法制審議会民法(債権関係)部会第3分科会          第1回会議 議事録 第1 日 時  平成23年12月27日(火)自 午後1時00分                       至 午後6時21分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○松本分科会長 それでは,予定をしておりました時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第3分科会の第1回会合を開会いたします。   本日は御多忙中,また年末にもかかわらず御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。   この分科会は,7月に開催されました部会の第30回会議で設置されたものでございまして,部会から振り分けられました個別論点を対象として補充的な審議を行うことを目的としております。分科会の議事におきましては,個別論点についての意思決定を行わないということとされておりますので,必ずしも意見の一本化を図る必要はございません。その点を御確認いただいた上で,できる限り部会での今後の審議に役立つような充実した検討を行っていきたいと考えておりますので,どうぞよろしく御協力をお願い申し上げます。   なお,本日は第3分科会の固定メンバー以外に岡本雅弘委員,中井康之委員,山下友信委員,神作裕之幹事,河合芳光関係官,佐藤則夫関係官が出席されておられます。   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日は,配布済みの部会資料30,31,32,それから34を使わせていただきます。また,別紙比較法資料(補遺)と書いてある1枚紙の表をお配りしております。これは法定利率に関する論点を取り上げている部会資料31の末尾に付け加わるものとして用意したものです。部会資料31の中では,比較法資料として法定利率に関する各国法制を紹介しておりますが,利率の変動制を採用している国における具体的な数字の動きについての資料を追加したものです。   この他,高須順一幹事から「中間利息控除の規律について-「部会資料31」の第2の5(2)についての意見-」と題する書面が提出されております。それから,日銀のホームページで公表されている「基準割引率および基準貸付利率の推移」を印刷して机上に置かせていただいております。 ○松本分科会長 本日は,部会資料の30から34掲載の論点のうち,分科会で審議されることとされたものについて御審議いただく予定です。大変多くの課題が分科会のほうで議論を依頼されております。具体的にはまず,部会資料32の「第2 債務不履行による損害賠償」,その「1 「債務の本旨に従った履行をしないとき」の具体化・明確化」の「(2)前記(1)以外の債務不履行における填補賠償の手続要件」までを御審議いただき,適宜休憩を入れることを予定しております。休憩後,「2 「債務者の責めに帰すべき事由」について(民法415条後段)」以降について御審議を頂きたいと思います。   まず,部会資料30の「第1 条件及び期限」について御審議を頂きます。事務当局から御説明願います。 ○筒井幹事 それでは,部会での議論を振り返っていただく趣旨で,各項目について簡単に御説明をいたします。   部会資料30の「第1 条件及び期限」のうちの「1 条件」,「(1)停止条件及び解除条件の意義」についてですが,このような意義を明らかにする規定を設けることについては特段の異論はありませんでしたけれども,第34回会議におきましては,停止条件,解除条件に代わる適切なネーミングを検討してはどうかという御意見がありました。その中でも具体的に,停止条件については効力発生条件,解除条件については効力消滅条件としてはどうかという案も示されております。また,後の「期限」のところで履行期限に関する規定を設けるのであれば,履行条件に関する規定についての検討をすべきではないかという御意見がありました。分科会におきましては,これらの名称,履行条件の要否等も含めまして,具体的な規定振りについての検討をすることとされております。   次に,「(2)条件の成否が未確定の間における法律関係」という項目です。部会資料30の2ページです。第34回会議におきましては,民法130条の要件について故意要件に加えて信義則に反する行為という要件を規定するのかどうか,そしてまた,故意を削除して信義則に反する行為という要件に一本化するのかどうかという問題提起がされております。分科会では,その点を含めて具体的な規定の在り方について審議することとされております。   次の「(3)不能条件」,部会資料30の3ページです。第34回会議におきましては,不能条件が付された法律行為の効力は,条件を付する合意の解釈に委ねるべきであるとする考え方と,当事者の通常の意思を規定したものとして民法133条を存置する考え方があるという意見が示されております。また,原始的不能の契約の効力に関する規定との整合性を視野に入れて検討すべきであるとの意見も示されております。その上で,分科会におきましては,部会資料に示された甲案,乙案についてそれぞれの案を採用した場合の問題点を含めて補充的な議論をすることとされております。   次に,「2 期限」の「(1)期限の意義」,部会資料30の4ページです。第34回会議におきましては,民法412条の履行期という概念にも注意しながら議論すべきであるとの意見や,期限の終期と契約期間の終了時期との関係についても検討すべきであるとの意見がありました。分科会では具体的な規定の在り方について補充的に議論するとされております。   次の「(2)期限の利益の喪失」,部会資料30の6ページです。第34回会議におきましては,民法137条1号を削除することについては特に異論は示されませんでした。民法137条2号につきましては,担保を供した後に義務の不履行があった場合に関する旨を要件として規定するか否かという論点について,担保を保存する義務は法定担保物権についても妥当する場合があることから,第2号の冒頭に「義務に違反して」という要件を加えるべきであるとの意見が示されております。分科会では,このような提案に対する問題点などを含め,更に補充的に議論することとされております。 ○松本分科会長 それでは,ただいま説明を頂きましたうちの「1 条件」の部分についてどうぞ御意見をお伺いしたいと思います。御自由に御発言ください。 ○沖野幹事 項目順不同でよろしいのですか。それでしたら,1の(2)の130条関係の点についてよろしいでしょうか。 ○松本分科会長 どうぞ。 ○沖野幹事 故意にという要件ですとか信義則に反する行為ということをどう考えるかという点です。現行法の130条ですと,故意に条件成就を妨げるという表現で特に妨害という語によって,不正さや信義則違反であるという点がある程度はニュアンスとしては入っていると思います。しかし,現実にあり得るかどうかということも含めて多少の留保はあるのですけれども,意図的に条件の成就を妨げるという場合にもそれが不正とされない場面も考えられると思います。例えば一定の取引を締結するというようなことが条件で,それによって報酬などの利益を得られるという場合に,条件の成就にあたる契約締結について不正な形で取引を締結しようとしているとか,強引な勧誘をしているとかそういうときにそれを妨げるようなことを意図的にやるというのは,必ずしも不正ではないと思われます。そうだとすると,130条自体の元々の類型においても故意の妨害ということでは十分ではないと思います。   そこで,今度は逆の類推適用されている場面です。この場面も130条との対比で故意と妨げるに対応する要件を考えていくということなのですが,それについて,信義則というのは一つの在り方だと思います。それで内容面としてはカバーすると思うのですが,ただ,一つ気になりますのは,元々そういうものが許されるかどうかというのはやはり条件が設けられたその条件の趣旨に照らして,そのような行為について条件成就あるいは条件不成就と判断できるのか,そういうふうに評価していいのかということが加わります。他のところでは,様々な判断の中で契約の趣旨に照らしてどうかということが強調される中,この部分だけ信義則一本でいいのかということが気になります。そのようなことを考えますと,故意にという要件は必ずしも必要ではなく,また限定機能として不十分だと考えます。   信義則に反する行為又は態様という形で切り分けるということなのですが,他方で元々の条件の趣旨ということも考慮すべきではないかと思われまして,そうだといたしますと,その条件の趣旨に反する行為・態様によってとか,あるいは条件の設けられたその趣旨に照らし信義則違反と判断されるような場合にはとか,そういうような定式化を考え,それを現在の130条と類推適用両方の場面に共通するものとして打ち出すことが考えられるのではないかと思います。どうでしょうか。分科会は初めてなものですから,検討の仕方など不案内です,もし分科会での検討の在り方にそぐわないようであればそれも含めて御指摘いただければと思います。 ○松本分科会長 分科会のやり方についてはいろいろあると思うんですが,私も今回が初めてなので,取りあえずは御自由に発言いただいて,やり方を考えていけばいいと思います。まずは口火を切っていただきましてありがとうございます。今の点についていかがでしょうか。   沖野幹事の御提案だと,ここの提案だけではまだ不十分で,更に条件の趣旨に照らしてという文言を加えたほうがいいということですね。 ○沖野幹事 それを考えてはどうかというつもりです。 ○深山幹事 今の沖野先生の御発言の趣旨に,ほぼ100%賛同をいたします。意味合いとして2点おっしゃったように私は受け止めたのですが,1点目として,「故意」という現行法の表現について,意図的であっても必ずしもそれを条件成就とみなすべきでない場合があるという点に,まずは共感をいたしました。もちろん故意という言葉のニュアンスとして,「不当に」というニュアンスが国語的に読み込めなくもないのでしょうけれども,もう少しフラットに,「意図的に」というように理解をすると,意図的であっても合理的な場合と言いますか,正当な状況の中で条件成就させないという場合が考えられるので,やはり現行法の「故意」という言葉をむしろ避けたほうがよろしいと思います。   それに代わるものとしての「信義則」について,単なる信義則でいいのか,「条件を付した趣旨に照らして」という文言を付けるかどうかについては,意味合いとしては一定の趣旨というものを盛り込んだほうがよろしい,盛り込んで評価すべきだとは思います。明文化をするに当たって,言葉として「信義則」という中には,「条件が付された趣旨に照らして」という意味合いもそこに読み込めるというふうに考えるのであれば,言葉にしなくてもいいのかもしれませんが,よりはっきりさせるという意味では,「条件を付された趣旨に照らして」という言葉を付けることも十分あり得る考え方だと思います。 ○松本分科会長 恐らくこれは後の議論でも出てきますが,契約の趣旨プラス社会通念とか信義則とかというように二つ重ねるか,それともどちらか一つだけでも両方カバーできると考えられるのではないかということで一つにしてしまうのかという問題と,何か共通の文言のルールのようなものができれば,それで決まってくるような気がいたします。いずれにしても,現行法の故意では少し硬いということで,もう少しいろいろな事情を考慮して評価できるような形にしたほうがいいというのがお二人の意見でしたが,特に反対ということがございませんでしたら,補充分科会としてはそういう方向だということで,他の論点につきましてもどうぞ。 ○鎌田委員 今の御提案ですが,条件の趣旨に照らして信義則に反する行為によってとすることで,多分それで包摂しようとするものは全部包摂できるのかもしれないけれども,逆にどこまで含まれるのかが非常に曖昧になって,それによって包摂できるメリットと,こういうものが典型的にいけないんだということを明確にするメリット,どっちのほうが重視されるべきかなという疑問を感じました。現在の規定が信義則的に類推適用される場面というのがほとんどないというか,それほど広範ではないんだとしたら,表現が非常に包括的で曖昧なものになり過ぎるリスクというか,普通の人が読んで何を言おうとしているのかがよく分からない,どういう場面が条件成就の擬制がされる場面なのかというのが分からなくなってしまうという難点を生じさせないか。そういうふうな懸念を今伺った限りでちょっと感じましたので,あえて発言をさせていただきました。 ○深山幹事 今の鎌田先生の御発言の趣旨は分からなくはないのですが,正に分科会長がおっしゃったように,基準を一つの言葉で表現するのか,何々に照らして何とかというふうに二つないしそれ以上を並べるかという判断を求められる場面はあちこちにあって,今日のこの後の議論にも出てくると思うのですが,二つ基準めいたものを並べたときに,その両者が食い違うと言いますか,例えばA及びBに照らしてという基準にしたときに,Aに照らすとこうなるけれども,Bに照らすと違う判断があり得るような,そういう基準が二つ並んでしまうと非常に基準としてよろしくないということだと思うのです。そういう意味で,条件を付した趣旨というものと信義則というもので,それぞれの基準によってより絞り込まれていくことはあったとしても,違う結論になって判断ができなくなるようなことはないような気がします。そういう観点から,常にそういう基準が多いほうがいいという趣旨ではないのですが,矛盾を来さないような二重の絞りみたいなものであれば,私はあってもいいのではないかという気がします。 ○沖野幹事 部会長の御指摘は二つあると受け止めました。一つは深山幹事がおっしゃった,条件の趣旨ということと信義則ということを並べることがどうかという問題です。   もう一つは,今ある定式が持っているイメージ喚起力と言うべきものです。私は最初に,現行の表現・定式では十分な制限機能がないという問題を踏まえ,それに代わる定式化を考えるに当たり,130条の適用の場合と類推適用の場合を同じ基準で書くということを前提にしておりました。一本化する要件設定として,信義則だけを出すよりは条件の趣旨に立ち返ることが示されるべきではないか,更に言うと,そもそも類推適用事案の場合には,結局それは条件としてそういうものが条件成就と見てよいのかというと,それには当たらないという判断で,正に条件が付されたその趣旨・内容からすると否定されるという話だと考えておりまして,およそ一般的に信義則により不正だからというよりは,そのような形の条件成就というものを予定していないはずだというところから来るのではないかと考えました。それは実はいろいろなところで契約の趣旨に着目するというその基本姿勢とも合うのではないかと考えて申し上げたのですが,その話と130条プロパーの局面において,同様にそれを更に一般化する形にしたときに,現在の故意に妨げるという類型の,言ってみれば大変分かりやすいその性格が失われてしまう。故意に妨げるという場合はアウトであると普通は言えるけれども,しかし,改めて考えていくと,場合によってはそうではないものもあり得るのではないかということから一般化へとつなげたのですけれども,一般化へとつなげたことによって,故意の条件妨害ケースのようなものについては,条件から見るとそういうものは許されないという極めて抽象的なものになってしまって,意図的に妨害したという現在代表例として出されるようなものが消えてしまう。確かにそうではないものもあるかもしれないけれども,それに手当をするために漠とした要件設定にしてもいいのかという御指摘だと思います。   そうだとしますと,両類型で例えば信義則で一本化すること自体が適切かどうか。それとも類型として130条型類型と類推適用類型というのは,元々やはり性格も違うというところがあって,130条の類推適用型のところは類推適用とされていますけれども,それこそ信義則で主張制限するか,そもそも条件の解釈の問題として取り込めるというものでもありますので,両者本当に同じイメージで同じ表現でいいのかと言うと,それが違うという在り方もあるのではないかと今の御指摘を踏まえて思ったところです。 ○松本分科会長 130条の要件の故意を限定する形で新たな文言を組み込むという話と,130条の故意を更に拡張する,類推適用を明確に包摂するために文言を変えるという話と二つの方向でのベクトルがあるわけですが,それを同じ文言で両方一遍に実現しようと思うと,今,沖野幹事や深山幹事がおっしゃったような二つぐらい並べてやるという話になるということでしょうか。それとも類推適用はここから切り離して,故意の限定ということだけを念頭に置いた文言を考えるという話なのか。二兎を追うのか,一兎だけにするのかいずれでしょうか。 ○内田委員 沖野さんのおっしゃったことは誠にもっともだと思うのですが,非常に緻密な話になってしまうので,条文としてはもう少しシンプルでもいいのかなという感じがしました。飽くまで故意は故意で,それをむしろ限定するという方向ではないかと思うのですが,ただ,類推適用事案の場合には,条件成就の認定の問題とも関わるということかと思います。しかし,認定の問題は認定の問題として,運用上の処理も可能だろうと思います。故意という概念が持っている沖野さんの言われるイメージ喚起力を尊重するということになると,故意という要件は残して,そこに信義則なり条件が設けられた趣旨といったものを,何らかの形で盛り込むという余地はないのでしょうか。純粋の適用の場合と類推適用の場面とはセットで同じ条件でという趣旨です。 ○松本分科会長 一方で制限して,一方で拡張するというのを一つの同じ言葉でやろうとされているわけですね。 ○沖野幹事 例えば,故意に条件の成就を妨げたという場合と,故意に条件を成就させたという場合というようにした上で,ただし,それが信義則に反するとか条件の趣旨を勘案した上で信義則に反するとされる場合に限るとか,されない場合はそうではないとか,そういうような形にすればいいのではないかということですね。 ○中井委員 最初に沖野幹事がおっしゃられたこの条件成就若しくは条件不成就に関しても条件の趣旨ないし契約の趣旨を考慮すべきではないかという点は十分理解できるところです。それをどういう形で表現をするのか,その考え方は,先ほど松本委員が整理された帰責事由とも関連してくると思うんです。   この問題は条件を妨げた場合と,新たな提案である故意に条件を成就させた場合とがあって,妨げた場合と成就させた場合とは違います。ここも,帰責事由とパラレル的な言い方をすれば,結局は規範的評価で,その規範的評価の中に故意の行為という代表的例示によってほぼ満たされていますが,それだけでは不十分で,場合によっては場違いな場面もあります。そうすると,帰責事由がない場合と同じように,不当な条件成就,不当な条件妨害というように,その「不当な」をどの程度具体化させるのかという問題なのかと思います。そのとき松本委員の発言と重なりますけれども,そこで条件の趣旨若しくは契約の趣旨のみとなると,従来と変わったことになるのか,それは決して何かを変えるという趣旨の御発言ではないと思うんです。故意の場合が代表例ですが,不当性を何か表現できるようなものを検討するということではないかと思う次第です。 ○山野目幹事 御意見を承っていて感じたことを2点申し上げます。130条の本来の適用の類型に関する意見が1点目でございます。ここについては,故意を限定するような文言を簡明に表現した規定を設けることで十分なのではないかというふうに私は感じます。条件の趣旨というような文言を入れるということは,エスプリとしては十分に考えられることでありますとともに,そうなってくると,今,中井委員が御発言になったように不当とか社会通念を入れましょうとかいう話になってきますが,それほど大げさな話でしょうか,ここのところというのは。その契約の趣旨なのか社会通念なのか,みたいな議論の主戦場になるような場所ではないのではないでしょうか。そのことをもう少し真面目に言い換えますと,ここのところは信義に反する,とかというふうに書いておいても,おのずとその意味は,その条件が契約に付せられたものであるときには,契約の趣旨に照らしてそのことが判断されるということは成立が期待されてよい解釈であると考えますから,余り文言を重くすることについて躊躇を感ずる部分がございます。これが1点目です。   それから,2点目は130条の類推適用の類型についての意見でございますけれども,ここは何か少し私の理解が追い付いていなくて議論が遅れているのかもしれないのですが,果たして本当に類推適用の類型を規定として設けることがいいのでしょうか。何か解釈によっては,条件が成就していないと扱われる場面と,この故意に条件を成就させたという概念との関係が未整理なまま,生煮えの条文を置いてしまうことになりそうであるという心配を抱きますから,ちょっと半周遅れの議論なのかもしれないですし,議論を混ぜ返す部分もあるかもしれませんけれども,危惧を感ずるものでございますから申し上げます。 ○神作幹事 教えていただきたいのですが,130条に関連する金融法の分野の判例で民集にも登載された投資信託の解約に関する事件がありまして,投資信託の解約の請求について,投信を販売した販売業者が本件投信の委託会社に伝えなかった結果,解約がなされなかった事案です。最高裁は,130条に該当する可能性があると言って,破棄して差戻しをしましたが,当該判決の前提としては,販売業者が解約の請求について委託会社に伝達しなかったことが130条の故意に当たる可能性があると考えており,そうだとすると同条の「故意」というのはむしろ狭く解するのではなくて,そういう局面では広く解釈され得るのではないかと思ったのです。最高裁はそのように考えているからこそ130条に該当するかどうかについて審査をし直すように控訴審に差し戻したものと理解しておりました。むしろ130条の「故意」は,現在よりも狭くする方向で議論することが,前述の判例の理解と一致しているのか,私が投信の解約の判例を読み間違えている可能性もありますので,130条の「故意」の解釈としてどのように理解されているのか教えていただければと存じます。 ○松本分科会長 いかがでしょうか。故意が大前提で,場合によって故意でも適用されないケースがあるという形で運用されているのか,故意がなくても場合によっては130条が適用されるような形で運用されているのか。条件不成就のケースでその両面が考えられるのと,もう一つ,条件成就を故意でやった場合あるいは故意とは言えないけれども,何か不当にやった場合にまた同じ論点が出てくるということだと思いますが。 ○佐藤関係官 素人的な発言で恐縮なんですけれども,今お話をお聴きしていて,刑事法的な発想からいたしますと,故意,何かこういう犯罪を犯すという目的を持った,合目的的な行為というのと,認識はあるけれども,それをやるつもりはなくて,何かたまたまそういうことをやってしまったというところが両方あり得るのかなと。素人的に考えてみましたときに,その故意というのは,刑事法的な故意をまず頭の発想に描きまして,条件を成就させないつもりで何かの行為をやったというのがあり得るのかな。それ以外に,信義則的に,そこまでの強い意思はなかったけれども,ある程度認識していながら,あるいは認識の可能性がありながら何か行為を行ってしまい,その結果として条件の成就を妨げてしまったという両方の場合があり得るのかなと思っておりました。   正しく理解していないのかもしれないですけれども,今どうやら問題になっていたのは,認識はあり,それで何か行為をして条件成就が妨げられた。その認識があるということを,どこまで故意的なものとみなし,どこまでを故意的なところから除外していくか,というお話なのかなと思っておりました。そういう意味では今,神作先生のおっしゃられたところは,刑事法的な意味で故意とまでは言わない,ただ,何らかの認識はしている,又は認識の可能性があった上で,条件成就を妨げてしまった。故意とまでは言わないけれども,帰責事由があるような行為をしてしまったという意味なのかなと思っておりました。そうしますと,条文案として,刑事法的な故意を前提とした上で,故意又はそれに準ずるような意思を持ちながら何かをやったことという方向で捉えるか,あるいは何か認識していながら条件成就を妨げ,その中でも本当に信義則的に帰責事由があるような場合だけに限定するという二つの考え方があり得るのかなと。すみません,ちょっと感触的な発言でありますが,そういう感じを持ちながら聴いておりました。 ○松本分科会長 つまり故意の中に目的を達成するためにという要件を盛り込むかという,刑法で言えば目的犯と言うんですか,そういうふうに厳格に考えるのか,そうではなくて,ある行為をすることは意識している。誤って行為したのではない。しかし,その結果として,目的を成就するあるいは不成就させるというところまでは積極的に意図はしていなかったけれども,そういう可能性は認識していた,予見可能であったものだと。 ○佐藤関係官 認識しながらそういう行為をしてしまったと。 ○中井委員 先ほどの神作幹事の御指摘に関してです。意図的な行為によって条件成就を妨げた場合であっても,条件成就したものとみなすのが適当でない場合がある,というのが先ほどの深山幹事の発言であり,沖野幹事の発言だと理解しました。逆に意図的な行為でない結果として条件成就を妨げた場合であっても,条件成就とみなすべき場合がある。最高裁の例ですが,きちんと解約の手続を取らなかった,これは単に事務をしなかっただけの話だと思うんですけれども,両面あるのではないでしょうか。   ですから,トートロジーになるのかもしれませんけれども,条件成就をしたものとみなすことができるような不当な行為で条件成就を妨げた場合が定義されるべきで,また,不当な行為によって条件を成就させたと評価できるような場合をどうやって定義するのかという問題に帰着するのではないでしょうか。それを極論すれば,「不当な」でいいのではないでしょうか。 ○鎌田委員 早めに終わらせるべき役割をふだん負っている者が議論を長くさせて申し訳ありません。私が申し上げたのはすごく単純なことです。担保保存義務の場合も故意又は過失による担保の滅失毀損が要件とされていますが,信義則説による適用範囲の制限を考えているので,ここでも要件に信義則が掛かったほうがいいのかなという気がしなくもないんですけれども,ある意味では信義則がかぶさってくるのは,どんな条文にでもみんなあって,この場合も,条件そのものとの関係では故意に条件成就を妨げるとか条件不成就にしたと言えるんだけれども,その条件の趣旨から言って,130条の適用を信義則で制限すべきケースもあり得るし,類推適用ケースのように130条の要件からは外れるけれども,同じ趣旨で考えなければいけないというのがあるんですけれども,現在の運用が130条の規定そのものが本来狙っているところとすごくずれているかと言うと,それほどでもなくて,130条があってその周辺に特殊なケースがあれば,その都度信義則ないし類推適用で処理すればよくて,何かわざわざそれを全部きちんと拾い上げて明文の規定に包摂していかなければいけないほど重要な機能をその類推適用とか信義則による制限が担っているのかなという疑問をもっているということです。