法制審議会民法(債権関係)部会           第35回会議 議事録 第1 日 時  平成23年11月15日(火)自 午後1時00分                       至 午後4時18分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第35回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   (委員の自己紹介につき省略) ○鎌田部会長 本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として,部会資料33-1と33-5を送付させていただきました。これらの資料につきましては,後ほど関係官の松尾,笹井,金,亀井から順次,説明いたします。この部会資料33ですけれども,これは全体として枝番号の1番から7番までで構成されております。33-1から33-7までです。このうち,本日の議事で直接必要となります33-1と33-5に限って事前送付をいたしました。また,部会資料33の枝番号2から4までにつきましては,既に部会メンバーには電子データを送信済みであります。残りの部会資料33の枝番号6と7,これは契約各則の論点について寄せられた意見をまとめたものですけれども,これについてもできる限り早期にお手元にお届けできるようにしたいと考えております。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。 ○佐成委員 今,この資料について御説明いただきまして,非常に大部のものを効率よくまとめていただいて大変有り難く思っておりますが,実際,これを拝見しますとかなり要約されている部分とか,簡略化されている部分もあろうかと思います。もし,要約の過程で漏れた部分と言いますか,脱落した部分があった場合は個別に意見を申し上げるという形でよろしいのでしょうか。それはどういう取扱いになるのでしょうか。 ○筒井幹事 寄せられた御意見について,事務当局における要約が必ずしも適切でなかった場合の手直しという御趣旨でしょうか。 ○佐成委員 そういうことが仮にあった場合に,個別に対応していただけるのかどうかということです,あるいは我々とは限りませんけれども,公開されたときにもしかしたらどなたかからそういった申出があり得るのではないかと思いまして質問をさせていただきました。 ○筒井幹事 そういった問題がありましたときには,個別に御相談いただきたいと思います。後ほど関係官からの説明があるかもしれませんが,部会資料33の原資料といいますか,今回のパブリックコメントの手続で寄せられた全ての意見については,本日の会場にもその全てを運んできておりますけれども,事務当局において保管しておりますので,部会メンバーから原資料を見たいという要望がありましたときは,いつでもお見せすることができる体制を整えております。今回,パブコメの結果報告のために用意しました要約の部会資料は,全ての原資料を部会メンバー全員に配ることが分量的に余りにも現実的でないことから,より容易に参照していただくための便宜として用意したものです。できる限り原資料である御意見の趣旨を損ねないで要約しようとしたために,むしろ分量の絞込みが不十分であるという御指摘もあろうかと思いますが,そういう位置付けのものという御理解いただければと思います。ただ,要約が不適切であるといった御指摘がありましたら,個別に御相談いただきたいと思います。 ○佐成委員 ありがとうございました。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。それでは,よろしくお願いいたします。   審議に先立ちまして,私のほうから分科会に関する御報告をさせていただきます。前回までの審議におきまして,条件及び期限,期間の計算及び消滅時効に関する論点の一部について,分科会で補充的に審議することとされました。これらの論点の中には,固定メンバー以外に手続法の先生にも加わっていただくことが考えられるものがあり,その日程調整を行いました関係で,消滅時効に関する論点は第2分科会で,条件及び期限,期間の計算に関する論点は第3分科会で,それぞれ審議していただくことといたします。それぞれの分科会長を始め,関係の委員,幹事の皆様にはよろしくお願いいたします。   本日は,民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理について実施されましたパブリックコメントの手続の結果報告と,それに基づく意見交換をしていただくことを予定いたしております。具体的な進め方といたしましては,まず,部会資料33-1に基づいて意見の提出状況などの全般的な事項の報告とともに,民法(債権関係)の改正に関する総論的な意見の概要を報告してもらった上で,意見交換をしていただこうと思います。   次いで,部会資料33-5に基づいて,7月開催の第30回会議から前回の第34回会議までにおいて,既に御審議いただいた論点に絞って寄せられた意見の概要を報告してもらい,必要に応じて補充的な審議をしていただこうと思います。部会資料33-5に掲載されている項目のうちで本日の会議で取り上げますのは,「第28 法律行為に関する通則」,「第29 意思能力」,「第30 意思表示」,「第32 無効及び取消し」,「第33 代理」,「第34 条件及び期限」,「第35 期間の計算」,「第36 消滅時効」の合計8項目です。本日の会議では積み残しを出さないようにしたいと思いますので,休憩までには少なくとも「第29 意思能力」までは審議を終えたいと考えております。よろしく御協力をお願いいたします。   それでは,まず,部会資料33-1の「「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」に対して寄せられた意見の概要(総論)」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 それでは,パブリックコメントに関する全般的事項及び部会資料33-1について御説明いたします。   今回のパブリックコメントの募集には,団体116団体,個人253名からの意見が寄せられました。限られた時間の中で多くの意見をお寄せいただいたことにつき,御礼を申し上げたいと思います。   部会資料33に関する注意事項については,部会資料33-1の冒頭を御参照ください。頂いた意見は非常に多岐かつ詳細でありましたので,要約の方法や表現振りといったところにつき,不十分な点もあろうかと思いますが,何とぞ,御了承いただければと思います。なお,先ほど筒井からも御説明を申し上げましたが,個別の意見につきまして原意見の内容について知りたいという御希望がございます場合には,事務当局まで適宜,お申し付けいただければと思います。   次に,部会資料33-1の概要について御説明いたします。   部会資料33-1では,民法(債権関係)の見直しに関する総論的な意見を取りまとめております。総論的な意見としては,特に民法(債権関係)の改正の必要性について多くの意見が寄せられました。   まず,国民一般に分かりやすいものにするという観点に関する意見を御紹介いたします。この観点から,民法(債権関係)の改正の必要性を肯定する意見が多く寄せられました。具体的には,判例法理や解釈によって補充されている部分が多いため,これを国民にとって分かりやすい形で整備すれば,企業,個人の経済活動にとって非常に有意義であるという意見,確立した判例法理を明文化すること等により,国民一般にとっての有用性が更に高まることが期待できるという意見,法学教育に携わる立場から,民法典の分かりにくさを解消することが望ましいという意見などがありました。   これに対して,特に弁護士の立場から現在の民法が分かりにくいと感じることはないとして,この観点からの改正の必要性を疑問視する意見もありました。また,国民一般に分かりやすくするという観点からの見直しは否定しないものの,詳細な規定を置くことによって,かえって分かりにくくなる可能性があることに留意すべきであるという意見,判例法理の明文化に当たっては,判例の射程に留意すべきであるという意見,例外的な事例に関する判例を明文化することによって,その適用範囲が拡大するおそれがあると懸念する意見などがありました。   次に,社会・経済の変化への対応という観点に関する意見を御紹介します。この観点から,民法(債権関係)の改正の必要性を肯定する意見としては,情報技術の発展やこれに伴う無体物を目的とする取引の増加などの取引形態の変化への対応の必要性を挙げる意見,諸外国の法制やウイーン売買条約との整合性を意識し,市場のグローバル化に伴い増加する国際取引に対応できるようにすべきであるという意見,将来の社会の構成原理の一つのモデルを示す観点から,改正を検討する時期であるという意見,格差拡大への対応の必要性を挙げる意見などがありました。   これに対して,民法が現代社会の取引に対応できていないとは考えられないとする意見,EUなどとの事情の違いを指摘した上で,諸外国の法制との整合性は重視すべきではないという意見,現在のところ,国際取引において支障が生じていると感じられないから,市場のグローバル化に対応するという観点からの改正の必要性を疑問視する意見などもありました。   他方,改正に反対する意見も寄せられましたので御紹介します。特に多く寄せられたものとしては,現在,話し合われている方向では,会社法と同じように長い複雑な条文の法典となり,使いにくい民法典となりかねないから改正に反対するという意見と,現在は東日本大震災の混乱状態にあるとした上で,民法改正については不要不急であるから凍結すべきであるという意見や,同様の理由から5年間程度,改正手続を中断し,その後に民法改正手続を再開すればよいという意見でした。このほかにも,部会委員・幹事に研究者が多過ぎることや民法(債権法)改正検討委員会との連続性が疑われることなどを理由として,民法(債権関係)部会の委員・幹事の構成を見直すべきであり,現在の体制の下で改正作業を行うべきではないという意見もありました。   改正の必要性以外にも,今後の審議に当たっての要望や留意点について,多くの意見が寄せられましたので御紹介します。   一点目は,東日本大震災への配慮を求める意見です。特に被災地の方々が十分な検討を行える状況にないことを踏まえて,今後の審議スケジュールを検討すべきであるという意見,今回の震災に伴い生ずる法律問題について十分に検討すべきであり,一定期間をその検討のための時間に充てるべきであるという意見がありました。   二点目は,実務への配慮を求める意見です。具体的には,今後の審議に当たって多様な実務の意見を聴取し,反映すべきであるとの意見,現行法を前提として,これまで安定して運用されてきた実務を尊重すべきであるとの意見,学理的な見地のみから検討を進めるべきではないという意見がありました。   三点目は,改正の理念や目的に関する意見です。改正の理念や目的が示されないと,個別の論点についての改正提案に対する評価ができないので,改正の理念等を明らかにすべきであるとする意見や,改正の理念や目的が分からないために,改正の必要性自体が理解できないとする意見がありました,このほか,消費者保護に偏った検討がされているのではないかと懸念する意見がありましたが,他方で,民法の商法化を志向した検討がされているのではないかと懸念する意見もありました。   四点目は,特別法との関係に関する意見です。特に消費者契約法との関係について多くの意見が寄せられましたが,消費者契約法を民法に統合すると,消費者保護が十分に図られなくなるのではないかと懸念する意見がありました。また,労働関係法規との関係については,労働契約の特殊性や立法プロセスに配慮した検討を行うべきとの意見や,労働者保護を後退させるような改正となることを懸念する意見などもありました。   五点目は,今後の審議スケジュールに関する意見です。民法改正が市民生活に与える影響の大きさ,範囲が膨大であり,内容が複雑であることなどを踏まえて,十分な審議期間をとるべきであるとする意見,パブリックコメントは今後,複数回行うべきであるとする意見,今後のパブリックコメントの期間は,今回よりも長い期間,確保すべきであるという意見などがありました。   最後は情報公開の在り方に関する意見です。今回の改正が国民生活に広く影響を及ぼすものであるから,検討過程や内容について,広く,分かりやすく,情報公開することが必要であるとする意見がありました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいまの説明のうち,全般的事項につきまして御質問はありますでしょうか。   特に御質問がないようでしたら,寄せられました総論的な意見について,部会の場での御意見をお伺いいたしたいと思います。御自由に御発言ください。 ○筒井幹事 総論的な御意見につきまして,私のほうから何点か,コメントさせていただきたいと思います。   今回,民法(債権関係)の改正に関して,様々な総論的な御意見をお寄せいただきました。それを読んでまいりますと,まず,法制審議会への諮問文の中に改正の必要性として盛り込まれておりました社会・経済の変化への対応ということと,民法を国民に分かりやすいものとするということについては,この諮問がされて以降,徐々にその内容についての理解が広まり,改正の必要性について多くの積極的な御意見をお寄せいただいたのではないかと感じております。   この部会においては,当初から,改正の必要性の有無を含めて慎重に審議を進めるという方針を掲げ,その方針に忠実に,決して結論を急ぐことなく,論点整理のための第1ステージの審議に1年半余りの時間を掛けてまいりました。この第1ステージの審議を通じて,今回の見直しの対象範囲の検討を一通り進めてくる中で,今回の改正の必要性に関しては,徐々にではありますけれども具体的な内容を持って,豊かな内容のあるものとして,問題意識が共有されるようになってきているのではないかと思います。実際,中間的な論点整理を見てみましても,第1ステージにおいては基本的に論点整理に徹して,特に部会における合意形成を目指すような審議の進め方をしてこなかったわけでありますけれども,その中でも,具体的に改正の必要性があり,改正内容についてもおおむね異論がないとされるような論点が少なからずあったわけであります。そういったベースとなる改正事項を出発点としつつ,今回のパブリックコメントの手続で寄せられた御意見を踏まえて,今後,第2ステージでの議論を発展させていくことができればと私は考えております。   その中で,改正の理念がよく分からないとか,改正の理念を明らかにすべきではないかといった御意見が寄せられております。この点については,この部会でも,第1回と第2回の会議で時間を掛けて議論をした点であり,重要なことではないかと思います。しかし一方で,その議論の際にも多くの御意見が出されましたように,具体的に個別論点の議論を深める前に改正の理念といった抽象的なレベルでの一致を目指し,それに基づいて個別論点の結論を決めていくといった審議の進め方は,民法のような基本法の改正の在り方としておよそ実際的ではなく,むしろ個別論点の議論を通じて,必要に応じてその背後にある理念についても議論を深めていくことが適当ではないかと思います。実際,この部会のこれまでの審議は,そのように進められてきたのではないかと思いますし,これからもそういった姿勢で個別論点の議論を通じて,必要に応じて改正の理念についても議論を深めていくことができればと思っております。   それから,東日本大震災との関係について,様々な御意見が寄せられております。未曾有の深刻な被害をもたらした震災でありますので,それに対して様々な思いを致しながら改正作業を進めていく必要があるという御指摘は,全くそのとおりであろうと私も思います。