法制審議会民法(債権関係)部会           第39回会議 議事録 第1 日 時  平成24年1月17日(火)自 午後1時00分                      至 午後6時26分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議      事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第39回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。    (委員の自己紹介につき省略)   次に,本日の会議の配布資料を確認させていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として部会資料35をお届けしております。また,本日は積み残し分を審議する関係で,部会資料34も使わせていただきます。これらの資料の内容は,後ほど関係官の新井,金から順次,御説明いたします。   この他,別紙「比較法資料(補遺)」と右肩に書いてある資料を配布しております。これは,昨年12月27日に開催されました第3分科会で配布したものを改めて部会でも配布したものです。この「比較法資料(補遺)」は,部会資料31と一体となるものですので,法務省ホームページでは,公表済みの部会資料31に組み込む形で公表することにしたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   本日は部会資料34の「第3 契約の解除」以降及び部会資料35について御審議いただく予定です。具体的な進め方といたしましては,休憩前までに部会資料34の第3の「4 解除権者の行為等による解除権の消滅」までについて御審議いただき,適宜,休憩を入れることを予定いたしております。休憩後は部会資料34の第3の「5 複数契約の解除」以降及び部会資料35について御審議いただきたいと考えておりますので,よろしく御協力のほどをお願いいたします。   まず,部会資料34の「第3 契約の解除」の「1 債務不履行解除の要件としての不履行態様等に関する規定の整除(民法第541条から第543条まで)」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○新井関係官 それでは,御説明いたします。   部会資料34の「第3 契約の解除」,「1 債務不履行解除の要件としての不履行態様等に関する規定の整除(民法第541条から第543条まで)」では,「(1)催告解除(民法第541条)」において,催告解除制度を維持することを前提に,一定の付加的要件を追加することによって,付随的義務違反等の軽微な義務違反については解除原因とならないとする判例法理を明文化することを提案しております。そして,イにおいて付加的要件の具体的な文言等の在り方を問題提起しておりますが,付加的要件の主張立証責任の在り方や事業者間契約の特則を設けるか否かにより,甲案から丙案まで三つの案を提示しております。   「(2)無催告解除」では,催告手続を要せずに解除ができる場合の根拠規定を設けることを提案しております。①と②は現行民法第542条及び543条を踏襲した解除原因でありますが,履行不能に関する②については,催告解除とのバランスを取る観点から,催告解除と同様の付加的要件を課することを提案しております。そして,③では判例が展開している信頼関係破壊の法理なども参考とし,①及び②では包摂できないような一定の債務不履行に関して,無催告解除を認める根拠規定を設けることを提案するとともに,その要件の在り方を問題提起しております。   「(3)履行期前の履行拒絶による解除」では,債務者が履行期前に債務の履行を終局的・確定的に拒絶する意思を表明した場合を,解除原因として条文上明記することを提案するとともに,その具体的な要件の在り方について問題提起しております。   これらの(1)から(3)の論点については,それぞれの解除原因間のバランスにも留意しながら,横断的に検討する必要があるものと考えられます。また,各解除原因の具体的な規定の在り方の検討や解除原因間のバランス等の横断的な検討につきましては,分科会で補充的に行うことが考えられますので,これらの点を分科会において補充的に検討することの可否についても,御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま御説明のありました部分につきまして,御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○大島委員 まず,「(1)催告解除(民法第541条)」についてでございますけれども,付随的義務違反等の軽微な義務違反が解除原因にならないとする判例法理の趣旨を明文化されることについては,異論ございません。ただし,表現上の問題ですが,部会資料に一例として掲げられた重大な不履行に該当しないという文言については,不明確であるため避けてほしいという意見が商工会議所には多くございました。なお,主張立証責任については,甲案であれば従来の考え方から違和感なく受け入れられるものと思われます。   続いて,(2)の「無催告解除」についてでございますけれども,実務では契約を解除する際,催告しなかったこと自体がトラブルになることを避けるため,催告解除の形式が採られることが多いようです。また,実際の紛争の場面で,無催告解除が認められていたかどうかが争点とされることは余りないと聞いております。   一方で,分かりやすい民法を目指すのであれば,無催告解除の要件は明確に設定しておく必要があると思われます。部会資料で提案されている無催告解除の③債務者の不履行が一定の要件,例えば重大な不履行があったですとか,契約目的が達成できない等に該当する場合という要件の設定の仕方は,どのような場面を想定しているのか,必ずしも明確でないように感じます。無催告解除が認められる場面なのかどうか,混乱が生じることのないよう,要件の規定振りについては慎重な検討を行う必要があると考えます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   他にいかがでしょうか。 ○岡田委員 消費者の紛争トラブルでよく聞くのが新聞の購読契約ですが,遊園地のチケットをくれると言ったので契約したが,くれないから解約したいというのが結構あります。この例では遊園地のチケットをくれないというのは,契約の目的を達成しないとまではいかないというのが一般的ですが,相談者はチケットを貰うことに重要性を感じたと言います。そうなると軽微とか重要というのはイメージとして明確とはいえないように思います。そうなると契約の目的を達成しないという方がまだ分かりやすいのかもしれません。 ○中井委員 中身に入る前に(1)の整理の仕方と文言についてですが,アで付加的要件という言葉が使われていますが,この言葉遣いについて違和感があります。催告したけれども,履行がされなかったことに加えて,一定の要件を課すことについて検討する,まずはニュートラルなのかと理解しております。その意味するところは,債務が履行されなかったこと,プラスアルファという趣旨と素直には理解できるわけです。しかし,次のイの議論とも関連するのですが,債務が履行されなかったことで,要件は充足するんだけれども,制限をする方向に考えたとき,付加的要件という言葉が適切なのかと感じたものですから,一言,申し上げておきたいと思います。恐らく特段の意図はないと理解しておりますけれども,一部弁護士会から指摘を受けましたので御紹介をしておきたいと思います。   二点目は,これも,表現といいますか,整理の問題ですが,イの甲案にしろ,乙案にしろ,催告期間の経過がA,B,Cのいずれかとなっています。主語を,催告期間の経過とした問題提起の仕方についても違和感を感じております。これは中身を議論すれば,それで足りるのだろうと理解していますが,催告をしたけれども,履行しなかった,その履行しなかった債務の中身が重大な不履行であったり,軽微な不履行であったり,契約目的達成を困難にするような事情であったりという問題把握の仕方のほうが素直なのではないか。ここで催告期間の経過という言葉を主語に使われた意図があるのならば教えていただきたいですし,特段の意図はないというのであれば,そのように教えていただければと思います。 ○鎌田部会長 事務当局からお願いします。 ○新井関係官 中井委員から御指摘いただいた点でございますが,付加的要件というワードを部会資料で用いた趣旨ですが,こういった一定の要件を課することの当否を議論の俎上にのせるという趣旨で,ここでは付加的要件という言葉を用いさせていただきました。「付加的要件」という用語が適切かどうかについては,中井委員の御指摘もあったことを踏まえて,今後,考えていきたいと思っております。   それから,本文の甲案,乙案,丙案のところで,催告期間の経過が何らかの要件に該当するという書き振りになっている点ですが,事務当局としては,このような表現を採ったことにより,これから付加的要件の具体的な内容を審議していく中で,付加的要件に盛り込むべき考慮要素について,特定の要素をカテゴリカルに排除するというようなことは,全く意図しておりません。確かに,御指摘を踏まえて見てみると,催告期間の経過という時間の経過だけが評価の対象となっているかのような書き振りになっているのかなとも思えるのですが,部会資料を作る立場の整理として,付加的要件に盛り込むことが考えられる要素のうち特定のものを排除するということを意図しているものではないということを申し上げさせていただきます。 ○潮見幹事 幾つか申し上げます。まず,基本的な枠組みですけれども,催告解除と無催告解除,催告解除を重大不履行解除と言ってもいいのかもしれませんが,そのこと自体については,これでもいいのかなという感じがいたします。ただ,その上で,それぞれについてどういう条文を作るのか,あるいは組立てをするのかということを考えるに先立って,内容レベルで少し確認をしておいたほうがいいのではないかと思われる部分がございます。   まず,催告解除のほうですが,中井委員がおっしゃったところは大事だと思いますが,このことは省略します。むしろ,次の二つの場合をどうするのかということについて,委員の先生方がどうお考えなのかというのを知りたいところです。一つは目的物に瑕疵があった場合で,その瑕疵自体が重大ではないが,軽微でもないという瑕疵があった場合に,催告解除を認めるべきであるという方向で考えるのかどうかということです。   と言いますのは,目的物に瑕疵があった場合の解除について,従来の言い方ですと,契約目的達成不能の場合には解除をすることができます。それは重大不履行とパラレルに考えていいと思うのですが,それ以外の場合については損害賠償で我慢しなさいというような形で考えていた向きがあろうかと思います。そこを重大ではないけれども,軽微でもない場合に,催告解除を認めるべきだと考えるようにするのかどうかが,補足説明を拝見していてもちょっと見えにくいところがありました。重大ではないけれども,軽微でもないという場合は催告解除も駄目だと考えるのかということ,これが一つです。   それから,もう一つは,同じく催告解除について,いわゆる付随的義務の不履行,これは要素たる債務の不履行が問題となる局面と言われているところですけれども,付随的義務の不履行・違反があった場合に,それを今後,どうしていくのかということです。この場面は重大不履行あるいは契約目的達成不能を理由とする解除のほうで処理をするのか,それとも,付随的義務の違反の場合も催告解除は可能であると考えるのかということです。補足説明でも少し明らかではないところがありますし,この間の議論でも,この点で意見の一致を見たとは言い切れないのではないかと思っています。そういう意味では,催告解除に関して,目的物の瑕疵のケース,それから,付随的義務違反のケースについての考え方というものを,少し確認しておいたほうがよいのではないのかと思うところです。   それから,無催告解除のほうは余り言うこともないのかもしれませんけれども,先ほど大島委員の発言をお聞きして,重大不履行にいう「重大性」というものをどのように判断していくのかという判断の枠組みとか,あるいは判断要素を少なくとも条文の中で明示する工夫をしておく必要があるのではないかと強く感じました。他国の例を見ても,例えば判断要素を挙げるという方法とか,判断過程を示すようなルールづくりをしているところもありますので,そうしたものを参考にして,新しい概念を使う以上はできるだけ分かりやすい形で示しておいたほうがいいのではないかという感じがいたします。ついでながら,無催告解除の補足説明にあるところですけれども,②と③というのを区別していいのかという点については,補足説明の最後にある意見に私は賛成です。   もう一点,非常に細かいことですけれども,無催告解除の②のところにいわゆる一部不能の場合をまぜて書いておられますが,②で履行請求権の一部につき限界事由が生じた場合というのは,これは一部履行不能に対応する場面だと思いますが,これをこの中で扱ってよいのでしょうか。一部不能の場合にどうするかという問題については,もし,設けるとしても独自のルールとして設定をする方向を考えたほうがよいのであって,この問題を(2)の中で一緒に交ぜて論じるということになると,前回もありましたけれども,少し議論の方向自体が混線してしまうのではないかという危惧を感じました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   最初の御指摘について。 ○内田委員 議論を更に進めるためにお願いなのですが,最初の二つ,御指摘された点は非常に重要な点だと思いますけれども,潮見幹事がどうお考えになるかをおっしゃっていただいたほうが,更に議論が進むのではないかと思います。御意見の中で相当,それは色濃く感じられましたけれども。 ○潮見幹事 申し訳ございません。定見はないのですが,目的物の瑕疵については,多くの委員が反対だと言われたら,私もそれに従いたいと思いますが,私自身は,重大ではないが軽微ではないというような場合に,催告解除を認めるのはいかがかと思っております。   それから,付随的義務違反の解除の場合も,重大不履行といいますか,こちらでいったら法務省の資料で言えば無催告解除の枠組みで一本化してもいいのではないかと感じます。ただ,催告そのものに意味があるとか,重大か軽微かということの判断自体についても,いろいろ難しいところもあるとか,主たる義務と付随義務の区別なんていうのも,実はそれほどはっきりしていないではないとの理由から,どんな場合でも催告というプロセスを踏んだ上で,それでも相手方が何も対応しない場合には解除という効果を与えてよいと,部会で判断するということであれば,私は特に意地でも反対ということはしません。 ○松岡委員 先ほどの潮見幹事の問題提起に対して,意見を含めて少し申し上げたいと思います。重大な不履行なのか,あるいは契約目的達成不能なのかという判断枠組みないしは定式の立て方とも関係あるのですが,私は契約目的達成不能という概念を用いるのが適切ではないかと考えております。重大な不履行という場合には客観的な意味での重大性であるとか,あるいは不履行の態様が著しいことまで入ってくる可能性があって,何が決定的なのかが少し分かりにくいと思うからです。   解除制度を当該契約の拘束力から逃れることを認めるかどうかという観点で見ますと,当該契約の目的を達成することができるのかどうか,当該目的にとってその不履行が重大なのかどうかが明示されたほうがいいと思います。そのうえで,厳密に言うとこの二つは違うのかもしれませんけれども,私は重大な不履行を理由とする解除の「重大な不履行」とは,同じ意味を違う形で表現したものにすぎないと理解しております。先ほど挙げられた瑕疵担保解除における契約目的の達成不能という概念は,既に日本法の中に根付いておりますので,より慣れ親しんだ契約目的の達成不能のほうがいいと思います。   そして,先ほどの潮見幹事の御質問に関して申しますと,目的物に瑕疵があったが重大でも軽微でもないとしますと,重大な不履行という基準では,解除ができるかどうかはなかなか判断が難しいところで,瑕疵が簡単に除去できるのに除去しない場合とおよそ瑕疵の除去が極めて難しい場合では異なってくるのではないかと思います。……しゃべっている途中に若干混乱を生じました。可能なら整理して発言しなおすことになるかもしれませんが,先のような場合に,あえて催告解除を認める必要はなく,現行の契約目的の達成不能という基準でいいのではないかと考えております。   次に,付随的義務の不履行の場合ですが,これも契約目的の達成不能という判断枠組みで処理していいと思います。ただ,催告解除との関係は,私自身も十分整理できておりません。実務家から縷々御発言がありますように,催告解除の重要性を考えれば,催告解除の枠組みに乗せた上で,契約目的の達成不能の1つの判断要素として催告を組み入れるという形での考え方の整理は,あり得るのではないかと思っております。 ○中田委員 ただ今の松岡委員の御発言のなかで,瑕疵が除去できるか,できないのかによって異なるんだ,あるいは修補請求ができるどうかによって異なるんだというのは,非常に重要な観点だと思うんですけれども,除去できるにもかかわらず除去しなかったということと,契約目的達成不能あるいは重大性ということをどう関連付けるかが問題になるのだと思います。最終的にはそれを外してしまおうということでしょうか。もし,それを取り込むとすると,契約目的達成不能というよりも重大なというほうが取り込めやすいような気もするんですけれども,いかがでしょうか。 ○松岡委員 今の点はまだ整理は十分できておりません。発言の途中で分からなくなったのは,正に今の中田委員の御指摘の点で,瑕疵の除去や修補可能性で処理を分けるとすると,契約目的の達成不能とどう結び付くのかが,途中で混乱して整理がつかなくなったのです。ただ,方向としては,先ほど申し上げたとおり,解除を認める必要があるのかどうかは契約目的の達成不能という判断基準だけに絞ってしまっても構わないのではないかと考えている,という結論だけを今のところ申し上げさせていただきます。 ○松本委員 最初に中井委員が指摘された「催告期間の経過が」という主語の問題が今の議論でも出ていると思うんですね。私の感覚だと催告期間というのは,それによって債務不履行の重大性を高めるとか,契約目的の達成困難性を高めるとかいうよりは,むしろ,債務者に対して猶予期間を与えるという手続的な要件だと見るほうがいいのではないかと。そのほうが理屈が立てやすくなるのではないかと思います。   解除できるかできないかは今の状態で決まる。不履行の状態のままだと契約目的が達成できないという場合に解除ができるんだけれども,猶予期間を与えて,その間に治癒されれば目的が達成できるんだから解除できないとなる。そのままの状態が続けば最初の不履行状態がそもそも契約目的の達成を困難にする状況なんだから解除できるという要件,ここで言うとところの本体的要件を満たしていると。それに付加的要件としての相当期間も与えたのに,まだ,履行しないではないかという点が加わってきて解除ができるということになるわけで,全く契約目的の達成と無関係な軽微なものは,最初の要件をそもそも満たしていないわけだから,相当期間を付加しても,それ自体で不履行の重大性が増して解除できるという話にはならない。ただ,それでも催告することによって,軽微な点についてもきちんと履行してもらえるかもしれないというメリットはあるわけだから,それはすればいいでしょう,事実上の問題として,となるのではないかなと思います。   そして,(2)の無催告解除の③で契約目的が達成できない場合は無催告解除できるというのがあるわけで,これと契約目的の達成を困難にする場合の相当期間経過後であれば解除ができるというのをどう整合させるかということが問題になります。無催告解除の前提は先ほどの話だと,全部不能だということのようですから,追完不可能であり,猶予期間を与えても契約目的の達成可能な状況にはおよそならないという場合は無催告解除だし,契約目的達成の方向にやれる可能性があるのなら猶予期間を置いた上で,それでもなおしない場合に,当初の目的達成を困難にするという要件で,解除ができるということになるのではないかと思います。 ○深山幹事 私も今の松本先生の御発言と同じように,解除ができるかできないかの一番のポイントは,当該契約の目的を達成できるかどうかということをメルクマールにするべきだろうと考えております。それは催告解除,無催告解除とカテゴリーを分けた場合でも,共通する基準として契約目的の達成の可否ということにすべきではないかと思います。   他方で,重大な不履行あるいは軽微な不履行という切り分け方と比較いたしますと,重大なということについては,弁護士会の中でも範囲が分かりにくいという批判もありましたが,どういうことをメルクマールに重大かどうかを判断するかということをめぐって考え方が分かれ,非常に基準として曖昧になるといえます。軽微ではないと言い換えても全く同じことが言えるわけで,何をもって軽微かどうかを判断するかが問題となります。正に先ほど潮見先生が問題提起されたように,重大でもなければ軽微でもない場合はどう考えますかという問題が生じます。こういう問題提起がなされること自体が,重大という言葉や軽微という言葉を使うことの問題点を如実に表しているのではないかと思います。   つまり,第一読会のときにも少し議論が出ましたけれども,重大と軽微とその間の中間がある三分類になるような議論になっているわけですけれども,ここで議論すべきは解除を認めるべき債務不履行と認めるべきではない債務不履行の二つの切り分けの問題だと思うんです。ですから,それを重大だという言葉で規律しようと考えている人は,解除できるほうの債務不履行を重大な債務不履行と呼びと,結局は二分類にするんだと思いますが,重大だとか軽微だとかという言葉を使うことによって,あたかもどちらでもないものがあり得るような議論になっていること自体が,このワーディングの問題点を表しているのではないかという気がいたします。したがって,具体的な表現はともかくとして,考え方として契約目的の達成ができる,できないということを基準に考えるべきであろうと思います。   もう一点だけ付け加えますと,それと催告との兼ね合いについては,先ほどの松本先生の御指摘と同じ意見なんですが,催告をしたにもかかわらず,その期間内に履行しないという要件は,正に手続的要件として私はあったほうがいいと考えているんですが,そのことによって契約目的が達成できる,できないに影響があるという問題ではやはりないと思います。専ら,言わば最後通告として,やらない場合には解除しますよということを通告し,あるいは促すという意味合いで手続的に必要だと考えますが,そのことと,解除ができる債務不履行とできない債務不履行とを切り分ける基準としての契約目的達成ができるかどうかということとは,少し次元の違う問題として捉えるべきではないかと考えております。 ○潮見幹事 重大不履行,あるいは契約目的達成不能でもいいかもしれませんが,ここは置いておいて,先ほどの発言は,催告解除のところで重大な不履行あるいは契約目的達成不能という概念を入れてこの制度を立てるのか,そうしないのかという違いのほうが実は重要なのではないかという意味も込めてしたつもりです。はっきり伝わっていなかったかもしれませんけれども,今,深山幹事がおっしゃられたこと,それから,松岡委員の発言等を見ますと,松本委員も同じだと思いますけれども,催告解除の場合にも催告して猶予期間を与えて相当期間が経過して,先ほどの松本先生のお言葉を使えば,その状態が契約目的達成不可能な状態になっていると……。 ○松本委員 最初の状態から。 ○潮見幹事 最初の状態ですか。失礼しました。そのときに契約目的を達成することができないような状況になっているから解除を認め,あるいはそうなっていないから認めないという考え方というのは,催告解除と言われている場面も,重大不履行解除の一つの場面として捉えて,そして,後に来る無催告解除,いわゆる重大不履行解除と同じ質の同じレベルのものとして解除制度を捉えようとしているか,あるいはそうすべきであるということになるのではないでしょうか。このように考えた場合には,催告解除の場合の要件立てというのも,それに即したものになろうかと思います。   ところが,重大不履行か否か,あるいは目的達成不能か否かという二つに分けて考えるのではない観点から催告解除の要件立てをすると,例えば軽微とかいうような言葉を入れてということになっていると,催告解除の場合に何か重大不履行あるいは無催告解除と言われるものとは違う本質を催告解除に認めているのではないか,別の観点から催告解除というものの正当性を考えようとしているのではないかとも捉えられ得るんですよね。つまり,重大な不履行ではないけれども,しかし,催告をして相当期間が経過して何かの要件があれば解除が認められる。その何かの要件は重大性とか,あるいは契約目的達成不能というのとはまた違うということですから,果たしてそういうふうな形で催告解除という制度を立ててよいのか否かということです。   もし,仮に重大な不履行という評価をすることはできないけれども,しかし,催告をして,それでも相当期間が経過しても履行しないような場合に,契約から離脱させることを認めてやるべきだという何らかの態度決定あるいは価値判断が働くというのであれば,それをそれとして制度化して,条文文言に反映させるということは,可能性としては認められてよいのではないかと思うところです。 ○中井委員 今の潮見幹事が一番最後におっしゃられたことの可能性を残していただきたいというのが私の意見です。深山幹事がおっしゃられたことは,契約目的の達成という基準で考えていく,それはすなわち,無催告解除についても同じ基準を恐らく立てられているように思うんですけれども,催告解除も同じということについて,私は違和感があります。   具体例で,住宅を建てる目的で土地を買う。そのときに境界確認を義務付ける。隣地との境界確認,公道との境界明示,それを前提に買い受ける。そこで契約目的達成基準を仮に採るとすれば,契約書に境界確定をすること,実測して地積更正すると約束していたとしても,それが履行されなくても家を建てるという目的自体は何ら阻害されないとすると,催告をして,それをしなくても解除できないという結論になるのか,それでいいのか,確認をしたい。   1,000坪の不動産を家を建てる目的で買う。それは不動産業者で,その土地を分筆して各土地に建物を建てて売ることを計画していた。そのときに境界明示を義務付けていた場合,これは境界明示ができなければ,今の実務では分筆ができないはずなので,分筆して分譲しようとしていた居住用建物が建てられない。この場合は境界明示を求めて催告して,履行しなかったら契約目的を達成しないから解除できる。そういう場面でないと解除できないのか。   私は催告解除という制度は,債務者が約束した義務を履行しないときに,解除を認めていい場面があるのではないかと思っています。債務の履行を債務者が努力をすれば履行可能であるにもかかわらず,債権者が催告したのに履行しない,それが重大でない,契約の目的を不可能にするような債務不履行ではないとして,解除できなくて債権者はその地位に甘んじなければならないのか。そういう債務者との契約は解消して手を切るという自由が債権者に認められないのか。契約目的達成を基準とすると認められないような感じがするんですね。   それは違うのではないか。そういう意味では,解除の二元説といいますか,契約目的が達成できないから無催告解除できるというのとは異なる催告解除の基準があるのではないかと思っております。 ○深山幹事 具体例で考えることについては賛成なんですけれども,先ほどの中井先生の土地の分筆の例で考えると,正に個々の契約目的,当事者にとっての契約目的によって一概には言えないのでしょう。特に厳密な境界の把握が必要でない場合には,契約目的を達成しないとは言えないという場合もあるでしょうし,分筆を想定している場合,あるいは分筆でなくても転売を前提にしているような業者の場合には,往々にして境界の明示というのは,かなり重要な要素になってくるだろうといえます。