それを気にし出すと,いろいろな制度について似たような制限とか類推適用のケースを全部条文化していかなければなくなる。そういう意味で当面130条があって,それをもっと明確に分かりやすくする何か規定が考えられるならいいけれども,先ほどの御提案で行くと非常に複雑な感じがして,概念がかえって不明確あるいは核心部分もかえって不明確になるおそれがありそうなので,あえて130条維持説みたいなものも直ちに分科会の議論の中から消さないでおいてほしいなと,その程度の発言をさせていただいたということでございます。 ○沖野幹事 一つ確認させていただいてよろしいですか。山野目幹事が御指摘になった点なのですけれども,判例が130条を類推適用するとしている場面というのを本当に明文化する必要があるのかという点についても,それは解釈に委ね,妨害型のものさえ置いておけばよいという御趣旨なのでしょうか。 ○鎌田委員 私はそれほど頻繁に起きるケースでないという感じは持っているんですけれども,しかし,これも一つの類型としてやはり判例で最高裁判例がある以上,書くべきだということであれば,別立てで書いていただいてもそれは構わないし,その場合には間違いなく信義則とかあるいは不当性みたいなものを入れないといけない。ある意味で故意に条件成就させるのは当たり前のことなので,それは非常に慎重な規定の作り方をしないといけないなと思っています。 ○沖野幹事 その際には二つの類型で表現ぶりがやはり変わってくるということになりますね。 ○鎌田委員 それは変わらなければいけないと思います。 ○中井委員 沖野幹事の御発言の前に考えていた条文案ですけれども,「故意による行為その他信義則に反する行為によって条件の成就を妨げたとき」,これは現行法の修正版です。新たに設けるのが,やはり故意を入れなければいけないと思うんですけれども,「不当な行為その他信義則に反する行為によって条件を成就させたとき」で,信義則を入れるとすれば,例示との両方にすべきだと思います。故意の行為では画せないわけですから,不当な行為という評価を入れることになると思うのですが,いかがでしょうか。契約の趣旨は,信義則の中に盛り込むということなのかもしれません。 ○松本分科会長 どうも条件の成就あるいは不成就にしろ,その行為を故意に行う人の努力次第で何とでもなるというような局面の場合ですね。先ほど沖野幹事が条件が成就するように努力するのは当たり前だという趣旨のことをおっしゃったんですよね。だから,単に故意にでは駄目なんだと。そうすると,不成就の場合も条件が成就しないように一方が努力してよい局面というのはあり得るわけです,その人が何々すればどうだとかいうような条件であれば。そうすると,故意に条件成就させないように努力することが正当だという局面はあり得るわけです。あなたが風邪を引いて休めばこうこうだというような条件があった場合に,風邪を引かないように努力するというのは故意に努力するんですよね,一生懸命。これは全く非難されるべきことではないです。 ○内田委員 今の松本分科会長が挙げられたような例も結局は条件が設けられた趣旨に照らして,その行為が条件成就とみなすに値するかどうかという判断がなされるのだと思いますので,その意味では趣旨をうまく反映できるような文言を用意すればいいということではないかという気がいたします。条件の成就妨害の場合と,それから類推の場合とで場面が違うというのは確かにそのような感じもしますし,その用語も中井委員がおっしゃったように少し違えて作るという余地もあるとは思うのですが,私は最初のほうの山野目幹事の御発言に共感するところがあって,それほど精緻なものを用意する問題なのかという気もします。いずれにしても,認識プラス認容という意味での故意は介在するのだと思います。神作幹事が言われた例も,厳密な意味で認識プラス認容があるかどうかは分からないけれども,それに匹敵するという事例なのではないかと理解いたしました。そういう意味での故意と,最初に沖野幹事が言われた条件が設けられた趣旨に反するあるいは信義則に反するというような要件の絞りを掛けることで,類推適用の部分も含めてカバーするという辺りがいいのではないかと,なお私としては感じます。 ○松本分科会長 鎌田部会長の発言の御趣旨を尊重するとすれば,原則はこのまま維持して,ただし書か何かを付けて信義則とかあるいは条件設定の趣旨から判断して不当でない場合はこの限りにあらずというようなふうにひっくり返すというのが一つのやり方でしょう。それはただし書を付けなくても当然そうなんだということであれば,このままでもいいということになるんでしょうが。 ○鎌田委員 その点と類推適用ケースを条文の形で明示的に規定するか,それは積極意見のほうが多いだろうというふうには伺っていましたけれども,表裏をワンセンテンスにするのはちょっと分かりにくいですよね。やはり二つのタイプだというふうにしたほうがいいだろうと思います。 ○筒井幹事 様々な御発言を頂いて,大変議論が深まりました。ありがとうございます。これが正に分科会で議論する意義だと思います。この議論を受け止めて次にどういう形で中間試案のたたき台を示すのかということについて,まだ具体的なイメージを持つには至っておりませんけれども,しかし,議論が深められてポイントはよく見えてまいりましたので,そのポイントに留意しながら複数の案をお示しするのか,あるいは事務当局で整理をして一つの案を立てるのか,更に我々のほうで検討させていただきたいと思います。 ○松本分科会長 ということで,この論点はこれぐらいにしろというのが事務当局の御要望ですので,条件についての他の論点について御発言ございますか。中井委員からは,前の部会では名称の具体的な提案がされていたところですが,どうぞ。 ○山野目幹事 名称の問題で簡潔に中井委員の御提案に賛成です。最終的に新しい債権関係規定の全般を見直して,どれくらい,どういうふうに用語を見直すのかという言語政策的な観点を一度する必要があると思いますけれども,当面の整理としては効力発生要件と効力消滅要件というような形にしていただくのはよろしいことではないかと感じます。 ○沖野幹事 特に停止条件という概念が一般的には分かりにくく,解除条件と対比したときに条件の付き方が反対であるので一層分かりにくいと思います。ですので,より分かりやすい用語という点からしますと,効力発生条件,効力消滅条件という御提案の用語は有益なものだと思います。パブリックコメントですと発効条件とか起動条件というような御提案も頂いておりますけれども,解除条件と対比させるならば効力発生条件,効力消滅条件というのは一つの手かと思います。   概念整理としては非常に分かりやすいですし,一般的に分かりやすさを目指すということはそうなのですが,他方で停止条件あるいは解除条件という語がかなりいろいろなところで普及しておりますので,一般からは大変分かりにくいんですけれども,本当に一気に変えられるだろうかという点についていささか危惧を持っています。それはこれに限らないのですけれども,民法以外でもかなり概念整理として使われたりしますので,しかし,それは知っている人だけが知っているという概念だから,変えるということは十分一つの決断だと思うんですけれども,影響は大丈夫かなという印象は持ちます。  そして,変えるとすると御提案のような効力発生条件,効力消滅条件というのは一つの考え方だと思います。停止条件のほうはとりわけ気になりますので,せめてそちらだけでも少し変えられないかと思います。解除条件のほうは,解除との関係などもありますので,完全に違う用語がいいのかはやや微妙には思いますけれども。 ○松本分科会長 あと,履行条件という概念を明文化すべきだという提案も部会では出ておったわけですが,この点についてはいかがでしょうか。履行条件と履行期の到来というのがどう違うのか。条件であれば必ずしも成就するかどうか分からないわけだから,履行期が到来しないということもあるような債務というのは何なんでしょうかね。射倖契約ですか。 ○沖野幹事 前からよく分からないのが不動産仲介などの報酬で,契約を締結すれば,あるいは一定の事象があれば報酬を払うという例です。あれは委託はあって委任ないし準委任契約自体は効力を発生しており,しかし,それに基づく報酬債権の発生自体が一定の事象に係らしめられていて,うまく成約しなければ全く報酬は取れないというものです。成功報酬型一般についてそうかと思うのですけれども,この場合何に条件が付されているのかです。契約の報酬債権の発生の部分つまり法律行為の一部に条件が付いているのか,それとも債権自体についてその債権の発生に条件が付いているのか,それとも今言われたような債権は成立はしているのだけれども,何らかの行為なり事象なりに具体化・現実化がかからしめられているということで履行期の問題なのか。この場合の報酬については履行期の問題という感じはしないのですけれども,ただ,履行期の問題と説明できないかと言われれば,そもそもこの三者がどう違うのか,それ自体がはっきりしないように思うのです。 ○松本分科会長 恐らく懸賞広告も契約構成すれば同じような問題が出てくると思うんですね。懸賞広告は契約か。でも…… ○沖野幹事 一方的債務負担行為という構成もできるということでしょうか。 ○松本分科会長 実際に行為が実現して,それによって成立する契約ということでしょうが,事前の合意で契約が成立しているけれども,報酬をもらえるのは実際実現したときだという契約だというふうに考えれば,今言ったのと同じような感じになりますね。 ○山野目幹事 法典に規定を設けて読み手に何を伝えたいのかということを整理する必要があるであろうというふうに感じますけれども,停止条件,解除条件の意味を伝えることは必要であると考えます。停止条件,解除条件の意味を伝えるときに,その定義を法律行為に付せられているという場面を想像して書くと,比較的書きやすいし,読み手にも読みやすいだろうというふうに感じますから,法律要件に付せられたときの前提で停止条件と解除条件の定義を置くことはよろしいと考えます。しかし,履行期限と履行条件についてまで併せて定義を設けるということに一体読み手に対してどういうメリットを与えるのかということを考え始めますと,既に停止条件,解除条件の定義は与えられているわけですから,その応用で停止期限や停止条件も,人々が文献の中で書くのはもちろんあっていいとしても,法文に書いておくことが必要かということを考えると,その有用性はないとまでは言いませんけれども,かなり下がるように感じます。   加えて沖野幹事がおっしゃったように,どの場合が履行期に付せられていて,どの場合が法律行為に付せられているのかというような厄介な問題について煩わされ,また,場合によってはおかしな整理で法文を書かなければならないようなことになるということが,そのことに心を砕くということが有益なのかということは,まだ私はいいことだという気持ちになることができないでいます。 ○松本分科会長 では,ここはそういう考えもあるけれども,余りいい気持ちもしないという意見もあるということぐらいにして,あと不能条件についてはいかがですか。 ○中井委員 部会で申し上げているとおりで,これを残すか残さないか,分科会で議論をするということですが,弁護士会の多くは,維持するという意見です。原始的不能との関係で別の意見があるんでしょうか。 ○松本分科会長 一応それぞれの案を採用した場合の問題点を補充的に議論してくれというマンデートですから,維持した場合,特にどういう問題があるのか,削除した場合にどういう問題があるのかという意見をお出しいただければいいかと思います。つまり維持した場合に問題点があるというのは,現行法に問題点があるという趣旨でしょうが,現行法に不都合なところがあるということであれば削除するという方向になるでしょうし,不都合が特にないということであれば,そのままでもいいということになるんでしょうが,何か現行法で不都合はございますでしょうか。 ○鎌田委員 現行法で直ちに不都合があるかどうかという以上に,原始的不能論を排除した場合にこちらはそのまま維持することが論理的に整合性があるかという問題の提起だったというふうに記憶をしているんですけれども,個人的には原始的不能論の問題と不能条件の問題は性質が違うのではないかと思っていて,仮に原始的不能は無効でないという原則を取ったとしても,不能条件は現行法のままでも矛盾はしないのではないかなという印象を持っております。 ○沖野幹事 私も今御指摘があったように理解をしております。原始的不能の場合は給付の内容が実現不能であるときに,そのような内容の債務を発生させるあるいは契約自体の効力を維持するのかどうかが問題になるのに対し,条件のほうはそのような給付内容として効力を維持するかとは違う問題です。  更に原始的不能の場合,当事者の選択に委ねるべきであるということと,原始的不能と後発的不能とで法律関係が大きく変わることが問題ではないかという指摘があり,それが問題の一つであると思います。これに対し,不能条件の場合に最初から不能の場合と後で不能になった場合とで法律関係が大きく変わるのかと言いますと,不能の概念にもよると思うのですが,ここでの不能というのは条件を成就することが不可能であるという意味だと捉えますと,最初から不可能であった場合と後から不可能になった場合とで処理が変わるのかと言うと,変わらないように思います。不能条件の場合むしろこれと更に既成条件との関係も問題になるように思います。いずれにせよ,原始的不能論が持っているような問題状況がここでは起こってこないのではないかと思います。  内容としては規定がなくても当然導けるのではないかということからあえて置くまでもないという判断はできるように思うのですけれども,原始的不能についての議論との関係でこちらも併せて影響を受けるという話ではないものと考えます。 ○松本分科会長 契約締結後の条件の不能は,ひょっとすると不可抗力の話になりますか。例えば政府の許可が取れればこれで契約は有効になるという場合に,政府が方針を変えてそういう取引には今後許可を出さないと決めたような場合,輸出許可は出さないとしたような場合は不可抗力の一つの典型ではないですか。 ○沖野幹事 今の例ですと,それが停止条件だとしますと,停止条件は成就しないことで確定すると考えてよいでしょうか。停止条件は成就しないのでおよそ効力が生じないままであり,その先は解釈かもしれませんが,もう効力は生じないということで確定すると。それが最初から不能であった場合も効力が生じないということで確定するわけですが,分科会長のお話は,停止条件は成就しないことが確定するのだけれども,なお条件なしの契約をしたのと同じ効力が発生すると読む余地が,条件が付された解釈によっては出てくるのではないかという御指摘なのでしょうか。 ○松本分科会長 いや,そうではなくて契約締結前からの不能の場合と後からの不能の場合はちょっと何かシチュエーションが違うのではないかという印象なんです。つまり状況が変わった,事情変更の結果として条件が不能になったという場合について,不可抗力は契約無効ではなくて免責の話ですよね。あるいは事情変更による契約の解除の話になるわけでしょうから,この133条をそのまま適用すれば最初から無効だったという話になるのは何かちょっとおかしいのではないかということなんです。条件が無効ではなくて,法律行為は無効とすると書いてありましたよね。 ○沖野幹事 条件の成否の問題で,停止条件が成就しないことで確定するのが最初から成就しないことで確定しているのと同じで,その意味では既成条件の扱いと似たような話になるからということかと理解していたのですけれども。 ○松本分科会長 いや,ただ,私先ほど言ったような政府の許可を停止条件とするような取引で,政府が方針を変えて,その種の取引は禁止するあるいは輸出は禁止するということになった場合には輸出できないわけだから,契約を履行できないわけですよね。それに133条を適用して当該契約は無効だったと,当初から無効だったというふうにするんだとすれば,事情変更による無効だと,不可抗力による無効だということになってしまって,ちょっと論理的につじつまが合わないのではないかということなんです。 ○鎌田委員 契約の不存在と無効を区別するなら別ですけれども,効力が発生しないことを無効と言うんだとすると,その契約自体の効力発生が政府の許可に懸かっているんだとしたら,政府の許可がない限りは契約は効力を生じていません。したがって無効です,一度も効力は生じていませんという意味では,最初から無効ですということだと思います。 ○中井委員 松本委員は,不能の停止条件を付した法律行為でも有効として存続させる方向の意見ではないと思いますが,これを維持する意味が実質的にないというところが一番の理由です。契約時点で停止条件を成就することが不能であることが確定している,そのような契約をなぜ有効としておかなければならないのか。永遠に契約は続くけれども,条件は成就しない。とすれば,手っ取り早く無効としておけばいいではないか。松本委員がおっしゃったのは,契約締結時にはその条件は成就する可能性があったかもしれませんが,その後事情が変わって条件の成就することがあり得なくなった。そのときもはや条件成就しないから,契約の効力が発生することはあり得ない。そういう事態が生じることはありますが,だからといって契約時に不能条件が付いていたのに,あえて有効として将来効力の発生することもない契約を有効と解しておく実益はないと思います。   ここで問題提起があるとすれば,原始的不能有効説に立ったときに,条件についても同じような議論があり得るのかなと思いましたけれども,先ほど沖野幹事のお話を聴きまして,非常にクリアに御説明いただいたように私は思いました。それであればこの条件の問題については現行法維持で,原始的不能有効説に立ったとしても構わないのではないでしょうか。 ○松本分科会長 ちょっと誤解を与えたかもしれないです。給付との関係での原始的不能論をここに持ってくるというのは,筋違いだという点では,私は鎌田部会長や沖野幹事と全く同意見なんですが,契約締結時点において不能の確定している条件と,契約締結時点においては不能ではないという普通の条件は何か違うのでないか。政府が許可してくれるか,してくれないかは分からないけれども,許可してくれることが十分あり得るという場合と,許可が出ることはあり得ないという場合は何か違うのではないかという素朴な感覚なんです。 ○鎌田委員 それはおっしゃるとおりだと思います。133条は最初から不能の場合であって,後から不能に確定したのは普通に条件付法律行為が行われ,条件不成就に確定という処理になるはずで,しかし,結果的にはいずれも狙った効果は生じない点で同じことだという解釈だと思いますけれども。 ○松本分科会長 ということで特に原始的不能論を採用しないということとの関係で133条の規定を削除すべきだという考え方については積極的に支持する方はいらっしゃらないということでよろしいですか。 ○内田委員 削除というより文言について整合性を検討する必要はないかという問題提起が部会ではあったのだと思います。今の議論で,それは別の問題として考えることができるということかと思います。   ただ一つ細かなことですが,松本委員がおっしゃった後発的に停止条件が不能になった場面というのは確かに後発的な履行不能に相当する場面なので,解除で対応することもあり得ると思います。しかし,重なっても別に問題はない,結果的には同じなので問題はないという整理であれば,それで結構かと思います。 ○沖野幹事 すみません,細かいことばかり申し上げて。文言がこれでいいのかという点です。その観点から多少気になりますのは不能という言葉です。原始的不能だけではなくて履行不能も含めたその不能というものをどう捉えるかということが損害賠償や履行請求権などとの関係で検討事項になっています。不能という概念を立てた上でそれを豊かなものにしていくのか,そうではなくて不能は一つの場合であるとするのかが問題となっています。それらの場面での不能の語の用い方が影響するのかどうかです。不能条件というときの不能というのは,むしろ不可能あるいは条件で言えば不成就や成就が確定するというような,そういう意味であると思うのですが,債務の履行・不履行のところでの不能という概念が直接にここの不能条件にいう不能と対応するものではないのではないという理解で不能を使うということでよろしいでしょうか。 ○松本分科会長 恐らく不能の中身,何が不能かということで,通常の債務の場合は,債務者が何々すべきことが客観的に不能になるか,あるいは契約の趣旨からいって実現を強制することが不能になるかとか,そういう観点でしょう。条件の場合は確かに債務者が何々すればというような条件もあり得るでしょうが,そうでないところの第三者に依存しているとか,あるいは自然環境の変化に依存しているとか,債務者が努力してもどうしようもない条件の場合があるでしょうから,そうすると,債務不履行における不能と重なる部分が少しはあるかもしれないけれども,大部分は重ならないと理解したほうがいいのではないでしょうか。条件の成就が不能であるにすぎないわけで,債務の履行が不能かどうかは全く別な話ですから。 ○沖野幹事 おっしゃるとおりだと思います。ですので,特に疑義もなかろうから,仮に同じ文言になってもそれは問題ないということで整理してよろしいかと思います。 ○松本分科会長 条件の不能と履行の不能というふうにきちんと言えばいいのではないでしょうか。 ○山野目幹事 現行法は条件の定義の規定を置いていないのですけれども,今回は定義の規定を置く方向で議論が進んでいると思います。どういうふうに置かれるかというと,将来発生することが不確実な事実が条件事実であるという定義が規定で一方で示されていて,多分ここで言っている不能の条件というのは,将来発生しないことが確実である事実であるというふうに思われるところから,定義の規定との関係で何か整理を要する問題が生じないか不自然な規律ぶりにならないようにしなければなりません。申し上げていることはですから,不能の条件というのは,あれは定義に照らすと条件ではないのかもしれないので,その辺りの思考整理というか文言整理については,最終的に留意していただきたいと感じます。 ○内田委員 不能という言葉自体は確かに沖野さんが言われたようにやや適切ではないかもしれませんね。条件が成就しないことに決まったということなので,そういうことが言い表せる表現にできないかどうかの検討を今後するということでしょうか。 ○鎌田委員 ある種,社会通念に照らして判断すべき部分は残ると思いますけれどもね。 ○内田委員 履行不能との混同を生じないようなワーディングにということですね。 ○松本分科会長 その辺は実際の法案を作る場合の言葉の選択の話になると思いますし,この場でも条件の不能とか条件の不可能とかいうふうに少し言い替えればそれほど混同はないと思うんです。その辺は実際の作業をする事務当局にお任せするとして,履行不能と混同しないようにしてくださいというところだけをここで一応合意ということにすればよろしいかと思います。条件のほうは以上3点議論してくださいということでしたが,「期限」について,どうぞ御意見を出してください。   期限については,期限の意義と言いますか,定義のようなものをきちんとすべきではないかという話,先ほどもちょっと出ましたが,履行期限というのを明記するかどうかという点と,それから,期限の利益の喪失の137条の特に2項の文言をめぐって議論してくださいということです。 ○山野目幹事 2の(1)の論点につきましては,始期,終期,確定期限,不確定期限の定義を簡明に示しておくことは有意義ではないかと感じます半面において,条件のところについて述べた意見の繰り返しですが,履行期限をわざわざ記す必要があるかについては疑問を感じます。   それから,2の(2)についてはこれでよいのではないかと感じますし,部会での審議のときにもここについては,この方向を支持するような御意見があったように記憶いたしますから,それらも参考にしてよいのではないかと考えます。 ○中井委員 山野目幹事の御意見は,期限についての始期と期限についての終期を具体的に定義して定めるけれども,履行期限,つまり,効力は発生している,しかし,いつから履行できるかという期限については定めないという御提案ですか。なるほどそういう考え方もあるのかなと思いますけれども,仮に履行期限を定める場合,提案は,開始する期限だけで,履行の終了期限とでも言うんでしょうか,その対もあるのに,その指摘がないのはなぜかとは思っていたのです。期限が到来したら請求できる,期限が到来したら請求できなくなる。これは期限が到来したら効力が発生する,期限が到来したら効力が消滅する。この効力が消滅するのと履行の終了期限というのが実質同じだからないということなのか。 ○松本分科会長 その履行の終了期限というのは,時効とどこが違うんですか。今おっしゃった,いついつになれば履行請求できると,これはよくありますけれども,いついつ以降は請求できないというのは,債権が消えてしまうという時効期間の特約をしているような話になるんですか。 ○中井委員 時効の特約というか,この期間しか履行の請求ができないという特約かもしれません。請求権を行使できる期間の特約。 ○松本分科会長 それは時効期間の特約とどこが違うんですかね。 ○中井委員 それは時効のところでも議論をされた問題かもしれません。 ○山野目幹事 今,分科会長がおっしゃったことを議論することが有益であると考えます。 ○松本分科会長 終期というのは,賃貸借にしろ雇用にしろ,継続的な契約の場合に何となくイメージされていて,普通の一回限りの履行で終わってしまうような契約の場合に請求できなくなる時期というのは,それは何かあるんでしょうけれども。 ○中井委員 将来発生することが確実な事実,つまり期限が到来したら効力が発生しますという考え方,ある期限が到来したら効力が消滅しますという考え方はいいんです。その次の提案として,履行期限というのは履行ができる開始を定める提案で,これはあり得ると思うんです。契約の効力は発生しています,請求権は発生しているけれども,期限が到来したら,そこから履行の請求ができますと。仮にこういう考え方を仮に入れるのなら,同じように終期を定めることだってあり得ると思ったので,そういう提案がないのはなぜかという問題意識で申し上げたにとどまるんです。