法制審議会           第166回会議 議事録 第1 日 時  平成24年2月7日(火)   自 午後1時30分                        至 午後3時34分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(仮称)」を実施するための子の返還手続等の整備に関する諮問第93号について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 (開会宣言の後,法務大臣から次のように挨拶があった。) ○小川法務大臣 法制審議会第166回会議の開催に当たり,一言御挨拶申し上げます。   委員及び幹事の皆様方におかれましては,御多忙の折,参加いただきました。また,法制審議会の運営に関しまして,日頃御協力いただいておりますことを,深く感謝申し上げます。   さて,本日は,昨年6月に諮問いたしました「「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(仮称)」を実施するための子の返還手続等の整備に関する諮問第93号」について御審議を頂きたいと思います。この諮問につきましては,ハーグ条約部会において調査・審議が行われた結果,「「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(仮称)」を実施するための子の返還手続等の整備に関する要綱案」が取りまとめられ,本日,部会長から報告がされるものと承知しております。   このハーグ条約につきましては,早急に所要の法整備を図り,適切な措置を講ずる必要がございますことから,部会においても精力的に調査・審議をしていただいたと承知しております。委員の皆様方には,御審議の上,できる限り速やかな答申を頂きますよう,お願い申し上げます。   また,本日は民法(債権関係)部会及び会社法制部会の各部会長からも,各部会の審議の途中経過の報告がされるものと承知しておりますので,これらにつきましても御審議をお願いしたいと存じます。   なお,民法(債権関係)部会におきましては,昨年4月に「民法の債権関係の規定の見直し」について,中間的な論点整理を取りまとめ,また会社法制部会におきましては,昨年12月に,「企業統治の在り方や親子会社に関する規律等の会社法制の見直し」について,中間試案を取りまとめ,それぞれパブリック・コメントの手続に付し,関係各界を始めとして,広く一般から意見を公募したとの報告を受けております。   それでは,これらの議題等についての御審議をよろしくお願い申し上げます。 (法務大臣の退出後,委員の異動紹介があり,引き続き,本日の議題につき次のように審議が進められた。) ○野村会長 それでは,本日の議題に入りたいと思います。   本日の議題であります,「「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(仮称)」を実施するための子の返還手続等の整備に関する諮問第93号」の御審議をお願いしたいと存じます。   まず,ハーグ条約(子の返還手続関係)部会における審議の経過及び結果につきまして,同部会の髙橋部会長から御報告をお願いいたします。 ○髙橋部会長 ハーグ条約(子の返還手続関係)部会の部会長の髙橋でございます。   諮問第93号につきまして,先月23日に開催された部会第12回会議におきまして,「「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(仮称)」を実施するための子の返還手続等の整備に関する要綱案」を決定いたしましたので,同部会における審議の経過及び要綱案の概要につき,御報告をさせていただきます。   まず,審議の経過でございますが,諮問第93号は,「「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(仮称)」を締結するに当たって,同条約を実施するための子の返還手続等を整備する必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」というものでございました。この諮問は,昨年5月20日の閣議了解において,我が国がハーグ条約を締結してこれを実施するために必要となる様々な準備のうち,子どもを返還するための司法手続等の立案を法務省において行うものとされたことを受けたものであると理解しております。   この諮問を受け,昨年,平成23年6月の法制審議会第165回会議におきまして,ハーグ条約(子の返還手続関係)部会が設置されました。当部会では,昨年,平成23年7月から調査・審議を開始し,9月末に中間取りまとめを行い,事務当局において約1か月間パブリック・コメントの手続を行いました。また,有識者からのヒアリングも行いました。その後,中間取りまとめに対して寄せられた意見等も踏まえ,更に調査・審議を重ね,先月,1月23日に開催された第12回会議におきまして要綱案を決定いたしました。   以上が,要綱案の決定に至る審議の経過でございます。   要綱案の概要でございますが,御説明申し上げます。   まず,この要綱案で定めております子どもの返還のための司法手続の全体像を御説明し,その後,要綱案の記載の順序に沿って,部会で議論になった部分を中心に御説明申し上げます。   ハーグ条約に基づいて子どもの返還を求めるための司法手続は,子どもの連れ去り又は留置により監護権を侵害された者から,現在,子どもを監護している者を相手方として,家庭裁判所に子どもの返還の申立てをすることにより開始し,この申立てを受けた家庭裁判所は,非公開で,当事者が提出した資料や裁判所が職権で収集した資料に基づいて,連れ去り又は留置の直前に子どもが常居所を有していた国に子どもを返還するか否かを審理・判断することになります。   また,ハーグ条約では,紛争の友好的解決を可能な限り図るべきものとされておりますので,当事者間の話合いによる任意の解決を図る手段として,調停又は和解の手続によることもできる仕組みを設けております。   そして,子どもの返還の申立てについての裁判所の判断に対しましては,高等裁判所に即時抗告,更に最高裁判所に許可抗告,特別抗告ができることとしております。   このような手続を経て,子どもの返還を命ずる裁判が確定したにもかかわらず,相手方がこれを任意に履行しないときは,申立人はまず間接強制の申立てをすることができ,それでも相手方が子どもを任意に返還しないときは,更に申立人は子ども返還の代替執行の申立てをして,相手方に代わり常居所地国への子どもの返還を実現することができる,こういう制度を設けることとしております。   以上が概要ですが,引き続き要綱案の項目に沿って御説明申し上げます。   まず,要綱案の「第1 子の返還に関する事件の手続等」でございますが,ここで子の返還に関する事件とは,子どもの返還の申立てを受けて,その可否について判断する子どもの返還申立事件と,要綱案の34ページ以下に記載しております出国禁止命令等の申立てを受けて,その可否について判断する出国禁止命令申立事件の両者を含む概念として用いております。   要綱案の冒頭1ページでございますが,「1 返還事由等」では,どのような場合に子どもが元の国に返還されるのかということについて記述しております。具体的には,1ページの「(2)子の返還事由」では,裁判所が子どもの返還を命じるための要件を,「(3)子の返還拒否事由等」では,裁判所が子どもの返還を拒否する場合の要件を,それぞれ記載しております。これら子どもの返還事由及び子どもの返還拒否事由につきましては,いずれもハーグ条約に規定されている文言どおりですが,ハーグ条約第13条第1項bに相当する要綱案の2ページの冒頭,ⅳの返還拒否事由の要件につきましては,部会でも様々な議論があったところであります。このⅳの要件は,「常居所地国に子を返還することによって,子の心身に害悪を及ぼし,又はその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること」となっておりますが,この要件の内容は抽象的であり,実際にどのような場合がこれに該当することとなるのか分かりにくいため,当事者の予測可能性や裁判規範としての明確性の観点から,これをより具体的に規定することができないかどうか,これを議論いたしました。   検討の結果,ここでは要綱案の2ページの②に記載のとおり,申立人が子どもへ暴力を振るうおそれ,申立人が子どもに心理的外傷を与えることとなる暴力等を相手方に振るうおそれ,申立人又は相手方が子どもを監護することが困難な事情の有無といったⅳの要件を認定するに当たっての裁判所の考慮要素という形で,明記することといたしました。   次に,2ページの「2 子の返還に関する事件の手続の通則」ですが,ここでは子どもの返還に関する事件全体に適用される一般的な事柄を記述しており,続いて3ページの「3 子の返還申立事件の手続」では,子どもの返還に関する事件のうち,子どもの返還申立事件の具体的な手続について規律を定めております。   子どもの返還申立事件の具体的な手続といたしましては,まず3ページの上のほうでございますが,「(1)総則」では,第一審を担当する家庭裁判所から裁判に対する不服申立てを受けて審理判断する高等裁判所及び最高裁判所にまで適用される事柄を,他の手続法の一般的な規定に倣い,管轄,当事者能力及び手続行為能力,参加,手続代理人及び補佐人,子どもの返還申立事件の審理等として規律を設けております。このうち,特に部会で議論がありましたのは,まず3ページ,「ア 管轄」でございます。ここでは,子どもの返還申立事件を担当する裁判所を家庭裁判所とした上で,東京家庭裁判所と大阪家庭裁判所の2庁に管轄を集中することとしております。このような裁判管轄の集中につきましては,例えば民事訴訟法の知的財産に関する訴えに先例がありますが,子どもの返還申立事件についても専門性が高く,知識,経験の集積,運用事例の蓄積,そして裁判官やそのスタッフ,弁護士の専門性の向上等を図っていくことが不可欠であること,他方で,子どもの返還申立事件が提起される件数は年間にせいぜい数十件程度と見込まれることを考慮し,東京家庭裁判所と大阪家庭裁判所の2庁とする案でまとまりました。申立ての相手方にとっては不便であることはあると思いますけれども,この要綱案でも本人が常に裁判所に出向くことを想定しているわけではなく,負担の少ない形でしかるべき運用がされるものと思っております。   そのほか,飛んで9ページでございますが,「(イ)子の参加」です。ここでは,返還を求められている子どもが裁判の結果により直接の影響を受ける立場にあることに鑑み,当該子どもが手続に参加して,自ら主張等をすることができるようにするため,子どもの返還申立事件への子どもの参加を認めるものとしております。   また,要綱案13ページの真ん中より下のほうでございますが,「(ウ)記録の閲覧等」につきましては,中央当局が関係機関から収集した情報が裁判資料となった場合の,その裁判資料の閲覧等について特別の規定を設けることといたしました。