法制審議会民法(債権関係)部会           第34回会議 議事録 第1 日 時  平成23年11月1日(火)自 午後1時00分                      至 午後6時18分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第34回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として部会資料32をお届けしております。それから,本日は,積み残し分を審議する関係で,部会資料30と31も使わせていただきます。以上の資料の内容は,後ほど関係官の亀井と新井から順次,説明させていただきます。   このほか,机上配布資料があります。高須幹事から,「債権の一部について民事執行の申立てがなされた場合の時効障害の取扱い」と題する書面を御提出いただいており,後ほど高須幹事から御説明があるものと思います。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料30から部会資料32までについて御審議いただく予定です。具体的な進め方といたしましては,まず,部会資料30と部会資料31の「第1 消滅時効」から,「3 時効の効果」までについて御審議いただき,午後3時40分ころをめどにして,適宜,休憩を入れることを予定していたしております。休憩後,部会資料31の「第1 消滅時効」の「4 形成権の期間制限」以降と部会資料32について御審議いただきたいと考えております。   本日の審議に入ります前に,松本委員から前回に審議された内容につきまして,補足的な意見を述べたいというお申し出がありましたので,これをお認めしたいと思います。松本委員からお願いします。 ○松本委員 恐縮でございますが,前回の後半の最後のほうで,皆さん,疲れている中の議論だった部分です。無権代理人の責任に関する177条の改正提案についての議論で,山本敬三幹事が甲案支持の意見を述べられて,非常に説得力があったのか,皆さん,反論も全く出ないで,私も錯誤と考えて,無効で責任がないというロジックでそのときはそうかなと思っていたんですけれども,後で帰りの電車の中でよく考えてみると,必ずしもそうではないのではないかと。   二つの点で少し満場一致ではないという記録を残していっていただきたいと思います。一つは錯誤の無効を主張する際に,損害賠償の責任を負わせるかどうかという議論をかつて行いましたが,そこでは,そもそも過失があれば不法行為になるのだから,錯誤のところに損害賠償の規定を置く必要はないんだということで結着したかと思います。そういたしますと,一つは117条の無権代理人の責任につきましても,少なくとも過失があれば損害賠償の責任があるんだということになるので,これを全面的に責任がないという,履行責任も損害賠償責任もないとしてしまうのは,少しバランスが取れないのではないかというのが一点。   もう一点はもう少し根源的なことでありますが,それは授権との関係という問題とも絡んでまいります。無権代理人の錯誤類似だと,代理権がないことについて錯誤があったんだということですが,権限があるないという部分を通常の要素の錯誤と同じように考えていいのだろうかということです。錯誤類似という言い方をされているので,錯誤ではないということを前提に考えられているのでしょうけれども,類似ということで同じ評価をしていいのだろうかということです。   これは授権の問題と照らし合わせますと,もう少しはっきりしてまいります。すなわち,代理権も授権も共に財産管理権であって,処分の効果を帰属させるための一定の権限であるという点で,パラレルに考えられるということであります。それを前提にいたしますと,他人の物を自己の物だと思って,あるいは自分に処分授権された物だと考えて処分をした。しかし,実は自分の所有物ではなかったし,処分授権もされていなかったという場合,こういう場合に私の所有権についての錯誤である,私に処分授権があることについての錯誤であったから無効になるのか,そして,一切,責任はないのかというと,他人物売買の場合の権利の担保責任の規定がございます,560条です。   ここについての改正提案で先ほどの117条と同じような,すなわち,責任を無くしてしまうという方向での改正提案がなされていれば一貫しているのですが,560条の改正提案はむしろ逆であります。他人の権利の売買において善意の売主であれば,現在,損害賠償を払ってですが,解除できるという規定がありますが,これが他の債務不履行責任と比べてちょっとおかしいのではないかということで,善意の売主の側からの解除権を認めないという,すなわち,他人物売買の売主の責任を強化するという方向での改正提案がなされているわけです。そうしますと,無権代理人の責任を軽くするという改正提案と一貫しないのではないかということであります。これは授権とも絡む大きな議論ですから,ここでもう一度,前回の議論をやり直そうという気はありませんが,117条の改正について異論がないわけではないという記録を一応とどめていただいて,もう一度,第2ラウンドのときに御議論いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,本日の審議に入ります。部会資料30の「第1 条件及び期限」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○亀井関係官 それでは,条件について御説明します。「(1)停止条件及び解除条件の意義」では,停止条件及び解除条件の意義を条文上,明らかにすることなどを提案しております。「(2)条件の成否が未確定の間における法律関係」では,条件の成就によって利益を受ける当事者が故意に条件を成就させた場合に,民法第130条を類推適用して,条件が成就しなかったものとみなすとしている判例を明文化することを提案しています。また,民法第130条の要件についても,信義則に反する行為によって条件成就を妨げたことを要件化する考えを取り上げました。「(3)不能条件」では,第12回会議において不能の停止条件を付した法律行為の効果を一律に無効とすべきではないとの意見が示されたことを受けて,民法第133条を削除するかどうかを御審議いただきたいと考えております。   「2 期限」について御説明します。「(1)期限の意義」では,期限の始期及び終期という用語の意義を条文上,明確にすることを提案しております。次に「(2)期限の利益の喪失」では,破産法の解釈との関係で不適切であると言われている民法第137条1号を削除することを提案しておりますが,第一読会での御審議を踏まえ,補足説明の中で別の案も示しておりますので,併せて御審議いただきたいと考えております。   以上に御説明した条件及び期限の全ての論点は,分科会で補充的に議論することが考えられると思いますので,その可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま御説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○潮見幹事 二点,発言させてください。   一つは第1の1の条件の(2)の部分です。(2)のところにゴチックで3段落ありますが,一番最後の段落の部分に関わるところでございます。現民法130条に当たる規定に,信義則に反する行為によってということを入れることについては,私は賛成をしたいと思いますが,この書き方の趣旨がちょっと分かりにくいところがあります。故意に条件を成就するとして,故意という要件を残した上で,信義則という要件を更に書き加えるという形での提示なのか,それとも,故意という要件をこの際,外してしまい,信義則という要件に一本化してしまおうという趣旨の説明なのかがちょっと分かりにくいのです。個人的には信義則という要件を入れるのであれば,130条から故意の要件を省くということで十分なのでないかと思います。この部分がクリーンハンズの原則を基礎にしている規定であるということに鑑みれば,故意ということが決定的な意味を持つものではないと思うところから,発言をさせていただいた次第です。   それから,もう一つ,次のページの(3)の不能条件のところで,一点だけ申し上げますと,個人的には条件が不能であった場合の法律行為の効力は本来,条件の合意の解釈に委ねられるべきであるとは思っておりますが,例えば停止条件の合意というものは,条件成就しない場合には法律行為の効果を発生させないのが当事者の通常の意思であり,解除条件付きの合意の場合には,同じく条件が成就しない場合には法律行為の効力を消滅させないのが当事者の通常の意思であるというように,通常の意思はそうなのだということで考えるのであれば,甲案のような形でもよいのかなという印象を少しだけ持っています。 ○鎌田部会長 事務当局からの提案は,先ほどの説明では,条件及び期限の全ての論点について分科会で掘り下げた検討をしてもらってはどうかということでありましたけれども,その点も含めて御意見を頂ければと思います。 ○松岡委員 細かいことは分科会で議論するという御提案に基本的には賛成です。その上で細かいことを発言するのはどうかという気がしないではないのですが,2の期限の利益の喪失についてです。3号のように担保の設定義務に結び付けてしまいますと,法定担保物権がカバーできないという趣旨の御説明がありますが,ここで問題としているのは担保を保存する義務の話ですから,それは法定担保物権にも問題になり得るのではないかと思います。ごく簡単に言いますと,現在の規定の冒頭に「義務に違反して」と付け加えれば,結局,義務に違反して処分したり,減少させたりした場合であることが,明らかになるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○能見委員 別な点でもよろしいですか。期限についてですが,第一読会のときの議論を確かめていないので,既に議論されていることであれば申し訳ないのですが,期限の意味というのを明らかにするということで,この資料の説明でも効力の発生時期,始期ですと効力の発生する時期という意味での期限と,それから効力は既に発生しているけれども,履行がいつからできるかという意味での始期といいますか,履行期というのを分けておりまして,現在の条文はそこがちょっとごちゃごちゃになっていますから,きちんと分けるという方向には賛成します。その上での話ですが,この資料にも書いてありますが,412条のここで言う履行期との関係が何か分かりにくくて,例えば412条の第1項ですと,確定期限を定めた場合には期限が到来したときから遅滞の責任が生じると同条には書いてあります。   しかし,私の理解が間違っているかもしれませんが,例えば3月31日に代金を支払うという合意がある,あるいは売買であれば同日に双方が履行するというときに,3月31日が到来して,その日のうちに遅滞になるということはないので,恐らく3月31日の期限を徒過して初めて遅滞になると考えるべきだと思います。それゆえ,期限の問題を論じるに当たっては,412条で使われている履行期という概念にも注意しながら,全体として平仄が合うように規定したほうがいいのではないかという感想を持っております。 ○佐成委員 先ほど潮見幹事がおっしゃった二点目のところで,私も潮見幹事がおっしゃったように,133条は当事者の通常の意思を推定している規定であると考えます。また,当事者の通常の意思は現行条文のように推定するというのが分かりやすいし,素直だと思います。したがって,デフォルトルールとして,現行規定を残しておくという方向で御検討いただければということでございます。いずれにしても分科会で十分議論していただければと思います。 ○中田委員 私も分科会で御審議いただければと思います。そこで,分科会に対するお願いなんですけれども,二点ございます。一点は期限について履行期限という概念を設けるという御提案ですが,それはよろしいと思うんですが,そうしますと,それに対応する履行条件というのがあり得るのではなかろうかということです。例えば野球の監督の契約で毎月の報酬以外に優勝したら幾ら支払うというような場合,いろいろな構成があり得るんですけれども,履行条件という概念でも説明できるかもしれない。恐らくそれは契約と債務の関係ですとか,あるいは大きな契約の中に小さな契約がもう一つあると考えるとか,いろいろな解釈はあると思いますけれども,この点も分科会で御検討いただければと思います。   もう一点は期限の終期の点なんですけれども,終期の規律とともに契約期間という概念を設けるとすると,終期と契約期間の終了時期との関係についてどう考えるのかという問題があろうかと思います。フランスの司法省草案の中でもそういったことが出ておりますので,これも細かいことですけれども,分科会で御検討いただければと思います。 ○山本(敬)幹事 不能条件についてですが,問題提起だけをさせていただければと思います。部会資料では甲案と乙案とあって,133条の規定を維持するか,削除するかという形で問題提起されているわけですが,そのような問題設定の仕方でよいのかどうか,もう少し考える余地があるのではないかと思います。  と言いますのは,中間的な論点整理にも書いてありますように,ここでの問題は,原始的不能の契約は無効であるという考え方を見直すかどうかということと関連しているわけですが,原始的不能の契約の効力について見直しを主張する見解は,原始的不能の契約も常に有効とすべきだと言っているわけではありません。   これまでは,原始的不能の契約は常に無効だと考えられてきたけれども,そうではなくて,契約は,原始的に不能だというだけで無効になるわけではないと。つまり,契約の趣旨によっては無効になる場合もあるけれども,原始的に不能というだけで無効になるわけではない。そうと考えますので,これもいずれまた,ここで検討することになると思いますが,仮にそれを民法に明文で定めるとすれば,「契約は,初めからその履行ができないというだけでは,無効にならない」というような現在のドイツ民法のような規定を考えることになるのではないかと思います。   そうしますと,不能条件についても,単純に現在の133条を削除するのではなくて,例えば,「停止条件付法律行為は,その停止条件の成就が初めから不能であるという理由だけで無効とならない」というように定めることになるかもしれません。ただ,先ほど御指摘がありましたように,当事者意思の推定規定として定めるということであれば,そう深刻な問題にはならないのかもしれませんが,原始的不能の契約の効力について,どのような定め方をするかということも視野に入れて,分科会でお考えいただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○潮見幹事 法務省民事局参事官室調査員の先生方に,こういうことを調べていただきたいというお願いをここですることは可能なのでしょうか。今の山本敬三幹事の発言に絡むことなんですけれども,ドイツ民法で債務法を改正して,原始的不能の規律に関して山本幹事がおっしゃったような形で改正をしたのですが,不能条件のところについては,確か私の記憶違いでなければ規定自体を変えていなかったのではないかと思います。そこで,ドイツ法で,そのあたりについて何か言われているのかとかいうことを,私が調べたほうがいいのかもしれませんが,いかんせん時間が全くありませんので,調査員の方にお調べいただければ有り難いな思ったのですが,大丈夫でしょうか。 ○鎌田部会長 御要望は御要望として承っておきます。 ○松本委員 市民に分かりやすい民法を目指すということからすれば,停止条件,解除条件という言葉が大変分かりにくい。法学部の学生も一定期間は混乱するし,一般市民はとても分からないということですから,ここに手を付けるのなら,まず,体を表す名前に変えるということを是非していただきたいと思います。ここでは定義をしましょうということですが,定義より前に定義を見なくても分かるようなネーミングを考えていただきたいと思います。 ○中井委員 松本委員の意見に賛成でして,この停止条件,解除条件という言葉について,例えば停止条件については効力発生条件,解除条件については効力消滅条件とするほうが,分かりやすいのではないか,是非,御検討いただきたいと思います。不能条件についても先ほどから意見が出ていますから重ねませんが,弁護士会も先ほどの佐成委員と同じで,現行法を維持しておくほうが好ましいのではないかという意見が圧倒的に多かったことを申し添えておきます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,条件及び期限につきましては,ただいまの御指摘いただきましたような論点及び注意点を含めて,分科会で補充的な議論をしていただくこととしたいと思います。   「1 条件」の「(1) 停止条件及び解除条件の意義」につきましては,名称の点,それから履行条件というふうな概念があり得るとしたら,ここに絡むのかもしれませんけれども,そういった点も含めて,そしてまた,現提案との関係でいえば,具体的にどのような規定振りが妥当なのかという,こういうふうなことを検討していただくということになろうかと思います。「(2) 条件の成否が未確定の間における法律関係」につきましては130条の表現振りというふうなことについても,御指摘を頂いたところでありますけれども,これも具体的な規定の在り方についての御議論を頂くこととします。それから「(3) 不能条件」に関しましては,現在,二つの案が提案されているところでございますが,それぞれの案を採用した場合の問題点も含めて,分科会で補充的な議論をお願いしたいと思います。   「2 期限」の「(1) 期限の意義」につきましても,幾つか重要な御指摘を頂いたところでございますので,それらを含めて具体的な規定の在り方を補充的に御議論いただくということにしたいと思います。期限の「(2) 期限の利益の喪失」につきましても,松岡委員からの御指摘を踏まえまして,この提案に伴う問題点を更に補充的に議論してもらうということにしたいと思いますが,そういうことでよろしいでしょうか。ありがとうございました。   それでは,続きまして部会資料30の「第2 期間の計算」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○亀井関係官 「第2 期間の計算」について御説明いたします。   「1 総論」では,期間の計算に関する規定は私法以外にも広く適用される法律で規定し,民法からは削除するという考え方を採用せず,引き続き民法に規定することを提案しています。「2 過去に遡る方向での期間の計算方法」では,一定の時点から過去に遡る方向での期間の計算に関し,民法第140条及び第141条に相当する規定を設けることを提案しています。なお,本文では取り上げていませんが,補足説明では民法第142条に相当する規定を設けるかどうかという議論も紹介しております。「3 期間の末日に関する規定の見直し」では,日曜,祝日以外の特定の曜日に営業しないという業種等に対応するために,民法第142条の要件を見直すかどうかという議論を取り上げております。   以上に御説明いたしました期間の計算の論点のうち,2と3は分科会で補充的に議論することが考えられると思いますので,その可否についても御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明のありました部分につきまして御意見をお伺いします。特に「1 総論(民法に規定することの当否)」については,部会で御審議を頂きたいということでございますので,御意見を頂ければと思います。 ○中井委員 2の過去に遡る方向での期間の計算方法について,本文はそれで結構かと思いますが,補足説明の中で書かれている142条との関係でどう考えるかです。御説明では,現時点では積極的に特則を設けることについての主張はないという締めくくりになってはいるのですが,遡る場合の規定についてどのような場合があるか,場合によっては異なるのではないかという意見があります。   例えば会社法の303条ですか,提案権の行使の場合については,8週間という準備期間を実質的に確保することを考えるのであれば,初日の,8週間前の日をどうするのか。そこが休日であれば1日前倒しにするというのが適当な場合があるのではないか。他方,破産法の無償否認を考えたときの6か月前というときについては,そのような考慮は要らないだろうと思いますから,その初日からスタートして6か月間に無償行為がなされたら否認の対象になる。個々の規定の趣旨によっては期間確保を目的としたのであるならば,その期間の日数を確実に置かなければならず,その初日について休日の場合の特則が必要になるのではないか,こういう意見がありました。   そうだとしたときに,個々に遡る日の定め方の趣旨等に応じて定めることが果たしてできるのかという問題もあるところから,なかなか難しくて,原則の本文の140条と141条のみを定めて142条の特則は要らないかなと,悩ましいという意見が出ておりました。結論に至っておりませんけれども,指摘だけさせていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○松本委員 今回の民法債権法改正の一つの目的として,民法の一覧性を高めるというのがどこかで掲げられていたと思いますが,そういう観点からいきますと,期間のところに年齢計算に関する法律を統合するということを,考えていただいたほうがいいのではないかと思います。すなわち,民法総則は当然,家族法の総則でもあるわけで,家族法の中で年齢というのはかなり大きな意味を持っているわけです。年齢計算に関する法律がちょっと起算点をずらしている関係で,いろいろややこしい問題が出てきて,きちんと説明しなければならないということがよくあります。この法律は明治35年にできたもののようですが,僅か3行しかございません法律ですので,民法の中に入れて年齢計算に関してはうんぬんかんぬんと,一言,書くだけで十分だと思うので,そういう形で一覧性といいましょうか,通覧性を高めていただければと思います。 ○鎌田部会長 これは一つの御提案を頂いたということになろうかと思いますが,関連した御意見があればお伺いします。  どの部分に規定を置くのが妥当なのかは,期間の計算なのですかね。 ○松本委員 この法律の条文を読みますと,民法143条の規定は年齢の計算にこれを準用すというのがあって,その前に年齢は出生の日より起算するとあるので,民法の期間のところに入れるので十分対応可能と思います。 ○鎌田部会長 期間の初日の問題だからここにということですか。 ○山野目幹事 ただいまの松本委員の通覧性を高めるという観点からの御提案は,なるほどと感じさせる部分がありますし,重要な御提案であるとも感じまするとともに少し心配なこともあります。ここで議論しているのは期間の計算方法に関する,言わば形式的準則を設けようという議論をしているものでありまして,初日不算入の原則に対する例外のようなものは,年齢に限らず,幾つかの場所にございます。それらはそれぞれの素材に対応する,言わば実質法としての期間計算に関する規律を擁しているわけでありまして,年齢というものも人の在り方に関する規律の実質を持っているものと考えることができる部分がありますから,それのみを配列上,ここに置くということについて少し気になる部分があります。   なお,関連して年齢の唱え方に関する法律をどうするかいうことも,問題としては関連してあり得るであろうと考えます。したがいまして,結論としては民法のどこかに置こうという御提案に魅力を感ずるとともに,期間計算のところに置くことがよろしいかということについては,直感的には疑問を感ずるということを申し述べさせていただきたいと考えます。 ○松本委員 年齢のとなえ方に関する法律が六法に載っているわけですけれども,これは全く裁判規範でもなく,国民に対してこういう方向で今後やりましょうというだけのことですから,これは民法に入ってくるはずがない規定だと思います。ただ,年齢については成人年齢という点が民法の場合は一番意味があって,それと,年齢で切っているのは,遺言能力,婚姻適齢,それから養子関係ぐらいでしょうか。年齢というのは民法的なテーマだと思いますし,行為能力という点では総則のテーマでもありますから,総則に置くことに特段の問題はないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。御提案を受けて検討の対象とすることといたします。その点も含めて分科会のほうで御検討いただくということにしてはどうかと思います。部会資料30の「第2 期間の計算」の「1 総論(民法に規定することの当否)」については,引き続き民法に置くこととしてはどうかという提案について,この部会では特に御異論がないという受け止め方をしてよろしいでしょうか。ありがとうございました。   それでは,この点については異論がないということで,「2 過去に遡る方向での起算の計算方法」と「3 期間の末日に関する規定の見直し」につきましては御指摘いただいたような点も含めて,分科会で補充的に議論をしていただくことにします。2のほうにつきましては,142条に相当するものは置かないという方向性が一応大勢を占めているように思うんですけれども,この点も分科会で少し詰めた議論をしていただければと思っています。3につきましても,甲案,乙案が提案されているところでありますけれども,それぞれの提案に伴う問題点も含めて,分科会での補充的な議論をお願いしたいと思いますけれども,そういう形でよろしいでしょうか。 ○中井委員 3については,どなたからも意見がありませんが,弁護士会では基本的に甲案,現状を維持する意見が圧倒的に多く,乙案に対しては,補足説明にあるような批判が弁護士会でも出ておりました。   2につきましては,先ほどの部会長の整理で結構かと思いますが,142条に相当する規定を入れろという積極的意見がないことは承知しておりますけれども,具体的適用場面においては,その権利を保護するという観点から,必要な場面というのは否定できないと思いますので,分科会においてこの項目を検討されるときには,そういう見地からの条文化が可能かどうかについて,御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 了解いたしました。それと先ほど御提案のありました年齢計算に関する法律を民法の中に取り込めるかどうか,取り込むとしたらどこに,どのような形で置くのが妥当かなのかと,この点も分科会で検討いただきたいと思います。   よろしければ次へ進ませていただきたいと思います。続きまして,部会資料31の「第1 消滅時効」のうち,「1 時効期間と起算点」の「(1)職業別の短期消滅時効(民法第170条から第174条まで)の廃止」と,「(2)債権の消滅時効における原則的な時効期間と起算点」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○亀井関係官 「第1 消滅時効 1 時効期間と起算点 (1)職業別の短期消滅時効の廃止」では,現在の短期消滅時効制度は理論的にもまた実務的にも様々な問題があることから,廃止することを提案しています。その上で,民法第170条から第174条までを削除することとした場合に,現在はこれらの規定が適用されている債権など,比較的短期の時効期間を定めるのが適当であると考えられるものの取扱いについて,原則的な時効期間を短期化することで対応するのが甲案,一定の少額債券を対象として新たな短期の消滅時効を設けるのが乙案,消費者契約に基づく事業者の消費者に対する債権を対象とした新たな短期の消滅時効を設けるのが丙案であります。   「(2)債権の消滅時効における原則的な時効期間と起算点」では,短期消滅時効を廃止して時効期間の統一化,単純化を図る場合に債権の原則的な時効期間を10年のままとすると,多くの事例において時効期間が大幅に長期化する結果となることから,原則的な時効期間について起算点も含めた見直しを提案するものです。