい制度を創設することとの関係では,90%を取らないとおよそキャッシュ・アウトを許容すべきでないという趣旨で議論がされていたかというと,必ずしもそうではないものと理解しております。90%という水準は,対象会社における株主総会の決議を経ずしてキャッシュ・アウトを行うための要件として議論されていたのではないかと思いますので,念のため,その点だけ補足させていただきます。 ○岩原部会長 それでは,ただ今の御指摘を踏まえて,更に最終的な中間試案の内容あるいは補足説明の内容を御検討いただきたいと思います。それでは,次に,「第4 株式買取請求」について,1から3まで一括して,事務当局からの説明をお願いいたします。 ○髙木関係官 それでは,「第4 株式買取請求」について御説明いたします。「1 買取口座の創設」は,株式買取請求の撤回の制限をより実効化するため,③のとおり,反対株主は,株式買取請求をする場合には,当該請求と同時に,当該請求に係る振替株式について,買取口座を振替先口座とする振替の申請をしなければならないものとするものです。買取口座に関しては,①,②及び④から⑥までに掲げている規律を設けるとともに,その他の技術的事項,例えば総株主通知における通知事項等についても,(注1)のとおり,所要の規定を設けるものとしております。また,組織再編における株式買取請求のほか,(注2)及び(注3)の場面についても,同様の規律を設けるものとしております。  「2 株式買取請求に係る株式に係る価格決定前の支払制度」は,反対株主による株式買取請求があった場合に,会社は,当該反対株主に対し,株式の価格の決定がされる前に,会社が公正な価格と認める額を支払うことができるものとするものです。組織再編における株式買取請求のほか,(注1)及び(注2)の場面についても,同様の規律を設けるものとしております。なお,反対株主は,株式買取請求をした後,当該請求に係る株式について剰余金配当受領権を有しないものとすることについては,その当否について当部会で意見が分かれたことを踏まえ,(注3)において,なお検討するものとしております。  「3 簡易組織再編等における株式買取請求」は,存続株式会社等における簡易組織再編等においては,反対株主は株式買取請求権を有しないものとするものです。  (後注)は,当部会において,組織再編の条件の公表後に株式を取得した反対株主は,株式買取請求権を有しないものとすることの当否について意見が分かれたことを踏まえ,この点について,なお検討するものとしております。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,まず,「1 買取口座の創設」については,第一読会及び第二読会で特に御異論はなかったかと存じますが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。  それでは,そのように進めさせていただきます。次に,「2 株式買取請求に係る株式に係る価格決定前の支払制度」については,第一読会及び第二読会で,やはり本文のような制度を設けること自体については特に御異論はなかったと存じますが,(注1)から(注3)までも含めて,御意見があれば承りたいと思います。いかがでしょうか。  特にございませんでしょうか。よろしいですか。それでは,そのように扱わせていただきます。次に,「3 簡易組織再編等における株式買取請求」については,やはり第二読会ではおおむね御異論はなかったと存じますが,いかがでございましょうか。  よろしいですか。それでは,そのように取り扱わせていただきます。最後に,(後注)はいかがでしょうか。このような形で,よろしいですか。  それでは,そのように扱わせていただきます。次に,「第5 組織再編等の差止請求」に移らせていただきます。事務当局から説明をお願いいたします。 ○髙木関係官 それでは,「第5 組織再編等の差止請求」について御説明いたします。略式組織再編以外の組織再編について,株主による差止請求に係る明文の規定を設けることの当否については,当部会において意見が分かれたことを踏まえ,明文規定を設けるものとするA案と,設けないものとするB案の両論を併記しております。そして,A案は,第二読会でのB案を基礎とするものですが,当部会の御議論を踏まえ,本文では,仮に明文規定を設ける場合の差止請求の要件として,「当該組織再編が法令又は定款に違反する場合であって,消滅株式会社等の株主が不利益を受けるおそれがあるとき」を掲げております。これに加え,第二読会では本文に挙げていた,「特別の利害関係を有する者が議決権を行使することにより,当該組織再編に関して著しく不当な株主総会決議がされ,又はされるおそれがある場合であって,株主が不利益を受けるおそれがあるとき」にも,株主による差止請求を認めるものとするかどうかについて,A案の(注1)で,なお検討するものとしております。