したがって,それをやるという約束になっていながらできなかったとなれば,契約目的を達成できないという判断になってしかるべきだろうと思います。そういう意味では,今のような例で契約目的達成で切り分けるということについて,余り結論の不都合さを感じません。   別の例で考えますと,例えば100個の製品を納めてくださいという売買契約をしたところ,何らかの事情で99個しか作れなかったので,99個を納めましたという事例で,あと1個を納めてくださいといったときに,納められればいいんでしょうけれども,最後の1個分の材料がないので作れませんといったときに,では解除ですとなるのかというと,100個が買主にとって必須のものであれば,そういうこともあるかもしれませんけれども,99個でも取りあえず用が足りるというようなときに,幾ら最後の1個を催告しても,その催告に応じなかったからといって,催告解除が認められるべきだと言えるかというと,通常はそうではないのではないかと思います。損害賠償などで利害調整をすれば足りるし,それが一番妥当な解決ではないかという気がいたします。いろいろな具体例を考えるとまた別の例もあるのかもしれませんが,よほど例外的な場合はまた別の一般法理で調整するということは常にあり得ることですし,おおむね想定できる事案を考えると,契約目的達成を個々の契約に即して解釈をするということで,よろしいのではないかという気がいたしております。 ○中井委員 一言だけ,深山幹事の後の例は契約が過分な場合なので,ここでの例としては不適切ではないかと思います。 ○松本委員 中井委員のおっしゃったような形だと,約束をしたことをきちんと履行しないような不誠実な業者とは縁を切りたい,相手方とは縁を切りたいということなので,先ほどの新聞購読を約束したら遊園地の券をくれると言っていたのにくれなかったという場合に,正にこんな不誠実な業者とは縁を切りたいという話になってくるので,客観的に契約目的の達成がどうかというよりは,契約をした本人の主観的な感覚を中心にして考えるということになってきそうです。そうしますと,ここで最初に書いてある軽微な義務違反については,催告をしても解除できないということが必ずしも実現できなくなってきて,他の人は軽微だと言うかもしれないけれども,私にとってはこの点は相手方の誠実さを計るリトマス試験紙なんだということになると,やはり,こんな人とはもう取引したくないということになってきます。そういう意味で,軽微かどうかという議論をしないで,催告解除が全ての場合に可能なんだ,解除したければできるんだというルールにするなら,おっしゃったことでかなり一貫すると思うのですが,軽微なものだけを排除するというのが今の中井委員のおっしゃったような形だと,ちょっと難しくなってくるのではないかなと思います。 ○山野目幹事 松本委員のお立場を少し確認させていただきたいと考えます。松本委員のお考えでは,催告が意味を持つのは催告をする最初の時点で,つまり潮見幹事とのやり取りで最初の時点でと二度,おっしゃった場面があったものですけれども,最初の時点での債務不履行が重大ないし契約目的不達成と評価されるときにのみ,催告が意味をもって解除に結び付いていくというお考えをおっしゃっていると受け止めましたが,この理解で誤りがないかどうか。そうであるとすると,そのお立場は,論理的に直結はしませんが,恐らく(1)のイの論点の乙案の振り合いに恐らく親和的であろうとも想像いたしますが,その辺りについて私の理解が誤っていないかどうか,お教えを頂きたいと考えます。 ○松本委員 前半はおっしゃったとおりです。後半の乙案ですかということですが,私は催告期間の経過がという主語はおかしいと思います。催告期間を経過することが契約目的の達成を困難にするのではなくて,当初の不履行状態が契約目的を達成困難にしている状態なのであって,それに加えて一定の猶予期間を与えたのにやってくれないということで,手続要件を満たして解除ができるということになると思うんです。催告期間の経過が契約目的の達成を困難にするわけではなくて,当初の契約目的を達成するのに困難な状態のままで催告期間を徒過したんだから,解除されてもやむを得ませんねという趣旨です。 ○山野目幹事 よく分かりました。イの部会資料の問題整理自体は新井関係官もおっしゃったように,催告期間が,という主語でこの後も議論を続けていくことがよいのかどうかは大いに疑問であると考えます。そこのところを留保して,甲案,乙案が持っている役割分担の本質のところに関して御議論いただくことが重要であると感じますし,その点については,私は松本委員のお立場を自分が想像していたとおりであると受け止めました。   自分の立場を申し添えますが,第4回会議でもイの論点について催告期間の経過が,という表現の部分を留保して,その他の部分については,甲案の立場が適当ではないかということを私は述べたことがございまして,今もその考えは変わっておりませんから,その旨を申し上げさせていただきますし,また,甲案の下でそのような解除を争う側の主張の可能性が認められるという限りにおいて,潮見幹事が問題提起なさった催告解除の意義の独自性という論点についても,その限度においてお答えに当たるものを差し上げることになる,というふうな立場があるということを申し述べさせていただきたいと考えます。 ○山本(敬)幹事 確認をさせていただきたいのですが,松本委員のお考えは,最初の債務不履行によって契約をした目的を達成することができないと言えれば,解除が認められる。催告をして,催告期間内に履行がないときには解除することができるというのが原則なのかどうかは分かりませんが,それを前提として,次の(2)で,催告をすることに意味がない場合であることが主張・立証できれば,催告をせずに解除することが認められるとされている。(2)の①が正にそういう場合であるし,②もそうかもしれないけれども,それに対して,③は,このような形で定めるのはおかしいということも,併せて主張されていると理解すればよろしいでしょうか。 ○松本委員 いいえ,③については先ほども申し述べましたが,③の文言は契約目的が達成できないと言い切っているんですね。他方で,(1)の催告解除の甲案も乙案も共に契約目的の達成を困難にするとか,しないとかいうことを言っているから,ここが多分,先ほどの議論で出ている追完可能か,修理可能か,完全履行可能かというところと絡んでくるということで,事務当局は書き分けられているんだと思います。そうすると,それで一応,理屈は通るわけで,催告をしても追完不可能なものであれば,契約目的が達成できないことは不履行の時点で確定しているわけですね。しかし,債務者がきちんと履行してくれれば,契約目的を達成できる可能性がある場合であれば,追完してくれなければ目的達成は最終的には不可能になるけれども,催告前の段階ではまだ困難になっているにとどまり,このまま履行してくれなければ不可能になるという点で,困難な状態になっていると評価すればいいのではないかと思っています。 ○鎌田部会長 基本的な考え方として,松本委員だけではなくて複数の方の考え方ですけれども,契約目的達成不能だと解除権が発生するんですね。催告はどういう意味を持っているかというと,履行遅滞型について債務者に猶予期間を与えてあげるだけであって,解除権の成立の直接の要件にならない。正に解除権行使に関する手続要件みたいなものだという考え方なので,その考え方からいくと,多分,根本的に部会資料の(1)(2)の分け方と違ってくる。部会資料の考え方では,(2)の②とか③で目的達成不能,即,解除権発生型があって,そして,(1)というのは多分,直ちには解除権発生要件を満たしていないけれども,催告をしたのになお履行しないという事情が付け加わることによって解除権が発生するような類型がもう一つあるということになると思います。だから,部会資料の考え方では,正に「催告期間が経過した」ということが,解除権発生の実質的な要件として付け加わらなければいけないというので,適切な表現とは必ずしも思いませんけれども,イの書き方になっていると理解します。  その結果,根本的に(1)(2)の区分の仕方が違っていて,松本委員的な考え方からいくと,(1)のイの甲案か乙案かというふうな発想自体がなじまないのではないかという気がしているんですけれども,そんなことはないですか。 ○松本委員 そうではなくて何回も言いますが,日本語を直してください。催告期間の経過がという主語を立てていること,それから,催告期間の経過が本体であって,重大な不履行とか,契約目的が達成できないとかいうのが付加的事由であるかのような日本語でワーディングされていますが,私の感覚ではむしろ逆で,本体的理由は重大かどうか,重大という言葉は余り好きではないんですが,契約目的の達成が可能かどうか,困難かどうかというのが一番重要な本体で,それに付加的な条件として催告期間が付くというのが(1)型だと思っています。主張立証責任で一番争われるのは,当初の不履行状態が契約目的の達成を困難にするという状況であったかどうかであって,この立証責任をどちらに負担させるかというので,甲案,乙案が分かれるわけです。ここは両方の考え方があると思うんですが,何を一番問題にするかという点です。 ○潮見幹事 それぞれの先生方の意見をちょっとだけ確認させていただきたいのですが,無催告解除は置いておくとして,中井委員の御発言というものは基本的にこう理解してよろしいわけですか。つまり,催告をして相当期間が経過した場合には解除ができるという,そういう解除の場面を認めるべきであると。その場合には法務省の資料にあるようなただし書はない。あるいは軽微な不履行の場合にはこの限りにあらずという例外をつける。   それから,山野目幹事とか,松岡委員もこの系統だと思うのですが,催告の場合に催告をして相当期間を経過すれば解除をすることができるけれども,当該相当期間経過が重大でない場合にはこの限りにあらずという,こういう理解でしょうか。松岡先生は違いますよね。 ○松岡委員 ええ,違います。 ○潮見幹事 山野目先生はそうでしょうか。 ○山野目幹事 催告期間の経過が,というのにするのかどうかについて,なお詰める必要があると考えますが,基本的にはおっしゃったことを申し上げたつもりです。 ○潮見幹事 松岡委員のほうは,催告して相当期間経過し,何かが加われば解除ができるということで,その何かが加われば契約目的不達成と。そして,それは経過した状態がということですか。それとも松本委員がおっしゃったような当初の不履行が。 ○松岡委員 すみません,先ほど来からちょっと迷っていて,今,釈明を更に求められている点がまだはっきりしないことは自認しています。松本委員の言われるように整理できて,完全に催告を手続要件と単純化した整理ができれば,松本委員の意見と同じとみていただいて構わないのですが,そこのところがまだ判断が付きかねます。 ○潮見幹事 松本委員の御発言というのは聴いていると,こうでしょうか。つまり,当初の債務不履行があり,当初の債務不履行が契約目的達成不能であると,それは要らない。それ自体はまず評価はしない。 ○松本委員 つまり,当初の債務不履行のまま放置されれば契約目的の達成が不可能だが,当初の状態を改善してもらえれば契約目的を達成できる。催告をする。全く対応してくれないということであれば,契約目的達成は不可能だということで解除ができる。 ○潮見幹事 そうですか。すみません,そうしたら私はちょっと誤解していたのかもしれません。 ○松本委員 不完全な修理をしてくれた場合はどうかというと,不完全な修理がされた段階で,なお,契約目的を達成できるか,できないかで判断することになりますから,一定の対応をしてくれた場合には,確かに対応された後の状態で評価することになると思います。 ○潮見幹事 分かりました。それで,先ほど言うのをやめていたんですけれども,催告解除というものを認める場合でも,催告をして相当期間が経過して,それで解除が認められるのが原則であるが,ここからが中井委員とちょっと違うところで,結果的に深山幹事がおっしゃったように近付くのかもしれませんけれども,催告に応答しないことが重大な不履行あるいは重大な契約違反と評価される場合は,この限りでないというようなものでよいのではないかと思っておりますが,先ほどから言っているように,ここでむしろ催告解除に強い意味を与えるべきだということであれば,中井委員がおっしゃったような観点からのルール化というものに,あえて反対はしないということです。 ○山本(敬)幹事 松本委員にもう一度だけ確認なのですが,催告してなお履行されない場合に解除を認めるという要件が特に定められる理由として,二つの可能性がある。一つは,催告は純粋に手続的な要件であるという物の見方ですが,どうもそうではない。飽くまでも催告に応じて履行されれば,契約目的を達成できるのにもかかわらず,履行されない結果,契約目的が達成できない場合にあたるという評価をして,だから,解除を認めるとお考えでしょうか。つまり,催告という要件も,飽くまでも契約目的を達成できるかどうかという判断と関わる要件であるという位置付けだと理解すればよろしいのでしょうか。 ○松本委員 それは多分,潮見幹事の考え方だと思うので,私はむしろ催告は猶予期間だと理解しています。チャンスをもう一度与えているわけです。いきなり解除をするのはやはり債務者に酷だろうということであって,催告をしたのに履行しないことが違反の重大性を高めるとか,契約目的達成をより困難にするのだからとは見ていません,当初と状態は変わっていないわけですから。 ○山本(敬)幹事 それでは,元の契約の不履行が契約目的の達成を困難にする,不能とまでは言えないけれども,困難にするという場合に,今言われたような手続的要件をそれに足せば,なぜ解除が認められるのでしょうか。 ○松本委員 契約目的を達成できないような……。 ○山本(敬)幹事 困難であるということですね。 ○松本委員 困難なんですよね。困難であるということの意味は,このままだと目的を実現できないということと私は理解しているのです。つまり,その状態で客観的に不可能であれば,それは(2)の話になるというのが事務当局の整理だと思いますから。 ○道垣内幹事 全体構造としては松本委員の理解に賛成です。 ○佐成委員 いろいろ議論をお聴きしておりまして,私の頭の中も非常に混乱してきたのですけれども,まず,松本委員がおっしゃった整理の仕方というのは,一つの考え方としては十分あり得るとは思うのですが,私がこの部会資料を読んだときにはこの資料のとおりに読みまして,催告期間の経過というのが主語になっていて,そのこと自体を規範的に評価するのだというふうに読みました。要するに,そもそも催告によって契約目的が達成できる可能性がある状態を前提にして,催告期間の経過それ自体をどう評価するのかが議論されているのだろうと思いました。ですから,催告しても無意味な場合,つまり,催告しても契約目的が達成できる可能性がおよそないような状態でも敢えて催告するかどうかという問題は,無催告解除の問題になってしまうので,ここでの問題ではないと理解しておりました。ですから,恐らく催告解除が認められる場合というのは,まず,契約目的が達成できる状態を前提にして,債務者に対してそれをしてくださいという催告をする場合の問題であろうと思いました。   そうしますと,債務者はこれにどう対応するかというと,全く対応しないという場合と不完全ながらも対応するという場合があり得ます。つまり,そういった契約目的達成の可能性があるときにも不完全に履行する場合と全く履行しない場合が想定されます。そうしますと,全く履行しなければ,結果として催告が無意味になったのですから,あるいは松本委員がおっしゃっているような形になるのかもしれませんけれども,不完全に履行した場合については,抗弁として,それでもまだ契約目的の達成を困難にしないのだということが債務者側で言える余地があるとすると,イで言う甲案と結び付きやすいのではないかという形で私は理解しておりました。   それだったら,実務的にもすっきりするかなというような理解をしていました。けれども,議論をお聴きをしておりますと,その辺が大分混乱してきているように思われます。私の理解が不十分なのかもしれないのですけれども,やはり,そういう意味では,催告期間の経過というのは非常に大きな要素であると考えております。換言しますと,契約の目的を達成できる可能性があるということを前提に催告をしているにもかかわらず,債務者が全くあるいは不十分にしか履行しなかったという事実は,それなりに規範的な評価が必要な要素ではないかと私は感じております。ですから,単に手続的な要件として付加するという考えは,なかなか実務的にはなじみにくいかなという気がしております。 ○中井委員 第一読会でも議論したと思っていますが,催告解除と無催告解除は制度としては別だという理解をしています。催告解除のときに,深山幹事もそうですし,多く出ているのが,契約目的達成不可能若しくは契約目的達成困難という要件での切り分けをお考えのようですけれども,これは限定的過ぎるというのが私の意見です。   売買契約をして,単純に遅滞の例で,遅滞して半年後でも機械は機械として使える。しかし,期限を定めたにもかかわらず,納入してくださいねと催告し,納入しない。このとき明らかに債務不履行解除ができると理解しているんです。そのとき,契約目的達成基準というのは,解除できないという御見解があるのでしょうか。それは実務ではあり得ないと思っています。   重大不履行というのが契約目的達成基準とどういう関係にあるのかは,よく理解できないところです。念のために私の案は,原則,履行の催告をする,その期間内に債務の履行がなければ解除権は本来発生する,という大原則がある。ただし,それは行き過ぎな場面があります。そのことは否定しない。それがどういう場合かとして,例えばですけれども,現行民法第541条にただし書を新設し,「債務の不履行の内容・程度・態様が,契約の趣旨及び社会通念に照らして軽微であるときは,その限りではない。」とするものです。   この軽微というのは評価概念ですけれども,付随的な不履行,軽微な不履行とこれまで判例で言われているような事例を想定していて,そこまで解除を認めるのはいささか行き過ぎだねという場面を認める。この範囲については,どうしても評価が入りますけれども,その基準が先ほどからおっしゃっている契約目的達成困難ないし不可能という基準にはならない,また,採るべきではないと思っています。 ○道垣内幹事 中井先生のお立場はよく分かるのですが,出された例は適切ではないと思います。機械が引き渡されていないという状態で催告をして,催告期間内に引渡しがなければ,ほぼ契約目的不達成ですよね。それは松本委員がおっしゃっているように,それを解除の要件としての,例えば目的不達成という要件を満たすか否かを評価する際には,売買目的物である機械が来ていない状態というのを考えるわけでして,半年後に来るかもしれないから,目的の達成可能性がまだ残っているという,そういう評価はあり得ない。いろいろな意見がありますけれども,どなたの立場を採っても,その例で目的不達成であることは明らかだと思います。 ○中田委員 そうすると道垣内幹事の御理解ですと,契約目的が達成されているかどうかは不履行時ではなくて催告時に判断するということになりましょうか。それから,もう一つ,代金の一部不払の場合について契約目的達成不能基準だと,どう切り分けたらよろしいのでしょうか。 ○道垣内幹事 私が答えるのでしょうか。私が松本委員に賛成だと言ったのは,全体構造としてのつくりの問題であって,それを契約目的不達成という言葉にするか,困難という言葉にするか,重大という言葉にするか,逆に軽微を除くということにするかというのは,松本委員が提示された構造とは無関係の問題だと思いますので,契約目的不達成基準を採ることを前提に返事をしろと言われると困るんですが,具体的にはどういう例でしたか。 ○鎌田部会長 判定基準時と代金一部不払の場合の判断。 ○道垣内幹事 ごめんなさい。まず,後者から申しますと,後者の場合に不履行解除になるかどうかというのは,先ほどの1,000万円の物の999万円を支払ったという例をどう考えるかという話でして,契約を解除できるというのか,それとも1万円の履行請求をしていけるにとどまるのかという問題であろうと思います。金銭債務の場合には微妙な事例が多々あるとは思いますけれども,当然には解除に結び付くわけではないと私は思います。   前者の基準時はどこなのかという話は,松本委員がおっしゃったとおりだろうと思います。つまり,ある不履行があった状態において,それが継続したままだと,例えば契約目的の達成が不可能になるかどうかという話です。基準時の問題ではなくて,1週間なら1週間が相当な期間であるということになりますと,その状態で変わらなかった場合というのを基本的に考えるわけで,その状態が重大な不履行に当たるか,契約目的の達成が困難になるのかということではないかと思いますが。 ○内田委員 中田さんからかなり前に,契約目的不達成という言葉なのか,重大不履行なのかという選択について御発言があり,それを非常に興味深く伺ったのですが,今回,また,代金の一部不払の場合という問題提起をされました。それも非常に興味深く思いますが,中田先生御自身はどう考えられるのか,それをおっしゃっていただくと,前に議論が進むのではないかと思います。 ○中田委員 私は潮見幹事の御意見が落ち着きどころかなとは考えております。やはりこだわらないのですけれども,多分,判例のリステートをすると,中井委員のおっしゃったようなところになってくるのかなとは思うんです。それに対して重大な不履行を解除原因にし,その考え方を押し通していくとずれが出てくるかもしれないとは思うのですが,実務的に催告解除のニーズが非常に強いということであれば,最終的にはそれを尊重するということもあり得ると思います。確か潮見幹事はそういったお立場だったと思いますけれども,そこに共感を覚えました。 ○内田委員 もし判例のリステートということであれば,要素たる債務という言葉が入ってきませんか。単純にどんな債務でも催告解除が可能だとは判例は言っていませんので。でも,そういう形でのリステートではなくて,別の形で議論しようということで,前回からここまできているのではないかと思います。つまり,債務の種類を区分けするということは,一応しないという形です。 ○中田委員 ただ,付随的義務違反等のということが入っておりまして,要素たるという言葉もそちらに含めて提示されておられるのかなと理解していました。 ○中井委員 質問になりますけれども,先ほどの機械の例は良くないという御指摘は理解しました。それは解除できるという意味で理解しました。逆に機械を売ったけれども,売買代金を払ってくれない,100のうち50しか払わなかった。売り手側の契約目的って何になるのでしょうか,そのときの判断基準というのは。催告して払ってくれなかったら,解除して機械を取り戻して損害を回収して,更に損害賠償をしていくというのが筋ですから,そのときの売り手側,金銭を取得する者にとっての契約目的不達成って一体,何でしょうか。 ○鎌田部会長 本来的給付義務の不履行は,当然,解除原因になるのであって,松本先生が一番説明しやすいのはそのタイプですね,逆に。 ○中井委員 それも契約目的という解釈の中で解決するんですか。 ○鎌田部会長 一番重要な契約目的ではないでしょうか,売買における目的物や代金の取得というのは。 ○深山幹事 私が答えるべきかどうかはともかく,正に金銭債務であっても,物の引渡しをする売り手の債務でも基本的には考え方は同じだと思うんです。つまり,50%しか払わなかったら目的達成しないと思います。例えば100万円の代金のうち50万円しか払ってもらえないのだったら,100万円の売買をするという目的を達成しないだろうと思います。   極端な例と言われるかもしれませんけれども,99万円を払ったときに解除できるかというと,それはネガティブに感じます。では,80万円ならどうなのか,70万円ならどうなのか,90万円ならどうなのかと,こういう議論になるのかもしれませんが,どこかで線を引くしかない。考え方としては,売買において物の引渡しあるいは代金の支払というのは,お互いに正に主たる債務であって,要素たる債務なわけですけれども,それがおおよそ払われない,履行されなければ,もちろん,解除になるでしょうし,ほとんど履行されているけれども,若干足りないという場合にだけ,例外的に解除ができないということになるのであって,あとは個別に判断するしかないと思います。   恐らく中井先生と私と個別の具体的な例で,この場合,解除できるか,できないかということを議論したら,多分,結論はほとんど変わらないだろうと思うんです。ルールの作り方なり,考え方のアプローチの仕方が違っているので,何か,あたかも対立しているかのような雰囲気となっている気がするんです。多分,結論は変わらないことをどういうルールで説明するか,ルール立てをするのがいいかということだろうと思うので,そういう意味でいうと,一つのポイントは,催告というものを単なる手続要件的に考えるのか,もう少し,催告したにもかかわらず履行しないということを実質的な要件と捉えて位置付けるのかということに議論の争点が絞られているような気がするんです。繰返しになりますけれども,私は,催告しないからといって状況が変わるわけではないという意味では,やはり実体的な要件というよりは,手続的な要件と捉えるほうがすっきりするのではないかという気がします。 ○松本委員 重大なという要件を主張される方々にお伺いしたいのは,結局,客観的な不履行の状態を評価するのではなくて,不履行の状態であり,かつ,相当期間の催告をしたのに,なお,きちんと履行しないということが初めて重大な不履行という要件を満たすとお考えなのか,つまり,客観的要件だけじゃなくて最初の約束を守らずに,もう一度,きちんとやってくれと言ったのに,なおやらないという,2回裏切ったという点,そこに帰責性を認めているという感じがするんですが,それをもって重大かどうかの要素と考えられるというお立場でしょうか。 ○鎌田部会長 多分,中心的な債務の全部不履行の場合には,それ自体で重大な債務不履行なんだけれども,周辺的な債務の不履行とか,一部不履行とかいうものがあったときには,不履行の内容,不履行態様等の総合的な判断になる。その一要素として,催告をしたのになお履行しないというようなものが入ってきて,その要素が付け加わって初めて重大な不履行だという認定をする余地があるという,そういう部分だけが違いになって出てくるのではないでしょうか。 ○松本委員 となると,三分説ですね。重大な不履行と軽微な不履行とその中間的な不履行があって,中間的な不履行の場合については,催告期間の経過というプラスアルファの主観的な帰責性が入って,重大な不履行へと振り分けられるという考え方ということですね。その場合の重大な不履行の重大ということの中身は何ですか。今の二つで随分違いますね。 ○鎌田部会長 契約関係を維持させることが適切でない,契約関係から脱することを認めてやらないで,いつまでたっても履行しない人との契約関係をずっと維持させることが適当でない,そういう判断ではないでしょうか。 ○松本委員 でも,それを重大なという何となく客観的な言葉で表すのは,余り良くないと思います。もし,そういうことであれば,もう少し別の言葉,たとえば背信的なとかにしたほうがいいのではないですか。 ○中田委員 松本委員は三分類になるとおっしゃったんですけれども,二分類になるのではないかなと私は思っています。先ほど申しましたんですけれども,重大な不履行という概念を貫いていくと,多分,催告をしたから,それによって重大になるというのではないというのが一番ストレートな帰結だと思うんです。しかし,それについてはやはり実務上,どうしてもそれではうまくいかないということになると,そういった契約の相手方との関係を解消する,離脱するという機会を与えたほうがよい。その場合の説明の仕方として,先ほど鎌田部会長がおっしゃったような総合判断の一要素というような言い方になってくるのだろうと思いますが,それは理論的に,必然的にそうなるということではないだろうと思います。それと軽微な場合については別だというのと少し別の議論でありまして,それを一つにまとめて三分類になるという松本委員の御理解とは,私はちょっと違っております。 ○潮見幹事 時間がないところで申しわけないですけれども,私自身も先ほど中田委員がおっしゃったような理解をしておりました。