法制審議会民法(債権関係)部会           第36回会議 議事録 第1 日 時  平成23年11月29日(火)自 午後1時00分                       至 午後6時25分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第36回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として,部会資料34をお届けしました。また,本日は,積み残し分を審議する関係で,既に配布済みの部会資料31と32を使わせていただきます。以上の資料の内容は,後ほど関係官の亀井,新井から順次,説明いたします。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   本日は,部会資料31の積み残し部分,部会資料32及び部会資料34について御審議いただく予定でございます。具体的な進め方といたしましては,まず,部会資料31の積み残し部分と部会資料32の「第1 履行請求権等」,「2 民法第414条(履行の強制)の取扱い」までについて御審議いただき,適宜,休憩を入れることを予定しています。休憩後,部会資料32の「第1 履行請求権等」の「3 履行請求権の限界」以降と部会資料34について御審議いただきたいと考えておりますので,よろしく御協力のほどをお願いいたします。   まず,部会資料31の「第1 消滅時効」の「3 時効の効果」のうち,「(1)時効の援用等」から「(3)時効の利益の放棄等」までについて御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○亀井関係官 それでは,御説明いたします。   「3 時効の効果」,「(1)時効の援用等」では,消滅時効の効果について消滅時効期間の満了後,援用があったときに債権の消滅という効果が確定的に生ずる旨を条文上,明記する甲案と,消滅時効期間の満了により債務者に履行拒絶権が発生する旨の規定を設ける乙案とを提案しています。   「(2)債務者以外の者に対する効果(援用権者)」では,(1)で甲案を採る場合には保証人や物上保証人など判例上,時効の援用権が認められている者が含まれる旨を明示する規定を設けることを提案しています。他方,(1)で乙案を採る場合には,時効の効果を主張することができる者を原則として債務者とした上で,保証人や物上保証人に対して主たる債務者等が履行拒絶権を行使するか否かを催告するよう,債権者に求める権利を付与する考えの当否について取り上げております。   「(3)時効の利益の放棄等」では,時効期間の満了後に債権の行使に応ずる旨を債権者に対して表示したときは,時効援用権や履行拒絶権を行使することができなくなる旨の規定を設ける甲案と,義務を履行した場合と相手の権利を承認したにとどまる場合とを区別し,前者の場合に時効援用権や履行拒絶権が消滅するものの,後者の場合には消滅しないこととする乙案とを示しております。丙案はこうした時効援用権や履行拒絶権の喪失に関する規定を設けない案です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明のありました部分につきまして御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○筒井幹事 本日御欠席の安永委員から事前に発言メモが提出されていますので,それを読み上げる形で紹介いたします。時効の効果,「(1)時効の援用等」に関する御意見です。   労災職業病のうち,潜伏期間が長い疾病については,原因発生時から20年以上経過しており,形式的には時効期間が満了していると解釈されるケースがあります。この場合,使用者の消滅時効の抗弁に対して,労働者側は,時効援用が権利濫用であるとの再抗弁の主張をし,裁判所がこの再抗弁の成立を肯定したケースもあります。この点,甲案の「援用があったときに債権の消滅という効果が確定的に生ずる」という書き振りでは,「時効援用の意思表示があれば,それが権利濫用か否かを問題とするまでもなく,確定的に時効の効力が生じる」との解釈を招きかねません。そのため,甲案をそのまま採用することには反対いたします。   甲案については,その提案の趣旨に関して,時効援用の意思表示は時効の効果を生じさせるための必要条件であって十分条件ではないことを確認した上で,そうであるのならば,その趣旨を正確に反映させる文言,具体的には「消滅時効満了後,時効の援用がなければ,債権の消滅の効果は生じない」というような文言にするべきであると考えます。 ○鎌田部会長 ほかに「(1)時効の援用等」に関連した御意見は。 ○岡本委員 (1)の消滅時効の効果につきまして,甲案か,乙案かという点では,あえて履行拒絶権と構成する必要もないように思いますので,甲案のほうに賛成したいと考えます。乙案を採った場合には,時効援用後も給付保持力があるということを説明しやすいのではないかということもあるかもしれないんですけれども,援用の撤回ができると考えた上で,援用後に弁済がされたときには原則として援用撤回があったと考えれば,甲案でも説明できないわけではないように思います。   一読のときに,時効の効果を弁済の推定としてはどうかという提案の紹介をさせていただいたんですけれども,この提案につきましては消滅時効の存在理由を弁済の証拠の保存の負担から債務者を解放するという,その点を中心に考えるという考え方,それから,時効の負の側面をなるべく無くしていこうという考え方から出たものでございまして,私自身は十分,あり得る考え方ではないかとも思いますし,それから,ボアソナードの旧民法で採用されていた推定説ですとか,あるいは星野先生の考え方に近い考え方と言えなくもないと思いますので,それほど突飛でもないようには思いますけれども,賛同がないようでしたら固執はいたしません。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○岡田委員 消費者の立場からしますと,(1)は甲案,そうしますと,(2)については当然,保証人,物上保証人なども書き込む。これは是非やっていただきたいと思います。それから,(3)に関しましては丙案ですかね。 ○鹿野幹事 (1)に関しましては,私も甲案に賛成でございます。乙案の履行拒絶権という構成につきましては,確かに,他国に例がないわけではございません。しかし,例えば抗弁権構成を採っているドイツと比較すると,ドイツでは元々債権と物権のいわゆる峻別論が前提として採られているのに対し,日本ではそういう前提を採っていません。その日本において,果たして,このような履行拒絶権構成を採るということが必要であり適切であるのかは疑問でございます。それから,援用後の弁済を正当化できるということが,乙案を採る根拠として語られることがありますけれども,その場合の弁済の有効性につきましては,従来から日本において,援用により実体法上の効果が生ずるという立場の下でも,判例は困難なく認めてきたところですので,弁済の点を理由に乙案に変更しなければならないということにはならないように思われます。   さらに,最初の点とも関係しますが,特に例えば主たる債務が時効消滅したときに,担保権などがどうなるのかという問題があります。これについても,乙案を採りながら特則を設けるというような案も可能性としてはあるのかもしれません。しかし,従来は,物上保証人等は,附従性により担保権が消滅したとして,抵当権の抹消登記手続の請求をするというような形の積極的な主張ができたところが,乙案を採ると,少なくとも理論的にはその点の説明が難しくなるように思われます。従来のやり方に不都合がないとすれば,あえて従来の考え方を否定して乙案を採るということは必要ないし,むしろ,混乱を招くのではないかと考え,甲案を支持したいと思います。 ○山野目幹事 3(1)の論点について意見を述べさせていただきます。  いわゆる履行拒絶権構成というものにつきまして,様々に批判があることは理解いたしますけれども,では反面におきまして,時効が援用されると権利が確定的に消滅するという考え方も,揺るぎのないものとして確立しているものでありましょうか。申し上げるまでもなく,時効は奥行きの深い制度でありまして,その本質をめぐり,長く法律家の間で論争され,その論争が現に続いているものであります。その結着を私たちの世代のみで与えてしまって,果たしてよいものでありましょうか。   思い起こしていただきたいこととして,第12回会議における潮見幹事の御発言があります。どの立場を採ろうが,当事者が時効を援用するならば履行を拒絶することができるものであり,そのことを法文に記し,その法的性質をどのように捉えるかということは,理論の発展に委ねるということをおっしゃいました。私も同感であります。ですから,時効が援用された債権は,履行を請求することができないという,甲案,乙案の両案とは異なる第3の選択肢も視野に入れた論議を喚起してみたいという気持ちを抱くものでございます。 ○鎌田部会長 第3案を提案するということですね。 ○松岡委員 今の山野目幹事の案は面白いと思ってお聴きしました。ただ,先ほど鹿野幹事が御指摘になりましたように,私も従来から保証人,物上保証人の保護については,担保の附従性という議論と関連して独自の援用権を認めることに,かなり意義があったと感じております。そうすると,今,山野目幹事がおっしゃった第3の提案により時効援用によって履行拒絶権が生じるという立場を採れば,今の問題はどうなるのかがわかりません。どうなりますでしょうか。 ○鎌田部会長 履行拒絶権ではなくて履行請求をすることができなくなるということです。 ○松岡委員 履行に対して拒絶権が発生するとおっしゃったのではなかったですか。 ○山野目幹事 部会長が整理なさいましたように,私が甲案,乙案とは異なる考え方として申し上げたものは,時効が援用された債権は,履行を請求することができないというふうな規律の表現を考えていただきたいということを申し上げました。松岡委員が御心配の附従性による担保権の消滅という問題についても,引き続き検討していかなければならないとは考えますけれども,しかしながら,鹿野幹事や松岡委員が想定しておられるような解決が,私が申し上げている第3の選択肢を採用したときに,否定されるものではないという関係にあるということについては申し上げておきたいと考えます。 ○高須幹事 今の引き続きの(1)のところでございますが,弁護士会の意見としては甲案か,乙案かと問われれば,甲案と考えておる弁護士会の単位会が圧倒的に多いという状況でございます。これはやはり従来の甲案とは異なる履行拒絶権構成というものに対しては,現在の実務,判例等との兼ね合いで違和感を覚えておると,こういうことだと思います。今,御指摘もあったように現在の実務は必ずしも不都合を生じているということでない以上,甲案でいいのではないかと,こういうことでございますが,ただ,今,山野目幹事が第3の道をと御指摘になられて,援用構成を採った上で,その効果に関しては確定的に債権消滅と書いていいのかどうかは,もう少し考えようがあるのではないかと。これは新しい御示唆だと思いますので,この点は弁護士会としても今回は検討してきたわけではありませんので,乙案には抵抗感があるということを踏まえた上で,甲案をこのまま維持するか,あるいはもう少し考えるかということについては,更に検討する必要があると少なくとも私個人は思っておりますし,引き続き検討していきたいと思っております。 ○深山幹事 今までの議論と重なる部分もあるんですが,甲案,乙案の二者択一の場合であれば,乙案のほうが理論的には理解しやすいのですが,(2)の保証人,物上保証人の援用権のことを考えると,乙案は採り難いと考えております。もっとも,第3の道ということも含めて,(1)のところでは主債務者に関しては履行を拒絶するとか,履行することができないというような考え方を採りつつ,(2)の主債務者以外の援用権者のところで独自の援用権を認めるというようなことが,理屈の上でも立法すればできるんだということであれば,必ずしも(1)のところで甲案にこだわるものではないんですが,今までの実務との関係も含めて,保証人や物上保証人が独自の立場で援用できないというのは,甚だ妥当ではないのではないかと考えます。つまり,主債務者が非常に無責任でいい加減な状態で,時効についても何も主張しないというときに,そのしわ寄せが保証人や物上保証人に全て行ってしまって,あとは主債務者と保証人等との間で調整すればいいという規律は,現実的には非常に保証人等に酷であって,妥当ではないのではないかと考える次第でございます。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○佐成委員 甲案,乙案に,今,山野目幹事が提案されました丙案のうち,乙案は理論的にも十分考えられるとは思います。それから,丙案につきましても非常に傾聴に値する御意見だと私は感じておりますけれども,ただ,経済界の中で議論をしている中では,そういったような案はなかなか支持が難しいのではないかと思います。現に,甲案,乙案だけを前提に議論をしておりましても,やはり甲案という意見が圧倒的でございまして,乙案を支持する意見は今のところ経済界の中では私の知る限りでは,聞いておりません。 ○岡委員 弁護士会の圧倒的な多数は甲案だということは,高須さんがおっしゃったとおりでございますが,弁護士会の一部には時効は不道徳な制度である,権利のほうを重視すべきである,そういう観点からいけば,乙案というのも非常に理解できると,丙案も入るのかもしれませんけれども,そういう意見がございましたので,御紹介を申し上げます。 ○野村委員 (2)のほうの援用権者についてですが,保証人,物上保証人等に援用権があるということを認める規定を設けるということには賛成です。ただ,具体的にどういう表現にしたら,援用権者の全部を,条文に入れられるのかということがなかなか難しいと思っています。具体的に保証人,物上保証人はいいのですが,判例だともう少し広がりのあるところなので,それがうまく入れられるような表現を工夫しなくてはいけないのではないかと思っています。 ○松本委員 乙案が出てくる背景は,理論的にこっちのほうが優れているからということだろうと推測はするんです。先ほどからの議論の中でも,時効援用後の弁済の効力をこっちのほうが説明しやすいからだという考えが言われている。しかし,逆に弊害として.従来,非常に安定していた援用権者である保証人,物上保証人等が援用できなくなるという状況が起こってくる。そこで乙案を提唱される方は,援用するかどうかを主たる債務者に催告するという制度を導入することによって,この激変を緩和しようとする。しかし,主たる債務者に援用しないという選択も許すということですから,結局,従来の制度をがらっと変えて,債権者にとって大変有利な制度にしようということです。理論がこっちのほうがきれいだから,時効援用後の弁済を説明しやすいからという理由だけでは,従来の安定した制度を覆す根拠としては極めて不十分だろうと思います。   では,そこで,ここには案が書いてありませんけれども,(2)に丙案を作って,物上保証人,保証人についても独自の履行拒絶権なり,その援用権なりを,よく分からないけれども,与えるというような立法をしてしまうことによって,従来との連続性を保つというバランス論もあり得るかとは思うんですが,そうなると,当初の乙案が主張しているところのこっちのほうが論理的に優れているんだという点がぐちゃぐちゃになってしまうわけなのです。そうだとすると,従来の甲案でも,時効援用後の弁済について判例が適切な処理をしているのであれば,それでいいではないか,あるいはそのことを法律に明記すればいいではないかという解決策はあり得るわけです。したがって,現在の乙案には説得力はないと思います。   その上で,甲案がいいのか,あるいは山野目幹事のおっしゃった丙案あるいはもっとほかの案がいいのかは,もう少し文言がどのような形になるのか,そして,援用権者の問題がどうなるのかを見た上で判断せざるを得ないかと思いますが,そういう具体的な案が出ていないのであれば,取りあえずは現在,安定した状況にある甲案で変える必要はないのではないかと思います。 ○内田委員 山野目幹事の御提案に対して御質問なのですが,山野目幹事の御提案と乙案とは何が違うのかということです。私の印象としては表現が違うだけではないかという感じもするからです。乙案は履行拒絶権という言葉だけが独り歩きして,非常に異質なものが入ってくるかのように理解されていますけれども,実際の時効の機能する場面を考えて,こういう提案がなされているのだろうと思います。前々回でしたか,部会で議論したときに中井先生のほうから171条の弁護士の書類返還債務の時効について,こんなものは弁護士は援用しない,返すべきものは何年たとうときちんと返しますということを言われたのが非常に印象的でした。一般に債務というのはそういうものだと思います。債務があれば弁済するのが当然で,銀行が預金の消滅時効を余り援用しないというのは,預金があるから返しているだけだと思います。   むしろ,時効が使われる場面というのは,本当は弁済した,あるいは本当は債務はないと考えているのだけれども,それが証明できないという場合,つまり,何年もたってから突然請求されて,今さら言われても困るというときの最後の手段として,時効が使われるというのが一番典型的な使われ方ではないかと思います。そういう場面での時効というのは,援用とともに債権が消えるのではなくて,債務者は債務はないと言っているわけで,ただ,何月何日の弁済によって消えたということが証明できないので,ないという主張をその限りで裁判で認めましょうということです。それが,履行拒絶権の発想なのだと思います。   これは沿革的にもそう考えられてきたし,鹿野幹事からドイツは物権と債権の峻別があるから,全く状況は違うとおっしゃったのを私はよく理解できなかったのですが,ドイツでもこういう抗弁的な構成を採っているというのは,今言ったような趣旨がやはり背景にはあるのではないかと思います。そう考えると,山野目幹事の御提案と実質は同じで,ただ,表現の仕方,つまり履行拒絶権という形成権のようなぎらつく表現はやめたというだけではないか,趣旨そのものは全く共通しているのではないかと感じました。   ちなみに比較法的にいうと,フランス民法は権利が消えるという表現の条文を持っていますけれども,これについては金山教授の研究が非常に興味深くて,フランス民法はほかの条文では訴権のことをたくさん書いていて,効果が訴権の消滅か実体権の消滅かについて無頓着である。つまり,いずれであるかは,フランス人にとって余り重要性を持っていないということが書かれています。要するに,法的構成は二次的重要性しか持っていないとのことです。非常に興味深く思いました。   あと,第12回ですか,部会でこの点が議論されたときに,これも山野目幹事のほうから履行拒絶権という構成と,保証人,物上保証人の援用権の問題とは論理的に直結していない,つまり,選択肢は開かれていて,時効を援用したときの効果について拒絶権と言っているにすぎないのだから,保証人,物上保証人について現行の判例と同じ処理をすることは何ら論理的におかしくはないという発言がありました。それは全くそのとおりだと思いますので,保証人,物上保証人の問題と直結して,乙案を考えるのは避けたほうがいいのではないかと思いました。 ○山野目幹事 ただいまの内田委員の御意見に触発されて,御意見をおっしゃりたい方がほかにもおられるかもしれませんが,直接のお尋ねをいただきましたから,私のほうから補足の意味で,二点,申し上げさせていただきたいと考えます。   御提示いただいている乙案は,字面を見るだけでは援用という言葉が消えて,履行拒絶権という言葉が登場してきております。このことに伴って内田委員がおっしゃったように,何か従来の法律実務,法律運用を大きく変えるのではないかというふうな誤解ないし印象をお持ちになった方が多いのではないかと感じます。そこはそうではないということは,内田委員とは全く意見を同じくするものでございまして,そうであるとするならば,意見の提示といいますか,今後,一般に対して議論を喚起していく際にも,乙案のこの文言のような仕方ではなくて,援用されたら履行を請求することができないという規律のイメージを提示して,議論を続けていくのがよいのではないかと考えた次第でございます。今のような補足を添えた上で,内田委員が先ほどおっしゃったことと全くお心を同じくするものでございます。   その上で,もう一点,申し上げますが,私が申し上げた仮称丙案でございますが,時効の援用があったときは,として援用の概念を引き続き用いることによって,従来の法律実務,法律運用が考えてきた時効援用と,その周辺の問題については何ら変更がないということも,はっきり提案の中でお伝えしたかったという,そういうコミュニケーションを図っていきたいという気持ちを抱いた部分がございます。これも内田委員が御指摘になったように,3(1)の論点と3(2)の論点は,本来,論理的に切り離されたものでありますから,乙案が正当に理解されていれば,本来,そのことも余り強調して申し上げる必要はないことかもしれませんけれども,今後の議論の円滑を考えて,あえて乙案の文言とは違うような仕方での議論もしていただきたいということを申し上げた趣旨でございます。 ○鎌田部会長 実質的には権利消滅構成を採るのか,あるいは履行拒絶と言いますか,請求拒絶構成を採るかということで,乙案のバリエーションといいますか,実質的には乙案と同じだけれども,それを現行の解釈との連続性を保った表現にするという,そういう御提案だと受け止めてよろしいでしょうか。 ○山野目幹事 そのとおりでございます。 ○鎌田部会長 ただ,甲案と乙案の違いとして,先ほど来,指摘されている中で,例えば抵当権,保証債務の附従性というような,これは債権への附従性ですから,請求拒絶の形でいくと,独自の規定を作らなければいけなくなるということになりそうです。その関係で(2)の論点については,乙案を採った場合の対応と同じ対応をすることになると理解してよろしいでしょうか。 ○山野目幹事 その点は少し異なっておりまして,私が申し上げた仮の名称で丙案を採ったときに,担保権の附従性に関する特別の手当ての規定を置く必要は必ずしもないと考えております。と申しますのは,時効が援用された債権は請求することができないという表現の下で,債権が消滅しないとは一言も言っていないものでありますから,債権が消滅するという従来の法律運用上の理解を前提に,積極的に抵当権の設定の登記の抹消手続請求をするようなことは,従来と同様にあり得るものと考えております。 ○鎌田部会長 そこは,しかし,解釈に任せるということになる。 ○山野目幹事 そのとおりでございます。 ○鎌田部会長 分かりました。  ほかに(2)(3)も含めて御意見をお伺いいたします。 ○深山幹事 今の山野目先生の御説明は非常によく分かったんですが,最後に御発言になった(2)のところについて,債権が消滅するということを否定するものではなくて,従来どおり,物上保証人が債権の消滅を前提に担保権の抹消を請求できるんだという結論は非常に賛成なんですが,そのことを解釈に委ねるというのはいかにも不親切な条文の作り方であると思います。理論的にはそれで足りているのかもしれませんが,分かりやすさからいったら,援用という言葉を使うのか,物上保証人も履行拒絶できるというのか,あるいは債権の消滅を主張できるというのか,表現にはこだわりませんが,要は時効の利益を受けられるということを,やはりこれだけ議論をしているわけですから,明文に残すべきではないでしょうか。 ○村上委員 時効援用後に弁済された場合に,それを取り戻すことができないという結論をどのように説明するかということですけれども,例えば非債弁済の規定を使って説明するということはできないのでしょうか。それができるのだとしますと,給付保持力が残っているという説明が唯一の説明だということではないことになると思います。   それと,(1)の乙案を採ったときによく分からないと思う点の一つは,保証債務があったときに,主たる債務について履行拒絶権が行使されると保証債務はどうなるのか,消滅するのかどうかということです。主債務は消滅しないのだけれども,保証債務は消滅するという考え方があり得るのだろうと思いますけれども,仮にそうだとしますと,その保証債務についての給付保持力はないということになるのかどうか。給付保持力がないのであれば,その後,つまり主債務について履行拒絶権の行使があった後に,保証人がそのことを知りながら保証債務を履行したときでも,それを取り戻すことができるという結論になるのかどうかというところも詰めておいたほうがいいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○高須幹事 それでは,(3)の時効利益の放棄のところの話をさせていただきたいと思います。36ページのところでは甲案,乙案,丙案という形で,三つの考え方が示されておるわけですが,まず,弁護士会の状況としましては丙案が多数でございます。甲案につきましては,そのままでは支持する意見はほとんどないという状況です。ただ,甲案を修正して立法化するということに対しては,あり得るのではないかという意見がございまして,私もその考えと同じくするものですから,今回,一応,発言のメモを用意させていただいて,これに基づいて御発言をさせていただきたいと思います。御覧いただければ幸いです。   今のように三つの案がありますけれども,私はそれぞれについてやはり問題点があるのだろうと思っております。甲案に関してでございますが,これは御指摘いただいていますように,債権の行使に応じる旨が表示されたということについて,債権者が一定の信頼をするわけでございますから,その信頼を一定の範囲で保護するということはやはり必要なのであろうと。昭和41年の最高裁判決があり,それが現在も存続しておるといいましょうか,価値を持っておるということはそのような趣旨であろうと理解しております。   ただし,この種のケースでは,債権者が時効期間満了の事実を知らない債務者の軽率あるいは知識不足等を利用することによって債権の行使を迫ると。このようなことがあり得るのではないかというか,実務上では見聞きをしておるということでございまして,このような相手方の軽率,知識不足等に付け入るような行為がなされるような場合にまで,債権者を保護すべき積極的理由は見出し難いと,このように考えております。弁護士会でも甲案そのものには非常に抵抗感が強いというのは,ここのところにあると考えております。   そこで,原則的には時効援用権あるいは違う構成を採る場合でもですが,その喪失を伴うとしても,例外的には信義則ないし公序的な制限を設けるべきであろうと。その事柄の切実性という言葉を使わせていただきましたが,日々,こういうことが積み重ねられておるという,このままにはしておけないという意味でございますが,この切実性から見て,この例外法理は一般条項に委ねるのではなくて,その条文のただし書として明文化すべきであろうと,このように考えます。   乙案の問題点につきましては,乙案は義務の履行については時効援用権の喪失を認め,それ以外の権利の承認の場合には喪失を認めないということで,部分的には援用権の喪失を伴わないというところを認めるという意味で,援用権の喪失を一定の限度に制限しようという点では評価し得ると思っておりますが,しかしながら,義務履行と権利承認で区別することには疑問が残ります。債権者が時効期間満了の事実を知らない債務者に対して,例えば極めて少額の弁済を迫ると,あるいは求めるということで,時効援用権の喪失を意図することが想定されるからであります。   続きまして丙案ですが,弁護士会としては,甲,乙の問題点を踏まえて丙案でという意見が強いわけですが,今回の改正で丙案ということになりますと,明文化を見送るということになりますので,この問題に関する法の欠缺状態を引き続き放置するということではないかと。その意味では,今回の改正作業の意義を失わせるものであり,丙案のままというのももう少し工夫の余地があるのではないかと考えました。   