法制審議会ハーグ条約(子の返還手続関係)部会           第9回会議 議事録 第1 日 時  平成23年12月5日(月) 自 午後1時30分                       至 午後5時47分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  ハーグ条約を実施するための子の返還手続等の整備について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○髙橋部会長 時間でございますので,第9回のハーグ条約部会を開催いたします。   では,配布資料の説明をまずお願いします。 ○佐野関係官 本日の配布資料は,事前にお送りしました部会資料11,要綱案のたたき台以外に,本日席上配布しております部会資料10,個別論点の検討についてのものがございます。 ○髙橋部会長 順番からいきましても部会資料10から本日は始めます。そして,飽くまで希望でございますが,部会資料11に入りまして,管轄ぐらいまでいければいきたいと思っております。   部会資料10も項目ごとに審議してまいりますが,まず1の「利害関係参加」の説明をお願いいたします。 ○松田関係官 では,1の「利害関係参加」について説明させていただきます。ここでは,利害関係参加をすることができる者の範囲について,従前の部会での御議論を踏まえまして,相手方適格を有する者を広く認めることを前提に,①のとおり子が利害関係参加をすることができるものとすることを提案しております。   本手続における利害関係参加は,裁判の結果に重大な利害関係を有する者に,手続に関与して主張や裁判資料の提出を自らすることができる機会を保障する趣旨でこれを認めるものとすることを想定したものでありまして,そのため当事者とほぼ同様の権能を付与することとしております。したがいまして,余り広範にこれを認めることは本手続における迅速処理の要請に反し相当でないと考えられますので,利害関係参加をすることができる者としては,基本的には返還を求められている子を想定するのが相当と考えられます。   そこで,①では子が利害関係参加をすることができるものとしておりますが,子と同程度に利害関係参加をさせるべき地位にある者が具体的に想定される場合には,裁判の結果により直接の影響を受ける者として抽象化する必要があることから,①では亀甲括弧でその旨を記載しております。   なお,子については,その年齢や発達の程度などを考慮して,利害関係参加により子の利益が害されると認めるときは,利害関係参加の申立てを許可しないものとして,子の利益を保護する必要がありますので,④においてその旨の規律を置くものとしております。   1につきましては,以上です。 ○髙橋部会長 利害関係参加では,亀甲括弧の部分がございますので,この辺りを特に重点を置いて御審議をお願いいたします。   犬伏委員。 ○犬伏委員 確認ということなのですけれども,本日ほぼこれで結論を得たいということですか,亀甲括弧を入れないか入れるかという点について。 ○髙橋部会長 できれば早く決めていただいたほうがいいわけですが。 ○犬伏委員 では,ちょっと考えます。 ○髙橋部会長 棚村委員。 ○棚村委員 大分まとめていただいて整理がされてきたと思うのですけれども,「裁判の結果によって直接の影響を受ける者」というのを入れていただくと明確になっていいのかなということでいかがでしょうか。これに準ずる場合がどれくらいあるのかというのは具体的な事例の積み重ねの中で判断され,運用されていくのだと思いますけれども,できればこういうような形で少し入っているほうがよいかと思います。「子」という形で限定をするという意味もあるかと思うのですけれども,利害関係参加というのは確かに手続の迅速とか,迅速な処理を複雑にして妨げる場合があり得ると思いますので。一点はそういうことですね。   それから,次のところでもよろしいでしょうか。次というのは,「子の返還の手続に参加する者が未成年である場合において,年齢とか発達の程度その他一切の事情を考慮して手続に参加することがその者の利益を害すると認めるときは却下しなければならない」ということなのですが。具体的に言うと,例えばですけれども,想定されているのは,結果には重大な利害関係があるわけですけれども,親の間に入って返還手続をめぐって,忠誠心の葛藤ではありませんけれども,引き裂かれるような形で,対立が激しかったりして参加させるにはふさわしくないというような場合に,利益を害するということで却下するというようなイメージでよろしいのでしょうか,これは。 ○松田関係官 御指摘のとおりでございまして,直接の影響を受ける者には当たりますけれども,様々な点を考慮して,子の利益を害すると判断するときは④で申立てを却下すると,そういう整理になっております。 ○棚村委員 その場合には参加をさせないということに。 ○髙橋部会長 清水委員。 ○清水委員 この亀甲括弧を入れるかどうかという関係ですけれども,利害関係参加を認めるかどうかで問題になるのは親のケースかなと思われます。例えば,祖父母が本人を連れて帰ってきている場合に,実質的に監護をしているかどうか微妙な親,そういうような親が利害関係参加するかどうかというのが実際のところ問題になると思うのですけれども,そういった場合は,今回の立て付けで言えば,当事者参加ということで拾える仕組みになっていて,ハーグのこの考え方というのは当事者をかなり広く捉えると思っておりますので,この中に利害関係参加という形で,言わば子ども以外の裁判の結果に直接の影響を受ける者というような表現をした場合はそれに当たるかどうかですね。例えば,我も我もというような形で参加を申し出てくる人がいて,そこについて紛争がまた新たに拡大してしまう,審理の迅速性を害するというような弊害のほうが大きいと思われますので,私はこの場合は「子」という形で明確にしておいたほうがいいのではないかと考えます。 ○棚村委員 前にも言ったのですが,この間イギリスの最高裁の判例を読ませていただいて,リ・イー事件だと義理の姉に当たるタイラーという16歳の子どもが問題になったのですね。代理人も付けて参加は認めたのだけれども,お母さんが言っていることと同じだから,アンダーテイキングみたいな形でいろいろやればいいということ。それから,タイラーさんというのは義理の娘ですね,姉に当たる人がどちらで暮らすかは自分で十分決められて,それによって大きな影響を自分自身は受けないと判示されました。ただ,兄弟のきずなは非常にあることも理解できるというような話で参加は認められてはいたのですね。   継父とか継母とか,争いのシチュエーションによりますけれども,親代わりみたいなことが,もちろん当事者として認められればいいのですけれども,そうではなくて,結果について重大な利害関係を持つような家族関係が少し多様化して実質が当事者とまでは言えない。けれども,判断をする上で大事な人というのはいるような可能性があると思うのです,今後ということですけれども。   それで,今,清水委員から子に限定していたほうが審理や手続の複雑化を避ける上でも必要だということは十分理解するのですけれども,くどいようですけれども,最近の欧州人権裁判所のケースとかいろいろなものを見せていただくと,そういうような形のものが時々出てきているということなので,今後,日本でもあり得ないのかなということはちょっと気掛かりです。 ○髙橋部会長 今までも典型例が子どもであることに争いはないわけですが,子どもに限定してしまってはどうかと。親のほうは当事者参加あるいはそもそもの相手方,そう整理したほうが,少なくとも条文の立て付けとしてはすっきりするわけですが,何が起きるか分からない。あるいは,可能性の高いものとしては子どもの兄弟ということがありまして,その余地を残しておくために,一般条項的にでしょうかね,「裁判の結果により直接の影響を受ける者」というのは入れておいたほうがいいという意見とその必要はなく子どもに限定してよいという意見と両方あったわけですが,そろそろどちらかというふうに決めてもらえれば有り難いのですが。もちろん今日決めてしまわなければならないわけではございませんけれども。   山本克己委員。 ○山本(克)委員 私も何度も発言していますので,今日も発言するのが適当かどうか分かりませんが,従来から申し上げていますように,私は子以外に直接に影響を受けるということは考えにくいのではないのかなという気がいたしております。それとともに,手続の複雑化という問題については二つの局面があると思うのですね。入ってきたことによって手続が複雑化するというのはもちろんですけれども,果たして参加資格があるかどうかという点の争いで,即時抗告がされて上までいって,上でなかなか戻ってこないということで,事件の処理が遅れるということも考えなければいけないと思われますので,ここは子に決め打ちしておくということで,手続の安定化を図るほうがよろしいのではないかと考えております。 ○髙橋部会長 御発言いただいた方だけの数で決めてもいけないのでしょうけれども,いかがでしょうか。子どもに限定してはどうかという意見のほうが少し多いというか優勢のように理解しておりますが,いかがでしょうか。   それでは,今日は子どもに限定する意見のほうが優勢であったという形で整理させていただきます。   他の点はいかがでしょうか。大谷委員。 ○大谷委員 確認的な質問なのですけれども,家事事件手続法のほうでも整理がついている話をもう一度お伺いするようなことになるかもしれませんが,①で「家庭裁判所の許可を得て参加することができるものとする」で,④のほうでは許可申立者が未成年である場合においての考慮が書かれておりますけれども,①のほうの「許可を得て」のときの「許可」というのは,今,子に限定するか,それより広い概念になるかという話はありましたけれども,仮に子だとすると,子が申し立てれば許可そのものについてはここでは何ら価値評価は入らないと,子かどうかということ,あるいは,裁判の結果により直接の影響を受ける者の場合はそれに当たるかどうかだけが判断されて。そうすると,許可というのは入っているけれども,申立てがあれば許可をしなくてはいけないということが前提になっているので④があるというふうに読めばよいのでしょうか。   前にも一度申し上げたのですが,④の書き方は,家事事件手続法もそうなっているかと思うのですけれども,子の利益を害するような参加であれば許可しないということが,①の許可の中にもし入れるのであれば,わざわざ④のような書き方を書き出すことによって,そのことを,子の利益を配慮すべきだということにはもちろん賛成なのですけれども,却下する場合のほうが強調されているような印象を受けるものですから,そこを確認させていただきたい。家事事件手続法で決着がついていることを蒸し返す意図はありませんので,それは整合性との関係でこのような規律にするのだということであれば,特段の反対意見ではありませんが,確認させてください。   それから,④のところで「申立てを却下しなければならないものとする」になっていて,補足説明のほうでは,括弧内は「却下できるものとすることも考えられる」という御説明になっているのですが,提案としては「却下しなければならないものとする」という書き方ということでしょうか。 ○松田関係官 まず一点目ですが,今回部会資料では子に限定してはどうかという提案の仕方ではありましたけれども,裁判の結果により直接の影響を受ける者とする可能性もありましたので,このように許可の申立てをして,許可を得るという規律で書かせていただきました。これを「子に限定する」ということであれば,子は御指摘のとおり「裁判の結果により直接の影響を受ける者」に当たることは当然ですので,基本的には子であれば利害関係参加できるとしておいて,④のような場合に当たるときは参加の申出を却下しなければならないというふうにする,すなわち,家事事件手続法のほうで言いますと,第42条第1項の裁判を受ける者となるべき者というのは利害関係参加は当然認められますが,それが子である場合には第42条第5項で子の利益を害すると認められるときは申出を却下しなければならないとなっておりますので,このような規律にすることが考えられると思います。今後整理したいと思います。   御指摘の④の却下しなければならないのか,することができるのかというのは,子の利益を害する場合ですので,却下しなければならないというほうで整理したいと考えております。補足説明のほうは記載誤りです。申し訳ございません。 ○髙橋部会長 利害関係参加,大体よろしいでしょうか。   それでは,2の「記録の閲覧等」に移ります。まず説明を。 ○梶原関係官 「2 記録の閲覧等」では,家事事件手続法と同様に,①から③まで及び⑤の規律を設けるほか,住所又は居所が記載された部分等について特別の規律を設けることを提案しております。中央当局は子及び相手方の所在を確知するため,関係機関から必要な情報の提供を受けることが予定されていますが,現在,中央当局の任務権限に関する制度設計においては,収集した情報を第三者には一切提供しないものとすることで,関係機関から確実に情報を収集する仕組みが検討されています。   そこで,第7回の部会におきまして,中央当局から裁判所に提供された情報のうち,子及び相手方の住所等が記載されている部分については,中央当局における検討と同様に,一律に記録の閲覧等の対象から除外することとし,中央当局における子の所在確知活動を担保すべきであるという意見が出されたところです。このような御意見を踏まえまして,ここでは記録中住所等が表示された部分については他の規律と異なり,原則として家庭裁判所の裁量を入れることなく開示を許可するものとする規定を設けることを提案しております。   もっとも一定の場合にはこの例外を設けることも併せて検討しておりまして,具体的には,相手方の同意があった場合のほか,子の返還を命ずる決定が確定した後には,強制執行の申立てに当たって相手方の住所等を知る必要性が生じますから,子の返還を命ずる決定が確定した場合についてもその例外としております。   なお,例えば子の返還を命ずる決定が確定した場合には,住所等の記載部分は開示され得ることとなりますが,なお⑤の非開示事由の規律の対象となっており,住所等が記載された部分がこの要件に該当すれは許可されないことになります。その他,住所等そのものではありませんが,住所等を推知させるような情報の扱いについても問題にはなりますが,具体的にどのようなものが住所等を推知させることになるのか,何をもって推知させるというのかが明らかではなく,この点を裁判所が判断することは困難であると思われますから,このような情報は今回の住所等に関する特別の規律の対象とはしておりません。   以上です。 ○髙橋部会長 いかがでしょうか。磯谷幹事。 ○磯谷幹事 最初にこの案を拝見したときに,④の二のところですけれども,確かに返還命令が確定したというところで仕切ると明確だろうと思う反面,この段階で抽象的には住所を知る必要性が生じているのだろうけれども,もっと具体的に生じたところまで待ってもよいのではないかと考えました。具体的には,補足説明の中でお書きになっておられるように,間接強制金の支払決定を債務名義とする強制執行を申し立てる段階であるとか,代替執行のスキームはまた後でのお話になるかと思いますけれども,そういったところで実際に必要になった段階で開示するということでどうかと考えました。   その理由は,特に代替執行の中でも,今回の案を拝見すると,できるだけ申立人が相手方の住所地に行って子どもの取り合いになるようなことは避けたいという思いが伝わってきますし,それは当然だろうと思うわけですけれども,早い段階で相手方の住所地を開示してしまいますと,自力救済として自分で行ってしまうということが生じるのではないかと考えたわけです。そういうふうに考えて,④の二のところはより遅い時点のほうがよろしいのではないかと考えたのですが,今の御説明を伺うと,⑤の規律も住所のところにも適用されるというふうな御説明で,そうすると,今私が懸念したようなことは,たとえ返還命令が確定したとしても⑤のほうで開示されないということがあるのかどうか,その点を確認させていただきたいと思います。 ○梶原関係官 今,質問のありました点ですけれども,②で確定した後でも⑤によって開示されない場合があり得るという前提で考えております。 ○大谷委員 今の関連の質問なのですけれども,そうすると⑤に当たるような場合には,結果論ですけれども,事実上強制執行の申立てそのものができないこととなると理解してよろしいのでしょうか。 ○佐藤関係官 申立てができないわけではないと思うのですが,具体的な事案を見ますと,例えば代替執行で,今のスキームですと,後ほど出てきますけれども,返還実施者の選任という手続が入るのですが,そこで勝手に押し掛けてひどいことになるような場合に当たるかどうかなどが判断されますので,情報を開示できないような場合には,その人が住所の情報を取得して代替執行の実施をする必要がある場合にそもそも当たらない,つまり⑤の判断の中でこの人にこういう情報を開示すると平穏を害するおそれがあるかどうかという判断と,住所情報を必要とする執行方法を採ることができるかという判断が重なってくることが考えられますので,不当な結果にはならないのではないかと考えられます。基本的には執行できない事態にはならないように仕組みたいとは思っておりますので,具体的にどういう場合に⑤に当たるものとするかというところをもう少し詰めまして,執行との関係で支障が出ないようにはしていかないといけないかなと思っております。 ○相原委員 重ねて同じことを伺うのかもしれませんけれども,執行を不能にしないように,執行が可能になるようにするためには,最終的には,住所が一番端的だと思うのですけれども,住所が分からなければいけないということになるかと思います。それに対して⑤を認めてしまっても執行が不可能にならないというのは,イメージとしてちょっと理解しにくいのですが,どういうことを考えていらっしゃるのでしょうか。 ○佐藤関係官 まず,間接強制のところで住所が必要になってくるというのは,一つ考えているのは財産調査の関係で住所が必要になってくるのではないかと。でも,そちらのほうは法律上申立てができないという話ではなく事実上の問題です。あと,強制金決定を得た後で金銭執行を申し立てる場合に,通常は管轄裁判所が相手方の住所地となるという問題はあるのですけれども,そちらのほうは何らか手当てをしていくということは,これからの検討にはなりますけれども,可能ではないかと。そうすると,法律上申立てができないという話には,たとえ⑤に当たると判断されたとしてもならないと思われます。   あと,代替執行のところは,先ほど申し上げたように,事案に応じて行っていくということになりますので,実際に申立人がその住所に行かなければならないとすると,やはり住所を知っていなければならないということにはなりますけれども,必ずしもそういう場合ばかりを想定しているわけではございませんので,たとえ申立人自身に住所が開示されなくても,執行自体行うことは可能なように考えると,そういうふうに作ることは可能ではないかと考えております。あとは具体的な議論次第ということになろうかと思います。 ○金子幹事 元々相手方又は子の住居所地の問題が顕在化する前から,⑤というのは事件の確定後でも当然かぶる規定と考えておりました。これは家事事件手続法でも同じことであります。⑤と具体的な確定後の執行との関係のイメージなのですが,⑤の要件に当たるような場合を考えますと,例えば施設に入っている場合,施設に押し掛けるということがあり得るかなと。業務の平穏を害するということがもしかするとあるかもしれませんが,一般的には返還を命ずる決定が確定しているとここは評価が分かれるかもしれません。あとは正規の執行のルートでやろうというインセンティブがより働いて,自力救済のおそれは減るのではないかということを考えますと,⑤に当たる例はそれほど気にしなくてもいいのかなという前提で考えていたところです。なお,そのために④と⑤の関係で特別の規定を入れるということまでは考えていなかったということであります。 ○磯谷幹事 実際には返還命令が確定した後,なおこの⑤が適用になる件というのはかなり例外的であろうというふうな理解かなと思いまして,そうすると執行についてはそういった運用で確保できるのかなと思うのですけれども,一方で先ほど私が若干懸念を申し上げた,逆に自力救済をするのではないかということについては,今,金子幹事から自力救済の可能性は減るのではないかというお話がありましたけれども,そこは必ずしもそうは言えないのではないでしょうか。