この部会の事務当局としても,今回のパブコメを実施するに当たって,手続の開始時期を2か月ほど遅らせたり,パブコメの募集の締切りの時期について,個別の事情に応じて柔軟な対処をするといった形で配慮をしてきたところでありますし,また,部会における今後の議論の中でも,深刻な自然災害を避けて通ることができない我が国の実情を踏まえて,そういった自然災害があり得る国の民法の在り方について,議論を深めていくことができればと思っております。   実際に,前回の会議では時効の停止事由のところで,自然災害に関連する論点項目がありました。また,今後,議論する論点の中にも,例えば,金銭債務の不履行の特則について,見直しの必要があるのかどうかといったものがあり,このような論点では,自然災害に関する問題意識を持ちつつ議論をしていくことが必要ではないかと思います。このように自然災害を意識しつつ議論を深めていく必要がある論点については,今回のパブコメだけでなく,今後とも,是非,御意見をお寄せいただきたいと思っております。   さらに,部会メンバーの構成について御意見が寄せられております。部会メンバーの構成につきましては,この部会の初期の段階から申し上げておりますように,様々な御意見があることは当然でありますけれども,そういった様々な御意見を私どもなりに酌み取った上で,任命権者である法務大臣の御判断を経て,現在の構成が採られているわけであります。そして,会場のキャパシティなどの関係で,現状からの増員はなかなか困難でありまして,そういった事情を御理解いただきたいと思います。その上で,これも私が繰り返し申し上げてきたことですけれども,この部会での審議は,決して数の多い少ないで決するような進め方はしない,少数意見であっても議論を尽くして合意の形成を目指していく,そういう審議の進め方をしたいと考えております。ですので,もちろんメンバーの構成も重要ですけれども,より重要なのは部会の内外の意見に十分に耳を傾けながら審議を進めることであり,そのことに引き続き留意していきたいと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに委員,幹事,関係官の方の御意見をお伺いいたします。よろしいですか。 ○高須幹事 おまとめいただいた中では最後のほうなのですが,審議スケジュールの関係での意見がありました。この点については,今でも十分,御配慮いただきながら様々な工夫をしていただいているとは思ってはおりますが,そうは言っても,状況としてはやはり範囲が膨大であり,内容が複雑である。したがって,スケジュールが遅れ気味にずっときているという状況がございますので,今回,読ませていただいた意見の中に,十分な審議時間を取るべきだという意見があるというのは,それなりに考慮すべき部分があるのかなという意見を持っております。以上です。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○鎌田部会長 特にございませんでしょうか。 ○鎌田部会長 特に御発言はないようですので,総論的な課題,取り分け改正の必要性という点につきましては,直ちにこの審議を打ち切るべきであるという意見は,部会の中では表明されていないということで,審議を継続させていただきたいと思います。ただし,ただいまの高須幹事からの御指摘も踏まえ,パブリックコメントで様々な御意見,御批判を頂いたところでもありますので,それらの点については十分に留意しながら,審議を進めていきたいと思います。改めて民法(債権関係)の見直しのための各論的な調査審議を引き続き継続する必要があるというのが,この部会における現時点での結論だということを確認させていただければと思いますが,よろしいでしょうか。            (「異議なし」と呼ぶ者あり) ○鎌田部会長 ありがとうございました。   総論的な必要性につきましては,今後の各論的な議論の中でも,また,総論的課題に立ち返って議論を深める機会もあろうかと思いますので,その点につきましては,委員,幹事の皆様におかれましても,今後の審議の際に御配慮いただければ幸いでございます。   続きまして,部会資料33-5に基づいて,7月以降の部会で既に御審議いただきました項目についての言わばおさらいの審議をしていただこうと思います。   まず,「第28 法律行為に関する通則」と「第29 意思能力」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 それでは,「第28 法律行為に関する通則」及び「第29意思能力」についてまとめて御説明いたします。大変多くの意見が寄せられておりまして,全ての論点について逐一,御報告するということは時間的な制約からも困難ですので,これらの項目の中から,部会において様々な意見が出されたものですとか,意見が多かったものに絞りまして御説明させていただきたいと思います。第28と第29の中からは,第28の「1(2)公序良俗違反の具体化」,第29の「1(1)意思能力の定義」,「2 日常生活に関する行為の特則」,「3 効果」を取り上げます。   まず,「第28 法律行為に関する通則」,「1 法律行為の効力」,「(2)公序良俗違反の具体化に関する意見」について御説明いたします。部会資料33-5の該当ページは4ページです。この論点については,暴利行為に関するルールの明文化についての賛否のほか,暴利行為以外に具体化すべき公序良俗違反の類型に関する意見もありました。   暴利行為に関するルールの明文化について賛成する意見は,5ページから12ページにかけて掲載してあります。このような意見の理由として,明文化することによって適用の安定性や予測可能性が高まるということを挙げるものが多くありました。また,明文化する場合の留意点として,考慮すべき要素が例示であることを明確にすべきであるとの意見がありました。暴利行為の要件については,伝統的な判例の定式では適用場面が限定されていて使い勝手が悪いなどとして,現代的な暴利行為論を踏まえて検討すべきであるとの意見,他方,暴利行為に関するルールを明文化するとしても,従来の判例をリステートするにとどめるべきであるとの意見などがありました。   暴利行為に関するルールの明文化に反対する意見は,14ページから19ページにかけて掲載してあります。その理由としては,暴利行為に関する法理は生成発展の過程にあり,現時点で具体化すれば事案に応じた柔軟な解決が阻害されること,抽象的な要件が規定されると解釈が広がり,自由な経済活動を萎縮させること,濫訴のリスクが高まることなどが挙げられました。これらのほか,暴利行為を明文化するかどうかを検討するに当たって留意すべき点として,企業間の取引においては当事者間に知識や交渉力の差があることは通常であるから,取引の効力が否定されるのは,相手方の権利を不当に侵害した場合に限定すべきであるなどの意見がありました。   暴利行為以外の類型については,状況の濫用,脱法行為,取締法規に違反する行為について検討することを支持する意見がありました。他方,状況の濫用は要件が極めて曖昧であること,取締法規違反については法規の趣旨や目的に応じて私法上の効力を判断すべきであり,一律の規制に服せしめるべきではないことなどから,これらに関する規定を設けることに反対する意見もありました。   公序良俗違反の具体化については以上です。   次に,「第29 意思能力」,「1 要件等」,「(1)意思能力の定義」について御説明します。部会資料33-5の該当ページは33ページです。意思能力の定義については,法律行為をすることの意味を弁識する能力とすることを支持する意見,事理弁識能力とすることを支持する意見などがありました。   寄せられた意見のうち,法律行為をすることの意味を弁識する能力とすることを支持する意見を33ページから36ページにかけて掲載してあります。このような定義を支持する理由としては,その法律行為を自らしたと評価できるだけの能力は法律行為ごとに異なること,従来の裁判例においても法律行為ごとに相対的に判断されてきたこと,現代社会においては多様な取引が行われており,一律の判断基準を設けることには意味がないことなどが挙げられました。他方,このような定義に対しては,高度で難解な取引の場合に意思無能力者が拡大してしまい,法的安定性を欠くとの意見や,取引実務において相手方に判断困難な事項の判断を求めることになりかねず,紛争の長期化や複雑化をもたらすことになるおそれがあるとの意見がありました。   意思能力を事理弁識能力と定義することを支持する意見は,36ページから37ページにかけて掲載してあります。このような意見の理由として,民法第7条の文言との整合性,法律行為をする規則のある能力について,個別具体的な判断を求めるのは困難であることなどが挙げられました。これらのほか,法律行為をするのに必要な精神能力と定義し,意思能力を構成する要素の抽出については,学説に委ねるべきであるとの意見,意思能力の定義については特定の考え方を支持するわけではありませんが,意思能力を欠く状態で行われた法律行為の効力について規定を設けることを支持する意見,改正する必要はないという意見などがありました。   意思能力の定義については以上です。   次に,「2 日常生活に関する行為の特則」について御説明いたします。部会資料33-5の該当ページは43ページです。この論点については,日常生活に関する行為の特則を設けるべきであるとの意見と,特則を設ける必要はないとの意見とがありました。   特則を設けるべきであるとの意見は,部会資料33-5の43ページから45ページにかけて掲載してあります。このような意見の理由として,精神に障害のある者が取引から忌避されて,生活必需品の調達に支障を生ずることなく社会生活を営むことができるようにするという観点から設ける必要があること,相手方が意思能力の有無について確認しなくても済むことになれば円滑な取引に資すること,日常生活をするのに必要不可欠な行為と限定的に解すれば金額が多額になることも少なく,取り消し得ないとしても成年被後見人等に大きな不利益を及ぼさないことなどが挙げられました。   他方,特則を設ける必要はないとの意見は,部会資料33-5の45ページから49ページにかけて掲載してあります。このような意見の理由として,日常生活に関する行為を確定的に有効とすると,意思無能力者が日用品などを不必要に大量に購入しても,これを取り消すことができないことになって表意者保護に欠けること,意思能力を法律行為ごとに判断すれば,日常生活に必要な行為をするのに必要な能力は高いとは言えず,このような能力を欠く状態で行われた法律行為の効力を認めるべきではないことなどが挙げられました。   次に,「3 効果」について御説明します。部会資料33-5の該当ページは49ページです。この点については,取消し可能とすることを支持する意見と,無効とすることを支持する意見などがありました。   取消し可能とすることを支持する意見は,49ページから50ページにかけて掲載してあります。このような意見の理由として,意思能力を欠く状態でされた法律行為の効果は無効とされているが,取消しとの差がほとんどないこと,意思能力を欠く状態で行われた法律行為が有効であることを前提として,第三者との取引が積み重ねられていることがあり,期間制限などの対応がなければ法的安定性を欠くことなどが挙げられました。   無効とすることを支持する意見は,51ページから55ページにかけて掲載してあります。このような意見の理由として,取消しの意思表示をしなければ,意思能力を欠くことの効果を主張することができないのでは保護が不十分であること,無効の主張には期間制限などはなく表意者の保護に有利であること,意思能力を欠く状態でされた法律行為を有効とするのは,意思主義の原則,私的自治の原則に反することなどが挙げられました。   以上,個別に御紹介した論点のほか,中間論点整理第28及び第29について寄せられた意見は,部会資料33-5の1ページから56ページまでに記載されているとおりです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明のありました第28及び第29の全体につきまして御意見をお伺いいたします。ただ,この部会で既に第2ステージの審議を行った論点でもありますので,ただいま報告のありましたようなパブコメの結果に照らした場合,更にこの部会において補充的に議論しておくことが必要であると考えられる点に絞って御意見を頂きたいと思います。どの論点からでも結構でございますので,御自由に御発言ください。   特に御意見等はございませんでしょうか。特に御発言がないようでしたら便宜,次に……。 ○岡委員 二つあります。   一つは今,事務局からの御説明ですと,何ページから何ページまでが賛成意見で,何ページから何ページまでが消極意見と,内容ごとに区分して書かれているようです。そうであれば,それをこの中に書いておいてくれたほうが後から読むときに助かると思います。弁護士会でもこれを見たんですが,量に圧倒されて,なおかつ,全部,読み通すというのがかなり大変な量でございますので,積極,消極,そうでもないというふうなグルーピングをもしされているのであれば,そういうのを是非書いていただきたいという希望が一つでございます。   それから,もう一つは全部,読むのが大変なので,本部会で出た意見ではないけれども,こういう特徴ある意見があったのでどう思うかとか,そういう問題提起の仕方をしていただければ,もう少し発言もできるんですが,いかがでしょうか。このままいくと何の発言もなく,2時ごろ,終わってしまうのではないかという心配もして,せっかく,これだけの意見が世の中から出てきたのですから,聞いたぞというだけでの議事録ではもったいないので,何かそういう工夫をできればなと思いました。 ○鎌田部会長 御指摘の第2点につきましては,私のほうからも事務当局で報告する際に,そういう我々が見落としていたような論点,考え方があれば,特に紹介してほしいということをお願いはしてあるんですけれども,我々が見落としていた点はそれほどないということのようでございますが,事務当局から今の二点につきまして何かございましたら。 ○笹井関係官 一つ目のグループ分けについてですが,取りまとめをするときに,我々としてもできるだけ同じような意見は近い箇所に集めて掲載することを意識しながら作業はしておりますけれども,ただ,実際にはいろいろなニュアンスがございまして,例えば見出しみたいなものをつけて明確に分類するということは難しいですし,また,それがかえって意見を出された方の意向に反するようなことにもなるかもしれません。先ほどの御説明の際には,単に羅列するだけではお聞き苦しいと思いまして,便宜的におおまかなページ数を申し上げましたけれども,資料上明示するのは困難であることを御理解いただければと思います。   それから,二つ目の特徴ある意見を特に取り上げて問題提起すべきであるという点ですが,その点はある程度,意識しながら御説明の中に盛り込むようにしているところでございます。 ○中井委員 今日の進め方がどうなるのか余り想像できなかったものですから,事前に十分な検討ができていません。弁護士会でもバックアップ会議は設けていません。そこで,戻って総論のことでもよろしいでしょうか。資料33-1を拝見して,大変多くの意見を頂いたんだなと思いました。その上で,先ほど筒井参事官におまとめいただいたように,改正の必要性について,その認識が全国民の中で共通のものになりつつあるという,この取りまとめ自体に異議があるわけではありません。ここに出ている意見を見る限り,何らかの形で民法の各規定についての見直しの必要性は理解を示し,その上で必要な改正をしていこうということだろうと思います。   とはいえ,相当幅の広い意見があり,改正の必要性を認めながら,同じ土俵で,同じ方向で,同じ程度に,同じような内容の深さでというと,実はそれは全く違うという印象を受けております。