三つに分けるような形で結果的に不履行が捉えられることになるのは,むしろ,中井委員が提案されているような立場をとった場合でして,その場合には催告を要しない重大不履行というか,契約目的達成不能類型と,これとは別に,催告解除の類型があって,この催告解除の場合に,軽微な不履行の場合には免責を認めるということになりますから結果的に三つになる。飽くまでも結果的にそうなるというだけのことです。   他方,催告解除において,催告後の経過も含め全体を考慮して,それが契約の重大な不履行と評価されない場合はこの限りでないと考えた場合には,催告解除と無催告解除の違いは,重大な不履行というものを,不履行後の対応をも考慮に入れて,当初の不履行とも合わせて総合的に勘案したときに重大と評価されるのか,それとも,正に一発レッド・カードといいますか,当初の不履行だけで重大不履行と評価されるかの違いであって,もちろん,それが質的に違うということであれば,また,それはそうなんでしょう。 ○松岡委員 潮見幹事の御意見を理解するための御質問です。冒頭のほうに目的物に瑕疵があったが,重大でも軽微でもない場合に催告解除を認めるべきかどうかについて,皆さんに意見を述べてほしいという問題提起がありましたね。その問題提起に対して内田委員からの意見があり,それに対して潮見幹事は,定見はないとされながらも,従来と同じように催告解除を認めない結論でいいのではないかとおっしゃったと記憶しています。今の御説明では,むしろ,瑕疵の内容によって修補ができるかできないか,あるいは修補できるのにしなかったかという事後の対応が,正に解除の可否に影響してくるのではないのですか。 ○鎌田部会長 思わぬ学理的な議論に踏み込んでいるんですけれども,実質的な要件の組立てについてはどこに対立点があるかということが,かなり明らかになりつつあると思いますので,そういう対立点があるということを踏まえて,再度,整理をさせていただきたいと思います。また,事務当局の御提案でも分科会で更に詰めた検討をしていただきたいということでしたので,その際に,無催告解除との関連等も考慮に入れて検討をしていただくこととして,このまま,こういう議論を続けていくよりも,そういった分科会の補充的な検討を踏まえて,また,事務局で本日の議論を整理したものも踏まえて,改めて検討の機会を設けさせていただくということでお許しいただければと思いますが,よろしいでしょうか。  よろしければ,(2)について,他に御意見があれば,お出しください。 ○中井委員 (2)につきましては私の立場からすれば,先ほど潮見幹事もおっしゃっていただいているかとは思うんですけれども,契約目的達成不可能という要件が持ち込まれてしかるべきだと考えています。その実質は,催告しても意味がない場面として,どう類型化するか,どう切り出すかという理解をしております。履行の全部が不能となったとき,これはもはや催告をしても無意味ですから,当然,それが代表例として入る。しかし,それに限らないという理解でいいと思っていますので,最終的にぎりぎり要件をと言われると,契約をした目的を達することができないときではないかと思います。   それを文言として申し上げておくと,契約目的不達成のみを書くと,その中身が分かりませんし,また,一部を入れるかどうかは先ほど御指摘があって考えなければいけないのかもしれませんが,例えば「履行の全部又は一部が不能となったときその他債務者に対して履行の催告をしても契約をした目的を達することができないとき」,こういう要件立てを考えておりますので,分科会で検討されるときには参考にしていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○新井関係官 一点補足させていただきます。(1)の催告解除と無催告解除の関係について,部会資料の(1)のイで例えば甲案とかで契約目的の達成を困難にするというのと,(2)で契約目的が達成できないと書き分けたということを御指摘いただいていたと思うのですが,ここの書き分けについて,それほど深い意味を込めたということでは実はありません。ワーディングの微妙な違いが議論を混乱させたことは申し訳なく思っておりますが,「契約目的の達成を困難にする」と「契約目的が達成できない」と書き分けたことで,例えば,先ほど催告解除のところで出てきた契約目的達成不能あるいは重大不履行の判断基準時がどの時点であるかとか,あるいは催告手続の位置付け,こういったものについて事務当局が特定の立場にコミットしているということではございませんので,その点を申し上げさせていただきたいと思います。 ○沖野幹事 そのように訂正されたのに発言するのは問題なのかもしれませんが,私はここは非常に意味のある書き分けだと思っておりました。と申しますのは二点ございまして,一点目は,契約目的達成ということを使った場合,現行の判例でも目的達成に必須ではないけれども,重大な影響があるというような場合を含むということがありますので,それへの対応として契約目的達成不能だけを入れると問題があるのではないかという懸念に応える趣旨があると理解しておりました。もう一つは,契約目的不達成を基準とした場合に,催告を不要とするかどうかという点について,その分水嶺に関し,目的達成困難と目的達成不能とで催告を要する場合とそうでない場合を書き分けることも考え得る方策であるということを提示されているものと理解して読んでおりました。起草者意思は違ったのかもしれないのですが,そのような読み方もあるのではないかと思いますので,その点の留保も更に付していただければと思います。 ○新井関係官 ありがとうございます。正にワーディングの点については,補足説明の中でも仮置きである旨を留保させていただいております。もちろん,この点,沖野幹事に御指摘いただいたように,部会資料に記載した文言が結果的に良かったということになろうかと思いますが,そういった御意見を頂けることは,非常に有り難いと思っております。 ○山本(敬)幹事 今の点は更に今後,検討するということですのであえて申し上げておきますけれども,契約目的が達成できないということをどのような基準によって判断するのかという問題と関わります。その点については判断要素を示すべきではないかということが,潮見幹事から最初のほうに指摘されました。ここで問題にされていることは,履行が可能であるという判断がされることが,契約目的の達成の可能・不能にどうつながるのかということとつながっていると思います。そこについてはある種の立場が既に前提にされているような気がしますが,それ自体,本当にそれでよいのかという点も含めて,検討すべきではないかと思います。 ○松本委員 ここでも重大な不履行という要件を採った場合,先ほどの催告解除の場合の重大とここの重大は同じものか,違うものなのかというのがちょっと分からなくなってきたんです。すなわち,重大というのは客観的状態ではなくて,先ほどの話だと催告をしたのになお履行しないという主観的な状態も加味して評価するんだという,そこで初めて重大かどうかが決まるんだと。だから,軽微でない債務不履行については,催告を加味することによって重大という評価ができるんだというのが前の話だったわけで,そうすると,無催告解除の場合の重大というのは,一体,何なんですか。客観的でない要素が入ってくるんですか。   客観的なものだけで評価するのであれば,催告解除の場合の重大と同じ言葉を使うけれども,全然違う意味を与えているということになって,それは不適切ではないかという感じがします。契約目的の不達成についての要件をどのように条文上詰めるかという点は,山本敬三幹事がおっしゃったように,今後きちんと議論しなくてはならないと思いますけれども,契約目的の達成・不達成の概念のほうでいけば,恐らく無催告解除も催告解除も基本的に同じ基準で考えていくということができて,使い分ける必要はないと思います。同じ言葉で可能だと思います。 ○鎌田部会長 あえて言えば,そういうことになるのかもしれないですけれども,債務不履行の重大性は債務内容と債務不履行の程度,態様等を総合的に判断する。履行されていない債務の内容が極めて重要であって,全く履行されていなかったら,それだけで重大と判断できるけれども,不履行に係る義務の内容等が軽ければ不履行態様の悪性があって初めて重大な不履行になる。債務不履行の重大性というのがそういう総合的な判断であるとすると,それをあえて場面ごとに違う言葉で言わなければいけないということにはならない。 ○松本委員 重大であれば,即,無催告解除ができるんですか。履行されていなければ,即,無催告解除ができるんですか。そうではないというのが先ほどの議論ですよね。無催告解除ができるのはもっと要件が厳しいですね,単なる重大ではなくて。 ○鎌田部会長 (2)の③は,債務不履行が一定の要件,例えば重大な不履行があった場合には無催告解除ができるという提案になっています。 ○松本委員 それは広過ぎませんか。すなわち,全く引渡しがないということは重大な違反ではありませんか。約束のとおりに債務が履行されないというのは,とっても重大な違反だと思うんですよ,引渡しがされないというのは。でも,それだけでは解除できないですよ。ですから,重大かどうかという客観的基準だけで見ないというのが重大説の皆さんの考え方だと思うんですけれども。 ○鹿野幹事 私自身が重大不履行という概念にこだわるというわけではないのですが,この資料等を見る限りでは,重大な不履行というのは,言わば結論として当該契約の拘束にとどまることを債権者にもはや合理的に期待できないと評価できる状態を指して,重大な不履行と言っているようにも思われます。そして,どういう場合に,契約による拘束にとどまることを合理的に期待できないと言えるのかというと,そこでは,追完あるいは更なる履行をすることがなお可能であってかつ債権者にとってその履行に意味がある場合か,あるいは,もはや更なる履行が債権者にとって意味がなく,したがって催告をすることにも意味がないという場合なのかも問題となるでしょうし,それも含め,契約の趣旨に照らし,不履行の内容や態様その他の事情を総合的に考慮して判断されるべきことになるのだと思います。先ほど鎌田部会長がおっしゃったのも,そういうことなのかと理解しておりました。 ○中原関係官 私の理解ですけれども,(2)のほうは一発アウトというもので,(1)のほうは履行請求できる余地があるときは催告する余地があって,それで,履行請求する余地がある,催告する余地があるものを一定期間内に履行されれば重大な不履行でなくなるとか,あるいは契約の目的が達成できるというように,(2)と(1)はかなり連続的にできていて,それをトータルで判断して趣旨に照らして判断しましょうというような趣旨でできているので,原案の感じからすれば言葉を同じにすることにある種,意味があるというような話なのではないかと思います。   松本先生のおっしゃったような話でいくと,特定の期日に器材を納入するという債務であっても,例えばある一定のイベント時に器材を使うから,このときまでに器材を納入しないと意味が無いというときには,そのイベントの時に間に合わなければアウトでしょうけれども,そうではなくて,一定の期間内おいてに使うんですということがあれば(1)のほうでいきますので,特定の期日に器材を納入する債務と言っても,置かれた契約の趣旨によって異なってくるということになるのではないかなと思いますけれども。 ○鎌田部会長 私も重大な不履行説を採っているわけではないんですけれども,言葉の問題で区分することに余り意味があるわけではなくて,(1)(2),それから(3)も含めて,どういうタイプのものはどこに振り分けて考えているのかということを,どれだけ明確にできるかが重要なんだろうと思います。確かに,部会資料のように書くと,一つの不履行が(1)にも(2)にも当たって,どっちになるのか,よく分からないというような事態が生ずることも予想できなくはないので,それらの点も含めて分科会できちんと整理をして,どういう表現を使い,あるいはどういうバランスの取り方をするのが,最もここで意図するところを適切に表現できるのかということについての検討をしていただければと思います。 ○松本委員 少し頭がもやもやしてきて,分かりかけてきた部分と,なお分からない部分があるんです。鹿野幹事のおっしゃったように,結局,部会長もおっしゃいましたが,債権者をこの契約状態に縛り付けておくのが相当ではないと思われるような事情がある場合に解除できるんだということなわけです,結論的には。しかし,解除できる相当事由がある場合は解除できると法律に書くと,これはトートロジーにすぎないわけです。そこで,どういう具体的な要件にしましょうかという議論を我々はしているんだと思います。実質的に解除を相当とする状態,契約の拘束力から解放するのを相当とする状態とは,どういうものかということを議論しているという点は共通だと思います。   そこで,解除の要件として重大な不履行という言葉を使う場合と契約目的が達成できないという言葉を使う場合で,要件事実論的に考えると,どうも重大な不履行というのは規範的要件と理解されているようですね。契約目的が達成できないとか困難というのも,規範的要件だということであれば,両者は結局,言葉の違いにすぎないということになるんでしょうが,契約目的が達成できるか,できないかのほうが,何となくより事実評価になじむ要件のような気がするので,その辺で少し何か変わってくるかなという気がいたします。 ○野村委員 今の松本さんの意見なのですけれども,この二つの選択肢は違ったところを見ていると思うのです。重大な不履行があったというときは,むしろ,催告によって,もう一回,チャンスを与えるという必要がないという意味で,債権者と債務者間のバランスを考えていると思います。それに対して,契約目的が達成できないというのは,どちらかというと,履行期に履行されない場合に,もう一回,催告をして履行してもらっても,債権者にとって意味がないというときなので,ちょっと違ったところを見ているのではないかなと思います。その辺も分科会で考えていただければと思います。 ○鎌田部会長 (2)及び(3)について,まだ,御意見をお出しいただける方がいらっしゃいましたら,お出しいただければと思います。 ○道垣内幹事 一点だけ申します。私は中田委員から質問されたことの意味がよく分からなかったんですが,松本委員の話を伺っていたり,鎌田部会長の話を伺ったりして少し分かるようになってきました。恐らく「不履行」という言葉遣いを,例えば1月17日が履行期であるというときに,1月17日に履行されない状態と捉えるのか,売買ですと,目的物が引き渡されない状態と捉えるのかで,大分,話が違うのだろうと思います。そこが議論の混乱を引き起こしているような気がいたしますので,その辺りも含めて整理をしていただければと思います。 ○鎌田部会長 他にはよろしいでしょうか。 ○高須幹事 (3)のところでございますけれども,履行期前の履行拒絶による解除につきましては,私個人も弁護士会の中の多くの意見も,基本的には(3)のアのところの解除原因とするということに対しては,前向きに捉えていこうというような意見でございます。やはり,終局的・確定的に拒絶の意思を表明している場合に,契約関係を引き続きとどめておくという必要性は余りないのではないか。ただ,その場合に大事になるのは,終局的・確定的に拒絶の意思があるということがきちんと分かるのは,どういう場合なのかということをしっかりすることと,それとの兼ね合いでイの②にいくわけですけれども,そのことを担保すると言いますかね,そのためには催告というものを課すということのほうが制度設計としては慎重というか,好ましい制度ではないかというような意見でございます。   イの①のところが若干悩ましいんですが,重大な不履行あるいは契約目的不達成という,その要件,今,すごく議論した要件を事前の履行期前の履行拒絶のときだけ,何か別な処理をするのかどうかというのは,必ずしもそうしなければならないということでもないと思いますので,ここはむしろ今の履行期後の場面の規定振りによって,イの①に関しては改めて考えねばならないのかなと。そういう意味で,終局的・確定的に拒絶の意思が表明できている場合で,催告をしたにもかかわらず,それを履行する意思が表明されないとき,こういうときには解除するということを認めてもいいのではないかと,そのように思っております。 ○中田委員 今の高須幹事の御意見とも重なるんですけれども,アについては解除原因として明記することに賛成で,問題は催告をどう位置付けるのかなんですが,二つの意味があると思います。一つは履行の拒絶を終局的・確定的なものと評価する上で催告があったことを必要とするのかどうかです。もう一つは先ほど541条のところで出てきました催告をどう位置付けるのかとも関係しますが,例えばできるだけ契約を存続させて履行させるほうがよいというような判断があって,それがこちらにも反映するのかということです。この二種類の評価要素があるのだろうと思います。 ○岡委員 弁護士会で議論しているときも中田先生のお話しになった一番目のほうの議論が多うございました。ここで言う催告は先ほどの催告とはかなり性格が異なって,履行する意思があるかないかの将来の意思の確認という意味になると思いますので,まず,催告という言葉が相当ではないのではないかというのが一つです。また終局的・確定的な意思が書面等で明らかになっておれば,そのときに更に意思確認する必要はないのではないかという意味で,この括弧付きの催告は,証拠の一つと位置付けるのが分かりやすいという意見が弁護士会では多うございました。 ○佐成委員 (2)無催告解除の③のところで,①,②に該当する場合のほか,一定の要件に該当する場合の規定を置くことを提案しています。これはこれで私もいいと思うのですけれども,規定の置き場所や,仮に置くとしても一般的規定にするのか,各則に落とし込むのかというのはまだ議論の余地があるという理解でよろしいかということだけを念のため確認したいと思います。 ○鎌田部会長 それはなお検討の余地があります。 ○佐成委員 引き続きということですね。失礼しました。 ○潮見幹事 (2)も出ましたので,(2)も一言だけお願いというか,御検討いただければという点を申し上げたいと思います。先ほど山本敬三幹事がおっしゃったことと問題意識は若干,共通しているのではないかと思うんですが,②なんですけれども,ここの履行請求権の全部,又は一部は飛ばします,全部につき限界事由が生じた場合であって,これにより,重大不履行でも契約目的が達成できないでもどっちでもいいんですが,「とき」とありますが,履行が不能である,可能であるということに決定的なものとして意味を与えるのかということと関連するのですが,履行不能の場合に,これにより重大不履行となる,あるいは契約目的が達成できないときにはと書くと,履行不能であるということだけでは,もはや無催告解除ができないということになりかねないんですよね。   むしろ,全部履行不能の場合には直ちに契約目的達成不能というか,重大不履行となるのではないでしょうか。履行不能により契約目的が達成できないとかなんとかというのは,変ではないかというのが個人的な意見です。また,御検討いただければと思います。   次の(3)ですけれども,中田委員と岡委員の発言とも共通する部分があるのですが,いつぞや議論した履行拒絶を理由とする填補賠償請求の話がありました。そこでの履行期前の履行拒絶というものをどのように捉えるのかという形で議論がありました。ここの部分の履行期前の履行拒絶による解除の場合と,履行期前の履行拒絶による填補賠償請求の場合の,少なくとも履行期前の履行拒絶をどのように判断するのかという点については,同じものとして捉えていただきたいと思います。先ほどの御意見もございましたが,こちらでもし催告ないし意思確認を要求すべきだということなのであれば,履行期前の履行拒絶による填補賠償請求の場合も,同じように捉えるべきではなかろうかと思います。   逆に,履行期前の履行拒絶という要件自体を極めて厳格に解し,履行不能に相当するようなものと考えるのであれば,もはや履行期前の履行拒絶か否かを判断するときに,意思確認などということは必要ないということになりましょうし,更にここでも催告などということを重ねて要求する必要はないということになろうと思います。学説では両論がありますものですから,どちらもそれなりの説得力はあると思いますが,全体において評価矛盾が生じないような処理をお願いしたいというところです。 ○鎌田部会長 第1点の(2)のほうは,一部不能を入れるか,入れないかによっても考え方が変わってくると思うので,そこのところに注意していただくことと,(3)のほうは御指摘のように履行期前の履行拒絶によって填補賠償を請求する場合と連続性があるんですけれども,填補賠償請求のほうは契約関係は維持している,こっちは解消するというところが要件に反映するかどうかが少し気になりますが,これも分科会で検討していただくことの項目の一つに入れていただければと思いますが,そういうことでよろしいですか。 ○中井委員 時期に遅れているかもしれません。先ほど山本敬三幹事がおっしゃった課題の中で,(2)について,契約目的を達成できないことの判断基準について明らかにしていく必要があるなりの御発言だったと思いますが,中身に関して御発言がなかったんです。この部分は第1分科会が担当のようですので,先生のお考えの基準というのは,どういうことを想定しておっしゃられていたのか,御教授いただければと思いまして,質問ですが。 ○山本(敬)幹事 今ここで詳しく申し上げることはできませんが,詰めて考えていかなければならないところだと思います。これまで出されている立法提案もそうですし,比較法的に見ましても,重大な契約違反としつつ,それについて具体的な基準を定めているものがありますので,それらを参考にしながら詰めていく必要があると思います。 ○岡委員 催告解除と無催告解除のところですが,要するに解除できない場合の表現をどうするかというのが大きな議論になっていると思います。考慮要素は山本敬三先生が考えていただけるとのことですので,それをお待ちしますが,考慮要素自体にはそれほど大差はないと思います。ただ,条文にどういう文言がいいのかというのが微妙な価値判断の下に,いろいろな意見がでていると思います。弁護士会は「軽微な不履行」という文言を推していますが,原則解除できるというのが筋ではないかというのが強いものですから,軽微な契約不履行だけが例外という表現に相当親近感を弁護士会の多数は持っております。「契約の目的」という文言は言葉自体としてはよく分からない概念ですので,裁判所としてはある意味使いやすくなって結構いいかもしれない,との意見もあります。   重大な契約不履行というのは,グローバルな基準からきているのか,それとも,解除できる場合を今よりも絞ろうという価値判断できているのか,その辺がよく分からないところがありますけれども,この三説があるなというままで分科会にいって,よく分からないから,全部,分科会というのは分からないでもないんですけれども,せっかくここで議論しているとすると,三つの方向性というのは,何か方向性を議論したほうがいいように思うんですが,それは鎌田先生としては無理だからやめようということなんでしょうか。 ○鎌田部会長 積極的に御意見を出していただければ,それを分科会の議論に反映させていけると思います。これも契約目的達成不能あるいは達成困難を軸に整理すべきだという積極的な御意見はあったんですけれども,重大な不履行論でいけとか,軽微な不履行を除外するという表現にすべきだという形の御意見は,余り積極的には出されていなかったように思うんですけれども,今の……。 ○岡委員 中井さんの意見は,弁護士会の多数意見です。同じなので私も発言しなかっただけです。ここでは,中井さん発言は,弁護士会出身の委員・幹事の4人分と評価していただきたくお願いします。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○山野目幹事 今,岡委員が問題提起をされた事項に関して,しばらく前に部会長が重大不履行という概念についての相関関係的な理解をおっしゃっておられて,私は,あの方向でよろしいと感ずるものですが,それと同時に,この表現が与える印象というものが議論をミスリードするおそれがあるようにも感じます。重大ということが不履行に係る債務それ自体の重大性を言っているのか,不履行の程度を言っているのか,あるいはそれらを相関させて言っているのかということが明らかにされないまま,議論されていくことが問題であるとともに,重大という言葉は余りにも重大で,それから,軽微という言葉も余りにも軽微で,従来の法制上,用いられてきた表現も,ここで議論しているような場面で,重大とか軽微とかという言葉を余り用いていないものであろうと思います。   したがって,分科会で補充的に議論していただくのでよろしいのですが,重大不履行という言葉は論点のニックネームとしてしばらく使い続けることはよいとしても,やがては法文に書き表すことが可能なように,重大という言葉を避け,不履行に係る債務の重要性と不履行の程度の軽微性とを組み合わせて考えるといったような発想を一つのヒントにしながら,表現について中間試案以降の問題提起が人々に誤解を与えないような仕方でされていくような議論になっていくと良いとと考えます。 ○松本委員 今,山野目幹事のおっしゃったことは,確か第1ステージでも,道垣内幹事が重大なというのはすごいという意味ですかとかいうことで指摘された疑問点がそのまま残っていると思います。   それから,もう一点,何か引っ掛かるんですが,(2)の無催告解除の③のところに,例えば重大な不履行があった場合は無催告解除だという要件を立てる。ところが,(1)の催告解除のところでは,催告をしたのになお履行しない場合が重大な不履行になるということなので,重大な不履行なら解除できるという一般条文に一本化してしまったとしても,どういう場合を重大な不履行と言うかということで,また,場合分けをしなければならないことになって,結局,重大な不履行というのは意味をなさない,つまり,債務不履行解除を相当とする場合というトートロジーを述べているだけに過ぎないという感じがしてまいります。   (2)の無催告解除の場合の重大な不履行というのは,恐らく契約目的が達成できないということとほとんど同じことを言っているんだと思います。言葉の違いだけだと思うんですが,催告解除のほうの重大な不履行というのは,契約目的達成という考えを採る場合と相当違った,もっと複合的な要素がここには入ってきているんだというのが何人かの方の御主張だったわけですから,やはり,重大な不履行という用語は使わないほうがいいという感じがします。どうしても使いたければ解除を相当とする不履行とか言ったほうが正確な状況だろうと思います。 ○中井委員 分科会にということですが,なお,私が気にしているのは一番最初にまた潮見幹事から御提示のあった本当に二分説的に考えているのか,三分説的という表現が適切なのか分かりませんけれども,その方向性について,取り分け研究者の皆さんから御理解が得られるのかということを大変気にしております。重ねて申し上げますと,無催告解除というのは,ここで言う重大の中味は私もよく分かりませんが,重大がここでの契約目的不達成という先ほど鹿野幹事若しくは今松本委員がおっしゃられたような意味であるとすれば,無催告解除については正にそういう意味で,催告しても意味のないような場面,契約目的不達成が明らかであるにもかかわらず催告を求めるという必要はない,だから,無催告解除を認める。こういう領域が一つある。   他方,原則は債務不履行があれば催告をして履行しなかったら,一応は解除できるという基本原則の発想から,それでも,それは行き過ぎる場面があるから,軽微な部分若しくは付随的な部分,解除するまでもないという部分について解除権の行使を許さない,解除権の発生を認めない,両方から攻めていっているので,その間の部分があるというのが私の理解です。ところが,契約目的達成不可能説,重大な不履行説は,二分説的な御発言が多いように受けとめていますので,そこに違いが残っているのではないか。それが残ったまま分科会でよろしいんでしょうか。   