甲案は,権利を行使することができるときを起算点とする民法第166条第1項を維持しつつ,時効期間について現在の10年間よりも短期とすることを提案しています。乙案は,原則的な時効期間を短期化するに当たり,起算点を債権者の認識等の主観的事情を考慮したものとすることを提案しています。これは比較的短期の時効期間によって,債権者の権利行使が否定されることを正当化されるためには,債権者に権利行使の機会が実質的に保障されていたと言えることが必要であるとの考え方によるものです。その上で主観的起算点の要件が満たされない限り,いつまでも時効が完成しないことは適当でないことから,権利行使することができるときを起算点とする長期の時効期間を組み合わせることを提案しております。 ○鎌田部会長 ただいま御説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○大島委員 まず,(1)の職業別の短期消滅時効の廃止についてでございますが,以前も申し上げましたとおり,商工会議所に債権回収についての相談に来られる事業者の方々からは,当該債権の時効が何年なのかという問い合わせを受けることがございます。現行民法で職業別に時効期間が細かく定められていることが,制度を分かりにくくしている一因ではないかとも思われますので,現行の短期消滅時効を廃止して,時効制度を分かりやすくするという方向性については賛成したいと思います。   続きまして,(2)の債権の消滅時効における原則的な時効期間と起算点についてでございますが,主観的起算点を導入する乙案については以前から申し上げているとおり,起算点がいつであるか,判断が難しくなり,時効期間の完成時期をめぐって紛争が頻発するおそれがあると存じます。また,不法行為に基づく損害賠償請求権の主観的起算点は,被害者の救済の観点から運用されているものと理解しております。不法行為では加害者や損害の発生が分からないことが多いことから,被害者を保護するために主観的起算点から起算する意味があるのであって,この点,取引債権の場合とは異なるのではないかとの意見が商工会議所にはございました。こうしたことから,甲案の客観的起算点を維持する方向性を支持したいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○佐藤関係官 (2)の点について一言,申し上げたいと思います。申し上げる趣旨としましては,甲案,乙案,どちらかという二者択一の話ではないんですが,実例を見ますと,10年間という消滅時効の期間,これをそのまま存置するというような考え方もあるのではないかという観点から,発言をさせていただきます。   具体例で申しますと,金融の世界におきまして,破綻した金融機関の旧経営陣の責任追及ということが裁判手続を通じて行われております。過去の裁判例を見ますと,10年ほど前の不正融資事件の責任追及という例,これが多数,見られる状況にございます。その背景としましては,やはり金融の関係は非常に複雑でございますので,不正が隠蔽されていたり,あるいは不正が発覚した後にも訴訟を提起するためには,それなりの期間を要するといった事情があるのではないかと推察されます。   ほかにもこれに類似するような例があれば,民法の世界で十分考慮すべき点かもしれないと。他方,こういう役員の責任追及という点に焦点を当てるとするならば,これはむしろ例えば会社法等の特別法で検討するような事項なのかもしれないかなと思っております。ただ,具体的な実例を踏まえまして,こういう10年ほど前の不正融資事件の責任追及というのが,単純に10年の消滅時効期間が短縮化されますとなかなか追及ができないというような観点から,問題が出てくるということがあると。それについて問題提起をさせていただきます。 ○岡田委員 消滅時効に関しては消費者からしましても債権者の立場であれば長いほうがいいし,債務者の立場であれば短いほうがいいということになりますが一般的に消費者の場合は債務者になる場合が多いものですから,その意味で消滅時効期間を長くするということに関しては,賛成はできないと思います。   甲案に関しては,そういう意味ではちょっと期間がどのくらいになるかということがありまして賛成できないし,あと,乙案に関して,元本の一定の額というのが大体どのくらいになるのかというのがここで読めないものですから,もろ手を挙げて賛成とは言えないのではないかと思われます。それから,丙案に関して消費者契約に基づく場合は例えば3年と書いてあるのですが,確かに消費者と事業者を仕分けしていただくという部分に関してはいいのかなと思いますが,どうも個人的にはこういう形が民法の中に入るというのはどうなのかなと思うのと,一番消費者に関係があるのは2年間の物の売り買いとか,その辺なので,それが3年に延びるというのは今より1年延びることで不利になります。   それから,1年の動産の損料ですが,これはビデオレンタルのところで使うということを前にお話ししたと思いますが実は,これ自体も消費者にはもちろんですが,事業者でも理解していない場合が少なくありません。2年も3年もたってから,膨大な金額のレンタル料を請求してきたが消費者は返した記憶があるという事例が多く寄せられるようになったころに,相談員の研修でこの動産の損料という消滅時効が使えると知らされて,消費者センターが使い出したのですが,事業者を説得するということが容易ではありません。   つまり,返したという証拠が手元にないものですから,その辺で紛争になるので,その場合も二泊三日で幾らというのを1年分,請求されるというのがありまして,結局弁護士さんに対応してもらうことになります。この1年の動産の損料というのは唯一のよりどころではあるという部分で,相談員のほうからは,これは残してほしいと,いう声があります。 ○岡本委員 (1)と(2)について申し上げたいと思います。   まず,(1)の職業別の短期消滅時効の廃止についてですけれども,アについては賛成できると思います。それから,現行の短期消滅時効の規定を削除するとした場合に,それに代わる新たな短期の消滅時効を設けるかどうかについてですけれども,時効制度の存在理由との関係で考えていく必要があるのではないかと思いまして,一読のときに申し上げたように弁済の証拠の保存の負担から債務者を解放すること,これを中心に考えるのがいいのではないかと思っているわけなんですけれども,その観点からいたしますと,債権の内容によっては債務者に弁済の証拠を保存させるべき期間に,長短があり得るのではないかと考えているところでございまして,そういった意味では,現行の短期消滅時効の規定に代わる新たな短期消滅時効を設けるということも,考えられていいのではないかと考えます。   ところが,一方では具体的にどういう制度がいいのかということになりますと,なかなか難しいところがあるように思いまして,乙案みたいに金額で決めるというのも一つかなとは思いますけれども,記載されていますように債権を小分けにしたときとまとめたときで,消滅時効期間が変わってくるのはどうかというふうな問題がありまして,そうすると,一個の債権というのを何か規範的に考える必要が出てくるのではないかと思うんですけれども,明確性という観点からは欠点だというふうな感じもしますし,それから金銭債権以外の債権の扱いをどうするのかといったことも問題になるように思います。   それから,丙案,これにつきましても既に指摘されている問題点のほかに,消滅時効期間を短期化いたしますと,その短期間の間に債権者の権利行使がより過酷になる,あるいは時効中断のためにドラスティックな手段をより早い段階で取ってくるという影響もあるのではないかと思いますので,必ずしも短期化することが消費者保護に厚くなるかというと,そうでないケースもあるのではないかと思います。   それから,(2)の原則的な時効期間と起算点についてですけれども,まず,起算点の原則について主観的起算点を併置する乙案,これについては反対したいと考えます。併置するということの意味なんですけれども,部会資料の6ページの説明からいたしますと,主観的起算点,それから客観的起算点の時効期間の満了時点のいずれか早いほうで時効が完成するという意味だと思いますけれども,先ほど申し上げた弁済の証拠の保存の負担からの債務者の解放という存在理由を考えたときに,存在理由との関係がいま一つよく分からないように思います。消滅時効の存在理由について,先ほど申し上げたような考え方を採るとすると,債務者にとっても明らかである客観的起算点から起算される時効期間は,弁済の証拠を保存すべき期間であると考えるのがいいのではないかと思いまして,そういたしますと,その期間内については債務者に証拠を保存させればいいのであって,その期間が満了する前に消滅時効を完成させる必要はないのではないかということです。   不法行為債権については,先ほど大島委員からもお話がありましたように,被害者が損害や加害者を知らないこと,これも類型的に多い,そういった債権だと思われますので,主観的起算点を併置するという考え方も理解できるところですけれども,そうではない契約による債権については,必ずしもそうとは限らないと思いますので,そういった主観的起算点を併置することを一般化することには疑問があると思っております。   ちょっと長くなって恐縮なんですけれども,主観的起算点を併置すると起算点についての判断が難しくなるという意見に対しましては,現在でも不法行為債権については併置されているのだから,支障はないのではないかというふうな指摘もありますけれども,不法行為債権で主観的起算点がいつかをめぐって争いになることも十分あるわけでございまして,そういった争点を一般化して,契約による債権についても広げるといった必要はないのではないかと考えております。   一方で,債権者の権利行使の機会を実質的に保障すべきであるという考え方自体は理解できるわけですけれども,そのための方法としては,主観的起算点を併置するという方法に限らないのではないかと思います。甲案は客観的起算点について,現行法を維持するという提案でございますけれども,客観的起算点につきまして債権の性質とか,あるいは契約や制度の趣旨などから,客観的に権利行使を期待することができる時と改めるということも,別案として検討されていいのではないかと思います。最高裁の供託物の取戻請求権の判例ですとか,あるいは自動継続型の定期預金の消滅時効の起算点について,これに似たような考え方が採られているのではないかと考えます。   それから,次に甲案の時効期間を比較的短期とするというところなんですけれども,ここは起算点をどこから起算させるかというところとの相関関係があるんだろうと思うんですけれども,仮に現行の短期消滅時効に代わる短期消滅時効を設けるのであれば,原則的な時効期間を短期化する必要もなくなってくると思いますので,現行の短期消滅時効制度に代わる制度を設けるかどうかという問題とも関係してくるものですから,それとセットで考えていく必要があるのではないかと思います。一方で,商事時効は現在でも5年ということになっていまして,それで不都合は生じていないものですから,それと合わせるということなら,それでもいいと思いますけれども,民事時効も短期化されたのだから,短期決済すべき商事時効は5年より更に短期化すべきだという議論につながっていくようなことがあるとすると,短期化には反対したいと考えます。ちょっと長くなりましたけれども。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○朝倉幹事 私も,(2)の乙案の主観的起算点について,大島委員と岡本委員のおっしゃられたことと重なるかもしれませんが,補足して申し上げたいと思います。不法行為の分野では,主観的要素を起算点とする時効期間があるわけですけれども,裁判実務ではこの主観的要素の起算点をめぐって争点になることが多く,裁判官から見ると言わば争点の定番になっておりまして,これをめぐって,それなりに審理が長期化するという要因になることが少なくございません。   今般,このような規定を債権関係の分野に設けるとしますと,契約に基づく本来の請求権以外にも,債務不履行に基づく損害賠償ですとか,事務管理,不当利得といったものの訴訟で,この点が同様に一つの主な争点となって,現状に比して解決への時間的な,若しくは経済的なコストが掛かることになる可能性が大きいのではないかと思うところでございます。理論的な問題もいろいろあろうかと思いますが,現実の問題がどのように解決されていくかという場面において,そのようなコストを当事者に引き受けさせることがよいのかどうかと。逆に言えば,紛争当事者が引き受ける覚悟をしているのかということも含めて,私が言うことかどうか分かりませんが,十分に検討していただければと思います。 ○能見委員 (1)の職業別の短期消滅時効の廃止に関しては,私もこれ自体については基本的には賛成です。ただ,これを廃止して,その後,どういう時効制度にするのか,これは一般的な時効,すなわち現在の10年の時効も含めてですけれども,やはりどのような消滅時効制度の全体像を描くかを考えなくてはいけないわけですが,私としては短期の消滅時効を廃止して,それの代わりというのか,それまでの短期の消滅時効の受皿としては,一つは商法の商事の消滅時効で5年を考えればよいと思います。   ただ,商事の時効は,民法の短期の消滅時効の全てをカバーするものではなく,範囲がかなり限定されていますので,例えばこの資料で提案されている甲・乙・丙案のどれにも該当しませんけれども,事業者間の債権の消滅時効を5年にするとかいう形で,現在の170条以下の規定をそこで受け止めるというのが一つの考え方だと思います。ただ,それでまだ入らないものもあるとは思いますが,そこで,丙案を存置するということも考えられるかと思います。要するに,短期の消滅時効というのを廃止して,一つは商事の消滅時効,それでカバーされないような事業者間の債権については新たに5年の時効というものを新設し,それから消費者関係のもの短期消滅時効を考える。こんなもので現行の職業別短期消滅時効を受け止めたらどうかと思っております。こう考えますのは,やはり本来の基本的な時効期間は余り短くすべきではないと考えるからでありまして。私は個人的には10年を維持するのが適当だと思っておりますけれども,そこで,今述べたような全体像を描いたらどうかということでございます。 ○山野目幹事 1の(1)の論点でございますが,アの御提案に賛成いたしますし,イのほうについては甲案を支持いたします。乙案,丙案が,部会資料での指摘や幾つかの御発言にあったとおり,合理性がないと考えられ,他に説得的な提案も見出し難いように感じられますところから,甲案がよろしいであろうと感じます。この点は簡単に述べさせていただきます。   むしろ,(2)のほうについて意見を申し述べさせていただきたいと考えますが,現行166条1項の権利を行使することができる時という文言は,市民から見た分かりやすさという観点から眺めます際に,その意義を平明に伝えていない憾みがあると感じます。あり得る日本語の一つの受け止め方といたしまして,権利を行使することができる時とは,権利を行使することができることを知った時にほかならないと読む人がいたとしても,それを一概に非難することができるものであろうかということを感じます。   私たちは法学教育の中で,そのような理解が誤りであって,権利行使について客観的に見て法律上の障害がないことであると,伝統的には理解されてきたという説明を補っているものですけれども,そのこととて判例の実際の運用を見てみますと,例えば生命保険金請求権の消滅時効を遺体発見の時から起算すべきものとした判例,平成15年12月11日の最高裁判所判決でございますが,そういったものがあるなど,客観的ということにつきましても,法律上のということにつきましても,実は微妙な扱いをされる場合が出てきております。   このように考えてまいりますと,幾つかの観点から現行法の文言が既にコミュニケーションの力を失っていると考えざるを得ないように痛感するものであります。乙案は,この問題に正面から取り組もうとするものでありまして,このようなアイデアを引き続き一般に問うてみたいという気持ちを抱きますし,また,岡本委員から御提案があった権利行使についての客観的な合理性といったようなものを法文に書き表すことが簡単にできるかどうか分かりませんけれども,そういったものも視野に含め,引き続き可能であれば,この時効の起算点について,よりコミュニケーションの力を持った規律,法文の模索の在り方が続けられてよいのではないかと感ずる次第でございます。 ○中井委員 (1)と(2)の議論の仕方について,一言,申し上げておきたいと思います。これは第一読会のときにも意見をしたところですが,今回の資料の3ページから4ページにかけて,まずは短期消滅時効についての廃止の当否を論じて,それをまず先決問題として次を論じなければ無駄になるといいますか,議論を混乱させるとお書きになっていますけれども,それは違うのだろうと思っています。ただ,部会長が,(1)と(2)を併せてここで提示していただけたところで,実質,その問題は解消されておりますので,それ以上のことは申し上げません。   申し上げたいことは,本来的な時効期間をどうするのか,若しくは起算点をどう考えるのか。それをまず議論すべきなのだろうと思っています。その点について,弁護士会の圧倒的多数は,期間については10年を維持すべきであるという意見です。ここは,実務上の要請として,日々,弁護士が感じているところから10年を維持すべきだという意見なのではないかと思います。   先ほど金融庁の佐藤関係官がおっしゃられたように,佐藤さんの領域の中でいうならば,金融機関の取締役の責任追及の訴訟において10年というものが仮に短期化するならば,その権利行使が極めて困難になる場面というのが想定されるという御趣旨ではなかろうかと思います。例えば医療過誤や,労災事件における安全配慮義務違反を考えると,このような債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟を念頭に置いたときに,この10年が短期化すること自体,あってはならないことだという基本的認識が弁護士の中にあるのだろうと思います。そこから民事時効については10年を維持すべきであると考えています。能見委員がおっしゃられた,基本的に現状を変えないというところにも相通ずるものと理解をしております。   起算点につきましても,現行の権利を行使できるときからというものを維持する。ただ,この点は先ほど山野目幹事から,また岡本委員からもありましたように,現在の理解がこの言葉からそのまま分かるのか,若しくは共通の認識として純粋に客観的起算点として認知されているのかといえば,そうではなくて,必要に応じて主観的要素を入れるなりして,権利救済を図る実務が行われているのではないかと認識しています。   したがって,権利を行使できるときという言葉を仮に変えるとすれば,かなり慎重でなければなりません。これを維持するとすれば,これまでに判例で形成されてきたところも加味して,客観的と言いながらも,そこに主観的要素を考慮し,岡本委員はこの言葉から更に権利を行使することが期待できるときという,研究会試案の言葉への変更可能性も御示唆がありましたが,基本枠組みは現行法を維持すべきでないかと考えております。現行法の枠組みは維持するという中で,職業別短期消滅時効を残すんですかという問い掛けが更になされるのだろうと思います。   その問い掛けに対しては,この制度自体合理性に欠くものであるという点については,検討資料の記載と認識を一にしております。その理由として,職業別だからおかしい,職業別,他の職業との対比であるとか,その差の1年,2年,3年の合理性が認められない,こういうところについてはそのとおりだと思います。他方,170条2号の工事の設計施工又は管理を業とするものの工事に関する債権,つまり,工事に関する債権が果たして3年でいいのか,若しくは173条の1号,いわゆる売買代金債権が果たして2年でいいのか。これが普通の商事債権と異なって,これだけ短いものを定めなければならないのかということの実体的な合理性について疑問があるのではないかと思っています。いずれにしろ,職業別の短期消滅時効について廃止するという点では,私も賛成をしたいと思います。   では,それに代わるものをどう考えるのか。原則論を従来どおり権利を行使できるときから10年とした場合に,これら短期消滅時効を廃止したら,どうすべきなのかという問題提起に応える必要があるわけですけれども,短期を廃止したから,一般的消滅時効の期間を短くするという発想はおかしいだろうと思っています。   そこで,現行法はどういう解決がなされているかと考えたときに,先ほど能見委員がおっしゃられましたけれども,少なくとも商法,商行為に関しては5年という枠が掛かっています。先ほどの例えば工事代金債権,売買代金債権を考えたときに,5年が短期から長期になったとして違和感があるのか。商行為に基づく債権は基本5年ということがむしろ明確に,一律に解決できれば,先ほど岡本委員がおっしゃられたように経済界においても統一的処理ができて,特段,事務負担,コスト負担が増えるわけでもなく,安定的な理解が進むのではないか。とすれば,短期消滅時効を廃止して,現行法の中での最も多く使われている5年ということで足りるのではないか。要するに10年と5年になるわけですけれども,民法のレベルだけから言えば,現行法どおりで別段,困らない。   更に,これも能見委員から御示唆があったことに,私も共感するところがありますが,商行為で限るとすると漏れるものがある。それは組合とか,公社とか,商人でない事業者が行う債権について,商法に任せておいていいのか。そこは一定の範囲を拡大することによって,先ほど能見委員は事業者間とおっしゃられたのかと思いますけれども,事業者間の債権については5年という形で,10年から5年に一定の範囲は短くする。このような考え方はあり得るのではないか。そのように考えております。   ○鎌田部会長 先ほど消費者との関連で,岡田委員から動産損料の1年と,商品の売買代金債権の2年も有用だという御意見があったのですけれども,そういう点については,中井委員,いかがでしょうか。 ○中井委員 確かに,これが5年になると,先ほど来の問題については解決し難いところがあるなと,岡田委員のお話を聴いて感じました。そうだとすると,その部分について何らかの手当てを必要とするのか,若しくは,事業者間取引を5年としたときに,事業者から消費者に向けての債権に限っては,3年という(1)の丙案がそこに組み込まれるという,そういう考え方があり得る。それであっても岡田委員の1年より長くなるわけでして,果たして3年でもいいのか,そういう特殊分野について別途の考え方を持ち込む必要があるのか。その必要性については,更に慎重に検討しなければならないのかもしれません。だからといって,全部を短期化するということについては,賛成できないということを重ねて申し上げたいと思います。 ○松本委員 引き続き(2)なんですが,この問題を考えるときに,債権の消滅時効という問題の立て方をしているというところに,ちょっと注意をしなければならないと思います。債権の中でも不法行為については別のルールがあるから,今回はそこは直接はいじらないと。それでも,債権といいますと契約上の債権,不当利得,事務管理と三つがございます。契約上の債権についても本来的な履行請求権の部分,貸したお金を返せ,代金を払えというものと,それから先ほどの医療過誤だとか,積極的債権侵害というような拡大損害的なもの,不法行為に大変近いものとでは,相当,状況が違う。   そういう契約以外の債権,それから契約の中でも幾つかタイプがあるのではないかということを前提にして,甲案,乙案を考えると,事務当局としては恐らく甲案より乙案のほうが,何か現行法に近いという整理をされているかのような気もするんですけれども,乙案の債権者の主観的事情を考慮した短期の部分というのは契約上の債権で,かつ本来的な意味の履行請求権であれば,これはもう最初から分かっているわけですから,現行法の客観的な起算点と変わりはないわけで,結局,現行法の客観的起算点からの時効期間を3年,4年,5年と短くしましょうという提案に過ぎないわけです。そこをまず考えなければなりません。   不法行為とか積極的債権侵害の場合であれば,実際に損害を被ったかどうか当初は分からないという状況でその後ようやく分かって,それから何年か権利行使できるから,結構,長い期間というような印象も持つかもしないんだけれども,本来的な契約債権に関してはうんと短縮しようという提案であると。この点自身をまず切り出して,是か非かを考えるというのがまず必要ではないかと。つまり,契約上の給付請求権については客観的起算点から起算をして,一気に短縮するんだという提案をどう考えるのかということです。   次に,契約上の債権であっても,積極的債権侵害型,拡大損害型のようなものについて,どう考えるのが適切かということ。それから,更に例えば不当利得について,債権の消滅時効ということで同じルールを当てはめていった場合に,それで適切なのかどうかというところがあります。例えば給付利得で考えると契約上の請求権の裏返しですから,かなり近いところがあるんですが,侵害利得で考えると不法行為あるいは物権侵害に大変近いわけなので,不当利得の類型論からいくと,不当利得の時効について一律,何かで決めるというのは,余り適切ではないという考え方も出てくるかもしれない。私は,不当利得の細かい議論が順調に進めばいいわけですけれども,そこがきちんと進まない場合には,余り不当利得にまで影響が及ぶような改正,書き振りにはしないほうがいいのではないかと思います。   だから,ここでは取りあえずは契約上の請求権について,その中でも履行請求権と,それから,それ以外のタイプのもの,不法行為に近くて不法行為に基づく請求と両方で請求されることが多いタイプのものについて,少し分けて考えたほうがいいのではないか。その上で,一本化できるのであれば一本化するし,できないのであればできないでよいという感じかなと思います。 ○中井委員 今の松本委員の御示唆との関連で,先ほどの私の意見を補充しておきますと,契約に基づく本来的請求権についても,弁護士会の意見としては現行法どおり10年です。実務の中で,この10年という期間は基本的に必要であるという認識をしております。   本来的債権でそれほど長い必要はないではないかと想定されるのは,先ほど申し上げました商行為に基づく債権等であって,これらは5年に現在なっているわけです。その5年で特段,不都合が生じているとは思わないし,これで長過ぎるという批判を聞いたことはない。問題があるのは,商人ではない事業者について,従来どおりの10年でよいのかというと,事業者が事業に関連した債権であるとすれば商行為債権に近づくので,この点については5年という枠組みが機能するのではないか。これが本来的債権についての理解です。   債権侵害等の拡大された債務不履行に基づく債権,損害賠償請求権はどう考えるか。これについても現行法どおり10年であると考えるわけですけれども,ここは起算点が問題になってくる。権利が行使できるときという起算点が損害が発生したときであったり,損害と違法性を認識できたときとされるならば,行使が期待可能になったときという形で,現行法の権利が行使できるときということが柔軟に解釈されて,債権者の権利保護がなされる。この点について期間を短期化する必要性は,役員の責任追及,医療過誤事件や労災事件等,契約に基づく損害賠償請求事件一般を通じて短くする必要はないのではないか。 ○能見委員 松本委員の整理されたように,いろいろな債権があるというのは全くそのとおりで,いろいろ考慮しなくてはいけないんだと思いますけれども,私は基本的には本来的な債権,すなわち履行請求権と債務不履行の損害賠償の請求権などを別の時効期間に係らせるというのは制度が非常に複雑になるし,権利行使の観点からも分かりにくくなって適当ではないと考えます。