具体的には,中央当局は日本に連れ帰られた子どもの所在発見をその任務の一つとしておりますが,中央当局においては,子どもの所在に関する情報を関係機関から円滑に収集するため,その情報は一切開示しないこととすることが,外務省作成の中央当局の権限に関する規律において検討されております。そのため,仮に子どもの所在に関する情報が中央当局を経由して裁判資料となった場合,裁判手続における記録の閲覧等の方法によりこれが開示されてしまいますと,その開示を危惧する関係機関が中央当局に情報提供することをちゅうちょすることになり,中央当局による子どもの所在発見活動に支障を生ずるおそれが出てまいります。   そこで,記録の閲覧等の規律におきましては,要綱案の14ページになりますが,14ページの④に記載されておるとおり,裁判所が中央当局から提供を受けた情報のうち,相手方又は子どもの住所等が表示された記録部分は,原則として閲覧等ができないものとする規律を設けることとされております。   次に,17ページに飛びますが,「(2)第一審裁判所における子の返還申立事件の手続」,ここでございますが,次の18ページの(ウ)でございますが,子どもの返還の申立てがされた場合には,原則として子どもの返還の申立書の写しを相手方に送付することとし,相手方が早期に申立てに対応する準備をすることができるようにしております。   また,子どもの返還申立事件の手続における資料の収集方法につきましては,19ページから20ページにかけてのウ(ア)にありますように,裁判所が職権で自由な方式により裁判資料を機動的に収集することができるものとしつつ,当事者にも主体的役割を与えるため,証拠調べの申立権を認めております。もっとも,職権による資料収集と申しましても限界がございます。また,子どもの返還申立事件の性質上,適正,迅速な判断のためには,当事者の協力が不可欠であると考えられることから,裁判資料の収集につきまして当事者が協力するものとし,その協力の内容を具体的に明記することとしております。   事実の調査の具体的な方法としましては,20ページ及び21ページに記載しておりますように,家庭裁判所調査官による事実の調査等のほか,中央当局を含め官庁,公署など,適当と認めるものに対して調査の嘱託等をすることができることとしております。   更に22ページになりますが,エにありますように,子どもの返還申立事件の手続において,子どもの利益を確保する観点から,家庭裁判所は子どもの年齢及び発達の程度に応じて,子どもの意思の把握に努め,これを考慮しなければならないことを明記することとしております。   また,当事者の手続保障の観点からは,戻りまして21ページの「(ケ)陳述の聴取」のとおり,原則として当事者の陳述を聴かなければならないこととするほか,22ページのオでございますが,当事者に裁判資料の提出時期及び裁判の基礎となる裁判資料の範囲を明らかにするため,審理を終結する日を定めなければならないこととする規律を設けるなどとしております。   このような手続により審理を行った結果,裁判をするのに熟したときは,23ページの(イ)でございますが,裁判所は子どもの返還の可否について終局決定をし,(ウ)のとおり,これを当事者のほか,原則として子どもに対しても相当と認める方法で告知することとしております。   なお,裁判によらない友好的な解決はハーグ条約の志向するところでもあり,25ページの(イ)のとおり,和解の制度も設けることとしております。なお,調停に付することもできるのですが,これにつきましては後に御説明いたします。   続きまして,25ページ一番下「(3)不服申立て」では,即時抗告,特別抗告,許可抗告のほか,再審等の規律を設けております。   このうち,まず26ページ,ア(ア)aでは,当事者に終局決定に対する即時抗告権を認めるとともに,子どもに子どもの返還を命ずる決定に対する即時抗告権を認めることとしております。これは,要綱案の2ページの①のⅴにも記載してあるとおり,ハーグ条約では子どもが返還を拒んでいることが返還拒否事由の一つとされております点で,言わば条約自身が子どもに独自の権限,すなわち常居所地国へ返還されることを自らの意思で阻止し得る権限を特別に与えていると考えられることなどを踏まえたものでございます。   抗告審の具体的な手続に関しましては,例えば27ページの「d 抗告状の写しの送付等」や,「e 陳述の聴取」のように,基本的には第一審の手続と同様に当事者の手続保障を図るための規律を設けることとしております。   ところで,ハーグ条約においては,子どもの利益が最も重要なものと位置付けられておりますが,このような子どもの利益に鑑みますと,子どもの返還を命ずる決定が一旦確定しても,その後に,例えば常居所地国の国内情勢が急激に悪化したり,あるいは子どもが重病にかかり,我が国において治療する必要が生ずるなどといった,事情の変更があることがあり得ます。そのときにも子どもの返還を命ずる決定の効力をそのまま維持することが不当と認められるということがあるわけでございますが,そのように不当と認められるに至った場合には,その決定を変更することができるものとする必要があると考えられます。   そこで,本手続では,要綱案の31ページ「(4)終局決定の変更」という制度を設け,事後的な手続の変更により,子どもの返還を命ずる決定を維持することが不当と認められるに至った場合には,申立てによりその決定を変更することができることとしております。   以上が,子どもの返還申立事件の手続の規律ですが,これに加えて要綱案の34ページ,4以下では,子どもの返還申立事件が継続する場合,申立人が,あるいは相手方が子どもを国外に連れ去ることを防止するため,出国禁止命令等の制度を設けることとしております。具体的に申しますと,子どもが国外に連れ去られるおそれがある場合には,裁判所は,子どもの返還申立事件の当事者からの申立てにより,他方の当事者に対し子どもを出国させることを禁止する命令を発することができることとしております。なお,この命令を実効あらしめるために,他方の当事者が子どもの旅券を所持すると認められる場合には,出国禁止命令と併せてその旅券を中央当局へ提出するよう命ずることができることとしております。   以上が,言わば裁判手続のほうでございますが,37ページ,「第2 執行手続」のほうに移りますと,子どもの返還を命ずる決定の強制執行の方法について,ここでは規律をしております。ハーグ条約に基づく子どもの返還は,国境を越えて子どもを元の国に返還することになるわけですから,その執行の方法については,国内における執行以上に,子どもの利益に対する格別な配慮が必要になります。それをどのように執行方法に反映させるかについて,部会でも様々な意見が出されました。   強制執行の在り方については,子どもに与える影響を考え,間接強制にとどめるべきであるという意見もございましたが,返還を命ずる決定が出ているにもかかわらず,それに従わない場合に,より強力な手段が用意されていないことは,その履行を促すためにも相当ではないという意見も多く,間接強制以外の執行方法についても検討することといたしました。   その結果,部会におきましては,子どもの返還を命ずる決定が出された場合には,まず,間接強制により子どもの返還を相手方に心理的に強制することとし,間接強制決定が確定して二週間が経過しても,なお子どもの返還が履行されない場合には,更に子どもの返還の代替執行の申立てをすることができることといたしました。代替執行は,裁判によって命ぜられた一定の行為を,命令を受けた者の代わりに別の者が行うものでございますが,他人が行っても裁判所の命令の内容を実現できる場合に用いられる執行方法であります。子どもの返還を命ずる決定が出された場合,返還を命ぜられた相手方自身が子どもを連れ帰る等の方法で返還することを想定してはおりますが,子どもを元の国に返還することは,必ずしも相手方自身によってされる必要はなく,他の者であっても子どもを連れ帰る等の方法で返還することが可能であると考えられます。   そこで,民事執行法の代替執行の制度を活用しつつ,子どもの利益にも配慮し,よりきめ細かい規律を置くことといたしました。具体的に申しますと,子どもの返還の代替執行では,裁判所が相手方に代わって子どもの返還を実施する者を選任し,その者に実際に子どもを元の国に返還する権限を与えることとしております。子どもの返還は,相手方自身によってされる必要はないとはいえ,子どもを監護しながら連れ帰る等の方法で,安全に元の国に帰る手配をしてもらう必要がありますので,誰に任せてもよいというものではありません。そこで,代替執行の裁判においては,裁判執行が返還行為を実施する者を指定することとし,申立てにおいて特定された候補者が返還を実施する者として適切でない場合は,申立てを却下するものとしております。子どもの返還の実施は,子どもの監護を伴い,場合によっては国内で宿泊させることもあるものですから,子どもの監護を委ねてもよい者,典型的には,監護権者である申立人自身とすることを想定しております。もし,申立人が子どもに暴力を振るっていたなどの理由によって適切でない場合や,申立人が日本に来ることができない場合には,その他の家族等,子どもと何らかのつながりがある者を指定して,申立てをしてもらうことを想定しております。   なお,このような子どもの返還を実施するためには,まず子どもを相手方の監護状態から解放する必要がありますが,実際に子どもを相手方の監護状態から解放する場合には,いろいろな事態が予測されるところであります。そこで,この解放行為を実施する者は,公的立場にある執行官とすることとし,その場合の執行官の権限としては,子どもに対して威力を用いることはできないなど,要綱案の38ページ,「4 執行官の権限」に記載しているような規律を設けることとしております。   執行官の権限の規律の中には,返還命令の相手方に対して説得を行うことや,返還を実施する者と子どもや相手方等を面会させることなど,強制力の行使以外の規律も設けており,事案に応じて適切な方法を取ることができるようにしております。   そのほか,要綱案39ページ,「第3 家事事件手続の特則」におきましては,「1 付調停」として,調停に付する場合の規律を設けております。調停は,和解と同様に話合いによる友好的な解決をするための手続ですが,調停委員を交えて相応の時間を掛けて話合いを行うことが想定されることから,当事者の同意がある場合に行うことができるものとしております。家事調停に付された場合は,家事の一般調停事件として扱い,家事事件手続法の規律に従って手続を行うこととなります。   また,40ページとなりますが,「2 面会その他の交流についての家事審判及び家事調停の特則」でございますが,ここでは,中央当局から子どもの所在発見等の援助を受けた者や,既に子どもの返還の申立てを行った者が,面会その他の交流を求める家事審判や調停を申し立てる場合の管轄及び記録の閲覧等の特則を設けております。ハーグ条約は,子どもの返還の実現の他にも,子どもとの接触の権利の確保,すなわち適切な面会交流が実現するよう中央当局が援助を行うことを定めており,これを受けて中央当局は,面会交流の実現のために,子どもの所在発見等の活動を行うことがあります。