更に第一読会のときに弁護士会から申し上げたのは,重大な不履行の典型例は期日に機械を納品しないこと,期日に代金を払わないこと,仮にそれをもって重大な不履行だから無催告解除ができるとすれば,それはとんでもないことで,契約解除という重大な効果が発生する以上,重大な不履行であっても我々の立場は催告してください,機械が期限に納品されなくても,代金が期限に払われなくても,当然に催告すべきで,本当に払わなくて初めて解除権が発生する。これが弁護士会のスタンスです。逆に言えば,そのときの催告というのは重大な不履行でなくても,約束違反があれば催告して,不履行があれば解除権が発生するという原則があることからスタートするわけです。私の申し上げていることについて,研究者の方々としては,それは判例の分析を通じてもおかしいよとおっしゃっていて,なお,支持が得られないのか。   私も第1分科会でしたので,そこに参加しなければいけないようですが,岡委員がおっしゃられたように,もう少し,その辺について方向性を確認できないんでしょうか。 ○山野目幹事 中井委員のおっしゃる三段階になるという考え方の位置付けも,今日は相当議論が進んだと感じますから,分科会で改めてその議論の性格を整理してもらうべきなのではないでしょうか。潮見幹事が最初におっしゃった軽微でも重大でもないときというのは,あれは別に三分説をおっしゃったのではなくて,その状態で催告をしたら,その後,どう法律関係が展開していくのですかという時間の推移,ダイナミックな要素を加味した上でおっしゃっていて,中井委員が繰り返しおっしゃっているところの,ある時間の一瞬で三つに分かれるというような静的な発想で三つに分かれるということをおっしゃったのではないものであろうと想像します。   どちらかというと,潮見幹事のお立場は途中で中田委員がおっしゃったように,二つの段階で考えるのがよろしいのでしょうという発想と結び付いていくものであろうと思いますから,今,私が幾つか申し上げたような考え方の分岐自体が恐らく,今日,大体感覚的には皆さん分かってきたと思いますけれども,整理されていない部分がありますから,そこを分科会に整理してもらうべきなのではないでしょうか。 ○松本委員 私は中井委員のおっしゃったこととほぼ同じ意見なんです。つまり,約束の期日に代金を払わない,商品を引き渡さないということは重大な不履行だと。だけれども,それだけでは解除できないでしょうということです。そのままの状態が継続すれば契約をしたことの意味がないわけだから,解除ができるということになるわけです。期日に代金を払わないことが即,それだけで契約目的を達成できないというわけではない,重大な不履行だけれども。したがって,もう一度,考え直してきちんと履行してくださいという猶予期間を与えて,それでもなお履行がないということであれば,そのまま債権者を拘束する必要はないだろうということで,解除を認めてもいいのではないかという趣旨です。   問題は恐らく付随的な義務とか,主たる給付義務でない義務については,どうなるのかということでしょうが,それは全体として契約をしたことの意味があるかないかというところに引き付けて評価をして,後は損害賠償で処理をするということでいいのではないかと考えています。 ○内田委員 中井委員のおっしゃったことは御趣旨はよく分かりますし,それから,松本委員が何にこだわっておられるかということも分かります。しかし,多分,実質的な紛争解決の基準について,結論的には,それほど大きな対立があるようには思えませんので,あとはどういう表現を使うと,どのような問題があるかということを,これはかなり精緻に整理をした上で議論をまとめる必要があるように思います。ここでこのまま議論を続けても,それが進むようには思えませんので,結論を出すということではなくて,その整理のために山野目幹事がおっしゃってくださったように,分科会にそろそろ委ねて,他のテーマがたくさんございますので,他の議論に移ってはどうかと思います。 ○潮見幹事 内田委員がおっしゃった方向に,基本的に私自身も賛成はしたいと思います。ただ,その整理をしていくときに,催告解除というものの位置付け,目的というものがどのようなものかというところが,かなり最終的な文言表現に影響を与えてくるのではないかと思いますので,その点,少し留意して整理をしていただければというお願いをさせていただきたいと思います。   それから,もう一つですが,文言表現を検討していく際には,現在も例えば542条とか定期行為のところ辺りでも,契約をした目的が達成できないときという文言があります。このように,現在の条文文言で契約をした目的を達成することができないという表現が既に用いられている部分をそのままにしておくのか,維持した場合には,当然,どこがどう違うのかという話が出てきますから,少しその辺りも注意していただければと思います。 ○中田委員 履行期に引渡しがないという例がお二人から出ているんですけれども,定期行為について無催告解除を認めるというのは入っているわけですね。それが実際上は,その分を適用除外というか,外出しにしていることになるわけでして,定期行為について決めておけば,実際上の問題というのは相当程度,解決できると思うのですけれども,その上で,更にそれを理論的にどう位置付けるのかという問題がある。多分,二段階の問題があるのだろうと思います。 ○鎌田部会長 履行遅滞型と定期行為型と信頼関係破壊型と履行不能型という,こういうパターンごとに,それぞれの対応の必要があるということが部会資料の整理の基なっていると思うので,そのこと自体を根本的に否定しようとする考え方を採っているわけではないと考えます。それがいかに適切に要件立てされて誤解なく理解されるのかということが一つと,もう一つは解除権が発生するか,しないかの線がどこに引けるのかということについて,これもユニドロワ等も含めて外国の立法例を見ると,非常に細かく規定する例もあれば,包括的な規定を置く例もあるので,それらを参考にしながら共通の価値判断要素を明確に整理することと,対立点があれば,対立点を明確にするというふうなことについて,大変御負担をお掛けして恐縮でございますけれども,分科会での補充的な検討をお願いしたいと思います。   これまでの議論について若干の整理をさせていただきますと,(1)の催告解除につきましては,アの少なくとも第1段落のような基本的な考え方については御異論がなくて,それをいかに具体化するかということについての御議論が中心だと思います。(2)につきましても,無催告解除を認めるべき場合があるということ自体には,多分これも御異論がなかったと理解しておりますが,それをどういう形で具体化するかについては,種々の御意見を頂いたところであります。それから,(3)の履行期前の履行拒絶による解除につきましても,これを解除原因の一つとするということについては,特に御異論がなかったと承っております。ただし,要件,取り分け,括弧付きでありますけれども,催告についてどう処理するかというふうなところについては,なお検討の必要があるということで,全体を通じて分科会で更に補充的な検討をしていただくということにさせていただいて,第3の1については,取りあえず議論をここまでということにさせていただければと思います。   一旦,ここで休憩を取らせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開させていただきます。   部会資料34の「第3 契約の解除」の「2 「債務者の責めに帰すべき事由」の要否」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○新井関係官 それでは,御説明いたします。   「第3 契約の解除」の「2 「債務者の責めに帰すべき事由」の要否」では,第1パラグラフにおいて催告解除及び定期行為に関する無催告解除については,補足説明に記載したような理由により,債務不履行が債務者の責めに帰することのできない事由よる場合には解除ができないという要件については,これは設けないということを提案しております。第2パラグラフでは履行不能による解除について,現行民法第543条ただし書にある債務者の責めに帰することのできない事由という解除の阻却要件を削除するとの提案を取り上げております。もとより現行法の枠組みを維持するという観点から,履行不能解除について債務者の帰責事由という要件を維持すべきであるという考え方もあり得るところです。この点につきましては,補足説明でも取り上げた問題点等にも留意しながら,御意見を頂ければと思います。 ○鎌田部会長 ただいま御説明のありました部分について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○筒井幹事 大島委員が所用により退席されておりますけれども,事前に発言メモをお届けいただいておりますので,それを読み上げて紹介いたします。「2 「債務者の責めに帰すべき事由」の要否」についての御意見です。   単発の取引については,解除に「債務者の責めに帰すべき事由」は不要だと考えていたことから,第一読会では,契約解除の要件から帰責事由を外しても特に実務への影響はないとの趣旨の発言をいたしました。しかし,被災地の事業再開や風評被害に遭っている方々の声など,様々なニュースを拝見しておりますと,東日本大震災発生以降,履行遅滞に伴い,継続的契約が打ち切られるケースがあったのではないかと推測されます。基本契約と受発注書により継続的な取引を行っている中小企業が,帰責事由が明確ではないのに履行が遅れているだけで基本契約そのものを解除されるのでは,債務者に酷ではないかと思います。   541条の履行遅滞等による解除権及び542条の定期行為の履行遅滞による解除権について,継続的契約に対する期待を保護するためにも,帰責事由の要件を設けてもよいのではないかと考えています。帰責事由の紛争予防機能にも着目しながら,慎重に全体の検討を進めていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 他に御意見はいかがでしょうか。 ○岡委員 弁護士会では帰責事由を外すのに反対であるという意見が強うございます。部会資料の35ページのところの(2)の後半部分ですが,大規模自然災害により操業不能に陥った場合について,責めに帰すべからざる事由による履行不能になれば,危険負担の法理によって反対債務は当然に成立しません。したがって,その状態が続いている限り,不都合はないのではないか,代替取引もできるのではないかという意見が強うございます。   解除が必要という趣旨がよく理解できないのです。履行不能プラス反対債務不発生が続いている状態はそれでいいんだけれども,それから先の将来にわたる契約による拘束から,外してあげる必要があるのではないかという趣旨なのでしょうか?帰責事由なき履行不能が続いている限り,反対債務は成立せず,わざわざ解除できるんだという制度を新設する必要はないのではないか?もし,将来にわたる部分について,解除が必要なんだということでしたら,ここで説明していただき,持ち帰って伝えたいと思います。 ○新井関係官 補足説明において,自然災害による操業不能という例を挙げさせていただきました。このような場合に操業不能が履行不能と評価できるような場合であれば,危険負担でもちろん債務者主義というのを採ることが前提ですけれども,反対給付請求が消滅するという解決もあり得るのだろうと思います。しかし,履行不能の概念につきましても場合によっては社会通念に基づく履行不能であるとか,あるいは期待不可能というような履行請求権の限界の議論等によれば,履行不能かどうかという判断が難しいという場面もあると思われます。そのような場合に,履行不能と評価できない限り,つまり履行遅滞にとどまる限り,債権者を契約に拘束して,ずっと相手方が履行するのを待ち続けなければならないというのが,相当なのかどうかということを問題提起させていただいたものです。 ○内田委員 同じことですけれども,補足的に申し上げます。操業不能と書いてありますけれども,これは操業ができないという状態のことであって,元々は履行不能ということを必ずしも意味しているわけではないと思います。典型的に想定されているのは,例えば,東日本大震災で福島県のほうに紙の工場がたくさんあって,そこで保管していた紙が地震でがらがら崩れてしまって出荷できなくなったといった事例です。   当時,出版業界は紙が手に入らなくて大変だったようですけれども,そのときは別に紙の供給が不可能になったわけではなくて,もちろん,復旧復興して操業すれば,また,供給することができるわけですけれども,いつになるか分からない。遅滞がずっと続いているという状態ですね。その場合に,出版社等のほうは本とか新聞とかを出さないといけないわけですから,代替手段を講じて,他から入手する必要がある。その場合に代替取引もできないというのでは困るので,取りあえず,今,注文している分については解除して代替取引に切り替えるということが迅速にできないと困る。実務的にそういう声があるように聞いております。そういう場面で使われるということを想定しているということです。 ○潮見幹事 岡委員に質問しようと思ったのですが,解除の帰責事由が必要であるという意見が大勢であったというときの帰責事由というのは,債務不履行を理由とする損害賠償責任が問題となるところで語られるところの帰責事由と同じ意味ですか。 ○岡委員 典型的に考えているのは,自然災害等の不可抗力の場合です。その場合は,両方に該当すると思います。ただ二つの概念がぴったり同じ概念ではないように思います。   それから,内田先生の例ですが,3月,4月,5月,6月と持ってくるべき紙を持ってこられなかったと。それが地震によるものだとすると,3月,4月,5月は帰責事由なき履行不能になるのではないでしょうか。そうするとその間は反対債務は発生しませんので,3,4,5月は自由に代替取引ができるのではないかと思います。そして事態が落ち着いて,帰責事由無き履行不能と言えるかどうか微妙になって時期,例えば6月以降,将来にわたるところの契約解除を問題にしているんですかというのが弁護士会の質問なのです。この6月以降,どうなるかというときのために契約解除を認めるんですか。そうだったら分からないでもないという声があったんですが,余り伝わっていませんかね。 ○内田委員 地震の例を挙げたので,帰責事由がなくて危険負担が機能する場面という前提でお話しだと思いますが,新井関係官からもありましたように,帰責事由があるかないか自体が争いの対象になることも多いわけです。3月分の紙が欲しいが,それがまだ来なくて,もう少し待ってくれと言われている。しかし,3月分の紙でもって作る製品があるものですから,いつまでも待てないので解除したい。そのときに帰責事由があるかないかを問わなければいけないのか。そういうことです。履行が遅れるかどうかわからない将来の分ではなくて,今,注文している分について代替取引をしたいという場面です。 ○道垣内幹事 岡委員のおっしゃった例がちょっとよく分かりませんでした。3,4,5,6月分が履行不能という考え方は今まであったのでしょうか。つまり,紙の供給義務があって,紙が調達できるのならば履行可能なのではないでしょうか。 ○岡委員 念頭に置いているのは雑誌の出版で,3月号を出版するために3月号の紙を持ってきてくれという契約はあるはずで,それを念頭に置いて申し上げておりました。3月分の雑誌発行のための紙が来ないという事態は,計画の目的は達成できず,履行不能ではないでしょうか。それが地震によるものであれば,雑誌屋さんの方は,解除も損害賠償もできないが,でも反対債務(支払債務)も発生せず,バランスは取れていると思います。それを殊更解除できるというか,解除をしなければならないという必要は,地震による履行不能の場合には要らないのではないのという意見です。 ○鎌田部会長 すごく形式的に言うと,不特定物売買に不能はないというふうな命題との関係で,危険負担の問題にはならない。 ○潮見幹事 先ほど岡委員にお尋ねしたのは,現民法の415条で債務者の責めに帰すべき事由という言葉が使われていて,要件事実的には債務者の責めに帰することのできない事由と言っていいのだろうと思いますが,それと543条のところに書いてある債務者の責めに帰することのできない事由という言葉が同じ言葉であり,かつ中身も同じものであると捉えて立論をしてきた方々が多かったのではないかと思います。それを前提として,先ほどおっしゃられたような議論を弁護士会の方々がお考えになっているのかなと思って,質問をした次第なんです。   何を申し上げたいのかというと,債務不履行を理由とする損害賠償責任というものが問題となる場面で,それを免責するためには,あるいは免責されるためにはどのような要件が必要なのかという問題と,債務不履行を理由として契約を解除したいというときに,解除して契約から債権者を離脱させてやるということを認めるためには,どのような要件が備わっている必要があるのか,あるいは逆に言ったら,どういう要件があれば逃げられないのかという問題とは,損害賠償と解除というものの持つ性質とか目的の違いを考慮に入れたときに,同一とは言えないのではないかというのが私の理解なんです。   そうであれば,仮にここの補足説明の(3)で書かれているような形での考慮があって初めて,(1)も(2)もそうかもしれませんけれども,このような評価をして初めて契約からの離脱を認める,認めないということができるのであると仮に考えた場合でも,債務不履行を理由とする損害賠償からの免責の事由とは違った表現をすべきであるし,かつ,こうした考慮の枠組みというものは,いずれ,これもまた休憩前の話に戻るんですけれども,下のところにも少し出ておりますが,重大な不履行あるいは契約目的達成不能とはどのような場合かというところの判断要素を挙げることによって,あるいはその中で評価をすることができるツールを用意することによって,対処が可能なのではないかと思うところです。   そういう意味では,従来の責めに帰することのできない事由という言葉を使うということは,債務不履行の損害賠償との同一性ということをなお引きずるようなこともありますから,避けたほうがよろしいと思います。更に責めに帰することのできない事由ということは,損害賠償のところでも申し上げましたけれども,特に学者の一部の考え方によれば,これは故意だの,過失だのを意味するものと捉えられておりますから,ますます,余計にこの言葉をその意味と結び付けて,解除の場合の要件として挙げるというのはふさわしくないと思っているところです。結局のところ,債務者の責めに帰すべき事由というものをここで使う必要は全くないのではないかということです。 ○山本(敬)幹事 岡委員の先ほどの御発言について確認させていただきたいのですが,危険負担の規定が適用されるかどうかについては,今,御指摘がありましたように問題はあるのかもしれませんけれども,仮に適用されるような場合であったとして,先ほどの御説明は,現行法の534条の債権者主義はやはり不適当であって,それを改めるべきであるというお考えが前提なのでしょうか。 ○岡委員 はい。 ○山本(敬)幹事 そうしますと,私はよく分からないのですが,534条が立法論的に不当であるということは,かねてから指摘されているところで,これは,双務契約で一方の債務が消滅すれば,他方の債務も消滅するのが原則だけれども,物権の設定又は移転を目的とした契約では,債務者に帰責事由がないときが前提ですが,その場合は他方の債権は残るようにするというのが現在の534条ですけれども,これは不当である。つまり,双務契約なのに,一方の債務が消滅しても,他方の債務が残ってしまうのは,やはりおかしいではないかという批判があるわけですが,それを前提にしておられるわけですね。  しかし,解除について,履行不能を前提にしますと,債務者に責めに帰すべき事由がある場合には解除できないというのは,要するに,本来,履行不能であれば,解除ができて,解除すれば,他方の債務が消滅することになる。これは,先ほどの原則と同じですね。しかし,債務者に責めに帰すべき事由がない場合は,解除は認めるべきではないとしますと,これは先ほどの534条と結論は同じで,他方の債務は残ることになります。   534条が不当だとおっしゃるのであれば,解除の要件については,帰責事由の有無を問うことなく,一方の債務が履行できない,契約目的を達成できない場合は,解除を認めて,他方の債務の消滅を認めるとするのが整合性があるように私は思うのですけれども,おっしゃっていることは,危険負担と解除で,どうも考え方が違うように思えますので理解できないのですが,いかがでしょうか。むしろ,物権設定又は移転を目的とした契約に債権者主義は限られているのに,解除の場合だと双務契約一般について534条と同じ結果を導くことになってしまっていて,不当性がより増しているように思うのですけれども,どうでしょうか。 ○鎌田部会長 当然消滅だから,わざわざ解除の制度をそこに及ぼさなくていいという,そういう趣旨ですね。 ○岡委員 実務家の感覚として,責めに帰すべき事由ではない履行不能の場合には,当然消滅の危険負担できれいになっているんだから,その場合に解除できるという規律を持ち込む必要はないのではないですかと,そういう強い発想だろうと思います。 ○山本(敬)幹事 これは次の,解除制度と危険負担制度を一元化するかどうかという問題と関わるところですけれども,しかし,評価として,この場合に他方の債務はやはり消滅させるほうがよいという判断をするのであれば,解除でなぜ責めに帰すべき事由がないことを解除の阻却事由として認めるのかという理由が,価値的には同じだけに説明がつきにくいのではないかということが申し上げたかったことです。その辺りを括弧に入れて,二つの制度をどうするかということだけだとしますと,おっしゃられるようなことは分からないわけではないのですけれども,評価としては矛盾しているのではないかと私は思います。 ○岡委員 多数意見は,従来の危険負担法理で不都合がないときに,何で解除できる制度をあらたに持ち込んで,どっちが優先するかとか,単純並存させるかなどと,そんなややこしい議論をしなければならないのかというものです。履行不能かどうか分からない場合は,解除でいくしかないんでしょうけれども,責めに帰すべからざる事由による履行不能がはっきりしている場合,それは危険負担一本でいってどこに問題があるのかと。当然消滅していたことにつき,解除が必要だというのを持ってくると,意思表示が到達しない場合がすぐ実務家は心配になります。解除を導入することによる実益は何か。そこを説明していただきたいのです。先ほどの将来にわたる契約の拘束からの解放が一つのキーワードかなと思って質問したんですが,そうではないようです。やはりこれだけの大震災が起きて,地震等の不可抗力による場合が身近に感じられるようなった現在,解除の意思表示を要することなく反対債務が当然に消滅する,という規律をすっきり残すべきと思います。   なお,帰責事由はなくていいというと,一切,考慮しないという反対極までイメージする人も多くて,誤解を招いていると思います。帰責事由がないだけで,オールマイティで解除できないという拒否権的な制度はやめて,帰責事由の有無程度というのは解除のときに評価される一事由に縮小するんだと,山野目先生が先ほどおっしゃったような総合考慮の一つにはなるんだという説明をすれば,また,実務家の受け止め方は違ってくるように思います。 ○中井委員 岡さんに一人,責めを帰すといけませんので,補足します。その前に,弁護士会で昨日,各地の意見を集約していただきました。10の意見が出ていますが,10の意見のうち,従来型の帰責事由必要説は六つで,三つは帰責事由は要らないのではないかという意見でした。もう一つ大阪は,損害賠償の帰責事由と同じではない,しかし,考慮要素にはすべきだという意見で,正当事由的な判断要素の一つとして考えていくという独自説です。そういう形で分かれております。今回の改正議論に関心のある方々の中で,帰責事由は要らない,契約の拘束からの解放という考え方について理解が深まっていることは確かですが,弁護士会の声なき声を推測いたしますと,従来の枠組みを変えることについて,相当,抵抗感が強いのではないかと推測しています。   その理解は,履行不能に関する事柄については単純切り分けでいいではないかというものです。責めに帰すべき事由がない履行不能については危険負担で解決する。帰責事由があるものについては解除で解決する。この二分説で今まできたというのが大きなよりどころで,加えて,この後で議論される解除に帰責事由を不要としたときの危険負担との重複領域の解決について,相当,錯綜した議論になるわけですけれども,その議論を避けるには二分説がよいということが大きな背景事情です。   それであっても,履行不能については今のようなすみ分けはできても,履行遅滞についてすみ分けができるのかとなると,反論ができなくなって,先ほど内田委員もおっしゃった35ページの(2)の事例,これを履行不能の例とすれば危険負担で解消でき,そこの議論は間違っていると言えますが,工場が少し水に漬かったので,1週間遅れる,2週間遅れるという遅滞の問題だとすれば,その遅滞に帰責事由がないにもかかわらず,債権者のほうが拘束され続けて契約の解除もできない,代替取引もできないということになり,今のままでは解決できないわけです。遅滞に関してどう処理するのかが問題になります。   そうすると,遅滞のときには帰責事由をなくして解除を認めて契約からの解放という考え方となり,ここの反論が,二分説ではできないだろうと理解をしています。 ○内田委員 部会資料の35ページの事例については,先ほどからも議論になっておりますし,また,中井委員がおっしゃったように履行遅滞の場面を想定しています。その場合に債務を負い続けるのがいいかということなのです。それから,委員は既に退席されましたけれども,最初にメモが読み上げられた大島委員の御意見の中で,継続的な契約で大震災で契約を切られてしまう,それでいいのかということを考えると,やはり,帰責事由も必要ではないか,という御指摘がありました。   その御指摘には非常に共感できるものがありますが,それは解除の帰責事由の問題ではなくて,解除のもう一つの要件の方ですね,先ほど来,議論していた契約目的不達成とか重大不履行など,そちらで対応できる問題ではないかと思います。更にまた,特に継続的契約の場合には,継続的契約の解除に特有の,もう少し絞りを掛けた要件を置くかどうかが改めて議論されることになっていますので,そちらで議論したほうがいいのではないか。そのほうが総合的な考慮もできるのではないかと感じました。   それから,特定物の履行不能の場合についてはなお解除に帰責事由を要求し,帰責事由がない場合には危険負担でいくほうが,簡明ではないかという御指摘が中井委員からありました。私が挙げた地震の例はよくなかったかもしれませんけれども,あのような未曾有の大災害であれば,帰責事由がないということは皆分かるだろうと思いますが,一般的には履行不能の場合に帰責事由があるかないかは,債権者には分からないことですので,帰責事由がなければ解除せずに反対債務は消えている,帰責事由があれば解除しなければいけないというときに,債権者はどう行動していいのか。   実務的には,解除は一言,解除すると言えば済むことですので,恐らく解除で処理しているのではないかと思います。そうであれば,帰責事由があるかないかを詮索するまでもなく,債務者の履行ができなくなったので代替取引に移りたいというときには,解除の意思表示で契約関係を明確に解消するという方式のほうが実務には合っているのではないかと思います。 ○岡委員 危険負担をなくすのではなくて危険負担は残すけれども,解除もできるという制度であれば,実務家はそれほど反対はないと思います。次の論点のところで危険負担と解除とどっちが優先するんだと。単純併存説がどういう意味なのか,いまいち分かりにくいのですが,解除もできるということにとどまるのであれば,そう大きな反対にならないのかもしれません。 ○鎌田部会長 では,帰責事由もないのに解除をされたらかなわないという,そういう意見でも必ずしもないということですね。 ○岡委員 反対債務が消滅するというところは共通の認識で,解除ができるという意味が先ほどの3,4,5月の例は不当だとおっしゃられましたけれども,何か将来にわたって拘束されるのはかわいそうだから,その場合には解除があったら,解除の時点以降は契約が消えるという意味でクリアになるよというふうな説明をすれば,納得する人が増えるかもしれないと,そんな印象です。 ○松本委員 解除と危険負担の重なる領域については,この後,もう一度,議論をやればいいので,そうでない領域で解除が必要な場合というのがたくさんあるんだとすると,解除の一般論として帰責事由を飽くまで必要とするのか,しないのかという観点から議論する必要があります。危険負担と重なる部分については併存させるということなら併存させるで,残しておけばいいということであれば,ここは一般論としては帰責事由を必要としないほうが適切だということに弁護士会としてもなるんでしょうね。つまり,危険負担は適用されないので債権者側の債務は消滅しないということで,いつまでも債権者を契約に拘束しておいていいのかと。 ○高須幹事 両委員の先生は発言しにくいと思いますので,責任の少ない幹事のほうから話させていただきますが,先ほど言いましたように弁護士会の中にも今回の御提案に賛成するという意見もございますので,やはり,問題状況の周知度もあるかなというところがあります。今,先生に御指摘いただいたように,履行遅滞でそのままにされるという危険があるということをもう少し弁護士会内でも真剣に議論をして,また,しかるべく答えを持ってきたいと思っております。今,先生がおっしゃったことは,大事な核心だと思っておりますので,そのことについて,より問題状況を把握した上で,検討してまいりたいと思っております。 ○鎌田部会長 他にはよろしいでしょうか。 ○佐成委員 経団連の中でこの問題は必ずしも十分な議論がまだ尽くされていないと考えますので,今の段階で明確に態度表明するのは非常に難しいのですけれども,強いて言えば,雰囲気としては,慎重にしてほしいということでございます。つまり,契約解除における帰責事由はまだまだ有用なのではないか,特に債務者側の事情を斟酌する上で残しておく余地があるのではないか,ただなくしてしまうというのは少し心配があるのではないか,というような雰囲気がございます。ですから,現段階ではまだ両論併記の形で議論を進めていただいて,いろいろな場面で議論を尽くした上で,必要ないということであれば,その段階でまた,再考するということで,取りあえずはまだ,ここで明確な態度表明をすることは避けたいと思いますのでよろしくお願いいたします。 ○岡崎幹事 裁判所の中でも慎重に対応すべきだという意見が,大勢を占めているのではないかと考えております。契約が解除されるということになりますと,債務者にとっては契約によって得るべき利益を失うという意味で,一定の制裁を受けるという側面があると思われます。そのような制裁を債務者に甘受させるには,単に不履行があったというだけではなくて,債務者の側の事情もしんしゃくした上で,債務者に帰責事由があったからしようがないんだというような部分が,説明として求められるのではないかと思われます。そのような観点から,長年にわたって要件として定着している帰責事由を,この際,なくすということが相当なのかというのが裁判所の中での大勢を占めているように考えています。 ○潮見幹事 岡崎幹事,一点だけ質問させてよろしいですか。そこで言うところの帰責事由というのは何ですか。 ○岡崎幹事 何ですかというのは定義的にという意味ですか。 ○潮見幹事 二つ申し上げます。415条に言うところの帰責事由と同じかということ,それから,同じだとしても違うとしても,543条にいう帰責事由って一体何でしょうねということです。 ○岡崎幹事 415条の帰責事由との違いということについて,明示的に裁判所の内部で特に議論してきているわけではありませんので,その点について,現場の裁判官がどのように考えているかということは,正直,分かりません。   おっしゃっている趣旨としては,帰責事由というものの中身が空疎ではないかというような趣旨の御指摘かと思うのですが,やはり実務家の観点からして,確かに過去の裁判例等で,帰責事由のところで決定的に勝負が決まっているという例がそれほど多くないのではないかというのは,既に御指摘いただいているところも当たっている部分があるかと一部では思っておりますけれども,他方で,やはり発想の仕方として債務者側の事情をどこでしんしゃくするのかというときに,責めに帰すべき事由という要件は非常にある意味,柔軟性を持っておりまして,かなり包括的にいろいろな事情をその中に判断要素として組み込むことができるという側面も一方であるように思われます。そういう意味で,責めに帰すべき事由の定義を語れと言われますと,そういうかなりいろいろな要素が入っていると言わざるを得ないものですから,一言で言うのは困難かと思うのですが,恐らく多くの裁判官はそのような考え方をしているのではないかと思います。 ○潮見幹事 空疎であるというところまでの意図はございませんでした。伺いたかったのは,先ほど岡委員に伺ったのと同じことでした。損害賠償のところの免責事由,責めに帰することのできない事由というものと同じ枠組みあるいは内容で,ここの帰責事由という言葉を捉えて,かつ,それが必要であると,内容も含めて維持すべきであるという御趣旨なのかと思ったら,どうもそうでもなさそうですね。   岡崎幹事の御発言からは,債務者側の事情というものを考慮するための窓口として,帰責事由というものが意味を持つということのほうが意味が強いのではないかという印象を受けました。佐成委員の御発言も似たようなところがあろうと思います。誤解のないようにというか,先ほど内田委員がおっしゃったこととかぶるのですが,これは重大不履行というか,契約目的達成不能というかどうかはともかく,そうした要件を立てた場合に,そこの判断要素として,例えば債務者側の事情あるいは対応というものを評価するのかという仕組みを作れば足りませんか。外国がやっているからどうかというつもりまではありませんが,ユニドロワだとかヨーロッパ契約法原則だとか,あるいはウイーン動産売買条約25条の規定などでの考慮の仕組みも参考になろうかと思います。   そうした債務者側の事情というものが考慮できるような枠組みというものが維持されるのであるならば,それを帰責事由という言葉で用立てするということが果たして適切なのか,その部分は少し,特に帰責事由が必要だとお考えになっておられる先生方には御留意だけいただければと思うのです。帰責事由が要らない立場は債務者側の事情を考慮しない立場だと誤解をしている人たちがたくさんいらっしゃるので,そうではないということを申し上げたいために,少し発言させていただきました。 ○中原関係官 私もこの案を正しく理解したかというところで,どの意見と申し上げる感じではないのですけれども,帰責事由というのが何についての帰責事由かということで543条参照と書いてあって,543条,債務の不履行が債務者の責めに帰すべき事由と書いてあるんですけれども,現在の勝手な理解ですけれども,この提案によるときは例えば履行遅滞のときであっても,仮に履行遅滞そのものに帰責事由はないという,履行遅滞が生じた時点で帰責事由がないということだったとしても,その後の相当の期間の経過によって,何年たってもしないというのはまずいでしょうと,多分,岡先生のようなお考えに立ったときも,その時点でそれはやはり駄目でしょうということになって,相当期間の経過のところで多分,解消されて問題は解決していくので,実態の解決はそれほど変わらないのではないかなと思いつつ,何についての帰責事由かというところが何か履行遅滞が生じた時点のことを言っているのか,それとも,相当の期間の経過についての評価ということで考えるのかというところが何かうまくかみ合わないのではないかなというような印象を持ったのですけれども,そのような理解でよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 事務当局から何かありますか。 ○新井関係官 事務当局としては履行遅滞については帰責事由要件を設けないという提案をしているので,こちらから履行遅滞について帰責事由という場合に何についての帰責事由かというのを言うのはふさわしくないかもしれませんが,伝統的な通説とされる考え方は,恐らく債務不履行の理由が債務者の責めに帰することができるか,できないかということを問題にしていたのだろうと思います。そのことは543条では明文で,ただし書で記載されているということであります。   更に申し上げると,パブリックコメントの意見などを見ても,確かに帰責事由は必要であるとの意見が見られるところですけれども,その意見の要点は,債務者側の事情を適切に解除の可否に取り込んでいくというところに問題意識があると思います。つまり,解除の可否の判断において,およそ債務者側の事情を考慮しないというのは,いかにも妥当性を欠くのではないかという問題意識だと思います。   そうは言っても,契約を解除できるか,できないかというのは債務者側の事情だけを考慮するだけでも駄目なのであろうと思います。つまり,解除の可否は債権者側がどれだけ不履行によって不利益を被っているかということとの総合勘案で決まるべきであるというのが,価値判断として共有されているのではないかと思いますが,それは正に先ほど御議論いただいた催告解除の要件であるとか,無催告解除の要件,取り分け「付加的要件」とした要件の中で考えていくべき事柄なのであろうと思います。   解除に帰責事由が必要だとする場合には,帰責事由がない,即ち不履行の理由において帰責事由がないとされると,今度は債権者側の事情,即ち債権者が被っている不利益の程度をおよそ考慮することなく,一律に解除が覆ることになります。少なくとも今の民法第543条の条文上はそうなっているわけです。最近,学説上有力になっている解除の帰責事由不要論というのは,正にそういう帰結が不当なのではないかというふうな問題意識に基づくのではないかと思っております。 ○山本(敬)幹事 今の議論についてですが,先ほど,解除の要件のうち,催告解除をどう理解するかという点については,非常に議論があったところですけれども,少なくとも付随的と言われる義務の違反の場合については,証明責任は別として,契約をした目的を達することができないという評価がなされるときには,解除を認めてもよいという結論は,異論がなかったと思います。   このような形で,契約をした目的を達することができないということが契約解除の要件となることを認めるのであれば,契約をした目的を達することができないにもかかわらず,債務者に帰責事由がないので解除を認めない,つまり契約の目的を達成できないのに債権者は契約に縛られ続けるとしますと,そこまでの拘束を認めるべき理由がどこにあるのかが問われると思います。したがって,契約目的の達成不能に相当するような要件を認めるべきではないとおっしゃるのであれば分かるのですけれども,それを認められるのであれば,債務者の帰責事由不存在を解除の阻却要件にするという考え方は,維持が難しくなるのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○岡田委員 消費者の立場で言いますと,債権者になる場合は帰責事由が必要でない方が解除が容易になります。債務者になる場合には,立場的に事業者と消費者の格差ということから考えると今以上に不利になるのではないかと不安を感じます。それに関しましては,先ほど,潮見先生がおっしゃったように誤解があるのではないかということも含めまして,理解していない部分があるのかもしれません。その意味では債務者の立場に対する手当てがどうされるかということだろうと思いますが,私たちの中間も周りの弁護士さんも弁護士会の総意と同じでこの見解が採用されると消費者は不利だという声が多いです。 ○鹿野幹事 私も,解除というのは第一に契約の拘束力から当事者を解放する制度だということを考えますと,帰責事由については,基本的に,解除の要件から外すほうがよいと思っております。ただし,先ほどから議論があるのは,債務者側の事情も,解除の可否の判断において考慮する必要があるのではないのかという点だと思いますし,それには私も共感するところであります。例えば,通常であれば1週間の催告期間を設ければ解除できるような場合において,大地震により債務者が履行期には履行できなくなり,けれどもなお履行を試みているというときに,そのような債務者側の事情に無関係に債権者は通常と同じように1週間の催告期間を設けてそれを経過すれば解除できるのかというと,それは疑問です。この場合,催告期間の問題として位置づけられるのか,それも解除の一般的要件として組み込むことができるのかについては,検討を要するかもしれませんが,いずれにしても,債務者側の事情によって解除の可否の判断が影響される場合もあるのではないかと思います。   ただ,だから帰責事由を解除の要件とするべきことになるのかというと,そうではないと思います。この点は,先ほど潮見幹事がおっしゃったことにほぼ賛成です。つまり,債務者の側の事情は,帰責事由がない場合には解除はできないという形で帰責事由を解除の独立の要件とすることによって考慮するのではなく,解除の可否の判断の中で債務者側の事情も一要素として考慮されるとし,それをより分かりやすい形で定めることのほうがよいのではないかと思います。そして,そちらのほうが柔軟な解決が図れるのではないかと思います。先ほどから,解除の要件として,契約目的達成不可能や重大な不履行などの概念が取り上げられ,そのいずれを使うべきかが議論となっていましたが,このいずれの概念も,見方によっては,債権者側の不利益しか考慮されないかのような印象を与えるのではないかと思うのです。第1分科会に宿題として委ねられた部分がありますが,いずれの概念を採るのかもさることながら,より重要なのは,解除の可否の判断において実質的にどういう要素が考慮されるものとするべきかという点であり,この点を整理すれば,議論のすれ違いが少なくなるのではないかと思いました。 ○山本(敬)幹事 今後,要件を詰めていくために,一言指摘しておきたいのですが,先ほど要件の立て方について,契約の重大な不履行なのか,契約目的の不達成・達成不能なのかという話が出ていました。その際,多くの方々の御指摘では,両者は意味的には等しい,同じものであると理解されていたように思いますが,観点は違っていると言うこともできます。  と言いますのは,契約の重大な不履行は,不履行に着目した要件の立て方をしていますので,債務者側の不履行の態様等の評価がしやすい仕組みになっています。先ほども出ていましたヨーロッパ契約法等の考え方は,これを前提にして債務者の態様も考慮要因に含めています。   それに対して,契約目的の達成不能は,不履行に直接着目する要件ではなくて,不履行の事態を受けて,契約目的を達成できるかどうかという評価をしますので,不履行そのものと少し距離を置いた要件の立て方になっています。このような要件を立てたときには,債務者側の態様をどう組み込むのか,評価的な要件ですので入れようと思えば入れられるのかもしれませんが,なじみやすさの違いがあるということがここに表れているという点は,指摘しておきたいと思います。 ○松本委員 結局,責めに帰すべき事由という言葉を外しても,どこかで生き返っているんだという説明のように聞こえてくるんですね。重大な不履行という概念を入れれば,結局,責めに帰すべき事由はそこに吸収されるんだから何の心配もないですよと。そうかもしれないので,そうなると,ますます重大な不履行でいう重大性という概念がマジックワードになってしまって,解除を相当とする事由と全くトートロジーのものになってしまうので,それはやはりまずいのではないかと思います。もう少し具体化しなければならないので,それほど債務者側の事情を入れたいのであれば,はっきりと帰責事由という言葉を残すか,あるいはそれに代わる債務者側の事情も考慮して,解除の有無を最終的に決めるとかするのが一番正直なやり方になると思います。 ○内田委員 帰責事由という言葉を残すべきではないという議論が学界で強くなされている大きな理由は,潮見幹事が言外におっしゃったことだろうと思いますが,従来,伝統的な通説の中で過失と同義に考えられてきた。契約を維持するのが相当でないような不履行が起きているのに,私には過失がありませんといえれば解除できないというようなことで,取引がやっていけるだろうかということが根本なのだろうと思います。そういう意味での無過失であれば,債権者は解除できないというのはやはりおかしいだろうというところでは,かなりの程度,共感が得られているのではないかと思います。   先ほど潮見幹事と岡崎幹事の間でちょっと応酬がありましたけれども,裁判所で帰責事由を外すことに対して消極意見が多いというのは,確かに岡崎幹事がおっしゃったように,実際の裁判を見ると帰責事由が決定的に効いている事例は余りないのだとは思うのですが,しかし,条文を見ると541条には,債務不履行があれば催告して解除できるとだけ書いてあるので,これを絞るために解釈上,帰責事由を入れていた。それを外してしまうと自由に解除できるだけになるのではないか。やはり,いろいろな考慮を入れるための器として帰責事由は必要ではないか,そういう配慮もあるのではないかと思います。これに対して,鹿野幹事が正におっしゃったように,今回の議論では解除の要件の中に,もう少しストレートにその考慮を引き受けることできる器を作ろうということになっていますので,無過失による解除の阻止を認めるかのような要件は,紛らわしいので置かないほうがいいのではないか。そういう議論ではないかと思います。 ○鎌田部会長 債務者側の事情を考慮して解除を認めない場面というのは,具体的にどういう場合が想定されるんですか。 ○内田委員 全くの思い付きの域を出ませんけれども,履行遅滞に陥っていて履行すべく債務者は一生懸命,努力をしている。与えられた催告期間内にどうも履行はできそうもないけれども,もうちょっと待ってくれればできる。そのもう少し待つことが債権者にとって,それほど致命的な負担にはならないというような場合に,場合によっては,解除はまだできないというようなことはあり得るかと思いました。ただ,それはかなり総合判断であって,無過失かどうかということでは多分ないだろうという気がします。 ○鎌田部会長 不可抗力免責とも少し違う発想ですね。 ○松本委員 今の例は相当期間の相当性の問題が一部に入ってくるのと,もう少しストレートにいえば,多分,解除権濫用という形で裁判所は介入するのではないでしょうか。だから,解除権濫用という最後の歯止めは多分あるんでしょう。それを解除の要件の中に組み込むとすれば,どういう文言がいいのかということでしょうが,一般論としては大変難しいと思います。 ○内田委員 今のは仮に重大な不履行でなければいけないとか,契約の目的が達成できない場合でなければいけないといったことを要件に入れておけば,そこで吸収できることだろうと,そのことを申し上げただけです。 ○松本委員 先ほども言いましたけれども,マジックワードにするのが果たしていいのかどうかということで,解除ができる場合は解除ができるんだと言っているにすぎないようなことになってしまうと,立法することの意味があるのかという感じがするんです。 ○岡委員 例としては地震のことがかなり実務家には念頭に浮かんできております。操業の一時停止で履行遅滞になっているときに2か月待ったら復旧すると。その場合には大地震だったら待ってやるべきではないかと,2か月間の供給停止については,反対債務を支払わないで代替取引してもいいけれども,2か月待って復活するんだったら,地震のような場合には解除せずに待ってあげなさいよと,こういう話はあり得ると思います。 ○中井委員 大阪弁護士会の提案では,解除の要件について,重大な不履行とか,契約目的達成というところについて,債務の不履行によって契約を維持すべき正当な期待が失われたかどうかという基準を出しているわけですけれども,その基準を判断するための考慮要素は相当広いのではないか。   それは,基本は不履行債務の内容であり,程度であり,態様なわけですけれども,そこに加えて例えばとして,債務者の追完可能性,不履行に至った当事者の帰責性,不履行の背信性,そして不履行後の債務者の採ろうとした態様,こういう事情を考慮して,不履行によって契約を維持すべき正当な期待が失われたかどうかを判断するという提案です。これは,松本委員から言えば,総合考慮説で結局,解除できる場合に解除できると言っているにすぎないという御批判を受けるのかもしれませんけれども,こういう要件を入れることによって,帰責性を必要とする543条の削除に賛成するのが大阪です。鹿野幹事のおっしゃったことも,解除の要件の中に帰責性的要素若しくは債務者の態様を組み入れることを,お認めいただいているとすれば,それをいかに,解除要件の中に組み込めるかという問題と理解をしつつあります。 ○道垣内幹事 岡委員がおっしゃった,それも大規模な災害によって履行ができなくなったのだが,もう少し待っていれば履行ができるという場合なんですが,その場合はどのような債権者も解除できないのかというと,そうではないのだろうと思います。つまり,定期行為の場合もこの解除の話になるわけですが,3月何日に例えば創業何周年記念をやるという九州の会社は,それまでにできあがった看板がやって来ないときには,解除ができなければ困るわけでして,5月にはできますと言われても困るわけです。そうなると,結局,債務者側の事情を考慮するとしても,当該契約の趣旨との関係で待てるのかという問題になるわけです。しかるに,責めに帰すべき事由というような言葉を入れて,債務者側に仕方がない事情さえあれば解除ができないと読める仕組みを作るというのは,私は妥当ではないと思います。   そのような意味からすると,実は中井委員がおっしゃったものも,もう少し考える余地があるような気がいたしまして,正面から債務者側の事情さえあれば解除ができないとはやはり書けないのだろうと思います。そうなると,松本委員がおっしゃったような批判が成り立つわけですが,それはある種,仕方がないことなのかなという気がしますし,更には山本敬三幹事がおっしゃったことですが,契約の目的との関係で考えていくといった文言を何とか入れていって,その要件との関係で,債権者は待てるのかという問題を考えていくとせざるを得ないのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。先ほどの解除の要件のほうへ少し議論が委ねられる部分が出てきておりますので,解除の要件についての補充的な検討をされる際には,ただいまの御議論を踏まえて,どのような対応ができるのかということも併せて御検討いただければと思います。この部会としては,今,頂いた御意見を踏まえて,なお,継続的に審議の対象にしていきたいと思います。   続きまして,部会資料34の「第3 契約の解除」の「3 債務不履行解除の効果(民法第545条)」及び「4 解除権者の行為等による解除権の消滅(民法第548条)」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○新井関係官 それでは,御説明いたします。   「3 債務不履行解除の効果(民法第545条)」の「(1)解除による履行請求権の帰すう」では,まず,アにおいて,解除の効果として当事者が契約上の債務の履行を請求することができなくなる旨を明文化することを提案するとともに,イにおいて,解除が紛争処理に関する契約上の定めその他の解除後に適用されるべき契約上の定めには,影響を及ぼさない旨を明文化するとの提案を取り上げています。   「(2)解除による原状回復請求権の内容」では,解除による原状回復請求権について,契約が無効の場合の返還請求権の範囲と基本的に同内容とすることを提案しています。   「4 解除権者の行為等による解除権の消滅(民法第548条)」では,アにおいて,解除権者が契約の目的物を加工等した場合に,解除権が消滅するとする現行民法の第548条につきまして,一定の場合には解除権が消滅しない旨の規定に改めることを提案するとともに,イにおいて,その要件の在り方について甲案と乙案を提示しています。   これらの論点のうち,「4 解除権者の行為等による解除権の消滅」については,解除権が消滅しない場合に関する具体的な要件の在り方等について,分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点を分科会で補充的に検討することの可否についても御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明してもらった部分のうち,まず,「3 債務不履行解除の効果」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○安永委員 3の債務不履行解除の効果についての(1)のイについて申し上げます。「債務不履行解除が契約解除後に適用されるべき契約上の定めに影響を及ぼさない」といった規定を一律に置くことには賛成できません。なぜなら労働契約の場合に,労働者に対して退職後の秘密保持義務でありますとか,同一職種での就業禁止などの義務,すなわち,競業避止義務を課す条項が設けられることが少なくありません。そして,これらの条項が効力を有するか否かを左右する重要な判断要素の一つとして,「債務不履行の内容」と「契約解除の理由」がございます。例えば使用者の賃金不払を理由として労働者が契約を解除,つまり,退職した場合に,賃金が支払われていないのに労働者が競業避止義務を負い,同業他社に就職できず,就労先が狭められるといったことになれば,労働者の生活保障の観点からも問題があり,結果的にも妥当とは言えないと思います。以上の懸念から,イの考え方で示されているような規定を一律に置くことには賛成できません。 ○鎌田部会長 他にいかがでしょうか。 ○山本(和)幹事 同じく今のイのところですけれども,紛争処理に関する定めのうち,直接,紛争処理手続に関する契約上の定めのことについて御意見を申し上げたいと思います。補足説明の中では,合意管轄の定め等についても書かれておりますので,その点であります。このような提案と同趣旨の定めとして,実体法上,既に仲裁法の中で仲裁法の13条6項という規定でありますけれども,仲裁合意を含む一の契約において仲裁合意以外の契約条項が無効・取消しその他の事由により,効力を有しないものとされる場合においても,仲裁合意は当然にはその効力を妨げられないという規定であります。仲裁合意の分離可能性とか独立性と言われる規律であります。   この規定の内容は,そういう意味ではそれと同じような方向を向いたルールであろうと思っております。ただ,仲裁法の規律などに鑑みますと,こういう規定を設けるということについては,なお,一定の検討が必要ではないかということであります。第1に規律の内容ですけれども,ここでは解除だけが書かれていますけれども,先ほどの仲裁法の規律は無効とか取消し等について書かれております。そういう意味では,無効と取消し等の場合と解除との場合が違うのかどうか,もし,同じような内容があるのであれば,そちらのほうにも規定を置くべきではないかということが問題になるのではないかということが第1点であります。   第2点は規定を置く位置でありますけれども,既に仲裁合意については仲裁法の中に規定が置かれております。そういう意味では,仮に合意管轄とか,あるいはその他商工契約とか,そういうようなものもあるのかもしれません,あるいはADR合意等についてもあるのかもしれませんが,そういうようなものを果たして民法の中に規定を置くのが適当なのかどうか,それぞれの紛争処理手続の規律の中に規定を置いたほうがいいのではないかという考え方も,十分,あり得るように思いますので,そういった点も含めて慎重に御検討いただければということです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   他にいかがでしょうか。 ○中田委員 (1)のアのほうなんですけれども,債務の履行を請求できなくなるという表現が少し分かりにくくて,債務は存続するけれども,履行請求ができないということなのか,それとも,債務はなくなってしまうのかがどうもはっきりしません。特に賃貸借契約のような場合に,解除後も賃料債務は発生するんだけれども,履行の請求ができないというのは,ちょっと変な感じがいたしますし,多分,そういう趣旨ではないんだと思います。そうしますと,疑義を避けるために表現はもちろん,ここで確定することではないんですけれども,考えるほうがいいのではないでしょうか。特に債権の消滅時効の効果との関係でも,ここでの表現をどうするのかというのが影響するかなと思います。 ○鎌田部会長 この点について何かありますか。あえて,折衷説か,間接効果説かという議論を避けるために,具体的効果だけを書くようにしたものと理解していましたが……。 ○内田委員 趣旨は部会長が御指摘されたようなことですが,解除の効果についての学説上の対立に,一定のスタンスでコミットすることを避ける表現を考えたということです。 ○中田委員 その趣旨は理解しているつもりなんですけれども,今,申し上げたような不鮮明さというのはどうしても残ってしまうように思います。直接効果説,間接効果説という話とは別に,債務が特に将来にわたってどうなるかということについては,もう少し詰める必要があるのではないかと思いました。 ○内田委員 何かいい表現がありますか,アイデアを頂けると。 ○中田委員 それは更に検討したいと思いますけれども,少なくとも賃貸借のような継続的な契約においては,債務の履行を請求することはできないというのは適当ではないのではないかと思います。賃貸借においては,抽象的な賃料債務と具体的な賃料債務を分けるという考え方もあるかもしれませんけれども,それを含めて考えたときにも,やはり,この表現は分かりにくいということです。更にどういう表現が良いのかというのは私も考えますけれども,取りあえず,問題の指摘ということにさせていただきます。 ○山野目幹事 (1),アの論点につきまして,履行を請求することができなくなるということを述べるにとどまらず,債務の存否についても論及したほうがより明瞭になるのではないかというお話については,私はどちらかというと慎重に考えていただきたいと感ずるものがございます。直接効果説,間接効果説の議論とは別に,と中田委員がおっしゃったのですが,別にはならなくて,書き込めば,それはその議論になるのだろうと感じます。加えて,消滅時効の効果に関する規律の適切な帰すうを見通す見地からも,ここはむしろそこに論及してほしくないと感ずる部分もございます。中田委員が繰り返し御心配になった賃貸借などの継続的契約についての解除の将来効については,現在も存在する賃貸借などに関する解除の将来効,将来に向かってのみ解除が効果を生ずるというような規定を契約各則に置くということは,反面において,もちろん大いに考えられていることではないかと考えます。 ○松岡委員 安永委員の御発言に関し,かつ,山本和彦幹事が先ほど御紹介になった仲裁法13条6項との関係でも御質問いたします。確かに,今,ここで提案されているのは,影響を及ぼさないと言い切る形になっていますが,仲裁法13条6項は,当然には影響を及ぼさないという,もう少し柔らかな形になっておりまして,つまり,契約違反の状況,違反された債務の内容,契約の趣旨・目的などを考慮して個別具体的に判断をするのであり,一律に契約が解除されたからといって,効力がなくなってしまうものではないということを明らかにしていると私は理解しております。そういう定式では,もちろん曖昧さは残りますし,個別判断に委ねられることになりますが,そういう定式でよいとすると,安永委員のおっしゃった懸念も解消するのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 その点についてはまた御検討いただければと思います。   他にはよろしいでしょうか。よろしければ,「4 解除権者の行為等による解除権の消滅(民法第548条)」についても御意見をお伺いいたします。両方,3,4,どちらでも結構です。 ○鹿野幹事 3の(2)についてなんですけれども,解除の効果として,基本的に現行民法545条のような形で,原状回復請求権ないし原状回復義務について規定するということには賛成です。けれども,資料のこの記載が,解除について,無効の場合の返還請求権の範囲に関する規律と同じ内容の規定を設けるものとしてはどうかとなっているところが気になります。無効あるいは取消しによって無効になる場合の清算については,基本的には解除と同様の原状回復であるとしても,無効原因あるいは取消原因によっては,解除とは違った規律を設ける可能性もあるのではないかという議論もありました。その点は,明確に留保しておいたほうがよいのではないかと思います。 ○松本委員 同じく(2)なんですが,解除の場合と無効,つまり,不当利得の場合で似ているところもあるけれども,かなり違うところがあって,解除の場合の原状回復は,例えば建物を建てた場合に解除されれば,当該建物を撤去しなければならないと一般に言われているんです。そこまで含めた意味の原状回復だと言われています。他方で,無効とか取消しの場合,これは不当利得ですから利得返還ということなので,解除で言うところの状態を元に戻せと,建物を取り壊して元に戻せというところまでは,不当利得の効果としては恐らく言えなくて,あとは物権的請求権のほうで除去請求をするという形で,処理をせざるを得ないのではないかと私は理解をしています。間違っていれば申し訳ないんですが。解除と不当利得は重なる部分もあるけれども,相当大きな違いがあるのではないかと思います。したがって,解除についての適切な効果の規定をもう少し具体化するということには賛成ですが,中身については,単純に無効と同じだというのはやはりちょっと良くないと思います。 ○鹿野幹事 無効や取消しの場合につき,一般不当利得の問題として処理するのかという問いを立てた場合には,私はそれに反対で,むしろ基本的には解除と同様に契約関係の巻戻しの場面として捉えるべきだと思うのですが,そうであっても,先ほど言いましたように,解除の場合と全て同列に捉え,同内容としてよいのかについては疑問であり,個別に見ていく必要があるのではないかと思います。ですから,資料の37ページの記載は,そういう意味で留保を付け,修正したほうがよいのではないかという意見です。 ○松岡委員 結論的には全く同じですが,私はここの表記の仕方が気になっています。むしろ,無効・取消しの場合も契約の解除と同じような清算方法を原則的に考えてはどうかというのが前に議論した方向であって,無効・取消しの場合の清算の基準に解除の場合を合わせるという表現は,逆ではないかと思います。鹿野幹事あるいは松本委員が,両者には似ているところもあるが違うところもあるとおっしゃったのは,正にそのとおりでありますし,考え方の方向として無効・取消しの場合を軸に考えて,それに解除の場合を合わせると読める表現はまずいと思います。   それとともに,ついでに一つ質問させていただきます。第1分科会で法律行為の無効及び取消しの効果について補充的な議論をするという課題が与えられて,一度,議論していただいたと思うのですが,その結果についてはまだ特に何も御報告はありません。それはどこで伺うことになるのでしょうか。 ○筒井幹事 分科会の議事の結果については,その後の直近の部会で,ごく簡単ではありますけれども概況をお伝えてしておりますので,それに基づいて当該会議の議事録を御覧いただくことになろうかと考えております。 ○潮見幹事 4のほうもいいですか。3は先ほど松本委員がおっしゃられたのとは違った認識を持っているのですが,それは物権の請求権と競合問題ではないかと思うんですが,置いておきます。   4のほうですけれども,4の解除権者の行為等による解除権の消滅ですが,甲案と乙案がイで上がっているんですが,駄目もとで申し上げますけれども,548条自体を廃止するというのはどうであろうかという意見を申し上げさせていただきたいと思います。   理由は二つありまして,一つは解除要件を満たしているのに,債権者から解除権を奪うというのは慎重にあるべきであるというのが一つです。それから,もう一つは先ほどの3の(2)にも絡むんですけれども,目的物が滅失等した場合でも価値返還義務を負うというルールが基本に据えられるわけであれば,債務者にとって別に解除を認めたからといって,不都合ではないのではないかという感じがいたしまして,更に後ろに付けられている付録のいろいろな立法例等も見ても,これに対応するものを採用しているものというは見付かりません。   なお,更に申し上げますと,548条の基になった規定,一つの参考にされた現行法の参照規定だと思いますけれども,この種の理論はドイツ法にありまして,昔ドイツ民法を作ったときに,一方で,債権者の下で物が滅失した場合にはこれによって解除権が奪われるといする一つのラント(州)の考え方と,それとは違い,物が滅失した場合には価値返還義務という観点から問題を処理すればいいのではないかという,普通法学説の一つの有力な考え方との対立があって,中間的な解決としてVerschulden,有責性と言ったらいいんでしょうか,過失というものがあるなしで区分けをするという立場が当時のドイツ民法では採用され,更にその影響もあって,548条のような規定ができたのではないかと強く推察されます。   先ほど申し上げましたように,現在の理論は,価値返還義務を解除の場合に認めるということに基本的に傾いておりますから,そうであれば,価値返還義務を認めて,場合によれば価値返還義務を認めるのが相当でないという場合は,そこで適切なルールを作れば足りるのではないかなと思ったからです。それゆえ,駄目もとで甲案でもなし,乙案でもなしということで発言させていただきました。   更に乙案を採る場合に注意していただければと思いますのは,この場合に注釈民法等でも書かれていることですけれども,現行法の解釈を前提としたときでも,契約の目的物が債務者から債権者に引き渡されたそれ以降,債権者が一体,目的物について義務を負うのかという問題があります。自分の所有物ではないか,それをどのようにしようが勝手ではないかということです。そうであれば,「行為又は過失」というときの「過失」とは,原状回復義務があるという場面で,それにもかかわらず,原状回復できないということに関する非難可能性を意味するのだという説明をしているのが一般的ではなかろうかと思います。そういう意味では,もし仮に乙案というものを採るのであれば,契約に照らして負う義務という表現というのは若干,誤解を招くというか,ミスリーディングになるかもしれないと思います。 ○松岡委員 潮見幹事の発言を支持する発言をします。解除した後に価額返還の義務を広く認めるといたしますと,確かに現物は返さなくてよいかもしれないけれども,価額の返還義務を負うわけですから,548条のように解除権を奪う根拠は十分ではありません。むしろ基本的には解除要件が満たされれば解除ができるとしてよくて,むしろ548条は単純削除でもいいのではないかと考えております。 ○高須幹事 駄目もとというふうな御指摘だったので,私どものほうからもと思ったんですが,弁護士会の中にも解除権が消滅しないということをむしろ妥当とするというか,条文を削除すればそういうことになると思うので,そのような議論だと思うんですけれども,常に解除権は消滅しないという考え方はあり得るのではないかということが単位弁護士会,具体的には福岡でございますが,そういうところから出ておりますので,決して駄目もとではないのではないかと,このように思っています。 ○鎌田部会長 他にいかがでしょうか。   「3 債務不履行解除の効果(民法第545条)」の(1)につきましては,アについて履行請求できなくなるという結論自体には異論がないけれども,むしろ,債務も消滅するということをはっきりさせたほうがいいのではないかという御意見が,中田委員から出てきたところでございますが,最終的に債務の履行を請求できなくなるということ自体については,特に御異論のなかったところだと思います。イにつきましては,幾つかの御意見を頂戴したところでございますので,これを踏まえて,更に事務当局で検討させていただきます。   (2)につきましては,解除の原状回復について契約の巻戻しの原則を採用するということには御異論のなかったところですが,無効の場合の原状回復を原則にして,それを解除で受け継ぐという,こういうふうな整理の仕方に御批判のあったところですので,それを踏まえた整理をさせていただきます。   「4 解除権者の行為等による解除権の消滅(民法第548条)」につきましては,アのように現行548条と違って解除権が消滅しないという方向性を目指すことについては,御異論はなく,それをイに書かれている甲案,乙案のような形で対応するのか,それとも,あっさり548条を削除することによって,解除権が消滅しないということを明らかにしていくという,こういう新しい御提案もあったところでございます。事務当局からはイの甲案,乙案等の要件設定の在り方について,分科会で補充的に検討してもらうという御提案がありましたけれども,それに548条削除論も合わせて,そのいずれかの案を採ったときに,どういう問題が起きるのか,あるいはどれが最も適切かということを分科会で補充的に検討していただくということにしたいと思いますけれども,よろしいでしょうか。 ○中田委員 先ほど3の(1)のアについて,私の意見が債務が消滅すると書くようにとおまとめいただきましたが,必ずしもそういう趣旨ではありません。山野目幹事も確かそうおまとめくださいましたけれども,そうではなく,この表現が分かりにくいという趣旨です。それから,継続的契約において解除の将来効のみを認めるのは,各論で書けばいいではないかということなんですが,その将来効というのは,一体,何なのかということをここで問題提起したつもりでございます。 ○山本(敬)幹事 今の点の確認で,将来の議論のお話なのかもしれませんが,継続的契約で将来について債務が発生しないものとするという結論自体は,一致が見られるのではないかと思いますが,それをどのような形で規定の上で明確化していくかが問題です。一つの可能性は,解除の効果でそれを受け止めるという方向ですが,もう一つ,あり得ると思うのは,継続的契約のほうで,解除がされれば,「契約が終了する」と定めるという可能性です。このように定めますと,契約に基づいて使用収益をさせることができなくなりますので,債務はもう発生していかないということになります。このような可能性もあり得るところですので,どちらがより適切なのか,あるいは別のより適切な可能性があるのかということを含めて,検討する必要があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 継続的契約の解除あるいは解約告知については,継続的契約に関する部分で何らかの規定を設けることは必要なんだろうと思いますけれども,こことの整合性の問題ですね。中田委員の先ほどの御意見を踏まえて,少し事務当局で検討させていただきます。   引き続きまして,部会資料34の「第3 契約の解除」の「5 複数契約の解除」及び「6 労働契約における解除の意思表示の撤回に関する特則の要否」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○新井関係官 それでは,御説明いたします。   「5 複数契約の解除」では,判例法理を踏襲して,同一当事者間の複数契約につき,そのうち一の契約に不履行があった場合に,一定の要件を満たす場合には,複数契約全部につき,法定解除権が行使できる旨の規定を設けるとの提案を取り上げております。   「6 労働契約における解除の意思表示の撤回に関する特則の要否」では,雇用契約ないし労働契約につきまして,労働者による解除の意思表示を一定期間内は無条件に撤回できる旨の規定を,民法には設けないということを提案しております。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして御意見を伺います。 ○道垣内幹事 5なのですけれども,これは判例もあるところで,ここに書いてあることはこれでもいいのかなと思うのですけれども,複数契約は解除できるのか,解除しなければならないのかが問題であり,解除できるという規定の仕方でよいのかが若干気になります。複数の契約であっても,それぞれが密接不可分になっている場合には,一つの契約の解除の効果が他の契約にも及ぶということなのかなという気がするのですが,私も詰め切れておりませんので,御意見を伺えればと思います。 ○鎌田部会長 この点について御意見をお持ちの方はいらっしゃいますでしょうか。 ○中井委員 複数契約の解除についてですけれども,少なくとも複数契約が一定の要件の下で,一方の契約について債務不履行があれば,両契約を同時に解除できるという規律については,是非,設ける方向で検討していただきたい。その要件についても,ここで書かれております目的とするところが密接に関連付けられているということと,一の契約に解除原因があって,これによって複数の契約を締結した目的が全体として達成できないときという要件でよろしいのではないか。そのときに,目的全体が達成できないというのに対しては,社会通念なりの縛りを掛けておく必要があるのではないかと思っております。   加えて,ここは同一当事者間と書かれていますから,当然のことですけれども,そういう相互の契約関係にあることが契約当事者の中において認識されている,同一当事者の場合は当然のことだから,明文の文言には出ていないという理解をしています。そのことを言う意図は,この規定を明文化するに当たって,最初の同一当事者間でという文言が要るのかという点について,更に検討していただきたいということです。その趣旨は,第一読会でも申し上げておりますけれども,複数の契約当事者間においても,適用可能なルールになり得るのではないかと思っております。   ここのルールを定立するに当たって,複数の当事者間における複数の契約についての解除の規定を設けることを別途提案するものではありません。ここで書かれている規律を設けるときに,同一の当事者間でという頭の文字は要らないのではないかという趣旨での提案です。それを踏まえた上で,要件の中に,契約当事者間が密接関連性と同一目的達成の認識のあることを要件に加えておくと,その三つ目の要件は同一当事者間であれば書く必要もない当然の事柄ですが,複数の当事者間であるときは,複数の当事者がそのことを知っているということが要件になる。そういう形で,この規定については複数の当事者間の複数の契約についても,適用可能な場面があるというルールとして明文化できないかを更に御検討いただけないかと考えております。   先ほどの道垣内幹事の御意見についてですけれども,私の素直な理解としては,複数の契約の同時解除を義務付けられるというところまでの必要はないのではないか。裁判例で出ているマンションとスポーツクラブ,マンションと何らかのプールを設置するという複数の契約があったときに,一方の契約を解除したとき,ともに解除しなければならない,若しくはともに解除する効果が発生するということまでの必要はなくて,債権者の選択可能性を残しておいて特段の支障は生じないのではないか,債権者がそれでよいと考えているときに,全ての契約まで解除になって,プールができないために,フィットネスクラブができないためにマンションに居住できなくなり,マンションに住む利益まで奪われるのは過大ではないか,と思います。 ○道垣内幹事 一点だけ説明させていただきますと,なぜ,そのような発言をしたかと申しますと,海外の事例を日本の例に即して申しますと,例えばある株式を売る人がP社とQ社の株式を買主に売ったのだが,そのときに説明義務違反があったとします。そして,P社とQ社の株式が例えば片方が上がれば片方が下がる関係にあるとか,そういうふうな形でリスクを軽減した形で売っている。こういうときに,説明義務違反を理由として,価格の下落した方の株式の売買だけを解除できるのかという問題があるのだろうと思います。   それは一括清算法のときの制定との関係で,デリバティブについて問題になった議論であって,一方の管財人が,倒産者が勝っている契約だけを残して,負けている契約だけを解除できるのかという問題,いわゆるチェリー・ピッキングの問題として議論されたところです。そして,一括清算法の前提には,複数の契約を一括として見るべき場合があるということがあります。まあ,分かったけれど,では,お前はどのように要件立てをするのかと言われますと,自信がないところがありますので,発言だけさせていただいたというわけです。 ○松本委員 今の販売方法が私には詳しく分からないけれども,恐らく個人が勝手に別々の機会に二つの株を買って,ポートフォリオを組んでいる場合には,ここの対象にはならないですよね。ここでの対象になるとすれば,やはりセットで売られているわけだから,今の場合は一つのセット商品としての扱いをするというのが恐らく当然だろうと思うんです。他方で,判例に出てきたようなケースの場合,A契約とB契約をして,両方で初めて目的を達成するという場合に,例えばB契約の不履行を理由にしてB契約だけを解除する,あるいはB契約の不履行を理由にして,A,B両契約を解除する。これは恐らく処分権主義で自由だと思うんですが,B契約の不履行を理由にしてA契約のみを解除するという,おいしいところ取りが果たして許されるかというと,それは許されないのではないかなと思います。そこはポートフォリオのケースとは,ちょっと違う扱いになるのではないでしょうか。 ○高須幹事 今の道垣内先生の御指摘のところは,今,私もにわかに考えただけなんですが,二通りあるのではないか。中井先生が御指摘になったスポーツクラブにプールができないときに,リゾートマンションのほうの契約まで解除を必ずせねばならないかどうかは,確かに裁量の余地が与えられてもいいよと思うんですが,例えば介護療養契約付きマンション賃貸借契約みたいなような場合で,介護契約とそれから介護してもらうという前提で建物も提供,それは賃貸借契約で別に契約するというようなケースの場合に,例えば介護だけを打ち切って,でも,そこには引き続き住みますというような話というのは,いかにも珍妙な結果になりかねないのではないかという気もいたしまして,そういう意味で,切り分けはよく分からない,難しいところなんですけれども,いわゆる今回,出ている要件の密接関連性あるいは目的の全体の統一性というのにも強い場合と弱い場合があって,強い密接関連性なり,目的の全体の統一性があるような場合には,むしろ,全体として解除せねばならないというような道垣内先生が御指摘になった義務という問題も,認識される余地があってもいいのではないかと,ちょっとそう思っただけなんですが,その余地を含めて検討したいと思います。 ○岡田委員 パブリックコメントにもありましたが消費者契約に関しまして複数当事者の複数契約について是非,検討していただきたいと思います。中井先生のほうから言っていただいたので,私も勇気をもらった形なんですが,最近,消費者紛争で当事者が増える一方なのです。この状況を考えますと同一当事者間の複数契約に限定されますと当事者を増やすことによって法律の網をくぐるようなことが今以上に出てくるのではないかと思えて仕方ありません。 ○岡本委員 複数契約の解除について,規定を設けることについては反対したいと思っております。複数契約について一方に解除原因があるときに,他方についても解除できる場合があるとは思うんですけれども,理由につきましては一読の際にも申し上げたので詳しくは申し上げませんけれども,判例の蓄積がいまだ十分であるとは言えないと。過不足なく要件化するというのは困難ではないか,曖昧な要件を条文化するのであれば条文化しないほうがましではないかと,そういった意見です。   仮に部会資料34の41ページにあるような要件立てをするといたしましても,密接関連性といった曖昧といえば曖昧な要件は残ってまいりますし,規定しなければ曖昧さが排除できるというわけではないといたしましても,曖昧な規定を置くよりも置かないほうがましではないかということでございます。部会資料にあるような要件立てにつきましては,そのような契約であれば複数契約でなくて,一個の契約であるというふうな評価をすべき場合というのも,多いのではないかとも思われますし,あるいは複数契約と一個の契約との区別,これをどう考えるのかといった疑問は当然,生じてくるのではないかと思います。   仮に複数の契約であるということを認めるといたしましても,一の契約に解除原因があって,これによって複数の契約を締結した目的が,全体として達成できなくなった場合という要件につきましては,そのような場合について,結局は解除を波及されるほうの契約についても,契約締結目的の達成が困難となっているということになるのではないかというふうな考え方もあるのではないかと思いまして,それ自体,解除の一般則における解除原因に当てはまるということになって,解除の一般則で対応すれば足りるというふうな考え方もあるのではないかというふうな気がいたします。例えば平成8年の判決につきまして,リゾートマンションの売買契約の中に,スポーツクラブを利用することができるという契約締結目的が含まれていたと。それが達成不可能になったのであるから,売買契約自体に固有の解除原因があるんだというふうな考え方もできるのではないかという趣旨でございます。   それから,先ほど道垣内幹事のほうから御指摘があった点につきましては,高須幹事がおっしゃったようにいろいろなケースがあるのではないかと思っていまして,結び付きが非常に強い場合には一個の契約であると評価できる場合もあると思いますし,一個の契約といかなくても,複数契約であるということは認めるとしましても,片方の解除原因に基づいて片方の解除をした場合には,解除の効果が他方にも及ぶといった程度の関連性があるような場合も,中にはあるのではないかと思います。そのようにかなり契約ごとにグラデーションがある問題なのではないかなというふうな気もいたしまして,そういった状況にあって,現段階でこういった規定を設けるというのはいかがなものかと考えます。 ○中田委員 岡本委員の御懸念はもっともだと思います。ただ,規定を何も置かないで判例に委ねるほうがより安定的かというと,そうでもないのではないでしょうか。やはり,ここで慎重に審議をして,何らかの共通の理解が得られるような要件立てをしたほうが,法律関係の明確性に資するのではないかと思います。その際に,更にもっと膨らませていって,中井委員や岡田委員のおっしゃったように,三当事者以上にも広げていけばいいではないかということにつきましては,それはそれで理解できるんですが,ただ,三当事者になりますと他の考慮要素も入ってきて,非常に難しくなるかもしれません。三当事者の問題の重要性は否定するわけではないんですけれども,しかし,差し当たっては最もシンプルな同一当事者についての規律を設ける,それについての合意を得ることも,今の岡本委員の御発言もありましたようにかなり難しいとは思うんですけれども,それをまず設けて,その上で三当事者間の契約については,それを解釈の手掛かりにするということで,差し当たってはいいのではないかと思います。   その上で,要件をどう立てるかなんですけれども,まず,複数の契約という要件が入る。そこで,先ほどの道垣内幹事の御指摘の点は,まず,そこで審査の対象になるのではないかと思います。それで,複数だということを前提とした上で,どのような要件を立てるかについては,二つ意見があります。一つは既に出てきました複数の法律行為の無効についての規律がありますけれども,そこと要件をそろえたほうがいいのではないかと思います。もう一つは御提案いただいている要件で,目的という言葉が2回出てくることについてです。目的の密接関連性と複数の契約をした目的という部分です。これは平成8年の判例を反映したものなんですけれども,両者の目的の意味は違っている可能性がありますので,前者の目的を削除するか,あるいは他の言葉に替えるかなど,更に工夫が必要かと思います。 ○中井委員 基本的には今中田委員のおっしゃられたことに,私も同じなのです。具体的な対象として念頭においているのは,同一当事者間の複数契約の解除であることはそのとおりです。ただ,今回の条文化をする中で,同一の当事者間という文言が要るのかという点について考えることは十分できるのではないか。   具体的な条文案を紹介しますと,「複数の契約について,各契約の目的が相互に密接に関連付けられており,社会通念上,いずれかの契約が履行されただけでは契約を締結した目的が全体として達成できない場合において,複数の契約当事者がそれを知っているときは,債権者は,一の契約の債務の不履行を理由に,その複数の契約全部の解除をすることができる。」というものです。今回の資料を基本的には採用しているわけですけれども,頭に同一当事者間のというのがなくても,同一当事者間を想定した条項自体の立案は可能です。