後で用意されている執行がどの程度実効性があるのかというところが非常に大きいポイントになってくると思うことと,外国人の方で裁判所から命令が出たにもかかわらず,なお相手方が引き渡さないというところで,自分は権利があるのだからやってしまおうというふうな考えを持たれるかもしれないとも思うわけです。そうすると,④の二のところはやや明確性を欠くことにはなりますけれども,より必要性が具体化したところで開示をするというふうにされたほうがよろしいのではないかと思います。 ○髙橋部会長 そういう御意見,伺いました。他にいかがでしょうか。大谷委員。 ○大谷委員 自分でもどういうふうに考えるのが一番いいのかまだ考えが固まっていない段階での発言で恐縮なのですが,そういうお断りをした上で申し上げます。   今,磯谷幹事がおっしゃった懸念はとてもよく分かって,そういう規律の仕方も一案かなと思い,先ほどの御説明の中で⑤は元々確定した後かぶるものだと考えていらっしゃるということだったのですけれども,どのくらいの事情の疎明があれば⑤に当たると考えるかにもよるかと思うのですけれども,審理の途中で開示されると自力救済のようなことが起きてしまうと。それを防ぐ必要があるという場合に比べて,確定した後に正に執行のために必要だから,開示の必要が出た段階で,それにもかかわらず⑤で認めないということにするというのは,具体的にそのような懸念がある場合でないと,命令まで確定しているのにその権利の実現にとって障害が大きすぎるのではないかということも他方で気に掛かります。   具体的には,普段,事件をやっていてもそうなのですけれども,取り返そうとして何かしている,調べようとしている,なので何をされるか分からないみたいな話はしょっちゅう出てくるわけで,その程度のことでは⑤に当たらないということで,むしろ確定した段階では執行のために必要であれば開示するという方向で働くのか。つまり,申し上げたかったのは,⑤が手続のどの段階かにかかわらず,一律にある規定だとしても,確定後はこれによって認めないというのが相当な疎明がないと,そこは扱いが変わり得る可能性があるのかなと。そういう実質的な判断が開示するしないに関わってくるのだとすれば,④の二の規律のところで「確定したとき」とだけしてしまわないで,「その開示の必要性」という,多少価値判断になろうかと思いますけれども,それを入れるということもあるのかなと,今いろいろな御議論を伺っていて考えた次第です。 ○金子幹事 考える方向性として二つの違う方向性があると思います。一般的には記録へのアクセスは,手続保障としての重要な位置付けがありますので,「審理の状況」を考慮事由として書いてありますが,この辺はむしろ審理中のほうが開示の要請が高いと,事件が終わってしまえば知るべき必要性は減る方向で発想していたわけです。   住所の問題については,執行との関係で逆の方向の発想を求められていて,そこが同じ条文で手当てをしようというところに多少の無理があるのかもしれないと思っているのですが。いずれにしても,今日御指摘を受けて,なお,検討させていただきたいと思っているところです。 ○山本(和)委員 今,大谷委員の御発言を聴いてなるほどと思ったのですが,一般的に言えば,金子幹事が言われた審理中にはより情報が必要だというのは,そのとおりだと思うのですが,事,住所等表示部分に限って言えば,審理の段階では基本的にはどこに住んでいてもそれほど大きな違いはなくて,審理のときには必要性は少ない情報であるけれども,執行の段階で特に必要性が高まる情報だという特性を有しているように思います。   少なくとも間接強制金決定の申立ての限りにおいては住所地が分からないでも,受訴裁判所が管轄だと思いますので,そこまでの申立てはできるということだと思いますが,仮にそれで強制金決定が出たにもかかわらず,なお支払わないという態度を債務者,相手方が取っているというような前提のときに,⑤の要件をどう判断するかというところは,比較衡量的に判断される余地があってもいいのではないかと。そういうような態度を踏まえてなおこのような要件が認められるかどうかということを判断すると。それを明文で書くのか,これで読めるのかというのはちょっと分かりませんけれども,私自身はそういうことはあっていいように思いました。 ○髙橋部会長 少し検討すべき点を頂きましたが,他の点でいかがでしょうか。   相原委員。 ○相原委員 相手方の住所につきましては,先ほど事務当局が御説明されましたように,中央当局等で把握する際にできるだけ開示しない,できるだけと言いますか,開示しないという前提で各自治体や関係機関に開示義務を課すという方向の立て付けを今考えておられると理解しました。そういう趣旨からすると,基本的には裁判所が分かっていたとしてもそれを出すというシステム自体は,原則出さないというのが従来ここで何度も申し上げてきたところです。ただ,非常に悩ましいところですけれども,執行と言いますか,返還命令が確定したときまではそこまでを出さないというわけには実質上難しいかなとは思いますが,先ほど磯谷幹事等も発言されていますように,自力救済の問題,それから先ほど私がお伺いしたところですけれども,⑤で間接強制の場合等に関しては必ずしも出さなくても執行の可能性があるとすれば,可能な限り後ろにしていただくということが必要なのではないかなと思います。   開示義務を課す限りにおいては,相手方の住所は知られることはないんだと言い切ってしまいたいというところが,開示義務との関係では立て付けとしては必要なのではないかなと考えておりました。ただ,返還命令まで出て,執行の段階まできたときに,それを言い通すこと自体がこの条約による最終的な解決に困難を強いるというのであれば仕方がないのであろうというふうに逆の意味では思います。そうであるとすれば,可能な限り開示の段階を後ろに設定する必要性があるのかなと思います。 ○磯谷幹事 一つのアイデアみたいなものですが,住所等表示部分については,基本的に④だけが規律して,⑤は適用がないものとするというのも一つ意図しているのではないかと思います。⑤はいろいろなことが書かれていますけれども,住所等については余り当てはまらないものも中にあるかなと思われます。   また,相原委員の発言の趣旨と少しずれてしまいますが,返還命令が確定して,その後もいろいろと任意の返還に向けての働きかけが行われ,間接強制も行われ,それでもなお返さないという場合には,むしろ住所については原則開示することが望ましいのではないか。逆にそのことが任意の返還を促すことにもなるのではないかと考えています。もちろん何か特別な事情がある場合は開示すべきではないということもあるでしょうから,⑤の最後の「不適当とする特別の事情があると認められるとき」,これのみ④のほうにも掛かるような形にしておいて,すなわち住所等については執行の必要性が具体的に生じた段階では開示すると。しかし,特別の事情がある場合には開示しないことも可能だというような規律でどうなのかなと思います。 ○髙橋部会長 いろいろ御指摘を頂きましたので,ここは少し検討し直すといたしまして,他に御指摘いただける点はございませんでしょうか。 ○金子幹事 今,④の二のほうに焦点が当たっていますが,同意のあるときで,同意があるからといって押し掛けられては困るという場合は想定しなくていいのかというところもちょっと気になっているのですが。⑤を一切掛けないで,同意があれば開示していいのだという規律でよいかどうかという辺りも御感触を伺えればと思うのですが。 ○山本(和)委員 問題設定が分からなかったのですが,④の一に妥当する場合には⑤を掛けないでよいかということですよね。 ○金子幹事 はい,そうです。 ○山本(和)委員 しかし,⑤は相手方だけではなくて第三者の利益を保護する部分もありますよね。その部分は相手方が同意をしていても掛かると考えざるを得ないような気はいたしますが。 ○金子幹事 はい。今,磯谷幹事から④の二の部分を想定されてのことかと思うのですが,この場合には,住所に限って言うと,⑤は一般的な規定であるのに対して,これを住所に当てはめた場合は⑤で非開示とするべき場合はさほどないのではないかというお話があって,それを受けて一のほうはどうかということでお考えいただければという趣旨だったのです。一であっても,つまり住所を知らされたことによって,そこの場所に押し掛けられて迷惑を被るというようなことであると,⑤の要件を掛けておいたほうがいいのではないかというところもあったものですから。   その他,第三者にとってそれが重大な秘密ということはなかなかないと思いますが,第三者の業務の平穏を害するということはあり得るかなとも思ったものですから,④を⑤とは別立てにする,つまり⑤を掛けずに④は独立のものとして何か組むということについては,それだけで大丈夫かなという気がしたものですから,改めて御意見を伺おうと思った趣旨です。 ○磯谷幹事 余り十分に検討しないアイデアで申し訳ございません。ただ,具体的にどういう場面が想定されるのかというのが,私も今一つイメージできない気がしております。相手方としてはそのような懸念があれば閲覧謄写について同意をしないということになるのかなと思われますので,特段不合理なことが生じるのかどうか。私余り想像ができていないのかもしれませんが。   それから,第三者の場合に,先ほど施設というのがありまして,もちろん押し掛けられることは好ましくはないのですけれども,こういった公的な機関については,正直なところ児童虐待の事案などでも時々親が押し掛けるということがありまして,その場合は警察対応などもしておりまして,刑事的な対応も含めてそれなりに対応できるように思います。⑤を一切掛からせなくていいかどうかは私も断言できないのですけれども,かなり少ないのではないかとも考えたところです。引き続き検討させていただければと思います。 ○大谷委員 ほぼ同じ意見ですけれども,第三者は少し置いておくとして,相手方だけのことを考えますと,押し掛けられて困ると思っているのであれば多分同意をしない。同意によって④で外れるものは住所等表示部分ですので,言い方はおかしいのですが,仮に一号で同意をするという判断をして,そのことによって住所を開示して,その後,例えば家に来られたということがあっても,住所については開示になっているわけですよね。その後,④で何か判断しなくてはいけないものが出てくるわけではない。言い方はおかしいのですが,住所を知らせるかどうかというのは一回きりのですので,相手方に判断してもらうしかないということなのかなと思います。   いつも押し掛けてくるという話が問題になるのですけれども,例えばドメスティックバイオレンスで被害を受けていると。更に暴力を受けるおそれがあるというおそれが保護命令が出る程度に当たるような場合で,その必要性がある場合は同意もしないし,本当に危険が迫っているというときには,そういう申立てをする必要があるのかなと思っていまして,それ以外の家に平穏に来られる,実際に外国人の方で家に平穏に行くことが何がいけないのかとおっしゃる方たちは多くおられて,平穏に来られることでさえ嫌なのだという場合は同意しないということで仕方がないのではないかなと思います。 ○髙橋部会長 いずれにせよここはもう少し考え直すことにいたしまして,次の「3 子の即時抗告権」について,まず説明からお願いします。 ○松田関係官 では,「3 子の即時抗告権」について説明させていただきます。ここでは,子の返還を命ずる裁判に対して,子に即時抗告権を認めるものとすることを提案しております。家事事件手続法では,子の監護者の指定等の子の監護に関する処分や,親権者の変更等については子に申立権が認められておらず,また,これらの審判に対しては子に即時抗告権も認められておりません。   本手続においては,子に申立権が認められていない点では子の監護に関する処分等の審判と同じですが,本条約第13条第2項の規定により子の返還拒否の意思が返還拒否事由とされている点で,言わば条約が子に独自の権限,つまり条約において原則とされております常居所地国への返還命令を阻止し得る権限を特別に与える効果を有しているものと考えられますので,このような特殊性があるという点で,子の監護に関する処分等の国内事案についての審判の場合とは異なると言えます。   以上のように,条約上の規定から導かれる特殊性のほか,児童の権利条約における子の意見表明権の趣旨とか,返還命令によって子が常居所地国に返還されると,子に対して我が国の裁判権が及ばなくなるといったような一般的な事情なども併せて総合的に考慮すれば,子がその権限を十分に行使することができるようにするため,子に即時抗告権を認めるのが相当と考えられます。   そして,条約上,子に自己を常居所地国に返還するよう求める権限が明文で与えられているわけではない点を厳密に捉えますと,子には返還を命ずる裁判に対してのみ即時抗告権を認め,返還申立てを却下する裁判に対しては即時抗告を認めないものとするのが相当であると考えられます。もっとも子自身は返還を強く望んでいるという場合もあり得なくはなく,子の利益を最も重要なものと位置付ける本条約の趣旨に照らし,また,本条約において子の返還拒否の意思が返還拒否事由の一つとされている点を捉えて,子には独自の立場が与えられているものと解し,申立てを却下する裁判についても区別することなく即時抗告権を認めるという考え方もあり得るようには思われますので,この点について御議論いただければと存じます。   3については以上です。 ○髙橋部会長 子どもの即時抗告権ですが,いかがでしょうか。相原委員。 ○相原委員 子の即時抗告権につきましては,これまで即時抗告権を認めていただきたいという意見を何度か申し上げさせていただきましたので,このような御提案をしていただいて非常に前向きに受け止めさせていただいております。認めていただきたいと思っております。   その上で,最後のところで子の即時抗告権について,子の返還を命ずる裁判に対してのみ認めるものとするのがこちらの御提案という形で出ており,一方,先ほど御説明の最後に子ども独自の意思と言いますか,帰りたいというような意思がある場合に,それを尊重するということも考えられるという御説明だったかと思います。申立人のほうが諦めて即時抗告しないにもかかわらず,つまり申立人のほうが何ら手を挙げていないのにもかかわらず,子どもだけが即時抗告しても実質的に意味はないのではないかというような判断もあろうかとは思うのですが,子どもがある程度の年齢になっておりましたら,学校であったりとか,友人関係であったりとか,申立人が若干気が弱くて諦めたようなケースでも,本人が望むということは考えられなくはないのではないかと思います。子どもを中心に考えた場合,即時抗告が認められることに関してのマイナス面というのは特段ないのではないかなと思いまして,可能であれば却下という裁判に対して,つまり,子の返還を命ずる裁判ではない場合に関しても,子の即時抗告権を認めていただきたいと思います。 ○古谷幹事 今,相原委員から御指摘があった点ですが,ハーグ返還手続の場合は,子の異議という形で子が返還を拒否することができるというある種の権能が認められており,これが家事事件手続における子の監護に関する処分との決定的な違いであると理解しているところです。条約上,子に認められているこのような権能を十全に行使する機会を保障するのが,即時抗告の根本的な趣旨ということからしますと,返還命令が出たときに限って即時抗告を認めるのがその趣旨に合致すると考えております。 ○磯谷幹事 今の点とは異なるのですが,以前,確認をさせていただいたかもしれませんが,今回このような御提案を頂きましたので,改めて確認をさせていただきたいと思います。子の即時抗告をするという前提として,子どもが第一審で利害関係参加をしているということが必要なのかどうか。その点を確認させていただきたいと思います。 ○松田関係官 その点につきましては,特に要件としては考えておりません。 ○山本(和)委員 磯谷幹事の質問の続きみたいになるのですが。そうすると,即時抗告審における子の地位はどういうことになるのかということなのですが,即時抗告審では利害関係参加がされるという前提なのか。それとも即時抗告審でも何ないと。そうすると,即時抗告だけして,手続上は何もできない地位のまま子どもが去っていって,残った親同士だけが抗告審の当事者になると,そういうこともあるというイメージでしょうか。 ○松田関係官 即時抗告をしたものであれば,即時抗告審では当事者的な立場として扱うというふうに考えておりますが。 ○山本(和)委員 「的な立場」というのは当事者になるということでしょうか。 ○松田関係官 そうですね,当事者になるという扱いになるかなと。 ○山本(和)委員 当然に当事者となると。ただ,利害関係参加は,先ほど問題になりましたように,一定の場合には利害関係参加の許可の申立てを却下することが認められていますよね。仮にそういうような要件に該当するような子であっても即時抗告を認め,即時抗告がされれば当然に当事者になると,そういう理解でしょうか。 ○松田関係官 そうですね。基本的にそこは特に制限は考えていなかったです,今までの検討の段階では。 ○山本(和)委員 意見を述べさせていただくと,若干平仄を欠いているような印象も受けるのですが,そうでもないのでしょうか。 ○髙橋部会長 どちらがいいですかね。利害関係参加と同時にとするのか。それとも,即時抗告権はそのまま認めて抗告審で当事者的地位に立つかどうかをもう一回どこかで審理する,どちらがいいですかね。 ○山本(和)委員 確かに両方考えられそうな感じはするのですが,後者だと当事者的と言いますか,その地位に立てないという判断が最終的にされると,結局子どもは落ちて先ほどのように両親だけが残るというような事態になって,両方やる気がないという申立てに。そういうようなことだとすると手続としてはちょっとどうかなという感じもするのですけれども。 ○髙橋部会長 手続的には重要な点ですから,もう一回考えるといたしまして,他にいかがでしょうか。大谷委員。 ○大谷委員 今の点なのですけれども,両方あり得ると思いますが,他の国でこの点が判決等で触れられているものを見ますと,もちろん元々の作りが違うということもあると思いますが,即時抗告をした段階で手続参加を認めるかどうかも一緒に判断しているような例が見られまして,私は頭の中では,即時抗告を認める場合には,そこで参加を認めるかどうかということを判断している余裕は余りないので,感覚的に即時抗告権を認めるということは,それをした人は,子どもの場合,利害関係参加は当然に認めるという整理がよいのかなと従前考えておりました。 ○髙橋部会長 子どもに即時抗告権を認めること自体は皆さん異論はないようですが,先ほどの申立て却下の裁判までも認めるか,返還を命ずる裁判に対してのみ認めるのか,この点もう少し御意見を伺いたいのですが。   棚村委員。 ○棚村委員 私も,即時抗告権のときに,ここに書いてあるような子自身が常居所地国に返還を求める権限とか立場にないということも分からないではないのですけれども,先ほど議論された例にあるように残された親が連れ去った親に対して返還請求をする場合に,子どもについての返還の拒否事由が立ったとして,子どもの意思みたいなもの,強い拒絶があってというようなことが十分にあり得ます。子の意思とそごがあるという判断をされたりした場合,子ども自身が帰りたいと考えている場合にどうするかという問題は起こります。子自身の気持ちが変わる場合も起こってきますし,いろいろな事情があると思うのですけれども,即時抗告権を認めた場合には返還を命ずる裁判だけではなくて,返還を命じなかったという場合は余り起こらないのかもしれませんけれども,そのときにもやはり子どもを当事者に準じて,あるいは,利害関係参加人という形できちんと抗告審で話を聴く必要はあるような感じがします。 ○髙橋部会長 ここは却下の裁判に対する即時抗告権を認めても,事例もそれほどないでしょうから,それほど混乱が生ずるということではないと思うのですが。しかし,先ほど古谷幹事が言われましたように,趣旨からするとそこまで認めるまでのこともないということですかね。   大谷委員。 ○大谷委員 ミニマムアプローチでいくのかどうかという話なのかと思うのですけれども,条約が特に拒否事由のところで子の異議を一つの理由に挙げているからということに根拠を強く求めるのであれば,古谷幹事がおっしゃったようなお話も整合性もありますし,もう少し広く,子どもの参加ないし子どもの手続保障を,例えば国連の児童の権利条約12条との関連でできるだけ強く及ぼすということを考えると両方ということもあり得る。   