このような中央当局からの援助を受けて,面会,その他の交流についての家事審判や調停を申し立てる場合には,子どもの返還申立事件と同様,相手方の住所を知らないまま申立てを行うこともあることから,管轄の特則を設け,家事事件手続法で認められている管轄に加えて,東京家庭裁判所又は大阪家庭裁判所にも管轄を認めることとしております。また,事件の記録の閲覧等につきましても,子どもの返還申立事件の手続における記録の閲覧等の規律を設けた理由と同様の理由により,中央当局から取得した住所等の情報は原則として閲覧ができないものとしております。   「第4 罰則」,「第5 雑則」でございますが,41ページにありますように,罰則では過料に関する手続の規定を,雑則では条約上要請されている内容を実現するための所要の規定を設けております。   以上,簡単でございますが,要綱案の概要につきまして御説明をさせていただきました。 ○野村会長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの御報告及び要綱案の全般的な点につきまして,御質問及び御意見を承りたいと思いますが,まず御質問がございましたら承りたいと思います。 ○西田委員 用語法についてなんですけれども,最初に1ページの1の(1)の「監護権」という用語ですけれども,これは刑事法などでも,例えば未成年者拐取罪などで「監護権の侵害」というような言葉を使ってはいるんですが,「監護権」という言葉を定義したものはないんです,刑法上。民法上,ございますでしょうか。もし,児童福祉法その他でないとすると,「監護権」という言葉を法律用語としてここで使うかどうか。使うとすると,定義が必要になるのではないかというのが第1点。   何度か「中央当局」という言葉が出てまいりましたが,これもちょっと理解がしにくい。家庭裁判所とか執行官その他当事者以外の中央当局とは,具体的に何を指すのかが第2点。   それから,第3点として,16歳というのが一つの目安になっているように思われますけれども,16歳未満であっても,子どもがもう既に,決定にもかかわらず,自分は元のところに帰るのは嫌だという意思表示をしたような場合に,やはり子の福祉のためには,強制的にも元のところに戻したほうがいいというときは,そういう決定が出るという可能性のほうが強いのか。子どもの意思を16歳という年齢で切って,16歳を超えていると子どもの意思を尊重する,そうでないと余り尊重しない,あるいは子どもの意思以上に違う他の事情を尊重するという,そういうふうな区分けになっているのか。この点,ちょっと。 ○髙橋部会長 まず,監護権でございますが,これは私どもはハーグ条約を受けておりますので,ハーグ条約の「right of custody」というのを受けたものでございます。中身といたしましては,子どもの身上監護に関するもの,具体的には,日常的な世話,教育,監督及び居所の決定をするような権限と理解しております。日本は親権というのがございますが,これとは必ずしも1対1に対応するわけではございません。親権のほうは,財産管理権,代理権等を含んでおりますので若干異なります。そういうものとして,私どもはハーグ条約を受けて考えておりますけれども,その定義規定を置くかどうかは,これは法制上のことということになりますが,部会といたしましては,そういうものと概念規定されていることを了解して作っており,定義規定を置くということは考えておりませんでした。 ○西田委員 「監護権」という用語が,法律用語として六法に載ることになるということは,もうほぼ間違いないと考えてよろしいわけですね。 ○髙橋部会長 部会といたしましては,そういう前提で審議をいたしました。 ○西田委員 そうすると,やはり監護権とは何かという,例えば髙橋部会長がコンメンタールをお書きになるときに,監護権とはと,当然解説を書かざるを得なくなるのではないでしょうか。 ○髙橋部会長 解説の点はおっしゃるとおりです。それを別途条文にするかどうかということでございますが。 ○西田委員 そうすると,現時点では先ほどの条約の邦訳,日本語訳のような内容として理解している。でも,日本法で言えば,例えば親権者であるとか,後見人であるとか,例えば事実上世話をしている人みたいなものまで含んでくるのか。そこら辺になると,ちょっとよく分からないのですけれども,その条約上の定義はどこまでを含んでいるという理解で,部会では臨んでおられるんですか。 ○髙橋部会長 ここは御指摘のように微妙な問題がございまして,実際,子どもの世話をしている人は条約ではケアをしているという,そういう表現になっております。「監護権」のほうは「right of custody」であり,まだ権利でございますので,それなりに概念は観念的にはできるわけですが,監護している者というのは,これはケアしている者であり,事実上の概念を含みますので,難しいところはあろうかと思っております。実際には,子どもの世話をしている人を裁判の相手方にするということなのですが,一人とは限らないとか,いろいろな問題は出てくるであろうことは,我々も前提にして要綱案を作っております。 ○西田委員 第2点,中央当局。 ○髙橋部会長 中央当局でございますが,これもハーグ条約でそういうものを作るようにということでございまして,各国で作られております。これは外務省の中に作られるものというふうに,法務省,外務省も含めた政府全体でそういうことになっているということを前提にいたしまして,部会としては,そこが裁判手続になる前にもいろいろなことをしてくれるものと想定しております。   実際に中央当局がどういうふうなことをするか,また,どこまでできるのかとか,どういう人員でというようなことは,まだこれから先のことであります。我々はあるべき姿としての中央当局を前提にして,この要綱案を作ったという次第でございます。 ○西田委員 あとは,16歳の。 ○髙橋部会長 16歳までの子どもの返還ということでございます。そして,御指摘のように2ページのⅴでございますが,子どもの意見は十分聴きます。ただ,子どもの年齢及び発達の程度に照らしてということです。3歳ぐらいの子どもが言うとすると,連れ去ったほうの親からの指示で言っているのかもしれませんし,子どもの気持ちがころころ変わるのかもしれません。そういうようなことを含めて,しかし,ここは専門家の意見を徴して決めるわけでございますが,16歳未満の子どもが,常居所地国に返還されることを拒んでいることは,返還の拒否事由ということにはなります。   この要綱案全体についてそうなのですが,解釈あるいは運用については,これから更に関係者の間で詰めていかなければいけないところだと思っております。子どもの意思というものも,このように重視はするのですが,絶対ではないのです。他のいろいろなことを考えて,裁判所は,子どもとしては返還されることを拒んでいるけれども,一度は常居所地国に帰って,そしてそこで裁判を受けてくれと判断することはできます。子どもがこれからずっとどの国にいるのがふさわしいのかの裁判を,常居所地国でしてもらうために子どもを返すということであり,この法律ないしハーグ条約は,そういう手続でございます。したがって,これはある種の保全手続なのです。黙って連れ帰ってきた人を元の国に戻して,全体としてその家族がどうあるべきかを,その元の国で考えてもらうということですので,子どもの意思としては,当面帰ることは嫌だと言ったとしても,裁判所は諸般の事情を考えて返すことはあり得る。1ページの(3)①のただし書というところにございますが,ⅰからⅴまでの事由があっても一切の事情を考慮してということでございます。   この辺りがどのようになるかは,具体的に事案にもよりますし,これから解釈論を詰め,運用も磨いていくべきことだろうと思っております。 ○西田委員 ありがとうございました。 ○櫻田委員 ただいまの中央当局の件に関しましては,既にハーグの送達条約を批准しておりまして,その中に中央当局という言葉が出てきておりますので,もうこれは同じことだということでよろしいのではないでしょうか。   それから,私のほうの質問なんですけれども,これは要綱の2ページの③のところがございます。このところで,監護に関する裁判があったこととなっておりますけれども,例えば手続中であるという場合に,そこでは本案の判断はできないということになろうかと思いますが,その手続自体はどういうふうに処理されることになるのでしょうか。と申しますのは,後で例えば再開されて,本案で非常に矛盾するような判断が出た場合に,また連れ帰さないといけないということが起こらないだろうかという疑問です。もし,それをシャットアウトしてしまうとなると,今度はどちらかというと,取戻しの手続が結局最終的には本案の手続になってしまうのではないかと,そういうおそれがあるものですから,その辺についてお伺いします。 ○髙橋部会長 全体のスキームが,先ほど申しましたように,まずは黙って連れて帰ってきたわけですから,元の国に戻して,そこできちんとした法的な決断,裁判所の判断を仰ぐということでございますので,日本の国の今の御指摘の係属中の場合には裁判をしないのです。 ○櫻田委員 監護権者とか親権者の変更だとか,それから確認を求めるような手続がよくございます。 ○髙橋部会長 条約自体に,日本では裁判してはいけないということがございまして,それを受けて,要綱案では41ページの「第5 雑則」の2にございますが,いろいろ書いてございますが,広い意味で監護に関する事件が係属している場合に,このハーグ条約に基づく子どもの返還手続が係属されていたことが通知されますと,裁判はしてはならないということになります。 ○櫻田委員 と申しますのは,後で出ましても,それは相手の国ではそういう判決は承認しないでしょう。 ○髙橋部会長 そうなります。 ○櫻田委員 そうすると,結局本案がそれに決してしまうということになろうかと思うんですけれども。 ○髙橋部会長 御指摘のとおりです。監護権の裁判は元の国でやるべきだというのが条約です。委員御指摘の点は一応「第5 雑則」の2で手当てはしてあるということではございます。 ○川端委員 返還の代替執行の実施の段階での件でお伺いいたします。やはり子どもをじかに返還するという形でいきますと,子どもにとってかなりトラウマが生ずる可能性がございますので,心理的な配慮も大事だと思います。この要綱案では,執行官の権限を規定し,その後に中央当局が執行に関して立ち会うことができる旨を規定していますが,この点に関しまして,部会で例えば家庭裁判所の調査官等の専門家を必ず立ち会わせるようにするといった御議論はなかったのでしょうか。お伺いさせていただきます。 ○髙橋部会長 議論があったかと申しますと,大筋はこういう方向でということでございますが,適切な人の立会いというような意見は,確かになかったわけではございません。しかし,法文として考えるときには,こういう形でいくべきであろうと。執行官も子ども自身に手を掛けることはしてはいけないということで,説得を中心にしていくという,そういうことでございます。   