とすると,この審議会の中で,どこまでの範囲のものを深めていくのか,前回でも例えば時効制度についての議論がありましたが,例えば契約に基づく債権の消滅時効の問題と不法行為の問題について,二つの制度になるものをどうするのか。連続性を尊重するか,もう少し理念,論理からすれば,こうではないかという議論,この二つでも相当な開きがある。パブコメの中で国民の皆さんから頂いた意見の中にも,今,ここで進められている審議会の在りよう,その取り扱っている範囲,それで改正しようとしている中身について,関心があって,一方で,大変期待をし,一方で,大変危惧をしている。それが分かった。   弁護士会の委員として,委員である私自身にそれほど知識や経験があるわけでもなく,法的素養が優れているというわけでもないという自覚の下に出ておりますので,私としては大阪弁護士会の皆さんの意見,前日にある日弁連のバックアップ会議で各単位会から出てきた意見,これをできるだけ真摯に受け止めて,ここで発言をしようと思っているわけですけれども,それであってもやはり今回のパブコメを見て思ったのは,弁護士会で集めている意見といっても,所詮,ごくごく一部の意見でしかないということです。   各単位会の弁護士会の意見を私は見たはずなんですけれども,改めて要約版を見てみますと,各単位会の弁護士会でもかなり意見の差があって,それを私自身は必ずしもきちっと集約して,ここで発言できていない。とすれば,なおさらですけれども,国民各層が今,民法改正に対して持っている意見について,ここの審議会の委員の皆さんがどこまで把握できているのか。   ユーザー委員の方々5人に出ていただいているわけですけれども,例えば経団連傘下にいらっしゃる各企業さんの意見がどれだけ経団連のほうでまとめていただいて,ここで意見として出ているのか,大変失礼なことを言っているのかもしれませんけれども,やはり,そこにかなり懸念といいますか,本当にここで十分,国民の意見を集約して我々は議論できているのだろうか,常に謙虚になる必要がある。そうでなければ,ここでの審議の結果,出来上がったものについての国民の信頼といいますか,理解も得られないのではないかということを改めて思いました。   二つ目ですけれども,総論のまとめの中で御紹介いただきましたが,改正の理念や目的に関する意見として,消費者保護に偏った検討がなされているのではないかと懸念する意見と,民法の商法化を志向した検討がされているのではないかと懸念する意見,これは例としてお話しするだけですけれども,二つの相反する意見が紹介されています。   一つの立場は,取引が大量に,しかも極めて迅速に行われる今日,そういう取引が安定して行われるかということに関心がある者にとっては,取引の安全保護に関心を持った意見になる。それに対して阻害要因は何かといえば,無効や取消しの拡大であり,また,とかく消費者ないし格差を理由とした議論が出てきたときに,そこが目について,消費者保護に偏った議論をしているのではないかという批判につながっているような印象を受ける。   他方で,契約の当事者本人にとって,今日の複雑化した社会の中で行われる取引の被害といいますか,本人の財産保護に欠ける事態が生じているという現実を目にすれば,本人の保護,教科書的に言えば静的安全の保護に関心を示し,無効の範囲を広げ,若しくは取消しの範囲を当事者の財産保護のために認めるという意見や発言につながり,そういう立場から見れば,取引の安全の保護を図る意見,民法の商法化を志向した検討に対する批判となって表れてくる。ごく当たり前のことが当たり前の意見として出ているのだなと,思っています。   とすると,今後,議論されるであろう様々な論点について,国民がちょうどいい落としどころに落としていただいた新たな民法になりましたね,改正の落としどころとしては調和が取れていますねと。複雑な利害調整についての落としどころをこういう国民各層の意見を常に批判を受けながら審議する必要がある,ということを,改めて思いました。   三つ目に,具体的な無効と取消しに関係することで,暴利行為の整理をした14ページの右下に,状況の濫用について記載をしていただいています。部会の審議でも,公序良俗の具体化としての暴利行為,暴利行為の具体化現代化を進め,従属状態若しくは抑圧状態若しくは知識の不足等を理由としたものを加えた延長線上で,状況の濫用と連続性を持った議論があったと思います。無効と取消しについて,少し時間があるのであれば,意思表示,若しくは暴利行為に関連して,無効領域と取消し領域について,恐らくこの意見などはそこに新たな提案をするものかなと思うものですから,意見をお聴かせいただければ有り難いと思った次第です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   第1点,第2点に関連しましては今後の審議の中でも,これまでの部会で出された意見に限らず,パブコメで出されてきた意見も考慮に入れて,審議を進めるようにしたいと思いますし,同時に,ここでの審議の内容をより広く御理解いただけるような工夫もしていきたいと思っております。   第3の点につきましては,状況の濫用を暴利行為その他のほかに一つの類型として取り上げるべきかどうかという問題と,状況の濫用は公序良俗違反の一内容になるのか,あるいはそれとはまた別の類型のむしろ取消し原因として考慮すべきなのかという,二つの問題提起が含まれていると思いますけれども,この点について,委員,幹事,関係官の御意見があればということだと思いますので,御意見がありましたらお出しいただければと思います。 ○内田委員 状況の濫用については,事前に出ていた立法提案の中に明確な形では入っていなくて,部会の審議の中で暴利行為との関連で,そういう立法をする余地があるのではないかという御指摘があり,議論になったものですので,暴利行為との関係で扱われているということなのだと思います。しかし,部会でもし強い支持があり,この意見の中ではオランダ法が例として挙げられていますが,オランダ法のような形で規定を置くということになるのであれば,暴利行為の90条の中でというよりは,意思表示に瑕疵がある場合のひとつとして置くということは十分あり得ることだと思います。ですから,規定を置くとなれば,どう配置するかというのはまた新たに検討されるべき問題で,その点についての重要な指摘をされたと受け止めています。   そのついでに最初の第1点についても,中井委員の御発言に対する私の感想を申し上げたいと思います。今回,約370のパブコメを頂いて,後ろに置かれているとおり,膨大な量で,要約を作るのに局付の人たちは大変な時間を使って作業をしていました。私は原本を全部見たわけではありませんけれども,一部を拝見しただけでも非常に多様な意見が出ていて,様々な利害を持ち,様々な意見を持っている方々がおられるということで,正に中井委員の御指摘のとおり,謙虚にこれを受け止めて反映させる努力をしなければいけないということを私も感じました。   ただ,同時に現在の債権関係の改正について,国民一般に対する周知がまだ必ずしも十分ではないのも事実です。ですから,パブコメを確かにたくさん頂きましたけれども,まだ,改正が行われていることを十分,よく御存じない国民各層もおられるように思われます。したがって,弁護士会からは各単位会からも御意見をたくさん頂いていますが,弁護士会はむしろ例外的存在であるかもしれなくて,実は本来は意見を言うべきであるのに,まだ,十分御存じない方々も多数おられるという感じがいたします。今後,私も一応,法務省の中の一員ですので,できるだけ国民各層への周知に努めて,まだ,吸い上げられていない意見を吸い上げるべく努力をしたいと考えています。中間試案に向けては,そういうより幅広い国民各層の関心を喚起をして,意見を出していただけるような環境を作るように努力をしなければいけないと感じております。全く感想ですが,追加して申し上げます。 ○佐成委員 今の中井委員と内田委員の御発言に触発されまして発言させていただきますと,おっしゃるとおり,正に私も両委員に同感でございます。経済界を代表するという形になっておりますけれども,内部の関心の程度は論点によってかなり違いますし,内部で議論をしたといっても,時間的な制約で必ずしも十分に議論が尽くされていないということは,私自身,率直に感じております。ですから,この部会で経済界を代表して何か発言するというのは,ちょっとおこがましい感じがありますけれども,さはさりながら,ある程度,議論の方向性を示すという意味で,私見も交えて,ちょっと踏み込んだところまで申し上げているかと思います。しかし,今の御指摘はごもっともで,当然,私も十分考えているところでございますので,今後とも謙虚に経済界のさまざまな意見を幅広く反映するようにしたいと思います。 ○岡田委員 総論のところに戻りますが,この委員会においてはかなり消費者という位置付けに関して理解していただきましたし,消費者保護という部分に関しても温かい目で見ていただいたと思っていたのですが,今回の意見を見まして,やはりまだまだ消費者というものに対して,消費者契約法だとか,業法で対応されているだろうというふうな見方が多いのだと感じました。そういう意見の方に「あなた方はそのような法律を実際に仕事でお使いになったことがあるのですか,又は法律を熟知されているのですか」と申し上げたい思いです。   私としましては,この部会の最初のところで申し上げたかもしれませんが,民法というのは国民が理解できて初めて市民の法だろうと思うのです。ところが115年たった前の法律が今でも十分だ,何ら不都合を感じていないという意見がかなりあったということに関してとても衝撃を受けました。というのは,判例のことにしろ,それ以外の強力な考え方にしろそのような意見の方々は,御存じだから,そう言えるのであって,知らない人間にとっては条文でしか対応できないのです。そういう人間が一般の消費者紛争を解決しているのだというところを是非とも知っていただきたいと思います。   よく弁護士さんとか裁判官の方が,言わば素人が法律を使って何らかあっせんとかすることに関して大変危険であるとおっしゃいます。そのとおりだと思います。他人というか,人の権利とか義務をそこであっせんしたりするわけですから,専門家の方からすればそのとおりだと思います。だからこそ,法律というものはきちっと押さえていなければいけない。ところが,それが十分にできないのが今の民法だと考えますと,やはり分かりやすいということに関しては是非ともお願いしたい。判例で確定しているものについては条文化していただくということが,この部会ではコンセンサスを得ていたと思っていたのですが,まだまだ一般的には受け入れられない点があるのだと思ったのが一つと,あとは肝心かなめの私の後ろにいる消費者の方が民法改正に関してほとんど認識していないばかりかむしろ,民法改正に対して消極的な意見が目に着いたということです。パブコメ自体,中間的論点整理を十分に把握した意見が少ないことを痛感しました。正直これからの消費者紛争解決はどうなっていくのかなと思いました。   ここで今更申し上げることではないのですが,確かに消費者保護に関しては業法からスタートしました。業法で対応できなくて特別法である消費者契約法が制定されました。ところが,その消費者契約法も今,対応できない事例が多くなっています。だからこそ,民法の中に消費者の位置付けや零細企業に関しての規定ないしは基本的な部分を入れていただくことによって,業法なり特別法は前進するのではないかと思いましたが,その辺を相談員や消費者側に理解してもらえないということに関して個人的には戸惑っています。   そこで,法務省にお願いがあります。相談員であっても,これだけの中間的論点整理に目を通して理解するというのは内容的にできませんので,せめて消費者に関連する部分に関してこういう論点が部会で今,議論されているのだと分かるようなパンフレットなどの印刷物を作っていただけないかと思っていまして,それができれば相談員の勉強だけでなく,消費者向けの講座等であったり,勉強会で使えるのではないかと思います。私はこれを作っていただくことが消費者保護に偏った民法改正になるとは思っていません。せめて同じレベルないしはそれより少し下であっても,もう少しレベルアップをするために,何らか工夫をしていただければなと思っています。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○筒井幹事 ただいま,岡田委員から消費者にとって分かりやすい資料作りといった御注文を頂きました。大変重要な御指摘だと思いますので,真摯に受け止めて何らかの対応,私どもとしてどのようなことができるのかを,十分に考えてみたいと思います。 ○鎌田部会長 総論に関してもたくさん御意見を頂いております。この後の各論的課題に関連しても,また総論に関連する御意見があれば,その都度,お出しいただければと思います。   状況の濫用については特に御意見はございませんか。この部会の中では状況の濫用について,具体的な提案が必ずしも明確な形で出されているわけでないということで,先ほどのようなパブコメでの意見につながっているところでございますので,今後,委員,幹事の中から具体的な形での提案が出されれば,また,それに応じて内容が充実した形での議論ができるかなと思っているところでございます。 ○岡田委員 状況の濫用について,一番関係があるのは消費者側と思いますのでそういう議論をしていただいて,公序良俗でもそれ以外のところでもいいですから何からの形で入れば,随分,高齢者や障害者救済につながると思います。 ○鎌田部会長 ほかに第28及び第29に関連した御意見はございますでしょうか。 ○高須幹事 今までの議論ともほぼ重なっている部分ですが,暴利行為のところがやはりかなり詳細な御意見を頂いているなという印象を持っております。賛否の数え方はそれぞれでございましょうから,賛成が何人で,反対が何人でというのは多分,適切ではないとは思いますけれども,暴利行為の規定を明文化することに賛成という意見も比較的あったということは,大変関心を持って読ませていただきましたので,弁護士会等でも議論の前提にさせていただき,この部会での議論につなげていきたいと思っております。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   それでは,続きまして部会資料33-5の「第30 意思表示」と「第32 無効及び取消し」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 それでは,少し長くなりますけれども,「第30意思表示」及び「第32 無効及び取消し」についてまとめて御説明いたします。これらの項目からは,第30の「1(1)心裡留保の意思表示が無効となる要件」,「2(2)民法第94条第2項の類推適用法理の明文化」,「3(1)動機の錯誤に関する判例法理の明文化」,「3(4)効果」,「4(1)沈黙による詐欺」,「5 意思表示に関する規定の拡充」,第32の「2(1)法律行為に含まれる特定の条項の一部無効」,「2(3)複数の法律行為の無効」,「3(2)返還請求権の範囲」,「4(2)法定追認」,「5(1)期間の見直しの要否」を取り上げます。   まず,「第30,意思表示」,「1 心裡留保」,「(1)心裡留保の意思表示が無効となる要件」について御説明します。部会資料33-5の該当ページは56ページです。この論点については,非真意表示と狭義の心裡留保を区別して規定するという考え方を支持する意見と,このような区別を設けることに対して反対する意見などが寄せられました。   非真意表示と狭義の心裡留保を区別すべきであるとの意見は,部会資料33-5の56ページから57ページにかけて掲載してあります。