そこで,両者は一体として同じ期間で考えるべきだと思います。その期間自体は,私自身は10年であるべきだと考えておりますが,それが第一点です。   それから,(2)の甲案と乙案で,乙案について松本委員が御指摘になられましたように,ここで書いてある考え方というのは,一方で長期の時効期間というのを設けたとしても,主観的な事情を考慮して,より短い時効期間でもって時効が完成するという制度をここでは考えているわけで,それは松本委員が言われたように要するに普通の履行請求権で考えれば,短い時効期間を考えようという案だと私も理解しました。ですから,乙案については,このままの形では私は賛成はできません。   仮に客観的起算点のほかに主観的起算的を考えるとしてあり得る制度は,もう一つ別の,丙案というものが考えられます。これに私は積極的に賛成するわけでは必ずしもないんですが,仮に一般的な時効期間が短い期間で5年ぐらいになったときに,その5年の時効について主観的な事情を考慮して起算点を考えることで,起算点を遅らせることがあるかもしれないと思っております。しかし,今も言いましたが,一般的消滅時効を5年に短くしてという前提の部分は,私自身は必ずしも賛成しませんので,今述べたことは起算点をどう考えるかというときに,今のようなこともあり得るという程度の発言として御理解いただければと思います。 ○佐成委員 今までいろいろ議論をお聴きしていて,再考に価すると感じた点もございましたが,先般内部で議論したときはこの資料の作り込みの形で議論しましたので,ひとまずその結果を報告します。基本的には短期消滅時効制度そのものを廃止し,時効期間を短期化するという方向での賛成意見が多くありました。確かに,今,おっしゃるとおり,10年というのをある範囲で存置するという考え方もあり得るのかなとは感じた次第ですけれども,現時点で念頭においている考え方は,単純に時効期間を短期化するとか長期化するとかの話というよりも,まずは複雑な時効制度を何とか単純化して,統一化して実務面の事務処理の効率化を図ることや,あるいは国民一般に対する分かりやすさを高めることには相当メリットがあるのではないかということでございます。そういう認識に基づいて,(1)であれば廃止する方向で,イについては基本的には甲案を採り,(2)については甲案を採って短期化していくという形で一貫させることを,経済界では考えておりました。   ただ,今,お話をいろいろ伺っていて,10年というのをある範囲で残すとか,あるいは短期時効の一部分について何か特別の手当てをしていくということについては,考え得るのかなという気はしております。ただ,一般的に言って,特別法でも短期時効というのはいろいろ定められており,いろいろなフォーラムで適切に議論はされているわけですから,一般法の中で余り細かいところまでやってしまって分かりにくくするのは,かえって個々のフォーラムで適切に議論していく上で,障害にならないのかなという気がしております。特に内部での議論で出てきたのは労働基準法の115条とか,あるいは保険法の95条ですが,そのほかにもいろいろあるだろうと思いますので,そういった特別法への影響が懸念されます。また,短期消滅時効制度の焼き直しみたいなものが再びできてしまうと,いろいろな面で混乱や複雑化が新たに生してしまうのではないかということが指摘されておりました。 ○岡田委員 (1)で私は言葉足らずだったのですが,私の周りでは,現状維持という声がありました。ただ,今の短期消滅時効という170条からのというのは,やはり実態に即してはいないものも少なくないと思いますが,先ほど言いました1年の部分に関しましても一つだけにしろ,使われているものがあるわけですから一気に5年と延ばすことにことには賛成しかねます。この中でいえば,やはり乙案が消費者の立場からすれば,賛成できるのかなという感じです。   それから,(2)なんですが,甲案は5年ということになりますから,乙案では,10年というのも残るわけですから乙案に賛成したいと思います。   それから,不法行為のところもよろしいんですか。 ○鎌田部会長 取りあえず,(2)までだけでお願いします。 ○佐成委員 今,岡田委員が御指摘された急激に5年にすると長期化するという点については,十分な経過措置を考えておくことで足りるのではないかという意見もあり得ます。むしろ,確かに,そういった急激な変化というデメリットはあるとは思うのですけれども,先ほど申しましたとおり,実務面での事務処理の効率化とか,あるいは国民一般への分かりやすさといった面のメリットが相当大きいと思われますので,何とか,そこは経過措置でカバーするという形で,できるだけ統一的で,単純な時効制度にしていきたいというのが実務界の一般的な声だと思います。 ○鎌田部会長 先ほどの岡田委員の(1)のイは乙案がというのは……。 ○岡田委員 アの削除に対して維持したいという意見が強いが,アが通るとすればイ案ではということです。 ○鎌田部会長 乙案と丙案では,乙の金額基準のほうがいいという趣旨なのか,あるいは2年と3年では2年のほうがいいという趣旨,どちらの意味で。 ○岡田委員 イの部分に関しては乙案の一定の金額にもよりますが,中では消費者は救われるかなと思ったのです。 ○鎌田部会長 それは,金額を基準に考えるから救われると考えることなのか,2年だからということなのでしょうか。 ○岡田委員 すみません。言葉足らずでした。現在の2年の消滅時効の対象を考えると2年が現状維持に近いように思いました。 ○鎌田部会長 そうですか。分かりました。 ○岡委員 中井さんの意見とほぼ同じでございます。ただ,観点を変えて弁護士会の意見を言わせていただきたいと思います。まず,消滅時効の制度が何なのかと。権利を消滅させる理由が何なのかというところにおいて,権利の上に眠る者を保護しないとか,知ってから3年ないし5年間,行使しなかったら相手を保護していいんだとか,それにはなかなかついていけない。やはり,権利がある以上,権利を立証できた以上,それが行使できるというのが原則ではないか。それを一定期間の不作為で消滅させるとすれば,長い期間が原則であるべきであろう。そういうところから10年の時効消滅期間の原則は維持すべきでないか。しかし,全部がそれでは確かに不都合も生じるでしょうから,商行為,商事債権について5年というのが100年ぐらい続いているわけですから,商事債権,事業者にとっては迅速性重視というのも分かりますので,商事債権についての5年というのは10年の特則として残すと。   それから,現行法にある特別の短期消滅時効についてはごちゃごちゃしているので,それは削除するので結構であると。では,それも全部,5年,10年に飛ぶのかといったら,そこは弁護士もいろいろ考えるところがございまして,全部飛ぶのでいいという(1)の甲案を主張する弁護士もいらっしゃいます。   一定の日常生活に起因する債権について短期の特則を置くべきという意見もありましたが,それは立法技術上,難しいかなと。そうなると,やはり丙案の消費者に対する債権を3年というのであれば,かなり類型化されて分かりやすいのではないかという声がございまして,10年が原則で,商事債権の例外が5年,それに対する更なる例外をいろいろ考えるべきだろうけれども,現時点では消費者に対する3年,これの3段階ぐらいがすっきりしてよろしいのではないかというのが最終結論でございます。ただ消滅時効で権利を消す理由は何かの整理をきちんとしないと,国民に対しても説明がつかないのではないか。弁済の証拠の保全からの解放というのも,何か分かったようで分からない。やはり権利がある以上,証明できる以上,行使させたらいいのではないかというほうが正義観念としては強いと思われますので,10年,5年,3年を前提にするけれども,もう少し何で消えるんだという説明をパブコメのときにはきちんと整理し問い掛けたほうがいいのではないか。そう思います。 ○道垣内幹事 10年にすべきか,5年にすべきかということについて定見はないにもかかわらず,岡委員の御発言に対して細かい点にかみ付いて申し訳ないんですが,債権者が権利の存在を証明するという構造には,現在,なっていませんよね。つまり,弁済をしたということは,債務者の側で立証しなければいけないと解されているということは,権利の存在を債権者側は証明しているわけではないわけであり,それが現在の状況だと思います。だから,5年などという意見も出てくるのであって,岡委員の御発言は必ずしも適切な反論にはなっていないと思います。 ○岡委員 弁済しているから消滅で,普通の場合は弁済もなく,権利行使もせずに時間がたっていて,それで消滅時効が使われる場合が多いのを念頭に置いてしゃべったつもりなんです。 ○道垣内幹事 そうすると,岡委員の御発言は,請求していく債権者は誠実な人であるということを前提にしているわけであって,そういう前提が取れるかというのが問題ではないでしょうか。 ○岡委員 誠実な債権者も必ずいるわけで,その人の権利を奪うのはいかがなものかという思いを持っております。 ○佐成委員 一言だけですけれども,岡委員の時効制度の趣旨をはっきりさせるべきだという御発言につきましては,これまでの部会での議論の中に出ている考え方だけではなくて,ほかにもいろいろな考え方があり得ます。例えば,不安定な状態で権利関係を存続させておくということそれ自体が,いかがなものかといったような考え方,要するに,その気になれば行使できるものを行使しないままでいつまでも放置しておくことを制限なく許すということは社会的に見てどうなのかという,社会全体の安定性の確保といったような議論もあり得ると思います。そこをこの部会の中できっちりと合意を取るというのは,不可能ではないかということでございます。 ○松本委員 二点ほどあるんですが,一つは岡委員のおっしゃった10年,5年,3年という3段階というのは,それなりに分かりやすいかなと思うんです。つまり,10年というのは一般だけれども,商人間の5年を抜き,それから消費者契約,つまりBtoCの3年を抜けば,CtoCが10年として残ると。CtoCが10年,BtoBが5年,BtoCが3年ということだから分かりやすいわけですが,例えば銀行ローンなんかで何千万円か借りているというのを短期で消してしまって,銀行さんは納得するんだろうかというような気も若干しますから,そうすると消費者契約であり,かつ金額が一定とかいうようなものに限定して,2年ぐらいにするというのは分かりやすいかなと思います。   今,1年で大変消費者保護に役立っている動産損料というのがあるから,不利益な変更はよくないとの主張があります。そうであれば民法に頼るんじゃなくて消費者契約法のほうに入れて,きちんと永続的なルールとしておいたほうがよい。何年間かの経過規定なんていうのは意味がないわけで,本当に必要であれば必要な法律に置くということにすべきだし,これ以外にも短期消滅時効で個別に本当に必要なものがあれば,それはそれなりに民法に置くよりは特別法のほうに置くという形のほうが収まりがいいだろう。民法ではせいぜい先ほどおっしゃった三つぐらいかなと思います。 ○岡田委員 今の松本委員の意見に期待します。是非,消費者法のほうでカバーしていただけるような方向にいってほしいと思います。 ○中井委員 (2)について。私自身は甲案を採った上で10年という現行法維持説ですが,乙案に反対する意見を補充させていただきたいと思います。これは,不法行為における考え方を借用しているというか,同じ枠組みですけれども,不法行為の場合は契約関係にない,全く見知らぬ当事者間での事案について,不法行為債権が発生したときにどうするかという問題で,被害を知って,加害者を知って初めて権利行使ができるから,そういう権利が行使できるような事由が整ったときから3年,これが大原則だろうと。   しかし,そのままにしておくと,いつまでたっても行使されるか分からないから,どこか客観的な枠をはめなければいけないということで,不法行為を基準にして20年と区切った,こういう考え方だろうと思います。それを契約に当てはめた場合,主観的というのは先ほど松本委員からも,また,かねてからも言われていますけれども,契約関係があるわけですから,本来的な債権関係については,全て主観的なほうで,3,4,5年のどれかになるのであって,そこで結果的に短期化が起こってしまうという点で賛成できない。   そこに客観的起算点から10年という枠組みを重ねるわけですけれども,これがどういう場面で契約の関係で機能するかと考えたときに,結局,本来的債権については,主観的起算点が適用されますから機能しない。どこで機能するかというと,権利侵害型の債務不履行に基づく損害賠償請求型です。そのときの客観的起算点は何を想定しているのかですが,この提案からは必ずしも分かりませんけれども,不法行為のときに不法行為のときからということに対比して考えるなら,債務不履行が生じたときからとするならば,弁済期から,若しくは医療過誤であれば医療行為をした日からということになるのではないか。   そうすると,不法行為であれば確かに見知らぬ人の間で起こった債権について,加害者と被害を知ったときから3年というのでは,いつまでたっても行使されるか分からないから,客観的な行為時から切ろうという,この考え方は分かりますけれども,契約の場面で双方当事者が分かっている場面で,そのような必要があるのか。しかも,債務不履行時からとすると,権利侵害型の損害賠償請求権が行使できない場面を生じさせるおそれが増える。つまり,原則論の甲案の,権利行使できるときからと比べて,権利行使できるときということが限りなく客観的に言われて,行為時若しくは債務不履行時になるのではないか。そういう意味で,権利侵害型の権利行使も困難にさせるおそれがあるのではないかという懸念があることも,反対理由です。 ○内田委員 弁護士会の御意見について御質問なのですが,中井委員の御提案と岡委員の御提案は若干違うように思います。客観的起算点から10年という現行法の原則を存置するのを前提とした上で,短期消滅時効を廃止したことの手当てとして何らかの別途の短期のものを併置する。その際に岡委員が商事5年を存置すると言われたのですが,現在の商法の商人概念を維持するという御趣旨でしょうか。日本の母法国のドイツで既に商人概念は変わり,ドイツと同じく商人概念を使っていたオーストリアも変わり,そして,日本でも恐らく商行為法の商人概念はいずれ再検討の課題になるだろうと思います。そのような状況の下で,現在の商法の商人概念をそのまま使って商事債権についての時効を存置するというのは,世界でもまれな法制になるだろうと思います。それがどう正当化されるのかということが気になりました。   これ対して中井委員のほうは事業者という概念を使われました。事業者間取引について5年という特則を置くという御趣旨だったと思いますが,そこでいう事業者というのは必ずしも営利という趣旨ではないだろう。そうなると収支相償うというか,公益的あるいは互助的な活動をしていても,収支がとんとんでマイナスにはならない活動をしているような団体も事業者に入ってくる。そうしますと極めて広い範囲になるわけですが,そういう事業者とそうではない私人間との債権とで,時効期間が極端に違うということをどう説明されるのか。その辺がよく分かりませんでした。 ○中井委員 私は先ほど事業者と申し上げて,商人間,商行為よりももう少し広い場面に広げたわけです。御指摘のとおり事業者になりますと,例えばマンションの管理組合なども入ってしまって,その限りでは広過ぎる面がある。ですから,消費者対消費者のみが10年で,限りなく消費者に近い,消費者概念でも常に問題になる弱い事業者そういう民法上の組合,事業者性の強くない管理組合,それも5年になるのではないか。そこのアンバランスを御指摘されているのではないかと思います。そのアンバランスについては理解しています。   10年全てということについて制約するとすれば,商人概念よりは広くした事業者概念があり得ますねというところまでを申し上げたわけです。その点で,岡さんはなお慎重に商人概念若しくは商行為概念を維持した御発言をされたと理解をしております。 ○内田委員 少し過激な言い方かもしれませんけれども,もはや論点整理の段階ではありませんので,こういう考え方もあり得るのではないかというよりは,やはり,具体的に御提案を頂いたほうがいいのではないかと思います。もし短期が置けないということであれば,現行法の10年を存置して短期消滅時効を全部廃止し,全て10年で一本化する,これは世界的には極めて例外的な法制になりますが,しかし,日本はそれでいくということはあり得る選択肢ですので,そうであれば世界に通用する論拠を示して,それを打ち出していくということは考えられると思います。しかし,どうなるか分からない,短期は何を置くか分からないけれども,とにかく10年存置だというのでは前に進みません。やはり具体的な案を是非,お出しいただければと思います。 ○能見委員 事業者間の債権については5年というのを短期の消滅時効を廃止した後の受け皿として,現在の商事の消滅時効を言わば補充するものとして置いたらどうかということを先ほど申し上げました。その関連で,今の内田委員の疑問に対して,私の見解を述べておきたいと思います。私としては,商事の債権消滅時効については特にいじるということではなくて,それはそれで生かす。170条以下の短期の消滅時効を廃止したときの受皿の一つとして,それが使えると考えています。しかし,商事の消滅時効の規定自体が今の内田委員のお話のように変更される可能性もあるというのであれば,これだけを民法170条以下の短期消滅時効廃止後の受け皿とすることは不十分で,その場合にどうなるかということも考えなくてはいけないのは,当然のことだろうと思います。   私としてはそのような場合も考えて,事業者間の債権について5年という提案をしたいと思います。そこでの考え方というのは,長期の10年の消滅時効というものを存続させるという前提ですから,事業者間についての5年の時効はこれに対する短期の消滅時効ということになるわけですが,そこで,なぜ,事業者間の債権については短期なのかということが問題となります。事業者間の債権という場合には,債務者のほうも事業者であるということを念頭にしていますけれども,弁済の証拠などについては事業者間が事業に関連して負った債務については,比較的にはきちんと弁済の証拠を持っているでしょうが,他方で,債権者のほうも事業に基づいて生じた債権であれば,一般の個人とは違って,比較的短期間に権利を行使するだろうと,仮に商人ではない非営利の法人が事業者に中に含まれるとしても,そういうことが言えるので,これが一応,根拠になるのだろうと思います。   消費者の債権ないし債務の場合は,ここは大変違っておりまして,消費者が債権者の場合にはなかなか権利行使ができないということもあるでしょうし,また,消費者が債務者になった場合を考えると,弁済の証拠というのはなかなか保存できないという状態もあって,ごめんなさい,今,少し違う議論が混じってしまいましたが,消費者が債務者になった場合については,私は先ほどの中井委員と同じように,もう一つ,3年ぐらいの短期の消滅時効を考えていいのだろうと思っておりますけれども,その正当化の議論の議論になってしまいましたので,話を事業者間の債権についてはなぜ10年の時効期間より短くてよいかということに戻すと,弁済の証拠もそれなりに保存されているので,余り短い時効期間を考える必要性は大きくなく,事業上の債権であれば債権者としての事業者は権利行使も比較的短期に行われるであろうということを考えると,事業者間の事業上の債権については一つ類型的に別な短期の消滅時効を考えたらいいのではないかと思っている次第です。   消費者ないし個人が債権者であって事業者が債務者の場合については,これは前回というか,第一読会でも預金債権などを念頭に,商法が適用される場合はともかく,10年の時効が適当だという考えを述べましたが,消費者ないし個人はそれなりに債権を管理している場合であっても,なかなか,普通預金なんかですと貸金の取立てとは違って出し入れをしなくても財産の管理としては正常なことなので,その意味で眠っている預金なども結構あるし,また,相続を介して消費者が預金を相続した場合も,名義書換も含め,なかなか権利行使ができないという状況も想定されます。そういうところでは権利を保護するという視点が重要なんだと思います。預金債権も,銀行に対する預金債権については,判例上は,商事の債権だとして5年とされていますけれども,信用金庫などに対する預金債権は,一般原則によって10年ですが,消費者や個人がそういう権利をなかなか行使できない状況があり,これを短期の消滅時効で権利を失わせるのは問題であり,できるだけ権利を保護するという基本的な視点から考えるべきではないかと思う次第であります。   それから,もう一つ別な視点ですが,時効という問題はある種の政策の問題だと思いますので,単なる理論だけではどうも決まらないところがあって,この審議会で余り政策の話はすべきではないのかもしれませんけれども,時効についてはある程度はしなくてはいけないのかなと思うのです。そして,政策の話をするためには,もうちょっといろいろなことを私としては知りたいと思っておりまして,ここでお願いしていいのかどうか分かりませんけれども,例えば私は銀行を別に恨んでいるわけでも何でもないんですが,ここでも銀行をターゲットにしますが,銀行が預金者の預金債権の時効期間が満了した場合に,どのような処理をどのぐらいしているのか,もし公表できるような調査が可能であれば,お願いしたいなと思っております。ただ,銀行の場合には,現在は商事の5年で時効に掛かると考えているわけですが,5年の期間は過ぎていても,一応,預金が存在する記録が銀行側としては確認できるときは,時効を援用しないという扱いをしていることも多いと思いますので,ですから,調査で出てくるものがどの程度,5年間の出し入れがないということで時効に掛かっているのかについての実態を反映するのか分かりませんけれども,少なくとも分かる範囲でもし教えていただければと思います。   これはなぜお願いするかというと,繰り返しになりますけれども,時効の問題というのはやはりある種の政策をベースにして判断せざるを得ないので,そのベースにしたいと。ただ,世の中の債権は別に預金債権だけではありませんので,もっとたくさんのものがあるわけですけれども,なかなか,そこまで調査することはできませんので,せめて個人にとって重要な財産である預金ぐらいは分かればと思う次第です。 ○山野目幹事 内田委員の先ほどの問題提起に触発されまして,少し性質の違うことを二点,申し述べさせていただきます。   一点目は,この後の検討の進め方のことでございますけれども,今般の債権関係規定の見直しにとって,消滅時効改革は極めて重要な,ゆるがせにすることができない論点であると感じます。私自身の(1)(2)の論点に対する態度は先ほど申し述べたとおりですが,そのほかにも,今日,御発言を頂いた委員・幹事の御提案は,一つ一つ口頭で伺っておりますと,なるほど,良い案であるとどれも感心してしまうのですけれども,文章にして,文字にして御提案いただかないと細部が分からないところがあるのではないかと感じます。   今日の議事録のみを後で眺めて,事務局の方に中間試案の作成に向けての仕事をしてくださいというのは,かなり乱暴な話であろうとも感じます。この問題は,分科会に委ねてしまえばいいという性質の事柄ではないとも感じますから,申上げましたように文章にした御提案を幾つかお出しいただいて,それらを踏まえて検討を進めていくという,何か,私には今,妙案はないのですけれども,良い方法がないものかということについて,部会長,事務局のほうで引き続き,御検討いただければ有り難いと感ずるものでございます。一点目,これは検討の進め方ということでございます。   二点目は,概念の用い方の関係で小さなことですが,そういうふうな文字にした,文章にした御提案をお願いする際に,お話を伺っていて少し気になったことは,事業者間の債権とか,消費者に対する債権とかいう言葉がかなり無造作に使われたのではないかという印象を抱きます。現在の商法522条は,商人の概念と商行為の概念があり,そして,商行為の概念の中に片面的商行為と双方的商行為があるという地図の中から,一定の態度決定をして規範を選んでいるものですが,それをヒントにして,事業者とか消費者とかいうふうな概念に移行していこうという提案はあってもよいと思いますけれども,事業者間の債権なのか,事業者間の契約に基づいて生じた債権なのか,それから両方とも事業者であることを意識しておっしゃっているのか,消費者についても同じ問題があると思いますけれども,商法のほうの概念整理が細密に行われていることに留意をして,こちらのほうの新しい考え方についても,そういった注意を払いながら,提案の細部を詰めていただくことが必要であろうと感ずるものでございます。 ○河合関係官 商法を所管する立場から,若干,議論をお聴きして整理という意味で考えておいていただきたいということがございます。今,山野目幹事からも御指摘を頂きましたことに関連しますが,商事消滅時効というのは,商行為によって生じた債権という行為を基準とした切り口をしております。先ほど来,御議論の中で,商人間とか,事業者間,BtoBという言葉が使われておりましたが,それが商人間等の主体を基準として切り分ける規律の方が望ましいという趣旨まで含まれているのか,それとも,商事消滅時効の現在の規律を前提に象徴的な意味で商人間等の御発言をされているのか,はっきりしていないように感じましたので,事業者に関する特別な規律について議論を進めるのであれば,場合によっては議論する際に明確にしていただければと思っております。 ○鎌田部会長 恐らく商事債権の概念を商人あるいは商行為ではなくて,事業者あるいは事業者による事業というのに置き換えるという趣旨で,お使いになっているのが大部分だろうとは承っておりますけれども,違うお考えもあろうかと思いますので,その点はまた御指摘を後ほど頂ければと思います。 ○青山関係官 似たような話で気になったのですが,消費者契約の丙案のところで出てくる概念について,当初は余り関係ないかなと思っておりましたが,よく考えたら,ここで言う消費者は債務から解放されるべき弱い立場の人という趣旨で使われていると思うのですが,消費者契約法がそうであるように,事業者を事業を行う者,事業の当事者でない個人を広く消費者という場合には,消費者概念が広くなってしまいます。ただ,それが全て債務から解放される個人であるとも限らない,特に私の担当する労働契約においては両者の関係は逆なのでちょっと気になります。もしこういう消費者契約の消費者という切り口で整理するのであれば,その定義の整理が重要と思って聞いておりました。 ○深山幹事 議論が出尽くした感もあるので簡潔にと思いますが,資料の甲案,乙案は,期間に関して,いずれにしても短期化する方向を示唆しているようなまとめ方になっているように読めるので,今日もそういう議論が出るのかなと思ったら,私の印象としては必ずしも短期化ありきという意見が強いとは感じなくて,むしろ,弁護士会は私も含めて原則10年,現行法維持ということは,弁護士委員が何度も発言しているとおりですし,ほかの先生方からもそういう意見があって,やや安心した感もあります。もっとも,内田先生がおっしゃった,他の法制との関係でいうと特異になるという指摘は,反対のニュアンスだろうと思います。ただ,弁護士会の多くの弁護士が現行法のままでいいと考えているのは,考えているというより感じているのは,時効期間に関して,商事債権を除く民事債権について10年で長くて困ったとか,不都合だったという感覚を持っていないからなんだろうと思います。   そういう意味でいうと,ここは理論的に何年が正しいということではなく,政策的観点あるいは社会的なニーズとして何年が妥当かということで判断すべき問題だと思いますので,現行の商事5年,民事10年というのを大原則にしてよいと思います。