仮に,A案のとおり,株主による差止請求に係る明文の規定を設ける場合には,(注2)に掲げる場面についても,同様に明文の規定を設けることが考えられます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,部会資料15では,組織再編について,差止請求に係る明文の規定を設けるというA案と,明文の規定を設けないというB案を併記するという案になっておりますが,いかがでございましょうか。 ○鹿子木委員 組織再編の対象なのですけれども,このA案というのは,手続上の問題に対象を考えているのか,それとも価格等の条件の当・不当についても対象を広げて考えておられるのか,その点を確認させていただきたいと思います。 ○髙木関係官 手続上の問題だけでなく,単なる対価の不当性までも,A案の本文にいう「法令又は定款に違反する」と言えるのかどうかは,解釈の問題であるとは思いますが,一般的には,単なる対価の不当性だけが問題とされるような場合には,法令・定款違反には当たらないと解されることになるのではないかと思われます。 ○鹿子木委員 私としては,対象を手続上の問題に限ったほうがよろしいのではないかと考えているわけですけれども,もしその価格の問題も入るとするならば,そこのところは意見を聞いていただくような形で記載していただければと思います。つまり,「法令」には善管注意義務違反も入るといたしますと,それは,価格の問題も当然入り得るということになりますが,そこは議論があるところだと思いますので,手続に絞るのか,あるいは価格の当・不当までも対象としてこういう制度を設けるべきかというところは,論点として分かる形で意見を聞いていただいたほうがよろしいのではないかと思います。 ○髙木関係官 A案の本文は,8月の第二読会でB案として掲げていたものを基礎としておりまして,ここでいう法令又は定款違反は,略式組織再編の差止請求の要件としての法令又は定款違反と同様のものを想定して掲げております。そして,略式組織再編の差止請求の要件である法令又は定款違反は,善管注意義務違反を含まないというのが一般的な解釈かと思われ,それと同様の解釈を想定した案だと理解していただけるのではないかと思っております。 ○鹿子木委員 思っておられるのはいいのですけれども,分かりやすく意見を聞くということが重要なのであって,どう考えているかということをきちんと表示してお聞きいただいたほうがいいのではないかと重ねて申し上げます。 ○坂本幹事 今の御指摘ですけれども,価格の当・不当は,この(注)で書いてあるほうで読むというのが普通の考え方だろうと思います。価格の当・不当を除くということは,条文には書けないと思いますので,今御指摘いただいたように,基本的にはこういうことを考えているというのは,補足説明で書かせていただくことは検討の余地はあろうかと思いますけれども,本文ということにとなると,それは難しいかなと思う次第でございます。 ○鹿子木委員 もちろん,本文で書いてくれという趣旨ではありませんので,補足説明等で記載していただければと思います。 ○岩原部会長 ほかに何か御指摘いただくことはありますでしょうか。よろしいですか。  それでは,更に進ませていただきたいと思います。「第6 会社分割等における債権者の保護」に移らせていただきます。1と2を一括して,御説明をお願いいたします。 ○塚本関係官 それでは,「第6 会社分割等における債権者の保護」について御説明いたします。まず,「1 詐害的な会社分割における債権者の保護」は,当部会における議論を踏まえ,いわゆる詐害的な会社分割における残存債権者を保護するための規律を会社法に設けるものです。具体的には,分割会社が残存債権者を害することを知って会社分割をした場合には,残存債権者は,承継会社等に対して,承継した財産の価額を限度として,当該債務の履行を請求することができるものとしています。ただし,吸収分割の場合には,吸収分割承継会社の悪意を要件としています。また,いわゆる人的分割の場合には,残存債権者は,会社分割について異議を述べることができることから,①の(注)は,ただ今申し上げました新しい規律を適用しないものとしています。②は,①の請求をする権利の行使期間を定めるものでございます。①の請求権は,ただ今申し上げましたとおり,詐害的な会社分割において,承継会社等にいわゆる物的有限責任を課すものであり,詐害行為取消権の行使に基づき逸出財産の価額賠償が認められた場合と類似の効果を認めることとなります。そのため,①の請求をする権利について,詐害行為取消権と異なる行使期間を定める必要性は高くないとも思われます。そこで,②は,詐害行為取消権の行使期間を定める民法第426条を参考として,①の請求をする権利の行使期間を定めています。(注)は,事業譲渡についても,①及び②と同様の規律を設けるものとしています。  