その理由として,これらを一括して処理することは,民法第93条の立法過程から明らかなとおり,立法の過誤であることなどが挙げられました。   他方,非真意表示と狭義の心裡留保を区別すべきでないという意見は,部会資料33-5の57ページから60ページにかけて掲載してあります。その理由として,両者を区別することは困難であることなどが挙げられました。心裡留保の意思表示が無効となる要件である悪意の対象を,「表意者の真意」から「表示が表意者の真意でないこと」に改めることについては,多くの意見はこれに賛成するものでした。また,心裡留保という用語を変更すべきであるとの意見がありました。   心裡留保の意思表示が無効となる要件については以上です。   次に,「2 通謀虚偽表示」,「(2)民法第94条第2項の類推適用法理の明文化」について御説明します。部会資料33-5の該当ページは66ページです。この論点については,民法第94条第2項の類推適用法理の明文化を検討すべきであるという意見と,明文化に慎重な意見などが寄せられました。   明文化を検討すべきであるという意見は,66ページから68ページにかけて掲載してあります。その理由としては,このような法理が判例実務上定着していることが挙げられました。ただし,その要件や効果については物権変動法制との整合性への配慮が必要であること,外観作出についての真の権利者の帰責性の程度や,相手方の主観的要件の内容を慎重に調整する必要があることなどを留意点として指摘する意見がありました。   明文化に慎重な意見は,68ページから70ページにかけて掲載してあります。その理由として,民法第94条第2項が適用される類型や要件についての見解が確立しているとは言えないこと,解釈による対応のほうが柔軟な解決を導き得ることなどが挙げられました。   次に,「3 錯誤」,「(1)動機の錯誤に関する判例法理の明文化」について御説明します。部会資料33-5の該当ページは71ページです。この点については結論を示さないものの,動機の錯誤は錯誤に関する紛争の多くを占めるとして,動機の錯誤について検討することに賛成する意見があり,このような意見においては,現在の判例法理を踏まえて検討すべきであることが多く指摘されました。また,規定の内容については,事実の認識が法律行為の内容になっているかどうかを問題とする立場を支持する意見,相手方の認識可能性を問題とする立場を支持する意見などがありました。   法律行為の内容になっているかどうかを問題とする立場を支持する意見は,71ページから73ページにかけて掲載してあります。このような意見の理由として,現在の判例法理は錯誤が法律行為の内容になっているかどうかを問題にしているという理解を前提にして,判例法理を明文化することが望ましいことなどが挙げられました。これに対しては,どのような場合に事実の認識が法律行為の内容になっていると言えるかが問題であり,このことを明確化する必要があるとして,例えば特定の事実の認識が表示され,その事実が真実と異なる場合には,当該法律行為を無効とすることが合意された場合などと定式化するという考え方を示す意見もありました。   相手方の認識可能性を問題にする立場を支持する意見は,73ページに掲載してあります。このような意見の理由としては,現在の判例法理が相手方の認識可能性を問題にしているという理解を前提にして,判例法理を明文化すべきであることなどが挙げられました。   次に,「(4)効果」について御説明します。部会資料33-5の該当ページは83ページです。この論点については,錯誤に基づく意思表示は取り消すことができるという立場を支持する意見,錯誤に基づく意思表示は無効であるという立場を支持する意見がありました。   取り消すことができるという立場を支持する意見は,84ページから85ページにかけて掲載してあります。このような意見の理由として,実務上,錯誤の効果は取消可能に近づいていること,表意者には,錯誤に気付いたら速やかに取消権を行使することが期待でき,表意者を害するとは言えないことなどが挙げられました。これに対しては,取消可能とした場合には期間制限などの点で表意者の保護に欠けるという意見もありました。   無効とすべきであるという立場を支持する意見は,85ページから86ページにかけて掲載してあります。その理由として,現状を変更する理由がないことなどが挙げられました。   これらのほか,相対的無効という概念を設けるかどうかなど,法律行為の無効及び取消し全体の制度設計に留意する必要があるとの意見,効果を取消可能とすることによって表意者保護が後退しないかどうかに留意する必要があるとの意見など,留意点を指摘して慎重な検討を求める意見がありました。   次に,「4 詐欺及び強迫」,「(1)沈黙による詐欺」について御説明します。部会資料33-5の該当ページは95ページです。この論点については,検討に当たっての留意点を指摘するものとして,情報提供義務,説明義務との関係などを含めて慎重に検討すべきであるとの意見,他の意思表示の瑕疵とのバランスにも留意すべきであるとの意見,労働者の経歴詐称の処理に留意すべきであるとの意見,過剰な情報提供をもたらすなどの影響にも留意すべきであるとの意見などがありました。沈黙による詐欺を明文化するかどうかについては,これを明文化すべきであるという意見と明文化に反対する意見などがありました。   明文化を支持する意見は,95ページから97ページにかけて掲載してあります。このような意見の理由として,判例によっても認められていること,民法第96条の解釈から導くことができるとしても,文言上は必ずしも明確ではないことなどが挙げられました。どのような場合に沈黙が詐欺に該当するかの判断に当たって考慮すべき事項として,例えば当事者間の情報の質,量,情報処理能力等の格差,当事者の属性などを明記すべきであるとの意見がありました。   明文化に反対する意見は,98ページから100ページにかけて掲載してあります。このような意見の理由として,どのような場合に沈黙が詐欺に該当するかを記述することは困難であること,詐欺に関する規定があれば足りること,他の意思表示に関する規定とのバランスを欠き,誤解や混乱を招くおそれがあることなどが挙げられました。   次に,「5 意思表示に関する規定の拡充」について御説明します。部会資料33-5の該当ページは108ページです。不実表示に関する規定を設けることに賛成する意見,反対する意見,規定を設けることの当否を判断するに当たって検討すべき点を指摘する意見などがありました。   不実表示に関する規定を設けることに賛成する意見は,109ページから114ページまでに掲載してあります。このような意見の理由としては,表意者の誤認を自ら惹起した相手方が表意者の犠牲において意思表示の有効性を主張することは相当でないことなどが挙げられました。もっとも,これらの意見の中には相手方が誤った事実を告げたことによって,表意者がこれを信じて意思表示をした場合には,その意思表示を取り消すことができるという考え方に総論的には賛成しながら,その要件については慎重に検討すべきであるとの意見が多くありました。特に消費者が事業者に対して不実表示をした場合に,事業者が取消しを主張することは制限すべきであるとの意見がありました。また,不実表示に関する規定を設ける場合の留意点として,現在の消費者契約法の不実告知に関する規定は存置すべきであるとの意見がありました。   規定を設けることに反対する意見は,117ページから132ページにかけて掲載してあります。その理由としては,現在の意思表示の効力に関する規定を前提とした取引実務に特段の支障が生じていないこと,不実表示に関するルールが十分に成熟したものであるとは言えないこと,消費者契約法の不実告知は当事者間の情報量や交渉力の格差に着目したものであり,対等な当事者間においてはその趣旨が妥当しないこと,事業者間の取引の安定性や迅速性を損なうおそれがあること,事業者間で契約の取消しをめぐる紛争が多発し,混乱を招くおそれがあること,事業者が消費者の不実表示を理由に意思表示を取り消すことができることになり,消費者保護に欠けること,表明保証の実務に影響を及ぼすおそれがあることなどが挙げられました。   以上のほか,不実表示に関する規定を設けるかどうかを検討するに当たり,表意者がその属性に応じた調査義務を尽くしたことを取消しの要件とするか,どのような事実について不実表示があった場合に取消しを認めるか,表明保証との関係をどのように考えるか,不実表示の規定を任意規定とするか,強行規定とするかなどについて検討することが必要であると意見がありました。   次に,「第32 無効及び取消し」,「2 一部無効」,「(1)法律行為に含まれる特定の条項の一部無効」について御説明します。部会資料33-5の該当ページは211ページです。この論点については,217ページ以下に掲載してあるように,一律に規定することはできないなどとして,規定を設けることに消極的な意見もありました。規定を設ける場合の規定内容については,条項の一部が無効である場合に,原則として無効となるのはその範囲に限定されるということについては,寄せられた意見の多くはこれに賛成するものでした。この原則に対する例外として,条項全部が無効になる場合についての規定を設けるかどうかについては,これを支持する意見と反対する意見がありました。   例外を規定することを支持する意見は,211ページから213ページにかけて掲載してありますが,その理由としては,当事者間に非対称性が認められる場合には,条項の全部を無効とする必要があること,全部無効とすることが当事者の意思に合致する場合があることなどが挙げられました。   これに対し,条項の全部が無効になる場合がある旨の規定を設けることに反対する意見もあり,214ページから216ページにかけて掲載してあります。その理由としては,現在の実務では無効原因がある部分以外の部分には影響を与えないと考えられており,それを変更する理由はないこと,法律行為ごとの諸般の事情を考慮すべきであり,一律の判断にはなじまないこと,条項の範囲が不明確であることなどが挙げられました。   これらのほか,例外的に条項全部が無効になる場合に関する規定を設けるかどうかについて,慎重に検討すべきであるとの意見もありました。   次に,「(3)複数の法律行為の無効」について御説明します。部会資料33-5の該当ページは224ページです。この論点については,規定を設けることに反対する意見と規定を設けることに賛成する意見とがありました。   規定を設けることに反対する意見は,227ページから232ページにかけて掲載してあります。その理由としては,一般的な要件を設けることが困難であること,ある契約が無効になった場合にその影響が他の契約にも及ぶと,当事者の合理的意思に反し,実務に混乱をもたらすおそれがあることなどが挙げられました。   規定を設けることに賛成する意見には,その規定内容について224ページから225ページにかけて掲載された意見のように,複数の法律行為の間に密接な関連性があり,当該法律行為が無効であるとすれば,当事者が他の法律行為をしなかったと合理的に考えられる場合には,他の法律行為も無効になるという考え方を支持する意見がありましたが,密接な関連性などの要件が不明確であり,より明確な要件を検討すべきであるとの意見もありました。また,例えば契約の目的を達成することができるかという基準を設けることを提案する意見,裁判例から抽出できる規律をできるだけ忠実に条文化すべきであるとの意見,抗弁の接続との関係を整理すべきであるとの意見などがありました。   次に,「3 無効な法律行為の効果」,「(2)返還請求権の範囲」について御説明します。部会資料33-5の該当ページは234ページです。この論点については,規定の要否や内容について引き続き慎重に検討すべきであるとの意見のほか,規定を設けることに賛成する意見と規定を設けることに反対する意見とがありました。   規定を設けることに賛成する意見は,234ページから237ページにかけて掲載してあります。その理由としては,現在は返還請求権の範囲についてのルールが不明確であること,不当利得に関する規定に委ねるのは不適当であることなどが挙げられました。規定を設ける場合に検討すべき論点として,双務有償契約に対する配慮,契約が解除された場合の処理との関係,不当利得との関係などを指摘する意見がありました。   規定を設けることに反対する意見は,238ページから239ページにかけて掲載してあります。その理由としては,不当利得や信義則などで対応することができること,細かい規定を設けると事案に応じた妥当な解決を図ることが困難になること,不当利得の一場面を独立させるのは不適当であること,法律行為が無効である場合の返還請求権の範囲については,議論が収れんしていないことなどが挙げられました。   次に,「4 取り消すことができる行為の範囲」,「(2)法定追認」について御説明します。部会資料33-5の該当ページは254ページです。相手方の債務の全部又は一部の受領及び担保の受領を法定追認事由に加えるかどうかについて,これに賛成する意見と反対する意見とがありました。   賛成する意見は254ページに掲載してあり,その理由としては,判例のリステートメントの観点などが挙げられています。   これに対し,これらの事由を法定追認事由に加えることに反対する意見は,255ページから257ページにかけて掲載してあります。その理由としては,外形的な事実だけから追認が生ずることになると,相手方が履行や担保を押し付けることによって取消しを回避することができることになり,表意者の保護に欠けることなどが挙げられました。   最後になりますけれども,「5 取消権の行使期間」,「(1)期間の見直しの要否」について御説明します。部会資料33-5の該当ページは260ページです。この論点については,債権の消滅時効期間などを考慮しながら,更に検討すべきであるという意見のほか,取消権の行使期間を見直して短縮化することに賛成する意見と,これに反対する意見とがありました。   取消権の行使期間の短縮に賛成する意見は,261ページに掲載してあります。期間の短縮と併せて,この期間中に取消権者がすべき行為の内容や,消費者保護の在り方についても検討すべきであるとの意見がありました。   取消権の行使期間の短縮に反対する意見は,261ページから264ページにかけて掲載してあります。その理由として,現在の規定を改める積極的な理由がないこと,表意者の保護に欠けることなどが挙げられています。   以上,個別に御紹介した論点のほか,中間論点整理第30及び第32について寄せられた意見は,部会資料33-5の56ページから266ページまでに掲載されているとおりです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま個別に説明のありました論点にとどまらず,「第30 意思表示」及び「第32 無効及び取消し」の全般について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○高須幹事 最初のほうからということで,心裡留保のところでございます。56ページ以下ということになるんだと思いますが,内容については部会で議論したとおりで,二つの類型に分けるということについての賛成論と慎重論があったというところです。今回,寄せられた意見を見ていますと,慎重論の大半はやはり区別がつくのかということのようです。実際問題として,どこまで二つの類型に分けることができるのだろうかという点に関して,現実には難しいのではないかという意見が相当あったということは,この種の意見が強いんだなと実感させていただきました。今後,この点の是非,考えねばならない,それも踏まえて結論を出していかねばならないのかなと思いました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。