そこで,私としては甲案を前提として,その上で債権者が時効期間満了の事実を知らない債務者の軽率あるいは知識不足等を利用することにより,債権の行使を迫るような場合には例外的に債権者を保護すべき正当な理由を欠くとして,時効援用権等を喪失しないと,こういう旨を規定した条項を設けるべきと考えました。具体的には,以下のような条文を想定してみた次第でございます。   つまり,甲案の修正案として,時効期間の満了後に,債務者が債権の行使に応ずる旨を一定の行為により債権者に対して表示したときは,時効援用権なり,あるいは履行拒絶権なりを行使することができないとした上で,ただし,債務者の軽率,知識の不足,無経験に乗じることにより表示がなされたなど,債権者に時効援用権の喪失あるいは履行拒絶権の不発生を主張する正当な利益を欠く場合にはこの限りではない。   このようなことも考えてみる必要があるのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   関連した意見ですか。 ○潮見幹事 戻るほう。 ○松本委員 私も戻るほう。 ○鎌田部会長 そうですか。では,松本委員。 ○松本委員 すみません。まず,戻らないほうの(3)からですが,甲案,乙案を比べてみると,乙案のほうが時効期間満了後の義務の履行と権利の承認を分けるということで,甲案より少し細かく考えていると思います。ただ,乙案を採る場合に権利の承認の場合について,時効援用権あるいは履行拒絶権が消滅しないというのは少し硬直的で,時効期間満了を知らないで承認をしたという要件を付け加えれば,もう少し柔軟になるのではないかと思います。履行の場合は債権の消滅を知っている,知っていないにかかわらず援用権の喪失を認めるが,他方,権利の承認にとどまる場合は,時効期間の満了を知って承認した場合と,特に知らないで承認させられるという場合のほうが多いのでしょうけれども,両者は明確に区別したほうがいいのではないかということで,乙’案というのが考えられるのではないかと思います。   もう一つ,戻るほうなんですが,時効の援用等の効果の部分で,先ほどからの議論で,甲案,乙案を採るかどうかと,援用権者の範囲として従来の判例が認めていたような物上保証人や保証人が排除されるかどうか,つまり,乙案を採れば自動的に排除されるということではないんだ,全く別の問題だという趣旨のことを何人かの委員の方がおっしゃったんですが,そもそもの立法提案,検討委員会の案を見て提案要旨を読むと,はっきりと時効援用権者を債務者に限定する趣旨だと書いてあるんです。ですから,検討委員会の提案者の趣旨を変えてしまって,同じ文言だけれども,趣旨をがらっと変えてしまうということで立法しようという議論は,あり得なくはないんでしょうけれども,具体的な提案を基に議論しているんだというこの審議会の建前からいくと,提案者の趣旨と全く違うような解釈をしてしまうのは,ちょっとフェアではないと思います。 ○潮見幹事 すみません,戻るほうと言いましたが,戻らないほうの発言もありましたので,戻らない部分についても先に一言,申し上げていいでしょうか。高須幹事が発言になられた(3)の時効利益の放棄等ですが,私は丙案でいいのではないかと思っています。規定は設けないとするものです。前にもこの審議会の場で発言させていただきましたように,確かに最高裁の判決は一般論として時効援用権の喪失という枠組みを採っていますけれども,基本的によって立つところは信義則です。   こういう場合に時効援用権をどのように考えるかということについては,第22回会議の発言を待つまでもなく,債権者の対応とか,あるいは債務者の対応とか,それぞれの置かれた地位とか,そうしたものを総合的に考慮した上での判断というものが,不可欠になるのではないかと思うところです。そうであれば,この甲案だとか,乙案のような形で,定型化された形での援用権の喪失という理論を立てるということについて,私は賛成できません。乙案については松本意見と同趣旨の印象を持つので,ますます賛成できないところです。   それから,戻るほうですけれども,もし,仮に甲案を採る方々が債権の給付保持力が残っているんだというようにお考えになるのであれば,先ほど山野目幹事がおっしゃられた丙案の書き方もあるのではないかと思います。さらに,先ほどの松本委員の御発言にもありましたが,援用権者をどうするのかという問題は,援用権者をどうするかという枠組みを少し質的に変更するのかもしれませんが,債務者以外の者をこのような状況下でどのように保護するのか,そもそも誰を保護するのかというルールというものは立てざるを得ない。このことが乙案に立った場合でも,甲案に立った場合でも同じであれば,乙案からはどうか,甲案からはどうかという観点から検討していく必要が,どっちの立場からしてもあるのではないでしょうか。そう考えれば,(1)で甲案を採るか,乙案を採るか,どちらも採らないかに関係なく,どちらかでも説明がつくようなルールを作ることができるのだったら,それに越したことはないと思います。   それから,附従性のあたりについては,これも乙案を採っても,それから甲案を採っても,この際ですので,明確に書いておいたほうがいいのではないかという気がいたします。その意味では,甲案を採ろうが,乙案を採ろうが,ここも決定的ではないような感じがいたします。   さらに,一言,言いたいことがあります。甲案を支持されるという方々は,先ほど私がちょっと申し上げた債権の給付保持力は残っているという観点からの説明について,どのようにお考えなのかというところをちょっとお聞かせいただけないでしょうか。この部会は理論レベルでの説明をどのようにするのかということのみを議論する場ではないということは,わきまえております。しかし,消滅時効という非常に重要な制度で,しかも権利の運命ということについては決定的な意味を持つ制度の中で,債権というものがどのように最終的に捉えられるのかは,立法者意思説を採るにせよ,採らないにせよ,はっきりと認識を共有しておく必要があるのではないでしょうか。この部分について,先ほど甲案を支持すると何人もの方がおっしゃられましたが,明確な発言をされたのは岡本委員と村上委員だけでして,岡本委員のほうは,撤回という枠組みを使って考え,撤回の後に履行をすると構成するものでした。これは元の債権の履行という観点からの説明であって,債権の給付保持力が残っているという捉え方をしているわけではありません。他方,村上委員の御発言は債権が消滅してしまって,その後の弁済は非債弁済の枠組みで処理をすることができるのだから,ここでも債権の給付保持力は残っていないとか,いるとかいうレベルの話はされていない。それ以外の方々で甲案を支持する,それは現行法ではそうだからであるということでお話しになられました方々が,一体,ここをどのようにお考えになっているのかということを,特に学者委員で御発言になられた方にお話しいただければ有り難いと思います。 ○鎌田部会長 もし,直ちにただいまの御質問に対して答えが出れば出していただくとして,すぐに返答の用意がなければ,先ほど挙手されていました中井委員,鹿野幹事の御意見を取りあえず伺うということにさせていただきます。 ○中井委員 戻らせていただいて,(1)について,甲案か,乙案かという議論の中で先ほど松本委員から,そして深山幹事からも問題提起があったことですが,弁護士会がこれを検討する際,また,検討事項の取りまとめ方もそうですけれども,乙案と(2)における援用権者が連動された形で提案をされていると理解して,検討させていただいています。   34ページの2で,第1,第2,第3と三つの論点が提示されている。第1については,この弁済については給付保持力があるという結論で,その説明の仕方が問題になっている。第2については,抵当権等は消滅させるという結論では一致して,その説明の仕方が問題になっている。決定的に違うのは第3だと私は思っていたわけです。第3の援用権者の範囲について,乙案は,援用権者というのでしょうか,履行を拒絶できるのは主債務者であって,保証人,物上保証人にどういう保護を与えるか。これは(2)で催告権という構成を採って,従来にない方式の提案がなされている。   そうすると,保証人,物上保証人は全て主債務者がどう行動するかにかからしめられることになる,この点に関するこれまでの実務との違いを,なぜ,採らなければならないのかという点が出発点になって,乙案には賛成できないという意見を持っていました。今の潮見幹事との質問にも重なるのかもしれませんけれども,そのときに,第1,第2の問題をどのように理論的に説明するかについてまで,弁護士会では思いを至っていない。給付は保持できますね,抵当権は抹消されますねという結論において一致しているわけで,その説明の仕方の問題については,ある意味で,研究者の方々にお任せしてもいいという気持ちがあります。   とすると,(2)について(1)の問題と連結しないというのであれば,改めて乙案の立場,履行拒絶ができるという立場から,援用権者の範囲をどのように考えるのか,御説明を頂きたい。それが,甲案と同じように,保証人も物上保証人も直接利益を受ける者,若しくは正当な利益を有する者として時効の援用ないし履行拒絶ができるというのであれば,それでまた,弁護士会の意見も変わるかもしれないのではないか。そのあたりの整理を乙案を主張される方,丙案を主張される方から,お聞かせいただきたい。 ○鹿野幹事 (3)番から順に遡って申し上げたいと思います。まず,(3)番については,私自身は丙案を支持したいと思います。その理由は,基本的に先ほど潮見幹事がおっしゃったところとほぼ同じです。つまり,確かに判例は甲案に近いことを信義則を根拠にして判断したことがあるわけですけれども,ただ,その判断は,信義則上,援用ができないということですので,一応,いろいろな事情を考慮する余地がそこには残されているのではないかと思います。それを今,定型的な形で,この場合には一切援用できないとすることに対しては,それによる硬直化の危険を感じるものでございます。そこで,丙案に賛成したいと思います。   次に,(2)の援用権者についてですけれども,(1)との関連はひとまずおきましても,基本的に甲案に賛成でございます。もちろん,先ほど野村委員が御指摘なさったように,甲案の趣旨を条文にうまく表現できるかということは更に詰めて考えなければいけないとは思いますけれども,基本的には,保証人,物上保証人,その他を含め,従来判例が認めてきたところの者に援用権を認めるということで良く,それを変える必要性はないと思いますし,その明文化を試みるという方向でよろしいのではないかと思います。乙案として,物上保証人等が自分自身の意思で時効の効果を受けるか否かを決めるということではなく,主たる債務者の決断に引きずられるような格好の提案がありますけれども,どうしてこのような形で物上保証人,保証人の保護を弱くする必要があるのかについては理解できません。私はその必要性はないと考え,乙案に対して疑問を感じるところでございます。   それから,(1)については,先ほど発言をさせていただいたところですけれども,その後,内田委員から私が物権債権峻別論と言った趣旨が分からないという御指摘を頂きましたので,少し言葉を足したいと思います。少なくとも私の理解では,ドイツでは,いわゆる物権債権峻別論を採ってきたので,日本におけるような意味での附従性ということが,少なくとも物的担保については問題にならなかったのではないか,つまり,被担保債権が消滅時効に掛かったとしても,それは物的担保には直接影響しないという制度を元々採ってきたのではないか。これに対して,日本では附従性が正面から認められてきたのであり,それを前提として,消滅時効により主たる債務が消滅したときには,保証債務及び物的担保についても効力を失うと考えられてきたのではないか。そこで,仮にドイツで抗弁権構成を採って問題がなかったとしても,日本ではその前提が違うという指摘をしたつもりでした。   それから,併せて内田委員のほうから,保証人や物上保証人というところを中心に考えるという考え方がおかしいのではないかという,少し表現は違ったのですが,そのような趣旨の御指摘がありました。しかし,債務者に対して履行できるかどうかということと併せて,その債務に関係を有する者,典型的には保証人,物上保証人,あるいは担保目的物の第三取得者等でしょうが,そのような関係者がどのように影響を受けるのかということは,時効法の改正において非常に重要な点だと思います。そして,それらの者が従来に比べて不利な影響を受けるような改正については,私は反対でございます。   また,もしその実質を従来と変えないということであれば,従来の表現をわざわざ履行請求できないと改める必要がどこにあるのかと思うところでございます。一つは,先ほども言及しましたが,援用した後の弁済の有効性を根拠付ける,正当化するということに意味がある,そこを突破する必要があるのだと考えられているようでもあります。この弁済については,従来から確かに学説ではいろいろと考え方が分かれ,援用した後も債務が完全に消えてしまうのではなくて,言わば一種の自然債務的なものが残るのだという説明がされることもありました。自然債務というような考え方を採るのか,それとも,先ほど村上委員がおっしゃったように,非債弁済的に考えるのか,その他の考え方を採るかということについては,更に議論する余地はあるのかもしれません。しかし,弁済の点を正当化することのために,時効により権利の消滅が生ずるのではなくて,単に履行請求権を行使できなくなるというような表現に変えるということには,先ほども申しましたが,非常に疑問を感じるところであります。それは,既に申しましたように,主たる債務者だけではなく,その他の利害関係人の関係がどうなるのかというところまで含めて考えますと一層,そちらにより生ずる混乱のほうが大きいのではないかと考えるからです。 ○山本(敬)幹事 今の(1)に関して,先ほど山野目幹事のほうから丙案という考え方が示されました。その際に,保証人や物上保証人についてどのような影響が出るかという点については,解釈に委ねればよいということをおっしゃったように思いましたが,私は,この点に関してはやはり解釈に委ねるのは不適当だろうと思います。と言いますのは,それによると,主たる債務について時効が援用されたときに,保証債務は消滅すると考えるのか,そうではなくて,保証債務の履行も請求できないということになるのか,後者のような解釈の余地が生まれてくるのではないかと思います。これは,先ほど村上委員が御指摘されたところではないかと思います。物上保証に関しても,主たる債務について時効が援用されたときに,抵当権等は消滅すると考えるのか,単に実行できないことになるのか,そのような解釈の余地が生まれてくるだろうと思います。  このあたりは担保法制の根幹に当たる最重要の原則でして,ここが不安定になるのは由々しき事態ではないかと思います。その意味では,債権法改正でどこまで書けるかという問題はあるのですが,少なくとも保証に関しては,この点に疑義が生じないように明文化を行う。つまり,附従性に関する原則を定め,そして,時効の援用の場合についてもこうなるということを定めるということとセットでないと,受け入れにくいのではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○山野目幹事 山本敬三幹事が示唆されたような規律を明文の規定として置くということについては,私の立場は,必ずしも反対ではございません。私が少し前の発言で解釈に委ねるという表現を用いた部分がありますが,何か規定を設けないと履行拒絶権構成と言われてきたものがおかしな議論になるとか,そういう状況に追い込まれるとか,そのような仕方で議論していただくことは,困るということを強調しようとして申し上げたものでございまして,少し前の潮見幹事の御発言にもあったように,(1)の甲案を採るにせよ,乙案を採るにせよ,保証債務や担保権の運命について,分かりやすく明文の規定を置いておくことができるのであれば,置くということについて妨げる理由はないであろうと考えます。 ○鎌田部会長 私も,先ほど(1)の問題と(2)の問題が直結するようにお話ししましたけれども,(1)の附従性の議論というのは債務者が援用したときに保証債務や抵当権がどうなるかという問題であり,(2)は援用権者の範囲を定めるものです。甲案を採っても援用権者の範囲というのは,従来は解釈論上,問題になってきたことですから,相対的に独自に議論できる。ただ,(1)の乙案を採ると,より援用権者の範囲が保証人,物上保証人の地位に直接影響を及ぼす場面が多くなると,そういうふうなことなので,常にワンセットというわけではないということは,訂正をさせていただきたいと思います。   あと,(1)で乙案を採って,どちらかというと潮見幹事は乙案ですね,(1)のほうで。 ○潮見幹事 (1)は時効の効果ですよね。 ○鎌田部会長 時効の効果。 ○潮見幹事 私は,先ほど山野目幹事がおっしゃられた丙案でよいと思います。 ○鎌田部会長 丙案の場合には,履行請求ができなくなる原因は実体権が消滅しているからだという考え方と,請求権のみが抑止されるという考え方の両方があり得るんですけれども,先ほどの御発言からいくと債権自体がなくなると考えることに若干抵抗感があるのかと思ったんですが。 ○潮見幹事 というよりは,むしろ,甲案を採る方々が一体,どういう債権観を持っているのかがよく分からないということを申し上げたかっただけなのです。つまり,給付保持力が残るという前提で甲案を採るという場合に決定的なのは二つでして,一つは,債権の運命がどうなるのかというのは債務者の意思に係っているということであり,もう一つは,時効の効果として債権の持つ請求力の面のみが,あるいは強制力も含めてですけれども,それが消えるということでしょう。その場合に,援用権者の問題は,第一の点,つまり債権の運命を債務者の意思に係らせるというルールをその他の者にどのように拡張しようかという場面で,援用権者の問題が出てきていると思うのです。   ここで,仮に給付保持力が残るという前提をとった場合には,今申し上げた二つのことを表現するのであれば,先ほどの丙案で尽きていると思います。援用権者をどうするのかというところは,正に債権の運命が債務者の意思に係っているというルールの人の部分をどこまで拡張するのかという問題であって,広い意味の援用権者ですけれども,そのルールはいずれにしても明確に書くべきであろうと思います。更に,先ほど山本敬三幹事が補足されたように,物上保証人とか保証人の運命については,乙案とか丙案を採った場合にも,明確にルールとして書いておくべきではなかろうかと思います。とはいえ,仮に甲案を採る人たちが,時効の効果として給付保持力も含めて債権も全部消えてしまうということで一貫すべきなのだと考えるのであれば,私自身の頭も少し整理して考えみたいと思います。 ○鎌田部会長 むしろ,(1)と(3)の関連でちょっと御意見を伺ってみたいなと思っただけで,仮に給付保持力があるとすると,(3)で信義則説というのは両立するんですか。弁済したら有効な弁済になってしまって終わりとならないんでしょうか。 ○松本委員 私自身は余り論理一貫性を強調しない立場で,できたら論理一貫的で,かつ妥当な結論を導き出せる解釈が優れていると思いますが,全ての問題について全て緻密な透徹した論理でやっていくと,とんでもないところで変な結論になりかねないというのが法律の世界では多いわけで,その辺は注意していかなければならないと思います。   それで,今の給付保持力がどうのこうのというのも,非常に緻密な議論の一つだと思うので,そこにこだわった構成をやるというのは一つ考えられるわけですけれども,別にそこにこだわらなくても,先ほどから幾つか出ているような説明は可能なわけです。私の感覚だと時効を援用した後で弁済するというのは,恐らく債務者の資力の状況等がちょっと変わってきて,債権者との関係を改善するために,弁済しておいたほうがよいという判断の下に弁済するのでしょうから,もし,そういうことが援用後の弁済の典型例だとすれば,一旦消滅した債務を復活させようという合意があったと構成しても,それほどおかしな話ではないと思うんですね。   今回の立法提案,特に時効の部分は,時効の制度を様々な合意でもって柔軟化しようという発想が大変強いわけですから,そういう点からいって,一旦,時効によって伝統的な意味で消滅した債務を復活させようという合意も,第三者に対する影響を括弧に入れて考えれば,当事者間において,そのほうが将来のビジネスとしてはいいんだということであれば,復活させた債務を弁済するという説明でもいいですし,あるいは村上委員のおっしゃったような,分かっていて存在しない債務を弁済するんだと。これも将来のビジネスのために,そっちのほうがいいという説明付けで,つまり,返還請求だけを止めるということであれば構わないんでしょうが,将来の良好な関係という点では,一旦,消滅した債務を復活させるという趣旨だと考えることで十分ではないかと思います。ただ,この説明だと援用したことを忘れていて弁済するというような場合に,一体,どうなるのかという疑問は出てくると思いますが,これは時効消滅した債務を時効を援用しないままに弁済した場合にどうなるのかという話と,やや近いところがあるかと思います。 ○鎌田部会長 私自身が議論を長引かせてしまって申し訳ありません。論理的に一貫してきちんと説明するということと,既に具体的に問題にされてきて,ある程度,中身が確定しているものを明文の規定のある制度として確定させていくということの調整をどう図るかという問題でもあろうかと思いますので,なお,引き続き検討せざるを得ないと思いますが,事務当局でこの後の作業を続ける上で,こういうところだけはもうちょっと明確にしてもらいたいというふうな部分がありますか。 ○中井委員 (2)についてもう一度,確認しておきたいんですけれども,乙案を採る立場から,ここで催告をするという後段の考え方を積極的に提示する方がいなかったのですが,それはいないということでよろしいのでしょうか。 ○鎌田部会長 (2)の乙案を前提とする考え方,つまり,債務者にしか援用権がないという考え方をこの委員,幹事の中で積極的に支持する意見はなかったということでよろしいですか。 ○中井委員 分かりました。 ○山本(敬)幹事 (2)で援用権者と呼ぶかどうかは別として,どの範囲の人に時効の「援用」を認めるかという点について,先ほど野村委員が御指摘されたことそのものではあるのですけれども,保証人や物上保証人など,判例上時効の援用権が認められる者が含まれる旨を明示することは,私もそれでよいと思うのですが,そのようなものを個別に列挙するというイメージなのか,それとも,例示しつつ一般的な基準も挙げるのかと言いますと,やはり一般的な基準を挙げざるを得ないのではないかと思います。   そのときに,部会資料の36ページで,「正当な利益」とか「法律上の正当な利害関係」というような基準が挙げられていますが,これで本当に実質を表しているのかというと,やはり問題だろうと思います。判例が言う「時効により直接利益を受ける者」という基準も,何が「直接利益を受ける」のか,時代によって変遷したりしていますし,必ずしも適切な基準ではありません。その意味で,野村委員がおっしゃいましたように,これをどのように定めるのか,慎重に詰める必要があると思います。   現在,学説で有力に指摘されている一応の基準は,時効が援用できれば,義務が消滅したり,権利を取得したりできる関係にある。しかも,ほかの援用権者の権利義務には影響を与えずに,自分の権利義務のみが消滅したと扱うことができる場合に,独立の援用権者としての地位を認めてよいのではないかと言われています。   例えば保証や物上保証の場合ですと,保証人が援用すれば,保証債務だけが消滅しますし,物上保証人が援用すれば,物上保証人の抵当権だけが消滅するのに対して,例えば三番抵当権者が一番抵当権者の被担保債権について時効を援用しますと,二番抵当権者の権利にどうしても影響を与えてしまうので,独立の援用権者としての地位を認めるわけにはいかない。理論的には,このように説明できるわけですが,それを正確に示すことができるような文言がどのようなものかという点については,ここで議論し切れるかということがありますので,少なくとも定式に関しては,別途,詰めた議論を行っていただくこともあるかと思います。 ○鎌田部会長 それでは,分科会に審議をお願いするということも含めて,少し事務当局で検討させていただきます。   あと,事務当局側で何かありますか。 ○亀井関係官 先ほど中井委員が確認されたところを再度,確認したいんですけれども,(1)で乙案を採用すべきという御意見は,現行の法律状態を正しく表そうとする御意見だと私は受け止めているのですが,他方で,(2)のほうの乙案は,現行法を変えることになる提案と理解をしています。例えば債務者が履行拒絶をしなかった場合には,保証人や物上保証人保証債務の履行などに応じなければならなくなるという意味で,現行法を変える提案だと理解をしています。   そうすると(1)(2)の関係について確認をしておきたいのですが,(1)で乙案を採ることと,(2)で乙案を採ることは必ずしもつながらないという理解でよろしいでしょうか。 ○松本委員 今のまとめが正しいのかどうか,つまり,乙案というのが現状の判例を反映したルールだという説明が正しいのかどうかをもう一度,吟味しないと駄目だというのが今までの議論だったと思うんです。時効援用後の弁済についての説明は乙案のほうがしやすいではないかという点で,現状を説明する理論としては乙案のほうが甲案より優れているという説があって,それに基づいて時効の効果の部分を展開していけば,(2)の乙案になるというのが論理的な流れだと思うんですが,だけれども,(1)の甲案のほうが現状をそのまま反映しているんだという考え方の人もたくさんいるわけで,弁護士会なんかみんなそうだと思うんです。だとすれば,(1)は現状は乙案だけれどもという言い方は必ずしも正確でないのではないですか。 ○鎌田部会長 正確に反映しているかどうかは別にして,(1)の乙案は現行制度を変更しようとするものではない。だとしたら,援用権者の範囲については乙案を前提にしてどう考えるべきなのか。これも現行と同じように考えることも可能であるという意味では,(1)の乙案を採ったら(2)の乙案にならなければいけないというわけでは必ずしもない。 ○松本委員 債権者・債務者という当事者間を説明する理屈としては,甲案でも乙案でも,どっちでも通るでしょうという意味では,乙案でも現状を説明できます,現状の説明として妥当しますということだと思うんですが,だけれども,(2)とつなぐと現状ではなくなってしまう。そこで,(1)の乙案と(2)の乙案というのは全く別々の案なのかというところで,そもそも検討委員会の立法提案は完全に一致させた案として出てきていると書いてあるわけで,言ってみれば,時効の本質をより強調しているわけです。時効の本質を強調して,債務者が援用しない限り,保証や物上保証人には一切,影響しないんだというために,こういう案を出しているという感じがするわけですから,立法提案者の意思としてはやはり両者を切り離していなかったんだと読まざるを得ないんです。 ○道垣内幹事 二点ございます。第一点としては,ある立法提案において,そのような組合せが採られているときに,法制審議会での議論が拘束されるのかという問題があると思います。拘束されないと思いますので,自由に議論すればよいのではないかと思うんですが,いかがでしょう。第二点といたしまして,民法(債権法)改正検討委員会の意見というのがそうなっていたのか,そう書いてあるのか,ということです。手元にはNBLしか持ってきていないんですけれども,NBL904号の217ページの5のところを見ますと,時効の性質に関する甲案と,他の者に対する効果についての甲案と,それぞれについての乙案と乙案というのは,確かに親和性が強いけれども,その結び付きは論理必然的であるとまでは言えず,甲案と乙案,乙案と甲案という組合せも,いずれも論理的には可能であると書いているわけでして,何をもって松本委員がそうおっしゃっているのか,私にはよく分からないんですが。 ○松本委員 私は217ページを読んでいたのではなくて,215ページのほうを読んでいたものですから,215ページのほうの提案要旨の4の部分です。