法制審議会ハーグ条約(子の返還手続関係)部会           第8回会議 議事録 第1 日 時  平成23年11月28日(月) 自 午後1時31分                        至 午後5時48分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  ハーグ条約を実施するための子の返還手続等の整備について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○髙橋部会長 定刻を過ぎましたので,ハーグ条約部会,第8回の会議を開催いたします。   審議に入る前に,配布資料の説明をお願いします。 ○佐野関係官 本日の配布資料ですけれども,事前に送付しました資料番号8の部会資料以外に,本日席上配布しております資料番号9の部会資料,パブリックコメントの結果の概要がございます。同じく席上配布しております資料番号19の参考資料,外務省の前回の懇談会の概要がございます。 ○髙橋部会長 それでは審議に入りますが,具体的な部会資料の検討に入る前に,参考資料19ですが,先日外務省におきまして,第4回目の懇談会が開催されたということで,その概要について御紹介を頂ければと思っております。   辻阪幹事,お願いいたします。 ○辻阪幹事 部会資料の参考資料19でございますが,前回11月22日に開催されまして,このときは,9月30日から1か月間実施しましたパブリックコメントの結果について,まず報告をしました。パブリックコメントの結果は,参考資料19の3枚目から簡単にまとめたものを付けております。22日の議論におきましては,これまで余り議論されてこなかった論点ですとか,パブリックコメントで多くの意見が寄せられた論点を中心に,議論を行いました。   まず,一番最初の論点が,子の所在の確知のための情報提供義務というところですが,パブリックコメントにおいては,中央当局が行政機関に対して,情報の提供を求めたときは,行政機関などはそれを遅滞なく提供しなければならないというふうにしておりまして,民間団体にも求めることはできるけれども,遅滞なく情報を出さなければいけないという規定は置かないことにしておりました。また,中央当局はその得た情報について相手方の同意がある場合は,申請者側に渡すこともあるという形にしていました。ただ,パブリックコメントにおいては,やはりそこは申請者側に出すべきではないのではないかという意見が多く寄せられましたところ,今回はそのような意見を踏まえて,中央当局は基本的にそのような情報を得た場合,それは申請者側には提供しないということにして,例外として二つだけ,法令に基づく場合,例えば調査嘱託を受けたような場合,もう一つは返還申請の対象である子の返還をするための裁判手続を始めるために,申請者に相手方が誰なのかという氏名を伝える場合,この二つだけを例外として,あとは中央当局は外に出さないという案を懇談会にお諮りしました。   これを踏まえた議論の結果が2の(2)ですけれども,中央当局が得た情報が,LBP側に渡らないことが明確であれば,例えば民間の団体である私立学校と,それから公立学校の間で,情報提供義務に差を付ける必要はないのではないか。民間機関についても同じようにすればいいのではないかというような意見が出されました。また,次のページの一番上の黒丸のところですが,「現に子を監護すると思われる者」について,場所を探すということでしたが,その子を監護しているか否かは行政機関は分からないのではないか。「監護する者」ではなくて,「同居している者」という言い方のほうがいいのではないかという議論が出ました。   二つ目の黒丸のところですが,現に子どもを監護する者の氏名を申請者に伝える,つまり申請者が裁判を起こしたいということで裁判の相手方を伝える場合,伝えたという事実を相手方にも知らせる必要があるのではないか,それを法律上,書く必要があるのではないかという議論に対しては,法律上に明記せずにも対応できるといった議論がありました。   ちょっと飛ばしていただいて,(4)の子の社会的背景に関する情報の提供というところですけれども,ここにつきましてもパブリックコメントにおいては,誰からの求めに応じて,社会的背景に関する情報を相手方中央当局に依頼をするのかというところが,必ずしもはっきりしていませんでしたが,今回はパブリックコメントに対する御意見も踏まえまして,日本から外国の中央当局に社会的背景に対する情報を依頼するとき,又はその外国の中央当局から日本の中央当局に社会的背景に関する情報提供依頼を受けて,日本国内で情報収集を行う場合,共に裁判所から,その裁判に関するものとして要請があった場合にのみ対応するということにしてはどうかという案を出しましたところ,4の一番上の黒丸のところですが,日本から外国の中央当局に対して社会的背景に関する情報提供を求める際は,裁判所からの求めだけでなく,申立人や相手方からの依頼による場合というのも認めるべきではないかという意見がありました。   それに対しましては,その二番目の黒丸のところですけれども,相手方中央当局はどこまでそういう社会的背景に関する情報の収集に協力してくれるのか分からないということ,相手方中央当局の情報収集結果を待っていては,迅速な裁判ができなくなってしまうのではないかなど,現実的な問題もあるというような議論が行われました。   五番目,(5)ですけれども,接触の権利につきましては,これまで余り議論が行われてこなかったということで,接触の権利についても議論を行いました。接触の権利は,まずその対象となる事案ですけれども,条約に基づきまして,1の締約国の法令に基づく接触の権利が,他の締約国において効果的に尊重されることという条約第1条bの規定を踏まえて,例えばアメリカにおいて住んでいた親子のうち,母子が日本に帰国してしまった場合,アメリカにおいて父親に接触の権利が認められていたような場合で,日本に帰ってきた後,アメリカの父親が接触の権利を行使できないといった状態にある。要するにアメリカで認められていた権利が日本では認められていないというような場合に,接触の権利の援助対象とすべきではないかということ,そしてこれは不法な連れ去りとか留置によって生じた場合だけに限るのではなくて,接触の権利の侵害があるということをもって援助対象とすること。そして接触の権利の援助に関して行う事項としては,中央当局が返還援助申請において,条約7条に基づいて行うもののうち,接触の権利に関して行えるものを実施する。そして時間的な範囲については,接触の権利は条約の発効前の現段階において生じているものであっても,条約の発効後,接触の権利は現実に行使し得ない状態の場合は,それも援助の対象となるという案を提示して御議論を頂きました。   この接触の権利のところもそうですし,先ほど飛ばしました(3)の問題の友好的な解決の促進のところのいずれもですけれども,中央当局にできることには限りがあるので,外部の団体を紹介するなり,その外部に頼らなければいけないところを,そのような実施体制の確立が重要であるという御意見が出ました。   一言だけ言い忘れました。12月に次回会合を開催しようと思っておりまして,そこにおいてはこれまでの議論ですとか,論点の取りまとめを行いたいと考えております。 ○髙橋部会長 質問等がございましたらどうぞ。   よろしいでしょうか。それではもう一つ,部会資料9になりますが,パブリックコメントの結果の報告をしてもらいたいと思います。御承知のとおり,中間取りまとめにつきましては,9月30日から10月31日まで,パブリックコメントに付されていましたが,各団体や個人から多数の御意見を寄せられたということであります。概要について,事務局から説明をいたします。 ○佐野関係官 時間の関係もありますので,簡単に御紹介したいと思います。部会資料9の1枚目に記載しておりますとおり,中間取りまとめにつきましては,団体から28通,個人から177通の合計205通の御意見が寄せられました。寄せられた御意見につきましては,部会資料9にまとめておりますとおり,おおむね賛成,反対,その他の意見などに適宜分類しまして,その理由等の要旨を付記しております。ただ,整理の方法につきましては,頂いた御意見というのが非常に多岐であり,また詳細でありますので,要旨をまとめて記載しております関係上,分類の方法や要約の方法に,一部表現ぶりといったところにつきましては不十分な点もあろうかと思います。この点,どうか御了解いただければと思います。   そのため,個別の意見につきましては,関係者から寄せられました生の意見,原意見の内容も御覧いただければと思いますので,差し当たり事務当局におきましてファイルを3部御用意いたしまして,各ブロックの真ん中部分に御用意しておりますので,適宜,部会中回覧などをしていただき,御覧いただければと思います。また,部会が終わった後にも,適宜ファイルを御覧になりたいという御要望がありましたら,いつでも事務当局にお申し出いただければ,適宜配慮をいたしますので,よろしくお願いいたします。   では,具体的な中身の概要について,ごくごく簡単に御紹介したいと思います。   まず,第1の1から3の(1)までについては,特段全体として大きく反対する意見はございませんでした。次に5ページに進んでいただきまして,3(2)の「土地管轄の集中」ですけれども,ここでは丙案を支持する意見,8高裁所在地を家庭裁判所の管轄とするという意見が多数でしたけれども,甲案や乙案を支持する意見もございました。丙案を支持する意見の理由としましては,主として裁判所に出頭する者の負担ということによるものかと思います。なお,甲案と乙案を支持する意見の理由としましては,事件数がそう多く見込まれない中,専門性を向上する必要があるという意見,理由のようでしたけれども,乙案に御紹介しております大阪弁護士会のように,司法資源の有効活用という観点から,8庁に管轄を認めるということには問題があるのではないか,各庁に担当部を配置して,専門のスタッフをそろえるということは現実的ではないのではないかという意見もあったところです。   次に,3の(後注),それから4から11までについては,特段大きな反対意見はありませんでした。また飛んでいただきまして,18ページですけれども,裁判の「公開・非公開」につきましては,非公開とすることについて反対するという意見も寄せられたところです。次に13番の裁判記録の閲覧等についても,特段の反対意見はありませんでした。   次,20ページ,14番の「送達」のところですけれども,ここでは(注2)にあります公示送達に関してですけれども,これにつきまして相手方の反論の機会の保障という観点から,公示送達は認めるべきではないという意見も寄せられました。その後,15から19までについては,特段の反対意見もありませんでした。   26ページですけれども,20の「裁判資料の収集方法」につきましては,記載しておりますように,賛成する意見も多数ありましたけれども,その他の意見としましては,当事者に裁判資料の収集を任せることは適切ではないのではないかとする趣旨の意見も多数寄せられました。   次に28ページですけれども,21の「審理手続」の(1)から(5)のアまでは,特段の反対意見はございませんでした。一方,(5)のイですけれども,31ページになります。甲案,乙案で「審問の期日の立会い」について,取りまとめたところですけれども,ここでは当事者の手続保障という点を重視しまして,甲案を賛成する意見が多数でした。あと(6)から(9)につきましても,特段の意見はありませんでした。   次に22,34ページの「中央当局と裁判所の関係等」のところですけれども,まず①の裁判が開始する場合の中央当局への裁判所からの通知ですけれども,ここでは手続係属ということを捉えていたんですけれども,それでは趣旨が分かりにくいので,「子の返還手続の申立て時に通知する」と明記すべきではないかという意見が寄せられました。   次,35ページの②ですけれども,裁判資料の収集と,中央当局の協力調査ですけれども,ここでは資料に記載しておりますとおり,中央当局による裁判資料の積極的な収集の関与を期待するという意見が多数寄せられました。   ③,37ページですけれども,遅延理由の説明については特段の意見はありませんでした。一方,④の,同じく38ページですけれども,裁判終了時の裁判所から中央当局への通知につきましては,手続の終了時のみならず,審理の終結時も通知すべきではないかという意見が寄せられました。   めくっていただきまして,38ページの23,「子の意思の把握」のところですけれども,ここでは特段反対する意見はございませんでしたけれども,更に一定の場合には子の意見を必要的に聴取すべきではないかというような進んだ意見も見られました。   次に24から28については,特段の意見はありませんでした。   飛んでいただきまして,43ページになりますけれども,「返還命令の主文」,「29 裁判」の箇所ですけれども,ここでは「常居所地国へ子を返還せよ。」という主文が相当であるとする意見が多数寄せられたところですけれども,更に返還の条件なども併せて命じることができるものとすべきかどうかについても,検討すべきではないかとの意見も寄せられました。   45ページ,「undertaking」につきましては,これを設けないとすることの意見が大勢でした。   次ですけれども,30については特段の意見もなく,31,47ページですけれども,「裁判の取消し等」については,甲案,乙案,両論があったところですけれども,ここでは各々甲案に賛成,乙案に賛成に大きく意見は分かれましたが,例えば大阪弁護士会からは,執行力を否定する処分の必要性は認めるけれども,このような裁判の取消しの規定ということは不要なのではないかという意見も寄せられました。   次に32,次のページの「取下げ」については,特段の反対意見はありませんでした。   次に33,51ページの「不服申立て」のところですけれども,概要は特段の反対意見はありませんでしたけれども,アの(注),子に即時抗告権を認めるべきかどうかという点につきましては,これを認めるべきであるとの意見が多数寄せられました。   また進んでいただきまして,54ページ,34の「子の返還の実現方法」,専ら執行のところですけれども,これにつきましてはいろいろな意見が寄せられたところですけれども,大きく分類しますと,子の利益の観点等から,間接強制のみを認めるべきとする意見,あるいは直接強制は認めるべきではないとする意見が多数寄せられた一方で,間接強制のみとした場合の実効性にやや問題があるとする点から,他の手段も設けるべきであるとする意見が多数寄せられました。意見の概要は多数ありますので,部会資料を御覧いただければと思います。   次に飛んでいただきまして,60ページ,「調停・和解」の箇所ですけれども,調停・和解については,これらを認めるのが相当とした上で,ハーグ条約の特殊性にも配慮すべきではないかとする意見がいろいろと寄せられたところです。   まためくっていただきまして,62ページ,「36 保全的な処分」のところですけれども,ここでは必要な保全処分を設けることが適当とする意見も多数寄せられた一方で,出国禁止や旅券の保管には消極であるとする意見も多数寄せられたところです。   次に65ページ,「裁判官ネットワーク」,37の箇所ですけれども,これにつきましては,我が国もこの裁判官ネットワークに加入することが望ましいという意見もありましたけれども,ただ,個別の事件の内容についてのやり取りまで,裁判所が行うのは適切ではないのではないかとする意見も付されていたところです。   以上が第1ですけれども,次に66ページ以下の,「子の返還事由・子の返還拒否事由」の第2に進みますと,1の「子の返還事由」については,特段の反対意見はありませんでした。一方で,67ページ以下に御紹介しております2の「子の返還拒否事由」につきましては,①から③,あるいは⑤,⑥については,特段の反対意見はありませんでしたけれども,条約第13条第1項bが問題になっております④につきましては,ここもいろいろな様々な意見が寄せられまして,甲案に賛成する意見,乙案に賛成する意見のほか,甲案に反対する意見,記載の拒否事由では厳格に過ぎるという意見,あるいは一方その逆で,返還拒否事由はもっと厳格にすべきではないかという,様々な方向からの意見が寄せられました。   最後に77ページの「第3 面会交流関係」ですけれども,ここでも賛成する意見が多数でしたが,何らかの規定を設けるべきではないかとの意見であるとか,面会交流の実現に向けた中央当局も含めた体制整備が必要であるのではないかとする意見も寄せられました。   以上が中間取りまとめに対する意見ですけれども,その他,80ページ以下に分類しておりますとおり,直接には中間取りまとめに関するものではありませんけれども,寄せられた御意見も御紹介しております。例えば,ハーグ条約のこの国内担保法に目的規定を設けるべきではないかとする意見であるとか,裁判資料の公表に関する意見であるとか,この法律が遡及しないということを周知徹底すべきではないかとする意見,あるいはDV等について,配慮を求める意見,更には国内法の関係ですけれども,離婚後共同親権制度に関する意見等が寄せられました。時間の関係で全ては紹介できませんが,部会資料を御覧いただければと思います。   あと一点,お断りがございまして,当部会で配布する部会資料9としましては,寄せられた個人の意見も全て個人名を付した上で配布しておりますけれども,これをホームページに資料の公開として配布するに当たりましては,個人名をそのまま出すことについては適切ではないのではないかと思われますので,意見はそのままの形で掲載しますけれども,寄せられた個人の氏名につきましては仮名という形でホームページに掲載したいと思いますので,その点,御了解いただければと思います。 ○髙橋部会長 パブリックコメントの結果につきまして,御意見あるいは御質問がございましたら。   それでは,また何か御質問がありましたら,適宜事務当局のほうにお寄せいただくといたしまして,部会資料の検討に入ります。   部会資料8に基づきまして,まとめることなく論点ごとに順に議論を進めてまいります。まず「1 子の返還を求める申立ての法的性質」について,事務当局からの説明,お願いします。 ○佐藤関係官 では1について簡単に説明させていただきます。   「1 子の返還を求める申立ての法的性質」は,申立人と相手方との権利義務関係の考え方を整理しまして,子の返還を求める申立ての法的性質について検討するものです。まず,申立人が子の返還を求めることができる「権利」というものを有するか否かについては,ハーグ条約に基づく常居所地国への子の返還は,条約を締結して初めて認められるものでありまして,我が国において他に根拠となる実体規定があるものではありません。そうすると,申立人が権利を有するとすれば,その根拠は条約及びその担保法に求めるほかないと言えますが,条約は子の返還に向けた国家間共助の仕組みを定めてはいるものの,子を連れ去られた者が誰に何を求めることができるかについては,僅かに中央当局に対する援助の申立てをすることができることと,司法手続開始から6週間以内に決定を行うことができない場合に,遅延の理由を明らかにするよう求めることができることを規定しているのみで,誰に対し,子の返還を求めることができるのかについては,何ら規定をしておりません。そのため,条約上,申立人に子の返還を求めることができる法的地位を認めることはできても,裁判の有無にかかわらず,実体的に特定の者に対する子の返還請求権を有していると観念することは困難でありまして,子が常居所を有していた国への子の返還をめぐる権利義務関係というのは,裁判によって初めて具体的に形成されると考えるのが相当です。   このように,条約上,申立人と相手方との間の権利義務関係が実体的に発生しているものではないとすると,子の返還を求める申立ての手続の構造としましては,相手方のない事件として構成することも可能と言えそうです。もっとも,これについては,返還の実現のために子を返還し得る者を相手方とすべきであり,また返還に最も関心を有する者を当事者として手続に参加させるべきであること,また条約上も返還に異議を申し立てる個人等の存在を前提としていることなどに照らしまして,二当事者対立の構造とするのが相当と考えます。   このように整理しますと,申立人には裁判前には実体的な権利義務関係があるわけではありませんので,これまでの整理どおり,子の返還申立事件のための手続は,訴訟である必要はないと考えております。 ○髙橋部会長 法的性質について,いかがでしょうか。   これは,最終的にどうなるか分かりませんが,目下のところ事務当局はこういう考え方でいろいろなことを立案しているのだということをこの段階で明らかにしようというものであります。これはハーグ条約に関するものとしてこう考えているということで,前々から御議論がありますように,人身保護法を使えるとか,更に民法に基づいて何かできるかという,そういうこととはまた別に,このハーグ条約上のものとしてはこう考えて,事務当局はいろいろ立案をしているという,そういうものということです。   そういうものですので,先生方がこの審議の場でも,あるいは立法後に個人の解釈論としていろいろなことをおっしゃっていただくのはもちろん構わないということになります。   では,そういうものとしてこれはよろしいでしょうか。   それでは二番目の「子の返還の裁判の主文」のところに入ります。 ○佐藤関係官 では「2 子の返還の裁判の主文」について説明させていただきます。「2 子の返還の裁判の主文」につきましては,子の返還を命ずる裁判の主文の在り方について検討するものです。これまで裁判の主文としては,相手方に対して,子を常居所地国に返還することを命ずるのが最も条約の枠組みに合うものであるとしつつも,子を申立人に引き渡すよう命ずるものでありますとか,あと,申立人が子を常居所地国に連れ帰ることを妨害してはならないというふうに命ずるものなども考えられると整理してきました。   これまでの議論を踏まえまして,これについて更に検討してまいりますと,条約は本案,つまり監護権に関する紛争は,子の返還後に子が常居所を有していた国において処理されることを基本とする考え方によっており,子を連れ去った片方の親も,共に常居所地国に戻ることを一つの典型的な例として想定しています。そして条約の前文において,「子が常居所を有していた国への当該子の迅速な返還を確保する」と,国への返還を明記しているというのに対しまして,申立人への返還ですとか,申立人への引渡しについては,何ら触れておりません。そうだとすると,常居所地国への返還を命ずるのが条約の趣旨及び規定に合致するものと考えられます。