それから,いつも出てくるのですけれども,子どもが独自に返還を求める権限があるわけではないと,子ども自身が帰りたいという権限があるわけではないという話がよく出てくるのですけれども,理念的で恐縮ですが,基本的にはこの条約自体が子どもが元の生活地から親の一方によって,親が多いわけですけれども,他の国へ突然連れてこられるということ自体が子の利益に反するので,一般的には帰すことが子の利益にかなっているという考え方から出発していて,それを他の人が体現すればいいということになっているのだと思うのですけれども,本来的には帰る方向でのことは子の利益にかなうという考え方の中で構造が作られていると私は理解しています。そうだとすると,何らかの事情で却下するということに対して,その場合には帰るということで子が意見を言える機会を設けておくことは,条約の趣旨には合致していると私は思っています。 ○磯谷幹事 日弁連の中で割れるのは良くないのかもしれませんが,そもそもこの手続は申立人がアクションを起こさなければ成り立たない話であり,申立人が結局諦めると,取下げも確かできますし。そういうふうな手続の中で却下されて,申立人が諦めるにもかかわらず,子どもが即時抗告をするというのはイメージがなかなか,非常につじつまの合わないような印象があるのと。   もう一つは,現実にどういうふうな場合にこの子が即時抗告をするかというと,これまたよく分からないですね。つまり,相手方の意思に反してでも,むしろ却下されては困るのだ,帰りたいのだというような子どもの場合には,まず裁判所に対してその旨を話しているでしょうし,その機会も十分あるということですので,意見を言う機会がなかったという事態は考えにくいと思いますので,特に申立人が諦めている状況で,あえて子どもに即時抗告を認めるというのは現実的にも必要性を認め難いのではないかなと私は個人的には思います。 ○棚村委員 一定の年齢になったときには必要的な陳述の聴取を規定しているところはいいと思うのですね。ところが,そうではなくて,微妙な年齢の子どもたちがいると,今は返還拒否の世界平均審理日数は286日ということで非常に時間が掛かったりしていますよね。しかも,子どもが微妙な年齢になると子ども自身の意向を十分に聴けないということも起こってまいりますよね。その間に審理をしていると,係争しているケースだと,1年とか2年とか掛かってきたときに,子ども自身の本当の気持ちでいくと即時抗告権を与えて,そういうケースはレアかもしれないのですけれども,自分は実際には帰りたいという意思を表明できるチャンスを得るような場合もあるのではないかと思います。   ですから,子どもの意思というのは,磯谷幹事も分かると思うのですけれども,子どもの事件を家裁などでやっていると,当事者の間に挟まれている者の意見聴取とか,意見を確認するというのは非常に難しいことで,特に15歳とかいう年齢になっていれば,行けと言っても行かないし,行くなと言っても行くような年齢ですけれども,微妙な影響を受けやすい年齢の子どもたちの意見聴取そのものはかなり難しくて,異議があったとか,行きたくないとか,親を選ぶというのはかなり葛藤が高い中で苦渋の選択をするような場合もあるのではないかということです。そこで,即時抗告権を認めて子どもの一定の地位を確保したときに,本心を表して自分自身で伝えられるような状況になれば,こういうこともあるのではないかということで,返還命令が命じられたときだけではなくて,それが認められなかった場合もあり得るのではないかなと思いました。 ○山本(克)委員 却下のときに即時抗告権を与えるべきだとおっしゃる方の根拠とされるところを理解できないわけではないのですけれども,仮に却下決定に対して子が即時抗告したときの即時抗告審の構造というのはどうなるのでしょうか。それが私は全然分からないのです。山本和彦委員の先ほどの御質問に対する答えがまずないといけないわけですよね。当事者として,子が相手方,つまり自分を連れてきた親と対決するという手続構造を採るということなのでしょうか。それこそ子の福祉に反するという評価がされてもおかしくないところがあると思いますので,手続構造が明確,つまりやる気をなくした申立人を呼び込んでもう一遍手続をやってくださいというのは無理ですから,結局,子対TPの対決の場になるわけですね,即時抗告審が。それが本当にいいのでしょうか。私そこはかなり疑問だと思っておりますけれども,いかがなのでしょうか。 ○棚村委員 実際の葛藤というか,事件自体を見ると,お父さんもお母さんも両方好きだし,両方と一緒にいたいというのが子どもの心情だというのが多いと思います。暴力とか片方の親に対する,追い詰めたりいろいろなことがあってこちらの肩を持っているということはあり得ますし,影響がある。間に入って,今,山本委員が言われたように,当事者としての地位を与えると敵対関係というような形になって,余計追い込まれるのではないかということだと思います。   私はアメリカ法を研究しているから余計,ターミネーション・オブ・ペアレント・ライツ,要するに親権の終了手続というのを養子縁組なり何かするときに使うわけですけれども,12歳以上になると子どもにも認める州はかなりあります。自分自身の幸せを自分でつかもうという判断をできる子どもになると,そういう可能性はなくはないのではないかと思うのですね。それは修羅場であるかもしれませんし,普通は想定されない状況かもしれませんけれども,一般的に言えば当事者としての地位を与えて敵対するような関係になれば非常に苦しい状態になりますから,余り適切ではないということも多いかもしれません。 ○山本(克)委員 今,アメリカの例で挙げられた裁判というのは,形成的な要素だけで終わってしまう裁判のようにお伺いしたのですが,本手続は子を連れていかなければいけないというところまで含んでいるわけですよね。ですから,そこのところのエンフォースメントをどうするのかという問題も考えないと,単に裁判出ただけというので終わってしまうというのもいかがなものかと。   エンフォースメントの関係では,まず申立人が執行を申し立ててくれないことはエンフォースメントはそもそもできないというのもありますし,エンフォースメントを任意に履行する環境を作る,アンダーテイキングを何らかの形で即時抗告審で仕組むとしても,申立人がいない中でそういうことができるのでしょうか。子にいたずらに負担を掛けて実現できない裁判をして,国としては責任を果たしましたということになっていいというふうには私は思えないのですけれども。 ○棚村委員 その場合,手続法的な問題がよく分からないのですが,子どもに即時抗告権を与えた場合に,手続代理人みたいな制度を使って,子ども自身の親とは違う代理人みたいな形の仕組みを備えるということはできないのでしょうか。 ○髙橋部会長 それは考えられますが,今,執行申立てまでということを言われているわけですね。 ○棚村委員 前回も,施設のときにもいろいろなことが起こるので,そういう場合には特別代理人を仕立てて,本当は子どもの代理人ができればいいのですけれども,他の国はそういう制度を用意して子どもの声や子どもの立場を,対立する親が自分の利益を実現してくれないときに実現してもらう。ところが,家事事件手続法ではそういうものについてはなかなか難しいので,手続代理人と本人の実体法上の申立権をうまく使ってやってはどうかというところで落ち着いたというふうに聞いたのですね。   私自身よく分からないのは,実体法をやって民法をやっているものですから,ある場面ではこのハーグの条約は家事事件手続法の仕組みを使いましょうと,もう一方に行くとそれとは全く違う新しい手続だから独自に考えたほうがいいと言われて,手続法のことについては何を言われても,申し訳ないのですけれども,よく分からないのですね。ただ,今の家事事件手続法のスキームを超えて,子どもの代理人というものを作った上で,子どもに一定の当事者としての地位を認める可能性まで認めていただけるとすればあり得るのかなと思います。   ところが,家事事件手続法みたいな形で手続代理人ということで,それも子どもの代理人でもないような,従来の手続代理みたいな発想でいけば無理だと思うのですね。その辺りをむしろお教えいただければと思います。子どもの代理人制度みたいなものがここでは可能性が難しいということになると,家事事件手続法でも散々議論されたことでしょうから。 ○髙橋部会長 そこははっきり言えますか,現段階で。 ○金子幹事 今考えているのは,家事事件手続法のような,子どもに対して裁判所が,具体的には裁判長が代理人を付すということは考えているところで,部会資料の11の10ページの裁判長による手続代理人の選任のところで,子どもはある程度の年齢になると独自で即時抗告できますが,具体的な手続を遂行する能力自体に問題があれば,それは裁判所が付す,手続代理人は家事事件手続法並びで導入することを考えています。棚村委員がおっしゃったような,より広い観点から子どもの利益を代弁するような,この手続に限らないようなより広い代理人というのは想定していません。 ○相原委員 私も,具体的に子どもが独自に即時抗告したときに,自分の今一緒にいる相手方又は監護者ですね,相手方に対して一種歯向かっていく的な立て付けになるということに関して,おっしゃるような危惧を感じることはもちろんあります。ただ,14,15という年齢になったときには,家庭内で葛藤があり主張したりすること自体は決して珍しい話ではありませんし,例えば帰っていって自分の将来に関して,自分がどこで住みたいというようなことに関して,たとえ同じ家庭内であったとしてもそういう場合もあり得るのではないかと思います。その場合,申立人のほうが諦めているのにもかかわらずというのが先ほど出てきておりますけれども,本当に可能性が非常に低くて,帰っていく先が決して適切な場所ではないという判断があるとすれば,即時抗告したとしても,それは認められないことの結論にもなるであろうと思います。   その上で,例えば,寮生活であったり,申立人がどういう生活でありどういう環境か分かりませんけれども,これは私も手続がよく分からないまま申し上げているのですけれども,職権なり何なりで申立人に働き掛けていただくとか,そういうことで可能性は出てくるのかと思います。少なくとも子どもがある程度の年齢になって,自分がどこで暮らしたいかということに関しては,このハーグ条約自体そこに利益があるのだというところから,つまりずっと安定的に暮らしていたところからいきなり,当面,よく分からないままテイキングペアレントと来ているような状況において,少なくとも当事者として,利害関係参加ではありますけれども,自分のことに関する主張ができる場所を残しておくと,そういう余地自体は認めるべきではないかと考えます。たとえそれが葛藤になったとしても,そこはもう覚悟してやるかどうかの話であって,それを先回りして,かわいそうだ,そういうところに巻き込みたくないというのはそれも一つの判断かもしれませんけれども,私としてはその場合も制度として置いておくことをお願いしたいと思いました。 ○長嶺委員 繰り返しになるかもしれませんが,私も子の返還を命ずる裁判に対してのみ認めるという事務当局のアイデアなのかなと思うのは,御議論あるように,条約そのものの立て方は飽くまでも返還のための手続があって,それが実現しないのは返還拒否事由のいずれかに当たることによって返還されないということになるわけですね。返還をする際に,条約上は子の意見を聴いて返還を決めるという要素は含まれていないわけですね。子が返還を拒否する場合にそれを聴くということが返還拒否事由の一つに入っていると。それから,別の箇所ですけれども,1年というのがあって,基本的には1年までに決めると。1年を超えて子が新たな環境に適応している場合には,そのことが証明されない限り返還と,こういう条項もあります。   ですから,全体の条約の立て付けからいきますと,今回の手続法が条約の実施ということに限ると言いますか,先ほど大谷委員がミニマムリストとおっしゃったことと共通するのか分かりませんが。そういう論点からすれば,ここは返還を命ずる裁判に対してのみ認めるというのは整合性がありますけれども,子の意見を聴いて返還するというのはそもそもの条約の立て付けからしますと,ちょっと脇にずれた議論になると私は思っておりますので,返還を命ずる裁判に対してのみというのが妥当ではないかと思います。 ○髙橋部会長 この点,よろしいですか。大谷委員。 ○大谷委員 この論点ばかり引っ張るつもりはないのですが。申立人が諦めてしまった場合にまで具体的に即時抗告権を認めるような場合があるのかということについては,私は現実的にはあるなと思っています。ただ,抗告審の構造がどうなるかがちょっと分かりませんので,そこの手続をどうするかということはさておいての話で恐縮ですが,そういう場合があるかと言われると,実際には子どもさんが一定年齢,大きいとか,棚村委員がおっしゃっているように,手続に時間が掛かっている間に当初言っていたこととその後の状況は変わってきたとか。両方の親に愛情を持っているけれども,それとは別に自分が住みたいのはここであるという場合があったり,あるいは,申立人自身は手続を熱心に進めようとしなくても,祖父母が子どもとの関わりが強くて,祖父母のほうでは受け入れ可能性があるとか,いろいろな場合があると思っています。   そのことと,先ほどからお話が出ているように,抗告審での手続をどうするかとか,あるいは,条約の担保の中でどこまで認めるかという御判断はまた別だと思いますので,最終的に強く絶対に両側で認めなければおかしいとまで言うつもりはないのですが,場面としてはあると思いますということだけ申し上げたいと思います。 ○磯谷幹事 先ほど申し上げたように,ハーグ条約の手続というのは,申立人のアクションが大前提になっている。執行の段階でもそういうふうなことになるわけで。翻って申立人がもし諦めるという場合には,結局のところは日本に来て日本の裁判所で,例えばどちらが面倒を見るかということを決めるのもやむを得ないという考えかもしれないわけで。先ほど子どもがどちらと住むかという話がありましたけれども,それは限りなく本案になってくるわけですから,そうでしたら,ハーグ条約がないときと同じことになるのかもしれませんけれども,日本に申立人に来ていただくなりして,そこでどちらが育てるかということを決められるのが望ましいのかなと。申立人がやる気を失っているときには,弁護士の活動としては,ちょっと申立人のほうにいろいろアプローチをして,やはり子どもはあなたが引き取ったほうがいいのだと説得することはあるだろうと思うのです。しかし,それはハーグの手続の中でやるのはなかなか無理があって,それはまた別の手続と言いますか,本案の中でやるべきことなのではないかなと思いますので,私は事務当局の案に賛成です。 ○髙橋部会長 他にいかがでしょうか。   それでは,「4 子の返還を命ずる裁判の実現方法」,ちょっと長いのですが,まず説明だけさせていただいてから休憩ということで御了承をお願いします。 ○佐藤関係官 では,説明させていただきます。「4 子の返還を命ずる裁判の実現方法」です。こちらは前回部会での議論を踏まえまして,代替執行を応用した仕組みについて更に検討するものであります。この代替執行を応用したものを「代替執行類似執行」と呼ばせていただきますが,その基本的な考えについて御説明いたします。   民事執行法上の代替執行の手続においては,債権者が債務名義表示の作為を実現する行為を債務者以外の者にさせることを債権者に授権する旨の決定を求める申立てを行い,授権決定を得た上で作為を実施するということが行われます。授権決定において実施者の指定は必要的ではなく,指定がなければ債権者自身が行い,又は任意の第三者にさせることができますが,執行官等特定の実施者が指定された場合は,その実施者にして実施させなければならないとされています。この代替執行を子の返還の執行手続として応用し,申立人が授権決定を得て指定された実施者をして相手方に代わって子を返還させるという仕組みを作ることができないかというのが問題となります。   この代替執行を応用した仕組み,代替執行類似執行では,実施者が子の監護を開始し,相手方に代わって返還行為を行うことが代替執行類似執行の要素となりまして,子を執行の対象として債務者から取り上げて債権者に引き渡すというものではありません。そうではないと考えております。実施者が子の監護を開始するために相手方の監護下から子を解放させるということが当然に必要とはなりますが,これも子の引渡しとは異なる概念のものであると整理しております。代替執行類似執行においては,子を扱うという特殊性から,先に説明いたしました民事執行法上の代替執行そのものとは異なる配慮及びそれに基づいた手続が必要になると考えておりますので,本日はその点について御議論いただきたいと思っております。   具体的な検討は,部会資料の4に本文として列挙いたしましたが,まず,代替執行類似執行を認めるとしても,条約上任意の返還が施行されており,執行段階においてもでき得る限り任意に近い形での履行を促すことが望ましいと言えること,また,代替執行類似執行が子に心理的負担を与えかねないことは否定できないことから,他のより直接的でない方法があればそれを優先させるのが相当であると考えられます。   このような観点から,本文の(1)アに記載しましたとおり,一つの方策として任意履行のための猶予期間を確保しつつ,間接強制を行った上で代替執行を申し立てるものとし,例えば間接強制決定から2週間を経過しても履行がないときに代替執行類似執行を申し立てることができるものとすることが考えられます。   次に,本文(イ)ですが,代替執行類似執行を行う場合に,民事執行法の代替執行とは異なって,子を扱う以上誰が行ってもよいというものではありませんので,実施者の選任を必要的とするのが相当であると考えております。そこで,実施者がどのようなことをするのかということについて考えてみますと,代替執行類似執行の実施行為としては,子を監護した状態で空港等まで連れて行き,飛行機に乗せるなどして常居所地国に帰らせる返還行為そのものと,その返還行為を行うために必然的に伴う準備行為として,子を相手方の監護下から解放させ,返還行為を実施する者が子を監護できるようにする行為とが観念できます。   そして,返還行為そのものは,子を監護しながら移動させ,基本的に子を自ら連れて帰るというものが中心であるのに対して,子を解放させる行為は,相手方を説得し,抵抗されればその抵抗を排除するというものが中心となり,両実施行為は質的に異なるものであると言えます。そのため,実施者の選任について考える場合にも,この二つの実施行為を行う実施者を分け,それぞれどのような者が実施に当たるのがふさわしいかという検討をするのが相当であると考えております。   そのような前提で,まず返還行為を実施する者を仮に「返還実施者」と呼びますが,これについて考えてみますと,子の監護を伴うことから,子を適切に監護できる者がこれを担うのが相当であると言えます。また,申立人は子に対して監護権を有する者であって,子の適切な監護を期待できるのが通常であると言えます。そこで,第一次的には申立人を返還実施者とするのが相当であると考えております。もっとも,場合によっては申立人が子に対してDVを行った記録があるなど,申立人に子の一次的な監護を委ねるのが相当ではない場合や,申立人が日本に来ることができず返還行為を行うことができない場合が考えられ,このような場合にその他の者を返還実施者として選任し,なお代替執行類似執行を行うかどうかという点が問題となります。   これについては,基本的には申立人以外の者であっても適切な者がいれば,その者を指定すること自体は否定されないのでないかと考えられます。その一方で,誰に任せてもよいというものではないことから,不測の事態を防止して,子の利益を害することがないよう配慮するという観点からも,指定できる実施者についてはある程度類型化しておくことが必要であると言えます。実施者の一例としては,申立人及び子の親族等申立人に準ずるような者とか,申立人代理人が考えられますが,どのような実施者が考えられるのかについても本日御議論いただければと思っております。   また,返還実施者の選任について,裁判所が職権で適切な実施者を探さなければならないとするのは相当ではなく,申立人が特定すべきであって,裁判所は特定された実施者候補者についてその拒否を判断するものとするのが相当です。   