別々の人が書いているようですね。 ○鎌田部会長 論理的にはどっちの組合せもあると思います。 ○内田委員 この部会では,当初から特定の学者グループの案には拘束されない,たたき台にはしない,参考資料の一つであるということを繰り返し確認をしてきたわけで,にもかかわらず,どうして松本委員のような意見が出るのか,全く理解ができません。先ほど私が紹介しましたように,第12回の部会で(1)と(2)は論理的にはつながらないという発言を山野目幹事からされたのですが,これは去年の7月のことです。それを前提に,また,今回,山野目幹事から御提案が出ているわけで,部会としてはごく自然に議論が展開していると思います。特定の学者グループの案に余り拘束されずに,自由な議論をすべきではないかと思います。 ○松本委員 私も全く同じ意見で,前回の議事録を見てもらえば分かりますけれども,私自身は(1)で乙案を採った場合でも,従来の判例理論を残すために,従来の援用権が認められていたものについては援用権を認めるなり,履行拒絶権を認めるなり,何かすべきだという趣旨の発言をしております。それに,特定の立法提案に縛られるべきではないというのも全く賛成ですが,ここまではっきりと提案趣旨に書いてあるわけだから,そういうことを発言される方がいらしてもいいのに,全然,いらっしゃらないのがちょっと不思議だなという感じがしたので,注意喚起をしただけでございます。 ○鎌田部会長 それでは,恐縮です,次に……。 ○高須幹事 すみません,忘れ去られた感がある(3)の時効利益の放棄なんですが,甲案以外の御示唆を頂戴しましたので,私なりの素朴な意見を更に言わせていただきたいと思います。乙案について松本先生のほうから,これは知らないで承認した場合に適用されるとして,知っていて承認した場合はむしろ別に考えたほうがいいよと,それぐらい柔軟な考え方をしたほうがいいよという御示唆を頂いて,それはそのとおりだと思っています。知って承認した場合には時効利益の放棄だろうと思いますから,時効完成後の時効利益の放棄は現行の146条の反対解釈で認められるのだろうと思いますので,今,議論しているのは,多分,知らないで弁済したとか,あるいは承認したという場合にどうするかの規律を考えるべきことなんだろうと思っています。   そこは,全く松本先生の御意見のとおりだと思っているんですが,ただ,乙案そのものに関しての素朴な疑問といたしましては,承認をする,債務承認書のようなものを作って出すということと,極めて少額な弁済をする,せめてもの気持ちだから5,000円だけでも置いていきなさいよと言われて支払う。ここにどれだけ質的な違いがあるのかという点は,やはり私としては,むしろ,財布の中からお金を出して渡して帰るという場合もままあるのではないか。時効期間の完成を知らずにそういうことをしていくという場合もあって,それに対してもやはり一定の限度では何らかの制限を掛けるべきではないかと思っておりまして,乙案がどっちかで区切るということに関しては,そこはやはり硬直的なのではないかと,このように思っております。   それから,潮見先生と鹿野先生のほうから信義則の適用なのだから,信義則に委ねればいいという御意見を頂いて,そのとおりにもし運用されるのであれば,私もそれでいいと思いますし,弁護士会が丙案がいいという意見が多数だというのも,そこにあるのだと思うんですが,現在の実務が果たしてそうなのかというところが今回の問題意識というか,問題提起なんです。41年の最高裁,これは大法廷判決なわけですけれども,41年の最高裁判決が時効完成後における債務承認に関して,時効完成の事実を知らない場合も信義則上,援用権は喪失するといった判例は,結局,もし潮見先生や鹿野先生がおっしゃるようにいろいろな信義則の事情を考慮して結論を出すのだとすれば,差し戻すべき案件だったと思うんですね。その辺の事情を判断させるために原審に差し戻すと。   ところが,実際には41年判決は上告を棄却して,従前の知ってなしたものと推定するというのは経験則に反するという上告理由に対して,そのとおりだけれども,信義則違反があるから結論は変わらないと,言わば一定のはっきりした判断を示したと。その結果として41年判決の存在というのは誠に大きいものがあって,知らないでも一定の表示なりをしてしまえば,援用権は喪失するというルールが言わば作り出されているのではないか。   広中俊雄先生はその件に関して論文で,この41年判例のケースは信義則が適用されたわけではなくて,その言及に係る信義則は,欠缺補充としてのルールのための根拠付けに利用されただけであるというような御指摘をされていて,私もそういう意識を持っておるものですから,なまじ,信義則上,できないんだと,援用権は喪失してしまうんだというルールのほうが独り歩きして,そうでない場合も信義則上,あり得るんだというほうのルールがなかなか認め難くなっている。裁判をやると,そこで戦おうと思うと,なかなか41年判決がありますからと言われて勝てないと,こういう状況があるので,今回の立法提案の中で,もし甲案で明文化するなら,正にただし書で信義則の場面がありますよということを立法化していただいたほうがいいのではないかと,こう思って,甲案修正説というのを出させていただいた次第でございます。   付言すると,この審議会の議論を基にして,今の実務の在り方について更に踏み込んだ考え方ができるようになれば,もちろん,それに超したことはないとは思っておりますが,私は現実はやはり41年判決の理解は厳しいものがあると思っておるものですから,この際,立法の中で考えたらどうかというふうな意見でございます。 ○松岡委員 高須幹事のおっしゃることは大変よく分かるんですが,一方で,乙案の理解はそれでいいのでしょうか。乙案をとれば,今出された例で例えば何百万円かの債務について,5,000円だけ払わせて承認を取った場合,債務全部についてもはや消滅時効を援用できないようになるのか,それとも払ってしまった5,000円は取り返せないけれども,承認した部分については時効の利益の放棄にはならないので,そこは更に援用できるのでしょうか。私は,乙案は後者ではないかと理解したものですから,前提が少しずれていて,議論がうまくかみ合いません。いかがでしょうか。 ○高須幹事 今,先生から御示唆を頂きまして,そういう解釈は十分採り得ると,気が付いた次第でございますが,ただ,従来は少額の債権でも,結局,認めたわけだから,当該債権は全部,援用権は喪失していると理解されて請求を受けてしまうということで,我々もそうなってしまうのだろうと理解していたので,違う解釈が可能であるということであれば,乙案というのもあるいは合理性が出てくるのだろうとは思います。 ○松岡委員 そうなのです。前回の議論のときに,やはり,そういう少額の弁済をさせた形で債務全体を承認したので援用権は喪失する,とすると問題なので,こういう提案がされたものと私は理解しておりました。 ○山本(敬)幹事 (3)についてですけれども,先ほど鎌田部会長が御指摘された点をやはり確認させていただければと思います。これは,(1)で先ほど御提案された丙案を採ることがどのような意味を持つのか,そして,それを支持すべきかどうかということを判断するために不可欠だと思いますので,お聞かせいただければと思います。  つまり,(3)のところで,時効が完成していることを知らずに弁済してしまった場合に,(1)でもし丙案を採用するとしますと,給付保持力はあるわけですので,弁済は弁済としての効力を認められます。ですから,時効完成を知らずに弁済したとしても,そもそも時効を援用したところで履行請求を拒絶できるだけであって,払ったものを返せということは出てこないことになるのではないかと思われます。このような場合について,丙案による場合に,本当にそう考えるのか,それとも,何か別の解決の可能性があると考えるのかという点を確認させていただければと思いますが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 丙案は,(3)については乙案に一番なじみそうに思ったのですけれども。 ○山野目幹事 (1)で仮に言われている丙案を採用した場合に,部会長が御示唆になったように(3)で乙案を採ることが十分にあり得ますし,それが最も親和的であるとも感じます。しかしながら,付言いたしますと,(3)の丙案と組み合わせることも成り立たないことはないであろうと考えるものでありまして,それは潮見幹事が再々,強調なさっておられるとおり,丙案は信義則を根拠とするものでありますから,(1)の丙案において給付保持力を認めるときに,論理の形式的な適用としては時効完成後に援用した者が,その後に弁済をすると,もう給付保持力が100%,機械的に働くように見えますし,特段の事情がなければそうなるものでありましょうけれども,しかし,それとても弁済をした人の無思慮や無経験に乗じて弁済がされたと認められるような特段の事情があるときには,その給付保持力の機械的な適用を否定するためにも,信義則が働き得る余地はあるものと考えますから,(1)の丙案と(3)の丙案の結び付きというものも論理的に切断されていないものと考えます。 ○山本(敬)幹事 余り理論的なことを詰めすぎるとおかしくなることは私も承知しているつもりではあるのですが,時効を知らずに弁済してしまった場合には,時効を援用してもよいというような言い方では,履行請求権の拒絶しか効果は出てきませんので,払ったものを返せというのは出てこないことになります。だから,もう一つ,何か説明は要るけれども,しかし,そこは信義則で解決可能だという御趣旨なのでしょうか。 ○山野目幹事 そのとおりでございます。 ○道垣内幹事 高須幹事が「忘れられた修正案」とおっしゃったので,一言,申し上げておきますと,私は高須幹事のおっしゃっていることにほぼ賛成です。時効の効果のいろいろな議論とは無関係に,昭和41年の最高裁判決の理解がなかなか一様ではございませんで,先ほど一部弁済の話が出ましたが,100万を債権者が請求しているときに,10万しか残債務はないはずだとの認識の下で10万円を払ったのではないか,そうすると,そのときに90万円分についても時効が援用できなくなるのかなど,理解の上での問題点が様々に存在します。そうなりますと,基本的には債権者に対してもはや時効の援用はないという信頼を与えたということを基礎に作っていくべきであり,甲案を基本とすべきだと思います。そして,高須幹事の修正案におけるただし書というのは,まさに債務者の行為が債権者の信頼を引き起こすようなものではなかったという例外を置こうとするもので,妥当だと思います。そこで,こういった方向,すなわち高須修正案のような方向で考えていくということも十分にあり得るのではないかということを申し上げたいと思います。 ○深山幹事 私も,高須案と道垣内先生の見解を応援したいんですが,問題意識は従来から出ているのと同じで,最後に道垣内先生が正におっしゃったように,債権者においてもはや債務者がこの期に及んで時効を援用することはないだろうということを正当に期待した場合に,それを保護するというところに,いろいろな読み方があると言われる41年判決のポイントがあるように私自身は思っていまして,そういう目で見ると,高須案のただし書というのは,今,御指摘のあったように,これは債権者がそんなことを期待するような状況ではない一つの場面だと思います。   ですから,このただし書自体は全く賛成なんですが,では,これに尽きるかというと,逆に拒絶できる場合がどんな場合か想定すると,例えば債務者がいかにも債務は履行しますよということを前提に行動していて,もはや債権者において時効が援用されることはないと期待したような場合というのは,いろいろなバリエーションがあるんだと思うんですね。つまり,信義則で仕切るにしても,信義則上,援用権を認めるべき場合と,信義則上,認めるべきでない場合と,両方が出てくるわけで,そうなりますと,条文の作り方としては,表現はともかくとして,考え方としては更に高須案をより前進させて,債権者においてもはや時効の利益を主張されることがないことを正当に期待したときというような趣旨のことを規定するなど,ちょっと思い付きなので表現はこなれていませんが,そういうふうにもう少し抽象化をしてもよろしいのではないかと思います。   ワーディングが難しくなると,丙案を採用し,解釈や信義則の適用に委ねましょうとなりがちなんですが,しかし,ここまで議論があり,判例も積み重なっている中で何も規定しないというのは,余りに消極的だと思いますので,私も甲案の修正案の方向で検討していただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○中田委員 細かい補足的なことを二点申し上げます。(3)について甲案あるいはその修正案を採る場合に,その後,再度の時効の進行というのがあるのかどうかを考えておく必要があると思います。中断のように構成するかどうかという点です。   それから,(1)について山野目先生の新たな提案を軸に検討されていて,これは乙案のバリエーションかなという気もするんですけれども,もう一つ,松本委員が最初のころにおっしゃったような,甲案のバリエーションもあるかと思います。確か甲案を採った上で,明文で援用後の弁済の効果を認めると規律すればいいではないかということをおっしゃったように思うんですが,そういう甲案のバリエーションを採った場合に,(2)(3)はどうなるかという方向の検討も併せてすればいいのではないかと思います。 ○岡田委員 (3)なんですが,この甲,乙,丙しかないと考えまして,甲や乙は困るなということで丙と発言致しましたが,高須素案の意見が出てくるのであれば,そちらのほうが消費者相談特に多重債務者の相談を受ける立場からすると,適切と思います。具体的な相談事例を見ますと,債務者は時効になっているということはほとんど知らないのです。突然,時効間際ないしは時効が過ぎてしまってからがんがん言ってきて,有り金を幾らでもいいから渡せという形で取っていったような場合も時効は援用できないという形になっているのが大方の例です。丙案の特段の規定を設けないということは今と変わらないというか,先送りになってしまうのではないかと思われます。高須幹事の御意見が通るのであれば,そちらに賛成します。   それから,どこかの資料で見たのですが,下級審で平成に入ってから,結構,具体的な事情に鑑みてという形で判例と異なるような判決も出ていると有りました。甲,乙,丙以外の案があってもいいのではないかと思います。 ○松本委員 山野目幹事の(1)の第3案,丙案がかなり有力な議論の対象としてなっているようなので,もう少し明らかにしていただきたいということです。内田委員,それから中田委員がいみじくもおっしゃったように,乙案とどこが違うんだろうかというところでありまして,構造的には債権者が請求してきた場合に抗弁として言う内容が,甲案だと時効期間が満了して債権が消滅していると,乙案だと履行拒絶権を行使するということになるんですか。それに対して,山野目幹事の丙案だと援用されると履行を請求できなくなるということなんですが,請求できないということが一体,実体法的にどういう意味を持っているのか……。 ○鎌田部会長 それは正に解釈の問題。 ○松本委員 ということがよく分からないので,そこを解釈に委ねましょうというのでは,こういう趣旨だということをはっきりした上で立法しないと,ちょっと困ったことになるのではないかなと思うんですが。 ○鎌田部会長 そこは,最初に,それを今,この場で決めてしまうほど議論は熟していないという前提を採られた上で……。 ○松本委員 正に熟していないわけで,請求できないというのは権利がないからなのか,何かほかに障害事由があるからなのか,いろいろありますよね。 ○山野目幹事 今,部会長と松本委員がうなずきあっておられましたが,お二人は異なることを言っていて,熟していないということの意味は,私が客観的な問題状況が熟していないということを述べていることを部会長が確認していただいたものでありまして,それに対し松本委員がおっしゃっていることは私の議論が熟していないとおっしゃっているものと聞こえますが,私の議論が決して熟していないものではなくて,その点についての現在の理論状況の深化が十分でないから,立法で決め付けて書き込むことは控えましょうということを申し上げています。   今,松本委員のお尋ねに触発されて二つのことを申し上げます。  一つは立法の在り方の問題ですけれども,国民に分かりやすい民法を作ろうとしているのであって,議論されたことは規定に落としていきましょうということは基本姿勢であるべきであるとは考えますが,同時に私があるとき,いみじくも時効の問題の専門家でいらっしゃる金山直樹先生が別の問題でお書きになったものを読んだことがありまして(金融・商事判例1264号),そこに,立法をするときには震える手でしなさいというアドバイスが登場します。これはフランスで言われている立法者への戒めであって,何でも議論したものは決め付けて書き込めばいいというものではないということも含意するものでありましょう。ややそのような視点から議論を見つめなければいけないという事柄もあるのではないでしょうか。   もう一つ,松本委員のお尋ねには実際上のこともございましたけれども,私が申し上げた丙案において,弁済請求を受けた債務者は,裁判外で又は裁判上,時効を援用する旨の意思表示をするということになります。被告が訴訟において権利抗弁を提出するのではありません。時効の援用の意思表示をしたことが一個の主要事実として取り扱われるということは,現在の訴訟実務と同じでありまして,裁判外でしていた時効援用の意思表示を弁論において主張しても構いませんし,訴訟が提起された給付訴訟の被告の立場として,弁論において時効の援用の意思表示をしても構いませんが,それらがなされて時効の要件が充たされているときには,給付訴訟に係る請求が棄却されるという判決がなされることになりまして,以上,申し上げた点は現在の実務と全く異ならないものでございます。 ○岡本委員 ちょっと戻って申し訳ないんですけれども,先ほどの高須幹事の御提案について,特に賛成とか,反対とかということではないんですが,若干,気になった点があったものですから申し上げたいと思うんですけれども,時効制度の存在理由をどう考えるかということとも関連すると思うんですけれども,弁済者を二重弁済の危険から保護するんだと考えるんだとすると,時効期間が満了したので,満了した事実を知らないからといって,弁済していない債務者であれば,本来,弁済するのは当たり前であって,そこでもって債権者が請求するのが悪いかというと,必ずしも悪いわけでもないような気もいたします。そういうところもあるものですから,時効制度の存在理由との関係で,もうちょっと考える必要があるのかなというふうな気がいたしました。 ○高須幹事 今の岡本委員の御指摘については,正にそのような部分は確かにあると思います。私も全く駄目とか,ともかく広く援用権の喪失を制限するとまで申し上げているわけではなくて,正当な理由のようなもので,どこかでバランスを取っていくべきではないかと。そのためには甲案で書き切ってしまうと,少しバランスを欠くのではないかということだと思っておりますので,その点を考えていきたいと思っております。 ○鎌田部会長 法定追認の場合と似たような問題もあるので,それらと対比しながら検討させていただければと思います。 ○松本委員 山野目幹事の御説明は大体分かりました。現状の理論的にそれほど透明でない援用の状況をそのままで日本語に書き下ろせば丙案になるという御趣旨だと思います。そういう意味で,何か積極的に変えるという趣旨ではないんだと,現状のまま,ただし,文言は変えると。条文は変えて,現状の曖昧な状態をより忠実に表現した場合はこうなるのではないかという御趣旨だと思います。それはそれで分かりました。   もう一点,立法するときは震える手でやるべきだというのも,正にそのとおりだと思うのです。そういう意味では,理論的にはやや批判される部分はあるけれども,それなりに安定している条文であればいじらないというのも,やはり震える手の一部ではないかなと思いますので,その辺は多少震えていても,これぐらいならいいではないかという形で,現状をより忠実に表す方向に書き直すという方針でいくのか,それとも,この程度の論理的にやや不透明だけれども,それなりにうまく動いているというところであればあえて変えない,変えたことによる別の副作用のほうが大きいということでなければ変えないという決断もあるのではないかという一般論でございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   当初の予定の倍以上の時間を使うことになってしまいましたが,いろいろと新しい御提案も頂戴しましたので,それらを踏まえて事務当局で再度,整理させていただきます。少し細かいところで分科会での審議にお回ししなければいけない部分も出てくるかもしれませんけれども,それは休憩時間に考えさせていただきます。   便宜,次に進ませていただきます。部会資料31の「第1 消滅時効」のうち,「4 形成権の期間制限」と,「5 その他」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○亀井関係官 御説明いたします。   「4 形成権の期間制限」では,形成権の期間制限に関して,甲案は形成権一般を対象として変容等の要否や期間の起算点と長さなどについて,期間制限の原則的な規定を設けるとするものであり,乙案は取消権や解除権を対象として期間制限に関する原則的な規定を設けるものです。また,丙案は形成権の期間制限に関する原則的な規定は設けないことを提案しています。   「5 その他」,「(1)その他の財産権の消滅時効」では,債権又は所有権以外の財産権の消滅時効について定める民法第167条第2項について,債権についての原則的な時効期間の見直しにかかわらず,行使することができるときから20年という規律を維持することを提案しています。「(2)取得時効への影響」では,消滅時効を対象として時効障害事由や時効の効果に関する検討を進めた後に,それを取得時効にも適用があるものとするかどうかについて検討することを提案しています。   以上に御説明した論点については,いずれも分科会で補充的に議論することが考えられると思いますので,その可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。 ○筒井幹事 本日御欠席の安永委員から,「4 形成権の期間制限」に関する発言メモが事前に提出されていますので,読み上げる形で紹介いたします。   形成権の期間制限については,「原則的な規定は設けないものとする」丙案の採用を求めます。形成権の行使を認めるべき期間は,形成権の種類によって大きく異なります。例えば,労働の分野では,懲戒権は形成権の一種と解されますが,懲戒権は,懲戒事由に該当する事実が発生した後,信義則上,適正手続に必要な時間経過後は速やかに行使すべきとされており,権利行使の可能な期間は極めて短くなっています。また,解雇権も,解雇事由に該当する事実が発生した後,解雇決定後は速やかに行使すべきとされています。   一方,配転命令権については,それが契約内容になり行使し得る時点から長期間にわたって行使することが想定されており,機械的な「期間制限」にはなじまないように思われます。形成権全部について,期間制限として統一的な原則を定めるのは困難です。形成権の期間制限については,各形成権及び事案ごとに個別の解釈に委ねられるべきであると考えます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○佐藤関係官 私も形成権の期間制限につきまして,安永委員と似たような問題意識を持っております。安永委員の資料にも書かれておられますように,形成権の行使を認めるべき期間は,形成権の種類によって大きく異なってくると。例えば金融の世界におきましては,新株予約権ですとか,あるいは予約完結権であるといったように,権利の性質自体といいましょうか,それ自体から当事者が期間制限を設定するということが必要であり,あるいは,通常,予定されているものが多数ございます。その中で,統一的な期間制限を設けた場合には,いろいろな金融取引あるいは複雑な金融商品の組成といったことにも,予想外の悪影響が生ずる可能性がございます。ということで,私も甲案には反対で,個別の権利ごとに期間制限を定める乙案か,丙案が適当ではないかと考えております。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はございますか。 ○山川幹事 私も今のお二方の御意見に賛成で,民法でも例えば,専門分野外で,そもそもここでの形成権と考えるかという問題もありそうですけれども,617条の賃貸借の解約,それから,651条の委任契約の解約のような場合,つまり,いつでも権利を行使できるような場合にどう考えるかという問題があり,あと,627条の雇用契約の解約も,契約自体によって解約権が発生するということになりますので,なかなか形成権一般ということでは考えづらいのかなという感じがしております。懲戒については権利濫用の問題で対処するということも可能かとは思いますけれども,そのほかにもいろいろ問題がありそうな感じがしております。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○岡委員 弁護士会の意見を御紹介申し上げます。結構割れました。丙案が一番多くございましたけれども,予想外に甲案を支持する意見もございました。迷惑を掛けない程度に最小限のルールを作ることは可能ではないか。特に②について可能ではないかという意見がありまして,甲案も相応にありました。乙案の支持も少数ではありましたけれども,ございました。 ○佐成委員 経済界の議論状況について御紹介しておきますと,甲案への支持はほとんどございませんでした。乙案ないし丙案については,一番多かったのは丙案を支持するということで,特に保険業界では保険法の重大事由解除への悪影響を懸念する声があったと,そういうことでございます。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はいかがでしょうか。   この点については先ほどの事務当局からの御提案で,仮に甲案又は乙案というようなものが採用されるとしたら,どういうメリット,デメリットがあるかを分科会で検討していただくということでした。甲案,乙案の支持者がいなければ,その作業も要らないということになるんですが,少数ではあるけれども,これを支持するという御見解があるところでございますので,形成権の内容も多様ですから,少し分科会で検討をしていただいて,それを踏まえて,更にこの場で審議をさせていただくということにしたいと思いますが,よろしいでしょうか。   その他の財産権の消滅時効につきましても,分科会での補充的な議論にお願してはどうかというのが事務当局からの御提案ではございますが,この場で特に御発言があれば承った上で,分科会に補充的な議論をしてもらいたいと思いますけれども,御意見はございますでしょうか。よろしいですか。 ○潮見幹事 多分,分科会長が同じような趣旨のことを御提案しそうですので,松岡委員からどうぞ。 ○松岡委員 譲り合いをしていてもしようがないので,私から申し上げます。方針がこの場ではほとんど決まらず,新しい議論も出ない場合に,補充的に分科会で議論せよと御提案をされましても,一体,何を引き受けて,何を議論すればいいのかイメージが全く湧きません。何かお考えがあればお聞かせいただかないと,方針が立たないと思います。潮見さんの発言もそういう方向ですか。 ○潮見幹事 全く同じです。 ○鎌田部会長 「(1)その他の財産権の消滅時効」のほうですけれども,現在,このような提案がされていますけれども,これで本当に大丈夫なのか,何か見落としていることはないのだろうかという,こういう一抹の不安について御検討いただきたいということでございます。