次に,「2 不法行為債権者の保護」は,当部会における議論を踏まえ,会社分割について異議を述べることができる債権者のうち,不法行為によって生じた分割会社の債務の債権者であって,分割会社に知れていないものは,分割会社と承継会社等の双方に債務の履行を請求することができるものとしています。  このほか,組織再編等につきましては,当部会において,株式会社が組織再編や事業譲渡をする場合に,従業員の意見等を開示するものとすべきであるとの指摘がされており,(後注)は,この点について,なお検討するものとしています。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。「1 詐害的な会社分割における債権者の保護」については,第二読会においては,部会資料15にあるような責任を承継会社に負わせるということについては,おおむね御異論がなかったかと存じます。また,「2 不法行為債権者の保護」につきましても,この範囲でこのような扱いをするということについては,第一読会及び第二読会では特段の御異論はなかったかと存じます。1と2を一括して,また,(後注)も含めて,御意見を頂きたいと存じます。いかがでしょうか。 ○逢見委員 1と2でない問題を今更と言われるかもしれませんが,会社分割と労働契約の承継の関係について申し上げます。会社分割に伴う労働契約承継については,労働契約承継法で既に措置されているというのが以前,第8回でしたか,委員から意見が述べられております。これについては,会社分割法制導入の際に,国会修正で,商法等改正法附則5条1項,平成12年法律90号,ここで協議手続が入りまして,これを5条協議と呼んでおります。それから,労働契約承継法7条の手続,これは,7条措置と呼ばれているものですが,この二つの関係がどうなのかということが議論になっておりました。これらについては,日本IBM事件,平成22年7月12日の最高裁第二小法廷の判決で,「承継法3条は適正に5条協議が行われ当該労働者の保護が図られていることを当然の前提としているものと解される」ということで,これによって,5条協議の制度が確立されたと理解しております。言わば,労働法制で曖昧であったところを,商法が商法規範でリカバーしたということだと思います。本来であれば,会社法に移行する際にこうした商法改正法附則も会社法に入れられるべきであったと思うのですけれども,残念ながらそれが入らずにおりますので,今からでも間に合うのであれば,こうしたものを会社法の中に移行させてもらえないかということがございます。  それから,実は,六法と呼ばれる書籍の中には,この商法等改正法を掲載しないものがあります。これは,編集上の問題なのかもしれませんけれども,この中にも六法と呼ばれる書籍の編集に関わっている方がおられると思いますので,是非そこは掲載をお願いしたいということでございます。  それから,(後注)に関して,従業員の意見開示は,組織再編や事業譲渡をする場合について,なお検討となっておりますが,私どもの問題認識ということを再度申し上げておきたいと思います。労働法では,使用者対被用者の関係の中で労働者の権利が保障されています。従来は,労組法の使用者というのは,労働契約の主体である経営者とイコールとされておりましたけれども,近年,資本の流動化の促進あるいは企業組織の再編が加速して,労働法の分野で,従来の使用者概念ではカバーし切れない問題が出てきております。例えば,ヘッジ・ファンドが買収を仕掛けてきたけれども,その背後にある実際の株主が誰なのか分からない,そのことによって従業員が不安に感じているケース。あるいは公開買付けを申し出たファンドが被申込会社あるいはその子会社の従業員の雇用継続や労働条件の重大な変更に全く言及していないということで,非常に従業員が不安を感じているケース,あるいは支配株主が現在の経営陣の退陣を要求しているが,その支配株主が従業員の雇用についてどう考えているかが全く分かっていないといったことがあります。この点について,私が意見を申し上げたときに,多くの委員や幹事の皆さんから,なぜ従業員だけかという意見がありましたけれども,こうした分野について,経営者と株主と債権者だけに関与の手続が与えられているということが果たして適切なのか。元々この審議会の諮問の際に,「会社を取り巻く幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保する観点」という形で諮問がなされていることを踏まえる必要があるのではないかと思っております。例えば,ニッポン放送事件というのがありましたけれども,ここでアナウンサーが仕事を続けるのかどうか,あるいは,金型メーカーでベテラン職人がこの会社に居続けて仕事を続けるのかどうか,こうしたことは,ただ単に会社と従業員の関係だけではなくて,株主にとっても重要な情報になるのだと思います。