他の多くの締約国でも,常居所地国への返還を命ずれば足りるものと考えられているようです。   これに対し,これまで御紹介したように,ドイツにおいては申立人への引渡しを命ずる主文が用いられておりますが,これも,一段階目として相手方に対し子を国に連れ帰るように命じつつ,二段階目として申立人への引渡しを命じているにすぎないと言えます。相手方が連れ帰らない場合に,これを直接強制することが困難であることから,強制執行を行うために二段階目の命令を認めているものと考えられまして,一般的に申立人が自己への引渡しを求めることができる権利を有するということを認めているものではないと考えられます。   なお,日本においてはこのように執行のために言わば便宜的に申立人への引渡しを命ずることなく,間接強制以外の執行をすることも可能ではないかと考えておりまして,後の強制執行のところでこれについては検討したいと思っております。   以上のことから,子の返還を命ずる主文は,相手方に対し,子が常居所を有していた国に返還するよう命ずるものに限られるものと考えております。 ○髙橋部会長 今の説明の中にもありましたが,強制執行の具体的な在り方はまた別途議論いたしますので,裁判の主文という形で御議論いただければと思います。いかがでしょうか。 ○横山委員 2ページの下のほうで,子の常居所への返還というので十分であるとされています。その次の段落では,条約の趣旨に合致せずというふうに書かれてありますが,各締約国は最低限,常居所地国に返還しなければいけないけれども,それ以上にこの条約の趣旨を徹底させる措置を採ることについて,条約がこれを禁ずる趣旨ではなくて,むしろ条約が認めているのではなかろうかと考えておりますので,この条約の趣旨に合致せず,適当ではないと言い切ってしまうと,本当かなという気がしてしまう。この点,結果常居所地国に返還を命ずるものとするということについて異議はあるわけでありませんが,ここのところの説明の仕方として,こういうふうに言い切ることができるのかなということは,条約との関連で思います。 ○髙橋部会長 条約で否定されていないということは押さえてありますが,事務当局としては何かお答えありますか。横山委員の御意見に対して。 ○佐藤関係官 前に横山委員から御紹介いただいた例外的な事例でどう考えるか,例えばそういうような事例で違う主文を出した場合に,条約に合致するのか,そうではないのかという議論はもちろんオープンにした上で,一般的なケースにおいては,やはりこれが最も条約の趣旨に合致するというものではないかと整理しております。 ○髙橋部会長 趣旨に合致しないというのは狭く考えるか。大きな方向としては近いけれどもという,そのあたりのニュアンスでしょうか。横山委員の御発言も議事概要に載りますので,そういう御意見があったということは十分伝わります。   他にいかがでしょうか。   以前の部会資料で主文の形としていろいろなものが考えられるとして,幾つかの形を出しました。「常居所地国へ返還せよ」のほかに,幾つか暫定的に出しましたけれども,深く考えて,あるいは詰めて考えていくと,やはり常居所地国への返還というのが飽くまで基本形だと,これで今後具体的には強制執行のようなことを考えていきたいということですが,よろしいでしょうか。   それでは,3の「子の返還手続における調停及び和解」について,お願いいたします。 ○佐藤関係官 では,「3 子の返還手続における調停及び和解」について説明させていただきます。   「3 子の返還手続における調停及び和解」は,子の返還申立事件における調停和解として,子の監護権の帰属について取決めをしたり,養育費や面会交流等,監護に関する事項について取決めをしたりすることが,子の監護に関する本案は子の返還後,常居所地国においてされるべきであると,そういう考え方を採っている条約との関係で可能かどうかを検討するというものです。   まず,調停和解には子が返還されないことを前提に,すなわち子の返還申立てを取り下げることを前提に行うものと,子の返還を前提に行うことが考えられまして,それぞれについて考慮すべきことが異なると考えておりますので,そのように整理して説明させていただきます。   まず,子が返還されないことを前提に調停和解を行う場合,子が日本にとどまることを前提に,監護権の帰属や面会交流の方法について協議することが考えられます。この場合は,調停和解の成立時には,子が返還されないことが決まっておりますので,条約の趣旨や,本案の裁判の禁止について規定している条約第16条との関係では問題がないと言えます。そして通常の国内事案と同様に,調停で行うことは問題がないと考えます。もっとも,これらの事項は,本来家事審判の手続で行うべきものと言えそうですので,和解においてこのような取決めを行うことができるものとするためには,担保法上,特別な規定が必要ではないかという問題があると考えています。   次に,子の返還を前提に調停・和解を行う場合,監護権の帰属について取決めを行うことは,条約第16条が監護の権利についての本案の決定を行うことを禁止していることから,この第16条に抵触しないかという問題があると思います。我が国の調停・和解は裁判と同じ効果を有する以上,条約第16条に抵触するとも考えられますし,当事者間の合意である以上,特に禁止されるものではないとも言えそうです。更に子の返還を前提に,監護権そのものではなく,養育費の支払や面会交流等,子の監護に関する事項について取決めを行うことができるかという問題もあります。これについては条約第16条との関係で,そもそもこのような監護に関する事項について,裁判をすることが禁止されるのかという問題がありまして,これも監護の権利の本案についての決定,その条約第16条の決定に当たって,裁判で行うことは禁止されると考えれば,先ほどの監護権の帰属についての取決めと同じ問題状況,裁判と同じ効力を有する以上禁止されるとも言えそうですし,合意である以上,特に禁止されないとも考えられそうという,同じ問題状況になると言えます。   他方,養育費や面会交流についての裁判は,監護の権利の本案についての決定には当たらないと考えれば,条約との関係では問題がなくなりまして,調停や和解で取り決めることができるということになるかと思います。   以上のように整理をしております。 ○髙橋部会長 いかがでしょうか。 ○大谷委員 子の返還を前提とするほうの調停・和解の範囲のほうですけれども,返還しないほうであれば,御整理のとおりで私も基本的に賛成なんですが,返還されるほうにつきましては,今の御提案ですと条約第16条との関係で問題があるかもしれないけれども,合意が基本であると。本人たちが合意している限りはよいのではないかと。ざっくり言うとそのような御趣旨と理解をしましたが,ただ,返還する場合は,当事者双方が恐らく帰ることもあり得る。もちろん合意をした中でテイキング・ペアレントが日本に残ると。その上で国境を越えた面会の在り方等について合意をするということもあり得ますが,場合によっては自分が一緒に帰るということで,その帰った後についての取決めをする場合というのが考えられる。そうすると,特に後者のほうですが,本来的には子の監護に関することは,常居所地国で審理がなされることが前提となっている中,本人たちの合意によるとはいえ,日本で何らかの合意をしたことが,その当該国においてどのように扱われるかということを考えますと,非常に暫定的な,一時的な常居所地国で本格的な審理・決定がなされるまでの間の暫定的な取決めというのがあり得ますし,各国の実務でもそのようなことが行われていると承知しますが,それ以上に本格的な本案に関わるようなことを取り決めるというのは,常居所地国において,また紛争の再燃をもたらすことはなかろうかということが懸念されます。   もう少し補足しますと,日本で合意をしたと。ただその合意の仕方というのが,一体どこの国,どこの法律を前提としたものなのか,あるいはそれが常居所地国から見て受け入れられるようなものなのか,また一旦したのにそこでは子を連れ去られた親のほうからしますと,できるだけテイキング・ペアレントを納得させて,一緒に帰ってもらおうというような考慮が働く可能性がありますが,テイキング・ペアレントにしますと,例えば自分が監護者になれるという約束をして帰ったと。ところが常居所地国でその効力をめぐってまた争いのあったような場合は,テイキング・ペアレントからすると,それであれば帰らなかったとか,そのような紛争になりかねないので,私はちょっとそこは懸念があるところです。 ○横山委員 少し似通っておるんですけれども,4ページの3(2)に書かれてある常居所地国に子どもを返還するということを前提にした,裁判と同じ効力を有する取決めということですが,こういう取決めをした場合に返還先の国であれはどういうことが期待されているのでしょうか。やはり裁判として承認せよということを期待された上でやっていると,これは条約第16条に,もろに引っ掛かってくるんではなかろうかと思います。もしそうではなくて,単純に事実的にどう評価するかは,これはもう常居所地国の問題だということであれば,それはそれで構わないと思いますけれども,ただちょっとこの関係では悩ましいのは,国際離婚をするときに協議離婚をしてしまうと,帰ったときに当事者の一方の本国で承認されないという可能性が非常に高いので,そういうリスクがあるときは家裁で調停やったほうがいいですよと言われます。帰られたときに離婚したことをきちんと認めてくれますからというふうに。そのときの理屈付けは,これは裁判所が関与しているものだからいいんですよといって,こういうときになると,当事者の意思によったわけではないよと言っておきながら,この局面になると実は当事者の意思でやったことで,裁判所がやったことではないんだから,条約第16条の裁判の等には当たらないだろうというのは,いかにもダブルスタンダードを使って,この制度,日本の独特のかどうか分かりませんが,制度的には一方で当事者の意思を基盤としつつ,国家機関が関与するという側面を局面によって使い分けているのではあるまいかという印象を受けました。 ○髙橋部会長 御指摘のとおりだと思っております。そういうあたりをどうお考えか。 ○鶴岡委員 この問題は,既に大谷,横山両委員からも指摘があったとおり,容易に結論が出せない問題であるとは思いますが,他国の実行について調べて見ましたら,各国それぞれが非常に厳格な統一的運用をしているとは理解されておりません。整理として同意があるからというところが前提とされている議論よりも,公の拘束力を持つ手続が踏まれているか。すなわち,調停・和解についても裁判上の決定としての位置付けで拘束力を持つものにするかどうかが,条約上の義務との抵触の点で議論になるんだと思います。   表見上は,条約第16条は本案審査を禁じておりますので,裁判が本案の内容に関わることは,基本的には禁じられていると理解されますけれども,調停・和解を通じて返還が実現すること自体は,条約も奨励をしている解決策でございます。仮に,裁判所がそのような調停に関わることができないということになれば,これは返還を目的とするような話合いも,日本国内では元々意味がないということになりかねないのではないかと思われます。すなわち,返すか返さないかだけで当事者の間で合意を作ろうとしても,それは種々,その他の論点も入れた上でなければ,連れ去りで日本に帰ってきた親が後の子どもと自分の関係についても戻った後に保証がないと,合意した上での返還ということにはなかなか応じられないんだろうと思うんですね。   そこでこれも事務当局のほうに紹介した実行の例を参考にしつつ考えたことでありますけれども,やはり調停と和解を促進するためには,その中で取り扱うことのできる内容に限定を付してしまいますと,その和解が成立する可能性をそれだけ損なうことになりかねないのではないか。そう考えますと,最終的にその和解の結果について確定させるという意味において,裁判上の和解の手続が採られるということが,条約第16条の言うところの本案審査の禁止との兼ね合いにおいてどう位置付けられるかということ,これを考えなければならないだろうと。   基本的にこの条約は,常居所地国の司法管轄権を優先させるということが考え方であります。したがいまして,仮に日本の裁判所でそのような決定があった場合も,それは自動的には常居所地国に戻ったときに,裁判上の効力を持たないわけでありますから,そこの部分ももう一つ論点として残ると思います。すなわち,形式的に当事者間が合意しているから,これを裁判上の和解として認めるということを裁判所のほうでされた場合に,その合意が既に日本国から外へ出たときに守られる保証はないわけですね。その点を裁判所のほうでどう考えられるか。国内の事案とおのずから条約の下で行われている作業ですから,性質的に異なる二つの司法管轄権の間のやり取りになるわけでありますので,その後者の部分についても,これは裁判の実務の中で,あるいは検討が必要な論点なのかもしれません。ただ,総じて申し上げますと,基本的には司法に進む前,司法手続に進む前に,調停・和解で解決できるあらゆる手段を用いることも,この条約の下では求められていることでありますから,そのような合意ができるような形で,本案審査も含めて裁判所が関与するということは,それ自体が条約の禁止に当たると考える必要はないのではないか。先ほど申し上げた次の論点であるところの常居所地国へ帰ったときに,大谷委員からは改めてまた紛争がというお話もありましたけれども,基本は常居所地国の司法管轄権の判断にこの条約は整理をしておりますから,戻ったところで仮に問題があった場合に,日本の裁判所で行われた和解が,破棄という言葉が適当かどうか分かりませんが,アメリカなり,他の外国の領域内において尊重されないということが生じるような場合には,これはこの条約上が想定しているかどうか別といたしまして,いかんともし難い今の法制度上は,実際上,事実行為でもってそのようなことがなるべくないように担保するぐらいしか,多分手立てはないんだろうと思います。   それを理由として,それでは関与しないほうがいいというところには,私は結論は行かないのではないか。総じて見た場合,調停・和解が実現をして,子どもが返還をされる。あるいは子どもが返還されない場合も,その合意があるからということと,それから合意がないからということとの関係において,裁判所の関与が本案審査において禁止されているからという,その理由でもって裁判上の和解を一切,本案について検討することができないというところまで排除してしまうのは,かえって条約が求めております子どもの返還を実現するという道を自ら閉ざすことになってしまうのではないかという点で懸念されます。この点は,国内法をしっかり整備して,この条約を実施している国が,もう委員の皆様御承知のとおり,スイスを除いてございませんので,基本的には判例の積み上げで見るしかないわけですけれども,これまでの国家実行を,後から入る私どもといたしましては検討することは可能ですので,その点,事務局のほうにも詳しく聴いてみた結果,今申し上げたような結論を私ども外務省としては採るところに至った次第でございます。 ○古谷幹事 和解や調停を担当する裁判所実務からの意見になりますが,当事者が合意しているのであれば,その合意を尊重することが紛争の一回的な解決には資するであろうし,そうすることで,和解の機運も高まり,迅速な解決に資すると思われます。   この点,和解や調停の対象を限定することになると,当該事項が許容される範囲内なのかどうかの判断が困難な場合もあり,実務的には特に限定を付さないというほうがいいと考えています。   先ほどから御指摘があるように,合意をした場合に,常居所地国でそれが承認され,あるいは執行される保証はないことになると思います。その前提で和解なり調停なりをするのがよいかですが,その点に関してはてっきり執行できると思って常居所地国に戻ったところ,それができなかったと,そのような予想外の事態は避けなければいけないとは考えています。   さらに,条約第16条に抵触するということであれば,それは無理はできないということになろうかと思います。 ○棚村委員 私も今の意見とほぼ同じなのですけれども,条約第16条で禁止されているのは,やはり監護に関する本案で,将来的に子どもがどこで暮らして,どんな生活をするかということについてやはり常居所地国で判断すべきなんだと思います。そのための前提を作るということですけれども,返すという話になった場合には,暫定的に子どもの返還までの間の,一時的,暫定的なものということの区別が問題になります。それは古谷幹事なんかおっしゃったように,なかなか難しいのではないかと思います。それから,undertakingを導入しないということになっておりますので,なかなか実行性も難しいんだということですけれども,やはり気になるのは常居所地国に戻って,どういうような条件でどんなふうな形で,安全とか生活が確保されるかということは,やはりかなり関心があると思います。しかも,各国の例を見ますと,外国人に対しては,こういう合意で解決するケース多いんですけれども,言葉はきちんと分かりますかと確認も取っています。今言った内容については,十分理解した上で合意しますみたいな,文書も取っています。   もちろんそれが常居所地国でかえって紛糾したり,蒸し返しがあったり,執行されないということを,undertakingのときも議論しましたけれども,それが当事者の納得づくで一つの解決として,条件として加えられていくのであれば認めてもよいのではないか。特に面会交流とか養育費については,かなり重要な点になってくるのだと思います。だからそういう意味では,合意の対象とか内容について余り限定的にする必要はなくて,条約に違反するのではないかというのは,本来,常居所地国で全部決めなければいけないようなコアな問題については,やはり対象にするべきではないと思うのですけれども。特に面会交流とか養育費について,本人たちが任意で合意をし,それが受け入れられるかどうか,常居所地国のスタンダードがどうかというのは,本来だったらそこまで調査をし,理解をした上で和解なり,調停なりができればいいと思います。だけれども,やはり分かった上で,合意したかしないかのほうがむしろ重要な感じがして,余り限定的に,制限的に考えなくてもいいのではないかと思います。 ○大谷委員 鶴岡委員がおっしゃった,できるだけ合意の可能性を広げるというのは,そこは非常に実務の立場からも重要と思っていまして,できれば特に返還する場合に特にですけれども,任意の話合いの促進ということは,非常に真剣に考えているところです。そういう意味では,本当に監護まで含めて,合意ができれば安心して子どもを返還できるという意味で,制限的でないほうがいいというのはそのとおりだと思っています。その上で,やはり面会交流とか養育費について,暫定的に,あるいは返したときに特にテイキング・ペアレントと一緒に帰る場合ですが,帰った後,子どもと一緒にテイキング・ペアレントのほうが一緒に住むとか,そういうことについて合意をすることはこれは分かるんですが,本当の意味の監護権の決定までも,ここでしてしまえるのかということについては,やはり少し私自身は慎重に考えています。   他の国の実務で,調停について私なりにもいろいろ調べている中で,もちろんその裁判所での調停・和解もありますけれども,外でのもあります。外でいろいろなことを決めて,こうなりましたという場合については,それぞれがそれぞれの責任でお互いの国できちんと執行力のあるものにするようにと,そういうことがきちんとインフォームされて,その上で一応その危険も分かった上でやるということなので,ある意味,広く何でも話し合って,最後の出口のところは,最終的には本人の責任に帰っていくというところがあるのかもしれないんですが,この今議論しているのは,日本の裁判所での調停・和解ということなので,外で決まったものを持ち込むときに,それがどこまで和解として認めるかという話とは別に,広げてよいのだということ,特に担保法の中で規定するとなると,最初からそこまで広げた形で,調停・和解がどんどん広がりはしないかというのが,先ほど申し上げた懸念のほかに,どうしてもまだ私としては一点あります。   もう一つは,先ほど申し上げたことに若干関連しますが,準拠法の問題で,仮にこれは管轄地が元々の子の常居所地国だとしますと,多くの場合,その国の法律が準拠法として本来は予定されていたはず,それで戻った後もその国でその後いろいろな生活が進んでいくということになった場合,例えばアメリカですとか,イギリスなどを考えますと,単純に監護権といっても,その中身は非常に私どもが普段単独親権制の下で扱っているものとは違います。そこで単純に,例えばお母さんが親権者と決めて戻っていったところで,果たしてそれが向こうで通用するのかというと,実際の事件の中でやっている感覚としますと,そこはやはり本来戻るのであれば,向こうで通用するような形で決めておかないと,かえって混乱するという体験をしています。   そういうことからも,狭めないほうが合意の促進になるという側面に賛同しながら,やはり非常に私としては懸念がありまして,強く制限すべきという意見を申し上げているわけではないんですけれども,本人たちが合意しているからいいのだという整理で,果たして大丈夫なんだろうかと,懸念は発言しておきたいと思います。 ○相原委員 私も養育費の支払や面会交流等に関する暫定的な合意等に関して,調停・和解でそれが返還の促進になるという方向性というのは必要だろうと考えます。ただ,先ほど古谷幹事がおっしゃったところかと思いますが,結局,帰っていった先でのことに関してはグレーである。つまり必ずしも執行といいますか,それがそのとおりになるかどうか分からないということを前提に合意するということが可能であれば,それはそれでその合意も尊重すべきかなと思いますが,実務的な感覚として,結局,大谷委員のようなかなり詳細に専門的にかなり国外のことを知っている場合と,それから担当するテイキング・ペアレントの代理人であったり,それから担当の裁判官になるかと思うんですが,かなり専門性に今のところ非常に差がある段階で,どこまでのことを分かった上で合意ができるのかということに関しては,やはり危惧を覚えます。   特に監護に関しては,大谷委員もおっしゃっていましたけれども,専門性が高く,それで期待を裏切られてしまうというようなことがあるとすれば,最終的に当面の事件の解決にはいいかもしれないんですが,それが積もり積もったときに,長期的に見たときに,子のハーグ条約における調停とか和解に関する不信になってしまうということに関しては,非常に危惧を覚えます。