「(2)取得時効への影響」のほうは,正にそこに書いてありますように,債権の消滅時効自体について内容がもうちょっと詰まってこないと議論のできないことなので,債権の消滅時効に関する議論の進展に合わせて,それが取得時効についてどんな影響があるかということの検証を,これは追ってしていただくということになるかと思います。そういう意味では,やや技術的な部分での検証の作業をしていただくという作業内容になろうかと思いますけれども,よろしいでしょうか。 ○中井委員 ちょっと戻るんですけれども,先ほどの35の効果の(2)の債務者以外の者に対する効果(援用権者)のところですけれども,確か山本敬三幹事と,もうお一方からお話があったかと思いますけれども,この範囲について判例上,保証人,物上保証人,抵当不動産の第三取得者等をどのように表現するかということで,時効により直接利益を受ける者という基準では必ずしも少し狭過ぎるのではないか。では,少し広げましょうということで,この検討事項では例えば法律上の正当な利害関係という言葉が挙がっている。でも,これについては緩やか過ぎて,どこまでいってしまうのかという不安がある。   ここで,いずれかの言葉,こういう抽象的な言葉で決めなければならないのではないかというような趣旨の発言があったのではないかと思いますけれども,こういう民法の立法作業において,例示というのがどういう意味を持つのかをよく理解できていないところがありまして,例えば保証人,物上保証人,抵当不動産の第三取得者等,その他法律上の正当な利害関係を有する者という,こういう例示的なものは他の法律ではあるのかもしれませんけれども,民法では余り見ていないものではないかとも思うんです。例えばですけれども,そういう例示の仕方も含めて限定するということは考えられないのか。   また,暴利行為のところでそうですけれども,高須幹事の今回の御提案の中でも,ただし書のところで債務者の軽率,知識の不足,無経験,この後ろに「等」を入れるかどうかというのがまた一つの問題ではないかと思うんですけれども,こういう「等」を入れるという立法技術の当否というあたりについて,どこで議論するのが適当か,分かりませんけれども,先ほどの(2)の援用権者の範囲のところの定め方との関連性等においても,是非,御検討いただけないか。ほかのところでもたくさんあると思いますが,こういう例示をしたらどうか,若しくは全てを列挙したらどうかという議論は必ず起こる。また,例示が不適切なら抽象的概念でとなり,しかし,抽象的概念であれば分かりにくさを伴うし,範囲を画する基準としても不正確になりかねない。その辺のメリット,デメリットがあるんだろうと思います。そういう検討もどこかの場所,若しくは分科会でできるのなら,御検討いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 最終的な法律文の確定については法制局との関係等もあって,事務当局での整理ということになると思いますけれども,どの程度,具体的な例示を伴うことによって範囲を明確にするのが妥当なのかという,そういう検討は主として分科会での議論でお願いをしたいなと思っている項目のうちの重要なものだと考えておりますので,それは先ほどの3の(2)について分科会での補充的な議論をお願いするときには,その点を含めて検討していただき,御提案を部会にお戻しいただくということにしたいと考えます。 ○松本委員 5の(1)の点ですが,この部会は債権を中心に議論するわけで,そのうちの債権の消滅時効を検討したから,ついでにその他の財産権もということなんでしょうが,その他の財産権の消滅時効というと,民法上だと用益物権か担保物権,それから,家族法上の財産的な請求権というのが入ってくるだろう。形成権は外してしまいましたから,あとは会社法上の権利とか,そういう非常に各論的なものですから,ここで議論するにはなじまないと思います。それぞれの権利についてどうなのかということをきちんと議論しない限り,答えが出てこないだろうと思いますから,ここはこれらを維持するということを積極的に決めるわけではなくて,検討の対象の外であるということでいいのではないかと考えます。ただ,(2)の取得時効への影響と同じように,時効総則が変わることによって,その他の財産権について不都合が生ずるような可能性がないかの部分だけのチェックをしていただければいいと思いますから,そういう意味ではすぐに検討はできなくて,全体が終わった後での精査だろうと思います。 ○鎌田部会長 (2)のほうはそうなると思いますけれども,(1)については基本的な考え方を,つまり,債権について消滅時効期間その他が動くことが必然的にその他の財産権にどんな影響を与えるかということについて,松本委員がおっしゃられたように,だからといって,債権以外の全ての権利について全部拾い上げていって精査するというよりも,現にその他の財産権の消滅時効に関する民法の規定があるわけですから,それに必然的に変更を生じさせなければいけないかどうかという点を,御検討いただきたい。我々もそれは余り必要ないだろうと思っているけれども,何か見落としている問題点がありはしないかというようなことについて,御検討いただければということを考えている次第でございます。 ○潮見幹事 第2分科会のほうに,どういう内容がどこまで委託されているのかという点で,一点だけ確認をお願いしたいところがあります。ちょっと前に中井委員から発言があったところに関わるのですが,3の(2)の援用権者のところで,催告構成を採るという考え方が紹介されているのですが,先ほど,中井委員が確認されたように,この構成は今回の審議会では支持をされる方はいないということでした。第2分科会で個別具体的な内容や,関連することを検討する際に,催告構成というものは視野の外に置いて細部の検討をしていけばよいということでしょうか。 ○鎌田部会長 今,お手元に分科会論点候補(案)の紙を配ってございますが,ここでは第1の3の(2)についてはお願いする事項の中に入れていないんですけれども,先ほど,野村委員からの御提案を受けて山本敬三幹事からも御指摘があったんですけれども,甲案を採った場合であっても援用権者の範囲を明示するとしたら,どう,それを記述することが最も適切なのか。この点については分科会で御検討いただいてはいかがかというふうな御提案がありましたので,その点について分科会での御審議をお願いしようかなと,今,考えているところでございます。 ○潮見幹事 3の「その他」の部分に,今,私が確認したようなものは入っていないということですね。 ○鎌田部会長 はい。 ○潮見幹事 どうもありがとうございます。 ○鎌田部会長 今の点は分科会にお願いするということでよろしいですね。先ほどは休憩時間に事務局で検討すると申し上げましたが,時効援用権者の範囲を明示する規定を設けるものとしてはどうか,その規定はいかにあるべきかという点は,分科会で補充的な議論をお願いするということにしたいと思います。 ○松岡委員 分科会では,法技術的なことを中心に検討するのが基本になっていると了解していますので,ここで発言しておかないと議論できなくなるのではないかと思う問題があります。時効援用できる権利者の中で,特に議論があって判例の見解に対しても異論があるのは後順位の担保権者です。後順位担保権者には独自の時効援用権はない一方,所有権の第三取得者には援用権がある,というのが判例です。しかし,考えてみますと,例えば譲渡担保で取得した者がいる場合に,判例のように権利移転構成ですと第三取得者扱いになりますが,判例も最近は担保権的構成に相当歩み寄っていると言われ,かつ学説は担保権的構成がほぼ通説化していますので,それによれば譲渡担保権者は後順位担保権の扱いになりまして,結論が180度,異なることになります。   その不整合を一体,どう考えたらいいのかは,長年,私も頭を痛めているところですが,こういう問題は,判例を単に定式化することにとどまらない議論になります。分科会でどこまで議論させていただいてよろしいか,あるいはそういう問題は先に審議会の場で出しておかないと分科会では,結論をかなり変えるようなことを議論するのは困ることになるのでしょうか。その扱いが少し気になります。 ○筒井幹事 ただいまの松岡委員の御発言は,分科会長自らの重要な問題提起であると受け止めたいと思います。分科会の審議の進め方自体が,まだ試行錯誤の段階にあります。基本的には,部会での議論を受けて,更に補充的な審議を続ける中で,問題点の有無などを更に掘り下げて検討することが期待されており,その際に新たな積極的な提案がもし出てくるのであれば,それももちろん歓迎されるのですけれども,必ずしも何らかの一致点を目指すものではない。こういった辺りの理解が大方のコンセンサスとなって,現在,分科会での審議が始まっているのだと思います。それを更に実践の中でどのように進めていくかは,それぞれの分科会で御議論いただきたいと思います。必要に応じて部会に早目にフィードバックしていただくこともあり得るかもしれませんけれども,基本的には今後,実際に議論を進めながら,それぞれの分科会で工夫していただければと考えております。 ○鎌田部会長 ここの部会で基本的な方針が決まっていて,それを最も的確に書き表すにはどうしたらいいかということの御検討をお願いするというのが,一番技術的な検討のお願いになると思うんですけれども,これまで分科会で御議論をお願いしたものの中では,そういうものを超えている課題がかなり多くて,むしろ,分科会での御議論を通じて,こういう問題点があって,これにはこういう考え方とこういう考え方がありますよということを明示していただくことが必要なものが少なくないと思いますので,今,松岡委員が具体的に挙げられたような問題につきましても,こういう問題があって,それについてはこのような考え方とこのような考え方が成り立ち得る。そのどちらを取るかは部会できっちり議論して決めてくれという,そういう提案の仕方になって出てこざるを得ないし,そうしていただくことがまた部会での議論を深めることになるのだろうと思いますので,御苦労ではありますけれども,よろしく御検討をお願いしたいと思います。 ○松本委員 今の点との関係なんですが,かなり担保物権法の話に突っ込んでいくわけです。それをここで,しかも一分科会である程度の結論まで出してもらうのがいいのかというと,私は余り適切ではないと思います。ただ,援用権者の範囲に入ってくる可能性のある者としては,こういう人がいますという点は十分議論していただいて,それを条文に書き表すとすれば,例えばこういう書き表し方がありますという,先ほど,どこまで列挙して,どこを一般でくくるんですかという議論がありましたから,その辺を中心にやっていただく。今,おっしゃったような譲渡担保の構成をここで決めてしまうような議論にまでいかないで,もし,そういうところに突っ込むのであれば,そういう問題があるということは皆さんに注意喚起した上で,条文の中にははっきりと盛り込まないような形で文案を考えていただくほうが,この部会の守備範囲としては適切なのではないかと思います。 ○鎌田部会長 それは問題の性質によると思うので,譲渡担保の法的性質について決めなくても対応できるような形もあるし,そこは全く解釈に委ねる形で処理する方法もあり得て,その上でここの部会の権限の範囲内でどこまで対応できるかということを考慮しなければいけないという点は,松本委員のおっしゃったとおりだと思います。よろしいでしょうか。   それでは,誠に恐縮ですが,ここで休憩を取らせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開いたします。   続きまして,部会資料31の「第2 債権の目的」のうち,「1 債権の目的(民法第399条)」と,「2 特定物の引渡しの場合の注意義務(民法第400条)」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○新井関係官 それでは,御説明いたします。   「第2 債権の目的」,「1 債権の目的(民法第399条)」では,債権の目的につき,金銭による評価可能性を要しないとする民法第399条の削除の要否について御審議いただきたいと思います。   「2 特定物の引渡しの場合の注意義務(民法第400条)」,「(1)特定物の引渡しの場合の注意義務」では,民法400条の規定の要否のほか,保存義務の内容は契約及び目的物の性質に従って定まる旨を明示した規定に改めるとの提案を取り上げております。「(2)贈与者の保存義務の特則」については,贈与者は目的物につき,自己の財産に対するのと同一の注意をもって保存すべき旨の規定を設けるとの提案を取り上げておりますので,御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○佐成委員 一読のときに私は甲案といいますか,削除してもいいのではないかという発言をしたかと思いますが,もし,実際に存在意義があるのであれば,特にその点はこだわりません。存在意義はないだろうという判断で一読では申し上げましが,二読としては乙案も十分にあり得ると考えております。 ○潮見幹事 第2の債権の目的の1と2について発言してよいのですか。 ○鎌田部会長 はい,1と2です。 ○潮見幹事 1のほうは削除でいいのではないかと思います。金銭に見積もることができないということで想定されているのは,専ら知的労働に関する為す債務であって,立法者も,教師だとか,医者だとか,弁護士の労務といったものを挙げていますが,これらは今では金銭により評価が可能であるということについては,異論はないようです。   また,399条絡みでは祖先の念仏供養をする契約や,遺骨の保管を目的とする契約というのも挙げられるのですが,これらはむしろ法的拘束力のある契約が締結されたかどうかという点が争点をなしているケースであって,399条の問題ではありませんので,399条については甲案で削除がいいと思います。   それから,2の(1)の特定物の引渡しの場合の注意義務については,基本的には乙案でよろしいのではないかと思います。以前に発言したことの繰り返しになりますけれども,400条には二つのことが書かれていて,一つは特定物債務者が目的物の保存義務を負うということだと,もう一つは保存義務の程度が善良な管理者の注意だということです。   このうちの目的物の保存義務を負うということについては,規定として維持すべきではあると思います。他方,保存義務の程度が善良な管理者の注意であるとされている点については,その言葉自体が一般的には分かりにくいということであるばかりか,保存に必要な注意の程度が一体何によって決まるのかということが明確でありませんので,そういう意味では,基本的には乙案のような形で考えるのがいいのではないかと思っております。   ただ,基本的にはと申し上げたのは,乙案で,「債務者は契約及び目的物の性質に従って定まる方法により」と書いている部分の意図が分からないからです。「契約」はいいんですが,「目的物の性質に従って定まる方法により」ということでは,何をここで想定しているのでしょう。法定債権の場面でしょうか。そうであれば,事務局にお尋ねするのがいいかどうか分からないのですが,この先の議論にも関わることですけれども,この先,契約上の債権,債務というものを対象として,議論していいのか,それとも,いわゆる法定の債権というものも想定して議論しなければいけないのでしょうか。   乙案の「目的物の性質に従って」と書いた意図が,契約上の債権を想定した文脈で,なお,目的物の性質に従って定まるということを入れたいという趣旨であれば,これは余分ではないかと思います。むしろ,契約上の債権関係における保存義務の場合には,目的物の性質ということは,契約に従って,あるいは契約の趣旨に従って定まる方法という中に組み込まれることになりますから,あえて,これを独立にこのような形で挙げるということについては,若干,違和感を覚えます。   他方,「目的物の性質に従って」というのは,法定の債権を想定して書いているのだということであれば,法定の債権における保存義務の場合に,目的物の性質が基準となって保存義務の程度が決まるというのは,正当化するのが難しいと思います。要するに,基本的には乙案の方向でもよいのですが,なお,審議の対象と,それから,審議の対象が決まった場合のワーディングということに関して,詰めていただければと思います。 ○能見委員 1のほうなんですけれども,私は今までの議論の経緯をフォローしていませんので,あるいは既に議論され,かつ,否定されたことかもしれませんけれども,結論はどちらかといえば,私としては残したらどうかと思っております。その理由はちょっとからめ手からの議論なんですが,ここは債権の目的ということですから,今,潮見教授も言われましたように,物の引渡しの場合だけでなくて,一定の行為であるとか,不作為であるとか,いろいろなものが本来,債権の目的として考えられるはずです。にもかかわらず,ここにある399条以下というのは,幾つか例外はありますが,ほとんどが物の引渡しを債務の目的とする場合のことばかり書いてあって,本来,債権の目的であれば,いろいろな債権の目的があることを念頭に置いた規定があったほうがいいのではないかという気がしております。そういう意味で,この399条が辛うじてそういう意味を持ち得るので,こういう形の条文がいいかどうかは別として,この条文を残しておくことによって,それが債権の目的に関する総則的な規定としての意味を持ち得るのではないかと思います。できれば,債権の目的として物の引渡を目的とする債務だけでなく,ほかの内容を目的とする債務ついても適用されるような,何か原則的な規定というのがあれば,そういうものを本当はここに置いたほうがいいのではないかという意見を持っております。 ○岡田委員 1のほうは乙案で,債権ということ自体がイメージとして一般の人には分かりにくいように思います。まだ,物権のほうが物に関してという感じで分かるのですが,この条文は残していただきたいと思います。   それから,2ですが,私は乙案で善管義務よりは乙のほうがより分かりやすいと思いまして,ただ,潮見幹事もおっしゃいましたけれども,定まる方法という言葉が入ったことによって理解しにくくなっているではないかと思います。 ○新井関係官 先ほど潮見幹事から御指摘いただいた点についてですけれども,乙案というのは基本的には契約の中身等を踏まえて保存義務の内容を決めていくという考え方であろうと思います。基本的に乙案というの検討委員会試案を踏まえて提案したものでございますけれども,私の理解では契約というのと,目的物の性質というのを挙げているのは,ある意味,補充的に目的物の性質もしんしゃくしながら保存義務の内容を特定していくという考え方であろうと理解しています。もちろん,両者の関係という点について,潮見幹事から御指摘のあったところも理解できるところでございます。それと,契約中心に考えていったときに,法定債権についてどうかという御指摘もあったかと思いますけれども,そこは併せて考えていかなければいけないところであろうと考えておりまして,部会資料の中では補足説明の中で46ページの5のところで,その旨の問題提起もさせていただいておりますので,この点についても御意見を頂ければと思っております。 ○潮見幹事 ほかのところにも関わることなので,先ほどの399条存置論なのですが,399条を存置するというのは,債権は金銭に見積もることができないものであっても目的とすることができるという規定を残すということです。このことと,債権編の冒頭に「債権は物以外の役務なども対象とすることができる」という規定を積極的に設けるべきであるというのは,ちょっと意味合いが違うのではないでしょうか。先ほどの399条存置論は,存置論ではなく,後者の意味,すなわち,能見委員がおっしゃったような内容の一般的規定を置くという提案として受け取るべきではなかろうかと思います。   もう一つ確認なのですが,この先,部会で,今日,それから次回,審議をする際に法定の債権関係に関する問題も,一緒に扱うということでよろしいのでしょうか。このことは,今日,あるいは次回に回るかもしれないところで,かなり重みを持って出てくるところですので,そこだけ確認させていただければと思います。 ○筒井幹事 本日から取り扱う一連の論点では,契約に基づく債権のみを対象とする規定を設けるのか,それとも法定債権も対象に含まれるものとして議論をするのかが問題となり得るのですが,その点については,様々な提案が部会資料の中でも取り上げられていますので,契約に基づく債権に対象を絞った規定を設けるべきであるという議論も排除されていないし,法定債権をも対象とする債権総則的な規定を維持するという提案も,もちろん排除されていないということだと思います。その点について,入口で決着をつけてから中身に入るという議論の進め方は,実際上困難であろうと思いますので,先ほど潮見幹事から御指摘があったような問題意識を持ちながら,個別の論点について検討を進めていくことでよいのではないかと思っております。 ○松本委員 今,筒井幹事がおっしゃった入口を決めないでということなんですが,契約上発生した債権の総論として整理し直すのか,それとも,従来どおりの債権総論としての性質を変えないのかというのは極めて重要な話です。そこは決めないで議論するという。しかし,ここに出てくる条文,特に乙案というのは正に契約上の債務の総論として整理をするという立場に立っており,そうでない立場の案が必ずしも出ていないわけです。だから,本当にいろいろな可能性を残すということであれば,46ページの5に書いてあるような契約を原因としない場合の規定についても,併せて載せるような案をもう一つ出さないと,適切な議論にはならないのではないかと思います。   同条を維持するとか,あるいは同条を削除するとかいった,甲案とか丙案はどっちにも転ぶかもしれないですが,乙案は明らかに一つの立場を採っているわけなので,そういう点で少し問題の出し方が一方に偏り過ぎているのではないかと思います。5の部分を乙案の中に組み込んだ案を乙案とするか,あるいは乙案の1と乙案の2という形で,契約債権のみに特化したものと両者を合わせたものというのを出していただいたほうがいいのではないかと思います。 ○筒井幹事 契約に基づく債権を対象とした規定を設けるという提案についての議論をする際に,その場合の法定債権の規律を一つ一つ個別に検討するという進め方もあり得るかもしれません。ただ,第1ステージにおいても,主に契約に基づく債権に適用される規定を設けた場合における法定債権への影響と言いますか,法定債権を対象とする一定の規律が必要となるかどうかについては,一巡目の議論の最後のほうでまとめて議論するという審議の進め方をいたしましたので,差し当たりそれを踏襲することを考えております。ただ,個々の論点において,先ほど御指摘がありましたところでいえば,特定物の引渡しの注意義務に関する乙案を採る場合に,では法定債権はどうなるのかということについて,それぞれのところでも御議論いただくのは有益であるとは思うのですが,部会資料の作成上の整理としては,先ほど申し上げたようにしているわけです。 ○道垣内幹事 2の(1)について申します。前回,恐らく「善良な管理者の注意」というのは,民法全体の原則規定であって,別にここで何か特別なことを定めているわけではないという発言をしたという気がいたします。その立場からしますと,個人的には甲案でいいのではないかと思っています。   しかしながら,ここでは,乙案を採ろうというときの一つの問題点を指摘しておきたいと思います。今後,例えば委任契約とか,様々なところが議論の対象になるわけであって,例えば委任において「善良な管理者の注意」という概念が出てくるとしますと,その条文によって定まる受任者の注意義務基準は契約と離れて決まるのかというともちろんそうではなくて,契約及び委任事務の性質に従って正に決まるわけです。受任者の義務について,「善良な管理者の注意」としましても,それはそういうふうなものであると理解すべきだとうと思います。また,「善良な管理者の注意」という言葉は民法以外の様々なところにも存在していて,それらについても当該契約及び当該契約でしようとしていることの趣旨に従って,どのような注意義務になるのかというのが具体的に決まってくるのだろうと思います。   そのようなことからしますと,ここで,乙案を採るに当たって,「善良な管理者の注意」という言葉を使うと,具体的な契約ごとに考えるのではなく一律であるかのように見える,あるいは契約の趣旨に従った解釈になるということが分かりにくいという立場を採りますと,いろいろなところを全部を変えなければならなくなるのではないかという気がします。したがって,仮に保存に関しての何らかのデフォルトルールを置くというのならば,「善良な管理者の注意」という言葉は,なお存続させる意味があるのではないかという気がいたします。ただ,個人的には補足説明の1のところに書いてあるとおりの理由で,甲案でよいのではないかと思うのですが,乙案を採ったときの内在的な問題点として,検討しておくべき事柄ではないかと思って発言をさせていただきました。 ○岡崎幹事 デフォルトとして丙案のような善良な管理者の注意義務という文言を残すというところについて,私もそういう考え方がいいのではないかと思っております。契約の解釈等で保存義務の内容を定めるというような考え方もあると思いますけれども,実務上,出てくる事案の中で,契約の解釈では何ともならないというような事案もあると思います。そのような場合に善管注意義務に反するということで,直截に争うというような事案があるということも言えるのではないかと思っております。そういう観点から丙案のような考え方がよろしいのではないかと考えております。 ○岡委員 弁護士会の意見の御報告ですが,第2の1については両説がございます。どちらでもいいということではないんですが,両説がございます。2の(1)につきましては丙案が多数説でございまして,乙案が少数ございましたが,甲案の支持はございませんでした。2の(2)については甲案が多数説で,乙案も少数ながら支持がございました。そんな状況でございます。 ○高須幹事 1の債権の目的のところでございますが,第一読会のときに保険法3条のことを指摘させていただいて,その兼ね合いで乙案がいいのではないかという指摘をさせていただきましたので,私は今も乙案のほうがよいと考えているということでございます。ただ,頂戴した資料にも44ページの4行目あたりに出てきていますように,原則的な内容をどこまで明文化するか否かという,他の論点とのバランスとの関係でどうするかというような問題だとは確かに思いますので,最終的には全体的な調整の中で決めていただくことに私も異存はございません。 ○松本委員 2の(1)ですが,当初の民法にこういう条文が置かれていたことの理由は,恐らく一つは法定債権の場合についての基準を明らかにするということと,それから,二つ目に契約上の債権で,当事者の意思からは明らかにならないようなケースがあった場合についてのデフォルトルールとしての相場基準を立てるということ,そういうところにこの任意規定の意味があるんだと思います。乙案は正にそのとおりなんだけれども,そのとおりであれば条文化しなくても当たり前といえば当たり前で,契約の趣旨に従って債務は履行すべきだというごくごく一般論を個別に展開しているわけです。それはそのとおりなんだけれども,それではデフォルトルールとしての役割を果たせるのかということを考えると,しかも債権総論としての性質を維持するということであれば,丙案が一番無理がない。丙案は別に乙案を排除するわけではないという意味の丙案ですから,何が何でもよく分からない善管注意義務でというわけではないということは大前提とした上で,デフォルトルールとして丙案というのは十分考えられると思います。 ○中井委員 2の(1)について,弁護士会の意見は先ほど岡委員から紹介したとおり丙案支持ですけれども,その根拠とするところは岡崎幹事,今の松本委員の意見と同じでして,基本的には契約の趣旨に従って決まるだろう,しかし,契約の趣旨が明らかにならない場合が必ずあるわけで,その場合について丙案で残して,善管注意義務という基準を明らかにしておくことに意味があるのではないか。そこで,多くの弁護士会は,丙案を支持していると理解しています。 ○能見委員 私は基本的に松本委員が言われたことを支持したいと思っております。