実際がどうなるかは,これから運用ですが,私の個人的な意見になりますけれども,1回で済むという保証はないと思っております。ある日1日行って,そのときは説得不調で,また日を改めて行くというような,そういうことが起こり得るだろうとは思っております。   委員御指摘のように,子どもにトラウマが生じてはなりませんから,その点を十分に配慮してということでございます。しかし,裁判所として元の国に返すようにという命令を出したのにそれが実現できないということも,また放置できないことでございますので,こういう権限を与えて,できるだけ説得で,子どもが元の国に帰って裁判を受けられるようにという,子どもが受けるわけではございませんが,そういう法律でございます。 ○佐久間委員 私は全く不案内なんですけれども,先ほどの質疑を聴いていてちょっと分からなくなったので,確認のための質問ということです。監護権という話がありましたけれども,この監護というのは,民法で規定している監護とはまた違う監護権というのが議論されると,こういうことなのでございましょうか。それとも,それは民法の監護という概念がそのままこれに使われるということだと思っていたので,先ほどの質疑で新たな監護権というのが何か定義されるのか,何か別の理解があるというようなことなのか,ちょっと分からなくなった。その点だけでございます。 ○原幹事 私のほうから少し補足的に御説明させていただきますが,この法律はハーグ条約を実施するための国内法でございます。ハーグ条約では,子どもの不法な連れ去りがあった場合には,子どもを元いた国,常居所地国に戻すという,こういう仕組みになっておりますが,それは,元いた常居所地国での監護の権利を不法に侵害して,子どもが国境を越えて連れ去られた場合に,元に戻しましょうということですので,監護の権利を侵害しているかどうかというのは,元の国の法令で判断をするわけです。ですから,監護の権利は,日本民法の概念だけで規定することはできません。我が国から子どもが連れ去られた場合には,日本民法に基づいて監護の権利が侵害されたかどうかが判断されますが,例えばアメリカから日本に子どもを連れ帰ってきたという場合であれば,アメリカ法に基づいて監護の権利が侵害されたかどうかが判断されるということになります。そういう意味で,日本民法にのっとった規定をここに置くことはできませんので,条約の用語をそのまま使っている,こういうことでございます。 ○佐久間委員 ありがとうございます。   この「監護」という言葉は,これは一般的な監護ということになるんでしょうか。 ○原幹事 監護につきましては,条約上,先ほど部会長から御報告もありましたけれども,ケアする権利ということで条約に定義がございますので,それに含まれるものであれば,各国の国内法で判断されるということでございます。 ○佐久間委員 ありがとうございました。 ○岩間委員 私も伺っていてちょっと分からなくなってきたことが幾つかあるんですけれども,そもそもこれは元の国に戻しなさいというのは,監護権自体の判断を日本の家庭裁判所が下すのではなくて,手続上に瑕疵があったから戻して,元の国で判断を受けなさいということですね。ただ,多分,実際には母親が小さい子を連れて帰っているケースが多いわけで,その場合母親は,自分の親権を剥奪されているというふうに取りかねないと思うんですね。無理やり子どもを引き剥がされているというふうに感じかねないと思うんです。家庭裁判所は,通常の離婚の場合にどっちが親権を取るかという判断をすることがしばしばあります。それとパラレルで捉えれば,当然,自分の親権を剥奪されるというふうに取りかねないと思うんですね。   ですから,これは監護権に関する判断を下すものではなくて,元に戻して裁判をしなさいというものであるということを,もうちょっと分かりやすくする必要があるのではないかという気がします。が,それは法律に書くか,運用上の問題にするかは判断の余地があるかとは思いますけれども,実際に子を引き離される親の方に,自分の置かれている状況に関する正しい理解ができるような配慮が必要だと思います。   かつ,戻したからといって,本当に相手方が裁判するかどうかというのは,それは問題にはなるんですか,ならないんですか。本当に連れ帰ってしまって,自分の国で学校へ行かせて,家庭生活を始めちゃうかもしれないわけですね。母親のほうは,イギリスならイギリスに戻って私の子に対する権利は争えると思っていたら,実際そうならなかったとかいうようなことになる可能性はないのかなという,ちょっと心配があるということが一つ。   あとは,監護権と親権は全く違いますとおっしゃっていて,条約上はそれで済むということは分かるのですが,もし日本民法上,正式に離婚が成立していて,母親に親権がありますという状況に既になっていたということは考えられないのか。そうなっていたとすると,日本の民法上の問題として,親権がある母親から子どもをひっぺがして持っていくということはできるんでしょうか。それともそういうことはあり得ないというのか,その辺の想定がよく分からないので,お答えお願いします。 ○髙橋部会長 どういう場合に,子どもを返さなければいけないかでありますが,元々一方の,親が監護権を持っているのを,その監護権を侵害して日本に帰ってきてしまったという,それが前提なのです。そこで十分話し合って,母親と子どもはこれから日本に住む。父親が同意している。これは何の問題もないのですが,例えば父親の同意を得ずに連れ帰ってきてしまったという,既に,言葉は強いかもしれませんが,違法行為がありますので,それを元に戻すという,そういう手続ということになります。   元に戻って,それは子どもが前からずっと住んでいた国ですから,そこでしかるべく両親が話し合うということになるわけで,裁判所に申立てをするなりという,そういう手続でございます。侵害しているというところの違法状態を元に戻す,こういう考え方で作られております。   ですから,具体的な案件のときには,やや受け止め方として強過ぎるということはあろうかと思いますけれども,そういう条約に日本が入る,入らないという,そういう問題だと考えまして,私どもは国内法で整備いたしました。 ○佐々木委員 その点で重ねて質問なんですが,住んでいた元の国に戻すということであって,相手の親に戻すという法律ではないですよね。 ○髙橋部会長 それはおっしゃるとおりです。 ○佐々木委員 ということは,一番,理想は住んでいた国の第三者の下に行って,父親のところに行くわけでも,母親が子どもをキープするわけでもないというふうに明確になっていればいいですが,となると誰が,その国のどこに子どもを戻すのか。国にいればいいわけですよね,このハーグ条約上は。元の国に戻ればいいということであれば,元の国のどこの,あるいは誰に戻すかというのは,誰が決めることになっているんでしょうか。 ○髙橋部会長 御指摘のように,元の国に返すということが条約で定められていることです。しかし,監護を要する子どもですので,戻したときにどうなるかというようなところは返還拒否事由の中の考慮要素に入っております。そこで,例えば委員御指摘のように,父親でもない,母親でもない第三者のところで受け入れる用意があるというようなことを,日本でこの審理をする裁判所が確信を持てれば,それに基づいて判断するということになります。その辺りの証拠,あるいは立証をどうするか。これは,実務的にはこれからいろいろ検討が必要なところだろうと思います。向こうの当局の人が一筆書くとか,そういういろいろなことが考えられるわけですが,御指摘のように,相手方に返すということを定めている法律ではありません。 ○西田委員 今の御質問との関連ですが,例えばアメリカで日本女性がアメリカ人の男性と結婚して子どもができたけれども,何らかの理由,ドメスティックバイオレンスでもいいですが,子どもを連れて日本に勝手に帰ってきた。この手続に乗っかって,監護権者である父親のところに返しなさいという東京家裁の決定が出て,それが執行された。しかし,どっちが監護権を持つかは,あるいは親権を持つかは,これからアメリカの裁判所に訴えて,そこで決めてもらいましょうということになるはずですが,もう既にその連れ去り行為自体がキッドナッピングに当たるということで,アメリカ当局が訴追なり,そういう準備をしているとすると,事実上その母親はアメリカに入国はしませんよね。そうすると,事実上争う権利は,もうこの手続によってアメリカに送還されることによって,子どもの親権を争う機会は事実上その母親から奪われてしまう。それは,行けば訴追されるということがもう明らかだから,そういう事態というのはあり得ると思うんですが,その点についてはどういうふうにお考えですか。 ○髙橋部会長 その辺りが,これからの運用の工夫ということになるのですが,ハーグ条約は既に幾つかの国で先例があるわけで,親告罪になっている国がどれぐらいあるか分かりませんが,告訴を取り下げることを条件にして子どもを返すというようなこと。あるいは当局の訴追しないという旨の証明書は難しいのでしょうが,その種の保証の下に返す,そのような例が見られます。母親以外の人がこの当該の子どもを見るのが,何らかの事情で非常に難しい。そして母親は元の国に帰れないということも考慮要素になります。しかし,そこを申立人の側が,例えば訴追というのはまずあり得ないのだというようなことを,日本の家庭裁判所にどこまで心証を得させられるかということになります。   日本は司法取引みたいなことをなかなかできない国なのですが,諸外国を見ると,その辺はいろいろ知恵を出し合っているわけです。それを日本の裁判所も,東京家裁,大阪家裁の集中部でいろいろ知恵を出し合って,どれくらいまでなら返還命令を出していいのか,やはりこれは無理なのかという事例を積み上げていくことになろうかと思います。 ○西田委員 そうすると,それは非常に微妙な判断で,裁判所の判断に適するかどうか。一種の外交問題のような気がするんですけれどもね。裁判所が送り返して,その母親が親権を争うためにアメリカに渡米しても,向こうが誘拐では訴追,起訴しない,あるいは身柄の拘束はしないという確約があるというようなことも考慮要素に入れて決定を下すかどうかという,そういう判断を家裁の裁判官が果たしてできるかどうかというのは,できるという御判断なんですね,部会では。 ○髙橋部会長 国によって法制が違いますので,裁判所が命令するなり,あるいは告訴をさせないとか,何かそういうことができる国も中にはあるようですが,それも含めまして,既に相当の国がこの手続に加盟しておりまして,ハーグに1年ごとに集まって情報交換をしてという蓄積があります。それを見ていると,いろいろな国がいろいろな知恵を絞りながら判断しているわけで,日本の裁判所もそれらの国に,勝るとも劣らない能力を持っていると思いますので,我々部会としては,それはできると思っております。   ただ,英米法の国のように裁判所がかなり強い権限を持っている国と,大陸法のようにそうでない国とで微妙な差があったりいたします。我々も調査してみますと,国によっては国境を封鎖して子どもが外に出ないようにするように警察力を使うとか,そんなこともできるかのように読めるような規律もあるのですが,日本ではとてもそういうことはあり得ない話なのですけれども,そういうことをいろいろ含めて考えていかなければいけない。