次に,子を相手方の監護下から解放させる実施行為を行う者,これを仮に「解放実施者」と言いますが,これについては,解放実施者が行うべき行為は相手方及び子に接触し,相手方に対し子を解放するように説得し,相手方がこれに抵抗する場合には,その抵抗を排除するという行為ですから,威力を行使することができる公的機関が担うとするのが相当であり,具体的には執行官とすることが考えられます。また,解放実施の場面においては,相手方や子の抵抗によっては執行不能の判断をすべきことも想定されますから,その判断権者としての相当性を考えても執行官は一つの有力な例であると言えます。   この点については申立人を実施者とすることも考えられなくはないのですが,申立人が実施するとかえって申立人及び相手方に冷静な判断を求めることが難しくなって,子の利益の観点からかえって弊害が大きくなるのではないかということが危惧されます。   次に,本文の(1)ウですが,代替執行類似執行の対象となる子については,代替執行類似執行が子に対して与える心理的影響を考慮しまして,一定の年齢を超えた子については対象としないものとすることが考えられますが,一定の年齢で対象者を区切ることについての相当性について御議論いただければと思います。   また,授権決定の際に子の意思を考慮するものとするかという問題があるかと思いますが,子の意思は返還命令時において既に考慮されており,執行段階でも考慮するとすれば蒸し返しとなるおそれがあることから,授権決定に際して子の意思は考慮しないものとするのが相当であると考えております。   続いて,(1)のエですが,こちらに記載しましたとおり,授権決定の手続としては,民事執行法上の代替執行同様,相手方の審尋を要するものとするのが相当であると考えております。審尋を行うとした場合に,民事執行法上の代替執行における審尋と異なり,特定の者が実施することについての意見を審尋の対象とするか等も問題となるかと思います。   続いて,本文の「(2)解放実施者及び返還実施者の権限」ですが,適正な執行実施のためには,解放実施者及び返還実施者がそれぞれどのような権限を有するのか,してはならないことは何であるのかということについて整理しておくことが必要であると考えております。具体的に見ますと,まず解放実施者としては執行のどの部分に関与するかと言いますと,①に記載しましたように,相手方の監護下から子を解放させることでありまして,その後の関与は不要となります。   そして,相手方の監護下から子を解放するために有する権限としては,②に記載しておりますように,相手方が建物に立て籠もって応答しないような場合に,解錠・立入りができるものとするのが必要であると考えます。   また,③に記載しておりますように,相手方の抵抗排除のために有形力を行使し,民事執行法に規定があるような警察に対する援助要請ができるようにしておくことが相当であると考えられます。   また,いきなり有形力の行使に及ぶのではなくて,まずは説得し,平和的に子を解放させるというのが望ましいことから,④に記載しましたとおり,相手方及び子と接触して,説得できるということも権限として認める必要があるのではないかと考えられます。   他方,してはならないこととしては,⑤に記載しましたように,子に対して有形力を行使することは相当ではないということになろうかと思います。そのため,(注)にも記載しておりますが,子自身に有形力を行使せざるを得ない場合には,実施行為者の判断で執行不能とせざるを得ないのではないかと考えられます。   また,⑥に記載しましたように,相手方が子を抱えて離さないとか,子自身が相手方と離れないなど,無理に引き離すと子の心身に悪影響を与えるおそれがあるような場合には相手方に有形力を行使することができず,この場合も実施行為者の判断で執行不能とせざるを得ないということになるのではないかと思われます。   これに対し返還実施者の権限ですが,まずは,①に記載したとおり,子を移動させ,飛行機に乗せるなど,返還のために必要な行為を行うことができます。   そして,②記載のとおり,実施行為の間,子を監護することができることになるかと思います。   さらに,これは返還行為そのものではありませんが,後に返還を行うものとして解放実施の際にも一切の権限がないということにはせずに,場合によっては相当な方法で相手方や子と接触して説得できるものとすることが考えられます。   続いて,本文(3)の中央当局ですが,代替執行類似執行の実施に当たっては,返還実施者が申立人以外の者で飛行機に乗せるところまでしか立ち会うことができない場合,その後,子が安全に入国でき,しかるべき人に迎えに来てもらうことができる状況を確保しなければならず,この点において,子の安全な返還について条約上責務を負っている中央当局間の連絡調整が不可欠であると言えます。   また,申立人が実施できないような事案でなくても,返還行為の実施時において子の安全確保のために中央当局が立ち会うものとするのが望ましく,また,解放行為実施時においても,ここが最も緊張を要する場面であることからすれば,たとえ実施者を公的機関にしても,不測の事態を避けるために更に中央当局に立会いを求め,その補助を活用できるようにすることが相当であると言えます。そこで,中央当局が立ち会うなど何らかの方法によって関与して執行を補助することができるのが相当ではないかと考えております。   最後に,本文(4)の「作為の実施方法」です。まず,具体的な実施に当たって子の安全な返還を実現するためには,いつ,どこで行うのか,どのような点に気を付けるべきなのか,公的施設に監護できる状態で実施できそうか,移動手段や宿泊施設が確保できているか等の種々の調整が必要になりますが,このようなことは授権決定時に詳細を詰めるというよりも,授権決定後の打ち合わせで話し合って決めるべきことであると言えます。そこで,運用面の問題ではありますが,準備行為のイメージについても認識を共有すべく御議論いただければと思っております。   次に,実際の執行に当たっては,どこで解放実施行為を行うものとするかという執行場所が問題となります。これは国内事案としての子の引渡しの執行においても議論されている問題だと思いますが,学校や公道等で行うことには第三者を巻き込むおそれがある,衆人環視の下で行うことになってプライバシーの観点からも問題があると考えられます。そこで,(4)のイに記載しておりますように,原則としては相手方宅で行うものとするのが相当であると考えております。また,厳密には執行場所そのものの問題とは限りませんが,相手方又はその補助者の直接の監護下にない子について,例えば学校等の場所で返還を実施できるのかという問題もあり,これは強制執行は相手方に断って行うものではないと言えば,相手方の直接の監護下になくても執行できそうではありますが,手段の相当性という観点からは子をさらうような方法で行うことには問題があるのではないか。相手方に何らの言葉も残すことができないとするのは子にとって酷ではないか。また,相手方を説得して子を解放させるという可能性を奪ってしまうのではないかと考えられまして,相当ではないと思われます。このような観点から,原則として相手方又はその補助者が直接子を監護している場合に執行を行うことができるとするのが相当であると考えます。   ウの執行の終了時期については,前回の部会においても御説明いたしましたが,常居所地国に向かう飛行機に乗せるなどし,返還に必要な行為を終了させた時点で執行が終了するものと考えております。   以上になります。 ○髙橋部会長 ここで休憩にいたします。           (休     憩) ○髙橋部会長 再開いたします。   「4 子の返還を命ずる裁判の実現方法」につきまして,前回以来の代替執行類似執行という実施方法を考えておりますが,どこからでも御協議をお願いいたします。磯谷幹事。 ○磯谷幹事 理論的な,と言いますか,全体的なところはさておき,私が一番驚いたのは14ページの実施場所のところなのです。基本的に相手方の住所地でかつ基本的には相手方がいるところで子どもの執行をするという枠になっているわけですが,これは逆にトラブルを招いているような感じもいたしますし,また有形力の行使はしないという点からすると,むしろ実際に子どもを引き離すことは最初から諦めているのではないかとも思われるのですね。   私は児童相談所の立場でいろいろと活動しておりますけれども,通常,子どもを一時保護する場合はなるべく修羅場にならないように,例えば学校や保育園,幼稚園とか,病院であるとか,外のところで子どもの身柄を確保した上で親に連絡をして,こうこうこういう次第で保護させていただきました,御説明いたしますというふうな形でやっているのですね。そうでないと,子ども自身も親が大騒ぎするようなところに直面することになりますので,それは避けるべきではないかと思いました。ここのところが一番違和感があったところでございます。 ○髙橋部会長 事務当局の立案の意図としてはということですが。 ○佐藤関係官 事務当局の整理といたしましては,当然,議論することは予定しておりましたけれども,取りあえずのところとしては,現在の子の引渡しの執行に関する文献等を参考にいたしまして,執行場所については,公道とか学校等で行うことについては,重複になりますけれども,プライバシーの観点とか,第三者を巻き込むおそれ等から,外ではないのではないかという議論をされておりますので,こちらのほうの整理に沿って整理してみたところでございます。 ○髙橋部会長 任意にやる分には,執行の協定みたいなものができて,ということはもちろん大歓迎なのですね,中央当局が関与して。親のいないところでこっそりとか,遊園地でこっそりとか,「しかし」という言葉の後なのですが。   朝倉幹事。 ○朝倉幹事 今,事務当局からもお話がありましたが,国内で子の引渡しの強制執行をするときには,債務者宅で行うのが多数でございます。公道や施設でということは基本的には避けられていると思います。なぜかと言いますと,公道で,例えば小学生の子の下校時に,執行官が,中年の男性の場合が多いわけですが,いきなり知らないおじさんが寄ってきて「一緒に行こうよ」というのは子どもからすれば非常に怖いし,その場で「嫌だ」と強く抵抗されることも実際問題としてはあるようでございまして,もろもろのことを考えて,やらないわけではないのですけれども,基本的には例外的な場合にとどまり,しかもかなり慎重な対応が必要だと聞いております。   施設の関係で言いますと,施設が監護しておりますので,施設の長の同意を得てという辺りが非常に難しいところもあります。また,教室でという辺りもどうかというような話もありまして,事務当局の御説明と合致しますけれども,基本的にはこれも避けられているのが現実だろうと思います。実際問題として,昔はともかく最近はなかなか施設の長が同意してくれないということもあって,やろうとしても中でできないということが多いようでございます。   それが今の磯谷幹事がおっしゃられたことについての参考のお話ですが,全体を通してコメントしてもよろしゅうございますか。 ○髙橋部会長 はい,どうぞ。 ○朝倉幹事 前回まで私は,TPが連れて帰るのが基本であって,できるだけそういう気持ちにさせるという意味での間接強制で,必要であればそれをハーグの事案に限って強化していくということもあり得る,又は刑罰で心理的に圧力を加えるということもあるのではないか,それが正しい方向ではないかと申し上げてきたところでございます。その考えは今も変わっていないのですけれども,そういう意味で代替執行類似執行について違和感はなおあるのですが。とは言え,今まで申し上げてきたようなことを,先ほどおっしゃられたように,間接強制を前置にしてそういうことをやった上で,どうしても駄目な場合に,子どもに配慮して何らかの代替執行類似執行のようなものを入れるということについて,組み方次第によってはあり得ないわけではないだろうという前回の御議論を踏まえますと,組み方としては,組むとすれば基本的な方向性はこのようなことになるのではないかと思うところでございます。   そういう意味で,しつこいようですが,間接強制をきちんと前置していただいて,その上でどうしても駄目なものについてこれをやっていただくということと,それをやるとしたら,現場での修羅場を避けるために,授権を受けた返還実施者と解放実施者が,何ができて何ができないのかといった辺り,放っておくと現場でもめますので,これはきちんと法定をしていただきたいと思うところでございます。 ○大谷委員 執行場所のことで質問なのですけれども,先ほどの部会長の御説明,それから,朝倉幹事の御説明を聴きましても,保育園や学校については,その長の同意があればそれはできると,そういう理解でよろしいのでしょうか。先ほど任意であればできる,あるいは,実際には最近は同意されないのでできないという御説明があったのですが。 ○佐藤関係官 そういう場所で行うために最低限同意が必要であるということは,そうなってくるのかなと思うのですけれども,それに加えて,先ほどの整理のとおり,そもそも相当でないのではないかという観点から,制約を掛けたほうがいいのではないかと考えております。 ○大谷委員 公道の場合で,先ほどおじさんがいきなり下校の時にというシチュエーションを説明されるとそうかなという気もしたのですけれども,学校とか保育園について,それが第三者を巻き込むおそれやプライバシー,衆人環視ということなのですけれども,同意があって,適切なやり方が学校や保育園でも配慮していただけるということがあるのであれば,必ずしも教室に乗り込んでいってとかいうようなことではない可能性もあり,それを全て排除してしまうのはいかがかなと私は思います。 ○髙橋部会長 排除は原則としてですが,それがどれくらいの強さを持つかですね。   朝倉幹事。 ○朝倉幹事 基本的に子の確保をしてくるだけであれば施設でもというのは分かるのですけれども,外国まで連れて行くとなりますと,パスポートを持ってこなければいけないとか,着替えを持ってこなければいけないとか,勉強している道具を持ってこなければいけないとか,大事なぬいぐるみを持ってこなければいけないとかいろいろありまして,もろもろ考えても原則として相手方というか,その子どもが住んでいるところで行うのが相当というのは事務当局のおっしゃるとおりなのではないかと。国内事案以上に国際的な事案であればそうなのではないかと思います。   事務当局の案も基本的には例外的にといって,絶対やってはいけないとは書いてないので,部会長がおっしゃられたように,そこは基本的な考え方自体は特に異論がないのではないかと私は見ていて思ったところでございます。もちろん,磯谷幹事がおっしゃられたように,ものすごい修羅場になって子どもに危害を加えられてしまうという特殊な条件があってそういうことが事前に分かっていた場合にどうかという話になれば,それはまた授権の際に執行裁判所が考えることかもしれませんが。感想としてはそう思いました。 ○大谷委員 しつこくてすみません。どちらが原則かという話かもしれませんが,安全な子どもの返還の実現をするのにどこが適切かという観点から,事案に応じて決められるべきであって,相手方の債務者宅が原則形であるとまで言う必要はない,事案ごとなのかなと思います。パスポートの問題とかいろいろありますけれども,そこはそれこそ子どもの返還のために,確保と言ってはおかしいのですけれども,できれば,あとは旅券等の関係について中央当局とかその国の大使館とか,いろいろなところが協力すると。それから,子どもの持ち物等も,準備できてきちんと整ってというのがもちろん望ましいのですけれども,そういうことができる状態なのであれば,それまでに十分説得等で話合いができた可能性があるのが,できないという場面でのことですから,それを期待してというか,そこを子どものためにしなくてはいけないということまで考え出してしまうとなかなか難しいのではないかなと思います。   他の点でよろしいでしょうか。間接強制を前置するかということなのですけれども,考え方としては,最初からいきなりということではなくて,できるだけソフトな方法をということの考え方に賛成です。その上で,完全に前置というのが申立要件になってしまうということですと,間接強制の申立てをして決定を得ても余り功を奏しないだろうなということが,事案から,あるいは,それまでの債務者の言動等から推測されるような場合も,これは必ずしなくてはいけないと,そこはかなり厳格な御提案なのでしょうかと。場合によっては,そうすることによって更に時間が掛かってしまって,子どもがその間どこにいるか分からなくなるということが懸念されるような,つまり,質問をまとめますと,考え方として賛成なのですが,全ての場合に厳格な要件とまでしなくてはいけないのかということについて質問です。 ○佐藤関係官 ここについてはまだ固まった提案ではありません。できるだけソフトにというところは固まったものではあるのですけれども,一つの例としては間接強制を必ず置くということが考えられるのではないかという提案でして,それ以外のものについてもオープンにはしているという状況であります。やるとすれば,今提案しているものは,必ず間接強制を踏んだ上で行うというのが一つの方策ではないかというものであります。 ○棚村委員 執行のところでは大分工夫をしていただいたというふうに感じられるのですが,一点,解放実施者の権限のところで,相手方が抵抗した場合にはその排除のために有形力を行使できるとされています。民事執行法にもあるように,場合によっては警察の援助を求められるというふうになっているのですね。   私,ヨーロッパ人権裁判所のモムソー・アンド・ワシントンVSフランスという,アメリカからフランスに母親が子どもを連れ帰って,返還命令が出てそれを執行するという場合,フランスの裁判所に申立てをされたので,検察官がそこに出向いて,警察の協力を得て,幾ら返還命令に応じるように言っても応じないものですから,直接強制的な形でいったのですね。そうしたら,おじいちゃんおばあちゃん,それから,村の近くの人たちもみんな子どもの周りに人間の鎖みたいな状態になって,それが後で子どもの非常に大きな傷になったということでまた一つ争点になったというケースがありました。   そういう意味で,命令に従わない場合にはある程度実力でやらざるを得ないというところはあると思うのですけれども,気を付けていかないと子どもや当事者の心に大きな傷を残す。海外の事例を見ていても,警察力を使った場合にそれが功を奏して任意の履行につながればいいのですけれども,徹底して抵抗したとき,その段階では執行不能みたいな状態に陥ったのですけれども,その辺りは少し気を付けていただいて。先ほど磯谷幹事が言った趣旨というのは正にそういうところで,目の前で,自宅であろうがどこであろうがと思うのですけれども,親のいるようなところで,親がそういうような形で有形力を行使されて逮捕されるというようなことを見せないような配慮はすべきだろうし,している例が多いというふうに思いました。そういう意味では,枠組みについては,私自身は大分工夫をしていただいているなと,準備とかいろいろな配慮をされていると思いました。 ○磯谷幹事 執行場所についてはなお十分に納得できておりません。子どもについて執行するという場面では発想を変えていく必要があるのではないかと思います。もちろん,現実に施設や学校などの同意が取れないという場合はやむを得ないのかもしれませんが,相手方の家で執行するのが原則という考え方は必ずしも取る必要はないのではないかと思います。   加えて,朝倉幹事から先ほど中年のおじさんの執行官のお話が出まして,そこのイメージなのですけれども,これもまたそのままでいいのかというところも問いたいと思うのですね。つまり,子どもに関する執行をやる場合に,執行官が今のままで本当にいいのか。例えば福祉との連携といったことは必要がないのかということ。加えて,執行官について,このハーグに関して裁判所は管轄を絞って専門化するというお話でしたが,執行官についてはどういうふうにお考えなのか,この辺りを御質問したいと思います。 ○佐藤関係官 最後のところですけれども,執行官については,今のところは職務執行区域が法律で決まっているということがありますので,執行場所,実施場所の所在する地方裁判所に所属する執行官ということで現在のところは整理しております。そのため特別の執行官かと言われれば,あとは地方裁判所の体制次第ということになるのかなと,今のところは整理しております。 ○朝倉幹事 執行官がこのままでいいのかということについては,ハーグにかかわらず,私どもも常に考えているところでございます。それはそれとして,年間のハーグの件数を考えていただいたときに,一人の執行官が一生に当たる確率は何回くらいあるのかと。