和解とか調停によって返還がうまくできるということを望むことに関しては,私も全く同意見ではありますけれども,本当に分かっているのかどうかというところに関しては,実務上,ちょっと説得の段階で不透明な部分があることは否定できませんので,監護権のところにつきましてというところになりますと,やはりちょっとどうして危惧を覚えるということを感じます。 ○棚村委員 監護権の中身ですけれども,親権というと日本の場合にはやはり監護の権利とか,あるいは居所指定権とか,それからいわゆる職業とか教育,重要な進学とかです。教育とか,やはり宗教の決定権とか,そのコアな部分があります。監護教育の重要なところについての決定は,常居所地国で行うということで,それ以外までは禁じられていないというときに,それ以外のことというのは,私たちが考えているのは,基本的には緊急的な必要が生じていることです。それから養育費とか面会交流とか,日々非常に必要とされて指し迫っている問題について,合意の中で決めていいのではないかというようなことだと思います。居所指定権とか,つまりどこで暮らすかとか,それから監護,教育の中で,非常に重要な部分について,中長期的なことは決められない,宗教の問題も医療の問題も,こういう大きな医療を受けるとか,そういうようなことが基本的には監護の中身ではないのですかね。監護権が誰に帰属しているかというようなことで,争いがあったり,対立があるような状況の中で,それを和解の中に入れるということは難しいということなので,おのずと制限がされてくるのではないかと思うのですが。 ○髙橋部会長 ちょっとずれているようですね。大谷委員。 ○大谷委員 今の棚村先生の御発言を聞いて,議論がずれているのが分かりました。私は監護権といった場合に,欧米で一般に理解されている,日本的にいうと親権の話としてお話をしていました。ですので,棚村先生がおっしゃっているようなことと,多分考えていることはそれほど変わらないんですけれども,つまり暫定的なところは決めてもよいが,最終的ないわゆる日本流でいう親権に当たるところは,私は疑問があると申し上げているんですが,今のような議論になることからしても,監護権について担保法で仮に監護権という言葉を日本の担保法で使った場合,英訳はどうされるか分かりませんけれども,一般的なカスタディとされることが多い。そうだとすると欧米ではこれは親権,いわゆる日本で考えている親権のところも,調停・和解でやってもよいと私は理解するだろうという前提で先ほど話をしていましたので,そこは事務当局のほうの御提案というのが,暫定的な日本で言っているところの監護の範囲だけを言っていらっしゃるのかどうか,そこはちょっとクラリファイしてから議論をしたほうがいいのかもしれません。 ○髙橋部会長 条約第16条は誰も否定していないわけですね。条約があるわけですから。裁判することができない事項があることは踏まえた上での話しです。   ここで出しているのは,したがって裁判はできない。日本でも。しかし,調停・和解ならいいと言えるかどうかということなのですね。そのとき,説明が足りませんでしたが,横山委員が言われたように,普通の調停のときには拘束力を持ってくださいと我が国は外国に向かって発言しているのです。ディクリーとか訳して。それであるのにこちらのほうは,いや,裁判をする気はありませんでした,国家権力を使う気はありませんでしたと,こういうダブルスタンダードを使う。そこまでしてでも調停・和解で広く取っておいたほうがいいのかということなのです。率直に言うとそういうことなのですが,その辺をどう考えるかですね。 ○棚村委員 大谷委員が言うことはよく趣旨は分かりました。と言うのは,条約第16条が今対象としていることの中で,監護者の指定というのは私も入れるべきではないと思っています。ただ,それ以外の監護に関する問題,面会交流とか養育費,今度民法に明文で入っているわけですから,そこについては私は是非決めるべきだと思います。それで大谷委員が言いたいことはよく分かりました。確かに渉外関係の事件で私が意見書を書いたときも,日本の親権と監護権という概念が極めて曖昧なものですから,非常に紛争にはなりやすいと言えますね。説明も。だから監護者の指定とかということとか,引渡しみたいなことは含まない監護に関する事項ということになるかと思います。   それがないと多分,やはり子の返還の問題の解決として実際に意味がないことになると思います。 ○髙橋部会長 暫定的なところはいいのです。ですから例えば元いた国に帰りますと。これも任意によっていいですね。しかしその前提として,被申立人,母親と子どもは二十歳になるまで一緒に暮らせることを保証しますというような条項を入れてしまえるかどうかということなのです。それがないと私は元の国に帰りませんというときに,取り去られ国の申立人のほうは,先ほど大谷委員が言われたように,とにかく返してもらえればよいということで,分かったとなり,それで調停条項を作ってしまっていいか。そういう極端な例なのですけれども,そういうことを議論しているのであって,返還するかどうかの合意が任意を促進するというのは,当然の前提として議論しているところです。失礼しました。 ○鶴岡委員 正に最初お話し申し上げたときに,これ非常に難しい論点が含まれているということを申し上げまして,ハーグの事務局のほうでも,大谷委員も御指摘になられた点について,必ずしも明確な一つの方針をもって,それを指導要領としているというところではないということも確認しております。   文言上の解釈で申し上げると恐縮ですが,よく参照されるところの注釈書,ペレスベラ注釈書のパラ121では,当局,すなわち常居所地国でない国の当局において,事案について,英語としてはadjudicateという言葉が用いられています。adjudicateというのはどういう意味を持つのだろうかと。これは注釈のまた解釈ですから,条約自体ではありませんので,間接のまた間接になるので,飽くまでも参考にすぎないんですけれども,結局,二つもちろん解釈はあり得るだろうと思うんです。こういうふうに書いてある以上は,一切本案審査,あるいは本案に当局が関与することは禁止されている。forbidden toと書いてありますから,禁止されていると書いてあるんですね。だけれども,adjudicateというのはどういうことなのかというところについては,注釈書もそれ以上の解説をしておりません。そこで,これは締約国側で更に考えた上で結論を出すべき問題だと整理することもできます。   そこで全体の趣旨にその場合は戻って,他国の実行がどうなのかということも併せてみますと,恐らくこの先は私どもの考えであって,一つ一つの実例があるわけではありませんけれども,長年にわたって条約が実行されてきている中で,こういった部分が必ずしも条約を起草されたときに想定されていなかった。しかし,実際に任意によって返していくということは,非常に有益な手段であるという認知が進んできているので,事務局に対してこういう返還が実施されるようにしていく手順として,仮に裁判所が,先ほどから監護権,親権のお話しありますけれども,本案についての関与をすることは,それ自体が条約によって禁止されているかと聞けば,返還されることを促進される限りにおいて,そのような当局の関与が禁止されていると理解はしておりませんというその解釈が戻ってくるわけです。   他方,想定されているかどうかという条約上の起草の段階の問題と,各国において,監護権,親権の制度が,今日本とアメリカの議論もありましたが,もちろん異なるわけです。ですから,一つの国でなされた判断がそのまま他の法体系でそっくり実施されるということは,何らの保証も担保もないわけですね。ですからこそ,この条約は元々生活していたところに戻って,その法体系の中で最終的な決定を見なさいということを求めているわけです。その場合,途中で外へ出てきてしまっていますから,他の国へ出ていますから,その国から連れ戻す,元のところへ戻してくる過程において,司法が関与する,すなわち連れ去られた先の国の司法が関与しながら,最終的なその家族の中の関係は,常居所地国の裁判所が判断することを条約締約国はみんな認めているわけですね。   これを実体的に,しかし担保しながら,子の利益や当事者たちが先ほど裏切られる結果になるとか,不信感の増幅にならないようにするということに,私はここは司法の役割と,それから弁護人の役割があると思います。当事者だけでやっているわけではないんです。もちろん専門性もあります。ですからそこは正に論点が今ここで出てきても,なかなか全体,全て詳細にわたって決定するところまで誰も知見はないと思います。国だって一つは二つではないわけですから,相手方,常居所地国がアメリカだけではない,各国あるわけですから,そこでどういう司法の判断が出るかというのは,やはりその事例事例に沿って考えざるを得ないわけで,この日本の司法として一つの簡単な,簡単ではありませんが,その判断を下すときに,これが常居所地国に戻ったときにどの程度担保されるかということについて,全くの見通しもなく,要するに,完全に日本の中の事例としてだけ判断するというのであれば,これは条約の下でやる調停・和解ではないですよね。   ですからそこに私は司法の取るべき一つの役割というのもあるであろうと。当事者を安心させる,当事者が納得するということについては,確かにまだ条約に入っていないわけですから,日本の法曹に十分な知見があるということは期待できませんけれども,やはりここのところはきちんと研修なり勉強した上で,的確な助言が出せるような,そういう体制は作る必要はあるのではないか。その部分が相まって,結局和解が促進されて,実際に子どもの返還が進むという結果に至ることが,この条約としては期待している成果ではないかと思います。 ○山本(克)委員 今日,大分私も頭が整理されてきたので,ちょっと思い付いたことを申し上げたいと思いますが,今,鶴岡委員がおっしゃった点は非常にもっともだと。理想論としてはそうなんですが,やはり外国の家族法,親子法について精通している,あらゆる外国の親子法について精通した法曹を育てるということはどの国もやっていないし,日本でも恐らく無理だろうと思いますので,なかなか難しいところがあろうかと思いますので,できるだけ分かる範囲で調査を裁判所に準拠法を調べていただいた上で,手続を進めていただくことは必要だと思いますが,しかしそれでもなおリスクは残ると思いますので,これは法律事項なのか,最高裁の規則で定めていただく事項なのか別として,やはりそういう不安定なものなのだということを,やはり裁判所,裁判官なり,調停委員なりが当事者に教示するということを一つかませるべきだと思いますのと,もう一つ,髙橋部会長から御指摘にありましたダブルスタンダード問題をどうするかという点ですが,それについては和解条項,調停条項のうち,裁判と同一の効力を持つのは,決定の主文に相当する部分だけだと。つまり,子の返還を命ずる部分だけについてのみ,裁判と同一の効力を有するんだとしてしまって,あとはもう私法上の和解だと位置付けてしまって,合意の効果は向こうでどうなるか,先ほど言いましたように分からないと。場合によっては無視されるかもしれませんよと,そういう形でもう押し切らないと,これあらゆる場面を考えて手続を組むなんていうことは不可能な事例だと。アメリカだって親子法は州事項ですから,アメリカ相手にしているだけで50州の親子法を知らないと運用できないということになってしまいますので,そこはもうある程度もう飲んでいって,リスクを軽減しようと思ったら,もう今言ったようなことでやらざるを得ないのではないかなという感想を持っております。 ○髙橋部会長 ちょっと確認させていただきますと,当事者間で合意することは確かに禁じられていないのですよね。ですから私法上の和解としてする分には禁じようがないわけですが,それでいきますと,山本克己委員の御発言もその種の危ないところ,条約第16条に引っ掛かりそうなところは,調停条項には載せないということになるのですか。 ○山本(克)委員 調停条項なんですけれども,裁判と同一の効力はそこには生じないんだというふうに,限定的に日本法で書いてしまうと。 ○髙橋部会長 それは規定で置くのですか。それとも調停条項の中に何か書くんですか。 ○山本(克)委員 いや,規定を置いてしまうという,法律で書いてしまうという。法律で裁判と同一の効力を有するのは,子の返還の義務に関する,その部分のコアの条項だけだという形にしてはどうかということです。 ○髙橋部会長 分かりました。 ○長嶺委員 ハーグ条約では監護の権利の本案についての決定を行わない,行ってはならないという禁止規定で書いてありますので,この規定に抵触しないようにするためには,監護の権利の本案ではないか,あるいは決定でないかのどれかになるんだろうと思います。他方,今までの御議論にあるように,この問題は文理解釈だけでいくと,かなり道が狭いということで,各国も苦労していろいろなプラクティスを積み上げてきているところだろうと思います。ただこの条約を締結する場合には,解釈論もきちんとやっておかなくてはいけないという観点からしますと,今の山本委員のお考えも非常にアトラクティブではあるんですけれども,その際には,監護の権利の本案に係る部分については,決定をしていないということで除外ができるということになろうと思うんですね。条約第16条がかなりストレートに書いてあるものですから,同条との関係の整理が必要だということから,我々も苦労はしておりますけれども,そういう解釈でいけるということであれば,その点についてクラリファイできると思います。 ○大谷委員 ダブルスタンダード問題なんですけれども,子の返還手続の部会の初回かなんかに申し上げたかと思うんですが,今現在,基本的にはいわゆるインカミングケースで,返還する場合の手続をここで御議論いただいていますが,アウトゴーイングケースで,向こうからundertakingで日本でミラーオーダーをしろと言われるような場合があって,非常に実務上苦労しているということを1回目に確か申し上げたと思います。   そのようなときに,ミラーオーダーがないので,調停でそれは家事審判法第21条で確定判決と同じ効力を持つということを言って,やっているわけです。それが今後も多分,そこは変わらないと思っていて,そういう意味でいうと,横山委員が懸念をおっしゃったようなことを私も実はそこの説明はどうするんだろうと,一方でこう言いながら他方でということは非常に苦しいと思って聞いておりました。今の山本委員の御提案だと,一般的な現在の家事審判法第21条の話は,それはそれであるのだけれども,子のハーグ,返還の調停に関しては切り分けるというような説明をするということで,一応整合性が取れると理解してよろしいんでしょうか。 ○山本(克)委員 理解していただけるかどうかは分かりませんが,私はそれでいけるのではないかということです。つまり,一般の調停,調書とは違うんだという位置付けにしておくと。ただ,国内法上,執行の基礎となる文章は必要ですから,返還の部分については裁判と同一の効力を認めるということだけでは,これは絶対必要だろうと考えている次第です。 ○鶴岡委員 繰り返しで大変恐縮なんですけれども,明確な確定的解釈をハーグの事務局に求めても,出てこないものですから,先ほどから何回か申し上げていますが,そこが悩みなんですけれども,条約第16条の禁止がどの程度強く掛かっている禁止なのかというところを,条約全体の目的と,実際に具体的な事案についてどの程度受入国側が役割が果たせるかということ,それが結果にどうつながるかということを考えますと,これは事の性格が違うので言葉として適切ではないかもしれませんが,和解を実現してそして返還を実現していくためには,条約第16条の禁止を破っても,本案に関わる部分についての司法の判断が認められる,一種その違法性の阻却のような形での整理ということも,一つの理論的な整理としては私はあり得るのではないかと考えております。   先ほどから何回も申し上げておりますが,いろいろ調べましたけれども,確たる解釈が出てこないものですから,これは私個人の考えなんですけれども,なぜそういうふうに考えるかと申し上げれば,最後の結果に至るときに,今の御提案も非常に興味深い御提案だと思いますが,返還のほうは拘束力を持たせておきつつ,その条件となった部分について,いやそれはもう海の物とも山の物とも分かりませんと,一種,そういうふうなことにならざるを得ない,判断の法的な価値の質が違うわけですから。それは当事者の訴訟であれば別のことはあるかもしれませんけれども,納得した上で最後の結果である返還につなげようとしているときに,連れて帰ってきた親にしてみれば,こういう条件があるので,自分も納得するし,家族も納得するので戻すという合意をしているのに,そこはもう全然裁判所も責任も何もないのかというようなことで,本当にその返すという合意をする人を守ることになるのだろうかというところが,一つ心配なのであります。   ですから,ネットワークジャッジとか,裁判官同士の連絡ということを,私はこの当初から申し上げておるわけでありますが,実態として管轄権の異なるところでのやり取りになりますから,それはどうしてもあらかじめ全部を調べるなんてことは全く必要がなくて,具体事例が挙がったときにどこへ戻るかが分かっているわけですから,どういう常居所地国において司法が関与していることも分かっているわけですから,そこで連絡を取っていただくということは最低限必要なのではないか。その場合,そこを司法の判断の中でどの程度加味されるか,それは私は分かりませんけれども,全く質的に前提となっている条件についての司法の関与を外してしまうという整理で,本当に当事者の安心と納得を得られるのか,また司法として,あるいは国として条約を実行していく上での責任が取れるのか,その部分が私は少し気になります。   条約第16条の禁止をどうくぐるかという議論は,最終的な結果において子どもが常居所地国に戻るということを実現できる限り,私はその部分については非常に厳しい厳密な義務であると徹底した考え方を採る必要はないのではないかと思います。 ○横山委員 多分,ちょっと鶴岡委員の前提と,私が言っている前提が違うと思います。これ,和解・調停は裁判と同じ効力を持つという含意している効力なんですよね。これがあるから議論しているので,この裁判と同じ効力を持つというのは一体,この効力というのはどこの国で効力を持つかといったら,これはもう返還が決まっているわけですから,これはもう外国でしか効力なく,基本的に意味がなくて,実際的には,日本では裁判としての効力を持っても意味ないわけで,どうせ帰ってしまうんですから。言ってもしようがないので,それはもう返還先の常居所地国が,この和解,日本では裁判と同じ効力を持つと言っているけれども,その和解とか調停に対してどういう効力を与えるかは,これはもうフリーハンドなんですよね。元いた常居所地国の。だから鶴岡委員がどのようなことを言っても,法的には拘束力はないんですよ。条約上,これだけはやらなければいけないのは,返還しなければいけないという,これだけなんです。これはもう向こうも認めるし,こちらも効力あるので意味があるんだけれども,他のところははっきり言ってもう私法上の効力の問題でしかないということなので。何らかの形で強い効力を日本では認めるべきではないとおっしゃいますけれども,もう向こうは常居所地国のフリーハンドで,それを認めるかどうかはもう相手国次第の話なので,日本がどれだけ頑張ったって,それはもう何の意味もない話ということです。 ○鶴岡委員 それは,私最初の発言のときに申し上げたとおり,事実行為でしか相手方の違う管轄権に入ったときに,日本の司法の判断がどのように尊重されるかは,これはもう分からないと。あるいは向こう側には何の法的義務もないわけですから,そこはどう担保するかという議論をする余地もない話だということは申し上げてあるわけです。であればこそ,日本の中でやる判断の中に,一部については拘束力を持たせ,他に持たせないと整理をすることも,何ら意味のないことだと私は思います。   もう一つは,結局のところ,促進させるためにどのぐらい日本側の当局が,これは中央当局も含むと思いますけれども,安心した制度の運用ができるかといえば,結局のところ,行った先のところでどのような今度は扱いになるかということについて,いや,法的に手が及ばないので全く知りませんというふうな形では,この条約は運用されていないんです。実際に5年ごとの締約国会合では実例を全部洗いながら,この条約の実施については,子どもの利益に本当にそれが即しているかというのを何回も何回もいろいろな形で議論をし直しているわけであります。ですから,最初のところで想定した法律の整理という世界と,もう一つ別の実体の世界のほうで,先ほど申し上げているようなネットワークジャッジの制度が,これは法律を根拠としてではなく,実際に具体的事案を進めていくときの安心感を高めるために作られてきているわけです。ですから,これは法律の問題ではないんです。その点はもう私も最初から申し上げているわけです。ただ,そういうところを促進していくために,この条約第16条の先ほど申し上げた最後の解釈のところに,adjudicateという言葉の中に,和解の裁判上の効力を持たせることまでが入っていると解釈をした上で,私どもはそういう解釈なので条約第16条を守るために,本案にいささかとも関わるようなところは全部排除しますということまで,能動的に日本がすることが本当に必要なのかということを先ほどから申し上げているわけであります。   ですから,さっき申し上げた裁判官ないし,弁護人の方々がいろいろな形でその専門的な知見を高めていただくというのは,一般的に勉強するということよりも,具体事例について戻った先の制度と,これは中央当局にもそういう要求が来ることを私は予想しているわけですけれども,司法の同士でまたお話をされることも,他の国では少なくともやっていることなんですね。ですから,この条約に日本が入るときに,他の国の裁判官同士のネットワークの中に日本も入るかどうかと。これは法律の問題ではない。何回も申し上げています。そういうことも視野に入れながら,この和解を進めていくときの司法と弁護人の役割ということをお考えいただいてはいかがかということを申し上げております。 ○山本(克)委員 何の効力もないというふうには私の提案,何の効力も認めないというようなふうにおっしゃいましたが,そうではなくて,少なくとも契約としての効力は認めて,ということが前提ですので,その契約を常居所地国の裁判所がどう扱うかというのは,それは常居所地国の問題だという前提ですので,何ら効力がないということではありません。ということを申し上げているわけではありませんし,それと合意の証明の関係で,裁判所の調書が作られているというのは非常に証明力が強いわけですので,それについて合意がなかったなんていうことは,一切封じられると。