もうちょっと広い視野から見ると,やはり善管注意義務という概念は,この説明の中にも書いてありますけれども,ここだけではなくて,先ほど道垣内幹事も言われましたけれども,ほかの為す債務に関連しても使われていて,例えば信託などでも使われるんですけれども,やはり便利といいますか,それなりに重要な役割を果たしているので,そういう概念がなくなってしまうということは,いろいろな点でマイナスが大きいだろうと思います。そういう理由で残したほうがいいというのが言いたいことの一つです。もう一つは,この特定物の引渡しという場面に限って考えても,先ほど松本委員が言われたのは,善管注意義務という概念は残しつつ,そこで何を規定するかというときに,乙案の中身を併せて規定することによって,丙案と乙案の両方を採用するという考え方が採れると思いますので,それがいいのではないかと思います。 ○松岡委員 私も基本的には,松本委員,中井委員,能見委員,岡崎幹事の御意見に賛成で,善管注意義務の規定は残したほうがいいと思います。先ほどの能見委員の御指摘と絡めていうと,善管注意義務は,果たして物の保管についての義務だけの基準なのかというと,もう少し一般的なものです。債権の目的の規定は,能見委員の御指摘のとおり,やや物に特化したというか偏った印象があって,本当に総則規定になっているのか疑念があります。債務の履行の方法のためのある種の注意義務の基準を定めるというような形で規定を書き換えることはできないのでしょうか。 ○鎌田部会長 為す債務だと本体的な給付義務の履行の態様の問題であり,物の引渡債務だと引渡し以前の保管義務という,ちょっと場面が違うような感じがしますけれども,ほかにはよろしいでしょうか。先ほど道垣内幹事の2の(1)は個人的には甲案という御発言は,幹事としては甲案支持ではないということですか。 ○道垣内幹事 私は公人と私人の区別があるほどの人物ではございませんので,幹事としても甲案支持です。 ○鎌田部会長 分かりました。そうすると,1も2の(1)も,いずれも全ての案に支持する意見があるということございます。2の「(2)贈与者の保存義務の特則」につきましては,弁護士会は甲案を支持する。これは善管注意義務と自己の財産に対する注意義務と,このセットを維持するということだと思うんですけれども,ほかに(2)についての御意見はございますでしょうか。 ○道垣内幹事 (1)で甲案を支持し,その理由についてと補足説明の1とか2とかに書いてあるところを援用するという立場からしますと,(1)と(2)は全然意味が違う規定なんだと思うんですね。つまり,(1)は本来,引渡しのときに備えていなければならない性質というものがあるのであれば,保存に当たって善管注意義務を尽くしていても,ないしは乙案的な内容のものを尽くしていても,なお,債務不履行になり得るということを前提とした規定になるのに対して,(2)の意味というのは恐らくは特定物の贈与契約をした人が自己のものと同一の注意をして保存をしていて,何らかの毀損が起こったという場合には,毀損したものを引き渡せば,贈与契約の贈与者の義務は尽きるということを意味しているのだろうと思います。   そうなりますと,(1)と(2)を続けることによって(1)には独自の意味が付与される。つまり,特定物の売買なら売買の売主も一定の性質が欠けてしまっていても,保存のときにきちんと注意をしていたならば,自分の責任ではないのだから,もはや,義務は履行されたことになるということを前提にすることになるような気がします。私は,(2)の規律自体には甲案で構わないと思うのですが,(1)と続けるべき話なのかということについては,なお,検討する余地があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 これは各規定の配置の問題として考えるのか,論理的にセットとして組み立てられる論理構造を持っているものとして考えるのかというところでも,少し取扱いの仕方は違ってくるのかもしれません。多分,この提案はワンセットで規定を並べろというところまでは言っていないのだろうと思いますけれども,重要なのは先ほどの中身の問題ですね。特定物ドグマとの関係でどうなのかという。 ○潮見幹事 道垣内幹事の話がありましたもので,先ほど甲案支持と言われた弁護士会の意見確認だけなのですが,贈与者の保存義務の場合には,甲案を採った場合に贈与者が目的物の保存に当たり,自己の財産に対するのと同一の注意をもって保存すべきであるところ,その注意を尽くして保存をすれば贈与者は不履行の責任から免責されるという理解でしょうか。   これとの関連で,(1)の特定物の場合に丙案を採った場合,善良な管理者の注意という言葉に明確な内容があり得るのかどうかは別として,善良な管理者の注意を用いて保存をすれば,それによって債務者は免責されるとお考えなのでしょうか,それとも,先ほど直前に道垣内幹事がおっしゃったように,特定物の引渡しの場合には善良な管理者の注意をもって保存をしたからといって,債務者が不履行の責任から免責されるということには直結しないとお考えなのでしょうか。どちらの意味で(1)の丙案を支持し,また(2)の甲案を支持するとおっしゃられたのかが気になりますので,お答えいただければと思います。 ○岡委員 実情を申し上げると,そこまで詳しくは考えていないと思います。 ○潮見幹事 (1)で丙案を支持するというときに,贈与について道垣内幹事が言われたのと同じように,保存に当たり善良な管理者の注意を尽くせば瑕疵のある物を引渡しても債務者は免責され,債務不履行責任を負わなくてよいという理解をされるのであれば,私は丙案には賛成できません。他方,引渡義務と保存義務とを分けて考えて,善良な管理者の注意を用いて保存をしたとしても,保存義務違反の責任は免れるものの,引渡義務義務の違反を理由とする債務不履行責任は別に考えうるというのであれば,構わないのですが。   善良な管理者の注意を尽くして保存をしたとしても,引渡しの内容において不完全なところがあれば,引渡しの不完全を理由として債務不履行責任が生じるということが否定されないのであれば,あとはワーディングの問題だけかもしれません,乙案と丙案は先ほど能見先生がおっしゃったように,排他的なものとは必ずしも言い難いところがありますが,ただ,今の点は抜き差しならぬところがありますので,ちょっと発言をさせていただきました。   また,(2)のほうの甲案についても,実は同じようなことがひょっとしたらあるのかなとも同時に感じるところです。保存のところで自己の財産におけると同一の注意を尽くしたから,全部免責されるということなのでしょうか。引渡しレベルで,引渡しの不完全を理由として何らかの責任が贈与者に発生する余地は,仮に甲案を採ったとしても残るのではないかという印象を受けます。なお,私は,(2)については,補足説明の(2)の最後の段の説明に書かれているのと同じ理由から,贈与というものにはいろいろなタイプのものがあるので,デフォルト・ルールとして自己の財産に対するのと同一の注意をもって保存すべきなどということを挙げるのが適切なのかについて,疑問を持っているということを申し添えたいと思います。 ○松本委員 潮見幹事にもう一度,御説明いただきたいのですが,保存については善良な管理者の注意義務で保存している,保管していると。したがって,全く問題はない。だけれども,保存段階で何らかの原因で毀損していると,更に,その後に引渡しにおいて善管注意義務を尽くしていないというのは……。 ○潮見幹事 瑕疵があってはならない特定物の引渡債務を考えたら分かりやすいと思います。 ○松本委員 どういう場合を想定されて……。 ○潮見幹事 車のブレーキに瑕疵があったというような場合を考えたらどうでしょうか。 ○松本委員 それは売買契約前からの瑕疵の場合を想定されているわけですか。 ○潮見幹事 前の場合もあろうと思いますし,後の場合もあると思います。 ○松本委員 前の場合を想定している場合に,保存の瑕疵という議論はしないですよね。売買契約成立段階で既に欠陥車であったという話だから,400条の問題には多分ならないと理解しますが。 ○潮見幹事 その続きはどうですか。 ○松本委員 その後は売買の瑕疵担保あるいは製造物責任の問題になるのではないですか。 ○潮見幹事 それでどうなるのですか。 ○松本委員 400条の問題でないということははっきりしますよね。それで,瑕疵のあるものを引き渡したわけだから修理請求ができますよね。 ○潮見幹事 善良な管理者の注意を用いて,当該中古車を保存していてもということでしょうか。私が所有している中古車を松本委員に売ったときに私は自分の家の鍵付き倉庫の中に自動車を置いておいて,鍵も掛けて,鍵もきちんと保管していたというような場合に,きちんと保存していたら400条では駄目ですよね。これとは違い,保存にミスがあった場合を考えていただいたらいいかと思いますが。 ○松本委員 保存にミスがあれば400条の問題だから。 ○潮見幹事 きちんと保管しておれば,400条の問題にならない。 ○松本委員 きちんと保管しておれば400条の問題にならないし,中古車を仕入れる段階で既に欠陥があったものであれば,恐らく中古車ディーラーとしての欠陥の調査義務違反の問題は十分起こり得ると思うんですが,そうではなくて,新車について当初から欠陥があるということであれば,保存の問題にはならないですよね。 ○潮見幹事 保管中にきちんとした保管はしていたけれども,欠陥が震災など何らかの事情で生じてしまった場合は,債務不履行の責任は発生するということでしょうか。 ○松本委員 発生しないのではないですか。例えば引渡しまでに地震で壊れたという場合,債務不履行にならないでしょう,普通は。 ○潮見幹事 そうですか。 ○能見委員 私はむしろ潮見さんの理解の仕方に近いんですけれども,要するに物の保管についての責任を問えるかどうかというのは,一応,善管注意義務で判断する。だけれども,瑕疵などがあって,結果的に瑕疵あるものを引き渡したことによって,例えば瑕疵担保責任とか,あるいは契約不適合の責任が問われるかどうかというのはまた別な問題で,それはやはり残るので,この条文だけでもって債務不履行があるのかないのかの全てが決まるわけではないという点は,潮見さんのおっしゃるとおりなのではないでしょうか。個別の事例で,こういう場合はどうだというのは,また,細かいレベルの話ですけれども。 ○松本委員 全く異論はありません。 ○潮見幹事 ただ,そういうときに松本委員のような理解が出てくるかもしれないんですよね。能見委員は今のような場合に,瑕疵のないものを引き渡す義務というものが別にあるから,その義務の不履行を理由として損害賠償責任等が発生するという余地はある,いくら善良な管理者の注意を用いて保存したとしても,その余地はあるのだとおっしゃられている。ところが,松本委員の先ほどの御発言だと,善良な管理者の注意を用いて保管をしておれば,もはや,そこは債務不履行がないのだから…。 ○松本委員 そんなことは言っていませんよ。保管義務についての債務不履行はないというだけであって,瑕疵のあるものを引き渡せば,当然,債務不履行としての瑕疵担保責任が発生するというのが一般論でしょう。そんなことは否定していませんよ。 ○鎌田部会長 特定物ドグマに従えば,善管注意義務を果たしていて,後発的瑕疵が生じたら無責ですよね。 ○松本委員 そういう考え方もありますね。 ○鎌田部会長 そういうものとしてこの規定は働くわけで,善管注意義務に違反していて,引渡債務の不履行が後発的な瑕疵にも問われるとなると,こういう規定があるときに二重に責任を負うんですかという話が出てくる。それは(1)の乙案を採っても同じ話が出てきてしまうから,道垣内幹事のようにこの種の規定は設けなくて,全部,引渡債務の不履行の中で処理すればいいというほうが論理的には筋が通るような気がするので,乙案を支持する場合に,この保存義務はどういう役割を果たすのかということも説明を頂いたほうがいいかなと思ったんですけれども。 ○潮見幹事 私ばかりしゃべって申し訳ありませんが,先ほど述べたように,400条には二つの意味があり,一つは善良な管理者の注意とか注意の程度,保存の場合の注意の程度を上げたという意味と,それからもう一つは保存についての行為を請求でき,さらには強制できるというときの根拠となる規定としての意味があると思います。 ○鎌田部会長 履行請求の根拠ですか。 ○潮見幹事 はい。 ○中井委員 弁護士会は丙案と申し上げていますけれども,契約の趣旨に照らして,本来,決まるということを前提にしながら,契約の趣旨で決まらない場合もあるでしょう。今の潮見幹事の御発言に合わせて言うならば,契約の中で引渡しの品質なり,性状なりが合意されていれば,その品質,性状のものを引き渡さなければいけませんから,その前に幾ら善管注意義務を尽くしていても,それに達していなかったら義務違反,責任を負わなければならないという理解をしています。   ところが,特定物を例えば現状のまま引き渡す,特段,品質,性能について何らの合意のない契約は我々市民の中では山ほどある。それを買いましょう,売りましょう。その性能については一切合意しない。その引渡しまでの間はどういう保管をするのかと聞かれたら,善管注意義務をもって保管してくださいね。その義務違反がない限りにおいては品質が下がろうが,現状のまま引き渡せば足りる。私はそれだけの理解をしています。その上で丙案という考えなんですが,そういう意味では潮見幹事の意見と全然反していないと思っていますが。 ○松本委員 そういう意味では,私の意見と潮見幹事の意見は全く同じだと思うんです。400条の現状を根拠にして,特定物ドグマによって立つ法定責任説を主張したいという意図は全くないわけで,むしろ,400条を善管注意義務を尽くしていれば全て免責されるとは読まないで,善管注意義務に違反をして特定物に損害を与えた,瑕疵を発生させた場合は責任があると読めば全く問題が消えてしまうと思います。だから,そういうふうな趣旨に文章を変えれば特定物ドグマを,この条文を根拠に主張することはできなくなると思います。 ○道垣内幹事 一般論としては,引渡義務の不履行と保存義務の不履行を区別しても仕方がないのではないかと思われるところ,中井委員から引渡義務と保存義務を区別して考えるべき場合もあるということが出されて,それは極めて説得的だろうと思います。更には,2の1にせよ,2の2の問題にせよ,危険負担をどう考えるのかという問題と密接に結び付いているというのは明らかでありまして,そうなりますと,結局,これを誤解のないようにするためには,少なくとも現行民法のように,債権総論の比較的冒頭に近いところに規定すべきなのかが疑問になってきます。   もちろん,現在の議論は,場所を決めているわけではないのでしょうが,特定物の引渡しについての注意義務について,どう規定しますかというふうな独立の論点として取り上げられるべき事柄ではなくて,やはり例えば売買契約において売主がどのような義務を負うのか,性質について合意をした場合には当該性質のものを引き渡さなければ,いずれにせよ,不履行であるというだけの話で,そのときには保存義務は恐らく単独ではなかなか問題にならない。もちろん,潮見さんの言うように履行請求権という話をされますと,限界的には問題になるかもしれませんが。それに対して,中井先生がおっしゃったような場合を考えると,これは正に売買のときのある種,目的物の内容の品質の水準を定めていることになりますので,特定物の引渡しの場合の注意義務というふうな,これまでの民法典のような形で規定をするということ自体が,問題なのではないかという気がします。具体的な結論においてはさほど違いがないままに議論していたような気もいたしますので,整理の仕方の問題なのかなという気がいたしますが。 ○松本委員 400条の条文が45ページに上がっていますから,これを読むと,単純なことしか書いていないですよね。引渡しをするまで善良な管理者の注意をもって保存しなければならないと。そうしていれば全ての責任は免れるなんてどこにも書いていないわけで,この義務を尽くさない結果として損害を及ぼしていれば,義務違反の効果として賠償しなければならないというのはここから出てきますけれども,ここから保存だけきちんとやっていれば,あと,債務不履行は一切なくなりますという,先ほど言った特定物ドグマを引っ張り出すというのは,相当,強引なこじつけだと思いますから,余り心配しなくていいのではないですか。 ○鎌田部会長 この規定と現状引渡義務に関する民法第483条の規定が合わさると無責になる。 ○松本委員 だから,両者を合わせることのほうが根源なのであって,ここは素直に読めば,正に義務違反の場合の賠償責任の根拠となる規定に過ぎないです。 ○山本(敬)幹事 道垣内幹事に質問なのですけれども,仮に一般的なところで特定物の引渡しの場合に関する注意義務を書くのは適当ではないとしますと,最初の問題なのですが,法定債権の場合はどのように考えればよいということでしょうか。 ○道垣内幹事 法定債権の場合の規定として置くのならばまだ分かります。それを例えば売買契約なら売買契約においても適用される規定として置くことに誤解が生じる余地があるのではないか。松本委員は心配することはないのではないかとおっしゃいましたけれども。 ○中井委員 山本敬三幹事のおっしゃった法定債権は,合意で品質,性能を決めることはできないんだから,それまで返すまでの期間は善管注意義務をもって保管しなさいと,この規定が適用されると理解しているんですが。 ○鎌田部会長 債権ではないですけれども,物権的請求権の場合にもこれが使われるという意味で,そういう意味では通則なので,これはこれで置いておいて,契約各則の中に契約特有の規定を置くという考え方も,考え方としてはあり得ないわけではないし,それぞれの特性に応じて必要なところには必要な保存義務の規定を置くという考え方もあり得るんだと思いますけれども,今日,頂戴したような御意見を踏まえて,また,楽な作業ではないですけれども,事務当局で引き取らせていただいて,再整理をさせていただくことにします。 ○内田委員 確認ですが,善良な管理者の注意義務という言葉を残すという立場の方も,契約関係がある場合には,契約によって善良な管理者の注意義務の中身が決まってくることは,否定しておられないわけですね。ですから,どういう言葉を使うかについての対立はあるかと思いますけれども,実質的な判断基準についての対立はないと理解してよろしいでしょうか。また,契約といっても細部まできちんと決めていない契約はたくさんあるわけで,そういうときにどうやって契約から管理の水準を導くかというと,恐らく有償で物を預かっているような人が負うであろうような義務が基準になるだろう。それを善良な管理者と表現しているのではないか。   元々,この言葉は善良な家父の注意義務なわけで,そんなものを日本で言っても全く理解できないわけですが,今の日本でいえば,有償で物を預かった人がきちんと注意をする場合のような程度の注意,これは割合高い注意ですけれども,その程度の注意がデフォルトルールとしては出てくるであろう,そういう理解でこの概念を用いていると考えてよろしいでしょうか。その辺の実質について余り異論がないのであれば,あとはどういう言葉が適切かということになるかと思いますが。 ○山本(敬)幹事 今のような善良な管理者の注意義務の内容で理解した場合に,先ほどの質問とも少し関係するのですが,法定債権の場合のデフォルトルールが本当にこれなのかということは,もう少し慎重に検討しておいたほうがよいのではないかと思います。特に非債弁済で一方的に物が給付された場合に,それを返すときには,対価関係が何もない前提で返さないといけないわけですので,今言われたような有償の契約を想定した注意義務がこの場合に本当にそのまま課せられるのかというと,どうなのでしょうか。争いの余地はあり得るだろうと思います。   飽くまでも他人の物を預かっていて,それを返さなければならないのだから,比較的高度な注意義務を課せられても仕方がないという考え方もあれば,押し付けられた物をどうしてそこまでの注意を払って管理しないといけないのかということも問題になり得ると思います。しかし,このあたりは,法定債権一般についてのデフォルトルールを定めた上で,法定債権の性質に従って,それとは異なる義務があるといった解釈を行うことで対処するという答えになるのかなと想像はしますけれども,しかし,もう少し慎重に,本当にこのようなデフォルトルールでよいのかという点は検討しておく必要があるのではないかと思います。 ○松本委員 今,おっしゃった点は同感ですが,むしろ,今のは不当利得の原状回復義務にまつわる危険負担だとか,保管義務等々について,どこまで表の契約ルールを適用するのかという議論の一環として考えたほうがいいのではないかと思います。売買が無効の場合について,恐らく引き渡された物の返還について善管注意義務を負うということになるんでしょうが,詐欺的に何か無理やり売り込まれたというような場合には,そうではないという議論はあり得ると思うんですね。返還義務の範囲について,利得の消滅を認めるか,認めないかとかいった議論と一連の不当利得のほうの問題として議論したほうが座りがいいのではないかなと思います。   それから,(2)のほうについて,甲案の支持者のほうが圧倒的に多かったわけですが,確認として,ここで言う甲案もやはりデフォルトルールだということで考えていいでしょうね。贈与であっても保管義務について契約の中で特段の合意をするということはあり得るだろうし,合意がなくても当事者の意思はそうだろうと推定が働く場合もあるだろう。そういうことができない場合に,初めてデフォルトルールとしての自己の財産に対するのと同一の注意ということになるんだという意味で,2の(1)と基本的に同じ構造だということですね。 ○岡本委員 内田委員のほうから先ほど保存義務の考え方について,考え方自体については特に異論はないということでよいかというお話でしたので,ちょっとお話ししたいと思うんですけれども,この論点については銀行業務に直接関連することは余りない論点ですので,私の委員としての意見ということでございますけれども,第一読会のときにも申し上げましたけれども,特定物の引渡しの場合の注意義務につきましては,履行期に契約で定められた品質,性能を有する目的物の引渡しがされたかどうかを問題にすればいいのであって,それまで間の保存義務については問題にする必要はないのではないかと,比較的,徹底した考え方を持っているものですから,その点についてちょっと違う考え方を持っているということをお話ししておきたいと思います。   そういう意味からしますと,(1)については甲案でいいと。それから,(2)についても乙案,特段の規定を設けないということで考えていいのではないか。贈与の場合には無償性を考えないといけないわけですけれども,贈与の場合の目的物の引渡義務の内容についてどう考えるか。そちらのほうに吸収して無償性を考えていけばいいと思いますので,こちらのほうについても規定を設けないということに賛成したいと思います。 ○道垣内幹事 ここまで私が発言してきた内容について,そのような考え方があり得るということを撤回するつもりはありませんけれども,今までの御議論を伺っていて,2の1に関していわゆる債権総論中に置くという考え方も十分あり得るであろうし,2の2の理解に関しましても,別段,自己の財産に対するのと同一の注意をもって保存していたところ,毀損をしたという場合も,なお,品質についても合意された贈与契約があって,引渡義務の不履行となるということもあり得ると思います。したがって,私のような理解ではない理解も十分にあり得ると思います。 ○鎌田部会長 それでは,この論点については,今日,頂戴した意見を踏まえて,引き続き検討させていただきます。   続きまして,部会資料31の「第2 債権の目的」のうち,「3 種類債権の目的物の品質(民法第401条第1項)」と,「4 種類債権の目的物の特定(民法第401条第2項)」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○新井関係官 それでは,御説明いたします。   「3 種類債権の目的物の品質(民法第401条第1項)」では,種類債権につき,法律行為の性質又は当事者の意思で目的物の品質が定まらない場合に,債務者は中等の品質のものを給付しなければならないとする,民法第401条第1項の削除の要否について御審議いただきたいと思います。   「4 種類債権の目的物の特定(民法第401条第2項)」,「(1)種類債権の目的物の特定」では,特定制度を存置することを前提に,アにおいて特定原因として債権者と債務者の合意による目的物の指定を付け加えるとの提案を取り上げています。イでは,いわゆる変更権を明文化するとの提案を取り上げています。「(2)種類物贈与の特定に関する特則」では,種類別贈与の目的物の指定権者を債務者とする旨の規定を設けるとの提案を取り上げています。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○佐成委員 3の部分ですが,種類債権の目的物の品質について定める現行第401条第1項ですが,私は乙案を支持したいと思います。デフォルトルールとして残しておいていただきたいということでございます。確かに補足説明では存在意義は乏しいのではないかというようなことが書かれておりますが,現実に私自身が遭遇した事件で,種類物ですが,ある液体の中に固形物が沈殿していたという事案がございました。   それは事業者間の取引だったのですが,事業者間の取引で詳細にスペックは定めてあったのですが,たまたま,固形物については全く定めがありませんでした。もちろん,どういうものを引き渡したらいいかということについて,契約の解釈をぎりぎりやっていくということもあり得たのかも知れないのですけれども,結局,普通のものを引き渡せばいいのではないか,高級なものでも,下等な品質のものでもなくて,普通のものを引き渡せばいいのではないかということが話合いの出発点になって,結局,我々のところに来たのは全部混じり気のないもので,一部,固形物が沈殿しているものもあったんですけれども,それは別の業者が引き取るというような格好で,円満に解決したということがございました。そういう交渉の手掛かりにもなり得るので,残して置いていただいたほうが実益があるのではないかというふうな感じを抱いております。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○松本委員 今の点で佐成委員と全く同意見で,デフォルトルールとしては何か残しておいたほうがいいだろうと考えます。なくてもいいではないかと言われれば,なくてもうまく動くのかもしれないけれども,あっても困らないし,それがあったことによってうまく紛争が解決するなら削除する必要はないだろう。更に中等のという以外の,例えば品質について標準化されている,規格化されているというようなものの場合は,その規格に従ったものというような解釈基準をデフォルトルールとして入れるというのも,一つ考え方として検討対象になると思います。それを中等のというのかもしれないですが,必ずしも中等の品質と標準化された品質というのはイコールではないのだとすれば,普通,何々の何々という場合は標準的なものを想定して発注しているので,そのレベルの品質は満たしていることというのがデフォルトルールとしてはあると考えてよい場合が大変多いだろうと思います。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○岡委員 また,弁護士会の意見でございますが,3番については乙案でほぼ一致して賛成でございました。4のアにつきましてもほぼ一致して賛成でございます。イにつきましては少数意見が少しありましたけれども,賛成意見がかなり多数でございました。4の(2)につきましても少数意見が少しありましたけれども,賛成意見が圧倒的に多うございました。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○潮見幹事 3は乙案でいいと思います。4のアも,これでいいと思います。しかし,イについては,以前にも申し上げたのですが,私は変更権を定めるということについて,積極的には賛成はできません。