そうした意味で,従業員の意見の開示というのは意義があると思っておりますので,ここではなお検討ということになっておりますが,できれば中間試案においても一つの案として位置付けていただきたい。時間が掛かるのではないかという意見もありましたけれども,これは,過半数代表制などを使えば,1週間もあれば意見集約は可能だと思っておりますので,時間を掛けずに従業員の意見の開示はできると思っております。そうした点で是非御検討をお願いしたいと思っております。 ○岩原部会長 それでは,今の点について,ほかの方から御意見はございますか。 ○野村幹事 特に御意見に反対というわけではありませんが,5条協議を会社法の中に移すと,会社法上の効力とリンクさせなければいけなくなってしまうのかなと思いますので,そう簡単なことではないと思います。5条協議が労働契約承継法上の労働契約の承継に係る手続との関係で効力が認められたということは,私も大変意味のあることだと思いますし,それは,積極的に評価されるべきものだとは思うのですけれども,会社法上の組織再編の効力とリンクさせるということにつながるような形での立法はやや問題があるのかなとも思います。条文の位置というのは,単純な形式的な位置だけの問題ではなくて実質的な効果を伴いますので,慎重に御検討いただければと思います。 ○三原幹事 これもまた聞き方の問題ですが,3点ございます。まず,1点目は,1の①の4行目の「残存債権者を害することを知って」という言葉なのですが,この言葉の内容も,できれば補足説明等で,どういう場合が「害する」という場合かが分かるような形で,この制度の具体的な適用範囲と中身をパブリック・コメントの際に国民に対して提示していただいて,それで分かるように意見をまとめていただきたいということでございます。どういうことを言っているかというと,「害することを知って」というのは,恐らく民法424条の詐害行為取消権のところからスライドすればいいという議論で出発したのだと思いますし,それはそれで一つの考え方なのですが,424条のところを調べましても,その判例でも学説でも,会社分割の場合には,どういう場合に,これは「害する」会社分割なのかということの議論の進展というのはまだまだ途上にあります。それは,害する者が悪いのだという議論もあるのですけれども,典型的かつ単純化した例を一つだけ申し上げさせていただきますと,例えば,ある会社が債務超過になっているような状況で,あるいは支払不能になっているような状況で,このまま潰してしまうと,今日現在の弁済率が全債権者に対して30%しかありませんと,あるいは10%でもいいのですが,ところが,会社分割をして,商取引債権を残して,いわゆる会社の中で良い資産の部分と生き残れる部分だけを残して会社分割を承継させるとして,その場合の商取引債権者は,例えば,30%とか,70%とか,場合によっては100%の弁済率で保護されるという場合があって,では分割会社の残存債権者はというと,30%の弁済率が例えば40%に上がるという場合,パーセンテージは違うのですけれども,全体としては分割によってそれなりに弁済率が,率は違えども上がるような場合,これは,「害する」のですかという問題があります。例えばこの単純化した例を採ったときに,そんな単純化はできないのではないかという問題はあるのですけれども,企業再生を実務とするような実務法曹からすると,こういった例は,いわゆる良い会社分割と言ったり,良いというのは,潰すよりは良いということかもしれませんけれども,それでこの残存債権者のところが30%がもっと下がってしまうような場合,30%なのが分割によって例えば15%下がってしまうとか,20%下がってしまうとか,これは典型的に言う悪い分割,つまり潰すよりもっと悪くなるわけです。例えば,こういう場合は害するのか,害しないのかということの御議論を,例えば補足説明でどういうものを害するのかを書いていただけませんでしょうか。というのは,実は判例に出てきているのは非常に典型的に本当に悪い分割なのですが,その典型例だけではなくて,実務の実際の現状も踏まえた立法という可能性も踏まえて,その「害する」とは何かということを質問の中で,つまり,判例学説が確立している前提ではなくて,お聞きしていただきたい。長くなりましてすみません。  それと,書き方の問題ということでは,先ほどの点とは違う,この②でございますけれども,第二読会では,これは,除斥期間のように,「効力発生日から2年」という案だったわけでございます。今回は,「知ったときから」ということで,民法426条のほうに近くなってしまって,民法的なものになってしまったのですが,これも両案を聞いていただくということができるのかどうか御検討ください。つまり,今は案が無くなってしまっていますので,除斥期間のほうがいいのかどうかということの御意見を聞いた上で,こういう形にするのがいいのかどうかお決めいただければよいと思われます。