これは質的には契約書を作るよりははるかに強い効力があるわけですね。それと同等のものを探し出そうとしたら,恐らく公正証書しかないというぐらい強い証明力のある文書になりますので,全く効力を認めずに司法の外に置いているというのは,ちょっと私の真意を理解していただいていないのではないのかなという気がいたします。 ○髙橋部会長 先ほどですか,大谷委員,他の委員がおっしゃったことは,裁判官ネットワークである国の裁判官に聞いたら,それは大丈夫ですよというような返事が返ってきたとしても,特に英米系は裁判官単位で判断食い違いますから,そうならなくなる可能性は低くはない。それにもかかわらず,日本の裁判所では母親と子どもはずっと一緒にいられるのですよという条項が書いてあって,それがあるからこそ,どこかの国に帰ったと。先ほど来,安心を与えるためにとおっしゃるのですけれども,安心がトリッキーに使われてしまう可能性があるので,司法制度としてはどう考えるかということであって,山本克己委員が言われるように,公正証書は私もいいと思うのですが,公正証書で決めておくとか,そういうことを規定しているわけではないということなのですね。しかし,そこまで踏み込んだほうがいいというのも,もちろん立法論ですから,考え方としてはあり得るわけですが。 ○大谷委員 鶴岡委員が発言された御趣旨の,気持ちとしてというか,全体として非常に共有しているつもりでありまして,正に促進したいということを前提にいろいろ考えているわけですが,だからこそどうあるべきかということが悩ましいわけで,最初に私がこの論点,今の論点について発言したときに,強く反対するわけではありませんとわざわざ申し上げたのも,そのためなんです。   決して最初から制限を掛けるのがいいと思っているわけではないんですが,ただ,今日の事務当局の趣旨説明というか御提案に,私はちょっと正直,安易な感じを受けまして,これでは正にトリッキーな感じになってしまうのではないかと思って心配しているから懸念を申し上げています。最終的には別にこういうことが日本の場合できるとなるならなるで,それを前提に活用していこうと思いますが,ただ,実際,実務にいる人間としましては,やはりそれほど簡単ではない。鶴岡委員のおっしゃることは全くそのとおりで,全ての国について精通する必要はなくて,その事案のときにアメリカの何とか州であれば,そこがどうなっているかということなんですが,今,もうかなり部会の議論も進んできまして,裁判官ネットワークの在り方も他の国でやっているような在り方というのは,余りここでも想定していないという中で,弁護士の立場からすると,そこはもう弁護士が集めて実際どうなりますかと。正直言って,帰った後と言わずに,帰る前から何か手続ができるんだったら向こうでミラーオーダー的にやってくださいみたいなことまでしないと,とてもこれは合意したからといって,向こうでどうなるものか分かりませんよと言わざるを得ないし,言うべきだろうと思うんですね。そういうものとしてここで皆さんで共通認識を持って,それはできることをしておこうということであれば,私としては反対ではないし,それから条約第16条の禁止というのは,正直,外務省の専門家もここにいらっしゃって,私も別にそこはそれほど正直余り気にしていないんです。むしろ実務的なインパクトというか,当事者の説明とか,困難とか,そういうことのほうを逆に気にしているということです。 ○髙橋部会長 細かいこととなると,調停と和解でちょっと違いまして,調停は調停委員会が内容を不相当だと思えば,調停成立を認めないということができます。調停委員会,その中には裁判官が入っておりますが,そのような要素が入るのですね。こういうものが私の感覚だとadjudicateになるのですが。そんなようなところがありまして,微妙な問題だということになります。 ○金子幹事 今,私もちょっと調停と和解が同じでいいかと,一言申し上げようと思っていたのですが。それから,心配しているのが,調停・和解ができる範囲について,結局フリーハンドにしておいたほうがいろいろ話合いもしやすくて,友好的解決が図りやすいということはよく理解できますし,恐らくそうだろうなと思うのですが,それを当事者,代理人に委ねてしまうということで,制度的にいいのかという問題で,それでせめて教示の義務を課すとか,あるいは外国において効力を生じないかもしれない部分については,その旨をきちんと分かるような制度にしておくというような御意見が出たんだと思うんですけれども,その辺で結局もうリスクはあることは絶対否定できないので,そのリスクを運用される裁判所とか,当事者に委ねてしまっていいのか,あるいは危ないところは言わば土俵に乗せない形にしたほうがいいのかというところで提案を申し上げたという次第です。いろいろな多角的な御意見伺いましたので,もう少し,検討してみたいと思います。 ○髙橋部会長 それではここで休憩を頂きたいと思います。           (休     憩) ○髙橋部会長 そろそろ再開いたします。   再開いたしまして,4の「子の返還の裁判の効力」,まず説明から。 ○佐藤関係官 「子の返還の裁判の効力」は,子の返還を命ずる裁判の効力について,執行力のある債務名義と同一の効力を有するものとすることを提案するものです。子の返還を命ずる決定が民事執行法上どのような債務名義として扱われるかという問題につきましては,確定判決と同一の効力を有するものとすると,執行文の付与を受けた上で執行申立てをすることが必要になります。一般に執行に簡易迅速性や密行性が要求される場合は,執行力のある債務名義と同一の効力を有するものとして,執行文の付与が不要というふうにされています。家事事件手続法上の給付を命ずる審判がその一つの例です。子の返還を命ずる裁判についても,同様に迅速に執行されるべき要請が高いと言えることから,執行文の付与を要することなく,強制執行を申し立てることができるものとすることが相当と考えております。 ○髙橋部会長 執行文不要ということですが,いかがでしょうか。 ○竹下関係官 平地に波を立てるような発言で恐縮です。現在の家事審判法もそうですし,家事事件手続法でも家事審判の効力としては執行力ある債務名義と同一の効力を有すると規定されていますから,この原案のように規定するというのは自然であるというのはよく分かります。しかし,他方,この法律は外国の人が使うということを考えると,この執行力ある債務名義と同一の効力を有するものという表現が,翻訳の仕方にもよるかと思うのですけれども,果たして分かりいいのだろうかという疑問を持つのです。これは民事訴訟法の研究者の間では知られていることですけれども,執行力のある債務名義と同一の効力というのは,日本人にとっても必ずしもはっきりしているわけではない。場合によって,同じ表現の条文なのだけれども,執行文が要ると解釈する場合もあれば,要らないと解釈する場合もあるというような,そういう言わばいわく付きの表現のように思うのです。   ここで言っていることの実質は,返還を命ずる裁判は債務名義になるということと,その債務名義に基づく強制執行の場合には,執行文は要りませんということです。もちろん,条件成就とか承継執行文の場合は別だと思いますけれども,一般の場合には,要らないと,そういうことですね。その内容自体は結構だと思うのです。取り分け,これは後で問題になるのでしょうけれども,間接強制とか代替執行という執行方法ならば,実質的には第一審の受訴裁判所,要するにこの裁判をやった家庭裁判所が執行機関になるわけですから,執行文がなくてもいいだろうと思うのですけれども,その表現の問題として,言いたいことがこれで強制執行ができますよということと,執行文は要りませんよということなら,それを端的に書いたほうが外国の人にははるかに分かりいいのではないか。例えば,子の返還を命ずる裁判が確定したときは,それに基づいて強制執行することができる。子の裁判に基づく強制執行は,その裁判の正本によって行う。執行文付与の民事執行の規定で,少額訴訟の判決については執行文は要らないというときの表現としては,裁判の正本に基づいて強制執行を実施すると書いてあります。その裁判の正本によって実施するというのが分かりにくければ,執行文を付与することを要しないと書いてもよいと思います。その方が一層分かり易いと思います。そういう表現にしておけば,これは翻訳するのにも非常に簡単だと思いますし,外国の人が読んでもすぐ分かるし,それから日本語としては,恐らく日本語の分かる外国人というのが問題になることもあると思うのですけれども,そういう場合にも非常に分かりがいいのではないか。もちろん,この今問題になっている裁判手続を,家事事件手続法の中に取り込もうというのだとすると,これは当然,家事事件手続法第75条でいくということにならざるを得ないと思うのですけれども,特別法で別に法律を作るというのであれば,この家事事件手続法第75条と表現が違っても,別に差し支えないのではないか。法制局あたりからは何か言われるかもしれませんけれども。以上のようなことを考えましたので,一度,御検討いただければと思います。 ○髙橋部会長 ありがとうございました。事務当局も重々その辺は承知しているのですが,表現はまた,それこそ法制局との関係もございますが,内容はこれでよろしいでしょうか。 ○山本(克)委員 この点に異論は全くないんですけれども,先ほどの調停調書や和解調書の場合をどうするかというのが少し検討されていると思うんですが,私はその場合は執行文があっても,要求することは構わないとは思います。任意履行をより期待できる場合ですので,直ちにそれで執行に移らなければいけないということではないと思いますので,執行文が要るという仕切りもあり得るんだろうと思いますが,そこはちょっと決めておいたほうが,ここでどちらの方向にするか確認しておいたほうがいいのではないでしょうか。 ○横山委員 訳すときのあれですけれども,このあれはなかなか多分英語にならないので,「may be executed without any other proceedings」って意訳しないと,無理だと思います。大体,こういうふうにやっておけば大丈夫ではないかなと思います。 ○髙橋部会長 それでは,あと二つございますので,5の「子の返還拒否事由」に入ります。まず説明からお願いします。 ○佐野関係官 では,5番の「子の返還拒否事由」について御説明したいと思います。5は第6回の部会に続きまして,子の返還拒否事由につきまして,改めて検討するものです。まず初めに,部会資料記載の④の甲案,乙案の表記方法について簡単に御説明したいと思います。   今回の部会資料の甲案,乙案ですけれども,これはこれまでの甲案,乙案の考え方を前提としまして,子の返還拒否事由としては条約第13条1項bに相当する重大な危険があることという文言にした上で,甲案についてはこれに該当する事情,また乙案についてはこれを認定する考慮要素を部会資料記載の(2)のとおり記載することとしております。   また甲案では,aにおきまして子に対する過去の暴力が従前規定されていたかと思います。また,bについても同様に,相手方に対する過去の暴力が従前規定されていたかと思います。ただ,条約13条第1項bの子に重大な危険があるかどうかの認定に当たって必要な要件としましては,前々回の部会でも一部御説明したとおり,子を常居所地国に返還した場合に,子あるいは相手方が暴力等を受ける明らかなおそれがあるかどうかということであって,過去の暴力の有無というものは,飽くまでそのおそれの有無を推認させる事情にすぎないと思われます。そこでこれらの過去の暴力等の記載を独立の要件として掲げることは不適当ではないかと考えましたので,この部分には亀甲括弧を付すことにしております。それが一つ目の表記の変更です。   また次に,甲案,乙案のbにおきましては,子に心理的外傷を与えることとなる相手方に対する暴力の記載の中に,子と同居する家庭においてという限定を,従前の甲案,乙案では付していたかと思います。しかしながら,ここでも子に対する重大な危険があるかどうかについては,正しく子どもに心理的外傷を与えることとなる暴力等があるかどうかが問題ですので,子と同居する家庭における暴力がどうかというのは,必ずしも必須な事情ではないものと思われます。そこで,今回の提案におきましては,子と同居する家庭においてという記載は不要ではないかと思われますので,この文言には亀甲括弧を付しております。   以上の表記方法の変更を前提としまして,甲案,乙案の具体的な問題点について,検討していきたいと思います。まず,甲案ですけれども,従前の甲案として部会で再三にわたって検討してきた案につきましては,cに相当する事由の中に,逮捕や刑事訴追あるいは生活困難という記載がされていたことなどから,条約第13条第1項bに整合しないのではないかという御指摘を多々頂いていたところかと思います。先日の中間取りまとめで提案させていただきました甲案につきましては,このような記載を削除したということもあり,その後,そのような懸念というのはある程度払拭されたのではないかという御意見も部会で頂いたところかと思います。   ここで改めましてこのcの記載について検討しますと,cというものは子を常居所地国に返還しても,子を監護する者が誰も存在しなくなってしまうような場合について規定したものですけれども,そのような場合についてまで子を返還しなければならないとすることは,子に対する重大な危険が認められると評価しても差し支えないと思われたことから,これを一つの返還拒否事由として掲げたものです。もっとも,cに対しては「相手方以外の者が子が常居所を有していた国において子を監護することが明らかに子の利益に反し」という記載部分につきましては,これまでの部会におきまして,例えばこのハーグ条約に基づく子の返還手続において,本案の裁判を先取りするものと見えてしまうのではないか,あるいは,子の利益というのは,本来重大な危険の認定において用いるべき基準として不適当ではないかという意見が出されたところかと思います。   この規定自体はそれ自体,相手方以外の者による子の監護が,明らかに子の利益に反する場合ということを想定しており,特段,本案の裁判を先取りしたり,誰が子を監護することが子の利益にかなうかという比較衡量を裁判所において求めるものでは到底ありませんけれども,このような懸念に対する御指摘を踏まえ,その懸念を払拭できればと思い,ここでは「監護」という用語以外に,「養育」という文言を用いることが適切ではないかと提案しております。   また,相手方以外の里親や施設などが子を監護できる場合には,それが明らかに子の利益に反すると認められない限り,なお子を返還すべきとする趣旨を明確にすべく,相手方以外の者について,亀甲括弧で〔(里親や施設その他の者を含む。)〕とする点を付す形にして,甲案を提案しております。また,乙案についても,亀甲括弧付きで同じような文言を挿入しております。   以上を前提とした甲案の問題点ですけれども,甲案ではaやbにつきましてはこれらに該当する事情があれば,重大な危険に該当すると考えることに特段の異論はないとは思いますけれども,aやbでは,その返還拒否事由の内容として「明らかなおそれ」というものを要求しておりますので,そのような立証が実際の裁判において果たして可能かという問題があり,これはパブコメでもいろいろ指摘されているところかと思います。また,現在の甲案のaやbに満たないものであっても,条約の第13条第1項bに該当し得る場合に,国内担保法としてあえてaやbを列記してしまうということによる効果としまして,これらのa,bに満たないものも重大な危険とは認めないというような認定を実務上せざるを得ないことにならないかなど,慎重に検討する必要があるものと思われます。   次に乙案の検討のほうに移りますけれども,乙案のほうはcのA案というものを今回取り出しております。cのA案の考慮要素としましては,従前から説明しております相手方以外の者が子を監護することが,明らかに子の利益に反するかどうか,また,申立人が子を監護することが不可能又は困難な事情があるかという二つの事情からなるものでして,これらのいずれもが認められて初めて重大な危険を認定する,うかがわせる考慮要素としております。そのため,第6回,前々回の部会におきましては,裁判所が子に対する重大な危険の有無を総合的に考慮するに当たって,他のa,bの要素とは異なる特殊な考慮が必要になるのではないか,加えて,cの考慮要素というものは,子の利益に反するといった評価の概念を含むものですから,このような評価を含むものを考慮要素として更にまた評価である子の重大な危険の有無を認定するということが適切であるのかという疑問が出されたところかと思います。   そこで,今回はそのような疑問,御指摘を踏まえまして,cのB案におきましては,A案で考慮される事情を子が常居所を有していた国において子を監護あるいは養育することができるものの状況という形でまとめる形で提案しております。ただ,このB案のcにつきましては,a,bに比べましてcの考慮要素が中立的なものとなっておりまして,aに比べて考慮要素のそれぞれの重みが明確でなく,やや裁判所の判断がしづらいのではないかということも考えられますので,この点も含めまして御議論を頂ければと思います。   また,乙案自体の問題点としてですけれども,そもそもこの条約第13条第1項bに相当する④子の重大な危険の返還拒否事由につきまして,条約第13条第1項bの文言以上の具体的な規律を設けようとした趣旨としましては,裁判規範としての明確性であるとか,当事者の予測可能性を確保するという点にあったかと思いますが,現在の乙案では,具体的にどの程度の事情があれば子に対する重大な危険として十分なのか,子に対する重大な危険に該当するのかという点が,甲案に比べて不明確であり,裁判規範としての明確性や当事者の予測可能性の点でも,なお問題があるのではないかと思われるところです。   以上を踏まえまして,甲案と乙案,いずれがより適切かについて,また改めまして御議論いただければと考えております。   次に部会資料の(3)に相当するところですけれども,前々回の部会におきまして,子の返還拒否事由というものが認められたとしても,なお裁判所が子の返還を命じ得るかどうかについて議論が出ましたので,ここで改めて論点として取り上げることにしております。部会資料の補足説明に記載しておりますとおり,子の返還拒否事由の①から⑥のいずれにつきましても,この事由が認められたとしても,なお裁判所は具体的な事案における事情を勘案しまして,裁量により子どもの返還を認める余地があるものと条約上は解釈されているようであります。ここではそのような条約の解釈を前提としまして,この①から⑥の事由が認められたとしても,裁判所はなお裁量により返還を認める余地があるという点につきましては,子の返還の拒否という重大な事項に関わることですから,これを具体的な規定がないまま,裁判所の裁量によって子の返還を命じるかどうかを委ねてしまうということは相当ではないのではないかとも考えられましたので,部会資料の(3)のような形で具体的なその場面を明示するという形で提案しております。   ただ,実際に我が国の裁判所において,この(3)記載のような考慮をして,なお返還を命じる場面が具体的に想定されるのかということも疑問が残りますし,また,このような(3)のような規定をあえて設けることの持つ意味についてもいろいろ御議論があるかと思いますので,このような点も含めまして,(3)の要否,適否についても,御検討いただければと考えております。   以上です。 ○髙橋部会長 何度も御議論いただいている返還拒否事由ですが,相当内容が詰まってまいりましたので,更に御審議をお願いします。 ○早川委員 一つ細かいことの確認です。甲案のbの「子と同居する家庭において」が亀甲括弧に入れられています。乙案のほうは亀甲括弧に入っていないのですが,これも亀甲括弧ありということでよろしいですか。 ○佐野関係官 単純な誤記です。失礼致しました。 ○早川委員 分かりました。失礼しました。 ○髙橋部会長 どうも失礼いたしました。 ○大谷委員 大分煮詰まってきているところなので,お答えいただけるかどうかよく分からないんですけれども,今日の段階では,やはり甲案,乙案,そのままの状態で,最終的にどちらになるかは分からないまま,それぞれについて更に検討をということなんですね。 ○髙橋部会長 はい。 ○大谷委員 分かりました。ではその前提で,甲案について御提案の点については,私は個人としてはいずれも賛成です。それから,監護・養育の言葉遣い,英語で何を想定されているか分からないんですが,そのことによって少しでも懸念が払拭できるのなら,私はそのほうが適切だと思っています。   それから乙案について,cのA案かB案かというところで,A案というのはやや循環的というか,cのA案の中に,子の利益に反するかどうかの価値判断が入っており,その上で更に最終的に重大な危険になるかどうかという判断になるということから,B案を提案されたという御説明だったと思います。   ここの例えば欧州人権裁判所の最近の判例等を読んでいましても,あるいは他の国のでも時々そうなんですけれども,結局,条約第13条第1項bの重大な危険を判断する上において,子の利益が何なのかということを検討し,子の利益に反する場合には重大な危険に当たるという判断になったりとか,子の利益には反しないので,返還は条約第13条第1項bの重大な危険には当たらないと。やや何か逆なような気はするんですが,実際,今申し上げたような形の判断の仕方というのが,例えば欧州人権裁判所ですと国内の判決を見直すという形なので,若干特殊なのかもしれないんですが,なされている。そういうことからしますと,私は元のA案のままでも,変な気はしますけれども,実際の諸国の実務との比較からいってもおかしくないのではないか。A案のほうが分かりやすいのではないか。cで何を言いたいのかということが,A案のほうがやはり分かりやすいのではないかという気がしています。   それから,乙案のほうについて,先ほどの乙案そのものの問題点として,それぞれの考慮要素について,何をどの程度判断するのかというところは分かりにくいので,裁判規範性とか,予測可能性の点で,乙案はどうなのかという問題提起があったかと思うんですけれども,これも前から出ていますように,合わせ技という言葉で言われていた話ですけれども,そういうことがあるので,私自身は今も乙案に賛成で,そうだとすると,一つ一つの事情についての重みとかは,なかなか書けない。そこは最後総合判断だということで,それが正に乙案の問題点かもしれませんがうまみでもあると思っていますので,私自身は乙案に今でも賛成です。 ○磯谷幹事 まず,乙案に賛成というところは,従前申し上げているとおりでございます。