そのときに備えてそれぞれの全員の執行官が子の福祉のプロになるということは,そもそもそのような教育も受けておりませんので,なかなか難しいだろうと,それは冒頭から私は申し上げているところです。   そこのところはいかにやろうとも,さすがに児童福祉施設のようなプロにすることは,なかなか難しいだろうと思います。警察の少年事件の担当者みたいにそればかりやるような,それだけの事件数はないものですから,現実論としてはなかなか難しいだろうと思います。御指摘はそのとおりだと思いますので,それは私どもとしてもいろいろ考えていきますが,とは言え実現するのはなかなか難しいので,ハードルが高いというところかと思います。   それから,執行できる場所については,今,事務当局がおっしゃられたとおりで,しかもその場所に行くとなりますと,現地のことをよく知らなければいけません。東京の執行官がいきなり徳島の山の中へ行って,どこの家がどうなっていてという辺りが分からないところで行く,旅行先で執行するようなものですので,かなり難しいのではないか。もちろん現地の警察とも連携を取ってやらなければいけませんので,発令裁判所とはちょっと違う難しさがあるのかなと思います。御指摘としては非常に興味深い点だと思いますが。 ○相原委員 返還実施者の選任のところなのですが,原則として第一次的には申立人が返還実施者となると考えるのが相当であると,これはそのとおりかなと理解しております。その次ですが,12ページに記載しているところで,申立人に問題がある,問題というのは来れないような事案等についても認めないという考え方もあり得るが,ここでの御提案としては,返還実施者について類型的に整理し,限定するのが望ましいという中で,具体的には親族,これは申立人の親族を考えているという理解でよろしいでしょうか。   その後,申立人代理人等が考えられるという御提案があります。そうすると,これは日本にいるレフト・ビハインド・ペアレントの代理人が返還実施者となり,そして解放実施者としては下に書かれている,先ほどから出ています執行官,この組合せが想定されているということなのでしょうか。今の流れからしまして,執行官がどこまで関われるのかということと,プラス申立人の代理人がほとんど面識もない,申立人とか申立人の親族ならば分かるのですけれども,申立人の代理人等が,これは申立人としての法律的な問題に関してはいいのかなと思いつつ,現実になったときにどのように機能するのかというのが。賛成でも反対でもなくて,もし代理人として振られたときに,特に申立人からこれをしろと言われたときに,どの程度何が具体的にできるかについては,なかなかイメージが湧きませんでしたので,御質問させていただいたのです。この立て付けの申立てがあったら,裁判所としては特段却下することなく認める方向に考えていらっしゃるということでよろしいのですか。 ○佐藤関係官 最後の部分については,そこまでのものとはまだ考えておりませんけれども,申立人代理人と記載しましたのは,想定していたのは国内で担当した申立人の代理人,事件について深く関与していて,基本的に弁護士ですので,信頼ができる方ということで,一つ類型的には考えられるのではないかと。ただ,御指摘の中に含まれているのかと思いますけれども,申立人代理人としてではなく,何らか独自の立場でこういうものになるというのは,代理人の概念からは多少そぐわない部分もあるかもしれません。 ○相原委員 その関連で。その流れで,裁判所,具体例として親族や申立人代理人というのが考えられるという御提示なのですが,そのあとに,「返還実施者の選任の拒否について審理・判断し,相当でない場合には申立てを却下するものとするのが相当であると考えられる」ということなのですが,逆にどういう基準で返還実施者の選任の拒否を判断されるのか,そこら辺のところは具体例みたいなものをお考えでしょうか。 ○佐藤関係官 基本的な理念は,子を適切に監護して確実に返還できるかどうかというところなのですけれども,これを実質的に個々に判断していくというのはなかなか難しいものがありますので,類型的にはまず申立人が考えられると。その他のものとして,これに準ずるような者が類型的に整理できるのではないかということで御提案したのがこちらになります。基本的に判断の中身が,基本的な理念は先ほどのとおりなのですけれども,いろいろなことを勘案して,実質的に判断するというところまでは想定しないという整理で今のところは検討しております。 ○犬伏委員 費用の点で。9ページの説明を見ますと,代替執行の費用について詳しくなかったものですから,ここの説明によりますと,代替執行類似ですので,このとおりかどうか分からないのですが,債務者の費用をもって実現することになるということで,執行官及び解放実施者,例えば申立人の弁護士さんが解放実施者になれば,その解放実施者が要する費用も全て債務者に予納させるということになるのですか。 ○佐藤関係官 これは予納ではありませんで,手続の中で,ちょっと正式な名前は忘れてしまいましたけれども,債務者に対して執行費用を支払いなさいという命令を先行して出しまして,任意に支払ってもらえなければ執行して先に取得すると,その費用を使うというのが法律の基本的な考え方であります。実際に取れるかどうかは別としてというところです。 ○大谷委員 基本的なところが分からなくなってしまったので,御説明していただいたことの繰り返しになったら恐縮ですが。従前から,間接強制だけではない,ハーグ特有の手続を考えていただけないかというお願いを申し上げていて,丁寧に細かく考えていただいたと思っております。その上で,解放実施者と返還実施者の関係及びその権限なのですが,先ほどの男性の執行官が行ってという話との関係でまた分からなくなってしまったのですけれども,私の理解では,解放実施というのは有形力を行使することもあるかもしれない,また,執行不能の判断を現場でする必要もあるかもしれないので,公的機関である執行官が望ましいのではないかと。   考えていらっしゃる仕組みとしては,解放実施という場面と返還実施という場面が二段階になっているように理解したのですが,他方で返還実施者の権限の中で,9ページの上のほうのイの③で,「解放実施の際,子に悪影響を与えない相当な方法により,子や相手方と接触し,説得できるものとする。」ということを案として挙げられていることからすると,返還実施者が適切な場合には現場に一緒に行くということもお考えなのかなと読みました。まずその読み方が正しいのかどうかということと,正しい場合,子どもが連れ去りから余り時間がたっていなくて,申立人との関係が非常に良好な場合を想定しますと,申立人が近くにいて子どもに接触するということが,子どもにとっても一番安心感があるかもしれない場合というのがありますよね。何かあった場合に解放実施者が控えてはいるけれども,基本的に子どもに直接働きかけて,申立人のところに子どもが来るようであれば引き取るということも,この執行のスキームとしてお考えなのかどうかということを確認させてください。   三点目に,中央当局の関わりなのですけれども,中央当局が立ち会うと何らかの形で関与するというのが,具体的にどういう方だとか,その位置付けにもよるのですけれども,中央当局の中に,将来的には,子どものことについて専門的な見地を持ったソーシャルワーカーの方とかがいらっしゃれば理想的だとは思っています。そういう方が例えば,解放実施なのか返還実施なのか分からないのですけれども,その援助者的な形でその場で働きかけるということもお考えなのか。これは返還実施,解放実施とはちょっと別の,立会いというか,どういう位置付けになっているのか,事務局の御提案としてどういうふうにお考えなのかということを教えていただければと思います。 ○佐藤関係官 御質問いただいた一点目の申立人が解放実施の現場に立ち会うということもあり得るのかということについては,事案によってあり得るのではないかと考えております。なので,事案によっては背後に控えていたほうがいいという場合もあるでしょうし,事案によっては現場に一緒に立ち会って行うほうがいいと。   次の質問とも関連するかと思いますけれども,二番目の御質問についても,事案に応じて解放実施者が実力を行使するとか前に出ていくというのではなくて,むしろ申立人にそういうことをしてもらうほうがいい場合もあり得るかもしれませんので,今の段階ではいろいろな場合に対応できるということを広く想定して,その場合にはこのような権限などを与えておくということが考えられるのではないかという整理であります。もし反論等があればまた整理することになるかと思います。   三番目の中央当局ですけれども,こちらは,先ほど説明いたしました,申立人だけが連れて行く場面であっても,一人にさせてしまうことは相当ではないのではないかという観点とか,何らか補助者が必要なのではないかという観点から,第三者的な補助してくれる機関がいないかどうかということで中央当局というものが出てきたところでありますけれども,具体的にどのような人にどこまでのことをしていただけるのかというのは中央当局の体制にもよるかと思いますし,まだここで固まったことを申し上げられる状況にはないというところであります。 ○辻阪幹事 今,中央当局の体制ということで御指摘がありましたので,一言,お話いたしますと,今大谷委員がおっしゃったように,中央当局で将来的に子どものことについてソーシャルワーカー的な人がいれば理想的ということでございましたが,外務省の職員がそのような場に出ていって補助することは想定しにくいので,できれば中央当局に外部からソーシャルワーカーなどの人を雇って,そういう方に支援してもらうことも一つの案として現在考えておりますが,いかんせん雇うためにはお金が必要だったり,予算要求の関係もあります。どういう体制で何ができるのかということについて,今後更に検討していきたいと思っております。 ○山本(和)委員 二点ですが,一つは8ページのウの対象となる子の(ア)の年齢の問題です。私はこの補足説明に書かれてあることも分かるのですけれども,ある程度高い年代の子であってもこのやり方の執行になじむ場合もあり得るのではないかという印象を持っております。必ずしも申立人,相手方,どちらのところにいたいというような鮮明な意思も持っていなくて,相手方のいないところで申立人あるいは解放実施者から説得を受けた場合には,それに応じてもいいというふうに子どもが思って付いていく場合はあり得るような感じがいたしまして。そうであるとすればいずれにしろ子ども自身については有形力行使はできないわけですし,子の心身に悪影響を与えると判断されれば執行不能になるわけですので,ある程度上の年代の子でも,一般的には上になれば難しくなるという傾向にあるのだろうということは理解できますけれども,年齢で明確に区切る必要まではないのではないかと思いますので,何歳以上はできないというような形にはしなくてもよいのではないかというのが意見です。   それから,もう一点は,半分質問なのですけれども,先ほど犬伏委員が言われた費用のことです。基本的には連れて帰る飛行機に乗せる費用,これは子どもの分は執行実施の必要な費用ということで整理されて,相手方から取れるということかなと思うのですけれども,申立人あるいは親族等が返還実施者になるような場合に,返還実施者の飛行機代とか,帰る時の付いていく飛行機代とか,来る時の費用も,返還実施者が通常海外に居住しているような場合には日本に来る費用も問題になり得るかと思うのですが,その辺りは解釈論なのかもしれませんけれども,現時点で何かお考えがあれば御教示いただきたいと思います。 ○佐藤関係官 その辺りは正に解釈論になるかと思いますので,今後整理していかなければならないと思っております。現時点ではどちらもあり得るのかというところであります。 ○山本(和)委員 子どもの部分については,それはということですね。 ○佐藤関係官 子どもの旅費については当然に必要な費用と考えておりますが,他の……。 ○山本(和)委員 飛行機に乗っている部分は執行ではないわけですよね。 ○佐藤関係官 ただ乗せるのに必要になりますので。 ○山本(和)委員 乗せるのに席を確保するために航空のチケットを買わないといけないから,それが必要な費用だという整理ですね。 ○佐藤関係官 はい,そうですね。そこまでは必要と言えると思います。 ○山本(和)委員 分かりました。 ○髙橋部会長 では,織田幹事,先にどうぞ。 ○織田幹事 今の点に関連して。ここで直接議論するにはなじまないかもしれないのですけれども,この条約を実施するに当たっての費用については確か条約に規定があって,返還に関する費用と,第26条の条文が今ちょっとはっきりしていないのですが,第26条第2項に費用について規定がありますが,それに照らして今一度整理をしていただきたいということ。   それからもう一つ,ちょっと話が飛んで申し訳ありません。翻訳の点と費用については留保も可能なので,その辺も,今日でなくてもちろん結構ですので,併せて御検討いただければ。ここで検討するのか,あるいは,外務省,中央当局との絡みもあるので,どこで検討すべきなのかよく分かりませんけれども,それを一つお願いしたいと思います。   費用についてはこれで結構です。  次に,ここで言う執行不能の意味について教えていただきたいのですが,一度,親が子どもを抱えてしまって執行不能になりましたというときには,その一回きりで終わりということになるのか,それとももう一度仕切り直しをして,再度の執行が可能となるのか,その点について教えていただきたいと思います。   それからもう一つ,これも,執行不能とは違いますけれども,例えば飛行機に乗せるというときに,日本に登録してある飛行機に乗せるのとそうではない飛行機とで,執行の方法に何か違いが出てくるのか。それがちょっと気になったものですから,併せて教えていただければと思います。 ○佐藤関係官 今頂いた三点ですけれども,まず最初の点は,第26条の全く費用を掛けてはいけないという点については留保することにしておりますので,何らの費用も取ってはいけないということではないのですけれども,代替執行について何らかの金銭負担が生ずるとすれば,これがこの条約に反することがないように気を付けなければいけないという点は留意して検討していきたいと思います。   次の執行不能の規律ですけれども,法律上は授権決定が出ている限りは一度の執行不能をもって終了とするのではなくて,再度実施することは可能となっております。ただ,これはまた議論次第ですけれども,事柄の性質上何らか区切りを付けなければいけないのではないかという御意見もあるかと思いますので,この点も御意見を頂ければと思います。   次に,最後の点ですけれども,余り考えたことがなかったのですが,違いはないのではないかと思っているのですけれども,何か見落としている点があれば御教示いただければと思います。 ○髙橋部会長 では,宮城幹事。 ○宮城幹事 それでは何点か。先ほど棚村委員からございましたように,我々警察が出張っていくとなると,そのように荒れるということで,どの程度関わるかということについて慎重な検討が要るのだろうと思います。感想としてはやり過ぎなのかなという感じはします。元々民事執行法のこの規定というのは,例えば暴力団が建物を占拠したりということで,強い抵抗とか広範囲な抵抗がある場合を想定しているものですので,先ほど言われた海外の例ですね,村中を挙げて来られるというのは当たるかもしれませんけれども,実際日本であるのかなという感じはちょっといたします。   それとは別に現場で困るなというのが,8ページのアの⑤,⑥のような規定があります。警察の援助,恐らくこれは民事執行法の警察上の援助と同じかと思いますけれども,ほとんどの場面で民事執行法の執行官の権能と並行して,いろいろ場所が荒れますと警察官職務執行法上の権限を我々は行使するという局面があります。例えば,警職法の第4条には,人の生命とか身体に危険があった場合について,必要な措置を命じる,又は自ら措置をとることができるとありますが,これはかなりの強制権限です。それから,場合によっては警職法第5条で犯罪の予防とか制止と。そうすると,変な話ですけれども,⑤,⑥で,執行官のほうは途中で止まる,そして執行官の下で動く警察官の権限はその枠内に入っている。   その一方で,同じ警察官が警察官職務執行法ではやらざるを得ない場合がある。実務上義務の衝突が生じるのではないか。例えば親が子どもを離さない。そうするとこの⑥に該当します。ところが,その親が,例えばマンションにいたとします。ベランダに行く。これは自殺のおそれがあると我々は止めるんです。あるいは,親がナイフに手を出した,止めます。親に手を掛けます,子どもに手を掛けます。これは執行官の世界ではないのですね。ただ,問題が後々裁判になった時にどっちでやったんだと。一人の人間がやったのでもいいのですけれども,法律上こういうところをきちんと整理されないと,現場でなかなか動きづらいと思うのです。   先ほど執行官の立場から言われた幅広い意味での協力となれば,警察は警察の判断で動きましたということになるわけですが,この中に「警察も援助する」と。この枠内であるとやれることに限りが出てくる。どうもそこで余りいいことが起きそうにない。一般的に協力することはもちろん大事ですし,実際にやるときは打合せをしてやると思うのですが,この規定を置き,民事執行法の通常の場合のように,まずお互いに目指す方向が違わないときは多分大丈夫なのですが,この場合のように子どもに配慮してある段階でやめる,止めるということがあったときに,それに対して我々はそれとは別の観点から,正に周辺の人の生命・身体,あるいは,犯罪それ自体を抑止するために動かざるを得ないと。そうすると,ここのところの整理を上手に付けないとちょっと難しいのではないか。ですので,「警察上の援助」とはっきり書くのか,それとも,⑤,⑥についての書き方を工夫するのか。どちらかでないと現場としてはちょっと受け止めづらいなという感じがありますので,申し上げておきます。 ○朝倉幹事 今,宮城幹事がおっしゃられたこと,現場できちんと整理しておかなければいけないというのはそのとおりだと思います。ただ,一方で,現実でも現在日本の国内での執行においても,警察上の援助というのは規定があって,それに基づいて援助をして,どのくらい積極的にやっていただいているかというのは県警によって大分違うようですが,そこはやっていただいています。もちろん国内の問題についてはきちんとした規定がありませんので,もっと問題が大きいのですけれども,やはり子どもに悪影響のおそれがある場合には慎重にというのは国内であってもそうだと思うのですね。そのときに,周りの人の生命・身体に影響があるので警職法も問題になるというのは,問題状況は余り変わらないのではないかと思います。そういう意味では,整理が必要だというのはおっしゃるとおりだと思いますが,国内でもやっていただいていることは,ハーグ事案になるともっと現場は荒れる可能性がありますので,整理はきちんとしつつ,すべき援助はしていただけると有り難いなと思います。 ○宮城幹事 協力をしないと言っているのではなくて,要するに⑤,⑥のような規定があると,非常に現場がちゅうちょいたしますと。これはまだ新しい仕組みですから。この⑤,⑥がなければ前のとおりですということだと思うのです。ただ,この⑤,⑥のような配慮規定は,別の観点からしてそれぞれの方が譲れない線,あるいは,事務当局も譲れない線だと思うのです。そうすると,これまでのようなやり方で大丈夫なのか。警察職員が現場で混乱しないか,あるいは,彼らを国家賠償事件の当事者にさせてしまわないかと,そういったところについても整理がないとなかなか力も入りませんよと。こういったことを申し上げているので,決して日頃の協力関係を維持しないということでございません。 ○道垣内委員 遅れて参りまして説明を伺っていないこと,記憶力が悪くて今まで決まったことも忘れがちであること,更に,民事執行法についての理解が浅いことという三重苦の下で伺うのですけれども,代替執行における執行の幅というか,余り適切な言葉を思い付かないのですが,そういったものについて一点お聞きしたいと思います。すなわち,この執行のプロセスはかなり長いわけですね。子を抱えている親が離して,それを空港なら空港に連れていって,飛行機に乗せて,それで更に,という感じで続いていくわけです。そのとき,返還義務者は,全てを自分で履行するか,全く履行しないか,という二者択一の対応を取るわけではなく,例えば解放自体には同意はするが,自分で連れて行くことまではしないといったわけで,どこまでを任意に履行するかはいろいろだろうと思います。   