積極的に入れるべきとまで考えたわけでは決してないんですけれども,それを考えることによって,山野目幹事がおっしゃったこの問題は書かなくてもいいというふうにつながるのかなと思ったものですから。 ○深山幹事 そもそもそういう意味で言うと,御提案のある履行期限を通常の効力発生という意味での期限とは別に設ける意味合いと言いますか,趣旨がどこにあるのかが今一つ理解できません。意味はあるけれども,そこまで細かい規定を設ける必要がないという議論が専らなされているのか,そもそもそこに履行期限を別途定めて明文化する意味があるのかないのか自体が議論になっているのかが分からないのですが,私は定める必要性は余り感じません。もちろん,法律行為全体の効力発生の問題と,その法律行為に基づいて発生する個々の債権債務の履行に関する始期,終期の問題との違いというのは観念的には分からなくはないのですが,あえてそれを明文化する積極的な意味が余り感じられないと思っています。   ついでに言えば,その延長線上で履行条件ということについても,観念的には同じようなことが条件についても観念できるのですけれども,やはり同じように,あえて明文化する積極的な意味はないと感じております。 ○内田委員 履行に付された期限については民法上412条に規定があって,既に民法に定めのある制度なので,条件期限のところの期限の部分に履行期限についての定義規定を置いてはどうかということではないかと思います。ですから,定義の規定を置くかどうかの問題であって,民法上は既に存在している観念だと思います。 ○鎌田委員 概念の整理の問題にしても,期限にはそういうタイプのものがありますというのは整理できるんですけれども,条件についてもそうだと思うんですが,期限も法律行為の全部又は一部の効力の発生に条件や期限が掛かるんですよね。ですから,法律行為のうちの履行の部分についてだけ期限を付けるということはできるわけで,民法の412条の書き方も債務の履行について確定期限や不確定期限があるときはとしているわけで,民法総則の期限の規定は,その中に全部包摂される形で,どこに期限を付けるかというのは法律行為全体に付けてもいいし,請求権に付けてもいいという整理になっているのが現行の民法の考え方ではないかなというふうに思っています。だからいろいろなタイプのものがありますと並べる形で定義を置くならそれはあってもいいけれども,そのときにはやはり履行期限も期限の一種ですというふうな形にしなければいけなくなってくるんだろうと思います。 ○沖野幹事 履行期限の点ですが,現行法の135条が始期については履行にかからしめるというか,履行についての始期を問題とし,終期については法律行為全体の終期を問題としているというのが現行法上もアンバランスであるという問題があります。これは最も問題になるのはこの局面であり,始期が付くのは,普通はそこから履行ということが一番問題になるし,終期は履行の終期というよりは法律行為全体が終わるということが一番問題になるということで,最も問題になるところを書き表しているのが現行法ではないかと思います。それをもう少し整理するというのはあり得ることだとは思うのですが,ただ,全部きれいにマトリックスを埋める必要があるのか,あえて全てを定義する必要があるのかというのはまた別の話かと思います。   それから,履行期限自体については,履行期限の定義を置く必要があるのかということと,それについての定めが要るかというのはまた別の問題で,現行法はむしろ履行期限について専ら定めているのではないかと思われまして,136条の債務者の利益のためというのもそれですし,先ほど挙げられた412条もそうですし,むしろ債権債務の履行についての期限が付いているということのほうが専らではないのかと思われます。定義を置かなくても規律は書けるというものもあるのかとは思います。   それから,中井委員がおっしゃった,履行に関して言わば終期が付いているという場合も当然考えられるのではないかという点ですが,そもそも期限というものが何のために付されるのか,期限の利益といったことを考えると,始期が専ら問題になるのではないかと思います。始期,つまり開始する,ここから請求できるということが問題になるのではないかと思われます。もう一つは先ほど来問題となっている点です。終期があるようなものは,例えばこの債権の行使期間は何時までであるというような場合ですと,行使期間の終期があって,それ以降はもう全く行使できないという意味では,正に権利内容そのものの話として考えられる場面はあります。その当該権利の存続期間の問題かもしれないのですが,いずれにせよ,それについて定義を置いて,その終期が来たときにどのようなことが起こるかや,それについてどのような利害があるかとかいう具体的な規律は考えにくいのではないかと思います。あえて定義を置く必要はないように思います。 ○松本分科会長 そもそも継続的契約でなければ,契約の効力としての終期というのは考える必要がないですよね。売買契約の終期なんて議論はしないです。恐らく効力発生時期という意味での議論はするだろうし,履行期はいつ到来しますかというのも議論するでしょうが,この売買契約の終期はいつですかなんて議論はしない。債権は時効で消滅するところで終わってしまい,そこで契約の効力もなくなってしまうということかもしれないですから,契約の効力とは別の終期というのは何か特殊なものではないでしょうか。ただ,年末だと福引とかがあり,福引ができる期間は決まっていますから,あの期間を過ぎてしまうと恐らく権利行使できないんでしょうから,福引参加請求権の時効ではないけれども,ここに契約レベルにおける行使期間というのがあるんだとすれば,そこは確かに終期ということかもしれないですね。ただ,売買契約で代金請求できるのは何月何日から何月何日の間だけですと。それ以降はありませんなんていうのは,これは恐らく無効でしょうね。となると,その期間を区切って,その期間のみ履行請求できるような特殊な債権というのは,発生根拠がそれに見合った内容のものに限られてくるということではないでしょうか。 ○鎌田委員 ファミレスチェーンのお食事券なんていうのには,有効期間1年間とかというのが付いていると聞いたことがありますが,あれは考え方によっては売買代金を前払しておいて,しかし,食事の給付には終期が付いていると考えることができます。そういうふうな例は,少なくはないのではないですか。 ○松本分科会長 商品券の話だから,またちょっと…… ○鎌田委員 回数券の有効期間でもいいんですけれども。 ○松本分科会長 別の議論が出てくるのではないでしょうかね。 ○深山幹事 今の直前の話ではなく,その前の話に戻って恐縮なんですけれども,先ほど私の質問めいた意見に内田先生と鎌田先生がお答えいただいたのを踏まえて申し上げます。現行法の412条の規定があり,今後もあるだろうということは私の頭の中では前提になっていて,それでありながら履行期限の規律というのを現行法で言えば民法総則のこの条件期限のところで別途設ける意味がどこにあるのかが分からなくて御質問したのです。そもそも前提が違っていて,412条の規律を総則のところに取り込んでという議論なら話は違うんでしょうけれども,そうではないのだとすると,それは履行期とか弁済期の問題として,現行法で言えば400条台のところで議論すれば足りるのではないかという疑問だったんですが,その理解は間違っていないんですかね。 ○松本分科会長 特に履行期限のほうは明文化しようがしまいが,どっちでも変わらないという感じで,教科書的な配慮を入れて定義的なものを置くかどうかということですが,どうぞ。 ○山野目幹事 2点申し上げます。この期限の終期のほうの部分についてのただいまの福引券とか食事券についての部会長と分科会長のお話は楽しく伺いましたが,中井委員が始めのほうだけ設け,後ろを設けないのは変ではないかという御指摘はそのとおりだと感じますから,小うるさい定義はどちらも設けないということでそろえればよろしいので,設けなくても別に困るような立法事実はないであろうと考えます。これが1点目です。   それから2点目は,しかしながら,沖野幹事がおっしゃったことですが,定義を置くかどうかという問題と別に,今回部会資料が示唆している問題意識の中には,条件と期限に関する規定ぶりが現行法の中で幾つかの不ぞろいのところがあるのではないかというお話があったと酌み取りましたから,そこは考えなければいけないことであろうと思います。自身は精査しておりませんが,例えば412条2項の不確定期限の到来を知った時から遅滞に陥るという規定は,条件成就を知った時にも同じように扱われてよろしいというふうにも感じられるわけで,そういうふうに期限にのみ言及していて条件に言及していないようなところを最終的に全般を見直してみましょうね,というふうな作業はあってもよろしいのではないかと感じます。 ○沖野幹事 二つ申し上げたいことがございます。一つは今,山野目幹事が御指摘になった点に正に触発されてですけれども,現行法の規定に過不足がないかという点,とりわけ期限についての規定があるときに条件についても併せて考える必要がないかをそれぞれ考える必要があるというのはそのとおりだろうと思います。一例として申し上げますと,期限の利益の放棄に関して,条件についてその利益ということを考え得るか,また,その放棄が可能かというのが倒産法において問題になっており,民法上どうであるかが分からないために倒産法が特別の規律であるのかどうかが分からないということが起こっております。それはなお解釈に委ねるということも考えられるのですけれども,例えばその例のように,期限については規律があり明確であるけれども,条件についてはどうなのか,規定が不在であるために解釈論を呼んでいるということが他にもあるかと思いますので,とりわけ期限についての規律が条件にも及ぶかどうかということを考えていく必要があると思います。   2点目は期限の利益の喪失,137条のほうです。2号に関して悩ましくはありますが,義務に反してという文言を入れることでよろしいのではないかと思っております。それから,1号に関しましては,確かに破産手続が開始したときには,より具体的な規律が破産法に設けられ,必ずしも期限の利益の喪失につながらない扱いがされていることから,民法で一律に決めるということは不正確であるというのはそのとおりだと思います。そうしたときに案としては二つ出されておりました。一つは破産の場合の取扱いの規定であると考え,民法から削除してしまって倒産法に委ねるものです。これに対し,債務者の資力悪化が懸念されるような場合を期限の利益の喪失がもたらされる場面としている規律で,その最たる場面,代表的な例をここに記すことで,このような場合には期限の利益の喪失事由になるということで更に類似の事例の場合の扱いの基礎になる,例えば特約で書いたときにその効力がそのまま維持されるかというような場合にも指標として意味を持つという面があるのではないかと思われます。その場合,先ほどの考慮と併せるならば,債務者が破産手続開始の決定を受けたときという1号を残しつつ,例えば括弧で破産法に別の定めがあるときはこの限りでないといった破産法の規律と整合性を取る形で規定を置くということも考えられるのではないだろうかと思います。   したがいまして,倒産法との調整という観点から民法にある程度の考え方を示して,詳細は倒産法に委ねるという形で言及するほうがよろしいのか,それはもう全く民法では必要ないというのか,私自身決めかねる面もございまして,残してはどうかという印象も持つものですから,念のため申し上げまして,委員の方々の御意見の呼び水になればと思います。 ○筒井幹事 沖野幹事から御指摘がありました考え方は,部会資料で言いますと,部会資料30の6ページ,期限の利益の喪失に関する補足説明の中で,そのページの一番下の部分ですけれども,例えばということで一つの別案を提示しております。つまり,民法137条1号を削除するという考え方に対して,破産法によれば期限の利益を主張することができるものとされる場合を除くといった文言を付け加えることによって,1号を存置するという考え方を別案として紹介しております。この別案を支持されるという御趣旨でよろしいでしょうか。 ○沖野幹事 はい。決めかねる面がありまして,別案を落としてしまって大丈夫かという懸念です。 ○筒井幹事 ありがとうございます。 ○高須幹事 今のところでございますが,弁護士会の中にも今のような考え方で存置をすると,適切な規定振りを設けた上で民法の中に残すという意見がございました。それは期限という問題に関わる問題でここもあるので,そこについてやはり民法から全く無くしてしまうのはいかがなものかという意見があったということでございますので,十分に成り立ち得る考え方かなと思っております。 ○中井委員 こだわるわけではなくて確認だけです。先ほどの期限の議論で,私も履行期限の終期にこだわるわけではなくて,契約の内容の問題等で解決できると思いますし,あえて入れることによって何かプラスになるのかと御指摘を受けると,それほど実益のある議論でもないように思います。そうすると,履行の期限について,大方の意見がどちらだったのか確認しておきたいと思った次第です。山野目幹事は不要だとおっしゃる,他方で412条1項もそうですし,136条も期限の利益に関する事柄で,そう考えると,履行期限についてこれらの規定の前提としてここにあっても別に支障はないのかと思ったりもします。それをここでは置かないということの積極的意味は何になるんでしょう。 ○山野目幹事 条件のほうも法律行為をイメージし,その全体に付される場合を想定して停止条件や解除条件の定義を書くのですから,期限のほうも期限それ自体は確定期限や不確定期限の定義を書くことによって規律のバランスを取ることができます。それはバランスという面から,また読み手にきちんと伝えるという意味から書いたほうがいいと思いますが,私が併せて強く申し上げていることは,条件についても期限についても履行条件,履行期限というのをわざわざ書き分ける必要はないのではないかということです。 ○松本分科会長 もしそうだとしますと,今の136条とか137条というのは,正に履行期限についての規定ですよね。そうすると,期限については,契約の効力の発生に関する期限あるいは消滅の期限よりもむしろ履行期限のほうが主戦場になっているというのは明らかですね,条文上も。しかし,条件のほうはどっちかというとそっちが主戦場ではなくて,契約そのものの効力が発生するかというところが主戦場になっているから,条件と期限をパラレルに同じレベルで書くというのは難しいのではないですか。どうぞ。 ○山野目幹事 書いてみないと分かりませんけれども,何に期限が付せられ,何に条件が付せられるかというのは少し前に部会長も御指摘になったように,いろいろな場合があって,それはオープンなのであろうと思いますから,多様な場合が開かれていますよということが誤解のないように文言を整えていただくという御要望はいたしますけれども,それ以上に煩瑣な定義の規定を設ける必要はないということはここで御意見として申し上げて,あと実際の作業で御留意を頂くことがかなうとよろしいであろうというくらいのことを申し上げています。 ○松本分科会長 つまり沖野幹事が先ほどおっしゃったような履行条件の放棄とか履行条件の喪失という条文もわざわざ立てる必要があるのかどうか,そんな契約実務がないのであれば必要ないということで,条件については履行条件についての明文規定は表には出てこないけれども,期限に関しては正に契約実務で対応されているから明確な規定を置いておくと。それによってバランスは取れていないけれども,実務のニーズには合っているんだということでもよろしいですか。どうぞ。 ○山野目幹事 沖野幹事が御指摘になったように,普通は条件利益の放棄というようなことが実務上問題になることは考えられないかもしれませんが,倒産法制の議論をするときには,具体的な倒産法の規律の仕組み方との関係で,期限の利益と条件利益の放棄を同じに扱ってよいのかということが真剣に議論されましたし,あのときやはり私の記憶でも民法上の議論が深まっていないから議論見送りということになったものであろうと思います。教壇説例で恐縮ですが,例えば司法試験に合格したら,君にフランス料理のフルコースを御馳走してあげるよという契約をしているときの御馳走してあげる人が,いや,もう合否はどらちでもいいから御馳走してあげるよというふうに言うこと自体は許されるものであろうというふうに思いますが,今の分科会長の御指摘は,今の私がした思考操作は期限についてのみ規定を置いておいても,条件については類推ないし合理的な解釈の成立が期待することができるから,余りこと細かく書くなという大筋を示唆したものであろうと思いますし,しかし,その点について疑義があるかもしれないから,規定を置いたほうがいいのかもしれないということも議論としてあり得るのかもしれませんし,いずれにしても,そこはそういう問題意識で引き続き見ていただきたいと感じます。 ○鎌田委員 例えば期限について定義規定を置くとすると,今の135条の書き方とは変わると思うんです。法律行為に始期を付けたときには,その法律行為自体の効力が始期に掛かるときと履行請求が始期に掛かるときがあるし,終期を付けたときも法律行為の効力自体がそこで終了するケースもあれば履行の終期のみが定められる場合もあり得るというふうないろいろなタイプがその定義の中に入ってくることになると思うんです。そういう目で見ると,135条は何だか分からないけれども,始期が付いているときには,これは履行期と推定する,何だか分からないけれども,終期が付いたときには法律行為の終期と推定するというふうな機能を場合によっては持っているのかもしれない。そういうことが実務に合致しているんだとしたら,定義規定だけ置いて135条的なものを無くしちゃって本当にいいんだろうかと,そういう問題も出てくるのかもしれないという感想を,思い付き的ですけれども,持ちました。 ○松本分科会長 この辺はみんな任意規定でしょうから,無くてもいいと言えば無くてもいいんだけれども,無いと不便な部分だけは埋めておいたほうがいいだろうということですね。だから,よく使われるけれども,必ずしも明確に使い分けているわけではないようなものについて,多くの場合はこうだからこういうふうにという規定が民法には置かれているということでしょうから,それにふさわしいようなのがあればもっと増やしていけばいいし,机上説例のようなものを無理にぎっしり詰め込む必要はないだろうということでしょうね。 ○鎌田委員 136条,137条は多分履行期だけに関わるのかもしれません。履行期を主として念頭に置いているんだとしたら,それの前置きの規定というのがないと……。 ○松本分科会長 債務者の利益のために定めたものと推定するという書きぶりは,やはり債権債務という一方通行の履行を見ているだけですよね。双務契約の効力についてであれば本来双方のためのものだから,一方だけで放棄できるはずがないわけですよね。 ○鎌田委員 そうすると,前出しで136条で言う期限とは履行期のことであるという規定がないと,期限の定義と136条の間にそごが出てきてしまうので,135条が不可欠になると,そういう関係になっているのではないでしょうか。 ○深山幹事 質問のようになってしまうのですけれども,先ほど鎌田先生がおっしゃったように,法律行為と書いてあるときに,法律行為の全部又は一部という意味合いだと,私もそういうふうに考えていて,今議論されている履行の部分というのは,正に法律行為の一部という理解でよろしいのだとすると,今のまま法律行為と書いても全部又は一部を含むというふうに読めば,それで履行期の期限の始期,終期の問題が包摂されているというふうに読めますし,もしよりはっきりさせるのだったら,法律行為の全部又は一部に始期を付したときはという言い方にし,より丁寧にすればよくて,それとは何か異質なものとして履行の期限についての明文化なり定義を置く必要があるのだろうかとの疑問があります。分かりやすさという点で意味があると言えばあるのかもしれない,というぐらいに思ったりもするのですけれども,そういうことでもないのでしょうか。 ○中井委員 私は今の意見には反対です。弁護士会としては,部会のときに申し上げたことの繰り返しになるかもしれませんが,135条は先ほど沖野幹事もおっしゃられたように,また検討資料にも書いているようにアンバランスで,だから,始期を付したときに効力発生,終期を付したときは効力消滅,これを対として設けておく。現実の契約でもそれは使われています。継続的契約の場合は正にそうですから,135条のアンバランスは正す,それは効力発生と効力消滅です。加えて二つ目の提案の契約は成立し,効力も発生しているときに,履行期限を定めること,これも一般的にあるわけで,期限の利益の喪失の前提となりますし,鎌田先生もおっしゃったように,136条,137条の前提になりますから,弁護士会の大方の意見はこれを置くこと自体についてはほぼ異論なく賛成だったと思います。  加えて確定期限と不確定期限を置くことについても明文化は,412条がありますから,その前提ということで異論はなかったというのが弁護士会の意見ですので,こんなに複雑な議論になるとはつゆ思っていませんでした。 ○沖野幹事 規定のイメージですけれども,定義を置くのか,あるいは現行法のような135条ですとか他の規定と同じような形によるのか,両方があります。例えば履行期限とは,という形で規定を置くと,現在民法に履行期とか弁済期とか表現されているものをことごとく履行期限に変えていくのかという問題も出そうです。それに対して,効果と結び付けて規定を置くということになれば,例えば,136条に債権ないし債務の履行に期限を付したときは,その期限が到来するまでは請求することができないといった規定を一つ入れて,見出しを履行期限とし,その放棄などの規律を2項,3項に書いていく,そういうことが考えられるかと思います。履行期限について定義を置くというのは,何か他の規律との整合を取るのが難しいことが起こってはこないか,深山幹事がおっしゃった履行期や弁済期の概念とどう調整を付けるのかという問題がありますので,規定を置くとすると,効果と結びつく形で,それを履行期限と呼ぶという旨を見出しで表すという辺りかと思います。 ○山野目幹事 沖野幹事が今おっしゃったことに賛成です。私が繰り返し申し上げているのは,何々とは何々を言うという形の規定は要らない,また,場合によっては混乱をもたらす。それとは別に効果と結び付けた規定が,現在でも断片的にありますが,これを整理して設えることは必要であろうというふうに感じますし,先ほど来からある御指摘に応えていくゆえんであろうと思います。ただし,それは文章にしてみないと,これ以上は少し議論しにくいだろうというふうにも感じます。 ○中井委員 山野目幹事がおっしゃったことと全く同じ意見を申し上げようと思っていました。それは先ほどの条件についても同じでして,定義のみではなくて,効力と関係して規定すべきではないか。東京弁護士会が考えているのを少しデフォルメして紹介しますと,条件で言うならば,「法律行為の効力の発生を将来発生することが不確実な事実の発生又は一定期間の不発生を条件としているときは,--このときに括弧で「効力発生条件」とか書く案ですけれども--その条件が成就したときからその効力が生じる。」という形や,仮に現行法を使うなら,「効力発生条件を付した法律行為は,将来発生することが不確実な事実が発生したときからその効力が生じる。」であるとか,期限についても,これも東京弁護士会案だったと思いますが,「法律行為に効力発生期限を付したときは,将来確実に発生する事実,括弧して期限,が到来したときからその法律行為は効力が生じる。」とか,効果と結び付けて定義を盛り込もうとしています。このほうが分かりやすいのではないかという考えです。   したがって,定義のみということは,弁護士会では想定していないと思います。定義することの意味の重要性はある,しかし,定義のみが法文化されることは想定していないのでは,念のため。 ○松本分科会長 確かに最近の行政法的な法律はそういう書き方が多いですね。定義を定義として置いているのではなくて,本文の中の括弧の前に定義のような言葉があって,括弧内に以下何々と言うという感じで事実上の定義規定にしているという立法作法が増えているようです。民法もそういうやり方を採用するのであれば,全面的に採用しないとちょっと格好悪いですよね。会社法は頭に定義をだーっと並べている感じですね。金商法もそうですね。 ○内田委員 そのスタイルがいいかどうかは慎重な検討を要すると思います。しかし,非常に有益な議論で,後の作業はしやすくなったのではないかと思います。 ○松本分科会長 期限につきましては,これぐらいでよろしいですか。   それでは,次に「期間」に移りたいと思いますが,これも事務当局から御説明をお願いいたします。 ○亀井関係官 「期間の計算」について御説明します。部会資料30の8ページです。   第34回会議では,過去に遡る方向での期間の計算の方法規定を設けることについては異論がございませんでした。その際,民法第142条に相当する規定を設けることについては,法律の趣旨によって要否が異なるという意見が弁護士会にある旨が紹介されました。また,第34回会議では,民法第142条に相当する規定を置かないという意見が大勢を占めているものの,分科会で詰めた議論をするということとされております。   「3 期間の末日に関する規定の見直し」についてですけれども,部会資料30の9ページです。   第34回会議では,甲案を支持する意見が示されました。分科会では甲案,乙案に伴う問題点を含めて補充的に議論することとされております。 ○松本分科会長 それでは,ただいまの御説明ありました部分につきまして,どうぞ御発言ください。 ○中井委員 この2の過去に遡る方向での期間の計算方法についてです。今も御紹介がありましたが,弁護士会意見が一致しているわけではありませんけれども,一定の権利の行使を目的として期間が定められている,その期間を確保することが権利行使に関係して必要であるというような場面があるだろう。これは民法というよりは典型的には会社法などに多いのかもしれませんけれども,期間について実質的に権利の行使を確保する趣旨から,例えば1週間と定めた場合には1週間,8週間と定めた場合には8週間,8週間は長いのかもしれませんけれども,丸々その期間を確保すべきではないかという見地から,一番遡った初日が祝日,休日である場合には,その前日に遡るという規定があっていいのではないかという意見です。ただ,そういう考え方が一定承認されるとしても,どういう定め方をするのかはなかなか難しいという議論になっています。個別に定めるのか,会社法なら会社法の趣旨で解決される,破産法なら破産法の趣旨で解決される,という考え方と,民法にそういう遡る規定があるなら民法で解決される,そういう一般的な規定があったほうがいいのではないかという意見もありました。