だとすれば,あと解釈の問題として複数の契約当事者に拡張できるかどうかは,それこそ,これからの実務若しくは判例に委ねるという考え方ができないものか。現に裁判例の中にも,異なった複数当事者間での複数契約について解除を認めたものがないわけではないので,その道を閉ざした条項に限定することについて,更に考えていただきたい。それから,中田委員のおっしゃった無効についての規律と合わせるという考え方についても賛成をいたします。   ○鎌田部会長 はい。他に。 ○松岡委員 中井委員の御提案について,一点,お聞かせください。先ほどの御説明でもありましたし,案にもありますが,社会通念上という縛りを加えることの意味はどういうことでしょうか。その当該契約の当事者で目的としたことに加えて,更に何を要することになるのでしょうか。権利濫用その他,一般条項による制約では足りないことを含意されていると思うのですが,その足りないものは何でしょうか。 ○中井委員 一体性の判断のときに契約当事者の意思だけで判断でき尽くせるのかというところを,なお,留保したわけです。これは後段のところに入れたわけですけれども,契約を締結した目的が全体として達成できるか,できないかという判断については,契約当事者の意思のみで解決できる問題なのか,という従来の考え方の延長で,ここにも社会通念を使わせていただいています。契約の趣旨・目的については,この前後で出てきているわけですから,第一次的にはそれを考えて判断することは言うまでもない,ということを前提にしております。 ○松岡委員 そうですか。それと,もう一つの確認ですが,複数の契約当事者にまで広げることとの関係で,社会通念という縛りが特に必要になるという理解では必ずしもない,ということですね。 ○中井委員 この社会通念と複数の契約当事者がそれを知っているときという,この二つはそれを念頭に置いています。同一当事者間であれば両方とも実際はいらない場面がほとんどだろうと思っています。それを包含するために意図的に入れたというところです。 ○松岡委員 提案の御趣旨はよく理解できました。その上で,一言自分の意見を言わせていただくと,中田委員がおっしゃったように,複数当事者間における複数契約の帰すうまでは,なかなか一挙に議論が煮詰まらないのではないかという懸念を私も持っておりますので,取りあえず意見の一致をみることができるところまでを提案する当初の事務局からの御提案でよいのではないかと思っております。 ○道垣内幹事 中田委員のおっしゃった,できるところからやってきくということに基本的に賛成ですので,個人の意見としては,解除の効果が他のものにまで及ぶというところまで一気に書くということについては,意見を撤回させていただいても結構です。ただ,一つの契約か,複数の契約かというところの判断で何とかなるだろうというと,それはそうはいかなくて,一つの契約の中に複数の給付がある場合にも,その給付間に相互依存関係がない場合には,一部解除が認められる場合というのが出てくるはずだと思うのです。したがって,一つの契約の中でも一部解除が認められる場合と全部解除しか認められない場合というのがあるはずであって,数の問題だけでは処理できないだろうと思います。ただし,複雑になりますので,中田委員の意見に賛成しておきたいと思います。 ○鎌田部会長 「6 労働契約における解除の意思表示の撤回に関する特則の要否」についてはいかがでしょうか。 ○青山関係官 確認的に申しますが,6に提示されている内容に異論はございません。契約の解除の意思表示の撤回については,この論点以外,この部会でも議論が展開されていないようですし,労働契約法制上の課題として,引き続き認識していきますので,そのように処理したいと思います。 ○鎌田部会長 そういう方向性で特に御異論はございませんね。   それでは,6については御異論はないとさせていただきます。「5 複数契約の解除」については複数当事者による複数契約に対応できるような案も御提案されたところでありますが,他方で,同一当事者間から始める,そこぐらいまでが現時点では適切ではないかという御意見,また,こういうものは設けるべきでないというものもあり,御意見の分かれたところでございますけれども,それを踏まえて,引き続き事務当局で整理をさせていただきたいと思います。 ○潮見幹事 限られた時間で,すみません,道垣内幹事の先ほどの最後の話があったので,ちょっとだけ発言します。一部無効とか,一部取消しについての規定は,分科会のほうで何か議論をされているのでしょうか。一部無効の規定を置くのであれば,一部解除についても同じように何か規定を置くということができるのかどうかについて,もし,余裕があればということで構いませんので,御検討いただければ有り難いなと思っているところです。特に固執はしません。 ○鎌田部会長 無効,取消し,解除を通じて検討させていただければと思います。 ○中田委員 もしも一部解除についての規定を置くとすると,継続的契約のところでも継続性か,可分性かという問題が重ねて出てきますので,恐らくそこでの議論の対象にもなるかと思います。 ○鎌田部会長 他にはよろしいでしょうか。   それでは,部会資料34の「第4 危険負担」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○新井関係官 それでは,御説明いたします。   「第4 危険負担」のうち,「1 債務不履行解除と危険負担との関係」では,履行不能解除の要件について債務者の帰責事由を不要とした場合に,現行法においては債務者の帰責事由の有無によってすみ分けられている,債務不履行解除と危険負担とが重複して適用される場面が想定されることから,その場面をどのように整理するかについて問題提起しております。そして,重複する場面について解除制度のみが適用されることを条文上,明らかにする甲案と,何らの整理をしないまま解除制度と危険負担制度と併存させる乙案とを取り上げております。もっとも,乙案につきましては補足説明にも記載したように,法制上の観点からも種々の問題点が想起されるところですので,乙案を支持される場合には補足説明に指摘したような問題点についての御意見も頂ければと思います。   「2 民法第536条第2項の取扱い」では,民法536条第2項の実質的な規律内容を維持することを提案するとともに,補足説明において具体的な規定の在り方を検討するに際して,関連制度の見直しとの関係で留意すべきと思われる点等を指摘しております。   「3 民法第534条(危険負担の債権者主義)の規定の要否等」では,まず,アにおいて契約締結当時に同時に危険が移転することにつき,かねてより立法論的な批判の強い民法第534条について,危険の移転時期を契約締結後の一定の時期を明記するとの提案を取り上げております。そのうち,甲案は引渡し時等,一定の時期を危険移転時期として明示する任意規定を設けるとの提案であり,乙案は危険の移転時期は契約解釈に委ねることとして規定を設けないとする提案です。イでは,立法論的に批判がある民法第535条を削除するとの提案を取り上げております。ウでは,相手方の催告により解除権を消滅させる民法第547条の催告制度につき,債権者の履行請求権に限界事由が生じており,かつ,履行に代わる損害賠償責任も負わない場合には,同制度を適用しないことを,条文上明記するとの提案を取り上げています。   これらの論点のうち,「2 民法第536条第2項の取扱い」については,民法第536条第2項の実質的な規律内容を契約類型間の通則として維持することの要否は,最終的に部会で決定することを前提に,仮に契約類型間の通則として維持するとした場合に,関連制度との見直しとの関係で留意すべき点等を分科会で補充的に検討することが考えられます。関連制度としては解除の消極的要件としての債務者の帰責事由の削除や,債務不履行責任の免責要件の見直しあるいは不能概念の見直しなどが考えられます。もとより補足説明にも記載しましたように,雇用契約と契約各則の規定として,現在の民法第536条第2項の解釈によって導かれている規律を明文化することの要否及びその具体的な規定の在り方は,別途,部会で検討することを前提としております。また,「3 民法第534条(危険負担の債権者主義)の規定の要否等」では,具体的な規定の在り方等について,分科会で補充的に検討することが考えられます。これらの論点につきまして,分科会で補充的に検討することの可否についても御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明がありました部分のうち,まず,「1 債務不履行解除と危険負担との関係」について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○山野目幹事 第4の1について意見を述べさせていただきます。危険負担につきまして,その規律を維持したまま,他方においていわゆる重大不履行による解除の制度を導入することになるとしますと,両者の関係につきまして深刻な解釈上の疑義を引き起こすということは,既に部会資料において指摘されているところであります。   加えて,より本質的に考えて危険負担の制度の何が問題であるかと申しますと,当事者にとって主体的な選択がないまま,危険を負担するとか,負担しないとかいう概念操作により,対価の債務が当然に消滅したり,当然に存続することとなったりするという意味における不明確さの問題があるのではないでしょうか。第25回会議において山本敬三幹事が指摘なさったように,解除権の行使による場合には,当事者が解除権を行使するという手順を介在させて法律関係を整序することによって,このような不明確さを除き,当事者が法律関係の明瞭な道筋を自覚することを可能にするという魅力が認められると考えます。   このことは実際上の感覚といたしましても,既に1995年に行われた不動産の売買契約慣行の実態調査におきまして,その実態調査の抜粋を前回会議の机上の配布させていただきましたけれども,危険負担の効果としては民法の規定とは異なり,買主の解除権を規定するものがほとんどであるという実態が指摘されていたものであり,加えて,その際の調査報告は所見として,そのような実態を踏まえるとともに,阪神・淡路大震災により危険負担が問題となり,今後は契約書においてもある程度,詳しい内容を定めておくことがトラブルを未然に防ぐために重要であると考えられるところから,規定の内容としても民法534条に従って売主の負担とすると規定するのではなく,その効果を具体的に明記するほうが当事者に分かりやすいと思われるという提言をしていたところでございます。この度の危険負担の検討におきましても,これら従来において蓄積されてきた知見に留意なさっていただきたいと望む見地から,この論点につきまして甲案を推すという意見を述べさせていただきます。 ○鎌田部会長 他にいかがでしょうか。 ○岡委員 高須先生に確認していただいた弁護士会の多数説は,従来の危険負担を残すという説で,甲案でも乙案でもない,すみ分け論でございます。その上で,乙案について,今,山野目先生もおっしゃった46ページの深刻な解釈問題ということでございますけれども,これは危険負担で帰責事由のない履行不能があった場合は,それに対応する反対債務が当然に消滅するという運用をきちんとすれば,当然に消滅するという効果が生ずるだけで,深刻な問題は起きないのではないかと思います。   危険負担の適用がある場合でも,当事者が解除で構成して反対債務の消滅を主張するのであれば,それはそれで御自由にどうぞということと思います。仮定的な議論ですが,46ページに書かれてある解釈問題は,解除を認めなければ何の問題でもないのではないかと。解除を認めたとしても,危険負担の効果が当然に出る,危険負担優先説になるんだと思いますが,それを採った上で,解除を選んだ人が危険負担を選ばずに解除の要件が認められるときに,それをすればいいだけではないかという観点で,そんな深刻な問題ではないのではないかという議論をしてまいりました。 ○中原関係官 議論の意見を述べる前に確認といいますか,どんなことをお考えであるかという確認ですけれども,甲案を採用することのメリットで,対価の減額請求のほか,修補請求とか契約解除などの柔軟な解決が可能ということが書かれているわけですけれども,これは何か解除に一元化したら,こういう柔軟な解決ができるかといいますと,それはどちらかというと専ら契約の趣旨によるのではないかと。   したがって,危険負担で一部消滅により処理される事案であれば,解除権構成を採ったとしても全部解除ができるということには必ずしもならないのではないかと思います。そうではなくて,むしろ後発的不能みたいなものを危険負担ではなくて,瑕疵担保のルートに乗せて解決するんだと,そういうルートにするのであるとすれば,恐らく解除権一元化構成のほうがなじみやすいということになるんだとは思うのですけれども,その辺の何か理由付けと位置付けがはっきりしないのではないかという感想をちょっと持っております。    それから,危険負担について甲案を採るときのパブリックコメントをどこまで参照するかという議論はあったかと思いますけれども,その中で,解除権は不可分性により行使が制限される場合があること,消滅時効や相手方の催告によって消滅して信義誠実の原則によって行使することは許されない場合があること,解除の意思表示は到達しないリスクがあること等をどう考えるかといった問題ですとか,あるいは反対債権が譲渡された後に履行不能という事由が生じた場合に,債権者が譲受人に対して解除の効果を主張することがどこまでできるか,それが468条2項,545条1項ただし書との関係をどのように考えるかといったようなところについて,どういった制度設計をお考えなのかというところをお伺いしたいと思います。 ○新井関係官 確かに,解除に一元化すれば選択肢が広がることに,直結するということではないのかもしれません。若干この点を御説明しますと,後に議論される売買の瑕疵担保責任のところなどで,解除という手段の他に,代金減額請求権を認めるか否かという論点があって,いろいろ救済のメニューを複線化していくということが議論されています。その中でも,特に代金減額請求権については,債務者の帰責事由の有無を問わずにということにメリットがあるという意見が強かったと思われます。そうすると,正にそれは従来,質的には一部不能として危険負担で受け止めていたような部分について,代金減額請求権でカバーするという形になります。そのように,債権者の救済の道を幅広く取る方向の改正をする場合では,債務者主義を必ずしも前提とせず,解除一元化のほうが法制的な観点からの立案作業は非常にやりやすいということがあります。その一方,危険負担を単に併存させて置く場合の問題点として,先ほど申し上げた代金減額請求権などについて,これは形成権ですから効果発生のためには意思表示を要するということになるわけですが,一部不能の場合に対価の一部を当然消滅というような仕組みにつき適用場面を整理しなかった場合,そういう仕組みと,意思表示を待って効果が生じるとする代金減額請求権とが論理的に折り合うのか,法制的に説明がつくのかどうかが一つ問題になるのだろうと思います。 ○鎌田部会長 他にいかがでしょうか。 ○山野目幹事 岡委員から御提案を頂いており,また,中井委員からも書面によって御提案を頂いている甲案でも乙案でもない,一種,ネーミングを付けるとすると併存危険負担優先説とでもいう見解なのでしょうか,これについて少しまだ私が理解をしておりませんから,お教えを頂きたいと考えます。   少し前に,本日,取り上げました議論で,解除に伴う効果として履行請求権がどのような帰すうをたどるかということについては,中田委員から問題点の指摘も頂きましたけれども,基本線として履行の請求をすることができなくなるというところについては異論がないところであったと考えます。そうしますと,危険負担の効果として反対債権の給付を受ける権利を有しない,これも履行請求することができないということの一つの帰結だと思いますが,それが危険負担によって生じているときに,重ねて解除をすることを妨げないとお書きいただいていて,解除をするとやはり履行請求することができないという同じ結果が生ずるということになる,そういう御提案を頂いているように私には映ります。   そうすると,それは何と申しましたらよろしいのでしょうか,平泉で源義経が追い詰められたときに,それを庇って仁王立ちしている弁慶に対し何本も矢が放たれるのですが,ある矢が放たれたときに絶命してこと切れているものと思われますから,その後に放たれた矢というのは要は亡骸に当たっている状態になります。ここで御提案いただいているところの,妨げないとされている解除も,言わば意味のない亡骸に向けて射られている矢のごときものになるのであろうと私は感じました。   そういう法律関係を国民に向かって,こうなのですと言い,また,民法の教育においてそういう分かりにくい状態なのですということを教えなければならない立場に立つということは,人によって受け止め方が違うのかもしれませんが,私は少なくとも困惑を禁じ得ないのですけれども,その辺りはもし私の理解が間違っているのなら御指摘いただきたいし,そのとおりであるが評価といいますか,感じ方が異なるのですと仰せいただくのであれば,それはそれで,そういう御意見を拝聴したいと考えるのですが,いかがでございましょうか。 ○松本委員 山野目幹事の御指摘は理論的にはごもっともなんですが,法律の世界は結構,その種の亡きがらにむち打つようなのが多いという印象があります。例えば瑕疵担保と錯誤の競合とか,あるいは詐欺と無効の競合とか,これらは古典的な議論ですけれども,基本的にどっちでもいいんだということで実務は動いていると思います。また,消費者被害でよく出てくる悪質商法で,契約をさせられた場合の契約の無効に基づく返還請求権と,不法行為に基づく損害賠償請求権の関係についても,今から10数年前に私法学会でも議論されましたけれども,制度間競合ということで,どちらでもいいんだということだったと思うんです。理論的には一本化すべきだという議論は昔からどの論点もございますが,実務的にはどちらでもいいということで動いているので,そういう柔軟な実務を前提にすれば,今の問題はどちらでもいいと,やりたいほうでやればいいということに恐らくなるのではないかと思うんです。 ○山野目幹事 松本委員に対して手短に申し上げます。そうおっしゃるだろうと思っていたのですが,この場面は制度間競合であるとか,二重効の場面と同じではないかというお話しに対しては,同じではないものであろうと考えます。あれは錯誤と瑕疵担保とか,それから,意思無能力無効と行為能力の制限とか,そういう別な制度が競合するから,効果が二つ重なってもよいということなのであって,同じ事象に対して同一趣旨の制度を二つ作って,重なってもいいではないかというのは,いささか違うのだと感じます。 ○山本(敬)幹事 ほぼ同じことを言おうとしていましたので,続きということでお許しいただければと思います。二重効の問題は,今,山野目幹事がおっしゃいましたように,錯誤と詐欺や錯誤と瑕疵担保のように,二つの要件・効果が異なる制度があって,たまたまある同一の事件がそれぞれの異なる要件を満たした場合に,異なる効果が発生するように見える場合にどうするかという問題ですが,ここで問題になっているのは,実質的に要件が完全に重なっている場合です。もちろん,解除の要件をどう定めるかで多少の違いはあるかもしれませんが,少なくとも一方の債務が履行不能になる場合については,解除の実質要件を満たしていて,あとは解除の意思表示をするかだけです。   つまり,その意味で実質的な要件がほぼ重なっているのに,効果が一方は当然消滅であり,他方は当然には消滅しない,解除して初めて消滅するとなっていて,効果は異なる。これは,やはり法秩序の規範の定め方としては容認できないのではないか。同じ要件のもとで違う効果が生じるルールを二つ認めるのは,二重効の場合とは違う。ですので,二重効は従来認めてしまっているのだから,ここも同じだとは言えないという点で,山野目幹事のおっしゃるとおりだと思います。 ○潮見幹事 輪を掛けて申し上げることになると思いますけれども,ほぼ同じことです。更に申し上げましたら,解除と危険負担とは要件も実質的に同じ,それから,目的も,解除制度と危険負担制度のどちらも反対給付からの解放という点では共通している。にもかかわらず,二つを並べておくというのはいかがなものか。更にもう一つ申し上げますと,この場合の効果というのは単に反対給付からの解放だとか,反対給付の消滅というだけにとどまらない,それに副次的に様々な効果というものがくっついてきているわけで,その一端が補足説明のところに書かれているようなことではなかろうかと思います。   そのときに解除という選択肢を使った場合のもろもろの副次的な効果を含めた広い意味の効果,それから,危険負担という構成によった場合の副次的効果を含めた場合の広い意味の効果というものがずれていいのかという部分に対して,私はかなりの疑問を感じるところです。その意味では,これは単に契約の当然消滅か,あるいは意思表示による反対給付の消滅かという問題にとどまらない,大きな問題を抱えているところです。そこのところも含めて,中井委員の提案とかが出ているのではないかと思うのですが,私はちょっと賛成できません。 ○中井委員 そういう御指摘を受けるであろう,矛盾しているという批判が出てくることを承知しているわけです。配布させていただいた条文提案を読み上げますと,「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは,債権者は,反対給付を受ける権利を有しない。このとき,債権者は,その契約の全部又は一部を解除することを妨げない」としています。危険負担と重ねて,解除することを妨げないという部分は,本来,書かなくてもいいことを書いているんです。これは本文だけでよくて,別に解除制度があるから解除に基づく解除の意思表示はできるかもしれない。これを念頭に置いているわけですけれども,その立場を鮮明にするために,ここはあえて,このときなお妨げない,と書いたわけです。   この心は,研究者の皆さんから御指摘の論理矛盾を超えて,やはり帰責事由のない履行不能が生じたときに,反対債務はどうなるのかということについて,何らの意思表示なく消滅するという考え方でこの間ずっときた,そういう客観的事実があると思うのです。その事実について,いわゆる法律家ではなく,国民感情に照らしてどうなのかと言えば,他方の債務が帰責事由なくして消滅すれば,こちらも消滅したよね,ということが一般的な理解として通用しているのではないか。それをあえて解除の意思表示がなければ反対債務は消滅しない,こういう仕組みに変えなければいけないのかという,その点について実務家サイドからは非常な抵抗がある。   今回の東日本大震災の例を採るならば,あまたの双方未履行双務契約があったに違いない。その一方が履行不能によって消滅している,当然,帰責事由はない。では,解除の意思表示をした人がいるでしょうか,すべきと思うひとがいるとすれば,私はそれは信じられない。今回のような大震災でも,公示による意思表示の手続で解除するんですか。それを形式的に要求する理論だとすれば,そんな理論は要らないね,というのが弁護士会の感覚です。   岡委員から説明がありましたように,履行不能については,危険負担と帰責事由を認めた解除とのすみ分け論が基本にあるわけですけれども,それが今回の解除制度の見直しの中で帰責事由については譲歩せざるを得ない状況に至るであろうと考えたときに,それであっても,従来の危険負担制度をなくしてよいのか,解除の意思表示を必ず必要とするという制度に転換しなければならないのかという点に,積極的理由が感じられない。   46ページに幾つかの問題が指摘されています。(2)のすぐ下,「しかし」から始まるところで,一部滅失によって,当然,一部代金減額が生じているところで,どう整合させるのか。私としては解除の要件が充足すれば解除権を行使して,ゼロにしても別に構わない,その二つの選択肢を与えてもよいという考えに立つわけです。同じ場面で二つの制度があるのは,無効と取消しの場面とは違うという山本敬三幹事等の御指摘は恐らく正しいと思います。同じ場面を想定して二つの矛盾した制度を置くことに対する批判と理解したらいいのかもしれませんけれども,この場面で,当然減額しながら,他方で解除による全部の反対債務の消滅を認めても構わないと考えています。   また,その下の乙案を採用した場合の問題点として,代償請求権の行使を妨げる問題について御指摘がありますけれども,これは現行法でも恐らく変わらないはずです。しかも,代償請求権との関係でいうなら極めてレアなケースについての御指摘ではないかと思っています。これらの指摘を受けて論理的に破綻しているから,解除一元化に賛成できるか,というとなお留保したい。   こういう御批判を受けるだろうという中で,昨日の会議の中でも出てきた譲歩案が,私の代案です。つまり,「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは,債権者は,反対給付の履行を拒絶することができる。このとき,債権者は,その契約の全部又は一部を解除することを妨げない。」というものです。基本的に解除権者に委ねる。しかし,解除の意思表示を必須としない,相手方から履行請求を受けたとき,つまり,危険負担制度によって消滅したと思っている,だから,解除の意思表示もしない債権者がいる。そこへある日,突然,履行請求が来たら,それは履行拒絶できるという形で危険負担制度の実質を残すという履行拒絶説で,こういうこともあり得るのではないか。 ○村上委員 解除一元化案にもある種の魅力があるとは思いますけれども,やはり,どうしても気になりますのが,中井委員もおっしゃったとおり,解除の意思表示がやりにくい場合があるのではないかという点です。通常の事態であれば,解除の意思表示をすること自体にそれほど困難があるわけではない場合も多いだろうとは思いますが,今回の大震災のようなことを想定いたしますと,実際問題として解除の意思表示をすること自体が非常に困難であるというケースがありますし,そのような場合には,危険負担の制度が適用されるべきなのではないか。こういうことを考えますと,直ちに解除一元化案に賛成するにはちゅうちょを覚えます。 ○内田委員 中井委員に質問なのですが,いわゆる一部滅失といいますか,損傷あるいは現代語前の民法の言葉でいうとき損が生じたという場合の扱いについてです。これは最初のほうにあった中原関係官の御発言にも関わることですけれども,毀損あるいは損傷の割合に応じて,当然に対価が減額するというのが危険負担の処理であるのに対し,解除一元化というのは,その場合に解除することもできるという選択肢を与えるということです。損傷した物を受け取っても意味がない場合があるからです。他方で,解除しないこともできるわけです。   つまり,解除で処理するということになると,典型的には売買契約ですので,売買契約で契約締結後の目的物に売主の帰責事由なしに損傷が生じたという場合の買主の救済手段の選択の問題になるわけです。解除の要件を満たせば,つまり契約目的を達成できないとか,重大な不履行とかの要件が満たされれば解除することができる。あるいは,解除せずに代金減額請求,これは危険負担と結果的に同じになりますけれども,減額請求を選択することもできるし,また,契約の趣旨によっては修補の請求ということもあり得る。   実際に新築のマンションの売買などですと,契約がいつ成立するか,実務はいろいろだと思いますけれども,成立して引渡しまでの間に地震などで少し亀裂が入った。しかし,簡単に修補できるというような場合には,多分,危険負担を適用して代金を減額するのではなくて,修補して引き渡すということをやっているのではないかと思います。そういう実際上の買主の様々な契約上の救済手段の選択を可能にするという意味では,解除で処理をしたほうが買主の保護になるのではないかというのが部会資料に書かれていることなのですが,その場合はどうお考えになるのでしょうか,危険負担を残すという方針を採った場合に。 ○中井委員 危険負担として考えていくならば,一部滅失だったら一部滅失部分の対価が当然に減額することを前提にせざるを得ないと思います。そのとき買主側は,内田先生もおっしゃったように解除の要件を満たしているわけですから,解除を選択すること自体は併存説ですから認める。