そのときに,返還実施者と解放実施者を選任して,それぞれの権限を決めるということで常に対応できるのか。どこまでは債務者に任意に履行させ,どこから先は代替執行を行うといったことは,裁判の実現方法として柔軟に決めることができるのか。先ほどの三重苦の三重目になるのですけれども,一般の民事執行においてどう考えられているのかがよく分からないのですから伺うのですけれども,子を抱えて離さないという親だけを念頭に置いて,全部を代替執行で行うという手続の組み方ができない場合を想定して,かなり柔軟に対応するということは規定し得るのかといったことについて御説明を頂ければと思います。 ○佐藤関係官 一つには,解放実施というものはほとんど観念ができず,返還行為だけの場合,事案もあり得るのではないかという問題意識ですとか,解放実施の際にはその時点では特段問題がないけれども,返還実施の際に何か問題が起こるということもあり得るのではないかとか,そのいろいろなパターンがあり得るのではないかという問題意識でしょうか。 ○道垣内委員 そうです。常に解放実施者は執行官を選任し,返還実施者は執行官からすぐに受け取って,後のプロセスを全部行う人として常に想定できるのかというのがちょっと分からなかったものですから。 ○佐藤関係官 今のところその典型的な例を想定して整理しておりますけれども,具体的にこういう場合にはこの仕組みというのはちょっと不都合なのではないか,もう少し柔軟にしたほうがいいのではないかという事案が積み重なって整理ができましたら,それに対応した形で検討していかなければならないとは思います。現在のところは典型例を想定しまして,比較的パターン化したものを提案しております。ただ,全く柔軟性がないというものではないと思っております。 ○金子幹事 制度として組む場合に,事案によっていろいろなきめ細かい配慮を考えますと,授権決定をする裁判のところで相当なきめ細かな審理が必要になってくると思うのですね。これが時間的な制約とか,あるいは,既に本案の審理をしているという下で,それになじむのかという問題もあると思います。それから,部分的に協力を受けるということと,代替執行という広い意味での強制執行の仕組みを導入するということは必ずしも矛盾しないように思います。   例えば現場に行ったときに,解放実施者の手を煩わせることなく任意に解放するという場面であっても,解放実施者を指定してこの手続に乗せるということをしてはいけないという理屈にはならないと思います。したがって,一般的にはこういう形で授権決定の手続に余り負担を掛けない形で組んで,あとは執行の場面でやりやすさ,あるいは,任意に応じてくれるということをこの中に含む形で想定すればいいのではないかと思っております。 ○髙橋部会長 何をやるかは書いていないのですが,実施準備行為というところできちんと作戦を立てなければできませんから。このときに相手方が任意に手放すと一旦口にしているので,それを信用して執行官を連れて行かないとなるとちょっと危ないですね。ですから,実際には執行官は何もやることはないのかもしれませんけれども,行くことは行くのでしょう。   今,金子幹事も言いましたけれども,そうすると先ほど来の執行官を使うと多少の費用は掛かりますから,初めから執行官を外すことを考えたほうがいいのではないかということは,それはそのとおりの面があるのですが,授権決定の段階でそれをやるというのもまた難しいので,授権決定の段階はスムーズに,そして,その後で中央当局がどこまで関与してくれるかはまた別問題ですが,実施準備行為を入念にやる過程で多くの問題は,先ほどの警察力もそこの中に入るかもしれませんね,いい方向に知恵を働かせて解決するということだろうと思います。   だからこそ,そこの中で執行不能の判断もありますから,やはり執行官は入れておかなければいけないのかなという感じを持ちますが。これは一般の代替執行とちょっと違いますのでね。飽くまで類似なのですね。土砂を取り除くというようなこととは違うということです。民事執行一般がどうやっているかということから簡単には類推できないことは,道垣内委員も私も同じでございます。   他にいかがでしょうか。山本克己委員。 ○山本(克)委員 今の道垣内さんの御質問については,部会長のおっしゃったことに私も同感で,大は小を兼ねますので,大で動くというのが一番適切なのだろうと思います。それとは別に,間接強制のほうなのですが,間接強制で何をしなければいけないのかということを特定せずに,例えば「アメリカ合衆国に子を連れて行け」という主文があって,それに反したら間接強制金を払わせるというやり方は,義務の内容が余りにも抽象的ででか過ぎるのではないのかなという気がしなくはないので,今日のテーマとはちょっと違うのですが,間接強制をするのであれば,例えばいついつに子を申立人にどこどこで渡せとか,あるいは,申立人が適切でなければ,実施者になるような人に渡せというような形でないと,間接強制金の発生がちょっと判断が難しくなってくるのではないか。例えば「お金が無くてアメリカに行く飛行機代を払えませんという場合どうするのですか」というような話になってきそうな気がしますので,そこも考えていただきたいと思います。   それとともに,今回の手続は必ずしも明確に債務名義作成機関と執行機関を厳格には分けないという建前で,民事執行ではないということは,そういうことだと理解していますので,場合によっては返還命令の段階で,返還を命ずる裁判の中で間接強制金を付加するというようなことも考えていただければと思います。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。   それでは,磯谷幹事。 ○磯谷幹事 実務家ですので,実務のイメージにこだわるところなのですが,相手方と申立人というのはこの執行の中でできる限り会わせないほうが望ましいと思うのですね。一方で,子どもと申立人というのは,特に申立人が一時的でも返還実施者となるような事案であれば,むろんできるだけ早く子どもと申立人を会わせたほうがいいだろうと。そうすると,結局,相手方と子どもが一緒にいるところで執行するというのはやはり無理があるのだろうと私は思います。   それから,イメージとして,例えば明渡しなどでも催告というのですか,正確な文言をちょっと忘れましたが,一度執行官が行って,いついつまでに明け渡してくださいよというのをやっていますけれども,そういったようなことも考えられるのではないか。一回行っておしまいということではないのではないかと思うのですね。例えば一度執行官が行って,一人ではなく中央当局の方とかもうちょっと柔らかい感じの人が一緒に行って,うまくいかなくても,子どもと会って顔を見てというふうなことだと,その後,実際にその子どもを連れてくるというところでも,初めての見たこともない人というのではなく,何のために来ている人かというのは子どもも大体分かるわけですよね。そういった点もあると思います。ですから,きめ細かく,先ほどの場所のところにわたるようですけれども,余り決め打ちしないで,個別案件において戦略を立てて,いろいろな方の協力も得て是非やっていただきたいと思います。 ○村上幹事 最初のほうに戻ってしまうのですが,申立ての要件で,この提案では間接強制前置ということで提案がされていますが,私としては必ずしも間接強制を前置にしなくてもいいのではないかなと考えています。せっかくこのハーグ条約独自の代替執行類似執行という手続をこれだけ丁寧に作っていただいて,授権決定の中でいろいろな作戦を練って,相手方の意見ももちろん聴いて,先ほどいきなりではないという方向で間接強制を前置にするという御説明だったのですけれども,この制度でいく限りはそれほどいきなりという感じもないのかなという感じがしているので,間接強制を掛ければ任意履行を促せるというふうには必ずしもならなくて,逆に相手方が更に絶対帰さないという意思を固くさせてしまうこともあるかもしれないし,時間がそれだけ掛かってしまうということもあると思うので,通常の民事執行法の規定と同じように選択でできるということも考えられるのかなと思っています。   先ほど山本克己委員のお話を聴いていて思ったのですが,間接強制を代替執行類似執行に組み入れてやると,いろいろな執行方法を組み込んでやるということも考えられるかなと。それは思い付きなのですが。必ず前置でやらなければいけないということにこだわらなくてもいいのかなと思うのと,もしその意見が取り入れられず,前置主義を採った場合の質問なのですが,条文の文言をどう書くかにもよると思うのですけれども,間接強制が功を奏しなかったことという意味なのですが,例えば相手方の資力がなくてそもそも強制金を課すことができないというような場合には,代替執行も使えないということになるのか。それとも,取りあえずは間接強制を申し立てて,相手方の資力によって間接強制は不適切となったらという意味も含めるのか,その辺はどうお考えか教えてください。 ○佐藤関係官 前置とした場合に功を奏しなかったというのはどういうものとして考えるかというのは難しい問題があるなとは思っているのですけれども,御指摘いただいたような事案では,お金が無くて間接強制,実際にはほとんど,お金を取るに至らなかったという場合であっても,だからといって代替執行できないということにはならないと思います。ですので,お金を取るというところまでいって初めて功を奏しなかったといえるとは考えないと思います。あとは,お金を取るという手続までしないといけないのかどうかというところは問題になるかもしれません。 ○相原委員 間接強制前置なのか,それとも代替執行類似であれば選択であるのかという御意見が出ているところですが,確かに選択制でもいいのではないかという御意見にもなるほどというところはあるのですが,最初に事務当局の御提案があったときに間接強制だけでは説得をしにくいという意見を申し上げたかと思います。個人的な意見なのですけれども,原則前置にしておいていただいて,事案によって,間接強制が意味がない,又は緊急を要して代替執行類似執行が必要であるというときには,そちらの執行を考えるということにしていただきたいというのが意見でございます。   と言うのは,今の直接強制とか間接強制,それから,代替執行に関しても,日弁連内でもいろいろな意見がございまして,間接強制をしてもまだ駄目なケースに代替執行を採るということはやむを得ないという理解ができるのではないかと思います。これはどちらが優位かということに関しては,価値観になるのかもしれませんけれども,原則間接強制前置,そして,それが功を奏しない若しくは例外的な場合は別に決めるというふうな形が,今の段階では適当なのではないかなと思います。 ○棚村委員 私も執行法のほうはプロでもなければ知識が全くないのですけれども,2003年の担保法等の執行法の改正のときに,履行強制のときに間接強制みたいなものも場合によってはできるのだということで,代替執行とか余り優劣を付けないで,一番ふさわしい方法を多様に採れるのだということで,村上幹事が先ほどおっしゃったように,代替執行類似の執行方法ということで非常に工夫はしていただいているので,一番ふさわしい執行の方法を。先ほど山本委員もおっしゃっていたのもそういうような工夫なのだと思いますけれども,そのようなことでハーグの事案を解決するために一番適切な実現をするための方法という形で,余り前置ということにこだわらなくてもいいのではないかなと思いました。 ○豊澤委員 本来,ハーグの手続というのは,常居所地国に速やかに子どもを戻して,そこで本案についての審理・判断をしてもらうための前提作りをするという作業です。そして,返還命令の主文も,相手方に対して子どもを常居所地国へ返還せよというものだとすると,返還命令が確定した以上は,相手方が任意で,自分も付いて子どもを連れて常居所地国へ帰るというのが一番望ましいと思います。   全くの任意でなくても,間接強制が掛けられて,そのあとにも代替執行類似のものが控えているということから,心理的強制を受けた相手方が,それならば自分が連れて帰ろうということで,子どもを連れて常居所地国に帰るというのが次に望ましい在り方なのだろうと考えられます。そうだとするならば,まずは,任意での履行を期待する,その次に間接強制を掛けて,相手方に自ら連れて帰らせるよう圧力を掛ける,それが駄目なときに代替執行類似のものが出てくるという仕組みが最も条約の趣旨にもかなうのではないかと思います。 ○大谷委員 今,最後の御発言がありましたけれども,確かに可能なのであれば任意の履行を促すので,相手方が連れて帰ることを原則形で,その次に間接強制があってというのが望ましいのかなという感じはしております。そうだとすると,先ほど山本委員は,そもそも間接強制自体が返還の審理の中で命令の時にそこまで組み込んでしまうということもあるのではないかとおっしゃったと理解しましたが,そういう考え方も一つはあり得るのかなと聴いていて思いました。   実際,ハーグ国際私法会議の常設事務局で作っているグッドプラクティスガイドでは,返還命令から執行のところがシームレスでつながることも検討するようにということがあったり,スイスの現在の改正法がそのような仕組みになっていると思います。間接強制はそれ自体が一つの執行ですから,そのために改めて申立てが必要ということもあるかもしれないのですけれども,返還命令が出て,その任意の履行を促すために,お金を取り立てることが目的ではなくて任意の履行を促すということなのであれば,それ自体が返還命令からつながっているというのもあり得ないわけではないかなと思います。   すみません,マイクを取ったついでに他のことをよろしいでしょうか。 ○髙橋部会長 はい,どうぞ。 ○大谷委員 二点ありまして。すごく戻るのですけれども,返還実施者を類型的に考えていくことができるのではないかと,12ページの上のほうで具体的には親族や申立人代理人等という話がありまして,相原委員から,申立人代理人というのが実際どの程度ふさわしいのか,現場の感覚としてというお話がありました。私は申立人代理人も考えられなくはないと思うのですけれども,それが入るのであれば,子どもの申立人の常居所地国の在日大使館あるいは中央当局というのも類型的にはあり得るのではないかと思っています。そこまでされるかどうか,そういう権限をお持ちかどうかということはもちろん向こう側の問題ですけれども,ハーグ条約に入っていない現在でも,子どもが日本に連れ帰られたケースで,領事面会等で会いに行くというような活動も在日の大使館はされています。そういう人が受け取って帰れますということで申立てがある場合に認めてよい場合があるのではないかと思いました。   それから,返還実施者の権限のところですけれども,執行の終了時期との関係ですが,確かに子どもを飛行機に乗せるところまでしか日本国としてできないしというのはよく分かるのですけれども,他の国の返還実施を見ていますと,細かいことで恐縮ですが,ダイレクトフライトがなくて,途中で乗り換え,トランジットが必要なときなどにはどの飛行機に乗って帰るかということを特定している場合があるのですね。現在の御提案は,そういったところまで授権決定に含めるのは細かくなり過ぎるので,そこは運用のところだと。私もその整理で賛成です。   ただし,返還実施者の権限というのを,解放実施者と同じような,してもいいこととしてはいけないこという仕組みで考えるのであれば,返還実施者に指定する以上,常居所地国へ連れて帰ることというのが権限としてあるわけですから,そこはもう少し何か書き振りがあるのかなと。連れて帰ることができるというだけではなくて,むしろ連れ帰ってもらわなくてはいけないのではないかと,そこまで言えないのだろうかということを,拝見して思いました。   最後に,返還実施者の権限の③のところで「子や相手方と接触し,説得できるものとする」というのがあります。先ほど磯谷幹事からも御意見があったのですが,私も現場で相手方と直接接触して,説得することが果たして実施のために好ましいことかどうかというのは悩ましいと思っています。そういうことができる関係であれば,本来はこの場面にいくまでに説得があるべきで,現場で直接当事者同士が対峙して説得という場面がよいのだろうかと。これは質問なのですけれども,そういうことを考えますと,ここに書かれている権限が仮に担保法で規律されたとしますと,こういうことが一般的にできますということで,書いてある以上はできますということになるのか。授権決定の際に,このうち,例えば現場に返還実施者はいてよくて,何々していいみたいなことになるのか。   そうでない,ここに書いてある以上,授権決定で細かく更にこの人は何をしていいということではなくて,書かれているものが全部できるということだとすると,返還実施者,特に申立人の代理人になる立場からしますと,書いてあるのだったらこれはやってもいいですよということになってしまうので。そこを今の御提案のような授権決定に細かいことをいちいち書き込まないということには賛成なのですけれども,何ができるできないということについて,これは運用のところで話し合ってくださいねということなのか,そこはもう少し詰めが必要な気がいたしました。 ○村上関係官 今,大谷委員から御発言ありました後段の最初の部分の返還実施者の類型化の関係で,一点気付いた点を発言させていただければと思います。実際上の話と立て付けの話とを若干気にしなくてはいけないのかと考えます。立て付けの話で申し上げますと,返還実施者は裁判所の補助者というか,裁判所の執行を実施するということで,いわゆる公権力の行使という形になるのではないかなと思います。その際,在京の領事館の方等が実施者に選任されるとすると,外国公務員というか,特権免除を持っている者が日本の公権力を行使するような形になってしまうというのは,その場に在京領事館の方が領事面会というような形でいらっしゃるなり,常居所地国の中央当局の人が来るというのはあり得たとしても,立て付け上,法律上の問題が生じるのではないかなと思います。ただ,実際,領事面会,自国民保護の関係で現場に来るというのは当然考えられ得るものかと思います。この点だけ。ありがとうございます。 ○髙橋部会長 ありがとうございました。   朝倉幹事。 ○朝倉幹事 先ほど磯谷幹事と大谷委員がおっしゃられた現場での申立人と相手方の話ですが,コンセプトは何も異論ないのですけれども,実際には何が,状況としては,この立て付けであっても,国内の子の引渡しであっても,現場の状況は余り変わらないと思うのですね。そうすると何がされているかという参考で申し上げると,執行官がそこに行って,申立人を後ろに待機させておいて,現場の状況を見ながら,現場の広さとか部屋にもよるわけですけれども,場合によっては別室に子どもを連れてきて,そこに申立人を連れてきてお話をさせるとか,ちょっと外に出ていって話をさせるとか。相手方との関係も,相手方との関係で話ができそうならさせると。いきなり会わせてけんかさせるようなことはもちろんしないわけで,そこは現場の状況を見ながら執行官が今までの経験も踏まえて,誰にどういう形でどのぐらいの時間会わせるか,どういう話をさせるかということは当然考えるのだと思います。   その意味では,大谷委員がおっしゃったとおり,9ページの上の③のところを,返還実施者の権限として書いて,あたかもいついかなる場合でもできるのだという,もし誤解があるとすれば,多分事務当局もそういう御趣旨ではないと思うのです,「相当な方法により」と書いてあるところもそうなのですけれども,私が読むところによれば,解放実施の際返還実施者は解放実施者が認めるときには相当な方法により会うことができるというような,せいぜいその程度かなと思います。ここは解放実施者である執行官をもし使われるのであれば,これは紛争の元でもあり,一方,解決のキーでもありますので,どう使うかという辺りは執行官に判断させたほうがいいのではないかと思うところです。 ○髙橋部会長 分かりました。   磯谷幹事。 ○磯谷幹事 今の御説明である程度理解いたしました。若干皮肉めいて申し上げると,朝倉幹事が今おっしゃった執行官像だと,随分専門性とキャリアがあるような感じがいたしまして,先ほどのお話と比べるとどうなのかなという気もいたしますけれども。 ○朝倉幹事 子どもに関する専門性はないです,経験があるだけです。 ○磯谷幹事 関連して。8ページの(2)のアの⑥の「子どもの心身に悪影響がある場合には有形力の行使をすることができない」ということについて,これ自体は反対ではございません。子どもの福祉を一番重視していただきたいということはございますが,最初の「相手方が子を抱えて離さない」というところについては,これを条文にお書きになるのかどうかはよく分かりませんけれども,これは申立人からすると納得できない話だろうと思います。