というのは,20年というのは結構長い期間だと思うのです。民法であれば20年という立法例はあるのですけれども,会社法・商法の中では20年の時効の規定というのはほとんどないのではないかと思っていまして,特に会社分割で承継会社のほうが20年間,もしかしたら残存債権者から履行請求されるかもしれないということで,分割の状況が非常に不安定になるまま,つまり連帯債務の可能性を認識しつつ,ずっと20年待つ,これが本当にいいのかどうかということです。実際には19年前に行った分割で今ごろ請求が来たとかという話になるとすると,これでよいのかは,むしろ国民に聞いていただいて,その上で御判断いただくということもあるのかなと思いました。第二読会であった案と今回のパブリック・コメントの案と二つ並んでいるというのはどうでしょうか。  それから,3番目に,逢見委員から,(後注)の件がありましたが,これをどうするのか,私も労働法のところは余り詳しくないので分からないのですけれども,聞いていただくことについては,実は私は賛成します。どのようにしたらいいのかという聞き方は難しいのはよく分かるのですが,聞くこと自体について反対があるということはないという意味です。案を示して,労働者についてどうしたらいいのかということです。例えば,民法改正でも法典の統一化の問題と一般法化の問題という区分があるのですけれども,恐らくおっしゃっているのは法典の統一化のようなことであって,一般法化ではないのものと思っていますが,そこもよく分かりません。そこも含めて聞いていただくことについては,私は反対ではないということでございます。 ○塚本関係官 ただ今三原幹事から頂いた1点目の「害することを知って」という点につきましては,基本的には,民法424条の解釈を踏まえるとともに,最近出ている裁判例における判断などを踏まえて考えていくことになろうかと思います。補足説明において,残存債権者を「害する」会社分割の典型例を書けるかどうかは更に検討したいと思います。  2点目の存続期間につきましては,先ほど申し上げましたように,この新しい規律の法的効果は,結局,詐害行為取消権の価額賠償と変わらないというところがありまして,その存続期間を詐害行為取消権の存続期間よりもあえて短くする必要があるのかという問題があります。あるいは,三原幹事からの御指摘は,民法426条の20年自体が長いというところにあるのかもしれませんが,ただ今申し上げました点がある関係で,前回挙げたものとは変えている次第です。 ○三原幹事 第1の点なのですが,実は,偏頗弁済というのが民法424条で考えられていますので,偏頗弁済で考えると,最初に申し上げた例は,片や,商取引債権の弁済率が30%から70%に上がって,残りの金融債権の弁済率が30%から40%に上がっても,恐らく偏頗になりますから,普通でいくと,これは詐害になるのです。ですから,今までの判例で考えているような面というのは,例えば,債権者平等の関係からすると,普通の詐害行為であれば,恐らく偏頗弁済でアウトになってしまうケースではないかと思います。しかし,それでも会社の一部を残してでも会社分割で生き残りを図る,かつ,更に会社分割の場合には,通知が必要とは言いませんけれども,実質的にはそういう場合には債権者に私的整理段階で相談しながら行っており,そういう実態をここで申し上げるつもりはないのですけれども,そういったことも踏まえて,民法の一般的な詐害行為取消権の「害する」だけをスライドして持ってくればいいということではないという実務があるということだけは事務当局には御理解いただいて,その上でどう聞くかは,それは御判断でございますけれども,そこは何とぞ「害する」という中身をお伝えいただきたいということです。 ○坂本幹事 御指摘,ありがとうございます。まず,「害する」とは何ぞやということ自体がはっきりしないのではないかという点ですが,民法でも同様の文言を用いていますが,民法制定以来百何十年議論していて議論が収束しているのかという問題ですので,ポリシーを示すことはもちろん我々事務当局としてしなければいけないことでありますが,抽象的な要件ですので,外縁をきちんと示して,具体的にこの事例はどうなのだと聞かれましても,それは個別の事情によるというお答えになるかと思います。例えば,今お示しいただいた事例がそもそも偏頗弁済と言えるのかどうかということ自体,大きな議論があるだろうと思います。そもそも今の事例は,恐らく,将来利益から弁済していくということでなければ,そのような弁済率は生じないわけでして,そのためにはきっと債権者の同意を取りながらやっていることかと思われます。それが果たして偏頗弁済として評価されるのかということ自体,そもそも論として,どういう手続を取ったのか等の諸般の事情を考えてやっていくことになるのかもしれませんし,それ自体いろいろあり得るだろうと思っております。