そのときは一番遡った初日が休日の場合に,その前日から起算した日にちを確保しなければならない,という趣旨の規定を一般規定として置く。その一般規定として置くときの書き方が難しくて,一般論で言うならば,権利の行使を目的として期間を確保する趣旨で過去に遡る期間を定めたときはそういう特例を適用する,というような案が考えられるわけです。その当否も含めて御意見をお聴かせいただければとは思いますが。 ○山野目幹事 今の中井委員の御発言,少し私の聞き漏らし,聞き間違いがあるのかもしれないのですけれども,142条に相当する規定も入れたほうがよいというような御意見をおっしゃいましたか。 ○中井委員 そういう趣旨です。 ○山野目幹事 そうですか。部会資料が示唆提案しているのは,142条は入っていないのですよね。 ○中井委員 そうですね。 ○山野目幹事 そうですか。142条については,時間が前に進むときと遡るときとで事情が異なるのではないかという議論は部会資料にも紹介されていますが,そのことについて何か弁護士の先生方の間で御議論があるというものではないのですか。 ○中井委員 違うから特段の規定は要らないという意見があります。特段に置かなくていいではないかという意見が多いことは多いんです。ただ,一部に配慮すべきだという意見がある。それは規定の趣旨,確保した期間の趣旨によると,こういう意見でした。 ○山野目幹事 ありがとうございます。 ○松本分科会長 例えば具体的にどういう条文のどういう期間であれば過去に遡った初日が休日かそうでないかでクリティカルな差が出るという御意見ですか。 ○中井委員 例えば,会社法での株主提案権が8週間前というときの8週間を確保すべきではないかという意見です。6月末総会だとすれば,5月の頭の連休が大体その8週間前に当たります。8週間前の日が連休の頭の日で,その後,1週間連休が続くときにそれで良いのか。それは前日にすべきではないかというのが具体的な例として出ていました。これはたまたまその8週間前があの長期1週間の連休に重なるという事実から,総会運営をしている弁護士は実質時間を確保すべく検討しているようです。   権利行使のとき,後の場合は最終日が祝日だったら権利行使できないんだから,現実的に必要性があるので1日繰り延べる。前に遡る場合は,それが祝日でも次の平日から権利行使でき,対応できるから,特段の配慮は要らないのではないか。そちらが優勢ではあるんですけれども,有力な少数説が出ているものですから御紹介をしたということです。 ○松本分科会長 少数説というよりはシチュエーションが何か違うという印象なんです。つまり前向きの終日というのは,これから先の履行期との関係で債務不履行になるかならないかということでしょう。そして,後ろ向きに,今の時点から遡ってという議論をすると,その遡った起算点が祝日かどうかというのは余り関係ないような気がするんです。今,中井委員のおっしゃったのは,将来の株主総会の時期から逆算して8週間前までに何かしなければならないと,それは今より先の話なんですよね。だから,そういう意味では履行期が決まっていて,その日までに履行しないと債務不履行になるという話と似たような局面になると思うんです。つまり8週間の確保は株主総会の日から遡っては計算するんだけれども,その起算点は将来という感じですよね,どっちかというと。来年の株主総会の8週間前までに何かしなさいという話でしょう。 ○中井委員 株主提案権は株主総会の期日から8週間前までに会社に対して提案しなければならない。その8週間という期間の取り方ですね。ここは債権法における債務不履行だけの期間計算の話ではなくて,通則としての期間計算の仕方ですね。だから,民法に限らず一般,あらゆる法律における期間計算についての定めだという理解をしているものですから,債務不履行と直接関係はしていない。その8週間なら8週間をどう確保するのかという問題として弁護士会は議論したのですが…… ○松本分科会長 議論すべきものだと思います。ただ,単純に後ろに遡ってという話とちょっと違うような感じがするので。 ○内田委員 過去にと書いてあるので,少し誤解を招きますが,別に過去である必要はないので。 ○高須幹事 今確かにそういうふうに理解すれば違いがあるということはそうなのかもしれないんですけれども,ただ,遡らせて期限を定めるという場合の意味というのは,今,中井先生がおっしゃったように例えば何週間の間にこれをしなさいみたいなことが法的に問題になるから,その期間というのは意味を持ってくるのであって,それを確保するという意味では実質的にそれが短くなるようなことは認めてはいけないのではないかという発想はあり得るのではないかと思いましたので,分科会長が御指摘のように,ちょっとケースが違うのかもしれないけれども,違っても同じような配慮をやはりせねばならないのではないかというのがあり得るということだと思っていて,そういう意味では,弁護士会の今のは少数意見なんですけれども,一つの考え方ではあろうと思って我々は今日,参ったんですが。 ○松本分科会長 ちょっと誤解を与えたかもしれないですけれども,私もそれは重要だと思います。ただ,それは株主提案をする人のための期間ではなくて,提案を受ける他の株主にとってきちんとした期間が確保されなければ駄目だからという趣旨ですよね。だけれども,債務不履行になるかならないかというのは,債務者にとっての問題で,末日が休みの日だと銀行も閉まっている,あるいは送金できないから,履行する人にとっての利益のために末日については配慮すべきだということです。株主提案についての期間は,行為をする人にとっての利益ではなくて,それ以外の人にとっての利益として遡って計算した場合に,やはりきちんと一定の期間を確保する必要がある場合があるということだと思います。 ○高須幹事 すみません,続けてで申し訳ありません。要するにこの140条あるいはそれを今回,過去の分についても規定していこうという場合に,ターゲットとしている部分に一定の絞りがあるという理解なんでしょうかね,そうしますと。全く漠然とオールマイティーに使う数え方の問題として140条的なものは整備していこうというような理解だとすると,今のケースでも何か当てはめてもいいような気がしたんですが,趣旨がそうであれば,確かに先生がおっしゃるような考え方もあり得るなとは思ってはおりましたが。 ○松本分科会長 いやいや,別にこれを履行期に限定すべきだという主張をしているわけではありませんが,こういう条文がぽかっと置かれているのは,恐らく履行期を専ら念頭に置いているのではないかなと想定しているわけです。けれども,確かにおっしゃるとおり,履行の部分だけに限定される期間ではありませんから,民法以外の他の法令上の規定等にも過不足なく適用できるようにするためには,提案されたような配慮すべき場合があると思います。他方で例えば提案できるのは株主総会の8週間前からだというような条文がもしあったとすると,それは初日が日曜日かどうかというのはあまり関係ないだろうと思います。 ○山野目幹事 分科会長がしばらく前の御発言で示唆されたように,何か異なる場面を一緒に議論しているように感じます。何日前までに何とかをしなければならないというのは期間なのでしょうか。それはある時点,締切りの期限を言っているだけであって,期間の問題ではないですよね。むしろ期間の問題として議論しなければならないことは,何とかの前何年間とか,何とかの前何週間とかというときであり,それがここで議論している期間であると思います。ですから,私の言っている意味での固有の意味の期間については142条に当たる規律は不要ないし不適当な結果を招くであろうと考えますから,部会資料の提案のとおり140条と141条に当たる規律を設けるものとし,それらの処置は,何日前までに何とかをしなければならないというときの計算方法については,特段何かを定めたものとは考えないと整理すべきなのではないかというふうに感じますが,いかがでしょうか。 ○高須幹事 伺った範囲ではなるほどなと思いましたので,十分事前に考えてきたわけではありませんけれども,今のような具体的な適用の場面をしっかりさせるということは大事な御示唆かと思います。 ○中井委員 おっしゃるように,過去に遡るので,その初日が祝日であっても,現実的には何らかの行為を,ある日から2週間若しくは1か月,8週間と,長くなれば長くなるほどそうですけれども,初日が祝日だからといって特段その後の権利行使に支障が生じることは余りないではないか。現実的には次の日からでもできるわけですから,その限りで重要性に乏しいことはある意味で自認しているんですけれども,そうであっても期間の確保,2週間なら2週間丸々の確保を要請されるものが全くないのかと言うと,そうではないのではないでしょうか,という観点です。これは決して債務の履行期限とか債務不履行とかいう問題ではなくて,権利者側の権利確保の見地からの期間確保で,これは期間の問題だと理解しているので,ここで考える。142条までに類する適用を全く要らないと言い切っていいのか,なお疑問があるということです。 ○山野目幹事 今,中井委員がおっしゃったことに私,実質的感覚としては共感というか全く同感です。それで,おっしゃっている期間を確保しなければならないというふうに実質でおっしゃったものを法制上は何日前までに何とかしなければいけないという表現をしているのではありませんかか。 ○松本分科会長 今,株主代表訴訟を起こせるのはいつまでに株式を取得した者かという期間制限はありましたか。株主総会の半年前までに取得した者でしたか。 ○神作幹事 会社法847条1項で,公開会社については6ヶ月ですが,同条2項で非公開会社については保有期間の制限は掛からないこととされています。 ○松本分科会長 6か月前から引き続き株式を有する株主,これは過去に遡る期間。 ○金関係官 すみません,先ほど中井委員がおっしゃったのは,ある時点から遡って2週間の間に権利行使する必要があるという場面のことで,だからこそ,最も遡った日に権利行使できなくても次の日に権利行使できるという議論になると思うのですが,先ほど山野目幹事がおっしゃったのは,ある時点から遡って2週間の前までに権利行使する必要があるという場面のことだと思いますので,最も遡った日の次の日に権利行使できるという議論にはならないと思われます。松本委員が元々おっしゃっていたのも,株主提案権を行使する場面のことで,ある時点から遡って8週間の前までに権利行使する必要があるという場面のことだと思いますので,中井委員が想定されているのとは異なる場面のことを議論されていたように思います。 ○中井委員 今御指摘を受けて,株主提案権の話をしているときはその日の前までにしなければならない話をしていて,その後,話をしているうちに,その期間に権利行使をするために,その期間を確保しなければならないという議論をしていたので,二つの面に分けて言わなければいけなかったですね。議論を混乱させました。そのいずれの場面の問題もあります。 ○松本分科会長 株主代表訴訟を起こせる株主の6か月間継続してという意味は,初日が日曜日で取引所が閉まっているような場合はどうするんですか。もう一日遡らせるんですか。 ○鎌田委員 多分142条に相当する規定を設けないと言ったのは,それぞれの規定で何を確保しようとしているのか趣旨が全部違うわけですから,それを一個でカバーできるような原則は作れないということだと思うんですね。否認権の破産手続開始の申立て前1年以内というのも含めて,休日を考慮しなければいけないかどうかというのは,全部趣旨が違っていて,個々の規定の趣旨に合わせて考えざるを得ないので,一律の規定は設けられないという判断が142条に相当する規定を遡及するときには設けないという提案になっているんだと思いますけれども。 ○深山幹事 弁護士会で議論したときも,私も今の鎌田先生の御発言のようなことを申し上げて,会社法とか破産法の法文に遡る期間が定められているときは,その各条文の解釈に委ねられることになるので,仮に民法に何か規定を置いたとしても,それも無意味ではないのでしょうけれども,より重視されるのはその条文,その法律のその条文における期間確保の趣旨がどこにあるのかという点であり,条文解釈に委ねられるので,そういう意味で民法に置くことには,その限度でしか意味合いがなくて,仮に意味があるとしたら契約関係の中で一定の遡る形での期間を当事者間で何か合意したときのデフォルトルールとして,それをどう読むのがいいのかという場面かと思います。その読み方についてまで明文で契約上書いてあればそれによるのでしょうけれども,それが必ずしもはっきりしていないときの合理的な意思解釈のデフォルトルールを民法で規定する意味合いとして考えるのだとしたら,それこそ契約の解釈に委ねればいいので,結論としては要らないのではないか,142条のような規定は要らないのではないかということを申し上げたところです。 ○内田委員 議論が収束しそうなところで申し訳ないのですが,140条,141条に相当する規定を遡る場合についても置くというふうにした場合,当然読むほうとしては142条はどうなるのだろうと思うわけですね。それはブランクであって,法律関係の性質,期間の性質に応じて判断されるというのであれば,それが分かるようにしたほうがいいのではないか。142条については期間を置いた規定の趣旨に反しない限りにおいて適用するとか,何か指針になるものがないと不親切だという印象を受けました。 ○松本分科会長 いかがでしょうか。最後に残るのは内田委員がおっしゃった念のために法律の条文の性質に応じて判断するんだという趣旨の解釈指針を入れるか入れないかというところですが,どうぞ。 ○山野目幹事 内田委員の御意見に賛成です。その上でこれは今日決める必要はないかもしれませんが,どちらが原則になるのだろうということが,少し気になります。今日議論して,実質論の見地からも気になりましたし,それから,規定の書き方のしやすさの点も気になるところではありますけれども,それはまた引き続き検討いただくことでよろしいのではないかとも感じます。 ○松本分科会長 恐らく具体的な条文を見ないとどちらがよいかというのはなかなか言えないから,一般的にどちらが原則だというのは一言では言えない感じですね。 ○中井委員 最後にこんな案が考えられるというのが昨日の話で出たので御紹介だけ。「権利の行使に関する時間を確保する目的で過去に遡る期間を定めた場合において,その初日が休日に当たるときは」うんぬんと。これでは余りにも包括的過ぎる,これでは何を書いているのか分からんというのであれば,内田委員の案のような形で残すというのが次善の策として考えられると思います。 ○松本分科会長 先ほど申し上げたことですけれども,今おっしゃっているのは,株主提案権だとすれば,権利の確保というのは提案する株主に8週間確保するという意味ではないですよね。 ○中井委員 ではありません。 ○松本分科会長 他の株主が提案内容を検討する期間を十分確保すべきだと。 ○中井委員 会社も含めて。 ○松本分科会長 期間確保の利益というのが提案権を行使をする人のためのものではないというところがちょっとねじれていると思いますから,今の条文だとちょっとまずいのではないでしょうかね。 ○中井委員 ですから,そのような場面もあるし,その期間内に権利を行使すべきような期間の定め方もありますから,様々です。先ほど金関係官がおっしゃったように両面あるものですから,両方包摂しようと思うと,また難しい書き方になると自認しているんです。 ○松本分科会長 それでは,あと最後,142条の甲案,乙案という部分について御意見をお出しください。そのままにしておくのか,乙案のように具体的な文言を外してしまって慣習だけにするのかということですが。 ○高須幹事 一応142条は維持してもいいのではないかというふうに私も思いますし,弁護士会の中でも比較的そういう意見は有力でありました。と言いますのは,確かに補足説明に頂いているように,なるほど,日曜祝日以外に営業をしない,休みを取るという業種は幾らでもあるわけですけれども,でも,そのところまでの配慮をした条文にあえてせねばならないかどうか。これも部会資料に書いていただいているとおりですが,言わば原則を定めるという意味で日曜とか祝日はお休みですよということを書いてあっても構わないのではないかと。これをあえて削らなければこれから作る民法に支障が出るのかと言われれば,余りそういうことはないのではないかということで,維持でもよろしいのではないかと,このように一応思っております。 ○鎌田委員 これ,乙案みたいにすっぽり削るのではなくて,「国民の祝日に関する法律に規定する休日その他の休日に当たるとき」のうち「休日に当たるとき」だけを削るのではないですか。「日曜,国民の祝日その他,その日に取引をしない慣習のある日に当たる場合」というだけの規定にする。問題なのは,土曜日が終日になった場合に,土曜日は銀行はやっていないのに,休日に当たらないから満了日の延期はないというので本当にいいんでしょうかという問題提起ではないのでしょうか。 ○高須幹事 その点に関しては,今言ったような程度の弁護士会も議論でございますので,どうしてもこのまま逆に残してくれというほどのことではないので,基本的に維持ということで,文言についてはある程度このぐらいが一番いいのではないかということがあれば,もちろんそれはそれで検討できると思っておりますが。 ○松本分科会長 多分土曜日はその他の休日で読んでいるのではないですか。国民の祝日に関する法律による休日ではないし,日曜日でもないけれども。逆に持参債務であれば,もっと週の真ん中がお休みの債権者もいるかもしれないから,そうするとそれは受け取れませんよという話になるかもしれないので,そういうものまで入れようと思うと,契約の趣旨とか慣習とか。慣習ではないでしょうね。 ○鎌田委員 それまで入れるんですか。それは入れないのではないですかね。決済手段が利用できないという状況が重要なのではないんでしょうか。それはそれで事前に対処しなさいということであれば別に問題ないですが。 ○山野目幹事 そうすると,今の分科会長と部会長の意見の交換を踏まえて言いますと,現代社会において各企業ごとに,あの種の業種はこの日が休みだよみたいなものはあるけれども,そこが大事なのではなくて,市場の根幹をなしている部分,部会長が決済システムとおっしゃったのですが,そこが休みであることがかなり社会的に定着したものになっている日がこの法文から読めない,今お二人の間でも理解が異なったのですが,読めないものであるとして,それはシリアスであるという評価になるのであるとしますと,それへの対応のみを考える法文を工夫するということはあり得るのかもしれません。恐れ入りますが,そのような感想のみ申上げます。 ○鎌田委員 弁護士さんの間で余りそこまで配慮しなくていいというふうな実務感覚であれば,あえて変えなくてもいいのかもしれない。 ○松本分科会長 金銭を金融機関の決済システムを用いて支払うという債務であれば,正に金融機関が止まっているときは履行できませんから,こういう手当が必要だと。しかし,現実に持っていく,引き渡すという債務であればできるわけだし,逆に平日でも当該債権者が店を閉じているのがはっきりしている日であれば,それは持っていけないと。持っていっても受け取ってくれないということになるでしょうから,どういう債務なのかによって恐らく最後の日の処理は変わってくる可能性があると思うんです。となると,債務の性質とか契約の趣旨から考えて最後は決まる。その中には慣習とか金融機関の動きとかも入ってくるということになるんでしょうかね。 ○内田委員 ワーディングの問題なのかもしれませんが,このルールは国際的には比較的共通に見られるルールなので,日本だけが何か特異なルールを持つというのは少しリスクがあるような感じがします。いずれにしても,任意規定なので,現行法のような内容をベースとして,業種に応じて,必要に応じて契約で異なった定めをするということでも対応できるのではないかという気がします。 ○松本分科会長 いかがでしょうか。現行のままでも特に問題はないという御意見が比較的多かったようですが。 ○中井委員 念のため,弁護士会では維持というのが多数意見でしたので。 ○松本分科会長 それでは,分科会としては現行の規定の維持という意見のほうが多かったということでよろしいですか。   それでは,予定の時間になっておりますので,まだ予定より全然進んでいないんですけれども,少し休憩をいたしたいと思います。           (休     憩) ○松本分科会長 それでは,全員戻られましたので,後半再開をしたいと思います。続きまして部会資料の31,「第2 債権の目的」,「5 法定利率(民法第404条)」のうちの「(1)利率の見直しと変動制の導入の要否」,「(2)中間利息控除」について御審議を頂きたいと思います。事務当局から御説明をお願いいたします。 ○新井関係官 論点の説明に入る前に,部会資料31の比較法資料の補遺としてお配りさせていただいた利率推移一覧表について御説明します。これは部会資料31に添付した比較法資料において,変動制を採用する立法例として紹介しているドイツの基礎利率及びフランスの法定利率の時系列的なデータを整理して一覧表にしたものです。実際にドイツにおきましては,基礎利率にプラス5%ないし8%したもの遅延損害金ということになっております。   続きまして,「(1)利率の見直しと変動制の導入の要否」及び「(2)中間利息乗除」の論点ですが,掲載箇所は部会資料31の51ページです。この論点については,第36回会議において審議がなさました。   部会での審議の状況を御紹介します。まず,利率の見直しの必要性について議論がなされましたが,現行の5%という利率を見直すことや利率の変動制へ移行するという点について賛同する意見がございました。その一方で,資金の調達コストといった点を考慮すると,現行の5%が高過ぎるというような認識について疑問を呈するとともに,変動制に移行することの意義についても疑問を示す指摘もありました。これに対しては,金利が高騰した状況においても常に5%が相当と言い切れるのかは疑問であるとの指摘もありました。また,計算の過去のリスク等を考えると,変動制の導入は慎重で在るべきであるという指摘もありました。   利率の決定の在り方等についての意見ですが,履行のインセンティブなどを考慮すると,現状においては3%程度の利率が相当なのではないかという意見がありました。そして,具体的な制度の仕組み方としては,1年ごとに利率を見直して,変動の幅も1%単位ぐらいで変動させるのが相当ではないかとの意見がありました。また,法定利率が適用される場面というものを類型化しまして,それぞれに適切な利率の在り方を検討すべきであるという前提の下に,遅延損害金などに適用される利率につきましては,運用利益の観点のみならず,損害填補あるいは債務不履行の抑止といった観点も考慮に入れるべきであるというような意見もありました。   この点,履行のインセンティブという観点から法定利率の在り方を決めるということについて疑問を呈し,むしろ金銭債務については利息超過損害の賠償を認めることで対処するのが相当ではないかというような意見もありました。   そして,訴訟手続において係争中の金利について,正当に争っているときの遅延損害金の発生について一定の低減措置を検討すべきではないかとの意見がありましたが,これに対しては,他の紛争解決手続とのバランスが問題になるとの指摘がありました。また,履行のインセンティブという観点から,判決の確定した後などについて上乗せした金利を課すというような制度も検討すべきであるとの意見もありました。これに対しては,金銭債務について間接強制が限定的に認められているということとの関係で疑問を呈する意見もありました。   中間利息控除についての議論でございますが,基本的には運用利回りを基本に据えるべきであるといった意見がありました,実務への影響が大きいといった点などから変動制を採らないことも含めてその在り方を検討すべきであるといった意見,そして,現行の5%による中間利息控除にも問題ないのではないかといった意見もございました。そして,裁判実務にこれまでどおり委ねれば足りるのではないかといった意見もありましたが,これに対しては,法定利率を変動する場合には中間利息控除についても何らかの規定を設けなければ実務が混乱するおそれがあるという指摘がございました。   以上の議論を踏まえまして,法定利率につき利率の変動制に移行すると仮定した場合の,中間利息控除の在り方等を含めて,制度設計に当たっての技術的,細目的な問題点につきまして,分科会で検討することとなりました。 ○松本分科会長 ありがとうございました。それでは,ただいま御説明いただきました部分について御意見をお伺いしたいと思います。便宜上,利率の見直しと変動制導入の部分をまず議論して,それから中間利息の控除の在り方に移りたいと思いますので,まず前半部分についてどうぞ御意見をお出しください。 ○岡本委員 全銀協のバックアップ会議で議論した内容を御紹介させていただこうと思うんですけれども,余り統一した意見となってはおりませんので,そこはちょっと申し訳ないんですが,幾つか意見が出たのでお話ししておきます。   まず,金利水準についてなんですけれども,現行の金融情勢を前提とした場合には,出来上がりの法定利率の金利水準としてどの程度が妥当かといったところについて意見を求めたところ,現行の5%では高過ぎるという点では異論はございませんでしたけれども,では実際にどの程度が妥当かということにつきましては,2,3%が妥当であるという意見もありましたし,2,3%でもまだ高いといった意見もございました。   それから,法定利率が高いことについては,債務者にとって紛争を早期に解決することのインセンティブになるのではないかといった意見につきましては,そういうインセンティブで決めるのは本末転倒である,あるいは債権者にとってはむしろ紛争を長引かせるインセンティブになるといった点から,そういった考え方は採れないのではないかという考え方がありました。   それから次に,変動方式についてですけれども,まず変動の刻み幅について,刻み幅とはどういうことかというと,出来上がりの法定利率について小数点以下何桁ぐらいまで認めるかとかそういう論点ですけれども,それにつきましては,1%刻みとして小数点以下は設けないこととしてもいいのではないかというふうな意見もございましたし,0.5%刻み程度でいいのではないかというふうな意見もありました一方で,小数点以下を仮に認めたとしても,計算はそれほど面倒にはならないのではないかということで,小数点以下を認めてよいというふうな意見もありました。ここはちょっとまとまっていないというところです。   それから次に,変動方式についてなんですけれども,まず,一つの考え方はこれを変動制と言うかどうか自体がちょっと議論もあるのかもしれないんですけれども,指標になるような利率は設けないで,法定利率については民法によって規則などに委任することにして,規則などの不定期な改正で改定するといった案がございました。