これは諸外国の裁判所との意見交換,情報交換も含めて考えていかなければいけない。そのためにも,逆にやはり東京,大阪というふうに管轄を集中し,集中部でノウハウを蓄積していかなければいけない,そういうふうに思っております。 ○海渡関係官 日本弁護士連合会の事務総長の海渡でございます。   本議案につきまして,日本弁護士連合会としての御意見を申し上げます。   始めに,短期間での集中した審議の下で本要綱案の取りまとめをされましたハーグ条約部会の方々,及び髙橋宏志部会長に心から敬意を表します。   要綱案は,先ほど部会長から御説明がありましたとおり,子の返還拒否事由,強制執行,出国禁止命令,面会交流等の問題について,非常に微妙なバランスの下で成り立っているものであると理解しておりまして,そのバランスの取り方という点において評価したいと考えます。   既に御承知のとおり,ハーグ条約に関する事件は,子やその家族に非常にセンシティブな問題を取り扱うことになります。子はその問題の中心に置かれておりますが,可能な限り子への負担を軽減するよう,先ほど川端委員もトラウマを残さないように細心の注意を払うようにと言われましたが,子の最善の利益を最優先に,要綱案に基づく担保法を丁寧に運用していただきたいと考えます。   また,今回の要綱案のような制度は,我が国において他に類例を見ないもの,新たに設けられるものでありまして,先ほど岩間委員からも貴重な御指摘がありましたが,国民へ正確な情報を周知するということ。国民というのは,日本国内にいる人だけではなくて,既に海外へ在住している在外邦人の方々へも,在外公館を通じるなどして適切な情報提供や支援を行うということが極めて重要であると考えております。   今後,運用が始まり,いろいろと問題点が明らかになってくる可能性もございます。こういった可能性も踏まえまして,この制度については一定期間の後に見直しを図るべきであるとも考えます。   更に,当部会では直接の審議の対象ではないかと思われますが,ハーグ条約事件では渉外事件の側面を持つこともあり,資力のない当事者が十分に裁判手続等を行えない可能性がございます。この点についても,きちんと制度的な手当てがなされますように,今後の検討課題としていただきたいと思います。   最後に,繰り返しとなりますが,よりよい解決のため,そして子の最善の利益を最優先とする。そういう趣旨で,要綱案の採択に異議はございません。 ○野村会長 それでは,他に。 ○佐々木委員 「身体に対する暴力と,その他の一切の事情を考慮する」というふうに書いていただいたところですけれども,性的な暴力に関しての記載があったらいいと思います。そういう記載が言葉で必要かどうかは御判断をお任せいたしますが,運用上は必ず視野に入れなくてはならないと思っておりますことと,あと,元の国という定義を明確にすること。もしかすると家族によっては転々としていて,そもそも元の国というのがないとか,訴えてくる,仮にお父さんが訴えた場合に,今お父さんがいる国というのが,そんなに子どもにとって元の国と考えられないという場合もあるかもしれないということで,この辺の,ちょっと私が分からないだけかもしれませんが,定義なり運用なのか,しっかりしていただきたいと思います。   あと,トラウマの件でございますけれども,全く皆様からの御指摘のとおりで,同じように子どもの幸せを一番重要にと思うのですが,小児精神科医の知人が調べたオーストラリアのデータによりますと,大人の精神疾患を持った人たちの50%以上が,14歳より前に発症しておりまして,それが日本国内ではほとんど軽視されているというか,教育上も見逃されておりますので,今回,こういった小さな子どもたちが関わってくるので子どもの気持ち考えましょうでは,もしかすると済まないことかもしれないと思います。小児精神科医が例えばヒアリングをするとか,是非,専門の視点もプロセスの中で入れていただくことを御検討いただければと思います。 ○吉田委員 先ほど日弁連の方からもお話があったんですが,これは全く新しい枠組みですから,これは国会のお仕事でしょうけれども,本来であれば附則等で3年後の見直しであるとか,見直しについてやはり明記する事案ではないかと思います。これは,ここの場でこういうことを言えるのかどうか分かりませんが,要望とすれば,例えば中央当局,今回の場合は外務省であると思いますけれども,そこで事例についてしっかりフォロー,検証していく,そういう手続をやはり積み重ねていただきたい。これは単に要望としてではなくて,やはり,先ほど年間数十例ということでしたけれども,その事例の中でヒアリングをするなり,パブリック・コメントという形ではなく当事者の意見としてやはり集積する中で,法案の見直しとしてはなかなかハーグ条約の限界がありますから,難しいと思いますが,やはり運用等,あるいは法律の中身まで含めて見直しが可能かどうか,情報を収集した上でやっていただきたいという意見であります。 ○伊藤委員 代替執行に関してお伺いしたいと思います。法律上の性質としては,現に子を監護している者が元の国に返す義務の履行は,その者自身でなくても適切な第三者であれば可能であるという法律論はよく分かりますが,ただ先ほど来いろいろ御意見を伺っていますと,私も同感の部分が多いんですが,実際上の結果としては,返すことが,現に監護をしている人と,その子どもとの一生の人間関係を断絶する結果になる可能性も否定できませんので,代替性がある義務の強制的な履行ということで納得が得られるのかという心配があります。先ほどの髙橋部会長のお話の中に,間接強制にとどめるか,それとも代替執行まで認めるかという点については,部会でも随分御議論があったように承りましたが,その辺りをもう少しお話しいただいた上で考えたいと感じる次第で,あえて質問をさせていただきます。 ○髙橋部会長 いろいろ新しいアイデアで作られている法律ですから,運用はもちろん,解釈論もこれからいろいろ考えていかなければいけないところだろうと,私自身は思っております。これが今まで言われている代替執行であるかどうか。これは,正に研究者がこれから考えていくべきところであろうと思います。若干細かいところでは従来のものと少し違いますので。   しかし,そういうところはもちろんですが,御指摘の点,間接強制だけにとどめるべきかどうかという点でありますが,間接強制というのは,結局,子どもを元の国に帰さなければ,例えば1日当たり金幾ら払えという,そういう最後はお金の金銭執行の問題になるということですが,もちろんそれが効果を奏するように金額を決めるわけですけれども,そういう金銭では余り影響力のない人がいるわけですね。そこで,やはり最後の手段として,もう少し強い執行手段がなければならない。そこまで部会では議論がまとまりました。そのときの部会の皆さんの考え方は,それぞれニュアンスの差はあろうかと思いますが,私が個人で理解している限りは,伝家の宝刀というわけではないのでしょうが,最後の手段としてそういうものは用意しておき,それを基に現場に行って執行官が説得をする。ここのほうにむしろ力を注ぐのであって,実際,子どもに手を掛けてはいけないということにしておりますから,物理的に親子を引き離すということはできないことになっております。   そういう下で,しかし,裁判所がいろいろなことを考えて,やはり元の国に戻すべきだということになった以上は,その実現に向けて単なる金銭執行でなく,もう一歩踏み込んだものを持っていくべきだということでございますが,ここから先は執行官がこれから実務の開発をいろいろしていく。国内事件の幼児の取り上げの問題と,また違った問題であろうと理解しております。   伊藤委員御指摘のように,ここは非常に難しい問題ではあるけれども,法制度としては用意しておくということでございます。これが伝家の宝刀でなく,しょっちゅう抜かれる刀になるのかどうか。部会としては,そういう認識ではないということは言えると思います。 ○野村会長 他に御質問,あるいはもう,御意見がございましたら。 ○山根委員 とにかく子の利益を優先に,返還には最大限の慎重な配慮というのは徹底されたいと思っています。   それで,子の返還拒否事由ということですけれども,この絵の入ったペーパーでも幾つか事例がございますが,ここには四つ絵が描かれておりますけれども,これ以外にもたくさんあると思いますが,そういった今までの裁判事例などからの例というのが積み上がってはいるんでしょうか。例えば,この一番上の,子の面前で相手方に暴力を振るう場合などとございますけれども,これは私などから思えば,子の面前でなくても,日常的に相手に暴力を振るうような場合には,もちろん不適切と思うわけですけれども,いろいろな事例としては積み上がったものはあるんでしょうか。特にまとめたものがないとしても。 ○髙橋部会長 これは1980年採択,83年発効でございますので,日本としては初めてなのですが,諸外国ではたくさんの例があり,先ほど申しましたが,ハーグのほうに情報の蓄積がございます。我々も研究者の論文でそういうものを読んでおりますが,国によって条約の解釈が微妙にずれるところがありますけれども,かなりの判例もございます。それを読みながら考えたということは事実でございます。 ○野村会長 よろしいでしょうか。   他にいかがでしょうか。   それでは,いろいろ御質問,御意見を頂きまして,運用とか解釈に負うところが大きいということで,要綱案の中身よりも,その辺りにかなり意見が出されたかと思いますけれども,諮問第93号につきまして,ただいまハーグ条約(子の返還手続関係)部会から報告されました,「「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(仮称)」を実施するための子の返還手続等の整備に関する要綱案」のとおり,答申するということに,賛成の方は挙手をお願いいたします。                   (賛成者挙手) ○野村会長 念のため反対の方ございましたら,挙手をお願いします。 ○関司法法制課長 採決の結果を御報告申し上げます。   議長,部会長を除き,ただいま委員16名が御出席されておりますところ,原案に賛成の委員は全員,16名でございました。 ○野村会長 それでは,採決の結果,全員賛成でございますので,ハーグ条約(子の返還手続関係)部会から報告されました「「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(仮称)」を実施するための子の返還手続等の整備に関する要綱案」は,原案のとおり採択されたものと認めます。採択されました審議結果報告につきましては,会議終了後,法務大臣に対して答申することといたします。   髙橋部会長,どうも御苦労様です。   本日の議題は以上ですが,引き続き現在,調査・審議中の部会から,その審議状況等を報告していただきたいと存じます。本日は,民法(債権関係)部会及び会社法制部会から審議状況等について御報告を頂き,その後,委員の皆様から御意見を伺いたいと存じます。   