特定後の変更権というのは信義則に基づいて認められるものとされていて,変更権を認めるべきかどうかというのは,具体的な事件の事情に即した信義則判断に基づいて行うべきものではないかと思います。イに書かれているような内容の変更権というものを債務者の権利として一般的に承認するのは,いかがかと思います。   特定によって新たに作り出された法律関係というものがあって,それを覆すということはよほど慎重にするべきではないでしょうか。特定後の法律関係を軽々しく変更すべきではないというのが,私の理解の基礎にあるところです。一般ルールとして変更権を規定するというのは,特定という制度の基本を覆す権利を原則として承認することになりはしないでしょうか。それゆえ,この部分については賛成できないということを申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 401条1項に関しては,削除案を支持する意見は,今日の部会では出ていないんですけれども,存置案で一致したと判断してしまってよろしいでしょうか。では,そのように理解させていただきます。401条2項関連の「(1)種類債権の目的物の特定」のアにつきましては,賛成の意見を頂きまして,イについては賛成と反対の意見が分かれているということだと思いますが,ほかに関連した御意見はございますでしょうか。 ○松本委員 4の(1)のイの趣旨なんですが,種類債権の目的物特定後の債務者の変更権ということの意味は,瑕疵担保責任を追及された場合に,修理に代えて別のものを引き渡すという形で変更権を行使してもよいということまで含む趣旨なのか,それとも,これは引渡し前の話で,種類物として当事者の合意でこれにしましょうということは決まったけれども,その後で債務者側の都合で全く同じ型番の別の製品にするということができるという話なのか,どっちですか,あるいは両方を含む趣旨ですか。 ○鎌田部会長 両方を含む……。 ○松本委員 両方を含むんですか。そうすると瑕疵担保の問題も議論しないと答えが出てこない。 ○鎌田部会長 履行してしまった後には債権の目的物の変更はないわけですから,履行してしまった後の変更ではなくて履行前の変更の問題。 ○松本委員 履行前の変更と限定すれば,それはそれで議論しやすいので,変更権を認めても何の問題もないと思うんですが,履行後の場合にも変更権を認めるか,認めないかというのは瑕疵担保責任の追及に対して,修理に代えて代替物の引渡しでよいのかという議論,どういう場合に代替物の提供で免責されるのかという議論とつながってくると思います。履行請求権の限界という話とも絡んでくると思うんですが。 ○鎌田部会長 履行後は追完請求,追完権の問題になって,ここの変更権の問題ではないんだと思うんですけれども。 ○松本委員 追完の中身としての変更権ですよね。追完の中身としての目的物を変更する権利。 ○鎌田部会長 はい。 ○松本委員 代替物提供の権利。 ○鎌田部会長 強制執行との関係では問題は起きないんですか。特定したものに執行しにいったら,昨日目的物を変えましたと言われるとかいう。余りそんな細かいことを考えているものではないんでしょうけれども。 ○松本委員 それは債権者に格別の不利益を与えるから駄目でしょう。 ○鎌田部会長 なるほど。 ○中井委員 4の(1)と(2)について,弁護士会の意見は先ほど岡委員が申し上げたとおりです。私個人としては4の(1)のイについては,当事者の合意若しくは債務者の行為に対して債権者が同意した場合,こういう形で特定したにもかかわらず,一方的な変更権を認めることについて疑問を持っています。弁護士会では少数説ですけれども,潮見幹事の御意見に賛成です。履行が完了した場合に,必要な行為が完了した場合についても認めるわけですから,完了しているのになぜ変更があるのかという点についても,そこまでの必要性があるのかと思っています。   (2)についても弁護士会の意見は甲案が多いんですが,大阪もそうですけれども,贈与だからといって債務者,贈与者が指定できるというのが本当にそうなのか,一般的なのか。特定の問題ですから,当事者間の合意または同意若しくは履行の完了で特定するという一般原則の適用で足りるのではないか。そうだとすれば,乙案も十分理由があると思っております。 ○深山幹事 4の(1)のイの変更権のことについて,私は少し慎重に考える必要があると思っておりまして,少なくともここに示されている「債権者に格別な不利益を与えない等の一定の場合」というのは,仮に変更権を認めるのだとしたら,もう少し具体的な要件が示されないと,このようなファジーな表現振りだと当事者の意思に反してまで,一旦決めたものについて一方的に変更権を決めることの合理性といいますか,正当性が感じられないような気がします。こういう要件に該当する場合であれば認めてもいいという場合があるのかもしれないという思いが若干あるので,結論は留保したいんですが,仮にこれを検討するのであれば分科会なのかもしれませんけれども,どういう要件で変更権を認める余地があるのかということをもう少し詰めていただく必要があるような気がいたします。 ○松本委員 むしろ,どういう場合に種類物の変更,例えばあるテレビを買って,全く同じ型番の別のテレビを引き渡すということで,債権者にとってどういう不利益があるのか。品質・性能の違うものとか,あるいは欠陥のあるものに替えられたら明らかに不利益でしょうから,同種同量に加えて同品質とか,何かもうちょっと入れてもいいかもしれないですけれども,不利益が果たしてあるのか。 ○鎌田部会長 その場合には特定の認定を間に挟む必要がないんだと思う。 ○松岡委員 今のように大量生産商品で,中身に本当に何も違いがないような場合だと,確かにおっしゃるとおり,それほど問題はないのですが,種類物にはやはりいろいろ多様なものあります。良い例かどうか分かりませんけれども,例えば農産品で等級は同じだけれども,見る人が見ると微妙に違う場合,目利きの債権者が選り分けたものを後から勝手に入れ替えるのは,合意若しくは債権者の指定で決めたものを勝手に替えること自体が契約違反です。どれだけ具体的に債権者に不利益があったか分からない場合には債務不履行責任を追及することはできないかもしれませんが,正面から債務者に変更権があるとまでは言えないと私も考えています。 ○中井委員 先ほどの追加理由が一点。そういう不利益もなければ,結局,変更の同意が得られるはずなので,普通は。それをなぜ権利という構成をしなければならないのかという点です。追加しておきます。 ○鎌田部会長 分かりました。この変更権に関しては意見が分かれているということですかね。反対の意見が相対的に強かったと思いますが……。 ○松本委員 そうすると,私の想定している場合が割と狭かったということです。先ほどの品質に違いのある農産物の中から,いいものを選んでいるというような場合は,同種同量であっても品質が全然違うということであれば,やはり許されないというのはそのとおりだと思いますから,変更できるとしても,もう少し何か限定したほうがいいというのはそのとおりだと思います。 ○鎌田部会長 それは「債権者に格別の不利益を与えない等の一定の場合には」というので足りるかどうかということにもなるのかと思いますけれども,そこがうまく表現できないと適切な運用をできる制度として確立させるのには,難しい要素があるかもしれないということだろうと思う。 ○松本委員 同種同量に,更に加えて同品質とかいうのを付け加えることによって,もう少し限定するというのはあり得るかもしれないです。種類が同じでも品質が全然違えば,先ほどの401条の話になりますから。 ○松岡委員 ただ,それでも品質はなかなか難しくて,ひよことか金魚では選んだものの品質がどれほど違うのか,やはり分からないのです。それでも,一旦決めたものを変えるのは駄目だというのが筋だと思います。 ○道垣内幹事 ばかばかしい例を出すようで恐縮ですが,合意で何かを決めるのは基本的には自由だと思うのです。そうすると,債権者と債務者の合意で,種類物からどれが具体的な給付目的物かを決めるときに,占いで決めてもいいわけでして,債権者は占いをすごくよく信じていて,占いで,倉庫の中の南端にあるものがいいのだということになれば,それを信じている。しかしながら,客観的に見れば全く同種のものであって,法的に見たときに債権者に不利益を与えるのかというと,与えない。しかし,占いでこれがいいと思って合意をしたということは,尊重されるはずなのではないかなという気がします。そこで,全く同品質であっても合意を覆していいのかというのは気になるところですし,債権者の不利益というものが,具体的な,例えば金銭評価的な不利益とか,そういうことだけなのかというと,そうではないような気がして,それほど簡単な話ではないのかなという気がいたします。 ○松本委員 恐らく,ここもデフォルトルールなんでしょうね。したがって,種類債権の目的物の特定の趣旨いかんによっては,先ほどおっしゃったような,替えられては困るというものであれば変更権はないんだということで,ここに書いていないけれども,契約の趣旨から,そんなことは認められないというのが当然,大前提として掛かってくるんだろうと思います。当事者としては自分が選んだもの,自分が選んだひよこは愛着があるんだということであれば,正に変更できないということで,そうではなくて,あるメーカーのテレビのこの型番のものということであれば,そんな愛着はないわけだから,変更することが特に禁止されていなければできるということでもいいし,その場合は大体,合意でできるのだから,特に条文は要らないではないかと言われればそのとおりですが。 ○中田委員 問題となるのは変更できるかどうかというよりも,債務者が特定後に別のものを提供したというときに,なお,債務不履行責任を追及されるかどうかという場面で現れるのではないかと思うんです。そういう場合に,債権者がなお債務不履行責任を追及することが信義則上,妥当でないという場合に,結果的に変更権を認めたという,そういう問題ではないかと思うんですね。そうだとしますと,やはり信義則に委ねておくということで規定をあえて置かないということは,十分,考えられると思います。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。債権者側の愛着等の問題だけではなくて,むしろ,債務者側の緊急避難的要素が入ることもあったりするので,そういう意味での総合的な判断の中で処理していかざるを得ない問題かとも思います。 ○松本委員 債務者の側が特定したものだけれども,保管しているときに傷を付けたから,別のもので提供しますというのはよくあることだと思うのです。 ○鎌田部会長 でも,それは基本的には合意でやるべきものだという御意見も……。 ○松本委員 普通は合意が当然できるでしょうけれども。 ○鎌田部会長 イの変更権については,必ずしもこういう規定を設けることに強く固執する意見はないと受け止めてよろしいですか。   それから,(2)の種類物贈与については中井委員から御意見がありましたけれども,ほかにはいかがでしょうか。中井委員は不要説ですね。 ○潮見幹事 意見を表明しておいたほうがいいということであれば,私も乙案でいいと思います。 ○鎌田部会長 特に甲案を支持する御意見はなかったと……。 ○中井委員 弁護士会の中に甲案。 ○鎌田部会長 失礼いたしました。弁護士会の多数説は,甲案でしたね。分かりました。すみません,失礼しました。 ○山本(敬)幹事 別のところでよろしいでしょうか。第1ラウンドで言うべきことだったのかもしれませんが,ここにそのままでは書いていない事柄で,ただ,中間的な論点整理の問題提起には合っているという点を追加して,問題提起だけはしておきたいと思います。  といいますのは,種類債務の目的物の特定について,現在の401条2項は「債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し」たときという基準を挙げているわけですが,これが具体的に何を意味するのかという点については,議論もあるところです。   持参債務の場合は,現実の提供があった時に特定するという点については争いがないと思うのですが,取立債務の場合は,目的物を分離して,履行の準備ができたことを債権者に告げた時に特定するというのが,判例の立場と理解してよいかどうかということを含めて議論のあるところです。この点は,現行法をそのままにしておきますと,従来どおりの状態が続くことになりますが,少なくとも規定を見ても,今の持参債務や取立債務の場合に,いつ特定するかということは,すぐには分かりません。これを本当にそのままにしておいてよいのかという点は,やはり問題提起だけはしておいたほうがいいだろうと思った次第です。 ○内田委員 確認ですが,今の取立債務の場合については,いわゆるタール売買事件がありますが,あのような判例ルールを書いたほうがいいという御趣旨ですか。 ○山本(敬)幹事 少なくとも争いがあるところであって,本当に判例の立場をそのようなものとして理解してよいかどうかということを含めて議論があるという状況下で,現行法の規定をそのまま残してよいのか。これだけの改正があった後も,この状況がそのまま続くことが本当によいことなのかどうかという点は,これまでこの場では議論していなかったように思いますので,御意見が出てくるならば,議論したほうがよいのではないかと思っただけです。 ○松岡委員 山本敬三幹事の御意見に乗る形で申し訳ないですが,実は解釈論の中で送付債務と言われるものの扱いが,私自身が理解していないだけかもしれませんが,非常によく分からない。先ほど内田委員が少し触れられましたが,諸外国のルール等に参考になるような規定があれば,それを参考に規定を置くこともやはり検討していただければと思います。 ○鎌田部会長 性質上,分科会に補充的な議論をお願いすべきような事項になろうかと思うんですけれども,これまでの判例等の原則が明確に定式化できるのか,あるいは送付債務等も含めて,諸外国の立法等に参考となるものがあり得るのかということについて,若干の補充的な御検討を分科会でしていただくということでよろしいですか。 ○岡本委員 検討すべき論点として,追加の意見が,二,三,出ていたものですから,私もちょっと気なっているところを一点だけ申し上げたいと思うんですけれども,種類債権における目的物の特定の効果のほうなんですけれども,49ページに効果について①から③まで記載されているんですが,②とか③については見直しが検討されていることに留意する必要があるというふうな記載がありまして,①はどうなのかというときに,①も果たしてこのままでいいのか。一応,最高裁の判例であるものですから,そう簡単に変えるというのはないのかもしれないんですけれども,このままでいいのかというのは一応,論点にはなるのかなと思いまして,論点として考えたほうがいいのではないかという意見です。   ①についても,仮に何らか見直したほうがいいというふうな話になってくると,②とか③についても,こういった議論がされていることを踏まえますと,そもそも目的物の特定ということに何らかの法律上の効果を与えることがどれだけ妥当なのかというところも,翻って問題になってくる可能性もあるのではないかなと思うものですから,その点だけちょっと申し上げたいと思いました。 ○松岡委員 岡本委員の問題提起自体は理解しておりますが,所有権移転時期の問題は,この部会に検討を託されている範囲から外れると思います。 ○潮見幹事 必要行為完了による特定についての条文絡みの作業なのですけれども,適当な規定ができるのであれば基本的に賛成はしたいと思いますが,特に取立債務の場合,判例の読み方もさることながら,それ以上に,この場面での議論は③の特定が生じたら現行法の下では危険が移転するという効果と関連付けてされており,だから,特定には分離が必要なのではないかという趣旨の議論も出ているわけなので,どういう場合に特定が生じるのか,どのような規定が望ましいのかを考えるに当たっては,危険負担のルールをどのように考えていくのかも,十分に意識しながらやっていかなければいけないと思います。   条文化の作業をするなというわけではないのですが,実際に分科会等で検討する場合には,売買や,契約各論における危険負担のルールとの整合性を意識しながらやっていただきたいと思います。 ○松本委員 ついでに分科会でやっていただけるのなら,取立債務,持参債務,送付債務についての定義規定を置いたり,もしそれぞれの債務ごとに特定の効果と結び付いているのであって,効果に関する条文を立てたほうがよいということであれば,こういうのが考えられるというような案も考えてもらうのがいいのではないかと思うんです。既存の立法提案にはないから,ここに上がってこないけれども,確かに事業をやっているといろいろ問題があることは事実で,民法の中にその辺をはっきりさせるような規定があること自体は悪くないと思いますから,条文化が可能かどうかの検討をしていただくというのがいいかと思います。 ○鎌田部会長 特定するために必要な行為というのを本当に詰めようと思ったら,一つは先ほどの効果の点で,所有権移転と絡むから分離説という,そういう結び付きもあるんですし,それから,債務の内容ごとに違うとなれば,それぞれの債務とは一体どういうものなのかも検討しなければいけなくなるだろうと思いますので,その辺は御苦労ですけれども,必ず,きちんと定義規定を作れとまではお願いできないと思いますけれども,実際に検討していく中で何が必要,あるいは何が有益かというところについては,意識をして御検討いただくということまではお願いしておきたいと思います。 ○岡委員 今回の民法改正審議につきましては,かなり膨大な作業をやっておりまして,弁護士会のバックアップ委員会でも大変な時間と労力が割かれて,なおかつ,難しい問題が多い中,非常に大変な作業となっています。再来年の2月に中間試案を作るとすれば,やはり,重要なものからやるべきであって,あれもこれも検討したいというのは分かりますけれども,現実の立法作業ですので,実務が要請しているものを選び出す作業もどこかでしていただかないと,ついていけなくなります。今日も本来は3時ごろに終わっているはずの論点を今やっているわけで,来年4月以降,毎週,法制審をやると言われたらとても困りますので,何からやるという,一遍に全部をやるのではなく,今回はこんなふうなものに絞ってやるという検討が必要と思います。本部会の第1回会議で松本先生がやれるものから順番に立法したらいいではないかとおっしゃった意見も,今は現実味を持って考えておりますので,どういう順番で,どう分けてやるか,そういうこともそろそろ考えてほしいなと思います。 ○鎌田部会長 有り難い御意見を頂戴しましたので,それを踏まえて進行案と現実の進行の仕方を少し検討させていただきます。 ○内田委員 分科会にいろいろなことが送られていくような感じがあるものですから,一言,申し上げたいと思います。分科会というのはこの部会の議論の延長であって,ただ,非常に技術的なテーマについて人数を絞って,密度を濃く議論しましょうということだと思います。ですから,部会に出す何か原案のようなものを作るための準備会ではありませんので,これも検討しろ,定義を作れ,案を作れとかと言われても,多分,分科会では引き受け切れないだろうと思います。取立債務,持参債務,送付債務の定義なども,もし本当に規定が必要ならば,委員,幹事のほうからこの部会で提案をしていただく必要があると思います。分科会から何か原案を出してもらって,部会で叩くという性質のものではないということを一言,申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○松本委員 今の点なんですけれども,私は分科会で原案を作ってもらってもいいと思います。原案というか,例えば条文化するとすれば,こういうのが考えられますというもの。それがないから,部会で幾ら提案しても議論の素材に乗せてもらえないわけです。既存の文章化された立法提案以外は受け付ないという姿勢が大変強いわけです。そうすると,こういうような形にしてほしいと委員が思っていても,議論の素材にならないわけだから,そこを何か文案化するという作業は事務方にやってもらってもいいと思うのです。例えば先ほどの時効の援用権の範囲として,どういう条文が考えられるかというのは,正に立法提案というか,文章化すればこういうのが考えられますという案を出してくださいという話だから,そこと余り変わらないと思うんですけれども。 ○鎌田部会長 既存の立法提案以外はここで取り扱っていないということでしたが,そんなことはなくて,第1ラウンドでこの場で出されたものがこの資料にも,中間的な論点整理の場面でも随分盛り込まれていて,それはこの部会の場で出されたものだから,詳細な内容になっていないけれども,というふうな注釈を付けた形でも出ていますし,今日も高須幹事から御提案いただいた内容は,多分,次の資料には入ってくるとなります。そこは,委員,幹事の御提案を積極的に出していただければ,それを盛り込むとか,あるいは現在のものと差し替えるというふうなことは全く制限なしにやっていますので,是非,遠慮なさらずに直接,御提案を頂ければと思います。   申し訳ありません,次に進ませていただきます。   続きまして,部会資料31の「第2 債権の目的」のうち,「5 法定利率」と,「6 選択債権」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○新井関係官 それでは,御説明いたします。   「5 法定利率」の「(1)利息の見直しと利率の変動制の導入の要否」では,アにおいて現行法の5%という法定利率が市場金利等から乖離しているとの指摘等を踏まえ,利率を今日の市場金利等の水準に見合ったものに改めることを提案しています。イにおいては法定利率につき,現行の固定制を改め,一定の期間ごとに一定のルールに従い,市場金利等を考慮して法定利率を変更し得る仕組み(利率の変動制)を導入するとの提案を取り上げるとともに,変動制を採用する場合の一定のルールの内容等についても問題提起しています。   「(2)中間利息控除」では,法定利率につき,変動制を採用する場合に損害賠償の額を算定する際の中間利息控除の要否については解釈に委ねることを前提に,中間利息控除を行う場合に用いる割合について,法定利率とは異なるルールに基づいて定めることを提案しています。   「(3)利息の定義」においては,利息を適切に定義することが困難であることから,利息の定義規定は設けない旨を提案しております。   続きまして,「6 選択債権」については,第三者による選択の意思表示が債権者及び債務者の同意がなければ撤回することができない旨の規定を設けることを提案するとともに,民法第411条ただし書につきまして,適用場面がないということで削除することを提案しております。   以上の論点のうち,「5 法定利率」,「(1)利率の見直しと変動制の導入の要否」と,「(2)中間利息控除」につきましては,法定利率につき,変動制を採用する場合の制度設計上の技術的細目的問題点を分科会で補充的に検討することが考えられるほか,「6 選択債権」についても分科会で補充的に検討することが考えられます。これらの論点を分科会で補充的に検討することの可否についても,御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明のありました部分につきまして,御意見をお伺いいたします。 ○岡本委員 まず,(1)のアについてですけれども,現行の利率は市場金利等の時勢から乖離しているので,その水準に見合ったものにすること,それから,損害金の利率については特段,加算をしないということのいずれにつきましても賛成したいと考えます。それから,次のイにつきまして,変動制を採用することに賛成したいと思います。   それから,諮問の範囲外なのかもしれないんですけれども,商事法定利率が取り残されるというのはいかがかと思われますので,商事法定利率についても市場金利等の実勢に見合ったものとして,かつ変動制にするということが要望できればいいなと考えておりまして,場合によっては,民事法定利率と一本化するということも,検討されていいのではないかと考えます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○村上委員 5(1)のイ,利率の変動制について意見を申し上げたいと思います。変動制を導入すべきであるという提案の趣旨自体は理解できるところではありますけれども,これを実際に導入できるかどうかというのは,導入に当たって生じるであろう多くの問題点を合理的に解決できるかどうかに係っていると思います。  例えば,部会資料の56ページの(4)のところにも記載がありますように,個々の債権についてどの時点の利率が適用されるかという問題があります。仮に債権が存続している間に利率が変更されるというシステム,つまり債権の存続中に利率が変更されると,その債権に適用される利率も変更されるというシステムとするとしますと,訴訟において請求の趣旨や判決の主文をどう書くのかという技術的な問題も当然出てきます。また,民事執行法の22条5号で執行証書についての規定がありますけれども,この規定では金額の一定性が要求されておりますから,これをどうするのか,将来,変動する利率による遅延損害金について作成された執行証書というものを果たして執行証書の要件を満たすということにしていいのかどうかというような問題も出てきます。更に,債権存続中に利率が変わりますと,当然のことながら,利息や遅延損害金の額の計算を間違えるという問題が出てくるだろうと思います。プロ同士のやり取りですと,それほど間違える可能性は高くないのかもしれませんけれども,到底,プロとは言えない方同士での利息や損害金の支払ということになりましたときに,計算間違いをしてしまう可能性が高くなりはしないだろうかという問題もあると思います。   それから,逆に,例えば債権の発生時点を基準として,個々の債権については利率を固定するというやり方も考えられるかと思いますけれども,その場合,また,別の問題が出てくると思います。債権の発生時期がどの債権についても明確に分かるのかどうかという問題です。例えば,訴訟をやっておりますと,しばしば請負契約に基づく報酬請求権が登場してきますけれども,請負契約の場合,契約当初は,金額をはっきり決めていないという契約もかなりございます。あるいは,一応は決めてあっても,実際に仕事をしてから,当初,合意した金額とは違う金額になるということも非常に多くあります。それから,当初の契約に加えて追加工事が行われることがごく普通に出てきますけれども,その場合,追加工事による請負報酬債権の発生時期は一体いつなのか,決められないことがかなりあるのではないだろうかと思いますし,また,そもそも追加工事であるのか,それとも本体工事なのかということ自体がはっきりしないケースもたくさんあります。その他,請負に限らず,例えば継続的な給付契約ですとか,説明義務違反による損害賠償請求ですとか,そういったケースを念頭に置きましたときに,債権の発生時点というものが本当に決められるのかと,そういう基準で考えるということで本当にいいのかということが疑問としてあるだろうと思います。   それよりも更に大きな問題は,(2)の中間利息控除でありまして,中間利息控除について合理的な解決をきちんと提示できるのかどうかが極めて重要な問題だろうと思います。訴訟実務だけではなく,ADRや保険等も含めて,社会全般に大規模な影響を長期間にわたって及ぼす問題になりますので,中間利息控除について合理的な解決が具体的に提示できないのであれば,にもかかわらず,その点を放置したまま,変動制を導入するということは極力避けていただく必要があろうかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○佐藤関係官 法定利率の見直しと中間利息控除についてコメントさせていただきます。   まず,5(1)のアについては,御提案の趣旨に基本的に賛成をいたします。理由は記載のとおりですので繰り返しはいたしません。また,イにつきましては,基本的に変動利率にするということ,今,村上委員から御発言がございました債権存続中に利息が変わるような場合にどうするかという,これは非常に難しい問題ではあると思っておりますが,もし,そこも含めて何がしか変動利率を導入して問題がないとするのであれば,検討の余地はあるのではないか。