ちょっとそれとは異なりまして,それぞれcのところで,「相手方以外の者が子が常居所を有していた国において,子を監護することが明らかに子の利益に反し」の中で,亀甲括弧で〔里親や施設,その他のものを含む〕というふうに書かれておりまして,そうすると,里親や施設が養育することも明らかに子どもの利益に反しないのであれば,結局要件を満たさないことになると思われます。表記の善し悪しは別にして,常居所地国において里親や施設などが返還された子を養育することをどう考えるのか,親が育てられず,里親等に頼らざるを得ない状況であっても,なおやはり返すべきなのかというところは,一つ価値判断があると思います。   それから,このような書き方ですと,恐らく相手国の里親や施設などで養育することが明らかに子の利益に反すると認定することは,現実的にかなり困難なのではないか。そうすると,cが満たされることというのはほとんどないのではないかという気もいたします。以前,日弁連でシンポジウムをさせていただいたときにも,いらっしゃった外国の方から,常居所地国に返還した後で子の養育を里親などに任せることについては,かなり消極的なお話であったと,私は理解しております。それが,このような記載になるとどうなってしまうのかなと思って,ちょっと危惧をしております。 ○清水委員 実際にこういった事案を担当する立場としては,この構造が立証責任というものをベースに置いているんだとすると,甲案と乙案と比べた場合に,乙案というのは実務的には非常にやりにくいというのが率直な感想です。乙案のような書き方ですと,こういった事情の有無ということで,しかもa,b,cという相互の関係の重みがどうかも分からないし,有無ということを書いておいて,立証責任というのも,本来的に整合するのかどうかという疑問もありますし,それぞれの要素をどのような関係で考えていくのか,例えばaはある,bはなし,cはあるような場合,なし,なし,ありの場合はどうかとか,それからどういった場合にそれをありと認定するのか,なしと認定するのかとか,悩ましいですね。乙案で本当にやれるんだろうかという不安があります。 ○金子幹事 今の立証責任の点なんですが,いわゆる開かれた構成要件というか,よく評価的な主要事実としては非常に開かれているようなものもありますよね。そのときにそれを基礎付ける事実を主要事実と考えるという考え方と,それは間接事実だという考え方と恐らくあるんだと思うんですけれども,結局,甲案のa,b,cが本来条約が予定している主張立証の対象となる事項と,それとの関係がイコールなのかどうかというのはなかなか難しい問題で,これ以外にももちろんあって,それが結局包括的に受けざるを得ないということになって,結局④が最終的な立証命題で,もちろんそれを基礎付ける事情として,双方が特に相手方が特に立証するものとしては,a,b,cというものが出てくるんでしょうし,甲案のa,b,cのレベルが立証されれば,それは甲案を採っても乙案を採っても,恐らく④に当たるというところは,ここで反対される方は恐らくいらっしゃらないと思うので,あとは見え方の問題かなという感じはしています。実際の運用では重視されるa,b,cというのが考慮事情として,乙案を採っても重要な事情として考慮されて,これをめぐって主張立証がされるということにはなるのではないかなとは思っていますけれども,甲案を採らなければなかなかそこの運用が難しいということでもないような気がしましたが。 ○清水委員 甲案ですと,a,b,cいずれかが認められれば④が認められるという構造になっていると理解しているんですけれども,乙案のほうですと,a,b,cのいずれかが認められても,即④が認められるという関係にはなりませんよね。やはり考慮事情ということで,a,b,c全部考えて,結局のところどうかという④のところの判断,だからそこの構造が裁判官によっても異なりやすいというか,それに比べると甲案のほうはそこがすっきりしているという意味で,ぶれがないのかなという感じがしております。 ○相原委員 何かほとんど同じことの繰り返しになってしまうので恐縮なんですが,前から甲案のほうに関しましては,これ自体が条約第13条第1項bの抗弁としていいのかどうかといったときに,前回も申し上げたかと思うんですけれども,「明らかな」というワードが入っていることによって,重大な危険という意味では確かにaがあれば重大な危険というように認めていいだろうなと思っております。ただ,先ほど事務当局の御説明もあったように,明らかなおそれとしてしまうことを危惧するというパブコメ等の御意見もありました。したがいまして,先ほどの裁判官のお立場からすると,かなりはっきりしたほうがいいというのは非常によく分かるのではありますが,実務的,又はテイキング・ペアレントの感覚からすると,やはり乙案で先ほど合わせ技という言葉が,これも繰り返し出てきておりますけれども,そこで配慮していただくという余地をやはり残していただかないと,微妙なケースというのも,かなり予測されるので,やはり乙案で全体的に,やはり非常に厳しいかもしれませんけれども,裁判官には期待したいというのがあります。   それからあと,乙案のA案とB案に関しましては,確かに同じことの繰り返しといいますか,見方を変えて同じようなことを2回配慮するというA案に対する御指摘も確かにあったんですが,一方,B案に関しましては,これだけの言葉では一体どういう目的の何を状況を判断しようとしているのかというのが,やはり具体性がかなり乏しいと思います。これだけを見てしまうと,逆に誤解を生むこともあるのではないかなという印象を持ちます。私も屋上屋といいますか,同じことの繰り返しになるのかもしれませんけれども,乙のA案が妥当なのではないかなと個人的には思っております。 ○豊澤委員 先ほどの金子幹事の御説明の中にもありましたとおり,仮に乙案のような規定振りを採ったとしても,ここで示されている甲案のaなりbなりcなりというものが認められれば返還拒否とすることについて,大方の異論のないところであろうと思われますそういう意味では,実質においてそれほど大きな開きがある話ではないと理解しています。   甲案のちょっと嫌味なところは,a,b,c以外のものになると,どこで規定されているのか分かりにくいというところでしょうが,そうではなくて,a,b,cのどれにも当たらないけれども,a的なものとb的なもの,あるいはc的なものの総合的な考慮も当然できるという前提ですので,そういう意味でも乙案と本来ずれがあるわけではないんだと思うんですね。それは規定の仕方の問題として,甲案的なものにしておいて,なおかつ総合考慮も当然可能ですよというような規定ぶりが工夫できれば,そこは非常にはっきりするかなという気もしますし,そこまででなくても解説等できちんと書いていただくことによって,甲案でも当然総合考慮は行われるということを明示するというような方策もあり得るのかなとは思います。 ○棚村委員 私も前から乙案のほうがいいのかなと考えています。やはり条文の構成から見ても,それから他の国の国内担保法というか,実施法上も,割合と重大なリスクの条項をめぐって,条約と同じ規定をしておいて,そしてそこでの総合的な判断をしている場合が大半です。明確な返還拒否事由の大きなものだけで直ちに決着が付けばいいんですけれども,最終的にそれが返還させるべきかさせないべきかというようなことで,総合的な判断がやはりできるような構成がいいのではないかと思います。   それから,前にもちょっと触れたかと思いますけれども,乙案のcのA案とB案ということですけれども,割合と子どもの利益に反するというのは,先ほど大谷委員もおっしゃっていましたけれども,やはり欧州人権裁判所なんかでいろいろ問題になっている判例というのは,かなり家族の私生活の尊重とか,それから子どもの最善の利益,児童の権利条約なんかも引き合いに出されて,ハーグ条約の迅速な返還ということに対する一つの歯止めとか,ブレーキとして機能しており,子に対する重大なリスクが問題になってきています。そのときに,よく判例で出てくるのは,やはりベストインタレストを子の重大なリスクのところで判断するのではなくて,リスク評価をし,飽くまでも子どもにとってどういう危害とか危険があるかどうかということなのだという説明はする。しかし,最終的にはベストインタレストということを持ち出して総合判断するということを考え併せると,私はB案に対しても魅力は感じています。ただ裁判官からすると,判断をする場合に,余りいろいろな事項が並列されていると,どこにウエートを置いてどうやるのか,全部裁量で判断をされるということでやりづらいというお話はもちろん分かりますけれども,A案とB案とでいっても,子どもの利益というのは常に判断の材料というか,一番大きな枠組みの中に入ってくるので,個別的なところでこういうような形だと,むしろB案のほうがいいのかなというような感じを私は持っています。ただ,最終的には乙案に賛成というのはずっと一貫して考えてきたところです。 ○犬伏委員 皆さんおっしゃっているので,本当に繰り返しになってしまいますけれども,個人的には先ほどの事務局からの説明のように,④が甲案のa,b,cに収れんしまうということで足りるのかなという懸念はやはり持っておりますので,個人的には乙案に賛成するということです。ただ,甲案が先ほどの御示唆のように,若干総合的な要素を含むのであれば,最後に甲案になってもやむを得ないかという気はいたします。それで,亀甲括弧を外すかどうかという点について,確かに将来予測が重要であって,過去の虐待等暴力等のことは,直接には関連しないとは言いながら,将来予測をするには,非常にやはり過去に受けたというのが重要だろうと思いますので,A案あるいはB案の過去の暴力というのは置いておいてもいいのかなという気はいたします。   次に,子と同居する家庭においてというのは外してもいいかという気はいたします。先ほどの磯谷幹事のおっしゃる里親,施設というのは,将来的に向こうに帰ったときということになると,そこまで入れておくというが必要かどうかというのは,今ちょっと判断がつきにくいという状況です。 ○磯谷幹事 一つお尋ねしたいのは,この甲案の場合に,このA案,B案の中で,最後に「明らかなおそれがあること」とあります。前からあるのですけれども,改めてちょっと読むと,ここは重大な危険というのとどう違うのかなと思いまして,例えば④のほうの要件の重大な危険というのをここでも同じような文言を使って,暴力等を受ける重大な危険としたほうが整合的なのではないかなと思いました。 ○髙橋部会長 ちょっと確認します。先ほど豊澤委員が言われたことなのですが,甲案のほうです。次に掲げるいずれかに該当する場合には,(1)の④に該当すると。a又はb又はcがあれば④だというのはいいのですが,a,b,cにちょっと足りない,a´かつb´かつc´,このときに④の認定はできるという頭でよろしいんですか。 ○金子幹事 それはできます。結局,それは総合考慮の中で,総合考慮といいますか,a,b,cに当たらなくても,④に当たるという判断はあり得るということです。 ○髙橋部会長 そうしますと,④の重大な危険と甲案は,ちょっと言葉を変えておいたほうがむしろいいのかなというようなことにもなるのですか。どちらでもいいのかもしれませんが。いずれにせよ,豊澤委員が言われたように,甲案というのはaがあればそれだけで④ですが,逆は必ずしもそうならないので,④を認定するためにはa´かつb´かつc´プラスdでも,それはいいのだという頭で,ただ表現上は確かにはっきりさせるべきだという御指摘はそのとおりだと思いますが,そういう前提で甲案と乙案を御検討ください。 ○早川委員 まず甲案ですけれども,これは中間取りまとめの甲案からはかなり変えていただいたわけですね,前々回ですか,私申し上げましたように,中間取りまとめの甲案ですと,それに基づいて出された判決が条約第13条第1項bによらないで返還を拒否したのではないかと外国から見られる可能性があるような,そういう作りだったかと思いますが,その点御配慮いただいて,今回の甲案は,条約第13条第1項bの適用による返還拒否であるということがはっきりするような形になっています。これで,外国からの見え方はずっとマイルドになり,改善されたのではないかと思います。   その上でなのですが,既に金子幹事,相原委員から御発言がございましたけれども,要するに個別具体的な事件で,甲案によって例えばaに当たるので拒否するということになるような場合は,ほとんど間違いなく乙案を使っても拒否することになるだろうと思うんですね。清水委員,豊澤委員の御懸念も非常によく分かるのですけれども,しかし,今のように考えますと,具体的な事案への適用に当たっては,乙案を採っても,甲案を採ったときよりすごく大変になるような判断を裁判官に強いるというのではないのではないかという気がいたします。あとは要するに建前といいますか,見え方というかをどう作るのがいいかということなのではないか,実質は乙案も甲案もほとんど変わらないのではないかという気がいたします。   その点から言いますと,例のスイスの立法が,今回の甲案がそれに近づいているわけですが,条約第13条第1項bと異なる独自の返還拒否事由を認めたわけではないけれども,しかしそこに個別の独立の要素を入れた懸念があるということで批判されていると同じように,甲案も外国の目から見るとなお少し問題があるのではないかと思われます。もし実質が同じなのであれば,乙案で御判断いただくようにしたらどうだろうかというのが,私の感じでございます。 ○髙橋部会長 その上で,乙案のcは,A案,B案どちらのほうに。 ○早川委員 すみません,その点はきちんと考えておりません。B案も魅力的なのですが,つまりすっきりするという意味では魅力的なのですけれども,先ほど御意見がございましたように,A案のほうがこの趣旨が分かるので,どちらかというとA案のほうがいいかなという感じを受けております。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。 ○長嶺委員 今,早川委員も言われたように,甲案は随分改善の余地が見られると思うんですけれども,a,bについては恐らくどちらを使っても結論は余り変わらないと思うんですが,甲案のcの場合,「明らかに子の利益に反し」ということが,④の,子に対して身体的又は精神的な害ですとか重大な危険,これは子の利益に反すると捉えられるが,全てこれに集約しているかというと,そこは若干議論の余地もありますので,ここにギャップを感じないでもないということがあるものですから,前回申し上げたように,乙案の方をより選好するというところは私としては変わりません。   それから,乙案のA案,B案では,乙案では考慮要素でございますので,乙案におけるa,bの並びからいきますと,A案のほうが並びとしてはうまく並ぶかなと。B案ですと抽象的過ぎて,ここまでの抽象度に上げてしまうのであれば,a,bの書き方もまた違うということもあり得るかもしれませんけれども,そういう意味では,私は個人的にはA案のほうがいいかなと思っています。   それから監護と養育の点ですけれども,恐らくこれは私も一度前にコメントさせていただきましたけれども,条約上は「right of custody」という監護権という言い方をするところと,それから子どものケアということがあって,実は条約の訳では,一般にケアも監護というふうに訳していることがございます。ですからここでもし監護ということばを使うのであれば,これは国内法ではありますけれども,恐らく翻訳も含めて世界的に見られるという観点からしますと,監護という言葉を使う場合には,「監護する」という言葉を統一して使うとか,「監護」は,身の回りの世話のケアの意味で使うとか,「監護する権利」といえば「custody right」という意味に使うとか,何か工夫がいるかなと。そういう意味では,養育がいいかどうかは別として,ケアについての言葉を変えておいたほうが誤解がないかなという点を,改めて申し上げておきます。 ○佐野関係官 乙案についてなんですけれども,乙案のA案とB案で,A案のほうがよろしいのではないかという御意見が多数あったんですけれども,A案は「かつ」で結ばれているものを考慮要素とすることについて,法制上の問題があることのほか,A案の考慮要素は二つからなっているんですけれども,乙案自体というのは,a,b,c以外の考慮要素を総合考慮することを排斥しているわけではありませんので,A案の一部分のみを考慮要素とすることは,別に乙案全体としてみれば否定されていないということもあるのかなと思いまして,そうするとA案において二つの考慮要素を縛ってあえて書いておく意味というのが,そもそも乙案の考慮要素の全体の立て付けからして,どこまで意味があるのかと思われます。   このような問題があるので,事務当局としてはA案の考慮要素をなるべくa,bのような平たい形に近づけようと思ってB案というものを提案した次第です。A案がいいかB案がいいかは別にしまして,もう少し表現方法については検討したいと思います。   あと,磯谷幹事のほうから指摘がありました施設や里親の話ですけれども,一応甲案を仮に採るのであれば,甲案というのはcに該当すればそれ一本で条約第13条第1項bに該当するということをより明示する必要がありますので,括弧の中に里親,施設ということをより注意喚起を行う意味で,条約に忠実という意味で書いたんですけれども,仮に乙案を採るのであれば,cも,総合考慮の考慮要素の一つですので,別に相手方以外の者という形にしておいて,里親,施設ということをあえて積極的に挙げず,そのような点も含めてこの子にとっていいのかどうか,子に対する重大な危険に該当するかどうかを,裁判所の総合考慮の判断に任せるということもあり得るのかなと思っております。 ○磯谷幹事 余り確たる論拠があって申し上げるわけではないのですが,乙案の難しいところというのは,結局,先ほどから議論があるように,特にcのところで方向性が非常にはっきりしにくい。はっきりさせようとすると,何か体裁がおかしいというところがあるように思っています。例えば,乙案のaからcのそれぞれおそれがある場合に,④の事実が推定されるというような構成は,なかなか難しいのでしょうか。 ○佐野関係官 推定されるとした場合は,反証を許すかどうかということも法制上は出てくると思うんです。法律上の事実推定かどうかなど色々と問題となりますし,また,このような推定の基礎となる経験則があるのかどうかということもあり,なかなか法文の立て付けとして,そのような推定に関する規定を置くということは,ちょっと難しいのかなと個人的には考えております。 ○鶴岡委員 最後に一言だけでございますが,非常に難しい判断を迫られるという裁判所の立場,十分私も理解をするところでございますが,この法律は何人かの方々からも御指摘ありましたとおり,非常に外国の方々から注目をされる法律になりますので,見やすい,分かりやすいということは非常に重要だと思います。その際,誤解を招くようなところで,説明ないし弁解を迫られるような,そういう書きぶりというのは,せっかく多大なる労力を費やして作っている法律の最初の出会いの部分が不幸になるおそれがございます。パブリックコメントで出てきておりますのは,今の甲案であればそういう反応は和らぐとは思いますけれども,やはり自動性があると,このa,b,cに相当した途端に,もう返還拒否事由がそれで成立するというふうに―これは誤解なんですけれども―誤解をされておりまして,そういう読み方をした諸外国から提起されたときに,私どもが説明をしているというのがまず背景としてございます。これは弁明ではなくて,相手方が誤解しているところに問題があるんですけれども,やはり読み方が少し難しいことは事実だと思います。すなわち,一切の事情を考慮するものとするというところが排除されているものですから,やはり乙案でないと条約の想定している④のところの判断について,逆に限定的かつ個別具体のことさえ挙がれば,全体の事情考慮が不要となるのではないかという議論に陥りやすいという嫌味が残っているわけでございます。内容についてはもうこの場で何ら誤解がもうない,非常に明確に理解されているところだと思いますけれども,立法政策の問題といたしまして,諸外国が翻訳されたものをつぶさに読むであろうということを念頭に置いたときに,乙案のほうが日本の政策の表明としても,非常に明解な理解を得られることが私はより容易なのではないかと思います。   cの中のA案,B案につきましては,先ほどの事務局の御説明を聴いて,B案の考え方に至った経緯はよく理解できました。それも一つの案ではないかとは思います。それは結局,これも立法政策の問題で,法制度上,何が書き込めるかという整理の結果だと思いますので,内容についての理解がここの場でも多分ほとんどの方の間ではそごがないと思いますので,あと総合的にこの法律が最終的にどのような使われ方をするかという観点から,御検討を願えれば大変有り難いと思います。 ○髙橋部会長 先ほど裁判所出身の委員,あるいは幹事の方から,乙案はどうも使いにくいという御指摘がございました。そうすると研究者のほうはすぐ借地借家法の正当事由だって巧みにこなしているのだから大丈夫ではないかということになるのですが,しかしあれは恐らく裁判所からすれば,法律がそうなった以上は,懸命に頑張っていろいろなガイドラインを示したりすることになるけれども,立法するときに初めからあれでは困るということでしょうし,また恐らく借地借家法の事件数と子どもの返還の事件数は大幅に違うだろうというようなこともございますので,いずれにせよ,今日は両方の御意見を伺ったということで進ませていただきます。最後に鶴岡委員が言われたことと関連いたしまして,(3),返すほうに裁量があるんだということを明定するかどうか,この点はいかがでしょうか。 ○大谷委員 前回も多分同じことを申し上げたと思うんですけれども,条約上は全てではないんですけれども,返還拒否事由について裁量があると一応諸国で理解されているものがある。今の御提案というのは,全部をひっくるめていますから,厳密に言うと本当は子の返還拒否事由については裁量はなしとしてもいいのではないかというものも,多分含まれてしまっていると思いますが,そうだとしても,私はここは書いておいてよいのではないかと。書いておかれても,現実にはそれほどそういう運用はないのではないかという期待込みで申し上げているんですが,それから組み合わせの問題で,甲案を最終的に本当にお採りになるのであれば,私は必須だと思っております。 ○竹下関係官 前回,この(3)に関連する問題について発言をしましたので申し上げますと,(3)のような書き方のほうが前回の前注の形よりは,考え方が非常によく分かって結構だと思います。もしこのような文言の項を全然規定していなくてもいいというのであれば,条約との関係でですね,そうならば,ないほうがいいのではないかと思います。