まず,民法(債権関係)部会からまいりたいと存じますが,同部会の鎌田部会長につきましては,本日諸事情により御出席がかないませんでしたので,同部会からの報告につきましては,部会長代行である私から御報告させていただきます。   最初に,審議経緯でございますが,民法(債権関係)部会におけるこれまでの審議状況について御報告いたします。   民法のうち,債権関係の規定の見直しにつきましては,平成21年10月,法制審議会第160回会議において諮問が行われ,民法(債権関係)部会が設置されました。当部会では,同年11月から本年1月までの間,合計40回の会議を開催し,債権関係の規定の見直しについて議論を重ねております。   当部会の審議状況につきましては,平成22年10月の法制審議会第163回会議において中間報告をさせていただいたところですが,本日は2回目の中間報告ということで,前回の報告以降の審議状況の概要,今後の審議予定等について御紹介をいたします。   まず,審議状況の概要でございますが,その一つ目として,中間的な論点整理とパブリック・コメントの手続ということでございます。当部会においては,全体のスケジュールを大きく三つに区分し,第1ステージでは今後の審議対象とすべき論点の整理を行い,第2ステージで中間試案の取りまとめを行い,そして第3ステージで総会で御議論を頂くための最終的な改正要綱案を取りまとめることを予定しております。前回の中間報告は,第1ステージの審議の半ばで行ったものでございますが,その後も引き続き民法(債権関係)の論点を整理するための一巡目の審議を進めました結果,昨年4月12日開催の第26回会議において,これまでの議論の到達点を確認するものとして,「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」と題する成果物を取りまとめました。   この中間的な論点整理については,昨年3月11日に東日本大震災が発生したことに鑑み,パブリック・コメントの手続開始を当初の予定よりも2か月ほど遅らせ,意見募集期間を昨年6月1日から8月1日までといたしました。この意見募集の期間中には,部会の3回の会議を使って,各種業界団体や消費者団体など合計21の関係団体からヒアリングを行ったほか,部会でのヒアリングではなく事務当局に対して意見を述べることを希望した団体については,事務当局において9団体の意見を聴取し,その結果が部会に報告されました。   そして,中間的な論点整理についてのパブリック・コメントの手続では,団体から116通,個人から253通,合計で369通の意見が寄せられました。中間的な論点整理は,今後の審議対象とすべき論点の整理を行うものであって,個別具体的な改正提案への賛否を問うものではありませんので,このパブリック・コメントの手続では,各論点に対して,今後の検討に当たっての留意点などを中心に意見が寄せられました。   これらの意見については,部会資料33-1から33-7までに取りまとめて公表しており,今後の審議の参考にしたいと考えております。   昨年7月26日開催の第30回会議からは,中間試案の取りまとめに向けた第2ステージの審議を開始いたしました。当部会では,最終的な改正要綱案を取りまとめる時期はまだ定めておりませんが,中間試案の取りまとめを行う時期については,来年2月を目標としております。   当部会の審議対象とされている論点は,お手元にお届けした中間的な論点整理の冒頭の目次を御覧いただくとお分かりいただけると思いますが,大変多岐にわたっております。これだけの論点を効率的に審議するための工夫として,第30回会議において当部会の下に三つの分科会を設置することを決定いたしました。当部会で審議対象とされている論点の中には,技術的で細目的な論点など,必ずしも部会メンバー全員で議論することが不可欠とは言えないと考えられるものも少なくありません。そこで,全ての論点をひとまず部会の審議の俎上に乗せた上で,そのうちの一部の論点について部会の判断で,分科会での補充的な審議をお願いする体制を組むことといたしました。   一例として,中間的な論点整理の110ページ以降に掲載されている「第36 消滅時効」を挙げますと,「1 時効期間と起算点」に関しまして,現在は職業別に1年から3年までの短期消滅時効が細かく定められていますが,これを廃止するかどうかという論点があり,これをきっかけとして,時効期間や起算点に関する見直しの議論があります。これは経済界等も大変関心が高い論点ですので,部会メンバー全員で議論をする必要があると思います。   他方,中間的な論点整理の113ページ以降の「2 時効障害事由」で取り扱っている消滅時効の中断,停止の事由に関しては,差押えや仮差押えの手続などと密接に関連する技術的な論点も少なくありませんので,これらは比較的少人数の委員,幹事が集まって,細目的な議論を深める必要があると考えられます。そこで部会の下に分科会を組織することによって,メンバー全員が集まる部会の場では,各論点の重要度などに応じてメリハリのある時間配分で審議を進める一方,技術的,細目的な論点などは分科会できめ細やかな審議を行い,全体として効率的に充実した審議を行うことができるようにいたしました。   三つの分科会は,所管事項の区分を設けないで,それぞれ部会から付託を受けた論点について審議することとしております。また,分科会のメンバーは,民法学者,裁判所及び弁護士会の委員,幹事を固定メンバーとし,必要に応じてそれ以外の委員,幹事の出席も認めることとしております。分科会の議事録は,部会の議事録と同様,法務省ホームページで公開しております。また,分科会の開催状況については,随時部会に報告することとしているほか,分科会における審議結果については,事務当局における次の資料作成等に反映させる形で,部会に報告することとしております。その上で,全ての論点について,最終的には部会で意思決定を行うこととしております。   最後に,今後のスケジュールについてですが,先ほど申し上げましたように,当部会においては中間試案の取りまとめを平成25年2月に行うことを当面の目標としております。残り1年ほどになっておりますが,できる限り充実した内容の中間試案を取りまとめたいと考えております。その上で,中間試案についても改めてパブリック・コメントの手続を取るということにしたいと考えております。   御報告は以上でございます。   そこで,御質問,御意見がございましたら,御発言をお願いしたいと思います。 ○奈良委員 本日は御報告ということで,特に内容に関わる御意見を申し上げるチャンスではないと思いますけれども,せっかくの機会ですので,御承知のとおり,債権法に限らず,大変大きな民法体系そのものにも関わる大改正手続ですので,この機会に一言,私の感想方々,御要望ということで申し上げさせていただきたいと思います。   皆様も御承知のとおり,もう施行以来100年以上経過しまして,現在のこの民法,これまでの様々な社会情勢の変化,それから判例の変遷等により,改正の必要性があることは異論がないところで,その前提で作業を進められていると思いますけれども,他方,この百何十年の間,民法といいますのは他の基本法と比べましても,最も国民に身近で密接した,言わば身近な法律ということですし,それだけに国民の間で非常に定着している法律でもあります。したがいまして,今回大掛かりな改正ということになりますと,当然のことながら国民及び社会生活全般に対する様々な影響,これは恐らく計り知れないものがあるだろうと,このように考えております。   したがいまして,今日の御報告にもありましたように,部会におかれましても今まで様々な工夫をされて,いろいろな意見聴取の御努力をされていることは承知しておりますけれども,事の重要性に鑑みまして,改めて今後の詰めの作業におかれても,国民各層の意見聴取を十分に図っていただいて,法的な,理論的,実務的な見地のみならず,今後とも国民各層に与える影響というものも十分に加味しながら,慎重に御検討を進めていただきたい。改めて御要望をさせていただきたいと思います。 ○野村会長 どうもありがとうございました。 ○八丁地委員 ただいまの奈良委員の御意見と軌を一にいたしますけれども,経済界といたしましても同様のお願いをさせていただきます。   国民にとって分かりやすい法律にするという趣旨でも,御趣旨は大変望ましいとかねてから思っておりますが,基本法が大きく変わるということになりますと,長期間に積み上げてきた企業の実務にも大きな影響が及ぶ可能性が高いということでありまして,検討に際しましては,実務関係者の意見を十分に吸い上げていただきたいと思っております。   一昨年の法制審の民法の中間報告におきましても,実態調査とか実務に関する影響の検証とか,ニーズの酌み取りということがなされたという報告を頂きまして,大変心強く思っているところであります。引き続き十分にこれらの点を目配りされるようにお願いをしたいと思います。   それから,来年2月に中間試案の取りまとめという目標をここに記載されておりますけれども,期限があるからということにかかわらず,広く国民への周知徹底ですとか,審議段階からのPRということに関しましても,新しい制度の導入でございますので,よろしくお願いを申し上げます。   以上です。 ○野村会長 いかがでしょうか。特によろしいでしょうか。   パブリック・コメントのように,時期を区切っていろいろ広く意見を求めるということだけでなくて,通常の部会でも幅広い分野からの委員がおりまして,それぞれの分野の実態等から見た意見というのは必ず発言されておりまして,いろいろな形で産業界や消費者団体等の意見も,あるいは労働界等々出されておりますので,幅広い観点から議論を続けていきたいと考えております。   それでは,次に会社法制部会の岩原部会長からお願いいたします。 ○岩原部会長 岩原でございます。どうかよろしくお願いいたします。   会社法制部会からの中間報告をさせていただきます。   会社法制部会におけるこれまでの審議状況等について御報告いたします。   会社法制の見直しにつきましては,平成22年2月,法制審議会第162回会議において諮問が行われ,会社法制部会が設置されました。同部会におきましては,平成22年4月からこれまでの間に,16回にわたり会議を開催し,会社法制の見直しについて調査・審議を行ってまいりました。なお,その間,昨年3月11日に東日本大震災が発生したことを受けまして,大震災への対応や,大震災による影響を踏まえた企業における株主総会の準備等への対応等を考慮いたしまして,昨年3月下旬から7月上旬までの間に予定されておりました会議の開催を見送りました。そして,昨年12月7日の第16回会議において「会社法制の見直しに関する中間試案」を取りまとめ,昨年12月14日から本年1月31日までの間,事務当局においてパブリック・コメントに付す手続を行いました。   パブリック・コメントの手続の結果でございますが,個人からの御意見が72件,団体からの御意見が119件寄せられております。なお,寄せられました御意見の詳細につきましては,現在集計中でございますので,本日は中間試案の概要について御紹介申し上げます。   