もちろん,若干の調整の要素はあり得ると思いますし,消費者契約の問題も含めてあり得るとは思いますが,短期消滅時効を廃止したとしても,原則10年,商事5年というのを変更すべきだと,短い方向に縮めるべきだというニーズを実務が感じていないのではないかというのが,今日の議論を踏まえても感じているところです。今後のまとめ方がどうなるのかなと思いますが,中間試案に向けて今日の議論を素直に反映すれば,必ずしも短期化の方向には向かわないのではないかなと感じておりますが,そうなっていただきたいということも,意見として申し上げたいと思います。 ○岡本委員 先ほど能見委員のほうから,銀行が預金の時効を援用している事例はどれぐらいあるんだろうかというお話がありまして,現状,そういった統計はどこの銀行も取っていないのかなとは思うんですけれども,私の経験からすると非常にケースとしては少なくて,そういう意味で,統計を取る意味もどれぐらいあるのか疑問だぐらいにしか,非常にまれなケースなんだろうと思うんですけれども,まれにあるケースにつきましても,預金を弁済したことはまず間違いないんだけれども,ただ,弁済した旨の証拠が見付からないというようなケースに,消滅時効の援用を例外的にやっているということだろうと思いまして,弁済していないのに消滅時効期間が経過したから時効を援用する,これはまずどこの銀行もやっていないのではないかと思います。では,どれぐらい事例としてあるのかということについては,今時点では資料がありませんし,聞いてみて分かるかどうかというところも分かりませんけれども,一応,持ち帰って聞いてはみようかと思います。 ○能見委員 私の認識でも時効を援用することはまずないんだろうと思います。私も実際,普通預金の5年以上経過したものを持っていって,銀行できちんと対応してもらいましたので,そういうことではないと思います。ただ,民法で時効期間として何年がいいかというのを議論するときに,銀行は通常は援用しないから,短い時効期間でも大丈夫ですよというような議論はできないのであって,やはり,権利として,一体いつまで主張できるのかという原則が重要かと思います。また,消費者というか,預金者のほうから期待できる権利行使といいますか,通常の預金者にとって5年ぐらいの期間であれば十分なのかどうか,私自身は銀行預金についても本来は10年が適当だと考えていますが,現在は商法の規定が適用されて5年とするのが判例の立場であるために,一応それを前提に議論していますが,そのため私の話の中でも5年と10年の話がごっちゃになっていますが,要は,通常の銀行の預金について消滅時効の期間が経過したという預金がどのくらいあるのか,消滅時効の期間を超えて預金の払戻しを求めてくるような預金者がどれぐらいいるのか,というのが一番私の関心事なので,恐らく,それはなかなか調査では分からないかもしれません。もし,分かったらというだけの話でございます。繰り返しになりますけれども,重要なのは援用でもって保護されるかどうかではなくて,時効期間として,このぐらいの期間は権利保護のために必要なんだと,その期間が何年なのかということにあると思います。 ○松本委員 何人分か前の内田委員の問題提起との関係なんですが,内田委員の御説明だと商行為法が間もなく変わりそうだということでしたが,そうなのか,そうでないのかによると思うんです。変わりそうもないのであれば,現在の商事消滅時効を前提にして,民事はどういった設計をすべきかという議論になりますし,商行為法ががらっと変わって商事の時効のルールがなくなってしまうんだということであれば,新たな制度設計をどうすればいいかを考えることになると思うんです。   取りあえず,すぐに変わらない,商行為法上の商事の消滅時効は残るという前提でいきますと,今の商事消滅時効は合理的かというと非常に合理的ではないですよね。銀行の債権は商人だから5年だけれども,信用金庫の債権は商人ではないから10年だとか,株式会社の貸金業者の債権は5年だけれども,個人営業の貸金業者の債権は10年だとかいう,全然,合理的でない区別をしているわけです。商行為法がそれを直さないのであれば,別のほうで直していく必要があるだろうから,そうなると先ほどから出ています商事の5年の部分に,もう少し民事のほうから見て同じ流れになるものを並べるという意味では,事業者という概念を使って事業者間の契約から生じた債権,あるいは事業者と消費者との間の債権といったものを5年のほうに入れていくという整理の仕方は十分あると思います。   ただ,内田委員がおっしゃったように日本の事業者概念,消費者概念というか,消費者契約法の消費者概念,事業者概念は非常に特異な概念です。消費者の範囲が非常に狭くて,消費者でなくなった途端に全員が事業者になるというとんでもない仕組みなのです。恐らく消費者でも事業者でもないような組織というのが実際にはかなりあるんだろうから,それはそれで認める,あるいは引き算のやり方でないような消費者契約法の適用ルールを考えるというのが一つ必要だと思いますが,その上で先ほどの消費者契約的なものについて,更に商事の5年より短い消滅時効期間のルールを設けるべきか,設けるべきでないかというのを次のステップとして議論すればいいのではないかと思います。   そういう意味では先ほども言いましたが,事業者の消費者に対する債権であって,金額が一定以下のものなんかは,かなり早い段階で時効で処理してもいいのではないかと思います。逆に,能見委員のおっしゃっておられるような消費者の事業者に対する債権を,それが商行為であるからということで,どちら向きも今は5年で消滅させているわけですが,向きによって消滅時効期間を変えるというのも,商行為法の改正まで踏み込んでよいということであれば,考えられなくはないと思います。言い換えますと,商行為法が残るのであれば,事業者,消費者という枠組みによって,それを補充するようなルールを民法にもう少し入れる形で,短期消滅時効の廃止の代替を考えるというのが妥当ではないかと思います。 ○岡本委員 先ほどの能見委員のお話を私はもしかしたら誤解したのかもしれないんですけれども,銀行が預金の消滅時効を援用している事例がどれぐらいあるかということではなくて,預金者が時効期間を経過した後に預金の払戻しの請求をしてくる事例がどれぐらいあるか,こういう点ということでよろしかったでしょうか。 ○能見委員 一番の関心事はこの時効期間が何年ぐらいが適当かということですので,本来はそれを聞きたいわけですけれども,なかなか,それの資料はないかもしれないので,事前のといいますか,それを推測させる上で時効の援用というのは,もしかしたら記録が残っているかもしれないと思って,そこを調べていただけますかという質問をしたわけです。 ○岡本委員 分かりました。 ○内田委員 誤解を招かないように一言だけ補足しておきたいと思いますが,まず,商行為法について,近々改正されるかどうかは私は知りません。ただ,日本の商行為法の母法国が,時代に合わないということで既に改正されているという事実を申し上げただけです。   それから,深山幹事のほうから現在の状況で実務上,原則10年,商事5年というので不都合は生じていないという御指摘がありましたけれども,しかし,現在は短期消滅時効がたくさんあって,売掛債権とか,それから,岡田委員からも御指摘がありましたある種の貸借の債権,またある種の請負の債権,ある種の委任の債権と,こういったものが全て短期になっていて,実務はそれを前提に動いているのではないかという気がいたします。岡田委員からはそういう御指摘がありましたけれども,売買などについても,あるいは請負などについてもそういうことは聞きます。それがなくなったときに,本当に商事5年だけで吸収できるのかということが,やはり実務的には問題として残るのではないかという感じを持ちました。 ○鎌田部会長 意見はほぼ出尽くしたかと思いますけれども,「1 時効期間と起算点」の「(1) 職業別の短期消滅時効(民法第170条から第174条まで)の廃止」につきましては,アの削除案にはほぼ皆さん異論をお持ちではないと受け止めているんですけれども,イにつきましては,甲案,乙案,丙案,それぞれ支持の意見があり,更にまた,それとは少し違う対応の御提案もあって,それぞれの考え方の違いは明らかになりましたけれども,収束の方向は非常に見えにくいというのが現状だろうと思います。山野目幹事からも御指摘がありましたけれども,この先は具体案をまとめていかなければいけませんので,できるだけ具体的な提案の形にして,御提出を頂きたいと思いますので,よろしく御協力のほどをお願いいたします。   それから,「(2) 債権の消滅時効における原則的な時効期間と起算点」につきましては,甲案,甲案の中でも資料に書かれていますように,時効期間を比較的短期にするということで,それを支持する意見が多かったという報告もありましたが,やはり時効期間は10年とすべきであるという御意見も存在したところでございます。乙案に対しましては,批判をする御意見もありましたけれども,これを支持する御意見もあったところで,これもまた,対立点は以前より明らかになってきただろうと思いますけれども,なお,収束の方向が明確とは言い難いところがありますし,それぞれの委員,幹事によって若干,ニュアンスも違っておりますので,具体的な内容をもう少し詰めると,こういう提案になるというふうなことが御提出いただけるようでしたら,それを踏まえて事務当局の側で更に意見の整理を進めさせていただければと思います。 ○松本委員 一点,質問のような意見のようなものなんですが,職業別の短期消滅時効をどう見るかという点で,従来,不合理だということで議論が進んでいたという気がするんです。なぜ,これだけが入って,ほかが入らないのか分かりにくい。ところが,今日の議論,例えば先ほどの内田委員の議論だと,一部のタイプの短期消滅時効は非常に重宝がられているところがあるので,それをなくしてしまうことでいいのかというような観点の問題提起もされているわけです。そうなると,もう一度戻って,短期消滅時効の各条文ごとに,これはほとんど無意味な,非合理なものなのかどうかという点検をしないと駄目なのではないですか。   本当に必要なんだったら,それは残すべきだという話になると思うんです,民法に残すか,特別法に残すかは別にして。それをしないで短期消滅時効は不合理だ,廃止する。しかし,その期間が短いというメリットは確保してあげるべきだから,全部,一律に短くするというのはちょっと論理が飛躍していると思うのです。短くすることの必要なものについては必要な期間だけ与えて,それによって利害調整をするというのは,それはそれでいいのだろうと思いますが。 ○深山幹事 今の松本先生の意見にも関係しますが,また,短期消滅時効について先ほど内田先生からも指摘がありましたけれども,弁護士の多くは,短期消滅時効については廃止という結論をみんな支持していて,それを前提に原則10年がいいという意見が圧倒的に多いということで,先ほどの私の発言も短期消滅時効を廃止することを前提にして,なお,民事10年,商事5年がいいのではないかと申し上げました。   今ある制度をなくしたときというのは,仮定の話にも聞こえるかもしれませんけれども,現実に短期消滅時効が私の認識ではそれほど重宝がられているという認識はなくて,実務的にもちろん使われる例がないという意味ではないんですが,非常に合理的な制度として実務に機能しているかというと,基本的には私はそういう認識はありません。ここは事実認識の問題なので議論すべきことではないのかもしれませんけれども,単にバランス論として職業別が不合理というだけではなくて,それ以上に2年とか3年とか,場合によっては1年という時効期間について,実務的には,少なくとも裁判実務を意識すると,機能しているという感覚を持っていない弁護士が多いのではないかと思います。   そういう意味では,もちろん,一つ一つ見直すという松本先生の御指摘自体はごもっともな面があるんですが,その結果,ひょっとして残るものがないとは言えないんですが,仮にそうだとしても,原則10年ということを大きく変える必要はないのではないかという趣旨で申し上げたかったということを付け加えさせていただきます。 ○岡田委員 消費者に関しては領収書とか契約書,必ず2年間は残しておくべきだというのが結構,浸透しています。それが5年とか10年になるということになると,消費者はゼロから教育や啓発が必要になります。その方法や時間を考えると気が遠くなる思いです。 ○岡委員 商事債権のところをどうするかを決めないと,議論を進めることが難しいと思います。商事債権あるいは事業者間の債権が5年というのがあるので,落ち着きどころが見えかけている気がするんです。先ほど内田先生は商行為法がどうなるか分からないとおっしゃったんですが,法務省が分からないと僕らは余計に分からないですので,この法制審ではどんなふうに考えたらよろしいか,今の商行為法の商事債権はあることを前提にしてよいのでしょうか,または事業者概念を持ち込むような提案ないし議論をしていくことになるんでしょうか。その位置付けを教えていただければと思います。 ○筒井幹事 ただ今,岡委員からお尋ねがあったことは,この部会では当初から話題になっていたことですが,この部会の役割として基本的に民法の在り方について議論していただきたい。もっとも,商法には商事債権の消滅時効という規定がありますけれども,先ほど話題になっていたように,もう少し広い射程を持った事業者などの概念を使って,時効期間を例えば5年なら5年とする規定を民法に設けるかどうかという提案については,民法の問題としてこの部会で御議論いただけばよいと思います。そのような規定が仮に民法に設けられたときに,商法の規定をなお存続させる必要があるかどうかという問題が,整備法の問題として後で出てくる可能性があるという整理でよろしいのではないかと思います。 ○佐成委員 松本委員が短期消滅時効の一つ一つを点検する必要があるとおっしゃっていて,一つ一つ検討することがいいかどうか,私には現時点では分かりませんけれども,少なくとも流通業界から小売商人の商品の代価2年は残してほしいという意見は来ております。けれども,経済界一般には全部なくしてしまったほうがいいのではないかという意見が強いということでございます。 ○内田委員 なくしたときに,10年で結構だという趣旨なのでしょうか,あるいは5年でよいという趣旨でしょうか。 ○佐成委員 5年という趣旨でございます。この立法提案を見た限りでは5年でやっていただきたいという趣旨でございます。5年であればなじみもあるし,経過措置を十分に取れば国民にも浸透していくのではないかという趣旨でございます。 ○鎌田部会長 この短期消滅時効の中に存続させてほしいものがあるという意見は,今までの部会審議の中では,今日,具体的には初めて出てきたところであって,そういう意味で,一つ一つについて必要性についての審議はしてこなかったところでありますけれども,岡田委員の御意見で動産損料とか,あるいは小売商の代金債権というふうなものが,消費者保護の関係でかなり重要な役割を果たしているという御意見を頂いたところでございます。そういうこともあって,岡田委員は削除案について慎重だということでございましたけれども,他方で,それでは,消費者のこういった形での保護は,動産損料と小売代金だけでいいんでしょうかという問題もありそうです。消費者に対する小口債権について消費者を保護する別の制度があれば,その中に包摂されるということでもあろうかと思いますので,その点も含めて,この部会の中で出てきた議論を整理して,どういった案が具体的に成り立ち得る案として存在しているかということを,事務局の側で少し整理をさせていただきたいと思います。 ○松本委員 もう一点,確認ですが,職業別の短期消滅時効が不合理だということの理由は,業種の分け方が現在の観点から見て非常に不合理だということなのか,期間が短いことが不合理だということなのか,一体,どっちなんでしょうか。期間が短いことが不合理なのであれば,一律に商事の5年にするということで業種の区別もなくなってしまうし,両方の不合理を解消するということになるんですが,しかし,期間は不合理ではない,むしろ業種を限定した短い消滅時効を定めていることが不合理だ,だから,全部,短くしましょうという主張もあるかのようなんですが,そうなんでしょうか, ○鎌田部会長 先ほど来の議論の中で出てきたものについて言えば,むしろ5年で統一してくれたほうがいいというふうな形での御意見は,佐成委員から出されているところですけれども。 ○内田委員 これまでの議論は,現在の170条以下の規定の分け方が実際の判例の適用事例を見ても,非常に恣意的で分かりにくい。だから,1年,2年,3年が合理的かどうかはともかく,短期であるということ自体が不合理だというのではなくて,こういう分け方で細かく短期の時効が特に職業別に決まっているということには理由はないのではないかという批判だったと思います。ですから,1年,2年,3年という短期がおかしいから全部を10年にすべきだという議論ではなくて,短期の時効が合理的な債権のカテゴリーというのはあるかもしれないけれども,この分け方には合理性がないという,そういう議論ではないかと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか。そこをもう少し,今までの議論を精査させていただくようにいたします。 ○松本委員 整理し直しますと,特殊な業種についてだけ,一般の時効とは別の期間を定めることが不合理ではないかという感じですね。それでもなお,消費者保護等のために特別に定めるべき必要があれば,それはまた別で考えると。 ○内田委員 特殊な業種というより,個々の規定の射程はかなり広いのです。だけれども,現在の規定のように,細かく1年,2年,3年を区分けして定める合理性はないのではないかということだと思います。 ○松本委員 だから,それは特殊な業種と言いましょうか,あるタイプの事業形態だけを取り出して,一般ルールと違う時効期間を定めるのが不合理だと整理してよろしいですか。区別が不合理だと,期間の問題ではないと考えてよろしいですか。 ○内田委員 期間を1年,2年,3年と分けていること自体も,現在の定め方に合理性があるということが積極的に言われているわけではないと思います。 ○松本委員 本来の一般ルールとは違うタイプの債権を幾つか選び出して,それについて更に1年,2年,3年という,これも余り合理的でない分け方をしているという2段階ですね。そうしますと,特殊なタイプを引っ張り出したことが不合理であり,かつ,それを三つに分けて,1年,2年,3年と振り分けたことも不合理であると。そうすると,期間を振り分けないで,全部,一律に3年とか2年とかに現状のジャンルを残した上で,期間だけを一本化しましょうかというのも,不合理性を一つだけ解消するやり方だし,更にジャンルの区切り方に不合理があるということであれば,ジャンルはなくしましょうということになる。あるいはジャンルの区切り方をもう一度考えましょうということになって,その場合に一般ルールと比べて短くするということも更に不合理なのかどうか。つまり,短くする合理性がないのであれば,ジャンルをなくしましょうという話になるわけです。だけれども,この議論をする人は短くするほうが合理的なんだという前提の下に,一律に短くしましょうという主張をしているように,甲,乙案から読めるわけなんですが,ちょっと段階を分けて考えたほうがよろしいのではないでしょうかね。 ○内田委員 正に松本委員がおっしゃったような思考のプロセスを経て,ある種の債権を短期で扱うことには,それなりに理由はあるだろう。しかし,ある種の債権とはどの範囲なのかということを検討していくと,実は現在の短期消滅時効,それから商事の短期時効以外の債権というのは,それほど多くないではないか。それらについて10年を適用し続けなければいけない理由が本当にあるのかという議論になり,そうであれば,現在の客観的起算点から10年という原則は置いておいた上で,短期の時効を併存させて,知らないうちに権利行使ができなくならないように,起算点を柔軟化したというのが乙案だと思います。   乙案の根拠というのは,何が何でも短期が望ましいということではなくて,現在ある短期消滅時効制度を考えたときに,その区分けは明らかに不合理だけれども,しかし,特に今日のビジネスのスピードを考えると,ある程度,早期に処理をするということには実務的に合理性があるだろうという考え方から,以上のような思考の過程を経て出てきた案だろうと思います。 ○松本委員 としますと,むしろ短期消滅時効制度をなくして全体を短期化して,一部,長期の消滅時効を別途,認めましょうという,従来のデフォルトルールをひっくり返すという提案に近いわけですね。今だとデフォルトは10年で,それで短期の5年とか3年,2年,1年がある。それをひっくり返して,デフォルトは3年とか4年とか5年にして,一定のものは10年とか20年にするというふうに発想を逆転させようということですね。 ○内田委員 何か松本委員と対話をしているようで,時間を取って申し訳ないのですが,乙案というのは現在の客観的起算点から10年という原則は維持した上で,しかし,現実に権利行使が可能になったときから始めるのであれば,不法行為の場合だって3年ではないか。そして,現実に多くの債権が5年以下の短期の時効に掛かっているということを考えて,主観的な起算点からある程度の合理的な短期間の消滅時効を併置し,更に本当に保護すべきものについては長期の時効を別途置こうということですから,正に逆転とおっしゃった,そういう発想だろうと思います。 ○中井委員 私は先ほど原則論を述べた上で,職業別の短期消滅時効の制度について廃止することには賛成と申し上げました。そのときの理由としては二つ申し上げたつもりでして,一つは先ほどから出ておりますように,職業別の区分そのもの自体の合理性がないということですけれども,もう一つは,債権の性質自体から,このような短期とする合理性があるのかということでした。   それに対しては,その後,内田委員からは反対のことを言われたんですが,私が例を挙げたのは工事に関する債権と売買代金債権について,これらを3年2年にすることの客観的合理性自体ないのではないか。むしろ,通常の商事債権と同じ,商売人が持っている債権ですから,5年でいいのではないか。これに対して内田委員からは,実務では有益であると聞いているという御発言がありました。私はそのこと自体が疑問です。この消滅時効を実務で活用しているという認識が果たしてあるのかです。   私の非常に狭い経験なのかもしれませんけれども,弁護士として,そのような経験はありませんし,先ほどの佐成委員からもありましたけれども,経団連の一般的な意見としても,これらの短期消滅時効は廃止して5年でいいのではないかという,この背景にあるのは職業別区別が不合理だからというよりは,3年,2年,1年というような短期という時効制度そのものが不要という認識を持っているのではないかという感じを受けるわけです。   また,なぜ弁護士に関する債権だけが挙がっているのか,171条,172条は分かりませんが,我々がこの時効を使ったことなど,一度たりとしてありません。依頼者の処理を預かっていれば5年であれ,10年であれ,お返しするもので,そこで5年か,10年か,あればいいのであって,特に短くしていただく必要性を感じたことはありません。唯一,今日の議論を聞いていても,この短期消滅時効の中で実益があると御主張されているのは,消費者を代表される岡田委員のみであるという理解をしておりました。   したがって,職業別短期消滅時効の不合理性は,一つは職業別の区別自体に合理性がないこと,併せて短期であること自体についても,客観的合理性がそれほど積極的に認められていないことではないかと,私自身は認識しております。そうだとすれば,その不合理を解消するのは,廃止した上で,5年なら5年に統一するという考え方に行き着くのではないか。それで特段,おかしなことはないのではないか。あと,考えるべきは岡田委員がおっしゃられた消費者に対する債権について特別な規定を設けるのか,一定のジャンルに限るのか,全てにするのかというのは更に検討が必要かと思いますけれども,そういう検討に進むのではないかと感じております。 ○鎌田部会長 この議論はほぼ論点が整理されたと思いますので,申し訳ありませんけれども,ここまででこの項目については終了させていただいて,次に進む前に休憩を取らせていただこうと思います。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開させていただきます。   部会資料31の「第1 消滅時効」のうち,「1 時効期間と起算点」の「(3) 定期金債権の消滅時効(民法第168条)」から「(7) 合意による時効期間等の変更」までについて御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○亀井関係官 「(3) 定期金債権の消滅時効」では,定期金債権の消滅時効を定める民法第168条について,第1項後段は意味のない規定であると解されていることから削除することを提案しています。また,第1項前段については規定内容を明確化する観点から,定期金債権の消滅時効の起算点を支分権である定期給付債権が最後に弁済されたときとする甲案と,定期給付債権の最初の弁済期とする乙案とを提案しています。   「(4)判決等で確定した権利の消滅時効」では,新たな短期の消滅時効の要否や原則的な時効期間との起算点の見直しにかかわらず,長期の期間とする特則を維持することを提案しています。   「(5)不法行為等による損害賠償請求権の消滅時効」では,債権の消滅時効における原則的な時効期間と起算点において,乙案を採用する場合には,民法第724条と同じ構造となることから,原則的な時効期間の長さにもよるものの,民法第724条を削除して,時効制度の統一化を図ることも含めた検討を行うことを提案しています。他方,甲案を採用した場合には,このような統一化の問題は生じないため,民法第724条は存置することを提案しておりますが,その場合でも20年の期間制限について,時効期間であることを明確化することを提案しています。   「(6)預金債権等に関する特則の要否」では,預金債権等の時効期間の起算点については,特則を設けないことを提案しています。   「(7)合意による時効期間等の変更」では,当事者間で法律の規定と異なる時効期間や起算点を定めることに関し,明文の規定を設けるとした上で,合意で定めることができる内容について,甲案から丙案までの提案をしています。これに対し,丁案は規定を設けないことを提案しています。また,規定を設ける場合には消費者契約に基づく債権について,法律の規定よりも消費者の不利な合意は,無効とする考え方についても御意見をお伺いしたいと思います。   以上に御説明した論点のうち,(3)について,また,(7)のうち,規定を設ける方向の案による場合の具体的な規定内容については,分科会で補充的に議論することが考えられると思いますので,その可否についても御議論いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○山野目幹事 (3)の論点について,二点,申し上げさせていただきます。   一点目は,アの御提案はこのとおりでよろしいと考えます。   イの論点につきまして,更に細かく二点,申し上げますが,一点目は分科会で甲案,乙案を対比して細密な御議論を頂きたい。その点について事務当局の御提案に賛成です。これが一点目です。二点目といたしまして,仮にそのように進めます際に,分科会の御検討に対する要望ですけれども,甲案にせよ,乙案にせよ,同一の規律の中で時効の問題と弁済の問題と二つ問題ないし概念が登場してまいります。   訴訟上,時効の抗弁は弁済の抗弁とともに提出されることも多いものでございまして,しかも,しばしば一方においてする訴訟上の陳述が他方について不利益陳述となる可能性があるなど,攻撃防御が錯綜するということも想像されるところでございます。