カバーする範囲が大変広いので,ざっと御覧になるだけでも時間が掛かるかと思いますけれども,よろしいですか。   それでは,また,後ほどお気付きの点があれば御意見をお出しいただくということで,便宜,先に進めさせていただきます。部会資料33-5の「第33 代理」と「第34 条件及び期限」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明をしてもらいます。 ○金関係官 「第33 代理」について御説明します。この項目からは,「1 有権代理」の「(5)任意代理人による復代理人の選任」,「(6)利益相反行為」,それから「3 無権代理」の「(1)無権代理人の責任」,「4 授権」を取り上げます。   まず,「1 有権代理」の「(5)任意代理人による復代理人の選任」に関する意見について御説明します。部会資料33-5の該当ページは277ページから281ページまでです。この論点では,選任要件を緩和することに賛成する意見,反対する意見,慎重な検討を望む意見がありましたが,賛成する意見の理由としては,復代理人の選任要件の緩和は円滑な代理行為の遂行に資すること,実務上も選任要件の緩和が現実的であることなどが挙げられていました。ただし,賛成する意見の多くは,本人の意思に反して復代理人の選任がされるおそれに留意して要件設定をすべきであるとの指摘をしていました。他方,反対する意見,慎重な検討を望む意見の理由としては,復代理人を選任する余地が広がり過ぎていたずらに紛争を誘発するおそれがあること,任意代理においては代理人の個性が重視される場合が多いこと,「自己執行を期待するのが相当でない」との文言は曖昧であることなどが挙げられていました。   次に,「1 有権代理」の「(6)利益相反行為」に関する意見について御説明します。部会資料33-5の該当ページは281ページから288ページまでです。この論点では,利益相反行為一般を禁止することに賛成する意見,反対する意見,慎重な検討を望む意見がありましたが,賛成する意見の理由としては,利益相反行為一般を禁止することは現在の判例法理と整合的であること,民法第108条の趣旨は利益相反行為一般を禁止する点にあることなどが挙げられていました。他方,反対する意見,慎重な検討を望む意見の理由としては,利益相反行為一般を禁止すると相手方の予測可能性を害して取引への萎縮効果が生ずること,実務では様々な取引形態があるため利益相反行為一般に該当するかどうかの判断が困難であること,民法第108条の類推適用によって妥当な結論を導き得る以上利益相反行為一般を禁止する規定を設ける必要はないことなどが挙げられていました。なお,利益相反行為の効果については,判例法理と同様に無権代理すなわち効果不帰属と捉えるべきであるとの意見が多くありましたが,他方で,相手方や第三者の取引安全を重視して本人が一定の場合に効果不帰属の主張をすることができるとする効果不帰属主張構成を支持する意見もありました。   次に,「3 無権代理」の「(1)無権代理人の責任」のうち錯誤に準じた免責に関する意見について御説明します。部会資料33-5の該当ページは326ページから330ページまでです。この論点では,無権代理人の責任を錯誤に準じて免責することに賛成する意見,反対する意見がありましたが,賛成する意見の理由としては,現行法の無権代理人の責任は重過ぎること,代理権がないことにつき善意の無権代理人に民法第117条第1項の責任を負担させる理由は乏しいことなどが挙げられていました。ただし,賛成する意見の中には,無権代理人に重過失がある場合のみならず,軽過失がある場合についても,無権代理人の責任を肯定すべきであるとの意見がありました。他方,反対する意見の理由としては,無権代理人の責任を錯誤に準じて免責すると取引の安全を害することなどが挙げられていました。   最後に,「4 授権」に関する意見について御説明します。部会資料33-5の該当ページは334ページから338ページまでです。この論点では,処分授権に関する規定を設けることに賛成する意見,反対する意見,慎重な検討を望む意見がありましたが,賛成する意見の理由としては,委託販売等の場合に授権者から相手方に直接権利が移転する旨を規定することによって各当事者間の権利関係が明確になることなどが挙げられていました。他方で,反対する意見,慎重な検討を望む意見の理由としては,授権の概念自体が不明確であること,取次ぎや間接代理との区別が曖昧になること,実務上用いられる場面が限定的であるためその必要性・有用性が不明確であることなどが挙げられていました。   以上,個別に御紹介した論点のほか,「第33 代理」について寄せられた意見は,部会資料33-5の266ページから338ページまでに記載されているとおりです。   「第33 代理」については以上です。 ○亀井関係官 次に,「第34 条件及び期限」について御説明いたします。部会資料33-5の該当ページは338ページ以下からです。   中間論点整理「第34 条件及び期限」,「1 停止条件及び解除条件の意義」については,停止条件や解除条件の意義は一般には分かりにくく,条文上,明確化することに賛成の意見が寄せられております。   「2 条件の成否が未確定の間における法律関係」については,判例で示されている考え方を明文化することに賛成する意見がある一方で,反対する意見も寄せられております。また,明文化することに賛成の立場からは,故意に条件を成就させたというだけでは何ら非難すべき場合でない場合が含まれることから,非難に値する場合を適切に要件化すべきとの意見も寄せられています。   「3 不能条件」については,原始的不能論の見直しに関する議論と平仄を合わせる観点から,民法第133条を削除すべきとの意見がある一方で,削除に慎重な意見,反対の意見も寄せられております。   「4 期限の意義」については,分かりやすい民法とする観点から,期限の意義を条文上,明確化することに賛成の意見が寄せられている一方で,規定を置くことに反対の意見も寄せられております。   「5 期限の利益の喪失」については,適用関係を明確にするために,民法第137条が定める期限の利益の喪失事由のうち,破産手続の開始の決定を受けたときについては破産法に委ね,民法の規定は削除すべきとの意見が寄せられる一方で,民法にも何らかの規定を存置すべきとの意見も寄せられました。また,同条第2号についても,何ら義務違反のない場合が含まれないことを明らかにすることに賛成する意見がある一方で,削除することに慎重な意見も寄せられております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明のありました「第33 代理」及び「第34 条件及び期限」につきまして御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。   予想以上に早く進んでいるんですけれども,カバーしている範囲が広くて,十分に,委員,幹事各位の整理が追い付いてこない部分もあろうかという気もしますので,これから休憩にして,休憩後に休憩前に取り扱いました部分について御意見があればお伺いして,その後に残った部分の説明,審議を行いたいとしたいと思いますが,よろしいでしょうか。それでは,3時に再開をさせていただきます。よろしくお願いします。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開をさせていただきます。   休憩までに取り上げられました項目につきまして,御意見がありましたらお出しいただければと思います。よろしいですか。 ○中井委員 事務当局から紹介していただいた総論的な意見として,例外的な事例に関する判例を明文化することによって,その適用範囲が拡大するおそれがあるとする懸念の意見紹介がありました。これは恐らく確かにあるんだろうと思います。例えば想定されている一つの例が暴利行為であったり,無効のところでいえば,複数の法律行為の無効の場合などが,こういう御意見の念頭にあるのではないかと思うわけです。しかし,これまでに相当程度,理解が得られているのは,判例等で具体的な事案を通じてではあるにせよ,一定限度,幾つかの要件のもとで認められているという事実が少なからずあることは間違いない。複数の法律行為の無効についても,同一当事者間であればなおさらのこと,具体的な事例の中で一つの契約が無効であれば,他方の契約も無効にする必要性については認識され,現に一定の消費者取引の分野などにおいてはそれが具体化されている。そういう現実があるときに,民法の中にそれらに関する規定が何もない,民法を読んでも,そういう解決のあり得ることが理解できないというのは,適当ではないように思うわけです。   だとすれば,具体的なそういう解決手法のあることを国民に示す意味でも,確かにどのような形できちっと要件化できるかという課題はあるにしろ,その課題を克服できるような議論をできるだけしていくべきではないか。暴利行為に関しても,また,複数の法律行為の無効についても,幾つか批判的な御意見があることは十分,パブリックコメントの結果,承知いたしましたけれども,なお,要件を十分に検討することによって,明文化する方向で議論をすべきではないかと,こういう意見を申し上げておきたいと思います。   もう一点,第30の「5 意思表示に関する規定の拡充」,つまり,不実表示に関する取消し規定を設けることについて,大変多くの意見を頂いており,しかも,それを拝見するとかなり消極的意見のほうが多い。この部会においてもユーザー委員の複数から消極的意見をお聴きしまして,弁護士会委員としてはそれだけ反対が強いのかという思いをしたわけですけれども,パブコメの結果もそのような意見が多かったわけです。   しかしながら,今回のパブコメの整理を見る限りにおいても,一番極端な一番広い場面を想定して批判をすることによって,その案を否定する,採るべきではないとしている。これは,ここに限った議論ではないし,弁護士会も,そういう発想で相手の意見を批判することが多々あるのかと思いますけれども,提案されている内容の一番極論の場面を想定し,それを不適合だといって批判し,否定するという,仮にそういう議論で否定されるとするならば非常に残念だなと思います。この意思表示に関する規定の拡充,不実表示について私の素直な理解は,部会と同じことを言っても意味はないのかもしれませんけれども,少なくとも相手方が事実と異なる不実の表示をして,表意者がそれを信じて法律行為をしたときに,どうして表意者がそのリスクを取らなければいけないかという基本のところについては,やはり疑問があるのではないか。   そうだとすると,表意者を保護する必要性が一定承認されるなら,要件化の問題はもちろん残り,相手方について過失は要らないのかと,表意者側にも過失がある場合はどうなるのかと,取り分け重過失があったらどうなるのか,若しくは錯誤のような主観的,客観的要件を組み込むのかといった問題はあるにしろ,具体化する前向きな検討は是非していただきたい。パブコメの結果,ある最も不都合な場面を想定して,その提案自体,全て葬り去られることについては,非常に残念だと思っておりますので,今後の審議においても歩み寄れる案をできるだけ検討すべきではないかと,申し上げておきたいと思います。 ○鎌田部会長 大変貴重な御意見をありがとうございました。 ○佐成委員 今,中井委員がおっしゃった二点について,それぞれコメントさせていただきたいと思います。まず,例外的な事例について判断を下した判例を明文化すべきではないというような趣旨のことは我々経団連のほうからもそういった意見を述べておりますが,暴利行為といったものについては全くそういうことは想定しておりません。例えば暴利行為については既に確立した判例法理がありますから,それを明文化するということについては,必ずしも我々は反対しているわけではございません。ただ,この間もかなり申し上げましたが,明文化したいとは思いますが,そうは言いつつも,やはり実務における濫用の懸念というものが,いわれのないクレームとかを年中,相手にしていますとぱっと頭に浮かんでしまうものですから,非常にそこら辺にちゅうちょを覚えるというだけのものなので,暴利行為などを念頭に置いて例外と言っているわけではございません。恐らくここで念頭に置いているのは,例えば事情変更の原則とか,そういったものだと思います。ですから,かなり例外的なものについて明文化するのはどうかなという,そういったような話だと思いますので,それを一般的に批判されても余り意味がないのではないかというのが一つ感想でございます。   それから,二点目でございますけれども,既に部会の審議でも申し上げましたけれども,必ずしも不実表示について特則を設けるということについて,別にそれほど頑なに消極的な主張ばかりをしているというわけでもありません。まずは,メインルールであります動機の錯誤の整備,これについてはパブコメの結果を見ましても,大方,賛成で,やはり,国民一般が動機の錯誤のメインルールはきちっと整備しましょうという方向性を支持しているのだろうと私は感じております。ただ,そこに相当議論があり,甲案,乙案というように議論があって,なかなか,集約できないのに,更にサブルールである不実表示の規定まで設けるというのは,時期尚早ではないかということで部会でも意見を述べたものです。必ずしもそこを全面的に極論を想定して反対するとか,そういうことではございません。ですから,今後もその辺については十分議論していきたいと感じております。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。 ○中井委員 もう一つ,個別論点というよりは全体に関する事柄で。先ほどの取引の安全というところの関係で,パブコメの中で,経済学的な発想というのでしょうか,コストの観点から結構,御指摘いただいています。ある提案について,取引を行う上で支障が生じる,それを解決するとすればコストが掛かりますよ,それでよいのですか,こういう御意見が幾つか散見されます。無効とか取消しとか,例えばですけれども,その範囲が広がれば取引におけるリスクが増えて,それによるコストが増え,それが取引全体のコストアップにつながる。社会経済的に見て,そのコストアップはどう解決するのかというボールが投げ返される。   それに対して,そこで起こった不都合はどう解決されているのかと考えると,当該意思表示をした本人が財産を失うか,変な契約に巻き込まれるかしてコストを負担する。つまり,特定の不幸な契約に巻き込まれた特定の個人が全体コストを負担して取引の安全を守るのか,それとも,取引全体のコストが上がるかもしれないが個々の個人財産の保護を守るのか。そういう一定の対立がある。そのとき,取引のコストのみを強調される考え方については抵抗があります。取引保護のコストを下げるために特定の不幸な契約に巻き込まれた特定人の負担に陥る,こういう解決はバランスが悪いのではないか,是非考えていただきたい。   不実表示についても,それが言えるのではないか。取引においては多少の言い過ぎというんですか,多少の誇張があっても,結局,表意者が全てそのリスク,危険を自ら察知して負担せよというのは,余りに弱肉強食の世界ではないか。これからの在るべき日本の取引契約関係において,それが望ましい形なのかといえば,決してそうではないのではないか。そういう在るべき理想的な契約関係を目指していくのが民法の改正の道筋ではないかと思うのです。 ○佐成委員 これだけを一般論で議論するのは必ずしも適切ではないとは思いますが,一応,経済のコストということを御発言されましたので,一言だけ感想を述べさせていただきます。そもそも一口にコストといっても捉え方がいろいろありまして,経済界一般で言っているのは,社会全体の制度としてのコスト,全体的なコストということで,個々の取引におけるリスクの分配とか,その辺については,きちっと正義を貫くというような姿勢は我々は常に持っております。