ここでイの①から③まで視点を書いておられますが,基本的に参照すべき指標等はやはり何らかの公的な信頼性があるようなもの,あるいはまた,定期的に公表されるようなもの,また,できるだけ実勢金利に近いものというのを選んでいくということなのかなと考えております。   二点目の中間利息控除につきましては,今,村上委員からも御発言がございましたように損害保険の場面ですとか,非常に業界実務に影響があるテーマでございます。御提案の中で変動制を採らない可能性も含めて,法定利率とは異なるルールに基づいて定めることとしてはどうかと記載がございますが,変動利率を採るのか,あるいは変動制を採らない可能性というのも,やはり現実問題を考えると十分,念頭に置いていく必要があるのではないかと思います。   と申しますのは,例えば損害保険などで人身の事故があったと。損害を算定する場合に,労働能力の期間を算定する場合に,非常に期間が長い方,若くて事故に遭われたような方もいれば,また,非常に短い方も両方がおられると。そのとき,非常に厳密にやろうとすると,利率というのは,長期の利率と短期の利率で当然違ってきまして,イールドカーブを作ってやらなくてはいけないところなのですが,果たして実務的にそのようなことが可能であるのかどうか,あるいはまた,損害賠償の話ですので,損害賠償の額の算定や過失相殺の算定も含めた処理も必要になるところ,この点につきましてフィージブルな解決ができるかどうか,それは現行の固定利率を維持するということも含めて,検討していく必要があるのかなと考えております。 ○岡委員 法定利率について,改めるということについては賛成でございます。現時点では弁護士会の意見はかなり分かれておりまして,統一意見というのは現在ございません。多数と思われる意見を踏まえて私の今の考えを今から申し上げます。   まず,改めるということについては賛成ということでございます。裁判官,村上さんがおっしゃったようないろいろな疑問はありますけれども,それは日本の優秀な裁判所をもってすれば解決可能ではないかと思っております。   2番目の金銭債務の不履行による損害金の利率と法定利率の関係でございますが,金銭債務の不履行の利息を定めるということと,法定利率とそれをリンクさせないでもいいではないかという前提で,まずは金銭債務の不履行による損害金の利率について5%を改めるという考え方でございます。   それから,イのほうに移りまして①の利率の算定方法のところですが,いろいろ議論しましたけれども,この中にある運用金利を中心に定めるということも考えますと,定期預金金利が0.1%でありますとか,不動産の運用金利でありますとか,ばらばらですので,金銭債務の不履行という若干のペナルティあるいは債務を履行させるインセンティブということを考えると,政策的に決める金利でいいのではないかと思います。   個別の運用金利をいろいろ引っ張り出して,国債の20年物とか,いろいろ計算して,それに幾らを上乗せするということをいろいろ考えても,最終的にはいい利率は出てこないという議論結果になりまして,それだったら,どれぐらいを今,弁護士の感覚で考えているんだという議論をしましたところ,3%というのが一つ出ました。やはり今のような低金利の時代でも遅延損害金が1%とか,2%というのでは法律感情に合わないのではないか。しかし,これだけ金利が低くなっているんだから,5%はちょっと下げて3%ぐらいというのは妥当ではないか。そういう感覚でございます。   政策的に金利を決めるしかないというところに立ちますと,2番の時点の間隔というのもかなり長い間隔のものになります。1年単位で見直すのが最低単位で,なおかつ資料の中にありますとおり,0.2%単位で刻むというのも煩雑ですので,1年ごとに見直して,3,4,5,6,7,そのぐらいの整数の%で変動させるので十分ではないかというようなところがある程度の支持がありました。要するに,変動制と言いながら,その都度,その都度,法律を改正する,5%だったけれども,最近の低金利を踏まえると3%でいいのではないか。その程度で見直していく変動金利のイメージでございます。   それから,もう一つは訴訟中の法定金利の発生の問題につきまして,正当に争っている場合にも法定金利がどんどんかさむのは非常に負けるほうとしてはつらい話です。和解を促進するという意味ではプラスの面もあるかもしれませんけれども,正当に争っているときの法定金利の発生について,これは民事訴訟法の問題だと思いますけれども,金利発生を抑えるよう何らかの措置を作ってもいいのではないか。そういう提案もございました。最後のは債権法改正とは関係ございませんけれども,そういう話があったことをお伝えしたいと思います。要するに変動金利と言いながら,かなり長い単位で,それほど細かく刻まない,せいぜい,イメージとしてはこの低金利の中で3%程度のイメージ,そういう意見がございましたし,私も現在,そういう意見を持っております。 ○野村委員 基本的に法定金利は市場金利に変動させて決めていくというのがいいと思うのですね。イですね。もっとも,市場金利そのものが法定利率になるということではなく,市場金利を基準として,一定の算式によって法定利率を定めるという意味であることはいうまでもありません。ただ,今,岡委員からもありましたけれども,1年とか半年とか,そういう単位で決めていくということがいいのではないかと思うのです。いずれにしろ,確かに計算は複雑になると思うのですけれども,計算が比較的容易にできるようなルールを考えるべきではないかと思います。それから,今の市場金利を考えていくと,恐らく中間利息については特定の数字で,少なくとも今の法定利率でやるということはちょっと考えられないと思うのです,ずっと下がると思うのです。したがって,中間利息の控除についても比較的簡易になるようなルールを考えることではないかと思うのです。法定利率が適用されるというのは,もちろん,債務不履行とか不法行為だけではないのですが,債務不履行や不履行については,一種のペナルティ的な上乗せをするということも考えられるのではないかと思っております。 ○中井委員 岡さんが弁護士会の意見を言っていただいているので,ここは私の意見を申しあげます。まず,第1の現在の年5分という金利を,今日の市場金利等の水準に見合ったものに改めるかという問題提起について,私は基本的に消極で,5%が特におかしいのか,おかしくないと思っています。   ここでの市場金利等というのが何を指すのかは,明確ではありませんけれども,資料を読めば,基準割引率及び基準貸付利率若しくは短期国債の発行金利若しくはTIBOR,銀行間のものだと思いますけれども,こういう金利指標,今日の経済情勢は1%を切るような利率を仮に想定しているのだとすればいよいよ論外だと思いますし,その後に何らかの例えば2%や3%を足すとか,4%を足すのかどうか知りませんが,そういう加算をするという考え方が一体,どこからくるのかよく理解できないところで,このような考え方を採る必要性があるのか疑問に思っています。   少し長くなりますが,52ページの下に法定利率が適用される具体的場面として,①,②,③の三つが挙げられています。一つ目,利率を定めずに利息を付す旨を合意した場合,仮に一般市民,ごく普通の人と普通の人がお金の貸し借りをする,利息を払うと約束したけれども,利率を定めなかった。そのときの金利は幾らが適当なのかと考えたとき,5%は決して不当な利率ではない。   個人間での貸付け,個人が事業会社に貸し付ける,事業会社から戻ってくるかどうか分からないという回収リスクもある。事業会社が個人に貸す場合もそうでしょう。現在の消費者金融を見たら,5%で借りられるなんてことはありません。もっと高い金利を求めている。遅延損害金になれば14.6%を求めている。つまり,基本的に民法が対象とする,我々の身近で行われている普通の貸借の金利が5%以下ということはまずないと思います。   仮に信用力の高い一流上場会社であれば,そこに対して銀行は1%,2%で貸し付けているのかもしれませんけれども,それを想定するのが適当なのか。いわんや,国債に対する信用力のある金利水準ないしはTIBORが市場金利だからといって,それを民法レベルの普通の金銭のやり取りの利率として適当なのか。そういうことを考えますと,①の場面に適用する金利として市場金利を採用すること自体,理解できない。実務の世界で,契約書を作るとすれば,5%や6%は当然で,遅延損害金は10%にしましょうか,という話になると思います。   二つ目は,金銭債権の不履行の場合における損害賠償の利率としてどうなのか。工場機械を壊された,1,000万の損害を被った,新しい機械を買うには1,000万が必要だ。そこで損害賠償請求をした。この1,000万を払えという訴訟において,遅延損害金として市場金利1%でいいのか。お金を受け取れば何に使うのか。銀行に預金して運用するわけではありません。1,000万の損害は機械が壊されたわけですから,1,000万を受け取ればそれで機械を買う,機械を買って事業に使う,事業で行われる運用益を金利と同じ1%だったら事業は成り立たない。通常,事業者が考える利回りというのは市場金利ではないということです。   逆にお金を払ってもらわなかったら,機械を壊された人は機械を買わなければ事業は継続できない。とすれば,その機械を買う資金調達はどうするのか。一般市民,一般中小企業の事業会社,民法の対象としている日本における多くの方々を考えたら,現在でも,5%以下で資金調達できるところはごく僅かです。これまた,信用力のある上場企業のみを念頭に置いて1%で資金調達できるではないか。こう言われると違和感があります。機械を壊された被害者にとって1,000万のお金を受け取れなかったら,市場で調達しなければならない。5%や10%での調達は今日でも普通で,大企業が1%だとすれば中企業は5%,小企業は10%,ならして5%であっても余り違和感はない。   不当利得が三つ目にあります。不当利得についても機械の売買契約をして1,000万のお金を払った。ところが,不可抗力で機械が入らないことになったので,契約を解消して1,000万を返してもらおうとした。この不当利得の場合も同じです。機械が入らない,お金も返ってこない。やはり,資金を調達して機械を買う。受益者は1%の金利でよければ,受け取った1,000万をずっと自分のポケットに置いて,若しくは運用しておいて訴訟だけ継続して,その結果に従って1%金利で払えばよい。そんな不公平なことが許されていいのかと思います。不当利得の場面でも損害賠償の遅延損害金と同じ理屈が成り立つのではないか。   また,例えば民法の647条の,受任者が預かり金を消費した場合,利息を付けて返す,650条の事務処理費用を支出した場合,利息を付して返してもらう。この利率もどう考えるか,これも市場金利,預金金利と同じでいいのか。受任者は預かり金を勝手に費消してしまったのに,普通の預金金利を付けて返せばそれで済む。受任者も事務処理費用を使ったわけですが,相手方に対しては預金金利分しか請求できないことで良いのか。それは事業ですから,資金調達コストが掛かっているはずで,その資金調達コストは決して1%ではない,市場金利ではない。それが民法の普通の世界ではないでしょうか。   647条,650条における利息も市場金利でいいとは思えない。ただ,利息とは別に損害があれば,損害の賠償ができるという条項がある。とすると,金利が通常損害で,調達金利は特別損害か。同じ趣旨の記載がこの資料にもあります。仮に切り分けをするなら,私は特別損害ではなくて,通常,事業に掛かるコストで,市場金利が1%であっても通常の事業会社は5%以上の資金コストを掛けて事業を行っていることは,紛れもない事実だろうと思います。   そういうことを考えると,第1の問題ですけれども,市場金利の水準に見合ったものに改めるということ自体について疑義を持っています。  次の遅延損害金との関係でいうならば,私は法定利率に一定の加算をしないという考え方に賛成です。今の損害賠償の利率若しくは不当利得も結果的にはそうですけれども,その中には損害賠償ということで,若干,高目の利率を意識している面が否定できないのかもしれません。内田委員が最近,お出しになられた本で,みずほ証券と東京証券取引所の訴訟が例に挙げられて,これはおかしいではないかとおっしゃっている。これは極めて信用力のあるものと信用力のあるもののやり取りで,このような例を取り上げて一般化するのは,私としては同意できないと思っています。   それを前提に,次は変動制を導入するのかという点についてです。現在の金利の情勢の中で5%,20年前のバブル前期の5%を超える公定歩合の時代にあった金利と全く同じで変えなくていいのかと,こういうボールを投げ掛けられますと,さすがに,それでも構わないとは言いづらいところがあります。そういう大きな情勢の変化に応じて,5%を死守する必要があるとは思えない,変えなければならないという事情はあると思います。それであっても,提案されているような変動制を採ることによるデメリット,コスト,これは先ほど村上委員がおっしゃられたこととも重複しますから重ねませんが,それ以外にもあると思います。それらのコストやデメリットを負担してまでのメリットがあるのか私は疑問を持っています。仮に,そういう意味で何らかの変動制的要素を入れるとしても,基本的には民法の中では固定金利として,それが著しくおかしくなれば,民法を改正することによって4%とする,若しくは6%とする,その程度の変動を想定して十分ではないか。   変動制を採ろうという方々がお考えになっている具体的イメージを,是非,お聞かせいただきたいんですが,市場金利,例えばTIBORを基準にすると,半年ごとに0.1%変われば変えるのか。短プラが0.2%変われば,半年ごとに変えるのか。この0.1や0.2を変えることの経済的意味,金銭消費貸借において利息を払うことを定めて,利率を合意しない場合,損害賠償金利,不当利得の金利,これを市場金利に合わせて0.2%とか0.3%変えることの積極的意義は何なのかということが私としては理解できません。変動制について消極,現状を変更することにも結論としては消極です。ちなみに,弁護士会中でも少数説のようですが,私の意見として申し上げておきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○高須幹事 岡先生,中井先生の意見等も踏まえた上での意見という形にはなっていくのですが,私としては法定利率については一律に法定利率は全てこういうものだという位置付けはできないのではないか,類型化が必要なのではないかと思っております。そこで,以下,三つぐらいのパターンがあるのではないかという御説明をさせていただこうと思っています。   最初のパターンと言いましょうか,パターン1は既に履行期が到来している,あるいは履行期が到来すべきものとされているケースです。実際には履行期が来ているにもかかわらず,支払がなされないで時間が経過していくというときに,時間の経過に対して付加して支払うべき性質の金銭というものがあると思います。代表例は遅延損害金だと思うんですが,正に遅延損害金のような場合というのは,今,中井先生からも御指摘があったように,これは必ずしも支払を受けるべきものの資金の運用利益の確保だけにとどまらない性質があるのではないか,実質的には損害の補てん分のようなものが含まれていたり,あるいは不払いを抑制するためのインセンティブみたいなものが入っていたりするのではないか。   この場合に,単に市場金利に類似すればよいというわけにはいかずに,例えば先ほど来,数字として出てまいりました3%でありますとか,あるいは現行の5%相当額というようなものも,あながち不合理とは言えないという面があるのではないかと思っております。したがって,この類型に関しては市場金利との差があるということのみをもって不合理ということはできなくて,その差が著しいかどうかというところでの考慮なのではないかと思います。   もう一つのパターンは,むしろ,中間利息のところでのお話につながるわけですが,将来的に履行期が到来するけれども,何らかの原因によって現在の時点において支払がなされるという場合です。この場合,先取りするような形で支払がなされることになりますから,その間の期間をどのように調整するかという性質の金銭なんだろうと,これがいわゆる中間利息の問題だということだと思うんですね。   これについては現在,履行を受けた者が,将来の本来の履行期までの間に運用して得られる利益というものについて,支払を受けた者にそのままその利益を与えるのは不公平ということになる。ここでは正に運用利益を基準とした中間利息控除がなされるべきでないのか。この場合には市場金利等の関係性というのは,より強いと評価されてもいいのではないかと思いまして,こちらではむしろ市場金利との関係というのを考慮してもいいと。この場合,ただ,変動をどうするかの問題は難しい問題があるので,そこは技術的にも考えねばなりませんが,少なくとも遅延損害金と中間利息とでは別の考慮が働くのではないかというような理解を一応持っております。   その上で,三つあると言ったようにパターン3というのも考えてみたのですが,先ほど岡先生からも話が出たのですが,履行期が既に到来していると評価されうるようなケースなのだけれども,履行がなされないという理由については,専ら支払者の都合で支払をしないという問題ではなくて,何らか他の事由によって支払がなされない場合がある。その典型例が訴訟をしている場合で,そもそも支払義務の有無について争っているので支払をしないと。このような理由がある場合には,先ほどのような実質的に損害の補てん分が含まれているとか,支払をさせるためのインセンティブだというような要素は,基本的には考慮の外に置くべきだと思いますので,この場合には何らかのいわゆる遅延損害金と言われるような問題であっても,訴訟係属中には法定利率を低目に設定するような何らかの制度が必要なのかもしれない。   何らかの制度とは何ですかということなんですが,要するに訴訟等の紛争解決に時間が掛かっているということがこの問題の本質でございますから,それに見合った対策ということで,全く例えばですが,供託制度などを設けて供託をした限りでは,市場金利に類似したような金利でいいというような制度を設けるとか,そういったことも考えてもいいのではないかと思ったりもしております。要約しますと,本来,支払義務が確定しているにもかかわらず,あるいは争いがないにもかかわらず支払いがないときの遅延損害金のような場合の比較的高率の法定利率と,中間利息控除のようなときに議論されるより低目の法定利率と,それから,訴訟係属中のような場合で,どちらかといえば,より低目のほうに誘導されるべき法定利率と,三つぐらいの可能性があり,それについて変動制との兼ね合いでどうしたらいいかを考えるべきではないかというような意見を持っております。 ○深山幹事 弁護士委員,幹事が続いて恐縮ですけれども,弁護士会全体の雰囲気はともかくとして,私はこの提案全体について消極的に考えております。基本的には(1)の利率の見直し及び変動制の導入については,中井先生と同じ考え方を持っております。重ならない限度で,若干,補足をすると,52ページのところで中井先生が御指摘のように,適用場面として,①,②,③が示されておりますが,②と③は比較的近いかなと思いますが,少なくとも①と,②,③とは大分場面が違うという気がいたします。   と言いますのは,①のところは具体的な利率を定めなかったときの一般的な利率をどのくらいにデフォルトルールとして定めるかということで,どれだけ適用の場面があるのか,実際には余りないような気もしますが,そのときには合理的な意思解釈の延長の中で考えればいいと思います。その場合でも先ほど中井先生が御指摘されたように,いわゆる市場金利のような低率というよりは,一般的な適用場面を考えると,現行の5%でも必ずしも高いわけではないのではないかという気がします。   より申し上げたいのは②の場面であり,②の法定利率の適用場面が実務的には一番多いと思うんですが,ここは正に遅延損害金という損害金率の問題です。ですから,そこでは何が損害なのかということが問われなければならなくて,運用利益を逸失利益的に捉えて,それが損害であると言えるとは思いますが,では,損害がそれに尽きるのかというと全くそんなことはなくて,これも具体的に中井先生が例を挙げられたので繰り返しませんが,金銭債権が履行されなかった場合に,債権者がそのことによって被る損害というのは,決して運用利益相当額には全く限られないと言えます。   もちろん,ケース・バイ・ケースでかなり幅があるので,何%がいいかというのはそれほど簡単に決められないわけですが,少なくとももう少し幅を持った損害を想定して,最後は政策的判断で決めるしかないんだと思います。その場合,それなりのパーセンテージになってしかるべきであり,5%というはそういう観点からも決して高くはないだろうと思います。これは決して懲罰的な意味合いを込めてとか,履行のインセンティブを与えるという趣旨ではなく単純な損害として,現行の5%程度の損失を被ることが通常であろうと感じられるので,それを申し上げているということです。   もう一つの(2)の中間利息控除については,高須先生が御指摘のところと重なるところではありますが,これは先ほどの(1)の①,②のような場面とはまた全く違う場面であり,現行法上は5%の法定利率しかないので,判例上その規律が採用されておりますが,立法論としては全く違う場面で適用されるべき利率として考えるべきで,具体的には高須先生が御指摘のとおり,ここでは早目にもらうことを理由に割り引くというものですから,市場金利的な運用利率というものが一番考慮すべき要素で,先ほど言った損害を観念して考えるべき利率とは大幅に異なるかなり低いものになるべきです。やはり,場面,場面で区別して議論すべきではないかと考えております。 ○潮見幹事 いろいろ意見が出ていますが,遅延損害金のところについてだけ,一点,意見を申し上げます。中井委員の発言にもありましたように,金銭債務の不履行の場合の損害というものをどのように考えるのかについて,従来の判例法理だと,この場合には利息損害しか取れません。これを今回の改正でも維持するという立場を採るのか,採らないのかによって,先ほどの議論はいろいろ変わってくる余地があると思います。   金銭債務の不履行を理由として弁護士の先生方がおっしゃられたような利息損害を超える損害の賠償を請求することをこれから認めるということにするのであれば,これは特別損害には限らず,通常損害にもなり得るので,利息損害以外の損害の賠償を認めるということを正面からルールとして採用すればよいことです。ただ,その場合でも,先ほど深山幹事が直前におっしゃられたところですけれども,仮に利息の運用による損害や,運用相当額の損害以外の損害をある程度,利率という点で定型化することができるということなのであれば,一定の利率を示して,「最小限の損害」のような形で示すということはあり得るかもしれません。   これとは違って,判例法理を維持して金銭債務の不履行の場合に利息損害しか認めず,それ以外の損害は認めないとするのであれば,先ほどから話題となっているような損害に対する賠償は,私も認めるべきだと思っておりますところ,それは利息損害の中で処理をするしかないので,そうなると,少し高目の金利というものを考えていくという方法もありかなと思います。利息損害に限定するというのは私の立場と違うため,積極的には申し上げませんが,私自身はこのような方法もありかなと思っています。   あと一点,金銭債務の不履行について,外国の例,ドイツの例とかも出ておりましたので,情報提供のような形で申し上げますと,これはドイツが主導的に作ったわけではなくて,EUの支払遅滞指令でというものがあって,それを国内法化するためにEU加盟国がこの種の規定を置いたというのです。そして,このEUの支払遅滞指令というものが出されたときに,利率の上乗せをしましょうという形で足し算をした理由は,岡委員がおっしゃられたところと共通するのかもしれません。要するに,いくつかの加盟国では,金銭債務の履行期に履行をしない債務者が多い上に,遅延の期間というものも格段に違う。そういうところから,一方で,履行に対するインセンティブを与え,他方で,きちんと履行期に履行をしない者に対しては,一種のペナルティ的なものを課してもいいのではないかという観点から,このような処置がされたというように受け取っています。ただ,そのような考え方を,果たして日本の民法改正で採用するのが,しかも金銭債務の履行遅滞の場面に特化した形で,そのような異質の要素を挙げるというのは,いかがなものかと思います。そんなことをするよりは,正面から利息超過損害を認めるかどうか,認めないときには何らかの補正措置を講じるべきかどうかを論ずれば,我が国では足りるのではないかと思います。 ○佐成委員 経済界の中で改めて議論したときの状況について御報告させていただきますと,5の(1)と(2)ですけれども,まず,(1)については基本的には現行の利率を市場金利等の水準に見合ったものに改めるという方向,それと変動制を入れるということについては賛成する意見が多数だろうと思われます。ただ,その中では先ほども村上委員などが適切に御指摘された部分もありますし,いろいろ懸念する声がたくさんありました。そういったものは恐らく中間論点整理に対するパブコメであるとか,あるいはここでのヒアリングで各業界から表明されているところとも重なるだろうと思います。ですから,そういった懸念を払拭するようにきめ細かく対応してほしいという意見も相当ありますが,方向性としては賛成であるということでございます。   それから,(2)の中間利息控除に関しては,判例上は確かに法定利率が適用される場面であるということは確定しているわけですけれども,そうは言いつつ,やはり原理的には違う分野ではないかと思います。これについては一読の際にも申し上げましたし,特に損保業界からしますと,今までの実務の安定性が損なわれる危険性があって非常に懸念をしているということでございます。ここでは細かくいろいろな議論を改めて申し上げませんけれども,パブコメであるとか,あるいはヒアリングでいろいろな意見が表明されていると思いますので,そこら辺も斟酌の上,具体的な制度設計をしていただきたいという意見でございます。 ○山本(和)幹事 5の(1)のアの後段についての意見です。このこと自体,つまり,金銭債務不履行による損害金利率について,上乗せをしないということ自体についての直接のコメントではありませんが,もし,こういう考え方をするのであれば,それに代わるものとして検討をお願いしたいというのが,不履行によって上げるということは,資料にも書かれているいろいろな問題があるとは確かに理解しますけれども,判決が確定した後について,プラスアルファをするということを考えていただけないだろうかということであります。外国の中では,フランスなんかはそういう考え方を63ページの通貨金融法典L313の3条の第1項ですかについては,何か,そういうような規定を設けられているようでありますが,こういうような感じの何か規定ができないかということであります。   その趣旨は,先ほど来,出ておりますけれども,債務名義あるいは確定判決の実効性の強化という点でありまして,できるだけ債務者に任意に債務を履行することを促すということが考えられないかということであります。もちろん,金銭債権について確定判決が出れば,それに基づいて金銭執行するというのが民事執行の基本的な考え方でありますけれども,債権者は差押えをするには債務者の財産を確知しなければなりません。それは非常に困難であるということで,民事執行法では財産開示という制度を平成15年の改正において入れましたが,それは必ずしも実務においてはワークしないと言われております。また,預金債権の差押えについてはつい先日,最高裁判所の判例が出て,その支店の特定についてかなり厳格な要請をするような法理が確立しました。   