そのようなことでございますから,この168条というのはめったに話題にならない規定ですけれども,しかし,きちんとした見直しがされることは必要でありますから,甲案,乙案の評価に当たっては,訴訟における攻撃防御の観点から各案を評価するという観点も交えていただきたいと望むものでございます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○岡田委員 (5)の不法行為のところですが,これに関しましてはアは甲案,それからイに関しても甲案を私たちは希望します。   それから,(7)の「合意による時効期間等の変更」に関しましては,アに関しては丁案の設けないという形を希望します。外見的には消費者の合意があったように見えたとしても,事業者との格差を考えますとどこまで理解した上での合意かといいうのがありますので,消費者にとっては大変不利益ではないかと思います。イに関しては,合意によって時効期間等を変更できるということになれば結局,イを選択するしかないのですがそれよりもできたらアの丁案を希望します。 ○筒井幹事 「(7) 合意による時効期間等の変更」の点につきまして,安永委員から事前に書面で意見を頂いておりますので,読み上げる形で紹介いたします。   契約当事者の交渉力格差が大きい場合には,交渉力の強い者が片面的に有利となります。取り分け,労働契約の場合,採用時には,使用者が圧倒的に優位であり,使用者が契約書の内容を一方的に定め,労働者はこれに署名・押印せざるを得ない事例が圧倒的に多いのが実情です。合意による時効期間の変更を認めた場合には,契約上の優越的な地位を有する者が,自らの不法行為責任や債務不履行責任に基づく負担を軽減させる目的で,契約締結時に時効期間を短縮する合意をしなければ,契約締結に応じないとするであろうことは明白です。この場合には著しく正義に反する状態となります。よって,合意による時効期間等の変更に関する規定は設けないものとする丁案の採用を強く求めます。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○潮見幹事 先ほど岡田委員から不法行為のところの話が出ましたので,(5)について幾つか意見を申し上げたいと思います。先ほどから話が出ていた部分にも若干絡みますので,申し上げさせていただきたいと思います。   イのほうは,前から申し上げていますように私も甲案でいいと思います。理由は繰り返し言っておりますので今日は申し上げません。乙案ではなく甲案を採るべきであるという強い意見を持っているということは強調しておきます。   それから,アのほうですけれども,若干,意見を申し上げたいことがあります。乙案を採る場合はよいのですが,甲案を採った場合に724条を維持するということは必然ではないと思います。ですから,このまとめ方自体が私はいかがなものかと思っています。特に元々の甲案を採った場合に,724条にそのまま併置する合理性があるのか,私にはその理由がさっぱり分かりません。   724条の特に3年の時効ですけれども,この論拠としてよく言われていることによれば,証拠散逸による証明困難ということと,それから被害者の感情の沈静化ということと,それからごくごく最近言われているところの,権利を行使しないという点に対する加害者の信頼を保護するということがあります。このうちの被害者の感情の沈静化ということについては,最近は果たして説得力があるのかということで,学説でもかなり異論を言っているところがありまして,そうなると残るのは二つしかない。しかし,残った二つの理由というのは,基本的に甲案が5年ということを考えた場合の基礎に据えていることと共通するわけでして,そうであれば甲案を採った場合に3年の時効ということを考えるというのは,ある意味では政策的にも評価矛盾を来すおそれがあります。これが一点です。   さらに,724条後段の20年の期間ですけれども,仮にこれに合理性があるということであるのであれば,なぜ,これを不法行為の損害賠償のところにだけ置いておいて,甲案を採った場合にそれを一般の消滅時効のところに入れないのか,その説明というのができないのではないでしょうか。特に後段は権利関係の早期安定確保だとか,あるいは不法行為者といいますか,請求を受ける債務者の不安定な地位の長期化というものを避けるという趣旨に出ていることでして,そのこと自体は,これまた別に不法行為に特有のものではありませんから,そういう意味では,甲案を採る場合に724条を残すという合理性がないのではないかと思っております。被害者の保護というのだったら,起算点のところで処理をすれば足りることにならないでしょうか。   それから,甲’案というか,丙案というか,先ほど休憩前に出ていた案を採った場合には,確かに724条という枠組み自体と矛盾するようなことにはならないとは思いますが,しかし,いかに政策的といっても,やはり理論的な正当化というのをなしにしての政策的な評価の強調は,よろしくないと思います。   特に,これも休憩前に実務家の委員の先生方が,不法行為の724条の期間というものは被害者保護のためにあるのだから,これはこれでいいという趣旨のことを何度も何度も繰り返しおっしゃっておられましたけれども,そうであれば,丙案を採った場合には,むしろ10年というところを残しておいて,3年で短期で権利が消滅するなどという規定を置いておくのはけしからんという方向で言うべきではないのでしょうか。それを言わずに724条を置いておいて,それで前のところの甲案あるいは丙案がいいというのは,ちょっと筋違いではないのでしょうか。いずれにせよ,これは整理の仕方にもよりますけれども,甲案を採ったから,あるいは丙案を採ったから,724条を維持するということにはならない,あるいはそうすべきでないというのが私の意見であるということを申し上げたいと思います。   それから,もう一つは,これも先ほど休憩前に実務家の先生方が何人かおっしゃっておられたことなのですが,仮に724条みたいな規定を残すのであっても,不法行為を理由とする損害賠償と,それから松本委員が若干,話をされていましたけれども,契約の場合でも安全配慮義務だとか,それ以外の損害賠償が問題になる場面があって,その場面での時効に関する規律というものがずれるというのがいいのかどうかという点について私自身は疑問を感じているところであります。   むしろ,先ほど中井委員の御発言だったと思いますけれども,不法行為は出会い頭の事故だと,そういう場合を扱っているんだということをおっしゃっておられましたけれども,基本的には,今問題になっている不法行為の多くのケースは出会い頭のものではありません。取引的不法行為であれ,医療過誤であれ,特別の一定の接触関係があるような中から生じたような権利侵害等々についても不法行為で扱うような場面です。そういう場面が一方にある,あるいは重要な位置を占めている中で,不法行為を理由とする損害賠償請求権の時効と,それから債務不履行で拡大損害型と言いましょうか,保護義務違反型と言ったらいいのでしょうか,そうした場合の損害賠償の時効というものを分けて捉えるというのは,余りにも形式論に過ぎるのではないかと思います。   もちろん,一方の手段を選択した場合に,その請求権にくっついている属性は,全て受け入れるべきであるから,結果的に変わっていいんだということをおっしゃるつもりであれば,立場としてはあり得ると思いますけれども,しかし,立法論で考える場合に,そのような方向が果たして妥当なものかと言われたときに,私は疑問を感じるわけです。後で申し上げた部分は,結局,正に見出しにあるように不法行為「等」の損害賠償請求権の消滅時効を扱っているものですから,「等」の部分を十分に意識した形で立法をしていただきたいと願っているところです。 ○山川幹事 今の御発言とも関連しますが,(5)のイにつきまして,今回は不法行為による損害賠償請求に限らずと書いてありますので,労働関係でよく問題になります安全配慮義務,債務不履行構成も含まれているということで,この点は大変結構なことだと思っております。もう一つ,イの提案はアで甲案を採るか,乙案を採るか,つまり,(2)のところで甲案を採るか,乙案を採るかとは必ずしも連動しない御提案だと理解した上でなんですけれども,イの基本的な発想は債権の一般的な原則の消滅時効期間よりも期間を長くするということなのですが,例えばとあるところを見ていきますと,主観的起算点から5年としますと,この点に関しては現行の債務不履行構成の消滅時効期間よりも短くなりそうです。   恐らく現行では,債務不履行構成ですと,権利行使をし得るときから10年の消滅時効期間ですけれども,それは主観的な態様を問わず,つまり,損害や加害者を知ったとしても10年ということですが,この点は5年にすると短くなるということを認識した上で議論する必要があろうかと思います。この点は,個人的には定見がありませんので,もしかしたら,損害や加害者を知っているときは短くすることに合理性があるのかなという感じもしなくもないんですが,しかし,短くする合理的な理由があるか,これは弁護士の先生方にもお伺いしたいんですけれども,現在は知ってからでも10年となっているところを5年と短縮する必要性があるのかどうかは,やや疑問の残るところでございます。   あと,イの甲案,乙案につきましては,私も甲案のほうがどちらかというと妥当かなと思っております。これは分野にもよりますけれども,労働法の分野ですと,例えば働きやすい職場環境において働く利益ということが不法行為上の保護法益とされたりしておりまして,余り外縁が明確でないのですが,これも人格的利益とされておりますので,やや広がり過ぎるような感じもいたします。   すみません,それから(7)について,一点だけですけれども,基本的には労働法関係については,合意によって時効期間が短縮する方向で変更されるということには疑問があります。労働基準法の115条の賃金債権2年,退職金債権5年という時効に関しては強行規定で,合意によっては短縮できないと考えられます。特別法ですが,安全配慮義務違反との損害賠償請求権については労基法所定事項ではありませんので,基本的には,合意で短縮することは妥当ではないと思いますが,いつも問題になりますように,労働法の都合だけで全体を左右するということはなかなか強く主張できないものですから,もし,丁案以外を採られる場合には(7)のイにおいて,事業者と消費者の債権のみならず,労働契約から生じた債権のようなものも入れていただくような御配慮が必要かなと思います。 ○中井委員 (5)について意見を述べさせていただきたいと思います。潮見幹事から大変厳しい御指摘を頂いたんですけれども,今回の改正に対する基本的な考え方というところにもつながるのかもしれませんが,弁護士会が基本的に認識しているのは,現行民法との連続性であり,これまで培われてきた実務がある意味で漸進的に改善される,よりよい民法を目指す,そういう基本的立場に立っているのかなと思っております。   逆に言えば,論理的に徹底すればこういう考え方になるではないかという視点からの発想には乏しいところが否めないのかもしれません。そういう観点から批判を受けることは甘んじて受けたいと思います。現在の実務では,私の素直な理解からすれば,不法行為という体系と契約,債務不履行関係というのは,基本的に異なった考え方で成り立っているのではないかと思っていますし,不法行為というのは,出会い頭的な相手方と契約関係にはない者同士の間で起こった出来事に対して,いかなる救済処置を採るのか,その基本的な枠組みとして存在してきたのではないか。   御指摘の取引的不法行為という場面を念頭に置けば,取引関係にある者,契約上の債権債務関係にある者における債権の処理の仕方という限りにおいては重複する,つまり,二つの円を書けば二つの円の重なる部分であることは否定しません。その重なるところがあるからといって,右と左との二つの円を一致させろという議論は,私は理解ができないと申し上げたいと思います。したがって,基本的には契約に基づく債権の消滅時効に関する事柄と,不法行為に基づく債権の消滅時効に関する事柄について,同じ土俵の上で同じような規律で解決しなければならないという必然性は感じたこともありませんし,そのように考えなければならないと思ってはおりません。   むしろ,それではなぜ,民法がこのような形でできたのかという根源から,フランス法なり,ドイツ法なり,ローマ法なりになるのかもしれませんけれども,教えていただきたい。少なくとも現行民法でこれまで100年,培われてきたものを基本にスタートして考えていいのではないかと思っています。   次に,(イ)の問題の設定の仕方自体に,そういう意味で私は理解ができないところがあります。イの設定の仕方自体が先ほどの議論,第1の(2)についてあたかも乙案が当然の前提であるがごとくの問題設定ではないか,問題の設定の仕方自体に疑問を持っております。その上で,現段階で弁護士会はこれに対してどういう回答をするかという点ですけれども,先ほどどなたかから,「不法行為等による損害賠償請求権」と,「等」と入れていることを十分に理解して発言を,という御趣旨だったと思いますけれども,弁護士会は全くそこは違いまして,これは切り離して,これは不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効に関する提案と把握します。その上でアについて申し上げますと,現在の724条の後段,20年については最高裁の判例,少数意見で,河合判事以降,滝井判事,田原判事が御指摘されているように,これは除斥期間から時効に改めるという考え方に賛成をしたい。   イについても,不法行為に基づく生命,身体に対する損害賠償について,これまで最高裁で不法行為のときから20年ということについて,様々,救済措置を採ってきました。それについて端的に20年というのを30年なりに延ばすことによって救済を図る法改正を行うことに基本的に賛成したい。不法行為に基づく損害賠償請求権に限って,まずはそのような仕組みに変える。   その上で,対象となる行為について,甲案,乙案,二つの提案がありますけれども,これについては基本的に乙案は非常に外縁が曖昧だから,甲案を支持したい。更に甲案であってもなお広いのではないか。生命,身体に限っていいし,身体についても非常に幅が広いですから,軽微なものを除くであってもいいのではないかという意見が大勢を占めております。     その上で,債務不履行による損害賠償請求権の消滅時効の特則として,生命,身体の損害を対象とするもの,つまり,医療過誤であるとか安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権について,弁護士会の意見は権利を行使できるときから10年という意見です。これについて特則を設けるのかについては,その必要性について更に検討してからでいいのではないか。この10年を20年にするという意見が直ちには出てきていません。その理由は,権利を行使できるときという,これが客観説と言われておりますけれども,現実の実務は主観的事情が考慮され,岡本委員もおっしゃられたように,権利者が権利を行使することが期待できるときから仮に10年だとすれば,そのような債権侵害に基づく損害賠償請求権でも十分行使可能ではないかと考えるところから,直ちに長期化まで必要かという意見が出てきていないという現状にあります。ここは更に検討したいと思います。いずれにしろ分けた議論をするというのが基本的スタンスです。 ○岡本委員 (5)(6)(7)と申し上げたいと思うんですけれども,まず,(5)不法行為等による損害賠償請求権の消滅時効,これにつきましては特に銀行界で特に利害関係があるというわけではないので,どちらかというと私個人の意見になりますけれども,先ほど潮見幹事からお話がありましたので,特に予定はしていなかったのですけれども,申し上げたいと思うんですけれども,債務不履行による損害賠償請求権と不法行為による損害賠償請求権につきまして,請求権競合があり得るということも考えますと,両者の時効は統一的であることが望ましいという考え方,これも私としては理解できるところかなと思っております。   仮にこういった考え方を重視するといたしますと,先ほど起算点の原則につきまして,権利行使を期待することができるときと改めてはどうか,というふうなことを申し上げましたけれども,そちらのほうで統一できないかということも検討されていいのではないかというふうな気がいたします。被害者にとって類型的に加害者あるいは損害を知らないこともやむを得ない,そういった不法行為につきましては,被害者がそれらを知らないときには,権利行使を期待することはできないときに当たるんだと解釈して,取り込めないかどうかということでございます。   それから,次に預金債権等に関する特則の要否,(6)のほう,こちらにつきましては特則を設けないということに賛成したいと考えております。恐らく従来,提案されていた考え方につきまして,特に普通預金債権について預金関係が生じたときから消滅時効が起算されるのはおかしいといったところから,恐らく主に出てきた考え方なのではないかと思うわけなんですけれども,通帳の記帳があったら,そこで承認があったと考えるとか,あるいは残高の移動があったときに更改に似たような効果が生じて,一個の残高債権が生じるんだというふうな考え方を採って,そこで債権が新たに発生して,時効もそこから起算されるといった考え方もあるのではないかと考えられるところでございまして,いずれにしましても,普通預金債権の消滅時効の起算点につきましては,現段階においてはいまだ議論が熟していないように思われますものですから,特則を設けるということについては反対したい,特則を設けないことに賛成したいと考えます。   それから,(7)の合意による時効期間の変更につきまして,こちらも特に合意によって変更したいというニーズが銀行界にあるわけではないので,どちらかというと私の意見という面が強いわけですけれども,あえて申し上げますと,アにつきましては消滅時効が公益を目的とした制度なのか,あるいは私益を目的とした制度なのかといった問題と関連する論点だと思うわけですけれども,消滅時効の存在理由について,先ほど申し上げたような債務者を弁済の証拠の保存の負担から解放することにあるというふうな考え方からいたしますと,少なくとも直接的には,私益を目的とした制度であるというふうな考え方を中心に考えていいのではないかと私は考えます。   その場合に時効期間等についての民法の規定,これは基本的には任意規定であるということを明らかにするのがいいのではないかと考えておりまして,その上でひどいものについては民法90条で対応するということでいいのではないか。そういたしますと,時効期間についての規定は任意規定であるということを明らかにした上で,丁案のように規定を設けないということがよろしいのではないかと考えます。イのほうは,こちらも特に強い意見があるわけではないですけれども,あえて申し上げれば,民法90条に委ねれば足りるということで,規定を設けないということでいいのではないかと考えます。 ○道垣内幹事 三点,申し上げますが,いずれについても私に確たる意見があるわけではなくて,若干,気になる点を申し上げたいと思います。   まず,(5)の不法行為等の話なのですが,イとして生命,身体等の損害による損害賠償請求権と書いてあって,その損害の範囲については以下のような考え方があり得るとして,甲案,乙案というのがありますが,ここになると「損害」ではなくて「侵害」と表記されています。これが理論的には若干気になるところでありまして,損害に統一したほうがよいのではないかという気がします。それが第一点です。   第二点は,(6)の預金債権についてでして,私に確たる意見はございません。ただ,預金契約につきましては典型契約の検討におきまして,預金契約をどのようなメカニズムとして捉えるのかということについて,一定の条文を置くべきではないかという見解もあるところであります。仮に,そこで置くべきであるという見解を採用し,先ほど岡本さんがおっしゃったような問題,すなわち預金債権はどういうふうな形で成立するのか,額の変動は更改的なメカニズムによるのか,あるいはそうではないの,そういったことが仮に定められるといたしますと,そこにおいてはやはりどのような形の時効になるのかを議論せざるを得ないのではないかという気がいたします。したがって,(6)の論点につきましては,この場ではこれ以上の議論は難しいのではないかと思うのですが,異論がないからといって,設けないものとすると決めて,先に進むという形にはなりにくいのではないかと思います。   三番目に,これも全く確たる意見がないところで大変恐縮なのですが,(7)の合意による時効期間等の変更の点です。安永委員と山川幹事がおっしゃったことに若干気になるところであります。と申しますのは,労働基準法に労働者の給与等については規定があり,それは変えられないということになっている,したがって,丁案だ,というわけですが,そこの論理の結び付きが分からないのです。労働基準法において変更ができないということが強行規定になっているというのは,原則は変えられることが前提になっているのではないかという感じがするのです。所詮,法律に書いてある時効期間は変えられないとするならば,別に労働基準法が強行規定を定めているという必要はないはずであって,ちょっとよく分からないところがあります。   以前と同じ発言を繰り返すのは恥ずかしいのですけれども,契約において,例えば契約における誰それの権利というのが1年間しか行使できないと定めることは,恐らくは可能なのだろうと思います。そうなると,丁案を採るということの意味は,ある種の権利については1年に限って可能ですよと合意することができるということを前提にしているのであって,どのような権利であっても,時効期間内は権利行使ができるということは意味していないということを,確認しておくべきではないかと思います。   そうすると,丁案が乙案とどこまで違うのかということが若干気になるわけでして,もちろん,契約上の例えば修補請求権といった権利の話と,そこから発生する債権の話は別だという考え方もできると思いますけれども,本当にそれほど本質的にその二つの権利は違うのかというと,微妙な場合もあるような気がいたします。ただ,私がここで差し当たって申し上げたいのは,丁案は合意による時効期間等の変更は許さないということを必ずしも意味するわけではないのではないか,ということです。 ○中田委員 今の(6)につきまして,道垣内幹事の御意見に賛成です。つまり,この段階で設けないと決めることもないだろうということです。確たる意見がないという部分も同様なのですが,と申しますのは,先ほどの理由付けに加えまして,(2)の時効期間と起算点の原則をどうするかに依存している部分があるのではないかと思うからです。もしも(2)で甲案を採って,かつ岡本委員が先ほどおっしゃいましたように,権利行使可能性にプラスして,権利行使を求めることが契約の趣旨に反するときは別だというような規範を入れるときはどうかとか,あるいはもし乙案を採ったとすると,預金者が預金のあることを知っていたときから,3年ないし5年で時効に掛かってしまうということになるとやはり短いのではないかとかです。そうしますと(2)との関係を考慮せざるを得ないのではないかと思います。   更に,先ほど能見委員が御質問になられました銀行取引における実態がどうかということも気になりますし,あるいはごく最近ですけれども,預金債権の消滅時効について非常に詳しい論考が出ているということもございますので,今日の段階では,まだ落とすということまでは決定しないほうがいいのではないかと思います。 ○高須幹事 (7)の合意による時効期間等の変更のところでございますが,少し広い視点に立つような話になるのかもしれませんけれども,岡本委員から御指摘があった任意規定か,強行規定かという問題のところでございまして,全ての問題が任意規定か,強行規定かで割り切れるものではないのではないか。つまり,ある程度の幅というか,当事者間の合意が許されるけれども,どこかには歯止めが掛かっているというようなことがやはりあるのではないかと思っております。この時効のところも公序という言い方をされる場合があるようですが,そのような面と,それから,そうは言ったって権利行使期間みたいなことを認めているのですから,ある程度,当事者の自由に任せるという部分とが確かにあって,絶対にどっちかだということではないと思っております。   そうなりますと,例えば丁案を採って特に同意による時効期間の伸縮に関する規定は明確には設けないという場合でも,それとの対となるような形で,時効は任意規定だからだというような形にしてしまいますと,どのような合意でも認めるみたいなことを示すことになりかねないと思います。丁案は一つの成り立つ案だと思いますし,弁護士会では丁案というのは比較的,強いのですが,その理由にはいろいろな意味があって,今,規定を設けるのは難しいという意味合いが強いんですけれども,それは決して自由に合意を認めてもいいということを前提としているというわけではないというところを踏まえて,考えてみたいと思っております。その意味では,任意規定だということを明言するということに関しては,慎重であるべきだと思っております。 ○岡委員 同じく(5)と(7)について発言させていただきます。   (5)について弁護士会の多数意見は中井さんが言ったとおり,724条の維持の方向でありますけれども,私個人としては権利行使できるときから10年ということに724条を改める意見を持っております。ただ,それはここに出ておりませんし,そんな声高く言えることではないのかなと思っておりましたけれども,潮見先生の意見がその方向と同じということで,ある程度,広がりがあるのであれば,逆に権利行使できるときから10年という方向に724条を改めるという案も,是非,パブコメの段階で生かしていただければと思います。それはどのぐらい広がりがあるかということでお決めいただければいいと思いますが,弁護士会の中でも権利行使できるときから10年でそろえるという案が現時点では少数ですけれども,あるということを申し上げたいと思います。   それから,合意による時効期間等の変更については,今,高須さんがおっしゃったのが弁護士会の多数意見だと思います。丁案ではあるけれども,道垣内先生もおっしゃったように,丁案の今,非常に呉越同舟といいますか,全くの任意規定という岡本さんの案には反対ですが,今,乙案で決め切れるかというと,それほど議論は煮詰まっていないし,なかなか,これで決めると,また,裏をかく人間も出てくるので,当面は解釈に委ねざるを得ないのかなというレベルで,丁案に賛成ということでございます。 ○山川幹事 先ほどの道垣内幹事の御発言に関してですが,労働基準法が賃金債権等の消滅時効期間の短縮の合意を無効としているというのは,労働基準法の一般的な規定(13条)で消費者契約法と同じく法律よりも不利な合意を無効としている結果ということで,立法者意思までは遡って見ておりませんけれども,賃金債権の消滅時効期間の短縮合意が有効とされるという前提は,必ずしも採っていないのではないかと思われます。その意味で丁案を採る場合でも,恐らく一般的に時効期間の合意による短縮が許されるかは解釈問題として残される。先ほどの弁護士会の御意見等もありますけれども,いろいろな意味での解釈論として残されるのであろうと思います。私も,先ほど申し上げたのは,個人的に丁案を採るべきだというより,もし合意による変更ができる場合であっても,むしろイの労働契約から生ずる権利に関しては,それは許されないというような規定を設けるほうが労働契約の特筆には合致しているのかなと,そういう御趣旨で申し上げた次第です。 ○山本(敬)幹事 (5)の不法行為等による損害賠償請求権の消滅時効ですけれども,既に最初のほうで潮見幹事が指摘されましたように,取り分け請求権競合が問題になるようなケースで,債務不履行責任か,不法行為責任かで時効期間にそごを来してくるという事態は避けられるような立法的な手当てができればと思います。