現行の供託利率の決定変動方法と似たような形にするという案でございます。   それから,仮に指標となる利率を設ける場合についてですけれども,その場合の指標となる利率についても複数の案がございました。一つは市中の運用利率を基準として考えるべきだという考え方から出てくる考え方なんですが,普通預金利率とか定期預金利率に2%程度上乗せした水準にして,遅延損害金の利率はそれに更に幾らか上乗せすると,そういったイメージを持った上で,例えば指標となる金利水準については臨金法の上限金利,これを一つの参考にするということも考えられるという意見がございました。   一方では預金利率,これが運用利率として想定されるものではありますけれども,預金利率は銀行によって違うということがあるものですから,指標とはしにくいということでございまして,一方,公的なものである必要があるということから基準割引率及び基準貸付利率,旧公定歩合ですけれども,これぐらいしか思い付かないのではないかという意見もございました。それから,幾つかの指標を組み合わせるというふうな考え方もありました。   次に,変動の頻度についてですけれども,変動の頻度についてはそれほど頻繁には変えないような制度設計をするといったことが専らの意見でございまして,具体的な数字については1年ないし5年に一度変わる程度でいいのではないかという意見でございました。   それから,指標となる利率の変動をどうやって反映させるかということなんですけれども,例えば1年に一度なら一度,指標となる利率あるいは過去1年間の平均利率,これを参照して,それが今までの法定利率と一定以上かい離していたら,そのかい離幅を今までの法定利率に上乗せする,あるいはそこから差し引くといった改定を,参照した時の数か月後から適用する,そういった考え方がございました。   それから,最後に債権の存続期間中に法定利率が変動した場合の取扱いにつきましては,一つには存続期間中に法定利率が変動した場合であっても適用利率は変更されないものとすると。これは計算の便宜を考えた案ですけれども,そういった案がある一方で,法定利率を先ほど申し上げたみたいにそれほど頻繁には変動しないように設計するということであれば,債権の存続期間中に法定利率が変動した場合には適用利率も変動させていいのではないかという考え方もございました。 ○高須幹事 岡本委員にちょっと教えていただきたいところがあるんですが,今のような御指摘があった前提の中で,いわゆる金銭債務の不履行の場合における利息超過損害,これを例えば別途請求できる,あるいはできないという話と関連してこの問題を議論するという意見があったのか,それとも全くそれはそれで別な論点としての議論であったのか,ちょっとそこだけ教えていただければと思います。 ○岡本委員 議論の中で直接に関連させた議論というわけではなかったですけれども,利息超過損害の賠償は認めないという考え方を持っておるものですから,基本的にはそれを前提とした考え方になっております。 ○高須幹事 分かりました。ありがとうございました。   今ちょっと御質問させていただいた都合上というか,関連でございます。今頂いた御意見の中で,そうなりますと,利息超過損害は別途認めないけれども,御発言の中に一定の基準となるような利率を想定した上で,更にそこから例えば2%ぐらい上乗せするというような案があるとか,あるいは遅延損害金については更に上乗せというようなお話,そういう一つの意見という御趣旨であったと思いますが,そういう意見があるというふうに伺いましたので,いわゆる法定利率を考えるときに,特にこの問題がいわゆる損害賠償請求権のようなものが多いということを考えたときに,その側面では一定の市中の何らかの利率を前提とした中で更にある程度の上乗せをするという考え方が示されていたと思うんですが,私もそういう考え方は基本的にはあり得る選択肢ではないかと思っております。常にこの問題が出たときに現行の5%が今の市場における市中金利と大分差があるということが出発点になって,そのこと自体は私も今解決せねばならない問題だとは思っているんですが,ただ,その場合にこの市場の金利と完全に一致させねばならないと言うかどうかはもう少し慎重に考えて,今のような幾つかの要素が含まれて,結果的に上乗せになるということもあり得てもいいのではないかというふうに思っておりますので,そこに関しては御示唆に富んだ御検討ではなかったかなと思っております。あとは,変動制のところはいろいろ難しい問題があって,そこはまた改めてと思いますが,今取りあえずそのように思いました。 ○佐藤関係官 私もいろいろ考えましたが,いろいろな考え方があり得て,ただ,具体的にどの利率がいいのか,どの指標がいいのかという点について,なかなか答えが出ないというのが私の検討の状況であり,恐らく大多数の方も多かれ少なかれそういう感じを持っておられるのかと思っております。具体的にまず,固定がいいのか変動がいいのかというまず二つの論点があり得るところであります。固定利率がいいとした場合に,現行の5%を維持するのか,あるいは何らか別な利率,例えば弁護士会の多数の御意見があった3%などがいいのかということを考える際に,5%の金利というのは,今日お配りしていただいた資料にも過去の公定歩合の推移表がございますが,大体戦後ほぼ一貫して5%を上回る公定歩合の水準であったという状況が背景にございます。お配りいただいた資料は,昭和48年からとありますが,その前はどうなっているのか調べてみましたところ,戦中その前は大体3.29%であり,1936年から終戦の年まで3.29%でほぼ一定だったようであります。恐らくそれは戦時体制下だったという背景もあったのかと推測致します。   1947年に3.65%になった後に,1948年に5.11%と,5%を超えて,それ以後,高度成長期の間,若干5%を下回った時期もございましたが,ほぼ一貫して5%を上回っておりました。現行の5%という利率はどういう考え方で決められているのかということ自体は,私も理解はしていないんですが,ただ,過去の金利感覚から見ますと,現在のこの低金利の状況においては,やはり5%というのはちょっと高いのかな,という気はいたしております。では,代わりに固定利率とすれば何%の利率がいいのかということは,余り良い案や根拠が考えられないところでございました。ただ,法律上何%と書くときには,国民に対して何らかの考え方を示す必要があるであろうと思いますが,そこの考え方を固めることがまだ難しい状況にあるかなと感じております。   もう一つの論点として,では変動制になるとすれば,変動を行う上で参考すべき指標というのは何が適当であるのか。国民一般の感覚からしますと,何らか公定的なもの,あるいは世の中一般に認められている水準というのが適当ではないかと思います。ただ,変動を行う上での指標とするといったとき,言葉が二つの意味で使われている可能性があるかなと思っておりまして,と言いますのは,仮に公定歩合を指標とするとして,基準割引率は足元0.3%ですが,この0.3%をそのまま法定利率として適用するという話と,何がしかの出発点となる利率を定めた上で,その出発点から利率を変動させる際の変動幅を定める上で基準割引率の変動幅を参照するという二つの視点があろうかと思っております。前者の視点,要は基準割引率をそのまま法定利率に使うような考えに立つとするならば,恐らくそれでは法定利率は低いのではないかと思っております。と言いますのは,自由金利の世界において今は基準割引率というのは市場金利の代表といったような意味はほとんどないものになりつつありますが,基準割引率にせよ,よく一般に使われています国債金利にしろ,要するに最優遇金利であります。世の中一般で考えられる一般の市中金利とどう関連するか,そこが一番難しいところだと思いますが,通常それにスプレッドが乗っているはずであり,通常何か融資をするような場合には何がしかのスプレッドを乗せるというのが実務の取扱と思います。ただ,そのスプレッドというのが相手の信用力に応じたり,あるいは貸付期間に応じて違っていたりということで,平均を取るというのは非常に難しい。なおかつ,その平均の数字として,公けのもの,あるいは信ぴょう性のある指標を取るのは恐らく非常に難しいであろうかなと思っております。不可能ではないと思いますけれども,そこは難しいと思っております。   一方で,先程申し上げた二つ目の視点で,この基準割引率などを変動幅の水準を決める上で参照するという考え方に立った場合に,これ自体もまた難しい話なんですが,出発点を例えば5%なり3%と決め打ちをして,それから今後市中金利が上がっていくならば,上がっていった分だけ連動させていくと。要するに,それは言葉を変えて言いますと,市中金利イコールではなくて連動幅だけ市中金利に合わせていくという考え方もあろうかと思っております。どの水準が一番いいのかというのは私もいろいろ考えたんですが,ちょっと案として提示できるほどのものはございませんでした。   ただ,案と言うには乱暴過ぎるかもしれませんが,この部会資料31の租税特別措置法の規定があったかと思うのですが……。すみません,ちょっと今すぐに見当たらないんですが,租税特別措置法の規定というのがございまして,租税特別措置法で利子税の割合を原則7.3%と置いております。ただ,今は低金利になっているので,基準貸出率プラス4%が7.3%を下回っている場合には,後者の利率を適用するという規定がございます。この考え方を解説書を見てみましたところ,公定歩合と市中貸出金利等との差及び諸外国で市中貸出金利等に上乗せしている割合を勘案し,この割合を算定したという記述がございます。原則7.3%と税法では書かれておりまして,7.3%と民法の5%の差というのは一体何なのか,正直言ってそこはよく分からないところではあります。勝手に類推すると,民法のいわゆる民民の関係と違って,租税の納税義務を適切に履行させるという意味で若干高めに設定しているのかもしれないかなと思います。そうすると,非常に乱暴な議論かもしれないですけれども,この租税特別措置法の規定などを参照して,民法は5%が原則,租税特別措置法は7.3%が原則,そうすると,その差は2.3%であると。そうすると,民法の法定利率は原則5%としながら,ただし,基準割引率に2.7%を加算した数字が5%を下回る場合には,その数字とするというような案もあり得るかなと。そうしますと,今現行で基準割引率が0.3%ですので,それに2.7%を乗っけると大体3%になると,そういう考え方もあり得るかなと。   最後に申し上げたのは,指標にすべき金利というのがなかなか見付からない中で,何がしか折衷策と言いましょうか,代替策を考えるという意義もあるのかなという意味で紹介をさせていただきました。   最後に一つ申し上げますと,どの時点での金利を適用するのかということについては,部会の中で確か裁判官の方を中心に御意見がありましたが,実務上,変動金利を,特に期中,債務期間が残っている間に利率の変動等を反映させるのは難しいというところもあるとするならば,理想形としてはそれがいいのかもしれないですけれども,債権債務関係が発生したときあるいは履行期のとき,その時点での金利を単純に適用すると,そういう機械的なやり方もあり得るのかなという気がいたしております。余り具体的な提案ではないんですが,そのようにいろいろ考えた次第でございます。 ○高須幹事 すみません,今のことにもまた一つ御質問させていただいて申し訳ないんですが,仮に5%を前提とした上で,それより低い場合の一定の対応策を設けるとした場合に,例えば金利が上がって5%以上になってきたような場合については,今のような御趣旨だとどのようなことをお考えなのか,ちょっと教えていただいてもいいですか。 ○佐藤関係官 すみません,そこはちょっと表現の仕方が間違ったかもしれないです。5%を基準にしてというよりは,基準割引率プラス2.7%か何かの上乗せ利率,それが法定金利であるという考え方です。もう一つだけ補足させていただきますと,そういう単純な定式化でいいのか,見直しの期間をどの程度の頻度にするのか。基準割引率が0.1%単位などで変わったときに,全て変動させると非常に頻雑であると。したがって,例えば変動が0.5%以上になったときとか,あるいは1%を超えたときとか,あるいは1年間を見渡してそこでの金利を固定するといったようなやり方もあり得るのかな。その場合には,例えば民法上はどう書くのか分からないですけれども,5%を基準としてと書くのか,あるいは基準割引率を基準として何がしかの変動を加味したものとして政令で定める利率というように書いて,その考え方として政令は大体変動幅が0.5なり1%を超えたときとか,あるいは1年間ごとに見直すというような何か考え方を採るということがあり得るのかなと考えております。 ○高須幹事 今の御趣旨は私も全く共感するところがありまして,頂いた資料ですと,62ページの比較法資料のところのドイツ法のところが多分それのような発想ではないかと思うのですが,基礎利率というものを定めた上で,それに一定の上乗せを図るというような形での決め方をすると。そうすると,部会での議論あるいは今日の分科会での議論でも出ているわけですが,法定利率は市場金利そのものではなく,多少違う要素が入っているのではないかというのを前提にした上で,ただし,変動ということもやはり何がしか考えなければならない,変動する何らかの基礎利率を決めた上でプラス何%と,こういう御発想で今御示唆があったと思うんですが,そういうような決め方というのは一つの合理的な観点ではないかと思います。取りあえず固定で決めてしまうということもあるとは思うのですが,頂戴したこの旧公定歩合の推移などを見ますと,いかにこれだけ変動していたのかということを改めて思いますものですから,あるいはやはり変動の余地を残した上でのそれプラス何%案というのがよろしいのではないかと思います。 ○中井委員 岡本委員に対する確認ですが,一定の指標プラス2%ぐらいを法定金利としてはどうか,2ないし3%という意見が多かった,その上で,損害金利についてはそこに一定割合を加算するという御発言だったと思うのですけれども,その一定割合というのはどの程度を想定しての御発言だったのか。つまり法定金利と損害金利と二つを想定している。   佐藤関係官は,法定金利について基準金利プラス例えば2.7%,現段階では3%ぐらいを想定する。これを法定金利としたときに損害金利について特段お考えなのか,プラスアルファを考えておられるのか,それは考えていないのか。  また,そこは利息超過損害との関係もあるのですが,その辺を併せて御議論されているとすれば御紹介いただけるでしょうか。 ○岡本委員 では,すみません。先に私のほうからですけれども,指標となる利率を考えて,それに2%程度上乗せして,2,3%にして,それに対して遅延損害金については幾らか上乗せするという意見が多かったというわけではそもそもなくて,まず,そもそも指標となる利率を設けるかどうかというところで二通り考え方があったと。指標となる利率は設けないで,供託利率のように考えるという考え方も一つあります。それから,指標となる利率を設ける場合についても幾らかバリエーションがあって,指標となる利率に2%程度上乗せした利率を法定利率として,遅延損害金の利率はそれに幾らか上乗せするという考え方も一つありますし,そうではなくて法定利率と遅延損害金の利率は同じ利率というふうにして,特に遅延損害金の上乗せというのはやらないというふうな考え方もあります。そういう形ですね。   それから,2,3%という水準についても,それが大勢だったというわけではなくて,先ほど申し上げたように,2,3%でもまだ高いというふうな意見も並行してございます。ちょっと取りとめなくて申し訳ないんですけれども。 ○佐藤関係官 すみません,御質問については,まずちょっとそこまで詰めて検討はしておりません。今申し上げたのも一つの観点としてそういうことがあり得るのか。もちろん利息超過損害とかの論点はあり得るとは思いますが,主として発想しておりましたのが今の5%ということが法定利率として現に存在すると。それを前提にした上で,それがもし高いとするならば,では具体的に,また実務的に可能な代替策にどういうのがあり得るのかなということで,例えばこんなのもあり得るのではないかということで御紹介をさせていただいた次第です。   すみません,1点だけ訂正させてください。先ほど合計で3%になると申しましたが,今手元にある租税特別措置法の規定をもう一度見ますと,基準割引率に4%を加算するとありますので,これを民法に置き替えますと,1.7%加算することになり,そうすると,0.3プラス1.7で大体2%ぐらいになるという結果になろうかなと思います。   もう1点だけまた補足させていただきますと,今申し上げました案も,良い考えが見付からない中でひねり出した話ですので,他のもっと代替となるような指標なり何なりがあれば,もちろんそれは排除する趣旨ではないということで御提案,御紹介をさせていただきたいと思います。 ○中井委員 本来は変動制を採るのか固定制を採るのかという議論,変動制の中でも限りなく固定制に近いような仕組みもあると思いますけれども,その議論をするために部会では何となく空中戦をやっているような気がしたわけです。それはなぜかと言えば,変動制を推奨する方々が具体的にイメージしている変動制の中身がはっきりしていないところにあると思うのです。そこをもう少し明確にしていただきたい。そうでないとなかなか前向きな議論にならないのではないか。  事務局から御説明いただければと思いますけれども,ドイツとフランスの基礎利率と法定利率の推移というのが御紹介されている。他方で資料31の62ページ,63ページに法文が紹介されている。これを見たときにドイツでは民法の法定利率と商法の法定利率がある。私の見方が間違いなければ民法の法定利率は4%,すなわち利息を付ける合意はあるが,利率の定めがない。そのときに適用されるのが4%,商法の場合は5%。  他方,基礎利率という規定があります。これが変動制を採られているようですけれども,遅延利息は基礎利率に5%ないし8%を乗せる,フランスでは10%を乗せるという。つまり,遅延金利については,基礎利率プラス5ないし8で,金利水準が0%としても5%ないし8%で,日本より高い。フランスだと,ゼロとしても10%です。これはそういうドイツ法,フランス法の理解でよろしいのでしょうか。間違えているのなら御指摘いただければ。 ○松本分科会長 山下委員から回答いただけるんですか,今の点について。 ○山下委員 この点は私どもがまだ民法(債権法)改正検討委員会で検討が行われていた際に商行為のワーキンググループというのを作ってドイツ,フランスのその辺りの仕組みを少し調べて,これは検討委員会の「債権法改正の基本方針」の最後に載っていますが,要するにEUで統一ルールをディレクティブで作ったということで,その目的は中小企業者が債権者の場合に大企業が支払を遅延して損害を与える,それに対する中小企業者の保護というのを非常に考えていたようで,ただ,実際にできた規定は必ずしも債権者が中小企業には限っていないわけですけれども,思想的な出どころはどうもそういうところにあるということで,かなり産業政策的な規律かと思います。EUの市場が非常に統合されていく中で,やはり各国の中小企業者を保護しようと,そういうことだったようなことをリサーチしております。   ですから,これは思想的には支払が遅延した結果,他から調達しなければいけないとか,あるいは運用利益を失ったとか,通常損害的な賠償に加えてかなりペナルティー的な要素を加えている色彩が強いのではないかなというふうに理解しております。そういうこととの関係で,今日いろいろ議論が出ていますけれども,考え方の仕組みとして,実際上,先ほどから3%とか2%とかの辺りの落としどころ的な数字というのはいろいろ出てきていると思うんですけれども,また変動の方式をどういうふうにしたらよいかというテクニカルな議論もいろいろ伺いましたけれども,そういうことを考える前にやはり法定利率を定めるということの基本的な考え方は何なんだというそれぞれの考え方のいろいろなパターンがまたあると思うので,それぞれによるとどういう利率の水準になるとか,算定方式になるとか,その辺りをいろいろ類型的に整理していって議論を戦わせるのがオーソドックスな議論の仕方なのかなという感じはしております。 ○松本分科会長 今の御説明ですと,EUは中小企業債権者保護を念頭に置いていると。しかし,条文の立て付けからは大企業が債権者あるいは金融機関が債権者の場合も同じ金利が適用されるように読めますが,それはもう…… ○山下委員 どうもそれはそのようですね。EUだといろいろな規制の中で中小企業を人為的な基準で区別して規制を分けている例がありますけれども,どうも我々が調査したところでは,その区別は結果的にはされていないということのようです。 ○中井委員 いずれにしても,そうだとすればドイツであれフランスであれ,変動制を採るかどうかはともかくとして,私の注目点は損害金利について5%,8%,10%という加算を基準金利にしているという事実です。この事実に対して,日本における5%はなお高いという意見で一致しているのか。また,諸外国と比べてという御意見があるとすれば,それと比較して本当に高いのか。ここはまずどうでしょうか。そうでないと,適用場面が遅延損害金ないし不当利得の部分の遅延損害金利部分だということですから,まずそこを確認したい。   それから,金融機関がおっしゃっている2%,3%若しくは金融庁がおっしゃっているのも2%かもしれませんけれども,これは当事者間で利率を定めるのであるとすれば,その辺りが相場でしょうねと,その相場観を言っているんだったらそれで結構だけれども,仮にそうだとすれば,ドイツでは民法の利息の定めはするけれども,利率を決めていない場合は4%ないし5%であることの対比でどう考えるのか。なぜそうなのかというところも私はよく分からないんです。銀行若しくは金融庁が想定しているのが当事者間の合意での利率の定めで,それが2ないし3が穏当なところだというのであれば,それは合意でできる範囲の話であって,損害金利は想定されていないように思うんですね。では,合意でできる範囲のことについて市場金利を持ち出して変動制という議論と結び付けるのもどうかというのもあります。 ○新井関係官 1点だけ補足させていただきます。中井委員から今,フランスの立法につきまして,「プラス10%」というような御指摘があったかと思います。これは,部会資料31に掲載されているフランス商法L.441-6条第8項を引用されたと思うのですが,これは「法定利率プラス10%」ではなく,欧州中央銀行における借換え操作に適用される利率に10%を加算するということでございます。法定利率に10%を加算するということではございません。このフランス商法L.441-6条第8項の利率は,事業者間の取引における遅延損害金に適用されるということです。それ以外の取引,即ち事業者・非事業者間の取引につきましては,フランスでも,遅延損害金は約定がない限り,法定利率が適用されるものと把握しています。 ○佐藤関係官 すみません,今の中井委員の御発言について一言だけコメントをさせてください。   私,先ほど申しました2がいいのか3がいいのかという意見については,絶対これがいいというもちろん自信もございません。ただ,私の発想としては,現行5%という法定利率が民法で定められており,それが昔に比べて周りの金利が低い中で本当にこれでいいのか。下げるとするならばどういうやり方がいいのかという単純にそういう発想でございます。したがいまして,私も最初に考えたのは,何で現在の法定利率が5%なんだろうというで,そこがいまだに疑問が氷解しないところです。したがって,5%というところについて先ほど山下委員がおっしゃったように,何かいろいろな場合のケースを想定して場合分けをして考えるとか,あるいはそもそも5%というものについて,恐らく中井委員的な発想から申し上げると,それが本当にそもそも適切なのかどうか,法定利率として,ということを考えるということについて否定するものでは全くございません。   繰り返しになりますが,ただ,5%というのが今所与のものとして存在するならば,それを変動させる金利としてどういう案が考えられるかということで一つの考え方を申し上げた次第でございます。 ○高須幹事 私も今までの議論で山下先生からも御指摘があったように,いろいろな可能性があるので,法定利率が全て一律ではなくてもいいのではないかというような考え方というのには,先ほどの発言ともつながるわけですけれども,親しみを感じております。それにオプションを付けると。何らかの基準があって,そこに損害賠償,遅延損害金のような場合にはオプションを付けてプラスアルファになると,こういうような規定を持っておったほうがいろいろな場面に対応可能なのではないかと思います。結果としてそれが中井先生のおっしゃるような5%になるとか,あるいはならないのもあるのかもしれませんけれども,そこはこれから詰めて考えねばいけないと思っておりますが,そのような発想というんでしょうか,一律に法定利率というのは一つしかない,法定利率と呼ぶかどうかは別としまして,我々が今想定しているところへ適用になる利率というのは一つしかないという考え方には必ずしもそれに捕らわれる必要はないのだろうというふうに思っております。 ○山下委員 少し私の説明の仕方がまずかったようで,私は法定利率がいろいろな取引類型あるいは局面ごとに複数あっていいということを必ずしも言っているわけではなくて,その基礎にある考え方,これは通常損害的なもので計算して法定していくのか,それにペナルティー的な要素を加えていくのか,そういう基礎にある考え方ごとに数字の設定の仕方も変わってくるのではないかということで,そういうことを考えていった結果,ある取引類型についてはペナルティー的なものが加わってもいいのではないかと,そういうことはもちろんあり得ると思いますが,最初から必ずしも複数の法定利率が認められるということまで言っている趣旨ではございません。 ○松本分科会長 今おっしゃったのは,債務不履行の遅延損害的な場合と,それから,利息を取る合意はあるが利率の合意はないという余り考えられないような場合では違ってもいいという…… ○山下委員 そこでもうそれぞれの局面ごとに思想を変えていいんだという選択をするのであれば,それはまた違った複数の利率というのもあるいはできるのかもしれません。そこはとにかく考え方のいろいろルートを整理していくほうがまずは重要かなという気がいたしております。 ○松本分科会長 そういう思想の選択をしたいと思っております。 ○深山幹事 今の山下先生の話と同じような発想だと思っているのですが,どのぐらいがいいかということを,その思想の問題として考えたとき,想定すべき場面が幾つかあって,今,分科会長が言われたように,利息の具体的な定めがない場合というのと,それから金銭債務の不履行の場合というのは,かなり局面が違うといえます。これは部会のときにも申し上げたことでございますが,そこで違う利率を設けるということは一つあり得るとは思うんですが,そこの結論はちょっと留保して,より重要なのは金銭債務の不履行の場面で,もちろん法定債権もそうですけれども,契約上の債権についての債務不履行の場面が実務的には一番多用されている場面です。そのときに現行法で言えば民事債権の5%,商事債権の6%というところをどう見直す必要があるかというときに,正に思想として,そこで何を観念すべきかといったら,やはりそれは遅延損害金,すなわち損害賠償の問題だということが出発点になるのだと思います。   この議論の中で,借り手側の運用利益の問題なのか,貸し手側の資金調達コストの問題なのかという点がありますけれども,やはり本来払ってもらうべきときに払ってもらえなかった債権者としては,例えば払ってもらったお金をその後運用して,それが増えていくことを期待してそのお金を当てにしているというよりは,そのお金で何かまた次の事業なり何なりに使うことを予定していたところ,それが債務不履行によって払われないとなると,やはりその穴埋めとして別途他から調達して賄うなり,あるいはそれができないことによって何らかのペナルティーを債権者のほうが他の債権者との関係で負ったりとかということで,もろもろの損害が発生するということになります。その損害を,もちろんケース・バイ・ケースなので一律には評価し難いわけですが,ある程度平準化をして,どういう損害が定型的に降りかかってくるのかということを考えていくと,やはり運用利率などということではなくて,少なくとも調達コストを考えるべきであり,場合によっては紛争を解決するコストまで実害としては出て来るでしょう。そこまで盛り込むのはどうかと思いますが,少なくとも調達コストぐらいは定型的,平均的に掛かってくる損害であろうというふうに思うわけです。そうなったときに現行法の5%というのは必ずしも高くはないのではないかなと思います。市場の調達コストにはものすごく幅があるわけですけれども,平均的に言って5%というのはそう高くないのではないかと考えている次第であります。 ○岡本委員 遅延損害金についてですけれども,遅延損害金をどう考えるかといったときに,一つは損害賠償,債権者に生じた損害を賠償するという考え方,ではそれに対してペナルティー的な要素を盛り込むかどうかというところなんですけれども,基本的には損害賠償という考え方でペナルティーの要素は必ずしも盛り込むべきではないのではないかというふうに考えます。その結果どういうことになってくるかというと,市中金利そのままということですと極めて低い状況にありますので,弁済インセンティブという観点でも妥当ではないというふうに考えられる一方で,5%,8%,10%,ペナルティー的なものを上乗せするのがいいかと言うと,それは行き過ぎだろうというふうに考えるわけでございます。結果として出てくる例として2%,3%程度に収まる,そういった考え方でございます。 ○松本分科会長 金融機関と事業会社がそれぞれ債権者の場合に,金利に差を付けるという考え方はあり得ませんか。つまり金融機関であれば,特に預金を扱っている金融機関であれば調達コストはかなり安いから遅延損害金も比較的低い額で算定されるけれども,弁護士の方で事業会社を想定されている議論だと,そんな低い害ではないんだということなので,そうすると企業のタイプに応じて違いがあってもおかしくないという議論が出てきませんか。 ○岡本委員 確かにそういう議論もあり得るかなとは思いますけれども,金利の差が発生する要因というのは様々ありまして,先ほどの信用力の問題ですとか,あるいは期間の問題ですとかいろいろあるものですから,そういう考え方を持ってくると非常に複雑になりまして,やはり法定利率としては単純明快に定まったほうがいいのではないかということがありますものですから,そういった種類によって分かるような考え方というのは出てきてはおりません。 ○松本分科会長 あと考えられる要素としては,遅延損害金にしろ本来の金利にしろ当事者が合意をすれば,公序良俗に反しない限りは合意でカバーできるわけですが,それをしていない,あるいはできないという場合です。不当利得の返還債務のうちの使用利益としての利息相当部分は,これは事前の約定が普通は不可能なものだから対応のしようがないので,法律がきちんと決めておかないと動きようがないということがあるかと思います。不法行為の損害賠償の遅延損害金は債務不履行と似たような計算になるんでしょうかね,損害発生と同時に履行遅滞だということだから。事前の金利は定められないという点では不当利得と共通だけれども,遅延という点はむしろ遅延損害金と共通だと。 ○高須幹事 不当利得の点でございますが,これは本当に検討せねばならないというのは,現在の不当利得704条は,利息と損害賠償を取れるということで,それで,その利息は通常教科書レベルでは最小限度の損害金だと。立証を要せずして取れる部分であって,それを超える部分については別途損害賠償で取れるみたいな御説明がなされることが多いかとは思うのですが,現行の704条ではそういう意味では利息ということでの言わば補填部分があって,更に超過する部分については損害賠償という形で正式に請求することができると。したがって,債務不履行なりで今ここで捉える場面の利息超過損害を認めないという考え方という立場を採ればですが,それとはちょっとそごが生じている状況になりかねないと思いますので,今,先生が御指摘になったように不当利得の問題についても本来は抜本的な多分検討をせねばならないんだと思うんですが,第一読会でやはり不当利得の分野だったので,余りその辺は議論されていないと思うんですが,検討の必要はあるのかと思っております。 ○松本分科会長 不当利得の返還債務の履行遅滞が発生する時期というのは,どの時点でしたか。無効取消しの場合に過去に遡って履行遅滞になるのか,そうではなくて不当利得の返還請求をしたときから履行遅滞だったんでしょうかね。これは多分実務の問題でしょうが。 ○高須幹事 すみません,にわか勉強をしてきただけなので,ちょっと今思い付いただけですが,すみません。 ○金関係官 不当利得の返還債務が履行遅滞となるのは請求日の翌日だと思いますが,ただ,悪意の受益者による不当利得の場合には,民法第704条に基づいて,遅延損害金ではなく利得日以後の法定利息を請求することができるので,当事者の選択によって,利得日以後の法定利息を請求する場合と,請求日の翌日以後の遅延損害金を請求する場合とがあり得ると考えられていると思います。 ○松本分科会長 つまりペナルティー的な要素を入れるとすれば,請求をしたのに返してくれないという時点以降が本来の履行遅滞的なものになるんだろうし,それ以前は使用利益を返還するのに,金銭の場合は法定利息相当額ということで利益を計算している。 ○金関係官 通常は受益のときから計算されると思います。 ○松本分科会長 受け取ったときからの不当利得の利得を計算していると。 ○山野目幹事 そのこととは別のことですが,今の高須幹事のお話は,分科会長のおっしゃった利息が発生を始める時期の問題も関わっていると思いますとともに,むしろ704条後段の利息に加えて損害賠償が定められている現状がそもそも利息超過損害的な発想を含んでいるのではないかというお話だったのですが,そこはそうなのでしょうか。704条後段の損害賠償を得るためには709条の不法行為の要件をフルサイズで立証しなければいけないはずですから,これは特別のことを定めたのではなくて,不法行為の賠償請求権が不当利得の場合でも成立し,行使が妨げられないことを確認的に言ったのみでであって,その議論と利息超過損害の議論とを関連させるのは少し議論がかえって混迷するのではないかと恐れます。 ○高須幹事 御指摘いただきましたので,先ほどの発言は撤回します。 ○中井委員 議論が錯綜と言いますか広がっていますので,もう一回戻すんですけれども,先ほど深山幹事がおっしゃられたことは私が思っていることを大変分かりやすい言葉で適切に表現していただいたと思っています。現在の法定金利は金銭債務の不履行の場面で機能している,このことは大方の承認を得ている。その中で,この5%について運用金利,市場金利が低いから変えなければいけないという議論がまず出ていて,ここについてやはり一定のコンセンサスを得る必要があるのではないでしょうか。そこで5%はそれほどおかしくない,それは深山さんや私の考え方は調達金利的に考えるのがまずは必要ではないんですか,そうすると通常そのぐらいの損害はありますね。それが一つの論点で,そういう論拠についてどうなのか。  現に海外法制を持ち出すにしても,遅延損害金利については5%,8%,フランスでは事業者間かもしれませんが法定金利プラスではないにしろ10%という言葉で,判決を得たら5%プラスとなっています。今日日本において定められている5%がなお現状において低いというのか,これを変える実務的要請があるのか,社会的要請があるのか,立法事実があるのか,ここをまず確認していただく必要があるのではないでしょうか。そこでなお変えなければいけないということから始まって,ではどういう変え方をしましょうかという話になる。そうでないと何か議論が本当に拡散していてどう収拾されるのか,心配するところです。 ○松本分科会長 それはやはりタイプ別に分けて議論しないと,今の議論はちょっと深まらないですね。つまり金銭債務の不履行を念頭に置いて何が適切かというのとそうでないタイプでは相当状況が違うでしょうから。金銭債務についての遅延損害金としてどういう計算がいいのかというのをまず議論して,それでコンセンサスが取れれば,それ以外のタイプについては,では別の考えをしましょうか,同じでいいですかという議論を次にするとして,一番ニーズの高い金銭債務の遅延損害金として今の5%というのは高過ぎるということを誰が言っているのか。債務者が言っているのであれば,それは債務者の実感だろうけれども,債権者の立場からいけばいかがなんでしょうか。自分が債務者に回るということも考えれば高過ぎるとおっしゃるかもしれないけれども,債権者の立場からいけば5%でおかしくないという意見がかなり多いんでしょうか。 ○松尾関係官 今の中井委員の御発言の趣旨を確認させていただきたいのですけれども,中井委員が先ほど来言及されている金銭債務の不履行というのは,例えば貸金返還請求権のような契約から発生する金銭債務の不履行だけを想定するのか,それとも例えば不法行為の損害賠償請求権のような金銭債務も併せて想定しているのかというところです。調達金利を念頭に置くか否かの議論に当たっては,両者でイメージが違うような気がするのですが,中井委員の先ほどの御発言は,両者を念頭に置かれていたのでしょうかということが一つです。もう一つは,仮に不法行為の損害賠償請求権をも想定するときも,なお中井先生や深山先生のようなお立場からは,調達コストということを念頭に置くべきだということになるのでしょうかということを教えていただければなと思います。 ○中井委員 前者については,契約に基づく金銭債務,売買代金もあれば貸金債権もあるし,契約不履行に基づく損害賠償請求一般を念頭に置いて申し上げています。合意に基づく債権については別途利率については合意できますという特則はありますけれども,それはさておき全ての金銭債務についての不履行の場合です。不法行為についても念頭には背景事情としては置いています,結論としては同じになるという意味において。しかし,ここで議論するのはまず金銭債務の債務不履行に基づく損害賠償としての遅延損害金ですが,私はそれほど差があるとは思っていないのです。 ○松尾関係官 先ほどからの御議論の中で,契約上の金銭債務の不履行であれば,実際には遅延損害金の約定がある場合というのがあり得るのではないかということは,既に指摘があったように思います。他方で不法行為の損害賠償請求権のような場合であれば,遅延損害金に関する約定というのはできないわけなので,法定利率が適用されるしかないということになろうかと思います。そういう事情がありそうにもかかわらず,中井委員の御意見は,契約上の金銭債務と不法行為の損害賠償請求権の双方を念頭に置いて,かつ,契約上の金銭債務の不履行を中心に考えるということではないかと理解したのですが,そのようにお考えになる理由について,何か補足して御意見があれば教えていただければ幸いです。 ○中井委員 通常の訴訟において,債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟において約定金利のある例はほとんどないのではないでしょうか。あるとすれば金銭の貸し借りについて遅延損害金は14%とあるぐらいで,通常の取引的な行為における債務不履行で,売買契約でも基本契約の中に場合によっては入っているかもしれませんけれども,通常の売買で遅延損害金利まで約定しているという例はむしろ少ないのではないでしょうか。裁判所の判決をここに100件出ているとして,金銭請求について,利息が5%,6%以外の判決を探しても,金銭貸付を除くと,ほとんどないのではないでしょうか。つまり,合意がないという場面としては共通すると考えています。 ○内田委員 部会の議論の中で,確か岡委員から御意見があったことだと思うのですが,債務不履行による損害賠償などの訴訟で本当に責任があるかどうか真剣に争っている。第三者的に見ても,本当に責任が生ずるのかどうかについて判断が難しい。そういう事件で最終的に判決で決着が出たときに,ずっと遡って巨額のお金について法定利率が付いてしまう。これではたまらないので,正当に争っているときには利率を緩和するようなことを考えてほしいという趣旨の御意見があったかと思います。確かに現在,5%は通常の事業会社にとってはとても運用できないような利率ですので,これは大き過ぎる。裁判の決着がどうなるかは最後まで分からないような事件も多々ありますので,それは何とかしてほしいという声は現実にあるのではないかと思います。   また,契約から発生する利率で合意がないものとして,例えば委任契約の費用の償還請求権,これも支出したときからの法定利率が付く。請求するまでの間の法定利率がずっと付いてくるというのは,払うほうからするとたまらない。実際上運用できるような利得としてカウントできるような利率にしてほしいという声はあると思います。   他方で本当に借金を負っているのに返さないというときの遅延損害金について5%が高過ぎるかと言われれば,確かに私も高過ぎると思いません。ですから,同じく損害賠償に付く遅延利息でもやはり事案の類型によってかなり違いがあり,その辺を細かく分けて規定ができるかどうかは分かりませんけれども,現実に5%で高過ぎるという事例があることは事実ではないかと思います。 ○山下委員 これはまた民法が決まった後の話で,商事法という利率をどうするかという問題は別途あると思いますが,民事と商事で1%,これはドイツもそうですけれども,商事だと上乗せされているというのは,普通の教科書の説明だと商人の運用能力が高いので上乗せしてあるという説明だと思うので,今の内田委員のお話だとやはり運用という観点からの整理を従来は基礎付けしてきたのかなと思うんですが,今日のお話の中では金銭債務の遅延損害金に限れば,やはり調達の面も全く考慮しないでいいのかと,そういう問題がぶつかっているのかなという気がします。そこら辺の基本方針をどう決めるのかというのは非常に大きな結果の違いになってくるのかなと思います。これは部会資料31でもその辺り既に論じられていると思いますが,ここら辺はまだ部会でも余りコンセンサスはない状態なんですかね。 ○深山幹事 先ほどの内田先生の御指摘のような,いろいろな事案の中でも,真剣に争って,ぎりぎりまで結論がどっちになるか分からない,裁判所も悩んだ末に判決を出すという事案について,その場合の5%はどうだろうかという問題意識は,感覚としては分からなくはないのですが,そういうぎりぎりの争いの訴訟と一方的に踏み倒している事案とをルールとして書き分ける,規律を書き分けるということは,まず線引きが難しいというか不可能だと思います。翻って考えてみると,そのような判決を見るまでは結論が分からない事案を想定したとしても,その結果請求が認容されたとすると,例えば数年間争った結果ようやく判決で認めてもらった債権者というのは,その間本来ならばある時期に払ってもらうべきお金を払ってもらえなかったという損害を負っているわけですし,もっと言えば,そういう熾烈な訴訟を戦い抜くためのコストとして単なる調達コスト以上のコストが実際には掛かっているわけで,そういう事案を想定したとしても債権者が本来払ってもらうべき時期に払われなかったことによって発生する実損というのは大きなものがある。そう考えると5%が高いということにはならないのではないかという気がいたします。 ○沖野幹事 調達リスクあるいは調達金利の話ですが,金銭債務の不履行の場合に当然の損害賠償として認められる基礎は,従来はやはり当然に運用利息が付くというか,財産が果実を生んでいくということで説明していたと思います。調達のコストは当然損害として発生しているというのは,損害賠償としての性格を持つときは通常損害の擬制として調達利息が取れる,またそれを組み込んだものにすべきだというお考えだと思います。しかしそれに対しては,全ての債権者がそのような調達を当然にするものなのか,通常損害の擬制を一般化する基礎があるのかが一つ疑問に思います。その疑問が正当なら,例えば最低限一律に取れるのはその運用利息プラスアルファにしておいた上で,他から調達したときの調達利息については当然に損害賠償として取れるというような規定を別途設けるといったことは考えられないのでしょうか。   それから,訴訟において莫大な費用が掛かるというときに,その分も十分この損害賠償の中で勘案するということだとすると,やはり本来は弁護士費用等を損害賠償として正面から認めるほうが筋としてはいいのではないかと思われます。 ○岡本委員 先ほどの深山幹事のお話で訴訟の場合を想定したとしても5%は必ずしも高くないのではないかということなんですけれども,争っていてその間弁護士費用等コストが掛かっているだろうということなんですけれども,例えば私ども銀行で一番困っておりますのは,例えば預金の帰属に争いがあるというようなときに,実質的には預金者だと主張している方同士で争っているんだけれども,銀行のほうは言ってみれば巻き込まれたみたいな形になりまして,そうであるにもかかわらず5%の遅延損害金を取られると。これはやはり非常にたまったものではないという感覚がございまして,やはり先ほど内田委員がおっしゃられたような問題はあるのではないかというふうに考えております。 ○中井委員 沖野幹事のおっしゃったことは,金銭債務についても通常損害と特別損害の二つに分けて,通常損害としては立証を要しなくて一定金利,それは場合によっては沖野幹事のイメージとしては運用利率を基礎にして2%,3%のものを立証なくして認める。それ以外に調達で掛かれば,若しくは弁護士費用が掛かれば,それは別途特別損害的に請求する,そういう構成はどうかということかと思います。論理的には十分あり得るなと思いますし,一つの考え方としては理解できますが,実務の感覚からして通常の訴訟レベルでは金銭賠償請求事件がほとんどで,そのときに通常損害と拡大損害類型を設けて,拡大損害についてこれは個別立証によるといったとき,実務的な手間を要し,また紛争の拡大については懸念します。   加えて調達金利については現実に調達して差額があればそれを立証して請求すればいいではないかと,それも論理としてはそうかもしれませんけれども,現実にでは当該債務不履行を受けた権利者が他から調達を現実にして,部会での私の例で言うなれば機械を他から現実に買って,それも7%どころか10%の利息を払って買って,その差額を請求できるから,それで足りると考えるのは,それは非現実的で,そんな調達が現実にできるかどうかも分からない,調達金利もばらばらかもしれない。調達したら取れるといっても確実に取れるかどうかも分からない。それは酷ではないか。一定限度の枠の中で,ある意味で沖野幹事からすれば特別損害的なことも通常損害レベルで収めて,定額給付にしたほうがはるかに法的な安定性と言いますか紛争性はないと思います。   岡本委員がおっしゃられたことは,当初,三上委員も強くおっしゃられたことだと思います。例えば預金の相続争いで銀行さんが巻き込まれる,証券会社も巻き込まれ事案があるかもしれません。それは確かに気の毒です。そういうものについては供託制度の拡充とか何らかの制度によって,帰属を債権者間,相続人間で争われるようなそういう仕組み作りで解決できないかと思います。   内田委員のおっしゃられたような事例もあるだろう。最近は大企業同士の訴訟案件も増えていますから,そういう事案がないではないことは十分理解しますし,承知しています。では,そのときにどう考えるか。その場面を取り上げて,別の制度を作るという切り分けが現実にできるか,切り分け基準も問題になるでしょう。現実に切り分けというのは不可能と思いますので,それはできない。でもそういう事案のことを想定して,沖野幹事のように通常損害は下げて,特別損害があれば立証すればいい,そういう一般論に持っていくとすれば,先ほどの批判を言わざるを得なくなる。内田委員ご指摘の問題があるからと言って今の仕組みを変えるだけの積極的根拠になるのかということについては疑問を持っています。   更に言うならば,本当に訴訟制度の中で問題が生じていて,権利を持っているものが訴訟できない,若しくは義務があると主張されている被告が適正に争えないというような実態が客観的にあるとすれば,訴訟制度の中で,被告が一定額を裁判所に預けることによって遅延損害金の発生はもうしないと,供託類似の制度なのかもしれませんけれども,創設してはどうか。それは債権者にとっても債権確保資産がコストを掛けずに保全ができるわけですから,無駄なコスト発生を防いで,お互い気の済むまで戦ってくださいという仕組みを作ったりするほうが合理的ではないか。それがために,一般原則を変えるだけのものなのかというところを考えていただきたいなと思います。 ○高須幹事 実は部会でも今のようなことをちょっと思い付きで言わせていただいたんですが,今日は中井先生からより精緻な御発言を頂きましたが,今のように訴訟で実質的に争う機会をきちんと担保しようということであれば,やはり今の供託類似というお話もありましたし,あるいは供託制度を改定して供託原因の一つにしてもいいのかもしれないと思っているんですが,そういうような制度を設けることでの対応は可能ではないかと思います。それで全てが解決するとはもちろん思いません。お金を積まないと結局はとことん争えないんですかという次の問題が出てくるんだけれども,ただ,やはりどこかでは折り合うしかないと思います。そういう何がしかの対応を取ることによって,御指摘のような権利を争う間に法定利率が5%掛かるのは大変だよねという問題点に関しては,それに即した制度設計をするということで,一般論を維持することができる。その問題ゆえに一般論を変えねばならないという発想を取らないで済むような工夫をすればいいのではないかと私も思います。私自身は5%堅持派では必ずしもないのですが,ただ,今の議論はやはりそういう形での解決策を模索すべきではないかと思っております。 ○松尾関係官 ただ今,中井委員と高須幹事から,供託制度についての御発言がありましたけれども,現在も最高裁の判決は,第一審の判決で示された金額を供託すれば,供託した金額が供託的に判決で確定した金額に不足していたとしても,その供託は有効であると認めていると考えられており,中井委員と高須幹事がおっしゃられたことは,供託が有効と認められる範囲を拡張してはどうかという御提案と理解しました。その問題はここではなく,別途御議論いただければいいと思うのですが,問題とされている供託の有効性は,債務の本旨に従った弁済とは評価できないような一部の弁済の提供の有効性と関係する問題があり,先ほど中井委員と高須委員が言及された供託を有効と認めるには,弁済の提供であるとか他の制度の関連性を十分に踏まえて御検討いただく必要があると理解しております。このような供託を認めることを当然の前提として議論を進めることには心配な点があると思いましたので,一言申し上げさせていただきます。 ○松本分科会長 山下委員が最初のほうで提起された商事法定利率6%の件ですが,事業者は運用によって利益が一般的に得られるだろうからという説明だとすると,でも,商事法定利率は商人対非商人の場合の非商人が債権者になる場合にも適用されるわけですね。そうしますと,例えば消費者にとって運用なんていうことはもう今ほとんどできないのに運用できるというのは,正にフィクションもいいところで,説明するとすれば不当利得的な,事業者なんだから返済しない分を事業に回して収益を挙げているはずだからその分をという別の説明を持ってこないとちょっとできないですね。 ○山下委員 その適用範囲の定め方はいろいろ議論が当然ありますね。 ○松本分科会長 とすると,事業者でも金融機関と事業会社では回し方が違うではないかとか。 ○内田委員 5%が高いかどうかという論点と,もう一つ,変動制をどうするかという論点があって,中井先生の御意見に関してはその二つの面があると思うのです。変動制を採るか固定制を採るかという点について,部会の議論の中でも中井先生は,市場の金利が非常に大きく変動して明らかにおかしいということになれば,法律を変えて法定利率を変えればいいではないかということをおっしゃったように思います。それは確かに可能なことなのですが,しかし,実際に今金利を見ていても,かつてと現在とは非常に大きく変動していて,かつて5%が妥当であったとすれば,今妥当であるはずがないというぐらい大きく金利は変わっているわけですが,そういう変動があったときにその都度誰かが言い出して,政治的な交渉がなされて法改正がなされるというのがいいのかどうか。   しかも,そうなると,大きな幅でぼんと固定利率が変わることになります。それは当事者にとって大きな利害に関わることで,突然そんな大きな変動があったのでは困るということにもなる。そうだとすると,ある程度ルールを作っておいて,それに従って変動するという方が公平ではないか。変動制にも様々なタイプがあって,中には現在の日本に当てはめれば,過去5年,10年全く変わらないというような変動制もあり得るわけですね。そのくらいの安定性のある変動制のルールの下で例えば5年とか10年に一回0.5くらいの割合で動くというのは,中井先生のお考えと実質的にどれほど違うのか。