社会全体のコストと比較して,過度に重いシステムを作って本当にいいのかといった視点で考えておりますので,必ずしも一個人に全てのリスクを負担させるとか,損失を負担させるという,そういうようなことを主張しているとは我々としては認識しておりません。少し誤解があるのかなというところを感じた次第でございます。 ○高須幹事 すみません,お二人の後に私が話すのは申し訳ないんですが,今も御指摘があったように取引のコストみたいなことも考えるとか,経済学的な視点を取り込んだ立法をするとか,一定の限度ではというか,どこかの段階でそういうことが必要だというのが一方ではあると思います。でも,他方ではやはり個別解決というのを法は最終的に図るわけですから,それだけで押し切るようなことがあると,多分,多くの方の共感は得られない法になってしまうと思います。   大事なことは,バランスをいかに取るかというところであって,バランスを取るのがものすごく難しい作業だということを実感しながら,我々は,この1年半なり,2年なり,やってきたのだろうと思うんですが,今の中井委員の御発言も佐成委員の御発言もそこをよく踏まえて,結局,バランスのいい法律を作っていきましょうという御趣旨のようでございますので,そこに大きな違いはない。今日のところは,パブリックコメントの中にそれぞれの意見があるということを我々はよく踏まえて,バランスのいい落ち着きどころはどこなのかというところを探すことが求められているんだろうと,そのための貴重な材料を今回頂いたと理解すべきではないかと思っております。本当に難しい作業だけれども,やはり,やっていかねばならないのだろうと思っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○岡田委員 前の戻ることになりますが,複数の法律行為の無効のところで,複数当事者のことに関しても入れるべきだという意見が結構あるような気がしますので,この部会での審議と少し異なるかと思います是非,検討していただいたらどうかと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 民法にどの程度,細かい規定を置くべきかという論点があります。今回の資料を拝見しますと,例えば表見代理の規定の重畳適用のところですとか,あるいは無権代理と相続といった点について,判例の明文化は望ましいという御意見と,むしろ,そんな細かいところまで規定すべきではないという御意見と両方出ておりまして,非常に有益だと思っております。これは恐らく抽象的に議論しても余り進まないので,個別論点ごとにどういう考慮をしながらバランスを取っていくかということだと思うんですけれども,もし,ほかの論点においても,このようにどの程度,細かい規定を置くべきかについて意見の分布があるものがありましたら,今日以外のところも含めて,それを御指摘いただけますと,横断的に見ることによって全体としてのバランスが見えてくるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 今,直ちに答える必要はないですね,この場で。答える準備が特別にあればですけれども。今すぐは難しいですか。 ○筒井幹事 御指摘をありがとうございます。中田委員から御指摘があったような論点が次に出てくるときに,何か準備ができそうであれば,御報告したいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   それでは,次に部会資料33-5の「第35 期間の計算」と「第36 消滅時効」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明をしてもらいます。 ○亀井関係官 「第35 期間の計算」について御説明いたします。部会資料33-5の該当ページは347ページ以下です。   「1 総論(民法に規定することの当否)」については,引き続き民法に規定すべきとの御意見が寄せられております。   351ページですけれども,「2 過去に遡る方向での期間の計算方法」については,分かりやすい民法とする観点から賛成する意見が寄せられる一方で,新たに規定を設ける必要はないとの意見や必要性などを慎重に検討すべきとの意見も寄せられました。また,規定を置く場合には,民法だけでなく他法令における期間制限への影響も考慮して,検討すべきとの意見も寄せられております。   355ページ以降の「3 期間の末日に関する規定の見直し」については,日曜,祝日以外に休む業種があることなどから,期間の末日が日曜,祝日でない場合にも,取引慣行に応じて同条の規律が及ぶべきとの意見が寄せられる一方で,見直しの必要はないとの意見も寄せられております。   次に,「第36 消滅時効」について御説明します。消滅時効については,前回の会議で御審議いただいた時効障害事由までの部分について御説明いたしたいと思います。部会資料33-5の該当ページは357ページ以下です。   まず,360ページで取り上げている原則的な時効期間についてに関しては,様々な意見が寄せられました。まず,時効期間を短縮すべきとの御意見を御紹介いたします。   361ページに記載されている意見,一つ目ですけれども,適切な権利行使を開始するのに5年以上の期間を置く必要はないことや,債務者にとって防御のための証拠や事実経過の記録を5年以上の長期にわたり残しておくことは負担が重いことなどを理由として,債権者にとって権利行使が具体的に可能となる時期を起算点として5年に短縮すべきとの意見が寄せられています。また,その下の意見ですけれども,取引や通信のスピードが速まった時代においては,取引から生じる権利を早期に確定する必要があることを指摘する意見も寄せられました。また,363ページの上から三つ目の意見ですけれども,短期消滅時効制度を撤廃すると,これまで短期消滅時効制度の対象とされていた債権の時効期間が大幅に伸長され,取引実務に大きな混乱が生じることが予想されること,短縮することに合理性があることを指摘しつつ,時効期間を短縮することによる被害も大きいことから,時効期間の短縮には慎重な検討を要するとの意見も寄せられております。また,364ページの下から二つ目の意見ですけれども,3年程度に短期化されると早急に時効の中断をしなければならなくなり,実務に与える影響が大きいが,5年程度であれば大きな影響はないとの意見も寄せられております。   これらに対し,原則的な時効期間を現行どおり10年とすべきとの意見も寄せられております。例えば369ページの上から二つ目の丸の御意見ですけれども,債権一般について早期に権利関係を確定する必要性がないことや,短期消滅時効制度の廃止に伴い,これまで短期消滅時効の適用を受けていた債権の時効期間が長期化することについては,新たな短期消滅時効を設けることで対応すべきであることを理由に,現行の10年を維持すべきとの意見が寄せられています。また,370ページの下から二つ目の意見ですけれども,10年の時効期間満了間際に債権者から相談を受けることはまれではなく,一般市民に対する司法アクセスが十分とは言えない現状で,原則的な時効期間を短縮することは,市民から権利行使の機会を奪うことに直結する可能性があることから,現行の10年の時効期間が適当であるとの意見があります。ほかにも現在の原則的な時効期間で特段の不都合は生じていないことや,時効期間を短縮化すると,債権管理が複雑になることなどを理由として,時効期間を短縮化することに反対の意見が寄せられております。   次に,376ページの短期消滅時効制度についてに関して寄せられた御意見を紹介したいと思います。現行の短期消滅時効制度については,時効期間の違いに合理性があるか疑わしいことや,それぞれの規定の適用範囲が明確でなく,予見可能性が損なわれていることを指摘して,現在の短期消滅時効制度を見直すべきとの意見が寄せられております。これに対し,短期消滅時効の見直しに反対する意見は,388ページの一番最後の丸の廃止はしないでほしいという御意見ですけれども,この1件です。また,その理由は述べられておりません。   次に,現在は短期消滅時効の対象とされている一定の債権など,比較的,短期の時効期間を定めるのが適当であると考えられる債権の取扱いについては,様々な御意見が寄せられております。まず,現在,短期消滅時効の対象となっている債権の時効期間については次のような意見が寄せられております。少し戻りますが,380ページの上から三つ目の丸ですけれども,電気料金の領収書を例に挙げ,債務者が弁済の証拠をいつまで確保しておく必要があるかという観点から考えると,これまで短期消滅時効の対象とされてきた債権について,一律に原則的な時効期間を適用して,時効期間を長期化することは不都合であるとの意見が寄せられております。また,380ページから381ページにかけての御意見には,レンタルCDの延滞料に関する債権など,現行の短期消滅時効の期間の適用がある債権には,実務に強く定着しているものがあり,このような債権に対する影響も考慮して時効期間を検討すべきとの意見が寄せられております。また,387ページから388ページにかけての御意見ですけれども,小売業者の消費者に対する債権は,現在,2年の短期消滅時効に掛かるとされておりますけれども,現行の時効期間を前提にシステムを構築していることから,時効期間が変更されると事務コスト等が生じるため,変更しないことを希望するとの御意見が寄せられております。   次に,こうした問題への対応に関する御意見として,現在の原則的な時効期間に統一することで特に問題はないとの意見が寄せられる一方で,原則的な時効期間を短期化することによって対応すべきであるとの意見も寄せられております。元本が一定額に満たない少額の債券を対象として,短期消滅時効期間を設けるとの考え方に対しては,378ページの上から一つ目の丸の御意見ですけれども,少額の債権であれば一律に短期消滅時効制度に服すべき合理的な理由はないことや,現行制度でも大きな支障は生じていないことなどを理由に反対する意見が寄せられております。この点については382ページにも,例えば一部弁済によって債権額が一定額を下回ることになった場合に,時効期間が変更されるとすると複雑な制度になることや,同一の継続的契約から生じる債権であっても,債権額に応じて時効期間が異なるのは実務上,混乱が生じることなどの理由を挙げ,反対する意見が寄せられています。   これに対しては,債務者が弁済の記録を保存しておく負担を考慮し,一定の少額債券についての短期の時効を新たに設けるべきとの意見も寄せられております。例えば385ページの上から一つ目の丸ですけれども,少額の債券は社会生活上,弁済の証拠を受領しなかったり,長期間,保存しなかったりすることが通常であることから,短期の時効期間とする必要があるとの意見が寄せられております。このほか,短期消滅時効制度が消費者保護の機能を有していることから,消費者に対する債権については,短期の時効を設けることを検討すべきとの意見も寄せられております。   次に,392ページの不法行為等による損害賠償請求権に関して寄せられた御意見を御紹介いたします。まず,債権一般の消滅時効に関する見直しを踏まえ,不法行為による損害賠償請求権の期間制限に関して,現在のような特則を廃止することの当否に関する御意見として,例えば393ページの最初の丸ですけれども,通常の債権に関する消滅時効と区別して考える必要性は乏しいことや,不法行為に関してのみ短期の消滅時効期間を合理的に根拠付けることが困難であること,債権一般について主観的起算点からの時効期間と客観的起算点からの時効期間とを設けるのであれば,不法行為等による損害賠償請求権についても当該規定に従うこととすればよいことなどの理由を挙げて,不法行為についての特則を廃止する方向で検討すべきとの意見が寄せられております。   これに対し,396ページには不法行為による損害賠償請求権は,長期間の経過後に初めて損害や加害者を知る場合があること,損害の公平な分配や被害者保護の要請があること,時の経過による証拠の散逸による立証の困難性が類型的に大きいことなどの特殊性があるとして,特則を廃止することに廃止することに反対する意見も寄せられております。   他方,生命・身体等の侵害による損害賠償請求権について,時効期間を長期とする特則を置くことに関しても様々な御意見を頂きました。例えば生命及び身体の侵害に対する損害賠償請求権については,被害者を保護する必要性が高いことから特則が必要だが,名誉侵害などの人格的利益に対する侵害については,その必要性に疑問があることとの御意見が寄せられております。また,399ページの一つ目の丸ですけれども,被害者保護や被害感情の沈静化への配慮から,生命・身体の侵害による損害賠償請求権については長期の特則が必要であるけれども,対象をいたずらに拡大させることは好ましくなく,対象となる被侵害法益や主観的な要件で限定する必要があるとの御意見が寄せられております。   他方で,特則を置くことに反対の意見も寄せられております。少しページが戻りまして,396ページから397ページにかけての御意見ですけれども,加害者及び損害等が明白な事項や軽微な損害の事案など,生命・身体等の侵害の中には長期の消滅時効に掛かることが適当とは言えないものがあること,加害者と目された者の反証の困難性にも配慮する必要があることなどの理由から,特則を設けることに反対であるとしています。このほか,生命・身体等の人格的利益という基準は,権利の消滅を規定する要件として曖昧であることなどを指摘して,特則を設けることに反対の御意見も寄せられております。   時効の起算点に関する御意見を御紹介したいと思います。時効の起算点については,主観的起算点と客観的起算点とを組み合わせたものとすることに対して,賛成の御意見と反対の御意見が寄せられております。賛成の御意見としては411ページですけれども,一つ目の丸ですが,債権者にとっての現実的な権利行使の可能性という観点から,主観的起算点と客観的起算点とに分けて時効期間を規定することの合理性を指摘する御意見,二つ目の丸ですが,国際的な傾向に沿っていることを指摘する御意見などが寄せられております。これに対して反対する御意見としては,主観的事情を考慮すると時効の起算点が不明確になることなどを指摘する御意見が寄せられました。   また,預金債権等について起算点の特則を置くという考え方については,413ページから414ページにかけてですけれども,国民一般の感覚からは預金が時効で消えてしまうこと自体が納得しづらいことから,預金債権について例外的な取扱いをすべきとの意見が寄せられております。また,424ページの一つ目の丸ですけれども,判例や金融実務を踏まえて預金債権に関する時効の起算点を明確化すべきとの意見や,その下の二つ目の丸の御意見ですけれども,少額の預金口座の管理のために金融機関が多大な事務負担やコストを掛けていることから,預金口座の最後の入出金がされたときを時効期間の起算点とすることを検討すべきとの意見が寄せられております。これに対しては,預金債権の起算点について特別に考えなければならない理由があるか疑問であるとする御意見,預金債権のみをほかの寄託契約と異なる取扱いをする合理的な理由がないとする御意見など,反対の御意見も寄せられております。   次に,434ページで取り上げている時効の中断事由に関しては,分かりやすさの観点から新たな時効が確定的に進行することとなる事由を条文上明記することに賛成する御意見が寄せられております。これに対しては441ページですけれども,下から一つ目の丸,最後の丸ですが,現行法で定着している制度を変更することで混乱が生じるという反対意見もあることを紹介する意見が寄せられております。   