そういうことで,今,塚本のほうから御説明しましたポリシー的なものとして,こういうものが捉えられますということは御説明できますし,それは,私どもの責任かと思っておりますけれども,そこから先は,将来このような制度ができた暁に,ここにいらっしゃる皆様方の解釈で豊かなものにしていっていただければと思う次第でございます。  もう一つ,逢見委員のほうから御指摘があった商法改正附則5条を会社法に移すことについて,聞くこと自体は構わないのではないかという点ですけれども,先ほど野村幹事からも御指摘いただきましたように,単に移すだけということにとどまらない問題が生じる可能性がございますし,逆に,単に移すだけということになると,恐らくそのためだけの改正は難しいと思われますので,軽々に取り上げられる問題でもないだろうなとは思っております。 ○神作幹事 詐害的会社分割について,1点御質問させていただければと思います。「承継した財産の価額を限度として」の意義についてです。会社分割の場合に,財産とともに債務を承継した場合,この債務の取扱いはどうなるのかという点と,それから,会社分割の外で債務を引き受けたり,補償するという場合をどう考えるのか。特に,会社分割と事業譲渡で同様の規律を設けるという(注)との関係で,承継した財産の価額のカウントの仕方について,もし既に一定のお考えがあれば教えていただければと思います。 ○塚本関係官 ただ今御指摘のあったような事例は,場合によっては,解釈の問題もあるかもしれませんが,基本的には,財産とともに債務も承継しているという場合であっても,「承継した財産の価額」は,文字どおり承継した財産の価額だけを見るということになり,財産と債務をネットした価額ということにはならないのではないかと思っております。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。かなり多様な御意見を頂き,かつ,かなり難しい問題も含まれているようですので,最終的な中間試案の案までに,中間試案の本文あるいは(注)あるいは補足説明の中で,頂いた御指摘をどのように反映するべきか,事務当局に考えていただきたいと思います。よろしいでしょうか。  それでは,「第3部 その他」の「第1 金融商品取引法上の規制に違反した者による議決権行使の差止請求」に移りたいと存じます。事務当局から説明をお願いいたします。 ○内田関係官 それでは,御説明します。金融商品取引法上の規制のうち,株券等所有割合が3分の1を超えることとなるような株券等の買付け等について公開買付けを強制する規制や,公開買付者に全部買付義務及び強制的全部勧誘義務を課す規制については,会社の支配関係に大きな変動が生じる場合に,株主に株式売却の機会を与えることにより,株主の利益を保護する機能を有するとの指摘がされています。また,これらの規制の違反者による議決権行使を認めないものとすることは,違反者による支配の取得を防ぐことを通じて,株主の利益の保護に直接結び付き得るとも考えられます。そこで,第1は,当部会での議論を踏まえ,これら三つの規制に違反があった場合において,違反事実が重大であるときは,株主が違反者に対して議決権行使の差止めを請求することができることとするものです。もっとも,三つの規制のうち,強制的全部勧誘義務については,その内容が全て政令に委任されている関係上,当該義務のみを会社法において特定することができないという法技術的な問題もあること等から,(注1)において,なお検討するものとしております。  本文にありますとおり,差止請求権は,違反者以外の株主が有するものとしております。株式会社にも差止請求権を認めるかどうかについては,敵対的買収等の支配権争いの場面において,会社を代表する経営者が差止請求権を適切に利用するインセンティブを有すると言えるか疑問があるとの指摘もありますので,(注2)において,なお検討するものとしております。  また,(注3)は,差止請求によって違反者の議決権行使が認められないこととされた場合における株主総会決議の定足数の算定方法に関するものです。会社法第309条第1項から第3項までは,議決権を行使することができる株主の議決権の数を基礎として株主総会決議の定足数を定めておりますが,差止めの対象となった議決権が,「議決権を行使することができる株主の議決権」に当たらないとすると,残りの議決権のみを基礎として定足数が定まることとなるため,違反者以外の株主のみによって重要事項を決定することも可能となるように思われます。ただ,大量の株券等の買付け等が公開買付けによらずに行われた場合等を考えますと,そのような結論が適切と言えるか,会社の基本的事項に関する意思決定の在り方に過度の影響を及ぼすこととならないかという観点から,検討する必要があると思われます。