むしろ変動制のルールを持っていたほうが当事者にとっては公平なのではないかという感じがするのです。それともあえてその時々の政治過程に改正を委ねる固定利率のほうがいいということになるのでしょうか。 ○中井委員 今日お配りいただいたこれは日銀のデータを改めて拝見して御指摘の問題点,これは松本委員からも部会でご指摘が確かあったかと思いますけれども,ここで書かれているように昭和60年代,バブル期の金利になったときに今の5%のままでいいのかということについては,変動すること自体否定するものではありません。ただ,民法としては固定制にして法律で変えればいいではないかと申し上げたのはそのとおりです。ここは確かに何らかの工夫が必要な気はしていますので,今のままでどんな事態になってもいいとまで言うつもりはありません。かといってどのような合理的な決め方があるのかについて今のところ具体的な提案は出ていないのではないかと思っているところです。数年おきに,5年おきに経済情勢の変動に応じて,それも今おっしゃられたように急激な変化は困りますので,一定の利率の範囲内で変動を認めていくような制度設計というのはあり得るのかもしれません。そこまで,否定しているつもりはありません。   ただ,今回の改正提案が,5%の当否から出発しているものですから,そこに私はかなりこだわりがあって今の5%金利についてはそれほどおかしなものではないということを前提にしています。内田委員のおっしゃられたことについて全く否定するつもりはありません。 ○内田委員 それから,5%では確かに高過ぎるような場面というのもある。それは別に否定されるわけではないですね。また,相当程度の安定性があれば変動制を採ることを絶対排斥するというわけでもない。ということになると,結局はある種の変動制の中での選択の問題になるのかなという感じがいたします。 ○中井委員 そのことを否定することはありません。 ○松本分科会長 どうも議論は収束しないようですが,どうぞ。 ○岡崎幹事 法律で定められた利率と市場金利等の間に非常に大きなかい離が生じたときに手当てをするということを否定するものではないのですが,中井委員のおっしゃっている現状の5%が決しておかしくないのではないかというご意見の背景には,現状それほど大きな問題がない中でこれを変えるということによるデメリットをどの程度考慮するのかという御趣旨もあるかと思います。部会の中でも意見があったかもしれませんけれども,現状を変えることによるデメリットとして,当該取引や不法行為に適用される利率が事案によって異なると,利率がいくらかを巡る紛争を解決するコストが生じるのではないか,あるいは紛争になる前の契約等の中でこれを事案ごとに決定することに要するコストに跳ね返ることがあるのではないか,それがひいては国民にとって好ましいことなのかどうかというような観点もあるのではないかと思われます。   その結果,仮にそれを5%に限りなく近いところで固定するということになった場合に,先ほどから内田委員,岡本委員から御指摘のようなちょっと具合が悪いという事案もあるかとは思うのですが,これは裁判をやって特に例えば損害賠償の世界などではよく感じるのですが,法定利率のようなものは,実務上は相当程度フィクションの世界であるため,最後はどこかで決めざるを得ない,そういう部分もあると思っております。5%というのがよほどおかしいのであれば,例えば市場金利が15%であるにもかかわらず5%になると,これはちょっとおかしいかなという感覚がありますが,例えば10%のものを5%というぐらいあるいは0%のものを5%というぐらいであれば,それもあり得るというような決断もされ得るのかなと思います。そういう意味で,今日の御議論を伺っていますと非常に精緻に考えていらっしゃる委員,幹事が多いかなという印象を受けておりますが,実際の世の中で行われている取引あるいは紛争解決の中でどの程度まで精緻にやるかというところも考慮の要素になるのではないかと思っております。 ○高須幹事 今の岡崎幹事の御発言,実務に携わるものとして私も相通ずるものがある,相通ずるものはあるんですが,ちょっと話の趣旨が変わってしまうのは,例えば交通事故なんかの場合には裁判所の御努力で和解ということで終わるというケースが多うございます。そのときに和解の中では私が少なくとも経験した限りでは,遅延損害金はカットだよねというような形での和解を進めていただくということが多い。それは裁判官の御努力でそれに対する当事者の理解を取っているわけですよね。なかなかそれは被害者からすれば,もう何年越しの事件なんかになっていたりすると,5%だったら相当もらえるのにという意識があると思うんですけれども,そこをうまく教え諭して,それはもうやめようねみたいな御努力を頂いていると。そういう意味では現在問題が余り顕在化していないのは,裁判所の御努力に負うところが大きいのではないかというふうにも思っておりまして,そういう意味ではいつまでもそれに頼ってもいられないのかなと。少し民法のほうでも手当をして,もう少しお仕事をしていただきやすくするということも大事なのではないかというふうに思っておりまして,ここでもし可能であれば一歩踏み出すということもあり得るのではないかと思っております。 ○中井委員 先ほど内田委員から幾つかのことで駄目押し的に確認をされると,それは理論的にそういうことは事実としてありますと,それは否定できないから,それは否定しませんとなり,一種変動的なことの考え方も否定されないんですねと問われると,否定しないとなる。それは先ほど回答したとおりですけれども,それはある意味で岡崎幹事もおっしゃいましたけれども,理屈で言われればそう理屈で答えざるを得なくて,それが違うといえば破綻をしてしまいますので,そう答えています。ただ,本当にこの理屈の世界だけでいいのかという点について,岡崎幹事の話,そして,今の高須幹事の話も踏まえて申し上げますと,実務でこの遅延損害金利についての比重というのは,大企業間の訴訟はともかくとして,一般民事訴訟においてはほとんど価値がない。つまり判決を取っても取れるかどうか,遅延損害金まで取れるかどうかという意味においてそれほど確実でないという現実があります。だからこそ和解になったときに,ほとんど損害金利については除外されるという実務は何を意味しているのか,という問いが必要と思います。   そこは5%であれ1%であれ10%であれ,今後の訴訟上の和解においては,損害金利については見ない,権利の内容について確定をしてそこで和解をする。ひょっとしたら,その権利の中身に遅延損害金や弁護士費用を加味しながら修正して合意ができていると言ってしまえば,それも含んでいるのかもしれませんけれども,実務で実はそれほど重視された問題ではないという認識があります。これは大変荒っぽいのかもしれません。にもかかわらず岡崎幹事や部会で村上委員がおっしゃっていたように,これを変動制にすることによるデメリットというかコストというか,様々な意味での影響というのは極めて大きいところがある。その大きいところの影響との対比において,あえてそこまで選択しなければ現段階でならないのかというところに疑問と言いますかこだわりがあると言ったほうがいいのかもしれません。 ○山野目幹事 確認ですが,中井委員のお話を伺っていて今どういうふうな御意見でいらっしゃるのか,というのをちょっと要約的に確かめさせていただきたいのですけれども,内容としての年5%も今般見直しで動かさないし,定め方として法律に特定の値を書いておくという方式の面でも動かさない,というこの両面で強い意見をお持ちだというふうに理解してよろしいでしょうか。 ○中井委員 はい,結論としてはそういうことです。 ○山野目幹事 岡崎幹事と中井委員が再々いろいろ御注意になったように,法定利率の問題について過度の精緻さを追求することによって極めて不安定な,場合によっては不適当な運用になるということが実務上重大な混乱を引き起こされますし,そのことへの心配は分かります。逆に慌てて直さなくてもそれほど弊害はないではないかという関連で幾つかおっしゃったことも分かります。それと同時に,内田委員が幾つか例を挙げて指摘し,また他の方もおっしゃって,何人かの弁護士の先生方のほうもそういう局面が全くないことはないということをお認めいただいたような局面もあるのではないかというふうに御議論を伺っていて感じました。   内容の年5%を維持するかどうかということは引き続き今日議論があった調達金利と運用金利のフィロソフィーをどういうふうに調和させるかという見地から議論していかなければいけないと考えますが,今般の見直しにおいてこの方式の点も今までとずっと同じで変えないでいくんだというふうに決め付けるのは,私は少し心配であり,あるいは残念であるという気がします。精緻さを追求する余り不安定になってはいけないという御注意も確かにそのとおりですから,何かある参照する値を決めると,毎年せわしなく小数点で小刻みで変わるような変動制というのは受け容れ難いと考えますが,かなり固定制に近いような極めて慎重な穏やかな定め方の方式への移行を考えるという議論はしていただきたいというふうに自分としては感じています。部会でここを議論した会議には私,欠席せざるを得なかったのですが,第19回会議で似たような発言を一度したことがあり,法定利率は政令で定めるという取扱いにした上で,政令で定める際の定め方は極めて慎重に運用するというような在り方はあってもよろしいのではないでしょうか。   岡本委員が何回か供託規則で利率を決めているではないかという例をおっしゃっていて,あれは一つの参考になると同時に,少し心配というか,こちらにそのまま使えないだろうと思うことは,供託という制度は国が言わばサービスで提供している制度であって,余り基準をうるさく言わなくても,えい何%と決めればいいのですが,こちらは国民の権利,義務に関わる重要な要素でありますから,法務省令で決めるわけにはいかなくて,政令で決めることになると思います。しかも現在の供託規則は丸投げで,供託法には法務省令で定めると書いてありますが,こちらのほうは多分丸投げはできなくて,どういう考え方で法定利率を決めるのかということは法律に書かなければいけないのであろうと考えます。その考え方の議論をするときに,正に今日あったような調達金利のことも十分に考えて入れてくださいというような議論が反映されるような方式の規律を設けることができるのであれば,最終的に内田委員がおっしゃったような,政治過程に全部丸投げされて偶然に依存するのですかという問題に対する一つの答えが得られることになるのではないかというふうに感じますから,内容の御議論も大事ですが,方式の御議論についてもう少し中井委員の御議論が軟らかくていらっしゃると有り難いと感じます。 ○佐藤関係官 今の山野目先生のおっしゃったことは,非常に有意義なサジェスチョンではないかと感じながら聴いておりました。ずっと固定利率でいいという考え方と,あるいは緩やかな固定利率か,もっと頻繁な変動利率か,恐らく単純に言えばその3類型が今この分科会の中で提示されているのではないかと思います。ここが決める場ではないとすると,多分決める場合ではなくてアイデアを出す場であるということだとすると,一応そういう大まかな3類型でもって,それぞれメリット,デメリットなりというのを整理するというのが現実的なのかな。それでまた部会に議論の紹介を上げると。   1点だけ,先ほど内田委員及び山野目幹事から御発言ありました何らかのゆったりとした変動というのがあってもいいのではないかというところで,これは適切な発言かどうか分からないんですが,個人的に考えますのは,今のヨーロッパの状況を見ますと,御承知のとおりイタリアの国債金利が今7%になるとかならないとか,ギリシャに至っては20何%になるというような,ものすごい急激な利率変動が起こる場面が,日本にあるとは言いませんけれども,理論的にあり得ると。そのときにまた国会の休会といったことなどもあり得る中で,急に法律を変えるということが現実的ではない場合もありますので,やはり変動の余地,政令でというのが適当だと思いますけれども,そういう余地を残しておくというのはいいアイデアなのではないかと思いながら聴いていた次第でございます。 ○中井委員 それほど硬いわけではありません。硬くなるのは変動制を推奨される方々の具体的提案がないからだと思っています。佐藤関係官おっしゃられたように緩やかパターンと即時パターンと仮にあるなら,具体的にこういうイメージですと御提示いただけないかと思うのです。先ほど内田委員からの御示唆,御指摘も受けて,私としてはぎりぎり緩やかパターンでどのようなものがあり得るのか,これは考えたい。仮に今5%を承認していただけるとすれば,過去10年間を毎年平均を取っていって,その平均値が1%変われば1%変動させる。今これを見ましたけれども,恐らく過去15年間平均を取っても変わりません。これを10年ずつ取っていくわけですから,そうすると,1990年から2000年までの10年間を取ってようやく3%程度か4%程度動く。それを何年おきに見直すのか。1年ごとに見直すのか,それもあり得るし,3年ないし5年ごとに見直す,これも金融機関の中でも意見が分かれているようですから,具体的なイメージを御提示いただくほうが生産的ではないんでしょうか。 ○筒井幹事 幾つか発言したいことがあったのですが,まず直近の中井委員の御発言について一言発言いたします。利率の変動制に関する提案が緩やかなパターンか急なパターンかが明らかでないという指摘についてですが,その点は,今回の部会資料31ではかなり緩やかなパターンを強く示唆した記述をしたつもりであります。私自身は当初からそういうイメージを持っておりましたが,第一ステージにおける部会の議論や,その後の中間的な論点整理に対するパブリックコメントの手続で寄せられた意見などを見ておりますと,頻繁に急激に変動するというイメージを前提として利率の変動制の問題点を指摘する意見が多かったという印象を受けましたので,そうではないという強いメッセージを込めて部会資料を作成したつもりであります。その中で提示しておりますように,利率変更が行われ得る時点の間隔はせいぜい1年に一回,あるいは6か月に一回とし,それぞれの時点においても微妙な金利水準の変動に連動させるのではなく,一定の有意な差異が生じた場合に限って法定利率に反映されるような仕組みを用意することが考えられます。実務上の負担をいたずらに増大させないための様々な工夫をした上で,しかし,緩やかではあっても金利水準の変動に対してある程度オートマティックに応答できる制度を構想すべきではないかという考え方を提示したつもりであります。そして,利率の変動制をそのようなイメージで構想することに対しては,ここまでの部会と分科会の議論を通じて異論は出されていないと思いますので,そのような変動制のイメージを前提として御議論いただいてはどうかと考えております。   そのこととの関係で,本日は比較法資料の補遺としてドイツとフランスの利率の推移をお示ししましたけれども,これは積極的に参考にしたい例という意味ではなくて,客観的にこういう例があることを単に示しただけであります。結果的には,むしろ我々が部会資料で提示している案とは全く異なる運用がされているという例をお示ししたことになります。この資料から何を読み取るかというのは,いろいろあり得ると思いますけれども,こういった細かな数字で利率を変動させて運用している国もある,あるいは同じヨーロッパの大国であるドイツとフランスでもこれほど利率の考え方が違うのだということも言えるかもしれません。いずれにしても,我々としては客観的な資料を単に示したということであります。 ○岡本委員 今の筒井幹事からお話があったような緩やかな変動方式については,こういう具体的な考え方があるというお話だったんですけれども,それについては私どもも仮に指標を定めて,それに変動させるということであれば,そのような緩やかな方式にして,どうやって緩やかにするかというところは市場金利を参照する間隔を例えば1年だとか2年だとか長くすることによって緩やかにする方法もあると思いますし,それから,従前の利率との差がどれだけある場合に限って変動させることとするかのところで調整する方法もあると思うんですけれども,そういった形に緩やかにする工夫をして,結果的に変動の周期としては1年ないし5年ぐらいに一回変わる程度,そういった頻繁ではない変動が結果として表れてくる,そういった設計がいいのではないかというふうに考えているところで,最初に申し上げたのもそういう趣旨でございました。そういうふうな形で設計するとすれば,その変動させることについてのコストというのもある程度許容可能な範囲に収まってくるのではないかというふうに考えておるところです。   それから,先ほど山野目幹事のほうから省令への委任は無理なのではないかというふうなお話がありまして,そこの点は別に省令にこだわるわけではないので,政令なら政令でも結構だということでございます。 ○内田委員 まとめようとされる分科会長の足を引っ張って申し訳ないのですが,筒井幹事の発言の補足です。今回お配りしたこの基準割引率,貸付利率の表は,御覧になると分かりますように,仮に利率の見直しは1年に一回で変動幅は0.5%刻みというふうに考え,そして,仮にこの基準金利を基にして何らかの定式で法定利率を導くということにしますと,過去16年間くらいは変動しないんですね。そのくらいの安定性です。ところが,1990年からは1年に1%ないし2%以上の割合で大きく変動している。このときに一切変えないでおいて何年かたったところで法定利率が大きく変わるというのは,やはり当事者にとって負担だろうと思います。ですから,本当に金利が大きく変動しているとき,先ほど佐藤関係官からもありましたように,経済の激変が起きているというようなときには,それに対応できるような制度である必要はあると思いますが,しかし,利率が安定しているときには10年から15年間全く変わらないということはあり得るのです。これは過去1年間の変動を平均してそれが0.5を超えるかどうかで判断するという指標で見た場合です。私自身のイメージはそういうものだったものですから,もしその程度の変動制にも反対されるとすれば,中井委員の御意見が少し硬いような印象を受けたということです。 ○筒井幹事 幾つか発言したいことのうちのもう一つぐらい発言しようと思いますが,現在の5%という法定利率を変えるかどうかという議論に関しては,今回の諮問がされた当初から,少なくともここは社会経済の変化への対応として変えるべき点ではないかとむしろ言われていたように思います。それは私なりに理解いたしますと,例えば公定歩合が10%に迫るかといった時代に5%で運用されてきたその実感と,現在のように限りなくゼロに近い金利水準の中での5%の実感が社会的に異なっていて,この現状に対する違和感を多くの人が感じていたからではないかと受け止めておりました。現実にパブリックコメントを見ても,法定利率を改める必要があるという意見はたくさん寄せられているわけであります。   その中で,更に立法事実を精査し,法定利率の持つ意味を突き詰めていくと,異論もあり得るということだと思いますので,更にその議論を深めていく必要があるのだろうと思いますけれども,法定利率の見直しは,誰も問題意識を持っていないところに降って湧いた議論ではなくて,多くの人が違和感を持っている中で,なお維持するということであれば,それはかなり説得的な説明が必要ではないか,そういう論点の一つではないかと受け止めております。   本日の御議論を聞いていて,数字を決めるのがいかに難しいかということを実感しています。その中で,いろいろな類型化を試みるという案がありました。中井委員が示されたような例で5%が高くないと感じられる場面は確かにある,もっと高くてもよいのかもしれないと思うような例が確かにある。しかし,5%はいかにも高いと感じられる例というのも確かにある。そこで一定の類型化が必要であるということを考えていくときに,松尾関係官から指摘があったように,少なくとも理屈の上では当事者間の合意で異なる利率を定めておくことが可能な場面もあり得ることを考慮に入れるのかどうか,それから,利息超過損害についての賠償を認めるかどうかを絡めて議論するかどうかという点は重要な要素だと思います。これらの点について中井委員の御意見はどうだったのかということを確認させていただきたいと思います。   そういった点を考慮した上で,それでも類型化が必要だということになるとすると,具体的にどのような類型を考えるのかというのは,恐らくどなたかから具体的な提案が出てこないと議論が深まらないのではないかという印象を持っております。 ○松本分科会長 利息超過損害については中井委員が何回かおっしゃっていたけれども,それはもう5%の中に事実上組み込んでいるという御意見だったんですね。 ○中井委員 ええ,損害金利に利息超過損害は組み込んでいるということですから,これと別に利息超過損害は認めないという考え方です。 ○松本分科会長 そういうことで争うよりは5%で。 ○筒井幹事 利息超過損害についてのお考えは分かりました。もう一つは,類型化を考えるといっても,具体的な類型を提示するのは非常に難しいわけで,細分化すれば使いにくくなる。ある程度の大きな枠で用意すればどうしても実感とのそごは埋められない。そうすると,当事者間の合意で工夫できるところはある程度それに委ねようという選択肢も合理的には出てくると思います。本日の議論の中で松尾関係官が発言したのは,そういう趣旨だったと思ったのですけれども,今後の立法論を考える上で,合意でできる領域とそうではない領域を区別して考えることについては,どのようにお考えでしょうか。 ○中井委員 あり得る選択として,まず二つに区分する,当事者間の契約で定めることのできる場面については,遅延損害金のところだけ2%ないし3%加算するけれども,それ以外は法定金利を例えば3%にする,利息超過損害は認めない。私の5%維持派になれば,そういうことはあり得る選択肢かもしれない。それを前提に緩やかな変動を考える。合意によらない場面も,基本的に同じと考えています。このような回答でよろしいでしょうか。 ○筒井幹事 遅延損害金の中でも更に分類が必要だという御主張であれば,具体的な提案を出していただく必要があるという趣旨でお尋ねをしたものですので,それで結構です。 ○松本分科会長 中井委員の御主張と変動派の御主張との違いについて,私の感覚としては,変動派の方は言わば変動の決め方と言いましょうか,基準金利プラス幾らという感じで動かしていくという変動を考えておられるのに対して,中井委員はどっちかというと,5%というのは何となくいい線なんだと。事情が変動したことによって少し上に出たり,少し下に出たりという変動はあり得ると。そういう5%を中心とした小幅の変動ということならいいとおっしゃっているような印象を受けるんですが,そういう理解でよろしいですか。 ○中井委員 資料の金利推移からすれば,平成5年,1993年までは変わらない。その間,現在の5%という感覚はそれでおかしくないと思っています。損害金利としては。この1993年以前,これは普通の読み方とは逆ですけれども,それ以前は,何年間として平均化するか,先ほど佐藤関係官が言われたように,その時々の金利情勢によって上下するかは二つの考え方があるとすれば,私は緩やかなほうです。そのとき金利が上がったから直ちに法定金利を上げなければならないという必然性は感じていませんので,例えば,5年平均を取って1%変わるとすれば1993年から1992年にかけては5%が6%に上がる,1990年から更に例えば1980年ぐらいには上がっていますから,5%が7%8%に上がっていく,そういう緩やかな金利変動を想定してあり得ますねと考えています。それは恐らく内田委員が先ほどおっしゃった,若しくは佐藤関係官がおっしゃった,今,イタリアのように急激に変わったから,法定金利を変えなければいけないのかというと,そういう必要性は感じていないのです。 ○松本分科会長 つまり5%を基準にして上下2%ぐらい緩やかに動くということならいいという御主張ですか。それとも基準金利に何%上乗せするという発想ですか。 ○中井委員 基準金利に何を取るのか分かりませんけれども,基準金利に何を取っても現状4%とか5%はそれほどおかしくないと思っているわけです。だから,まず現状から将来に向かってスタートするならば,それから,これは将来金利が上がっていったらそれより上がるでしょう。これより金利が下がることはないわけですから,その上がり方がもう10%になったら,5年平均で変動させると,5%が8%,9%になることはあり得る。おかしいでしょうか。 ○鎌田委員 大体どういうパターンでどれぐらいのタームで変動させていくかというところで落としどころを見付けていこうというふうな,こういう議論になりつつあるので,それを続けてどこかへたどりつくのが収束は早いのかなと思うところで,何か元に戻すようなことを申し上げて恐縮なんですけれども,これもまた部会の議論に持ち帰ったときに,更にもうちょっと国民全体の意見を聴くというときに,どういう考え方が背景にあるのかということについて多少は説明が必要だと思うんですね。   そのときに,岡崎幹事の御意見と中井委員の意見というのは,かなり違うのではないかなというふうに思っていて,岡崎幹事の御見解は一つの見解として十分成り立つんだと思うんですけれども,中井委員の御見解の中で調達金利的なものを非常に強調させていくとなると,1970年代みたいな状況がまた仮に来たら,そのときには10%を超える金利にならなければおかしいんですと,そういうことですよね。利率の変更をどういうスピードでやるかの問題はありますけれども。だから,そこでそもそも法定利率についての考え方が基本的に違うのではないかなというふうに思っています。岡崎幹事のお考えに従えば法定利率はずっと安定的なほうがいいし,中井委員のお考えに従えば緩やかであれ,やはり変わっていったほうがいいという,この違いがお二人の間にある。それと,もっと調達金利に近いところで考えていこうとするかどうかも違っている。そういう風に,背景にある考え方は3通りぐらいあるのかなというふうに思って,その辺のところは少し整理をしたほうがいいように感じます。あるいは混迷に陥るだけなのか分かりませんけれども。  それともう一つは諸外国の制度について,先ほど来の議論の中で,ドイツもフランスもというお話がありましたけれども,この頂いた参考資料で見る限りは,ドイツは遅延利息は法定利率に上乗せしている。しかし,フランスは法定利息と遅延利息を同じで低いところに定めていて,商事の遅延利息だけが高いんだし,イタリアは遅延利息の制度がここに書いてあるので分かりませんが,ヨーロッパ契約法原則やユニドロワは,これも遅延利息と法定利率はむしろ一致した形にしているというので,諸外国にもいろいろなパターンがあります。