最後に,442ページのその他の中断事由の取扱いにつきましては,時効期間の進行の停止とすることを支持する御意見として,実態に即しており,市民感覚にも合致することを挙げる意見などがありました。他方で,現行の停止事由と同様に取り扱うことを支持する御意見として,事由がやんだ時点での残期間を把握することが困難なことや,複数回,事由が発生する場合には時効管理が複雑化し,分かりづらくなることを挙げる意見などがありました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明のありました範囲の全般につきまして御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○高須幹事 多少,手前みその指摘でございますが,464ページの債権の一部について訴えの提起等があった場合の取扱い,御指摘のところでは最後の部分でございますが,以前に一部執行についても議論の対象にしていただきたいという発言を私がさせていただいて,ペーパーも出させていただいたところでございますが,今回のパブコメを見ますと,全部が全部,指摘いただいているわけではないのですが,債権の一部について訴訟がなされた場合に時効障害を認めるべきだという意見を頂いているパブコメの中では,執行についても同様と考えるべきだという意見が比較的多かったようでございます。パブコメの中にも,そういうことも検討すべきだという意見があるということを指摘させていただきまして,引き続き御検討いただければ有り難いということでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○沖野幹事 今の該当の部分ではないのですけれども,むしろ,全体についてということで,二点,申し上げたいことがあります。先ほどの中田委員の御指摘に触発されてなんですけれども,民法にどの程度の詳しさのルールを置くべきかはいろいろなところで問題となります。例えば消費者関係の規律でもその内容とともに民法に置くのがふさわしいかといった詳細さの度合いの点からも,問題になるようなことがほかにも出てくるということがあります。パブリックコメントの結果の紹介を頂くときに,特にこういうところで意見が出ているという点を注意喚起の意味で御指摘いただくということは,とても重要なことだと思います。他方で,個々の問題のところで心にとめているだけでいいのかというのも気になります。そういたしましたときに,例えば,内容はともかく,民法にここまでのことを置くべきなのか,置くべきでないのかというような観点といいますか,そういったことが問題となった項目一覧のような形で,やがてでいいと思うのですけれども,そのような観点からの検証が必要ではないだろうかと考えました。   そのことは,それぞれ項目ごとに,問題ごとに検討していった後に,あるいは中間的な段階において,別の観点からの横断的な考察というものが必要になってくるのではないかということでして,そのようなものとして,もう一つ,申し上げたいと思います。今回,総論のところで東日本大震災の問題が取り上げられており,これに対して,この部会での検討をどうしていくかについては,冒頭におまとめになられたような形で,筒井幹事が一般的な話として一定の考え方を示されたところでもありますし,これによって中断する必要はないという部会長のおまとめに異論もありません。東日本大震災に関しての問題は,復興に大きな人力,時間が取られることによって,どうしても債権関係の改正の検討のために割くところが不十分になるという問題と,そのこととともに,新たな問題がこれによって提起されてくるところがあって,それを十分に考慮しないで一般法を作ってしまって大丈夫かという,二つの問題が提起されていると思います。   震災による問題には既に阪神・淡路大震災で出た問題もあると思いますが,今回,新しい問題というのも出てきていると思われますし,また,より明確に浮かび上がってきた問題というのもありまして,パブリックコメントの中で民法の規律の在り方に関し具体的な例示もされています。これらについては,取り分け弁護士の先生方や関係者の皆さんが正に実践でやっておられることですし,研究者の中でも例えば雑誌の特集なども組まれたりして,いろいろ問題関心も出てきているところです。そうだとしますと,個別に既にそういうことは考慮している面があるという例を筒井幹事が言ってくださったところなのですけれども,やはり漏れがないかとか,横断的に震災との関係で新たに出てきたような問題に十分対応ができているか,あるいはその点は必ずしもこの中では入れなくてもいい問題として考えていいのかというような,その検証自体も一種横断的な形でやる必要があるのではないかと思います。そのために部会の審議を止めるよりはむしろ継続して,そういうことに注意を払いながら,そして,その観点からの例えばヒアリングですとか,その観点からの検証の回を設けるとか,そういうような配慮が必要ではないかと思ったところです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○中井委員 時効に戻るのですが,このパブコメの整理したものを拝見して,例えば時効の起算点と期間について,様々な意見が出ていることが理解できました。前回の部会では必ずしも意見が一致したわけではなくて,相当,方向性の違う議論になって終わっているわけです。当初,第二読会が始まるときにもどうなるんだろうかと思っていたことですけれども,来年9月まで一通り,各論点についてこういう形で審議を進めること,それ自体に私も異論がありません。時間が足りないから,たくさん期日が入るのかなと少し恐れていますけれども,それはさておき,来年9月を目指して中間試案のたたき台の作成に掛かる。とはいえ,これだけ議論の分かれているままで,審議が終わって,来年9月までは改めて消滅時効に関する基本的な議論がなされない。この状況でたたき台をどのような形でおまとめになるのか,また,まとめられるのか。そのあたりについて不安があります。   私のつたない発言に対して,潮見幹事や内田委員から貴重なそして厳しい指摘を受けたわけですけれども,弁護士会で意見が本当にまとまるかどうか,全く分からないんですけれども,山野目幹事から御指摘を受けたこともあり,文書に落として提案の準備をしようとは思っています。そういう形で幾つかの具体的提案を踏まえて,結局は来年9月,事務当局でおまとめいただくことになるのだろうと思うのですが,本当にそれでいいのかという素朴な心配,懸念がございます。それは進め方に関わるんですけれども,こうしたほうがいいのではないかという,意見をお聴かせいただければ有り難いし,事務局としてもどのように考えているのかお聞かせいただきたい。   それに関連して,不法行為等による損害賠償請求権について,権威のある民法学者からパブコメ意見が出ている。ここでも,主観的起算点と客観的起算点を不法行為の中に残しながら,他方で,契約に基づく債権の消滅時効についてどうするのか根本の整合について,議論が散漫なままです。来年9月,どうなるんだという背景事情の一つでもあります。 ○筒井幹事 この部会における審議の進め方に関して,沖野幹事と中井委員から御発言を頂きました。ありがとうございます。   沖野幹事からは,横断的なテーマとして二つ例を挙げていただいたわけですけれども,そういった観点からの検討の機会は,是非実現する方向で考えていきたいと思います。どのような時期にどのような時間配分でといった細目は,また別途考えてみたいと思いますが,第1ステージにおいても各論点の一巡目の審議の最後には,全体を見渡すような論点について議論する機会を持ちましたので,第2ステージにおきましても御指摘があったような広い視点からの検討の機会を持つことについて,考えてみたいと思います。更に具体的な提案がありましたら,いずれまた事務当局にお伝えいただければと思います。   それから,中井委員から,取り分け意見が分かれている論点,議論がまだ十分に詰められていない論点についての,今後の見通しについてのお尋ねを頂きました。その点については,私が何か具体的な見通しを持っているわけではないので,ここで私が説明するというよりは,是非,様々な提案を今後もお出しいただきたいと思っております。ただ,中間試案のたたき台を事務当局からお示しするところに向けての審議の進め方の一つの工夫として,第2ステージにおける一巡目の審議を終えた段階で,すぐに中間試案のたたき台を示すのが適当なのか,あるいはその一巡目の審議を終えた段階で意見が大きく分かれている重要な論点について,更に詰めた議論をする機会を間に挟んだ上で,中間試案のたたき台の議論に入るのかといった進行上の工夫については,第2ステージの議論を始める当初にも触れたことではありますが,第2ステージの今後の議論の進み具合を見ながら,また改めて考えていきたいと思っております。   先ほどの中井委員の御発言は,そういった二巡目の議論といいますか,中間試案のたたき台の審議に入る前にもう少し相互理解を深める議論が必要ではないかという方向を御示唆いただいたのだと,私は受け止めました。そういった審議の進め方の工夫について,私どもにおいても更に考えていきたいと思いますし,また,様々なアイデアをお伝えいただきたいと考えております。 ○高須幹事 今の御発言ですが,二巡目の議論といいますか,そういう形がもしできるのであれば,やはり私もしていただいたほうがいいのかなと。現在までの理解でも,どうしてもまだ意見が必ずしも方向性が見出せないものも多々あるやに思いますので,これでいきなり中間試案の取りまとめのための議論ということになると,少しプロセスを省いてしまうようなイメージを受けるものですから,是非ともそういう議論の場を設けていただいて,もう一度,議論することの機会を与えていただければと思います。 ○山野目幹事 ただいま,話題になっておりますこと,取り分け筒井幹事から御示唆がありましたように,今,進めている論点を順次,検討した後の中間試案に向かう間に,何らかの検討の機会を設けるという御提案の御示唆は,現在の議論の状況から見て,適切な時宜を得たヒントを頂いたと感じますとともに,私の感ずるところでは,取り上げている論点の全てについて,それをする必要はないであろうと感ずる部分もございます。現在のここまでの調査審議で見てきた論点の中にも,確定的に完璧に詰められたかというと,そうではないかもしれませんけれども,委員,幹事,事務当局が若干の努力をすれば,中間試案のところまで届くというふうな方向性が見えてきているものも少なくはありません。  反面において,到底,このままでは中間試案に届かないだろうということがかなり明瞭な論点もございます。事務当局におかれましては,そのような言わば中間試案に向かうまでの間のところの中2階的な全体審議を必要とする事項で,分科会に委ねるような技術的事項とも言い難いようなものを幾つか絞って整理していただくという作業を今後,並行してお心配りを頂ければ有り難いと感じます。議事の進め方について,そのような総論的意見を持ちますと同時に,中井委員がおっしゃった時効の問題は,今,申し上げたような中2階的な検討をしなければならない問題の典型であると感じますから,そのことも申し上げさせていただこうと考えます。  パブリックコメントの結果を拝見いたしまして,非常に特徴的なこととして痛感したことですが,短期消滅時効制度を廃止するということに関しては,若干,ニュアンスを異にする意見もございましたけれども,これだけいろいろ意見が分かれる論点が多い中で,寄せてくださった圧倒的多数の意見が短期消滅時効制度をこのままにしておくことは相当でないという,意見のほぼ一致に近い分布が見受けられます。半面において短期消滅時効を廃止した後,どうするかということについては様々な見解の分岐があり,それが消滅時効改革の全体的なグラウンドデザインの帰趨に影響する部分があると感じます。いずれにしても,このパブリックコメントの意見分布を接したことによっても更に,消滅時効改革が避けて通ることができない論点になったということが明瞭になったと感ずるものでございますから,先ほど中井委員が強調されたのと同じような意味で,複層的な検討の機会を工夫していただくようにお願いするという希望を申し述べさせていただきます。 ○内田委員 時効の点について,今の山野目幹事の御指摘に私も非常に共感するところがございますので,一言,申し上げたいと思います。率直に言って,今,部会の時効の議論はかなり拡散した状態にあると思います,ですから,直ちにそれで何か方向性を出すということはできない状態にあると思います。そして,パブコメで出てきた様々な意見,特に実務的な要請から出てきている意見は,やはり,全てそれに応え得る制度を作る努力をしなければいけないと思います。他方で,時効制度というのは原則の期間は何年がいいですかとか,あるいは交渉することが停止事由になるのがいいですかとか,一つ一つを取り出して,個別に議論すれば済むという話ではなくて,全体が一貫して整合的なまとまりを成した一つの制度なのだと思います。   そうすると,これからの来年9月以降に向けての事務当局内部の検討は,この部会で出てきた様々な意見を取り上げて,それを仮に制度化するとしたときに,全体が整合的に作り上げられるか,そして,それがパブコメで出てきた実務的な様々な要請とか,意見に対応できるものとして作り上げられるかどうかという,そういう時効の完成品モデルを幾つか精緻に作っていく,原案的なものとして作っていくという作業になるのだろうと思います。ですから,原則期間は何年が私はいいと思う,というだけでは済まないわけで,それに立った上で様々な要請に応えられる制度を精緻に全体として作れるか。それを試みる必要があるわけです。これはなかなか大変な作業ですので,是非,様々な御意見をお出しくださった委員,幹事の皆様は,今,中井委員からは文書に落として意見を出そうと思うと言っていただきましたけれども,そういう御意見を是非出していただいて,幾つかのモデルを作る助けになるような御助力を頂ければと思います。 ○岡委員 時効のところですが,どこかのコメントにもありましたけれども,政策的問題であって,議論して一致できるものではないように感じました。   三つ申し上げたいと思いますが,369ページの上から三つ目の丸,弁護士の意見ですが,これらの5行目,6行目あたりのところで,そもそも時効は非権利者だった者に権利を与える制度ではなく,真の権利者の権利を保護し,弁済した者の免責を確保するための制度である,したがって,短縮化自体が不当である。これが一つ法感情として根強くある意見だろうと思います。これがあることは否定できない話です。ただ片や,361ページの短期化に賛成の意見でまとめられているほうの負担を軽くしてあげるべき類型もある。これもあり得る意見でございますので,それをどう調整するかという大きな価値判断の問題ですので,この法制審議会でどんなふうに議論していったらいいのか大変だなと改めて感じました。  こういう価値判断が一つ,二つ,三つあって,この三つをうまくミックスさせるのが大事なんだというあたりを整理して,最後は国会なり,国民の意見を聴くべきことになるのだろうと思います。議論して一致できる話ではない,拡散をしているようだけれども,あり得る価値判断をできるだけ分かりやすい言葉でくくって,それで,皆さんに意見を聴くと,こういうのが方向かなと感じたのが一つでございます。   二つ目に,時効期間の原則的な数字のところの意見について,ざっと読む限り,3年,4年というのを支持する意見はないのかなと感じました。立法意見でも,3,4,5という選択肢を挙げられていましたけれども,読む限り,5年というのが圧倒的多数でパブコメでもそうでしたし,ここの会議でもそのような方向があったと思います。審議もここまできましたので,3,4,5という従来の選択肢は,5年に絞り込んで前に進むのはいかがでしょうか。やはり,パブコメを踏まえて徐々に進路を狭めていくようなことを,せっかくこれだけ頂いたわけですから,すべきではないかというのを一つ感じました。   