しかし,今大谷委員も言われたように,条約との関係ではやはりこういう規定を置いておく必要があるということであれば,民法第770条第2項に準じた,このような書き方がよいと思います。ただ,今,これも大谷委員が言われたように,その場合はやはりちょっときめ細かく,この①から⑥まで全部に関わるのかどうか検討する必要があると思います。ことに⑥などは,子を返還することが我が国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められないということを拒否事由として定めるものですから,この場合にも,裁量で返すこともあるというのは,ちょっとこれは法制審議会の答申としていかがなものかという感じがいたします。それだけ申し上げておきます。 ○髙橋部会長 この(3)は一切の事情を考慮して,11ページにあります民法第770条,裁判離婚の第2項を横でにらみながら書いたのですが,この民法第770条第2項がどう使われているか,それはそれとして,これは一切の事情を考慮してで,何でも入るのですが,逆に何も言っているわけではないということになります。先ほど大谷委員から御指摘ありましたが,④で乙案を採りますと,これはまた何か法制上は表のような形になるのかなと思います。⑥を抜くのはいいかと思いますが,また余りつまみ食いしますと,これまた説明できないことはありませんが,しかし大体,多くの方は(3)の裁量規定を置くことでよいというようなお考えなのでしょうかね。 ○鶴岡委員 申し訳ありません。前回この審議の場は欠席をしていたかと思いますので,十分皆様の議論を飲み込んでいないかもしれませんけれども,元々我が国の場合は,ハーグ条約の実施について司法判断を仰ぐという,まず政策の問題として決定をした上で,この国内法,作業に入っているわけでありますから,返還の権限を司法が持つということを前提に,この作業が行われていると。他方において,この条約の中にも規定があります返還拒否事由について,なるべく具体的に国民に対しても分かりやすい形で法律の中に入れるという作業をしておって,その中で改めて裁判所は返せるんだということをもう一度言う。しかも,返還拒否事由の中の(1),(2),(3)の(3)に入るというのは,ちょっと整理の観点から私は十分検討したものではないので,発言申し上げるのはややはばかられるんですけれども,やや違和感を持ちます。その点,少し考えさせていただければと思います。 ○横山委員 私も竹下先生が今おっしゃったように,基本的人権に反するのに返すべきであるというのは,一体どんな場合なんだろうかと思います。それからやはり子どもの利益に反してでも返さなければいけないというのはどんな場合なんだろう。そういう例証という,状況がとにかく解説できるのであれば(3)もあり得るのかなと思いますけれども。それはちょっと難しいのではないかなと思います。要するに条約第13条の規定で,返還を拒否することができるという,要するにmayを使っているということのこだわりが,ここの(3)に出てしまっているんだろうと思うんですけれども,今の状態ではちょっとどんな状況なんだろうとやはり思わざるを得ないんですね。 ○髙橋部会長 ⑥は確かに御指摘を受けるまで考えておりませんで,そもそも⑥というのは余り中身を想定できていないような,そういう条項なのですが。(3)で使えるとすれば,例えば⑤で,当該子ども自身が帰りたくないと言っていて,例えば裁判所調査官の調査結果によっても,この子どもの年齢,発達段階から見ればこれは真意だろうと,そういうようなことがそういう証拠が出てきてそう認定する方向に傾いているときに,しかし子どもはそうかも―もちろんレアケースでしょうが―そうではあるけれどもということがあり得るのか。他の国の裁判例など見ても,それはそういうことがあり得るか。あるいは③なども事前に同意していた。でも申立てしてきているわけなのですが,そうすると,これは同意が本当にあったかどうかという認定にもなるのですけれども,同意はあったというふうに事実認定せざるを得ないような証拠があったけれどもというようなときですね。先ほど申しましたように,④は重なるかもしれません。⑥はむしろ入れてはいけないのかもしれませんが,全然ないわけでもなさそうだということなのですが,しかしやはり鶴岡委員もおっしゃったように,書かなくてもいいようなことを書くのかという感覚の方もいらっしゃるかどうか,そこを確認したいのですが。 ○金子幹事 ちょっと整理のために一言申し上げます。前回,横山委員のほうから,日本の担保法を作るに当たって,一つの態度決定として返還拒否事由があれば返さなければいけないというようなことで,更にその上に裁量で返還するということは,しなくてもいいのではないかというのが一つの御意見としてあったと思います。そうしますと,今は5の(1)のところは,申立てを却下するものとするとしまして,その上で(3)を無くす。これが恐らく横山委員の感覚に一番合うのだと思います。他方,条約上それでいいのかと。それ以外のことを考慮して返すという場合を条約上想定していないのかというのは,これは条約の解釈でありまして,この辺は外務省にこの前お聞きして,これはやはり裁量的に返すという場合があるのではないかというようなことがございまして,実際,他国でも①から⑥全部とは申しませんが,返還拒否事由に当たるとしつつ返還を命じている例があるということも,今までの資料等にもありました。そうすると(3)を無くすと,(1)の文は申立てを却下することができると書かざるを得ないのかなというふうになります。それが前回までの案だったんですね。   却下することができるものとするということにつきましては,今度竹下関係官から御指摘がありましたとおり,返還拒否事由という抗弁が認められながら,なお裁判所が返還をする裁量を持っているということが,通常の民事訴訟法における抗弁の発想からしてどうなのかということもあり,そうしますと,これは再抗弁的に位置付けるべきではないかと考えられ,民法第770条第2項のような書き方を参考にして,それで今回の案に至っているということです。したがって選択肢としては恐らく(3)は無くして,(1)はそのままでいいという考え方と,(3)はそれではやはり条約上問題があるので,(3)を無くすのなら(1)を却下することができるというふうに書くか,それで実務の運用に委ねるということにするか,今の原案にするか,このあたりではないかなと思います。その前提で御議論いただければと思います。 ○髙橋部会長 この点は実質的に今日初めてに近いと思いますので,またお考えいただいて,御判断いただければと思います。よろしいですか。もちろん今日御発言いただくのを制限するわけではありませんが。   よろしければ,追加の6の「裁判の実現方法」,こちらに移りたいと思います。それでは,説明を。 ○佐藤関係官 では,本日,席上に配布させていただきました「6 子の返還を命ずる裁判の実現方法」について,簡単に説明させていただきます。   「6 子の返還を命ずる裁判の実現方法」は,子の返還を命ずる裁判がされた場合に,司法上,どのような方法によってそれを実現することができるかを検討するものです。まず,強制執行を考える場合,相手方がいかなる義務を有するかという理論的な整理が採り得る強制執行の手段に影響することから,相手方の義務の性質について,(1)のところで検討しております。これについては,「2 子の返還の裁判の主文」で検討したとおり,裁判の主文は相手方に対し,子を常居所地国に返還することを命ずるものというのが基本となり,相手方は子を連れ帰る等の方法で常居所地国に返すという作為を行う義務を負うものと考えられます。そして,部会においては,子の常居所地国への返還は,相手方が連れ帰る方法に限られるとして,非代替的作為義務と整理する見解もございましたが,一般的には相手方以外の者によっても実現させることは可能と考えられますから,代替的な作為義務と整理することができそうです。   もっとも,子の利益を考えると,誰が行ってもいいとまでは言えず,また事例によっては相手方以外が連れ帰るのは相当ではないという場合もあり得ることから,やや特殊な面を有するとは言えそうです。このように整理しますと,いずれにしても強制執行のうち,いわゆる与える債務に対応した手段である直接強制を行うことは,解釈上,困難であると言えます。   以上が(1)のところですが,そこで採り得る具体的な手段について考えますと,強制執行を認めること自体は,従前の検討のとおり可能と考えられます。そして間接強制に限るものとするかという点は,これまでも議論してきましたが,パブリックコメントにおいても子の福祉等を考えると,間接強制以外の手段を認めるべきではないという御意見も相当数ありましたことから,なお御議論いただければと思います。また,これまで部会においては間接強制以外の方法を検討すべきであるという意見が出されまして,パブリックコメントにおいてもそのような意見も多く寄せられました。まず部会でも相手方に対する心理的強制となるような手段を設けることができないかという御意見が出ておりましたので,これについて具体的な御提案があれば御議論いただきたいと思っております。ここが(2)のところになります。   次は(3)に対応するところですが,他の間接強制以外の執行手段について検討いたしますと,相手方の義務を代替的な作為義務であると整理した場合,代替執行に準じた仕組みを作ることが考えられます。民事執行法上,代替的な作為義務については,執行裁判所が債権者に対し,債務名義の作為を実現する行為を債務者以外の者にさせるということを授権し,指定された実施者をして,債務名義の作為を実現させるという方法で執行することが可能となっています。   これを本手続において応用し,適切な実施者をして相手方に代わって子を返還させるということができないか,また,これを認める場合に,子を扱うという特殊性から,どのような点に留意しなければならないかという点について,御議論いただければと思っております。 ○髙橋部会長 裁判の実現方法,強制執行,代替執行類似の手続という,そういうのが今日のたたき台ですが,どの部門からでも。 ○朝倉幹事 今回,整理していただいた中で,いわゆる与える債務に対応した強制執行手段である直接強制を行うことは困難であるということについては,従前,私が申し上げたことについて,そのとおり書いていただいていて,これで大変結構だと思います。その上で,従前から作為義務であると申し上げていて,それは裁判の主文との関係でもそうだと思うのですけれども,それは代替的か非代替的かというところがまず問題なんだろうと思います。従前,私が,非代替的であると申し上げていて,今回は代替の余地もあるのではないかというお話なものですから,一言申し上げたいと思います。子どもの返還ということについては,子どもは物ではありませんので,新幹線に乗せて終わりというわけではなく,やはりその間,子どもを相当の距離,若しくは相当の時間,養育をするということが必要になってまいります。そうしますと,部会でヒアリングをしていたときの方々のお話でもあるように,子どもにとってどういう環境がいいのかということは,かなり特殊性がある,部会資料ではやや特殊だと書いてあるんですが,私はやはりかなり特殊な側面があるのではないかと思っておりまして,基本的には代替性があるかということについては,なお疑問を有しています。少なくとも無関係の第三者には不可能だと思うところであります。   また,ハーグ条約では,本来,テイキング・ペアレント自身が返還していくというところが基本だと,それに尽きるものではないという横山委員のお話もありましたが,少なくともそれは基本だということからすれば,いわゆる子どもの生活環境をそのまま持っていくということでも,子どもの心身の影響ということからしても,これが相当であって,実質的にもその特殊性というものをきちんと考慮した返還の方法というのを考える必要があるのではないかと思うところでございます。   もう一つ,ハーグ事案で返還するということが,全体の子どもの親権なり監護権なりを決める中でどういう位置付けかといいますと,結局返した後,どっちの親と一緒に住むかということをこれから考えるわけでございます。国内事案では民事執行として子の引渡しの直接強制をしているではないかというお話なんですが,国内事案ではもう誰と住むかということは決まっていて,子どもにとってその親と住むことがいいのだという裁判所の実質的な判断がございます。ですから,国内事案における子の引渡しの直接強制については子どもに対するかなりの影響があるとしてもある程度やむを得ないわけですが,基本的にはやはり子どもを強制執行の対象として,そこに力を掛けるということについては,子どもの受ける影響ということを考えると,できるだけ謙抑的に考えるべきではないかと思うわけでございます。そういう意味で親に心理的な圧迫を加えて強制力を行使するという間接強制の本来の仕組みのほうが,それは望ましいのではないかと思うところでございます。   パブリックコメントを拝見してみますと,別に数で言うわけではありませんが,24対20で間接強制だけのほうが多いんですけれども,20の方のお話をよく読んでいても,結局のところ,間接強制でお金だけでは実効性に疑問があるではないかという意見が多数見られます。この部会でも正にそういうお話だったと思うのですけれども,そうすると,まず考えるべきは,従前から申し上げていますが,間接強制を何らかの形で強化して,心理的な強制力というのはアップすることができないのかということなのではないかと思うところでございます。パブコメの中でもかなりの御意見があり,裁判所の中でもパブコメで意見があったところですが,人身保護法を参考にして何か作れないのかと思うところです。人身保護法では御存じのとおり,勾引,勾留ないし刑罰というものがあるわけですが,このあたりのことについて何か参考に作れないのかというのは,私も思うところでございます。これは国内ではなかなかやっていないところ,人身保護法は若干特殊ですけれども,なぜここでやるかと言えば,それは多分我が国が条約上負っている義務として,まずは子どもの監護権について常居所地国で早急に実体判断を行うために,子を常居所地国に早急に返すべく,かなり相手方に心理的な圧迫を加える必要があるからだと,若干,特殊性があるからだと,やるとすれば説明を付けるのかなと思うところであります。   あと,今回の御提案の中にある代替執行,代替的というふうにもし整理できればということだと思いますし,代替的と言っても特殊な代替性なんでしょうけれども,仮にそういうことをするということであるとすると,これは基本的には子どもに強制力を行使するという点では,直接強制と変わらない部分がありますので,その点についてどう考えるのかということについて,きちんとやはりこの場で検討する必要があろうかと思います。特に,従前から私が申し上げているように,対象となる子をどう考えるのか,子どもが拒絶の意思を表明した場合にどう考えるのか,先ほどのお話ですと,子どもが意思を表明しても,意思能力のある子が表明しても,返還させるということがあるということだとすれば,15歳,16歳の子がそう言っていて返還命令が出て,行ったらやはりそういうふうに反対するということがあって,その子どもに手を掛けて本当に持ってくるのかというところ,憲法上の人格権に違反しないのかというあたりについても,よく考える必要があろうかと思いますし,そうでないとしても実際国内でもそうですが,子どもを抱きかかえて離さないという事案はありますので,そういう限界事例でどこまで強制力を行使することができるのかということについて,代替執行の際に誰がやるかということは別にしても,その点,規範として明確にしておくということが現場において子どもを巻き込んだひどいトラブルにならないためにも必要であろうと思うところであります。 ○山本(和)委員 私も前のこの議論の際に,これを非代替的作為義務ではないかということを前提にしてお話をしました。ただ,そのときは間接強制だけではなかなか実効性がないので,ドイツ的に別途申立人に対する引渡しも認めるべきではないかということを申し上げました。   私がそのとき,非代替的ではないかと思ったのは,相手方から強制的に子どもを取り上げる手段がない以上,結局,常居所地国にどのような対応で返還するのか,自分が返還するのか,あるいは第三者にそれを任せるのかということを含めて,結局,相手方がそれを決めるということだとすると,それはもう非代替的,相手方しかその債務の履行はできないのではないかと思ったからです。ただ,その後翻って考えてみますと,建物の収去の執行のようなものは,一般に代替的作為義務だと理解されているわけですけれども,この場合も作為義務者が建物を占有している場合には,実際上,その占有者を退去させないと第三者が建物を壊すことはできないという意味で,同じような状況があるのではないかということに思い至りまして,そのような場合は現在の実務では,建物占有者を強制的に退去させて,代替執行で取り壊していると。それは代替執行の範囲内でいろいろな解釈があるようですけれども,できると理解されていると。そうであるとすれば,私自身の理解では,この本日の資料のような考え方,代替的な作為義務であるという考え方はできるのではないかと現在は思い至っております。   確かに朝倉幹事が言われたように,これは子どもが相手のことですので,建物を壊すのとは少し違うと言えばそれはそうなので,誰でもいいというわけではないということはそうなんだろうと思いますけれども,ただ,代替できる人が限定されているということは,その債務が代替的作為義務であるということを直ちに否定する理由にはならないのではないかと思います。その建物の取壊しでも,非常に高度な技術がいるような建物の取壊しなどを考えてみますと,それは誰でもできるわけではもちろんないわけですけれども,誰かができれば,それは代替的作為義務としてこう考えるということはできるのではなかろうかと思っておりまして,この場合でも,相手方以外にその子どもを常居所地国に返還できる,実際上返還できるような,代替的に作為できるような者がいるのであれば,それは代替的作為義務として考えることはできるのではなかろうかと思っております。ですから,その代替的作為義務を履行する前提として,実施者が一定の強制力を使って,相手方から子どもを取り上げ,そしてその子どもを常居所地国に代わりに,相手方の代わりに返還する債務を実現するというような執行方法というのは考え得るところだろうと思います。ただ,朝倉幹事が言われたように,私もこれはかなり考えなければいけない問題点は多々あるのではないかと。実施者を誰にするかとか,そもそもどこまでを代替的義務の履行と考えるのか,その常居所地国に本当に連れて帰るのか,あるいは飛行機に乗せるところまでが実施なのか。更に取り上げることが可能だとしても,その強制力の範囲,あるいは根拠をどのように考えるのか,直接強制等を類推するようなものとして考えるのか,あるいは独自の取り上げの強制執行というのを認めることができるのか,認めるとしてそれはどの範囲で今言われたように意思能力がない子も含めて,そういうようなことができるのかとか,かなり考えなければいけない問題はあるように思いますけれども,全体的な仕組みとして代替的作為義務と考慮することができて,代替執行に類似したような強制執行の仕組みを考えるということは,可能ではないかと現在では思っております。 ○村上幹事 私も今,山本委員がおっしゃったのと同じように考えていまして,非常にこの代替執行を要するという手続は魅力的なのではないかと。いろいろ考えなければいけない難しい問題はあるとは思うんですけれども,授権決定という手続の中でいろいろなことを考慮して,関係者の利害調整をしたりすることもできるとするならば,間接強制よりもより―直接強制ではなくて,直接的な強制執行というふうにこの事務局の提案にも書いてありますように―より直接的な強制執行が可能なのではないかと考えています。例えば実施者を誰にするかというところで執行官に協力してもらったり,あるいは民間のそういった支援団体などに協力してもらって,ADR的な解決をすることも可能かもしれないし,債務者を審尋する段階で執行裁判所が債務者を説得して和解に持っていくということも可能になるような,いろいろな可能性を含んでいるのではないかということで,そういう柔軟な運用ができるのであれば,代替執行を利用するというのは非常に魅力的だと思います。   直接強制はやはりちょっと難しいのかなとは思いますが,ただ,返還は第三者に代わりに連れて帰ってもらうことはできたとしても,結局,返還をする以前の問題として,相手方が任意に子を引き渡さなければ連れて帰ることはできないので,そこでどうしても直接強制に似たような手続が必要になってきてしまうかもしれないんですけれども,そこも例えば申立人のほうが代替行為を具体的に特定することに,多分代替執行の場合はなると思うので,その執行官に全部任せてやるというのではなくて,申立人が代替行為の内容を具体的に特定した上で,執行官に協力してもらうという形ですることもできるのではないかと。それは直接強制とはやはりちょっと違う意味合いになるのかなとも考えているところです。 ○清水委員 代替執行ということを考えられたのは,苦肉の策として考えられたのではないかと想像しているんですけれども,間接強制だけだと確かに実効性が乏しい場面があるということは理解できるんですけれども,ただ,理屈の問題として,先ほど山本委員が建物の場合を例に挙げられて,子の場合も可能ではないかとおっしゃったんですが,やはり建物の取壊しとそれから子どもの返還ということを考えた場合に,途中の場面から,例えば空港なりに子どもがいて,そこから返還すると,その先の場面だけを切り離して考えた場合は,確かに代替性がある場面もあるかもしれませんけれども,子ども自体をまだ監護,養育している者が監護,養育状態を中止して子を返還する行為,例えば子を常居所地国に返還するため空港まで連れていく,それはその人自身しかできないことであって,そこに代替性があるというところがちょっと理解できないんですね。そこはやはり建物の取壊しとは全くレベルが違う,その人自身がやって初めてできるという,建物の取壊し自体は確かに誰でもできますけれども,養育している人を返還する,という全体的な行為を考えた場合に,そこに代替性があるというところは,どうしても私には理解できないんですけれども。 ○磯谷幹事 余り法律的なことではなくて,実務的な御質問ですが,その代替執行ということになると,一つは申立人がその代わりに連れて帰るというようなイメージができるんですけれども,それ以外に一体誰が子どもを連れて帰ると想定されているのか。それからものすごく細かい話になって恐縮ですけれども,例えば債務者である親がパスポートを渡さないなどという話になってくる場合に,どういうふうに対応をされるのでしょうか。 ○佐藤関係官 まず,御質問いただいた1点目ですけれども,ここは正に御議論の対象になるのかなと思っているところですので,具体的に事務当局のほうで,こうというふうに提案するわけではないんですが,基本的にはやはり申立人が連れて帰るということがこの仕組みでは考えられるのではないかと。ただ,申立人が連れて帰るのが不相当な場合,例えばDVが問題になっている事案ですとか,あとは申立人が物理的に日本に来れないような事案というのが想定されますので,その場合にどういうふうに考えるのかというのは,正にこれから御議論いただいたほうがいいのかなと思っております。ですので,例えば親族とか代理人とか,そういう方がいればいいというふうに考えるのか,やはり申立人以外は考えられないというふうに考えるのか,幾つか場合はあり得るかと思っております。   2番目のパスポートを相手方が渡してくれなくて子どもが帰れないという場合にどうするかという点については,ちょっと詰めて考えておりませんが,その場合,仕方なしとするのか外務省に御協力いただくのか,若しくは二重国籍であれば向こう側のパスポートを持っていればよいという話になるのか,いろいろ考えられるのかなと思います。 ○磯谷幹事 続けてすみません。申立人が連れて帰るなら分かりますが,それ以外の方が仮にこの代替執行をする場合というのは,そこでの過程で事故が起こった場合には誰が責任を取るということになるのでしょうか。 ○佐藤関係官 基本的に民事執行法上の代替執行を考えますと,執行機関は裁判所となりまして,実施者はその実施をするだけと,執行機関である裁判所が出した授権決定に基づいて行うだけというだけですので,それに基づく実施行為というのは,基本的に執行行為の続きとして,何らか執行行為の過程で事故が起これば,当然国が責任を負うという問題になってくるかと思いますので,同じ話になるのではないかと思います。 ○大谷委員 私はこの実現方法につきましては,従前から直接強制が望ましいという意見を述べるわけではないけれども,間接強制だけではどうなのかと,そこはオールオアナッシングではなくて,何か子のハーグ返還手続にふさわしい執行というものをお考えいただけないかという意見を申し上げてきました。その観点から言いますと,実は個人的には代替執行というのは余り考えていなかったんですけれども,今の御議論をいろいろ伺っている中で,誰が迎えに来れるかと,あるいは申立人が来れるのか,それがふさわしいのか,本人が来れなくても,例えば祖父母が来れて子がなじんでいるのであればいいのかとか,そうしたこともその授権決定の中で,ある程度一種価値判断も含めて丁寧な運用ができるのであれば,かなり今までの間接強制か,若しくは,直接強制も入れるのかという議論に比べると,柔軟な好ましい御提案を頂いているのではないかなと御議論を聞いていて思います。   その前提となる代替的作為義務か非代替的作為義務かということにつきましては,理論的なことは民訴の,あるいは民事執行の先生方の御専門にお願いしたいと思いますけれども,私はかなり乱暴な議論で恐縮ですが,元々非代替的というところにぴんときていませんで,テイキング・ペアレントが返さなくてはいけないと元々余り思っていなかったんです。このハーグ条約というものに,日本国として入るということなのであれば,それは言い方はちょっと大げさですけれども,国を挙げて,返還命令を出すような事案なのであれば,元の国に返すことを国としてどう協力するかということの中で,テイキング・ペアレントが実行しないのであれば終わりというふうには,それはそうならないはずだというような感覚を元々持っていたものですから,先ほど申し上げたように,代替的か非代替的かの理論的な区別について素人なのでお許しいただきたいんですけれども,そこは他の人が当然できる,すべきということで考えるべきではないかと思っています。   その上で,子どもだから丁寧にとか,子どもであること故の配慮というのはもう絶対にすべきであろうと。そのような整理が好ましいのではないかと思っています。仮にそう考えたとしても,執行官がではどこまでするのかとか,いろいろな難しい問題が出てくるのは承知しています。そこは諸外国の実務等を参考にしながら,具体的な設計をしていくしかないのではないかなと思います。 ○織田幹事 基本的なお尋ねで申し訳ないんですけれども,執行を常居所地国に子どもを返す。そこが執行の完成地点だとしますと,日本の領域を出たところから常居所地国までのその間の日本の責任と言いますか,執行の権限との関係をどういうふうに考えたらよろしいのでしょうか。御教示いただければと思います。 ○佐藤関係官 これもいろいろ御意見を伺って,また整理をしていくということになるかとは思いますが,もしこの仕組みを採った場合は,今のところの整理では,やはり外国には日本の執行権が及びませんので,国内で返還のために必要な行為を全て終えたところ,飛行機に乗せれば基本的には後はもう流れで,ベルトコンベアに乗せるような形で進んでいくものと考えられますので,国内で常居所地国に向けた―トランジットはあるかも分からないですけれども―飛行機に乗せたところで執行は終わりということになるのではないかと。あとは向こうに着くまでの間に,例えば事故が起こったりなんかした場合に,その飛行機に乗せた行為そのものについて責任を問うということになるのか,そうではないのかというのは解釈かなとは思います。 ○豊澤委員 債務の内容が非代替的かどうかというのは,理論的には難しい問題がいろいろあるんだろうと思います。例えば,テイキング・ペアレントが返還に同意して,飛行機に乗せるところまでは行って,あとは客室乗務員さんにお願いするという形,すなわち,相手方の同意とそれに基づく委託に基づいてどこかへ子どもを移すということは全然問題がないのですけれども,相手方が嫌がって反対している場合には,相手方から子どもを取り上げる行為といった強制的契機がどうしても含まれてきます。代替執行類似執行ということになれば,実施者がそういった場面に直面するということになるわけで,そういう意味では,直接強制の場合と同じような問題がどうしても出てきます。先ほど朝倉幹事からも話がありましたとおり,国内事案のように,既に親権や監護権の帰属が決まっていて,それに基づく子の引渡しの場合に,ある程度までのことが行われているという実態があっても,このハーグ事案のように,取りあえず元いたところに返して,そこで本案の判断をしてもらおうという枠組みの中で,子どもに直接手を掛けるというようなやり方はどうなのかという点については,どうしても違和感が払拭できないところです。そうだとすると,相手方に圧力を掛けて履行させるというのがやはり本筋ではなかろうかと思います。そういうふうに考えると,間接強制,すなわち,相手方への心理的強制を強化するという方が本筋なのではないかと思います。 ○髙橋部会長 それで先ほど勾留ということでしたかね。相手方を―日本にjailはないのでしょうけれども―jailに相当するところに入れる。そういうことをお考えなのですか。勾留ということを先ほどおっしゃいましたが。恐縮ですが,朝倉幹事。 ○朝倉幹事 私が申し上げたのは,人身保護法そのものではないんですけれども,あちらのほうで勾引,勾留と,それから刑事罰というのがございますので。 ○髙橋部会長 刑事罰。 ○朝倉幹事 刑事罰は人身保護法のほかにも,保護命令なんかの場合にもあるのかもしれませんが,そういったもの,若しくはその勾引,勾留で親を引っ張ってきてというようなことを考えています。子どもではなくて親に手を掛けるという。 ○棚村委員 ちょっと朝倉幹事に御質問ですけれども,結局,意思能力がある子とない子で,国内事案では区別をしていますよね。先ほども15歳とかそういうかなり年齢の高い子が嫌がっているのに,無理やりそういうことをやっていいのかという話ですけれども,年齢が非常に低い子で,大体ハーグの事案,各国のを見ていると,6歳とか7歳ぐらいが平均的な対象者ですよね。もう少し小さな子どもたちもちろんいるわけですけれども,そういう場合にも問題の解決にとって,代替,非代替というどういう評価をするかは別ですけれども,ふさわしい人が適切に関与して,そして返すことができるような方法があって,なおかつ年齢的にもかなり高い人たちはかなり本人の意思とか判断がありますから難しいにしても,そうでないような,要するに就学前,あるいはそういう乳幼児ですよね。意思能力のない乳幼児のときは,むしろ適切な形で誰かが代わりになってやる方法というのは,認められないのか。そうでないと先ほど言った,人身保護法とかの手続で,今実際に奈良でそれが在宅起訴になって,そして結局人身保護法26条違反でも,在宅だと5万円の罰金でしかありません。結局は子どもを出さないわけです。2009年に前橋で起った事件では,警察に逮捕されてしまったので,それはすぐ出してしまったんですね。そうすると,人身保護法の刑罰による間接強制では非常に乱暴なことが少なくとも起こっていることは間違いないんですけれども,それをさせないために代替的な執行の可能性というものとか,それから場合によっては直接強制の適切な方法を配慮しながらお子さんの状態とか,そういうもの配慮するやり方というほうが,むしろ問題の解決にとって非常にいいのではないかという場合はあり得ると思います。特に意思能力のない小さなお子さんのときに,2歳とか3歳とかという場合もあります。もちろん知らないおじさんが来て,急に引っ張られたら大変なことになりますけれども,そのあたりの配慮は,やはり海外ではしているかと思います。 ○髙橋部会長 関連したものですか。では,大谷委員。 ○大谷委員 私も朝倉幹事に質問なんですけれども,勾引,勾留ということで,私も実際自分が関わった事例で,人身保護で子の国選代理人をやっているときに,相手方が子どもを抱え込んでしまって,勾引,勾留して,最後は離してというのがあったんですけれども,そのときには子どもはおじいちゃん,おばあちゃんのところにいてということで,お母さんが逮捕されたというそういう事案だったんです。だけれども,そのお母さんが,お母さんという決め付けはいけないんですけれども,テイキング・ペアレントが本当に子どもを抱え込んで離さないようなときにどうするかということを議論しているときに,勾引,勾留は確かに子どもに手を掛けるわけではない。親に心理的な圧迫を掛けるということでありながら,目の前で結局は自分を抱え込んでいる親が逮捕されるのかという,そういう修羅場ということでは変わりがないのではないかと。そこはどうお考えになるのかなということをちょっと教えていただきたいんですけれども。 ○朝倉幹事 まず棚村先生のおっしゃった小さい幼少者の場合と,大きい場合で状況は異なるのではないかとの点については,それはそのとおりだと思います。ですから,問題状況は異なるだろうというのはおっしゃるとおりです。ですから正に国内事案でも直接強制においては,違う取扱いをしているということでありますけれども,今回の代替執行ということになって,代替的作為義務としてくると,少なくとも対象としては,私の勝手な推測かもしれませんけれども,年齢で切っていないのかなと思ったものですから,そこは問題が出てきますよ,少なくとも国内事案よりも大きな問題が出てくる可能性がありますよと申し上げたところです。もし国内事案と同じようにやるんだとすれば,どこかで線を引かなければいけません。ここの子どもについて,では平均年齢6歳ですけれども,では7歳で切るのかと。事前に法律で7歳というふうに切るのかと。若しくは現場に行ってみろということだとすると,現場に行って判断がつくのかと,意思能力の有無を。本当におっしゃるとおり,1歳,2歳とか0歳とかいうんであれば判断つくかもしれませんが,しかし作る以上はどの子の場合でも判断できるようにしておかなければいけないので,システムとしては。だからそうする意味では,システム作る上では,いろいろな考慮要素がありますよという話を申し上げたつもりでした。   ですから,そこまで考えて何かできるのであれば,それはそれですごく子どもにとっていいものが出てくれば,それが絶対いけないと言っているつもりではありません。だから余り安易に考えてはいかんだろうということを申し上げたつもりです。   もう一つは先ほどの本当に抱え込んで離さないときにどうするというお話ですが,前提として大谷先生,そういう場合に直接強制せよと,若しくは代替執行の場合はせよという前提で私に質問したのでしょうか。勾留,勾引と同じではないかというお話ですか。 ○大谷委員 いいえ。 ○朝倉幹事 それとも,代替執行の場合はそれをしないけれども。 ○大谷委員 代替執行の場合にどう考えるかということは,ちょっとまだ自分の頭の中で整理がついていないんですね。ただ,人身保護的な方法のほうが,むしろ子どもに手を掛けない,親に心理的圧迫を掛けるという点では,まだよいのではないかという御趣旨で御発言されているように思ったものですから,現場の実際の話としてはそうでもないのではないでしょうかという質問です。 ○朝倉幹事 私は勾引まで経験がございますけれども,勾引の場合には親が子どもを,要するに自分が連れていかれるといっているときに,子どもにしがみつく親って余りいないですね。子どもを持っていかれるときに子どもにしがみつきますけれども,自分が連れていかれるときは自分が抵抗するので,むしろ子どもを離すというか。ですから,そんな問題状況には余りならないのではないかなというのは実質ございますし,また実際問題として直接強制で,国内でやっている事案でも本当に抱え込んで離さないときというのは,無理やり実力を行使して持ってくるというのは,余りに子どもに対する害がありますので,普通は余程特殊な事情がない限りは,現状もやっていないのではないかと思います。ただ,それも現場に任せるということになると,どこまで明確な基準があるかということについては,国内においても現状問題があるということは,従前から申し上げているところです。 ○棚村委員 つい先ごろ,11月23日ですけれども,宝塚の43歳の女性が結局ニカラグアの出身の米国人男性から,引渡しを再三求められて,最終的にはハワイに永住権の更新で行ったときに,4月に逮捕されたケースがありました。子のケースでは司法取引がなされて,日本人母親は子を返さないと言っていたんですけれども,長期間にわたって身柄を拘束されて,何十年もの禁固になると裁判所から言われたために,最終的には30日以内に子どもを引き渡すという形で決着をみたようです。今,子供は母方の祖母が面倒を見ていたのですけれども,引き渡されることになってしまいました。ただし彼女もアメリカに一緒に戻って面会交流をするというような形で司法取引が成立しとのことでした。ただ,どうも話を報道の関係者から聴く限りだと,余りにもドラスティックな解決でもって,子どもに知らせないように,報道も自粛もしたというふうな話でした。そうすると,やはり逮捕とか勾留とかという刑罰による手段はやはり当事者たちに与える傷が余りにも大き過ぎるので,代替執行類似の方法というのはもう少し中間的なところを模索できないかという提案として好意的に受け止めました。   ですから,直接強制と言っても,非常に子どものことを考えれば,人格ですから,慎重に考えなければならない。しかし,今回の事例でも,犯罪になるかならないかとか,それから逮捕されるとかされないで,解決はつけられてしまう。ところが後に残った傷の大きさを考えると,やはりもう少し中間的なことで,段階に応じたソフトなやり方とハードな方法を合わせ持つ必要がある。海外のケースは例えばアメリカのピックアップオーダーなんかを見ていても,どういうふうに実現していくかというときに,専門家がきちっと入って,ふさわしい手続を模索をしている。ハーグ条約を実施するために,やはりお子さんを中心に考えていこうというのは,皆さんの合意あると思います。そうすると,余りドラスティックな方法で,直接強制を置くということによって,間接的な履行を促していくようなやり方。直接強制は最後の手段としておくものの,余り使わないというのが海外での経験だと思うんです。   だから,そのときに今言ったように,年齢とか発達の段階とか状況に応じて,むしろ余り過激な方法というものは採ることはないけれども,どこかに直接の執行の方法とか,代替的な執行の方法を置いておくというのは,必要なことではないかなと思います。 ○朝倉幹事 棚村委員がおっしゃるように,刑罰がドラスティックな方法であるというのはおっしゃるとおりだと思いますし,ただ,私が申し上げたのは別に刑罰を入れたいという趣旨ではなくて,間接強制だけだとなかなか,前に弁護士の方々から依頼者を説得する上でも,本当は使いたくないんだけれども,そして使わせないつもりだけれども,何かないとできないとおっしゃるので,それは何か置く必要があるならばそういう,それを使うことがいいとは全く私も思っておりません。置くならそうではないかという一つの話です。   もう一つは,子に配慮した中間的な専門家が入った何らかの手続があればいいのではないかという棚村委員のおっしゃることについては,私,何も異論はございません。それはそうだと思います。ただ,私がいろいろ申し上げたのは,従前申し上げたのは,例えば子の引渡し,今現在行われている強制執行とか,又は先ほどお話に出ました建物の取壊しの代替執行のようなイメージで,つまり子どもを対象として,がつっと子を持ってくるような,要するに現行の民事の執行をここにパラレルに持ってくるような形は,余りに子どもに直接被害を与えてしまうので,もう親に対する被害ももちろん問題ですが,子どもに直接与えるというのはよくないのではないか。先ほど豊澤委員がおっしゃったことですけれども,ですから前提として,現状の民事執行のようなものをパラレルに持ってきてしまうとよくないのではないかということですので,棚村委員おっしゃるように,中間的な,子どもに配慮した,専門家が入った何らかの手続があるのであれば,それについて予断を持っているわけではございません。 ○金子幹事 今,勾引と勾留のお話もあったんですが,どういう場面を想定するかによっても大分イメージが違うような気がしまして,おっしゃっている方も同じイメージなのかどうかちょっと分からなかったので,確認の意味も含めて申し上げたいと思います。間接強制では足りないので,義務者のほうにより直接というか,より強度な心理的な圧力を加えるという意味では,返還命令に従うまでは勾引する,勾留するというのが一つ考えられます。これいわゆる裁判所侮辱罪的なものの導入ということと同じだと思います。   それから代替執行のスキームを使っても,子どもを実施者に引渡す場面では何らかの強制がいるのではないかというようで,そこの場面に勾引,勾留を使うというようなニュアンスにも受け取れて,それはまたちょっと違う配慮が必要かなというふうな感じもしました。人身保護法を参考にしてというのは,私は恐らく後ろのほうの場面を想定しているのではないかなと思ったのですが,結局人身保護法も一連の手続の中のある部分について,勾引,勾留を入れるというもので,人身保護法で最終的な判決が出たときに,それを執行するために勾引,勾留が使われるわけではないので,それで人身保護法とおっしゃったというのは,手続の中に何か組み込むという発想なのかなと,今勝手に推測したんですが,ただ,その場合でも,裁判所が出頭命令をして,出頭しないと手続が進まなくなるので,勾引,勾留を掛けるというようなスキームを人身保護法は持っているんですが,本件の代替執行に勾引,勾留を組み合わせるというイメージがいま一つ湧かないのですね。どこかに出頭することを命じて,その後の手続を進ませるための勾引という趣旨ではなくて,親が勾引,勾留されると,子どもは保護すべき人がいなくなるので,その隙に執行してしまうというようなイメージで伺いましたが,これはまた別の問題もあるように思えます。   それから,村上幹事等もおっしゃった中で,なるほどと思いましたが,結局,授権決定を出すときの審理が,形式的なものでは恐らく済まなくて,代替執行スキームを採っても,そこに何らかの山本委員がおっしゃったようないろいろな配慮を,そこの場で生かすような手続を組まないと,なかなか難しいのかなという感じは受けました。およそこの事案において,代替執行させていいのかとか,あるいは実施者として誰がいいのかとか,そういうことを審理して,場合によっては本件にはこのスキームはふさわしくないということで代替執行の申立てを却下するということもあり得るような仕組みを採るということは,一つ考えなければいけないのかなという感じもしました。   それから執行裁判所の管轄をどう組むかという問題にも影響するかもしれませんが,返還命令を出した裁判所ということであれば,そこそこ子どもに関する情報もあるので,それを裁判資料にして執行手続の中に生かしていくということは考えられて,ある程度実質的な判断が授権決定の段階に入ったとしても,例えば子どもに改めて会いに行かないと授権決定出せないとかいうほどの負担になるかというと,そこは工夫のしようでやれるのではないかなという感じも印象も持ちました。 ○磯谷幹事 確認なのですが,事務当局のお考えですと,先ほど意思能力の問題も出ていましたが,子どもが意思能力を持っているような状況になりますと,基本的には難しいということになるのでしょうか。ちょっとそのあたりがよく分からないものですから。若干,少しケースを想定して考えると,例えばテイキング・ペアレントと一緒にいる間は,子どもはやはりその前ではとてもレフト・ビハインド・ペアレントのほうに帰りたいとか,そういうことはとてもとても言えない。だけれども,テイキング・ペアレントが拘束されるなどしていなくなれば,いや実は帰ってもいいんだというふうなケースというのもしばしばあるのかなと思うんですけれども,そうすると,執行の場でテイキング・ペアレントもいるところで,子どもは帰るのは嫌だと言い,そうすると意思能力もあるから執行はできませんということになるのかなと。ちょっとそのあたりを想像したものですから,いかがでしょうか。 ○佐藤関係官 子の意思能力と代替執行の可否との関係については,これも重要なところなので御議論をとは思っているんですけれども,今のところ考えているのは,例えば国内の,引き合いに出すのも何なんですが,この国内の子の引渡しの事案で意思能力の有無が問題とされている理由の大きな一つとしては,やはり物の引渡しの条文を使っているというところが一つ大きな理由にはなっていると思いますので,それを使わない以上は,必ずしもその理由との関係では,意思能力の有無というので分ける必要はないのかなと思います。