また,相手方の代理人となると,「執行官は必ずあなたの家に来てやるのよ,あなたのいないところではやらないのよ。あなたはとにかく執行の間はずっと子どもを抱えていなければいけない駄目なのよ」というような助言をすることになるのだろうと思いますので,こういうのはないほうが望ましいかなと思います。 ○横山委員 大学のゼミの学生が言いそうな質問をしてしまうので恥ずかしいのですけれども,執行の終了時期との関連で,学生だったらこのようなことを言うだろうなと思うようなことを言いますと,返還実施者である申立人が無事に子どもと共に成田まで行くと,せっかく千葉県に行ったのだから,2日ぐらいディズニーランドで遊んでいこうというので過ごすなどというのは,公権力の行使である返還実施者としてやっていいことなのかよく分からないのですが。この執行手続を他の執行手続と区別として,これはハーグ固有なのだということであると,終了時期は国境を越える時点で執行の終了であって,単純に申立人に子の監護が移ったらそれで終了というわけにはいかないのだというふうに考えるべきなのか。ちょっと分からなくなってしまって。すみません,混乱させるようなことを言いまして。 ○金子幹事 実際の運用場面では申立人を一人にさせることは余り想定しないほうがいいのではないかと思っていて,成田まで,先ほどちょっと出ていましたが,態勢が整えば中央当局から委託を受けた者が見届けるというところまでは想定したいなと思っています。そうしますと,途中一泊,二泊するということはなかなか想定しづらくなるということでありまして,そこは準備段階でどのフライトに乗るというところまできちんと計画を立てて滞りなく飛行機に乗っていただくということを想定せざるを得ないのではないかと思っております。 ○犬伏委員 多少関連するのですけれども,返還実施者の権限ということで,申立人であれば,ディズニーランドに行くかどうかは別として,監護があるのだろうと思うのですが,申立人が返還実施者であった場合の②の「返還の間,子を監護できるものとする」というのは,先ほどトランジットなどで迷子にならないようにという心配もあるのかもしれませんけれども,成田までとしたとしても,ここは何かしらの監護上の責任とか権限が発生するとか与えられるという趣旨でしょうか。   執行官が一緒について行って,実施者が素早くもらって成田にピュッと行けばいいですけれども,そうもいかないような場所であったりした場合に一日二日掛かったりすることもあろうと思いますし,トランジットとか,常居所地に行くまでというふうに,先ほどの終了というものがもっと延びるとした場合も含めて,申立人以外が実施者であった場合の「監護できるものとする」というのは,どういう具体的な権限とか責任関係とかを考えておられるのか。事実上そうしましょうぐらいの話では済まないと思うのですが,教えていただければと思います。 ○佐藤関係官 この「監護できるものとする」というところについては,基本的には監護する権利であり,かつ,監護する責任が生じるのではないかと考えております。 ○髙橋部会長 他にいかがですか。はい,大谷委員。 ○大谷委員 先ほど一度どなたか御発言された論点ですが,対象となる子を一定の年齢までの子に限るとすることについて,一つの考え方ではあると思います。他方で,条約が対象の子を16歳未満としている中で審理がなされて,子の意思等もある程度確認されたことが前提で命令が出ていて,最後の段階のところにきたときに任意の履行がなされないと。そのときに,もし一定の年齢に限るとすると,ある一定の年齢以上だと当然にそこで終わってしまうという先が見えてしまう。実務的な感覚で大変恐縮なのですが。そうすると,最後の最後までもしも抵抗されると,任意の履行がない場合はこれは年齢で切れてしまうと。   この条約自体がそうですけれども,子の連れ去り時が何歳であろうと,申立て時が何歳であろうと,審理の途中で16歳になったらそこで終わるということになっていますが,返還の実施のときに対象となる子を仮にある一定の年齢で切ったときに,途中で何歳になってしまうともうそれで終わりだということになるのかとかいろいろなことを考えますと,一つの考え方だと思う反面,そこで一定の年齢以上の子にはそのスキームは一切効かないのですよというのは,現場でやる者としてはなかなか難しいなという感想を持っております。 ○早川委員 今,大谷委員がおっしゃった点に,私も同感です。また,先ほど山本和彦委員が年齢制限についておっしゃった点もそのとおりだと思います。それから,私,遅れてまいりましたので,制限をする場合の具体的な年齢が話に出たのかどうか分かりませんけれども,「一定の年齢」と言ったときに具体的に何歳にするかはなかなか難しいだろうと思うのですね。そういうこともありますので,ここは授権決定の段階で個別に考えるということでよろしいのではないか,一定の年齢による制限は特に入れないほうがいいのではないかという気がいたします。 ○相原委員 年齢のところにつきましては,最初に読ませていただいた時に,前にFPICの山口さんが御説明されていたので,10歳とか12歳なのかなと頭に浮かべながら聴いてはいました。ただ,今,各委員とか幹事の御発言がありましたように,線を引くのは難しいのではないかと思います。先ほどの執行自体が丁寧にやるとすれば特段の年齢制限はしないでもよいのではないかと私も感じております。   それから,今度は運用の話になってしまうと思いますし,ここの法制審で決めることではないのかと思いますが,先ほど中央当局のやり方,特にケースワーカーの関与につきまして,今,御検討中ということなので,そちらに任せる話かなとは思いますが,ここで申立人の代理人や解放実施者で執行官が関与すること,申立人が関わって,申立人と子どもの間の信頼関係等非常にいい関係が築けていればいいわけですけれども,非常に微妙な案件に関しましてはケースワーカー的な人の関与が重要になってくるかと思います。   それから,中央当局が,これからの制度作りの中で,住所が分かって,相手方にアクセスするというところから,最後の執行段階までにおいて,特に子どもが対象ですので,一貫したケースワーカー的な人の関与を制度作りとしては是非御配慮いただきたいと思います。ただ,法制度としての詰め方としては,その人がどういう立場なのか,どういう法的な権限を持たせるのかとなると,非常に難しいことがありますので,飽くまで授権裁判所が執行段階で細かく計画を立てるという段階に組み込むしかないのかなと,今の段階では思っておりますが,是非御検討いただければと思います。 ○髙橋部会長 よろしいでしょうか。   それでは,5番目の公示送達関連のものですが,まず説明をお願いします。 ○松田関係官 では,5について説明させていただきます。5では,「相手方及び子の所在が当初から不明である場合の手続と裁判の取消し又は変更」の規律との関係について改めて検討しております。   まず,(補足説明)の1では,相手方及び子の所在が当初から不明である場合に,公示送達の方法により手続を進めることができることを前提とした規律について改めて検討しております。相手方及び子の所在が当初から不明である場合の取扱いにつきましては,条約第12条第2項との関係で,申立人が不利益を被らないようにするため,公示送達の方法によって手続を進めることができるようにしておく必要があると考えられ,また,相手方としましても,子の返還を求める申立て等がされることが合理的に予測し得たと考えられる状況で,転居届等の措置を講じていなかった以上は,通常は公示送達の方法が採られることについて帰責事由がないとは言えないものと考えられますので,許容性も認めることができるのではないかと考えられます。   しかし,このように公示送達の方法により相手方の現実の関与なく手続を進めることができるものとしますと,本来であれば条約第13条第1項bに規定する返還による子の重大な危険とか,第13条第2項に規定する子の返還拒否の意思が認定されて,申立てが却下されるべき事案であったにもかかわらず,相手方の現実の関与がなかったため,これらが認定されないまま子の返還が命じられてしまうという場合もあり得ると考えられ,このような場合にその裁判の効力をそのまま維持することは,たとえ公示送達の方法で手続が進んだことについて相手方に帰責事由があるとしても,条約第13条第1項bや第2項の規定の趣旨に反することになりかねず,相当でないと考えられます。   そこで,このような場合の救済手段について検討する必要がありますが,返還による子の重大な危険や子の返還拒否の意思が裁判時に既に存在した事情であれば,形式的には裁判の取消し又は変更の事由にはなりませんが,このような子の利益に直結する事由については,それが裁判時に認識されていれば子の返還を命じなかったであろうことが明らかであると一般的には考えられますので,そのような場合には裁判の取消し又は変更の要件を実質的に解釈して救済を図ることも可能であり,別途,規律を設ける必要はないと考えることもできると思われます。   もっともこのように裁判の取消し又は変更の対象にすべき例外的な場合が生ずることがあらかじめ想定される以上は,その場合の救済について,解釈による運用に委ねるのではなく,明文の規律を設けて対応するのが相当であるとも考えられます。   この点,他の裁判手続において公示送達が行われた場合との平仄とか,その影響の有無なども問題になり得ますが,当初から公示送達の方法で手続が進められたことについて,子自身に帰責事由が認められないことが通常であると考えられることや,本条約が子の利益を最も重要な目的である旨明記し,第13条第1項bや第2項のような規定を設けているという特殊性を考慮しますと,当初から公示送達により手続が進行して,子の返還を命ずる裁判が確定した場合であっても,返還による子の重大な危険や子の返還拒否の意思か認められるときは,申立てにより当該裁判の取消し又は変更をすることができるものとする規律を設けるのが相当であるとも考えられます。   そして,(補足説明)の2では,翻って当初から相手方及び子の所在が不明である場合に,公示送達の方法により手続を進めることを前提としない規律の在り方について検討するものです。1で御説明しましたとおり,当初から相手方及び子の所在が不明であった場合に,公示送達の方法で手続を進めることができるとした上で,一定の事由が認められるときは裁判の取消し等することができるものとする規律を設けますと,条約第12条第2項の適用がない点では申立人の利益を保護することができますが,結局,手続を当初からやり直すこととなる点で,公示送達の方法で手続を進めることを可能とした意味が大幅に失われるとも考えられます。   元々このような場合に,公示送達の方法で手続を進めてもその後の執行が困難であるということを考慮すれば,手続の当初から公示送達の方法により手続を進めることはできないものとしつつ,条約第12条第2項の適用については,相手方及び子の所在が判明した後に子の返還を求める申立てがされたときは,当初の申立てのときなどに申立てがあったものとみなすものとすることも考えられると思います。この場合に,みなす旨の明文の規律を設ける必要があるかどうかとか,条約との関係でそのような規律を置くことが相当か否か,また,どの時点まで遡ってみなすのが相当なのかといった問題もありますので,この点も踏まえまして御意見を頂ければと存じます。   5については以上です。 ○髙橋部会長 事情変更の解釈論の中に組み込んで何とかなるのではないかということが前回でしたが,それをもう少し検討せよということでしたので検討しました。まず,前回と同様に解釈運用で賄うという考え方があります。同じことを明文の規定で設けるのが前段ですね。そうではなくて,発想を転換して,公示送達に基づいては手続を進めないけれども,再申立てのときに子どもの年齢の1年間とか,そういうところの制限を外すために申立てがあった時点を遡らせるという案も提示しました。どれが適当かということですが,御審議をお願いいたします。   棚村委員。 ○棚村委員 一番最初のころ発言した記憶があるのですけれども,そもそも公示送達は必要かというときに,ぎりぎりやむを得ない場合があり得るので,やはり設けておいたほうがいいだろうということでした。特に想定されたのは,申立てが始まったのだけれども途中で居所が分からなくなったりすることもあり得る,そういうようなことを考えると公示送達は必要だという御意見があったかと思うのですね。私は,子どもを返還する目的の申立ての手続ですから,むしろ子どもの様子とか所在とか,生活状況が分からないのに判断をすることは適切ではない,特に欠席判決みたいな形で公示送達で判断をするということは,他の国でも余りやっていないことだし,実効性がないのではないかという意見を申しました。   今回の御提案は,公示送達でやった場合には,取消しとか変更ということを考えてみたのだけれども,元々それはやらないで,むしろ申立ての時期に連れ去りから1年でなじんだものを少し動かしてという御提案なのでしょうか。 ○髙橋部会長 そういうことも考えられますけれども,どれがいいかということですね。ですから,現実には1年たってしまっているわけですが,法理論的には最初の申立てのときまで遡らせて1年の期間制限をクリアすると。逃げ回る人に対する歯止めにはなると。 ○棚村委員 公示送達の必要性について私が最初に発言したとき,やはり必要なのだというお話だったので,やむを得ないかなと思ったのですけれども,先ほど言ったように公示送達で判断をしなければいけないような最初から所在不明なケースについては,そもそも判断できるような事情がないという形になると思うのですね。それで判断をしておいて変更するよりは,どちらかというと時期をずらすのが妥当ではないか。というのは,海外のを見ていますと,連れ去ったときから,この間大谷委員も,原則は1年というのをもちろん起算するのですけれども,こういうような逃げ回って所在が見付からなかったと,申立ては早い段階でやったのだということについては,他の国も判決が確定した後5年とか4年ぐらいたってしまってから返還を命じているというのもあれば,事情を考慮していないというのもあって,いろいろなケースが考えられると思うのですね。   ですから,公示送達をどうしてもやらなければいけないという前提で,そういう制度はなければいけないというようなイメージだったものですから賛成したのですけれども,それを取り消したりするのであれば,申立てを早くしていながら見付からない状態であったということで,子どもにとってどちらが幸せなのか分かりませんけれども,迅速な返還ということを優先させて,居所が分からないまま公示送達をさせて判断して後で取り消すよりは,そうではない,当初から見つからないときは居所をできるだけ中央当局とかいろいろなところで探していただいて,最終的に居所が見つかって,そのときに時期が遅くなってしまうのかどうか分かりませんけれども,仮に1年を超えていたとしても,申立て時から起算して1年を超えていなければ返還とか判断の対象にしていくということのほうがいいような感じはします。 ○磯谷幹事 今回いろいろ御配慮いただきまして,案を出していただいたことに感謝申し上げたいと思います。二つ目の公示送達をしないという立て付けにした場合ですけれども,1年の起算点をずらすという案があって,これは申立人からするとフェアなやり方ということになるのだろうと思いますが,一方で,条約第12条第2項が考えているのは子どもの福祉の問題であって,親の事情がどうであれ子どもが一定の環境になじんでそこで生活をいろいろな人間関係も含めて形作ってきた,そういうふうなことがあると証明された場合には,これは裏を返すと恐らく子の返還を命じないこともできると読むのかなと思うのです。違っているかもしれませんが。そうだとすると,確かに申立人にとっては気の毒な面もあるのですけれども,最初から公示送達はさせない,そして,条約第12条第2項についても特段の除外規定等も置かないというふうな在り方も十分考えられるのではないかと思います。 ○大谷委員 公示送達については当初からの議論の中で全く置かないということはないと,先ほどから棚村委員もおっしゃっているように途中で分からなくなったような場合。ただ,最初からどうかということについては,最初から分からない場合については私は元々割と消極でして。ただ,途中で中間取りまとめの辺りで最初から分からない場合もできるのだという御説明があり,他の方から余り御異論も出なかったので,その段階でもう少し意見を言えばよかったのかもしれないのですけれども,皆さん部会でよいとおっしゃっているのであれば,そうなのかなと。それを前提に,取消しのところで,やはりそれは取消し事由としておいていただかないとバランスが悪いのではないかということで,ずっと意見を申し上げてきました。   今日の御提案を受けて,私自身は元々公示送達を最初から認めること自体に消極だという意見をもう一度言わせていただきまして,認めておきながら取消しというやり方よりは,本来的に最初から分からない場合に公示送達でできるということにする必要まではないのではないかと。そういうことにした場合に懸念されるのが,申立人側の不利益という話があります。ただ,不利益の中身を考えますと,所在が分からないと,何もできない,では公示送達で返還命令を受けたら実現するのかと言いましたら,実際にはそうではない。公示送達で返還命令をもらったところで,例えば子どもさんが見付つかったと。それではすぐにそれで返してくれと言って相手方が応じるのかというと,取消しの話を置かなかったとしても,執行の辺りで,今議論しているような,間接強制まではいくのかもしれないのですけれども,授権してというようなところまでいくのかどうかよく分からない。公示送達まで認めて,申立人に何かそこで手続を進めることができるようにする必要が果たしてあるのだろうか。子どもの返還,子どもの利益とのバランスで,そこまで認めなくてもいいのではないかというのが正直な気持ちです。ただ,そうすると,条約第12条第2項の問題が出てきてしまうので,そこをどうするかということなのですが。   ちょっと話があちこちにいって申し訳ないのですけれども,各国の判例調査を日弁連で委託を受けまして,いろいろな国の判例を読み込んでおりましたときに,隠れて,そのために1年以上たってしまったという場合に起算点をずらすかどうかということで,私が知る限り,はっきりと起算点をずらす扱いをしているのはアメリカだけで,アメリカと同じようなやり方をすべきかということが裁判の中で議論された上で,うちはそれをやらないとはっきり言っているような国が他にあるぐらいだったのです。アメリカのやり方というのは,読んだときに,そういうふうにしてしまっていいのだろうかと当時思ったのです。ただ,それはもしかしたら子どもがどのくらい発見できるかということと関係があるのかもしれなくて。アメリカは国土が広大ということで発見がなかなか難しいという御説明が中央当局からもなされていました。そういう中ではやむを得ないやり方として採っていらっしゃるかもしれない。   それにしても,担保法で何か決まっているわけではなくて飽くまで解釈で出てくる。その解釈自体,先ほど磯谷幹事も言われたように,本来の条約第12条の解釈の仕方としては,相手方が隠れたかどうかにかかわらず,子どもに注目して,子どもが1年以上たっていたときには,これはもう返さないと,ある意味除斥期間的というか,はっきりと客観的にその場合は絶対返さないという趣旨なのだという解釈もある中で,ここまで規定を置いてしまうというのは逆にどうなのだろうというところが少し引っ掛かっています。   これは中央当局と裁判所に御負担が掛かるのかもしれないのですけれども,公示送達を認めないのであれば,中央当局としてもケースがクローズできなくて所在発見してくれということが引き続ききてしまうのかもしれなくて,それをどうされるのかという問題が一つ。もう一つは,今の御提案のように,もし規定を置かないと最終的には裁判所で条約第12条第2項の解釈をめぐって争われることになるのかもしれないのですが,場合によってはそのほうが,事案事案に応じた判断ができるかもしれないという意味では好ましいのかもしれないと,今日の段階では,御提案を伺って思う次第です。 ○髙橋部会長 はい,分かりました。   それでは,部会資料11に移ってよろしいでしょうか。説明をお願いします。 ○佐野関係官 では,部会資料11の要綱案のたたき台の検討に移りたいと思います。この資料は,今回と次の19日の部会でも使用して御検討いただければと考えております。取りあえず第1から管轄に相当するところまで説明したいと思います。   