最後に,主観的起算点のところについても411ページ以降を読みますと,詳細には読んでいませんけれども,ざっと読む限り,賛成意見というのは412ページの真ん中あたりまでで,それ以外は主観的起算点については反対意見が圧倒的に多いようです。数で決めるわけではないのでしょうし,未知のものに対する恐怖だけということもあるのかもしれませんが,少なくともパブコメの現時点の大勢は,主観的起算点の創設に消極です。これを踏まえて,先ほど内田先生のおっしゃった幾つかのモデルを作るのでしょうけれども,モデルを作るときの優先順位としては,主観的起算点を採用しないほうを優先順位に挙げるのがパブコメを踏まえた対応と思います。もちろんここの部会でもう一回,議論するんでしょうけれども,私の感触としては,このパブコメを踏まえると主観的起算点の導入というのは,優先順位を今までよりは下げるべきではないかと感じました。 ○内田委員 ただいまの岡委員の御発言に関してですが,時効の存在理由について根本的な対立があるというのは,そのとおりだと思います。私の先生の星野英一先生は時効は不道徳な制度であるという主張をされた先生ですので,私はそういう教育を受けましたし,ですから,弁護士会の御意見も私には非常によく理解できます。   しかし,我々は白紙から制度を作っているわけではないので,民法の短期消滅時効制度を含め,実は特別法に短期の時効は一杯あるわけですね。そういう実定法体系のもとで,既に1世紀以上,経験を積んできている実績を持っているわけです。その上で改正をしようというわけですから,理念先行で学理的にそもそも時効の存在理由はこう在るべきだからというので,白地に絵を描くような制度設計をするわけにはいかないだろうと思います。やはり,これまで実際に短期の時効の下で運用されてきた実務というのはたくさんある,そして,それを変えるなという意見も出てきているわけですので,それを踏まえた上で,そういう様々な要請に応えられる全体としてのモデルが,幾つ作れるか分かりませんが,幾つか作って,それぞれの相互の優劣を議論するという,そういう検討をしていく必要があるのではないかと思います。これが存在理由についての点です。   それから,3年,4年についての支持がないという御意見でしたけれども,事実としてはそうだと思いますが,今,申しましたように特別法の短期の時効はかなり短いものがたくさんあります。もちろん,民法の改正だから特別法は別に変わるわけではないと言えるかもしれませんし,あるいはもしかしたら,民法の原則が変わると整備法で影響を受けることがあるのかもしれない。様々な影響も考えながら,民法の原則がどう在るべきかという議論をすることはやはり必要だろうと思います。これは別に比較法的な趨勢がどうこうという話ではなくて,日本の実定法の内在的な問題として,全体としてどういう原則がいいかという検討は必要だろうと思います。   最後に,主観的な起算点について,これもパブコメの大勢が支持していないので,方向性を決めてはどうかということなのですが,逆に比較法的には主観的な起算点が大きなすう勢になっている。なぜ,そうなのか。我々はそれをきちんと理解した上で議論しているのだろうかということは,やはり十分,考える必要があるだろうと思います。基礎的なことについての十分な理解,深い理解を経ずに,何となく今までこれでやっていたのだからいいのではないかということで方向を決めて,将来,また改正しなければいけないような事態が起きないように,飽くまで,将来的にも我々はこれでいく,なぜなら,理由はこうだからだということを対外的にも示せるような,そういう制度設計をすべきだろうと思います。そこの検討はまだなおする余地はあるのかなという気がいたします。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○高須幹事 やや時期が後れましたが,先ほど横断的な検討が必要ではないかという沖野幹事からの御指摘があって,私もそういう観点もやはり必要だなと思っているわけなんですが,そのひとつの問題として,立証責任という問題をどこまで今回の民法の改正の中で考えるのかを検討すべきと思っています。現在の議論の中には,民法にはそういうものは一切取り込まないで,立証責任は訴訟法で解釈するというか,考え方によって対処すればいいんだという一番極端な意見があり,他方では,飽くまで法律に書かれるはずだから法律の規定によるべきだ,民法典に全て盛り込むべきだという,また,極端な意見があって,その間ぐらいで揺れ動いているというのが現在の考えというか,実務的な運用でございましょうから,当然,民法を改正するという場合には,そのあたりについて,今回の改正の中でどういう方針を示すのかということも大事だと思いますので,これも実はすごく大変な作業だとは思うんですが,可能な範囲で,そういう改まった検討をやはりできたらいいなと思っております。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○岡委員 先ほどの内田先生のお話をちょっと考えていたんですが,普通の人間の感情として主観的起算点に対する違和感というか,忌避感というのは権利を行使しなかったから消えるという価値判断に対する違和感だろうと思います。商売だとか,そういうものであれば,消えてもやむを得ないという感覚があるのでしょうけれども,損害賠償請求権とか,過払請求権だとか,一般の権利について権利を一定期間,行使しないから消える,行使できる主観的な事情があるんだから行使すべきだ,そういう論理に対する違和感が,普通の人には結構多いのではないかという気がいたします。このコメントを読んでおりましても,権利行使ができるのに一定期間しなかったら権利が消滅するという論理が納得性を持つのは特定の債権であって,広く,それを言われると,かなり違和感をみんなが感じているということではないかと思いました。   比較法で言われるときに,もう少し,先生がおっしゃるように誤解はしてはいけないと思いますので,違和感みたいなものを解きほぐす何か理念的な説明があれば,また,変わってくるのかなと思いました。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○中井委員 時効に関連して,パブコメを読ませていただいて,なるほど,こういう観点について私自身余り意識していなかったなと思う二点,御紹介だけ。皆さんは十分認識して御発言だったのかもしれません。一点目は403ページで,724条との関係で国賠法上の損害賠償請求権との関係で留意をしておくべきだという御指摘で,大変参考になりました。   もう一点は合意による時効期間等の変更の部分で,427ページの上のほうでお二人からありますけれども,この合意の問題というのは当事者間同士の問題にとどまらない。ここでは債権譲渡の話,保証の話,右側では代位請求権者との関係,429ページのほうでも債権譲渡との関係,当事者間の合意の問題にとどまらず,当事者以外のところにも影響するという御指摘です。これは部会審議のときにも,それほど御発言はなかったように思いましたので,パブコメで大変貴重な御示唆を頂けているのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   今回のパブリックコメントは,中間的論点整理についてのパブリックコメントですから,一番直接に関連するのは先ほど来の議論の中でいえば,こんな細かいことまで取り上げる必要はないというふうな形での意見が,一番直接求めに応えたコメントになってくるのかと思います。その点では,こういう論点は取り上げる必要はないというのが圧倒的多数を占めたような項目はないということを前提にして,御報告を頂いたと思いますけれども,そういう認識でよろしいですね。 ○筒井幹事 そのとおりです。 ○鎌田部会長 その上で,先ほど来,沖野幹事や中田委員から御指摘がありましたように,もう一度,こういう細かい論点にまで民法で規定をする必要があるのかということを横断的に,また,パブコメの結果も踏まえて整理する機会は設けたほうがいいだろうと考えますので,その点について事務当局でまた整理をしていただければと思います。   内田委員から御指摘がありましたように,今回,項目は,言わば一つ一つの制度を輪切りにして,考え方を並べていますけれども,時効でいえば一つの時効制度として縦に貫くとどういう姿になるのか,これを考慮に入れないと制度設計できないので,それらを整理して次の段階での議論をすべきである。これは時効に限らず,同じような考慮をしなければいけない論点があって,そのうちの幾つかについては,既に分科会にも検討の基礎となるような考え方の整理をお願いした部分はあると思いますので,単純に次のラウンドまで検討が必ずしも完全なお休みになるわけではありませんけれども,分科会での御議論,そして部会での御議論,更に部会での一定の議論を経た上で,もう一度,補充的な議論が必要なものについてはそれをしていくという形で,議論を進めていくべきであるという御意見を頂戴したところでありますので,そういった考え方に従って,できるだけ,当初,考えたスケジュールを前提にしつつ,うまく全体の議論のスケジュールを組み立てていきたいと考えているところでございます。   ほかに進め方も含めてで結構でございますけれども,御意見がありましたらお出しいただければと思います。 ○山本(敬)幹事 今後のことも含めての質問に当たることを述べさせていただければと思います。  先ほどから,個々の項目について,必ずしも部会で立ち入った議論が行われていないけれども,パブリックコメントで示唆されていた問題が幾つか出ていました。例えば,状況の濫用や脱法行為等,幾つもあったように思いますが,こういったものについて,今後,どのような形で検討を進めるのかということが,一つの問題です。  もう一つの問題は,今日はこのような形でパブリックコメントとして,どのような意見が出たかということが分かる形で,それについて検討するということができましたが,今後に関しては,事務局の説明によりますと,今後の部会資料を作成する中で,その中にパブコメの意見も織り込んで部会資料を作りたいということだったかと思います。   その際に,パブリックコメントでこのような指摘があったということを明示して書かれるのか,書かれないのか。私は,やはりパブリックコメントでこのような意見があったということが分かる形になっているほうが,審議を進める上で,それについてはパブリックコメントの該当部分を見ないといけないということも分かるという意味で,望ましいのではないかと思います。最後は意見になりましたけれども,私からは以上です。 ○筒井幹事 ありがとうございます。そのような御要望にできるだけ沿う方向で考えたいと思います。 ○道垣内幹事 山本幹事がおっしゃった最後の点に関連してですが,パブリックコメントの総論部分にも,いろいろな形で国民の意見をいろいろ聴いて参酌していくべきであるという意見が多数寄せられており,それは全くそのとおりだと思います。そして,そのような意見表明の方法には,例えば大学に所属している学者ですと,自分の大学の紀要とか,あるいはそれ以外の雑誌とか,弁護士さんや企業実務家の方もそうですけれども,そのような媒体に意見を載せることがあり,実際,これまでも御意見をお書きになっていらっしゃる方がいらっしゃるわけです。そのとき,そのような媒体に載せられた意見は,法制審議会という組織体との関係において,パブリックコメントとして出された意見との間に,優劣関係があるのかということなのです。   先ほどの岡委員の御発言にも関係するのですが,パブコメで多数であったというのはどのような意味を持つのか。更には,今,山本幹事がおっしゃったように,この意見はパブコメで寄せられた意見ですと書くことは,この意見は○○という雑誌に載った意見であると書くこととは違うのか。私にはよく分からない点もありますが,個人的には,パブコメも雑誌論文も同等ではないかと思うわけでして,そうなると,パブコメで90%が甲案だから,乙案は切っていいということにはとてもならないと思いますし,資料を作るときにも,特にパブコメにおける意見であるということが何らかの形で重んじられるべきなのかというと,どうもそうはならないような気がします。しかし,それは私の法制審議会という組織体についての理解の不足に起因するものなのかもしれませんので,御意見というか,御説明いただければと思います。 ○筒井幹事 ありがとうございます。パブコメという形で寄せられたものでなくても,今回の民法(債権関係)の改正に関して様々な形で発信されている意見については,我々としてもできる限りアンテナを高くして情報収集をして,そういったものを吸収しながら,これまでにも資料作りに努めてきたつもりであります。   先ほど山本敬三幹事から御指摘がありましたのは,これまで部会で議論されてきたことの整理だけではなくて,パブコメで寄せられた意見を事務当局で新たに付け加えて部会資料の中で紹介する際に,そのことが明示されていれば,これまでの部会の場で直接には出ていない議論を付け加えたことが分かりやすくてよいのではないかという御指摘であったと思います。それを明示する際に,パブコメの該当ページを引用するような形で書くとすると,道垣内幹事がおっしゃったような観点からは,パブコメ以外の文献の意見を紹介するときには,その文献を部会資料で引用するということになるかもしれません。その辺りをどのように折り合いをつけるのかは,部会資料の作成上の技術的な問題になりますので,事務当局にお任せいただきたいと思いますが,ただ今の御議論は,従来,部会で議論されていなかったことを部会資料に付け加える際に,何かノーティスがあるとよいのではないかという御指摘として受け止めて,今後,どのような対応が可能かということを考えていきたいと思っております。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   それでは,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回会議は,11月29日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は法務省地下1階の大会議室になります。次回会議の議題は,前回会議の続きになりますので,消滅時効の効果から始めまして,債権の目的,履行請求権,債務不履行による損害賠償などを取り上げていくことになると思います。また,次回会議用の新たな資料についても事前送付する方向で準備中ですので,それについても次回会議の審議の対象になり得るということだと思います。そのような方向で準備を進めたいと思いますので,よろしくお願いいたします。   それから,分科会の開催に関する連絡事項ですけれども,次は第2分科会の第1回会議が12月6日火曜日に予定されております。次回の部会の際に,正式に,そして正確な情報を御案内しようと思いますけれども,本日の会議の冒頭で鎌田部会長から,時効について,既に審議済みで分科会で審議するということが決まっているものについての御発言でしたけれども,第2分科会で審議していただくという御報告がありました。それについて審議する機会が第2分科会の第1回会議になります。来月12月6日,時間は午後1時から午後6時までを予定させていただこうと思います。よろしくお願いいたします。   また,この分科会の開催の関係については,部会の次回会議で,正式に正確な情報をお伝えいたしますけれども,固定メンバー以外の委員,幹事,関係官でこの分科会への出席を希望される方については,この日の日程を空けておいていただけますようにお願い申し上げます。 ○鎌田部会長 本日の審議はこれをもちまして終了とさせていただきます。   本日も長時間にわたって熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-