あとは子の利益というものとの関係で,子の意思というものを,この代替執行をするかしないかのところで,考慮するかどうかによるのであり,もし考慮すべきと考えた場合には,子の意思能力の有無というのが考慮要素にはなってくるかと思いますけれども,いずれにしても意思能力の有無で,できる,できないというふうに明確に分けるものなのかというところについては,疑問を持っているというところです。 ○磯谷幹事 若干,余計なことかもしれませんが,今のようなスキームをハーグで採る場合に,国内事案に対する影響といいますか,そういったものはちょっと予想されるのかなと思うんですけれども,それはハーグはハーグの特殊なものというふうな形で,理屈上,切り分けはできるということになるんでしょうか。 ○金子幹事 理屈上は切り分けができると思っています。事実上の効果というのはやってみないと分かりませんが,理屈の上では切り分けることができる。つまり,それが非代替的作為義務と考えて,かつ子どもの利益にも配慮した特殊な執行手続というのを,このハーグ,プロパーなものとして作る。それによって国内との事案との区別はできると考えているところです。 ○朝倉幹事 国内事案とは,基本的,理論的には違うという金子幹事のおっしゃるのはそのとおりだとは思います。問題状況として同じようなことが出てくることは確かだと思います。あと,今の佐藤関係官がおっしゃられた国内の直接強制について,動産執行の準用だから,意思能力の有無で区別している。そういう側面もあることは事実なんですけれども,これは裁判所の解釈の問題として申し上げれば,やはり先ほど申し上げたように,子どもと言えども人格を持っていて主体であると,憲法上,人格権を持っているということからすると,自分の意思を自律的に形成し,それを表明して,それに従って行動できる子どもというのについて,執行の対象にして強制力を掛けるということについては,問題があるのではないかという実質的な配慮というのは,これはしている。解釈論の中でしているところでございます。○棚村委員 今お話しいただいたのとちょっと近いのですけれども,執行のレベルではもう子どもの利益も,それから子どもの返還拒否とか,返還請求の事由みたいなものが立っているから,あとはもう執行のレベルだから淡々とというお話だったかと思うのですけれども,ただ,私自身は,先ほど意思能力の有無というのは,物の引渡しというだけではなくて,やはり子どもが対象になっていることなので,執行のレベルでもやはり配慮が必要なのではないかと思います。ですから年齢とか心身の状態に応じてという,返還の拒否をされた事由を実際に見ていると,子どもが反対をしたり,それがある程度落ち着いてしまったとか,慣れてしまったとか,そういうようなところを各レベルで子どもの様子とか状況に配慮した手続であるべきだろうと思うので,是非執行のところでも,子どもの年齢とか状況というんですか,そういうものが配慮できるような新しい仕組みを構想していただきたいなとは思っています。 ○相原委員 まず,間接強制だけであるという案が続いていたときに,やはりその場合のレフト・ビハインド・ペアレントの立場からしたときには,恐らく人身保護法による請求を多分返還命令が出た後にはするであろうと思っていました。多分,普通の代理人であるならば,LBPの代理人であれば,それをするだろうと思います。その関係で,私のイメージとしても,目的との関係はもちろんなかなか難しいところではあるんですけれども,出頭の確保の一環かもしませんけれども,勾引,勾留というか,テイキング・ペアレントの身柄を確保して,その解放されたところを誰か,適切な人が子どもを保護し,その後の根拠については難しいというところはあったんですけれども,そういう方法によって,それをスムーズにやるということは考えられないのかなということを考えていたということはあります。ただ,今回,代替執行ということが出てきているところなんですが,これが直接強制と同じようなイメージのところで,子どもに直接手を掛けるというところであるとすれば,なかなか賛成し難いなというのが,多分日弁連等で検討するとすればあるとそう申し上げるところです。ただ,今のずっと一連のお話し伺ってきて,特に執行裁判所がかなり授権のところで適切な事案なのかどうか,年齢だとか,誰に引き渡すことになるのかも指定された実施者がどうなるのかを判断して欲しい。特に,施設に返さなくてはいけないようなケースだとか,里親さんとかが想定されるような案件だとかについても,多分,これから議論の対象になろうかと思いますので,私もちょっと代替執行の場合の仕組みというか,論理的なところについては疎いものですから,是非先生方の御意見を頂ければと思います。   要は最終的な子どものダメージの一番少ないようなやり方をしていただきたいと。そのためには多分執行裁判所がどういう立場でどういうところまで関わって,どういう基準で判断するのか,そこについて次回以降になろうかと思いますけれども,是非きめ細かく御議論いただければなと思います。ちょっとなかなか結論的なところについては申し上げにくいんですが,考えられる方向性としてはそれでお願いしたいなと思っております。 ○豊澤委員 代替執行類似の手続の具体的な中身については,余り考えていないのですが,少なくとも適当な実施者というのは誰なのか,原則としては誰がそれに当たることになるのかという点は,きちんと明定していただかないと,執行の申立てがあってから裁判所が探してくるというようなことでは間尺に合いません。実際相手方の所へ行って子どもを連れてくるという場面では,直接強制の場合と同じような強制的契機を含む問題が生じ得るというスキームですので,そこでの行為規範的なものも,きちんと明定していただいて,子どもの人格を損なわないためにこういうことは駄目だという点についても,ある程度細かく規定をしていただかないと,なかなか執行の場面での判断でと言われてもつらいところがあるのではないかと思います。 ○朝倉幹事 すみません,せっかくですので,今豊澤委員のお話に若干補足しますと,先ほど村上幹事から,執行官に協力してもらうというお話があったと思うんですが,一方で棚村委員からは子どもの専門家が入ってというお話がありました。子どもをどういうふうに持ってくるかと,従前から申し上げておりますが,特に外国で育ってきて日本に来てまだ1年未満という子どもをどういうふうに,場合によっては言葉も通じないという子どもをどういうふうに持ってくるかという場面で,誰がどんなことをしたら一番子どもにとっていいのかということを考えていただいて,実施者が仮に申立人だとしても,誰に援助してもらうのか,どういう援助をしてもらうのかというところについては,多分そのイメージ次第で全然実態は変わってしまうと思いますので,そこはよく検討していただきたい。余り安易に国内でやっているからとか,執行という名前なので執行官にとは言っていただきたくないなと思います。 ○髙橋部会長 法律上は執行官の裁定事務とかに入ることは可能だと思いますが。先ほど人身保護法に関連いたしまして,刑事罰というのが最後の担保の方法としてあり得るということでしたが,刑事罰については,今までも議論していません。う遠かもしれませんけれども,最後の最後,抜かない宝刀という意味では刑事罰というのがあるということは,別におかしくはないわけですが,いかがでしょうか。 ○磯谷幹事 刑事罰ということについては,日弁連の中のワーキング・グループでも議論をいたしましたが,やはり抵抗が非常に強かったということでございます。 ○髙橋部会長 抵抗が強いでしょうか。 ○磯谷幹事 飽くまで個々のメンバーの意見であって,個別の理由を詳細に聞いているわけではありませんが,配偶者暴力防止法の保護命令といった制度はあるとしても,やはり家族の問題,特に子どもをめぐる問題で,刑事罰を加えるということ,そのものについての抵抗感が強いのだろうと理解をしています。 ○棚村委員 私が先ほど朝倉幹事にも言ったのは,刑事罰を置いてはいけないということではなくて,やはり司法手続をきちっと進めていくために,それに対してどうしても頑強に応じない場合にはサンクションの一つとしてあり得る。そういう人に対して心を開くといってもなかなか難しいでしょうから,刑事罰を置いておくことに意味がないわけではない。人身保護法なんかを見ても,最終的にはそれを解決の手段としてどういうふうな形で使うかという問題で少し質問したわけです。ですから,刑事罰自体を置くということについては,司法の適正な運営みたいなことに対する一つのサンクションの在り方として,コンテンプト・オブ・コートみたいなものが実際に導入された経緯もありますからいいと思います。いきなり未成年者略取罪というんで,刑法第224条が日本では成立させるかといったらレアケースです。だとすると,手段としては置いておいてもいいとは思います。ただ,それをどう使うかということについては,当然先ほど言ったように慎重にすべきだと考えます。実現方法についてもいろいろなバリエーションとか手段とか救済の方法というんですか,そういうことは是非御検討いただくといいのかなと思います。実効的な解決のためにという意味です。 ○早川委員 私も棚村委員と同じで,やはり抜かない伝家の宝刀かもしれませんけれども,裁判所の命令に従わないのは,非常に重大なことであるということを示す意味でも,刑事罰を置くことは一つの可能性としてあるのではないかと考えております。 ○山本(克)委員 日本法全体の問題として,そういう仕組みが採られるんであればともかく,なぜこの場合だけ突出してというのは,やはり私は疑問がすごく大きくて,最近でもないですが,新聞をにぎわせたプリンスホテルの事例なんかで,あれは刑事罰うんぬんということになるということでないとおかしいはずなんですね,ここで取り入れれば。やはりそれは日本の裁判の履行担保のために刑事をどういうふうに取り入れていくかというのは,ここだけで考えるような問題では私はないように思いますので,やはり突出したことはやらないほうがいいんだろうと考えますし,それとこの場合の,どういう場合にそれでは命令違反なのかというところの構成要件が極めて曖昧で,構成要件該当性の判断が非常に難しいので,そういう犯罪構成要件を作るべきかどうかというのをやはり考えなければいけないと私は思いますので,刑事罰には反対です。 ○朝倉幹事 刑事罰を積極的に置くべきかどうかは,これは政策判断だと思いますが,もし間接強制で足りないということであれば,刑罰というのは一つの選択肢だと先ほどから申し上げているように思います。子どもの監護権を常居所地国で早く決めるために,とにかく子どもを早く返還するのだと,しかもそれは条約上の国家の義務であるということから考えたときに,これを切り出して規定するということはあっておかしくはないのではないかと思います。プリンスホテル事件のような経済事案,そう言えるのかどうか分かりませんが,それに比べると緊急性とかいろいろなものがあるのではないか,他のところでできないとかいうことも含めてあるのではないかと思います。   もちろん,国内法の他のものとの整合性を考えるべきであるという山本克己委員の御指摘はそのとおりだと思いますが,そう考えても何かできないことはないような気がいたします。   それから構成要件該当性ですが,これも返還命令を出す前であれば確かに難しいと思いますけれども,返還命令が出た後にそれに従わないということであれば,これは構成の仕方は幾らでもやりようはあるのではないかと思うところであります。 ○大谷委員 私は間接強制だけかどうかということが議論されている中では,刑事罰ということも一つの,それ以上の何かということの選択肢としては考えられないわけではないというぐらいには思っていました。本日御提案というか,初めてこの部会では出てきた,代替執行というのが具体的な中身のイメージがまだ十分に詰まっていないので,これでどのぐらい行けそうかどうかということにもよると思うんですけれども,こういう形で間接強制以外にかなり,オールオアナッシングではない,何か返還実現というのができるようになるのであれば,刑事罰まで入れる必要はないのではないか。それから抜かない伝家の宝刀があったほうがいいのではないかという御意見に関しましては,実際,外国人の依頼者を多く抱えている現場の感覚からしますと,そうでもない。あればなぜ使わないのかと,やってくれということになりますので,その際,なぜそれをしないのか,できないのかといったことで,かえって説明に窮するかなと思っています。   あと,時間のないところ恐縮ですが,一点だけ代替執行についてもう少し今後考えるに当たって質問させていただきたいんですが,授権をした,先ほど朝倉幹事からもすぐに執行官ということではなくて,どういう人にというお話が出たんですが,これは例えば申立人に授権するということもあるという理解でよろしいんですよね。 ○髙橋部会長 もちろん。 ○大谷委員 そうだとしますと,本日,別にその結論が出たわけではないと思うんですが,朝倉幹事からもパブリックコメントではもちろん間接強制だけでよいという意見のほうが,数からすると多かったというお話があったので,若干,それについて意見申し上げたいんですが,間接強制だけにすべきという理由を頂いたパブコメの取りまとめを読ませていただきますと,幾つかありますけれども,二つ大きくあると思っていまして,一つはこの部会でも出ましたが,日本の国内の事案で直接強制する場合には,監護権の本案について,しっかりした審理がなされていると。その上で渡すことはいいけれども,ハーグというのは本来違うんだと。そこを全く審理していない中で,そもそも申立人が引き取るということ自体があってはならないというような,あるべきではないというような御意見が一部にあるように思えます。そこは私は実はハーグ返還手続というのは6週間で,ほとんど中身に入らずにぱっぱっと審理して返すんだという説明がなされる一方で,実際にこの部会でもずっと審議してきたことは,6週間というのは条約上の義務ではないし,現実にもそんなような実務には正直そこまでなっていないと。早い事案もあるかもしれないけれども,やはり慎重にやらなくてはいけないと。それが割とこの部会での大方の流れだったかなと。丁寧にやりましょうと。ゆっくりやっていいというわけではないけれどもと。   その中で先ほど金子幹事からのお話だったかもしれませんが,執行裁判所がかむということになると,それは本案やったところで,子のハーグ返還手続の本案をやったところになるはずで,そこの中でかなり申立人がどういう人で,本来の本案審理はやっていないけれども,暫定的に常居所地国で監護権の本案の決定がなされるまでの間,少なくとも引き渡しても大丈夫な人かどうかみたいなことは,ある程度は私は出てきていると思うんですね。その上で執行裁判所が,更に第二段階の事件決定においてある程度判断されるとなると,そこは全く何も審理していない人に渡してよいのかという議論は当たらないのではないかと思っています。   それからまた間接強制だけでよいのだという御意見の中に,親が帰れない場合にそこから引き渡す,そこから引き離すことがいけないのだという御意見があったんですけれども,それを言い出してしまうと,結局,ハーグ条約に入ると言いながら,返さない,返したくないという場合には認めないのかという根本的な話になってしまいますので,私はそこは余り間接強制だけにすべきという理由としては,なかなか合理性としてはどうなのかなというように思っています。ということだけ最後に発言させてください。 ○磯谷幹事 すみません,お時間がないところ。代替執行のちょっとイメージを少しつかみたいのですけれども,先ほど事務当局のほうから,子どもを飛行機に乗せたらそれでおしまいという話がありましたが,果たしてそれでいいのかというふうには疑問です。というのは,申立人が我が国に来られない事情があるから,恐らく他の方が飛行機に乗せるという話になるんでしょうけれども,それならば向こうの国の例えば児童福祉の機関などにきちんと子どもを引き渡すなどの対応を取らないと,余りにも無責任な話になる。   仮にそうなるとすると,ではそれが申立人以外に誰ができるのかというと,中央当局以外にはあり得ないのではないかと思うんですね。中央当局としては,そういった子どもをきちんと外国の政府なり何なり責任がある方に引き継ぐような,そういう協力というのはあり得るのかどうか。それによっても随分代替執行が使える場面が違ってくるように思いますので,このあたりはどうなんでしょうか。 ○佐藤関係官 先ほど執行の終わりというのは,飛行機に乗せるところまでというお話,そういうふうに整理できるのではないかという話をしましたけれども,それがすなわち,もうそこから先,一切知りませんという話ではなくて,恐らく執行に取りかかる前の段階で,一体どういう手順を踏んで子どもを返すのかという,計画,お膳立てみたいなことは,きっちりやはり詰めるということになるのではないかと。そうすべきなのではないかとは思っています。   その過程で,例えば申立人が全部自分で面倒見るという事案でなければ,何らか,安全な返還を確保するために,中央当局間の連絡調整をお願いするということも,当然あり得る一つの手段であると思いますし,他いろいろな団体が出てくるということも,その国や環境によってはあるのかもしれません。いずれにしても,とにかく乗せればいいと考えているわけではないというところです。 ○道垣内委員 お返事は時間もないところで結構でございますが,刑事罰に関して一言だけ申し上げます。それは,刑事罰によってどのようにして返還を促進しようとしているのかということなのです。刑事罰を科すぞと言って脅して,返還が促進されるというのは一応分かります。しかし,刑事罰を現実に加えたことによってどうして返還がなされるのかがよく分からないのです。例えば罰金ですと,間接強制と余り変わらない感じがしますし,仮に身柄を拘束することを認めるとしますと,それは直接強制を認めるのと同じだろうという気がします。つまり,直接強制を認めない限り,相手方の身柄を拘束することは認めましても,そこにいる子を勝手に裁判所がどこかに連れていくということはできないはずですね。そうしますと,ただ単に身柄を拘束したからといって,返還は実現はされないような気がするのです。したがって,刑事罰を仕組むこと自体は結構なのですが,その結果として具体的にどのような手続によって子どもの返還につながるのかということを少し詰める必要があるのではないかという感じがいたします。 ○髙橋部会長 刑事罰は一般の刑事罰でも,小さな子を抱えた母親だけ収監するときどうするかという,参考になる事例はあります。いろいろ詰める必要はありますが。   他にどうでしょうか。先ほど大谷委員が言われましたように,すぐ返すのがけしからんという感覚がパブリックコメントの中からもうかがわれるということですが,条約そのものがそういうものなのですね。民事保全でいう実体的経過規定というのに近いと思いますが,とにかく元いたところに返すと。それ自体に反対だと言われると,これはそもそも条約に入らないということですから,我々は条約に入るということを前提にして,どう考えるかということです。   それから,執行裁判所がどういうことを考えて授権決定を出すかどうか,丁寧に規定を置くのが私もいいと思いますが,置けば置くほど,執行回避の策を授けるということにもなるわけで,この辺,痛しかゆしです。しかし,基本的なスキームは作っておかなければいけないのはおっしゃるとおりですから,それは内々は考えておりますので,もう少し練ってまた説明できるかと思います。   他に実現方法,強制執行の点,何か御議論,あるいは今日全体でも結構でございますが。 ○磯谷幹事 今,全体というふうなお話をしていただきましたので,ちょっとだけお願いでございます。というのは,今日パブリックコメントの中で日弁連の意見も御紹介をしていただいておりますけれども,その中で80ページのところで,担保法には目的規定,それからその子どもの利益というものを最も優先して考慮するんだというようなことを,きちんと冒頭に書いていただきたいという強い希望がございます。現段階では,一応それだけ申し上げさせていただきます。もうそろそろ終盤だとも思いますので,是非よろしくお願いいたします。 ○髙橋部会長 子どもの利益も,先ほども強制執行のところでやっていましたけれども,少なくとも子どもの意見は聴いた上で返せという債務名義は出ているのですね。その上で強制執行のところで,子どもの意見をまた反映させるときには,強制執行に係る部分でのみということになるはずなのです。債務名義があるのに,もう一回審理し直すということは,執行法上ありませんから。また,子どもの利益というのを強調すると,それは本案の問題,常居所地国に返ってからではないかということで,返還請求の拒否事由のところと同じ議論になってしまいます。おっしゃることは分かっているつもりなのですが,なかなかそのあたりを書き分けるのが難しいと思いますが。   アイデアを頂けるということで。 ○磯谷幹事 いやすみません,私がちょっと今舌足らずで申し上げました。強制執行の部分を離れまして,全体の担保法の一番最初のところで,全体を貫く理念として,子どもの利益を最も優先して考慮すべきだと規定していただきたいという意見です。執行のところでも子どもの利益の尊重は重要ではありますが,それに限らず,子どもの利益というのは常に考えなければならないものだと思いますので,一番最初のところで書いていただくのが望ましいではないかと思っております。 ○髙橋部会長 他にいかがでしょうか。   一般的に6時までは時間を頂いていると思っているものですから,5時半は気にせずにやってまいりました。しかし今日もまた有意義な御議論を頂きました。次回以降のスケジュールにつきまして,事務当局からお願いいたします。 ○金子幹事 御説明いたします。まず,日時ですが,12月5日,13時30分から,場所は第一会議室です。それからスケジュールですが,大分この部会の残りの数も減ってきましたので,一応,要綱案の取りまとめに向けた検討に入ろうかと思っています。なお,個別の論点で特別に個別に議論していただくところは,別のペーパーを用意いたしますが,一応,要綱案のたたき台のようなものをお配りできればと考えています。   まず,積み残しのところを,個別の論点のほうを先に議論させていただきまして,時間がありましたら,要綱案の冒頭から順番に御検討いただくということを考えています。スケジュール的に時間がないものですから,いろいろ資料の作成がぎりぎりになってしまうかもしれません。申し訳ありませんが,そのように考えております。よろしくお願いします。 ○髙橋部会長 もう一度,全体のスケジュールをリマンドしたいのですが,私どもは要綱案をいつまでに決定することを期待されているんでしょうか。 ○金子幹事 1月23日ですか。12月に2回,1月に2回ございます。1月23日,1月の2回目が一応要綱案の案としての取りまとめの日ということでお願いしたいと思います。 ○髙橋部会長 本日はどうも熱心な御審議,ありがとうございました。 -了-