そこで,中間試案の概要でございますが,この中間試案は,諮問におきまして,企業統治の在り方や親子会社に関する規律等を見直す必要があると思われるので,その要綱を示されたいとされましたことを踏まえまして,「第1部 企業統治の在り方」,「第2部 親子会社に関する規律」,「第3部 その他」の3部構成になっております。   第1部では,企業統治の在り方に関する規律の見直しについての論点として,社外取締役の機能を活用するという観点から,一定の会社に社外取締役の選任を義務付けることの当否や,社外取締役の機能を活用しやすい新たな機関設計として,監査・監督委員会設置会社制度を創設すること,社外取締役の要件に親会社の関係者等でないことを追加することの当否等を掲げております。社外取締役の選任の義務付けの当否,社外取締役の要件の見直しの当否につきましては,改正することの是非自体について意見が分かれている状況でございます。監査・監督委員会設置会社は,自ら業務執行をしない社外取締役を複数置くことで,業務執行と監督の分離を図りつつ,そのような社外取締役が監査を担うとともに,経営者の選定,解職等の決定に関与することを通じて,監督機能を果たすための制度として新たに創設することを検討しているものでございます。この他,監査役の機能強化という観点から,会計監査人の選解任等に関する議案及び報酬の決定権を監査役等が有するものとすることの当否等についても,論点として掲げております。   次に,第2部におきましては,親子会社に関する規律の見直しについての論点として,親会社株主が子会社役員に対して代表訴訟を提起することを認めること,すなわち,いわゆる多重代表訴訟制度を創設することの当否や,親子会社間の利益相反取引について,子会社に損害が生じた場合における親会社の子会社に対する損害賠償責任に関する規定を設けることの当否等を掲げております。これらの論点につきましても,改正することの是非自体について御意見が分かれている状況でございます。   最後に,第3部では,第1部及び第2部に掲げている論点のほか,会社法制に関して,その見直しの必要性が指摘されている論点を掲げております。   最後に,今後の予定でございますが,今後はパブリック・コメントの結果も踏まえまして,引き続き調査・審議を行ってまいりたいと考えております。   簡単でございますけれども,以上,中間報告とさせていただきます。 ○野村会長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの部会長からの審議経過報告につきまして,御質問,御意見がございましたらお願いいたします。 ○佐々木委員 意見でございます。   私も上場企業の社外役員や社外監査役を務めている立場から,いろいろと企業のいろいろな状況を見てはいるんですけれども,やはり日本のガバナンスと言われますけれども,基本はダイバーシティの視点が欠けているという点が大変大きいと思われます。今回のA案,B案,C案という取締役会のことに関しましても,やはり本来であれば,ここで言うならばB案かなと思うんですけれども,取締役の半数以上が社外の独立取締役で占められるということが,やはりこれからのグローバル社会の中でも,あるいは日本の今までのいろいろな一元化した価値観を多面的に見ていくためにも,大変重要であろうと思います。   当然ながら,企業の側からは,独立性のある社外取締役を見つけるのは大変難しいとか,様々な意見が出るのはたくさん私も見聞きしておりますけれども,私自身が独立性を持った社外役員として入らせていただいている企業などの取締役会の様子を見ますと,そうでない企業の役員会とは随分違った健全な議論がなされてきているなと思っておりまして,そういったふうに日本の企業社会が変革していくことは,経済的に強くなるだけでなくて,やはり国民のためにも,働き手のためにもよろしいかと思います。まだこれはいつまでに決めるということが決まっていないということで,引き続き検討ということだと思うんですが,ある程度のところを決めながらいく,あるいは少し当事者ではない人の意見を聴くというか,当事者の事情は余り含み入れない形で議論もきちっとしていく必要もあるのではないかと思っておりますので,御意見を申し上げます。 ○伊藤委員 多重代表訴訟について質問させていただきたいのですが,A案,B案とそれぞれございまして,B案を見ますと,多重代表訴訟の制度は創設しないものとするという結論は分かったんですが,補足説明を読んでも,私が会社法に暗いせいもございまして,A案で言われているような,つまり親会社が子会社の発行済株式を100%保有しているというような,完全な親子関係があるようなものについても,なおB案,すなわち多重代表訴訟の制度を創設しないという立場の基礎となっている考え方が理解しにくいのです。背後には,濫用のおそれがあるとか,様々な問題があるかとは想像いたしますが,A案を前提にしてもなおB案のような消極論がどのような理論的な理由によって支えられているのか,大変恐縮ですけれども,少しその辺りの御説明を頂ければと存じます。 ○岩原部会長 B案のように,A案のような非常にある意味で限定された多重代表訴訟でも創設すべきでないというお考えは,基本的に私の理解しているところでは,子会社役員について責任の問題が生じたときは,子会社株主としての親会社の経営者が,自らの経営判断に基づいて子会社経営者に対する代表訴訟を起こすかどうかということを判断すべきであって,親会社の株主が親会社の経営者の判断を差し置いて代表訴訟を起こすということは適切でないということが,多分,一つの重要な理由になっているのではないかと理解しております。 ○佐久間委員 部会長には御検討を精力的に取り組んでいただきまして,ありがとうございます。また,ただいまの説明,ありがとうございます。   経済界としましては,当たり前のことですけれども,会社法というのは会社を律する法律ということで,非常に大きな影響を受けます。もちろん,当事者は会社だけではないということは重々承知の上ではございますけれども,やはり主なプレーヤーである企業の考え,立場というのを十分考慮していただいた上で,慎重な検討をお願いしたいということでございます。   特に,最近一部の企業,そういうことが問題だという方もおられますが,事実だと思いますので,一部の企業で不祥事があった。これをもって直ちに制度の見直しに直結するような議論というよりは,やはり冷静な目で見ていただき,長い目で見て経済の成長,競争力を強化する。こういう視点で,やはり会社法制を検討いただければと思います。   以上です。 ○八丁地委員 私もこの部会で岩原座長の下で議論をさせていただきましたので,大変御苦労様であろうと思います。今日こういう報告を頂いたのは,非常に光栄に思っています。   経済界というよりも,個人としての感想を2点述べさせていただきたいと思います。ただいま,佐久間委員からもお話がありましたけれども,一部の企業不祥事が明るみに出たということをきっかけとして,会社法の改正で社外取締役の義務化をするということで,規制強化をすべしという意見があると思います。私の感想といたしましては,まず不祥事そのものに関する事実関係は,まだ十分に解明はされてはいないという状況ではないかと思っています。もっと多面的な事実の解明,事案の評価がいまだに必要な段階にあると,私自身は考えております。   したがいまして,現段階での不祥事に対するコメントとか,会社法改正との議論というのは,より慎重であるべきであり,そのように進めていただきたいと考えています。   2点目は,これまでの幾つかの不祥事の事例は,企業としても研究をしてきましたが,これらの原因は本来の会社法の制度,趣旨のとおりに運用がなされていなかったために生じた問題がほとんどではないかと,観察をしております。現行の制度そのものに不備,欠陥があったために生じたものではないと考えております。現状でもほとんどの日本企業においてガバナンスの仕組みは整えられておりますし,不正を働いた経営者は非常に厳しい社会的な責任を問われるというのは当然ではないかと思っております。   そういう経営への適正な監督という意味では,取締役が社外か,社内かというような形式的な属性ではなく,経営者個々人の資質,倫理観,責任の有無が中心ではないかと,日本の多くの経営者は考えております。監督するべき人の個人の自覚と,その責任の実践というところが基本である,ということであると考えています。制度を変更するのではなく,ここに重点を置いた企業経営をすることが不可欠であると意識をしているところでございます。コーポレートガバナンスには,不祥事の発生の抑止という機能は求められますが,同時に日本企業の競争力を高める機能という両方の側面を持っておりますので,是非この両方の側面から,短絡的に制度の見直しの議論だけではなくて,事実の十分な解明,実務的な目線での意見ということを取り上げていただいて,より冷静な議論がなされるということを期待するものであります。   以上です。 ○山根委員 素人の質問で恐縮なんですが,原発の事故がありまして,いろいろと議論があると思います。その中にこういった会社を監査する側の役割であるとか,責任を問う議論とか,社外取締役に関して裁判なども進んでいると聞いていますけれども,そういったようなことがこういった中身に反映されるというようなことはないんでしょうか。 ○岩原部会長 この会社法制部会における検討は,原発事故の前から行っているものでありまして,原発事故を会社法的な観点からどう評価するかということ自体,今の八丁地委員の御指摘ではありませんが,慎重な検討が必要だと思いますけれども,恐らく多く言われている問題等は,以前からやはり会社のガバナンスの問題として意識され,検討されてきた問題であって,新しいことを特に付け加えるということではなくて,以前からある根本的な会社のガバナンスをより充実させていくという性格の問題ではないかと思っております。原発事故が起きたから新たな問題が付け加わったということではなくて,今まで我々が問題として認識してきたことを,より積極的に,それに対する対応を部会で考えていくということになるのではないかと理解しております。 ○野村会長 他に御意見,御質問よろしいでしょうか。   それでは,会社法制部会の御報告は以上にしたいと思います。   岩原部会長,どうもありがとうございました。   最後に,矯正局から少年院法の見直しに関する報告がございます。 ○三浦関係官 法務省矯正局長の三浦でございます。   それでは,私のほうから少年院法の改正の関係につきまして御報告をさせていただきます。   現在,私どものほうでこの通常国会に提出を予定しております少年院法案,それから少年鑑別所法案の概要,要点につきまして御説明をさせていただきます。   お手元に本日席上配布ということで,矯1から矯5までの5種類の資料を配布させていただいております。   まず,矯5というのが少年矯正を考える有識者会議提言の冊子でありますが,矯1を御覧いただきますと,その提言の内容を簡潔にまとめたものがございます。