債権者にとっては,金銭債権の強制執行というのはなかなか難しいところがあって,実際上は債務者にできるだけ任意に弁済をしてもらうほうが望ましいということで,実務においては判決を取らずに和解をするということも行われておるわけでありますけれども,判決になった場合に,この利率がある程度,高いことによって任意弁済を促す効果というのは,それなりにやはりあるのではないかと思っております。   ですから,そういう意味では,54ページに先ほどの債務不履行後の遅延損害金のプラスアルファを規定する理由が述べられておりまして,これはそれなりに説得力がある御議論だとは思いますけれども,そういう懲罰的要素を盛り込むということではなくて,今,申し上げたように債務の任意の履行を促すという,どちらかというと機能的な観点から遅延損害金というのを考えることはできないかということでございまして,それから,物の引渡債務等との均衡を欠くということでありますが,物の引渡し等の債務については,そういう機能を果たす民事執行法上の制度として間接強制というのがあります。間接強制は平成15年の改正によって金銭債務以外の債務に拡張されました。しかし,金銭債務については諸般の議論があって,間接強制制度は扶養債権を除いては入れられていません。そういう意味では,遅延損害金というのは間接強制に代わる機能を持ち得るもの,金銭債務についてはそういうものではないかと認識をしております。   それから,債権者が訴訟を遅延させるとか,債務者の裁判を受ける権利を奪うというのは,先ほど来,弁護士の委員,幹事の御議論にあるように問題だと思いますが,その問題は判決が確定した後はありません。判決が確定した後は,当然,債務者は払わなければいけないわけですので,そこで利息を上乗せするということは,それほど大きな問題はないのではないかと思っております。   恐らく損害賠償という観点からすれば,その制度趣旨からはなかなか難しいということではあろうかなとは思っておりますけれども,先ほど潮見幹事からも御紹介がありましたドイツ,それからフランスでも今のような制度が導入されているということですし,私が若干調査したところでは韓国なども最近,そういうような制度を入れたと聞いておりますので,損害賠償について多分,同じような考え方を採っているような諸国でも,そういうような制度が取り入れられているとすれば,日本でもそういう余地はなくはないのかなという素人ながらそう思いますので,最終的に却下されても仕方がないというか,思いますけれども,説得的な理由を付けて却下していただければ諦めますので,もう一度,御検討を頂ければ大変有り難いということです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○松本委員 中井委員の御主張,すなわち調達コストを中心に法定金利を考えるべきだという御指摘については,特に現在のような運用金利は超低金利でも,調達金利は下がっていないんだという背景からは非常に説得力があると思うんですが,逆に,従来のような定期預金でも6%,7%という金利が付いていたような時代における調達金利というのは,恐らく10数%だったんでしょうと考えると,5%の法定利率で固定されているということは,そういう高金利時代においては,極めて不利な状況に置かれていたということになるわけで,それでもいいんですかということなんです。   両立させるとすれば,野村委員がおっしゃっていたような運用金利に5%なら5%をプラスして積めば,今のような超低金利であっても5%ちょっと,場合によっては6%を取れるということだから,それで高金利時代になれば実際の調達金利どおり,10何%を取れるということで,債務不履行を被った側としては損害賠償的には十分になるわけです。そういう変動金利プラスアルファという考えのほうが,中井委員の御主張には適合的ではないかなという気がいたします。   もう一つ,債務不履行ではないところの,利息を払うという約束はしているんだけれども,金利を決めていない,当事者の合理的意思を考えても,契約の趣旨を考えても,なお,分からないという場合は,変動金利の調達金利でいくというのも,ある意味ではやむを得ないのではないかなと思います。   ただ,変動金利の法定金利で,しかも優良大企業向けの貸出金利のようなものをベースに,それに債務不履行の遅延損害についてプラス5%とかを付けると,将来,金利が上がったような場合に,あるいは今でもそうですが,先ほどの大企業と大企業の間における争いで,そんな高額の遅延損害金を払わせるのが適切なのかという議論になってくる。その点を合理化しようとすれば,債務不履行だから懲罰的な意味があって,プラスアルファなんだということを付加しないと,調達金利はそれほど掛かっていないはずではないかということになりそうで,私もどれが一番よいということはなかなか言いにくいです。当事者によって法定金利を使い分けるのが一番経済的には妥当なのかもしれないですけれども,そういうことを民法で書き切れるのかというと,なかなか難しいかと思います。結論的には何か定まりませんけれども,市場金利プラスアルファというのは,それなりに合理性があるのではないかという気がしております。 ○中井委員 先ほど潮見幹事がおっしゃられた利息超過損害を認めるのかという点について,私は消極説で,それを前提に議論しています。   今,松本委員がおっしゃられた点について,少なくとも現在の市場金利を見て5%は高過ぎるという議論,このこと自体に私は疑問を申し上げているというのが基本です。確かに20年前,30年前に戻ったときのあの公定歩合で,7ないし8%のときはどうかと。そのことを想定したときに,今のまま私の理屈が貫けるのかということについては自信がありません。しかし,それであっても,5年,10年というスパンで考えるべきでしょう,金利の変動を認めるとしても,と思っています。したがって,今の市場金利が5%になって調達金利が10%になるというような時代になったときには,民法自身を改正して5%をしかるべき金利に直すということは十分にあり得るだろうと思っています。その限度で申し上げておきます。 ○岡委員 三点,補足させていただきます。   先ほど高須さんは三つのジャンルと言いましたけれども,それ以外に,利率の定めのない貸付けの場合もあると思います。その場合については先ほど来,出ているように性格が大分違いますので,法定利率というのを定めなくていいぐらいではないかと思います。当事者によって大分違いますし,貸倒れリスクでありますとか,借入金の使用目的とかは違いますので,そこは裁判所にお任せをして,契約の趣旨で最後は決めてもらうのでいいと思います。どうせ,事例はそれほど多くないでしょうから,法定利率の概念から利率の定めなき貸付けの場合は除外するぐらいでもいいのではないかと思います。貸付けのところについては法定利率でなくてもいいのではないかというぐらいに考えております。   二番目に,中間利息のところで,先ほど深山さんはかなり低い利率を立法で定めるのが相当だと言いましたけれども,中間利息控除をする逸失利益の算定は立法で定めておらず,確立した判例準則ですから,もし,民法が遅延損害金のところを3%に下げるという,そこを動かすという意思表明があれば,先ほどのようにジャンルの違うところですから,きっと日本の優秀な裁判所は違う理屈を立てて,損保業界にも通用するような新しい定め方というのはできるはずです。そこまで法律で定める必要はないのではないかと思います。要するに中間利息の法定利率については民法でなく,解釈の発展に委ねることで足りるのではないかという意見でございます。   三番目に,遅延損害金については,デフォルトルールを作らずに,個別の損害賠償のルールに委ねればいいというのも,あり得るということのようにお伺いしました。それも一つの方法と思いますが,やはり,今までの5%で100年やってきて,遅延損害金の金銭債務の不履行のところについて,毎回,毎回,立証するというのは極めて大変な印象を受けますので,3%か,4%か,5%か,そういうところで遅延損害金のデフォルトルールは定めたほうがいいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○中井委員 中間利息控除についても意見を申し上げておきたいと思います。大阪弁護士会の意見は,先ほど高須幹事から話がありましたように,本来,将来もらえるものを,今もらうのですから,被害者にとっては運用利回りが基本になるのではないかという意見です。ただ,私は必ずしもそうではありませんで,これまで判例で形成された5%なら5%という法定金利の一律扱いでもいいのではないかと,思っています。   その理由とするところは損害賠償の逸失利益にしても,損害額の算定は様々な考慮要素を考慮してえいやと決めているわけで,収入一つを取っても例えば余命まで生きることを前提にし,就労期間について67歳までと仮定し,途中で死ぬかもしれない,途中で給料が上がるかもしれないし,下がるかもしれない。そういうことも全て捨象して,一定の何らかの計算方法で合理的に被害の回復を図り公平を達成しようと,裁判所が編み出した一つの計算方法ですから,金利の情勢が変わったからという理由だけで,その計算方法自体を変えなければならないほどの理由なのかという点で疑問があります。   中間利息控除についても様々な架空のものを積み上げているので,金利一つのことを理由に,そこで変動させるのが果たしていいのかということについて,素朴に疑問を持っています。 ○高須幹事 幾つかの考え方が出るところだと思いますが,損害賠償の問題のところで総合的に判断をして適切・妥当な損害額が決定されてくると。このこと自体は私も全く異存はなくて,その意味では,今,中井先生がおっしゃったような要素も考慮しなければならないだろうと,そう思っておる次第なんです。ただ,大阪弁護士会で御指摘があり,それと私の意見とが似ているわけですが,損害賠償の適切な額を算定するプロセスにおいて中間利息控除というところで,5%なら5%を使って妥当な金額を算出する,あるいは調整要素として使うというプロセスは,現在の市場金利との差を考えると,余り説得力がないのではないかと。やはり,そこは市場金利との関係性を重視した上で,その他の問題は別なところで調整をすべきで,そのほうが被害者の理解を得やすいのではないかという思いがあって,ここは先ほど申し上げたように,低目の市場金利との関係性を重視した考え方を中間利息控除では採ることができるのではないかと考えています。   それと,もう一点は資料にもお書きいただいていますように,民事執行法等でも将来,履行期の来るものについて,現在,配当する場合にどうするかという場面があります。そこでも中間利息控除しているわけで,その場合にはむしろ比較的機械的に法定利息を前提としての算式,ホフマン方式を使うなどということを説明されていますが,これでやっているわけですから,その場面などはなおさら適切な法定利率という言い方がいいかどうかも分かりませんけれども,適切な利率を決めておかないと,そこはまた違う問題性が出てくるのではないかと,このように考えている次第です。 ○岡崎幹事 先ほどの岡委員の御発言について,申し上げたいと思います。中間利息控除に関して,法律に定めなくても日本の裁判所が適切な解釈をするとの御発言がございましたが,中間利息控除のような問題については,解釈指針をある程度,決めておいていただかないと,適切な解釈というのはなかなか難しいのではないかと思っております。今回,例えば変動制が導入されることになった場合に,中間利息控除に関してどうするのか,普通に考えたら変動制が導入された以上は中間利息控除も同じような制度を採用するという考え方も十分成り立つわけでございまして,これがそうではないというのであれば,では中間利息控除はどうするかということについて規定を設けておかないと,社会において非常な混乱を招くことになるのではないかと思います。   それから,先ほど中井委員の御発言に賛同するところなのですが,法定利率が市場金利と乖離するのが問題であるという事態が生じている場合には,どういう利率が望ましい利率なのかということを長期的に考えながら立法で定めるというのが本来在るべき姿であって,これを一定のルールを設けて,それで変動させていくということがいいのかどうかということに関しては疑問を持つところでございます。 ○佐成委員 先ほど山本和彦幹事が提案されたところについて,まだ,経済界の中で議論しているわけではございませんけれども,感想的なところでいくと,確かに判決確定後に任意の弁済を促すためのインセンティブを与えるという趣旨で,機能的な側面を捉えて利息の上乗せを考えるというのは,実務的には十分考えられる制度かなと思います。その点だけ,一言,申し上げておきます。 ○筒井幹事 先ほど山本和彦幹事から御提案があったところについて,佐成委員からサポートする方向の感想が出ましたので,どうしたものかと考えているのですけれども,決して直ちに却下するという趣旨ではないのですが,反対の方向の感想も申し上げておこうと思います。山本和彦幹事からは,金銭債権についての権利実現の実効性をどのように確保していくかという観点から,執行法的に様々なメニューが考えられるうちの一つを,この場面で御提案いただいたのだと思います。ただ,様々なメニューとの比較で考えるという意味で,民法よりも執行法の分野においてお考えいただくのが適当なのではないかという感想を持ちました。   それから,金銭債権についての権利実現の実効性確保が難しいという問題意識は大いに理解いたしますけれども,他方で,金銭債務の間接強制は,現在,極めて限定的な場面でしか認められておりません。それでも間接強制であればケースごとに執行裁判所の判断でどの程度の間接強制金を課すのかが定められるわけですが,先ほどの御提案ですと,およそ金銭債務についての確定判決では一律に一定の利率の上乗せをすることになりますので,それが,特に金銭債務について間接強制が極めて限定されていることの根拠との関係で,合理性を持ち得るのかどうかについて,なお十分に留意する必要があるのではないかという感想を持ちました。   以上の感想を申し上げた上で,先ほどの御提案をこの部会で取り上げるかどうかについては持ち帰って考えたいと思いますが,ただ次の機会が中間試案のたたき台をお示しする段階だとすると,十分な議論をするには時間が足りず,論点の取捨選択をせざるを得なくなる可能性があるということを,本日は申し述べておきたいと思います。 ○畑幹事 今の点につきましては,私も筒井幹事がおっしゃったところに通じる感想を持ちました。つまり,平成16年だったと思いますが,間接強制を金銭債権について設ける際に,法制審の場に筒井幹事,山本和彦幹事の両者はいらっしゃったと思いますが,その範囲をかなり限定したということとの関係を考える必要があるだろう。取り分けインセンティブ論というのは,払おうと思えば払える人を念頭に置いた議論であって,そうでない局面もたくさんあるということは,考慮する必要があるのではないかと思っております。   それから,もう一つ,訴訟に関してかなり前に岡委員,高須幹事から,逆に訴訟が係属中は損害金の発生をストップするとか,低く抑えるというようなアイデアが出ておりまして,それもアイデアとしてはあり得るかなと思います。ただ,訴訟で争っている場合というのも不当に争っているという場合ももちろんありますし,あるいは逆に訴訟なり,認定ADRなり何なりに係っていなくて,つまり,相対でもめているけれども,しかるべき理由があって争っているという場合もありますので,訴訟の係属や認定ADRなり何なりに係っているということだけに着目するというのは,何というか,ややきめが粗い議論かなという感じがいたします。 ○松本委員 中間利息の控除の話に戻らせていただきたいんですが,何人かの御意見の中で中間利息の控除の場合は,運用利益という点のほうから着目をして控除を考えるべきだという御指摘がございました。それは確かにそのとおりだと思うんです。そこで,これを変動金利の話とつないでいくと,運用利回りも将来,どんどん変動するわけだから,そこまで考慮して中間利息控除ができるのかというと,現在においては,できないと思うんです。固定金利にしない限りはできないと思います。となると,中間利息控除に将来の変動金利を組み込むというのは不可能だ。他方,現在の変動金利で固定して中間利息を控除するということが許されていいのかというと,どの時点で損害賠償を請求するかによって,その後に金利が変動した場合に非常な不当感,不公平感を与える可能性があると思います。   そういうふうに長期間に渡って変動する運用利回りということであれば,例えば過去何十年かの例えば平均金利ということで固定をして中間利息を控除すれば,損得,それぞれ,でこぼこはあるでしょうが,大体,それぐらいの線でしょうねというところで,比較的合意がしやすいのではないかなと思います。更に言えば,中井委員が御指摘されたように,そもそも人身損害賠償,将来の死亡に伴う逸失利益の現在価値が幾らかというのは,フイクションの上にフイクションを重ねているわけですから,余り緻密にやっても意味がないと言えば意味がない。公平に数字を出すという点では意味があります,変な操作をしていませんという意味では意味がありますけれども,そこで出てきた数字がどこまで真実かというと,全くそうではないわけだから,人身損害については中間利息の部分だけにこだわった議論をしても恐らく仕方がないだろうと思います。   他方で,将来の確定金債権を現在,受け取るという場合は,将来,債務者が払ってくれなくなるかもしれないという意味のリスクは考慮されるにしても,比較的客観的な数字を出して,現在の価値を計算するということでいいのではないか。つまり,人身損害の場合については,こう決めますよということで決める,通常の法定利率の議論とは違う計算方法を決めてしまうということでもいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 変動制といっても,将来,利率が変動するごとに利率を変更するという意味で変動制の語が使われるのと,過去何年分の平均利率で利率を定めるというのも,その時点,その時点で利率が変わってきますから,これも変動制なので,変動制という言葉の使い方というのは,場面,場面で少しずつずれがあるので,かみあった議論をしなければいけないと……。 ○松本委員 おっしゃるとおりですが,運用利回りということを強調すれば,日々変動する,あるいは1年ごとに変動するとかいうことで計算しないと不公平だということになります。 ○鎌田部会長 6時を過ぎてしまいまして,本日,予定した範囲の半分もいっていないぐらいです。大変申し訳ないんですけれども,今,既に説明をしていただいた部分の中で,利息の定義につきましては御意見を頂いておりません。利息の定義規定については設けないこととしてはどうかという提案でございますけれども,これに御異論がおありかどうかを承っておきたいと思うんですが,いかがでしょうか。よろしいですか。利息の定義については設けないということに異論はなかったとさせていただきたいと思います。   次に,選択債権についてでございますけれども,選択債権についても特に御意見を頂いていないところでございますが。 ○潮見幹事 その前に,金銭債務の419条ですが,現行法のただし書が,変動制を採用した場合に,しかも継続的な給付がされる場合に,果たしてこのままでいいのかという懸念を若干感じています。趣旨は御理解いただけると思います。   選択債権のほうですが,補足説明に書かれていないことで申し訳ないのですが,410条です。1項と2項がこのままでよいのかということを考える必要がありはしないでしょうか。1項については,いずれまた出てくるのでしょうけれども,原始的不能の給付であるということを理由として契約は無効となることではないという考え方を採用した場合に,このままでよいのかという問題がありそうです。もっとも,原始的不能の考え方を転換したドイツ民法では,その後も410条の1項に対応する規定がそのまま残っていますから,このままでもよいのかもしれませんが,若干,落ち着きが悪いという感じもします。   それから,2項ですが,次回の議論にも関わってくるのでしょうけれども,仮に1項を維持するとしても,選択権を有しない当事者の過失によって不能となったという,ここが「過失」という表現でよいのかが若干気になります。債務者の責めに帰することのできない事由というワーディングをどうするのかということについての検討に沿った形で,2項の当事者の過失という言葉自体の当否を少し考える必要があるように思います。 ○岡委員 利息のところに戻るので,今の続きがあるのでしたら。 ○鎌田部会長 それでは,まず,選択債権について,ほかに関連の御意見はございますか。 ○松本委員 今の潮見幹事の御指摘で,不能について,不能だから契約は無効だとか,成立しないとか,債務者の責任は一切ないということにはしないという方向で,従来の議論は進んでいたわけですが,ここで言う不能は別にそこまでのものを含んでいなくて,責任があるないの話ではなくて,当該債権を選択しても,それの履行を求めることができないという意味での不能だと考えれば,別のものの上に存続するということはあり得ると思うのです。ただ,損害賠償のほうを選ぶということができなくなるのかという点は残りますが。 ○鎌田部会長 これは,不能の議論するときに,御指摘の点を踏まえて検討させていただくということでお許しいただければと思います。 ○岡委員 利息の定義のところについては,補足説明に,元本の交付と利息発生との関係等の問題については,消費貸借に関する論点の一つとして別途検討すると書かれています。この論点は非常に弁護士会として注目しておるところでございますので,消費貸借のところで検討することを条件に,定義を設けないということに賛成であるという意見が多かったことを付言させていただきます。   ついでに,選択債権のアとイにつきましても,アについては少数意見が少しございましたけれども,賛成が大多数でございます。イについては,有力単位会は反対しておりますが,多数は賛成という状況でございます。 ○鎌田部会長 それでは,大分,最後のほうは慌ただしくしてしまいましたけれども,事務当局からの提案にもありましたように,法定利率の見直しと利率の変動制の導入の要否及び中間利息控除につきましては,部会の御意見としては多様な御意見を頂戴したところでございますけれども,変動制を採用した場合に,それぞれ,どんな運用イメージになるのかということは必ずしも明確ではないし,多様な考え方がなお存在し得るということで,これも大変恐縮なんですけれども,分科会のほうで,外国では既に幾つかの制度ができていますので,こんな形の制度作り,こういう運用があるということの整理をしていただく作業を分科会に補充的審議としてお願いしたいと考えておりますけれども,よろしいでしょうか。 ○岡委員 それは第何分科会なんでしょうか。 ○鎌田部会長 まだ,どこにするかはどれぐらいの量がたまってくるかにもよりますので,検討させてください。それから,選択債権についてもほとんど十分なお時間を頂けなくて,岡委員からの御紹介では反対の御意見もあるということでございますので,この提案にどのような問題点があるのかということについて,分科会で補充的に御議論を頂きたいと思いますけれども,この点もお認めいただけますでしょうか。ありがとうございます。   それで,何とか部会資料31は終わらせていただけました。部会資料32も審議したかったんですけれども,丸々残ってしまいました。これで予備日が大分忙しくなりそうです。進行の不手際を心からおわび申し上げますけれども,時間もかなり超過いたしておりますので,本日の議論は以上ということにして,積み残し部分は次回の冒頭に……。 ○中井委員 12月6日に第2分科会が開かれますが,第2分科会の論点について確定しているのでしょうか。もし,時効の関係であるとか,法定利率に関することが6日の分科会の論点に入っているのだとすれば,分科会委員ではありませんけれども,参加の申し出をしたいと思いますので,その前提として範囲を教えていただければと思います。 ○鎌田部会長 本日の審議におきまして,幾つかの論点について分科会で補充的に議論すると御決定いただいたところでございますが,そのうちの消滅時効に関する論点については,消滅時効に関する他の論点と同様に,第2分科会で審議していただくことといたします。そのあと,債権の目的のところで,法定利率を中心に分科会での御議論をお願いしたところでございますけれども,これについては,まだ,どこにお願いするかはもう少しお願いすべきものの分量が決まったところで,それぞれの分科会の御負担の様子と,関連する内容,それと民事訴訟手続法あるいは商法の先生に御参加いただくほうがいい項目があったときには,商法の先生,民事手続法の先生の日程との調整がついた分科会の日に,それを割り当てるというようなことをしたいと考えておりますので,大変申し訳ありませんけれども,債権の目的以降については本日の段階ではペンディングとさせていただきます。   お手元に第2分科会第1回会議のお知らせというペーパーがございますけれども,そこの12月6日の第2分科会での審議の予定の項目というのがプリントしてございますので,ここの3の部分は本日,消滅時効,第1の3の(2),それから,4,それから,5の(1)(2)というのが追加的に第2分科会で御審議いただくものとして,追加されたということで御理解いただければと思います。ということでよろしいでしょうか。   それでは,最後に次回の議事日程等について事務当局から説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 次回の第37回会議は,12月13日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は法務省3階,東京地検会議室になります。次回会議は予備日ですので,本日の積み残し部分である部会資料32と34について御議論いただくことを予定しております。また,次々回の第38回会議がその翌週に開かれます。この次々回会議に向けて部会資料35,その対象範囲は債権者代位権と詐害行為取消権ですけれども,これを事前送付する方向で準備を進めております。よろしくお願いいたします。   それから,分科会の関係で2点,御報告があります。   一つ目は,第1分科会の第1回会議の開催についての報告です。お手元に「第1分科会第1回会議の開催について(報告)」と題する書面をお配りいたしました。ここに記載されておりますとおり,11月8日火曜日に,第1回の第1分科会が開催されました。出席者は書面に記載されているとおりです。そして,書面に記載されている議題につきまして,部会での審議に引き続いてこれを補充する審議が行われ,予定時刻を超過して大変濃密な議論をしていただきました。この日の議論の結果については,直ちに部会に報告すべき特別な事項があったわけではないと思いますので,事務当局における今後の資料作りに役立たせていただくほか,部会での次の審議の機会における議論の参考にさせていただこうと思います。議事録については現在,まだ整理中ですが,近いうちに法務省ホームページで公開されることになりますので,それを御覧いただきたいと思います。   次に,二つ目ですが,部会長からも言及がありましたとおり,第2分科会の第1回会議が12月6日火曜日,午後1時から午後6時までの予定で開催されます。場所は法務省5階の訟務部門会議室です。この日の議題は,先ほど部会長から整理していただきましたように,消滅時効に関する論点で分科会で補充的に議論することとされたものの全てということになったわけです。   この会議については,現在までに,固定メンバーのほか山本和彦幹事,畑幹事,山野目幹事が参加されると承っております。それから,先ほど,中井委員も御参加の方向という御発言があったと思いますので,そのように承りました。このほかの部会メンバーで第2分科会の第1回会議に参加を希望される方は,事前に事務当局まで御連絡いただきますよう,よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了とさせていただきます。   予定の時間を大幅に超過いたしましたことをおわび申し上げるとともに,長時間にわたり,熱心な御議論を賜りましたことについてお礼を申し上げます。   どうもありがとうございました。 -了-