このときは全部消滅になってしまいますから代金もゼロになって終わる。次の代金減額請求との矛盾については,代金減額請求権を行使すれば,結論としては同じになるはずですから,観念的に危険負担によって減額したものと,代金減額請求権の行使によって減額する額が変わるというのは論理としてはないはずでしょうから,これも解決する。   あと残るのは,買主側の修補請求権という選択肢を奪うということなのかもしれません。そういうことがあるとしても,代金減額分に対応する修補をすれば足りるわけですから,現実的な解決としては修補すればいいだけのことで,それは合意になるのかもしれません。危険負担を徹底すれば,減額はされているわけですから,修補するとすれば減額された代金で修補したという理屈になるのかもしれません……。 ○内田委員 併存説では,例えば買主が解除を選択したのに対して,危険負担では代金が当然減額になっているはずで,そちらの効果を売主が主張することが可能になりませんか。あるいは買主が修補を請求したのに対して,代金の当然減額であるということを売主が主張する。そこで効果のバッティングが起きるわけですね。どちらかを優先するルールを作っておけばいいというのは解決としてはあり得るのですが,なぜ,買主に選択肢を認める解決ではいけないのかということなのですが。 ○岡委員 修補できる場合は履行不能ではないので,危険負担は適用されないと思います。それから,代金減額請求を買主がしないというのは,危険負担の主張をしないというだけで,それは自由ではないかと思います。解除の主張をするか,危険負担で代金が減っているよという主張をするかは買主の自由で,それほどそごはないように思いますが。 ○内田委員 私の理解が正しいのかどうか分からないのですが,損傷とかき損というのは,特定物ドグマを前提とした不能論でいうと一部不能という説明にはなるかと思いますけれども,要するに傷が付いているだけの話ですよね。契約締結後に売主の帰責事由なしに傷が付くということはあり得ることですが,その場合のリスクを売主が引き受けていて,引渡しのときに修補して渡すということは,現実の不動産売買ではあることだと思うのです。想定しているのはそういう場合です。 ○中井委員 別のことに移ってしまうのかもしれませんけれども,解除一元化を唱えられる方々も,これは場面が違うということで第一読会でも説明されましたけれども,賃貸借契約における建物の一部滅失,労働契約において一部労務提供ができない状態が生まれた場合,これらについては賃料減額でいえば,当然減額説に立たれると思うのです。これは場面が違うから解除権は行使できないという説明で終わるわけですか。解除すると根本がなくなってしまいますから意味がないので,ここは解除権行使説でも一部当然減額が生じる。そこでは危険負担の観念を容認する。ここで認めることとは矛盾してないんでしょうか。同じ考え方をそこで採れるのなら,売買代金についてもその考え方があっていいと思うのですが。 ○中田委員 今の点はまた賃貸借のところで検討されると思いますけれども,賃料債権というのはいつ発生するかということに関わるんだと思います。抽象的な意味での賃料債権というのは契約締結時に発生しているとしても,具体的な賃料債権は目的物を使用収益して初めて発生すると考えることもあり得るわけですので,そこは賃貸借の特有の問題として,考えることができるのではないかと思います。 ○中原関係官 内田先生に今,問題提起を頂戴したことの私の理解ですけれども,この文脈の中で解除一元化構成を採ったら柔軟な解釈ができるけれども,危険負担だからできないというようなことではなくて,後発的不能についても瑕疵担保責任で捉えることとして,すなわち,契約締結当時の意思解釈ではなくて,一部不能が起きた時に瑕疵担保責任で対応することをデフォルト・ルールとしますという立て付けをまず置くんだという前提があり,そうした前提を置くこととするなら,解除一元化構成の方が組みやすいということになるでしょうねというような説明の仕方になるのではないかなと考えたのですが。 ○内田委員 全く御指摘どおりだと思います。私は最近の学説の有力な考え方を前提に話をしてしまっているので,やや理解しづらいところがあるのかと思うのですが,特定物についての民法の瑕疵担保責任についても瑕疵の存在時期を契約締結時と考えずに,引渡しの時に瑕疵があれば,担保責任を売主は負うという考え方がだんだん有力になってきている。それに基づいて,売買のところでそれを前提としたいろいろな救済手段を置くという提案もなされているわけですが,そういう制度になった場合には,解除一元説というのは結局,契約責任による救済を買主に与えるという考え方になるということだと思います。 ○潮見幹事 私自身の考え方を申し上げますけれども,考え方というか,枠組みなんですけれども,解除に一元化するというのなら,それはそれでよいと思います。他方,履行不能の場合について,何人かの実務家の先生方がおっしゃっておられたところに関わるんですが,危険負担に一本化というか,反対債務を当然に消滅させ,解除は認めないという枠組みを採るのというのであれば,これはこれとして一貫すると思うんです。前に一度申し上げたと思うのですが,ドイツで債務法の改正をしたときに,ある一時期には,解除に帰責事由は要らないという前提ですけれども,履行不能の場合には当然消滅という構成を採り,この類型では解除を併存させないという提案もされておりました。それはそれとして一貫すると思うんです。   問題は解除と危険負担,つまり,意思表示による消滅と当然消滅構成というものを併存させるというやり方自体に,私には解せない部分があるのです。理由は二つあって,一つはもし,ここで債務が当然に消滅するということを認めるということであるのならば,なぜ,そこで,解除の方法を残して,債務を消滅させるには解除の意思表示をしなければいけないとするのかが分からない。履行不能の場合には,反対債務が当然消滅するという形で一本化すれば,それでよいではないか。なぜ,それをおっしゃらないのか。   それから,もう一つは併存させるといった場合に,当然消滅,危険負担構成を採った場合に,そこから導かれる先ほど申し上げたもろもろの派生的なものも含めた効果というものと,それから,解除という手段を採った場合に,解除の意思表示をした場合に,そこから導かれる効果,広い意味の派生的なものも含めた法律関係というものが違ってくるし,違ってよいという趣旨まで入っているのか。当然消滅という形で構成をしていく場合にはαという効果グループができて,解除という場合にはβという効果グループができるとします。αかβかは債権者に選ばせればいいではないかという趣旨まで入っているでしょうか。   もし,そうであれば,先ほどから繰り返し出ていることですが,要件面も同質,目的も同質であるにもかかわらず,派生的な効果も含めたαとβが違ってよいということの説明ができないのではないかと思います。もう一度,言いますと,併存構成自体,私は成り立ち得ないのではないかと思います。解除に一本化するか,それか,履行不能の場合には解除は認めず,当然消滅で一本化するというような形で判断をせざるを得ないと思います。   ついでながら,もう一つ,言いますと,仮に履行不能の場合に危険負担に一本化する,当然消滅に一本化するといった場合には,履行不能という債務不履行類型と他の場合とで,これほど大きな差を設けていいのかという部分についても,問題はあろうと思います。 ○筒井幹事 所用により退席された大島委員から発言メモが提出されておりました。読み上げて紹介するタイミングが遅くなり,失礼いたしました。「1 債務不履行解除と危険負担との関係」についての御意見です。   危険負担の問題については,東日本大震災発生後の取引トラブルの実態も踏まえて検討し直すべきではないかと考えています。また,今回の震災事案などでは,危険負担による処理のほうが簡明であるという指摘もあり,甲案(解除一元化案)を採用した場合と,乙案(単純併存案)を採用した場合とで,効果面で結果的にどのような違いが生じるのかが示されない限り,方向性を決めるのは難しいというのが現時点での率直な意見です。 ○岡委員 潮見先生への反論というか,対応でございますが,当然消滅,危険負担の範囲を合理的に狭めるべきだとは思いますが,賃貸借の場合のように残るべきものは必ずあります。必ずあるその部分については危険負担一本説が正しいのではないか,そちらのほうが分かりやすいのではないかという意見が弁護士会の多数意見です。   その上で,なぜ,解除並存を匂わせているかというと,二つ理由がありまして,一つは立法的妥協で,別に当事者が選ぶ場合に解除を認めてもいいではないか,危険負担とはっきり証明できない境界線の場合に,解除で軟らかくいく場合を認めても別にいいのではないか,そういう妥協の面が一つございます。もう一つは一番最初に私が少しはっきりしないまま申し上げたような,必要最小限のパーツとして反対債務は当然消滅すると。でも,その部分だけではない将来に向かっての契約の拘束力から逃れたいような事案については,先生がおっしゃったプラスβの部分かもしれませんけれども,解除を認めれば必要最小限の反対債務の当然消滅プラス将来債務からの離脱という広い効果が認められる場合があるのではないか。自分でちょっと説明できないんですけれども,そういう場合には積極的に解除並存を認めるべき理由があるのではないかという考え方,その二つの理由から解除並存説を排除しない,中井先生の妨げないという考え方に今はなっております。 ○松本委員 先ほど袋だたきに遭いましたけれども,やはり私は選択を認めても別に実害がなければいいのではないかと思います。つまり,論理的に考えて当然消滅だから既に存在しないんだということを本人が主張していないのに,法律で決め付けるほどのことはないのではないか。危険負担というのは,言わば危険負担を主張する,主張しないというレベルで選択ができるものだと考えれば,危険負担のルートでいくか,あるいは解除という意思表示をかませてやるかという,選択肢はあってもいいのだろうと。   そして,先ほどから何回も出ています震災のことを考えると,やはり,実務的には意思表示なしで契約関係が終了しているということにするニーズは非常に高いんだとすれば,それを認めるルートは残しておいてもいいのではないだろうかということです。先ほどの無催告解除の話に戻りますと,無催告解除のできる場合があり,催告しないと解除ができない場合がある。しかし,どちらに該当するか分からない。無催告でも解除できる場合だと思うんだけれども,念のために催告しておこうかということで催告するということは普通にある話だと思うのです。解除の意思表示をきちんとしておくことによって,契約の効果の終了を正当化する状態をきちんと作っておこうと思う人は,解除の意思表示をすればいいし,それができない場合はしなくても危険負担を主張できるという余地は,残しておいてもいいのではないかと思います。 ○深山幹事 ここのところについては,弁護士会の多数の意見と異なる孤立説なので,余り発言をしてこなかったんですけれども,また,一般的に言うと,複数の救済手段を債権者なり当事者に認めるということについては,おおむね複数の武器はあっていいのではないかという考え方をとっている立場ではあるんですが,この問題に関してはどうもそう割り切れないかなと思っております。解除をする,しないという選択肢を与える,つまり,しないという選択肢も含めて与えるということに,それはそれで意味があると思うんですが,問題はそのときに相手方が危険負担でもうなくなっていますといった場合の問題です。先ほど内田先生もその点を言及されましたけれども,解除する側は解除をしないという選択をしたのに対して,相手方は危険負担で消滅しているでしょうといったときの調整の問題がどうしても残るんですね。   これは単に二つの武器を与えて,どっちを使ってもいいという問題では解消されない問題で,相手方が危険負担を主張したときにどっちが優先するのかが問題となります。優先する基準を作らなければいけなくて,そうなると,複数の武器を与えるという発想からすると,解除権者のほうに選択権があるんだというルールを一つ作れば,それはそれで一つルールとしては完結するんでしょうけれども,そういう複雑なことまで入れて併存させるのがいいのかと考えると,ここに関しては並存というのはなかなか難しくて,解除の履行不能要件のところで,帰責性を外すという選択をするかどうかという根っこの部分の問題はあるんですけれども,しかし,それを容認するのであれば,あとは解除一元論になるという研究者の先生方の論理も理解できますし,実務的にも今のようにバッティングしたときの処理のことを考えると,これはこれでやむを得ないのかなと考えている次第でございます。 ○潮見幹事 今まで議論になっていなかったことで,一点だけ,考えておいていただければと思うことがあります。ある委員の方と懇談をしていたときに話をしたところなんですけれども,今までのここの部会の議論というでは,解除をする債権者と,それから解除の相手方,つまり,債権者と債務者の間の関係のみといいますか,それを中心に議論していたところがあろうかと思いますが,そういう契約関係に第三者が介在してくることがあります。   ここで解除構成を採った場合には,あとは解除と第三者の問題で,現行法でいったら545条の解除前の第三者の問題あるいは解除後の第三者という問題になっていきます。どっちにしても契約は解消されたという前提で第三者の地位というものが考えられることになります。それに対して危険負担という構成を採ったら,債権,債務は消滅するのでしょうが,契約関係はどうなるのかというのは意外に議論されていないというか,契約関係は維持されているのではないのかとも思われます。 ○松岡委員 危険負担の場合には契約関係は,正に解除しなくても当然に消滅している,と理解されているのではなかったでしょうか。 ○潮見幹事 その場合に第三者の保護というのは一体どうなるのでしょう。545条の規定に対応するようなものは危険負担のところにありませんよね。これはほんの一例ですけれども,第三者の問題も含めて,少し考えなければいけないのではないのかと思ったということだけです。 ○松本委員 戦線がどんどん広がっているんですが,恐らく解除の第三者が出てくるようなタイプと,危険負担で震災のような例を想定した場合とでは,相当,シチュエーションが違うので,一般論として第三者はどうなんですかという議論はなじまないのではないかと思います。実例を出していただければ議論しやすいですが。  それと,もう一つ,深山幹事がおっしゃった相手方が危険負担を主張してきたらどうなるんですかということの意味がちょっと理解しにくいんですが。私の理解では危険負担というのは,相手方がこちらに対して履行請求をしてきた場合に,債務の履行を拒絶できるための一つの根拠として使えるものだと思っています。相手方が危険負担を主張して私に何を要求してくるのかというと,それは何もなくて,むしろ,純理論的にはこちらが解除の主張をした場合に,危険負担でもう消滅しているんだから,あなたの解除の意思表示は,法律上,無意味だという主張をしてくるかもしれないけれども,それは危険負担の効果の発生を自白しているわけだから,余り意味がないという気がしますので,相手側からの行使というのは考える必要はないのではないかと思うんですが。 ○松岡委員 関連した質問です。私の誤解に基づく可能性もありますけれども,併存説を主張される方が今回の東日本大震災の例を挙げられて,解除の意思表示は実際にできないとされています。しかし,そこでは,どういう紛争になると考えていらっしゃるのでしょうか。行方不明だと思っていた債権者がひょこっと現れて,履行請求をしてくる場面がそうかなと思います。   しかしながら,これは履行請求をしてきた債権者の債務が不能によって履行できない状態であることを前提とした議論ですから,履行請求を受けた債務者は,まずは同時履行の抗弁権で,おまえさんが履行請求するなら反対給付をしろと当然主張できます。その時点で,請求してきた債権者が反対給付をすることができないことが判明すれば,その時点で解除の意思表示をしても間に合います。解除の意思表示をすることによって契約関係が明確になくなるとして,特に差し障りがないと思います。それゆえ,特に震災のような状況で意思表示ができない問題点があること自体は分かるのですが,実際,それによってどのような困難な紛争が生じると想定されているのかが分からないのです。 ○中井委員 紛争は起こらないんです。なぜなら,みんな,消滅していると思っているから。請求もしないし,解除もしない。その理由は,反対給付は消滅していると理解しているからではないのでしょうか。その実態をそのまま法文にしているのが危険負担の制度だと,そう私は理解していますので,おっしゃるとおり,5年後にひょっとして出てきて履行請求したら,本来の給付をしていません,履行不能でなくなっていますから,その時点で請求がくれば解除の意思表示をすればいい。それが論理だろうと思います。   現実はひょっこり出てきた人が5年前,売買して履行していないけれども,請求するということ自体しない。なぜしないのか。それは債務が既に消えていると思っているからなんです。それをどうして明文化しないんですか,何で,そこに解除の意思表示を要求するんですか。その不合理を単純に思っているわけです。皆さんの論理を聴くとそうだな。二つの権利があれば複雑な場面が生じることについて,なかなか的確に反論できないことを承知しながら危険負担を残すのは,現実の国民の認識はそうではないでしょうか,根拠はそこに尽きています。私の認識としては。 ○山野目幹事 請求しないのは,その人が危険負担の制度を知っているからなのでしょうか。到底,そうは思えなくて,ですから,私は先ほど宅地建物取引業者の不動産契約慣行を御紹介したのであって,正にあれは阪神・淡路大震災が起こったからこそ,道筋を明瞭にするためには解除権構成を契約書に明記しておかなければいけないという問題意識があそこで芽生えたものであると考えます。 ○中井委員 意識のある人は,解除権で処理するのが実務だと思います。意識しない人は危険負担で処理されているだろうと思います。請求もしないその理由は,反対債務は消滅しているという認識があり,解除の必要性もないからで,紛争の予見可能性があれば,先ほど内田委員もその前の解除のところでおっしゃられましたけれども,実務的には,危険負担によって消滅しているかどうか分からないときに解除の意思表示をして,反対債務を消滅させる,恐らくそういう実務を執っていると思います。不動産の売買契約書の中には,解除できることを明文化しているんでしょう。それは不思議な対応ではないと思います。しかし,反対債務の消滅が明らかなときに解除の意思表示をするでしょうか。 ○松岡委員 山野目幹事もおっしゃいましたように,契約関係を明確にするために解除の意思表示を要求することが,なぜ不合理なんでしょうか。 ○中井委員 問題の設定の仕方が違うのかもしれません。請求があれば解除の意思表示をして,終了するという考え方については十分理解していますが,そういう場面は生じないと思っているんです。なぜ,生じないのかなんです。東日本大震災で売買において家が流されても,売買契約の反対債務の履行請求をしてくるでしょうか。私には代金請求権があるというでしょうか。それはしないのではないですか,そのときにも解除が必要というのでしょうか,ということを繰り返し申し上げている。 ○内田委員 時間がもう過ぎているのに申し訳ありません。繰り返しになりますがもう一度だけお伺いしたいのですが,地震などの原因で目的物が半壊したとします。危険負担でいくと,その壊れた割合に応じて対価も下がる。下がるけれども,まだ残っている。しかし,契約の趣旨からすると,そんなものをもらっても意味がない。買主としては解除したい。ここで効果は明らかに衝突するわけですが,それは中井先生の案だとどちらが優先するのでしょうか。 ○中井委員 併存説に立てば,当然,代金は減っているという一方で,解除権もある場合,解除権の行使を妨げないという理屈になるのですが。 ○鎌田部会長 その場合に,瑕疵担保の適用があるかないかによっても,処理の仕方は変わってくると思います。 ○山本(敬)幹事 そのまま終わってしまってはいかがなものかと思って付け加えるだけですが,先ほど潮見幹事が指摘された危険負担と第三者という問題は,通常の売買契約では問題にならなくて,交換契約で問題になるのだろうと思います。つまり,一方の物の引渡債務が履行不能になったときに,もう一方の物の引渡債務は既に履行されていて,第三者にまで物が行っているという場合に,危険負担と第三者という問題が生じるし,解除と第三者という問題も生じるということではないかという点だけは付け加えておきたいと思います。 ○潮見幹事 AとBがいて,甲という不動産と乙という動産があって,甲がAからBに渡され,更にBからCに渡されている。他方,乙はBからAへの給付は履行不能になっているという,こういう場面です。 ○鎌田部会長 どのぐらい発生頻度があるかは分かりませんけれども,その場面が解除と当然消滅で結論の違いが出てくる可能性がある場合ということですね。それから,もっとまれだと思うんですけれども,当然消滅だと思って解除しないでいたら,解除権が時効消滅に掛かったのに,反対債権がなお生きていたという,こういうふうなケースは,教壇設例でしかないんですけれども,あえて議論するとすれば,あり得るかもしれません。   今日は資料35までいきたいと思いつつ,資料34についてもなお積み残しが相当程度残っています。危険負担も1しか対応できていませんが,「1 債務不履行解除と危険負担との関係」につきましては,甲案,乙案が提示されていますが,中井委員の御提案は乙案とも違って,単純併存ではなくて積極併存説,単純並存の場合は二つ制度があるだけですから,解釈論上,どっちが優先するかというふうな議論の余地がなおあるんですけれども,積極的に両方を選択的に使い分けることができるという,第3案であるように理解しましたが。 ○中井委員 先ほど申し上げましたけれども,「このとき」以下は,ここで明示的に書いたほうが分かりやすいということで,単純併存説の意味で「このとき」と書いたんですが,それを書くことによって第3案になるんでしょうか。 ○鎌田部会長 積極的に選択的行使を認めるのかどうか。要するに併存説の中にも積極的に選択を認めるという説と,例えば無効なんだから無効が優先してしまうというように,訴訟の中ではどっちか分からないから解除を主張してみたけれども,実は危険負担による当然消滅だったというときには危険負担のほうが優先するという,岡委員の御議論は何かそういうふうな感じだったんですけれども,そういう説があるのではないか。好きに選ばせて,どっちでも自在に使い分けていいという意味での併存説と,優先順位はどっちかについてもいいけれども,制度としては二つあるけど法条の適用に優劣関係を認める余地があるという併存説とは,ちょっと違うのかもしれないと,お話を伺いながら考えていたんですけれども。 ○松本委員 乙案は,特段の規定を設けないということは,そこを曖昧にして現状のまま,両方が使えますよということでとどめておこうと。 ○鎌田部会長 現状よりも解除の適用範囲が広がっている。 ○松本委員 解除を広げた上で,重なる部分について従来どおり自由ですよということでしょう。取消しと無効とどっちでもいいというのと一緒で。 ○鎌田部会長 どっちでもいいという解釈をするのかどうか。 ○松本委員 だから,その点は決めないという意味でしょう。中井案はそうでしょう。 ○鎌田部会長 分かりました。そうしたら,取りあえず,甲案,乙案,それぞれに支持者がいたということですね。  今後の進め方が更に心配になってきておりますけれども,時間的に限界が来ていますので,すみません,途中ですが,本日の審議は一区切りとさせていただきたいと思います。   「第4 危険負担」の2以下につきましては,既に事務当局からの御説明は頂いているところでございますけれども,これについての御意見を伺うのは次回の冒頭ということにさせていただきたいと思います。何か特に御発言はございますでしょうか。特に御発言がないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   次に,分科会についての報告事項でございます。本日の審議におきまして,「第3 契約の解除」に関連いたしまして,分科会で補充的に御検討いただくこととされた事柄が幾つかございますけれども,これらにつきましては第1分科会で御審議いただくことといたします。また,第36回会議において分科会で審議されることとされました部会資料31の「第2 債権の目的」のうち,「4 種類債権の目的物の特定(民法第401条第2項)」の「(1)種類債権の目的物の特定」につきましては,いずれの分科会で審議するかを留保してきたところでございますけれども,これは危険負担との関連性が強いということで,本日,危険負担についてどこの分科会にお願いするまでいけなかったんですけれども,第1分科会に併せてお願いをしたいと思っております。中田分科会長を初め,関係の委員,幹事の皆様にはよろしくお願いをいたします。   最後に,次回の議事日程等につきまして事務当局から説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 次回会議は2週間後の1月31日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省20階第1会議室です。次回は予備日として予定していただいた会議ですので,新たな部会資料を事前送付することは予定しておりません。本日の積み残しとなった部分を御議論していただくことを予定しております。   この他,分科会関係の報告等があります。まず,第3分科会の第1回会議が昨年12月27日に開催されました。この会議におきましては,机上に配布させていただいたペーパーに記載のとおり,審議が行われておりますので,その旨を御報告させていただきます。   また,第1分科会の第2回会議が,1月24日,火曜日,午後1時から午後6時までの予定で開催されます。会場は,法務省地下1階の小会議室です。第1分科会の固定メンバーの方,それから,事務当局まで事前に出席希望の御連絡を頂いた方には,会場について別途,電子メールなどで御案内を差し上げます。この会議の議題につきましては,第1分科会の第1回会議において積み残しとなっておりました表見代理のうちの重畳適用という論点,無権代理のうちの無権代理と相続という論点,それに本日の会議において第1分科会の担当とされた各論点について御審議いただくことが予定されております。固定メンバー以外の委員,幹事,関係官でこの分科会への出席を希望される方は,事前に事務当局まで御連絡いただきたいと思います。   それから,本年4月以降の会議スケジュールについて問合せを頂いております。法務省内における4月以降の会議室の使用に関して,まだ予定が立っておりませんので,確定的なことは申し上げられませんが,4月以降につきましても火曜日の開催を原則とさせていただきたいと思います。これまでのところ,部会の正規の会議はおおむね3週に1回のペースで開催し,分科会については,個々の分科会が9週に1回,トータルで3週に1回のペースで開催されますので,この部会全体としては3週に2回は確実に会議が開催されることになっております。それに加えて,部会の予備日をある程度,あるいは相当多くの回数と申し上げたほうがよいかもしれませんが,確保していただくことを御提案したいと考えております。それから,これはまた分科会での御相談が必要ですけれども,分科会の予備日を設定することについても提案させていただく可能性があります。そういったことから,本年4月以降につきましては,大変恐縮ですけれども,当面,あらゆる火曜日,祝日でない全ての火曜日について,御予定を空けておいてくださいますよう,本日の時点でお願いしておきたいと思います。どうぞよろしく御協力をお願いいたします。 ○鎌田部会長 よろしくお願いします。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   本日も不手際で予定時間を大幅に超過いたしましたけれども,最後まで熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-