その矯1を御覧いただければと思いますが,この有識者会議は,広島少年院における不適正処遇事案を契機といたしまして,少年矯正の一層の適正化とその充実を目的として,平成21年12月に設置されまして,各界の有識者によりまして,少年院や少年鑑別所の運営全般について多様な観点から熱心な検討が積み重ねられまして,平成22年12月に提言を頂いたものでございます。   その内容としましては,少年の人格の尊厳を守る適正な処遇の展開,少年の再非行を防止し,健全な成長発達を支えるための有効な処遇の展開,高度・多彩な職務能力を備えた意欲ある人材の確保・育成,物的基盤整備の促進,そして,法的基盤整備の促進という5本の柱でございますが,この5番目の法的基盤の整備ということで,現在の少年院法の速やかな全面改正が求められたところでございます。   矯2として,「少年院法の全面改正」と題する色刷りの資料がございます。現行少年院法は,昭和24年の施行後,数次の一部改正がございますが,いずれも部分的なものでありまして,基本的な部分は改正されないまま,60年以上経過しております。全体でも二十数か条しかございませんで,在院者・在所者の権利義務関係や職員の権限に関する規定,あるいは矯正教育の内容等,基本的な処遇制度についての規定も十分ではなく,多くが訓令や通達で補いながら運用しているというのが実情でございます。取り分け,少年鑑別所については,わずか数か条しか置かれていないという状況でございます。   こうした問題点を解決し,有識者会議の提言に応えるべく,この少年院法を全面的に見直して,所要の法整備を図ることとするものでございます。なお,提言においても指摘されているわけですが,少年鑑別所につきましては,少年院とは収容する者の法的性質,あるいは処遇の内容,施設の機能が相違するといった面がございますことから,少年院に関する法律と少年鑑別所に関する法律をそれぞれ別に法整備を図るということを考えているものでございます。   その検討中の少年院法案,それから少年鑑別所法案の内容の要点でございますが,「少年院法の全面改正」と題する色刷りの資料の右側の部分でありますが,赤枠で囲んだ部分を御覧いただきますと,青色の帯の部分が少年院法の部分,それから緑色の帯の部分が少年鑑別所法に関するものでございます。ポイントとしては,第1の再非行防止に向けた処遇の充実強化,第2として,在院者・在所者の権利義務関係等の明確化,第3として,社会に開かれた施設運営の推進といったものが,この両法律に共通する3本の柱ということでございます。   それぞれの中身につきましては,矯3の「少年院法案の概要」,矯4の「少年鑑別所法案の概要」という資料に基づいて御説明をいたします。   まず少年院法のほうでありますが,法案の全体の構成はこの資料の1ページ目でございます。そのうち,改正の大きな柱の1点目の,再非行防止に向けた処遇の充実強化ということでありますが,この資料の2ページ以下,第2を御覧いただきたいと思います。   まず,少年院の種類についてでありますけれども,現行の少年院の種類,初等・中等・特別・医療という4種類の少年院が現行法でございます。このうち初等少年院と中等少年院と申しますのは,16歳という年齢によって区分しているものでありますが,実際のところ,16歳という年齢で収容を区分するということよりも,それぞれの少年の実際の心身の発達の程度に応じて必要な処遇を行うといったほうが適当であろうということで,現行の初等と中等の区分をやめまして,併せてこれを第1種といたしまして,現在のいわゆる特別少年院を第2種,医療少年院を第3種といった形で見直すこととしております。   それから,在院者の特性に応じた最も効果的な処遇を行うということで,矯正教育の重点的な内容を設定する処遇課程という制度が,現在運用によって行われておりますけれども,これは少年院における分類処遇のための基本的な制度ということで,これを法律に明文で規定するということとしております。この処遇課程というものと,その処遇課程ごとに少年院において実施する矯正教育の標準的な内容ということで,少年院教育課程,それから,各在院者ごとに定める個人別教育計画というものによりまして,計画的,体系的な矯正教育の実施を確保するということを考えているものでございます。   次に,3ページの2,円滑な社会復帰のための支援の実施等であります。在院者はいずれ社会復帰するわけですが,現実には適当な帰住先あるいは就業先がないということで,社会復帰が困難なケースもしばしばあるということで,少年院におきましては,これまでも保護観察所と連携しながら帰住先,就業先の確保等の支援を行ってきたところですが,今回これを明文で法律に規定することによって,一層充実した支援を図ろうというものでございます。   それから,改正の大きな柱の2番目であります在院者の権利義務関係等の明確化についてでございますが,同じく3ページの第3でございます。まず,1の在院者の権利義務・職員の権限の明確化でありますが,この点につきましては,刑務所,拘置所といった刑事施設に関する法律であります刑事収容施設法が同様の規律をしておりますので,これを参考といたしまして,所要の規定の整備をすることとしております。   この法案に特有の点について,若干付言いたしますと,(2)の書籍等の閲覧につきましては,在院者の健全育成という観点から,基本的には書籍等は少年院において整備して閲覧させるというようにしながら,自弁の書籍等の閲覧はこれを補完するものという趣旨で,少年院長の裁量により許すということにしております。   それから,(3)の外部交通のうち,面会につきましては,少年を保護するという観点から,虐待などを行った保護者等は基本的に面会を許す相手方から除外することとしております。   また,提言にもございました不服申立制度でありますが,在院者は自己が受けた処遇全般について,法務大臣に対する救済の申出制度と,それから監査官,あるいは少年院の長に対する苦情の申出という制度を創設することとしております。苦情の申出のほうは,先ほど申しました刑事収容施設法の制度とほぼ同じでありますが,前者の救済の申出のほうは,少年であることに配慮した若干のアレンジを行っております。すなわち,刑事施設の場合には,不服申立制度というのは,審査の申請,事実の申告,苦情の申出という三つの制度に分かれておりまして,申立人がどれを利用するか選択するということになっておりますが,こちらのほうでは利用するのが少年でありますので,分かりやすく,使いやすくするということで,基本的に制度を一本化いたしまして,全て法務大臣宛てに申出をさせ,申出を受けた法務大臣のほうで,その内容に応じて措置の取消しとか,再発防止のための必要な措置といったことを講ずるようにしているものでございます。   それから,改正の3本目の柱であります,社会に開かれた施設運営の推進ということでございますが,この資料の第4でございます。既に刑事施設におきましては,施設運営の透明性の確保や改善向上,更には地域社会との連携を図るということを目的といたしまして,視察委員会制度が導入されて活発に活動をしていただいているところでございます。少年院につきましても,施設運営の透明性の確保,地域社会との連携といったことの重要性は同じでありまして,この視察委員会の制度を導入することとしております。制度の基本的な枠組みは刑事施設と同じでありますが,委員につきましては,少年の健全な育成に関する識見を有する者といったことを求めることにしてございます。   以上が少年院法の関係でございますが,次に少年鑑別所法につきまして,今の少年院法と相違する点を中心に御説明いたします。   少年鑑別所法案の概要資料を御覧いただきたいと思いますが,2ページから3ページ,第2の再非行防止に向けた少年鑑別所の機能の強化というところの2以下でありますが,少年鑑別所におきましては,在所者の自主性を尊重しつつ,学習機会の付与や生活態度に関する助言・指導など,少年の健全育成に配慮した観護処遇といったことを現在も運用で行っておりますが,これを法律で規定するというものでございます。   それから,少年鑑別所の主たる業務である鑑別につきましても,その意義を明らかにしますとともに,鑑別のための調査の内容,方法等について定めることによりまして,適切な鑑別の実施を確保することとしております。   それから,4の地域社会における非行及び犯罪の防止に関する援助でありますが,従来,家庭裁判所あるいは少年院といったもの以外のものからの求めに応じて鑑別を行う,私ども,これを一般鑑別と呼んでおりますが,こういったことを実施しておりますが,これを更に拡充して,少年鑑別所で持っております専門的な知識及び技能を生かして,少年や保護者などからの相談に応じ,必要な助言,あるいはその他の援助を行うということをすることとしているものでございます。   第3以下につきましては,在所者の権利義務関係について,在所する者の法的立場の相違により,保障される権利の範囲や制限要件など,少年院の場合と微妙に異なる部分がございますが,基本的には少年院法案と同じでございまして,不服申立制度,それから視察委員会の制度の導入も同様でございます。   以上で説明を終わらせていただきます。 ○野村会長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの御報告について何か御質問,御意見等ございますでしょうか。   よろしいでしょうか。   特に御発言がなければ,本件については以上で終わりたいと思います。   三浦関係官,どうもありがとうございました。   これで本日の予定は終了となりますが,他にこの機会に何か御発言がございましたらお願いしたいと思います。特にこれもよろしいでしょうか。   それでしたら,本日はこれで終了いたしますが,本日の会議における議事録の公開方法につきましては,審議の内容等に鑑みて,会長の私としましては,議事録の発言者名を全て明らかにして公開することにしたいと思いますが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,本日の会議における議事録につきましては,議事録の発言者名を全て明らかにして公開することにいたします。なお,本日の会議の内容につきましては,後日,御発言を頂いた委員の皆様には,議事録案をメール等にて送付させていただき,御発言の内容を確認していただいた上で,法務省のホームページに公開したいと思います。   最後に,事務当局から事務連絡がございましたらお願いいたします。 ○小川関係官 次回総会の開催予定について,御説明いたしたいと思います。   法制審議会は2月と9月に開催するのが通例となっておりますが,次回の総会につきましては,現在のところ,例年どおり9月上旬に御審議をお願いする予定でございます。具体的な日程につきましては,後日改めて御相談をさせていただきたいと存じます。つきましては,委員,幹事の皆様方におかれましては,御多忙のところとは存じますが,今後の御予定につきまして御配意いただけますよう,よろしくお願いいたします。   以上でございます。 ○野村会長 どうもありがとうございました。   それでは,これで本日の会議を終了いたします。   本日はお忙しいところお集まりいただき,また熱心な御議論を頂きまして,誠にありがとうございました。 -了-