少なくともイで,生命,身体等の損害による損害賠償請求権に関しては,債務不履行責任か,不法行為責任かに関わりなく特則を設けるという考え方に賛成したいと思います。   その上で,イの中で甲案か,乙案かという点については,前にも申し上げたかもしれませんが,部会資料の13ページの3に書かれているように,イの趣旨が「債権者(被害者)に時効の進行を阻止するための行動を求めることが期待しにくい」というところにあるとしますと,乙案のように,「名誉その他の人格的利益の侵害」まで広げるのは,やはり適当ではないと思います。  ただ,甲案のうち,生命,身体の侵害のほか,それらに類するものの侵害を対象とするという方向には賛成したいのですけれども,それならば,そのことが明確に分かるような文言を採用すべきだと思います。部会資料では,「健康」は「身体」に含まれるので,特に列挙しないと書かれていますが,例えばPTSDのようなケースのほか,ストーキング等にあって不安や恐怖に駆られたことから精神的なダメージを受けるような場合は,「身体」の侵害に本当に含められるのかどうか,疑義が残る可能性もあります。したがって,「健康」の侵害もやはり明記すべきだと思いますし,更に「自由」ないしは「人身の自由」の侵害も明記しておくほうがよいのではないかと思います。 ○村上委員 (5)のイについてですが,仮にこういう特則を設けるのだとしますと,特則がどのような場合に適用されるのか,その外縁のはっきりした規定にしていただくことが不可欠だろうと思います。既に同趣旨の御発言を何人かの方がしておられますので,それに賛成だということですけれども,外縁がはっきりしない規定になりますと,適用の有無をめぐって,大きな紛争になるということが非常に懸念されます。 ○松本委員 二点ですが,一つは質問です。潮見幹事の発言に対して岡委員が賛成だとおっしゃった(5)のアですか,権利を行使し得る時と置き換えたほうがいいと。これは現行の3年の起算点を置き換えるという意味なのか,3年も20年も取っ払って,権利を行使し得る時から何年かと置き換えるという趣旨か,私の理解がちょっと曖昧なんですが,どちらの議論なのでしょうか。 ○岡委員 岡は権利行使できるところから10年の一本です。 ○松本委員 一本ですか。そうだとすると,(2)で言うところの客観的起算点,主観的起算点という分け方からいくと,一体,どっちになるのですか。(2)の甲案の定義では,権利を行使することができる時というのが客観的起算点であるという話で,他方で,乙案は債権者の認識等の主観的な事情を考慮した起算点を主観的起算点と言うと。そうすると,権利を行使し得る時というのは,主観的な事情も入ってということなのか,やはり客観的な事故が起こった時点,本人は気付いていないけれども,から10年という客観説に立った起算点なんですか。 ○岡委員 岡本さんがおっしゃったり,今の実務の理解としては原則客観だけれども,権利行使できることが期待できない場合にはずらすと,客観プラス主観を意識しております。 ○松本委員 当然,前提としては加害者を知った時とか,損害を知って,かつなお,それでも行使できないではないかという場合はもっとずらすということですか。それとも知らなくても起算してしまうのですか,実務は。 ○岡委員 意識しているのは損害の発生がかなり遅れたときに,それを救ってあげるというイメージで,部分的に主観が考えられるということを考えております。 ○松本委員 損害の発生を知るというのが大前提なんですね。 ○岡委員 はい。 ○松本委員 加害者も知って。   それが一つですが,もう一点は,合意による期間の短縮あるいは延長のところです。ここは時効期間についてのみ任意規定かどうかという議論をしていますが,時効の完成を容易にするとか,困難にするということを当事者間で合意できるかと一般化すれば,この後で今日中に議論に少しは入るんでしょうが,時効障害事由について,これは時効障害ではないとか,あるいはこういうことをすれば時効が中断するとかいうような特約も有効なのかどうか。すなわち,時効障害に関する規定は強行規定なのか,任意規定なのかという部分も一緒に議論しないと,期間のところだけを強行規定か,任意規定かという議論をしているのではちょっと不十分だという気がいたします。時効障害の部分は全く論点としては挙がっていないわけですけれども,これは法的性格としてはいかがなんでしょうか。 ○鎌田部会長 松本委員のお考えをお伺いしたい。 ○松本委員 私は時効期間が自由に伸縮できるのなら,時効障害も当事者の真の合意があれば,構わないんだというほうが論理的には一貫すると思います。公序良俗に反しない限りは,特殊な場合は駄目かもしれないですが。 ○佐成委員 内部での議論の状況ということで,(5)と(7)について御報告させていただきたいと思います。   (5)についてですが,アの論点につきましては,後段の20年を時効期間とすることに賛成であるということでございます。余り十分議論は詰めておりませんけれども,そのことによって生命,身体等に関する救済もある程度,進むのではないかという認識の下に,イについては全体的にこういった規定は不要ではないかという意見でございます。しかし,仮にイの論点で強いていうとすれば,皆様から今まで御発言があったとおり,乙案の名誉その他の人格的利益というのは非常に不明確なので,これでは実務的にもたないだろうという意見はございました。これが(5)に関する内部での議論状況です。   それから,(7)については,もし,合意できるのであれば便利そうだということはありますけれども,経済界一般で積極的な意見は誰も表明しなかったということでございます。そういうことからしますと,そもそも現実に規定をおく必要性が本当にあるのかというところに若干疑問があります。それで,甲,乙,丙,丁とありますけれども,今,言ったとおり経済界では恐らく丁案の設けないという考え方が一般的かもしれませんが,私自身には,仮に設けるとすれば,現行の146条との整合性から考えて,甲案ぐらいはあり得るのではないかという感覚はあります。けれども,基本的には丁案が現状での経済界一般の感覚でございます。 ○深山幹事 (7)の合意による時効期間等の変更のところについて申し上げたいと思います。一読のときにも同じような発言をした記憶があるんですが,基本的には時効期間あるいは起算点,あるいはもっと言えば時効制度というものについては,従来,強行規定として理解されてきたのではないかという気がずっとしておりますし,今後もそうあるべきではないかなと思っております。甲,乙,丙,丁でいうと,そういう意味では丁ということになるのかもしれませんが,先ほど来の発言にも出ているように丁案の中にはいろいろな意味合いでの丁案を選ぶ考え方があって,任意規定であるという全く逆のことを前提に丁案という考え方もあれば,逆に強行規定的に捉えたがゆえに設けないという提案もあり得ると思います。あるいはその中間もあるのかもしれません。   権利行使期間を定める契約書というのは,それほど珍しくないわけですけれども,それが時効期間の変更合意とイコールかどうかという部分については,前回も申し上げたんですけれども,私はどうもイコールではないような気がずっとしております。権利行使期間の定めというのを無効だと考えているわけではなく,よほど不合理でなければ認めてよろしいと思うんですが,そのことと時効期間とか,時効の起算点を合意によって任意に決めるということとは違うのではないかという理解をしております。   例えば,権利行使期間の定めをしたときに,それに対する時効障害的なものが観念されるのかと考えると,恐らく当事者の意識としても,そのときには時効障害事由みたいなことは念頭になくて,例えば債務承認をしたからといって,そこから更に権利行使期間が起算されるとか,延びるとかという認識は多分ないんだと思うんです。そのことから考えても,やはり権利行使期間の定めというのと時効期間の定めというのは,やや性質の異なるものとして実務で使われているのではないかなと思います。   先ほど松本先生がおっしゃったように,もし,ここの期間や起算点を任意に決めるのであれば,確かに時効障害事由のほうも任意でないと私も一貫しないような気がしますし,逆にそうなってくると,公序良俗に反しない限りという縛りは最終的な枠としてあるにせよ,基本的には自由に決められるというものとして時効制度を採られていることに限りなくなっていきます。時効制度の機能というのはいろいろな側面があるとは思いますが,契約当事者の力関係がストレートに反映した形で時効に関するルールが契約ごとに作られていくとなると,そういうことが法秩序として妥当なのかなと考えると,余り妥当ではないのではないかなという価値観を持っております。 ○中井委員 (5)と(7)について意見を申し上げようと思っていたんですけれども,(7)については基本的に時効というのは強行法規と理解した上での丁案というのに賛成したいと思っていまして,その理由については今の深山幹事がおっしゃったことと同意見と申しあげておきたいと思います。   (5)について更に少し補足しておきます。先ほど内田委員からもお話がありましたけれども,中間論点整理の段階を経て,今,中間試案に向けた議論をする中で,不法行為による損害賠償請求権の消滅時効に関して,第一読会でも出ていなかったかと思うんですが,724条の構造自体を変えるという仮に提案があるとすれば,それは避けたほうがいいのではないか。実践的にも,そう思っております。その構造は,少なくとも債権法改正の消滅時効を取り上げる,その限度において不法行為に基づく消滅時効を取り上げるとしても,724条を改善すべきところがあれば,それを改善するのにとどめるのが適当ではないか。これは実践的にも,民法改正を順調に進めるためにも,そのほうが好ましいのではないか。その限度で,修整提案に賛成するというのが私の意見です。   先ほど山本敬三幹事から取引的不法行為について,二本立てはよろしくないから,一致したほうがよいのではないか,同じ結論でないとやはりおかしいのではないかという御指摘,これは潮見幹事も同じなのかもしれませんけれども,確かにそうかもしれません。仮にその背景として山本敬三幹事も不法行為に基づく主観,客観との併置説を,契約債権における先ほどの(2)のところの甲案,乙案についての乙案を前提とした発言とすれば,理解できるわけですけれども,弁護士会としては(2)についての乙案,つまり,契約債権について主観,客観併置説については反対をしているので,その限りで取引的不法行為について別の仕組みとして残ることはやむを得ない,このように考えているわけです。 ○潮見幹事 中井先生から先ほど前振りだというので私は黙っていたんですけれども,前振りという形で言われた先ほどの発言のところで,二つ発言したいことがあります。一つは中井委員がおっしゃられた実務面の改善にとってプラスになるかどうかというところが今回の改正の多分,一つの大きな要素ではないかと私も思います。そのときに先ほどから何度か問題になっていたような,更に請求権競合が問題になるような局面は無視できないというのが私の認識です。   そうであれば,先ほど岡委員がおっしゃられたところに賛成するかどうか。私は724条みたいなものは廃止してしまえという考え方ですので,はい,そうですかとは言い切れないところがありますけれども,しかし,そうした問題があるということであれば,それを改善する方向を探ってみるというのが,今回の例えば時効全体のシステムを変えるという観点からの議論の中で不可欠ではないかと思います。その場面で,不法行為自体の規律を手に掛けることがあったとしても,それはそれとして多とすべきではないのか,このあたりが少し中井委員と私の認識の違いではなかろうかと思います。   それから,もう一つ,理論的な部分について簡単に申し上げますと,私も全部調べたわけではありませんけれども,伝統的に見た場合に,あるいは体系的に捉えた場合でもそうかもしれませんが,債務不履行を理由とする損害賠償,これも債務者に対する債権侵害,不法行為的なものとして捉えて,その意味では不法行為と,それから債務不履行を理由とする損害賠償というものは,基本的に根は一緒ではないかと思っております。沿革的にも発展過程を考えた場合でも,そのような観点から捉えるのがいいのではないかと思います。もちろん,異論はあると思いますけれども。   その上で,それなら,一体,どうしてこういうことになったのかといったら,基本的に債務不履行を理由とする損害賠償請求権も,請求権という観点から捉えた場合に,その場合に請求権の時効という面では他の特に債務不履行の損害賠償が独立した段階で,他の請求権と同じような扱いをすべきではあるまいかという形で,結果的に債権の本来の内容であるところの履行請求権の消滅時効と平仄を合わせる形で整備がされてきました。   それを受け入れるというのも一つの方法だとは思いますけれども,一歩,立ち戻って考えた場合に,やはり,債務不履行を理由とする損害賠償請求で,特に安全配慮義務などが問題になっているような場合はそうかと思いますけれども,伝統的学説のいう転形論が妥当しないような場面と,不法行為を理由とする損害賠償請求権との間のほうに,むしろ実質的な共通性があるのではないでしょうか。このことも中井委員と私の理解の違いではなかろうかと思うので,ちょっとだけ発言させてもらいました。 ○沖野幹事 (5)と(7)の点についてです。まず(7)の合意の話に関しまして,既に指摘されておりますけれども,任意規定で,自由に変えられるのかという点について,任意規定にも様々なものがあります。また時効の制度は完全に私益の制度ではなく公益的な要素があるというのも,一般的な了解と思われます。そうしますと,ここで合意による変更を認めるかというのは,若干の幅や柔軟性を許容するのか,当事者の法律関係に応じた幅を認めるのかという問題として,考えるべきだと思います。任意規定といっても自由な形成を許すものではなく,元々,そういう当事者による幅は一切ないものと考えるのか,それとも,若干の幅,柔軟性を持たせ当事者に即した具体的規律の余地を認めるべきか,その間の選択の話だと考えます。そういう問題と把握しますと,ここで当事者による変更の余地を認めると時効障害等についても同じように変更の余地が十分あるものということにはならない,両者は連動しないと思います。むしろ,時効障害については合意による変更の余地はないと考え,期間と起算点について若干の可能性があるのかどうかという問題ではないでしょうかか。   次に,(5)の不法行為についてなんですが,潮見幹事,山本幹事からのそれぞれ御指摘を繰り返す形になるのですけれども,少し申し上げたいと思います。私は不法行為の724条の特徴は,起算点の捉え方にあるのではないかと考えております。起算点が被害者が損害及び加害者を知った時という,主観的起算点になっているという点です。そのような主観的起算点,具体的な権利行使の可能性との関係でそれがある場合には時効期間について一定程度の短縮が図られ,主観的起算点が始動しない場合に対応するために,客観的起算点による相対的に長期の期間と組み合わせている。性質の問題など様々な解釈問題がありますが,基本的な構造はこのようなものだと考えています。724条をこのように捉えますと,主観的起算点と組み合わせて一定の相対的に短期の期間制限を設けるという規律を,不法行為のみに認めるのが適切なのかという問題ではないかと思います。 例えば岡委員がおっしゃるように,不法行為について,このような構造はやめて一本化し,起算点は権利を行使できる時ないし期待可能性とし,損害及び加害者を知った時ということもそこに含め,あとは解釈によるというのも一つの考え方だとは思います。   しかし,このような主観的起算点プラス一定の規律という考え方は,それなりに意味があるとしますと,これを維持することになりますけれども,その維持が不法行為だけでいいのかはやはり疑問に思われます。中井委員は取引的不法行為の場合と言われましたが,潮見幹事,山本幹事は請求権競合の場合とおっしゃっていて,安全配慮義務や医療のような場合において債務不履行構成か,不法行為構成かで時効の規律が大きく違うというのが,本当にこの点でこの二つは全く違う制度だというのでいいのかは,大いに疑問に思います。   契約締結過程における各種の義務に対する一定の損害賠償などについても,全く同じ事象であるのに時効が違うのは,時効の制度趣旨からも理由がなく問題だと思います。被害者感情の沈静化といった事情は説得力がないでしょう。724条の構造を維持すべき理由を見いだすとすれば,それは不法行為に特有の事情ではなく,主観的な起算点による具体的行使可能性があるときには期間について一定の短縮を掛けるというそのこと自体の合理性であり,そうであるのならば,債務不履行であっても同じだと思われます。これに対し,現行法は債務不履行と不法行為で異なる時効制度としているのだから,それを尊重すべきだという点については,現行法ができたときに,今のような請求権競合の問題を想定していたのかという点もあります。 ○鎌田部会長 沖野幹事は,「(5) 不法行為等による損害賠償請求権の消滅時効」については,潮見幹事と同じような考え方という結論になるのですか。それとも,ここで言う(5)のイに書いてあるような考え方ということになりますか。 ○沖野幹事 不法行為特有の時効制度を存続させるのは疑問だと思います。私自身は,(2)に関して乙案の構造でいいのではないかと考えており,それを前提にしたときには,(5)についてはイの考え方がよろしいのではないかと考えています。 ○鎌田部会長 「(7) 合意による時効期間等の変更」についてはどうですか。 ○沖野幹事 (7)については,従前から合意により調整する若干の余地を認めてはどうかと思っております。それは,時効期間や起算点についての定め方とも関係してくるわけですけれども。(7)については乙案ないし丙案,幅の違いはあり得るものの伸長と短縮の両方向が認められる方がよいと思っており,それにイを組み合わせるということを個人的には考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございます。 ○中原関係官 (7)についてですけれども,事務局の説明の資料にもありますように,丁案で強行規定にするという御意見も割にあったかと思いますけれども,これもまた事務局の説明の資料にありますように,物の本とか,権威ある教科書などには,現行法制下では,確かに時効期間を短縮する特約は許されると記載されているものが多いと思っておりまして,一般にはそのように理解されていると思います。   しかしながら,当事者間で時効期間を短縮することとは全く同列ではないかもしれませんが,債権放棄もできるわけですし,あるいは特定性があれば訴訟契約といったことも可能なわけですから,当事者間での時効期間の短縮は強行規定だから許されないということを議論して得られる実益は,何だろうかというところが必ずしも釈然としないと思っております。むしろ,当事者間の合意によって時効期間が短縮された債権が譲渡されたときとか,あるいは債権者の債権者が差し押さえたときに,そのような特約の存在を債務者が主張できるかどうかというような観点において,議論する実益があるものと思っております。その観点から議論しましても,現行法で許されている柔軟性は,今後とも維持されるべきだろうと考えております。 ○中井委員 沖野幹事のほうから,私が取引的不法行為という言葉を使ったところですけれども,決してそれのみを念頭に置いたわけではなくて,請求権競合の場面も念頭に置いた言葉として使ったつもりで言葉足らずでしたので,その限りで修正させていただきたいと思います。   それから,(7)についても先ほど強行法規を前提として丁案という言い方をしておりますけれども,その真意としては深山幹事の発言を援用したわけですけれども,基本的にはやはり時効制度というのは,公序というのがまずは基本にあるだろう。そこから出発して,どこまでできるかを考えなければいけないという,その基本が先ほどの岡本委員と違うところですので補充しておきます。 ○鎌田部会長 弁護士会は,強行規定であるという考え方が多数というふうな御紹介……。 ○中井委員 はい。強行規定とまで言うかはともかく,この時効制度というのは,公序ではないかというところから出発して物事を考えよう,という意見が多数です。 ○鎌田部会長 先ほどの深山幹事からの御発言もあったんですけれども,権利行使期間については深山幹事の御発言と同じように,そちらのほうは自由に認めていいというのが大体,弁護士会の共通の御意見ですか。 ○中井委員 そこで自由にと,こう言われるとまた考えてしまうのですが,権利行使のできる期間を定める契約があることを否定しませんし,その効力が否定されるということはないという点では一致しています。先ほどの御指摘と重なるのかもしれませんけれども,それを認めるのだったら,時効について自由に変更を認めてもいいのではないかという反論があるのかもしれません。時効制度は援用によって権利が消滅する仕組みであるのと,権利行使ができる,できないということを当事者間で合意することは,質的に違うという理解をしているということです。 ○佐藤関係官 二点,できるだけ短くコメントさせていただきたいと思います。   まず,第一点目は(6)預金債権等に関する特則の要否でございます。私の意見は,この特則については特段,設けないものとしてはどうかという事務局の御提案に賛成でございます。理由はここの事務局のペーパーの15ページに書いてあるとおりでございまして,端的に言いますと,普通預金債権の消滅時効の起算点について,学説上もいろいろな考え方があってまとまっていないと,比較的支持が多いという学説,これからすると,特段,特則を設ける必要はないということで,現段階では特則は設けなくていいのではないかと,この提案に賛成でございます。   二点目は(7)の合意による時効期間の変更のところでございますが,これは時効の効力のところとも関係してくるのかもしれませんが,第三者が登場するような場合,例えば債務に対して保証しているような場合で,債権者と主債務者が主債務の時効期間の変更の合意をしていたと。ただ,それを保証人が知らなかったような場合に,その合意というのがどのような第三者効を持つのか,こういう点につきまして,仮に甲案か丙案におけるような何らかの規定を設けるのであれば,その第三者効についても明確にしたほうがいいのではないかと。その点だけ問題提起として申し述べさせていただきます。 ○筒井幹事 (5)のアの論点について,一点だけ,資料作成上の弁明をしておきたいのですけれども,潮見幹事から御指摘があったことですが,(2)の論点の検討結果に依存するかどうかについて,論理的に依存していないというのは全く御指摘のとおりであります。ただ,(2)の論点で乙案,つまり,債権一般について主観的起算点からの短期の時効期間を付け加えるという変更があった場合には,その結果として民法724条との関係という問題が浮上してくるであろうと思います。それに対して,債権一般についてそのような手直しを行わないという選択をした場合には,専ら民法724条に固有の問題としてこの規定を残して置くことが適当かどうかを議論することになります。もちろん,その背景には,取引的不法行為に関して請求の立て方によって時効の規律が異なることでよいのかどうかという実質的な問題があるのは,全く御指摘のとおりですけれども,論点の取り上げ方として,不法行為の規定の見直しを独立に俎上に載せることが,今回の諮問事項との関係で適当かどうかという観点から,(2)の論点の検討結果に依存することにならざるを得ないと考えまして,部会資料にはそのように記載したわけです。そのことは,中井委員から先ほど御指摘があったように,今回の検討対象となる範囲について,どれぐらいの幅を持って見ていくのかということと関わるところであります。   ただ,それはそれとして,本日の議論の中で様々な御指摘がありましたことを受けて,仮に(2)において甲案を採るとしても,民法724条の削除を含めた見直しという論点が,中間試案における一つの選択肢として入るのかどうかについては,今日の議事を振り返って改めて考えてみたいと思います。 ○松本委員 今の御説明との関係なんですが,5ページの(2)の甲案でいうところの権利を行使することができる時という,現行民法でのそういう条文ですが,これの意味を客観的起算点だとしている。他方で,乙案では,債権者の認識と主観的事情を加味したものを主観的起算点だと言っている。これは先ほど私が言いましたように,契約上の主たる履行債務については,両者は一致しているのが基本なので区別しても仕方がないんですが,そうではないところの債務について,債権者の認識の有無を問わないで権利を行使することができる時という意味で,甲案を一般化して使うのかというところであります。つまり,自分はまだ被害を受けたかどうかも分からないし,加害者がいるかどうかも分からないけれども,被害を受けているんだと。   したがって,それは損害賠償請求権の時効が走っているんだという趣旨で,権利を行使することができる時という客観的起算点を考えている,この文言はそういう意味なのかどうか。それとも,先ほど岡委員がおっしゃったような行使が期待できる時という意味だから,当然,主観的な事情が前提となってから走るんだという理解なのか。すなわち,724条は正に不法行為の時からと書いているわけですから,被害を知ったなんてことは全然,要件になっていないわけです。それと権利を行使することができる時というのが同じ概念なのかどうかというところをはっきりさせないと,724条がいかにも(2)の乙案であるかのような説明がなされましたけれども,ひょっとしたら違うかもしれないわけなのです。権利を行使することができる時という客観的起算点というのは何ぞやというのをはっきりさせないと,(5)と(2)の関係は答えが出てこないと思います。 ○潮見幹事 時間がないところですみません。今の松本委員の発言ですけれども,そういう問題があるから,先ほどの休憩前に山野目幹事が言われましたように,乙案は比較的クリアだと思うのですが,甲案あるいは甲案をベースにこの問題を捉えていこうとされている方々が,どういう条文を想定しておられるのかをまず示していただいてから議論をしないと,他方,事務局の方々も甲案をお出しになられているということは,ここで書かれている甲案の客観的起算点ということの意味が一体,何を意味しているのかということをもう少しはっきりしてから議論をしないと,空中戦というか,抽象論で,しかも議論がすれ違うという感じがします。それを受けてから議論をしていただければいいのではないでしょうか。 ○中井委員 事務当局から説明していただければと思うんですけれども,今松本委員,潮見幹事がおっしゃったように,弁護士会が考えている権利を行使することができるときから10年というのは,甲案で記載されている権利を行使することができるときという客観的起算点という表現と一致しているのかというと,そうではないと思います。弁護士会が権利を行使することができるときから10年という形を提案しているのは,現行法と同じ権利を行使することができるときで,判例実務の中で形成されてきたものであって,そこには主観的事情が盛り込まれているだろうという認識を持った上での発言です。したがって,今日の発言で私が甲案で10年だと言っているとすれば,それは余り正確ではないと,改めてその発言は修正しておかなければならないということを認識いたしました。   更に言うならば,乙案における権利を行使することができるときとは何だという点については,私の勝手な理解ですけれども,現在の裁判実務で認められている権利を行使することができるときではなくて,単純に弁済期なら弁済期,債務不履行なら債務不履行時を客観的起算点として記載されているのではないかと見ています。だとすれば,その点も事務当局から資料を作るときには,明らかにしていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 他方で,乙案の言う主観的起算点と,甲案で言う「権利を行使することができる時」は同じであるということもないわけで,もう少し中身を明確にするように,今後,努めたいと思いますし,御意見があれば……。 ○松本委員 724条との関係で,不法行為時というのが先ほどの債務不履行時と同じように並んだ意味で客観的起算点になるということが,724条の枠組みと(2)の枠組みが同じだ,違うんだという議論をする際の前提になるのかどうかも含めて,調査をお願いいたします。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○筒井幹事 ただいまの御議論のとおりで私は全く違和感がないので,むしろ,事務局の資料の作り方として,甲案のところに客観的起算点という言葉を入れたのがややミスリードだったのかもしれないと思いました。(2)の甲案では,その後の「を維持した上で」という記述にウエートがあって,基本的には現在の起算点の規定に関しては手を付けないという考え方であると思います。乙案は,それとの対比で明確に区別されるところの主観的起算点というものを新たに設ける,その際には客観的起算点の文言についても再考することになるのだと思いますが,そういうものとして乙案は提案されていると理解したほうがよいと思います。 ○鎌田部会長 ほぼ御意見は出尽くしたと思いますが,「(3) 定期金債権の消滅時効(民法第168条)」に関しましては事務当局からの説明におきましても,本文記載の提案に伴う問題点の有無などを分科会において補充的に議論するという提案でしたけれども,そのような取扱いに特に御異論はなかったと理解させていただきます。   「(4) 判決等で確定した権利の消滅時効(民法第174条の2)」については,特に御意見がないところであって,この提案に異論はないと受け止めさせていただきます。   「(5) 不法行為等による損害賠償請求権の消滅時効」のアにつきましては,先ほどの御指摘を受けて筒井幹事から提案内容の整理がされましたので,それに従って更に検討を続けるということにさせていただきます。イにつきましては,これが不法行為と債務不履行との共通の原則であるのか,そうでないのかというところについても御意見の違いがありましたし,甲案,乙案に関連して,乙案を積極的に支持する御意見はなかったんですが,甲案の中でもなお広狭の差があったと理解しています。   村上委員の場合には,甲案のようなものでも中身が明確であれば考慮に値すると,そういう趣旨の御意見と理解してよろしいですか。 ○村上委員 最終的にどういう文言になるか次第だと思いますが,明確な文言にしてもらいたいという強い希望だということです。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○松本委員 今のおまとめの部分なんですが,(4)について私も特段の意見があるというわけではないですし,皆さんも意見がないんですが,なぜここだけ縮めないのかということです。時効期間の短縮を御提案される側が,10年は長過ぎる,短くしろという提案をされているのであれば,たとえ判決で確定したものであっても,ほかのものに合わせて短くするのが原則だという声が全く出てこないのがちょっと不思議なのです。ここだけ10年を残すということは,本来,きちんとした権利については,10年間は消滅しないんだというのが原則だということを認める感じにならないですか。特殊なものだけ短期化すればよいと。判決なんだから証拠もきちっとあるし,問題ないでしょう。そういう債権は10年なんだとなると,時効期間は何年が原則なのかという議論をする場合に,債権については10年が原則なんだという思考を法制審議会は前提にしているということになるような印象を受けるわけです。私はそれでもいいと思うんですが,そういう考えを採らないという方がここだけ何の意見も出されないのはちょっと不思議な感じがいたします。 ○鎌田部会長 何も意見がなかったわけではなくて,既に前回の議論の中で,むしろ,原則的に時効期間の短縮化を図ったとしても,この場合だけは10年でいいのではないかという御意見は頂いているところです。 ○松本委員 積極的根拠がありますか。 ○鎌田部会長 むしろ,原則的期間が短期化されるなら,それに合わせてここも短期化しろという御提案がされたと受け止めてよろしいですか。 ○松本委員 違います。そのほうが原則期間を短期化しようとする人の思考方法としては,首尾一貫しているように外部の人間からは思えるんですけれども,という外部からの意見であります。 ○鎌田部会長 分かりました。そういった御意見があったということで,これを積極的に提案される方については,その部分について何らかの機会に御説明を頂けるようにしていただければと思います。これと対立する提案は,この部会では現時点では存在していないということで整理させていただきます。 ○道垣内幹事 部会長の整理の結果に何ら異存はないのですが,分科会に対するお願いが一点だけあります。すなわち,定期金債権と定期給付債権との論理的な関係でありまして,もちろん,このままで解釈に委ねるというのも一つの考え方であろうと思いますが,教科書を見ますと,定期金債権から発生するのが定期給付債権であるというふうな説明があるのですが,場合によってはそうでないこともあるような気がしています。そのあたりについても併せて御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 では,その点も含めて分科会での御検討をお願いするということにさせていただきます。 ○潮見幹事 すみません,時間がないところで,もう一点,事務局にちょっとだけ確認のための質問をさせていただいてよろしいでしょうか。先ほどの(5)のアなんですが,余り触りたくもないというのがあるかもしれませんが,一点だけちょっと確認をしたいのは,甲案を採る場合にはという後で724条の後段,20年という期間制限,これが時効を定めたものであることを明確化することとしてはどうかという記載部分の意味なのですが,整備法にも関わってくるかもしれませんが,これは仮に724条みたいなものを維持したときに,後段は消滅時効というように考えるということですよね。   したがって,ここから先なんですが,いろいろ大気汚染防止法だとか鉱業法とか製造物責任法とか,いろいろなところにある長期のものについても,もちろん,同じように時効というような形での処理をするが,そこにとどめるということなのか,それとも例えば相続回復請求権なんかのようなところでも長期の期間がありますが,不法行為以外の場面で短期,長期と規定しいものについても,これからは消滅時効という形で考えて,あるいはそう捉えて処理をするというところまで射程が及ぶのか,それとも,もっと進んでおよそ除斥期間なんていう考え方は,今回の改正を機会にやめてしまうというような広い趣旨まで入るのか。明確化することとしてはどうかという「提案型」でお書きになっているものですから,そのあたりを,どうお考えになって,こう書かれたのかというのをもしよろしければお聞かせいただければと思います。 ○筒井幹事 ただいまのお尋ねの点については資料に書きましたとおりで,民法724条に限定した提案として書いております。それ以上のことについて,ここでは言及していないということであります。 ○潮見幹事 ありがとうございます。 ○鎌田部会長 次に,「(6) 預金債権等に関する特則の要否」につきましては,原案に賛成の御意見も頂戴しましたけれども,現時点ではなお設けないということに決め切らないでほしいと御意見がありました。ただし,その理由については,道垣内幹事は預金について典型契約とするならば,それに連動してというふうなことでしたけれども,中田委員はむしろそれとは関係なしに,固有に検討の対象にすべきであるというような趣旨にも聞こえたんですけれども,預金債権についての規定が設けられるんだとしたら,それに連動してという限定が付いているわけではないですね,まだ,結論を出すなということについては。 ○中田委員 時効期間と起算点の定め方に関わるということです。 ○鎌田部会長 ただ,まだ,結論を出さないということで放っておくのも難しいので,例えばこういう時効期間起算点との関連でいえば,こういうふうな形でという御提案をしていただけると,事務当局としては大変助かるんですけれども。 ○中田委員 それは先ほど申し上げたことですが,時効期間の起算点について甲案を採り,かつ権利行使を強いることが契約の趣旨に反するときは別だというような文言も明確にするのであれば特則はなくてもいいかもしれないし,短期と長期を置く乙案を採って,短期については知ったときから3年というような制度になったとすると,やはり特則を置く必要があるのではないかということです。 ○鎌田部会長 その特則は少し預金債権については期間を長くするという内容になりますか。 ○中田委員 それはいろいろな制度の置き方がありますが,例えば普通預金の解約時から時効が進行するというような意見も出ているところですので,そういうものも含めて検討するということになると思います。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○道垣内幹事 私から一点だけ補足しますと,多少,呉越同舟のところがあるような気がするのです。つまり,資料の説明のところにも三つぐらい考え方があり得ると書いてありますが,一番有力なのは,最後の出し入れのときから起算するというものであり,それでいいのではないか,そして,そうすると別に特則は不要ですねという御意見があったわけです。しかし,現在,預金についてなされている提案の中には,そういう預金のメカニズムというのを例えば更改的に捉えよう,そして利息が発生し,それが記帳されるというのも一つの更改行為であると捉えようというものもあります。そうなりますと,皆さんがこれでいいのではないかとおっしゃった前提が変わってくる可能性があり,そうなると,違う起算点というのを考えなければいけない可能性が,また浮上する可能性があるの。そういう意味で申し上げました。 ○鎌田部会長 分かりました。そういう意味では,少し保留ということにさせていただきます。   「(7) 合意による時効期間等の変更」につきましては,大変多くの論点について議論を頂いたところでございますが,それらを再度,整理させていただいて,例えば丁案の理解も全く違う中身のものが併存しているわけで,それで本当にいいのかどうかというふうなこともありますので,少し事務当局において本日の意見を踏まえた検討を続けさせていただければと思います。   残りの時間が大変少なくなってまいりましたが,続きまして,部会資料31の「第1 消滅時効」のうち,「2 時効障害事由」の「(1)時効の更新事由」から「(5)その他」までについて御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○亀井関係官 「2 時効障害事由(1)時効の更新事由」では,現在は時効の中断事由とされているもののうち,従前の時効期間の進行が確定的に解消され,新たな時効期間が進行することになる事由を時効の更新事由として,規定することを提案しております。また,更新後の時効期間について判決で確定した場合などを除き,当初の時効期間とは同一の時効期間によるとする甲案と,原則的な時効期間に従うものとする乙案とがありますので,御審議いただけたらと存じます。   「(2)時効期間の進行停止という障害事由の要否」では,現在は時効の中断事由とされている訴えの提起,差押え,仮差押え等の手続の申立てなどの事由について,甲案は時効期間の進行が停止し,時効の更新事由が生ずることなく,その手続が終了したときから残りの時効期間が再び進行するという新たな障害事由として取り扱うこととするものです。乙案は現在の時効の停止事由と同様に取り扱うとするものです。   「(3)時効の停止事由」のアでは,天災等による時効の停止について定める民法第161条について,現在は2週間とされている期間について,ほかの停止事由と同等の期間とすることを提案しています。次にイでは,停止の期間について現状を維持する甲案,短くする乙案,長くする丙案を提示しています。ウでは,催告を時効の停止事由とし,催告による停止期間中に行う再度の催告は,停止の効力を有しないものとすることを提案しています。   「(4)当事者間の交渉・協議による時効障害」では,当事者間の交渉・協議を新たな時効障害事由として位置付けることの当否と,当事者の交渉・協議を時効障害事由として位置付ける場合には,明確性の確保の方策や時効障害事由の効果について御審議いただきたいと思います。   「(5)その他」のアでは,債権の一部について訴えの提起等がされた場合において,一部請求であることが明示されていた場合であっても,当該債権の全部について時効障害の効果が生ずることとする提案,イでは,保証人や物上保証人といった債務者以外の者に対して,訴えの提起等をした事実を債務者に対して通知することによって,債務者との関係でも時効障害の効果が生ずることとする提案,ウでは,抵当権の消滅時効について定める民法第396条の債務者及び抵当権設定者に対しては,という文言を削除する提案をしております。   以上に御説明した論点のうち,(1)のイ,ウについて,また,(4)の当事者の交渉・協議を新たな時効障害事由とする考え方を採る場合の具体的な規定内容について,(5)について,分科会で補充的に議論することが考えられると思いますので,その可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○大島委員 (1)の時効の更新事由ですけれども,時効について分かりやすくする方向で見直していくことについては賛成です。時効の中断については,相手方に請求書を送付することで時効がリセットされると思っている事業者の方々が,大勢いるという事例を以前に御紹介いたしました。また,内容証明を送っておけば大丈夫だと思っている業者の方もいらっしゃいます。中小企業の実務担当者が条文を読んで誤解することのないように,また,必要に応じて事由の呼称をふさわしいものに改めることについては,この方向で御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○村上委員 (1)のイの④について意見を申し上げます。強制執行又は担保権の実行としての競売の申立てをした場合についても,①,②,③の場合と同様な扱いをするかどうかという論点ですが,基本的に執行手続は権利の存否には立ち入らない手続ですので,これを判決等と同様の扱いをすることが理論的に妥当なのかどうかということをまず疑問に思います。   それから,手続が,債権者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されることなく,終了したことを更新事由とするという表現については,手続の終了というのがいつなのか,明確でない場合が生じ得ると思います。例えば債権執行の場合,配当等が行われるケースでは比較的明確だろうと思いますけれども,供託がされず,配当等の手続に行かない,したがって,取立てによって処理されるというケースがかなりございます。そういう場合,債権差押えの手続きがいつ終了したのか,よく分からないということもあり得ます。手続の終了という概念をここに入れ,その時点から新たな時効期間の進行が始まるとするのであれば,今のような場合に,どのような処理をするのかということを検討しておく必要が出てくるだろうと思います。 ○山本(和)幹事 今の村上委員と同じ部分ですけれども,私も前回,発言したかと思いますけれども,村上委員と同じ問題意識を持っています。④で更新事由となるというのが一体,どういう根拠に基づいているのかという,結局,そういうことだと思います。前回,申し上げたところで私の理解するところでは,①とか②のような既判力を発生するものではないというのは,今の村上委員の御指摘のとおりなので,結局,③と同じような,つまり,その手続が進んでいるにもかかわらず,債務者が請求異議とか配当異議とかをおよそ出さず,手続を最後まで進めてしまったというところに,一種のその債権については黙示的に承認しているというような趣旨が見出されるということなのかなと思ったところです。   そうであるとすれば,手続が配当その他によって最後までいったときは,そういうことかなと思うんですけれども,途中で終了した場合にも,そういうことが言えるのかどうか,債務者がその手続を黙認したと言えるようなのかどうかということは,果たしてこの規律に当てはまる場合に全て言えるのかどうかということについては,やや疑問を持っています。例えば誰かが手続を開始した後,配当要求をしてきた債権者がいて,しかし,配当要求がされた直後に手続が無譲与等で取り消されたというような,債務者はおよそ配当預金について争う暇もなかったというような場合に,配当要求をしたということだけで時効が更新してしまっていいのかどうかというのは,やや①から③までの場合とは,状況を異にしているような印象を受けます。   結局,取り消されることなく終了したというのが,今,村上委員も御指摘になりましたが,債権執行などでどこで終了したと言えるのかというようなこと,あるいは不動産・動産執行などの場合も取り消されるという,そもそも債権者の請求により取り消されるというのは,現在の民事執行法はこういう概念を知らないのではないかという気もする。   つまり,債権者が申立てによるのは取下げになるはずなので,取り消されるというのがあるのかというのはちょっとよく分からないんですが,また,法律の規定に従わないことにより取り消されるというのが,取消しのどういう場合がそうなのか,この取消しもいろいろな無譲与による取消しとか,売却の見込みがないことによる取消しとか,目的物が消滅したことによる取消しとか,あるいは取消し文書の提出による取消しとか,いろいろな場合があるわけですが,そのどれがこれに当たって,どれが当たらないのかということ,それから,これは分科会に対するお願いになるんですけれども,そういう個々の差押え配当要求あるいは担保権者の債権の届出,いろいろな場合があって権利行使の対応があって,他方で,手続が終了する場合に配当による終了もありますし,債権執行の場合には取立て等による終了もある,あるいは取消しについて,今,申し上げたような様々な種類の取消しがあると。個々のどの場合に,この時効期間が更新されるということが適切なのかというのをかなり場合分けして,個々的に考えていただいて,それを最後にどういう文言で表すのが適切なのかというような検討方法を採っていただければ大変有り難いと思います。 ○岡本委員 (1)から(5)までまとめて申し上げたいと思います。簡単に申し上げます。   まず,(1)の「時効の更新事由」ですけれども,イのところで提案に記載された場合に加えまして,部会資料の22ページに記載されている担保権者による債権の届出,これも時効の更新事由に含めるということで賛成したいと考えます。   それから,(2)ですけれども,甲案のほうで請求について,「また」以降の手当てが提案されていますけれども,差押えとか仮差押えについても同様の手当てがあっていいのではないかと考えます。その場合の猶予期間については,1年ということにすることにして,甲案のほうに賛成したいと考えます。   それから,「(3)時効の停止事由」についてですけれども,アについては賛成したいと思います。それから,イについてですけれども,甲案と丙案はどちらでなければならないということはないんですけれども,イの乙案には反対したいと考えます。   それから,(4)の「当事者間の交渉・協議による時効障害」ですけれども,アの考え方については基本的に賛成したいと考えます。①と②の書面の要否についてですけれども,明確化が必要だと思いますものですから,書面を要求することに賛成したいと思います。それから,②の通知の主体ですけれども,債権者側には時効障害を終了させるインセンティブはないと思いますので,債務者の通知に限るということでよろしいかと思います。それから,③の終了事由につきましては,終了時点が曖昧になるおそれがあるので,③のようなものは設けないということにしてはどうかと考えます。それから,イのほうですけれども,甲案につきまして部会資料23ページの(2)の甲案の「また」以降の記載のような猶予期間を設けた上で甲案に賛成したいと考えます。   それから,(5)ですけれども,アの提案,それから,イの提案,いずれも賛成です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   「(1)時効の更新事由」のイについては,いろいろと御指摘を頂戴しましたが,その点につきましては,事務当局からの説明においても分科会で詳細を詰めて検討するという提案がなされているところでございますので,そちらの補充的な検討に任せたいと思いますが,よろしいでしょうか。 ○中井委員 この部分の取りまとめを,部会長は始められたということでしょうか。 ○鎌田部会長 取りあえず(1)についてはということでございますけれども,どうぞ,御意見があればまず出していただければと思います。 ○中井委員 (2)について,弁護士会として,単位会からの意見聴取を可能な限り進めてきたわけですけれども,現段階において甲案の進行停止という案と,乙案の時効の停止事由とする案が拮抗している状態で,ここで弁護士会としての意見を言えない状況です。   早期に取りまとめる必要があるのかもしれません。甲案は何らかの権利行使をして,それに一定の時間を要したときに,結果として,その期間については改めて権利行使ができるように時効期間を延ばすというのが当然ではないかという意見として支持される。他方で,乙案は最終の場面でなお権利行使の機会を与えれば,それで十分であろうということと,甲案を採れば,その都度,期間計算をする必要があって,それがコスト的に見合うのか,また,それが可能なのかという懸念があるわけです。そういうことで二つに分かれています。   (4)について,その関連でも議論が出ています。まず,当事者間の交渉・協議による時効障害を設けるという意見が多い。逆に,こういうのは不要であるという意見もなおあるんですが,相対的に弁護士会としては賛成意見が多いと申し上げることができます。ただ,どの形を採るのかということについて,(2)の進行の停止という概念を設けるのか,設けないのかによって異なります。つまり,進行の停止という概念を設けて,ここでも当事者の交渉・協議をその一つと積極的に位置付ける考え方からは,停止する期間を明確にするため,合意若しくは書面の合意というように,ある程度,協議をすることによって時効を止めるんだよという両当事者間の明確な合意がないと実務が混乱するのではないか,つまり,期間が曖昧になって困らないかというところから,そういう意見が強くあります。   他方,時効の停止事由のみを考える立場からすれば,当事者間の交渉・協議についても時効の停止事由にすればいいわけですから,書面による合意まで求める必要はなくて,実質的な協議ないし交渉がなされている限りにおいて,それが終了したとき,若しくは終了してから一定期間を経過したときをもって時効の停止事由とするという乙案に賛成する意見がそれなりにある。ここも弁護士会として,意見の取りまとめができていない状況にあります。   ○岡委員 (1)と(4)について申し上げます。   (1)については「更新事由」という言葉について異論が出ました。効果として時効の進行を更新させるんだというのは非常によく分かるんですが,債権者からすると確定判決を取ることが時効の更新になるんだというのは何かイメージが湧かない,やはり時効を阻止するんだとか,時効をリセットするというようなイメージですので,何か更新というと契約の更新というイメージが湧くので,適切ではないのではないかという意見がございました。では,何がいいんだというのを議論したんですが,時効の阻止というとリスタートがないんだというようなイメージも起きて,それはよくないんだろうと。そうしたら,中断というのを意味を明らかにして,中断という言葉に戻っていいのではないかという意見もありましたけれども,そういう問題提起があったということの御報告でございます。   それから,(4)については弁護士会でまだ意見が統一されていないというのは中井さんの言ったとおりでございますが,ここに書いていない,更に厳しいものとするという意見も根強くございました。その背景には,10年,5年,3年という長い時効期間を設けるという意見を前提にしているせいだと思いますけれども,消滅時効の進行を一定期間,停止すると,そういう明確な合意がある場合にのみ認めると,そういう案がございました。交渉・協議をする旨の合意ではなく,一定期間,消滅時効を完成させない,時効の援用権をこの期間は行使しない,そういう合意の場合にのみ認めるというのでよいのではないかという意見です。   こういう場合に時効が進行しないことにしてほしいという需要がある場合について,商社だとか,海外の企業との間でこういう実務があるんだという声が寄せられておりますけれども,そういう場合であれば先ほどのような明確な合意を要求しても,そう困りはしないという認識の下に,消滅時効の進行をさせない,あるいは援用をこの期間しない,そういう明確な合意の場合のみ認めるのでよいという意見です。 ○佐成委員 内部での議論の御報告ということで,簡単に(3)(4)(5)をまとめて報告させていただきます。   まず,(3)につきまして,アの論点につきましては長期化するニーズを指摘する声は特に聞きませんでした。ただ,特にこだわるところではございませんので,ほかの方でそういったニーズが高いということであれば,別途,検討してもいいのではないかと思います。それから,イについては甲案,現状を維持するという声が比較的多かったということです。ウについては本文どおりでよいのではないかということでございます。   それから,(4)については,当事者間の交渉・協議による時効障害の制度設計をすることは,実務的にはその方が便利であり,よろしいのではないかということでございます。細かい制度設計については特段,議論は出ておりません。ただ,やはり制度を設計する以上は,明確性,安定性を高めてもらいたいということでございます。   それから,(5)のイについては,特に物上保証人がある場合については,物上保証人との関係で担保権の実行としての競売を申し立てた場合について通知をすれば時効障害が生じるという制度に賛成する意見があります。実際にも,物上保証人に対して担保権の実行としての競売を申し立てたところ,ちょうど,消滅時効を意識しなければならない時期に来ていて,既に無資力ということがはっきりしている被担保債権の債務者に対する訴えを提起することをいろいろ検討したという事例がございます。つまり,実際にもそういう事例があって,取り分け弁護士費用等が無駄になるということが問題になったということです。やはり多くの弁護士会がこの立法提案には消極的な意見を述べておられますが,クライアントの立場からすると,無益なコストはなるべく掛けないほうがいいのではないかという意見でございます。 ○中井委員 岡委員から(4)について,弁護士会の二つに分かれている意見のうち,一つの意見を説明されましたので,もう一つの意見を補足しておきたいと思います。すなわち,(4)で先ほどの(2)で甲案を採るか,乙案を採るか,すなわち,進行の停止を入れるか,入れないかで異なってくるということを申し上げました。先ほど岡委員のほうから,時効の停止を想定した交渉・協議という形での合意ないし書面での合意を要求するという意見があると説明したのは,その背景として進行の停止にしていることとも関係しますし,通常,企業間で交渉して,双方が納得して時効を延ばすことによって,無駄な訴訟行為等を避けることができる,実務的にも有益な制度であるという評価から来ているわけです。   他方,全く別の場面を想定して意見が出ているのがあります。それは乙案の時効の停止事由とすることを前提にした意見ではありますけれども,例えば消費者等,必ずしも法律上の手続に詳しくない者が債権者として交渉しているうちに時間がたったその後,交渉を打ち切って,さて,法的手続を取ろうと思ったら時効だと言われる。