これに対して,差止めの対象となった議決権を定足数の算定の基礎に含めるものとすると,会社の基本的事項に関する意思決定の在り方に対する過度の影響は避けられる一方,重要事項の意思決定をすることができない状態に陥ることとなり,会社の運営に支障を生ずるおそれもあると思われます。この点については,公開買付規制に違反して大量の株券等の買付け等が行われるような異例の事態が生じた場合に,議決権行使の差止制度にどの程度の効果を付与するのかという観点から,更に検討する必要があると思われますので,(注3)において,なお検討するものとしております。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。第二読会では,部会資料15にあるような公開買付規制に違反した者による議決権行使の差止請求については,おおむね御異論がなかったかと思います。(注1)から(注3)までを含め,御意見を頂きたいと存じます。いかがでしょうか。よろしいでしょうか。  それでは,このような形でパブリック・コメントに付すということにしたいと思います。それでは,最後の「第2 株主名簿等の閲覧等の請求の拒絶事由」に移りたいと存じます。事務当局から御説明をしていただきたいと思います。 ○宮崎関係官 それでは,「第2 株主名簿等の閲覧等の請求の拒絶事由」について御説明いたします。第2は,株主名簿及び新株予約権原簿の閲覧等の請求の拒絶事由のうち,「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み,又はこれに従事するものであるとき。」について,これをもって,その閲覧等の請求の拒絶を認める合理的な理由はないとの御意見が部会での大勢であったことを踏まえ,当該拒絶事由を削除するものとしています。  また,当部会においては,会社法第125条第3項第1号及び第2号並びに第252条第3項第1号及び第2号の文言を見直すべきであるとの指摘がされており,(注)において,この点については,なお検討するものとしています。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。本文については,第一読会及び第二読会でおおむね御異論はなかったかと存じますが,(注)を含めて,いかがでございましょうか。 ○杉村委員 同じ話の繰り返しなのですけれども,第一読会あるいは第二読会でも,経済界からは,3号の削除については懸念を表明しています。その理由について繰り返し申すことは避けますけれども,中間試案という形で世の中に問い掛ける際には,現行法の規定を変更しないといった選択肢を設けることも含めまして,御配慮をお願いしたいということで,改めて申し上げさせていただきました。 ○岩原部会長 ほかにいかがでございましょうか。(注)も含めて,よろしいですか。(注)のところは,藤田幹事の御指摘ですが,今日は御欠席ですので,後で事後的に御意見を伺うことにしまして,特になければ,それでは,ただ今の御意見も踏まえまして,補足説明等を御検討いただくということにしまして,本日の審議はこれぐらいにさせていただきたいと存じます。本日の部会の終了前に,次回の部会の予定について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○坂本関係官 次回は,11月16日水曜日午後1時30分から午後5時半までと予定しております。場所は,法務省3階の東京地方検察庁の会議室ということで,本日とまた違う場所になりますので,お間違いのないよう御注意願います。  次回は,中間試案の取りまとめのための御審議の3回目として,中間試案の第1次案の御検討をお願いする予定です。今回と前回の御審議を踏まえまして,たたき台の(1),(2)を修正しましたものを合体いたしまして,企業統治の在り方,親子会社に関する規律,その他の論点というものを一体の案という形でお示しする予定で考えております。  なお,次回お示しする予定の中間試案の第1次案の中では,技術的・細目的な事項等で見直すべきもののうち,中間試案に挙げて御意見をお伺いするのが適切であると考えられるものを若干記載させていただく予定でございます。その場合は,「その他」の中に追加してお示しさせていただくことになろうかと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,法制審議会会社法制部会第14回会議を閉会したいと思います。次々回での取りまとめに向けて審議を進めたいと思っておりますが,本日もかなり重い宿題を頂いておりまして,それについては必ずしもここでの御議論を尽くすだけの時間がなかった問題もございますので,何とか審議を促進するためにも,次回の部会の前にも,場合によりましては個々の委員・幹事の皆様に御意見を伺うようなこともできればしたいと考えておりますので,御協力のほどよろしくお願い申し上げます。  それでは,本日は,長時間にわたり御熱心な御審議を誠にありがとうございました。 -了-