まず1ページの「第1 総則」につきましては,1の「趣旨」におきまして,他の裁判手続法と同様の趣旨規定を設けまして,ハーグ条約に基づく子の返還手続はこの要綱に定める内容に従うということを明記しております。   また,1の中でブラケットで〔他の法令に定めるもののほか〕としておりますけれども,現時点におきましては,ハーグ条約を担保することとなる他の法律についてまだ明示的に検討ができているわけではありませんので,ブラケットを付しておりますけれども,差し当たり民事訴訟費用等に関する法律などが考えられるかと思います。   次に2の「裁判所及び当事者の責務」のところでは,現行の民事訴訟法第2条とか家事事件手続法第2条に規定された裁判所及び当事者の責務に関する規律に倣いまして,このような規律はハーグ条約に基づく子の返還手続においても同様に当てはまるものと考えられますので,同様の規律を設けるものでございます。   3につきましては,子の返還の裁判手続の細目的な事項については最高裁判所規則に規定するのが相当であると考えられますので,他の法律に倣って規則委任規定を設けることとするものです。   以上が第1です。次に第2ですが,第2全体では「子の返還申立事件の手続」についての規律を順次規定して書き記しております。   冒頭の「子の返還申立事件の手続」という概念ですけれども,この概念は第一審,第二審などの本案の手続全体を含むものを指しておりまして,一方で執行手続などは含まない概念として用いております。執行手続等も含む場合には,第1の1の「趣旨」の中で規定しておりますとおり,「子の返還に関する事件の手続」という表現を用いて区別しております。   以上を前提としまして,まず1の「通則」では,19ページの2以下で規定しております第一審の手続とか,32ページの3以下で規定しております即時抗告審の手続等に共通の事項をくくり出して,通則という形で規定しております。   この通則の「(1)子の返還を求める申立て」の説明に移ります。ここでは,子の返還手続の当事者となる者を明示するとともに,この手続は家庭裁判所で行う手続であるということを明記しております。   (1)の(注)に記載しておりますとおり,前々回の部会で子の返還手続の相手方適格のある者として,児童福祉施設の長が子を事実上監護している場合に,その施設長に相手方適格を認めるべきかどうかという点が議論されたかと思います。ここでは,前々回の部会の議論に従いまして,このような者に相手方適格を認めず,施設入所等直前まで子を監護していた者に相手方適格を認めるという整理をしております。そのため,従前のように相手方適格のある者として,「〔現に〕子どもを監護している者」と記載した場合には,事実上子を監護している者全てに相手方適格を認めるのではないかという誤解が生じかねないので,ここでは「現に」という文言を削除することも含めて,「現に」という言葉にブラケットを付しております。   なお,同じく(注)で書いておりますとおり,保護者がいない子であるけれども,施設に入っている子についてはいろいろ議論があったかと思いますけれども,差し当たり未成年後見人を選任の上,未成年後見人に相手方適格を認めるという整理にしております。   次に(2)としまして,子の返還命令,いわゆる返還事由,返還拒否事由のところです。ここでは,前回の議論を踏まえまして,次回19日の部会で改めて案を提示する予定ですので,その際に御検討いただければと思います。   次に「(3)裁判所」ですけれども,アのところで管轄について,イのところでは除斥と忌避について各々検討することとしております。   まず初めに,管轄のうちの狭義の管轄につきまして,(ア)ですけれども,子の所在地に管轄原因を認めることを前提として,東京家裁と大阪家裁の2庁に管轄を集中することとしております。パブリックコメントにおきましては,中間取りまとめで検討された丙案,すなわち高裁所在地の8庁の家裁に管轄を認めるべきであるとする意見もあったところですけれども,2ページの(注)に記載しておりますとおり,子の返還申立事件は実際のところ,そう多くはないと見込まれる中,現実に裁判手続を運用する裁判所におきまして,事件を担当する裁判官のみならず,スタッフを含めた組織全体の体制を整備することが不可欠であると思います。   それに加えまして,事件処理についての専門的知見の集積であるとか,事例の蓄積,そして,裁判官はもちろんですけれども,弁護士の専門性の向上という点も考慮しますと,制度発足当初からの規律としては,全国の8庁に広く管轄を認めることは適切な事件処理の観点から必ずしも適当ではない,相当ではないと考えられます。   パブリックコメントにおきましては,この手続を運用することになる裁判所からは2庁あるいは1庁に管轄を集中すべきであるという意見が寄せられましたし,事件を担うことになる大阪弁護士会からも2庁とすべきとする意見が寄せられました。そこで,ここでは,他の管轄集中の例にも倣いまして,東京家裁と大阪家裁の2庁に管轄を集中するという提案をしております。   これを前提としまして,具体的な規定振りですけれども,「(ア)管轄」の②につきましては,例えば子が転々としていて,日本国内に子の居所がないときとか,子どもの居所が知れないときには,東京家裁に管轄があるものとしております。   次に3ページの「(イ)併合申立てによる管轄」です。ここでは,例えば二人の子が東京と大阪に別々に住んでいる,住所があるような場合であっても,一人の子の管轄裁判所に他の子の返還も併せて申立てをすることができるとする,併合申立てに関する規律を設けることとしております。これは民事訴訟法第7条に倣ったものでございます。   次に(ウ)の「管轄裁判所の指定」ですけれども,これは,家事事件手続法第6条に倣いまして管轄裁判所の指定を定めるものです。ここで,テクニカルな問題ですけれども,管轄を東京と大阪の2庁に集中した関係上,管轄区域が明瞭でない場合に,管轄裁判所を定める上級の裁判所としては最高裁判所しか考えられなくなりますので,家事事件手続法とは異なり,そこの部分については最高裁判所を一義的に規定することにしております。②の箇所です。   次に「(エ)管轄の標準時」です。これは,家事事件手続法第8条に倣いまして,申立時を管轄の標準時とする規律でございます。   次の(オ)の合意管轄についての規律ですけれども,これは合意できる裁判所は管轄の集中の関係で東京と大阪の2庁に限るという前提での記載をしております。   同じく管轄の中の(カ)移送の規律ですけれども,ここでは,①と②で別の事柄を規定しています。①では管轄違いの移送について規定しております。それを前提に,4ページの①のただし書の前段では,事件処理のために特に必要があると認める場合には,管轄を集中した関係上,移送先が東京家裁あるいは大阪家裁である場合に限りまして,例えば移送先に管轄がない場合でも事件を移送できるという規律を設けております。また,ただし書の後段におきましては,東京家裁と大阪家裁は管轄がなくても事件処理のために必要がある場合には自庁処理をすることができるということにしております。   次に二つ目の移送の規律としまして,②ですけれども,ここでは,管轄を有する裁判所,すなわち東京家裁あるいは大阪家裁は,事件処理のために特に必要があると認める場合には,裁量で一方の裁判所,東京の場合は大阪,大阪の場合は東京に,事件を移送することができることを許容している規律になっています。   このような①,②の規律を前提としまして,③から⑤につきましては,家事事件手続法第9条と同様の規律を認めることを提案しております。   最後,除斥・忌避も併せて御説明したいと思います。イの除斥・忌避のところではおおむね家事事件手続法第10条以下の規律をそのまま規定しているものでございます。   一点,5ページの(注)だけ簡単に説明させていただきたいと思います。ここでは,裁判官の除斥の原因,あるいは,他の場合にも準用されていますけれども,一のところでは,「共同権利者〔,共同義務者若しくは償還義務者〕」という言葉が出てきます。ここで想定している共同義務者とは共に監護権を侵害された者,共同義務者とは共に子を連れ去った者,償還義務者とは子どもを連れ去ったけれども現在子どもを監護していない者というものをおおむね想定しています。このような実態を表す用語としてこのような文言を用いることが適切かどうかであるか,あるいは,償還義務者も除斥の対象とすべきかについては,なお検討することとしたいと思います。   その他,家事事件手続法も同じですけれども,家庭裁判所調査官につきましては,特段忌避の制度は設けないこととしております。   以上です。 ○髙橋部会長 総則,それから,第2の管轄,除斥・忌避,どこからでも結構でございます。   磯谷幹事。 ○磯谷幹事 三つ申し上げます。一つ目は,確か前回か前々回の終わりに申し上げましたが,総則の規定で子どもの利益に対する配慮ということをきちんと述べていただきたいと思います。   二つ目は,先ほどの相手方適格のところで,施設等が相手方になるのではないというところは結構だと思いますが,保護者がない場合には未成年後見人を選任すると。そして,その未成年後見人が相手方適格ということになっております。必ずしも弁護士が未成年後見人になるわけではないのだろうと思いますけれども,この辺りは裁判所,それから中央当局に費用・報酬については特段の配慮を頂きたいと思います。この義務の大きさに照らしということです。   それから,三つ目は確認です。裁判所の管轄の(ア)の②で「居所が知れないときは」というのがございますけれども,これは誰にとって知れないときという趣旨なのか。つまり,申立人に知れなくて,中央当局にとっては知れている,あるいは,裁判所にとっては知れるというところがどうなのかというところを確認させていただきたいと思います。 ○佐野関係官 まず一つ目の子の福祉に配慮した規定を設けるべきかどうかは,この法律に加えて中央当局の部分の法律全体とも関係しますので,追って検討させていただければと思いますけれども,一般的に設けることについて専ら法制的な観点の問題がありますので,その点も併せて考慮させていただければと考えております。   三つ目の居所が知れないときというのは,管轄裁判所にとって知れないときだというふうに考えております。 ○大谷委員 最後の点なのですけれども,端的にお伺いしますと,申立人が住所が知れないときはどこに申し立てるのですかとお聞きしたほうが早いのかもしれないのですが。 ○佐野関係官 それは例えば東京家裁になるのでしょうか。 ○髙橋部会長 後で移送等がありますから。 ○佐野関係官 その場合に一義的に便宜上どこに申立てるべきかについて,②は元々そのような場合も想定するものとするのか,検討したいと思います。 ○髙橋部会長 それは弁護士さんの作戦で,移送と踏まえてどちらがいいか。どちらかではできますから。 ○大谷委員 お伺いしたかったのは,前々から何度か相原委員も質問されているように,申立人にとって知れないときは東京に決め打ちするという作りなのか,そうでないのかという質問だったのです。 ○髙橋部会長 調べたら分かったということも含めてですね。申立人に不明なときには東京に限定するかということですね。 ○金子幹事 管轄は子の住所地で決まるので,申立人に分からなくても,管轄地というのは裁判所が分かっていれば,これはもう決まっているはずです。ですから,管轄のないところに申立てを頂いた場合は自庁処理か移送で対応するということになるわけで,大阪に子どもがいるのに東京家裁に管轄が生じるという規律とは考えていません。 ○相原委員 具体的に中央当局が把握して,申立人に,「申立人代理人」が付くわけですけれども,東京家裁か大阪家裁かではどちらの代理人が付くのか非常に大きな問題となります。実際誰が担当するのかというのは非常に重要なことだと思うのですけれども,それはどの段階でどういう形で決めることになるのでしょうか。 ○佐野関係官 そこの部分につきましては,その場合はこちらにするということを明定するかどうかという話なんですかね。取りあえず②のところでは,そのようなものを元々含んで,管轄の立て付けの条項というのはできていなかったと思うので,この②があるからとして,東京家裁になるということまでは,元々は考えていなかったですが,考え方としては御自由に選んでもらって,先ほど部会長がおっしゃいましたように,移送等で対応することもあると思いますし,そういう場合については元々こちらにしますという規律を設けるというになると,二通りあると思うので,ちょっと検討したいと思います。 ○大谷委員 元々日弁連としましては8庁プラス1,9庁という意見を申し上げていまして。それを撤回するわけでは全くないのですけれども,2庁ということで御提案いただいていることについて意見を述べよと言われますと,先ほど相原委員が言われたのと全く同じ感覚がありまして,どちらでもどうぞと,また裁判所から見れば決まっているので,東京にしても大阪にされるかもしれませんよというのでは,どこの人が代理人に付くのかを考えますと,そう言われても,実務的にはLBPとしてもどこの弁護士に頼むのかという問題が出てくるかなという気はしています。申立人に住所を知らせないままで手続をするという仕組みを今回作るのであれば,東京なら東京ということがすっきりするのかなと今まで個人的には思っておりました。という意見だけ述べさせていただいて,そのほうが本当にいいかということは詰めて考えていませんので,何度か質問していた気はするのですけれども,もう一度,今日初めて2庁ということで御提案をはっきり頂いていますので,考えてみたいと思います。   一点質問ですけれども,通則の1(1)の「子の返還を求める申立て」のところで二つ質問があります。一つは,申立人のところで監護権が侵害されたものとありますが,この監護権の中身は,条約で言えば,子が連れ去り又は留置の直前に常居所を有していた国の法令に基づきということだと思うのですけれども,これだけ読むと決してそう読めない。そういうことは,法制上こういうところには書かれなくて,注釈等でするものなのですよという理解でよろしいのかどうか。条約と併せ読めばそういうことなのですけれどもという質問です。   同じ質問が2行目にもありまして,「子が常居所を有していた国に」と。ここも本来連れ去り,留置の直前にという枕詞がついての常居所だと思いますけれども,この辺りは条文に書くことではなくて,あとで条約と一緒に併せ読んで説明,注釈等で補足されるということで,条文自体はこういうものとしてなるのでしょうかという,技術的なことも含めての質問です。 ○金子幹事 ここは法制的な問題もあるので検討します。行き方としては,定義規定を置いてしまうというやり方があると思います。つまり,中央当局分と返還手続部分に共通の「この法律における監護権とは○○をいう」という趣旨の規定を置くという方策もあるかと思います。紛れがないように何らかの工夫はしなければいけないと思いますので,御示唆を受けてなお検討させていただきます。 ○磯谷幹事 先ほどの管轄のお話ですけれども,今回,二つの庁ということになりますと,どちらの庁の管轄下に子どもがいるかということは,中央当局から申立人のほうに開示されたとしても,現実的にはほとんど問題がなかろうとも思えるのですね。つまり,住所開示というよりも,管轄を教えていただくということのほうが後から不当な結果にならないのではないかなと思います。 ○髙橋部会長 御意見,分かりました。   大谷委員。 ○大谷委員 しつこくて申し訳ありません。今の点ですけれども,現実の場面を想定して考えますと,基本的に申立人はほとんど海外にいるわけです。向こうからしますと,日本の代理人を選任するときに,どこであろうと余り変わらないように思うと。例えば,東京の代理人が付いたとしまして,子どもは大阪にいるので大阪だといって移送されたとしますと,LBPとの打合せを直接行う場面は少ないものですから,余り費用面は考えていないのに,大阪になると出張しなくてはいけないとかいうことで交通費が掛かる。現実的に途中で子どもの住所が分かっていないということで,どちらかでやったときに,後で移送というのは現実的にはLBPにとってもあるいは代理人にとっても影響が大きいのかなという気がしまして,磯谷幹事かおっしゃったように,そこの管轄だけは明らかにするということも一つの案かもしれませんし,そのことに対して抵抗が強いのであれば東京の決め打ちとか,そういうことも御検討いただければと思います。 ○山本(和)委員 細かいことなのですが,3ページの(イ)の併合申立てによる管轄という場合の移送のことなのですけれども,例えば東京と大阪に二人の子どもがいて,東京の裁判所に申立てがなされたという場合には,大阪の子どもについても東京で管轄があるというのが(イ)の規律だと思うのですが,その場合に裁判所はその子については大阪でやることが適当であるというふうに判断して移送をするということはあり得そうな感じがするのですが,(カ)の移送の規律ではそれが読めるのかどうか。つまり,①と②は複数の裁判所が両方とも管轄を持つ事態は想定していないように読めるのですが。これは,家事事件手続法と違って,優先管轄の規定を置いていないので,その場合も前提にして規律を設けないといけないだろうと思います。 ○髙橋部会長 なるほどね。文言上はそのとおりですね。それをできないとする趣旨ではないと思いますので。②のところですね。管轄権を有する家庭裁判所以外と打ってしまっていますからね。   ありがとうございました。他にいかがでしょうか。   可能であれば今日決めたいのですが。管轄裁判所を東京,大阪の二つに限るということを前提にしてこれからの作業を進めていいかということですが,いかがでしょうか。まだ8庁だという御意見があることは承知しておりますが。   相原委員。 ○相原委員 パブリックコメントにおきまして,日弁連としては,先ほど大谷委員が申し上げたように,8庁プラス1ということで申し上げておりまして,これ自体,日弁連の総体の意見でございますので,2庁にする案を「はい,そうですか」とはなかなか言い難い。ただ,この書き方として,「制度発足当初からの規定としては必ずしも相当ではない」というような書き方もされておりますし,今後の長期的な問題に関しては運用をきちんと把握して検討していただくという前提で,御提案が専門性という観点から必要な考え方かというふうには理解しております。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。   山本克己委員。 ○山本(克)委員 私が国際私法を分かっていないというだけの話なのですが,1ページから2ページにかけての(注)のところで,未成年後見人を選任して,それを相手方とすべきだということで書かれていますが,子が日本国籍を有さない場合にこれで完全に対応できるということまでは検証されておられるのでしょうか。 ○横山委員 本人が日本に住所又は居所を持っているときは日本に管轄権があり,日本法に基づいて審判できるということです。 ○髙橋部会長 横山委員の御指摘を受けまして,また事務当局も少し調べてみます。   今日も本来の時間を過ぎておりますので,除斥・忌避などはまた次回御意見があれば伺うということで,管轄のところを二つということを前提にこれから事務当局が作業するということは押さえさせていただきますが,その他の点はまた何度か要綱案に至るまでに機会はあると思います。   それでは,今日全体に関しまして何か言い忘れたことがございましたら。よろしいでしょうか。   それでは,次回以降のスケジュールについて,事務当局から説明いたします。 ○金子幹事 御説明いたします。次回は12月19日,月曜日,13時30分からになります。場所は,法務省第1会議室20階になります。予定ですが,今日,部会資料10につきましていろいろ御議論いただきましたので,なおそれを踏まえた御提案ができるようなものがあればそれをします。それから,まだ積み残しが多少ありますので,その辺りも別の部会資料を作って御提案しようと思っております。それ以外は部会資料11の検討の続きをお願いしたいと思っております。   なお,部会資料11は,暫定的に全体像を早めに委員・幹事の皆様にお示ししたほうがいいのではないかという事務当局の考え方から駆け足で作ったものなので,なお細かいところを詰めていく間に変更が生じることが多々出てくるかと思いますので,その場合には差替え版を別途作成することを考えております。よろしくお願いします。 ○髙橋部会長 それでは,第9回の部会を閉会いたします。今日も熱心な御審議ありがとうございました。 -了-