これは阻止しなければならない,権利行使を許さなければならないというところから,実質的に時効の停止事由と足りるような交渉・協議が事実上行われていれば,その終了から3か月ないし6か月が経過したところまで,時効は完成しないという形で運用される場面が十分,想定されると。そうだとすると,開始時点で厳密なる合意,厳密なる書面による合意などを要求すると,そのような場面での運用ができない,こういう意見から乙案を採り,かつ,取り分け始期については緩やかに考える,こういう意見です。それももっともな意見ではないかと思っています。 ○岡田委員 (3)に関しましては皆さんと同じようにアで,イに関しては今回の震災なんかを考えると,甲案の6か月でいいのかどうかという意見もありますけれども,現状の6か月というのでしょうか,その辺がいいのではないかという意見でした。それから,ウはこれでいいと。   それから,(4)なんですが,今,中井委員のほうから消費者ということが出ましたけれども,逆に私の周りでは消費者が債務者になったときに時効間際にどっと話合い,話合いという形で来られて,時間稼ぎを逆にされてしまうのではないかということで,これに関して消費者側は賛成できません。   それから,(5)なんですが,これに関してアに関しては,このとおりで,この意見で賛成です。印紙代とか何かの関係で消費者が訴えを起こすといった場合に全部を一気に起こせないケースが少なくないというのは弁護士さんからよく聞きます。それを考えますと一部を訴えることで全部を一応,時効障害とするということに賛成です。 ○高須幹事 (5)のところのアでございます。一部請求の場合でございますが,ここに関しては残部というか,当該債権の全部について時効障害の効果が生ずる規定を設けるということに,弁護士会としては基本的に賛成でございます。(5)のアのところにつきましては肯定説といいますか,この規定を設けるべきだということで,多くの弁護士会の意見が一致しているところでございます。   分科会で更に議論するというところですので,細かな話はよろしいと思うのですが,ただ,一点だけ資料を出させていただきましたので,併せて分科会で検討いただきたいということでの説明でございますが,一部請求について議論をするのであれば,一部執行についても同じような規定を設けるかどうかを議論すべきではないかと思っております。このことは中間論点整理の段階で発言をさせていただきまして,今回の資料の説明にも載ってはおるのですが,具体的な提案がないということで,本文では取り上げていないということでした。つまり,提案しなさいということだと思いますので,一応,今回,2ページものの裏表のペーパーを出させていただきました。分科会で是非ともこの点も含めて議論をさせていただければと思っております。これが(ア)のところということになります。   それから,もう一点,続けてで申し訳ないんですが,(イ)のところでございます。訴え提起の場合の債務者への通知という話になるわけですが,資料31ページですと,物上保証人との関係で担保権の実行としての競売手続が申し立てられたような場合においてという指摘がなされていて,抵当権の実行による差押えがあったような場合に,別途,訴え提起しなくても主たる債務者との関係で,通知で時効障害が生じるのではないかと。その上で,その他の場合も含めて,そういうことを設けるべきかどうかという提案になっていると思うんですが,これは現行の民法の155条というものを前提とした上で,それ以外にも広げるという御指摘なのか,それとも155条の話も含めて,全部,一旦,そういうのをやめるか,やめないかという根本的な議論をしようというものなのか,この点,教えていただければと思います。というのは,弁護士会の中でも,この部分の資料の御説明はどういう読み方をするのだろうということで,ちょっと分からない部分が出てしまったので質問でございます。155条との兼ね合いをどう考えているか,教えていただければ有り難いと思います。 ○鎌田部会長 それでは,まず155条との関係について。 ○高須幹事 もし何でしたら,私はこう考えているところでもよろしいでしょうか。私としては,155条は既に現行民法に存在している規定でございますので,この規定は存置すべきではないか,155条は引き続き同じような意味を認めるべきではないかと思っております。そうなると,今回の改正では,それ以外に保証人に対して訴えを提起するような場合にも,それをもって主たる債務者に対して,時効中断の効果を認めるかどうかというところに尽きるのかなと。そうだとすれば,そこまでのものを認める必要は必ずしもなくて,主たる債務者に対しても共同訴訟等で訴えを起こせばいいわけですから,先ほど佐成委員のほうからも訴訟コストという話が出たわけですけれども,主たる債務者と保証人と両方を訴えれば済んでしまうことなものですから,わざわざ,訴え提起を不要とする規定を設けなければならないほどの訴訟コストは生じないのではないかと考えております。現行の155条が維持される限りは,それ以外の部分でのイの規定は要らないのかなと,このように考えております。 ○山野目幹事 このイの論点についての私なりに理解したところを申し上げれば,今,高須幹事がおっしゃったことと大きく異ならないのですけれども,現行155条の見直しという問題よりも,イでお書きになっていることのほうがサイズが大きいというか,こちらのほうが包み込む関係になっているものであろうと理解しておりました。したがって,分科会に検討を付託する際には,現行155条の在り方も含めて,少し幅広にイの論点を考えてもらうという問題提起をしていただいたものと理解しております。   併せて申し添えますと,現行155条の解釈運用として,物上保証人に対する担保権実行申立ての際に,民事執行法の45条2項が188条によって準用されておりまして,所有者に対する競売開始決定の送達が行われているわけでございまして,その規律の運用がここで検討されることとどういう関係に立つか,債権者が自ら通知をしなければいけないというふうな解釈理解を招きますと,現在の実務と少し調整を要する部分が出てくるようにも感じますから,そのことも併せて分科会で検討していただきたいと考えます。 ○亀井関係官 今の点での補足ですけれども,この提案は検討委員会試案で提案されているものをベースにしたものですが,検討委員会試案は,別の提案として民法第155条を維持することを提案しております。したがって,この提案は民法第155条を変更することを提案するものではなく,民法第155条とは別にこのような規定を設けてはどうかという提案と考えております。 ○山本(和)幹事 (5)の今,御議論になっている点で,三点,申し上げたいと思いますが,まず,(5)のアの資料の30ページの2のところで取り上げられている論点,一部請求の認容判決が確定した場合に,残部について時効更新事由となるのかどうかという問題提起ですけれども,私はこれはならないんだろうと思っています。先ほどのような時効の更新事由との関係で考えると,残部についてはもちろん既判力は発生しないわけでありますし,また,債務者がその存在を黙示的にであっても承認したということにもやはりならないだろうと思いますので,先ほど挙げられていた更新事由との並びからすれば,これはならないと考えるべきだと思いますし,現実にも一部請求をした場合には,それで勝訴判決を取得すれば残部についても基本的には直ちに訴えを提起するということを求めても,それほど不合理なことではないと思いますので,時効期間の進行停止あるいは時効停止事由として認めれば十分で,更新事由とするまでのことはないというのが私の意見です。   それから,31ページの3のところで,執行についても一部執行について時効障害とすることを検討してはどうかというで,高須幹事からの資料を見せていただきまして,大変説得力のある例が掲げられていると私も思いました。ただ,こういう例ばかりでは必ずしもないわけで,実務上もよく問題になるものとして登録免許税を節減するために,一部債権の一部で申立てをするというような不動産執行の申立てをするという例があると思われるわけですが,そういう場合については最高裁の判例では,その手続中で残部について請求債権を拡大することは,拡張することはできない,債権計算書等で拡張することはできないというのが基本的にはできないというのが確定判例だと理解しております。そういう場合も含めて,なお,残部について時効障害を認めてもいいかどうかということは,なお,検討に値するのではないかと思っておりまして,それを駄目だと言うつもりはありませんけれども,なお,慎重な検討が必要ではないかと,これは分科会で御検討いただければと思います。   最後,イの点でありますけれども,今の民法155条との関係は私もよく分かりませんけれども,高須幹事が言われたように,物上保証人との関係での担保権実行の問題と保証人に対する保証債務履行の訴えとでは,かなり問題状況は違うような気がします。   担保権実行の場合には,少なくとも債務者に対してそれが通知されれば,債務者は担保権実行手続に対して直接,争うことができるわけでありまして,したがって,先ほどのあれからすれば,争わないで手続を最後までいかせてしまった場合には,しようがないかなという感じがするわけでありますけれども,他方,保証債務の履行請求訴訟は主債務者に対して通知がされたとしても,主債務者としてはどうするかというと,結局,自分のほうから積極的に保証人に対して補助参加するとか,そういう方法しかないと思われるわけですが,補助参加したとしても主債務者と少なくとも債権者との間では,確定判決と同様の効力が発生するわけではありませんので,やはり訴えが提起されたのと同様と見ることができるかどうかというのは,かなり疑問もあるように思われますので,この部分まで拡張するとすれば,これはちょっと慎重に御検討いただいたほうがいいかと思います。 ○畑幹事 今の御発言と同じ部分についてお話ししようかと思っていたのですが,30ページの2の一部請求を認容する判決が確定した場合につきましては,先ほどの山本和彦幹事と全く同じ意見です。  それから,恐らく御賛同を得られないと思うのですが,その上に書いてある一部であることを明示しない訴えの提起で,全体について時効が中断するということについては,むしろ疑問を私は抱いております。   それから,19ページの(1)時効の更新事由,民事執行による場合ですが,先ほど御議論があったように,また,別の場で細かく検討していただければいいと思いますが,基本的に民事執行によって債権者の権利が現に実現した場合を念頭に置けば,それで更新というのは,筋としてそれほどおかしな話ではないと思っております。なお,ここに挙がっていないことで言いますと,例えば担保不動産の収益執行などというものも,検討の対象にはなるのかなと思っております。 ○松本委員 (4)のほうなんですが,こういう時効障害事由を新たに作る場合は,本当にそういう合意があったのか,なかったのかというところが最後に争いになる可能性があるので,いつ,時効が進行停止し,いつ,それが解除されて進行が再開したのかがクリアに分かるようにしないと駄目だと,新たな紛争を増やすだけになると思うんですね。そういう意味では,現行法だと認証ADR機関に掛けた場合は,どの時点で停止し,どの時点で再度進行するかというのはかなりクリアになっている。そうすると,それに近いものとして,第三者機関が関与すれば,いつからそういう交渉が始まり,いつ,解決できなったかということを第三者機関の側で認定するという形で客観化できると思うんですが,ここではそれに限定しないで相対交渉も入っているわけで,相対交渉は本当に難しいと思います。   ①で,入口の部分は合意あるいは書面による合意ということだから,少しクリアにできるかもしれないけれども,②の出口の部分が通知で果たして大丈夫かと。通知を受け取った側としては,これは交渉打切りの通知だとは思っていませんでしたという主張が出てくる可能性があるわけで,出口のほうももうちょっとクリアにならないと駄目ではないかという気がいたします。そうだとすると,岡委員がおっしゃったような時効の進行を停止する旨の一種の契約である,合意であるとまでもう突っ走っていったほうが,この辺は処理がしやすくなるのかなと思うんですが,他方で,中井委員がおっしゃった進行を停止する時点のほうの法律上の要件を厳格化すると,一方は進行を停止したつもりでいたけれども,実はしていなかったんだということになって,交渉が終わった段階,決裂した段階では時効が完成していたというかわいそうな事態も生ずる。相対交渉での要件の厳格化はいい面と悪い面の両方があるのではないかという印象を持つようになりまして,そうなると,相対交渉でというのはちょっと無理ではないかなと。第三者機関で認証ADR機関でないものについても少し横に広げて認める。第三者機関というきちんとしたものでなくてもいいかもしれないですが,第三者が関与した形での交渉開始と交渉の終了というのを認定できるような場合に限定すれば,一応,機能するのではないかなと思います。 ○筒井幹事 一つ前の畑幹事の御発言について,もう少し教えていただきたいのですけれども,(5)その他のア,一部請求のところで,先ほどの御発言は,一部請求であることを明らかにしないで債権の一部についての訴えの提起があった場合に,全体について時効障害の効果が生ずるという結論が変わる可能性があるという御趣旨なのかなと受け止めたのですが,それでよろしいでしょうか。畑幹事からはこの論点について第12回会議でも御発言を頂いておりまして,そのときの御指摘は,一部請求であることが明示された場合に債権全部についての時効障害が生ずることの理由ですが,今回の部会資料31でいうと30ページの一番上のパラグラフに②として,一部請求であることが明らかにされていれば債権者は残部の争いに備えることができるという理由が挙げられていて,そのことに対して,もしこういう理由を挙げるとすると,一部請求であることを明示しなかった場合には逆の結論になる可能性があるという御指摘を頂きました。その御指摘の趣旨は,②のような理由付けを余り強調すべきでないということかと受け取っていたのですが,先ほど改めて御指摘がありましたので,もう少し御発言の趣旨を補充していただければと思います。 ○畑幹事 ②のような理由を強調すべきでないというよりは,むしろ昭和45年の判例に疑問があるということです。ただ,従来の判例を直ちに変更しろというほど強い意見というわけではないのですが,理屈の上では請求していない部分が中断するというのは,むしろ,例外的なことであって,②のように残部もありますよということを,少なくとも何か示しているというようなことがむしろ必要なのではないかという,そういう趣旨であります。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○筒井幹事 ありがとうございました。   それから,もう一点,時効の更新事由のところで担保不動産収益執行についても検討が必要だという御指摘を頂き,ありがとうございました。その点については全く異論はなく,単に言葉の問題として,民事執行法1条の書き方からすると,強制執行には強制競売のほか強制管理も含まれていて,担保権の実行としての競売には,担保不動産競売のほか担保不動産収益執行も含まれているという概念整理になっているようでしたので,その用語法に従ったということです。ただ,その用語法は一般的には分かりにくいと思いますので,今後は丁寧に記述するように心掛けたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中井委員 先ほどの松本委員の発言に関連してですけれども,松本委員も進行の停止を前提としての御発言だったように思うんです。(2)の問題について,更新事由を厳格化する,そのときに,現在,中断事由と言われている訴え提起等の権利行使の部分をどうするのか。これを進行の停止として再構成するのか,時効の停止事由として機能させるのか。ここを先行して議論して,決めないといけないのではないかという印象を受けました。それは取り分け(4)を時効障害事由にするとした場合,いずれの位置付けにするかによって,始期,終期の捉え方は異なってくる。   先ほど言いました大阪の意見では,進行の停止という考え方は採らずに,時効の停止事由と更新事由の二本立てにした,そのときに当事者の交渉・協議による時効障害というのは時効の停止事由のみになる。だとすれば,始期についてはそれほど特定が明確でなくても,終期について明確であれば事が足りる,権利者のほうの救済に欠けるところはない,このように考えて発言したものですから,改めて(2)について議論を深めることが必要ではあることを指摘しておきたいと思います。 ○岡委員 弁護士会の議論の報告でございます。(3)についてはアの天災等については賛成が圧倒的でございます。イについては現状維持の甲案で一致した見解でございました。ウの催告については,再度の催告は効力を有せず,一回限りという案に賛成でございます。   (5)については高須さんが申し上げましたけれども,アについて賛成の意見が多数でございます。イについて,債務者以外の者に対する訴えの提起等でございますが,別に弁護士費用を増やしたいということではなく,この程度で認めるのはいかがなものかということで,反対意見が圧倒的に多うございました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○深山幹事 (4)の交渉・協議による時効障害のところについて申し上げたいと思います。既にいろいろ議論が出ているように,ここについては効果といいますか,進行停止にするか,停止事由にするかということも含めてなんですが,いろいろ議論が錯綜していると思っております。私が一番関心を持つのは,やはりこういう新たな事由をもし入れるとなると,実務への影響が極めて大きいだろうなという点であり,この提案の補足説明でも示されているように,中断といいますか,障害事由が生ずる始期と終期が果たして明確にできるかが疑問であり,別の言い方をすれば,その点が非常に紛争になるだろうということを懸念するところです。   他方で,一定の期間,時効を気にせずに交渉・協議をしたいというニーズがあること自体は理解できるので,それに対する手当てといいますか,その道を認める必要はあると思うんですが,しかし,認める方策として時効障害にしなければならないのかなという気がしております。すなわち,単に交渉・協議をしましょうということの合意ではなくて,端的に一定期間,時効の完成の進行を止めるようにするか,停止にして完成させないようにするか,一定の時効に関する何らかの取決めを当事者間が明確にすれば,その効力まで否定する必要はないんだと思うんです。   そうだとすると,そもそも時効障害という形で何か明文の規定を設けなくても,そのような合意は別に妨げられないのではないかなと思います。規定を設けなくても一定の時効に関する合意をその限度で否定しなければ済むのではないかと思っております。提案されているものとはまた違った処理の仕方ということにはなるんですが,何よりも提案されているようなものですと,よほど明確にしないと紛争を非常に惹起しやすいのではないかということを意識して,それをクリアできないのであればむしろ明文の規定にはしないで,当事者の一定の合意の効力の解釈に委ねるというほうが,実務的には無難なのではないかなと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○松本委員 今の深山幹事の御発言から感じたことですが,16ページの合意による時効期間等の変更というところを議論いたしましたけれども,それは期間と起算点についての合意を主として議論したわけです。今の深山幹事の御意見だと,むしろ,時効期間の完成時期とか,そういう期間を延ばすというか,あるいは完成を遅らせるという点についても,合意が可能であるという話になるでしょうから,16ページの(7)のほうで,期間と起算点と完成とそれぞれについて合意を許すということであれば,今の27ページの(4)は無理に置かなくてもいいという考え方が十分成り立つと思うんです。すなわち,(4)ア①の合意を前提とするという要件を課すのであれば,要らないということになるかもしれないですね。   交渉するという合意だけではなくて,交渉している間は時効を完成させませんという合意まで含ませるということになります。ただ,時効についての合意を抜きにして,交渉という合意のみで時効の完成を遅らせるというメリットがあるんだということであれば,先ほどの時効に関する合意ではないんだということになるので,交渉についての合意のみで時効が止まるという制度を新たに作らなければならないということになります。そうなると,相当,明確なルールにしなければならないと思います。 ○深山幹事 ちょっと補足をさせていただきたいのは,私の先ほどの発言はむしろ時効障害としての位置付けではなくて,当事者の合意として言わば時効を一定の範囲内で主張しないということの合意をしたときに,その効力を認めればいいのではないかということです。つまり,一定の期間を限定する必要があると思いますし,必ず何か月とか何年と決める必要もないんですけれども,一定の範囲内で,法律上成立した時効を主張しないという合意の効力を認め,その間,安心して交渉・協議ができるような環境を当事者間で作る合意さえ認めればよくて,それ以上に時効制度自体を合意で変容させることについては,いかがなものかなと思っております。先ほどの合意による期間とか,起算点のところについて,法律と異なる合意を全て排除すべきだというところまで,そこまでの強行法規性にこだわる気はないんですけれども,あそこでも申し上げたように,少なくとも全く自由に決められる話ではないのだろうと,そういう制度ではあるべきではないのではないかなということを下敷きに考えると,ここの時効障害で問題となっている当事者間の交渉・協議によって,どれだけ強行法規的なルールを変えられるかということについても,おのずと一定の限界があるだろうと考えています。ただ,交渉・協議がまとまれば,それに越したことはないので,その間,時効のことを心配しなくて交渉できるようなことにしましょうという,その限度での合意の効力を認めればいいのではないかということです。 ○松本委員 ちょっと御趣旨が分かりにくいところがあるんですが,時効とは全く無関係に,交渉している間は強制執行や裁判等を起こさないようにしましょうという合意にすぎないのか,それとも,その間に時効が本来であれば完成してしまうというシチュエーションの場合に,時効が完成しないという効果まで交渉の合意から導き出そうとされているのか,いずれなんでしょうか。 ○鎌田部会長 それは法律構成の問題でありますし,深山幹事は元々合意による時効期間等の変更については反対の立場でいらっしゃいますから,そういう意味で援用権の制約あるいは一部放棄みたいな構成になるということだろうと思います。   時間が6時10分になってしまいましたので,まだ,ほかに御意見があれば,それをお伺いして本日の実質審議はその辺までということにしたいと思っていますけれども,御意見はございますでしょうか。   それでは,少し整理させていただきます。「2 時効障害事由」の「(1)時効の更新事由」につきましては,先ほど少し申し上げたところですけれども,イの部分について大変貴重な御意見を頂いたところですけれども,これは分科会でしっかりと補充的な議論をしていただくということにしたいと思います。アの部分につきましては,更新事由という名称については異論もありましたけれども,中身については異論はなかったと理解します。ウの点につきましては十分に御意見が出されておりませんけれども,先ほどの「1 時効期間と起算点」の「(4)判決等で確定した権利の消滅時効(民法第174条の2)」とも関連する論点でございますので,これは分科会で補充的な検討をしていただきます。   「(2)時効期間の進行停止という障害事由の要否」につきましても,必ずしも多くの意見を頂戴しておりませんが,事務当局において引き続き検討させていただきます。   「(3)時効の停止事由」のアについては,異論はないと受け止めさせていただきます。イについては幾つか御意見を頂いて,甲案支持の御意見も頂戴したところでございますけれども,引き続き検討させていただきます。ウの点については賛成の御意見のみということで,異論がないものと受け止めさせていただきました。   「(4)当事者間の交渉・協議による時効障害」については,基本的にこういったものを時効障害事由とするか,あるいは何らかの延長を考えるという点については,賛成が多かったと理解しておりますけれども,その中身については多様な御意見がございましたので,その点につきましては分科会で補充的に議論をしていただきます。イの点につきましても,同様に分科会で補充的に問題点等も含め,議論をしていただきたいと思います。   「(5)その他」については,ア,イについて,それぞれ御意見を頂戴しましたので,本日,頂戴した意見を踏まえて分科会で補充的に議論をさせていただきます。ウについては,特に御意見を頂戴してはいませんけれども,これまでの議論も踏まえ,分科会で補充的な議論をお願いしたいと考えておりますけれども,よろしいでしょうか。   それでは,ここまでで当初,予定していた休憩前に審議すべきことも終わっていない状態でございますけれども,本日,積み残した部分につきましては,次回の冒頭で引き続き審議することとさせていただきます。   ほかに特に御発言はございますでしょうか。ないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。最後に次回の議事日程等について事務当局から説明していただきます。 ○筒井幹事 次回ですけれども,パブリックコメントの手続の結果報告などのために予備日として用意されていました11月15日に開催することにして,通常の議事は一回お休みということにしたいと思います。次回会議は,11月15日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は法務省3階,東京地方検察庁会議室です。   次回の議題は,パブコメの結果の御報告,それから,既に第2ステージの一巡目の審議を終えた論点についてパブコメを踏まえた補充的な検討を行うことにさせていただこうと思います。関係資料については,できる限り早目にお届けするという方向で準備をしたいと思います。   次に,連絡事項があります。予備日の開催に関することですが,12月に予備日として確保していただいております12月13日,この日は会議を開催することにさせていただこうと思います。改めて確認いたしますと,12月13日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省3階の東京地方検察庁会議室になります。この日までの間に予備日でない正規の会議もありますので,正確には開催通知などで御確認ください。   このほか,第1分科会の第1回会議が来週,開催されます。日時は11月8日,火曜日,午後1時半から午後5時半までを予定しております。場所は法務省14階,矯正局会議室です。この第1分科会第1回会議の議題につきましては,意思表示,無効及び取消し,代理といった論点のうち,この部会において分科会で審議することとされたものです。第1分科会の固定メンバー以外の委員,幹事,関係官で,この日の分科会への出席を希望される方がいらっしゃいましたら,事前に事務当局に御連絡くださいますようお願いいたします。 ○鎌田部会長 先ほど,積み残し部分は次回の冒頭で審議すると言いましたけれども,次回はパブコメの結果の報告をいたしますので,次々回冒頭で審議させていただきます。   それでは,本日の審議をこれで終了いたします。本日も熱心な御議論を長時間にわたり賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-