そういった事情は,ある程度分かりやすく整理して,こんな考え方で,こんな立法例,運用例がありますというのを一覧表的に提示した上で皆さんの御意見を伺えるようにしたほうがいいのではないかというふうにも思いましたので,感想だけですけれども,申し上げておきます。 ○高須幹事 私は先生がおまとめいただいた基準金利にプラスアルファしていくという形で,かつそれには類型があるのではないかということの立場を一応良しとしているんですが,それでも緩やかな変動は十分可能だと思っていますので,それは工夫の仕方によってできると思っておりますので,その方向からでも緩やかな変化ということは十分取り入れられると思っています。それだけです。 ○松本分科会長 ということで共通の部分も少しは出てきたかと思いますけれども,まだまだ議論を詰める必要があると思いますから,これは引き続き部会あるいはもう一度また分科会で議論することになると思います。あと時間がございませんけれども,中間利息の控除について,つまり変動制を採るか採らないかの議論がまとまらない状況で中間利息の議論をするとなると,しにくいわけですけれども,中間利息の控除について明文の規定を置くべきかどうか,置く場合にどういう考え方でルール化をすべきかといったような点についてどうぞ御意見をお出しください。 ○高須幹事 すみません,残された時間ですので,取りあえず御説明をさせていただいて,また批判は今日でも,あるいはその次でもということだと思うんですが,一応中間利息控除につきまして,私の意見を事前に資料として配布していただいております。「中間利息控除の規律について」という2枚もののものでございます。これそのものを読み上げることはいたしませんが,かいつまんでだけ申し上げますと,私としては法定利率と中間利息控除とではやはり性質に異なるものがあるんだろうと。今,松本先生から法定利率のほうの議論がまとまっていないのにということがございまして,正にそのとおりで,そちらをどう考えるかによってはまた変わってくる部分はあるとは思いますけれども,ただ,本日の議論でも法定利率には多少上乗せ的な部分あるいは中井先生のような御趣旨であれば,やはり必ずしも市場金利に連動させなくてもいいのではないかと言われている部分,その意味するところは損害賠償の趣旨が入っているのだとか,あるいはやはり未払ということを防ぐというインセンティブがあるのではないかというようなそういう幾つかの要素があるということは,それがまとまったわけではないにしても,今日の中では議論に出たと思っておるわけです。   ところが,中間利息に関しましては,部会資料にもありましたように,将来の支払というものを現在に換価すると。将来本当は払われるべきお金を今払うということで,その場合にどういう調整が必要かというその調整の規律ということが専らの使命なのではないか,そのように思っておりまして,そういう意味では中間利息控除はやはり法定利率問題とは異なる要素があるだろうというのが議論の出発点でございます。その場合には,やはりそういう内容が異なる以上は独立の規律を設けたほうがいいのではないかというのが取りあえず私の出発点でありまして,その独立させる部分のポイントとしましては,今申し上げましたように,お配りしたペーパーですと2ページ目の(2)の中間利息の控除というところのアンダーラインになるわけですが,ここには損害賠償的要素とか支払のためのインセンティブという要素は基本的には入らないと。したがって,将来債権の金額とそれについて現在支払を受けた場合の金額が価値的に同一と評価されるような内容となるような規律,そういうふうにすべき規律を設けるのがいいのではないかと。   そうなりますと,2ページの一番下のところのアンダーラインでございますが,三つぐらいの観点があるなと思っているわけですが,アンダーラインのところだけ読みますと,法定利率については政策的に市場金利よりも高率のものとするかどうかに関してどのような解決を図るにせよ,中間利息控除については,3ページにまいりますが,市場金利との直接的な関係性を考慮して市場金利と同一の金利水準をするのが本来ではないか。これだけでは収まらないのが難しいところなわけですけれども,取りあえずこれが基準になるのではないかと。その上で,②のところのアンダーラインなわけですが,やはり利率自体は現在市場金利は変動している世の中でございますから,率の変動の可能性というのは認めざるを得ないのではないかと。   ただ,その上で最後三番目のところに書きましたように,中間利息控除の難しいところは,将来の利率の変動を予測して今幾らと見るかという,そんなの誰も予測できませんよということを法的には何らかの形で工夫せざるを得ないというのがこの問題の宿命だと思っておりまして,合理的な想定値を設けることしか我々には工夫のすべがないのではないか。その算定値の算出方法を合理的なものとするルールを明文化するというのが結局中間利息控除における現実的な規律の帰結点ではないかというふうに思っておる次第でございます。そうなると,現在の何らかの指標を基にした変動利率を取って,ただし,そういう不確定な要素があるので,余り軽々に変動するようなものであってはいけないので,やはり長い目で見たというのもちょっと散文的な言い方ですが,安定的な工夫をした上での指標になるのかな,あるいは算定になるかなというふうに思っておる次第でございます。   それが考え方の基本でございまして,では具体的な条項はということでございますが,3ページ下のところのゴシック体で書いたように,ここに関しましては,東京弁護士会の法制委員会の検討チームの案というのがまず出ております。具体的には将来取得されるはずの純利益の損害賠償の支払が現在の一時点において行われる場合には,支払時から将来取得されるべき時点までの利息,この利息を中間利息と言うというような位置付けにして,これを控除するものとすると。要するに中間利息の控除ということをうたうのが1項と。2項に関しましては,前項の中間利息の利率は過去の一定期間の利率変動を平準化する方法により算出するものとし,政令において定めると。後で実はちょっとここを変えましょうみたいな意見は言わせていただくんですが,東京弁護士会は政令でいいということで,今日の法定利率のところでもその種の御示唆が数多くなされたところでございますので,それを踏まえますと,この政令によるというのも合理的な判断だなと今はちょっと思っております。   ただ,このレジュメを作りましたときは,4ページのところでございますが,2点ほど,私も東弁に所属しているわけでありますけれども,東弁の今の案を修正する余地があるなというふうに私個人は思いました。1点は,この問題は中心的には損害賠償における,不法行為における損害賠償における遺失利益ということを念頭に置く議論が中心になることは間違いないわけですが,しかしながら,部会資料にもありますように,民事執行法の88条とか破産法の何条とかというような形で,将来支払うべきものを今支払うという必要が生じた場合の計算方法ということでも法定利率ということがこれは明文でうたわれているわけですから,そのことに対する配慮も忘れてはならないだろうと。したがって,先ほどのような遺失利益のことだけをちょっと念頭に置くのはよくないのかなというのが1点でございます。   それから,2点目は今となっては,ここはもう政令でいいと言ってもいいとは思っておるんですが,今日もしそれを言うと,政令で委ねるなんて逃げですよと言われてしまうのではないかと思ったものですから,一応明文で設けるとしたらこういうふうになるんだみたいなものをちょっと作ってまいりました。これが4ページ目の下のところのゴシック体でございまして,損害賠償請求における遺失利益に関する債権や確定期限の到来している債権について現在の一定時,これは基準時と呼んでも呼ばなくてもいいんですが,一応取りあえず呼んでみましょうかと。その基準時に弁済期の到来を認める場合において,その債権額の支払を認めることが不当と評価される場合には,基準時からその債権の本来の弁済期までの間の利息相当額(以下,この利息を「中間利息」という。)を債権額から控除するものとすると。2項で,前項の中間利息の利率は,過去何年間の,ここは長めに取るというのが基本でございまして,その長めに取った何年間かの何らかの基準,ここでは決め付けはいたしませんでした。旧公定歩合なり国債の発行金利なり幾つかのお知恵があると思っておりますが,その利率の変動を平準化する方法により算出するものとすると。なおかつ,これも1年ごとにとか半年ごとにとか,あるいは極端に言えば日々にというのでは大変なことになりますから,この利率は民法の施行の日に算出を行った後,以後何年ごとに改定する。この何年ごとも比較的長めにと。先ほど法定利率の場合,例えば1年というような案も出たと思うのですが,ここではそういう期間ではなくて5年とかそういう長めの期間でやるというようなことを考えてもいいのではないかというふうに思った次第です。   4ページの一番下の(注)のところでございますが,もう今日資料を頂いておりますから,実は書く必要もなかったかもしれませんが,一応福岡弁護士会のほうで調査いただいたところでは,旧公定歩合で仮に30年平均を取ると2.572%になると。それから,10年だともうここ10年ですから0.3%になるわけですが,ですから,逆に言えば10年というスタンスだといかに直近の経済状況を反映してしまうかという問題があるんだろうというふうなことになるわけです。10年国債の場合の過去30年平均は4.253%で,20年平均にすると2.868%になるということですから,このようなところをにらみながら過去何年間のというようなところは決めていけばよろしいのではないかと。ここについては特にこれでというのは全くあるわけではありませんが,このような考え方で中間利息に関しても,独立の規律を設けるということが妥当ではないかと,このように考えた次第でございます。 ○松本分科会長 確認ですけれども,この御提案だと,現行だと5%で控除されているわけですが,どの指標を使ってもそれよりも低くなるという,10年国債平均,過去30年で4.253ですから,これでも5%より低いから,そういう意味では被害者の取り分は現在の実務慣行よりは多くなるという御提案ですね。 ○高須幹事 結論に関しましては,例えば中間利息控除に関しての算出方法を変えた場合に保険法の中で今度はその他の要素がどのようになっていくかという問題はあると思いますから,例えば直近の裁判ではそうなりますねというのがあるとしましても,保険料率が変わるとかいろいろなことがあって,将来的にどうなるかはまた別な問題だとは思っているんです。私の発想は単純に,単純にと言うと怒られてしまうんだけれども,結論のありきを考えているというよりは中間利息控除という名の下に現在5%控除をしてきたことは,本質的にはやはり保険の理論に合っていないのではないかと。そこで調整をしているというのはよろしくないのではないかということでございまして,もし仮に被害額についての適正な算定について,ここをいじった結果どこかで違いが出るなら,他のところできちんとまたその辺については議論すべきだと,このような考え方を持っております。 ○中井委員 高須幹事から東京弁護士会の意見紹介があったわけです。私も,弁護士会全体の意見を正確に把握できていませんが,法定金利については変動制を容認する意見があるということは申し上げたとおりで,法定金利に変動制を容認する意見の人たちは中間利息控除についても当然のことながら変動制を容認する意見になっている。そのときに法定金利と同じような考え方を採っているかというとそうではなくて,高須幹事がおっしゃったように,多くの方々は中間利息控除については専ら生命,身体に関する損害賠償を想定せざるを得ないので,将来得られるものを今頂くことになり,今頂いたものを被害者は運用するしかないとすると運用金利,それが市場金利とパラレルかどうかはともかくとして,一定の運用金利で現在価値に巻き戻した金額にする,そういう考え方が相当ではないか。巻き戻すに当たっては,短期のスパンではなくて20年とか30年のスパンでその金利算定をすべきではないか。確かにそういう場合に,あと5年という生命,身体の被害,後遺障害なんかの期間制限のある場合もありますけれども,そこだけ別の指標を持ってくるのは適切でないだろうから,同じ考え方で通すというのでいいのではないか,というのが一つの流れです。   法定金利について固定制をなお維持する見解に立つ人たちは,ここでは二つに分かれて,中間利息控除については,先ほどの高須幹事のおっしゃった理屈と同じところから変動制を採り,変動制のときの金利計算についてはやはり運用を基準として考える。したがって,今日の経済情勢からすれば金利水準は低くなる。松本委員の質問に対しては,損害額はその限りにおいて高くなる。  あともう一つは,法定金利について固定制を採り,中間利息についても固定制でいいのではないかという考え方がある。それは前回の部会でも申しあげたとおり少数説ですけれども,私はそういう意見を持っています。その理由は,損害賠償というのは全ての要素を斟酌して決めるものなので,ここの利息についてだけこと細かに精緻化を図っても,それは結果としての妥当な結論を決して導けるものではないという思いを持っております。ここについては意見の分かれるところですが,中間利息控除についても一定の利率で行ってもいいのではないか。もしそれが不当な結果になるときは慰謝料で調整するか,他で調整すればよいという意見を持っています。 ○高須幹事 全くそのとおりと思っておるんですが,今の先生が最後におっしゃった少数説と御指摘いただいた部分のところの答えは,私なりには一応弁護士会でも御説明させていただいているところで,結局私も先ほどの松本先生からの御質問に答えましたように,単純にそれで金額が変わるということを目指しているというのではなくて,飽くまでプロセスとして5%の中間利息控除をした結果この金額になりましたというプロセスは現状には合っていないのではないか。これはやはりある程度市場金利と変動させることとの関連を意識した上で,そこはやはり中間利息控除については適切な作業をして,それとは異なるところで今,最後に御指摘があった慰謝料なり何なりのところでの操作があるのかもしれないけれども,少なくとも被害者がこの説明を聞いたときに,では私がもらったお金は5%ここで引かれたからこの金額になっているんですねと。この5%はなぜなんですかと聞かれたときに,それは銀行へ行って預金すれば,あなたはその分もらえるからですよという説明は現状ではできないわけですから,やはりここはプロセスをきちんと説明できるだけのものにしていくべきではないかと,こんなふうに私は思っております。 ○佐藤関係官 先ほど中井委員のおっしゃった意見の最後のところで,この損害賠償の話について,利率のところだけを非常に精緻にすることにどれだけの意味があるのかというところは私も同感するところがございます。この中間利息控除の問題というのは将来にわたっての見通しを行うという極めてバーチャルな世界の話ですので,先ほどの法定利率のところよりも更に難しい問題があると考えております。   そこで,したがってここはいわゆる決めの問題と言った不適切かもしれませんけれども,一定の固定利率で処理するというアイデアが,将来のバーチャルな利率を無理やり見通すという,その不合理さ及びその実務的な面倒を回避する上で,あり得るのかなと思っているところです。   もう一つ,高須幹事から御提案いただいたところについて,簡単にコメントというか気になるところというか,一つだけコメントさせていただきますと,一つは,過去の利率を取るといったときに,どの金利を取るのがいいのかと。恐らく運用利回りということに関してみると,基準割引率とか国債の金利だとプライムレートでありますので低過ぎ,若干それにやはりスプレッドが乗っかるのかなという感覚がございます。もう一つ,過去何年間取るのがいいのかというのは,非常に難しい問題で,若干日本の経済構造だけ簡単に遡って考えてみますと,高度成長期までは資金がひっ迫している状態であり,高度成長期が終わって大体1980年代の前半か半ばぐらいから,今度は資金余剰の時代が到来し,更にまた政策的要請から金利を引き下げたなど,そういう歴史がございます。またバブルという時期があったりと,非常に変動要因が多かったというのが過去を振り返っての状況だと思いますので,ならすという意味ではやはり相当長い期間を取って算出したほうがベターではないかというふうにこの御意見を伺って感じた次第です。 ○高須幹事 今の御指摘はごもっともなところは確かにあると思っておりまして,長い指標を取ることは大事だと思っておりますし,ただもう一点,この案のほうが私としてはいいなと思っているのは,現時点では確かに日本経済が上がったり下がったりを非常に経験して,この中での想定値を取るというのは難しい作業ですし,そのとおりだとは思っておるんですが,今回作った民法が時限立法で3年間だけ使いましょうという民法とは訳が違うわけですから,30年先,50年先を見ていったときに,ここで固定にしてしまったときに,それを変えねばならない努力と,それから20年,30年たっていったときにある程度金利相場が落ち着いてきたというときには,結果的には何%になっていきますねというのがあってもいいのかなと。つまり将来も考えて変動の余地をここでも,法定利率でも先ほどそのような議論があったわけですが,法律自体がある程度そういうメカニズムを持っているということは大事ではないかと,こう思った次第でございます。 ○内田委員 時間が経過しているのに申し訳ありません。ここにおられる民法学者が同じ考えかどうか分かりませんが,民法学界の中にある一つの有力な考え方として,私もそういう考え方を持っておりますが,それをお話ししたいと思います。先ほど中井先生は法定利率について変動制を採る人は中間利息控除についても変動制になるだろうと確かおっしゃったかと思うのですが,私は必ずしもそうではないのではないかと思います。逸失利益についての現在の算定方式は比較法的に見ても極めて特異なもので,フィクションの上にフィクションを重ねる非常に不自然なものだと思います。ですから,私のような考え方からすると,不法行為法の改正のときに,これがいつになるか分かりませんが,逸失利益の算定方式は抜本的に変えるべきだと思います。結論として出てくる賠償額を変える必要はないと思いますが,フィクションの上にフィクションを重ねるというやり方は変えるべきではないか。将来の利率を織り込んで中間利息を控除するなどという空想的なことはもうやめたほうがいいと思います。   それを促進するためにも,中間利息控除については現状を維持して,法定利率が改正されているのにここだけ現状のままで不自然であるという状態をあえて残して,将来の改正を待つというのもいいのではないかと思います。 ○山野目幹事 民法学者はどう思うかと内田委員がおっしゃったので申し上げます。分科会に委ねられた補充的な論議で,規定を設けるとすればどういう議論かという趣旨だと理解しておりましたから発言を控えておりましたが,私はこの問題について,規律を設けることについては極めてネガティブであって,そのことは前の部会の会議でも申し上げたことでありますから,基本的に今,内田委員がおっしゃったことと共感する部分が大きくございます。 ○沖野幹事 確かに逸失利益の問題はフィクションにフィクションを重ねているものであり,そのときの計算方法からして見直すというのは,それはそれで結構だと思うのですけれども,高須幹事がおっしゃった民事執行法や破産法の法定利率による中間利息控除について,それらについてもそのまま5%に据え置くということまで含んでおられるのでしょうか。中身についてその点だけ確認させていただきたいと思います。 ○内田委員 そこは別の問題があると思います。 ○沖野幹事 逸失利益だけ別だということですね。それであれば非常によく分かります。 ○鎌田委員 むしろ中間利息控除に関する特則を設けないで,法定利率についての変動制を導入すると,逸失利益の部分を除いてはうまくいくことになるのではないかと思います。 ○高須幹事 すみません,今の鎌田先生の御発言だと,法定利率について変動制を採った場合の利率と,それから,中間利息控除と言わなくてもいいんですけれども,民事執行法等における調整のための変動の利率が同じであればそういうことだと思うんですけれども,もしかすると,先ほど来の議論で法定利率のほうにはインセンティブとか損害賠償の余地が入ってくると,執行法上の多分前倒しで入っておける部分にはそういう要素は入ってこないと思いますから,考え方としてはもう一ひねりあるのかなと思っております。 ○鎌田委員 ただ,遅延損害金のための法定利率ではないのであって…… ○高須幹事 おっしゃるとおりで,よく分かります。 ○山下委員 私も中間利息控除の法定というのは,やはりすべきではないのだろうという結論でございます。今の損害賠償の賠償額の算定方法というのは,裁判の実務や保険の実務の中で自然にできてきたものなので,そこの中間利息控除のところだけ法律の規定を置くというのは非常に違和感を感じています。法定利率が仮に変動になった場合に,ではどうするか。そこは裁判所なり保険会社が実務の知恵を働かせてくれるのではないかなと思いますし,またそれが裁判所のお役目かなと考えている次第でございます。 ○岡崎幹事 中間利息控除についてですが,全く規定を設けないとどうなるかということはよく考える必要があって,この点に関しては,今日の高須幹事のペーパーにも書かれているとおりで,相当な混乱をしばらくの間招くことが考えられます。いずれ最高裁が判例を出すことによって解決するとは思うのですけれども,その間の損害賠償実務に与えるダメージというかインパクトは非常に大きなものがあるのではないかと思います。その辺りも考慮の上,これを置くかどうかを御検討いただければと思います。 ○松本分科会長 議論はやはり収束しませんで,中間利息控除についての独立した条文を置くか置かないかというレベルの話から,置くとすれば何をターゲットにして置くのか。そして,具体的な控除される利率の算定方法についての規定まで置くのかという3段階ぐらいの分岐があるかと思います。そういう意味では論点整理というか幾つかの分かれがあるということを確認したところで終わったかと思います。利率の規定を置くとしても,中間利息控除の計算方式についてライプニッツ方式とホフマン方式とどっちでも構わないというアバウトな世界だから,利率だけ緻密にしても全体がそれほど緻密になり切れないところがあるというのも確かに事実だと思います。 ○中井委員 内田委員の意見は,法定金利については変動制を採るけれども,中間利息控除については5%を維持というふうに聞こえたのですが,そうすると,中間利息控除については明文の規定を置く,しかも,それを5%と定める,こういう意見と理解してよろしいんでしょうか。山下委員は,そこは白紙にして,仮に変動制になっても優秀なる裁判官に任せるという御意見だったと思いますが,内田委員はそこが違うんですか。 ○内田委員 私は現状を変えないということですので,現状を変えないために規定が必要であれば,これはそのままであるという趣旨の規定を置くのがいいと思っていました。ただ,山下委員の言われるように,賢明な裁判所に委ねるという方策があるのであれば,それも選択肢かなと思います。しかし,もしそれが混乱を招くというのであれば,現在の実務は法定利率の変動制によっては一切影響を受けない,当面このまま維持する,そういう明文の規定を置くということです。 ○高須幹事 どうも私の意見は旗色が悪いようですので,それはそれとして,ただ,撤回はしませんので,引き続き検討は頂きたいと思うんですが,仮にここで規律を設けないというか,この種の書き方はしないという場合でも,今の御指摘だと結局将来的には,この問題は抜本的な検討をしなければならないというのが御趣旨だというふうに伺えるものですから,そうであればここで何か逆に規定を設けてしまって,そこだけは従来どおりやりますみたいなことを設けてしまうと,やはりそれはそれで足かせになるのではないかと。先生方の御趣旨が基本的には将来に委ねるんだという趣旨であっても,我々は日々今の法律を使って現実の事件の解決をしておりますから,そういう法律ができてしまえば,もうそういうものだとして事件処理をやらざるを得なくなってしまうということでハードルがかえって高くなってしまうと思いますから,そのときは私の本意では決してないんですけれども,むしろそれならせめて何もいじらないでほしいというふうに思っております。 ○松本分科会長 高須委員の御提供いただいた東弁法制委員会の案ですと,3ページの案だと中間利息控除は言わばしなければならない。ところが,4ページだと不当と評価される場合は控除するものとするだから,言わば裁判官の一定の裁量の余地を与えているような書きぶりになっているわけですが。 ○高須幹事 この趣旨は,実は民事執行法88条等を取り入れますと,利息付き債権の場合と無利息債権の場合で違いが出てきて,利息付き債権のときは利息を与えなければいいだけのことなので,いわゆる中間利息控除はしない立て付けになっているんですよね。ですから,88条のような遺失利益以外の問題も定めたときには,その種のやはり何らかの工夫,常に控除するわけではありませんよという表現が要りますよねと思って入れたので,実は今,先生がおっしゃったようなところまで深く考えて入れたわけではなかったのですが,もうちょっと考えてみます。 ○松本分科会長 逸失利益の算定に当たって,中間利息の控除をどれぐらいするかどうかも裁判所にお任せするという趣旨までは含んでいないということですか。 ○高須幹事 考えが及ばなかったというのが正確でございまして,裁判所に全幅の信頼を置いておりますから,そういうことのほうが使いやすいということであれば,そういうふうに受け取っていただいても結構だと思っております。 ○松本分科会長 ありがとうございました。恐らく条文化するとなると,義務なのか裁量なのかという過失相殺とよく似た議論がやはり必要になってくるかもしれないですね。   時間を超過して,しかも,予定の半分ぐらいしかできていないと思いますが,半分もいっていないですか,失礼しました。本日の分科会はこれで終了させていただきますが,あと事務局のほうから何か御連絡はありますか。 ○筒井幹事 次回の議事日程等について御連絡いたします。この第3分科会の次回会議は,平成24年3月13日火曜日,午後1時から午後6時まで,会場は本日と同じ法務省20階第1会議室です。次回の議題は,本日の積み残し部分と,それから次回までに第3分科会に割り当てられた論点ということになろうかと思います。よろしくお願いいたします。 ○松本分科会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   お忙しいところ熱心に遅くまで御議論いただきまして,誠にありがとうございました。 -了-